未1,000字 亡国の吸血姫編
◆キーノ
キーノ・ファスリス・インベルンは心から思っていた。
悟に会えて本当に良かったと。
良かったことは沢山ありすぎて、言葉に出し切れないほどだ。
その中の一つ。
自分たちを殺した本当の犯人を知ることができた。
キュアイーリム=ロスマルヴァー。
竜王であり、キーノの仇。
あの竜王がキーノたちの国を滅ぼしたのだ。
ずっと、キーノは自分の「生まれながらの異能(タレント)」の中にある、魔法が気になっていた。
周りの人々の魂を吸収することでアンデッド化する魔法。
あの時、「何か」に接触して覚えた、新しい魔法。
この魔法が発動したために、国が滅んだのではないか。
自分が国のみんなを、知らずに殺してしまったのではないか。
そんな恐ろしい想像が離れなかった。
でも、違ったのだ。
自分は確かに『あの時』周囲にいた人々の魂を吸い込んだ。
そのことにより、自分はアンデッド化し吸血鬼となった。
しかし、発動そのものは自分のせいでは無かったのだ。
国を滅ぼした魔法は自分の魔法「生まれながらの異能(タレント)」ではなかった。
そのことが知れただけでも、嬉しかった。
そして、悟がみんなの仇を取ってくれた。
それがどれだけ嬉しかったか。
アンデッドになって、数十年。
研究しながら、自分の中にある魔法が怖かった。
また発動するのではないかと。
ずっと、ずっと、怖かった。
だから、悟と一緒にいるのは安心できた。
悟はもう生きていないのだから、自分の魔法が発動しても、殺してしまうことはない。
なによりも、自分より強い悟が自分ごときの魔法でどうにかなるはずがない。
そう、信じられた。
絶対の安心があった。
悟とあの時に会えなかったら、自分は今もあの国に一人ぼっちで見果てぬ夢を抱えて、うずくまっていたかもしれないのだ。
他の誰と会えたとしても、悟ほどの安心感は得られなかっただろう。
だから、悟と出会えたのは自分にとって何よりも幸運なことなのだ。
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一〇巻でイビルアイが、「生まれながらの異能を持つか持たないかの見極めだけならば第三位階魔法で調べることができる。どんなものか調べにはさらに高位魔法になる」とラナーと話しています。
第三位階魔法が一般的に使える魔法の上限。
この発言から、第三位階魔法以上を使える存在に教えてもらったと考えると、教えてくれた相手は十三英雄の誰かではないかと考えます。
そして、イビルアイが「自分の生まれながらの異能は一つの都市を壊滅させるだけの力がある」という発言から、「亡国の吸血姫」で明かされた「どんな魔法でも一つストックできる」ではなく、収められた「対象の魂を吸収して不死化する」を自分の「生まれながらの異能」と思っているのではないかと思えました。
キーノとイビルアイ、性格がここまで違うのは納得かも、と思ったのでした。
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「亡国」の話は溜まったら、一つにまとめて「短編小説」に出したいです。
短いものばかりなので。
◆
次のデミウルゴスの話は、
「ニニャが帝国に行ってアルシェがひどい目にあう話」
「トブの大森林で魔樹がひどい目にあう話」
「ガゼフが王都に戻ってひどい目にあう話」
のどれかです。
たぶん。
日時:2019年09月08日(日) 22:24
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