名無しの日記

○月○日

私の妹が、継続高校に転校してくるという。

妹といっても、下の妹ではない。
一歳下だという、顔も覚えていない方だ。
超低出生体重児として生まれ、成長も遅かったという彼女の存在を疎む島田の重鎮たちに引き離されてしまったと、母が言っていた。
その時の母の顔は、今でも目に焼き付いている。

私があの家を離れるきっかけとなった話だ。
しかし、その時抱いた感情を忘れかけていた、というのも事実。
今更そんな話をされても、どうすればいいのかという戸惑いの方が強い。

校長は、私に彼女の様子をそれとなく見ておくようにと告げてきた。
校長には恩があるので従うのはやぶさかではないが、正直にいうとどう接すればいいのかがいまいちわからない。
とりあえず明日、顔を見に行くことにする。



○月○日

校長が趣味で経営している食堂に赴くと、店内の机に腰掛けて教科書を読み進めている小さな女の子がいて、その子が件の私の妹なのだろうかと思いとりあえず客を装いながらしぐさを観察してみた。

腰まで伸びた髪は後ろで結われていて、棒のように細い手足はタイツと手袋に覆われて殆ど肌を見せることはない。
顔立ちは、くりくりとした大きな目と丸みのある輪郭が印象的で、言われなければ高校生とは気がつかないだろう。
髪の色が真っ黒だし、体格もまるで違う。
あの子は本当に私の妹なのだろうか、もしかしたら人違いではないか?

だけど、あの瞳の色は、確かに……私に、似ている。
そして、母にも、妹にも。



○月○日

校長はまたもやどこかに放浪の旅へと出てしまっているので、実質店はあの子一人で回していることになる。
まあその旨を張り出しているおかげで大抵の客は店に入らないから困ることはなさそうだが。

彼女には、私はここの常連であったと告げて毎日様子を観察することにしている。
コーヒーを淹れるのがとても上手で、それが毎日の楽しみになっている。
美味しいのもそうなのだが、なんだか私の口によく合うのだ。

私が一人でコーヒーを飲んで、カンテレを気ままに鳴らしている間、彼女はこちらの様子を伺いながらもまた勉強に戻る。
その横顔に父の面影を見て、そういえば父も真っ黒い髪の色だったと思い出した。



○月○日

戦車道の鍛錬が終わった後に、私は気まぐれでアキとミッコを誘って例の食堂を訪れた。
校長が不在であることを知っていた二人は首を傾げていたが、ここのコーヒーを飲んだら顔色を途端に喜色に染めた。
なんだか我が事のように嬉しい。
二人に話しかけられてワタワタと慌てている彼女にそれとなく助け舟を出したりしながら、穏やかな午後を過ごした。



○月○日

彼女がたびたび練習中だという料理や菓子を振舞ってくれるのだが、料理のほうはどれも味付けが大雑把で、まずくはないが店で出すものとしてはどうかという出来のものが多い。
しかし菓子の方は実に美味しい。
分量さえきちんと守れば必ず美味しいものができるから楽だと彼女は言っているが、その辺りは私にはわからない感覚だ。

それとなく彼女に話を聞いて、彼女が孤児院の出身であることを聞いた。
もはや疑いようもないだろう。
天翔エミは、島田の血を引いている、私の妹なのだ。



○月○日

この話を、彼女にするべきだろうか。
しばらく悩んでから、私はそれを秘密にすることにした。
今までなんの関わりもなかったものがいきなり家族を名乗っても彼女は混乱するだろう。
今、彼女は天翔エミとして、孤児だったという過去を乗り越えて今を生きている。
彼女がもっと大きくなって、一人前の大人になったその時に、この話をすることにしよう。



○月○日

どういうことだ。
母があの店にいた。
とっさに姿を隠したから見つかってはいないはずだが。
目的はなんなのか、そんなものは一つしかない、エミだ。

今は母は家元として他の重鎮たちを黙らせるだけの力がある。
それに西住の膝下である黒森峰からエミが離れたというのなら、確かに自分の娘であるエミを母が取り戻しにきたとしても、不思議ではない。

だが、この胸のモヤモヤはなんだろう。



○月○日

店を尋ねると、彼女は暗い顔だった。
突如母を名乗る人物が現れて帰ってきてほしいなどと言われても、それは混乱するだろう。
その辺りの配慮が足りなさすぎる。
せめて成人まで待とうとは考えなかったのか。

しばらくは店を閉めて心を落ち着かせるようにと言って、私は店を出た。
彼女にしてあげられることは、何かないだろうか。



○月○日

エミが倒れた。
心労らしい、無理もない。
あの状況はただの一人の女子高生が背負うには複雑すぎるものがあるだろう。

しばらくは学校も休ませよう、明日からは私が看病をすることにする。



○月○日

隙あらば仕事をこなそうとするエミを寝かせつけて、滋養のあるものを食べさせたり話を指摘を紛らわせたりと、全く大変な1日だった。

一つ気になったのは、エミが分厚い日記帳に日記をつけているということだ。
まさか毎日几帳面にそんなものをつけているとは思わなかった。
五年日記というらしいそれにスラスラと書き記して行く姿は流石に手馴れていた。

どんなことが、書いてあるのだろう。
いたずら心が首をもたげる。
あの日記を見れば、私の知らない妹の過去がわかるのだろうか。



















○月○日

許さない、許すことなどできない。
エミは、私の妹だ。
二度と離すものか。
私が彼女を守るんだ。


日時:2019年02月23日(土) 23:28

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返信コメント

夢野千鶴

これは、、、IF短編として投稿して貰いたいヤツですねー


日時:2020年03月21日(土) 06:18

サバ感

この世界線のエミカスは確実に血を吐いてる でも原因は自分で書いた日記だしピロシキ追加しますね・・・


日時:2019年04月21日(日) 07:13

障子から見ているメアリー

ほんっと罪深い日記やでぇ…。母親にチョビさん、お姉ちゃんにミカさんですか?家族が増えるよ!やったねエミちゃん!

欲を言えば、父親や弟など、もう数人ほしいですねぇ?(露骨な我々系の視線)


日時:2019年03月08日(金) 00:28

ヴュルガー

自分が千代の娘だと告げられた時のエミカスは
ダース・ベイダーに「私はお前の父だ」と告げられた時の
ルーク並みの衝撃を受けたに違いない。
千代「I am your mother」
エミカス「NOOOOO! NOOOOO!」


日時:2019年02月26日(火) 21:38

νφ

また嘘日記がガルパン乙女を修羅落ちさせてる…


日時:2019年02月26日(火) 00:00

奇人男

ミカの幸せのためにもエミカスはピロシキを封印して毎秒健康に生きろ(良心)


日時:2019年02月24日(日) 22:00

米ビーバー

お、おぉぅ……もぅ(顔を覆う


日時:2019年02月24日(日) 13:52

九尾銀狐

え、えすしーぴー……


日時:2019年02月24日(日) 09:49

croto

書いていたのが本日記(ガルおじ用)なのか偽日記(公開用)なのか、それが問題でもある。(恐らく話の内容から公開用である可能性大)
日記にはいったい何が書かれていたのか?


日時:2019年02月24日(日) 09:14

ただのおじさん

最早約束された保護の魔導書とかしてて草。
これがおねえちゃん製造機ちゃんですか


日時:2019年02月24日(日) 08:14

透明紋白蝶

三次の方も文章上手だから正直どのエピソードが本編外伝で三次なのか覚えていない現状
まあいっか!
それはさておき、日記とかいうエミカス絶対保護するマシーンヘと変化させてしまう魔導書やばない?
無条件で不定入りさせるとかインチキすぎる


日時:2019年02月24日(日) 01:31

風邪⭐️

うーんこの
エミカスが動いても動かなくても望む未来から遠ざかって行くのは実にエミカスらしい


日時:2019年02月24日(日) 00:33

クモラセスキー

なるほど、元から妹ルートですか


日時:2019年02月24日(日) 00:11

かまややた

約 束 さ れ た 敗 北 の ガ バ

ついに書いてるところまで見られてますよエミカス


日時:2019年02月23日(土) 23:47



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