今回で漸く折り返し時点もとい九尾事件の回であります。
世の中上手くいくとは限らない、そんな中で、漸く見つけた夢に向かってひた走る泥臭い主人公のがんばり物語、どうかごゆるりとお楽しみください。かしこ。
「私が火影に?」
イタチはゆっくりと目を細めて、何事か考え込むように、或いは俺の思惑を探るように、噛み締めるようにしてそう言葉を押し出す。
「そうだ」
それに、くすりと小さく口元に笑みを浮かべて、はっきりとオレは言い切った。
「……」
そんなオレに虚を突かれるように、一瞬イタチは僅かな動揺と困惑を浮かべる。
「オレは、お前に火影になってほしい。うちは初の火影に」
「自分でなりたいとは思わないんですか?」
ああ、そうか。イタチにとって腑に落ちないのはここか。
「無理だよ」
オレは苦笑して答えた。
「オレは正直、木の葉を愛しているとはいえない」
「……」
「そりゃ大切なやつはいるし、守りたいやつもいる。仲間のことは好きだし、お前は可愛いし、里の好きなところだって一杯ある。だけど、それでも好きだけじゃない。その反対の気持ちもたくさんあるんだ」
そのオレの言葉に思うところがイタチもあったのだろう。何かを考えるように、イタチは僅かに視線を逸らした。その黒曜石の瞳に、憂いと癒えきっていない傷を僅かに宿して。
そうだ、お前は光だけじゃない、闇をも知っている。
でもその上で、お前はどっちもひっくるめて木の葉を愛しているんだろう。
オレは木の葉のことは好きでもあり、憎んでもいる。
あんな風に、力があるからと子供を戦わせるこの世界に憎悪を覚えている。
安全なところにいるとばかり思い込んでいた、お前が働かされている姿をオレが見た時のあの衝撃は、悲しみは、怒りは、きっと他の誰にもわかりやしないだろう。
親が子を守らない、子が子として扱われないその不条理に対する胸を裂かれんばかりの嫌悪と軽蔑も。
でも、それでもオレはこの世界のことも、木の葉のことも、一族のことだって嫌いになりきれてはいないんだ。
脳裏をよぎるのは、あいつの最期。
『あいつらに、情報、……渡したくないんだ。俺も……木の葉の忍び、だから……』
痛いだろうに、苦しかっただろうに、そう言って泣き喚くことすらなく死んでいった少年の姿。
あいつは木の葉を愛していた。
『……悪いな、嫌な役目おしつけちまって……』
そうやって最期までオレを気遣って、あいつは逝った。
あいつの想いを踏みにじりたくなんて無い。
あの最期を、尊い命を、オレなんかの、てめえ勝手な異邦人の憎悪で台無しになどしたくはない。あいつの愛した故郷を、自分が育った居場所を、出来るならオレだって憎みたくなんてないんだ。
そう、オレは、木の葉を愛したい。
「オレは木の葉を愛したいんだよ。死んだ奴らの想いだって無駄にはしたくない。お前はさ、木の葉を愛しているだろう? 裏も表もひっくるめて、それでもお前は木の葉が好きなんだろ? そんなお前が治める里なら、お前が率いる里なら、きっとオレは里を愛せる。この木の葉の為に笑って死ねる」
「……シスイ兄さん」
そっと、イタチのほうに向かって手を伸ばす。そして、その肩にかかった、木の葉を手に取った。
木の葉隠れの里。
それは、千手柱間とうちはマダラによって作られた千手柱間の夢の国。
子供が死なない、兄弟たちや幼い子供達を守れる里を、それが最初の発端だった。
それは守られてはいないけれど、現状、達成されているとは言い難いけど、でも、それでも、きっとこいつなら、イタチなら、それを成せるんじゃないのかと思う。期待してしまう。
だって、お前は誰よりも強く優しい奴だから。
「オレは、お前が治める木の葉を、そんな未来を見たい」
そのためなら、なんでもしよう。
護るべき『一』は此所に決まったのだから。
「風が出てきたな、そろそろ帰るか」
「そうですね」
イタチは結局は是とも否とも口にしなかった。でもオレの本気は伝わったとは思う。理解してはいるだろう。その上で敢えて口にしないのなら、オレもまた追求したりはしない。
所詮これが自分勝手なエゴだってことは理解しているのだから。
もしかしたら、オレの期待は、まだ幼いイタチにとっては重荷になるかもしれないし、その可能性も考えなくはなかった。
けれど、もしもそうなら、イタチはもっと違う態度に出ていただろうとも思うのだ。
イタチは変わらない。
オレの想いを聞いても、知っても、正面から受け止めて、敢えて胸中にとどめているように思う。そんな真摯さがたまらなく嬉しい。
(ああ、あのダンゾウもイタチには一目置くわけだよ、こりゃ)
思わず、苦笑する。そして……。
「シスイ兄さん?」
「悪ぃ、イタチ。先帰ってくれるか? すぐ追いつくから」
足を止めたオレに向かって、やや不思議そうな声音でもってイタチはオレに振り返る。
そんなイタチにむかって、大げさにオレはぼりぼりと頭をかきながら、出来るだけ呑気な口調でこんな言葉を告げた。
「ションベンだよ、ションベン」
そんなオレの言葉に一瞬だけ呆れるような仕方ないような顔を浮かべたと思ったイタチだが、次の刹那、何かに気づいたかのように無表情じみた顔を作って、それからいつもの表情に戻って、歳に似合わぬ落ち着いた声で言った。
「わかりました。先に帰っています」
「おう、悪いな、イタチ」
そうオレが言うと、イタチはオレに背を向けて歩いて言った。
(ああ、ありゃ気づかれたな)
本当に、イタチは聡い。聡すぎる子供ってのも考え物だな、と苦笑して、それからオレは言った。
「で、いつまでそこに隠れているんです、三代目様?」
「なんじゃ、気づいておったのか」
「いくら先代の火影様とはいえ、人の話を盗み聞きするなんて、趣味が悪いんじゃないですかね」
ちょっとだけ呆れた口調で言う。
「あんな目立つ場所で話す方も話す方だと思うがのう」
「うくっ」
思わず、言葉が詰まった。誤魔化すようにぼりぼりと頬をかく。
くそ、このじいさんはいけしゃあしゃあと……しかし、ふと思った。これは場合によってはチャンスなんじゃないのかと。
まさか、三代目に会えるとは思っていなかったが、三代目は決して悪い人物じゃない。うちは殲滅命令の件に関しても、最後まで反対したのが三代目のじいさんだ。それに……なにより、原作で三代目は小さな頃からイタチのことをよく知ってかっていたように記憶している。
火影のような考え方をする子だと思っていたと。
ならば……。
「見たでしょう。あいつの目を。聞いたでしょう、あいつの言葉を。あいつは火影になれる器だ」
そう、オレは共感を誘うような言い方で、先代の影を名乗った老人を見やった。
「あいつこそがオレの希望なんです、三代目。だから」
オレは、先ほど手にした木の葉を握りしめた。
「何があろうと、あいつを守ります。あいつはオレの、夢だ」
そして時は流れる。ゆっくりと確実に、しかし束の間の平和の収束が近いことをオレ1人だけが知っていた。
ぼろぼろにすり切れたメモ帳を指でなぞる。メモ帳は何度も何度も忘れないように読み直して、そのたび擦り切れていた。
「あと少し……か」
2ヶ月前、サスケが生まれた。
イタチは嬉しそうに、生まれたばかりのサスケの世話を焼いていた。その姿に、前世で自分に妹が生まれた日のことを思い出して、自然ほほえましくなったものだが、喜んでばかりはいられないこともまたわかっていた。
サスケが生まれたということは、今年なのだ。
マダラを名乗るオビトがうずまきクシナの出産を狙って、九尾を引きずり出し、里を襲わせるのは。
ナルトの誕生日は正確には覚えていない。ただ、10月だったということだけでも覚えていたのは、不幸中の幸いだったといえるのかもしれない。
そもそも、うちは一族がクーデターを起こそうと思った切っ掛けはなんだかったか。
それは、うちはマダラが九尾を操ったように、うちは一族のものが九尾を操って里を襲わせたからじゃないのかという、上層部の不信を買ったのが原因であり、それまでは多少のすれ違いがあっても、うちはと里はそこまで大きな亀裂は存在していなかった。いや、互いに多少の不満はあっても、上手くやれていたといえるだろう。
うちは一族は代々エリートと呼ばれる。
そりゃ上層部に組み込まれるうちはの人間は少ないが、それでも木の葉警務部隊はうちはの誇りでもあったし、里の治安を預かり守っているという想いは、優越感となって、うちはの人間の自尊心をある程度守るものでもあった。
その辺を考えれば、2代目火影である千手扉間はまさしくやり手の火影だったと言えるのだろう。
それに、マダラ嫌いで一見うちはを冷遇しているかのような扉間だったが、祖父うちはカガミを側近として取っていたことからも、一族のしがらみをこえて、ちゃんと『人』を見れる人間だったことが伺える。
そもそも、個人であり一族からとっくに見捨てられていたとはいえ、元うちはのトップだったマダラが九尾さえ従えて何度も木の葉を強襲してきたこともまた事実である。今は関係ないとうちはが言っても、果たして周囲はそう見るだろうか?
そう考えると、ある程度のうちは一族への隔離も当然の処置とさえ言える。
いや、寧ろマダラのやってきたことを考えたら、温情をかけすぎなくらいかけてこられたくらいだろう。その辺はやはり千手柱間の方針が多少受け継がれたんだろうなあ。
……確か、柱間ってマダラのこと凄い好きだったような……原作読んだの随分前だから大分記憶曖昧になっているけど。あんなクソ迷惑男相手に、「友達」と言い切れる柱間ってぶっちゃけ凄いよな。なんでそんなにマダラのこと好きなんだよ、柱間。ホモか。いや、それは流石に冗談だけど。
でだ、オレが思うに、九尾事件さえ起きなければ、或いは九尾事件とうちは一族は無関係だということをなんとか証明することさえ出来れば、ひょっとすればうちはのクーデター未遂は防げるんじゃないかと。
そのために、おそらく、オレの夢にとって最大の障害となるうちはオビトを殺す。
まあ、それが難易度高すぎることは確かなんだが、それでも方法を探すしかないだろう。
何故なら、オレはもう護るべき一は決めている。
見たい風景がある。
なら、オレだって男だ。たとえ危険でも腹をくくって方法を模索するしかないじゃないか。
だからオレは何度も任務の合間をぬって此処数ヶ月、下調べを続けている。せめて、うずまきクシナの出産するのはどこかがわかれば、まだ手は打てるのかもしれない。
「…………」
ぶるりと、体が震える。
オレは恐怖している。
下手を打てば死ぬんだと思えば、逃げ出したいくらいに心臓がバクバク鳴る。
だが、護ると、決めたんだ。
やっと見つけた夢なんだ。
前世、オレは夢もなくやりたいこともなく、ただ生きる人生だった。
妹と違ってなりたい職業とかもなく、夢もなく、覚悟もなく親に死なれて、死んだ親に変わって妹の面倒を見るんだと、親の分もオレが守るんだと、そんな言葉を免罪符にした。夢の代わりに、『したいこと』ではなく、『しなきゃいけないこと』を支えにして、そうしてオレは死んだんだ。
妹はオレにこれから恩を返せる、自由に生きていいと言った。だけど、本当はその『自由』がわからなかったんだ。オレに、妹が社会に出てからの、自分の庇護を離れてからのビジョンなんてなかったのだ。
やりたいことも、夢も、何も。
年々苦しくなっていた。
突如オレが死んで、1人で残されて、妹はひょっとして傷ついたのかも知れない。でも、オレはひょっとしてあそこで死んで幸せだったんじゃないのかと、最近よく思う。
妹には夢があった。希望もあった。子供の頃から一生懸命、なりたいものを追いかけていた。そして、就職の内定ももらっていた。中学生の身で両親が死んだのはそりゃショックで悲しかったかもしれないけど、やっと恩を返せるといった矢先にオレが死んで、ひょっとして泣くかもしれないけど、それでも悲しみはきっと時が癒してくれる。
妹は女だ。いつか、伴侶となる男と出会えたら、そうしたらその悲しみはきっと男が癒してくれる。いつか結婚して、家庭をもって、子供を産んで育てて、そうして時々ふっとオレという兄を思い出してくれたらそれでいいと思う。
可愛い妹だった。だから、成人するまで見届けられて良かった。それで、充分だ。
夢も何ももっていなかったオレの、『内田』の物語は終わったんだ。
だから、此処に、『うちはシスイ』となったオレは、オレの夢を、物語を追いかける。紡ぐ。
オレの希望を、友の死を無駄になどしない。
だから、うちはオビト。神無毘橋のもう1人の英雄。オレの夢のために、あんたは退場してくれ。
頭脳などない。
体術だって一時的な強化は出来ても中忍相応で、忍術だってそれほど得意じゃない。
駆け引きも出来ず、万華鏡写輪眼は強力すぎて却って使いようがない。
戦術も戦略もなく、チャクラ量は一般の忍びより高いが、多すぎるということもない。
それでも幻術と瞬身の術だけに関してはオレは一流だ。
他に能はなく、一撃必殺ももっていない。
神威への対抗手段だって思いつきはしない。
あるのは原作知識と、幻術の才と鍛え上げた瞬身の術、それと1年の実戦経験だけ。
だが、それがどうした。
それで諦める夢なら、最初っから抱いたりしない。
たとえ、抜け忍として追われることになったとしても、逃げるだけの話だ。
自分が生き残りたいだけならそうしている。
ああ、くそ、本当無理ゲーだよな。
死ぬかもしれないな。
それでも、あの笑顔を守りたいんだ。
あいつの治める里を、あいつの元で笑う子供達の笑顔を見たいんだ。
所詮は身勝手なエゴイスト。
英雄になどなれない。
どこまで行っても俺は凡人で、ただの人。
全てを守るなど出来ないし、出来もしない約束もまた意味がない。
だからこそ、俺は俺の『一』だけを護ると決めたんだ。
そして、その日がやってくる。
運が良いというべきなのかその日は非番で、オレは里のまわりを探索していた。
出産が極秘だからだろう、里でうずまきクシナの姿を見かけることはなく、それでも今月起こるとわかっている以上は警戒を緩めるわけにはいかなかった。
ふと、暗部らしき気配を一瞬感じた。オレは高台に昇って、写輪眼を発動させる。
遠く、里の外れに向かって歩いているのは……うずまきクシナ。隣には3代目火影の妻であるビワコの姿もあった。
「……!」
この日だ。オレはまるで何事もなく、修行に行くような恰好をして遠回りに里を出た。
写輪眼と警戒はやめない。前々からあちこち調べていたので、うずまきクシナと猿飛ビワコの向かう方向から大体の、ナルト出産に選ばれた拠点の位置の推測は出来ている。
けれど、近づきすぎたら暗部の不審を買ってしまうだろう。もしかしたら、オレこそが害そうとする人間と思われるかも知れない。だから、修行中を装って、必要以上に近づいたりはしないことにした。
オレが気づいているということを知られるわけにはいかないのだから。
そして、うずまきクシナの出産がはじまる。
結界の外にまで聞こえる大声には思わず苦笑するけど、そんなことを言っている場合じゃない。オレは、修行中のフリをやめて、気配を消して洞窟に近づいた。そして、暗部が殺される光景に立ち会う。
(……!!)
どうする。今、出るべきか。
だが、オレはあいつと違って結界を通り抜ける手段なんてもっていない。
いや、そもそもオレはあいつより強くなんて無い。
やるなら、チャンスは1度だけだと思うしかない。
(落ち着け)
タイミングを誤れば、ああなるのはオレのほうだ。
無駄死にをするわけにはいかない。
何も成さず、オレが死ぬなんてオレが許さない。
オレはまだ何も成していないんだ。
やがて、間もなく、言い争う4代目の声と赤子の声が消える。飛雷神の術できっと消えたのだろう。
そして、マダラのフリをしたオビトは、うずまきクシナを洞窟から連れて、移動を開始した。
(……!)
気配を隠し、臭いを隠し、音を隠し、オレはクシナを連れたオビトを追う。
やがて、奴は岩にクシナを術式で縛り付けて、九尾の封印を解く術を展開し始めた。
(今だッ……!)
戦法はいつもの奇襲法。
音もなく、気配もなく、瞬身の術で、一気に近づき、九尾解放に意識を集中させていた男をすれ違い様に痺れ毒付きのクナイで斬りつける。
「何ッ!?」
流石に想定外だったのだろう、僅か驚きに硬直するやつに合わせ、そしてオレは写輪眼で水増しした本気の幻術をたたき込んだ。
(魔幻・枷杭の術!)
ずっと、幻術と瞬身の術ばかりを鍛えてきた。
オールラウンダーになれないというのなら、一点特化のスペシャリストになってやると、そうして鍛え続けてきた幻術。それは、1年に渡る第三次忍界大戦で実践を積んだのもあり、今や一族でもオレ以上に幻術に長けているやつはいない。
たとえ、写輪眼という幻術抵抗の強い瞳をもっていようと、それでも幻術の腕前だけならばオレのほうが上だ。やがて解けるとしても、それでも数秒は少なくともオレの幻術に拘束されることになる。
その数秒が最大の資産となる。
けれど、オビトの相手をしている暇はなかった。
オレにとっては最大の誤算。
一刻どころか1秒の猶予さえなく、彼の災厄、九尾がまさに今抜け出ようとしていた。
あの日、オレはこの力を2度と使わないと決めた。
一生隠し続けると決めた。
だが、今ならば誰も見ていない。
そして、時間もない。
ならば、今使わずして一体いつ使うというのか。
「九尾、お前は、こいつの意のままに従うな!」
別天神が発動する。
相手の脳内に呼びかけ、操られたという自覚すらなく対象を操る最強幻術。
正気を失った九尾の目が自己を取り戻していく。
しかし、その度重なる瞳術の使用を前に、チャクラを使用しすぎた身が一瞬、ふらついた。
瞬間、九尾は尾を振り上げていた。
「……!」
とっさに腹部をチャクラで強化し、瞬身の術も応用して背後に飛ぶが、間に合わない。
ダメージが最小で済むように衝撃は最大限抑えていたとはいえ、オレは腹部に尾の一撃を受け、後方へと吹っ飛ばされた。
腹には裂傷が入り、あばらが何本か折れる。ガツンと、振ってきた石の塊が頭にぶつかり、血が流れた。
と、その時、何者かが自分を抱き留める感触を覚える。
横目に見れば、波風ミナトが、片方の腕にクシナを抱え、驚いた顔で自分を見ながら、もう片方の手でオレを抱き留めていた。
「四……代目……」
先ほど頭を石でぶつけたからだろう、クラクラと朦朧とする意識で呼ぶ。
「喋らなくて良い」
ミナトはまさに火影らしい、きりっとした頼もしい顔で安心させるような笑みを浮かべると、そのまま飛雷神の術でオレを連れて飛んだ。
飛んだ先は里の医療忍者のもと。
「やや、四代目!? これは一体」
「詳しく説明している時間はない。この子を頼む」
「待っ……」
そういって、オレを医療忍者に手渡して、引き留める間もなく、波風ミナトは現れた時同様、時空間へと消えていった。
「君、大丈夫か」
「おい、しっかりしろ」
意識が遠のく。
(駄目だ、ここで気を……失って………)
医者の声に応える暇もなく、波風ミナトに何かを言葉かけることも出来ず、オレはそのまま気を失った。
その後の顛末は語るまでもないだろう。
そう、原作と同じように、結局の所、波風ミナトは九尾を息子であるナルトの中に封印して、四代目夫婦は死んだ。ただ、そうそうに別天神を使ってオビトの瞳術を解いたおかげなのか、原作に比べると九尾による被害は少なかったように思えた。だが、それでも死傷者は出たんだ。
別天神まで使ったんだ。たとえ、封印がとけたとしても、もう1度九尾がオビトの目に操られることはありえない。だけど、それでも人が多く死んだことに代わりはなかった。
オレは、頭部を怪我したのもあり、3日ほど入院することになった。
そんなオレの元に、暗部を引き連れて、火影に復帰した三代目が現れた。
「三代……目、ッ」
「ああ、良い、そのままで良い。気分はどうじゃ?」
体を起こそうとするオレを制して、三代目はそう声をかける。好々爺のような笑みを白々しいと感じてしまうのは、今のオレが苛立っているせいなのかもしれない。
「……良いように見えますか?」
「貴様、三代目に向かって」
「やめい」
オレの態度に苛立ったのだろう。付き添っている暗部は怒鳴ろうとし出すが、本格的に怒鳴るよりも先に三代目は暗部を止めた。
「さて、儂が何を聞きたいのかはわかっておるよな。うちはシスイ中忍」
こうなるとは思っていた。
「なんであの場所にいたか、ですよね」
「そうだ、知っていることは全部吐け。嘘をいうと許さんぞ」
暗部は忌々しげにオレを見下ろしつつ言う。それに対して、三代目は頭が痛そうに額に手を当てると、「尋問に来たわけではないぞ」とオレ宛てというよりも、暗部宛てに言葉を漏らした。
「……あそこにいたのは偶然です。修行をしようと里のはずれまで出たらたまたま悲鳴が聞こえて、近づいたら暗部が何人も倒れていたんです」
「……!」
三代目は目元だけを驚きに見開き、しかし言葉を挟むでもなく、オレの続きの言葉を待っていた。それに内心重いため息を吐きつつもオレは続けた。
「次に、洞窟の中から赤ん坊の声と四代目と、知らない男の争う声が聞こえてきて、どうするべきか迷っているうちに男が、尋常じゃない様子の赤い髪の女性を連れて出てきたんです」
オレはうずまきクシナのことは知らないことになっている。だから、そういう言い方をした。
「何がどうなっているのかわからないけど、暗部が倒れていたことや、四代目の争う声を聞いて、オレはそいつが木の葉の敵なんだと思いました。このままでは、あの赤い髪の女性も害されると思って、誰かを呼ぶ暇もないと思ってそいつの後をつけました」
偶然ではなく、知った上でのことであることを抜かせば、ここまでのオレの供述は見てきた事実そのものだ。それに対して三代目は神妙な顔をしながら、何かを考え込むような色を瞳に宿しつつも、「続けよ」とそう低く落ち着いた声で先を促した。
「男は何かの術式で女性を縛り上げました。そして、男が何かをしたと思ったら、彼女の中から九尾が現れだしたんです。オレは、チャンスは今しかないと思って、男に瞬身の術で近づいて、幻術を喰らわせたんです。けど、その男は……」
オレは一旦言葉を切る。次に言う言葉に重みが出るように。
それが真実だと、伝わるように。
「男は、うちはマダラでした」
「馬鹿を言うなッ!!」
たまらず、暗部の男は叫んだ。
「うちはマダラだと!? 妄言を言うのはいい加減にしろ。そんなもの、お伽話ではないか!」
「いや、あれはマダラだった! あいつは、あの目で、写輪眼で九尾をあやつって、従わせようとしたんだ! あのまがまがしさ、強さ、マダラじゃなくてなんだと言うんだ!?」
本当は、マダラではなく、うちはオビトであることは知っている。
だが、オビトといってどうする。『うちはオビト』は神無毘橋の英雄なのだ。死んだといわれている存在なのだ。オビトだとわかったほうが最悪だ。マダラならまだいい。マダラが一族から放逐したことは有名なのだから、マダラとうちは一族を同一視するものはあまりいないだろう。
だが、オビトなら話は別だ。もしあれが、オビトだと知られれば、うちは一族はそれこそ犯人と見なされる。そんな危ない橋を渡るわけにはいかないし、それに今のオビトはマダラを名乗っているはずだ。
本人がマダラと名乗っているのなら、マダラとして扱ってやる。
神無毘橋の英雄は死んだのだ。それで構う物か。
「やめんか! 馬鹿者。すまんの、シスイ。続けよ」
「とにかく、オレはマダラに足止めとして幻術をかけました。でも、遅かった。九尾は復活して、オレは九尾の尾の一撃を受けて、吹き飛ばされ、そして赤い髪の女性ともども四代目に助けられました。あとのことはそっちが知っているでしょう」
そう締めくくるも、暗部は嫌悪に変わらず顔を歪めていた。
「……何か?」
「その男が本当にうちはマダラだとしても、本当は貴様が手引きしたんではないのか」
なんだと?
「貴様もうちは一族だろうが。その怪我とて自演でないと言えるのか」
何を、こいつは何を言ってやがる。
「本当のことを言ったらどうなんだ」
「おい、やめんか」
あいつのせいで、あいつが襲撃したから何人も死んだのに、あいつのせいで、うちはは信用をなくしていく。あいつが、あいつは。
怒りに震える声でそれでもオレは言葉を紡ぐ。
「……マダラは、奴は里と一族に復讐に現れたんだ。奴の復讐対象にはうちは一族も入っている」
「ふん、どうだかな」
「冗談じゃない!!」
その嘲る言葉に、カッと、頭に血が昇った。
「ふざけるな! あんな奴と一緒にされてたまるか! あいつは四代目と里のみんなの仇だぞ! あいつのせいで、あいつが……!」
叫んだ拍子に、折れた脇腹が酷く痛んだ。オレは思わず手を当てて、痛みに耐える。ぶつりと、噛み締めた唇が切れて、血が顎に伝った。
(冗談じゃない、冗談じゃない。本当に冗談じゃない!)
あいつのせいで、うちはは信用をなくし、そしてうちはは里に不審をもってクーデターを企むようになり、そしてイタチが二重スパイに仕立てられたんだ。
許せない。
何をどう考えても許せない奴だ。
なんで、あんなやつと一緒にされないといけない。
なんで、共犯を疑われなきゃいけない。
たとえ、惚れた女が死んだのであろうと、そんな理由、オレがあいつに同情する理由にはなり得ない!!
あいつは、ただの八つ当たりで破壊をまき散らす復讐者のフリをした破綻者だ!!
「あの、そろそろ面会終了時間です」
看護婦が現れて、そう声をかける。
三代目と暗部達はオレに背を向けて、病室を後にしようとしている。
だから。
「三代目!!」
オレはその有りっ丈の思いを叫んだ。
「オレの夢は、願いは何一つ変わっちゃいない!!」
わかっている、そういうかのように、三代目はただ1度だけ頷いた。
……結論を言えば、うちはが九尾襲撃に関わっていないという証拠付けをすることにオレは失敗した。
歴史通りというべきなのか、うちはに対する里の不信を受けることを避けることは出来なかったのだ。
怪我も治り、一族の会合に出られるようになると、あの夜の当事者であるオレにも色々質問をされた。だから、オレは言ったのだ。
「あの時九尾を解放して襲ってきたのはうちはマダラだった」
と。
けれど、一族のものさえ、信じるものはいなかった。
いくらオレが手練れ(そういうことになっている)とはいえ、若干11歳の少年が本当にうちはマダラと対峙して生き残れるはずがないだろう、という考えももしかすると大人達にはあったのかもしれない。
本物のうちはマダラが生きているはずがないと、見間違えだったんじゃないのかと、大人達はそう言った。
そりゃそうだ。あれはマダラじゃない。マダラを語るうちはオビトだ。でも、オビトと言うほうが余程信憑性がない。
きっとあんな事件を受けて混乱しているのだろう。それが大人達がオレに下した判断だった。
「信じるよ」
そういってくれたのはイタチだけだった。
「シスイ兄さんは、本質的には嘘をつけない人だから。本当のことなんでしょう。だから信じるよ」
「ありがとう、ありがとうな、イタチ」
オレはイタチを抱きしめて、礼を言う。
イタチのほうが年下なのに、やっぱりイタチはまるで自分のほうが年上であるかのように、震えるオレの背をぽんぽんと叩いて、言葉でなく態度で慰めていた。
もしも、その強制力を運命というのだとしたら、なんて強大な敵なのだろうか。
どうしようもなく、けれど確実に時は過ぎていく。
死神に似た、タイムリミットの足音は、一刻、一刻と近づいていた。
今はまだ、オレしか知らない。
続く
そういえば、この話のうちはシスイが何出来るのか書いてなかったような気がするので書きます。
うちはシスイ(憑依オリ主)
忍:2 体:2,5 幻:5 賢:2 力:2,5 速:5 精:3 印:3
使える術
一般的な幻術全般+写輪眼を使った幻術全般。
別天神。
瞬身の術。
高レベルの幻術返し。
とりあえずアカデミーで習う術全般。
口寄せ(鳩)。
鳥分身。(ただし、1体くらいしか作れない)
火遁・豪火球の術(ただし、威力はボヤに毛が生えたようなもの)。
金縛りの術。
掌仙術もどき。
あとは、クナイとか手裏剣とか使うが、そこまで投げるの上手くないので、基本的に頸動脈切るの専門になっている。勿論イタチみたいに死角の的に投げるとか無理。毒付きクナイとかも結構扱っている。
実は毒薬にそこそこ詳しい。
幻術と瞬身の術関係に関しては神がかり的な程に特出している。次点で気配の察知や、気配を消すこと、回避能力が高い。ただし、回避力と逃げ足が早い代わりに紙防御なので、一発でもでかい攻撃をまともに喰らえばその次点でアウト。脚自慢なため、脚を怪我するだけで7割の確立で詰む。
初見殺しの奇襲型なので、正面戦や多対一の戦いには向いていない。まともにやりあえば大抵の奴に負ける。
あと大火力もない。が、主戦力ではなく、仲間の支援役に徹すると本領発揮する。
戦力的には強くはないが、幻術とスピードで翻弄してくるため、かなり倒しづらい。