青春ラブコメ神話大系   作:鋼の連勤術士

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三話

時間がたち、後は二人が調理室に戻る間に完成する手筈の為、彼女達を呼ぶために奉仕部へ行きドアを開けた。

まさか、二人がそのまま居なくなってしまったのではないかと心配したが杞憂で、本を読んだりスマホを弄ったりして各々時間を潰していた。

 

二人の間でどんな会話がされたのか、それとも終始無言だったのかは知らないが、これじゃあコミュニケーション不足ってモノじゃないのか。

依頼を解決したいなら、もうちょっと話してくれた方が円滑に進むと言うのに。

 

藪蛇になるであろう言葉は口には出さず、そのまま二人を連れ調理室に戻り、目の前に由比ヶ浜さんが創ったモノに似ている出来のクッキーをオーブンから出した。

 

「そのままの感想を言ってくれ」

 

「ゴミの方が建設的と思うような味……かしら」

 

「うーん、私もこれはちょっと」

 

「……そっか、悪かったな。やっぱり初めて作ったけど結構難しいもんだ。捨てるから置いといてくれるとありがたい」

 

一口食べた後、思っていた通りの回答が来て、頭のなかで何回もシュミレートした言葉をいう。

 

勿論、少し伏し目がちで視線を斜めにし、落胆したかのような表情で演出するのも忘れない。

 

「えっ、でもそれじゃあ、作ってくれたのに勿体ないって言うか」

 

「そう。なら捨てさせてもらうわ」

 

雪ノ下、予定と違うではないか。

そこは作ってくれた人の心を考えて捨てずに食べると言うのが人情じゃないのか。

 

この鬼、妖怪。

 

「何か文句でも」

 

「いえ、ありません」

 

にっこりと笑う彼女の頭から角が生えているのは幻覚であろうか。

 

それとも本当に彼女は鬼や妖怪の類いだったか。

 

「由比ヶ浜さん。彼が言いたかったのは恐らく、作ってくれる人の気持ちがこもっていればある程度なら喜んで受け取ってくれるものだから心配しなくてもいいということなのよ」

 

「そうなのかなあ」

 

「その通りだけれども、なら、なぜ捨てようとした」

 

「貴方はそうされた方が喜ぶのではなくって」

 

「そんな特殊な趣味は持ち合わせていない」

 

そんな趣味にさせたいのだったら、にこっと微笑みながらその場でクッキーをグシャグシャにするぐらいの事をしてくれなければ、目覚めないだろう。

 

俺の抗議を無視し、雪ノ下は由比ヶ浜さんに向き合い口を開いた。

 

「それにさっき貴女が言った才能がないなんて言葉は、やってもやっても高みに辿り着けない人が自分を慰めて諦めるためにある言葉であって、ただ数回作っただけでその入り口にも立っていない貴女が言うべき言葉じゃない。貴女の言葉は作っても上手くならないから面白くない、飽きてしまった。というのを下らない言い訳で誤魔化しているだけなのよ」

 

これは不味い。

こんなナイフの切れ味でマシンガンの毒舌を吐かれたら、普通の人は心をぽっきりと折られ愛宕山に隠った挙げ句、自衛隊の皆様にお世話になるまであるだろう。

 

「と、まああれだ。由比ヶ浜さんみたいな人から心のこもった手作りクッキーを頂けたら喜ばない男などいないから、そこら辺は安心しても大丈夫だ」

 

なんて紳士的対応だ。

 

流石はディフェンスに定評のある俺。自称だけれども。

 

ここで爽やかな笑みを浮かべ、魍魎からの毒舌から守ってお近づきになり、行方は桃色の学園生活を謳歌していくという我ながら完璧な計画であったが

 

「その、気持ち悪い笑みを浮かべるのは辞めてちょうだい。阿呆が移るわ」

 

前言撤回。この人物がいる限り、俺の学園生活は桃色に染まることはないだろう。

 

「うん、そっか……そっか、私頑張ってみるね。ありがとうゆきのん」

 

俺の精一杯の笑みを華麗に無視し、彼女は一人納得した様子だった。

 

伝わったのは何よりだが。

 

「え、ええ。それは良かったわ。でもその……ゆきのんというのは? それに私結構貴女を傷付ける様なことも言ったのだけれど」

 

「そんな風に自分の意見をきちっと言えるのって格好いいなあっておもったの。ゆきのんは、ゆきのんだよ。……ダメかな」

 

「別にダメと言うわけでは無いのだけれど、なんだかこそばゆくって」

 

かの有名な鬼も乙女の上目遣いには弱かったようで、そこから彼女達の百合色の学園生活が始まったのだ。

 

俺もそこに混ぜていただければ、なおのことよしなのだが。

 

「後、ヒッキーもありがとう。さっきの顔はちょっとあれだったけど」

 

なんのことはない。

その時、輝かしいその幻想がぶち壊された音を聴いただけだ。

 

 

奉仕部の活動は、ある時は不良少女の手助けをして、またある時はいたいけな小学生達を蜘蛛の子のように散らしていき、文化祭では悪役を担って大失敗で終わらないようにもした。

 

その合間に実は同胞であった大岡とその他の阿呆達との友情を紡ぎあげたり、巷で噂になっている恋の邪魔者と呼ばれる阿呆の小説を酷評したり、訳の解らん部活と闇のゲームを繰り広げたり……etc.と、とにかく雑多な内容だった。

 

これを見ると何とも言い難い戦績と阿呆っぷりである。

 

傍目から見れば毎回、俺が阿呆なことをし、それを雪ノ下が助け、由比ヶ浜が場を持たせるという役割が定着しているように思われるが、その実色々なことを考え暗躍しているのは俺だった。

 

 

時間の無い不良少女には俺の使っている〈印刷所〉と錬金術を教え、いたいけな小学生を散らした後は、平塚先生を通して親御さんに紳士的謝罪をした。

 

文化祭終了後は人知れず隠れる術も完璧にした。

 

そんな苦労もいざ知れず、奉仕部が一つ問題を解決するごとに、俺と彼女達の関係はギスギスとし始め、百合色のキャッキャウフフな空間が形成される。

 

こんなギスギスと錆びた歯車のような音が流れる部活にしてしまった責任者は誰だ。責任者を出せ!

と声をあげたところで出てくるのは、雪ノ下の姉である雪ノ下陽乃や、まだ見ぬ雪ノ下母等の強敵であるだろうからそれは言えない。

 

それというのも、高校一年の入学式当日に犬の命と引き換えに高校デビューの機会を失った俺だが、俺が助けた犬が由比ヶ浜の犬で、俺を轢いた車が雪ノ下を乗せた車だったことに他ならない。

 

この事実を知らなければ、もしかしたら彼女達ともまだ上手くやっていけたかもしれない。

 

 

ギスギスを通り越して冷戦状態を迎える切っ掛けとなったのは、修学旅行の件だろう。

 

戸部なる阿呆の先端を走る男が京都の修学旅行で意中の女性に告白したいという依頼をしてきたことや、その乙女の依頼?を達成する為、その他諸々の空気を保つ為に、なんやかんやあり渦中の女性に告白をした。

機密保持の観点から、女性の名前を書かないのは了承して頂きたい。

 

俺がその乙女に告白をした場所は竹林の道といい、京都の嵐山駅から渡月橋を渡り途中の交差点を左に曲がり少し歩いた所にあった。

 

 

当初、戸部の依頼を成功させようとしていた俺たち奉仕部は、竹林の道でその様子を見守っていたがライトアップされ風に靡きながら揺れる竹林と彼女達は、なにやら映画やドラマの一シーンに見えよく似合っていた。

どれくらい似合うというと、将来は高等遊民か専業主婦以外になるとしたら、竹林をにょきにょきと植え世界中が美女と竹林で溢れ変えるような仕事をしようと思わせるぐらい。

 

そこに浴衣なんて着て来られた日には、一生懸命働いて養ってしまおうとするまである。

 

つまり、美女と竹林と浴衣は、部屋とワイシャツと私に匹敵するぐらい素晴らしいものかもしれないと言うことを知った。

 

 

まあ、それは置いといて、その一件について雪ノ下からは

 

「貴方の自分を犠牲にして解決しようとするやり方、正直言って嫌いだわ」

 

と軽蔑され、由比ヶ浜からは

 

「ヒッキーだけが損するのはやっぱり可笑しいよ」

 

と怒られた。

 

仕方ないではないか。今まで誰とも関わることのできなかった人間がどうして人間関係の問題を円滑に解決することが出来るのだろうか。

 

俺が解決できるものといったら文系の問題だけで。

 

そんな、ただのぼっちが何かを成すには、何かを犠牲にしなきゃならない。

 

等価交換だ。って某錬金術だって言ってたじゃないか。

 

なら、助けてくれよ。軽蔑するだけじゃなくって、哀れむだけじゃなくって、奉仕部なんだろ。

 

結局、この叫びは誰の耳にも届かないまま、今でも自分の中で消化不良を起こしたように漂っている。

 

 

その後、生徒会選挙についての依頼が着て、何かを決定的に掛け違えてしまった。

 

雪ノ下は自分が生徒会長になれば、依頼内容の後輩を生徒会長でないようにすることを達成出来ると思い、立候補をした。

 

対して俺はと言うと、後輩をその気にさせ依頼自体を無かったことにさせるという考えで行動をした。

 

両方の意見の食い違いは論争に発展し、その論争は成田山に御参りにくる観光客の耳にまで届く大論争となった。

 

結果、彼女達との仲に48度線が引かれてしまい、雪ノ下は生徒会長に就任し、最後まで仲を持とうと努力してくれた由比ヶ浜は雪ノ下に着いていく形で奉仕部を辞めた。

 

 

奉仕部は俺一人きりになり、最早顔を出す必要性も無く自由に時間を過ごせるというのに、何故部室に足を向けてボケッと過ごしているのか。

そんな事を聞いても誰も答えを返してくれない。

部室は今、一人分のページをめくる音だけを静かに反響させている。

 


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