強気な先輩からパンツを召し上げる話 (まさきたま(サンキューカッス))
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セール品(白)

こんな学生生活送りたかった(願望)


 初めまして、かな。

 まずは先輩たる私から自己紹介をしようか。私の名前は・・・あぁ、なんだ。

 

 君は私のことを既に知っていてくれたのか? なら、今は自己紹介を省こう。名前以外の私について知りたいことは部活の最中にでも好きなだけ聞いてくれ給え。

 

 ただ申し訳ない、君の名前をどうか教えてくれないだろうか?

 

 君は1度、新入生歓迎会における各部活動の紹介において活動内容の発表時、熱弁を振るう私の姿を見たかもしれない。だが、発表者たる私からしたら君はその時、傍聴していた生徒達の1人でしか無く、従って私が君の顔を覚えて無くとも当然、君は寛大な心を持って許して然るべきだ。

 

 

 うん、そうか。それが君の名前か。実に良い名前では無いか!

 

 君は良い両親を持ったのだろう。名前と言うのは、親が子にどのような期待を寄せ、どのように育てるかの誓いであり、ソコに更に画数だの読みだの風水の要素まで絡めて文字通り心血注ぎ考えるモノなのだ。

 

 君は恐らく、とてもとても親に愛され産まれてきたのだろう。素晴らしい事だ!

 

 では改めて、ようこそ。我が〇〇高校心理研究会へ。

 今年の入部届は君のたった1枚だけ。我が部活に届けられたこれは、君が如何に優秀で、見る目が有るかと言う証左に他ならない。だからそのような“ああ、しまった。俺は入る部活を間違えてしまった!”みたいな顔をしないでくれ給え。

 

 

 落ち着いたかね? では、好きな席に着いてくれ給え。いよいよ記念すべき第1回目の部活を始めようじゃないか!

 

 

 ではまずは、我が部の今年唯一の部員である君に、簡単な問いを1つ投げかけよう。

 

 

 一体全体、パンツとは何なのか?

 

 ああ、真面目な問いさ。ふざけてなんか居ないよ。この部活の名前を思い出してくれ給え。そう、 心理研究会と言っただろう?

 

 そうとも。これも部活の内容さ。女性で、更に先輩である私にこのような問いをされて照れてしまうのは分かっている。だが、部活の初めのウチだけなのだ。いちいち議題に照れてしまうなんて言うのは。

 

 君が暫くこの部活に顔を出してくれたなら、すぐにどのような議題で有ろうと私と熱弁を交わし、理性的で客観的なエビデンスに基づく有意義なディスカッションを行えるようになるだろう。

 

 そしてこれは社会においても通用する重要なスキルだ。君は入る部活を間違えたどころか、これ以上無い有意義な学生生活を過ごせるだろう。

 

 では、改めて問おう。

 

 君は、パンツとはどういった存在であると考えるんだい?

 

 

 ふむ。それは柔らかい布製であり、衣服の中の分類としては下着であり、部位としては股間に装着すべきモノであり、様々な色と種類があり、男子諸君は躍起になって女子のパンツを覗こうとし、女子は気持ち悪いと父親のパンツを籠から投げ捨てるモノで有る。

 

 その通り。だいたい出尽くしたかね? 私もパンツについての考察は大体似たようなものさ。

 

 つまりこれらが示すことは、相対的にパンツというモノは女子のモノの方が価値が圧倒的に高いと言う事だ。これは、決して私や君だけの主観では無く、普遍的で客観的な事実で有ろう。

 

 

 ここまでは理解できたかい?

 

 

 

 それでは、次の問題を出そう。

 

 

 価値の高いパンツとは、どう言ったパンツだい?

 

 

 

 ふふ、少し考えている様子だね。この問いは簡単な様で難しい。

 

 成る程? 単純に、販売価格が高価なモノで有る、と言う意見も悪くは無い。

 

 だが聞いて欲しい。巷では女子高生の写真と共に中古のパンツを有り得ない値で売っていたりもする。元値が安くとも販売価格は幾らでも高騰する。私が1番聞きたいのは、なぜ高騰するのか? と言うことだ。

 

 熱いモノとは何かと聞いて、温度が高いモノと答えても当然正解だろう。だが、ソレは言葉を言い換えたに過ぎない。私が聞きたいのは、火であるとか、太陽であるとか、真夏のアスファルトであるとかそう言った事なのだ。

 

 

 ヒントを少し出そうか? 君は私のパンツと水着、どちらをみたいと感じるかね?

 

 ふむ、そうだろうね。ははは、照れるな照れるな!

 

 議論に戻ろう。なぜ君は今、パンツを選択したのか。そこにヒントが有ると考えている。

 

 水着を隠す女性は少なく、下着を見せ付ける女性もまた少ない。当然、そこに明確な差が産まれる。

 

 夏の、水場でしか拝めない水着。だが、隠そうとしない水着姿は、女優やアイドルと言ったとびきりの美人のモノを少年誌等で気軽に眼福できる。

 

 一方、風が吹いたり・・・、そうだな、私がバランスを崩して転けたりすれば、君だって次の瞬間にも拝めるかもしれないパンツ。ただし、即座に見たいとなれば君も持っているかもしれないエッチな本まで手を伸ばさねば拝むことは出来ない。

 

 ならば目にする事が少ないパンツの方をみたいというのは、性欲云々では無く好奇心の生物である人類にとって当たり前の感情なのだ。別に恥ずかしい事では無いぞ後輩!

 

 

 

 

 

 さて、今までの事を踏まえて更に問おう。そしてコレを、今日の部活今日の最後の問いとしようではないか。

 

 

 “私の今履いているパンツの価値を、この部室から出ず今より更に高める方法とは何か?”

 

 

 ふふふ、何だか慣れてきたな? さっきより照れが少なくなってきた様に見えるぞ。良いことだ、議論と言うのは感情を抜きにして行うモノなのだから。

 

 では、意見を述べてくれ給え。男性たる君の方が、有意義な答えを出せるかもしれんな。

 

 

 

 

 ほほう。それは、面白いかもしれない。早速に、非常に良い意見が出た。

 

 確かに、君の言うとおり。世の中において、ジーンズを履いている女性とスカートを履いている女性とでは、確かにスカートを履いている女性のパンツの描写の方が魅力的なモノだと扱われているかもしれない。

 

 ジーンズは基本的に鉄壁、さらに見えたとしても範囲は微々たるモノだ。一方スカートはあわよくばと言う期待を持たせる。そこに差があると君は言うのだね。素晴らしい、意見の述べ方も板に付いているな。

 

 ふむ。チラリズムと言った言葉も有る。

 

 即ち、男性にあわよくばパンツが見れると期待させつつ、その期待をいなし決して見せない。そう言った行動を私が行うことにより、私のパンツの持つ価値は高まると、そう言いたいのか。

 

 

 成る程、納得させられた! 素晴らしい1年が入ってきたものだ! 向こう3年間は我が部は安泰だな!

 

 では、先程言った通り、本日の部活はここまで! まさかの1発で納得させられてしまったので、思ったより議論が早く終わってしまったな。下校までまだ少しだけ時間は有るな・・・。

 

 いや、そうだ。良いことを思いついたぞ。

 

 おいこら逃げ帰ろうとするな。別に君にとっても損をする話では無い。むしろ逆さ! だから帰るな! 聞き給え!

 

 君、今から私を、何かしらの議論で論破してくれ給え。

 

 もしも論破出来たら・・・ふふふ、今履いている私のパンツを進呈しようでは無いか。新入生歓迎の意を表して、今日だけの特別さ。

 

 ははは、その通り! 君の先程述べた、この部室内にて出来る、私のパンツの価値を高める行動と言う奴だ。

 

 どうだい? あと僅かでは有るが下校まで時間は有る。何かしらディスカッションしようじゃ無いか。

 

 くくく、そうさ。これでも私は2年間も君より長くこの部活で議論してきたのだ。あわよくばと、今、君は期待しているのだろう? 顔に書いてあるぞ。残念だが、どのような議題を出してきても私に口で勝つ等というのはまだまだ君では不可能なのさ。

 

 今日の部活においても、喋っていたのは殆どが私だ。口の回転速度が違うのだよ。おっと、貴重な議論時間を奪ってしまった。さあ、何でも良いぞ? チャイムが鳴るまでに私を言い負かせて見たまえよ。ふふふ、どうしたんだい黙ってしまって。

 

 ん、何だい──────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 空が茜色に染まる頃。

 少しだけ哀愁の漂うメロディーが校庭に響き、部活をしていた生徒達が並んで帰り始める。

 

 少しだけ活気づく〇〇高校の通学路。

 

 そこには歩きながらポケットに手を突っ込み歩く男子生徒と、それを若干涙目で睨みつけ、手でスカートを抑えて歩く女子生徒が居たそうな。

 

 




男子生徒のポケットの中にはホカホカの希望が詰まってます。

本日の戦利品
白の簡素なパンツ。セール品に思えるが、その手触りからソコソコ使い込まれている事が分かる。


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愛用品(水色)

この作品は頭空っぽのままで書けるので、メインで執筆している作品より筆の進みが早いです。具体的には三倍くらい早いです。
なので不定期ですがちまちま更新致させて頂こうかなと思います。


 ああ、こんにちは。良く来てくれた。前回の部活では、君は何だか乗り気では無く見えたのでね、ひょっとしたらすぐに幽霊部員になって、私は1人ぽつんと部室で心理学の本を読む・・・・・・なんて事態が発生する恐怖に震えていたんだ。

 

 が、どうやら杞憂に終わったようだね。いや、感心感心。

 

 では後輩君、お待ちかねの部活の時間と行こうじゃないか。

 

 あー、それとだね? 先日、なんだかその場の空気に飲まれてしまって、だね。私としても新入生に浮かれていてとんでもない事をしてしまったと・・・。

 

 分かるよね? とても恥ずかしい話なんだが、アレを返して貰えないかい?

 

 違う、別に私は君にお金を貸したりはしていないだろう。何故君は私に5千円札を押し付けてくるんだ。違うと言っている、そんなモノを受け取ってしまっては完全に下着を後輩に売り付けた変態女になってしまうじゃないか!

 

 ああ、今は持っていないのか。ふむ、部屋に飾っている?

 

 そうか・・・ならば次の部活の際に返して欲しいのだが、いや待て!

 

 今何と言った? 部屋に飾っているだと? それはどういう了見なんだ。

 

 君としてもそれは非常に外聞が良くない状況だろう! わた、女性のパンツを部屋に飾るなどと、ご家族の方が見たら何とおっしゃるか!

 

 

 飾る際に正直に全て説明しただと!? 私が、その、なんだ、自分で手渡して来た事を!?

 

 しかもそれで受け入れられたのか!? 私のパンツは、君のご家族の方々に心理的にインテリアとして受容されてしまったのか!?

 

 頭痛がしてきた。君のご家族たちと1度、直にお会いして丁寧に心理分析をさせて貰いたいくらいだ・・・。

 

 

 その、後生だから返してくれないか?

 仮にこの事実を教師に知られると、受験を控える私としては非常に困ったことになるのだ。

 

 そう不満気な顔をしないでくれ給えよ、何かしらで埋め合わせはさせて貰うからさ。

 

 うん、聞き分けの良い後輩を持って私は満足だ。では、改めて、部活を始めるとしよう。

 

 

 今日の議題は、そうだな。これにしよう。

 

 君は今、3人の悪漢に囲まれ、暴行を加えられた末、金銭を要求されている。

 

 そして、君は実は凄腕のプロボクサーで、その気になれば彼等を即座に路上に転がす事が出来るだろう。

 ただ、周りに人集りが出来ており、仮に拳を振るえばボクサーとしては終わってしまう可能性が高い。だが、走って逃げればもしかしたらバレずにすむかもしれない。

 

 要するにだね、君はその場でリスクを考えず殴り返す事を選択する人間なのか? その場でリスクを重視し大人しく彼等に従った後、警察に通報する人間なのか? と言うことだ。

 

 これは心理研究としても重要なテーマさ。

 

 ふむ、そうか。君はそちらを選択したか。ふふ、実に君らしいじゃないか。

 

 この質問にどういう意味が有るんだ? と言う顔をしているね。

 結構結構。これはどちらを選んでも人としては正常であり、そしてどちらを選んだかによって君の人生観を丸裸にする質問でも有るのさ。

 

 では、解説と行こうか。

 

 

 人間は感情の生き物である。

 不快だと感じる事柄を避け、快感だと感じる事柄を好む。

 

 殴り返す事を選択した人間は、実は手段と目的を見失わぬ賢い人間だ。何故なら、人が生きていく理由は嬉しい、楽しいと言った正の感情を欲するからであり、自分のやりたい事を優先していくと言うのは、一見短絡的に見えて非常に理にかなっている選択だったりする。嫌な思いをしてまで無難に生き続けても辛いだけだからね。

 

 

 いやいや、人間は理性の生物である。

 一時の感情よりも、将来を見据え、リスクを背負わぬ事を選べる事により発展していった生物なのだ。

 

 じっと堪え警察に通報する事を選択した人間は、理性的で大成するだろう人間だ。何故なら、視点が常に未来を見据え、その先における自分の幸福を追求している。その場の事しか見えぬ人に、常に先手を打ち続ける事が出来るのだ。将来の成功は約束されている。

 

 

 

 面白いのはね、この相反する2つの考え方を持つ人は、それぞれお互いを蔑むのさ。

 

 感情に重きを置く人間は、理性を通す置く人間を臆病者だと嘲るだろう。

 理性に重きを置く人間は、感情に生きる人間を俗物だと見下すだろう。

 

 どちらを選択しようと、決して間違ってはいないと言うのにね。重視する目的が違うのだから、取る選択は変化して当然なのだよ。

 

 そして、この質問は敢えて2択で解答して貰ったが、正答と言える別の答えも存在する。

 

 考えてみ給え。君がこの状況でとるべき行動の正答とは、一体何だろう? そうだな、ヒントを出すなら、人間なら正答だと知っても、殆どの人が取る事の難しい選択さ。

 

 ふふ、分かったかな? そろそろ答えを言ってしまおうか。

 

 ああ、その通り! 君はやはり、頭が良いな。議論と言うのは君のように明快な人間と行うと実に円滑だ。

 

 さて、答えは先程君の辿り着いた通り。そう、許容だよ。

 

 世界で多くの信者を抱える宗教の教義では、実は大半が許容を推奨しているのさ。

 

 許せるかい? 暴行を受けて、金銭を巻き上げられて。そんな奴等を許せなどと。泣き寝入りでは無いか!

 

 だが、もし許容出来たなら。

 貴方は不幸にならず、リスクも犯さず、警察行く等と言った労力を一切使わない。

 

 まさに正答だ。宗教の開祖様は本当に素晴らしい精神で、かつ頭の良い人だと実感したよ。

 

 私もね、流石に殴られたりとかは難しくとも、小さな事は許容するよう心掛けては居るよ。例えばだね、行列で横入りされただとか、同じ清掃班の人にサボられたとか。多少割を食っては居るけれど、それでも笑って許してやると良い。少しずつ許容出来る範囲は広がっていくはずさ。

 

 そしてきっとそれは、後々の人生に響いてくるだろう。君は心理研究会に入部して正解だったろう? 君も日常にほんの一握り、許容を加えると良い。是非試してくれ給え。

 

 ん? 今の話が悪徳新興宗教の勧誘を聞いているみたいだって?

 

 失礼だな君は。私は一円だって君に要求したりはしないし、そもそもこれはキリスト教や仏教等における教義を元にした私の考察だ。新興宗教どころか三大宗教さ。

 

 いや、私は要求していないだろう! あの5千円札は君が強引に押し付けてきたモノだ。言いがかりは止めたまえ。

 

 さて、では・・・そうだな。君はどれくらい許容を出来るか試してみよう。今から君の心理を分析するのさ。ふふ、いやいやそんなに恐がることは無い。

 

 私が君を軽く罵倒してみようと言うだけさ。君は、それを笑って受け流せばよし。出来なければ右手を上げてくれ。その場で私が発言を訂正し謝ろうじゃないか。では、行くぞ。

 

 

 女性の下着を部屋に飾る(など)と、この変態が!!

 

 

 ・・・なんで今、微妙に嬉しそうな顔になったんだ君は。なってない? 気のせい? そ、そうか。

 

 いや、ち、違うぞ? 別に私は心理分析にかこつけて、恨み節を君に叩きつけたいだけだなんて、そんなの濡れ衣にも程が有るぞ!

 

 ん? 構わないぞ。分かった、なら私も君と同様に罵倒を受けて見せようでは無いか。ふふ、これでも私は何年も心理研究会に所属して精神を磨いているのだ、ただの心理分析と分かっている罵倒なら、例え君のどんな言葉を聞いても笑って許して見せられるに決まっている。

 今だけは何を言っても構わない、先輩だの礼儀だのを一時だけ忘れよう。こんな機会は今後有り得ないぞ? くく、好きにしたまえよ。

 

 ん、なんだい?

 

 ・・・懲りないな、君は。もし許せなかったらパンツを返さなくて良いかだと? 駄目だ。返して貰うからな。その手には乗るものか。

 私は馬鹿じゃ無い、今日君は1度、パンツを返すと言っただろう。

 

 自信が無いかだと? 馬鹿を言い給えよ。当然、私は何を言われても笑って許す事は出来るさ。だが、1度君はうんと頷いた事に譲歩してやる義理は無いと言うだけだ。

 絶対、何としても返して貰うからな、私のパンツ・・・。

 

 な、ななな! 確かに何処で返せとは指定してないが!

 わざわざ私の教室に持ってくるとか君は馬鹿なのか!?

 

 下手しなくても停学食らってしまう案件じゃないか! なんだ、君は私を破滅させたいのか!? 部室で渡したまえよ! そんな義理は無い? 君は悪魔か何かなのか!?

 

 そ、そうだ、こう言うのはどうだ。先程の勝負、私が勝てば君はこの部室まで誰にも見つからずパンツを持って来る。その条件で受けてやろうじゃないか。

 

 何? ならば君が勝った際に今日の私のパンツを貰い受ける?

 何を馬鹿な事を言っている! 先程君はパンツを返さない事だけをレートに乗せた筈だ!

 

 確かに、私も条件を足したが・・・とは言え、でも。

 

 うぐぐ、なら制限時間だ! 制限時間は5分で、私が全て笑って許せば、私の勝ちと言うことでどうだ。君はコッソリと部室にまで隠して持ってきて、そこでパンツを返したまえ。

 

 よし、うむ。それで良いな? はぁぁ、本当に肝が冷えたよ。とんでもない新入生が入ってきたもんだ・・・。

 

 

 では始めようか、スタートだ! くくく、どうした驚いて。当然、考える時間なんか与えないぞ? 今、この瞬間から5分だ。

 

 ・・・なんか思ったより冷静だな君は。まあ良い、5分だけ私を好きに罵倒したまえよ。

 

 ん? はは、それはセクハラだぞ? まぁ確かに私の胸は大きめでは有るがな、そんな程度で怒りはしないさ。許そうじゃないか。

 

 髪型? ああ、毎日手入れも手間暇かけてキチンとしている自慢の髪だ。と言うかそれは罵倒なのか? 当然許すけれど、むしろ褒められたと感じたぞ。

 

 ふふ、確かに初日は無様を見せたね。だが事実さ、自信満々に勝負を吹っかけ言い負かされたのはね。許そう、私は確かにチョロかった。

 

 ・・・それもセクハラだな。君に下着の色を答える義理は無いから黙秘するよ。だが、そんな質問をしたことは許そうでは無いか。

 

 それで終わりかい? どんどん時間は過ぎ去って行くぞ?

 

 ろ、露出狂は違うだろう! 露出狂呼ばわりは許すが、そうさせたのは君だ!

 

 む、確かにこの部活は部員が少ない、と言うか去年先輩が卒業し私1人となった。私は変わり者と思われても仕方ないかもしれんな、許そう。

 

 はっはは、それも良いよ許そう。時間が減ってきて絞り出て来た言葉が馬鹿とか阿呆とかとは、案外君は語彙が少ないな? 何だか君が可愛く思えてきたよ。

 

 さて、もう時間は無いぞ? そろそろ最後かな?

 

 ────ん、なんだい。いきなりスマホを見せてきてどうしようと・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 空が茜色に染まる頃。

 今日も校庭には、少しだけ哀愁の漂うメロディーが響き渡る。

 

「それは、反則では無いのか後輩・・・。」

 

 駅まで1本道となる通学路には、片手でスマホを弄くり、もう片方をポケットに手を突っ込む男子生徒の後ろに、スカートを抑え恥ずかしそうにモゾモゾと歩く女子生徒がぶつくさと文句を言っていた。

 

「写メを一斉送信していいですか? なんて罵倒では無いだろう。そんなの許せる訳が無いではないか・・・。いや、確かに何を言っても良いとは言ったのは私だが・・・。」

 

 そんな怨嗟の声を我関せずと右から左へ聞き流している彼の弄くるスマホの画面には、自らの手でパンツをまさにずらしている女生徒が映っていた。最近のスマホは音も無くシャッターを切れるのだ。

 

 壁にパンツを額縁に入れ、目立つところに飾っている彼の個室に、今宵また新たなコレクションが加わる事となった。




本日の戦利品。
薄い水色調の簡素なパンツ。触り心地がよく、通気性に優れた先輩愛用の一品。


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高級品(白、新しめ)

パンツ食べたい。・・・食べたくない?


 ・・・ん? 来ていたのか後輩。

 

 あぁ、すまない少しぼぅっとしていた。声を掛けられるまで君に気が付かなくて悪かったよ。

 

 では掛けたまえ、今日も部活を始めようでは無いか。

 

 ああ、私かね? 気にしないでくれ給え。少々考え事をしていてね。別に体調が悪いと言ったような話では無いんだ。心配を掛けてすまないね。

 

 うむ、そうか・・・いや。そこまで言うなら話しておこうかな。何だ、少し心配事が有るのさ。

 

 その、聞いたかい? 最近、学校で妙な事件が起こっているそうじゃないか。

 

 その件についてだよ。何でもだね、我が校の中で部活の時間中に、わざわさ鍵を開けて更衣室に忍び込み、女生徒の下着を盗み出した不届き者がでたらしい。実に嘆かわしいことだ。

 

 幸いな事に、我が部は着替えを必要としないため、私は被害に遭わずに済んだのだがね。

 

 ただ女性として、自らの下着を持ち去られると言う状況の不快さは良く理解出来ているつもりだ。とてもとても、良く理解出来ているとも。

 

 それでだね、ふと、思い至ったのさ。私には、パンツに異様な執着を示す生徒に1人、心当たりが有ることに・・・ね。

 

 あー。・・・その、いや、私は決して疑っているわけではない。無いのだが、その、なんだ。

 

 

 

 君では無いんだよね?

 

 

 

 そう怒らないでくれ給えよ。何せ君は私から見ると、それはそれは疑わしき状況に居ることは分かるだろう。

 

 部長としてだね、一応、最低限の確認はしておくべきだと思ったから聞かせて貰ったんだ。違うというならそれで良い、そこで終わる話だよ。ああ、君に不快な思いをさせてしまいすまなかったね。

 

 ・・・ん? もうパンツなら間に合っている?

 

 ああ、成る程ね。結構、大変結構! 私としては全く結構とは言えないのだが君は満足なご様子だ!

 

 それに新しいのが欲しければ部活に顔を出す?

 

 ちょっと待ちたまえ。それは一体どう言う了見だ!

君は部活に何をしに来ている? 君はまさか、この部室には私のパンツの収穫をしに来ているのかね!

 

 ああ、また頭が痛くなってきた。君が入部してくれた事を無邪気に喜んだのがもう数年も前のことのようだ。

 

 もう良い、私は諦めよう。ともかく下着泥棒が君では無いのなら他のことは一切気にしないでおく。私の精神衛生の為にもね。

 

 さて、部活を始めようか。

 

 

 今日は、そうだな。人は嘘を吐くときどのような行動を取るのかを検証してみようか。初心者向けのやりやすい議題だろう?

 

 まず、私が君に何かを問うから好きに嘘をつきたまえ。

 

 君は、どんな食べ物が好きだい?

 

 ふむ、君は実に涼しい顔で嘘を吐くね。だが、この質問に対し嘘を吐く事は非常に容易だ。何故なら、今の答えが“嘘だと気付かれてしまった所でリスクは無く”、“そもそも嘘かどうかを判断する事が非常に難しい”為だ。言ってみれば君は麻雀でいう安全牌を切った訳で、これに緊張する訳が無い。

 

 じゃあ次の質問だ。

 

 君は、女性から告白されたことは有るかい?

 

 ほほう、まだ表情を変えないのか。君はなかなかポーカーフェイスが上手いな。

 

 この質問に嘘を吐く事は、最初の質問より少しだけ敷居が高い。ひょんな風聞から簡単に嘘が露見するし、それにより君は女性関係についての余り良くない噂を流されてしまうリスクを負ってしまう。

 

 そう、嘘がバレた時のリスクと、その嘘の露見のしやすさ。この2つが、まず嘘を吐く際に心を揺らす要因だろう。

 

 では、ここまでを踏まえ今度は君が質問を考えたまえ。私に嘘を吐きにくい質問を、ね。

 

 ふむ、まぁそこだと思った。

 

 ならば答えよう、私は誰にもパンツなど与えていない。それは君の妄想だよ。

 

 確かに、今の質問は私にとって嘘を吐きにくいモノであった。だが、前もって嘘を吐くと心の準備しておけば動揺が少なくてすむ類の質問でもある。

 

 3つ目の嘘を吐く際の心を揺らす要因、それは咄嗟であること。前もって心の準備ができる嘘は平然と答えられるのだ。

 

 現に私にとってこの嘘は、万一が起きた時に教職員の前で涼しい顔して言えないとならないからね。彼が私のモノだと自宅に飾っている下着は恐らくは、自分で女性下着売り場に行き買ってきたものだろう、全ては彼の妄想だと切って捨てねばならない。

 

 それでは君がまるで変態みたいだと?

 変態(きみ)は一体何を言っているんだ?

 

 さて、今度は再び私が質問させて貰おう。

 

 君は君のお好きな女性のパンツが誰のものであろうと手に入る時、誰を指名する?

 

 

 ・・・即答で私、か。成る程、私のモノはもう所有されてしまっているからな。質問が悪かったか。

 

 

 なら、言い換えよう。君は誰でもお好きな女性と交際出来る権利を得た時、誰を指名する?

 

 ふふ、迷っているね。これは、嘘を吐く事には緊張しない質問だ。だが答えてしまうと、誰かへの好意を嘘とは言え宣言してしまう。

 

 この場合も、安全牌となる答えは私だが・・・どうだ、面と向かって本人が居るのに宣言するのは恥ずかしかろう。

 

 4つ目の要因、それは自身の感情に起因する解答の場合だ。人は無意識に自身の本音を隠そうとする。心の奥底を見通される事を恐がるのさ。だからこそ、問われた時に本音がちらついて、心が揺れてしまう。

 

 何故、人間は嘘を吐く時にこのような心理的な脆弱性を発揮するのか? 私の考察はこうだ。

 

 人間という生き物は、コミュニケーションにより発展したと言っても良い。他の種族である、例えば猿であったり、イルカであったりと言った動物の操る鳴き声を用いたコミュニケーション手段と、我等人間が操る「言語」と言うコミュニケーション手段では情報量が圧倒的に違う。

 

 だからこそ、人間は優れた文明を構築するに至った。

 

 そう、人間とはコミュニケーションの化け物と置き換えても過言では無い。この地球に存在するあらゆる生命体に、コミュニケーション能力においては圧倒的な差を付け、まさに君臨しているのだから。

 

 そんな人間だからこそ、嘘を吐くと言う行動に対し心理的にブレーキをかけるのだろう。我等の君臨に必須であるコミュニケーション能力に、致命的なまでに有効な反撃手段は虚構なのだから。それは自らの弱点を、身を以て晒す行為に他ならない。ひょっとしたら人間としての本能の1つかもしれないな。

 

 さて、話がそれてしまったね。

 

 つまり私はこう言いたいのだよ。例え君が誰かに嘘を吐かれてしまっても、キチンと心理学的な分析が出来ればそれは見抜く事が出来る。何せ、嘘を吐く側の人間は多少に関わらず“嘘を吐かぬ時と行動や表情が異なる”のだから。

 

 ただ1つ注意して欲しいのは、これは初対面の相手には通用し無いということだ。普段から嘘を吐き続ける“虚言癖”の人間にとっては無意味だし、そもそも嘘を吐いた時と正直に話をしていた時の比較が出来ないと分析は難しい。だからこそ、普段からの観察と分析が大事だと私は思うよ。

 

 どうだい、今回の部活も中々、君の今後の人生の役に立つような内容では無かったかい? 今日の訓示はつまり、君に気を付けて欲しいのは、今後の人生で君が嘘を吐く事は想像以上にリスクが高いと言うことだ。

 

 何せ、バレる人にはあっさりバレる。嘘がバレたところで証拠は無いから、一応は君は嘘を吐いていないと扱われるだろう。でも、その人から信用を得る機会を永久的に失うんだ。

 

 正直であれ、後輩。

 

 それは誰にでも出来る事で、凄まじく有効な自己防衛手段に他ならないのだよ。

 

 さて、君に最後にもう一つ質問をしていいかい?

 

 

 

 

 下着泥棒の件、本当は君がやったんじゃ無いのかい?

 

 

 

 嘘だ!

 

 やはり君は嘘を吐いているな、私に嘘は通じないんだぞ!

 くくく、迂闊にも君は私の前で3回も嘘を吐いただろう?その際、私は君をジックリと観察していたんだ。そして普段の君の受け答えとは違う、とある共通の仕草を見いだした。

 

 君は嘘を吐く時に、“私と正面から目を合わせた後、少しだけ右を見る”癖がある!少なくとも、先程の3回は全てそうしていたぞ後輩! これは君が嘘を吐く時以外に見たことが無い仕草でもあるな。

 

 何を! 私は騙してなんかいないさ! キチンと部活を行い、その内容を部員として実践しただけさ! 君が嘘を吐くのが良くないんだ!

 

 いーや、嘘を吐いているだろう? 私の分析力を侮ったな後輩。部内から犯罪者が出るのは心が痛いが、下着を盗まれた女生徒は更に苦しんでいるんだ! 大人しくお縄に付くといい!

 

 証拠? そんなもの幾らでも出て来るだろう。警察沙汰なんだぞ? 君はいかにとんでもないことをしでかしたか分かっているかい?

 

 自分から自首した方が罪は軽くなるぞ、これは君の為にも言っているんだ。さぁ、私も付いていってあげるから一緒に職員室に──────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その日、近頃学校に忍び込んでは女生徒の下着を狙っていたと言う下劣な泥棒は無事に逮捕されたのだった。

 

 意外にも、犯人は学校関係者。何と教職員だったのだ。

 当然、彼はその日付で謹慎となり、彼が受け持っていた生徒から当面の間、“容疑者”とあだ名される事となった。

 

 

 

 空が茜色に染まる頃。

 

 通学路を不安げに、片手でスカートを抑えながら歩く女生徒は、やや不機嫌そうな男子生徒と並んで歩いていた。

 

「悪かったと言っているだろう・・・。と言うか、その、また私のパンツ召し上げた癖に何がそこまで不満なのだ君は・・・」

 

 つーんとそっぽを向く男子生徒はいつもの如くポケットに手を突っ込んでおり、微妙に白い布が見え隠れしていた。女の先輩が後輩に、勘違いを謝罪する際に差し出した誠意らしい。

 

「君が捻くれた答え方をしたのも、原因じゃないか。機嫌直したまえよ・・・。」

 

 彼は今日、()()()()()()()()()()()()()()()。最初に“嘘を吐きたまえ”と言われた言葉に対して嘘を吐いただけなのだ。つまり、他の全ての問いに正直に答えていた。彼としてはちょっとした悪戯のつもりだったが、見事に先輩の方が騙されてしまっていた訳である。

 

 ちなみに、彼が不機嫌に見えるのは色々と気を遣って謝ってくる先輩をコッソリ楽しんでいるだけだったりする。

 

 微妙にギクシャクとした空気を後輩は1人楽しみながら、今日もノーパンの先輩と共に帰路へ着いた。




本日の戦利品
白く肌触りの良い高級パンツ。手持ちの下着が減った先輩が新たに購入したもの。


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お洒落な水玉・上部

最近疲れが取れない。パンツに癒されたい。


 なぁ後輩、よく考えると髪の毛という言葉は、非常に卑猥だとは思わないかい?

 

 お前はいきなり何を言っているんだ、そんな顔をしているね。結構、実に結構。正常な反応だと思うよ、それは。だが、少し考えてみてほしい。

 

 「かみの毛」だぞ? 物事には、対になる表現が存在する。「かみの毛」とはすなわち、「上の」毛である事を示唆する。

 

 これの意味するところ、「上の毛」は「下の毛」、つまりは陰毛の存在を念頭に置いた単語だという事だ。そう思うと、なかなか下劣な単語に見えてこないかい?

 そう、私たちが日常的に、当たり前のように使っている単語にもこのような落とし穴が潜んでいる。

 

 どうだい、君は言葉の語源というモノを考えた事はあるかい? 単語というのは、昔の人が現代の人間にまで伝えたメッセージなのだ。それを鑑みると、非常に興味深い議論のテーマだと言える。

 

 さて、前置きが長くなってしまった。では、いよいよ今日の部活を始めようか後輩。今日のテーマは、「過去に学ぶ心理学」、これで行こうと思う。さぁ、今日も元気に議論していこうではないか。

 

 

 

 後輩、君は過去に生きた人を分析する意義は何だと思う? 過去の事を知ったところで、何も生み出さない。邪馬台国がどこにあったかを事実として突き止めたところで、一銭にもならない。ご当地は観光事業が盛り上がるだろうが、それだけだ。

 

 それはね、後輩。ただの欲望なんだよ。知りたいという探究心は、人間にとって三大欲求程とはいかないまでも当然の様に存在する生理的な欲望なんだ。だから人は過去を求める。その時代に何があったかを、正確に知りたがる。

 

 私もその欲求は当然にして持っている。その中でも特に、過去に生きた彼らの感情的な、心理的な面をより深く知りたいと感じている。

 

 そこで、言葉だよ。昔の人の価値感や、感情、欲望、そういったものを最も簡単に知りうることができるのは、言語であり、土地風土に伝わる伝説であり、そして歴史書であり。

 

 歴史書は専門の人に任せよう。伝説の分析も、高校生には少し荷が重いだろう。

 

 でも、今に伝わっている「言葉」を分析することくらいなら出来る。語源を調べるのではなく、自分で言葉の意味を考え、理解しようとするその思考過程こそが重要だと思うのさ。言葉が出来た時代に、多くの人たちに共感された「単語」こそが現代に伝わる言葉として成立しているのだから。

 

 例えば、「ありがとう」。これは、「有難い」、すなわち「有り得る事が難しい」が語源だ。「こんなに親切な事をしてもらえるのは非常に難しいことだ」という言葉が転じて謝意を示す単語となった。なんとも日本人らしい、謙虚で美徳に満ちた由来だと私は感じたね。

 

 さて、勘のいい君なら、もう今日の部活のテーマは理解できただろう? そう、今日のテーマは「単語の考察」さ。語源なんてものは調べたらキッチリと正確な情報が出て来るだろう。だけど、そこに意味を見いだす事が大事だと、私は思うのさ。

 

 例えば、さようなら。別れの挨拶であるこの言葉は、“左様で有るなら”をもじった単語だ。

 

 左様、とは即ち“その様”“そう言う事”の意味であり、現代語に訳すと「じゃ、そーゆーことで」となる。昔の人は堅苦しい言葉を使う印象かも知れないけれど、こんなにも軽い別れの挨拶が礼節を重んじる日本で最も広まっているのさ。日本人も案外、茶目っ気がある民族に思えてこないかい? 

 

 最も、語源には様々な説があり、さようならを“左様であるなら、此度の別れも仕方なし”とか言う暗い言葉が略されたなんて意見もあるけどね。ただ、私には農民であったり商人であったりがいちいちこんな暗い事を言ってたとは思えないな。皆もっと、気楽に構えていたと私は思っているよ。

 

 そう、語源を調べるだけでは無く、語源を知った君がどのような印象を受けるか。かつての日本人はどのような心情だったのか。それを推測していくことは、立派な心理研究なのさ。

 

 では早速、君が語源の気になる単語を幾つか挙げてみたまえ。

 

 ・・・ブレないな君は。今日部活に来てから最初の発言が、今日はどうしたら私から下着を貰えるのか、なんてね。まったく嘆かわしい。神聖な部活を、君のパンツ収穫癖と関連付けないで欲しいな。 

 

 いいさ、今日はパンツの予備をちゃんと持ってきているからね。君が我が下着を望むなら条件を出そう、私に議論で勝ってみたまえ。逆に、私が言い負かせば君の家にある私の下着は全て没収だ。

 

 枚数に差があって割に合わない? 馬鹿を良いたまえ、君が下着を欲したから私が勝負を受けてあげたんだ。嫌なら良いんだよ、私は。

 

 確かに今さらパンツを1枚多く取られた程度で私は気にしないが、タダで差し上げる義理もない。君が「私から奪ったパンツを全て返す事」を賭けるなら乗ってあげよう、と言う訳だ。

 

 うん、交渉成立だ。君は実に欲望に素直だね、反吐が出るよ。では、議論の内容は私が決めるとしよう。どうしたものかな・・・。

 

 ん? 何だ、議論の内容を君が決めて良いなんて誰が言った? ふふ、私は確かに君に先ほど話を振ったけれど君の選んだ議題で勝負するなんて言ってないからね。君の話も聞いてあげるけど、賭けの議題は私が決めるさ。

 

 よし、「馬鹿」、これにしよう。実に君にふさわしい言葉だが、何故馬と鹿の組み合わせが間抜けの代名詞になったと思う? 他にももっと間抜けそうな動物は沢山いるだろうにね。猿だとか。

 

 因みに、調べても無駄さ。まだこの言葉の語源に決定的なものは無いからね。さて、私の意見としては馬と鹿に共通する「大型で、一見すると人に危害を加え無い動物の組み合わせ」という事実を根拠にこう考えよう。

 

 そもそも、室町時代以前までは馬鹿者を「狼藉を働くもの」と言う意味で使っており、それが転じて愚か者を揶揄することになったのだと思う。馬であり、鹿でありと言った動物は普段は従順だが、時として人に反逆する。人間を振り落としたり、蹴飛ばしたりね。それを狼藉と取ったのだろう。

 

 やがて、時代は流れ、士農工商などの身分が明確化されていくにつれ目上の者に逆らう事を愚かととらえるようになった。馬鹿者は「狼藉を働く、愚かな者」へと意味を変化させたのさ。

 

 そして人を侮蔑する単語は、爆発的に広がりやすい。最近でも、ニートだとか、KYだとか人を揶揄する単語は一瞬で社会に浸透していっただろう? 本来の意味であった狼藉者の意味は薄れ、愚か者の意味での使用がどんどん広まり、今に伝わると、私はそう考える。

 

 どうだい、案外いいところを突いているのではないかと思うよ、この考察は。さて、私のこの鉄壁な推論を突き崩せるかな? 君の意見は、どうだい────?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「胸が、スースーするぞ後輩・・・。」

 

 空が茜色に染まる時刻。男子は一人、今日新たに入手した獲物を鞄に入れたまま満足げに歩いていた。

 

「・・・私の馬鹿。鹿は人間の家畜になんかなっていないのに狼藉も何もないだろう・・・。」

 

 室町時代以前。確かに馬は、人の家畜となり農業や戦の道具として用いられていた。だが、馬と対を成す家畜は牛である。鹿はむしろ、神の使いとして崇められていた存在。そこらの農民なんぞより上位の存在と言えるのに、人間に逆らって狼藉などと言われる筈がないのだ。

 

「その、パンツは替えがあると言っただろう。なのに何でワザワザ上を持っていくのだ君は・・・。」

 

 あっさりと先輩の論破に成功した男子は、今日の報酬である「下着」をしっかり貰い受けた。無駄に頭の回る彼は、替えを用意していると聞いた時点で、早々に彼女の履いているパンツが手持ちにあるセール品だと当たりを付けられたのだ。

 

 そして彼は即座に、まだ持ってない上の部位(ブラジャー)を貰い受けるという英断を下した。ダブりを貰ってもあまり嬉しくないのは、コレクターとしての宿命。彼の選択は完璧で、完全だった。何せ、夏場である今、彼女の上の部位(ブラジャー)を貰い受けた事による恩恵は、部活の後に帰り道を共にする彼にとって絶大なのだ。

 

「確かに今日君が欲したのはパンツではなく、下着と言っていた。下着の語源は下に着るもの、即ちソレ(ブラ)を含んでいるが・・・。」

 

 たゆん。

 

 歩くたび、女生徒の胸は振動を服にダイレクトに伝える。恥ずかし気に胸へと手を当てる彼女のカッターシャツからは、色の濃い円形が透けていた。

 

 顔を赤らめ帰宅する女生徒と、鼻息交じりに機嫌よく帰宅する男子の組み合わせ。この光景はもはや、この学園の日常へとなりつつあるのだった。




本日の戦利品
水玉模様のブラジャー。パンツとセットで飾ると背徳感が増す逸品。


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ボクサーパンツ(黒)

 ────夢とは、果たしてどんな意味があるのだろうね。

 

 ん? ああ済まない、聞かれてしまったか。今のは部活とは関係のない独り言さ。考え事をしていてね、うっかり君が部屋に入って来るのを見落としていた様だ。

 

 後輩、私は今年で最高学年になった。子供で居られる時間は終わり、受験だとか就職だとか、そんな煩わしい様々な人生のしがらみに囚われつつある。

 

 実は今日、HRで教師に問われたのさ。お前たちの「夢」はなんだと。君達は将来、どんな仕事についてどんな人と付き合ってどんな人生を歩むのかと。

 

 日々の部活動であらゆる議論を突き詰め続けたこの私が、返答に困ったよ。将来のビジョンなんて言われても、フワフワとしたありきたりなモノしか浮かんでこなかったんだ。

 

 それでも良いのかもしれない。私の学力で何とか手が届きそうな大学に入り、そこで4年間の充実したキャンパスライフを謳歌し、ソコソコの企業に就職し、鍛え上げたディスカッション能力で仕事をこなす。

 

 まるで整備された川を流されるような人生。だが、それでもきっと、未来の私はその現状に満足しているだろう。 

 

 それは妥当な目標であり、妥当な成果であり、妥当な結末だ。

 

 

 

 だけど、それは夢と言えるのだろうか。否、単なる未来予想に過ぎないだろう。

 

 

 

 そもそも、夢という言葉は非常に曖昧だ。「夢」とは本来は寝ている人間が見た景色であり、時代とともに「夢にまで見た○○」と言う「渇望してやまないモノ」と意味を変化させて、現在は「将来の目標」といった意味まで持つようになった。

 

 昔から、夢と言うものは人間にとって特別な現象だったんだろう。

 

 時代によっては夢は「神のお告げ」と扱われ、「夢見(ゆめみ)」は古代の創作によって未来予知として扱われていた。それ程までに、「夢」とは太古から特別な意味を持つ現象だと捉えられていたのだよ。

 

 だが、本来「夢」とは、単なる脳の休息活動の一環にほかならない。REM睡眠、non-REM睡眠なんて言葉を聞いたことがあるかい? 知っての通り人間には、2種類の睡眠があるんだ。

 

 端的に言うと、人間には「頭の眠り」と「体の眠り」の2つのフェイズがある。

 

 頭が眠っている時には何も考えられないが、身体は勝手に寝返りを打つ。体が眠っている間は身動き一つとれないが、脳は休まず活発に活動している。

 

 何故、頭と体のどちらも同時に眠ってしまわないのか?

 

 それは、外敵への反応が鈍るかららしい。体が寝ていても脳さえ活動していればすぐさま飛び起きれるし、脳が寝ていても体が起きていれば物音に反応し反射的に寝返りを打てる。いや、動物はよく出来ているね。

 

 そして、いわゆる「体の眠り」のフェイズに人間は夢を見るんだ。

 

 先ほど言った通り、体が寝ている間も脳は活発に活動している。有名な話だけれど、そのタイミングで目が覚めてしまうと「体はぴくりとも動かず、意識だけが覚醒している」状態になるのだとか。

 

 これが、いわゆる「金縛り」だね。あれは心霊現象でもなんでもなく、正常な体の反応なんだ。

 

 また「体が眠っている」間に脳は、何をしているのか? それは、現在は記憶の整理を行っていると考えられている。覚えるべきものを長期記憶に書き加え、忘れていいものは記憶の彼方に押しやっているんだ。

 

 予備校の講師が私たち受験生に「睡眠時間を確保しろ」と指導する理由はこれさ。覚えたあとにしっかり寝ないと、長期記憶に書き変わらないんだね。

 

 テスト直前に一夜漬けして短期的に記憶したモノは、1月もしたら忘れてしまう。それじゃ、受験にとって何の役にも立たない。

 

 夜にしっかり勉強して短期記憶に刻み、そのまま余計な事をせずサッと眠る。これが、もっとも効率の良い暗記の方法さ。

 

 話がそれたね。夢の話に戻ろうか。

 

 つまり体が寝ている間にも脳は活動していて、記憶の整理をしている。その記憶の整理の狭間に見た景色こそ「夢」なんだ。

 

 つまり、本来の意味での「夢」とは過去の映像の焼き回しにしかならないのさ。TVで見た景色や本で読んだ状況などが土台となり、記憶を整理するさなかに溢れでた情報が混じり合い、混沌とした風景を作り出される。

 

 「過去に見た記憶」を整理する最中に浮かぶ陽炎のような光景。それが「夢」なんだ。

 

 わかるかい、後輩。夢、とは未来の話なんかじゃないんだ。

 

 「夢」とは、「過去」なんだよ。

 

 過去があってこそ、未来がある。つまり、私はもうどこかに「夢」を持っているはずなんだ。まだ十数年ではあるが、確かに私には過去(ゆめ)がある。

 

 ……ふ、すまんね。いきなり妙な話を始めてさ。だが私も、そういう多感な時期なのだよ。通いなれた高校を卒業すると言う不安、明確なビジョンの無い将来への焦燥、全く新しい社会人としての生活への憧れ。

 

 これは自己同一性、アイデンティティと言うやつだね。理想の自分、「夢で見た自分」とここにいる等身大の私との間には、あまりに大きな乖離がある。

 

 

 ねぇ、後輩。君に聞いてみてもいいかな、君にとって「夢」とはなんだい?

 

 

 ……そうか。それは、良い答えだ。

 

 

 私には、答えが出せなかった。この高校で過ごした日々が、余りに楽しくて仕方がなかったから。卒業したあとのことなんか想像だにできなかったんだ。

 

 この問いに対する答えは、きっと自分で見つけるしかないんだろう。ごめんね、少し愚痴っぽくなってしまったな。

 

 さて、では今日も部活を始めるとしようか。後1年もないけれど、今は私が大好きなこの生活を謳歌しよう。

 

 

 

 ん、何だい?

 

 ……ふふ。ああ、肯定しよう。私の好きなその学園生活の中には「君の存在」も含まれているよ。案外可愛い事を聞くね、君は。

 

 

 

 確かに下着を何枚も何枚も取られたことは非常に業腹だが、それでも君はたった一人の部員でたった一人の後輩だ。それに決して君の頭の回転は鈍くない、こうやって君と日々ディスカッション出来るのも私にとって楽しみの一つさ。

 

 さて、今日はどんな議題が良いだろうか。後輩、たまには君が提案してみるかい?

 

 ……そうか。うん、折角だものな、その議題でも良いだろう。なら、今日のディスカッションテーマは「夢と未来」にしよう。

 

 

 

 

 

 

 では、部活を始める。まず、私から話そうか。

 

 私の将来の夢は今のところ無い。強いて言うのなら、議論を職務とした「弁護士」「検事」であったり、人間の心理を深く突き詰める「心理学者」であったりその辺が頭に浮かぶが……。

 

 まぁ、どれも「なんとなく自分の性分に合ってそうだな」程度にしか考えていない。将来なりたいもの、夢かと聞かれたら多分違う。

 

 それに、私は女性だ。「女性」と言うだけで社会的に不利な側面は多い。私が夢を見つけ、そして努力して夢を叶えたとして、結婚し子供が出来れば仕事を辞めなければならないだろう。

 

 妊娠後期は、いつお産が始まるか分からない。無理をして体調を崩せば、胎児に悪影響があるかもしれない。仕事と子供を天秤にかけるなら、私は子供を優先する。

 

 となると、子育てだ。出産してから一年は、最も手のかかる乳児期である。毎日毎日夜泣きをあやし、オムツ換えを寝る暇もなく続ける必要がある。

 

 最近は法整備が進んで女性の社会進出機会が増えているが、こう言う生物的な面での不利ばかりはどうしようもない。産むだけ産んで、後は子育てを主夫にお任せする女性も居るらしいけれど……やはり私は自分の手で育ててやりたいしな。

 

 ふふふ、小さな女の子は将来の夢を「お嫁さん」なんて言ったりするが、意外にもこれが一番現実的な答えだったりする。

 

 

 ……後輩、私はね。昔、特別な人間になりたかったんだよ。

 

 

 他の人とは違う、選ばれた存在。誰しもが私を見て尊敬し、羨む────そんな、存在(アイドル)に。

 

 馬鹿らしいと思うかい? 私もそう思うよ。まるで地に足のついていない、分不相応な欲望だ。

 

 ……こんなもの、恥ずかしくて「夢」だなんて言えやしない。

 

 

 

 そんなに珍しい事ではない、と?

 

 「アイドル願望は女子の持つ一般的な欲望だ」か。君はやはり、冷静なで公平な事実を言う。

 

 そうだ、私以外にもたくさん居るだろうね。アイドル願望のある女性なんてさ。だからこそ、特別な存在になるのは難しいのだ。

 

 下らない夢を語ってすまなかった。

 

 

 

 ────ふむ。

 

 「アイドル願望を持つ女の子は愛されて育った子供」か。

 

 それは、どういうことだい?

 

 

 

 

 そうか、成る程。一理あるかもしれない。

 

 過去に両親に愛されて育ったからこそ、「(かこ)」が皆に愛されたいと言うアイドル願望となる。そう言いたいのだね君は。

 

 愛されたいと願うのは「愛されたことがある」人間だ。愛されたことのない人間は、愛される幸せを知らないのだから。

 

 そう考えると「特別な存在(アイドル)になりたい」という夢は、良い夢なのかもしれない。だって私が『愛されたい』と感じる気持ちの大本は、両親から愛され育ったと言う「過去」にあると言うことだ。

 

 ……そうか、そうか。なら、私の夢も決まった。

 

 将来の娘に、アイドルになりたいと言わせて見せる。私の両親のようにね。

 

 

 

 では後輩、次は君の番だ。君にとって夢とは何かは聞いた。だが君の夢そのものは、まだ聞いていないからね。

 

 君は未来に何を見ているのか? 君は何を求め何を欲しているのか?

 

 うん。でも実は、私には何となく予想出来ているんだ。君が(かこ)に得ていて未来に欲するものが何か、なんて。

 

 前もって言っておこう。今日は駄目だぞ。絶対に乗らないぞ。そういった即物的な欲望ではなく、きちんと将来を見据えた夢を語ってくれ。それを議論していこうではないか。

 

 ほら。流石の君でも、女性下着以外に生きる目標くらい有るだろう? 私はちょっと、それに興味があるぞ。

 

 普段から、君は何を考えているかよく分からない面があるからな。ここは一丁、素直に君の胸のうちを晒け出したまえよ。

 

 まぁ、本心を隠さず誰かに話すと言うのは恥ずかしいことだ。以前議論した通り、きっと無意識に心のブレーキをかけてしまうだろう。

 

 だから君が、「世界中の下着を集めること」等と言って逃げに走っても文句は言わないさ。

 

 だが、私は知りたいな。君の本当の、心の奥底に秘めたその夢を。

 

 さぁ後輩、君の答えを聞こうか。君の夢は何だい────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 空が茜色に染まる頃。

 

 女生徒は何時もの如くスカートを抑え、放課後の下校路を闊歩していた。

 

「本っ当に君はブレないな」

 

 いい加減、下着のない状態に慣れてきたのだろうか。女生徒の顔からは羞恥の表情はやや冷め、頬を染めてはいるものの、どちらかと言えば呆れと侮蔑の入り交じった顔をしている。

 

「で、だ。さっきのアレ、本当にどういう意味なんだ」

 

 そして、彼女はいつになく不機嫌だ。いや、不機嫌と言うより必死で動揺を取り繕っているだけかもしれない。

 

 いつも以上につっけんどんに。先輩は後輩に向け、目を吊り上げて問いただした。

 

「『好きな人のパンツだけ集めるのが夢』って、君は下着だけじゃなくて生身の人間にも興味があったのか? いや、主に聞きたいのはそこじゃなくて。その言い方だと、君が下着を求める相手はその……」

 

 因みに。

 

 今日女生徒が下着を取り上げられた理由は、後輩の「自分の夢を当ててみろゲーム」に負けたからである。

 

 彼女も、最初は乗り気じゃなかった。だが後輩は、そんな先輩を乗せるべく二択の選択肢を与えたのだ。

 

 『好きな人のパンツだけ集めるのが夢』か、『世界中の女性のパンツを集めるのが夢』か。正解を書いた紙を握り締め、さぁ当ててみろと50%の勝負を持ちかけたのである。

 

 彼女はまんまと乗せられた。二択を当てれば、今までの下着も回収できるのだ。その結果は、見ての通りである。

 

「あ。さては君、私がその選択肢を恥ずかしくて選べないと予想したな? そんな告白紛いの選択肢を選べる訳がないと、だから君はそれを正解選択肢にしたんだな」

 

 そして何かに気付いたように、先輩は叫んだ。

 

「君のその夢とやらは、つまり嘘なんだろ。私をからかい、かつ下着を召しとる為だけに作り上げた嘘だ。そうに違いない」

 

 そう言って、納得したように先輩は頷いた。今までの不機嫌さは鳴りを潜め、どこか感心したような表情になる。

 

「成る程成る程、これは高度な心理戦だった訳か。実に心理研究会らしい、正々堂々の勝負だった。うむ流石後輩、見事である」

 

 ────そう言って満足げに褒め称えて来た彼女を見つめる後輩は、恐らく複雑な顔をしていただろう。




本日の戦利品
黒いボクサータイプのパンツ。
お洒落に気を使わない日に穿く、色気より実用性を重視した1品。


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