真・恋姫✝無双 李厳伝 (カンベエ)
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第一話:転生

人生とは儚く、そして終わる時とは非常にあっけないものである。

 

俺、斯波信(さくなみ しん)はある日、唐突に人生を終えた。

 

信頼出来る悪友に囲まれ過ごした学生時代、父母はいなかったが祖父がいた。

 

詳しくは知らないが父母は事故で亡くなったのだと祖父は寂しげな眼をしながら語っていたのを思い出す、「俺は爺ちゃんがいるから良いよ」なんて言えば祖父は深く刻まれた皺をクシャリとさせながら笑うのだ。

 

祖父は武術家だった、かつては日本でも五指に入る実力者だったらしい。小学校の頃から教わったのは棒術、剣道とか槍とか柔術とか空手とか、そんなのを想像していたが棒術だった、祖父曰く、棒術は日常において身を護るのに最も適しているのだ、と言う。

 

18になった頃だった、何時ものように学校で悪友とバカな事を語り合い、何時ものように家に帰る、玄関を開けるがいつも聞こえてくる「おかえり」の声が無い、一抹の不安に突き動かされ向かった先には、冷たくなった祖父が横たわっていた。

 

心筋梗塞だったという、享年89歳ならば十分に大往生と呼べるのだろう。

 

既に父母が死んだ折に他の親族とは絶縁状態にあったらしく、葬式には祖父の友人たちが参列するのみだった。

 

火葬も終わり、祖父の遺骨を抱え一人きりになった家へと脚が向く。

 

雨が降りしきる日だったのは覚えている。

 

ブレーキ音、車に轢かれそうになっている子供。

 

一瞬、行くか行くまいか迷った、が爺ちゃんの声が聞こえた気がしたのだ「迷うな」と。

 

駆け出していた、間に合うか間に合うまいか、子供を抱え込んだ瞬間、体中に襲いかかる衝撃と共に、意識が途切れた。

 

 

次に眼が覚めた時、真っ白な空間にいた。

 

「お目覚めかね」

 

聞こえた声に振り向けば、そこにいるのはサングラスにアロハシャツ、ビーチサンダルと完全南国状態の無精ひげを生やした男と・・・・

 

「あらん、結構イイお・と・こ」

「うむ、胸が高鳴るのぅ」

「変態だぁあああああああ!!!!!」

 

フンドシはいた筋肉ダルマの変態が二人いた。

 

「んまっ失礼ねん」

「うむ、可憐な漢女に何と言う事を」

「お前さんらが入ると話がまとまらん、黙っとれ」

 

南国男がため息を一つつく。

 

「さて、君は斯波信で間違い無いね」

「あ、ああ・・・・・」

「私は伏羲、あの筋肉ダルマは貂蝉と卑弥呼という」

「・・・・・・」

「ああ、言わずとも良い、あれは幻みたいなものだと思っててくれ」

「まっ!酷いわん!」

「つれない事を言うでない!」

 

どこから出したのかハンカチを噛む筋肉ダルマたちから視線を反らし。

 

「さて、本題に入ろうか・・・・まぁぶっちゃける話、君はあの事故で死んだ」

「だろうな」

「だが君は本来ならばあそこで死ぬ予定では無かった」

「・・・・え?」

「108歳まで生きての大往生のはずだったのだがな、見事に90年も余ったまま死んだ」

 

唖然とする信を横目に、伏羲の話は続く。

 

「そこで、だ・・・・君に選択肢をやろう」

「選択肢?」

「そうだ、残る90年分の寿命を使うべく、君を別の世界へと転生させる事にした、我々の手違いで死なせた詫びだ」

「まぁ・・・・確かにそこまで残っていると勿体無いとも思うが」

「うむ、そこでプレゼントその一、転生する世界を選ばせよう」

「世界?」

「そうだ、君が今まで生きていた世界とは別の時代、世界に君を転生させる」

「時代、というのが気になるな」

 

何を隠そう、信は生粋の三国志マニアだ、部屋にはありとあらゆる三国志グッズがある。まぁ主に祖父の影響ではある。

 

「先ずは一つ目、群雄割拠、廉頗に白起に楽毅らが中華を駆ける春秋戦国時代!」

「パス」

「ふむ、次は天より振りたる百八星、梁山泊が英雄の舞う唐時代!」

「次」

「選り好みするねぇ、最後は後漢末期、劉備、曹操、孫権が、天下をめぐり干戈を交える三国・・・・」

「それだぁあああっ!!!」

 

待ってましたと言わんばかりにシャウトする。

 

「ふむ、了解したよ・・・・まぁ君は三国時代のとある武将に転生する事になるが・・・一つだけ注意」

「何だ?」

「ここはいわゆる平行世界、君の持つ三国志の常識が通じる世界じゃあ無い、君は前世の、今の記憶をもって生まれ変わるがその常識は捨て去ったほうがイイかもしれないよ」

「忠告感謝する」

「それとプレゼントその二、君に並外れた身体能力を授けよう」

「並外れた、ってどんぐらいよ」

 

ちなみに、生前の信の身体能力は一般の男子高校生よりやや上ぐらいなわけだが・・・・

 

「そうだな、車より早く走れて、鉄板を素手でぶち抜ける腕力があって、五キロ先まで見える視力がある・・・・かな」

「並外れたを通り越して人外だな」

「それで良いのさ、君には乱世を生き抜いてもらわなければならないからね」

 

ピッ、と伏羲が指差す先には一枚の扉。

 

「あの扉をくぐり抜けた時、君の新たなる人生が始まる・・・・乱世を自ら治めるも良し、乱世を治める英雄を補佐するも良し、全て君次第だ」

「ああ、好きにさせて貰う」

 

扉に手をかける、重い。

 

「信君」

 

両の手で扉を開く中、背後から聞こえるは伏羲の声。

 

「生き抜けよ」

「ああ」

 

短い答えを返し、扉の奥から迸る光に包まれた―――

 

―170年―???

眩いばかりの光に包まれた、その先、気がつけば見上げているのは天井、だがそれは古民家のような風情の漂うもの、ああ、これが転生というものか、と感慨深げに思うが言葉には出ない、感覚が伝えてくる、今の自分は何も出来ぬ赤子だと。

 

「おお、元気な男の子だな、よくやったぞ未央」

 

母の名だろうか、中国名にしては妙な名だとも思うが。

 

「さて、何と名をつけようか」

 

自らを覗き込むは人の良さそうな男性、この人が父なのだろう。

 

「あなた、もう決めてあります」

 

何とか、視界の端に移るのは一人の女性、綺麗だと素直に思えるこの人が母なのだろう。

 

「ほう、なんてつける気だい?」

「李厳正方、真名は信と」

「おお、良い名ではないか、真っ直ぐに育ってくれそうだ・・・・元気に育てよ信!」

 

まさか李厳とは、中々に良い人選をしてくれた、と思う。

 

李厳正方、荊州の劉表、益州の劉璋を経て劉備に仕えた隠れた名将とも言うべき人物。劉備軍の益州侵攻時は綿竹を守備しており、黄忠と一騎打ちし引き分けた剛の者でありながら諸葛亮、法正、劉巴、伊籍などと共に蜀科を制定する知恵者としての一面も持ち合わせる。

後年は劉備没後の事を諸葛亮と共に託され驃騎将軍にまで昇進したものの兵糧輸送の失敗を誤魔化すために諸葛亮に罪を被せようとして失敗、更迭され庶民に落とされたとか。

 

まぁ要するに鍛えれば名将と呼ばれるまでになる可能性を持ち合わせているという事、しかも伏羲の話通りならば並外れた身体能力を持った、だ。

さて、年齢を重ねてからどうしようか、なんて考えていると・・・・

 

「李さん、隣の張さん家でも子供が生まれたらしいよ!」

「おお、本当かい、めでたい事が続くねぇ」

 

張・・・・の付く武将の名に詰まる。李厳の出身地は荊州南陽、この地の生まれとなると黄忠、文聘、陳震ぐらいしか思いつかないのだが・・・・

 

「ああ、名前が遼で字が文遠、女の子だってよ」

 

へぇー女の子か、仲良くなれたら良いな、と思ったのは一瞬の事。待て、今何と言った?名前が遼?張で?張遼?・・・・ここはどこだぁああああああああっ!!?



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第二話:旅立ち

―185年―倂州雁門

この世界に生を受けてから十五年が経った、年齢よりも体は大きく育ち既に身長は約六尺(180cm)になり体重は十二斤(約72キロ)程になっていた。

歳を重ね、様々な事を学ぶにつれて伏羲の言っていた前世の三国志の知識が通用しないというのはこういう事か、と認識するのにさほど時間はかからなかった。

生まれた地が荊州南陽では無く倂州雁門、そして何より驚くべきは・・・・

 

「おーい、何しとるん?」

 

褐色の肌、紫色の頭髪、年齢よりも余分に育った体にやや露出の多い格好のこの少女、驚くなかれ名を張遼文遠、真名を霞・・・・そう『泣く子も黙る』と言われたあの張文遠だ、最初は信じられなかった。

 

「釣りだよ」

「へー全然釣れてへんみたいやけど?」

「ほっとけ」

 

しかし幼馴染とも言うべき付き合いの中で、何度か喧嘩したのだが負けた事は無いが勝った事も無い、流石は後の名将というべきか。

 

「で、何か用でもあったんじゃねーのか?」

 

ぐるりと首だけで振り向けば、んーと考える仕草をした後にポン、と手をたたいて。

 

「ああ、せやせやお父ちゃんたちがウチらの事呼んどったんや」

「おま・・・・そんな事ぁ速く言えよ」

 

ふぅ、とため息を付けば立ち上がる。蒼い頭髪に漆黒の瞳、水面に映るその姿を見ると生前のまんまなんだな、と思うのだ。

 

 

 

「うむ、遅かったな信」

「悪い」

 

釣竿を壁へと立てかければ、椅子へと座る信。隣に霞も並んで座る。驚いた事にこの世界の生活水準は時代を軽く超えたものである、とさえ思えるが気にしたら負けだと想いある時から考え無い事にした。

 

「お前らも十五になった、時は早いものだな」

 

対面に座る信と霞の父、語りだしたのは信の父だ。

 

「二人共武も知も並々ならぬものになってきた、最近じゃあ村でも敵う者はいないだろう」

「そこでだ」

 

そこでようやく口を出す霞の父。

 

「二人共旅に出てはどうだろう?」

「旅?だと?」

「うむ」

「なんやそれ、信と二人で旅とかメッチャ楽しそうやん!」

 

特に深く考えもせずにキラキラと眼を輝かせる霞。

 

「どういうつもりだ?」

「うむ、実は数日前に夢を見たのだ」

「夢?」

「うむ・・・・妙な服装の髭男とフンドシをはいた・・・・・・うっぷ・・・・」

「大丈夫か親父」

「ああ、大丈夫だ、ともかくその夢に出てきた人物がな・・・・お前らはいずれ世に名を馳せる大器だと言ったのだ」

 

思い当たるのは伏羲と自称貂蝉と自称卑弥呼の三人だ。

 

「まぁ理由は他にもあるのだがな、確かにお前ら二人は既に才気の片鱗を見せている。並外れた武力がその証拠とも言える」

「故に旅に出す事にした、異論は許さん」

 

その眼に見えるのは強い決意と覚悟、迷ったのだろう、それでも自分たちのせいで二つの才能を潰す事を忌避し旅に出すと決めたのだと。

 

「わぁった、行けば良いんだろ」

「よっしゃ!善は急げや!はよ準備しよ!!」

「っておまっ!?掴むな!?首!首締まるぅっ!?」

 

ズルズルと引きずり出される信と引きずる霞の二人を見る父親二人。

 

「どう思うあの二人」

「さぁな、相性は良いように思えるが」

「俺としちゃ霞ちゃんを嫁にもらいたいんだが」

「こっちとしてもあの跳ねっ返りを貰って欲しいものだ」

 

ニヤリ、と笑い合う父二人は、そんな未来に思いを馳せる。

 

―翌日

必要最低限の荷物だけを持つ二人を見送るのは村の人々。

 

「元気でやれよ信、霞ちゃん」

「何時でも戻ってきて良いんだからな」

 

口々に別れを惜しむ言葉が続く中、二人の母がその手に二本の長物を持って現れる。

 

「これ、お父さんからの選別よ・・・・矛槍、銘は『風雅』」

「ほら霞、偃月刀だよ、銘は『応龍』」

 

最近では各地も治安が悪いと聞く、丸腰では心もとないと思っていたのでありがたいところだ。

 

「あれ?そのお父ちゃんたちはどないしたん?」

 

霞の疑問に、こちらも頷けば苦笑する母親二人。

 

「あの人たちったら、顔見たら別れが辛くなるからって」

「何時までたっても子供やね」

 

村の人たちも一緒になって笑う、それからクルリと、二人揃って村の、家の方を向いて、声を張り上げる。

 

「親父ぃ!!!俺たち行ってくるぜ!!!」

「うちら頑張るから!!お父ちゃんたちも元気でな!!」

『んじゃ!行ってきます!!!』

 

元気よく駆け出す二人の若者。

 

この声は当然の如く二人の父親にも聞こえており。

 

「・・・・ぐすっ」

「何だよ・・・・ひっく、泣いてんじゃねぇよ」

「お前だって・・・・っ、泣いてんじゃねぇか」

 

戻った村人たちは、笑いながら大泣きする父親二人の姿を見て、また大笑いしたのだという。

 

 

「さて、どこ行くん?」

「先ずは鄴に向かおう、一番近い京だ」

「んでどないするん?」

「先ずは情報収集かな、あと路銀を稼ぐ手段も考えなけりゃならねぇ」

「信と一緒ならなんだって大丈夫や」

「お気楽娘め」

「信がかったいんやから丁度ええんちゃう?」

 

二人で顔を見合わせれば笑い合う、二人は一路・・・・鄴へと向かうのだ。



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第三話:李厳、乱世に起つ

鄴に向かおう、そういって旅だったはずの信と霞は・・・・擁州安定南部の小村にいました。

 

「・・・・霞、俺の言いたい事は分かるか?」

「う・・・・ごめんなさい・・・・」

 

雁門郡から鄴までは東に真っ直ぐに進めば街道に突き当たっていたはずだったのだ、なのに何故反対側の擁州にいるか・・・・霞が「こっちに行ってみよ」とか言って勝手に進んでいった結果である。

 

「路銀も尽きたし何とかしなけりゃなぁ・・・・」

 

と、頭を抱えていると・・・・

 

「白坡賊が攻めてきたぞー!!」

 

そんな声が村中に木霊する、白坡賊・・・・と言えば弘農を中心に暴れている賊では無かっただろうか?と頭をかかえるがそれぐらいの差異もあるんだろうと考える。

 

「・・・・・っ」

「ってオイ!どこ行くんだ霞!!」

「ちょっと賊の奴らいてこまして来る!!」

「はぁ!?」

 

言うが早いか既に視界から消えていった霞。

 

「あー!!!もう!あの猪娘がぁああああ!!!」

 

ここで腐ってても仕方無い、と風雅を肩に担いで霞を追いかけ始める。

 

到着した時には、50人程の賊に霞は囲まれていた。

 

「おいおいネーチャン、良い度胸じゃねぇか」

「よくみりゃ可愛いなぁー」

「いい体してるしなぁ、俺らで楽しんだ後で売っぱらっちまうか?」

「くっ・・・・・」

 

それでも20人ぐらいは薙ぎ倒したらしいが肩で息をしている状態だ。

 

「ったく・・・・後先考えろって・・・・」

 

グッ、と一歩踏み込みながら、風雅を思いっきり横薙ぎに払う。

 

「言ってんだろうが!!!」

 

その一撃で5人の賊が更に10人ぐらいを巻き込んで吹き飛ばされる。

 

「何だテメェ!!」

「そこの猪娘の保護者だよ」

「信・・・・って誰が猪やねん!!」

「あ?後先考えねーで突っ込んで囲まれてる奴が猪以外のなんだってんだ!」

 

賊に囲まれているというのに口喧嘩を始めた二人。

 

「テメーら余裕ぶっこいてんじゃねぇぞ!!」

 

それを苛立った残り40人ほどが一斉に襲いかかってくる。プチッ、と二人の血管が切れる音が聞こえた気がした。

 

『邪魔だ(や)!!!』

 

悪鬼羅刹も裸足で逃げ出すような形相で賊を薙ぎ倒す二人、気がつけば賊はほうほうの体で逃げ帰っている。

 

「あれ?白坡賊は?」

 

そこに、30人程の集団が現れる。

 

「何だテメーらは」

「俺たちはこの村の自警団だ」

 

元いた宿屋に戻って話を聞けば、彼ら30人を含めてこの村には50人の自警団がいるのだと言う。賊の出した虚報に惑わされ、急いで戻ってきたのと信と霞が賊を追い払ったのがほぼ同時だったわけだ。

 

「頼む!力を貸してくれ!!」

 

自警団を指揮していた壮年の男が土下座をしてきた。

 

「頼むって・・・・」

「アイツらを倒しきらないと村の皆が安心出来ないんだ!礼はする!だから・・・・」

「信、引き受けよ」

「霞?」

「ウチ、こういうの見過ごせへんもん」

 

昔っからこうだ、余計な事に首を突っ込む。たしなめようと、その顔を見て・・・・諦めた。霞の目には強い意思がある、この目になった時はテコでも動かない。

 

「分かった・・・・じゃあこの近隣の地図を見せてくれ」

 

信と霞、自警団の長である呉貞とその息子の呉懿、他三名の十人長で作戦会議が行われる。

 

「賊はここから東、この小山の廃砦に居を構えておる。山は正面は急な坂道で背後は切り立った崖、両側を森に囲まれており万全の護りが敷かれている。賊の数は恐らく200程」

 

と、呉貞の説明を聞く。人数で既に四倍、しかも攻め難い場所に陣取っているとは・・・・

 

「・・・・難しいな、おびき出せれば一番良いがこの場所に居を構えたような頭目が簡単に出るとも思えん」

 

ただの山賊では無い、少なくとも頭目か、幹部かが兵法の心得でもあるのだろう。誰からも意見が出ないまま、四半刻が過ぎようとした頃だった。

 

「あ、あの!」

 

その声に一斉に振り向くと、そこには10歳ぐらいの少女と信や霞と同い年ぐらいの少年がいる、確か同じ宿に泊まっていた二人組だ。声音からすれば少女の方が話しかけて来たのだろう。

 

「どうした?」

「わ、私の話を聞いていただけないでしょうか?」

「・・・・お嬢ちゃん名は?」

「は、はい!諸葛亮と言いみゃっ・・・・・///」

 

噛んだ、が・・・・確かにその名を聞いた。諸葛亮孔明、かの有名な臥竜か。神算鬼謀、矢の調達から馬の育成、その気になれば東南の風だって吹かせちゃう、なスーパー軍師。こんな小さな子が、とも一瞬思ったがあの驍将張遼だってこんなん何だから最早驚きすらしない。

 

「分かった、聞こう」

 

諸葛亮の作戦とはこうだった。先ずは真正面から呉貞が40を率いて攻め込む「フリ」を繰り返す、その隙に信、霞、呉懿と10名、そして諸葛亮と一緒にいた少年・・・・蒋欽の14名で背後の崖を登って奇襲、混乱した賊に残る40も突撃というものだった。

当初は自警団の人々も渋ったものの、最終的には呉貞が皆を説得、納得させて作戦が実行に移された。

 

―翌日

作戦は大成功だった、賊のほとんどを討ち取る事に成功しこちらの犠牲者は無し、怪我人はいたものの酷い怪我でも無かった。

 

「君たちには感謝しても仕切れないな、李厳殿、張遼殿、諸葛亮殿、蒋欽殿」

 

呉貞が、四人を前に深々と頭を下げた。

 

「止してくれって」

「せや、ウチらかて勝手に首ぃ突っ込んだんやし」

「は、はわわ・・・・」

「ま、という訳だからさ」

「謙虚だな、だがそれで良いと思う」

 

と、笑う呉貞。

 

ともかく、一日休んで村を離れる事にした信と霞、その日の夜。二人の前に呉懿と自警団の若者10名が集まっており、何故か諸葛亮と蒋欽も同席していた。

 

「えーっと・・・・つまり?」

「ハイ!俺ら李厳さんや張遼さんの戦いぶりに魅せられたんです!付いていくならこう言う人が良いと相談して・・・・」

「俺らについてくる、と?」

「はい!」

「呉貞殿には?」

「『好きにしろ、バカ息子』って言われました!」

 

顎に手を当てて考える、確かに考えていた可能性の一つなのだ。仕える主君が見つからなければ自分で勢力を立ち上げても良いかも知れない、と。だがまだその主君の一人すら見ておらず、そんな状況で・・・・と。

 

「霞はどう思う?」

 

思わず、霞に意見を求めていた。こういう時、不思議と核心を付く解答をくれるからだ。

 

「ええんちゃうん?信がどうするつもりかは知らんけど仕官するにしても自力で伸し上がるにしても仲間は欲しいと思うんよ、」

「ふむ」

 

目指す立ち位置が一国一城の主だろうが、一国の将軍だろうが確かに信頼出来る仲間と言うのは欲しいものだ、そう言った意味では呉懿たちは信頼出来るだろう、目でわかる、彼らは真っ直ぐな性格なんだろう。

 

「分かった、だが苦労するかも知れんぜ?しばらくは領地も無いんだ」

「覚悟してます!」

「分かった、今日、今この時から俺らは仲間だ・・・・俺は李厳、字は正方、真名は信だ」

「ウチは張遼、字は文遠、真名は霞や、宜しゅうな」

「何と、真名まで預けてくれるなんて・・・・俺は呉懿、字は子遠!真名は大我です!宜しくお願いします!大将!霞姐さん!」

 

どこまでも熱血なノリの奴だ。

 

「で?諸葛亮と蒋欽の要件は?」

 

最大の問題はこの二人だ。

 

「は、はい・・・・お聞きしたい事がありまして」

「聞きたい事?」

「はい、差し支え無ければお聞きしたいのですが」

「良いぜ」

 

応諾すると、少し息を整える諸葛亮。

 

「李厳さんはこれから戦場へと身を投じるのですよね?」

「そうだな、大我たちも仲間になってくれたからこっから数増やして暫くは傭兵でもやろうかと思う」

「その・・・・志と言いますか、理想・・・・みたいなものはあるのでしょうか?」

 

ふむ、と考え始める。そう言えばそんな事考えた事も無かった、転生してからの日々が精一杯で楽しくて・・・・

 

「無い」

『無いの(ん)(んですか)(んっすか)!?』

 

諸葛亮と蒋欽どころか霞や大我たちまで驚いている。

 

「志とか理想とかんな大層なもん掲げて戦うわけじゃねーって話だ」

「え?」

「たださ、日々を精一杯生きられたら良いなーって思うわけよ。民草だってそうだろ?もしかしたら一部ぐらいは違うかも知れないけど大抵の人々がその日その日を精一杯生きるのに一生懸命で理想だ大義だ何て考えた事ねーと思うんだよね」

「・・・・・・あ」

「だから俺は、仲間と、民と、国と、精一杯その日その日を生き抜くために戦う・・・・ってのが答えじゃダメか?」

「なんや信らしー答えやね」

「良いと思いますよ大将、むしろそのほうが良いっす!」

 

少し、考え込む様子を見せている諸葛亮。

 

「あの!わ、私も・・・・」

「ん?」

「私も、李厳さんや、張遼さんや、呉懿さんたちと一緒に行きたいです!」

「・・・・・・へ?」

 

予想外、としか言い様が無い。ってか諸葛亮でしょ!?劉備は?三顧の礼は?水魚の交わりはどうした!?という叫びを飲み込む。

 

「何で俺なんだ?」

「私は、水鏡塾で様々な兵法や政治学などを学んで来ました。それで数ヶ月前にお友達の鳳統ちゃんと徐庶ちゃんの三人で仕える主君を探して仕えなさい、って司馬徽先生から言われて旅に出たんです」

 

司馬徽に鳳統、徐庶。まー有名どころの名前ばかり出てくる出てくる。

 

「最初は、鳳統ちゃん、徐庶ちゃんの三人で幽州で義勇軍を立ち上げた劉備さんの所へと向かうつもりでした」

 

うんうん、その方が良かったんじゃーとか思う信。

 

「中山靖王の末裔、関羽、張飛の剛勇を従え、決して驕らず民を助け戦い歩く・・・・仕えるならそう言う人が、って二人は言っていました、それで私も劉備さんに会うところまでは一緒だったんです」

 

聞く限りでも君主としては十分だと思うわけだが。

 

「『民が笑顔で暮らせる世の中を作りたい』、劉備さんはそう仰っていました」

「・・・・その理想と現実との深い矛盾に君は気づいた、か?」

 

無言で肯く諸葛亮。劉備の掲げる理想は確かに聞こえの良いものだ、だが一つだけ忘れている。民を虐げる賊もまた元は民なのだ、虐げられる民だけ笑顔になれば賊に成り下がった民はどうでも良い、劉備の理想は聞こえようによってはそう取られてしまうのだ。

 

「鳳統ちゃんや徐庶ちゃんはそういう大きな理想を持つ人こそ支えがいがある、と言っていましたが私の考え方は違っていました。そこで私は考えました、世に名の知れ渡っている人だけが仕えるに足る人では無い、名が通っていなくても仕えるに足る人がいるんじゃないか、って」

「・・・・・・それが俺だと?」

「はい、李厳さんは今までいなかった主張をお持ちです。誰も民の視点にたって主義主張を唱える人はいませんでした。少し上から見ている人ばかりでした」

 

だろうな、『民を自分たちが助けているんだ』と思った時点で自分たちが民より上の存在だと誤認してしまうのだろう。

 

「私は、李厳さんに・・・・いえ、李厳様に仕えるために此処に来たんだと思います、どうか・・・・私を」

「諸葛亮」

「はい」

「一緒に来るなら一つ言って置く、俺のところに『部下』は要らない、皆対等に『仲間』だ。それを忘れるなよ?」

 

少しづつ、明るくなる表情。

 

「は、はい!えっと改めまして!私は諸葛亮、字は孔明!真名は朱里です、宜しゅッ・・・・・・///」

 

舌を噛んで顔を真っ赤にする朱里に、皆が萌えている。

 

「で、蒋欽は?」

「願わくば、仲間に加えて欲しくてな」

「理由は?」

「楽しそうだ」

「合格、一緒に行こうぜ」

「うむ、僕は蒋欽、字は公奕、真名は白夜だ」

 

李厳、張遼、呉懿、諸葛亮、蒋欽・・・・いずれも歴史に名だたる名将、名軍師・・・・強すぎじゃね?この部隊。と思いつつも生き抜くためにはそれも良いか、と一人納得した信だった。



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第四話:曹操との出会い

―186年―兗州と豫州の境

信、霞、朱里、白夜、大我の三人と十人の若者たちから始まった傭兵部隊「王虎」。当初は十数名という少数から名も知られぬ存在であったもののちょっと特殊なやり方で徐々にその数を増して行った。

ひとえに山賊、盗賊、江賊などといっても様々である。食うに困ってなった者、搾取される立場を嫌い略奪する立場を選び馴染んでしまった者、そして民を思い立ち上がった義賊・・・・信たちはその義賊たちへと声をかけ仲間へと引き入れていた。片っ端からでは無く、近隣住民の話を聞き、土地に残り民を護る者と自分たちに従軍し共に戦う者とを選別していった。

その結果が今の状況である。兵数千、各地にいる傘下の義賊たちを含めれば二千にはなろうという軍勢、練度は官軍などには決して遅れを取らず、むしろ地方領主たちは官軍の援軍を乞うよりも信たち王虎に声をかけて援軍を頼むぐらいだ。

 

「っし・・・・右翼の大我に伝令!全速力で駆け上がって押し込むんだ!!」

「御意!」

 

今現在、漢王朝の豫州方面軍大将である皇甫嵩に依頼され相手取っているのは近頃数を増してきた黄巾党という賊だ。歴史上でも最大級の賊軍とされており張角、張梁、張宝の三人を中心とし十数万の大軍勢にまで膨れ上がったとか・・・・だが所詮は利も無く義も無く、ただただ膨れ上がっただけの暴徒。こちらの数倍、五千もの数がいるが大我に散らされ、霞に切り裂かれ、白夜に撃たれボロボロと戦線を崩壊させていく。

 

「伝令、北方より一軍が接近中!」

 

その言葉にまゆをひそめる。流石に援軍であったならば拙い、この数だから押しきれているが更に増えられるとこちらが押し包まれる可能性すらあるからだ。

 

「黄巾の援軍か」

「いえ、兗州軍です!旗印は『曹』」

「・・・・分かった、霞、白夜、大我に伝令だ。無理に押し込まず戦線を維持しろ、と」

「はっ!」

 

駆け去っていく伝令を見送る。

 

「どうして戦線維持と?」

 

傍らに控える朱里が問いかけてきた。この一年で分かった事だが朱里の知識量は確かなものだ、だが圧倒的に実戦経験が足りなかった。まぁそこは自分も一緒なのだが・・・・ともかく、今は全体を「育てる」時だと感じているのだ。

 

「兗州軍で旗印が『曹』ならば十中八九曹操だろうからな、噂通りのキレ者ならば・・・・こちらが戦線を維持して黄巾を抑えている隙に背後から突くぐらいはするだろ。そうする事で遅れて来た兗州軍に豫州方面軍は借りを作る事が出来るからな」

「手柄を譲った、という・・・・わけですか。そこまで考えが回りませんでした」

「ま、そこは人生経験の差よ。朱里はまだまだ若いんだからこれから学んで行けば良い」

 

ぽふ、と首里の頭に手を置いて撫でると顔を赤くしながら「はわわ、撫でないでくださ~い」とか言いながら手をパタパタさせている。可愛いなぁこの娘。

ともかく現れたのがあの覇王、曹操であるならばその実力を見学させて貰いたい。三国志を知らない人間でも知っている有名な人物の一人。軍事、政治において他の追随を許さず治世の能臣、乱世の奸雄と評された後の魏国の礎を築いた人物、既に得た情報ではまだ十代前半の少女との事だが決して驚かない。

先年、父曹嵩より家督を継いで以来その辣腕で陳留郡を治め、中原一の治安と発展を見せているらしい。

 

「ほら朱里、見ておけよ・・・・隣人か好敵手か、何れにせよ無視出来ない存在だ」

「は、はい」

 

こちらの目論見を察したのだろう、曹操が率いる兗州軍二千が黄巾の背後から襲いかかる。無難に騎兵に穴を開けさせて歩兵で突き崩すという方法で。だがその威力が半端ない、単純に練度が高いだけでは無く兵卒一人一人の連携が取れている。こちらの軍とて連携は取れているがあくまで経験から生まれる呼吸によるもの、あちらは組織化された連携であり直接干戈を交えずとも手ごわいとわかる。

 

「・・・・想像以上だな、ありゃあ」

「です・・・・ね、練度もこちらより幾分上かと・・・・」

「敵には回したくねーな」

「当面は、ですね」

 

結局、ものの数分で黄巾は壊滅。陣を張り、王虎部隊は休息を取っていた。

 

「いやはや、誠に感謝致しまする李厳殿」

 

信たちの前で膝を付いて謝礼を述べるのは豫州方面軍の指揮官である老将、皇甫嵩だ。

 

「頭をおあげ下さい皇甫将軍、俺たちのような傭兵に頭なんて下げたら・・・・」

「否、ヌシらが傭兵などという事は些事。共に無辜の民を護るために戦う戦友ぞ、それに助けられたのだから頭を下げて悪いなどという事は無い」

 

皇甫嵩という老将は珍しい人物だ。この一年、ほかに出会った官軍の将たちはこちらが傭兵だと言えば蔑み、活躍したらそれっぽい恩賞をくれてやる、ぐらいの扱いだった。だがこの人は違った。

黄巾を討伐するのに従軍させて欲しい、と告げるなり直ぐに備蓄の装備品から装備を宛てがってくれて、要所要所で戦功を挙げさせてくれ、こちらが活躍し、それに助けられたとなれば今のように頭まで下げる。こういう人が残っている限りはまだ漢王朝は大丈夫だと思えるのだ。

 

「閣下、兗州軍の曹操殿が面会を求めておられます」

「うむ、ここに通してくれ。李厳殿も諸葛亮殿も一緒に会ってくれ、彼女を紹介したいのだ」

「承知しました」

「は、はい」

「失礼致します」

 

不思議と通る声だった、陣幕を開けて現れたのは金髪で縦ロールと特徴的な髪をした少女・・・・いや、この場合はその目の方が印象的だった。

 

「陳留太守曹操、兵二千を率いて参上致しました」

「うむ、ご苦労であった。特に本日の戦では見事な活躍を見せてくれたな」

「いえ、ところで皇甫将軍・・・・あの一千を指揮していた将は・・・・」

「うむ、こちらにおる王虎部隊の李厳殿だ」

 

曹操がこちらへと視線を向けた、何だろう。妙な寒気を覚えた気が。

 

「貴方があの・・・・後ほど、そちらの幕舎を訪ねても?」

「あ、ああ・・・・問題無い」

「では後ほど伺わせてもらうわ」

 

―半刻後

幕舎に戻って本日の戦の反省会を開いていた。

 

「霞と大我は奔り過ぎだ、ってか大我・・・・お前歩兵で騎馬隊を追い抜くな」

「いやー、面目ない」

 

李厳軍は大まかに四つの部隊に分かれる。それぞれ兵数が二百五十であり信が率いる歩兵中心で奇襲などの要撃を行う隊、霞が率いる一番槍専門の騎兵隊、大我が率いる歩兵と騎馬が半々の部隊、白夜率いる弓兵隊の四つで朱里は信の部隊にいる。

そして今日の戦で大我が率いる歩兵が先行した騎馬隊を追い抜いて突進したのだ。

 

「というかむしろお前の隊の騎馬兵を霞にまわして歩兵だけで動いてみろ」

「歩兵だけで、っすか?」

「応、多分その方が戦果が上がる」

 

大我はその突撃思考からは想像出来ないだろうが部隊内の連携を重視している。だから歩兵だけで先に突っ込んでも本格的に攻めるのは騎兵を待ったりする事が多く、その待機時間で包囲される可能性もあるわけだ。

 

「大将、陳留の曹操殿が面会を求めておられます」

「分かった、通せ」

 

少しすると、曹操が背後に少女と青年を一人づつ、伴って幕舎へと入ってきた。

 

「改めて自己紹介するわ、私が陳留太守、曹操よ」

「ご丁寧な自己紹介痛み入る、俺が王虎部隊の李厳だ」

「お初にお目にかかります、荀彧です」

「曹休と申します、以後お見知りおきを」

 

荀彧文若、曹操が絶対的な信頼を置いたとされる民政官。晩年、些細なすれ違いから荀彧を死に追いやってしまった曹操はその事を酷く悔いたという。

そして曹休文烈、曹操の一族であり四天王曹洪の甥。何事も器用にこなせるいわゆる万能な将であり後年は大都督の地位を獲得するまでになる。が陸遜の策に嵌められて更迭、それが原因で憤死すると。

 

「ウチが張遼や宜しゅうな」

「呉懿っす!」

「しょ、諸葛亮れしゅっ!?・・・・噛みましたぁ・・・・」

「蒋欽だ」

 

丁寧な自己紹介をしてきた曹操側に対し何と礼も何も無い事か。真面目な挨拶をしようと努力した朱里に至っては噛む始末だ。

 

「中々に個性的なメンツね」

「その言われ方は耳が痛い」

 

苦笑から始まる李厳と曹操の始めての会談、果たして曹操は何を探るべくここへと来たのだろうか・・・・



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第五話:皇甫嵩という老将

「さて、要件を伺おうか。まさか挨拶だけをしにここまで来たわけじゃあるまい」

「ふっ、そうね・・・・ちょっと先の戦について聞きに来たのよ」

「・・・・まぁ座ったらどうだ?少し長くなりそうだしな・・・・」

 

それから先の戦についての考察、どういうつもりで軍を動かしたかなどを事細かに聞かれた。こちらとしても隠す事も無いため包み隠す事無く全てを話していく。

 

「成程ね」

 

何かを納得したような感じだ。

 

「張遼に蒋欽、呉懿に諸葛亮と貴方の周囲を固める人材が優秀だから皆そちらに目が行くけれども・・・・今分かったわ、この軍で一番厄介なのは貴方よ李厳」

「どうしてそう思うよ?」

「そうね、先ず一つ。先の戦闘の図面を描いたのは諸葛亮では無く貴方ね」

「その通りだが何で分かった?」

「そうね・・・・先の戦からは軍師の匂いがしなかったから、かしら?まぁコレは曹仁の言葉なのだけれど」

 

鋭い。そして曹仁・・・・曹操の四天王の一人であり荊州防衛の総指揮官を務めた人物。関羽、呂蒙といった英傑相手に引けを取らぬ戦運びを見せる猛将と知将の両面性を持つ。この世界の曹仁は今の話から察するに『本能型の知将』のようだ。

 

「まぁーでも文遠や公奕、子遠や孔明がいなけりゃ何も出来ないさ。人は一人じゃ生きていけねーのよ」

 

その言葉に、不敵な笑みを浮かべる曹操。

 

「単刀直入に言うわ、李厳。私と共に来ない?」

 

その言葉に、ハッとした顔をする朱里。

 

「悪いがそれは出来んぜ」

「何故かしら?」

「ずっと先を見ているアンタと一歩前を見続ける俺とじゃ道が交わらん。それに俺の言葉を信じて付いて来てくれてる奴らに申し訳ねーや」

 

頭を下げながら「スマン」、と一言述べると、曹操は不機嫌どころか愉快そうに笑う。

 

「良いわ、今すぐに手に入れられる何て思っていないもの。ただ・・・・何れ手に入れて見せるわ、貴方も、貴方の率いる将も軍も」

「やれるもんならやってみな、全力で抵抗するぜ」

 

ニヤリ、と笑い合う両雄。元来笑うという行為には威嚇の意味があるというが正しくそれを体現したのが今の二人の表情なのだろう。

 

「さて、ここからが本題よ」

「聞こうか」

 

今までは一個人の話、ここからは軍の長同士の会話だ。

 

「黄巾賊討伐の正式な勅が発せられたのは知っているわね?」

「無論だ」

「当面の間、共に軍を進めて欲しいの」

「俺らを選んだ理由は?」

 

今現在、伝わってきた話では黄巾賊討伐のためにかなりの数の刺史、太守格が軍勢を出しているという。有名どころでは倂州の丁原、幽州の公孫賛と劉虞、冀州の袁紹、韓福、秣陵の孫策、淮南の袁術、荊州の劉表などなど、他にも義勇軍が大勢いる。その中で自分たちを選ぶというには理由があると思うのだが・・・・

 

「正規の軍隊では無いがゆえの柔軟さ、実戦で培われた経験、優秀な五人の将。手を組むには十二分よ」

「・・・・分かった、で?明日はどっちに向かうんだ?まさか何時までも皇甫将軍の手助けをするわけじゃねぇだろ?」

「ええ、明日は少し北に向かうわ。そちらにも最近名の売れてきた義勇軍がいるのよ」

「?」

「天の御使いを擁すると言われる劉備軍」

 

少し前に流れた話だ。占師管路が「天より御使いが現れる」と、地方によってはそれに「その天の御使いが天下を太平へと導く」とまで言われているらしい。

 

「見たいのは御使いと劉備の両方か」

「ええ、その通りよ」

「んじゃあ皇甫将軍に挨拶だけしてくるぜ、あの人にゃ世話になったからな」

「分かったわ、私たちも一度陣に戻るわ」

 

王虎の陣営を離れ、曹操たちは自軍の幕舎へ、信と朱里は皇甫嵩の幕舎へと向かっていた。

 

「・・・・ご主人様、その・・・・」

「分かってる、ちょっと会いづらいんだろ?劉備に鳳統、徐庶と」

「・・・・・・」

 

無言で肯く朱里。袂を分った親友たちとその原因とも言える人物だ、会いづらいというのも分からないでも無い。

 

「ですけど」

「ん?」

「真正面から向かって行く事にします」

 

そう言って信を見上げる朱里の眼には、強い力が宿っている。

 

「そして胸を張って言います。『この人が私が選んだご主人様なんだよ』って、『だから心配しないで』って」

「朱里は良い子だなぁ」

 

その頭を撫でながら笑う、珍しく朱里もそれを嫌がらない。

 

「おや、李厳殿に諸葛亮殿」

 

聞こえてきたのは皇甫嵩の声。

 

「皇甫将軍・・・・何故此処に?」

「ちょっと散歩をの、ヌシらこそどうしたのだ?」

「実は・・・・・・」

 

事情を説明する間、皇甫嵩は眼を閉じ、その長年で蓄えられたであろう白ひげを撫でながら聞いていた。

 

「というわけでして・・・・」

「ふむふむ、良いぞ。やりたいようにすればいい」

「申し訳無いです、あれだけ面倒見てもらったのに・・・・」

「かまわぬ、むしろ手を取り合い前へと進め。次世代の雄たちよ」

 

バッ、と手を広げて空を見上げる。

 

「ワシらのような古い将の時代はじきに終わる、その次はヌシらのような若き世代の時代じゃ」

「・・・・」

「そうやって時代は進み行く、ゆえに李厳よ。ヌシはヌシの進みたいように進め、後悔の無いようにの」

「はい!」

「っとそうじゃ・・・・先の黄巾の将である何義、鄧茂を討ちとった功績によりヌシが望めば空領となっておった江夏の太守に就任する事が出来る」

 

「え?」と首を傾げて、その言葉を反芻する。

 

「俺が・・・・太守?」

「うむ、この戦でのヌシの働きには少し足らぬやもしれんが」

「大丈夫なんですかね?」

「問題無い、それに・・・・ヌシには仲間がおるじゃろう?まぁこの乱を鎮圧するまで時間はある、鎮圧が完了するまでに答えを出しておくと良い」

「分かりました」

「ふふふ、行けい!若き時代の者たちよ、手を取り合い、時には競い、新たなる時代をつかめい!!」

 

この声を聞いたのは信だけでは無かった、曹操や他の若手の将たちも、この声に、言葉に、静かに頷いた。彼の言葉が全ての若者たちへと向けられていたと感じ取ったからであった。



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第六話:四雄邂逅

曹操と共に軍を進めて二日、今は冀州平原へと来ていた。

 

「こっからもうちょい東に行くと黄巾の本隊か」

「ええ、南の皇甫将軍、東の盧植、北の朱儁が官軍、義勇軍を使って包囲を縮めているところね。私たちは此処に向かう二軍と共に西を防ぐ事になるわ」

「・・・・二軍?」

「ええ、劉備と孫策。この二人が合流するわ」

「兵数は?」

「私の二千と貴方の千、孫策が千五百で劉備が五百だから・・・・五千ね」

「・・・・何倍までなら行けると思う?」

「そうね、両軍の練度にも寄るでしょうが・・・・二軍が私たちと同じ働きが出来るならば十倍までは対応しきれるわね」

 

五千でも五万を相手に出来るとおっしゃいますか、まぁ自信家と言いますか・・・・

 

「後は将の質だが・・・・」

「それこそ心配無用よ、私のところだって新人ばかりだけど実力は十分よ」

 

正直曹操軍の陣容を聞いて驚いた。荀彧に曹休、楽進、李典、于禁と曹休以外はここ数ヶ月で麾下に加えたばかりの将だけ。曹休がそれなりに使える将だというのは身に纏う雰囲気で察せたが残る三将はどうなんだろうと思う。歴史上に有名な人物ばかりではあるのだが・・・・

 

「ほら、そろそろ見えて来たわよ」

 

クルリと、両側を見渡す。手製だろうか、深緑の劉旗を掲げる義勇兵たちと、真紅の孫旗を掲げる正規兵たち。

 

「遅れてごめんなさいね」

「お、遅れてしまいましたぁ~」

 

現れた二人の女性。褐色の健康的な肌に桃色の長髪、パッと見では分からないだろう武威、恐らくこちらが小覇王孫策だろう。という事は・・・・

 

「私が孫策よ」

「あ、私が劉備です。宜しくお願いしますね」

 

ほんわりとした雰囲気、そして何より・・・・デカイ!!何がとは言わない。

 

「待ってくれよ桃香!!俺を置いていくなって!」

 

そして少し離れたところから走ってくる青年・・・・その身に纏う服はこの世界の物では無い、十六年という月日が間にあろうが忘れ用も無い生前の。現代日本の衣装。

 

「ご、ごめんご主人様」

「あー劉備殿、その御仁は」

「ああー、ごめんごめん。俺は北郷一刀、天の御使い・・・・何て呼ばれてる」

 

成程、平行世界である以上紛れ込む異分子は自分だけでは無かった、ということだ。というか于吉が「やっちまったぜ」とか言いながら笑っている気がする。なんとなくだ。

 

「私が曹操よ、それでこっちが・・・・」

「李厳だ、宜しく頼む」

『傭兵将軍!?』

 

なんか安直でわかり易い異名みたいなのが叫ばれた。

 

「・・・・何それ?」

「あら?知らなかったの?李厳、貴方につけられた異名よ」

「はぁ?」

「奇抜な軍略、心理の裏をかく戦術、鬼神の如き武、傭兵でありながら世間の将軍よりも気品、人格が格上。ゆえにつけられたのが傭兵将軍、という異名よ」

「んな過大評価な」

 

ただ俺は人の嫌がる軍略を立て、有り得ないであろう戦術を行い、目の前の奴をぶっ飛ばして、自然体で人と接しているだけだ。

 

まぁともかく、それから暫くの話し合いの結果。此処に陣を張り皇甫嵩、盧植、朱儁が進軍を再開出来るまでの間、滞陣することになった。

 

―夜―李厳軍本営

カリカリと刀筆を走らせる音だけが響く、竹簡に記すは行軍記録。こういう細かな事がのちのちに役立つのだ。

 

「大将」

 

外から聞こえてきたのは大我の声だ。

 

「何だ」

「劉備軍の北郷が面会を求めて来てます」

「分った、通せ。ついでに人払いも頼む」

「うっす」

 

走り去っていく大我、そして周囲を警戒していた兵士たちが遠巻きになった頃。

 

「で?いるんだろ伏羲」

「バレてたか」

「バレいでか」

「えーっと?入っていいのか?」

「おう、入れ入れ」

 

陣幕を開けて入ってきた北郷は驚いた様子で于吉を見る。

 

「アンタあの時の!?」

「やぁやぁ久し振りだね北郷君、まぁ座りたまえよ」

「さて、始めましてだな北郷一刀」

「えっと・・・・李」

「斯波信」

「え?」

「俺の生前の名前なんだ」

「生前って・・・・」

「それは僕が説明しようか」

 

それから伏羲が説明を始める。信が元々は北郷と同じ未来の日本で生きていた人間だったと言う事。不慮の事故で亡くなった後にこの世界に転生した事、そして・・・・伏羲の手違いで信と北郷、二つの不確定要素がこの世界に揃ってしまったという事。

 

「なんか・・・・アンタも大変なんだな」

「分かってくれるか北郷」

「一刀で良いよ」

「んじゃ俺も信でいい」

「一応真名なんだろ?」

「それでも、だ。まぁこの世界においては俺が先輩なんだ、黄巾の乱が終わるまでは手ぇ貸してやるよ」

「ホントか?!」

「おう、武術から戦術、軍略・・・・色々と仕込んでやる。生き抜くにも力が要るからな」

「ありがとう!」

 

何だろう、一刀は子犬っぽいな。世話は焼けそうだが叩けば伸びるかも知れない。ともかく、北郷一刀という弟子をこの乱の期間で育てなけりゃならない。いろいろと大変そうだなー

 

―同刻―劉備軍本営

劉備たちの幕舎には朱里が訪っていた。

 

「ご無沙汰しております、劉備さん」

「孔明ちゃん、李厳さんのところにいたんだね」

「はい」

「元気でやってる?病気とかしてない?」

「おかげさまで」

『朱里ちゃんっ!?』

 

ちょっと沈み気味な空気に駆け込んで来たツインテールな魔女っ子と黒髪ロングのゴスロリ少女。

 

「雛里ちゃん!灯里ちゃん!」

 

駆け寄って抱き合う三人。鳳統士元、真名を雛里と言い水鏡塾での朱里の同窓生。徐庶元直、真名を灯里、同じく同窓生であり仲良しの三人組だった。のだが仕える相手に対しての意見の相違が生まれ別々の道を歩む事になった。

 

「李厳さんってどんな人なのかな?」

 

暫く四人でわいわいと騒ぎながら話をしていた時に、劉備がそんな事を言う。

 

「ご主人様は優しいお人ですよ、何時も皆の事を気遣ってて最大限仲間が傷つかない戦い方を選んで、その・・・・頭も撫でてくれますし・・・・///」

「成程、孔明ちゃんにとっての理想のご主人様だったんだ」

「え、えへへ・・・・///」

「私たちも今ご主人様につかえてるんだ?」

「え?と言うと・・・・天の御使い、北郷さんですか?」

「うん」

「ほら、旗印は少しでも名が売れやすい方が良いでしょ?だったら中山靖王の末裔よりも天の御使いの方がーって話なわけよ」

「幸い、関羽さんや張飛ちゃんも理由を説明したら納得してくれましたし・・・・ご主人様は優しいですし///」

 

ガールズトークに華が咲く劉備軍本営。

 

―更に同刻―孫策軍本営

孫策、周瑜、孫権に囲まれ中央に座するのが白夜だ。

 

「ご無沙汰していますね、お三方」

「ビックリしたわよ、ホントに」

「うむ、あの白夜がまさか王虎にいるとはな」

「ええ、本当に」

「今は蒋欽と名乗ってます」

 

白夜は元は江東のとある豪商の息子であり、孫権の幼馴染でもあった。のだが数年前に出奔、以後行方知れずとなっていたのだ。

 

「江東に戻る気は無いの?」

「申し訳ありませんが」

「我々としても白夜の力は必要なのだが・・・・」

「ご好意だけ受け取ります」

「白夜・・・・」

「すまないな蓮華、だが私は・・・・」

 

孫権仲謀、真名を蓮華。白夜の幼馴染でありそれこそ兄妹同然に育った仲。

 

「私は、あの方に夢を託した。ならば黙って付き従うのがその定めと思っています」

「昔っから律儀よねー、まぁ?そうでも無ければ困るんだけどね」

「?」

「こちらの話だよ、ともかくだ・・・・白夜。ここからが本題なのだが黄巾の乱が終わったら王虎と契約を結びたいのだ」

「・・・・内容は」

「恐らく李厳殿はこの乱の後太守ぐらいにはなれるのではないかな?その時に同盟を結んで貰いたい」

「領地が遠かったらどうするつもりです?」

「それは無いな、恐らく荊州か揚州方面になる」

「根拠は?」

「北部は名門連中の縄張りだからな、叩き上げの李厳は南に追いやられるだろうと。そして益州は劉焉の縄張りで朝廷とて迂闊に手は出せない。だから荊州か揚州だ」

 

周瑜による鋭い読み、白夜は知らぬことだが実際に皇甫嵩から信が提示された領地は江夏。ドンピシャでこの予想はあたっているわけで。

 

「・・・・その読みの成否はともかく大将には話を通しておきます」

「ああ、助かる」

 

それから少しばかり、昔話に花を咲かせるのだ。

 

―同刻―曹操軍本営

一人、微笑みながら机に向かう曹操。

 

「李厳、張遼、諸葛亮、呉懿、蒋欽、孫策、孫権、周瑜、黄蓋、程普、劉備、関羽、張飛、鳳統、徐庶・・・・・・・・・・ふふふふふ・・・・欲しいわ、全員。それに孫策の本拠にも人材はいるでしょうね・・・・ふふふふふふ」

 

その外から、中を伺うのは曹休、荀彧の両名。

 

「・・・・入れ、ませんねぇ・・・・」

「と言うか、入り難い・・・・わね」

「愉快な事でもあったんですかね」

「分からないわ・・・・」

 

曹操軍には曹操自身が任命した文武七官がいる。ここにいる曹休、荀彧も含め夏侯惇、夏侯淵、曹仁、曹洪、荀攸の七名である。この七名と曹操の付き合いは長く、それこそ私事では兄妹同然である。そのうちの二人をもってしても、正直近寄りがたい雰囲気だったそうな。




ちなみにこの作品に出てくる桂花たんは桂花たんであって桂花たんではありません。華琳ラヴでは無く曹休ラヴです。


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第七話:楔

―滞陣五日目―王虎部隊本営

幕舎の中央に座す信、その目の前には一人の人物が片膝を付いている。名は郭淮伯斉、目深にフードをかぶっているため性別や年齢なども良く分からない。だがこの人物は王虎の間諜を一手に担う。

 

「それは本当か?」

「はい、間違い無く・・・・黄巾党別動隊が西、ここをめがけて進軍しております」

「甘く見られたもんだな・・・・俺らも」

 

北の朱儁が四万、東の盧植が五万、南の皇甫嵩が四万、そしてここが五千。単純に兵数だけを見てここから抜ければ他三方の背後を取れる、そう踏んだのだろう。

 

「どれほどでここに到達する」

「目算で五日」

「分った・・・・大我!劉備、曹操、孫策に遣いを出せ!緊急事態につきここまで来いと!!」

『うっす!!』

 

大我が駆け去る音、それを聞きながら今一度郭淮へと視線を向ける。

 

「なぁ郭淮、お前そろそろ表で働いてみねーか?」

「・・・・私が、ですか?」

 

始めて会った時から顔は見たことが無い、だが出会ってから変わらぬ抑揚の無い声は少し動揺を覚えているようだ。

 

「『貴方様の影の力となるべく参りました』、そう言ってお前は俺のとこに来た」

「はい」

「だが敢えて言う、光も影も皆で背負おうや。俺らは『仲間』だ、誰か一人が面倒事を背負い込まなくても良い。皆で背負えば楽なもんよ」

「でも・・・・私、は・・・・」

「二つに一つだ、俺らと表に立って仲間として戦い続けるか、ここを去るかだ」

 

俯き、考え込む郭淮。

 

「ずるいです、李厳様は」

「そうか?」

 

シュルッとフードを外す郭淮、水色のショートボブ、切れ長の目、どこからどう見ても・・・・。

 

「私も、共に歩みます」

「・・・・お前女だったの!?」

「あ、え?言って、ませんでした?」

「言ってねーよ!」

「えと、では改めまして・・・・郭淮伯斉、真名を莉乃と申します。幾久しく・・・・」

 

―半刻後―王虎部隊本営

 

「李厳」

「何だ曹操」

「増えた?」

「ああ」

 

信の背後、ブスっとした顔で右側に立つ霞とそれを気にも止めずに左側に立つ莉乃、不穏な空気を察して会議には参加せず外周の警備を申し出た大我と白夜、オロオロしながら信の隣に座る朱里。

 

「モテる男は大変ね~♪」

『っ!』

 

孫策の一言で、背後の空気がピリピリどころか殺気だったものに変わった信だったが敢えて気にしない。

 

「集まってもらったなぁ他でも無い、黄巾党別動隊がこっちに進軍中だってぇ情報が入った」

「規模はどんぐらい?」

「五万、残る兵力を他三方の牽制に宛てた。おそらくは俺たちを軽く撃破して北と南の朱儁、皇甫将軍を挟撃した後に残る盧植を叩くつもりだろう」

 

曹操と孫策の雰囲気が変わる、そう二人とも瞬時に理解したのだ、黄巾党に自分たちが舐めて掛かられているのだと。

 

「正直全体の戦略上それを許すわけにゃいかねーし俺も皇甫将軍にゃ恩がある、そいつを仇で返すわけにゃいくめーよ」

「そうね、私も皇甫将軍の下で戦っていたもの・・・・少なからず恩があるわ」

「そうよねー、朱儁のオジさんには兵糧とか装備出してもらったしねー」

「盧植先生を危ない目に合わせるわけにはいかないです」

「そうだな、盧植さんにも世話になってるから・・・・」

「彼我の戦力差は十:一、数字だけ見れば無理なんだろうが・・・・」

「兵力差など無きにしも在らず、よ・・・・」

「賊何かに負けちゃいられないもの」

「わ、私たちも頑張ります!!」

「ああ、戦ってやるさ!」

 

ニヤリ、と笑む信。

 

「と言う訳で軍議を行う・・・・んだが、俺から提案がある」

「ふむ、聞きましょうか」

「この局面で傭兵将軍からどんな意見が出るか楽しみよねー」

「この際全軍混成で動こう、五千をひとまとめにして」

「え?それって・・・・」

「出来るものなんですか?」

 

そう、普通ならそんな考えは無い、急造の混成部隊何てものは足枷でしか無いのだ。同程度の練度の部隊どうしですら難しいとされている。

 

「やってやれねー事は無いさ、兵と兵との連携じゃない。将と兵との連携が上手く取れるなら、な」

『?』

「まぁいいさ、陣立は先鋒に張遼、関羽、張飛、徐庶、右翼に曹休、李典、蒋欽、鳳統、左翼に黄蓋、呉懿、楽進、荀彧、本営に俺、曹操、劉備、一刀、孫権、郭淮、後詰は孫策、于禁、周瑜、諸葛亮で各千人ずつ」

 

現在、本営の中には信、霞、朱里、莉乃、曹操、荀彧、曹休、孫策、周瑜、孫権、劉備、徐庶、鳳統と十三名いる。内、この提案を聞いて愉快そうにしているのが四名、顔を真っ青にしているのが五名、平然としているのが三名。

 

「ちょっ!?その編成はどうなのよ!?」

「いや、存外悪くは無いと考えるぞ」

 

荀彧が否定に走るならば周瑜は肯定する。

 

「そうね、でも何で私が後詰なのよ?」

「秘密、最後の目立つところを任せるから下がっててくれ」

「分ったわ」

 

後詰の配置に不満そうにしていた孫策を信が宥める。

 

「あと・・・・手先が器用な奴はいるか?ちょっと罠を仕掛けたいんだが・・・・」

「ならば李典を出しましょう」

「私も手伝うわ」

「あ、じゃあ私も手伝います!」

「分った、それとそれぞれでコレを揃えて欲しい」

 

そう言って取り出した三本の竹簡を手渡す、その時の信は・・・・心底意地の悪そうな笑みを浮かべていた。

 

「で?何をするつもりなの?」

「黄巾に山岳民族出身の連中がいるらしくてな、そいつらの率いる騎馬隊に官軍は手間取っているらしい」

「成程、それを潰すための罠だ・・・・と」

「おうよ、歩兵は無視の騎馬兵だけを潰す罠だ」

「歩兵にはどう対応するつもり?」

「そのための前衛に猛将三人の配置だ、あの三人が縦横無尽に暴れまわるならば前から力押しなんてバカな真似はせんさ」

 

それから黄巾軍が接近するまでの四日間、続けられた準備。各将による連携から部隊単位の動かし方、一刀に最低限生き残る戦い方を教え、迎えた四日目の夜。

 

「明日が本番、か・・・・どうだ?一刀も一杯」

「もらうよ」

 

信の幕舎で卓を挟んで飲む信と一刀。

 

「なぁ信、勝てる・・・・のか?」

「六分四分だな、条件は悪くねぇが何分兵数が少ない・・・・見た限りじゃ兵力差ぐらいで心が折れる将はいないが兵は分からん」

「・・・・」

「不安か、まぁ・・・・そうだろうな、俺もこの時代に生まれたばかりのころは不安だらけだった」

 

自ら選んで来た世界ではあったが生前とは違う文化、日常の傍らに争いがついてまわる。それは霞と旅に出て、王虎を結成してからもずっとついて回った不安だった。

 

「だがな一刀、俺たちがここにいることには意味がある」

「意味?」

「ああ、伏羲が何を考えてるかは知らんが・・・・な」

 

グッ、と盃に注がれた酒を呷る。

 

「少なくとも劉備たちはお前を必要としている、お前は必要とされたから一緒にいるんだろ?」

「・・・・・・あ」

「なら必要としてくれた人たちのために今を生き抜け、志とか大義とかは放っておけ。今を生き残らなけりゃ先もないんだからな」

「・・・・俺、信がいてくれて良かったと思う」

「何だ急に、煽てても何もでねーぞ」

「いや、事情を理解してくれて相談に乗ってくれてさ・・・・信がいなかったらどこかで壊れてた気がしたんだ・・・・」

「一刀・・・・」

「だから、ありがとな」

 

ドクドクと酒を盃に注ぐ信。

 

「んな堅苦しい事言うなって・・・・」

 

空っぽだった一刀の盃にも、酒を注ぐ。

 

「俺たちぁダチだ、ダチだったら・・・・助け合うなぁ当然だろ?」

「ダチ・・・・」

「おう、だから気合入れてけ!相談があるなら乗ってやる、逆に俺に相談があったら乗ってくれ。こうやって話しながら酒飲むのも良しだ」

「うん、そうだな・・・・」

 

ニヤリ、と二人が笑みを浮かべて、盃をぶつけた瞬間・・・・

 

「あー!!ちょっと何二人で飲んでるのよ!?私も混ぜなさい!!!」

「何で信と一刀だけで飲んどるん!?ウチにも酒ぇ!!!」

 

孫策と霞、乱入。

 

「お、なんじゃ酒があったのか?ならワシにも寄越せ!」

「大将どこに酒なんか隠してたんです?」

「知らなかったか大我、輜重の水瓶の中に酒瓶が十個混ざってたのだぞ」

「良いですね、お酒は好きですよ」

 

続けざまに黄蓋、大我、白夜、曹休が乱入。

 

―半刻後

全軍を巻き込んでの大宴会に発展していた。どうやら孫策と黄蓋、に加えて霞も酒瓶を隠し持っていたらしく、それを含め瓶で十三個の酒を全軍へと振舞ったのだ。

 

「うへへ・・・・・ごーしゅじんさぁまぁー」

「だいたいご主人様はれすね?」

 

一刀は劉備と関羽に絡まれていた。

 

「・・・・両手に花とは豪勢な事だな、一刀」

「いやいや、信だって・・・・」

 

一刀の視線の先には信の膝枕で眠る朱里と莉乃の姿。

 

「っつーか・・・・アイツら明日、決戦だって事理解してんのか?」

「どう、でしょうねぇ」

 

苦笑する曹休の膝では荀彧が寝息を立てている。少し向こうでは霞、大我、孫策、黄蓋による飲み比べが始まっている。

 

「大将、正直なところ勝てると思います?」

「一刀にも同じ事聞かれたけど六分四分だ、歯車が一個狂ったら御終いだな」

 

白夜の膝で寝ている孫権。

 

「基本戦術は?」

「『(くさび)』」

「大博打ですなぁ」

「少し、その戦術について聞かせて貰えないかしら?」

「そうだな、戦術を知らねば動きようもない」

 

曹操と周瑜が輪に入ってくる。

 

「『楔』は王虎の基本戦術の一つでな・・・・単純な話をするならば波状突撃の戦術だ」

「複雑な話をするならば?」

「目的を定めるのは第一陣の将、その目測を誤れば最悪潰される」

「普段は誰が?」

「張遼だ、確かな嗅覚を持つからな。そこに武才確かな関羽と野生の嗅覚を持つ張飛が混じって徐庶が・・・・まぁせめて関羽を御してくれるならば一段目は成功する」

 

テンションバリッバリの霞と張飛を御する事は諦めているし、猪たちの手綱を無理矢理握ろうとすればその持ち前の攻撃力を殺す事になる。雑に大穴を開ける一段目は自由に暴れさせればいいのだ。

 

「二段目は?」

「大我だな、あれは鼻は悪いが勘が良い。気を使う楽進と黄蓋に両脇を固めさせて鳳統の指示で突撃だ。大我の兵士との連携率は凄まじいからな・・・・傷口を広げるには十分だ」

 

大我はちょっとばかり根明で抜けているがそれゆえに兵士たちにも人気がある。その上突撃中でも転んだりした兵士たちを助けたり、矢の雨に晒された兵士たちをかばおうと動く。それに奮起した兵士たちも大我を死なせまいと動く結果で上手い連携が取れるのだ。

 

「三段目に白夜だな、あいつは目端が利くから上手くほつれたところを切り開いて行く」

「成程、故にその気になれば何でも出来る、と豪語した私と李典なのですね」

「その通り」

 

三段目に必要以上の突撃力などは要らない。ただ堅実に攻め込める力が欲しい、がために万能型三名。この段階で一段目と二段目が再突撃を考え後退するため一時的な殿の役目も担う事になる。

 

「四段目で私たち、というわけね?」

「ああ、俺が先頭を切るからお前らはそれについてくれば良い」

 

四段目は一段目と二段目の殿をしている三段目の援護、突撃箇所の維持が目的であり踏ん張る力が要求される。

 

「で、最後が・・・・アレね」

「まぁ、アレだ・・・・美周郎殿に期待するよ」

「・・・・努力はしよう、だが・・・・結果が伴うとは限らない」

 

酔って大暴れ中の孫策を見て、三人がため息をつく。最後は小細工も何も無し、掛け値なしの全力突撃。そのための小覇王孫策と朱里、周瑜の配置だ、孫策が先頭で好き勝手に暴れまわりそれで生まれた隙を朱里と周瑜が于禁を使って補う。本来ならば信が務めている役目ではあるのだが・・・・

 

「なら後は最初の罠とやらがどれほど機能するか、ね」

「敵さんにそれなりの指揮官がいればバレるだろうが・・・・先ず無いだろう、後は・・・・」

 

グッ、と盃の酒を飲み干す。

 

「各人の奮闘に期待する」

 

明日、大一番の火蓋が切って落とされる。



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第八話:江陵太守李厳

五日目、眼前に広がるは黄巾軍五万。

 

「いやー、圧巻だなぁ」

「面白いじゃなーい♪こういう状況って」

「ふふっ・・・・そうね、面白いわ」

「お、面白くなんか無いですよぅ」

「いやいやいや、洒落になってないって!」

 

ケラケラと笑う信、孫策、曹操と怯えまくる劉備と一刀。

 

「さ、開戦の檄は貴方に頼むわ、李厳」

「そうねー、お手並み拝見ってところよね」

「普通こういうのって曹操か孫策の仕事だと思うんだがな・・・・俺、根無し草の傭兵部隊の隊長様よ?どこぞの州刺史どころか太守様ですらねぇってのに」

「あ、でも何となく李厳さんが一番締まる気がします」

「だな、作戦立案者って事でここは一つ」

 

ふぅ、と息を一つ吐き出しながら「仕方無い」とつぶやいて前へと歩み出る。手に持つは大矛風雅、黒と翡翠の刃をゆったりとした動作で前へと掲げる。

 

「眼前は敵の海、傍から見れば絶望、だが・・・・俺たちは勝つ、誰のためでもねぇ、テメーらのためにだ、今を生きろ、明日を生きろ、これまでの生を失うな」

 

低く、重いが五千の兵全てに響き渡る声。

 

「思え、故郷(くに)の家族を、愛する者を、自らが護るべき人々を」

 

自らの発する声と共に、兵士たちの内側に湧き上がる闘志を感じ取る信。

 

「ここを戦い抜けなけりゃ先は無ぇんだ!!気合入れろ野郎どもぉおおおおおお!!!」

 

一閃、振り払われた風雅と共に、兵一人一人の中で限界まで膨れ上がった闘志が弾ける。

 

「第一陣・・・・突っ込めぇえええええええ!!!」

『うぉおおおおおおおおおおおおおおっ!!!!!』

 

霞、関羽、張飛、徐庶の率いる第一陣が、雄叫びと共に口火を切った。

 

「劉備、一刀、郭淮、孫権は所定の位置に付け!合図を決して見逃すな!!曹操は俺と共に突撃準備だ」

「あら、ご指名とは嬉しいわね」

「客観的な強さで、だ」

「あらそう」

 

どこか愉快そうに笑む曹操、孫策も似たような笑みを浮かべながら第五陣へと下がる。

 

―第一陣

信の号令と共に全速力で突撃をするのは霞、関羽、張飛の猛将三名。

 

「ええか!ウチらの役目は目印付ける事や!深く入らんでもええ、ただ入口の大穴開けるんや!!」

「うむ、ならば全力の一撃を叩きつけて・・・・」

「全力で逃げるのだ!!」

「兵士の皆さぁあああん!!一発ぶちかましたらすぐに分かれて反転を始めて下さいねぇええ!!」

 

金切り声で指示を出す徐庶。

 

「流石軍師やなぁ、やる事分かってるやん」

「私たちも成すべきを成すまでだ」

「そうなのだ!突撃!反転!退却!なのだ!」

 

―第二陣

がむしゃらに攻める第一陣を少し後で見るは大我率いる第二陣。

 

「まだかのう」

「張遼、関羽、張飛・・・・あの三人が強いのは確かですがこれ以上は・・・・」

「・・・・・・ま・・・・」

「まだっすよ」

 

逸り始めた楽進と黄蓋を大我が押し留める。

 

「俺はバカだから難しい事は分からないっす、軍の進め方とかそういうのも勘ですし」

 

第一陣の様子を伺いながら大我は話を続ける。

 

「そんな俺でもコイツは間違い無いって言えるのが大将の判断っす、俺はあの人の指示に従うだけですから、今までそれで上手くやれてきた。これからも・・・・そうするつもりです」

『・・・・』

 

他三人が、意外そうな顔をする。

 

「ん?どうかしたんすか?」

「いや、意外じゃと思うてのう」

「え?そうっすか?」

「はい、もう少し猪突な方かと思っていました」

「何気に酷い事言うっすね」

「事実だから隠す必要性も無いわね」

「荀彧ちゃんまで・・・・」

 

しょんぼりする大我だったのだが・・・・

 

『第二陣、突撃ぃいいいいいいい!!!』

 

突撃合図を受け、すぐに大刀を構える大我。

 

「っし!!」

 

第二陣を構えるのは李厳兵だ。

 

「霞姐さんを助けに行くっすよ!!野郎共!!全速前進!!!」

『うぃいいいいいいいいいいい!!!』

「凄まじい・・・・指揮じゃのう」

「春蘭様もこんな感じな気が・・・・」

「ああおぞましい、早く全部終わらせて烈花(曹休)様のお膝で・・・・ああ!待ってて下さいね!!」

 

―第三陣

ため息を吐き出しながら、真っ向、第一、二陣が突撃した箇所を見据える白夜。

 

「そう言えば・・・・第二陣は全部李厳兵(身内)だったねぇ・・・・」

「その中から更に私の身内の声が聞こえてきたのは・・・・空耳だと思いたいですね」

「隊長、現実は見なアカンで。あれは間違い無く桂花(荀彧)様の声や」

「す、凄い士気、ですね」

 

二陣の大我はバカだが単純なバカでは無い、敢えて言うならば戦バカだ。全知全能が戦に特化しているのが奴だ。

 

「さて、曹休、李典、準備を頼む・・・・送り狼の時間だ」

「了解した、しっかり仕事をこなそうか」

「せやな、凪(楽進)も助けてやらなアカンし?」

「蒋欽さん、魚鱗で行く・・・・のでしょうか?」

 

ふと、問いかけてきた鳳統。

 

「ああ、そのつもりではあるが・・・・何か意見が?」

「はい、魚鱗では無く・・・・雁行で」

「・・・・成程、それで行こう」

『第三陣!突撃ぃいいいいい!!!』

 

即座に陣を組み替えた第三陣が、更に突撃していく・・・・

 

―第四陣

 

「・・・・白夜、の判断じゃねぇな・・・・鳳統か?味な真似をしやがる」

「成程、あれが『楔』第三陣の本来の突撃形態、と」

「・・・・そういうこった」

 

錐行、円陣、雁行、横陣、蜂矢の順序で本来の『楔』は完成する、のだが今回は手の内全てを見せる必要も無いと六分の力を発揮する陣組、錐行、魚鱗、魚鱗、雁行、蜂矢の順で突撃するつもりだった。だが第三陣が雁行で向かったという事は、誰かがそれを指摘したのだろう、そしてそれが出来る可能性が高いのは鳳統だ。

 

「味方だからって手の内全部を晒す必要はねぇわな・・・・幻滅するかい?」

「いいえ、むしろ安心したわ・・・・味方だからと手の内全てを晒すような愚者であったならば自らの観察眼が腐っていたという事だもの」

「そうですかい、って・・・・合図の準備」

『うっす!』

 

両脇に控える兵士が、旗を掲げる準備をする。見えるのは遥か向こう、黄巾軍から飛び出してきた騎兵隊だ。

 

「・・・・・千ぐらいか?情報通りならあれで全部だな」

「凡将であるならば、全て出すし出していなくともこの一手で手は縮まるわ」

「だな・・・・良し、合図出せぇええ!!俺らも前進するぞ!!!」

『応!!』

 

第四陣は、代理の指揮官相手でも勤勉に動く曹操兵。

 

―第五陣

孫策、周瑜、于禁は驚愕して見ていた。地面からせり出した丸太、そこに突き刺さる槍が側面から突撃した騎馬を足止めし、串刺している。

 

「何あれ?」

「・・・・まさか、兵の中に罠を埋伏させるとは・・・・」

「あんなの普通分かんないの・・・・」

「『拒馬槍(きょばそう)』、とご主人様は仰ってました。材料は丸太と槍と綱があれば良く、兵と土で覆い隠せば全速力で駆けて来る騎馬からは見えず、効率的に騎馬を潰すための罠だ、と」

 

三将は戦慄する、これまでの戦で騎馬を潰すとなれば柵を作っての足止めだ。それを馬を本気で潰しにかかる将は存在しなかった、鹵獲すれば自軍の物資となるからだ。しかしこの『拒馬槍』は鹵獲する選択肢を排除、正しく敵軍の足を殺すための罠。

 

「あ、合図よ冥琳(周瑜)」

「分った、我々も行こう」

「うん、先ずはお仕事なの!」

「はい、全軍全速前進です!!!」

 

トドメの第五陣突撃、により黄巾軍を率いていた大方馬元義が戦死、その副将だった孫仲、韓忠も戦死し黄巾兵のほとんどが離散し文字どおりの圧勝となったのだ・・・・

 

―夜

大勝した四軍に届いた一つの報、教祖張角の戦死。その報告により官軍の勝利が確定したために大宴会へと発展していた。酒は皇甫嵩から届けられた戦勝祝い。

 

「先ずは諸君、ご苦労だった・・・・いくら将が有能であろうとも優秀な兵士諸君がいなければ戦は出来ぬ。そして良く生き残ってくれた・・・・ありがとう」

 

「官軍本隊からの伝令により黄巾の首魁を討った、と伝えられた。事実上の黄巾党討伐成功だ」

 

「諸君らの生存と、目的の達成を祝う・・・・・・・乾杯!!」

『かんぱああああああああああい!!!』

 

大宴会、という言葉がただしいだろう。特に孫策、黄蓋のあたりは兵の所属に構わずあちらこちらで飲み比べをふっかけている。

そんな中で、信と共に円を組み、火を囲むのは曹操、劉備、一刀、孫権だ。

 

「貴方の戦術には姉様も冥琳・・・・周瑜も驚いていたわ」

「そうね、型にはまらぬ波状の突撃戦術・・・・独学かしら?」

「自分がやられたら面倒だと思う事を相手にやってるだけだ、要するに嫌がらせの延長戦」

「最後だけ聞くと意地の悪い奴にしか聞こえないな」

「でもでも、凄いですよ!本当にあの兵力差で勝てるなんて!」

 

グッ、と酒を口へと流し込む信。

 

「元々勝率は六分四分さ、全軍突撃で大将狙い。それで十分勝てた」

「この度の兵の損失は負傷者三百余名、死者に至ってはおりませんでした」

 

フラリと現れたのは曹休だ。

 

「コレは貴方の戦術が上手く嵌ったおかげでもあります、誇れ、とまでは申しませんがもう少しだけ、胸を張ってもいいのだと思います」

「・・・・そうだな、少しぐらいは考えてみるさ」

 

「景気良くやっておるのう」

『!!?』

 

突如聞こえた声に、信、曹操、曹休は驚いてそちらへと振り向く。

 

「なっ!?何でアンタここにいるんだ皇甫将軍!!」

「ふぉっふぉっふぉ、ヌシらに辞令を持って来たのじゃよ。ヌシらは此度の戦において最大級の功労者、故にワシが直接参ったのじゃ」

「ちょっ、ちょっとお待ちください!姉様を呼んで・・・・」

「いや、むしろあの状態の孫策を出す事が無礼だ。名代として受け取っておけ、孫権」

「う・・・・確かに・・・・」

 

愉快そうに笑う皇甫嵩。

 

「では先ず陳留太守曹操」

「はい」

「賊将韓忠、裴元紹、周朝を討ちとった功績により定陶、任城の地を与えるものとする」

「謹んでお受け致します」

「次に義勇軍劉備」

「は、はひ!」

「そう固くならずとも良い、賊将厳政、程遠志を討ちとった功績により平原の太守に任ずる」

「あ、ありがとうございます!」

「秣陵太守孫策が名代、孫権」

「は!」

「賊将凶星、郭石、張栄、劉辟、珪固を討ちとった功績により呉郡、会稽、翻陽の地を併せ揚州太守に任ずる」

「ありがとうございます!」

「最後に王虎部隊の李厳」

「はっ」

「賊将馬元義、孫仲、卞喜、張純、高昇を討ちとった功績により江陵、夷陵、麦城の地を併せ江陵太守に、また牙門将軍の位を授けるものとする」

「・・・・・・・・・・へ?」

 

信は、自分の手前までを妥当だ、と思い聞いていた。しかし自分の功績に対して用意された結果に、驚きを隠せずにいた。

 

「ちょっと待ってください皇甫将軍、確か・・・・」

「うむ、確かに以前ヌシに提示したのは江夏一群ぞ・・・・だがヌシが討った馬元義、此奴が朝廷の一部とつながっていたらしくてのぉ・・・・まぁ奴が生きていて都合の悪い連中からの感謝の気持ち、というところじゃろうの」

「嬉しくねー事で」

「まぁそう言うでない、三郡を任せられるという事は大抜擢じゃ、理由はどうあれ後はヌシが実力で認めさせれば良い」

「そう・・・・ですね」

「うむ、まぁ目出度い日じゃ。ワシにも酒くれんかの」

「あ、はい!ただいま直ぐに!」

「まぁ先の四人には一度洛陽へと赴いてもらわねばならん、正式な手続きも必要なのでな」

 

手渡された酒を一気に飲み干す皇甫嵩。信は、洛陽へと行かねばならないという言葉に、洛陽にいる友へと、思いを馳せるのだ・・・・



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第九話:信の交友関係

―洛陽

信、曹操、孫策、劉備の四人全員がそれぞれに正式な辞令と印を受け取り、明日には任地に赴く。という事で洛陽にある曹家の屋敷では大宴会になっていた。それを抜け出す信。

 

「・・・・」

 

無言で赴いたのは擁州太守董卓の屋敷、知り合ったのは半年程前、まだ王虎の名が売れる前の話。

 

「夜分遅くに失礼、某李厳と申す者。董卓殿にお会いしたい」

 

門前にて、あまり大きな声では無いが中に十分聞こえるであろう声で名乗りをあげる。

 

「・・・・信」

 

門扉を開けて現れたのはかつて董卓軍に手を貸した時、共に轡を並べ友と認め会った少女。

 

「恋か、半年ぶりだなー元気か?」

「・・・・ん(コクリ)」

 

聞いて驚くなかれ彼女は呂布、字を奉先、真名を恋・・・・そう、あの飛将軍だ。前世では暴虐だ不実だなどと汚名ばかりの武力バカ、何て批評しかされていないがこの世界の呂布は純粋で誠実な食欲魔人だ。

 

「月は起きているか?」

「ん、案内する」

 

恋に案内されて屋敷の一室と通される。

 

「月、お客さん」

「え?あ・・・・信さん」

「何でアンタがここにいるのよ」

 

室内には更に二人の少女、ここでも驚き。儚げな花のような印象を受ける少女がかの暴虐で有名な董卓、字を仲穎、真名を(ゆえ)、てっきり油ギッシュなおっさんを想像していたのにこの世界ではこんな可憐な少女であったという事実に正直目が飛び出そうになった。

そしてその隣にいるメガネっ娘でツンデレ要素たっぷりな少女が賈駆、字を文和、真名を詠。腹黒軍師代表みたいな印象だったのだがそんな事は無い、ただの正統派ツンデレだ。

 

「黄巾の乱で将五人を討った戦功で江陵太守に任命されてな、暫しの間気軽に会いにこれねーから挨拶に来た」

「そうなんですか?おめでとうございます」

「へぇ、結構出世したじゃない。おめでと」

「後はまぁ・・・・忠告かな」

『忠告?』

 

自らが莉乃に探らせて掴んだ情報、そして前世の知識、この二つから導き出される出来事は否定する事の出来ない事実。

 

「どれぐらい先になるかは分からんが中央が荒れる、出来る限り巻き込まれないように動け」

「・・・・具体的には?」

「十常侍が皇帝を使って何かしでかす、どれぐらいの事かは定かでは無いが・・・・」

「分かったわ、巻き込まれないように注意しておけばいいかしら?」

「どうせなら適当な理由をつけて擁州に戻れ、そんぐらいしてても不安なぐらいだ」

 

それから少しの間、互の近況報告を続ける。

 

「んじゃま、そろそろ戻るさ」

「あの・・・・信さん」

「?」

「何で、わざわざ忠告をしに・・・・」

「んー」

 

少しばかり、考え込む素振りを見せる信。

 

「月も詠も、恋も大事な友達だ。その友達に無事で居て欲しいから来た・・・・じゃダメか?」

「・・・・いえ、ありがとうございます」

「ん、じゃあな」

 

ヒラヒラと手を振りながら部屋を出る信。屋敷の入口には恋ともう一人、小柄な少女。

 

「おぅ音々、元気してたか?」

「恋殿が元気であれば音々も元気なのです!」

 

陳宮、字を公台、真名を音々音。史実でも呂布に最後まで尽くし、共に死した忠臣として有名であるのだが・・・・何だろう、この世界の彼女は忠臣というより『忠犬』な気がする。まぁ言ったら蹴られるから言わないけど。

 

「月と詠の事、頼むぞ」

「・・・・(コクリ)」

「あのダメガネの事は知りませんが月の事は任せるのです」

 

そんな事は言っているがなんでかんでで助けてくれるんだろう、音々音は良い子だから。

 

「任せた」

 

笑いながら、屋敷を後にする信。フラフラと夜の大通りを歩く、中天に瞬き煌々と輝く月を見ながら。

 

「・・・・何者だ」

 

気配、と視線を感じ振り向く事無く、言葉を発する。

 

「流石は傭兵将軍」

「まさか見つかるとは思いもよらず」

 

通りの両側から現れる二人の女性、そして信を包囲するように数十人、覆面で顔は分からないが現れる。

 

「何者だ、っつってんだ」

「私は趙雲」

「自分は鄧艾」

 

白を基調とした衣装を身に纏う方が趙雲と名乗った。趙雲、劉備に仕えた名将でありその子劉禅を曹操軍数万の中から単騎で救いだした胆勇を誇る。

藍色を基調とした衣装を身に纏う方が鄧艾と名乗った。鄧艾、魏末期のこちらも名将であり蜀侵攻において険路を進み成都を陥落へと導いた知将。

 

「趙雲に鄧艾・・・・成程、『雪花』か」

 

王虎の名が売れ始めた頃に聞いた事がある。北の公孫賛を助け烏丸撃退に功を挙げた『雪花』を名乗る傭兵部隊がいたと聞く。

 

「然り」

「その雪花が何用だね」

『・・・・』

 

互いに顔を見合わせる趙雲と鄧艾。

 

「少しばかり」

「お手合せを」

 

槍を鏡合わせに構える趙雲と鄧艾、それを真っ向から見据えながら風雅を構える。

 

「どっからでも来い」

「二対一でも構わないと?」

「そうでなけりゃ納得出来ねー何かがあるんだろ?」

 

無言で頷いた二人が、同時に地を蹴る。

 

『せぁっ!!』

 

趙雲が喉を、鄧艾が水月を狙って突きを繰り出してくる。

 

「ぬんっ!」

 

風雅を回転させる動作で二撃を同時に打ち払う。と同時に右足を大きく振り上げて・・・・

 

「っ!!!」

 

日本の古武術で震脚と呼ばれる技法、を模した単純な脚力任せの震脚。ただ一つおかしいところと言えば振動の割に音がほとんど無かったぐらいなものだ。

 

「なっ!?」

「これは・・・・」

 

ぐらり、と体幹を崩す二人。

 

「勝負有り、だな」

 

二人の中間地点に、風雅を掲げる信。

 

「・・・・成程」

「少なくとも、どちらかは殺されますか」

 

カラン、と槍を取り落とす二人。それを見れば風雅を下ろす。

 

「見たいもんは見れたか?」

「ええ、存分に」

「一つ、お聞きしてよろしいか?」

「構わんが」

 

今の手合せで若干、乱れた髪を手ぐしで整えながら二人を見る。

 

「李厳殿は何のために戦われる?」

「最近良く聞かれるなぁ・・・・」

 

苦笑しながら頭をボリボリとかく。

 

「俺はただ日々を精一杯生き抜きたいだけさ、自分に悔いだけは残さないように、さ・・・・大義とか理想とかそんな大層なもんはねぇし?本当なら太守とかそんなのは勘弁ってところだが・・・・俺が生きるために戦って着いてきた結果なら受け止めるっつーだけで」

 

ケラケラと笑いながら語るその姿を見て、二人は唖然とした表情で顔を見合わせる。

 

「今まで世で名の知れた領主たちにも同じ事を聞いて参りましたが・・・・」

「斯様な事を仰られたは李厳殿が始めてだ」

「他の連中に比べて異端だって自覚はあるがな、それでも俺はこの主張を変えるつもりは無い」

 

うん、と頷き合う二人。の合図を受けて囲んでいたメンツが二人の後で片膝をつく。

 

「李厳殿、何卒我らを」

「貴殿の部下としていただけませんか?」

「ヤダ」

『えぇええええええ!?』

 

即答された事に驚きを隠せない様子。

 

「俺のところの連中にも言ってるんだけどよ?部下は要らん、欲しいのは仲間だ。肩を組み共に歩む事が出来る仲間が・・・・さ、だから・・・・」

 

趙雲と、鄧艾の前へと歩み寄り、手を差し伸べて。

 

「仲間としてならば俺はおおいに歓迎する、趙雲、鄧艾」

「・・・・星、とお呼び下され」

「自分の事は優衣と」

「星に優衣だな、俺は信だ。宜しく頼むぜ」

 

差し伸べた手を星と優衣がガッシリと握り締める。

 

「宜しくお願いしまする、主」

「お、お願い致します・・・・ご主人、様」

 

何か女性比率高いよなぁ、とか思いながら再び空に舞う満月を見る信。そして同時に思い浮かべるは幼馴染の顔。どうやって説明しようか、と。そして確実に感じているのはあの殺気に再び晒されるのだろうなという事だった。




張遼に蒋欽、呉懿、諸葛亮、郭淮、趙雲、鄧艾・・・・敢えて言います、完全に作者の趣味で集められたメンバーです。とは言えしばらくはこれ以上増やす予定もありません、前回はそれで失敗していますしね。
次回からは暫し江陵移転後のお話になります。


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第十話:荊北同盟

星と優衣の二人にその配下の兵士100名を加えた信たちは、一路任地である江陵へと赴いた。

 

「麦城、夷陵の護りと長江の備えを持つ防衛拠点の色合いが強い城か・・・・穀倉の方はどうだ」

「はい、少々水害による被害が多い地域があり穀物に関しては取れにくい傾向にあるようです」

 

江陵に到着して三日、簡単な政務を霞、白夜、大我に任せ信は朱里、莉乃、星、優衣と共に領内の状況を把握する事に努めていた。

 

「先ずは水害対策が急を要するか」

「そう・・・・ですね、でなければ糧食を他領に頼る事になってしまいますしそれは・・・・」

「可能な限り避けたい、ですね」

「そうですなぁ、糧食を頼るという事は喉元に刃を突きつけられているようなものですし」

「それを盾に何を要求されるか」

 

一々弱みを晒すわけにもいかないのだから食料問題は急務である。

 

「ま、じゃあ当面は治水と・・・・あと食料対策だな・・・・」

 

ここは前世の知識を活用すべきではないだろうか、と考えている、と・・・・

 

「大将!!」

 

遠目から見ても分かる、大我が走ってくる、馬より早く。

 

「どうした大我」

「そんなに息を切らして走って来るなんて・・・・」

 

そして信と朱里は驚かない、が新参といっても差し支え無い莉乃と新参の星、優衣は驚きを隠せないでいる。

 

「今・・・・大我殿が馬よりも早く駆けて来たように見えたのだがな」

「私も見ました」

「では錯覚では無い、と」

 

「襄陽の劉表殿が直接、大将を訪ねて来てます!急いでお戻りを!」

 

襄陽太守劉表、襄陽、江夏、新野の三郡を治める太守であり王虎として幾度か力を貸した事もある人物だ。気前が良く何より皇族に連なるらしいのだがそれを感じさせない人柄を、人としての魅力を持つオジさんだ。

 

「分った、朱里と星、戻るぞ!莉乃と優衣は近隣住民に被害が生じる時の状況を聞き込んで置いてくれ!!」

 

―江陵

城の客間へと向かえばそこには霞と共に白髪頭にひげを生やしたオジさんが座っている。

 

「すまねぇ劉表さん!遅れちまった!」

「ははは、そこまで待たせられておらんよ。ベッピンさんに相手をして貰ってたでなぁ」

 

どうやら霞が劉表の相手をしていたようだ、しかも思ったより好評。

 

「それで、今日はどんな要件で来なさったんで?」

「うむ、李厳殿と同盟を結びたくての」

「同盟、ですか?」

 

コクリと肯く劉表。

 

「わしが治める襄陽、江夏、新野の三城と李厳殿が治める江陵を併せ荊北と呼ぶ」

「ですね、んでもって長沙、零陵、桂陽、武陵の四郡で荊南でしたっけ?」

「うむ、荊南は四郡の領主が争っており酷い有様だと言う・・・・じゃが荊北をそのような状況にはしたくない、故に同盟を結び和を以てして荊北を安んじたいのだ」

「・・・・条件は」

「ありゃせんよ、同盟を結べる事自体が実なのじゃからの。それにワシの娘が君を気に入っておる」

「・・・・劉埼ちゃんがですか?」

 

劉表の愛娘劉埼、劉表曰く『目に入れても痛くない』程可愛がっている娘だ。まぁ実際可愛いと思う。

 

「まぁそれはともかくとして、江陵の食糧事情も承知しておる。ならばそちらの状況が安定するまででもかまわぬ・・・・この話、受けては貰えんじゃろうか」

 

劉表という君主は、賢君としても有名であり実際、信もその通りだと思っている。その劉表が荊北の安定のためだけに同盟を組むか?否である。ならば何か思惑があるのだろうが・・・・少なくとも、想定出来る範囲内ではこちらに害が及ぶものは無い。

 

「分かりました、お受けします」

「ありがたい」

 

何よりその配下にいる黄祖、王威、韓嵩らの三人が敵対してもいないこちらに害の及ぶような行為を黙って見ているとも思えない。

 

「ところで此度の処遇を見るに黄巾の乱では大分大立ち回りしたようじゃのぉ」

「俺だけじゃないですよ、劉備、曹操、孫策が力ぁ貸してくれましたんで出来た事です」

「君は出会った時から変わらんな、直ぐに謙遜する・・・・まぁそれが美点であり張遼や蒋欽、呉懿、諸葛亮、趙雲、鄧艾、郭淮といった者も集まったのだろうが」

「俺には良くわかりませんや」

「それで良い、ところで話は変わるが・・・・」

「?」

「毎年我が襄陽で科挙を行っている事は存じ上げているな?」

 

科挙、まぁ現代で言うならば公務員試験のようなものだ。難易度は格段に段違いではあるが。

 

「当たり前でしょう」

「うむ、見たところ君のところには文官が不足している。同盟による利の第一弾として科挙合格者から人材を登用してみるといい」

「いいんですか?襄陽の強みでしょ?」

「だからこそだ、ワシなりの誠意と思ってくれ」

「・・・・じゃあ、ありがたく」

 

朱里と莉乃しか正文官がいなく、白夜、星、優衣に文官の真似事を何時までもさせているのも心苦しい。三人とも元々優秀な武官なのだから軍事方面で使った方が良いに決まっている。

ともかく、確か数日後には行われるはず・・・・準備を、と急ぐ信なのだった。




お気に入り登録者数100を突破!という事で読者の方々ありがとうございます。これからもなんやかんやで頑張って行きたいのでナガーイ目で見ていただければなと思います。


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第十一話:双龍邂逅

劉表の提案を受け襄陽を訪れている信、朱里、優衣。人選理由としては君主である信は当然として正軍師である朱里も当然である。優衣は生真面目であるが故に客観的な人物評を下せるため連れてきたのだ。

 

「さて・・・・と」

 

先ずは受験者名簿を見る、こういう時ぐらい前世の知識を使ったところで罰は当たらないはずだ。名の売れていた人物がいたならば直ぐに見るべきだ、と判断しよう。

 

「どれどれ」

 

王甫、郭嘉、賈充、陳羣、法正、まぁ中々・・・・・・・ん?チョットマテヨ?とするするとカ行まで視線を戻す。

 

「・・・・(  Д ) ゚ ゚」

「ご、ご主人様!?」

「主様!目!目が飛び出ております!」

「おぉう、すまんすまん・・・・」

 

あまりの出来事に思わず目が飛び出ていたようだ、郭嘉。史実で魏の曹操に仕えた軍師。神速の軍師と呼ばれ張遼と共に烏丸討伐に功を成した希代の名軍師。後年若くして病没し曹操をして『我が半身』、郭嘉がいれば赤壁の敗戦も無かったとまで言われる程だ。

それが何故襄陽にいるんだろう?と考え始めたがよく考えたらここは史実とはほぼ無縁のパラレルワールド、歴史にそぐわぬ事も平然と起こるのだろう。

 

「朱里、この五人の筆記試験の結果を見せてもらえるように手配してくれ。面接もこの五人だけで良いと伝えてくれ」

「分かりました」

 

タッタッと駆けて行く朱里を見送ると優衣が首を傾げている。

 

「何故この五人と?」

「まー・・・・勘みたいなもんかな」

「はぁ・・・・」

 

しばらくして朱里が試験官であった韓嵩を引き連れて戻ってきた。

 

「ご無沙汰しとりますなぁ、李厳さん」

 

エセ大阪弁のこの女性こそ劉表軍の文官筆頭、韓嵩である。

 

「ども、その節は世話になりました」

「そないに気にせんでもええんよ」

 

カラカラと笑いながらパサッと竹簡を渡してくる。

 

「それ、頼まれた子たちの筆記の結果や。いやーホンマええところばかり引き抜きますなぁ」

「そこはお目溢ししてもられると助かります」

「ま、ええでっしゃろ」

 

ヒラヒラと手を振りながら部屋を出て行く韓嵩。

 

「・・・・ふむ、まぁ読み通りか」

 

五人とも成績は良好である。と言うか筆記の成績が上位五位だ。

 

「優衣、スマンが一人づつこの部屋に呼んでくれ。残りの四人は隣の部屋に待機させておいてくれ」

「分かりました」

 

 

―一人目―王甫

先ず部屋に入ってきたのは王甫。史実でも目立った活躍は無かったが内政官としては優秀な人物だったと記憶している。今まさに欲しい人材である。

 

「お初にお目にかかります、王甫と申します」

 

自分と同じぐらいの青年、腰ほどまである長い髪と中性的な容姿、言われなければ男性だと分からないだろう。

 

「李厳だ」

「・・・・成程、貴殿が傭兵将軍」

 

少しの間、荊北の治安、内政などについて話をしたのだがそれだけでもかなり優秀だという事は分った。治水などに関して色々と学んでいる最中らしい。

 

「よかったらうちにこねぇか王甫、内政官も足りんがお前さんの治水の知識を貸して欲しいんだ」

「・・・・珍しいお方だ、他の領主様は皆『お前が働きたければ使ってやる』程度でしたのに」

「思ってる事を言ってるだけだぜ?」

「ふふっ・・・・分かりました、及ばずながらこの王国山、お力添えさせて頂きます」

 

―二人目―郭嘉

部屋に入ってきたのは眼鏡をかけた知的な印象を与える少女。

 

「郭嘉です」

「李厳だ、わざわざ来てくれて感謝する」

「傭兵将軍、ですか」

 

やっぱりその呼び名ってついて回るか、とか考えながら暫し軍略、戦術の話に没頭する。矢張り非凡だ、幾つかの自分独自の戦術を説明するとその穴をそらで言い当てて見せる。

 

「郭嘉殿、アンタさえ良けりゃ俺のところで働かないか?」

「私が、李厳殿の下で、ですか?」

「ああ、力のある人材ってのは幾らいても困らねぇもんよ」

「一つ、宜しいでしょうか」

「?何だ」

 

さて、郭嘉の問だ。

 

「既に李厳殿の下には諸葛亮殿がおります、私を引き入れた場合、頭脳が二つになった事で混乱が生じる・・・・とは思いませんか?」

「ふむ、それは凡庸な事だ。その混乱を生じさせず取りまとめるのが俺の、ひいては軍を率いる将の仕事だろう?少なくともその程度で混乱するような奴は俺のところにはいねぇ」

 

霞にしろ、白夜も、大我も、星も優衣の事も信じている。

 

「貴方のような方は初めてです」

「?」

「同じ質問を他の、私を召抱えたいという方にもしたところ『無論、郭嘉殿の意見を取る』と仰ってました」

「愚行だな、先任者を蔑ろにするのも悪し、新参を蔑ろにするも悪し、両者の顔を立てながら扱う事こそ器量だろう」

「はい、貴方にはその器量があります、故に仕えたいと考えます」

「お、じゃあ・・・・」

「はい、この郭嘉。誠心誠意、務めさせて頂きます」

 

―三人目―賈充

賈充、司馬昭の腹心であり魏帝廃位なども賈充が裏で様々に画策していたと言われている、どんな腹黒が現れるのだろうかと思った・・・・のだがポニーテールで小動物を思わせるような少女が現れた。

 

「・・・・(ぺこり)」

「珠月ちゃん!?」

 

現れた少女に驚いたのは朱里だ、話を聞くと賈充―――珠月は朱里の所属していた私塾での後輩らしい。朱里や鳳統、徐庶らが既に世間に出て活躍しているのを聞き自分も、と思って塾頭から許可を得て襄陽まで来ていたのだそうだ。

 

「・・・・(ごにょごにょ)」

「うん、うん・・・・ご主人様、珠月ちゃん。一緒に来てくれるそうです」

「あ、そうなの?んっと・・・・宜しくな賈充」

 

スっ、と手を差し出すとおずおずと手を握って来る。

 

―四人目―陳羣

陳羣、九品官人法を制定した魏きっての文官として有名な人物だ。

現れた女性は切れ長の眼、くせっ毛、童顔なのに出るところ出てる。のだが・・・・

 

「いーですよー」

 

一緒に働いてみないか?とのっけから訪ねてみてもそんな感じ、大丈夫だろうかこの娘。とも思ったのだが筆記の成績を信用してみる事にした。

 

―五人目―法正

法正。張松、孟達と共に劉備に蜀獲りを進めた人物。諸葛亮からもその智謀を深く買われており魏の郭嘉に比肩するとまで言われた賢人。こちらも郭嘉と同じく若くして病を得て没しており諸葛亮も鳳統か法正が生きていたならば関羽も死なず、関羽が死んでいたとしても夷陵の敗戦も無かったとの事だ。

 

「アンタが李厳か」

 

現れたのはオールバックに無精ひげ、サングラスと絵に書いたような不良だ。

 

「ああ、俺が李厳だ」

「俺が法正だ」

 

だがただの不良にあの成績が弾き出せる訳が無い、と戦術論を交わしてみる・・・・と矢張りただの不良では無い、先に話をした郭嘉や朱里に迫るものがある。

 

「なぁ法正、俺と一緒に来ないか?」

「実に魅力的な誘いだ・・・・が、俺に利点が無い」

「利点、ねぇ・・・・俺と一緒に戦える、ってのじゃダメか?」

 

キョトン、とした表情をした法正。

 

「っ・・・・ふっはははははははは!!!イイねぇ、そういうの嫌いじゃねぇや」

 

ゲラゲラと笑い出す法正が、スっ、と手を差し出して来る。

 

「改めて、俺は法正、真名を涼紀。アンタになら預けられるぜ」

「じゃあこちらも改めて、李厳。真名を信だ・・・・宜しく頼むぜ相棒」

「相棒、か・・・・悪くねぇ響きだ」

 

後に、『荊楚の双龍』と呼ばれる李厳と法正の出会いであった。




修正前から読んでいる方には懐かしいでしょう涼紀の登場です。後々信の義兄弟になるという設定はありませんが性格は180度変わってしまいました。優等生タイプが不良タイプになりました。


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第十二話:激怒

『司空董卓は私腹を肥やし朝廷を我が物かのように操り、更に先帝陛下、少帝陛下を殺害した。これは許されざる事か?否。漢に住まう者として我袁紹はこの暴挙を許す事は出来ない。故に四海の諸侯にこの義挙を呼びかける。心有る漢の忠臣達よ、今こそこの袁紹と共に大義を取り戻すのだ』

 

そんな檄文が大陸全土へと散蒔かれた。

 

―江陵城

例に漏れず信の下にも届けられた檄文だったが、それを読むうちにプルプルとその手が震えだす。

 

「・・・・・・あるか」

 

この事態に霞、朱里を筆頭として大我、白夜、莉乃、星、優衣、戒音(王甫)、稟(郭嘉)、涼紀(法正)、珠月(賈充)、六夏(陳羣)の全主要文武官が集められていた。

静かに、主君の言葉を待っていたところ響いてきた声に全員が首を傾げる・・・・霞以外は、だ。

そして霞は直感した、今信はキレかけていると。

 

「んなわけがあるかぁああああああああ!!!」

 

建物の柱すら揺るがすような大声に、思わず全員が耳を塞ぐ。

 

「董卓が!月が先帝、少帝を殺害し朝廷の実権を握るだと!!?あの娘はそこまでしたたかでは無いし、そこまで私欲塗れでは無い!!!」

 

何度かこの光景を目撃している霞と、飄々とした態度でそれを眺めている星と涼紀以外は恐々としている。

 

「・・・・ハァ、ハァ・・・・」

「気はすんだか?ご主君」

 

そこで涼紀が前へと歩み出る。

 

「どうやらご主君と董卓殿は真名を預け合う程の旧知のご様子、それ故に今回の事に立腹するのも当然だ」

 

この語りかけは信にだけでは無い、他の者たちにも落ち着かせるために聞かせている。

 

「だが憤慨するだけでは何も変わらぬ、董卓殿を援護するなら援護する、他の方策を立てるならば立てるで動きたいと思うが・・・・どうだろうか?」

「・・・・そう、だな・・・・すまん、涼紀」

「いやいや、これも軍師の努めってやつで」

「皆もすまん、みっともなく取り乱した」

 

頭を下げて謝る信。

 

「いえ、むしろ珍しいものを見れました」

 

笑いながらそういうのは星だ。

 

「どういうこった?」

「幼馴染である霞はともかく他の者から主は雲の上の存在のように見られていた事、ご存知ですかな?」

「え?そうなの?」

 

周囲を見渡す、皆言葉にはしないがそれに同意しているようだ。

 

「ですが今の事で、主も我々と同じ人なのだと感じる事が出来ました」

「喜んで良いのか?それは」

「少なくとも私は、主から離れる気がしなくなりました」

『!?』

 

その言葉に少なくとも霞、朱里が動揺を見せる。

 

『妬ましや』

 

そして気のせいか白夜と戒音から殺意がむき出しになる。

 

「ともかくだ、ここからの指針を決めようと思う。皆の意見を聞かせて欲しい」

 

信が皆を見回すと、先ずは涼紀が前へと歩み出る。

 

「愚考ながら、先ず現状を整理しましょうや」

「現状?」

「はい、俺たちの勢力は今のところ安全圏にあります。周囲に驚異となる大勢力は無く、近しい同盟者に劉表殿もいます・・・・まぁ連合を敵に回しても攻撃される事ぁねーでしょう」

「ふむ」

「ですが万に一つ、連合が軍を割ってくると非常に危険になる。俺らだけなら逃げ出しても良いですが劉表殿が先ず矢面に立たされます、しかも噂通りの御仁ならばこちらを見捨てず迷わずに立ち向かうでしょう。そいつは上手く無いし宜しく無い」

「そうですね」

 

今度は稟が涼紀の隣へと歩み出る。

 

「それに信様は確かに董卓殿がどういうお方かを知っていらっしゃいますが世間はそうではありません、袁紹の戯言を間に受けるでしょう。その場合、連合に反旗を翻せば『李厳は天子に弓引く謀反人』とされてしまいます」

「それは・・・・私たちにとっても、先に涼紀さんが言った通り劉表さんにも莫大な不利益を被る事になります」

 

今度は朱里が口を挟む。

 

「ねーねー」

 

議論が困窮してきた中、六夏の呑気な声が聞こえてくる。

 

「ちょっと思ったんだけどさー?」

「どうした?」

「董卓様の顔知ってる人って連合参加者にどれぐらいいるのー?」

「?多分知ってても曹操ぐらいか・・・・!!」

「んふふふふー」

「そうか、その手が・・・・!!」

 

時々、六夏は普段の言動から想定出来ないぐらい奇抜な案を出す時がある。

 

『?』

 

六夏以外・・・・いや、涼紀だけは想像がついたようだ。

 

「連合には参加する、が・・・・月たちは助け出すぞ!」

『・・・・・!え、えぇえええええええええ!!?』

 

僅かな間、の後に叫ぶ一同。

 

「ちょっ!そんなのバレたらどうするんすか!?」

「劉表さんにも事情を説明して手を組めば良いさ」

「無茶です!どうやって連合の目を出し抜いてそんな真似を!!」

「曹操、孫策、劉備に事情を話して手伝って貰う」

「さり気なく他力本願じゃないですか!?」

「いんや?俺ら主導だ」

『董卓って可愛いですか?』

「メッチャ可愛いぞ」

『み・な・ぎ・っ・てキタ――(゚∀゚)――!!』

 

次々と抗議する一同、最後は違かったが。

 

「上手くやれるさ、俺らなら」

 

最初の動じまくってたのとは違い、自信に満ちあふれた眼差しで語り掛ける。

 

「異論が無けりゃ編成を発表する」

 

全員が、無言で頷いたので・・・・

 

「朱里、涼紀、稟、珠月、莉乃。編成の相談をする、付いてこい。他は待機」

 

信が軍師五人を引き連れて別部屋で相談を開始して僅か四半刻。

 

「編成が決まったから発表する!」

 

「先ずは兵数だが守備に二万を残し残る一万五千で出陣する!」

 

江陵軍の兵数は三万五千、その気になれば六万は集められたが今はその時では無い、との信の判断でこの規模に収まっている。

 

「次に遠征軍に随行する者を呼ぶ」

 

竹簡を取り出す信。

 

「先ずは軍師、諸葛亮、法正、郭嘉」

「は、ひゃい!」

「おいーっす」

「はっ!」

「将は張遼、趙雲、鄧艾!」

「おっしゃ、任しとき!」

「ふむ、ご期待に答えましょう」

「誠心誠意、努めさせて頂きます!」

「次に留守居、責任者は蒋欽!」

「しかと留守を護ります」

「内政責任者、王甫、陳羣」

「次につなげるようにしておきましょう」

「はーーい」

「軍師に郭淮、賈充」

「お任せあれ」

「・・・・(頑張る)」

「将に呉懿」

「武官俺一人っすか・・・・まー頑張るっす!」

 

くるくると竹簡を丸めて卓に置く。

 

「これまで以上に厳しい状況になってくるだろうが・・・・皆がいりゃ何とでも出来らぁ!!気合入れてけ!!」

『応!!!』

 

反董卓連合、前世の知識と今世の現実、その狭間に苦しみながらも出陣を決意した信。向かうは国門虎狼関、一体何が待ち受けているのだろうか・・・・



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第十三話:荊揚同盟

―襄陽城

洛陽方面へと向かうにあたり、最も警戒しなければならないのは荊南の豪族連合の存在である。白夜に莉乃、珠月がついていれば先ず憂いはさほど無いのだがもしもの場合も考えねばならないわけで。

 

「と、言うわけで申し訳無いんですが俺が留守の間の事をお願いしたいんです」

 

同盟勢力である劉表へと事情を説明し、また留守中の事も任せる事にしたのだ。

 

「よいよい、ワシも董卓ちゃんの事は気にかけておったのじゃ。しっかり助け出して来てくれ」

 

意外だったのは劉表が月と面識があったという事、どうやら月の父と親交があったらしいのだ。

 

「あ、正方だ」

 

山吹色のポニーテールを靡かせながら、廊下から駆け込んで来た少女。

 

「お、劉埼ちゃんじゃねーの。元気してたか?」

 

劉埼、劉表の娘。史実では聡明だが病弱であったが故に早死してしまったらしいのだが・・・・ものすんごい元気っ娘だった。

 

「元気よー?何でここにいるの?」

「実はな」

 

事情説明中。

 

「ふーん・・・・」

「?」

 

妙な言葉の間に、多少嫌な予感はしたものの面倒な事は無いだろうと・・・・ここで思ってしまったのが間違いだった。

 

―三日後―宛城近郊

 

「ゴメンナサイゴメンナサイゴメンナサイ」

 

ふてくされた面をする劉埼の隣で土下座をしながら全力で謝る女性、名を伊籍。劉埼の教育係・・・・もとい遊び相手。劉埼に振り回されっぱなしの苦労人である。

 

「あー・・・・ったく、仕方ねぇな・・・・星、スマンが二人の護衛を任せる。張翼と高翔を付ける」

「承知しました、任されましょう」

 

ここから戻らせるわけにもいかないので伝令を出して劉表にこの事を伝え、劉埼と伊籍を星に護衛させる事にしたのだ。

 

「星、兵一千を任せる」

「御意」

 

遊撃、の名目で上手く安全に動き回る事が出来るのが趙雲という将だ。上手く立ち回ってくれるだろう。

 

「主様」

 

不意に、優衣から声をかけられた。

 

「どした?」

「孫の旗が近づいております」

「孫策か・・・・良し、合流するように行軍しよう」

 

―四半刻後

 

「ひっさしぶりねー♪元気そうじゃない」

「互いにな、まぁお前は殺しても死ななそうだが」

「言ってくれるじゃない?」

「っつーかわざわざ宛城周りで来る必要はねーだろうが」

 

孫策の居城は秣陵、連合の集合地点である中牟の地には寿春を経由し陳留を通過すると一番近いのだ。が宛城に回ってくるというのはちょっとした遠回りになっているわけで・・・・

 

「貴方に会いに来たのよ、李厳」

「あ?何でよ」

「同盟を結んで欲しいの、私たち秣陵軍と貴方たち江陵軍で」

「成程ね、長江を通しての相互援護も可、俺たちは荊南を取るつもりだしお前さんらは揚州を取るつもりだから連携も後々組み易い、と」

「流石だな、傭兵将軍は。一を聞いて十を知るとはこの事だ」

 

不敵な笑みを貼り付けて現れた女性。

 

「周瑜か、俺をそこにいるバカ(いのしし)と一緒にするな」

「ふむ、確かにそうだな。失礼した」

「ねぇ?私バカにされてるの?」

 

ケラケラと笑う信と周瑜。

 

「まぁ返事は応諾しておこう、こちらにも利益がある。後日文書にまとめよう、留意事項もあるだろうしな」

「うむ、では後日に」

「・・・・なぁ周瑜、こんかいの連合をお前さんはどう思うよ?」

「実を取る戦いだと心得ている」

「成程・・・・ちょいと話があるんだ、そっちにも損はさせねぇ」

「聞かせて貰おう」

 

信、事情説明中。

 

「ふむ、ならば乗らせて貰おう。そちらの策に乗りながらならばこちらの目的も達し易い」

「そうね、何より袁紹のアホを出し抜いて、って言うのが良いわね。」

「おっしゃ、交渉成立だ。諸葛亮に担当させるから二人で話して条件なんかを突き詰めてくれ。」

「分った、宜しく頼むぞ諸葛亮」

「は、ひゃい!?こちらこそ宜しくお願いしましゅ!」

 

荊揚同盟、のちのちの事を考えるならば確実に結ぶべきだとかんがえていたのだ。それをあちらから話を持ちかけてきてくれるならば願ったり叶ったりというところだ。

 

「出来れば曹操と劉備も引きずりこんで置きたいところだな」

「あら、選別理由は?」

「北を制するのは遅かれ早かれ曹操だろうからな、ならば後方に憂いが無いと腰を据えて貰えればこちらも猶予が出来る」

「劉備の方は?」

「将来性、かな・・・・うちの諸葛亮と本人曰く同等な鳳統に徐庶、そして関羽、張飛の剛勇・・・・何より劉備と一刀の持つ人気(じんき)は計り知れない、今のうちに恩を売っとくに限るんだよ」

『成程』

 

関心した顔で・・・・気がついたら囲まれている。

 

「こちらは?」

「あ、紹介するわ。陸遜と呂蒙、甘寧に周泰よ」

「ほう、新顔を並べて来たか。孫権とか黄蓋は留守と」

「ええ、何時までも古株が頑張ってちゃダメだから新人組で固めたわ」

「うちも似たようなもんだしな、まー・・・・行くか」

「そうねー」

 

轡を並べ馬を歩かせる信と孫策、虎狼関にて待ち受けるは・・・・?




次回から本格的な虎狼関編です。


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第十四話:やってやんよ

中牟に到達した信たちであったが・・・・予想外の袁紹のバカぶりにあきれ果て軍議に色々と口出しした結果、江陵軍と平原軍が先陣を切らされる事になった。そしてあてつけのように両翼に陳留、秣陵軍が配備された。

 

「悪い、先陣押し付けられた」

「それで信様はどのような返事を?」

「『やってやんよ!m9っ`Д´)』って」

『バカですか(なん)!?』

「さーせん」

『ああん?』

 

適当な謝り方をしたら霞が応龍を、星が龍牙を、優衣が黒翼(大剣)を構えて凄んでいる。

 

「申し訳ありませんでした!(土下座)」

「でもご主人様らしいですよ、良いと思います」

「ですなぁ、ご主君らしい。それが宜しい」

「そうですね、信様は信様らしくしていれば宜しいかと」

 

と、フォローを入れられ安堵する。

 

「ともかく、だ。図らずとも黄巾の時と同じで俺、劉備、曹操、孫策ってぇ組み合わせになった」

「本当、偶然が過ぎますなぁそれは」

「でだ、出陣に入用だーっつって酒をかっぱらって来たんでこの後四軍合同で出陣前の飲み会だ」

『酒!?』

 

過敏に反応した者、三名(霞、涼紀、星)。

 

―夜―江陵、平原、陳留、秣陵四軍合同夜営

既にあちらこちらで飲み始めている各軍の兵士たち。一方首脳陣たちは中央に円陣を組んで集合していた。

 

信、霞、朱里、星、優衣、涼紀、稟ら江陵軍。

劉備、一刀、関羽、張飛、鳳統、徐庶、周倉ら平原軍。

曹操、夏侯惇、夏侯淵、曹休、荀彧、程昱、曹仁ら陳留軍。

孫策、周瑜、陸遜、呂蒙、周泰、甘寧、魯粛ら秣陵軍。

 

総勢28名がこの場に集い、それぞれに盃を持って座す。

 

「全く、因果なものだな。あの時の四軍が再び手を組む事になるとは」

「でもでも、皆さんと一緒だとすごく心強いですよ!」

「だな、あの時を思い出すよ」

「でもあの時とは違うわ、将も、兵も、皆が皆、少しづつ変わったわ」

「でも決定事項よ、私たちが明日の先鋒戦に勝つわ。これはその景気づけ」

 

ニヤリと笑い合い、全員が盃を掲げる。

 

『乾杯!!!』

 

あれから半刻がたつがかなりあちらこちらでできあがっている。

 

「成程、良いわ。その話を受けましょう」

「成立だな、劉備はどうする?」

「うーん・・・・分かりました、お受けします」

「おし、って訳でだ・・・・基本董卓陣営は優秀な連中が多い。方針としては可能な限り捕縛、各陣営に組み込んでくれ」

「ただし董卓と賈駆は譲らない、と」

「ああ、中央から離れている江陵だと身分を隠すにも楽だろうし個人的にもこっちにいてくれれば安心だ」

「ねぇ、董卓って可愛いのかしら?」

「・・・・おいコラ元中央官吏、何で同じ職場の人間の顔を知らねーんだよ」

 

不意に、真面目な顔でそんな事を問いかけてきた曹操にツッコミを入れる信。

 

「顔は知っているかもしれないわ、でもね・・・・名前と一致しないのよ」

「威張る事じゃねぇよ・・・・っつーかよく考えたら皇甫将軍とか朱儁とか出て来るんじゃねぇの?」

 

かつて黄巾の乱で指揮をとった中央の三老将、盧植は黄巾の乱後直ぐに引退したと聞いているので出てくるとすれば皇甫嵩と朱儁だけだ。

 

『飲めや歌えや騒げやぁあああああ!!!!!』

 

各陣営の武力担当筆頭(霞、張飛、夏侯惇、孫策)が既に大暴れし始めている、最早気がついたら話の方に混ざっているのは魯粛の方だ。

 

「・・・・あの阿呆は・・・・どうして他所の子と一緒になってはしゃぎ回るかな・・・・」

 

はぁ、とため息をつきながら頭を抱える魯粛、髪の毛が白いのだが・・・・孫策によるストレスが原因なんじゃないかと思いたくなってくる。

 

「それで、傭兵将軍に伺いたいのだけれども・・・・明日はどう攻めるつもり?」

「ああ・・・・選択肢は二つだな」

「二つ?」

「一つはあちらが虎牢関に篭った場合・・・・なんだが正直こうなったらお手上げだ」

「そうなのか?」

「まぁな、俺お得意の奇襲を仕掛けようにも両脇は断崖絶壁、軍を迂回させようにも日数がかかる上に迂回路はあちら(董卓軍)の本拠と洛陽を結ぶ道だ、当然あちらも警戒しているだろうしそれなりの人物を配置しているだろう・・・・軍師賈駆ならなおさら、な」

 

詠(賈駆)の軍略は派手さは無い、がその分裏で様々な手を回しているため細かなところでは他の軍師よりも上だと信は考えているのだ。

 

「まぁ其の辺はここに集っている頭脳労働担当たちに任せるとしようか、後は俺たちが現場で判断していけば良いわけだし」

「そうね、ところで李厳」

「?」

「あの娘は・・・・どこのどちらかしら?」

 

曹操が指差すのは劉埼。

 

「お前、本当に不良官吏だな。劉表の娘、劉埼だ。となりにいるのが世話係の伊籍」

「何故いるの?」

「かくかくしかじか」

「わかるわけないでしょうが」

「・・・・とにかくだ、話を戻すがあちらが僅かな確率でうって出てきた場合」

 

その言葉に、話を聞いていた朱里、稟、曹操、曹休、荀彧、周瑜、魯粛、劉備、一刀、鳳統、徐庶が一斉に首を傾げる。

 

「そもそもうって出てくる訳が無いでしょう」

 

曹操の言葉に、ほぼ全員が同意するが信は首を横に振る。

 

「有り得る、最前線に華雄がいた場合かなりの確率で」

「・・・・どういう人物なの?勇将、という話は聞いているけれど」

「そうだな・・・・」

 

チラリ、と孫策と夏侯惇を見る信。

 

「夏侯惇みたいな奴だと思ってくれれば良い」

『ああ・・・・』

 

宴会前の軍議で、夏侯惇は『このような戦、真っ向から敵を叩き伏せればいいのだ!!!』などと的はずれな事を言って曹操に窘められ荀彧に罵られ夏侯淵に叱られ曹休に叩かれていたのだ。

 

「恐らくちょっとした挑発でガマンできなくなって味方の静止すら振り切って突撃してくるだろう、そこが付け目だ。董卓たちを救出するには先ず洛陽前まで攻め込むのが前提条件だからな・・・・」

「李厳殿は董卓軍の陣容をご存知なのだな?」

 

魯粛の問いかけに肯く信。

 

「如何なる将がおられるか」

「んー・・・・軍師賈駆、飛将軍呂布に軍師陳宮、張繍に李儒、徐晃、高順、徐栄が主な将だな。俺の知らぬ間に増えている可能性もあるが・・・・」

「なら張繍、徐晃は欲しいわね」

「こちらは李儒、高順だな」

「うーん・・・・私たちは味方になってくれるなら誰でも・・・・」

「だよなぁ・・・・今はとにかく人手が欲しいし・・・・」

 

明日、虎牢関の戦いが幕を開ける・・・・・・・・



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第十五話:李厳の底力

―虎牢関攻め初日―連合軍先鋒幕舎

信、朱里、稟、涼紀、曹操、曹休、荀彧、劉備、一刀、徐庶、鳳統、孫策、周瑜、魯粛、陸遜らが集まり斥候からの情報を元に作戦会議を進めていた、星、夏侯惇、関羽、甘寧らが一応武官側として参加している。

 

「細作からの情報によれば虎狼関を護るのは華雄、呂布、張繍、高順、徐栄、徐晃、皇甫嵩の七名に軍師陳宮との事、兵数は八万です」

 

凛から告げられた董卓軍の陣容に眉をひそめる信と曹操、二人共皇甫嵩には恩もあれば尊敬もしている。将とはこうあるべきだ、という規範だとすら思っている人物だ。

 

「対するこちらは将の数は勝るが兵数が劣ると」

 

対する連合先鋒は江陵軍一万五千、陳留軍二万、平原軍一万、秣陵軍一万の計五万五千。将の数はいるがそれを活かすだけの兵力が無い。

 

「さて、ここは名の知れているメンツに意見を求めましょうか?傭兵将軍、臥竜、鳳雛、美周郎」

 

指名されたのは信、朱里、鳳統、周瑜の四名だ。

 

「・・・・華雄がいるが・・・・皇甫嵩将軍がいる、あの人がどの程度華雄を御するかだな」

 

皇甫嵩の手綱の引き方が完璧であったならば間違い無く華雄を引きずり出せない、が一分でも緩みがあれば間違い無く引きずり出せる。

 

「狙い目は華雄さんでしょうか・・・・」

「ふむ、華雄が噂通りの猪であるならば問題は無いが・・・・」

「華雄さんを御するだけの力が他の方にあるならば難しいかもしれません・・・・」

「・・・・いや、引きずり出せるな・・・・」

『え?』

「大丈夫だ、華雄を引きずり出せる前提で策を立てよう」

「宛はあるのか?李厳」

「秘密、だ」

 

ピッ、と口元に指を一本立てて笑う信。

 

「・・・・承知、ならば華雄を引きずり出せる前提で策を立てるとしようか、臥竜、鳳雛」

「は、ひゃい!」

「分かりましゅた!」

 

朱里も鳳統も元気よく返事はしたが噛んでいる。

 

「あ、そうだ・・・・悪いが先陣は『王虎』で貰うぜ」

「あら、解散したわけではなかったのね」

「元々の王虎の連中は俺と張遼、呉懿、蒋欽の部隊にバラけてるからな・・・・その中でも俺のところが一番数が多いんだ」

「どんな感じかしら?」

「ガラは悪いが実力は折り紙つきだ」

 

唯一の問題は指示には従ってくれるが脳筋だらけだという事ぐらいか、信たち指揮官が不在だと命令出来る奴がいないのだ。代理指揮官の育成も急務だろうか、とか考えている。

 

「先鋒は構わないが・・・・華雄を引きずり出した場合、その救援に他の六将が出てくる場合がある・・・・その時の担当を決めて置くべきだろう」

 

周瑜の提案も至極全うだ、組んで戦う以上、手柄を争っての内部分裂など避けねばならない事であり、最初から誰が誰と相対するかを決めておけば其の辺の面倒も無くなるのだ。

 

「ならば張繍と徐栄は陳留軍で受け持つわ」

「じゃあ高順と華雄は私たち秣陵軍ね」

「ううう、皇甫嵩さんと徐晃さんが相手になるんですか・・・・」

「という事は呂布将軍を・・・・江陵軍でですかぁ!?」

 

素っ頓狂な声をあげる朱里、無理も無い。飛将軍とあだ名され黄巾の乱では一人で三万を相手にしたと言われる恋の相手だ。

 

「いや・・・・呂布は俺が相手をする、朱里たちは周囲の兵を抑えて陳宮を牽制してくれ」

 

その言葉に、全員が息を呑む。

 

「待てご主君、それはいかん」

「そうです!信様のお身体に何かあってからでは・・・・」

 

涼紀と凛が直様異論を挟む、勢力の当主であり、四軍の要でもある信。それがまかり間違って討たれるか捕縛されるような事になれば瓦解は必須、傭兵将軍として名が売れているからなおさらだ。

 

「駄目だ、俺以外じゃ相手にならん」

 

その言葉に、当然のように星以外の武官たちが異論を挟む。

 

「お待ち頂こう李厳殿、貴殿にどの程度武の心得があるかは存じ上げないが我々を軽んじ過ぎでは御座いませんか?」

 

先ずは関羽だ。

 

「その通りだ!我々とて常日頃、このような時のために研鑽を積んでいるのだぞ!!?」

 

続いて夏侯惇。

 

「それを相手にならぬ、と断じられては我らの立つ瀬が無い」

 

最後に甘寧が閉める。

 

「・・・・成程、お前らの言い分も最もだ」

 

ため息を一つついて、立ち上がる信は、真っ直ぐに幕舎を出るように歩き出す。

 

「ついて来い、機会を与えてやる」

 

全員が幕舎の外の、開けた場所へと集まる。

 

「そうだな・・・・孫策」

「へ?」

「俺がコイツラ三人の攻撃を防御、回避し続ける、お前から見て『この三人では李厳に敵わない』と思えたら止めてくれ」

「その条件で大丈夫なの?私結構ギリギリまで見るわよ?」

「構わん、それぐらいでなければこの三人は納得しないだろう」

 

風雅を肩に担ぎ、笑う。

 

「その言葉、後悔無きよう」

「ふん、目にもの見せてくれるわ!」

「・・・・参る」

 

それぞれ青龍偃月刀、七星餓狼、覇海を構える関羽、夏侯惇、甘寧。

 

「どっからでも来い」

 

その言葉と同時に三人が動きだした・・・・

 

―四半刻後―

全員が、信じられないものを見るような目で目の前の光景を見ている。

 

「どうした、息が上がっているぞ」

 

一方的な攻めで痛い目を見せてやろう、そんな意気込みで挑んだ関羽、夏侯惇、甘寧が既に肩で息をするほどに消耗している、対する信に疲れは見えない。

 

「バカな・・・・我々三人で攻めて・・・・」

「掠りもしないだとぉ・・・・」

「有り得ない・・・・奴は化物か・・・・」

「・・・・それまで!」

 

ここでようやく孫策が止めの合図をかけた。

 

「さぁ、これで文句は言わせねーぞ」

 

最早異論を唱える者はいない、世間一般にも名が売れている美髪公、魏武の大剣、鈴の甘寧の三人をまるで弄ぶかのように相手取って見せたのだから・・・・が、異論は確かに無い、しかし・・・・

 

「!?」

 

ぞわっ、とする感覚に視線を向ければ孫策、張飛が眼を輝かせている。『戦いたい』と目が語っている。

 

「ともかく!俺が呂布を押さえ込む、後は任せるぜ」

『応!』

 

―半刻後―虎牢関前

ぶっちゃけると乱戦の様相を呈している、霞、孫策、荀彧らによる挑発により思いっきり突撃してきた華雄、を援護すべく他の六人が更に出撃、関門の守備は陳宮が行っている状態だ。

 

「おう、恋」

「・・・・信」

 

既に曹休が張繍と、夏侯惇が徐栄と、孫策が高順と、甘寧が華雄と、皇甫嵩と関羽が、徐晃と張飛がガッシリと組合ってにらみ合いつつ互いに干戈を交えてえいる状態だ。

 

「すまんがお前の相手は俺だ」

「・・・・信が?」

「ああ、俺じゃ不足か?」

「・・・・(ふるふる)、信、強い。戦うの、楽しみ・・・・でも・・・・」

「安心しろ、お前の仲間たちは誰一人殺すつもりは無い・・・・」

「・・・・・・そうなの?」

「まぁな、だから安心して俺と戦ってくれや」

「・・・・(コクリ)」

 

静かに、信と恋が武器を構える。

 

「勝負!」

 

―四半刻後―

怒号が飛び交い、血飛沫が舞い、兵たちが干戈を交えるのが戦場である。だが今この時、戦場の全てが一つの光景に魅了されていた―――今の中華で誰もが知る二人の将軍の一騎打ち。

 

片や、戦場において神算鬼謀、他者の虚を突く戦術で数々の戦を勝利に導いた傭兵将軍、李厳。

 

片や、戦場において一騎当千、圧倒的な武威で全てを屠り払う飛将軍、呂布。

 

武将と言うよりも知将としての印象が強い李厳が武の結晶である呂布に打ち負けずに戦い続けている。

 

この二人の一騎打ちは、それそのものが正しく芸術のような美しさを醸し出しており将も、兵も、軍師ですらもその光景に魅入る事しか出来なかった。

 

「っ・・・・」

 

しかしその光景に僅かな綻び、息が乱れ始めた信の、動作のリズムに僅かなズレが生まれた。

 

「・・・・・!!!」

 

その隙を見逃さず攻めを早くする恋。

 

「・・・・ふっ!!」

 

上段からの振り下ろし、それを防御する・・・・が。

 

「あ」

 

受け止めた瞬間に、感じた違和感。腕の力が抜ける、当然と言えば当然だろう、信の武の力量、身体能力が一般のそれを上回っていたとしても更にその上の恋と互角以上に打ち合い続ければ限界はあっという間に訪れる。

 

肩に刃が食い込み、自らの胴に袈裟懸けに走る熱い感触。

 

「あー・・・・っくしょう・・・・」

 

ガクッと崩れ落ちる膝、そのまま地面へと、ゆっくりと倒れ伏した。

 

「し・・・・ん?」

「ご・・・・・主君?」

「ある・・・・じ」

「嘘、で・・・・しょう?」

 

近場で戦っていた霞、涼紀、星、優衣に動揺が走る、そしてそれは他の将たちにも言える事だった。

 

―先鋒本隊―

前線の異様な静けさは、ここからでも感じ取れた。

 

「・・・・何が、あったというの?」

 

一番に声を発したのは曹操だった、他の誰もが前線から伝わる空気に動くどころか言葉を発する事すら出来ずにいるのだ。

 

「で、伝令!!李厳将軍が斬られました!!生死は不明!!」

 

その言葉に、朱里、稟の二人が崩れ落ちる。

 

そして曹操、周瑜が唇を噛み締め、他の軍師たちにも動揺が走る・・・・ただその中で、一人一刀だけが平静を保っている。

 

「・・・・」

 

一刀の頭に思い返されるのは黄巾の乱の頃に、信に修行を付けられていた時の信の言葉。

 

『俺は死なない、ってか死ねない・・・・何せ護りたい奴らが多いんでな』

『でもさ、この乱世だぞ?何があるか分からないだろ?』

『確かにな、それでも俺は死なん。だって俺は・・・・』

 

「情け無い姿は見せないんだろ?こんなところで死ぬなよ・・・・信」

 

―前線―

 

「よくも信を!!ウチが信の仇ぃ討つ!!」

「生涯で、ただ一人主足り得ると思った御仁・・・・その仇を討たずして何が武人か・・・・」

「自分の事を認めて下さった主様・・・・その仇、討たせて頂きます!」

 

敵わない、そうだと分かっていても三人には立ち向かう以外の選択肢は浮かばない。

 

「・・・・迎え討つ」

 

それぞれの獲物を振り上げて、立ち向かおうとした三人・・・・

 

「待て、って・・・・」

 

聞こえてきたその声に、三人どころかその場の全員の動きが止まる。

 

「俺は・・・・死んでねぇってーの」

『信(主)(主様)!』

 

驚きつつも、その生存を喜ぶ三人、そして普段無表情とも言えるその顔に驚きを隠せずにいる恋。

 

―同刻―虎牢関付近の断崖上―

 

「信、君へのプレゼントその参・・・・」

 

不敵に嗤うは伏羲。

 

「君に宿るは戦神の魂、不屈の闘志、それに見合う生命力・・・・今の君は鬼神にだって、武神にだって負けやしないさ」

 

―前線―

立ち上がった信、だがその足取りはふらついている。

 

「・・・・信」

 

自らを呼ぶ恋の声に、ふっ、と笑みを浮かべる。

 

「終われねぇ・・・・」

『?』

 

「終われねぇよなぁ・・・・」

 

信のつぶやき、聞く事は出来ても意味を理解する事が出来ない。

 

「だがよ・・・・こっからは・・・・初めてだろうが」

 

ヒュん、と風切り音を立てて振り下ろされる風雅、それを払うでもなく方天戟で受け止める恋。

 

「・・・・首はもらわんが・・・・この戦、勝たせてもらうぞ」

 

信は風雅を片手で持っている、左手は傷を抑えているので右手のみでだ。

 

「?・・・・!?」

 

だが両手で方天戟を持つ恋が、圧され始めた。

 

「嘘・・・・でしょ?」

「どこからあんな力が・・・・」

 

徐々に徐々に押し込まれる風雅。

 

「恋・・・・俺の勝ちだ」

 

恋の持つ方天戟ごと押し込んで振り抜かれた風雅、倒れこむ恋。

 

「・・・・董卓軍が将、呂布・・・・この李正方が倒したぞ!!!」

 

グッ、と握り拳を天へと突き上げる。

 

『うぉおおおおおおおおおおおおおっ!!!!!』

 

連合軍全体から巻き上がる歓喜の叫び、それは紛れもなく信を讃える雄叫びであり・・・・荊楚の戦神が誕生した瞬間でもあった。



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第十六話:双龍の契

結局、呂布の他に高順、張繍の二将と呂布救出のためにうって出てきた陳宮の四名の捕縛に成功、更にその間隙を突いて曹操、孫策の両雄が虎牢関を陥落させ董卓軍を洛陽まで後退させる事に成功した。

 

―先鋒幕舎―

既に治療を受けた信は霞、朱里、星、優衣、稟から説教を受けた後に何故か曹操にまで説教を受けてからこの幕舎へと戻ってきていた。そして今現在その目の前には恋と音々が座っている。

 

「つまり・・・・月を救出する手立てとして虎牢関突破を図った、と言う事なのです?」

「ああ、だって間者出してもお前と詠が防衛網張ったらすり抜けられねぇし」

「むむむ・・・・仕方無いのですね」

 

最初は「裏切り者!」とか言っていた音々に事情を説明すると、落ち着いて状況を把握、整理してくれている。

 

「でだ、出来れば俺に協力して欲しいんだが・・・・月と詠に関しても救出後はこっちで保護するつもりだし」

「む・・・・あのダメガネが一緒なのは気に食わないのですが・・・・恋殿はどうなされます?」

 

ここでようやく、音々が恋へと意見を求めた。普段は自分が表立ってギャーギャー喚くもののこういう時は主である恋をしっかり立てる。

 

「・・・・(コクリ)、信と一緒に、行く」

「と、言うわけなのです!」

「おっし、話はまとまったな。今夜は時間も遅いから明日皆を紹介するぜ」

「・・・・ん」

「分かったのです」

 

―翌朝―

信の幕舎の前に数人の影、霞に朱里、星の三人が集まっていた。

 

『あ・・・・』

「・・・・何や、皆考えとる事は同じ・・・・か?」

「はわわ・・・・わ、私はその・・・・」

「ふふふ、良いではないか。花も恥じらう乙女三人が一人の男に好意を寄せるというのも」

 

バッ、と星が陣幕を振り払い中を見る。

 

「zzzzz・・・・・・」

 

寝台には爆睡している信・・・・なんだが・・・・

 

「あれ・・・・何だか・・・・」

「せやな、一人分にしちゃ・・・・」

「うむ、大きすぎるな」

 

ソロリソロリと歩み寄る三人、互いに眼を合わせてから、コクリと肯く。バサッとかけられていた布を払うと・・・・

 

「むにゃ・・・・んー」

「くひゅー・・・・すぴー・・・・」

 

信に抱きついて眠る恋と信の上に子猫のように乗っかって眠る音々の姿。

 

『・・・・・(スチャ)』

 

霞が応龍を、星が龍牙を、朱里が硯を構え・・・・振り下ろした。

 

「ッギャアアアアアアアアアアアス!!!」

 

―四半刻後―

優衣と凛に治療される信、の前には正座させられた霞、星、朱里。

 

「で?何でイキナリ殴ってきた?」

「・・・・」

「・・・・」

「何となくイラッときたのでやりました、後悔はしておりませぬ」

「一番タチが悪いっ!!」

 

それから暫し、説教をした後に恋と音々を呼び寄せる。

 

「と、言うわけで呂布と陳宮だ。これから共に戦う仲間だからな、仲良くやってくれ・・・・ほら、二人共自己紹介」

「・・・・呂布奉先・・・・恋、で良い」

「ちょっ恋殿!?そんな簡単に真名を!?」

 

恋がイキナリ真名を明かした事に驚き抗議する音々。

 

「・・・・大丈夫」

「へ?」

「皆、良い人。それに信の仲間は恋の仲間」

 

恋は、野性的な勘みたいなモノを持ち合わせているのか多少の嘘ぐらいならば簡単に見破り、人の悪意にも敏感なのだ・・・・故にだろうか。善意に対しての感度も良く、一度信頼すれば絶対的なものとするのだ。

 

「むむむ・・・・恋殿がそう仰るのでしたら・・・・ゴホン、私は陳宮公台、真名は音々音ですぞ!皆宜しく頼むのです!!」

「うちは張遼、真名は霞や。宜しゅうな」

「趙雲、真名は星だ。宜しく」

「自分は鄧艾、真名を優衣です」

「諸葛亮、真名は朱里れしゅ・・・・はぅう、噛んじゃいましたぁ・・・・」

「俺は法正、真名を涼紀だ」

「郭嘉、真名を稟と申します」

 

皆がひとしきり自己紹介を済ませてそのまま談話に移っている、特に霞と恋、音々と優衣が既に打ち解けている。

 

「・・・・読みどおり、というところですか?ご主君」

 

傍らに立つ涼紀がニヤリと笑いながら問いかけてくる。

 

「まぁな・・・・」

 

ゆっくりと立ち上がれば、皆に気づかれないように幕舎の外へと出る。当然のように、涼紀も付いてくる。

 

「思いのほかお前には助けられてばかりだな」

「?」

「俺が恋に斬られた後、混乱が少ないように上手く動いてくれたんだろ?」

 

振り返り、苦笑しながら問いかけてみる。

 

「・・・・俺は、確かに武術の心得はある。だが・・・・霞や星ほど素早くないし、アンタほど力があるわけでも無い」

 

フラフラと、信の前に出るように歩く涼紀。

 

「・・・・正直ね、アンタに憧れてんですよ俺は。・・・・傭兵将軍として名を売り、軍師以上の戦術と武将以上の武力を持つ・・・・それでいて聖人君子みたいな綺麗事を言うわけでも無い」

「買いかぶり過ぎだろ」

「少なくとも俺はアンタを目指している、とは言え・・・・武力は追いつけないから軍略で、ですがね。その中でできうる限りの対処をした・・・・それだけです」

 

少し、涼紀の意外な一面を見た気分だった。普段は飄々としていて誰かを意識しているふうには見えず、それでいて正味な話他の軍師たちよりも確実な仕事をして見せる。

 

「なぁ涼紀、少なくともお前がいなけりゃあの時江陵軍は恐慌を起こして壊滅させられていたかもしれん・・・・そしてその収束はお前だけがあの時出来た」

「・・・・」

「俺には出来ない事だ、だからこそ俺はお前に支えて欲しい」

「・・・・ご主君・・・・」

 

ニヘラ、と笑いながら涼紀へと手を差し伸べる。

 

「そうだ、お前俺の義弟になれよ」

「・・・・は?俺が・・・・?」

「ああ、俺と一緒に前に出れる軍師はお前だけだ。つまりは戦場で俺を直ぐに抑えてくれるのもお前だけだ、だからと言うのもあるが何より・・・・俺はお前が気に入った・・・・お前はどうだ?涼紀」

「・・・・今よりも親密な関係であるならば・・・・アンタの強さの秘密が分かるかもしれない」

 

差し出された手を、涼紀が握り返す。

 

「宜しく頼むよ、義兄上(あにうえ)

「こっちこそ頼んだぜ、義弟(おとうと)

 

洛陽での決戦を前に結ばれた義兄弟の契、荊楚の双龍と呼ばれる事になる二人の序章がここに始まる・・・・



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第十七話:李厳の思惑、沮授の忠節

―江陵軍幕舎―

 

「と、言う訳だ。俺の怪我を名目に俺らは後方に下がっていろいろやる、後のことは任せた」

 

曹操、孫策、劉備、一刀を呼び寄せた信。

 

「貴方は十分な仕事をしてくれたわ」

「ええ、『呂布を倒した』という事で連合軍の、特にここの三軍の士気はかつてないぐらいにまで跳ね上がっているもの」

「そうですよ!李厳さんはゆっくり体を休めて下さい!」

 

曹操、孫策、劉備がそれぞれに信を気遣う言葉をかけ、今度は今後についてその場で話し合いを始める。

 

「信」

 

その話にあぶれた一刀が話しかけてくる。

 

「おう、また会えたな」

「全く、あんまりヒヤヒヤさせないでくれよ」

「ははは、悪い悪い」

「・・・・俺にとって信は師匠だけどヒーローでもあるんだからな」

「そいつは初耳だが・・・・期待には答えてみせようか」

 

―同日昼頃―

信たち江陵軍が再配置されたのは最後方、兵糧の管理役だ。まぁこちらの言い分もあったのだろうがきっと袁紹あたりが信が恋を倒した事に対して嫉妬しているのだろう。

 

「さて、と・・・・劉埼、伊籍。お前らにも動いて貰うぞ」

「?何なに?」

「え、と・・・・私たちなんかでお役に立てるのでしたら・・・・」

「星と兵10名で洛陽に潜入して欲しい、目的は董卓と賈駆の救出と保護」

「董卓・・・・って月ちゃん?何で?」

「・・・・待て、面識あったのか?月と」

 

洛陽の案内役としてだけ行かせるつもりだったのだが・・・・

 

「うん、ほらお父さんと月ちゃんのお父さんがお友達でね。それで洛陽にいた頃に仲良くなって真名まで交換したんだ」

「成程、なら話は早い。その親友が実は今回の連合軍の標的でな」

「何で!?月ちゃんはとっても優しくて暖かい娘なんだよ!?」

「知っている、だからこそ助け出したい。協力・・・・してくれるな?」

「当たり前!」

 

今度は星へと視線を移す。

 

「星、馬忠と陳到の小隊を連れていけ。あの二人なら隠密に長けている」

「承知いたしました」

 

馬忠は元富豪相手に盗賊をやっていた奴で陳到は元山賊。互いに奇襲戦術で官軍を相手に長年戦い続けていた。二人とも隠密は得意なのだ。

 

「朱里、稟」

「は、はい!」

「はっ!」

「付いてこい、袁紹を動かしてこちらに有利な状況を作るぞ」

『え?』

 

―四半刻後―連合軍本営

この場には袁紹とその参謀である沮授の二人に信、朱里、稟の三人がいる。

 

「つまりどういう事ですの?」

「ここで数を使って洛陽を攻め落すのは簡単だ、だが洛陽に損害を出せば袁紹殿の名にも傷が付くしそれでは袁紹殿も先祖方に申し訳が立たないだろう」

「そうですわねぇ、袁家の名に傷を付けてはお父様やお爺さまをはじめとした先達に申し訳が立ちませんわ」

「そこでだ、暫し洛陽を遠巻きにしつつ包囲し降伏を呼びかけてはいかがだろうか」

 

眉をひそめる袁紹。

 

「何を仰るかと思えば、あちらは国に背く逆賊。情けをかける必要性なんてこれっぽっちもありませんわ!!」

 

予想通りの反応だ、袁紹は本心から献帝陛下を救いたいのでは無い、洛陽解放と董卓討伐の名が欲しいのだ。

 

「だが袁紹殿、もしここで董卓を降伏させられたならば世間は袁紹殿を『戦わずして逆賊を降す英雄』と称するだろう、それにそこで董卓を許したならば『慈悲深き賢君』とも評するだろう」

 

ピクッと袁紹のまゆが動いた。

 

「そうですわねぇ・・・・どう思うかしら?沮授」

 

袁紹の傍らに控える沮授が、考え始める。こちらの工作を成すには沮授がどう答えるかが鍵なのだが・・・・

 

「・・・・李厳殿の仰る通りかと」

 

一瞬、こちらを見た気がした、が直ぐに袁紹へと視線を移してこちらの意見に賛同する。

 

「おーっほほほほほ!!!ならば!直ぐに実行に移しなさいな!!!」

「はっ、仰せのままに」

 

―夜―袁紹軍―沮授の幕舎

 

「沮授様、李厳殿が面会を申し出たいと・・・・」

 

夜、自らの幕舎で顔良、文醜と作戦会議を行う沮授。

 

「分かりました、お通しなさい」

 

駆け去っていく兵士。

 

「あのー私たちは下がった方がいいですか?」

「うん、難しい話とかだったらアレだし・・・」

「構わない、君たちにも話すべき事だ」

『?』

 

首を傾げた顔良、文醜。

 

「失礼する」

 

幕を払って現れた信に、沮授が恭しく礼をする。

 

「よくぞおいで下さった、李厳殿」

「昼間の事で少し話がある」

「何故私が貴殿の提案に乗ったか、ですかな?」

「・・・・はい」

 

どうやら沮授は既にこちらの訪問の理由を知っていたようだ。

 

「君が何をしようとしているかは知っている」

 

背筋が凍りついたように錯覚した、自分の思惑が袁紹陣営にバレるということは自分たちだけでは無い、曹操、孫策、劉備たちをも巻き込む事になってしまう。

 

「だが敢えて私は君の策に乗った」

「・・・・貸し一つ、と?」

「なに、そんなに難しい事を頼むつもりはないよ」

 

スっ、と眼を細める沮授。

 

「袁家は遠からず滅ぶ、その時に・・・・我々三名の保護を頼みたい」

「堂々と言うな、大それたことを」

 

主家が遠からず滅ぶなど本来仕える人物が口にするような事では無い。

 

「私が忠誠を誓ったのは先代でありあのアホウでは無い」

「否定はせんがな・・・・先代に申し訳無いとかは思わないのか?」

「私は私の策を託すに値する主君に仕えるのみ、私は主君に殉ずるのでは無い、我が策に殉じたいのだ」

 

根っからの軍師なのだろう、この沮授という男は。三流の軍師は主君に殉じ策を捨てる、二流の軍師は主君を重んじ且つ策も重んずる、一流の軍師は主君を選ばず策に殉ずる。

 

「なるほどな、承った・・・・こちらの策が通せるからな」

 

クルリと身を翻す信を、見送る沮授。

 

「沮授様・・・・」

「今の、本気っすか?」

「無論」

 

すぅ、と眼を再び細める沮授、その脳裏に浮かぶは先代の今際の言葉。

 

『お前も、顔良も文醜もだ・・・・あの娘に殉ずることは許さぬ。あの娘は私が甘やかし過ぎたせいで様々に勘違いをしたまま育ってしまった・・・・お前らはここで終わるべきでは無い、よいな?もしもの時は・・・・』

 

「・・・・分かっておりますよ、ご主君」

 

沮授がただ一人、ご主君と呼ぶ人物は既にいない、ならばその言に従うまで。それが彼なりの忠節なのだ。




突然登場して突然タイトルに名を上げた沮授さん。この後様々な場面で影響を与える人物であるが故にこの話のメインっぽく扱いました。


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第十八話:新生江陵軍

洛陽を包囲する連合軍、その輪から離脱する李厳軍。表向きの理由としては信の傷の悪化であり、袁紹も快く(?)承諾、劉備、一刀、曹操、孫策らも事情を知っているが故に擁護してくれた。

 

―五日後―荊州城

劉表の居城の荊州城、劉埼、伊籍を送り届けるためにここまで来ていた。

 

「怪我をした、と聞き心配したが・・・・存外元気そうで何よりよ」

 

先ずは自分の事を心配してくれたようだ。

 

「幸い傷も浅かったんで」

「うむ、次に・・・・このバカ娘が!!」

「ひぅっ!」

「ゴメンナサイゴメンナサイゴメンナサイゴメンナサイ」

 

怒鳴られて竦む劉埼と全力で謝る伊籍。

 

「劉表殿」

「む?」

 

しばらく続いた説教、そろそろかわいそうだと思って差込を入れる。

 

「此度の月の救出、劉埼と伊籍の協力無くば成し得ませんでした。ここは俺の顔も立てて許してはいただけないだろうか」

「・・・・そうじゃな、李厳殿のお顔も立てるとしよう・・・・さて、月ちゃん」

 

人垣をかき分けて現れた月、それを優しく抱きしめる劉表。

 

「よく無事だったなぁ・・・・」

 

親友の娘、後の事を頼むと言われたのに自分は荊州刺史に指名されてしまったところでの今回の事、もし月が亡くなるような事があったならば命を絶つ覚悟すらあったのだ。

 

「李厳殿、此度の事、私からも礼を言わせて欲しい」

「そいつはいいっこなしだ、劉表殿。俺は友達を助けに行っただけだぜ」

「ふむ、そうか。それもそうだな」

 

互いに顔を見合わせ笑い合う信と劉表。

 

「月ちゃんは今後どうするつもりだね」

「月に関しては名を変えて貰うつもりです、幸い元中央官僚である曹操すら顔を覚えていない有様でしたので」

「成程なぁ・・・・ならば・・・・馬良、字を季常と名乗ってはどうだろうか?」

「馬良・・・・はい、良い名だと思います」

 

劉表殿が何を思いその名を提示したかは分からない。

馬良季常、伊籍の推挙により劉備に仕えた才人。関羽、張飛が討たれた後に劉備に随行して夷陵戦役に参軍し身をていして劉備を撤退させ戦死した。諸葛亮も信頼した人物として知れ渡っている。

 

「んじゃあ改めて馬良、宜しくな」

「はい」

 

―更に二日後―江陵城

大我、白夜、莉乃、戒音、珠月、六夏の留守番組も併せて久し振りに集合した江陵軍首脳陣。

 

「先ずは留守居の大任、ご苦労だった」

 

その言葉に、留守居の責任者である白夜が前へと出る。

 

「大将におかれましては怪我こそあったものの無事に戻られて良かった、留守も特に異変もなく、大我や他文官勢の助力もありつつがなく終える事適いました」

「ああ、ご苦労さんだった・・・・」

 

それから月、詠、恋、音々音の新規参入組の紹介をしてから、居住まいを正す。

 

「江陵軍も大所帯になってきた、そこで全体の再編を行う事にした・・・・組織的な動きも出来るようにならねばならないからな」

「確かにそうですね、文武の人材が揃ってくればこそ、ハッキリとさせなければならないところです」

 

朱里がそれを肯定すると、信が懐から竹簡を取り出す。

 

「つーわけで既に出来ているので発表する」

『今!?』

 

ほぼ全員からのツッコミ。

 

「無論だ、こういうのは早めに動かにゃならん」

 

他にも様々に異論が出たのだが全てを却下しつつ発表を始める。

 

「先ずは軍部、筆頭武官・・・・張遼!」

「へ・・・・ウチ!?」

「ああ、経験、力量共に筆頭を張るに申し分無い。コレを機に少しづつ政務も学んでくれ」

 

ちょっとだけ不満げな霞。

 

「次に筆頭武官補佐官として武官側より張翼を副将に昇進、郭淮を文官側の補佐とする!」

 

突然名を呼ばれた張翼は驚きまくっている。

 

「ちょっ、ちょっと待って下さい!!アタシなんかで良いんですか!?」

「ああ、お前も王虎時代から部隊長を務めている。功績も十分だ・・・・やってくれるな?(せき)(張翼の真名)」

「が、頑張ります!!」

「主命と有らば全力にて」

 

莉乃は否応も無いようなので次に移る。

 

「次に俺の補佐だが・・・・武官側より・・・・」

 

星が眼を輝かせる、自分に違いないと。

 

「馬忠を副将に昇格させ任命、また文官側より法正を指名する!」

「過分な大抜擢とは存じ上げますが・・・・与えられた職責を全う致します」

「義兄上の補佐か、まぁのんべんだらりとやらせて貰おうか」

「期待してるぜ倫成(りんせい)、涼紀」

 

あ、星が判り易くガックリしている。

 

「また蒋欽を江陵守備の責任者としその補佐を賈充が、趙雲、呉懿を領内を警戒する遊軍としその補佐として陳羣、王甫を付ける」

 

あ、なんか大我と戒音がもめている。が、無視しよう。「男と組んだ仕事なんて楽しくない!」と戒音が喚いているのは聞こえない事にする。

 

「次に筆頭文官に諸葛亮、その補佐に郭嘉だ。特に文官側が手が足りていないからいざとなればお前ら二人の権限で人材を引き上げても構わない」

「は、ひゃい!」

「はっ!!」

「馬良、賈駆の両名もしばらくは文官として働いて貰う」

「はい、分かりました」

「仕方無いわね、引き受けてあげるわ」

「呂布、陳宮の両名は江陵城の警備を任せる。気づいた事があれば蒋欽、賈充と相談して自由にやってくれ。結果さえこちらまで上がって来れば良い」

「・・・・ん(コクリ)」

「了解なのです」

 

カラカラと竹簡を丸めて卓に置く。

 

「さて、新生江陵軍の始動だ。気合入れていくぜ!!」

『応!!!』

 

新たなる江陵軍の始まりであった・・・・・

 

「あ、ご主人様は怪我が治るまでお仕事禁止です」

「何でよ!?」

「ご自分の胸に手を当てて見て下さい」

 

尚、朱里他数名により信はしばらく自室での謹慎となるのだった。



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第十九話:奏

執務禁止令が出された信だが放置しておいて信が大人しくしているなど誰も思っていない、であるが故に・・・・

 

「休日に見張り付きってどうよ?」

 

江陵の街を歩く信の両隣には倫成と斥が付き添っている。

 

「いやー、霞の姐様から厳命されまして」

「筆頭文官様(朱里)、並びに次席文官様(稟)及び防衛守将様(白夜)、遊軍主将の御両名(星、大我)他多数の方々(優衣、月、詠、恋、音々、莉乃)より厳しく仰せつかっておりますので」

 

心配性だな、とは思うが口には出さない。不謹慎な事ではあるかもしれないが単純に心配されているということは嬉しいのだ。

 

「まぁしゃあねぇか・・・・取り敢えず二人とも飯にしようぜ」

「奢りっすか?」

「主命とあらば」

「んじゃあ飯だ、奢ってやるから安心しろ」

 

いつもの行きつけの店にでも行こうか、そう思って歩いていた時だった・・・・

 

「・・・・?」

「どうかしたんです?」

「何か?」

「声、しねぇか?」

 

首を傾げる斥と倫成、だが信の耳にはしっかりと声が聞こえてくる。

 

「・・・・こっちだ!」

「ちょっ!待ってくださいよ!!」

「待たれよご主君!!」

 

路地裏へと駆け出した信を全力で追いかける斥と倫成。

 

「ってか足速っ!?」

「むぅ・・・・桁外れとは思っていたがここまでとは・・・・先ずは追い縋るぞ斥!」

「分かってますって!!」

 

二人を置き去りに駆けた信、そこには倒れ付す一人の少女。歳の頃は6歳ぐらいだろうか、よほど遠い距離でも歩いたのだろうか泥に塗れやつれている。

 

「っ・・・・斥!倫成!」

『は、はいっ!?』

「倫成は太守府に行って医者の手配を!斥は俺の屋敷に行って寝床を一箇所整えとけ!」

「御意!!」

「わ、分かりました!」

 

急いで走っていった二人を見送りながら、少女を抱き上げる。

 

「何で、なんだろうな・・・・他人の気がしねぇんだよ・・・・」

 

見捨ててはいけない、そんな気がしたのだ。

 

―夜―信の自宅

寝台で静かに寝息を立てる少女、その傍らで椅子に座って盃に酒を注ぐ信。盃は二つ。

 

「・・・・やっぱりお前が関わってんのか、伏羲」

「分かってて盃二つ用意したんだろ?」

 

暗闇から現れた伏羲が、もう一つの盃を取って注がれていた酒をグイッと飲み干す。

 

「この娘ぁ何者だ?」

「君はこの娘を見て何か感じなかったかい?」

「・・・・他人じゃ無い気はした」

 

ニヤリ、と嗤う伏羲。

 

「この娘はね、平行世界での君の娘さ」

「・・・・・・・・・・は?」

「君の血を継いだ娘だよ、まごう事なきね」

 

寝台で寝る少女の顔をまじまじと見る。

 

「元いた世界でね、この娘は死ぬ運命にあった・・・・流行病でね」

「・・・・それが何故ここにいる?」

「元いた世界では治らない病だった、だが・・・・この世界だと治療方法があるんだ」

「治ったなら帰してやれば良いだろ」

 

突然いなくなったならばあちらの世界の自分も、見知らぬ妻も心配している事だろう。

 

「それは出来ない」

「何故」

「制約だよ、因みに言うなら君も二度と別世界へと渡ることは出来ない」

「・・・・たった一度の回数制限か」

「そういう事だよ、複数回別世界を移動してしまうとそのものの存在座標が薄れ、最悪消えてしまう」

 

タイムパラドックス、とかに近い状態なのだろう。そう言われれば納得が行く。

 

「そこでお願いがあるんだけどね」

「俺に面倒見ろってんだろ?当たり前だ、別世界とは言え俺の娘には違いねーんだからな」

「良かった、ならその娘のことは任せるよ。一つ言うならばその娘に以前の記憶は無い」

「・・・・まぁ今更何も言わんさ」

「その娘の名は『(かなで)』」

 

さらさらとしたその髪の毛を撫でながら、気がつくと笑みを浮かべていた・・・・

 

―翌朝―太守府

朝早くから集められた一同、ほとんどが事情を知らない中、事情を知るのは斥と倫成だけだ。

 

「すまんな、朝早くから集まって貰って」

 

奏を連れた信が、現れた。

 

「なぁ信、その女の子はどないしたん?」

「ああ・・・・この子を紹介するために集まって貰った」

『?』

「さ、奏。自己紹介を」

「はい、えっと・・・・李豊、です。真名は奏って言います・・・・宜しくお願いします」

 

ペコリ、と頭を下げた奏。

 

「礼儀正しい子ですねー」

「イイねぇ、後十年したらお兄さんと付き合わない?」

「戒音」

「へ?」

 

ニッコリと、明らかに笑っていない目で笑いながら戒音の肩を掴む、ミシミシと軋む音が響く。

 

「俺の娘だ、手ぇ出したら・・・・わかるな?」

『・・・・・・・・は?』

 

一瞬の静寂、そして・・・・

 

『ぇええええええええええええええええええっ!!!!?』

 

この後、多少揉めはしたものの最終的に皆が納得してくれて、奏がこの城に馴染むまではさほど時間はかからなかったらしい。




やっと登場しました通称『華琳キラー』、娘の奏ちゃん。次回外交のために訪れた華琳は・・・・?


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第二十話:曹操来訪

―江陵城太守府―

この日の江陵城は何時もと違った、何というか慌ただしかった。

 

「大将!!飯の手配はどうなってんです!?」

「生半可な腕だと凹まされる!俺と朱里、月、涼紀、珠月で料理は担当する。基本的な方は稟と白夜、倫成を中心に考えてくれ」

 

曹操の訪問、その使者が訪れたのが一週間程前。恐らく目的は同盟か、不可侵条約か。曹操は袁紹、陶謙、張燕、公孫賛、劉備など様々な勢力に囲まれている、進出するにも後顧の憂いをなくす必要がある、そうなった場合有効な手段は?

答えは周辺勢力の背後を突ける同盟相手を作る事だ、この場合劉表と組んでいる信たちなのだろう。南陽の袁術と揚州の孫策、この二人の牽制と妨害があちらから求められるもの。

となれば並々ならぬ労力を消費するのだからそれ相応の対価を求める必要性も出てくるわけで。

 

「斥!奴さんあと距離はどんぐらいだ!!」

「北北東十二里、通常行軍の七割程で進行中」

「分った、んじゃあ準備急がせろ!俺はそろそろ正門に向かう、月、すまんが奏を連れて来てくれるか?」

「はい、分かりました」

 

足早に信の家へと向かう月を見送る。

 

「大我!星!住民たちへの説明は!?」

「はっ、ほぼ完了です」

「何か手伝えることは?と逆に問われましたが・・・・気持ちだけ受け取っておく、と答えておきました」

「ならば良し、お前らは先に正門に向かえ!」

『御意!』

 

馬を飛ばして正門へと向かう星と、それに追走して駆ける大我。

 

「霞」

「ん?」

「戒音と斥連れて曹操を迎えに行け、その際に戒音の手綱を握るのを忘れるな」

「せやけど信、それやったら最初から連れていかなけりゃええんとちゃう?」

 

霞の言葉も最もだ、一番粗相をしそうなのは戒音なんだが・・・・

 

「正式な外交の使者を迎える挨拶を出来るのは戒音だけ何だ、なんなら骨の一本や二本へし折っても構わん!」

「お願いです!黙って仕事しますからそこはかまって下さい!!」

 

何時の間にか来ていた戒音がその場で土下座をしている。

 

「なら四の五の言わずに働いてこい!因みに・・・・」

「因みに?」

「曹操とその周囲にいる将や軍師たちは美少女揃いだ、ビシッと仕事してキリッとした表情していたら好印象になって・・・・」

「なって?」

「『好きです』とか言われるかも知れんぞ」

 

その言葉が紡がれた瞬間、未だかつてない程真面目な表情になりビシッ、と敬礼をしつつ。

 

「では不肖王国山!陳留太守曹操殿の迎え入れのため行ってまいります!!」

 

そう言って大我並の速さでダッシュしていく。

 

「なんや・・・・扱い方上手いなぁ」

「戒音は基本欲望に忠実だからなぁ・・・・餌ぁチラつかせればまともに働くさ」

「ほぇー・・・・まぁええ、ウチも行くわ。斥!!行くで!!」

「うーっす!!」

 

ひらりと馬にまたがって駆け出していく霞と斥。

 

―半刻後―江陵城北門

 

「虎牢関以来、か・・・・その節は世話になった」

「構わないわ、こちらにも実益はあったもの。張繍に高順、李儒と掘り出し物だったわ・・・・まぁ最も最大級の人材は全て貴方に持っていかれたけどね」

「よく言う、元董卓軍の大半を吸収しといて」

「ふふふふふ」

「ははははは」

 

握手をしながら黒く乾いた笑いを浮かべる信と曹操。

 

「先ずはともあれ、歓迎するよ曹陳留太守殿」

「ええ、三日程だけれども世話になるわ李江陵太守殿」

 

両雄並ぶ、傭兵将軍と中原の勇が並び歩く姿を一目見ようと街中の人たちが集まってきている。

 

「人気者なのね」

「まさか、中原の勇、曹操を見ようと皆集まっているのさ」

「煽てても何も出ないわよ」

「それは残念だ」

 

ケラケラと笑う二人。

 

「おとーさーん!!」

 

真っ向からパタパタと手を振りながら奏が走ってくる、その少し後から涼しい顔の恋と汗だくで追いかけてくる月、詠、音々の姿が確認出来る。

 

「おぉ、来たな奏」

 

とぅ、と抱き上げて肩に載せる。

 

「あら、その娘は?」

「ああ・・・・紹介する、ほら奏。お父さんのお友達だ」

 

今のやり取りに既に曹操軍側の人間(曹操、曹休、荀彧、李典、楽進、于禁)が驚きを隠せない表情になっている。

 

「えっと・・・・李豊、って言います!えと、えと・・・・宜しくお願いします!」

 

わたわたと慌てふためきながら頭をピョコン、と下げて挨拶をする奏。

 

「李厳、少し話があるわ・・・・先ずは落ち着いて話の出来るところへと行きましょう」

「?ああ・・・・」

 

そのまま先ずは曹操たちに貸し出す予定だった宿舎へと案内する。

 

「・・・・李厳」

「んぉ!?」

 

がしっ、と両肩を掴まれる。外見から想像出来ないぐらい力強くだ。

 

「李豊ちゃんを私に頂戴、大事にするわ」

「・・・・・・・・・・は?」

 

疑問符しか浮かばない。

 

「貴方にあんなにあんなにあんなに可憐な娘がいたなんて知らなかったわ、お願い、大事にするから私の嫁に・・・・(スパァンッ!!)痛い!?」

 

明らかに暴走していた曹操の頭を曹休が思いっきり叩く。

 

「曹操様、自重下さいませ」

「文烈、貴方ねぇ・・・・」

「あーその、なんだ?娘はまだ六歳だ、悪いが嫁にはやれんぞ」

「ケチ」

「お前なぁ・・・・大体、俺は親としてこの子にはしっかりとした相手と結ばれて欲しい」

「あら?私では不満なの?容姿端麗、頭脳明晰、将来性抜群よ」

「お前はその前に性別の壁がある事を自覚してくれ」

「愛の前にそんなものは無いのよ!!」

 

やばい、この陳留太守が壊れ始めて来た。

 

結局、曹休が「私が責任をとります!力づくで抑えますよ!!」という掛け声を出すと共に取り押さえられた曹操が官舎の中へと連行されていく。

 

「いやはや、誠に申し訳ありませんでした」

「いや・・・・まぁ新たな一面を垣間見れて良かったよ」

「そう言っていただけると幸いです、本来ならば既に本題に入っていなければならないのですが・・・・明日、でも構わないでしょうか?」

「問題ない、案内役としてこの馬忠と張翼を付けておく。何かあればこの二人を通じて連絡してくれ」

「何から何まで・・・・ご厚誼に感謝します」

 

頭を下げながら、本当に申し訳なさそうにする曹休、長い付き合いになりそうだな、と感じた日だった。




暴走華琳さん登場でした。奏たんの可愛さは世界を包む可愛さなんです。次回はようやく本格外交・・・・のはず。


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