自動書記の、自動書記による、禁書目録のための。   作:ふらみか

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第七章

*第七章*

 

 インデックス改めペンデックスの事を掻い摘んで小萌先生に話すと、先生はそれで納得してくれた。

「……な、なるほどなのですよ」

 納得するまでの“間”には、この際触れないようにした。

「ご理解に感謝します。ありがとうございます、月詠小萌」

「いえいえ、上条ちゃんとシスターちゃんのお願いですから」

 いい先生をもって、俺は幸せだなぁ。と、似合わない想いを浮かべながら、小萌先生との会話に花を咲かせていると、

「――警告。第三二章第三節。生命活動の低下確認しました。安全に、仮死状態へと移行します」

 突如としてペンデックスが呟き、こてっ、と横になってしまった。そう、こてっ、と。置物が倒れるように。

 慌てて俺が駆け寄ると、どうやら眠っているらしい。仮死状態とか聞こえたけど大丈夫なのだろうか。

 助言を求めようと先生を見ると、先生はにこりと笑って俺の肩に手を優しく置いた。

「大丈夫なのですよ、上条ちゃん。きっと疲れていただけなのです。こんなにも安らかに寝息を立てているのに、心配することは何一つないと思うのですよ」

「それも、そうか……」

 だったらもっと普通に眠っていただけませんかね、ペンデックスさん。なんて言葉も、もう届かない。彼女は深い夢の中に行ったのだ。

「そうだ上条ちゃん! 今日はこのまま泊っていきませんか?」「え、いいんですか? それじゃ、お言葉に甘えて、お願いします」

 起こすのもかわいそうだしな。明日ペンデックスを迎えに来ればいいし。それに、明日になればインデックスに戻っているかもしれない。小萌先生はこういう時、その懐の広さを発揮する。正直ありがたい。

「じゃあ、俺はこれで。こいつのこと、よろしくお願いしますね」

「ほえ? な、何を言ってるんですか上条ちゃん。上条ちゃんも泊るんですよ?」

「……ん? 俺も、ですか?」

 なんでまた? てか、いいのか? 一応女性教師だろ? 女性教師で、しかも担任の家に生徒が泊るって。俺は決してやましい考えとかないのだが、誰かに見られたらアウトだろ、これ。セーフゾーンなんてない気がするし。

「で、でもですね小萌先生? 俺には寮がありますしですね? 一応先生と俺って教師と生徒の立場じゃないですか?」

「な、何言ってるですかー!? 先生と一緒のお布団で、なんて言ってないのですよー!」

「俺もそれは言ってないですからね!」

「せ、先生は、今日から、黄泉川先生のところにお泊りする予定だったのですよ! ですから! 今日はどうぞこの部屋を使って下さいって意味で言ったのです!!」

「ああ、そういう……いや、それも不味いでしょ先生」

「……上条ちゃんは、私の部屋を荒らす予定でもあるんですか?」

「いや、ないですけど」

 失礼だけど、荒らしても何も出て来ないんじゃないか、ここ。

「だったら、先生は上条ちゃんを信じるのです。どうか、シスターちゃんのそばにいてあげてください」

 そうか。先生は単に、ペンデックスを一人にさせるなってことを言いたいだけか。たしかに、今のこいつを一人にはさせたくはないな。

「じゃ、じゃあ、その……あんまり私の部屋は漁らないでくださいね? 明日の午前中には戻りますから?」

 俺が寝る分の布団を敷いた後の去り際、先生は俺に潤んだ目で訴えかけて出て行った。それは何の忠告だ先生。俺がそんな人だと思うのか。ちょっとショックだぞ……。

 だがショックをいつまでも受けていてはいけない。

 俺は気を取り直して(?)、布団の中へと入り、目を瞑った。

 俺も疲れていたのだろう、すぐに夢の世界へと旅立ったのだった。

 突然ではあるが。

 そろそろ非日常が日常に変化し始めた頃だと思う。

 インデックスがペンデックスになり、最初は驚いたが、だんだんとそれに慣れ始めている。

 俺の頭の中には、「戻る時もすんなり戻るんだろうな」などという考えも浮かんでいる。

 しかし、思い出して欲しい。

 私こと上条当麻は、日常と非日常の切り替えが唐突に訪れるのである。

 例えば、小萌先生の家に泊った翌日の七月二一日。

 朝起きて、ペンデックスが眠っているのを見て「そんなに疲れてたのかこいつ」なんて平和な思いをよぎらせて。黄泉川先生の家に泊りに行った小萌先生は宣言通り午前中に戻ってきて。と思ったら「すみませんね上条ちゃん。先生、用事ができちゃったので……。上条ちゃんたちはここに居てもいいのです。先生は夜までには戻りますから。もし出掛ける時は、鍵を閉めて下さい。はい、これ合鍵です」と早々に去っていき。そろそろご飯を食べないとなと思い、かといって眠っているペンデックスを置いてコンビニに行くこともできず。冷蔵庫の食材を借りていいか尋ねようと小萌先生の電話に繋げてみたが、圏外で繋がらず。不幸だ。ついでに携帯で時刻を確認すると、昼過ぎになっていた。どうりで暑くなってるわけだ。この部屋に扇風機があるのが救いだと思ったが、故障していて付かない。しょうがないので窓を開けた。暑い。

 お昼過ぎになっても眠っている姫は、心地よさそうに寝息を立てている。しかし、あまり寝過ぎてもアレだしな、と、俺はペンデックスを起こそうとし、そして気付いた。

「おーいペンデックスー。そろそろ起きねえと夜寝れねえぞー。……ペンデックス? あれ? ……おい、ペンデックス! おい! 起きろペンデックス!!」

 いくら呼びかけても起きる気配がない。

 眠っている、というのは分かる。息はしているから、決して死んだ訳ではない。死んでしまう要素はなかったはずだし。

「おい!! ペンデックス!! 起きろよ!!! おい!!!」

 しかし、本当にいくら呼びかけてもぴくりともしないな……。

 昼過ぎまで寝てしまう時もある。俺にだって経験があるんだ。

 けれど、これだけ呼びかけても強く揺すっても起きないのはさすがにおかしいのではないだろうか。 

 この事態は昨夜の内に気付けたかもしれない。むりやり起こして俺の部屋に戻る選択もあったはずだ。

 一応、連絡を入れようとステイルの番号に掛けてみたが、出ない。

 次に土御門。

 出ない。

「くそっ! どうする?!」

 明らかな異常に、今の俺になす術はなかった。

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