東方想本録 (蒼霜)
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第1章 幻想郷という所に迷いこんだらしい?
第1話 見知らぬ土地で


初めまして僕は蒼霜(アオシモ)と言います。

 以前から書きたいと思っていましたが、理系の運命なのかなかなか書けませんでした。
至らぬ点がかなりあると思いますが、一生懸命頑張りますのでよろしくお願いします。

それでは『東方想本(そうほん)録』
始まり始まり……です(*´・ω・`)b


 頭が割れるような痛みで目が覚めた。

「うぅ……頭が痛い」

思考が纏まらない。何でこんなに痛いんだ。

額を押さえてフラフラと立ち上がる。

しかし足に力が入らない。受け身をとる事も出来ず、うしろに倒れこんだ。

 

バシャーン「うわっ!冷たっ!?」

 

 幸いなことに地面ではなく水の中に倒れたことで、頭に怪我をすることはなかった。

水の冷たさが意識を完全に覚醒させた事で、やっと周りが見馴れない景色であることに気がついた。

 

「ここは……何処だ……?」

上半身を起こして辺りを見渡すと霧が立ち込める大きな湖だった。

自分が倒れていたのは、その湖の岸だったらしい。

湖は見慣れているので、湖と海の違いはよく分かる。

だから海ではない事はすぐに分かった。

しかし、深い霧のせいで他に目立つものは確認できない。

 

 

しばらく湖を眺めていたが、こんなことをしている場合じゃないと我に帰った。

 

「……痛っ」

しかし、なぜこんなところに倒れていたのか。

記憶がない。思い出そうとすると頭に鈍い痛みが走る。

何か手掛かりになるような物を持っていないかと見回すと、分厚い革の装丁の本が落ちていた。

手に取ると、見た目に反して意外と軽かった。

「そんなことより…」

関係無い思考を打ち切り、手掛かりを求めてページをめくるも、何も書いていない。

「手掛かりは無しか……」

僕はため息をついて、立ち上がり伸びをした。

 

 その時、湖の向こう岸に建物が見えた気がした。

もしかすると、あの建物に行けばここがどこか分かるかもしれない。しかし見間違いかもしれない。

僕はしばらく考えた末、行くことにした。

「湖に沿って歩いていけばその内何とかなるか」

もし途中で誰かと出会ったらその人に聞けば良い

そう考えて僕は歩き始めた。

 

 

 

 

この湖は考えていたよりも小さいようだ。

湖の向こう岸まで行くのに、恐らく1時間もかからない気がする。きっと濃い霧がこの湖を大きく見せていたのだろう。

 

 

歩き続ける事1時間、ようやく目指していた建物に着いた。

それはとても広い敷地を持つ紅い洋館だった。

紅色の建材をあらゆる所に使用され、屋敷の主の紅色へのこだわりを感じる、とてもセンスが良い屋敷なのだが……

「それでも空まで紅くすることはないだろ」

空が紅色なので、洋館の雰囲気が不気味なものになっている。

 

「まるで吸血鬼の館みたいじゃないか」

あり得ないことを呟き、静かに笑った。

誰かいるかもしれないと思ったことで、そんな軽口を言う余裕が出てきたのだ。

 

「ここからどうしようかな……」

屋敷の門自体は既に見つけている。

問題なのは、その門の前に立っている門番なのだ。

別に門番の顔が恐ろしいから躊躇しているわけではない。

チャイナドレスを纏った凛々しい女性の門番だ。

その女性門番のどこが問題なのかと言うと……

 

 

「Zzz……(爆睡)」

 

 

……寝ていることだ。

そりゃあ門番だって人間だし、疲れるのは仕方ないよ?

けど仕事中に寝るのもどうかと思うよ?

しかも立ったまま寝てるし、あれは絶対常習犯だよね!?

 

 心の中でツッコミまくったところで、この状況が変わるわけでもない。

起こせば良いだけだと分かってるけど、爆睡してるって事はそれだけ疲れてる事だから……

 

 

「おや、どちら様でしょうか?」

 

 

突然後ろから声をかけられ、慌てて振り向いた。

 

 声をかけてきたのは、左右のもみあげに三つ編みを結った短い髮の、青と白が基調のメイド服を着た若い女性だった。

きっとこの洋館の人だろうと思い、自分がかなり不審者に見えていた自信があったので弁解しようと、

 

「め、目が覚めたら湖の近くに倒りぇていまちた‼」

 

……かなり噛んでしまった…恥ずかしい(泣)

 

 ありがたいことにそのメイド(?)さんは、気にする様子を見せなかったのですごく助かった。

 

「なるほど、外の世界の方ですね」

「外の世界?」

気になる言葉が出てきた。『外の世界』

まさかここは異世界だとでもいうのだろうか?

「ここは幻想郷という所です。元の世界とは結界で隔てられているだけなので、異世界とは少し違います」

「…って事は元の世界に帰れる?」

「ある人に頼んだら帰れますよ」

 

 なるほど、どうやらここは幻想郷という場所で、

僕はなぜか迷い込んでしまったて、そしてある人に頼んだら帰れるということか。

「じゃあ幻想郷をいろいろと見てから帰るか……」

幻想郷を観光してから帰る事にした。

 

「あまり一人では歩かない方が良いですよ」

 

「大丈夫だって、野生の動物に襲わ「()()が出ます」

 

……………………は?

 

「聞き間違えたみたいです。もう一度お願いします」

 

()()が出ます」

 

「…………どんな奴らなの?」

 

「人間を食べます」

 

 

 

…………何それリアルに危険じゃん!!!

 

 

 

とうとう頭が理解できる範囲を越えたのか、

 

突然、全身に力が入らなくなりその場に崩れ落ちた

 

あのメイドさんが駆け寄って来るのを見て

 

僕は意識を手放した

 

 




初投稿なので拙い文章でしたが、いかがでしたか?
まだ未熟者なので、アドバイスを頂けると嬉しいです。
近いうちに第2話を投稿するつもりですので、
これからもどうかよろしくお願いします。


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第2話 僕の名前は……?

眠い中で書いたので、間違ってるところあるかも?


暗闇の中に立っていた

 

少し先も全く見えない

 

自分が誰なのかも分からない

 

怖くなり暗闇の中を走り出す

 

やがて目の前に黒い鉄のドアが見えた

 

この暗闇から逃れたくて

 

ドアに飛び込んだ―――――――

 

 

 

 

 

 

 

自分の叫び声で目が覚めた。

どうやら悪夢を見ていたようだ。まだ動悸が収まらない。

夢は自己の記憶から作られると聞いたことが有るが、この夢は僕のどんな記憶から作られたのだろうか?

「それよりもここは……」

 

見覚えの無い部屋でベッドに横たわっている。

天井に向けていた視線を横に向けると、机に置かれた燭台が見えた。

(蝋燭の灯りって綺麗だよなぁ……)

ぼんやりとした頭でそんな事を考えながら、しばらく灯りを見つめていたが、だんだんと眠くなってきた。

(……もう1回寝るか)

そう思って布団に潜り込み、

 

(ん……?燭台……?)

 

…………やっとこれまでの事を思い出した

 

 

 

 

「ってかここどこだよ!!??」

 

 

 

 

―――突然絶叫したせいで喉に激痛が走った

 

あまりの激痛に悶え苦しみ、しばらくしてようやく痛みが治まってきた。

「み、水を……」

「どうぞ」

横から差し出された水を受け取り一息で飲み干した。

「助かったよ、ありがとう」

そう言って空になったコップを返そうと横に顔を向けると、あのメイド(?)さんがいた。

(…足音が全くしなかったぞ?)

ついでに言うと、ドアを開ける音も聞こえなかった。

(まるで瞬間移動してるみたいだな…)

 

「ご気分はいかがですか?」

「大丈夫です、問題ありません」

敬語になったのは、気を失った自分をあの門の前からこのベッドに運んでくれた筈だからだ。

 

「この屋敷…紅魔館でしたっけ?ここまで運んできてくれてありがとうございます。かなり重かったんじゃないですか?」

「いえ、それほど重くはありませんでしたよ。それに放っておくのもあれなので」

 

コップを受け取りながらメイドさんはそう答えてくれた。

 

「私はこの紅魔館でメイド長をしている十六夜 咲夜(イザヨイ サクヤ)と申します。どうぞお見知りおきを」

 

メイドさん改め咲夜さんが名乗ったからには、こちらも礼儀として名乗らなければなるまい。

 

「僕の名前は……」

 

そう良いかけた所で言葉が止まった。

 

「どうかしましたか?」

 

咲夜さんが不思議そうな顔で聞いてくる。

しかし、理由を言ったところで信じてもらえるだろうか?

 

「名前が…名前が思い出せないんです」

 

名前は自分が自分であるための重要な要素の一つだ。

自分の名前が分からないということは、かなりの不安をもたらす。

 

「今分からなくても、いつか思い出すと思いますし大丈夫でしょう」

 

よっぽど不安な表情が顔に出ていたのか、咲夜さんがそう言ってくれた。

確かに今は分からなくても問題ない。

そう自分に言い聞かせて、何とか不安を押し殺す事ができた。

 

「主のレミリア様があなたとお会いしたいそうです。一人で立てますか?」

「大丈夫です。立てます」

 

もともとお礼を言うつもりだったから、こちらから会いたいと言う手間が省けた。

ベッドから降りて、伸びをした。

人の目の前とはいえ、これをせずにはいられなかった。

会う準備ができました、と言いかけたところで自分が持っていたあの本が見当たらないことに気が付いた。

 

「僕が持っていた本を知りませんか?」

「これの事ですか?」

 

いつの間にか咲夜さんがそれを抱えていた。

(……どこに持ってたんだ?)

さっきまで部屋の中には無かった筈だ。これだけ大きい本ならわかった筈だ。

まるで手品師だ。いや、怪しいところが無いから魔法使いと言った方が良いのか?

そんな事を考えながら本を受け取った。

 

「それでは行きましょう」

 

咲夜さんはランプを手にとって部屋の扉を開けた。

 

 




微妙な所で終わってしまった…

次話は3日以内に頑張って出したい

頑張る!(*・ω・) 


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第3話 レミリア・スカーレット

レミリアの話し方ってこれで良いのかな~(;^ω^)

それではどうぞ(*´∀`)つ


前を歩く咲夜さんについて長い廊下を歩く。

やはり内装も紅を基調として造られているようだ。

赤絨毯に薄赤色の壁etc…紅だらけで目が痛くなりそうだ。

 

 

窓の外の景色から、今が夜だという事がわかった。

確か気絶したのは昼を少し過ぎたぐらいだった気がするので、意外と長く気絶していたらしい。

……というか、絶叫で誰か起こしてしまったかもしれない。

 

咲夜さんが一際大きな扉の前で立ち止まった。

この紅魔館の主の部屋らしく、他の扉よりも装飾も凝っている気がする。

 

「失礼します、お嬢様。」

 

「入りなさい」

 

咲夜さんのノックの後、予想よりもかなり若い声が答えたので驚いてしまった。

正確には若いというより、幼いと言った方が良いのかもしれない。

 

咲夜さんが扉を開けると、まず目に映ったものは赤の内装。

中に入ると、天井には高級住宅に有りそうなシャンデリアが吊り下げられていた。

壁にはレイピアやロングソードを始めとする様々な武器が飾られていた。

部屋の美しい装飾品に見とれていると、

 

「…………こっちよ」

 

「す、すみません!」

 

明らかに不機嫌さが感じとれる声が聞こえ、館の主の目の前だと思い出し、慌てて頭を下げた。

 

「でも、そこまで畏まらなくても良いわ」

 

「本当にすみません、部屋があまりにも美しかったのでつい……」

 

「良いから顔を上げなさい。やりにくくて仕方がないわ」

 

そういわれて顔を上げると、先ほど聞いた声の通りの姿をした少女がいた。

 

「私はこの紅魔館の主、レミリア・スカーレットよ。覚えておきなさい」

 

紅魔館の主、レミリアさんはそう高らかに名乗った

 

(……あんなに小さくても威厳は出るんだな~)

 

「今、何か失礼なことを考えなかったかしら」

 

「すみません!」

 

 

__________________________

 

 

「助けていただいてありがとうございました」

 

「それほどでもないわ。それにあなたを助けるべきだと運命が囁いたのよ」

 

あの後、再び最初のようなやり取りが交わされたのち、咲夜さんが運んで来た紅茶を飲んでいる。

レミリアさんから席に座るように勧められ、1度は断ったのだが、「やりにくい」と言われたので座らせてもらった。

記憶が無いことは既に咲夜さんが伝えている。

 

「運命を信じているんですか?」

 

僕はレミリアさんにそう聞いた。

別に運命など存在しないとまでは思わない。しかしレミリアさんの本気で信じている口調を聞いて、聞き返さざるを得なかった。

 

「信じるも何もそれが私の力よ?」

 

……当たり前みたいに言われてしまうと考えなかったが。

レミリアさんのキョトンとした表情を見ていると、逆に自分の方がおかしいんじゃないかと思えてくる。

 

「お嬢様、彼は外の世界から来たそうですよ」

 

「あら、そうだったのね。分かったわ」

 

頭を抱えた僕を見た咲夜さんのフォローもあって、レミリアさんは何かを納得したようだ。

 

「私の力は『運命を操る程度の能力』よ、これで分かるかしら?」

 

(やっぱり僕の方がおかしいのか!?)

再び頭を抱えた僕を見て、見かねた咲夜が説明してくれた。

 

「この幻想郷では特別な力を持つ人が居るのです。例えば、お嬢様なら『運命を操る程度の能力』です。」

 

「運命を操るとはどういう事ですか?」

 

お嬢様、と咲夜さんに目で合図されたレミリアさんは「例えばの話」と話し始めた。

 

「明日に誰かがここに来る予定があるとするわね?私はもちろんその事を知らないわ。だけど、この能力を使うと誰がいつ頃来るのかがわかるのよ」

 

「それだと能力の規模が小さすぎません?」

 

「まだ話は終わってないわよ。最後まで聞きなさい。でもあなたの言った通り、それだとただの予知能力だわ。私の力はその予定を早めたり無くしたり出来るのよ。もちろんその逆も出来るわ。」

 

「つまり、運命を弄って変えることが出来ると」

 

「解りやすく言ったらそう言うことよ」

 

「でも規模が小さい気が……」

 

「だから例えばの話だってば!」と怒られたので、すぐに謝った。

 

(しかし『運命を操る程度の能力』か……)

そう考えると1つ聞きたい事が出てきた

 

「もしかして僕がここに来ることも運命だったんですかね?」

 

「それは分からないのよ」

 

「ということは、完璧な能力ではないんですね」

 

「いいえ、いつもは全て解るのよ。でもあなたの場合は違う。あなたが来ることは少しも分からなかったのよ」

 

じゃあ僕はここに来る運命ではなかったということだ。

それにしても、特別な力を持っているなんて羨ましい……

 

「咲夜さんは何か能力を持っているんですか?」

 

「そうですね…言うだけではつまらないですし、実際に見てもらいましょうか」

 

そう言うと咲夜さんが指を鳴らした……と思ったら今までとは違う場所に立っていた。

 

「…………瞬間移動?」

 

考え抜いた末、僕はそう結論付けた。

 

「残念、ハズレです」

 

しかし正解ではなかったようで、咲夜さんは少し微笑んで、答えを告げた

 

「正解は『時を操る程度の能力』です」

 

残像のようなものが全く見えなかったので、恐らく時間を止めて移動したのだろう。

起きた時に居なかったのに、いつの間にか居た事の説明もこれでついた。

時間を止めて入ってきたなら音がしないのも当然だ。

(この人達、人間にしては規格外すぎやしませんかね…)

 

 

__________________________

 

 

 

「明日、博麗神社に行きなさい。そこで紫に元の世界に帰してもらうと良いわ」というレミリアさんの指示で、今夜は紅魔館に泊まらせてもらう事になった。

迷子になると困るので咲夜さんに部屋まで送ってもらい、ベッドに入った。

 

すぐ横の机にはあの厚い本が置いてある。

なかなか眠れないので、手に取って開けた。

本を開いていると、気分が落ち着く。

例えそれが白紙の本だったとしても……何かが書かれているページを見つけて驚いた。

湖岸で読んだ時は全てのページが白紙だった事は確認済みだ。

 

内容は幻想郷や紅魔館、一部の人が持つ特別な能力、そしてレミリアさん・咲夜さんについての事だった。

詳しく見てみると、自分が覚えたことが全てそこに書かれていた。

一部文字が掠れて、読めなくなっている所がある。

もちろん僕はこの本をメモになど使っていない。

それに先ほど書いたのなら、ここまで掠れているのはおかしい。

いったいこの本は何なのだろう?

 

 

そうしているうちに段々と眠くなってきた。

元々寝るまでの間の暇潰しに読み始めたのだ。

本を机に置き、布団をかぶり直した。

そしてあっという間に眠りに落ちていった―――

 

 

 

 




気に入ってる小説の作者さんが6000字も頑張って書いていたので、僕も頑張った!(*´・ω・`)b

6000字も書くなんてスゴいよな……
本当に尊敬するよ………(;^ω^)

僕もその人みたいに上手く書けてると良いなぁ~


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第4話 元の世界へ~博麗神社~

霊夢と紫さんの話し方ってこれでいいのかなー

名前は次回でようやく発表になります。

それでは第4話をどうぞ( ゚д゚)ノ


翌朝、早くに目が覚めた。

二度寝しようと思ったが、目が完全に覚めてしまい無理だ。

仕方がないのでベッドから下りて近くの椅子に座り、あの厚い本を手に取る。

昨日開いていたところをぼんやりと眺めること一時間、咲夜さんが朝食に呼びに来た。

 

幻想郷に来てからまだ何も食べていないので、さすがにお腹が空いた。

それに幻想郷では何が食べられているのかも知りたい。

咲夜さんにすぐに行くと伝えて本を置いた。

 

______________________

 

 

朝食はパン、スープ、サラダといった軽めの物だった。

どれもがとても美味しかった。

そして紅茶。

何の紅茶か全く分からなかったが美味しく頂いた。

以前飲んだ事がある種類だった気がしたのだが……

何にせよ、記憶が無いのでわかるはずがない。

 

 

その後、紅魔館を出た。

もちろん外の世界に帰るためだ。

昨日教えられた、僕を元の世界に戻すことが出来る人は、いつもどこに居るのかわからないらしい。

しかし博麗神社に行けば会えるという。

 

今は湖沿いの道を咲夜さんと歩いている。

咲夜さんが博麗神社まで送ってくれるそうだ。

大丈夫だと言いかけたのだが、人を食べる妖怪が出ると昨日聞いたことを思い出したので、お願いすることにした。

 

 

______________________

 

 

「そういえばこの湖の名前って何ですか?」

 

「この湖はいつも霧が出ているので、『霧の湖』と呼ばれ始めたようです。いつも妖精がこの近くにいるのですが…」

 

暇だったので咲夜さんに湖の事を聞くと、ちゃんと答えてくれた。

いつも霧が出ているから『霧の湖』というらしい。

…それよりも妖精の方が気になった。

 

「妖精ってあの妖精ですか?」

 

「何が『あの』かは分かりませんが、恐らくあなたが考えている妖精で合っていると思います」

 

咲夜さんの言葉を聞いて実際に見てみたくなったが、周りを見渡しても誰もいない。

 

「ここによく居る妖精は何か能力を持っているんですか?」

 

「氷を操る妖精などですね。氷を操ると言っても、妖精自体が弱いので脅威ではありませんが」

 

(それは咲夜さんが強いせいじゃ……)

 

 

______________________

 

 

 

しばらく歩くと村に入った。

咲夜さんが言うには、幻想郷の人間の大半はこの里に住んでいるそうだ。

 

「妖怪が襲ってくることは無いんですか?」

 

「妖怪の賢者が保護しているので、里の中で襲われる事はほぼ無いです。他にも妖怪退治を仕事にする者、里を護る妖怪などもいますから」

 

「里を護る妖怪……ですか?」

 

「『上白沢』という名前で、寺子屋で教師をしています」

 

「会いに行きますか?」と聞かれたが行かない事にした。

会いたい気もするが、教師なら朝は忙しいだろう。

 

(妖怪が人間の教師か……)

 

妖怪は人を食べると聞いたが、意外に人間と妖怪は共存しているらしい。

 

______________________

 

 

特に何事も無く、無事に博麗神社に着いた。

 

博麗神社は里からかなり遠い上、獣道を通らないと辿り着けない所に立てられている。

……参拝者なんて来るのだろうか?

 

「霊夢、いるんでしょ」

 

「こんな朝から何よ?」

 

神社の中から赤と白の服を着た巫女が出てきた。

普通の巫女装束とは違い、袖が本体と分かれている特徴的なものだ。

 

「紫を呼んでもらえないかしら」

 

「別に良いけど何かあったの?」

 

そこでようやく巫女さん(霊夢さんというらしい)が僕に気がついたらしい。

 

「あんた誰よ?」

 

「どうも外の世界から迷い込んだみたいで。記憶が無いので名前はわからないです」

 

「そう。災難だったわね」

 

そう言うと霊夢さんは、何かをし始めた。

いや、念じ始めたの方が合っているのか?

 

「どうしたの霊夢……あら?」

 

突然何もないところから人が出てきた。

空間に出来た裂け目から上半身を乗り出している。

 

「外の世界から誰かが迷い込んだなら、すぐにわかるはずなのに……おかしいわね」

 

この人(紫さん?)は一目見ただけで状況を把握したようだ。

 

「ここで元の世界に帰して貰えると咲夜さんから聞いたんですが……帰してもらえますか?」

 

「ええ、もちろん。今すぐにでも帰すことが出来るわ」

 

「今すぐにお願いします」

 

本当は幻想郷を観光してから帰るつもりだったのだが、妖怪に襲われる危険を考えて止めることにした。

 

「わかったわ、少し待ってもらって良いかしら」

 

そう言うと紫さんは別の空間の裂け目を開いた。

 

「この隙間に入ったら元の世界に戻れるわ。中に入ると落ちるけど別に大丈夫よ」

 

紫さんはそう言って裂け目の奥を扇子で指し示した。

覗き込むと空間の裂け目の奥には不気味な眼が見えていて、出来ればあまり通りたくはない。

しかしこれ以外には無いのだろう。

肩をすくめて後ろを振り返った。

咲夜さんにお礼を言うためだ。

 

「咲夜さん、ありがとうございました」

 

「いえ、大丈夫です。帰れることになって良かったですね」

 

咲夜さんはそういって微笑んだ。

 

それを見届けてから裂け目に向き直り、覚悟を決めて中に飛び込んだ。

 

 

______________________

 

 

「ちょっとぉぉぉぉ!自由落下とか聞いてないしぃぃぃぃ!?」

 

ただいま絶賛、自由落下中である。

僕はジェットコースター等が無理な人間だ。

さっきから目を瞑ったままなので、周りがどうなっているかもわからない。

 

 

段々と周りの空気が変わってくると同時に、自分の記憶も少しずつ戻り始めた。

(もしかしてさっきまで居た場所ってあの東方projectの世界!?)

記憶が戻るに連れて、あの世界が『東方project』として知られている事も思い出した。

東方のゲームをしたことはないが、よく東方のアレンジ曲を聴いていた。

もっと見て周りたかったと後悔したが、もうあそこに戻ることは出来ない。

それに自分は外の世界での生活がある。

そう自分に言い聞かせ、幻想郷への未練を断ちきった。

 

 

ようやく元の世界に着くようだ。

都会の喧騒が聞こえた気がして目を開こうとした―――

 

 

 

 

 

 

―――次の瞬間、後ろに引き戻される強い力を感じた。

 

「へ?」

 

思わず開いた視界に入ったのは、先ほど見たばかりの博麗神社。

そして見覚えのある人影を見下ろしている。

 

 

つまりは博麗神社の()()に放り出された。

 

 

「ちょっと?」

 

 

皆さんご存知の通り、人類には翼が無い

『人間は元々は天使の一族であり、肩甲骨は翼の名残』といわれる事もある。

 

「ちょっとちょっと!?」

 

だがそれはオカルトの類であり、科学的な根拠はない

仮に真実だとしても、人はもはや天使ではない

 

 

 

……長々とした話は止めよう

  つまり何が言いたいのかと言うと

 

―――『人間は空を飛べない』ということだ―――

 

 

 

「大丈夫って言ったじゃん‼これのどこが大丈――」

 

最後まで言い切らないうちに神社の屋根に叩き付けられ、舌を噛みかけた。

さらに屋根は衝撃に耐えきれず、僕は屋根を突き破って神社の中に落ちた。

 

_____________________

 

僕は生きていた。

普通なら死んでもおかしくない高さだったが、畳の上に落ちた事が味方したようだ。

 

「これのどこが大丈夫なんだよ……」

 

全身の激痛を堪えながら、先ほどの続きを言い切った。

そして誰かが襖を勢い良く開ける音と共に気を失った

 

 

 



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第5話 戻った記憶~博麗神社~

11月と12月で1~2話分しか投稿できないかもと言いましたが、もっと投稿出来そうです。

紫さんの話し方が本っ当に分からなかった……
誰かこの話し方が良いよっていう人が居たら、感想で教えてくださいm(_ _)m


落ちていく様な感覚に驚いて目を覚ました。

高い所から命綱無しで落ちていく夢だ。

こんな悪夢を見たのは絶対にさっきの事が原因だ。

大丈夫とか聞いたけど、普通に危なかったし怖かった。

しばらくは夢に毎晩出てきそうだ

 

「しかし2日間で2回も気絶したのは初めてだよ……」

 

今度は布団に寝かせられていた。

この部屋は紅魔館の様な洋室ではなく、日本家屋にある様な和室だ。

きっと博麗神社の一室なのだろう。

長い間気絶していたらしく、すでに夕方になっていた。

障子を通して差し込んでくる光は暖かなオレンジ色をしている。

体を起こそうとすると全身に鈍い痛みが走る。

あれだけの高さから落ちたのだ。

死なずには済んだが、しばらくは痛むだろう。

 

誰かが近くに居たら良かったのだが、残念ながら話し声は遠くから聞こえてくる。

仕方なく痛みを堪えて起き上がり、障子を開けて廊下に出た。

 

 

______________________

 

 

 

縁側を歩いて賽銭箱がある所へ向かうと、霊夢さんと紫さんがお茶を飲んでいた。

 

「あら、もう目が覚めたのね」

 

僕に気が付いたのか、紫さんは振り向かずに話しかけてきた。

 

「ええ、命綱無しで落ちる夢を見て目が覚めましたよ」

 

「さっきは本当にごめんなさいね」

 

皮肉交じりに答えると、紫さんに本当に申し訳なさそうに謝られた。

そんな風に謝られると、何だかこっちが悪い様に思えてきた。

 

「……いえ、大丈夫です。それに記憶も戻りましたし」

 

全身を強打し、トラウマになったとはいえ、記憶が戻ってきた事はそれを上回るほど嬉しい。

自分の名前が思い出せない時は、本当に落ち着かなくて辛かった。

 

「なら良かったじゃない。あんた、名前は?」

 

「名前は『(あおい) 想手(そうた)』です」

 

「へぇ……『(あおい) 想手(そうた)』……」

 

霊夢さんは「珍しい名前ね…」と独り言のように呟いた。

 

「そういえばこれはあなたの本なの?」

 

紫さんが隙間から取り出したのは、あの白紙だった本だ。

 

「あ、そうです。ありがとうございます」

 

紫さんから受け取って眺めると違和感があった。

あの高さから落ちたにも関わらず、全く損傷が見当たらないのだ。

そして本を開けると内容が増えていた。

 

「やはりあなたは開けることが出来るようね」

 

本の確認をしていると、それを見ていた紫さんはそう言った。

 

「どういう事ですか?」

 

「実はあんたが気絶している間に、その本を読もうとしたのよ。でも私と紫はその本を開けられなかったの」

 

「勝手に読もうとしてごめんなさい。でもあなたを外に帰すことが出来なかったことが不思議で、何か手掛かりになりそうだったから」

 

「別に読んでも良いんですけどね」

 

そういって本を開けたまま紫さんに渡した。

別に勝手に読まれても怒る事はない。

それに読まれて困ることは書いていない筈だ。

 

「その中身は僕の記憶ですよ。僕は外に帰れなかった理由なんて見当もつかないので、それを見ても分かることなんて無いと思います」

 

そう。さっき気が付いたのだが、この本の中身は「僕が記憶している事」である。

どこぞの便利な日記みたいなものだ。

幻想郷の外で読んでいた小説の中身であったり、ゲームの中身であったり、高校で習った内容だったりetc…

ただし、1つだけ僕が知らないこと事が載っていた。

 

 

それは僕の幻想郷での能力だ。

僕は幻想郷を作品の中の場所としては知っていた。

しかし幻想郷が実在することも知らなかったし、「幻想郷にもし迷い込んだらどんな能力を持つのか」なんて妄想したことも無かった。

なのに何故か僕の幻想郷での能力が書かれていた。

 

その能力は、『記憶から引用する能力』だ。

この名前を見たときは正直に言って、どんな力か全くわからなかった。

しかし、何故かとても詳しく分かりやすく書かれていた。

試しに5円玉を思い浮かべてみると、本当に5円玉が手に現れた。

 

「すごい能力じゃない!」

 

霊夢さんがすごく食いついてきた。

……そう言えばこの博麗神社は参拝者が少ないんだった

 

「さ、賽銭箱に入れときますから……」

 

霊夢さんはお賽銭を信仰の度合いとして見ているということだけど……凄い形相だった……

 

「それであんたはこれからどうするの?」

 

「まだ考えてませんが……どうしたら良いでしょう?」

 

「それなら、里で働いたらどうかしら?」

 

「里ですか……」

 

咲夜さんから、里には教師をしている妖怪がいると聞いたが……

もしかすると、その人に雇ってもらえるかもしれない。

 

「じゃあ、里でしばらくは生活することにします」

 

「わかったわ、じゃあ送っていくわね」

 

「そこまでしてもらわなくても大丈夫です」

 

「あなたを帰せなかった事への、私なりのお詫びよ」

 

そう言うならと送ってもらうことにした。

その方法は―――

 

 

 

______________________

 

 

 

 

「……今度は本当に大丈夫ですよね?」

 

「……ええ、大丈夫よ」

 

「今の沈黙は何です!?」

 

紫さんの隙間で送られることになった。

また空中に放り出されることだけは勘弁願いたい。

 

「霊夢さん、どうもありがとうございました」

 

「別にどうってこと無いわ」

 

「それじゃあ、また今度」

 

そう言って隙間に足を踏み入れた。

隙間が閉じる直前、霊夢さんが「あ、そうそう」と思い出したように言った。

 

 

 

「今度来るときは神社の屋根を直してもらえると助かるんだけど」

 

 



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第6話 僕と隙間は相性が悪い

今回はほぼ話が進みません
紫さんの性格と話し方が本当に分からん
( ´・ω・`)


博麗神社で隙間に入った直後、僕は里の地面に立っていた。

……失礼。間違った表現をしてしまった。

 

僕は里の地面に()()()()()()()()()

ようするに、もぐら式晒し首の状態である。

裏路地だったので人目が無いのが救いだ。

 

「紫さんの大丈夫が信じられなくなってきたんですが。もしかしてわざとやってませんか?」

 

「……何故上手くいかないのかしら」

 

上体を隙間の縁に乗せ、手を口に当てて何やら考え始めた紫さん。

その仕草がわざとらしく見えるのは気のせいだと信じたい。

 

「……それより早く助けてくれませんか?」

 

正直、首だけで上を見上げるのはかなりキツい。

それに土が湿っているので、服も湿ってきた。

だから、早く隙間で助け出してほしい。

 

「隙間で助ける事はできるけど……良いのかしら?」

 

そういえば隙間での移動と相性が悪いんだった。

 

「隙間が無理ならどうしたら良いんですかね……」

 

「少なくとも私に手伝えることは無いし……あなたの能力で何とか頑張ってもらうしかないわ」

 

あ、自分の能力の存在をすっかり忘れてた。

えーと……何とか出来そうな方法は、と……

 

「周りに被害が出そうなやつしか思い付かない……」

 

僕が外でしていたゲームのジャンルはFPSゲームである。

だから、破壊するための装備はすぐに思いつく。

しかし、その全てが爆発物なので周りに被害が出る。

それに何よりここは幻想郷だ。

外の危険物を必要以上に幻想郷に持ち込むのは無粋だ。

それに自分が巻き込まれるのも嫌だし。

 

「紫さん、お願いがあるんですけど良いですか?」

 

目を閉じたまま声をかけるが返事がない。

 

「紫さ……あ、いない」

 

上を見上げると、紫さんが居なくなっていた。

隙間から上半身を出していたので足が見えず、それ故に気が付けなかったのだろう。

これで自分から何とかする方法が無くなった。

もはや、誰かが見つけてくれるのを祈るしかないと言うことだ。

先ほども言ったように、ここは裏路地である。

午前中からこんな暗くじめじめした所など誰が通るだろうか?

 

神よ、何故私を見捨てたのですか(エリ・エリ・レマ・サバクタニ)……」

 

ふと聖書の一節を思い出したから言ってみた。

 

(1度は言ってみたいセリフ、本当に言えた~)

 

そう現実逃避していた時、救世主が現れた。

 

 

_____________________

 

 

 

「そこのあんちゃん。そんなところで何をしてるんだ?」

 

店の裏口らしき扉を開けて現れたのは、白い鉢巻きをし、同じく白いはっぴを着たおっさ…おじさん。

怪訝そうにこちらを伺っている。

 

「神は私を見捨てなかった!」

 

「………………」スッ

 

「ちょっと待ってお願いですから無表情で中に戻らないでください!」

 

嬉しくて叫んだら、静かに扉を閉められた。

確かに危ない人みたいに見えたかも知れないけど、目の前に首まで地面に埋まっている人がいたら助けるよね普通!?

え?何々?そんな状況なんて見たこともないし聞いたこともない?

それに首まで地面に埋まっている人なんているのかって?

ここにいる僕が栄えある一人目だよ!(怒)

 

あ、おじさんが戻ってきた。

 

「それよりあんちゃん、助けが必要みたいだな」

 

「必要です。すみませんが掘り出してもらえませんか?」

 

「あいよ!俺に任しときな‼」

 

(この人、良い人だ……!)

 

______________________

 

 

       ただいま救出中

 

______________________

 

 

 

「ところであんちゃん。何で地面に埋まってたんだ?」

 

シャベルで掘り出された後、おじさんはこう聞いてきた。

まぁ、当然理由を聞きたくなるよね。

 

「埋まっていたと言うか……埋められたと言うか……」

 

本当はどっちなんだろう?

僕としては紫さんがわざとやっていないと信じたい。

 

「あんちゃんが言いたくないのなら別に構わないぞ?」

 

「あ、いえ。そういう訳では無いんですけど……」

 

「ははっ!秘密は誰にでもあるからそんな気にすんな!」

 

おじさんはそう言って、ゴツゴツした手で僕の肩をばしばし叩いた。

人の話を聞いて欲しいし、そんなにばしばしと叩かないで欲しい。めちゃくちゃ痛い。

 

「ところであんちゃん、名前は何て言うんだ?」

 

「『(あおい) 想手(そうた)』です」

 

「ほう、想手か。ずいぶんと良い名前じゃねえか。俺は『笹平(ささひら) (じん)』だ。仁と呼んでくれ」

 

「仁さん、助けて頂いて本当にありがとうございました」

 

「どうってこたぁねえよ。俺は困っている奴を見ると、どうしても助けたくなる性分でな。いつも通りに助けただけだ」

 

「『いつも通り助けただけ』って自然に言えるって、すごくかっこいいっすね」

 

「そうか?人として当たり前の行いだろ」

 

そんな風に『人として当たり前』と自然に言えちゃうところもかっこいいと思う。

 

 

______________________

 

 

 

「ところで学校……寺子屋はどこですか?」

 

ようやく本題を切り出すことが出来た。

いろいろなハプニングのせいで、寺子屋で教師として雇って貰えないかと言う目的を忘れてしまっていた。

 

「何をしに行くんだ?見た限り、想手はもう寺子屋に通う歳でもねえだろ?」

 

「実は教師として雇ってもらいに行くんです」

 

「そうか!それは楽しみだ!実は俺の子どもが寺子屋に通っていてな。もし想手が先生になったら、ぜひ面倒を見てやってくれ!」

 

仁さんがすごく応援してくれた。

これは頑張って採用試験に合格するしかあるまい。

 

「寺子屋の場所が分からないので、教えてくれますか?」

 

仁さんは地元の人だし里の構造には詳しいだろう。

だから分かりやすく道を説明してくれると考えたのだが……

 

「この道をぐーっと行って、あそこら辺の角を曲がって、でーっと歩いて行ったら見えてくる。こっちからぐるーっと回って、ずいーっとまっすぐ進んでも行けるぞ」

 

…………全く分からなかった。

里の人々はこの説明で分かるのだろうけど、僕には見当もつかない。

いや、もう一回聞いたら分かるかもしれない。

 

「もう一回お願いします」

 

「じゃあもう一回言うぞ?この道をぎゅーっと行って、あそこら辺の角をくっと曲がって、どーっと歩いて行ったら見えてくる。こっちからくるっと回って、だーっとまっすぐ進んでも行けるぞ」

 

「…………もう簡単で良いのでこれに地図を描いてくれますか?」

 

結局分からなかったので、簡単に地図を書いてもらって、仁さんと別れた。

 

「想手!寺子屋での用事が終わったら来てくれ!」

 

これは別れ際の仁さんの言葉。

 

僕は「ええ、もちろん」と答え、その場をあとにした。

 




仁さんには、これからも出てもらうつもりです。
それでは次回をお楽しみに(⌒0⌒)/~~


聖書から引用した文は、イエスが磔にされた時に叫んだとされる7つの言葉のうちの1つです。
正確な訳としては、「我が神、我が神、何故私をお見捨てになったのですか」となります。
新約聖書の『マタイによる福音書』では27章46節にヘブライ語で「エリ・エリ・レマ・サバクタニ」として、『マルコによる福音書』では15章34節にアラム語で「エロイ・エロイ・ラマ・サバクタニ」として書かれています。
今回は『マタイによる福音書』の表記を使いました。


僕は新約聖書を全て読みました。
意外と面白かったので、ぜひ読んでみてはいかがでしょうか?


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第7話 仁さんの厚意

前回と同じくほぼ展開無し!
それでは第7話、どうぞ( ゚д゚)ノ


「うわぁ……『簡単に』とは言ったけど、いくらなんでもこれは無いでしょ……」

 

仁さんと別れた後、地図を見てみると矢印しか書かれていなかった。

仁さんらしい書き方だ。

でも主要な道ぐらい書いてくれれば良いのに。

 

「他の人に聞くしかないよな」

 

ため息をついて地図をズボンのポケットにしまった。

今自分がいる場所は大通りなので人も見つけやすい。

 

(誰か近くにいる人で話がしやすそうなのは……あそこの青い帽子の人で良いや)

 

「すいません、寺子屋までの道をお訊きしても良いですか?」

 

「ん?ああ、大丈夫だ。ここから北に行って3つ目の角を右に曲がってくれ。そこからまっすぐ進むと左に見える少し大きい建物が寺子屋だ」

 

「ありがとうございます。実は先ほど別の人に地図を書いてもらったのですが、全く分からなくて……」

 

「私にそれを見せてもらっても良いだろうか?」

 

「ええ、もちろん良いですよ」

 

さっきの仁さんの地図を青い帽子の人に渡した。

ところでその小さい帽子、頭にちょこんと置いているだけの様に見えるのだが、身体を傾けたときに落ちたりはしないのだろうか?

 

「……もしかして仁に描いてもらったのか?」

 

「ええ、仁さんに頼みました。それより仁さんを知ってるんですか?」

 

「仁の子供を知っているからな。私は寺子屋で教師をしているんだ」

 

え?この人教師なの?

じゃあ僕が探してる人ってこの人?

 

「あなたが上白沢さんですか?」

 

「そういえば名前を言ってなかったな。私は『上白沢(かみしらさわ) 慧音(けいね)』という。『あなたが』と言ったことから察するに私に用があるみたいだな」

 

この青い帽子の人が慧音さんだったらしい。

まさか道を訊いた相手が目的の人だとは思わなかった。

このまま本題を言ってしまおう。

 

「僕は碧想手といいます。実は上白沢さんに頼みたいことがありまして。僕を寺子屋で教師として雇ってもらう事は出来ますか?」

 

「これはまた急なお願いだな。何故寺子屋で雇ってもらいたいのか、その理由を訊いても良いか?」

 

そりゃあ見ず知らずの人間をすぐに雇うわけが無いよね。こうなったら正直に自分の事を話した方が良いよな。

 

「僕は実は幻想郷の外から昨日来たばかりなんです。帰らずに幻想郷に残ることにしたのですが、生活費を稼ぐために出来そうなことが教師しか思い付かなくて」

 

「そうだったのか。私としては雇っても良いが、君は何を教えられるんだ?」

 

あ、やっべ。何にも考えてなかった。

というか、何の教科が教えられるんだろう?

少なくとも絵は無理でしょ?音楽も無理でしょ?地理も歴史も無理でしょ?英語なんて幻想郷じゃ需要ないし……

あれ?僕に出来ることってある?(´・ω・`)

……ちょっと待て幾つか出来ることがあった。

 

「国語と算数、それに理科を教えられると思います」

 

「国語と算数は私が教えているから大丈夫だ。じゃあ君に理科をお願いしても良いか?」

 

「本当に雇ってもらえるんですか?」

 

「ああ、本当だ。じゃあ明日から…いや、やはり明後日から来ると良い」

 

「僕は明日からでも大丈夫ですよ」

 

「明日は最初の授業で何をするか考えてくれ。先生は最初の授業で印象が決まるからな。その泥だらけの服じゃ先生としての威厳もないだろう。ともかく明日は明後日に向けて準備をしてくれ。それじゃあ期待してるぞ」

 

慧音さんはそう言って去っていった。

確かに授業で何をするか決める必要がある。

子供達に興味を持ってもらうにはどうすれば良いのか、それを考えるには時間が必要だろう。

慧音さんの言う通りにする方が良さそうだ。

 

……それに紫さんのせいで泥だらけになった服を洗わないといけない。

まさか幻想郷に全自動洗濯機なんて存在しないだろう。

必要な洗濯板と石鹸はイメージで作り出せそうだが、自分で上手く出来るだろうか?

 

明後日までにすべき事の多さに気が滅入りそうになる。

だが今は職を得られたことを喜ぼう。

さて、仁さんにこの事を報告しに行こう。

きっと仁さんも喜んでくれるだろう。

 

……と、そこまで考えたところで大事な事に気が付き、顔に浮かべていた笑みが凍りついた。

 

自分の生活拠点。つまりは寝泊まりする家が無い。

恐らくは、仁さんに頼めば……いや、さすがに仁さんでも無理と言うだろう。

 

「頼むだけでもしてみるか……」

 

喜びから一転、暗い気持ちで来た道を戻り始めた。

 

 

 

______________________

 

 

 

 

さっきの場所に戻ると仁さんが同じ場所で待っていた。

 

「おお、もう戻ってきたのか!意外と早かったな!」

 

「実は途中で慧音さんと会いまして」

 

「なるほど、通りで早かったのか!」

 

仁さんはまた「がはは」と笑って、大きな手で僕の肩をばしばし叩いた。

だから仁さんにされると痛いんだってこれ。

 

「で、どうだった。先生になれたのか?」

 

「はい、すぐに雇ってもらえました。慧音さんが良い人で助かりましたよ」

 

「良かったじゃねえか!これで想手も大人の仲間入りだな!で、働くのは明日からか?」

 

「いえ、明後日からです。明日は最初の授業に向けて準備をするつもりです」

 

「そうか!なら今日はゆっくり休んで、明日の準備に備えないと行けないな!」

 

仁さんはまた僕の肩をばしばし叩いた。

めちゃくちゃ痛い……

でも仁さんが心から祝福してくれているので、笑みが溢れてくる。

しかし次の瞬間、

 

「想手!後でお祝いの酒とかを持っていくから、家を教えてくれ!」

 

この言葉で笑みが凍りついた。

 

 

______________________

 

 

今日だけでも泊まらせてもらえないか、仁さんに頼まなければ行けない。

しかし、さすがに仁さんでも首を縦に振ってはくれないだろう。

 

「想手、どうかしたのか?」

 

よほど不安が顔に出ていたのか、仁さんが怪訝そうにそう言った。

今、ここで言わないと機会を失ってしまうだろう。

僕は心を決め、「仁さん」と言った。

 

「仁さん、お願いしたいことがあります」

 

「なんだ?急に改まってどうしたんだ?」

 

「実は自分の家が無いんです。ですから、今夜だけでも仁さんの家に泊まらせてくれませんか?」

 

______________________

 

 

「なんだ、そんなことか。もちろん良いぞ」

 

「え?良いんですか?」

 

仁さんの即答に思わず聞き返してしまった。

 

「当たり前だ!人が困っていて、助けられずには居られるか!」

 

「確かにそうですけど……本当に?」

 

「ああ、本当だ。そもそも想手だって、俺がこういう性格だから俺に頼んだ。そうだろ?」

 

仁さんは笑いながらそう言った。

 

「仁さん!ありがとうございます!」

 

「なぁに、人助けは俺の生き甲斐だ!良いってことよ!」

 

仁さんはまた肩を叩いた。

涙で視界がぼやけてきたのは、仁さんへの感謝の念で胸がいっぱいになったからだ。

 

「おいおい、泣くんじゃねぇよ」

 

「すいません。でも嬉しくて……」

 

次から次へと涙が溢れてくる。

仁さんから見えないように、体の後ろでこっそりと能力でハンカチを出して涙を拭いた。

感情が昂ってイメージが定まらなかったのか、ごわごわしたハンカチになってしまった。

 

「もういいか?俺についてきてくれ」

 

僕は慌ててハンカチをしまって、仁さんを追いかけた。



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第8話 笹平七々

「着いたぞ。ここが俺の家だ」

 

 

仁さんがそう言ったのは、一軒の豆腐屋の前だった。

 

 

「仁さんって豆腐職人だったんですね」

 

「この見た目ならそれしかねえだろ?」

 

「あ、いえ。初めて見るものですから」

 

(豆腐を作ってる人なんて、テレビや本でしか見たことなかったからなぁ)

 

「七々~遅くなってすまん」

 

「お父さんどこに行ってたの!」

 

 

仁さんの後について中に入ると、長い髪の女の子が出てきた。

仁さんの娘さんだろうか?

 

 

「いやー。また人助けをしててな」

 

「はぁ……まったくお父さんは……」

 

 

その子は額に手を当ててため息をついた。

……苦労してますね、娘さん

 

 

「……で、今回はあなたが?」

 

「はい。ここに住まわしてもらえる事になったので、しばらくの間よろしくお願いします」

 

「……ちょっとごめんなさい」

 

 

その子は引き攣った笑いを浮かべ、仁さんに向き直った。

 

 

「お父さん?」

 

「痛い痛いやめろ耳を掴むな!!!」

 

 

両耳を引っ張りあげられた仁さんが悲鳴をあげた。

……ちょっと待って、仁さん浮き上がってるし!?

ってことは、耳だけで体重を支えてるってことか!?

それよりも70kgありそうな仁さんを、中学生ぐらいの小柄な女の子が持ち上げてる!?

 

仁さんの耳がすごいのか、はたまた女の子がすごいのか……

 

 

「毎回毎回……どういう事?」

 

「今回は!今回はちゃんとした理由があるんだ!」

 

「いつもそう言いますよね?」

 

「待て止めろ放してくれ痛い痛い‼」

 

「あのー……」

 

「そもそも理由なんてあるんですか!!」

 

「だからあるって言ってるじゃねえか‼」

 

 

 

(終わるまで待つか…)

 

 

______________________

 

 

        ~10分後~

 

「あのー……」

 

「?あら、ごめんなさい」

 

収まった頃合いを見計らって声をかけると、ようやく気が付いてもらえた。

そして慌てて仁さんの両耳から手を放した。

 

 

仁さんを()()()()()()()状態で。

 

 

当然、仁さんは物理法則に従うことになり――

 

 

「いってぇぇ!」

 

 

――腰を強打することになった

 

 

______________________

 

 

 

「痛たた……」

 

「その程度の怪我はいつもの事じゃないの」

 

「人助けでよく怪我をするんですか?」

 

「だいたいは七々のせいだがな」

 

「それはお父さんが悪いからです」

 

 

また先ほどの状況になりそうだったので、話を変えることにした。

 

 

「僕は想手といいます。『想い』の『手』と書いて想手です」

 

七々(なな)です。先ほどは見苦しい所をお見せしてごめんなさい」

 

 

七々さんはそう言って頭を下げた。

悪いのは、きちんと説明しなかった僕の方なのだが……

 

 

「僕の事を説明しても良いですか?」

 

 

先ほどの反応を見る限り、七々さんは反対しているようなのでそう言ったが、「説明はいらない」と言われた。

 

 

「七々さんって反対じゃないんですか?」

 

「私は反対していた訳じゃないですよ。それよりお腹は空いてませんか?もうすぐ夕飯が出来上がるので、どうぞ上がってください」

 

 

誤魔化されている様に感じたが、急かされるまま奥に押されていった。

 

 

______________________

 

 

 

「お父さんが大丈夫だと判断したなら、私が言うことはありません。お父さんの判断は正しい事が多いですから」

 

 

後に七々さんはそう話していた。

誤魔化される様な感じは気のせいだったようだ。

 

 

______________________

 

 

 

夕食後、部屋で白紙の本を読んでいた。

仁さんが貸してくれた部屋は、2階で通りに面した部屋だった。

もちろん床は畳である。

マンションに住んでいたのだが、畳は祖父母の家ぐらいにしか無かった。

畳は板張りの床よりも好きなのでこれは嬉しい。

 

 

「想手。ちょっと良いかしら」

 

「駄目です」

 

 

紫さんが虚空から急に現れた。

ある程度の予想はしていたので驚かなかったが。

 

 

「ダメと言われても、勝手に失礼するわよ」

 

「じゃあなんで最初に訊いたんですか……」

 

 

職員室で「失礼します!」って言って、先生から冗談で「失礼をするなら帰れ」って言われた気分だ。

 

 

「さっきは急にいなくなって悪かったわね」

 

「何で居なくなったんですか?仁さんが来たから良かったものの、来なかったらどうしようも有りませんでしたよ」

 

 

笑い事じゃなく本当にどうしようも無くなっていただろう。

どんな理由かと紫さんの言葉を待っていると、予想していなかった理由だった。

 

 

「彼が来たから隠れていたの」

 

「仁さんが来たから……ですか?」

 

「そう。私がいなくなった後に運良く彼が来たんのではなく、彼が来たから私は居なくなったのよ」

 

「……何で隠れる必要があるんですか?」

 

「…彼に対して負い目があるからよ」

 

「負い目……ですか?」

 

「ええ……それと忘れられないほどの後悔も」

 

 

紫さんがここまで言うなんて、どれだけの後悔なのだろう。

 

 

「…これ以上聞かない方が良いですか?」

 

「……いいえ。ここで言わなくともすぐに分かることだから、今知っておいて欲しいの。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「彼はあなたと同じ。元々は幻想郷の外の人よ」

 

 

 

 



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第9話 初授業へ向けて

翌朝、僕は「記憶書」を読んでいた。

「記憶書」とは、幻想郷に迷い込んだ時に持っていた白紙だった本のことだ。

なぜ突然、名前を付けようと思ったのか?

 

それは古くから世界各地で、言葉には力が宿ると考えられてきたからだ。

日本では言霊(ことだま)として知られている。

言葉には想いが込められており、それは時として強い影響を周囲に及ぼす。

 

例えとしては魔法が分かりやすいだろう。

魔法使いは魔法を使うとき、呪文を()()()()()唱える。

これは魔法のイメージを確立し、言葉に込められた力を解放する意味があるとされている。

 

もちろん僕は本物の魔法使いなどを見たことは無い。

しかし各地の民話に登場する魔法使い達は、必ずと言っていいほどそうしている。

これは言葉には力が宿ることを示している証拠では無いのだろうか。

 

僕が言いたいのは、言葉や名前に宿る力はそう名付けられたものとそれ以外のものとを区別する、いわゆる「境界」の役割を持つこと。

名前が無いとは存在が曖昧になるということだ。

僕が記憶喪失状態だったときに感じていた不安が「自分とは何か」というものだった事も、この事が深く関係している。

 

まだまだ話したいことはあるが、ここらで止めておこう。

 

自分が幻想郷に迷い込んだ時の数少ない所持品の1つであり、自分の記憶を記録してくれる不思議な本。

このような興味深い物の仕組みはぜひ調べ尽くしたいので、存在が曖昧で消えてしまいそうな状態にはしておきたくなかったからだ。

 

 

……と言っといて何なのだが、実はそれほど深く考えてはいない。

最後の調べ尽くしたいと言うことは本音だが。

本当の理由は「白紙の本」よりも「記憶書」の方が言いやすいからだ。それに覚えやすいし、記憶書の響きがかっこいいと思ったからだ。

 

 

 

閑話休題

 

 

 

どうやらこの記憶書は自分が覚えていることに限らず、一度見たり聞いたりしたことは全て記録されるらしい。

先ほどそれに気付いた時は思わず、「禁書目録(インデックス)かよ」と言ってしまった。

彼女(インデックス)のように、一度見聞きしたものは決して忘れないといった「完全記憶能力」を持つ人間は極々稀にいるらしい。

何とも便利な能力だと思うが、自分の黒歴史も忘れられない事を考えるとどうかと思う。

 

 

想「やっぱり聞き逃した事は無いよな……」

 

 

今は昨晩の紫さんとの会話を読んでいた。

仁さんが元は僕と同じで外から迷い込んだ人間だと聞き、その事について調べているところだ。

 

______________________

 

~昨夜~

 

 

想『……それはどういう事ですか?』

 

 

全く予期していなかった言葉を聞き、驚きで言葉が出なくなってしまったが、何とかそれだけを絞り出すように言った。

 

 

紫『彼は幻想郷に残ると言ったの。あなたとは違って私の能力で帰ることは出来たはず。でも彼は自らの意志で残ると決めた。』

 

想『よほど幻想郷が気に入った…ということですか?』

 

紫『そうね。でもそれ以上の理由があったわ』

 

想『それ以上の理由?』

 

 

幻想郷が気に入ったよりも大きな理由とは何だろうか?

 

 

紫『その理由は……』

 

 

その時階段を昇る足音が聴こえてきた。

振り向いて耳を澄ませる。

この階段の軋みかたは恐らく七々さんだろう。

重そうな仁さんなら、これより大きく軋むはずだ。

 

 

想『大丈夫です。仁さんじゃないみたいですよ』

 

 

しかし返事は無く、振り向くと紙が1枚落ちていた。

 

[私がこれ以上言ってしまうのは彼に悪いわ。続きは彼の口から話してもらって。もう夜遅いから私は帰るわね]

 

仁さんが幻想郷に残ると決めた理由を言わないまま、紫さんは帰ってしまった。

仁さんがそれを会ったばかりの僕に言う事はありえないと思うんですが……

 

そうぼやいて紙の裏を見ると、

 

[|P.S. 今度、幻想郷での色々なルールについて教えるわ]

 

と、書かれていた。

 

 

想『今度っていつですか……』

 

 

慌てて帰ったせいか、具体的な日時が無かった。

まぁ慌てることは無いだろう。

重要な事なら既に言っているはずだから。

 

 

七『想手さん、入っていいですか?』

 

想『It's bad timing……(何て間が悪い……)

 

七『いっつばっどたいみんぐ?』

 

想『ごめん気にしないで。Please come in(どうぞお入りください)

 

七『ぷりぃずかみん?』

 

想『ごめんなさい』

 

七『何で謝るんですか……』

 

 

七々さんの発音が面白かったので、つい英語を言ってしまった。

 

 

想『面白かったのでつい……あ、どうぞ入ってください』

 

七『?』

 

 

______________________

 

 

 

何度昨日の会話を読み返しても、忘れていることは無かった。

仁さんの過去が気になって仕方が無いのだが、こんなことをしている場合ではない。

 

 

 

明日、教師としての初授業が有るのだ。

それに向けての準備をしなくてはいけない。

あの後、七々さんから最初の授業内容を訊かれ、まだ何も考えていなかった事に気付いた。

 

 

あれから考えてはいるのだが、まだ良い案を思いつかない。

その理由は主に2つ。

 

1つ目は、できる内容が限られているからだ。

 

ここ、幻想郷の発展度は外の世界とかなり差がついている。

それは科学への理解があまりにも少ないという意味だ。

ここで思い出してほしい。

僕は外から来た理科の教師だ。

自分には解っていても、子供たちには理解できない(もしくは退屈)な事を最初の授業でやるわけにはいかない。

退屈な授業は拷問でしかない。

良い教師の第1条件は、授業が面白いことだ。

 

つまり、子供達にも理解できる面白い内容。

これが中々見つからないのだ。

 

 

2つ目は、材料だ。

 

たとえ出来る内容が見つかったとしても、それを行うための材料が無ければどうしようもない。

 

能力で出せば良い?

それは可能だが、駄目だ。

僕の能力で出すと、質が悪いものが出てくる。

恐らくだが、イメージは常に形を変える儚い物なので、どれだけ努力しても具現化中に変質してしまうのだろう。

霊夢さんに渡した五円玉も細部が細かく表現出来ていないはずだ。きっと偽造した硬貨と同じぐらいの完成度だろう。

 

 

これらの理由を纏めよう。

 

 

 

ドゥドゥデデ ドゥドゥデデ

 ドゥドゥデデ ドゥドゥデデ

 

I have a problem(幻想郷の発展度)♪ I have a problem(自分の知識)

 

Oh! Very difficult problem(良い内容が無い).

 

I have a problem(必要な材料)♪ I have a problem(用意可能な材料)

 

Oh! Very difficult problem(致命的な材料不足).

 

Problem(良い内容が無い)Problem(致命的な材料不足)

 

ドゥンドゥン トゥゥン

 

It can not be only a little(出来る内容が見つからない).

 

 

 

つまり、出来る事がとても限られている。

ふざけてあの曲に合わせて言ってみたが、かなり恥ずかしい。

周りに人が居なくて良かっ

 

 

七「想手さん、今の踊りは何ですか?」

 

想「見られてたーー!?」

 

七「最初の足踏み、決まってましたよ」

 

想「やめて言わないで恥ずかしいっ!」

 

 

七々さんに見られていた。

それも最初から全て。

 

 

______________________

 

 

 

七「落ち着きましたか?」

 

想「はぁ……」

 

七「落ち込まなくても……上手でしたよ」

 

想「頼むから本当に止めて下さい」

 

七「上手だったのに……」

 

 

いや、上手なら良いって訳でも無いんだよ七々さん。

 

三角座りで部屋の隅に居る僕を不思議そう見ている七々さんは、思い出したように「そうそう」と続けた。

 

 

七「もう授業内容は決まりましたか?」

 

想「それが中々決まらなくて……」

 

 

理由を話すと、七々さんに記憶書を見せてほしいと言われた。

 

 

想「良いですけど、どうしました?」

 

七「時には違う視点から見るのも必要ですよ。それじゃあ私が指差した事は出来るのか教えてくださいね」

 

 

それはそうだが、本当にこんな方法で決められるのだろうか?

 

 

七「これはどうです?」

 

想「どれどれ……あ、それは危ないからダメ」

 

 

いきなりテルミット反応の実験を選んでくるとか、七々さん恐ろしい。

テルミット反応は僕が好きな化学反応の1つだ。

自分も少しは考えたが、高熱を放つ上に材料の1つ、アルミニウムの粉末が用意できないので止めた。

 

 

七「ならこれはどうです?」

 

想「絶対ダメ」

 

 

なんで核爆発の絵を選んだ。

用意出来る出来ない以前に、幻想郷が消し飛ぶわ。

無知とは恐ろしい物だ……

 

 

七「それならこれは?」

 

想「それは……出来なくはないけど……」

 

 

七々さんが指差したのは、水面を走れる様になる実験。

水に小麦粉を溶かして粘度を高め、上を裸足で走っても沈まなくなると言う実験だ。

 

 

七「何か問題でも?」

 

想「色々なクレームが来るからダメ」

 

 

実験が終わった後はそれを棄てることになる。

そうすると色んな団体から絶対に来る……

小麦粉(食べ物)を粗末にするなっていうクレームが……

ホットケーキにして食べて、『スタッフが美味しく頂きました』ってしたら良いって?

僕は足が触れた後のそれを食べるなんてしたくない。

 

 

七「ならこれは?」

 

想「○○だから無理」

 

 

七「それならこれは?」

 

想「材料が用意できない」

 

 

七「これならっ!?」

 

想「何でまた核爆発っ!?」

 

 

 

______________________

 

 

~約2時間後~

 

 

七「これ」

 

想「無理……じゃない…出来る」

 

七「次は……え?今何て言いました?」

 

想「出来る!これは出来る!七々さんありがとう!」

 

七「あ……はい、どういたしまして?」

 

 

突然の事に状況が飲み込めていない七々さんを尻目に、僕は部屋を飛び出した。

 

 

想「仁さん!ジャガイモって有りますか!?」

 

仁「ん、ああ。台所にあr」

 

想「ジャガイモ借ります!」

 

 

仁さんが言い終わらない内に台所に向かって駆け出した。

 

 

仁「借りるとはどういうことだ!?」

 

想「そのままの意味です!()()()()()です!」

 

 

さぁ、ようやく明日の授業の準備が出来る。

子供たちがどんな反応をするのか楽しみだ。

僕は袖を捲り、ジャガイモを手に取った。

 



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