自動書記の、自動書記による、禁書目録のための。   作:ふらみか

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行間四 ~ 第六章

*行間 四*

 

「お前、相変わらずちんまいな」

「む、それはかなり失礼かも。私だって成長してるんだから」

 私は、彼と世間話をする位には落ち着いてきていた。

「どっこがー? まったくもって上条さんには確認できませんけどー? ぷーくすす」

「バカにしてるね?」

「してねーって、ホント。一年経ったとは思えないっつうことだよ」

「あ……」

 しばらく話しこんでいて、私はすっかり意識しなくなっていたけど。

 そうだった。

 一目見ただけでも分かったが、私は改めて彼を見た。

 すぐに、私の記憶が訴えてくる。

 彼の身長は、昨日のそれではない。

 昨日よりも少しばかり小さい。

 姿形だけがあの日の彼なのではなく、中身も、あの日の彼そのものだ。

 私の完全記憶能力が、そう訴えてくる。

 なぜ彼がここにいるのか。原理はいまだ分からない。

 魔術ならできなくもなさそうだけれど、今の私では一〇万三〇〇〇冊の魔道書で調べることもできない。

「――あっ」

 そうしてようやくさっきの状況を意識した。

 とにかく、一番の問題点を彼に告げる。

 彼ならなんとかしてくれる気がしたから。

「そ、そうだ! どうしよ、私の魔道書……!」

「ん? 魔道書がどうした?」

「き、消えたんだよ……」

 意図せず、弱々しい声になっていった。それでも、音も何もないこの場所では、私の声は彼に届いたようだ。

「消えたって?」

「私の中から、綺麗すっぽり、魔道書の知識だけが……」

「あー。……少し早いけど、説明すっか。もうちょっとゆっくりしたかったんだけどなぁ」

 彼は、頭を掻きながら苦笑いを浮かべる。

 私の想いとは裏腹に、彼が動じることはなく。

「魔道書がどこにあるか、とか。ここはどこなのか、とか」

 むしろ、何か知っているようなそぶりだった。

「あとは……」

 少しの間が空く。言うかどうか迷っているのかもしれない。

 私は彼が話し出すまで静かに待った。

「……なぁ、やっぱさ、これは後にしよーぜ? もう少し、お前と話していたいからさ」

 ここで一八〇度方向転換するのは、少し、彼らしい。

 ただ、なんとかしてくれると信じてはいるものの、この言葉をそのまま信じていいのだろうか。

 彼は間違いなくあの日の彼だ。私の決して失われない記憶がそう言ってる。

 けれど、同時にこうも思う。

 それはあり得ない。

 私はあの日、彼を殺した。

 でも居る。この場所に。

 そもそも、この場所は何なのか。

 真っ暗で、地面もあるのかよく分からないし。そこまで緊張の糸を張り詰めさせる訳でもないし。

 だからって油断できる状況でもない。

 魔道書がない。

 まぁ、これは彼が知っているみたい。ついでにこの場所のことも。

 信じたほうが、いいのかな。

 彼のお願いを、聞いた方が、いい、んだよね?

「……分かったんだよ。でも、絶対に教えてね」

「ありがとな、インデックス」

 彼は微笑んで言う。

 お礼を言われるのは、嬉しいけど、何かくすぐったい。お礼や感謝の言葉などはたくさん言われてきたけれど。きっとそれでも、こうして言われるのは慣れていないのだと思う。決して、私がとうまに「私を助けてくれた日」を説明している時のように、彼の笑顔に胸が締め付けられたわけじゃないと、思う。

「ね、ねぇ!」

 なんとかして話を転換してみる。くすぐったいままは、なんだか恥ずかしかった。

「ん?」

「さっき、あなたは一年ぶりって言ったよね?」

「ああ、言ったな」

「この一年間の思い出はあるの?」

「……どうなんだろうなぁ」

「あるの? ないの?」

「あったらお前、どうする?」

「え?」

「この一年間の、俺の――って言っていいのか分かんねえけど、そいつの思い出が俺の中にあったら、お前はどう思うんだ?」

「どうって……」

 正直、どうだっていいのかもしれない。話題を振ったのは私だけど、確認できたからといって、だからなんなのだろう。

 でも、この一年間の思い出を彼が持っているのだとしたら……複雑な気分だ。

「ま、実際はねえんだけどな。アイツから聞いた分はあるけど」

 しかし、彼は無いと言った。

 私はそれを聞いて、残念だと思えなかった。

(むしろ……ほっとしてる……?)

 自分の気持ちに疑問を持ちながら、私はなんだぁと返した。

 彼はそれからも、私に対してあの時のように接してくれた。

 それにしても。

 私は彼に言わなきゃいけないことがあるのに。

 何で私は言おうともしてないのかな。

 

 

 

 

 

*第六章*

 

 小萌先生の部屋の前に来て、インターホンを押すと「はいはーい」と可愛らしい声が届いてきた。

 教師に対して可愛らしいとは何事かと思うだろうが、これは至極まっとうな思いだろう。

 ドアが開く。

「はーい。今日の補習をぶっちしたおバカの治ってないかみじょーちゃーん」

 桃色の可愛らしいショートヘアーの小学生に罵倒されているが、決して私めにそういう趣味があるわけではないので、どうにかご理解を。そういうのは青髪ピアス君の個性ですし。

 まぁ、一目見れば「小学生」なのは間違いないのだが、同時に、間違いなく「教師」でもある。高校二年の俺がいるクラスを担任している「教師」なのだ。

 その「小学生教師☆月詠小萌」は、俺とペンデックスの姿を見て、とりあえず固まった。

「……ぇ。も、もしかして、あの、こ、これはえっと……!」

 びっくりする目というか、信じられないようなものを見るような目をして、その表情は徐々に青ざめていく。

 ペンデックスは小萌の様子が気になったのだろう、身を乗り出して観察しだした。次いで釈明する。

「初めに伝えておきます。月詠小萌、貴女が思うようなことは起きていません。身体状況は良好です。外傷は一つもありません」

「ふぇ? そ、そうなのですか? で、でも、なんだかいつものシスターちゃんじゃないでしす……あの、上条ちゃん、これは一体どういうことなのですか? 先生に説明、してくれます?」

 お、俺に来たか。説明っつっても分からんことばっかだしな。分かったとしても言えるかどうか……。

「とりあえず、考えが纏まるまで中に入ってて下さいなのですよ」

 俺とペンデックスは、小萌先生の後に続く。

 まだ動揺しているのだろう。動揺してる小萌先生も可愛いな。もちろん、深い意味も変な意味もなく。

 それにしても。

 やはり、この部屋はお世辞にも綺麗と言えなかった。前に来た時と対して変わってないかもしれない。この小学生の身形でビールとかタバコとか大丈夫なのか? そもそも買えるの? 成人証明できても買えるのこの人?

「えっと、上条ちゃんはこちらへ座って下さい。シスターちゃんはこっちにどうぞ」

 俺とペンデックスは、促された場所に座った。小萌先生はお茶を用意している。

「あと、もう一度確認したいのですけど、シスターちゃんは、怪我とかしてませんよね?」

「はい。健康状態は良好です」

「あの時みたいですけど……なんともないのならいいのです」

 あの時? あの時ってのは……もしかして一年前か? やっぱり小萌先生は魔術に関わってたりするんだろうか。こんなファンシーな身形だし。ありえるよな。

 なんて変な考えを巡らせていると、小萌先生がじっとこちらを見ているのに気付いた。

「上条ちゃん」

「は、はい。なんでせう……」

「まず……」

 なにがくるのかと身構えていると。

「今日の補習はどうしてサボったです? サボった今日の内に、先生の家に来るだなんて……。上条ちゃん、いい度胸ですね? 覚悟できてますか?」

 補習のことを追求されてしまった。

「先生は上条ちゃんをそんな不良に育てた覚えはないのですよ」

「あのですね、先生。これには深い訳が」

「いいわけなんて聞きたくありません。先生は、上条ちゃんの為を思って今日の補習を用意したのですよ? 出席日数、足りると思ってるんですか?」

「はい、すみません……」

「月詠子萌」

「シスターちゃんはちょっと黙ってて下さい」

「了解しました」

「了解しないでください助けてくださいペンデックスさん!!」

「上条ちゃん!」

「はいぃっ!」

「明日から、予定の一〇倍と言いましたけど、夏休み一杯は補習に来るように! 先生は、上条ちゃんをきちんと不良の道から救ってみせますからね!」

 これは言いたい。「口に出して言いたい不幸」の中でトップ一〇に食い込むくらいの不幸だ。なので私は口に出して言う。なんとしてでも言う。言うぞ! そーら言うぞ!!

「これくらいで不幸とか言わないでくださいね! 自業自得なのです!」

「やっぱ自業自得かああああぁあぁぁぁぁぁ!! 言えなかったし! やっぱり、不幸だああああぁぁああぁぁああぁぁぁぁ!!!」

 

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