自動書記の、自動書記による、禁書目録のための。 作:ふらみか
*行間 四*
「お前、相変わらずちんまいな」
「む、それはかなり失礼かも。私だって成長してるんだから」
私は、彼と世間話をする位には落ち着いてきていた。
「どっこがー? まったくもって上条さんには確認できませんけどー? ぷーくすす」
「バカにしてるね?」
「してねーって、ホント。一年経ったとは思えないっつうことだよ」
「あ……」
しばらく話しこんでいて、私はすっかり意識しなくなっていたけど。
そうだった。
一目見ただけでも分かったが、私は改めて彼を見た。
すぐに、私の記憶が訴えてくる。
彼の身長は、昨日のそれではない。
昨日よりも少しばかり小さい。
姿形だけがあの日の彼なのではなく、中身も、あの日の彼そのものだ。
私の完全記憶能力が、そう訴えてくる。
なぜ彼がここにいるのか。原理はいまだ分からない。
魔術ならできなくもなさそうだけれど、今の私では一〇万三〇〇〇冊の魔道書で調べることもできない。
「――あっ」
そうしてようやくさっきの状況を意識した。
とにかく、一番の問題点を彼に告げる。
彼ならなんとかしてくれる気がしたから。
「そ、そうだ! どうしよ、私の魔道書……!」
「ん? 魔道書がどうした?」
「き、消えたんだよ……」
意図せず、弱々しい声になっていった。それでも、音も何もないこの場所では、私の声は彼に届いたようだ。
「消えたって?」
「私の中から、綺麗すっぽり、魔道書の知識だけが……」
「あー。……少し早いけど、説明すっか。もうちょっとゆっくりしたかったんだけどなぁ」
彼は、頭を掻きながら苦笑いを浮かべる。
私の想いとは裏腹に、彼が動じることはなく。
「魔道書がどこにあるか、とか。ここはどこなのか、とか」
むしろ、何か知っているようなそぶりだった。
「あとは……」
少しの間が空く。言うかどうか迷っているのかもしれない。
私は彼が話し出すまで静かに待った。
「……なぁ、やっぱさ、これは後にしよーぜ? もう少し、お前と話していたいからさ」
ここで一八〇度方向転換するのは、少し、彼らしい。
ただ、なんとかしてくれると信じてはいるものの、この言葉をそのまま信じていいのだろうか。
彼は間違いなくあの日の彼だ。私の決して失われない記憶がそう言ってる。
けれど、同時にこうも思う。
それはあり得ない。
私はあの日、彼を殺した。
でも居る。この場所に。
そもそも、この場所は何なのか。
真っ暗で、地面もあるのかよく分からないし。そこまで緊張の糸を張り詰めさせる訳でもないし。
だからって油断できる状況でもない。
魔道書がない。
まぁ、これは彼が知っているみたい。ついでにこの場所のことも。
信じたほうが、いいのかな。
彼のお願いを、聞いた方が、いい、んだよね?
「……分かったんだよ。でも、絶対に教えてね」
「ありがとな、インデックス」
彼は微笑んで言う。
お礼を言われるのは、嬉しいけど、何かくすぐったい。お礼や感謝の言葉などはたくさん言われてきたけれど。きっとそれでも、こうして言われるのは慣れていないのだと思う。決して、私がとうまに「私を助けてくれた日」を説明している時のように、彼の笑顔に胸が締め付けられたわけじゃないと、思う。
「ね、ねぇ!」
なんとかして話を転換してみる。くすぐったいままは、なんだか恥ずかしかった。
「ん?」
「さっき、あなたは一年ぶりって言ったよね?」
「ああ、言ったな」
「この一年間の思い出はあるの?」
「……どうなんだろうなぁ」
「あるの? ないの?」
「あったらお前、どうする?」
「え?」
「この一年間の、俺の――って言っていいのか分かんねえけど、そいつの思い出が俺の中にあったら、お前はどう思うんだ?」
「どうって……」
正直、どうだっていいのかもしれない。話題を振ったのは私だけど、確認できたからといって、だからなんなのだろう。
でも、この一年間の思い出を彼が持っているのだとしたら……複雑な気分だ。
「ま、実際はねえんだけどな。アイツから聞いた分はあるけど」
しかし、彼は無いと言った。
私はそれを聞いて、残念だと思えなかった。
(むしろ……ほっとしてる……?)
自分の気持ちに疑問を持ちながら、私はなんだぁと返した。
彼はそれからも、私に対してあの時のように接してくれた。
それにしても。
私は彼に言わなきゃいけないことがあるのに。
何で私は言おうともしてないのかな。
*第六章*
小萌先生の部屋の前に来て、インターホンを押すと「はいはーい」と可愛らしい声が届いてきた。
教師に対して可愛らしいとは何事かと思うだろうが、これは至極まっとうな思いだろう。
ドアが開く。
「はーい。今日の補習をぶっちしたおバカの治ってないかみじょーちゃーん」
桃色の可愛らしいショートヘアーの小学生に罵倒されているが、決して私めにそういう趣味があるわけではないので、どうにかご理解を。そういうのは青髪ピアス君の個性ですし。
まぁ、一目見れば「小学生」なのは間違いないのだが、同時に、間違いなく「教師」でもある。高校二年の俺がいるクラスを担任している「教師」なのだ。
その「小学生教師☆月詠小萌」は、俺とペンデックスの姿を見て、とりあえず固まった。
「……ぇ。も、もしかして、あの、こ、これはえっと……!」
びっくりする目というか、信じられないようなものを見るような目をして、その表情は徐々に青ざめていく。
ペンデックスは小萌の様子が気になったのだろう、身を乗り出して観察しだした。次いで釈明する。
「初めに伝えておきます。月詠小萌、貴女が思うようなことは起きていません。身体状況は良好です。外傷は一つもありません」
「ふぇ? そ、そうなのですか? で、でも、なんだかいつものシスターちゃんじゃないでしす……あの、上条ちゃん、これは一体どういうことなのですか? 先生に説明、してくれます?」
お、俺に来たか。説明っつっても分からんことばっかだしな。分かったとしても言えるかどうか……。
「とりあえず、考えが纏まるまで中に入ってて下さいなのですよ」
俺とペンデックスは、小萌先生の後に続く。
まだ動揺しているのだろう。動揺してる小萌先生も可愛いな。もちろん、深い意味も変な意味もなく。
それにしても。
やはり、この部屋はお世辞にも綺麗と言えなかった。前に来た時と対して変わってないかもしれない。この小学生の身形でビールとかタバコとか大丈夫なのか? そもそも買えるの? 成人証明できても買えるのこの人?
「えっと、上条ちゃんはこちらへ座って下さい。シスターちゃんはこっちにどうぞ」
俺とペンデックスは、促された場所に座った。小萌先生はお茶を用意している。
「あと、もう一度確認したいのですけど、シスターちゃんは、怪我とかしてませんよね?」
「はい。健康状態は良好です」
「あの時みたいですけど……なんともないのならいいのです」
あの時? あの時ってのは……もしかして一年前か? やっぱり小萌先生は魔術に関わってたりするんだろうか。こんなファンシーな身形だし。ありえるよな。
なんて変な考えを巡らせていると、小萌先生がじっとこちらを見ているのに気付いた。
「上条ちゃん」
「は、はい。なんでせう……」
「まず……」
なにがくるのかと身構えていると。
「今日の補習はどうしてサボったです? サボった今日の内に、先生の家に来るだなんて……。上条ちゃん、いい度胸ですね? 覚悟できてますか?」
補習のことを追求されてしまった。
「先生は上条ちゃんをそんな不良に育てた覚えはないのですよ」
「あのですね、先生。これには深い訳が」
「いいわけなんて聞きたくありません。先生は、上条ちゃんの為を思って今日の補習を用意したのですよ? 出席日数、足りると思ってるんですか?」
「はい、すみません……」
「月詠子萌」
「シスターちゃんはちょっと黙ってて下さい」
「了解しました」
「了解しないでください助けてくださいペンデックスさん!!」
「上条ちゃん!」
「はいぃっ!」
「明日から、予定の一〇倍と言いましたけど、夏休み一杯は補習に来るように! 先生は、上条ちゃんをきちんと不良の道から救ってみせますからね!」
これは言いたい。「口に出して言いたい不幸」の中でトップ一〇に食い込むくらいの不幸だ。なので私は口に出して言う。なんとしてでも言う。言うぞ! そーら言うぞ!!
「これくらいで不幸とか言わないでくださいね! 自業自得なのです!」
「やっぱ自業自得かああああぁあぁぁぁぁぁ!! 言えなかったし! やっぱり、不幸だああああぁぁああぁぁああぁぁぁぁ!!!」