オブリビオンゲート 異世界龍 彼の地にて 斯く集えし (ArAnEl)
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世界喰らい編
Last Legend


スカイリム、ダークファンタジー大好きで、もしスカイリムのアルドゥインがゲートの世界に来たらどうなるか、を考えました。

クロスオーバー作品は初めてです。どうか皆様のご指導、ご感想いただければと思います。


異形の昼とも夜とも言えない空。太陽のような光を中心に空、紫、薄紅色の雲が渦を巻いていて、オーロラの様にも見える。

 

誰もが見惚れるようなこの絶景の空はこの世のものではない。

 

ソブンガルデ。

 

タムリエル大陸北部にあるスカイリムという地域に住んでいたノルド人に古代から伝えられている死後の楽園、つまり天国のようなものである。

 

その楽園で、遠く山のふもとである戦いが決着をつけられようとしていた。

 

4人の騎士、そのうち3人は古代の英雄であり、既にこの楽園に召されていており、残り1人は生きながらも、ある特別な方法によりここにいた。

 

そして彼らが囲んでいたのは、

 

体長40〜50メートル、翼を広げた場合の横幅もそれぐらいの大きさの漆黒のドラゴンである。

 

まさに悪魔、というのが正しい表現である容姿のこのドラゴンは『世界を喰らう者(ワールドイーター)』としてはるか古代より恐れられていた。

 

ドラゴンという種族を超越し、もはや『災害』として世界を破滅に陥れようとした彼は、事実、過去の英雄は彼を倒せず、一時的に別次元に封印することしかできなかった。

 

結果、現在という未来に送り込まれた彼はまた世界を破滅に陥れようとした。

 

しかし人々は強かった。

 

『死』という概念を持たない彼は無敵の存在であった。

 

しかしその『死』の概念が無いが故に、『死』という『有限』を理解できなかった彼は、破滅への道を歩んでしまう。

 

Joor(定命の者) Zah(有限) Frul(一時)!」

 

一人の騎士が呪文を唱え、それを漆黒の龍にぶつけた。

 

ドラゴンレンド

 

古代人がこの漆黒龍を倒すため、定命の概念を持たない『ドラゴン』という概念的存在そのものを覆すために作られた、数少ない人間によって作られた『龍語(スーム)』である。

 

このスームにより、いかなる魔法、武器、その他干渉を受けない漆黒の龍は強制的に地面に叩きつけられ、地上戦を強いられた。

 

しかしかつて『世界を喰らう者(ワールドイーター)』と呼ばれただけに、地上戦においても圧倒的戦闘力を有していた。多少の攻撃ではビクともしない。

 

しかし今回戦っている相手はかつての英霊と現在の英雄だ。英霊に至っては過去に一時的にとはいえ彼を封印することに成功している。確かに彼は復活してより強大となった。かつての3人だけなら負けなかっただろう。

 

しかし今回はさらに1人いた。しかもこの3人を凌駕するほどの実力である。英霊がかつて3人でドラゴンレンドを用いてやっと同じ土俵に立てたのに対し、先ほどのドラゴンレンドもこの1人によるものだ。

 

魔法、剣と鱗が弾かれる音、雄叫び、咆哮、そして流血。さらには空から隕石のようなものが絶え間なく降ってきた。

 

ドラゴンは焦っていた。

 

まず何よりも万能の存在である自分が、定命の概念に混乱している。本来ならこのような攻撃も効かない。そもそも攻撃が攻撃となる前に無効化するのだ。

 

それが今となっては痛み、熱、冷たさ、痺れ、疲労……

 

どれも初めてで混乱している。

 

ただ、分かっているのは自分が絶対絶命の危機に陥っていること。

 

しかし、それでもあくまでも理論上そう考えただけである。

 

自分は死ぬのか?死とはなにか?死んだらどうなる?死後は?そもそもこの世界が死後の世界なのでは?

 

このように人間が何千年もかけて考え、現在も研究され続けている真理についての考えがここ数分に圧縮されて思考を駆け巡っているのだ。

 

しかし彼にはまだ策はあった。しかしあまりにも混乱していたため、その機会をほんの一瞬、本当にほんの一瞬だけ見誤った。

 

一瞬首に鋭い痛みを感じた。痛みというより何か雷が体を走っていった感じであった。

 

まずい、これはまずい、と思った時は既に遅し。全身の内から痛みのようなものを感じた。

 

表皮にヒビができ、小さいものが次第に大きくなりあっと言う間に全身へと広がった。

 

全身の力が抜けていく、意識も遠のいていく。

 

しかし、まだ余力はある。最後の手段を用いる最後の手段だった。

 

口を大きく開いた。

 

しかし、自分が起こした結果は望んだものではなかった。

 

Zu'u unslaad(我は永遠のそんざいだ)! Zu'u nis oblaan(破滅させることなどできぬ)

 

これが彼の断末魔となった。

 

これと同時に鱗で覆われた表皮はほぼ全て落ち、かろうじて龍のような形をした『何か』を保てたが、発光し、少しづつ消えていった。

 

薄れる意識の中、彼は思った。

 

なぜ、最後の最期に意味のないことをしたのだろう。

 

断末魔や雄叫びなど、意味はない。

 

そして意識が消える直前、彼は悟った。

 

Ful oaar los fin faas(これが、恐怖か)......」

 

彼は誰にも聞こえない同族の言葉をつぶやき終わると、完全に見えなくなった。

 

彼のこの世界での伝説は一旦ここで終わった。

 

......

 

しかし、あくまでもこの世界では、だが。

 

この様子を終始観察していた者がほくそ笑んだ。

 

「新しい駒が手に入ったわ……」

 

.........

......

...

 




亀更新になるかもしれませんが、暖かい目でお守りください。

次回予告、もう一つの門


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もう一つ門

まだスカイリム中心です。

しかし原作とは全く異なる展開から始まります。

次はゲートの方も出したい。

皆様今後ともよろしくお願いします。


何かが囁くような音がした。

 

声、というよりも何かこう、体全体に響くものを感じた。

 

このように外部からの刺激が最後あったのはいつだろうか。

 

もうかなり時間が経っていると思うが、もう既に時間という概念すら忘れかけていた。

 

そもそも『自分』という実体がまず無いので、聞こうにも耳が無く、見ようにも目がない。

 

しかし音のような刺激は続く。

 

何をどうすれば良いのか分からなかった。しかし身体を持たぬ『自分』は特に意識もせず、むしろ意識を解放することで意思、という感覚が戻った。

 

周りは満天の星空のような空間であったが、上下左右前後全て星空であり、どれが地面で空なのかは分からなかった。

 

音はない。静寂そのものであったが、全身に伝わる鼓動のようなものは感じる。

 

周りの様子を伺っていると、目の前が少し煙が揺らめくように空間が歪み、空間の渦が生じる音がした。これで聴覚のようなものも確認できた。

 

その空間の歪みから『何か』が出てきた。

 

『何か』と表現したのは、これまでの生物、無生物などに思い当たる節の全くない未知の存在であったからだ。

 

しかし人のことは言えない。『自分』もその『何か』と同じ姿なのだから。

 

その『何か』はゆっくりと近づいた。

 

しばらくの沈黙の後、最初に語りかけたのは『何か』であった。

 

「よくぞ来た、アカトッシュの子よ。」

 

声は女性的であるが、男性のように威厳と落ち着きのある声でもあった。

 

アカトッシュ、懐かしい名前だ。

 

忘れかけていたが、すぐに思い出した。

 

「いや、むしろもう一人のアカトッシュと表現した方がよいか。それとも、アルドゥインと呼んだ方が良いか、世界を喰らいし者(ワールドイーター)よ」

 

アルドゥイン、世界を喰らいし者(ワールドイーター)、自分ことか。そんなことがどうでもよくなるほど長い年月が過ぎたのか、と感じた。

 

「沈黙か。まあそれも良いだろう」

 

『何か』はそのまま続ける。

 

そもそも、答えたくてもどう伝えれば良いのか分からないが、正直どうでも良い、というのもある。

 

「ふむ、なるほどな。確かにその姿では答えにくいか。それに私の姿もこんなものでは語りづらいだろうな」

 

これは驚きだ。心を読んでくるとは。まあ、知られたところでどうにもないが。

 

ただ、恐ろしいほどに今自分が物事に無関心なのは実感している。まあどうでも良いが。

 

すると周りの空間がまた歪み、一瞬の閃光が走ると周りの景色が一変した。

 

今度は白い、純白の空間。『何か』と『自分』を除いて本当に何もない空間であった。

 

その『何か』と『自分』も姿が変わり、『何か』は漆黒の禍々しい鎧を全身にまとっていた。その鎧はどこか龍や悪魔を連想させるような見た目に、所々紅い光が光ったり消えたりしている。

 

顔までは分からないが、声、姿から想像するに女だろう。変な趣味をした男性でない限り……

 

「デイドラか……」

 

そう言葉にして初めて自分が今実体を持っていることに気づく。

 

「ふふ、ご名答。貴方の身体もそちらの方がやはりお似合いね」

 

そう、今の自分の姿はかつて世界を恐怖に陥れた漆黒の龍の姿であった。

 

目の前のデイドラの女の鎧とどこか似ている。

 

「我に何の用だ。」

 

低く、ゆっくりとした重みのある声が自分の口から吐き出された。

 

「ふふ、やはりお見通しか。話が早くて助かるわ」

 

デイドラの女はアルドゥインの肩に乗り、耳元に囁いた。

 

「私の主神のお手伝いをして欲しいの」

 

その魅惑的な声は人間などの種族であれば一瞬で精神を乗っ取られてしまうほど強力な幻惑魔力を帯びていた。

 

しかしアルドゥインはあらゆる種族の頂点に立つとされる龍種、さらにその種の頂点に立つ存在である。しかも九神(エイドラ)の主神アカトッシュの最初で最後の傑作と言われ、一説によればアカトッシュの分身またはそのものとも言われている。

 

まあおそらく一部噂、伝説の類であろうが。

 

そんな彼がこの程度効くはずもない。

むしろ魔法であることすら気づいてない。

 

「宗教勧誘なら他所でやってくれないか?我はそんなものには興味ない」

 

「いいえ、別に傘下に入れとは言ってないわ。あくまでもお手伝いよ」

 

「断る。これ以上やれば我を愚弄したとみなす」

 

アルドゥインは白く輝く眼で睨みつけた。しかしデイドラの女はとくに怯えた様子もない。

 

「貴方、思ったよりあたま悪いのね」

 

「なに?」

 

アルドゥインの頭に血が上り、口から龍語(スーム)が漏れるとこだった。遥か彼方は吹っ飛ばすところだった、危ない危ない。

 

「あなたここがどこか考えたことある?あなたは九神(エイドラ)によって作られたら、肉体が滅べば創造主のもとに召されるはずでしょう?」

 

言われてみれば……ここは我の知っている場所ではない。

 

「そして私たちデイドラは九神(エイドラ)に作られた存在ではない、また別の存在。なぜ私がここにいるか考えもしなかったのか?」

 

そう、九神(エイドラ)とデイドラはタムリエルでは双方とも信仰の対象だ。しかしそれぞれの系列は全く異なる。実在する宗教で例えるなら仏教とキリスト教ぐらい異なるかもしれない。

 

となれば現在の状況を分かりやすく例えると死んだ仏教徒がなぜかキリスト教の死後の世界にいる、ということである。

 

「まさか……ここは……」

 

悪い予感ではない、悪い確信が脳内に浮かび上がった。

 

「ご名答」

 

デイドラの女は一呼吸置くと、周りの白い空間が一瞬で消え、真紅の空、血と黒煙が混ざったような雲。これは紛れもなく……

 

「ようこそ、オブリビオンへ」

 

オブリビオン

 

デイドラが主に住処とする異次元的な世界である。その見た目、居住生物により、我々から見たらまさに地獄、といった感じだが、実際は人が住める場所もあるという。十分にタフであれば、であるが。

 

アルドゥインは周りを見渡すが、出口のようなものはもちろんない。

 

そりゃキリスト教の死後の世界に来てしまった仏教徒が本来行くべき場所変える方法なぞ知るわけがない。そもそもどうしてこうなった、という心境である。

 

まさにアルドゥインも現在どうしてこうなった、と思っている。

 

しかしさすがは龍の頂点に立つ者。この程度では臆さなかった。

 

だから物凄い、物凄い勢いで怒った。

 

Dur Hi Dovahkiin!!!(ドヴァキンめー!!)

 

ビビるような器ではないが、冷静である器でも無かったようだ。

 

龍語(スーム)は普通の言葉とは概念が違う。彼の声はオブリビオンの隅々まで響いたという。

 

「で、我は何をすればここから出してもらえるのだ?」

 

少し落ち着いた漆黒の龍はデイドラの女に質問する。

その眼は怒りに燃えていた。

 

「お手伝いして頂ければいいわ」

 

デイドラの女は見えない笑みを浮かべた。

 

QUEST START: ANOTHER GATE(クエスト開始: もう一つの門)

 

 

 

 




前置き長えよ!

てか門まだかよ!

ごめんなさい。


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時は20XX年

こんな壮大なサブタイトルのスタートしても人類は炎に包まれませんから安心してください。

帝国はいずれ包まれるかもしれないけど……


今日も日本は平和である。

 

少なくとも、ごく普通の一般市民そう思っている。この毎日繰り返される平和は当たり前過ぎて平和とは何かすら意識されない。

 

しかしその平和は突如として崩された。

 

真夏の暑い銀座のど真ん中に、それはいきなり現れた。

 

異世界への門(ゲート)

 

中から出てきたのは中世ヨーロッパ風の騎士、歩兵、そしてファンタジーに出てくるようなモンスター、所謂(いわゆる)ゴブリンやオークなどである。

 

もちろん、そこにいた人たちは何らかのアトラクションか映画の撮影だと思ったのだろう。

 

しかし彼らがそこにいた人々を無差別に殺戮し始めたことにより、非現実的なことが目の前で起きていることにようやく気付いた。

 

しかし既に時遅し。気がつけばその異世界の軍隊は殺戮によってできた死体の山に黒い軍旗を立てて一方的に領有宣言を行った。

 

まあ、半日でこの軍隊は警察、自衛隊、などによって制圧されることになったが。

 

このような比較的早めに制圧できたのも、日本のインフラの整備がされていたこと、自衛隊の中央即応集団が編成されて数年経っていたため十分な運用方法が確立していたためであろう。

 

ただ、本部で

 

「中世の騎士とファンタジーの化物が攻めてきた!」

 

という報告を受けた者は他国の特殊部隊が攻めてきた、と報告されるときよりも対応に困ったことだろう。

 

これが後に『銀座事件』と呼ばれる日本の歴史の一つである。

 

 

***

 

 

そして時は流れ(2、3日)、日本国政府はこの事件を(一応)テロリズムとして扱うこととした。

 

国際的には、戦争のようなものも国際法において正式な手続きをしなければそれは戦争ではなく、紛争または単なる違法行為なのである。

 

手違いとは言え、我が国も間違えて宣言布告が間に合わず、1941年12月8日に米国に対して似たようなことをしたもんだからそりゃ怒るよね、というわけである。最も、こちらの方は陰謀論説などもあるが。

 

とにかく、まず『(ゲート)』の向こうの未知の世界にいる未知の勢力を話し合いのテーブルに着かせるためにも、未知の世界をあくまでも日本の領土、特別地域、略して『特地』として調査をすることとした。

 

おそらくこの日本ではこのような行為を戦争行為だの、侵攻だの、とやかく反対する『自称』平和団体、政治家はたくさんいただろうが、なんとかこじつけたようだ。

 

政治家の皆様、ご苦労様です。

 

主な目的は、特地の調査、未知の勢力の主犯格の拘束及び厳正な処罰、そして賠償及び謝罪となるだろう。他にも門の向こうの勢力を国家として認めるなら国境線の設定、政治体制の変更などの細かいところも後ほど逐次要求する必要があるかもしれない。

 

とまあ、色々政治の都合もあるが、まず門の確保、そしていつ来るか分からない攻撃に備えるために自衛隊を派遣することとなったのだ。

 

 

***

 

 

原作通り、門は容易く制圧され、特地側に着いた自衛隊たちは異世界に驚愕しつつも、すぐに陣地構築へと移った。

 

門の向こうの側は後にアルヌスの丘と判明する場所である。

 

専守防衛及び元々限られた戦力を効率的に用いるという性質上、陸自は陣地構築を非常に得意とする。

 

いつ敵が攻めてくるかわからないため、即席の陣地を作ったが、彼らにとっては十分であった。

 

重機を持ってくる暇がなかったので、ほとんどが人の手による塹壕みたいなものである。

 

異世界の人間からしたら貧相に見えるだろう。砦もなければ櫓もない。兵士が穴を掘って隠れているだけのように見えるだろう。

 

しかし見る人が見れば簡易ながらもしっかりした防御陣地だとわかる。

 

迫撃砲、大砲、機関銃のような援護武器も多く設置され、戦車も草木を用いて巧妙にカモフラージュされて配置された。

 

さらにこれらの陣地の周りを鉄条網や鉄製フェンスなどが何層にも設置された。

 

防衛戦に地雷などは非常に有効だが、日本は所持していないことになってるので、使用されていない。

 

陣地構築が終わり、これが訓練ならここで終わりである。しかし今回は実戦である。

 

隊員は点呼をとり、各人は装備、弾薬を受領して各人の持ち場についた。

 

今回隊員が装備しているのは64式小銃。今となっては旧世代のものであり、一部では骨董品扱いされるが、威力、精度自体は問題ない。

 

実際、銀座事件での教訓により、現役の89式では対人以外、つまりオークなどに対して威力不足だったことが散見されたこと、そして万一破棄するような自体になっても比較的問題のない旧式を選んだわけである。

 

実際、小銃だけではなく他の大砲や戦車も同様である。

 

また、新入隊員や比較的若い隊員は64式に触れたことすらない者も多かったため、多くの戦闘員は古参兵の曹以上の隊員であった。

 

彼らは土嚢の後ろや簡易バンカー、掩体の中などの各人の持ち場に着くと、集中力及び士気を上げて来るべき敵をまった。

 

ふと西を見れば陽が沈みかけていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




遅くなりました。少し資料の読み返してましまた。

どうぞよろしくお願いします。

アルドゥイン「我の出番はよ」

だって、ラスボス出しちゃうとねぇ…


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異世界のラスボスがログインしたようです

転生特典?何それ美味しいの?

デフォで死の概念ありませんが何か?

はじまるよ!

ワールドイーター「やっと我の出番か」


アルヌスの丘よりはるか西に位置する砂漠、西方砂漠。

 

砂漠的な気候により、夜は気温が氷点下近くまで下がっており、肌に当たれば痛いほどの風が吹き荒れるが人どころか生物の気配すらなかった。

 

しかし今宵は特に寒い。というのも温度的なものではない。何か悪寒がする感じの雰囲気が漂っていた。

 

その悪寒はまさに嫌な予感がちょうど的中するような感じであった。

 

それまで吹いていた風がピタ、と止まった。

 

それもつかの間、空気が震えだし、異様な空気の重みがその空間を歪めた。

 

実際に蜃気楼のように景色が歪み、小さな地響きとともにそこにあった大きな岩が真っ二つに割れた。

 

その割れ目から次元の歪みが生じ、それを中心として辺りは真紅の光を纏った。

 

オブリビオンの門(オブリビオン・ゲート)

 

その見た目はアルヌスの丘における門とは違い、門というよりはファンタジーやSFに出てくるワープゲートのようなものであった。

 

この門はかつてタムリエルの第4世代にて世界を混乱に陥れた異界と繋がる門であった。

 

ただ、当時のものとは大きく違うといえば、その大きさであった。

 

大きさはアルヌスのゲートより一回り小さい程度であり、かつてタムリエルにて発生したものより大きかった。

 

その禍々しい光はより一層強く光出すと、中から何か大きな何かが地響きを立てながら出現した。

 

世界を喰らいし者(ワールドイーター)、アルドゥイン』

 

しかし、かつての彼とは少し雰囲気がちがった。

 

彼は元々黒を基調とする全身漆黒の鱗ので覆われた龍であった。

 

しかしこれは違う。

 

鱗の隙間、口の隙、そしてその目が火山のマグマのように光を放っている、あるいは漏れていた。

 

まさに地の果てから舞い上がった地獄の龍、あるいは悪魔といった感じだ。

 

まあ似たような黒色のドラゴンはいろんな作品で見られるけど。

 

彼はゆっくりと周りを見渡した。

 

砂、砂、砂、砂丘、砂、砂、砂、岩、砂……

 

とにかく砂だらけである。

 

 

「ふむ、これが砂漠というものだな。

噂にはきいていたが……」

 

 

彼が初めて見たのも仕方がないだろう。なんせ前世界のスカイリムは雪原地域なのだから。

 

辺り一面見渡すが、生命の気配はない。普通ならそう思うだろう。

 

 

Laas() Yah(探索) Nir(狩り)

 

 

ドラゴンシャウトの一つ、「オーラの囁き」を放った。シャウトというが、これは囁くようであった。

 

人などの魔法でいうと生命探知魔法である。現実世界に例えるのなら暗視ゴーグル、熱源探知(サーマル)ゴーグルのような効果がある。

 

ただし、彼のシャウトという特殊な魔法はアンデッドなどの生命のないものも含め、全てオーラのようなもので探知できる。つまり、動くもの全てである。

 

 

「ふむ、興味深い」

 

 

彼は脳裏に浮かんだものを冷静に分析した。

 

 

「非常に興味深い。だが我にはまずすべきことがある。今は気にすべきでないな」

 

 

そう結論を出すと、彼はなんとも表現しようのないおぞましい叫びを上げると、夜空の暗闇へと消えていった。

 

そして、東へと向かった。

 

***

 

自衛隊は世界的に見てもユニークな軍隊と思われる。

 

自衛隊は世界的にも練度は高い方とされる。少なくとも演習においては。

 

そのため、多くの軍事専門家は自衛隊は強いかもしれないが、弱いかもしれない。なぜなら戦闘行為における実戦経験が皆無なため、そもそも情報がないのである。

 

イラク、アフガン、カンボジアなど、自衛隊は多くの復興支援などのために海外派遣を近年行っていて、現在も続いている。

 

これらは全て平和的な活動を目的としているため、装備なども限定的なものであった。また、基本的に戦闘行為も行われてない。

 

なぜかって?

自称平和主義政治家と活動家たちがうるさいからだ。

 

という冗談は置いといて、まあ政治的に色々理由はあるのだろう。

 

しかし、自衛隊は海外派遣において数少ない、戦死者を出したことない国の一つでもある。

 

(ちなみに、戦死者とは戦闘行為による死者なのでもちろん病死、事故死、帰国後の自殺などは含まれない)

 

無論、そもそも平和維持活動、復興支援に赴き、かつ基本的に戦闘の危険のない地域なので多少は影響しているだろう。

 

しかしこれは当たり前ではない。事実、復興支援に従事している他国軍は攻撃を受けて死傷者を出してるし、国連職員も同様である。

 

ではなぜ日本は無事なのか?

 

それが不思議の一つである。

 

ただ、一つ言えることがある。

 

 

自衛隊は弱くない。

 

 

***

 

 

「用意、てい!」

 

 

指揮官の号令と共に一斉に火砲が火を噴いた。

 

155mmりゅう弾砲 FH70

 

所謂大砲であり、陸上自衛隊の音楽隊でも使用されることのある大砲でる。これホント。

 

 

「弾ちゃーく、今!」

 

 

観測員の号令と共に大砲の嵐が敵の軍団の中心に炸裂した。

 

いや、むしろ砲弾の壁によって叩き潰されたというべきか。

 

大砲を散発的に発射しても効果はあるものの、それを集団的に用いることで「面制圧」という形で大打撃を与えることができる。

 

例えるならモグラ叩きを小さなハンマーではなく、巨大なハンマーで台ごと潰すようなものだろうか。

 

ちなみに、これはかって第二次世界大戦の後期ソ連が得意とされている。火砲、ロケット砲(カチューシャなど)による物量制圧によって当時のドイツは大変苦しめられただろう。

 

実際、タイミングが難しいが、富士総合火力演習で富士山の輪郭に合わせて空中炸裂もできるので特に練度的には問題ないだろう。

 

 

「修正なし、位置そのまま。次弾装填、打ち方用意!」

 

 

火砲は次々と無慈悲な雨を降らせ続けた。

 

しかし、やはりこのような火力を突破する者が出てくる。

 

機動力のある騎馬兵、ワイバーン竜騎兵、そして運良く生き延びた歩兵、比較的頑丈なオークやトロールなどの亜人である。

 

しかし、彼らにとって残念なことに、その貴重な命はすぐ露の如く散らしてしまうこととなる。

 

まず普通科による射撃によって無力化される。

 

パン、パン、パパパ、という乾いた音がしたと思ったら隣の戦友が頭から血を吹き出して死んでいる。

 

まだこれは良い方で、場合によっては潰れたスイカのように頭が割れたり、風穴が空いてたりする。

 

恐るべし64式小銃の7.62mm弾。純粋な破壊エネルギーは89式を凌駕するのは事実である。

 

やっとのことで敵陣の前に着いたと思ったら変な鉄の荊に身体のあちこちをさされ、衣服は絡み、そもそも痛みで前になかなか進めない。

 

そして巧妙にカモフラージュされた自衛隊員によってまた無力化されるのである。

 

 

「おのれ!魔法とは卑怯な!」

 

「正々堂々戦え!」

 

 

絶命前に勇ましい者は雄叫びを上げる。

 

しかし、まず言葉が通じない。

 

そして次に、正々堂々というが、まず奇襲してきたのはそちらである。

 

自業自得である、と人によっては思うかもしれない。

 

あと、難を逃れたワイバーン竜騎兵たちは12.7mm重機関銃の簡易対空兵器によってまるで鴨猟のように落ちていった。

 

さて、諸君の中には疑問に思う者もいるだろう。

 

自衛隊ってこんなに強いの?

 

考えてみてほしい。現代兵器を所持した軍隊が、仮に魔法があったとしても中世レベルの軍隊が相手である。

 

某イージス艦が太平洋戦争にタイムスリップした漫画よりひどいことが起きるのは当たり前であろう。

 

なに?人を殺したことのない人に人殺しは簡単にできない?

 

確かにそうかもしれない。しかし世界の軍隊のほとんどはそれをクリアしている。

 

自衛隊員は人殺しをしているわけではない。あくまでも、訓練通りに動いているたわけである。

 

訓練通りに、目の前の危険要素を、自分の銃で排除しているだけ。

 

訓練通り、測定し、装填し、狙い、引き金を引き、それを繰り返すだけ。

 

何百回、何千回も繰り返した訓練は身体に染み付き、反射的に動くのだ。

 

ちょうどスポーツの練習と同じ、練習でボールが見えたらそれを奪い、狙い、打つ。根本は一緒である。

 

あと一部の人は誤解しているかもしれないが、ここにいる隊員は口で銃の音を真似たり、薬莢をひたすら拾ったりする訓練ばっかりをやってきた隊員ではない。

 

前述したとおり、ベテランたちの集団である。そのための『特別』な訓練は既に経験済みてある。

 

恐らく原作はこれらの表現は省略したのかもしれない。やたらと長いから。

 

 

 

敵の第二回の襲撃も失敗し、後退していった。

 

 

「止め!打ち方やめ!」

 

 

司令官から隊長、隊員へと順次に伝令されていった。

 

すると先までの戦闘の音はピタッと止んだ。あるのは硫黄と焦げた匂いである。

 

 

「また次の襲撃もあるかもしれないが、各個人は持ち場にて待機しつつ、交代制で休息をとれ。かかれ!」

 

 

夜襲にも備えたが、本来原作で起きるはずの3回目の襲撃の夜襲は起こることはなかった。

 




ちょっと長々と説明書き過ぎたかも。
読み辛かったらすみません。


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真の帝国民は退かない!

お気に入りしてくださった方ありがとうございます。

ご指摘して頂いた方もありがとうございます。

時々原作にないこと、矛盾することあるかもしれませんが、お許しください。できる限り善処します。

後数値の単位などはわかりやすくするため、我々の現実世界の単位を使用することもあります。


自衛官たちは夜通し待ったが、結局3回目の襲撃は来なかった。

 

予想していただけに、何かこう呆気に取られたかんじであった。

 

一応、念のためにある程度は警戒態勢を敷き、残りは休憩と作業などのローテーションを組むことにした。

 

アルヌスの丘を中心に四方八方が人、戦馬、亜人、翼竜(ワイバーン)、そしてかつてそれらであった何かによって埋め尽くされていた。

 

それを見ていた作業指揮官の幹部自衛官は大きなため息をついた。

 

「これ、どうするよ……」

 

***

 

さて、原作を読んだ読者の皆さんは知ってるが、本来なら3回目の襲撃が来るはずであったが、来なかった。

 

ことの原因は昨日のある出来事にある。

 

***

(約半日前)

 

アルヌスの丘から少し離れたところ、とはいえ徒歩で約半日はかかるところではあるが、20万を下らない兵力が進行していた。

 

兵種は騎兵、歩兵、戦象、さらに空中には翼竜竜騎兵までもがいた。投石機などの攻城兵器なども見られる。

 

よく観察してみれば、多種多様な部隊がいることが分かる。同じ兵種でも装備や見た目が異なり、人種や生物種も異なる。

 

多くの異なる旗を有するこの軍隊は、帝国の要請により招集され結成した連合諸王国軍である。

 

しかし多くの者は傷ついており、戦闘後であることが分かる。そう、彼らはアルヌスの丘の戦いの生存者であった。

 

比較的元気で無傷な者は増員兵であると思われる。

 

ただ、負傷者の多くも軽症であるが、恐らく重症の者は戦場に取り残されたのだろう。余裕がなかったのか、それともこの世界の常識なのかは分からない。

 

「全軍、止まれ!」

 

各指揮官の号令によって大軍は足を止めた。

 

この規模の軍があまり統制を乱さず止まれたのも、かなりの訓練を受けた者と感じられる。

 

「これより1時間の休憩を摂る。今回の作戦は夜襲であるため、各人はしっかり休息を摂れ。以上!」

 

指揮官の命令が終わり次第、兵士たちは各々の部隊ごとの休息テントを建て、休憩をし始めた。

 

早めの夕食を摂るもの、装備を手入れする者、談話する者などまちまちである。

 

「なあ、アルヌスの丘の兵士は強いって本当か?」

 

一人の若い兵士が老兵に聞いた。

 

「ああ、あれはもはや戦いというよりも魔法の嵐だね。何もできなかった。」

 

老兵の言葉を聞いた若者数人が不安な表情を見せ、お互いを横目で見ていた。

 

「だがな、これほどの兵力があれば次こそいけるとワシは思う。お前さんたちも大丈夫さ!」

 

それを聞いた若者たちは少しの表情が和らぎ、士気も上がった。

 

「よっしゃ!帝国をこの手で守ってやるぞ!」

 

「そうだ、あんな卑怯な魔法しか使えない奴なんぞ一捻りだ!」

 

兵士たちが鼓舞し、士気を上げていたときだ。

 

グオーン........

 

何か遠吠えのようなものが遠くからかすれるように聞こえた。

馬、象、犬など動物、そして翼竜までもが不安そうにソワソワしていた。

 

一部は暴れ、それを数人の兵士がなだめようとする。

 

辺りは動物の鳴き声以外は一瞬で静かになり、誰一人声を出そうとした者はいなかった。

 

そしてようやく誰かが口を開くと、

 

「何だ、今のは……」

 

「なんか嫌な予感がする……」

 

「悪い予兆じゃ!」

 

次々と不安を煽るようや言葉があちこちから生じ、より一層皆を不安にさせた。

 

「静粛に!静粛に!」

 

指揮官が大声で喝を入れる。

そこにいた全員が今度は指揮官の方を向いた。

 

「今のは何でもない!ただ野生の翼竜が我々の動きに驚いただけだ!」

 

すると多くの兵士が安堵した様子でまた囁きあった。

 

「なんだ、翼竜か、驚かせやがって」

 

「もしかして発情期で俺たちの翼竜に反応したか?ガハハハ!」

 

「いや、俺たちに怯えて行ったんだよ!腰抜けめ!」

 

兵士たちがまたジョークなどをとばすようになり、また先ほどの雰囲気に戻ってきた。

 

一部を除いて。

 

先の老兵もその一人だ。彼は険しい顔をしていた。

 

(違う、あれは翼竜の声じゃない。それに距離に対するあれほどの大きさの声……並大抵の大きさじゃない)

 

彼の長年の経験が何か不吉な予感をさせた。

 

「おいおいじーさん、まさかびびっちまったのか?それともちびったか?」

 

近くにいた兵士が仲間と酒を飲みながら笑っていた。

 

しかし老兵は考えを止めなかった。

 

(恐らく大きさは全長が最低でも30m、大きくても50mか。しかし、この大きさはありえん。この大きさは、まだ目覚めるはずのない炎りゅ……)

 

彼は正しかった。しかし彼は最後に自分の経験を過信し、その経験の枠でしか考えられなかったことが最後に大きな過ちを犯した。

 

彼は目の前のものを見たとき思考が文字通り停止した。

見たことも聞いたこともない何かが空を舞っていたのだから。

 

グギャァァァァァア゛ア゛ア゛ン!!!

 

敢えて文字で表したが、こんなもので表現できるような生易しい声ではなかった。大地が震えるほどの大きさと頭を割るような甲高さ、想像を絶する音であった。

 

「なんなのだ、あれは!?」

 

さすがの指揮官も驚きを隠せなかった。

 

「隊長、一体何が見えたのですか!?」

 

周りの動物たちも手をつけられないほど暴れている。翼竜も自分の背の騎手を放り解こうとして暴れている。

 

刹那、上から何かが落ちてきた。

 

正確に言えば降りてきたが正しいが、その降り方があまりにも速く降りてきたため、大きな地響きと砂煙が舞い上がるほどであるため、落ちてきたも正しいかもしれない。

 

「龍だ!龍だ!」

 

「皆の者、戦闘用意!」

 

大きな岩の上に降りてきたのは炎龍でも水龍でも翼竜でもなく、真っ赤な目と赤みのかかった漆黒の鱗に覆われた龍であった。

 

休息中の不意を突かれ、多くの兵士はパニックであったが、ベテランの者は不測の事態にも想定できるよう準備していた者もいた。

 

彼らは素早く陣形を組み、戦闘態勢に移る。準備できていない者も後方に回り、素早く装備を整えていた。

 

流石は正規兵、非常時の対応は十分にできていた。ただ自衛隊は相手が悪過ぎただけである。今回も同様だが。

 

(ふむ、スカイリムの帝国兵士に似ておるな。しかし練度はこちらの方が上だな)

 

アルドゥインは『オーラの囁き(生命探知シャウト)』によって大規模な生命を感知したのでたまたま通りかかっただけなのだが、この世界の文明レベル、兵力、魔力の種類の調査にちょうど良いと考え訪れてみたのだ。

 

ぶっちゃけると腕慣らし。

 

「真の帝国臣民は退かない!」

 

「皇帝陛下のために!」

 

さて、下で喚いている定命の者どもはどうするか思案中であったアルドゥインは手っ取り早くことを済ませることにし、大きなシャウトを空に放った。

 

雷のような音ともに魔力か空気の塊のようなものが空の雲の中へと消えていった。

 

***

 

「助けてくれー!」

 

「殺さないでくれー!」

 

「降参する!」

 

「誰かどうにかしてくれ!」

 

「……」

 

なんとまあ呆気ない結果であった。

アルドゥインの戦闘時間約15分。連合諸王国軍の損害は約15万。

 

実に平均して毎分1万の損害である。まさにオーバーキルである。

 

アルドゥイン自身も少し驚いていた。以前と比べて相当強化されていた。

 

それよりも驚いたのはこちらの方世界の兵士の打たれ弱さであるが……

 

弱過ぎる。

 

個人個人の強さはそこまで変わらないかもしれないが、少し損害を受けただけですぐ逃げようとしたのだ。

 

これならまだスカイリムにいた定命共のほうが勇敢である、と思った。

 

伝聞だが、部下のドラゴンが調子に乗って小さな村落を襲った際、村中の老若男女が抵抗してきたとのことだ。

 

武器はあるものなら箒でも、無い者は素手で殴りかかる始末だったという。

 

事実、その部下は命ながらに帰ってきたことを思い出した。

 

まあ、単に向こうの世界の定命の(AI)は勇敢ではなく馬鹿なだけかもしれないが。

 

「ふむ、想像以上に我の身体は強化されているようだ。

そしとだいたいこの世界の文明、言語、科学技術、魔法についても理解できた。あとは多種多様な生態ぐらいだな。あとは……」

 

アルドゥインの口から雷のような音と共に『オーラの囁き(生命探知シャウト)』が吐き出さた。

 

そう、彼は過去の過ちから学んだのだ。

 

前の世界(スカイリム)では生き残りの一人が後のドヴァキンであることが判明し、そして自分を滅ぼす存在となった。

 

今思えば念入りに皆殺しにしておけばよかったとつくづく思うのであった。

 

探知の結果、特に後の脅威となる強力な個体はおらず、ほとんどが瀕死か並程度の存在であった。

 

「杞憂か、まあ少し多く残しすぎたが、野原に逃げ込んだスキーヴァー(ドブネズミ)を探すような真似は非効率だ。今回はこの程度で良いだろう」

 

静かにつぶやくと、その巨体に似合わない軽やかさで羽ばたいて空の向こうへと消えっていった。

 

約1万程度の生存者は歩けるものは蜘蛛の子を散らすようにあちこちへとにげてしまった。

 

しかし、動けないものは……

 

「ちくしょう、ちくしょう……こんな死に方ってねえよぉぉぉお!!」

 

一人の瀕死の男が最後に見たのは自ら従えていたはずの翼竜の大きく開けられた口だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




ちょくちょくスカイリムネタが入ります。
何個あったかな?

戦闘描写がない?
後の回想に出す予定です。

今後もよろしくお願いします。


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世界のねじれ

俺、気づいてしまったんだ。なぜあまり評価されないのかを……

それは、美少女がまだ登場してなかったからだったんだな……

ということで美少女出します。

これからもよろしくです。

てかやっと原作の主人公登場かよ……


幾万もの死体が四方八方を埋め尽くす光景は、我々の世界の過去の大戦を思い起こさせる。

 

死体は互いに重なり合うように倒れる者もいれば、身体が欠損している者、バラバラの者、ひどいときにはそもそも原型がなんだったのか識別不可能なほどの何かになってしまった肉塊まである。

 

その死体から漂う凄まじい腐敗臭、腐敗臭によって生じるねっとりとした生暖かい空気、これらに群がるハエ、ウジ、その他生物、肉塊を頬張る野犬、狼や人喰鬼(グール)。

 

まさにこの世の地獄と表現するのが適当であろう。死体の金目のものを漁りに来るものすら近づこうとしなかった。

 

しかし、そんな地獄のど真ん中に、一人の少女が立っていた。

 

ゴシックロリータのような服、長い漆黒の髪、13、14歳と思わせるような顔立ち、そして彼女の倍ほどの大きさのハルバードを地面に刺してしっかりと保持していた。

 

 

「……」

 

 

彼女は特に何かをするわけでもなく、遠くを見つめ、静かに立っているだけであった。強いて言うなら表情が少し暗く、余裕がなさそうに見える。

 

 

「おかしいわ、本当におかしいわ。こんなにたくさんの魂がエムロイの元へ召されたのなら、私が気づかないはずがないわ」

 

 

少女は静かに目を閉じるが、解決策は無いと理解し、目を開けて歩み始めた。

 

これに感づいた近くの野犬やグールは逃げるようにその場を退いた。

 

 

「ごめんないね、あなた方の魂、必ずなんとかしてみせるわ」

 

 

そういってゆっくりとその場を後にした。

 

 

***

 

 

「空があおいねぇ。さすが異世界」

 

 

彼は伊丹耀司2等陸尉(33歳)。特地の情報偵察のために編成された6個の部隊のうちの一つ、第3偵察隊の指揮官である。

 

実は彼、あの『銀座事件』でかなり活躍したらおかげで多くの人命が助かり、つい最近3等陸尉から2等陸尉になったのだ。詳細については割愛する。

 

彼の歳で2尉はちょっと遅すぎる、と思ったのは内緒である(ふつう1尉ぐらい、優秀なら3佐になれるはず。どんだけ勤務成績が……)。

 

 

「俺はドラゴンがいたり妖精が飛びかっているトコを想像していたんですけどねぇ。これまで通ってきた集落で生活しているのは人間ばっかしだし、家畜も牛とか羊にそっくりでガックリっす」

 

と隣の運転席で高機動車(HMV)を運転している倉田3曹が何か期待はずれのように言った。

 

彼らの乗る高機動車の前には73式小型トラック、後方には軽装甲機動車(LAV)が列を成して走行していた。

 

 

「……」

 

 

後席の窓から双眼鏡である一点を眺めていた齢50のベテラン自衛官、桑原陸曹長は地図を確認すると伊丹の肩を軽く叩いた。

 

 

「ん?」

 

 

伊丹は振り向いて後席に振り向くと、桑原曹長は伊丹の耳元に囁いた。

 

 

「伊丹2尉、迂回を意見具申します。この先はかなり足場が悪い状況が考えられます」

 

 

桑原曹長の真剣な表情を察した伊丹は自分の双眼鏡で前方付近を確認すると、その意味がよく理解できた。

 

 

「そうだな。おやっさん、ありがとう」

 

 

伊丹は通信機のマイクをとると、

 

 

「あー、みんな進路変更する。この先かなり道が悪い状況らしいので、安全優先で迂回する」

 

「あれー、伊丹2尉。なんかあったんですか?」

 

 

伊丹は少し考えるとまた伝達した。

 

 

「どうやらぬかるみがひどい湿地地帯らしいんだよな。ま、みんな俺のカンを信じてくれ」

 

 

無線の向こうから何やら呆れたような反応があったが、結局皆が賛成してくれたようである。

 

迂回ルートをたどり始めた車列の中、伊丹はふと思った。

 

 

(あの光景は、嫌なことを思い出させるな……おやっさんならともかく、倉田たちにはまだ見るのは早いかもな)

 

 

彼の脳裏には数年前の東日本の惨状が浮かんでいた。

 

 

「おやっさん、感謝します」

 

 

伊丹は小声でお礼を言うと、桑原曹長は軽く頷いた。

 

 

「あの光景を見るのはまだ我々で十分ですからな」

 

 

車列は迂回点をどんどん離れていった。

 

迂回点から少し離れたところにあったのは漆黒の龍がこの地の人間と初めて接触した場所であることは、彼らはまだ知らない。

 

 




え、これだけ?

書いてて自分でも思いました。

短いですが許してください。

え?美少女?

やだなー、冒頭で美少女(仮)でたじゃないですかー


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今回も短いかもしれない。

あと評価などをして頂いた皆様、閲覧して頂いた皆様、ありがとうございます。まだ頑張れそうです。


ある夢を見た。

 

最後夢を見たのはいつだろうか。正確には睡眠すら取る必要のない我らの種族がこれを夢と言ってよいか分からぬが、まあ夢と定義しよう。

 

あの肉体が滅びて眠っていた時ですら夢を見ることはなかったか、一体なぜなのか……

 

ただ、夢と呼ぶにはあまりにも鮮明で印象が強かった。

 

 

***

 

 

目の前には血まみれでボロボロの砂のような色をした龍がいた。

 

翼はボロボロにされ、身体のあちこちの牙や角が折られ、体中から血を吹き出し、目も死にかけの魚のようであった。

 

 

「失望したよ。我の意見に逆らうなど、まさかお前がすると思わなかったな」

 

 

低音の龍語(スーム)でそう言ってそばにいた漆黒の龍はその瀕死の龍の首を踏みつけた。

 

もうその龍は悲鳴を上げる気力も残っていないらしく、頭を僅かに振るだけであった。

 

 

「ち、違うのだ……誤解だ。そんなことを意図したわけでは……グア!?」

 

 

漆黒の龍は足に力をさらに加えた。

 

 

「何が違うのだ?お前は我の次に年長であり、お前は自分の名の通り残虐の限りを尽くしてきた、そのお前が、今になって定命者(人間)共と和解しろだと?」

 

 

漆黒の龍は空いている方の足で瀕死の龍の頭を踏みつけた。

 

 

「この我ら、不死なる者の中のさらに上位の存在の我らが、たかが虫ケラごときに対等の地位まで堕ちろと言うのか!?」

 

 

周囲の取り巻きの龍たちは、決して弱いわけではないが、彼の怒りのこもった声にビクビクと震えていた。

 

 

「違う……違うのだ……

彼らは強い。一人ひとりは弱いかもしれないが、彼らが集まれば、そして世代を重ねれば、どんどん進化してゆく……いずれは……我々を圧倒するかもしれないのだ」

 

 

その弱々しい声を聞いた漆黒の龍は、鼻で笑った。

 

 

「強い?やつらが?ハハハ!何を言う、奴らが我の一匹でも殺したか?いや、そんなことはない。我々は何千も殺してきたが、奴らは一匹として我々を殺せてない。どこが強いのだ!?」

 

 

漆黒の龍は今にも食い殺そうとする勢いで瀕死の龍の迫った。

 

その弱々しく、痛々しい姿はなんとも言えなかった。しかし、彼の目だけはまっすぐ、力強く漆黒の龍の目を捉えていた。

 

 

「兄弟よ……我々はなんのために奴らはと戦っているのだ……私にはわからないのだよ……そしてそれがいつか我々を滅ぼすきっかけになるのではないかと思うのだよ。私の命はくれてやる。ただ、お願いだ……奴らを滅ぼす前に……せめて一度、一度でよいから……奴らと話してくれ……」

 

 

最後の言葉かと思われるほど弱々しく訴えた。

 

すると、首と頭を踏んでいた足に力が抜けているのを感じた。

 

少しは心に届いたか。

 

しかし、そんな希望も虚しかった。

 

漆黒の龍は静かに黙っていたが、それはさっきの怒りが、本当の失望に変わったからだと感じた。

 

彼の目は、悲しみ、失望、怒り、色々なものが混ざったような感じであった。

 

ただ確かに感じるのは、彼が瀕死の龍を本当にどうしようもないものとして見下していることだけは明確であった。

 

 

「もういい。お前はこのまま死ね。そしてその崇高な身体を無様に定命者の餌になるがよい」

 

 

そしてゆっくりと離れると同時に翼を広げ、ゆっくりと羽ばたいた。

 

 

「もし、万一生きていたら虫ケラどもに味方するなり好きにするがよい。それまでに虫ケラどもが生きていたら、だがな」

 

 

そしてより一層高く飛び、他の龍たちもそれに続いた。

 

 

「さらばだ、パーサナックス」

 

 

そして漆黒の龍は他の龍を従えて飛び立った。

 

残された瀕死の龍は、それを見送ることしかでもかなかった。

 

 

「待ってくれ……アルドゥイン……私を一人に……私を置いて行かないてくれ……」

 

 

彼が気を失う前に視界に映ったのは、フードを被った人間の姿だった。

 

 

***

 

 

「……」

 

まあなんとも奇妙な夢だ。過去の出来事なのは理解しているが、第3者視点で見るとまた違って見えるところがあると感じた。

 

この出来事の全てが事実なら、前回とその前の敗因は我にあると言えよう。

あのときパーサナックスを殺しておけば我々のスームが定命者(人間)に伝わることもなく、我々の種族が滅ぼされることもなかったかわけである。

 

やはり、今まで爪が甘かったのかもしれない。それとも傲慢だったか。

いずれにせよ、同じ失敗を繰り返すつもりはない。

 

 

「ワールドイーター、ちょっといいかしら?」

 

 

どこからもなくふと頭の中に誰かの声が入ってきた。

 

 

「デイドラか、勝手に我に入り込むとは、失礼極まりないな。不快だがどうせ今更やめる気はないだろうな」

 

 

アルドゥインはかなりうんざりしたようだ。ただでさせ気持ちのよくない夢を見た直後だというのに。

 

 

「あと、デイドラって呼ぶのも止めてくれない?私にもちゃんと名前あるのよぉ」

 

 

何か色っぽい口調だが、残念ながらアルドゥインにはそのような感性を持っていないため、なんともすんとも思わなかった。

 

 

「なぜだ?デイドラはデイドラだろう?なぜ我がお前を名前で呼ぶ必要がある?」

 

「だって、デイドラは私たちのような存在を表す言葉なのよ。動物の種族みたいな」

 

「では不死の者と呼んでやろうか?」

 

 

しばし沈黙が流れた。デイドラはアルドゥインは何を言ってもダメなやつだと理解した。あー言ったら余計複雑化するタイプ。

 

そう、好き嫌い言ったら逆にバケツ一杯食わせる親みたいに。

 

 

「分かったわ。もう好きに呼んで」

 

「元からそうし続けるつもりだ。で、お前は何用で来たのだ?まさか自己紹介するためだけに来たのではあるまいな」

 

 

アルドゥインはかなり苛立ってきたようだ。せっかく復活させた部下をドヴァキンに瞬殺されるくらいに。

 

 

「あー、そうそう。伝えることがあったんだ。ところであなた、今気分はどう?」

 

「お前が話しかけてきてから実に最悪な気分だ。龍語(スーム)でもシャウトして(放って)世界をすぐにでも滅ぼしたい気分だ」

 

「そんなに不快にしたのなら謝るわよ。そうじゃなくて!魔力とか、能力とかの調子や気分よ!」

 

 

うむ、デイドラがこのような反応するのは初めて知った。案外定命の者の似たところがあるかもしれない。まあ、一応死ぬ存在であるからな。

 

確かに、言われてみれば能力は通常より高く維持できている。魔力を相当消費したが、余り減っていない……否、むしろ増えている。

 

「ふむ、確かに能力、魔力、全てに置いて向上しているのは確かだ、しかし、消費したはずの魔力が戻っている。これはなぜだ?」

 

 

それを聞いたデイドラはやっぱり、と小さく呟くと理由を説明し始めた。

 

 

「あなたは前の世界(タムリエル)では普段は血と肉によって蓄え、緊急時はあの世(ソブンガルデ)で英雄の魂を喰らうことで力を維持、強化してきた。

しかし、そのようなシステムはこちらの世界にはない、なので私が少し効率化したのよ。

あなたが屠った魂は直接貴方の体内に吸収されるようにね」

 

 

それを聞いたアルドゥインは驚きと同時になんとも言えない高揚感が生じた。

 

 

「ハハハ、なるほど。ドヴァキンがかつて我らにやったように、我も同じことができるのだな。最高に気分が良い。

しかしデイドラ、なぜ我にここまで協力する?」

 

「何を言ってるのよ、貴方は私の主の手伝いをしてもらってるから、その効率化をしただけよ」

 

「そうか、しかし今まで聞き忘れたが、我は一体何の手伝いをしているのだ?」

 

 

その問いに対しデイドラは軽く笑うと、意地悪そうに言った。

 

 

「それはおたのしみよ」

 

「ふん、食えないやつだな。まあデイドラの企みなどロクなことでないだろう」

 

「あらぁ、そんなこと言ったら貴方がやっていることは何よ、破壊と殺戮だけじゃない」

 

「だがそれは我々の使命だ」

 

「へー、知らなかった」

 

 

完全に棒読みである。

 

 

「ん?」

 

 

アルドゥインはふと別の気配のようなものを感じた。

 

 

「デイドラ、我は用事ができたのでもう征く。しばらく話しかけるな」

 

「はいはい、じゃあ龍のお勤めがんばりなさいね」

 

 

そしてデイドラの声と気配が途切れた。

 

アルドゥインは方向を変えると一気に急降下した。

 

そう、彼は休み中も夢を見ている間もずっと飛んでいたのだ。さすがチートキャラ。

 

ドゴォォォォォォオオオーーーン!

 

そして音速を超える勢いで雲の中を急降下していった。いや、本当に超えてしまったようだ。ソニックブームと傘状の雲を生成しながら。

 

 

「感じるぞ、近くに感じるぞ!同胞の血を!」

 

 

 

 

 

 

 




なかなかストーリー進みませんね。

でも次はまた伊丹サイドです。


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どこの世界も政治家は大概同じだったりする

思ったようにストーリー進みませんね。でも私は頑張りますぞ、そこに一人でも高評価をつけて待っている人がいる限り!

あとタグ付け変更しました。アドバイスありがとうございます。


帝国の議事堂にて。

 

「「「……」」」

 

そこにいた元老院議員は誰一人として口を開こうとしなかった。

 

あの皇帝にすら言いたいことはしっかりと言う、で有名なカーゼル侯爵ですら今回は沈黙を保っていた。

 

それほどまでも、帝国は現在危機的な状況であると全員が認識していたのである。

 

今の現状では言葉や議論は何の意味を成さないことを悟ったからだ。直ちに行動を起こす必要がある。しかしその方法が見つからないのだ。

 

異国の地を攻めて失敗したことは過去にもある。そして今回は想像以上に相手が強過ぎたわけで、最初の侵攻で既に帝国の6、7割の戦力を失ったのだ。

 

そして門奪還のために諸王国からなる連合軍約20万もの兵力も編成したが、それも一瞬でまるで元から無かったかのように消滅した。

 

これが、まだ敵国によるものであればよかったのだ。連合諸王国軍の戦力を下げることにより、帝国への反乱する能力を削ぐことも目的の一つであったからだ。そして相手がまだ人間なら他にも手を打つことはできると考えられる。

 

ただ、今回は非常にまずいことに、連合軍を滅ぼしたのは人間ではなく、未確認の漆黒の龍だという。

 

まだ炎龍なら分かる。少し早いだけの目覚めかもしれんし、被害も決して小さいものではないが、国家危機レベルではない。

 

しかし今回報告に上がった例の『漆黒の龍』は、まさに災害レベル、いや、天災レベルであった。

 

これまでの文献に存在しない龍であるゆえ、対策も立てようがないのだ。

 

もちろん、神話やおとぎ話には様々な龍が存在するため、似たような黒龍(ブラックドラゴン)などがあるにはある。

 

しかしあくまでも神話やおとぎ話であり、子供向けで多くは語られない。それでも帝国中の王立資料館から田舎の古書物管理所からかき集めた資料を賢者や学者に解析を急がせていた。もちろん、成果はない。

 

確保された生存者のほとんどは発狂状態か何かに怯えているように黙秘に徹していた。

 

最終手段として拷問も考えたが、自らの兵にそんなことを行えば世間体が悪い。しかも、中には自死や未遂もあり、効果はほとんどないと考えられ、実行はされていない。

 

 

如何(いかが)なものかな」

 

 

重々しい空気の中、最初に口を開いたのは皇帝モルトであった。

 

 

「帝国の危機は今までに何度も訪れたが、その都度我々の先人はそれを防いできた。

 

過去の文献にない?ならば我々がその先駆けになれば良いではないか。

 

災害といえども、あくまでも龍。生けるものは必ずいずれ死ぬ。ならばこの龍にも何か弱点があるはず。

 

発想を変えて何か良い考え、些細なことでも良い、何かないものかな」

 

 

議員が一瞬ざわめく。隣にいるもので小声で相談したり、確認し合っていた。

 

 

「陛下、一つよいですかな」

 

 

一人の議員が提案した。

 

 

「あの異国の兵と漆黒の龍を戦わせるというのはいかがですかな?」

 

「ほう、続けよ」

 

 

皇帝は少し関心を示したように目を細めた。

 

 

「私はあの兵どもと一戦を交えていますからその強大さを知っております。故に、双方が衝突すれば最適な結果であれば共倒れ、少なくとも片方の問題は片付くと思われます」

 

「ふむ、確かに。毒をもって毒を制すると言うわけだな。しかし、そう簡単にはいかないものと思うが」

 

「もちろん、それは承知しております。戦に思うように行かないのも事実。しかしながら、その逆も然り。うまくいかないときに奇跡が起こることもございます」

 

 

確かに、戦争では99.9%の勝機があれど絶対というものはない。それは99.9%の負けの可能性でも0.01%の逆転の可能性があるのだ。

 

ここまでヒドイ比率ではないが、実例としては単純戦力比なら、日本の日露戦争やフィンランドの冬戦争が有名だろう。

 

 

「よかろう、その方針で問題解決に全力を注げよ。また、他にも案があるものは随時報告せよ」

 

 

皇帝が会議の解散を命じようとしたところ、慌しく誰かが入ってきた。

 

 

「陛下!」

 

 

つかつかと皇帝の前に進み出たのは皇帝の娘の一人、皇女ピニャ・コ・ラーダであった。

 

 

「陛下は我が国が危機的状況にあるというのに、まだ会議など口先の対策を練られておられるのですか?」

 

 

赤紫色の髪に芸術品とも言われるほどの容姿を持つ美女であったが、ご覧の通り多少気の強いところがあるのが玉にきずであった。

 

ただ、一部ではそれが良いという紳士の方々もいるようだが。

 

 

「ピニャよ、ここは議事堂だ。そなたのお小言なら皇城にて後で聞いてやる。もうそろそろ終わるのでしばらく辛抱せよ」

 

「いいえ、辛抱なりません。帝国の皇女として今の現状に黙ってはいられません。異国の兵に一方的に負けた上、さらに龍に兵力のほとんどを奪われたそうではありませんか。これでは無駄死にです!」

 

「無駄死になどてはない。尊い犠牲だ」

 

 

ピニャの眼は鋭かったが、それに屈するような皇帝でもなかった。ただ静かに重みのある声で答えた。

 

 

「ピニャよ、そなたがそのような態度であれば、さぞ何か成果はあるのであろうな」

 

「う、それは……」

 

 

ピニャはたじろいだ。やれやれ、といった風に皇帝は軽く溜息をついた。

 

その意気込みは立派だが、現実と理想は違う。しかし皇帝もピニャはまだ人生経験の少ない(特地での)成人したての者と変わりないのは知っていた。

 

 

「ピニャよ、そなたの言い分も理解できる。ただ、現状では他に当てる余裕がないのだ。そこでだ、一つそなたに頼みたいことがあるのだが」

 

「はい、皇帝陛下。何なりと」

 

「我々はアルヌスの丘に屯する敵兵を良く知らぬ。そして漆黒の龍の情報も足りぬ。ちょうど良いので、そなたがその情報収集をやってくれぬか?」

 

(わらわ)がですか?」

 

「そうだ、そなたとそなたの『騎士団』であれば十分な練度を有しておるであろう。騎士団ごっこの集いでなければ」

 

 

皇帝の試すような口調と眼差しにピニャは唇をぐっと嚙みしめる。

 

色々と不満はあるが仕方がない。逆にここで成果を挙げれば後ほど有利に事が運ぶかもしれない。

 

 

「どうだ、この命を受けてくれか?」

 

「確かに、承りました」

 

 

そして皇帝に一礼をした。

 

 

「うむ、成果を期待しておるぞ」

 

「では父上、行って参ります」

 

 

そしてピニャはその場を後にした。

 




ピニャコラーダはカクテルの名前らしい。初めて知った。

あと個人的には漫画版のピニャが好みです。むしろキャラ全般は基本的に漫画版か挿絵版がいい。アニメ版は、無理とは言わない。


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隊長!井戸の中から金髪の女の子(?)が!

アルドゥインの断末魔は日本語版より英語版だね。より絶望感がでる。
だって日本語版棒読みだもん。

閲覧、評価、お気に入り登録、コメントしてくださった紳士淑女の皆様、感謝で一杯です。


「燃えてますねぇ」

 

「燃えてるねぇ」

 

 

目的地であった森を前にした第3偵察隊一同の1人、倉田がつぶやき、それに伊丹が答えた。

 

 

「こりゃあいつの仕業だなあ」

 

 

桑原は見ていた双眼鏡を伊丹に渡し、自分の見ていた場所を示す。

 

 

「あれま!」

 

 

なんだかドラゴンぽっいものが空中から地面に向けて炎を吐いていた。

というかドラゴンなんだけど。

 

 

「首一本のキングギドラか?」

 

「おやっさん古いなぁ。ありゃエンシェントドラゴンっすよ」

 

 

桑原がゴジラの怪獣に対して倉田はそう答えたが、どうやってエンシェントと判断したのかが不思議である。多分かっこいいから付けただけだろう。

 

余談だが、あちらの世界(スカイリム)のエンシェントドラゴンはフレイムドラゴン(名前的には炎龍)より遥かに強い。少なくとも(ゲーム)設定上は。

 

前方で停止した73式トラックから小柄なWAC (Women's Army Corps, 転じて女性自衛官)が走ってきた。

 

このWAC、栗林2等陸曹と呼ばれる絵に描いたような童顔巨乳低身長である(つまりロリ巨乳)。

 

ただでさえこんな一般女性がいるわけないのに、さらに格闘徽章持ちというまさに『お前のようなWACがいるか!』とツッコミを入れたくなる(見た目は)可愛らしい女性である。

 

ちなみに、格闘紀章持ちの凄さがイマイチ分からない紳士淑女の方々に補足すると、陸自の戦闘装備一式所持して2、30キロ行軍を、各地点で襲撃してくるゲリラ役の隊員を格闘で制圧しつつ完走するという猛者(バケモノ)である。あくまでも噂だが。

 

 

「伊丹2尉、どうしますか?ここでこのままじっとしているわけにはいきませんが」

 

「適当なところに隠れてさ、様子見よか。ドラゴンがいなくなったら森の中に入ってみよう。生存者とかいたら救助したいし」

 

 

***

 

 

翌朝、やっとドラゴンが消えて火が収まって森に入ることができた。

 

中はそれはそれはヒドイ有様であった。だいたい100人程度の村が一個まるまる焼け落ちていたのだから。

 

 

「2尉、これって」

 

 

倉田は黒焦げになった人の形をした何かを見てつぶやいた。もちろん、これは単に人の形したものではなくて……

 

 

「倉田、それ以上言うなよ。あと見過ぎると精神的によくないぞ」

 

「うへ、吐きそうっすよ」

 

 

倉田に吐かれては困るのでこれ以上語るのは止めておこう。

 

約1時間ほど調査したが、生存者はいないと判断した。

 

第3偵察隊一同は井戸の近くで腰を下ろして休憩していた。

 

 

(こりゃいろいろと面倒な報告書を作成しないといけないなー)

 

 

伊丹は自分の水筒の水の中が少し少なくなっているのを気にし、近くの井戸の水が飲めるかどうかの確認も兼ねてそこにあった井戸用の木桶を取った。

 

 

「ドラゴンがどこら辺に巣を作っていて、どのあたりにに出没するかも調べとかないといけないね」

 

 

そういいながら井戸に木桶を放り込んだ。

 

するとコーンと甲高い音がした。

 

 

「ん?」

 

 

「ボチャン」とか「ドボン」と水の跳ね返るような音がすると思ったら何か比較的堅いものに当たった気がした。

 

持参したライトで奥を照らして見ると、何か人のようなものが見えた。

 

金髪の長髪、妖精のような白い肌と顔立ち、そしておデコに漫画のような大きなタンコブ。

 

よくもまあ木桶とはいえ頭に井戸の高さから落ちたものでタンコブで済んだものだ。

 

これは頭に堅いものが落ちてきたことのある者にしか分かるまい。きっとこの人の頭がすごく丈夫だったのだろう。うん、そうに違いない。

 

 

「伊丹隊長!井戸の中から金髪の女の子が!」

 

 

倉田が叫んだ。

 

 

(倉田のやつ、狙いやがったな……)

 

 

伊丹はポツリと小さくつぶやいた。

 

 

***

 

 

昨日、同じ場所にて

 

 

炎龍が空を舞い、森は日の海となっていた。木は火の葉をまとい、火の粉が雨の如く降っていた。

 

炭素を含む有機物は次々と炭化していった。木々、動物を含め。

 

 

「テュカ、君は逃げるんだ」

 

 

エルフの男性が隣にいた若いエルフの女性に言った。

 

 

「あたしも戦うわ」

 

「ダメだ。君に万が一のことがあったら、私はお母さんに叱られてしまうよ」

 

 

娘に戦う、と言われたが父、ホドリューはそれを許さなかった。

 

 

「とにかくここは危ない。急ぐぞ」

 

 

そして二人は燃え盛る大地を駆け出して行った。

 

 

「いやあぁぁぁぁあああ゛あ゛!!!!」

 

「ユノっ!」

 

 

親友である少女がまさに炎龍に食べられようとしていた。

 

テュカはとっさに弓を構えて矢を放ったが、狙いはいい。しかし龍の鱗を貫通するだけの威力はなかった。それは他のエルフが放ったものも同じであった。

 

バリッ!ボリッ!グチャ!バキッ!

 

なんともおぞましい音が炎龍の口から聞こえた。

 

 

「ユ、ユノが。ユノが……」

 

 

テュカは蛇に睨まれた蛙のように恐怖で固まってしまった。

 

炎龍が近づく、それでも動けない。

 

 

「ダメだ、テュカ!」

 

 

ホドリューは風の精霊魔法、つまり自然の精霊の力を借りる魔法により放たれようとしていた矢に魔力をかけた。

 

放たれると同時にその矢はまるで弾丸の如くスピードで炎龍の眼に突き刺さった。

 

眼という急所をやられた炎龍は苦痛の叫びを上げ、目標をテュカからホドリューに変えた。

 

彼はまだ固まっている娘を抱えると直ぐに走り出した。

 

一方、炎龍も他のエルフの抵抗を物ともせず蹴散らしながら自分の眼を奪った者へと迫っていった。

 

 

「君はここで隠れているんだ。いいね!」

 

 

そして娘は井戸の中へと投げ込まれる。

 

投げ込まれる最後の一瞬、彼女が見たのは自分の父の背後に大きな牙と真っ赤に染まった底の見えない炎龍の口であった。

 

 

(お父……さん?)

 

 

父は、最後の最後まで、いつものように笑っていた。

 

 

***

 

 

「この子大丈夫そう?」

 

 

伊丹は気絶中のエルフの女性を手当てしているWAC、黒川2曹にきいた。

 

ちなみに、彼女は看護資格を有していてお嬢様口調で身長190センチ(伊丹は約170)という、栗林同様『お前のようなWACがいるか!』隊員の一人である。この部隊どうなってんだ。

 

 

「ええ、体温もだいぶ上がってきましたし、脈拍、呼吸も安定してきましたわ。バイタルサインに特に問題はないと思われますわ」

 

 

栗林とは対称的にゆっくりとした落ち着いたお嬢様口調であった。

 

実際の自衛隊にこんな女性何人おるのかね。

 

 

「この子一人だけ残すのも危ないし、かと言ってずっとここにいる訳もいかないから、保護という形でお持ち帰りかな」

 

「2尉ならそうおっしゃってくださると存じておりました」

 

 

黒川はにこやかに言い、撤収の準備を始めた。

 

 

「それって僕が人道的だからでしょ?」

 

「さあ、2尉が特殊な趣味をお持ちだとか、彼女がエルフだから、とかと申しますと失礼になると存じますので」

 

 

黒川の表情はにこやかのままであった。

 

 

(ええー……俺ってそう思われていたのか、やはり……)

 

 

***

 

 

元々予定ではもう2、3カ所周るつもりだったが、事情が事情なのでアルヌスの駐屯地に戻ることにした。

 

無線で一応その旨を連絡すると、

「まあ、一人くらいなら……」

 

と返ってきたので問題ないだろう。多分。

 

ということで、往路の道をそのまま帰ることにした。

 

途中、行きでも止まったコダ村というところで村長に事情を片言の現地語、ボディランゲージ、そして紙に書いた絵などで伝えた。

 

さすが伊丹、只でさえ英語ができない人も多いのに、我々の世界にない言語で少なからず意思疎通できるのだから。これも何かの素質だろう。

 

 

「そうか、炎龍が……」

 

 

村長は炎龍の存在を聞き、伊丹たちに感謝すると血相を変えて村中に避難命令を出した。もちろん村中はパニックであったが、まだ逃げる準備ができたのは不幸中の幸いであった。

 

ちなみに、村長によれば炎龍のようなクラスになると古代龍になるそうだ。よく分かったな、倉田。

 

という訳で、村民は村を捨てて避難することになった。

 




ほぼ原作通りですね。

次から結構変わります。


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威力高えな、オイ

時々スカイリムのネタの言い方が違うところもあるかもしれませんが、恐らく訳し方の違いという認識でお願い致します。

私は英語版派なので……


コダ村の皆が避難準備中、少し変わった風情の人がいた。

 

ほとんどの人が生活に必要な物などを馬車やカートに積み込んでいるのに対し、彼らは本や木箱、袋など、良く分からないものを積んでいた。

 

魔導師カトーとその弟子、レレイである。

 

レレイは14〜15歳ぐらいのプラチナブロンドのショートヘアの少女であった。

 

 

「お師匠、これ以上積むのは無理がある」

 

 

さすがに荷車に詰めすぎたのか、ビクとも動かない。

 

似たような経験なら他の世界で重量オーバーした他作品(スカイリム)主人公(ドヴァキン)や、近未来の荒野(ウェイストランド)にいるアイツなどもしているだろう。

 

もっとすごい世界(ELONA)だと自分の荷物の重みで爆死するところもあるらしい。

 

運の良いことに、こちらの世界ではそんなことはないので少女と老人が爆散することはないのでご安心を。

 

レレイは師匠に荷物の組み替えを行うこと、そして師匠の魔法(チート)で少し軽くすることで何とか目処がたった。

 

レレイは先に荷馬車に乗ると、

 

 

「師匠も早く乗って欲しい」

 

「あ?わしはお前のような少女に乗る趣味はないわいっ!どうせ乗るならお前さんの姉のようにボン、キュ、ボーンな……」

 

 

案の定日本ではセクハラ扱いされる発言(下手したら変質者扱い)に対しレレイは冷たい視線のまま空気の塊を魔法で投げつけた。

 

この子、ドヴァキンの才能ありまっせ。

 

 

「これ!やめんか!魔法はそんなことに使ってはならん!冗談の通じんやつめ……だからやめんか!」

 

「冗談は、友人、親子、恋人など親密な関係があるものにおいてレクレーションとして役立つ。だけどこの手のものの場合、少女にたいしてはかなり不適切」

 

 

レレイは至極まっとうなことを相変わらずポーカーフェイスで語った。むしろこっちのほうが怖いと思う。

 

 

「それでは、出発するかの」

 

 

魔法(チート)で軽くなった荷車を馬がゆっくりと引いていった。

 

 

しばらくすると、すぐに馬車の渋滞に巻き込まれてしまった。

 

どうやら前の方で荷物の詰めすぎで荷車が壊れてしまい、それが道を通せんぼしているらしい。

 

 

「様子見てくる」

 

 

レレイは一言つぶやくと荷車を降りて前の方に行った。

 

事故現場には見慣れない服装と言葉を話す人たちが手振り身振りで村民に何かを伝えようとしている者と、荷車の片付けなどを行っている者、そしてそれを指揮する者がいた。

 

彼らは緑に黒、茶、深緑色の斑点をした服装をしていた。そして何か長い物を背中に背負っていた。

 

レレイは直感的にどこかの兵士が何かだろうと判断した。

 

魔導師である彼女は彼らに興味津々であった。未知の物に触れたりすることは彼女の探究心をくすぐった。

 

しかし、そのため気づかない内に近づいてしまったのか、一匹の馬がパニックを起こして暴れ出した。そして一番近くにいたレレイに襲いかかろうとした。

 

 

パン、パン、パン!

 

 

緑の兵士の一人が腰から小さな鉄のような物を咄嗟に出した瞬間に雷のような音が耳をついた。

 

そして先ほどまで暴れていた馬がその場にどっと血を流して倒れた。

 

レレイは何が起きたのかを理解できなかった。

 

それでもわかったのは、彼女はたった今緑の人に命を救われた、ということだ。

 

 

***

 

 

『パワーバランス』

 

力の均衡と訳されるこの言葉は、よく国際情勢における国家間、勢力間において良く使われる。

 

良くある例としては冷戦時のアメリカ勢力とソビエト勢力であろう。

 

この2つの勢力は全面核戦争、または第三次世界大戦まで一触即発までの状態であったとされる。

 

しかし、この2つの絶妙なパワーバランスのため、核に怯えつつも世界的には安定していた面もある。

 

現在このパワーバランスが崩れた結果、各地で紛争が絶えないのは皆様のご存知の通りである。

 

 

さて、この特地(ファルマート)も例外ではなく、帝国というパワーバランスを失った今(主に漆黒の龍(アルドゥイン)緑の人(自衛隊)のせいだが)、各地で無法者が活発化してきた。

 

帝国の戦力低下→各地の秩序の維持が難しくなる→盗賊、山賊が活発化

 

という構図ができる。さらに、脱走兵などの元正規兵が盗賊に転向するといった中世のお決まりパターンがことをさらに複雑化させた。

 

 

「お頭、コダ村だそうですぜ」

 

 

総勢約20名ほどの盗賊たちが今日の利益の確認、そして次の計画を練っていた。

 

もちろん村を離れた一家から略奪した物品などである。

 

 

「ふむ、炎龍様々のおかげでここいらはちょっと儲けやすくなったな。それに荒くれ者も増えたおかげで戦力もある。明日辺り、やるか?」

 

 

盗賊の頭領はニヤっとした。

 

 

どしゅ!

 

 

そのニヤっとした顔のまま、その男の頭はゆっくりと転げ落ちた。

 

一瞬、周りにいた部下たちは何が起きたのか分からなかった。

 

そして彼らは見た。

 

少女のような容姿に、ゴスロリ風のフリルのついた黒い衣装。白い肌、闇のような瞳、黒いロングヘア。そして何よりもその右手に携えた大型のハルバード。

 

 

ロゥリィ・マーキュリー。暗黒の神エムロイの使徒であり、亜神。

 

 

そう、アルドゥインによる殺戮の跡地にいた同様人物である。

 

 

「な、なんでぇ!てめぇはっ!」

 

 

野盗(バカ)の一人が虚勢を張って声を絞り出した。震えていたが。

 

 

「わたしぃ?」

 

 

くすりと愛らしくほほえむ。

 

 

「わたしは……」

 

 

キーン……

 

 

何か不慣れな音を空から聞こえた気がした。

 

この音、米空軍基地などの近くに住んでいる方は聞き覚えがあるかもしれない。

 

ロゥリィもその音に何か不吉な気がした。遠くからの音だった。

 

 

繰り返す、遠くからの音()()()(過去形)。

 

 

ロゥリィがそれを視認した時には既に遅かった。

 

約1.5マッハで突っ込んできたそれは普通の速度じゃ反応も回避もできなかった(彼女は普通ではないが……)

 

 

キィィィイイン!ドゴォォオオオン‼︎

 

ドォオーーーン!

 

 

『ソニックブーム』

 

戦闘機など音速を超えた時に生じる衝撃波である。

 

これが先ほどの衝撃によって爆発音が重なって聞こえた理由である。

 

先ほどの何かの衝突により、辺り一面に少し大きめのクレーターのようなものと、濃い砂煙が舞い上がっていた。

 

 

「ふむ、何か強い気配を感じたのだが、気のせいだったかな。ん?おお、あちらか。もう少し先なのだな」

 

 

煙が晴れるとクレーター中から漆黒の龍(アルドゥイン)が何事も無かったかのやうに飛び立って行った。

 

別に彼は新しい必殺技を試したわけではない。

 

単に着地がすごく凶暴だった、それだけだ。

 

 

「いったーーーい!もう、なんなのよぉ!」

 

 

しばらくして瓦礫や砂の中からロゥリィが満身創痍で出てきた。

 

某格闘ゲームでダメージが入ると衣服が破るれるようにアウトにならない程度にぼろぼろになっていた。

 

一応五体満足なのは、第一の衝撃波でまず身体が吹っ飛ばされていたからだろうと。

 

さもなくばさっきのアレ(アルドゥイン砲)が直撃していたのだから。

 

 

「このぉ!おぼえてなさぁい!」

 

 

ロゥリィはもう既に見えない相手に叫んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 




航空自衛隊だと思った?

残念!ワールドイーターでした!

決して描写省略のために入れたわけじゃないよ!直撃したら伊丹たちが危ないからね。

ロゥリィ「へー……私はいいんだぁ?」


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膝にハルバードを受けてしまって

スカイリムの主題曲はすごくいいと思うの。


伊丹たちはコダ村の避難民と共に移動していたが、予想以上にトラブルが発生し、思ったようにうまくいかない。

 

避難民の中には疲労で歩けなくなる者、荷車が壊れたりして進めなくなる者、など少しずつ脱落する者も増えた。

 

荷車が倒れただけならまだいい、伊丹達が手伝って起き上がらせたよいのだから。

 

問題は荷車が壊れたときだ。避難民にとっての全財産を置いて行けるわけもなく、その場で立ち止まってしまう者も多い。

 

伊丹は村長と共に説得して必要な物だけ持ってあとは焼いて未練を無くさせる方法しかなかった。

 

伊丹たちは自分達の手で助けられる範囲のことはしたが、これがまた遅延の原因となった。

 

かといって彼らを放置して帰隊することはなかなかできない。無力な一般市民を危険に晒すことになるからだ。

 

逆に、特地の人間はなぜ緑の人が自分たちを助けてくれるのかが不思議に感じた。この世界で見捨てる見捨てられるは当たり前の世界なので、その好意はより彼らを混乱させた。

 

 

「全然進みませんね」

 

「そりゃな。ほぼ歩行スピードで車走らせてるからな」

 

 

倉田はつまらさそうにハンドルを握っていた。

 

ぼんやりと遠くを見ていると、何か人らしきものが見えた。

 

よく見ると黒い長髪の女の子が路頭に座っていた。

 

 

「え……えー!?」

 

 

服装は、アウト寸前であった。どれくらいきわどいかというとコミケとかによく出没する痴女同然レイヤーのお姉様ぐらいやばかった。

 

 

「ちょ、倉田ストップして!」

 

「隊長、もしかしてあの女の子お持ち帰りするとか言いませ……イデッ!?」

 

倉田は頭に強烈なチョップを受けた。

 

伊丹は慌てて車両を止め、隊員数名で事情調査させることにした。

 

 

「ねぇ、あなた達どちらからいらしてぇ、どちらへと行かれるのかしらぁ?

 

あとよろしければ何か着るもの分けていただけないかしらぁ?」

 

 

もちろん特地語なのでわかるわけもない。

 

しかし目の保養、ではなくて目のやり場に困るので、予備の迷彩シャツとズボンを貸すことにした。

 

もちろん官品ではないのでご安心を。

 

 

「ふふ、ありがとぉ。さすがにこの姿で人前に出るのは恥ずかしいからねぇ。それにしても、変わった柄だこと。でも着心地はいいわぁ」

 

 

しかし素晴らしい大変なことに、ズボンを履かずに車両に乗り込もうとする。

 

一応先ほどのよりはマシなのだが、これは角度によっては裸シャツになってしまう。

 

黒川はズボンを履かせようとするがおかまいなくあちこちに歩き回るのでぱっと見親が子供にズボンを履かせようとするように見えなくもない。

 

これが男性がやると危ない光景にしかならないが。

 

 

「うん、ここがいいわぁ」

 

 

あちこち探して座れそうなところは先客がいたので、彼女が選んだのは先頭車両の助手席であった。

 

つまり伊丹の膝の上。

 

 

「ちょっと待てー!」

 

「隊長!うらやしいっす!」

 

 

伊丹はやばいと瞬時に思った。もちろんこんなことは夢に思ったことある。

 

 

(しかし現実では裸シャツの女子を膝に乗せるなどやってはならないことぐらい俺のようなオタクでも知ってるわぁ!

 

ほら見ろ。黒川の冷たい目と栗林の殺意に満ちた眼差しがやべぇんだよぉ!)

 

 

と色々と思考している間に少女と席の奪い合い、押し合いの結果席を半々に座ることで落ち着いた。

 

 

「それでもうらやしいっす!」

 

 

倉田は何か羨ましそうな目で隣を見ていた。

 

 

***

 

 

避難民と共にして3日後、それは突然やってきた。

 

炎龍の活動区域を脱しているはずだが、その炎龍が獲物を求めてさまよっているところ、ちょうど避難民の列に遭遇したわけだ。

 

 

「怪獣と闘うのは、自衛隊の伝統だけどよっ!こんなとこでおっぱじまることになるとはねっ!」

 

 

桑原曹長が怒鳴りながら64式小銃で牽制射撃しながら怒鳴る。

 

地上に舞い降りた炎龍が村人に狙いを定めて襲いかかろうとする。

 

 

「ライトアーマー、牽制射撃だ!キャリバー叩き込め!」

 

 

軽装甲機動車上の50口径M2ブローニングのレバーを引いた。

 

補足するが、50口径は12.7mmのことである。

 

 

普段の自衛隊のようにちまちま正確に撃つわけではなく、もうそれはアクション映画のように撃ちまくった。

 

というかそれが牽制射撃における機関銃の正しい使い方だが。熱にさえ気をつければこれが正しい。

 

しかし、いくら12.7mmでも実際は翼竜(ワイバーン)の柔らかい腹に貫通弾で効く程度。

 

そんなものが炎龍の固い鱗に効くわけもなかった。弾が虚しく火花を散らして弾かれていく。

 

本当に生物の鱗なのか疑いたくなるが、龍たがらなんでもありなんだろう。

 

ダメージは与えられていないが、多少の嫌がらせ程度にはなっている。

 

そのおかげか、炎龍は狙っていた獲物(避難民)を取り逃がしてしまう。

 

その嫌がらせにとうとう痺れを切らしたのか、今度は目標を伊丹達に定めた。

 

そして何やら深呼吸のようなものを始めた。

 

 

「やべっ!ブレス来るぞ!」

 

 

伊丹は咄嗟の判断で回避行動の指示を出す。

 

次の瞬間、炎龍は口から火炎放射器のように火を吐き出した。

 

それは追従するように車列を襲いかかったが、思ったより射程が短かったこと、そして炎の特性上威力が拡散してしまったことにより伊丹達は危機を免れた。

 

もし炎龍が見越し射撃や、光線のような収束した炎を出した場合、もしくは本物の火炎放射器のように炎ではなく、可燃性の液体を吐き出していたら結果は違ったかもしれない。

 

炎が上へ行こうとすることから、おそらく空気より軽い可燃性ガスによるものだと予想できる。

 

それでも、炎龍の近くにいた人たちは熱や酸欠によって倒れてしまった。

 

 

「撃て撃て!とにかく怯ませろ!」

 

 

64式やブローニング重機関銃じゃ効果がないのは理解してる。しかし今はまだこれでチャンスを伺うしかないと伊丹は判断した。

 

 

「Ono! Yuniyu!! Ono!」

 

 

後ろから女の子声がすると思ったら振り向くと金糸のような髪をした美少女がいた。

 

自分たちが保護したエルフの少女だ。彼女は自分の目を指して同じ言葉をを連呼する。

 

特地の言葉だと思うが、伊丹はそれが何を意味しているのかが分かった気がした。そして見てみると片目に矢が刺さっていた。

 

 

「目だ!目を狙え!」

 

 

伊丹の指令に皆一斉に目に集中攻撃を加える。

 

炎龍は残った片目を潰されまいとさらに怯んだ。そして顔を背けて動きが止まった。

 

 

「勝本、パンツァーファウストを使え!」

 

 

伊丹の指示に、ライトアーマー内に搭乗していた勝本3曹は笹川士長と入れ替わり、110mm個人携帯対戦車砲(パンツァーファウストⅢ)を構えた。

 

しかし構えたはいいが、ついいつもの訓練通りの癖が出てしまった。

 

 

「後方の安全確認」

 

 

悲しかな、安全重視する自衛隊の宿命なのだが、これが他国との実戦経験の差なのかもしれない。

 

とっとと撃て!と思う者もいれば、自衛隊だもんな…と哀れに思う者もいる始末である。

 

しかしコンピュータ制御されていない本対戦車砲は行進射撃など芸当ができるわけもなく、しかもアクション映画さながらのカードライブ。

 

さらにガク引き(引き金の引く強さがあり過ぎて照準がずれること)でパンツァーファウストの弾頭は予定コースからそれてしまった。

 

発射機の後方にカウンターマス(またはバックブラストともいう)を放出すると、弾頭が勢いよく発射された。

 

空中で安定翼を出し、ロケットのように加速して突き進んでいった。

 

炎龍は空中へ逃れようと翼を広げていたところだが、その不審な飛翔物を避けようと後ずさりした。

 

しかしその瞬間炎龍がこけた。

 

柔道なら出足払い、他の例えなら透明な張りつめた紐に足とられてしまうような感じで、こけた。

 

その原因は高機動車に乗っていた先ほどの半裸美少女が自分の巨大ハルバードを炎龍に向けて投げつけたのだ。

 

それが見事膝に受けてしまい、テコの原理でこけたのだろう。

 

一体炎龍をこかすなどどれだけの重さとスピードがあったのだろうか。

 

よって、本来外れるはずの弾頭のコース上に炎龍が倒れこむようになった。

 

そしてそれが頭部に当たるとノイマン効果 (※1) によって発生したメタルジェット (※2) は炎龍の強固な鱗だけではなく、頭蓋骨も遠慮なく貫通していった。

 

 

グギャァァアアアアアアッッ‼︎‼︎‼︎⁇

 

 

炎龍はこの世ものとは思えない叫びを上げた。

 

そりゃ脳味噌に溶けた金属がすごい勢いで流されている訳ですから。

 

 

「「……」」

 

 

しばらくの沈黙。その場にいた皆が息を飲んだ。

 

 

しばらく沈黙していた炎龍は糸が切れた操り人形のようにプツリと地面に倒れこんだ。

 

その地響きが収まると今度は人々の歓声で空気が震えた。

 

 

「でかした、勝本!」

 

「俺外しましたけど!?」

 

「結果が良ければ良いのだっ!」

 

 

桑原曹長が喜んで怒鳴る。

 

避難民も歓喜を上げ、伊丹達に寄ってきた。

 

おそらくありがとう、と伝えているのだろう。

 

これでやっと一段落、と誰もが思っていた。

 

 

グォォオオオン……

 

 

遠くから、しかし誰の耳にもはっきりと聞こえた。

 

世界を喰らいし者(ワールドイーター)の雄叫びが。

 

 

 

***

 

※1 ノイマン効果

わかりやすく説明すると、円錐に詰められた火薬などが爆発するとそのエネルギーが円錐の頂点から圧縮されてすんごいエネルギーで放出すること。

 

※2 メタルジェット

金属の液体(めっちゃ熱い)がすごい勢いで出ること。

映画「Fury」の最後の辺りでこれを喰らった戦車が中の乗員を殺傷するシーンがある。こんな死に方嫌だ。

 

 

 




初めてパンツァーファウストと聞いたときはナチスドイツの方思ってしまいましたよ。

あとM2ブローニングは第一次世界大戦末期に作られたみたいですね。今も現役であちこちで使われるとかさすが米帝クオリティ。

あとスカイリムプレイ済みの方は次の展開が分かるかも。


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不幸中の幸い

また話が別の方向に……

これからも頑張りますのでどうかお許しを。

あと評価、コメント、お気に入りありがとうございます!


「さて、どう話すべきか……」

 

 

左腕と左下肢の無いその老人は静かにつぶやいた。

 

彼は数アルヌス戦及び、漆黒の龍の襲撃を生き延びた数少ない生存者、エルベ藩王国の王、デュランであった。

 

彼に対面していたのは帝国皇女、ピニャである。

 

 

「デュラン殿、何なりと。話せることは全て話して頂きたい」

 

 

それを聞いて聞いたデュランは軽く溜息を吐くと、ゆっくりと口をうごかした。

 

 

「まずは聖地アルヌス奪還の戦いじゃな。あれは戦いというよりも一方的な殺戮じゃ。

第1遠征隊として派遣されたわしらじゃが、いざ戦闘開始したと思ったら一気に壊滅してしまった。

ヒュー、と音がしたと思ったら辺り一面から爆発が起きたのじゃ。それも所々ではなく。視界一面じゃ。

 

その結果、我々の肉体も精神もその一瞬で打ち砕かれた。

ご覧の通り、わしはこのような身体になってしまった」

 

 

そう言って自分のの失われた身体の一部を見せる。

 

 

「幾万もの尊い犠牲の上、わしは生き延びた。

しかしどうやら気を失っていたらしく、目が覚めた頃には第2遠征隊が後退してきたときじゃ。

わしはあの緑の者どもには到底敵わんと理解したよ」

 

 

デュランは右手でコップを取ると中の水を飲み干した。

 

 

「はぁ……そして第3遠征隊の攻撃準備ができたころじゃよ。やつが現れたのは……」

 

 

デュランは何かに脅えるように一瞬口を噤んでしった。

 

そして無いはずの元々あった腕と下肢の部分を抑える。

 

 

「どうなさいましたか、デュラン殿」

 

 

ピニャは心配そうに聞いた。

 

 

「いや、少し嫌なことを思い出してしまっての、傷が疼いたのじゃ」

 

 

デュランはしばらく傷口をさすったあと、水をまたすすった。

 

 

「漆黒の龍ですか?」

 

 

堪えきれなくなったピニャが最初に言葉を出した。

 

 

「さあ、どうかの。あれは形こそ漆黒の龍だが、わしにはどうもそんなものではないような気がするのだ」

 

「そんなものではない?」

 

「うむ、あれは悪の化身。いや、そもそも例えようの無いものだな。災害と言うべきか、天災と言うべきか……

約15分ほどで15万もの兵がやられたのだ。これを神の業ど呼ばずに何と呼ぶのじゃ」

 

 

ピニャは自分が聞いていることが信じれなかった。というか、理解を超えていた。

 

15分で15万の損害?

 

普通の大規模戦闘でもここまで酷いのはない。

 

過去の災害、疫病でもこのような数は少なくとも記録上はないはず、と頭をよぎった。

 

 

「うむ、到底信じれぬ、といった表情じゃな。そりゃそうじゃ、わしだって自分が見たことを信じれないのじゃから」

 

「詳しく話せますか、デュラン殿」

 

「あんなこと2度と思い出したくもないわい。じゃが、こうして生きてる以上、もしかしたら誰かに話すべき宿命(さだめ)なのかのう」

 

 

よっこらせ、とデュランは姿勢を正す。

 

 

「あれが現れたのはとき、その着地で地響きがしたのじゃ。

普通の龍でもある程度速度を抑えて着地するものじゃが、奴は落ちるように着地したのう、しかも無傷で。

 

それでも我々は迎撃準備は何とか間に合った。ここまではまだよかった。

すると奴は空に向かって何か魔法のようなものを放ったのじゃ」

 

「待ってください、龍が魔法を使ったのですか!?」

 

 

ピニャは何かの間違いだと思い、確認した。

 

 

「魔法か、何かその類かもしれぬし、そうではないかもしれん。ただ、わしが知っているような魔術、魔法、精霊魔法のどれにも合致しなかったのは確かじゃ」

 

 

ピニャはこれを聞いて驚愕した。タダでさえ龍は強いのだ。それが魔法を使うとなるとトンデモナイものができてしまったと思った。

 

 

「するとじゃ、まず晴れていた空がどんどん曇り始め、渦状になったと思ったら何かが空から落ちて来たのじゃ!

 

いや、落ちて来たというより降ってきた、じゃが。小さな岩が雨のように落ちて来たのじゃ。しかもそれが燃えながらものすごい勢いで」

 

「火山が噴火したのでは?」

 

「いや、あの地域には火山の活動区域外じゃ。それに、もし火山ならここ一帯も既に危ういはずじゃ」

 

 

確かに、火山なら帝国中心部からも分かるが、そのような報告はない、とピニャは思った。

 

 

「つまり、奴の魔法で岩が降り出したと?」

 

「そうとしか考えられんじゃろうな」

 

 

デュランはピニャの言葉に静かに答えた。ピニャの表情が強張っていくのに対し、デュランはなぜか健やかな表情であった。

 

 

「まず、その岩は奴が去るまでひたすら降り続けた。おそらくこれで10万は死んだだろう」

 

「じゅ、10万……!?たった一つの魔法で?」

 

「まあ、岩が降り続けたからのう。そして奴は他にも火を吹いたり、凍るような吐息を吐いたり、直接踏みつける、噛み砕く、など普通の龍のような攻撃もした」

 

 

ふむ、ここは特に普通の龍と変わらな……い?

 

 

「ちょっと待ってください、火と凍るような吐息?相反するものをか?」

 

「いちいち質問が多いのう……そうじゃよ、信じれんかもしれんがさっき言った通りじゃ」

 

 

本来龍にも得意不得意がある。炎龍は文字どおり炎は吐くが、氷の息を吐くことはない。

 

ピニャは頭が痛くなってきた。もやはおとぎ話どころか神の領域に達したような気がした。

 

 

「そして恐らくもう一つ奴の魔法じゃと思うのだが……奴がきて動物たちが急に暴れたのじゃ」

 

「……それは恐怖で?」

 

「最初はそう思ったのじゃが、奴がまた魔法のようなものを使って明らかに変わったのじゃ。と獣が全て周りの人間を攻撃し始めたのじゃ。主人にまでも。

馬、象、犬、翼竜、そして家畜までも!そこら辺にいたカラスやネズミも攻撃してきたのじゃよ。恐らくこれで2〜3万の命は下らんじゃろう」

 

「……」

 

 

ピニャの顔はもう強張るを超えて冷や汗脂汗をかいていた。

 

もしこの龍が帝国中心部に現れたら、と思うと卒倒しそうになるのだ。

 

 

「わしの話は、以上じゃ」

 

 

デュランはほっと息をつくと目を閉じた。

 

 

「もうこれ以上老人に辛い思いはさせないでおくれ」

 

 

もうそこにはかつて王の面影はなく、ただの老人がいるだけであった。人はここまで変わってしまうものなのか、とピニャは心の奥で思った。

 

 

「デュラン殿は運がよかったのですね……」

 

 

ピニャは(ねぎら)いのつもりで言ったが、デュランはそれを聞くと可笑しそうに笑った。

 

 

「運が良い?お主にはそう見えるのか。ククク、やはり痛みを知らぬようなお主にはその程度にしか見えんのだな。

わしは逆じゃと思っておる。ククク、2度の地獄を味わい、それでも生き地獄を味わえと神はわしに罰を与えたのじゃ。

もしかしたらまた奴に出くわすかもしれんしのう、ガハハハ!」

 

 

デュランは気が狂ったように笑続けた。

 

 

「姫殿、(ちまた)では帝国はグリフォンの尾を踏んだ、と言われますが、わしはそう思わん。

 

世界は今、龍の舌の上にある、と思っておる。精々足掻くがよい!異国の兵と漆黒の龍に滅ぼされるまでな!」

 

 

ピニャはその言葉を聞くと、すっと立ち上がり一礼した。

 

 

「デュランどの、本日は時間を割いていただき感謝します。また、忠告は肝に銘じておきます。

 

ただ一つ、貴方は間違っている。

 

帝国は負けない」

 

 

ピニャの目はまっすぐとデュランの目を捉えていた。

 

しかしデュランはそれを嘲笑うかのような目で睨み返した。

 

 

「ああ、一つ言い忘れておった。奴は何か言葉のようなものを発しておったぞ」

 

「龍が?話したと!?」

 

「恐らく我々の知る言葉ではない。まあ、参考聞いておくのも良いじゃろう。全てではないが、これだけは耳に刻まれておる。

 

『Zu'u Alduin』

『Zu'u lost daal』

『Daar Lein los dii』

 

以上じゃ」

 

 




その言葉の意味とは……

あ、そこのドヴァキンたち、答え合わせしないように。

ちゃんとあとで答えは出ますから。


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サルベージ

皆様のおかげでここまでこれました。だいたい構想は3部作、ネタバレしちゃいますとタグ付けされている作品のキャラは必ず出す予定です。少し気が早かっただけです。

あと今更ながらですが、追加設定多いですが許してくださいね。


「対空戦闘用意!」

 

 

伊丹の判断と指示は早かった。連戦で疲労はあるものの、アドレナリンのせいなのかまだ戦える状態だった。

 

 

「黒川陸曹たちは避難民の援護を!あと残りは草むらに隠れて迎撃準備だ!」

 

 

伊丹は的確に指示した。

 

 

「でも対空兵器なんかないっすよ!」

 

 

倉田が草むらに向けて運転しながら叫んだ。

 

 

「なくても小銃と機関銃があるだろ、バカタレ!あるもので対処する、それが自衛隊だ!」

 

 

さすがおやっさんの言うことは違う、と伊丹は少しニヤついてしまった。

 

桑原曹長が倉田を軽くどつき、着々と戦闘準備する。

 

伊丹と勝本陸曹は車両を降りて草むらにホフクの姿勢で隠れた。

 

残りは誘導したり、車両をいつでも動かせるよう準備、待機した。

 

ともかく、何とか未確認生命体が到着する前に木々の生い茂る草むらに皆隠れることができた。

 

 

 

ほんの少しして遠くからバサッ、バサッと羽ばたくような音がした。

 

伊丹は嫌な予感がした。大概こんな時の嫌な予感は当たる。

 

そして未確認生命体の姿が(あら)わになった。

 

それは漆黒の鱗に覆われ、目と口と鱗の隙間の所々が真っ赤な炎のような漆黒の龍だった。翼が体に対してかなり大きく、それを含めば炎龍と大きさはあまり大差はなかった。

 

 

「何すかね、カオスドラゴンですかね……」

 

 

倉田が何かおかっないものを見たような顔をしながら囁いた。

 

まあ、カオスドラゴンという名前のドラゴンはたくさんの作品にいるのであながち間違ってないかもしれない。

 

伊丹たちは息を殺して隙を伺った。

 

もし特に何事もなく済むのであればそれに越したことはない。実際、唯一効果のある対戦車砲も残り2発しかないし、他の弾薬も多いとは言えなかった。

 

なので、可能な限りこちらを有利にするには待ち伏せによる奇襲しかないと判断した。

 

もちろん、先ほどの失敗を繰り返さないよう対戦車砲を担いだ勝本陸曹の後ろには誰も入らないようにしている。

 

その龍は先ほど戦闘が行われた場所で羽をゆっくりと羽ばたかせながらホバリングしていた。

 

あんなゆっくりと羽ばたいてよくホバリングできるな、と思うが、そこは龍だから……と伊丹は思ってしまった。

 

漆黒の龍は辺りをゆっくりと見回していた。

 

そしてこちらを向いた。

 

いや……

 

目が合った。

 

 

「なっ!?」

 

 

伊丹は咄嗟に顔を地面に埋めた。

 

目が合った?いや、気のせいかもしれない。しかし何か心の中を見透かされたような悪寒が一瞬全身を走った。

 

伊丹は思った。こいつはヤバイ。

 

 

***

 

 

アルドゥインが目的地に着いた頃は既に戦闘は終わり、炎龍の残骸が残っているだけであった。

 

 

(ふむ、龍の反応が消えたと思ったらやはり一足遅かったか……)

 

 

頭部に大きくない穴、目に刺さった矢、あちこちにある鱗の傷、かなり激しい戦闘だと判断した。

 

 

(ふむ、珍しい。スカイリムにいるフレイムドラゴンのような種類だが、エンシェントドラゴン並みの年齢だな。しかも鱗に刺さった矢は皆無、目のみの矢による損傷。

つまりスカイリムのドラゴンとは比べ物にならないほどの硬度の表皮か。そしてそれを上回る貫通力を持つ破壊力の武器か魔法……いや、魔法の形跡は無い。ならば武器だな)

 

 

アルドゥインは残骸がまだ新しいこと、そして生命の消失から時間が経ってないことから近くにまだ敵はいると判断した。

 

生命探知龍語(スーム)を静かに唱えると、少し離れたところに何人かが草むらに隠れていた。

 

迷彩が施され、巧妙に擬装された自衛隊もアルドゥインにとっては蛇の熱源探知能力よりも簡単に見破られてしまった。さすがはチート龍。

 

多くの赤いオーラの中に、幾つかの強いオーラなどが感じられた。恐らく兵士か闘争心が強いものだろう。他にもよくわからないオーラがあったが、まあ特に問題はないだろう、と判断した。

 

 

(ふん、こそこそするとは暗殺教団か闇の一党のような奴らだな。しかしそんなことどうでもよい。定命の者に変わりはない)

 

 

アルドゥインは心の中でほくそ笑んだ。そしてその中の隊長と思わしき者に心臓が凍るような睨みを効かせた。

 

案の定、睨まれた相手は顔を伏せて縮こまってしまった。

 

大抵の定命者はこれでしばらく行動できなくなる。

 

 

(グフフフ、定命者どもなどしょせんこんなものよ。我の敵ですらないわ!

Koraav daar ahrk faas, Joor!(これを見て恐怖するがよい、定命者ども!))

 

 

アルドゥインは大きな咆哮上げると炎龍の残骸の上にホバリングした。

 

 

「隊長、あれは一体何するつもりなんですかね」

 

 

パンツァーファウストを構えた勝本が隣の伊丹に質問した。

 

 

「え?あ、えっと、多分つがいとかなんじゃない?」

 

 

蛇に睨まれた蛙のように硬直していた伊丹は部下の言葉で我に返った。

 

 

「そうですかねえ、全然違う種類に見えますが」

 

 

息を潜めていた2人だが、龍の次の行動に度肝を抜かれた。

 

 

Ziil gro dovah ulse!(龍の肉体に繋がれた魂よ!)

 

 

その低音の威圧的な声はまさにラスボス感満載であった。

 

 

「龍が喋った、だと!?」

 

 

伊丹は驚きを隠せなかった。言っている言葉は全く理解できなかったが、明らかに言葉であることは理解できた。

 

 

「隊長、あれ何か喋ってますけど、なんていってるんですか?」

 

「そんなこと知るわけな……い?」

 

 

伊丹が言葉を全部言切らなかったのには理由がある。理解を超えた現象が目の前で起きているからだ。

 

炎龍の残骸がピクピク、と動き始めたからだ。

 

 

(まずい、もしかしたらあれは単なる言葉ではなくて呪文だ!復活の呪文か?それとも何か別のものか?)

 

「パンツァーファウストは待機、その他、目標漆黒の龍!射撃用意!」

 

 

伊丹の号令に皆標準を漆黒の龍に合わせた。主に目などの頭部を。

 

 

Slen tiid vo!(肉体よ時に逆らえ!)

「てい!」

 

 

アルドゥインの呪文と伊丹の射撃命令がほぼ同時にかかった。




何か意見、質問、アドバイス、誤字などあれば報告お願いしますね。

宛先書いてくれたらその人が答えます。

アルドゥイン「我が人間の質問に答えよと!?」


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見た目は美少女、身体は亜神

祝100お気に入り超え達成!
皆さんありがとうございます。
これも皆様のおかげ……

アルドゥイン「我のおかげだな」

あと誤字脱字報告ありがとうございます。
見て恥ずかしい間違いもありました……


遅かった。

 

別に僅差でもなんでもない。遅かった、という表現自体間違っていたかもしれない。

 

撃った弾はほぼ全て命中。64式の7.62mmとブローニング重機関銃の12.7mm。

 

炎龍も目などの弱点のある頭部はひるむ程度は効いた。

 

そしてこの漆黒の龍は、炎龍のように硬い鱗で弾丸が弾かれるようなことはあまりなかった。しかし貫通もしていない。つまり攻撃が無効化されているのだ。

 

 

「ちくしょう!なんで効いてねぇんだ!」

 

 

桑原曹長の怒りを込めた罵声聞こえた。あまりにも汚い言葉が続くので省略させていただく。

 

弾は当たっている。しかし効いていない。これは現在の科学では到底説明のつかない現象が起きていた。

 

さらに悪いことが起きた。それは漆黒の龍の目的を止めれなかったことである。

 

先ほど倒したはずの炎龍の身体輝くと同時にあちこち傷が塞がり始めたのだ。もちろん頭部の穴も。

 

 

「やべぇっすよ!復活の呪文じゃないっすか!」

 

「くそっ!これじゃあ持たない。総員撃ち方止め!撤退準備、および目標を炎龍とする!」

 

 

伊丹は漆黒の龍は勝てないと判断した。援護要請も可能だが、そんな悠長なことはしていられない。

 

せめて倒せる炎龍に的を絞り、後の被害を抑えることを優先したのかもしれない。

 

炎龍の残骸はみるみる生気を取り戻し、ついには生前同様二本足で立てるようにまでなった。

 

 

(ふむ……)

 

 

アルドゥインは炎龍の元の姿を見て様子を伺っていた。

 

自らと違い、腕が二本ある。

ちなみにアルドゥインはコウモリのように腕が翼である。

 

 

(骨格は我より少し大きめにしたところか。しかし翼が小さいので飛行は我の方が勝るであろう)

 

 

そして最大の特徴は、定命種のドラゴン。

 

自らとはまったくことなる、生物としてのドラゴンであった。

 

炎龍は得体の知れない漆黒の龍を見てから常に威嚇をしている。アルドゥイン別に威圧しているつもりはないが、存在自体が威圧的なので仕方がない。

 

 

Ful, dovah. Dreh hi haalvut kul(ドラゴンよ、気分は良いか)?」

 

 

アルドゥインの問いに返ってきたのは火炎放射であったが。

 

しかし言葉通り全く効かなかった。炎龍は驚きのあまり開いた口が塞がらなかった。

 

そりゃ生態系の頂点であった炎龍の得意技の炎が効かなかったのだ。さぞショックだったろう。

 

 

(ふむ、我の言葉の意味を知らぬと見える。我が偉大な龍語が通じぬとは誠に残念なものよ。だがしかし、これならどうだ)

 

 

「お主、我の言葉が分かるか?」

 

 

この言葉は伊丹たちにもコダ村の避難民たちにも分からなかった。むしろ言葉というより獣的な叫び声のようだった。

 

しかし、炎龍がさらに恐れたような態度をとった。恐らく理解したのだろう。

 

 

「ふむ、理解したようだな。我は父アカトッシュの最高傑作であり、世界を喰らう者であるアルドゥ……」

 

 

ボーン!

 

 

アルドゥインは左頬に何か当たってはじけた気がした。

 

 

「うぉい勝本ー!炎龍狙えって言ったろ!」

 

「すいません隊長!またはずしてしまいましたー!」

 

 

炎龍を仕留めるはずのパンツァーファウストは炎龍を飛び越えて上でホバリング中のアルドゥインの右頰に当たってしまった。

 

あるよね、こういうこと。当たって欲しくない時に限って何故かクリティカルヒットしちゃうとか。

 

 

「……」

「「……」」

 

 

皆息を呑んで伺っていた。反撃が来るか、それとも逃走するか?

 

実は過失であるものの、伊丹たちは大変大きな間違いを犯してしまったのだ。

 

アルドゥインは実は人間に興味はない。日本人が食べる米粒程度、つまり食料程度にしか思ってなかった。魂の補充や破壊衝動がなければ自らわざわざ面倒くさいことはしないのだ。

(破壊衝動や魂の補充の頻度は多いが)

 

しかも攻撃されようが効かないので気にもならない。実際、痛くも痒くもない。ただ一つ気に入らなかったことがある。

 

 

話を途中で遮られたこと。

 

 

それだけ。

 

 

Nahlot, Joor! (うるさい、定命者ども)

 

Fus Ro Dah! (揺るぎなき力)』」

 

「やべ!来るぞ、ブレ……ス?」

 

 

伊丹はブレスが来ると思ったが、何も出なかった、と思った。

 

この Fus ()Ro(均衡)Dah (圧力)、の3語で構成される言葉は、単純にして強力な龍語(スーム)であり、彼の地(スカイリム)では人々はこれをシャウトと呼んでいた。

 

名前の通り、これは言葉を純粋な衝撃力に変えることにより、放った方向なある人、物などを吹き飛ばすスームである。

 

かつて龍が初めて人間種に教えたシャウトとも言われている。

 

たかが基本、されど基本。

 

地味にして究極。

 

人がこれを使えば最大威力で10人ほど吹き飛ばせるという。

 

では彼が使った場合……

 

 

「「「ふぎゃーーー!?」」」

 

 

ご覧の通りである。

 

草むらに隠れていた伊丹たちは根こそぎ吹き飛ばされた。それとも流されたというべきか。

 

車両も比較的遠くに避難していた子ども、老人などが載っていたトラックを除き、物理法則を無視するが如く飛ばされた。

 

ちょっとした台風より強いかもしれない。いや、絶対強い。

 

伊丹たちはまだ良い方だ。避難民はなす術もなく吹き飛ばされ、木々にぶつかったり、頭部などを打って致命傷、はたまた命を落とす者さえいた。吹き飛ばされた荷車や車両の下敷きになるという二次災害も起きたようだ。

 

 

「ふむ、これで少しは静かになるだろう。ところでドヴァよ……ん?」

 

 

アルドゥインは振り向くといつの間にか炎龍が遠くへ飛び立ったのが見える。

 

 

「む!?意外と速いのだな。どれ、我も行くか、ん?」

 

「やっぱり貴方ねぇ!!」

 

 

ゴスロリ少女、もとい、今は陸自の迷彩シャツを着たエムロイの使徒、ロゥリィがハルバードを振りかざしながら高く跳躍した。

 

アルドゥインは驚愕した。まさか人間がこんな跳躍するわけがないからだ。しかしこの魂の大きさ、どこか見覚えがあった。確か数日前に感じたが、すぐ消失したものだ。

 

そしてもう一つ嫌な記憶が蘇った。

 

 

「ドヴァキンか!?」

 

 

しかしその予想も虚しく、ロゥリィはアルドゥインに一矢報いることもなく落下していった。本当にただ跳躍しただけである。

 

あと5メートル高く跳べば当たったかもしれない。まあ、当たったところで恐らくなんの効果もないが。

 

 

「あーれーーーーー!」

 

 

そのままロゥリィは荷車の一つに落下していった。

 

 

「…………」

 

「「…………」」

 

 

その場にいた者は唖然とした。もう本当に「なに、今の?」「なにがしたかったんだ?」状態である。

 

 

「むう、勘違いか。いや、しかしもしもの事もある。念には念だな、今回は前回のようにはいかないぞ!」

 

 

アルドゥインは止めを刺すべく急降下して荷車を目標に定める。

 

そしてその大きな口が荷車からやっと立ち上がったロゥリィに向かって襲いかかる。

 

 

Nii hi oblaan! (これで終わりだ!)

 

 

ロゥリィはその真っ赤な口を見ると目をつぶった。

 

そのとき、遠くから魔法の氷と弾丸並みの速さの矢が飛んできた。

 

見事命中したが、ダメージはない。しかし気をそらすことはできた。

 

 

(ほう、変わったエルフとメイジだな)

 

 

アルドゥインは動きを止めると攻撃の主を見つける。

 

 

(なかなか良い魂を持っているではないか。こやつを食ったら次は貴様らだぁあ!?)

 

 

アルドゥインは何故今自分がひっくり返っているのかが理解できなかった。

 

目の前には逆さに映ったハルバードを振り切った少女が笑っていた。

 

 

「いいわぁ!あなたいいわぁ!その魂もらうわぁ!」

 

 

その少女の目は狂気的であった。というかイっちゃった目である。クレイジーな感じである。

 

そう言ってハルバードを高く振り上げた。

 

 

(小癪(こしゃく)な……)

 

 

しかしアルドゥインは冷静であった。多少の予想外はあったものの、逆に情報を得ることもできた。

 

後は実際どうでもよかった。ちょうど怒りも収まったようである。

 

 

「天に召されなさい!」

「『Feim Zii Gron! (霊体化)』」

 

 

ハルバードが振り下ろされた。そして大きな音とともに砂煙が舞い上がった。

 

しかしアルドゥインのスームの方が早かった。別に間に合わなくても問題はないが、成功した方が優越感はあると感じたのだろう。

 

 

「ちっ!?」

 

 

ロゥリィの狂気の笑みは怒りの笑みへと変わった。

 

ハルバードは見事漆黒龍(アルドゥイン)の肉体を通り抜けた。文字通り幽霊のように通り抜けたからだが。

 

アルドゥインは現在半透明であるが、目視できるほどであり、龍の幽霊のような感じである。

 

今の彼はありとあらゆる攻撃、魔法、物理法則が適用されず、干渉もされない。しかし、これは彼が世界に対しても同様である。

 

 

(やれやれ、我のスームは強力過ぎるのも考えものだな。この状態が3日も続くと考えると不便なものだ)

 

 

そして空に向かって浮き始めた。

 

 

「こら、卑怯者!降りてきなさーい!」

 

 

先ほどの少女が何やら叫んでいるが、無視することにした。

 

 

(あやつは要注意だな。対策でも立てるがよいだろう)

 

 

そしていつの間にか目視できない距離まで飛んで行ってしまった。

 

 

「いてて……何とか無事か、みんな?」

 

 

伊丹は隊員の身体、装具の異常を確認する。

 

隊員は軽傷で済んだが、装備、車両、避難民の状態は大変よろしくなかった。

 

 

「……こりゃ帰ったらどやされるかなあ……」

 

 

伊丹は大きくため息を吐いた。




アルドゥインは切れたりすると龍語が咄嗟に出てしまうという設定でお願いします。

各作品の龍の大きさって実際どれくらいなんだろうね。


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どっかで見たことある?人違いだ

今回はちょっと変わった人が登場します。当初予定なかったけど。(こいつのせいでバッドエンドしか見えない気がしてきたのは内緒)

あとそれに伴いオリキャラ出るかも。主人公にはならないけど。

作者の夢(現実逃避)と希望(妄想)がいっぱい♪

あとスームではなく、スゥームとご指導受けましたので、今後はそうします。


無事(?)に駐屯地に帰ってきた伊丹たちを見た上官は言葉を失った。

 

まず隊員ほぼ全員がボロボロである。

 

軽傷とはいえ、装備がボロボロだったり、武器が壊れているもの、迷彩服が擦り切れている者、などなど。

 

そして何よりも、車両が大きく破損していることであった。

 

 

「君たちは何をしてたんだー!」

 

 

あまりのショックで後ろにいた避難民たちは見えていないらしい。

 

というかまず隊員たちの心配しろよ、と思うのだが。

 

こうして、伊丹は結果報告、処理報告、対策資料、そして避難民たちの処遇等々の処理を任されることとなった。

 

 

「ちくしょー、幹部自衛官なんてなるじゃなかった……」

 

 

伊丹はポツリとつぶやいた。

 

 

***

 

 

日本海、領海線付近

 

一隻の中型漁船が真っ暗闇の中、静かに浮いていた。

 

 

「××××××、○○○○○○」

 

「おいおい、俺たちは日本人だぞ、何外国語話してんだ」

 

 

一人の男が流暢な日本語でもう一人の男に小声で注意した。

 

 

「おお、そうだった。すまんな」

 

 

先ほど外国語で話していた男は急に日本語を話しだした。これも流暢な日本語だった。

 

 

「あと3時間ほどこのまま潮に流れていけば問題なく漁業地点まで難なく入れる。そしてそのまま出動だ」

 

「うむ、そのまま本土に向かえばよいのだな」

 

「ああ、あと入念にに『竿』と『釣り針』の準備しておけ。あと『重り』もだ。使うことはないと思うがな」

 

Hey, what are rods, hooks and weights?(なあ、竿と釣り針と重りってなんだ?)

 

二人の男は後ろから突然男性の声が聞こえたため驚いたが、振り向くと同時に腰に隠していた拳銃を……

 

 

パスン、パスン

 

 

取り出すこともなくその場に倒れた。

 

そして倒れずにそこにいたのはサイレンサー付きの拳銃を構えたスキューバダイバー装備にその他諸々加え、バラクラバ(覆面)をつけた男がいた。

 

 

Clear(クリア)

Clear(クリア)

Clear(クリア)

Clear(クリア)

 

 

彼の無線機に制圧完了の報告が逐次される。

 

 

All Clear(完全制圧完了).

Change radio language to default (無線言語を既定に戻せ)

 

『『了解』』

 

 

その男の指示に帰ってきたのは日本語だった。

 

すぐに船のあちこちから同じような服装装備をした者が集まってきた。

 

 

「隊長、報告します。この船には高速機動艇エンジン4発、小型特殊潜航艇1隻、武器弾薬及び自爆用装置を発見しました。敵性勢力は15名で、全員の死亡を確認しました。なお、国籍等を判別する物は見つかっておりません」

 

 

1人の隊員が先ほどの男に報告した。

 

 

「班長、ご苦労。まあ恐らく北の国かパンダだろう。そして工作員(プロ)だろうな。それかそれを装ったまた別の国か。ま、自爆される前に制圧できたのは大変よろしい」

 

「そしてこちらが武器弾薬です」

 

 

別の隊員が隊長と呼ばれる男を下のほうに誘導した。

 

 

「なるほどね。竿()釣り針(弾薬)重り(重火器)のことだったのか」

 

 

目の前の木箱に詰められたのはカラシニコフ銃かその類似品、弾薬ケース、そして対戦車ロケット弾であった。

 

 

「ふむ、まあこんなものか。これらを接収する。木箱をゴムボートに搭載し、乗れない者は逐次交代しながらボートを押せ。そしてこの船は処理しろ」

 

「「了解」」

 

 

その日の早朝、ある漁師はかすかだが油の染み付いた魚が多く取れたという。

 

 

***

 

 

「昨夜はご苦労だったな」

 

 

真っ白の制服に、金色の肩章をつけた将官がソファに座っていた。

 

 

「いえ、海将補。我々はやるべきことをやっただけです」

 

 

反対側のソファに座っていた男が言う。こちらも白い制服だが、肩章は黒に金の線が巻いてあった。

 

 

「まあ、しかしだかね、全員排除したのもどうかと思うのだが」

 

「その件に関しましては、相手が先に攻撃する素振りをみせ、急迫不正の状態であったこと、かつ明白な攻撃意志があったと判断したと報告を受けています」

 

「うむ、そうか。まあ後処理はしっかりするように」

 

 

海将補は小さくため息をついた。どうせそんなことはないだろう、法の穴を突いただけだろうと考えた。

 

 

「あと君に報告があってね。ちょっと複雑な事情だけど」

 

門の向こう側(特地)の件ですか?」

 

「さすがだな。もうそちらの方でも情報入手しているのか。なら話が早い、向こうで陸空自で十分と判断されていたが予想以上に問題が多いらしくてな」

 

「我々の力が必要になるかと?」

 

 

海将補は黙って頷く。

 

 

「海将補、お言葉ですが彼の地に海はあれど、戦略上全く意味のなさない場所と聞いております。

まず我々の基地から離れすぎている。そしてさらにあちらの敵性勢力は陸戦及び低空戦と聞いています」

 

 

その男は冷静に、そして力強く答えた。

 

「さらに、現在あの事件以来我が国と周辺国との関係が良好ではありません。現にスクランブル、緊急出動も増え、不審船等の目撃も増えています。これ以上本土の戦力を減らすわけにはいかないかと」

 

「その通り。しかしだ、我々は海だけが戦場ではないだろう。もっと柔軟に考えたまえ。どの国でも統合作戦が主流の今、我々が、いや我々しかできないこともあるだろう。それを調べるためにもまず下地が必要なのだ」

 

「なるほど、仰る通りです。しかし自衛隊は……」

 

「そのために君がいるのだろう?」

 

 

2人はしばらくの間静かになった。お互いの腹を探るような感じであった。

 

 

「総理、防衛大臣、統合幕僚長の承認は降りた。あくまでも口頭だがな」

 

「なるほど。つまり、最高級の秘密ということですか」

 

「その通り。この秘密は我々含め少人数にしか告知されていない。なのでこれは命令だ。君かまたはそれに相応しい者に願いたい」

 

「……わかりました。ご命令とあらば私が行きましょう」

 

 

それを聞いた海将補安堵した。

 

 

「そうか、ありがとう。よろしく頼むよ。あと君の『優秀な部下』にもよろしく伝えておいてくれ」

 

「はて、何のことでしょう。私は単なる情報幹部です。では仕事にかかりますのでこれで失礼いたします」

 

 

男はお辞儀すると部屋を後にした。

 

 

「頼んだぞ、草加拓海3佐」

 

 

海将補は静かに去ってゆく男の背中を見送った。

 




え、何か見覚えのある奴がいるって?名前も見た目も声も性格も同じ?思想も同じかも?

やだなあー、別人ですよ別人……

作者が別人っていってるので別人なんだよぉぉおお!!!
(決してタイムスリップしたわけじゃないから)

あぁ、ググらないでぇ……タグ追加しないといけなくなっちゃう。


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要約すると一話だけでできちゃったりする

最近ペースが早い?

そりゃ彼女もいなければ夏なのにビーチや花火と見に行かないからね。

結論、暇……(泣)


炎龍が倒された。

 

という衝撃的な事実でさえ夢物語であるのに、これに追加して

 

 

悪魔のような漆黒龍が現れた

 

そして炎龍が蘇った

 

炎龍を倒した者が苦戦する

 

しかし必死の末その両方を撃退する

 

 

といったどっかの少年漫画雑誌のシリーズものにありそうな長編ストーリーのような話であった。本気で要約するとたった数行でおわってしまうとは……

 

しかし伝聞とは恐ろしいもので、伝わっていくうちに尾ひれ羽ひれついて、「何それ、すげーなおい!」状態になってしまった。もはやおとぎ話ではなく、神話になってしまった感じである。

 

そのため、伊丹たちと別れたコダ村の避難民たちもこの語り部として今後の生活に困らなくなったという。

 

 

***

 

 

とある町酒場にて

 

 

ピニャは部下の騎士ノーマ・コ・イグル、女性准騎士ハミルトン・ウノ・ローと共に情報収集をしていた。

 

彼らは一応身分を隠して変装しているつもりだが、やはり町酒場に少し華美な鎧をつけた騎士は珍しいようである。まあこの土地の人々はあんまり気にしてないようなので問題はないだろう。

 

 

「騎士ノーマ、どう思われますか」

 

「……これだけ多くの避難民が言うのだから嘘ではないだろう。だが炎龍というのは信じがたいが」

 

「私はここまで皆が揃えて言うのであれば、信じても良いような気になっています」

 

 

ノーマとハミルトンが議論をしていると酒場の女給がワイン瓶を彼らのテーブルにどんと置く。

 

 

「ほんとだよ、騎士さん達。炎龍だったよ〜」

 

「ははは。私は騙されないぞ」

 

 

古代龍、新生龍、無肢竜、翼竜の総称としてドラゴンなので、きっと間違えなのだろうという口調であった。

 

 

「まぁまぁ、気を悪くしないでよ。私は信じるからよかったら話を聞かせてくれないかな」

 

 

ハミルトンはチップにしては破格の額の銅貨数枚を渡すと、機嫌を損ねていた女給の表情はパッと変わった。

 

「これだけ貰ったんだ。とっておきの話をしてやらなきゃね」

 

そう言って話し始めた。

 

………

……

 

 

そう、私たちは炎龍の報告を受けてすぐ準備して避難したね。

 

でも途中で荷車が動けなくなったりした人たちもいたね。私もその内の1人さ。

 

もうどうしようもなく途方にくれてしまったね。もう通り過ぎていく人の目が私たちを哀れんで見るわけよ。

 

でもね、もう諦めようかと思ったとき彼らが来たのさ。

 

誰って?それはまだらな緑色の服を着た連中さ。全部で12人、その内2人が女だったね。

 

なに?女はどんな姿だって?

 

まったく、男ってみんなそれだねぇ……

 

まあいいや。背の高い女がいたね。日中は兜を被っていてよく見えないんだけど、野宿の時ちらっと見えたよ。

 

馬の尻尾みたいに束ねている髪を解いたとき、ありゃ女の私でも見惚れたねぇ。カラスの濡れ羽色と言うのかい?

 

艶の入った黒髪でさ、一体どうしたらああなるんだろうねぇ。体つきもほっそりしていてね、異国風の美女ってああいうのを言うんだろうね。

 

そしてもう1人は猫みたいな女だったね。小柄で栗色の髪で男みたいに短めだったよ。元気で子供達の面倒見もよくて子供はなついてね。

 

そして何よりも腕っ節が強い。男同士の喧嘩があったときなんか目にも止まらない速さで蹴ったり殴ったりしてあっという間に男どもは伸びちまった。

男はそれ以降怖がっていたね。

 

あ、そうそう。体つきはすごかったね。小柄なのに胸が牛並みに突き出てそのくせ腰は細く締まってる。顔は綺麗というより可愛いって感じさ。女としてあれは許せないね。

 

こら、そこ興奮するじゃあない。話が続けれなくなるよ!

 

ま、そういうわけだけどなんとか進んでいけたね。そしたらあいつがやってきたのさ。

 

赤い龍、足と腕がついていてコウモリの羽みたいなのがついてたバカでかいやつだよ。ありゃもう誰がみても炎龍だよ、炎龍。

 

私たちは正直もう完全に諦めたね。なんだって蜘蛛の子散らすように逃げるあたいらを焼いては食う、踏み潰しては食う、そりゃ絶望するよ。

 

でもね、そんななか、緑の連中はなんとあの炎龍に立ち向かって行ったんだよ。

 

連中は馬がいないのに馬よりも速く走る荷車に乗って魔法の杖で応戦したよ。よくわからない魔法だけど、その杖から雷のような音がしたね。

 

でもその程度では効かなかった。それでも連中は諦めなかったね。

 

そして連中の頭目らしい男が指示出すとアレが出てきたのだよ。

 

特大の魔法の杖さ。あたいらは勝手に鉄の逸物と呼んでいるけどな。そしてコホウノ・アゼンカクニという呪文を唱えるととんでもない音と共に炎龍の頭に穴が開いちまったんだ。

 

そのときは皆が息を呑んだね。炎龍がこの世とは思えない叫びを上げると大きな音をたてて倒れたんだよ。

 

そりゃもうみんな大喜びさ。炎龍が倒された、村に帰れるってね、そしたらやつが来たんだよ。

 

……

 

何?続きが聞きたい?だったらもっと出しな、周りの男ども。

 

あたいはこの騎士さんたちに話してんだよ。これ以上あんたらにはタダ話するわけにはいかんよ。そら、いい子だ。では続きと行こうかね。

 

そう、やつ。それは真っ黒な鱗をした龍が出たんでさ。大きさは炎龍よりほんの少し小さめ、でもその分翼が大きくて飛ぶのは早かったね。そして真っ赤な眼、口、そしてところどころ燃えているような色もあったね。腕は無かったかも。

 

そしたらみんなまたパニックさ。でも今度はみんなわかっていたから比較的早く準備できたよ。緑の人も隠れて機会を伺っていたさ。

 

できれば戦わなくて済むならそうしたかったんだろうね。

 

そしたら真っ黒の龍は炎龍の残骸に向かって何やら言ったのだよ。

 

何?龍は喋らない?あたいが見たんだから喋ったんだよ!黙って聞きな。

 

そしたらさ、あたいら全員目を疑ったよ。炎龍が蘇ったのさ。

 

あんな魔法が世の中には本当にあるんだねぇ。できればそれで亡くなったみんなを生き返らせて欲しいもんよ。

 

もちろん緑の連中も攻撃したさ。あの鉄の逸物が見事真っ黒な龍の頭に当たったさ。

 

ところがどっこい、やつには効かなかったんだよ。まるで何事もなかったようにさ。ああ言うのを魔王って呼ぶんだろうね。

 

そしたら黒い龍は怒ってさ、何か魔法みたいなものを唱えたのさ。

 

そしたら結構多くの人が吹き飛ばされたね、もうそれは竜巻にあったみたいにさ。もちろん緑の連中もさ。

 

すると咄嗟に大きな斧のようなものをを担いだ緑の連中と同じ服を着た正直が応戦するのさ。あとで分かったけどどうやらエムロイの神官だったらしいけどね。

 

それでも苦戦さ。そしたら金糸のような髪をしたエルフと銀髪の魔法使いの少女も援護したのさ。

 

それに気を取られた真っ黒な龍は一瞬油断したのだろうね。

 

エムロイの神官は渾身の一撃を龍の膝に叩き込んだのさ。そりゃ攻撃は効かなかったさ。でも大きな力でものが当たったんだろうよ。

 

その龍、回ったのさ。ホントに。膝を打たれて思いっきり1回転半してさ、仰向けに倒れたよ。あれはすごかったねえ。

 

そして最後の一撃を加えようとしたところ、そいつは幽霊みたいになっちまってさ。一切触れなくなっちまったみたいなのよ。

 

そりゃ、幽霊と戦ってたんだったら勝ち目はないよ、死んでいるんだし。そしてそのままどっか行っちまったね。

まあ、少しは痛い目をみたのかもね。

 

そんな感じで、私たちがなんとか生き延びたってわけよ。

 

……

………

 

物語が終わったが、もはやスケールが大き過ぎて誰もが言葉を失った。

 

 

「鉄の逸物……?」

 

 

確かにわかりやすいと言えばわかりやすい(紳士の方なら特に)が、もうちょっと他の例えはなかったのか(違う単語ならR18タグをつけかねない)と思う。

 

 

「と、とにかく、立派な者達です。異郷の傭兵団のようですが、それほどの腕前と心映えならば是非にも味方に迎えたいと思いますよ。いかがでしょう姫様?」

 

「そうだな、漆黒龍を撃退した能力のあるものたちだ。是非ともそうしたい。それに彼らの武器や魔法に妾は興味がある」

 

 

ピニャはため息をつく。最近神話のような話ばかりで疲れているようである。

 

 

「……ハミルトン、お前確か婚約者がいたな。鉄のイチモツとやらどんなものかわかるか?」

 

 

男性経験のない姫様はまず部下に聞いてみることにした。男性のノーマに直接効かないのは何故か、とか気にしてはいけない。

 

ハミルトンは予想外の質問にスープを吹き出してしった。

 

「ぶぼっ!?確かにいますけど、私は乙女です!あんなものの話を口にできるわけないじゃないですか!……あっ」

 

「ほう、あんなものか」

 

 

ピニャは顔を真っ赤にして小さくなってしまったハミルトンを見て眉をひそめた。




おそらく前の話に出てきた情報幹部のせいで絶賛評価低下中。なのにお気に入りは増える。

情報操作されてるな、こりゃ。

(皆さんありがとうございます)


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陸自おつかい

またも皆様の誤字指摘ありがとうございます。どうやって見つけたのでしょうか(笑)

ピニャ殿下には是非とも「アルゴニアンの侍女」(スカイリムに存在する薄い本)を読んで頂きたい。というかいっその事読ませるか。クロスオーバーてステキ!


3日ほど眠って妙なことに気づいた。

我は何もしてないにも関わらず、魂が補充されるのだ。

 

今までは我が殺した分だけ補充された。しかし、この3日間霊体で過ごしたので明らかである。うっかり小動物を殺してしまうようなことなど絶対にありえん。

 

にも関わらず、微力ながら少しずつ魂の量が増えているのだ。

 

これは我が考えるに、デイドラどもが関与しているだろう。

 

まあ、だいたい奴らがしたいことは予想がつくな。しかし、我は今まで通りのことをするまでよ。

 

破壊、殺戮、蹂躙……

 

我はこの衝動や行動については当たり前だと思っている。疑問は湧かないのか、とかつての同志に言われたことがある。

 

しかし我にとってそんなもの愚の骨頂。我がしたいようにする、なぜならそのように我らは作られているからだ。

 

あの忌まわしい『巻物』にも世界は我によって破壊されると予言されているではないか。

 

そのためなら我は何度でも破壊してやろう。

 

そしてもう一つ、気づいたことがある。

 

我の周りを様々な龍が共に飛んでいた。

 

大きさが小さめなところ、翼竜だろう。ちょっと違うやつもいるが。数にして10程度。

 

意図は何だろうか。我をとって食おうというわけではないようだ。

 

まあ良い。まだ霊体化が解けるのに時間がかかる。その時こやつらの意図を問い詰めるか。

 

 

***

 

 

一方、アルヌス駐屯地では避難民のある程度の受け入れの目処がたって数日が経った。つまり難民キャンプができたのだ。

 

避難民が自活もできるよう支援し、今後の意思疎通のためにもこまめな交流も行われるようになった。

 

特にレレイは覚えが早く、簡単な単語、数字程度なら日本語でもできるようになった。さすが魔法少女。

 

そりにより、各人の年齢がわかった。

 

レレイは15歳で、この地では成人らしい。(そこの紳士諸君、合法とか言わない)

 

テュカはエルフなので165歳らしい。さすがエルフ。(ロリBBAなんて言うんじゃないよ、エルフの世界ではまだきっと少女なんだよ!)

 

エムロイの使徒、ロゥリィは……とにかくずっとずっと、テュカより年上らしい。まあ女性に年齢聞くもんじゃないですし……

ところであら不思議、いつの間にかゴスロリ装束に変わってる。ご都合主義って怖いね(ホントはワガママ言って日本のゴスロリ衣装取り寄せて手直ししたらしい)

 

 

ところで、全体としてはうまくいってるものの、少し問題も見つかったようである。

 

 

「伊丹2尉、どうもテュカの様子がおかしいのですわ」

 

 

黒川陸曹は上官である伊丹にテュカについて相談していた。

 

どうやらテュカは食料、衣類を要求する際は必ず2人分、衣類に至っては片方は男物を要求するようである。

 

 

「うーん、そう言われてもねえ。まだ精神科医もいないし……俺も後で色々と話してみるよ」

 

 

エルフの習慣か、死者を弔う儀式か、それともやはり精神的な問題かなど論じられたが、結局専門家もいないので今回は保留となった。意思疎通がまだうまくいかないのも大きな原因かもしれない。

 

とりあえず、今日はまず基地外に設置した難民キャンプの様子を見に行くことになった。

 

人員、武器装具等の確認及び準備を行い、必要な物を車両へと搭載していった。

 

 

「パンツァーファウストだけじゃ心細いっすね……」

 

 

倉田陸曹は対戦車弾(パンツァーファウスト)を見てボソッとつぶやいた。

 

 

「その件な、実はダメ元で頼んでみたのよ、対戦車誘導ミサイル(ジャベリン)地対空誘導ミサイル(スティンガー)とか貸与されませんかね、って」

 

 

近くにいた伊丹は部下の愚痴に答える。

 

 

「おお、俺スティンガー撃ってみたいっす。あのステルスゲームみたいに」

 

「そしたら、何て言われたと思う?んな高価なものだせるか!だとさ」

 

「一体上は俺たちの命なんだと思ってるんですかね……」

 

 

これだから自衛隊は、と2人はため息を漏らした。

 

 

***

 

 

なんだかんだ言って難民キャンプに着き、まず状況を確認する。

 

何か不足はないか、どれくらいなら自活できるか、そして彼らに提供した仕事、翼竜の鱗及び爪集めである。

 

アルヌスの戦い以来、人の埋葬は急ピッチで終わらせたものの、研究のため残しておいたものの不要になった翼竜の残骸が放置されたままなので、好きなようにさせていたのだ。

 

そこで、彼らが集めたものを魔導師カトーやレレイが査定を行い、売れそうな物だけを選別する。そしてこれを売れば資金源になると考えたのだ。

 

かと言ってそこらへんに売るわけにはいかない。某世界(スカイリム)やそれに類似した世界を知っているものなら分かるが、一般的な小規模の店では高価なものは大量に買取るだけの資本がないのだ。

 

なのでできれば大規模店かつ信頼のあるところが望ましい。そんなコネ普通の一般市民にあるわけないのだが、あら不思議、カトー先生の知り合いがまさにそんな人だった。ご都合主義様々ですな。

 

ということで伊丹一同にテュカ、レレイ、ロゥリィが一緒に行くことになった。

 

レレイは通訳、案内。テュカはまあ心配だから。ロゥリィは行きたいだからだとか。細かいところはまあいいか。

 

 

***

 

 

目的地はテッサリア街道を左、ロマリア山麓にあるイタリカの街。

 

桑原曹長が地図やコンパスを使っていたところ、レレイはそのあまりにも緻密な地図に大変興味を示した。

 

そりゃ中世の技術で作った地図と比べたら現代の地図はまさに神器レベルなのだ。そう考えるとコロンブスとマゼランって凄かったんだなあ、としみじみ思う。地球人なめんなよ。

 

桑原曹長はレレイを我が子を見るような気分で色々と教えた。

 

 

「鬼軍曹と呼ばれたおやっさんが、可愛い女の子相手に相好を崩しちゃってまぁ」

 

 

倉田はバックミラーに映るかつての自分の教官の姿を見てボソッとつぶやいた。

 

実は彼、一般曹候補学生のときに『ハイポート走』という銃を胸の前に抱えて走ることをさせられて結構根にもつている。

 

ちなみに、上位版にヘルポート、デスポート、砲ポートというものがあるらしいが、作者は詳しく知らないし、知りたくもない。

 

そんな中、イタリカの街の近くで車両の右の遠くから煙が確認された。

 

レレイに聞いてみたが、どうやら火事かもしれないが、それにしては大きすぎるとのこと。

 

 

「周囲への警戒を厳にして、街へ近づくぞ。特に対空警戒を怠るな」

 

 

伊丹の指示に各人は警戒を高める。

 

 

「血の臭い」

 

 

ロゥリィは伊丹と倉田の間から身を乗り出すとなんとも言えない妖艶な笑みを浮かべるのであった。

 

 

 

 




次回、イタリカ攻防戦

アルドゥイン「我の出番だ……」

霊体化解けてませんが。

アルドゥイン「なんと!?」


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ピニャ様のタワーディフェンス

某ゲームアプリから『ピニャ姫クエスト』、『ピニャ姫スイーツ』とかも考えましたけどね。ハミルトン、ノーマ、グレイが蹴られことしか想像できなかったもんで……

あと炎龍倒せるのはいつやら……

炎龍「あたいまた倒されるの!?」


説明しよう!

まずイタリカとはどんな街か。

 

簡単に言うと首都ではないが物流や交易の流れが比較的多いため、そこからお城が建って城壁が建って街ができた感じ。だから商人とかもよく集まってくる。

 

日本で例えるなら大阪みたいなもんやと思うで。

 

某世界(スカイリム)ならホワイトランという場所に相当するかと思われる。

 

帝国貴族のフォルマル伯爵の領地であり、先代(コルト)の末娘のミュイが現当主である。

 

第三女でしかもまだ11歳のミュイが当主なのは訳がある。

 

先代が急逝した際、長女と次女の権力争が小規模な紛争にまでに発展し、その結果裁判の判決待ちで運悪くも双方の夫がアルヌスの戦いにて戦死したため、裁判どころではないということになり今に至る。詳細は割愛する。

 

幼いミュイに統率力などあるはずもなく、流浪の盗賊や敗残兵の増加により街の内外における治安も悪化。そしてそれが悪循環して盗賊も増えて軍隊規模になったものが今まさに街を落とそうとしていた。つまりピンチなう。

 

 

「はぁ、はぁ……」

 

 

ピニャはそのイタリカの城壁にて何度目かの襲撃をしのいだところである。

 

彼女自身に怪我はないものの、周りの兵士には傷ついているもの、重症で倒れているもの、そして既に冷たくなっているもので一杯だった。

 

 

「ハミルトン!ノーマ!大丈夫か?」

 

「ぜいぜい、ハイ……何とか……生きてます、ぜいぜい」

 

 

2人とも極度疲労状態で、ノーマは剣を杖にやっと立てる程度。ハミルトンは尻もちついて剣まで放り出している状態である。

 

 

「姫様、小官の名前がないとは、あまりにも薄情と申すモノ」

 

「グレイっ!貴様は無事に決まってるであろう!だからあえて問わなかったまでだ」

 

「それは喜んで宜しいのでしょうか?はたまた悲しんだ方が良いのでしょうかな?」

 

 

グレイと呼ばれる齢40過ぎの堅太りのタフそうな男は、一兵卒からのたたき上げのベテランである。そして数少ない騎士(士官)となった実力者である。

 

それを示すかのように彼の剣には敵の血で染まっているが、返り血はおろか、息切れもしてなかった。あちらの世界(スカイリム)でも英雄(主人公)は返り血浴びまくりなのにね。

 

 

「姫様、何で私たち、こんなところで盗賊相手しているんですか?」

 

「仕方ないだろう!異世界の軍がイタリカ攻略を企てていると思ったんだから!お前達も賛同したではないか?」

 

 

ハミルトンの愚痴に対してピニャも負けじと言い返す。

 

アルヌス周辺の調査を終えていよいよアルヌスの丘へ乗り込もうとしたところ、イタリカが大規模武装集団に包囲され、襲われそうであるという噂を聞いたピニャはてっきり異世界の軍が攻めて来たと思ってしまったのだ。

 

それに加えて初陣は地味な偵察より華々しい野戦の方が良い、といかにも戦争を経験したことのない英雄に憧れるお嬢様思考である。

 

ところがどっこい、蓋を開けてみれば敵は大規模な盗賊集団。その過半数は元は連合諸王国軍の正規兵、つまり敗残兵。

 

対してイタリカ側の現当主は11歳のミュイ。そのため、イタリカ側の兵の士気は最低で、多くは敗走した模様。

 

しかしピニャはこの状況を見過ごす訳にはいかなく、援軍の到着まで総指揮を執ることとなった。

 

一時は城門を突破されたが、住民が民兵として死力を尽くしたため何とか第一日目はしのいだ。正直、あと少しで負けそうなところであった。

 

このため、少ない兵力はさらに少なくなり、士気もどん底まで下がってしまった。流通も止まっているので武器、食料もなくなりかけていた。

 

 

「妾の初陣がこんなものだとは……」

 

 

ピニャが想像していた華々しさなど欠片もないのが本当の戦争である。

 

タワーディフェンスゲームがリアルではいかに難しいかご理解いただけたであろうか。

 

 

***

 

 

イタリカ内の老若男女、職種も問わず文字どおり全ての者が次の戦闘に向けて何らかの作業をしていた。

 

鎮火、手当、武器装具の手入れ、遺体処理……

 

戦争でドンパチすると実際裏ではこういう作業が必然的に生じる。

 

鎮火しなければインフラ、人員に損害が生じる。

 

手当をしなければ人員を確保できない。

 

手入れをしなければ効果的に戦闘を行えない。

 

遺体処理をしなければ疫病などが流行る可能性もある。

 

これら一つひとつが実は重要だったりする。

 

 

「姫様……あの、少し、少しでよいのです。休ませてもらえませんか?」

 

 

住民代表の老人がピニャに申し訳なさそうに話しかける。

 

確かに、半日かけた戦闘後から休む間もなく皆作業を続けていた。

 

確かに、休めるべき合理性もあるが、時期が悪かった。

 

今もし休ませて作業が遅れ、それが敗北の原因となれば元も子もない。

 

優しさが身を滅ぼすこともあることを十分に理解している。そのため、ピニャは厳しい命令を下すしかなかった。

 

 

「盗賊共はまだ諦めていない。態勢を立て直したら、すぐに攻めて来よう。その時に壊れた城門と、崩れた柵で防げるというなら、休んでも良いぞ……」

 

 

老人にはピニャが理不尽を強いる暴君に見えたかもしれない。

 

しかしこれは立場も異なり、一般市民と異なり軍事教育を受けたことのあるピニャだから全体を把握できたのだろう。伊達に薔薇騎士団の団長を務めているわけではない。

 

 

「私はお前に頼み事をしているわけではないぞ」

 

 

つまりこれは命令である。それを察した老人はそれ以上何も言わずに作業に戻った。

 

ピニャは他にも修復状況、壊れた門の閉鎖、外への警戒、そして皆への食料の配給を確認した後フォルマル伯爵家の館へと向かった。

 

出迎えたの老執事と老いたメイド長だけであった。他は炊き出しなどの作業で忙しいらしい。

 

 

「ピニャ殿下、お帰りなさいませ。どうやら守り切ることができたようですな」

 

「まだだ。奴ら、まだすぐ戻って来る」

 

「連中と戦わずに済ますことはできないでしょうか?話し合いで何とか」

 

「争いを避けるのは簡単だ。城門を開け放って、街の住民も財貨も食べ物も何もかも、連中の手に委ねてしまえばよいのだ。

 

しかしそうすれば全てを奪われ、男は殺されるだろう。若い女こどもは必ず陵辱されるだろう。

 

妾も例外でない。1人2人ならなんとかなるかもしれないが、50人100人を相手にして正気を保つ自信はない。

 

時に、ミュイ伯爵令嬢はどうかな?」

 

 

ピニャはホントに理解して言ってるのかは多少気になるとこらである。逸物の形状すら知らぬ乙女のはずだが、恐らく俗にいう『くっころ』を書物等で知ったのだろうか。そこ、変なこと想像しない。

 

 

「み、ミュイ様はまだ11歳ですぞ」

 

 

家臣は戸惑う。

 

 

「そういう幼い少女が好きな変態はいるかもしれないぞ。いや、絶対いる。必ずいるな」

 

 

(そこ、ミュイ様のくっころなんて不埒なこと想像してはならんぞ)

 

「だから戦うのだ。平和のために、相手の言いなりになるのも一つの道だが、それは滅びの道だ。

 

戦いは忌むべきものだが、それを避けることばかり考えると結局のところ全てを失うのだ。ならば戦うしかない」

 

 

ピニャは軽く食事を摂ると仮眠をとることにした。

 

「では客間にてしばし休ませて貰う。もし緊急を知らせる伝令が来たら、そのまま部屋へ通すよう」

 

「仰せのままに。ではおやすみなさいませ」

 

 

メイド長はそう答えると、ピニャは一つ質問した。

 

 

「もし妾が起きることを拒んだならどうする?」

 

「水を頭からぶっかけて叩き起こして差し上げますとも」

 

 

実に豪快な答えだが、聞くところによると彼女はかつて同じような戦闘を経験済みという。道理でメイドたちの指示が的確である。

 

 

「ふふ、そうだな。妾もせいぜい水を被らないよう注意せねばな」

 

 

そう言って床に着く。

 

 

***

 

 

「ぐっ!?貴様!妾に何するつもりだ!」

 

 

ピニャは後ろで両腕に手錠をされて膝を地に着かされていた。周りには多くの男がいる。

 

 

「ほう、これは姫殿下ではございませんか。姫様はなぜわざわざこんな陥落寸前の街へとわざわざ来たのですかな?」

 

 

1人の男が笑いながら言った。

 

 

「ふん、何のことかな。妾は今やただの哀れな乙女かもしれぬが指一本触れてみろ。必ず後悔するぞ」

 

「おお、怖い怖い。さすがは姫殿下。細く整った足、すらっとした体、そして美しいご尊顔。いい女だ」

 

「くっ!?そのような目で私を見るな!いっそ殺せ!」

 

「恐れることはありませんぞ、姫殿。我々と楽しんでいただければいいのですから」

 

「貴様ら!妾は皇女だ!こんなこと神々も許すわけがない!妾にはまだやるべきことがあるのだ」

 

「やるべきこと?では姫様、我々の功績を労って頂きますか。

我々の槍を磨け」

 

「何だこれは!?大きすぎるぞ!それにこんな数無理だ!」

 

「姫様、時間はたっぷりとあります。たっぷりとね」

 

 

ピニャは勢いよく起きた。何だ、夢か、と胸を撫で下ろす。

 

 

「しかし、あの槍は一体なんだったのだ?まあ良い、もう一眠りするか」

 

 

(夢オチとかサイテー、とか言わない)

 

 

***

 

 

ピニャを起こしたのは冷たい水であった。さすが期待を裏切らないあたりメインヒロインの1人と言えよう。

 

 

「きゃあ!?何があった!敵か?」

 

 

ピニャとは対照的に、報告に来たグレイは落ち着いていた。

 

 

「はたして、敵なのか味方なのか、見たところ判りかねますな。とにもかくもおいでくだされ」

 

 

グレイに案内されてピニャが城門の上から見たのは奇妙な箱のような荷車3台であった。

 




もちろんピニャ様やミュイ令嬢の不埒なこと(くっころとかあんなことこんなこと)想像した奴なんて紳士淑女諸君なんていないよな?

私?

紳士淑女ではないから……(汗)

あとピニャ様の夢の元ネタはアルドゥインの故郷に薄い本として実在します。マジで。


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統合運用

皆様お久しぶりでし。
リア充共は満喫しておりますか?
私はなんとか紳士としては満喫しております(泣)

前回ピニャが見た夢の参考元を知りたい方は「アルゴニアンの侍女」と調べると幸せ(?)になれるかも。

今回もまた作者の妄想がいっぱい○っぱい!

オリキャラ出ます。許してね!
でも主人公は伊丹だから!

アルドゥイン「は?」


アルヌス駐屯地、陸将室

 

狭間陸将の前には2人の白い制服を着た男が気をつけの姿勢で直立していた。

 

 

「3等海佐、草加拓海、以下20名。特別任務の命を受け只今特別地域駐屯地に着任しました。よろしくお願いします」

 

 

狭間陸将から見て左の海上自衛隊の幹部が紹介を終わると、10度の敬礼(頭を軽く下げるお辞儀のような敬礼)をし、狭間陸将をそれに答礼する。

 

 

「草加3佐、よろしく。そして君が……」

 

 

狭間陸将は右の男を見る。

 

 

「1等海尉、加藤 蒼也(そうや)です」

 

 

見た目にこれと言った特徴のない男だった。

 

敢えて言うなら普通の模範的な自衛官。髪は短めに手入れされ、細すぎもせず太すぎもせず。身長も平均より少し高いぐらいだった。怖そうな顔でもなく、むしろ優男のような感じ。

 

しかし、他の自衛官とは明らかに異なるものがあった。左胸の金色の徽章、そしてそれが見慣れない形をしていた。

 

これは草加の艦艇徽章とは違うものであった。つまり、彼らは元は異なる部隊ということである。

 

 

「ふむ、君が……噂には聞いておるよ」

 

「はて、何のことでしょう?」

 

 

加藤1尉はごく自然な表情で答えた。

狭間陸将はそれで大体は察した。

 

 

「来てもらい早々仕事を回すのも気が引けるが、あまり猶予はない。早速君たちにも支援をお願いしたい。現在幾つかの偵察隊が展開中であるが、それに即応できるよう補佐をして貰いたい」

 

「お言葉ですが、特殊作戦群の方が適任では?」

 

 

草加3佐は冷静な思考力の持ち主だ。陸には陸で対応するのがベストだと考えたようだ。

 

 

「恥ずかしいことに、絶対数が足らん。それに数日前、本土で不穏な動きがあったため一部を原隊に戻したのだ。全てとは言わん、陸でカバー仕切れない部分をどうかカバーして貰いたい」

 

「ええ、喜んで」

 

 

答えたのは加藤1尉だった。

 

 

「いいのか?しかし草加3佐の許可なしでは……」

 

「彼が良いと言うなら良いでしょう」

 

 

今度は草加3佐が答える。

 

 

「私は現場は現場に任せる方針です。私より現場慣れしている彼なら問題ありません」

 

「そうか、助かる。ではすぐに準備に取り掛かってくれ」

 

「「わかりました」」

 

「あと一つ気になったのだが、加藤1尉、君はすぐに是認したが、なぜかね。ただ気になっただけだが」

 

「はて?私は当たり前のこと当たり前に実行しているだけですが。『上官の命令は絶対である』それだけです」

 

「そうか、しかし命令ばかりではなく、柔軟に対応するように」

 

「わかりました」

 

 

そして2人は退室する。

 

 

「あんまり誤解を招くようなことは控えるように、加藤」

 

 

草加は歩きながら言う。双方ともまっすぐ前を向いたままだ。

 

 

「ええ、しかしこれも草加さんの教育のおかげです」

 

「そんな教育した覚えはないな」

 

「『指揮官、上官、先輩の命令へは、ハイかイェスか喜んで』と防大の同部屋のとき教えてくれたではありませんか」

 

 

草加は軽く笑みを浮かべる。

 

 

「では何故そう答えなかった?」

 

「狭間陸将は防大の体育会系のノリを理解して頂けないからだと判断したからです。だから意訳を」

 

「お前らしいな。賢明な判断だ。私はこれからのことを防衛省に報告する。君はすぐに現場の指揮へ向かえ。権限は全て与えたと認識してもいい」

 

「了解」

 

「だが、くれぐれもやりすぎないように」

 

「了解」

 

 

そう言って2人は別れ、草加は部屋へ、加藤は隊舎へ向かった。

 

加藤1尉の右胸に光る徽章は蝙蝠(こうもり)の下に(さそり)といった風変わりのものであった。

 

 

***

 

 

ピニャは対応に困っていた。

 

見たこともない荷車なので敵か味方かどうかも分からない。なので敵でないなら姿を見せろ、と言ったのは良いものの、予想外の人物達の出現に参ってしまったのだ。

 

出てきたのは明らかに魔導師と思われるプラチナブロンドの髪の少女。服装は見たことのないもの(伊丹達からもらった現代洋服)ものだが容姿で判断できるエルフ、そしてエムロイの神官装束の少女。

 

特にピニャが危惧しているのはエムロイの神官、ロゥリィ・マーキュリーである。政治の宗教的なお付き合いで見たことあるので、正体を知っているためだ。

 

 

(まずい、魔導師とエルフだけでも厄介なのにロゥリィ・マーキュリーまでいるとは……)

 

 

ピニャの頭の中はいろんな思考がぐるぐると回っていた。

 

彼女らは敵なのか?ではなぜ先ほどの戦闘にいなかった?いたら既に陥落しているが……拒否するか?しかしもし味方になってくれるならこれ以上頼もしい存在はない。でももし敵なら?もし味方なら?ああ、お前たちそんな目で妾を見るな……妾だって判断がつかないのだ……

 

 

とこのように混乱している。無理もない、この世界では成人とはいえまだ少女のような歳なのだから。しかも初陣。部下などからのプレッシャーや皇女としてのプレッシャーがどんどんのしかかってきたのだろう。

 

 

一方、伊丹達も対応に困っていた。

 

イタリカに着いたは良いものの、どうやら絶賛防衛(タワーディフェンス)中。数回の(ヴェーブ)を超えてもう尽きた、とゲーム的に表現するとこうだろう。

 

簡単にいうと絶対絶命、というか街としての機能が全く無いのだ。

 

いざ着くと弓矢やら弩弓やら熱湯やらを向けられて歓迎される始末。

 

伊丹的には事を起こすつもりも無いし、巻き込まれるのもごめん。なので引き返そうと提案したにも関わらず魔法少女レレイによって一蹴される。レレイ曰く、ここで逃げたら敵と認識され、今後の活動に支障をきたす可能性が高いとのこと。

 

ということでレレイは誤解を解くために車両から出てしまい、それを守るためとテュカやロゥリィも出てしまったのこと。

 

というわけで、伊丹も困ってしまったのだ。

 

恐いの痛いの嫌いだか、みっともないのはもっと嫌。

 

そしてこれって大人として、男として、自衛官として、というか人として女の子(?)たちを危険にさらすのはどうよ、と思ってしまったのだ。

 

 

「俺、やっぱ行ってくるわ。おやっさん、なんかあったら助けてね」

 

「誰も行くなとは言っておりませんわ」

 

 

なぜか桑原曹長の代わりにお嬢様自衛官から返事が来る。

 

ちょっと複雑な気持ちになりながら伊丹は相手をこれ以上警戒させないためにも小銃を置いて出て行った。

 

しかし、ここで不幸が起きてしまった。

 

考えに考え抜いたピニャは、もう勢いでとにかくこの3人を巻き込んで味方にしてしまおうとしたのだ。

 

勢いだ、そう勢いでやってしまえ。

 

 

「よく来てくれた!」

 

 

思考回路がおかしくなったのだろうか、ピニャは勢いよく城門を開け、出迎えた。はずだった。

 

目の前に仰向けに白目向いている緑のまだらの服装の男が倒れていた。

 

そしてレレイ、テュカ、ロゥリィは一度伊丹に視線を向けると、次はピニャに冷ややかな視線を向けた。

 

 

「……もしかして、妾?妾なのか?」

 

 

冷ややかな視線を向ける3人は揃って頷いた。

 




もういっそ草加さんもオリキャラとして認識してください。見た目、性格とか変わりませんが。

オリキャラ苦手な方はごめんなさい。でもぶっちゃけゲートでもお前誰だっけ?という名前付き自衛官いますしおすし。


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ホント戦争は地獄だぜ!

オリキャラ登場ごとにお気に入りが減ったり増えたりする、ウェヒヒヒ。

でも一応結果的に増えたからもう一人なんかじゃない!



アルドゥインは困っていた。

 

前回の戦闘で使用した霊体化が未だ解けないのだ。おおよそ3日程度だと思っていたが、甘かった。調子にのって一番強力な霊体化なんか使うのではなかったと今更ながら後悔している。

 

周りには翼竜が未だコバンザメのように追従している。

 

時々食欲を満たすために降りるがまたすぐついてくるのだ。

 

なにもしてこないあたりが気味が悪い。しかし霊体化してるのでこちらからのアプローチも無理。

 

だからすこし困っているのだ。

 

まあ本音は霊体化だと何もできないからつまらないからなのだが。

 

 

(うーむ、次からは3フレーズではなく1フレーズにするか。しかし本当に退屈だな)

 

 

霊体化のおかげで余計な魔力の消費と破壊衝動が抑えられている分は良しとしなければならない、と自分に言い聞かせていた。

 

そんなところで、遠方から微かに戦場の匂いがした。匂いというよりは気配に近いが。

 

 

(まあ、暇だから見物にでも行くか)

 

 

本当は参加したいが今回はお預けか、と落胆するのであった。

 

 

***

 

 

これは夢だ。

 

伊丹ははっきりとそれは理解していた。しかし、それは夢にしては嫌にはっきりしている。そう、これは夢でも過去の記憶。

 

忘れたくても忘れられない、嫌な記憶ほどこうして忘れかけた時に夢に出てくる。

 

 

(くそ、こんなこと聞いてないぞ……他の部隊は陸海空全て非常事態で出動しているなか、まさか俺たちは裏で()()()()()やってるなんて……おっと!)

 

 

伊丹は揺れる地面に対しバランスを崩さないように低い姿勢になり、側の木に身を隠しつつ歩みを止める。

 

そして揺れが収まるとまた行動を開始した。

 

 

「しかし、まさかこんなことになるとはな」

 

 

伊丹の前を行っていた紺色の服に黒い防弾ベストを着ていた隊員が呟いた。ヘルメットも灰色で迷彩を施されていなかった。

 

陸自ではないのは明らかである。そして覆面をしていて、悪い足場にも関わらず機敏な動きから、伊丹と同じ()()()()()であると予想できる。

 

 

「合同訓練中からのいきなり本物の実戦への移行。映画だけじゃないんだな、まあよくあることなのかな」

 

「俺は知らんよ。海上ではよくあるんでしょ?」

 

 

俺だってこんなの初めてだよ、と伊丹は思った。

 

 

「かもな。しかし今回は予想外だ。まさか()()()()()するとはな」

 

 

こんなこと。そう、普通日本では起きないと思われていたこと。

 

 

敵性工作員の()()による排除。

 

 

普通なら、工作員が活動する前に警察が逮捕等による阻止などが行われるが、現在日本は発令はしていないものの、国家非常事態であるのは誰が見てもあきらかである。

 

そう、現在日本は()()()()()()()()である。つまり国の危機に陥っている。

 

陸海空全てが全力で対処している異例の出来事である。しかし、有事ではない。

 

 

「まだ結構揺れるな。他の部隊は東北に全速力で向かっているだろうなあ」

 

「そんな呑気に言ってられねぇよ」

 

 

伊丹はだるそうに答える。本当ならこんな命を捨てるようなことをやるのはゴメンである。しかし事態が事態なので渋々従うしかないのだ。

 

そしたらいつのまにかこんなことに。

 

 

「しっかし、2人で勝てんのかね。仮にも、ウチらとおたくらの精鋭部隊を1人でやっつけちゃう工作員とかどこの007?」

 

 

伊丹ともう一人の隊員を除いて他は全て無力化されてしまったらしい。ホントに007かゴルゴ13かもしれない。まあ、一応誰もまだ命を落としてないことだけは言っておこう。(あら不思議)

 

 

「伊丹は本当に面白いことを言うな。そう言うの嫌いじゃな……」

 

 

ちらっと振り向いた際の彼の目が全てを語っていた。

 

よく聞こえなかったが彼の隠された口の動きからはっきりと見えた、と思う。

 

 

伏せろ

 

 

伊丹は反射的に伏せると前方と後方から同時に何かが空気を切るような音がした。それとほんの数百分の1秒の差で炸裂音がした。

 

そして伊丹も伏せるとすぐに転がって背を地につけた状態で89式小銃を構える。

 

構えた方向には既に誰もいない。

 

後ろは……

 

さっきの隊員が壁にもたれかかって血を流していた。

 

 

「なあ、伊丹3尉……これが、自衛官の……本来の仕事なんだな……」

 

「おい!しっかりしろ!フラグ立てるなよ。いいな、絶対にフラグ立てるなよ!」

 

 

伊丹は応急処置及び無線連絡を行う。

 

 

「もう……ひと、つ……」

 

 

彼は何か言おうと口をパクパクさせるとそのまま糸の切れた人形のようになった。

 

 

「だからフラグ立てるなって言ったてるだろー!!」

 

 

***

 

 

気がつくと顔がびっしょり濡れていた。そして目の前には視界いっぱいに広がるゴスロリ少女の妖艶な笑みが逆さまに写っていた。

 

どうやら気絶していたらしい、と伊丹は察した。

 

それにしてもなかなかいい枕と思ったらまさかのロゥリィの膝枕だった。気持ちはいいが、もしかしたらさっきの夢はこいつ(ロゥリィ)のせい?とか思いそうだが人のせいにしてはいけない、と冷静になる。

 

なんか騒がしいと思ってよく見るとテュカが一人の女性に向かって怒鳴っている。何となく言ってることが理解できそうである。

 

ロゥリィ、テュカにレレイが大丈夫かと聞いてくる。

 

あら不思議。頭打った衝撃でなぜか脳内の言語の回路が色々と整理されたみたいで、今まで片言だった特地語が少し分かりやすくなってる。

 

これで受験生も頭打ったら英語楽勝だね(良い子も悪い子も真似しないでください)。

 

伊丹は服装を整えると無線で桑原曹長たちに無事を伝え、現在イタリカにおける指揮官の代表のピニャに色々事情を伺うことにした。

 

 

「え、妾が?」

 

 

***

 

 

アルヌス駐屯地作戦室

 

 

狭間陸将以下佐官級幹部が作戦室にて何やら喧騒な雰囲気で会議していた。

 

理由は伊丹からの援軍支援要請である。内容は以下の通り……

 

①イタリカという街が敵武装勢力(以下盗賊とする)から攻撃を受け、被害が甚大。代表のピニャ・コ・ラーダ氏より協力依頼のため支援要請。

 

②敵は元正規兵を主体とした盗賊であり、各種兵科の存在及び高度な戦術が確認された模様。規模も1000人は下らない。

 

③帝国側でも援軍を要請しているが、到着に最低でも3日を要するため、間に合わない可能性が高い。

 

 

つまり街がならず者に落とされそうなので助けてください、ということである。

 

この結果、各部隊の長が是非自分に、いや自分こそ、とちの積極的に具申しているのだ。

 

結局、狭間陸将は機動力の最も高いヘリコプター部隊である健軍1佐の率いる第4戦闘団にこの任務を任せることにした。

 

なぜか健軍たちは大音量スピーカーとワーグナーのCDを用意していくようだが、狭間陸将はあまり突っ込まなかった。いや、気にしてはいけないと自分に言い聞かせているのかもしれない。

 

特地にマスコミいたら絶対に不謹慎とか言いそうなものだが。

 

ということで、第4戦闘団はAH-1攻撃ヘリ『コブラ』、UH-1J多用途ヘリによる編隊の準備をすぐさま終えて出撃した。そしてロータ音を辺りに撒き散らしながらイタリカへと向かっていく。

 

 

「いやー、速いなあ」

 

 

そんな様子を森の茂みから見上げている者たちがいた。

 

 

「俺たちがほぼ半日かけて移動したあっと言う間だな。俺たちもヘリ申請するか」

 

「隊長、目的が違いますから。馬鹿なこと言ってないで行きますよ」

 

「あ、すまんね。でもやっぱり羨ましいわ〜」

 

 

顔に入念に迷彩のドーラン(塗料)を塗り、戦闘服のあちこちに特地特有の植物を身につけている隊員は森の奥へと姿を消して行った。




いいぞベイベー!

閲覧するやつは読者だ。お気に入り登録するやつは訓練された読者だ!ヒャーハハハ!

皆さまいつも閲覧ありがとうございます。


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ユーエイチ・ハンター・ダウン

アル様の出番少ないけど、特地のドラゴンが頑張ってくれる模様です。

デイドラ「最近私の出番ないわあ」

デイドラは心臓さえ提供していただければ良いのです。

デイドラ「え?」


イタリカでは伊丹たちは外壁の修復を支援したりと着々攻撃に向けて準備していた。

 

街の民兵も魔導師、エルフ、エムロイの使徒、そしてそして何より炎龍を倒したと言われる緑の人たちが味方してくれると聞き、士気が上がっていた。

 

伊丹たちも当初援軍が来るまでの全面的な支援をするかと思いきやピニャは最前線の一角である南門の防衛を求めた。

 

イタリカは街であるめ、東門と南門ではかなりの距離があり、これでは臨機応変の対応ができない、と伊丹たちは思うのであった。

 

これは伊丹は援軍か来るまでの間防衛ラインに戦力を集中して守りきれば良いという考えに対し、ピニャは相手を一度防衛線を突破させて自分たちが有利な状況にて消耗戦を強いるという戦術的な違いによって生じている。

 

別にピニャの戦術が悪いわけではない。むしろ今の状況を考えると結構理にかなっている。

 

見方は少ないが、敵も絶望的に多いわけではないので、イタリカを完全包囲はできない。となると敵も相手の弱点となる箇所に戦力を集中して突破する必要がある。そこでピニャは相手に弱いところと見せかけてそこに主戦力を投じるという戦法をとるつもりのようだ。

 

この姫実はできる、と作者は思う。これでも一応は日本では未成年なのだ。さすがは姫様。

 

まあ、伊丹とはそもそも世界が違うから仕方がないのだが。

 

 

というわけで、敵も見方も着々と準備が進んでいる。桑原曹長は隊員に位置取りを指示したり、栗林は個人用暗視装置を配っている。気がつけばもう辺りは暗くなっている。

 

そんな中、ロゥリィは伊丹に向かって尋ねた。

 

 

「ねえ、敵であるはずの帝国に、どうして味方しようとしているのかしらぁ?」

 

「街の人を守るためさ」

 

「本気で言ってるのぉ?」

 

 

どうやらロゥリィは伊丹たちの行動が理解できないようだ。

 

 

「理由が気になるのか?」

 

「エムロイは戦いの神。人を(あや)めることは否定しないわぁ。でもそれだけに動機がとても重視されるの。偽りや欺きは魂を汚すことになるわよぉ」

 

「ここの住民を守るため。それは嘘じゃない。ただ、もう一つ理由がある。俺たちと喧嘩するより、仲良くしたほうが得かも、とあのお姫様に理解して貰うためさ」

 

 

これを聞いたロゥリィは邪悪そうに微笑んだ。

 

 

「気に入った、気に入ったわぁ。それ。お姫様の魂魄に恐怖を植え付ける。自分はこんなものを敵に回している、と思わせ喧嘩するより仲良くしたいとおもわせるのねぇ」

 

 

まあ伊丹の認識とはずれるが、本質は間違っていない。うちらの世界にもそんな国たくさんあるもんね……

 

 

「そういうことなら、是非協力したいわぁ。私も久々に、狂えそうで楽しみぃ」

 

 

 

戦闘が開始したのは日の出の数時間前の真夜中であった。

 

余談だがさすがは元正規兵である。我々の世界の『孫子』にも日の出の前はもっとも人間が集中力が無くなるため、攻めるのにもっとも良い時間帯とされている。異世界でも常識のようである。

 

というわけであちこちで阿鼻叫喚の地獄絵図が繰り広げられる。でも暗いのであまり見えない、はず。というかほとんどの者はそんなこと気にしている場合ではないが。

 

元正規兵の多い盗賊団は何かに取り憑かれたかのように進軍する。

 

そして互いの弓戦によってまず火蓋は切られる。

 

現代戦のように暗視装置や照明弾は無い彼らは松明の僅かな明かりなどで戦う。

 

弓で、剣で、槍で、騎馬で、溶けた鉛で、熱湯で、石で、攻城槌で、そしてときには素手で人々は殺しあった。

 

一応ベテランの兵士の多い敵は先ほどの失敗を基により慎重に来るものかと思われたが、もうまるで溢れた洪水の如く勢いで攻めてきた。

 

殺して殺されてまるで死に場所を見つけたかのように。事実、アルヌス戦で自衛隊に一方的に戦闘とも言えないような戦闘によって肉体的にも精神的にも完膚なきまで叩きのめされた彼らは戦いに飢えていた。

 

そう、これこそ戦いなり。我は死に場所を見つけたなり。

 

と思っている者も実は至りする。

ホント戦争って地獄だね。

 

予想外の勢いにピニャを始めとするイタリカ側の人間は急速に士気を落としていくのであった。

 

しかもどうもこちらの矢が当たらないと思ったら矢が避けていくのだ。ノーマは敵に精霊魔法使いがいると判断した。

 

一方、南門では一人すごく機嫌が悪そうな者がいた。何やらすごく怖い顔して仁王立ちし、右手に巨大なハルバートを構えている。話しかけようものならその右手にあるものでぶっ叩きるぞ、という表情である。

 

 

「なんでよぉ!ここに攻めてくるんじゃなかったのぉ!?」

 

 

なんでイライラしてるんだろ。伊丹は恐る恐るレレイに聞いてみるが、原因は分からないと。

 

ただ、レレイの説明によると、戦場で倒れてゆく兵士の魂はロゥリィの肉体を通してエムロイの元へ召される。その際、多少の差はあるものの彼女に対して魔薬のような作用が起るので、快楽を得ることがある。

 

はずなのだが今の彼女を見るに快楽とは程遠い表情をしている。これもその作用の一つなの?それともなんか欲求不満なの?と聞きたくなるがレレイは原因は分からないと。

 

 

「きーー!このままじゃおかしくなっちゃう!」

 

 

腹の奥からの怒鳴り。彼女の声を聞いていた隊員の戸津はびくっと震えた。

 

 

「やべーよ、こえーよ……」

 

「いうな、俺もだ……」

 

 

別に怖いというわけではなく、何か男の本能が告げるのだ。この少女はやばい。

 

 

「栗林、ロゥリィに付いてやってくれ。男だと色々まずいかもしれないから」

 

 

あとなんかあっても多分お前なら死なないし、と伊丹は心の中でつぶやくのであった。

 

しかしロゥリィはとうとう自分の中何かが切れたらしく、3階ほどの高さのある城壁を飛び降りると、「やろう、ぶっ殺してやるぅ!」とか言いながら東門へと走って行った。

 

 

「富田陸曹と俺、そしてロゥリィと栗林の4人で東門に行く。桑原曹長、あとは頼む」

 

 

伊丹たちも近くにあった73式トラックに乗り込んで東門へと向かった。

 

 

 

この状況を遥か上空から見物していた者がいた。世界を喰らう者(ワールドイーター)、アルドゥイン。ロゥリィが欲求不満になる原因を作った(?)張本人である。

 

 

(見ているだけ、というのもいささか面白いものだな。これを見るとやはり定命者(ジョール)は愚かな生物だ。未だ我がやられたのも疑問におもう)

 

 

アルドゥインは身体に吸収されてゆく魂を堪能しながら様子を見ていた。

 

アルドゥインは自己や他の龍の魂を原動力としている他、人間など定命者の魂も利用している。

 

かつては下界(スカイリム)あの世(ソブンガルデ)をわざわざ行き来して英雄の魂を喰らっていたが、今自分に直接入ってゆく。便利な世の中になったものだ、としみじみ思うのであった。

 

まあかつての彼ならともかく、今やそこら辺の雑兵の魂などスズメの涙にすらならないが。

 

ちなみに、彼が好んで人の魂を喰らうのにも実は理由がある。あちら(スカイリム)の世界ではドラゴン、デイドラ(ドレモラ)などを除いて最も強く、量もある魂は人間なのだ。

 

あちらでは魂縛(ソウルトラップ)という魔法技術があるが、他の動物魂が普通の魂石(ソウルジェム)に魂縛できるのに対し、人の魂は黒魂石(ブラックソウルジェム)という特殊なものでしかできないのだ。

 

例えマンモスより弱いそこら辺の盗賊でもマンモスより魂は大きいらしい。あちら(スカイリム)では。

 

アルドゥインはそろそろ飽きたらしく、移動するかと思った矢先に何か奇妙なものを発見した。

 

イタリカに向かう空飛ぶ鉄の箱のようなもの。中には人間がいる模様。

 

はて、なんだあれはと素直に思った。自然界どころか天界でも一応(スカイリムでは)トップのドラゴンの彼でも、見たことがないものは無いのだ。

 

 

(なんだあれは?鉄の箱の上に何かが高速で回転して鳥のように飛んでおる。魔法具か?)

 

 

否、魔力は感じないと自分で否定する。そして記憶の中に思い当たる節が無いか模索する。

 

あった。

 

見たわけでは無いが部下がかつてDwemer(ドワーフ)の遺跡にあるカラクリについて話しているのを聞いたことがある。どうも水を気化したエネルギーを原動力とし、それに魔法を組み合わせてゴーレムなどを動かす技術らしい。

 

そういえばこの鉄の箱もカラクリっぽい。

 

そうしてもう一つは、炎龍との出会いで見つけた緑の兵士。魔法ではないが魔法っぽい何かで攻撃していた。これにこやつらも同じような色をしている。

 

もしこやつらが奴らの仲間なら、今後の展開が予想できてしまう。一方的な殺戮による勝利。どう見ても技術の差がありすぎるとアルドゥインは判断した。

 

 

(つまらん。真につまらん。殺して殺されることによって魂がより良いものとなり、さらに量も増える。我が霊体化してなければさらに喰らってやるのだが)

 

 

こやつらのせいで街側の人間は多くいきのこるだろうなと舌打ちするアルドゥインであった。

 

と思った矢先、周りの翼竜が一気に急降下していった。

 

何事か。と一瞬おもったが、彼らの意図に気づき、心の奥でうすら笑みをうかべるのであった。

 

 

***

 

 

日の出約15分前

 

AH-1 コブラの3機編隊を先頭にして、UH-1J 等のヘリコプター集団が全速力でイタリカへと飛んでいた。

 

 

「健軍1佐!あと5分で現地到着です!」

 

 

副操縦士からの報告を指揮官は頷いて受けた。

 

指揮官ヘリの中で再度段取りを確認していた。武器装備の確認も行われる。

 

他にも、どっかの誰かが持ってきた巨大スピーカーの準備にかかるどっかの誰かさんもいる。

 

 

「あと、3ふ……」

「敵襲!」

 

 

副操縦士の言葉が終わらない内に機内の誰かが叫んだ。

 

その叫びにパイロットは反射的に回避運動をとった。

 

健軍1佐は急激に回転する機内から僅かに敵を目視するチャンスがあった。

 

翼竜(ワイバーン)の群れ。

 

高いG(重力)のかかる中、帝国のワイバーン竜騎兵かと思ったが、背中に人間はいない。

 

自分たちだけではない。他の機体も予想外の攻撃に驚きつつも回避運動を行っていた。

 

自衛隊の練度はさすがであった。あの不意打ち、しかも急降下からの攻撃を見事かわしたのだ。今のところ損害はない。ただUH-1内部は悲惨なことになってるが。

 

このまま行けば問題ないと健軍は思った。資料によればワイバーンはヘリほど速くない。ならこのまま行けばよい。

 

もし先程の攻撃だけならばの話だが。

 

 

「第2波、来ます!」

 

「全員しっかりとつかまっておけ!」

 

 

波状攻撃。

 

まさかここまで知能があると誰も思わなかった。

 

 

「畜生!やつらヘリのローターに当たって死ぬつもりか!?」

 

 

確かに、翼竜とはいえヘリのローターに当たれば最悪ミキサーのように細切れになることもある。

 

しかし、危険性はヘリも同じで、ローターがやられば、少しでも曲がるようなことがあれば揚力や操縦に多大な影響を与える。

 

最悪墜落する。

 

第2波は予想できたものの、最初より危険であった。

 

回避運動のためにスピードを落としたり後方へ下がれば後方からついてくる第1波の翼竜の餌食になってしまう。

 

それでも各パイロット、コ・パイロットはそれこそ生死をかけて努力した。

 

そして第2波も乗り越えた。もう上空にはいない。第3波の危険性はない。

 

誰もが安堵したそのとき、()()が起きた。

 

最後の攻撃の回避運動でバランスを崩したコブラが、健軍の乗るUH-1に急接近してしまった。

 

 

(まずい!)

 

 

パイロットもそう判断し、急遽回避運動をとる。

 

空中衝突という最悪のケースは免れた。

 

しかし健軍たちは自らの機体の後方でがりっ、と何か嫌な音がすると機体のの振動が激しくなった。

 

衝突は避けたが接触は避けられなかった。

 

 

「おい、何か接触したようだが大丈夫か!?」

 

 

健軍は各隊員に確認をとる。正直、少なくとも自分機体は大丈夫ではない。振動がさらに大きくなっているからだ。

 

 

『こちらコブラ2。こちらのメインローターがハンター1のテールローターに接触した模様。こちらに異常はない』

 

 

接触したコブラのパイロットから無線が入る。ただ、次の報告は悪いニュースであった。

 

 

『しかしこちらから確認できる範囲でも、そちらのテールローターの状況はかなり悪いと思われる』

 

 

予想通り……健軍は口を噛み締める。ここは諦めるしかない。まさかこんな結果になるとは思わなかった。しかし特地を見誤っていた自分に全責任がある。そう決断した。

 

 

『本部、こちら健軍1佐』

 

『こちら本部』

 

『不慮の事故が発生した。速やかに帰投する』

 

『了解、直ちに帰投せよ』

 

 

健軍は本部と短い連絡済ますと、すぐに全隊員に命令する。

 

 

「作戦中止。全隊員帰投する!コブラは後方の翼竜を威嚇、排除しつつ、他はゆっくりと針路を変更して帰投せよ!」

 

 

まずコブラがゆっくりと後方に下がり向きを変えるとバックしながら翼竜を威嚇射撃する。そして排除できるものからすこしずつ排除していく。

 

しかし健軍たちのハンター1もすこしずつスピードが落ちてきた。

 

 

「パイロット、どうだ。正直でいい、行けそうか?」

 

「……正直に申し上げますと、かなり厳しいです」

 

 

それを聞いた機内の隊員の表情が固くなる。

 

 

『各隊員に告げる。万一、ハンター1が離脱した場合でも、他の隊員は速やかに帰投すること。これは命令である』

 

 

健軍の命令に他のパイロットたちは少し時間をあけて了承する。つまり、これは見捨てろという意味だ。

 

援軍が来るまで警戒させる方法もあるが、燃料の問題やまたワイバーンが奇襲した場合被害が大きくなる可能性があると考えたからだ。それなら被害を最小限に抑え、態勢を整えさせる必要があると冷静に判断する。

 

 

***

 

 

桑原曹長は双眼鏡でこの様子をしっかり見ていた。点にしか見えないが、辛うじてヘリであることはわかった。

 

ハンター1が急激に揚力を失って墜落するまでを。

 

 

「嘘だろ……?」

 

 

手に握っていた双眼鏡を落とすのに気付いたのは数秒後だった。

 

 




某魔法少女アニメ見てソウルジェムと聞いて私はスカイリムを思い出してしまった。

あと題名や内容の一部は某映画からです。わかるかな?


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猊下はヘリなくても勝てると思うの(原作なら)

誤字修正ありがとうございます。ただ、魔薬は原作でもこのようでしたので、恐らく特地には麻薬はないのでしょう。同じ効果の魔法の薬なんですよきっと。

あちらの亜人猫「猫は思う、ムーンシャインで作るスクーマみたいなことなのか」



「狭間陸将、お休みのところ失礼します」

 

「おう、かまわん。何かあったのか?」

 

 

柳田2尉が狭間陸将の寝室に入室した頃には既に陸将は起きていた。まだ出勤にはかなり早い時間帯だが。

 

 

「単刀直入に申し上げます。健軍1佐の率いる第4戦闘団が……」

 

 

単刀直入とは言ったものの、やはり口が重く感じる。狭間陸将はすぐにそれが悪い知らせと察した。

 

 

「何かの事故に巻き込まれたと考えられます」

 

 

 

***

 

 

『メーデー、メーデー。こちらハンター1、墜落する。テールローターが破損した模様。繰り返す、こちらハンター1、墜……』

 

 

録音された音源から大きな衝撃音と共にプツリと切れてしまった。

 

その場にいた誰もが言葉を発せなかった。

 

 

「これが全てか?」

 

 

最初に口を開いたのは狭間陸将。これだけではなく、今までの第4戦闘団と管制塔の全てのやり取りを聞いた。

 

 

「はい。これまでで全てです」

 

 

狭間の隣にいる柳田が答える。

 

 

「これでは生存者がいるのかどうかもわからんな……」

 

 

狭間はぐっと拳に力が入る。特地における多少のリスクの可能性は承知していた。しかし早期に本国でもなかなか無いような事故に見舞われるとは予想しなかった。そもそもこれを事故と見て良いのかも怪しい。これは戦闘なのか、動物による事故なのか、それともやはりヒューマンエラーなのか。

 

 

「このままではまずい。第3偵察隊の支援は延期となるが、まずはこちらの救助を優先する。すぐに救援隊を向かわせ、全員収容しろ!」

 

「狭間陸将、お待ちください!」

 

 

そこにいた者が各々の作業にかかろうとしたとか、柳田が止めた。

 

 

「私の予想では、航空優勢が確立されていません……」

 

 

航空優勢。現代戦における作戦遂行における鉄則である。これがあるか無いかで戦闘に勝敗の有無に関わる。もちろん、非正規戦などの例外はある。

 

現に航空優勢の無い自衛隊はさらなる損害を恐れてヘリコプターを出すことができない。さらに万一ということもあり、航空自衛隊の戦闘機を出すかどうかも躊躇ってしまう。かと言って陸上部隊を送れば時間がかかり過ぎてしまう。

 

 

「私に案があります」

 

 

ふと声の主に目を向けると、青い迷彩服を着た男がいる。一人だけ緑の迷彩に囲まれている姿は何となく異彩を放っている。

 

 

「草加、その案とは?」

 

「私の部隊をお使いください」

 

 

その言葉に他の幹部はざわめく。「海上(よそ)に任せられるか!」と怒鳴る幹部もいる。

 

 

「彼らは特殊な訓練を受けています。現に、定期的に特戦群と訓練、情報交換も行っています。救助後、第3偵察隊への支援も可能です。少なくとも、第3偵察隊の救出は可能です」

 

 

つまり、最悪の場合でも伊丹たちの命は保証はするということだ。

さらに隠密性、現在地が近いなどのその他の合理性についても説いた。

 

 

説明を聞いた幹部は皆黙ってしまった。冷静に聞いてみるとかなり合理的だとわかる。ただ一つ腑に落ちない所がある。それは狭間も例外ではなかった。

 

万一任せた場合、()()()()()がどうなるか、ということである。

 

結果がどうであれ、陸自の仕事を海自が横取りしたと感じたり、何か劣等感のようなものを感じるかもしれない。

 

統合運用の重要性が問われる今日においても、やはり日本社会は面子や立場と言うものを気にしているところはなかなか治るものではない。

 

 

(論理的に考えれば、今のところベストなのは彼の案だ。しかし、そうした場合陸自の各幹部の面子は丸潰れだ。私は構わんが、周りがどう判断するか……)

 

 

狭間陸将は最終決断に迫っていた。草加は海自だが、今は狭間の指揮下にいるため彼の行動権は狭間に委ねられている。彼がノーと言えば草加は承知するだろう。例え他の道が無くても。

 

 

「あともう一つ……」

 

 

その葛藤を草加は察したのか、それとも既に予想していたのか、新たに提案する。

 

 

「既に陸自に配慮して、彼ら全員陸自の迷彩服を装備しています。まだ我々がこちらにいることを知らない部隊もいると聞いてますので。それに伴い、今回の件は徹底して我々の素性を隠します。特戦群がやったことにすれば良いかと。そうすれば真相はここにいる我々しか知りません」

 

 

これを聞き、一部の幹部は「それなら仕方ない」といった感じで是認し始めた。しかし狭間や柳田はなぜかまだ険しい顔をしている。

 

 

「やれるのか?」

 

 

狭間は何か決断したのか、重い口を開く。

 

 

「はい、ご命令して頂ければ」

 

「分かった。なら第4戦闘団及び第3偵察隊の救助、支援の任務を君に任せる」

 

「了解。すぐに下達します。あと、衛生隊の準備をよろしくお願いします」

 

 

そういって一礼すると草加は作戦室を後にした。廊下を歩いていると後ろから誰かが近づいてくる、というか追いかけてきた。

 

 

「草加3佐。貴方は一体何がしたいのですか?」

 

 

柳田2尉はゆっくりかつ力強く尋ねた。しかし草加は振り向きもせず、その場で足を止める。

 

 

「ふむ、何がしたいかと問われても困るのだが。強いて言えば、私はあくまでも論理的に出した答えに過ぎない、と答えておこうか」

 

「そうですか、私には貴方のやり方が我々(陸自)の都合に良すぎて逆に何かあるのではないかと思ってしまいましてね」

 

「そうか、なら付け加えよう。私は日本のためにやっているだけと。それ以外何もない。陸自や海自のこだわりすら持ってないと言っておこう。それでは、時間が押しているので失敬」

 

 

草加の姿が見えなくなると、柳田は小さく舌打ちをする。

 

 

「くそ……一体あいつは何がしたいんだ……」

 

 

***

 

 

「……という訳で、これから救出作戦及び支援作戦を行う」

 

「「「え?」」」

 

 

加藤1尉は部下に宣言するが、何やら負の反応が返ってくる。

 

 

「しょうがねぇだろ、命令なんだから」

 

「あの、隊長……本当にこの装備でやるんですか?」

 

 

隊員の一人が恐る恐る質問する。

 

 

「……可及的速やかに行え、とのことなので帰って準備とか出来るわけないだろ、この装備で行う。不可能ではないでしょ?おい、お前らそんな目で俺を見るな!」

 

 

この装備、至って普通の装備である。つまり普通の装備で翼竜がいる場所、攻城戦中の軍隊に突撃しろということである。

 

 

「ちゃんと考えてあるから、勝てるから!」

 

「……隊長のこと信じますよ」

 

 

と皆準備にかかる。本当にこんな幹部で大丈夫かと聞きたくなるが、それは第3偵察隊も似たようなもんかもしれないので黙っておこう。

 

されど彼らは自衛官、なんだかんだ言ってちゃんと上官の命令には従い、支えてくれるのはやはり日頃の信頼関係おかげなのかもしれない。

 

彼らはそこら辺では売ってないような自転車に乗るとその場を後にした。

 

 

***

 

 

少しほど時間をさかのぼって

 

 

「ああ、くそ!支援隊はいつ来るんだ!」

 

 

案の定、ロゥリィと栗林は無双している。これ、特地無双ていうゲームですか?と普段の伊丹なら思いかねないが、来るはずの支援がまだこない。予定より30分過ぎている。

 

つまりロゥリィと栗林は30間格闘戦しているのだ。

 

剣道や柔道など格闘技している人ならわかりやすいかもしれないが、30分本気で格闘し続けることは相当厳しい。亜神(ロゥリィ)ならともかく、栗林は人間の女性である。

 

 

「なんだこの(あま)ぁぁあ!?」

 

 

敵がどっかの雑魚キャラみたいな断末魔を上げながら栗林に顔面を陥没させられる。

 

格闘徽章持ちがすごいのかそれとも彼女がすごいのかそれとも双方なのか。とにかく彼女はすんごい頑張ってる。いや、彼女は楽しんでいるといった方が正しいかもしれない。なぜ彼女を自衛隊のオリンピック候補にならなかったかが甚だ疑問である。

 

ぶっちゃけ伊丹は思った。支援来なくてもこいつらでよくね?と。

 

しかしそれは最初のほうだけであって、絶対数が足りない。この一角だけ勝てても全体としては負けてる気がすると伊丹の勘が言っていた。こういう嫌な勘はなぜか良く当たる。

 

現に、栗林は64式小銃1丁ダメにしたあげく伊丹から借りた(強奪した)小銃もそろそろダメになりそうである。伊丹は拳銃で応戦してるが、どちらかと言えば栗林の倒し損ねた敵を排除するといった支援だけだ。弾薬も残り少ない。

 

 

エムロイの下へ召されなさぁぁああい!(死になさぁぁああい!)

 

 

ロゥリィは相変わらずだが、効率が悪くなっている。これは決して彼女が疲れたり手を抜いてるわけではなくて、敵が慣れたのだ。

 

某格闘漫画によれば、人は多くても同時に4人しか相手にできないらしい。逆を言えば、同時な4人までしか倒せない。ロゥリィは例外としても、同時に倒せる人数に限りはある。

 

なので敵は密集して同時に襲いかかれば同時になぎ倒されるのを理解したらしく、彼女の攻撃範囲にぎりぎりはいるかはいらないかイライラするポイントで戦うことを学んだ。その結果、よりイライラさせただけだが、頭に血が上ってより効率が悪くなった模様。

 

 

『伊丹2尉!今よろしいですか!?』

 

 

無線で桑原曹長からだ。声からして緊急なのが分かった。

 

 

「何?今こっちもヤバイけど、そっちなんかあったの?」

 

『いえ、我々ではないのですが……支援に来るはずのヘリが撤退しました』

 

「へ?」

 

 

撤退?そもそも戦闘区域にすら来てないんですけど、と伊丹は思ったが口には出なかった。

 

 

『どうやら何かトラブルがあったのかと。実を言いますと先ほどヘリのようなものが急降下、もとい墜落していると思われるところを目撃しました』

 

 

正直伊丹は何かの聞き間違いであってほしいと思った。しかし現に支援ヘリが来てない。

 

 

『隊長、あと何やらこちらの門も怪しくなってきたので切ります。アウト』

 

 

この最後の言葉に伊丹は我に返った。今まで自分たちの周りしか見てなかったがよく全体を見ると敵が増えているのだ。

 

今までイタリカが相手していたのはほんの一部であったという事実を突き出され、伊丹は背筋が凍るような感覚がした。しかも何やら城壁内も騒がしい。

 

 

「各人撤退!城壁内へ戻れ!」

 

 

伊丹は最悪の事態に備えて、否、最悪事態を想定して撤退命令を出す。

 

 

「ちょっと!放しなさいよ!」

 

「もっとやらせろ!」

 

 

ロゥリィを俵を担ぐように抱え、栗林の首根っこ捕まえて伊丹と富田は73式トラックに戻り、南門へと撤退するのであった。

 

 

 

そんな彼らをアルドゥインは何か滑稽な物をみるかのように心の中で嘲笑っていた。




作者「我が主、アルドゥイン。この小説のキャッチコピーはなんでしょうか?」

アルドゥイン「全ジョール(生物)が(絶望で)泣いた」

作者「ふぇ?」


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救援隊は?俺たちさ

お久しぶりです。
最近我が主、アルドゥインの存在が(物理的にも)薄いですな。でも一応原作はゲートだから(震声)。



健軍1佐以下10名はなんとか形を残しているUH-1Jの後部で固まっていた。

 

機体が粉々にならなかったのはパイロットの力量だろう。燃料に引火しなかったのも運が良い。それにより、この残骸が現在彼らの最後の砦なのだ。

 

幸い死者はいないが、両パイロットを含む4名が重軽傷。その内の2人が脚の骨折を負っている。

 

彼らが出られない理由にもう一つある。

 

 

「ちっ、まだいやがるぜ。もう6時間は経っているってのによ」

 

 

ヘリからそう遠く離れていない場所から翼竜が2頭こちらを見張っている。

 

元々3頭いたが、墜落直後に襲ってきた個体の頭部に集中的に攻撃することでたまたま目に致命傷を与えたおかげで撃退に成功したのだ。その個体はどっかへ行ってしまった。

 

そして残り2頭は同じ過ちを繰り返さないよう学んだらしい。

 

 

「くそトカゲどもめ……ずる賢いぜ。俺たちが出てきた瞬間にゴチになるつもりだ」

 

 

隊員の一人がつぶやく。6時間も10人の男が密集していればさぞ大変だろう。しかし健軍はそんな中でも現状を冷静に分析しつつ、今回の事案についても分析していた。

 

確かに油断というか楽観視し過ぎたことは認める。そしてここが元の世界と常識の異なる世界だという事を忘れていた。しかし楽観視と言ってもそれなりの緊張感ももちろんあったのは確かであり、多少の問題にも対応できるよう日々訓練を積み重ねていたことは自負できる。

 

では他にどんな原因があるのだろうか。まず今までの情報が十分でなかったと思われる。銀座事件、アルヌス戦における経験から翼竜はそれほど速くないという情報があった。しかしこれはあくまでも人が騎乗している場合であることを見逃している。

 

人という物理的な重りがなくなった上、さらに彼らは本来人間なら耐えられない速度、動きができるようになったと考える。

 

そして予想以上の知能。野犬のように一気に襲いかかるのではなく、人間のような高度な戦術。波状攻撃がまさにそれを証明していた。彼らが元から知能が高いのか、それとも知能の高い個体が指揮していたかは謎である。

 

他にもなぜレーダーなどに反応してないかや、 そもそもなぜ得体の知れないヘリに攻撃を仕掛けたのかなど疑問の余地はあるが、それ以上考えこもうとしたところ突然の銃撃の音で我に返る。

 

 

「どうした!?」

 

「奴らがまた近づいて来たんで威嚇射撃しました!」

 

「そうか……次は緊急時以外は一報入れるように」

 

「わかりました!」

 

 

翼竜たちはこの威嚇でまたしばらく様子見することにしたようだ。もうこうなれば我慢比べだ、と健軍は思った。

 

まだ彼は諦めていない。無線が壊れ、連絡手段を失っても一つだけ分かることがある。自衛隊は仲間を見捨てない。救援隊は必ず来る。

 

 

***

 

 

「隊長、あれです」

 

 

加藤は双眼鏡で言われた場所を見ると、なるほどヘリの残骸から少し離れた場所に2頭の翼竜がそれを監視するように待機していた。

 

 

「あれSM-2やシースパロー(艦対空ミサイル)あれば楽勝で倒せるのになあ」

 

「隊長、そんな高価なもの我が社(防衛省)が認めるわけないじゃないですか」

 

「冗談だよ」

 

 

でもやっぱりミサイル欲しいなあ、と小さくつぶやくあたり多少は本気かもしれない。

 

 

「それはおいといて……」

 

 

加藤は部下に向かって最終的な打ち合わせを行う。

 

 

A(アルファ)班及びB(ブラボー)班から2名ずつ俺の直接の指揮下に入れ。うち、1名は特殊選抜射手とする。他は各班長の指示に従ってイタリカへ行け。後は事前に指示した通り」

 

 

それだけ伝えると各人は覆面に着ける。ドーランを塗った顔の上にさらに覆面を着けるのでなかなか奇妙である。逆に目立っている気がしなくもない。

 

指示通り加藤以下5名以外はそのまま自転車でイタリカへと急いだ。

 

 

「A1とA2は俺についてこい。B1とB2は射撃地点へ移動せよ」

 

 

指示通り2人はどこかへ走っていき、3人はほふくで目的地へとゆっくりと向かう。

 

比較的草の多い草原地帯なので無事翼竜に見つかることなくヘリの近くまでたどり着いた。見つからなかっただけで、翼竜は何やら不審に思っている。どうやら視覚以外にも感覚が鋭いらしい。

 

加藤は半開きのドアの縁を軽く叩いた。

 

 

「誰だ!?」

 

 

隊員の何名かが音の方向に一斉に銃口を向ける。

 

 

「味方だ!」

 

「へ、変態!」

 

「紳士!」

 

 

一体誰だこんな合言葉を考えた奴は、とそこにいる隊員のほぼ全員が思った。しかしこれはこれで日本人にしか通じないから秘匿性は高いかもしれない。女性隊員が聞いたらセクハラものであるが。

 

隊員が銃の構えを解くと加藤は少しだけスライドドアを開けると健軍1佐に報告する。

 

 

「特別任務部隊隊長加藤1尉です。救援に参りました」

 

「うむ、待っていたぞ」

 

 

健軍を含む第4戦闘団の隊員は一気に士気を取り戻した。疲労困憊ではあるが、表情に希望が見えたようである。

 

 

「ところで、救援隊は?」

 

「俺たちさ」

 

 

どうやら加藤たちを斥候部隊か何かと勘違いした隊員に対して答えた。それを聞いた他の隊員たちの目から光が薄れたのは気のせいだろうか。まあ予想はしていたが。

 

健軍は斥候部隊であろうとまず発見されたことが大進歩であったと考えているため、落胆はしなかった。彼の自衛隊は仲間を見捨てないという信念は確信に変わった。

 

ただ気になるのは彼らはどこの部隊かということだ。特別任務部隊と言っていたが、アルヌス駐屯地にそのような部隊は聞いていない。覆面をしているところから秘匿性の高い部隊、特殊部隊と予想できる。

 

 

S(特殊作戦群)か?」

 

「……その問いには答えかねます」

 

 

多くは語らない、それが十分な答えだと健軍は理解した。肯定も否定もしない。ご想像にお任せしますと。

 

 

「我々だけでアルヌスに送迎は厳しいですが、そのための基盤なら作れます。まずここから脱出して重軽傷者の手当てをしましょう」

 

「しかし怪我人をあの翼竜が待ち伏せしているなか脱出させるのは厳しいぞ。2人は足を骨折している。それに……」

 

 

健軍は加藤とその部下2人を見る。恐らく人数が足らないとでも言いたいのだろう。

 

 

「健軍1佐、特に問題ない隊員の人数は?」

 

「私を含め6人だ」

 

 

今度は加藤が健軍の部下5人を見る。

 

 

「十分です」

 

 

***

 

 

不穏な気配を察したのか、翼竜がゆっくりと近づいてきた。

 

先ほど威嚇射撃を受けた距離に入っても反応が無いのを確認すると、2頭の翼竜は一気に低空飛行体勢に入り突撃してきた。

 

 

「今だ!てっー!(撃てー!)

 

 

健軍の号令の下、ヘリ内で射撃体勢に入っていた隊員が一斉に64式小銃、軽機関銃(MINIMI)機関銃(M2ブローニング)の弾幕を張る。

 

予期せぬタイミングの反撃に翼竜は驚き、飛行をキャンセルしそのまま地面に伏せる。

 

小銃と機関銃の弾は翼竜の固い背中や頭部の鱗に弾かれる。

 

しかし撃滅が目的ではない。足止めを確認するとすぐに次の行動へと移行する。

 

 

「よし!怪我人を降ろせ!」

 

 

制圧射撃の数名を残し、隊員は怪我人を特別任務部隊の隊員に預けると特務隊のA1とA2はファイヤーマンズキャリーという担ぎ方で特に重傷者の2人を丁寧運びだす。

 

制圧射撃が少し弱まったことと、さほど驚異ではないと認識した翼竜はヘリから人が降りていくのを見るとトカゲのように地を這って進撃を続けた。翼竜には意外と丈夫な腕があるのでこれが可能なのだろう。

 

 

「健軍1佐!また進撃をして来ました!止まりません!」

 

 

第5戦闘団の隊員が叫ぶ。翼竜はトカゲのようにかなりの速さで迫ってきた。

 

 

「いいからそのまま出ろ!」

 

 

加藤は残りの重傷者を運搬中の健軍の部下を叱りとばす。やはり機関銃と小銃各2丁の火力では翼竜2頭の制圧は厳しかったようである。

 

 

「お前たちは先に行け!」

 

「隊長が退避するなら自分たちもします」

 

 

機関銃を構えている健軍は他の隊員に退避するよう命令するが、誰一人とその場を動かなかった。

 

そしてヘリからわずか10mほど離れたところまで翼竜来てしまった。

 

飛びかかろうとさらに頭を低くしたそのとき、1頭の翼竜の頭がはじけた。スイカ割で中途半端に潰れたように形を残しつつ弾けた。

 

そしてほんの一瞬遅れてやってきた銃声が微かに響いた。

 

その場から約500m離れたところから2人の隊員が巧妙に隠れていた。

 

 

D(デルタ)1、命中、ヘッドショット、無力化確認。次の目標D(デルタ)2、動きが止まる」

 

 

高性能双眼鏡を覗きながら情報を提供する隊員B1の隣には大きな狙撃銃を伏射で構えるB2が微動だにせず次の目標をスコープ内に捉えていた。

 

バレットM82

 

彼が使っていたのはアメリカ製のかの有名な対物ライフルであるが、様々なカスタムが施されており、恐らくオリジナルかと思われる。

 

報告ではM2ブローニングの12.7mm貫通弾を翼竜の腹部に当ててやっと効果があるとされている。

 

しかし彼が使っているのは本来装甲車など硬い対象を破壊する貫通力を高めた狙撃銃である。

 

さらにもう一つ工夫がされている。

使用弾は『Mk.211 Mod 0』、HEIAP(鉄鋼焼夷炸裂弾)である。

 

戦車や装甲車というものは実は予想以上に頑丈であって、単に貫通力を高めれば倒せるわけではない。この種の弾のように、貫通直後に炸裂や燃焼効果を持たせることにより内部の機関、弾薬、乗員などにダメージを与えるのだ。

 

今回は装甲車ではなく生物である翼竜に使われた結果、効果は抜群であった。頭部の比較的弱い側面から進入した弾は頭蓋骨もろともぐちゃぐちゃにしてしまった。

 

ちなみに、人間に使った場合炸裂する前に貫通してしまうが、下手すればそのままの威力で胴体真っ二つや、最悪何らかの原因で内部に残った場合、仮面ライダーの怪人負けの人体爆発ショーになるかと思われる。

 

 

「健軍1佐!貴方が最後です!」

 

 

健軍は機内に誰も残されていないことを確認すると機関銃を抱えて降りようとする。

 

しかしもう1頭の翼竜がそれを見逃すはずがなかった。怖気付いて止まったと思われていたが、突如跳躍して一気に距離を縮める。

 

その予想外の速さでB2はスコープから対象を逃すがすぐにまた捉える。しかしすぐには撃たなかった。

 

スコープ内にはっきりと見えた。健軍に食らいつこうとする翼竜、それを避けとする健軍。

 

そして翼竜の目にナイフを突き刺す自分の上官。

 

全てはまるでスローモーションのように感じた。極度の焦りからだろうか。いずれにせよ、片目を失い視覚の悪化及び激痛で翼竜は紙一重で健軍を逃す。

それを確認すると、まず翼竜の尻尾の根元辺りを狙う。

 

 

命中、貫通、そして炸裂。

 

 

翼竜は千切れた尻尾によりバランスを崩し、重心が前に傾いたことにより頭から落ちるように転ける。

 

次に右の翼の付け根。

 

 

命中、貫通、そして炸裂。

 

 

右の翼を失い、左右対称のバランスを崩した的はこちらに腹を向ける形で倒れる。

最後に、健軍と加藤が炸裂による危険区域を出たところを確認する。

 

狙うは心の臓。しかし胸の鱗で弾かれる可能性がある。だから腹を狙う。

 

 

命中、貫通、炸裂は確認できず。

 

 

しかし翼竜は体を一瞬うねらすと、そのまま沈黙する。

 

 

「D2の沈黙を確認。制圧完了」

 

 

B1が自らと隊長に報告している声が聞こえた。

 

スコープ内に映る男はゆっくりとこちらを振り向くと、親指を上げた。

 

 

***

 

 

西方砂漠、オブリビオンの門

 

 

沈黙していた門が真紅の光を放つと中からそれは出てきた。

 

 

「ったく、ご主人様はホントひでーぜ。何回喧嘩したら済むんだホントに。また仲裁してくれるやつさがさなきゃな」

 

 

そう言ってトコトコと4つ足で東へと向かった。




またあちこちで映画のネタ使ってしまった。いくつわかったかな?

さあ今回は誰が来たのでしょう。


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国際法?べ、別に違反なんてしてないんだから!

タグ付けされてまだ出てないのいる。
ごめんなさい。もうちょい待ってね。

???「ガルルル…(早くしろ)」



「これでよし」

 

 

重傷者の手当ても終え、最低限の野営可能なテントなども建てた。これで救援隊が来るまで凌げるだろう。

 

 

「それでは我々は先を急ぎますので」

 

「イタリカか?」

 

 

準備を整え、出発しようとする加藤に健軍が尋ねる。黙って頷く加藤。

 

 

「ならばまだ動ける俺の部下を連れて行ってくれ。きっと役立ってみせる」

 

 

健軍の後ろにはまだ動ける隊員5名がこちらを見ていた。疲れはあるものの、士気は高そうだ。

 

 

「まあいいでしょう。戦力は多いことに越したことはないでしょう。ただし、健軍1佐、あなたも来てもらいます」

 

「俺もか。しかしなぜだ」

 

「貴方は第4戦闘団の指揮官です。貴方の部下は貴方が一番理解しているはずです」

 

 

部隊の力を発揮させるためにもその部隊に慣れ親しんだ指揮官をつけるのが効果的であるという判断だろう。

 

 

「怪我人は私の部下を2名護衛に任せるので問題ないでしょう」

 

「そうか、感謝する」

 

 

***

 

 

イタリカはかつてないほど泥沼化していた。

 

予期せぬ敵の増援、来るはずの見方増援の撤退、物資の不足、双方の多数の損害が戦闘を膠着状態にさせてしまった。

 

圧倒的数的有利な敵があまり攻めてこないのも2人の狂戦士(ロゥリィと栗林)のおかげかもしれない。

 

ただ、それが原因で敵は迂回、ゲリラ攻撃など非正規戦のような展開をしてきた。結果、一部城壁内に進入してパニックになったがなんとか鎮圧できた模様。

 

 

「どうしてみんな私を避けるのよぉ!」

 

 

いつも以上にご機嫌斜めなロゥリィはいつも以上に殺意のオーラを出していた。正直伊丹たちも一歩引いてる。

 

弾薬も残り僅かになり、伊丹たちもかなり体力を消耗してる。一人を除いて。

 

 

「皆さんも銃が使えなくなったら近接武器使えばいいんですよ!」

 

 

なんでだろう。このロリ巨乳(栗林)はなんでこんな元気なんだろう。てかその槍どこから持ってきた?

とそこにいる隊員らはなんとも言えない目で見ていた。

 

 

「そ、そんな目で見ないでくださいよ!私だって64式があんなすぐ壊れると思わなかったんですよ。隊長のも壊したのは謝りますから!」

 

 

別にそんな意味で見てたわけじゃないんだけど。と伊丹は思った。しかし栗林は謝って済むかもしれないが、伊丹は報告書やら始末書やら書かないといけないことを想像して泣きたくなった。組織ってホントやだ……

 

 

「おい伊丹殿!」

 

 

振り向くとピニャがすごい勢いで伊丹に迫ってきた。

 

 

「援軍はどうしたのだ!?来ないではないか!」

 

「ピニャ殿下、それが援軍がドラゴンに遭遇して少し遅れるそうで……」

 

 

撤退と言葉は使わなかったが、一応嘘ではない。一応援軍は来る予定である。別のだけど。

 

ドラゴンと聞いてピニャの頭に一瞬例の漆黒の龍が過ぎったが、どうやら翼竜らしく、一瞬ホッと息をついた。もし漆黒の龍がいたらこんな街更地にされるかもしれん、と思ったからだ。

 

 

「しかし伊丹殿、もう我々には猶予がないのだ。早くしてもらわなければ

不味いのだ……」

 

「そりゃ十分承知してるのですけど……」

 

「姫様!また城門が突破されました!」

 

「あぁっ!もう!」

 

 

部下の報告に苛立ちを見せるピニャ。

しかし誰よりもまだ諦めていないのは流石である。

 

 

「よし、俺たちも行くぞ」

 

 

伊丹たちも支援すべく各々の装備を手に取る。一人だけなぜか槍を持っているが……

 

 

「隊長!発光信号です!」

 

 

桑原曹長の報告にすぐにその場所に双眼鏡を向ける。

 

人工的な光がゆっくりと規則的に点滅していた。

 

 

「隊長、読めますか?」

 

「ああ、一応通信隊で勉強したことある」

 

 

ト、ク、ム、タ、イ、ヨ、リ

ダ、イ、サ、ン、テ、イ、へ

コ、レ、ヨ、リ、シ、エ、ン、ス、ル

1、フ、ン、デ、ナ、イ、ブ、へ

ヒ、ナ、ン、セ、ヨ

オ、シ、マ、イ

 

 

特務隊より第3偵察隊へ

これより支援を行う、1分で内部へ避難せよ。伝達終わり

 

と伊丹は捉えた。

 

 

「ちょっとまて、避難しないといけないぐらいやばいもんなの?マジかよ……」

 

 

特務隊など聞いたことないが今はそんな悠長なこと言ってられない。伊丹はすぐに部下に城壁内に待機するように命じ、ピニャの方にもその旨を伝えた。

 

 

「やっとか!で、その援軍はどこにいるのだ?」

 

「まだ隠れていて……」

 

「何!?一体何をやっておるのだ、こんな時に!」

 

「ピニャ殿下、少々危険が予想されますので全員城壁内に退避するよう命じてください」

 

「うむ、もう少し待て。今ちょうど良いところなのだ」

 

「今命じてください」

 

「どうしても今か?」

 

「はい、無駄な犠牲を出したくなければ」

 

「ううむ……それなら仕方がない。全員門内へ退避せよ!」

 

 

それを聞いた民兵は急いで撤退し、門を閉じる。途中敵が追ってきたりしたがなんとか間に合った模様。

 

とそのとき、そらから何か風を切るような音がその場にいる全員に聞こえた。

 

 

ヒュルルルルルーー

 

 

 

***

 

 

「おお、やってるやってる」

 

「この音は……迫撃砲か?」

 

「まあ、そんなもんです」

 

 

健軍1佐率いる第4戦闘団の一部と加藤1尉率いる特務隊一部が特務隊の本隊に遅れて合流してきた。

 

 

「班長、状況報告せよ」

 

「はい。指示通り試験型軽迫撃砲による鎮圧を行っております。まだ進行中であるためまだ結果は出ておりません!」

 

「試験弾だな。風向きが変わるかもしれないから十分に注意するように。その際はガスマスクの着用を徹底せよ」

 

「了解」

 

 

班長は報告を終えるとまた指揮に戻る。

 

 

「加藤1尉、これは一体……?」

 

 

健軍1佐は次々と迫撃砲弾が撃ち込まれるイタリカ周辺、そして使用している迫撃砲そのものに驚きを隠せないでいた。

 

 

まず迫撃砲。外見は明らかに一般的な迫撃砲とは異なる。

 

なぜか自転車の部品のようなものがあちこち見られる。台座は車輪、調整器はペダル、などなど。誰がどう見ても自転車の部品である。

 

 

「あ、詳しいことは答えられないので聞かないでください」

 

 

加藤は健軍に釘を刺すように言う。どっち道、聞かれてもまともに取り合ってくれないだろう。

 

もう一つ、明らかにイタリカが異常なほどに煙が蔓延していた。火災による黒い煙ではなく、かなり濃い白色の煙である。よく見えないが、中にいる敵は何か転げまわっている模様。事情を説明してもらおうと加藤の方を向くと……

 

 

「詳しいことは答えられないので聞かないでください」

 

 

この男、背中に目でもついてるのか、と思う健軍であった。

 

 

***

 

 

「ギャァァァアア!」

「何だこれはー!?」

「これは天罰なのか!?それとも何だ!?」

「魔法なのか!?これは魔法なのか!?」

「目が、目がー!!」

 

 

イタリカ城壁外の盗賊団は全員転げ回っていた。目から涙、鼻水、涎とあらゆるものを垂らしながら、顔を押さえて転げる者、咳き込む者、縮こまる者、と様々であった。

 

 

「コー、ホー……隊長、これって……」

 

 

顔はよく見えないが、体格、女声から栗林らしい。

 

 

「催涙弾かな……コー、ホー」

 

「何でこんなものが、コー、ホー」

 

「うん、俺もそう思うよ……シュー」

 

 

しかし伊丹は何故か心当たりがあるような気がした。

 

 

「俺たちは防毒マスクしてるから大丈夫ですが、他の人は大丈夫っすかね?」

 

「一応口と鼻に厚い布当ててあまり顔を露出させないようには言ってあるけど……」

 

「ギャー!妾の目が!目が!」

 

「イッタいぃ!何よぉ、これぇ!」

 

 

あちらで姫様の悲鳴が、そちらで亜神の絶叫が聞こえた。

 

 

「やっぱこうなるよね……」

 




なんかジ○リキャラ混じってると思っても、それはきっと気のせいですから。


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気づいたら勝っていた

国際法上、催涙弾を敵国相手に使うのは禁止です。あくまでも戦争で敵国にですが(誰も特地が外国とは言ってない)。


ピニャは、伊丹、ロゥリィ、テュカそしてレレイを前にして語るべき言葉が見つからなかった。というかまだ目が痛み、鼻水も出る。

 

この4人中3人も同じ状況らしく、目が赤くなっている。

 

確かに、ピニャは勝者ではあるが、そのような実感はなかった。何故なら本当にいつの間にか勝っていた、からだ。

 

空から何かが落ちる音がしたと思ったら城壁外が一瞬で霧に囲まれたように白い煙が辺り一面に広がった。すると外にいた敵全員が苦しみ、悶え始めたのだ。

 

これは正に奇跡。何の魔法かは知らないがあの大群が一気に戦闘不能になり、これで我々に有利に……と思ったら煙がこちらにも広がって敵の苦しみを妾自身で体験することとなってしまった。

 

それはそれはもう苦しいとしか言いようのない苦しみだった。目は開けられないわ、開けても涙で視界は見えないわ、皮膚は劇薬を塗ったようにヒリヒリするわ、喉も痛めて咳も出る、鼻水も出る……とても人が耐えられるようなものではない。

 

にも関わらずどうやらジエイタイはその煙の中を平気で動き回り、盗賊団を制圧してしまった。しかも無血で盗賊団全員を拘束してしまったようだ。視覚がやっと戻った頃には2、30人のジエイタイが数百人の盗賊を拘束して囲んでいた。一体どんな魔法使ったのだと心底驚いてしまった。

 

よくわからないまま戦闘も終わり、一応の勝者となったのだ。目と鼻と喉をすごく痛めたが。

 

これにより、今回の捕虜は敵本隊ほぼ丸ごとという今までに事例のない結果となった。

 

しかし今回の功績はジエイタイのおかげだ。妾のではない。今回彼らは何を要求してくるだろうか?

 

もしかしたら次は妾たちの番なのか?

よくよく考えてみれば彼らジエイタイと帝国は現在戦争中である。

 

一体何を要求してくるのだ?開城か?そして一気に攻め落とすのだろうか。今の戦力では到底彼らには敵わない。

 

攻め込まれたら妾とミュイ伯爵公女を始めとして辱めを受けるかもしれん。一体どんな屈辱を受けるのだ?異世界は底知れぬ……×××××(ピーッ)をされてしまったり、○○○○○(ピーッ)△△△△△(ビーッ)するかもしれない。くっ、いっそ殺せ!

 

今なら妾は彼らの足の甲にキスして許しを懇願してしまうかもしれない。どうなるのだ……

 

 

とピニャは一人で頭の中で色々と大変なことを考えていた。どうやらこのお姫様は男性経験も無いのにくっころを想像する癖があるのかもしれない。現代日本に来てたら一部の層ではきっと人気者になったであろう。

 

一方、伊丹と健軍は段取りを決めていた。

 

 

「健軍1佐、よくご無事で……」

 

「何とかな。お前たちもよく守りきったな」

 

「さっきの攻撃は第4戦闘団で?」

 

「いや、別の部隊だったな。最後の制圧だけは我々が主導で行ったが」

 

「ですよねー。第4戦闘団は確かヘリですし。で、その別の部隊は?」

 

「……どうやら撤収したらしい。後はこの場の先任幹部に任せますとか言って。あと帰りは第3偵察隊に怪我人含めて乗せてもらうよう言われたな」

 

 

それを聞いた伊丹はああやっぱり……と心の奥で思った。

 

 

「どうした?何かあったのか?」

 

「いえ、特に。後で怪我人のいるところまで誘導お願いします」

 

「ああ、よろしく。さて、条約の案はこんなものか」

 

 

条約とは堅苦しい表現が多いが、簡単にするとこんな感じ。

 

 

一、今回の戦いの捕虜5名くらい連れて帰るから。残りはあげるけど人道的に扱ってね

 

二、今回の支援の対価として日本から使節とか送るけど安全を保証してね。あとその際にかかる費用はある程度そちら持ちで

 

三、ジエイタイが管理するアルヌスの組合がイタリカで商売する際は税金とか免除ね

 

四、ジエイタイは用が済んだら何も悪いことぜずにすぐここ出て行くけど、今後も来るかもしれないからそのとき自由に行動させてね

 

五、この協定は1年間有効。でも誰も特に止めたいとか言わなかったら自動更新ね

 

 

このように、ピニャ側と自衛隊側は協定を確認しあった。もちろん本物はちゃんとした文章なのでご安心を。

 

この際、人道的の意味が理解できなくて多少の誤解等はあったものの、捕虜を粗末に扱わないということでピニャは合意した。

 

ちなみに、彼の有名なクラウゼヴィッツによれは、戦争とは相手に自分の要求を力によって飲ませることを指すので、このように思想等を武力をチラつかせて押し付けるような行為自体侵略のような気もしないわけでは無いが、一応ピニャたちも納得してるので大丈夫だろう。

 

うん、ジエイタイハ侵略ナンテシマセン。だってここ、一応日本国内だもんね。これは侵略ではない……はず

 

ということで双方はこの条約で合意し、代表のミュイ、そしてその後見人としてのピニャ、そしてジエイタイ側のケングンがサインをし、それを二つ作ってそれぞれの手に渡った。

 

この際、ピニャはこのような好条件で結べたのはハミルトンの交渉術が予想外に良かったからだと誤解してたりする。

 

かくして、協定締結も無事終わり、効力は即時発動となり一応の平穏が訪れた。ピニャたちは街の再建に向けてしばらくイタリカに滞在する模様である。

 

 

「伊丹2尉、さっきから女の子ばっかり選んでませんか?」

 

 

連れて帰るから捕虜の選定を行っている伊丹に栗林が呆れたように言い放つ。

 

 

「えー?そんなことないよー。気のせいだよ、きっと。たまたま。」

 

「そうですかね……」

 

「もう、分かったよ一人男連れて行けばいいんでしょ」

 

 

伊丹は渋々5人目は男にした。つまり4人は女性である(一部人外)。こりゃどう見ても女の子だけ連れて帰る予定だったのは誰が見ても明らかなのだが。

 

 

その後、伊丹たちは本来の目的である翼竜の鱗の売却にリュドー氏を訪ねた。

 

先の協定にやる免税、そして元々カトー先生の知り合いということもあり、話はトントン拍子で進んだ。しかし残念なことにリュドー氏の手持ちの金額が予想より少なかったため、全て売却ができないのだ。

 

よくあることである。あちらの世界(スカイリム)でも店主が貧乏なので物がうまく売れず、溜まっていき、重量オーバーで泣く泣く物を手放すことになる初心者冒険者(ドヴァキン)がどれほどいただろうか。

 

そこでレレイはこのように交渉した。鱗は今あるだけの金で全て譲る。ただし、物流、物価、相場などの経済情報、それもできるだけ多く、詳細な情報が欲しいと。

 

リュドー氏はこれには驚いた。経済情報を買うなど今まで聞いたこともないからだ。しかしそれだけで大金が入るならこれも商売である。リュドー氏はこの提案を了承し、できるだけ早めに情報を提供すると約束した。後に、この情報は自衛隊にとって多いに役立つのはまた別のお話。

 

こうして、長い長い自衛隊のおつかいの旅が終わり、やっと帰路につくこととなった。その際、住民たちは手や帽子を振って見送ってくれたため、彼らは自衛隊を好意的に捉えてくれたと思う。

 

めでたしめでたし。

 

 

***

 

 

「隊長、どうして早めに撤収したんですか?」

 

 

休憩中の加藤に部下の一人が尋ねる。

 

 

「聞きたい?」

 

「もし聞かせてくれるのなら」

 

 

加藤は煙草の火を消すとニコッと笑う。

 

 

「面倒くさかったから。強いていうなら健軍1佐連れていったのも全部面倒なこと押し付けるため」

 

「隊長!あんた鬼や!」

 

「鬼じゃないよ。鬼畜だよ」

 




ArAnEl 先生の次回作にご期待ください。

アルドゥイン「は?何か言ったか、ジョール?」

嘘です、ちゃんと続きます。書きます。


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再会

アルドゥインはストーリー設定上は強いんですよ。ゲーム設定上はLegendary にしないと……まあ察してください。



誠につまらん

 

 

アルドゥインの頭にはただそれだけであった。

 

別に何もできなかったからつまらないというわけではなくて、面白味がないからつまらないと感じていた。まあ実際破壊衝動が無かっただけで、破壊願望はあったが。

 

 

(なんだあの緑のジョール(人間)どもは。いつもいつも我の邪魔ばかりしおって!)

 

 

アルドゥインは怒り隠せきれなかった。もし霊体化が解けていたら周りの空間は歪んでいたかもしれない。

 

 

(おかげで配下となった翼竜も大半が死におったし、当初予定していた戦士の魂も予想外に少なかった。しかも翼竜を蘇らせるために無駄な浪費をさせおって……これではまるで……まるで……)

 

 

アルドゥインはそれから先の言葉が出なかった。なぜなら、彼の頭を過ぎったのは、

 

 

ドヴァキン(ドラゴンボーン)

 

 

ドラゴンボーン。スカイリムにおけるノルド人の伝承に残る伝説的英雄の存在。人の形をしていながら龍の魂を持ち、龍の力の源である龍語(スゥーム)も操れる者。ドラゴンの同族と考える者いれば、ドラゴンの天敵とも考える者もいる。

 

何を隠そう、彼もドラゴンボーンに敗れてこの世界に再誕したのだから。彼の計画を幾度も妨害し、最後は彼の命も奪い取ろうとした。幸いなことに、魂を吸収されなかったことがせめての救いだったのかもしれない。

 

 

(……いやいや、そんなことはあるまい。第一ドヴァキンのような魂を持つ者は一人もいなかったではないか。イレギュラーはいたが。それに万一ドヴァキンだとしても、ドヴァキンだから我を倒せるわけではない。前のドヴァキン(主人公)あの時の我(ラスボスという名やられ役)に対して強すぎたのだ)

 

 

うんうん、とアルドゥインは自分に言い聞かせる。

 

 

(しかも遥か昔に我々ドヴァ(ドラゴン)に仕えていた初代ドヴァキンなど、裏切ってどっかのデイドラロードに支えて我々の何匹を殺したが、最後はあっけなく死んだな。我を倒す、などど豪語しておったが、瞬殺だったな。うむ、きっと大丈夫だ)

 

 

などと自問自答して納得(現実逃避)するアルドゥインであった。

 

と気がつけば霊体化が解けていた。

 

 

「…………」

 

 

うむ、タイミングが悪すぎる。

なぜこうも物事はうまくいかないのだろうとつくづく思うアルドゥインであった。

 

戻って暴れてやろうか?

 

いやいや、そうすれば何か悔しくて戻って八つ当たりしてるみたいではないか。あらゆる種族の頂点たる者がそんなのではいけない。

 

とよくわからないプライドのようなものは一応あるようである。龍とは人間には分からない思考をしてるようである。

 

仕方がないので争いの起きそうなところに行くか、新たな発見をするために探索するか迷ってると、配下の翼竜の一匹が猛スピードでこちらへ向かってきた。

 

 

「うぬ?何かあったのか?」

 

 

と思ってるとただならぬ気配を感じた。

 

その気配を感じたアルドゥインはニヤリと微笑んだような気がした。

 

 

***

 

 

腹減った

 

 

だから目の前の翼竜を全力で追いかけていた。

 

最近は万が一あの緑の人間がいるかもしれないということで人の目に触れないよう行動してきた。そのため、食料としての人間に接触する機会もなく、手当たり次第食べられる物は食べた。

 

しかしどうも量が少ない。人間の家畜にも手を出さないようにすると野生の動物しかいないのだが、どうも遭遇率が悪い。もう何でもいいので出てこいと思ったら翼竜が出てきた。

 

近種の翼竜はあまり好みではないがこの際どうでも良い。何でもいいから食わせろ!と追いかけていたのが周囲の警戒を怠らせていたらしい。

 

奴が目の前に現れるまで気づかないなんて……

 

 

「見つけたぞ!ヨロス・ドヴァ(炎の龍)!」

 

「んあ!?」

 

 

そのせいで緑の人間と同じくらい会いたくなかった存在に遭遇してしまった。得体の知れない龍(アルドゥイン)に。

 

食事中に出くわすなど最悪のタイミング。もう腹が減って泣きそうなほどだが命が惜しいので退散することにした。龍は互いに互角なら無駄な争いは好まないはず。恐らく彼のテリトリーなので出れば問題ないだr……

 

 

「なぜ貴様逃げるのだぁぁああ!」

 

「貴様はなぜ追いかけてくるのだぁぁああ!?」

 

 

と咆哮に咆哮で返す2頭の龍。

 

炎龍はおもった。

なぜだ。なぜこんなことに……

 

この前初めて会った新参者だと思ったが何か違う。新参者にしても常識がなさ過ぎる!てか貴様何竜だ!?

 

炎龍、水龍などファルマートにも幾つかの種類がいるが、彼はどれにも該当しない。何なのだ。一体何なのだ!

 

と思いながら逃走する。もう飢えのことなど忘れた。

 

全力で急降下滑空しながら逃げる。

 

急降下によって位置エネルギーをそのまま運動エネルギーに変えて低空飛行に移行させ、高速度を維持しながら

グライダーのように飛び出す。

 

その速度、巨大に似合わずかなりのものである。近づこうものなら風圧でことごとく吹っ飛ばされるだろう。それはもう船が高速で空を飛んでいるようなものであるから当たり前と言えば当たり前だが。

 

後ろを見ると奴の姿は見えない。しめた、これなら逃げ切れると思い、速度を維持しつつ自分の住処へと帰投する。

 

食事を見逃したことは非常に残念だが、奴がいなくなるまでしばらくじっとしておいた方が良いだろう。別に勝てないから、というわけではないと自分に言い聞かせる。あくまでも合理的な判断でそうなったのだ、と思考を巡らせながら山頂付近の洞窟へと進んで行く。

 

 

「遅かったな、待ちくたびれたぞ」

 

 

はい?と炎龍は一瞬耳を疑った。

目の前には先ほど自分を追いかけていた例の漆黒の龍が闇に紛れてこちらを見ていた。

 

何でと言われても目の前にいるのだからそいつはいるのだ。炎龍はかなり困惑した様子であるのが分かる。

 

そして炎龍は予備動作も行わず全力でその不審龍に対して火炎放射を叩きつける。それが怒りのためか、それとも恐怖なのか、はたまた反射的に攻撃したのかは定かではない。

 

 

「貴様は本当に学ばんな。この世界の龍の実力はその程度か?」

 

 

アルドゥインは特に防御も行わずその炎をありのままに受けるが、予想通り無傷というか気にしてすらいない。

 

 

「貴様に手本を見せてやろう。Yol() Toor(業火) Shul(太陽) (ファイヤブレス)!」

 

 

アルドゥインは普段はこのような基本シャウトは無音でも行える。しかし格の違いを見せつけるためにもある程度強化するためにわざと発声した。

 

基本といえど異世界の龍王である彼のファイヤブレスは格の違いを見せつけた。そもそも、ブレスと言うが彼の場合は息吹というより光線のようである。よく漫画やアニメで見る感じの炎の光線。収束された炎は炎龍の拡散型の炎とは性質が違うようだ。

 

炎龍のブレスが生物種としてのドラゴンの自然の炎に対し、アルドゥインは生物を超越した概念であるが故、むしろ魔法攻撃に近い。

 

炎の光線が炎龍に直撃し、炎龍は咆哮を上げる。しかし腐っても炎龍、ファルマートにおける炎を操るドラゴンの中では最強クラスである。なんとアルドゥインの炎を耐え切ったのだ。

 

 

「……お前は強いな」

 

 

アルドゥインはどこか満足そうであった。それに対して、炎龍は酷く動揺している。

 

 

「お前は……何なのだ!?」

 

 

アルドゥインを見た目で判断するなら漆黒の龍である。しかし炎龍はそれが自らとは明らかに異なる別の何かだと直感が告げていた。

 

見た目はドラゴン、しかしドラゴンではない何か。例えるならそう、人から見た人の形をした悪魔や超人、または神のような存在。

 

 

「先に自らのことを名乗りもせず、先に我に名乗れとはな。とんだ命知らずだな、貴様」

 

 

その言葉に炎龍はカチンと来たようだ。ここの奥では明らかに格上の相手であることは分かっていた。しかし龍としてのプライドか何かがそれを覆してしまったらしく、炎龍は一気に距離を詰めると漆黒の龍の首に牙を立てる。そして腕でしっかりと掴み、逃げないように抑え込もうとする。

 

ブレスが効かないなら一回り小柄の相手に対して肉弾戦なら一矢報いることができると考えたのだろう。しかしそれは最大の間違いであった。

 

 

「ほう、腕というものがあればそのように使えるのか。参考になるな。どうだ、気が済んだか?」

 

 

炎龍は本気で食らいついたが、まず手ごたえがない。しっかり咥えている。触れている。しかしそんな感じがしないのだ。さらに力を入れても入れてもまるで水を噛んでいるような感覚だ。しかし鋼鉄のように硬いようでもある。

 

そして自らが最大の間違いをしたことに気づいたころには既に遅かった。

 

 

Joor Zah Frul(ドラゴンレンド)!」

 

 

3つ目の単語を唱え終えると同時に炎龍は地面に叩きつけられ、まるで何かに押さえつけられているか、それとも縛られているかの如く一切の動きが出来なくなってしまった。

 

 

「ぐおぉぉぉおお!!?」

 

「我がジョール(定命の者)が編み出した忌むべきスゥームを使うとはな……しかし便利なものだ。初めてだが思ったより簡単だな」

 

 

ドラゴンレンド

 

 

かつて人間がこの世界を喰らいし者(アルドゥイン)を葬り去るために編み出した人間由来の龍語(スゥーム)

 

アルドゥイン自身が受けた際は、飛行能力を奪われ、死の概念を与えられしまい彼の敗北の決定要因となったのだ。

 

ドラゴンレンドは日本語に訳すなら『龍殺し』辺りが妥当だろうか。他の龍に用いても飛行能力を奪うなど大いに弱体化させることが可能である。

 

対龍兵器としてのドラゴンレンドは人間が生み出したゆえ、本来はドラゴンは使うことはおろか習得すら出来ない。主な理由としては、不老不死の存在であるあちら(スカイリム)のドラゴンは『死』という概念を理解出来ないため、その『死』の概念を与える効果のドラゴンレンドを理解出来ないためとされている。

 

しかし、その張本人がなぜかそれを使いこなしている。

 

 

「その状態なら何も答えれんな。よかろう、特別に我から名乗るするか。

我は世界を喰らいし者(ワールド・イーター)、アルドゥイン。エイドラの主神アカトッシュの最高傑作である」

 

 

アルドゥインは身動きのできない炎龍の頭を踏みつけると、静かに語った。

 

 

「貴様に選択肢を与えよう。

 

1.我に従い、我の配下となれ

2.死ね

 

どちらを選んでもよいぞ」

 

 

これはあんまりにも理不尽である。人間でいう奴隷になるか死ぬか、2択以外はないと宣言されてしまった。

 

 

炎龍馬鹿ではなかった。多少の龍としてのプライドはあるものの、命を捨てるほどのものではない。第一、死んでしまったらそんなプライドは消滅してしまう。

 

 

「お前の……配下になる……しかし、条件がある……」

 

 

炎龍は全身から絞り出すように声を上げる。この悪魔のような龍に条件を出すなど命知らずなのか馬鹿なのか、それともそれほどまでも追い詰められているのだろうか。

 

 

「ふむ、続けろ」

 

「見ての通り、私は死にかけている……何も食っていないんでね。お前の配下なり下僕なり奴隷なり何でもなってやる。その代わり、私を保護してくれ」

 

「……よかろう。しかし、それはお前次第だ。我に忠を尽くせ。我に尽くす限り貴様は龍としての栄誉と喜びを得るだろう」

 

 

どうやらドラゴンレンド(拘束)が解けたらしく、炎龍はゆっくりと起き上がると、その頭を地面につける。この世界の龍の服従の意味のようだ。

 

 

「これは賢明な判断への褒美だ。受け取れ」

 

 

すると炎龍は身体に何かが流れるような感覚がした。空腹も無くなり、逆に力がみなぎってきた。

 

 

「我が主アルドゥイン、大変恐縮ではあるがお願いがある……」

 

「わかっておる」

 

 

アルドゥインは岩影に近づくと、そこには2頭の小さな龍が怯えて小さくなっていた。アルドゥインはその2頭にもエネルギーを分け与える。すると小さな龍たちは少し安心したような素振りを見せる。

 

 

(ふむ、龍のこどもとはな。この世界の龍と我の世界の龍は根本的に何か異なるようで興味深い。色々と調べる必要があるかもな)

 

 

そう、アルドゥインは子供の龍を見るのは初めてである。何故なら彼の世界の龍は仔龍を産む必要がないのだから。

 

 

「ところで、我はお主の名前をまだ聞いてないな」

 

「我が主殿、私には名前というものがない。人間は私を古代龍や炎龍とよぶのだがな」

 

 

アルドゥインは一瞬考える。名前を持たないというのも初めての文化である。ヨロス・ドヴァ(炎龍)と呼ぶのもありだが、それでは芸がない。自分の配下たるものそれに相応しい名前が必要である。

 

 

「ではこれよりこう名乗るがよい。

『ヨルイナール 』(Yol() In(極めし者) Aar(従者))」

 




アルドゥイン
Al(破壊者) - Du(貪り食う) - In(主)

パーザナックス
Paar(野心) - Thur(大君主) - Nax(残酷)

オダハヴィーング
Od(雪) - Ah(狩人) - Viing(羽)

などがあります。ヨルイナールはアルドゥイン様の名前の一部を頂けたことに光栄に思うべき。これで炎龍も名前持ち(ネームド)ドラゴンになれたね☆


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混沌編
フラグ戦とはフラグを立てまくる戦いではない


今回は短めです。というか全体的に短めの話が多いですが……

そして奴がまた現れる……

あと今回から新章です。


「意外といけますね」

 

「何だろう、蛇のような、鶏のような、魚のような……」

 

「固いけど味は悪くないね」

 

 

壊れたヘリの近くで焚き火を囲んで迷彩服の男たちが得体の知れない肉を頬張っている。何の肉かは知らない方が良いかも知れない。

 

 

「おい、あいつらまじで食べてるよ、アレ」

「大丈夫なのか……?」

「俺、レンジャーいたけどあれ無理だわ……」

 

 

と別のところで(たむろ)している自衛官たちがヒソヒソと囁きあっている。

 

 

「お前たちも食えよ!意外といけるぞ」

 

「「「え、え、遠慮しまーす!」」」

 

「別にしなくてもいいのに」

 

「まあ、普通食いませんね、これ」

 

 

よく見るとおそらくその肉の主であるとても大きな骨が散乱している。解体は上半身だけで、下は残っている。

 

 

「おや、やっと帰ってきたかな?」

 

 

しかし双眼鏡に見えるのは73式トラックのみ。

 

 

「俺、嫌な予感するわ……」

 

「隊長、フラグ立てないでください……」

 

 

嫌な予感とはホントよく当たるものである。

 

 

***

 

 

「なんてことをしてくれた!」

 

 

ピニャの怒鳴り声が広い広間全体に響く。

 

目の前いるのは彼女の率いる騎士団の一員のボーゼス・コ・バレステュー。縦ロールが特徴の金髪お嬢様騎士である。どっかの宮殿とバラと革命の少女漫画に出てきそうな女性である。

 

額からはピニャが怒りのあまり投げた杯が当たって血がわずかながら少し流れていた。

 

そして隣にいるのは拘束された上で泥まみれの怪我だらけの伊丹耀司。まさにジャ○アンがの○太をギタギタのケチョンケチョンにしたのを絵にした状態である。

 

 

「ひ、姫様。我々が何をしたというのですか!?」

 

 

ボーゼスは自分が何をしたのかを理解できないでいる。あくまでも自分は敵の捕虜を捕らえただけという認識であった。

 

 

「こともあろうに、その日の協定破り。しかもよりによって彼とは」

 

 

ピニャはもはやボーゼスの言葉など聞き流していた。怒りと不安と緊張で頭がフル回転しているようだ。

 

実のところ、これは自衛隊側にも非はある。通信手段の発達した現在でさえも、末端兵士までの連絡は難しいことがある。ましてや相手は中世レベルの文明である。自衛隊ならともかく、即日発効で直ぐに全部隊が停戦できるのはゲームや漫画の世界だけである。事実、第二次世界大戦終結後も敗戦国の一部の軍がそれを知らずに徹底抗戦した事例はある。なのでピニャが要求したとはいえ、自衛隊も少し浅はかだったのかもしれない。

 

ピニャは直ぐに伊丹の看病を指示してボーゼスたちに振り向く。

 

 

「貴様等、伊丹殿に何をした!?」

 

「わ、私たちはごく当たり前の捕虜として扱ったまでです」

 

 

この世界の当たり前捕虜の取り扱い方。それは徹底的に痛めつけることである。例えばあいてが走れなくなるまで馬で追い立てる、鞭で叩く、動かなくなったら槍でつつく、などがある。これは逃亡の意志を削ぐとともに奴隷として売る際に従順にさせるためであるらしい。

 

まあ、人道的を主張する自衛隊の世界でも、どっかの国では極寒地で強制労働、ガス室送り、情報を吐くまでの拷問など少し前まではあったから何とも言えないが。もしかしたらまだあるのかもしれない。

 

ちなみに、あちらの世界(タムリエル地方)ではドラゴンの襲撃や吸血鬼の襲撃やらで5分前に話していた友人が亡くなってもケロリとするほど人命が軽いので、そもそも捕虜が少ないかと思われる。

 

 

「ああ……何て事を、何て事を……」

 

 

もしこれが伊丹だけではなく他の連中全員をいっそのこと捕らえてくれたならば抹消してそもそもなかったことにできるかもしれない。しかしそもそもあの亜神(ロゥリィ)やらエルフ(テュカ)やら魔導師(レレイ)がいる時点でそれは不可能である。それでもこんなサイコな思考に至る姫様は生粋の帝国人であるようだ。到底日本人には真似できない。多分。

 

他にも、ピニャが危惧していたことは協定破りを口実に和平交渉の破綻からの戦争である。自分たち(帝国)が使っている手段なだけに余計に危惧してしまう。そんな方法でやられたら自分たちは一瞬でやられてしまう。

 

まあ、日本だから多分大丈夫だろうが、姫様は知らない。ホントに我が世界の民主主義を掲げた帝国(某ネズミの国の原産地)共産主義を掲げた帝国(パンダの原産地)などが相手じゃなくて良かったね。

 

 

「ここは、やはり素直に謝罪すべきだと小官は思いますが」

 

 

とピニャの側にいたグレイが口を開く。

 

 

「妾に頭を下げよ、謝罪せよと言うのか。もし相手が責任者の引き渡しや処刑などを求めてきたら妾は対応できないぞ」

 

「それでは戦いますか?あの亜神やジエイタイたちと?小官はそれだけはごめんをこうむりますな」

 

 

そう言われてしまえば返す言葉もない。戦えば負けることは目に見えている。

 

 

「ま、それは伊丹殿の機嫌次第でしょうな」

 

 

グレイは何やら含みのある言葉を残すとその場を離れた。

 

 

***

 

 

「えー、これより健軍1佐の要望により、救出作戦を行う。対象は伊丹耀司2等陸尉。まあ顔や特徴はここ尾行している間に確認したと思うのでわかるだろう。

また、追跡中にかなりの体力消耗及び負傷が確認されている。恐らく自力で動くのは無理だろう。事前に打ち合わせした通り行動を心がけよ。

また、可能な限り非殺傷、隠密行動にて任務を遂行せよ。質問は?」

 

 

加藤は薄暗い中僅かな光で部下に指示を与える。

 

 

「非殺傷、ノーアラートで達成したら何か特典あるのですか?」

 

 

と隊員の一人がジョークをとばす。

 

 

「Sランククリアなら帰ったら全員に食いたいもんなんでも奢ってやる」

 

「「「よっしゃ!」」」

 

 

それを聞いた隊員たちはやる気に満ち溢れたようだ。一体全体こんなので良いのか、自衛隊よ。あとなんとなくフラグを立てた気がしなくもない。

 

そしてミーティングも終わり、装備の最終確認を終えると闇に溶け込むように姿を消していった。

 

 

そして別の方向から犬のような動物が姿を表す。

 

 

「やっと街に着いたな。それにしてもさっきのやつら闇の一党みたいなやつらだぜ」

 

 

そしてとことことイタリカへ向かっていった。

 




今後ともこのように短めな話で維持するか、それとも長めで投稿回数へらすか、どちらがよいのでしょうね。

何かアドバイス、要望があれば是非ご遠慮なくコメントお願いします。

あといつもながら応援してくださる方、ありがとうございます。


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どうしてこうなった

ゲートみたいな体験がしたい?そんな貴方に朗報です。
The Elder Scroll V: Skyrim に現代銃 mod を入れましょう。もはや別ゲーになります。


 

約10年ほど前

 

 

「何でわざわざ海自さんとこ行かないといけないんだろ」

 

 

貸切バスの中で若かりし頃の伊丹陸曹長が呟く。

 

大学卒業して就職活動もめんどくさいので何やかんや安定している公務員になろうとしたのだ。そしたら陸上自衛隊幹部候補生学校に入校してしまって数ヶ月がたった。どうしてこうなった。

 

自衛官に向いてないと自負している。なのにいつの間にか募集事務所のおじさんたちに外堀を少しずつ埋められて気がつけば後に引けない状況で入隊してしまったのだ。

 

来る日も来る日もランニング、筋トレ、体力錬成、プレス(アイロン掛け)、ベッドメイキング……数を上げればキリがない作業のため時間などない。俺が望んだ生活ではないと思いつつも何やかんやで続いてる。

 

そして今日は陸海空の幹部候補生の顔合わせのような行事に参加するため、はるばる福岡県久留米市から広島県江田島市まで行くこととなった。今ここ。

 

毎年行われるこの行事だが、なぜ江田島かというと地理的に陸上自衛隊幹部候補生学校と航空自衛隊幹部候補生学校の中間辺りにあるからだとか。真相は不明である。アウェーの身からしたらとんだ迷惑である。

 

と色々思いにふけっているとついてしまった。陸自とはまた異様を漂わせる海上自衛隊幹部候補生学校、旧海軍兵学校に。

 

海軍マニアなら一度は訪れてみたい場所である噂の赤レンガもある。もしこの頃に『艦これ』みたいなものがあったなら伊丹ももう少し興味は持ったかもしれない。

 

さて、荷物置き各々がお世話になる部屋へと案内される。航空自衛官の幹部候補生もいる。

 

 

「いいか、伊丹。海自は基本変人が多いから気をつけろよ」

 

 

と防衛大卒の同期が囁く。変人とはどういう意味だろうか。同族(オタク)なら逆に仲良くなれるかもしれないと思うのであった。事実、陸自でもオタクは少なくないから別の意味の変人かもしれない。

 

 

「「こんにちは、短い間ですけどよろしくお願いします」」

 

「こちらこそー」

 

 

迎えてくれたのは優男系の男だった。自衛隊の平均よりは優しい顔している。身長は伊丹よりほんの少し高いぐらい。そしてお互い簡単に自己紹介することになった。

 

 

「加藤海曹長です。座右の銘は建前上は『尽力』、本音は『楽勝』。趣味は色々。よろしくー」

 

 

これが、後ほど腐れ縁となる二人の出会いである。伊丹はなんか自分に似てるなと思うのであった。

 

 

「ところで加藤曹長は一般大出身?」

 

「よく間違えられますねえ……」

 

 

***

 

 

「いててて」

 

 

目をさますと辺りが暗い。そして全身の痛み。また気を失っている間に過去の夢を見ていたらしい。走馬灯でなければよいが。

 

夜なのか閉め切った部屋なのか、とにかく薄暗い。しかし自分が柔らかいベッドの上にいることに気づき、周りの様子から監獄のようなところにいるわけではないようだ。

 

そして周りにはメイドさんたちがいる。

 

 

「こ、ここはどこ?」

 

「ここはフォルマル伯爵家のお屋敷です」

 

 

なるほど、状況を整理してみるところ、自分は今イタリカのフォルマル伯爵家の屋敷で看病されているらしい。

別に捕らえられているわけでないので無理に逃げ出す必要もないと思われる。

 

周りをよく見ると変わったメイドさんたちであることがわかる。

 

 

「どうかしましたかにゃ?」

 

「いや、別にお構いなく」

 

 

そう、猫耳、うさ耳、しかも天然のケモノ系メイドさんたちなのだ。一応ヒトもいるが、なんか髪の毛が蛇の子もいる。

 

うん、異世界だからこんなこともあるんだろうなと伊丹は納得する。伊丹はこういう時はかなり余裕があったりするようだ。

 

老メイドから得た情報であるが、伊丹はピニャの命により丁重に客人として、それもVIP扱いするよう念を押されているという。さらに伊丹に暴行を働いた女騎士(ボーゼス)たちはお叱りを受けたとのこと。

 

いずれにせよ、最悪の事態を免れたのは確かなようだ。

 

 

「この度は、イタリカをお救い下さり、真にありがとうございました」

 

 

メイド長の言葉と共にその場にいたメイド全員が深々と頭を下げる。

 

 

「イタリカをお救い下さったのは伊丹様とその御一同であることは我々を始め、街の者全てが承知申し上げていることでございます。このような無礼、許されるはずなどございません。もし伊丹様のお怒りが収まらず、この街を攻め滅ぼすと申されるようでしたら、我ら一同伊丹様にご協力申し上げる所存。ただ、フォルマル家のミュイ様に対してだけはそのお怒りの矛先を向けられることなきよう、どうかお願い申し上げます」

 

 

とさらに深々と頭を下げるのであった。それは見事な90度を超える日本人も顔負けのお辞儀である。

 

この言葉から、この家の者は帝国やピニャなどには忠誠心の欠片もないことがわかった。これはもしミュイに不利益が生じると分かればピニャを背中から刺すことも躊躇わないだろう。恐らく伊丹自身にも。なので調子に乗れば痛い目に遭うだろう。

 

 

「伊丹様。モーム()アウレア(蛇の髪)ペルシア(猫耳)マミーナ(ウサ耳)の4名を伊丹様専属と致します。どうぞ心安く、何事であってもご命じ下さい」

 

「ご主人様、宜しくお願い申し上げます」

 

(な、何でも!?)

 

 

健全な男性なら浮ついてはいらない状況であり、伊丹も例外ではない。あまり調子に乗ってはいけないのは理解してるが、ちょっとぐらいいいんじゃないかなぁ、と思うのであった。

 

 

***

 

 

「隊長、今頃死んでるんじゃない?」

 

 

と双眼鏡覗きながら呟く童顔巨乳もとい、栗林。実は第3偵察隊は健軍1佐と別れてUターンして伊丹のことを追跡していたのだ。

 

奪還も考えだが、伊丹が自分たちから手を出すなと言葉を残しているので桑原曹長は隊員たちを制していた模様。

 

 

「あの程度なら大丈夫だろ。あれでも隊長はレンジャー持ちだからな」

 

 

と富田は顔にドーランを塗りながら呟く。

 

 

「え?うそ?」

 

「いや、本当」

 

「冗談?」

 

「マジ」

 

「そのマジ、ありえない〜勘弁してよ〜」

 

 

と富田とやりとりしていた栗林が悲痛の声上げる。脳筋童顔巨乳でその胸の風船も筋肉の塊なんじゃないかと思われるほどの栗林の憧れ、レンジャー徽章を伊丹は持っているという。

 

状況を読めてないレレイ、テュカとロゥリィはレレイを通じて嘆いていて伊丹がレンジャー徽章とやらを持ってはいけないのは理由を尋ねる。

 

 

「伊丹隊長のキャラじゃなのよね〜」

 

 

曰く、レンジャー徽章を持つ者は鋼のような屈強な精神、過酷な環境にも耐え抜いて任務を遂行する猛者、などなど栗林によって存分に美化されて伝えられた。

 

彼女らはファンタジーの世界でいう狂戦士(バーサーカー)のように屈強でありながら、エルフのように環境に馴染み、どこぞの英雄が如く勝利へと導く猛者と認識した。

 

結果、無表情のレレイですら頬をほころばせ、残り2人に至っては笑いを堪えない状況になってしまった。言われてみれば暇さえあれば同人誌を読んでいるような伊丹には確かに似合わないという認識だろう。

 

 

「さて、そろそろ行こうか」

 

 

と富田の声で皆腰を上げる。

 

 

「あれ?あれは一体……」

 

 

テュカの声に全員が足を止め、その方向を見る。

 

暗くてよく見えないが只者ではない集団が音もなくイタリカの城門を通り抜けていく。数にして約10名。と思ったらまた別の方向から同じような集団が城門を超えて行く。

 

明らかに戦闘集団(プロ)である。

動きがかなり洗練されている。

衛兵なとは石などを投げて気を逸らしてその隙に忍び込んだりしている。

 

 

「何だあいつら!?」

 

 

桑原曹長は隠密行動中にも関わらず声を出してしまった。幸い、あまり大きくなかったので周りに特に影響はなかった。

 

 

「もしかしたら新手の敵」

 

 

レレイが呟くと一層空気に緊張が張り詰めた。

 

 

「もしかしたら、隊長を狙って……」

 

「多分隊長はその程度じゃ死にませんよ。G(名前を言ってはいけない例のあの虫)並に生命力ありそうですし」

 

「栗林、さすがに言い過ぎ……」

 

 

富田は隊長も大変だな、とため息をつくのであった。

 

 

「とりあえず、急ぐぞ」

 

 

***

 

 

「ご主人様、宜しくお願い申し上げます」

 

 

と四つの頭が下がる。そしてそのうちうさぎの耳がピクッと立つ。ついでに猫耳もピクピクと何かを察知したように動く。

 

 

「マミーナ、どうしました?」

 

「階下にて何者が鎧戸をこじ開けようとしています」

 

 

老メイドの問いにウサ耳メイドのマミーナが答える。彼女の発する雰囲気は先ほどのぽわぽわメイドから一転して暗殺者のようになった。猫耳メイドらゴロニャンメイドから豹のようになる。何これ、怖い。

 

 

「状況から察するに、恐らく伊丹様の手の者であろう。ペルシア、マミーナ。伊丹様の配下をこちらへ案内してきなさい」

 

「もし、他の者であったら?」

 

「いつも通りです」

 

 

ぽわぽわでゴロニャンな雰囲気はどこへいったのやら。仕方がない。なぜならマミーナはヴォーリアバニー(首狩りうさぎ)で戦闘民族である。ペルシアもキャットピープルというその名の通り猫人間。猫の身体能力なのでかなり強いかと思われる。

 

余談だが、あちらの世界(ニルン)にもカジートという猫型亜人がいるわけではあるが、こちらは頭部は完全に猫のような頭で、ケモノ系というより猫が二足歩行している感じである。猫のように隠密能力が非常に高いのだが、ペルシアも似たようなものだろうか。

 

ちなみに、うちら(現実世界)には猫型ロボット(青いタヌキ)なら次元を越えれば存在する。戦闘力は前者2種族が足元に及ばないほどだとか。

 

というわけで、マミーナとペルシアが迎えに行こうと扉に手を掛けた時、それは起きた。

 

窓に穴が開いたと思ったらゴトリと何かが床に転がった。

 

見た目はジュース缶みたいなもの。もしかしたらスプレー缶の方が近いかもしれない。

 

その場にいた者全員が警戒したが、それが何かはわからなかった。伊丹を除いて。

 

 

「あ……ちょ……おまっ」

 

 

ちゅどーん、という音はしなかったとだけは言っておこう。




次回予告、ついに最強の犬との遭遇!?

???「ああ、犬だよ。犬で悪かったな」


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イッツ・ア・パーリィ・タイム

亀更新ではないけど、亀進行なんですね、私の傾向は。もっと要領よくしなければ。


「「すみませんでしたーー!!」」

 

 

一体何が起きているのだ……

 

 

ボーゼスは予測不能な事態に困惑(ドン引き)していた。

 

そりゃあ誰だって驚くわけである。特に彼女はピニャに伊丹に暴力を振るった責任を取るよう、籠絡(ハニートラップ)して来いと言われたのだ。

 

決して間違いの無いよう、彼女は別にハニートラップ要員でも身体を売る職業の者でもなく、正真正銘の貴族の娘である。お嬢様様である。

 

なのにまさかの指令。女の武器を使って自分が行った行いへの償いも兼ねて自分が痛めつけた男と○○○(ピー)をして来いと。なんという屈辱。

 

格下と思っていた男にあんなこと、こんなこと、一杯されると思うと反吐がでる。というか泣きたい、泣いても良いか。という心境で消えかかっている勇気を奮い起こして部屋の前まで来たのだ。

 

プライド?そんなもの夢と一緒に置いてきてしまった。せめて最初はどっかの青年将校と、と嘆いても後には引けない。無音の扉をやっとのことで開けた。

 

 

なのにそこには異様な光景である。

 

部屋を間違えたか?

 

本当に異様過ぎて夢かと思ったほどである。

 

 

それはもうみごとな集団土下座であった。日本人の必殺技『DOGEZA』。

 

やってるのは覆面を被った自衛隊員たち。大の兵士約20名が土下座など、もうなんだかシュールを超えて恐怖すら覚える。

 

何があったか少し時間を遡り説明しよう。

 

 

***

 

 

「各班配置ついたならば知らせ」

A(アルファ)班配置よし』

B(ブラボー)班配置よし』

C(チャーリー)班配置よし』

D(デルタ)班配置よし』

 

 

指揮官の号令の下、全員が配置に着く。

 

 

「A班は2分後に突入準備、その各班は先に示した合図とともに同時に突入せよ」

 

『『『了解』』』

 

 

A班は対象が在室しているとされる部屋の外の窓に、B班はは正面の鎧戸での陽動、C班はAの反対側に配置する。D班は不測の事態に備えての後方で待機。

 

 

「なあ、隊長はどっちでもいいて言ってたけど、どっちがいいかな?」

 

 

と窓の下にいる隊員がスプレー缶のような物を2つ出す。

 

 

「ティアで行くかフラッシュで行くか……」

 

「狭い室内で暗いし、フラッシュでいいんじゃない?ティアだとこちらもやられる可能性あるし」

 

 

そうだな、と片方しまうともうそろそろ時間なようだ。一人が窓の枠にはんまーのようなものを当て、一人は投函準備をし、一人は時間を計る。

 

 

5、4、3、2、1……今!

 

 

「フラッシュバン!」

 

 

と窓の縁をハンマーで壊し穴を開けると同時にスプレー缶のようなものを放り込んだ。

 

時間にして約2秒。

 

室内から銃声に似たような大きな音がするとともに太陽のような閃光が弾けた。

 

中から悲鳴のようなものが聞こえた。女声だが観察していた女騎士なのだろうと勝手に予想する。

 

そして間髪入れず次々と突入する。そう、爆発音が先に示した合図。

 

 

「ゴーゴーゴーゴー!」

 

 

まるでどっかの特殊部隊映画みたいである。正面玄関で陽動していたB班、反対側にいたC班も同時に突入する。

 

 

多方向同時突入

 

 

これは警察や軍の特殊部隊等が立て篭りに対する戦術の一つである。正式名称ではない。

 

相手の意表を突くため、同時に複数箇所から突入することでパニックを起こしたり、対応力を削ぐ効果があるとされている。過去には地下からトンネルを掘って突入した例もあるという。

 

実際に銃などを扱ったことのある人なら分かるかもしれない。指向性武器である銃ならば多方向からの敵に対応するには相当な修練が必要である。

 

 

「ターゲットの安全確認!」

 

 

数名がスタングレネードによってうずくまっている中、ベットで比較的軽症状の伊丹が耳を押さえているところを発見する。やはり何が投げられたかを知っていた伊丹は最低限の防御姿勢を取れていたことが幸いしたようだ。

 

 

「よし、急いで対象を外に出せ」

 

「ちょ、お前ら一旦落ち着こうな」

 

「伊丹2尉大丈夫ですか?」

 

「急げ急げ」

 

「君たち人の話聞こうか!?」

 

 

伊丹は必死に誤解を解こうとするがどうやらまだ勘違いしているようだ。というか人の話聞いてない。

 

 

「待て!ご主人様に何をするにゃ!」

 

 

と最初に回復したのはキャットピープルのペルシア。動物系なので視覚聴覚が敏感だと思ったが、思ったより効果が無かったのか、それとも回復が早かったのか。

 

 

「なんということだ。拉致されたあげくこちらのご主人様に祭り上げられるとは。もしかして政略結婚でもされたか。くっ、ここは北と同じ思考だったか!そして生まれた子供とともに人質にした挙句、スパイに養成するつよりだな!?」

 

「だから落ち着けぇぇええ!」

 

 

誤解が誤解を招く。よくあることだ。だから人の話はちゃんと聞こうか。

 

 

「シャーッ!!」

 

「ぐあっ!?」

 

 

さすがキャットピープル。猫のようなしなやかなな動きと、豹のような俊敏さ、そして虎のような勢いと力で隊員の一人を投げ飛ばした。というよりもどちらかと言えば押して叩きつけられたと言った方が正確かもしれない。

 

 

「衛生兵来てくれー!」

「だめだ!」

 

 

と負傷した隊員の隣の隊員が言いつつも負傷隊員を引きずる。ちなみに負傷兵隊員は応答がない。気絶したようだ。

 

それをペルシアは見逃すわけもなく追撃を加えようとする。

 

 

ぱん、と何かが弾ける音がした。

 

 

「んにゃ?ぎにゃぁ゛ぁ゛ぁ゛あ゛あ゛あ゛!!!!??」

 

 

風船が割れるような音がしたと思うと全身に強烈な痛みが走り、脚に全く力が入らなくなってしまった。

 

 

「さすがメイドインアメリカ」

 

 

加藤が何か口走ってはいけないような言葉を発する。いや、気のせいだ、きっと。

 

 

彼が使ったのはテーザーガン。

 

海外ではスタンガンともいうが、日本の某ほぼ毎回殺人事件が起きる少年探偵漫画に出てくるようなものではない。

 

ちなみに、スタンガンは広義的に言えば電気だけではなく、相手を気絶させる類のものの総称であることを補足しておく。

 

見た目はプラスチックのおもちゃの銃みたいだが、その見た目とは想像のできない威力を有している(5万ボルト以上)。そして軍用仕様であるコードレスでありながらこの威力。

 

さらに、誤解されがちだがスタンガンは電気で直接痺れさせて気絶させるのではない。強力な電撃によって運動神経にショックを与えることによって身体そのものが動けなくする、らしい。

 

ちなみに、別の異世界(スカイリム)で電撃で相手が気絶したり麻痺したりせずに死ぬのは恐らく雷と一緒で、電気で身体の中枢器官を焼いているからだと考えられる。なので異世界に行く予定のない者は決して真似しないよう。

 

 

「にゃあ……」

 

 

猫メイドは身体に自由がきかなくなり、その場でピクッ、ピクッと痙攣していた。

 

 

「よし、全員制圧した。早く対象を護送し……」

 

 

と指示が終わらないうちに部下の何人かが後ろから吹き飛ばされた。

 

振り向くとそれはそれは異様な光景が広がっていた。

 

 

「ふむ、少々油断したとはいえ、これではフォルマル伯爵家のメイドとしての名が廃りますね」

 

「なんだこのBBA(ババア)!?」

 

 

周りの隊員が警戒して囲む。

 

 

「この私、フォルマル伯爵家メイド長こと、カイネがメイドとしてのお務めを果たさせて頂きます」

 

 

そこにいるのはただの老婆ではない。ましてはただのメイド長でもない。明らかにその年相応らしくない修羅場と屍を超えてきた何か(メイド長)であった。雰囲気がそう語っていた。

というかおまえのようなババア(メイド長)がいるか!

 

そこにいる者(主に隊長格2人)は後にこう語る。

『あれはメイド長ではない、未来から来た殺人ロボットだ』と。

 

 

ドアが蹴破られて何者かが乱入してきた。

 

 

「伊丹2尉、助けにきましたよ!」

 

 

なぜか目を輝かせて小銃に銃剣を着剣している栗林。

 

 

「私もよぉ!」

 

 

そして(流血的な意味で)ヤル気満々のロゥリィ。

 

 

「ああ、猫メイドがピクピクしてる!」

 

 

ついでにケモナー(倉田)

 

夜はまだまだ長い。

 

 

***

 

 

というわけで、ボーゼスが部屋に入ってきたタイミングは最悪であった。

 

どうやら何かの手違いについて謝罪しているようだが、そんな状況をボーゼスは理解できるわけがない。

 

さらに最悪なことに、皆の視点がボーゼスに向かってしまった。

 

 

なぜ最悪だって?そりゃ誰だって恥ずかしいではないか。自分の下着姿を30人ぐらいに見られるのだから。

 

 

「「「…………」」」

 

 

しばらくの嫌な沈黙が生じる。

 

 

「私をそんな目で見るなー!!」

 

 

そしてパン!と乾いた音が響いた。

 

 

***

 

 

「なんてことを……」

 

 

ピニャはさらに頭を抱えた。

 

籠絡どころか、傷口に塩どころか唐辛子で擦ったように事態は悪化したと感じた。

 

伊丹のほっぺに赤い紅葉ができ、引っ掻き傷のようなものもある。

 

後方で待機している覆面ジエイタイの中には頭から血を流している気がする者もいる。きっと気のせいだ、とピニャ切実に信じたかった。

 

 

ところで覆面ジエイタイは誰なんだ、とピニャは思うが、この妄想姫様はまた良からぬことを考えていた。

 

 

(覆面……それに伊丹たちと異なる武装装備……つまり隠密隊か暗殺隊か!?という事は本体が既に伊丹殿の件にちいて掌握済みということか……そして妾たちの排除しに来たと。間違いない。あの頭から血を流している男が隊長格だろう。温和な雰囲気だがその後ろにいる配下が異様に殺気立っている。やる気だ。きっと妾たちを殺る気だ!それとも別のヤル気か!?ええいどっちも同じだ。いっそ ry...)

 

 

と全身を冷や汗まみれにしながら思考(妄想)していた。

 

ちなみに覆面自衛官たちが殺気立ってるのは意外としょうもない理由だったりする。

 

 

(ちっ、ノーアラート達成できなかったぜ)

(全くだ、これでおごりは無しになっちまった)

(つぎこそ隊長に奢らさせる、絶対)

(何だか後ろからすごい視線と殺意感じるわー……)

 

 

と聞こえないように各々は愚痴を心の中でこぼすのであった。

 

 

「この始末、どうつけよう……」

 

「あのぉ、自分たちは隊長格さを連れて帰りますので。それについてはどうぞそちらで決めてください」

 

 

と富田が言う。

 

 

「あ、気にしないでください。今回こちらのミスですから。ホントすみませんでした」

 

 

と覆面ジエイタイの隊長格。

 

二人は善意のつもりで言ったのだが、姫殿下はまたこじれた方に解釈する。

 

 

「そちらで勝手に決めて。俺たちは知らん」

 

「俺たちのミスで生き延びたな、あとそんなこと気にするな。潔く○ね」

 

 

一体どうしたらこんな脳内変換できるのやら。それとももしかしてレレイの通訳が間違ってたのか、そう解釈したのか、謎である。

 

まあレレイの言葉に抑揚がなく機械翻訳みたいな感じで逆に恐怖を煽ったのかもしれない。

 

 

「そ、それは困る!」

 

「と言われましても、伊丹隊長は国会から参考人招致がかかっていまして、今日にでも帰らないとまずいんです」

 

 

これをレレイが訳した結果。

 

 

「伊丹隊長は元老院から報告を求められている。なので今日までに帰らなければならない」

 

 

それを聞いたピニャはもう言葉では表せないような驚きの表情をする。

 

この世界では元老院と関係のあるものは超エリートの出世コースなのだ。つまり伊丹は予想以上のエリート。そんな人に狼藉を働いたのか、とピニャは内心涙目である。

 

言葉の壁とはホント恐ろしい。誤解がさらに誤解を生む。読者の皆様もせめて敵性言語(英語)は理解できるよう努力していただきたい。特に異世界(英語圏)へ行かれる勇者たちは。

 

 

ということでこのまま行かせば何が起きるか分かったものではない。このままでは取り繕うことま弁明も何もできない。

 

 

「では妾も同道させて貰う!」

 

 

どうしてこうなった。

 

 

***

 

 

「ホントすまんね、伊丹2尉」

 

「もう、気をつけてくれよ……」

 

「では俺たち先行くから。健軍1佐と一緒にトラックで帰るからこちらで返納しとくから」

 

「へいへい、よろしくお願いします」

 

 

と言って覆面自衛官たちは何だかすごい自転車らしきもので先に帰隊する。

 

 

「隊長、あの人たち誰ですか?」

 

 

となぜかって目を輝かせてしかも満足そうな脳筋(栗林)。なんだか新しい玩具でストレス発散して最高にテンションの高い犬みたいであった。

 

 

「私も気になるわぁ」

 

 

とこちらも何だか新しいお人形さんを見つけて喜ぶオカルトちっくな少女の雰囲気を出す亜神(ロゥリィ)

 

 

「あ、うん……一応知り合い」

 

「ホントですか!?今度紹介してください」

 

「私もぉ」

 

 

これはどう捉えたら良いかと伊丹は考えた。いい人紹介してください?いや、とちらかといえばイケニエを紹介してくださいと言ってるのだろう、と解釈する。

 

 

「うん……そのうちな……考えておく」

 

 

栗林はやったあ、と喜ぶがロゥリィはニヤリ、と不気味な笑みを浮かべるのであった。何これ、怖い。

 

 

「隊長、もう準備できたっす。ペルシアさん、また今度〜」

 

「またにゃー」

 

 

いつの間に倉田とペルシアは仲良くなったんだろう。まあケモナーの彼からしたら至高の喜びだろう。

 

 

「よし、みんな帰るぞ」

 

 

と全員が乗車しようとすると突如後ろから声が聞こえた。

 

 

「ずっとお前さんを探していたよ!」

 

 

振り向くとそこには、犬がいた。

うん、普通の犬。

少なくとも見た目だけは。




やとこいつを出せたよ。予想以上に遅めだった。
あと倉田はペルシアさんを看病してる時に仲良くなりました。よかったな、倉田。

あとメイド長がめちゃ強いというオリジナル設定は色々ところが元ネタです。分かればおそらく私と趣味が合う人。


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漆黒龍は生命の奇跡の概念を知らない

今回はオマケ的なやつです。こんなことしてるからストーリー進まんのですね。


 

「ところでだ、ヨルイナール」

 

「何だ、主人殿」

 

 

洞窟内で唐突にアルドゥインが話しかける。ヨルイナールは仔龍に餌を与えているところだ。何の肉かは知らないし、知りたくもない。

 

 

「仔龍はどうやってできるのだ?」

 

「え……」

 

「お前の仔龍を見てると不思議でな。なんせ我は初めて見るものだからな」

 

 

え、仔龍を見たことがない?もしかして思った以上にに主人殿は若いのか?それとも未経験(ドーテー)なのか?と炎龍(ヨルイナール)は驚く。

 

 

「あ、うむ。それはだな、とある儀式(チョメチョメ)を行えば基盤ができるのだ」

 

「ほうほう、とある儀式(魔法)

 

「するとだな、ある一定期間経つと、卵ができるのだ」

 

「なんと、(召喚石)

 

「そしてさらに時間が経てば卵から孵化するのだ」

 

「ほう、非常に興味深い」

 

 

なんだか話が噛み合ってない気がしたが、あまり気にしないようにした。

 

 

「ではその儀式とやらをやって見せてくれ」

 

「ふあ!?」

 

 

もしヨルイナールが人間であればお茶やコーラーを噴き出していただろう。残念ながら、龍なのでそんなことはないが。

 

 

ヨルイナールは困惑した。これはどういう意味だ。もしや儀式(チョメチョメ)しているところを我に見せろ、という意味か。とんだ変態だ。それとも暗に我の子を産め、といってるのか!?

 

炎龍にも関わらず口ではなく顔から火が吹き出そうな勢いで体温が上昇していく。そう、人間でいうドキドキしている状態らしい。

 

そして勢い余って渾身のブレスを目の前にいる龍(アルドゥイン)に、しかも顔面にかけてしまった。

 

 

「ふむ、まずブレスをかけるのか」

 

 

ケロリとした顔で言う勘違いさん(アルドゥイン)

 

 

へ?と耳を疑うヨルイナール。

 

マジで未経験(ドーテー)なの?嘘っしょ、とすごく困惑する炎龍。というかこの空間の温度差がすごいことになってる気がする。

 

 

「主人殿、今のは間違いだ。ところで、一応確認したいのだが、私が言ってるの『儀式(チョメチョメ)』の意味は理解しているだろうか?」

 

「うむ、何をするか知らんが何らかの『儀式(魔法の類)』だろ?錬成とか」

 

 

こりゃ完全にだめだ、とヨルイナールは心底思った。

 

 

「ではもう一つ確認するが、交尾(生殖行為)は知ってるか?」

 

「ああ、あのジョール(定命者)どもがやってるあれだろ?」

 

「ジョール?」

 

「ああ、すまん。我の言葉で生き物、つまり人間や動物だな。奴らが何やら後ろや前に乗りかかって激しく動いていることだろ?」

 

 

知ってるんかーい!とヨルイナールは今度は逆に恥ずかしくなった。何だこの主人殿は、ふざけてるのか。ふざけてる、絶対。

 

 

「しかし、やつらはなぜあんな幸せそうな表情をしたり気分になるのだろうな。我には理解できん。まあ我の同族は街を滅ぼしたりすると同じ表情になるが」

 

 

なんだか主人殿はとてもサイコな発言をする。嘘でしょ?殺戮と交尾が同じ快感だと?てか同族ってドラゴン?それとも未経験の仲間を同族と呼んでるの!?

 

 

「主人殿、もう一つ聞きたい……主人殿の年齢は、いくつだ?」

 

 

せめて彼が未成熟龍であることを祈った。もし成熟した龍でこんな状態など悲しすぎる。というかかわいそうである。しかし彼女の予想を大きく裏切る答えが返ってくる。

 

 

「何を言っておるのだ?我はそんなことは気にしたこともないし、そのようなジョールの概念などない」

 

 

それを聞いたヨルイナールは全てを悟り、大きく畏怖するのであった。

 

 

「主人殿、無礼を許してくれ。まさかそこまで大きな存在だと気づかなかった」

 

 

エンシェントドラゴン(古代龍)の上位種、レジェンドドラゴン(伝説龍)。年齢や生命の概念がないと噂されるドラゴンである。もうぶっちゃけドラゴン界の神様みたいなものだ。

 

 

「む?無礼?」

 

「私は主人殿が定命種だと勘違いしていた」

 

「む、つまり定命種ではなければ例の儀式では仔龍はできぬと?」

 

「おそらく……」

 

 

アルドゥインはううむ、と唸る。

 

 

「しかし、ここに仔龍がいるということは、お前は例の儀式を他の龍としているわけだな?」

 

 

これは聞いた本人からしたら相当恥ずかしくなる内容だ。人間でいうと「お前子どもいるけど、〇〇〇(ピー)して作ったんだな?」と聞いているもんである。

 

 

「そ、そういうことにしておいてくれ」

 

「なるほど。ふむふむ、なるほど」

 

 

アルドゥインはニヤリと不気味な笑みを浮かべる。大概こういう時は良からぬことを考えているのが世の理である。

 

 

「ならば他にも龍がおるのだな。少なくともお前ほどの実力の。我は他の龍を探しに行く。しばらくこの地を離れるが、頼んだぞ」

 

「あ、うん。分かった……」

 

 

ヨルイナールは展開について行けず、とにかくイェスと言うしかなかった。

 

アルドゥインは物理法則を無視した形で飛び立つとあっという間に姿を消した。

 

その様子を遠くから見ているものがいたが、アルドゥインは特に気にしなかった。

 

 

「何だあの龍は?あんなのみたことねーぜ。それはそうと、炎龍の調子はどうかな?」

 

 

と呟くと背中の翼を羽ばたかせて飛んで行った。

 




アルドゥインが人間だったらコウノトリをガチで信じてる人みたいかな。

あと作者を嫌いになってもアルドゥイン様を嫌いにならないでください。


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異世界のお友達

いつからギャグ路線になったんだろ。
こんなはずではなかった……


 

「異世界はどうだった?」

 

 

草加は報告書に目を通し終えると、目の前の部下に問いかけた。

 

 

「もうファンタジーはゲームやアニメで十分ですね」

 

「はは、だろうな。正直、防衛省や国連の中では未だ信じられないと言ってる輩もいるからな。で、今回一番良かったことは?」

 

「伊丹2尉は予想以上にタフで頭が回りますね。今回彼のおかげで相手側に余計な犠牲を出さずにすんだかと思います」

 

「というと?」

 

「騎士団に捕らえられている間、強行手段による奪還作戦も考えましたが、伊丹は事を荒げるなと我々に伝えましてね。ばれないようまばたきでこちらに合図を送り続けましたからね」

 

「流石特戦だけはあるな。彼に限らずお前の交友には変わり者が多いが」

 

「そうですかねー」

 

 

と軽く笑って流す。

 

 

「で、何か良からぬことは無かったか?」

 

 

加藤は少し考えると、特に大きな問題はないと答える。ヘリの件は既に報告済みである。

 

 

「ただ、今後我々も展開力の強化の可能性を考えたら、火力、機動力双方で物足りないと思いますね。翼竜も2頭だったから良かったものの、それより強力になると厳しいかと」

 

「陸は現在新装備を検討してるから我々も検討する必要があるな。何か案はあるか?」

 

「装備自体は我々は問題はありません。最新装備にしてもこの不安定な地域では多少旧式でも信頼性の高いもののほうが良いでしょう。できればこちらもヘリかAPC(装甲兵員輸送車)またはIFV(歩兵戦闘車)に類似するものがあれば嬉しいのですが」

 

 

「ヘリ輸送は陸自に頼むしかないな。だがAPCかIFVか……何が良い?」

 

「まあ現状ではM2ブラッドレーのようなものがあれば十分かと。しかしそうなれば我々はもはや特殊部隊ではなく歩兵になってしまいますが」

 

「まあ、参考程度だ。今後の開発や運用の参考だ。もういいぞ」

 

「では失礼します」

 

「あ、言い忘れたが今日お前は当直にはいってるからな」

 

 

加藤はこの言葉を聞くと表情が固まった。

 

 

「はい、ヨロコンデー」

 

 

目は笑ってない。

 

 

***

 

 

「犬が喋った!?」

 

 

そりゃ誰だって犬が喋ったら驚く。なんせ異世界と言えど今のところ動物が喋ったことはない。

 

 

「この世界は二本足のメスウサギやネコに、空飛ぶトカゲの巣窟だって言うのに、お前さんは何を何を言っているだ。ああ、喋ったよ。黙るつもりはないがな」

 

「あ、うん……」

 

 

言われてみればそうである。元の世界で万一喋る犬とドラゴンとケモナー歓喜の亜人が現れたらまだ喋る犬の方がまだありうるというか、現実的である。まあ、現に既にドラゴンやら亜人やらはいるのだが。

 

 

「隊長、この犬なんだかうざいんですけど。特に喋り方が。ぶちのめしていいですか?」

 

「私も加勢するわぁ」

 

 

栗林は指をポキポキと鳴らし、ロゥリィはハルバートを構えると獲物を見つめるが如く妖艶な笑みを浮かべる。

 

 

「ちょーっと待った、早まるな!そこの牛女、まず落ち着いて人の話聞こうな?そしてそこのドス黒い嬢ちゃん、その斧のようなもの置こうな?俺は斧が大っ嫌いなんだ」

 

「牛……女?」

 

「へぇー、嬢ちゃんねぇ……あなた斧が嫌いなんだぁ」

 

 

栗林の頭には漫画のように額には血管が浮き出てる。ロゥリィに至ってはハルバートを置くどころかもう戦闘態勢である。

 

 

「おい、そこの兄ちゃん!俺と取引きしねぇか?悪い話じゃねえんだ。まずそこにいる化け物娘をどうにかしてくれ!」

 

 

伊丹はまず2人を落ちたかせることにする。一旦緊張は和らぐ。

 

 

「ありがとよ。またオブリビオンに強制的に還されるところだったぜ」

 

 

どうやら相当ビビってたらしい。

伊丹からしたら何を言ってるのか良く分からなかったが。

 

 

「紹介がまだだったな。俺はバルバスってんだ」

 

「犬、バルバス」

 

 

と今まで無口だったレレイが口を開く。表情こそいつも通り無表情ではあるが、目はキラキラと好奇心に満ちていた。まあ相手が喋る犬だからだろう。

 

 

「そうだ、形は犬だ。でもただの犬ではないんだぜ。デイドラ・プリンスの相棒のバルバスとは俺様のことだ」

 

 

伊丹は未知の単語を幾つか聞き取ったが、恐らく何らかの特地の固有名詞とかだと認識し、特に気にしてなかったがロゥリィやレレイは少し何か気になるような表情だった。

 

 

「実はなあ、ご主人様にまたまた追い出されちまったんだよ。この前(スカイリム)は仲直りさせる誰かを連れて来いということで、まあ何とか色々あったが収まったんだ。色々(斧とか)あったけど……

で、今回は気が向いたら仲直りしてやる、ってんだ。それまで情報収集趣味のある友人(触手と目がたくさんのアイツ)のために情報収集しとけと言われたのさ」

 

「でも俺たちもそんな暇じゃないけど……」

 

「いやいや、別に情報収集してくれって言ってんじゃねーんだ。それは俺自身でやるから同行させて欲しいんだよ」

 

 

伊丹は少し考えた。喋る犬という面で上に報告をすれば何かの参考として保護は可能かもしれない。ただの犬なら警備犬にしてくれるかどうかすら怪しいが。

 

 

「こんな五月蝿そうな犬、私は嫌ですよ」

 

 

と栗林。

 

 

「私は興味ある」

 

 

とレレイはポツリと呟く。もう少し「この犬飼っちゃだめ?」とみたいに上目遣いで言ってくれたら即答でOKなのだが。

 

 

「うーん、私も興味あるかな」

 

 

テュカも賛成派なようだ。どうやら長寿のエルフにとっても珍しいらしい。

 

 

「決まりね、多数決でその犬も同行しても良いみたいよぉ」

 

「まだ許可したわけじゃ……」

 

「あら伊丹はみんなが連れて行きたいと言ってるのに反対なのぉ?」

 

「う……」

 

 

***

 

 

「ひゃっはー!最高だぜー!」

 

 

海外映画のように犬がジープの窓から頭を出して喜んでいた。しかもどっかの終末荒廃世界のモヒカン共が叫んでいそうな台詞を吐いているのもこの犬、バルバスである。

 

 

「隊長!やはりこの犬うるさいです!」

 

 

と無線から栗林の声が聞こえる。やはり犬や猫は言葉を発すると可愛気が無くなるみたいだ。伊丹は犬は嫌いな方ではないが、どうもバルバスは好きになれない。原因は色々あるが、現時点で一番の要因はうるさい。

 

 

「いいじゃねえか。お前ら喋る犬は珍しいんだろ?存分に聞いておけよ」

 

 

そしてこの喋り方である。しかもおしゃべりなのが更にその騒がしさに拍車をかけている。ホント普通の犬は人語を話せないことを感謝しなければなるまい。

 

 

「おお、あれか。ありゃもう城みてーだな」

 

 

バルバスはどうやら犬と違い目は相当いいようだ。遥か遠くのアルヌス駐屯地が姿を現す。

 

 

「な、なんなのだあれは……!?」

 

 

若干驚愕で言葉を失った騎士団員と姫様であった。

 

 

そしてさらにしばらく進むと、そこはピニャが知るアルヌスとは全く異なっていた。

 

丘の上は要塞が、そしてその上空には得体の知れない鉄製の箱のようなもの、そして周辺には多くの緑の兵などが軍事演習を行っているのが見える。とは言うものの、彼女の知っている軍事演習とは全く異なるが。

 

もちろん、巷で噂されている自衛隊の銃剣突撃や鉄砲の発射音を口で「パン、パン」と言ったりしているものではないのでご安心を。ちゃんと実戦重視の訓練である。

 

 

「彼らが持っているあの奇妙な筒は一体?」

 

 

自衛官たちその筒のようなものをあちこちに向けていた。

 

 

「うむ、おそらく魔道具のようなものだろう。魔法の杖のようなものだと思う」

 

 

伊丹たちを見てきたピニャがボーゼスの問いに答える。他にも、帝国でもそのような報告を受けているのでそう解釈したのだろう。

 

 

「なるほど。魔導師は貴重な存在ですが、ジエイタイたちはそれを大量に養成する能力があるのかもしれませんね」

 

「魔道具ではない。あれはショウジュウという武器。筒状の中に炸薬魔法で鉛玉を発射する仕組み」

 

 

レレイがピニャたちの間違いをしれっと訂正する。というかショウジュウ教えたやつ誰だ。秘密保全どこにいった。

あくまでも名前だけを教えてもらっただけであって、構造、仕組みや結果は撃たれた翼竜の死体などから推測しただけであったが。この天才魔法少女がいる限り自衛隊には情報保全が脅かされ続ける日々になるかもしれない……

 

 

「なんと、あれが剣や弓などの武器なのか!?ならばあれを大量生産すれば妾たちでも扱えるというのか」

 

「そう、ジエイタイはそれを行い、各個人に携行させている」

 

 

ピニャ願わくば一つを譲ってもらうか購入かいっそ強奪すれば帝国でも生産できるかも知れないと考えた。しかしそんな考えを察したのか、レレイはピニャに絶望的な現状を示すだけであった。

 

 

「無謀。ショウジュウの『ショウ』とは小さいという意味。その対になる言葉を示すものがあちらにある」

 

 

と車の反対側にある105ミリライフル砲を主砲に持つ74式戦車を指す。

 

 

「あ、あれが火を吹くというのですか!?」

 

 

その、すごく……大きいです、と言いたくなるような長くて硬くて大きな主砲(もちろん戦車の)を見てボーゼスをは驚愕する。しかしピニャは心当たりがあったのでボーゼスほど驚きはない。

 

 

(うむ、他鉄の逸物と噂される武器があると聞くからな。あれぐらい普通かもしれない)

 

 

一体どうしたらこんな発想になるのだろう。文章だけでもはやセクハラである。なぜ主砲を見て逸物を思い出すのやら。

 

 

「こんなもの持っているジエイタイをなぜ敵に回したでしょうか……」

 

「帝国はグリフォンの尾を踏んだ、と言われている」

 

「あなた!それでも帝国臣民ですか!?」

 

 

レレイの言葉にボーゼスは激しく反応するが、レレイは冷めたような表情のままだ。

 

 

「私はルルドの民。国や定住の概念がない」

 

 

これを聞いたピニャは少し複雑な気分になった。所詮民の帝国への忠誠は心からではなく、恐怖によるものだと改めて感じたようだ。

 

 

「しかしすげーな。ドゥーマ(ドワーフ)の技術もなかなかだが、こいつらには敵わないかな。いや、一部ドゥーマの方が優れているかもな」

 

 

それを聞いたレレイ、ピニャ、ボーゼスはバルバスに詰め寄る。

 

 

「な、なんだお前ら……てか顔近えぞ!」

 

「さっき何と言いました!?」

「そのなんとかの技術に!」

「興味ある」

 

「やめろ!ゆさぶるな!落ち着けぇぇえええ!」

 

 

そんな様子を栗林はニヤニヤしながら聞いているのであった。

 

 

「ねぇ、わんちゃん?」

 

 

ロゥリィが唐突にバルバスに話しかける。自然とピニャたちの手も止まる。

 

 

「あ?誰がわんちゃんだ、ドス黒嬢ちゃん」

 

「それよぉ、それぇ。本当に私は嬢ちゃんかなぁ?」

 

「ああ?嬢ちゃんじゃなかったら何だ?ババァと呼ぶか?あん?」

 

「その首刎ね飛ばそうかしらぁ?」

 

「すまん」

 

「それは冗談としてぇ、もしかしてあんた本気で私を嬢ちゃんと思ってるぅ?」

 

「冗談には聞こえなかったが……そうだよ。俺は本気だ。別にお世辞や嘘ついても何のメリットもねえ」

 

「へー、それは私がこんな見た目だから?」

 

「何だ、もったいぶらないでさっさと言えよ」

 

「私はぁ、人間じゃなくて亜神なのよぉ?」

 

「へぇー」

 

 

この返答に逆にロゥリィが驚いた。

 

 

「へぇー、って何よぉ!へぇーって!?」

 

「そう言われても、なあ……」

 

 

バルバスはもはや興味がないようである。あくびすらしてる。

 

 

「私は戦いの神、エムロイの使徒、ロゥリィ・マーキュリーよぉ!1000歳近く生きているのよぉ!」

 

「ふーん……で?『お嬢ちゃん』?」

 

 

ここでロゥリィはようやく悟った。目の前の犬が実は自分より年上だという驚愕の事実を。下手したら自分どころか主神よりも年上かもしれない。

 

 

「この世界の亜神は人間の年齢のようなどーでも良いことをきにするんだな」

 

「この世界って……あなた何者よぉ!」

 

「俺か?さっき自己紹介したぜ。それ以上でも以下でもないがな」

 

 

バルバスはふんと鼻で笑う。

 

 

「こ〜い〜つ〜!!」

 

「猊下!落ち着いてくだされ!こんな狭い中でそんなものを振り回すと妾たちも!猊下ー!」

 

(絶対化けの皮剥がしてやるんだからぁ!)

 

 

と涙目で誓うのであった。

 

 

「いやー、やっぱ特地語は難しいわ。無線の向こう側が騒がしいな、倉田」

 

「そうっすねー。なんだか楽しそうですね」

 

「今日も平和だなー」

 

 

と状況を読めてない者が若干名。

 

 

***

 

 

さて、いろいろあったがなんとか無事に着いた。

 

健軍1佐たちも無事な模様で、73式トラックもしっかりと返納してあった。

 

ピニャとボーゼスは柳田とその他自衛官たちが「任せろ」と言って連れて行ってしまった。ニヤニヤしてるところ、どうせよからぬこと考えてるのだろう。

 

 

「あとはうちらのの整備だな……ん?」

 

 

大型のトラックが伊丹たちの側を通っていく。

 

 

(本当にヘリ落ちたんだな……)

 

 

伊丹は大型トラックの上をシートで隠している隙間から見える残骸がチラッと見えたのを横目で確認する。

 

正直伊丹はあまり驚いていない。龍などいなくても事故で墜落することはある。中世レベルとはいえ異世界で戦闘中で一度も被害が無かったかこと自体奇跡だと考えていた。

 

 

(これからどうなるんだろうな)

 

 

伊丹はふと空を見上げる。

 




バルバスは特地語で話してます。実は……

でもバルバス何歳なんだろ……


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つるぺたはステータス

今のところ簡単に計算すたところ、完結までに100話超えちゃう気がしてます。

実はラストの構想は出来てたりする。


つるぺたはステータス

 

 

アルドゥインは辺り一面を見渡せるほどの高山の山頂に止まっていた。

 

しかしかつて彼がいた世界(スカイリム)における最高峰の山、『世界のノド』には足元にも及ばない。そのため、山頂にいるのにも関わらず雪のが積もった形跡もこれから積もる様子もない。

 

 

(やはり山頂にいると思い出すな、あの日々を)

 

 

かつて彼を中心とした同族が世界を制した時代、奴隷の定命者どもが反旗を翻し時代、山頂で3人の強敵と戦ったこと、異次元に送られたこと、時代を超えて復活したこと、そして1人の龍の魂を持った定命者と戦ったこと……そしてそいつには勝てなかったこと。あの山(世界のノド)を思い出すと自然と共に思い浮かぶ。

 

かつて彼が世界の支配者になったときはその山の山頂でスゥームを発すれば世界の隅々までその声は届いた。

 

この山でもそれは可能だろうか?

 

山は遥かに小さいが、それを有り余って補うほどの力は既にある。

 

しかし彼は試さない。理由は特にない。それを行う気分ではない。それに、この未知の世界では何があるか分からない。もしかしたらこの世界のドヴァキンがいるか、現れるかもしれない。そのためにも力を温存したい。そして何よりも大きな理由が目の前にある。

 

 

「久しぶりね、ワールドイーター」

 

 

禍々しい悪魔のような鎧を身に纏った女声の何かが後ろから現れる。

 

 

「別に会いたくなかったが、久しぶりだな」

 

「ふーん、珍しく貴方から呼び出したかと思えば相変わらずね。用件は何かしら?」

 

「もっと魂が必要だ」

 

「あら、あんだけ魂を喰らってまだ足りないの?でもそういう貪欲さは嫌いじゃないわ」

 

「つべこべ言わずどうにかしろ。殺戮だけでは効率が悪い。我の力を温存しながら魂を回収する方法ないのか?」

 

「あら、とんだ欲張りさんだこと」

 

「貴様の魂から回収してもよいのか」

 

 

アルドゥインは少し苛立っているようだ。しかしそのテイドラは嘲笑うかのように答える。

 

 

「別に構わないわ。でもどっち道私は貴方が回収した魂からまた復活するから意味はないわ」

 

「ぐぬぬ……」

 

「まあいいわ。ちょうど試したいことがあるから少し待っていなさい」

 

「なんだそれは」

 

「秘密よ」

 

「ふん。魂さえ回収できれば問題ないわい。だがかなり必要だ」

 

「分かっているわ。でもそんな膨大な量どうするの?」

 

「何も答えない貴様に答えるわけがなかろう」

 

「ふふ、そうね。お互いのプライバシーね。ではまた」

 

 

そう言い残すとデイドラは転移空間を召喚して去る。

 

 

「……貴様らデイドラに絶対言うわけなかろう」

 

 

そう言って彼は目の前のその巨大な残骸に目を向ける。

 

 

***

 

 

駐屯地に着いてからはそれは色々と大変だった。

 

物品返納、書類作成、申請その他いろいろたくさん。

 

ピニャたちは柳田たちが対応するからいいとして、問題はこいつだ。

 

 

「なんだ?俺の顔になんかついてるか?」

 

 

こいつは犬として扱うのか、人として扱うのか、それとも別の何かか。

 

一応今晩はいいとして、今後のどうするべきか考えなくてはならない。上司に相談したら案の定伊丹たちが初めて会った時と同じ反応であったが。

 

 

「まあいっか、今日はもう飯食って寝よ。今度できることは今度だ」

 

「おめー俺に関係することすっぽかすつもりだな。まあいいけど」

 

「何か食うか?」

 

「え、何かくれんのか?おめーいいやつだな、やっぱり」

 

 

と1人と1匹(?)は自衛隊の緑の缶詰を開けて食べるのであった。

 

 

「やっぱどこの世界も軍隊の飯はそんなうまくねーな。でもこれはかなりうまいほうだな」

 

「褒めてるのやら褒めてないのやら。ところでバルバス、君は……」

 

 

伊丹の言葉はドアのノックで遮られる。開けてみるとすごく疲れたレレイが眠たそうに立っていた。

 

 

「伊丹、キャンプまで送って……疲れた」

 

「そういわれてもな、こんな時間だし。ここで寝ていったらどうだ?部屋はあるぜ」

 

 

レレイはウンウンと頷くと眠りの世界へ旅立った。

 

 

「じゃあ俺も寝るかな。お休みー伊丹」

 

 

バルバスもその場に包まると眠り始めた。完全に犬である。

 

伊丹は別の空き部屋のベットを準備してレレイを寝かす。改めてみるとレレイは本当に可愛らしい容姿をしている。

 

別に普通の意味で可愛らしいである。誤解されがちだがオタクだからと言ってロリコンでもないし、つるぺたが大好きなわけでもない。でも嫌いではないが。むしろボンキュボンのボインボインよりはいいと思ってる。いやいや、俺は紳士だ、別にレレイのことをそんな目で見ることなど絶対にない。

 

などといろいろ考えていたら溜まっていた疲れがどっと降りてきて急に睡魔が襲う。力がフッと抜けると、顔面が何やら柔らかいものにダイブしてしまった。

 

いや、レレイはそんな柔らかいものを持っているはずはない。だってつるぺただもの。しかしそのぺったんこが視界の目の前にある。そう、目の前だ。

 

 

(まずい……これはまずいぞ……)

 

 

どうやら自分はレレイのお腹を枕にしてしまったらしい。ぺったんこを枕にするよりは遥かにマシだが、結構まずい。しかしもう力も入らない。そしてその眼福の平原(ぺったんこ)の光景はじょじょに消えて行った。

 

 

***

 

 

「じゅんけーん」

 

「隊長、それうちら(海自)のやり方です」

 

「あ、そうだった。陸自はてんけーんなのかな?」

 

「さあ、自分に言われましても」

 

 

当直の腕章を巻いた迷彩服を着た隊員がライトを持って辺りを確認している。

 

 

「任務に帰ったとたんこれだよ。休みぐらいくれ……」

 

「まあもうそろそろ休みですし、がんばりましょうよ、隊長」

 

「そうだな……異常なーし」

 

 

と2人は点検をしていく。

 

 

「異常な……」

 

「おいおい、こっちは寝てんだ。ノックぐらいしろや」

 

「あ、すみません」

 

 

とドアをゆっくり閉める。

 

 

「隊長、しゃべる犬がいた場合は異常ですか?」

 

「うん?そう言われてもね……めんどくさいからしゃべる犬くらいいいんじゃない」

 

「ソウデスヨネー」

 

 

棒読みである。何を見たのやら。

 

 

「じゃこっちは俺やるからそっちよろ」

 

「了解です」

 

 

そして隣の部屋を開ける。そしてすぐに占める。

 

 

「どうしたんですか?」

 

「イザョウナーシ」

 

「隊長、棒読みです。しかも言えてない」

 

「イジョウネーシ」

 

「いや、隊長あんたが異常だよ。一体何を見たんです……」

 

 

扉に手をかけたが、隊長が開けるのを阻止する。

 

 

「異常梨」

 

「いや、隊長。もうこれ何か隠してますよね?てかなんだがイントネーションがおかしいですよ?」

 

「上司が異常なしって言ってんだから異常ネーヨ!いいから次行こ!次!」

 

「隊長!襟!襟引っ張らないで!」

 

 

そして2人は闇の中に消えていく。

 

 

***

 

 

食堂にて

 

 

幸い、誰にも昨日のことは見られてはないようだ。レレイは引き続き仕事にそのまま行った。昨晩飯をまともに食ってないから朝食がうまく感じる。しかし、彼の登場で一変する。

 

 

「前の席、よろしいですか?」

「……なんだあんたか。加藤1尉、また偉くなっちゃって」

 

「いや、昇級遅いの君だからね?俺はぶっちゃけ普通の速さだからね?」

 

 

階級は違えど同年齢の同期生である。組織は異なるが。

 

 

「なんだ、つれねーな。久しぶりに友人が来たっていうのに」

 

「誰が友人だ。しかも久しぶりって数日前に会ったろ?」

 

「え、いつ?」

 

 

もうさすがとしか言いようがない。

ごく自然に、しかも誤魔化しもなく平然と嘘をつく。事情を知っていなければ本当に記憶にないか知らないかとおもうぐらいである。

 

 

「もう、そういうことにしておいてくれ」

 

 

伊丹はため息をつくとちらっと加藤の胸を見る。

 

 

「お前空挺取ったんだな。いつものグライガーバッチどこ行った?」

 

「なんのこと?」

 

「…………」

 

「冗談だよ、そんな顔するな。てかグライガーバッチて呼ぶな。なんか可愛いじゃないか」

 

 

グライガーバッチ。伊丹が勝手につけた名前だが、理由はコウモリとサソリをくっつけたような徽章だからだ。

 

海上自衛隊の中でも秘匿性の高い部隊、特別警備隊(SBU)のみが許される徽章である。

 

 

「まあ、まだこの部隊に俺たちが配属されたこと知らない人が多いからな。あまり口にはできねーんだ。察してくれ」

 

 

だろうなと伊丹は思う。これもすんなり納得できるのも似たもの同士だからだろう。

 

 

「ところで奥さん元気?」

 

「なんでお前が気にするんだ」

 

「だって、伊丹と同じオタフレ(オタク仲間)だからだよ」

 

「まあ元気だよ。これだけど」

 

 

と伊丹は左手を見せる。

 

 

「あ……うん。すまんね」

 

「別に悪いことがあったわけではないから気にしなくていいよ」

 

「まあ、それならいいんだが。そうそう、これ渡すんだった」

 

「何だこれ?」

 

 

小さいメモ帳だった。

 

 

「国会答弁参加するんだろ、攻略本だよ。ま、お守り程度だ」

 

「ふーん。じゃあ貰っておく」

 

「あ、あと前回のお願いよろしくな」

 

「前回?」

 

「ほら、この前の同じ職場で俺が言い残したじゃないか」

 

 

伊丹は思い出そうとする。

 

 

「5年前のあれ?お前言い切る前に多量出血かなんかで気を失ってたけど」

 

「あれま。そうだったのか」

 

「どうせ女の子紹介してとかでしょ?」

 

「よくわかってらっしゃる」

 

「お断りだ」

 

「えー、いいのかなあ?」

 

 

加藤は何やら含みのある笑みを浮かべる。

 

 

「少女……」

 

「?」

 

「つるぺた」

 

「!?」

 

「お腹……」

 

「ちょ……!」

 

「枕……」

 

「待て!それ以上言うな!」

 

「このロリk……」

 

「わかった!わかったから!それ以上言うな!」

 

 

2人は小声で言ってるので問題はないだろう。

 

 

「んじゃよろしく〜」

 

 

加藤は愉快そうに笑って席を後にする。

 

伊丹は深いため息をつく。

 

そしてニヤリと口元を緩める。

 

 

「計画通り……」

 




自衛隊の(異常な)日常でお送りしました。

もちろん全部妄想だよ。


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神降臨す

最近また Skyrim SE 始めましてね、アルドゥイン様の勇姿を見て涙が出そうになりましたよ。

よく見たら漆黒龍というより濃い銀色かも。


 

「遅いぞお前ら……」

 

 

と夏制服の伊丹。今日は久しぶりの本国への帰還である。そのため準備していたのだが、彼以外は全員遅刻の模様。

 

ちなみに彼の部下は私服、テュカはスーツ、ロゥリィとレレイはそのままの服でロゥリィはハルバードの葉の部分を布で巻いて見えないようにしている。

 

ロゥリィは不満だったがこうしないと銃刀法違反などに引っかかるので我慢してもらうしかない。

 

 

「よし、行くか」

 

 

としようとすると柳田が運転する官用車が目の前に止まる。

 

 

「伊丹、姫様たちもお忍びで本国へ行くことになったからよろしく」

 

 

姫様たち、つまりピニャとボーゼスである。

 

 

「おい、聞いてないぞ」

 

「言ってなかったか?まあ今言ったぞ。てのは冗談で、翻訳の人材が揃っていて慣れているお前たちが適任だと思うのよ」

 

 

そして白い封筒を伊丹のポケットにこっそり入れる。

 

 

「狭間陸将からだ。娘っ子たちの慰労に使え」

 

 

これは袖の下なのか、それともお小遣いなのか手当なのか。尋ねない方が良いだろうと伊丹は判断した。

 

ちなみに、ピニャとボーゼスは柳田と目を合わさないようにしてすごく気まずそうであった。一体どんなことを言われたのやら。

 

 

「ん、お前たちも今日戻るのか」

 

 

声の方向を見ると約20名のスーツ姿の隊員が、先頭の2人を除く全員がサングラスをして整列していた。どこの宇宙人管理者(メン・イン・ブ○ック)なのだろうか。

 

サングラスをしていないのは草加と加藤であった。ボディガードにしては多すぎるし、逆に目立つ気もするが。まあ伊丹は正体の予想はついてるので何も言わなかったが。

 

 

「ちゃんと資料目通しておけよ、伊丹」

 

「了解。加藤1尉はどちらへ?」

 

市ヶ谷(防衛省)だ。こっちもしごとだよ」

 

 

加藤はやれやらと軽く頭を振る。

 

 

「せいぜい伊丹は国会で変なこと言うなよ。あとリフレッシュは適度にな」

 

「伊丹2尉、その方はどなたですか?」

 

 

どうやら栗林の丈夫(ますらお)レーダーが探知したようだ。もし軍事転用すればかなり有用かもしれない。

 

 

「栗林、後で説明するから」

 

 

栗林はお預けされた犬のように渋々後退する。

 

 

「可愛いじゃないか。紹介してくれよ」

 

「え、いいの?」

 

「え?」

 

 

加藤は半分冗談のつもりだったのか、予想外の答えに驚く。

 

 

「別に加藤1尉がいいと言うのなら」

 

「え、本当なの?本当なら嬉しいが」

 

「へいへい、紹介しときますよ」

 

 

実は心の中でガッツポーズしてるのは加藤だけではなかった。伊丹もなぜかしていた。なんでだろう。

 

 

「それでは殿下、私はここで失礼します」

 

 

草加もこの間ピニャたちと何か話していたようだ。ピニャも実は狭間陸将や柳田2尉と会談する際に草加3佐とも面識があったりする。

 

 

「んじゃ、よろしく」

 

 

そう言ってスーツ集団は先にゲートを通り抜けて行った。

 

 

「なんだか丈夫の気配がしたなあ」

 

「あれね、この前栗林とロゥリィが紹介してって言ってた人。さっき話していたのは加藤1尉ってね。また後で詳しく言うから」

 

 

それを聞いた栗林とロゥリィの目は完全に獲物というか、そんなものを見つけた野獣そのものだった。

 

 

(なんか背筋が寒いな……風邪かな?)

 

 

と誰かさんは背中に冷たい視線を感じるのであった。

 

 

***

 

 

「な、なんだこれは!?」

 

 

ピニャを始め、特地出身者は全員目を丸くして驚いていた。何に驚いているかというと銀座の高層ビルの並ぶ町街並である。まあ戦国時代の人間が現代に来るようなものだからそれは仕方がないだろう。

 

 

「伊丹2尉ですね」

 

 

と近くにいたいかにも、といった感じの黒服の代表の中年風の男が伊丹に声をかける。

 

 

「情報本部から来た、駒門です。今回のご案内と、エスコートを仰せつかってます」

 

 

雰囲気は何かと自衛官とは異なる鋭さを持った男だった。

 

 

「おたく、公安とかの人でしょ?」

 

 

と伊丹の問いに対し駒門はニヤリと笑みを浮かべる。

 

 

「やっぱり分かりますか?」

 

「空気が違う感じがするからね。もし生粋の自衛官でそんな雰囲気を身にまとえるような職場があったら、今時情報漏洩とか起きないだろうし」

 

「あんたやっぱり只者じゃないねぇ。流石二重橋の英雄と言われるだけあって、『S』に所属していただけはあるねぇ」

 

 

S、つまり特殊作戦群のことである。現在陸自が保有する部隊で正式に特殊部隊とされており、その内容は謎につつまれている。

 

 

「ひぃぃぃぃぃぃ」

 

 

栗林から普段絶対に聞けることのない悲鳴が聞こえた。

 

 

「いやぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

 

かと思えばまた奇声をあげて猛スピードで走り去ってしまう。といってもそんな遠くまでではないが。

 

 

「嘘よ、誰かさ嘘だと言って……そうよ、きっと夢なんだわっ。これは夢」

 

 

オタクで怠け者の上司は実は憧れの特殊作戦群、という事実を築き上げられた栗林は現実逃避を始めていた。

 

 

***

 

 

というわけで、特地出身者一同を連れて服を揃えたり、ご飯を食べたりしてそれぞれの予定へと入る。ピニャとボーゼス、栗林と富田は諸事情により秘密会談へ。伊丹とレレイたちは国会答弁に向かうのであった。

 

ちなみに、ピニャたちも日本の文化や捕虜の処遇や取り決めなど、基本となりうることに関しては情報を得られたようである。今後の進展に期待したい。

 

 

そして待ちに待った国会答弁にである。

 

 

「よし、みんな準備はいいな。そんな難しいことではないから緊張しないようにな」

 

「問題ない」

「大丈夫よ」

「いいわぁ」

「おもしろそーだな」

 

 

刹那、その場にいた全員が時間が凍りついたのを感じた。特に伊丹。

 

 

「あ?なんだ。俺がいて驚いたがお前ら。こんな楽しそうなこと俺を除け者にしやがって。安心しな、俺は喋るのは好きなんだぜ」

 

「なんでお前がいるんだぁぁぁあああ!!!」

 

あんまり来てほしくない奴が来てしまったようだ。

 

 

***

 

 

本日の国会中継は異様な視聴率の高さ記録した。なんせ異世界のファンタジーのエルフたちが現れるという情報だけで日本中の紳士(おたく)が視聴するから当たり前であろう。

 

というわけで、議場に例の3人と1匹と伊丹が現れると周囲が一斉にどよめく。余談だが、バルバスも一応許可は下りてるので問題はない、今のところは。

 

最初の質問に立ったのは、少数野党の女性党首。名前はこの際どうでも良いので割愛する。

 

 

「伊丹参考人に質問します。特地甲種害獣、通称ドラゴンによって、コダ村避難民の半分、約300名が犠牲になったのはなぜでしょうか?」

 

伊丹参考人、と委員長に呼ばれ伊丹は前に出る。

 

 

「えー、それはドラゴンが強かったからじゃないですかねぇ」

 

 

この回答に、質問者を含め多くが絶句する。

 

 

「そ、それは力量不足を転嫁しているだけなのではないのでしょうか?300名が亡くなっているのですよ。それについて責任は感じないのですか?」

 

「力量不足と言えば、銃などの武器の威力不足は感じましたよ。はっきり言って、豆鉄砲でした。もっと威力ある武器よこせと思いましたよ。プラズマ粒子砲とか、レーザーキャノンとか、実用化しないんですかねぇ。レーザーキャノンは米海軍ですでに試験段階とは聞きますが。あと大勢の人が亡くなったことは残念に思いますよ」

 

 

この言葉に与党からは苦笑が、野党からは不謹慎だなどのヤジが飛ぶ。すると防衛大臣が手を挙げて補足の許可を得る。

 

 

「えー、伊丹2等陸尉から提出された、ドラゴンのサンプルを解析した結果、鱗の強度はタングステン並の強度を持つことが判明しています。モース硬度ではダイアモンドの『10』に次ぐ『9』。それでいて重さはなんと約7分の1です」

 

 

つまり空飛ぶ戦車相手に犠牲者無しで戦うことは不可能と暗に告げていた。そしてさらに続ける。

 

 

「さらに超重要危険乙種害獣、通称『漆黒龍』はその通常ドラゴンの鱗を貫通する武器ですら攻撃を通さず、死亡したドラゴンを蘇らせ、爆風を起こし、瞬時に姿を消すなどの、人知を超える現象を起こすことが確認されてます」

 

 

それ、何のファンタジー映画ですか、それとも僕の考えた最強のドラゴンですか、と叫びたくなるものである。本当に創ったやつ出てこいといいたくなる。

 

 

「分かりました……次の質問です。特地において、任務中のヘリコプターが墜落したとの情報を得ましたが、これはほんとうですか?」

 

 

一体どうやってこんな情報をえたのだろうか。日本のメディアが優秀なのかそれとも自衛隊の情報保全に問題があるのか……

 

 

「はい、それは事実です」

 

「ではなぜそれを今まで公開していないのでしょうか。隠蔽するつもりですか?」

 

「いえ、現在我々はその原因と対策を思案中でして、まだ公開するには早すぎると判断したまでです」

 

「それを隠蔽と呼ぶのでは?」

 

「少なくとも、現時点で私がその事実を認めている以上隠蔽ではないという認識です。それに、早く公開し過ぎてももしその原因などに間違いがあれば国民の皆様に間違った情報を与えてしまいます。これは避けなければなりません」

 

「……では原因と対策を現時点で教えていただけますか?」

 

「原因はドラゴンの小型種である翼竜の群れによる襲撃です。これにより、翼竜は想像以上に知恵は高く、さらに他の動物と異なり生存本能を優先した行動ではない行動、つまりなんの利益もない自らの命が犠牲になるような行動をとることが分かりました。つまり、翼竜は食料確保以外にも人間、さらには自らより強いと認められる相手にも攻撃すると考えます。それを考慮できなかったため、そしてそれを十分に対処するための武器装備などが整っていなかったことが原因だとか考えます。また、対策は現在また協議中です」

 

 

先ほどの伊丹とは人が変わったような言い方である。内容はわからないものの、レレイたちも感心した様子である。

 

 

「わかりました、もう一つ質問します。盗賊団相手に、催涙ガス、またはそれに類似、準ずるものを使用したという情報が入っています。これはご存知ですか?」

 

「はい、それは私も現場の1人として確認しています」

 

 

質問者はしめた、とばかりに食いついた。

 

 

「あなたは、これは国際法違反ということをご存知ですか?」

 

「いいえ」

 

「そうですか。催涙ガスは化学兵器禁止条約に記載される化学兵器に含まれます。自衛隊は国際法を無視せているのでしょうか?」

 

 

質問者はこれでどうだ、とばかりにドヤ顔になる。

 

 

「我々は国際法を徹底しております。故に、国際法違反はありえない」

 

「何を言っていますか!?貴方は先ほど使用を認めたのでしょう?言葉に責任を持ちなさい!」

 

「ええ、使用は認めます。ですが国際法は違反しておりません。なぜなら、その化学兵器禁止条約に書いてあります。

『第2条、定義及び基準。9項、「この条約によって禁止されていない目的」とは次のものいう、の(d)国内の暴動の鎮圧を含む法の執行のための目的』

つまり我が領土である特地内において、法を執行し、盗賊団を鎮圧するために使用しました。さらに、この催涙ガス仕様による死傷者はいません」

 

 

死傷者はゼロ、とまで伊丹は釘を刺していた。これにはぐうの音も出なかった。質問者ももう少しばかり勉強してなければこんな恥をかかなかったかもしれない。

 

 

「わ、わかりました……ではレレイ参考人に質問します。日本語は分かりますか?」

 

「はい、少し」

 

 

そして自己紹介が終わると、質問が始まる。

 

 

「今はどこに住んでいますか?」

 

「今は、難民キャンプで共同生活している」

 

「不自由はありませんか?」

 

「不自由の定義が不明。自由でないという意味ではそれは当たり前のことは。ヒトは産まれながらにして自由ではないはず」

 

「いえ、そう意味ではなくて……生活する上で不足しているもの、他にも必要なものは満たされているでしょうか?」

 

「衣・食・住・職・霊のすべてにおいて、必要はみたされている。質を求めるとキリがない」

 

「そうですか……では、多くの村人が亡くなった件について、その原因に自衛隊側の対応に問題はなかったでしゃうか?」

 

「…………ない」

 

「……分かりました。質問は以上です」

 

 

次に呼ばれたのはエルフのテュカであった。

 

 

「失礼を承知の上で質問しますが、それは本物の耳ですか?」

 

「はい、本物ですよ。触ってみますか?」

 

 

とピクピクと動かしみせる。その反応に周囲からどよめき、シャッター音に溢れる。ちなみに某動画配信サイトでは「キター(^ω^)」などの文字で画面が埋め尽くされていた。

 

質問者は触れることについて遠慮すると、レレイに最後に質問した内容と同じの内容をまた質問する。

 

 

「よくわからない。その時気を失っていたから」

 

「分かりました。以上です」

 

 

どうやら思い通りの答えを得られずかなり不満のようだ。

 

そしてふとある存在に目が行く。

 

 

「伊丹参考人に再度質問します。その犬は何でしょうか?」

 

「彼はバルバスというものです。急遽、特地からの参考人の1人と加えられました」

 

「なぜ犬が?」

 

「それはご自身で質問なさってみてはどうでしょうか?」

 

「そうだそうだ」

 

 

そのとき会場が凍ったように静かになった。

 

 

「あの、今のは一体……?」

 

「ああ、俺だよ。お前が犬と呼んでいるバルバスとは俺のことだ」

 

 

またもや周囲がどよめく。

 

 

「い、犬が喋った……」

 

 

質問者はマイク越しに関わらず驚きのあまり声が漏れてしまった。

 

ここで一部お気付きの読者もいると思うが、彼は今日本語を話している。世界の言語の中でも難易度ベスト3に入るといわれるあの日本語である。

 

 

「ああ、喋ったよ。俺からしたら二つの世界がたった1つの門で繋がることのほうが不思議だがな。それにおれは黙るつもりはないぜ」

 

「自己紹介お願いしてもよろしいですか?」

 

「俺はバルバスってんだ。デイドラプリンスの相棒さ。タムリエル地方から来た」

 

 

話す犬のインパクトが強すぎて、誰も内容なども気にしていない。特地の3名を除いて。伊丹に至ってはバルバスが日本語話していて全身冷や汗が走っていた。

 

 

「え、えーと。バルバスさんはいつ頃から彼らと共に行動をしていますか?」

 

「まだ2日ぐらいだね」

 

「特に何か変わったことなどは?」

 

「変わったこと?わかんねーよそんなこと。この世界が変わってるなと思うけどな」

 

「バルバスさんは一体なぜ彼らと共に行動しているのですか?

 

「あん?そんなことも答える必要があるのか?おもしろそーだったからよ」

 

「そうですか……貴方が喋れるのは、それは元からですか?それとも魔法などの特別なものですか?」

 

「んなこと俺は知らねーよ。いつの間にかこうなってたんだから」

 

「わかりました。質問を終わります」

 

「あん?どうでもいい質問しかしねーんだな」

 

 

喋り方は癪に触るものの、これ以上この犬と話せば精神的によろしくないと感じ、質問者は早々に撤退する。

 

そしてようやくゴスロリ(ロゥリィ)の番となる。そのゴスロリチックな神官服を喪服と受け取った質問者はこれは政府を攻撃するのにいい材料になると感じた。

 

 

「お名前を聞かせてもらえる?」

 

 

今までと違い、子供に対するような口調になる。

 

 

「ロゥリィ・マーキュリー」

 

「避難民キャンプではどのような生活をしている?」

 

「エムロイに仕える使徒として、信仰に従った生活よぉ」

 

「どのような?」

 

「わりと単純よぉ。朝目を覚ましたら生きる。祈る。そして命を頂くぅ。祈る、夜になったら眠るぅ。また、肉の身体を持つ身だから、それ以外の過ごし方をすることもあるけどぉ」

 

「貴方のご家族が亡くなった原因に、自衛隊の対応に問題なかった?」

 

 

レレイは翻訳に困る。なんせロゥリィの家族は遥か昔にこの世から消えているのだから。でも一応そのまま伝える。

 

そしてしばらくの沈黙。

 

質問者はしめた、とばかりに思ったが、彼女の予想とは全く異なる反応が返ってきた。

 

 

「貴女、お馬鹿ぁ?」

 

 

ロゥリィまでもが日本語で発した。

 

 

「に、日本語?失礼、今何と言ったの?」

 

「あなたはお馬鹿さんですかぁ?と尋ねたのよぉ、お嬢ちゃん」

 

 

と直接日本語でやり取りするロゥリィ。なぜかバルバスは面白がってニタァ、としている。

 

 

「お嬢ちゃんねぇ…」

 

 

と誰にも聞こえないようにつぶやいたが、ロゥリィの視線が一瞬バルバスに向いた気がした。

 

 

「さっきから黙って聞いてみると、まるで伊丹たちが頑張らなかったと責めたいみたい。炎龍相手に生き延びたことを褒めるべきでしょうにぃ。半分が亡くなった?違うわぁ、半分を救ったのよぉ。それが分からないなんて、この国の兵士もさぞかし苦労してるでしょうねぇ」

 

「お嬢ちゃん、こういった場所は初めてだから分からないかもしれないけど、悪い言葉を使ってはいけませんよ。それに大人に対して生意気な態度をとってはいけませんよ」

 

「お嬢ちゃん?それってもしかして私のことぉ?」

 

 

バルバスはなぜかむせて笑いをこらえようとしている。どうしたのだろうか。

 

 

「委員長!質問者は重大な勘違いをなさっているようなので申し上げたいことが!」

 

 

これはやばいと感じた伊丹は委員長に発言の許可を得る。

 

 

「えー、皆様。我々は若い人に年齢を武器にして物を言うことがりますが、時としてそれが我が身に返って来ることがあると思うのです。実を言いますと、ロゥリィ・マーキュリーさんはここにいる誰よりも年長者でして……」

 

 

またまた会場はざわめく。一体何歳だ?と皆が思ってるので仕方がない。

 

 

「おいくつですか?」

 

 

と質問者。

 

 

「961歳になるわぁ」

 

 

今度は会場は静まる。なお、ネットでは神降臨wwwなどと大変なことになってるが。

 

他の参考人の年齢も質問すると……

 

 

「165歳」とテュカ。

「15歳」とレレイ。

「んなもん知らねーよ」とバルバス。

 

 

そしてレレイの解説が入り、レレイはヒト種、テュカはエルフのなかでも稀少な妖精種で、寿命は永遠に近い。そしてロゥリィは元ヒトではあるものの、亜神であり1000年ほどの年月を得て肉の身体を捨てるのだという。

 

バルバスに関してはレレイも知識不足で答えられないとなった。バルバス自身への質問はあったが、彼はなにかはぐらかすようにしてなかなか答えなかった。わかったことは、ロゥリィ同様亜神のような存在であるということだ。

 

 

「質問を、終わります」

 

 

ようやく1人目の質問が終わった。その後も何かと質問はあったものの、とくにトゲトゲしい質問もなかった。そして、最後にはロゥリィの哲学的な回答によって幕を閉じた。

 

最後の質問を簡単に説明すると、ぶっちゃけエロ系漫画への規制するべきかどうかに対してだが、ロゥリィはそんなものに答えなどない、無理やり答えをつけるのならそれは結果的に害悪なるとだけ答えた。

 

こうして、長い長い国会答弁が終わった。

 

 

余談だが、この間に向こう側では漆黒龍によって村が一つ滅ぼされたとかないとか。

 




FT(ファストトラベル)って便利だよね。
バルバス「それな」


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芸術は爆発

ワールドイーター「またもや我はしばらく出番無しなのか……?」

今主人殿に日本に来てもらっては困りますので、ストーリー的にも伊丹たちのためにも。


 

「伊丹ぃ、貴方の後半の発言、意外と良かったわよぉ。見直したわぁ」

 

「いやぁ、それほどでも(ホントはあいつの攻略ノートのおかげなんだよな。マジで当たって怖いくらいだけど)」

 

 

と国会議事堂に向かうマイクロバス内で皆はしゃいでる中、伊丹は攻略ノートをパラパラとめくる。

 

 

「ん?」

 

 

そして最後のページより少し手前に色んな文章に紛れてある文章を見つけた。

 

 

『猫が来た』

 

 

***

 

 

「隣、ヨロシイデスカ?」

 

 

金髪の白人の男が某有名コーヒーチェーン店の隅で新聞を読んでいる男に尋ねた。

 

 

Sure, Carl(もちろん、カール)

 

「あちゃーばれてたか」

 

 

と白人の男は流暢な日本語で話す。

しかし2人の男は今度は英語で話し合う。

 

 

「久しぶりだな、ソーヤ」

 

「そうだな、カール」

 

「予想はつくが、何してたんだ?」

 

「仕事だ、それ以上は言えないなあ」

 

「でも今回俺を呼んだのはそれに関することでしょう?」

 

「まあ、そうだな。日本に『マウス(ネズミ)が入り込んだ。そしてさらに重要なことに、『キャット()』もだ。ということで、ネズミの駆除を願いたい」

 

ミッキー(米国産)もか?」

 

「当たり前だ、ここは日本だ。外来種(侵略者)はいらない」

 

 

カールという男は微笑する。

 

 

「高くつくぜ。そもそもそれなりの資料が必要だ」

 

「……」

 

 

ソーヤはUSBを取り出すとカールの手にしっかりと握らせた。

 

 

「まいど……」

 

「無くすなよ」

 

「そうそう、もうそろそろ大会が開催されるから是非参加してくれよ。できればうちのチームで」

 

「そうだな。仕事入ってなかったら考えておくわ」

 

 

そう言ってソーヤは席を外し、店を後にする。そして今時珍しいガラケーを取り出して連絡する。

 

 

「駒門さん、ネズミ駆除は準備できました。あとは(マオ)です」

 

 

そして次にスマホで連絡する。

 

 

「草加さん、準備は整いました」

 

 

***

 

 

マイクロバスに乗っていた伊丹たちは、周りを公安の車で固めていたにも関わらず、不審な車に尾行されたりしたので急遽バスから地下鉄移動に変更していた。

 

 

「ホテルから、バスで移動すると思っていたら急に地下鉄に乗れって言われてびっくりしましたよ」

 

 

と伊丹たちと合流した富田が言う。ちなみに、何かに怯えているボーゼスが富田の腕をしっかりと組んでいた。

 

 

「どうもピニャ殿下とボーゼスさんは、やはり電車に慣れていないのか、それとも暗がりが怖いのか、ずっとこんな調子なんです」

 

 

と富田が説明する。

 

怯えているのはピニャとボーゼスだけではない。ロゥリィもビクビクと怯えて、その震える手で伊丹にしがみつく。

 

 

「ど、どうしたんだ?」

 

「じ、地面の下はハーディの領域なのよぉ」

 

「ハーディ?知り合いか?」

 

「あいつヤバイのよぉ。こんなところにいるのを見つかったら、無理やりお嫁さんにされかねないのぉ。200年くらい前に会った時もぉ、しつこくて、しつこくって、しつこくって、しつこくって……」

 

「それで、何で俺に?」

 

「ハーディ除けよぉ。あいつ男嫌いだから、見つかってももしかしたら近寄ってこないかもしれないでしょぉ」

 

 

このとき、伊丹は密かに「か、勘違いしないでよねぇ。ただの虫除けぇ、カモフラージュなんだからぁ!」と盛大にツンデレで言って欲しかったが現実は甘くなかったようだ。なのでこれは教育の必要があるかもしれないと密かに思うのであった。まさに紳士。

 

 

次の駅では駒門が乗り込んできた。

 

 

「よっ」

 

「どうでした?」

 

 

と伊丹が尋ねる。

 

 

「見事引っかかりました。これで機密漏洩の容疑者を2人にまで絞りこめた。ほどなく素性が割れるでしょう」

 

「その2人、どうするんで?」

 

「置いておく予定です。捕まえなくともそこで情報が漏れていることをこっちが承知していればよいのです。敵さんもガセネタ掴まされたとわかった段階で、切り捨ててるよ。どうせ特定の主義思想団体と関わっているか、ハニートラップにはまっただけのどっちかだし」

 

「ハニートラップねぇ……」

 

「まあ、ハニートラップの対処方法さえしっかりと知っていれば美味しい思いをできるのですがねぇ。それがやはり日本人の特質なのか、周りに相談できない、だから結局どんどん悪い方に行ってしまうわけですよ。まあ貴方や友人はハニートラップには引っかかりそうもないですから」

 

 

はて友人とは誰のことやら。

 

 

「俺って引っかかりそうにないの?」

 

 

もしかして俺って優秀に見られてる?とか少し期待して言ってみる。

 

 

「そりゃあ、だって、ねえ?」

 

 

と伊丹を囲んでいるゴスロリ(ロゥリィ)魔法少女(レレイ)エルフ(テュカ)を見渡す。

 

これ暗に伊丹さんがオタクで趣味がこっち系だから(こんな見た目好み)、と言ってるもんである。それに気づいてしまったのがなんだか悲しくなってきた。どうせそんな理由だとは思っていたが。しかし誤解して欲しくない。俺は決してロリコンではない、と伊丹は心の中で弁明するのであった。

 

 

「いくら某国でも、この年齢層の(とっても若い)工作員は養成してないでしょ……いや、待てよ……」

 

 

と駒門はブツブツと小声で独りでつぶやき始める。どうしたのかと伺ったところ、最近とーっても若い女の子とムフフなことをさせる組織があるらしく、そういう女の子たちとムフフなことしてしまうと本当に言い逃れできないから政治家や一流のエリート層がそれに引っかかればもうどうしようもなくなってハニートラップと分かっても対処不能であること、などなど。

 

これを読んでいる紳士淑女半龍の皆様も決してエロ同人みたいなことは現実ではしないように。イェスロリータノータッチ

 

 

「まさか、そんな年頃の女の子をどうやって」

 

「それができるのが独裁国家なんですよ」

 

 

子供は教育次第では何でもなる。スパイ、ハニートラップ要員、兵士、テロリスト……どこぞの世界のように全員が不死身でいい子ちゃんな訳ではないのだ。はて、どこの世界なのだろう……

 

 

「ねぇ、すぐここをでたいのぉ」

 

 

とロゥリィ。亜神の面影はなく、もう怯えた子猫のようだ。

 

 

「どうした。乗り物酔いか?」

 

「どうにも、気になるのよぉ。落ち着かない」

 

 

伊丹は目で他の者に合図を送る。次で降りると。ちなみに、駒門だけよく分かってもない状態だ。

 

そして次の駅で扉が開き、降りる人が降り、乗り込む人が乗り込もうとしたときに伊丹はたちは降りる。

 

 

「ということで駒門さん。俺らこかで降りるわ」

 

「ちょっと待てって、あんた、こっちにも段取りというものが」

 

 

なんとかギリギリ駒門も降りることに成功する。

 

そして地下鉄を出て地上に戻る。ちょうどこの頃、先ほど乗っていた電車が架線事故で停止したことが、分かった。どう考えてもタイミング的に敵さんの仕業である。

 

 

「敵さん、何が目的だと思う?」

 

「こっちを威圧してるんでしょう。ついでにこっちの力量を測ろうとしている気配もあるな。威力偵察ってやつだ」

 

 

と駒門は伊丹の問いに答える。

マイクロバスの追跡も駒門の囮で回避し、架線事故による足止めもロゥリィの勘によって回避できた。

 

 

「敵さんもかなり焦ってるだろうし、次はもっと分かりやすい方法でアプローチするだろうな。直接的な方法、例えば……」

 

 

と駒門が言い終わらないうちにチンピラ風の男が人混みの中から現れ、瞬時にロゥリィの布で包まれた大きな棒状のものを奪った……つもりであった。

 

 

「荷物をひったくって後を追跡させて、罠に誘い込む、ってのは古典的な手口ですが、何やってんだぁこいつ」

 

 

そのチンピラ風の男はロゥリィの荷物に押し倒されて動けなくなってしまった。伊丹たちはその中身を知ってるから、あーあ、という感じであったが駒門はそんなこと知る由もない。

 

そしてそれを拾おうとして腰から枝が折れるような音がしてチンピラと同じ末路を辿ったのは言うまでもない。

 

 

「なんてぇ重さだ。バーベル並みだぜ」

 

 

と迷言を残して駒門は救急車へ、チンピラはパトカーに乗せられていくのであった。

 

 

「おい、そろそろ出してくれや。苦しくてしょうがねえや」

 

 

何やらレレイの大きめのバッグから声がした。

 

 

***

 

 

暗い部屋の中、牛乳瓶の底のような眼鏡をかけた女性がパソコンを前にして何やら作業をしていた。冬なのに暖房もつけずに。

 

 

「最後に食べたのはいつだったかな……昨日?一昨日?」

 

 

といろいろつぶやきながら作業をしている。作業内容は……あまり見ないほうが良いだろう。特にこの手の趣味のない人たちは。

 

 

部屋のドアが何者かによって開けられ、そこには見たことのある顔が浮かんだ。

 

 

「なんだ起きていたのか梨紗?部屋を真っ暗にして何してんだ?もう寝てるかと思ったぞ。それになんだか寒くないか、エアコンぐらいつけろよな」

 

「うはー、狭い家だー」

 

 

伊丹耀司、この梨紗という女性の先輩にあたる人物だ。そして口うるさい犬。

 

 

「ご、ごはん!」

 

 

久しぶりに先輩に会って最初の言葉がこれとは酷い。決して犬を見てこんなこと言ったわけではないのでご安心を。

 

 

***

 

 

「せ、先輩が女を連れてる!?」

 

 

伊丹はさぞ自分の家かのようにどんどん客人を入れていく。

 

 

「うわぁぁぁぁっ!黒ゴス少女に、金髪エルフ、銀髪少女と紅髪のお姫様っぽい美人に、縦巻きロールのお嬢様っぽい美人と、巨乳チビ女はどうでもいいか……国際的なコスプレの催しってあったけ?」

 

 

色々と勘違いしている梨紗に伊丹は外から誰も聞かれてないことを確認すると事情を説明した。火事で宿泊していた市ヶ谷園からでなければいけなかったこと、彼女らが例の有名人であること、などなど。

 

 

「へー、そうなんだ。本物なんだ。それにしてもかぁいいよー!」

 

 

お持ち帰りぃ!とでも言いそうな勢いで黒ゴス少女に飛びつくが、かわされて豪快に床に突っ込んでしまう。

 

それでもなぜか笑っていて、「ふふフふふフふふフ腐腐腐」と意味不明な笑い方になっている。これ、どんな笑い方なんだろう。

 

 

「ここにも、ハーディがいたぁ」

 

 

とロゥリィは半泣き状態で伊丹にしがみつく。

 

 

「あの、ところでこの女性は誰ですか?」

 

「これは俺の『元』奥さんだ」

 

「「「えっっっっっっっっ!?」」」

 

 

栗林の問いに対する伊丹の答えは文字通り全員の口が塞がらなくなった。

 

 

「2尉結婚できたんですか?っと言うか、こんな男と結婚するような物好きが居たってこと自体が、驚き!だけど実物見たら、非常に納得できる組み合わせっ」

 

 

つくづく失礼なことを言う脳筋童顔巨乳である。

 

 

結局、民間人の梨紗を巻き込むことなどに議論はあったが、現状これしかないと皆納得したので梨紗宅で泊まることにした。

 

 

***

 

 

翌朝、伊丹は早めに起きると朝食の準備をする。別に手の込んだものではないが、朝食としては悪くない感じである。

 

そして、寝てる奴らは起こし、起きてる者も呼ぼうとしたがどうしても声がかけにくい者がいた。

 

それは薄い本(BL同人誌)を手に顔を少し赤らめながら世の真理を得たか如くその手にあるものを読み漁るピニャ殿下とボーゼス嬢である。

 

 

「で、殿下、こ、これは」

 

「う〜む。これほどの芸術が、この世にあったとは」

 

「殿下。ここは異世界です」

 

「そうだった」

 

 

はて、芸術とはその絵柄のことなのか内容なのか。まあ、古代ギリシャを代表するように、男同士の熱い芸術は一応世界各地にあるし……

 

 

「文字が読めないのが恨めしい」

 

「殿下。語学研修の件ですが、是非わたくしを」

 

「狡いぞ」

 

「わたくしがこれらを翻訳して、殿下の元に……」

 

 

という感じで会話をして何やら熱心に研究中であった。

 

 

「朝食。出来たけど、食べる?」

 

 

***

 

 

そして朝食を食べ始める。人数も多いので2回に分けて食べることにした。

 

 

「あ、梨紗。言い忘れていたけど加藤からよろしくって伝えられてたわ」

 

「ふふフふふフ、やはり私の信者は忠誠心が高いわ」

 

「ひぃぃぅ、やっぱりハーディだぁ」

 

 

こんなカオスな朝食はレンジャー訓練や特戦にもなかったわと伊丹は思うのであった。

 

 

「梨紗殿、一つ質問が……」

 

 

とピニャがレレイを通じて問いかける。

 

 

「貴女は、このような芸術を手掛けるとは、一体何者なのか?」

 

 

それを聞いた梨紗ニヤァ、と笑みを浮かべる。それを見たロゥリィはビクッと警戒する。

 

 

「私は、世の女の真の喜びとは何かを研究し、それを世にのこすことを生業としてるわ」

 

「なんと、研究者(賢者)なのか!?」

 

「私もまだまだ真理からは遠いけどね」

 

 

もうなんだか厨二病も発動している気がしたが伊丹は敢えて何も言わない。

 

 

「貴女にも、芸術家(BL作家)になるきっかけとかあったのでしょうか?」

 

 

と今度はボーゼスが質問する。

 

 

「むふふフ、知りたいかね?きっかけは色々とあるが、一つは彼だね」

 

 

とその方向を見ると伊丹がいる。

え、俺?という顔をしているが。

 

 

「そして彼の友人兼信者……」

 

 

これを聞いて伊丹はハッと思い出す。

 

 

「待て、それだけは……!」

 

「そしてその末に至った最初の真理はこれよ!」

 

 

と古びたノートを出す。「らふすけっち」と書いてある。

 

ピニャたちはそれに手を出し、ゆっくりとページを開く。

 

なぜか他のみんなも囲んでいる。

 

 

「やめろー!」

 

 

***

 

 

ピニャが最後のページを閉じると、なぜか鼻から血がつー、と垂れてきた。ボーゼスも同様である。他は瞳から光が消えていた。

 

 

「なんということだ、まさに雷に打たれた気分だ」

 

「芸術とは爆発なのですね、姫様」

 

「モデルがいなかったからって俺をそんな風に使うなー!」

 

「イイノヨー、伊丹。私たちは別に気にしてないカラー」

 

 

とロゥリィ。目はもう死んでいる。

 

 

「理解不能」

 

 

ロボットのような返答のレレイ。

 

 

「え、ここじゃ普通じゃねーの?」

 

 

とバルバスが爆弾発言をする。

 

今日も日本は平和である。




なぜか多くの異世界(スカイリム、フォールアウト、その他)では子供は不死身か死ぬと主人公も破滅してしまう模様。さらにまた別の異世界では女の子がたくさん魔法少女になったり……どうりで国連が子供の戦争利用を禁止しようとするわけである。

そういや、伊丹陣営は髪の色だけなら魔法少女ものが、できそうですね。巨乳チビ女を除いて。


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今日はおやすみだい!サービス残業?それって美味しいの?

スカイリムをやりすぎると、時々現実の世界でもドラゴンの突破(セーブ&リロード)できないかな、と思っちゃうんですよ。

もうここまで来ると結構やばいですけど。


 

「よし、今日は楽しむぞ!」

 

 

と伊丹は宣言する。前回のことを勢いでごまかすというか、黒歴史をなかったことにするつもりだろうか。

 

 

「楽しむって、それどころじゃないんじゃないですか?」

 

 

と栗林がそれは軽率では、と尋ねる。

 

 

「俺のモットーは喰う、寝る、遊ぶ。その合間にほんのちょっとの人生!だ」

 

 

自衛官としては言ってはいけないきもするが、わりかし名言な気もする。

 

 

「それに敵さんが俺たちの居場所をしっているのならここに閉じ込めるよりそとで人目の多いところで遊んでいた方がよっぽど特だ。違うか?」

 

 

と一理ありそうなことを言う。最終的にはこれで仕方ない、ということになった。

 

そして色々と議論した結果、梨紗の提案でピニャとボーゼスを除いた女性陣は渋谷、原宿へ買い物へ。ピニャとボーゼス、そして案内として富田は図書館へ。伊丹は秋葉原、中野へ単独行動となった。目的はお察しの通りである。

 

女性陣が買い物、伊丹が趣味のため、と分かる。しかしピニャとボーゼスはなぜ図書館へ?曰く、この世界の『芸術』を研究したいそうだ。

 

それが世間一般の芸術かどうかは置いといて。

 

 

***

 

 

秋葉原は今でこそオタクの聖地であるが、かつては違った。元々電化製品がメインであったが、それがパソコンメインとなり、ソフトが普及し、ゲームが普及し、そしてアニメなども普及していった。それに付随してアニメやゲーム好き向けのエンターテイメント系のお店も増えて原作のような基盤ができたという。なので秋葉原=オタクというわけではないのでオタクに抵抗感のある方も是非行ってみると良いだろう。

 

さて、伊丹はその秋葉原を満喫していた。お気に入りのお店に入ったり、フィギュアを目で愛でたり、同人誌を買ったり。ちらほらうちの「貴女おバカぁ?」と某汎用ヒト型決戦兵器のヒロインの「あんたバカぁ?」がコラボしているポスターとかもある。話の早い同士がいるようだ。

 

しばらくして趣味を満喫した後、さぞご満悦の顔で店を出ると同僚にばったりとあってしまった。

 

 

「お、伊丹氏」

「あ、加藤氏」

 

 

***

 

 

「で、なんでここで話すわけよ」

 

「猫の話ならここだろ」

 

 

室内にはたくさんの猫がくつろいでいたり寝ていたり遊んでいたりしていた。いわゆる猫カフェである。しかも流石は秋葉原。店員さんも猫耳をつけている。

 

グッジョブ(もっとやれ)としか言いようがない。今度倉田も連れてきたら喜ぶかもしれない。でもあいつペルシアさんいたけど、猫は浮気の内にはいるのかな?などと伊丹は考える。

 

となりでは同僚が猫とにゃんにゃんとか言いながら遊んでいる。おいやめろ、大の男がそんなことしているのは見たくない。というか周りの目が痛いというか距離置いていないか?そりゃまず男2人で猫カフェとかまず怪しいし、体格のそこそこいい2人だとなおさらだ。でもなぜか梨紗と同じ匂いがする女性陣はなんだか興奮した様子でこちらを見てるけど、やはりそう思われている?違うからね、俺たちだだの同僚だからね?

 

 

「おい加藤、早く教えろ。俺だって次の予定入ってるんだ」

 

「そうなのか?残念。お前もにゃんにゃんしていけば良いのに」

 

「だからにゃんにゃん言うな」

 

「みゃーみゃー」

 

「それもだ」

 

 

なぜだろう、こちらをチラチラ見ていた例の女性陣は今度は凝視してスケッチしている人もいる。

 

 

「しゃーないな。猫耳好きだと思ったのに。まあいいや、一応だけど、メモ読んだな?」

 

「ああ、国会でも役にたったし、それは感謝している。で、最後の情報は確かか?」

 

「ああ、『猫』は成田空港に着いたところまでは確認した。しかしそこからまた追跡を失敗した。前回とほぼ同じだ」

 

「前回……5年前か」

 

「そうだ、あの時だ」

 

「今回も来るか、でも目的はなんだろうな」

 

「前回みたいに災害が重ならなければいいけどな……あの2万人近くが亡くなった災害が」

 

 

そしてしばし沈黙する2人。

 

 

「残念ながら、情報はこれだけだ。しかし奴は関東にいる可能性、いや東京にいる可能性が高い。十分に注意しておけよ」

 

「ご忠告ありがとさん。俺は危なくなったらすぐ逃げるぜ」

 

「そうだったな、お前は唯一あの時の襲撃で無傷だったもんな」

 

「んじゃ、俺は次の用事があるから行くわ。ああ、そうそう。梨紗が忠実なる信徒に新教典を渡す、ということでこれ渡された」

 

 

伊丹は薄い本を渡す。内容?そんなもん気にしてはいけない。

 

 

「お、新作できたのか。でも俺信徒になった覚えないけどな」

 

「さあね。てか面白いの?」

 

「いろんな意味で面白いんだな。意外と」

 

 

なぜか女性陣が鼻血をながしてる。なぜだ?

 

 

伊丹は猫耳カフェ、もとい猫カフェを後にし、あまり人気のない場所に行く。そこには中年と初老の中間程度の男性が寂れた本屋の前にいた。

 

 

「すみませんね、太郎閣下。少し遅れました」

 

「はは、気にしてないが、それじゃ国を守れんぞ?」

 

 

とその男は振り向きもせずに言う。この太郎閣下と呼ばれる男は嘉納太郎。現内閣防衛大臣兼務特地問題対策大臣、かつ伊丹の世代を超えたオタク仲間である。

 

 

SP(ボディガード)も連れずに来るとは思いませんでしたよ。何かあったらどうするんですか?」

 

「何言ってるんだ。最強のボディガードがついてるだろ?しかも2人」

 

「え、2人?」

 

 

伊丹は閣下の視線をたどって振り向くと……いた。

 

 

「みゃーん、みゃーん、みゃんみゃん」

 

 

おいやめろ、キモイ。さっき別れたはずの友人が路地裏で野良猫と戯れている。てか付いてきたの?ストーカーなの?

 

 

「はは、その様子じゃ気づかずに尾行されていたみたいだ。お前もなかなかだが、あいつもなかなかだな。ま、お前は逃げだけは誰にも負けんがな」

 

「閣下も人が悪い。俺は今は仕事のこと忘れていたいんですよ」

 

「閣下ねぇ、今ひとつピントこねぇなぁ」

 

 

そう言って2人は昔話に花を咲かせる。そして楽しい時間はあっと言う間に終わる。

 

 

「お、そろそろ時間だ」

 

「あ、これを……」

 

「ありがてぇ。最近じゃ本屋にも迂闊にいけねぇんだよ」

 

 

伊丹は閣下に大量の本が詰まった紙袋を渡す。内容?紳士の本に決まってるじゃないかを

 

 

「あ、しまった」

 

 

あばよ、と言って去ろうとした閣下は何かを思い出したらしく、振り返る。

 

 

「お客さん方は元気かい?」

 

「ええ」

 

「ホテルから逃げ出して行方をくらましたのはよい判断だ。たが、ちと困ることがある。悪戯小僧をしかりつけておきたいところでな。手間をかけさせて悪いが、当初の予定に戻ってくれ」

 

「大勢は?」

 

「お前さんの原隊のSFGp (Special Force Group(特殊作戦群))に任せることとなった。なので予約しておいた旅館に入れ。防衛大臣兼務特地問題対策大臣として、職権をもって命じる」

 

 

閣下と伊丹の雰囲気が変わる。双方ともいわゆる本気(マジ)モードである。そして閣下の背中を敬礼で見送る伊丹であった。

 

 

「……で、お前はどうすんの?」

 

「俺?帰るわ。伊丹殿はがんばってねー」

 

「流石は座右の銘が『楽勝』の男だな」

 

「ふふふ、『人生の間にちょっと仕事』に言われたくないね」

 

 

そして2人はすれ違い様にハイタッチする。

 

 

「『猫』は任せな。お嬢さん方は任せたぜ」

 

「ま、ほとんどロリBBAだけどな。せいぜいお前も『楽勝(楽に勝つ)』であることを祈るぜ」

 

 

そして2人は正反対の方向へ歩いて行く。

 

 

***

 

 

「ごめーん!つい買いすぎちゃって!」

 

 

梨紗を始めとし、女性陣は手にたくさんの買い物袋を提げていた。

 

梨紗は女性の服、服、服、そして服。恐らく伊丹が貸したお金は残ってないだろう。

 

テュカは山岳用品が多めであった。そしてその袋の一つからは機械式洋弓(コンパウンド・ボウ)が頭を出していた。

 

 

「こっちの弓ってすごいこよ」

 

 

と言っていたが、地球の弓が凄いことはいいが、なんだか特別仕様のエルフの弓とかないのかね、とんだ夢のぶち壊しであると伊丹は少し思った。

 

レレイは本、本、本、そしてノートパソコン。向こうでどうやって使うんだろう。電気がないところで。

 

ロゥリィはゴスロリ系の衣装を沢山買った模様。どうやらあちら側ではロゥリィの独特の神官服は作るのが大変なんだとか。

 

一方、富田エスコートによるピニャとボーゼスは自分たちの求めている芸術が見当たらなかったため、少し残念に思っている模様。富田ドンマイ、と伊丹は思うのであった。

 

 

「よし、お前ら。温泉に行くぞ!」

 

 

珍しく皆伊丹に合わせて皆「おー!」とかいうのであった。

 

 

***

 

 

その頃、特地

 

 

「なんだ、こ奴らは。図体だけでかくて雑魚だ」

 

「ふむ、ここがマラキャス様が仰った約束の地か」

 

「これより、我が部族はこの地をマラキャス様の聖地と宣言する!」

 

 

そこにいた彼らは雄叫びを上げる。その緑の肌にゴツゴツとした鎧をつけたものたちの足元には、いわゆるオークの死体が無数に転がっていた。




マラキャス:デイドラロード(プリンス)の1人。

今後とまともカオスっぷりをご期待ください。


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迷子の迷子の子猫さん

そういや時々バルバスの存在わすれるんですよね。前回何してたのかな。

バルバス「おいふざんけんな」


「おはようございます、大臣」

 

「おはようさん」

 

 

嘉納太郎は部屋に入るとコートを脱ぎ、それを側の女性自衛官が預かる。

 

ここは某所にある作戦室。よく映画であるアメリカ軍が作戦室ででっかいモニターに地図、自軍、敵軍の情報が常に見えている感じを想像して貰えばよい。早い話、ゲーム好きなら『大戦略』、『ハーツオブアイアン』を想像して貰えばよい。それのもっと凄いバージョンと。

 

 

「指揮運用担当の竜崎2等陸佐です。よろしくお願い致します」

 

 

嘉納が作戦室の中心の椅子に腰をかけると制服姿の自衛官が名乗る。

 

 

「俺、正直言って戦争ってこんなんだと思わなかったぜ」

 

 

嘉納はモニターを見て感想を述べる。

 

 

「そうですね、第二次世界大戦映画のように大規模勢力がぶつかり合うという印象を抱いていることでしょう。ですが、現代戦は大きく分けて2種類あります。一つは警察活動とゲリラ戦が混ざったようなもの。そして2つ目は湾岸戦争のように準備を周到に行い、敵の弱点や要点のみを一気に粉砕して持続能力を無くす、というものです。昔のような戦争は映画か途上国のものです」

 

 

他にも前者はアメリカにおける中東の戦闘のように、ゲリラやテロなどの非正規戦に対するものであるなど、説明していく。

 

 

「その意味では、我々がこれから行おうとしている作戦は前者に当たります」

 

 

そして竜崎の指示により、モニターの縮尺がどんどん大きくなり、山に囲まれた温泉宿の1つが見える地図になる。

 

 

「温泉宿の山海楼閣です。本日来賓たちの宿泊地であり、作戦地域にもなります。ルールは至極簡単、予想しうる敵対勢力の襲撃から、こちらに泊まっている来賓を守り抜くことです。隊員は既に配置についています」

 

「おおっ、攻殻みたいだぜ」

 

 

流石は閣下、言うことが違う。

 

 

「ご来賓の方々は今何をしている?何、露天風呂で入浴中!?おい、誰か露天風呂の画像を送れる位置にいる者はいないのか?ちっ、いないのか」

 

 

竜崎は自衛官が公では絶対言えないことを発言し、周囲は苦笑する。一応緊張が弛緩してリラックスできたので良いとしよう。場合によってはセクハラだが、というか女性自衛官もいるのだからセクハラである。

 

 

「さて、配置中の隊員は我が国の精鋭『特戦』です」

 

「おう、伊丹の奴もその一員だそうだな」

 

「どのような経緯でお知り合いになったかは存じませんが、まぁ、その通りです」

 

 

そして竜崎は特戦は何も全員がスーパーマンやら忍者やらランボーやシュワちゃんのような人間ではなく、戦闘意外のことで特殊な技能を有している者もいると説明する。

 

 

「伊丹の奴がそうだと?」

 

「ええ、あれは逃げ足というか、危険察知能力が異様に高く、特戦の連中が追っかけまわしてもなかなか捕まりません」

 

「……俺が見た資料はちょっと違う内容だったけどなぁ」

 

「大臣、恐らくそれは非合法な方法で手に入ったものでしょう。破棄されると同時に入手経路を後で教えてください。防衛機密の漏洩ルート解明に使わせていただきます」

 

「どういうことだ?」

 

「特戦について、ハッキングや人を介した非合法な方法で入手すると、偽装された情報が出るようになっているのです。例えば格闘の達人、射撃の達人、爆発物の専門、などなど」

 

「ああ、そうだったな。そんな内容だった。でもなんで?」

 

「これは防衛機密ですが、大臣にはお教えする必要がありましょう。それは冗談です」

 

「冗談?」

 

「ええ、冗談です。あとまあ、怠け者の彼に対する一種の嫌味ですね。普通の隊員なら逆に控えめの設定などにしますが。まあ建前としては相手を騙すためですが」

 

「おいおい、嫌味かよ?」

 

「はい、嫌味です。特戦ならば自主的に自己、他者の技能を向上するよう努力しますが、アレだけらそんなこと一切しませんでしたし、怠けることが彼の仕事だと勘違いして、挙句の果てには群内部で漫画やアニメの布教に力をいれている有様です」

 

「うーん、それは特戦はそんな奴も捕まえられない程度なのか、それとも伊丹がすごいのか……」

 

 

そこにいる者は深々とため息を吐くのであった。

 

 

***

 

 

「ふん♪ふ、ふん、ふーん♫」

 

 

1人の少女らしき者が市ヶ谷の防衛省の前をあるいていた。

 

 

「こら、今何時だと思っているんだ。早く帰りなさい」

 

「ふみゃ?」

 

 

そこの門番をしていた警備員が注意した。

 

 

「みー、ぼくの携帯電池切れてしまったのですよ。そして財布も落としてしまったのです。おじ様、電話貸してくれませんか?」

 

 

とそのボクっ娘が言う。暗くてよく見えないが恐らく常識的に考えて女子校生だと思う。え、漢字が違う?気にしなさんな。そこは皆様にお任せするのですよ。

 

 

「うーん、ちょっと待ってくれよ。おじさんの携帯あっちにあるから」

 

「ありがとうなのです」

 

 

と警備員が相棒の方に事情を説明して携帯を持っていく。

 

 

「お待たせ。あれ?」

 

 

もうその少女の姿はなかった。まるで幽霊のように消えてしまった。

 

 

「ま、ま、ままま……まさか幽霊?」

 

 

警備員は何も見なかったことにしようと持ち場に戻った。

 

 

「みー、楽勝なのですよ」

 

 

***

 

 

「なんだこりゃ」

 

 

伊丹と富田は目の前の女性陣の乱れっぷり(混沌とした世界)に困惑した。女性陣は全員酔って浴衣は乱れ、酒乱を起こしている。あれ?レレイってこちらでは未成年だったような?誰だシュワシュワ飲ましたのは。ちなみに、犬は既に口から虹色の何かを垂らして倒れている。おい、誰だ飲ましたの。

 

 

「やい、男ども、ちょっと顔出せや」

 

 

そしてなぜかロゥリィと栗林に文字通り引きずられる男性陣。もちろんこの後はエロ同人みたいに……んなことは起きるわけなかった。だってこのメンバーだもんな、と伊丹は思うのであった。

 

 

「あの、見えてるんですが……」

 

 

と富田は生真面目にボーゼスに注意したのが運の尽き。

 

 

「ムッツリスケベ」

「ほんとは見たい癖にぃ」

「後で連れ込んでムフフするつもりだろ」

 

 

と集中砲火を喰らい、見事撃沈。現在部屋の隅で沈黙。なので伊丹は何も言わないようにした。

 

 

「やいっ、伊丹っ!お間には言いたいことがあるぞぉ。お前には話しがある、じゃなくてお願いがありまふ」

 

 

これはまた難敵が現れた。栗林があぐらをかいて正面に座る。

 

 

「紹介してください!」

 

「何を……」

 

「私をですぅ」

 

「誰に?」

 

「特殊作戦群の人にです」

 

「なんでまた……この前誰か紹介したでしょ……」

 

「それは文字通り紹介した、だけじゃないですか!」

 

「そうだけど……」

 

「それに彼は彼、こっちはこっちで別です。いい人がいれば結婚を申し込みます!」

 

 

何?決闘?そりゃまずい。死人がでるな。

 

 

「何勘違いしてるんですか!?結婚ですよ、結婚!」

 

「え、マジ?いきなり?」

 

「いいじゃないですか。この未婚、少子化の多いご時世、しかも出会いの少ない自衛隊ときた。考えてもみて下さい。危険な任務に出ずっぱりの毎日、普通の女にはそんな人の女房って務まりませんよ。その点、私なら完璧ですっ!小さな身体に、高性能なエンジン搭載。清く、明るく、元気よく!格闘徽章もちで夫婦喧嘩も手加減なしです」

 

 

伊丹は最後の方に聞いちゃいけないことを聞いたようなきがする。そしてまだ続く。

 

 

「しかも、今や実戦証明済!そしてこの胸!報道されない、誰もが顧みない作戦で疲れた心と体を、私ならこの胸で癒してあげられます!」

 

 

と胸についた大きなミサイル並の決戦兵器を見せる。もちろん安全装置(下着)付きなのでご安心を。

 

 

「胸ったて、お前さんのそれ、装甲(筋肉)だろう」

 

「違います!筋肉40パーセント、脂肪分60パーセントの複合装甲です。10(ヒトマル)式戦車と一緒です!バスト92。仰向けに寝てもたゆまない、張りがありつつも触り心地はごむまりのごとき美乳です!」

 

「わ、わかったから、なんとかするから……」

 

 

まあ、一応見た目はすごくいいから大丈夫だろう、最初のうちは。友よすまん。こんなやつでもまだ貰ってくれるなら恋愛戦争を勝ち抜いてくれ。候補者全員特殊部隊だけど。

 

 

「やったぁ!」

 

 

栗林は機嫌よくして万歳する。しかし運悪くその殺人級万歳が被弾し、伊丹は夢の世界へと旅立つのであった。

 

 

***

 

 

そのころ、すぐ近くで静かな戦闘が起きていた。

 

 

「アーチャー、10時から11時の方向に熱源」

『こちらアーチャー、了解。排除する』

 

 

そして照星と照門に捉えられた敵は指の動き一つで倒れる。

 

今回の運用方法は『マスター・サーヴァントシステム』と呼ばれ、某元成人向けゲームから名前をとったものらしい。命名者?はて、誰だろう。

 

原理は意外と簡単。衛生、偵察飛行船、監視カメラなどあらゆる情報網を駆使した本部から得た情報を基に、オペレーターが前線隊員に指示する方法である。しかもマンツーマンの付きっ切りで。

 

 

「ランサー。ポイント3へ移行」

『こちらランサー、了解』

 

「キャスター、ライダーが移動中のため撃たないように」

『こちらキャスター、了解』

 

これが正しい運用かどうかは知らないが、今の所特戦が圧倒的有利であった。敵の数は多いが、そこまで問題とならなかった。

 

この様子をモニター越しにこの様子を見ていた嘉納は相手の思惑について考察していた。

 

 

「連中は何考えてんだ?こっちには備えがあることは、もう分かっただろうに」

 

 

いくら不意打ちとは言え、相手もそこそこの工作員か特殊部隊と思っていだが、それにしては損害が多すぎる。もしかして素人投入したの?と疑うぐらいである。なんせこちらは特殊部隊とは言え、()()()()実戦投入されたことのない自衛隊である。

 

 

「考えられるのは、こちらがこれほど高度な装備で、周到な準備がされていたとは予想できなかったか。あるいはこちらの能力を探っているか、かもしれません。まあ、後者の場合ですと損害を出しすぎの気もしますが」

 

 

と竜崎が意見する。

 

現在、大まかに敵はA班、B班、C班と別れていた。そしてA、Bは既に退却し始め、Cは動かない。これがまた興味深い。それぞれが全く別のものかのように動いている。連携なんて取れてない以前の問題である。それが()()()()であればのはなしだが。

 

 

「悪いけどよ、連中がどこの所属かしらべてくれないか?嫌な予感するぜ」

 

 

どうもこういう場合フラグを立てるのはお決まりのようである。伊丹がこの場にいたら突っ込んでくれただろう。きっと。

 

 

「まだ状況は続行中です。それに、装備などは偽装しておそらく無理なのでは……」

 

「そこを何とか……人種とかは偽装できないだろ?」

 

 

この場合、夜間で確認を行うということは光を使うことになる。そうすれば敵に位置をバラしてしまうし、せっかくから闇に慣れた目がまた慣れるまで時間がかかってしまう。

 

しかし、運よく現場の隊員も気になる点があるようで、嘉納の要望と重なって特例として許可が降りる。

 

 

「セイバー。ライトの使用を許可する。ただし、短時間だ。使用後はすぐに移動せよ」

『こちらセイバー。遺体を確認した。黒人と白人だ。繰り返す、黒人と白人だ』

 

 

白人なら分かる。ロシアの工作員の可能性があるからだ。東洋人なら中国や半島が考えられる。もしかしたら国内の反日団体かもしれない。しかし黒人となれば、現在利害関係を有しているのはあの国しかない。アメリカ合衆国(資本主義帝国)

 

 

***

 

 

「だ、大統領……この資料をどうやって」

 

『モトイ、それはほんの友人からの贈り物だよ。我々の友情の証としてな』

 

 

それは現在の本位内閣の汚職、不正などのスキャンダルましましの資料であった。

 

 

『我が国の調査機関がそちらのメディアに持ち込まれる寸前に押さえることができたのは幸運だ』

 

「ありがとうございます。大統領」

 

『そこでだ、モトイに頼みがある。聞いたところによると、そちらには特地からの高貴な方が来賓として来日しているようではないか。是非我が国にもお姫様をご招待したいのだよ』

 

 

本位はそれは難しいと言っても向こう押してくるし、それは非常識では?とソフトに言っても時には押しが必要だ。とこのようにあー言えばこー言う状態になった。もっとも、ダメですとすっぱりと言えるわけもない。相手は米帝国である。

 

一字一句口から出る度に舌の水分がどんどんなくなっていくのが分かる。このままでは緊張だけではなく、物理的にもうまく話せなくなってしまう。

 

 

しかし、本位には一つ切り札があった。

 

 

「大統領、この件とは別ののことですが、是非見ていただきたいものが」

 

『モトイ、なぜ今かね?なんの関係もないではないか』

 

「いえ、そうではないと思いますが。ぜひ、友人としてこちらからもまず贈り物を()()しておりまして……」

 

 

既に、という言葉にディレルは心に引っかかった。

 

 

『既に……それはいつだ?』

 

「確か、そちらの昨晩の夕方頃にはそちらのお偉いさんに渡したとは思いますが」

 

 

モトイの声が先ほどの怯えたような緊張した声ではなくなっていた。むしろ嫌味や含みのあるような言い方である。

 

昨晩の夜……急いでその辺りの時間帯のメールなどを確認する。そして見つけた。CIA副長官からの名義だ。そして開くと同時に心拍数が上がった。

 

 

『モトイ、これは……』

 

「ええ、我々が見つけ出した米国内のテロリスト等の情報です。これがそちらのテロリストにバレる前に見つけられたのは幸運でした」

 

 

モトイはテロリストと言っているがそんな貧相なものではない。

 

なぜなら、この名簿の一人ひとりが、現在日本で任務中のCIA工作員だからだ。

 

 

「っ!?」

 

 

それだけではない、本名、コードネーム、認識番号、生年月日、出身地、前職、エキスパート、犯罪歴など事細かく記されていた。CIAは作戦任務内容によっては元犯罪者や軍で問題を起こしていた者などを使うのか、犯罪歴が多いものが多い。

 

これがテロリストか工作員かどうかという問題ではない。

 

 

こちらの情報が筒抜けであるということが問題なのだ。

 

 

『モトイ……感謝する……』

 

「いえいえ、友人ですから」

 

 

この『忠告感謝する』、には怒りが込められているのがはっきりと分かる。

 

 

『招待の件は、また今度話そう』

 

「ええ、お願いします。では失礼します」

 

 

そして電話を先に切ったのは本位の方だった。

 

 

「ファッァァッ○!このジャップがぁ!なぜジャップが情報戦やってんだぁぁああ!ジャップは情弱ってのがセオリーだろ!サノバビィィイイ○!」

 

 

大統領の声はホワイトハウス中に響いたという。

 

 

「なんとか、一難は去ったのかね。感謝するよ、草加くん」

 

「首相、礼は入りません。仕事ですから。それに、労うのであれば私の部下を」

 

「これで、何事もなければいいな」

 

「そうですね。しかし、そんなことはありえないでしょうね」

 

 

何事もない、そんなこと誰も期待はしてなかった。願わくば、想定内であることだ。

 

 

***

 

 

「そうでしたか、そんなことが」

 

 

嘉納は本位に連絡をしていたが、既に対処済であることを聞き、胸を撫で下ろす。

 

 

『加納さん、今かなり厳しい状況ですが耐えてください。今後の展開が読めないものですからね』

 

「本位さん、まさかあんたがここまで計算高いとは計算外でしたよ」

 

『いえいえ、まだまだですよ。では引き続きよろしくお願いしまszz...z...』

 

「ん!?本位さん、どうしたんですか!?もしもし!?」

 

 

奇妙な機械音とともに相方の声がフェードアウトする。

 

 

「防衛大臣!モニターの様子が!」

 

 

女性オペレーターの1人が叫ぶ。

 

モニター画面が歪んだり、点滅したり、はたまたブラックアウトを起こしていた。そして一部では『警告』の赤いサインがでる。決して『パターン青、使○です!』なんて叫びたくても叫んではいけない。

 

 

「ハッキングか!?」

 

「ありえません!こちらのネットワークは外部のネットワークに繋げられていません!独立しているはずです!」

 

「外部からじゃありえねぇ、てことは内部しかないじゃないか!」

 

「ばかな!?」

 

「アメリカか!?」

 

「そんな……アメリカにもこの内容は教えていません!」

 

「じゃあ誰だ!」

 

 

状況は遥か斜めどころか、グラフの直角で下落する勢いで悪くなっている。

 

 

「大臣!市ヶ谷から緊急連絡です!」

 

「繋げろ!」

 

『防衛大臣、大変です!何者かがサーバ室その物を破壊しました!』

 

「誰なんだ!?」

 

『分かりません!姿が見え……ギャァァア!』

 

「おい、どうした!何があった!?」

 

 

そして沈黙から微かに聞こえた。僅かだが確かに聞こえた。

 

 

『いぬのおまわりさん』のサビの部分の歌声が。

 

 

 




口調はどっか別世界のロリババァに似てるかもしれませんけど、別人です。これほんと。というかオリキャラです。でもそのロリババァの口調参考にしたのは事実ですけど。見た目は皆さんのご想像にお任せ致します。そこ、○学生とか想像しない。


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第5の戦場

またオリキャラ出してすみませんね。でもちゃんと理由がありますので許してください!

「みー、ミンチミンチで許すですよ」


 

「ただいまー、お帰りー」

 

 

暗いマンションのドアを開けて入室する。こんなとき、やっぱり奥さんいたら違うんだろうなと思う。もちろん、「あなた、ご飯、お風呂?それともワ・タ・シ?」なんて架空であることなんて知っている。それでも、こんな茶番は悲しくなってくるのだ。なんなの?俺ぼっちみたいじゃないか。

 

 

「みーちゃん、きーちゃん、元気にしてたかい?」

 

 

と隅の猫の人形に話しかける。別にぼっちなんかじゃないし。ちゃんと友達は別にいるし。と自分を正当化する。別に誰も聞いていなくても。

 

 

「はー、また休日が終わってしまう。伊丹は今頃どうしてるかな。エロ同人みたいなことしてるのかな?んなわけねぇか。あんなのも架空よ、架空。そーいうのはエロゲだけだよ。ん?」

 

 

携帯の着信画面を見るとあまり見たくない文字が見えた。

 

 

【緊急】草加3佐

 

 

「しょーがないなー、もう」

 

 

そして部屋の電気をつける。

 

しかし、点いたのはライトではなく、狭い部屋中を埋め尽くすコンピュータが一斉起動し、モニターを9つ繋げた巨大スクリーンも起動する。

 

 

「では始めますか」

 

 

***

 

 

「……こちらキャスター。異常はどうだ?」

 

『こちらセイバー、マスターとの通信が不可になった』

『同じくアサシン』

『同じくライダー』

『同じくアーチャー』

『同じくバーサーカー』

 

 

しばらくの沈黙。

 

 

「おい、ランサーから応答ないぞ」

 

『ランサーが死んだっ!?』

 

『この人でなし!』

 

『勝手に殺すな!近くに敵がいたから沈黙していただけだ!マスターとの通信は不可!』

 

「了解」

 

 

こんな意味深な会話をしながらも、特殊作戦群の隊員は任務を続行していた。

 

とは言うものの、現在マスター(オペレーター)との交信が不可能となった今、キャスターこと出雲2等陸佐は、退却か作戦続行の選択肢で悩んでいた。

 

無論、自分たちはこのような事態に備えて、ハイテク装備の支援なしの作戦のための訓練も行ってきた。作戦の続行は可能ではあるが、先ほどのような成果を維持できる保証はない。ここでの決断が、指揮官として、自衛官として、大きなものであるとプレッシャーがかかる。

 

 

「全サーヴァントに告ぐ。聖杯が溢れた」

 

 

このコードは、知る人ぞ知る某原作はエロの昔から人気の作品が元ネタであるが、「聖杯は満たされた」で作戦開始、「聖杯は砕かれた」で作戦終了または中断、そして今回の「溢れた」で異常発生を示す。

 

この命令により各人は改めて指定されていた撤退ゾーンに集う。

 

 

「集まったな。皆に問う、作戦は続行すべきか?」

 

「「「……」」」

 

 

無理もない。特殊部隊とはいえ、実戦なのだ。先ほどとちがい、情報の優位性は相手とほぼ変わらない。つまりこの7名だけで対処しなければならない。

 

対して敵は工作員、下手すれば特殊部隊。そして現勢力も不明。

 

 

「……撤退と命令はまだだされていません。それに、警護対象を危険にさらすことはできません」

 

 

セイバーこと剣崎3尉が答える。

 

 

「そうだな、我々はまだ戦える。しかし、無理はするな。必ず生き伸びろ。それが命令だ」

 

「「「了解!」」」

 

「よし、それでは配置に……」

 

「キャスター!ドローンです!」

 

 

一同は全員伏せる。ドローンはゆっくりと近づく。

 

 

ばれたか、と出雲は舌打ちする。しかし、もしかしたら気づいてないかもしれないと心の奥で願う。

 

 

このような希望的観測「かもしれない」は非常に危険だが、今走って逃げれば確実に見つかる。よって、少しでも生存確率の高い方を選んだのだろう。

 

 

「……」

 

 

全員が息を潜める。顔を伏せる、或いは横に倒して伏せてるので上の状況は分からない、しかし音から近づいているのが分かる。

 

 

『ヘンタイ』

 

「……へ?」

 

 

ドローンから声がするなんて誰もが予想しなかった。理解した隊員は口元が口元緩んでしまったが。

 

 

「……あ、シンシ……」

 

 

出雲は思い出したように言う。

 

 

***

 

 

「ホントにぃ、子どもかなぁ?」

 

 

ロリBBAもとい、かなり年上のお姉さま(ロゥリィ)は伊丹の上に猫のようにゆっくりと上がると、小悪魔のように笑う。

 

事の発端は周囲での見えない戦いが彼女の身体に火を点けたらしい。特地では諸事情により(漆黒龍のせいで)欲求不満だったので。

 

絵的には完全にアウトだが、実年齢的に問題ないので、多分大丈夫だろう。

 

そもそも、伊丹を青少年保護条例の向こう側(危ない領域)に連れて行こうとしているのはロゥリィであって、伊丹には非はないはずなのでおまわりさんは勘弁していただきたい。特に自衛官はちょっと問題起こすと官職氏名入りで報道されるので。

 

 

しかしそこで空気を読まずに鳴る携帯。

 

 

残念ながら運の悪いこと(?)にそれによってロゥリィは白けてしまった。

 

 

「なにぃ?この空気の読めない物はぁ?」

 

「これは携帯電話と言って離れた相手と連絡する道具でして……」

 

「時と場所を選ばなあなんてぇ、無粋な道具ぅ」

 

「ハハハ……ん?太郎閣下から?」

 

 

***

 

 

「ファック!こんなにジャップのアーミーが強いなんて聞いてないぞ!奴ら拳銃だけじゃないのかよ?警告射撃するから大丈夫って言った野郎は誰だ!?」

 

「黙れよ、まだ作戦中だ」

 

「ちっ、上の方でも交渉は失敗したらしい。だが、増援が来るらしい」

 

「やっとか。でもどっちみち変わらないぜ。ガンシップ(戦闘ヘリ)かせめてAPC(装甲車)が必要だ」

 

「その装甲車に許可が下りた」

 

「話の分かる大統領じゃねーか。増援までは待機だな」

 

 

そう言って工作員たちは見つからないようあちこちに待機する。

 

赤い光点がそれぞれの頭部に照準されているのを知らずに。

 

 

***

 

 

『熱源探知、暗視装置及ビ音源探知装置ニヨル結果、該当地域ニオケル全敵性目標ノ排除、及ビ護衛目標ノ安全ノ確認ガデキマシタ。以上ニテ作戦ノ支援ヲ終了シマス。コレヨリ、退却支援シマス』

 

「すごいな。マークスマンみたいに全敵を補足しやがった」

 

「おかげでこちらは射撃訓練になっちまったけどな」

 

 

と特殊作戦群たちが言う。そして緊張も一気にほぐれる。

 

 

「一つ聞きたい、君は我々と同じ組織か?」

 

 

出雲はドローンに尋ねる。

 

 

『情報保全ノタメ、ソノ問イニハ答ラレマセン。シカシ、我々ハ貴方方ノ味方デス』

 

「そうか。仕方がないな、だが次会うときはせめて直接会いたいな」

 

『モシ機会ガアレバ』

 

 

そしてドローンは隊員を誘導していき、森の奥へと消えていく。

 

 

(シット……ドローンだったのか……これならハッカーも連れてきたら……)

 

 

そして静寂を戻した森の中、消えかけていた命が沈黙した。

 

 

***

 

 

「ま、こんなもんか」

 

 

加藤は9に分割されているモニターを見ながら9つの某有名据え置きテレビゲームのコントローラーやキーボード、ジョイスティックを操作していた。しかもモニターはタッチパネル。

 

 

「ほんとは攻殻みたいに機関銃やミサイルでも撃てたらいいけどな。作戦支援が精一杯かねえ」

 

 

そして全ドローンを自動制御に切り替え、電話を取る。

 

 

「草加さん、試験型タチコマけっこううまくいきましたよ。え?名前はどうにかならないか?いやだなー、Tactical(戦術) Chiquita(小型) Combat(戦闘) Machine(機械) の略ですよ。決してアニメとか漫画のパクリではありませんから、ハハ……はい、よろしくお願いします」

 

 

そして電話を切り、間髪入れずまたかける。

 

 

「カール大尉、俺だ」

 

『オー、リューテナント(大尉)加藤。貴方の情報のおかげでテロが未遂に終わったよ。まさか我々のAPCを無断で取ろうとした工作員がいたとは驚きだが』

 

「さすがDEVGRU(特殊部隊)だな。会社(CIA)の動向は?」

 

『ああ、いたね。だが、工作員の一部にはガチの国際指名手配犯やテロリストが雇われていたね。これでしばらくは黙らせるだろう』

 

「その手柄は全部そっちにやる。またよろしくな」

 

『OK。世界ハッカー大会の件も考えておいてくれよ』

 

「オーケー、仕事なけりゃね」

 

 

そして電話を切ると大きな背伸びをする。

 

 

「残業終わり。国家公務員なので残業代出ないのはつらいね。寝るか」

 

 

そしてコンピュータの電源を落とそうとしたが、その手が止まる。通話アプリから呼び出しがあったからだ。

 

 

「はい、加藤……」

 

『隊長……』

 

「どうした副長。呼吸がおかしいぞ?」

 

『猫を……逃しました』

 

「……マジか?」

 

『ええ……ただ、我々の知る『猫』ではありません……データは取れたので……写真を送ります……』

 

「おい、お前負傷してるな?今からそちらへ行く。安全を確保しろ」

 

『隊長……その必要はありません……早くやつを……やつは移動中です……』

 

「おい、どういうことだ!移動中ってどっちにだ!応答せ……」

 

 

加藤は送られたきた写真に絶句する。

 

彼の知ってる5年前の『猫』とは全く異なる容姿であった。

しかしそれは同一人物と確信する。

 

 

「俺はお前のその雰囲気、狂気的に満ちた目を知ってる。例えば5年前から顔、身長、人種、体格、年齢、性別を変えようとな……」

 

 

40秒で支度を終え、出る直前に最終確認を行おうと部屋を見る。

 

しかし彼は日本では普通絶対見ない物を窓の外に目撃してしまう。

 

煙をと火花撒き散らしながらこちらへ向かって来る飛翔物。よく映画などで見られるアレである。しかしながら、彼は映画だけではなく、実物を見たことがある。なので高速度のこの飛翔物が何なのか分かってしまった。

 

 

携帯対戦車グレネードランチャー(RPG)

 

 

まだ夜は長い。

 




豆知識
アメリカ国防省が定義している戦場とは、

第1〜3 陸海空
第4 宇宙空間
第5 サイバー空間

らしいです。


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スタァァァァップ!(日本政府のライフポイントはゼロよ!)

少し予告的な……

???「我々の出番はまだかのう」
???「グォアー!!」キッーン
???「早くして欲しいんだよ!して欲しいんだよ!」
???「グオー、ピギャーッ」

一応出るの確定さんたち。これで全員わかったらあなたは私の同類かも。


 

「何なんだこいつらはぁぁああ!」

 

 

「緑の人」が民を襲っているという情報を基に、各地をパトロールしていた(特地の)帝国兵は悲惨な目にあっていた。

 

 

「お、俺たちの知っている『緑の人』じゃねえ!ギャァァア!」

 

「何だこいつらはぁぁっ!?」

 

「マラキャス様万歳!」

 

 

誰かを讃えながら()()()()()は大きな戦鎚を振り上げながら帝国兵士の群れに突っ込んでいった。到達までに矢を10本ほど鎧のない箇所に受けるも、突撃に衰えはなくむしろさらに凶暴化していった。

 

そしてその戦鎚を振り回し、ことごとく帝国兵士を蹂躙していく。

 

帝国の魔術師はもういない。全身を氷の槍のようなもので串刺し状態で横たわっているがそんなこと気にしている者は誰もいない。自分たちで精一杯なのだ。

 

 

「嘘だろ!?矢も剣も全く通さない防具とか反則だろ!プギャ!?」

 

「ウォオオ!死ねい!」

 

 

深緑の双剣で相手を切り刻まれ、大きな戦鎚で頭を粉砕され、ときには焼かれ、爆殺され、氷漬けにされ、あるときは氷に貫かれ、感電死、などとこのように全くもってカオスな状況が帝国各地で起きていた。

 

さて、なぜ帝国の武器が全く効かないのだろうか。それもそのはず、その鎧に使われている素材を聞けばファンタジーに詳しい人なら納得するだろう。

 

その名は『オリハルコン』

 

 

***

 

 

「みぃ、確かここのはずですよ」

 

 

1人の少女が焼け焦げた部屋の中を鼻歌を歌いながらを渡す。

 

 

「流石に榴弾撃ち込んだらまともな人間でもワンパンKOですにゃ。でもおかしいのです。バラバラ遺体がないのですにゃー」

 

 

いくら榴弾とはいえ、肉片ぐらいあってもいいと思うのだが、という表情をしながら探すが、やはり見当たらない。ほんのたまたま隣の部屋にも穴が空いていたので覗いてみる。

 

 

「みゃみゃ?」

 

 

自分が狙ったはずの部屋とそっくりの部屋である。

 

 

「……もしかして部屋間違えたかにゃ。お隣さんごめんなさいなのです」

 

 

そして隣の部屋をこじ開けて侵入する。中にはたくさんのパソコンしかない。

 

 

「みー、逃げられたのです。悔しいです」

 

 

ただ、何となく腑に落ちない気持ちであった。強いて言うなら直感的に嫌な予感がした。

 

念のために次の隣の部屋も確認した。

 

そしてさらに念のためにその隣の部屋も確認した。

 

その隣もその隣もその隣もその隣もその隣もその隣も……

 

 

「……ハメられたにゃ」

 

 

全て同じ構造、同じ家具の配置された部屋だった。

 

落胆しているところ、パソコンのモニターが勝手に起動する。そして誰もいないのに真っ白な画面に文字が打ち出される。

 

 

「なになに、

 

『このメッセージを読んで、

うしろをふり向いた時

おまえらは……

PUSH ENTER...』

 

……」

 

 

そしてゆっくりとキーボードのENTERキーを押す。

 

 

そして画面の真ん中に小さくこう書いてあった。

 

 

『死ぬ』

 

 

これが表示されてコンマ1秒で振り向く。そしてその意味を理解した。

 

 

GOOD BYE(さようなら)

 

 

と書いてあった。『C4』と書かれた多数の包みに囲まれた赤いデジタル点滅ランプで。そしてその下の電光ランプが『00:00:00』になった。

 

 

***

 

 

「えー、もうおわりぃ?」

 

 

浴衣姿でハルバードを構えたロゥリィは残念そうに口を尖らせる。

 

周りには特戦たちが撃ち漏らした侵入者(工作員)の遺体が数体横たわっている。もちろん真っ二つだったりする。

 

 

「私もやりたかったのに〜」

 

 

栗林君、それはどういう意味で?と伊丹はそのツッコミを心に留めておいた。

 

 

「とにかく、まだ追っ手がいるかもしれないし、このままではまずい。移動するぞ」

 

 

伊丹の先導で皆準備をすぐに終えてその場を後にする。しばらく歩くとあら不思議。すごく不自然な場所にワゴン車がアイドリングした状態で、しかもすごく不自然な人が乗っていた。

 

 

「ごめんねぇ。悪いけど、降りてくれる?」

 

 

伊丹はニコ、と笑いながら鹵獲した銃を向ける。富田も念のために相手の頭を狙う。

死角から銃口を突きつけられたその白人の巨漢は両手を挙げ、ゆっくりと降りる。

 

 

「ねえ、こいつ悪者でしょ?撃ってもいい?撃っちゃってもいいよね!?」

 

 

栗林はまだ酔っているらしく、自衛官はおろか、人として発言が相当やばくなっている。バルバスの故郷なら問題ないが。

 

 

「でもこいつどうしようか?」

 

「無力化すると言っても縄や手錠もありませんからね」

 

「うっひょ〜う!」

 

 

伊丹と富田が相談している矢先、栗林は男を伏せさせて武装解除してその武器を見て歓声を上げていたりしていた。

 

 

「ねえねえ?やっぱり試し射ちだめかな?」

 

「だめです」

 

 

伊丹はキッパリと言う。

 

 

「でもだよ、こんなやつ放置してたら仲間に連絡されちゃうし、無力化するにも縄とか手錠とかテーザー銃とか麻酔銃も無いし、殴って気絶させようものなら間違って死んじゃうかもしれないし、締め技も間違って……」

 

 

栗林があれこれ提案する。どうしても試し射ちしたいようだが、伊丹は断固として拒否する。

 

 

「殺傷せずに無力化できれば良い?」

 

 

とレレイが口を開く。

 

 

「何か方法があるの?」

 

「ある」

 

 

そしてレレイは魔法を詠唱すると男はいびきをかいて寝始める。

 

 

「これで朝までぐっすり」

 

「これ、スゴ」

 

 

皆日本側は驚嘆していた。日本には魔法がないから仕方がないだろう。

 

 

そして一同はワゴンに乗ると特地へ繋がる門へと進むのであった。

 

 

「まっすぐ銀座に向かうのはまずいな。待ち伏せとかされたら厄介だし」

 

「戦闘地域の特地の方がまだ安全かもしれませんね。笑えませんが」

 

「隊長、今回の休暇台無しになったんだから後できちんと取り直させてもらいますよ」

 

「当たり前だ、俺も全然休めてないから、何としても柳田に休暇の許可をこじつけるぞ」

 

 

栗林の不満に伊丹も同調する。

 

このやり取りをみて、ピニャは伊丹に質問する。

 

「一つ質問したいのだが、なぜ妾たちはこのように逃げ隠れしなければならないのだ?」

 

「あ、それは私も疑問に思います」

 

「……実はな、俺にもよく分からない」

 

「隊長、何か隠してません?」

 

 

栗林は銃口を伊丹にに向ける。あれほど銃口を人に向けるな、と教育される陸自がこんな有様である。しかも上官に対して。ホントお酒は危ない。

 

 

「待て、落ち着け!話せば分かる!」

 

「栗林殿、上官にそれはご法度だぞ。伊丹殿、立場上言えないことだから言えないのか、本当に知らないのかは存じないが、これは妾の憶測として聞いてほしい。もしかして、日本国内でも妾の帝国と日本の和平交渉を行うことに反発している勢力がいて、それで妾たちは狙われている」

 

 

本当はそういうことでないが、伊丹は説明しようと考えていると、携帯が鳴る。

 

 

『もしもーし、いつもにニコニコ這い寄るコウモリ、加藤でっす』

 

「あんためんどくさいな!普通に加藤と言ったらわかるよ。今めっちゃ忙しいんだけど!」

 

『知ってる』

 

「知ってんのか!?お前はストーカーか何かか?てか知ってるなら電話すんなよ!」

 

『へー、良いニュースと悪いニュースあるけど、聞きたくないならいいや』

 

「待てこら。そんなこと言われたらなんだか聞かないとフラグ立つみたいじゃないか。まずは良いニュースから聞こうか」

 

『しゃーねーな。良いニュースはな、猫を発見したぞ』

 

「へー、で悪いニュースは?」

 

 

伊丹は棒読みで応える。

 

 

『おいおい、もっと驚いたり泣いて驚けよ。全米が泣くほどのニュースだぞ』

 

「どーせ悪いニュースでオチがあるんでしょ?」

 

 

またも棒読みである。

しかしなんだか加藤も棒読みになり始めてきた。

 

 

『流石じゃねーか。流石は伊丹さんじゃねーか』

 

「いいから教えろ」

 

『逃げられました……はい、すみましぇん』

 

「だろうね、予想できたよ。どうせこんなもんだと思ったよ」

 

 

伊丹は大きくため息をつく。

 

 

「そしてな、そいつが今向かってるところが……」

 

 

 

刹那、伊丹の目の前に火花が散った。

 

これは比喩などではなく、文字通り火花が目ん玉の前で弾けた。

 

原因は金属と金属がぶつかることによる衝撃。伊丹視界はロゥリィのハルバードが7割、2割が別の金属。

 

そして残り1割には少女である。

 

 

『おそらく銀座だ』

 

 

ちなみに、服装はボロボロに焼き払われ、男の理想郷危ない部分がわずかな布て覆われている。例えるなら、美少女だらけの格闘系ゲームにおけるダメージを受けるとなぜか破ける素晴らしい不謹慎な服装や鎧である。

いいぞ、もっとやれハレンチなと叫びたくなる状態の少女であった。

 

 

しかし、普段なら興奮するテンションが高くなる状況に関わらず、伊丹全くそのような反応ができなかった。

 

その理由は何か。

 

恐怖か、怒りか、驚きか、それとも別の何かか。分からない。しかしこれだけは理解した。

 

今めちゃくちゃヤバイということ。

 

 

「みー、すごいすごいですにゃ。僕の攻撃を防いだのですよ」

 

「あらぁ、ありがとぉ。でもいきなり攻撃なんてぇ、ずるくなあい?」

 

「みー、攻撃にずるもくそもないのですよ」

 

 

そして手にしていた道路標識を構え直す。

 

え?道路標識なの?「止まれ」ってかいてるけど、それって俺たちへの当てつけ?てかロゥリィのハルバード受けて大丈夫な道路標識って一体なんだ!?と伊丹はすでに理解を超えていた。どこの奇妙な冒険だチクショウ!と叫びながら。

 

 

『なんだかそちらが騒がしいが、どうかしたか?』

 

 

と携帯から声がする。

 

 

「連絡おせーよ、ぼけ!」

 

『おやまあ、もう追いつかれたのか。でもよく一発で分かったな。見た目が前と全然違うのに』

 

「俺の勘ってやつだよ」

 

 

そんな携帯でやりとりしている中、ワゴン車の屋根では大変なことになっていた。

 

 

金属と金属のぶつかり合う音。

 

飛び散る火の粉。

 

(くう)を切る音。

 

そして殺意。

 

 

伊丹は運転に集中しなければならないので、いちいち上を確認することはできないが、その殺意だけはひしひしと伝わってきた。

 

 

「いいわぁ、もっと愉しませてぇ!」

 

「みー、ミンチミンチぃ!」

 

 

戦うことに悦びを見出す亜神と殺すことに愉しみを見出す少女。

 

伊丹の目にはそう見えた。

 

あの栗林ですら手を加えようとしない。

 

狂気と恐気がぶつかり合う、物理的ではない別の高次元の何かのぶつかり合いだとそこにいる誰もが感じた。

 

ロゥリィは本気でその少女を殺しにかかっている。しかしそれと同時に本気で楽しんでいる。

 

それに対し、少女は笑みこそ浮かべているものの、目は濁ったような目である。ロゥリィを強敵(とも)ではなく、何かめんどくさそうなものとして見ていた。

 

 

その意識の違いが表れたのか、少女の武器(道路標識)がとうとう根をあげて真っ二つに両断される。

 

その隙を見逃す訳もなく、ロゥリィはハルバードの慣性を殺すことなくもう一回転加えて斬りこむ。狙いは首。

 

 

「「「っ!?」」」」

 

 

その衝撃で車が傾くが、伊丹がうまくハンドルを切ることで事なきを得た。

 

 

「みー、僕ももう少し本気出すのですよ」

 

 

少女はどこからもなく両刃の斧を取り出す。それがロゥリィの攻撃を弾いたようだ。

 

 

「あらぁ、いいものもってるじゃないのぉ」

 

「うるさいにゃ。とっとと仕留めるにゃ」

 

 

そして乱舞が再開する。車の屋根の上で落ちないように、時に姿勢を低く、時には宙を舞い、時には手だけで保持するなどアクション映画のように打ち合う。

 

先ほどと違い、攻撃性はロゥリィの方が強くなっている。対して少女はどちらかと言えば防戦だ。時々隙を見つけては攻撃やカウンターする程度だ。

 

 

「あらぁ?先ほどの威勢はどこいったのかしらぁ?」

 

「知ってるかにゃ?日本のことわざに『弱い犬ほどよく吠える』って?」

 

「あらぁ!私が弱い犬と言いたいのねぇ?私最近あまり犬が好きじゃないのよねぇ!」

 

 

さらにスピードと重みが増す。その分、先ほどのような軽いステップではなくなり、車の屋根が軋み始めた。相当不可がかかっているようだ。そしてすぐに凹む。

 

 

「頼むから高速道路で車を木っ端微塵にしないでくれよ!」

 

 

伊丹は冷や汗をかきながらハンドルを握る。

 

 

止まりなさい、(スタァァアアプ!)そこのナンバープレートが無く、屋根で格闘している車止まりなさい!』

 

 

そして状況はさらに悪くなる。

白バイのおまわりさん(日本の衛兵)である。

 

 

「うわー、俺の人生終わったー。盗難車、ナンバープレート無し、銃刀法違反、道路交通法違反、その他もろもろ。終わったー!」

 

 

伊丹はもう涙目である。

 

 

「いや、待てよ。この場合は正当防衛や緊急避難が適用されるじゃないか?それでもダメなら駒門さんにお願いすれば……」

 

 

伊丹は自分を救うためにあの手この手思案する。やはり人間自分のことになると本気になる。

 

 

「あんたらも、うるさいにゃ」

 

 

そして少女は戦いの隙を見て手の平を白バイに向ける。そしてその手から炎の玉が勢いよく発射される。

 

 

「「「はぁ!?」」」

「なんじゃあありゃあ!」

 

 

そしてその火球は白バイ付近の地面にあたると小規模の爆発を起こし、白バイの警察官は吹き飛ばされる。

 

 

「あがぁ!!膝がぁぁあ!」

 

 

遠くなる一瞬、伊丹はミラー越しに一瞬だけ見えた。膝に紫色に光る矢を。

 

 

「みー、惜しい惜しいですよ」

 

 

いつの間にか今度は紫色に光る弓を構えていた。

 

 

「あなたぁ、一体なにものぉ?」

 

「答える義務はないですよー」

 

「ほんとぉにこの世界の人?」

 

「だから答える義務はないですよ」

 

 

そしてまた乱舞(殺し合い)が始まる。

 

 

「なんだあいつ……火炎瓶でもなげたのか?」

 

 

富田が恐る恐る口を開く。

 

 

「カエンビン?あれは魔法だと思う」

 

「え、レレイ……魔法だって?」

 

「ほぼ間違いない。魔力の流れを感じた」

 

「嘘だろ、今ならともかく……あいつが確認されたのは門が開く5年前だぞ!」

 

「きゃあ!?」

 

「うお!?」

 

 

伊丹が次の言葉を発する前にロゥリィがボンネットの上に尻もちをつく。その視界が悪いが、何とか運転はできる。

 

 

「あらー?もう終わりですかにゃ?」

 

「嘘ぉ……私の体力が切れるなんてぇ……」

 

 

今まで漆黒龍との戦闘、イタリカ防衛戦などで一切疲れなど見せなかったロゥリィが、肩で息をしている。汗もぐっしょりしている。

 

 

「楽しかったですよ。くたばりやがれなのです」

 

 

そして斧を大きく振りかぶる。しかし振り下ろす直前に、酔いの覚めた栗林が後ろから思い切り顔面に正拳突きをお見舞いする。いつ屋根に登ったのとか聞いてはいけない。

 

 

「み゛ゃ゛あ゛!?」

 

 

一部の者は、顔から聞こえてはいけない音と、某青ダヌキの国民的漫画のように顔に拳が入ってはいけないところまで入ったのを見たり聞いたりしたという。

 

猫と呼ばれる少女はそのまま高速道路を転がって見えなくなった。

 

 

「ロゥリィさん、大丈夫?」

 

「栗林、貴女なかなかやるわねぇ」

 

 

パーキングエリアにつくと、栗林とロゥリィは屋根から降りる。幸い、深夜なのであまり人目にはつかなかった。

 

 

「栗林、あいつ()は仕留めたか?」

 

「……正直、倒しましたけど仕留めた自信はないですね。何というか、何か普通ではない感じでした」

 

「どうするか、すぐに門へ帰ったほうが安全かもしれないけど、このまま行くと待ち伏せされるかもしれないし。

でも待てばまたあいつが追いかけて来そうで怖いんだよね……」

 

 

伊丹は頭を抱える。

 

 

『門で待ち伏せ?誰が?』

 

「うおっ!?お前まだ携帯切ってなかったのか!電話代大変だろうが!」

 

『切らなかったお前にも非がある。で、待ち伏せって誰が?』

 

「誰って、旅館襲ってきた奴らだよ」

 

『ん?ああ、あいつらね。もう全員排除したぞ。門の付近にいた奴らも』

 

「え、ええ〜?もっと早く言ってくれよ」

 

『すまんね。恐らく帰る頃だと思ったから。片付けておいたわ。駒門さんにも感謝しろよ』

 

「そうだな、じゃあ俺らはもう行くわ。お前も来るんだろ?」

 

『こちらの仕事が終わったらね。じゃ、死なねーよにな』

 

 

こちらから返す前に切られてしまった。

 

 

「ふいー、もう終わったかな?」

 

「あらぁ、わんちゃん。怖気ついて隠れてたのかしらぁ?」

 

 

ロゥリィは意地悪そうに言う。

 

 

「別に怖気付いた訳じゃねーぜ!少し怖かったのは認めるが……」

 

「ふん。大口叩くなら行動力で示してほしいわぁ」

 

「へいへい、次から頑張りますよ」

 

 

そしてバルバスは自分たちが通ってきた方向を見る。

 

 

(あいつじゃなけりゃな。あの時俺が出ていたら殺されてたな、きっと)

 

 

***

 

 

「いてて、応急処置だけじゃきついね」

 

「ソウヤ、よくそんな傷で来たな……」

 

 

と覆面をした白人らしき男が話しかける。

 

 

「こんなん入隊訓練に比べりゃ擦り傷よ」

 

「……そうかい。早めに病院行けよ」

 

「ところでカール、どうやって『ネズミ(工作員)』たちを捕らえた?あいつら後ろ盾チラつかせてきただろ?」

 

「なに、簡単なことさ。向こうが後ろ盾をちらつかせるならこちらも後ろ盾をちらつかせる。そして法律も出す。俺たちは単に治安維持活動をしただけ。やつらは日本の法律において違法に武器を所持していただけ。それだけさ」

 

「流石だな」

 

「まあ、こちらの指令は言ってたぞ。クサカ3佐に約束よろしくってな」

 

「はいはい」

 

「では、俺はここで。またな」

 

 

そう言って彼らは頭を黒袋を被せて後ろで手を縛った状態の者たちを連れてゆく。

 

 

『隊長、こちら副長』

 

「はいこちら隊長」

 

 

加藤は携帯を取り出して応答する。

 

 

『指示通り、旅館の武器弾薬及び遺体の回収終了しました。市ヶ谷における護衛についていた者たちの搬入も終わりました』

 

「鹵獲品は後で報告書で提出しろ。市ヶ谷の方は?」

 

『サーバー室が壊されましたが、予備を起動して復旧しました。あと、今回の諸々の件の責任をとるため、総理は辞任するそいです』

 

「そうか、こんだけ派手にやられたらマスコミもうるさいだろうね。あともう一つ。猫追跡隊はどうなった。まあ俺が襲撃された時点で予想はついてるけど」

 

『はい、全滅しました』

 

「やっぱし。報告書よろしくな」

 

『了解』

 

 

電話を切ると、一息ついて加藤はタバコを吹かし始める。

 

 

「しばらくこちらで仕事だな。それにしても、タバコの味が変わらないことはいいことだ」

 

 

そしてブラインドの隙間から伊丹たちが門に近づくのを見守るのであった。

 

 

***

 

 

門に入る前に梨紗と車を残し、残りの者は入門チェクに入る。

 

空港のように身体検査やら持ち物検査やら徹底的に行われる。

 

買ってきたお土産などを見てその量の多さから係員は嫌な顔するほどだ。

 

 

「これは何だ?」

 

 

それはピニャとボーゼスが隠し持っていた鹵獲品の拳銃。彼女らの顔がどんどん青ざめていく。

 

 

(なんということだ……まさかジエアタイがここまで規律ただしかったとは……妾は終わりだ……)

 

 

ピニャはそんなことを思っていると、思わぬ助け舟が来たな。

 

 

「あ、これは護身用に鹵獲していた物を預けていたんです。ほら、私たちも持ってます」

 

 

と栗林は鹵獲品の拳銃や短機関銃と弾薬を提出する。

 

係員たちは顔を見合わせて「嘘ー、やべー」みたいな顔をしていた。

 

 

「……俺たちは見なかったし、聞かなかったことにする。それらはお前たちが責任もって管理しろ」

 

 

というとソッポを向く。

 

というわけで、諸々の手続きを終えた彼らは無事(?)特地に帰ることができた。

 

 

 

 

そして彼らが入ると同時に、アルヌス駐屯地からかなり離れた山頂で瞑想していた()はこう呟いた。

 

 

「……何かとてつもなく強大なものが入ってきたようだな」




豆知識
DEVGRU : 海軍特殊戦開発グループの略称。別名チーム6。対テロ特殊部隊。某有名テロリストを射殺したのもこの部隊と言われている。精鋭中の精鋭のネイビーシールズからさらに選抜されているという訳のわからんぐらいやばい部隊。


そろそろ勘のいい人は今回でいろいろなことに気づいたと思います。


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龍撃編
遠い昔。遥か彼方の別世界で


安心してください。遥か彼方の銀河ではございません。別に新しい作品が始まる訳でもありません。続編です。

「スゥームが共にあらんことを」

ん?


あの囚われし絶望から救われた

あの呪われた運命を捨てられた

あの怒りにまみれた炎を鎮められた

あの出会った日が我を変えた

我の火で地を焼き尽くそう

我の牙で血を(すす)ろう

我の爪で敵を引き裂こう

我の翼で空を()けよう

その目から光が奪われるのなら

その肌が血に染まるのなら

その剣が重いのなら

その口が物言えぬのなら

この身体が燃え尽きようとも

この言葉が奪われようとも

この契約が果てるまで

この暖かさが失われるその(とき)まで

 

 

***

 

 

世界が滅亡しようとしていた。

その解決策が見出せず、その場にいた誰もがうな垂れた。

 

そこで我が口を開いた。

 

 

「また進めぬようになった。……暖めてくれぬか?」

 

 

そう言うと、目の前の騎士風の男が我の(こうべ)を優しく、暖めるように撫でる。

 

 

「……もう大丈夫だ」

 

 

我は決心した。もう、何も思う事はない。彼の温もりが全てを決意させた。

 

 

「我を封印に使うがよい。精神力、生命力、すべてにおいて人間の比ではないぞ」

 

 

男は声こそ出さなかったが、戸惑いの表情を見せる。もう1人の司祭の男も驚く。

 

 

「……我の気が変わらぬうちに済ませた方がよい」

 

 

そう、これでよい。これでよいのだ。

 

 

***

 

 

身体中が熱い。否、我は火を司る者。この世で最強の生命体のさらにその頂点に君臨する者だ。熱いなどありえぬ。しかし、この表現しがたい苦しみは熱いとしか例えようがなかった。

 

司祭が我を封印のために使うために呪文を唱えるのが聞こえる。

 

そして横たわる我の首に男が寄り添っているのが感じる。

 

そして呪文の終わりと共に我の身体に刻印が焼き付けられる。あまりの感覚に我は声を上げてしまった。

 

ふと首元を見ると、男の目からなにか落ちて我の身体に当たるのを感じた。

 

 

「おぬしの……涙……初めて見る……な……」

 

 

男は何も答えない。涙で一杯になった瞳で我の瞳を見つめるだけであった。

 

ゆっくりと首をあげると、男に面と向かって語る。

 

 

「……覚えておいて……もらいたいこと……が……ある」

 

 

男は我に何かを訴えかけたい表情をしているが、それは叶わなかった。おぬしの声を奪ったのは我同然なので仕方はない。しかし、最後に一言聞きたかった。

 

 

「アンヘル……それが我の名だ」

 

 

男は我から顔をそらすと、さらに瞳から涙が流れるのが見えた。

 

 

「……人間に名を名乗るのは最初で……最後だ」

 

 

我のためでもない、この世界のためでもない。ましては他のだれでもない。

 

 

「さらば……だ、馬鹿……者……」

 

 

唯一我の背を許した男、カイム。おぬしのために、我は犠牲になろう。

 

これが我の最後の意識であった。

 

 

***

 

 

「何なのだここは」

 

 

そこは何とも言えない混沌とした空間だった。

 

ここは世界の終わりなのか、異世界なのか。それとも「神」の世界なのか。それはわからなかった。

 

 

ふと、周りが明るくなる。

 

そして目の前に金色の龍が現れた。

 

 

「何だお前は!?」

 

 

しかし目の前の金色の龍は何も答えなかった。敵意もないが、じっと我の目を見る。その目を見つめると吸い込まれそうな気分になる。

 

否、意識は文字通り吸い込まれていったようだ。周り視界が渦を巻いたように変化する。混沌とした空間も徐々に無くなり、今度は真っ白な空間だ。ある色は白と黒のモノクロのみ。我の赤かった色も灰色に見える。

 

 

「何をするつもりだ……?」

 

 

と思考をめぐらしていると突如猛烈な痛みが全身を襲う。

 

 

「ウグゥ!?何だこれはぁぁあ!?」

 

 

目の前にモノクロの景色が映る。否、景色だけではない。背中にはかつてお互いの命を預けあった男がいる。

 

 

「カイム!?なぜおぬしがここに?」

 

 

しかし彼は聞こえなかったかのように振る舞う。何度声をかけても同じ反応であった。どうやら本当に聞こえてないようだ。

 

 

おかしい。まるで夢のような世界だ。しかし夢にしては嫌に現実的である。

 

突如、空中にいる我等に対し何者かが襲う。

 

体勢を立て直し、()()を直視する。

 

 

「な……おぬしは……まさか……」

 

 

そう、見覚えのある顔だ。見覚えのあるどころではない。今背中に乗せている男の妹なのだ。少なくとも、()()()()

 

 

身体は人間とは思えないように変わり果ててしまった。複数の巨大な白い翼、どこからも伸びる触手たち、としてサソリの尾やムカデを想像させるような尾。

 

 

もはや我の知る小娘どころか人間ですらない。これが俗にいう()()

なのか?

 

 

戦闘は苛烈を極めた。

 

空中戦は我の得意分野である。にもかかわらず、この異形の者は我の攻撃を蝶のようにかわし、蜂のように攻撃してきた。

 

我も奴の攻撃をかわしつつ、炎を浴びさせる。しかし効いてるのかどうかもわからない。背中の男を守りつつ戦うというのもなかなか骨が折れる。

 

そして突如奴の周囲に剣のようなものが円状に現れる。

 

 

「ええい、小癪な!」

 

 

自動追尾型多段式の炎を浴びさせる。

他にも、自動追尾の高火力の炎なども浴びさせる。

 

 

このような戦いを続け、やっとの思いで奴を倒した。我も危ないところであった。異形の者になったとはいえ、かつては仲間であったものだ。許せ。

 

そして安堵と悲しみのようなものに暮れていたが、我は見てしまった。

 

先ほど辛うじて倒した異形の者が、()()()湧き出て、空を埋め尽くし始めたこと。

 

 

(ハハハハ……終わったな……)

 

 

***

 

 

先ほどの光景はそれで終わった。その後どうなったかなど知らぬ。

 

そして目の前にはまた別の光景である。

 

薄暗い屋内で、我はカイムと面と向かっていた。

 

 

「カイム……我らの契約はここに終了する」

 

 

待て待て待て、我は今なんと口走った?

 

 

「カイムよ……おぬしは深く生き過ぎた。ここまで来たからには我は本能によっておぬしを殺さねばならぬ」

 

 

待て、カイムよ。理解してくれ!これは我の意思ではない、勝手に口走っているのだ!

 

 

「許せ!」

 

 

カイムはそれを聞いて我に剣先を向ける。

 

しかしその目は殺意ではなく、何かを悟ったような目であった。それは我の本心を理解したということなのか?

 

 

***

 

 

そしてさらに景色が変わる。

 

先ほどの結果はどうなったのだろうか。カイムは我を殺したのか、それとも我がカイムを殺したのか……

 

と考えていると突如全身が食いちぎられるような激痛が走る。

 

否、食いちぎられていた。

 

我に返って状況を把握する。

 

我は現在全身を巨大な赤ん坊のようなものに食いちぎられていた。しかも我の視界のほとんどを遮るような数で。

 

そして地には孕んだ女ような巨大な何かが横たわっていた。

 

なんなのだ、この世界は!?

 

例えるなら地獄。いや、それよりもひどいかもしれぬ。

 

 

そして苦痛に耐えていると、ふと視界の隅に何かが落ちるのが見えた。

 

 

カイムの愛剣。

 

 

「カイム!?」

 

 

まさかと思い背中を見る。

 

 

***

 

 

そしてまとも結果を見ずに次へと映る。なんなのだ、この歯痒い、息苦しい思いは。そして何なのだこの後味悪い光景は。

 

ただ分かったことが一つある。

 

これは夢でもなく、幻惑でもない。

 

おそらく、現実ではないが、それに近しいもの。もしかしたらあったかもしれない道筋というものかもしれぬ。

 

 

今回も景色が変わったが、今までとは全く異なる景色であった。

 

まず、我の知る世界ではない。石造りのような建物はなく、摩天楼がいくつもそびえ立っていた。いくつもだ。

 

そして街と思われる中心に先ほどの光景であった女のようなものが、孕んだ状態ではないが、立っていた。

 

 

「何なのだ、これは!どうすればいいのだ!?」

 

 

この時ばかりは本心の声と勝手に出た言葉が一致した。

 

 

そしてその異形のものは歌い出した。

 

歌といってもそれは滅びの歌であるため、それは誠におぞましいものであった。そしてその声は「音」ではなく、白と黒の波紋となって世界に襲いかかった。

 

我はその「歌」に対抗するべく、こちらもそれを相殺できるエネルギー封じ込めた。はて、我はいつからこんなことができたのであろう。

 

どれほど戦っただろうか。

 

ほんの少しの間であるが、それは何時間も戦い続けたような気分だ。

 

そしてやっとのことで最後の波紋を封じ込めることに成功した。

 

これにより、その異形のものは崩れてゆく。

 

 

「やったぞ、ついに……」

 

 

しかし我の言葉が止まる。僅かだが、2つの何かがこちらに猛スピードで飛んできたことだけは覚えていた。

 

 

爆風とともに我はゆっくりと落下していった。否、ゆっくりと感じただけかもしれぬ。

 

そして薄れゆく意識の中、我よりも早く落ちてゆく()を見た。

 

 

(すまぬ……)

 

 

そして最後に赤い塔のようなものが目の前に現れて意識は途切れた。

 

 

***

 

 

あの光景の数々は何だったのだろうか。

 

もしあれが本当に起こりえたかもしれない未来であったのなら、何とも残酷だ。どれも救いようのない絶望だ。

 

もしかしたら我の元の世界でも絶望的な状況なのかもしれない。

 

 

ああ、神よ。我が一体何をしたと言うのだ。それともこれが罰なのか?それとも運命なのか?

 

 

気づけば、一番最初の混沌とした空間にいる。

 

金色の龍も目の前にいた。

 

 

「一つ聞きたい、お前は神なのか?」

 

 

金色の龍は答えない。じっとこちらをみるだけである。

 

 

「答えぬか。それともそれが答えなのか。我は一体何をしたのだ。どうしてこんなことになってしまったのだ。神は一体何を求めているのだ……」

 

 

それでも彼は何も答えない。

 

その代わり、彼は静かにこう言い放った。

 

 

Tiid-Ahraan(龍の突破)

 

 

すると我の周りは光が包まれ、意識が急速に回転してゆく。

 

 

「な!?何をしたのだ!」

 

 

そして我の存在はその空間から消えた。

 

 

「……レッド・ドラゴンよ、頼んだぞ」

 




どうやら自衛隊と相性が最悪な方がログインするようです。

次回、炎龍(仮)編、始動!

ヨルイナール(特地の炎龍)「えっ?」


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予想外な出来事

前回の補足

アンヘル
別世界(ドラッグ・オン・ドラグーン)の最強と言われる主人公側のドラゴン。真のヒロインとも言われている。

ちなみに諸事情により自衛隊との相性は最悪。

いいか、「dodエンディング」で検索するなよ!

ちなみに、「ニーア・オートマタ」というゲームの原点作品である。

いいな、「ニーアエンディング」でも検索するなよ!


 

特地、アルナス駐屯地

 

 

本土でのいざこざからしばらく経った。首相が変わったり、装備に調整が入ったり、増員増強その他もろもろ。

 

 

そしてまずピニャの念願の交渉が開始されたことである。日本からは外務省の菅原を中心とした一段が派遣され、少しずつ接触を増加させている。

 

他にも、ピニャの騎士団を始めとして多くの日本語研修生がアルヌスを訪れていた。彼らの吸収力はなかなか素晴らしく、今後は意思疎通に大いに活躍してくれるかと思う。

 

また、特地駐屯地における避難民の生活の目処も立ち、自給自足の生活ができるようになった。

 

そのため、供給力を補うため隊内店舗(PX)の規模も増えた訳だが、それを見た特地各地の商人がこれを機にニホンの製品を手に入れようとやって来、それに対応できるように店舗を拡大し、と言った感じで発展した。

 

結果、アルヌスは街にまで発展した。

 

 

しかしながら、変わったことと言えば良いことばかりではなかった。

 

 

***

 

 

「黒川さん!負傷者よ、よろしく!」

 

「はい、わかりました」

 

 

黒川陸曹は衛生隊の支援をしていた。今までは隊員に大きな怪我はなく、せいぜい訓練中や不慮の事故によるちょっとした怪我や、病気がほとんどであった。あと時々カウセリング。

 

しかしここ最近は違う。確実とは言えないものの、戦闘による負傷者らしき者が増えている。今まで帝国や盗賊と戦って大怪我した人もいない。

 

あったのは漆黒龍に遭遇してほどほどの怪我をした第3偵察隊(自分たち)。そしてヘリが墜落した際の負傷者。しかし戦闘による負傷かと言えるかは別である。

 

そしてここ最近多いのが……

 

 

「ぐぁぁあ!足がっ!」

 

 

足にひどい火傷を負った隊員が担架で運ばれてくる。

 

 

「一体どうしたのですか」

 

 

黒川は付き添いで来た隊員に尋ねる。

 

 

「我々第2偵察隊が行動中、彼が地雷のようなものを踏んだらしいのです」

 

「地雷?この中世のような世界に?」

 

「地雷というか、なんというか……それに一番近いものだと思います。何か踏んだのかはわかりませんが、いきなり爆発が起きたので」

 

 

自分たちの言う地雷ではなくとも、何らかのトラップであると判断する。

 

 

「一体誰の仕業なのでしょう……」

 

「腕が!俺の腕が!」

 

 

今度は腕に凍傷を負った特地の自衛隊に雇われた傭兵(日本側ではあくまでも警備員という立ち位置)が運び込まれた。

 

 

***

 

 

一方、同時刻の作戦室では。

 

 

伊丹は聞きたくもない会議に参加させられていた。

 

 

「よって、現在帝国の他にも高度な戦闘力を保持する武装集団がいることが考えられます」

 

 

幹部の1人がスライドショーによる報告を終える。

 

 

「ふむ、よからぬ噂を聞いだが、最近今まで親しかった村民のいた地域で、隊員たちが恐れられたり、石を投げられたと報告があるが?」

 

 

狭間陸将は全ての幹部に対して尋ねる。

 

 

「我々隊員が不祥事を起こしたという報告はありませんし、ありえません。あのイラクですら起こしたこともないので」

 

 

と1人が答える。

 

 

「伊丹2尉」

 

「え?え……私ですか!?」

 

 

突然の指名に驚く伊丹。何で俺?と言った感じである。

 

 

「君はこの件についてどう思う?率直に答えていいぞ」

 

「えー、何と言いますか。もしかしたら帝国が我々自衛隊の仕業に見せかけるために、変装して攻撃しているとか?」

 

 

幹部たちは危惧したことが起きてしまったと頭を抱える。

 

類似例ならベトナム戦争、アフガン戦争、イラク戦争など、圧倒的有利な相手に対するゲリラ戦などがある。

 

ゲリラ戦は不意打ち的な戦術という認識であるが、掘り下げればそれ以上に深い戦術だと分かる。

 

敵と民が手を取り合うのを阻害し、民の敵意を敵に向けさせればこちらは兵力強化、相手がもし民を攻撃すればさらなる憎悪を生み出し、世論、正当性はこちらを味方する。

 

そしてそれが長期化すれば相手の精神力は磨耗していき、戦意を喪失させることもできる。

 

 

「早急に対策が必要ですな」

 

「しかし、情報が足りませんな。一応遠距離写真はありませんが、不鮮明ですし、緑の鎧に緑の塗料を肌に塗っているのでわかりづらい状況です」

 

 

と幹部たちが色々と議論しあう。そして気づけばなぜか皆の目線が伊丹の方に集中する。

 

 

「え?私ですか?」

 

 

***

 

 

その夜、アルヌス露店屋台で1人のモブ男が後ろ回し蹴りで吹っ飛ばされていた。

 

 

「あたいの尻はね、安くないよっ!」

 

 

みんな大好きうさ耳姐さん、ウェイトレスのデリラのヴォーリアバニーの殺人級キックが炸裂したようだ。不幸中の幸い、死人は出てない。

 

 

「よぉ、デリラ。いくら払ったら触らしてくれるんだい?」

 

 

とひょっこり伊丹耀司(セクハラオタク)が一同を連れてやってきた。犬の入店は禁止されてないので安心である。

 

 

「イ、イタミの旦那。嫌だぁ、もうっ!」

 

 

とデリラは先ほどの威勢のよさ(ツン)から恥じらう(デレ)ように奥に逃げて行く。

 

といろいろあって伊丹たちは席に着く。

 

 

「伊丹2尉、最近大変そうですね。目の下に隈ができていらっしゃいますわよ」

 

「黒川、君も人のこと言えないよ。で、話ってのは?」

 

 

伊丹も黒川も最近の不測事態であまり寝れていないようだ。

 

 

「もちろんテュカのことですわ。いつまで放っておくのですか?」

 

 

当の本人は何だか探し物をしているような様子である。

 

 

「テュカぁ!何をしてるのぉ?」

 

「う、うん、ちょっとね……」

 

「誰か探してるのぉ?ひょとしてぇ、男だったりしてぇ?」

 

「違う違う……」

 

 

そしてテュカは苦笑しながら屋台を去ってしまった。

 

 

「……ご覧の通り、毎日この時間帯になるといるはずもない人を探し始めるのです」

 

「でも無理矢理現実を認識させる必要、あるのかしらぁ?」

 

「あるに決まってます」

 

 

ロゥリィの問いに黒川は少し強めに答える。

 

 

「こういう時はしっかりと現実を受け止めて前へと前進しなければなりませんわ」

 

 

といった感じのことを延々とと黒川は説明する。

 

 

「なあ、黒川。お前が言った通り俺たちがよってたかってテュカを取り囲んで、みんなでお前の父親は死んだんだといいか聞かせて現実を認めさせたとしよう。そうしたらどうなる?」

 

「どうなると言われましても、それは父親の死を受けてしばらくは悲しみに暮れるかもしれませんが、それを乗り越えて生きていきますわ」

 

「じゃあ聞くが、テュカは悲しみを受け止めきれると思うか?今は現実と妄想の狭間で生きてるが、現実を突きつけることで耐えきれずに、『あっち』の方向に行ってしまわないと言いきれるか?」

 

 

まさかいつも現実逃避(二次元へのの逃避)をしている伊丹からこんな正論を言われるとは誰も思わなかった。ロゥリィはさらに伊丹に対し興味を抱くのであった。

 

 

「そ、それは……」

 

 

黒川も返す言葉が見つからなかった。

 

 

「テュカの『こころ』について知ってるほど俺たちはテュカを知ってるか?それにこの不安定な地域でいつまでもテュカに寄り添うことはできるとは限らない」

 

「つまり、このままにしておけとおっしゃるのですね?」

 

「ああ、そうだ。最後まで責任を持てないなら余計なことをするな。余計にこじれるだせだ」

 

「わかりました。私は明日早いのでこれで失礼します」

 

 

黒川は少し苛立った様子で席を立つ。

 

レレイはバルパスのお散歩、桑原曹長は黒川を送って行くといって結局残ったのは伊丹とロゥリィだった。

 

 

「飲みなさいよぉ、お馬鹿さぁん」

 

 

そして2人でビールを飲み始める。そして2人はお互いいろいろな話をしたり、からかったりしてそれなりに楽しい時間を過ごした。

 

 

「なんだここは?ガキに酒を飲ますのか。それとそこの男、幼気(いたいけ)な少女を酔わせて何を目論んでる?まさかと思うが、卑劣なことを考えているのであるまいな!?」

 

 

彼女、ダークエルフの女性が現れるまでは。

 

 

***

 

 

「ちくしょう……私の子供が……」

 

 

特地の古代龍、炎龍ことヨルイナールは無気力になりながら空を舞っていた。どうやら仔龍に何かあったようだ。

 

 

「一体ここはなんなのだ。ここが神の国なのか!?」

 

 

とレッドドラゴンことアンヘル。

 

 

「「…………ん?」」

 

 

気がつくとヨルイナールの隣にアンヘルがいた。アンヘルからしたら異世界に放り出されたたらそこにヨルイナールがいただけなのだが。

 

 

「なんだお前は!?」

 

「貴様こそ誰だ!?」

 

 

一気に戦闘態勢に入る2龍。

 

先手を打ったのはヨルイナールだ。まず最大火力の火炎放射をお見舞いすりる。

 

しかしアンヘルはそれを難なく、まるで物理法則を無視するように回避する。

 

 

(なっ!?)

 

 

アンヘルはヨルイナールよる小さめであるが、その体格から空中戦に特化した身体だとヨルイナールは推測する。

 

 

「おのれ!我を攻撃するなど万死に値するわ!」

 

 

そして火球を吐き出す。

 

 

しかし速度はそれほどなかったので、ヨルイナールは回避できると判断した。それが命取りだった。

 

 

「バカな!?回避したはずなのに!」

 

 

回避された火球は弧を描いて油断していたヨルイナールの背中を直撃した。幸い、硬い鱗の多い背中で、彼女が炎龍であったことが火の特性をある程度打ち消した。それでも、表面の硬い鱗は吹き飛ばされ、守られていた肉が露わになった。

 

 

(なんという威力だ……同じところにもう一発当たれば危ない……)

 

 

ヨルイナールはアンヘルの動きを観察する。追撃はないようだ。

 

 

「ふん、我と近種の炎龍か。しかしこの世界の炎龍は思ったほど脅威ではないな。もしやと思ったが大丈夫だろう。念のために、殺っておくかのう」

 

 

アンヘルが追撃準備した瞬間をヨルイナールは見逃さなかった。

 

わずかに上位の位置にいたヨルイナールは急降下してスピードをつけて滑空した。

 

アンヘルも急な移動に驚き、十分な威力のないまま火球を放つ。

 

ホーミングミサイルのようにヨルイナールを追うが、ヨルイナールの方が僅かに速度で勝っていた。

 

位置エネルギーと質量エネルギーを一気に転換してアンヘルの背後へ回り込み、その勢いをもって喰らいかかる。そしてそのまま遠心力をもってアンヘルと空中で絡むと地面へと急降下して行った。

 

 

地響きとともにクレーターが生じる。

 

 

偶然かそれとも意図的か。アンヘルが地面に叩きつけられる形で落下した。

 

 

「おのれ!」

 

「私も黙って死ぬわけにはいかないんだよ!」

 

 

ヨルイナールは渾身の力を込めてアンヘルに食らいつく。アンヘルは叫ぶ。

 

 

しかし、運命の神はヨルイナールに微笑まなかった。

 

先ほどからホーミングしていた火球が今ヨルイナールの背中に当たる。しかも先ほどの肉の露わになったところだ。

 

 

「うぐ……ちくしょう……」

 

 

ヨルイナールの噛む力が弱まり、アンヘルはすぐに空中に逃れる。

 

 

「うぬぅ、油断したいたとはいえここまでやるとは。念には念を押して殺してやる」

 

 

アンヘルは火球を貯める。それと同時に瀕死のヨルイナールの周りに魔法陣のようなものが現れる。

 

 

(まさか……こいつは……)

 

 

アンヘルの火球が放たれる。しかし放たれると同時にその火球は四方八方に分裂する。

 

 

(魔法龍(マジック・ドラゴン)……)

 

 

分裂した火球は囲むようにヨルイナールに向かってゆく。

 

 

***

 

 

「はあ、はあ……早くこの傷を癒さぬば……」

 

 

アンヘルはそう言って飛び去る。

 

 

(主人殿(アルドゥイン)……に……伝えなくては……)

 

 

鱗がぼろぼろになったヨルイナールはそのまま力尽きた。




龍達が擬人化してたらヨルイナールの鎧がぼろぼろにされてもっと面白かっただろうに。


ヨルイナール「なんか言ったか?」

すみません


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地揺れ

こちらのダークエルフはエr......じゃなくて綺麗ですね。あちらの世界(スカイリム)も見習って欲しいものです。

あと最近主が出てなくて読者の皆様はご不満がおおいようです。申し訳ありません。

「グフフ、我の下僕が増えてるな」


 

「……ということが昨晩あってだな」

 

『ハハハ、笑えねーな。笑うけど』

 

 

伊丹が現在受話器で話しているのは、現在本土に戻っている一応の友人、加藤である。ヤオというダークエルフが現れたこと、ロゥリィがなぜか不機嫌になり、自分を幼女にお酒を飲ましてムフフなことをしようとする変態としてヤオによって制裁を加えられそうになったこと、などを話していた。

 

 

『で、何で俺にそんなこと話すの?』

 

「まあ、後半はあんまし関係ないけど、テュカのことでな……」

 

『何だ、ちゃっかり心配してるじゃないか。部下思いだな。で、なんで俺?』

 

「なんでって、心当たりあると思うけど……」

 

『……元精神病患者で悪かったね。でも精神病を一括りにしては欲しくないな』

 

「いや、別にそういうわけではないけど、なんか参考にならないかなあ、と思って」

 

『そいつは残念。聞く相手を間違えたな。俺は心を壊すのなら得意だけど。自分の心を壊すぐらいだし(笑)』

 

 

伊丹は早々に聞く相手を間違えたなと後悔する。こんなのにテュカを診せたらテュカは完璧に壊れてしまう。

 

 

『まあ冗談はさておき、今のテュカを見れるのはお前しかいないよ。せいぜい頑張っておくれ』

 

「他人事だな、ホント」

 

『梨紗さんにもいわれたぞ、母親に会うように言ってくれって』

 

「余計なお世話だ」

 

『俺は伝えたからな。仕事頑張ってねー』

 

 

相手から電話が切れる。伊丹はあまり成果がなかったので大きな溜息を吐く。

 

 

「隊長、何してんですか。早くしないと置いていきますよ!」

 

「悪りぃ。今行く」

 

 

伊丹は今日の仕事、日本からの外務省官僚が特地における外交活動に必要な資金、土産品、特産品などの高級品を運び出すことだ。離陸準備の整ったチヌークに伊丹たちは搭乗すると、チヌークは轟音を立てて離陸する。

 

 

***

 

 

「ええい!放せ!貴様らそれでも男か!?」

 

 

数名の自衛官警務隊に抑えられているのは、例のダークエルフ、ヤオ・ハー・ディッシ。

 

なぜ彼女が抑えられているのかというと、迷彩服の自衛官を見た瞬間剣を抜いて突きつけ、「総大将を出せ!」とか言ったが、そんなのがまだ語学力の乏しい隊員に伝わるわけもなく頭のおかしい人として抑えられていたわけである。これがアメリカなら問答無用射殺ものである。

 

というわけでは緊急で通訳としてレレイも呼び出され、取り調べをすることとなった。

 

 

「ええい、貴様らは女一人相手に拘束具をつけてよってたかって複数で拷問するつもりだな!?く、いっそ殺せ!いや、やっぱり殺すのはやめてくれ。身体を屈服させても心は負けん!と言ってる」

 

 

レレイは相変わらず無表情で淡々と通訳する。取り調べる隊員はどこでそんな言葉覚えたの?という表情で困ってしまった。

 

 

「よくも我々の村を滅ぼし、一族郎等皆殺しにするつもりか!?炎龍を撃退したと聞いて最初はなかなかのものと思ったが、見損なったぞ!とも言ってる」

 

「レレイさん、それは確かですか?」

 

「通訳に間違いはないはず」

 

「ちょっと待ってくださいね」

 

 

隊員は幹部に耳元に囁くように何かを告げると、幹部は一旦外に出る。そしてしばらくして狭間陸将と共に戻ってきた。

 

 

「今日はヤオさん。私はここの統括をしている狭間というものです」

 

「来たな、総大将め!今こそ我ら一族の仇を討ってやる!しかしこの拘束具をつけるとは、貴様はもしや私の身体を弄ぶつもりだな!?と言ってる」

 

 

どうしてこうなった?と狭間は目に手を当てて考え込む。てかレレイさんその無表情で通訳するのなかなか怖いんですけどね、と狭間は少し思うのであった。

 

 

「ヤオさん、貴方は恐らく誤解しています」

 

「誤解だと!?そんな言葉で私を騙すつもりか!?」

 

「いいえ。恐らく貴方は『緑の人』に襲われたのでしょう。実は我々もそう呼ばれてますが、異なる者だと思います」

 

 

そして鮮明ではないが、特地の人からしたらあまりにも高度すぎる絵、写真を見せる。そこには緑の鎧、剣、やメイスなどの武器を持ち、緑の肌の戦士のようなものが写っていた。そう、ヤオのダークエルフの里を襲った者たちだ。その写真と狭間や近くの隊員を見比べる。

 

写真を見る。顔を上げて見比べる。

 

の繰り返しを行うこと数回。

 

そしてしばらく顔が下を向いたままになる。

 

そしてゆっくりと上げるときには褐色肌にも関わらず、恥ずかしさで顔に赤みがかかってるのが分かる。そして涙目。

 

 

「申し訳なぃぃぃいいっ!と言ってる」

 

 

どうやらレレイは顔こそ表現不足だが、通訳時のトーンにはなぜか表現豊かである。

 

 

「ああ、これは一族の恥だ。このままでは帰れぬ。しかも総大将にこんな無礼を……いっそこの身を捧げて……」

 

「レレイさん、独り言まで訳しなくてもよいですから……」

 

「わかった」

 

 

狭間陸将はやれやれ、と誤解も解けたのでその場を去ろうと立つといきなりヤオは立ち上がる。

 

 

「待ってくれ!お願いがある!我々の部族を救ってくれ、頼む!」

 

 

***

 

 

「で、殿下……お許しを……」

 

 

真っ白な肌、真っ赤な目に兎の耳のヴォーリアバニーのテューレは床上で力なくうつ伏せになっていた。

 

 

「ふん。その程度か。この程度で気を失っては俺を満足させることはできんぞ。お前の同胞の運命は、お前がどれだけ頑張るかにかかっているからな」

 

 

その男、皇帝の第一子、ゾルザル・エル・カエサルは立ち上がると召使いか持参した衣に着替える。

 

 

「俺はこれから出かける。精々精進することだな」

 

 

そう言って召使い共々部屋を後にする。

 

 

「……」

 

「彼、いい趣味してるわね」

 

 

無言でゾルザルの背を見送るテューレに、部屋の奥から声をかける者がいた。

 

 

「そう?で次は貴女がやってみては?」

 

「遠慮するわ。私は人間共の営みには興味はない。あるのは血と叫びと絶望よ」

 

 

テューレはその言葉を聞くと不敵な笑みを浮かべる。

 

 

「貴方の方がよほどいい趣味してるわ。デイドラ……」

 

 

その頃とある場所でピニャを中心に日本側と帝国側(穏健派)が宴会をにていろいろ交渉や交流などを行って、ピニャたちが賠償金の高さに目を回したり、ゾルザルが踏み込んだ頃には日本側はいなかったなどは、また別のお話。

 

 

***

 

 

場所は変わって帝都の貧民街、『悪所』。

 

どんな場所かと一言で言えば無法地帯。知ってる人なら雰囲気は世紀末世界(フォールアウト)やどっかのモヒカンが「ヒャッハー」と叫んでいそうな場所である。一応そちらよりはマシかもしれない。ぶっちゃけ我々の世界の貧困の無法地帯とそう変わらない。

 

そんな場所に第5偵察隊が拠点を建ててしまったのである。理由は簡単に、あまり目ただないし、多少変なことしても帝国の目を欺けるから。

 

無論、こちらでいうその場所を仕切っているマフィア的な者がちょっかいを出すが、結果は惨敗。部下はミンチにされた挙句拠点は更地にされ、路頭を迷った結果日々の恨みを晴らされて一家もろとも息の根を止められてしまった。

 

第5偵察隊はどこの某漫画のロシア軍出身のマフィアだ、と思いたくなるほどだ。

 

こんな感じで他の連中からも一目置かれ、一応事務所的なものができた。その後、その他の部隊もこちらに配属されたりした。

 

黒川も後にここに臨時配属され、こちらの夜のお仕事をする女性のケアや調査を行っていた。

 

 

そんなある夜、その女性一人(背中に翼を生やしてるが)のミザリィが数人の仲間を連れてやってきた。雰囲気はからして緊急事態だとわかる。

 

 

「こんな夜遅くにどうしたのですか?」

 

「私らはあんたらがここで何をしようとしているのかは薄々気づいていたよ。それでも知らんふりするのがここでの長生きのコツだったけど、そうも言ってられなくなってね」

 

 

ミザリィは後ろで小さく怯えていたハーピィの女性を紹介する。

 

 

「この子はテュワル。この子の話を聞いて私たちを助けて欲しいんだ」

 

「お願いです。助けてください」

 

 

その女性は何かに大変怯えたように黒川にしがみつく。

 

 

「えっと、ちょっと状況が読めないのですが……」

 

「ああっ、まどろっこしいね!私らを助けてくれたらあんたらに協力すると言ってるのさ!」

 

「分かりました、ちょっと待ってください。責任者を読んで……」

 

「……っ!!来るっ!」

 

「「「っ!?」」」

 

 

***

 

 

「うぐ……」

 

 

ヨルイナールはまるで永遠の眠りから覚めたような気分だった。全身が重く感じる。

 

 

「……どうやら、暫く気を失ってはいたようだな」

 

「いいや、お前は死んでいたぞ」

 

 

声の方向に振り向くと、主たる漆黒龍、アルドゥインが宙に浮いてヨルイナールを見下す形で見ていた。

 

 

「やれやれ、まさかと思ったがまた死ぬとはな……余計な力を使わせおって」

 

「主殿、すまぬ!私のためなんぞに……あと一つ報告しなければならぬことが……」

 

「レッドドラゴンのことだろう?奴がこの世界に来たときから察知しておったわ。案ずるな、奴は我が捕らえる」

 

「……すまぬ、余計なことをした……」

 

「構わん。既に必要分の力は貯めた。その余りをお前に使ったに過ぎん。それに、これからさらに面白いことが起こる予定だ」

 

 

アルドゥインは笑いこそしなかったが、何か不気味な笑みを浮かべたような気配した。ヨルイナールはそのオーラにただならぬものを感じた。

 

 

「お前は子どもたちを取り返しに行くがよい。我はまだ一仕事あるからな。近々、戦闘を行う予定だ。隈なく準備せよ。次は死ぬなよ」

 

 

そう言い残すとアルドゥインは反転して飛び去る。

 

 

「……死んで蘇ったからだろうか。拘束魔法が解けている」

 

 

ヨルイナールもすぐに翼を羽ばたかせて自分の巣に戻ろうと空へ浮かぶ。

 

 

***

 

 

「震源、帝都の北東の氷雪山脈付近、マグニチュード7.5と判明しました」

 

「でかいな……今遠征中の隊員に影響がなければいいが……」

 

 

狭間は作戦室にのモニターに映るデータや地図とにらめっこしていた。

 

 

「というわけだ、ヤオさん、申し訳ないが、貴方の部族への偵察は延期をせざるを得ない」

 

「そ、そんな!」

 

 

柳田の言葉にヤオをへなへな、と膝をつく。

 

実は自衛隊は正体不明武装集団、通称『緑の人』又は『緑のゲリラ』の偵察を兼ねて少数を派遣することを立案していた。

 

エルベ藩という領地であるがため、軍隊とも言える自衛隊を送ることに外交的問題があるため躊躇っていたが、偵察のための少数なら、ということで考えはしていた。戦闘を行わなくとも、何らかの情報が必要だと考えたのだ。

 

しかし立案が固まりそうなときになってこのざまである。大規模地震が起きてしまったので、他の作戦も一部中断せざるをえなくなってしまったのだ。

 

 

「狭間陸将、航空自衛隊の航空偵察隊からの震源地の写真ができました」

 

「うむ、ここか」

 

 

雪に覆われた山であるため、特に目立ったものはない。はずであった。

 

 

「ん?この赤っぽいものはなんだ?」

 

 

見ると写真の山の麓に何か赤っぽい太い線が見える。写真ではイモムシのおおきさだが、スケール換算すると60〜70メートルだと分かった。

 

 

「これより鮮明なものはないのか?」

 

「申し訳ございません。それが限界です」

 

「ふむ、なんだろうな。岩のようだが……」

 

「分析官によりますと、おそらく山に亀裂が入り、山の肌が露出したか、或いは鉱脈が隆起したのだろうということです」

 

 

隊員の一人が答える。

 

 

「ふむ、何ともないものならそれでよいが……」

 

 

不吉な予感がしたが、考えすぎだろうと狭間は頭のモヤを振り払う。

 

そして今後の方針等を各隊に指示するのであった。




最近グタグタ感があることを指摘されまして、全くその通りだと痛快しております。この場を借りてお詫びいたします。これからは焦らずに作成していきたいと思います。


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怪獣映画?いいえ本物です


個人的にはゾルザルは漫画版がいいと思ってます。次に小説版。アニメは……チャラ男ですな。


 

「ふむ、おかしい。ヨルイナールにはここで待っておくよう伝えたはずだが……」

 

 

アルドゥインは集合場所の周辺を見渡すが、ヨルイナールの姿はおろか、気配もしない。何かあったのだろうか?

 

 

「まあよい、残骸と魂の繋がりさえあれば何度も蘇らすこともできるしな。それに……」

 

 

アルドゥインは空中から地面に食い込まれた巨大な足跡を目で追って行く。

 

 

「こやつがいれば十分だ」

 

 

そして一気に空高く舞う。

 

 

「さて、奇妙な緑のジョール(人間)どもをソブンガルデに送ってやるとしよう」

 

 

***

 

 

「でかかったな」

 

「そうですね」

 

 

伊丹の言葉に栗林が答える。

 

自衛官たちの足元にはピニャを始めとする騎士団員や、その他メイドなどの特地の人間がしがみついていた。

 

初めての体験に対して、地震慣れしている日本人たちがとても頼もしく思えたらしい。というか、怯えた子供のようではあったが。

 

伊丹たちは怯えている人たちを一旦落ち着かせる。

 

落ち着いたピニャは、父である皇帝の身の安全を確認しなければならないので、伊丹に同行をお願いした。

 

しかし、伊丹と菅原はあまりいい顔をしていなかった。

 

 

「どうする?俺たちは戦争中の相手国の兵士だってバレたら?」

 

「確かに、しかも皇帝だからな……」

 

 

と色々話していると、ピニャが上目遣いの涙目で言う。

 

 

「伊丹どの、お願いだ。傍にいてほしい」

 

 

こんな頼み方されたらそりゃ断れない。仕方がなく、重要人物の護衛ということで同伴することとなった。

 

 

そして皇宮に着く頃にはピニャも大分落ち着いて、皇宮で恐怖でなにもできなくなっていた兵士などを奮いたたせ、持ち場へ戻るよう指示する。

 

そして皇帝の寝室まで来てしまった。

 

 

「ほう、最初に来るのはディアボかゾルザルあたりだと思ったがまさかお前が最初だとはな」

 

 

皇帝はピニャの姿を見てそう呟いた。

 

 

「陛下、身支度をなさってください」

 

 

そしてメイドや兵士などに的確に指示する。

 

 

「ピニャよ、そなた一皮むけたな」

 

「皮など剥けてません。怪我はありません」

 

 

ピニャの生真面目な応答に一瞬戸惑いつつ、皇帝はは伊丹たちの存在に気付き、その紹介をピニャに促し、ピニャは菅原と伊丹たちを紹介する。

 

 

「紹介します。ニホン国使節のスガワラ殿です」

 

「ニホン国?確か、我が帝国と戦争中の国であったな。使節殿、歓迎申し上げる。だが生憎、ご覧の通り非常事態でな。いずれ時と場所を改めて宴などで歓待したいと思う。今宵は勘弁していただきたい」

 

「はい、陛下。是非とも我が国と帝国の将来についてお話しをする機会を頂きたく存じます」

 

 

菅原は一礼して下がる。

 

 

「そういえば、ニホンという国にも王がいるのであったな?」

 

 

おそらく天皇陛下のことを言ってるのだろう。しかしなぜ知ってるのだ?と菅原は疑問に思う。

 

 

「いいえ、我が国たる象徴たるお方は王ではなく、天皇という位に就いておいでです」

 

「国権を国民に奪われた国など他愛もないと思っていたが、そちらの世界にはそちらの世界のやり方があるのであろうな。対等な相手がいないだけに、どのように遇するべきかわからぬ。無礼があればご容赦いただきたい」

 

 

会話が終わると廊下からゾルザルとその部下たちが大急ぎで入ってきた。

 

 

「父上!ご無事か!?」

 

 

よく見るとゾルザルのさが握っているチェーンの先には様々な容姿、種族の女性が犬のように首輪をされて引きずられていた。目から光全く感じられない。

 

 

「父上、ご無事でしたか?さあ早くここを離れましょう。また一度や二度、同じような地揺れが来るかもしれないということです」

 

「兄上、よくぞまた地揺れが来るかもしれないことをご存知ですな。妾も先ほど知人から教えてもらったばかりだというのに」

 

 

ピニャは兄がそのことを知っていたことに驚く。

 

 

「このノリコという門の向こうからさらってきた黒髪の女が教えてくれたのだ」

 

 

ゾルザルが鎖を引っ張って一人を前に出す。

 

 

その門の向こうからさらったという黒髪の女は、日本人だった。

 

 

「馬鹿野郎!ぶっ殺してやる!」

 

「ふごぉ!?」

 

 

伊丹のパンチがゾルザルの頬にクリーンヒットする。

 

 

「私たちは陸上自衛隊よ。日本人ね、大丈夫?」

 

 

栗林はノリコという女性にかけより、首輪を外す。

 

 

「助けに来てくれたの?」

 

「ええ、必ず連れて帰るわ」

 

 

そしてその女性は堪えきれずに大粒の涙を流して泣き始める。

 

 

「皇子殿下が我が国からさらったと言っていますが、これはどういうことですか、陛下。ピニャ殿もご存知ではなかったのですか?」

 

「スガワラ殿?」

 

 

ピニャには理解できなかった。確かに、彼らからすれば相当悪いことをしたのだろう。しかしここで事を起こせば双方にとって今までの講和への努力が水の泡になってしまう。にも関わらず彼らは明確な敵意を抱いていた。

 

 

「栗林、富田。相手が敵対行動を取るなら自分の判断で撃っていいぞ」

 

 

伊丹は部下に命令する。栗林は待ってました、とばかりに微笑んで戦闘準備を行う。

 

案の定、ゾルザルの取り巻きが剣を手に襲ってきたので栗林と富田は銃剣格闘や射撃などによってあっという間に制圧してしまう。

 

 

「死にたくないものは武器を捨ててここから出て行きなさい」

 

 

栗林の死神のような宣告に戦闘を行っていたものは武器を捨てて、その場を後にする。

 

 

「さて、皇子殿下。あなたは先ほど門の向こう側からこの女性をさらってきたといいましたが、それは他にもいるということですね?」

 

「ふ、ふん!無礼者に答えることなどないわ!」

 

「栗林君、喋りたくなるようにしてあげなさい」

 

「了解♬」

 

「な、何をするつもりだ。ちょ、やめ……」

 

 

それ以降は言葉ではなく、音となった。何か肉が硬いもので殴られるような音。時々悲鳴にならない声のようなものも聞こえた。そして時には何かが折れたり砕けた音もしたという。

 

 

「殿下、そろそろ答えてくれませんかねぇ?」

 

 

伊丹は銃口でゾルザルらしきものをつついて再度尋問する。

 

しかしそこでテューレがゾルザルを庇うように間に入る。

 

 

「殿下を、殺さないで」

 

 

伊丹たちは理解できなかった。これほど酷い仕打ちをされてもなおこの男に情があるのだろうか、と思った。

 

 

「男は奴隷市場に流した……後は知らん……」

 

 

ゾルザルはそれだけ言い残すと意識を失う。

 

 

「皇帝陛下、この問題が解決するまではしばし宴会などは出来そうにありませんな。そしてピニャ殿、その攫われた者たちの消息などの情報速やかに提供して頂けるものと期待しています」

 

 

そう言って菅原と伊丹たちはその場を去ろうとする。もちろん、帝国兵がそれを阻害しようと攻撃しようとしたが、皇帝の一喝で断念する。

 

 

「スガワラ殿。認めよう、確かにニホンは強い。しかし、そなたの国には致命的な弱点がある。それは民を愛しすぎることだ。いずれ、身を滅ぼすこととなるぞ」

 

「陛下、お言葉ですが我が国はそれを国是としております。その言葉どおり、我々より先に帝国が滅ばないことを祈るのがよいでしょう」

 

 

そして日本側の一同はその場を去る。

 

 

そして宮廷を出てしばらく、周りに帝国の人間がいないことを確認する。

 

 

「「……やっちまったぁぁあ!!」」

 

 

伊丹とスガワラは頭を抱え、いくら一時の感情とはいえ取り返しのつかないことをやってしまったと後悔する。

 

 

「と、取り敢えずアルヌスに帰るか……」

 

 

***

 

 

「ああ、どうしよう……」

 

 

伊丹たちが帰って数時間後、ピニャは自室で頭を抱えていた。

 

 

(このままでは非常にマズイ……何が、何がいけなかったのだ?このままでは本当に滅ぼされてしまう。そしてゆくゆくは……)

 

 

頭をよぎったのはゾルザルの奴隷となっていたノリコというニホン人であった。

 

 

(妾の末路もああなってしまうのか……?)

 

 

継続的な地揺れに怯えながらもピニャは今後のことを考えなければならない。しかし何も思い浮かばない。

 

 

「姫殿下!失礼します!」

 

 

近衛兵の一人が慌ただしく部屋に入ってきた。

 

 

「貴様!妾の部屋に入る前ぐらい声をかけよ!」

 

「申し訳ございません。しかし、緊急事態です!城壁へ来てください!」

 

 

ピニャはただ事ではないと察し、戦闘準備を整えてすぐに出る。

 

 

(まさか、もうジエイタイが来たのか?速すぎる、いや、ありうる……)

 

 

しかし、彼女が見たものはさら予想外なものだった。

 

 

「な、なんなのだあれは!?」

 

 

帝都の城壁の外を()()()ゆっくりと歩いていた。

 

 

「でかい!でかすぎる!」

 

 

それは小山のように巨大な龍だった。

 

炎龍や漆黒龍など比較にならない大きさ。頭部だけで小さな龍ぐらいの大きさはある。

 

その巨大な龍の一歩一歩が地響きとなって足元を不安定にさせる。

 

 

「姫様!いかがなさいますか!?」

 

(そんなこと妾に聞くな!)

 

 

正直ピニャもどうしたら良いのかわからなかった。

 

もし攻撃命令したら?

 

もし反撃を食らえば帝都は復帰できなくなるほど破壊の限りを尽くされるだろう。

 

ただ、そんな命令下してもほとんどの兵士が震えてるので攻撃できるかどうかも定かではないが、とピニャは判断する。

 

幸い、この巨大な龍の進行方向に帝都はない。刺激しないほうが良いかもしれない。

 

 

「このまま、やり過ごす……」

 

 

兵士たちもそれを聞いて本心でほっとする。

 

 

(頼む、何もしないで進んでくれ!)

 

 

そう願っていると、ピニャはギョッとした。

 

4足歩行していた龍が突如ゆっくりと頭を上げると、二本足で立ったのだ。

 

その巨体さはもう恐怖であった。70〜100メートルはあるか。

 

そしてその龍は周りをゆっくりと見渡すと、今まで聞いたこともないような爆音の咆哮で周囲の物体と生物の魂を震わせる。

 

あまりの爆音で脆い建物は崩れてしまった。

 

そして龍はそのまま、ゆっくり()()()()、重力に任せて前足を地に降ろす。無論、周囲の地面、岩、木々はこっぱ微塵になる。

 

そして凄まじい地響きが帝都を襲う。

 

 

「まさか……今までの地揺れは……こやつが原因なのか?」

 

 

ピニャは腰を抜かして立ち上がれなくなってしまった。

 

 

さてこの龍、既に勘の良い人はお気づきであろう。漆黒龍同様、特地でも日本側でも、ましてや漆黒龍の生まれの地から来たわけでもない。

 

この龍が生息している世界でこの山のような龍はこう呼ばれている。

 

 

老山龍(ラオシャンロン)

 

 




本当はアイツ出したかったけど、主様並みにオーバーキルしそうだったので代替がきました。

「アンギャーーオーーン!」

だから来るなって。

でも似たシーンありそうだよね、最近の東映の映画で。


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色々と狂気な世界


後半はおふざけ回と思います。すみません、苦し紛れに好き勝手やってます。

あと実は某映画の怪獣が進化の際二本立ちしたの見て、老山龍思い出してしまいまして、前回出させていただきました。


 

「なんじゃ、ありゃ……」

 

 

アルヌスへ向かう陸自ヘリ、チヌークの窓からはっきりとそれは見えた。

 

巨大な龍が二足で立ったと思ったら地面を叩きつけるように倒れこむところも。

 

その音は予想を遥かに超えていた。ある程度帝都を離れ、しかもヘリコプターのローター音を上回るほどなのだから。

 

 

「とりあえず、まずは民間人を基地に降ろしてからだ。そのとき指示があるかもしれな……」

 

 

伊丹の言葉は突如現れた戦闘機の爆音によってかき消される。

 

2機のF-4ファントムが亜音速で帝都方面へ向かっていた。

 

 

「こちらパイロット・ワン。帝都爆撃任務への途中だが、想定外な事案が生起した」

 

 

2機の戦闘機のうちの一人のパイロット、神子田が管制塔に連絡を入れる。

 

 

「ゴジラ級の赤茶色の龍が帝都近くにいる。指示送れ」

 

『こちら管制塔。それは確かか?そのような情報はこちらにない』

 

「目視にて確認。なお、相手からのアプローチはない」

 

『了解。その場で待機せよ』

 

「こいつに攻撃しても良いか」

 

『それは認められない。次の指示を待て』

 

「了解」

 

 

戦闘機と管制塔とのやり取りを終えると、戦闘機は低速で周囲をぐるぐる回るように待機する。

 

 

「どうする?爆弾こいつの頭に撃ち込むか?」

 

「やめてくれ。地下貫通弾(バンカーバスター)じゃなければ効果は薄いだろう。それに、前見た怪獣映画みたいにキレた怪獣のビームでやらるのはごめんだ」

 

 

パイロットの後方にい副操縦士(コ・パイ)の久里浜2佐が答える。一体何の作品を言ってるのだろうか。

 

 

そんな周囲のやり取りを気に留めず、巨龍(ラオシャンロン)は地響きたてながら進んでいる。別に帝都を攻撃する意志などはないようだ。

 

 

そんな様子をアルドゥインは戦闘機よりもさらに上の高度から見下ろしていた。

 

 

「ふむ、呼びかけてみたが反応が薄いな。龍語(スゥーム)ノドを使う言葉(スカイリム語)こちらの世界の言葉、奇妙な緑の人間の言葉(日本語)、全てにおいて理解がないと見える。それとも理解するだけの知能がないのか……」

 

 

そして巨龍の進行先を確認する。

 

 

「いずれにせよ、計画には問題ない。奇妙な鉄の鳥(戦闘機)も来てるが、今の所無視して良いだろう」

 

 

そう言って静観するのであった。

 

 

***

 

 

「伊丹2等陸尉、以下第3偵察隊只今帰隊しました!」

 

 

アルヌス駐屯地に着き、狭間陸将に報告する。

 

 

「うむ、ご苦労。そちらの帝都での件も問題だが、今はそれより優先すべき事案が生起した。すぐに作戦室へ向かえ」

 

 

言われた通り作戦室へ行くと、幹部やオペレーターが慌ただしく動いていた。モニターには航空自衛隊の偵察機から映し出されている巨龍の姿が見える。

 

 

「今回の地震との関係があるとされる超大型龍、通称巨龍だ。今の所直接な人員への被害などはないが、こいつによる地震、移動等による被害が懸念される。それに人への攻撃が無いと判断されたわけでもない」

 

 

柳田が伊丹に説明する。

 

 

「でっかいな。ゴジラみたいだ」

 

「ああ、俺も見たときは驚いたよ。光線や放射能撒き散らさないといいがな」

 

「ほんとそれな。ゴジラが出ると自衛隊って、咬ませ犬だもんな」

 

「まあ今回の事案はこれ以降、お前さんたち第3偵察隊が出る幕はないな。出るのは機甲科(戦車)野戦特科(砲兵)、戦闘ヘリと空自の戦闘機だろう。こいつが進路を変えて、休んでいるところ調査して来いとなったら話は別だが」

 

「そうならないことを祈るよ」

 

「今日は帰って休め。まあしかし、ちょっとあの金髪エルフに問題が起きたから休めないと思うが」

 

「……テュカがどうしたんだ」

 

 

伊丹は急に嫌な予感がした。

 

そして急いで様子を見に行ったが、そこにいたのは精神の崩壊したテュカだった。

 

 

「ほら二人とも見なさい!お父さんが死んでるわけないじゃない。おかえりなさい、お父さん!この二人ったらお父さんが死んだんだっていうのよ!悪い冗談よね。お父さんが死ぬわけないじゃない。絶対そんなことない。だって昨日もいたし一昨日だってその前の日もいたし、ねえ、そうでしょ?いなくなるわけないじゃない。それにお父さん……」

 

 

もう目が完全にイってた。

 

 

「ちくしょう!テュカをこんなことにしたのはどこのどいつだ!?」

 

「あいつなんだけどぉ……」

 

 

ロゥリィ気まずそうに部屋の隅を指差す。

 

そこにはこの前酒場に現れたダークエルフのヤオが膝を抱えて震えていた。ガクブルというやつだ。

 

 

「スマナイスマナイスマナイスマナイスマナイスマナイスマナイスマナイ……」

 

 

壊れたロボットのようにつぶやいていた。テュカほどではないがこちらも目がイっていた。

 

 

「……こいつをこうしたのは?」

 

 

伊丹は一瞬ちょっと気の毒に思ってしまう。

 

 

「えっとぉ、どっかで見たことあるやつだったけどぉ、伊丹の服を青にした男よぉ」

 

「確か記憶が正しければ私の師匠と同じ名前」

 

 

レレイがロゥリィの情報に補足を加える。

 

 

「カトー師匠と同じ……加藤のことかぁぁぁぁあ!!?」

 

 

そして扉を蹴飛ばして出て行く。

 

 

「あ……行っちゃったぁ」

 

 

***

 

 

「あー、いい指導したわ。いじめをしている人を矯正するのは大変だわ」

 

 

青い迷彩の男が呟く。

 

 

「隊長、あんたがやってるのもいじめ……」

 

「何か言ったか?」

 

「何でもありません」

 

 

青迷彩に覆面をした男が視線をそらす。

 

 

「いやしかし、ほんとどうして俺たちが来るとこんなことになるのかね」

 

「そうですね。まるでそこに行けば99パーセント殺人事件が起こるコナン君みたいですね、隊長」

 

「それ、褒めてるの、それともバカにしてるの?」

 

 

青迷彩の男たちが作戦室の後ろで小声で言い合った。

 

 

「こんなデカ物、対艦ミサイル使えば迎撃できそうですよね」

 

「それの承認下りるのと配備されるの待ったら間に合わないから。ま、こんな大規模作戦俺たちは無用の長物だろう。俺たちの出る幕は無いな。ちょいトイレいってくるわ」

 

 

そして作戦室を出ると同時に奇声が聞こえた。

 

 

「加藤ぉぉぉおおお!」

 

「ん?…… うぐっ!?」

 

「いってぇぇぇええ!?」

 

 

悲鳴を上げたのは伊丹の方だった。

 

 

「素人は殴るときは掌底打ちの方がいいよ。手大丈夫?」

 

「お前なんなの!?それどころじゃなくて、お前何してくれたの!?」

 

「ダークエルフのことか?だってお前の恋人候補のエルフが虐められてるのたまたまみたから仕返し、じゃなくて指導してしただけですが?」

 

「いやね、恋人候補とかじゃないよ……じゃなくて、勝手にやらないでくれる?あんたがやると余計めちゃくちゃになるから!」

 

 

伊丹は勢いよく加藤の後ろの壁に手をつけるように威圧する。

 

 

「お姉さま!あれをご覧ください」

 

「まあ!なんとゆうことでしょう。あれが噂の『壁ドン』ですわね。こんなところでお目にかかれるとは……」

 

「わたくし、もう悔いはありませんわ」

 

 

たまたま近くを通った騎士団からの語学研修生たちがなんとも言えない眼差しを向けてきた。

 

 

「まあ落ち着け。あのダークエルフならそれほどやってないから。もうそろそろ正気に戻るよ。多分」

 

「いや、だからそうじゃなくて……」

 

「いまお手洗い行くから後でな」

 

 

そう言うと伊丹の腕を人間とは思えないような力で掴んでどけるとその場を立ち去る。

 

 

「あら、振られてしまったようですわ」

 

「まあ残念。次の展開を期待してましたのに」

 

 

女騎士たちは本当に残念そうに見る。

 

 

「こんちくしょぉぉおお!」

 

「「ひっ!?」」

 

 

手洗い場では加藤が口をモゴモゴさせて奥歯を吐き出す。

 

 

「いって……いいパンチしてんな。合金の奥歯が外れやがった」

 

 

***

 

 

「あら耀司ぃ、早かったじゃない」

 

「テュカとあのヤオとかいうやつの様子は?」

 

「テュカはレレイの魔法で落ち着かせて寝てるわぁ。ヤオも落ち着いて話せるようになったわぁ。まだしょんぼりしてるけどぉ」

 

 

ヤオは少し俯いて椅子に座っていた。

 

 

「ヤオと言ったかな?少し色々聞きたいことがある」

 

「ひっ!?スマナイスマナイ……」

 

 

伊丹が前の椅子に腰をかけて話しかけるとまた怯え始めた。

 

 

「ちょっと落ち着いてくれ。一体どんなこと言われたのやら……」

 

「う……すまない。少し気を取り乱していたようだ……」

 

「率直に聞くけど、なぜテュカにあんな余計なこと吹き込んだんだ?」

 

「余計なことか……真実を伝えたまでだが、余計なことだったか。事実を伝えたまでだが」

 

「じゃあなんでそんなことを?」

 

「うう……そんな責めないでくれ。思い出すだけでも……」

 

 

伊丹は例の糞同僚が何を言ったのか少しわかった気がした。

 

 

「最初は悪意があって……うむ、当初そのつもりだった。もちろん今は反省している。そう言えばこのエルフの心が壊れ、それを救うために御身が動いてくれると考えたからだ」

 

 

前言撤回。このダークエルフ糞だわ。すげえ腹立つ。加藤、GJ(グッジョブ)、よくやった。と伊丹は心の奥で思ってしまった。

 

 

「そうしてくれれば、あのエルフは炎龍を仕留めることで心は解放されると思う。そこで交換条件として炎龍の住処を教える代わりにダークエルフの里を緑の蛮族から救って貰おうと思ったのだ。スマナイスマナイ……」

 

 

そしてまた小刻みに震える。

 

 

(なんだかどんどんムカついてきた。いっそのことあいつに引き渡してやろうかな)

 

 

とにかくこんなやり方のやつの願いなど聞くわけがない。ヤオのことは放置して後日テュカのことを相談しに行く。

 

 

「謝りに来たのか?別に俺は気にしてないが……俺もやりすぎたかな」

 

「いやな、少し早まったかな。殴ったことは謝る。テュカのことがおかしくなってな」

 

「お父さん、お父さん」

 

 

伊丹の腕を組んで美女がお父さんと連呼していた。

 

 

「リア充爆ぜろ」

 

「いや、違うから」

 

「冗談だよ。でもどーせなら『お兄ちゃん』のほうがいいねえ」

 

「それな。って何を言わせるだ!」

 

「お父さん?どうしたの?」

 

 

とにかく、このままだと仕事もやりづらい。しばらくはこの状態で維持する必要があるが難しい。

 

 

「でもなんで俺に。この前言ったけど、おれ心理学の勉強と部隊相談員の講習受けただけだからね。専門家なら別がいいだろうに。お前さんの部隊にも黒川陸曹というべっぴんさんいるじゃないか」

 

「あいつはだめだ、世間知らずのお嬢様だ」

 

「うーん、仕方がない。これでも使うか」

 

 

そして引き出しからあるものを出す。

 

 

「『バーチャルリアリティ』!」

 

「加藤えもん、それどうやって使うの?」

 

「耀太君、これはね仮想現実を見せるゴーグルなんだ。このゲーミング用PCのソフトで……」

 

「あんたそんなもん持ってきたのか……」

 

「うるせえ、少しぐらいいいじゃねえか」

 

 

そしてパソコンのキーボードを叩く。

 

 

「昔理沙殿から貰ったお前さんのモデル画像を元に作ったアバターがここにある」

 

「おおー、でなんでそんなものが……」

 

「そしてこのモデルを元に男性エルフを作る」

 

(無視しやがったぞ、こいつ)

 

「そしてほら、こんな感じ」

 

「おお、俺に似てる男エルフだな」

 

 

伊丹は感心する。すると後ろからテュカが涙を流す。

 

 

「お、お父さん!?」

 

 

そして画面に顔をくっつける。

 

 

「お、似てるみたいだな。そしてこのVRヘッドディスプレイをテュカにつける」

 

「お父さん……お父さん!」

 

 

どうやら目の前にいるらしく、手を伸ばしている。

 

 

「よしうまくいった」

 

「加藤、お前天才だな!」

 

「こんど薄い本よろしくな」

 

 

そんな感じで喜んでいたが、状況は一変した。

 

 

「アン……ダメよそんなところ……そんな……親子でこんなこと……」

 

 

なんだかテュカ吐息が荒くなり、顔に赤みがかかっている。そしてなんだか動きがすごくいやらしいあやしい。

 

 

「ちょっと待った!何かやべーよこれ、何!?何が始まるの!?」

 

「やっべ、このソフト、エロゲ会社が出しているやつだったの忘れていた」

 

「どんな映像になってんだ。いいから止めろー!!」

 

 

そんなところ、扉の反対側では女騎士たちが耳を立てていた。

 

 

「男2人にエルフ女1人……」

 

「一体何が……」

 

「きっとあれですわ。この前教官殿が教えてくださった『クッコロ』とやつでは?」

 

「いや、でも『おとうさん』と聞こえましたわ」

 

「しかし教官殿の部屋で何が……もしかしたらやはり緑の方と青の方は禁断の関係だったのかしら」

 

「ああ、禁断の三角関係……」

 

 

とんでもないところでとんでもない誤解が生まれていた模様である。




次はシリアス展開になると思います。

ストーリー歪曲していってますが、お許しを。


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ドラゴンなめんな

やっと主様の出番増えたよー

あんまり活躍ないのと後半からだけど……

アルドゥイン「さて、ソブンガルデの支度でも……」


「巨龍、進路変わらず。このままではもうそろそろ無人の村に突入します」

 

 

作戦室のオペレーターが報告する。巨龍の予想ルート上の人などは既に避難させてるので人的損害は心配しなくてよい。

 

 

「新情報です。ただいま村が更地になったようです」

 

 

現地で監視任務に当たってる部隊からの報告を狭間陸将に伝える。

 

 

(こいつは厄介だな……)

 

 

狭間はスクリーンに映し出される巨龍を見つめる。

 

敵意は無いと見える。それどころか周囲に気を向けず、とにかく道にあるものを粉砕してるのだ。

 

まだ炎龍のように捕食などの目的が分かれば良い。そうさせないように撃退すれば良いのだから。しかしこの巨龍はまるで台風のような自然災害の如く、周囲を蹂躙してゆく。つまり人間がどーのこーのではない。ただ歩いてるだけ、それだけ。だからタチが悪いのだ。

 

 

「仮設バリケードはどうなっている?」

 

「第1仮設バリケードは完成してますが、他がまだです」

 

「急がせろ。こいつがもしアルヌスに突入した場合を考えてな」

 

 

***

 

 

伊丹は考えていた。昨晩は色々な出来事があった。

 

臨時で来た心理衛生士にテュカのことを相談したり、その帰りに病院の患者らしき謎のおっさんに悩みを聞いてもらったら励まされたり。

 

そんなことを考えながら歩い、第3偵察隊としての本日の任務に出発しようとしていた。

 

前回同様、お役人さんたちのための物資の運搬などなど。

 

振り返るとテュカが遠くから涙目で手を振っている。自分にではない。いや、自分ではあるが、正確には伊丹耀司という自分ではなくテュカ亡き父親である。

 

どうも複雑な気分である。

 

本当の家族というわけでもなく、永遠の別れでもない。しかし嫌に後味が悪い。

 

 

「伊丹2尉、もう出発しますよ!」

 

 

チヌークから声がかかる。

 

 

「……くそっ!すまん、俺は降りるわ」

 

 

乗員が「えっ?」と思ったが伊丹はチヌークから降りてしまった。それと同時にチヌークは飛び立つ。

 

 

「あー、やっちまった」

 

 

伊丹はそう呟きながらテュカのところに行く。

 

 

「いいの?」

 

「お前が笑顔で居られる方が大事だからな」

 

「な、何よ、それ!実のムスメを口説いてるの!?」

 

 

テュカは少し顔を赤らめて動揺する。

 

 

「そう聞こえたか?」

 

 

そんなつもりないが、テュカからしたらそうなのかもしれない。

 

 

「旅に出ようと思う。一緒来るか?」

 

「どこへ?」

 

「南の方だ」

 

 

我ながら旅だとよくんそつけたもんだ。この偽りの笑顔に自分も反吐がでる。しかしこれしかないと心を鬼にする。

 

 

「私、お父さんとならどこへでも行くわ。支度してくるね!」

 

 

そう言って名残惜しそうに伊丹から離れて宿舎へ戻る。

 

 

「いやー、お熱いね」

 

 

柳田2尉がにやにやしながら近づいてきた。

 

「柳田さん、後の裏合わせよろしくな」

 

「簡単に言ってくれるな。後はやっておくと言ったからにはやるが、どうするか……まあ、くびにはならんよう根回ししてるが、それ以下は覚悟してくれ」

 

「準備するから武器、弾薬、車両、食料の準備を頼む」

 

「人員は?」

 

「言ったろ、他の者を巻き込みたくない。俺とテュカの2人だけだ」

 

「おいおい、マジかよ。あのヤオとかいうダークエルフは?」

 

「あんなの知らん」

 

「そうかい、本当に2人分でいいんだな?」

 

「ああ、もちろ……どわっ!?」

 

 

いきなり足を払われて、視界に青空と雲が広がる。そして自分を覗き込むようにゴスロリ(ロゥリィ)魔女っ子(レレイ)そしてダークエルフ(ヤオ)たちが伊丹の顔を伺う。

 

 

「ちょっとぉ!こんな楽しそうなこと私たちを誘わないとかどういうことぉ!?」

 

「生存率を上げるなら魔術師は必須」

 

「この身は御身の所有物。囮でも何でも致す」

 

 

伊丹は起き上がりと、彼らに向かって言う。

 

 

「危ないぞ。それでも来たいのか?」

 

「ちょっとぉ、女心わかってないわよぉ。こういう時の女はねぇ、来たくても行きたいと言わせるもんじゃないわよぉ」

 

「…………」

 

「「…………」」

 

「さっさと言いなさいよぉ!」

 

「みんな、一瞬に来てくれるか?」

 

「「もちろん!」」

 

そしてみんなで伊丹を囲む。

 

 

「あとはこうしてぇ……」

 

 

どさくさに紛れてロゥリィは伊丹の上着の袖をまくると、思い切り噛んだ。

 

 

「いてっ!いやマジで痛いから!もしかして怒ってらっしゃっる?ロゥリィ怒ってる!?」

 

「契約完了……」

 

 

ロゥリィは伊丹の血を舐めると妖艶にそう呟く。

 

 

「これは貸しよ。これで耀司は私の眷属」

 

「契約って何!?眷属って!?」

 

 

伊丹は某アニメの白いかわいい地球外生命体的なものを思い出す。

 

 

こんな感じで和気あいあいとしているところ、柳田がせきばらいをする。

 

 

「んで、結局5人分だな。一つ質問だが、このLAM(110ミリ個人携帯対戦車弾)最低10発はいるとのことだが……」

 

「そりゃね、ダークエルフの里の緑の野蛮人だが何だか倒した後はそのまま炎龍狩りに行くからな。多ければ多いほどいい」

 

「いや、それは分かるんだが、これでいいのか?」

 

「……?それしかないんだろ?ジャベリンとかあったら話は別だけどさ。あっても別部隊に優先されそうだし」

 

 

伊丹の言葉に対し、柳田ニヤリと笑みを浮かべる。

 

 

「もし、融通できると言ったら、いるか?」

 

「え……まじで?」

 

「出所を詮索しないと約束できるならな」

 

 

***

 

 

しばらくして、伊丹たちが基地を車両で出て行くところを基地内のブラインドの隙間から伺う者がいた。

 

 

「行ったか?」

 

「ええ、無事例のブツも持って行ったようです。後輩の柳田にまかせたので問題ありません」

 

「お前は自分の友人一人で行かせてもよかったのか?」

 

「草加さんも人が悪い。私にも行けと?」

 

「行きたくないのか?」

 

「行きたくないといえば嘘になりますが、今は行く気分ではないので。正直有益なことは無いですね、私的にも公的にも」

 

「そうか。どちらにせよ、そこは任せるつもりだ。我々の目的は1つ、国益だ」

 

「もちろんです。そのためなら自己の命、友人の命など安いもんですよ」

 

「君の愛国者はどこからくるものか不思議だな。普通の日本人よりもあるんじゃないのか?」

 

「それは褒め言葉として受けましょう。そろそろ私は行きますので、失礼します」

 

「ああ、ご苦労。ところで、彼には何を託したんだ?」

 

「84mm無反動砲と01式軽対戦車誘導弾(LMAT)です」

 

「流石だな。1尉でロジスティック・マスター(兵站の天才)と呼ばれただけはあるな。一体どこから調達したのか気になるが、聞かなかったことにしよう」

 

「ありがとうございます。では失礼します」

 

 

加藤は部屋を出るとそこには柳田が立っていた。

 

 

「よう柳田。ありがとよ、助か……」

 

「すみません。先に謝ります」

 

 

柳田らしくもなく、かなり焦ったような顔をしていた。

 

 

「間違えた物を渡してしまいました」

 

「……箱ごと渡せとは言ったが、確認し忘れたな?どこにあった箱を渡した?」

 

「格納庫の隅に置いてあった物です」

 

「……見慣れない文字とか書いてあったやつか?」

 

「……簡体字のようなものがあった気がします『◯◯的』と」

 

「……分かった。これからの任務を終えたら、すぐに伊丹を追えるよう準備をしておけ。ヘリに俺の部下の分の弾薬食料と、本来渡すやつを積んでスタンバっとけ」

 

「分かりました」

 

 

そう言って柳田は去る。

 

 

(まじでやべぇ……対巨龍決戦兵器持って行かれた。使われたら……山が吹き飛ぶ)

 

 

柳田よりも、さらに青ざめていたのであった。

 

 

***

 

 

「ふん、愚かな人間よ。せいぜい足掻くが良い。ドヴァ()たちを前にそんな貧相な防衛で立ち向かうなど愚の骨頂だ」

 

 

最小限の霊体化をしているおかげで空自の戦闘機のレーダーにも捕捉されることなく、悠々と下界を見下ろして優越感に浸るアルドゥインであった。

 

今回は霊体化を調整してあるので、ちょうど戦いが始まる前には参戦できるようになっている。

 

正直、長たる自分が戦うことは少々面倒くさいところもあるが、殺戮、蹂躙、破壊を愉しめるのなら多少は仕方がないと考えている。

 

 

(それに飽きれば我は山頂で悠々とジョール(定命の者)どもが我々ドヴァ()に支配されるのを見下せば良い。

うむ、想像しただけでも笑いがおさえられぬ)

 

 

そんなことを想像しながら今後のことを楽しみにして飛んでいると、新たな龍の気配を感じた。

 

 

「ム、あれは例のヨルイナールを屠ったレッドドラゴンではないか。おのれ、お礼参りしたいところだが生憎霊体化中。しばしこの状態にて尾行してみるか」

 

 

巨龍のことは一旦放置して赤い龍のところへ突入する。スピードからして尾行もクソもない。

 

 

「なんなのだあれはァァアア!?」

 

 

突如、半透明の龍がこちらに突入してきたのに気づき、驚愕するレッドドラゴン、アンヘル。

 

 

(うむ、なぜだ。ヨルイナールといいこのレッドドラゴンといい、初対面相手にこれほど怖がるとは。失礼極まりない。巨龍に至っては我を無視するとは。いずれ全員教育せねばならぬ)

 

 

突如現れた半透明な龍の突進をアンヘルは巧みに避けた。別に当たっても今は問題ないがそんなことも知らないのでそりゃ避けるだろう、とアルドゥインは思った。

 

 

「ほう……我の攻撃を避けるとは。貴様、なかなか良いドヴァだな」

 

 

もう自分でも尾行することを忘れているようである。

 

 

「なんだおぬしは!?ブラックドラゴンか!?」

 

「……うぬ?霊体化が解けている……」

 

 

それもそのはず。霊体化は時間経過か自分から攻撃すれば解けるのだ。それをアルドゥインは知らなかったようである。もっとも、前回緑の人たちとの交戦で初めて使用したこともあり、彼が元の世界ではそもそも霊体化するような状況は最後を除いてありえなかったのだ。

 

 

「ふむ、新しい発見だな……」

 

「なんだ、我を無視か?」

 

 

アンヘルは少し苛立った様子である。

 

 

「ぬ?気の短いレッドドラゴンだな。どうした、我に恐れて余裕が無いのか?」

 

「何を!貴様この我を愚弄するか!」

 

「この我を?それがどうした。我は貴様なぞ知らん。それに我のことを知りたくば貴様が先に名乗るべきであろう?」

 

 

お互い上から目線だが、アルドゥインにはアンヘルと比べると余裕があるようだ。

 

 

「ふん、ブラックドラゴンに名乗る名などないわ。我はこう見えても最強のドラゴンぞ」

 

「憐れよのう、貴様は我がブラックドラゴンにしか見えんのか。貴様の最強などたかが知れてるな。まあ、ヨルイナールを倒せるだけの実力は認めよう」

 

「なん……だと?貴様は……カオスドラゴンか?」

 

「カオスドラゴン?気いたことがあるかないかの種類だな。本物を見てみたいものだ」

 

「何なのだ、貴様は……」

 

 

アンヘルから余裕がどんどんなくなってゆく。

 

 

「貴様のような礼儀知らずに名乗るなどないが、せめて通名だけでも教えてやろう。我はジョールどもには『ワールド・イーター(世界を喰らいし者)』と呼ばれておる」

 

「ワールド……イーター……」

 

「ヨルイナールを害したことは解せぬが、些細なことよ。単刀直入に言おう。我の配下になれ。これは命令だ、拒否すれば、貴様ならわかるな?」

 

「それは、契約ということか?」

 

「契約?なんのことだ。これは契約のように対価を求めるものではない。我に従うか、否かだ」

 

 

アンヘルは驚愕する。この余裕は一体どこから来るのか。

 

目の前のワールド・イーターと名乗るドラゴンは、強い。

 

アンヘルの歴戦の経験と勘がそう伝える。しかしアンヘルも最強のドラゴンとその経験によって示してきた。目の前のドラゴンが自分より弱い保証はないが、強いという確信もない。もしかしたら自分の方が強いかもしれない。

 

それは相手も同じのはず。相手もこちらの実力が上か下かなどわかるはずもない。

 

 

(なのに、なぜだ……?この余裕は……あたかも自分が最強である、ということが当たり前というオーラーが漂っている……なんなのだ……我とは異なるドラゴンなのか……?)

 

 

ワールド・イーターを観察、考察するアンヘルに対し、アルドゥインは声をかける。

 

 

「我は構わんぞ。貴様が望むならこの場で雌雄を決して、どちらが王としてふさわしいかを決めることもな。それもドヴァなら当たり前のことだ。自分よりも下等の者へはついていくことは躊躇うものだ」

 

 

ドヴァなど、聞きなれない言葉はあるがなぜか自然と意味が理解できた。それにこのドラゴンはドラゴンの性質を理解している。ドラゴンは自分よりも下等な物には絶対に屈しない。

 

 

「我は……」

 

 

返答をしようとしたところ、突如轟音によって会話が途切れる。

 

その音源を見ると2つの無機質の大きな鳥のようなものがかなりのスピード近づいてきた。空自の戦闘機である。

 

 

「こちらパイロット2、ドラゴン2頭を発見。航空優勢のため排除を進言する」

 

「こちらパイロット1、了解。炎龍か?」

 

「これは……赤いドラゴンと……っ!?例の漆黒龍だ!」

 

「やばいな。赤いやつは恐らく炎龍として、漆黒龍は第3偵察隊が手も足も出なかったという乙種だ。気をつけろ」

 

「待て……赤い方も微妙に特徴と異なる。腕がないのと、少し小柄だ。別種かもしれない」

 

「なら攻撃は待て。情報収集に徹しろ」

 

「了解」

 

 

そして戦闘機は2手に分かれ、すこし距離を開けて牽制するように龍たちの回るを飛行する。

 

 

(ふん、とんだうるさいハエのような奴らが来たな。いっそ『Fus Ro Dah(ゆるぎなき力)』で叩き落としてやるか)

 

「う……うう……うぐ……うあ……」

 

 

アルドゥインがチート級念力を使おうとしたところ、アンヘルが苦しみような声で唸り始めた。

 

 

「どうした?そんなうるさいか?安心しろ、すぐ落としてやる」

 

「違う……ちが…ちが……う……」

 

 

アンヘルはあの鉄の鳥のようなものを見た瞬間、強烈な頭痛が襲った。

 

 

(なんだ……どこかで……見たこと……ある、のか?)

 

 

そして記憶のような、走馬灯のような、幻惑のようなものが脳裏に浮かぶ。

 

 

ーやったぞ、ついに……ー

 

 

あの忌々しい、黄金の龍に見せられた映像。否、ありえたかもしれない事実。

 

全ての戦いが終えてから襲った驚異。

 

 

ー何かとてつもなく速いものが煙のようなものを吐き出しながらこちらに向かってきたー

 

 

思い出したくもないことが思い出される。

 

 

ーそしてそれは自身に当たり、爆発したー

 

 

自身が本当に経験したことではない。あったとしてもそれは、平行世界(パラレルワールド)のはず。

 

 

ー爆発は自身と、最愛のパートナーの命をことごとく奪ったー

 

 

分かっている、なのに、なぜ……

 

 

ーそして薄れる意識の中、黒焦げになったパートナーの背後を飛んで行くものを確かに見たー

 

 

F-15J

 

 

航空自衛隊の主力戦闘機。

 

彼は名前こそしらぬが、それと、今目の前に現れたものが酷似していたのはたしかであった。

 

 

「……カァァァイム!!!!」

 

 

アンヘルは最愛のパートナーの名を魂の奥から叫ぶ。

 

 

それと同時にアンヘルの全身に黒い炎のようなオーラーに包まれる。

 

 

「む!?これは!?」

 

 

アルドゥインは驚きと歓喜の気持ちが同時にやってきた。

 

 

「こちらパイロット2!赤いドラゴンの様子がおかしい!」

 

 

戦闘機のパイロットたちは驚愕していた。

 

 

「うぐぁぁああ!!」

 

 

黒いオーラーが消えると、そこにはかつてのレッドドラゴンはいなかった。

 

赤い体表はほぼ黒に近い濃い紫になった。頭部は頭蓋骨を思わせるような形と色、そして上向きの角は下向きになった。

 

 

「……これはとんだ掘り出し物だ」

 

 

アルドゥインはニヤリと笑みをうかべた。つもりだ。

 

 

「おい、赤いドラゴンが変身したぞ!」

 

「んなバカな!」

 

 

パイロットたちは動揺を隠せなかった。

 

 

ここにいる誰もがこんなことは予想できなかった。

 

アンヘルも知る由はない。

 

これは彼女のあったかもしれない歴史(平行世界)における最強の姿なのだから。

 

 

アンヘル・カオス形態

 

 




アンヘルの記憶について知りたい方は、「DOD Eエンド」で調べてみましょう。

分かりづらくてすみません。


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ワールド・イーター VS カオス・ドラゴン

原作知ってる人なら気づいたかもしれませんが、アンヘルと自衛隊出した時点で衝突は避けられない。

ということで前話でヒロインが覚醒しました。

炎龍、その他女性陣「えっ?」


 

ラオシャンロンの周りが騒がしくなる。さすがの巨龍もこんなに周りが五月蝿いと気になるようで、時々唸ったりして威嚇する。しかし大きな動きはない。歩いてるだけ、本人はそつもりだが、人間から見たら破壊しながら動いてるようにしか見えない。

 

 

周りを轟音をたてながら飛んでいるのが陸自のヘリ部隊。そしてそのさらに上に空自の戦闘機が数機飛んでいた。

 

 

加茂1佐の率いる第1戦闘団(機甲師団)及び健軍1佐の率いる第4戦闘団(ヘリ部隊)を主軸とした陸海空統合部隊による監視及び即応任務が居留周辺で展開されていた。

 

施設科は予想されるルートに防衛陣地を築く。そこに戦車を中心とした部隊が設置される予定である。空自は爆撃、機銃掃射による支援及び航空優勢の維持。

 

ヘリ部隊は対戦者ミサイルなどによる攻撃を行う準備、及びラペリンク降下の支援である。

 

そして海自が……

 

 

「隊長、なんで俺たちなんですかね?空挺団や特戦だっているのに」

 

 

陸自のヘリ内で全身黒系の迷彩と覆面をした男が何人か待機していた。

 

 

「動いてる物体に乗り移る経験が一番多いのは俺たちだからだそうだ。あと恐らく捨て駒かもね(笑)」

 

「んなむちゃくちゃな。動くって言っても俺たちは船にならできますけど。あれは背中がゴツゴツした動く山みたいなもんじゃないですか」

 

「滑ったら死ぬと思え。命令が出たら死ぬか生きるかだ」

 

「こんな組織もうやだあ」

 

 

急遽駆り出された特殊部隊たちである。

 

 

すると突如監視に充たっていた戦闘機二機がその場を離脱し、別の方向へ飛んでいった。

 

 

「ん?どうしたんだ」

 

 

加藤は単眼鏡でその方向を見る。

 

黒い点が空中で浮いているのが見えた。

 

 

「スクランブルかねえ、まさかここにパンダやクマの戦闘機は来ないと思うけど」

 

「来たらどうします?」

 

「先制攻撃、見敵必殺(サーチアンドデストロイ)、圧倒撃滅」

 

「誰だこんな人を自衛隊の幹部にしたのは……」

 

 

そんなジョークを飛ばしながらヘリ内で談笑するのであった。

 

 

「あ……」

 

「どうしたんです、隊長」

 

 

加藤は単眼鏡を下ろすとニコッと笑う。

 

 

「何でもない」

 

((絶対なんかあったな……))

 

 

しかし誰も口にしなかった。

 

 

(今、黒い点の一つが落ちた気がしたけど……まさか空自じゃないよな)

 

 

その思いを胸に止めるのであった。

 

 

***

 

 

「グフフ、こいつは面白いことになったわい」

 

 

目の前のかつてのレッドドラゴンというものは、黒い龍に変化した。これが、俗に言うカオスドラゴンというものだろうか、と思った。

 

このうるさいハエどもを攻撃するなら非常に良し。正気を失って我を攻撃するも、力量を測るという意味では良しだ。

 

 

「どれ、貴様の実力見せてもらおうか……」

 

 

アルドゥインの声はアンヘルに届かない。

 

 

視界に捉えてるのは2機の戦闘機。彼女の記憶あるものとは微妙に異なるが、そんなことは些細な問題だった。

 

そして彼女の目に『捉えられている』ということは、自衛隊にとって非常にまずいことになっている。

 

彼女にしか見えないもの、それは捉えたものに取り付く魔法陣のようなもの。

 

シューティングゲームが好きな人ならこれが、何か予想できるだろう。

 

 

ロックオン

 

 

アンヘルがやっていたことはそれと同義であった。しかもレーダーなどと異なり、魔法なのでロックオンされたことにも気づかない。

 

そして『大魔法(無数の火球)』を放つ。

 

 

「変異種が攻撃してきた!?」

 

 

戦闘機のパイロットが叫ぶ。

 

 

「冷静になれ!今の所ドラゴンの攻撃でさほど驚異のものは確認されてな……」

 

 

今までは炎龍、漆黒龍、翼竜などのデータから、航空機における大きな驚異は、さほど近づかなければ問題はないと判断されていた。

 

しかし今回は違った。

 

炎龍のような火炎放射器のようなものでもなく、アルドゥインの収束された炎でもない。実戦経験のある戦闘機乗りなら口を揃えて言うだろう。もし生き残れたらの話だが。

 

 

『あれは、ホーミングミサイルと同じだ』と

 

 

十を超える火球が戦闘機を襲う。神子田たちを先導していた戦闘機が不運にもその対象となった。

 

 

「これは……追尾(ホーミング)しているだと!?」

 

 

撃たれて初めて警告音がなる。

 

元の世界ではレーダー照射などを受けてロックオンされて、撃たれる前からも警告音が鳴る。

 

しかしこれは撃たれてから鳴った。

 

 

そのため、パイロットほんの少し、本当に少しだけ対応が遅れた。

 

しかし秒速数百メートルの世界の戦闘機にとってはそのコンマ何秒で勝敗を決することがある。

 

 

「ちくしょう!」

 

 

この炎が熱源探知なのか、電波探知なのか、それともまた別の何かは知らなかったが、パイロットはチャフとフレアを放つ。

 

戦闘機から小さな火球のようなもの複数と、金属箔が煙のように後方に撒かれる。

 

そして万一のために振り切るために急降下を始める。

 

 

さすがは練度の高いと噂される航空自衛隊パイロットである。ここまでは完璧であった。相手が戦闘機ならばの話だが。

 

 

「「っ!!?」」

 

 

その場にいた誰もが目を疑った。アルドゥインさえも。

 

一瞬、戦闘機を外して後方のフレア、チャフに向かった火球であった。

 

パイロットたちは回避できたと確信していた。火球の速度はそう速くはないからだ。

 

しかし、その火球は戦闘機をちょうど通り過ぎようとした直前、軌道を、否方向を変えたのだ。

 

ミサイルのように弧を描いて追尾ではない。

 

例えるなら、壁に当たったスーパーボールのように、火球は()()()()()()()

 

 

「「!?」」

 

 

その死の宣告を受けたパイロットとコパイは時間の流れが遅くなるのを感じた。

 

辛うじて、戦闘機が前に出て火球に追いかけられる形となる。

 

しかし、現代科学では実現できない究極の『目と意志による捕捉(魔法によるロックオン)と『自由自在に動くミサイル』相手に、その場凌ぎでしかなかった。

 

 

それを悟ったのか、それとも諦めたのか、2人は脱出(ベイルアウト)する。

 

安全速度、高度や周囲の状況を鑑みずに行ったこの行為は、本能的に行われたかと思われる。

 

 

勝ち目はないと。

 

 

パイロットとコパイがパラシュートで降下する中、戦闘機はその数秒後に火球に蹂躙されるよう破壊された。幸い、アンヘルの目標は戦闘機だけだった。

 

 

「ちくしょう!僚機がやられた!」

 

『パイロット1、直ちに帰投せよ。繰り返す、直ちに帰投せよ。これは最高司令からの命令だ』

 

 

管制塔から指示がパイロット1の神子田の無線に届く。

 

 

「と言われてもな……このままじゃトカゲ野郎どもに負けたことになるぜ」

 

「ここは従うべきだ。悔しいが、ドラゴン2体相手に部が悪い」

 

「くそっ!僚機を見捨てて逃げるなんて……」

 

 

神子田はようやく諦めて進路をアルヌスへ向けた。

 

 

「グフフ、愉快愉快、実に気分が良い」

 

 

アルドゥインはたいそう気に入ったようだ。

 

 

「これは是が非でも配下に入れねば……」

 

 

しかし振り返ると同時にアンヘルは襲いかかってきた。

 

 

「ぐあぁぁぁああ!」

「む!?」

 

 

体当たりと嚙みつき、組み付きでアルドゥインを地に落とそうとした。

 

残念ながら、アルドゥインの自分自身の意志以外で彼を地に着ける方法はほとんどないので徒労に終わったが。

 

 

「やはり正気を失っておるか。よかろう、ならば戦いだ」

 

 

アルドゥインはほくそ笑む。そう、愉しんでいるのだ。

 

絡みついてくるアンヘルの首元を噛んで引き離し、地面に叩きつける。

 

アンヘルは叩きつける前に体勢を整えて再度空中に舞い上がる。

 

 

「大したものだ。飛行能力は我を格段に凌駕しておる」

 

 

戦いながらもどこか楽しんでいるアルドゥイン。元の世界では彼が最強だった。それは誰も疑う余地もない。故に、競争相手などいなかった。

 

常に上か下か。同列などありえぬ、認めぬ。

 

その結果が長年のドラゴンによる支配であり、逆転の結果がアルドゥインの敗北である。

 

今回は少し異なる。

 

実際の実力は自身の方が上だとアルドゥインは思う。しかし今まで出会った中でも最強クラス。

 

それが彼の闘争心に火をつけた。

 

 

「いいぞ、もっとだ。もっとだ!」

 

 

あえてアンヘルの大魔法を喰らう。決して自傷趣味があるわけではない。

 

無数の火球が彼を捉え、爆音とともに突っ込んで行く。

 

 

しかし彼にはもちろん効かない。

 

例えどんなに高火力の攻撃魔法をどれだけ叩き込もうと、アルドゥインには効かなかった。傷一つがさえつけられない。

 

だがアルドゥインにはこれがどれほど高火力なのかは理解していた。

 

この威力ならパーサナックスも倒せると確信していた。紛れもなく、目の前の龍は『最強』であると感じた。

 

しかしそれはあくまでもこの龍のいた世界での話。

 

アルドゥインはかつて彼の世界では最強だったかもしれない。少なくとも龍の中では。

 

しかし彼は龍やジョール(下等生物)どもに最強などと呼ばれたことはない。なぜならあまりにも当たり前のことだから。比べること自体が無意味だから。

 

 

だから、彼は『世界を喰らいし者(ワールド・イーター)』とよばれていたのだ。

 

 

「その程度か。ならばこれを食らうが良い。

 

Joor Zah Frul(ドラゴンレンド)!」

 

 

説明不要だとは思うが、人間が編み出した対龍シャウトを放つ。龍を地面に束縛する、不死の能力を奪うなどチート級のシャウトなのは言うまでもない。

 

ヨルイナール同様地面に押さえつけられる。

 

 

はずだった。

 

 

「◉◎○▲△▶︎▷▼▽◀︎◁■□◆◇!!!」

 

 

アンヘルはなんとも言えない叫び声を上げると、彼女を中心に波状に黒い波と白い波のようなものが放たれる。

 

 

「む!?まだやるか」

 

 

まず黒い波のようなものがアルドゥインのシャウトを相殺した。

 

否、跳ね返した。

 

黒い波は消えたが、跳ね返されたシャウトは消えなかった。

 

 

「なんとだと!?」

 

 

予期せぬ事態にアルドゥインは驚く。

 

更に悪いことに、アルドゥインのシャウトは他の者と異なり、指向性ではなく範囲攻撃が可能なのだ。

 

そしてその広範囲シャウトが自分に返ってきたため避けることも叶わない。

 

 

Fus()!」

 

 

これが精一杯だった。全て唱えれば間に合わない。

 

その努力も虚しく、アルドゥインは自らが放ったドラゴンレンドを受けてしまう。

 

 

(なんとか弱化には成功したが、地面から離れられぬ!)

 

 

そして今度は白い波が襲ってきた。

 

アルドゥインは束縛されて動けない。

 

 

「うぐぅぅぅぅう!?」

 

 

久しぶりの『痛み』であった。

 

ドラゴンレンドの弱化に成功しているので、損傷は避けられた。しかしダメージは避けられなかった。

 

 

(何なのだ……我の知る魔法ではない……)

 

 

損傷が無いのにダメージとは変な話だが、これはアルドゥインだからこの程度で済んだのを彼は気付かない。

 

アンヘルの世界における平行世界にいる彼女は、これと同威力の攻撃を相殺するために今回アルドゥインに使った技を使用している。

 

その無数のパラレルワールドの中には無論、敗退した結末もあるだろう。その世界の彼女は、たった一発。ほんの一発で滅ぼされている。

 

 

「うぐぐ……ぐぐ………ふふ……グフフ……」

 

 

それでもなおアルドゥインは楽しんでいた。

 

 

「よかろう。運命の神(アカトッシュ)よ、不死が我の最大のアドバンテージなら、ハンデとしてそれを奪うというのか。ならばこれにて我は克服してやろう。そしてまた一歩貴様に近づいてやる。そしていつか追付けれる日に怯えるが良い!」

 

 

アルドゥインは空に向かって生みの親打倒宣言の咆哮をする。

 

 

「ドラゴンレンドの効果が切れる前に決着をつけてやろう」

 

 

別にドラゴンレンドの効果が切れたからといって死ぬわけでは無い。むしろ枷が外れて有利になる。

 

しかしあえてこのような縛りを設けたのは、彼のドラゴンとしての意地なのか、それとも他の何かか。

 

だが圧倒的に不利なことに変わりはない。

 

飛べない、動けない、半不死にまで劣化中。

 

 

対してアンヘルは空中でチート級破滅攻撃が行える。いくらアルドゥインと言えど今の状況でいくつも喰らえば本当に消滅するかもしれない。

 

 

(この状況ならやはり遠距離攻撃か。ならばシャウトしかあるまい)

 

 

大見栄を張ったは良いものの、正直打開策はない。考えずに言っちゃったのだ。

 

思考している間もカオスドラゴンは波状攻撃を仕掛けてくる。

 

幸い、白い方も黒い方も『Fus Ro Dah(揺るぎなき力)』フルパワーで相殺はできた。

 

しかしながら数が多すぎる。そして少しづつ押され気味になる。

 

そしてドラゴンレンドの効果が薄くなり始めてるのも分かる。

 

 

(うーむ、どうしたものか……ん?)

 

 

ふと視界に先ほどのうるさいハエ(空自の戦闘機)の残骸が入る。

 

 

(そういえば、相手を追尾する魔法など初めて見たな……)

 

 

カオスドラゴンと戦闘機との戦闘を思い出す。

 

 

(もしかして、我にもできるのではないか?)

 

 

異世界のドラゴンにできて自分にできないことなどない。いや、できないといかないのだ、というのが彼の持論らしい。

 

しかし魔法とは複雑であり、構造を最初っから作り上げようとすればかなりの困難なはずである。はずなのである。

 

 

(なんだ、考えてみれば当たり前のことではないか。こんなことも思いつかぬとは……)

 

 

かつて世界を統べた龍は例外らしい。

 

それとも言葉それぞれに力のあるスゥームが特殊なのか。

 

 

Zu'u() Koraav(捉える) Hi(貴様)!」

 

 

どうやら成功したらしい。アルドゥインの視界にカオスドラゴンが鮮明に映る。今ならどんな攻撃を当ててもあたるだろう。

 

しかし生半可な技ではあの波状攻撃にことごとく粉砕されるだろうし、そもそも届いても効かない可能性が高い。

 

波状攻撃に邪魔されず、かつ確実に倒せるほどの攻撃が必要だ。しかも瞬間的に。

 

そんな夢のようなシャウトがあるわけ……

 

 

あった。

 

普通にあった。

 

Zu'u Koraav Hi(ロックオン) のように新しく編み出すわけでもなく、何回か使ったことのある、結構気に入ってるシャウトであった。

 

 

ある時はジョールの要塞地(ベルゲン)を更地にするため。

 

ある時は山頂(世界のノド)死後の世界(ソブンガルデ)における決戦で相手を苦しめるため。

 

ある時は異世界(フェルマート)におけるジョールども何十万を大量虐殺(ジェノサイド)するために。

 

それは……

 

 

Sturn() Bah(天罰) Yol()!」

 

 

そう、『Sturn Bah Qo(ストーム・コール)』の彼専用の派生技、『Sturn Bah Yol(火炎地獄)』である。

 

ストーム・コールなら嵐とともに稲妻が落ちて周囲を蹂躙する。

 

彼にしかできないこの技の場合はと言うと……

 

 

「ギィィィイヤァァァアアアッ!!?」

 

 

ご覧の通り炎と隕石が落ちてくる。

 

しかもロックオンしてるので百発百中全ての隕石がカオスドラゴンに命中してゆく。

 

隕石(メテオ)の集中砲火を食らうことほんの数十秒。

 

アルドゥインは完全なる勝利を収めた。

 

 

「ふむ、大収穫だ。新しい技を編み出し、カオスドラゴンの力量も知ることができた。さて、あの龍を配下に……」

 

 

ドラゴンレンドの効果が切れたので相手がいた場所に飛んで行く。

 

 

「あ……」

 

 

アルドゥインはしまったと言わんばかりの顔をする。

 

 

「や、やり過ぎたか……?」

 

 

木っ端微塵になった残骸を見て慌ててしまう。

 




どうやら主人様にロックオン機能が実装された模様です。

それはそうと、今年最後の投稿です。皆様、来年もどうぞよろしくお願いします。

Lok, Thu'um、ごきげんよう。


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ご注文はヴォーリアバニーですか?いいえ、巨龍ましましで

新年明けましておめでとうございます。北海道や東北はスカイリム並みに寒くなったかと存じます。

決してノルドやドヴァやドヴァキンの皆様を除いて裸で外をうろつきませんよう願います。寒さ耐性ないですからね。

あと今回長めです。もし長さで意見などあればご指摘お願いします。


 

 

「「……」」

 

 

そこにいた自衛官たちは一切言葉を発しなかった。

 

先ほど見た光景が信じられなかったからだろうか。

 

戦闘機が()()したという情報が入り、その地点へ近づいた矢先にいきなりドラゴン同士が戦い始めた。

 

そして優勢と思われたドラゴンが無数のメテオが変な直線軌道を描いて吸い込まれるように衝突してゆく姿も見た。もちろんミンチを超えて木っ端微塵である。

 

 

「隊長、命令の変更は来てませんか?」

 

 

覆面の隊員がぼそりと呟く。

 

 

「……ああ」

 

我が社(自衛隊)がここまで馬鹿だったなんて……」

 

「……ああ」

 

「この状況でパイロット救出せよとか、頭おかしいでしょぉぉお!」

 

「……ああ」

 

 

加藤の目は虚ろだった。

 

 

(今回ばかりは本気で死ぬかも……)

 

 

***

 

 

「……何が起きたのか説明してくれぬか?」

 

「この我に説明しろと?貴様もう一回ソブンガルデかオブリビオンに送ってやろうか?」

 

「すまぬ、何を言ってるのかよく分からぬ」

 

「ならば分かりやすく言ってやる。もう一度死ぬか?」

 

「……我は死んだのか?」

 

 

状況を理解できていないアンヘルにアルドゥインは仕方なく、簡単に説明する。

 

 

「……誠か?」

 

「ではもう一度証明してやろうか?」

 

「遠慮する」

 

「では決まりだな、我の配下になれ」

 

「唐突な……」

 

「我が勝者だ。異論は認めん」

 

「不本意だが、結果が全てだ。お主に従う」

 

「よろしい。では早速我の他の配下共にも会ってもらいたいところだが、まだやり残したことがあるのでな。Laas() Yah(捜査) Nir(狩り)

 

 

囁くようにスゥームを発すると森林の中から赤い炎のようなものなポツポツと現れる。数にして10前後。

 

 

「ふん、小賢しいジョールどもめ」

 

 

***

 

 

「隊長、パイロット見つけました」

 

「こちらもコパイ見つけました。命に別状ありませんが非常に怯えている様子です」

 

「了解。様子を見に行く」

 

 

加藤は無線から部下の示すところ行くと、墜落した戦闘機のパイロットとコパイの様子を見に行く。

 

 

「く、来るなー!!」

 

 

誰であろうと拒否をする。

 

 

「パニック発作か……これじゃ静かにさせるのは大変だな」

 

「やばいっすよ、もしかしたらドラゴンたちに感づかれますよ」

 

「多分もう遅い。まあ一応静かにさせろ」

 

 

上官の指示に従い、パイロットとコパイを柔道で言う締め技で落とす。

 

 

「よし、急いでヘリにまで戻る……」

 

「グォォォオオオ!!」

 

「散会!散らばれ!」

 

 

突如音もなく漆黒の龍がかなり近くの頭上に現れる。

 

 

「各人、ほふく等でヘリの回収ポイントへ前進!」

 

『『了解!』』

 

「全員ついたら10分経って俺が戻らなければ発進しろ」

 

『隊長、何勝手にかっこつけてんですか。厨二病ですか』

 

「ふん、こんなんで生き残るのはフィクションだって知っとるわ。でもな、艦長は最後まで残るんだよ」

 

『艦長じゃねえし』

 

『そもそも船じゃねえし』

 

『てか全員が海というわけじゃねえし』

 

『これだから厨二病は……』

 

『誰だこんなやつ幹部自衛官にしたのは』

 

 

無線なので独り言がだだ漏れである。というか切ってないということは故意的に聞こえるようにしている。

 

 

「てめーら覚えとけよ。俺には別任務があるだよ。ま、俺が死んでも代わりはたくさんいるし」

 

 

そう言って加藤はヘルメットちつけてあるカメラをオンにする。

 

 

「さあ来やがれ。貴様の情報を得るまで俺は死なんぞ」

 

 

そう言ってカメラを漆黒龍に向ける。

 

そして漆黒龍はこちらを見ると、(わら)った。気がした。

 

 

「ほう、なかなか面白いことを言うではないか。それに興味深いジョールだ。緑のジョールがいれば黒いジョールもいるのだな。特に、貴様は非常に興味深い」

 

「…………嘘だろ」

 

 

加藤は耳を疑った。

 

 

***

 

 

アルヌスの避難民キャンプの屋台で働いてるの うさ耳(ヴォーリアバニー)ウェイトレスのデリラは悩んでいた。

 

 

(くそ……こんなのって、ないよ……)

 

 

アルヌスに来てこれほどの高待遇の働き口はなかった。

 

自分たち亜人、特にヴォーリアバニーは良くて奴隷や身売りのような仕事しかなかったからだ。

 

これも全ては国を帝国に売った女王、テューレのせい。

 

そんな彼女を救ったのがイタリカのフォルマル家であり、なんと給仕(メイド)の仕事までくれたのだ。(ここでいうメイドは秋葉原や同人誌にありそうな仕事は一切ないのでご安心を)

 

そしてそのフォルマル家をさらに超えた待遇がここ、アルヌスの自衛隊施設である。

 

実は彼女、フォルマル家から密偵として自衛隊の動向を探るためにも派遣されていたのだ。もちろん自衛隊は知らない。

 

そして日々の生活に充実していたところフォルマル家からこんな手紙が来たのだ。

 

 

『望月紀子という女を殺せ』

 

 

今の自衛隊とフォルマル家は決して悪い関係ではない。むしろ良好なのでこんなことはありえない。

 

しかし、命令は命令なのだ。絶対的な主君の命令である。

 

 

「……仕方がない」

 

 

戦衣に着替え、神々に祈り、体に塗料で模様を描く。

 

そして闇夜へと消えて行った。

 

 

そして周り目を気にしながら、主に自衛隊のパトロールを避けながら、医療施設付近に忍び込む。

 

対象はあっさり見つかった。

 

一人で外でタバコを吸っていたのですぐ見つかった。

 

どうも死んだ魚のような生気のない目はきになるのだが。

 

ここで補足すると、対象は異世界に拉致されてエロ同人みたいな目に遭わされたあげく、無事帰ってこれたと思ったら一家全員が行方不明、もしかしたら死んでいるかもしれないというバッドエンドの状態なのだ。

 

 

「いっそのこと、死んじゃおうかな……」

 

 

対象はそう呟いた。

 

 

「よかった、あんた死にたかったんだ。死にたくないやつを殺すのは気が引けるところだったよ」

 

 

デリラが返した。

 

 

「私を殺すの?」

 

「うん、ちょっと訳ありでね。ごめんよ、できるだけ痛くないようにするからさ」

 

 

そう言って喉元にナイフを構える。

 

 

「痛いのは嫌だなあ……」

 

「困ったなあ……痛くない殺し方なんて知らないし。それに死にたいやつのお手伝いするなんて思ってみなかったんだよ」

 

「くすっ、いまの貴女ってテューレさんみたい」

 

「今、何て言った?」

 

 

その名前を聞いた瞬間、デリラの雰囲気が一瞬で変わった。

 

 

「そこで何をやっている!?」

 

 

たまたまそこを通りかかった柳田は、紀子にナイフを向けているのを見て躊躇わず拳銃を構える。

 

 

「ちっ!」

 

 

デリラも反射的に動いた。

 

 

***

 

 

「隊長、びっくりしましたよ。一旦離脱して、龍たちが去ったのでもう一度捜索したら森の中で死にかけていたんですから」

 

「しかも無傷で。何があったんですか?」

 

「すまん……よく覚えていないんだ……動画も撮影したんだが、撮れてなくてな」

 

 

画面は砂嵐状態である。音声も乱れている。

 

 

「今日は遅いですし、点滴終わったら休みましょう」

 

「そうだな……それにしても基地内が騒がしいな」

 

 

ヘリから降りて医療施設に向かうと、ちょうど血まみれの柳田が運ばれてゆくところだった。そして間髪いれずデリラが運び込まれる。

 

 

「な、何があったんだ……?」

 

 

覆面の男の一人がつぶやく。

 

 

「……あー、なるほど」

 

「何か分かったんですか?」

 

「お前らは知る必要はない」

 

 

加藤は柳田の切り傷痕、デリラの出血量、柳田の拳銃が腰にないことから全て察した。

 

 

(……顔覚えたぞ。うさ耳女)

 

 

加藤は含みのある視線で二人を見送る。

 

 

その後、デリラが攻撃した原因などが徹底究明され、フォルマル家の老執事が尋問され、諜報作戦が始動したのは言うまでもない。

 

 

***

 

 

翌日の早朝

 

 

「弾ちゃーく……今!」

 

 

野戦特科(砲兵隊)の75式自走155mmりゅう弾砲数台が放った砲弾が目標に着弾すると同時に辺りを爆風で吹き飛ばしてゆく。

 

 

「「……」」

 

 

観測員、偵察、ヘリ部隊、オペレーター、そして作戦室でモニター越しに確認する隊員全員が息を飲んだ。

 

まだモニター越しには砂煙が舞ってよく見えない。

 

そして少しずつ、空が晴れるように煙も薄くなったゆくと同時に、奥から黒い巨影も濃くなる。

 

 

「「……え……」」

 

 

巨龍(ラオシャンロン)は無傷でその姿を現す。

 

 

「「はぁぁぁああああっ!!?」」

 

 

誰もが声を上げた。または絶句して開いた口が閉じない。

 

少し背中の岩が崩れた程度だと思う。しかし、全くダメージを受けた様子はない。

 

 

「ふざけるなー!」

「嘘だろ!?」

「これは夢だ、夢に違いない……」

「ゴジラが出たら自衛隊はヤラレ役だけどよぉ!」

 

 

隊員から次々と言葉が飛び交う。

 

 

「うわぁ、この前みたゴジラの映画思い出しちゃった……自衛隊ってやっぱり大したことないのね……」

 

「隊長、あんた今自分の雇い主馬鹿にしてますよ」

 

 

先日の任務の引き続き、陸自のヘリから監視を続ける特殊部隊たちであった。

 

 

「早く撃退してくれないかな。俺たちに仕事来る前に」

 

「それ、フラグですよ。絶対撃退できないパターンですよ!」

 

「そやね……空自も撤退して……航空優勢大丈夫かねえ。この前みたいに翼竜に落とされちゃいやよ。俺たち乗ってるし」

 

「一応対空砲用意してますから」

 

 

実は急遽対空兵器として87式自走高射機関砲が2両配備してあったりする。

 

 

「ま……155ミリで効かなかったら今後の展開も読めるけど……」

 

 

予想通り、155ミリ自走砲による飽和制圧も虚しく、巨龍を止めることはできなかった。

 

 

「巨龍、第一防衛地点突破しました!」

 

 

オペレーターが叫ぶ。

 

 

「これにて巨龍の明確な目的として、ここアルヌスであると判断する。戦闘用意!」

 

 

狭間陸将は正式に非常事態宣言を行う。

 

そう、これまではジャブ程度。

 

ここからが本番である。

 

 

「てい!」

 

 

指揮官の号令と共に155ミリ砲が一斉に火を噴く。

 

一定のリズムで榴弾が次々と発射される。

 

流石は練度は高いと言われる自衛隊。

 

全弾が命中する。

 

 

しかし命中しただけだ。

 

そのどれもが有効弾とはならなかった。

 

 

「一体どんな皮膚をしてんだこいつは!?」

 

 

ヘリに同乗していた観測員が叫ぶ。

 

 

「分厚い装甲相手にどんなに榴弾を叩き込んでも無理だ。ありゃ戦艦だな。ハープーン(対艦ミサイル)でもダメージ与えられか怪しいな」

 

 

加藤はのんきにつぶやく。

 

 

 

一方、作戦室でも慌ただしくなっていた。

 

 

「目標、間も無く第二防衛地点に到着します」

 

「なんとしてもここで食い止めろ!」

 

 

狭間陸将は珍しく焦っていた。もしかしたら最悪の場合、全隊員の本土への撤退がありうるからだ。

 

いや、撤退出来たらまだいいほうだ。まだ各地で任務を続けている隊員を残すことになるかもしれない。それとも、大半を残して門の破壊か。

 

 

「次の防衛地点を突破されれば、アルヌスはすぐそこだ。どうにか撃退しろ」

 

第二防衛地点で待機していたのは戦車部隊と攻撃ヘリ部隊。

 

 

74式戦車約10両と攻撃ヘリのアパッチとコブラ各10機。もちろん対戦車ミサイルをふんだんに搭載されている。戦車は万一のために対戦車榴弾(HEAT-MP)離脱装弾筒付翼安定式徹甲弾(APFSDS)を備えている。早い話、一番貫通力と威力の高い弾。

 

 

他に第二防衛地点は他に、約3階建建造物並みのバリケードも設けている。即席なので、コンクリートブロックを積んで補強したものだが、戦車でも押し返せない。なお、戦車部隊はバリケードの後ろから射撃できるようにしてあるので退避も可能。

 

 

「巨龍、目視確認!」

 

「でけえ……」

 

「倒せるのか……」

 

 

戦車部隊の乗員が次々と心境を言葉にした。

 

巨龍は相変わらず定速でこちらへ向かってくる。

 

 

巨龍の頭はこちらを向いている。背中は榴弾では攻撃が効かなかったが、生物なら頭部を攻撃されるのは嫌なものである。例えダメージが無くとも、撤退してくれるかもしれない。そんな淡い期待を抱きながら隊員は標準を巨龍の頭部に合わせる。

 

 

「てい!」

 

 

74式戦車の主砲が一斉に火を噴く。半分は徹甲弾。半分は対戦車榴弾を時間差で叩き込む。これはどちらのほうが効果的かを見定めるためだ。

 

 

「グォォオオ!?」

 

 

前半の貫通弾はあまり効果がなかった模様。しかし、後半の対戦車榴弾が顔面で炸裂し、巨龍は一瞬足を止めた。

 

 

「全車両対戦車榴弾に切り替え!」

 

 

指揮官の号令で全戦車が次の弾種を切り替え、照準する。

 

 

「てい!」

 

 

しかし今回はひるまなかった。

 

 

「グルルルル……」

 

 

むしろ怒らせてしまったようだ。少しスピードが速くなったきがする。

 

 

戦車は射撃を止めない。

 

 

「これ、我が社全面協力の某怪獣映画であったな。あのときは一〇式戦車だったけど」

 

「隊長、そこはもうゴジラって言おうぜ」

 

「そうだな。嫌な予感するぜ」

 

 

戦車の猛攻も虚しく、巨龍はコンクリートバリケードの手前まで来てしまった。

 

 

「安心しろ……このバリケードは超えられない……あんな短足トカゲに越えられるはずなんてないんだ……」

 

 

戦車隊の指揮官が独り言のようにつぶやく。まだ撤退指示は出してない。

 

 

(そうだ、そのまま止まって諦めろ。回れ右をして山へ帰れ。そすれば俺たちは攻撃しない)

 

 

巨龍はバリケードの前で止まると少し戸惑う。戦車隊も攻撃をせず待機する。

 

 

「「……」」

 

 

全自衛隊員が息をのんで見守る。

 

 

「……フー」

 

 

巨龍は鼻で深呼吸をすると、ゆっくりと立ち上がった。帝都近くでやったように。

 

 

「う、うわぁー!!」

 

 

取り乱した戦車の一人が発砲してしまう。

 

その弾は巨龍の腹部に当たり、少し出血させる。

 

 

「全車両撤退!繰り返す、全車両撤退!」

 

 

指揮官が戦車隊に命令する。

 

74式戦車がエンジンをフルにして後退する。

 

ヘリ部隊は既に今後の作戦のためにあまり攻撃せずに撤退した。

 

巨龍は2、3歩二足歩行で歩み出すと、前方に倒れこんだ。そしてその巨大を使ってバリケードを粉々に潰した。

 

戦車隊はなんとか脱出した。

 

 

「「……まじかよ」」

 

 

これなら大丈夫と思って作ったバリケードがまさかの全然大丈夫ではなかった。しかもたった一発。攻撃とも言えないような、単なるのしかかりで吹っ飛ばした。

 

 

「昔読んだ本で、ゴジラは科学的には重みで生存しえないとか書いてあったけど、科学って当てにならないんだな……」

 

 

今まで面白半分だった加藤も流石に驚いていた。

 

 

『加藤、何か良い案はないか?』

 

 

上司から無線で連絡が入る。

 

 

「草加さん。例の対巨龍決戦兵器があればなんとかなるかもしれませんが、今手元に無くて。せめてあと1カ月あれば我々の設備も整ったでしょうに」

 

『無い物を嘆いても仕方があるまい。他に方法は?』

 

「無くはないのですが。2通りほど」

 

『聞こう』

 

「一つは乗り込んで背中の隙間などにC4爆弾でこじ開けること。表面からの攻撃でも内部からすれば多少のダメージはあるでしょう」

 

『もう一つは?』

 

IED(即席爆弾)。航空自衛隊の航空爆弾やその他の爆薬を地中に埋めて腹を狙います」

 

『ふむ、興味深い。だが榴弾、徹甲弾が効かないがそれは効くと?』

 

「自然界では、基本的に背中が固く、腹は柔らかいことが多いです。例としてアルマジロ、ラーテル、カブトムシ、そして人工物でも戦車が良い例でしょう。さらに、奴は戦艦のような龍です。先ほどの攻撃からも見て、相当な体重があるでしょう。それを支えている腹筋を潰せば、現在の魚雷の原理と同様、キール(支え)を折れば……」

 

『自滅すると』

 

「はい。しかし乗り込みならともかく、IEDの設置には莫大な作業がかかります。少なくとも施設科の協力は必須です。乗り込みは時間稼ぎ、本命はIEDがよろしいかと思います」

 

『分かった。IEDの件は私がどうにかしよう。航空自衛隊、陸自の施設科とヘリ部隊による運送が必要だな。もしこれがだめだったら?』

 

「……その時は、門を爆破するしかないでしょうね。準備はできています」

 

『随分と躊躇いがないな。おっと、お前にはあっちの世界は未練もないのだったな』

 

「ええ……もう失うものはありませんから」

 

『……わかった。そちらは頼んだ』

 

「了解」

 

 

上官との長い連絡を終えると、隣の隊員がふと質問する。

 

 

「隊長、今の何語ですか?」

 

「気にするな。作戦の秘匿のためだ。機長、あの巨龍の頭と背中の中間地点まで行ってくれ」

 

「作戦開始か?わかった。死ぬなよ」

 

「うわー、とうとう俺たちに仕事が回ってきやがった」

 

「ええい、お前たちうるさい。この作戦と次の作戦が終われば休暇申請してやるから死ぬなよ」

 

「「(休暇のために)了解」」

 

 

そして各々が懸垂降下(ラペリング)の体勢に入る。

 

 

「用意、降下!」

 

 

そして一斉に巨龍のゴツゴツとした背中に降下し、すぐに棘のようなものに安全索をかける。

 

 

「足場は悪いが、思ったより簡単だったな」

 

「ただ揺れがキツイですね」

 

「お、なんだこれ。ダイヤの原石?」

 

「なんだかよく分からんオブジェクトもあるし」

 

「こっちには金銀ぽいものが」

 

 

そんな感じで最初は背中の上を調査すていた。

 

ラオシャンロンは既に進行を開始していた。一旦落ち着いて元の速さで進行している。

 

 

「うっぷ……なんだかこの揺れ、昔体験したことあるような……」

 

「奇遇だ。俺もなんだかそんな気が……う……」

 

「なんだこの、既視感(デジャヴ)……」

 

 

ー なんだお前は!こんなこともできんのか!? ー

 

ー 貴様らは教育隊で何やってた。やり直せ! ー

 

ー このバカをCICから叩き出せ!ー

 

ー 税金泥棒とはお前のようなことを言うんだよ! ー

 

ー これだから初任幹部は……こんなこともできないのかよ? ー

 

 

「「……」」

 

 

各々の脳裏に浮かぶ懐かしき思い出(トラウマ)。一部の者の目は既に虚ろのなっていた。

 

 

「隊長、この艦艇……じゃなくて、巨龍を早く沈め……倒しましょう!」

 

「奇遇だな。俺も同じことを考えていたんだ」

 

「ちくしょう!こんなやつ潰してやらあ!」

 

 

そして背中の亀裂や溝の奥にプラスチック爆弾(C4)を敷き詰めてゆく。

 

 

「よし、全員準備はいいな。一斉に降下と同時に起爆。そして後方に退避だ」

 

「「了解」」

 

「3、2、1……降下!」

 

 

全員が同時に棘に固定していた降下ロープにて降下すると同時に、起爆スイッチを押す。

 

 

「グオ!?」

 

 

効果は一応あったようで、巨龍は足を止め、首上げる。

 

 

「よし、後方に退避!」

 

 

全員打ち合わせ通り後方に行く。つもりだった。

 

 

「隊長!道が狭いのと尻尾が邪魔で通れません!」

 

「ちっ、仕方がない。前方へ退避!」

 

 

急遽変更して巨龍の前方に出る。危険を承知の上で。

 

 

そして動きが止まっている間に全速力で走り続ける。万一動き出しても生存時間を少しでも長らえるため。

 

しかし予想に反して、巨龍は地響きをたてるとその場に伸びてしまった。

 

 

「「え?」」

 

 

誰もが呆気に取られた。

 

 

「倒した……のか?」

 

 

息をしていない。もしかして倒したのかもしれない。

 

 

「ははは……驚かせやがって」

 

「俺たちがやったのか……?……なんかテンション上がって来たー!」

 

「うぉぉおお!」

 

 

みんなが歓喜していたが、加藤だけは笑っていなかった。

 

 

「隊長、どうしたんすか。今夜はパーっといきましょうよ!」

 

「走れ」

 

「え?」

 

「てめえら死ぬ気で走れえ!」

 

 

隊員は状況が理解できなかった。

 

 

「こいつはまだ生きている!気絶しているだけだ!」

 

「え?そんなのどうやって……」

 

「フー!」

 

 

巨龍の鼻息を聞いた瞬間全員が走り出した。

 

巨龍もゆっくりと4つ足で立ち上がると、身震いをしてまた歩き出した。否、走り出した。

 

 

「速くなってる!」

 

「怒ってるよ、絶対怒ってるよ!」

 

「走れバカモン!」

 

 

最悪なことに、道が狭いので横に避けることはで書かないのだ。ここは谷らしく、両岸は少なくとも10メートルの高さはある。

 

 

「おい観測員!あとどれくらい走れば分かれ道とかある?」

 

『……大変申し上げにくいのですが……少くとも10キロはこのような道が続きます』

 

「ざっけんなー!」

 

 

全速力と言っても短距離走を全力疾走しているわけではない。フル装備の状態である程度中距離を本気で走る程度でやっと巨龍に踏み潰されないほどで走っていた。しかし10キロはさすがに無理である。

 

 

「隊長、どうしますか?」

 

「うむ。降下ロープを下げて捕まらせるのは可能か?」

 

 

ヘリ部隊の指揮官、健軍1佐が指揮官ヘリの中からこの状態を伺っていた。

 

 

「不可能ではありませんが、かなりの難易度です。さらに、万一掴めてもバランスを崩せば下の隊員は壁に叩きつけられるでしょう」

 

 

機長は健軍1佐の問いに答える。

 

 

「リスクが高すぎるか……」

 

 

しかしもたもたすれば下の隊員はスタミナ切れで全員潰されるだろう。そして恐らく生き残ることはできまい。

 

 

「ならば攻撃ヘリで安全距離で地面に穴を開けることは?窪地があれば中に入って助かるかもしれない」

 

「なるほど、それならできるかもしれません。確認取れました。アパッチがやってくれるそうです」

 

「頼んだぞ」

 

 

命令を受けたアパッチがが加藤たちの走っている方向に突如現れる。

 

 

「まさか俺たちを狙ってるわけないよな?」

 

「いやいや。例え巨龍を攻撃するにも結構危ない距離だから。アパッチ、早まるなよ……」

 

 

息を切らしながらもまだ無駄口叩けるところをみるとまだ行けそうである。

 

 

そしてアパッチがミサイルを放った。

 

 

「撃ちやがった!」

 

 

しかし加藤たちが予想していたところとは反して、彼らのはるか前方、約300メートル先の地面に命中した。

 

 

「え?下手くそなの?」

 

 

隊員の一人がつぶやく。

 

 

「いや、あれを見ろ」

 

 

ミサイル攻撃の跡が数カ所小さな窪地となっていた。

 

 

「全員あそこに入れ!そして伏せてじっとしろ!」

 

「もしダメだったら?」

 

「靖国で会おう!」

 

「「おい!」」

 

「冗談。俺は宗教違うから別かもしれないけど」

 

「いや、そうじゃなくて……」

 

「とにかく一か八かだ。行くぞ!」

 

 

全員それぞれの穴に入って伏せる。

 

 

巨龍はそんなこと一切知らずに突進してゆく。

 

 

「……」

 

 

健軍はヘリの窓から巨龍の跡を見守る。まだ砂煙でよく見えない。

 

しばらくすると人影があちこちから出てくる。

 

 

「何とかなったか。機長、彼らを回収する。降ろしてくれ」

 

「了解」

 

(加藤1尉、いや、3佐か。これで借りは返せたかな?)

 

 

ゆっくりと降下するヘリを見て安堵する。加藤たち。

 

 

「助けられちゃったな。副長、損害は?」

 

()()()、2名。他問題ありません」

 

「……だよな、これはあくまでも災害対策か害獣駆除だったな」

 

 

加藤はため息を吐くと、ポケットからタバコを取り出す。

 

 

「死んでいると思われないようにヘリに乗せろ」

 

 

***

 

 

時間は夕刻になろうとしていた。まだ日没までは多少時間はあるが。

 

 

「第三防衛地点の3000メートル先にIEDを設置しました」

 

「ご苦労」

 

 

草加2佐は書類を受け、目を通す。

 

 

「草加2佐、迎撃は可能とお前は思いますか?」

 

 

書類を渡した隊員が尋ねる。

 

 

「建前上は、我々はこれを迎撃()()()()()()()()()。しかし、そんな根拠のない精神論では勝てる戦も勝てなくなる。科学的理論に基づけば、可能性は低いと言わざるを得ない」

 

 

そして書類に印鑑を押して返す。

 

 

「だが、時には自衛隊にも負けが必要だ。負け方の被害を抑えるのも、自衛隊の仕事だ」

 

 

そう言って立ち上がり、装備を整える。

 

 

「最終防衛地点の指揮に、私も加わろう」

 

 

***

 

 

「草加さん、別にあなたが前に出ることは……」

 

「この作戦の立案者は私だ。指揮官が前に出なくてどうする」

 

「そうですが……」

 

 

加藤は何となく複雑な顔をする。

 

 

「別に君のことを信用してないわけではない。今後のことは、この戦い方によって決まる」

 

「今後のこと……ですね」

 

「今後のこと、だ」

 

 

そしてしばらくの静寂が訪れる。

 

 

「目標、視認!」

 

 

巨龍の背中の棘が地平線から現れる。そして次第に背中、頭部と現す。

 

 

「IED地点まで約15分で到達します」

 

「万一に備えて全部隊、第三防衛地点の後方に待機。文民、怪我人等は門周辺にて待機」

 

 

狭間陸将は一部は撤退させる方針を固めていた。しかし全員を撤退させる方法はない。最悪、自分を始めとしてこの世界に骨を埋めることになるかもしれない覚悟はできた。

 

 

「目標、IED地点到達」

 

「やれ」

 

 

草加の冷たい命令で加藤は起爆スイッチを入れた。

 

 

「ギィィィイイイ!?」

 

 

巨龍の叫び声が聞こえた。

 

 

瞬時、爆風が3000メートル離れたこちらまでに届いた。こちらに届くまでは弱い突風程度だが、爆破地点では黒煙がキノコ雲のように黙々と上がっていた。

 

即席爆弾(IED)。その名前から騙されることなかれ。現在でもテロリストや非対称戦として有りあわせの爆弾で正規軍を苦しめてきた。

 

種類は多岐に渡る。圧力鍋にパチンコや釘などを詰めたものから、航空機用の1トン爆弾を地中に埋めて対戦車地雷代わりなど。他にも、地雷を重ねて数て威力を補う、榴弾を敷き詰めて起爆などもある。

 

これにより、アメリカの主力戦車、M1エイブラムズを撃破した例など多くある。

 

 

「目標、損傷大!」

 

 

見ると腹から血をドバッと出して弱っていた。巨龍は苦しそうに肩で息をしていた。

 

 

多くの隊員はやったとばかりに喜んでいた。

 

 

「加藤、これをどう見る?」

 

「私の憶測ですが、腹筋を完全に潰せませんでしたね。熊同様、脂肪かなにか緩衝剤を考慮していませんでした」

 

「さすがだな。私も同意見だ」

 

 

皆の歓喜は巨龍の咆哮によって掻き消された。

 

そして、突進を始めた。

 

 

「全軍迎撃始め!」

 

 

陸自はありったけの火力を叩き込む。

 

戦車、りゅう弾砲、対空砲、なとなど……

 

先ほどより遅くなったとはいえ、その突進にはかなりの勢いがある。

 

 

「我々、人類の負けだな」

 

「ええ。陸自も予備弾薬は残すと思っていましたが。これでは門を破壊しても我々の戦略的敗北は確定ですね。巨龍の襲撃を越えても、帝国と戦えなくなりますね」

 

「ここは任せた」

 

「了解」

 

 

草加は門の近くに行くと、小さなため息をつく。

 

 

「……もし今門を破壊すらば、ここの者たちが犠牲になるな。もう少し様子を見るか」

 

 

門の前は文民と負傷者などで屯されていた。

 

 

『弾薬尽きました!』

『同じく第1戦闘団!』

『同じく第5戦闘団!』

 

 

次々と狭間の元に報告が上がる。予備弾薬を投入してもだめだった。

 

 

(今、門を閉鎖しなければ本土が危ない。しかし、多くの隊員が残される。弾薬も補給もないまま……そうすれば、帝国に勝つ見込みは……ない。その責任に私は耐えられのか……)

 

 

最終決断を迷っていた。

 

 

全軍撤退か、死守か。

 

 

 

一方、前線では。

 

 

「危ないですよ、ここに来られては」

 

 

カトー先生を始めとして、現地民たちが多く集まってきた。

 

 

「何を言っておる。今あなた方が困っている。今度はそれを我々が助ける番だ」

 

「しかし皆さんは民間人です……」

 

 

自衛官は困った顔をする。

 

 

「そうだにゃー、ここアルヌスは天国だにゃ。これもジエイタイのおかげたにゃ。ここはみんなで守るにゃ!」

 

 

とキャットピープルの女性が言う。

 

 

「僕も、コダ村で大変な目にあったけど、ジエイタイだけが助けてくれたんだ。今度は僕が助ける番だ!」

 

 

とコダ村出身の少年。

 

とこのように皆押し寄せてきたのである。

 

 

「この老いぼれも、こう見えてなかなかの魔術師じゃて。多少の時間は稼いでみせるぞ」

 

 

カトー先生が締めくくる。

 

 

「皆さん……」

 

「そうだそうだ、民間人を盾に自衛隊が逃げられるかっつうの!」

 

「こんなのレンジャー訓練と比べたら屁でもないわ!」

 

「へっ、こういうのも悪くない。ゴジラ倒したらいいんだろ!」

 

 

落ち込みモードの自衛官たちが一気に戦意を取り戻す。

 

 

「「アルヌスを守れ!」」

 

 

現地民と一つになって再度立ち向かう。

 

 

その様子を無線越しに狭間も聞いた。そして決断する。

 

 

「全部隊に命じる。この場を死守せよ」

 

「「了解!」」

 

 

各戦闘団隊長が威勢良く答える。

 

 

「若いの、どうしたそんな目をして。まだ諦めるのは早いぞ」

 

「……呆れてるんですよ」

 

「まあ良い。ところで、何かの縁じゃ。名を何という?」

 

「……加藤」

 

「奇遇じゃ。わしもカトーというのじゃ。異世界に同じ名前があるとはなんとも奇妙じゃ。これ、そんな顔をするな」

 

「……しゃあないな」

 

 

加藤も小銃に弾倉を込める。

 

 

「俺より先に死ぬんじゃねえぞ、じーさん」

 

「これこれ、それは老人のセリフじゃ」

 

 

その後の戦闘は苛烈を極めた。

 

自衛官はもう小銃や迫撃砲や個人携帯対戦車弾しかなかった。

 

現地民も弓矢などで対応するが効果はない。

 

しかし、唯一の救いは、魔法であった。

 

エルフ、ハーピィ等の精霊種の亜人による精霊魔法でなんとか食い止めていた。

 

そしてカトー先生の攻撃が意外と効力を発揮した。

 

 

呪文を唱えると、大きな炎の玉が巨龍を直撃する。

 

そしてその効力を示すかのように巨龍も怯む。

 

 

「若いのには負けられんわい!」

 

「これが……魔法」

 

 

加藤は素直に感心する。新しいものを見た少年のように。

 

 

「グルルルル!」

 

 

巨龍は魔法を喰らいながらも前進してきた。

 

 

「うう……やっぱりだめなのかにゃ……」

 

 

少しずつ撤退してゆく。

 

 

「なんの、まだまだじゃ!」

 

「じいさん危ない!」

 

 

加藤はカトー先生を押しのける。そして間髪入れずに巨龍の足がカトー先生がいた場所にのめり込む。加藤の足と一緒に。

 

 

「うがぁぁぁあAAAAAGGGUU!?」

 

 

一瞬、変な声が響いた。人間が出せるような声では無い。

 

それに驚いた巨龍は一瞬だけ加藤の足を潰していた足を上げて少し下がった。

 

そしてその隙を見逃さなかった者がいた。

 

キャットピープルのような容姿だが、右手には大きな日本刀のようなものを持っていた。そしてその刀のようなものには稲妻が走っていた。

 

その者はニヤリと笑みを浮かべると、何か呪文のようなものを唱えて巨龍に炎を浴びせる。

 

そして驚いた隙に巨龍の鼻先の棘のようなものをその刀で切り落とした。

 

 

そして、巨龍は急いで向きを変えると逃げるように去っていった。

 

 

「「……お、うおぉぉぉおお!やったぞ!」」

 

 

自衛隊、現地民の誰もが喜び、抱き合った。

 

 

「うむ、足が潰れておる。しかし運が良い、わしが治癒魔法で直してやろう」

 

「さっきの猫のようなヤツは……どこに行った!?」

 

 

加藤がかすれた声で尋ねた。

 

 

「む?どこへいったのかのう。見失ったわい」

 

「……くそっ、まだあいつ生きてたのか……次は……ろ……す」

 

「む、まずい。おーい、そこのジエイタイの方!」

 

 

こうしてなんとかアルヌスは守られた。一時的ではあるが。

 

 

***

 

 

「アルドゥインとやら、お主、妙に気分が良さげだな」

 

 

飛行しながらアンヘルが先導しているアルドゥインに聞く。

 

 

「ふん、主人と呼ぶが良い。もしくは敬語をつけるか」

 

「……主人殿」

 

「まあいいだろう。先ほど、面白い玩具をみつけたのでな。少し弄ってやったわい」

 

「あの森で見つけた黒い服の人間か?趣味が悪いのう」

 

 

こうして2頭はヨルイナールが待っている(はずの)山脈へと向かった。

 




実はオリキャラの苗字はカトー先生からとってます。今更ですが。

次回、やっと炎龍(ヨルイナール)と対決だよ。その前に緑の蛮族なんとかしないと。


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実はいい奴だったりする

やっとここまで来ましたよ。いままで放置しててごめんよ、緑の蛮族。



「いやはや、久しぶりじゃの、あんなに暴れまわったのは。しかし、あのワシと同じ名前の男、大丈夫かの。ワシを庇って足を潰したのじゃから。まあ、専門外ではあるが、治癒魔法かけたので大丈夫じゃ。おい、バルバスや。ごはんの時間じゃよ。はて、どこに行ったのかのう?もし見失いでもすれば愛弟子に叱られてしまうわい」

 

 

カトー先生はしばらくあちこち探したが、バルパスが見つかることはなかった。

 

 

***

 

 

伊丹と一同(美少女)はヤオの先導によってダークエルフたちが避難しているというロルドム渓谷付近に到着した。

 

 

「ここなのか?」

 

 

伊丹はヤオに尋ねる。

 

 

「うむ、同胞はもう少し先だ」

 

「では急ごう」

 

「しかし妙だ。ここら辺では既に同胞が警戒のために隠れていてもおかしくないのだが……」

 

「非常に言いづらいが、そのような事態になったのかもな」

 

「……」

 

 

ヤオは悔しそうな表情を見せる。

 

 

そうしてしばらく木々や岩などを越えていった。

 

 

「もう、あとどれくらいでつくのぉ?」

 

「猊下、あと少しだ。あと少しの辛抱を頼む」

 

 

先導していたヤオの足に当たった小石が上からパラパラと落ちてきた。

 

それを伊丹は振り払う。その石がたまたま横に大きくそれる。

 

 

そして爆発した。

 

 

「「!?」」

 

 

正確には、その小石が地面に触れた瞬間爆発した。

 

 

「みんな、大丈夫か!?」

 

 

伊丹は皆の安否を確認する。

 

幸いケガ人はいなかった。しかし皆かなりびびっていた。

 

 

「な、何よこれぇ!?」

 

「おいおい……この世界には火薬は無かったはずしゃねえのか?」

 

「火薬、違う。魔法」

 

 

レレイが伊丹に返答する。

 

 

「マジかよ……レレイ知ってるの?」

 

 

しかしレレイは首を横に振る。

 

 

「私の知らない魔法」

 

「レレイも知らないとか……一体どんな魔法使いがいるんだ?」

 

 

と手をついた先の石が落ちて今度は別の場所でまた炸裂して地面に霜が降りる。

 

 

「「……」」

 

 

誰もが目を疑う。霜。あの寒い時に出るあの霜である。

 

 

「下手したら炎龍退治より大変な気がしてきた……」

 

「いいわぁ、相手にとって不足はないわぁ!」

 

 

なぜかロゥリィら嬉しそうである。

 

そして独断で突進する。

 

 

「ああ!?そんな勝手に行っちゃ……」

 

「ギャァァア!?」

 

「言わんこっちゃない」

 

 

ロゥリィは雷撃の閃光とともに吹き飛ばされた。

 

 

***

 

 

一同はほふく前進で長い木の棒やハルバードや杖などで進行方向を入念に確認しながら進む。周りから見たら地面をつついて進んでいるのでさぞ滑稽である。

 

 

(これって、ひと昔の地雷探知方法じゃないか……)

 

 

伊丹はこんなことなら地雷探知機でも持ってこりゃよかったと思うのであった。もっとも、魔法なので探知してくれるか分からないが。

 

 

「こんな魔法、初めて」

 

 

目の前に小さな魔法陣みたいなものの痕跡を見つけたレレイは、それをノートに必死に描き写していた。

 

 

「あの、レレイさん。今そんなことしている場合では……」

 

 

この地雷原(魔法仕様)のせいで大きく遅れてしまってる。テュカも相当怯えていた。

 

 

「なんなの!?このダークエルフを送り届けるだけなのに私達がこんな目に遭う必要ないわよ!」

 

「ええい、まどろっこしぃ!こんな卑怯な戦法を使うのはどこの誰よぉ!」

 

(うちは人のこと言えないかな……)

 

 

ロゥリィの愚痴に伊丹はなんの返答もできないでいる。

 

一応日本も地雷禁止条約を批准してるので、自衛隊は保有していない、はずである。多分、少なくとも地雷は。

 

 

***

 

 

なんやかんやでやっとダークエルフたちが隠れ住んでいると言われる洞窟付近まできた。

 

それまでに爆音は数回聞いてる。大きな怪我をしなかっただけでも良しとしよう。

 

 

「3種類の魔法がわかった。火、氷、雷」

 

 

レレイが作成したメモを見せる。研究のために多少あちこち焦げたりボロボロになりながらも成果を残す姿はまさに賢者の鏡である。

 

 

「だけど真似はできなかった。魔法陣を描くだけではだめ」

 

「が、がんばったな。とりあえず怪我をしなくて何よりだ」

 

 

伊丹はレレイの魔術師根性に正直驚いた。

 

 

(ドンパチやってるときに同じようなことしなければいいけど……)

 

 

そう思いながら洞窟の方を双眼鏡で観察する。

 

 

見ると2人の見張りがいた。

 

資料で見た通り、緑の鎧、緑の肌をした人のようだ。いや、人というより亜人だろう。下顎が少し出ていて牙のようなものが出ていた。そしてなによりも、背が高くてガタイがいい。

 

アメちゃんの海兵隊に出てきそうなムキムキである。めちゃ強そうである。

 

 

「なんだあいつら……」

 

「あいつらだ。同胞を襲った緑の蛮族たちだ!おのれ、もしや今頃同胞は……男どもは殺され、女子供は嬲られたのか!?畜生め、この身はどうなってもよかったものを、代わってやれないのが悔やまれる……同胞よ、許せ!」

 

 

そんな一人芝居を無視して、伊丹は64式小銃の安全装置を切り替え、一人の頭部に照準を定める。といってもかなりの距離なのでアイアンサイトではかなり難しい。

 

 

呼吸を整える。

 

引き金のあそびの部分まで指を引く。

 

そして引き金を、引いた。

 

 

「!?」

 

 

見事に片方の見回りの眉間に弾が吸い込まれていった。

 

 

「ソコニダレカイルノカ!?」

 

 

どこの言葉かは知らないが、もう片方は何か叫びながらあたりを捜索する。

 

 

耳が良くないのか、思ったほどこちらの音に気づいてないのかもしれない。すぐにこちらに向かってこなかった。

 

そしてもう片方を狙おうとしたときにこちらに向かってきた。

 

 

「ナニカキコエタ」

 

(やべ、気づかれたか!?)

 

 

伊丹は急いで照準を定める。先ほどより近いので狙いやすかった。

 

 

(悪く思うな……)

 

 

伊丹は引き金を引く。反動が肩に来ると同時に目の前の蛮族が後方へ飛ばされる。

 

 

「よし。クリアだ、ヤオ引き続き先導を……」

 

「ウグ……ナンダコレハ……魔法カ?」

 

「嘘だろ……」

 

 

64式小銃の7.62mm弾を受けてなお敵は立ち上がった。

 

 

そしてまた走ってきた。

 

 

「畜生!くたばれ!」

 

 

伊丹は単発でなんとか数発撃ち込んで倒した。

 

倒した敵を確認する。

 

 

「マジかよ……」

 

 

胴体に撃った弾の数発は鎧を貫通せずに受け止められていた。それどころか弾いた痕跡もある。一応、貫通した数の方が多いが。

 

 

(帝国兵の鎧が通らない可能性があったから89式(5.56弾)ではなく64式(7.62弾)を使用してるってのに……)

 

 

伊丹は状況思っていたより軽視していたことを実感した。

 

 

(くそっ、こんな弱気じゃ炎龍どころじゃねえ!)

 

 

そう思ったとき、目の前で火花が散った。

 

 

「伊丹ぃ!何ぼけっとしてるのぉ!?」

 

 

別の蛮族が現れて斬りかかってきたのをロゥリィが受け止めたのだ。

 

 

「コムスメ、ヤルナ!」

 

「何言ってるかわかんないけどぉ、面白いわぁ!」

 

 

ロゥリィは鍔迫り合いをしている蛮族に蹴りを入れ、よろめいた隙に切り捨てる。

 

 

「「ウォォォオオ!!」」

 

 

雄叫びを上げて何人かが突入してくる。

 

レレイ、テュカとヤオも各々の特技で応戦するが、接近戦で有利なのはロゥリィだけだった。

 

 

「ちっ!」

 

 

伊丹は連発に切り替えて撃つ。

 

 

「ウグ!?」

 

 

上半身裸で二刀流の蛮族が襲いかかってきたが5、6発ほど腹に当てる。

 

 

「グガァァア!!」

 

 

しかし倒れなかった。

 

 

「はあ!?」

 

 

伊丹は知らなかった。()()の生まれながらにしての特殊能力、または加護、『狂戦士の怒り(Berserker Rage)』を。

 

 

受けるダメージを半減する。

 

 

だから銃弾の5、6発は耐えれるのだ。

 

 

「グオォォオ!」

 

 

そして斬りかかった。

 

ちなみに、この加護にはもう一つ能力がある。それは……

 

 

「小銃が真っ二つに!?」

 

 

攻撃力の倍加。

 

 

伊丹がとっさに小銃でガードした結果、二刀流の攻撃で押し切られてしまった。

 

64式小銃の名誉のために補足するが、二発めで折れたので決して小銃が弱いわけではない。相手が強すぎたのだ。

 

 

「マジでピンチっ!」

 

 

事実上、伊丹は攻撃手段を失った。

 

しかし運のいいことに、斬りかかってきた相手も剣が壊れてしまったようで、素手での殴りあいになった。

 

 

(これならまだ勝機は……)

 

 

たまたま躱した相手のパンチが隣の枯れ木に当たる。そして枯れ木は真っ二つに折れた。

 

 

(……ねーわ、これ絶対かてねえよ!)

 

 

伊丹はチョコチョコと逃げ惑う。

 

 

「オノレ!貴様ソレデモ戦士カ!?」

 

 

よく分からないが、罵倒しているようである。

 

 

だが運命の女神は決して伊丹(一応の主人公)を見捨てなかった。

 

相手が放ったパンチを紙一重で躱す。躱しちゃったのだ(主人公補正)。そしてベストタイミングが来る。

 

 

ー 素人が殴るときは掌底の方がいいよ ー

 

 

そしてなぜかたまたま思い出す友人からの助言。

 

運と運と主人公補正からなる幸運によって、伊丹の掌底が相手の顎にクリームヒットした。

 

いかに精強と言えど、顎を起点に脳を揺さぶられれば耐えられる者なし。

 

それは見事なクリテュカルヒットを叩き出し、相手の脳は頭蓋骨の内壁に叩きつけられ、それが跳ね返って逆に叩きつけられるようにして揺れる。これが脳震盪である。

 

結果、ヘビー級ボクサーのような相手を一撃でダウンさせたのだ。

 

 

「か、勝った……?」

 

 

見ると相手は白目剥いて伸びてる。

 

しかし囲まれてしまったようだ。

 

レレイやテュカは魔力とスタミナ切れ、ヤオの刀もボロボロ。唯一の希望ロゥリィは戦えそうだが、それでもあちこちケガしていた。

 

周りは30人以上。

 

数の問題ではない。普通の人間ならロゥリィと戦えば怯えたり怯む。

 

しかし彼らは逆に喜んでロゥリィの前に出で来たのだ。(とも)が現れたと言わんばかりに。

 

そして、強い。

 

強い、恐れない、多いの最強コンビである。これで優秀な指揮官と統率力があれば最強の軍隊ができるに違いない。

 

 

「クソ……万事休すか……」

 

 

しかしここで諦める訳にはいかない。ここで諦めたら美少女たちがあーんなことやこーんなこといろいろされちゃうかもしれないから。

 

 

(紳士としてそれだけは避けなければならない。例え自らの命と引き換えにしても……)

 

 

伊丹が覚悟を決めかけたときだった。

 

 

「ちょっと待った!ちょっとお前ら待ってくれい!」

 

 

聞き覚えのあるしわがれたような声がした。

 

 

***

 

 

「族長!これは……一体どういうことですか!?」

 

 

伊丹たちは蛮族たちに連行されて洞窟に入った。

 

そしてそこには予想を遥かに上回る光景が広がっていた。

 

 

ダークエルフと蛮族が仲良く暮らしていた。

 

 

「ヤオよ、お前には苦労をかけたな。実際、我々と彼らは話し合う機会を設けた結果、お互い似た境遇であったことが分かったのじゃ。そして協力しようということになったのじゃ」

 

「なんということだ、この身がやってきた今までの努力は……罪は……」

 

 

ヤオは頭を抱える。

 

なんてこった、それはこっちのセリフだと伊丹は思った。

 

ダークエルフたちがもうちょっと様子を見ていたらこんなことに発展していなかったかもしれない。テュカもこんなことになっていなかったかもしれない。

 

だが、いまはそれよりも気になることがある。

 

 

「どうしてぇあんたがここにいるのよぉ!?」

 

「うるせーな、お嬢ちゃん。どこに行こうと俺の勝手じゃねえか。あと口には気をつけな、俺様は恩人なんだぜ」

 

 

なぜか目の前には喋る犬(バルバス)が蛮族に紛れて座っていた。しかもドヤ顔で。

 

ホントにお前はどこから湧いてきた。

もしかしてこいつすごいの?ホントは只者じゃないの!?と伊丹は思考を巡らしていた。

 

まあ先ほどこいつが止めてくれなければ伊丹たちの命はなかったかもしれないので命の恩人と言えば恩人だが。

 

 

「キー!何が恩人よ!?状況を説明しなさいよぉ!」

 

「バルバス、説明が欲しい」

 

 

レレイもロゥリィに賛同する。

 

 

「しゃあねーな。まあ簡単に言っちまうと、こいつらは俺の知り合いみたいなもんだ」

 

「「え?」」

 

「話せば長くなるから割愛するけどな」

 

「ちょっとぉ!説明責任を果たしなさいよぉ!」

 

「まあまあ、ロゥリィ落ち着いて」

 

 

周りを刺激したくないので興奮したロゥリィを落ち着かせる。

 

それにしても、蛮族たちは嫌に静かだ。同胞たちを殺されたのでもっと怒るもんだと思っていたが。

 

 

「ところでバルパス、彼らは怒ってないのか?俺たち……その、何人か殺しちゃったし……」

 

 

伊丹の問いをバルパスは聞きなれない言葉で彼らに話す。

 

そしてそれを聞いていた彼らの一人が伊丹に目を向けると口を開く。

 

 

「オルシマー、戦う、死ぬ、誇り。強い相手、敬う」

 

 

片言で特地の言葉で話した。一応意思疎通はできそうだ。

 

 

オルシマー?彼の名前か?

 

 

と伊丹は疑問に思ってると、バルバスが補足する。

 

 

「彼らオシルマーは、戦いは崇高なものだと思っていてな。別に恨んじゃいねえよ。それどころか強いお前らに敬意を表してるみたいだぜ」

 

「オるしマーという種族なのか?」

 

 

この世界特有の種族かもしれないと伊丹は頭にメモする。

 

 

「分かりやすく言えばオークだ」

 

 

「「え゛!?」」

 

「オークって、あれ?お姫様とか女騎士とかのくっころの定番のあのオーク?」

 

「言ってることよくわからねえが、多分そのオークだ」

 

「あれ……でも資料のオークは定番の豚顔だったような」

 

 

伊丹の言葉に先ほどのオシルマー(オーク)が反応する。

 

 

「豚顔?やつら、弱い。倒した、食った」

 

 

今、さらっととんでもないことが聞こえたような気がした。気のせいだよね?お願いだから空耳だと言ってくれと伊丹は内心叫んでいた。

 

 

「豚みたいな味、うまかった」

 

 

「「……」」

 

 

誰も反応できなかった。ロゥリィでさえ青ざめている。レレイも額から汗が湧き出ていた。

 

 

(えーと……これは共食いなのかな?種族的には違うかもしれないけど……あれ?オークって豚?それとも人間?なんだかわけが……)

 

「今度、獲る、お前らに、やる」

 

「「遠慮します!」」

 

 

見事にハモった。

 

 




いつからこの小説格闘小説になったんだろう。そのうち日本から鬼が来そうだよ……

「エフッ、エフッ」


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対巨龍決戦兵器の正体

オークの顔が豚なイメージが強いのはニホンジンのせい。多分。


 

アルヌスの危機は去った。

 

現在自衛隊は少しずつまた弾薬等の備蓄を蓄えつつ、今後の作戦のための準備を整えていた。

 

 

「流石だな。よく短時間でここまで兵站を整えたな」

 

「恐縮です。これも草加さんが()と調整をして頂いたおかげです」

 

「謙遜するな。だが予定を早める必要があるな。入念に準備しておくように」

 

「はい」

 

「では例の物を回収してこい」

 

「了解」

 

 

それだけ言うと加藤は部下が待機するヘリに搭乗する。

 

 

全員()()()()である。そして何より、手に持ってるものが何か違和感がある。

 

全員、自衛隊に()()()()()()()()()()の銃を持っており、各種パーツ、アタッチメントなどに個性があった。

 

 

「今回の任務は2つ。邦人(伊丹)の救出及び例の物の回収、以上。質問は?」

 

「「なし」」

 

 

いつもとどこか違った雰囲気である。

 

 

「これより、C(チャーリー)計画に移行する。今回の作戦は我々だけだ。まだ完全復旧してないため、陸自からの支援も一切受けられない。全員に幸運を祈る」

 

 

そして敬礼する。

 

しかし、それは互いにではなかった。

 

ヘリの後部に詰め込まれた大きな長めの袋たちに対してであった。

 

 

***

 

 

なんやかんやで和解(?)したオーク(豚面じゃない)とダークエルフのおかげで、伊丹は無駄な努力を強いられる必要は無くなったと思う。

 

結果的に多少の怪我と小銃と引き換えにだが。

 

しかしこの結果、オークとダークエルフが炎龍討伐に協力してくれることとなった。

 

戦力としては有難いが、正直不安ではあった。

 

別にオークたちの戦力を疑っているわけではない。それは身をもって体験してるので問題ない。必要以上の犠牲がでるかもしれない、と伊丹は思うのであった。

 

 

とりあえず、もう遅いので翌日出発することとなった。

 

 

「ということで、俺はお先に失礼するぜ」

 

 

バルバスが背を向けて去ろうとしたところ、ロゥリィがその尻尾を掴む。

 

 

「……嬢ちゃん、なんのつもりだ?」

 

「あらぁ?私はまだ納得していないわぁ。ちょっと色々説明してもらうわよ」

 

「おいレレイ、ちょっと助け……」

 

「私にも説明を」

 

 

レレイは表情にこそださなかったが、怒っていた。

 

 

「え……ちょ、落ち着こうな?な?」

 

 

そうしてバルバスは少女(?)たちに連れられて洞窟を後にした。

 

 

「お前強いな。名をなんと言う?」

 

 

振り返ると伊丹は驚く。オークと言えば豚顔がしかないと思っていたのでも驚きなのに、流暢な特地語で声をかけてきたのは女オークであった。しかもボン、キュ、ボン。いや、腰はくびれてるというより、腹筋がたくましいのでボン、グッ、ボンかもしれない。

 

 

「女もいたのか」

 

「ん?女がいなくてどうやって増えるんだ?」

 

(あ、はい、そうですね……)

 

 

そんなこと思いながら、伊丹は名乗る。

 

 

「イタミ・ヨウジか。ふむ、兄を殺した男だ。覚えておこう」

 

(ちょっと待て。覚えておく!?それって仇として覚えておくってこと!?)

 

「どうした、なぜそんな表情をする?別に敵討ちなどしないから安心しろ」

 

 

伊丹はそれを聞いて安心する。本当に価値観が良い方向に違っていて良かったと思った。

 

 

「私はラーツ。お前が殺した者と血を分ける者だ。ということでイタミ、明日までは時間がある。お前の実力を見せてもらおうか?」

 

 

前言撤回。とんでもない価値観だった。どこか自分の部下の戦闘狂女性隊員(栗林)を思い出した。

 

 

***

 

 

「えーと……どういうつもりだ……」

 

 

右を見ると真っ黒いゴスロリ戦闘狂、ロゥリィ。もちろんハルバードつき。

 

左を見るとプラチナブロンド魔法少女、レレイ。絶賛見えない覇気を放出中。

 

 

「バルバス、今日という今日は、説明してもらうわよぉ!」

 

「な、なんたよ……」

 

「あなた、何か隠してる」

 

「ギクゥ……」

 

「図星ねぇ」

 

「……」

 

「私の予想では、あなたは伊丹と同じく別の世……」

 

 

レレイが何か言おうとしたとき、それは轟音と暴風によってかき消された。

 

爆音の発生源を見ると、黒い影が見えた。

 

 

「炎龍!?」

 

 

暗くてよく分からなかったが、明らかにドラゴンのシルエットであった。

 

 

「何事だ!?」

 

 

洞窟からダークエルフとオークが急いで出てきた。

 

 

「ドラゴンだ!ドラゴンだ!」

 

(あぶねー、危うく殴り合いが夜通し続くとこだった……)

 

 

伊丹も頰の腫れを抑えながら出てくる。はて、なにがあったのだろうか。

 

しかしすぐに気持ちを切り替えて辺りを見回す。

 

 

マズイ。明かりが月と星とわずかな光源でうまく見えない。暗視ゴーグルも試そうとしたが、電源がつかない。壊れているようだ。

 

 

「くそ!」

 

 

伊丹は急いで近くに停めてある車両に駆け寄り、トランクを開ける。

 

 

「早々にこいつを使うことになるとはな……」

 

 

特別に臨時で支給された84mm無反動砲と01式軽対戦車誘導弾(LMAT)を取り出す。はずだった。

 

 

「……」

 

 

木箱を開けて伊丹は困惑した。

 

自分が知っているこの手の武器とはかけ離れた姿だからだ。

 

重火器であることは分かった。ロケットランチャーのようなものであることも分かった。

 

しかしそれ以外は謎であった。大きさは1回りほど大きく、個人携行用なのかも怪しい。しかも筒状ではなく、どこかおもちゃのような構造である。

 

そして何よりも……

 

 

「何だこの弾は!?」

 

 

黒くてズングリムックリした太めの弾。大きさは少し小さめのラグビーボールのようである。

 

 

「くそ……何かのミスか。でもこれしかないなら仕方がねえ!」

 

 

使い方は難しくなかった。恐らく。

 

ロケットランチャーの要領で弾頭(らしきもの)をセットするだけであった。

 

ただ、セットの仕方が空母のカタパルトのように上にセットするだけだったから不安に感じたのは事実である。

 

 

「なんだかホントに大丈夫かな……てかメチャクチャ重いじゃねえか!?」

 

 

伊丹でもやっともって構えられるほど重かった。

 

 

(これ、対戦車兵器じゃなくて攻城兵器とかじゃねえよな?)

 

 

急いで戻るとダークエルフの何人かは既にやられたらしい。

 

オークはもっとやられていたようだが生き生きとしていた。

 

レレイ、ロゥリィも応戦していたが戦果はよろしくない。

 

テュカは一人怯えて固まっていた。

 

側に駆け寄り、ロケットランチャーらしきものをテュカに持たせて構えさせる。もちろん伊丹の補助付きで。

 

 

「テュカ!あれがお前のお父さんを殺した炎龍だ!仇を倒すんだ!!」

 

「な、何言ってるの!?お父さんは目の前にいるじゃない!」

 

「違う!俺は赤の他人だ!お前のお父さんはあいつにやられたんだ!いいからこれを撃て!」

 

 

非常な現実を突きつける伊丹とそれを受け入れないテュカ。もめ合うこと数秒。そしてテュカは泣く泣く引き金に力を入れる。

 

 

()()()伊丹が予想したものとは異なる動きをした。

 

そのランチャーらしきものは弾頭を発射ではなく、投射した。

 

従来の対戦車砲のようにロケット噴射による推進ではなく、単なる物理的な投射。本当に空母のカタパルトのように弾頭は飛ばされる。

 

そして迫撃砲のような空気を切るような甲高い音、わかりやすく例えるなら打ち上げ花火のような音を出しながら微妙に起動が落ちながら弾頭は炎龍へと向かってゆく。

 

しかし現実は非情で、低速で飛来する弾頭を炎龍は躱してしまう。

 

そして伊丹たちを嘲笑うかの如く鼻で笑った。弾頭が遙後方の地面に着地するまでは。

 

 

「「「「!!!!????」」」」

 

 

明後日の方向へと飛んで行った弾頭は接地と共に爆発した。

 

想像をはるかに超える規模で。

 

 

「何よぉ、あれぇ!?」

 

「……あれは神の(いかづち)か!?」

 

「何という威力だ」

 

「まさか緑の人の鉄の逸物にあれほどの威力があったとは……」

 

「まるでゴミのようだ」

 

「うへぇ!?あんなのデイドラロード級じゃねーか!」

 

 

そこにいた伊丹の連れ(美少女と犬)に留まらず、ダークエルフやオークも口々に叫んだ。

 

 

(え、ちょ……キノコ雲見えるんですけど。大丈夫なの!?)

 

 

撃たせた伊丹も困惑しており、あまりの威力にテュカも驚いて泣き止んでしまった。

 

 

しかし誰よりも驚愕していたのは彼らではなかった。

 

 

(ちょっと待て待て待て待て待て!!あれを私に撃ち込むつもりだったのか!?あれは主人殿(アルドゥイン)並の破壊力を感じたのは気のせいか!?私また死ぬよね、当たったら!)

 

 

炎龍はあまりの威力にしばらく固まってしまい、我に帰るとすぐその場を離脱した。

 

 

「あ、くそ……逃げやがった」

 

 

伊丹は悔しそうな顔をする。

 

 

「うう……嘘よ……嘘よ……」

 

 

テュカは泣きぐずれていた。仕方がないので伊丹はテュカを背負うと、テュカは子供のように眠り始めた。

 

そしてゆっくりとダークエルフたちの洞窟へ戻ろうとした。

 

 

しかしそこには彼が予想していなかった人物がいた。

 

 

「よう、伊丹」

 

「加藤、今度は何を企んでるんだ?」

 

「つれないね。わざわざお前を回収しに来たのに」

 

 

見ると周りに彼の部下らしき隊員が約20名ほどが周りを囲んでいた。銃口こそ向けていないが、すぐにでも戦闘できる体勢であった。

 

 

「あいにく、俺は炎龍を倒すと決めていてね。それまでは拒否するぞ」

 

「まあまあ、別にここにいる全員を皆殺しにしてもお前を回収しようとしている訳じゃないさ。そこはな、冷静に大人同士の話し合いできめような」

 

「どうかね……」

 

 

全員皆殺しにしても回収する。

 

否定しつつもその言葉が出るということは最悪想定はしていると伊丹は判断した。

 

 

「まあ落ち着いて、これでも飲めよ。あとお前の可愛い(美少女)たちにも飲ませろよ」

 

 

そう言って加藤は小さな赤いプラスチック袋に包装された黒くて丸い錠剤をたくさん渡す。

 

 

「これって……」

 

 

伊丹はどこかで見たような気がした。

 

 

「安定ヨウ素剤。5年前に東北での作戦(大災害での活動)の後飲んだだろ?」

 

「え……それって……もしかして……」

 

 

伊丹は嫌な予感がした。そして顔から血の気が引く。

 

 

「だって、ほら」

 

 

加藤は伊丹にトドメをさした。

 

そして目の前にポケットに入っていた()()を差し出した。

 

 

独特の低音の警報音を発しているガイガーカウンター(放射線測定器)を。

 




ラーツはオリキャラですが、脇役のつもりです。オークにも名前付き出したいので。

あと感の良い人はお気づきだと思いますが、名前の元ネタは某ファンタジーの元祖とも言える大長編小説を基にした映画のオークの上位互換の彼です。


あとRAD-XやRADアウェイが開発されていたら伊丹たちは万事解決なんですけどね。

え、対巨龍決戦兵器どっかで見たことあるって?
きっとデイビークロケットですよ(しれっ)。


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一狩り行こうぜ!


祝アルドゥイン様復活(ニン●ンドース●ッチ)!

まさかスカイリムが携帯ゲームで出るとは……

あと世界(マイク●ソフト、ソ●ー、ニン●ンドー)征服おめでとうございます。



 

アルヌスの陸自たちは駐屯地の整備を行いつつ、ある程度目処も立ったので逃走した巨龍の行方を追った。

 

その巨体ゆえに、痕跡も大きかったので痕跡を辿ることは容易であった。

 

 

「キャスター、こちらアーチャー。巨龍の痕跡が途絶えた」

 

『こちらキャスター。おそらく奴はその周辺だろう。隈なく探せ。そして刺激はするな。あくまでも偵察ということを忘れるな』

 

「了解」

 

 

特戦の隊員たちが慎重に歩みを進めると一つの大きな洞窟へとたどり着いた。

 

そしてゆっくりと奥へ進み、そう深くないところに見つけた。

 

 

「キャスター、こちらランサー。奴を見つけた……おそらく」

 

『こちらキャスター。おそらくとはどういうことだ?』

 

「やつの、残骸と思われるもの。つまり白骨化した巨龍を見つけた。サイズからして奴に違いない」

 

『馬鹿な。例え生き絶えたとしても、あの巨体では腐敗にかなり時間がかかるはずだ』

 

「そうだ、だから妙だ。腐敗した痕跡も無い。剥ぎ取られたような痕跡もない。まるで……魔法か何かで肉が吸い取られたみたいだ……」

 

 

それ以上は誰も何も言葉にできなかった。取り敢えず、本部にその場所を伝えた。

 

 

そして洞窟からかなり離れた場所からそれを見ていた者がいた。

 

 

「みー、久しぶりのご馳走だったのですよ」

 

 

***

 

 

まだ夜明け前の頃。

 

 

「なんでこんな冷たい川で水浴びしないといけないのかしらぁ?」

 

 

女性陣は冷たい川でゴシゴシとその身体を洗っていた。

 

 

「分からない。ただ伊丹は毒素が付いているかもしれないから、と慌てていた」

 

 

レレイがつぶやく。

 

 

「そんな毒素で私が死ぬわけないのにぃ」

 

 

と文句を言いながら身体を清める。

 

 

(それにしてもぉ……)

 

 

ロゥリィは一緒に身体を洗ってる女性陣を見渡す。

 

 

そして視線をヤオ、テュカ、ラーツ、その他へと向ける。主に胸部へだが。

 

 

(羨ましいわぁ……)

 

 

そして最後に自分のを見て落胆する。

 

1●歳で成長が止まった(合法ロリ)彼女は恨めしそうに周りを見る。

 

するとレレイが肩に手を置き、無表情で気にするなと言わんばかりの仕草をする。

 

 

「別に気にしてないわよぉ!」

 

「?」

 

 

周りはキョトンとした。

 

 

 

一方、少し離れたところでも男性陣が身体をゴシゴシと洗っていた。特に事情を知っている日本人たちは特にゴシゴシと洗っていた。

 

二人の幹部自衛官たちはさらに少し離れたところで洗っていた。

 

 

「まあ伊丹、あんまり気にするな。多分そんな強い奴じゃないから。多分」

 

「……」

 

「いやあれね、純粋核融合なので比較的放射線少ないはずなんだけどね、まだ実験段階だし、不純物混ざって少し多いかもしれなくてね……」

 

「……」

 

「伊丹さん、もしかして怒ってらっしゃる?」

 

「当たり前だろ。日本は核持っちゃダメだろ!」

 

「え、ここは日本じゃないし……」

 

 

睨みつける伊丹。そして視線を泳がせる加藤。

 

 

「じゃあ門を通過させる前にお前が踏んだ土地は?」

 

「……さ、さあ……」

 

「どこから仕入れたか知らんが、日本に持ち込まないとまずここにももってこれないよな?」

 

「……もしかしたら……現地調達したのかも……」

 

「んなわけあるかー!」

 

「いてー」

 

 

伊丹のパンチに勢いはあったが加藤はあまり痛そうにしなかった。

 

 

「日本には非核三原則ってあるのは俺でも知ってるよ。今回ばかりは上に報告するつもりだ!」

 

「おやおや、普段そんなことしない伊丹殿がそうなるまで怒るとは予想外だ。しかし、そう簡単に信じてくれるかねえ?」

 

「どういうことだ?」

 

「ただでさえ政治、軍隊の世界はブラックなんだ。こんなスキャンダルネタ、もみ消されない方がおかしい。それに、証拠がないじゃないか」

 

「はあ!?証拠ならあのまだ残った弾薬と投射機が……」

 

「俺が残しておくと思ったか?」

 

「なら放射線量が……」

 

「言ったろ?純粋核融合の実験だと。放射能もほぼでないよう設計されてるんだよ」

 

 

ガイガーカウンターを見るが、うんともすんとも言わない。

 

 

「この野郎……」

 

「伊丹、悪いことは言わない。今の政府の敵になるようなことはするな。消されるぞ。俺もお前もな」

 

「ちっ。柳田がお前の後輩ということが良く分かる性格してるぜ、あんた」

 

「ま、代わりとはなんだが、ちゃんとお前に渡すはずの最新対戦車ランチャーと代わりの小銃持ってきたから。あと可能な範囲で支援するから許せ」

 

 

そして加藤は先に着替えてその場を去る。

 

 

「あの野郎好きがってやりやがって……ん?」

 

 

伊丹は自分の着替えの横に小銃が置いてあることに気づく。先ほど加藤が言ってたやつだ。

 

 

「これって……なんであいつが持ってたの?」

 

 

目の前のM4A1カービンSOPMODを見て困惑する。

 

 

***

 

 

早朝に皆で作戦を練った。概要はこうだ。

 

1.炎龍が留守の間に住処の洞窟にC4爆弾(伊丹の分+加藤たちの分)200キログラムを仕掛け、帰ってきたときに木っ端微塵にする。

 

2.失敗した場合、弱っている(はずの)炎龍に84mm無反動砲と01式軽対戦車誘導弾(LMAT)で倒す。

 

3.それでも失敗した場合、肉弾戦及び魔法(主にロゥリィとレレイ頼み)で倒す。

 

4.それでもダメな場合、加藤たちが乗ってきたSH-60J(海自ヘリ)で逃げる。

 

5.最終手段。対巨龍決戦兵器の使用。

 

 

このようになったが、これに不満を示す者もいた。

 

 

「これは納得できん。3と4の間にこう入れるべきだ」

 

 

オークのラーツが地面に書かれた計画に付け足した。

 

 

「総突撃」

 

 

皆(オークとロゥリィを除いて)言葉を失った。

 

 

「ちょっと待て。待て待て待て!死ぬつもりか!?」

 

 

伊丹は慌てふためく。

 

 

「何を言ってる、死は最高の誉れではないか」

 

(あ、こりゃダメだ。旧日本兵よりも大変な価値観を持ったお方だった……)

 

「そして逃げるなど言語道断!お前らが逃げても我々は突撃する!」

 

 

その後色々と議論したが結局解決しなかったので、伊丹一同とダークエルフ、加藤陣営、そしてオーク陣営に分かれて計画することとなり、伊丹と加藤は概ね同様、オークたちは伊丹たちが劣勢になったら突撃となった。

 

 

「ああ……余計な犠牲者を出さないつもりなのにどうしてこうなった……」

 

「いいわぁ、彼らぁ。もしよろしければ貴女方をエムロイの使徒として祝福してあげてもいいわよぉ?」

 

「気持ちだけ受けておこう。我々はあくまでもマラキャス様に忠誠を誓っているゆえに」

 

 

ラーツはロゥリィの提案を丁重に断った。

 

 

「ふーん。でも私そのマラキャスという神?にも一度会ってみたいわぁ」

 

「もし機会あれば是非とも」

 

 

その後、身支度、ダークエルフに持たせるランチャー各種の使い方を教える。

 

しかし、ここで誤算が生じた。

 

もし伊丹がLAM(パンツァーファウスト3)を持参していたら()()比較的扱いやすいのですぐに覚えたと思う。

 

しかし84mm無反動砲は装填方法が少しだけ複雑であり、銃の概念の無い彼らに教えるのは苦労した。01式軽対戦車誘導弾などもってのほか。なのでこれは伊丹と他の自衛官が使うことにした。

 

 

「こんなことは想像してなかったな。これならカラシニコフ銃(AK)とRPGの方が良かったかな」

 

「どこで調達するつもりなんだよ……」

 

 

伊丹は同僚の言葉に力なく突っ込む。

 

 

「ふむ、鉄の逸物は想像と異なるな……」

 

 

無反動砲を抱えたダークエルフが言う。

 

 

(そりゃ別物だからな……)

 

 

伊丹たちとオークは徒歩、加藤はヘリで見つからない距離まで移動という形で分かれることにした。

 

 

「んじゃ、俺たちは先に行っとくわ。安心しろ、勝手に倒したりしないから。おい、野郎ども、今日は炎龍のステーキだぞ」

 

 

加藤がなんだか物騒なことを言い残してヘリに乗って出発した。伊丹は聞こえないフリをした。

 

 

「よし、俺たちも行くぞ」

 

 

***

 

 

木々を切り開き、険しい山道を越えてやっと住処の洞窟についた。

 

洞窟の中は留守だったので、早速伊丹たちは準備にかかる。

 

伊丹たちは粘土のようなC4爆弾をこね、形を作り、炎龍の寝床とされるところにそこらへんに落ちている剣などと一緒に埋める。理由はもちろん爆薬に釘やコインを混ぜるのと同じ。量が多かったのでオークたちにも手伝ってもらった。

 

伊丹が爆薬の設置作業を終えると、オークの一部も何か地面で作業していた。

 

 

「何してんだ?」

 

「あれ、ここに来る時見た魔法陣」

 

 

レレイがオークたちを指して言う。

 

 

オークの魔法使いたちが地面に魔法陣を放っており、それは伊丹たちを苦しめた例の地雷のような魔法陣だった。

 

 

(そういやこのオーク、魔法使えたのか)

 

 

なんだか自分のオークへの見方がどんどん変わっていく。なんなんだこの優秀な種族は?と思っていた。

 

作業は手数もあっため、予想以上早く終わった。

 

 

「あらぁ、思ったより早かったわねぇ」

 

 

洞窟を出ると番をしていたロゥリィが出迎えた。

 

そして全員が出たところで遠くから炎龍らしきものが飛んで来るのが確認された。

 

 

「よし、みんな隠れろ!」

 

 

***

 

 

ヨルイナールはかなりやるせなかった。

 

 

(ツいてない。最近ツいてない。このままだと私の子どもたちは囚われの身……おまけに例の緑の人間どもに出くわすわ、意味不明な火力の攻撃をしてくるわ……主人様(アルドゥイン)早く帰って来ないのか……)

 

 

そう心でつぶやきながら洞窟へと入って行く。

 

 

(今日はもう休もう。このままだと私いつかまた死ぬ……ん?)

 

 

ヨルイナールは寝床に着くと、違和感を感じた。

 

はっきりとした確証はないが、嫌な予感がした。

 

そしてその嫌な予感というものはだいたい的中する。

 

 

「今だ!」

 

 

洞窟の外で伊丹がC4の起爆スイッチを押す。

 

 

後にこう語られた。それは火山が噴火したような威力だったと。

 

 

「アイエエエエ!爆発 !?爆発ナンデ!?」

 

 

ヨルイナールは爆風もろとも意識を吹き飛ばされる中、最後にこんなことばを残してしまった。人間から聞いたら龍の悲鳴でしかないが。

 

 

そんなことつゆ知らず、伊丹たちはその威力に呆気にとられた。

 

 

「やっべ、C4と魔法爆発で大変なことになっちまったよ」

 

「炎龍ステーキ食えなくなりましたね」

 

 

遠方からヘリの中から観察していた加藤たちが残念そうに呟いた。

 

 

「やったぞ!」

「万歳!」

「俺、帰ったら婚約するんだ」

 

 

ダークエルフたちが喜びで騒いでいた。最後にさらっと余計なことを言ったきがしたが。

 

ちなみに、オークたちは少し残念そうであった。

 

 

「うん、炎龍は倒せたけど……テュカにトドメはさせたかったな。テュカの様子は?」

 

「あ、うん。大丈夫よお父さん。少し落ち着いたわ」

 

 

なんとも言えない表情でテュカが伊丹に微笑む。まだ完全とは言えないが、少しでもマシになったか、と伊丹は期待した。

 

 

「一応、一件落着か。早く帰るか……」

 

 

帰隊準備にかかろうとしたところ、そばに肉塊が落ちて来た。

 

最初は炎龍の身体と思ったが、すぐにそれが満身創痍のロゥリィと分かった。

 

 

「ロゥリィ!?どうした!」

 

 

伊丹が近寄ると肉塊は急速なスピードで再生し始めた。千切れかけの四肢も見る見る繋がって行く。

 

 

「ちょっとしくじったわぁ……」

 

 

ロゥリィは力なく微笑む。

 

 

「お姉様ったら、ヒト種なんかに心配されて。随分と腕が鈍ったんではなくて?」

 

 

振り向くとそこには青い肌に灰色の髪に龍のような翼を生やした白ゴスの龍人族の女性が立っていた。

 

 

「うっひょー、ナイスバディの龍系亜人だよ。しかも服もなかなかエロい。この世界どうしてこんな日本人受けしそうな文化なんだろ」

 

「隊長、俺にも!」

「いや俺が先だ!」

 

 

ヘリの中からどっかの誰かが双眼鏡で覗き見偵察をしていた。

 

そして双眼鏡の争奪戦が始まったことなんて地表にいる伊丹たちは全然知らない。というかそんな状況ではない。

 

 

「私は……えーと……ちくしょう!やっぱり敬語は無理だ!」

 

 

目の前の龍人がなにやら勝手にキレ始めた。そして口調が一気に変わった。

 

 

「俺はジゼル。主上ハーディに仕える使徒だ」

 

「えーと、といいますとロゥリィと一緒なんですね」

 

 

ジゼルの目つきが怖いのと、使徒ということから自然と伊丹は敬語口調となってしまった。

 

 

「貴方がロゥリィをこんなことにしたと……ロゥリィも強いと思いますが」

 

「あたりめーだろ。お前の怪我を代わりに受けてるからだよ!本来なら俺一人じゃお姉様に敵うわけないんだよ」

 

「そうなの?」

 

「べ、別にいいじゃない!」

 

 

ロゥリィが赤面した。気持ちは複雑たが、伊丹はすごく可愛い生き物を見たような気がした。

 

 

「まあ、どっち道この新生龍2頭いなければ勝つのは難しいがな。あれ?どこいきやがった?」

 

 

ジゼルは辺りを見回すと新生龍たちが空に浮かぶ変なもの(ヘリコプター)と知れている姿を発見した。もっとも、じゃれられたほうはたまったものではないが。

 

 

「おいてめーら!何をやってる、早く来やがれ!」

 

 

新生龍たちは渋々ジゼルの下へ戻る。

 

 

「あ、危なかった。ブラックホークダウンと同じ目に合うかと思った……」

 

 

ヘリ内の隊員が心からホッとして呟く。

 

 

「テールローターがガタガタになってるけどな」

 

 

冷酷な隊長(加藤)の言葉で皆凍りついた。そういえばヘリの振動が大きくなってる。

 

 

「まあ、C計画に問題ないからこのままとびつづげるけど」

 

 

加藤は何事もなかったかのように笑う。

 

 

「そのドラゴン2体どうしたんですか?結構懐いてますね」

 

 

炎龍の子供たがら赤いものかと思ったが、一匹は色違いであった。それに見た目もあんまり似てるとはおもえなかった。龍はそういうものなのだろうかと伊丹は思った。

 

 

「そうだろう?俺がわざわざ炎龍を叩き起こして水龍と番わせて、孵化した龍をかっぱらって育てたんだ。まあ多少の魔法はアリだがな」

 

 

伊丹はそれを聞いてまた少し疑問に思う。水龍な片方が青なら納得いく。紫でもハイブリッドということで納得できる。それらでもない片方は……どうして緑なんだ?

 

 

「ジゼル聖下、それは……誠ですか!?」

 

 

突然ヤオが叫んだ。

 

 

「あ?誰だてめー」

 

「私はダークエルフのヤオと申します。我々一族はハーディ様を主神としております」

 

「なんだ、信徒か。そうだよ、俺が炎龍を起こしたよ。文句あんのか?」

 

「しかし、奴は我々を食い荒らしたのです!いくら神といえどそんなこと……」

 

「なんだよ?信徒は黙って主人の言ってることに従えばいいんだよ。だから黙って餌にでもなっとけや」

 

「ひ、酷すぎる!」

 

「うるせえ、文句あるならこの場で全員餌にしてやるよ。もちろんお姉様は除きます」

 

 

相手は新生龍2頭とロゥリィのような使徒一人。

 

に対しこちらはダークエルフとオーク連合約50名、加藤陣営約20名と伊丹一同系約80名。装備もC4以外なら意外と残ってる。

 

正直ここは穏便に済ませたかったが、なぜかこんかいは負けそうな気はしなかった。

 

 

ジゼルはそんな相手方の違和感を感じた。

 

 

(あり?普通新生龍と言えども、2頭いるんだ。普通ならびびるだろ?なんでこいつらビビってないの?ダークエルフはちょっと挑発したからわかるけどさ、なんか緑の見慣れない亜人なんかヤル気満々なんだけど!?)

 

 

そして最大の違和感に気づく。

 

 

「そういえば……炎龍どこに行ったんだ?」

 

 

ジゼルのその言葉を聞いたロゥリィは不敵な笑みを浮かべる。

 

 

「あらぁ?今頃きづいたのぉ。炎龍ならここにいる()()耀()()が一発で倒したけどぉ?」

 

 

それを聞いたジゼルの思考が停止した。

 

今なんて?

 

ヒト種のこんなおっさんが?

 

一発で?

 

炎龍を倒しただと?

 

 

チョットイミガワカラナイ……

 

 

()()伊丹耀司がやったのよぉ」

 

「ロゥリィ、そんな言い方誤解生むからやめて……」

 

「……ククク。アハハハハハ!いいねえお姉様!それくらいじゃないと楽しくありませんから!まとめてやっつけてやりましょう!そして私が勝った暁にはハーディ様の妻になって貰いますからねえ!行け、レイア、レウス!」

 

 

ジゼルは新生龍に命ずる。

 

もうお気づきかと思うが、どういったわけでここに来たかは分からないが、どうやら突然変異でこの世界にも生まれてしまったらしい。

 

 

空の王(リオレウス)陸の女王(リオレイア)が。

 

 

「いくぞ!オークども、マラキャス様の加護があらんことを!」

 

 

オークたちも突撃を開始する。それに合わせてダークエルフたちも突撃する。

 

 

「対象、2頭の新生龍。撃ち方始め」

 

 

加藤たちもヘリから支援する、最初っから対戦車砲を使うつもりだ。

 

 

少しヤル気のでたテュカとレレイも各々能力で応戦し、再生したロゥリィも戦えるようになった。

 

 

双方が力の限りを尽くして戦った。

 

血を血で洗うような戦闘が繰り広げられる。

 

魔法や銃弾や矢が飛び交い、噛みつき、切り裂き、潰し、空中戦……

 

しかし勝負というものは非情である。

 

勝者がいるということは敗者がいるということだ。

 

そして負けた。圧倒的な力によって、敗北した。

 

 

 

 

 

ジゼルの方が。

 




え?伊丹の炎龍の倒し方が汚い?

何をいってるんですか、ハンターの皆さんもやってるでしょ?爆薬の入った大きなタルとか火薬の入った小さなタルとかたくさん設置して……


おや?ドラゴンが来たようだ。


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定命の者のくせに生意気だ


もし欧米がゲートを書いてたら、どうなるか?

おそらくスカイリムみたいに萌え要素なくなるだろうなあ。ジゼルとかアルゴニアンになってるかも。

ちなみにジゼルの容姿は漫画版派です。

あとレウスとレイアのファンの皆さんごめんなさい。(小さかったんだよ、きっと)



 

これより先に行く前に言っておく!

オレは今イタミヨウジとやらの力を身をもって体験した。

い、いや体験したというよりは全く理解を超えていたのだが……

 

あ、ありのまま起きたことを話すぜ!

「オレは負けることは無いと確信していた闘いに気づけばコテンパンにされていた」

な、何をいってるのかわからねーと思うがオレもなにが起きたのかわからなかった……魔法だとか超能力だとか戦術だとかそんなチャチなもんじゃ断じてねえ

もっと恐ろしいものの片鱗を味わったぜ……

(by ジゼル)

 

 

辺り一帯はそこまで酷くはなかったが、オーク(イケメン)とダークエルフの骸が転がり、爆発の跡と紫の灰が残っていた。

 

そして二頭の新生龍(小柄レウスとレイア)もボロボロとなって倒れていた。

 

 

「なん……とか……倒せたな」

 

 

肩で息をする伊丹。

 

 

「ええ……そうねぇ……」

 

 

ロゥリィも同様に呼吸を整えていた。

 

正直、もしこれが伊丹とその美少女な(?)仲間たちだけであったならば勝てなかったと思う。

 

ダークエルフたちの支援、加藤たちの誘導弾による妨害攻撃。そして何よりもオークたちの戦力が大きかった。

 

オークたちは弓矢があまり効かないと判断すると魔法による攻撃に切り替えた。

 

これが意外と強く、氷、炎、雷などの多彩な攻撃に、硬化、魔法の盾(バリアーのようなもの)のような防御魔法、そして回復魔法や死霊術(ネクロマンシング)による戦力補充。もちろん倒れた仲間をもう一度戦わせたのだ。

 

ちなみに、死霊術についてはロゥリィがあまりいい顔しなかったが、オークたちもあまりいいことではないという認識で、緊急事態だったので目を瞑ることにしたのだ。ちなみに蘇生されられた仲間は皆地面に落ちてる紫の灰になったので、なんとも言えない気分である。

 

しかし真に評価されるべきは魔法ではなかった。ドラゴンたちに接近戦を挑み、喰われては投げられ、噛まれては投げられても攻撃し、武器が壊れたなら素手で殴りに行くという特攻野郎と化した猛者たちであった。

 

 

「これがのぞみか?」

「ここにくるべきではなかったな!」

「今日がお前の最期の日だ、ドラゴン!」

 

 

などと連呼しながら突撃する有様はドラゴンとジゼルたちもかなり引いてた。

 

結果伊丹たちも被害は出たが、なんとか大丈夫なまで抑えた。やろうと思えばあと一匹ぐらいなら倒せると思っていた。

 

対してジゼルたちの龍は生き絶えていた。

 

 

(こんちくしょう!しくったぜ。これがイタミ・ヨージの力……)

 

 

ジゼルは混乱して敵が集団であることを忘れてた。ちなみに、この時すでにジゼルはロゥリィによって拘束され、逃げる事も抵抗もできずに地面に伏せられていた。

 

 

「炎龍ステーキは無理だけど、新生龍ステーキだな、今夜は」

 

「「ワーイ(棒読み)」」

 

 

ヘリから降りてきた(もう色んな意味で)特殊な自衛官たちが新生龍の身体を調べていた。

 

それを聞いたジゼルはさらにパニックなる。

 

 

(え、ちょ……今龍を食うとか言ってたよな!?それ食べるのか?嘘だよな!?)

 

 

龍殺し(ドラゴンスレイヤー)という龍専門の殺し屋がいるとは聞いたことあるが、まさか龍食屋(ドラゴンイーター)がいるなど夢にも思わなかった。

 

 

(てかあれか!?異世界の人間って龍食うのが普通なのか!?んな奴らに勝てるわけないだろー!!)

 

 

ジゼルのパニックは頂点に達し、勝手にいろいろと憶測を事実と誤認してしまう。

 

そして気づいた。気づいてしまった。

 

自分が龍人族であることに。

 

もし彼らの狩りの対象が自分にも向けられたら?

 

使徒なので死ぬことはないが痛覚ないわけではない。

 

下手したら再生し続ける龍肉の提供者になっていずれ精神を蝕むまでに至るかもしれない。

 

 

「ひいぃぃぃっ!!頼む、後生だ!食わないでえぇぇぇ!」

 

 

ジゼルはその顔から想像できないような泣き顔になる。

 

そしてみんな呆然とする。

 

 

「あ、あんたそんな顔するんだぁ」

 

 

ロゥリィも戸惑う。

 

 

「食わないでって、何を?」

 

 

加藤もキョトンとしてジゼルに近づく。

 

 

「うわーん。来るなぁぁあ!」

 

 

暴れようとするジゼルをロゥリィが押さえつける。

 

 

「どうせ俺のことも食うんだろ!?」

 

「はあ!?なんで俺がお前みたいなの食うんだ!?」

 

「え?だってお前ら龍を主食にしてるだろ?じゃあ俺も食われちまうじゃねーか!」

 

「別に主食じゃねーよ!興味本位で食べるだけだから!」

 

(え、興味本位で食べるんだ……)

 

 

伊丹も友人のサイコ発言に若干引いた。いや、かなり引いた。

 

 

「まあ、でもあれだ。まずは帰隊だな。どうやって戻るかだ」

 

 

皆で協議した結果、オークとエルフはこれからも共同生活をしばらくは送ることになった。代表として、ダークエルフはヤオと数名、オークはラーツと数名が伊丹たちと戻ることになった。

 

加藤たちは荷物など(余った爆薬、弾薬、砲など)とドラゴンの一部をヘリで先に輸送することになった。

 

 

「こいつはぁ?」

 

 

ロゥリィが拘束したジゼルを指す。

両手両足を特殊な呪符付きの縄で拘束され、猿轡までされてもがいていた。(少しエロ色っぽい。

 

 

「伊丹殿、ジープで連れ帰って、どうぞ」

 

「いやいや、加藤氏こそヘリで連れ帰って、どうぞ」

 

 

互いに面倒ごとを押し付けようとする情けない男たち。

 

 

「ほらあれだ、伊丹は美少女コレクションしてるんだろ?流行りの擬人化船のゲームみたいに」

 

「加藤はあれだろ?興味本位で食っちゃうんだろ?どうせなら別の意味で食べちゃってもいいんだよ?」

 

 

幸い日本語でしかもヨクワカラナイことを言い合っていたので周りはキョトンとした顔だった。

 

 

 

しかしそのような和気あいあい(?)とした雰囲気もほんの一瞬で吹き飛ばされた。

 

 

遠くからクジラの遠吠えのような音が掠れて聞こえた。

 

そして訪れたのは静寂。嵐の前の静けさというべきか。

 

誰もがゆっくりと空を見上げた。

 

 

そしてしばらくして()()は現れた。

 

山の隆起の死角からいきなり現れた。

 

 

漆黒龍(アルドゥイン)

 

 

***

 

 

「アルドゥイン!」

「アルドゥイン?」

「アルドゥイン!?」

 

 

オークたちが『アルドゥイン』と連呼し始めた。伊丹はそれが特地の言葉で初めての言葉なのか、それともオーク独特の言葉なのかは分からなかったが、とにかくヤバイということは理解した。

 

 

「やべ!あいつだ、漆黒龍だ」

 

 

伊丹は急いで戦闘態勢に入るよう指示する。

 

加藤もヘリの離陸を急がせる。

 

 

全員が戦闘態勢を取るが、誰一人攻撃することはなかった。

 

 

(ふん、何やら騒がしいと思ったらこんなことになっていたのか。よく見るといろんな奴らがいるな)

 

 

アルドゥインは下にいる定命の者(ジョール)たちを見て思う。

 

 

(……そしてまたやられたのか、ヨルイナールのやつは)

 

 

アルドゥインは落胆する。本当は巨龍の様子を先に見に行きたかったがヨルイナールの気配も消えたので確認したら案の定やられていた。

 

ヨルイナールの蘇生はそれほど労力がかからないのでよいが、流石に毎回死なれると少し考えものであると感じていた。

 

 

(まあ良い、どうせいつものことだ)

 

 

アルドゥインはつまらぬ日課をこなすように龍語(スゥーム)を唱えた。

 

 

Ziil gro dovah ulse!(龍の肉体に繋がれた魂よ!)

Slen tiid vo!(肉体よ時に逆らえ!)

 

 

そしてバラバラだったヨルイナール()()の骨や肉塊が動きだす。

 

 

「やべーよ、また復活の呪文だよ!」

 

 

伊丹が絶望した声で叫ぶ。

 

 

「いくら私でもまた炎龍と戦うのはきついわよぉ!」

 

 

さすがにロゥリィも焦っていた。

 

 

「アルドゥイン!」

「アルドゥイン!?」

 

 

あのオークたちが焦っていた。盾を叩いたりして戦う気概はみせているが、焦りの表情が見える。

 

 

「おい加藤あと弾薬はどれくらい残って……ぐえ!?」

 

 

言い終わらないうちに伊丹は後ろ襟を掴まれて強引にヘリに乗せられる。

 

 

「発進しろ!」

 

 

加藤がヘリに発進命令を出すとローターのエンジン音が大きくなり、地面から離れようとする。

 

 

「加藤、てめえ何するつもりだ!?」

 

 

伊丹は反論しようとしたが次の言葉が出る前に頰に拳が入った。

 

 

「お前は馬鹿か?いくらお前でも今がどれくらいヤバイかわかるだろ?向こうは漆黒龍、炎龍、新生龍2頭、そして新手の赤い龍計5匹。対し、俺たちは良くて1頭倒せるか倒せないかの火力しか残ってない」

 

 

加藤は氷のような冷たい目で伊丹の目を直視する。

 

 

(え……新手の?)

 

 

外を見ると漆黒龍の後ろに漆黒龍より一回り小さい赤い龍(アンヘル)がいた。

 

 

(嘘だろ……)

 

「撤退だ。そして俺の目的はお前を生存させることだ」

 

「テュカたちはどうな……」

 

 

伊丹の視界に見てはいけないものが見えた。

 

ヘリの隅で対巨龍決戦兵器(個人携行小型核投射機)を準備している隊員たちがいた。

 

 

「てめえ……これを使うつもりだったのか!」

 

「伊丹、悪く思うな」

 

 

加藤は悪びれた様子もなく言葉を放つ。

 

 

「彼女らのことは忘れろ」

 

 

自分の友人がここまで非情な人間だとは思わなかった。裏切られたような気がした。

 

 

「伊丹2尉を拘束しろ」

 

「「は!」」

 

 

隊員が拘束しようとした直前、伊丹は決断した。

 

 

「チクショォォオ!」

 

 

降下ロープ、パラシュート無しで伊丹は飛び降りた。幸い、まだ10メートルぐらいしか地面から離れていなかったので伊丹は潰れた卵のようにはならなくて済んだ。

 

 

「痛ー!?……でも動けるな……これであいつもさすがに撃てないだろう」

 

 

かなり痛がっていたが、なんとか走って残された者のところまでゆく。

 

 

「あの馬鹿野郎……」

 

 

加藤は静かにつぶやくとほくそ笑んだ。

 

 

「こうも思い通りに動いてくれると逆に怖いわ。これで正当な名目ができたってわけだ」

 

 

そしてヘリから降下ロープを下ろす。

 

 

「班長、あとどれくらい持つと思う?」

 

「はい、テールローターは恐らく30分程度で機能停止すると思います」

 

「だろうね。どっちみちヘリじゃ伊丹を運べないわけだ」

 

 

そして降下姿勢をとる。

 

 

「……草加さん、あとはこいつらのこと頼みます」

 

 

ヘリのパイロットが無言で片手の親指を上げて了解する。

 

 

「お前ら、死ぬなよ?」

 

「隊長こそ」

 

 

そして単独で一気に降下する。

 

 

***

 

 

「びっくりしたじゃない!お父さんがいきなり拉致られてしまったんだから」

 

 

テュカは戻ってきた伊丹を涙目でポカスカ叩く。

 

 

「いてて、ごめんって!」

 

 

テュカの優しい叩きもかなり痛く感じる。やはりヘリから飛び降りたのがさすがにまずかったようだ。

 

 

「で、今どうなってんだ?」

 

「まだ蘇生中よぉ。やはり一気に3頭は難しいのかしらぁ」

 

 

誰も攻撃しない。恐怖なのか、焦りなのか、萎縮なのか。

 

取り敢えず全員息を潜めていた。

 

いくら隠れているとはいえ、彼らにバレていない訳がないのだからと誰もが思っていた。

 

 

そして誰もがこの光景に絶句した。

 

 

そして、まず炎龍の骨格が出来上がり、骸骨状態で歩き出した。そして体が光に包まれたと思うと、肉体が戻った。

 

 

「ちくしょう!マジでなんなんだこのチート野郎は!?」

 

 

伊丹は自分の運の無さを呪う。

 

そして何やら龍たちが会話をし始めた。無論、伊丹たちはなんと言ってるかわかるわけもない。

 

 

「主人様!申し訳ございません。またやられてしまいました」

 

「ヨルイナール我が忠実なる僕よ、案ずるな。我に忠義を尽くす限りお前は永遠に生き続けるだろう」

 

 

そして今度は地面に転がって絶賛緊縛放置プレイ拘束中のジゼルに語りかける。

 

 

「そして貴様が我の僕とその子を顎で使いおった者か。しかも定命の者(ジョール)の姿に我々(ドヴァ)のような翼を生やして生意気にも不死とはなんたる不届き者」

 

「んぐー!むぐー!」

 

 

ジゼルがパニックを起こすが、彼女だけではなかった。これを聞いたダークエルフの生き残り、そして伊丹たちも驚く。特地の言葉を発したのだ。

 

 

「そして貴様ら下等生物はこのような喉から出す汚れた言葉しか理解できんとはな。所詮はジョールよ」

 

 

伊丹、レレイ、ロゥリィが驚愕した。

 

そう、つまり日本語で語りかけたのだ。

 

 

「に、日本語話してるぞ!?」

 

 

誰もが恐怖した。これこそ、まさに全知全能の龍と言うべきか。ロゥリィでさえ超えられない壁を感じた。

 

 

「ヨルイナールたちよ、そしてアンヘル。このジョールどもを殺せ」

 

 

アルドゥインは命令を下す。

 

 

「喜んで」

 

「ふん、良いだろう」

 

 

5頭の龍が戦闘態勢に入った。




アルドゥイン様!もっとお褒め(ジョールを見下した罵倒)のお言葉を!

アルドゥイン「よかろう。ならば我が御言葉(スゥーム)で貴様らバラバラにするまでよ」


余談ですが、実は場所が火山ということもあり、煉黒龍(グラン・ミラオス)も出そうかと思いましたが、流石に伊丹たちじゃ対処できないと思い、やめました。

煉黒龍「がーん」


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○○になんか負けない!

祝、50話突破!

これをよく50話まで懲りずに続けたと見るべきか、よくもここまでダラダラと書いていたと見るべきか……

ちなみに前回の題名はゲーム「勇者のくせに生意気だ」より。


アルヌスの陸自たちは、巨龍捜索を終え、今後起こりうる巨龍級害獣対策のため、巨龍(ラオシャンロン)の骸を回収し、実験調査を行うと同時に、その出所についても調査していた。

 

そしてその行き着いた先はアルヌスから北東に位置する雪山の麓だった。

 

 

「こちらランサー。奴の出所らしきものを発見。岩が不自然に陥没している」

 

『こちらキャスター、了解。速やかに記録を撮り、帰投せよ』

 

「了解」

 

 

特戦の隊員は周囲を警戒しつつ、その一帯を地図にメモしたり、写真を撮ったりした。

 

 

「よし、これでよしと。ん?うわ!?」

 

 

隊員の一人が驚いて尻餅をつく。

 

 

「なんだ、残骸が……」

 

 

それは大きなイノシシのような動物の残骸だった。

 

 

「まだ新しいな。気をつけろ、近くに何かいるかもしれない。そして作業を急げ!」

 

「「了解」」

 

 

幸い、特に魔物やドラゴンが現れることなく作業が終わり、彼らは無事ヘリで帰投できた。

 

 

「どうしたんだ?」

 

 

ヘリ内で記録したデジタルカメラの写真を確認している隊員が妙な顔をしていた。

 

 

「いや、ちょっと気になって見つけたものを記録したんだが、なんだろうなと思って」

 

 

岩に大きな傷跡が残された画像を見せる。

 

 

「……なんだろうな。巨龍にしては小さいが、大きな傷跡だな」

 

 

そう言ってヘリは去ってゆく。

 

 

そして小さくなったヘリを確認すると、()()は洞窟から出てきて獣の残骸を大きな口で貪り始めた。

 

 

***

 

 

制空権という言葉をご存知だろうか。

 

簡単に説明すると、近現代戦における航空機が戦場に登場して以来、敵の航空戦力の脅威が無いことを指す。

 

参考に、一時的でも、諸作戦を行う上で敵の航空戦力の脅威を排除した状態を航空優勢という。

 

 

ここ特地(ファルマート)の技術レベルは中世に魔法をくっつけた程度であり、航空戦力としてはワイバーン竜騎兵しかおらず、戦闘機、戦闘ヘリ及び対空兵器を有する自衛隊からしたら脅威ですらなかった。

 

炎龍も野生のドラゴンで、アルヌスを攻撃しようとしたこともないためこれも戦力外と見なしていた。

 

制空権は自衛隊が確保していた。

 

はずだった。

 

 

「やべーよ!手も足も出ねえよ!」

 

 

伊丹たちは岩陰に隠れて空中にいる龍たちの攻撃を避けていた。

 

かっこよく(?)ヘリを飛び出して助けにいっては何もできなかった。

 

そう、制空権はドラゴン(アルドゥイン)たちに()()に奪われてしまった。

 

 

伊丹(と美少女)たちはまだいい方だった。

 

逃げ遅れたり隠れ遅れた者は遠慮なく龍たちの餌食となっていた。

 

器用に飛び回り、火球を吐き出しながら飛んだり、時には地に降りて攻撃を加える雄火竜(リオレウス)

 

基本的に陸で肉弾戦を用い、時に火球や毒棘を用いるなど厄介な攻撃を仕掛けてくる雌火竜(リオレイア)

 

空中からホーミング機能付の魔法火球を放つレッドドラゴン(アンヘル)

 

その巨体の戦車並みの硬度で矢や魔法を跳ね除け、肉弾戦とブレスを器用に使い分けるバランサー炎龍(ヨルイナール)

 

そしてそれを統括し、絶対的な超えられない存在の漆黒龍、世界を喰らいし者(アルドゥイン)

 

 

伊丹たちが屠られるのも時間の問題だった。

 

 

「ああ……ああっ……」

 

 

テュカがフラッシュバックを起こしたらしく、怯えて震え始めた。

 

 

「テュカ、大丈夫だ。安心しろ、俺がついてる」

 

 

伊丹がなだめるも、彼自身もかなり参ってしまってる。

 

まるで爆撃機がその場で停止して爆撃し続け、空飛ぶスーパー戦車が地面を蹂躙していた。

 

流石のオークたちもこれは隠れざるを得なかった。

 

 

「ロゥリィ、どうにかならないか?」

 

「無理よぉ、出た瞬間にバラバラにされるわぁ。死なないけどぉ」

 

「ですよね……」

 

 

例えるなら爆撃機に対して防空壕で耐え忍んでいるといったところか。

 

伊丹は自分の祖父母もこんな経験したのかなとか思いながらビクビクするのであった。

 

一方、空にいる龍たちは興奮していた。

 

 

「楽しい、これ楽しい。今まで私たちを散々な扱いをしていた下等生物を蹂躙する……最高過ぎる!」

 

 

ヨルイナールが歓喜の咆哮を上げる。

 

 

「うむ、我の血に流れておる(下等生物を滅ぼす)宿命もたぎっておる!」

 

 

アンヘルもどこか嬉しそうな様子だ。

 

 

「グフフ……最高だ、これこそ我が望む世界。我に屈するかソブンガルデ(あの世行き)か、そして貴様らは後者を選んだのだ。Daar lein los dii(この世界は我の物だ)!」

 

 

アルドゥインは龍語(スゥーム)で咆哮し、その衝撃波で空気がビリビリと震える。

 

 

『その辺で、満足してくれねーか?』

 

 

アルドゥインは驚く。誰かが直接頭に声をかけてきたのだ。

 

他の者が気にしていないところ、アルドゥインだけに話しかけてきているらしい。

 

 

(誰だ!?我に直接問いかける不届き者は!?)

 

 

アルドゥインはゆっくりとあたりを見回す。

 

いた。

 

大きな岩の上にちょこんと座っている……犬が。

 

 

(……貴様か?)

 

 

怒りを一周通り越してなぜか少し笑いそうになった。

 

 

『ああ、そうだよ』

 

(貴様のような、犬が……か。笑わせてくれる!)

 

『ああ、見た目は犬だよ。名はバルバスってんだ』

 

(ふん、名など聞いとらんわ。貴様が名乗っても名乗るつもりはないぞ)

 

『別にいいよ。俺はお前さんのこと知ってるからな。なあ、ワールドイーター(アルドゥイン)

 

(貴様、なぜそれを知っている)

 

 

アルドゥインは別に驚きはしない。世の中広いので一人くらい知っているだろう、という認識だった。

 

(貴様もスカイリムから来たか?それともタムルエルの別の地か?)

 

『まあ、間違っちゃいねーが、お前さんは勘違いしてるな』

 

(なんだと?)

 

『俺も送られて来たとはいえ、半分は自分で来たようなもんだからな。俺はデイドラ王子の友人だよ。まあ、使徒と言った方がいいかな?』

 

(ふん、デイドラか。食えない奴だな。デイドラの女といい、貴様といい、何がしたいのだ)

 

『まあ、俺は興味ないが、ご主人様の意向でな。事を面白くしようってだけだ。逆に、お前さんは何がしたいんだ?』

 

(ふん、デイドラに答える義理などないわ)

 

『おいおい、冷てーな。同じデイドラじゃねえか』

 

(……ふん、いずれ我はデイドラを超える存在になる。今は利用されてやるがな。いずれこの世界を支配し、龍の統治をするつもりだ、とだけ言っておこうか)

 

『へー、龍戦争の前みたいにか。まあ精々頑張りな』

 

(ふん、話はそれだけか)

 

『あーそうそう。ちょいっと今回ばかりはあいつら(伊丹たち)を見逃してやってくれねえかね?あいつら死んじまうとちょいっとご主人様たちが困るんでな』

 

(断る)

 

『だろうな。まあ、無理は言わねえけどさ。でも気をつけろよ、調子に乗り過ぎると痛い目にあうぜ』

 

(ふん、デイドラ如きで我を倒せるとでも?何千年も倒される事なかった我をか?)

 

 

アルドゥインは嘲笑う。

 

 

『忠告はしたぜ……』

 

 

バルバスはそれだけ言い残すと岩を飛び降りてトコトコと歩き去った。

 

 

(ふん、龍の統治はさらなる目的のための布石に過ぎんわ)

 

 

そしてさらに攻撃を続けるのであった。

 

 

***

 

 

「おーい、伊丹生きてるか?」

 

 

加藤が龍による弾幕をなんとか躱しながら伊丹たちの隠れている岩陰にスライドインしてきた。

 

 

「加藤!?お前何しに来てんの?てか入るな!狭っ!」

 

 

元々狭いのにさらに狭くなってしまった。

 

 

「いやあ、伊丹殿羨ましいですな。こんな狭い空間で美少女たちとギュウギュウで」

 

「いや、弾幕のせいでそれどころじゃねえから!だからお前何しに来たんだよ!」

 

「俺の目的はお前だと言ったろ?お前を生かすことだ」

 

「俺だけ帰るのはごめんだからな!」

 

「しゃあねえな。一緒に死んでやるよ」

 

「「えっ!?」」

 

 

そこにいた者全員が引いた。芸術(BL)をこよなく愛するピニャと騎士団の女性陣なら卒倒ものだが、ここにはそのような特殊な方々はいないので皆が耳を疑った。

 

 

「……おい、そんな目で見るじゃねえお前ら。冗談だよ、いや本当に」

 

「……そりゃ良かった」

 

 

伊丹と女性陣が胸をなでおろした。

 

加藤は匍匐で伊丹に近づいた。ゴスロリBB○や魔法少女を下敷きにしていることも気にせず。

 

 

「おい伊丹、よく聞け。これからお前たちをここから脱出させる作戦を開始する。チャンスは一度きりだ」

 

 

そしてその内容を耳元で囁く。

 

 

「加藤、それは危険すぎる……」

 

「ああ、危険だ。それは承知の上だ。だがな、ここにいれば確実にやられる。100%死ぬ。だかな、この作戦はすくなくとも1%は助かる可能性がある。ここにいる全員が生き残る可能性だがな。お前なら、どっちを選ぶべきか分かるよな?」

 

 

伊丹はしばらくの間の後、無言で頷く。

 

 

「俺の時計で3分後に作戦開始だ」

 

 

伊丹は加藤の時計に合わせ、その後テュカたちに急いで内容を伝える。そしてそれが伝令で各地の隠れている場所に伝わる。

 

 

1%は非常に小さな確率である。あくまでも理論上100回やって1回生き延びるという作戦は危険すぎた。

 

しかし伊丹は少しでも可能性が高い方を選んだ。

 

先ほどまで0%だったのが1%に跳ね上がったのだ。

 

もしかしてら100回のうちの1回が最初の1回に来るかもしれない。そう信じて伊丹は時計の針を睨みつけた。

 

 

「主人様、残るはあと隠れている下等生物だけです」

 

「うむ、虫けら一匹生かして帰すな」

 

 

ヨルイナールたちが隠れ岩に近づいた。

 

 

「みんな走れ!」

 

 

伊丹の号令で一斉に岩陰から皆ダッシュした。

 

 

ヨルイナールは一瞬驚いだが、逃げているだけと分かったため、もはや獲物でしかないと確信した。

 

 

(おろかな。やはり人間やエルフなど我々ドラゴンからしたら下等生物でしかなかったか)

 

 

そして急降下で襲いかかる。

 

 

「あっ!」

 

 

テュカがお約束通りこけてしまった。

 

怪我はしてないが恐怖で腰が抜けて立ち上がれなかった。

 

 

「テュカ!」

 

 

伊丹は猛ダッシュから止まってテュカのところへ戻る。

 

 

「伊丹殿!」

 

「あんの馬鹿!」

 

 

ヤオと加藤もそれを見て戻る、そしてそれに気づいたロゥリィ、レレイとラーツも戻り、結局いつものメンバーが遅れをとることになった。

 

 

「テュカ!」

 

「お父さん!」

 

 

テュカは気づいてしまった。

 

炎龍が狙っているのは自分ではなく、自分を助けに来た伊丹だったということを。

 

炎龍の影が伊丹に迫り、その時始めて伊丹も自分が狙われていることに気づいた。

 

もう遅い。

 

伊丹が気づいたのも遅すぎる。

 

伊丹の後に続いたものが対応しても間に合わない。

 

唯一、間に合うとしたら……

 

 

そのとき、スローモーションで動くような景色と同時にテュカの頭にある景色がフラッシュバックした。

 

それは自分が井戸に放り投げられ、最後見上げたときに見た()の健やかな顔。

 

実の父親。

 

その姿が、彼の最期に背後から忍び寄る炎龍の姿が、全てを思い出させた。

 

 

「お父さん!!」

 

 

そう、唯一間に合うのは自分、誰よりも早く気づき、誰よりも早く動ける紛れもなく自分。

 

テュカは頭で判断するよりも速く手元に落ちていたオークの弓と矢を構える。

 

重い。エルフの弓よりも、日本のコンパウンドボウよりも重く、弦の引きも重い。

 

だがそんなのは関係無かった。

 

今自分にしか、やれない、やるべきことをテュカは果たすだけだった。

 

精霊魔法を瞬時に唱え、矢を放つ。

 

風の精霊魔法によって加速され、さらに稲妻も交えてその矢は炎龍の目に吸い込まれていった。

 

 

「!?」

 

 

突然の激痛と視界が狭まったことに炎龍はバランスを崩して地面に落ちた。

 

伊丹は間一髪で炎龍の刃のような爪を避けることとなった。

 

 

「テュカ!大丈夫か!?」

 

「うん……大丈夫。大丈夫なのに……涙が止まらないの……」

 

「そうか……」

 

 

伊丹はテュカが何もかも思い出したのを察した。そしてテュカ頭を自分の胸に寄せて頭と背中を撫でてやった。

 

 

「お二人さん、今そんな場合じゃないから……」

 

 

遅れて駆けつけた仲間たちが何とも言えない視線で二人を見る。

 

 

「そうだったな……はは」

 

 

伊丹は頬をかいてはにかむ表情を見せる。テュカに至っては顔を真っ赤にして手で覆う始末。

 

 

(ちくしょう、ちくしょう……)

 

 

ヨルイナールは失明した目を抑えながら起き上がった。

 

 

(くそ……痛い……あのエルフどっかで見たと思ったら……思い出したぞ、あいつの娘か……)

 

 

ヨルイナールもテュカが誰なのかを思い出した。その時点ではどうでも良い獲物でしかなかったが、思い出してかなりの苛立ちをみせる。

 

 

(そういえば今見えているほうの目はあいつの父親に潰されたのだな……一度死んで再生したときに治ったの幸いか……殺してやる!)

 

 

ヨルイナールは怒りの咆哮を上げると、羽ばたき始めた。

 

そしてまた逃げ始めた獲物を追った。

 

 

「やっべ、逃げろ逃げろ!」

 

 

そしてまたみんなで走る。

 

しかしいくら伊丹たちが坂を下る勢いで走っても所詮は人間の足。炎龍の飛行に勝るわけもなく、すぐに追いつかれる。

 

まだ身体能力の高いロゥリィ、伊丹、加藤、テュカとヤオ、そしてオークたちは良かった。まだ成長途中のレレイが、少し遅れてしまった。

 

 

「レレイ!がんばれ!」

 

 

伊丹が励ますがレレイの身体は悲鳴をあげていた。いつもポーカフェイスのレレイがすごくしんどそうに呼吸しながら走っていた。

 

そしてそれに合わせて皆の速度も遅くなる。

 

 

「イタミ・ヨージ、短い仲だがお別れだ」

 

 

オークのラーツがいきなり伊丹に声をかけた。

 

 

「願わくば、最後にもう一度お前と殴り合いして、ハチミツ酒で乾杯できる仲になりたかったぞ」

 

「え、ちょっとラーツさん?」

 

「では、マラキャス様の加護がお前にもあらんことを」

 

 

そう言い残してラーツは反転した。

 

そしてそれに続いて生き延びたオークたちも闘志をあげて反転する。

 

 

伊丹は彼らの姿を見届けることしかできなかった。

 

 

(許せ!)

 

 

「ドラゴンども、これがオークの真の力だ!」

 

Zun Haal Viik(武装解除)!」

 

 

オークたちは一斉に手に武器を構えて突撃したが、アルドゥインの放ったシャウトによって全員の武器が吹き飛ばされてしまった。

 

「くっ!?」

「しまった!」

「止まるな、行け!」

 

 

素手になっても突撃を止めなかったが、彼らは次の光景で止まらざるを得なかった。

 

 

「あ、兄上……!?」

 

 

ラーツたちは目の前に死んだはずの兄を始めとした生ける死体たちと対面することとなった。

 

空中でホバリングしているアルドゥインを見るとラーツたちを嘲笑うかのように見下していた。

 

 

(我が貴様らの低級魔法を知らぬとでも思っていたか?)

 

 

とでも言ってるかのように。

 

 

「おのれ、アルドゥイン。皆の者かかれ!」

 

 

生者と死者の死の殴り合いが始まり、ヨルイナールはあまり邪魔されることなく突破した。

 

結局、ラーツの決死の防衛戦は無駄に終わった。

 

 

「チキショウ!また来やがった」

 

「伊丹、あと少し、あと少しだ!」

 

「あと少しでなんだ!?支援が来てどうなる!?」

 

「来たぞ!」

 

 

空からSH60(ヘリ)が現れて炎龍に突撃していった。それはもうぶつかりそうな勢いで。

 

突如へんな物が現れてヨルイナールは驚いて後に一瞬引いたため、ギリギリぶつからなかった。と思われた。

 

炎龍は反射的にブレスを吐き、ヘリは緊急回避をとったものの、テールローター付近に当たってしまい、テールローターが壊れた。

 

そしてテールローターを失ったヘリは急速にバランスを崩し、回転しながら山の斜面に激突し、転がっていった。

 

 

「……おい、加藤……墜落したぞ!」

 

「……」

 

 

加藤は無言だった。

 

 

そしてヘリはそのまま転がり、谷落ちた。そして数秒後、大きな音がした。

 

 

「ああ、終わりだ。本当に終わっちまった!」

 

「伊丹たちは逃げて」

 

 

今度はレレイが立ち止まって炎龍と対峙する。

 

 

「レレイ、やめろ!」

 

「私には武器がある」

 

 

そう、レレイが研究に重ねて編み出した魔法。

 

それは物体を爆発によって瞬間的に加速させてぶつける魔法。

 

何を隠そう、ジエイタイの銃や火薬の知識を魔法に変えてみた技である。

 

本来は炎龍がC4によって倒れなかった場合に実験的に使用しようと思っていたが、もう仕方がない。

 

 

「これでくたばれ、トカゲ野郎ども」

 

 

まず周囲の剣、槍、などの武器を魔法によって浮遊させた。

 

そして爆発魔法をあと唱えるだけで発車できる。

 

 

Zun Haal Viik(武装解除)!」

 

 

はずだった。これさえなければ。

 

アルドゥインのシャウトによって浮遊した武器はおろか、レレイの魔法の杖も吹き飛ばされた。

 

 

「嘘……」

 

 

レレイ久し振りに絶望というものを味わった。杖を取りにいって唱え直す余裕などない。

 

それどころか炎龍の爪がもう目の前に見えた。

 

 

「うぐ!?」

「きゃぁぁぁああ!?」

 

 

間一髪、伊丹が身を挺してレレイを庇い、伊丹は横に吹き飛ばされて済んだ。伊丹とリンクしているロゥリィは背中がパックリお開きになって大変なことになっていたが。

 

 

「伊丹!大丈夫!?」

 

 

レレイは伊丹に駆け寄って倒れたいたところを起こす。

 

 

「はは、レレイもそんな顔できるだな」

 

 

レレイは自分がどんな顔しているかわからなかったが、伊丹から見ると涙目で今にも泣きそうな女の子といった表情が見えた。

 

 

「ちょっとぉ、少しは私のことも気にしてほしいわぁ」

 

 

もう既に回復し始めているロゥリィは頰を膨らませていた。

 

 

「ヨルイナール、何を手こずっている。残りはこやつらだけだ」

 

「はい、すぐに片付けます!」

 

 

ヨルイナールは高く舞い、攻撃態勢に入る。

 

 

「くそう、万事休す、か。みんな、ごめん」

 

 

そして皆が目を瞑って覚悟を決めた。

 

 

Joor Zah Frul(ドラゴンレンド)!」

 

 

どこからか放たれたシャウトを受けヨルイナールは地面に急降下し、縫い付けられるようにその場に固定される。

 

もちろん、アルドゥインが放ったものではない。

 

もちろんそこにいる誰もが放ったわけでもない。

 

 

(ドラゴンレンドだと!?まさか……)

 

 

アルドゥインはすぐに生命探知のシャウトを放つ。普段なら放たなくともある程度の気配なら感じ取れる。しかし今回は違った。

 

彼は忘れていた。

 

元の世界(スカイリム)でも隠密(スニーク)に異様に長けている者もいるということを。

 

 

そしてドラゴンの骨や皮で作った鎧と武器をまとった()()()は既に目の前にいた。

 

 

Fus Ro Dah(ゆるぎなき力)!」

 

 

アルドゥインは反射的にシャウトを放つしかし。()()()の左に構えていた異様な形をした盾(デイドラ・アーテュファクト)、『魔法封じ(スペルブレイカー)』によって吸収される。

 

 

「みー、アルドゥイン、お・ひ・さ・し・ぶ・り」

 

 

そいつは刃をヨルイナールに向けると一気に斬りかかる。

 

 

(まお)ぉぉお!」

 

 

加藤が神速の速さで腰の拳銃を構えてそいつに発砲した。

 

 

「ちっ」

 

 

そのおかげで一瞬、ほんの一瞬隙が生まれ、アルドゥインはそいつを体当たりで弾き飛ばし、ヨルイナールに近づいて自身共々に『霊体化』のシャウトをかけ、ヨルイナールの拘束を解く。

 

 

「ヨルイナール、撤退だ。この場を離れろ!」

 

「え、はい!」

 

 

霊体化したヨルイナールが飛び去る。

 

 

「アンヘル、お前もだ」

 

「わかった」

 

 

アンヘルも飛び去った。

 

そして残りの新生龍たちも呼ぼうとしたが、既に遅かった。

 

白骨化していた。

 

これではもう蘇生もできない。

 

 

「く、おのれ!」

 

 

アルドゥインも悔しながらも飛び去る。

 

 

(くそ、ありえん、ありえん、絶対にありえん!奴がここにいるなど。それに……やつは我の知ってるドヴァキン(ドラゴンボーン)ではない)

 

 

そして唐突すぎて何が起きたのかよく理解できないまま伊丹たちはドラゴンが去るのを見ているしかなかった。

 

ただ一人、加藤は辺りを執拗に誰かを探していた。

 

 

***

 

 

なんとか本部と連絡がつき、陸自のチヌークが一機使えることと、そして龍の脅威が無いことが確認できたため、彼らは救出されることとなった。

 

 

生き延びたのは、結局伊丹たちと一部のダークエルフだけだった。

 

今回の代償は大き過ぎた。結果的にテュカの精神衛生も良くなり、龍たちを倒せた。しかし龍はまた復活し、今後の脅威になる結果を生み出した。少なくとも、彼らの活動領域が狭まったことを祈るだけだった。

 

 

通夜状態のヘリの中、伊丹は隣に座る加藤に問いかけた。幸い、ヘリのローター音で周りには聞こえていないし、ほとんどが疲労困憊で眠っていた。

 

 

「まさかと思うが……あれも作戦のうちとか言うなよな」

 

「……あれ?」

 

「ヘリが炎龍にぶつかりに行ったことだよ」

 

「結果的にこうなっただけ。それだけだ」

 

 

伊丹もそれ以上は聞かなかった。

 

加藤は表情には出さないが、部下たちを一気に失って辛いのかもしれない。

 

 

「伊丹、俺のことは気にするな。お前は自分がやるべきことをやれよ。俺は俺でやるべきことをするだけだ」

 

「ああ、そうだな」

 

 

そしてしばらくの沈黙。

次に口を開いたのは加藤だった。

 

 

「やつが、ここに来たな」

 

(マオ)か」

 

「やはり、やつはまた容姿を変えて現れたな。伊丹、このとは俺たちだけの秘密だ」

 

「……別に上に上げるつもりはないけどな。理由を聞いていいか?」

 

「知ってるだろ?」

 

「ああ」

 

「なら聞くな」

 

 

その後、彼らは到着までに終始無言だった。

 

 

***

 

 

「ふう、あの混乱に乗じて逃げだせたのはラッキーだぜ」

 

 

ジゼルはあの数日後、また戻ってきて調査をしていた。

 

 

「しかし、スゲー龍たちだったな。俺の手下に欲しいくらいだ。新生龍失ったのは痛いが、貴重なサンプルが手に入ったからな」

 

 

そして突如現れた大きな気配に、ジゼルは身を隠す。

 

 

「あ、あいつだ。漆黒龍だ!」

 

 

アルドゥインも戻って色々と調査などをしているようだった。

 

いや、魂を吸収しに来ているようだった。

 

 

「兄上……もうそろそろわたしもそちらへ……」

 

「何を戯けたことを言ってる。貴様の魂は我が喰らってやる」

 

「その、声は……ワールド……イーター……嫌だ、止めろ……やめろ!」

 

 

最期を悟った瀕死のラーツがそう囁いたが、彼女はアルドゥインの言葉によってどん底の地獄に落とされることになった。

 

そして彼女の魂は無情にもアルドゥインに取り込まれてしまう。

 

 

「やべーぜ、まじでやべーぜ。これが主神様が言ってた『厄災』ってやつか?早い所報告しないと……」

 

「そこでこそこそしておる不届き者、出てこい。さもなくば、後悔するぞ」

 

(やっべ、見つかっていた!?ここはすぐに逃げるのが……)

 

Joor Zah Frul (ドラゴンレンド)!」

 

「ギャァァァアアア!?動けない、なんで!?」

 

「ふむ、ドヴァ(ドラゴン)もどきと思ってたが、効くのか。まあ良い、貴様には酷い目にあってもらおう」

 

「やめろー!てめえ何する気だ!?」

 

「まずは我について来て全て洗いざらい吐いてもらおうか全部な」

 

「全部!?そんな、多すぎるぜ!」

 

「不届き者よ、時間はたっぷりとあるぞ。たっぷりとな」




まだ終わりじゃないぞ、もうちょっとだけ続くんじゃ。

次回から第4章。

それにしても、ジゼルとラスティ・アルゴニアンごっこしたいですなあ。


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戦乱編
日本語は難しい


皆さまお久しぶりでございます。

恒例の新章スタートのおふざけ回です(伏線はあり)。

こんな駄作者のわがままをお許しください。


 

何もかもが一気に起こりすぎた。

 

巨龍の出現、迎撃、消滅。伊丹たちによる炎龍討伐、復活、龍の軍団の発生、そして謎の人物(国際テロリスト、『(マオ)』と推定)の出現と龍たちの撤退。

 

これは全て10日以内に起きた物であった。他にも、これに伴ってアルヌスの施設の一部損傷、海自のヘリの墜落に伴う行方不明者の発生など、日本政府にとって悩ましいどころではない爆弾的な事案が立て続けに起きていた。

 

この事実が公表されれば大変なことになるのは目に見えている。メディアに晒され、偏向報道も追加、世論の変化、国際的避難などなど。

 

 

「どうしましょうかね、ほんと」

 

 

会議室で総理がポツリと呟く。しかし誰も返答しない。

 

 

「外部に漏れるのも時間の問題ですな。何か、いい案はないもんかね、統幕長?」

 

 

防衛大臣は統合幕僚長に意見を求める。

 

 

「わしが統合幕僚長、江田島平八である!」

 

 

いや、知ってるよと周りは思ったが誰もそんなことを言わなかった。

 

どうもこのハゲ髪の薄い厳つい男性は、『エタジマが10人ほど先の大戦にいたならばアメリカは負けていた』などととんでもない噂が付いているのだとか。

 

 

「わしならば、部下を信じてやること、それが一番のことだと信じておる!何かあればワシが自らの腹を掻っ捌いて責任とってやるわ!」

 

 

なんだか一人だけ先の大戦から来たような雰囲気だった。

 

 

「エフッ、エフッ、エフッ」

 

 

そして変な独特な笑い声が聞こえる

 

 

「俺があと10年若くて、こんな役職(陸幕長)に就いていなかったら今からでも特地に殴り込みに行くんだけどよお」

 

 

と陸自代表の範馬陸幕長が言い放つ。色黒で身体どころか顔にも筋肉がつきすぎて、いかにも陸自っぽい……を超えてすでに人外であった。

というか恐い。誰しもがそう思った。

 

どうもこの人もいろいろとやばい噂があるが、ありすぎてやばいらしい。

 

 

「ここでの痛みは一瞬。だがここで後退した時の痛みは一生残る」

 

 

と航空幕僚長が資料から目を離して言う。この人は至って普通……な訳なかった。

 

名を霞拳四郎といい、すごい筋肉質でこの人も黒い噂が絶たない。そのため、スマートなイメージの空自の制服が胸筋によってパッツンパッツンという誰得状態だった。

 

 

「奴らに明日を生きる資格は無い!」

 

「エフッ、エフッ!」

 

「わしが江田島平八である!」

 

 

日本お得意の進まない議論は今日も行われる。

 

ただ、この場にいたほとんどの者が決して口にはしなかったが、同じ認識であったものがある。

 

 

(((ひょっとして、この3人特地に送ったら万事解決すんじゃね?)))

 

 

そんなこと誰も言えるはずもなく、今日も日本政府の苦悩は続く。

 

 

そしてそんな状況を見ていた海幕長は一言こうつぶやいた。

 

 

「……やれやれだぜ」

 

 

***

 

 

一方、特地もいろいろと大変だった。特に伊丹が。

 

あの救出から到着するととんでもないでかさの龍の骸骨が広場に集められていたのをまず目撃した。

 

そして事情を聴くと巨龍(ラオシャンロン)によって自衛隊がそこそこの被害を受けたこと。それに向けて復旧中でそろそろ終わりそうなことを伝えられる。

 

その他、勝手に単独行動を取ったということで規律違反を起こしたため、定職2週間と減給1カ月。加えて第3偵察隊の隊長を解任されるという処分が下される。

 

妥当だな、と伊丹が思っていた矢先、なぜか日本人拉致被害者救出に貢献したとして防衛大臣から一級賞詞が届くという状態に。加えてどう勘違いされたのか、龍たちを追い払ったということで特地の各地域の代表からお礼の品々を頂戴することになっていた。

 

 

(……俺が追い払ったというか逃げたと言った方が正しいけど……)

 

 

そんなことを思いつつ。数々の品を受け取るのだ。そりゃ豪華な財宝やらどでかいダイヤモンドやら羊皮紙には貴族に認定されるや挙句にはヤオの持ち主証みたいなものも渡される。

 

そして最後に狭間陸将より特地資源状況調査担当に任命されてしまった。

どうやら単独で現地民と共に地域の調査に当たることのできるんだとか。

 

 

というわけで、停職が解けたあかつきにはそちらの任務がメインになるそうだ。

 

仕方がないのでこの2週間は本土に戻って色々とやるべきことをやろうと思った。疎遠だった実の母親に会いに行くことをテュカたちに約束もされてしまったので。

 

というわけでなんやかんや2週間が過ぎ、何とか穏便に特地に戻る伊丹たち。

 

特に何も問題なく勤務が始まる、そう思っていた時期が伊丹にもあった。

 

 

「何が起きてんだ?」

 

 

門をくぐるとなんだかすごい数の人がいた。陸海空自、背広の皆さん、特地の人々。ピニャたちの騎士団もいてちょっとしたお祭り状態である。

 

というかお祭りだ。縁日ぽいものがある。こう見るとうさ耳や猫耳、狼頭の店員が縁日やってるのを見ると意外と面白い。

 

 

「どうせ今日は早めに帰って来て、仕事ないし、見て行くか」

 

「「「さんせー」」」

 

 

見た目は日本の祭の縁日みたいだが、これはこれでなかなか興味深い。日本では絶対売ってないようなものも売ってるからだ。

 

 

「魔術師とお見受け致しました。こちらはどうです?」

 

「何でも売るぞ、友よ。何でもだ!姉妹がいたならばそれも売るぞ。なんなら君の身内も買うぞ!」

 

 

あちこちの屋台で物売りが客を集めたり、交渉していた。

さらっと人身売買みたいな発言が聞こえたが、きっと冗談だろう、伊丹は聞こえてない振りした。

 

どのみち、警務隊がしっかりしてるのでまさか本当にそんなことはないと思うが。

 

 

少し行くと騎士団の中に身分を隠し(きれてないが)て訪問しに来ていたピニャたちに出会った。

 

 

「伊丹殿、猊下、お久しゅう」

 

「ピニャ殿下、お久しぶりですね。それにしてもすごい人数だな。何かあるのですかね?」

 

「伊丹殿は聞いておらんのか?妾は本日ここで祭などが行われているので招待を受けたのだが」

 

「そうでしたか。本部からですかね?」

 

「いや、カトーとかいう者から招待の手紙を受けたのだが」

 

「カトー先生?」

 

「多分違う。伊丹の友人のカトウのことだと思う」

 

 

レレイが伊丹に言う。

 

それを聞いた伊丹は早速嫌な予感がした。

 

 

「あの、殿下……その手紙、何か他に書いてありませんでしたかね?」

 

「うむ、色々と行事があるので是非騎士団の皆様をご招待したいと。女性大歓迎とな」

 

「あちゃー」

 

 

絶対ヤツ(加藤)はろくなこと考えてないと確信した。

 

 

「そろそろ妾も行事に参加しなければなるまい。伊丹殿、失礼する」

 

 

そう言ってピニャ一同と別れる。

 

 

「……」

 

「どうしたのお父さん?」

 

 

難しい顔をしている伊丹にテュカが心配そうに尋ねる。

 

 

「姫さんたちが心配だ。よし、俺たちも行こう!」

 

 

そして跡をついて行くと、広場に行くつく。多くの自衛官と現地人が入り混じっていた。

ただ、妙なことに自衛官はほとんど男性で、現地人は逆に女性(女性獣人含む)ばかりであった。

 

 

『えー皆様こんにちは。私、司会の加藤と申します。本日は日本及び特地との親睦を深めるため、合コ……ゲフンゲフン、失礼しました。交流会を行いたいと思います』

 

 

そして会場から拍手が湧き上がる。

 

その様子を遠くから伊丹たちが伺う。

 

 

「あいつさらっと合コンとか言いそうになってやがった。これが目的かよ……」

 

「伊丹、合コンって何?」

 

「レレイ、後で教えるから……」

 

 

そんなわけで、伊丹はジト目で静観していたが、妙なことに気づいた。

 

自衛官サイドはスーツや礼服であるが、特地サイドで、特にピニャたちの騎士団は、皆甲冑ないし戦闘服装であった。

 

司会(加藤)の方を見ると、彼も気づいているらしく、難しい顔をしていた。

 

 

『ええ、ではまず最初のイベント、舞踏会を始めようと思います』

 

 

いわゆるダンスパーティーでも始めるつもりだったのだろう。しかし特地人からの声は予想外のものだった。

 

 

「よし、武闘会とな!妾騎士団の日々の成果を男どもに見せてやろう!」

 

「そうですわね姫さま。彼らはいつもと違う服装ですが、あれも一種の戦闘服でしょうね」

 

「あら、体つきの良い戦士がいましてよ。さて実力はいかがです?」

 

 

それらを聞いた伊丹と加藤は察した。

 

ここにいる自衛官たちは、やられると。

 

 

(うう……どうしてこうなった。おいちょっと待て、何人か本物の剣抜いてねえか?ひょっとして、あのときかなあ……)

 

 

***

 

 

数日前

 

 

「ああー暇だー、上司と部下が消えて暇だー」

 

 

加藤がポツンと勤務部屋で一人寂しくソファに座っていた。

 

 

「そういや近々交流行事でもあったなあ。帝国側のVIPのピニャ殿下も招待しとくかな。まあ舞踏会やればいいだろ。男性隊員を引き連れて合コンすればよいのだ」

 

 

そうしてよからぬことを企てながら簡単に手紙の内容を日本語で下書きする。

 

 

「こちらの作法とかまだわからねえから殿下の部下の日本語研修生に渡せばいいだろう。そして清書して貰えばいいや」

 

 

そして部屋を出て研修生の隊舎に行く。

 

 

「これは教官殿、何か御用ですか?」

 

「あ、ボーゼスさん。ちょうど良かった。近々交流会があるのでピニャ殿下もお呼びしようと思いましてね。この日本語の手紙をそちらの礼法に従って書きたいのですがよく分からなくて。お願いしてよろしいですか?」

 

「もちろんですわ。今日中に仕上げて送り致しますわ」

 

「ありがたい。よろしくお願いします」

 

 

そしてボーゼスは正式な手紙として清書し始めたが、やはり日本語から訳するにあたりまだ慣れていないようである。

 

 

「困りましたわ。この『ブトウカイ』の意味がよくわかりません……図書館で調べてみましょう」

 

 

そして図書館に行くとたまたま亜神栗林がいた。

 

 

「あ、ボーゼスさん」

 

「これは栗林さん。ご機嫌麗しゅう」

 

「どうして図書館に?」

 

「ちょっと日本語で分からないことがあったので調べ物に……この『ブトウカイ』という言葉が」

 

「ああ、それならきっと『武闘会』ですよ」

 

「武闘会?」

 

「武芸、格闘技、戦闘技を披露したり競い合う会ですね。ほら、あの漫画読んでもらったら大体どんなのか分かりますよ」

 

 

そして栗林は某、龍の玉を7つ集める漫画を見せる。

 

 

「なるほど、参考になりましたわ。このご恩はいずれお返し致しますわ」

 

 

そして後ほど完成した手紙がピニャの手に届くのはほんの数日後であった。

 

 

***

 

 

(うう……この状況をどう打開すればいい……落ち着くんだ、素数を数えて落ち着くんだ……2、3、5……)

 

 

そのように内心汗ダラダラ状態の友人(加藤)見ながら少しかわいそうと思いつつザマアミロと笑う伊丹。

 

 

「あ、隊長。違った、元隊長!」

 

「栗林じゃないか、久しぶりだな。でも元隊長って何か傷つくなあ……」

 

 

伊丹は第3偵察隊隊長の任を解かれたことを痛感する。

 

 

「そんなこといいじゃないですか。ところで、何してるんですか?」

 

「いや、中どうなってるかなと思って」

 

「武闘会やるみたいですよ。私も参加しようと思って。なんだか私ワクワクしてきました!」

 

「そだねー」

 

 

伊丹は棒読み返事した。

 

ここで伊丹はふと思った。

 

コイツ(栗林)が突入すれば火に油どころか火薬をぶっかけることになるが、一つ試してみるかと。

 

 

「栗林、あそこの司会いるだろう?あいつこの前言った加藤3佐なんだけど、特殊部隊の隊長やってたらか、強いよ。多分」

 

 

それを聞いた栗林の目が変わる。

 

先ほど散歩に行ける犬のようなルンルンとした目から獲物を狙う狼のような目つきに。

 

 

「あの人ですね!?最近特戦の皆さん倒して物足りないのでちょうどいいと思っていたんですよ。ありがとうございます!」

 

 

そして突入する。

 

 

「たのもー!加藤3佐、手合わせ願います!」

 

「103、107、109……へ!?」

 

 

どっかで見たような童顔巨乳が空手道着(黒帯)に右手に木銃(銃剣道用の銃)を携えて門を蹴り破って来た。

 

 

そして有無を言わさず突っ込んで来た。

 

木銃の矛先が加藤の頰を掠る。

 

そして頰の刃物で切られたかのように浅い切り傷から血が滲み出す。

 

 

(躱せた?いや、それとも外したの!?)

 

 

ゆっくりと視線を上に向けるとそこには飢えた獣(栗林)がテーブルに乗っかって見下すように矛先を獲物(加藤)の喉元に突きつけた。

 

 

(やっべ、まじでやっべえ……)

 

 

しかし顔には一切出さなかった。そして軽く微笑むとマイクを握りなおした。

 

 

『ここで予定の変更を行います。男性の皆様は速やかに礼服から()()()に着替えてください。これより、舞踏会を改め『特地一武闘会』を開催します。……総員、戦闘用意!」

 

 

その後は、見るに耐えないカオスな状態となった。

 

 

***

 

 

しばらくして、無事(?)に行事が終了した。怪我人が出なかったのが奇跡であった。

 

そして加藤の思惑通り(?)、特地人たちとの濃厚な交流ができ、親睦を深めることができた。

 

 

「これが欲しいのね?欲しいと言いなさい卑しい犬ども!」

「「はい、愛のムチをくださいませ、お嬢様ぁっ!!」」

 

「ふっ、おめーやるじゃねーか。俺はケンジってんだ。おめーは?」

「ふっ、俺はユウトだ。いい拳してんぜ」

「ほら立てるか?俺の手に捕まりな」

 

「お姉様、これが漢の友情ってものですわね。ハァ、ハァ」

「ええ、これも素晴らしい芸術ですわ。ハァ、ハァ」

「羨ましいですわ。ハァ、ハァ」

 

「な、何ですのその光る黒い小箱は?」

「いやぁ、すまない。僕はカメラが趣味でね、野鳥専門なので断ったためしがないんだよ!」

 

「そんなに……僕の力が見たいのか……そんなに見せつけてくる……君たちが悪いんだ!」

「キャァーー!?どこ触ってますのー!?」

「おい誰かこのバカを会場から叩き出せ!」

 

 

(どうしてこうなった……)

 

 

加藤はその結果を見て顔を覆いたくなった。

 

 

「ドンマイドンマイ」

 

 

伊丹がニヤニヤしながら加藤の背中を叩く。

 

 

「お前見ていたのか。助けてくれても良かったんじゃないの?」

 

「まあ、俺も来たばかりだし(嘘)」

 

「……そうかい。あ、ピニャ殿下。大変恥ずかしいところをお見せしました」

 

「ん?いや、妾は中々良かったと思うぞ。久々にいい武闘交流もできたし、何より芸術も官能できたからな」

 

「はい?」

 

「あのジュードやらレスリングという格技は非常に良かった。特に地面における攻防が。そして屈強なな漢どもが絡み合い……しかしリサどのの芸術には及ばんが」

 

「「……」」

 

 

ピニャの鼻息が少し荒くなる。

 

ひょっとしたら日本の格技たる柔道や、世界の格技の代表のレスリングにとんでもない誤解を与えてしまったのかめしれないと思う伊丹と加藤。

 

 

「む?どうしたのだ。それはそうと、まだイベントが残っていると聞いていたが」

 

「ああ、そうでしたね。夜には花火大会もありますが、時間があるのでしばらくあちこちの展示物でも見に行きますか」

 

「花火?よくわからんが楽しみだな。うむ、では展示物で時間を潰すとしよう」

 

「では、伊丹エスコートよろしく。俺はここの片付けと花火の準備あるから」

 

「わかった。暇だしやっとく」

 

 

そして加藤は去って行く。

 

 

「では殿下、行きますか」

 

「うむ、よろしく頼むぞ」

 

「元隊長〜!」

 

「あれ?栗林、どうした」

 

「加藤さんはどこです?」

 

「仕事に戻ったけど」

 

「うーん、残念。あの人すごいですね、私の攻撃を全て躱して、しかも見失わせるなんて、初めてですよ!」

 

「あ……」

 

 

そのとき伊丹は思った。恐らく加藤はその場を凌げば何とかなるだろうと思ってやったのだろうと。しかしそれが逆効果みたいだった。

今になって自分が栗林をけしかけたことに罪悪感を感じていた。

 

 

「へえ、しらなかったわぁ。私も試してみようかしらぁ?」

 

「いいですね、ぜひぜひ」

 

 

もっとやばいやつ(ロゥリィ)に栗林が賛同するのを見て、伊丹は静かに呟いた。

 

 

「友よ、安らかに眠れ……」

 

 

***

 

 

「な、なんということだ……」

 

 

ピニャは広場に展示されている巨龍(ラオシャンロン)の残骸を見て驚きを隠せなかった。

 

 

「こ、これはそなたたちジエイタイがやったのか!?」

 

「ちょっと俺はいなかったらので答えかねますが、恐らくそうなのかもしれない」

 

 

正直、謎の巨龍の残骸を見たのは伊丹も初めてである。ヘリから見たこいつが骨になったのをみると、本当にゴジラみたいだなあと思うのであった。

 

 

(うむむ……ジエイタイの力がここまでだったとは。想像以上だ……)

 

 

そんなことを思っていたところ、お知らせのアナウンスが入る。

 

 

『本日は、起こしいただきありがとうございます。この後の最終イベントの花火大会ですが、天候が荒れる予定のため、中止となりました。誠に申し訳ありません』

 

 

そして周りからブーイングが起こる。

 

 

「あらま、残念」

 

 

伊丹たちも皆残念そうにしていたが、雨が降ると聞いて速やかに屋内に避難することにした。

 

先ほどの会場が大分片付いたのでそこに決め、ついてしばらくして大雨となった。

 

 

「ふう、間一髪だな」

 

「よぉ伊丹、また来たか」

 

「よお加藤、お疲れ」

 

「それにしても残念だねえ。自然現象だから仕方ないか」

 

「加藤殿ではないか。今日は改め、楽しめたぞ。妾を招待してくれたことに感謝する」

 

「お褒めの言葉ありがたく頂戴致します。今回、最後のイベントを催すことができなかったお詫びとして、こちらの展示物を贈呈致したいと思います」

 

 

そして加藤は展示ケース日本の武者風の甲冑を見せる。

 

 

「こ、これは?」

 

「例の巨龍の鱗などの残骸を用いて、こちらで働いているドワーフに日本式の甲冑をモチーフに作らせたものです」

 

 

よく見てみると、日本の甲冑に非常にに似ているが所々鉄の代わりに鱗などが使われていて、異なるものであることが分かる。

 

「良いのか、こんな高価なものを?」

 

「これも友好の証としてお受け取りください」

 

「……感謝する!」

 

 

***

 

 

「姫さん喜んでたなー」

 

「そうだなー」

 

 

一通り行事を終えて休憩所でくつろぐ二人。

 

 

「お前、あの甲冑タダ同然で作ったろ?」

 

「バレた?」

 

 

加藤はニヤリと笑う。

 

 

「お前が高価なもんそう売るわけもないし、お偉いさんが許可もするわけないし」

 

「まあ、研究用の余りをドワーフのオッチャンに持って行ったら『こりゃ腕がなるわい』とか言ってタダで作ってくれたんだわ。一応展示していたけど、終わったら使い所なかったから有効利用したわけ」

 

「ずる賢いなあ」

 

「はは、褒めても何も出ねーよ」

 

 

そしてしばらくの沈黙。

 

 

「それにしても、お前は強いな」

 

「ん?なんで?」

 

「お前の部下と上司、消えちまったんだろ?行方不明になって、もしかしたら死んじまったんじゃねえのかとか、思わないのかな、って」

 

「……」

 

「悪い、変なことを聞いた」

 

「いや、別に気にしてない。この階級になるとな、そんなことも受け入れないといけないんだろうなともう覚悟は、できてるよ。それに、まだ死んだと断定されてないしな」

 

 

そして薄笑いを浮かべる。

 

しばらくするとドアがノックされる。

 

 

「俺が出よう」

 

 

加藤は重い腰を上げてドアを開けるとギョッとした。目の前に先ほど自分に宣戦布告した女性隊員(栗林)がいた。

 

 

「あ、もしかして伊丹2尉に用件かな?今呼んで……」

 

 

加藤は振り向いて呼ぼうとすると上衣の裾を軽く引っ張られる感じがした。

 

 

「違うんです」

 

 

そしてモジモジして下を向く。

 

 

「加藤さん……今晩……つ、()()()()()ください!」

 

 

栗林は普段絶対見せないような上目遣いで声を振り絞った。

 

 

(え、どなた!?何この可愛い生き物!?)

 

 

それを後ろから見ていた伊丹は合掌する。

 

そして加藤は後にこう語った。あれは子猫の皮を履いたヒグマだったと。

 

 

***

 

 

実は特地広域で降っている雷雨は、自然現象ではなかった。

 

 

「うぬぅ……おのれ!」

 

 

Strun Bah Qo(ストーム・コール)

 

 

 

アルドゥインが怒りのあまり発してしまったシャウトが原因だったりする。

 

あまりにも能力が高すぎるため、範囲は広域で、その雷雨も嵐のレベルに達していた。

 

 

ヨルイナールとアンヘルもあまりにも威力が高すぎるため、誤爆を恐れて岩陰でじっとしていた。

 

 

そして雷がアルドゥインの目の前に落ちる。

 

 

「プギャァァアアーー!!?……うぐぅ……」

 

 

真っ黒に炭化したそれはしばらくすると元の姿に戻った。ハーディの使徒、ジゼルである。

 

 

ジゼルは漆黒龍(アルドゥイン)に囚われて数日間。様々な尋問と言う名の拷問を受けた。

 

ある時はとにかく肉体的に苦しめられた。刻まれたり、焼かれたり、凍らされたり。

 

ある時は精神的に。ひたすら槍(※普通の武器の槍ですが何か?)を磨かされたり。その槍で的にされたり。

 

魂の一部を魂縛されてその一部の魂を散々拷問して返された時には肉体的にも精神的にも激痛が走った。

 

そして何よりも一番ジゼルにとって恐ろしかったのは『不死を奪われる』ことであった。

 

数百年不死を疑わなかったがまさか神以外で『死』を操れる者がいたとは思う訳もなく、奪われて半殺しにされたときは本当に発狂するかと思ったほどである。

 

そして今、半分運任せのように落雷で拷問されていた。

 

強力な魔法で腕を拘束され、座ることも直立することもできない姿勢で散々痛めつけられた結果、既に衣服は無くなり、身体の全てが露わになっていた。

 

これがもし人間相手ならこのような楽しみ方もあるので早々に殺すことはない。

 

しかし相手が得体の知れないドラゴンであるため、そんなジゼルの身体になど興味があるはずもない。機嫌一つで本当に殺してしまうだろう。

 

 

(おのれおのれおのれおのれおのれおのれおのれおのれおのれ!こいつからも大した情報は無かった!分かったのはこの世界の神々の事情だけだ!)

 

 

アルドゥインはかなりイライラしていた。それは彼が焦っていたことも原因であった。

 

 

「アルドゥインよ、少しお主も落ち着いたらどう……」

 

Nahlot(うるさい)!」

 

 

あまりにも苛立っていたためシャウトが素で出てしまう。

 

そしてアンヘルは喉を絞められた感覚に襲われて咳き込む。

 

 

(くそっ!やつは一体なんなんだ……本当になんなんだ!)

 

 

やつ

 

それは彼が先日遭遇したある人物と非常によく似た、猫風の人物。

 

そいつは、シャウトを()のように放った。

 

 

そう、龍の魂を持つ者(ドヴァキン)

 

だが非常に似ているだけであって、アルドゥインが知っているドヴァキンではない。

 

正確には、ドヴァキンはたくさん知っている。龍に忠誠を誓ったドラゴンプリーストにもいたし、龍を裏切ったイカみたいなドヴァキンもいた。

 

しかし、アルドゥインの知っている()は違う。アルドゥインにトドメを刺した()だけは違った。別格なのだ。

 

唯一その強さを認めたドヴァキンである。

 

それなのに……

 

 

(あの化け物は……一体何なんだ!)

 

 

そう、奴も同じドヴァキンなのは疑いようがない。しかし魂の性質が違う。

 

そしてなによりも()()()()魂を感じた。正直今の強化された自分でも勝てる気がしなかった。

 

 

そしてしばらくすると嵐も止むと、ヨルイナールたちもそろそろと出てきた。

 

 

「主人様、一つよろしいでしょうか?」

 

「なんだ?」

 

 

アルドゥインの睨みに一瞬ビビるが、ヨルイナールは続けた。

 

 

「このような不届き者に時間を費やすのは勿体ないと思います。ここはまず、我々の戦力を高めるためにも主人様は各地のドラゴンたちを呼びかけるのはどうでしょうか?」

 

「……ふむ、最もだ。よろしい、我はこれより戦力補充のために各地を回る。アンヘル、お前は各地のジョールを監視しておけ。そしてヨルイナール、お前はその不届き者を教育しておけ」

 

 

そう言い残すとアルドゥインは空高く舞って行った。

 

 

「……ふん、お主は随分と奴のお気に入りのようだな」

 

 

アンヘルは吐き捨てるように言う。

 

 

「お前の方こそ、早く素直に主人様を受け入れたらどうだ」

 

 

ヨルイナールが鼻で笑って言い返す。

 

 

「す、素直だと!?我はこれが素だ!」

 

「どうかね?早くお前も仕事に行け」

 

 

アンヘルは何か恨めしそうにヨルイナールを見ると飛び立つ。

 

 

「さて、あんたには色々とお礼がしたくてね……先ずは私の子供たちの礼でもしようか?」

 

「うう……」

 

 

ジゼルは力なく答えるだけだった。

 

 

***

 

 

迂闊だった。それとも有頂天になって油断したと言うべきか。

 

そりゃあんなパフパフできそうな胸をした童顔巨乳の女子がね、上目遣いでおつきあいを願いされたら、誰だって落ちるよ。

 

下心が無かったって言えば嘘になる。

 

そりゃお互い立派な成人ですからね、僕だってそりゃ少しは期待しちゃいますよ、男の子(?)ですから。

 

でもこれはひどいですよ。天罰ですか?僕何か悪いことしましたか?

 

そんな風に考えていた時期が僕にもありました。

 

 

「さて、加藤さん。今晩はよろしくお願いします!」

 

「……」

 

「あれ、どうしましたか?もしかして緊張してます?」

 

「……」

 

「大丈夫ですよ。気楽にやればいいんですから。今晩は寝かせませんよ!」

 

「……」

 

 

加藤は思った。女の子と二人きり。これからいろいろと楽しいことが起こるんだろうな、と。

 

 

「ではよろしくお願いします!ではお()()()()()しましょう!」

 

 

場所が道場でなければ。そして道着でなければ。

 

 

(神道の神様、仏教の神様、キリスト教の神様、イスラム教の神様、ユダヤ教の神様、ヒンドゥー教の神様、とにかく神様お助けえ!)

 

 

これが彼のその夜の最後の心の叫びとなった。




え、やばい人達が混ざってるって?
気にすんな、同姓同名だよ、きっと。それかパラレルワールド。
……やりたかっただけです、作者の妄想シリーズ。

(基本出すのは名前だけです。本編に出したら、ストーリー速攻で終わるからね)

あと、ジゼルがどんな姿勢になってるか気になる方は『F●te 、セイバー、くっころ』で画像検索すれば一番最初に出るよ!(駄作者はこれをイメージしております)


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あいつがいればこいつもいる

お久しぶりでございます。
最近忙しくて駄作者にさらに駄目っぷりが磨きがかかってしまっております。
必ずこの作品は完成させるつもりですので、ご安心ください。


 

 

「なになに、空母型護衛艦いぶき、就役か……」

 

 

なぜか顔のあちこちにアザや絆創膏がはってある加藤が新聞の見出しにでかでかと掲載される内容を読んでいた。

 

休憩室なのだが、周りの幹部は「一体何が起きたんだ……」と思いながらも敢えて触れなかった。事情は神と伊丹のみぞ知る。

 

 

『全幹部は至急作戦室に集合せよ』

 

 

そこにいた幹部たちはやれやれと思いながら作戦室に向かう。

 

 

「加藤……昨晩は大変だったな」

 

 

途中で遭遇した伊丹が同情の目で、片目はパンダみたいに黒くなり、あちこち絆創膏を貼っている加藤を見た。

 

 

「全くだよ。目覚めたら道場の天井だったからな。でも、少し楽しかったかな」

 

「へ?」

 

「腕十字を極められそうになった時の腕でがパフパフされるところとか。窒息しかけたけど押さえ込みで何か柔らかいものに潰されたときは、何故か安心感があってだな。そのまま意識がすぅーっと……」

 

「……ただのマゾじゃねえか。何なら楽しかったって伝えといてやるけど」

 

「やめて、次は死ぬから、ほぼ確実に」

 

「そりゃそうと、幹部たちが集められているけどどうしたかわかるか?」

 

「大方、また(市ヶ谷)が方式かえたんだろう。全くこっちの身にもなれってんだ」

 

 

そうして作戦室に入ったが、いつもより雰囲気がすごく重かった。

 

通夜モードどころではなかった。

 

そして全員が揃い、狭間陸将が重い雰囲気で口を開いた。

 

 

「諸君、緊急事態だ……」

 

 

***

 

 

緊急会議が終わり、虚ろな目の幹部自衛官たちが、ゾロゾロと出てきた。無論、伊丹たちの目からも光が消えていた。

 

そして二人は更衣室で戦闘服に変える。

 

 

「とうとうこの日が来たな……」

 

「ああ、まさか特地だとな。戦闘地域だから薬莢は拾わなくてもいいし、武器が壊れても仕方がないで済んだのに……」

 

「よりによって官品捜索を行うこととなるとは……」

 

「一体誰だ巨龍の骨を官品に登録した奴は!?」

 

 

 

原因は展示してあった巨龍の頭骨が忽然と姿を消したことだ。

 

警備していなかったわけではない。

 

しかし陸自のヘリ数機で吊るしてやっと運べる代物を、陸自以外が運び出す可能性は皆無と考えていた。

だから、ちょっとだけ油断していたといえば油断したわけである。

 

しかも追い打ちをかけるように、官品登録してしまったがために捜索をせざるを得なくなったわけだ。

 

そんなわけでこの日一日中皆捜索に駆り出されたわけだが、見つかることはなかった。

 

 

***

 

 

「あれは……何なんでしょうね」

 

 

目の前の青年がふと呟く。そして軽く溜息をつくと、話を続けた。

 

 

「あれは僕が渓谷でいつも通り仕事をしようとしていたときです。ええ、ホント偶然だと思うんですけどね」

 

 

青年はどこが年相応らしからぬ落ち着きがあった。

 

 

「妙に落ち着きすぎじゃないかって?そりゃ貴方、()()()()()を見てさしまったら誰だってこうなりますよ。

何をだって?

信じて貰えるかわからないですけど……そうですね、あれは超巨大なヤドカリ、ですかね」

 

 

そしてこちらからいくつか質問すると、青年は鼻で笑った。

 

 

「……いや、失敬。貴方たち緑の人の質問からも、私の言ってることが信じられないことが丸わかりですよ。貴方たちは理解していない。

超巨大って、せいぜい1、2メートルぐらいのヤドカリと思ってるでしょう?

常識にとらわれちゃいけませんよ。

……そうですね、20mぐらいですかね」

 

 

そして青年はこちらの反応を見て薄ら笑いをわずかに浮かべた。

 

 

「そしてそれが立ち上がった時は30mぐらいになりましたかね。ホントびっくりしましたよ。

え?肝心な巨龍の頭骨はいつ話してくれるって?

そう言えばいい忘れましたね。先ほどヤドカリと言いましたよね。そう、そいつがその頭骨を宿にしていたんですよ。あんなの被るくらいですから、大きさ想像できますよね?」

 

 

青年はそこまで言うとどこか満足気味であった。

 

 

「そして、肝心なその後の行方何ですが……」

 

 

突如笑みが消える。

 

 

「消えたんです」

 

 

青年はまた溜息をつく。

 

 

「ええ、ここまで話してですが……本当に消えたんです」

 

 

しかし青年は何か隠しているのか、それとも怯えているのか、目が泳いでおり、冷や汗もじんわりと肌から滲み出て来た。

 

 

「正確には、大きな衝撃と共に、消えたんですけどね……気づいたら私は気を失っていて、そのヤドカリは消えていたんです……これで、話は全てです」

 

 

これが、後ほど行われた巨龍の頭骨の行方に関する最も有効な情報の聞き取りであった。

 

 

***

 

 

正確には、以下のような現象が起きたのだ。

 

 

「うむ、勢力拡大のため飛び出したのはよいが、計画はしておらんな。まずは巨龍の骸の行方を探すとするか」

 

 

あれほどの巨体だからすぐに見つかるだろうと 楽観視していたアルドゥインだが、思ったほどすぐには見つからなかった。

 

おまけに魂が消えてしまってるので龍の気配も感じられない。

 

 

「おのれドヴァキンらしき奴め、巨龍の魂も喰らいおったか……」

 

 

そうでも考えないと説明がつかない。あれほど大きな魂が消えたのだ。自らが蘇生させる前ですら魂の痕跡があったというのに。

 

 

そして数日後、そろそろ諦めようかと思ったところにそやつは現れた、かなり変わった形になったが。

 

 

「なんなのだ、あれは!?」

 

 

アルドゥインは驚いた。空高くからやっと見つけたと思ったら頭骨が動いたのだ。頭骨だけで。

 

というのは見間違いで、よくよく観察したらでかい生物が背負って運んでいただけであった。

 

 

「……なんだあのどでかい泥にいるジョール(マッドクラブ)みたいなやつは」

 

 

所詮見た目は蟹なのでアルドゥインは冷静さを取り戻した。

 

 

「しかしなんたる不届きもの。我の同胞の骸を身に纏うとはな。我が成敗してくれよう」

 

 

そう奮い立ったアルドゥインは急降下して近づいた。

 

しかし、その巨大蟹に先に感づかれると共に、背負ってる頭骨を向けられる。

 

 

「ふん、所詮は蟹の知能よ!その程度で我の攻撃が耐えられるとでも……」

 

 

そして頭骨の口を開くと、少しの間を開けて巨大な何かを噴射した。

 

 

「!?」

 

 

その大きさはもし巨龍が火球やブレスを放ったら、程の大きさである。

 

アルドゥインは間一髪でそれを躱す。

 

当たっても死にはしないだろうが、得体の知れないものは極力触れたくないというのが本音であった。それになんかばっちい気がしたので。

 

しかしギリギリで躱したため、空中で大きくバランスを崩し、渾身のシャウトによって加速された突進は的を外すことになった。

 

 

「ちっ、外したか……ん?」

 

 

近場の崖に激突し、もう一度飛ぼうと立ち上がったとき、それは目の前にいた。

 

 

「む?」

 

 

記憶が正しければ、そいつの体高はもっと低かったはず。しかし先ほど見たときと比べ、約2倍の高さになっている。証拠に、そいつの顔が崖上にも関わらず目の前にある。

 

そしてそれは大きな二つの鎌をアルドゥインに向けて叩きつけた。

 

 

「ぬ!?なんという威力!」

 

 

幸い、不死というか攻撃を受け付けないアルドゥインにとってはなんともなかった。

 

しかし、叩きつけられた鎌は地面に食い込むようにアルドゥインの翼を貼り付けていた。

分かりやすい例えとしたら昆虫の標本のようなものか。

 

 

「不覚。これほどの力とは……」

 

 

いくらダメージを喰らわないといえど、物理的に無理やり押さえつけられてしまい、身動きが取れなかった。

 

 

「ふむ、よく見れば単に脚を伸ばしただけなのか。驚いたわい」

 

 

アルドゥインは自身が押さえつけられているにも関わらず相手を冷静に観察する。

 

 

「うむ、ヤドカリというより、この大きさ、威力、動く砦と行った方がしっくりくるな。貴様がその背中に我が同胞の頭骨を担いでいなければジョールどもとの戦いを静観したものを」

 

 

アルドゥインは間違えていない。別世界でもこの生物はこう呼ばれている。

 

 

砦蟹、仙高人(シェンガオレン)

 

 

そしてしばらく観察すると、砦蟹がより一層鎌に力を入れる。

 

アルドゥインの翼が千切れるようなことはなかったが、余りにも力が加わってしまい、その下の岩が陥没し始めた。

 

それでもなお、アルドゥインは余裕であった。

 

 

「……非常に面白い奴だ。しかしな、貴様に勝ち目はない。なぜなら、我は貴様のような下等生物とはできが違うのだよ。

Sturn Bah Yol(火炎地獄)!」

 

 

かつてカオスドラゴン相手と同様、無言で砦蟹をロックオンし、メテオの集中砲火を食らわせる。

 

さすがは巨龍の頭骨と言うべきか。

 

いくつかメテオを弾くが、それでも直接身に当たったり、跳弾したものが身に当たるなどして砦蟹に瞬く間に木っ端微塵、本当に跡形もなく消し去ってしまった。

 

無論ごく稀にアルドゥイン自身にも跳弾が当たったが、特に問題はなかった。流石は最強と謳われた龍である。

 

 

そして身軽になったアルドゥインはその強大な魂を吸収すると、また飛び上がった。

 

 

「ふむ、悪くない量だ。さて、また探索を続けるか。それにしても、同胞(巨龍)の骸はどこに行ったのだ?もしや消し飛んでしまったか……」

 

 

アルドゥインは仕方ないと諦めると夜空へと消えていった。

 

 

 

この後、帝都では大きな騒ぎが2つほど起きた。

 

一つは、真夜中に非常に大きな龍の頭骨が空から落ちてきて城壁を叩き壊したのだとか。幸い、少数の怪我人で済んだのだが。

 

そしてもう一つ、公表はされてないものの、帰還したピニャの騎士団の団員の多くがほぼ裸だったこと。

その多くが口揃えて言うには、空から何やら大きな液体の塊が降ってきて瞬く間に鎧や衣服を溶かしてしまったとのこと。こちらも幸い、怪我人はいなかった。

 

世の中不思議なこともあるようだ。

 




最後に騎士団たちが怪我人もいなかったのは作者によるご都合主義。鎧や衣服が消え去るなんて最高ですな。

ピニャ「くっ、殺せ!」


あとあれです、頭骨が空高く舞い上がるのはスカイリムにおける巨人の一撃と同じ物理エンジン理由。


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脳筋バーサーカ(龍)と不死身ネクロマンサー(龍)

前回砦蟹出した理由?原作(ゲート)のほうに近づけるためです。
城壁に掲げられたのは炎龍ではなくて巨龍ですけど。ドウシテコウナッタ



「もう無理ぽ。伊丹の野郎は任務の準備があるとか言って巨龍頭骨捜索逃げやがるわ、俺に火の粉は降りかかるわ……」

 

「カトー教官、今暇?」

 

 

レレイがドアを開けて部屋に入ってきた。

 

 

「やあレレイさん、何用で?」

 

「これ、読み終わった」

 

 

そして日本語の本何冊かを机に置く。

 

『小学生でも分かる理科』

『中学生でも分かる理科』

『高校生でも分かる科学基本・応用』

『大学理数学の基本』

 

 

「えっ、もう!?」

 

「そしてこっちは読んでない」

 

 

そして漫画の束を置く。

 

 

『魔法少女ま○かマ○カ』

『魔法少女リ○カルな○は』

『魔法少女プ○ティベル』

『Fate/kaleid liner プ○ズマイ○ヤ』

などなど

 

 

「お気に召さなかった?」

 

「興味ない」

 

「そりゃ残念。伊丹が好みの魔法少女の参考になると思ったが……」

 

「やっぱり読んでみる」

 

「どうぞー」

 

「あとしばらく離れるから色々とまた借りたい」

 

「科学の本?」

 

 

レレイはコクンと頷く。

 

 

「分かった、ちょっと待って」

 

 

加藤引き出しからタブレットを出す。

 

 

「これは?」

 

「タブレットと言ってパソコンの小型版と思って貰えばいい。タッチすることで色々操作できるし、パソコン使い慣れてるレレイなら大丈夫でしょう。写真撮れるし、音楽聴けるし、動画も見れる。そして書物も場合によっては100冊分は入りますよ」

 

 

説明を聞いてレレイの目が子供のようにキラキラと輝いた。

 

 

「でもそれ私の私物なんで失くさないようにね。データが入ってないんで後でまた取りに来てください」

 

 

レレイはそれを聞いて嬉しそうに退室する。

 

 

「……ああいうの天才って言うんだろうなあ」

 

 

そしてパソコンからデータをタブレットに移行させる作業に入る。

 

 

***

 

 

「うぬぅ、やはり何の手掛かりもないか……」

 

 

アルドゥインは自らが瞑想していた山頂、そして巨龍を復活させた場所にやっとついた。

 

 

そしてしばらく瞑想したが答えは見つからなかった。

 

つまり、これからどうしたら良いのか分からなかった。

 

 

「我を持ってしても解決策が浮かばないとはな……こんな時パーザナックスがいれば……いやいや、裏切り者などアテにしてどうする」

 

 

そしてアルドゥインは彼らしくもなく溜息をつく。

 

 

頭の中を整理した。

 

とある最終目標のために、まずこの世界を制する必要がある。

 

龍を頂点とした絶対龍王制の世界。もちろんその王とは自分である。

 

龍が絶対であり、それ以外は全て下僕。

 

忠誠を誓うならちょっとぐらい上位にしてやっても良い。逆ならば無論滅ぼすが。

 

しかし、そのためにも障害がいくつかある。

 

一つ、あの緑の服の異世界人共だ。

 

文明レベルが異様に高い。下僕の下等竜(ワイバーン)がほとんどやられてしまった。本気を出せばイチコロだとは思うが、今後に備えて温存をしなければならない。

 

二つ、この世界の龍たちだ。

 

ヨルイナール、アンヘルを始め、知能が高く、忠誠を誓う龍は今のところ我の軍門に下っている。

しかし巨龍のように意思疎通の難しい者もいたし、まだ我に従わない者も今後いるかもしれない。それに、ヨルイナールたちが裏切らないという保証はない。

 

三つ、この世界の神々(エイドラ)たち。

 

ニルンにおけるエイドラのように干渉してくる可能性はなきにしもあらず、だが警戒はしておくべきだろう。幸い、その使徒の一人(ジゼル)は我が掌中にある。これをうまく利用しよう。

 

四つめ、デイドラたち。

 

現状、デイドラは我に好き勝手やるように言っておるが、それもやつらが愉しむまでの間。興味を失くしたり、我の行動がやつらの気にくわないことが起これば我の力を奪われるか、下手すれば消されるかもしれん。早急に手を打つ必要があるな。

 

そして五つ目にして最重要懸念事項。

 

ドヴァキンらしき者。

 

奴は滅ぼさなければならない。絶対に。さもなくば絶対に龍は滅ぼされる。

 

そう考えつつも、例の者がドヴァキンとしか思えない。しかし、それを受け入られない自分もいる。

 

 

「どう考えても、奴はドヴァキンだ。しかし、奴は我の知るドヴァキンではない。もしや、新たなドヴァキンなのか……?」

 

 

アルドゥインは背筋がゾッとした。いや、氷で刺されたような気分だ。例えるなら氷結の呪詛付きのデイドラ製の短剣でバックスタッブ食らったようなものか。バックスタッブなど食らったことないが。

 

 

「デイドラの戯れか、アカトッシュの刺客か……はたまた自然発生か。いや、最後はありえんな。そもそもドヴァキンはアカトッシュの加護ありきの存在だ」

 

 

考えれば考えるほど頭の中が複雑になってきた。

 

今のところ思い浮かぶ解決策は従来通り龍を復活させたり、生きている龍などを配下にして戦力を蓄えること。

 

しかしこれは所詮人類相手にしか解決にならない。

 

アンヘルを除き、今までの龍は魔法耐性をほぼ感じられなかった。

デイドラ、エイドラ相手だと部が悪い。良くてアンヘルしか戦力として期待できない。

 

それに数だけ増やしてもドヴァキン(仮)にエサを与えているようなもんである。

 

できれば短期で戦力を大幅に増強したいものである。

 

自身同等の魔力を扱えればもしかしてスゥームを扱うこともできるかもしれない。

 

 

「……待てよ、アンヘルはどうだ?」

 

 

アルドゥインは一度は自身を敗北に追い込みかけた下僕を思い出す。

 

 

「そうだ、奴にスゥームを扱えれるようになれば、かなり有利になる。倍の速度で戦力を増強できるかもしれん」

 

 

忌々しいことだが、たかが人間(ジョール)でもスゥームを扱える者がいる。もしかしたらヨルイナールも訓練すればできるのではないかと期待がこもる。

 

 

「うむ、グズグズしてはおられん。すぐに帰るとしよう」

 

 

そう言って山頂からダイブして滑空する。

 

 

当初、そのまますぐ帰る予定であった。

 

しかし、出発地点からそう遠くないところ、彼の興味を引くものがあった。

 

 

「なんなのだ、あれは?」

 

 

見ると雪山の真っ白なに斜面を血の色で染めていた巨大な何かがいた。

 

 

巨大と言っても人間観点なので、アルドゥインからしたら普通サイズだが。

 

()()()はアルドゥインが接近するまで周りに気を留めずに獲物を頬張っていた。血の原因はその獲物らしい。

 

そいつは大きな腕で獲物を抑えつけながら大きな牙が揃った大きな顎で豪快に貪り食べていた。

 

あまりの豪快さに、その咀嚼音が離れているアルドゥインにも聞こえるほどであった。

 

そしてある程度近づいたところで、そいつは貪るのをやめてこちらに向いた。

 

 

「なんだ、こいつは……」

 

 

アルドゥインはべつに驚いてはいない。

 

どちらかと言えば落胆したのかもしれない。

 

そいつは龍であることは分かる。

 

しかし、アルドゥインからしたら同族(ドヴァ)として認めるにはいささか抵抗があった。

 

大きさは自身と同じ程度。

 

黄土色に青色が少しついている。

 

そこまでは良い。

 

見ると太い腕と爪を有しているが、翼が無い。

 

いや、あると言えばあるが、腕と同化して退化している模様。

 

そして大きな頭と大きな口。

 

正直アルドゥインの美の観点からすれば、不細工の部類である。正直ドヴァっぽくない。

 

しかも頭も悪そうである。

 

 

「新たなドヴァを発見したと思えばこんなやつか……これでは巨大なトカゲと変わらぬではないか」

 

 

アルドゥインはひどく落ち込んだ様子だ。

 

そしてそいつは威嚇するように顎を鳴らす。

 

 

「ほら見たことか。やはり知能も低いだろいな、我を見て畏れぬところみると」

 

 

ますます落胆する。

 

 

「そうだ、このような者でも良い魂はあるだろうな。すまんが我のために死んでくれ」

 

 

そしてアルドゥインはその龍の命を奪おうとした。

 

 

***

 

 

「『化学応用』、『物理応用』、『生物学応用』、その他大学論文何個か入れときゃいいだろう」

 

 

そしてデータ移行が終わり、切断しようとしたがその手が止まる。

 

 

「……これも入れとくか」

 

 

『原子の構造と核融合・核分裂反応』

 

 

加藤は資料を追加で加えた。

 

そしてそれを持って部屋を出るとちょうどレレイが近くにいたので渡す。

 

 

「お仕事お疲れさん。伊丹にもよろしく」

 

「教官、感謝する」

 

 

レレイはペコリとお辞儀して去る。

 

 

「伊丹も罪な男だねー。俺もあんな可愛い女の子が周りにいたら……」

 

「あ、加藤さんじゃないですか」

 

 

加藤は後ろからの女性の声に魂が凍った気がした。

 

 

「さあ、行きますよ」

 

「ど、どこに……」

 

「決まってるじゃないですか。道場に!」

 

 

***

 

 

「くそっ!何故だ!なぜだぁぁあ!?」

 

 

アルドゥインは咆哮を上げながら攻撃を避ける。

 

大きな岩が紙一重で躱される。

 

 

「なぜだ、なぜドラゴンレンド(龍殺し)が効かぬのだああ!?」

 

 

否、効いてないわけではない。

 

ただ、魔力で飛行を補っているアルドゥインのような魔法種とは異なる龍であるためだ。そしてもう一つ別の理由。

 

魔力では押さえつけられないほどの圧倒的な筋力を有していた。

 

そして確かに翼は退化して飛ぶのは苦手である。

 

しかし、跳べないわけではない。

 

現にその筋力で跳躍し、空から滑空してアルドゥインを上から襲いかかってた。

 

この自然の厳しさによって幾度も淘汰されて古代からあまり形を変えずに生き延びた龍が別世界にはいる。

 

人々は畏怖の念からこう呼ぶ。

 

 

『絶対強者』

 

 

通称、轟竜、ティガレックス。

 




補足独自設定

アルドゥイン様のような魔法龍は飛行を魔法で補うため、ドラゴンレンドによってその魔法を遮断し、かつ押さえつけるという設定です。

あとやっとモンハン側の出したい龍出しましたよ。


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初めては血の味

最近モンハン勢が増えすぎているのを痛感しております。反省はしてますが悔いはありません。

それにまだ出し切ってませんし、まだまたでます。
安心してください、かませ犬です。

???「「!?」」


(完全に舐めておった。ここが、異世界であることを忘れておった……)

 

 

実のところ、アルドゥインが対峙している謎の脳筋龍(ティガレックス)もこの世界の者ではないが、アルドゥインはそんなこと知る由もない。

 

 

(なぜだ、なぜドラゴンレンドが効かない!本当にこいつは龍なのか!?)

 

 

アルドゥインにとってとの(ドヴァ)は彼のように魔法を駆使し、知能が非常に高い存在であり、生物という概念を超えていた。

 

しかし、目の前の龍(ティガレックス)はその常識を覆した。

 

魔力は一切ない。知能というより本能で動いている。

 

 

「こんな野蛮龍などに我が負けるなど認めんわ!!」

 

 

例えるなら原始人と文明人。しかし腕力は原始人の方が桁違いに強い。

 

ファンタジー風に例えるならティガレックスは筋力と防御と体力にポイントを全振りした脳筋狂戦士。対してアルドゥインは不死の加護付きのネクロマンサーあたりか。

 

 

Fus Ro Dah(揺るぎなき力)!」

 

 

今度はアルドゥインが先制する。

 

 

「スゥー……」

 

 

しかしティガレックスもほぼ同時に攻撃体制は整っていた。アルドゥインが発するとほぼ同時に息を深く吸い込む。

 

 

「ギャァァァアオン!」

 

 

そして身体の芯から震えるような咆哮を発した。

 

驚くことにスゥーム(揺るぎなき力)は相殺された。否、上書きされた。

 

 

「は……?」

 

 

アルドゥインの思考が追いつけなかった。

 

 

(待て待て待て待てー!?今何をした?我のスゥームが咆哮如きに消されただとぉー!?)

 

 

どうやらスゥームは万能な魔法ではなかったようだ。あくまでもスゥームは基本的に龍の魂の声によって(ことわり)に干渉する術である。

 

Fus Ro Dah(揺るぎなき力)』が対象の大小、重量関係なく(例外を除いて)同程度吹き飛ばすのも同じような理由である。物理的に吹き飛ばすのではなく、物理に干渉するためである。

 

だからスゥームの干渉を超える『音』という直接干渉できる物理的なもので止めたのだろう。

 

 

「こんな……偉大なスゥームが轟音如きに止められてたまるものかー!」

 

 

アルドゥインは我を忘れてティガレックスに襲いかかる。しかしそれが最大の誤りであった。

 

ティガレックスもアルドゥインの攻撃に合わせて後方に躱し、跳躍して襲いかかった。そしてその大きな顎で食らいつき、太い腕で押さえつけようとする。

 

アルドゥインはまたも驚く。

 

腕力、咬力が予想以上に高い。あのアンヘルとの肉弾戦がかわいく感じるほどに。

 

先も述べたが、ティガレックスが飛ぶことが不得意にもかかわらず自然淘汰の競争を勝ちぬいて種の維持ができたのも、この翼を退化させても筋力を発達させたことが大きく寄与している。

 

空の王者と呼ばれたリオレウスや陸の女王と呼ばれたリオレイアの縄張りに堂々と侵攻できるのも、この強力な身体があってこそである。

 

リオレイアが陸の女王と呼ばれても、あくまでも『女王』止まり。

 

ティガレックスはそれに対し『絶対強者』と呼ばれる。つまり早い話最強である。

 

地球出身の皆さんが炎龍(ヨルイナール)を空飛ぶ戦車と呼んだが、彼らがティガレックスを見れば『空飛ぶ高機動重戦車』と呼んだかもしれない。もはや意味不明な例えである。

 

 

そんな竜の姿をした戦車に肉弾戦を挑んだアルドゥインだが、彼も負けてはいなかった。

 

アルドゥインの世界(スカイリム)の龍はほとんど龍同士の戦闘の経験がないので正直肉弾戦は苦手である。基本チビ(人間)しか相手しないので。しかしアルドゥインには不死という最強の(チート)を有している。なので負けることは絶対にない多分

 

そのため、いくらティガレックスが馬乗りで噛みつこうが、引っ掻こうが、殴ろうが、体当たりしようが、じゃがいも岩を叩きつけようと一向に効かなかった。これにはティガレックスも驚愕した。

 

 

「効かんなあ〜、その程度か?貴様今どんな気分だ〜?」

 

 

アルドゥインは(いや)らしく相手をおちょくるように言う。

 

ティガレックスが言葉の意味を理解したかどうかは不明だが、どうやら怒ってしまったようで、腕と額から血管のようなものが浮き出た。そしてまたも大咆哮を放つ。

 

 

「ほう、これほどの威力だったのか」

 

 

先程は離れていたから気づかなかったが、今は超至近距離で受けたため、直に咆哮の衝撃を感じた。人間が食らえば吹っ飛ぶが。

 

 

(ふむ、音の前に先に衝撃が来てるな。これならスゥームが破られるのも納得……などできるかぁ!)

 

 

やはりプライドが許さないようだ。

 

 

「まあよかろう。貴様のおかげで龍との戦いに少し経験を積めた。お礼にたっぷりと貴様の頭上にメテオを降らせてやろう。あの蟹やアンヘルのようにな。安心しろ、我は巻き込まれても死なんのでな」

 

 

そしてアルドゥインは目の前のティガレックスをロックオンする。

 

相変わらずティガレックスは必死に噛み付いたりしている。

 

そしてアルドゥインがスゥーム(メテオの雨)を唱えようとしたところでティガレックスの攻撃が一瞬止まる。

 

そして不自然な轟音が徐々に近づいて来るのを感じてアルドゥインの口も止まる。

 

 

そしてゆっくりと山の方を見ると、2頭は察した。

 

 

「「!?」」

 

 

大咆哮のせいで大きな雪崩が襲いかかって来た。

 

 

***

 

 

一方、ジョール(人間)側も色々とトラブルが起きていた。

 

ピニャ殿下の取り計らいで日本の使節団がほぼ正式に交流することとなった。

 

エリート官僚(菅原)少女趣味(ロリコン)疑惑が出てきたり、なぜか貴族の服装がコスプレチックだったり、なぜか巨龍の頭骨が帝国の城壁にぶっ刺さって(現在修復中)いたり、となかなかカオスな状況でもなんとか交流はできた。

 

式典で皇帝(モルト)が呆気なく死ぬまでは。

 

 

「皇帝陛下が倒れたぞ!」

「医者を、魔術師を呼べえ!」

 

 

皇帝が巨龍討伐の祝福を述べて盃を飲み干した途端にぶっ倒れ、そのまま帰らぬ人となった。

 

 

「……あら、死んでしまったわ」

 

 

物陰から様子を伺っていたテューレが残念そうな表情をする。

 

 

「もう少し苦しんで死んでもらいたかったのだけど。ヒト種は脆いわ」

 

「あら、貴女はやはりいい性格してるわね」

 

 

さらに奥の暗闇に紛れてデイドラ装備一式のデイドラの女がほくそ笑む。

 

 

「貴女が推奨した毒を入れたけど、まさかあんなすんなり死ぬとは思わなかったわ」

 

「あら、お気に召さなかったかしら?私の世界ではそこまで強力なものではなかったのだけど」

 

「まあいいわ。貴女の言う通りすれば、私の復讐を果たせるのね」

 

 

テューレは邪悪な笑みを浮かべる。

 

 

「ええ、もちろん。そして私と主人はそれを見て楽しむ」

 

「貴女の主人は一体どんな方?是非お会いしてみたいものね」

 

「……よければいずれは紹介してあげるわ」

 

「そう。気が向いたらお願いするわ」

 

 

テューレとデイドラの女は小声で笑う。

 

 

***

 

 

(うむ、どうしてこうなった……)

 

 

アルドゥインは非常に困った。

 

 

(何たる失態。まさか我がこんな程度でこのような屈辱を味わうとは……)

 

 

雪崩に巻き込まれたところまでは覚えている。

 

なんせ初めての経験なので、雪から脱出するのに苦労したのだ。そしたな頭だけやっと出せたら、こんな結果になってしまったのだ。

 

 

(むう、生臭い……)

 

 

頭だけ出てるアルドゥインの口をティガレックスがガッチリと咥えているのだ。

 

 

(何で我がこんな野蛮龍の口に我の口を突っ込むような形になるのだ。しかも血生臭い)

 

 

こうなったのにも訳がある。

 

頭だけ出したアルドゥインは先に脱出して待ち構えていたティガレックスに口を顔面半分を咥えられてしまったのだ。しかもかなり強めに。アルドゥインでなかったら噛み砕かれていただろう。

 

 

(うむ、どうしたものか。他の身体の部位を出そうにも押さえ込まれて無理だ。しかも口を封じられているのでスゥームも使えんな……)

 

 

当たり前だが様子を伺おうにも視界いっぱいティガレックスの上顎なので無駄であった。横目でチラチラとしか周りが見えない。

 

少なくとも、相手は放す気はないようだ。

 

 

(ふん、我慢比べか。よかろう。時の狭間で至極長い期間を過ごした我にとっては他愛もない。貴様がその口を離した瞬間我の勝利だ)

 

 

そして漆黒龍と轟竜の長くて地味な戦いが始まる。

 

 

***

 

 

そんな中、緑の平原を満員の陸自高機動車が走っていた。

 

伊丹一同であった。運転手はレレイが務めていた。法的な問題は大丈夫なのだろうか

 

後ろの席ではテュカが小さなギターのような楽器を弾きながら歌っていた。

 

 

「次は何の曲がいいかしら?」

 

「陽気な曲がいいなあ」

 

「分かったわ、父さん」

 

「そろそろさ、父さんて呼ぶのやめない?」

 

「い、嫌よ……恥ずかしいじゃない……ヨウジ、って呼ぶなんて」

 

 

テュカは尖った耳まで真っ赤にしながら縮こまってしまう。

 

そして次の曲を弾き始める。

 

 

「無茶苦茶うまいけど、どれくらいやってたの?」

 

「そうね、百年ぐらいかな?」

 

「ひゃ、百年……エルフって凄いんだな」

 

「そうね、でも私くらいの歳になると皆んな得意な楽器を持つものよ」

 

「へぇ、じゃあヤオもなんかやってるの?」

 

「此の身は葦笛を……しかし嗜む程度だ。人前に見せれるものではないが、御身(伊丹)がご所望するのであれば喜んで披露しよう。そのときは人気のないところで、早速今夜あたり……痛っ!!」

 

「そんなことしなくてよろしい」

 

 

ロゥリィがヤオのつま先を踏んで制する。

 

 

(なんでぇ、てっきり『情熱的なアルゴニアンの吟遊詩人』想像しちまったじゃねえか)

 

 

後部座席のさらに後ろの荷物置き場に(バルバス)が寝たふりしながら聞き耳立てていた。

 

ところで、伊丹が停職明けからいきなり自衛官として単独行動できるのも、(偉い人)の都合上、炎龍討伐の際に特地の資源調査、という名目がそのまま『特地資源調査員』の任務を与えられてしまったからである。

 

そしてもう一つ、伊丹だけに与えられた極秘任務……

 

 

(なんで俺が漆黒龍の調査及び接触を任されるんだろ……)

 

 

伊丹の報告により、漆黒龍は人間と意思疎通能力を有し、知的生命体の可能性があると(偉い人)が判断し、その任務に今までの死線を潜り抜けた伊丹が適任と判断したらしい。ちなみに、(偉い人)とは防衛省よりも上の人たちらしい。

 

 

(今度こそ俺死んだわ……)

 

 

美少女(と犬一匹)と和気あいあいとしながら伊丹の心の中は憂鬱になってゆき、車というメカに目覚めた(萌えた)魔法少女(レレイ)たちと一緒に取り敢えずの目的地、学都ロンデルを目指すのであった。

 

 

***

 

 

学都ロンデルに着くまでにそれほど時間はかからなかった。

 

問題はそこからである。

 

交通整理されていないせいで人混みに高機動車が埋もれてしまい、結局宿屋に着くまでかなりの時間を費やしてしまった。

 

 

「こっちよぉ〜」

 

 

宿に先回りしていたロゥリィが手を振ってこっちこっち、と合図する。

 

レレイが入門生と間違われたり、伊丹が下男に間違われたりと誤解はあったが宿で手続きを済ませてレレイに街を案内してもらった。

 

途中、実験の結果なのか色々と建物の屋根が吹っ飛んだり、窓から水が吹き出してヤオがずぶ濡れになるといった事案なども発生したが。

 

そして路地裏の小さな建物でレレイの義姉のアルペジオ(ボン・キュ・ボン)とその師の可愛らしいお婆さん、ミモザに会い、一緒に外食することとなった。ちなみにアルペジオは用があるので後ほど合流するとのこと。

 

 

「あとで妹にはみっちりとこの世の条理というものを聞かせてやろうと思ってますので」

 

 

アルペジオの言葉を聞いてレレイの頬から冷や汗が流れた。

 

 

***

 

 

店では皆は互いに紹介しあったり、食事を楽しんだり、談笑していた。

 

 

「お久しぶりね、ロゥリィ。もしかして、50年前に貴女が出した宿題の答えを聞きに来たの?」

 

「ミモザぁ、貴女老けたわねぇ」

 

「羨ましいでしょう?もうすっかりお婆ちゃんよ」

 

 

どこか誇らしげだった。そしてロゥリィも羨ましそうな表情をする。

 

 

「こちらが喋る犬、バルバス」

 

「まあ、可愛らしい。お利口さんみたいね」

 

「へへ、褒められちゃ悪い気しねえな。どっかの日本人たちとは違うな」

 

 

バルバスは尻尾を振ってミモザの撫でに応える。ミモザも別段驚いた様子はない。

 

最後に、伊丹の紹介がされる。

 

 

「まあ!門の向こうから来たのですね!是非とも色々と話を聞きたいわ」

 

「ミモザ老師、よろしくお願いします。老師は博物学に詳しいと聞いておりますので、有用な鉱物等、そして()()()においても色々お聞きしたいと思います」

 

「ええ、もちろんよ。でもそれはまたの機会にしましょう。美味しい料理が冷めてしまうわ」

 

「もちろん、しばらくはここにいますので」

 

 

この他にも、日本のことやロゥリィの宿題への答えや、ロゥリィがなぜ宿題を与えてるのかなど、色々と談笑していた。

 

そうして穏やかな時間が流れた。アルペジオが現れるまでは。

 

 

***

 

 

「喧嘩だ!魔導師同士の、しかも女の喧嘩たぁ!」

 

「しかも片方はあの鉄のアルペジオ女史だってよ!もう一人はレレイとかいう女の子だ!」

 

 

ことの発端はアルペジオの嫉妬(?)である。

 

レレイが導士号に挑むと聞いてその内容から学問で妹に越され、経済力も越され、そして伊丹に目を付けたが既に妹によって三日夜の儀の仲(予約済み)と知り、なにもかも越されたと思ったアルペジオがついレレイにスープをブチまけてしまったのだ。

 

 

そして二人は道端で対峙する。そして周りは野次馬で埋め尽くされる。

 

 

「戦いの神、エムロイの名において私ぃ、ロゥリィ・マーキュリーがこの戦いにおけるルールを定めるわぁ。

1.不殺であること

2.女である故顔は傷つけないこと

3.敗北は、不正、降参、戦闘続行が出来ない時

そして戦闘の調停には従うこと。いい?」

 

 

アルペジオとレレイは同意する。

 

 

「では第13次レレーナ家姉妹会戦(げんか)開始ィィイ!」

 

 

それは姉妹喧嘩というには激しすぎるものであった。一歩間違えれば本当に死人が出てもおかしくなかった。

 

某世界(ニルン)辺りでいうファイヤーボルトやアイススパイクみたいなものが度々飛び交っては建物の一部を壊してしまったり、野次馬に突っ込んでいたりと破茶滅茶であった。

 

 

「やれ!そんな程度か?」

「誰に教わったんだ!?」

「誰かどうにかしろ!」

 

 

野次馬も興奮して怒声を浴びせる。

死人が出ないのが不思議である。

そして激しさは一層増して行く。

 

 

「そろそろ洒落にならなくなったんですけど!?」

 

「大丈夫よ、リンドン派(戦闘魔法)は最初に防御魔法を身につけるから!」

 

「そういう問題ですか!?」

 

 

伊丹はミモザ言葉に愕然とする。

 

両者は一歩も譲らない。しかしやはり限界というものある。最初に押していたアルペジオも今はレレイに押されて防御に回ってる。

 

 

「これが天賦の才ってやつかい。ちくしょう!でも私だってただ負けてられないんだよ!」

 

 

アルペジオは反撃の一撃を狙う。レレイも勝利となる一撃を狙っていた。

 

そしてその分け目がちょうど来ようとしたとき、突如野次馬から悲鳴が聞こえた。

 

 

「この卑怯者め!覚悟!」

 

 

そして胸を貫かれた大男は血を流して倒れる。

 

 

「おいおい、せっかく面白いもの見てんのに台無しにしやがって」

 

 

バルバスは残念そうな顔をする。

 

野次馬はパニックになってその場から一気に遠のく。

 

 

「このロゥリィが仕切る決闘の場を汚した理由、聞かせてもらえるわよねぇ、グレイ・コ・アルド?」

 

 

その男はピニャたちとイタリカ防衛戦にて共に戦った騎士補であった。

 

 

「はっ、お久しぶりにございます、聖下。こうして再びお会いできたことを光栄に思います。この場で説明致すの正当なことと存じますがここは危険です。この場で話し込むのは不適切かと」

 

 

そして倒れた男からある物をシャンディーが取り出す。

 

 

弓銃(ボウガン)です。この刺客これでレレイ様の命を狙っておりました」

 

「え、なんで!?」

 

 

アルペジオが声を上げた。

 

 

「それは今話している暇はございません。まずは一刻もこの場を離れましょう」

 

「よし、わかった」

 

 

グレイの提案に伊丹が賛同し、一同はすぐに移動を開始した。

 

 

 

その様子を遠くの高台から何者かが見守っていた。

 

 

「帝国人もやるじゃねえか。危うく俺たちが対処するところだったぜ」

 

「喧嘩が始まるからハラハラしたが、これなら大丈夫だな。おい、てめえはいつまでスコープでボンキュボンのお姉ちゃん見たんだ。ずらかるぞ」

 

 

そして男たちは夕闇へと紛れていった。

 

 

***

 

 

(こやつなかなかしぶといな…)

 

 

アルドゥインは口を咥えられたまま思った。

 

だいたいもう既に3日ほど経っていた。

 

流石に疲れてきたのか、ティガレックスのほうの咬力も弱っていた。

 

しかし少しでも抜こうとするとまた噛み締めて離さない。

 

 

(しつこい奴だ。まあ、時間が経てば我の勝ちだ。しかしここで時間を潰すのも良い気分ではないな)

 

 

そのような状況を遠くからパトロール中のアンヘルが発見した。首だけ雪から出てるアルドゥインと得体の知れないものが。

 

 

あやつ(アルドゥイン)は一体何をやっておるのだ?」

 

 

雪崩があったのでちょうど通りかかったら、アルドゥインと見慣れない龍が……

 

 

「ちょっと待て……あ、あれは……」

 

 

アンヘルが息を飲んだ。

 

 

「あれは……せ、せ、せせせ、接吻(キス)というものではないか!?」

 

 

もちろん彼女も単性龍(雌型だけど)なのでそのような概念はないが、何万年も生きてると下々(人間共)の文化について知る機会はあるわけで、そのように解釈してしまった。

 

本当は噛まれているだけなのたが。

 

 

「これは一体どうしたらよいのだっ!?」

 

 

アルドゥインは無理やりやられているのか?

 

それともアルドゥインはお取り込み中なのか?

 

助けた方が良いのか逆なのか。

 

どうしたら良いのか分からずその場をぐるぐる飛び回る。

 

 

(あやつは何をしているのだ。早く我を助けに来んか、ポンコツめ)

 

 

アルドゥインは気配でアンヘルがいることを察したが、なかなか来ないのでイライラしていた。

 

 

恐る恐る近くに降りたアンヘルはアルドゥインに尋ねた。

 

 

「アルドゥイン殿、お主は何をやっておるのだ?」

 

 

見て分からぬか、このアンポンタンめ。とアルドゥインは心の中で罵った。

 

しかしそのイライラした目つきからは予想しづらかった。

 

ただ、アルドゥインとティガレックスの間のただならぬ殺気から、少なくとも接吻(キス)ではないことは分かった。

 

 

「……助けた方がよいのか?」

 

「……」

 

 

アルドゥインは問いに対し無言で肯定する。

 

 

「おいそこの雌蛮龍、そやつ離してやってはくれないか?」

 

(む?こやつ雌だったのか。残念)

 

 

別にアルドゥインはそっち系ではない。というかそもそも興味がない。

 

雄で従順であればヨルイナールと番わせて龍を増やそうとか思っていただけである。

 

 

「……」

 

 

ティガレックスは視線をアンヘルに向けるだけであって、一向に離そうとしない。

 

 

「言葉の通じる相手ではないか。仕方がない……」

 

 

アンヘルはティガレックスが今後仲間になるかもしれないことを考慮して尻尾に狙いを定める。

 

そして火炎魔法を練ると刃のように鋭く放った。

 

 

「っ!!??」

 

 

尻尾が斬れてしまった。

 

あまりの痛みにティガレックスは口を離してしまう。と同時にアルドゥインはしめたと言わんばかりにスゥームを放つ。

 

 

Fus Ro Dah(揺るぎなき力)!」

 

 

ティガレックスはそのまま山の向こうまで飛ばされて見えなくなってしまった。

 

 

「良かったのか?」

 

「なんだ、不満か?」

 

「いや、なんでもない」

 

「それより、我をここから出してくれ」

 

「えっ」

 

 

しばらくして、アンヘルの火炎魔法によって雪を溶かしてもらい、ようやく脱出することができた。

 

 

「ふむ、礼など言いたくないがまあ感謝しよう」

 

(いちいち気の触る言い方だな……)

 

「我に新しい考えが芽生えた。急いでヨルイナールの元へ戻るぞ」

 

「心得た」

 

 

 

そしてアルドゥインたちが去ってしばらくすると、物陰から出てきた()()()は残されたティガレックスの尻尾に食らいついた。




ロンデルって平和ですね。

どっかの世間を騒がせた大学(ウィンターホールド)とはえらいちがいですわ。


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迷宮ランナー

気がつけばアルドゥイン様の周り、一応全員雌でハーレムになっている……

あと迷宮編は、忘れていた訳じゃないよ!順序変更するだけなんだから……ほんとは半分忘れてました……



「あーあ、悪所に戻るのか……」

 

「栗林陸曹、溜息なんて貴女らしくありませんわね。悪所にいれば色々なハプニングがあって活き活きするとか言ってましたのに」

 

 

悪所行きのジープ内で黒川が尋ねる。

 

 

「悪所行きは別にいいんだけど……サンドバッグ(加藤)持って行きたかったなあ」

 

「まあ、そんないいサンドバッグですの?」

 

「そう、今までで一番頑丈で長持ちしている。早く次の休暇来ないかなー」

 

「まだ任務すら始まっていませんわ」

 

 

***

 

 

「へくしっ……痛てて……」

 

「おや、加藤3佐、風邪ですかね?」

 

「いや、ただのくしゃみですよ。でも一応風邪薬もください」

 

「はいはい、あといつも通り鎮痛剤、湿布、あと例の物ね」

 

「先生いつもありがとうございます」

 

 

加藤は衛生隊の診療室を出るとそのまま喫煙所へ向かう。

 

 

「よう、柳田。怪我はどうよ」

 

 

柳田は一瞬ギョッとする。

 

 

「加藤3佐、お疲れ様です。大分良くなりましたよ。復帰にはまだですが」

 

「そんなかしこまるなよ、俺とお前の中じゃないか」

 

「学生の頃あんたにしごかれた記憶がトラウマなんですよ」

 

「まあ、そのおかげでそこそこ体力維持できてんじゃない?」

 

「否定はしませんね。で、今回は何用ですか?」

 

「ここ特地に簡易イージス・アショア(陸上イージス)を設置する情報が入った。詳しく聞きたい」

 

「……流石ですな。でもこれは特別に秘密事項なんです。いくらあんたでも教えられません」

 

「流石だな。それでいい。まあ、これはオレの勝手の予測だが、弾道ミサイルが存在しないこの世界に配備させる理由、対龍兵器としての運用だろう。そして恐らく初の純国産イージスシステムの試験も兼ねてる、と言ったところか」

 

「……」

 

「まあ、あくまでも俺の予想だがな。独り言だと思って忘れてくれ」

 

 

そしてしばらく沈黙が続く。その沈黙を破ったのは第三者だった。

 

 

「加藤3佐、ちょっと大事なことが……」

 

 

看護師が加藤の耳元に何か囁く。

 

 

「分かった。すぐ行きます」

 

 

加藤は葉巻を消すとその場を去る。

 

 

「……加藤さん、あんた一体何をする気だ?」

 

 

***

 

 

そんな中、帝都では混乱で満ちていた。

 

皇帝(モルト)の死をいいことに、バカ皇太子のゾルザルが皇帝宣言を行い、皇帝の座に就いてしまった。

 

その結果、彼の横暴により講和派議員は多くが拘束、軟禁され、さらには自分に逆らうような輩は問答無用で処罰する『オプリーチニナ特別法案』の法案が可決されようとした。

 

それを止めようとピニャはあの手のこの手尽くしたが全て無駄に終わり、自分の身体を差し出す覚悟で兄のティアボに助けを求めるがそれも虚しく終わってしまった。

 

 

そんな混乱の中、闇夜のロンデルの裏道にて、二つの黒い影が互いに背を向けていた。

 

 

「バルバス、そちらの首尾はどう?」

 

「ああ、今のところ問題はない。計画通りだ」

 

「そう、ならいいわ。私の方もうさぎ女(テューレ)にうまく働いてもらってるわ。貴方は変なことしないようにね」

 

「ああ、分かってるよ」

 

 

それを聞くと、デイドラ装備の女は姿を消す。

 

 

「やれやれ、面倒なことは本当は嫌いなんだがな」

 

 

そしてバルバスも伊丹の元へ戻る。

 

 

一方、伊丹たちは夜逃げ(?)の準備をしていた。

 

グレイたちに、なぜレレイが、誰に、狙われているのかを説明された。結論を言うと、恐らくどっかの馬鹿皇子が嫉妬で狙ってるらしいが、まだ噂の域なので迂闊に動けないこと。さらに刺客もかなりの強者ということでグレイたちだけでは対処できないことが告げられた。

 

そして伊丹も最大限の協力を惜しまないと聞き、グレイはぜひとも返り討ちにしようと意気込んだが、伊丹はそんな気はないということで逃げ戦術的撤退を選んだのだ。もちろん、ちゃんと学会前には帰ってくる予定である。

 

 

「あの馬鹿(バルバス)はまたどこへいったのよぉ!?」

 

 

ロゥリィが若干イライラした様子であった。

 

 

「すまねえな。ちょい迷子になっちまってな」

 

「いいから行くわよぉ!」

 

 

グレイたち騎士団員はロンデルでの刺客の調査。伊丹一同(ミモザ、アルペジオ含む)は周辺を転々としながら資源調査も行うつもりで出発した。

 

 

***

 

 

「おい、ここはいつからバイオ●ザードの世界になったんだ!?」

 

「|伊丹殿、バイオ●ザードとはなんだ!?」

 

「というか誰かこの状況どうにかしてー!?」

 

「うおぉ!?尻尾引っ張るな!!」

 

 

伊丹、ロゥリィ、ヤオ、アルペジオ、そしてバルバスは迷宮(ラビリンス)にて美少女、美女たちに追い回されていた。

 

 

ことの原因はレレイが病に倒れたこと。

 

調査を兼ねてある村に着いたところ、そこら辺一体では若い女性にしかかからない流行病が蔓延しており、レレイもやられてしまった。ちなみに感染率5割の致死率7割という日本人からしたら卒倒ものである。

 

幸い、ミモザ、アルペジオそして一瞬意識を取り戻したレレイによって疑わしい病が特定され、ロクデ梨が有効かも、ということでミモザの所有するロクデ梨を与えたところ熱が下がった。村人たちにも分けて多くを死の淵から救った。

 

 

しかし、問題は解決されなかった。

 

レレイの意識が戻らないのである。

 

熱もない、特にこれと言った症状もなく、苦しんでる様子もない。いわゆる植物人間状態である。

 

そこて村人と、ミモザの提案により近くにある亡き王国の元薬草園、通称『迷宮(ラビリンス)』に入ることを決意した。

 

そこなら、薬草が自生していて、失われた文献等もあるかもしれないという判断だ。しかし、あくまでもかもしれないだが。

 

そうして、看病のためにテュカとミモザを残しで出発した結果がこれである。

 

何を隠そう、この美少女、美女たちは見た目こそ綺麗なものの、生ける屍(リビング・デッド)、通称ゾンビである。すごく綺麗だが。

 

 

「ちくしょう!ショートカットし過ぎたか!?」

 

 

C4爆弾で迷宮の壁を無理やりぶち破って進んだ結果、ゾンビたちを呼び集めてしまった模様。

 

応戦したがその数は予想以上に多かった。

 

 

「ざっと、200以上はいるじゃない!」

 

 

アルペジオが戦闘魔法を駆使しながら叫ぶと。彼女の腕はなかなかで、攻撃が見事にゾンビたちの急所にピンポイントで当たる。

 

伊丹も64式小銃、手榴弾を駆使しながら戦い、ロゥリィも自慢のハルバードで相手を確実に潰していく。

 

 

「おい伊丹の旦那、後ろから来てるぞ」

 

「バルバス感謝する、ここはこの身が引き受けよう!」

 

 

迷犬バルバスやヤオも負けてはいなかった。

 

皆の協力と努力により、見事ゾンビ集団を撃退できた。

 

 

(ここがバイオ●ザードみたいに走るゾンビ、犬ゾンビ、重火器を担いだ実験体がいなくてホント良かったな……)

 

 

伊丹は心の中でつぶやく。

 

そしてまた壁を爆破によって突破してゆく。

 

 

***

 

 

行き着いた場所は不自然な広場。

 

 

「そういえば、ここコカトリスやミノタウルスみたいな怪異がいるんだっけ?」

 

 

アルペジオは村人からの情報を思い出す。

 

 

「それに何か異様な静けさだな。中ボス出てきそうな雰囲気」

 

「中ボスぅ?」

 

「まあ、こんな迷宮にこんな場所が有ればその線が濃いんだが……」

 

 

一応警戒して周囲を調べたが特に何かが出てきた様子はなかった。

 

 

「私もぉ、ここ一帯草木が生えてないから猛毒のコカトリスがいると思ったんだけどぉ」

 

「まあ、何もなくて良か……」

 

「キャア!?」

 

「ヤオどうした!?」

 

 

古屋の中を調べていたヤオが尻餅ついていた。

 

 

「なんだこれ?」

 

 

中にはミイラ化した大きな鶏と何かを掛け合わせたようなものが朽ちていた。まだそこまで古くないようだ。

 

 

「これは、コカトリスね」

 

 

アルペジオがつぶやく。そして魔法で確認して絶命していることを確かめる。

 

 

「でもぉ、何か変よぉ。この傷、明らかに戦ってできたようなものよぉ」

 

「確かに……しかしどんな傷かは分かりづらいな。切り傷と刺し傷か……?大きさからして大型の生物か?」

 

「コカトリスは猛毒な攻撃手段を持っているわ。サイズだけでは倒せないほどの生物よ」

 

 

アルペジオが伊丹の疑問に付け加える。

 

 

「もう少し調べてサンプルとったらすぐ出発しよう」

 

 

試験管とピンセットを持った伊丹がコカトリスの死体に近づきサンプルを取る。

 

 

「……よし、みんな行く……痛っ!?」

 

 

それは突如現れた。コカトリスの体内から食い破って出てきた。映画『エイ●アン』に出でくるアイツ(チェスト●スター)みたいに。

 

 

「あわわ、白い大きなヒルのようなものが!?」

 

「うわー!血吸ってる!血吸ってる!誰かとってくれえ!」

 

「ヨウジぃ、とってあげるからじっとしてよぉ」

 

 

ロゥリィは力いっぱいひっぺがす。するとそのヒルのようなものが紫色の霧状のブレスを吐く。

 

 

「いったいィィイイ!目が!目がぁぁ!」

 

 

ロゥリィは顔にブレスを浴びて地面を転げまわる。

 

 

「これは毒か!?まずい、伊丹殿、今毒を吸い出して……ハァ、ハァ……あり?」

 

 

ヤオのエロい唇が伊丹の首筋に触れようとしたが、そこには傷はなかった。

 

 

「うう、首筋も痛い……」

 

 

ロゥリィが顔を抑えながら首筋も抑える。

 

 

「あ、そうだった。俺の傷はロゥリィが受けてるんだった」

 

「そ、そうだったのか……それは良かった……いや、別に猊下が怪我したのを喜んでいるわけではないぞ?(ちくしょう!)」

 

 

ヤオは心底残念そうだった。

 

 

「ところで、これは何だ?」

 

 

伊丹は噛まれないように猫ほどの大きさのヒルみたいな生物を掴む。ギィ、ギィと泣いてる。

 

 

「わからない……私も初めて見た」

 

 

アルペジオがマジマジと見ると、噛み付こうと暴れる。

 

 

「私もぉ、初めて見たわぁ」

 

 

復帰したロゥリィが目を擦りながら見た。

 

 

「でも危なすぎるわぁ。処分しましょぉ」

 

「小型だからサンプルとして持ち帰りたいが、危ないからそうするしかないな。ヤオ、アルペジオ、念のためにコカトリスの死体も焼いて処理してくれ」

 

 

伊丹はその生物を銃剣で屠殺して、体液となめらかな皮をサンプルとして採った。

 

 

「にしてもここは本当にバイオ●ザードの世界じゃないよな……」

 

「ねぇ、さっきからバイオ●ザード、バイオ●ザードって言ってるけどぉ、なぁに?」

 

「ゲームなんだけど……今度アルヌス帰ったら見せてやるよ……」

 

 

その後、ロゥリィがその真実を知って絶叫したのはずっと後の別の話。

 

 

***

 

 

一同はさらに進み、今度は落とし穴だらけのフィールドに行き着く。

 

ここでも薄幸(ドジっ娘)ダークエルフ(ヤオ)が盛大に期待を裏切らずにやらかしてしまう。

 

落とし穴の作動スイッチを踏んでしまったのだ。

 

ただ不幸中の幸い、よく戦争映画における地雷同様に、踏んで即発動ではなく、足を離したら作動するタイプであった。

 

 

「伊丹殿、今までの旅は楽しかったぞ……もし族長にあったならば私は心置きなく逝ったと……」

 

「バカなこと言ってないで助けてやるからじっとしていろ」

 

「……はい」

 

 

伊丹は壁をよじ登って近くまで行くと、ヤオに重い袋を投げる。

 

 

「これを重りの代わりに足元に置け」

 

「しかし、これは……」

 

 

それはこの世界の金貨、銀貨の詰まった財布であった。

 

 

「そんな……こんなに払えない。この身にはそんな価値があると……」

 

「いいから指示通りやれ」

 

 

ヤオは伊丹の指示通りに足をずらしながら重りを置く。そして罠が作動をしないことを確認すると胸を撫で下ろす。

 

 

「何とか助かったな」

 

「伊丹殿、感謝する。ところで、あの財布を回収できるよう紐をつけておいた」

 

 

ヤオは手元の紐を見せる。

 

 

「ちょ、待て……」

「ヤオ、待ちなさーい!」

「え!?」

「お!?」

 

 

そして勢いよく紐を引っ張る。

 

そして地面も勢いよく崩れた。

 

だが彼らは非常に幸運であった。

 

本当にギリギリのところで、足元の目の前の崩壊は免れた。

 

 

「びっくりしたぁ」

 

「心臓止まるかと思った……」

 

 

それを見て伊丹はホッとする。

 

 

「ヤオ、頼むから次何かするときは必ず相談してくれ」

 

「ご、ごめんなさい」

 

 

ヤオは涙目になる。

 

 

「まあ、皆大丈夫だからいっか……」

 

「うう、地下はハーディの領域だから嫌いなのよねぇ」

 

 

ロゥリィが崩れた跡を見て嫌な顔をする。

 

 

「うおぉ、真っ暗だぜ。一体下はどうなってるのやら……」

「あ……」

「「「あ……」」」

 

 

下を覗き込もうとしたバルバスがロゥリィに当たった。

 

当たっただけならいい。

 

その勢いでロゥリィが、落ちた。

 

 

「「バルバァァァァァアアアアス!!!」」

 

 

皆の怒号と遠のくロゥリィの声が迷宮中に響いた。

 

 

「あの、なんというか……てへぺろ?」

 

 

この後めちゃくちゃボコボコにされた。

 

 

***

 

 

ロゥリィ救出のため、取り敢えず降りてみた。

 

しかし残念ながら既に姿はいなく、探してみるとロゥリィの頭飾りが落ちていた。

 

 

「もしや、何者かにさらわれたか?」

 

「確かミノタウルスは人を食べると聞いたが……」

 

「おいおい、まじかよ」

 

「前が見えねえ」

 

 

バルバスのことはお構いなく皆で議論する。

 

 

「ロゥリィは、食われたのか?」

 

「伝説では女はあんなことこんなこと(エ●同人みたいなこと)されると聞いたことも……」

 

「まだ食べられたと決まった訳じゃ……」

 

 

しかし話し合っても拉致があかないので、何かよい書物、薬などを探して、そしてロゥリィの救出も行うために一同は進む。

 

 

「それにしてもくれーな。まあ、俺には鼻があるから問題ないが……何だこの臭い?」

 

 

最後尾にいたバルバスは臭いに連れられてさらに遅れてしまう。

 

 

「何だこの液体は?」

 

 

独特な臭いのした、液体である。

その臭いを嗅いでいると頭の上に同じ液体が落ちてくる。

 

 

「痛え!?あれ?目の前に星が回ってる〜」

 

 

バルバスは頭に液体が落ちると足元がおぼつかない状態になった。

 

 

「あるれ〜?俺はどうしちまったんだ〜?お〜い、待ってくれ〜い。ん?」

 

 

振り向いた瞬間、彼は見てはいけない物をみてしまった。

 

 

「ぎゃ〜!旦那!伊丹の旦那!助けてくれー!」

 

「バルバスどうした!?」

 

 

しかし後方は真っ暗闇で、もう返事もなかった。

 

 

「バルバス?おーい?」

 

 

反応なし。嫌な沈黙が流れる。

 

 

「おいヤオ、確かめてきてくれないか?」

 

「うう、正直怖いが伊丹殿がどうしてもと言うならば……」

 

 

結局、3人全員で確認することにしたが、そこには誰もいなかった。

 

 

「あいつどこにいったんだ?ここ本気でバイ●とかサイレン●ヒルじゃねーよな……?」

 

 

3人はさらに警戒して、先ほどの作戦に追加して駄犬(バルバス)の救出も渋々することになった。

 

大樹が生えてる大広間につくまでに、一応いくつかの書物と薬草を拾ったが、どれも期待出来そうなものは無かった。あと念のためにロクデ梨も拾っておいた。

 

 

「ここまで来て大した成果ないとは……」

 

「伊丹殿、焦っても仕方がない。アルペジオ殿、何か良い物は見つかったか?」

 

「さっぱりダメね……無いよりはマシ程度の薬と書物だけど、はっきり多分ダメね。ああ、ここで妹を見返せるチャンスなのに!」

 

 

口ではそう言いつつも、かなり心配している様子だ。彼女も最初は看病のため残ってもらう予定だったが、「妹が苦しんでいるのに姉が行かなくてどうする」と真っ先に着いてくることを宣言したのだから、本当は仲の良い姉妹なのだろう。

 

 

「しっ、静かに……」

 

 

伊丹に言われてヤオとアルペジオは姿勢を低くして息を殺す。

 

見ると大樹の麓に大きな獣人が座っていた。

 

ミノタウルスである。

 

 

「くそ、あいつがロゥリィを……」

 

 

3人はゆっくりと死角を利用して接近する。

 

ミノタウルスは眠ってるのか、何の反応も示さない。

 

 

「伊丹殿、何か様子が変だ……」

 

「ヤオ、俺も今思ったところだ」

 

 

伊丹は試しに石をミノタウルスに投げる。

 

ピクリとも反応しない。

 

そして3人は恐る恐るミノタウルスの前に出ると、原因が分かった。

 

ミノタウルスもコカトリス同様、ミイラ化して絶命していた。そこまで古くから無いが、伊丹が迷宮に踏み込む前から既にこの状態だと予測できた。そして、体には(あな)のような傷が穿かれていた。

 

 

「え……じゃあ、ロゥリィは?」

 

 

3人は顔を見合わせる。

 

そして突如上からの気配。恐る恐る見上げると……()()()は太い幹にぶら下がっていた。

 

 

「おい、俺が3つ数えたら、一気にさっき来た穴へ逃げるぞ」

 

 

ヤオとアルペジオはつばを飲み込んで返事をする。

 

 

「3、2、1……今!」

 

 

3人は全力でダッシュすると同時に()()()は落ちて来た。

 

そして伊丹たちもあと少しで穴に届く。

 

 

はずだった。()()()が出てこなかったら。

 

伊丹たちはスライディングして止まる。

 

 

「な、なんだこの鉄の逸物よりも逸物のような卑猥な形をした生物は!?」

 

 

ヤオが訳の分からないことを口にするが、言われてみれば確かにそうである。

 

目の前には卑猥な頭をした本当にバイ●ハザードにでできそうなクリーチャー。後方もキモさでは負けておらず、白いヒルのような化け物。

 

伊丹たちは卑猥なアルビノクリーチャー(フルフル)キモい毒怪竜(ギギネブラ)に挟まれてしまった。

 

 




原作では共演果たしてない彼らにここで共演してもらおうと思います。


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神?の手

実は迷宮では、雰囲気的にオオナズチ(カメレオン)とミノタウルスに似ているラージャン(スーパー●イヤ人)の投入考えましたけど、キャラクターもストーリーもオワコンしそうだったのでやめました。

カメレオン・大猿「解せぬ」


 

「……」

 

「加藤3佐、辛いか?」

 

「狭間陸将、お気遣いありがとうございます。しかし、今ここに横たわっている彼らの方がきっと辛いはずです」

 

「そうか、すまんな」

 

「陸将、もしよろしければ、少し一人にさせていただけませんか?」

 

「そうだな、気の済むまでいてくれ」

 

 

そして狭間陸将は簡易霊安室を去る。

 

そして加藤は台の上に置かれている遺体袋を覗き込む。

 

損傷のないものはいなかった。五体満足の方が珍しく、原型を留めていないものもある。

 

そしてそれぞれのドッグタグを確認すると、遺体袋のジッパーを閉める。

 

 

「すまんな、お前たち。これを線香代わりだと思ってくれ」

 

 

そしてタバコを蒸す。

 

 

「お前たちの二度目の死は無駄にしない、絶対に」

 

 

***

 

 

「「グォォォオオオ!!」」

 

「「「うわぁぁぁあああ!?」」」

 

 

鼓膜どころか頭が割れるような咆哮が辺り一帯を支配する。ちがう性質の音が重なるので余計に気持ち悪くなる。

 

先に動いたのは後方にいたギギネブラ。

 

 

「しまっ……!?」

 

 

咆哮で耳を防いでいたため対応が遅れた。

 

もう回避することもできず、3人は咄嗟に伏せた。もしこれで覆いかぶさったら終わりだ、と全員の頭のをよぎった。

 

 

そのとき、伊丹は聞き慣れた音が聞こえた。

 

例えるなら、打ち上げ花火が打ち上げられるような音。

 

ただ、遠ざかる音ではなく、甲高い音が近づいてるような音だが。

 

 

(は、迫撃砲!?)

 

 

訓練で嫌っと言うほど聞いた音であり、体に刷り込まれた音に一瞬ビクッとなる。

 

音からしてかなり至近距離に落ちると伊丹は頭の中で計算した。

 

 

(あ、終わったな……短い人生だったな……こんなことならもっとコミケとか同人即売会にもっと足を運んどきゃ良かった……)

 

 

そんな感じで頭の中をあーんな美少女やこーんな美女が走馬灯のように流れてゆく。

 

しかし運命の女神は伊丹たちを見捨てなかった。

 

迫撃砲の弾は地上から数メートルの高さ、ギギネブラの後方で炸裂した。

 

そのため、角度的にちょうど空中にいたギギネブラの陰に伊丹たちはいたため、爆風と破片の洗礼は受けず、その代わりにギギネブラはダメージと爆風で勢いよくさらに前に突っ込んでしまった。

 

そう、フルフルの方に。

 

フルフルは予想外の出来事に戸惑ったが、怒りの矛先をギギネブラに向けることとなった。

 

 

「クォォォオオオオ!!」

 

 

フルフルが咆哮を上げギギネブラにボディプレスを仕掛ける。

 

下敷きになりつつもギギネブラは毒霧を散布してすり抜ける。

 

それを追撃しようとフルフルは突進するがギギネブラがその頭をすっぽりと飲み込む。

 

 

「な、なんと卑猥な……!?あれはまるで逸物が肉壺の中に……」

 

「そ、そんなこと言ったらこっちも恥ずかしくなっちゃうじゃない!」

 

 

ヤオとアルペジオを顔を赤らめる。

 

 

「いいからお前らさっさと逃げるぞ!戦術的撤退!」

 

 

伊丹は二人を連れて元来た穴に入ってゆく。

 

 

(でも、なんだかさっきの迫撃砲、既視感(デジャヴ)を感じるな……)

 

 

そんなことを思いつつ、フルフルが青白く光出すのを見て伊丹も撤退する。

 

 

その様子を迷宮外から周囲の景色に溶け込んだ何者かが観察していた。

 

 

「対象A、B、C、全員無事離脱しました」

 

「よし、戦闘配置用具収め。あの化け物と保護対象を監視しておけ」

 

「「了解」」

 

「嫌だにゃ」

 

 

それを聞いて一斉に全員が振り向く。

 

 

「貴様は!?会敵(コンタクト)!全員散会!」

 

「遅いにゃ」

 

 

***

 

 

「危なかった……あとちょっとでこの身はあの得体の知れない化け物に潰されるか、卑猥な生き物に辱めを受けるところだった……」

 

「ねえ、ダークエルフっていつもそんなことを考えてるの?」

 

「ち、違うぞ!いつもではない!たまたまだ!伊丹殿もそんな目で見てないで何か言ってくれ!」

 

 

アルペジオの質問と伊丹の痛い視線からヤオは弁解しようとする。

 

しかし伊丹は今はそんなことどうでもよかった。

 

 

(まずいな……迫撃砲をまともに食らってまだ生きているなんて中々手強いぞ。もう一体も違う種類だが同程度だろう……どうやったらロゥリィとバルバスを救えば……)

 

 

考えれば考えるほど疑問が募る。

 

 

(そう言えば、あの迫撃砲は誰が撃ったんだ?今普通科や野戦特科がこの辺りで活動していると聞いてないし……)

 

「伊丹さん!聞いてますか!?」

 

 

気がつくとアルペジオがこちらを覗き込んでいた。

 

 

「あ、すまん。考え事していた」

 

「もう、男なんだからしっかりしてください。ここにはか弱き乙女が2人もいるんですから」

 

 

妹と殺し合いレベルの喧嘩をする姉や下ネタ発言をたくさんするダークエルフをか弱き乙女と呼んでも良いのだろうかと思ったが、決して口にはしなかった。

 

 

「しかし伊丹殿、このままでは猊下を助け出すことは不可能なのは事実だ。何か策はないのだろうか?」

 

 

伊丹は考えた。現時点で携行しているのは残りわずかのC4プラスチック爆弾、小銃擲弾数発、念のために持ってきた対戦車個人携行弾(LAM)1丁と64式小銃1丁。銃剣はおまけである。

 

 

「こんなことになるならあともう一つLAM持ってきたらなあ……それとあいつからもらったM4カービン(グレネードランチャー付き)」

 

 

炎龍との戦闘で、おそらくあのクラスの化け物は一体あたり2、3発は欲しいところである。頭部に直撃できれば一撃かもしれないが。

 

 

(さっきの迫撃砲部隊は支援してくれるのか?いや、実はたまたまなのかもしれない。期待はできないな……)

 

 

いっそのこと航空支援でも呼ぼうかと思ったがそんなことしたらここ一帯が破壊されるかもしれないし、そんなことで要請するなと怒られるかもしれない。

 

 

「はぁ〜仕方がない。まずは作戦を練るか。まずは奴らを分離する。一対一ならまだ勝てるかもしれない」

 

「「ふむふむ」」

 

「そして俺が囮になる」

 

「伊丹殿!それならこの身が……」

 

「まあ聞け。アルペジオも援護射撃して気をそらせる」

 

「え、私が!?」

 

「そう、大丈夫、いけるいける。そしてその間にヤオが奴らのどれかの頭にLAMを撃ち込む」

 

「単純だが、一番理にかなってるな」

 

「それしかないようね」

 

「よし、では早速……」

 

「クォォォオオオ!」

 

 

行動に移ろうとした瞬間、天井が崩れ落ちて卑猥な方(フルフル)が落ちてきた。

 

 

「やべ!早く横の穴に隠れろ!」

 

 

3人は人がやっと入れる程度の穴に入って逃れる。

 

 

「この穴なら入って来られないだろ……」

 

 

しかし予想に反したことが起きた。フルフルの首が3倍程度伸びて狭い穴に襲いかかった。

 

 

「「「うわぁぁぁああ!?」」」

 

 

それはそれは魂の底から驚いた様子である。

 

目の前にキモい口だけのっぺらぼうが至近距離にいるだから。

 

 

「あ!こいつ、やめろ!」

 

 

伊丹の64式小銃を咥えて奪い取ろうとした。

 

伊丹はとっさに腰の拳銃を構えてフルフルの頭部に弾丸を数発叩き込む。

 

化け物は怯んで小銃を放すが、致命傷にはならなかったようだ。

 

そしてバランスを崩した伊丹はドミノのように3人は倒れ、ヤオは手に持っていたLAMを落としてしまう。そしてそれは穴の奥に吸い込まれてしまった。

 

 

「ああ、鉄の逸物が!」

 

 

幸い、フルフルの伸びた首でも届かない場所に行き着いたので一先ず安心……そんなわけなかった。

 

フルフルはチャージすると口から青い光を出そうとし、伊丹は直感的にやばいと感じた。

 

 

「奥に逃げろォォ!」

 

 

3人は薄暗い穴の奥へと吸い込まれていった。

 

 

***

 

 

「チクショウ……」

 

 

うさ耳ウェイトレス兼フォルマル家の工作員こと、デリラは唇を噛み締めた。

 

だいぶ良くなっていたはずの傷口が痛み出す。ストレスか、思い込みか、普段とは異なる痛みであった。

 

 

「みんな、あたいを許してくれよ……」

 

 

そして病室の枕に顔を埋める。自分は仲間を売った。いくら脅されたといえ、到底自分を許すことはできない。

 

 

「なんであいつは……潜伏中の仲間のこと全員知ってるだ……!」

 

 

デリラが自己嫌悪に陥ってる中、アルヌス駐屯地正門付近で妙な光景が広がっていた。

 

 

「皆さんこんにちは、加藤3佐というものです。今日のお仕事の責任者です」

 

 

見ると彼の前には作業ヘルメットを被ったヴォーリアバニーが隊列を組んでいた。ただ、表情は皆不安そうであった。

 

 

「えー、皆さんはデリラさんの関係者ということでちょっとお仕事をお願いしたいと思います。なに、簡単なお仕事です。各地方に物資を届けるのでそれの護衛について欲しいだけです。3つのトラックに10人ずつ乗ってもらって、作業してもらいます。詳しいことはドライバーに聞いてね」

 

 

そして詳しい作業要領を説明したあと、無事正門を通過するのを見送る。

 

 

「やっとこれでこの前使えなかったものを処分できたわ。報告書書いて終わり」

 

 

***

 

 

「どうしたものか……」

 

 

ヤオは倒れた伊丹を覗き込む。どうやら強く頭を打って気を失ってるようだ。

 

 

「どうしよう、このままじゃまずいよ」

 

 

アルペジオも不安な表情を見せる。

 

 

「この場合は……ジンコーコキューというものをする必要があるかもしれない」

 

「ジンコーコキュー?」

 

「うむ、日本行われているいわゆる『王子のキス』のようなものだ」

 

「キ、キス!?そんなものお伽話じゃない、バカなの!?」

 

「この身も最初はそう思っていた。しかし緑の人が達は緊急時に行うそうだ。そして実際に効果があると」

 

「なんと……次の発表内容、それもいいかもしれないわね」

 

「やり方は、まず腹部に両手を当てて押す」

 

「なんで?」

 

「わからぬ。そのように教本に書いてあったのだ」

 

「それでそれで?」

 

「そして深い接吻(キス)を……」

 

 

二人はゴクリと唾を飲み込むと頰を赤らめる。

 

 

「アルペジオ殿は伊丹の腹部を押してくれ。この身は伊丹殿に口づけを……」

 

「わ、わかったわ」

 

(これで、ようやくこの身も伊丹殿と結ばれ……)

 

「えい!」

 

「ぐえぇ!?」

 

「へ!?」

 

「ヤオ、お前なにしてんの?」

 

 

伊丹とヤオの顔はヤバイぐらいに近づいていた。お互いの吐息が混じり合うほどに。

 

 

「な、何でもないぞ!決してジンコーコキューしようなど……」

 

「はあ〜、人工呼吸は気絶程度には使わないんだよ」

 

「そ、そうなのか……」

 

「まあ、俺を助けようとしてくれたことは感謝するよ」

 

「伊丹殿……」

 

 

ヤオは少し嬉しくなった。

 

 

「ところで、ここどこよ?」

 

 

伊丹は辺りを見渡す。

 

かなり下の層というのはわかったが、明らかにおかしい。なぜなら、今までの迷宮の雰囲気とは全く異なるからだ。

 

構造物が、何というか、気持ち悪いのだ。

 

理由は簡単。明らかに別の構造物が活断層の如く入り混じってるから。

 

例えるなら、洋式であるはずのベルサイユ宮殿の中を見たらなぜか和式の金閣寺になってるといった感じ。

 

今までと違い、黄金色の構造物が増えてる。というか割り込んでいる。

 

 

「な、なんだこりゃあ?」

 

 

よく見ると単なる構造物ではなく、どことなくこの世界観に合っていない。

 

試しに黄金の金属を軽く叩いて見る。

 

 

音がしばらく響いた。

 

 

「間違いない……空洞になっている。ということは、これ全部パイプなのか?」

 

 

あちこちに似たようなものがある。特地に来てしばらく経つが、このようなものは見たことも聞いたこともない。それに、色こそ金色だが、金なのか真鍮なのか銅なのかさっぱりわからない。

 

 

「こんなの、初めて」

 

 

アルペジオも感心して見入ってしまう。

 

 

「少なくとも、元の穴に戻るのは不可能だな。進むしかないか……」

 

 

3人は周囲に気をつけながら進んで行く。

 

不思議なことに、かなり下の階層にも関わらず周りはそれほど暗くなかった。

 

 

「ロストテクノロジーってやつなのかな?」

 

 

伊丹は周囲に仄かに光る青白い光源を見る。

 

ランプのようなものもある。

 

 

「こんなの私も見たことも聞いたこともないわよ。文献にすら載ってないわ」

 

 

アルペジオは隙あらばスケッチしたり、落ちているものを拾っていた。なのであっという間に持ち物が多くなってしまう。

 

 

「ま、待って……」

 

 

どうやら身動き出来ないようだ。

 

 

「アルペジオさん、ここでくたばっちゃったら元も子もないよ?最低限だけ持って他置いて行きなよ」

 

「そんなあ……鉱物はわたしの専門分野なのに……」

 

 

渋々整理して金色のガラクタをいくつか捨ててまた歩き出す。

 

 

「ちょっと待って……」

 

 

少し遅れたアルペジオが小走りに近寄った。

 

しかしその時足元に注意を払わなかったのがいけなかった。

 

変な圧力盤を踏んでしまう。

 

 

「ひっ!?」

「伏せろー!」

 

 

アルペジオの真後ろから某青いタヌキネコ型ロボットよろしく、空を自由に飛びたい時に使う()()のようなものが地面から出てきた。

 

ただ、サイズと回転速度からして明らかに飛ぶためではなく、殺戮ようだが。

 

伊丹がアルペジオを押したことでことなきを得た。しかし、伊丹の首元にその刃が襲いかかった。

 

 

「キャァーーァァア……?」

 

 

ヤオは悲鳴を上げたが、伊丹は無事であった。たしかに、巨大タケ●プターのブレードが当たった気がしたのだが。

 

 

「俺、死んでない……」

 

 

伊丹が首元をペタペタと触って確認する。

 

そしてタケ●プターはまた元の場所に収納される。

 

 

「一体何が起きてるの……?」

 

 

***

 

 

「ええい、だめだ。もう一度だ!」

 

「フゥス!」

 

「違う!Fus()だ!」

 

「ギャァァァア!?」

 

 

的にされていたジゼルが吹っ飛ばされた。

 

アルドゥインはヨルイナールとアンヘルにシャウト(スゥーム)を教えていた。

 

 

「アルドゥイン殿、我からしたら違いがわからないのだが……」

 

「ええい、音の違いなどではない!喉から出す汚い音ではないのだ!」

 

 

スゥームを知らぬ龍に教えるのは日本人に英語のRとLの発音の違いを教えることよりも難しいようだ。

 

因みにヨルイナールは叫びすぎが原因で火炎器官が暴発して目を回していた。

 

 

「アンヘル、もう一度だ!」

 

「フゥス!」

 

「だからFusだ!」

 

「もう止めてくれ!死んじまうー!」

 

 

アルドゥインがお手本を見せる度にジゼルは吹っ飛ばされる。よろめかないで吹っ飛ばされるのもアルドゥインのシャウトが強力過ぎるからだろう。

 

 

(とんだ期待外れだ。ヨルイナールはともかく、アンヘルもダメだったか……)

 

 

アルドゥインは苛立ちでいつもより険悪な表情をする。あまり大差はないが。

 

 

「興がさめた。ちょっとそこらへんの村を焼き払ってくれよう。アンヘル、ヨルイナールついてこい」

 

 

外のことも気になるしな、と言いながら飛び立とうとする。

 

 

「主人様、俺は?」

 

 

ジゼルがボロボロになってやってくる。

 

 

「貴様が我らの飛行についてこれるか?まあ無理だろうから貴様はあと槍を千本ほど磨いておけ。知ってると思うが、逃げてもすぐ分かるからな?」

 

「……」

 

 

ジゼルは目が虚ろになりながら龍たちの後ろ姿を見送る。

 

 

「チキショー!事あれば俺に槍を磨かせやがって、何するつもりだよ!?槍を何に使うんだよ!?Fusって何だ……」

 

 

その時ジゼルは体からエネルギーが一瞬減ったように感じると共に目の前の槍が何本かが動いた。

 

 

「え?」

 

 

***

 

 

「ひ、酷い目にあった……」

 

 

伊丹一同はボロボロであった。

 

進めど進めど一向に出口に辿り着く気配はなかった。というか時間もかなりかかってしまった。弾薬も残りわずかとなった。

 

 

「何だあいつらは……」

 

 

途中で出会った金色の敵。しかもそれは伊丹の元の世界でも再現の難しい完全自律型ロボットに似た物。

 

一種類は小型でクモのような形をしており、近接戦を仕掛けてきたり、倒したと思ったら自爆して電撃放ったりとどっかのテロリストが喉から欲しがるようなものだ。

 

もう一種は人型に足回りを球体にしたやつだった。こちらも接近戦を仕掛けてくる。

 

伊丹たちが手を焼いていたのには複数の理由がある。

 

・生物ではないため、機能停止までに攻撃しなければならない

・金属製なので、頑丈だった

・魔法耐性を有していた

 

このため、アルペジオの魔法攻撃が効きづらく、伊丹の攻撃が主力となったためだ。

 

 

「マズイな……弾倉3つ、手榴弾2つ、拳銃用弾倉3つ、LAM一発とC4少々か」

 

「この身の矢も残ります僅か……」

 

「鉱物魔法の触媒もほとんどないわ……」

 

 

ピンチである。

 

このまま進んでもいずれは力尽きて全面。止まっても飢えて全滅することになるだろう。

 

アルペジオとヤオは不安そうに伊丹の顔を覗き込む。

 

 

「……ま、なんとかなるようになるさ」

 

 

伊丹はのほほんとした笑顔を見せる。

 

これを見た二人はホッとする。

 

 

伊丹は知ってる。

 

こういう時に指揮官が嫌な顔をすれば、士気が落ちるということを。オタクでも彼は立派な自衛官だ。

 

 

「さてと……」

 

 

伊丹がそう立ち上がった途端、暗闇の奥からピンクに光る模様のようなものが見えた。

 

 

「危ない!」

 

 

今度は伊丹がアルペジオに押されて倒れこむ。

 

それと同時に病みに潜んでいたギギネブラが襲いかかってきた。

 

「グォォォオ!」

 

「「「ひっ!?」」」

 

 

ヤモリのように壁に貼り付きながら跳びまわったりしながら近づいてきた。

 

 

「伊丹殿、鉄の逸物を打ち込めばよいのか!?」

 

「だめだ、あいつは動きが早すぎる上に動きが読めない!とにかく逃げろ!」

 

 

ギギネブラは猛毒駅を吐きながら徐々に距離を詰めて来た。そして狙いをヤオに定める。

 

 

「畜生、こっちだ!」

 

 

伊丹は小銃弾を何発か叩き込む。

 

相手は一瞬怯んだが、今度は狙いを伊丹に定めた。

 

伊丹はすぐに回避行動をして逃げる。しかしギギネブラはそれを逃すまいと追撃を放つ。

 

伊丹(一応の主人公)お得意の直感と逃げ足(主人公補正と御都合主義)によりなんとか事なきを得る。

 

しかしそんことで敵は諦めてくれなかった。

 

獲物を逃がさんと追従する。

 

伊丹は何かにつまづいてこけてしまった。

 

そして敵はしめたとばかりに突撃する。

 

 

「今だ!その圧力盤を踏め!」

 

「え!?あ、うん!」

 

 

アルペジオは一瞬分からなかったが近くにあった圧力盤を踏み込む。

 

 

そして例の巨大竹とんぼ(殺人タケ●プター)が地面から瞬時に出てくる。

 

 

「!?」

 

「くたばれバイオのクリーチャーもどき!」

 

 

地面に伏してる伊丹の真上にブレードが高速で回転する。

 

ギギネブラはもう勢を止めることもできず突っ込む。

 

 

そして肉が何回も切れる音と共に伊丹は返り血を浴びる。

 

 

「やったか!?」

 

 

殺人タケ●プターが収納され、伊丹は立ち上がって確認する。

 

 

「流石に頭部をこんなに切られて生きているはずは……」

 

 

しかし予想に反して血みどろの物体は動き出した。

 

頭部を破壊されて生きている動物は稀である。それこそG(ゴキさん)のような生命力をもっていたり、プラナリアのような変わった生物であったり。

 

少なくとも、()()を破壊した場合だが。

 

そして、ギギネブラはゆっくりと頭部を伊丹に向ける。

 

 

「しまっ……!?」

 

 

そう、頭部と思っていたところは、擬態していた尻尾であった。

 

そしてそのヤツメウナギのように牙がびっしりと口腔内を覆う口を大きく広げる。

 

 

「ロゥリィ、レレイ……すまん」

 

 

伊丹は覚悟を決めて目をつぶった。

 

 

「グルォォオ!?」

 

 

しかし変な断末魔が耳を通り抜け、恐る恐る目を開けると予想外のものが見えた。

 

 

金色の機械巨人(ドワーフ・センチュリオン)

 

 

それがギギネブラをハンマーと斧で倒してしまった。

 

 

「俺たちを、助けたのか?」

 

「シーッ!!」

 

 

ドワーフ・センチュリオンは次のターゲットを見つけて蒸気を発した。

 

 

「んな訳ないか……みんな逃げろー!!」

 

 

***

 

 

「フハハ、Koraav! Joor Los Nid Kod(見ろ!定命の者がまるでゴミのようだ)!」

 

「アルドゥイン殿はいつになくご機嫌だな」

 

「そうね、久しぶりに暴れてるもの」

 

 

アルドゥインたちは道中で見つけた帝国軍たちを蹂躙していた。主に暴れてるのはアルドゥインで、ヨルイナールとアンヘルはそのおこぼれをもらってる感じだ。

 

理由など特にない。

 

そこにいたから屠っただけ。ぶっちゃけ暇潰しである。

 

彼らは最初こそ戦ったが、彼らの弓矢や魔法程度ではヨルイナールの鱗すら貫通できない。増してやアルドゥインなど論外で、彼らは早々に士気は地の底まで落ち、指揮も乱れ、錯乱、人格崩壊するものまでいる始末。

 

頭が逝かれて同士討ちしてるのかそれとも魔法やスゥームのせいで激昂状態なのかどうかも分からないほどなカオスっぷりを発揮している。

 

ものの3分で一個師団が全滅した。しかもたかが遊び程度で。

 

幸い、彼らの犠牲によって当初の予定であった村は焼かれずに済んだ。その代償は大きすぎたが。

 

 

「ンッン〜〜♪実に!スガスガしい気分だッ!(スゥーム)でも一つ歌い(シャウトし)たいようなイイ気分だ〜〜、フフフハハハ!」

 

「主人様!それだけはやめてください、死んでしまいます!」

 

「んん?ドヴァ()のくせして弱気な奴め。それなら我が蘇らせてやるから安心せい。なんの問題もないぞ」

 

「ふぇ!?」

 

 

幸い、本当にそんなことはしなかったのでアンヘル、ヨルイナールともまた骨にされて復活させられることはなかったが。よほどジョール狩り(ジェノサイド)がストレートに発散になり、気分爽快であった。

 

 

隠れ家に戻るまでは。

 

 

(い、一体何が起きてるのだ……)

 

 

目の前にはドヴァもどき(ジゼル)が嬉しそうに報告してくる。

 

 

「主人様、もう一度言うぜ。俺も主人様が使っている魔法を少し使えるようになったぜ」

 

(一体コイツは何を言ってるんだ?こんなヤツがスゥーム(高貴なる言葉)を操れる訳など……)

 

「信じてねーな?見てくれよ、Fus()!」

 

 

すると力は弱いものの、彼女の目の前の小石や砂が舞い上がった。

 

 

「あ、うむ……すごいな……」

 

「へへーん、俺も少しは役立てるかな?」

 

 

ジゼルはもっと褒めてもいいんだぜ?的なオーラを出す。

 

対してアルドゥインは……

 

 

(なんてこった、大失態だぁぁああ!)

 

 

心の奥で悲痛の叫びを唱える。

 

 

(なんたることだ。ドヴァキン(天敵)候補を増やしてしまった。あれか?あれなのか?アカトシュか!?デイドラ・ロードか!?我の野望を潰すつもりなのか!?)

 

 

表情には出さないが、アルドゥインは動揺していた。

 

(それとも我なのか?自分で自分の首をしめているのか?確か前回もドヴァキンはパーザナックスに教えを乞いでいたな?これは由々しきじたいだ!)

 

 

そしてジゼルの方をじっと見る。

 

この場で消すか?

 

しかしそうすればかれの計画に大きな変更を余儀なくされる。

 

それにまだこの世界の未知なる神々に対する切り札としてこいつ(ジゼル)を捕らえたのだ。殺してしまえばそれまで。

 

だがしかし、今までの慢心で幾度も痛い目に遭ってる。

 

やはりここで消すべきか?

 

ドラゴン・レンド(不死殺し)が喉から出ようとした直前、ある案が浮かんだ。

 

そうだ、絶対的な忠誠を持つドヴァキンにすればよいのだ。

 

幸い、彼女はスゥームの才能がある。

 

つまり、スゥームで絶対的な忠誠を誓わせれば良い。

 

 

「ジゼルよ、上出来だ。貴様には才能があるようだな」

 

 

これを聞いてジゼルは少し嬉しくなる。

 

 

「もし、我に永遠の忠誠を誓うのであれば、貴様を我の同胞として認めてやっても良い。そうすれば、ドヴァとしての悦びと快楽も教えてやろう」

 

「悦びと……快楽……」

 

 

ジゼルは武者震いをする。

 

 

「誓い……ます」

 

 

ジゼルは初めて自然と敬語が出た。

 

 

「ならば我の言葉を復唱せよ」

 

 

そして誓いの言葉をスゥームで教える。

 

 

「|Zu’u Ofan Dii Vaat Ahrk Ov Wah Alduin Thuri《私は我が主人、アルドゥイン様に忠誠を誓います》」

 

 

ジゼルは教えられた通りに誓いの言葉を口にする。

 

それを見てアルドゥインはほくそ笑む。

 

 

「よかろう。貴様はこれより我の忠実なる僕だ。我を失望させるなよ、()2()の従者よ」

 

 

***

 

 

「もう無理〜」

 

 

機械巨人(ドワーフ・センチュリオン)を撒くことに成功したが、全員疲労困憊で精神的にも参ってしまった。

 

そしてとうとうアルペジオの心が折れてしまった。

 

 

「泣くなよ、美人が台無しだぞ」

 

「私はこのまま惨めな人生終わっちゃうんだ〜」

 

 

そして、泣き止んだと思ったらいきなり伊丹に襲いかかった。

 

 

「うひひ、どうせ死ぬんだったら男の味を知ってから死んでやる!」

 

「やめろー!」

 

 

目が完全イッてた。伊丹は直感的にこれはやばいヤツだと感じた。例えるならエロゲやギャルゲーで選択肢ミスってヒロインの精神が崩壊してバッドエンドになっちゃうヤツ。

 

 

(こういう時どうするんだっけ!?やば、これ死亡フラグじゃねーか!?)

 

 

過去にプレイしたことあるゲームで攻略法を探すがとても使えるようなものはなかった。もうこのままじゃナイスボートよろしく、クズ主人公同様の結末になりかねない。

 

 

「ヤオ、ちょっとどうにか……」

 

「この身も、もう我慢できない。最後は自分の欲に従い……」

 

(ダメだこいつら、早くなんとかしないと!)

 

 

二人の目はもはや正気の沙汰ではなかった。

 

 

「やめろー!」

 

『うるさいな、俺の安眠を妨げるのは誰だ?』

 

 

奥から聞こえた不思議な声で3人は驚く。

 

 

『ん?なんだ、あの忌々しい奴(バルバス)が見張っていた人たちじゃないか』

 

「せ、石像が喋った!?」

 

 

そこにいたのは変なお面片手に掲げている少年のような石像であった。




もっとテンポよく書かなくては……


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よしなに

大変お待たせしました。

え?ドワーフセンチュリオンなんて弓矢で倒せる?隠密行動取るだけでダメージが倍加したりする超人と一緒にしないでください。



 

「ヒュウ、F-35に10(ヒトマル)式戦車、それに16式戦闘車両。あのケチな防衛省が奮発するねえ。F-15あたりが来ると思ったけどまさか最新兵器とは。人工衛星がないこの世界に役に立つかしらんけど、まあ実験のためと聞いてるし」

 

 

本土と繋がる門から次々と新兵器が牽引されて行く。でかいものは一部分解されて運ばれて行くものもある。

 

最新兵器が投入されている一応の建前として、運用試験等を特地で行うためとされている。もちろん建前と本音は別だが。

 

 

「フムフム、妙に梱包が厚いトラックは例の物なのかねえ」

 

 

他と異なるコンテナも続々と投入される。

 

 

「ちわー、ミケ猫タマコ急便です」

 

「はいはーい、代表は私、加藤3佐です」

 

「受け取り印お願いしまーす」

 

 

民間人はメディア関係者等を除き特地に入れないので門の中でやり取りをする。

 

 

「確かに受け取りました。ご苦労様です。では皆さん、これを運んでください」

 

「了解しました」

 

 

そこに待機していたヴォーリアバニーたちがせっせと運んで行く。

 

 

「最近の通販は何でも手に入るな。ア●ゾンってステキ♪」

 

 

***

 

 

『何を今更驚いているんだ?これまで何度も奇妙な体験してるだろう。喋る犬やら猫やら空飛ぶトカゲ。それに機械人形(オートマトン)

 

 

石像からテレパシーのような声が聞こえてきた。

 

 

「あ、あなたは?」

 

『俺か?バルバスから何も聞いてないようだな』

 

「あいつの知り合いか?」

 

『ああ、俺は奴のマスター。クラヴィカス・ヴァイルだ』

 

「えーと……神様という認識でいいのかな?」

 

 

一通り特地の神の名前に関しては調べてあったが、漏れがあったのかもしれないと伊丹は思うのであった。

 

 

『神?まあお前たち定命の者たちが真っ先に考えそうなことだな。残念ながら、俺は神などではない。デイドラプリンス、またはデイドラロードだ』

 

「デイドラ?」

 

 

それすら知らない伊丹に対して石像はため息混じりの声を出す。

 

 

『まあいい、神でもなんでも。そんなものと認識してくれればいい』

 

「クラヴィカス・ヴァイルなどという名は初めて聞いたわ」

 

「この身も長く生き、あちこちを旅してきたが初耳だ」

 

 

アルペジオとヤオが物珍しそうに石像を見る。

 

 

『当たり前だろう。俺はこの世界から来たわけではないからな』

 

「「「えっ!?」」」

 

『何を驚いてる。普通のことではないか』

 

「普通……?」

 

『まずそこのニホン人。緑の人とか呼ばれているな。まずどこから来た?』

 

「え、日本……あ……」

 

 

伊丹はそもそも自分が異世界から来ていることを忘れていた。一応世界は繋がってるが。

 

 

『それにお前の鈍感さには呆れた。ニホンでは異世界に関する書物や物語がたくさんあると聞いてるのに。お前はそれを疑わないんだな』

 

「え……まあ……すみません」

 

『なんでニホンのこと知ってるか?という表情をしているな。バルバスのマスターだと言ったろ?俺が何のために奴に力を半分も与えてこの世界に送りこんだと思っているんだ?』

 

「なるほど……」

 

 

子供のような声質だが、上から目線なのがやはり神さまのようだ。ここは怒らせない方がいいと伊丹は咄嗟に判断する。

 

 

「ところで、なんで異世界の神様が俺たちみたいなのに関与を?」

 

『先程俺がバルバスに力の半分を与えたと言ったな?残り半分も他所に貸していて今俺は無力だ。それにちょっと実験に失敗してな、こんなチンケな場所に着いてしまったのだ』

 

「……つまり帰るための力がないと?」

 

『察しがいいな、緑の人。それに、今までお前の活躍を陰ながら見て面白い奴だと思ってな。だからお前と一つ取引をしてみたくなった』

 

(これって、契約したら嫌な予感しかしないんだけど……)

 

 

伊丹の脳内を真っ白な地球外生命体の|幼気な少女たちを魔法少女にスカウトするアイツ《インキュ●ーター》が過った。

 

 

『お前、今困っているだろう?もし、俺に協力するなら、助けてやってもいい。一つお前の望みを叶えてやろう』

 

「……」

 

 

伊丹は迷った。

 

大概この手の契約というのは理不尽なものだ。こちらが得すると思わせて結果的に莫大な損害を被る。

 

しかし、今の彼にとっては自身の損など問題ですらないほどに陥っていた。

 

 

「一つ聞きたい。俺の願望を叶えてもらう前に、契約の対価などを確認してもいいか?」

 

『慎重なやつだな。お前ならアイディールマスター相手でも大丈夫かもな』

 

「アイディールマスター?」

 

『いや、独り言だ。もちろん、問題はない。それどころかやってもらいたいことは一つしかないがな。バルバスをここに連れてこい』

 

「え、それだけ?」

 

『そんな簡単なものではないと思うが。で、心から望むものは何だ。どんな取引がしたい?』

 

 

ここでも伊丹は迷った。

 

なぜなら、今彼にとってどうしても必要な望みが3つあるからだ。

 

1つ目、今苦しんでいるレレイの病を治すこと。

 

2つ目、ロゥリィの無事。

 

3つ目、ここから全員が無事に脱出できること。

 

細かいこと言えば今日本と帝国の紛争を止めてくれとか、一生働かなくても良いとか色々あるが、今()()なのは上記の3つだ。

 

 

「……この迷宮から、全員が無事に脱出できること……」

 

 

考えて考えて、最終的にこれを望んだ。

 

 

『なんだ、思ったよりつまらないやつだな。もっと面白いことでも言ってくれるかと思ったが。この場を打開するだけの超能力がほしいとか』

 

「あ……」

 

 

伊丹は心底自分を罵倒した。そう願っていれば万事解決だったのに。オタクを自称しているにもかかわらずやはり常識の範囲内ででしか思い浮かばなかった。

 

 

『望みが決まったらさっさと行った行った』

 

 

***

 

 

「どうする?」

 

 

伊丹たちは角に隠れて黄金の機械巨人(ドワーフ・センチュリオン)を観察する。特に動きは見せない。時々蒸気を発したりはしているが。

 

本当こっちではなく、横で倒れているキモい方(ギギネブラ)に用があるのだが。

 

 

「やはり鉄の逸物ぶち込むしかないとこの身は思う」

 

「もう貴女が言うと変な風にしか聞こえないわ……」

 

「よし、作戦はこうだ」

 

 

案の定伊丹が囮になる。

 

そしてゆっくりと匍匐で近づく。

 

後ろではヤオがLAMを構えており、そして前方にはC4とアルペジオの鉱物魔法の複合即席地雷(IED)を設置してある。

 

 

「フシューッ!」

 

 

案の定ドワーフ・センチュリオンは伊丹が近くにいることを認識するとまた動き出した。

 

 

「うわっつつ!?」

 

 

熱い蒸気が伊丹をおそうが、かろうじて蒸される前に有効範囲から逃れる。そしてそのまま脱出で逃げる。

 

ドワーフセンチュリオンも逃すまいと追いかける。

 

 

「アルペジオ、間違っても俺が近くの時に起爆するなよ!」

 

「わかってるわよ!」

 

 

伊丹は地雷の上を走り幅跳びのように飛び越えて地面に着地すると転がりながら角に隠れる。

 

 

「今!」

 

 

アルペジオを伊丹の号令でC4を起爆させる。

 

アルペジオの魔法も少し加わったことにより、普段より強力な爆発が起きた。

 

 

「プシュー!?」

 

 

ドワーフセンチュリオンは足に相当なダメージを喰らい、自重を支えきれずに崩れてしまう。

 

 

「ヤオ!」

「分かった!」

 

 

ヤオはすかさずLAMを叩き込む。

 

そしてドワーフセンチュリオンに見事命中する。

 

 

「やったか!?」

 

「ああ、それ言っちゃだめなやつ」

 

 

伊丹はヤオの言葉にしまったと言わんばかりの表情をする。

 

案の定、ドワーフセンチュリオンはまだ動いていた。当たったのは左の斧の腕だった。

 

倒れてもなお、ゆっくりと這いつくばって近づいてきた。

 

 

「ちくしょう、作戦変更!俺が囮になるから二人はあのキモいモンスター(ギギネブラ)の中を確認してくれ!」

 

「伊丹殿、身体能力はこの身の方が高い。それに伊丹殿は疲れているであろう」

 

「ヤオ、できるか?」

 

「ああ、問題ない」

 

「頼んだ!」

 

 

ヤオは伊丹に代わって囮を引き受ける。

 

そして絶妙な距離を保ちながらドワーフセンチュリオンの注意を伊丹たちから遠退ける。

 

 

「なんだこれ、なかなか切れにくいな」

 

「うん、こんな生物初めてよ」

 

 

ギギネブラの身体は絶妙な硬さと弾力を有していたため、なかなか刃が通りにくかった。

 

 

「ヒィィッ!?」

 

「なんだこれ?」

 

 

時々毒腺がウネウネと不気味に動いたりして時たまアルペジオが腰を抜かしたりしていた。

 

 

「ありがとぉー」

 

「ロゥリィ!」

 

 

出てきたのはロゥリィ……の頭部だった。

 

 

「「ヒィィィィッ!?」」

 

 

流石に伊丹も腰を抜かして尻餅ついた。

 

 

「ちょっとヨウジぃ、酷いわよぉ。いくら私の眷属で死ににくいからってもうちょっと私にもぉ、気を遣ってよぉ」

 

「あ……」

 

 

そういえばそうだった、と伊丹は思い出す。殺人タケ●プターの件についても。

 

 

そして二人は急いで首から下の方も引っ張り出して急いでくっつける。

 

 

「フシュー!」

 

「はぁ、はぁ……」

 

 

ヤオもかなり頑張っていた。いくら相手の機動力が落ちたとは言え、当たれば一撃のハンマー、そして蒸気攻撃などに手を焼いていた。

 

 

「一体このゴーレムのようなものの原動力はなんなのだ……?」

 

 

ヤオの世界観的にはおそらく魔法の類で動いていると考えていた。なのでその魔法を遮断すれば解決できると考えていた。

 

一方、伊丹の世界観的には蒸気を使った原動力のため、エネルギー切れを起こせばなんとかなると思っていた。

 

二人は正しくて、間違えていた。

 

もし本気でエネルギー切れを狙ってるなら、むしろドワーフセンチュリオンの方が圧倒的に有利なのだが。日本もびっくり、驚異の最低5000年保証の技術。

 

 

「シュー!」

 

「あ!?しまっ……」

 

 

ドワーフセンチュリオンは蒸気を放ち、ヤオは目眩しを食らってしまう。そして間髪入れずハンマーを振り上げる。ヤオが視力を取り戻した頃にはハンマーが振り下ろされ始めていた。

 

しかし金属音とともにハンマーが落ちた場所は幸いにもヤオの目の前だった。

 

 

「何してるのよぉ、ばかぁ!逃げなさいよぉ!」

 

 

目の前には裸幼j……ロゥリィがドワーフセンチュリオンの壊れた斧を担いで立っていた。

 

 

「ちょっと私ぃ、ストレスたまってるのよぉ。楽しませてほしいわぁ」

 

 

この後めちゃくちゃフルボッコにした。

 

 

***

 

 

アルヌス駐屯地、会議室

 

 

「他に報告は?」

 

「はい、例の海上自衛官たちを乗せたSH-60J及び行方不明隊員を本日まで捜索させましたが、未だ行方不明隊員を全員発見できておりません。山岳であるため、困難であることがわかりました」

 

 

陸自の幹部が報告する。

 

 

「また、ヘリの機体そのものは見つかりましたが、損傷が激しく、一部パーツ等が見つかっていない状況です」

 

「これをどう説明すべきか……」

 

 

狭間陸将が呟く。

 

自衛官から殉職者を出してしまった。

 

一人も死なないなど楽観的には考えていたわけではないが、どうすべきなのかが整理できてなかった。

 

 

「一つよろしいですか?」

 

 

声の主を見ると部屋の奥から青迷彩の男が手を挙げていた。

 

 

「加藤3佐、どうぞ」

 

「このことは、まだ秘匿すべきかだと思います。まず、隊内で殉職者が出たとなれば士気が下がるでしょう。マスゴミ……失礼、マスコミも黙っていません。この件は、我々海自が責任もって処理しましょう。また、捜索は一時中断すべきでしょう。彼らをわざわざ危険に晒す必要は無いかと」

 

 

誰もが頷く。狭間陸将を除いて。

 

 

「加藤3佐、それは上からの命令か?」

 

 

狭間陸将が尋ねる。

 

そして少しの間が空くと、加藤は笑みを浮かべ、こう言った。

 

 

「ええ、上からの命令です」

 

 

***

 

 

「ロゥリィよく生きていたな」

 

「私を誰だと思ってるのぉ?亜神ロゥリィ・マーキュリーよぉ」

 

 

ロゥリィは伊丹の予備の戦闘服を借りているのでもう大丈夫である。肩にはドワーフセンチュリオンの斧を担いで。

 

 

「しかしロゥリィが居てくれると心強いな」

 

「ふふ、褒めても何も出ないわよぉ。ところで、あの駄犬(バルバス)はどうしたのぉ?」

 

 

伊丹は経緯を話す。

 

 

「なるほどね。それに私もぉ、あいつにグーでお見舞いしないと気が収まらないわぁ」

 

 

そんな感じで4人はバルバスの探索を行うのであった。

 

 

実はそんなに時間はかからなかった。

 

道中に壊れた小型オートマトン(ドワーフスフィア、スパイダー)があったので辿ってみると広場でオートマトンの残骸に囲まれて足を引きずっている卑猥な方(フルフル)がいた。

 

 

「チャァァアンス!」

 

 

作戦を練ろうとした矢先、ロゥリィが飛び出した。

 

それを察したフルフルは例の甲高い咆哮を上げる。

 

 

「頭イタァい!」

 

 

そこにいた全員が耳を塞いでしまう。

 

フルフルはすぐさま体に青白い電気を纏うと、まだ耳を塞いでいたロゥリィに飛びかかる。

 

 

「え……プギャァァァああ!?」

 

「ロゥリィがだいしゅきホールドでやられた!?」

 

「伊丹殿、だいしゅきホールドとはなんだ!?」

 

「お前は知らない方がいい!」

 

 

フルフルは最初の敵を倒すとすかさず青白い電気玉を吐く。

 

 

「ワアァ!?こっち来たー!」

 

 

伊丹とヤオは回避できたが、アルペジオを逃げ遅れた。

 

 

「フギャァァアア!?」

 

 

アルペジオはその場に大の字で倒れてピクンピクンと痙攣して身動きが取れなくなってしまった。

 

 

「やべえ、こいつ思ったより強え!」

 

 

不幸中の幸いは、このモンスターが動きがそこまで早くなく、単調であったことだ。

 

 

「うう……死ぬかと思ったぁ」

 

 

つい先ほどまで黒こげだったロゥリィが起き上がり反撃に入る。先ほどより、より慎重に立ち回りながら。

 

その間、伊丹も小銃擲弾(小銃の先っぽにつけて発射するグレネードランチャー)で支援などした。

 

最初は有効に見えた。

 

だが様子がおかしかった。

 

攻撃したはずなのに、擲弾を叩き込んだのに、ロゥリィが斬りつけたのに。

 

 

「こいつ……ダメージを食らってないぞ!」

 

 

伊丹は考えた。そのような特性を持った生物なのか?それとも魔法やなんかの作用を受けているのか?

 

そしてしばらく観察していると、初遭遇時と微妙に雰囲気が違うのを感じた。

 

何か、オーラが異なる。

 

初遭遇時と異なる条件は何か。

 

あの時は……ロゥリィが居なくてバルバスがいた。

 

そして今はその逆。

 

 

「まさか……バルバスが飲み込まれただけでこうなるのか!?」

 

 

バルバスがただの犬ではないことも伊丹は薄々感じていたが、ここまでとは思っていなかった。

 

こうなれば解決方法は一つしかない。

 

バルバスを取り出すこと。

 

しかしここで、問題。腹を切り開くにも、そもそも傷すらつかないのだから、取り出すことができない。

 

 

「くそったれ!どうしろと……」

 

「ひっ!?」

 

 

伊丹が苛立ちを隠しているとアルペジオがまた変なスイッチを作動して下から突き上げるタイプの槍トラップに尻餅ついていた。

 

 

「……これだ!ロゥリィ、奴をこっちに誘導してくれ!できれば奴が天井から落ちてくるように」

 

「言っていることはよくわからないけどやってみるわぁ!」

 

 

ロゥリィは壁キックを利用して準空中戦に持ち込む。

 

フルフルもその挑発に乗って壁をヤモリのように這いながら戦う。

 

しばらくすると槍がまた地面に戻る。

 

 

「ロゥリィ、こっちに降りてきてくれ!」

 

「わかったわぁ!」

 

 

そしてロゥリィは華麗に着地を決める。

 

そしてフルフルもそれを追撃せんと追いかける。

 

位置的にはパーフェクトだった。ちょうど槍が出る穴にフルフルは着地しようとする。

 

そして最高のタイミングで、伊丹はトラップを作動させる。

 

 

「クォォオ!?」

 

 

フルフルがまさに地面に接しようとしたところ、槍が複数、フルフルの腹に目掛けて勢いよく飛び出る。

 

もちろん、伊丹はこれで串刺しにしようとしたわけではない。

 

 

「ゲェ、ゲェ……」

 

 

フルフルは腹の中の物を戻す。

 

中から液体まみれの犬が出てきた。

 

 

「お前さんたちのこと信じてたよ!」

 

 

意外とピンピンしていた。

 

 

「バルバァァス!」

 

 

そしてロゥリィの怒りの鉄拳によって感動の再会など微塵も残さず吹き飛ばされた。

 

 

このあとフルフルはめちゃくちゃボコられた。

 

 

***

 

 

『まるでいっぱしのおとぎ話だな。勇者が仲間を連れて仲間と王子の下僕を救い出すなんてな』

 

「おいおい、誰が下僕だって?」

 

『ふん、お前は黙っとけ。また斧で数世紀死にたいのか?』

 

「へ、へい!忠犬バルバスでございます。ワンワン!」

 

『まあいい。なかなか面白かったぞ、緑の人。一時はどうなると思ったが、まさか俺が思いもよらない方法でな』

 

「見ていたなら助けてくれても良かったのに」

 

 

アルペジオが愚痴をこぼす。

 

 

『言っただろう、俺の力の半分は犬っころに貸していると。それにもう片方もまだ回収できない状態だと』

 

「クラヴィカスさんの残り半分、どうしたの?」

 

『なんだ緑の人、気になるか?ならそれを取り返しに来てくれたら……』

 

「いや、もういいです!大丈夫です!」

 

『お前はこういう時はつまらない奴だな。まあいい、お前の望みを叶えてやろう。ここから出たい、だったかな?まあ、久しぶりに面白い物を見せてもらったから、サービスしてやるよ。おい、犬っころこっちにこい』

 

「伊丹の旦那、亜神の嬢ちゃん、ダークエルフの嬢ちゃん、それとえーと」

 

「アルペジオよ」

 

「おお、そうだった。ヒト種のお子ちゃまだった」

 

 

「「「誰が嬢ちゃん/お子ちゃまだってぇ!?」」」

 

「はは、やはりおめえらは面白いな。世話になったな。まあ、これからも大変だと思うけど、せいぜい頑張りな」

 

 

そう言い残してバルバスは紫色の渦に包み込まれた。

 

すると目の前の石像にバルバスの像が追加され、しばらくするとその像そのものが消えた。

 

 

そして奥には隠し通路があった。

 

横には宝箱。

 

 

「罠、じゃないよな?」

 

 

中身はヘンテコなマスクにロゥリィの神官服(デイドラ製)とハルバード(スタミナダメージ付き)その他諸々どうやって全部入っていたかなど突っ込んではいけない

 

ロゥリィはハルバードと服、ヤオはデイドラ製の弓矢、アルペジオは身につけると魔力アップの不思議な首飾り。

 

そして伊丹は残り物のヘンテコな仮面を貰うことに。

 

 

「俺だけ扱いひどくないか?」

 

 

給料日や同人即売会で伊丹がこのお面でウハウハになるのはまた別の話。

 

 

***

 

 

「加藤3佐、今いいかな?」

 

「はい、なんでしょう、狭間陸将?」

 

 

加藤は作業を止めて振り向く。

 

 

「さきほど、海幕からの方の連絡で、君の上司の草加2佐は、殉職したと判断され、2階級特進をしたようだ。正式に殉職が認められるのは、落ち着いてからだろうが。つまり、海将補だ」

 

「しかし、まだ彼は行方不明扱いだったのでは?捜索は一時中断は進言しましたが」

 

「残念ながら、上の判断で、草加元2佐以下な行方不明者は殉職と判断した」

 

「そうですか。わかりました」

 

 

そして話しが終わったと判断し、敬礼する。

 

 

「加藤くん、君は大丈夫か?」

 

「何がです?」

 

「上司や部下が殉職して、ここまで感情を出さない人間は初めて見た」

 

「……そうですか。なぜでしょうね」

 

 

加藤は再度敬礼してその場を後にする。

 

 

「……あれは鬱の一種なのか?」

 

 

狭間陸将はその背中を見送ることしかできなかった。

 

 

***

 

 

「この謎を解けば、出られるのか?」

 

「うむ、そうらしいな」

 

「最近この手のゲームとかやってないから解けるかなあ」

 

 

伊丹は小さく溜息を吐くと出口への謎解きを始める。彼らは最後の地上に出るための扉の謎解きをしていた。

 

 

「ところで、このスイッチは何だろう……痛え!?」

 

 

中心にあった台に触れたところ、大きな杭のようなものが伊丹の手の平を貫いた。

 

 

「ヨウジぃ、大丈夫!?」

 

 

不思議なことに、直径3センチはありそうな杭が貫通したのにも関わらず、直ぐに傷は元通りになった。ロゥリィに傷が移った様子もない。

 

そして伊丹の血が台に染み込むと、周りの燭台が紫色に輝きま始めた。そして地面の溝にもその光が滲み出る。

 

 

「どうやら、これが謎解きための開始のスイッチみたいだな」

 

「そうみたいねぇ」

 

 

そして燭台を動かしたりして見て四苦八苦する。

 

やっと正解らしき位置に設置し終えると、中心からいきなり大きな石柱が現れる。

 

 

「な、何だこれ!?」

 

 

その石柱が勝手に開くと、中から女性が出て来た。

 

その女性は支えを失ってその場に倒れこむ。

 

 

「おい!大丈夫か!?」

 

 

肌が白く、髪が黒くて綺麗なお姉さん系の女性であった。服装の雰囲気はどことなくロゥリィの神官服と雰囲気が似ていた。

 

そしてその女性は目を開けるとゆっくりと立ち上がる。

 

その瞳は、普通の人とは違っていた。

 

 

「ああ……ここは……?あなた、誰に言われていらっしゃったの?」

 

「誰って……別に誰にも頼まれてここにきたわけではないんだけど……」

 

「偶然、ということですのね。誰か他の、私と同じ種類の者が来ると思っておりましたわ」

 

「私と同じ?」

 

「きゅ……見てお分かりでしょう?吸血鬼ですわ」

 

「「「え?」」」

 

「何を驚いてますの?」

 

「吸血鬼なんてそれほど珍しいわけではございませんのに」

 

「そ、そんなもんなのか?」

 

 

伊丹はアルペジオに小声で確認する。

 

 

「いや、私も初めて……」

 

「で、君は何でこんなところに閉じ込められていたの?」

 

「それは……複雑ですわ。それに、あなたが信用におけるか分かりかねますわ。でも全てを知りたいのであれば私を家族の住む家に帰して頂きますわよ」

 

 

伊丹は強烈な嫌な予感がした。この吸血鬼はクセが強いと。

 

 

「ところで、私はセラーナ。どうぞよしなに」

 





やっと迷宮編(カオス)終わりましたわ。


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キマシタワー


ヴァイルの力の残り半分は誰が持ってるって?
ヒント、主要キャラの誰か。

あとセラーナ様の容姿は各々の脳内再生に依存しております。



「ああ、また息ができるなんて素晴らしいですわ」

 

眠っている間息していないのか?と伊丹は思ったがここは異世界、彼女は吸血鬼なので細かいことは聞かないことにした。きっと仮死状態とかだったんだろうと解釈する。

 

 

「急ぎましょう。太陽はお肌の天敵ですのよ、分かっていると思いますが」

 

 

そう言ってフードを被る。

 

 

「やはりそうなのか」

 

 

伊丹の予想通り、太陽光を浴びると石化したり、溶けたり、消えたりするタイプの吸血鬼ではないようだ。

 

王道の、太陽に少し弱い吸血鬼。

 

いきなり「WRYYYYYYYY」と奇声を上げたり、ロードローラーで潰しにかかったりしないことを願うばかりであった。

 

それとも、どっかの吸血鬼殲滅機関みたいに、周りのもの全てを飲み込もうとすることもしないよう願うのであった。

 

 

「あ……」

 

 

暗闇から出て最初に見た光景に伊丹は絶句した。

 

迷宮の外だったのは良いのだが、周りがゾンビ(美女)に埋め尽くされていた。ざっと100は超えていると思われる。

 

 

「あー、忘れてたわ。でも迷宮の中と比べたらましかな。とほほ……」

 

 

吸血鬼お嬢様(セラーナ)を除いて全員が戦闘態勢に入る。

 

 

「はわぁ、素晴らしい光景ですわ」

 

 

どごが!?とそこにいる全員がツッコミを入れたそうな表情をした。やはり吸血鬼は思考が人間とは違うのだろうか。

 

 

「しかし、少し邪魔でございますわね。アンデッドはアンデッドで対処するのが一番楽ですわ」

 

 

そう言って手から怪しげなオーラが出ると、倒れていた死体が起き上がる。

 

 

「ひっ!?」

 

 

アルペジオは隣の死体がいきなり動いたので大いに驚く。

 

 

「なっ!?」

 

 

伊丹は一瞬銃口をセラーナに向けそうになった。もしかしてゾンビの親玉なのかと疑ったからだ。

 

しかしそれは杞憂に終わる。

 

青いオーラを纏ったゾンビたちが元々のゾンビたちを攻撃し始めたのだ。

 

 

「あとは皆様でお楽しませくださいまし」

 

 

あっと言う間にゾンビの共食いによって敵は全滅した。

 

そして用が済んだゾンビたちも灰となって崩れた。

 

 

「さあ、行きましょう。早く日光がないところに」

 

「え、あ、はい」

 

 

伊丹は今の光景が信じられん、という顔をしていた。

 

 

(こいつ……何者?)

 

 

ロゥリィは唇を噛み締めると同時にハルバートを強く握る。

 

 

そうして伊丹たちはほぼ何も成果ないまま、レレイたちの元へ車で帰って行く。

 

 

その様子を誰かが木の上から見守っていた。

 

 

「フフフ、面白いことになったにゃ。まさかお嬢様が出てくるとはね」

 

 

そしてスコープを放り投げる。

 

 

「正直、銃は個人的には好かないにゃ。でも、君たちはまだ使いどころがあるにゃ。それにしても、黒魂石(ブラック・ソウル・ジェム)はやはり綺麗だにゃ」

 

 

そい言いながらいくつかの黒い石を太陽にかざして見つめる。

 

 

***

 

 

「お帰りなさい。結果はどうですか?」

 

 

レレイの看病をしていたミモザが伊丹たちを出迎えた。

 

しかし彼女の期待に対し、伊丹は首を横に振った。

 

 

「一応、拾った薬、書物などはあるけど、多分どれも期待できそうにない」

 

「そうですか……」

 

 

実のところ、今病気で意識を失っているのはレレイだけだった。街の患者は全員完治したようだ。

 

 

「不幸か幸か、レレイの容態は変わってないわ。ただ、眠り姫のように眠っているわ。死体かと思うほど静かですけど」

 

「そうか。一応安心したよ。でも発表会は諦めるしかないか」

 

「ええ、残念だけど……」

 

 

伊丹はレレイをアルヌスに連れて帰ることを決意する。

 

 

「ところで伊丹さん、後ろにいらっしゃる方は?」

 

「ん、ああ、先程お会いした……」

 

「セラーナですわ。どうぞよしなに」

 

「……変わったお方ですね」

 

「あー、お父さんまた女の人連れて来てる!」

 

「テュカ、誤解を生むような発言やめろぉ!」

 

「まあ、ノルドか帝国人かブレトンかわかりませんが顔の平たい人間からエルフが生まれますの?」

 

「いや、本当の娘じゃないから」

 

 

とにかくややこしくなりそうなので伊丹は全員を集めて家族会議事情説明と紹介を行うことにした。

 

これで色々と誤解は解けた。案の定セラーナが吸血鬼と判明するや否やミモザとテュカが驚嘆したが。

 

 

「なんですの?この時代はそんなに吸血鬼が珍しいですの?」

 

 

一応念のため、セラーナにも身の上話をある程度してもらった。

 

その結果……

 

 

「セラーナさん。非常に言いづらいが、多分この世界は貴女のいた世界とはまた別だ」

 

「……薄々感じておりましたが、本当にそのようですね。何か色々と常識がずれているように感じますわ」

 

(え、吸血鬼だからしゃなくて?)

 

 

一応セラーナの故郷(スカイリム)の名誉のために言うが、決してそこの民はゾンビや死体の山を見てはわぁ、などとは言わない。ドラゴン相手に素手で戦おうとしたり、別の意味でずれているかもしれないが。

 

 

「おそらく、私が所持している『星霜の書(エルダースクロール)』のせいでしょうね」

 

「星霜の書?」

 

「星霜の書をご存知でないのですか?」

 

「1000年近く生きてるけど、聞いたことないわぁ」

 

 

この中で一番年長者(であろう)ロゥリィが言う。

 

 

「あら、貴女見た目と違って随分お年ですのね」

 

「そうよぉ、私は亜神だからねぇ」

 

 

ロゥリィは得意そうに言う。

 

 

「現人神といったところですのね。そちらのエルフのお嬢様方もそれほどですの?」

 

「失礼ね、私はそこまでいってないわよ!」

 

「こ、この身もそこまで年をとってはいない」

 

 

そして各々の年齢を告げる。

 

 

「まあ、若い!」

 

100〜300歳を若いと言っていいのか伊丹は戸惑った。そしてなんだか少し嫌な予感がした。

 

 

「そう言うセラーナは何歳なのよぉ!」

 

 

ロゥリィが口を膨らませていう。

 

 

「レディに歳を聞くものではございませんでしてよ」

 

「私たちもレディよぉ!」

 

「仕方がないですわね。私は……」

 

 

次の数字を聞いてその場の全員が絶句する。

 

 

「そ、そんな……」

 

 

ロゥリィが膝と手をついて orz のポーズになる。

 

 

「げ、猊下がまた敗北しただと……?」

 

 

ヤオの言葉を聞いて伊丹は思い出した。バルバスもそんな感じだったなと。

 

 

(ところでどうしてこんな話になったんだ?)

 

 

伊丹は冷静に突っ込むのであった。

 

 

***

 

 

これは夢か、記憶か、幻想か。

 

 

アルドゥインは静かに周りを見渡す。

 

少なくとも現実の世界ではない。

 

 

夢だろうか?

 

 

否、彼は眠りというものを知らないから多分違うだろう。そもそも眠ることを必要としないから。

 

自分はおそらく世界のノドの山頂にて世界を見渡している。

 

周りには自然が溢れており、地上や空には龍たちが多くいた。

 

なぜ自分はこんなところにいるのだろうか。

 

先程まで瞑想していたのは覚えている。

 

 

ではこれは記憶か?

 

 

それも少し違うようだ。

 

確かに、彼の元いた世界のかつての時代、それも竜戦争よりも遥か前の世界に似ていた。

 

龍が頂点の世界。

 

しかしまだまとまっておらず、龍同士のスゥームによる議論(殺し合い)が盛んに行われていた弱肉強食の世界。

 

それにすごく良く似ていた。

 

しかしこれもまた記憶とは違うようだ。

 

 

それぞれの龍を良く見るとアルドゥインが一度でも関係したドラゴンたち、つまり全員知り合いか何らかで面識のあるものたちだ。

 

ある者は殺し合い、服従させ、友となった者、敵となったもの、ジョール()に殺されたもの、竜戦争時の部下、戦友、裏切り者と色々いた。異世界で出会ったものたちもいる。

 

具体的に名を挙げるなら、パーサナックス、ミルムルニル、サーロクニル、オダハヴィーング、ダーネヴィール、サーロタールなどなど。挙げるとキリがない。

 

こちらの世界で出会ったものならヨルイナール、アンヘル、ワイバーン、声のデカいドヴァなど。他にも面識がないか覚えていない奴もいる。

 

 

……そしてこの世界はやはりなんだろうか。

 

 

夢でも記憶でもない。幻想か?理想か?

 

それとも、未来か?

 

 

しかしそれはあり得ぬと否定する。

 

第一、この中の多くは元の世界でドヴァキン(宿敵)に殺され、魂を奪われたものもいる。つまり我の力では復活させられない。

 

おそらくこれは我の願望を世界にした幻想なのだろう。

 

 

(願望、か……)

 

 

幻想かよくわからないが、アルドゥインはため息をつく。

 

自らは全てを手に入れたと思っていた。

 

欲しいものは何もないくらいに。

 

そもそも、自分は傲慢な定命の者(人間)と違い、造物の頂点に君臨するドヴァ(ドラゴン)である。なので人間共と違い、何かを欲するという感情は無いものと信じていた。

 

 

(所詮我も奴らと変わらぬのものなのか……?)

 

 

そう想いに落胆していると、頭の中に声が微かに響いた。

 

 

『……ケテ……助ケテ……』

 

「誰だ我に直接語りかける不届者は?」

 

『……ケテ……助ケテ……』

 

 

しかし声の主は答えない。

 

アルドゥインは少々苛立ちながら周りを見渡す。

 

相変わらずドラゴンたちが呑気に生活している風景が広がっていただけだ。

 

しかし声は向く方向によって大きくなったり小さくなったりした。

 

 

「この方向か?」

 

 

南の方角から声が聞こえる。そしてその方向に飛行する。

 

声は少しずつ大きくなるものの、まだ距離は相当あった。

 

さらに加速させる。

 

それでもまだ遠くいる。

 

かなり長い時間、距離を飛行した。

 

そして、声が大きくなるに連れて風景も変わった。

 

先程まで緑が多い地から砂漠となり、それが今度は荒野となる。

 

最終的には海にたどり着いた。

 

 

『助ケテ……助ケテ……』

 

 

声は真下から聞こえる。

 

しかし海は深く、そこは暗闇で見えない。

 

さてどうしたものか、も考えていると、声がさらに響いてきた。

 

否、多くの声が重なって聞こえた。

 

 

『『『助ケテ』』』

 

 

そして突如海から触手のようなものが複数現れ襲いかかってきた。

 

 

「!?」

 

 

予想外の出来事にアルドゥインは容易く捕まってしまう。逃れようにも翼、足、首、とあらゆる場所に触手のようなものが絡み付いて来る。

 

 

「おのれ、貴様!」

 

 

しかしそれでも『助ケテ』の声は止まない。

 

 

FUS RO DAH(ゆるぎなき力)!」

 

 

スゥームで無理やり引き離す。しかし触手はまた掴みかかろうとする。

 

一旦陸に戻って態勢を立て直すべく振り返った。

 

そしたら奇妙な鉄やら岩やらでできた巨大な四つ足の獣のようなものが見えた。

 

 

「なんだこいつは!?」

 

 

しかし次の瞬間アルドゥインはさらに恐ろしい物を見つける。

 

あまりのものに声すら出ないほどに。

 

その背後にいた山と思われるほどの大きさの()()()がいた。

 

デカい。

 

本当に山のようにデカい。

 

デカすぎて何なのかよくわからないほどに。

 

そしてそいつの目のようなものが細く、赤く光った。

 

 

そして何が起きているのかわからないまま、アルドゥインは自身の理想郷としていた地が文字通り消し葬られた。

 

 

 

「ガァァァァアアアア!!!!??」

 

「アルドゥイン殿、どうしたのだ!?」

 

 

気づけば元の今いる世界に戻っていた。

アンヘルがアルドゥインの咆哮に驚いていた。

 

 

「主人殿も眠るのですね。それとも悪夢というべきですか。相当うなされていましたよ」

 

 

ヨルイナールも心配そうに覗き込む。

 

 

「何でもない。我が悪夢を見るなど……笑止!」

 

「でもうなされていたぜ」

 

「だからなんでもないと言っておるだろう!!」

 

「「「ひい!?」」」

 

 

ジゼルの一言に苛立ちを感じたアルドゥインに2頭と、1人は恐怖を感じた。

 

 

(くそっ……なんだこの落ち着かない気分は!?)

 

 

どうもあの悪夢か幻想かよくわからぬ世界のことで気になっていた。

 

そして最悪のことを想定した。

 

 

未来予知

 

 

彼は占いなど信じるたちではない。しかしあれがただの悪夢や幻想などではないということが直感と本能が告げる。

 

仮に完全な未来予知でないにしても、なんらかのお告げのような感じもする。

 

 

(……早急にに手を打つ必要があるな)

 

 

アルドゥインは次の行動を決する。

 

 

「ヨルイナール、貴様は引き続き他の龍の調査を行え。アンヘル、お前はジョール供の監視をしろ。何か変な企みでもあればすぐ報告しろ。そしてジゼルは……スゥームの練習でもしとけ」

 

「心得た」

「分かりました」

「まじか」

 

「そして我はこれから南に向かう」

 

 

***

 

 

「目が、目があ!」

 

 

ロゥリィが転げ回っていた。

 

ようやく話が元に戻り、星霜の書(エルダースクロール)の話になった。

 

どうやらアーティファクト(神器)のようなもので、紙のようなものであるが決して滅せられないらしい。ということまで分かった。

 

伊丹が物欲しそうな顔をしていると、これはセラーナのものであると先に釘を刺されてしまった。

 

しかしロゥリィの提案により、どんなものか見てみたいということになり、セラーナは渋々承諾した。

 

 

「どうなっても知りませんわよ?」

 

 

という言葉を残して。

 

そして今ここ。

 

 

「やはりこうなりましたか。見るべく人が見るべく時以外ですと目がやられてしまうとお聞きになりましたわ」

 

「それを先に言って欲しかった」

 

 

ロゥリィ以外は嫌な予感したので部屋の隅に退避していたのが幸いだった。

 

 

「ひどいわぁ……」

 

「まあそんなこともあるさ。目は大丈夫か?」

 

 

伊丹がロゥリィの目を確認するとき、ロゥリィはドキッとしてしまう。

 

 

「いいわよぉ……すぐ治るし」

 

「ならいいけど」

 

 

こんな感じだが、自己紹介、素性の説明などが終わる。セラーナはそこまで詳しく話してくれなかったが。

 

 

「ところで貴方、私を元の世界に戻すのに手伝ってくれませんこと?」

 

 

セラーナが伊丹に尋ねる。

 

 

「生憎、自分も多忙の身でしてね。なかなかそんな余裕はないのですよ」

 

「まあ、レディを見つけておいて無責任な方ですわね」

 

「……すみません」

 

「では、取引きしません?私が何か手伝えることを致しますので、そちらも手助けをするなど」

 

「うーん、そう言われても……」

 

「先ほど誰かが病気で困っていらっしゃったように見えましたが?」

 

「……ああ、仲間の一人が病に倒れて意識不明だ。今のところ良くも悪くもない」

 

「でしたら、もし私が治療、または改善させることができた場合、どうでしょう?」

 

「そんなことできるのか!?」

 

 

伊丹は椅子を吹き飛ばして立ち上がる。

 

 

「まあ、まずは診てみないと分かりませんが」

 

 

伊丹は最悪アルヌスに連れ帰ることを考えた。しかしそれで治るという保証もない。もしかしたら未知の病かもしれない。

 

しかしここで治るのであれば、そのような手間もかからないし、レレイも無事発表会に間に合うかもしれない。

 

 

「もし、できるのであればお願いします」

 

 

伊丹が深々と頭を下げる。

 

 

「では、もし成功すれば、私を元の世界に戻すお手伝いお願いしますね」

 

 

そして二人は握手する。

 

 

そしてすぐにレレイの症状を確認する。

 

 

「「……」」

 

 

セラーナが診る間、皆が息を呑んで見守った。

 

 

「……診終わりましたわ」

 

 

皆がセラーナの次の言葉を期待する。

 

 

「正直のところ、初めて見る症状ですわ」

 

 

それを聞いて全員が落胆する。

 

 

「しかしながら、これと近い症状を知っています」

 

「……!?」

 

「血流の弱い肌、瞳孔の変色、弱いくて遅い脈拍……これは、サングイネア吸血症に似てますわ」

 

「サングイネア吸血症?」

 

「ええ、通称吸血病(ヴァンピルズム)ですわ」

 

「レレイが吸血鬼になるのか!?」

 

「いいえ、それはまだわかりかねますわ。それに、全く症状が同じというわけではありませんので、まだ判断しかねますわ」

 

「治す方法は!?」

 

「元の世界には無いことはないのですが……ここでは無いかもしれません」

 

「くそっ!」

 

 

吸血症なんて病気は伊丹の世界にはない。

 

つまり治療もできない。

 

これではアルヌスに戻っても意味はない。

 

 

「ただ、対処療法ならありますが」

 

「どうすれば良い?」

 

「彼女を半吸血鬼にするのですわ」

 

「それじゃあダメだろう!」

 

「そう言うと思いましたわ。しかし、なぜ吸血鬼はダメですの?」

 

「だってそれは……」

 

 

言葉が出ない。そういえばなんで吸血鬼はダメだと咄嗟に言葉から出たのだろう。

 

 

「やはり、この世界でも貴方の世界でも、吸血鬼は嫌われていますのね」

 

 

セラーナは静かに笑う。

 

 

「ご安心あそばせ、半吸血鬼ですわ。条件を満たせば基本的に吸血鬼になることはありませんわ」

 

 

そしてセラーナは説明する。

 

冷耐性には少し強くなるが火には弱くなること。太陽は少しだるくなる程度のこと。

 

そして症状が悪化する前に生き血を飲ませればその段階を維持できることを。

 

 

「分かった……ただいくつか聞きたい。その、何というか……処女じゃないと吸血鬼ではなく、ゾンビになってしまうとか、そういう設定ないよな?」

 

 

伊丹は自分の吸血鬼知識(2次元)を駆使して確認する。

 

その時、温和な表情をしていたセラーナの瞳が突如殺意に満たされたような気がした。

 

苦笑いしていたが、目は明らかに「何を聞いてますの?この虫けら野郎、殺しますわよ?」とでも語っていた。

 

 

「ご安心くださいませ。私自身、既に経験済みですので、問題ありませんわ。最も、真祖になると同時に純潔を失いましたが」

 

「そ、そうか。ごめんなさい、変なこと聞いて……ってええ!?真祖!?」

 

 

伊丹の頭の中には某英霊(サーヴァント)がバトルロワイヤルを行うノベルゲームの製作者がそれの前に作った吸血鬼たち(+α)のバトルロワイヤルノベルゲームを思い出す。

 

 

「私のことは詮索しないでくださる?特に純潔に関して」

 

 

もう雰囲気から完全に月●のヒロイン(やばいモード)じゃねーかと伊丹は内心ガクブル状態だった。一体どんだけひどい初体験だったんだ?と思ったら聞いたら消されると判断し、素直に謝った。

 

 

そんなことありつつも、ちゃんと仮にレレイが非処女(そんなことは無いと思うが)でも某作品のようにゾンビやグールにならないのでひとまず安心した。

 

後でレレイが起きたら事情を話そう。例えどんな結末になっても。せめて彼女の命を守らなければと伊丹は最終判断を下す。

 

 

「分かりましたわ、では早速始めましょう。ふふ、若くて綺麗な肌ですわ」

 

 

セラーナは眠るレレイの顎を優しく持ち上げると首筋を愛撫する。

 

 

「ではいただきますわ」

 

 

そう言うとその赤い唇をレレイの白い肌にそっと近づけ、優しく触れる。

 

なんだか妙に官能的であるので、特に女性陣が顔をほんのり赤らめてドキドキしてしまってる。テュカなんか目が惚けている。

 

 

(うーん、なんだか雰囲気がピニャ達と逆な気が……)

 

 

伊丹はな何かを危惧する。

 

 

レレイは一瞬身体をピクンと動かした以外特に変化は無かった。

 

 

「終わりましたわ」

 

「え、もう?」

 

「今夜いっぱい様子を見ましょう。特に悪化しなければ大丈夫ですわ」

 

「そうか……」

 

「今日は遅いですし、皆様もお疲れでしょう。今日は眠りにつきましょう。もっとも、私は夜の方が元気ですが」

 

 

ということで、その夜はそれで解散した。

 

 

「ああ、私もあんな雰囲気味わいたい」

 

 

どっかの両刀ハイエルフがぼそっと変なことをつぶやく。

 

 

***

 

 

取り敢えず、レレイの様子を交代で見ることになったが、伊丹は自分の番でも無いのにずっと起きていた。

 

 

「レレイのことが心配なのねぇ」

 

「ああ、そうだな。ロゥリィは別に寝てもいいぞ?代わりに俺が診るから」

 

「いいのよぉ。それに伊丹が変なことしないように見張ってるんだからぁ」

 

「俺ってそんな信用ないかあ」

 

「ふふ、本当に信用してなかったら眷属にしないわぁ」

 

 

ロゥリィは微笑む。

 

 

「それに……彼女のことがきになるからねぇ」

 

「セラーナか」

 

「そうよぉ。今この世界なイレギュラーなことが起きすぎてるのぉ。彼女も何か関係してるかもしれないからぁ」

 

「そうか」

 

「ヨウジも気をつけなさいよぉ。美女に弱いんだからぁ」

 

「たはは……」

 

「う……ん……」

 

「「レレイ!?」」

 

 

無反応だったレレイが一瞬意識を取り戻した。

 

 

「ヨウジ……どうしたの?」

 

 

レレイがゆっくりと瞼を開ける。

 

瞳が暗いのによく見えた。

 

 

「レレイ、大丈夫か?無理はするな」

 

「少し身体が重い。あと喉がすごく渇いた」

 

「分かった。すぐに水を……」

 

「違いますわ。生き血ですわよ」

 

「わっ!?いつの間に!?」

 

 

いつの間にかセラーナが伊丹の隣にいた。

 

ロゥリィも驚いた様子で、全く気配を感じられなかったようだ。

 

 

「あ、生き血ね。症状抑えないといけないもんね。もしかして、やはり俺の?」

 

「別にぃ、私はヨウジ以外でもいいけどぉ、きっとレレイは嫌がるでしょうねぇ」

 

 

なんだかロゥリィは嫉妬した様子である。他女性陣数人も同様。

 

セラーナはそれを見て微笑ましいと笑う。

 

 

「どれくらいの量が必要なんだ?」

 

「小さじ程度で良いかと」

 

 

伊丹はナイフで指先を切るつけるとその血を器に移そうとする。

 

 

「そのままでいい」

 

 

そういうとレレイは伊丹の人差し指を口に入れる。

 

 

(ええ!?レレイ、いつからそんな悪い子になったの!?)

 

 

伊丹は困惑する。嫌か嬉しいかで言えば嬉しい方だが、どこか複雑である。なんか恥ずかしい。

 

いつも無表情のレレイが妙に色っぽく見える。

 

例えるなら、ロゥリィの妖艶さが少し加わったような。

 

伊丹とレレイは気づいてはいないが、実はレレイは無意識に『吸血鬼の魅惑』を発動していた。

 

 

「……ごめん、どうにかしていた」

 

 

レレイは吸い終わると恥ずかしそうにそっぽを向いた。

 

 

「いや、気にするな。病みあがりだから仕方がない。今日はしっかり休め」

 

「……うん」

 

 

後に、ずっと後のになってわかったことだが、レレイはとある病気に非常に近い症状であったことが検査で判明することとなる。

 

『白血病』




※設定解釈

白血病は漫画「ブラックジャック」に吸血鬼と白血病の会をヒントにしました。実は勘の良い人なら、なぜレレイが白血病にかあかったかわかるかも。

あと伊丹が吸血鬼のネタを言っているのは「ヘル●ング」と「●姫」


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エロくない触手プレイ


ストーリが進まない……駄作者も星霜の書で時の狭間に閉じ込められたのですかね。

時たまモンハン勢とスカイリム勢のドラゴンではどちらが強いかなど考えますが、ベクトルが違うから比較することが難しいのですよね。


 

アルドゥインは南にひたすら進んだ。

 

幻とは異なって景色が急激に変わるようなことはなかった。

 

時たま下の村のジョールどもが騒いでいたが、特に気にしなかった。

 

そして海岸にたどり着いた。

 

しかし特に何もなく、平凡な普通の海が見えるだけだ。

 

 

「……無駄足だったか?」

 

 

イラつきと同時に安堵もした。

 

 

「杞憂だったか。ならば帰ってひと暴れでも……」

 

 

そのとき、少し遠くで微かな悲鳴が聞こえた。

 

 

「ふむ、ジョールが近くにいるのか。腹(魂)ごしらえでもするか」

 

 

と近くの港町に近づく。

 

 

しかしその港は異常事態であることに気づく。

 

 

「きゃーー!」

「ぐわあ!?」

「やめてーー!」

「助けてくれー!」

「いやーー!」

「この子だけは、この子だけはー!」

 

 

(な、なんだこれは……?)

 

 

町全体が邪悪な雰囲気を漂わせており、所々で海から伸びた異形のものに襲われていた。

 

 

(スケルタルドラゴン?いや、何かが違う……)

 

 

骸骨状の細長い首を持つ龍のような何かが7体、町の住民を蹂躙し、建造物を破壊する。

 

 

(龍の気を感じるが、龍ではない……なんたる不届き者、成敗してくれる!)

 

 

アルドゥインは高高度から急降下を開始した。

 

それに気づいた住民はさらにパニックに陥る。諦めてしまう者がいるほど。

 

 

Stran Bah Qo(ストーム・コール)!」

 

 

アルドゥインの放ったシャウトにより、雷撃が降り注ぐ。

 

見事スケルタルドラゴンのような奴らに命中し、動きが止まる。

 

まあ、もちろん住民も何人か巻き込まれたが、そんなことアルドゥインは気にもしなかった。

 

雷撃が直撃した異形のもののいくつかは、骨が少し禿げた。

 

 

「まさか……」

 

 

アルドゥインは幻惑を思い出す。

 

あのとき見た触手と似ていた。

 

 

「貴様か!?」

 

 

海に戻って撤退を始めたので急いでおいかける。

 

 

「ぬ!?意外と速いな!」

 

 

水中深くに潜り、影しかないがそれを追いかけた。

 

 

残された住民は一瞬何が起きたのか理解できなかったが、遅れて歓喜の声が上がった。後にこの土地では黒龍を神として奉る習慣が根付くこととなる。

 

 

***

 

 

「ふん、こんな島に隠れようと、我には通じないがな」

 

 

アルドゥインはある孤島に舞い降りる。

 

深く潜られて視界では見失ったが、『オーラー・ウィスパー(生命探知シャウト)』によっていとも簡単に居場所を突き止めた。

 

しかし、島の穴から舞い降りたアルドゥインは驚愕した。

 

 

「な、なんだこれは!?」

 

 

島の底が空洞であった。

 

それに驚いた訳ではない。

 

その底が、種々の生物の骨で埋め尽くされていた。それは龍も例外ではない。

 

 

(何ということだ……奴はこの世界の食物連鎖の頂点なのか?)

 

 

そう思っていると、声が頭に響いた。

 

 

『タス……ケテ……』

 

「うぬぅ、またあの声だ。幻惑と一緒ではない…」

 

 

その時、突如骨の島から例の異形の触手が襲いかかった。

 

 

「うんぬ!?」

 

 

複数の骨まみれの触手に自由を奪われた。

 

しかしアルドゥインは待っていたと言わんばかりの笑みを浮かべる。

 

 

Fus Ro Dah(揺るぎなき力)!」

 

 

触手に付いていた骨が全て引き剥がされる。

同時にシャウトによって本体が露わになった。

 

巨大なイカとアンモナイトを掛け合わせたような生物であった。

 

 

「ふん、貴様が定命の者(ジョール)であることも知っておるし、正体も既に見抜いておったわ!」

 

 

アルドゥインはメテオ・ストーム(ロックオン)を放つと、圧倒的理不尽な暴力により怪物は力尽きた。

 

最後の力を振り絞って口に赤いオーラを纏ったが、不発に終わる。

 

 

「ふん、貴様らジョールとはちがうのだよ」

 

 

そう言ってアルドゥインは声の謎を解き明かそうとしたが、また触手がアルドゥインの足に絡みついた。

 

 

「なんだ、しつこいやつだな……っ!?」

 

 

アルドゥインは振り向いた。

 

そして見てはいけないような物を見た。

 

確実に息の根を止めたはずの怪物が、息を吹き返したのだ。異なる姿によって。

 

 

「き、貴様……まさかっ!?」

 

『会うのは初めてだな、アルドゥインよ?』

 

 

その黒いオーラを纏い、触手に無数の目を発生させ、変わり果てた怪物が言った。

 

 

***

 

 

(もうホントに)色々とあったが、伊丹たちは学都ロンデルに戻った。

 

相変わらずあちこちで爆発とか起きているが。

 

 

「はわぁ、素晴らしい光景ですわ」

 

 

またお嬢様が木っ端微塵になった建物を見て何か仰っていた。もう伊丹たちは突っ込むことも諦めた。

 

レレイが半吸血鬼化したことについては伊丹が説明をしっかりとした。

 

しかし予想に反して、レレイはそこまで気にしていなかったようだ。

 

 

「私を救うためにしてくれたこと。むしろ感謝している」

 

 

という言葉が伊丹たちを救った。

 

 

ロンデルでグレイ騎士補とシャンディーと合流した。

 

伊丹たちが留守の間、懸命に笛吹き男(黒幕)について調査していたらしい。

 

そしてシャンディーによる追跡のおかげで、現在1人の実行犯役と思しきワイルドウーマンと、1人のそれを指揮していると思われる初老の男性を特定したらしい。

 

 

「奴らを捕らえることも考えましたが、もしそれがまた傀儡であれば我々の行動がバレると思いましてね、敢えて泳がせることと致しました」

 

 

グレイが説明する。

 

 

「ところで伊丹殿……」

 

「何?」

 

「レレイ殿の雰囲気が、なんだか少し違うようで……何というか、少し大人びた感じというか、より女性的魅力を帯びたというか……何かありましたかな?」

 

「え、あ……いや、そういうことは起きてないよ」

 

「そういうこととは……ははーん、伊丹殿も罪な男ですな。こんな成人(特地基準)なりたての少女を手篭めにするとは」

 

「だからそんなこと起きてないってば!」

 

 

こんなやりとりや、セラーナ嬢をまた紹介したりと(吸血鬼であることは伏せた)、レレイの導士号のための発表会までゆったりと時間を過ごした。

 

 

***

 

 

「ぐおぉ!?」

 

 

アルドゥインは壁に叩きつけられた。ダメージはないが、体に衝撃が走る。

 

まさかこんなところに奴がいるとは思いもしなかった。

 

 

『アルドゥインよ、お前はデイドラの手から抜け出そうとしているな。我がお前の目的を知らぬとでも思っていたか?』

 

「心外だな、我はいまのところデイドラに言われるように、この世界で暴れているだけだがな。ぐあっ!?」

 

 

今度は変な青い粘液をかけられたと思ったら骨の山に叩きつけられる。

 

唐揚げのコロモのように骨まみれになってしまう。

 

 

『それが我々デイドラの総意ではないのだがな。どれ、アルドゥインよ。我の眷属につくつもりはないか?』

 

「ふん、貴様は我の目的など知っておるのだろう?ならばその答えは知っているはずだ」

 

『であろうな。このイカのような生物は我の眷属となることを選んだのだがな。よかろう、ならば力づくで貴様の知識を頂こうか。まあ、もし我の眷属に勝つようなことがあれば、今回は見逃してやろう。精々死なぬことだな』

 

「ハルメアス・モラ!貴様逃げるつもりか!?」

 

『逃げる?逃げるとは弱者がするものだ。ここにおいて私は少なくともお前よりは優位であると思うがね』

 

 

そう言い残すとハルメアス・モラは去ったらしい。声は聞こえなくなった。

 

しかし目の前の怪物が消えた訳ではなかった。

 

 

「キョェェエ!」

 

「おのれぇ!」

 

 

怪物との戦いがまた始まる。

 

アルドゥインはシャウトを駆使して雷撃、火炎、氷結や物理攻撃などで攻撃する。

 

対して怪物は7つの触手を用いて巧みに攻撃してくる。

 

ただのスケルタルドラゴンと思ったら鉄槌のような頭部で叩きつけてくるわ、雷撃はくるわ、爆発する粘液はあるわ、泡は出るわ、黒いブレス、赤いビーム、青い粘液は吐いてくるわで非常に鬱陶しい。

 

 

「おのれぇ!ぐわぁ!?」

 

 

これで何度気持ち悪い粘液に覆われて、骨のやまに叩きつけられて唐揚げのコロモのように骨まみれになり、とダメーシはなくとも非常にうざったい。

 

自身にシャウトを当てて骨を振り払ってもまた繰り返しになる。

 

かといってアルドゥインも押されてばかりではない。

 

Fus()』の連発で触手に着いた骨を破壊し、火炎、雷撃、氷結で触手にダメージを与える。

 

実際効果はあるようで、目玉だらけの触手が千切れたりする。

 

 

「うぬう、何ということだ!」

 

 

しかし元からの能力か、それともデイドラの加護か、千切れた触手が再生する。

 

もう何十と切り刻んだが、一向に力尽きる気配はない。

 

メテオを集中砲火したが、外殻が桁違いに強化され、有効なダメージを与えられない。

 

 

(違う、単に硬くなった訳ではない!)

 

 

アルドゥインは気づいた。単なる物理的に強化されたなら、ダメージの蓄積でいずれ決壊する。

 

しかし、その気配は一向にない。再生するまでもなく、ダメージが入っていない。

 

つまり、物理作用を跳ね除ける魔法的な加護を受けている。

 

 

(くそ、認めん、認めんぞ!なぜこやつの龍の力が増えている!?)

 

 

そう、最初遭遇した時に感じた微弱な龍の力は、今やあの巨龍を凌駕している。

 

 

「こやつの身体を守っているこの透明な龍の外殻は何だ!?」

 

 

アルドゥインは知らない。

 

なぜなら、これも『ドラゴン・レンド(不死殺し)』同様、ドヴァ()が考えたシャウトではないから。

 

かつてのジョール(人間)である初代ドラゴン・ボーン兼ドラゴン・プリーストが、ドヴァ()と同等の力を得るべくして編み出されたシャウト、

 

 

Mul Qah Diiv(ドラゴン・アスペクト)

 

 

***

 

 

帝国では、とうとうどっかのバカゾルザルが皇帝宣言を行う。もちろん日本はそれを承認しないが。

 

今までは皇帝亡き帝国で、あくまでもゾルザルを臨時皇帝代行者として帝国の最高責任者としていた。

 

皇帝が亡くなり、急にゾルザルを皇帝としても、法整備も必要になり、混乱を招くと帝国側が判断したからだ。

 

なので一応代表はゾルザル、法的な問題は前皇帝が存命の時の案などをしばらくは使用する、ということで穏健派(主にピニャ)が日本とも合意したのだ。

 

そのはずだったが、事態が急変してしまった。

 

 

「俺は皇帝になる!」

 

 

と高らかに宣言したと思えば同時に軍事クーデターを起こし穏健派ほぼ全員を捕らえ、収容してしまう。妙に出番がない静かにしていたかと思えば、ちゃっかり準備していたようだ。

 

この時に結成した帝国兵とは異なる組織、コボルト部隊(掃除夫)、正式名称『帝権擁護委員部(オプリーチニナ)』はこちらの世界でいうヒトラーの武装親衛隊(SS)、ゲシュタポ、ロシアのKGBを足して凶暴化させたような組織であった。

 

コボルトの頭のような兜を被り、逆らう者は駆逐するという意味で手に持つ箒は帝国民を大いに恐れさせた。

 

こちらも問題だが、困ったのはピニャ殿下の率いる騎士団たちである。

 

 

「どうしましょう……」

 

 

ピニャの代わりを務めるボーゼスがつぶやく。

 

 

「俺には政治とか難しいことはわからないけどよ、やっぱりマズイのか?」

 

 

男勝りな女騎士、ヴィフィータが尋ねる。

 

 

「マズイも何も、私たちは前皇帝の命で日本からの特使をお守りしてますのよ。それがあの新皇帝がどう出るか……」

 

「つまり、奴が命令したら奴の下につかないといけないのか?」

 

「まだ分からないの。あくまでも私たちはピニャ殿下直属の騎士団。正式な帝国兵ではないのよ。帝国に従う義務はあるのだけど……」

 

「しばらくは様子見、ということか」

 

「そうね……」

 

 

こんな話をしている中、彼女らは自らに降り注ぐ悲劇が少し遅れたことに誰も知る由はない。

 

既に帝国からコボルト部隊が騎士団が守る日本特使がいる翡翠宮制圧のため送られたのだが、とある理由により第一部隊は壊滅した。

 

 

「のう、ヨルイナールよ。人間はそんなうまいのか?」

 

 

アンヘルが死体の山に鎮座しながら尋ねる。

 

 

「意外といけるものよ。時々鎧とかで食べづらい時もあるけど。慣れれば牛や羊並みにいけるわ」

 

 

そう言ってヨルイナールは獲物を頬張る。

 

 

「うーん、最初は獣人だと思ったが、よく見ると人間が被り物してただけだったな……」

 

「アンヘル、貴女も食べてみれば?」

 

「いや、いい。遠慮する。ところで、あやつは何をしておるのだ?」

 

 

ブツブツ何か言いながら槍を回収するジゼルを見て言う。

 

 

「ああ……槍がこんなにいっぱい。磨かなきゃ……」

 

 

もう目が死んでる。

 

 

「……壊れたわね」

 

 

アンヘルとヨルイナールは溜息をつく。

 

 

***

 

 

ありとあらゆる方法を試した。

 

しかし全てが徒労に終わった。

 

『動物の忠誠』、『服従』、『サイクロン』、『武装解除』、『不安』、『生命力低下』、『激しき力』、『カイネの安らぎ』、『死の標的』、『揺るぎなき力』、そして『ドラゴン・レンド』

 

全て無駄だった。

 

流星雨(メテオ)』で島の屋根を壊してそれを叩きつけてやったが、効くわけもなかった。

 

終いには超超高度からの『疾風の疾走』を駆使した体当たり(ソニックブーム付き)など水面を跳ねる小石のように跳ね返されるという失態。

 

このような激闘によって島は見るも無残に姿を変えてしまった。

 

それでも、『時間減速』、『霊体化』などによってやられるようなことはなかった。

 

しかしながら、同じことをくりかえしていると思考が鈍ってくる。

 

そんな時に、一瞬の油断が大失敗を引き起こす。

 

 

「しまっ……ゴボォ!」

 

 

突進先が僅かにずれて水中に突入してしまう。

 

急いで水面に上がろうとも、触手に絡まれてしまう。

 

 

(おのれぇ!離せ!)

 

 

初めての水中戦でアルドゥインは困惑する。

 

スゥームもうまく発することができない。

 

呼吸の問題はないものの、かなりの自由を奪われてしまう。

 

対して怪物の土俵は水中。

 

暴れるアルドゥインを押さえ込んでしまう。

 

そしてアルドゥインはどんどん海底へと引きずりこまれる。

 

 

(ぐっ……なんということだ)

 

 

初めて海底を見たが、真っ暗闇であった。

 

分かるのは身体中に絡みつく触手の感触、水中を伝わる泡の音、怪物の声だけ。

 

そして怪物はガッチリとアルドゥインを固定する。

 

そしてアルドゥインは頭が何かに包みこまれる感触がした。

 

 

(こやつ、我を喰らうつもりか!?)

 

 

皮肉にも、世界を喰らいし者(ワールド・イーター)と呼ばれた彼はイカのような怪物に飲み込まれようとしていた。

 

仮に飲み込まれたとしても、アルドゥインは消滅することはないだろう。

 

しかし、それでも怪物の中で至極長い時間を過ごすことになるかもしれない。

 

星霜の書(エルダー・スクロール)によって時の狭間に封印された時よりマシかもしれないが、この怪物が滅びるまでかなりの時間を要するかもしれない。

 

それともデイドラの加護を受けたのだから寿命がないのかもしれない。

 

そうなればアルドゥインは永久に怪物の中に封印されることとなる。

 

身が滅ばずとも、高度な知能を持つ彼なら精神が崩壊するかもしれない。

 

 

(おのれぇ!おのれぇ!ジョールの分際でぇ!)

 

 

彼がどんなに叫ぼうと、喚こうとも、怪物の口の中では泡が発するだけだった。

 

 

(モラめ、笑っているだろうな。チクショウ!呪ってやる!)

 

 

もう半分どうでも良くなった。

 

考えれば考えるほど絶望的に感じた。

 

人間から絶望、悪魔、と比喩された彼が、絶望に陥ってる。なんたる皮肉。

 

いっそのこと、考えるのを辞めれたらどれだけ楽か。

 

思考が低下する。

 

目の前は真っ暗だが、音も遠くなる気がした。

 

食われている感触がもう翼の付け根まで来た。

 

もう終わりか……

 

…………

 

……

 

 

 

そんな中、またもや幻惑を見た。

 

 

前回見たような世界ではない。

 

 

この激闘繰り広げている、孤島のような場所だ。

 

 

この怪物が、戦っている。

 

否、捕食していた。

 

顎が鉄槌のように発達した竜のような者が水中に引きずり込まれ、溺死した。

 

独特の形をした頭部に、緑の粘液を付けた生物は骨まみれにされ、同じく水中に引きずり込まれる。

 

水中で電気を放つ生物もあっという間に触手に絡まれて餌食になる。

 

尻尾が刃のような生物も赤いビームによって八つ裂きにされる。

 

 

他にも、たくさんの生物がもはや戦いとは言えないような一方的な蹂躙を受けた。

 

圧倒的な力でねじ伏せられた。

 

これが自然の掟。

 

 

そして最後に、4人のジョール(人間)との戦いを見た。

 

これまで一方的だった怪物は初めて劣勢に陥る。

 

一見ひ弱そうなジョールたちは、互いに助け合い、怪物を少しづつ押して行く。もちろん、傷つきながらも、彼らは戦う。

 

 

ああ、知っている。

 

 

このような光景を。

 

 

我もかつて同じ境遇だった。

 

 

世界のノドで、死後の世界(ソブンガルデ)で。

 

 

ジョールは強い。

 

 

一人一人は弱くとも、彼らは結束してかかってくる。

 

 

そして、ついに怪物が倒される。

 

最後の最後に、力を振り絞るが、会心の一撃も空に向かって放たれただけに終わる。

 

同じだ。我と同じだ。

 

最後の最後で、ジョールにやられる。

 

そして無慈悲にもジョールは怪物の体を剥ぎ取ってゆく。

 

どの世界でも、ジョールは同じだ。

 

自分たちが頂点でなければ気が済まない。

 

そしてジョールが過ぎ去った後も、怪物は生きていた。

 

命の灯火が辛うじて残っているだけで、時間の問題だ。

 

しかしそれで終わらなかった。

 

怪物のみが取り残された空間に、()が現れた。

 

 

『オストガロアとやら、我の眷属になるなら、命を救ってやろう』

 

 

触手と目玉だらけの黒い存在が言った。

 

怪物からは返事はない。

 

しかし、わずかに、触手が黒い触手を握った。

 

それを見た黒い触手は、怪物を自分の領域へ引きずりこんだ。

 

 

そこで幻惑は終わる。

 

気がつけば、我は既に腰のあたりまで飲み込まれていた。

 

 

(我と、貴様は、同じ7日もな……)

 

 

同じ境遇ならば、飲み込まれても悪くないかもな。

 

そう思った。

 

 

そのとき、大きな衝撃が身体に走った。

 

水中の至近距離で何かが爆発したようだ。

 

半分飲み込まれた状態ですらかなりの衝撃であった。

 

つまり怪物はさらに大きな衝撃を受けたことになる。

 

 

怪物も予想外の出来事に驚いたようだ。

 

 

ドラゴン・アスペクトにより、ダメージはないものの、驚きを隠せない様子だった。

 

同時に、口の中の海水を飲み込んだため、水の無い空間が少しだけできた。

 

 

(……空気?)

 

 

アルドゥインは口先が水中でないことに気づく。

 

 

そして同時に頭にまた声が響いた。

 

 

『『タスケテ……タスケテクレ……』』

 

 

モラの声ではない。あの幻惑で聞いたような声。複数の声が合体して響いた声。

 

そして理解した。

 

誰の声なのか。

 

あの骨の山の声だと言うことを。

 

そしてこの怪物の声でもあると言うことを。

 

 

アルドゥインは目を開く。

 

暗闇だが、まっすぐと意を決して見開く。

 

口先の空気も、徐々に無くなり始めている。

 

 

(……すまんな、貴様にやられることのできぬ理由ができた)

 

 

そしてアルドゥインは渾身の一撃を叫ぶ。

 

 

Yol Toor Shul(ファイヤ・ブレス)!」

 

 

侮るなかれ。彼の火炎放射は人知を超える威力である。水中の生物すら灰にする威力を持つ。

 

ましてや怪物といえど、消化器官に直接溶岩の如き炎を流し込まれては無事なわけがなかった。

 

さらに、ドラゴン・アスペクトの効果は体内は影響しなかったことも幸いした。

 

体内を焼かれた怪物はアルドゥインを吐き出す。

 

 

アルドゥインは不慣れながらも水中を掻いて水面へと上がってゆく。

 

怪物も重傷を負いながらもアルドゥインを逃すまいと追いかける。しかし消化器官とともに呼吸器官もやられたため、水中でうまく動けなかった。

 

それが幸いして、アルドゥインは水面から脱することができた。

 

 

「ぷはー!なかなか危なかったぞ」

 

 

そして骨の島に辿りつくと、翼を広げてホバリングをした。

 

 

遅れて怪物も水面から顔を出す。

 

さかし先ほどと違い、かなり衰弱していた。ドラゴン・アスペクトの効果はまだ消えていない。

 

 

「どうやら、これが最後の戦いとなりそうだな」

 

 

アルドゥインは戦闘態勢に入る。

 

怪物も口に赤いエネルギーを溜める。

 

 

「む、幻惑の中で見た渾身の一撃か。よし、貴様の最後の一撃、受けてやろう」

 

 

アルドゥインは目の前にホバリングする。

 

小細工も無し、そこにいるだけ。

 

 

そして怪物はそのエネルギーを放った。

 

 

「うごぉぉお!?これほどの威力かっ!?」

 

 

アルドゥインは吹き飛ばされないようビームの中を泳ぐように飛行する。

 

彼でなければ今頃塵になっていたが。

 

 

しかし、怪物は長くは持たなかった。

 

自らのエネルギーが暴発し、大きな爆発を起こして力尽きてしまった。

 

 

そして、遺骸は砂のように崩れてゆくと同時に、アルドゥインは自身に魂が、それも強大でいくつもの魂が流れこんでくるのを感じた。

 

恐らく怪物が今まで屠ってきた分の魂だろう。

 

 

「なるほど、『ドラゴン・アスペクト』か。そして先ほどの最後の攻撃、しかと受け止めたぞ」

 

 

そして頭から僅かに響いていた助けの声は、ピタリと止んだ。

 

人間の言葉に置き換えるなら、成仏したと言うことだろうか。

 

 

「まずは、一つ目の問題は超えたか」

 

 

アルドゥインはそう思うと、その場を立ち去ろうととした。

 

 

「……ものは試しか。Slen Tiid Vo(肉体よ甦れ)!」

 

 

骨の山に向けて復活のシャウトを放ったが、何も起きなかった。

 

 

「まあ、期待はしておらんが……」

 

 

しかし瞬きをした次の瞬間妙なものが見えた。

 

骨の山の上に、白いドレスの少女がいた。

 

こちらを見て微笑んでいた。

 

 

「貴様、定命の者(ジョール)ではないな?」

 

 

***

 

 

アルヌス駐屯地。作戦室。

 

 

弾着(だんちゃーく)、今!」

 

「目標、無事到達しました」

 

「本当か?あんな遠くの目視もできないような場所に本当に当たったか?」

 

 

陸自の幹部が尋ねる。周りは高度なパソコンのようなものでいっぱいだった。一応画面上は目標にたどり着いたようだ。

 

 

「はい、多分大丈夫です。途中まではコンピュータの誘導によって、そして最後はレーザー誘導によって行われたので、かなりの精度かと思います」

 

「まあ、簡易イージス・アショアの初試験発射だからこんなもんか。ところで、今回の目標どうやって決めたんだ?」

 

「はあ、海自の加藤3佐と言う方が事前に調べてくれたものを選んだそうです。程よい距離で、かつ無人の島を選んだとか。これでうまくいけば、弾道ミサイル対処も可能だとか」

 

「そうか?にしてもなんで実弾なんだろうな」

 

「一応成果を確認するためだそうです。と加藤3佐が言ってました」

 

「そうか。まあ別にいいけどさ。にしても海自は金あるねー」

 

 

***




オストガロア(モラ様仕様)は強化されてます。触手なんて7つもホントはないですが。モンハン的にいうなら獰猛化させて狂竜ウイルスに感染させたぐらい強くしております。あとサイズは2倍くらい(笑)


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国の名は

地震、豪雨等辛い時期にいらっしゃる方もおられと存じます。どうぞ皆様も心身ともにお気をつけてください。被災された方々も、無事であることをお祈り申し上げます。

あと熱中症にも気をつけてください。


 

「お主、わしの姿が見えるのか?」

 

 

見た目は少女だが、話し方はかなり古風であった。

 

 

「いーや、見える訳ではない。貴様の姿を感じているだけだ。貴様、我の感じるところ、怖いほどに純白の、ドヴァ()であろう?」

 

 

それを聞いて少女はさらなる笑みを浮かべる。

 

 

「さすが黒龍であるな。異世界では最強、最恐、最凶と揶揄される存在らしいの」

 

「誰が黒龍だ?」

 

「すまぬ、同族の黒龍に似ておったのでつい」

 

「我のことを知ってるのか?」

 

「まあ、あくまでも噂程度にはな。と言ってもデイドラ?とか言う奴らからじゃが」

 

「貴様も別世界の者だな?」

 

「素晴らしい。そこまでわかるか」

 

「で、別世界のジョールに化けたドヴァが我に何用だ?」

 

「一つ頼みが有ってのう……」

 

「……なんだ?」

 

「わしの同胞を頼んだぞ」

 

「はあ?」

 

 

嫌な予感しかしなかったが、あまりにも漠然とし過ぎて拍子抜けし、理解できなかった。

 

 

「どう言うことだ?」

 

「すまぬな、ワシもそろそろ限界じゃ。しばらく永い眠りに入る」

 

「ま、待て!何が何だか分からぬ。説明しろ!」

 

「まあ、簡単に言えば、ワシらはこの世界に逃げてきたのじゃよ。元の世界ではもう種の維持ができぬ。まあ、デイドラに半分騙されたようなもんじゃが」

 

「はあ?逃げてきた?」

 

「そうじゃ。お主らと一緒じゃよ。竜戦争に負けたのじゃ、こちらは2回目じゃが。漆黒龍よ、勝てよ。また会おうぞ」

 

 

そう言って次の瞬きで少女は姿を消した。

 

 

「くそっ、面倒ごとを押し付けおって!同胞って一体全体何者なのだ!?」

 

 

アルドゥインはなんとも言えないモヤモヤした気持ちを抱えながらその島を去った。

 

 

***

 

 

学都ロンデル

 

 

「エクスプロージョン!」

 

 

建物の屋根が吹き飛ぶ。

 

 

「スティール!」

 

「いやぁあ!私のパンツ返して!」

 

 

相変わらずどっかの誰かが魔法の実験で建物を吹き飛ばしていたり、パンツが盗まれたりしていた。治安もクソもないようだ。

 

 

「待ちに待った発表会ね!レレイ、頑張るのよ!」

 

 

ミモザがレレイを励ます。

 

 

「レレイ、具合大丈夫か?」

 

「うん、問題ない」

 

 

どう見ても顔色悪いのだが、と伊丹は思った。多分太陽のせいだろう。屋内に入ればまだマシかと思うが。

 

 

「昨晩伊丹から栄養もらったから大丈夫」

 

「なんか言い方が、少し考えものねぇ」

 

「血だからな、決して薄い本にありそうなことしてないからね!」

 

 

ロゥリィが薄ら笑いを浮かべるので伊丹は弁明する。

 

道中、また発表者の1人によるレレイへの暗殺未遂等のトラブルもあったが、事前に防ぐことができたので問題はなかった。

 

聞いてみると、どっかの誰かにそそのかされてレレイが自分の論文を盗んだのだと勘違いしたらしい。誤解が解けたので一応解決した。あと少しでセラーナがその発表者をミイラに変えそうになったことを除けば。

 

 

「やはり笛吹き男(パイパー)の手口ですな。これだけで収まるわけはないでしょう」

 

 

グレイが言う。

 

 

「レレイ、もしあれだったら今日辞退しても大丈夫だぞ」

 

 

レレイは無言で首を振る。やはり学会には出場するつもりらしい。

 

 

「問題ない。私は大丈夫」

 

 

そして発表会である。

 

レレイの前に数人発表があり、アルペジオの知り合いの男エルフ以外はインクを投げつけられたりとカオスな学会となった。

 

伊丹はこれを見て日本の国会より酷いかな、と思っちゃったりしている。あちらは理論がずれたことが多いが。

 

ちなみにアルペジオの知り合いの男エルフは天文学で、なんか世界の歪みを発見したらしい。それと前回の地震とかそのほか不可解現象の関係性について調査中だとか。

 

当人たちは気づいてないが、既にこの世界は歪んでいる程度では済まなくなっているが、それはまた別の話。

 

そしてついにレレイの番である。

 

レレイが壇上に上がると、1人のワイルドウーマンが立ち上がった。

 

どうやらグレイとシャンディーが情報収集で知った笛吹き男の傀儡、ノッラというワイルドウーマンのようだ。

 

伊丹たちは既に知っていたので臨戦態勢に入る。

 

しかしながら、刺客がレレイの前でナイフを抜いた時には全て終わっていた。

 

刺客の方が。

 

 

「え?何が起きたの!?」

 

 

会場を埋め尽くしていた魔導士たちの支援攻撃によって刺客はボロボロにされた。生きているのかどうかも怪しい。

 

 

「こ、怖え……」

 

 

伊丹たちは「マジか」みたいな表情をしていた。

 

彼女はどっかに運び出された。

 

そんな感じてスタートした発表会だが、すごく順調にに進み、終わった。

 

やはりお題はレレイが今まで研究していた火薬、爆発物、それらの応用について。

 

勿論日本の科学だけをそのまま発表したわけではなく、これをこの世界での魔法としての使い方、応用なども説明する。

 

そして結果として盛大な拍手が湧き上がった。

 

 

「レレイ、やるわね!導師号間違いないよ!」

 

 

アルペジオが褒め称えた。

 

 

「やったぁ!」

 

 

そのほかロゥリィたちも喜ぶ。

 

シャンディーもレレイを誉めたたえようと近づく。

 

はずだった。

 

皆その光景が信じられなかった。

 

なぜかシャンディーの右手にはナイフが握られていた。

 

伊丹が腰の拳銃のホルスターに手をかけた頃にはナイフが振り下ろされ始めていた。

 

 

(間に合わない!)

 

 

誰もがそう思った。

 

次の瞬きで確実にナイフの刃はレレイの心臓に届く。

 

と誰もが思った。

 

しかしナイフはレレイを傷つけることはなかった。

 

なぜなら、消えていたから。

 

シャンディーの、ナイフが握られていた手が。

 

 

そしてコンマ数秒の差で雷のような音が響いた。

 

 

「アァァァァァアアッ!?手が、私の手がぁ!!」

 

「伏せろ!」

 

 

伊丹は反射的に指示を出す。

 

さっきの雷のような音は物体が音の壁を超えた時に発する音。銃声である。

 

シャンディーは右手首を抑えて転げ回っていた。

 

そして、全てを物語るようにナイフを握った右手が、少し離れた所に落ちていた。

 

落ちた手から、シャンディーの手首から、真っ赤な血がドクドクと流れ出す。

 

伊丹は周囲を確認する。

 

大きな弾痕。

 

そして先ほどの音の方向を。すると長い棒を担いだ男ともう1人の男がコソコソと会場を跡にした。

 

 

(対物ライフルか!?)

 

 

伊丹は拳銃を抜くと会場の後ろの方の扉へと走る。

 

 

「グレイさん、シャンディーの傷を頼みます!」

 

「お任せください!」

 

「私の手が、手があ……痛い、痛い……」

 

 

泣き叫ぶシャンディーの手首を抑えて必死に止血を試みる。

 

 

「シャンディー殿、レレイ様を攻撃した理由、後できっちりと聞かせてもらいますぞ。まずはこちらが優先ですが」

 

 

アルペジオとミモザも治癒魔法で懸命に救助活動を行う。

 

 

「くそっ、どこだ!?」

 

 

伊丹は扉を開けたが、既に不審な人影は消えていた。

 

 

「くそったれ!」

 

 

伊丹は急いで会場に戻る。

 

他の魔導士たちも手助けしてくれた。シャンディーの様子も落ち着いて、止血され今は眠っていた。

 

 

「みんな、緊急事態だ。急いでアルヌスに戻るぞ。シャンディーも治療などのために連れて行く」

 

「まあ、笛吹き男にそそのかされたんでしょうけどぉ」

 

 

ロゥリィは溜め息をついた。

 

 

「よし、急いで準備でき次第出発するぞ!」

 

 

皆が慌てて行動する中、レレイは静観することしかできなかった。

 

そして発表資料の後ろの方の紙を破ると、それを誰にもバレないように燃やした。

 

 

「こちらは発表しなくて良かったのかもしれない」

 

 

その紙には『原子という概念とその分裂、融合がもたらす作用』と書いてあった。

 

 

この出来事により、レレイの導師号取得は取り敢えず保留となった。

 

 

***

 

 

ゾルザル政権になり、帝国は大変なことになっていた。

 

日本との戦争を回避しようとする穏健派はことごとく捕らえられ、最悪粛正される者も少なくなかった。

 

結果、日本に亡命を希望する者が激増中なのだとか。

 

しかし日本側これを(現時点では)受け入れない方針なので、数多くの貴族たちが絶望した。

 

そんな絶望は幼気な少女にも襲いかかる。

 

 

「いやぁぁぁぁああ!お父様っ!お母様っ!」

 

 

シェリーは両親が残っているはずの家が遠くで燃え盛っているのを見て慌てふためく。

 

テュエリ家が穏健派のガーゼル公爵の知り合いということ、かつシェリーが日本の特使(菅原)との関係者ということで実力行使に出た掃除夫に対し、文字通り決死の覚悟でシェリーの両親が足止めしたのだ。結果は残念なことになってしまったが。

 

 

「シェリー、だめだ、行ってはいけない!」

 

 

ガーゼルは必死にシェリーを止める。

 

それでも言うことを聞かないシェリーの頬に一発平手打ちをした。

 

 

「ご両親の覚悟を無駄にしてはいけない!」

 

 

そう少女に言い聞かせて、現実を認めさせた。

 

そうして2人の逃避生活が始まった。

 

 

***

 

 

「主人様、ご無事で何より」

 

 

アルドゥインの帰りにヨルイナールが頭をさげる。

 

 

「うむ、留守の間ご苦労だったな。ところで、何か変わりは?」

 

「帝国の人間どもが最近活発に動いておる。ちょっと蹴散らしてやったがな」

 

「よくやった。人間どもが殺し合えば我はさらに強くなることはよいことだ」

 

「そして、ジゼルがまた槍を磨き始めた」

 

「……う、うむ」

 

 

アルドゥインは何と答えたら良いのかわからなかった。

 

こんな時どんな顔をしたら良いのだろうか。

 

 

「うむ、槍は十分に集まっておるのでもう良いのだが……」

 

「槍なんぞ何使うのだ?」

 

「まあ、いずれ分かる。ということで、今まで磨いた分の槍全てをある地点において来い」

 

「……これ全部か?」

 

 

アンヘルは槍の数を見渡す。

 

ざっと2、3千はあった。

 

 

「まあ、お前ら3頭でどうにかしろ。我は別件の用事があるのでな」

 

 

そしてアルドゥインはまたどこかへ去って行く。

 

 

「全く、我々の扱いが酷いもんだ……」

 

 

アンヘルたちはせっせと槍のを束ねて担いだ。

 

そしてアルドゥインが指示した場所にその日のうちに捨て置いた。

 

 

***

 

 

「外がやけに騒がしいわね」

 

 

ボーゼスが柑橘類をほおばりながら呟く。

 

 

「どうやらまた掃除夫たちが騒ぎを起こしているみたいだぜ」

 

 

ヴィフィータが答える。

 

 

「既に斥候は出してあるから初動対処は問題ないぜ」

 

「ありがとう。助かるわ」

 

「それにしても、お前最近柑橘類食べすぎだろ」

 

「ええ、なぜがこう、酸っぱいものが食べたくなって」

 

「はは、まさか妊娠しているわけなんかないよな。あははは」

 

「……ええ、可能性はあるわね」

 

「ははは……は……ええ!?」

 

「何?私も1人の女よ。そんな珍しいことじゃないわ」

 

「そう言う問題じゃねえよ。あいつか、あの富田とかいう馬の骨!」

 

「失礼ね。私は殿方のためなら家も捨てる覚悟なのよ」

 

「ステキ……」

 

 

周りの少女たちの瞳がハートになった気がした。

 

 

「うわー、完全にだめだこりゃ。わかっていねぇ」

 

 

ヴィフィータが頭を抱える。

 

 

「まあ、仮に生まれて来るとしても7〜8ヶ月後よ」

 

 

そんな恋バナ(?)をしている中、警備兵から報告が上がる。

 

ガーゼル侯爵とシェリーが日本の特使に用件があるということで来たそうだ。

 

2人はこっそり入ることも考えたが、警備が厳重なのでやましいことをするよりは堂々と正面から行った方が得策と考えただめだ。

 

 

ボーゼスたちは2人を迎えたが、日本は現在取り合わないスタンスであることを伝える。

 

 

「ガーゼル侯殿、やはり日本に亡命するつもりでしたか?」

 

「その様子だと、私たちだけではなかったようだな」

 

「ええ、やはり帝国追われる身である貴族が時々来まして」

 

「そしてそのような者たちは?」

 

「一応帝国兵の目に入らぬ前に帝都外へ誘導はしております。見つからない限り、ですが」

 

「それで十分じゃよ」

 

 

ガーゼルは翡翠宮の境目で立ちすくんでいたシェリーを呼び寄せ、その旨を伝える。

 

 

「あの、せめてスガワラ様とお会いすることはできませんか?」

 

「シェリー嬢、あそこは外国なのだよ。無理を言ってはいけない」

 

 

ヴィフィータがシェリーの問いに答えた。

 

 

「ですがスガワラ様に私がここに居ることをお伝えしていただければ、スガワラ様は受け入れてくださるかもしれません」

 

「ほう、大した自信だな。スガワラ様と君は一体どんな関係なのだ?」

 

「スガワラ様は、いずれ私の夫となる方です」

 

「……君、歳はいくつだ?」

 

「12です」

 

「それはいくらなんでも早婚すぎるだろう。こちらでも成人とみなされるのは15歳。日本でも女性が結婚できるのは16歳からと聴いてるが」

 

「ならば16歳になってから正式な結婚をすればよいだけです!」

 

「わかったわかった。そこまで言うならスガワラ殿を名指しで伝達してあげよう」

 

 

そう言ってヴィフィータは自身でスガワラのところへ赴く。

 

 

「スガワラ殿、先ほどの亡命者の件だが……」

 

「先ほど対応はできないとお伝えしたと思いますが」

 

「ああ、分かっている。ただな、ガーゼル侯爵の同行者の、ある人物からご指名で伝令を預かっている」

 

「?」

 

 

その時、外から少女の声が聞こえた。

 

 

「スガワラ様!シェリーでございます!」

 

 

スガワラ急に立ち上がると窓に寄ってシェリーの姿を確認する。

 

 

「シ、シェリー」

 

「ふーん、あながち嘘じゃなかったわけか」

 

「嘘?」

 

「おの嬢ちゃん、お前は将来の夫だとか言っててな」

 

「そんなまさか」

 

「まあ分かっているよ。俺もおな頃の年の時は似たようや経験をしたさ。ちょっと優しくされちまっただけで相手は好意があるのだとか、自分は大切にされているだとか勘違いしちまう」

 

「そ、そうですか。ご理解感謝します」

 

「でもな、それだけあの子はお前を信頼しきってる。最後の最後の望みとしてお前をアテにしている。そこでだ、一つ男としての甲斐性を見せてやってはどうた?」

 

「……」

 

 

菅原は答えられなかった。

 

 

「それができないなら、耳を塞いで無視してくれ。そしたら彼女も諦めるだろう」

 

「そして、彼女はどうなる?」

 

「さあな。目を閉じて耳を塞ぐのであれば知る必要のないことだ。違うか?」

 

 

菅原は参ってしまう。

 

 

「そして彼女の伝言だ。『ご迷惑をおかけすることは重々承知しておりますが、ぜひお情けをかけてくださいませ。それが駄目なら、お前なんか知らないと言ってくださいませ。そうすれば諦めもつきます。』だとよ。ホント健気だよな」

 

 

そう言ってヴィフィータは部屋を出て行く。

 

シェリーは絶えず菅原を呼びかけていた。

 

 

その頃、ボーゼスは窮地に陥っていた。

 

掃除夫の代表と対峙していた。

 

 

「我々新皇帝ゾルザル様の直属の部隊として、騎士団に命令します。

 

一つ、騎士団は速やかにガーゼル侯爵たちを我々に引き渡すこと。

 

一つ、騎士団は速やかに皇帝の指揮下に入ること。

 

一つ、特使たちの身柄を引き渡すこと

 

以上です」

 

「む、無茶苦茶過ぎます」

 

「では、貴方方騎士団は皇帝の命令に背くという認識でよろしいですかな?」

 

「そ、それは……」

 

 

ボーゼスは言葉につまる。

 

 

「これは()()()()ではないのですよ。()()です。わかりますか?貴女が拒否すればここにいる全員が命令に背いたとして罰せられるのですよ。特に、ピニャ殿下が」

 

「ピニャ殿下が、どうかしたのか!?」

 

「現在、ピニャ殿下の状況は非常によろしくありませんな。貴女の態度によってはどうなるのか分かりかねます」

 

 

掃除夫の代表が鼻で笑う。

 

 

ボーゼスは迷った。

 

言葉を慎重に選ばなくてはならない。

 

自分の言葉一つで、最悪自分の尊敬するピニャが、頼りにしている部下が、命を落とすことになるかもしれないと感じた。

 

豆粒ほどの汗が額を伝わって、顎先で止まり、音が聞こえてくるのでないと思うほどに大きくなって地面に落ちた。

 

 

「いくつか確認しても、よろしいですか?」

 

「はい、どうぞ」

 

「特使たちは、引き渡した場合どうなるのですか?」

 

「我々も彼らを無下に扱うようなことはいたしません。最近治安の悪化に伴い、一度保護した上で帰国していただく予定です」

 

「それが本当ならよいのですが。あと、我々は貴方の指揮下に入ることはできません。あくまでも、我々はピニャ殿下指揮下にありますので。殿下を通してください」

 

「ほう、ピニャ殿下よりも上であるゾルザル陛下の命に背く、と?」

 

 

その冷たい視線にボーゼスは全身から冷や汗をかく。

 

 

「なので、提案があります」

 

 

だめ、言ってはいけない。

 

ボーゼス心の奥から声がした。

 

しかしこれしか方法が、ない。

 

 

「ほう、それは?」

 

 

これほどまでに政権が交代したことを悔やんだことはない。もし前皇帝が生きていたら、言い訳などいくらでもできた。

 

しかし、今の皇帝は、ゾルザルだ。

 

 

「我々騎士団は、中立を保ちます」

 

「ほう、どうやって?」

 

「武装解除します」

 

「おい、ボーゼス!お前なに言って……」

 

 

隣にいたヴィフィータが驚いた顔でボーゼスの肩を掴む。

 

 

「ヴィフィータ、お願い。いう通りにして!」

 

 

ヴィフィータはボーゼスの表情を見てさらに驚く。

 

どんなに厳しい訓練でも、辛い出来事でも、悲しい結果を見ても、人前では決して弱音も吐かなかった彼女が、大粒涙を零していた。

 

 

(悔しい、悔しい……)

 

 

恐怖でも、悲しみでもない。

 

悔しい。

 

ただそれだけ。

 

指揮官としての自分の力量不足に、ボーゼスは歯を食いしばって、声は出さずとも泣いていた。

 

 

「ふん、良いでしょう。当面の間は」

 

 

それを見た掃除夫はボーゼスを蔑んんだ目で見ると掃除夫たちを呼び入れる。

 

 

「ガーゼル殿、探しましたぞ。後でたっぷりと話を聞きましょうか」

 

 

ガーゼルはもう半ば諦めたようで、ただうなだれていた。

 

 

「そして、あちらがシェリー殿ですな」

 

 

そしてシェリーに近づいて乱暴に手を引っ張る。

 

 

「さあ来い!」

 

「嫌です!嫌ぁっ!スガワラ様、スガワラ様ぁ!」

 

「ほう、そんなあの男が気になります。これほどにもか弱き少女が助けを求めてるというのに、薄情な男ですな」

 

 

そしてニヤリと笑う。

 

 

「特使の皆様、我々に御同行願いたい。治安悪化につき貴方方には一時帰国してもらいたい、というのが新皇帝のご意向です」

 

 

しかし日本側からは何の返事もない。

 

 

「そうですか、ならばよろしい。今どれほど治安が悪くなっているかをお見せする必要があるようですね」

 

 

そう言って男はシェリーの服を力一杯引っ張って破った。

 

 

「い、嫌ァァァァアア!!」

 

 

シェリーは露わになったまだ成長しきっていない自分の身体を手で隠そうとする。

 

 

「ち、畜生どもめ!」

 

 

菅原はもう我慢の限界点に達していた。しかし同僚に押さえ込まれてしまう。

 

 

「私はですね、これくらいの少女も十分許容範囲ですよ。早くしなければ、幼気ない少女の純潔が無くなりますよ?」

 

「嫌っ!嫌ァァァァ!」

 

「離せえ、もう我慢の限界だ!」

 

 

菅原が叫ぶ。

 

 

「ボーゼス、これでも俺たちは中立を保つのか!?」

 

 

ヴィフィータがボーゼスに向かって吠える。

 

 

その時、何かが空を切るような音がした。

 

時間差で何かが破裂したような音がした。

 

そして、阿鼻叫喚の悲鳴が聞こえた。

 

 

「誰だ!発砲したのは?」

 

 

警備中の自衛官が叫んだ。

 

 

「い、いえ……誰も発砲などしておりません」

 

 

「今の音、花火ですか?」

 

 

特使の1人、白百合副大臣が呟いた。

 

 

そう、花火の音である。

 

ただし、それは空に打ち上げられたものではなく、地面に()()()()()()()ものだが。

 

 

***

 

 

「あちゃー、年貢の納め時かあ」

 

 

加藤は苦笑いして周囲を見渡す。

 

自分のデスクの周りを完全武装した陸自隊員が囲んでいた。

 

 

「嘘だろ?」

 

 

伊丹は目の前の光景が信じられなかった。

 

急いでアルヌスに帰って緊急事態が起きたことを報告しようとしたが、基地内はそれどころではなかった。

 

やけに騒がしいと思い、その原因を探ってみると、彼が目の前にいた。

 

 

普段何ら変わらない表情で、両手に手錠をかけられながら。

 

狭い部屋の中に陸自がびっしりと海自幹部を囲んでいる光景は異様な雰囲気を漂わせていた。

 

 

「加藤3佐、貴方を拘束します」

 

 

警務官の1人が言う。

 

 

「罪状は何かな?」

 

「文書改ざん、横領、秘密漏洩、詐欺、爆発物取締罰則、毒物及び劇物取締法、公務員職権濫用、私戦予備・陰謀罪などの違反、嫌疑がかけられています」

 

「あれ、そんなもんなの?もっと多いと思ってた」

 

「など、です。詳しくは後ほど聞かせて貰います」

 

「やれやれ」

 

「加藤!てめえ何やらかしたんだ!?」

 

「ん?伊丹か。ドジったわ」

 

「てめえ何するつもりだ!?」

 

 

今にも殴りこみに行きそうな伊丹を周りが制止する。

 

 

「別に何も。言ったところでお前に理解されないだろうし、したとしても同調しないだろうしね」

 

「加藤3佐、何が君をこうしたんだ?」

 

 

顔には出さないが、雰囲気から怒りがこみ上げている狭間陸将が口を開く。

 

 

「残念ながら、貴方にお答えできませんね」

 

「そうが、非常に残念だ」

 

「加藤3佐、時間です」

 

「わかった……」

 

 

加藤はやっと重い腰を上げた。

 

すると、後ろの窓ガラスが割れた。

 

同時に、停電が起きた。

 

 

「な、なんだ!?」

 

 

隊員たちが驚く。しかしやはり戦闘のプロである。ほとんどは反射的に戦闘態勢を取れた。

 

だが伊丹ははっきりと見た。

 

停電の直前、加藤が不敵な笑みを浮かべたことを。

 

そして突如閃光と爆音がした。

 

 

***

 

 

「何者だ、こいつら?」

 

 

口にしたのはヴィフィータだけだが、そこにいた全員が内心同じであった。

 

 

周りには掃除夫たちの遺体が転がっていた。

 

まだ動ける者は槍でトドメを刺させれる。

 

シェリーたちも何者かによって助け出されたようだ。

 

しかし、謎の集団は騎士団や帝国兵たちにも槍の切っ先を向ける。

 

 

それは、ヴォーリアバニーを主体とした、混成戦闘団であった。

 

 

問題はその容姿である。

 

全ての者は、深緑を基準とした衣服に様々な塗料をつけて、陸自の迷彩っぽくしてあった。肌もドーランのように塗ってある。中には目だけ見えるよう頭を布やフードで覆っている者もいる。

 

髪を短くしたり、結ったりバンダナで覆う者もいる。

 

そして手には多くは槍を持っていたが、中にはよくわからない筒、黒い球など見慣れないものを腰にぶら下げていた。少なくとも、今まで日本人が接した中の情報にはない物だ。

 

そして動作もかなり訓練された様子である。

 

耳を常に四方八方に向けて警戒している。

 

そしてある人物が歩いてくると、周りの謎の者たちは一斉に敬礼した。

 

自衛隊や米国式の、挙手の敬礼で。

 

 

「どうよ、ある程度は片付いたみたいだね」

 

 

どうやらヴォーリアバニーの指揮官らしい。

 

 

「あ、貴女どこかでお会いしたかしら?」

 

 

ボーゼスが呟いた。

 

 

「おや、騎士団のお嬢様方じゃないか。そんな忘れられるとは悲しいね。アルヌスの食堂で働いていたんだがね」

 

 

そう、デリラである。

 

 

「まあ、あたいはあんた達のことをイタリカにいるときから監視していたけどさ」

 

 

そしてデリラはタバコを一本吸う。服装はあまり他の者と変わらなかったが、肩に『SAW』と書いてあった。

 

 

その様子を翡翠宮の中から観察していた特使と自衛官たちは驚愕した。

 

もちろん、彼女の服装、行動もだが、何より彼女が背負っていた武器が問題であった。

 

 

「な、なぜあの武器がここに……?」

 

 

正確な種類は分からないが、その独特のシルエットから武器の素人でも分かるものだった。

 

 

カラシニコフ銃。またの名をAK自動小銃。

 

 

世界で最も人を殺戮したと言われているあの銃である。

 

 

「おい、その娘をどうする気だ!?」

 

 

やっと出てきた菅原が尋ねたら。

 

シェリーは布で覆われ、一応保護されている。

 

 

「ん?何?あんたそんな趣味あんの?」

 

 

デリラが近づく。

 

 

「待ってください、スガワラ様は決して悪い人ではございません」

 

 

シェリーが涙を浮かべて懇願する。

 

 

「……ふーん、まあいいや。スガワラさんとやら、あたいらはある目的でここに来てる。それはあんたらをアルヌスまで送り届けるためだ」

 

「お前達は、何者だ?日本からの意向なのか!?」

 

「日本?違うね。あたいらはね、ある国を造ったんだよ。その国の名は……」

 

 

***

 

 

X(エックスレイ)Y(ヤンキー)Z(ズールー)、ご苦労」

 

 

加藤は気絶した隊員から鍵を取ると手錠を外す。

 

 

「加藤3佐、ご無事で何よりです。貴方の我が国への亡命が許可されました」

 

「それにしても、陸自も思ったほどじゃないですね」

 

「Y、調子に乗るな。こいつらが本気になれば俺たちじゃ敵わん。奇襲が成功したことと、S(特戦)がいなかっただけでも幸運だ」

 

 

加藤はYと言われる者に注意する。

 

そして加藤は3人の黒い戦闘員を連れて去ろうとした。

 

 

「加藤……てめえ……」

 

「そう言えばS(特戦)が1人いたな。さすがは伊丹、回復が早いな。だがテーザーガンの痺れは効いたろ?」

 

 

加藤はまだ動けない伊丹の隣に半立ちの姿勢になる。

 

 

「てめえ……なんだそのSAS(英国特殊空挺部隊)みたいな奴らは。『SAW』って部隊、自衛隊にはいねえぞ……」

 

 

それを聞いて加藤はほくそ笑む。

 

 

「そうだよ。自衛隊の部隊じゃない」

 

「それに……亡命とか言ったな……中国か?韓国か?ロシアか?」

 

 

しかし加藤は首を横に振る。

 

 

「お前だけには教えやるよ。この世界、異世界にある国さ。その国の名は……」

 

 

***

 

 

『ジパング。国名をジパングとする』

 

 

突如、よう●べやニ●ニ●、フェイ●ブックやつぶやきを投稿する世界中の有名なサイトにこのような動画が配信された。

 

 

『我々は、独立を宣言する。国名はジパングとする』

 

 

画面の向こうには、真っ白な制服姿の彼がいた。

 

元海上自衛官2等海佐、現海将補

 

草加拓海

 




自衛隊あるあるが揃いました。

怪獣
異世界召喚またはタイムスリップ
そしてクーデター


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そして時は動き出す


気がつけば初投稿から一年過ぎてますね。
これからもよろしくお願いします。

時たま、全然関係のない世界から声が出て聞こえたりしますが、イースターエッグみたいなものです。ほら、昔の漫画には時々すみっこに別の作品のキャラがいたりするでしょう?


 

基地内に警報がなる。夜にも関わらず、隊員たちが跳ね起きて戦闘準備を行う様子が伺える。

 

 

「加藤3佐、馬を用意してあります。しかし、相手が航空機を使用してくれば逃げるのは難しいかもしれません」

 

「安心しろ。天の利は俺たちにある」

 

「?」

 

「制空権は既に掌握済みだ」

 

 

陸自、空自の航空機パイロットたちがスクランブル発進により各々が席に着くと準備する。

 

エンジン、機器を起動してゆく。

 

そして彼らは凍りついた。

 

機器から聞きたくない、否、この世界では聞こえてはいけない警告音がなった。

 

 

「こちらパイロット!レーダー警報受信機に感あり!」

 

『こちら管制塔。どういうことだ?方位、種類は?』

 

「方位は、全方向!種類は、攻撃用レーダー照射!」

 

『何だと!?全航空機に告ぐ。直ちに飛行を中止せよ。繰り返す、直ちに飛行を中止せよ!』

 

 

この混乱は他の部隊にも大きな影響を与え、整えるのにかなり時間を要した。

 

 

「なるほど、さすがですね」

 

「まあ、ちと簡易イージス・アショアのプログラムいじっただけだけどな。敵味方の識別を解除しただけだが」

 

「何日持ちますかね」

 

()()()が関与するなら、持って3日、だろうな」

 

「そろそろ基地を出ます。ん?」

 

「Z、姿勢を低くしろ」

 

 

言われた通りにすると、次の瞬間氷柱(ツララ)のようなものがヘルメットの上をかすめた。

 

基地外への門には伊丹のハーレム要員が並んでいた。そのうちのフードを被って目が光ってる者が放ったらしい。

 

 

あんにゃろう(伊丹)、確かまた別の女連れていたな。厄介な者を連れて来やがって」

 

「やりますか?」

 

「いや、()()に当たるとまずい。ここは起動力で突破する」

 

 

そして馬の腹を蹴って加速する。

 

 

「この私相手にぃ、正面突破なんていい根性してるじゃないのぉ」

 

 

ロゥリィがハルバードを構える。

 

 

「もう死亡フラグしか見えないんですけど!」

 

「いいか、お前ら。こういう時はな、たった一つだけ方法があるんだぜ。たった一つな」

 

「それは?」

 

「逃げるんだよぉぉぉ!」

 

 

加藤たちは目の前でUターンして別の方向へ逃げていった。

 

 

「へ?」

 

 

ロゥリィたちは一瞬拍子抜けして何が起きたのかわからなかった。

 

 

「に、逃げられたぁぁぁ!」

 

 

ロゥリィがハルバードを地面に叩きつけて怒り狂う。

 

 

(ふむ、手応えはあったと思いましたのですが……)

 

 

セラーナは地面に落ちた血痕に触れると口に運ぶ。

 

 

(……なるほど)

 

 

***

 

 

事件から数日後

 

 

「ただ今、江田島統合幕僚長より記者会見が開始されようとしております。あ、ただ今統合幕僚長が入りました!」

 

 

報道陣がすし詰め状態で会見わを待っていると、ガタイが日本人離れした厳ついハゲ男が入ってくる。

 

男が席に着くとカメラのフラッシュやざわめきがピタッと止まった。

 

 

「ゴク……」

 

 

あまりの場の緊張に報道陣の誰かが唾を飲み込む。

 

普段ならこれほどの沈黙にはヤジを飛ばしたりするが、この男を前に報道陣は珍しく静かにしていた。

 

そして男は口を開いた。

 

 

「わしが統合幕僚長、江田島平八である!!」

 

 

マイク無しでもメガホン並みの声に声に誰しもが圧倒される。そして時間差でフラッシュが埋め尽くす。

 

圧倒されながらも報道陣たちは彼の次の言葉を聞き取ろうと録音機、メモ、マイク、カメラを準備する。

 

 

「以上!」

 

 

そう言ってその場を去った。

 

会場は一昔の漫画よろしく、全員が拍子抜けしてひっくり返った。

 

 

「「そ、それだけぇ!?」」

 

 

***

 

 

波紋は日本だけに留まらず、世界中で話題となった。

 

それはもちろん、各国の外交にもヒビを入れようとするほどに。

 

 

国際連合本部

 

 

「なんだあれは!?日本がわざわざ他国を入れなかったのはこのためか!?」

 

 

フランスの代表が怒鳴る。

 

 

「日本はまた満州事変と同じことを繰り返すつもりか!?」

 

 

と中国が机を叩く。

 

 

「流石にこれは国際問題に発展せざるをえませんな」

 

 

ロシアが静かに呟く。

 

 

「このままでは、日本は国際地位と信頼を失いますぞ」

 

 

イギリスも静かに、されど力強く言う。

 

 

「……」

 

 

一番うるさく言いそうなアメリカは、珍しくだんまりであった。

 

常任理事国はもちろんのこと、非常任理事国もあちこちでヤジが飛んだりした。

 

日本の代表は言い訳ができるはずもなく、ぐうの音もでない。

 

 

「これでは、日本は潔白を証明するか、なんらかの措置が必要となります」

 

 

イギリスの代表が言う。

 

 

「まず、日本は潔白を証明できますか?」

 

「それは……その……まだ首相からの正式な声明がでておりません……」

 

「これだから日本は!もしや、時間稼ぎなどではないでしょうね?」

 

 

フランスが苛立ちを見せる。

 

 

「いえ、決して。ただ、これだけは言えます。我々は国政としてこのようなことをするつもりは無いと……」

 

「ではあれは何かね?新手のエイプリルフールか?全世界に発信しておいてそのようなことはありませんだと!?」

 

「フランス代表、お気持ちは分かりますが静粛に。では、我々国連が取れる行動は2つ。一つ目、日本国が責任を取り、何らかの制裁を受けること。

二つ目、我々が直接特地への介入を容認すること」

 

「そ、そんな……」

 

「では第1案について、採決します」

 

 

そして採決が実施される。

 

ほぼ全ての常任理事国が賛成した。

 

アメリカを除いて。

 

 

「あの、アメリカ代表。どうしましたか?」

 

「アメリカは、日本への制裁および国連の特別地域への直接的な介入に対し、拒否権を発動します」

 

「「「はあ!?」」」

 

 

常任理事国はもちろん、一番驚いたのは日本である。

 

 

***

 

 

国連ですら混乱と罵声にまみれたのだから、国内なんて無政府状態一歩手前であった。

ただし、日本人基準なので他国したらまだマシな方らしい。

 

 

「現政権はファシストだー!」

 

「軍国主義反対!」

 

「戦争を繰り返すな!」

 

 

全国あちらこちらでデモとかデモとかデモが起きていた。

 

国会はいつも通り荒れていた。いつも通りである。

 

ただ、『門』の前は特にひどかった。

 

自称平和主義者、反戦主義者、その他色々な人が門の前で大規模なデモを起こしていた。

 

 

「自衛隊は何をやっとるだー!」

 

「この税金ドロボー!」

 

 

銀座事件直後とは手のひらを返したような感じだ。

 

現政権や自衛隊の支持率もかなり落ちていた。

 

この結果、特地側への物資がうまく補給されない状況に陥っていた。

 

そして、一番大変なのは特地に残っている自衛隊である。

 

 

例の事件にたまたまメディアや各国の派遣員がたまたま居合わせてしまったため、草加の独立宣言が冗談ではないことが改めて確認されてしまったのだ。

 

さらに、事態の悪化を防ぐために国内からとある機関が密接に関与するようになった。

 

 

「我々は軟禁状態だな……」

 

 

狭間陸将は呟いた。そして周りを見て溜め息をつく。

 

 

陸自とは異なる戦闘服に包まれた者たちが短機関銃を手に見張っていた。

 

肩と背中には所属が記されていた。

 

 

SAT(特殊急襲部隊)

 

 

「すみませんね。まさかこんなことになってしまったので、()()は動かざるをえないのですよ」

 

 

杖をついた駒門が呟く。

 

我々、つまり公安である。

 

 

「それにしても、まさか彼があんな行動取るとは思いませんでしたね」

 

「……」

 

 

伊丹は駒門の言葉を無言で聞くほかなかった。

 

彼、つまり加藤蒼也のことだ。

 

公安によれば、ごく普通の補給幹部。そしてついでに特殊部隊(SBU)の資格を取っていた。

 

ついでで特殊部隊(SBU)になってしまう時点で普通かどうかは不明だが。

 

他には特に目立ったこともなく、変な思想や、トラブルを起こしたという情報もないらしい。

 

ごく普通の経歴。

 

普通すぎる経歴のため、見過ごされた。

 

 

「しかし、少し妙なんですね……」

 

「?」

 

「彼、あまりにも普通過ぎるんですよ。不自然なほどに自然過ぎる経歴。例えるならですね、普通の大学行って、普通の会社のサラリーマンになって、普通の家庭を築く、みたいたな。まるで……」

 

 

駒門は伊丹を見てやれやれ、と苦笑いする。

 

 

「あんたとは真逆だね。欺瞞に使っている経歴が」

 

「え?」

 

 

伊丹は自分の特戦郡の経歴が、冷やかしや嫉妬のため、どこぞのシュワちゃんやランボーですか?と聞きたくなるような経歴に欺瞞されてるのを思い出す。本人はいたって普通のオタクなのだが。

 

 

「俺の勘だが、あんたの友人は我々ですら手に負えないほどの危険人物かもしれんな」

 

 

そう言って窓の外を見る。

 

 

「まあどの道、自衛隊さんはこれから大変ですな」

 

 

外ではマスコミたちが騒いでいた。

 

 

『現在自衛隊は例の事件の真相の解明のため、軟禁状態であると聞いております。今後、特地では何がおきるのでしょうか……』

 

 

***

 

 

加藤たちは洞窟の前で馬から降りる。

 

 

「加藤3佐、肩から血が……」

 

「おや、気づかなかった……ああ、思い出した。基地から出るときに伊丹がまた新しく連れてきた女が投げたナイフだな。避けたと思ったんだけどな」

 

「早く治療を……」

 

「こんなもんツバつけきゃ治るって」

 

「そうですか。ぺっ!」

 

「おいX、その汚い手で俺に触れるなよ?」

 

「冗談ですよ。ではこちらです」

 

 

奥は意外と深かった。

 

 

「草加2佐……いえ、()()になられたのですね、確か。お久しぶりです」

 

 

奥から少しやつれた感じの男性が出てきた。

 

 

「加藤、久しぶりだな。良くできていたぞ、あの演出。しかし彼らはあれが数ヶ月前に撮った映像とは思わないだろうな」

 

「草加さんたちも、長期間良く耐えてくれました。あと見事な操縦でしたね。本当に墜落したかと思いましたよ」

 

 

そして洞窟のあちらこちらに置かれた電子機器、武器などを見渡す。

 

 

「こう見えても情報幹部になる前はパイロットだったからな。とにかく、君を歓迎する。そして君をジパング帝国国防軍少佐に任命する」

 

「了解です」

 

「直ちに次の行動をとれ」

 

「了解」

 

 

互いに敬礼し、握手をしようとしたが、互いの手が一瞬微妙にずれた。

 

 

「「……」」

 

 

そして無言でもう一度握手を試みる。

そして今度は問題なく互いに握手する。

 

 

「草加さん、もしや……」

 

「ああ、墜落の衝撃で左眼が見えなくなったようだ。しかし今後の計画に変更はない」

 

「了解」

 

 

そして再度敬礼して準備にかかる。

 

加藤は胸に着いている『JMSDF(海上自衛隊)』のワッペンと、肩の日章旗のワッペンを外すと焚き火に放り投げた。

 

 

(じゃあな、日本)

 

 

そして『SAW』と『ZDF(ジパング国防軍)』のワッペンを付ける。

 

 

身なりの支度を終えると、既に元部下達が待機していた。

 

 

「「「加藤少佐、これからもよろしくお願いします!」」」

 

 

元部下たちが敬礼する。そして、新たな部隊の長として歓迎される。

 

 

「ああ、よろしく。それにしても、これで全員か?10名ちょとか。ヘリに乗せた欺瞞用の遺体と合わせても、足りねえな」

 

「加藤少佐、一部はとある任務に行ったきり行方不明です。恐らく何らかのトラブルでしょう。あと残りが……」

 

「B班ただいまロンデルより帰還しました」

 

 

現地民のような服装の男3人が入ってきた。

 

1人は対物ライフルを背負っている。

 

 

B(ブラボー)2、久しぶりだな」

 

「お久しぶりです。ですがB1は確か巨龍のときにKIA(戦死)しましたので、もう2はいりませんよ」

 

「そうか。B、現状報告せよ」

 

「はい、警護対象のレレイがまたパイパーにそそのかされたバカに命を狙われたので片腕吹き飛ばしてやりました」

 

「命は取らなかったのか?」

 

「一応彼らの知人みたいだったので」

 

「まあいいや。それにしてもパイパーってやつは恐ろしいな。スカウトしようかなあ、是非とも我が軍に……なんか手がかりある?」

 

「ええ、レレイを最初に狙っていたパイパーの手下のワイルドウーマン拾ってきましたけど」

 

 

そして隅に置いてある黒焦げの物体を指す。隊員の1人が治療中の模様。

 

 

「え、あそこに置いてある肉塊がそうなの?てっきり今夜のおかずだと思ったんだけど」

 

「別に食べてもいいですよ。煮るなり焼くなり、ベットに連れ込むなり(笑)」

 

「流石に肉塊は無理だわ。でもなんか某エロゲであったような……」

 

「コホン……隊長、指示を」

 

 

別の隊員が咳払いして注意した。

 

「そうだった、では指示する。

A班、デリラたちの支援。

B班、パイパーの情報収集及び処分。

C班、俺ととも行動だ。

質問は?」

 

「「「なし」」」

 

「以後、各班の指揮官に従え」

 

 

そして全員準備にかかる。

 

 

「やはりM4A1かな?それとも耐久性の高いAK系統でいくか……」

 

 

加藤は少ない選択肢から選ぶ。そして自分なりにカスタムする。

 

 

「加藤、これを持っていけ」

 

 

草加が日本刀のような物を渡す。

 

 

「ミッドウェーで亡くなった、私の祖父の遺品だ。火器が使えなくなった時役立つかもしれない」

 

「ありがたく拝借します。では行ってきます」

 

 

***

 

 

「貴様ら!進め、進めえぇぇ!前進あるのみ!」

 

 

掃除夫はどこぞの赤軍のように狂ったように突撃する。これで掛け声が「Урааааа(ウラー)!」なら完璧に赤軍なのだが。

 

 

「デリラ隊長、またバカな帝国軍たちが突っ込んでくるよー」

 

「バカだねえ、ホント馬鹿だねえ。おかげであたいらの同士の仇を討てるけどな。用意……」

 

 

そして特殊武装したヴォーリアバニー腰にある筒を構える。

 

 

「てい!」

 

 

轟音と硝煙の匂いと煙がその場を覆う。

 

そして敵側から断末魔が聞こえてきた。

 

原始的な銃と言ったところか。威力は近代銃と比べれば微々たるものだが、音、煙とそこそこの威力が掃除夫と帝国兵を恐怖に陥れる。

 

 

「いったーい。音が大きすぎるよお」

 

「耳栓してないからよ」

 

 

ヴォーリアバニー達数名が耳を抑える。

 

 

「ちっ、これじゃあきりがないよ。残りもそんなに無いのに。それに耳がおかしくなりそうだよ。おい、でかいのお見舞いしてやれ!」

 

 

デリラの指示でまた花火が花を開く。地面に叩きつけられているのでもはや死の花だが。

 

 

「ぎゃぁぁあ!」

「助けてくれえぇー!」

「目をやられた!」

 

 

一方、日本の特使と騎士団たちは翡翠宮の建物内で籠城していた。

 

万一、突破された時のためらしい。

 

 

「ボーゼス、ここでうだうだしているよりも突破した方がいいと思うけど」

 

「ヴィフィータ、それをやってしまえば最後よ。我々は、帝国を裏切ることになる。そしてピニャ様がどうなるか。そこは、我々が最後まで守らないといけないラインよ」

 

「でもよぉ……」

 

 

ヴィフィータ外の様子を見る。いくら特殊な装備で武装したとはいえ、規模は掃除夫の方が大きかった。

 

 

「ええい、てめえらの短小なナニよりもでかい槍くらいな!」

 

 

ヴォーリアバニーの一部は既に接近戦や槍を投げて応戦するものもいる。

 

 

「デリラ、まだ敵の援軍よ!」

 

 

ハーピィのミューティが叫ぶ。

 

 

「ちっ、こちらの援軍はまだなのかい!?」

 

 

ちらほらデリラの率いる部隊にも損害が増えてきた。

 

 

***

 

 

「君は何を考えてるのだ、機でも狂ったか!?」

 

 

米国大統領ディナルが怒鳴った。

 

 

「君だろう、米国代表に拒否権を発動するよう言ったのは!?」

 

「……」

 

 

ディナルが怒鳴っている相手は国防長官だった。

 

 

「君は私を困らせたいのか?アメリカを潰す気か!?」

 

「大統領、これは貴方の問題ではありません」

 

「貴様、大統領の私に何を言うか!」

 

「ではこれを見てからにしてもらいましょう」

 

「何だこのファイルは?」

 

 

しばらく目を通すと、ディナルは驚愕のあまりファイルを落としてしまう。拾おうにも指先が震えてうまく拾えなかった。

 

 

「これは、一体何だ!?」

 

「CIA長官からです。大統領、貴方の責任で済む問題なら貴方や私の首を切るだけですみます。しかし、これは違います」

 

 

ファイルからはみ出た表紙にはこう書かれていた。

 

 

SECRET(極秘): US-JPN JOINT STRATEGIC PLAN(日米共同戦略計画), Wartime Annihilation Specialists(戦時特殊殲滅戦部隊)

 

 

 

「タクミ・クサカとソウヤ・カトウの正体が判明しました」

 

 

国防長官は静かに呟いた。

 




アルドゥイン様が出てませんが、すぐ出ます。今は水面下で準備中です。本来の主人様のように。

そういえば、某世紀末世界にもパイパーとかいましたね。新聞による情報操作で人々の恐怖を煽り……おや、誰か来たようだ。


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神は喜んでいる


某鍛冶屋の迷言ですな。ちなみに、ここでいう神は色々な意味を含めています。


 

「どうするか」

 

 

場所は悪所の陸自の秘密中継地。

 

アルヌスが現在監視状態ではあるが、秘匿にされていたこの場所はうまく公安の目をごまかすことができた。

 

しかし、逆を言えば現在孤立無援ということで、上からの指示を仰ぐこともできない。

 

 

「いかに特戦といえど、この人数じゃ流石に翡翠宮であの数相手はできんな」

 

 

出雲2佐は悩む。

 

 

彼らは、現状唯一自由に動くことのできる部隊である。

 

草加の独立宣言も把握しているが、それ以上のことがアルヌスから伝わってないのだ。

 

そもそもアルヌスが封鎖中なのも自衛隊が嫌疑をかけられている、ことしかわからない。

 

 

「みんなー、エサだよー」

 

「おお、ありがてえ」

 

 

食糧調達から帰ってきた自衛隊協力者の獣人たちが帰ってきた。硬いパンと干し肉という質素なもんだが。

 

 

「嫌なら食わないでいいよ?」

 

 

栗林がポキポキと拳を鳴らしながら言うのでもちろんみんな文句は言わない。

 

 

「ん?おお、今回は握り飯もあるのか!」

「ありがてえ!米だ!」

 

 

一緒に持ってきた食料の中におにぎりが人数分以上に箱に詰めてあった。

 

 

(あれ?コメなんて食料積んでいたかな?)

 

 

一緒に調達していた翼人のミザリィがふと思った。

 

 

***

 

 

時間的には昼食後の眠気は過ぎたころ。

 

 

「なんか、すごくだるい……」

 

 

悪所の隊員の1人が座り込む。

 

 

「おい、どうした?」

 

「いえ、気分が……大丈夫です……」

 

 

と言ってまた倒れそうになるのを支えられる。

 

 

「うーん、俺もだ……」

 

「え、皆さんどうしたのですか?」

 

 

黒川が異常を察知する。

 

精強な特戦の隊員数名も顔色が悪く、なんとか立っているという状態だ。

 

 

「まさか……」

 

 

黒川陸曹が隊員たちの様子を看て何かに気づいた。

 

同時に、扉が爆音と共に吹き飛ばされた。

 

 

特戦の隊員たちは反射的に拳銃を構える。

 

しかしそれが出来たのは半分もいなかった。

多くは拳銃を落としたりうまく掴めなかったり、構えがおぼつかない状態だった。

 

それでも数名、拳銃をしっかりと構えることができた。

 

ここまででまだ1秒すら経っていない。

 

吹き飛ばされた扉がまだ地を着く前に()()は突入して来た。

 

 

「敵襲っ!?」

 

 

数名はテーザーガンで、残りは銃床で殴られたり投げ技や関節技であっという間に制圧されてしまった。

 

 

「危ねえ、やはり非正規(ズル)でギリギリか」

 

「加藤……3佐?」

 

 

抑え込まれている黒川が横目で見ながら驚く。

 

 

「おや?黒川さん。こんな美人に覚えてもらって嬉しいね。まあ、今は少佐だけど」

 

 

加藤は鼻で笑う。

 

 

「一体何をなさったのですか?」

 

「なに、いつも俺が服用している薬を相当量混ぜたおにぎりを混入させただけさ。看護師の貴方ならわかるだろうね。フェノバルビタール(向精神薬)

 

「なんてことを……」

 

「と言うわけで、ここは占拠させてもら……」

 

「加藤さぁんさぁぁぁあああ!会いたかったよぉぉお!」

 

「グエエエ!?」

 

 

栗林は物陰から出ると加藤を背負い投げると裸絞めで首を絞める。

 

首から聞こえてはいけない軋みの音と、鶏を締めたような声がしたが。

 

 

「動くな!お前らの隊長の首をへし折るぞ!」

 

 

しかし加藤の部下らしき3人は動揺すらしない。それどころか銃口は依然倒れている者たちに向けられている。

 

 

「何をしている、早く黒川たちを解放しろ!」

 

「殺すならどうぞご勝手に。我々は隊長に何かあれば見捨てるよう徹底されていますんで」

 

 

栗林は驚く。自衛隊じゃほぼありえない教育方法である。やってみてダメなら諦めることはあっても、始めから諦めるなど。

 

 

「それに……」

 

 

襲撃者がマスク越しに笑った気がした。

 

 

「隊長はその程度でやられるわけがない」

 

 

それを聞くと同時に栗林は右目に激痛が走った。

 

 

「アァァァァァアア!?」

 

 

目を押さえようとしたの一瞬の隙だった。

 

その手を取られ、背後に回されると同時に首を強力な紐で締められた。

 

 

「くっ……!?かっ……!?」

 

 

紐を解こうにも皮膚に食い込んで指では緩めることすら出来ない。目から血を流していることすら反射的に忘れる。

 

栗林は足をバタつかせ、体をくねらせ、空気を求めて胸が懸命に動く。

 

顔は徐々に赤黒くなり、目からは涙が浮かび白目を剥きはじめた。そして指先に力が入らなくなり、徐々に抵抗もなくなり、脱力状態になる。

 

 

「やっと静かになっ……」

 

 

と加藤が呟いた瞬間、栗林の拳が反射的に飛んできた。

 

それを見た男性陣はギョッとした。

 

 

「わ……たしも、この程度で……死にませんよ……」

 

 

とだけ言い残すと気絶した。

 

 

「……なかなかやるじゃないの。黒川さん、彼女の目の応急処置と、気道の確認をするようにお願いします。手加減はしたんですけどね、一応」

 

「あの、加藤3佐……いえ少佐。貴方は大丈夫なのですか?」

 

「大丈夫って何が?」

 

「淑女に言わせるのですか?とんだ変態でございますね」

 

「ああ、キン●袋のこと?こんなこともあろうかとファウルカップ(股間ガード)つけてるからね」

 

「……そうですか。我々はこれからどうなりますか?」

 

「黒川さん、貴方は負傷隊員の看病を願います。貴方たちは、まだ我々の捕虜ではありません。あくまでも違法活動中の国外工作員という認識です」

 

「まだ日本国は貴方たちのジパング?という国家の承認はしておりません。よって、我々は貴方たちの法律で裁かれる理由はありません」

 

「それは日本国がそのようなスタンスだけなんでしょう?どの道、貴方たちは我々に従わなければならないのはよくわかるはずだ。本来ならそれ相応の罰則をつけますが、今回は特別です。全員強制送還させて頂きます。もちろん武器などは没収しますが」

 

「少佐!医薬品、武器弾薬に通信機器の確認おわりました!」

 

「ごくろう。あとはしばらくここを任せる。少し手洗いに行ってくる」

 

 

そういうと手洗い場にいく。

 

 

「……ファウルカップ糞の役にも立たんかったわ……」

 

 

加藤は股間を抑えると静かに悶絶した。

 

 

***

 

 

「なんじゃこりゃぁぁああ!?」

 

 

翡翠宮を侵攻中のオプリーチニナと帝国兵は恐怖に駆られた。もはや恐怖を超えて狂気かもしれない。

 

空を切る音がしたと思えば一面視界を覆う煙、激痛の走る煙が襲った。

 

そして次の空を切る音の嵐で真の恐怖を味わった。

 

空中で破裂する何かがひたすら降り注ぎ、無数の鉄片が彼らを襲う。

 

 

視覚を奪われ、激痛でまともに歩くこともままならず、彼らは蹂躙された。何も知らずに肉片にされたものはまだいい。

 

肉をミンチにされてなおかつ生き残ってしまったものは地獄を見ることとなった。

 

 

「痛いぃ、痛いぃ……」

「お母さーん!死にたくないよー!」

「アッー!」

「アァァァァァアア!」

 

 

幸い、煙幕で翡翠宮からは見えなかった。

 

 

「班長、特殊迫撃砲弾撃ち尽くしました!」

 

「了解。しかし隊長も恐ろしいもの準備するねえ。よりによってナチスドイツ使ってた跳躍型対人迫撃砲弾(8cm WG39)とほぼ同じもの使うんだから」

 

「さすがサイコですな。次どうします?」

 

「あとはデリラたちと、彼らに任せよう。次の準備に移る」

 

「了解」

 

 

遠くから双眼鏡で様子を見ていたSAW部隊は速やかに撤収した。

 

 

「よし!やっと援軍が来たか!この煙が消えたら突撃するよ!」

 

 

デリラたちは白兵戦の用意を始める。白兵戦こそ彼女らの十八番であり、完全に野獣の目になる。もはや兎なのか怪しくなるほどに。

 

 

「突撃ィィイ!」

 

 

獣人たちは旧日本軍よろしく雄叫びをあげて突撃する。

 

しかし煙が消えて残っていたのはほとんど戦えない、戦意を失った者たちだけだった。もちろん蹂躙された。

 

歩けるものは全員既に退避していた。

 

 

「くそっ!どうしてこうなった!?畜生、畜生が!」

 

 

オプリーチニナの1人が罵る。

 

逃げ足だけは早いらしく、彼ら敗残兵たちは既におそらく追いつかれない場所にいた。

 

 

ヒト種や獣人種には。

 

 

「な、なんだあれぇ!?」

 

 

大きな影に気づき、空を見上げた1人が叫ぶ。

 

 

「腹の足しにもならないわね」

 

 

ヨルイナールが空を舞いながら呟く。

 

 

「まあ、アルドゥインの命令なら従うだけだ」

 

 

アンヘルも乗り気ではないがヨルイナールと共に急降下した。

 

 

この日、オプリーチニナはごくわずかの幹部を残し、壊滅した。

 

 

***

 

 

「我々に退去しろ、と」

 

「そうよ」

 

 

ボーゼスの問いにデリラが答える。

 

 

「ここは帝国領よ!」

 

「今はあたいらが占領してるんだよ!」

 

 

騎士団とSAW部隊のムードが険悪になる。

 

指揮官が命令すれば、あるいはしなくても一滴の血さえ流れれば、また地獄化とする。双方はそれをよく理解していた。

 

 

「ボーゼスさん、大丈夫ですよ」

 

 

間に割って入ったのは白百合議員だった。

 

 

「これ以上、騎士団の方々にご迷惑をおかけする必要もありません。それに、あなた方も犠牲を払いつつも私たちを守ってくださりました。ここは我々日本の使節団はアルヌスの帰還します」

 

「白百合議員殿……かたじけありません……」

 

 

ボーゼスが頭を下げる。

 

 

「あたいらも恩のある日本人相手に強気に出たくはないんだけどね、これも我々の独立のためと思って勘弁してくれ」

 

 

デリラも遠回しに謝罪する。

 

 

「でもあんたたち、騎士団はどうするんだい?帝国に戻ると言うなら今回は見逃してやる。次会ったら敵だ」

 

「……それを決めかねているの。本来なら、新皇帝に忠を尽くすべきでしょう。しかし、我々は本当は、今は囚われの身のピニャ殿下に忠を尽くしている……」

 

「では、ひとまず我々と行動を共にするというのはどうでしょう?我々の護衛という名目で」

 

「確かに、それが最適かもしれません。ではそういうことで、我々は日本の特使たちをアルヌスまで護衛いたします」

 

「まあせいぜい帰って来るでに帝国が滅んでいないことを祈るんだね」

 

 

デリラは皮肉めいた言い方だったが、どこか寂しそうな表情が一瞬見えた気がした。

 

 

「せいぜい国を失う、ということの悔しさを少しでも味わってくれ。帝国人……」

 

 

そう言ってデリラはタバコに火をつける。

 

 

「デリラ隊長、少佐より宮殿に来るようにとのことです」

 

 

竜人種の魔道士が伝える。

 

 

「りょうかーい。これが吸い終わったらすぐに行くよ」

 

 

***

 

 

「ええい、どうなってるのだ!」

 

 

皇帝ゾルザルは苛立ちを隠せなかった。

 

 

「オプリーチニナたちは何をやってる?まだ制圧できないのか!?それどころか定時報告もきてないぞ!」

 

「陛下、お気を確かに。皇帝たるもの、気を短くしてはいけません」

 

「そ、そうだな。テューレ、お前のいう通りだ」

 

「報告します!オプリーチニナの生き残りが帰還しました!」

 

 

近衛兵の1人が報告する。

 

 

「は?生き残り?」

 

 

その数たった6人。

 

しかも彼らも満身創痍であった。目をやられていたり、手首が無い者、足が無い者と散々であった。

 

そして彼らは報告した。

 

 

独立国家樹立を宣言したヴォーリアバニーを始めとする異種族混成軍との死闘。

それを支援する緑の人たちとはべつの謎の者たち。

そして2頭の龍に追い打ちをかけられたことを。

 

 

「……ご、ご苦労。お前らは傷を癒せ」

 

 

ゾルザルは怒りを通り越して呆れたというか、衝撃を受けたというか、言葉がみつからなかった。

 

しかしテューレはそれ以上にショックだった。

 

 

「ボウロ、どういうこと?説明して」

 

 

テューレは小声で視界にいない下僕に尋ねる。

 

 

「こればかりは予想外ですな。あのお人好しすぎる緑の人たちとは別の過激組織がいるとしか考えられませぬ。まさかこのどさくさに紛れて国を樹立させるとは……」

 

「そんなことどうでもいいの。早く次の手を打ちなさい」

 

「わかりました」

 

 

そんな感じで密かにやり取りが行われた。

 

 

「またあれだ、聞こえたか?」

 

 

城壁の窓から見張りしていた兵が呟いた。

 

 

「いーや、何も。気のせいだろう?」

 

「だといいんだが……ん?一体あれは何だ!?」

 

「見張り兵、何が見える?」

 

 

隊長格の兵士が尋ねた。

 

 

「雲の中だ!」

 

「なっ!?ドラゴンだ!」

 

 

しかしそれが彼らの最期の言葉となった。

 

 

漆黒龍アルドゥインは盛大に城壁に突っ込んで来た。もちろん城壁は木っ端微塵である。

 

 

Yol(ファイア)……」

 

 

アルドゥインは果敢というべきか、無謀にも襲いかかろうとする近衛兵を嘲笑うかのようにスゥームを唱える。

 

 

Toor Shul(ブレス)!」

 

 

あっと言う間に人の形をした炭人形となった。

 

 

「ヒィィィイイ!?」

 

 

ゾルザルは情けない声を出すと腰を抜かす。

 

それでも必死に這いつくばって逃げようとする。

 

 

「へ、へへへへへ陛下……!!お、おおおおおおおおまちを……!!」

 

 

あのテューレですら恐怖でうまくろれつが回らず、尻餅ついて立てなくなってしまった。

 

 

(なんだつまらん。ここに皇帝などと名乗るのだからさぞかし英雄がいるのだと思ったがヘタレジョールしかおらんな。どうやら皇帝は留守のようだ)

 

 

ヘタレ魂しか持たないジョールに興味が失せたのか、アルドゥインは城壁外で抵抗を続ける兵士と(龍にとっての)言葉(スゥーム)遊びをすることにした。ただし相手は死ぬ。

 

 

「隊長ー、何だか漆黒龍が先制攻撃してるみたいですが」

 

「あらー、一足遅かったか。俺たちの分なくなっちゃうかもね。早く行きてー」

 

「タイチョサン、アンタもゲスね」

 

 

まだ日本語覚えたてのアクアス族(水中人間)の兵士が言った。

 

 

「誰だこんな言葉教えた奴は……」

 

 

そう言って加藤たちは水中工作員(フロッグマン)装備を身につけると城壁外の池に入った。

 

 

***

 

 

「何やら外が騒がしいな……」

 

 

やつれたピニャが呟いた。

 

 

「どうもなんらかのトラブル見たいです。ここが奥深くの個室ですからわかりづらいですが」

 

 

ハミルトンが答える。

 

 

「とうとう民衆が蜂起でもしたのか?もうこんな帝国どうでも良い。妾がどんだけ頑張ってもあのバカ兄上が潰し、頭の固い元老院は妾を侮辱し、もうこんな帝国亡くなれば良いのだ」

 

「殿下、それは流石に言い過ぎですよ!」

 

「ハミルトン、妾の子となんぞほっといて貴女も逃げた方がよいぞ。これがもし本当に蜂起なら我々貴族や皇族の女は何されるかわからないからな。特に妾と一緒にいるところを目撃されてみろ。婚約者に純潔を捧げる前に……いや、お前は違ったのだったな」

 

「ちちちちちちち、違いません!と言うわけでもないのですが……」

 

 

ハミルトンの顔が真っ赤になる。

 

 

「まあどの道、妾たちを敵視している野獣のような男どもに夜な夜な、いや日中夜●●●(ピー)されたり◇◇◇(ピー)をされ続け、挙句には▲▲▲(ピー)となるだろうな」

 

 

とこのようにハミルトンは壊れたピニャのエロ同人的妄想に延々と付き合わされてしまった。

 

 

その頃、外はひたすらアルドゥインと防衛兵同士の生死かけた熱い議論(スゥーム祭り)がなされていた。一方的にアルドゥインがスゥームをぶっ放すだけだが。

 

そんな中、井戸から男が数人這い上がってきた。

 

 

「ツナ、もう戻っていいぞ」

 

 

加藤はマスクを外すと井戸内に残ったアクアス族の青年に言った。

 

 

「よし、奴が案内した通り皇帝直属の料理人御用達の井戸なのは確かだ。まさか連中亡霊(サ●コ)みたいに井戸から来ると思ってなか……」

 

 

運悪く鉢合わせになってしまった。皇帝直属の料理人と。

 

 

「無力化します」

 

 

隊員の1人が銃を構えだが向こうも拳銃を構えた。

 

 

「待て、古田士長か?」

 

 

加藤は銃を下ろさせる。

 

 

「……自衛隊?でも見慣れな……うぐぅ!?」

 

 

しかし古田は加藤が咄嗟に撃ったテーザーガンで気絶させられる。

 

 

「ああ、そういや料理人として潜伏していた奴のこと忘れてたわ。まあ荷物増えるけど、こいつも救出対象に加える」

 

 

そして部下の1人に運ばせる。

 

 

「しかし、どうやって救出した人たちを連れて帰るんすかね。井戸はもう厳しいですし」

 

「何言ってんの。帰らねえよ」

 

「え?」

 

 

そんな会話をしつつついでに見張りを仕留めつつ、ピニャがいるところまでたどりついた。

 

 

「フフフフ腐腐腐腐腐……どうせ獣人種や醜男どもにあーんなことやこーんなこといっぱいされてしまうだろうなあ」

 

「殿下、お気を確かに!こんな時に芸術の薄い書物があれば……」

 

「もうどうにでもなれ、いっそ妾から行くか?おーい誰か!この帝国で最も価値の高い高潔な純潔を欲しいものはおらぬか!今なら誰でもよいぞ、妾を女にしてくれー!」

 

「はわわわ、殿下が壊れた!そんな姿でどこへ行かれるのですか!?」

 

 

そして下着姿で部屋を出る。

 

そして鉢合わせになる。

 

 

「ピニャ殿下、あんた面白いな」

 

「ぎゃー!ナマズ人間!」

 

「ひでえ。ウエットスーツってそんな風に見えるの!?」

 

 

そう言ってマスクを外した。

 

 

「あ……もしや、カトー殿?」

 

「はい」

 

「……どこまで聞いてた?」

 

「変な笑い声から」

 

「…………」

 

 

見る見るピニャの顔が真っ赤になってゆく。

 

 

「姫殿下がこんな処女ビ●チだったとは」

 

「うわあぁぁぁぁぁあ!お前を殺して妾も死ぬ!」

 

「姫様、お気を確かに〜!」

 

 

ハミルトンがなんとか羽交い締めでピニャを制する。ナイフを持ってるピニャを制するとはなかなかである。

 

 

「もう嫁に行けぬ!こんな姿を見られたからには、貴様責任取って妾の婿にでもなれ〜!」

 

「やべーよ、これヤンデレルート突入だよ」

 

「隊長、応援してますぜ」

 

「何をだー!?なぜ俺の周りの女はこんなのばっかりだー!?」

 

 

***

 

 

なんとかピニャを落ち着かせた。そして救出に来たことを伝える。しかし先の件より、加藤の顔を見られなかった。

 

 

「殿下、先のことは一時のご乱心とお見受け致しますので、安心してください。本気にしてませんので」

 

「そ、そうか。ありがたい、うん、本当に……(やはり妾には魅力がないのだろうか……)」

 

 

ピニャはすごく複雑な気分だった。

 

 

「それにしても自衛隊が救出に来るとは、帝国との交渉は決裂したのだろうか。帝国は大丈夫なのか?」

 

「滅びました」

 

「「へ?」」

 

 

ピニャとハミルトンは耳を疑った。

 

ピニャに至っては卒倒しそうになるのを辛うじて座り込むだけに抑えた。

 

滅びた?

 

どういうこと?

 

意味がわかんない。

 

 

ピニャの脳内をいろんな思考が回る。

 

 

「滅びたって……なぜ……」

 

「我々が滅ぼした」

 

「そんな……自衛隊は我々と和平交渉していたのは嘘だったのか!?」

 

「ピニャさん、一つ勘違いされては困る。我々は自衛隊ではない」

 

「え?」

 

「我々は新たに独立した国家、ジパング。今貴方が立っている地面は、今日から首都ヤマトだ」

 

「……」

 

「そして我々はジパング国防軍(ZDF)特別抗戦(Special Anti War)部隊だ」

 

「そんな……そんな……」

 

 

 

そして涙が溢れる。

 

 

「ピニャさん。だから俺はこれから殿下とは呼ばない」

 

 

それはピニャが皇族でなくなったことを意味していた。

 

 

「そして一つ質問がある」

 

 

そして目の前にしゃがみこむ。

 

 

「貴女が帝国を維持したい理由は何だ?」

 

 

ピニャはこの問いが、今後の自分の運命を決定するものと感じた。

 

 

「言っている意味がよくわからない……」

 

「もし貴女が、帝国という国そのものを残したいのなら、貴女が統治しなければならないという理由はない。貴方たち皇族より優秀な者を統治者にすればいい。

それとも、皇族の血を維持したいだけなのか。それならこの場で貴女を犯して孕ませればよいだけのこと。俺じゃなくても、そこら辺の男でもいい」

 

 

加藤は冷酷に問いかける。だが、その眼は真剣だった。

 

 

「考えるな。俺は貴方の心の声が聞きたい」

 

「…………わからない」

 

 

ピニャは静かに口を開いた。

 

 

「わからない。しかし、妾はこの帝国を愛している。帝国そのもの、民、今は亡き父、あのバカだが純粋な兄上たち。何を守りたい、と言われてもわからないが、私は帝国をより良いものにしたかった」

 

「……それを聞きたかった」

 

「え?」

 

「今の日本人もそんなものだよ。右翼だの左翼だの愛国心だの自己主義だの……言葉には出さんが、ほとんどの人の心の奥では日本が好きなんだよ。ただそれに気づいてないだけだ」

 

 

加藤はゆっくりと立ち上がる。

 

 

「貴女の命はこの俺が保証する。それではついて来てくれ」

 

 

そして通されたのは皇帝の間。

 

しかしゾルザルの姿はなく、壁には大きな穴や人型の炭やら死体やらなかなかのカオスと化していた。

 

 

「少佐、ゾルザルは一足早く逃げたみたいです」

 

「なんでヘタレなトップほど逃げ足は早いんだろう、ホント」

 

「そして重武装のオーガ数体いましたが、撃破しました。ここでRPG消費は痛いですが」

 

「ご苦労。人的損害は?」

 

「ありません」

 

「それでいい」

 

「あと1人重要人物を確保しました」

 

 

どこぞの海外の男性向け雑誌のようなバニーが部屋の隅で小さく座っていた。

 

 

「コスプレ、じゃないよな?確かゾルザルの奴隷の1人だな」

 

「ヴォーリアバニーのテューレです」

 

「あの元ヴォーリアバニーの女王?このタイミングで見つかるのはパーフェクトだ。ウサギはストレスに弱いからちゃんと見張っとけ」

 

 

どうやらかなり怯えた様子であった。口を聞こうとしない。

 

 

「よお、カトー少佐。お呼びに来てやったよ」

 

「デリラ少尉、どうだ?」

 

「まあ翡翠宮の件は、一件落着だな。大使の護衛は部下と騎士団に任せた」

 

「ご苦労」

 

「なあ、あそこにいるのってもしかして……」

 

 

デリラがテューレを見たとき目つきが変わった。

 

 

「ああ、お前らの元女王だ」

 

 

それを聞くや否や、デリラは短刀を抜いてテューレに襲いかかった。

 

が、あと一歩のところで世界が反転したように地面に叩きつけられた。加藤が何故か隣にいた。

 

 

「勝手なことするな。命令だ。それでもやるというならお前の両耳の根元から落として人間みたいにしてやるぞ?」

 

 

デリラは悔しそうに唇を噛みしめると、短刀を納めた。

 

そしてテューレに唾を吐いて椅子に座る。

 

 

「んで、あたいに何の要件?」

 

 

デリラがイライラしながら尋ねる。

 

 

「面子は揃ったか。草加さんは少し遅れると言ったがまあいいか。紹介したい者がいてね」

 

「さっさとしてくれよ」

 

「では紹介しよう……」

 

 

と言った瞬間、漆黒の龍が壁の穴から入ってきた。

 

 

「「「「!?」」」」

 

「ジパング最高統率者。漆黒龍アルドゥイン様だ」

 

「下僕よ、我に紹介したい者とはこいつらか?」

 

 

このとき、ピニャは全てを悟った。

 

 

Zu'u Alduin(我はアルドゥイン)

Zu'u lost daal(我は帰ってきた)

Daar Lein los dii(この世界は我の者だ)

 

 

かなり前に聞いたデュランの言葉の意味が分かった気がした。

 

 

***

 

 

『速報です。本日未明、内閣総理大臣は米大統領と会談した結果、日米合同による特地におけるテロリスト掃討作戦を実施する旨を発表しました』

 

 

「ちくしょう、とうとう米国の言いなりになりやがったか」

 

 

嘉納が机に拳をたたきつけた。




これから終盤へと話は向かって行く、はずです。まだまだ問題は山積みですが。


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だが断る


アルドゥイン様が人間と馴れ合いしないか心配?安心してください彼の脳内はこんな感じなので。

アルドゥイン(自分)>ドヴァ(パーサナックスなど)>部下のドラゴン(ヨルイナール、アンヘル)>その他のドラゴン(ラオ、ティガ、ワイバーンなど)>>……>>下僕(ドラゴンプリースト、加藤、ジゼル、玩具)>その他全ての生けるもの=エサ

あと最近災害が多いですが、皆様もご注意くださいませ。スゥームがあれば豪雨など打ち消せるのですが。


美国(アメリカ)は日本と共に特地を占領するつもりだろうな」

 

「ああ、例の日本の事件と、日米安保条約を理由にな」

 

「日本が国際社会に潔白を証明できないことをいいことに、アメリカが同盟国を支援するという名目だな」

 

「なら我々は別の方法を取るまで。我々は小日本を罰する」

 

「うむ、今こそ魚釣島を実効支配すべきだな」

 

 

***

 

 

「加藤、待たせたな」

 

「草加さん、お疲れ様です」

 

「そして、彼がお前の言うこの国を世界最強にする要素か」

 

「はい」

 

「おい下僕(加藤)。そいつはなんだ?新しい下僕(玩具)候補か?」

 

 

アルドゥインはかつてモルト皇帝やゾルザルが座していた王座をつぶしてそこに鎮座していた。それでも少々窮屈そうだが。

 

 

「それにしても、ジョールの王とやらは窮屈な場所が好きなのか?」

 

 

そんな独り言をつぶやく。

 

ちなみに、テューレは恐怖を通り越して人形のように隅で固まっていて、ピニャも顔には出さないものの、小刻みに震えながら椅子に座っていた。デリラも落ち着きのない子犬のようにウロウロしている。

 

 

「漆黒龍アルドゥイン殿、お初にお目にかかる」

 

 

草加は帽子を脱いで頭を下げる。

 

 

「ほう、貴様我を見て怖気ぬとは、なかなか肝が据わってるな」

 

「確かに、普通の人間なら貴方の姿を見れば恐怖に陥るだろう。しかしそれは、得体の知れない未知のものであるための恐怖か、それが明確に危害を加えるものと知っているかのいずれかだろう」

 

「ふむ、続けろ」

 

「そして私は貴方のが何かを知っている。龍の王またはそれ以上の存在であり、不死の存在。そして知能に関しては人間以上と見る」

 

「ほう、ではなぜそれで恐れぬ?貴様の言う後者ではないか?」

 

「なぜなら、貴方は私に危害を加える理由がない」

 

「貴様、面白いことをほざくな。何故我が貴様を殺したりしないと断言できる?」

 

「なぜなら、貴方は自らに有用な存在を排除しないからだ。現に私はここで貴方と問題なく会話している」

 

「ほう、ではこの会話が終わり次第我が貴様を屠らんように自らの価値を証明してみろ」

 

 

アルドゥインは心の中でニヤリと嗤う。

 

 

「では、私が貴方にお会いした理由を話そう。貴方に我が国ジパングの象徴になって頂きたい」

 

 

加藤を除く、そこにいる誰もがキョトンとする。

 

 

「はっ!何を言いだすかと思えば象徴とな。王ならまだしも、象徴とはな」

 

 

アルドゥインは相手を小馬鹿にしたように言う。

 

 

「貴方に王は相応しくない」

 

 

興味を失いかけたアルドゥインが振り向いた。

 

 

「何だと?」

 

 

雰囲気からしてかなり気を悪くしたようだ。

周り(主に女性陣)がソワソワし始めた。

しかし草加は相変わらずポーカーフェイスで続ける。

 

 

「王とは、人間が作った存在だ。つまり王は人間にしかなれない」

 

「おい貴様、我を愚弄するのにもいい加減に……」

 

「だから私は貴方にお願いする。人間の支配者、いや……万物の管理者になって頂きたい」

 

 

その瞬間、時が止まったように静寂さに包まれた。

 

 

「ククク……貴様、面白い。面白いなぁ!もう少し説明をしてもらおうか?」

 

 

アルドゥインは草加に顔を近づける。

 

 

「当初我々は貴方の存在無しでこの計画を行うつもりだった。しかし、貴方のことを知れば知るほど、この計画に必要不可欠の存在と判断した。

アルドゥインよ、なぜ私が貴方を管理者になって頂きたいか、お分りいただけるか?」

 

「さあな。下々のことなどどうでも良いからな」

 

「人間は有史以来、戦争を止めたことなどない。それは何故か。それは個々の欲だと私は考えている。

王などの民の代表になるのに、様々な理由があるだろう。富、名誉、欲、または善意。しかしその善意も時と共に変わることもあり、第三者によって潰されることもある。

王とて例外ではない。民の不満を解消するために戦争を始めたこの帝国然り、個人的な恨みで戦争を起こしたりすることもあるだろう」

 

 

草加はふと一息する。

 

 

「だが、貴方にはそれがない。不死であるが故に、他者にその存在や地位を脅かされることもない。人間のように狙われることを恐れて疑心暗鬼になる必要もない。

そして貴方は、人間のような欲は無い」

 

「ほう、何故断言できる?」

 

「貴方が人間を殺しているのは、我々が家畜を殺しているのと変わり無いだろう。あくまでも貴方は龍としての使命、本能に従っている、違うか?」

 

「フフフ……さあて、どうかな」

 

「だから私は貴方に提案する。人間を含めた、世界のシステムの管理者になって貰いたい。そのためにも、まずは我々の国の象徴となって頂きたい」

 

 

そしてまたも静寂に包まれる。

 

 

(狂ってる……狂ってる!)

 

 

ピニャは横目で彼らのやり取りを見て恐怖に陥った。

 

アルドゥインのことは勿論だが、そのやり取りをニヤニヤ見てる加藤にもなんとも言えない闇を感じた。

しかし、それよりも恐ろしく見えたのは、あの漆黒龍を眉ひとつ変えずに説得する草加は得体の知れない怪物に感じた。

 

 

「カトウ少佐、話が違うよ!」

 

 

デリラが小声で加藤の耳元に怒鳴る。

 

 

「別に新しい国家はお前たちヴォーリアバニーだけの国家と約束したわけじゃないんだけど。それにヴォーリアバニーだけじゃまたあそこにいる女王様と同じ末路になると思うけどな」

 

「う……」

 

 

デリラは返す言葉が無かった。ヴォーリアバニーだけじゃ近代的な国家を維持することは難しいことは彼女も理解しているようだ。

 

 

「それに、人間が支配するよりはましだと思うけどな」

 

「……しゃあない。しばらくは様子見させてもらうよ」

 

 

デリラは渋々戻った。

 

 

「クサカと言ったな、貴様。相当面白い計画だ。まだ概要だけだが、それだけでも緻密な計画が我の脳裏には次々と浮かんでくるぞ」

 

「さすがはヒトより優れた生物だな」

 

「だが貴様は2つ勘違いをしている。1つ、我は生物(ジョール)などという下等な存在ではないぞ。むしろ概念に近いがな」

 

「それは大変失礼した。お詫び申し上げる」

 

「それともう一つ。その話、どこまで信用できるかな?」

 

「そうか?私はてっきり貴方は私の心を読めるものと思っていたので、その上で理解して頂いたとおもったのだが」

 

「読心術など例えあったとしても役には立たん。スゥームに相手の心を屈服させ、真実を吐かせることもできるがな。

しかしこの場で真実であっても、後に、極端に言えば数時間後にはそれが嘘になる可能性など否定できぬからな。

ヒトの心ほど変わりやすく、信用などできぬものはない」

 

 

アルドゥインの脳裏には竜戦争時代、一部のドラゴンプリーストの裏切りや民衆の蜂起などが浮かび上がる。

 

 

「……もし信用できないなら、貴方は私を生かして帰さない。しかし私がまだ生きているということは貴方は私の次の言葉を期待している」

 

 

アルドゥインは心の奥で癪だがこの人間の言葉は事実であると黙認する。

 

 

「貴方が首を縦に振らなくても私の計画に参加して頂きたい……」

 

 

そして草加は懐から回転式(リバルバー)拳銃を取り出し、薬室を開く。

 

 

「神はサイコロを振らない。これは私の生まれた世界のある人物(アインシュタイン)の言葉でですね」

 

 

拳銃の弾を一つだけ残して取り除く。

 

 

「元々は量子力学の議論で批判する際に使ったものだが、ここでは敢えて別の方向で考えたい。

彼の言葉を借りるなら、宇宙を含む世界の仕組みは、完璧なる神の設計図に基づくはずである。これはこの世界にも適用されるだろう」

 

 

リボルバーの薬室を回転させた。

 

 

「それとも、この世界とあちらの世界が繋がったのは単なる偶然なのか」

 

 

そして拳銃の銃口を自らのコメカミに向ける。

 

 

「どちらなのか、この目で見て見ませんか?」

 

 

***

 

 

「うわー、本当に来やがった……」

 

 

ここ数日色々とあった。

 

特使が騎士団に護衛されてアルヌスに帰還したが、その際騎士団も保護を求めてきたのだ。一応緊急処置として一時的に保護することになったが。

 

そんな混乱で半ば何もすることのない伊丹はぽけーと外を見ていると日本とは異なる迷彩を施した部隊が続々と門をくぐってきた。

 

米海兵隊である。

 

アメリカはまず基礎を知るために海兵隊を投入することになったようだ。

 

そしてその全面的バックアップは自衛隊が担うことになった。

 

 

「さぞ上は悔しいだろうなー。俺としては仕事が楽になるならいいかなー」

 

 

伊丹はそんなこと思いつつ窓の外を見る。

 

 

「ヨウジ、終わった」

 

 

検査着姿のレレイが後ろから声をかけた。

 

 

「あ、お疲れさん。どうだった?」

 

「別に何も」

 

「そうか。ならよかった」

 

 

そう思っている矢先、レレイの後ろで医者官が何か言いたそうな表情を浮かべていた。

 

レレイがロゥリィたちと話している間、こっそり医官に話を聞く。

 

 

「何かあったんです?」

 

「その、大変申しにくいのですが……彼女、白血病に近い状態です」

 

 

伊丹は一瞬鈍器で頭を殴られたような気がした。

 

 

「あ、ただ不思議なことに、健康体なのです。一応今のところ生命の危機はないでしょう」

 

 

それを聞いて伊丹は安堵した。

 

 

「なんと言いますか……制御された白血病?みたいな症状です。普通の人間ではありえないようなことですが。さすが特地と言わざるをえないですね」

 

 

違う、おそらくセラーナのおかげだろう。

 

伊丹は口にはしなかったがそう思った。

 

半吸血鬼を今は治せないが、一応現状維持がベストなのかもしれない。

 

 

(レレイ、必ず治してやるから頑張ってくれ)

 

 

伊丹はそう固く誓うのだった。

 

 

そんな感じの中、滑走路は忙しい様子なのか窓からチラッと見えた。

 

 

「そんな!まだ飛行禁止は解かれていません!」

 

「シャラップ!そんなんで戦争ができるか!」

 

 

自衛隊と米軍が揉めていた。

 

 

「レーダー照射がどこから来てるか、どんなことが起きるか分からないのですよ!」

 

「はっ!この特地でレーダー照射?そんなクレージーなことが起きてるのか。きっと魔法じゃないのか?それにジャップは証明したじゃないか。魔法なんぞ銃さえあれば怖くないと。それに仮にレーダー照射として、何が飛んでくる?どうせ石っころ程度だろう。HAHAHA!」

 

「しかし……」

 

「しかしも何も、君たちは我々をサポートするように言われてるのだろう?ならば我々に従え!」

 

「どうなっても知りませんよ……」

 

 

米軍は既に戦闘機、攻撃機、輸送機、戦闘機ヘリなど多数飛行準備を終えていた。

 

 

「ジャップのテロリストなんざ一網打尽にしてやら」

 

「HAHAHA、特地のかわいこちゃんをテロリスト共から救ってやるぜ」

 

「でもテロリストに協力するメス共はたっぷりとお仕置きだ!」

 

 

米軍たちは汚い言葉を発しながら離陸準備する。

 

離陸しようと機器を作動するとなるほど、自衛隊が言うようにレーダー照射を受けたことを示すアラートが鳴る。

 

 

「確かに、これが我々の世界なら大問題だ。だがここでは問題ない。第一、実際ミサイルは飛んで来てないだろう?」

 

 

そう言って取る意味があるか分からない制空権のために戦闘機が発進する。

 

続いて戦闘ヘリもローターを回す。

 

そして戦闘機が離陸する。

 

 

「そら見ろ、問題なく飛んだ」

 

『こちら管制塔。パイロット、問題はないか?』

 

「こちらパイロット。ああ、見ての通りハッタリのようだ。これなら難なく飛べるはず……」

 

 

その時、彼の表情から余裕の笑みが消えた。

 

同時に、管制官も一瞬だが声を発することができなかった。

 

それは恐怖か?驚きか?それとも理解不能なためか?

 

彼は後に分からない、とだけ思うことになる。

 

 

Shit(くそっ)!?ミサイル警報装置が作動した!」

 

 

ミサイル警報装置、それはレーダー照射を探知する物と違い、ミサイルが()()()()向かって来ていることを意味していた。それが悪魔の声のように鳴り響く。

 

 

『落ち着け!お着いて対処せよ!最悪ベイルアウトしても……』

 

「ヒッ、ファァァァッッック!!」

 

 

そして管制塔からいくら連絡しても応答が来ることはなかった。管制塔から目視で何が起きたのか理解しつつも、頭ではそれを理解したがらない。

 

目の前で明らかに応答は来ないとわかりつつも、無意味な応答コールを繰り返す。

 

そしてそれは他の航空機でも複数同様なことが起きた。

 

 

 

「野郎、マジでやりやがった……」

 

 

自衛官たちが驚きの表情を見せる。

 

まさかと思った。

 

心の奥でハッタリだと思っていた。

 

もし、これが自分たちだと思うと背筋が凍った。

 

 

モニター越しに見ていた狭間陸将たちも難色を見せる。

 

 

「このままでは日米関係も不味いな……」

 

「下手すればアメリカが本気を出す」

 

 

この時、もちろん伊丹も病院のまどから一部終始見ていた。

 

 

「バカヤロウ、マジでやりやがったな……加藤、てめえは何がしたいんだ」

 

 

伊丹は歯をくいしばる。

 

テュカやヤオは今まで見たことのない伊丹の怒りの表情にオロオロと困惑する。

 

そして、落ち着けと言わんばかりにロゥリィが伊丹の肩に手を優しく置く。

 

 

「ヨウジ、もしかしてまた掟を破ってでも行こうとしてるでしょぉ?」

 

「ギクッ……」

 

「やっぱりぃ、バレバレよぉ?」

 

「でもお父さんの性格だもんね」

 

 

テュカが笑う。

 

 

「ただ、どうして行くのぉ?」

 

「そんなの、当たり前だろう?あの野郎をぶん殴りに行くんだよ」

 

「それを聞いて安心したわぁ」

 

 

ロゥリィは微笑む。

 

 

「やっぱりまだ仲間と思っているのねぇ。もし敵と見たらそもそも気にかけない。仲間だからこそ、誤ちを正そうと叱る」

 

「いや、別にそこまで深く考えてないよ?ムカついたからぶん殴りに行こうと」

 

「そ、それだけなのか……」

 

 

ヤオは唖然とする。しかしロゥリィはそれを聞いても微笑む。

 

 

「まあ、そういうことにしておいてあげるわぁ」

 

「?」

 

 

ロゥリィはなせが嬉しそうだった。

 

 

「まずは、どうやってこの軟禁状態を突破して、必要なものを調達するか」

 

 

レレイが言う。

 

 

「それが、一応いい案があるんだ」

 

 

伊丹は苦笑いする。

 

 

***

 

 

銃声が広場に響く。

 

この時ばかりは加藤も椅子を蹴飛ばして立ち上がる。

 

しかし、草加はなんともない。

 

空胞か?

 

しかし即座に否定する。

 

音で空胞ではないことなど分かりきっている。

 

それに空胞でもこめかみにあの至近距離で撃てば無傷では済まない。

 

しかし草加はなんともない。

 

 

(な、何が起きた?)

 

 

加藤は何が起きたか理解できなかった。

 

もちろん、銃が何かを知っているピニャ、デリラも同じだった。

 

草加は特に何事もなかったかのように拳銃を下ろす。銃口からは煙が微かに出ていた。

 

「お見事……」

 

 

草加は静かに呟いた。

 

そして真後ろを向いて加藤の隣に歩く。

 

 

「?」

 

 

そして草加は壁から何かをほじくり出した。

 

ありえない向きで壁にめり込んだ弾丸だった。

 

 

「加藤、当たらなくて良かったな」

 

 

そしてその弾を加藤に渡す。

 

掌に置かれた弾丸を見て絶句する。

 

弾丸が()()潰れていた。

 

 

そして草加はアルドゥインの目の前に戻る。

 

 

「貴方は想像以上に強大な存在だ」

 

「ふん、命拾いしたな。我は今日は気分が良い、久々に面白いものを見せてもらったからな

(まあ今の我ならSu Grah Dun(攻撃高速化)Tiid Klo Ul(時止め)とピンポイントのFus Ro Dah(揺るぎなき力)を組み合わせれば造作もないことよ)」

 

 

アルドゥインはほくそ笑む。

 

 

「だがしかし、貴様らはなぜそこまでする?今のは我でなければ貴様は確実に死んでいたぞ?」

 

「時として人は、自分の命など顧みず行動することがある。その理由は私にもわからない。ただ、私が成し遂げようとしていることは私の命よりも、遥かに価値のあるものだと信じている」

 

「ふん、虫けらの命の価値観など知ったことではないがな。まあ貴様の誠意だけは認めてやろう」

 

「では……」

 

「勘違いするなジョールよ。貴様の提案は断る」

 

「……」

 

「我は誰が配下になろうが知ったことではない。来る者も去る者も興味はない。

だがひとつだけ忠告してやろう。我に刃向かう者は始末する、それだけだ」

 

 

アルドゥインは草加の吐息が感じるほど近づいて威圧する。しかし草加は眉ひとつ動かさない。

 

 

「話はそれだけか?ならばこれで終わりにしようか。しかしジョールよ、なかなか有意義な話し合いだったぞ。できるものなら貴様と本気の話し合い(スゥームのぶつけ合い)をしてみたいものだ」

 

 

そしてアルドゥインは飛び立とうと崩壊した壁まで歩く。

 

 

「75億……」

 

 

草加の一言にアルドゥインは足を止める。

 

 

「この数がお分かりか?」

 

「……」

 

「我々の世界の、おおよその把握できている全人口。75億の、魂だ」

 

 

アルドゥインは振り向くと草加は窓の方を向いていた。

 

 

「無論、これは我々の元祖国日本人、そして我々の分を含む」

 

 

草加はどこを見ているのだろう、と加藤は思った。

 

そして気づいた。

 

門の方向、自分たちの元故郷。

 

 

「そしてこの世界の分と、未確認の分を合わせれば、100億は下らないだろう。

私にはそれらを扱う資格も権利もない」

 

 

そしてまたアルドゥインを見る。

 

 

「だが貴方には、それがある」

 

 

しばらくの沈黙が流れた。

 

 

「……ククク……ガハハハ、アーハッハッハッ!良いだろう、貴様の口車に乗ってやろうではないか。だが我の条件ならばな」

 

「条件などでなくていい。命令さえしてくれれば」

 

「いちいち面倒なやつだ。そもそも我は貴様らを配下になどしておらん。

とにかく、我は好きなようにやらせてもらう。そして貴様らも好きなように動け」

 

 

それだけ言い残すとアルドゥインはさっさと飛び立った。

 

一同はそれを見送ると、皆疲れ切った顔をして座り込む。

 

 

「一応最善の結果だが……今回ばかりは緊張したな」

 

 

草加はそっと呟いた。

 

 

***

 

 

「現在、米軍と日本は合同で俺たちを潰しにくる計画を立てている。幸い、ジャミングしたお陰で一時航空戦力は使えないがな」

 

「隊長、それはどれくらい持ちますか?」

 

「長くて3日だろう。奴らはすぐに原因を解明して復旧するだろう」

 

「3日……」

 

 

隊員たちは唾を飲み込む。

 

 

「早ければ明日の朝にも復帰するかもな」

 

「で、何か策はあるんですか?」

 

「一応あるにはある」

 

「まさか逃げるとか言いませんよね?」

 

「……」

 

「「……」」

 

 

やっぱし。と隊員たちが思った。

 

 

「あくまでも最終手段としてだが。しかし、今回は厳しい戦いになるぞ」

 

「ええ、覚悟はできてます。5年前から」

 

「それを聞いて安心した。明日は早い、みんな休めよ。これ以降は自由行動とする」

 

 

解散後、加藤は1人一人でベランダに出ると葉巻を蒸し始めた。

 

 

「気配を消して俺の背後に立つなんざいい度胸してんな、デリラ少尉」

 

「まさかあたいの気配を感じとるなんてね」

 

 

後ろからデリラが現れた。

 

 

「一本いるか?キューバ産だ」

 

「キューバ?どこ?」

 

「俺たちの世界にある島国でな。この国みたいにかつては世界を壊しかけた事情もあるんだ」

 

「よくわからないけど一本もらおうか。ゲホッ!ゴホッ?」

 

「あ、葉巻はタバコと違って口の中で蒸すの言うの忘れてた」

 

「酷いよ、ゴホッ、ゲホッ」

 

「すまんね」

 

「あんたたちの世界はやはり変わってるね。このタバコとか葉巻とか。初めてやると苦いし辛いし煙たいし。何が楽しいんだと思ったけどいつのまにかクセになる」

 

「さあねえ。どうしてかねえ」

 

 

加藤は先っぽの灰が落ちるの感じた。

 

 

「一つ言えるのは、味は変わらないことだね」

 

「?」

 

「世界は変わる。国、政治、情勢、人、そして敵味方も変わる。自分も、信条や真実も、変わる時は変わる。だけどこいつらの味は、変わらないんだな」

 

「言ってることよくわかんないや」

 

「明日は早い。ゆっくり休んでくれ」

 

「それでさ、相談なんだけど……」

 

 

急に恥ずかしそうな表情をする。

 

 

「今夜あたり、あたいの部屋で……どうかな?」

 

 

まさかの夜のお誘いである。

 

 

「……すまんね。申し訳ないが明日のために余計な体力は使いたくないんだ」

 

 

そう言って葉巻を消すと屋内に戻った。

 

 

「あの目……バレたかな。でもイタリカの安全の確保のためにも、あんたはあたいと一夜を過ごしてもらわないと困るんだけどね」

 

 

デリラは少し悔しそうな表情をした。

 

 

そんな中、別の場所ではピニャが夜空を見上げていた。

 

 

「不吉だな」

 

「ええ、不吉ですね」

 

「赤い彗星など、妾は文献でも見たことも聞いたこともないぞ」

 

「きっとこれが最初ですね。もしかしたら最後かもしれません」

 

「うむ……帝国も滅び、妾たちはどうなるのだろう。騎士団たちは日本で保護されたと聞いたからひとまず安心だが」

 

 

ハミルトンはピニャが静かに泣いているのを、ただ見守るしかなかった。

 

 

***

 

 

「さてさて、主様はうまく行ったかしら」

 

 

ヨルイナールは低空飛行しながら呟く。

 

 

「まあ、彼奴なら問題ないじゃろ」

 

 

アンヘルは正直あまり興味無かった。さっさとこのパトロールを終えたいと思うだけだ。

 

 

「しかし最近平和よの。我々にとっては。食事も満足に食えるし、人間にいたずらに攻撃されんし。これもアルドゥイン殿のお陰かの?」

 

「そりゃもちろん……何あれ?」

 

 

少し遠くに変な飛行物体があった。

 

 

「む?あれはドラゴンね。スカウトして見ましょう」

 

「なんだが妙な龍だな。我々やアルドゥイン殿とかなり異なる骨格をしておるが」

 

「おーい、そこのお前。太い二本の角を生やした龍よ!」

 

 

ヨルイナールの呼びかけに気づいたらしく、ゆっくり近づいてくる。

 

と思っていた。

 

突如そいつは上へ飛び上がったと思えば急降下してきた。

 

そして気づけば隣にいたはずのヨルイナールが消えていた。

 

油断していたとはいえ、一瞬過ぎる出来事であった。

 

 

「なっ!?」

 

 

ヨルイナールはその謎の龍の太い腕によって地面に叩きつけられていた。

 

 

「お前ら、美味そうだな。この世界に古龍がいなくてちょうど腹減ってんだ。食わせろや」

 

 

古龍種でありながら古龍種を喰らう者がこの世界にいたと誰が予想できただろうか。

 

滅尽龍(ネルギガンテ)




実はネルギガンテを眠らせてヘソ天した時、キュンとしちゃった駄作者がいる……


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縄張り争い

駄作者の懺悔
告白します。今まで時たま思いつき、気分でキャラクター登場させて来ました(アンヘルとかオストガロアとかネルギガンテとか)。確かに増えすぎて大変なことになっております。
今後とも私の暴走を暖かく見て貰えば幸いです。(やめるとは言ってない)

あと大変お待たせしました。


「伊丹のやつ、こんな時に一体何考えてんだ?」

 

 

上司の1人が呟く。

 

 

「こんな時に休暇が欲しいとか……こっちの身にもなれってんだ。まあ、逆に何もない今休ませた方がいいかもな」

 

 

そう言って申請書にハンコをトントン拍子で押す。

 

 

***

 

 

「よし、作戦成功!」

 

 

私服姿の伊丹がガッツポーズをする。

 

 

「これが……作戦?」

 

 

ロゥリィが首を傾げる。

 

 

「そう、今日から俺は有給休暇!だから自由の身だ!

だが本土に帰るとは言ってない!」

 

 

伊丹はドヤ顔するが、他は呆れていた。

 

 

「でもぉ、それだったらぁ武器とかもないじゃない?」

 

「……と思うだろう?」

 

 

伊丹は背中のリュックの中を見せる。

 

M4A1カービン銃が分解されて入っていた。弾倉と弾は少ないが。某お友達から貸されたものだ。

 

 

「これだけぇ?」

 

「こ、これでも十分過ぎるぐらいだからな!」

 

「お嬢さん、ご安心あそばせ。殿方が戦わなくても我々で戦えば良いだけのこと」

 

 

セラーナが呟く。

 

 

「「「……そうだね」」」

 

「ねえ、俺って一体何のために行くのかわかんなくなったんだけど……」

 

 

心の中で泣く伊丹であった。

 

 

***

 

 

「隊長、新しい情報です。米軍はもう航空機運用能力を復帰させた模様」

 

「やっべ、早いな。早すぎる。まだ1日しか経ってないぞ」

 

「すぐに特定されたみたいですよ。簡易イージス・アショアが原因だってこと」

 

「本気のアメリカやべーな……手強いわ」

 

 

加藤は頭を抱える。

 

 

「そうでなければ困るのだ……」

 

 

草加の言葉に皆が黙る。

 

 

「我々が本気だということを世界に示すためには、アメリカと同等の能力を有することを示す必要がある。勝てなくとも、せめて負けない必要がある。加藤、勝算は?」

 

「勝つ、の定義によりますが、負けはしません、絶対に。戦いに負けても、この戦争には負けません」

 

「それは論理的な思考の上でか?」

 

「ええ、理論的な理由で」

 

「よろしい、ならば戦争だ」

 

 

***

 

 

 

「イヤァァァァァァァァアアアアア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!!」

 

「バリッ、ボリッ、クチャ」

 

 

ヨルイナールは背中の翼の激痛と、背筋の凍るような咀嚼(そしゃく)音に恐怖した。

 

逃げようにも小さな前足で這いずり廻るしかなかった。

 

既に翼と後ろ足の感覚は無くなっていた。

 

 

「古龍ほどではないが、悪くねーな」

 

「いやぁぁあ!脚が、脚があ!」

 

 

ネルギガンテは手についた血を舐める。

 

 

「こ、こんな龍知らぬ!」

 

 

上空でアンヘルも恐怖で震えていた。

 

 

「これではまるで……うっ!?」

 

 

アンヘルは頭に強い痛みを感じた。

 

屠られる

 

そのトラウマ的な幻を。

 

脳裏に浮かぶのは過去の残像、または過去に起きたかもしれない複数の結末。

 

どれも苦痛に満ちた結末で、良い終わり方(ハッピーエンド)など一つもない。

 

自身が体験したわけではない。しかし、体験したかのように鮮明に浮かぶ。

 

 

そしてそのトラウマが彼女の力をフラッシュバックさせた。

 

 

「ウガァァァァァ!」

 

 

アンヘルの赤い表皮は黒く染まった。後ろ向きの角も前にねじ曲がる。

 

カオスモード

 

アルドゥインと初めて会った時どの同様、彼女は真の力を解放する。

 

 

「……ほう、黒龍は食ったことねえが、似たような味なのか?」

 

 

ネルギガンテは屠り途中のヨルイナールを放り投げて新たな獲物にアンヘルを定める。

 

一瞬で空中に舞い、突進する。

 

 

「若僧、これでも喰らえ!」

 

 

アンヘルは複数の火球を放つ。

 

 

「はっ!そんな遅いものでこの俺を倒そうなど片腹痛いわ!」

 

 

ネルギガンテは下級をかわした。つもりだった。

 

 

「おっふう!?」

 

 

火球が直角に曲がり、ネルギガンテの片腹を物理的に痛くしたようだ。そして怯んだ隙に残りの火球も命中してゆく。

 

 

「おんのれぇ!」

 

 

ネルギガンテはハリネズミのごとく棘を生やすともう一度突進する。

 

 

「小賢しいわ、滅びるがいい」

 

 

アンヘルは世界を滅ぼすことが可能な波動さえも相殺できる衝撃波を放つ。

 

 

「これこそ食べ甲斐があるというものよ!」

 

 

ネルギガンテは臆さず突っ込んできた。

 

 

「愚か者」

 

 

アンヘルは静かに呟いた。

 

そして衝撃波によってネルギガンテがバラバラになることを予想した。

 

 

「ふぐっ!?」

 

 

ネルギガンテは重く、鋭い衝撃を受ける。

 

しかし致命傷にはならなかった。

 

 

「なにぃ!?」

 

 

アンヘル驚く。

 

ネルギガンテは全身血だらけになりながらも突進してきた。

 

 

「おのれ、表皮の棘が衝撃を弱めたか。ならばまだ同じことを繰り返せば良いだけのこと!」

 

 

アンヘルは連続で衝撃波を放つ。

 

 

ネルギガンテは相変わらずバカなのか勇猛なのか、衝撃波を避けることなく突進してきた。

 

 

「ふぐぅっ!?」

 

「これで奴は確実に……」

 

「おいてめえ、流石に痛かったぞ?」

 

「!?」

 

 

アンヘルはやっと理解した。

 

驚いている間にもネルギガンテの棘が生え変わっていることを。

 

 

「な、何という再生速度……」

 

「次は俺の番だ」

 

「しまっ……」

 

 

既にネルギガンテの射程距離内だった。

 

アンヘルが攻撃魔法を唱えようとしたところ、体の棘を飛ばしていくつかぎアンヘルの体に突き刺さる。

 

 

「がは!?」

 

 

一本は喉に刺さり、攻撃魔法が放てなくなった。

 

さらに痛がる暇もなく、そのまま急接近されると同時に首を掴まれるとそのまま地面に頭から叩きつけられた。

 

 

「おや?気絶してんのか?防御力は意外と低いようだな。だが、眠る暇はないぜ」

 

 

そしてアンヘルは激痛とともに目覚める。

 

 

「うがあぁぁあ!?」

 

 

肩から下が千切られていた。右翼が無くなっていた。

 

 

「あぁぁぁぁあああ!?」

 

「グフフ……やはり獲物が絶望し、なく叫びながら食う肉は美味いな。おら、もっと泣け」

 

 

今度は左翼が千切られる。

 

 

「わあぁぁぁあああ!」

 

 

今度は激痛で泡を吹いて気絶した。

 

 

「うん、うまい。異世界の龍もそこそこ食えるじゃねえか、あらゃ、また寝ちまったか?」

 

 

ネルギガンテはつまらなさそうな表情をする。

 

 

「まあいい、あとは腹を満たすだけだ」

 

 

そしてアンヘルの頸動脈を食いちぎろうとした。

 

 

Fus Ro Dah(ゆるぎなき力)!」

 

 

遠くからのスゥームでネルギガンテは吹き飛ばされた。しかし空中で態勢を整える。

 

 

「はは……何だあの化け物みたいな龍気(オーラ)は……」

 

 

そこにはアルドゥインがゆっくりと翼をはためかせて宙に浮いていた。

 

 

「昨日逃しためちゃくちゃ速え古龍よりやべえじゃねえか」

 

 

ネルギガンテは唾を飲み込む。

 

大抵この場合、緊張などで行う場合がおおいだろう。

 

 

「……うまそう」

 

 

だがネルギガンテは違ったようだ。

 

 

***

 

 

「隊長、一つ聞いていいか?」

 

「なんだ?」

 

 

加藤は装備の手入れをしながら耳を傾ける。

 

 

「あの漆黒龍いなくても大丈夫なんですか?」

 

「なぜ?」

 

「彼の支援を前提にした戦略ではなかったのかなと思いまして」

 

「逆だよ、逆。元々彼の存在無しで決行するつもりだったんだよ。しかし彼の存在により、状況が変わった」

 

「できれば彼の支援を得たかった、と?」

 

「いいや」

 

 

加藤は笑みを浮かべた。

 

 

「あれで不戦条約を得たようなものだ。こちらのやることに手出しは基本的にしない、と言うことだ」

 

「なるほど、しかし約束守ってくれますかね?」

 

「ああ、知能の高い者こそな。知能が高くなればなるほど、余興を求める。彼が求めている余興(戦争)を提供さえすればな」

 

 

加藤はカラシニコフ銃を組み立てる。

 

 

「しかし噂は本当だな。防衛省がカラシニコフ銃を所有していたとは」

 

 

そのカラシニコフ銃には64式、89式同様に桜の押印がされていた。

 

 

「純正品だ。中東やアフリカで出回ってる粗悪な中華品じゃあない」

 

「隊長それ、盗……」

 

「拾っただけだよ、防衛研究所で。何だその目は?」

 

 

皆呆れた顔だけだった。本当にどうしたらこんなもの手に入れてくるんだろうと。

 

 

「少佐、これをお聞きください!」

 

 

 

1人のヴォーリアバニーの兵士が部屋に入ってきた。

 

そしてスマートフォンを取り出す。

 

映像はないが、鉄が軋むような音、機械音と航空機のエンジンのような音がした。

 

 

「……元潜水艦の音響員いるか?」

 

「いましたけど死にました」

 

「じゃあ元陸自の機甲科か特戦群」

 

 

2人ほど手を上げる。

 

 

「特定のできるか?」

 

 

元機甲科の隊員がイヤホンをつけて耳を澄ます。

 

 

「この独特のガスタービンの音……M1エイブラムですね。型は判明できません」

 

「いや、十分だ。やはりアメリカ様様だな。いきなり主力戦車とはね」

 

「隊長ならアルヌスに置いてある試験用一〇式を盗……じゃなくて拾ってこれるんじゃない?」

 

「そんなのできたら既にやってるわ」

 

「ですよね」

 

 

皆難しい顔をする。

 

 

「まあいいや。、このための準備はしてある。Dを中心に、米軍を撃退しろ。あるもの使えるものは好きに持っていけ」

 

「隊長は?」

 

「今日は体調が悪い。すまんが、お前らに任せる」

 

「了解、お大事に」

 

 

そう言って隊員は退室する。

 

誰もいなくなったのを確認し、加藤はポケットを探った。

 

 

「……そういえば、薬切らしていたんだっけ」

 

 

加藤大きなため息を吐く。

 

 

「まずいなあ……」

 

 

***

 

 

「なんだこのバカは?」

 

 

アルドゥインは思った。

 

ネルギガンテはスゥームの雷に打たれようが火にあぶられようが、凍てつく風に晒されようが、向かってきた。

 

しかも目がおかしい。怒りでも悲しみでもなく、どちらかといえば歓喜。しかしこの手によくある狂気染みた表情ではない。

 

どちらかといえば、何かの欲に駆られたような表情である。

 

 

「ちょっとでいい、ちょっとだけ!かじらせろぉぉお!」

 

 

(あ、理解……するわけないだろぉぉお!)

 

 

アルドゥインは困惑した。今までにこんな感じの龍に会ったことなどない。

 

何度もボロボロになりつつも向かってくる根性は認めても良い。その欲に忠実であることも良い。仲間に迎えたいほどである。

 

ただ一つ、非常に気に入らないてんがある。

 

 

「我をエサと見るとは不届き者がっ!」

 

 

スゥームで叫ぶと同時に揺るぎなき力で地面に叩きつけた。

 

ピンポイントで圧縮したので地面にクレーターができるほどだった。

 

ネルギガンテはあまりの威力に沈黙してしまう。

 

 

「どれ、我を食いたがっていたが、逆に食われる立場になった気分はどうだ?」

 

 

アルドゥインは魂を奪うために近づいた。

 

 

だがアルドゥインが油断していたこともあり、ネルギガンテの脅威の身体能力を過小評価していたこともあり、一瞬の隙を見せてしまう。

 

結果、ネルギガンテはその強靭な牙と強力な顎でアルドゥインの鱗を数枚剥がすことに成功した。

 

 

「……ちっ、鱗だけか。まあ味はなかなか美味だ」

 

 

そしてバリバリ鱗を噛み砕く。

 

 

「…………は?」

 

 

アルドゥインはその様子を少し観察していたが頭が追いつかない。

 

そして自らの尻尾を見る。鱗が数枚剥がれて皮膚が露わになっていた。黒い煙のようなものもほんのり出ている

 

 

「…………はぁぁぁぁあっ!?」

 

 

痛みもないが、アルドゥインは驚愕した。

 

マッハの速度で地面に突入しようが、炎龍の業火で焼かれようが、ジエイタイとかいう輩から砲弾を食らおうが、蟹やらイカやらに攻撃されようが無傷だったこの身体が、たった一噛みで傷が付いた。

 

 

(なぜだ、なぜだ!?こんな馬の骨なのかも分からぬ相手に傷つけられただとう!?)

 

 

アルドゥインの知らない世界では、ドラゴンは珍しくないこともある。

 

モンスターをボールで拉致するゲーム(ポケ●ン)のようにドラゴンの弱点がドラゴンであるように、ネルギガンテの元の世界でも龍の弱点が龍であることが多かったり、と龍の天敵が龍であることなどザラにある。

 

そしてネルギガンテが持つ特有の能力も関係していた。

 

 

『封龍力』

 

 

彼がお伽話で出ることなく、伝説も皆無である無名の存在である。

それでもなお、国を滅ぼした、天災と呼ばれる他の古龍を圧倒できるのも、この特有の能力が大きい。

 

そしてこの能力は、異世界の龍の王(アルドゥイン)にも少なからず効果はあった。

 

 

Slen Tiid Vo(肉体よ時に逆らえ)!」

 

 

アルドゥインは自身に復活スゥームを放ち、鱗を元に戻す。

 

 

「最高にハイってやつだぁ!」

 

 

ネルギガンテはアルドゥインの鱗を食べて様子がおかしくなった。

 

そしてまた襲いかかる。

 

しかしネルギガンテが対龍措置を持っているのに対し、アルドゥインも対龍スゥームを持っていないわけがない。

 

 

Joor Zah Frul(ドラゴンレンド)!」

 

 

元々は人間が彼を倒すための技である。

 

本来なら不死の存在に絶大な効力を発揮するが、普通の龍に使っても地面に縫い付けるだけの効力はあった。

 

 

「ふごぉ!?」

 

 

ネルギガンテは予想外の力に驚く。しかしティがレックス同様、物理的パワーがあるため立ち上がる事は出来た。

 

 

「うぬぅ、やはり貴様もその手のタイプか。ならば早く決着をつけるだけよ!」

 

 

アルドゥインはロックオンするために集中する。

 

 

「死ねい!メテ……」

 

Joor Zah Frul(ドラゴンレンド)!」

 

 

メテオの集中砲火を浴びせようとしたその瞬間、聞こえてはいけないスゥームが後ろから聞こえた。

 

 

「ぐはっ!?」

「ぶふぉお!?」

 

 

アルドゥインは勢いよく地面に叩きつけられ、ネルギガンテが潰される形となった。

 

 

そして、最強、最恐、最凶、最悪の敵に出会ってしまった。

 

 

「やあワールドイーター!やっと見つけたよ!」

 

「ド、ドヴァキィィィン!?」

 

 

アルドゥインは最も会いたくない天敵に会ってしまった。

 

 

そして位置的にも圧倒的に不利であった。

 

 

前にいるのは白目向いて潰されているネルギガンテ。

 

そして太陽を背にアルドゥインに斬りかかろうとするドヴァキン。

 

絶体絶命のピンチである。

 

だが彼にも作画無い訳ではなかった。

 

 

「おのれ、こんな時に使いたく無かったが、喰らえ!」

 

 

アルドゥインは口から赤い気のようなものを溜め、それを放つ。

 

炎ではなく、光の収束のような攻撃であった。ぶっちゃけビームだが。巨大イカ(オストガロア)戦にて相手の記憶を引き継いだ結果得られた技である。

体内のエネルギーを一点に集中し、制御する。そして十分な威力と目標を定めたなら、あとは解き放つだけ。

 

 

「おっと!」

 

 

しかしTiid Klo Ul(時間減速)Wuld Nah Kest(旋風の疾走)により容易くかわされる。

 

 

「ちっ!」

 

「遅いね、ソブンガルデにいた時みたいに遅いね!」

 

 

彼は稲妻の走る日本刀のような物(ドラゴンベイン)を振りかざす。

 

そして一気に斬りかかった。

 

 

「うぐっ!?」

 

「む、手応えが……」

 

 

ドラゴンレンドを浴びたアルドゥインは脆弱である。さらに龍殺しとのとの異名を持つドラゴンベインで斬られたのだから尚更である。

 

しかし、彼は無傷であった。

 

彼の身体の周りを何か透明な物が覆っていた。

 

 

「それはMul Kah Diiv(ドラゴンアスペクト)……ドラゴンレンドが使えるからまさかと思ったけどね。すこしは楽しめそうだね」

 

 

彼は不敵な笑みを浮かべた。

 

そしてアルドゥインのドラゴンアスペクトは解けるころに、ドラゴンレンドも解けた。

 

 

「……貴様、何者だ?」

 

 

アルドゥインはゆっくりと問いかけた。

 

 

「えー?もう忘れたのかい?僕だよ、僕。あ、顔が違ったかな?」

 

 

と言うと美少年の顔から老人の顔となる。

 

 

「それともこれかのう?」

 

 

次はキャットピープルに似ているが、人間の顔立ちの一切ない、猫を二足歩行させたような顔立ちになる。

 

 

「カジートか……オークを殲滅させたときその顔だったな」

 

「えー、前の世界でも会ったじゃん」

 

「いいや、我は貴様とは会ったことはない。確かに、貴様はドヴァキンだ。だが、我の知るドヴァキンではない」

 

 

アルドゥインの脳裏には、かつて生死をかけたノルドの青年の姿が映る。

 

 

「それに貴様の魂、一体何者だ?」

 

 

彼の知るドヴァキンは龍の魂であった。偽りの龍の姿ではあったが、魂は龍であった。

 

だがこいつは違う。

 

龍なんて微塵も感じない。

 

それよりももっと恐ろしく、おぞましく、邪悪であった。

 

 

「うーん、何でだろう」

 

 

彼(?)は首をかしげる。

 

そして何か思いついたような表情になる。同時に、アルドゥインも察した。

 

 

「貴様、我の世界線とは異なる者だな?」

「君、僕の世界線とは違う存在だね?」

 

 

***

 

 

「はぁ、はぁ……」

 

 

栗林は全身で呼吸していた。全身汗で濡れており、タンクトップは絞るとかなりの量の汗が出そうなほどである。

 

 

「そんなもんか?」

 

 

対して加藤は呼吸も乱さず、顔色一つ変えない。

 

 

「まだまだ!」

 

 

栗林は本物のナイフで斬りかかる。それも素人のような動作ではなく、プロの殺し屋並みの捌きである。

 

しかしかわされると同時に投げられる。

 

元々体操をしていたことが幸いして、地面に叩きつけられる前に体勢を整え猫のように着地する。

 

しかし手にあったはずのナイフは加藤が持っていた。

 

そして加藤は胸元を見ろと言わんばかりに自分の胸に指を指す。

 

 

「くっ!?」

 

 

栗林は自分の複合装甲(豊満な胸)の隙間に安全ピンを抜かれた模擬手榴弾が入っていた。

 

それを抜くと思いっきり加藤に投げつける。

 

しかしあっさりキャッチされる。

 

 

「3秒……お前はもう死んでいる」

 

「ちくしょう!こんなので対等にできるわけないでしょう!」

 

 

栗林は目につけている眼帯を叩きつける。

 

左目はもう眼球が無かった。

 

 

「何言ってんの。リハビリしたいって言ったの栗林さんの方でしょう?まあ目潰したのは悪かったけど。まあ、俺の玉潰しかけたのでおあいこで」

 

「なに、セクハラですか!?恋人にはセクハラしていいんですか!?」

 

「ちょっと待て。誰が恋び……」

 

「しかも元特殊部隊の戦闘教官だったとかなに!?私みたいな格技徽章じゃ勝てるわけないよ!」

 

「当たり前よ。俺は戦い方じゃなくて殺し方を教えるんだから」

 

「なに、その上から目線!なにその映画みたいな設定!めちゃくちゃ惚れるんですけど!」

 

(ん?)

 

「本気で殺すつもりで抵抗するから、私をねじ伏せてめちゃくちゃにして!」

 

(んん?)

 

 

加藤は理解できなかった。目の前の女の子の皮を被った野獣の目がやばいことになっていた。言っていることと目つきが噛み合わない。

 

 

(いわゆる、肉食系ってやつか?)

 

 

加藤はしばらく考える。

 

 

「いいの?俺がしたいことやっちゃうよ?」

 

「あんたが勝ったらその欲望私に全部ぶつけて!私が勝ったら結婚ね!」

 

「え、ちょっと待……」

 

加藤は昔やってた某成人(エロ)ゲームの理不尽な状況を思い出す。

 

 

(はい、かよろこんで、の選択肢しかないのかよ。まあ負ける気しないけど)

 

 

そう思っていた時期が彼にも有りました。

 

 

窮鼠猫を噛むと言う諺があるように、人間が欲望に忠実であるように。栗林は狂戦士(バーサーカ)と化した。

 

結果、栗林はかなりいいところまで持ってい たが、惜しいところで負けてしまった。

 

栗林は力尽きて大の字で倒れていた。

 

どこぞの格闘ゲームですか、と言いたくなるほど衣服もボロボロになる。

 

 

「ハアハア……私を好きにしろ……」

 

 

だがしかし、栗林はくっころというよりもどこか期待しているような気がしないでもないが。

 

 

「ではお言葉に甘えて……」

 

(ああ、これで私もやっと女に……ぐえぇ!?ちょ、首!なんで締めてるの!?)

 

 

栗林は困惑する。ここまで強引なのか?それとも最近のはやりなのか、個人の嗜好なのか!?

 

 

「ちょ、何するつもり!?」

 

「動くなよ、ちょっと痛いよ」

 

「ムリムリムリ!なにそれ!絶対そんなのは入らないから!」

 

「入らないとかじゃなくて、入れるの!」

 

「ぎゃーー!」

 

 

栗林はジタバタもがく。しかし上半身を馬乗りされて固められる。

 

 

「もう少し、我慢しろ!」

 

「ムリ〜〜!」

 

「入った!」

 

「いったーい!」

 

 

栗林は猛烈な頭痛を抑えて目を開ける。

 

 

「気分はどうだ?」

 

「最悪……え?」

 

 

痛みの元である左目があった場所に、別の何かが入っていた。

 

そして目の前の加藤の左目があったであろうところは、空洞になっていた。

 

 

「義眼だよ。お前にやる」

 

「どういうこと?」

 

「捉え方は好きにするといい。俺の大事なものをお前に預けるんだ。またいつか返してもらう日まで」

 

「……え、え……?」

 

 

栗林は顔が赤くなる。

 

 

「それは……指輪と捉えても?」

 

「ご自由に」

 

 

アブノーマルではあるが、栗林は嬉しかった。

 

 

「わかった。日本に帰れたら、本物の指輪プレゼントしてね!」

 

「ああ。まあとりあえず落ち着いて着替えなよ。今日はこれくらいにしよう。これから俺の技術全部叩き込んでやるから」

 

「もちろん!望むところよ!」

 

 

そして加藤は栗林が捨てた眼帯を拾い、装着して部屋を出る。

 

 

角には草加が立っていた。

 

 

「お前もやるな。せいぜい大事にしてやれよ」

 

「ご冗談を。私は日本に帰るつもりはありません。貴方と同様に」

 

「……もし辞めたくなったら、私止めんよ」

 

「その時は、その時ですよ。でも草加さん、貴方はお分かりでしょう。私の身体の状態を?」

 

「……さあな。自分の身体は自分が一番知っているだろう?」

 

「そうですね、失礼しました。それでは、次の計画に移ります」

 

 

***

 

 

Sturn Bah Yol(メテオ)!」

 

 

アルドゥインは必殺シャウトを繰り出す。もちろんロックオンつき。

 

 

Lok Vah Koor(晴天の空)!」

 

 

対して異形のドラゴンボーンもシャウトで対処する。メテオは降る前に消滅する。

 

 

Yol Toor Shul(ファイアブレス)!」

Fo Krah Diin(フロストブレス)!」

 

 

次はドラゴンボーンが先に動いたが、アルドゥインも負けじとうまく反応する。

 

だがそれだけで終わるわけではなく、ドラゴンボーンは追撃する。

 

 

Fus Rob Dah(揺るぎなき力)!」

 

 

アルドゥインは広範囲型揺るぎなき力により、大地もろとも吹き飛ばす。

 

しかしドラゴンボーンはなんともなかった。

 

 

「くっ、デイドラの神器(スペルブレイカー)!?」

 

 

シャウトすら防いでしまう盾を構え、突進してくる。シャウトにより時間を遅め、自身を速め、外から見たらおかしな速度で動いていた。

 

しかしアルドゥインも負けじと同様のことをしてるので、互いの速度は通常時と変わらない。

 

周りから見たら戦士とドラゴンがドラゴン●ール並みの戦闘を繰り広げて見えないかもしれない。

 

 

「オラオラオラオラオラオラ!」

 

 

ドラゴンボーンは双剣を使い恐ろしいスピードで切り刻んでくる。

 

 

「無駄だ。無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄!」

 

 

その間アルドゥインは霊体化したので一切攻撃が入らない。

 

 

「やるね!かなり強くなってるね」

 

「貴様もな。しかしここまでの能力、一体何頭の(ドヴァ)を殺してきた?」

 

「そう言う君は今まで喰ったジョール(生物)の魂の数を覚えているかい?」

 

「……くくく、そうだな愚問だな。確かに、ここでは関係ないな。あるのはどちらかが死に、どちらかが生き残るかだな」

 

「……ぷっ……アッーハッハッハッ!」

 

 

ドラゴンボーンは嗤う。

 

 

「なんだ貴様。何がおかしい……?」

 

「おかしいのは君だよ、アルドゥイン。君が僕に勝つ?正気かい?」

 

「なんだと?」

 

「僕が本気出していると?」

 

 

その時垣間見せた邪悪な表情に一瞬背筋が寒くなったのをアルドゥインは感じた。

 

 

 

 




あと遅くなりました理由としては、最近時間もないので、大幅にストーリー縮小のためにどうすれば良いか再構築していました。

そろそろ終わればいいな。
結果はどうであれ、必ず完結させます(すでにグタグタしてますが……)


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赤い彗星(3倍速)でお送り致します

皆さま、明けましておめでとうございます。そして大変長らくお待たせ致しました(まだ待ってる人いるかな……)。

もう作者もわからないぐらいにカオスになってます。一応まとめるとこんな感じ。

・門開通(日本)
・日本:やられたらやり返す。100倍返しだ!
・オブリビオン門開通、アルドゥイン様ログイン、大虐殺
・炎龍死す(蘇る)、アルドゥイン様勢力拡大
・イタリカ支援(アルドゥイン様による妨害あり)
・日本でテロ発生、日本の衛兵膝に矢を受ける(表沙汰にならず)
・ラオじいちゃんログイン、そしてログアウト
・自衛隊?一部偽装戦死
・龍討伐するぜ!でも返り討ち、だけど謎のキャラにより撤退させる。アルドゥイン様涙目
・自衛隊資源調査開始。アルドゥイン様勢力拡大、修行に明け暮れる。あと水面下工作
・謎の部隊、決起、特地独立宣言、日本国際非難。アメリカ参戦
・アルドゥイン様、邪魔者排除中

結論、申し訳ありません。


 

 

「ファッーク!」

 

 

帝都進軍中の米軍は奇襲を受けた。

 

最初に受けたのは迫撃砲の洗礼。

 

アメリカみたいに数で押してはこなかったが、恐ろしい精度で砲撃してきた。

 

 

「ガッデム!戦車の後ろに隠れろ!」

「機関銃兵やられました!」

「シィィト!まだ航空支援(エアストライク)は来ねえのか!」

 

「くそ、油断した……」

 

 

指揮官の1人がつぶやく。たかが中世に現代兵士数名つけた程度と侮り、ベテラン兵士が少なかったことを後悔する。

 

 

「しかしアフガン、イラクに比べればまだマシよ!全員進め!」

 

 

指揮官が鼓舞して兵士が動く。戦車を先頭に歩兵が追従する。

 

 

「さすがだな。世界最強の国だけはある」

 

 

SAWの指揮官が双眼鏡を覗きながら呟く。

 

実は既に帝国相手とは比べものにならないほどの損害を米兵との戦闘で受ける。

 

 

「伍長、この銃使えなくなったよ!」

 

 

亜人の1人がカラシニコフ銃を持ってくる。

 

 

「……うん、もうそれは使えないな。接近戦の準備しろ」

 

「よし来た!あたいらの十八番だね」

 

 

亜人が去ってからその銃を見る。

 

 

「隊長、あんたホントに勝つ気あんのかい……?」

 

 

伍長は静かにつぶやく。

銃には薄く『東京マ◯イ』と書いてあった。

 

 

「まあいい。特殊工兵、迫撃砲を特殊形態、及び特殊弾の使用準備しろ」

 

「もう終わってるで、伍長」

 

「よし。接近戦の支援をする。目標、MBT(M1エイブラム)視認次第補足」

 

「伍長、こんなので本当に倒せますかね?」

 

バカ隊長(加藤)を信じるしかない。あの人のアイデア兵器がどこまで信頼できるか」

 

「自分、隊長の評価どんどん落ちてるっす」

 

 

少し離れたところでも接近戦の準備をしていた。

 

 

「やはりロンデルで急ごしらえで調合させた火薬じゃまだ威力不足か……」

 

 

塹壕内でY(ヤンキー)が呟く。

 

 

「しかもヴォーリアバニーは耳良すぎで炸裂音に弱いから威力落としてるから散弾式筒しか使えねえ。早くレレイの爆裂魔法を応用させた銃を作らないと大変だな。無音とかならなお良し」

 

「まあ、ほとんどエアガンの時点でうちら勝てる気がしないけどな。威力上げて猟銃エアガン並にしてるとはいえ」

 

 

Z(ズールー)が諦め気味に言う。

 

 

「まあ、どっち道俺たちは生きては帰れまい」

 

 

そして突撃の準備が整う。

 

 

「おいお前ら、異世界の戦い方をよく見ておけ。そしてこれが、人間の強さの秘密だ」

 

 

2人は後ろで控えてる亜人たちに言う。

 

 

そして突撃の合図として信号銃が空高く打ち上げられる。

 

 

「「バンザァァァァイ!」」

 

 

2人は塹壕から出ると敵陣に向けて猛ダッシュする。

 

亜人たちは何が起きたのか、ポカーンとする。

 

一瞬ではあるが、それはアメリカもだった。

 

 

そして双方我に返ると、亜人たちは突撃、アメリカも応戦する。

 

 

「シット!ジャップのバンザイアタックだ!死んだじーさんから聞いたことあるぜ!」

 

「ガッデム、奴らクレイジーだぜ!」

 

 

しかし米軍もそこまで動揺はしていなかった。彼らが聞く万歳突撃は第二次世界大戦のもの。確かに、死を決して突撃してくるのはある意味恐怖かもしれない。

 

しかし、彼らからしたらバカな行為でしかない。しかもそれが第二次世界大戦と同じならなおさらである。

 

しかしながら、彼らは忘れていた。

 

異世界であるということを。

 

 

「野郎、武器に頼りすぎるニホン人にしては勇気あるじゃねえか!」

 

 

と獣人の一人が奮い立つ。

 

 

「嫌いじゃないぜ、そういうの」

 

 

ともう一人。

 

 

「獣人の喜ばし方分かってるじゃねえか!」

 

「ヒト種に遅れるな!獣人の恥だぞ!」

 

 

と周りの亜人たちも一気に突撃する。

 

 

「落ち着け、落ち着いて奴らをミンチにしろ!」

 

 

戦車、装甲車が照準を合わせる。

 

しかし、彼らはここで問題に気づく。

 

 

「ファック!奴ら人間よりも明らかに速いぜ!」

 

 

人間では到底できないような機動力でじくざくに走る者、滑空するもの、跳ぶ者、突っ込んでくる者と多様であった。

 

 

「ちっ、狙うな!斉射でとりあえず撃て!」

 

 

米兵の指揮官が適切な命令を下す。

 

 

『『『バンザァァァァアイ!』』』

 

 

先頭の元日本人たちを真似て雄叫びを上げる。

 

 

「ファイア!」

 

 

戦車砲からキャニスター弾(弾のでかい散弾)の発射を筆頭に、第二次世界大戦のような制圧射撃が放たれる。

 

 

「ぎゃー!」

「うぐっ!?」

「ぶっ!」

「きゅっぷい」

 

 

ほとんど声を上げることもできずに倒れる者が大半だった。

 

 

「嘘だろ、ジエイタイよりも攻撃規模がでかいなんて……」

 

 

亜人たちは一気に戦意喪失する。

 

 

しかしそれでも先頭の二人(元日本人たちは)止まらない。

 

もちろん、無事ではない。

 

数発弾丸が体を切り裂いたにもかかわらず、彼らは勢いを止めなかった。

 

 

(バカな、たかが人間がここまでタフなわけが……狂ったか?)

 

 

近くにいたワーウルフの男がその様子を見ていた。

 

狂気か?

 

 

(違う……奴らの目は……覚悟か!?)

 

 

そして立ち上がる。

 

 

「お前らに策がらあるのだな!?ならばこの俺の命も貴様らに預けてやる!野郎ども、あの二人を守れー!」

 

 

戦意喪失しかけていた亜人たちはまた一気に戦意を取り戻す。

 

 

「そう来ないとな、人間なんかに負けるじゃねえぞ」

 

 

しかしそれを言い終えた瞬間、Yは地面に思い切り顔をぶつけた。

 

 

「脚の感覚が……?」

 

 

右脚の脛の下半分が皮一枚で繋がっている状態だった。

 

しかしそんなことどうでもよかった。

 

すぐに視線を相方(Z)の方に戻す。

 

足を止めて助けるようなことはせず、そのまま前に走っていった。

 

 

「俺は止まんねぇからよ、お前らが止まんねぇかぎり、その先に俺はいるぞ!だからよ、止まるんじゃねぇぞ・・・」

 

 

聞こえないはずの相方の背中にそう言うと、力尽きた。

 

 

「あとは任せろ。今の世代の若造たちに、特別に先の大戦での恐怖を見せてやる」

 

「そうだな、お前たちの国で過去何があったか知らんが、その戦い方気に入ったぜ」

 

Zは静かに呟いたはずだが、追いついたワーウルフたちがしっかり聞いた。

 

 

「……今の厨二セリフ忘れてください」

 

「チュウニ?」

 

「いいから!見たかったらもう撤退しろよ!危ないよ!」

 

「え、でも大丈夫なのか、まだ敵陣まで少しあるぞ?」

 

「いいから!危ないから撤退しろー!」

 

「わ、分かったから怒るなよ……」

 

 

亜人たちは呆然としながら撤退する。

 

 

「ハッハッハッ、やはり亜人は動物と変わんねえや」

 

 

ほとんどが撤退したのを見て米兵は笑う。

 

 

「一人だけ突っ込んで来ます!」

 

「ホワッツ!?」

 

 

双眼鏡で確認するとなるほど、一人現代装備で何か抱えた者が突っ込んで来た。

 

 

「クレージージャップ!」

「カミカゼ!」

 

 

一部の米兵がパニックに陥る。

 

 

「シャラップ!早く奴を倒せ!」

 

 

戦車が照準を定めようと動いた。

 

刹那、高速の飛翔体が戦車をかすめた。

 

 

「な、なんだ!?」

 

「対戦車砲!10時の方向、距離1500メートル!」

 

「損傷は!?」

 

「外れたのでありません!」

 

 

しかし既に第二弾は放たれており、今度は直撃した。

 

世界最強と言われるM1主力戦車の硬い正面装甲に金属の物体が食い込んでいた。

 

 

「APFSDS(※現代戦車の主要対戦車弾。とにかく物理的威力を特化させたもの)だと!?」

 

「損傷軽微!貫通はしていません!」

 

 

そして対戦車砲では逆に焦っていた。

 

 

「畜生、隊長のばかやろー!ぜんぜん効いてねえぞ!迫撃砲と対戦車砲兼ねること自体が無理だったんだ!」

 

 

よく見ると今まで使っていた自転車迫撃砲を組み変えて対戦車砲にしていた。

 

 

「アイデアは悪くないんだがな……ライフリングが無い分APFSDSが使えるとはいえ、M1相手は威力不足か……」

 

 

伍長は双眼鏡を片手に冷静に分析する。

 

 

「敵の損傷は認められない。こちらの状況は!?」

 

「二発撃っただけで砲身がダメになりました」

 

「仕方がない。撤退、対戦車砲は破棄せよ。破壊措置はせずに直ぐに退避!」

 

 

隊員はすぐにその場を離れる。破壊する暇などない。そして直後に洗車から放たれた榴弾が直撃する。

 

対戦車砲は木っ端微塵に破壊される。

 

 

「対戦車砲の隊員、撤退します!」

 

「となると()()奴らか。奴らは徹底的に潰せと()に言われているからな。新型兵器を出せ!」

 

「了解!」

 

「よし、そろそろ……え?」

 

 

忘れていた。

 

 

米軍の一、指揮官として先ほどの状況を。

 

そして、米軍として、追い込まれた敵がどこまで凶暴になるのかを。

 

 

手の届きそうなところにまで入り込んで来た目の前の敵が、その現実を突きつける。

 

 

「俺たちはお前ら(あちらの世界)に屈しない!」

 

 

(Z)は生きているのも不思議な致命傷でありながら、高らかに宣言すると、懐に抱えてあったラグビーボール大の黒い金属製の何かを地面に叩きつける。

 

 

そしてその周辺がまばゆい光と高熱に包まれる。

 

 

(Z)と最後に対峙した米軍の指揮官は、感覚がないほどの高熱と光に意識と存在そのものを消される直前でも、(Z)の最期の姿が脳裏にしっかり焼きついていた。

 

 

(なるほどな、そりゃ普通の弾丸程度では倒れないわけよ……)

 

 

***

 

 

「よし、一応は作戦成功か?」

 

 

伍長が肩で息をしながら確認する。

 

 

「失うものは大きいですがね。敵さんもしばらくは迂闊に動けないでしょう」

 

「よし、すぐに後方の部隊たちと合流……」

 

 

突如背後から消音装置(サプレッサー)から弾丸が飛び交う音がした。

 

同時に、SAW隊員全員が倒れる。

 

 

「貴様ら……」

 

 

特殊防弾防護服にケプラー製ヘルメット。顔は覆面で覆われて各種ハイテク装備を身につけていた。

 

ただ普通の軍隊と違い、所属、階級章など一切ついていなかった。

 

 

「なんだ、お前たちか……WAS(戦時特殊殲滅戦部隊)……まさか後輩や教え子が来るとはな……」

 

 

伍長は苦しげに笑う。

 

そして彼らは見えない表情を一切変えず引き金を引いた。

 

彼らが、米軍の新型()()であった。

 

 

***

 

 

一方、(アルドゥイン)も激闘の中にいた。

 

 

「おのれ!」

 

 

アルドゥインは毒々しい言葉を吐き出す。

 

完全に予想外であった。

 

明らかに、戦力に差があり過ぎた。

 

今のアルドゥインでもかつての宿敵、彼を滅ぼした、()()()()()のドヴァキンになら十分勝てる可能性があった。

 

だが目の前の変化自在のドヴァキンはドヴァキンであってドヴァキンじゃない。

 

限界を超えたドヴァキン。

 

何を言ってるのか自分でも分からなかったが、とにかくそういうことだと自分に言い聞かせる。

 

もはや性別すらわからぬ。男になったり女になったり、どちらともいえない存在になり、オーク、アルゴ二アン、インペリアル、ノルド、カジートにブレトン、さらに見たこともない種族になりと多種多様で不安定であった。

 

 

「貴様、本当に何者だ!?」

 

「さあ……自分でも元々何かだったか忘れたよ。そりゃね、世界を何周も、帝国側についたり、反乱軍についたり、両方ともぶっ壊したり、善人として、悪人として、世界を救ったりぶっ壊したりしたら、そりゃ分からなくなるよ」

 

 

異形のドヴァキンは黒檀の装具を身につけ、華麗に、されど雷の如く速くて強く武器を振る。

 

 

互いにスゥームは使わなかった。

 

なぜならそれが無駄なことだと双方は理解していたから。

 

時間を早めても相手もそれができる。

 

ドラゴンレンドで不死を解いても霊体化で防げる。

 

攻撃力を上げてもドラゴンアスペクトによって防げる。

 

つまりいたちごっこであり、拉致があかない。

 

かと言って双方はがむしゃらに動いているわけではない。

 

スゥームを使えば戦況を打開できるかもしれないが、失敗すれば相手のスゥームにやられることとなる。強力なスゥームほど次への溜め(クールタイム)が必要となる。

 

高度な読み合い(心理戦)が既に生起していた。

 

相手が疲れ果てるか、読みを間違えるか、それを冷静に見定めるため、双方は激しい攻撃を繰り広げる。

 

 

「おいテメエ、俺のこと忘れてないか?」

 

 

気絶から覚めたネルギガンテが突如ドヴァキンの背後を取る。

 

 

(しめた!)

 

 

アルドゥインはこことばかりにスゥームを唱えようとする。

 

ネルギガンテは渾身の一撃を拳に込めて放った。

 

がしかし、避けられてしまう。

 

 

「遅いね、遅いn......」

 

 

しかし、その叩きつけた拳の周りに付いていた棘がドヴァキンを襲う。

 

流石にこれは予想外だったようで、避けようにも数本身体で受けてしまう。

 

 

「……面白いね、異世界の龍は」

 

 

不敵な笑みを浮かべるが、ネルギガンテは間髪入れず二撃目、三撃目と攻撃を加える。

 

それはスゥームを唱える暇を与えないほど。

 

 

(しめた、我の勝ちよ!)

 

 

アルドゥインは手始めに肉塊と成れ果てたかませ犬ども(アンヘルとヨルイナール)を蘇生する。

 

 

「はっ!?アルドゥイン様」

 

 

ヨルイナールは眠りから覚めたような反応だった。

 

 

「全く……お主は何度死ねば気が済むのだ」

 

「申し訳ありません……」

 

「と言われても主よ、我らはお主のように不死身ではないからのう」

 

 

アンヘルは口を尖らせる。

 

 

「で、(ネルギガンテ)は片付いたのか?」

 

「いいや、奴よりも遥かに手強い奴(ドヴァキン)に出くわしたが、もうじき片付く。ぐほぉっ!?」

 

 

と言った矢先、ネルギガンテがアルドゥインの背中に目掛けて吹っ飛んで来た。否、吹っ飛ばされた。

 

 

「どこが片付く、ですか!?もっとヤバい状況じゃないですか!?」

 

「え……?」

 

 

ヨルイナールの言葉に後ろを振り向く。

 

 

そこにはダサいおぞましい姿の装備に身を纏った奴がいた。

 

 

ドラゴンプレート装備

 

 

「うむ、もしかしたら我々龍と人間の感性は異なるとは思うが、もう少し、こう、何とかならなかったのかの?」

 

 

アンヘルが遠慮気味に言う。

 

 

「うん、なんか凄いオーラ出てるけど、見た目で全部台無しになったような気が……」

 

 

ヨルイナールも控えめに同意する。

 

 

「そうか?俺は色んな装備見たことあるから別に気にならんが。少なくとも下着同然の装備なのにダメージが入らないとか見たことあるしな」

 

 

なぜかしれっとネルギガンテが会話に参加している。

 

 

「……」

 

 

アルドゥインは言葉にすらできなかったようだ。しかしようやく重い口を開く。

 

 

「おのれ……よくも我が同胞()たちを……」

 

 

周りも同情する。彼の同胞多く犠牲になったのだ、と。

 

 

「そんなダサい装備に変えたなー!」

 

「「「そこ!?」」」

 

 

アルドゥインもその装備がダサいことを認めた。同胞の犠牲よりもダサい装備に変えられたことに怒り狂った。

 

 

「酷いな、僕がせっかく作った装備なのに。でもダサいことは認めるよ……」

 

 

作成者本人も認めてしまった。

 

 

「でもね、性能は恐ろしく強くしているよ。究極の超錬金によってね」

 

「へえ、ドラゴンでできてんだろう?食わせろや」

 

 

空気読まず、ネルギガンテがいつのまにか背後を取った。

 

そして渾身の叩きつけを行った。

 

 

「ほらね?」

 

 

しかしドヴァキンは無傷であった。それどころか、ネルギガンテが全身から血を吹いた。

 

 

「攻撃反射スキルだよ。一割の確率でしか発動しないけど、僕はアークメイジでもあってね、長年の研究で任意発動ができるようになったんだ。でも、こんなもんじゃない」

 

 

ドヴァキンは龍の骨でできた剣を抜くと一撃を加えた。

 

瞬間、ネルギガンテはボロボロになり、崩れ落ちた。

 

否、ネルギガンテのみが真実を知った。

 

一撃ではない。

 

猛スピードで三撃の攻撃だったと。

 

 

一撃目で尻尾の切断と麻痺(スタン)

 

二撃目で右の角を粉砕され、裂傷と出血。

 

三撃目で左の角を粉砕され、魂縛。

 

 

そして薄れる意識と肉体が崩壊する中、彼の頭に走馬灯が走る。

 

そう言えば、こんな噂が流行っていたっけ?

 

何でも、恐ろしく強い(アイルー)が世の中にはいるとか。

 

どれくらい強いかというとどんな強いやつ、極限状態だろうが歴戦の猛者だろうが、三発以内に仕留めちゃう悪魔のような(アイルー)

 

彼はこんなくだらないことを思い出す、最期に一言発した。

 

 

「お前のような(アイルー)がいるかぁぁぁああ!!」

 

 

なんとも残念で悲しい最期の言葉になってしまった。そして、骨のみになる。

 

 

「アイルー?僕は今カジートなんだけどな」

 

 

彼はすっとぼけた。

 

 

「まあいいや。最終ラウンドと行こうか、ワールド・イーター(アルドゥイン)?どちらが真に世界を喰らうものか、ここで決めてしまおうじゃないか」

 

(真の世界を喰らう者、だと?)

 

 

アルドゥインは彼が何を言ってるのか理解できなかった。

 

 

***

 

 

「畜生!こんなの勝てるか!」

 

 

ジパング勢は一気に後退し始めた。

 

逆にアメリカ側は一気に攻勢を仕掛ける。

 

 

(狙う……撃つ……命中、そして目標ダウン……)

 

 

B(ブラボー)は撤退支援のため、遠く離れたところから威嚇狙撃を行う。

 

 

(狙う……撃つ……命中、そして目標ダウン……)

 

 

士官などを狙撃し、相手の戦意喪失や指揮系統混乱を狙うが、あまり効果は無かった。

 

規模に対して狙撃兵一人の負担が大きすぎた。

 

それに米軍はバックアップがしっかりしているため、指揮系統が乱れることもなかった。

 

 

(狙う……撃つ……命中、行動不能……にならない)

 

 

戦車や装甲車の車輪の破壊を狙ったが、さすがはアメリカ製。車輪の一本二本壊れたところで行動不能にはならなかった。

 

 

(狙う……撃つ……命中、狙う……撃……)

 

 

まるで機械のように動いていたBの引き金を引く指が止まった。

 

 

スコープ越しの戦車の砲塔がこちらを向いていた。

 

そして空から空を切る音がした。

 

 

そして微かに視界の片隅に捉えた。

 

 

A-10(攻撃機)……」

 

 

そして静かに目を閉じる。

 

 

「隊長、やはり俺も、最後は人間なんだなと自覚しました」

 

 

そしてあたり一面ナパーム弾によって火の海となる。

 

もちろん亜人たちも多数被害を被る。

 

 

「ギャー!」

「火、火、火っ!尻尾に火がついたにゃ!」

「空から火の海が降って来やがった!」

 

 

米軍が完全に機能を取り戻した。

 

そしてこのまま敵を蹂躙し、帝都を占領して終わる。はずだった。

 

 

「こちらホッグ1。ナパーム弾投下完了。このまま攻撃支援を続ける」

 

 

そして機銃掃射にはいろうとした。が、隣から只ならぬ気配がした。

 

そう、この大空の下、レーダに何も映らなかった。何もいるはずがない。

 

なのにそいつはいた。並走していた。

 

 

異世界(モンハン)最速の空の帝王と呼ぶにふさわしい、銀翼の凶星

 

天彗龍(バルファルク)

 

 

「糞っ!ドラゴンだ!」

 

 

A-10の編隊はすぐに離脱を試みる。

 

しかし彼らは甘く見ていた。

 

 

「ふぁっ!?距離が離れないだと!?馬鹿な、日本側の資料によればドラゴンは旧式の戦闘機に追いつけない速度のはずだ!」

 

「落ち着け、ホッグ2!今F- 18の編隊がすぐ側まで来てる。そこまで誘導するんだ。了解、ふあ!?」

 

 

追いつけないどころか恐ろしいほどの速度と機動力で先回りされていた。

 

 

「い、いつの間に〜!?」

 

 

このままだと衝突コース。咄嗟の判断で上手く回避する。

 

しかしまた目の前に現れる。

 

 

「こいつ……遊んでやがる!」

 

 

恐怖が怒りに変わった瞬間、パイロットは冷静さを失った。

 

 

「ホッグ3、よせ!」

 

 

しかし命令を無視し、パイロットは機関砲のトリガーを引く。

 

A-10に搭載されたGAU-8(30mm 機関砲)が毎分約4000発、毎秒にして60発以上の鋼鉄の劣化ウラン弾の雨を降らせる。

 

しかし、それらが当たることもなく、気がつくと背後を取られる。

 

 

「嘘だろ……現代ジェット戦闘機並みの機動力じゃねぇかァァァア!!」

 

 

そして怒りが絶望に変わる。

 

 

「諦めるな!援軍が来たぞ!」

 

 

レーダに友軍のF-18の編隊(3機)確認した。

 

その絶望も希望に変わった。

 

が、さらなる絶望のどん底に落とされるとは誰も気づくわけなかった。

 

 

もう絶望という言葉では生温い。

 

人間には到底超えられない『壁』と言うものを見せられた。

 

戦闘機よりも戦闘機らしいドラゴン。

 

 

誰がこの世にそんなものが存在することができたであろうか。

 

 

赤い彗星(シ●ア)なんて聞いてないぞ!」

 

 

これが管制塔の隊員が聞いた最後の通信だった。

 

 

この様子を、遥か遠くから悲しそうに見守る白いドレスの少女がいた。

 

 

「部外者は消えて……」

 

 

そう静かに呟いた。

 

 

「あとあちら(アルドゥイン)も助けないと……」

 

 

余談だが、陸上部隊は壊滅的な被害を被り、撤退を余儀なくされた。

 

生存者によれば、戦闘機みたいな龍に制空権奪われた上、爆撃機みたいな龍に爆弾らしきものを撒き散らされたあげく、緑のティラノサウルスみたいなやつに多く喰われたのだとか。




駄作者は何がしたいのかって?
今のところ人間VSドラゴンで人間のプライドを潰すことですかね。

仕事の都合により、亀執筆になります。申し訳ありません。
これからもよろしくお願いいたします。


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チーズのためなら死んでもいい

時系列一部前後してますけど、そこはストーリー上お許しを。

まだ読んでいる方がいて駄作者は感激です(なお駄文で評価はガタ落ち)。投稿諦めようとすると背後のアルドゥイン様にソブンガルデに送られそうになるので頑張ります。


「いてて……」

 

 

伊丹は慣れない乗馬でお尻をさする。

ジープの席が恋しい。

 

 

伊丹一同は冥府の神ハーディを祀る神殿都市、ベルナーゴに着いた。

 

本当はベルナーゴから招待状(と言う名の強制招集命令)はずっと前から貰っていたが、めんどくさかったり、なかなか行く予定がなかったり、はたまた今のトラブルでそもそも遠征に行けなくなったりと延ばしに延ばしてしまった。

 

そして一応、帝都への道のりからそう遠くないということで(ついでに)行くことにした。

 

ロゥリィは(ついでで)もう付きまとわるな、ストーカー!と言いに。

ヤオは(ついでで)もうお前なんぞ信仰しない!と言いに。

伊丹は渋々行くと言う形で、他は興味本意だったりと。

 

ただ、セラーナは違った。

 

 

「この世界の神でしょう、なら私を元の世界に戻す術をご存知のはずでございますわ」

 

「まあ、あの門の原因がこちらの神様が作ったかしらないけど、できるかもねえ……」

 

「ところでぇ、セラーナの世界の神はどんななのぉ?」

 

 

ロゥリィが興味本意で聞く。

 

 

「そうですわね。基本的には伊丹殿の世界の神々よりは、こちらの世界に近いですわね。八大神と呼ばれまして、それぞれ異なるものを司っておりますわ。他にも正確にはいるみたいですが」

 

「へぇ、じゃあ亜神とかいるのぉ?」

 

「いいえ、でも使徒のようなものはございますわ。ただ、この世界と違って一つの神、だけではなく複数信仰する者も少なくはないですわ。中にはニホン人のように中途半端な信仰する不届き者など……」

 

「ねえ、日本人の扱い酷くない!?」

 

 

伊丹はツッコミを入れるがセラーナは特に気に留めなかった。

 

 

なんやかんやで神殿に入る。

 

そこで伊丹が招待状で悪ふざけしてロゥリィに怒られながら地下への入り口に通される。

 

 

「また地下ですの?最近飽き飽きしたのですのよ。どうしてもと言うなら行きますが」

 

 

セラーナはどこか不服そうだったが、一応着いてきた。というか来ないと神様に会えないので彼女の目的が達成できないからでもあるが。

 

 

(太陽は嫌だと言ったり、洞窟は飽きたと言ったり、ホントこの吸血鬼お嬢は何がしたいんだ……待てよ……これはもしかして、ツンデレというやつか!?)

 

 

など妄想しているとロゥリィのハルバードが軽く後頭部を直撃する。

 

 

「〜〜〜っ!?」

 

「馬鹿なこと考えてないで行くわよぉ」

 

「何も言ってないよ!」

 

「あんたの目と顔が言ってるのよぉ!」

 

「う……」

 

 

などと茶番劇を繰り広げながら階段を降りると、地下とは思えない空間にたどり着く。

 

 

「来訪者たちよ。主上ハーディがご降臨される。それぞれの流儀で最上の敬意を示せ」

 

 

神官たちが一斉に膝まづく。そして言われた通りそれぞれの流儀で敬意を示す。

 

すると空から光の粒が降り、それが次第に形を成して美しい女性の姿を作り出す。死を司る神とは思えないほどの美しさである。

 

 

(うっひょー、すんげー美人!……いや待てよ、前ロゥリィから神様は容姿は自由に変えられるとか……なんだ、整形美人か……)

 

 

伊丹一喜一憂してると、ハーディは傷ついたような表情になり、ロゥリィに何か訴え始めた。伊丹には何を言ってるのか聞こえないが。

 

 

「……ヨウジィ、ハーディは『整形じゃない』と言ってるわぁ」

 

「げっ、心読まれてたのか。これは失礼致しました」

 

 

ハーディは分かればいいのよ、と言わんばかりの笑顔を見せる。

 

 

迂闊なこと(エロ同人的なこと)も考えれねえ……」

 

 

仕方ないので伊丹はできるだけ無心(賢者モード)になろうと努める。

 

そんな中、半透明のハーディは何かを探すように周りを見渡す。

すると神官たちが一斉に膝まづく。

 

 

「何してんの?」

「自分の身体を使ってくださいというアピールよぉ」

 

 

伊丹の問いにロゥリィが答える。

 

 

「何!?身体を使()()だと!?さてはいやらしいことだな!?やはりこやつらの神官服が下着のようにいかがわしいのそのためだったのか!?」

 

「おい、誰かこのエロエルフ(ヤオ)を黙らせろ!」

 

「フガフガ!(こういうの嫌いではないぞ)」

 

 

テュカとセラーナがヤオを拘束して猿轡を咥えさせるが、ヤオはなぜか嬉しそうだった。

 

 

「で、話を元に戻すとハーディは誰かの身体を借りたいと」

 

「そうよぉ。でも生半可な身体じゃ自我が崩壊したりして廃人になるけどぉ」

 

「じゃあ何で彼女(神官)らはそんな自殺に近いことするんだ?」

 

「それが神官にとって最大の誉れであり、位を上げるチャンスだからよぉ。神様から力を授かる事もあるしぃ」

 

「ロゥリィみたいに神様になることも?」

 

「ある時はあるしぃ、ない時はない」

 

「ふーん」

 

 

そんな会話をしていると、ハーディは品定めをするように神官たちを見る。

 

 

(どっかで見たような光景だな)

 

 

伊丹はデジャブを感じた。アキバで同類の志(オタク)がフィギュアを舐め回すよう見る姿を思い出した。

 

 

(あ、なんかロゥリィが嫌がる理由がわかった気がする……)

 

 

しばらく見るが、どれも力不足なのかがっかりした様子だった。

 

しかし、視界の隅に入った女性に目を輝かせる。

 

 

「ま、まさか……」

「え、ロゥリィ()()はまずくないか!?」

 

 

そして()()に憑依しようとした。

 

 

「!?」

 

 

静電気のような光が走り、ハーディは驚いた表情をした。

 

 

「……」

 

 

しかしセラーナは動じなかった。どうやら憑依は失敗したらしい。

 

 

ハーディはお預けされた犬のように渋々諦め、次のターゲット(レレイ)に憑依した。

 

 

「「あーー!?」」

 

 

先ほどの出来事に唖然となっていた隙を突かれてしまった。

 

 

「レレイ、大丈夫か!?」

 

 

気を失ったレレイは目が開くと同時にショートヘアが一瞬で腰まで伸びた。

 

 

「遠路はるばる、よくおいでくださいました。私がハーディです」

 

 

レレイが普段浮かべることのない微笑みをうかべた。

 

 

***

 

 

(まさか、これ全部食うの!?)

 

 

伊丹たちはレレイの身体に憑依したハーディに連れられて、神殿外の超高級料理店にいた。

 

どうもハーディは腹が減ってるとのことで付き合わされたが、量が異常である。

 

そんなご馳走を口にしながら、一同は色々と話をすることになった。

 

 

まずはハーディが兎に角色々と楽しませてくれないとレレイの身体を返さないということ。もちろん色々とは食欲、睡眠欲を除く人間3大欲求(キマシタワー)のことである。

 

もちろんロゥリィは断固拒否し、両刀を見抜かれたテュカも断った。

 

 

「貴女は?私、異世界の女性にも興味あるし、貴女好みですよ」

 

「それは光栄ですわ」

 

 

セラーナは冷静に答える。

 

 

「しかし私にはそのような資格はございません。もしどうしてもというならマーラの首飾りをお付け願いますわ」

 

「へー、女の子同士きにしないのですね」

 

「なぜ気にするのですか?」

 

 

セラーナはキョトンとする。

 

 

「異世界って、すすんでるのねぇ……」

 

「どうもそうみたいだなあ……」

 

「何よ、お父さん。ニホンも人のこと言えないじゃない。BL、オカマ、ゲイバー、シュードー……」

 

「テュカ、どこでそんな言葉を……」

 

 

小声で話すロゥリィと伊丹にテュカも割って入ってきた。

 

 

「では貴女はどう?」

 

 

そして毒牙はムッツリダークエルフ(ヤオ)にも向けられた。

 

 

「ハーディ様、以前のこの身ならともかく、今や貴女への信仰を捨てたこの身は断固拒否します!」

 

「あら残念」

 

「貴女ならお分かりであろう、我々ダークエルフの一族や、(イケメン)オークたちが貴女の仕業でどうなったか!一族は炎龍に食い殺され、オークたちもあの漆黒龍に滅ぼされたのだぞ!」

 

「ええ、確かに炎龍をけしかけたのはこの私です。しかし、それがどうかしたのですか?万物は生きるために他者を犠牲にするものです」

 

「しかし何もダークエルフを餌にしなくとも!」

 

「そんなこと、私の知ったことではありません」

 

 

堪忍袋の緒が切れたヤオは腰のサーベルで切りかかるが、辛うじて伊丹に止められる。

 

 

「止めろ!身体はレレイだぞ!」

 

 

そんな騒ぎを横目で見ながらハーディはふとため息をつく。

 

 

「ただ一つ、貴方方は大きな誤解をしている」

 

「「「え?」」」

 

「あの漆黒龍は、私とは何の関係もありません」

 

「どういうことよぉ、貴女神なら何でも知ってるんじゃないのぉ?」

 

「理由は順を追って説明します。とりあえず、最後のデザートを食べてまた話しましょう」

 

 

ハーディはウェイターを呼ぶ。

 

 

「デザートを持ってきて」

 

「かしこまりました。本日は旬のイチゴのトルテでございます」

 

「ええ、それをいただくわ……っ!?」

 

 

そこにいた(ウェイター除く)全員が違和感を感じた時は既に遅かった。

 

周りの空間が歪み、まるで幻を見せられたか、別世界に連れてこられたような感じだった。

 

 

「固有結界か!?それとも敵のスタ●ド攻撃か!?」

 

 

伊丹はオタク知識を借りてまず思い浮かんだのこの言葉だった。

 

だがたどり着いたのは何とも寂しいどんよりした風景の屋外だ。何故か長テーブルとご馳走が置いてある。

 

そしてそこには一人の身なりの良い初老の男が座っていた。

 

 

「なんなんだ、ここは……」

 

 

ヤオが辺りを見回す。

 

 

「みんな、怪我はないか?」

 

「ええ、大丈夫よお父さん」

 

「ハーディさん、ここは?」

 

「?、ハーディじゃない。私はレレイ」

 

「え?」

 

 

よく見るとレレイは元の髪の長さにポーカーフェイスに戻っていた。

 

さらに驚いたことに、ハーディが分離して実体化していた。

 

 

「く、何という魔力……いや、魔力ではない?」

 

 

ハーディはいままでのように涼しい表情ではなく、険しい表情を見せる。

 

 

「とりあえず、あの爺さんに何か聞いてみるか」

 

「そうねぇ」

 

「ちょっと、待ちなさ……」

 

 

しかしハーディが止める前に男の方から口を開いた。

 

 

「新しい訪問者たちよ、よくぞ来たな嬉しいそ。お前たちの腸を引きずり出して大縄跳びをしたいくらいだ!」

 

「ふぇ?」

 

 

唐突に恐ろしいことを口走る男。伊丹たちは思考が追いつかない。

 

皆ぽかーんと開いた口が閉じない。

ハーディとレレイを除いて。

 

 

「とりあえずお茶にするか!宴にするか!正直どっちでもいい!チーズさえあればな!ああ、チーズのためなら死んでもいい」

 

 

意味不明な言葉を陳列する男を前に、伊丹は必死思考を巡らす。ナゾナゾか?お告げか?単なる狂人か?そもそも人間なのか!?

 

 

「私が説明しましょう」

 

 

突如背後から女性の声がした。

 

全身悪魔のような鎧(デイドラ装備)を纏った女性と思われる人物がワームホールのようなものから出てきた。

 

 

「彼は狂人の王にしてデイドラ王子の一人、シェオゴラス。今宵は、我々の晩餐会に招待致します」

 

「いやいや、君たちは実に運がいい。今日は特別でな、もういっぱい来ているのだよ!」

 

 

ハイテンション爺さん(シェオゴラス)はそう言い放つと、背後からワームホールのようなものが複数現れ、中から異形のものが10体ほど現れた。

 

触手に目を沢山生やした物や、狼男のような霊やら普通人型だったり……クトゥルフ神話に出そうなものが多い。

 

 

「いやぁぁああ!だから地下とか嫌なのよ!」

 

「失礼ね!私の領域にはこんなのいません!そもそも地下かどうかも分からないし!」

 

 

ロゥリィが悲鳴を上げるとハーディが異論を唱える。

 

 

「ようお前ら、久しぶりだな!」

 

 

聞き覚えある声に振り返ると、そこには(バルバス)がいた。

 

 

「なんであんたがいるのよぉ!?」

 

「何でって、呼ばれたからに決まってるだろ。本当はご主人がめんどくさがって行かされたけど……」

 

「それでは、始めましょうか」

 

 

デイドラ装備の女は不気味な抑揚をつけて宣言する。

 

 

「第1次異世界会議を!」

 

 

***

 

 

一方、日本

 

 

「ったく、緊急事態だからってマスコミたちは立ち入り禁止かよ」

 

 

マスコミ関係者の男が門の近くのビルから門を眺める。

 

 

「これでは社会の公平性はどう保つんだよ。自衛隊も色々と問題起こしたみたいだしよ。しかしまあ、アメ公相手は悪いな……」

 

 

自分以外のマスコミ関係者が強行手段を取った際、数名が銃口突きつけられて連行されたのを思い出す。

 

 

「あー、くそっ……やってられないぜ」

 

 

そう言ってタバコを咥え、火をつける。

 

 

 

そして爆音は銀座中に響いたという。

 

厳戒態勢の自衛隊、米軍、警察はすぐに対処したが、原因は不明、ガス爆発が推定された。

 

 

そしてこれを見た米軍の一人は報告を上げる。

 

 

「キャプテンへ、こちらヴェノム。対象は()()()()()。繰り返す、対象は()()()()()

 

『こちらキャプテン。了解、すぐにジョーカーに報告しろ』

 

「了解」

 

 

その米兵門をくぐると、メモに暗号を書いて近くで待機していたヴォーリアバニーに近づく。

 

 

「変態」

 

「……紳士」

 

 

互いに頷くとメモを渡さす。

 

そしてそのメモは数日かけて、何人もの手を渡る。

 

 

「ほらよ。ジョーカー宛てさ」

 

 

ノッラは加藤に紙を渡す。

 

 

「さすが笛吹き男(パイパー)の諜報力は高いな」

 

 

そう言って加藤はそのまま草加に渡す。

 

 

「ふむ……敵の目と耳(メディア)を潰したか。そろそろ動くな……」

 

 

草加はそう呟くと紙を焚き火に放り込む。

 

 




MHWのコラボにウィチャーは驚きましたね。次回作アイスボーンのコラボにスカイリムキボンヌ(ドラゴンボーンもかけて)。


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龍壊

本当にお久しぶりでございます。

正直のところ、早く終わらせたいというのもあります。小説って思ったより難しいので。しかし、皆様が読まれてる限り、終わるまで続けます。




時期不明、タムリエル

 

 

「……」

 

 

一人の若者が石に腰を下ろし、沈みゆく夕日を見つめる。

 

 

「つまらないな……」

 

 

そう思ったは何度目だろうか。

 

全種族の男女に生まれ変わり、ありとあらゆるギルドに所属しては最高位まで上り詰めて得た称号や二つ名は数知れず。

狩った龍の数はドラゴン装備一式が無数に作れるほど。

 

帝国(インペリアル)側についた。反乱軍(ストームクローク)にもついた。どちらにもつかなかったこともあれば、両方潰したこともある。それどころか全ギルドさえ潰したこともある。

 

しかし世界の結果に大きな変化はなかった。

 

だから試してみた。

 

上級王や皇帝を殺害した。そして自分が皇帝となってみた。

 

養子ではなく、実子を設けて子孫繁栄させてみたり、数多くの愛人や妾に囲まれ、多くの女をたぶらかし、数多の男を籠絡してみた。

 

シロディールから戦線布告された時は国ごと滅ぼした。

 

タムリエル全土を統一してみた。

 

そしてその次には吸血鬼軍団を率いて人類を滅ぼしたかと思えば、人狼となり単独で吸血鬼を滅ぼしてみたりもした。

 

そしてこの世に存在するはずのない禁忌の装具(MODアーティファクト)をもって世界を変えようと試みた。

 

しかし、何も大きな変化はない。

 

まるで自分の努力は所詮世界という大きな川の流れの中の一雫の水(個人)のように。

 

虚しかった。

 

全てやり尽くした自分の存在意義を疑った。

 

 

だから壊した。

 

 

世界の全てを。

 

 

第2の世界を喰らいし者(アルドゥイン)として恐怖の対象となり、どれだけの時間が経過しただろうか。

 

いや、そんなことどうでも良い。もう恐怖する者などこの世にいないのだから。

 

 

「それにしてもすごい量ね。全部貴方がやったの?」

 

 

ふと後ろから声がした。

 

生き残りか?そんなはずはないのだが。と思いながら振り向く。

 

 

そこには死体の海に足場を探しながら近づいてくる全身デイドラ装備の女がいた。

 

 

「デイドラに興味はない。どうせ殺しても数百年後には生き返るのだろ。心臓も十分すぎるほどある」

 

 

抜きかけた剣を鞘に収め、再度腰を下ろす。

 

 

「貴方、次はどうするつもり?」

 

「別に何も。また世界を壊すだけ、もう何回壊したか覚えていない」

 

「1397643回ね」

 

「数えていたのか、デイドラらしいな。で、何用だ?」

 

「貴方は寿命を全うして平穏に暮らすことは考えなかったのかしら?」

 

「そんなのごめんだな。死んだ瞬間エイドラやデイドラの眷属か使徒のどにされるのだろう?そんなのごめんだな。私は私だ」

 

「そんな貴方に良い話があるのだけど」

 

「どうせデイドラの考えることはまともなものがないが、聞くだけ聞こうか」

 

「どうせ破壊するなら、異世界を破壊したいと思わない?」

 

「……ニルンとは別のか?」

 

「ええ、貴方さえ良ければ招待するわ」

 

「……一体何を企んでいるのやら。まあどうせデイドラの考えはおもしろそうだから、とかだろうな」

 

「半分当たりよ。で、どうするの?」

 

「当たり前のことを聞くな。とっとと案内してもらおうか」

 

「ええ、ではようこそ。地球へ」

 

 

***

 

 

 

 

 

 

 

 

アルドゥインはボロボロになっていた。

 

そう、文字通りボロボロ。

 

身体に傷一つ付くはずのない、死の概念を持たない彼の身体のあちこちから、肉眼では確認できないほどの小さな日々と、そこから漏れる薄い黒い煙のようなものが漏れていた。

 

そのため、周囲は黒い霧のような状態であった。

 

 

「ムフフ〜、流石にこれだけ喰らえば君でも無理かな?」

 

 

ドヴァキンは不敵の笑みを浮かべる。全く余裕であった。

 

 

「くそ、何故だっ!?」

 

 

アルドゥインは吠える。

自身にスゥームで修復するも、漏れた霧は元に戻らなかった。力が弱まってるあたり、もしかしたら力の源かもしれない。

 

 

「いかに君が概念的存在だとしても、君は()()に存在するんだよ。例えそれが死の概念持たない()()だとしても、ものとして存在してるのだよ」

 

「しかし何故貴様に我を破壊する術を持っている。ドラゴンレンドも使わず!」

 

「今から説明するから黙れよ。僕が日本とかあちらの世界にいる間、伊達に遊んでいた訳ではないよ。つまらない義務教育やらしながら、誰にもバレないようにウザい奴は葬ったりしたけどさ。

新しい世界は制約が多いからつまらないところも多かったけど、ニルンでは考えられないような知識が沢山あった。

そして何周もすれば、世界中の知識を得ることができた。虚数、シュレディンガーの猫……物として存在しないが、理念として存在するもの、それをいとも証明していた。

そしてこれを組み合わせた結果……」

 

 

そして懐から黒い不定形の剣のようなものを取り出す。

 

 

「僕が作り出した神器(アーティファクト)、『世界を喰らいし者(アルドゥイン)』」

 

「なっ!?」

 

 

その剣から漂うオーラは、正にアルドゥイン彼自身と同じだった。

 

 

「君を殺すことができるのは、君自身という最適解を得た。こいつを完成させるために、君に死んでもらいたい」

 

「ほざけ!そんなやすやす死んでたまるかぁ!!」

 

「だから死ねって言ってるんだよぉぉ!」

 

Dinok () Ko(超える) Daan(絶望)

 

 

突如地面から無数の白い霊気が現れた。

 

 

「!?」

 

 

ドヴァキンは一瞬攻撃をためらう。

 

辺り一面がヒト種、獣、龍種、そして触手などの異形の霊気で埋め尽くされた。そしてそれらがドヴァキンを引きずり込もうとした。

 

アルドゥインがオブリビオンに幽閉されていた間、独自に編み出したスゥームを放った。

 

 

「貴様を直接にオブリビオンの領域に送ってやるわ!」

 

「とうとうデイドラの力に堕ちたか、アルドゥイン!」

 

 

ドヴァキンは嗤う。

 

 

「貴様に言われたくはないわぁ!とっとと地獄(オブリビオン)に落ちろぉぉ!」

 

 

それでもドヴァキンは嗤いながら避けて近づこうとした。

 

 

「こんなの楽勝さ……わっ!?なんだこれぇ!?」

 

 

触手の霊気に触れた瞬間、身体が粘液に絡まれ、動けなくなった。そしてみるみる引き摺り込まれて行く。

 

 

「フフフ、流石に体内の九割強の魂を消費しただけはあるな。そのまま死ねえぇ!」

 

「く、こんなもので!?」

 

 

そしてドヴァキンは飲み込まれて行く。

 

そして同時に霊体は消える。

 

 

「ふー、ふー……やったのか?」

 

 

しばらく何も起きなかった。

 

そしてアルドゥインは胸をなでおろすように呟く。

 

 

「レル・パ・スゥーム……」

 

 

そしてホッとする。

 

 

「やられるわけないだろう」

 

 

しかしそれも束の間。突如地面が割れて彼が、生ける屍の龍とともに飛び出す。

 

 

「くっ、流石に無理か……って誰だ、そやつは」

 

 

アルドゥインは生ける屍の龍を指す。

 

 

「ア、アルドゥイン様!?」

 

「誰だ貴様?」

 

「え……」

 

 

どうも相当ショックを受けたようだ。

 

 

「こいつはダーネヴィール。僕がソウルケルンで出会った、かわいそうなやつだよ。アイディールマスターの罠にハマってずっと閉じ込められていたのさ。知り合いじゃなかったのか?」

 

 

ドヴァキンが補足する。

 

 

「……」

 

 

アルドゥインは必死に思い出す。

 

 

〜遥か昔、龍戦争時代〜

 

「おいアルドゥインよ、聞いたか?」

 

「なんだ?」

 

 

若かりし頃のアルドゥインとパーサーナックスが()()していた。

 

 

「どっかのめんどくさがりのドヴァ(ダーネヴィール)がアンデッドの軍団作ろうと失敗して幽閉されたらしいぞ、次元の狭間(ソウルケルン)に」

 

「それ、うけるなw」

 

 

そんな談話で森の一つ吹き飛ばしてしまった二頭であった。

 

 

〜〜〜

 

 

「あー、風の噂で聞いたがどうやらマヌケなドヴァらしいな」

 

「酷い!」

 

「うるさい。Yol(火炎)!」

 

「フギャァァア!」

 

 

そしてダーネヴィールは消えてしまった。

 

 

「なんだやはり雑魚か」

 

「まあ、でも彼から教えてもらったスゥームを唱えればまた呼び出せるけどね」

 

「……ふん、ある意味不死身か。気に食わんな」

 

「そう、こんな感じでさ。Dur(呪い) Neh(決して) Viir(瀕死)!」

 

 

しかし、何も起きなかった。

 

 

「……あれ?」

 

 

そしてもう一度試すが、結果は同じだった。

 

 

Fus Ro Dah(ゆるぎなき力)Fus()! Fus()……」

 

「……」

 

 

アルドゥインはほくそ笑んだ。

 

そして、ドヴァキンはようやく状況を理解した。

 

 

「アルドゥイン……貴様何をした?」

 

 

精一杯余裕をかまそうと歪んだ笑みを浮かべつつも、どこか引きつっていた。冷や汗すらかいてる。

 

 

Rel(支配) Pah(全て) Thu’um(龍語)……今の貴様なら、我が唱えたスゥームの意味を分かるな?」

 

「……初めて聞くシャウトだね。全てのスゥームを支配下に置く、つまり君以外スゥームを使えなくなると?」

 

「ご名答。短い間だが、スゥームはこの世界で我しか使用を許されない」

 

「ハハ……そんなチートシャウトいつ唱えたのさ……」

 

「貴様が冥界から抜け出そうとする前だ」

 

「まさか、あの触手やら無数の霊体は、囮だったということか。霊力の半分以上使ってまで!?」

 

「うるさいな。時間稼ぎしようとムダだ。ここで貴様には死んでもらう」

 

「なあ、ちょっと……取り引き……」

 

Nahlot(黙れ)Dir(死ね)!」

 

 

そしてドヴァキンの頭部を噛み付いて左右に勢いよく振ると、残りの下の部分がちぎれて地面に堕ちる。

 

そして口の中の物は噛み砕いて飲み込む。

 

 

「やったか!?」

 

 

特に何も起きなかった。

 

 

「勝った、勝ったぁぁあ!」

 

 

アルドゥインの雄叫びは特地の裏側まで聞こえたという。

 

 

***

 

 

会議を始めると宣言したものの、各人が好き勝手やるので始まる気配は一切なかった。

 

 

「貴様の知識を我に明け渡し、我の眷属にならぬか?されば知識の宝庫をさずけるぞ?」

 

「断る」

 

 

ハルメアス・モラが眷属の気持ち悪いクリーチャー(シーカー)を通じてレレイを勧誘するが、断られてしまう。

 

 

「バルバス、今日こそ息の根とめてやるわぁ!」

 

「おい、ロリBBA嬢ちゃん、そのでかい斧を降ろすんだ!しかも悔恨の斧と同じ効果付きじゃねーか!やめろ!死ぬ!死ぬからやめて!」

 

 

お約束の涙の再開。

 

 

「よおあんた、酒は飲める口かい?」

 

「少しなら……」

 

「じゃあ勝負しようぜ、男なら断るのは無しだぜ」

 

「えー……」

 

 

どこぞの日本とかいう国の上司に絡まれるように伊丹はハイテンションなデイドラ(サングイン)に絡まれる。

 

 

「お前の炎龍に一矢報いた雄姿、見ておったぞ。狩る者に対して一撃を放つとは、なかなか見ごたえがあったぞ」

 

「えへへ……そ、そうかな?」

 

 

半透明のシカ(ハーシーン)に褒められて赤面するテュカ。

 

 

「この世界のダークエルフは、褐色なのか。

タムリエルのよりも良い肌に身体つきだ」

 

「ちょ、この身は伊丹殿の……ンッ!?」

 

 

アズラに身体のあちこちを触られるヤオ。

 

 

「セラーナよ、我に身を委ねれば更なる力を与えるぞ?」

 

「モラグ・バル様、日本ではそれをセクシャル・ハラスメント、通称セクハラと仰せられるそうですわよ?そもそも、霊体で何ができるのですか?」

 

 

以上のように、カオスを超えてもはやシュールとも言える状況にハーディがとうとう痺れを切らす。

 

 

「会議か何か知りませんけど、まだ始めないのですか!?」

 

 

テーブルを叩くと真っ二つに折れると、粉々になった。

 

 

(怖えぇ……)

 

 

ハーディが初めて見せる怒りの表情に伊丹は涙目になりそうになる。

 

 

「やれやれ、もったいない」

 

 

そう言い、シェオゴラスが指を鳴らすとテーブルと食事は元どおりになる。

 

 

「あらすみません。私のマスターの友人達はいつもこんな感じですので気にしないでください」

 

「何その態度!?こちらは世界を侵食されてピリピリしてるのですよ!」

 

「おおー、そうだった、異世界を侵攻ちゅだった。その話し合いをするのを忘れていた。こりゃ参った」

 

 

シェオゴラスはハハハ、と高らかに笑う。もはや会議ではなくコントである。

 

 

「道理で……やはり貴方達が侵略してるのですね」

 

 

ハーディは怒りを抑えて丁寧に話すが、頬がプルプルと震えている。結構ガチギレのようだ。

 

 

「んで、各自の成果の方はどうだ?」

 

 

シェオゴラスが問うと、まずハルメアス・モラが答える。

 

 

「我の眷属(オストガロア)がアルドゥインに倒されてしまったな。誠に残念であるが、今ここにいる定命の少女を誘っておるところだ」

 

「だから私は眷属にはならない」

 

 

レレイはきっぱりと断る。

 

 

「ふむふむ、モラよ、お前はとりあえずリタイアだな。ところで、よくよく見たら全員揃ってないが、このまま進んでよいか?」

 

「マラキャス様は眷属(イケメンオーク)が滅びたため、もう興味はないとのことです。

メリディア様はアンデッドが少ないと見たのか、あまり興味はないそうで欠席です。

ヴァーミルナ様はそもそもシェオゴラス様に会いたくないようで……」

 

 

デイドラ装備の女が報告する。

 

 

「わかったわかった、もうよい。これ以上は話が進まん。では次に……」

 

「報告だけなら私たちは必要ないでしょ!?そろそろ私たちを読んだ理由を教えてくれませんか!?」

 

 

ハーディがまた切れる。

 

空気が震えており、ロゥリィですら怖じ気る。しかしデイドラロードと眷属達は眉ひとつ動かさない。

それどころか「どうした。何故にそんなに怒る?」といった表情だ。

 

 

「短気な異世界の女神だな。嫌いではないぞ、腸で首を絞めてやりたいぐらいにな。まあ確かに、お前たちを呼んだわけも話すか」

 

 

シェオゴラスの言葉に伊丹たちは唾を飲み込む。

 

 

「理由なんて無いさ」

 

「「「へ?」」」

 

「理由なんて無いさ。大事なことなので2回言うぞ」

 

「そんな理由ですか!?」

 

 

ハーディの怒りの限界は既に超えていた。ドラゴ●ボールで言うなら多分スーパーサ●ヤ人スリーあたりと伊丹は思った。

 

 

「まあ、あとは何となく呼びたかったから、だな。お前たちと話したかったというのもある」

 

「滅ぼしますよ!?」

 

「まあそれができるならな。所詮定命の者(人間)から神に成り上がった存在などたかが知れてる。まあ、タロスは少し別だが」

 

 

四つ腕の鬼(メエルーズ・デイゴン)が言い終わると同時に何か爆発物が顔面を直撃したが、ピンピンしていた。

 

 

「まあ悪くない。死んだところで数百年後には蘇るが」

 

「くっ……」

 

 

ハーディは悔しそうに唇を噛む。

 

 

「あの、一ついいですか?」

 

 

伊丹が恐る恐る手を挙げる。

 

 

「何だ、顔の平たい人間?」

 

「もしお話したいとの理由でしたら、会議の後でも良いので、色々とお話できたら……とか思ったりしてます、はい……」

 

「ちょっとヨウジィ、もっとシャキッとしなさいよ、唯一の男なんだから!」

 

 

ロゥリィに都合よく男であることを利用される。ロゥリィも内心少しビビってるようだ。

 

 

「お前は面白い奴だな!お前みたいなやつの肺で風船を作ってやりたいくらいだ!」

 

「それは遠慮します……」

 

「そうだな、とりあえず我々の成果を聞いてからでも遅くないと思うぞ。そこにはお前たちが知りたがってるヒントや答えがあるかもしれないしな!」

 

 

とりあえず、穏便に話が進みそうなので、安心した。

 

 

「ヨウジやるわねぇ!さすが口先と幸運だけはあるわぁ!」

 

「それ褒めてるのかあ?」

 

 

女性陣に褒められていると、胸元がすごくセクシーなお姉さん(ノクターナル)と目が合った。

 

 

「!?」

 

 

そしてウィンクをされる。

 

 

「お父さんどうしたの?顔赤いよ?」

 

「いや、なんでもないさ、ハハ……」

 

 

その様子をノクターナルは遠くから見つめる。

 

 

「可愛い坊や(30代のおっさん)だこと」

 

 

***

 

 

とりあえず、伊丹たちが聞いた内容をまとめると以下のようになった。

 

・アズラ:傍観のみ。

 

・ボエシア:どっかのヘタレバカ皇子(ぞゾルザル)を眷属としているが、ヘタレすぎて何もしないので嘆いている。

 

・クラヴィカス・ヴァイル:異世界同士を繋げた張本人。基本傍観、だけど伊丹たちに援助した。ぶっちゃけどちらに転んでもよい。

 

・ハルメアス・モラ:異世界のイカ(オストガロア)で侵攻を考えるものの、アルドゥインに倒される。新しい眷属にレレイを誘うが無理っぽい。

 

・ハーシーン:実は異世界龍(モンハン)を呼び寄せた。狩るか狩られるかの世界が見たいだけ。あとは傍観。

 

・マラキャス:イケメンオークの新たな聖地として送り込んだがアルドゥインに滅ぼされる。もう諦めた。

 

・メエルーズ・デイゴン:砦蟹(シェンガオレン)巨龍(ラオシャンロン)の侵攻を担当。惜しくもアルヌスを潰せず。

 

・メファーラ:とある人物たちを裏切るようにさし向ける。詳細は教えてくれなかった。

 

・メリディア:興味なし。不参加。

 

・モラグ・バル:まだ公開しないとのこと。いずれ何者かが「支配」するだろう、と。

 

・ナミラ:亜人たちがメファーラが目にかける者と協力関係になるよう誘導。

 

・ノクターナル:驚くことに、伊丹たちの運補正に関与していたのだとか。伊丹はお気に入りらしい。

 

・ペライト:不明。

 

・サングイン:飲み会と聞いて参加しただけ。

 

・ヴァーミルナ:嫌いな奴(シェオゴラス)がいるので不参加。

 

・シェオゴラス:そもそも異世界侵略の考案者

 

 

もはや理由がバラバラである。何がしたいのかさっぱり分からなかった。

 

 

(あれ、これってもしかして……)

 

 

伊丹は今までオタク知識をフル回転させ、分かってしまった。こういう明確な目的を持たない奴らの目的を……

 

 

「もしかして、皆さん……暇つぶしに侵略してますか?」

 

「おおー、素晴らしい!よくぞ分かったな!いやはや、さすがドラゴンボーンではないのに推理したな!素晴らしい!」

 

 

ハイテンション爺さん(シェオゴラス)が拍手しながら言う。

 

 

「暇つぶし、ですって……?」

 

「ああ、我々の世界で暇だったんでつい。あまりにも暇すぎてあそこにいる強●王(モラグ・バル)なんぞ現世にちょっかい出したら見事に返り討ちにあってな。あれは結構ウケたww」

 

「それを言うなー!」

 

「所詮は強●王か」

 

「貴様は破壊王のくせに先に負けているではないか!」

 

「あれはアカトッシュの加勢がなければ勝てたのだ!」

 

 

メエルーンズ・デイゴンが鼻で笑うと口論(物理)が生じる。

 

 

「まあこんな脳筋共はほっといて……」

 

 

シェオゴラスが奇妙な杖で2人を強制的に別次元(オブリビオン)に送還する。

 

 

「貴方たち、暇で他者に迷惑をかける人がどこにいるんですか!」

 

 

ハーディの怒りも虚しく、デイドラ陣営はまたも「なんで?」「別に悪いことじゃないよな?」「いいじゃない」という調子であった。

 

終いには「これだから定命者から成り上がった奴らは……」とため息をつかれる始末。

 

 

「信者獲得のために異世界への進出、聖戦、宗教戦争ではなく、暇だったからなんて……正気じゃないわ!」

 

「と言われてもねえ……」

 

「私たち別に信者ら領土のような利益求めてるわけじゃないし……」

 

「ぶっちゃけ宗教戦争なんて人間が神々の名を口実に自分の利益のために人騙くらかして起こしてるみたいなもんだしな」

 

「うぐぐ……」

 

 

ハーディと彼らの温度差は氷とマグマほどの差はありそうだった。

 

そう、彼らは特地の世界を、チェスの盤程度にしか見ていない。

 

自分たちのお気に入りの駒を競うために異世界を使ってるだけ。

 

例えは悪いかもしれないが、彼らにとって所詮ゲームの世界でしかないような感覚であった。

 

だから異世界の神(ゲームのAI)に何を言われても気にしないように。

 

 

「いいわ、貴方たちが世界を壊そうというなら、こちらもただでは壊させないわ……」

 

「おめー何を言ってんだ?お前さんだって自分の世界が壊れていくところ見たがっていたくせによ」

 

「「「え!?」」」

 

 

バルバスの言葉に伊丹たちは一斉にハーディの方を注視する。

 

 

 

「だって、お前が日本とかいう異世界にそちらの門を繋いだのは、今の世界が気に入らねえからしたんだろ?」

 

 

バルバスの言葉に伊丹は思い出した。

 

そうだ、異世界が最初に繋がったのは、アルヌスと銀座。そしてそのとき、日本は多数の犠牲者を出した。その間接的な原因がまさか、目の前にいた。

 

 

「ち、違う!私は停滞した世界を変えるため、異世界との繋がりによって変化を見たかっただけであって……」

 

「要するに暇だったんだろ?日常がつまらなかったんだろ?」

 

 

ハーディがどんどん追い詰められているのを伊丹は感じた。神さまも追い詰められるとこんな表情するのかと思った。

 

 

「認めちまえよ。所詮あんたも俺たちも変わんねーよ。結果だけみれば、あんたも十分日本に迷惑かけたぜ」

 

「違う、私は違う、違う!ウワァァァア!」

 

 

バルバスの言葉がハーディの心に突き刺さる。

ハーディがまさかの号泣である。

最初は怒りがこみ上げてきたものの、なんだか少し可愛そうになってきた。

 

 

「自分が正しいとか、被害者だと勘違いしてるやつをぶちのめすのはスカッとするぜ。俺は変えるぜ。まあせいぜい頑張ってくれよ」

 

 

バルバスはオブリビオンへ帰還した。

 

 

「そうだな、そろそろお開きだな。お前たち、何か聞きたいこととかあれば今のうちに言っとけ!」

 

 

シェオゴラスが伊丹たちに声をかけた。

 

 

「え、じゃあお言葉に甘えて……あの、まずメファーラ様」

 

 

下半身蜘蛛の女性(?)に話しかける。

 

 

「何かしら」

 

「貴方は特定の人物たちを、裏切るように仕向けたと言ってましたが、それは私の近しい人ですか?」

 

「さあ、それは貴方が一番知ってるのでは?」

 

「……では、その働きかけは、絶対に拒めないものですか?」

 

「……それも、貴方が一番知っているはず。一つ言えるのなら、裏切りによって結果が良くなることも、あるということだけ教えてあげましょう」

 

「反英雄みたいなものか」

 

「そうね、貴方の知識の言葉を借りると。まあどう転ぶかは、それが醍醐味よ」

 

 

そう言ってメファーラも消える。

 

気がつくとほとんど居なくなっていた。

 

 

「坊や、私からの餞別よ」

 

「えっ?」

「「ええー!?」」

 

 

振り返り様にセクシーデイドラ(ノクターナル)の唇が伊丹の額に触れた。もちろん女性陣から悲鳴が聞こえた。

 

 

「では頑張りなさい」

「にしてもノクターナルお姉様、貴方ダメ男が好みなんて好きモノね」

「あらアズラ、ダメ男を頑張らせるのが私の仕事よ」

 

 

そう言い残してまたデイドラたちが消えてゆく。

 

 

「もしそなたが我の力を必要と感じたならば、我はいつでも歓迎するぞ。その時、この『黒の書』を開くがよい」

 

 

ハルメアス・モラも半ば押し売りのようにレレイに黒い本を数冊押し渡す。

 

見た目からしてやばそうな本だった。

 

 

結局、最後伊丹たちとシェオゴラスだけになった。

 

 

「おお、もう終わりか!?みんな帰ってしまったではないか。お前も帰るか?帰りたい?帰りたいんだろお!?」

 

「ああ、帰らせてもらいたい。ただ、もう一つ聞きたい」

 

「いいぞ、答えられる範囲なら答えるぞ!今日は実に気分がいい。最高にハイ、ってやつだぁぁぁあ!」

 

(マオ)……いや、こちらでは何と呼ばれてるかしらないが、顔を自由に変え、驚異的な身体能力を持つ者に関して、何か情報があれば……」

 

「ああ!あのドヴァキンのことか!」

 

「知ってるのか?教えてもらいたい」

 

「知ってるも何も、こちらの世界の人間だったからな!ただ、こちらの世界の人間()()()だけだ。確かに、あやつは天才で最強だった。だがある時からかわりはててしまった。だから、詳しいことは分からん!もしかしたら今日不参加の奴らの誰かが関与してるかもしれないが」

 

「そうか、ありがとう。ただ、一部の疑問は解けたから大丈夫です」

 

「もしかしたら今日の参加者であまり詳細に教えてくれなかったデイドラが関与している可能性はあるな」

 

「わかった。ありがとうございます」

 

「いいさ。ところでセラーナ、お前はどうするつもりだ?今すぐ返せるぞ」

 

「すぐ帰りたいのは山々ですわ。しかしデイドラロードにお願いするとロクなことにならないのでご遠慮致しますわ」

 

「なんだつまらない奴め。ドーンガード(吸血鬼ハンター)要塞のど真ん中に送ってやろうと思っていたのに。まあ良い、お前たちを返さねば。元気でな!ニュー・シェオスに寄ることがあれば私を訪ねてくれ。イチゴのトルテをご馳走するぞ。一期一会の、トゥルットゥー!……まあ多分もう会うことはないが」

 

 

変なダジャレを言い残すと、伊丹たちの視界が真っ暗になった。

 

 

そしてまた孤独となったシェオゴラスは椅子に座る。

 

 

「そういえば、今日招待するの忘れていたような……ああ!そうだ!アイディール・マスターのこと忘れておった!」

 

 

***

 

 

「なぜだ!?なぜだ!?なぜだぁぁぁあ!!」

 

 

アルドゥインは地が裂けるかと思うほど叫び上げる。

 

 

「なぜ貴様がそれを知っている!?」

 

 

目の前には奴が立っていた。

 

異形のドヴァキン(マオ)が。

 

 

Rel(支配) Pah(全て) Thu’um(龍語)……すごく便利だね。ありがとう、感謝するよ」

 

「くそ、なぜ……なぜだ!なぜ我が()()()()使()()()()()()()()スゥームを知っている!?我しか知らない筈だ!」

 

 

スゥームを奪われたアルドゥインなどもやは普通のドラゴンでしかなかった。

 

ブレス等の攻撃はおろか、不死身も飛行も奪われ、そもそも身体を維持するのが精一杯だった。

 

 

「何故だか分からないかな?人間より頭のいいドヴァならわかると思ったんだけど。まあネタバラシでもするかな」

 

 

マオは不気味な笑みを浮かべる。

 

 

龍の突破(ドラゴン・ブレイク)って知ってるよね?」

 

 

龍の突破(ドラゴン・ブレイク)。時を司るエイドラ、アカトシュが乱れた世界軸を修正するため、同時間軸に起こり得ないことを発生させ辻褄を無理やり合わせる特殊能力(ご都合主義チート)

 

どういうことだ?

 

奴がドラゴン・ブレイクを使えるのか?

 

 

「まあ、確かに世間一般で知られるドラゴン・ブレイクは世界の修正のために使われるもの、だね。ただね、僕は気づいたんだ。ドラゴン・ブレイクは、使う者によって微妙に異なるということを」

 

 

まさか……

 

 

「そしてこの僕はアカトシュの加護を受けた者。そして僕は何度もやり直して今の僕がいる」

 

「貴様……」

 

「そう、僕のドラゴン・ブレイクは、『時間を巻き戻し、やり直す』ことだよ」

 

 




もう答えを言ってるようなもんですけど、ここのドヴァキンちゃんは黒檀の剣士もびっくりの廃人プレイヤー、MODマシマシ汚染データ出身です。
ああ、データの渦(バク)に消された私のドヴァキンちゃんは元気かな……


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解答


大変お久しぶりでございます。仕事の都合で全然書けませんでした。
すみません。

今回はアル様は出番ないです。すみません

アルドゥイン「なんと、またか!」



 

元の世界(ファルマート)に無事に戻れた伊丹たち。

 

ただ一つ、どうも無理やり分離された副作用か、ハーディの力の一部がレレイに残ってしまった。

 

ハーディ曰く、彼女の魂の一部がレレイの肉体に引っかかってしまった状態とのこと。

 

パワーアップしたかと思うが、無理に力を行使すれば反動で死ぬかもしれないので注意するように、と言われ一同は別れた。

 

面倒な仕事を半分ぐらい押し付けられて。

 

 

「ハーディの奴ぅ、面倒な仕事を押し付けて……自業自得なのに!」

 

「まあ、一部はウチら(自衛隊)にも問題あるやつもいるので仕方ないけど……」

 

「お父さんってホントお人好しだねー。ホントのお父さんそっくり」

 

「それは褒めてるのかな?」

 

「おしゃべりはそこまでにして、もう目的地前でございますわよ」

 

 

セラーナが指を指す先は、旧帝国首都、現新臨時政府(ジパング)都市、ヤマト。

 

ハーディが別れ際にワープをさせてくれたおかげで、旅路はかなり短くなった。

 

 

「どうせなら門の前とかに送ってくれたらいいのに」

 

「そんなことしたら、混乱を招き、不要な血を流すことになるかもしれない」

 

「う……」

 

 

伊丹の愚痴に対し、レレイが鋭い突っ込みを入れる。

 

 

「まあとりあえず、行くか」

 

 

一同は覚悟を決めて足を進める。

 

 

***

 

 

草加と加藤は互いに向かい合って思考を巡らせていた。

 

 

「なかなかの動きですね」

 

「そうかな?」

 

 

そい言って加藤はチェスのクイーンを動かす。

 

 

「それは読んでいた」

 

 

草加は将棋の金でクイーンを取る。

 

 

「それは囮ですよ」

 

 

加藤は囲碁の石で囲む。複数の駒が一気に取られる。

 

 

「ほう、しかし罠にはまったのはお前だが」

 

((……な、なんだこれは!?))

 

 

遠目で見ていたピニャたち全員が思った。

 

チェスと囲碁と将棋を合わせたカオスなゲーム。

 

 

「やはりお前の考えたこのボードゲーム、なかなかいいな。頭を柔軟にするのにはもってこいだ」

 

「でしょう。複雑な戦争はこれがいいです」

 

「そうだな、チェスの駒は正規軍と言ったところか。そして将棋の駒は特地の現地兵か」

 

「そうですね、敵味方双方にいる上、囚われたら利用する可能性もありますし」

 

「で、囲碁の石は何になる?」

 

 

草加が尋ねる。

 

 

戦場の霧(不確定要素)、と言ったところですかね。目に見えない情報戦、サイバー戦、経済戦、心理戦、そして運。そしてもう一つ……」

 

「陸、海、空、宇宙空間、サイバー空間に次ぐ第6の要素か?」

 

「ええ、この世界で初めて実戦に活用できるもの。魔法です」

 

「ひと昔の私なら、核兵器を挙げるがな。しかしこの世界では確かに違うな」

 

「核兵器なんて、所詮70年前の時代遅れの兵器ですよ」

 

「チェクメイト、かな?」

 

「……参りました」

 

 

加藤は負けを認める。加藤はこのカオスなゲームの考案者であるのにも関わらず、実は草加に一度も勝てたことがない。

 

 

「ところで加藤、後ろのメイドが何かしてるがそれは何だ?」

 

「ん?これですか?」

 

 

加藤の後ろでサキュバスなのかメデューサなのかよくわからないが、髪が蛇の吸精鬼のアウレアが顔色悪そうにしていた。

 

 

「どうした?もう無理そうか?」

 

「ゴメンナサイ……今日ハ、モウ無理」

 

「ではもう休め」

 

 

そしてアウレアはフラフラと部屋を後にする。

 

 

「おかしいな……聞いてたのと全然違う」

 

 

加藤は頭を傾げる。

 

 

「何させてたんだ?」

 

「えーとですね、イタリカのフォルマル家から借りたあの吸精鬼に精気を吸われると、死ぬほど気持ちがいいらしいんですよ。実際死ぬみたいですけど」

 

「ほう、どうだった?」

 

「全然ダメでした。痛くも痒くも気持ちよくも特にないです」

 

「そうか。しかしそんな無意味なことを以前からしていたようだが?」

 

「あと記憶のバックアップですね。どうも記憶も読み取れるみたいなので、万一に備えてバックアップとろうかと。ただ、どうも相性が悪いのか、長くはできないみたいですけど」

 

「ふむ、奇妙だな。私も吸精鬼の資料は読んだが、そんなことは初めて聞いた」

 

「そうですよね、彼女も『こんな汚染された精神と記憶、初めて』とか言って初めては吐いてましたけど」

 

「まあ無理はさせるなよ。イタリカはまだジパング民ではないが、いずれなるかもしれないのだから」

 

 

実は現在イタリカは草加らのジパング、そして日米等の交渉場となっており、一応中立地帯となってるのだ。

 

今のところまだ水面下でしか動いてないが、いずれ公式の場とする予定のようだ。

 

 

「カトー少佐、少しよろしいですか?」

 

 

メイドの1人が耳元に囁く。

 

 

「分かった、行こう」

 

 

加藤は眼帯を外して予備の義眼を入れると、城門に向かう。

 

 

 

門の前には見知った顔があった。

 

伊丹と愉快な仲間たち(美少女(?)ハーレム)だった。

 

 

「いい度胸よねぇ、亜神ロゥリィに楯突こうっていうんだからぁ」

 

 

ロゥリィは城門の兵士たちを見定める。

 

ロゥリィのことを知ってる多くの特地民はびびっていたが、元自衛隊の加藤と数人はそんな素振りを見せなかった。

 

 

「伊丹殿の友人たちだな。死人のような目だな……」

 

 

ヤオが呟く。実際に、彼らの目は虚ろだった。

 

 

「これは伊丹2尉、そして猊下にレレイに両刀エルフにエロダークエルフに得体の知れないお姉さん。何しにこちらまで?」

 

 

加藤は上から覗き込み、微妙に仰々しい口調で尋ねた。

 

 

「だ、誰がエロダークエルフだ!?」

「そ、それに両刀エルフってどういうことよ!」

 

 

ヤオとテュカが顔を赤らめて怒鳴る。

 

 

(そりゃあまり馴染みなかったなー、レレイ以外は)

 

 

伊丹はそう納得してしまった。

 

 

「ねえ、カトウ?貴方一体何をしてくれたのかしらぁ?この世界で好き勝手にして、どう落とし前つけてくれるつもりぃ?」

 

 

ロゥリィが加藤を挑発するように話す。

 

 

「猊下、私は貴方の信者ではないし、この世界の神々に敬意をはらいつつも、指図されるつもりはない。好きに生きてるだけだが、何か問題でも?」

 

「へぇ、亜神相手にそんなこと言っちゃうんだぁ。そんな口聞いて、知らないわよぉ?」

 

「俺も知らねえよ」

 

「ムカー!殺すぅ!絶対殺してやるぅ!殺して男嫌いなハーディに送ってやるわぁ!」

 

「そうですわね。こんな真昼間でなければ簡単に突破できますわ」

 

「ロゥリィ、セラーナ、落ち着けぇぇぇえ!」

 

 

今にも暴れそうなロゥリィを伊丹が必死に制する。セラーナも何気に戦闘態勢に入っていたが、なんとか制する。

 

 

「で、伊丹2尉殿、何故こちらに?」

 

「……」

 

 

伊丹は考えた。なぜ加藤が自分を役職で呼ぶのか、試されているのを悟る。

 

 

「俺は伊丹2等陸尉ではなく、伊丹耀司として、来た。そしてこれを返しに来た」

 

 

伊丹はリュックからM4A1カービンを出す。

 

 

「ちょっとヨウジィ、それ唯一の武器じゃない!」

 

「ロゥリィ、俺を信じろ」

 

 

伊丹は小声で囁く。

 

 

「「……」」

 

 

加藤と伊丹はしばらく目を合わせる。

睨み合いではなく、互いの意思を確認するような、駆け引きのような視線。

 

 

「……()()たちを中へ案内しろ」

 

 

そして重い門が開かれる。

 

 

「ようこそ、我々の国へ」

 

「加藤ぉぉぉおお!」

 

 

門が開いた瞬間まず伊丹が放ったのは言葉よりも重い拳であった。

 

加藤はゾルザルが殴られた時より吹っ飛んだかもしれない。

 

 

「ふえー、ヨウジやるぅ!」

 

「有言実行、ジエイタイの鑑」

 

 

ロゥリィとレレイが感心する。

 

 

「|あれふぉろこふしふぁふかふなふぉひぃっはほひぃ《あれほど拳は使うなと言ったのに》……」

 

 

加藤は外れた顎を入れ直し、ズレた鼻を戻すと、何事もなかったように振る舞う。鼻血はこちらが心配になるほど溢れてるが。

 

 

「すまんね、客人殿。まずは伊丹は砕けた拳を魔法で治療してもらうか。話はその後だ」

 

「……お前も顎と鼻治してもらえよ……」

 

「そだね……」

 

 

さりげない伊丹の親切に加藤はうなずいた。

 

 

***

 

 

伊丹は驚いた。まさかこんなところで黒川と栗林に会うとは思わなかった。

 

 

「隊長、ご無沙汰しております。どうしたんですかこの手は?」

 

「色々無茶して……お前は何してたんだ?アルヌスに届けられた仲間にお前たちがいなかったからまさかと思ったが」

 

「酷いことはされてませんわ。ただ、衛生関係が整うまでは手伝ってくれとのことでしたので協力していただけですわ」

 

「そうか。すまんな」

 

「謝ることありませんわ。隊長も無事で何よりですわ」

 

「ああ、それにしても魔法はすごいな」

 

 

レレイと現地の治癒魔法師の力により、伊丹の手は元どおりになった。

 

 

「隊長、じゃなくて伊丹2尉、ご案内します」

 

「……どうした栗林、お前らしくないぞ」

 

「……私は今は自衛官ではなく、加藤少佐専属のボディガードでして」

 

 

なんだか嬉しそうな顔をしていた。

 

 

「な、何かあったのか?」

 

 

一瞬脳裏に栗林が薄い本みたいにあーんなことやこーんなことされて屈服しちゃったことを想像する。

 

 

「ふふふ、義眼のペアルックですよー」

 

 

栗林は動かない方の目を指す。

 

 

(ダメだこれ、ヤンデレルート突入しちゃってるよ、加藤ぉぉぉおお!)

 

 

伊丹は一応の友人の将来を憂うのであった。

 

 

そしてある部屋に案内される。そこそこ綺麗な客室のようだった。

 

そこには2人先客がいた。

 

 

「伊丹、気分はどうだ?」

 

 

と加藤。

 

 

「げげ、ロゥリィ姉様!?」

 

 

とジゼル。

 

 

「ちょっとぉどうしてここにジゼルがいるのよぉ!ジゼル、説明してもらうわよぉ!」

 

「ひ〜!」

 

「まあ落ち着けよ、ロゥリィ」

 

 

伊丹がなだめる。

 

 

「加藤、さっきはちょっとすまんな」

 

「ちょっとか。まあ予想はしていたが。それに伊丹、よくわかったな。もし友人の伊丹耀司ではなく、陸上自衛官伊丹2等陸尉としてきたなら、対応は全然ちがったが」

 

「まあ、腐ってもお前とは一応長い付き合いだからな」

 

「で、その長い付き合いのお前でも分からないことがあるから、来たと」

 

「……そうだ」

 

「単刀直入に聞こう。何が知りたい?」

 

 

伊丹は加藤の目を見る。まるで人形のように不気味な目だった。片方が義眼なのはしってるが、その違いがわからないほど、不気味なほどのポーカーフェイスだ。

 

 

「全部」

 

 

答え兼ねていた伊丹に代わり、レレイが口を開いた。

 

 

「貴方たちの行動の経緯、目的、理由、今後の方針、隠し事、全てを知りたい」

 

 

レレイは淡々と言う。

 

 

「レレイ、流石にそれは……」

 

 

伊丹は少し戸惑う。

 

 

「……いいよ」

 

「「「え!?」」」

 

 

その場にいたほとんどが驚いた。

 

 

「ただし、1人につき、教えられる内容は異なるがな。それに順序立てて説明するから時間がかかる。それでも良いなら」

 

「それでいい」

 

 

レレイが答えた。

 

 

「ということは、私たち一人一人の疑問に答えるということぉ?」

 

「ええ、貴方方が知りたい情報と知るべき情報が一致するかはしりませんが。まあ、付いてきてください」

 

 

***

 

 

「何だこれは……」

 

 

まず案内された庭では軍事訓練が行われていた。

それも特地独特の中世式の軍事訓練ではなく、現代戦、しかもかなり専門的な訓練であった。

 

 

CQB(近接戦闘)……」

 

 

伊丹がつぶやいた。

 

 

「さすがS(特戦)だな、すぐわかったか」

 

「それよりも、いつの間にあんだげ銃を確保したんだよ……」

 

 

獣人や人間が訓練に使ってるのはどうみても紛争地帯やロシアで有名なあの銃(カラシニコフ)だった。

 

 

「デリラ少尉」

 

「はいよ」

 

「はい、でしょう?」

 

「……はい」

 

「ありゃ、デリラさん」

 

「え、伊丹の旦那がなぜここに……」

 

「詳しいことは気にすんな。控えー、(つつ)

 

 

デリラは加藤の号令に俊敏に反応し、銃を胸に斜めで構える。

 

「ほれ」

 

 

加藤はデリラの小銃を取り、伊丹に渡す。

 

 

「あれ、微妙に軽い」

 

 

そしてよく見ると刻印がおかしい。

 

 

東京マ●イ

 

 

「……エアガンじゃねえか!?」

 

「だがそれでもないよりはましだ」

 

 

そしてまた伊丹から取って近くの空き缶を撃つ。

 

貫通した。

 

 

「え……」

 

「日本じゃいわゆる違法改造銃ってやつだ。弾は鉄球だし、至近距離ならベニヤ板ぐらいなら貫通できるしな。そしてこれなら耳が良すぎるヴォーリアバニーたちも撃てる。しばらく最適な兵器の開発が終わるまではこれが代理だ」

 

「新しい兵器?」

 

「そう。まだ開発段階だが、今からお見せしよう」

 

 

そしてデリラは訓練に戻り、一同は今度は屋内に案内される。

 

 

「この部屋に入る前にこれを着るように」

 

 

消防隊が着るような全身銀色の防護服だった。

 

 

「……なに、そんなヤバいもん俺たちに見せるつもりか?」

 

「一応念のためにな……」

 

 

そして着替えて部屋に入ると、いくつものドアがある廊下。

 

そして最初のドアの前に行こうとする直前、爆発が起きた。

 

 

「ぎゃ〜!また爆発した!」

「だからあいつに魔法唱えさせちゃダメっていったのに!」

「私爆裂魔法唱えてないのに!」

「やめい!それを押すんじゃぁない!」

「いいや!限界だ押すね!今だ!」

「エクスプロージョン!」

「今どさくさに紛れて爆裂魔法唱えたの誰だー!?」

 

 

 

そしてまた爆発。幸い、あくまで小規模の爆風と煙だけなのでだれも怪我はしなかった。

 

 

「ゴホッ、ゲホッ!また失敗だわ……」

 

 

煙の中からどこかでみたことあるようなお姉さんが白衣を纏い、咳き込みながら出てきた。

 

 

「アルペジオ……」

 

 

レレイが姉の登場に少し驚いた様子だ。

 

 

「あれ、よく見たらレレイじゃないの。もしかしてこの研究所の見学?それとも研究手伝ってくれるの?」

 

「アルペジオさん、一体なにを……」

 

 

伊丹を始め、皆混乱してきたようだ。

 

 

「あー、紹介し忘れたね。我が国の魔法科学技術研究局長のアルペジオさんだよ。そういやレレイのお姉さんらしいね」

 

「え……?」

 

「ロンデル潜伏中、火薬またはそれに準ずる物を生成するために魔術師を雇っていてね。鉱物魔法というウチらでいう化学に近いところがあったので雇ったわけよ」

 

「うん、給料もすごくいいの!」

 

 

アルペジオが補足する。

 

 

「火薬、だと?」

 

 

伊丹が一呼吸置いて尋ねた。

 

 

「ロンデルは学都だからな、多少の爆発などいくらでもカモフラージュできると思ってな。おかげで色々なことができた。まだ発展の余地はあるが、中世後期レベルの火薬と、それの代わりなら既に生成可能だ」

 

「代わり?」

 

「こいつだ」

 

 

加藤は小さな円筒状の真っ黒の物質を取り出す。サイズは親指ぐらい。

 

 

魔硝石(ましょうせき)。地球では生成できない物質だ」

 

 

そしてそれを懐に隠していた短小散弾銃に込めて少し離れた的に撃つ。

 

音は予想以上に小さかったが、的は何かが当たったかのように倒れた。

 

 

「「???」」

 

 

伊丹を除き、皆キョトンとする。

 

 

「加藤、てめえとんでもない物作りやがって……」

 

「ヨウジィどういうことぉ?」

 

「伊丹殿、あれはジエイタイの小銃よりも弱そうに見えるが?」

 

「まあ、初見はそう思うよな。客人たちよ、的を見てみるか」

 

 

加藤は倒れた的を見せる。

 

 

「嘘ぉ……」

 

 

的は真ん中に500円玉大の穴があり、焼け焦げた後があった。

 

 

「さしずめ、光線銃かレーザーガンあたりか?」

 

 

伊丹が尋ねる。

 

「そうだな。俺は世界初の魔導銃と呼んでるがな」

 

「反動は少ない、命中率は高い、威力も高く、音も小さい」

 

 

レレイが目を輝かせて分析する。

 

 

「まあ、まだ生産性は悪いが、火薬よりはマシだな」

 

「お前、この世界に火薬や銃の類を持ち出して何するつもりだ?」

 

「言わなくてもわかるだろ、戦争の準備だ。約5千年の戦争経験のある世界(地球)に対して、魔法や多種族というだけでは勝てるわけがない。だからその差を埋めるため、近代化させるのだよ」

 

「近代化させてどうする。戦争で始めるつもりか?」

 

「そうだ、と答えたら?」

 

「てめえをぶっ飛ばす」

 

「お前が。できるかな?」

 

「あらぁ、別にヨウジだけじゃないわよぉ?」

 

 

伊丹の後ろでロゥリィが不気味な微笑みを加藤に向ける。他の方々も一応戦う準備はできているという表情だ。

 

 

「……面白い、俺も一度あんたと(戦うという意味で)やり合ってみたかったんだな」

 

「ええ、いいわよぉ。お姉さんが(戦闘的な意味で)手取り足取り教えてあげるわぁ、ぼうやぁ」

 

「お前らはなんでこんな喧嘩早いんだぁ!」

 

 

伊丹の悲痛の叫びも虚しく、とりあえず戦闘狂(ロゥリィ)戦争変態(加藤)は一発(戦闘的な意味で)やり合うことにした。

 

広場に逆戻りし、取り敢えず戦いの位置に着く。

 

取り敢えず伊丹は審判としてお互いの位置の中央付近にいる。

 

 

「なんで俺が……」

 

「いや、だってあいつ(ロゥリィ)止められるのお前だけだし……」

 

 

加藤が何やらボソッと呟いた。

 

 

「ちょ、お前俺に止めてもらうつもりだったのか!?今からでもいいから土下座してでもやめとけ!」

 

「嫌だね。俺は負ける戦いは避けるが、負けない戦いは避けないからな」

 

「はぁ?お前本気で勝てると思ってるの!?」

 

「いいや。しかし負ける気はしない」

 

「……もう好きにしてくれ」

 

 

伊丹はとうとう諦めた。

 

 

「あらぁ、怖じつけたのかしらぁ。謝るなら今のうちよぉ?」

 

「そっちこそ、負けてヒーヒー言っても知らんぞ」

 

「きーっ!殺すぅ!殺してやるぅ!このハルバードでその身体真っ二つにしてやるぅ!」

 

 

ロゥリィは顔を真っ赤にして地団駄を踏む。

 

 

「んじゃ俺はこのままで」

 

 

加藤ら手をポケットに突っ込んだまま構えた。もちろん銃器などない。

 

 

「むかぁー!バカにしてぇー!ヨウジぃ、決闘(デュエル)開始の宣言してぇ!」

 

「え……決闘(デュエル)開始ぃぃい!」

 

 

その宣言と同時に伊丹の視界は真っ暗になった。

 

意識的なものではなく、物理的に黒煙と砂煙と爆風で視界が遮られたのだ。そしていつのまにか自分の下にクレーターができている」

 

 

「ゲホッ!ゴホッ!な、何が起きたんだ!」

 

 

煙が消えるとテュカたちが飛び込んできた。

 

 

「お父さん、よかった!生きてた!」

 

「え?」

 

 

伊丹は何が起きたか理解できなかった。

 

 

「お父さんの真下がいきなり爆発したんだからびっくりしたわよ!」

 

「え?えっ?」

 

 

テュカの言葉と、爆散肉片と化したロゥリィの姿を見てやっと理解した。

 

 

そして加藤はゆっくりと歩き、ロゥリィの頭を持ち上げる。

 

 

「獲ったどー!」

 

「きーっ!こんな奴にぃやられるなんてぇ!卑怯者ぉ!」

 

「方法や過程などどうでも良いのだ!勝てば正義だ!」

 

「加藤、てめえ!」

 

「許してくれよ、即席爆弾でこうでもしないと勝てないんだもん。というか、皆さん、落ち着いてくれ。

レレイ、その対戦車砲を応用した魔術を解除するんだ。俺に向けるなぁ!」

 

 

取り敢えず加藤はこの後、死なない程度にまためちゃくちゃボコられた。

 

 

***

 

 

満身創痍になった加藤を魔法で治療して、研究室を一通り見学した。

 

実際、軍事面以外にも農学、建築学、地質学等の研究も積極的に行われていた。

 

託児所のように子供を預かるところもあれば、簡易的な病院施設もあった。

 

アルヌスほどではないものの、この世界の基準よりはかなり上の方だと思われる。

 

 

「そしてこっちが講義室」

 

 

最後に、加藤の案内で広い講義室に通される。奥にはホワイトボードやらプロジェクターで映された資料やらが見える。

そして手前にはいろんな種族の者が抗議を受けていた。

 

 

「ヒト種獣人種問わず、知能が高い者はこちらで教育をしている」

 

「まるで大学の講義室だな」

 

「ああ、教育は大事だ。大事なのは確かだ……」

 

 

加藤のため息混じりの言葉に伊丹は理解した。

 

日本の男子学生よろしく、多くの者が講師の目を盗んでは資料を陰に食事をしていたり寝ていたりとしていた。

 

 

「教育って難しいわ……」

 

加藤は嘆く。

 

 

これならまだいい。

 

一部は某流行りの芸術(BL)の研究を熱心にしていらっしゃった。

 

というかそれを研究していたのが薔薇騎士の令嬢だったりピニャ殿下だったり。

 

 

「ありゃ、なぜピニャ殿下が……」

 

 

たまたま最後列にいたので声をかけてみた。

 

 

「加藤教官殿!?そして伊丹殿!?なぜここに!?妾は別に悪いことなどしてないぞ、少し疲れたから芸術の教養を深めようと……」

 

「いや、聞いてないから……」

 

 

加藤はため息を吐く。

 

 

「政治学など、退屈……じゃなくて妾は既に熟知しておる!」

 

「いや、そういう問題でもないから……」

 

 

伊丹もため息を吐く。

 

 

「加藤少佐、今講義中ですので……」

 

 

と講義をしていた女性が注意する。

 

 

「あ、すまんねJ(ジュリエット)。ピニャを借りていくぞ」

 

「もうご勝手に……」

 

 

そして一同は外に出る。

 

 

「ジュリエット……日本人だよな?あの顔つき?」

 

 

伊丹がふと尋ねる。

 

 

「コードネームだよ。アルファベットの『J』」

 

「コードネーム……あ、そうだ!お前のよくわからん『SAW』という秘密部隊の説明してもらおうか!?」

 

 

伊丹は思い出したと言わんばかりに詰め寄る。

 

 

「まあもちろん説明するが、順序を得てからな。まだ時期尚早だから、これを見てもらってからにしようか」

 

 

一同はスクリーンのある部屋に通される。

 

そしてプロジェクターを通して映像が映し出される。

 

 

いきなり共産圏の軍事パレードを彷彿させるような映像から始まった。

 

ただ、これが仮装パレードではないのなら、ここが特地であることが明らかだった。

 

背景からして帝都、つまりここである。

 

そしてパレードの行進者は獣人と人間。全員が小銃(多分エアガン)か何か見覚えのない武器を担いでいる。

 

種族ごとに分かれた部隊がそれぞれの隊旗をもって近代国家の軍事パレードを行っていた。

 

しかしこんなもので驚いている暇は無かった。

 

歩兵の後ろにはどう見ても戦車、しかも米軍のMBT(主力戦車)、M-1エイブラムズがゆっくりと走行していた。

 

 

「おい加藤!これは一体……」

 

「伊丹、説明は後でするからとりあえず終わるまで見てくれよ」

 

 

しぶしぶ続きを見ることにした。

 

戦車の上ではヒトやキャットピープル、ヴォーリアバニーなど比較的中型の人型種が敬礼しながら乗っていた。

 

戦車はよく見るとボロボロで、あちこち修復して使ってるように見えた。

 

 

(鹵獲したやつか?)

 

 

そして画面は変わって敬礼して相手に移る。

 

 

草加拓海

 

 

ヘリの墜落で死んだと思われていたが、前回の建国放送で生存の可能性が浮上した男。

 

海自の礼装に似た純白の制服で、敬礼をしていた。

 

しかし画面は少しずつズームアウトしていき、後ろには礼装姿のピニャとヴォーリアバニーの部族の正装に身を包んだテューレがいた。後者は目が死んでいたが。

そしてらさらにその後ろには少し高めに設置されたやけに馬鹿でかいお皿型の台があった。

 

 

『これより、建国式を開催します』

 

 

アナウンスが流れる。

 

 

『まずは、新帝国のヒト種代表、ピニャ代行よりお言葉を頂きたいと思います』

 

(ん?)

 

 

伊丹は何か違和感を感じた。

 

 

『妾は、前帝国の皇帝の娘の一人として、君臨し、ヒト種の帝国のために尽くしてきた。しかし、ヒトは強欲だ。自らの民のためとはいえ、多種族を蔑ろにした上に、他国との戦争によって栄えた。しかしその結果、異世界からの軍隊による大敗を招いた。

妾は和平交渉に尽力した。光が見えたと思えば消えた。それはなぜか。

個人個人の欲によって、全てがめちゃくちゃになった。

妾の和平も独りよがりの欲かもしれない。しかし、少なくとも私情によるものではなく、公共の安全のためと、尽力したが無駄だった。

だから、妾は……いや、我々は神に等しき強大な力の下、ヒトと多種族は手を取り合って共栄しなければならないと考えた。

その結果、()()()()()()の下、2つの王政、ヒト種の代表と非ヒト種の代表による連立王政を樹立する』

 

 

歓声と拍手がわき起こる。

 

 

(なんだこの違和感は……なにか……あと少しでうまくピースがはまりそうな……)

 

 

なんともいえない気味の悪い感覚が伊丹たちを襲う。

 

 

『続きまして、国賓の代表としまして、ジパングの最高司令者、クサカ・タクミより……』

 

 

ここまで聞いて伊丹は勢いよく立ち上がる。

 

 

「な……ジパングと新帝国は、別の国!?」

 

「伊丹、頼むから最後まで静かに見てくれ」

 

 

『国家承認及び同盟締結の儀を行います』

 

 

映像で草加が何かに署名し、ジゼルが見慣れない魔法(スゥーム)で封をした。

 

 

『続きまして、ジパング最高司令者補佐、兼新帝国臨時軍事顧問のカトー・ソーヤ少佐より最後の言葉を頂きます』

 

 

草加とは真逆で、黒の迷彩服にベレー帽だった。

 

 

『ここに、この世界における(システム)が完成した。

一つの管理者(アルドゥイン)

二つの国家。

三人の代表者。

これにより、この世界の秩序は保たれるだろう』

 

 

そして一呼吸おく。

 

 

『諸君 私は戦争が嫌いだ

諸君 私は戦争が嫌いだ

諸君 私は戦争が大嫌いだ

 

殲滅戦が嫌いだ

統合戦が嫌いだ

接近戦が嫌いだ

防衛戦が嫌いだ

包囲戦が嫌いだ

突破戦が嫌いだ

退却戦が嫌いだ

掃討戦が嫌いだ

撤退戦が嫌いだ

救出戦が嫌いだ

電子戦が嫌いだ

情報戦が嫌いだ

ゲリラ戦が嫌いだ

 

平原で 街道で

塹壕で 草原で

凍土で 砂漠で

海上で 空中で

泥中で 湿原で

宇宙で ネットで

 

この世界で行われるありとあらゆる戦争行動が大嫌いだ

 

戦列を並べた自走砲の一斉発射が轟音と共に敵陣を吹き飛ばすのが嫌いだ

 

空中高く放り上げられた敵兵が効力射でバラバラになった時など心が裂ける

 

伏兵が対戦車個人携行ミサイルで敵戦車を撃破するのが嫌いだ

 

悲鳴を上げて燃えさかる戦車から飛び出してきた敵兵を機関銃でなぎ倒した時など心に穴が空く思いだ

 

ガチガチに装備を揃えた特殊部隊でロクな訓練も受けてない少年兵しかいないゲリラを蹂躙するのも嫌いだ

 

恐慌状態の新兵が既に息絶えた民兵を何度も何度も刺突している様など吐き気すら覚える

 

敵の逃亡兵、民間人達を木に吊るし上げていく様などはもう泣きたい

 

泣き叫ぶ虜兵達が私の振り下ろした手の平とともに金切り声を上げるカービン銃にばたばたと薙ぎ倒されるのも最悪だ

 

哀れな民兵やゲリラ達が雑多な小火器で健気にも立ち上がってきたのをA-10のナパーム弾が都市区画ごと業火にさらして焼き尽くした時など背筋が凍る

 

敵の戦車部隊に滅茶苦茶にされるのが嫌いだ

 

必死に守るはずだった村々が蹂躙され女子供が犯され殺されていく様はとてもとても悲しいものだ

 

敵の物量に押し潰されて殲滅されるのが嫌いだ

 

攻撃ヘリに追いまわされ害虫の様に地べたを這い回るのは屈辱の極みだ

 

諸君 私は戦争を

地獄の様な戦争を憎んでいる

 

諸君 私に付き従う異国の大軍団の諸君

 

君達は一体何を望んでいる?

 

更なる戦争を望むか?

情け容赦のない糞の様な戦争を望むか?

 

何もかもやり尽くし、私の祖国が体験したような最期は虫ケラのように扱われる闘争を望むか?』

 

 

平和(ピース)平和(ピース)平和(ピース)!』

 

 

『よろしい ならば平和(ピース)

 

我々は満身の力をこめて今まさに振り下ろさんとする握り拳だ

 

だが異世界とは科学技術の差があり過ぎる我々にタダで平和はやってこない。これ以上の戦争はこりごりだ。ならば君達に捧げよう。

 

大平和を‼︎

 

未来永劫栄のある大平和を!!

 

我らは数は多くとも技術の差は大きい

 

だが諸君は一騎当千の古強者だと私は信仰している

 

ならば我らは諸君と私で総兵力100万と1人の軍集団となる

 

平和を忘却の彼方へと追いやり踏ん反り返っている連中をぶちのめそう

 

髪の毛をつかんで引きずり降ろし眼を開けさせ思い出させよう

 

連中に恐怖の味を思い出させてやる

 

連中に我々の本気を見せてやる

 

天と地のはざまには奴らの哲学や科学では思いもよらない事がある事を思い出させてやる

 

100万の混成軍で世界に平和を。

 

新帝国の建国と同時に作戦を始動する。

 

絶対的国防権(やられたらやり返す)

 

征くぞ 諸君。我々は永遠の平和のために、最後の戦争を行う。

 

Ad Victorium (勝利のために)

 

 

 

ここで映像が途切れる。

 

もうツッコミどころだらけだった。最後なんて某マンガのほぼパクリじゃねえかと普段なら言ってる。

 

ただ、状況的に今はその普段ではないのだ。

 

 

「取り敢えず、沢山聞きたいことはあるが、1ついいか?」

 

「どーぞ」

 

「これ、プロパガンダ動画で元の世界に流すやつだろう?」

 

「お、さすが伊丹殿。俺の行動パターン読めるようになってきたね」

 

「悪いことは言わない。公開はやめろ」

 

「残念」

 

「え?」

 

「もう既に公開した。たった今」

 

「「「ええぇぇぇっ!?」」」

 

 

この件により元の世界がさらに混乱に巻き込まれることとなった。

 

わかりやすくいうなら国連(特に例の5カ国)は激おこだった。

 

 

「それに……」

 

 

あまり表情を変えない加藤が嗤った。

 

 

「絶対的国防権は既に発動している」

 

 

***

 




かなり遅いペースで誠に申し訳ありません。
どうか末永く見守ってください、アルドゥイン様。


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クロアカシロ

ええ、皆さまの言いたいことはわかっております。

『おせーよ!』

すみません!亀投稿どころかナメクジ投稿より酷くて!


どれくらい時間が経っただろうか。

 

アルドゥインは最後の切り札(スゥームの支配)を破られ、考えるのをやめた。

 

スゥームを逆に支配され、もはや自身の存在意義を見失った。

 

元の世界(スカイリム)で初めて肉体を切り裂かれ、敗北した時は痛みや恐怖というものを知ることができた。

 

だが今回はどうだ。

 

もう何も感じない。

 

概念という物を超越した存在が、今肉塊となろうとしている。

 

抵抗しようにもこやつ(異形のドヴァキン)の前に無意味と感じた。

 

スゥームを完全に奪われた今、肉体は再生しない。

 

痛いか痛くないかで言えば確かに痛い。

 

しかしこの痛みさえも実は錯覚ではないか、と思うほど気が遠く感じた。

 

 

(うむ、首を切り裂かれたか……?)

 

 

もはや今自分の存在そのものが錯覚ではないかと疑い始めてる。

 

もともと、世界にドヴァ()として、生物を超越した概念として存在した。

 

しかしありとあらゆるものが我に効かなかった。

 

その時も我は存在していた、と言えるだろうか。

 

我の火で、氷で、雷で、身体で相手を蹂躙し、破壊して喰らった。

 

だが相手の攻撃はあの日までは一切効かなかった。

 

(我は、一体何なのだ……何者なのだ……そして、なぜ我はそもそも生まれてきたのだ?)

 

 

生死をさまようとき、走馬灯というものが脳裏に浮かぶことがあるが、これは脳が必死に過去から打開策を探しているという説がある。

 

アルドゥインが走馬灯を見ているのか、それともその知能ゆえに哲学に達してしまったのか。

 

 

「さて、そろそろ終わりにしようか?」

 

 

散々弄んだドヴァキンは、トドメを刺そうとある物を出した。

 

拳一つ分より気持ち長めの柄に、二又のフォークを。

 

そう、フォークである。

重要なので2回言った

 

 

「この何の変哲も無いフォークで、君を倒すという屈辱を与えてあげるよ。そしてその後は……じゅる」

 

 

ドヴァキンは恍惚な表情を浮かべ口元のよだれを拭く。

 

 

(我を食うつもりか……)

 

 

世界を喰らうつもりがジョール(定命者)に食われるなどとんだお笑い種だとアルドゥインは思った。

 

 

(ふむ、我は一体どんな味がするのか。そして食われても意識は保てるのか?それはそれで興味深いな)

 

 

賢者モードもいいところ、もはや大賢者モードである。

 

 

「なんだ、反応がないなんてつまらないね。でも今度こそ食われてくれよ。また煙になって消えたりなんかするなよ!」

 

 

そう言い放ち、フォークを高く振り上げた。

 

なんの変哲もないとか行ってた割に、絶対付呪(エンチャント)してあるだろうと突っ込みいれたくなるオーラを放っていたが。

 

 

(なんか雲が赤黒いな……)

 

 

死の間際、アルドゥインはすごくどうでも良いことを思った。

 

 

「ギャァァァァァアアッ!?」

 

 

突然空から真紅の落雷がピンポイントでフォークに落ちた。

 

もちろん、ドヴァキンは黒こげになった。

 

 

「ハア、ハア……間に合った……」

 

 

無気力ながらも、アルドゥインは声の主の方向に瞳だけを向ける。

 

 

「どこかで聞いたことある声と思えば…。お主、それが真の姿か?」

 

 

そこにはアルドゥインとほぼ同じ大きさ、しかし対をなすように純白を基調としながらも、目と口は真っ赤な龍がいた。

 

彼の世界の猛者(ハンター)たちは彼女をこう呼ぶ。

 

 

祖龍ミラボレアス(ミラルーツ)

 

 

「痛いじゃないか。おお、また新しい龍だ、コレクションにしたい!」

 

 

黒こげのドヴァキンはもうほぼ元どおり……

否、そもそも焦げて()()()()()()()()()()()()()

 

 

「く、やはりダメか……アルドゥイン、何をやっておる、早く逃げんか!」

 

「……なぜ我が逃げなければならんのだ?」

 

「お主、正気か!?」

 

 

アルドゥインは意地でもプライドでも、退かぬ媚びぬ省みぬでもなく、純粋になぜ自分が逃げなければならないのか、疑問に思っていた。

 

 

(くっ、大放心などしおってバカが!)

 

 

アルドゥインは大放心中、若しくは大賢者モードになっていた。

 

何もする気力が起きないのか、その場でふらふらしている。キャラ崩壊ものである。

 

 

「おのれぇ、計画が台無しじゃあ!」

 

 

ミラルーツにとって唯一の救いは彼女の主な攻撃が赤い雷撃であったこと。

 

威力、速さそして正確さが文字通り神の領域に達するほどの代物であったため、ドヴァキンの『時止め』や『幽体化』のスゥームを唱える前に直撃し、『デイドラ神器の盾(スペルブレイカー)』すら貫通してダメージを与えることができた。

 

が、ダメージを与えるだけであり、肝心の『やり直し(セーブ・リロード)』が防げないため、表現は奇妙だが文字通り()()()()()近づいてくる。

 

 

(くっ、足止めだけでも十分だった……アルドゥインが正常であればだがっ!)

 

「痛いねぇ……でもその何倍の痛みを君に与えられると思うと、興奮するよ……ぐはっ!?」

 

 

ドヴァキンは狂気の眼差しと笑みを浮かべながら近づいては落雷で木っ端微塵になる。

 

と思ったら次の瞬間には何事もなかったかのようにいた。

 

 

それを繰り返す。

 

 

「〜〜〜!!」

 

 

ルーツは声にならない叫びを上げる。

 

 

喉元を切られた。

 

 

元々赤かった胸元が自らの血潮で真紅に染められてゆく。真っ赤な口元に劣らないほど鮮やかな真紅の色に。

 

 

「さあ終わりだよ!」

 

(無念、ここまでか!?)

 

 

ミラルーツは覚悟して目を閉じた。

 

 

しかし一向に待てど何も起きなかった。

 

それとも痛みを感じないほどに全てが終わっていたのか。

 

 

恐る恐る、目を開いてみる。

 

 

ミラルーツは取り敢えず安堵した。首が少なくとも繋がっていることを。

 

そして辺りを見渡すが、奴はどこにもいなかった。

 

否、自分たちが別の場所に転移していた。

 

そして周りにはいきなり転移したミラルーツとアルドゥインに驚くヨルイナールなどのドラゴンたちがいた。

 

 

「アルドゥイン様!」

 

 

ヨルイナールは近寄って精神的満身創痍のアルドゥインを介抱する。

 

相変わらず意識はここにあらず、と言った感じだが。

 

 

「白き龍よ、感謝する」

 

 

アンヘルが礼を言う。

 

 

「いや……」

 

 

ミラルーツはアルドゥインを見て思った。

 

 

(むしろ助けられたのは私の方だ……)

 

 

「アルドゥイン様、どうしたのですか!?」

 

「……」

 

「む、アルドゥインの様子がいつも以上におかしいぞ?」

 

「ちょっとアンヘル、アルドゥイン様がいつもおかしいみたいなこと言わないでよ。……時々おかしいのは認めるけど」

 

 

ヨルイナールは最後の言葉だけは聞こえないように小声で言った。

 

 

アルドゥインは相変わらず無気力で目が虚ろだった。ヨルイナールの方を見るが、見すかすように焦点が合ってない。

 

 

「やはりこれしか方法はないか……」

 

 

ミラルーツは力を振り絞ってアルドゥインの前に立つ。

 

 

「……」

 

 

意識が集中してないとは言え、流石は世界を喰らいし者(ワールド・イーター)、その風格だけで圧倒されそうになる。

 

 

「……御免!」

 

 

なんとミラルーツはアルドゥインの喉元に食らいついた。

 

 

「き、貴様何してる!?」

 

 

ヨルイナール驚愕した。

 

 

「……」

 

 

アルドゥインは特に反応は示さなかった。

あたかも咬まれてすらいないように。

 

しかし、不死身で例外を除いてありとあらゆる干渉を受け付けないはずのアルドゥインの身体に異状が生じた。

 

咬まれた場所から、黒い霧状の何かがスプレーのように噴き出できた。

 

 

「「!?」」

 

 

ヨルイナールとアンヘルはさらに驚きに満ちた表情になる。

 

さらに、亀裂の入った水タンクの如く、アルドゥインの鱗の隙間、眼孔、翼、とあちこちから同様に噴き出た。

 

そして突如一斉に止まったかと思うと……

 

 

崩れた

 

 

アルドゥィンの身体は糸の切れた人形の如く、否、シャンデリアの如く崩れた。

 

地面に堕ちると同時に身体は鱗、角や爪、そして各部位(パーツ)ごとに分解してしまった。

 

 

「……不謹慎ながらも、我は美しいと思ってしまった」

 

「いえ、私もよ……」

 

 

アンヘルとヨルイナールは不謹慎と思いつつも、アルドゥィンが崩壊する様子を、美しいと思ってしまった。

 

分解されたパーツは、どれも純粋な透明であった。

 

しかしあまりにも透明すぎたゆえに、地面に接した途端に虹色状に輝いてる。

 

 

「なるほど、アルドゥィン殿は外殻は透明だったのか」

 

「そして中身が純粋な漆黒……はっ!?ということは中身(本体)はどこへ!?」

 

 

ヨルイナールが我に返ったように辺りを見渡す。

 

 

「……案ずるな、彼には少し来てもらわなければならない場所があってな……」

 

 

今にも死に絶えそうな声でミラルーツが答えた。

 

 

「ワシも限界じゃ……しばらく留守にするが、必ずアルドゥィンは戻す。奴が嫌と言ってもな。その間、彼らを……置いておく……」

 

 

そう言ってミラルーツは光の粒子になって消えてしまった。

 

 

「あやつも、ドラゴンの創造主の一種なのだろうか」

 

 

アンヘルは思いにふけていた。

 

 

「それはそうと……彼らってあいつら?」

 

 

ヨルイナールが指した先にはバルファルク(戦闘機)バゼルギウス(爆撃機)がいた。

 

 

(……主人さま以上に変な龍を押し付けられたもんだ)

 

 

アンヘルはため息をついた。

 

 

 

 

 

その頃、かなり遠くの場所で例の異能ドヴァキンはかなり機嫌が悪かった。

 

 

「ちっ、またあの野郎逃げやがったか……」

 

 

ドヴァキンはアルドゥィンが気配を消したのをはっきりと感じたようだ。

しかし、すぐに不気味な笑みへと変わる。

 

 

「まあいい、この世界も飽きてきた頃だし、リセット(滅ぼす)かあ?」

 

 

***

 

「あ……」

「げっ!?」

「ん?」

「……」

 

 

「どうした加藤、いきなり止まって?」

 

「いや、何でもない……一瞬、頭痛がしただけだ」

 

 

伊丹は加藤が一瞬顔を歪めたのを見逃さなかった。

 

ちなみに、一同(ピニャ、栗林、黒川含む)は昼食のため長テーブルで集まっていた。

 

 

「あん!?」

 

 

ただそれよりも悶えるロゥリィの方が気になった。

 

 

「いいわぁ……この感覚よ、戦士の魂が私を通じて主神のところへ送られていくぅ〜」

 

「ロゥリィ、だめだ!そんな薄い本に出てくるような表情したら!」

 

「じゃあヨウジがこの気持ち収めてぇ……」

 

「やめろー!」

 

 

伊丹一同がまたコントみたいなことを始めたが、加藤、ジゼル、セラーナは何か察したかのように無表情だった。

 

 

「カトウ、まずいぜ……」

 

「ああ、だが問題はない。計画に変更もない」

 

加藤は表情を変えずに言い放つ。

 

 

伊丹たちが把握した内容を要約すると以下の通り。

 

・一つの支配者、或いは管理者、アルドゥィン

・新帝国とジパングによる2つの国家による連立体制(または同盟)

・代表者は新帝国からヒト種と亜人から各1名(現在、ピニャと未定)と、ジパングから1名(草加拓海)の計3人を予定

・軍は旧帝国と亜人からなる人材を加藤の指導の下、近代化中

・目に見える目的はこちらの世界の人間をあちらの世界(地球)と対等にやり合えるだけの能力を持たせること

 

 

「加藤、一つ言いたいことがある」

 

「どうぞ」

 

「お前が今やってることは、本心か?」

 

「ん?どういう事かな」

 

「実は……」

 

 

伊丹はシェオゴラスたちと異空間における話し合いについて簡単に説明した。

 

 

「つまり、()()()()()によって俺、または一同はこのように裏切っていると?」

 

「そうだ。だからお前は悪くない。もし必要なら帰ってこれるよう手助けを……」

 

「伊丹、本当にそう思うか?」

 

「え?」

 

「例えば、もし今回みたいに他国に特殊作戦を展開し、臨時政府樹立を目的とした作戦がかなり昔からあったとしたら?」

 

「お前、一体何を言って……」

 

「もし、それを実行する部隊が、あるとしたら?」

 

「……」

 

「いつから日本にはそんな部隊が存在しないと()()していた?」

 

 

伊丹は全てを悟った。加藤は決して見えざる手(デイドラ)によって操られたり、個人の思いつきによるテロ行為を起こしたわけではないということを。

 

そして加藤は驚愕する伊丹に表情を見て笑みを浮かべた。

 

「もう隠しても仕方ないしな。

そう、この、他国を乗っ取る、または反政府を樹立して内戦に持ち込む、というコンセプトは古来より存在する。

そしてその作戦を実行するために某国の意向で設立されたのが、Specialized Asymmetric Warfare Unit(特殊非対称戦部隊)

通称SAW(ソウ)だ。

まあ早い話、我々は特殊部隊、工作員、ゲリコマのようなものだ」

 

 

思い空気が流れ、沈黙が漂う。

 

 

同時に、メイドたちがデザートの用意を始めた。

 

 

「ねぇヨウジィ、こいつが言ってることの半分理解できないのだけどぉ?」

 

 

ロゥリィが説明を求める。

 

 

「あとで分かりやすく説明するから……加藤、その某国ってどこだよ?」

 

「まあまあ、慌てるな。そしてもう一つ、かつて俺も所属していたさらに改良されたのが、Wartime Annihilation Specialist(戦時殲滅特殊隊)

通称WAS(ワズ)

奴らの目的は……」

 

 

加藤の言葉が止まった。

 

なるほど理由は即座に理解できた。

 

皿に載ってるのがケーキじゃなくて手榴弾だもの。

 

しかも全員分。

 

 

手榴弾が視界の中心にある中で、視界の片隅にほんの一瞬だけ見えた。

 

 

メイドの手首に『WAS』という刺青が。




そういやモンハンワールド、アイスボーン出ましたね。

ウィッチャーのコラボできたから、スカイリムのコラボ出ないかなあ、ドラゴンボーンだけに。

補足

独自設定として、アルドゥィン様は本体があの黒い煙(スカイリム本編の最期で見せたあれ)で、外殻は透明としてます。


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光と闇

Kyle(良き) Daar(この) Erubos()
(意訳:ハッピーニューイヤー、あけましておめでとう)

SAWとWASのモデルは『ひぐらしのなく頃に』をやったことある人ならわかるかも。

山狗と番犬……的な


あと質問がありましたので、人物がどこからが原作なのかを以下に記載します。

オリジナル
・加藤 (SAW、WASもオリジナル組織)
でも実はモデルはとあるゲームの主人公。そのうちわかるはず。

スカイリムより
・アルドゥィン(本作の主人公、のはず)
・ドヴァキン (別名マオ)
・セラーナ
・デイドラロードたち
・デイドラ装備の女

ドラッグ・オン・ドラグーン
・アンヘル

モンハン
・今のところアルドゥィン、アンヘル、とヨルイナール以外の龍全員

ジパング
・草加拓海 (こちらの設定ではジパングの方の草加の孫という設定。しかし真相は……)

その他補足
・ヨルイナールは原作、ゲートの炎龍。アルドゥィンによってネームドドラゴンになった

他、ゲートのキャラのはず。漏れてたらすみません。



 

あまりの展開に、皆反応は一瞬遅れた。

 

加藤を除いて。

 

 

ちゃぶ台返しの要領で、長テーブルを力一杯吹き飛ばしたおかげで、手榴弾は間一髪窓の外へ飛び出して人的被害は防げた。

 

 

「ぎゃあ!」

「キャー!服が!」

「妾の髪が!」

「しょっぱい」

 

 

スープやら肉やらを女性陣の衣服や顔にぶちまけた人的被害は避けられなかったが。

 

 

しかしメイドたちはこれを待っていた、と言わんばかりに短機関銃を構えると、加藤に向けて引き金を引いた。

 

 

「伏せろ!」

 

 

伊丹の叫びで全員伏せたが、加藤だけはテーブルを吹き飛ばした反動で反応が遅れた。

 

結果、至近距離で四方八方から弾丸の嵐を受けることになった。

 

 

「加藤!」

 

 

伊丹が叫ぶも虚しく、加藤の身体は蜂の巣どころか所々薄皮一枚で繋がってるのが精一杯の状態だった。早い話、ミンチである。

 

 

しかし加藤は笑っていた。

 

 

「残念だったな、機関砲が多段グレネードランチャーなら倒せたかもしれないが……貴様らの先輩は特別仕様だったのを忘れてたか?」

 

 

骨むき出しの右手で腰の刀を抜くと同時にメイドの一人を胴体から両断した。

 

そして振り向きざまにもう一人。

 

さらにもう一人。

 

そしてもう一人。

 

またもう一人。

 

最後の一人は再装填(リロード)終えたところで両手首と両足首を瞬時に切り落とした。

 

 

この一連の動作は時間にして1秒ちょっとだった。

 

しかし切り落とされた方のメイドも普通の人間なら痛みで上げるはずの悲鳴もない。

 

まるでロボットのように。

 

 

「さてと……」

 

 

加藤は最後のまだ生きている手足の無いメイドの胸ぐらを掴んで持ち上げる。

 

 

「そうだな、洗いざらい全て吐いてもらおうか。俺の本気の尋問は訓練の時と比較にならんぞ?薬で無痛なのが無意味なくらいな」

 

 

しかし言い終わる頃にはメイドの前身に力は無く、生気も無かった。

 

 

「……さすがだな、昔教えた通りに毒で自決しやがった」

 

 

加藤は物を捨てるかのごとく遺体を投げ捨てる。

 

 

「加藤、お前……」

 

「おお、すまんな。とんだ邪魔が入った。そうこいつらがWASで……」

 

「そうじゃなくて、お前の身体よ……」

 

「ん?」

 

「さっきまで蜂の巣状態だったじゃねえか……」

 

「……」

 

 

そう、先ほどまであった傷は嘘のように無くなっている。僅かな血痕とボロボロの戦闘服だけが残った。

 

 

「それに……お前の骨、何でできてるんだ?」

 

 

伊丹の問いに加藤は諦めたように笑う。

 

 

「ばれたか。強化プラスチック、カーボンナノファイバーとチタンで作った骨だよ」

 

「全身?」

 

「いや、流石にそれは厳しかったからできる箇所は全てしてある」

 

「それに、傷がもう治ってるのも、それが原因か?」

 

「いや、違うと思うのだがね。この草加さんから頂いた刀で敵を斬ると、傷が塞がるんだわ」

 

「え?」

 

「なんか異世界の空気吸ったからか知らんけど、刀身が黒くなるし、変な模様が浮かび上がるけど……これで斬れば斬るほど傷が癒えていくんだよ。俗にいうアーティファクトってやつになったのかも」

 

「ええー……」

 

 

そんな会話の中、怖い目つきで睨んでいた者がいた。

 

 

「セラーナ、見えたぁ?」

 

「ええ……一瞬ですがしっかりと」

 

「一瞬、半蜘蛛の女みたいなのが幽鬼のように見えたけど……」

 

「メファーラ……ですわね」

 

「そして刀との関係性は?」

 

「ええ、噂程度に心当たりは……」

 

「ふーん……」

 

 

ロゥリィは加藤に近寄った。

 

 

「ねぇ、カトオゥ……」

 

 

そして有無を言わさずハルバードの峰で加藤の両膝を叩き潰した。

 

ロゥリィの力の前にカーボンナノファイバーとチタンで作られた骨など小枝を折るように加藤の両膝は潰れた。

 

……が、同時に加藤は反射的に抜刀術(いあい)でロゥリィの下腹部から肩にかけて大きな切り口が一瞬間をおいて血を吹き出した。傷は深いが、切断はされなかった。

ハルバードのリーチが長かったのが幸いしたようだ。

 

 

「ロゥリィ!加藤!お前ら何やってんだ!?」

 

「痛いねー、すまんねロゥリィさん。反射的に斬っちまった」

 

「ふふふ……いーえ、こちらこそぉいきなりごめんねぇ。でも思ったより痛くなさそうねぇ」

 

「そちらは逆に余裕そうに見えて痛みを堪えてるように見えるね」

 

「あらぁ、言ってくれちゃってぇ。でもこれでぇ、はっきりしたわぁ」

 

 

驚くことに、ロゥリィより加藤の方が再生が早かった。壊れにくくても、再生しないはずの改造骨もみるみる元の形になった。

 

逆にロゥリィの再生はいつもより遅くなっていた。

 

 

「その刀の能力、対象の生命力を奪って自己の生命力に変換するみたいね……」

 

 

確かに、それなら辻褄が合う。

ロゥリィの不死の生命力を吸収したとならば加藤の異常な再生能力も説明がつく。

 

 

「その刀、どこで手に入れたのぉ?」

 

「草加さんから頂いた」

 

「うそぉ」

 

「本当だ。まあ、数日後に何故か銀色から黒色になったがね」

 

「その刀を渡す気はあるぅ?」

 

「ご冗談を」

 

「力づくで奪うと言ったら?」

 

「できるかな?あんたの弱点はこいつ(伊丹)なのは先日の決闘で証明したはずだが。

それとも、もう一度四肢爆散されたいのかな?」

 

「人の神経を逆撫でするのお上手ねぇ」

 

 

普段クールなロゥリィのおでこに血管が浮いている。

 

 

「それでもやると言うなら、今この場にいる者は全員俺の射程範囲内とだけ言っておこう。賢い貴女なら、理解できますな?」

 

「ぐぬぬ……卑怯者ぉ」

 

 

ロゥリィが悔しそうに噛みしめる。

 

 

(うそぉ、俺と加藤の間でも5メートルあるのに……もしかしてこの城ごと爆破させるとか言わないよな……)

 

 

伊丹は少し不安になる。

 

 

「まあ、この刀がある以上タイマンでも負けはしないことは先ほどの斬り合いで証明できた訳だし。なおさら手放すわけにはいかない」

 

 

そう言って黒い刀を鞘に納める。

 

 

「カトウさん」

 

 

突如、セラーナが呼びかけた。

 

 

「どうしました、吸血鬼のお姉さん」

 

 

加藤は反射的に柄に手を置く。相当警戒しているようだ。

 

 

「断言致します。貴方は、デイドラに操られてないと言ってましだが、少なくとも利用されております。彼らのいる世界から来た私が断言します」

 

「ほう、そうか……問題ない」

 

「問題ないって、お前正気か!?」

 

 

伊丹が机を叩いて叫ぶ。

 

 

「俺たちの計画に問題なければ、デイドラとやらが俺を利用しようが問題はない。共栄だよ、共栄」

 

「くっ……」

 

 

加藤の言葉がどこまで本心なのか、伊丹でも分からなくなってきた。

 

彼自身の意思なのか。

 

デイドラに操られたのか。

 

それとも……

 

 

「加藤、さっきの話の続きだが……」

 

「そうだな、襲撃されたこともあるし急いだ方がいいな。次またいつ襲撃を受けるかわからんし、お前たちを帰した方がいいな」

 

「そうだな。休暇返上だな……」

 

「休暇利用して俺に会いにきたのか。お前らしくもない。いや、お前らしいかもな……」

 

「で、早く説明しなさいよぉ!」

 

 

ロゥリィが早くしろと言わんばかりに声を上げる。

 

 

「そうだったな。SAWもWASも日本と米国のかなり昔の協定でできたものだ」

 

「どれくらい?」

 

「1946年。日本の敗戦からすぐだ。理由は簡単、今後日本のように強大な国力、或いは強固な意志を持った敵勢力を内部崩壊させるための組織だ」

 

「あれ、日本は軍隊もってないじゃないか。自衛隊もまだ発足してない……」

 

「軍隊じゃない。工作員という位置付けだな、当時は」

 

(あ、察し……)

 

「まあ当時は北朝鮮、中華人民共和国に投入されたのだが大敗を喫してな。あれは酷い戦いだった」

 

「お前さも参加したみたいな口調だけど……」

 

「さあね、少なくとも追体験はしてる。これが薬物なのか幻覚なのか催眠なのかは知らんけど。それとも本当に体験してたりしてな」

 

 

加藤は軽く笑った。

 

 

「もしかしたら、実年齢も俺自身の過去も実は幻覚だったらどうしよう」

 

 

加藤は笑えない冗談なのかもわからないことを話して勝手に笑い始める。もはや狂気的だ。

 

 

「伊丹殿、妾は彼の言ってることが9割理解できないのだが……」

 

 

ピニャが申し訳なさそうに聞く。

 

 

「簡単にまとめると、こいつはバケモンだ。人間離れしている。ただの狂人であってほしいとぐらいにな……」

 

「あら、今お気づきですの?」

 

「「「え!?」」」

 

 

セラーナが唐突に発言した。

 

 

「彼にナイフを投げた際、吸血病になるよう私の血を塗布していましたが、彼からは吸血鬼の気配が一切感じません。彼は人間と言ってますが、さしずめオートマトン(機械生物)あたりでしょうか」

 

(セラーナさんの世界にもサイボーグみたいなのいたのかな?すげえな……)

 

 

伊丹が感心してると、加藤の目が一瞬殺意に満ちた気がした。

 

 

「聞き捨てならんな。俺は人間だ。以前の俺なら、自分が何か悩むところだが()に会えたことで俺は『人間』だと確信できた」

 

「彼?」

 

「我が主、アルドゥィン」

 

「そうだ!あのアルドゥィンとやらの漆黒龍のこと忘れてた!お前との関係を説明してもらおうか!」

 

「時間がない。それにそれはできない」

 

「できないって、どうして?全てを話してくれる約束」

 

 

レレイが唐突に尋ねる。

 

 

「……話したくても話せんのだよ。なぜか……多分、そんな呪いをかけられたのだろうね。それに、彼の話は今したところで何の意味もない」

 

そいつ(アルドゥイン)がこの世界にいないからでしょぉ?」

 

 

ロゥリィがにんまりと笑う。

 

 

「え!?ロゥリィそれホントか!?」

 

「バレていたか……確信はないがそんな気がしただけなんだけどな」

 

 

加藤はまいったと言わんばかりに頭をぽりぽりとかく。

 

 

「まあ、ホントちょっと前にあいつの気配が消えたのを感じただけなんだけどぉ。おかげで下腹部が久しぶりに疼くわぁ」

 

「ロゥリィ、そんな大きいお友達が喜びそうな表情するんじゃあない!」

 

 

ロゥリィの表情は今にも伊丹に(いやらしい意味で)襲いかかりそうな勢いだ。

 

 

「だが、俺たちの行動に変更はない」

 

 

加藤は伊丹が次の言葉を発する前に断言した。

 

 

「どうせお前のことだ。あの不滅の龍がいなくなり、俺の計画は失敗やら自衛隊が巻き返すなど言うつもりだろうが……この計画元々彼無しで行うものだ。成功率が100%から99%に落ちたに過ぎん」

 

 

あまりの気迫に皆が黙ってしまった。

 

 

「……わかったよ」

 

「ちょっと、ヨウジぃ!?」

 

 

伊丹が諦めたような、少し怒ったような雰囲気で立ち上がる。

 

 

「たが、お前たちの計画がうまく行くとは思うなよ。世界を乱そうというなら、俺たちが止めてやる」

 

 

それを聞き、加藤は少し安心したような表情をする。

 

 

「……ぜひ、お願いしたいね。ただ、俺的には元々混沌としている世界に終止符(終わり)を打つつもりなんだけど」

 

「御託はいいからさっさとお前が見せなきゃいけないもの見せてもらおうか!」

 

 

ということで、だいぶ計画を前倒しにかつ急ピッチで進めることになった。

 

一同は地下施設へと連れて行かれる。

 

城の地下に最近新設した鉄筋コンクリートで覆われた部屋のようだ。

 

 

「ここから先は伊丹だけだ」

 

 

厳重なロックのかかった扉を前に加藤が言った。

 

 

「えー、そんなー」

 

 

とテュカ。

 

 

「約束は守ってもらうぞ。2人きりで話し合いたい」

 

「2人きり……」

 

 

ゴクリと唾をのみこんだのはピニャ殿下たちとテュカだった。

というか鼻血出して目がキラキラしている人いない?

 

 

「いや、ちょっと待てよ、そんなんじゃないからね!」

 

「そうだ!俺たちはそんな関係じゃない!」

 

 

伊丹たちが弁明する。

 

 

「いいのよ、お父さん……私、そういうのすごく理解ある方だから……ハァハァ……」

 

「うむ、大丈夫だ。妾は音だけで我慢しよう。そして内容は脳内再生とやらで頑張るとしよう(そしてその記憶をリサ殿に……)……ハァハァ……」

 

「だから違うって!」

 

「いいから伊丹、入ってこい!」

 

 

ラチがあかないと判断した加藤によって伊丹は厳重な部屋内に連れて行かれる。

 

 

「「つ、連れて行かれた……ハァハァ……」」

 

 

一部の女性陣の期待を裏切り、中では至極健全な会話が行われた。

 

 

「いいのかい、武器も無しにほいほいついてきちゃって。俺は男だろう女だろうか、子供だろうか老人だろうが、殺っちまう男なんだぜ」

 

「そりゃこまるなー。でも俺を殺すメリットないだろう?」

 

「まあな」

 

 

そして部屋の明かりがつく。

 

 

「ところでこいつを見てどう思う?」

 

「すごく……大きいな」

 

「でかいのはいいからさ、触ってみろよ」

 

 

言われた通り触ってみる。

 

 

「……なんだこれは。硬くて熱い。振動もしている」

 

「振動か?もっとよく感じてみろよ」

 

 

伊丹は渋々言われた通り集中する。

 

それは機械的な振動ではなかった。

 

 

(脈を……打っている?)

 

 

その一定のリズムは何か生物的な感じがした。

 

 

(違う、脈じゃない……鼓動を感じる……)

 

 

心臓に似た、強弱のある振動。

 

 

「おい、まさかこいつ……生きてるのか?」

 

「さあな。ただ一つ言えるのは、核と同等のエネルギーをもってさえダメージは入らなかったことだけは言っておこう」

 

「こんなものがこの世界で……」

 

「いや、この世界で見つかった物じゃない」

 

「え?」

 

「北緯38度、東経142度……」

 

 

加藤は静かにつぶやく。

 

 

「約5年前の大震災震源地の海中で見つけた」

 

 

加藤の目は今まで見た中で一番真剣であった。

 

 

伊丹は目の前の、1メートル大の人工物と思っていた白い球体物を前に言葉を失った。

 

そして直感的に理解した。

 

 

加藤の目的を。

 

 

そして、この白い球体はやばい、と。

 

 

***

 

 

(ここはどこだ?)

 

 

とある空間で目覚める。

 

しかし、自身の実体を感じない。

 

それでも、この場所はどこか懐かし感じがする。

 

 

(私は何者だ?)

 

 

『お前は、お前だ』

 

 

何者かが我に語りかけた。

 

 

(その声、知っているぞ……)

 

 

『そうであろう。私もお前のことを良く知っている』

 

 

(アカトシュ……!)

『アルドゥイン』

 

 

(アカトシュ!貴様どこにいる!?)

 

『出会い早々に貴様とは、なかなかの出会いではないか。私はすぐそばにいるぞ』

 

(なに?どこにも見えんぞ!隠れていないで出てこい!)

 

『それはお前が盲目なだけだ。気を鎮め、集中するがよい』

 

(ちっ……)

 

 

アルドゥィンは荒れた気を鎮め、瞑想をする。

 

何も見えない中、目を瞑るつもりでいると、不思議なことに逆に光が見えてきた。

 

そしてその光が視界全体を照らす。

 

そして、自身の姿を認識できた。

 

ドラゴンの形ではなく、黒い煙のような形。

 

オブリビオンの領域でデイドラと対峙した時のように。

 

 

(どこだ!?アカトシュ、どこにいる!?)

 

『せっかちだな。よく見よ。よく見るがいい』

 

 

癪だが言われた通りにすると、光だと思っていたもの、そう彼の視界いっぱいに広がっていたものが、()だった。

 

 

(アカトシュ……)

 

『ようやく見えたか、アルドゥィンよ』

 

(ここであったが100年目、貴様を滅ぼしてくれる!)

 

『今のお前に、それができるかな?』

 

(……)

 

『それに、たとえお前は私と同等の力を持っていたとしても、それは不可能なことだ』

 

(なんだと?)

 

『なぜなら、我々はそのようにできているからだ。私がお前を消せないように、お前も私を消すことはできない』

 

(何故だ……なぜだーー!?)

 

『お前は太陽によって生じた自身の影を消すことはできるのか?』

 

(……?)

 

『できるとするならば、光か、それを映す全ての物か、または自分を消すことしかあるまい』

 

(つまり、我々は光と影の存在だと?)

 

『そんな単純なものではない。もっと複雑で、説明のできぬ関係だ』

 

 

人間より遥かに知能の高いアルドゥィンを待ってしてもアカトシュが述べていることを理解することはできなかった。

 

 

『人間たちは、我々の存在を親と子、又は一心同体、もしくは一部を共有する者、実は同じ者などと考えは多種多様に渡る。

しかし、そんな単純なものではない。

私とお前は、親子でもあり、兄弟でもあり、友人でもあり、一心同体でも、一部を共有する者でもある。お前は私であり、私はお前でもある。人間たちの考えの遥か先に、存在するかどうかもわからない次元の存在なのだ』

 

 

アカトシュは言葉でアルドゥィンに語りかけているように見えるが、それ以上に言葉では表せない感覚が直接アルドゥィンの脳、精神と心に流れてくる。

 

決して不快な感覚ではないが、あまりにも高次元かつ途方も無い量の感覚であるため、もし人間が同じことをされたら発狂死することは確定である。

 

 

(ならば答えてくれ……)

 

 

アルドゥィンは少し興奮気味に尋ねる。

 

 

(ならば我は何故存在している。何故貴様は我を生み出した)

 

『……私がお前を生み出したのではない』

 

(なに?)

 

『お前が、自ら生まれて来たのだ』

 

(どういうことだ……?)

 

『だから、私にはお前が生まれた理由は知らない。お前自身が、生まれる前の高次元の意識のお前しか知らないはずだ』

 

(バカな……そんなバカなことが……)

 

 

アルドゥィンは狼狽える。全能神であるアカトシュなら分かると思っていたことが、わからないとは。

 

アルドゥィンは自身のアイデンティティを失いつつある。

 

 

(我自身しか、わからぬというのか……)

 

『そうだ。お前は生まれると同時にニルン(下界)へと降りた。そしてお前は……』

 

(破壊と支配の限りを尽くした……)

 

『そうだ。だがそれがお前の生まれた理由なのか、それともその先に別の理由があるのかは、まだわからない。その上、決めるのにも時期早々と思える』

 

(我は今まで破壊と支配を証に生きていた者だ……他な何があるというのだ……)

 

『お前がデイドラの領域へ連れ去られ、利用され、別世界でも同じことを繰り返していたことは私も知っている。しかし、それも何かあると私は思っている』

 

(……?)

 

『そして、ここに来たことにも理由があると思う。事実、ここに来たことによってお前のデイドラによる拘束は解けた』

 

(なに、我はそんな拘束など……)

 

『デイドラによって強化されていたように思えるが、同時にあれは手綱でもある。地獄の番犬にされていたのだ』

 

(おのれデイドラどもめ……)

 

『あの者に感謝するのだな』

 

(あの者?)

 

 

気がつくと、隣に真っ白の煙の塊のようなものがいた。

 

 

(アルドゥィン殿、先ほどは失礼した……)

 

(もしや、貴様はあの白き龍か!?)

 

(左様……)

 

『この者は祖なる龍、ミラルーツと言われて私の知り合いだ」

 

(まて、祖なる龍だと?なら我はなんだ!我こそが祖ではないのか!?)

 

『アルドゥィン、落ち着け。お前はこの世界の祖なる龍だが、この者は別次元の世界の祖なる龍だ』

 

(何、そんなことがあって良いのか!?)

 

『良し悪しの問題じゃない。人間界に星や世界があるように、所謂我々神々の世界にも様々なものがある。事実、私がこの者を知ったのもかなりの偶然と奇跡の一致だが』

 

(妾はデイドラの囚われの身となっていたところをアカトシュによって救われたのだよ)

 

 

とミラルーツの魂が補足する。

 

 

『しかし、お前たちがここにいるのもただの偶然ではない。ミラルーツがいなければアルドゥィン、お主をここへ呼び戻すことはできなかったかもしれん。

一ついえるのは、お前たちは一度先の世界に戻るべきだというこどだ』

 

(ならばさっさと帰してもらおうか。あの小癪なドヴァキンも滅ぼさないといけないからな)

 

『だがデイドラの強化を失い、魂も多く失ったお前に何ができる』

 

(ぐぬぬ……)

 

(だから妾がここにお前を連れて来たのじゃ)

 

(え?)

 

(お主を強くするために!)

 

 

そして地獄の特訓が始まった。

 

 

***

 

 

「ぶ、無礼者!貴様一体何を……ギャァァァアアアッ……」

 

 

男の断末魔が深い森の中へと消えていった。

 

 

「ゾルザル陛下!ご無事で!?」

 

 

近衛兵たちが木々の間を通り抜けてやってきた。

 

 

「問題ない、俺はこの通り無傷だ。賊に襲われたが、この通り成敗してくれてやったわ」

 

 

そう言ってゾルザルは足元に転がっていた死体を蹴飛ばす。

 

 

「ご無事で何より……え?」

 

 

近衛兵長はギョッとした。

 

蹴飛ばされて自らの足元に転がっていたのは……

 

ゾルザルだった。

 

そして目の前で立っていたのも、ゾルザルだった。

 

 

「取り敢えず、お前ら全員極刑だ」

 

 

生きている方のゾルザルがそう宣言すると、男数名の断末魔がまた森の奥に消えていった。

 

 

「んんー、馴染むぞ、この顔、この体。久しぶりにヒト種の男になったがやはり馴染む。これが最高にハイってやつだぁぁあ!!」

 

 

ゾルザルは眉間に指を突っ込みこねくり回すが、指を抜くと何も無かったように傷がふさがる。

 

 

「さて、この世界も飽きたし、面白いことをしてこの世界を滅ぼすか♪」

 

 

後にこの森で調査が行われた際、大量の遺体が発見されることとなるのはまた別のお話。

 




途中からミラルーツの一人称「妾」にしてますけど許してください。
まるでピニャ殿下みたい。


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ユーターンしちゃった

もうストーリーの構成は出来ております。あとは文字に起こすだけ。
100話以内には収まる予定です。


***

 

時を遡ること数ヶ月

(第46話:ご注文はヴォーリアバニーですか?いいえ、巨龍ましましで、参照)

 

 

「さあ来やがれ。貴様の情報を得るまで俺は死なんぞ」

 

 

加藤はそう言ってカメラを漆黒龍に向ける。

 

そして漆黒龍はこちらを見ると、嗤

った。気がした。

 

 

「ほう、なかなか面白いことを言うではないか。それに興味深いジョールだ。緑のジョールがいれば黒いジョールもいるのだな。特に、貴様は非常に興味深い」

 

「…………嘘だろ」

 

 

加藤は耳を疑った。

 

龍が喋った。

 

しかも、日本語。

 

異世界とはいえ、今まで資料にはそんな事一切書いていなかった。

 

これは喋っているのか、それともテレパシーなのか……

 

テレパシーなら、まだ魔法のある世界だからありうると考えられる。

 

しかし、日本語を話している場合、人間以上の知能、能力を持つ可能性が高い。

 

加藤は急いでカメラに録画されているはずのデータを再生する。

 

しかし全て砂嵐状態で音も割れて聞こえない。

 

 

(嘘だろ……肉眼、耳でははっきりと伝わるのに電子機器をジャミングしてるのか!?)

 

 

「どうした、人間(ジョール)よ、何を恐れている?」

 

(ジョール……特地では聞かない単語だ……それよりも、なんだこの重圧(プレッシャー)は!?)

 

 

加藤は形容し難いオーラとプレッシャーに押しつぶされて胃液を吐きそうになる。

 

防衛大学校、幹部候補生学校、特別警備隊、NAVY SEALS 研修、SAW及びWASの訓練ですらここまでの圧を感じたことはなかった。

 

それどころか秘密裏に中東やアフリカで作戦中に拘束された時よりも、ただの子供だと思っていた少年兵たちにロケットランチャー(RPG)を撃たれたときよりも恐ろしいと今感じている。

 

 

恐ろしい?

 

 

そんなはずはない。

 

向精神薬、麻酔や普通の人間に使えばアウトな薬物の服用や脳や神経を含む人体改造を施して痛覚やいらない感覚をコントロールできるはずのこの身体が……

 

恐怖してるだと?

 

 

(バカな……そんなバカな、ありえねぇ)

 

 

頭で否定しても証拠に冷や汗はどんどん溢れ、指先や膝は震え、息も荒くなっている。

先ほどの吐き気も強くなり、頭痛もして過呼吸を起こしそうになる。

 

加藤は持参している一番強力な薬を打ち込むが、全く効果は無かった。

 

 

(おいウソだろ……人間の身体は所詮化学物質の塊だろぉ!何で薬が、効かないんだ!?)

 

 

そして恐る恐るアルドゥィンを見た。

 

 

そして理解した。

 

 

怖い

 

 

怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い

 

 

今感じているその恐怖こそが、彼の心と身体の正直な反応であった。

 

理屈や理論で理解できるような感覚ではなく、もっと根本的な、本能に近い感覚……

 

絶対勝てない相手への……畏れ

 

ある出来事を境に枯れたはずの涙がボロボロと溢れ出た。

 

感動や悲しみ、悔し涙ではなく、恐怖による子供のような涙。

 

大の大人がこのように泣くなど普通なら恥ずかしくてできることではないが、彼の前にそんなことどうでもよくなった。

 

 

「死にたくない……でも、俺を……殺してくれ……」

 

 

今まで感じたことのない死への恐怖、そして矛盾するその恐怖から逃れたいがために死を選ぼうとする不可解な感情が加藤を襲った。

 

死ぬのは怖いが、どうせ失う物などない、家族も災害で失った。それよりもこの重圧から逃れたい、それだけで頭がいっぱいだった。

 

 

「貴様、興味深いな」

 

「……え?」

 

 

アルドゥィンの予想外の言葉に加藤は驚く。

 

 

「身体はいろいろと人間離れしているが、ここまで面白い魂を持った人間は久しぶりだ。まるで純粋な水晶を粉々にしてまたくっつけたような魂をな」

 

 

言ってる意味がわからなかった。

 

 

「貴様の過去を見た。面白い、非常に面白い。並大抵の経験ではそんな魂にはならない。やつに似てる、我を滅ぼした憎き偽りのドヴァ(ドヴァキン)にな……」

 

 

ドヴァ?また新しい単語だ、と加藤は思った。

 

 

「だが奴とは正反対の性質。奴が生まれながらにして能力を持つが、貴様は()()()()存在。気が変わった、我に服従しろ」

 

 

不思議な気分だ。

 

先ほどまでの恐怖は嘘のように消えた。

逆に今では安心感を感じている。

 

ストックホルム症候群だろうか。

しかし加藤はこれはもっと単純なものだと感じた。

 

先ほどの恐怖と同様に本能的なもの。

 

 

「どうした、ジョール(定命の者)よ?」

 

 

そう、自分は『定命の者(人間)』だから。

 

例え人権を棄てようと、骨格、神経系列の改造を行い、周りから兵器として扱われても、どんどん人間から離れていても……

 

 

「主人よ、貴方に魂の全てを捧げます」

 

「クックック……それで良い……我に従え、さすれば貴様の望ものを与えん」

 

 

自分は人間だ。加藤はそう確信した。

 

 

***

 

日本、尖閣諸島、魚釣島より北西約1000海里

 

 

「まもなく、特殊揚陸艇が魚釣島の100海里圏内に入りマス」

 

 

空母広東のCIC(戦闘指揮所)内にて、海軍士官が艦長に報告する。

 

 

「ヨロシイ、同士が上陸すると同時に我々侵攻、支援を行う。これで魚釣島は我々が実効支配するこのになるダロウ」

 

 

中華人民解放軍海軍の艦長はほくそ笑んだ。

 

 

「マモナク上陸作戦開始します。10、9、8……」

 

 

カウントダウンが始まった。

 

 

「7、6、5……」

 

 

CIC内の全員が固唾を飲んでレーダー画面を見守る。

 

 

「4、3、2……っ!?」

 

「おい、どうした!」

 

「揚陸艇が全てレーダーから消えたぞ!」

 

「こちら広東CIC、鳄鱼(ワニ)1号、2号、3号、応答セヨ!」

 

「一気に消えタ……」

 

「何か反応はあったカ!?」

 

「……先程、斥候部隊から水中爆発の感アリと……」

 

「……機雷カ?」

 

「おそらく……」

 

「おのれ、日本鬼子(リーベン・グイズ)(日本人を罵る言葉)め……作戦は失敗だ。撤収する……」

 

 

空母広東は母港へと撤収した。

 

 

 

 

そのほぼ真下の深海に日本の新型潜水艦『おうりゅう』が機関停止で文字通り息を潜めていた。

 

 

「……どうも敵さんは撤収始めたな」

 

「そのようですな……」

 

 

潜水艦の音響員が耳をすませている。

 

 

「しかしS0(シエラゼロ)、いえ分隊長、揚陸艇を破壊したところで、生存者がいたら不味くないですかね?上陸でもされたら」

 

「まあ心配はいらんさ。お偉いさんもバカじゃないハズさ(まあ例え上陸できたところで、Y0(ヤンキーゼロ)たちの餌食だな……)」

 

 

潜水艦乗組員の予想通り、魚釣島の準備も万端であった。

 

 

「こちらZ0(ズールーゼロ)。水機団の隊員に島の内部を捜索させた。潜入はされてない模様」

 

『こちらY0(ヤンキーゼロ)。了解、こちらは生存者2名が泳いで上陸しようとしているところを拘束した。他、遺体なども確認できた』

 

「了解、ではこちらも万一見つけた場合は予定通り後方に待機中のX0(エックスゼロ)を通じて公安に引き渡す」

 

『了解』

 

 

そして各々の特殊部隊たちは闇夜に紛れて任務を続行した。

 

 

***

 

 

伊丹たちは加藤から貸された翼竜に乗ってアルヌス近くまで移動した。

 

 

「どうよ、乗り心地は?」

 

「馬より難しいけど意外と乗れるもんだな」

 

 

加藤の問いに伊丹は答えた。他の者たちもあまり苦戦してなかった。

 

まだアルヌスには徒歩では遠いが、翼竜で近づき過ぎて自衛隊や米軍のレーダーに探知されて撃墜でもされたら元も子もないので、少し遠くで降りることにした。

 

 

「黒川さん、うちの衛生兵及び看護師の指導感謝します」

 

「いえいえ、他に何もやらせていただけなかったので不本意ながらも協力いたしただけですわ」

 

「……黒川さん、もしかして怒ってらっしゃる?」

 

「いいえ。しかし国家を名乗るのでしたらもう少し国際法勉強なさっては?」

 

 

黒川の言葉が加藤の心にブスリブスリと刺さって行くのが見えた気がした。

 

 

「栗林さん、貴方はどうされるの?」

 

 

黒川は栗林に尋ねる。

 

 

「もちろん残り……」

 

「栗林、君に伊丹2尉の護衛を命ずる」

 

 

栗林が言い終わる前に加藤が栗林に命令をする。

 

 

「え、何で私がこんなおっさんの……」

 

「嫌か?」

 

 

加藤はさらに近づいて栗林の顔を冷たい視線で見下ろす。

逆に栗林はかなり見上げる形になる。

 

 

「い、いえ!」

 

「よろしい。何があっても伊丹の命を守れ」

 

「はいっ!」

 

「あとお前にこれをやる。小柄だがお前ならこの銃を扱えるだろう」

 

「あ、ありがとうございます!」

 

 

加藤はFN SCAR(特殊部隊仕様小銃)を渡す。

 

栗林は新しいおもちゃを渡された子犬のように喜んだ。

否、喜んでいると言うか、変な意味で興奮していると言った方が正しいかもしれない。絶対喜んでドキドキハアハアの表情だと伊丹は察した。

 

 

(俺、一応あいつの元上司なんだけど……何で同僚と俺でこんなに扱い違うんだ。俺も特殊部隊(S)なのに!?)

 

 

伊丹は静かに心で泣いていた。

 

 

周りもピニャの騎士団一同と伊丹の一同と別れを惜しんでいた。

 

 

「ピニャ、死ぬんじゃないわよぉ」

 

「猊下もお元気で。また安定したら会いましょう」

 

他にも古田などの自衛官、騎士団や亜人の一部も伊丹たちとアルヌスに向かうことを決めた。

 

各々のやり取りを終え、加藤が伊丹に近づいた。

 

 

「じゃあな、耀司。次会うときは、多分お互いに銃口を向ける時だ」

 

「そうかもな。蒼也、もし帰ってくるというなら、俺は全力で協力するぞ」

 

「ありがたいな。気持ちだけもらっておく。ただ、お前がどんだけ頑張っても俺がそちらへ一歩踏み込めば俺は抹殺される」

 

「さすがにそれは……」

 

「なんせ、SAWもWASも……人権を剥奪されたか棄てた所謂『兵器』だからな」

 

「えっ、何だって……!?」

 

「お前たちの身のためにもこれ以上は教えられん。お前にもこれをやる」

 

 

加藤は伊丹には一度返されたM4小銃をさらにアップグレードしたものを渡す。

 

 

「加藤、一つ言い忘れたが……話が長くなるので割愛するが、(マオ)は、異世界出身ということが分かった……」

 

 

それを聞いた加藤は少しおいてため息を吐く。

 

 

「もしかして、今更知ったのか?」

 

「え?もしかして知ってた?」

 

「まあな。ありとあらゆる想定はしていたし、その可能性は高いと昔から思っていた。絶対バカにされるのは目に見えていたから誰にも言ってないがな。それに……」

 

「それに?」

 

「俺はマオから直接教えてもらった、3年前に俺がWASとして奴の下で働いていた時にな」

 

「はあ!?なぜそんな重要なことを教えてくれなかったー!」

 

「話すつもりだったが、タイミングが難しくてな。話しすぎるとお前の命も危うい。それに、奴は俺が始末する」

 

「元部下として?」

 

「そんなもんじゃない……言葉では表せないがな」

 

 

そう言って加藤たちは翼竜にまたがった。

そして飛び立とうとしたところ、レレイが加藤の裾を引っ張った。

 

 

「レレイじゃないか。これでお別れなのにちゃんと挨拶してなかったな」

 

「カトー教官、これ返す」

 

 

そう言ってレレイはタブレットを渡す。

 

 

「俺にそれはもう必要ない。お前にやる。新しいデータは伊丹に入れてもらえ」

 

「伊丹はアニメや漫画しか持ってない……もっと色々な本を教えて欲しかった」

 

「元教官にとっては最高の褒め言葉だな。もう、俺が教えられることはない。あとは自分で探求してくれ」

 

 

そう言って加藤たちは飛び立った。

 

そして見えなくなって、伊丹たちも動き出す。

 

 

「よし、俺たちも行くか」

 

 

そして振り向くとみんな仰天した。

 

米軍が偽装して立っていた。

 

気がつかなかった。

 

 

「やべっ、見つかった!」

 

「リューテナント・伊丹、お待ちしておりました」

 

「へ?」

 

 

てっきり拘束されるものかと思っていたが全く異なる反応に逆に驚いた。

 

 

「アルヌスまでお送りします」

 

 

そして一同はトラックへと案内される。

 

 

「あのう、皆さんは誰の命令で……」

 

「……申し訳ありませんが、いくら英雄とはいえそれはお答え兼ねます」

 

「ですよねー、ははは……」

 

「あともう一つ、先ほどのことは我々は何も見てませんし、我々はそこで彷徨っていた貴方方を保護しただけです」

 

「わ、わかりました」

 

 

程なくしてトラックは出発した。

 

トラック内でしばらく皆黙っていたが、ロゥリィが何か頭を悩ませていた。

 

 

「ロゥリィ、どうした?」

 

「いやね、ちょっと腑に落ちないことがぁ……」

 

「何が?」

 

「……ほらさ、あいつ(加藤)がパイパーを超える色んな情報網を持っているのは確かだけどぉ、知り過ぎなんじゃないのかなぁ、って」

 

「何で?」

 

「だって、あいつ私とヨウジぃの秘密知ってるのよぉ」

 

「秘密って、なんの?」

 

「あんたが私の眷属でぇ、貴方の傷を私が受けることぉ!じゃないと初めての決闘でそれを利用されるわけないじゃないのぉ!」

 

「あ……!?」

 

 

伊丹はやうやく事の重大さに気づいた。

 

そう、彼らはずっと監視されてる。

 

 

伊丹がロゥリィの眷属にされた時も。

 

 

学都ロンデルでレレイの命を狙ったシャンディーの右手が吹き飛ばされた時も。

 

 

おそらく奴らがいつも近くにいた。

 

 

「つまり、俺たちの情報は筒抜けと……」

 

 

急に小声になる。

 

 

「そうよぉ、だから気をつけないと……」

 

「迂闊に何もしゃべれんな……」

 

 

伊丹はM4を見る。

 

 

(あいつのことだ、発信機とかつけてるかもな……後で確認しなくちゃ)

 

 

少ししてトラックはアルヌス内で止まった。

 

 

「ありがとう!」

 

「では我々これで」

 

 

米軍たちは伊丹に敬礼するとすぐにどこかへ行ってしまった。

 

 

「取り敢えず、俺たちも支度しなくちゃ。帰ってきたばかりだけど……」

 

 

伊丹たちが自衛隊施設内に入るのを確認すると、先ほどの米軍の一人が無線に連絡する。

 

 

「こちらグリーンゴブリン。対象は無事着いたとジョーカーに伝えてくれ」

 

『こちらサンドマン、了解』

 

「あともう一つ、ポイズン・アイヴィから例のものを受け取った。後ほど送付する」

 

『……了解』

 

 

***

 

 

伊丹たちが基地へ帰っても、色々と慌ただしい状況のおかげで特にお咎めなども受けることもなかった。

 

というか、伊丹たちが特地のあちこちにいたことすらバレてない模様。

 

 

「にしても、なんでこんな慌ただしいんだ?」

 

「さあ、しかし内装や外装も綺麗にしているところをみると誰が偉い人でも来るのでは?」

 

 

ヤオが窓内側から基地の様子を見て言った。

 

 

「まさか総理大臣やアメリカの大統領が来たりして」

 

「そのまさかだよ……」

 

 

伊丹は笑えない冗談を言うと後ろから女性の声がした。

 

かつてゾルザルに奴隷とて扱われていた望月紀子である。

 

 

「あ、望月さん具合は大丈夫ですか?」

 

「だいぶよくなったよ」

 

「さっきの……冗談ですよね?」

 

「私が冗談言ってるように見える?」

 

「……ええーー!?何で首相と大統領がぁ!?」

 

 

伊丹は仰天のあまり大声を上げてしまった。

 

 

「それどころじゃないよ。他に常任理事国のロシア、中国、イギリスにフランスの代表も来るんだから」

 

「な、なぜ?」

 

「その様子じゃしばらくニュース見てないようだね。だって、新帝国やらがあんな軍事パレード放送して、各国が黙ってるわけないでしょ?それで抗議声明文を日本を通して送ったら、では話し合いしましょうよと言うことになったさ。連中ふざけてるよ」

 

「……あの、それはいつ?」

 

「今日の昼から。場所は非武装地帯(DMZ)のイタリカみたいよ……あ、行っちゃった」

 

 

伊丹は話を聞かないうちにダッシュで勤務先へと向かった。

 

 

「あんのやろ〜!なぜ教えなかったー!」

 

「全くよね、お父さん。きっと何か企んで時間稼ぎしていたのよ」

 

「テュカ、俺が怒ってるのはそんなことじゃない」

 

「え?」

 

「こんなめんどくさい行事があるならもう少し新帝国でのんびりしていた方がマシだ!」

 

「「「そ、そっち〜!?」」」

 

 

 

伊丹がすぐ準備を終えて間も無くして各国代表が(ゲート)を通してアルヌスへと足を踏み入れた。

 

 

「ふむ、資料で読むよりなかなかいい場所ではないか」

 

 

米国のディレル首相は興味深く辺りを見渡す。

 

 

(これは良いフロンティア(市場)になるな……)(米)

(現在問題の移民をこちらに送れば……)(仏)

(大量の人口をこちらで労働力として使えば……)(中)

(資源開発は是非我が国が……)(露)

(EUを離脱して大英帝国の輝きを復興できるな……)(英)

(頼むからこれ以上問題を大きくしないでくれ……)(日)

 

 

米国だけではなく、各国は野心を燃やして異世界へとやってきた(日本を除く)。

 

 

「ねえねえ、ヨウジ。あのおっさんたち誰え?」

 

「ロゥリィ、声が大きい……俺の世界で実質最強の国のトップ5の代表だよ。あと付き添いの日本人」

 

「あ、確かにあの日本人なら見たことあるわぁ。でも日本がベスト5じゃないのねぇ、どれくらいすごいのぉ?」

 

「あの少し恰幅のいい金髪の白人のおっさん……じゃなくて男がいるだろ?アメリカの大統領で、アメリカは残り2から5番手が束になっても勝てないとか言われてる……」

 

「カトウはバカなの?自分の世界のそんなやばいたち全員に喧嘩売ってぇ……」

 

「バカというより、狂人だな」

 

「案外単なるおバカさんかもよ」

 

 

ヤオの呟きに対してテュカが面白おかしく言う。

 

 

「……多分、勝てる自信があるのだと思う」

 

 

レレイが唐突に呟く。

 

 

「彼には教官として色々教えてもらったけど、決して馬鹿ではないと思う。狂人と言われてもおかしくない思考はしてるけど、かなり常識破りなだけだと思う」

 

「……」

 

 

レレイはなぜこんなことを言ったのだろうか。庇った?それとも短期間でも師として仰いだ者を馬鹿にされるのは許せなかったのだろうか?

 

 

「それに……」

 

 

このときのレレイの表情が一番、何かを悟ったような感じがした。

 

 

「彼は、負ける戦いはしない。今までこちらの世界の全ての戦いで負けと認められる結果がない」

 

「……確かにぃ」

 

 

一番納得したのはロゥリィだった。

 

卑怯な手を使われたとはいえ、あの亜神ロゥリィにタイマンで勝利している(そのあとボコられたけど)。

 

 

「となると、あいつの傾向からして……」

 

「もしや、ロゥリィ猊下と同じように全員まとめて爆殺……」

 

「いや、流石にそれはないじゃない?流石に破天荒なあいつでもそれは一番やっちゃダメなのは知ってるはず……」

 

「いーえ、きっとそれよ!あいつは主神エムロイに仕える亜神であるこの私を躊躇せずに爆散させたのよぉ!しかもヨウジ、友人である貴方を爆散させてぇ!」

 

「え、あ、うん……」

 

「友人を爆散させるような奴にまともな神経はないわよぉ!よし、決まったわぁ!あいつ(加藤)を爆散させるわよぉ!」

 

「ロゥリィ、目的が変わってないか……?」

 

 

世界を救う名目に個人的な恨みを晴らそうとしている。いや、個人的な復讐がメインで世界平和はおまけかもしれない。

 

 

「おお、伊丹2尉、ここにいたか。ちょうどいいところにいた」

 

 

どこからもなく伊丹の直属の上司が現れた。

 

 

「あ、はい。何でしょう」

 

「例の各国の代表をイタリカに送るのだけど、案内と警護の責任者として行ってくれないか?適任者がなかなか決まらなくてな。それに自衛隊はいま色々と行動に制限がついてるが、米軍も『二重橋の英雄』なら、だそうだ」

 

「ええ……帰ってきたばかりなのにユーターンか……」

 

「ユーターン?」

 

「いえ、なんでもありません……ぐはっ!?ロゥリィ、お前何を……」

 

 

ロゥリィが伊丹の肩に肩車をしてもらうような形で乗っかる。

 

 

「行きますぅ!是非ヨウジを行かせてください!ついでに私たちも行きますぅ!」

 

「え、そんな勝手な……」

 

「だって、自衛隊は制限あるのでしょぉ?なら現地人の私たちなら大丈夫でしょぉ?」

 

「……確かに、一理あるな。よし、では君たち是非とも……」

 

「よっしゃぁあ!ヨウジ行くわよぉ!」

 

「ロゥリィ!そこ襟!襟引っ張って走らないで、首締まる!ぐえっ」

 

 

伊丹の足が浮くほど勢いでロゥリィは走り去った。

 

 

「よし、我々もいくぞ!」

 

 

残された少女たちも走っていく。

 

 

「な、なんだったんだ……ん?」

 

 

呆気に取られた上司の目の前にレレイがペコリとお辞儀する。

 

 

「あとは手続きよろしくお願いします」

 

 

そして皆の後を追った。

 

 

***

 

 

「この程度か?」

 

 

アルドゥィンは精神世界で地獄のような特訓をしている……はずだった。

 

彼の足元には生き絶えた銀火竜と金火竜がいた。そしてすぐに煙のように消えた。

 

 

幻影(イリュージョン)だからか?それとも地獄とはこの程度か?なら地獄など生温いわい」

 

 

デイドラの加護を失い、大幅に弱体化したと思われたアルドゥィンだが、依然世界を喰らいし者(ワールドイーター)の異名を持つだけの実力は十二分に有していた。

 

 

「まさかリオレウス希少種とリオレイア希少種両方を同時に倒すとは……」

 

 

ミラルーツは息を吐くと次の相手が形を作る。

 

 

「ほう、次は少しは持ちそうだな」

 

 

アルドゥィンの前に現れたのは金獅子(ラージャン)。明確に牙獣種と区別されながらも、不明な点の多い古龍の一部を凌駕する力を持つとされる超攻撃的生物である。

しかもスーパー●イヤ人超怒りモードである。

 

姿が形成されると同時にアルドゥィンに襲いかかる。

 

が、アルドゥィンが霊体化する方が早かった。

 

 

(ふむ、やはり近接型か……霊体化で正解だな。さて、ドラゴン・レンド(龍殺しスゥーム)が効かない相手ならこれに限る……)

 

 

アルドゥィンはかつてアンヘルに浴びせたロックオンとメテオの連携技を繰り出す。

 

一発当たりは小さいものの、流星群が一点に集中してラージャンに襲いかかる。

 

そして砂煙が晴れて肉塊を想像していたが、煙が晴れる前に閃光が走ったので、アルドゥィンはドラゴン・アスペクト(龍の装甲)を展開する。

 

ラージャンの電撃砲は防げた。

 

 

(ふむ、メテオを防ぐとは……なかなか知恵もあるようだ)

 

 

ラージャンの近くにほぼ粉々になった石や岩があるので、おそらく大きな岩ん盾にしたのだろうと推測する。

 

そしてラージャンはさらに追撃として電撃砲を放つ。

 

今度はアルドゥィンも負けじと青いビームを放つ。名前はないが、全身及び空中のエネルギーを凝縮して放つ技を巨大イカ(オストガロア)戦で学んだ。

 

アルドゥィンのビームのほうが格段に威力が上のようで、ラージャンは耐えきれず横に避けるが、アルドゥィンは追撃を逃さなかった。

 

 

Fo(冷気) Krah(冷凍) Diin(凍結)!」

 

 

フロストブレスによりラージャンの動きが急に遅くなる。

 

 

Iis() Slen(氷体) Nus()!」

 

 

そしてトドメに相手を氷漬けにしてしまった。

 

 

「ガハハハ!他愛もない!」

 

 

氷漬けのラージャンに尻尾を叩きつけると相手は粉々に散って消えた。

 

 

(グフフフ、相手の弱点も見える……相手が何を恐怖しているかも見えるぞ!)

 

 

心眼と呼ぶべきか、この無の空間において精神を極限まで研ぎ澄まさせることで神の心眼、又は神眼とも呼ぶべきか能力を習得していた。

 

 

「次はこいつじゃ」

 

 

次の相手は浮岳龍(ヤマツカミ)

 

 

「ドラゴン・レンド!」

 

 

現れるや否やアルドゥィンから先制攻撃を行う。しかしヤマツカミは龍を強制的に落とすドラゴン・レンドにほぼ効果は見られなかった。

 

 

「物理飛行タイプか……よくそんな巨体でしかも短い腕で飛んでるな。だいたいそういう場合というものは……」

 

 

アルドゥィンが近づくとヤマツカミはまるごと飲み込んで噛み砕こうと空間を吸い込み始めた。

 

 

「何か別の物質を飛行の触媒としているはずだ」

 

 

ヤマツカミのその大きな口の奥にフロストブレスを叩き込む。

 

するとヤマツカミはみるみるしぼんでいき、浮力を維持できずにゆっくりと落ちて行った。

 

 

「逃すか!」

 

 

アルドゥィンは青いビームでヤマツカミを消し去った。

 

 

「つ、強い……強すぎる」

 

 

次の相手はまさかの煌黒龍(アルバトリオン)であった。

 

 

「ククク……せいぜい我を楽しませてくれ」

 

 

そんな様子を見てミラルーツは理解に苦しんだ。

 

 

なぜ笑っていられる?

 

 

アルバトリオンとなれば祖龍(ミラルーツ)といえど一目置く存在である。

 

なぜ恐れない?

なぜ笑い続ける?

なぜ喜んでいる?

 

アルドゥィンの戦いを見て一つわかったことがある。

 

圧倒的な経験値を積んでる。

 

ゲームのレベルのような経験値ではなく、純粋な経験による技術、知識の量である。

 

これまでの戦いでいかに効率よく相手を倒すか、という明確な目的がどんどん洗練されて行く。

 

難易度が上がっているのにも関わらず、倒す時間はどんどん早くなってゆく。

 

 

そうこう考えているうちにアルバトリオンが倒されて消えてしまった。

 

 

「グフフフ……我はまだ足りんぞ……」

 

「なぜ……彼は神を超えし存在とも言われてるのに……」

 

「グフフフ、教えてやろうか?」

 

「なぬ、そんな教えられるものなのか?」

 

「なーに、簡単なことよ。こいつらは生物ではなく、幻影(イリュージョン)だからな」

 

「そんなバカな……幻影でも通常より遥かに強いはず……」

 

「だろうな。しかしな、それはあくまでも理論上では、の話だ。命を持たない存在が命を持つ存在に敵うとでも?」

 

 

アルドゥィンは続けた。

 

 

「命あるからこそ、痛み、恐怖などの負の感情が芽生える。同時に、生きたい、という生存本能、つまり正の感情が生じる。極限まで上がった生命力は、幻影など敵ではない」

 

「なるほど、そういうことなのか」

 

 

そしてミラルーツが翼を広げた。

 

 

「ならば、生者の魂を持つ妾()()がお相手しよう」

 

 

そういうと、ミラルーツの影が紅い影と黒い影の二つに分かれた。

そしてそれぞれの影から紅色と黒色の同型龍が現れた。

 

ミラボレアス

ミララース

ミラルーツ

 

3体同時の狩りの時間(戦い)が始まろうとした。

 

 

「ふん、数を増やせばよい、というわけではないぞ?」

 

「ああ、妾もそれは承知している。だが、そのセリフは妾を倒してからにするのだな)

 

***

 

「……」

 

居心地が悪い。

伊丹が心の中で思ったことだ。

 

各国の代表はそれぞれ6機の米軍のオスプレイに一人ずつ搭乗した。もちろん護衛も引き連れて。

 

ほとんどの場合、護衛に黒服のSPが4人と軍人(おそらく、否、絶対に特殊部隊)4人の計8人と搭乗していた。

 

対して、伊丹が護衛する日本の代表の護衛はというと……

 

伊丹、ロゥリィ、レレイ、ヤオ、テュカ、セラーナ、栗林、そしてSATの隊員1名。

 

明らかにおかしい面子だ。

搭乗するとき米軍のパイロットにはこいつら正気かという目で見られ、同乗してるSATはイライラしていそうで冷静に見えて少しイライラしていて、日本の代表はなぜワシが……と顔に出ていた。

 

 

(なんかごめんなさい……)

 

 

伊丹は心の中で謝る。

 

それに、いつもは興味津々で歩き回るレレイも初めてオスプレイに乗る割には静かだった。

 

半吸血鬼で太陽の影響もあるかもしれないが、おそらく今はそんなことしている場合ではないことを理解しているのだろう。

 

自分たちが監視対象なのは皆感じていた。

 

 

『まもなくイタリカの広場に着陸します』

 

パイロットのアナウンスが入る。

下の広場にはたくさんの人影が見える。

 

 

「お前たち、よく見ておけ。あれが異世界(地球)で最強の5カ国の代表たちだ」

 

 

加藤はゆっくりと垂直降下するV-22(オスプレイ)たちを見上げて言う。

 

周りには様々な種族の兵士が一緒に見上げていた。

 

オスプレイが着陸し、しばらくしてゆっくりと扉が開いた。

 

 

「捧げー、(つつ)!」

 

 

デリラ少尉の号令で一斉に全員が銃を掲げる。

 

同時に、米国大統領を筆頭に各国の代表が次々と地に足をつける。

 

 

「ようこそ、新帝国へ」

 

 

先導はピニャが行った。

 

 

「ふむ、急ごしらえで作った軍隊にしては上出来だな」

 

 

ディレル大統領は少し小馬鹿にしたような表情をする。

 

 

「お褒めの言葉、心より受け賜わります」

 

 

それが見下していると知りつつも、ピニャはあえて顔には出さず、淡々と受け入れる。

 

 

「まあまずは話し合いだな。タクミ・クサカの元まで案内していただきましょうか」

 

「ではこちらへ」

 

 

ピニャは城内へと案内する。

 

護衛も前後左右に要人を囲むように移動する。

 

日本の代表だけ伊丹とSAT(特殊急襲隊)を除けば美少女たちに囲まれて護衛されてるので異質を放ってるのは言うまでもない。

 

そしてそれぞれの要人が待機室へと案内される。

 

 

「ピニャ殿下……」

 

「伊丹殿、ご無沙汰というほどではないな」

 

「領主のミュイは?」

 

「今は安全な場所へ退避させている。流石に非武装地帯とはいえ、何が起きるか分からないからな」

 

「それを聞いて安心した。他に何か変わりは?」

 

「今の状況が一番の変わりだな。妾もそちらの世界の大国代表と対面してなかなか緊張しておるぞ」

 

「わかりました。ただ、何かあれば自身の命を守ることに専念してください」

 

「うむ、伊丹殿もご武運を」

 

 

そしてピニャは去っていった。

 

 

ちょうど控え室に入る直前、伊丹は()とすれ違った。

 

顔は真っ黒のバラクラバの上に真っ黒のホッケーマスクのようなフルフェイスマスクをしていて分からないが、()と確信した。

 

 

「よう、一日とたたず戻っちまったよ」

 

 

お互い背を向けたまま、伊丹から話しかけた。

 

 

「……なぜ戻ってきた。次会うときはお互い銃口を向けるときと言ったはずだ」

 

「そうだな。正確には、()()向ける時と言ってたがな」

 

「よく覚えてたな、そんな細かいところまで。せいぜい後ろから撃たれないよう注意しな」

 

「お前もな」

 

 

そう言って二人は振り向きもせず歩いていく。

 

そして加藤が角を曲がったところで加藤の断末魔が聞こえた。

 

その時初めて振り向くと、ロゥリィがご機嫌な様子で角から現れた。

 

 

「ふぅ、スッキリしたぁ!」

 

「おい、まさか……」

 

「大丈夫よぉ、死なない程度に痛めつけたから。それにすぐ治るし」

 

「……俺は何も聞かなかったことにしよう」

 

 

伊丹は何も聞かなかったし、何も見なかったと自分に言い聞かせた。

 




お気に入りが増減するたびに一喜一憂している豆腐メンタルの駄作者です。
読んでいただけるだけでもありがたいと思ってます。
いつもありがとうございます!


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宣戦布告

他作品のキャラの名前出ますけど、気にしないでね。駄作者の妄想爆裂☆ゲスト出演アゲイン!


ー数時間前、防衛医科大学校、疫学研究室ー

 

 

「鷹野三四1佐、お電話です」

 

「あらぁ、どなたかしら?」

 

 

白衣を着た初老の女性が電話の対応に出る。初老でありながらまだ美しさを残す高身長医務官らしい。

 

 

「はい、鷹野1佐です」

 

『ご無沙汰しております、ポイズン・アイヴィー』

 

「その名前で呼ぶのは、マスターね」

 

『ええ。例の物は無事頂戴致しました。約束通り、スイス銀行の貴女の口座に指定額分振り込むよう手配します』

 

「そんなものいいわ。久しぶりに面白い物を見せて頂いたもの」

 

『ではお言葉に甘えます』

 

「もう会うことはないのでしょう?」

 

『そうですね。残念ですが、最後に教授の美しい顔を見たかったです』

 

「クスクス、上手いんだから。ジョーカーにも伝えておきなさい。無理しないようにと」

 

『了解です。公安に傍受される危険もあるので私はこれで』

 

「ええ。それにしても、特地の病原菌はなかなか面白かったわ。そちらに送った()()()()は有効活用しなさい」

 

 

返信はなかった。受話器からは相手が切れた音だけを伝える。

 

 

「……まさかあのバカたちがこんな騒ぎを起こすなんてね」

 

 

鷹野は机に置いてある写真立てを見る。

 

中に若かりし頃の自分と紺の制服を来た大学生くらいの若い青年が2人写っている。

 

しかし、鷹野の目は懐かしむというより、これからのことに期待している野心的な目と言った方が正確かもしれない。

 

写真には『防衛学研究室、NBC部門』とメモが書かれてあった。

 

 

***

 

 

「皆さま、特地へようこそ」

 

 

会議の開始の合図として、草加拓海がまず挨拶を行った。

 

広い会議室には、横長のテーブルに向こう側にこちらから見て左からピニャ、草加拓海、テューレが座っており、こちら側は左からフランス、中国、日本、アメリカ、イギリス、ロシアの代表が座っていた。

 

そして護衛たちは……

 

 

(怖えよ……)

 

 

それぞれの代表を守るために、後ろに立っているのだがスペースが足りないのですぐ隣に外国の特殊部隊がいる。

 

伊丹のお抱えの美少女たちが男がか弱い女を守れ、ときかないので、左端を伊丹が、右端をSATの隊員が美少女たちを挟むように日本代表の後ろに並んでいる。

 

ちなみに伊丹の右はロゥリィで左は……

 

 

你在看什么(何を見ている)?」

 

 

中国人の特殊部隊である。

 

 

(これが、13億人のトップにいるエリートか……)

 

 

身長は2メートルは超え、筋肉質でいかにもという感じである。三国無双に出てきても違和感はなさそうだ。

 

 

(怖えよ、マジで……)

 

 

隣人だけではなく、周りの特殊部隊、SPの目は狩る側の目をしてる。

入室前に一切の武器を預けたとはいえ、ほとんど全員素手でも勝てる気がししなかった。

 

 

(こいつら絶対人を殺しているだろ……いや、人のことは言えないか……)

 

 

よくよく考えてみたら特地に来た時もアルヌス防衛で人を撃った気がする。あまり自覚はないけど……

 

余談だが、向こうの壁には加藤、ジゼル、デリラや他多種族の複数名が草加たちの後ろに立っていた。

 

などと考えていたらいきなりディレル大統領がテーブルを叩いて立ち上がる。

 

 

「単刀直入に言おう。タクミ・クサカ、君たちはテロリストだ。速やかに武装解除し、投降すれば悪いようにはしない」

 

「なんと無礼な!それが一国の代表が元首に対して言う言葉か!」

 

 

珍しくピニャが怒る。

 

 

「ピニャ殿下と言いましたかな?別に我々は君達の国家全てを解体しろとは言っていない。元々、貴女は帝国の皇女だ。なら、条件次第では新帝国の維持を認めてもよい」

 

 

と言ったのはロシアの代表だ。

 

 

「その条件は?」

 

 

今まで廃人同然のテューレが珍しく発言する。よく見ると前よりだいぶ具合が良さそうだ。

 

 

「これだ。5カ国で協議した結果だ」

 

「何?日本はそんなこと聞いてないぞ!」

 

 

日本の代表が驚く。

 

その条件は特地の言語、英語と日本語で以下のように書かれていた。

 

 

・ジパングの解散、首謀者その他の引き渡し

・ゲートの管理は5か国が行う

・賠償金の要求(とんでもない額)

・無理なら土地の割譲又は資源の採掘権の譲渡

・一切の武装を解除し、進駐軍がしばらく管理する

 

など、ハルノートもびっくりの条件が他にも記載されていた。

 

 

「こ、これでは自ら占領されるも同じではないか!」

 

 

ピニャがまたも声を荒げる。

 

 

「それがどうした。我々は君達を国家とまだ承認していない。それらは国家として承認した上で、まだ未熟な国家として保護するということだ」

 

 

中国の代表が補足した。

 

 

「な、なんたる屈辱……」

 

「ちなみに、交渉の余地はない。これに従うか、それとも君達は国賊として処罰されるかだ」

 

(おのれ……またヴォーリアバニーの首長となるチャンスなんだ……ここでまた国を失えば、私は一体どうしたら……)

 

 

テューレは忍ばせていた小刀を静かに抜いた。

 

 

(!?)

 

 

後ろからものすごい殺気を感じ、それ以上手を動かさなかった。後ろをチラ見すると、加藤と同様の服装と覆面をした女性が静かにテューレを見ていた。

 

しかしその目が全てを語っていた。

それ以上動けば命の保証はないと。

 

そんな修羅場で、草加が発言する。

 

 

「流石にこれは酷い、に尽きますね」

 

 

草加は静かに言った。

 

 

「貴方たちは新帝国をまだ国家承認していないと言ったが、我々ジパングは承認している。それに、魔術による承認の誓いもしている」

 

「ジェネラルかアドミラルか知らないがミスタークサカ、貴方は社会学について小学生からやり直してはいかがかな?」

 

 

イギリスの代表が皮肉めいて言う。

 

 

「君は国家とは何か知っているのかね?」

 

 

フランスの代表もチャチャを入れる。

 

 

「……国家の三要素は、領土、国民、主権(政府)である」

 

「なら我々は君達の樹立宣言したジパングとやらの国家を承認するわけにはいかないことはわかっている筈だ」

 

「そんな前例もないしな」

 

 

代表たちが嘲笑う。

 

 

「……啓蒙思想発祥の国とは思えない発言だな」

 

 

草加は静かにフランスの代表の言葉に返す。

 

 

「なに?」

 

 

フランス代表の口元が一瞬引きつる。

 

 

「フランスやイギリスは、啓蒙思想の発祥の地として現在の思想に大きな影響を与えたのは事実だ。そして、欧州人が日本人などと比べて新しい発想などに長けているのも事実……」

 

「何が言いたい?」

 

「その欧州人が、日本人のように過去の習慣(くさび)から抜けることができないように私には見える。今までに前例がない?ならばその前例を作れば良いだけのこと。我々が最初の『国境なき国家』、NSF(Nation Sans Frontières)になる」

 

 

そして沈黙が訪れた。

 

 

「ダーハッハッハ!面白い、実に面白いお話だ!」

 

 

ディレルが大声で笑った。

 

 

「だがB級映画は所詮B級。大ヒットには到底及ばんよ、そんなシナリオ(考え)では。さて、そろそろディナーの時間じゃないか?区切りも良いし、ひとまず休憩だな」

 

「晩餐会の用意はしてありますが、いかがですかな?」

 

 

草加はさりげなく招待する。

 

 

「我々は別室で食べるのでお構いなく」

 

 

ディレルは遠回しにお断りする。

 

そう言ってディレルは会議室を去ると、他の代表もボディガードたちを引き連れて去る。

 

伊丹も日本の代表に追従して去る前に、当事者たち(残された者)を見る。そして驚愕した。

 

 

(あの野郎、居眠りしてやがる!?)

 

 

加藤は目を瞑り、立ったまま居眠りしていた。

 

 

(どんな神経してるんだ……)

 

 

あの場の殺気に溢れた空気でよく眠れたもんだと逆に感心しながら部屋を出た。

 

 

「隊長、起きてください……」

 

「うん、J(ジュリエット)か?もう終わりか?」

 

「な!?加藤殿、こんな重要な会談で寝ていたのか!?」

 

 

ピニャが振り向きざまに驚く。

 

 

「もし妾たちの身に何か起きたときはどう責任とってくれるのだ!」

 

「……問題ない。奴らは我々に危害は加えられんよ。しかしこのマスク蒸れるわ……」

 

 

加藤はあくびしながら答える。

 

 

「なぜ断言できるのだ!」

 

「まあまあ、ピニャ殿下、とりあえず我々も夕食を摂り、明日へ備えようではないですか」

 

 

草加は興奮気味のピニャをなだめた。

 

 

(……確かに、あの殺気に満ち溢れた空間で居眠りなど正気の沙汰ではないわ。でも思い出してみれば攻撃的な殺気ではなかったわ……)

 

 

テューレは一人で首を傾げた。

 

 

***

 

 

「ふあ、トイレトイレ……」

 

 

夜間の護衛担当となった伊丹は、その前に用をたすことにした。

 

 

「なんで俺が野郎のトイレの付き添いなんかに……」

 

 

少し柄の悪いSATの隊員とともに。

 

 

「なぜって、そりゃあんた、トイレに一人で行くとき一番狙われやすいからだよ。それに女子と来るわけにはいかんからね」

 

「んなこと聞いてるじゃねえよ」

 

「わかったよ、さっさと済ませるから怒らないでよ……」

 

「……俺もついでに済ませるわ」

 

 

そしてトイレで仲良く三人並んで用を足す。

 

三人で。

 

 

「どわぁ!?加藤!加藤なんで!?」

 

「うるさいぞ、真夜中だぞ。普通にいたのに何驚いてるんだ」

 

「気配消すのやめろ!」

 

「そんなつもりではなかったが……まあいい、それにしても坂東、久しぶりじゃねえか」

 

「……」

 

 

しかしSATの隊員ら無言を貫く。

 

 

「え、もしかしてお前たち知り合い?」

 

 

伊丹は左右にいる人物を見る。

 

 

「それとも、B0(ブラボー・ゼロ)と呼んだ方がいいか?」

 

「その名で呼ぶんじゃない、K0(キロ・ゼロ)。それに、もうその名は俺のじゃない」

 

「え、坂東さんあんたもSAWかWASだったの?」

 

「なっ!?なぜそれを!おい加藤、てめえこいつに喋ったな!?生かしてはおけn……」

 

 

坂東が伊丹の頭部に拳銃を向けようと抜いたが、それよりも速く加藤のナイフが坂東の首元に当てられていた。

 

 

「そんなこと言うと、本来はお前も処分されるべきなんだがな。誰のおかげで生きているのか忘れたか?」

 

 

加藤は片手で器用にズボンのチャックを締める。

 

 

「加藤、命を助けてくれたのは嬉しいが、俺の前にお前の腕があってすごく出しにくいのだが……」

 

 

伊丹の視界を加藤の腕が邪魔してうまく小便器に()()を定められない。

 

 

「うん、ああ、すまんね」

 

「ちっ」

 

 

加藤がナイフを引くと同時に坂東も拳銃を納める。

 

 

「まあ坂東、カッカするな。だが妙な気を起こすなよ」

 

 

そして加藤はそのまま去っていった。

 

 

「あいつは一人だったな」と伊丹。

 

「まあ昔からそんなやつだったよ」と坂東。

 

「詳しくは聞かんよ。また銃口向けられたら叶わなないし……」

 

「頼むからそうしてくれ」

 

 

そして二人も戻る。

 

 

「……やれやれ、やっと消えたか」

 

 

ほんの少し開けた扉から様子を伺っていたのはロシアの代表だった。

 

 

「明日の会議だが……」

 

「ああ、もし彼らがこれに同意しない場合は……」

 

「強硬手段に出る」

 

 

その薄暗い部屋には、日本を除く代表が全員いた。

 

 

***

 

 

会談2日目、交渉は難航したのは言うまでもない。

 

 

「では、どうしてもジパング建国の撤回、及び新帝国を国連の保護下に置くことを拒否する、と言うことだな?」

 

 

静かに、ゆっくりかつ力強くディレルは念を押した。

 

 

「何度も言うが、我々はジパング建国は撤回しない。そして新帝国の庇護については自由意思だが……」

 

 

草加は落ち着いた様子で静かに答える。

 

 

「妾は新帝国がそちらの大国共々と単独交渉するには時期尚早と考える」

 

「私も同意見です」

 

 

ピニャとテューレが追従するように返答する。

 

 

「……よかろう、その言葉をもって我々に宣戦布告したと見なそう」

 

 

ディレルはニヤリと笑った。

 

 

「な、なんだと!?」

 

「あの、もっと穏便に……」

 

ピニャが唐突に立ち上がる。日本の代表の発言はインパクトの無さ(影の薄さ)により誰も気に留めなかった。

 

 

「貴様ら、あまりにも無礼だぞ!宣戦布告したとみなすとは、妾たちはまだそんなつもりは微塵もないぞ!」

 

 

草加は特に何もせず、ピニャを見守った。

 

 

(そんなことを帝国の人が言ってもね……)

 

 

対して、テューレは半ば冷ややかな目でピニャを見ていた。

 

 

(当事者本人では無いとはいえ、帝国も似たようなことしてたしね……私たち(ヴォーリアバニー)にも)

 

「ほう、では撤回するのか?」

 

「そ、それは……」

 

 

ピニャは以前より講和派だったので戦争だけは避けたいという気持ちが強かった。しかしここで撤回を認めれば丸裸にされるも当然だった。

返答に困ったピニャに助け船を出したのは草加だった。

 

 

「言った筈だ。我々は撤回しない」

 

「分かっているだろうな、君たちが宣戦布告したとみなした我々は、何するか分からんぞ?」

 

「我々は戦線布告する、と一言も言ってないが」

 

「黙れ!このジャップが!貴様らに残されたのは開戦か建国の撤回だ!」

 

 

議論がどんどんやばい方向に向かっていた。そもそも議論ですらない。一方的な押し付けだ。

 

 

(え、ちょ……マジで戦争する気なの?)

 

 

伊丹の不安はどんどん募る。

 

 

「……」

 

 

草加は目を瞑って沈黙を続ける。

 

 

「先程、貴方たちは私に社会学を小学生からやり直した方が良いと仰った。その言葉、そのままお返ししよう」

 

 

草加はゆっくり立ち上がる。

 

 

「貴方たちは国連の代表なのか?ならば国連の許可を取ったのか?」

 

「……貴様らは国連に加盟してないのだろう?ならば関係のない話だ。そもそも国家承認してないのだがら無理だろうが」

 

「そうだな、国連とは弱者ではなく、加盟国のためにあるものだな。たが、貴方がたは一つ大きな間違いを犯した」

 

「はあ?」

 

「『宣戦布告をしたとみなす』と仰ったが、間違いないか?」

 

「だからどうしたというのだ?」

 

「撤回するつもりはないな?」

 

 

草加が念を押す。

 

 

「無論だ。我々に二言はない」

 

 

ディレルは吐き捨てるように言う。

 

 

「それを聞いて安心した。最後通牒、宣戦布告は国家間でしか生じないものだ。つまり……」

 

 

草加がどこか微笑んだ気がした。

 

 

「先ほどの言動をもって、ジパング及び新帝国の国家承認をしたとみなす」

 

「き、貴様っ!?そんなことを認めんぞ!」

 

「なぜだ?貴方たちは国連の代表なのだろう?」

 

「我々は国連の代表などではない!あっ……」

 

 

しまったと言わんばかりに中国の代表が口を滑らす。

 

 

「では、君たちは国連とは別でやってきたわけだ」

 

「それに対するコメントは控える。貴様の態度は気にくわんが、度胸は褒めてやろう。

いいだろう、どうせ我々貴様らを潰す口実が必要なだけだ。我々に勝てたら国家承認は確実にしてやろう」

 

 

化けの皮が剥がれたようにディレルは吠える。自暴自棄かもしれない。

 

 

「なかなか気前がいいな。何か裏があるのかな?」

 

「裏?そりゃああるさ。何故なら貴様らは全員ここで死ぬのだからな!」

 

 

刹那、部屋中に機関銃の如く甲高い連続音、閃光、そして赤いしぶきが舞い散った。

 

今回ばかりは伊丹たちも反応できなかった。

 

 

「ひ、ヒィ〜!?」

 

 

情けない声を上げだのはディレルたちの方だった。

 

そして辺りを見回すと、SP(ボディガード)たちが見るも無惨に倒れていた。

 

だが加藤たちは微動だにしていない。手に武器すら構えていない。

 

 

「き、貴様ら裏切るつもりか〜!?」

 

 

ロシアの代表が情けない声で叫ぶ。

 

彼らに銃口を向けていたのは、各国の特殊部隊である。

 

 

「裏切る?背任行為をしたのは貴方たちだ。祖国の恥さらしめ」

 

 

ロシアの特殊部隊(スペツナズ)が答える。

 

 

「ま、待て!国の代表にこんなことして済むと思うのか!」

 

「国の代表?笑わせるな。我々も騙しておいて、貴様らが偽物というのは裏が取れている」

 

 

フランスの代表に対し、フランスの特殊部隊が冷徹に言葉を投げる。

 

 

「お、おのれ……確かに我々は偽物だ。だが、国が国民を見捨てると思うなよ!」

 

 

偽ディレルは性懲りもなく吠え続ける。

 

 

「いやさ、あんたバカなの?あんたら使い捨てっていうこと気づいてないの?」

 

 

米軍の特殊部隊は呆れた様子だ。

 

 

「だ、だが、私が死ねば米国を本気で敵に回すぞ、いいのか?」

 

「勝てば、国家承認してくれるんでしょ?あたいならやるよ?たとえ負けるかもしれない戦でも、ここまでコケにしたらやるよ、あたいなら」

 

「まあ、なぜか負ける気がしないけどな!」

 

 

デリラとジゼルが笑いながら答えた。

 

 

「お、おのれ〜、貴様ら全員核の炎で焼きつくしてくれる!」

 

「ほう。で、どこに落とすのだ?銀座のど真ん中に?もしかして日本を三回目の被爆国にするつもりか?あ?」

 

「……あ」

 

 

偽ディレルは加藤の言葉に我に返る。

そう、特地のどこかに核兵器を落とそうにも、落とせないのだ。衛星もICBMも、大型爆撃機も、特地にはない。

 

 

「その反面、我々も核兵器なら保有している」

 

 

加藤は続ける。

 

 

「大軍で押し寄せたところで、我々は使用に関する条約は締結してないから使用は自由だ」

 

「そんな、聞いてない……」

 

 

先ほどの威勢はどこに行ったのやら、偽ディレルの勢いはどんどん削がれる。

 

対して伊丹は、ああ、あれ(小型核投射機)ね……

 

と呆れた感じで納得していた。

 

 

「だが我々は核という旧式兵器を使うつもりはない」

 

「へ?」

 

「そんなものより、さらに強力な戦略兵器を持っている、としたら?」

 

「なんだ、それは……」

 

「知りたいか?いいだろう、メイドさんの土産、じゃなくて冥土の土産に教えてやろう」

 

 

核兵器を超える新戦略兵器?

 

伊丹は半信半疑だったが、その名前を聞いて背筋が凍った。

 

 

「もし我々が異世界転送装置(ゲート)を、自由自在に作れたら、どうなんだろうね?」

 

 

加藤は今までにない邪悪な嗤いを見せた。

 

 

***

 

 

冥土の土産とは言ったものの、偽の代表たちは処刑されずに済んだ。とりあえずしばらく拘束される方針で決まった。

 

ついでだが、日本の代表は今回はハブられて関与しておらず、代表も本物だったのでお咎めなしだった。

 

 

「伊丹、驚かせてすまんな」

 

加藤がSPの遺体を運びながらいう。

 

 

「謝るならこの仕事させないでくれる?」

 

伊丹も遺体を運びながら毒を吐く。

 

 

「んで、ここだけの話異世界転送装置(ゲート)はホントにできたのか?」

 

「……さあ、どうだろうねえ」

 

(何だ、ブラフか?)

 

 

伊丹は少し安心した。この様子だと、本格的な戦いはしないのかもしれないと心のどこかで感じた。

 

 

「しかし、まさか全て仕組んであったとはな」

 

「まあな。伊達に兵站の天才(ロジスティックス・マスター)を名乗ってないからな」

 

「は?ロジスティックス・マスター?なぜ兵站?」

 

「俺、元々補給幹部って言ってなかったけ?」

 

「そういえば、そんな気がする」

 

「必要なものは全て手に入れる。撃ち空薬莢から核兵器まで。捕虜も特殊部隊も情報も全て、必要な時に必要な場所に必要な分だけ揃える。その結果ついたあだ名だよ」

 

「なんちゃって特殊部隊と呼ばれる俺よりはマシだな」

 

「なんちゃって特殊部隊か、俺も似たようなもんかね」

 

「お前が?まさか、はは」

 

「なあ、知ってるか伊丹……」

 

 

加藤はゆっくり続ける。

 

 

「俺が自衛隊いた時の特殊部隊ってのはな、俺にとってはおまけに過ぎないんだよ」

 

「どゆこと?」

 

「いや、なんでもないさ」

 

「マスター、そろそろ処理が全て完了します」

 

「了解」

 

 

新たに配下になった特殊部隊が加藤に進行状況を報告した。

 

 

「なんかマスターというと聖杯戦争(F●te)思い出すな」

 

伊丹(オタク)がつぶやく。

 

 

「そう?俺はスター●ォーズの方だな」

 

加藤(オタク)がつぶやく。

 

 

「そういや昔やった島嶼奪還統合訓練でさ、俺たちSがチーム・サーバントとかいう名前で参加した時、海自のオペレータにコードネーム、マスターってやつがいたけどさ……」

 

「もしかして、その時のチームにコードネーム、アベンジャーってやつがいた気がするな……」

 

 

二人はしばし黙る。

 

 

「「お前だったのか」」

 

 

二人は笑った。

 

 

「俺はてっきりF●teのマスターかと、いいオタクがいたもんだ思ってた」

 

「こっちはマー●ルのアベンジャーかと思っていたのにさ」

 

 

遺体の運搬しながらオタクの話で盛り上がるとはなかなか二人はサイコパスかもしれない。

 

それとも、単に心理的負担をあえて別の話題で紛らわせていたかもしれない。

 

 

「んで、どうするよ、これから」

 

「既に計画は進行している。変更はない」

 

「そっか……」

 

「お前たちをアルヌス帰還までエスコートする。ついでに、正式な最後通牒と戦線布告をそこで行う」

 

「止めても無駄だから止めないけどさ」

 

 

伊丹は大きなため息を吐く。

 

 

「俺も腐っても自衛官だ。日本を守るためには、俺も手段は選ばないからな」

 

「……いい心がけだ」

 

「それじゃあさっさと支度して俺たちは帰るからな。ロゥリィ、テュカ、もうその辺にして帰る準備だ」

 

 

伊丹は少女たちに指示しながら去っていった。

 

 

「……伊丹、強くなったな」

 

 

加藤はどこか寂しげな笑みを浮かべた。

 

 

***

 

 

驚くべきなのか、当たり前といえば当たり前かもしれないが、オスプレイも全て買収済みだった。つまり全部ジパングと新帝国の物になった。

 

日本代表と伊丹が乗ってる機体に、加藤も載っていた。

 

 

「坂東、お前はどうするんだ?」

 

 

加藤が坂東に尋ねる。

 

 

「もうあんたの下で働くのはごめんだ。それに俺以上に戦力になる駒は手に入れただろ?」

 

「まあな。能力は高いものの、性格に難あるお前はこっちからもお断りだ。合法的に人殺しがしたいからってさ」

 

「あ?お前には言われたくないぞ」

 

「まあどっちみち、俺を処分できなかったのは残念だな」

 

「ふん、お見通しって訳か」

 

「公安のお偉いさんがお前を寄越すとしたらそれしか理由がないだろ」

 

「まあ、変な気を起こさないで正解だぜ、まったく。じゃねえと俺も今頃蜂の巣よ」

 

「……少しは丸くなったんじゃねえの?」

 

「うるせえ」

 

 

坂東は加藤の執拗な質問に無視で対応した。

 

 

「そろそろ到着する」

 

 

パイロットがアナウンスした。

 

 

「しかし、オスプレイ1機しか帰ってないから絶対怪しんでいると思うよ」

 

 

伊丹が不安になって言う。

 

 

「まあ、一応根回しはしたけどさ」

 

 

オスプレイが着陸し、扉が開くとそれはそれは盛大な歓迎を受けた。

 

出ると海兵隊がうじゃうじゃ、しかも銃口をしっかり向けている。

見えないが、狙撃手もいるだろう。

 

とりあえず加藤以外は全員出たが、銃口は微動だにしなかった。

 

 

(やはりあいつを狙ってるのか……出た瞬間に撃たれたりしなきゃいいけど)

 

 

伊丹は機体に残っている加藤のことを気にかける。

 

しかし待ってもなかなか出なかった。

 

 

『管制塔、管制塔、こちら加藤少佐』

 

 

なんとオスプレイの無線機を使って管制塔と拡声器に発信していた。

 

 

『米海兵隊及び、日本国自衛隊が背信行為をしないことを信じているが、万一に備えて連絡する。今回私は特使としてきた訳であるが、もしなんらかの攻撃をされた場合、私の生死問わず、帝都より巡航ミサイルをゲートに向けて撃つ』

 

 

この宣言に皆がざわめいた。

 

 

『さらに、この巡航ミサイルは通常弾に非ず。魔力によって探知不能で、弾頭についても通常戦力を大きく超えるものである』

 

 

無論、皆どよめく。

 

事実かどうか定かではないが、十分な牽制にはなったと思われる。あちこちの無線機から撃ち方待ての指示が聞こえた。

 

 

『私は特使である。重要な連絡のため、ここにきた。よって米海兵隊司令及び狭間陸将の面会を要求する』

 

 

そして加藤はゆっくりと出てきた。

 

しばらくすると、米海兵隊司令と狭間陸将が近づく。

 

加藤は二人に対し敬礼をし、二人は答礼する。

 

 

「加藤3佐、いや、それとも少佐かな。久しぶりだな」

 

「狭間陸将、ご無沙汰しております」

 

メイジャー(少佐)・カトウ、カール大尉から聞いている。君に危害は加えたりはしない」

 

「それを聞いて安心しまさした」

 

 

米海兵隊司令の言葉に加藤は笑顔で返す。

 

 

「本題に入りましょう。我々は今回のトラブルを受け、国家の承認の賛否に関わらず、そちらの世界に戦線布告をします」

 

 

加藤の言葉に二人は特に驚きを見せない。なるべくしてなった、とでも思っているのか。

 

 

「本日と明日の境目、つまり0時を持って開戦とします。何か質問は?」

 

「ない」

 

 

海兵隊司令が答える。

 

 

「加藤少佐、はやりもう、避けられないか?」

 

「もう、避けられないですね」

 

「わかった」

 

 

そう言って二人は今回のトラブルの証拠の音声、映像のUSBを貰う。

 

 

「では失礼します」

 

 

そして加藤はオスプレイに乗って去った。

 

 

「これより戦闘準備に入る、各人行動開始!」

 

 

米海兵隊司令はすぐに行動に移す。

 

 

「アンダーソン少将、自衛隊も動いて良いですかな?」

 

「……よかろう、只今を持って自衛隊の制限を解く」

 

「ありがとうございます。全隊員戦闘用意!」

 

 

自衛隊も直ぐに動きだした。

 

 

(我が国が、約70年ぶりに戦争をせざるを得ない状況になったか……日本はどう出る)

 

 

狭間陸将はゲートの方をしばらく見つめた。

 

 

***

 

 

日の境目、0時になった。

 

 

「……」

 

 

日米の隊員は息を飲んで防御陣地で待った。

 

日本にとっては特地において2度めの大規模戦を予想していた。しかし前回よりも緊張するのは、やはり今回の相手の戦力及び戦術が全く予想できないことだ。

 

歴戦の米軍にとっても、気を張る状況である。特地の戦闘は初めてである上に、日本から貰った情報である特地は中世レベルの科学技術である、という情報が役に立たないからである。戦車の鹵獲や、火器の扱いが今回は懸念されるからだ。

 

そして双方にとっても脅威なのは……

 

『新魔法』

 

今までの魔法とこちらの世界の科学技術が組み合わさったことにより、どうなるのかまだ前例がない。

 

もしかしたら加藤のハッタリかもしれない。

もしかしたらこたたらの世界の科学技術の水準を超えるかもしれない。

 

そんな疑心暗鬼にもなりながら彼らは待った。

 

待った。

 

とても待った。

 

すごく待った。

 

大変長らく待った。

 

そしてまた待った。

 

結局、正午になったが、誰も来なかった。

 

そろそろ日米双方とも集中力の切れたものもたくさん出てきた。

 

 

「ガッデム。何も来ないじゃないか!」

 

「くそぉ、眠ぃよ……」

 

 

 

アルヌスではそんな感じだが、帝都は全く逆だった。

 

 

「あのさ、少佐……」

 

「なんだい?」

 

デリラが呑気にタバコを蒸してる加藤に尋ねる。

 

 

「あたいら、いま戦争中なんだよね?なんでいつも通りなんだい?」

 

「なんでって、別に血を流すだけが戦争じゃないぜ?」

 

「そういうものなのかい?」

 

「まあ、何が起きても大丈夫なようにいつでも出発できるようなもの準備はしとけよ」

 

「はいはい」

 

 

デリラは呆れたように去る。

 

そして加藤はアルヌスの方向に向けてタバコの吸い殻を投げ捨てる。

 

 

「日本人よ、これが戦争だ」

 

 

加藤はニヤリと笑う。

 




ゲスト出演
・鷹野三四:「ひぐらしのなく頃に」より。もし原作で目立った悪さをしなかった場合のルート、という妄想
・坂東:「エルフェンリート」より。もし原作みたいなことにならなかった場合、という妄想

ちなみに加藤の最後の言葉はどっかの映画より。


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大戦編
前夜祭


皆様、ご無沙汰しております。コロナで大変かと思いますが乗り切りましょう。おそらくペライト(エルダースクロールシリーズの疫病神)のせいですね。
アルドゥィン様のご加護があらんことを。

最初前話のタイトルが誤植で戦線布告となっていた。戦線布告ってなんやねん……

伏線大好き駄作者からの補足。

加藤は欧米系のオタク文化も好きだから伊丹の聖杯系コードネームに対抗してヒーロ・ヴィラン系コードネームを使ってるという設定。あとまあ、察している人もいると思いますけど……



ところで、日本が宣戦布告されてパニックになったのは言うまでもない。

 

狭間陸将はUSBを速やかに最優先で市ヶ谷の防衛省に提出し、宣戦布告をされた旨を報告した。同時に、特地在隊の隊員は全員戦闘準備をさせた。

 

米軍も概ね同様だった。

 

ここまでは全話でお話しした通り。

 

問題は、防衛省から内閣府、内務省、外務省等各所に送付する際に内容を確認したり、「これ、上にあげてもいいの!?」と戸惑ったり、上に行ったら行ったで現実逃避したい官僚たちが「戦争?嘘でしょ?だって憲法9条……」とお花畑の者が一部いるという始末。

 

そんなあたふたしている間に米国はディレル大統領(たぶん本物)が緊急発表として宣戦布告されたことを世界中に発信。もちろん偏向報道やらでトラブルの件は一切言及しておらず新帝国とジパングを悪の枢軸と言いたい放題であるのはご愛嬌。

 

しまったと言わんばかりに日本国政府も後出しで宣戦布告されたことをニュアンスを変えて遠回しに発表したところで曖昧な表現により国民大混乱。

 

食料やら日用品やらガソリンやらの買い占めがやんわりと始まり、オイルショックなどを彷彿させる。

 

さらに特地からどういったわけか例のトラブルの動画と音声の生データが流出したのか意図的に流出したのか、日米双方は国民からバッシングを受けて大変なことになっている。

なお、日米以外はどうなったか考えない方がいいかもしれない。

 

国会議事堂やゲートの前では「戦争反対」のプラカードを掲げた抗議団体もちらほら。

 

開戦日から7日が既に経過した。そして未だドンパチなし。◀︎今ココ。

 

 

「それにしても攻めてこないっすね」

 

「そうだなー」

 

 

待機場所では若い自衛官と古参自衛官が将棋を打っている。

 

すぐ隣では米軍がトランプで遊んでいる。

 

 

最初こそ皆気を張り詰めていたが、だんだんと疲れてほぼ平常運転になった。

 

一応待機中はしっかり休み、その他はしっかり仕事していたが。

 

米海兵隊も、良識派の司令であったためか、独断の行動は取らなかったのも幸いしたかもしれない。

 

 

「おーい、交代だ」

 

 

遠くから米兵が同僚に呼びかける。

 

 

「あー、もう仕事か……」

 

「違う違う、配属の交代だ」

 

「なんだって?俺たちはアルヌスに配属されてまだ一週間しか経ってないぞ?」

 

「そんなことは知らん。上からの命令だ」

 

「はぁ、仕方ねえな」

 

 

米軍たちが何やら英語で話していたので理解した自衛官は一部だが、そこまで気に留めていなかった。

 

 

ただ、司令官室では状況はよろしくなかった。

 

 

「アンダーソン少将、君にはがっかりしたよ」

 

「……」

 

 

米海兵隊アルヌス方面隊の司令は、後ろにいる男の声に対し無言貫いた。

 

 

「君は祖国(アメリカの)の、上司の、国民の、そして世界の意図を理解して動いてくれることを期待してが、どうも違ったようだ。失望したよ」

 

「……私は、軍人でしてね。多少の政治に関する知識は素人よりはあるつもりですが、政治にはあまり関わりを持たない主義なので」

 

 

アンダーソン少将は静かに答える。どこか怒りを抑えているようにも聞こえる。

 

 

「それに、私はアメリカ政府以外に従う義務もつもりもない」

 

「……私は国連軍最高指揮官代行だが?」

 

 

影に身を潜める男は静かに返答する。

 

 

「はて、合衆国憲法に我々(海兵隊)五星紅旗(人民解放軍)の指揮下に入ることがいつ書かれたのかな?」

 

「残念ながら、憲法に書いていようが無かろうが、君たちはいずれ我々の軍門に下る」

 

「……なんだと?」

 

 

部屋の静寂さは扉が乱暴に開くことで終わりを告げた。

 

 

「司令、大変です!たった今、大統領がアルヌスを国連常任理事国の軍隊で結成された国連軍管轄に置かれることが決定しました!」

 

 

兵士の報告にアンダーソン少将は勢いよく立ち上がった。

 

 

「ほう、思ったより早かったようだ」

 

 

影に潜めていた東洋人の男は静かにつぶやく。

 

そして制帽を取り部屋を後にする。

 

 

「アンダーソン少将、我々人民解放軍が今回の件をキッカケに仲良くなれることを祈りますよ」

 

 

そして静かに扉を閉めた。

 

 

「ガッデム!」

 

 

アンダーソン少将はくずかごを力一杯蹴飛ばした。

 

 

「例の偽大統領といい、今回のありえない選択……神よ、私は一体何を信じれば良いのだ」

 

 

場所は変わって日本。

 

普通なら、日本が東京のど真ん中に他国の軍隊がフル装備で通行することを許可するわけがない。

例えそれが、同盟国アメリカでも戦車が無許可で通ることはない。

 

しかしながら、どうも国連があの手この手を使って介入してきたようだ。

 

まず、日本が紛争地域に指定されたこと。

また、日本は世界の経済に大きな影響があること、多くの外国人が在住しているため、紛争の早期終結が必要となるため国連軍の派遣が決定してしまった。

しかも常任理事国の満場一致で。

 

それでも、国連憲章的にも本来なら当事者の日本が拒否すればいいだけなのだが、これを機に新しい規則が採択されてしまった。こちらも満場一致で。

 

結果、こいつら絶対グルだろう、と某掲示板で炎上したがサイトごと閉鎖されるなど世界の闇を垣間見ることにもなった。

 

そして、なんとかいろいろ揉めて譲歩して折れて、と偉い人たちが頑張ったおかげ(?)で、『治安維持程度の能力』、つまり警察程度なら許可するということで日本が折れた。

 

警察程度、のはずだったのだ。

 

 

「マジかよ……」

 

MBT(主力戦車)、空挺戦車、水陸両用車、自走砲、地対地ミサイル……」

 

「あれ、J-31じゃね?中国の最新の戦闘機じゃねーか」

 

「いいなあ、あんなたくさん送ってもらえるなんて逆に羨ましいぜ」

 

「あっちはイスラエルのメルカバだぜ……」

 

「は、何で?常任理事国だけじゃないの?」

 

「ドイツもちゃっかり小規模だけど来てるな。どいつもこいつもスイスも、だけに」

 

「「「……」」」

 

「……なんかごめん」

 

 

ゲートから続々と運ばれる他国の兵器を見て自衛隊員は呆然とる。各国から色々送られているが、無論中国が一番多かった。

 

中、米、露、英、仏、その他の順に戦力が大きなる。

日本?聞かないでくれ

 

 

(くそっ、マジでやべーな)

 

 

伊丹が建物の影から双眼鏡越しに見る。

 

 

(このままだとしばらく帰れないな。お気に入りアニメの最終回はDVDで我慢しよ……)

 

「ロゥリィ、お父さんがまた泣いてる……」

 

 

テュカがロゥリィの耳元に囁く。

 

 

「……いいのよぉ、どうせまたロクでもないことで嘆いているのだから」

 

 

ロゥリィは呆れたようである。

 

 

せっかく自衛隊も動けると思ったら、また元の世界がいらんことしたおかげで動けなくなってしまった。

というか、米国も動けずあちこちの国がいるせいでお互い牽制している状態でもある。

 

 

***

 

 

一方、帝都は別の意味で似たような感じ(カオス)だった。

 

 

ハラショー(いいよ)!ストライクウィッ●ーズ!」

「シャーロットだ!トレビアーン(めっちゃいい)!」

 

 

などとロシア人とフランス人(のオタク)が歓喜していた。

 

 

「な、何であたいがこんな目に!?」

 

 

そしてデリラは拝み倒されてコスプレさせられていた。足には航空機っぽい装具をつけられている。そう、例のパンツじゃないから恥ずかしくないあれ。

 

 

「しかもこれ、下着じゃないのか!?」

 

 

デリラは顔を真っ赤にして隠そうとする。

 

 

「不是、パンツじゃないから安心するネ」

 

 

などといいながらカメラに収める中国人(オタク)。

 

 

「これだからオタクは……」

 

 

J(ジュリエット)はその様子を横目に呆れながら歩いていた。

 

 

「絡み合う漢達の肉体美……じゅるり……」

 

 

別の場所ではピニャたちはロシア人とアメリカ人がレスリングをしてるところを別の視点で見ていた。

 

 

「こっちもか……」

 

 

Jはもう考えるのをやめた。

 

例え視界の片隅に異種族の女性を口説いてるフランス人がいようと、異種族交えてウォッカの飲み比べしてるロシア人がいようと、異種族メイドに紅茶を振舞ってもらってる英国紳士淑女がいようと、アメリカ人と携帯ゲームを勤しんでいる隊長を見かけようと……

 

 

「ってお前何やっとるんやー!?」

 

 

思わずツッコミを入れてしまった。

 

 

「なんだJ。お前の関西弁久しぶりに聞いたな」

 

 

加藤は微笑んでゲームを続ける。

 

 

「そ、そんなことはどうでもいいんです。ていうか、あなたは何してるですか!戦争仕掛けといてゲームする馬鹿がどこにいますか!」

 

「戦争もゲームも似たようなもんだよ」

 

「この人は……もう」

 

「何か報告あったんじゃないの?」

 

「あ、そうでした。例の偽大統領たちの尋問は終えました。やはり、各国の情報機関の工作員でしたね。ただ、使い捨てなのでほとんど有益な情報は得られませんでした」

 

「だろうね。それでも何か情報は得られたか?」

 

「ええ、米露が門の管理をし、中が大量の人的資源を提供し発展という形でこの世界を得るつもりだったそうです。欧州はこれを機に難民問題を解決しようとしていたようです」

 

「まるで植民地時代だな。日本も人のこと言えないが」

 

「で、工作員たちはどうしますか?」

 

「捕虜交換のときとかのために取っておくか。牢にでもぶち込んでおけ、待遇は日本の警察基準でいいだろう」

 

「わかりました。あと、戦闘員全員分の予防接種は終わりました。みんな予防接種未経験だったのでまず予防接種とは何か、の説明からでしたので大変でしたが」

 

「ピニャ殿下達も受けたか?」

 

「ええ、注射器になど負けぬ、いっそ殺せ、注射器には勝てなかった、など訳のわからないことを言ってましたが」

 

「最高だな(笑)、そのくっころセリフ直接聞きたかった。まあ、まだ非戦闘員もいるから引き続きよろしく」

 

「ええ、わかりました」

 

 

そう言ってJは去る。

 

 

「またどんかつだぜ」

 

 

隣でゲームしてるアメリカ人が呟いた。しかしあまり嬉しそうじゃない。

 

 

「BOT相手にやっても虚しいな……」

 

 

加藤は呟いた。

 

 

「しかし、ここで電子製品使えるとはね」

 

「まあ、最初は墜落したヘリの発電機を改造したりして使ったが、そろそろガソリンも切れそうだったからな」

 

「どうやって電力供給してるんだ?」

 

 

アメリカ人が興味津々に聞く。

 

加藤は携帯の画面を変えてカメラモードにすると、遠隔カメラ越しに部屋で電気魔法に勤しむ魔導師たちがいた。

 

 

「まさかの魔法の無駄遣い……」

 

「まあ、他に人力やら風車やらいろいろ頑張っているよ。もう少ししたら安定供給の基盤の目処が立つし」

 

「……なんか申し訳ないなあ。俺ゲームやめて筋トレを電気に替えて来るわ」

 

「いってらっしゃい」

 

 

そう言って加藤は携帯を横向きにして操作する。

 

 

加藤はモニターに映し出される現状を見て静かに呟いた。

 

 

Wars never change(人は過ちを繰り返す)……」

 

 

携帯画面に映し出されていたのは、ゲームではなく、ゲートを潜り抜けるあちらの世界の軍隊たちだった。

 

 

***

 

 

「それにしても、暇じゃ」

 

 

アンヘルが羽を休めながら言う。とはいってもここ最近飛んですらいないが。

 

 

「ヨルイナールよ、暇だな。ワシとゲームをしないか?」

 

「今度は何をするつもり?一撃で何人の人間を葬り去ることができるか、ならしないわよ。あなた強すぎるもの」

 

「あれは飽きたから別のだ。人間界では時焉牙(ジエンガ)という遊びがあるらしくてな」

 

「ほうほう……」

 

 

アンヘルはヨルイナールに簡単にルールを説明する。

 

 

「それなら我々龍のように手先がそれほど器用じゃなくてもできそうね。でもここら辺にそんなブロックはないじゃないの」

 

「そうだなあ……あ、これを使うのはどうじゃ?」

 

「っ!?そ、それを使うなんてあんたバカじゃないの?」

 

 

透明な残骸があったので氷かガラスと思ったら……

 

まさかのアルドゥィンの外殻である。

 

 

「殺されるわよ!」

 

「いや、大丈夫であろう。やつの本体は今この世にいないのだから」

 

「しかし……罰当たりでは?」

 

「まあよいではないか、たまには」

 

「……そうね、時にはこんなのもいいかもね」

 

 

ヨルイナールは考えるのをやめた。

 

そしてアルドゥィンの透明な外殻を積み上げてジェンガーを始めた。

 

 

(こいつらは一体何をやってるのだ……)

 

 

世界の様子を見たあと、ついでにたまたま様子を見に来たミラルーツ(魂のみ)は困惑した。

 

ヨルイナール、アンヘル、バルファルク、バゼルギウスがアルドゥィンの外殻でジェンガをしていた。もちろんミラルーツの存在が見えるわけもなく、ジェンガは続行された。

 

これが100歩、いや、億歩譲って普通のジェンガならまだ理解できる。例えそれがアルドゥィンの外殻を使っていようと。

 

異世界の龍が、異世界の地でオリジナルジェンガをしたところで普通のジェンガになるわけなどなかった。

 

ヨルイナールがミスをする。

 

崩れたアルドゥィンの外殻(パーツ)が全身性感帯爆薬野郎(バゼルギウス)に当たる。

 

赤くなったバゼルギウスの鱗を見て危険を察知したバルファルクが高速で上空に逃げる。

 

事態を飲み込めなかったヨルイナールとアンヘルは爆発に巻き込まれる。

 

怒った2頭はバゼルギウスを攻撃するがまたも爆発して自分たちで首を絞めることとなった。

 

 

(世界も大変だがこちらも大変であるな。やはり龍による世界の平定は無理なのか……取り敢えず、アルドゥィンに外殻が玩具にされたことは黙っておこうぞ)

 

 

そう心の奥にしまうとミラルーツはアルドゥィンが授業中の空間へと戻る。

 

ちょうど戻ったところで、アルドゥィンは瞑想していた。

 

 

「例の世界はどうだった?」

 

「うむ、実に混沌(カオス)としておったぞ(いろんな意味で)」

 

「グフフフ、カオスか。いいぞ、争え、もっと争え。愚かな人間どもが殺し合えば我はさらなる力を手に入れるだけだ」

 

(愚かなのは人間だけではないかもしれぬがな……)

 

「なんだ、人間以外にも愚かな種族がいたのか?」

 

(あ、今精神の世界だから心読まれておるのか……)

 

「何だ、何か不都合なことでもあったのか?」

 

「……今現世へ戻るのはやめた方がよいということだけは伝えておこうぞ」

 

「……?」

 

 

アルドゥィンは首をかしげる。

 

 

「もう少し力をつけて行った方がよいということだ」

 

「ふん、言われなくとも分かっておる」

 

『アルドゥィンよ、次の段階へと行こうか』

 

 

姿は見えないが、二頭の頭にアカトッシュの声が響く。

 

 

「ああ、早めにしたいからな。ペースを上げても我は構わんぞ」

 

『時間を早めてもこの修行に意味はない。「(まこと)」と「(ことわり)」を理解せねば、成し遂げられないのだ』

 

「ではさっさと真と理とやらを教えてもらおうか?」

 

『それはできない。それは自ら見つけるものだ』

 

「ちっ、まどろっこしいな。そもそもなんの真理だ」

 

『それもお前が考えることだ』

 

「うぬぬ……」

 

『では、ヒントをやろう。お前が今求めているものは何だ?』

 

「愚問だな。力だ、圧倒的な最強な力だ」

 

『では、お前はどのようにして力を得る?』

 

「無論、魂を屠ることだ。特に人間の、そして力があるやつから奪うのが一番だ」

 

『では聞くが、魂を食い尽くしたらどうする?』

 

「新たな魂を求めるだけだ」

 

『では、全ての魂を食い尽くしたら?』

 

「あり得ないな。世界は広い。現に、例の異世界のように様々な星が存在する」

 

『しかし、もしそれすらも食い尽くしたら?』

 

「……(確かに、我は不死の存在だ。その至極長い時間で、食い尽くさないという保証はない)」

 

『色々と考えているようだが、そういうことだ。それが、「真」と「理」へのヒントだ。お前の求める、本当の力というものがその先にある』

 

「ふん、すぐにでもその真理とやらに辿りついてみせるわい」

 

 

そういうとアルドゥィンは深い瞑想に入った。

 

 

「この先、一体どうなるのやら……」

 

 

ミラルーツは彼を静かに見守ることしかできなかった。

 

 

***

 

 

射击(撃て)

 

 

号令とともに人民解放軍の自走砲が次々と火を噴く。目標は新帝国軍管轄の砦。

 

戦闘は唐突に開始した。列強同士の牽制を最初に崩したのは人民解放軍だった。

 

どこから得たか知らないが人民解放軍は地図情報を元に共通の敵の砦を一斉砲撃した。

 

もちろん、各国は抜け駆けするなと猛抗議したが、案の定証拠のない根拠(でっち上げ)らしき理由で強引に押し通した。

 

数の暴力の前に砦はあっけなく崩壊、瓦礫の山の化した。

 

不幸中の幸いか、元々人もそんないなかったので被害は最小限であった。

 

 

(マー)大校(大佐)、我々の大勝利です。こちらの被害はなし。敵、死者6名、重軽傷者13名、捕虜は非戦闘員を含め47名」

 

 

人民解放軍の将校が上官に報告する。

 

 

「ふむ、そこそこの戦果だな。とりあえず練習にはちょうどよいか」

 

「捕虜はどうしますか?国連軍収容所に連れて行きますか?」

 

「何を寝ぼけたことを。捕虜は我々が管理する。使い道ありそうだからな。明日は本番だ、速やかに撤収するぞ」

 

 

そう言って撤収していった。

 

 

「見せしめだな。新帝国だけではなく、俺たち(各国)への……しかしなんて奴らだ」

 

 

遠方から偵察していた陸自の偵察隊がつぶやく。

 

 

「全くだよ……」

 

 

と隣から女の声。

なぜか迷彩ペイントを施したヴォーリアバニーがいる。

 

 

「……あ、どーも」

「……ど、どーも」

 

 

お互い初対面であり、なんか気まずい雰囲気である。

 

 

「では自分は帰るので」

「わ、私も帰るので……」

 

 

二人は逆方向に急いで去った。逃げたの方が正しいかもしれない。

 

互いに余計なことは喋らなかったが、勘ですぐにわかった。

 

 

(緑の人は残念だが今は敵だ……)

(新帝国かジパングの斥候か)

 

 

***

 

 

「あー、ダメだダメだ!」

 

 

伊丹は自室にこもって色々と計画を練っていたが、どれも非現実的なもので困っていた。

 

 

「うわ、もう朝かよ。取り敢えず食堂で朝飯だ……」

 

 

夜更かしは学生の頃からアニメを見ていたりしたからそこまで苦痛ではなかった。

 

しかしどうしようもない状況に苛立ちを隠せない。聞くところによれば昨日戦闘が発生したとか。

 

 

「どうしよう……」

 

 

と悩みながら行列に並ぶ。

 

規模は変わらないのに多国籍の国連軍が来たせいでいつも行列のできる自衛隊食堂になってしまった。味はあまり変わらないのに。というか最近少し質が落ちている気さえもする。

 

 

セイバー(剣崎)、お前何やってるの?」

 

 

かつて特殊作戦群(S)の時の同僚があられもない姿で見つけてしまった。

 

 

「お前のエプロン姿みても俺は嬉しくないぞ」

 

「裸エプロンなら喜ぶか?」

 

「やめろ。事案では済まなくなる」

 

「やらねーよ。俺だって好きでこんなことしてねえよ」

 

 

剣崎3尉は食堂の厨房に立って食堂の係隊員と共に炊事していた。

 

 

俺たち(S)も動けないし、食堂は大忙しで大変だからな……こうやって臨時で編入してもらったわけよ」

 

「かつてサーヴァント(伊丹によるSの隠語)お前がこんなことに……オヨヨ」

 

「給食係も大事だからな。某アニメで世界最強の部隊は給食部隊で次がデルタフォースとか言ってたぜ。まあ取り敢えず特別にこの卵豆腐やるから元気だせよ。誰にも渡すなよ」

 

「……ああ」

 

「あと、周りをよく見ておけ」

 

「……」

 

 

伊丹は剣崎の口元とトーンがほんの少し変わったのを逃さなかった。

 

なお、ロゥリィたちは地元食堂なので朝は別行動だ。

 

朝飯をゆっくり食べながら周りをなんとなく見渡す。

 

以前よりも外国人が増えているのは当たり前であるが、気になる点がいくつかあった。

 

やたらと美女、イケメン、美男子、美少女が多い。それこそ日本ではモデルや芸能界に行けそうなほど。

 

国籍問わず談笑してる姿も見える。

 

 

(……なるほどな。そういうことか)

 

「お隣よろしいですカ?」

 

 

カタコトの日本語で美少女が微笑みかけた。

 

牛乳パックを吸いながらリア充爆発しろなどと思っていると、案の定美少女が隣に座ってよいかと聞く。

 

 

「あ、もう終わるんでどうぞ、自分は失礼するんで」

 

「あら残念。二重橋の英雄とお話をしたかったのに」

 

「すみません、自分仕事あるんで」

 

 

伊丹は卵豆腐のパックをポケットに入れて退席する。

 

食器を返納すると、今度は剣崎は食器洗いの係をしてる。

 

 

「お前忙しいな……」

 

 

伊丹は剣崎の姿を見て苦笑いする。

 

 

「ならお前も手伝ってくれ。で、分かっただろ?」

 

 

剣崎が小声で話す。

 

 

「ああ……スパイか?」

 

「それだけじゃない。ハニートラップもだ。現に表には出てないが自衛官も男女問わずハニートラップに引っかかった疑いが数件聴いてる」

 

「なるほどな。やはりお前はすごいな」

 

「ああ、挙動が完璧すぎて逆に怪しいやつの顔も覚えた。例えば、今食堂に入ってきたあの男、イスラエル諜報機関(モサド)だ」

 

「マジか。その情報は公安からか?」

 

 

伊丹の問いに剣崎は首を横に振る。

 

 

「まさかの、新興国からだ……」

 

「加藤からか!?」

 

「そのようだ。残念だが、自衛官に奴の協力者が紛れこんでいることしか掴めなかったが、この際利用できるものは全て利用しないとやってられねえよ。現に、米軍にも協力者がいると向こうから匂わせてきやがった」

 

 

剣崎はため息をつく。

 

 

「俺も、何を信じればいいのかわからねえよ。日本か、それとも上官の言葉か、それとも同僚か?最近はあの加藤というクソヤロウの行動がまともに見えてきた。伊丹、あの時の訓練よりも俺は精神的きつい……」

 

「剣崎……」

 

 

伊丹は悩んだ。ここは自分勝手に判断してはならないのは分かる。規模が大きすぎる。

下手したら伊丹も全世界を敵に回す。

 

 

「剣崎……いや、セイバー。みんなを集めろ」

 

「……」

 

聖杯戦争(特殊作戦)の開始だ」

 

「伊丹、いいんだな?」

 

「ああ……」

 

「わかった、アベンジャー(伊丹)。今夜決行だ」

 

 

***

 

 

「また夜逃げぇ?」

 

 

装備、荷物を整える伊丹にロゥリィ後ろから言い放つ。

 

 

「ロゥリィ、人聞き悪いこと言うんじゃない。夜間戦術的脱出と呼んでくれ」

 

「夜逃げよぉ、それ。というか、前にも似たようなことなかったぁ?」

 

「やはりね、夜が一番バレにくいのよ、こういうのは」

 

「そうしゃなくてぇ、時には正面突破でもやりたいのよぉ!」

 

 

ロゥリィはハルバードを軽く振りながら文句を垂れる。

 

 

「それ、できるのロゥリィだけだから!」

 

「で、もう夜逃げは確定だから仕方ないけどぉ、なんで私の知らない人たちもいるのよぉ」

 

 

見ると少し離れたところでセイバー(剣崎)を筆頭にサーヴァント(S)数名が現地民の服装を羽織ったり、顔を黒く塗ったりと準備していた。

 

 

アベンジャー(伊丹)、こちらは準備できているぜ」

 

「よし来た、こちらも準備オーケーだ」

 

 

伊丹がサムアップのサインをする。

 

 

「アベンジャーって、お父さんのこと?」

 

 

テュカが不思議そうに尋ねる。

 

 

「うん、そうそう……ニックネームみたいなもん」

 

「なんか無駄にカッコよくてムカつくんだけどぉ」

 

 

ロゥリィも伊丹をからかう。

 

 

「ところで、ジープとやらはどれを使うのだ?」

 

 

ヤオが辺りを見回すが乗り物がない。

 

 

「使わないよ」

 

「「「え?」」」

 

「今回は途中まで徒歩だ。運良ければ馬とか調達したいな」

 

「「「えええええ!?」」」

 

 

少女たちは驚愕する。

 

 

「この亜神の私に歩けとぉ?」

「お父さん、ここから帝都までどれくらい距離あると思っているの!?」

「この身は伊丹殿に捧げたがこれは過酷すぎる」

「運転したかった」

「夜なら私は歓迎ですわ。よしなに」

 

 

盛大なブーイングの嵐(吸血鬼を除く)だが、伊丹がロゥリィの前に片膝を着くと一瞬で静かになった。

 

 

「え、ちょ、何よぉ」

 

 

伊丹はロゥリィの手を取った。

 

 

「普段なら、お前たちを危険に晒しさわけにはいかいと言って残ってもらうかもしれない」

 

 

伊丹は力強く、ゆっくりとはっきり話す。

 

 

「だが今回は違う。各国の思惑が混沌としている。だから改めて言う、お前たちを守るために、ついてきてくれ」

 

「ば、バカじゃないのぉ!?そんなこと言われなくてもついていくわよ!」

 

 

ロゥリィの表情が珍しく赤い。

 

 

「そ、それにあんたより私の方が強いんだからぁ。自分と仲間の身くらい守るわよぉ」

 

 

ロゥリィは恥ずかしそうに顔を背ける。

 

 

「ロゥリィ、お前は強い。だがやはり、加藤に負けたこともあるだろう。やはり女の子は俺が守る」

 

「ーーっ!?」

 

 

ロゥリィの脳内で「女の子➡︎ロゥリィ」と見事補完された結果、顔から湯けむりが出たかと思うほど赤面してしまった。

 

 

「ヨウジったらぁ!」

 

 

軽く小突いた、つもりだった。

 

 

「おい、意識がらないぞ!」

 

「やべえ、だれかAEDもってこい!」

 

衛生兵(メディック)えーせーへーい(メディーーック)!」

 

 

剣崎たちが小声でで伊丹を起こそうと奮闘する。

 

 

「あ……」

 

 

ロゥリィは自分がしでかしたことに気づいた。

 

結果、少し出発が遅れた。

 

 

***

 

 

場所、帝都

 

 

「特地のピンクのお店……やばかった。隊長許可してくれて感謝だよ」

「俺、ケモナーなんだけど夢叶ったよ。隊長についてきて良かった。ウウッ」

「ミーなんかトカゲっ娘と……クレイジーだったけどワンダフルだったよ」

「ヴォーリアバニーやべぇ」

 

 

などど酒に酔った隊員たちが何やら大人の話で盛り上がっていた。

 

 

「これで思い残すことはないアルね」

「アイヤー、まだ死にたくないね」

「俺、帰ったらウォッカ飲むんだ」

「死亡フラグ来た」

 

 

などとみんな盛り上がったり下がったりしていた。

 

 

(隊長がいない。草加さんもいないけど、指揮官がいないのは流石にまずいわね)

 

 

Jは酒を飲みながら辺りを見回すが、やはりいない。

 

部屋を出て王立資料室に行くと、やはりいた。ソファーに深々と腰をかけて古文書などを解析していた。

 

 

「隊長、そろそろお時間です」

 

「もうそんな時間か。ありがとう」

 

 

加藤は書物を閉じて本棚に戻す。

 

 

こんな時(出陣前夜)にまで、何を読んでいたのですか?」

 

「まあ、テキトーだよ」

 

「好きなんですね」

 

「知識は最高の武器だ。知れば知るほど、さらに知りたくなる」

 

「私は隊長のことがもっと知りたいですね」

 

「これ以上何知るつもりだ。俺はお前のことを知っているからいいが、知らん人ならその発言はハニートラップを疑うぞ」

 

「隊長が仰ったように、知れば知るほどさらに知りたくなる、それだけです。隊長は私をここまで育てた。全ての知識経験を吸収したと思っていた。でも違った。全てを、教えてほしい」

 

「……時に、知りすぎること害になることもある。後悔するぞ?」

 

「構いません」

 

「なら今回の戦いを生き延びたらな」

 

「男に二言はないですよ」

 

「ああ」

 

「ならさっさと宴会の締めに行きましょう」

 

 

二人は資料室を後にする。

 

 

加藤が会場に入ると拍手と歓喜の声が聞こえたが、壇上に立つと静まり返った。

 

 

「ここに、残りわずかとなったSAWの隊員、果敢な義勇兵が集結し、最強の部隊として明日(戦い)を迎える。そして、新帝国と共に戦うが、俺からの要望はただ一つ、『生きろ』」

 

 

加藤は一呼吸おき、再開する。

 

 

「得られた情報によれば、我々の兵力は5万に鹵獲した戦車10台、武器も平均して中世に毛が生えた程度だ。対し、敵は50万の大兵力に現代兵器だ」

 

 

聞いている者から笑みが消えた。

 

 

「……この中で、この状況で俺についてくる者は、いるか?」

 

 

加藤の問いに、誰も答えない。

 

 

「俺のためについて来い、なんてカッコつけた言葉はお前らにかけない。国のために戦え、など大それたことなんぞ言わん」

 

 

皆は静かに聞いていた。

 

 

「俺に付いてきて、戦えとは言わない。たが、お前らの大切な人、信条、理由、そしてお前ら自身のために……その力を貸してくれ」

 

「……隊長、利子は高いですぜ」

 

 

SAWの数少ない生き残りが拳を挙げる。

 

 

「……マスターの頼みなら仕方ねえな」

 

 

と今度は元米軍の男が拳を挙げる。

 

すると、一人、また一人と拳を上げ、全員が拳を上げた。

 

 

「感謝はしないぞ、勝つまでは。そして、次会えた時は、『よくやった』と互いに言えるように、全力を尽くせ」

 

 

拍手と怒涛の歓声が上がる。

 

 

「最後に、SAWという名前を改変する」

 

 

またも一瞬で静寂に包まれる。

 

 

 

ALTERNATIVE(代わり)という言葉をしっているか?」

 

 

そしてポケットからコインを出す。

 

 

「我々は、表の世界の者の代わりに、裏の世界の仕事を続けていた。だが、このコインのように表も裏も、無くてはならない存在だ。文字通りの表裏一体、表という存在がなければ裏は存在できない、だが逆も然り」

 

そしてコインを投げると、音を立てて床に落ちる。その音が何かを意味するかと思われるほど耳に響く響く。

 

皆がそれを息を飲んで見守る。

 

裏面が上を向いていた。

 

 

「だが、このコインの表裏を決めたのは誰だ?」

 

 

加藤はコインを拾う。

 

 

「同様に、我々が裏だと誰が決めた?世界が押し付けてきた我々の仕事は、元々表の世界が世間体を気にしてやらなくなった仕事だ。ならば、我々が表でも良いではないか?いや……」

 

 

加藤はコインを人差し指と親指で握り潰す。

 

 

「表裏、というものがナンセンスだ。我々は誰かの()()()ではない。これからは表の弱者に()()()強者だ」

 

 

日陰者の中の日陰者たちが、光を求めて這い上がろうしているのだろうか。

 

 

「これより、特殊実験部隊第1中隊、SAWは名称を、代行者の意味として『ALT(オルタ)』に改称する」

 

「隊長、それf●teネタですか?」

 

「人がいい話をしてるのに話を折るな!そぅだよ、俺たちのf●te(運命)にかけてもな!」

 

 

会場が笑いに包まれる。

 

 

「まあいい、最後の晩餐にならないようお前ら明日は頑張れよ!」

 

「「おおーー!」」

 

 

加藤は皆の乾杯を見届けると部屋を出た。

付き添いでJが来ていた。

 

 

「あとは任せた。あいつら騒ぎすぎないようにな」

 

「了解です、おやすみなさい」

 

 

Jは軽くお辞儀をして会場に戻る。

 

 

「さてと、俺は寝るか」

 

 

寝室に入る前に、加藤はポケットから先ほど潰したコインを取り出して眺める。

 

 

FATE(運命)、か……」

 

 

それを窓から投げ捨てると寝室に入っていった、

 

***




皆さまもコロナに負けないように世界の喉で自粛しながら修行しております。


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スーパー異世界大戦

皆様、日本を含め世界が大変なことになって少し収まりかけているかもしれませんが、引き続き油断ないよう、ご自愛ください。

そろそろドヴァキンの皆様、ペライト討伐に行ってコロナから救ってもいいのですよ?

あとストーリーの関係上一部の国の方々が悪者扱いしている場面ありますが、決して現実でそのような感情はございませんので、ご理解の程お願いします。


どこかの平原にて

 

 

砲弾が秒単位で降り注ぐ。155mm榴弾が地面で炸裂するとみるみる地形を変えてゆく。

 

 

「ここまで練度が上がっていたとはな……」

 

 

陸自の幹部がその光景を見て呟く。だが、よい表情(かお)をしていなかった。

 

それもそのはず、撃っていたのは陸自ではなく、中国の自走砲であった。

 

100門もの自走砲が砲弾の雨を降らせる。

 

陸自の総火演ほどの練度ではないが、実戦における練度としては十分に足りるものであった。

 

日本だけではない。他国も同じような感じで様子を見ていた。もちろん、その撃ち方、間隔、故障頻度など全てデータとして収集もしているが。

 

 

「ふっ、リーベン(日本人)、美国(アメリカ)人も驚いたような顔してるな。まあせいぜいデータでも取っておくがいい」

 

 

(マー)大校は鼻で笑う。

 

 

一方、撃たれた側はたまったもんじゃない。

 

 

「なんじゃこりゃあ!?」

「こんなの勝てっこないよー!」

「ぎゃああ!」

「私の耳が千切れたあ!」

 

 

と亜人、人間男女問わず大変な目に遭って一部は蜘蛛の子散らすように撤退している。

 

 

「ふむ、やはり中世程度相手に大人気なかったかな。我々(人民解放軍)は進むが、貴方はどうするか?」

 

 

馬大校は後ろにいる将校たちに問いかける。

 

 

「「……」」

 

「これは治安維持の範疇を超えていませんか?」

 

 

ほとんどの者が口を閉ざしている中、日本人の幹部自衛官が問い詰める。

 

 

「何を呑気なことを。戦線布告されてもなお治安維持で留めたいのかね。君たち日本人はお人好しというか、現実を直視したくないだけなのかな?」

 

 

馬大校は少し小馬鹿にしたように返す。

 

 

「ええ、我々は平和的解決を望みます。たとえ、相手が戦線布告しようと。彼らが停戦に応じるならばすぐにでもこちらも応じるつもりです」

 

「甘いな。甘い。こういうときは、徹底的に潰さなければならないのですよ。貴方がた日本人が軍隊を持たないという現実から目を背けていた時も、我々は国共内戦、朝鮮戦争、ベトナム戦争、中越戦争、アフガン、ラオス、マリと戦争に何らかの形で参加した。

そこで気づいたのは力こそ全てである。敵は徹底的に潰す」

 

「しかしここは我々日本の管轄だ」

 

「だからどうした?ならばなぜ早く収束させなかった?モタモタしてるからこのような結果になったのだろう。我々なら7日で制圧していた。所詮この土地は小国が管理するのには荷が重いだろう」

 

 

馬大校の言葉を聞き、自衛官の拳がワナワナと震えているのが見える。

 

 

「あと、我々をあまり怒らせない方がいい。()()が今どこの領土にいることになっているか、忘れないことだな」

 

 

「このっ……」

 

「健軍1佐!お願いします、ここは堪えてください!」

 

 

掴みかかろうとする自衛官を周りの部下が必死に止める。

 

 

「小日本は、せいぜい指を加えて見ているがいいさ。全軍前進」

 

 

戦車を前に歩兵が追従してゆく。

 

戦車20両、対空自走砲5両、歩兵2000人に戦闘ヘリ2機が前進始める。

 

 

「健軍1佐、我々も進みますか?」

 

「いや。我々は防戦を担当している。せっかくこちらの世界で積んだ信頼関係を、少しでも無駄にならないようにしたい」

 

 

米英露仏も少数のみ進めてゆく。

 

数は多くはないものの、辺りには遺体が痛々しい姿で散乱していた。

 

元気な者はすでに撤退していたので、死亡しているか重傷者しかいなかった。

 

 

「健軍1佐、せめて負傷者の収容だけでも……」

 

「……そうだな。許可する」

 

 

自衛隊の衛星隊員が、生存者の確認、運搬を始めると他国も続いて救助を始めた。

 

 

「……意外ですね」

 

 

若い自衛官がふとつぶやく。

 

 

「何がだ?」

 

 

健軍1佐は双眼鏡で状況を把握しつつ尋ねる。

 

 

「世間では散々な評価の人民解放軍も、人道的に救助活動を行なっているのをみると、なんだか不思議な気分だな、とら思いまして」

 

「……あまり心の隙を見せるな。悪い評判を聞かせて実はいい人でしたというアピールかもしれん。ストックホルム症候群やマインドコントロールに用いられる手法に似ている」

 

「何ですか?そのストック何ちゃらとか?」

 

「簡単に言うと、昔やんちゃしていた人が更生して真面目になったり、不良少年にギャップをおもわせるような優しさがあるとする。

そうすると、なぜか普段いい人よりも良い人、に見えてしまうものなのだ」

 

「マジですか……気をつけます」

 

「考えすぎならいいんだがな。この世界は性善説は通用しないと思っておけ(現に自衛官複数人がハニートラップなどに引っかかっていることを考慮すれば、用心にこしたことはない)」

 

 

周りには敵か味方かわからない者に囲まれている。もしかしたら隣の米軍将校が黒幕かもしれない。それともあちらのロシア軍のが?それとも……と健軍だけではなく、そこにいる者全員が疑心暗鬼になる中、それは突如起きた。

 

 

「スナイパーッ!」

 

 

階級、国籍問わず全員がとっさに伏せた。するとすぐに乾いた音が遠くからした。

 

各指揮官が無線で状況を確認する。

 

 

「こちら健軍!状況を知らせろ!」

 

『隊長!自衛官の負傷者はいませんが、撃たれました!……えっ!?ただ今確認しましたところ、中華人民共和国の衛生兵が撃たれました!重傷です!』

 

「どれほどだ!?」

 

『脚が……右脚が膝から下がないそうです!』

 

「(対物ライフルか!?)総員戦闘用意!銃声の遅れからして長距離狙撃だ!」

 

『了か……いっ!?』

 

 

無線越しに爆音がしたが、大き過ぎて音割れを起こす。

 

 

「おい、何が起きた!?」

 

『だ、大丈夫です。近くの戦車が撃っただけです』

 

 

 

見ると既に中国の指揮官は狙撃位置と思われる位置へ攻撃を開始していた。

 

戦車、自走砲、戦闘ヘリ全てが見えない敵に猛攻を加えていた。

 

 

『わ、お前たち何をするだーっ!?はなせ!』

 

「どうした!」

 

『邪魔だからと無理やり退かされましたー!』

 

「仕方ない、戦闘中として衛生科は後方へ急いで移動しろ!」

 

『了解!』

 

 

こうして、国連軍及び自衛隊は見えない敵と戦うのだった。

 

 

***

 

 

その後、会議室にて各国の代表指揮官たちが定期的な情報交換のため集まっていた。

 

しかし、皆の表情は非常によろしくない。

 

 

 

「「「…………」」」

 

 

 

会議が始まって既に10分経過したが、誰も話さなかった。

 

 

「……部下の健軍1佐から報告を受けました。衛生兵が、撃たれたようですね」

 

 

狭間陸将がポツリと呟く。

 

 

「そうだ。我が偉大なる人民解放軍の衛生兵の同志が片脚を失くす重症だ」

 

 

馬大校はかなり苛立っている様子で続けた。

 

 

「これは重大な国際法違反だ!衛生兵を狙うなど、言語同断だ!」

 

「確かに、遺憾ではあるが、結局奴らはテロリストなのか?それとも国家なのか?前者なら国際法は適用されないからな。まあ国家と名乗るのだからそれぐらいは遵守してもらいたいところだ」

 

 

イギリス軍の大佐がやれやれといった感じで呟いた。

 

 

「ただ、これが奴らからの狙撃という証拠は見つかったのか?」

 

 

フランス軍の代表が確認をする。

 

 

「……」

 

 

馬大校は何も言わない。彼を苛立たせているのはこれなのだ。証拠がないから正式に帝国に攻撃する理由が作れないということが。

 

 

「そうだな。狙撃手の遺体や装備どころか、薬莢も見つからないとは……」

 

 

米海兵隊アンダーソン少将がそう言うと、馬大校は彼を一瞬睨みつけた。

 

 

「何を言う、逆に奴らしかいないではないか」

 

 

とロシア軍指揮官が言うが、ここにいる全員がそう思っていなかった。

 

 

「もう一つ、ありうる可能性としてはあのカトウというテロリストが言ってた、ゲート生成の技術だろうか」

 

「「「……」」」

 

 

イギリス軍将校の言葉に皆が眉をひそめる。

 

本当に帝国がやったのか。中国の自作自演ではないか。他国が足を引っ張るためにやってるのか。内通者か。それとも、加藤が言っていた新たなゲートの技術なのか……

 

全員が疑心にまみれたためまともな会議もできない。

 

挙句には中国の収容した捕虜の人数が合わないから人体実験してるのではないかなど関係ない話まで持ち上がって最初の沈黙とは真逆に罵詈雑言飛び交う喧騒な会議で結局何も解決せず終わった。

 

 

「狭間陸将、この状況、似てませんか?」

 

「健軍1佐、何だ?」

 

「満州事変も、一発の銃声から始まったと言われてます」

 

「……まずいな、非常にまずいな」

 

 

狭間陸将は各国の歪みが大きくなることを感じた。

 

 

***

 

 

「どうだ、うまくやったか?」

 

「ああ、なかなかいい方向に向かっているよ。あんたもなかなか面白いこと思いつくね」

 

 

ノッラから加藤は報告を受ける。

 

 

「あらかじめその銃とやらを地面に埋めて、作動すると同時に遠隔に設置された爆発魔法陣で音を欺瞞するとはね」

 

「敵さんもまさか足元から撃たれてるとは思わないだろう」

 

「あと、可哀想な被害者は他と比べるとやたら目立つマークをしていたな」

 

「……もしかして、白地に赤い十字か?」

 

「そうそう」

 

「……」

 

「どうした?」

 

「いや、なんでもない」

 

 

加藤は苦笑いでごまかすが、甲冑姿のピニャが勢いよくテントに入ってきた。凄い剣幕である。

 

 

「加藤殿!聞いたぞ、赤十字を攻撃したとな!」

 

「おや、ピニャ殿。いつも芸術(BL)ばっかり勉強していたと思えば国際法もしっかり勉強してたのね。感心感心」

 

「そんなこと言ってる場合か!ああ、妾たちの国際評価が落ちる……」

 

「まあ、今回は事故みたいなもんだし。これぐらいあった方がいい」

 

「……どういうことだ?」

 

「俺の読みが正しければ、今頃敵さんは混乱して疑心暗鬼だ。陰謀論、俺たちのハッタリ、思わせぶり……このまま奴らの余裕を無くせばいい」

 

「敵の士気が落ちるのは良いことだが、我々は敵を作ることになるぞ。それにそう簡単にうまくゆくものなのか?」

 

「まあ殿下、見ていてください。人間まだ余裕あるうちは、向こうも人道的です。しかし、人間余裕がなくなると何しでかすかわからない。今までの歴史通り、彼らはいずれ大きな非人道的なミスをする。過去の日本、アメリカのようにね」

 

「……うまく行けばよいのだが」

 

「……堕ちるさ、我々のようにね」

 

「うむ、加藤殿、何か言ったか?」

 

「いえ、独り言です。少し休憩しましょう」

 

 

加藤は雨の中テントを出ると既に辺りは真っ暗だった。あるのは松明などの僅かな光。

 

 

「さて、人類は先の大戦の時のように失望を見せるか、それとも進化を見せるか……頼んだよ」

 

 

加藤は雨の中頑張って濡れたタバコに火をつけようとする。

 

 

***

 

 

次の日

 

人民解放軍の戦車が列をなして木々をなぎ倒しながら進んだ。

 

すぐ後ろにはAPC(人員輸送装甲車)が少し距離を置いて追従する。

 

さらにその後ろには、他国の人員輸送車が少数ながら追従する。

 

 

コミー()共に主導権取られるとはな」

 

 

同席していた米軍将校が吐き捨てるように呟く。

 

 

「今日はどこに向かうんだ?」

 

「イタリカという都市ですね……」

 

 

イギリス軍将校の質問にオブザーバーとして参加してるイスラエル軍の士官が答える。

 

 

(イタリカか……)

 

 

健軍は彼らの会話聞きながらふと思った。

 

 

(イタリカはゾルザルのときも帝国領内としながら我々に協力的だった。できればトラブルは避けたい……各国が節度ある行動を取ることを願おう)

 

 

彼らの載っている車両は予報もなく緩やかに止まった。

 

 

「ん?何かあったかな?」

 

 

車内にいる士官達は小休憩を兼ねて輸送車から降りると、状況を確認する。

 

 

「先頭で何かトラブルか……戦闘にはなってないようだな」

 

「中国製だから戦車にトラブル起きたのでは?」

 

 

とイギリス軍将校はジョークを飛ばす。

 

皆が外を気にしている頃、先頭では歩兵が見つけた地雷を処理していた。

 

対戦車地雷と思しき黒い円盤が適度な間隔で設置されていた。

 

 

「やはり相手は未開な人間と亜人だったか?」

「対戦車地雷が地面に置かれているだけだぜ、ありゃ」

 

 

歩兵達は笑いながら近づいた。

 

 

「しかも旧式と来た。これは簡単に解除できるな」

「まあ、油断しすぎないようにな」

 

 

20分もすると5つの地雷全て解除された。

 

 

「よし、地雷の解除はできた。回収するぞ」

 

 

工兵長が命じると、若い兵士たちが持ち上げる。

 

 

「あ、あと持ち上げるときはゆっくり……」

 

 

と振り向いて言おうとした時、時が止まったかと思うほど背筋が凍った。

 

持ち上げた対戦車地雷の下には鋼鉄線(ピアノ線)が地面に繋がっていた。

 

持ち上げたことにより、ピアノ線はピンと張った。

それが彼が最後見たものだった。

 

 

 

健軍たちから見て、前方で大きな爆発音と、黒い煙がもくもくと上がるの確認した。そして何やら慌しい。

 

 

「対戦車地雷にしては爆発が大きいな。IED(足跡爆弾)だな……アフガン以来だな」

 

「ワシはイラク以来だな」

 

 

米軍の将校の言葉に対しイギリス軍の老兵が懐かしむように言う。

 

 

「戦車3両が吹っ飛んだ?ほうほう……重軽傷者多数……分かった、引き続き監視しろ」

 

このように無線でやりとりしている米兵が近くにいたもんだから皆状況を把握する。

 

はて、前線には中国軍が拒否するため米兵はいないはずだが、どうやって知ったのだろうと健軍が不思議に思っていると、空から一瞬光るものが見えた。

 

 

(無人機(ドローン)か……しかし最近ドラゴン大小限らず来ないな。逆に悪い予兆でなければいいが……)

 

「色々と復旧には30分かかる見込みだそうだ」

 

 

無線をしていた米兵が言う。

 

 

「しかし、敵さんもなかなか考えるねえ。これで進軍速度も落ちるな……」

 

「あー、あれか」

 

 

双眼鏡で前線を確認した将校が指を指す

 

戦車1両の砲塔が離れた場所に落ちており、台座の方は消化中だった。残り2両も大破していた。

 

 

 

「馬大校、いかがなさいますか?一度止まりますか?」

 

 

中国の士官が尋ねた。

 

 

「……戦闘ヘリに連絡。前方に対地ロケット砲と機関砲で道を作れ、とな」

 

 

その旨を伝達すると、戦闘ヘリが後方から現れて地面にロケット砲、機関砲が撃ち込まれ緑色の地は地形を変え、砂と石ころだけになった。

やはり地雷や爆弾が設置されており、ヘリのロケット砲や機関砲により誘爆した。

 

 

「……あれだけ余裕あればその金を地雷撤去に支援にしてもらいたいね」

 

「お前が言うな」

 

「いや、今こそ紳士の国のパンジャンドラムの出番じゃないか?」

 

「呼んだか?」

 

米兵が皮肉るとフランス兵がつっこみを入れ、英国紳士も巻き込む。

 

 

そして時間はかかったが、並列だった戦車は縦列となり、地雷は粉砕されたであろう道をゆっくりと進み始める。

 

 

「どうやら進み始めたな」

 

 

英国将校が双眼鏡で前線を観察しながら呟く。

 

 

「まあ、幅が一気に狭くなったから我々が動くのはまだ先だろう。あ、てめえこの野郎!俺のマーマイト取るんじゃねえ!」

 

 

目を離した隙に昼食を取られる英国紳士だった。

 

比較的後方にいる彼らは軽食を摂っていた。

 

先ほど大爆発が起きた直後でよく食えるなと健軍は思っていたが、彼らの目が先ほどの柔和な目つきから、本気(マジ)になっていた。

 

食べ終わった者は装備の点検を始めている者もいた。

 

 

(忘れていた……)

 

 

忘れていた。彼らが各国代表の指揮官であったことを。

 

未知の土地にハンパな者を寄越すわけがない。彼らは、我々自衛隊が経験したことのない、数々の戦場を生き延びて今の地位にいる。

 

 

「だが、特地での経験は我々自衛隊が一番ある。何も卑下する必要はない」

 

 

そう自分に言い聞かせると携行食をかき込む。

 

 

***

 

 

異文化交流(ジェンガ)に懲りた龍たちは、お互いしばらく距離を置くことにした。

 

ついでに、東西南北に分かれて偵察、リクルート活動などを行うことにした。

 

東西南北にそれぞれ戦闘機(バルファルク)爆撃機(バゼルギウス)魔法龍(アンヘル)普通の龍(ヨルイナール)が行くことにした。

 

当初単独行動は危険という意見もあったが、元々我の強い龍たちがそもそも協調できるわけないという結論に至り、単独行動することになった。

 

彼らが結束できていたのも、アルドゥィンという絶対的管理者(強者)がいたからかもしれない。

 

 

「あの中で一番弱いのは私なのはよく理解している……本当に私一頭で大丈夫なのだろうか……」

 

 

ヨルイナールは不安になりながらも北へと飛んでいた。

 

 

「と言っても北にはほとんど何もないみたいね。あるのは雪山だけか……」

 

 

などど少し気を緩めたのが災いした。

 

真下の死角から大きな岩が三つほど飛んできてそのうち2つがヨルイナールの腹部に直撃した。

 

 

「ブフォ!?」

 

 

硬い鱗とはいえ、比較的柔らかい腹部に、しかも山を見下せるほどの高度に楽々届く岩である。痛くないわけがない。

 

そのまま雪山の斜面へと追突し、転がってゆく。

 

 

「うぐぅ……肋骨やっちゃったかしら……」

 

 

息がしづらい。斜面を転げ落ちるときに鱗を何枚も剥がれる思いをした。

 

 

「とりあえず、手当を……っ!?」

 

 

遠くから変わった姿の龍が近づいてくる。

 

 

「あ……ああ……」

 

 

ヨルイナールは完全に戦意喪失した。いや、そもそも戦うことを放棄していたのだから、逃避行動かもしれない。

 

彼女を恐怖のどん底に陥れた理由は、その龍が明らかにヨルイナールを『餌』と見ていたからだ。

 

 

「や、やめてぇ!食べないでえ!」

 

 

最後の力を振り絞って叫んだが、首から腹部にかけて貪られ、激痛の中ヨルイナールは意識を失った。

 

数週間ぶりに餌にありつけた、尻尾を切られたティガレックスは雄叫びを上げるが、すぐになにかに怯えるように去ってしまった。

 

 

***

 

 

「と、いうことがあったのか」

 

 

アルドゥィンはため息混じりで話す。

 

ヨルイナールは意識を失い、真っ暗闇から出ると不思議な空間にいた。

 

自身の身体や周りの様子はよく分からなかったが、自我はあることは理解した。

 

そして目の前にいる無形のものはアルドゥィン様であることもすぐに理解した。

 

 

隣に何故か知り合いの魂が並んでいるが。

 

 

「で、アンヘルよ。お前はどうしてここにいるのだ?」

 

「わしはアルヌスの偵察に行ったら、地上と空から大量の鉄の塊が追尾してきてやられてしまった……」

 

「マヌケだな……で、お前は?……なになに、休憩していたら緑の怪物に食われた?何やってんだか……」

 

 

声は聞こえなかったがバルファルクのようだ。

 

 

「で、お前はと……西方砂漠で爆弾落としたら何やらすごい形相の龍に角で心臓刺されて死んだ、と。……バカではないか?」

 

 

こちらはバゼルギウスの模様。

 

 

「貴様ら一体何やっておるのだ。我はまだ修行中の身ぞ」

 

 

シュンと(精神的に)小さくなる4頭。もはやお父さんが子供を説教する感じである。

 

 

「我々は死んでしまったのだが、一体どうしたら良いのだ?」

 

 

アンヘルが不安そうに尋ねる。

 

 

「そんなこと我に言われてもな。我の存在自体現世ではないので復活させようにも無理だな」

 

「そんなあ」

 

 

アンヘルが悲しそうに声を上げる。

 

 

「まあ、そうだな。取り敢えず我の修行に付き合ってもらうか」

 

「「「「え?」」」」

 

「あそこにいるミラルーツは少し疲れたようでな。もう無理などとほざいておるのだ」

 

 

姿こそ光のような物体だが、なるほど消滅しかけているほど弱々しくなっているアレがミラルーツのようだ。

 

4頭の龍達たちは死んだことを死ぬほど後悔したという。

 

 

***

 

 

最前列の戦車が奇襲を受け停止した。

 

地面がいきなり崩れ、土砂にあっという間に飲み込まれてしまった。大きな落とし穴らしい。

 

 

「敵襲!散開!」

 

 

歩兵が素早く展開し、攻撃に備えた。

 

 

「うわあぁぁぁああ!」

「死ねぇぇぇえええ!」

「やろう、ぶっ殺してやる!」

 

 

すると戦車が埋まった土砂の中からウサギ耳をした獣人たちが飛び出して近くの歩兵に近接戦を仕掛けた。

 

 

「落とし穴の中に伏兵がいるなんて聞いてねえぞ!」

 

「ちっ、撃て!」

 

 

指揮官の号令で射撃を開始する人民解放軍歩兵。

 

しかし人間と比べ物にならないほど俊敏なヴォーリアバニー相手に装備で優れる現代兵士は手こずってしまう。

 

最前列にいた兵士たちは敵の攻撃範囲内までに侵入を許してしまった。

 

 

「がぁ!?」

「くそが!」

「ぎゃあ!」

 

 

本気で殺しにきていた。

 

ボディアーマーを避けて首筋や指や目などを直接刃物で攻撃したり、目潰しとして砂や怪しげな粉を顔に叩きつけて近接攻撃に持ち込むなど高度なテクニックを披露していた。

 

無論、ヴォーリアバニーたちの被害も大きかったが、今まで自衛隊がこちらの世界相手に無双していたことを考えると、かなり善戦している方だと思える。

 

 

「馬大校!このままではまずいですよ!我々に近接戦の戦闘に特化した者は多くはいません!」

 

「……撃て」

 

「は?」

 

「撃てと言ったのが聞こえんのか?」

 

「しかしこの白兵戦の中では……」

 

「ふむ、どうやら君は指揮官の命令を理解できないようだな。それは将校としていかがなるものかな……」

 

「す、すぐに命令します!」

 

「よろしい」

 

 

馬大校含みある言葉と、冷徹な視線に拒否権は無いと判断した将校はすぐに命令を下す。もちろん、下された方も耳を疑ったが、拒否権は無いとすぐ理解した。

 

一人が震えで照準の定まらない銃口を向け、いつもより数十倍も重く感じる引き金を引く。

 

一人が撃つと、周りも撃ち始めた。

 

そしてそれはやがて弾丸の雨となり、射線上の者を蹂躙してゆく。

 

 

「な、仲間ごと撃ちやがった……」

 

 

後方で様子を見ていた英国将校が驚く。

 

しかし、そんなことはまだ序の口だった。

 

 

「白兵戦など、想定済みだ」

 

 

馬大校が合図を送ると、全身防護服に背中にタンクを背負った兵士数名が前に出る。

 

ヴォーリアバニー数名が白兵戦で敵を倒すことに成功し、タンクを背負った兵士に突撃する。

 

弾丸をかわすために、ジグザグに進みながら複数人で襲いかかる。

 

 

しかし、あと一歩のところで火ダルマになった。

 

 

「ぎゃぁぁあああーー!!」

「熱い!熱い!たずげでぇぇぇえええ!」

 

 

人民解放軍の歩兵に火がついた際はすぐに火炎放射器兵の消化器で鎮火されたが、ヴォーリアバニーたちは絶命するまで放っておかれた。

 

火ダルマになり断末魔を上げながら絶命する姿を見て恐怖しながらも、数人は辛うじて攻撃を再開する。

 

しかし直線的な弾丸と違い、ホースの水のように軌道が自在な火炎放射に隙は無かった。

 

加えて、熱線で反射的に身体が萎縮してささまう。

 

火炎放射器複数による炎の壁は、まるでバリアのように彼女らを寄せ付けなかった。

 

そして容赦なく小銃の弾も降り注ぐ。

 

仲間がどんどん倒れ、とうとう恐怖が理性を支配すると彼女らは撤退する。

 

 

「逃げるぞ、追えー!」

 

 

しかし歩兵が一斉に突撃すると、あちこちで地面が爆発した。

 

 

「気を付けろ!対人地雷もあるぞ!」

 

「あいつら地雷原を物ともせず走るぞ。埋めた場所を覚えているのか!?」

 

 

歩兵の動きは止まったが、上空のヘリが追撃を行う。

 

機銃掃射が容赦なく逃げるヴォーリアバニーを襲う。

 

 

「ぎゃあ!」

「ああー!」

「うぐっ!?」

 

 

幸運なことに、通常の人間より素早くかつウサギのようにかわしながら逃げたため、予想よりかは多く逃れた。

 

 

「逃げ足はウサギ並み、と言ったところか。全軍停止、衛生兵は速やかに負傷者と捕虜を収容せよ」

 

 

馬大校が命令を発するとヘリも深追いせず戻ってくる。そして衛生兵、憲兵、工兵たちが戦闘後の処理を行う。

 

 

「なんということだ……」

 

 

前線の様子を見た健軍は言葉を失った。

 

負傷した歩兵が運び込まれるのは当たり前だが、その殆どが意図的な同士討ちによって生じた者の方が多かった。

 

そして何よりも炭化したヴォーリアバニーであったと思われる物がかなり心臓に悪い。耳が焼け落ちて殆ど人間のような姿で炭と化していた。

 

随伴していた陸自隊員の一部はショックのためか、吐いてしまった者、女性よ衛生隊員に至っては泣き出してしまう者もいた。

 

人民解放軍の中にも何が起きたか理解できず、呆然と立っている者もいた。

 

 

「な、何をするだーっ!?」

 

 

少し離れた場所でも揉め事が起きていた。

 

 

「そのカメラを没収する」

 

「我々ら広報、記録を行う海兵隊の部隊だ!強行するなら外交問題になるぞ!」

 

「それなら我々がやっている。情報漏洩防止のためにも我々に従ってもらう」

 

「クソがーー!」

 

 

米兵を始め、他の国の情報収集に使われる類のものは力づくで取られてしまった。

 

 

(そんなに記録されてまずいものが他にもあるのか?)

 

 

健軍は辺りを見回すと、先程の火炎放射器兵のタンクが少し奇妙なことに気付いた。

 

 

(タンクが3つ……火炎放射器と消化剤……残る一つは何だ?悪いことが起きなければよいが)

 

 

アルヌス攻防戦よりも短期だが、その時に見えなかった戦争の悪しき部分をこの短時間で垣間見た気がした。

 

 

(これが、戦争なのか……我々が、今までやって来たことは戦争ごっこに過ぎなかったのか?)

 

 

健軍は自問自答する。

 

そして犠牲者に対し合掌し短く黙祷する。

 

 

***

 

 

それ以上の進軍は厳しいと判断され、前哨基地が地雷原と思われる手前に設置された。

 

ついでに火が沈むめでに地雷の撤去、増援要請、なども行った。しかしながら、地雷は中々探知できず次の日へと持ち越すことになった。

 

 

「外の様子はどうだ?」

 

 

米海兵隊将校が訪ねる。

 

 

「……見回りがたくさんいるな。つまり我々は監視されているということだ」

 

 

英国の将校が答えた。

 

彼らは野営テントにて将校は一か所に集められていたのだ。健軍も例外ではない。

 

 

「やつら我々が邪魔なのか、それとも人質としているのかようわからんな」

 

「にしても変や声聞こえないか?」

 

「「「……」」」

 

 

全員が会話をやめて耳をすませる。

 

 

「おい、この声って……」

 

 

フランス将校が言い終わる前に健軍がテントを勢いよく飛び出る。

 

 

「おい貴様どこに行く!?」

 

 

見回りや番兵の静止を振りほどいて声の方へと走る。

 

辿り着いたのは捕虜収容テント。

 

 

 

中から、悲鳴が聞こえた。

 

 

 

遅れて他の将校たちも着くと、全員で入った。

 

そして、皆が最初に思ったことは……

 

人間はここまで残酷になれるものだろうか。

 

 

中では捕虜が非人道的、とだけでは表せない仕打ちを受けていた。

 

暴行、虐待、拷問……生まれてきたことを後悔させるような無惨な姿にされていた。

 

変態紳士の言葉を借りることは不謹慎だが、敢えてシンプルな表現にするならこうだ。

 

18禁リョナ状態。

 

 

「きっさま何やってるんだぁぁあああ!!??」

 

 

健軍は馬大校の胸ぐらを掴んで詰め寄る。

しかし馬大校は眉一つ動かさない。

 

 

「何とは。我々はテロリストを尋問しているだけだが?」

 

「これが尋問か!?それに誰がテロリストだ!?テロリストと断定したわけではないだろう!」

 

「日本人は本当にお人好し、いやバカなのだな。疑わしきには罰を、怪しきは敵と見なすのだよ」

 

「この野郎……」

 

 

健軍は右拳を振り上げる。

 

 

「ほう、やるかね?だがその意味を理解してるかね。他国の指揮官に危害を加える、という行為が」

 

 

周りの兵士が既に健軍に銃口を向けていた。

 

 

「今頃君の部下のテントの周りにも私の兵士が待機している。そして、アルヌスに待機している我が主力部隊が東京から100m程度しか離れていないことを忘れた訳ではあるまいな?果たして貴方はその重責に耐えられるかな?」

 

「……くっ、クソがー!!」

 

 

健軍は胸ぐらから手を離しヘルメットを地面に叩きつける。

 

 

「健軍1佐、貴方は少々疲れているようだ。少し頭を冷やしてもらう。おい、連れて行け」

 

 

健軍はそのまま拘束されてどこかへ連れ去られてしまった。

 

 

「いやー、皆さんお見苦しいところを見せましたな」

 

 

馬大校は諸将校ににこやかに話すが、誰一人としてにこやかな表情をしている者はいなかった。

 

全員冷ややかな視線を残して、テントから出て行った。

 

 

そして間もなくそとが銃声やら怒号で騒がしくなる。

 

 

「馬大校、敵が攻めてきました!規模は約5000から10000人!」

 

「ふん、夜戦なら勝てるとでも思ったか。なら我々もおもてなししなければな。例の物を準備しろ」

 

「あ、アレを使うのですか?しかしあれは戦時国際法に抵触する可能性が……」

 

「少校、軍人は上の命令に従えば良いのだ。更に、君は人民だ。人民は党に忠誠さえ示せば良いのだ。それに、我々戦争などしていない。分かるな?」

 

「は、ハッ!」

 

 

少校は敬礼して出てゆく。

 

 

「それにちょうど、良い実験機会だ。元の世界で使う前にどの程度のものか確認できるな」

 

 

馬大校は上着を着るとテントを出た。

 




本当はもう少し続きありましたけど、キリが悪くなるのとだらだら書くのもあれなので手短にしました。これでも手短なのか……打作者は本当に計画性がありませんな。

ちなみに打作者は最近ゲームする暇がないのでモンハンアイスボーンの動画見ております。マムタロトのポールダンスは興奮した(錯乱末期)


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目には目を、戦争には戦争を

そういえばもう初投稿から3年経っているのですね。亀更新を超えてナメクジ更新をお許しください。

世界はこの3年でもかなり変化がありますね。

実は、今回のお話は内容的にコロナの時期に投稿しても大丈夫か気にしていまして……などと言い訳すると思ったか(本当は駄作者の怠慢です)!

ただ、ネタバレするとすこし躊躇ったのは事実かな



「ヨウジィ〜もうかなり歩いてるわよぉー」

 

「ロゥリィ、ひょっとしてもう疲れた?」

 

「ち、違うわよぉ!他の娘たちが疲れるでしょぉ!」

 

「私は大丈夫よ」テュカ

「この身もまだ大丈夫だ」ヤオ

「太陽が出てないからまだ大丈夫」レレイ

「こんなの行軍より簡単ですよ」栗林

「はわあ、夜の散歩はなんて素敵なのでしょう」セラーナ

 

「な、何よ!折角気にしてあげたのに私が疲れているみたいじゃないのぉ!亜神なのに、亜神なのにぃ!」

 

「ロゥリィ、我慢しなくてもいいぞ。疲れてたらおぶってやる」

 

「キーッ!ヨウジまで私をこども扱いして!でも……」

 

 

ロゥリィは急に顔を赤らめてもじもじする。

 

 

「おんぶは……してほしいかも……」

 

 

と上目遣いで伊丹の顔を覗き込む。

 

 

「ロ、ロゥリィ……それは反則だ!」

 

 

伊丹は喜んで仕方なくロゥリィをおぶる。

 

 

「お父さん、私足を挫いたみたい」テュカ

「この身は急に貧血が……」ヤオ

「ちょっと血が足りないかも」レレイ

「最近筋トレ不足なんですよ。伊丹2尉、おんぶしてあげましょうか?」ゴリラ女栗林

「よしなに」セラーナ

 

「おいお前ら!何で急にこうなるだけ!こうなるならジープかっぱらってこればよかった」

 

 

という光景を見て他のSの隊員たちは複雑な気持ちになる。

 

 

セイバー(剣崎)、リア充してるアベンジャー(伊丹)をどうしたい?」

 

アーチャー(赤井)、気持ちは分かるが早まるなよ……」

 

 

などとと温度差が出たとき、先頭のランサー(槍田)が停止のサインを送る。

 

そして一同は姿勢を低くし、前方を警戒する。

 

 

「ランサー、どうした?」

 

 

伊丹が無線で尋ねる。

 

 

『……前方の岩陰に人の姿が暗視ゴーグルで確認した。三人の人種が岩陰に座り込んでいる』

 

「敵意はあるか?」

 

『暗視ゴーグルだけじゃ判断できないが、何かから隠れているように見える。武器らしきものがみえないから伏兵ではないと思う』

 

「分かった。細心の注意を払った上で接触を試みろ」

 

『了解』

 

 

アーチャーの援護の下、ランサーがゆっくり前進する。

 

そして小石を軽く相手の近くに投げてこちらの存在に気づかせる。

 

 

「ひっ!?」

 

「敵意はない。自衛隊だ」

 

 

ランサーは銃を肩に担いで両手を空け、現地の言葉で語りかけた。

しかしアーチャーは後方でバレないようにいつでも引き金を引く準備をしていた。

 

 

「ジ、ジエイタイ!?本当に偽物のジエイタイじゃない?ハァ、ハァ……」

 

 

よく見るとひどく怪我を負ったヴォーリアバニーと、ハーピィと耳が千切れてケロイド状に皮膚が焼けただれ、ヒト種と間違うほど重症を負ったヴォーリアバニーだった。ハーピィに至っては両目を布で覆って失明しているようだった。

 

 

「偽物のジエイタイ?どういうことだ?」

 

「……それ以上近づかないでよ……ハァ、ハァ……暗くてまだ本物か分からないんだから……ハァ、ハァ……」

 

 

少女は怯えながらも精一杯威嚇する子猫のように呼吸は荒く、気も荒かった。

 

 

「せめて、傷の手当てだけでもさせてくれないか?」

 

「……銃こちらに渡してくれるなら考えてやる、ハァ、ハァ……」

 

 

ランサーは一瞬悩んだが、目の前の少女と後ろにいる仲間を信じて89式小銃を渡す。

 

そして応急手当てを行う。

 

その間、少女は銃口をランサーに向けたままだったが、引き金を引くようなことはしなかった。

そして痛みに耐え続けた。

 

 

「どうやら、貴方は本当にジエイタイのようね、ハァハァ……」

 

「ああ、信じて貰えたかな?仲間を呼んでいいか?」

 

 

少女は無言でうなずく。

 

それを見てランサーはハンドサインで安全を確保したことを伝えると伊丹たちは少女たちを介抱する。

 

 

少女は血を吐きながら静かに呟いた。

 

 

「おい、大丈夫か!?何があったんだ!?」

 

 

伊丹が問いかける。

 

 

「偽物のジエイタイ……ニホンジンそっくりの兵士が……ハァ、ハァ……失明する光を出す兵器を使って……」

 

「アジア系?……中国の人民解放軍か!?」

 

 

ランサーがくそっ、と罵る。

 

 

「人民解放軍か……そして失明は閃光弾か?」

 

 

伊丹がそちらの線を疑うが、セイバーはそれを否定する。

 

 

「いや、多分あれだ。中露が開発していると言われている失明レーザー照射装置だろうな。まさかここで実戦投入してくるとはな」

 

「あ……あと……あと……」

 

 

少女は何かを訴えようとした。

 

 

「もういい、もう喋るな」

 

 

だが、次の言葉を聞いて伊丹たちの血の気が引いた。

 

 

「……息が……胸が……苦しい……」

 

アベンジャー(伊丹)!化学兵器か生物兵器だ!今すぐそいつから離れろ!!」

 

 

皆クモの子を散らすように逃げた。状況を把握できてないロゥリィたちも皆で引っ張って離れた。

 

 

「アベンジャー、呼吸器系に異常はないか?」

 

「俺は、多分大丈夫だ」

 

「念のためにこれを吸っておけ」

 

 

セイバーはボンベのような物を渡す。多分解毒作用がある物だろう。

 

 

「お前たちは大丈夫か!?」

 

 

伊丹はロゥリィたちに尋ねる。

 

 

「大丈夫よぉ。念のためにレレイ、テュカ、セラーナの魔法で治癒してもらってるわぁ」

 

「魔法すげえな」

 

「後でヨウジたちにもしてあげるからぁ」

 

 

少し離れた場所から伊丹たちは少女を眺めるほかなかった。

 

 

「くそ、奴ら(人民解放軍)非人道兵器まで持ち出したか……」

 

「ガスマスクを装着して問題なければ再度救出を試みるか?」

 

(なんだ、この違和感は……すごく嫌な予感がする)

 

 

同僚たちが他国の蛮行を疑い、憤慨している中、伊丹は極めて冷静になっていた。

 

 

「うう……もう無理ぃ……」

 

 

少女は返しそびれた89式の銃口を口に入れると、最後の力を振り絞って……引いた。

 

高く、乾いた音と共に操り人形の糸が切れたように少女は崩れ落ちた。

 

 

「「「……」」」

 

 

死に慣れた世界とはいえ、かなりショクを受けた。特にランサーは自分の銃を使われたことで快く思わなかった。

 

 

「ランサー、大丈夫か?」

 

「……ああ」

 

 

伊丹の問いにランサーは力なく答える。

 

 

「仕方ない、残った者を手当てするか……わっ!?別の生存者か?」

 

 

セイバーはどこからもなく背後に現れた生存者らしき人物に一瞬驚く。

 

 

「あー……」

「うー……」

 

 

「どうした君たち。うまく喋れないのか?」

 

「セイバー!そいつらに触るんじゃあない!」

 

 

セイバーが相手の手を触れようとしたとき。伊丹がタックルでセイバーを離れさせると同時に拳銃を抜いて生存者2人の頭部を撃ち抜いた。

 

 

「アベンジャー、お前一体何を……!?」

 

「セイバー、説明は後だ!何故こいつらがこんなところに……」

 

「ヨウジィ、大変よ!生ける屍たちに囲まれてるわ!」

 

「生ける屍って、ゾンビのことか!いつからこの世界にバイオ●ザードが加わったんだ!?」

 

「セイバー、そういうことだ。だが俺は戦ったことある。とある迷宮でな……」

 

「お父さん!数が多すぎるわ!どうしてこんなところにこいつらがいるのよ!」

 

 

テュカも弓矢で応戦する。

 

皆が奮戦している中、伊丹は奇妙なことに気付いた。

 

迷宮のゾンビは、綺麗な美女ゾンビはだらけだったが、今回は戦闘で散ったと思われる身体欠損、満身創痍の亜人やヒト種の女性の他に、男性のヒト種も含まれていた。

 

 

(馬鹿な、あの風土病は女性だけじゃないのか!?しかもこいつら速い!突然変異なのか!?)

 

 

そして、その疑問への答えを決定づけるものを彼は見てしまった。

 

中国軍を主体とする国連軍兵士のゾンビ、そして極少数だが自衛隊員のゾンビである。

 

その瞬間、全てのピースが繋がった。

 

 

迷宮で謎の勢力に迫撃砲で支援を受けたのを。

 

加藤が自分たちをいつも監視していたことを。

 

 

(あのクソ野郎(加藤)、とうとう超えてはいけない線を越えやがった!)

 

「アベンジャー!まずいぞ、見えるだけで300以上に囲まれている!」

 

 

Sの隊員たちは一発一発をゾンビの頭部に当てる。

 

 

「ちょこまかとぉ、うざいのよぉ!」

 

 

圧倒的にロゥリィが一番奮闘していたが、それでも苦戦していた。ロゥリィはともかく、他の仲間を守るのでかなりギリギリの様子であった。

 

 

「くそっ、セラーナ!頼む!」

 

「お任せを」

 

 

セラーナはゾンビ化してない屍を動かし、ゾンビ同士で戦わせた。そのとき、一瞬の脱出口を見つける。

 

 

「よし、逃げるぞ!」

 

 

そして一同は辛うじて包囲網を無事突破した。

 

 

***

 

 

「くだらん。まったくもってくだらん修行だ」

 

 

アルドゥインは一息ついてる様子だが、彼の周りにはアンヘル、ヨルイナール、バゼルギウス、バルファルク、そしてミラルーツ(たちの魂)が力尽きていた。

 

 

「なぜじゃぁあ……ここは精神世界のはずなのになぜ痛いのだぁ」

 

 

といってアンヘルら気を失った。すぐに強制的に起こされるわけだが。

 

 

『アルドゥインよ。少々手こずっておるようだな』

 

「アカトシュよ、邪魔をするつもりなら消えるがいい」

 

『少しお前に助言を与えよう。とある者と闘ってもらう。彼に勝てば、現世に帰る力は戻られよう』

 

「ならばさっさとそいつを出すが良い」

 

 

すると、目の前に一つの魂が現れた。

 

 

『お前のよく知る者だ。しばし懐かしむのもよかろう』

 

 

そう言ってアカトシュの声がフェードすると同時にアルドゥインを含む龍たちの体が実態を持ち始めた。

 

もちろん目の前の魂も。

 

その姿を見てアルドゥインらニヤリと嗤う。

 

 

「……Paar(野心) Thur(大君主) Nax(残酷)、久しぶりだな」

 

 

目の前にいたのは、アカトシュが2番目に作りし龍、パーサナックスだった。

 

 

***

 

 

イタリカにて

 

 

「ミュイ嬢たちを安全な場所に退避させたのは正解だな」

 

 

皆が作戦を練っている傍ら、加藤は漆黒の刀を手入れしていた。

 

 

「しかし加藤殿、妾たちは包囲されてしまったぞ」

 

 

そして遠くで轟音がすると天井が揺れ、砂が落ちてくる。どうも場所は地下室らしい。

 

 

「我々は特殊部隊、包囲され孤立無援には慣れてますので」

 

「それは安心してよいものなのか!?」

 

「安心していいよー」

 

 

などとコントチックな展開になっていたところ、戦闘から帰還した怪我だらけのヴォーリアバニーが一人割り込んで来た。

 

 

「お、デリラ少尉。ご苦労、状況を報告し……」

 

 

加藤が言い終わらないうちにデリラが加藤の頬を思いっきり叩いた。

 

 

「貴様!貴様ぁ!よくも同胞を……よくもぉ!離せ!離せぇぇ!」

 

 

今度は殴りにかかろうとするが、周りに止められる。

 

 

「どうした。理由によっては上官不服従でよくて懲罰房行き、悪くて銃殺刑だぞ」

 

 

加藤は叩かれた頬をさする。

 

 

「よくもあたいらの同胞を化物に変えやがって!」

 

「はて、なんのことやら」

 

「とぼけるな!戦で倒れた亜人、ヒト種が、生ける屍になったんだぞ!」

 

 

それを聞いた一同はどよめく。

 

 

「それに、まだ生きている同胞にも噛まれた者が多くいるだ!そいつらも生ける屍になるだぞ!」

 

 

デリラはかなり興奮した様子だった。

 

周りもかなりざわついていた。

 

 

「あたいらに予防接種とかいうもので変なものを入れただろっ!?」

 

「……なるほどな」

 

 

加藤はデリラにゆっくり近づくと、身体を舐めまわすように見る。

 

 

「腕に噛まれた跡が複数あるな」

 

「だからなんだ……」

 

「ほれ」

 

 

加藤は手を差し伸べる。

 

周りは加藤が何してるのか理解できなかったあ。

 

 

「なんだ、せっかく噛まれても大丈夫なことを証明してやると言ってるんだ。好きなところ噛めよ」

 

「……どうなっても知らないよっ!」

 

 

デリラは加藤の手首に思いっきり噛みつく。

そして血が飛び出る。

 

 

「痛えな。本気で噛みやがって。まあいい、今回は大目に見てやる。懲罰房でしばらく頭を冷やしておけ」

 

 

そう言うとデリラは連れていかれる。

 

 

「……加藤殿、さっきの話は本当なのか?」

 

「さっきの話?」

 

「予防接種とやらでへんなものを妾たちの体に得体の知れないものを入れたと……」

 

「まあ、予防接種もある意味異物を身体に入れているようなものだ」

 

「え゛」

 

「まあ話は最後まで聞いてください。こちらの世界でも、毒を微量ずつ摂取して体を毒に慣らすという方法があるのは知ってますか?」

 

「妾も聞いたことはある」

 

「それを病でも同じことをしているだけ。だから、我々は生きている間は生ける屍の病(ゾンビウイルス)には感染しない」

 

「待て、その言い方だと……」

 

「さすがピニャ殿下お気づきになられたようで」

 

 

加藤はニッコリと微笑むと、スマホの遠隔操作で監視カメラの映像を見せる。

 

 

「こ、これは……!?」

 

 

ピニャはショックのあまり口元を押さえてしまう。

 

 

「死してなお、戦い続ける兵士。そして新しい戦い方。コスパも半端なくよい。そうだな、名前をつけるなら『不死戦』あたりか」

 

「あ、悪魔の所業だ……」

 

 

ピニャは映像から目を離せなかったが、直視もできなかった。

 

 

「悪魔ねえ……俺的には、人間だからここまでできるのだと思うのだけどね」

 

 

映像に映っていたのは、包囲していた敵に襲いかかる多種多様、無数のゾンビだった。

 

 

「さてと、反攻作戦だ」

 

「マスター加藤、我々の出番で?」

 

 

加藤の私兵(オルタ)が尋ねる。

 

 

「いや、まだだ」

 

「?」

 

「我々が何もしなくても、天が片付けてくれるさ」

 

 

***

 

 

終始アルドゥインが圧倒していた。否、もはや勝負とは言えないほどパーサナックスは一方的にやられていた。

 

 

「ガハハハ!パーサナックス、貴様弱くなったな!?竜戦争時代よりも遥かに弱くなっておるぞ!」

 

「……お主は強くなったみたいだな」

 

「怠惰か?老いか?それとも貴様が愛したかわいいジョール(人間)どものせいで丸くなりすぎたのではないか?」

 

「……そうだな。確かに我は弱くなったな……だがな、Fus()を手放しても得られたものは沢山ある」

 

「貴様、今さりげなくFus()を撃ったな?」

 

「あ……」

 

「ジョールの矢ほど感覚もしなかったぞ。弱くなりすぎだ、我が御手本を見せてやる。FUS()!」

 

「ぐはぁぁぁあああ!?」

 

 

精神世界とはいえ、アルドゥインの放ったスゥームはパーサナックスの存在そのものを消し去りかけた。

 

 

「凄まじい……だがアルドゥインよ、それでは奴には勝てんぞ」

 

「やつ?」

 

ドヴァキン(ドラゴンボーン)……」

 

「はっ!なら貴様は知っているのか、やつを倒す術を!?」

 

「分からぬ……だが可能性はある」

 

「ほーう?」

 

「それは、愛だ」

 

「……」

 

「アルドゥインよ、貴様に足りぬは愛だ!他者を愛し、敬う心だ!我はそれを、人間を通して知った。エイドラのキナレスに同じことを言われ、我も半信だったが……貴様もいずれ分かる。分かる日が来る!分からなければ奴には勝てん!」

 

「……パーサナックス」

 

「アルドゥイン……」

 

 

パーサナックスはゆっくりとアルドゥインに近づいた。

 

 

「人間と、和解するのだ」

 

「……パーサナックスよ、貴様は力だけではなく知力までも衰えたか?」

 

「な、アルドゥイン!?」

 

 

パーサナックスは半透明の触手に捕われて身動きが封じられてしまった。

 

 

「貴様の精神に入らせて貰った。我が倒されたあと、とんだ災難だったようだな」

 

 

アルドゥインは見下すように微笑う。

 

 

「一時停戦だった世界は我という共通の敵が消えたことにより戦禍にまみれ、挙句に貴様はブレイズとやらにそそのかされた愛弟子(ドヴァキン)によって、殺されてここにいる。これが貴様が言う、愛とやらか?」

 

「くっ……」

 

「愛というものがあるのなら、なぜジョールどもは隣人を、自身を愛さない?我々ドヴァに対して愛を向けず、憎悪と恐れを抱く奴らになぜ愛を持って迎えなければならない?違うか、パーサナックス?」

 

 

アルドゥインは触手と粘液まみれのパーサナックスの耳元で囁く。

 

 

「あるのは勝利して支配する、それだけよ」

 

 

それを聞いたパーサナックスは、彼の中の何か、決定的なものが事切れたのを感じた。

 

視界も真っ暗だ。

 

 

「我の糧になるが良い」

 

 

パーサナックスの精神的肉体が崩壊し始めた。

 

 

「ア、アルドゥインよ……」

 

「なんだ、まだ死んでないのか」

 

「やつ……貴様が、対面したドヴァキンは……異形のドヴァキン、などではない」

 

「は?奴は我の知る者ではないぞ。異世界や並行世界とやらから来た奴に決まっておる」

 

「違う……奴は、我々の世界のドヴァキンだ……」

 

 

パーサナックスの体が無になる直前、こう叫んだ。

 

 

「やつがあのようになったのは我を殺した罪悪感と世界に対する憎悪だ!」

 

 

そしてパーサナックスは消えてしまった。

 

 

「……はっ、だからどうしたというのだ。奴自身が言ってたではないか。奴と我は異なる世界線だと……」

 

 

だがアルドゥインが気にしていたことはあのドヴァキンが知り合いかどうかなどではなかった。

 

 

(世界に矛盾が生じ始めている……)

 

 

いくらアルドゥインといえ、これがどんなにまずい状況か分かっていた。

 

 

「おいアカトシュ、さっさと我をあの世界に戻せ」

 

『それはお前自身が知っているのではないかな?』

 

「は?パーサナックスを倒しても全く分からんぞ。分かったのはジョールは尚更信じられぬということだ」

 

『彼をもってしてもお前を覚醒できなかったか」

 

「さっさとしろ、我は急いであの世界に戻らねばならん」

 

『残念だが、私の力を使うことでそうしよう。だが、貴様の力を全て送ることはできない』

 

「は?貴様エイドラなのにそんなこともできないのか?」

 

『エイドラだからだ。私自身、強大すぎる力は世界に直接干渉できないのだ』

 

「使えぬエイドラだ」

 

『お前たち全員を送るのに、アルドゥインよ、お前の力の99%を必要とする』

 

「なんで、我が下僕たちのために1/100に弱体化されねばならないのだ。置いていけば良かろう」

 

「アルドゥイン様、ひどいです……」

 

 

ヨルイナールが小声で呟く。

 

 

『そういうわけにもいかんのだ。彼らを先に送ってお前の骸を確保せねば』

 

「そういうことか……仕方あるまい」

 

『そしてもう一つ、お前が骸を触媒に戻され3日しかその力を保つことはできない。その後、強制的にここに戻される』

 

「なんとも制約が多いな。どうせ他に手段がないのだろう。それで良い。3日で全てを片付ける」

 

『良かろう、しばらくお前は休眠状態となる。次に起きるのは向こうの世界だ』

 

「さっさと始めろ」

 

 

そういうとアルドゥインの精神が漆黒の闇へと吸い込まれて行った。

 

 

***

 

 

「こいつはひでえ」

 

 

剣崎(セイバー)は目の前の光景に驚くばかりであった。

 

 

伊丹たちはイタリカ近くで包囲のため人民解放軍が設立した簡易キャンプまで来ていた。

 

既に捨て去った後で無人となり、あちこちに戦車や自走砲が置いてあり、地面には人の身体の一部が落ちていた。不思議なことに遺体は見当たらない。

 

 

「遺体はゾンビとなった、というところか」

 

「そうねぇ、この地は不浄と化しているわぁ」

 

「遺体がなければ生ける屍の軍勢は作れませんわ」

 

 

とロゥリィが言うとセラーナは残念そうな顔をする。

 

 

「ちっ、ゾンビの体温が低いせいか熱源探知装置に反応しねえ」

 

 

赤井(アーチャー)はそう言うとゴーグルを外す。

 

 

「まずいな。敵がどこから来るか分からんとうかつに動けないな」

 

「あちらこちらにいらっしゃいますわ」

 

「セラーナさんわかるの!?」

 

「ええ、伊達に吸血鬼はしておりませんわ」

 

「よし、セラーナレーダーを頼りに進むぞ」

 

「セラーナレーダーって……」

 

 

伊丹の言葉に周りは半ば呆れていた。

 

 

そうしてゾンビをうまく避けながらイタリカにかなり近づくことができた。

 

 

「しっ、今度は生身の人間だ」

 

 

伊丹の熱源探知ゴーグルに生者が反応したので皆とっさに地に伏せた。

 

どうも新帝国の兵士と加藤の私兵らしい。

カタコトで指示を出していた。

 

 

「Ahraan、ahraan」

 

「Horvutah Niin」

 

 

すると負傷者と思われる米兵と中国兵を担架に乗せる。

 

無論、そうしている間にもゾンビがワラワラと集まってきだが彼らは冷静に火炎放射器などでゾンビたちを蹴散らしてゆく。

 

 

「オブツハショウドクダ〜!」

 

 

(あ、あの中に日本人のオタクか、そいつらに変なこと吹き込まれたやついるわ)

 

 

などと伊丹は隠れながら見るのだった。しかし焼いた後はしっかり合掌していた。

 

ゾンビが全滅すると、彼らは担架を担いで帰っていった。

 

 

「……変なやつもいるんだな」

 

 

伊丹はため息をつく。

 

 

「しかし今のは新しい単語かな、それとも別の言語かな?レレイ知ってるか?」

 

「知らない。初めて聞いた」

 

「物知りのレレイでも知らないか」

 

「私もぉ、初めて聞くわぁ」

 

「1000年近くを生きたロゥリィでも分からないか」

 

「歳のことは言わないでくれるぅ?」

 

「しかしなんかどっかで聞いた言葉に近い気がするんだよね」

 

 

などと皆が頭を悩ますと、セラーナが唐突に口を開いた。

 

 

「ドラゴン語、ですわね」

 

「そう、それだ!ってええ!?セラーナさん知ってるの?」

 

「意味は知りませんが、いわゆる太古の言葉なのでしょう。子供のころ良く空でドラゴンたちが叫んでいましたわ。そのせいでお城の一部が壊れたりしましたが」

 

(そういや異世界の太古の吸血鬼だったな……)

 

 

意味はわからないが、取り敢えずドラゴン語という事が分かっただけ良しとしよう、と伊丹は思った。

 

 

「ドラゴン語って、あのアルドゥインとやら漆黒龍が話していた言葉よね」

 

 

テュカが思い出したかのように話す。

 

 

「どうりでどっかで聞いた気がしたわけだ」

 

「でも、彼らはなぜ知っているのかしらぁ」

 

「アルドゥインとやらに教えてもらったんじゃない?」

 

「そうかしらぁ。あの横暴極まりない漆黒龍がそんなめんどくさいことするかしらぁ」

 

 

疑問が一つ解決するとまた新たに疑問が出てきたが、それは後で考えることにした。

 

 

「とにかく、通りすがりの兵士がゾンビを消してくれたおかげで動きやすくなった。近すぎない程度に尾行するぞ」

 

 

そして尾行しようとしたとき、たまたま自衛隊の迷彩の鉄帽が落ちていることに気付いた。

 

 

「……」

 

 

伊丹は何かを察した。

 

 

「そういえば自衛官のゾンビもいるんだっけ……。サーヴァントに告ぐ、自衛官の遺体を見つけ際は可能な限りドッグタグなどを回収せよ」

 

『『了解』』

 

 

と無線で連絡すると、早速見つけた。

 

 

「南無三」

 

 

伊丹は合掌してドッグタグを回収しようとすると、動いた。

 

 

「ひぃ、ゾンビか!?」

 

「待て私は人間だ」

 

 

伊丹は拳銃を向けたが、それよりも声を聞いて驚く。

 

 

「健軍1佐!?」

 

「やっと、救援が来たのか?」

 

「え、まあ、どちらかと言えば斥候ですが」

 

「どちらでも良い……だが、これを頼む」

 

 

健軍は伊丹にカメラを渡す。

 

 

「色々と情報を残してある。これを本部に……」

 

「健軍1佐、すぐにアルヌスへお連れします!」

 

「ダメだ、もう遅い。私も、やられたよ」

 

 

健軍がふくらはぎを見せると、そこには噛まれた跡があった。

 

 

「……」

 

 

伊丹はかける言葉が見つからなかった。

 

 

「伊丹2尉、そんな顔をするな。このようなこと(死ぬこと)は想定していた。だがな、このカメラに残した各国と加藤の行いを託さずには死ねんのだ」

 

 

健軍は腰の拳銃を抜く。

 

 

「狭間陸将に伝えてくれ。預かった部下の命を守れなかったと」

 

「健軍1佐、やめてください!」

 

 

剣崎をはじめとするSの隊員が健軍を抑える。

 

 

「放せ!俺はこのままだと余計に迷惑をかける!放せー!」

 

「テュカ!健軍1佐を眠らせてくれ!」

 

「分かったわ!」

 

 

テュカの精霊魔法により、健軍は深い眠りへと落ちた。

 

 

「取り敢えず、なんとかことなきを得たな……」

 

「しかしどうするよ、起きたらまた自決しようとするぞ」

 

 

伊丹たちは悩んだ。

 

 

「セラーナさん、以前レレイの病気を制御したみたいにどうにかなりませかね……」

 

「できることでしたら、既にやっていますわ。黒魔術による生ける屍ならともかく、ここの生ける屍は恐らくペライトの影響が強過ぎますわ」

 

「ペライト?」

 

「失礼いたしましたわ。私の元の世界の、病のデイドラのことですわ」

 

(病の神ということか……まあ、この世界のゾンビもウィルス性の可能性が高いしな)

 

 

伊丹は迷宮での出来事を思い出す。

 

 

「希望はまだある」

 

 

レレイが呟いた。

 

 

「もしこの生ける屍の原因が迷宮の病由来なら、ロクデ梨で治療できる可能性がある」

 

「「おお」」

 

「でも男性にも感染し、感染後も活発に動き回るというものに変性している可能性もあり、確証は持てない」

 

「「ああ……」」

 

「だから、確実なのは加藤のところに連れてゆき、交渉すること」

 

「レレイ、なぜそう思う?」

 

「加藤はああ見えてかなり慎重で合理主義。この程度のこと、想定しているはず。だから日本で言うワクチン?と言うものを必ず用意してあるはず」

 

「……確かに。生物兵器を使う場合は自身の身を守る必要もある」

 

 

剣崎がレレイの言葉に納得する。

 

 

「よし、そうと決まればさっさと動くぞ」

 

「ソノヒツヨウハナイ」

 

 

突然の声に全員が手に武器を取るが既に遅かった。

 

 

「抵抗しなければ危害は加えない。だが、少しでもそぶりを見せたら容赦はしない」

 

 

ロシアの特殊部隊、スペツナズの装備をした兵士が日本語で話した。

 

 

「剣崎、こいつら……」

 

「ああ、恐らく加藤の方に寝返った方じゃない……ガチのほうだ」

 

 

伊丹と剣崎が小声で確認する。

 

 

「あらぁ、この私を誰かだと思ってぇ?」

 

 

ロゥリィがバルバードを地面に突き立て、戦闘態勢に入る。

 

 

「ロゥリィ・マーキュリー。通称ヒト種の亜神。不死の存在、年齢は900歳を超える。そして隣のイタミ・ヨウジを懇意にしている」

 

「だ、誰がこんなやつ懇意にしてるですってぇ!?そんなのただのデマよ!ぶ●すわよぉ!」

 

 

しかし他の女性陣の視線が痛い。

 

 

(絶対懇意にしてる)

(でも抜け駆けは許さない)

(お父さんは私のものよ)

 

 

「確かに、不死の貴方なら我々スペツナズすらいとも容易く蹴散らせるだろう。だがその間に仲間は何人生き残るかな?」

 

(……こいつら相手が最も嫌がることを心得ていやがる)

 

「我々は君たちが目的ではない。君たちの友達に用事があるのだ」

 

 

***

 

 

「アルドゥイン様!」

 

 

アルドゥインは目覚めるとヨルイナールが覗き込んでいた。

 

どうやら成功したようだ。身体はデイドラに会う前の通常状態。力はスカイリムにいた頃程度と感じた。

 

 

「ふむ、あの純白の古龍(ミラルーツ)と一同がいないようだが」

 

「……あやつらならお主を戻すための力となって消えてしまったぞ」

 

 

アンヘルがなぜか不貞腐れた様子で答えた。

 

 

「ふん、少しは役に立ったようだな」

 

 

アルドゥインは特に気も留めず身体の調子を確かめる。

 

 

「久々だからな。おいお前ら、少し力を分けろ」

 

「え、アルドゥイン様ぁぁぁぁああ!」

「こ、断るぅぅぅぅう!?」

 

「ふむ、だいたいこれでデイドラに魔改造された時の半分か。我はやることがあるのでな、この力は永久に借りておく。我のものは我のもの。世界のものは我のものだ」

 

 

そしてアルドゥインは飛び去る。

 

 

「あの暴君め……」

 

 

アンヘルは力なく呟く。

 

 

アルドゥインは取り敢えず近くにある大量の生命を探知すると猛スピードで向かった。

 

驚いたのはそのスピードである。アルドゥイン自身驚いていた。

 

 

「ふむ、我の力となった3頭のドヴァ()の影響か。スゥームを使わずこのスピードか、悪くない」

 

 

急なカーブ、急停止はもちろん、逆方向へ即発進も可能であった。恐らく、戦闘機バルファルクの影響だろう。

 

そんな感じで少し遊びながらもあっという間にその場についた。場所はイタリカに近い平原。

 

下を見るとたくさんの下等生物(ジョール)どもが何かからか逃げ惑うのが見えた。

 

 

「ふむ、生ける屍か……ペライトの力を感じるがそんなことなどどうでも良い。早速命を頂くとしよう」

 

 

このまま『生命吸収』のスゥームで根こそぎ喰っても良かったが、アルドゥインは試してみることにした。

 

糧となった龍の能力を。

 

結果は、それはそれは(アルドゥインにとって)素晴らしいものだった。

 

スゥームを唱えずとも念じるだけでICBMのごとく大気圏外から突入してきた小型隕石が精密誘導弾の如く、しかも雨のように地面を焦土と化した。

 

 

「|Koraav! Joor Los Med Ag Skeever!《見ろ!人がまるで焼スキーヴァー(ネズミ)のようだ!》」

 

 

下にいるジョールは人種、老若男女、生死問わず焼き尽くされた。

 

地対空兵器で応戦する暇さえ与えないどころか、航空兵器の要請すら出来なかった。

 

 

「質は高くないが、量は良しとしよう。さて、時間がない、次に行くとしよう」

 

 

アルドゥインは魂を吸収し終えると、空高く飛び上がった。

 

そして地面にはこれからの出来事を表すかのように、各国の旗が燃えていた。

 

余談だが、ここで奇跡的に生き延びた者は後にこう語る。

 

炎龍が空飛ぶ戦車なら、この漆黒の龍は空飛ぶ空母打撃群と。

 

 

***

 

 

「人間はほんと鈍臭い。遅すぎるんだな、全てにおいて」

 

 

ゾルザルの顔をした何かは西方砂漠を一人で歩いていた。彼の通った後には、多くの龍の骨が落ちていた。

 

 

目的地に着くと、岩陰に()()を見つけた。

 

 

「ほう、アルドゥィンのやつはここからこちらの世界に来ていたのか」

 

 

オブリビオンゲートが機能停止した状態で見つかった。

 

 

「人間どもよ、まどろっこしいのだよ。私が、手本を見せてやる」

 

 

彼がゲートに触れると、それは起動した。

 

 

「さて、(パーティ)を始めようか」

 

 

そして門から次々と怪異が流れ出してきた。

 




やっとアルドゥイン様復活しましたよ。ちょい強引だけど


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冬来たる

非常に長らくお待たせしました。大変申し訳ありません。

アルドゥイン様同様に時の狭間に封印されてました(嘘)。

タイトルの元ネタはGame of Thrones のWinter Comesより。安心してください、そちらからは誰も参戦しません。


 

馬大校(マーたいさ)、説明したまえ」

 

「……」

 

 

薄暗い部屋の中、中華人民共和国人民解放軍将校の一人が、詰問されていた。

 

 

「あれほど情報の優位があったのにも関わらず、君は我々党員を失望させた」

 

 

そう、馬大校は内通者によって既に知らされていたのだ。敵が生物化学(BC)兵器を持っていることを。

 

 

「だから我々君に防護服と火炎放射器など、そしてこちらも報復できるよう化学兵器を渡した。それにも関わらずこの結果は何かね。君のせいで戦車、装甲車を始め様々な兵器を失った。我が軍としては雀の涙ほどだが」

 

「……」

 

 

馬大校は相変わらず沈黙を続ける。

 

 

「それに、我々の目標が何か理解してるかね?目的の前にその障壁で手こずるとは」

 

「……漆黒龍、ですか」

 

「そうだ!我々何としてもあの漆黒龍を手に入れる。核に変わる新しい兵器としてな!」

 

「……フッ」

 

「何かね?何がおかしいかね?」

 

「いえ、貴方は未だ事の重大さを理解していないようだ。私のこの身体を見ても分からないとは」

 

 

そして馬大校は自らの両脚左腕欠損の身体を自嘲するように笑う。

 

 

「……馬大校、どうやら君は疲れているようだ。長い休暇を取ってもらおう。ただし、今回の件は責任も取ってもらう。今回の不祥事は君の責任だ、分かるね?」

 

「……」

 

「君の責任だな?」

 

 

念を押す政治将校に対し、馬大校はごにょごにょと小さく呟く。

 

 

「今なんと?」

 

「責任なんてクソくらえだ」

 

 

そして馬大校は政治将校の目に唾を吐きかける。

 

 

「き、貴様!?これは党への侮辱だ!処刑だ、極刑だ!」

 

「党だのメンツだの、もう私にとってどうでもよい。所詮我々は彼にとって餌でしかないのだ」

 

「彼?」

 

「漆黒龍を、人間が従えるなど愚の骨頂」

 

「つ、連れて行け!」

 

「むしろ、我々は服従させられる方だ」

 

 

そして馬大校はどこかへと消えていった。

 

 

***

 

 

(こいつら予想以上にやべえ……)

 

 

伊丹は開いた口が閉まらなかった。

 

スペツナズ達は伊丹達を二つのグループに分け、人質組(伊丹、レレイ、テュカ、ヤオ)と待機組(その他)に分けると、突入班は人質を連れて乗り込んでいった。

 

まずRPGで門をこじ開けると同時にサーモバリック弾頭を叩き込んだ。中にいた人たちはどうなったか知らない方がよい。

 

無論、相手は急いで対応に来るが、全身バトルスーツに重火器を装備したおそロシア人達が敵を薙ぎ払ってゆく。

 

相手も弓や即席銃で応戦するが、イワンの考えた最強の戦闘服(ライオットスーツと防爆スーツを足して二乗した感じ)に身を包み、Kord重機関銃(12.7mm)を撃ちながら前進する姿はもはやターミー●ータのようだった。

 

もはや言葉で説明するのが難しくバカらしくなるくらいカオスな状況である。

 

 

「こいつら無茶苦茶だー!!」

 

 

伊丹の悲痛の叫びも機関銃の轟音でかき消されてゆく。

 

 

「「ぎゃぁぁあ!」」

 

 

叫びを上げてた者は運が悪い。なぜなら急所を外して痛む暇があるから。声を上げずに死んだものは逆に運が良かったかもしれない。

 

 

「痛えぇ!ちょ、本当にいてぇんだけどぉ!?」

 

 

応戦していたジゼルは不死であったことが災いとなった模様。

 

 

「ピニャ殿下!まずいです、非常にまずいですよ!」

 

「ハミルトン、そんなことは妾も承知だ!だが一体どうしろと言うのだ!加藤殿も別の対応しているそうじゃないか!」

 

 

撤退した者たちは急いで扉越しにバリケードを作るが、12.7mmの鋼鉄の暴風が作業をこの上なく困難にする。

 

極めつけはまたロケットランチャーを叩き込まれてせっかく築いたバリケードが粉々に砕け散る。

 

その爆風でピニャたちも吹き飛ばされてしまう。

 

 

「くっ……あ……!?」

 

 

ピニャが顔を上げた頃には既に囲まれてしまった。

 

 

重要人物(ターゲット)の一人を確保した」

 

 

スペツナズの一人が無線で報告する。

 

 

「ピニャ殿下!」

 

「い、伊丹殿!?貴方も捕まったのか!?」

 

「すみません、力及ばずで」

 

「ううむ、仕方がない。なるほど、彼らはニホンとは違う国の者か」

 

「ええ……」

 

 

などとやりとりしてると、スペツナズたちがロシア語で何やら話し始めた。

 

 

大尉(カピターン)残りの女(ハミルトン)はどうしますか?」

 

「これ以上捕虜は取れない。殺せ」

 

 

それを聞いた隊員は冷徹にも銃口を気絶しているハミルトンの後頭部に向ける。

 

 

「な、やめろぉぉぉぉおお!」

 

 

ピニャは腹と心の奥から悲痛の叫びを上げた。

 

しかし、次の瞬間聞こえたのは銃声ではなく、断末魔だった。

 

 

「ぎゃぁぁああああああ!?腕が!」

 

 

拳銃を構えていた隊員は失った右手を押さえてうずくまってしまった。

 

 

 

一同は怪奇現象や魔法を疑った。

しかし、次の瞬間別の隊員が宙に浮いた刀で胸を貫かれたこと、そしてその近くから声が聞こえたことで原因を理解した。、

 

 

「ここまでよく来たなと褒めてやる」

 

 

「やつだ!やつ(加藤)が近くにいる!抹殺しろ!」

 

 

刺されたスペツナズ隊員諸共抹殺する勢いで機関銃の総火力を浴びせる。

 

しかし透明状態の相手は刀で刺した相手をそのまま盾のように使う。

 

 

「ちっ、重装甲なのが仇となったか。手榴弾 (グラナーダ)!」

 

 

それを聞いたスペツナズ隊員の一人がピンを抜いて投げようとする。

 

しかし、投げる直前で固まってしまう。

 

 

「どうした?早くそれを投げろ!」

 

大尉(カピターン)、腕が……何者かによって腕を掴まています!」

 

「なにぃ!?」

 

 

そして盾にされた隊員を見ると、刀が刺さったまま立っている。

 

(刀を刺したままで目を欺いたのか。それとも複数人いるのか!?)

 

 

「た、大尉!」

 

 

目を離した隙に手榴弾を握っていた手から、手榴弾をもぎ取られ懐に入れられる。

 

間髪入れず手榴弾が破裂し、そこにいた者全員が衝撃で吹き飛ばされる。

 

不幸中の幸い、懐に手榴弾を入れられた隊員の装甲が頑丈であったおかげで人的被害はその隊員だけだった。

 

 

「あう……」

 

 

伊丹が急いで顔上げると、数名が立っていた。しかし、スペツナズではなかった。

 

前進が紫色で、生物の外皮で作ったような戦闘服で身を包んでいた。というか戦闘服というのが怪しいぐらい継ぎ接ぎだらけの即席ものだが。

 

 

「伊丹2尉、こちらへ」

 

 

後ろから見えない透明人間(?)に声をかけられ、捕虜の身だった彼らは誘導されるがまま着いていく。

 

後ろを見ると気絶したピニャたちも透明人間に担がれてついてくる。伊丹から見たらお姫様抱っこの状態で空中浮遊にしか見えないのだが。

 

そして伊丹たちはそのままその場を離れた。

 

 

一方、例の姿を現した全身紫の謎の集団は無力化されているスペツナズたちを拘束していた。

 

 

「あーあ、バッテリー切れか今の衝撃で壊れたかな?」

 

「マスター、しかし良く近くの森で仕留めたカメレオンみたいな怪物の皮が透明になる仕組み知ってましたね。まさか電気を流して透明化するとは」

 

「たまたまよ。偶然の発見だ。しかし、こいつらスペツナズも俺らが怪物退治したときみたいに熱源探知(サーマル)ゴーグルを使わなかったのが幸いしたな」

 

 

などと加藤たちが雑談しながら拘束していると、スペツナズ隊員の一人が力を振り絞って怪しい金属管を投げた。

 

 

「「……」」

 

「ククク、我々は全滅するが貴様らも終わりだ……」

 

 

金属管から怪しい水蒸気が吹き出ていた。

 

 

「……この程度で?」

 

 

加藤はその金属管を持ち上げると匂いを嗅ぐ。

 

 

「はっ?ノビチョクの数倍はあると言う猛毒を!?」

 

「君たちが毒薬を使うことは想定内だ。だから我々は既に解毒剤を打ってある」

 

「ありえない、今回初めて使用したものだ、解毒剤など存在するはずがない」

 

「それが、あるんだな何故か」

 

「は、ハッタリに決まっている!」

 

「ほーう、そう来たか。なら証明してやろう。J(ジュリエット)、やれ」

 

 

そういうとスペツナズの大尉を拘束していたALT(オルタ)の隊員が彼女の首筋に注射器を刺す。

 

 

「ぐっ!?」

 

そして加藤は彼女(敵将校)の髪を掴んで後ろを向かせた。

 

 

「よく見るんだな。お前の部下たちが死んでゆくのを」

 

 

スペツナズの隊員たちは一瞬ピクリと動くと、そのまま痙攣して次から次へと動かなくなった。

 

「カ、カピターン(大尉)……」

 

 

最後の兵士は声を振り絞って力尽きた。

 

 

「……」

 

「どうだ?君に打った解毒剤は本物だということは証明された」

 

「なぜ……何故貴様のようなテロリスト風情が私も知らない我が国の国家機密を知っている。一体、何者だ?」

 

「……テロリスト風情?君はどこまで加藤蒼也と言う人間を知っているつもりだ?元日本国海上自衛隊情報及び補給幹部。ついでに特別警備隊勤務経験ありでちょっとあちこちの機関に知り合いがいる程度の者さ」

 

「嘘だ。そんな程度でここまでのコネ、資金など調達できるわけない……」

 

「嘘じゃない。本当に俺の経歴だ、表向きは、だがな。そういう設定なのだ」

 

「私がSAWやWASの存在を知らないとでも?」

 

「なら話が早い。俺が中東にいる間、とある人物に出会ったことで『だった者(WAS)』及び『見た者(SAW)』というある機関の部隊にいてな、そこでALTのメンバーとコネを作ったわけだ。しかしな、そんな些細なこと、どうでも良い」

 

 

加藤は胸のナイフを抜くとスペツナズ将校の首元に当てる。

 

 

「ここから先の話は、こちら側の人間になるか、人生最後の話としてしか聞かすつもりはなくてね。お前に選ばせてやるよ」

 

「……我々ロシア人を、舐めるな。貴様の思い通りにはいかんぞ!」

 

そう言うと首元に当ててあったナイフに自らの首を押し込む。

 

「くかぁ、ぐっ……」

 

「あーあ、血だらけだ。まあいい、君の行動に敬意を表して教えてあげよう」

 

 

加藤は血溜まりで横たわるロシア人の耳元に誰にも聞こえないように囁いた。

 

薄れる意識の中、かろうじて聞き取れた彼女は驚きのあまり意識が一瞬強くなったが、流れ出る血液と共にまた意識が遠のいていった。

 

 

加藤は立ち上がって去ろうとしたところ、最後にこう言い放った。

 

 

「そうそう、死んだからって逃げ切れると思うなよ」

 

 

後に、彼女はその言葉を理解し、ひどく、とてもひどく後悔した。

 

 

***

 

 

アルドゥインは世界の矛盾(歪み)を探すために西方砂漠へと向かった。

 

もちろん、それは彼がこの世界に来たきっかけとなるものがあるからだ。

 

 

(だが奇妙だ。我が異世界に行った程度で世界に矛盾が生じることはないはずだが)

 

 

人間の感覚だと世界滅亡級の龍(アルドゥイン)が来たらそりゃあ世界は歪む気もするが、どうやらアルドゥインのような神格同等であればどの程度で世界がおかしくなるか分かるらしい。決してアルドゥインのせいではない、はず。

 

彼がこの世界を訪れる原因となったオブリビオンゲート付近まで来て彼は目を疑った。

 

ありとあらゆる怪異が群れを成して大移動していたのだった。

 

ゴブリン、オーク、オーガー、巨人、ファルメル、リークリング、スケルトンに生ける屍(ゾンビ)。他にも挙げるとキリがないどころか、かつていた世界(スカイリム)では見たことのない怪物も長列を為して行軍していた。

 

そう、単に歩いているのではなく、隊列を為して行軍していた。それはまさに規律統制された軍隊であった。

 

 

(なんだコイツらは……)

 

 

アルドゥインは遥か上空から観察していたが、何かがおかしい。数が天文学的数字であることも異常だが、それよりも何か、こう、違和感を感じていた。

 

 

(……そうだな、わからなければ身体に聞くまでよ。いつだって肉体は正直だ)

 

 

この龍(アルドゥイン)は本当に全知全能なのか実はただの脳筋なのか甚だ疑問に思える発言である。

 

アルドゥインは取り敢えず身体の周りに爆発する火球を複数身に纏って突撃した。もちろん全速力の半分で。

 

結果はもちろん、相手はたくさん死んだ。直径1キロのクレーターができるほどなので当たり前と言えば当たり前だが。

 

 

「……我の違和感はこれか」

 

 

推定100万の魂を一瞬で刈り取ったつもりだが、一つもアルドゥインに吸収されることはなかった。

 

さらに、生き延びた怪異どもも逃げ惑うどころか絶えず行軍を続けた。それはまるで、そのクレーターが元々あったかのように迂回して進む。その姿はアリの行列に似ていた。

 

試しに傍を行軍しているオークに喰らい付いてみた。

 

やはり、違和感しかない。咀嚼したが、物理的に感触はあるものの手応えがない。

 

 

「なるほど、デイドラとドレモラか、それともデイドラロードたちの仕業か……」

 

『ご名答、魂はまた再生し、肉体を経て戻ってくる』

 

「誰かと思ったら、貴様、ドヴァキンだな?」

 

 

テレパシーで直接語りかけてきた相手を瞬時に察知する。

そしてレーダの逆探知の如く()が立っている方向を見る。そこにはバカ皇帝であったゾルザルの姿をした()がいた。

 

 

『気配も肉体も変えてるのに、すぐにバレるとはさすがは世界を喰らい尽くそうとした龍だけはあるな』

 

「減らず口を叩きおって。貴様一体何をするつもりだ」

 

「何って、見て分からないか?」

 

「……あらかた、世界を破壊して侵略の限りを尽くすのだろう?」

 

「破壊?侵略?……ククク、アーハッハッハッ!!」

 

 

ドヴァキンの高笑いは狂気で満ちていたを

 

 

「そんな生温いものじゃないよ」

 

 

ドヴァキンは満面の笑みを浮かべる。

 

 

「世界を破壊し、蹂躙し、凌辱し、汚し、絶望のどん底に落とし込んで破壊の限りを尽くす。そう、私は絶望という最高のスパイスを世界に練り込んで食す、新たなワールドイーターとなる」

 

 

これを聞いたアルドゥインの第一印象はというと、日本語的にはコイツヤベエ、である。

 

 

「君のようなワールドイーターですら全世界の人間を絶望のどん底に陥らせることは出来ず、希望を捨てなかったものによって敗北を味わっている。だから僕は君を超える。そしてそのまま(ゲート)の向こうの世界も諸共喰らい尽くしてやる!」

 

「さて、貴様にそれが出来るかな?」

 

 

アルドゥインは冷笑する。だが心の奥では、全く油断のできない相手だと理解していた。

 

 

「例え貴様が我より遥かに強くても、世界を何周しようと、得られていないものがあるのに気づいていないようだ」

 

「なんだと?」

 

 

ドヴァキンの表情から笑みが消えた。

 

 

「貴様は、その何周もして我の魂を吸収できていないだろう」

 

「……クク、そうだ。そうだった!」

 

 

ドヴァキンは悪魔のような高笑いをする。

 

 

「そうだよ、僕はまだ君を一度たりとも吸収できたいない。そして君を吸収すれば、俺は『Dov Naak Joor(龍を喰らいし定命者)(ドヴナクジョール)』として完成する」

 

「果たして、貴様にそれができるかな?」

 

 

アルドゥインは敢えて挑発する。正直勝てる気がしないが、世界の歪を測るためにも敢えて挑発する。

 

 

「できなければ、世界を壊してもう一度作り替えて君を見つけるまでだ」

 

 

アルドゥインがまばたきを一瞬した時にはすでにドヴァキンの姿は消えていた。

 

隠密スキルが伝説級のドヴァキンの気配を感じるのは至難の技だが、アルドゥインもスゥームを駆使して僅かな気配を感じ取り間一髪で攻撃をかわす。

 

先程アルドゥインがいた場所には、最強エンチャント済みのドラゴン重装備に大剣、さらにスゥーム(ドラゴンアスペクト)による防御力追加の化け物が立っていた。

 

 

「僕はデザートは最後に食べる派なんだが……」

 

 

ドヴァキンが指を鳴らすとアルドゥインの想像を超える出来事が起きた。

 

 

「気が変わった、メインディッシュ(世界の滅亡)の前にデザート(アルドゥイン)をいただくとしよう」

 

 

ドヴァキンの後ろにアルドゥインとほぼ同等、むしろクローンと言っても違和感のないドラゴンが三体現れた。

 

 

「君の魂を吸収することはできなかったが、君の魂を直感で、見様見真似で作ってみたよ」

 

 

***

 

 

「加藤、助かった」

 

「礼は言うな。単に敵を排除しただけだ」

 

 

ロゥリィたちも別動隊に解放されており、皆無事に合流していた。

 

 

「もう一つ、お願いしたいことがある」

 

「敵の俺に貸しを作って良いのか?」

 

「ああ、そんなゆうちょなことを言ってられないからな」

 

 

伊丹は真剣な目で加藤の目を見る。

 

 

「できれば、ワクチンをくれ、と言いたいがそれは了承しないだろう。だからせめて、ここにいる健軍1佐だけでも救ってくれ!」

 

 

伊丹は額を冷たい地面に擦り付け、土下座する。

 

 

「ヨウジィ!何やってるのよ、あんたがお願いすることじゃないわよぉ!」

「そうよ、お父さんは悪くないじゃない、元と言えばコイツらのせいじゃない!」

「……」

 

 

ロゥリィやテュカは抗議するが伊丹は無言で頭を下げ続ける。

 

 

「……」

 

 

加藤は無言のままシガリロに火をつける。そして一息吸って吐く。

 

 

「ここに元を含める日本人を残して一旦出てくれ」

 

 

一同は抗議するが、伊丹のお願いもあり、伊丹、剣崎を始めとするSたち、そしてALTから少数の元日本人と加藤が部屋に残る。そして一呼吸置いて加藤が口を開いた。

 

 

「伊丹、それなら既に解決済みだ」

 

「へ?」

 

「既に、殆どの自衛官はワクチンを投薬済みだ」

 

「え、どうやって?」

 

「アルヌスの協力者にお願いして飯に混ぜてもらった。経口摂取ワクチンとしてな」

 

「はあ!?いつの間に?」

 

「つい最近だな」

 

 

つい最近……伊丹はつい最近の出来事を思い出す。飯関係で変わったことといえば……

 

剣崎の方を見る。そして食堂で珍しくエプロン姿だったのを思い出す。

 

 

「……」

 

 

剣崎は黙秘をする。

 

 

「まあ、彼の名誉のために言っておくが、彼は俺の駒ではなく互いに情報交換としての協力者だ。あまり攻めるな。なので、健軍1佐は大丈夫だ。起きたらそう説明してくれ」

 

 

加藤は陽気に話す。

 

 

「な、なんだ。良かった……」

 

 

拍子抜けした伊丹はヘナヘナと座り込む。

 

 

「しかしだ、道中で少数だが自衛官のゾンビを見たぞ、あれは?」

 

「……今のところ、ワクチンによる効果は100%だ。そこから考えられるのは、自衛官のフリをした工作員か、その協力者だな。自衛隊の飯をここ3日は食ってないことになる。お陰でネズミを炙り出せたな。まあ気の毒だが」

 

「しかし、たまたま食ってないだけとか……」

 

「それはほぼないな。レーション、水、菓子類と自衛隊が提供するものに仕組んである。まあ、漏れがゼロとは言えないがな。逆に自衛隊の食べ物を口にした外国人で生き残りがいるから、こちらで保護してる自衛官数名と一緒に連れて帰っていいぞ」

 

 

なるほど、最近自衛官がハニートラップ引っかかったと注意喚起されていたな、と伊丹は思い出す。

 

 

「なあ加藤……」

 

「うん?」

 

「お前は、一体何がしたいんだ?」

 

「……」

 

「日本を、いや世界を潰そうとしてるのか、それとも救おうとしてるのか?俺にはお前の考えがわからない」

 

「わからない方がいい、理解も同情も同調もしなくてもいい。そのうち知ることになるさ」

 

 

などと考えているといきなり扉が開いた。

 

 

「カトー少佐殿!たたたた大変です、帝都にいる間諜(スパイ)たちが、逃げました!」

 

 

護衛についていたヴォーリアバニーが慌てて入ってきた。

 

 

「スパイって、例の偽大統領たちのことか?」

 

「ああ、邪魔だから置いてきたけど、やはり逃げられたかだ」

 

「やはり?」

 

 

伊丹がどゆこと、と尋ねる。

 

 

「CIAの職員だ。多分俺たちが捕虜として持っていることに相当都合が悪いんだろ……」

 

「しかしお前らしくもない。この程度のこと予想していたんじゃ……」

 

 

言いかけて伊丹は気づく。

加藤が笑みを浮かべた瞬間、伊丹の勘が働いたが、それ以上に生存本能的な何かが口にしてはいけないと警告した。

 

 

「言ったはずだ、そのうち知ることになると」

 

 

***

 

 

「そうか、ご苦労」

 

 

政治将校は馬大校が粛清されたと報告を受ける。

 

 

「何か言い残していたか?」

 

「ハッ、このように言っておりました。『ワクチンは早めに手に入れるんだな』と」

 

「負け犬の遠吠えか。そんなこと言われんでもワクチンはすぐ入手する。ゴホッ」

 

「いかがなさいましたか?」

 

「いや、咽せただけだ。水を一杯頼む。まだ首都に着くまでは時間があるな。私は休ませてもらう」

 

 

***

 

 

「さて、今後の君達への処遇を決めないとな」

 

 

加藤は皆と昼食をとりながら話す。

 

 

「一、君たちをそのまま解放すりる。

二、君たちを捕虜として捕える」

 

「後者は後悔することになるわよぉ」

 

 

ロゥリィが売られた喧嘩は買うぞ、と言わんばかりの圧をかけてくる。

 

 

「我々としては君達を捕虜にするのは得策ではないので、できればそのまま解放したいところだ。ただ、解放したところでこの周辺はゾンビだらけ。さて、どうしたものか。ジゼル、翼竜は何体呼べる?」

 

「既に待機しているのが3頭、少し時間をくれたらもう5頭用意できるぜ」

 

「10頭、いや予備を含めて人数分用意しろ」

 

「少し時間が……」

 

「なら今から用意し始めろ」

 

「……わかったよ」

 

 

ジゼルはとぼとぼと部屋を去った。

 

 

「しかし加藤、なぜ翼竜なんて……」

 

「陸路では現状厳しいので空路で君たちを運ぶ。それに、帰る前に見てほしいものもあってね。まあ、雪が降り始めてるからちょっと寒いかもしれないが」

 

「え?雪?」

 

「あれ、気づいてない?ほら、外を見ろよ、雪だ」

 

「ホントだな。どうりで肌寒いと思ったら」

 

「雪、だと……?」

 

 

ピニャが顔色を悪くする。

 

 

「ピニャ殿、どうしましたか?」

 

「この地域は、雪は降らない筈だ……」

 

「ということは、異常気象?」

 

 

伊丹もそれを聞いて困惑する。

 

 

「恐らく、そういうことだろう」

 

 

加藤はタバコの火をテーブルに擦り付けて消す。

 

 

***

 

「小癪な!」

 

 

紛い物の自身の魂を持つ龍のような何か、にアルドゥインは正直圧倒されていた。

 

 

(くっ、こやつらは強い……!)

 

 

腐っても鯛、と言うように偽物でもアルドゥインと言ったところか。

 

同じでなくとも劣らずとも勝る魂を持つ龍のような何かに追撃からの追撃に圧倒されていた。

 

 

(レベルとしては、我の肉体が滅びる直前の頃と同等か。ならば今の我の方に僅かに分があるが、数が多い……)

 

 

単純計算すると自身より僅差で格下の者に3人相手されているのでなかなか厳しい状況と言える。

 

 

「「「Joor Zah Frul(ドラゴンレンド)」」」

 

 

三体から同時に対不死シャウトが放たれる。

 

 

(……だが、所詮は作り物よ)

 

 

アルドゥインは確信した。勝てると。

此奴らに対して圧倒的に優位なものがあった。

 

 

Fiik(跳ね返す) Pah(全て) Thuum(龍語)!」

 

 

即席で編み出したが効果的面であった。

スゥームを打ち出した相手にそのまま返した。

さらに間髪入れず追い討ちとして鉄をも気化する焔を撒き散らす。

 

不死から解放された異物(偽物)は文字通りチリも残さず消えた。

 

 

「経験値からなる想像力と柔軟性か。なるほど、参考になる」

 

 

ドヴァキンは感心したように微笑む。

 

 

「だが、これならどうかな?」

 

 

すると無の空間から同様の偽物が108体出現する。

 

 

「小癪な、数を揃えれば良いというものではないぞ!」

 

 

アルドゥインは戦闘を再開した。

 

 

「くくく、君を喰らう以外にも、いい使い道を思いついたよ」

 

 

ドヴァキンはアルドゥインに聞こえない声で呟く。

 

彼の足元の雪にはスゥーム(龍語)が刻まれていた。

 

 

Fiik(跳ね返す) Pah(全て) Thuum(龍語)

 

 




ぶっちゃけ流行もとうの昔に過ぎてると思いますが、駄作者のわがままで続けます。

皆様もコロナにはお気をつけて。

あ、あとモンハンアイスボーンにミラボレアス追加されたけど、あれを元にアルドゥイン様をコラボで追加してくれないかな。


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アルヌス危機


本当にご無沙汰しております。
未だに読んでいる方々がいることに驚きと感謝しかありません。

アズラ様、感謝します。え、違う?

しかしこのコロナの影響はほんとうにペライトとのせいかもしれない……

そういえばもうモンハンライズが出るとは……ときは早いですな。
(戦闘機みたいな龍が再登場して隕石のように落ちてきたりビーム撃ったり爆撃機みたいな龍と来たり……あれ?うちのアルドゥイン様何かしましたか?)



 

『彼らは、ぐすっ……言葉にするのも……おぞましい非人道的な活動を……しています……』

 

 

画面のウサギ耳の女性が涙ながらに語る。

 

 

「……まるでイラク戦争時のナイラ証言だな」

 

 

加藤がインターネットを傍受して映る映像を見て呆れたように言う。

 

 

「なんだそれ」

 

 

伊丹が加藤に尋ねる。

 

 

「簡単に言うと、クウェート出身のナイラという少女がクウェートの病院でのイラク軍の暴虐を見たその証言、という設定だ」

 

「?」

 

「ちなみに、その少女はナイラという名前でもないし、その当時病院どころかクウェートにもいなかったという話な」

 

「は?それ嘘と言うこと?」

 

「さあ、今のところ嘘と言うことになるな。よく言えばプロパガンダ戦だよ。それに踊らされた国連なのか、それともそうなるよう誰かが仕組んだかは知らんがな」

 

「ひでえ話だ……」

 

「Wikip●diaに乗ってるぞ。もっと色々勉強しておけ」

 

「うーん、あまり難しい話嫌いなんだよな。ってそれだとソース大丈夫か?」

 

「んな細けえこといいんだよ。ちなみに、このテレビに出てるうさ耳の女、ヴォーリアバニーじゃない」

 

「なぜ分かる?」

 

「画像解析にかけたら耳の部分は99%の確率で、偽物だ。それにこの女、下っ端だがCIAの職員だ。会ったことある」

 

「うわ、マジか。で、どうすんの?」

 

「まあ、こんな変なプロパガンダ戦を始めたと言うことは、そろそろ心の余裕がないと言うことだ。長期戦になれば戦う理由がないと国民も反対し始めるからな。と言うことでこちらも知的に反撃に出る」

 

「知的に?」

 

「ああ、知的に」

 

 

絶対嫌な予感がするが、一体何をするつもりなのかを伊丹は尋ねる。

 

 

「ふふふ、決まってんだろ。今から各種SNSに証拠揃えて暴露するのだー!」

 

「えぇ……」

 

 

やはり嫌な予感は敵中した。

いつも以上に嬉しそうな狂人である。

 

 

「しかも今回は初の異世界系バーチャルユー●ューバの準備もした!世界初の異世界系チャンネル!新しいプロパガンダ戦の始まりだ!健軍1佐には申し訳ないが、彼が証拠に撮ったカメラも活用させてもらう!」

 

「ちょ、それ大丈夫なのか?」

 

「やられたやり返す、倍返し……いや泣くまでやり返す!いや、奴らが、泣いても、ネットで殴るのはやめない!あ、やべ想像しただけでも下腹部が反応しそうだ」

 

 

そして加藤は魔改造したノートパソコンに色々と打ち込む。そして最後にターンと力強くEnterボタンを押す。

 

 

「あとは俺のフォロワー(信者)と協力者に任せれば……くくく……今後の展開想像しただけで脳内麻薬(ドーパミン)がドバドバ出てくるわ」

 

 

すごく邪悪な笑顔を見せる。

 

 

「うわあ……鬼だ」

 

「卑怯鬼畜外道の加藤と呼ばれたのは伊達じゃないぜ」

 

「いや、それ褒め言葉じゃないから」

 

 

そんな変なことをしているとジゼルがやってきた。

 

 

「カトウ、準備できたぜ」

 

 

ジゼルが翼竜の準備ができたことを報告する。

 

 

「まあ、ここでモタモタしても時間の無駄だな、そろそろ出発する。残存部隊はゾンビの処理を開始。噛まれても大丈夫だが、死ぬと増えるから死なないように。」

 

 

加藤は私兵(ALT)と新帝国国防軍の兵士に指示する。

 

 

「さて、伊丹。寄り道してアルヌスに行くぞ。ちなみにちゃんと一番大人しいやつ用意したから高所恐怖症のお前でも大丈夫だ」

 

「えぇ……」

 

 

そして一同は翼竜に跨って飛び立った。

 

 

 

ちなみに加藤が投稿した動画の件だが、仕返しという意気込みから始まったプロパガンダは予想以上に効果的面であった。

 

まず各種SNS、ブログや裏サイト、ディープウェブ、ダークウェブなどに証拠データと共に反論した。

 

もちろん各サーバーがダウンするほどの盛り上がりを見せると同時にどこからかの圧力か次々に閉鎖や削除に追い込まれるが、そこはネットの怖いところ。瞬く間に拡散しデジタルタトゥーとして残ってしまった。各国政府は火消しに躍起になった。

 

極め付けに異世界系美少女Vt●berが爆誕して異世界のことについて紹介し始めた。

こちらは一般受けも良かったが、またどっかからの圧力で削除されたりと先ほどと同じ目に遭う。解せぬ。

それでも何度でも甦った。なぜなら可愛いは正義であり、人類の夢だから。

 

しかもネットの紳士淑女によって度々復活して、挙句に次のコミケには薄い本が出るなど職人の皆様の仕事は早かった。

 

これらのお陰で各国の国民の矛先は自国の政府、メディアへと向けられ、文字通りカオスとなった。

 

余談だが、美少女V●uberはどことなくレレイに似ていた気がする。

 

 

そんな状況を、元拉致被害者の望月紀子はパソコンを通して見ていた。

 

 

「やるね、あの男は。彼が送ってくれたデータも、多いに役立ちそうだね」

 

 

そして携帯電話をかける。

 

 

「あ、菜々美さん?局が爆発して今暇でしょう?面白い話があるけど、どう?」

 

 

***

 

 

「ふー、ふー……」

 

 

アルドゥインは荒々しい鼻息を吐く。

疲れているように見えるが、実は体内のエネルギーはむしろ高まっていた。

 

そして彼の足元には倒した偽物の自身(アルドゥイン)が無数に倒れていた。偽物といえど魂を持っており、これを吸収したアルドゥインは更なる力を得ていた。

 

 

「お見事」

 

 

ドヴァキンはゆっくりと拍手をする。

 

 

「だが、君のおかげでいろいろと分かったよ」

 

「なにぃ?」

 

「まず、周りを見てみるがいい」

 

 

周りの石、地面、木々、雪や砂など、ありとあらゆる場所に何かで引っ掻いたような跡が残されていた。

 

凡人が見ればただの傷跡にしか見えないかもしれない。だが良く見ればただの傷跡ではない。どこか(くさび、)形文字のようにも見える。

 

 

Thu’um(龍語)……」

 

 

そう、ありとあらゆる場所にスゥームが刻まれていた。

 

 

「分かるかい?これは全て君が今の乱戦で発した、新しいスゥームたちだ」

 

 

ドヴァキンは続けた。

 

 

「実は、ある検証をしてみた。ジョール(下等生物)共が対龍スゥーム(ドラゴン・レンド)龍化スゥーム(ドラゴン・アスペクト)を編み出すのにかなりの犠牲と時間をかけている。私自信、新たなスゥームを編み出そうとしてみたがなかなかうまくいかない。せいぜい有意義なスゥームは2、3つ程度だ。だがしかし……」

 

 

そしてドヴァキンは足元に刻まれたスゥームを読み取る。文字ではなく、力を読み取る。

文字に光が宿り、風が舞い、言葉に含まれる力を吸い取る。

 

 

Fiik(反射) Pah(全て) Thuum(龍語)

 

 

「お、おのれ……」

 

 

アルドゥインは長年の時間と知識、そして修練の積み重ねが全て一瞬で奪われることにこの上なく屈辱を感じた。

 

 

「……このように、君は新たなスゥームを生み出すことが、他愛もなくできる。しかし、全てを支配したはずの私が、なぜ自由に創造できない」

 

 

ドヴァキンが歩くたびに近くのスゥーム(シャウト)が次々と読み取られてゆく。風と共にスゥームが奴に吸収されていった。

 

 

「それは君だからなのか、それとも別な理由なのか」

 

 

そして彼がアルドゥインの前に来る頃には全てのスゥームを吸収した。

 

 

「アルドゥインよ、確かに私は貴様を完全に服従させたことなどない。幾度も世界を巡回したが、無駄だった。しかし、使いようはある」

 

 

そしていつのまにかアルドゥインの足元、すぐ目の前にいた。

 

 

Kos Dii(我の物となれ)

 

 

凄まじいまでの、言霊(スゥーム)

 

世界が、宇宙が、理が、アルドゥインに呼びかける。否、命令する。

 

支配されよ、と。

 

 

如何なる英雄であろうと、聖騎士であろうと、彼のスゥーム(言葉)の前には無力。

 

男を知らぬ生娘は彼の言葉の前にその身を捧げるだろう。

王に忠誠を誓った騎士は()の言葉に従うだろう。

永遠(とわ)の愛を誓った夫婦(めおと)の契りは彼言葉により殺し合うだろう。

神に選ばれし国王は彼の言葉で神を背くだろう。

 

森羅万象(しんらばんしょう)諸事万端(しょじばんたん)

天地万物(てんちばんぶつ)天地創造(てんちそうぞう)

 

ありとあらゆる全ての事柄が、事象が、全身全霊かけてアルドゥインに語りかけてきた。

 

もしアルドゥインに細胞と言うものが存在したなら、その一つ一つの遺伝子レベルで、DNAレベルで、原子核レベルで(こうべ)を垂れよ、と感じたかもしれない。

 

究極の『意志の強要』

 

アルドゥインは足がまるで見えない神の手によって引っ張られるような感覚がした。

 

そして地に足が着くと目と鼻の先ほどにいるヤツを前に、何かが(こうべ)を押さえつけるような感覚がした。

 

嗚呼……心の奥底からは、服従したくない。そう思っていたかった。しかし、彼自信(アルドゥイン)を含め()()が服従せよと語りかける。

 

目の前には、(ドヴァキン)がいる。

文字通り人間の目と鼻の距離にいる。

 

そして……

 

アルドゥインは……

 

頭を……垂れた。

 

 

 

 

 

 

そして、確実に捕らえた。

 

彼が頭を垂れたのは、それは服従のためではなく、攻撃のために。

 

 

捕らえた。確実に捕らえた。その口の中に、舌触り、咀嚼感、味、匂い、感触……五感に加え第六感、七感と全身全霊込めて、殺しにかかった。

 

そして、確実に殺した。殺したはずなのだ。

 

だが以前と同様、無かったことかの如く彼は目の前にいる。

 

そして笑みを浮かべて叫んだ。

 

 

「素晴らしい、素晴らしいよアルドゥイン!私の目に狂いは無かった。君は、やはり世界を喰らいし者(ワールドイーター)だ。だから、安心して死ね」

 

 

そして彼の攻撃が視界の目前に迫った。

 

アルドゥインの頭を過ったのは……

 

 

 

 

***

 

 

「なんだ、ここは?」

 

やっと高所から解放された伊丹は不気味な雰囲気と霧のようなものに囲まれた高地へやってきた。

 

 

「俺もよう知らんが、ジゼルによればクナップヌイというところらしい」

 

 

加藤たちも翼竜から降りる。

 

 

「なんだがすごい雰囲気が悪いと言うかぁ、生を感じないのよねぇ」

 

 

ロゥリィが辺りを見渡す。

 

 

「お姉様、多分それはあのアポクリフと呼ばれるあの黒い霧のせいだぜ。まあ、実は最初は主神ハーディ様の言いつけで見張っていたんだけどよ、結局何も変わらないままでな」

 

「なるほど、草木がその姿を維持したまま死んでいるようね」

 

 

テュカが霧の中に埋もれた植物を見る。

 

 

「加藤殿、何故我々をここへ?」

 

 

ヤオが尋ねる。

 

 

「さあ、ジゼルに言われて興味が湧いてね。ジゼル曰く、アルヌスの門の出現やら、アルドゥイン様の影響があると聞いてるがな」

 

「それはホント」

 

 

レレイが口を開く。

 

 

「私の心にハーディがそう言っている」

 

「ええー!?レレイ、ハーディと話せるのぉ!?」

 

 

ロゥリィが目を丸くする。

 

 

「今初めて声を聞いた」

 

「で、何て言ってるんだ?」

 

 

伊丹が尋ねる。

 

 

「恐らく、諸々の理由により世界にズレが生じていると」

 

「何それ、めちゃ怖いんだけど。世界崩壊するの!?」

 

 

伊丹が声を出して驚いてしまう。

 

 

「ただ、世界をズラしている要素が三つあり、それがかろうじて拮抗しており、バランスを保てていると。でもそのバランスがまた崩れようとしている」

 

「その三つの要素って、門と漆黒龍と、あとなんだ?」

 

 

皆が考えていると、一人また一人と、ある人物に視線が向かう。

 

 

「……なんだ?俺そんな世界に悪影響及ぼすことしているのか?」

 

 

加藤がたじろぐ。

 

 

「少しは……いや結構影響しているをじゃないのぉ?」

 

 

ロゥリィがハルバードを軽く振る。

 

 

「そうですわね、こちらの世界どころか私も見たことない門の向こうの世界へも大きな悪影響を与えているとお聞きしましたわ」

 

 

とセラーナが言うと、何故か皆の視線がこんどはこちらにも行った。

 

 

(((……そういえば、セラーナも結構吸血鬼の大物だっけ?)))

 

「いかがなさいましたの?」

 

 

しかし当の本人はキョトンとしていた。

 

 

「あー、やめやめ!これ以上犯人探しは事態を悪化させるからやめよう!」

 

 

伊丹のおかげで皆の疑心暗鬼は取り敢えず収まった。

 

 

「で、加藤。他にもここに連れてきた利用あるんだろう?」

 

「流石は伊丹、物分かりがいいな。あそこを双眼鏡で見てみろ」

 

 

伊丹たちは言われた通り見てみる。

 

 

「なによぉ、何も見えないじゃない」

 

 

霧をだらけで最初は見えなかったが、目が慣れると、それは見えた。巨大な建築中の建造物が。

 

 

「なんじゃありゃ!?」

 

 

伊丹は思わず声に出してしまう。

 

 

「最強の砦だよ。霧の上に足場ができるように作れば空路しかないからね」

 

「しかしあれをどうやって……」

 

「あれだよ、アレ」

 

 

加藤が空を指すと、そこにはオスプレイが柱などを吊るしながら飛んでいた。

 

 

「空路しかないからね」

 

「たまげたな……しかし俺たちに見せてもいいのかよ。一応敵だろ?」

 

「まあ、そうだが見せても攻略されない自信があるからな。なんせ死の霧の上にあるんだから陸路じゃ攻略されなまい。まあ、もうそろそろ出発するから今のうちによく見ておけよ」

 

 

そう言って加藤は出発準備を始めるが、他の一同は双眼鏡で何度も見ながら観察していた。

 

 

「うーん?」

 

「ヨウジぃ、どうしたのよぉ?」

 

「いやぁ、あの建物まだ未完成だし、ぶっちゃけ不細工だけど、こう何というか、どっかで見たことある気がするんだよねぇ」

 

「日本の建物とかぁ?」

 

「うーん、でもあんな感じのものあったかな?日本の城っぽくないし、なんだが現代的だし……」

 

 

伊丹がそうこう悩んでいると、出発の準備が整った。

 

 

「伊丹、出発するぞ。ちょうど捕虜乗せたオスプレイも来たからこれこらアルヌスに向かうぞ」

 

「俺、翼竜じゃなくてオスプレイに乗っちゃダメか?」

 

「残念だが、捕虜と怪我人乗せてるから厳しいな」

 

「えぇ……オスプレイと並走するのか。大丈夫かなあ……」

 

 

余計に翼竜で飛ぶのが嫌になる伊丹であった。

 

そして皆離陸し、加藤が最後に離陸する。

 

 

(ここなら、全てを止められるはず……)

 

 

加藤はクナップヌイに建てられる要塞を見下ろすと、皆の跡を追う。

 

 

***

 

 

なんやかんやでアルヌスの近くに着く頃に、チヌーク内で健軍1佐は目を覚まして事情を聞いて安心した。カメラ内のデータ勝手に使用したのは内緒にしたが。

 

 

空から小さなアルヌスを見て、伊丹はふと思った。」

 

 

(最近、アルヌスを出たらすぐアルヌスに戻るを繰り返しているような……)

 

 

などと考えながら伊丹の代わりに翼龍の手綱を握っているダークエ(s)ロ《/s》ルフ《ヤオ》に必死にしがみつく。

 

 

「い、伊丹殿……もう少し優しく、いや、伊丹殿が望むのならそれも甘んじて受け止めよう。できればベッドの上でやってほしいものだな」

 

「俺はそんなつもりでしがみついているんじゃねえ!」

 

 

伊丹は下を見ないよう必死だった。しかしヤオを除く他の女性陣の目は冷たかった。

 

 

「なんでお前がS(特戦)になれたか時々疑問に思うよ」

 

 

加藤がやれやれ、といった感じで溜息をつく。

 

 

「なぬ!?伊丹殿はSなのか?ならばこの身はMになるしかないな。あまり詳しくないがこの前あちらの世界の書物に書いてあったぞ。伊丹殿が所望するなら仕方あるまい。はあはあ……」

 

「ヤオ、そっちじゃないから。別の隠語だから。隠語っていてもいやらしいほうじゃないぞ!業界用語だ!」

 

「ハーレムも大変だな」

 

 

加藤は伊丹の隣を逆さ状態で飛行する。

 

 

「うわあ!?逆になんでお前はこんな翼竜を乗りこなしているんだ!?しかも逆さまで怖くないんか?落ちて死ぬの怖くないの!?」

 

「いやあ、元コウモリ(特警)だからね。冗談は置いといて、死ぬのはいやだけど航空機の真下は死角っていうのは常識だから時々こう逆さに飛んでるわけよ。それに俺は死んでも代わりはいるからな」

 

「何その綾●レ●みたいな発言は。お前クローンなの?ひょっとしてクローンなの!?」

 

「さすが伊丹殿、面白いことおっしゃりますなあ。俺がクローンならとっくに世界征服してる」

 

「う……お前の冗談は本気でやりそうだからこんな時どんな顔したらいいかわからないな」

 

「お前もノリノリじゃねえか。

まあ、取り敢えずそろそろ着くのだが、全員頭伏せておけ」

 

「「「???」」」

 

 

談笑しているなか加藤はいきなり意味深な発言をしたことで嫌な予感がした。

 

案の定、アルヌスから地対空ミサイル(SAM)が発射され、物凄いスピードでこっちに向かってきた。

 

 

「ATシールド展開」

 

 

などとどっかで聞いたことあるようなフレーズを加藤が無線で命令すると、オスプレイのチャフ発射装置から筒のようなものが射出されると、それが破裂すると微粒子がSAMに対して壁のようなものを生成し、防いだ。

独特な効果音は出てないが。

 

音も熱も爆風も防いでしまった。一同は目を丸くする。

 

 

「あるぇー?おかしいな。捕虜交換のためにオスプレイで来るって事前に伝えたんだけどなー」

 

「あの、加藤さん?」

 

 

伊丹は恐る恐る加藤に尋ねる。

 

 

「ああ、これ?魔硝石を応用して、某汎用人型決戦兵器アニメをオマージュして作った展開型対物理攻撃シールド、通称ATフィー●ド……じゃなくてATシールドだ」

 

「いろいろやばいな、本当にいろんな意味で」

 

「商標登録予定だ」

 

「いや無理だろ、ダメだろ」

 

「まあできなくても他国に真似はできんと思うが。これにより既存のミサイルなどは時代遅れの代物となる!」

 

「それってなんかガン●ムのミノフ●キー粒子じゃないか」

 

「……俺、エ●ァ派なんですけど」

 

「いや知らんし聞いてないし。というかメカ系はもっと奥深くてその2派が主流というわけではないからな。もっとも、俺はメカより美少女派だが」

 

「ヨウジぃもカトォも変な話で盛り上がらないでこの状況どうにかしなさいよぉ!」

 

 

ロゥリィの言葉に我に返るオタクども。

 

SAMの波状攻撃は止まってない。

 

ちなみに余談だがレレイは相変わらず新たな技術に対して目を光らせて眺めていた。

 

 

「おい加藤、流石にそろそろやばいんじゃない?」

 

「そうだな、あともって数発だな」

 

「え、不味くないか?」

 

「安心しろ、こんな時のために既にプランBは用意している。OHK-II を射出!」

 

 

加藤が命令するとミサイル型の小型ドローンが投下される。

 

プロペラで推進している割には結構なスピードで突っ込んでゆく。

 

相手も指を加えて待っているわけでもなく、対空迎撃ミサイル(C-RAM)を放ってくる。

 

 

アイアンドーム(イスラエル製)と同型だな。なおさら試すのには都合がいい」

 

 

ドローンは対象へと突入するが、ミサイルの速さには足元には及ばなかった。次々と迎撃された。

 

 

「はわあ、素晴らしい光景ですわ」

 

 

セラーナ嬢はドローンが木っ端微塵になる姿を見て感嘆していた。なぜだ。

 

 

そして全て迎撃され、今度はこちらに向かってくる、という予想とは裏腹に何も起きなかった。

 

 

「……撃たないのかな?」

 

 

テュカが恐る恐る尋ねる。

 

 

「多分、撃てないのが正しいのだと思う」

 

 

レレイが冷静に分析する。

 

 

「ご名答。奴らのレーダー、通信、電波など現代戦で必要不可欠なものは全て停止させた」

 

「これは驚いた……この花びらみたいなものが関係するのか?」

 

 

ヤオは手のひらに落ちたものを見つめる。

よく見ると周りに白い花びらみたいなものが少し舞っていた。

 

 

「よく気づいたな。現在開発中の専守防衛兵器、OHK-Ⅱ、和名の通称は桜花改」

 

「桜花って……あの特攻兵器の?」

 

 

伊丹が恐る恐る口を開く。

 

 

「そう、かなりの皮肉を込めて命名したんだがな。最近流行りつつある徘徊型ドローンは海外で何て呼ばれているか知ってるか?カミカゼ・ドローンだぞ。奴ら(戦勝国側)に神風が分かってたまるかってんだ。だから敢えて先人の兵器を引用した。

しかも無人で、強制的に相手の攻撃手段を奪う『人道的平和維持兵器』としてな。今の日本なら喉から手が出るほどほしい代物だな」

 

 

そう言いながらも加藤の表情はどこか闇に満ちていた。

 

 

「さて、安全になったし降りるか」

 

 

なお、桜花改の影響か、オスプレイたちもなんだか不安定な飛行をしていたのは内緒である。

 

そして白昼堂々飛行場に降り立つと銃口を向けた兵士や対空機関砲やらに囲まれ、悪い意味でVIP待遇のようになってしまった。

 

 

「おやまあ。皆さんは花見(桜花)がお気に召さなかったか」

 

「このファッ●ンテロリストが!」

 

 

加藤が地に足をつけるとすぐさまムキムキの米海兵隊司令クラスの男が拳銃の銃口を加藤の眉間に押し付けた。

 

 

「はて、おかしいですな。捕虜を返すためにこちらに来ると伝えたはずなのですがね。あらゆる手段で」

 

「テロリストの言葉なんぞ信じられるかっ!」

 

「だから自軍や友軍の捕虜ごと落とそうとしたのか。どうせ他にも理由があるのだろうけど」

 

シャーラップ(黙れ)!貴様らのせいで、貴様らのせいで……」

 

 

理由は不明だがすごい剣幕だった。

 

 

「そういえばまた米軍の司令は変わったのですね。取り敢えず、捕虜たちは返しますよ、彼らが望めばですが。そういえば、人民解放軍(中国軍)の大多数が見当たりませんが」

 

「貴様……知ってていってるのだろう……」

 

「はて、何のことやら。もしかして、あれですかな、例のウイルスのパンデミックが、本国で起きたとか?」

 

 

加藤の小馬鹿にしたような笑みは、その大男の堪忍袋の緒が切れるのに十分な理由だった。

 

乾いた銃声と共に加藤は後方へ吹き飛ばされた。

 

 

「加藤!」

 

 

伊丹が駆け寄ろうとしたがロゥリィがハルバードで制する。

 

加藤はゆっくりと起き上がるとスマホで自分の額を確認すると、ニヤリと笑った。眉間には凹んだ金属光沢が見える。

 

 

「貫通はしてないな……」

 

 

そしてゆっくりと立ち上がり米軍の指揮官に近づく。

 

 

「き、貴様……貴様もゾンビか!?」

 

「はて、ゾンビ?何のことやら」

 

 

加藤は邪悪な笑みを浮かべる。

 

 

「もしかして、あなた方は例のウイルスの感染者がゾンビになったとでも思っているのですかね」

 

「……なんだと?」

 

「映画の見過ぎだよ。確かに、あの見た目はゾンビだが、そんな恐ろしいものじゃない」

 

 

加藤続けて説明する。

 

唾液や血液、粘膜感染するため、噛まれたりすると感染すること。

ウイルスの作用で低血圧になり肌が白くなること。

末端神経が侵され、筋肉などに一部障害が起き、手の自由が効かなくなること。

声帯の神経がやられ、唸り声しか出せなくなること。

特効薬で完治可能であること。

 

 

「狂犬病やかつて米ソで研究されていた喉に寄生する寄生虫(声帯虫 ※1)、脳に寄生する日本のとある地域の風土病(※2)、この世界にあるゾンビウイルス、そして吸血症患者の血の研究成果を基に作った、擬似ゾンビウイルスだよ」

 

 

そして加藤は衝撃的発言をする。

 

 

「つまり、君たちは思い込みと恐怖のあまりゾンビのフリをさせられている生きた人間を、国民を殺したわけさ」

 

「な、なんのことだ」

 

「先程敢えて挑発するためにとぼけてみたが、そちらの世界で何が起きているのかくらい俺も知っているぞ。

中華人民共和国の軍幹部の感染者をはじめとし、緩やかに広がっているくらいな。

そしてその緩やかな理由は、各国が発覚を恐れて自国民の感染者を駆除していることもな」

 

「くっ……」

 

「こう見えて、俺に賛同する者もいるわけだよ。俺にもいいコネがあってね。特殊なネットワークだけどね。

中国には悪いことしたが、人口の多いあの国が最適だった。

それにしてもアメリカは良かったんじゃないのか、また覇権国家として君臨できるしな」

 

 

加藤は挑発するようにこう発言した。

 

 

「でも、アメリカも人口多いんだよな。そろそろ、隠しきれないところまで来ているのでは?」

 

 

そして乾いた発砲音が数発すると、加藤は崩れ落ちる。今度は全て胴に当たった。

 

しかし、血溜まりを作りながらも笑っていた。

 

 

「無駄だ。まだ俺には残機がたくさんあるからね」

 

 

加藤は上着のボタンを外し、シャツを脱ぐ。

程よく引き締まった身体は切り傷、銃痕、咬み傷や火傷跡に手術痕で埋め尽くされていた。

そして先程の発砲の際ついた銃痕が胸に2つ、腹に3つついており、そこから血が流れ出していた。

 

加藤の側近たちが身体にメスを入れ、身体を割いて内臓が剥き出し状態になる。

もちろん、麻酔などしていない。

 

止血や特別な処置などせず、淡々と損傷した右肺、胃そして小腸をバッグに真空状態で入っていたものと取り替えた。

 

それをホッチキスで繋ぎ止めると開口部を閉じてこれもホッチキスで止める。

 

周囲はあまりの光景に口を開けて見ているしか無かった。

 

そして加藤はポケットから何か石のようなものを取り出して口の中に頬張ると、大型肉食獣が骨を噛み砕くような音がするほど咀嚼して飲み込む。

 

すると傷口が時間を加速したかのように治癒してゆく。

 

 

「ば、化け物め……」

 

「化け物?」

 

 

加藤はシャツを身につけ、上着のボタンを閉めるながら肩で笑う。

 

 

「化け物?俺にはね、お偉いさんの都合で正義を疑わなかった若者たちの身体を改造してあちこちの紛争に加担させた君たち(人間)の方が化け物に見えるが」

 

 

そして服をはたいて立ち上がると指揮官の隣に立ち小声で耳打ちする。

 

 

「もっとも、その考え方なら俺も人間だったな、そりゃ化け物にも見えるわな。じゃあ化け物は化け物らしく、滅ぼしあうか?CIAのエージェントさんよ」

 

 

男は額や手に汗が滲んでくることを感じた。

 

 

(この男、一体何者だ……上には速やかに消せとは言われているが、俺には消せる自信がない……)

 

 

加藤の目は底なし沼のように、全てを飲み込みそうな狂気をはらんでいた。

 

 

「めんどくさい講和会議なんて不要だ。単刀直入に言おう。取り敢えず自衛隊を含む全軍の撤退、そしてアルヌスの返還。さらには連絡のやりとりは日本政府を通すこと。さもなくばここに核弾頭を叩き込む」

 

「そんな脅しには……」

 

「脅し?じゃあすぐ起爆させよう」

 

「え、ちょ、ちょっと待て!」

 

「こちらとしては君たちがすぐ消えてしまった方が楽なんだけど」

 

「すぐってどういうことだ!?弾道弾でも撃ち込む気か!?」

 

「いや、持ってきた」

 

「ふぁっ!?」

 

 

加藤の後方のオスプレイの一つからせっせとスーツケースを手に持った部下たちが降りてくる。

 

 

「規模は小さいが、これだけ数あれば門諸共壊滅できるはず。あと変な気を起こすなよ。部下の手から少しでも離れたら起爆するよう細工してある」

 

 

なるほどよく見るとスーツケースから細い紐が隊員の身体のどこかに繋がっているようであった。

 

 

「待て、落ち着け……」

 

「俺は至って冷静だ。残機あるから死んでも俺は問題ない」

 

「上層部に確認させてくれ……」

 

「お前、ふざけてんのか?」

 

 

加藤は一歩さらに踏み込んで睨みこむ。

 

 

「お前の階級章は飾り物か?今この場で、選択肢はないが、決定権を持っているのは貴様だ。何万の兵が、貴様の一言で動くのだぞ。今決定しなければ、貴様が命令を下さなかったばかりに、一瞬で蒸発するぞ。し・か・も、米軍だけではないからな。国際関係はよじれるだろうな、貴様のせいで」

 

「ぐ……ぬ……」

 

 

加藤は一歩下がって健やかな表情になる。

 

 

「まあ、その程度の人間というわけだ、君は。大人しく引くんだ。君は、悪くない、悪いのは我々のような輩と、無能な上層部だ。上層部の意に従うか、貴殿と国民や多くの命を救った方が、大々的に見て有意義だと思うが」

 

 

先程とは違い、かなり柔和な口調で加藤は静かに語った。

 

そして、決定的な言葉を語りかける。

 

 

「それに、例のウイルスは変異しないわけじゃない。本当にゾンビウイルスになる前に、撤退してくれたらワクチンの製作法を教えても、いいぞ」

 

 

そしてしばらくの沈黙が続いた。

 

 

 

 

「……全軍を……撤退させる」

 

 

指揮官は言葉を絞り出すように無線に話しかけた。

 

 

「よく決断してくれた。感謝する」

 

 

加藤は軽くお辞儀をする。

 

 

「貴様は……一体何だ?」

 

 

男には、目の前のテロリストと呼ばれている男が自分より年下の人間とは到底思えなかった。

彼の目が、形容し難い何かを語っていた。

 

加藤は少し考えて、こう答えた。

 

 

「……吾輩は猫である。名前はまだ無い」

 

「???」

 

「夏目漱石の代表作、『吾輩は猫である』ので出しです。ぜひ一度読んでみてください、意外と面白いですよ」

 

 

そして加藤は伊丹たちの方へ戻る。

 

多少の混乱はありつつも、徐々に兵は撤退して行った。

 

その様子を加藤はタバコを蒸しながら眺める。

 

 

「しばらくのお別れだな。大変だと思うが本国で少しは休んでこい」

 

 

加藤は伊丹に言う。

 

 

「加藤……」

 

 

あまりにも物事が大きく動きすぎて伊丹はどう問い掛ければいいかわからなくなっていた。

 

元同僚はすぐ隣にいるのに、あまりにも遠い存在になってしまった気がした。

 

 

「伊丹、捕虜の交換はあと1時間程度だ。その時お前たちを引き渡す」

 

「加藤、ピニャ殿下たちは……」

 

「……そちらに亡命するか聞いて見たが、やはりここに残るとさ。あの歳で肝が座っていやがる」

 

 

そして加藤は伊丹に小さな箱を投げ渡す。

 

 

「俺の秘密基地の鍵たちだ。お間にやる」

 

「……つまり、中の物(紳士の嗜み)を処分しろと?」

 

「PCのハードディスクは念入りに頼む」

 

「いやだ」

 

「そこを何とか」

 

「自分でやれよ!」

 

「こんな状況でできるか!頼む、欲しいものは全部持って行っていいから!俺の嫁たちはお前にやる!」

 

「嫁たち、だと……?」

 

「嫁たち、だ……」

 

「……そこまで言うか。分かった、任せておけ」

 

「恩に着る」

 

 

などとわけの分からぬ熱い握手を交わす。

 

 

「そうそう、向こうに行ったら『恐るべき家族計画』で調べてみな。面白いものが見れるぜ」

 

「なんだその二足歩行戦車が出るゲーム(メタ●ギア)と某エロゲーを混ぜたようなふざけた計画は」

 

「まあ、調べて見なよ」

 

 

そのとき、加藤は一瞬哀愁感の漂う表情をした。

その意味を伊丹は後で知ることになる。

 

 

***

 

 

「はぁ、はぁ、はぁ……」

 

 

アルドゥインは肩で息をしていた。つもりだった。それが実態を伴っていたらの話だが。

 

 

「3日目だ」

 

 

聞き覚えのある声だ。

 

 

「アカトシュ、我は……死んだのか?」

 

「否、3日が過ぎ、時間通りここに戻されただけだ」

 

「そうか……」

 

 

安堵したと、と言うべきか、それとも呆然としていると言うべきか。本当に間一髪ということか。

 

アルドゥインは実質的に敗北していることに屈辱を感じていたものの、あの時やられていれば今度こそどうなるのかは彼にもわからなかった。

 

 

「残念ながら、目的は達成出来なかったみたいだな」

 

 

アカトシュが語りかける。

しかしアルドゥインは返事をしない。

それもそのはず、アカトシュの声が届かぬほど、思考に全力を尽くしていたのだから。

 

 

(だが、一つだけ成果はある。奴が、奴が能力を使う瞬間を、感じることができた)

 

 

活路を見出せたかに見えたが、アルドゥインは唇を噛み締める。

 

 

(それでも、奴を倒すのにはまだ要素が足りん……しかし、保険は残してある)

 

 

***

 

 

「……また逃したか」

 

 

ドヴァキンは不服だが、笑って流すことにした。

 

 

「まあいい、やはりデザートは最後に残すか」

 

 

そして山頂からある場所を眺める。

 

 

「やはり、まずはメインディッシュと行こうか」

 

 




タイトルの元ネタは、キューバ危機。

※1
声帯虫:MGSVより。かつて人の声帯に寄生し、人が複雑な発声を可能とし、言葉を作り出すきっかけになったとされる架空の寄生虫。
※2
某セミの音が特徴のノベルゲームが原作のあれに出てくる奴。


ところでモンハンの実写映画……迫力はあったけど、監督はなろう系かハメルーンのクロスオーバーの読みすぎですかね(笑)


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恐るべき家族計画

タイトルは完全にどっかのステルスゲーとエ●ゲーからですね。ありがとうございます。


【アメリカ合衆国の秘密研究所】

 

「米国は異世界(フロンティア)への進出に遅れをとってしまった……」

 

 

白衣に身を包んだ屈強な白人男性が静かに独り言を呟く。

 

 

「だが合衆国の予算は世界一ィィイイ!できぬことなど、ナイィィイイッ!

異世界で囚われていた諜報員の回収にも成功し、ある程度の情報は手に入れてある!

加えてワクチン開発に使われるはずの予算、時間、人的資源は全てこちらにまわった!あとは時間の問題であるぅぅう!」

 

 

などとマッドなサイエンティスト的な男が歓喜していた。

 

 

「この科学技術はァァアアーー!!全世界及び異世界の最高知能の結晶であり誇りであるゥゥゥ!!

つまりすべての国、世界を越えたのだァアアアアア!!

 米国の科学力(と予算)はァァァァァアアア世界一ィィィイイイイ!!」

 

 

そんな感じで狂人的な男は不思議な膜が張った小さな鉄の輪っかに指を出し入れする。

 

 

「アヒィ!?指がァァアア!?」

 

 

突如指先が消えてしまった。傷口はまるでウォーターカッターで切断したが如く綺麗な断面をしていた。

 

 

「〜〜くぅ!しかしこの俺は誇り高きドイツ系アメリカ人!祖国(アメリカ)のためには指の10本や20本簡単にくれてやるわァーッ!」

 

 

そしてまた研究に没頭した。

 

 

 

 

「はて、なぜこんなところに指が落ちているのでしょうか?しかもまだ温かい……」

 

 

イタリカで見回りをしていた老メイドは首を傾げるのであった。

 

 

***

 

 

「そういえば、最近馬鹿皇帝……もとい、ゾルザルを見聞きしませんね」

 

「ほんとだ、そういえば」

 

「確かに姿を見なくなった、風邪かな?」

 

「風邪なんかひく奴じゃない」

 

「死んだんじゃないの〜?」

 

「余計ありえないよ」

 

 

などと特地の貧しき人民どもは世界の情勢は大きく変わりつつも、意外と平穏な暮らしをしていた。今のところは。

 

 

伊丹たちを含む自衛隊及び国連軍は全てアルヌスから撤退し、門の外へと追い出された。兵器武器の多くは鹵獲されたが、一部は交渉の末返還されたりしている。

 

これは国連軍、特に米国を筆頭とした列強国の事実上の敗北であった。加えて彼らにとって特に屈辱的なのは、決定となった最後の戦闘ではもはや戦闘すらならず、双方の死傷者がゼロということだ。

 

まだ圧倒的敗北を重ねて撤退するならともかく、最後の戦闘が戦闘らしい戦闘が行われずに帰ったと言うことは素人から見て逃げたとしか見えない模様。

 

例えワクチンと特効薬のサンプルを交換条件としても、テロリストの要求に屈したとみなされてしまい、米軍は本国でバッシングを受けることになった。

 

軍自体が非難されるのも堪えるのに、個人たちにバッシングが来るのでもう救いようがない。

多くの兵士はベトナム戦争よろしく、ストレスに悩まされることとなった。

 

もちろん、表に出てるのだけでこれである。

噂によれば国連も結構荒れているらしい。

 

さらに新帝国が日本を名指しで唯一の連絡先としたため、国際情勢は実は日本はグルでは?と疑われたがここで機嫌を損ねて情報が入らなくても困るのでとりあえず表面上は黙認した。

 

ちなみに、中露は現在()()な国内問題を抱えており、異世界の対応が十分に出来なくなってきたとの噂である。何せ、ある日突然報道規制されて全く情報が出なくなり取り敢えず非常によろしくないことが起きていることだけは推測された。あんだけ色々と主張していたり、干渉しようとした国々急に完全沈黙したのだから、そりゃなんかあっただろうと各国は分析していた。

中露が日米からワクチンと特効薬を大量購入しているあたり、だいたい何が起きたか察せるが。

ついでに、欧州も大国が不利になると消極的になった。なぜだろう。

 

余談だが、特地にこっそり残留しようとした武装工作員はもれなく行方不明になり、本国と連絡がつかなくなったとか。はて、なぜだろう。

 

 

 

一方、アルヌスも多少の混乱は生じた。

 

門は日本と新帝国のDMZ(非武装地帯)となり、自衛隊と新帝国兵が丸腰で睨み合っていた。

 

アルヌスでは日本への亡命又は難民として逃れる派と、残る派で別れた。

 

新帝国は去る者は特に気にしていなかった。しかしながら、やはり日本側で難民申請が難航し難民は立ち往生することとなった。

 

残った者は当初不安はあったが、施設等は新帝国がそのまま引き継ぐ形でそのまま使用することになり、大きな変化はなかったので彼らは胸を撫で下ろした。

結果、難民申請をやめて残ることに方針転換する者も多くいた。

門の向こうからの特産品が来なくなったのは大打撃だったが。

 

 

 

一見平和的統治をしている最中、DMZの個室では密会が行われていた。

 

 

「草加さん、貴方からお会いしたいと聞いた時は驚きましたよ」

 

 

駒門がお茶をすすりながら静かに語った。

 

 

「なんせ、貴方は加藤と違って完全に行方が掴めなかったですからね、我々公安をもってしても」

 

「買い被りですな。運が良かっただけですよ」

 

 

草加も微笑んでお茶をすする。

 

 

「やはり、公安は侮れませんな。あの制限下で情報網を構築していたのは事実でしたか」

 

「ええ。その公安をもってしてもあなた方の動機や行動がよく分からない。この際、お互い腹を割って話しましょうや」

 

「そうしたいところだが、まだ時期早々かと」

 

「では、今回の密会はそれ以上に価値、又は緊急性があると言うことでしょうね」

 

「ええ……情報は確かなものですよ」

 

 

駒門は渡された封筒の中身を流し読みする。

 

 

「こ、これは……!?」

 

 

あまりにも驚いた勢いで立ち上がってしまう。腰痛も忘れて。

 

 

「時が来たら、これを実行してほしい」

 

「いてて……失礼。しかし、流石にこれは……」

 

「公安にしか頼めない。手段を選ばず、かつ制限を掻い潜るノウハウを一番有している君たちに」

 

「しかし、これは……」

 

「頼む。自衛隊は、単にルールを破ることはできても、合法的なルールの破り方の経験値が少ない」

 

「……あんたには世話になってますからね。しかし今までの借りはこれでチャラになりますよ」

 

「それでいい……世話になった人への借りは、返しておきたいからな」

 

「草加さん、あんた……本当に行くんですかい?」

 

「……ええ」

 

「……」

 

 

そして二人は別々のドアから部屋を出た。

 

 

***

 

 

「なんで私たちがこんなことを……」

 

「アルドゥインめ……わしらの身体に小細工を……」

 

 

アンヘルとヨルイナールは帝都及び異世界(日本とか)にある書物を読み漁っていた。

文字は読めないので絵本を読むようにページを見ていた。

ちなみに、本は小さいのでジゼルを始めとする龍人族たちが震えながら目の前でページをめくっていたりしていた。

 

無論、彼ら自らの意思で読んでいるわけでは無かったが、何故か無性に知識の収集への衝動に駆られた。文字も読めないのに。

 

 

「く、苦痛だ……」

 

 

 

そんなことはつゆ知らず、アルドゥインはアカトシュの下で彼女らの目を通して知識の収集に励んでいた。

 

 

「ふむ、あちらの世界も面白いものだ。特にこのキリスト教とやら、神とその子が同格または同等とな。まるで我とアカトシュの関係に似ている」

 

 

あちらの世界の知識にもご満悦の様子である。

 

特に、こんぴゅーたとやらや、いんたーねっとやらは非常に知識欲をそそった。

 

人類が築いてきた知識をものの数秒(当社精神世界比較)で理解した。

 

 

「やはりヨルイナールたちに我の力の断片を埋め込んで正解だったな」

 

 

次に下界へ行くのにまだ時間はかかるので、このようにしてしばらく知識の涵養に集中することにした。

 

そんな様子をアカトシュはやれやれと言わんばかりにため息をつく。

 

 

***

 

 

「おいおい、嘘だろ」

 

 

日本で集中治療を受けていた柳田は裏で情報収集に注力していた。

 

というのも、一時帰国した伊丹から調査依頼があったので極秘で調べていたのだ。

 

 

「どんだけ探してもみつからねえ。あるのは偽装用のデータだけ……今時Sや特警でもその経歴はなんらかの形であるぞ」

 

 

柳田は裏のツテで既に内閣情報調査室、防衛省情報本部、警察庁警備局、法務省公安調査庁など、調べられるものは片っ端から調べた。

もちろん、伊丹が加藤から譲り受けたパソコン等一式はとうの前に調べ尽くしている。内容はほとんど伊丹にとってしか有益ではなかったが。

 

 

「かろうじて見つけられたのは、CIAの端末にあったSAWとWASという秘密部隊、そこに彼らが在籍していたことぐらいか」

 

 

しかも正式文書には乗っていなかった。たまたま見つけたメモ程度の草案のデータに辛うじて残っていた程度だ。

 

 

「伊丹の野郎に『恐るべき家族計画』とか訳の分からんことを調べてくれって言われてもここまで手がかりがねえとな……」

 

 

柳田は頭を悩ます。ここまで謎のベールに包まれた人物は初めてだった。

 

 

「あとは俺が防大生だったころに(加藤)が俺の先輩だったこと、そしてその上司(草加)が奴の先輩だったことぐらいが手がかりか……」

 

 

そのとき、柳田の頭にある考えが過ぎる。

 

 

「防大……そうか、防衛大学校か……」

 

 

柳田は防大に勤務中のその手の知り合いに連絡し、確認を取る。

 

そして校内のネットワークに入り込むと、あらゆるデータをスキャンする。

 

めぼしいものは無かったが、加藤の過去の個人情報が手に入った。

 

 

「……賭けになるが、行くしかないな」

 

 

柳田はすぐに防衛大学校への移動手段の手配を市ヶ谷に要請した。

 

 

***

 

 

【十年ほど前、中東のどこか】

 

 

加藤は薄暗いテントの中にいた。

目の前にはスーツ姿の女性がいた。

この国は中東に関わらずイスラム教の影響が少ないため、女性が西洋風の服装をしていることに何ら問題はなかった。

 

 

「加藤少尉、はるばる遠い地からようこそ。君にはニックネームやコードネームはあるか?」

 

 

どこかアジア系が混ざったような中東風の褐色女性は男に尋ねた。

 

 

「加藤……」

 

「なるほど、名前が偽名のパターンか。しかしそれじゃあ芸がない。私がここにいる間の呼び名を考えてやろう。キットゥ、君の名はキットゥだ」

 

「あまり変わりませんな」

 

「まあ仕方がない。私は猫が好きだからな、キットゥはアラビア語で猫だ。まあ似てるから間違えても誤魔化しが効くからな」

 

「はあ……」

 

「改めてよろしく、キットゥ。私はここの責任を任されておる、(マオ)だ」

 

「中国語で猫のマオ?」

 

「そうだ、よく知ってるな。紹介を忘れていたな、私は元人民解放軍特殊部隊出身だ」

 

「ご冗談を。モサド(工作員)として成りすましていただけでしょう」

 

「そこまで見抜くとはな。日本の諜報員も優秀じゃないか」

 

 

マオはイスから腰を上げると握手のため右手を差し出す。

 

 

「ようこそ、秘密の国連管轄組織、War Annihilation Service(戦争殲滅執行部隊)、通称WAS(人間だった者)へ。君を家族の一員として迎えよう」

 

 

 

 

「キットゥ、そっちへ行ったぞ!」

 

「了解」

 

 

加藤は対象の背中を狙い、引き金を引く。

 

するとスコープの中心にいた対象はまるで糸の切れた操り人形の如く倒れた。

 

そのようなことをしばらく繰り返して戦場を制圧すると、敵の建造物に突入して同じことを繰り返す。

 

 

「こちらキットゥ、対象を確保した」

 

 

檻の中に閉じ込めている子供たちを保護し、解放する。

 

 

『ご苦労、対象たちは速やかに回収する』

 

 

 

 

師匠(マスター)……いや、マオ……なぜだ……なぜだ!」

 

「……なぜかって?そうしたいからさ。所詮、この世界は私にとっての暇つぶしでしかない」

 

 

マオが乗っていてヘリコプターが地を離れると、彼女はタバコをひと吸いすると、それを投げ捨てた。

 

そして周りは火の海に飲み込まれ、爆発で加藤は気を失った。

 

 

 

 

「生き延びたのは、これだけか……」

 

 

加藤は生存者の数、様子を見る。

 

全員満身創痍で欠損している者いた。

中にはまだ10にも満たない子供もいた。

 

眠るように息絶えた者もいれば、本当に人間だったのか怪しいほど損壊した者もいた。

 

 

奴ら(WAS)に我々は見放されたのか、それとも計画だったのか……」

 

 

加藤は色々と足りない右手を眺める。

周りには生き延びてしまった部下たちが加藤を見ていた。

 

 

「我々は家族と思っていたが、どうも違ったらしい。だが、ここに残ったもので新しい家族を作ろうと思う」

 

 

加藤は残った指で咥えていたタバコを掴むと、床に落として踏む。そして側に落ちていた血まみれの医療鋸を見てつぶやいた。

 

 

「我々はWASとは違う。この世界の闇を()()証人として、WASと関係者に復讐するものとして、新しく家族()を結成する。

SAW(見た者)、とな」

 

 

***

 

 

「……またつまらん夢を見てしまった」

 

「マスター、少しうなされてましたね」

 

「問題ない。薬の代用品はある」

 

 

加藤は錠剤を飲むとヘリから下の景色を眺める。

辺りは白い面と緑の面が境界線を成していた。

 

 

「……どれくらい進んでいる?」

 

「昨日より約2キロほど広がっています」

 

「そうか……」

 

 

大分前から雪が降らないとされる帝都で降雪が観測されて以来、非常に緩やかではあるが、気温が下がりつつあった。

 

さらに積雪地域の拡大に伴い、避難民が押し寄せてきたりと色々大変だった。

 

 

「ハ、ハミルトン……さ、さぶいな……」

 

「で、殿下……そ、そうですね」

 

 

ピニャたちは歯を震わせながら別のオスプレイから下を眺めていた。

 

冬に慣れていない彼女らは華やかさもクソもないような冬季戦闘服に不満を言いながらも着込んでお互いに寄り添うように温まっていた。

 

 

しばらく飛行しているとオスプレイの各機器に不調が出始めた。

 

 

「ここが限界か……昨日より狭まってきてるな」

 

「マスター、引き返します」

 

「ああ」

 

 

既に斥候は以前から出しているが、全てが音信不通ないし行方不明になっていた。その原因を探るため、加藤自ら現地偵察に来たが想像以上に進むことは出来なかった。

 

 

(やはりこいつはただの雪じゃねえな)

 

 

既に科学魔法技術局長のアルペジオにも調べさせていたが、電波妨害などの能力がある以外は特に特徴は見られなかった。

 

 

(桜花改にも使用したはいいが、ここまで広がるとこちらが危ないな……)

 

 

実際に確認はできていないが、測量などにより高確率で西方砂漠のどこかを起点に広がっているようであった。

 

加藤は難しいことはまた後で考えよう、とまた一眠りすることにした。

 

 

「な、何だあれは!?」

 

 

しかし無線越しのピニャの声ですぐ目を覚ますことになった。

 

加藤はその方向を見ると、眠気は一気に覚めた。

 

 

山の峰の白い地平線上に、黒い点が複数見えた。

人か?獣か?

 

などと思っているとその点の後ろから大量の点が現れ、それは線となり、やがて面となった。

 

 

「パイロット、全速前進で前哨基地に戻れ。その後、すぐにベルナーゴ(ハーディのところ)に向かう。ジゼルにもすぐ来るよう伝えろ」

 

 

加藤の命令により、全機が猛スピードで帰投した。

 

 

「……さて、今回は上手くいくといいが」

 

 

加藤は外の様子を伺いながら呟いた。

 

 

***

 

 

冒頭で説明した通り、世界は色々と大変なことになっていたが、日本は比較的マシだった。(無傷とは言ってない)

 

某国の工作員の刺客なのか、多量の某感染者が乗った工作船が一時日本に向かって押し寄せてきたが誰にも知られず処理されていたのは一部のみぞ知る。

 

皮肉なことに、特地から撤退した自衛官たちはこれらの対処及び念のためのワクチン接種作業に大きく貢献したのはまさに偶然の一致ともいえる。

 

 

日本に戻った伊丹たちは世界のズレを解決する手段として門を閉める可能性もあるので、それの解決方法として原作通りまずレレイ門の生成の検証実験が行われた。

 

元々魔法の才能の高いレレイにハーディの能力の一部が引っかかっているのもあり、すんなり作れた。

 

試しに通した先の世界がどう見てもどっかのSF世界の異星人がいそうな場所だったり、色々と問題が多いところだったところまではお約束だ。

 

門は生成できたので、上層部はこれを利用して加藤たちから特地奪還を考えたがレレイが門は世界に一つしか生成できないと言われ、肩を落とした。

 

 

ということで、別世界と接触したのがほんの数秒とはいえ、伊丹たちは大事をとって中央病院で隔離されることとなる。そして色々とポカをやらかして現在軟禁とも言える入院中。

 

ちなみに、伊丹が柳田に調査の依頼したのはちょうどここで柳田と会ってたりしたからである。

 

 

「しかし、良くも悪くも暇だ」

 

 

伊丹は任務中に溜め込んでいたアニメや漫画や同人誌やらを病室で消化中であった。

 

 

「そうねぇ、日本は平和すぎて刺激がないわぁ」

 

 

ロゥリィは伊丹のベッドでゴロゴロしていた。

 

 

「まあ、よう●べ?とかで、ぷろれすや総合格闘技とか見て暇つぶしにはなるけど」

 

「頼むから次見るときは素面で見てくれ……」

 

 

先日、格闘技動画を見て酔った上に熱の入ってしまったロゥリィと栗林がパイプ椅子やらを振り回して大騒ぎになったことを思い出した。しかも病院で。そして黒川に説教されるところまでセットである。その時なぜか伊丹も説教された。

 

などと時間を持て余すとレレイがやってきた。

 

 

「お、レレイいつもの?」

 

 

伊丹の言葉に対しレレイは無言で頷く。

 

伊丹は腕をまくると、レレイは優しく歯を立てて伊丹の程よく筋肉質の腕から血を啜る。

 

そして終えると、軽く舌なめずり恥じらいの表情を一瞬見せてそくさと部屋を後にする。伊丹の腕は噛まれた後はほとんど残っていない。

 

 

今まで省略していたが、実はレレイ定期的に伊丹から血を分けて貰っており、そのうち効率的に摂取してもらうために直接飲ましていた。

 

無論、最初はうっかりで直接飲ましてしまい、当初こそ吸血鬼になるのではと騒がれたが、幸いにしてレレイは半吸血鬼であったことで吸血症のように病というよりは魔法的な要素が強かった。

故に、レレイが強く望まない限り大丈夫だろう、とセラーナが先日言っていた。それ以来直接飲ましているのだ。

ちなみにセラーナはこっそりすれ違う人から魔法で微量の血と生命力を吸収していたので表立って血を吸わなくてよかった。最近は病院の余った輸血パックをもらったりもしている。

 

 

「あぁ、なんだかレレイの吸血って癖になる心地よさがあるのよねぇ」

 

 

なぜかロゥリィが恍惚な表情をしていた。

 

 

(そういや最近怪我してないから忘れていたけど、眷属である俺と身体がリンクしていたったけ……)

 

 

などと冷静に伊丹は分析していた。

しかし、彼はオタクであり、変態紳士でもある。

 

 

(ということは……)

 

 

伊丹は大変けしからぬことを思いつく。

自分の小銃(意味深)に刺激を与えるとどうなるのだろう。

 

エ●同人みたくロゥリィは『何この新感覚ぅ!?』のようになるのか。

 

いっそのこと、とことん行くとこまで行くとどうなる?

 

さらに過激になって『らめぇ、感覚が二重になっておかしくなっちゃうぅ!』みたいになるのだろうか。

 

妄想を募らせると大変誉れ高い叡智な光景が脳内を占めてゆく。

 

断っておくが、試さないぞ。試したくなっても、試さないぞ。

 

伊丹は実に紳士寄りの変態紳士である。

 

自らの暴走を抑えられず、お巡りさんのお世話になる者などオタクの風上にも置けない。

 

真のオタクは聖者であり、賢者であり、大魔法使いである。そこまでには至ってないというか、既に結婚経験のある彼はその境地に至ってないが、その手の妄想は妄想に留めるだけのオタクの鑑であった。

 

イェスヘンタイ、ノータッチをモットーに、どこかの同人作家(職人さん)たちが描いてくれないか切に願うだけである。元嫁(りさ)に頼もうと思ったが、どう転んでも違う方向(BL)に行きそうだったからやめた。

 

などと妄想(瞑想)や思いに浸っていると、いきなり元部下の黒川2曹(白衣)が珍しく慌てた様子で入ってきた。

 

 

「ようクロちゃ……ぶふぉ!?」

 

「隊長!今は遊んでいる場合じゃありません!」

 

 

黒川は伊丹を押し退けてテレビのリモコンを手に取ると、テレビをつける。

 

テレビから緊急ニュースが流れていた。

アメリカ合衆国大統領が映される。

 

 

『全世界の諸君、人類はさらなる一歩を踏み出した。これは、人類が初めて月に足を踏み入れたのと同等、否、それ以上の功績である』

 

 

いきなりの展開に一同は呆然としていると、予想だにしない言葉が出てきた。

 

 

『諸君、我々(合衆国)は異世界への門を生成する技術を手に入れた』

 

「「「へー……ええええええええええええええええええええええええええええええええええええええぇぇぇぇぇぇぇっっっ!!!???」」」

 

 

それは病院の窓ガラス全てを割るんじゃないかと思うほどの声量だったとか。

 

なお、同じことが国会や首相官邸などでも起きたとか起きてないとか。

 

 

***

 

 

【ベルナーゴ神殿】

 

 

「貴様ら、何用だ!ここはハーディ様の神殿だ、招かざる者は来てはならん!」

 

 

エロい露出の激しい神官服を纏ったハーディの神官たちが加藤たちを取り囲む。

しかし加藤はとてもめんどくさそうに辺りを見渡す。

 

 

「ジゼルのやつまだ来てないのか。申し訳ないけど緊急事態だから通してもらうよ」

 

「ここは通さん!一歩でも踏み込んでみるがいい、八つ裂きにしてやる」

 

「……あまり強い言葉を使うなよ」

 

 

加藤はうすら笑いを浮かべる。

 

 

くっころ(エ■いこと)したくなるじゃないか(威圧)」

 

 

くっころの意味は知らなかったが、神官たちはただならぬオーラを察した。女の勘というやつで、これ逆らったらダメなやつだと察する。

 

このままではやられる。何をされるかはわからんが、確実にやられる。

 

 

「ま、待て。ハーディ様に確認を……」

 

「時間がないと言ってるのが聞こえなかったのか?」

 

「悪い、待たせたな」

 

 

間一髪でジゼルが現れたことで血を見ることにはならなかった。神官たちはジゼルに対して平伏している。

 

 

「ジゼル、遅いぞ」

 

「ジ、ジゼル様を呼び捨てにするとは……この男は一体……」

 

 

神官たちが恐れ(おのの)く。

 

 

「カトウ、せめて神官の前では俺のことをもうちょい立てて貰いたいのだが……」

 

「なんだ。いつも呼び捨てにされるのがそんな嫌か。少なくとも俺は管理者(アルドゥイン)から見てお前よりは序列は上だが」

 

「いや、そうじゃなくて……」

 

 

ジゼルは横目で神官たちを見ると、やはりと言うか、何やらヒソヒソと話している。

 

 

「たかが人如きが亜神のジゼル様を呼び捨てにするなんて……」

「もしかして意外と実力者?」

「いや、もしかしたらアレかもしれん。念願の男……」

「なるほど……ジゼル様にもやっと春が来たか。どうりで呼び捨てにするほど親しいわけだ」

「私、心配でしたのよ。ジゼル様が男を知らずに神へと昇華するのではと」

 

 

「こんな感じにな……」

 

 

ジゼルは気まずい気持ちになる。

 

 

「何か問題でも?俺はケモナーでもあるし、トカゲ系も悪くないと思うが。」

 

「ト、トカゲじゃねーよ!」

 

 

ジゼルは顔からほんのり熱気を感じた。肌が青くなければ頬を赤らめていたかもしれない。

 

 

(こ、これってもしかしてロゥリィお姉様みたいにつがい……じゃなくて眷属を手に入れるチャンスなのか……!?)

 

 

「何をぼけっと突っ立ている。早く案内しろ」

 

「え……ぬうわはっあぁぁあ!?」

 

 

深淵部へと続く階段前でジゼルは臀部を軽く足蹴にされ、文字通り転げ落ちて行った。

 

 

(あ、亜神を……足蹴にした……だと!?)

(わ、私じゃなくてよかった……)

 

 

神官たちはもうそれは生まれたての小鹿のように震えていた。

 

とまあ色々ありながらも加藤たちはハーディのいる深淵部に辿り着く。

 

そこでは、既にハーディが待機していた。

 

だが、伊丹たちを迎えた時とは異なる、まるで視線そのものが氷の剣のように冷たい表情であった。

 

 

「伊丹の言う通り綺麗な人だな」

 

 

加藤はまるで決まり文句のように話す。その言葉は本心だとしても、言葉に感情がなかった。

 

ハーディは唇を動かし、加藤と会話を始める。霊体なので声は聞こえないが。

 

ジゼルが伝達しようとしたが、加藤は止めた。

 

 

「読唇術で十分分かる」

 

 

そして奇妙な会話が始まる。

 

 

「無礼者?今はそんなことを言っている場合じゃないでしょう、それは神である貴女が一番知っているはずだ」

 

 

ハーディの声は聞こえないが、意思疎通は難なくこなしていた。

 

 

「この際だから単刀直入に言おう。ベルナーゴにいる全市民、物資をいただきに来た」

 

 

ジゼル、神官そして加藤の部下など、周囲にいた者は一瞬空気と時が凍ったような気がした。

ハーディは表情は以前冷たいままだったが、明らかに目の奥から怒りの炎を感じた。

 

 

「さて、今の状況が神であるあんたですら修正が困難であることは理解しているだろう。何せ、神をも凌駕する勢いの勢力が複数衝突しようとしているからな」

 

 

加藤の言葉に対し、ハーディは怒りを込めたような表情で何かを話す。

 

 

「俺が神にでもなったつもりかって?ハハ、笑わせるじゃないか。確かに、どの神かは知らんが、神が人間を作ったかもしれない。少なくとも、俺が信じている神の聖典(旧約聖書)によれば、人は土から作られた」

 

 

加藤はハーディに近づく。それも極至近距離に、数センチで接吻できるほどに。

 

 

「しかし『神』という概念、宗教と信仰……これを作ったのは紛れもなく人間だ。神が働きかけたと解釈も取れなくはないが、神はその人間がいないとそれすら作れないと解釈もできる。人が消えれば信徒はいなくなる。信徒のいない神に存在意義などない」

 

 

 加藤はハーディの目を真っ直ぐ見る。

 

 

「ましてや、レレイに力の一部を預けたままの君に何ができる。今すぐ世界を救えないのなら、せめて信者を救う努力でもしてみろ」

 

 

そして加藤は地図を広げて見せる。

 

 

「敵はすぐそこまで来てる」

 

 

ベルナーゴと西方砂漠の境界線を指で軽く叩く。

 

 

「このままだと、ベルナーゴは地図から消えるぞ?」

 

 

***

 

 

【例の境界線付近】

 

 

ゾルザルの顔をした()は満足げに当たりを見渡した。装備はこの世界にあるはずがない、デイドラ鉱石で作った凶々しいものであった。

 

攻城塔の上からでは総兵力を把握することすら難しいほどに規模が膨らんでいた。

 

当初オブリビオンゲートから呼び出した異怪だけであったが、侵攻して小規模の村や町を焦土としながら進んでゆくうちに、ならず者や脱走兵、闇堕ちした者やハリョなども雪だるま式に増えていった。

 

本来なら、普通のヒューマノイド(人型知的生命体)は怪異を前に嫌悪感を示して忌避するが、これも集団心理なのか、それともなんらかの働きかけがあったのか、瞬く間に闇堕ちしていった。

 

数十万、いや下手したら100万は下らない。

 

兵装は豪華ではないが、それを十分にカバーできるだけの数であった。

 

相手が銃や戦車、戦闘機で来るならこちらは文字通り相手の弾薬が尽きるまで兵士を送り、燃料が尽きるまで追いかければいい。

もっとも、戦車や戦闘機が使えたらの話だが。

 

などと彼は思いながら積もった雪を掴んで握りしめると、雪は溶けずにパラパラと落ちてゆく。

 

そして彼立ち上がると一つ士気を上げることにした。

 

ほとんどが人語も解さない怪異で、昆虫のごとく本能で動くような者が多いが、人間や多少の知的生命体もいる。

 

 

「それに、カリスマに感化された下等種ほど面白いことをしてくれるからな」

 

 

彼が塔の上に姿を表すと、それを伝えるための角笛が吹かれる。それに気づいた兵は手を止めて注視する。

 

 

「君たちはこの世界を統べる新たな勢力である。勝利は既に君たち掌中にある。

今宵、大地は下等なヒト種とそれに与した者どもの血で染まるであろう。ヒト種の地へと侵攻せよ(すすめ)、誰一人として生かすな!」

 

 

様々な種族の雄叫びと歓声が湧き上がる。その声量は文字通り天を貫くほどであった。

 

 

「戦へ進め!!」

 

 

そして彼らは、進んだ。

 

大義名分や欲すらもない。

 

全ては、ただ一つの目的のために。

 

 

破壊

 

 

「これでこの世界に、夜明けは来ないだろう」

 

 

***

 

 

【イタリカ】

 

 

「あちゃー、やっぱりダメだったか」

 

 

加藤は雪のようなものに塗れた田畑を見渡す。

 

 

「アジア系の隊員のためにお米育てようとしたけど、ダメになったかー。特地産の銘柄(ブランド)を日本に売って外貨得ようと思ったけどなあ」

 

「加藤殿は一体何しようとしてるんだ……」

 

「ついでに新帝国印で売る、て計画だったんだけど」

 

「いや、聞きたいのはそこではないのだが……」

 

 

ピニャ殿下防寒着の中で震えながら尋ねるが、お互い話が噛み合わない。

 

 

「それはそうと……そんな悠長なことしていても大丈夫なのか?」

 

 

ピニャが心配そうに話しかけるが、彼らの後ろでは兵士たちが慌ただしく動いていた。

兵士だけではなく、非戦闘員も動員されベルナーゴ前衛基地へと列をなして行軍していた。

 

 

「敵はまだ遠くとはいえ、かなりの数が押し寄せてきてるのだろう?本当に大丈夫なのか?」

 

 

ピニャは不安を隠しきれず、ソワソワしている。

 

 

「ピニャ殿下、国のトップがそんな顔を見せるんじゃあない。士気に関わる」

 

 

加藤は膝の泥と雪を払い立ち上がる。

 

 

「ピニャ殿下、頼みたいことがある」

 

「このような混沌とした状況で妾のような小娘に何ができると言うのだ……だが、聞こう」

 

「この世界からかき集められる全ての援軍を集めて欲しい」

 

「……嫌だ、無理だと言っても、行かせるつもりだろう?」

 

「ああ……無理やり集めるだけなら、俺がやってる。だが、そう言うわけにはいかないのだ」

 

「先日ベルナーゴで神を脅迫した男とは思えんな」

 

 

ピニャは少しだけ笑う。

 

 

「妾の援軍が到着するまで、野垂れ死ぬようなことはするでないぞ?」

 

「当たり前だ」

 

「それを聞いて安心した。貴様のやることだ、妾を死なせないためにわざと援軍の招集の任務に就かせると思ったぞ」

 

「あ、それいいな」

 

「やったら妾は怒るからな、泣くからな。本気で」

 

「取り敢えず、我々は夕飯にでもしましょう。腹が減っては戦はできぬ、ですからな」

 

「ああ、妾は明日の朝一出発するとしよう」

 

 

そして彼らは食堂に行くと、思いもよらぬ事態に遭遇する。

 

 

「よぉ、カトォ!暇だったんでつい食っちまったぜ」

 

 

ご満悦のジゼルが腹を撫でて舌舐めずりをしていた。テーブルには皿が山のように積み上げられている。

 

 

「「……」」

 

「いやあ、ここの料理人の飯うまいからなあ。それに保存食?レーション?あれも悪くなかったな」

 

「全部食ったのか?」

 

 

加藤は必死に感情を抑えていたが、声が微かに震えているのをピニャははっきりと感じた。

 

 

「いいや、まだ倉庫に少し残っていると思うぜ」

 

 

加藤はそれを聞いて無言で確認しに行くと、数分後戻ってきた。

 

そしてジゼルに近づく。

 

 

「な、なんだよ?」

 

 

そして有無を言わさず尻尾掴んでひきずる。

 

 

「痛え!痛えって、尻尾はやめて!」

 

「テメェあれで残っていると言えるかー!あれは兵糧、つまり戦略物資なのにあれで足りるかー!」

 

「分かったから!謝るから!尻尾は敏感なんだ、やめてえ!」

 

「ジゼル、貴様は新帝国とその民に対する罪を犯した。何か釈明はあるか?」

 

「お、俺をどうするつもりだ!?腹減っていたんだよ!謝る、謝るから許してくれ!」

 

「謝って済めば衛兵(けいさつ)はいらねえんだ!お前には仕事をしてもらうぞ!」

 

「な、何をさせるつもりだ!?」

 

「そのいやらしい身体で稼いで貰ってもいいが、今は金など必要がないからな。武器庫にある全ての、槍を磨け」

 

「いやぁぁああ!もう槍(普通に武器の方)を磨くのはいやだあ!!」

 

 

そして二人の姿は廊下の暗闇の奥へと消えていき、声も次第にフェードアウトした。

 

 

「……本当に大丈夫なのか?」

 

 

ピニャは心配になった。

 

 

***

 

 

そんなやり取りをテューレは隣の部屋からぼんやりと聞いていた。別に盗み聞きしていたわけではない。聞こえただけだ。

 

 

「ご機嫌よう」

 

「貴女、しばらくお会いしていなかったわね。何をしていたのかしら」

 

 

暗い部屋の中でテューレはデイドラ装備の女に尋ねた。

 

 

「貴女に是非世界を面白くしてもらおうと思ってね。私のデイドラロード(主人)の一人にお会いしていただこと思うの」

 

「ふーん。貴女のご主人様はどんな方かしら?」

 

「貴女も是非気にいると思うわ」

 

「勿体ぶるわね。単刀直入に言ってくれないかしら?」

 

モラグ・バル(強●王)(威圧)」

 

 

テューレはこの言葉を聞いた瞬間、初めて聞いたのにも関わらず、魂が抜けるような恐怖を感じた。

 

 

 




ちなみに、異怪の演説シーン、某指輪物語の映画のワンシーン引用。てかほぼそのまま。昔印象を受けたので拝借しました。
https://m.youtube.com/watch?v=TQq4LjSF2rc

まあ、パクr……オマージュし過ぎて今更ですが。


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全米軍が泣いた


ちょっとペライト(疾病のデイドラ)のお世話になってました。
復活しましたのて安心してください。
味覚嗅覚やられたけど。



 

「フフフ、これで門の向こうは合衆国(ステイツ)のものだ!」

 

 

合衆国大統領の要人たちは砂漠の実験場でこれから起きることへの期待で一杯だった。

 

異世界のファッ●ンテロリストども(新帝国とジパング)の研究室から奪取した門の研究内容を元に、どこからそんな大金が潤沢な資金(国民から巻き上げた税金)を存分に使うことでとうとう門生成に成功してしまった。

 

そして今、幾度のトライアンドエラー(実証)を終えて、実戦投入直前となった。

 

門となる予定の大きな金属の枠の前には、海兵隊、陸軍の主力部隊が待機しており、後方では空軍も待機している。海軍?知らない子ですね

 

「ふふふ、これはまるで映画の『ファイナルカウントダ●ン』のようではないか。映画同様、ジャップ共を少々お仕置きせなばなるまい」

 

 

ディレルは今後得られる莫大な利益を想像すると口元が緩んでしまった。

 

 

「よし、開始しろ!」

 

 

ディレルの命令で莫大なエネルギーの電力が門へと流れ込む。

 

そしてしばらく流れると、突如停電のように電力が止まると、金属の枠内が眩い光を放出し、薄らと光輝く空気の膜が出来上がる。

 

既に多くの死刑囚などで試し、安全性は確立されている。あとは進むのみだ。

しかしそれでも、未知の領域への一歩を歩み出すのはなかなか勇気のいるものだった。例えそれが世界最強の海兵隊だとしても。

 

 

博士(ドクター)、本当に例の場所へ着くのだな?」

 

 

ディレルは隣にいる老博士に問いかける。

 

 

「ええ、帝都とアルヌスの約中間地点に着くはずです」

 

「そして圧倒的優勢な軍で両陣営を潰すわけだな。そしてジャップのみらならず、チャイナやロシア、その他をさしおいて合衆国がまた世界の覇権を取り戻す!」

 

「左様で」

 

「フフフ、では全軍突入させよ」

 

 

ディレルの命令が各将兵へと伝達し、軍団が侵攻する。

 

30分ほどすると、指揮官から連絡が入る。

 

 

 

『こちら指揮官、何か様子がおかしい』

 

「こちら本部、どうした?」

 

 

現場指揮官から門の前に設置された本部へ連絡が入る。

 

 

『情報によれば、本来ここは草原地だが、あたりは一面砂漠だ。ヘリコプターで当たりを見渡したが、砂漠だ、オーバー』

 

 

本部にいた職員たちがざわめいた。

 

門が開いた先が、全く異なる地点だったのだ。

 

 

「指揮官、簡易GPSは使えるか?」

 

『ええ、一応。なので例の異世界なのは間違いない。恐らく、西方砂漠あたりではないかと推測する』

 

 

一同は胸を撫で下ろす。全く未知の世界ではないことに。

 

 

「大統領、作戦は続行しますか?」

 

 

国防長官が尋ねる。

 

 

「一体いくら金をかけたと思う?たかがスタート地点が異なるだけで中断するとでもおもっているのかね?」

 

「いえ……」

 

「よろしい、なら続けろ」

 

 

国防長官は本部にその旨を伝え、それが現場に伝わる。

 

幸い、中東での経験から、砂漠のでの陣地構築はそこまで苦ではなかった。

 

そして日が暮れる頃になると、簡易的な米軍基地が完成していた。

 

 

「よし、今日はここまで。あとは明日へのブリーフィングを行う」

 

「ここは中東みたいにイカれたジハーディストがいないから楽だな」

 

 

いつも通り、夜が過ぎるはずだった。

 

しかし、悲劇は深夜に起きた。

 

 

『本部!本部!こちら指揮官!緊急事態!緊急事態発生!ウワァァ!?』

 

「こちら本部、どうした!」

 

『ばばば、化け物だぁぁあ!うわぁぁあ!』

 

「何?どういうことだ、状況を説明しろ!」

 

『ああ!私の部下の頭を(かじ)ってる……ここから出してくれー!』

 

 

無線の受話器の奥から、銃声や爆音、悲鳴と怒号に混じって肉と骨を咀嚼するような音が聞こえた。

 

 

「緊急事態!門で待機している部隊は直ちに門を通って援軍に行け!」

 

 

門の前で待機していた米軍は急いで門の中へと突入する。

 

しかし彼らを待ち受けていたのはまさにこの世の地獄だった。

 

 

砂漠から突如現れた巨大な芋虫のような生物(ワーム)に仲間が飲み込まれたり、巨大なカマキリのような生物が人間を狩っていた。

 

無論、人間たちも指を加えて見ていたわけではなく、反撃はした。

 

しかし戦車も巨虫にひっくり返されたり、あまりにも速すぎて照準できない。不幸中の幸いとしては、取り敢えず機関銃でも充分通用するのでダメージは与えられた。

……効かない甲虫もいたけど。

 

そもそもの数が多すぎた。

状況としてはよくある大群系アクション映画みたいな感じ。

分かる人にはスターシッ●トルーパーというとイメージしやすいかもしれない。あとはスペースクラフトのザー●とかも大体あってる。

 

某漫画で誰かが言った、人間大のカマキリは恐らく最強の生物だろう。

 

そんな化け物たちが束になってかかってきたのだからそりゃ人間様も逃げ惑うのも頷ける。

しかもカマキリやワーム、甲虫だけではなかった。

 

援軍に行った米兵たちも勝ち目がないと悟ったのか、積極的に救出はできず、撤退を支援するのが精一杯だった。

そして徐々に圧倒され、とうとう門の外(元の世界)に押し出された。

 

それで終わるわけでもなく、化け物たちがこちらの世界に来てしまった。

 

 

「何としてもでも止めろぉ!」

 

 

米軍は必死に抵抗し、万一に備えた門外の巨大火炎放射器などを使用して撃退する。もちろん撤退中の仲間諸共。

 

 

「国防長官!何とかしてください!」

 

「くっ……」

 

 

国防長官は迷っていた。目の前に門の自爆スイッチがあったが、大統領からの許可は降りていない。今頃ホワイトハウスで起きたばかりの大統領も決断をしかねている状況だろう。

 

その時、大統領からの返信電話が来た。

 

「おはようございます。いえ、それともこんばんは、ですかね、大統領」

 

『そんなことどうでもいい!だいたいの話は聞いてる!それで、対処できるのか!?』

 

「率直に申し上げますと、大変危険な状況です。既に化け物が共が何匹かこちらの世界に足を踏み入れてます。まだ対処できてますが、このままでは押し切られてしまうのも時間の問題でしょう」

 

『では、やはり……』

 

「門の破壊を、進言致します」

 

『国防長官、君はこれにかかった予算、そして各々の期待全てを無駄にするのを承知した上です言ってるのか?』

 

「……ええ、それに加えて、私の部下10万人の大半を門の向こうに残してでも、やるべきことだと信じています」

 

『……』

 

「大統領、決めるのは貴方です。ノー、と言うなら無言ではなく、はっきりと言ってください」

 

『……許可する』

 

「ありがとうございます」

 

 

国防長官は返事を待たずに走り出す。

そして部下に命令する。

 

 

「焼け!」

 

 

そしてナパーム弾と地下貫通弾(バンカーバスター)が門に投下される。

 

 

***

 

 

ピニャはエルベ藩王、デュランの前で片膝を着いていた。

 

デュランは四肢の一部を失っており、五体満足ではないものの王としての威厳はまだ失っていなかった。

 

 

「ピニャ殿、もう一度要件を聞こうか」

 

「……援軍を、可能な限り多くの援軍を至急動員してもらいたい」

 

「ピニャ殿、先のジエイタイとの戦闘で旧帝国 は各藩に支援を要請した。そして我々連合諸王国軍は見るも無残な敗北を味わった」

 

「……」

 

「しかし、その目的の一つに各藩の戦力を弱めることであることを我々が知らなかったとでも?よくおめおめと来たものだ」

 

「……その件については申し訳ないと思っている」

 

「確かに、あれは貴女の父君、亡きモルト皇帝の策略であったのも事実だ。しかし一度そのような仕打ちを受けて、はいそうですかと言うわけにはいかないのだ」

 

「デュラン殿、後生だ。少しでいい、一刻を争う事態なのだ。他の藩王にも掛け合ったが、やはりデュラン殿の言う通り誰も妾たちに助け舟を出そうとはしない。頼む」

 

「ピニャ殿、貴女の覚悟はその程度か。新皇帝ともあろう方がわざわざこちらに出向いて膝を着くなど、その懸命さは脱帽ものだが、足らん。お主の覚悟がまるで響かないのだ!」

 

「……っく」

 

 

ピニャは唇を噛み締めると、両膝を地に着けた。

 

 

「ピニャ様……!」

 

「ハミルトン、来るな!」

 

 

ピニャを止めようとするハミルトンを制すると、ピニャは両手を地に、そして額を地につけた。

 

土下座である。

 

しかしデュランはそれをつまらなさそうに見下し、溜息をつく。

 

その様子を見たピニャは心を決めた。

そして少し前に進むと、デュランの足元に平伏したまま近づいた。そして足の甲に唇を近づける。

 

 

(ああ……ピニャ様……)

 

 

ハミルトンは悔しさのあまり目を背けてしまう。

できるものなら自分が変わりたいと思った。

 

 

「……帝国も堕ちたものだな。どうせ今お前を支援しているジパングとやらにも女の武器を使って籠絡したのだろ」

 

 

それを聞いたピニャは動きを止めた。

唇が靴に触れる直前ぐらいに。

 

 

「今……なんと?」

 

「女の武器使うとは帝国も堕ち……」

 

 

次の瞬間、デュランは玉座ごと吹き飛ばされていた。ハミルトンも衛兵も何が起きたのか分からなかったし、理解も追いつかなかった。

 

 

「人が下手に出れば調子に乗りおって!貴様はまだ事態を理解しておらんのかぁ!?ヒト種どころか、世界が滅亡しようとしておるのだぞ!それをつまらぬ意地でなどでぐだぐた言いおって!」

 

「え、あ……うむ……はい」

 

「それに女の武器だと!?妾はまだ生娘だ!」

 

「いやそこまで言ったつもりは……」

 

「貴様がそこまで出し渋るならもう良い!妾は貴様などの支援など要らんわ!例え妾が最後の一人になろうと、囚われの身となって●●(ピー)されたり××(ビー)されても、屈しなどせぬ!」

 

 

今度はピニャがデュランを見下すような形となっていた。

 

 

「デュラン殿、失礼御免を蒙る。だが妾は失望、いや正直ガッカリしたぞ!ハミルトン、帰るぞ!」

 

 

衛兵どころかデュランも気迫に押されて鼻の痛みすら忘れてしまうほどだった。

そしてやっと我にかえると衛兵たちがデュランの手当を行う。

 

 

「いやはや、まるでかつての亡き妃を思い出したわい」

 

 

デュランはどこか満足そうであった。

 

 

「この老ぼれ、惚れ直したかもしれんわい」

 

 

***

 

 

「以上で、新型擲弾の教育を終わる」

 

 

教育を終えた兵士たちは配られた擲弾投射機を折りたたんで配置へと急いだ。

 

 

「ところでマスター(加藤)、例の擲弾どう見ても旧日本軍の……」

 

「ベノム、言いたいことはわかるぞ。しかし簡単な構造でこの世界の人間が間違いなく使えるような代物を開発した結果、似てしまっただけだ」

 

「そうだが、間違いなく使えるって……あれのニックネーム……知らないわけではあるまい」

 

「……」

 

「人間工学的に、運用的な意味で間違いというか事故起きるぞ」

 

「……あ、やべ」

 

 

などと気づいた頃にはすでに手遅れだった。

試射訓練で発砲音と同時にあちこちで悲鳴が聞こえた。

 

 

「あ、脚が!」

「膝砕けたぁ!」

 

 

膝砕き(自分)の効果でも付いていたのだろうか。

 

この件により、多くの兵士が兵士から衛兵へと転属し、後にこう語られた。

 

 

『俺もお前みたいな新帝国兵だったが、膝で擲弾を撃ってしまって……』

 

 

ただで少ない兵力がさらに少なくなってしまった。

 

そんな悲しい訓練を終えたところで、ピニャたちが帰ってきた。表情に疲れがあるところから、あまり成果はよろしくないように見える。

 

 

「ダメだった……」

 

 

ベルナーゴに着いたピニャはひどく落胆していた。全く増援を得られなかったわけではないが、雀の涙程度しか集まらなかった。

 

新帝国民、ジパング特殊国防軍、デリラ率いるヴォーリアバニーやその他亜人の兵、イタリカの武装メイドとベルナーゴの神官や民を総動員したが、まだ足りなかった。

 

 

「ピニャ殿下、取り敢えずよくやりましたぞ。デュラン殿をぶっ飛ばした時は小生もスカッとしましたぞ」

 

 

グレイが励ますが、ピニャ少し悲しげに笑うだけだった。

 

 

「ピニャ殿下、戻りましたか」

 

 

加藤が部下に指示を与え終えるとピニャを迎える。

 

 

「ああ……しかし妾は期待に応えられなかった」

 

 

ピニャは肩を落とすが、加藤はその両肩に優しく手を置くと真っ直ぐピニャの目を見る。

 

 

「時間がない中、よくやった。あとはしばらく休んでください」

 

「うむ……そうするとしよう」

 

 

身体と心も疲労困憊のピニャだったが、少しだけ心が晴れた気がした。

 

 

 

 

身辺整理を終えて軽食を摂りながら明日のブリーフィングを行い、その後体の疲れを癒すために浴場へと赴く。そして軽く汗を流し湯船につかる。

 

 

(彼の見立てでは、明日か……)

 

 

ピニャは湯船に浸かりながら天井を仰ぎ見る。

短時間ではあったが濃密なブリーフィングの内容が頭の中を駆け巡る。

 

今まで様々な戦闘を経験してきたが、明日ほど不安なものはなかった。

 

 

(推定、10万対1万か……)

 

 

しかも敵は恐れを知らぬ怪異が大多数と言われている。対してこちらは年端も行かぬ少年少女を動員してやっと揃えたくらいだ。

 

それに今回は自衛隊のバックアップはない。

一応、加藤たちがいるが例の雪のせいで電子部品系統がすこぶる調子が悪い。

 

スマートフォンなどという代物も機能していないとか。

 

となると鉄のトンボ(ヘリコプター)鋼鉄の飛龍(戦闘機)も使えない。

 

つまり仮に自衛隊が参戦しても、力を発揮できないということである。

 

現状としては非常にまずい。圧倒的不利である。

 

イタリカにおける賊相手の戦闘が可愛く見えてきたほどに、ピニャは笑ってしまった。

 

 

「人間どうしようもないところまで来てしまうと、笑ってしまうというのは本当のようだな……」

 

 

ピニャは湯船から上がると、湯の雫がほと走る身体を丁寧に拭く。

 

 

「ふぃー、いい湯だった。日本のことを思い出すな」

 

「ピニャ様、お召し物を」

 

「うむ」

 

 

ハミルトンが差し出した下着、衣服を身につけていく。

 

そして浴場を出ると、ちょうど加藤の部下たちが浴室前で待機していた。

 

 

「あ、ども」

「うむ、貴殿らか」

 

 

軽く挨拶して浴場に入ってゆく。

 

 

「ハミルトン……」

 

「はい、ピニャ様」

 

「これは絶好のチャンスだな」

 

「ゴクリ……ええ」

 

 

そして二人は戸に耳を立てる。

 

 

「一体男同士の裸の付き合いとは一体どういうものか」

 

「これはよい参考資料になりますね」

 

「そんなに気になるならもう入って見ちゃえばいいのに」

 

 

なぜか最後は男の声である。

 

 

「か、かかかか加藤殿!?」

 

「いつのまに後ろを!?」

 

 

ピニャとハミルトンは背後にいた不審者加藤にビビり散らして腰を抜かしてしまった。

 

 

「ピニャさん、それ普通男がやることですよ。いや、最近こんな発言すると男女差別とか言われるかな?」

 

「なに、男どもは見るに飽き足らず盗み聞きまでやるとな!なかなかうらやま……いや実にけしからんな!やはり妾も男に……じゃなくて最後のは忘れてくれ」

 

「……まあいいや。今日はもうお休みください……と言いたいところですが」

 

 

加藤はピニャの耳元に囁く。

 

 

「大事な話があるので、部屋で待機をお願いします」

 

 

そして去っていた。

 

 

「ピニャ様、彼はなんと?」

 

「……だ、大事な話があるから部屋で待つように、と……」

 

 

なぜか顔が少し紅い。

 

 

「それって……」

 

「そうだ!これはきっと夜這いとかいうやつだ。ど、どどどうしよう、ハミルトン!」

 

「ピ、ピニャ様落ち着いてください!」

 

「妾は生娘だ、まだ心の準備が……」

 

「だ、大丈夫です……こういうのは勢いでなんとか……」

 

「そうだったな、ハミルトン……お前は一番進んでいたな……」

 

「人をまるで好色みたいに言わないでください!」

 

「もう何でも良い!取り敢えず作法やら全て教えてもらうぞ!」

 

「ひ〜!」

 

 

そして自室に籠ることしばらく、準備を終えた。たぶん。

 

 

「よし、これで妾もこ心の準備が整った。夜這いでも奇襲でも来るが良い!どうせ滅びゆく運命、ならばこの身体の一つや二つくれてやろうぞ!いざ夜戦へ(意味深)!」

 

 

とまあ気合入れて部屋でソワソワしながら待機していたのだが、深夜の静寂をノックが破った。

 

 

(き、ききき来たか!?)

 

 

口から心臓がでるかと跳ね上がったピニャだが、咳払いをして心を落ち着けると可能な限り威厳ある声色で静かに返した。

 

 

「入るが良い」

 

 

しかし案の定というかお約束というか、肩透かしを喰らう羽目になった。

 

 

「……なぜ貴殿らもいるんだ」

 

 

加藤、グレイ、ハミルトン、あと加藤の部下のジュリエットである。

 

 

「なぜって、ピニャ殿下の新しい装備の着付けにきたんですけど」

 

 

加藤が大きな箱を見せる。

 

 

「うう……」

 

 

ピニャは顔を真っ赤にして目に涙を浮かべる。

 

 

「うわぁぁぁああああああ!!」

 

「なんで叩くの!?痛いからやめて!おい誰がこの姫さまを止めろぉ!」

 

 

しかし誰も止めなかった。というか止めれなかった。

 

 

「……小生はしばらくこのままがよろしいかと」

 

「そうですね、ピニャ様が落ち着くまで待ちましょう」

 

 

グレイとハミルトンはウンウンと頷いた。

 

 

「マスターはしばらくそのまま反省してください」

 

「反省って何をぉぉ!?」

 

それ(無自覚)ですよ」

 

 

加藤は非情にも見捨てられた。

 

 

***

 

 

取り敢えず色々と落ち着いて、誤解(?)も解けたので、箱の装備を取り出す。

 

 

「こ、これは……」

 

 

目の前には和風の甲冑(武者鎧)が置いてあった。

 

 

「貴女に昔献上した、巨龍(ラオシャンロン)の身体で作った物ですよ」

 

「……そうだったな。まさかこれを着る日が来るとは。ただの装飾防具ではあるまいな?」

 

「ええ、対物ライフルゼロ距離で数発撃っても擦り傷しかつかなかったから大丈夫でしょう」

 

「なんと」

 

「作りは日本古来の鎧をベースにしているので、着付けは私がしましょう。あとは他の3人も助けてくれます」

 

「……き、着付けをお前がするのか!?妾はこう見えても乙女だぞ!?」

 

「知ってますよ。だがここは戦場、戦場に男も女も年齢も関係ない。今更貴女の肌を見たところで私は何もしませんよ」

 

「う、うむ。そうだな……(やはり妾には魅力はないのか……?)」

 

「ピニャ殿、小生は出たほうがよろしいですかな?」

 

「いや、気にするな。貴殿については大丈夫だ」

 

 

少し落胆するが、肌着になって試着を始める。

 

 

(よくよく考えてみれば男に肌着を見せるのは初めてではないか……!?)

 

 

などと内心ドキドキしながら加藤の様子を見るが、全く気にしていなかった。

 

 

(うう……これではまるで妾だけ気にしていてバカみたいではないか……)

 

 

そんな感じで複雑な気持ちと思考が頭の中を駆け巡っていると、いつのまにか着付けは終わっていた。

 

 

「……似合ってますよ」

 

 

鏡の前の自らの姿に、ピニャ自身も驚いた。

 

勇ましさと凛々しさ、そして優美さを兼ね備えた気品のある戦士が目の前にいた。

 

 

「……美しい」

 

 

自分で言うのもあれだが、ピニャは自らの姿に惚れ惚れとしてしまった。

女性的な美というよりは、純粋な『美』という意味で感嘆してしまう。

 

 

(これは、イケる……妾が執筆しようとしている戦場物語(BL)のモデルとして完璧だ……伊丹殿や加藤殿との戦場における熱き戦友の友情()(意味深)を……執筆意欲が(そそ)る……たまらん、濡れるっ!)

 

 

涎が垂れそうになるのをグッと堪えた。

しかし興奮が収まると、ひどく落胆する。

 

 

(ああ……妾が男であったら……男でないことが悔やまれる)

 

 

そのとき、彼女の脳裏にある言葉が蘇る。

 

 

『戦場に男も女も年齢も関係ない』

 

 

それを思い出し、拡大解釈したピニャは意を決した。

 

 

「加藤殿、先程戦場に男も女も年齢も関係ない、と言ったな」

 

「え?あ、はい……」

 

 

なぜか加藤が押し倒されていた。

 

そしてピニャは横に置いてあった蒸留酒を飲み干す。

 

 

「加藤……脱げ」

 

(あ、これやばいやつだ……)

 

 

加藤は周り助けを求めようとしたが、何故か3人がいない。一瞬閉じられる扉の隙間から何かを悟ったような表情が一瞬見えた気がしたが。

 

 

「ということで、今宵は付き合ってもらうぞ!」

 

「……は?」

 

 

その夜、その部屋からすんごい声が聞こえたとか。

 

 

「もうダメ」

「死んじゃう」

「許して」

 

 

全部男の声だったけど。

 

 

***

 

 

「うぅん……」

 

マスター(加藤)のやつ、朝からどうしちゃったんだ?」

 

 

加藤の部下の一人が別の隊員にこっそり尋ねる。

 

なるほど、城壁から地平線を死んだ魚のような目でただただ眺めていたのは例の加藤だ。敵が来ると予測される地平線をただひたすら眺めていた。

本当にただ見ているだけである。

 

 

「ゆうべはお楽しみでしたね、じゃねえの?昨晩ある部屋を通ったらすごい声聞こえだぞ。男の方だけど」

 

「え、マジで?俺もマスターの部屋行ったら相手してくれるかな」

 

「そっちかい……まあ、どうせいつものことじゃないのか?また興奮剤でも注射して貰えればよかろうに。それか冷たい水バケツか」

 

 

などと話していると、橙色の武者鎧(ラオ装備)に外套を羽織ったピニャが新帝国旗を担いで現れた。その姿は凛々しく、美しく、神々しかった。

まさに戦場に現れた戦姫、女神だった。

 

加藤とは対照的に、水平線を睨みつけていた。

 

 

「……加藤殿、いつまで腑抜けておる。敵が来ているのだぞ」

 

「……あうあう、本当だ。こんな時に……」

 

「しゃんとせぬか!いつものお主はどこに行った!」

 

「いやピニャ殿、こんな感じにしたのはアンタ……」

 

「ええい、御託はいいから戦闘準備を行うぞ」

 

「おい……」

 

 

などとピニャはいつもよりハキハキと動いていた。

 

 

「なんだかピニャ殿下いつもより雰囲気違いますね」

「何か吹っ切れたというか、一皮剥けたというか」

 

 

周りの従卒などはそんなピニャを見て頼もしく感じた。

 

 

「ああ……こんな時に薬は切れるし、昨晩は色々大変な目にあったし……」

 

「マスター、これを」

 

 

ジュリエットがなんだかおっきな注射器を加藤の肩にぶっ刺す。

 

 

「オウイエア……」

 

 

先程と違い目に活気……否、殺気が溢れていた。

 

そしてもう一度水平線を見る。

 

 

「……圧倒的(不利)じゃないか、我が軍は」

 

 

しかし笑っていた。

 

 

***

 

 

「よう、伊丹。意外と元気そうだな」

 

「太郎閣下じゃないですか……なんでこんなところに……」

 

「なぜって、お前さんがいるからだよ」

 

「いや、ここ……病院ですよ」

 

「見舞いだよ、見舞い。ついでに少しな、話し合いでもしようかと」

 

「いやいや、だからなんでこんなところで会議を……」

 

 

伊丹は困惑していた。記憶が正しければここは病院のはず。しかし、周りは防衛省のお偉いさんたちを始め黒服やら制服組に背広組、他にも私服の訳あり的な偉い人とか集まって病院の会議室を占拠して会合が始まった。

 

どうも伊丹、が重要らしく、諸事情で病院をまだ出られない伊丹の為にわざわざ偉い人たちが病院に出向いたということらしい。

 

そして会議は始まった。

 

 

「単刀直入に言いますと、アルヌスの奪還を行います」

 

「なぜそんな急に……」

 

「内々の話ですが……米軍が既に新しい門の技術にて特地への接触を試みたと情報が出でおります」

 

 

それを聞いた一部偉い人たちがざわめいた。

 

 

「あのニュースのことか!」

「まずい、まずいぞ……」

「アメリカのことだ、このままでは西部開拓の如く奪われちまう」

 

 

などと皆が焦りを露わにする。

 

 

「……しかしながら、試みは失敗した可能性が高いとの情報もあります」

 

 

司会の言葉に皆は今度は別の意味で驚く。

 

 

「あの米軍が?」

「一体何が……」

 

 

皆が信じられない、と言った感じにソワソワしていた。

 

 

「この情報は、米軍が救難要請を我が政府に対して行ってきたことからほぼ確実と考えられます」

 

「それは、米国政府からなのか?」

 

「……米国政府ではなく、米軍から直接連絡があったことだけお伝えします」

 

「つまり、アメリカはこれを公にしたくない、または米軍が独自で動いているということか」

 

「米国が独自で門を開いたことですら我が国の特地への影響力の喪失の危惧があるというのに……救難要請とは話がややこしくなり過ぎている……」

 

「しかし何故我が国に?」

 

「効率を考えると、新帝国に助けて貰ったほうがいいが、そうすれば新帝国を認めたことになるからな」

 

「いっそのこと我が国が新帝国を限定的に認めて救難をお願いしてみては?」

 

「そんなことしたら我が国が国際的に孤立するぞ。それにテロ国家を認めるという実にまずいことになる」

 

「……ならやはりアルヌスの奪還か」

 

 

などとお偉いさんたちは話をどんどん進めていく。そして唐突に伊丹に振られる。

 

 

「伊丹2等陸尉殿、アルヌスを奪還するあたりで何か意見は?」

 

「え?俺?」

 

 

皆の視線が伊丹に集まる。

正直めんどくさいので何も言うつもりではなかったのだが、こういうときはだいたい発言を求められているのだ。

 

 

「……門で戦闘が起きますかね?」

 

「なるほど、貴殿は銀座で戦闘が起こることを危惧しているか。それなら問題ない」

 

 

お偉いさんの一人が答えると同時にほくそ笑む。

 

 

「既に公安が対処済みだ」

 

「え?」

 

 

伊丹は駒門の方をチラ見すると、駒門は含み笑みを浮かべていた。

 

 

協力者(スパイ)は、我々にもいるのだよ」

 

「そんなこと俺みたいなやつに言っていいんすか?」

 

「……大丈夫だろ?」

 

「ならいいんですけど……こんなことして、加藤の組織(ジパング)とやらはともかく、新帝国のピニャさんたちは外交的な意味でも大丈夫ですかね」

 

「それのことなら問題ない」

 

 

駒門は資料を取り出して見せる。

 

 

ジパング(加藤たち)がクーデターを起こす情報を得た。そして新帝国(ピニャ)がそれを阻止するのを日本に要請した」

 

「え?」

 

「つまりだ、新帝国とジパングとやらを切り離して考える。ジパングはテロ組織、新帝国は旧帝国の後継者という認識のもと、日本政府は新帝国を限定的かつ段階的に容認するつもりだ」

 

 

そう言うと、嘉納太郎(外務大臣)は口の前で手を組むと、ニヤリと笑った。

 

 

(エ●ァのゲン●ウじゃねえか……狙っただろ)

 

 

伊丹は口にはしなかったが、なぜかニヤケそうになってしまった。

 

 

***

 

 

【遡ること1日ほど、例の深夜】

 

加藤は半裸で某有名な死にキャラ(ヤ●チャ)の如く倒れていた。

 

隣ではピニャ殿下が上機嫌に鼻歌を歌っていた。

 

 

「……ピニャさん」

 

「む?どうした加藤殿」

 

「先程の大事な話、聞いてました?」

 

「大事な話……?」

 

「これからの計画(プラン)……」

 

「あ、うむ……えーと……」

 

「新帝国が日本政府に救援要請すること」

 

「あ、それだそれだ」

 

「頼みますよ……」

 

「しかし、もっと内容があった気が……」

 

「詳細はまた後ほど紙面で残しますから……この後こちらで作成した公文書に署名お願いします」

 

「うむ分かった。では、もう一回するぞ!」

 

「え゛?」

 

「次はこれを着ろ、そして続行だ」

 

 

ピニャはボロボロの甲冑を取り出す。

 

 

「もういっそ殺せ……」

 

「そう!それだ!妾もくっころというものを見てみたかったのだ!屈強な男の、騎士のくっころが!できれば伊丹殿をここに投入したかったが」

 

(く、腐っていやがる……)

 

「続きをやるぞ!……野球拳をな!」

 

「……くそ、誰だこのジャンケンが異様に強い腐姫様に野球拳教えたのは!」

 

「どうした加藤、負けたらお願い聞いてくれるのだろう?次は騎士が屈辱的に脱がされるのが見たい」

 

「……(恥ずかしくて)死んじゃう」

 

 

加藤は考えるのをやめた。

 




まあ、米軍が異世界に行くのは映画『ファイナルカウトダウン』と、装置は某世紀末ゲーム(第四作)に出てくる物質転送装置(テレポート)をイメージしてもらえれば……

実は野球拳にするかガチムチパンツレスリングにするか迷った。


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これなんていうムリゲ?

皆様、大変お待たせしました。ほんとすんません。もうそろそろ新年ですな。

しかし昨今のアニメやラノベ、ゲームはすぐ××(チョメチョメ)なんぞやりよって……うらやま……けしからん。実にけしからん。

……ふぅ。(いいぞもっとやれ)

Kul(良い) Ruz(次の) Eruvos().
良いお年を。


 

「ってー!」

 

 

敵が既に視認距離にいた時から攻撃は始まった。

 

こちらの近代武器の射程距離を活かしてアウトレンジで極力相手の損害を与えようとした。

 

野戦砲、機関砲、重機関銃、迫撃砲に始まり、鹵獲した戦車の砲塔を予め要塞の上に設置して手動で砲撃。

他にも、魔法攻撃やらでひたすら遠距離攻撃を行った。

 

怪異は断末魔を上げながらバッタバッタ倒れてゆく。キルレシオはもう1対10どころかアウトレンジなので最初はこちらに全く被害はなかった。兵の指士気はどんどん上がった。

 

 

「い、意外といけそうだな」

 

 

ピニャは自軍の圧倒的火力に圧倒されながらも戦況を分析した。

 

 

「しかし、よくもまあこんな沢山の大砲を用意できたな」

 

 

先程の野戦砲等のさらに後方で次々と火を吹く臼砲を見てピニャはつぶやく。

 

 

「まあものとしては中世ヨーロッパレベルの技術なのでこっちでも作れなくはないので」

 

 

加藤は双眼鏡で敵の様子を見ながら答える。

 

 

「よくこんな短期間で……」

 

「いや、短期間ではないよ。来るべきして備えていたわけで、帝都占領直後から作っていた」

 

 

加藤は独り言のつもりで呟いた。

 

 

「え、加藤殿はこれを予期していたのか?」

 

「……いや、こんなこともあろうかと思っていただけです」

 

「そうか……」

 

「殿下危ない!」

 

 

グレイがピニャに飛びついて伏せるように倒れ込む。

 

間一髪、バリスタから放たれたと思われる大槍はピニャの身体を貫くことなく城壁に刺さった。

 

 

「ちっ、攻城兵器か」

 

 

加藤は露骨にめんどくさそうな表情をした。

 

 

優勢であったが、それも束の間。

敵は友軍の屍を越えてどんどん城壁へ近づいて来た。

 

ある程度距離を詰められると敵の攻城兵器からのものなのか、大きな岩や大槍(バリスタ)が勢いよく飛んできた。

 

 

「優先的に攻城兵器を探して潰せ!」

 

 

デリラは重砲部隊に命令を下す。

 

城壁の兵士は敵の攻城兵器を血眼で探すが、なぜか見当たらない。

 

投石やバリスタの嵐の第二波が来た時、背筋がゾッとした。

 

 

「加藤殿、彼奴らだ!」

 

 

そして見つけ出したのか、ピニャは敵の後方を指差す。

 

 

「……そう言うことかよ。あのトロールとオーガだ!奴らを潰せ!」

 

 

トロールとオーガたちが雄叫びを上げるとまるで砲丸投げのごとく岩を投げ、槍投げのごとくバリスタを投げつける。

 

それらの天然攻城兵器とも言えるトロールとオーガが放つ岩はこちらの臼砲などに損傷を与え、バリスタは重装兵士の鎧を最も簡単に貫いた。

 

 

「ピニャ殿下、姿勢を低くしろ。危ないぞ」

 

「分かっておる。しかしだ、これでは敵どころか味方の状況も把握できぬぞ!指揮官が危険を恐れてどうする!」

 

「あ、バカ!あんた何やってんだ!」

 

 

ピニャは忠告を聞かずに立ち上がって全貌を見渡す。

 

そして戦況はかなり良くないことが理解できた。

 

旧ソ連や中国軍もビックリの文字通りの人海戦術により、とうとう敵兵の接壁を許してしまう。

 

無論、弾丸、矢、投石の雨は降り続けているが敵はそれでもハシゴを掲げ侵入を試みる。

この瞬間、銃火器による自軍の優位性は一気に失われた。

 

 

「近接戦用意!」

 

 

デリラの号令で兵が剣などの近接武器を抜く。

 

もしここにいる全員が、中世的近接戦を経験していない自衛隊や米軍だった場合、数で押されていたかもしれない。

 

しかし不幸中の幸いとして、ここにいる大半は現地兵、しかもゴリゴリの近接戦大好きのうさぎっ娘(ヴォーリアバニー)たちが大多数を占めていた。

 

 

「ぶっ●してやらぁ!」

「あたいらの喜ばし方わかってるじゃねえか!」

「来るべきじゃなかったな!」

 

 

そして現代人の多くが忘れかけている生々しい『殺しあい』が始まった。

 

 

***

 

 

「これより作戦を実行する」

 

 

銀座の門の付近で身を隠していた者の一人が無線に話しかける。胸にはSAT(特殊急襲隊)のネームプレートが付いていた。

 

そして彼らの後ろには覆面に暗視ゴーグル、しかも米軍でも採用されている最新の特殊作戦仕様のモノを身につけていた。

小銃もM4カービンやSCARを彷彿(ほうふつ)させる現代戦仕様のものを装備していた。

 

陸自の特殊部隊の最高峰、特殊作戦群である。

もちろん伊丹もいる。念のため、か弱い少女(?)たちは近くのビルに駒門たちと待機している。

 

そして彼らは闇夜に紛れて門へと近づく。

 

 

「なんだかエ●ァの旧劇に出てきた戦略自衛隊を思い出すな。あんなこと俺はやりたくないぞ」

 

 

伊丹の脳裏に某有名アニメ映画で某自衛隊が殺戮を始めるシーンが浮かんでいた。

 

 

「そんなことにならなければいいんだけどな……やる時はやるかやられるかだ」

 

 

剣崎も俺もそんなこと望んじゃいない、とでも言いたさそうな口調だった。

 

 

「トホホ、まさかこんなことやるハメになるとは……」

 

 

伊丹が望んでいるのは美少女たちとキャッキャウフフだけである。血生臭いのはごめんである。

 

 

そして現在DMZ(非武装地帯)となっている門の建物へ全員張り付く。

 

 

「そろそろたな……」

 

 

覆面姿のSATの一人が呟く。どっかで聞いたことある声である。

 

 

「……坂東さん?」

 

 

思わず声をかけてしまった。

 

 

「あんた……たしか伊丹とか言うクソ野郎(加藤)のダチか」

 

 

覆面をしていたが、声や雰囲気で分かった。

一時的に特地で一緒に働いたSAT隊員、かつ加藤の元同僚。

 

 

「まあ、あん時はお世話になりました……なのか?」

 

「しかしあんた、今は任務中なのと部隊の特性上名前で呼ぶのはどうかと」

 

「あ、すみません」

 

「ところで、いつもの連れ(美少女)たちはどうした?今日は一人か?」

 

「いや、後方で待機してるんだけど。危ないからついてくるな、と言っても聞かないもんで……」

 

 

それを聞くと坂東はため息をつく。

 

 

「時々、あんたが本当に特殊部隊(S)出身なのか疑わしくなるな」

 

「よく言われます……」

 

「まあ今回はうち(公安)が既に根回ししてくれたからスムーズに遂行できると思うが、油断は禁物だな」

 

「……それ、我々の業界(オタク)ではフラグというのだけど……」

 

「フラグ?」

 

 

などと話していると見事にフラグが立った模様。

少し遠くから灯りをつけたトラックが猛スピードで門に向かって来た。

 

 

「はぁぁあ!?なんじゃありゃあ!?」

 

 

銃口を向けた隊員たちは驚愕した。

 

何せ爆走していたのはどっかの世紀末映画(マッドマッ●ス)もびっくりの魔改造タンクローリーである。運転席をどこぞのテクニカルのようにコンクリート板やらで固めたタンクローリーである。

 

 

「おい、こりゃどうやって止めるんだ!?」

 

 

そもそも運転席がガチガチに固められていたのもあるが、万一にでもタンクに被弾したりでもすればあたり一面大変なことになる。

 

 

「撃っても撃たなくてもここは火の海になるぞ!」

 

「うわぁぁあ!もう間に合わん、ぶつかるぅ!」

 

 

タンクローリーは門に正面衝突しようとしていた。

 

 

***

 

 

取り敢えず第一波は凌いだ。

 

無尽蔵の敵を返り討ちできたのも、禁忌と言われるネクロマンシング(人工ゾンビ)によって敵側の怪異もゾンビ化し雪だるま式にこちらの戦力が大きくなったのも大きい。

その後の後始末もなかなか甚大であったが。

 

辺りも薄暗くなっていた。

 

防壁街には無数の敵の(むくろ)と比較的少数の味方の遺体が転がっており、辺りは生々しい血と鉄と硝煙の匂いを放っていた。

 

それよりもこれ以上のゾンビ化を防ぐためにも遺体を急速に焼却したことにより、辺りが焼肉のような匂いに包まれたことが多くの兵士にとって辛かった。

 

 

「なんとか……持ち堪えたな……ふぅ」

 

「ホントになんとかですよ……ピニャ殿下……ふぅ」

 

 

ピニャとハミルトンは疲労困憊で座り込んでいた。

 

 

「しかし、奴らはまだ動けるみたいだな。亜人たちですら疲れているというのに、どんだけタフなんだ?」

 

 

ピニャは加藤の私兵(ALT)たちを不思議そうに眺める。

 

 

「……小生の予想ですが、なんらかの薬物か何かで動いているのではと思いますな。小生の若かりし頃、他国との戦役でそのような方法で兵士の感覚を麻痺させ狂戦士(バーサーカー)と化した者を前線に送り込む国も見たことありますな。ほら、目つきがおかしいでしょう」

 

 

身体のあちこちに軽症を負ったグレイがピニャの隣に座り込み一息つく。

 

 

「む、グレイ殿も無事か。流石は歴戦の猛者、この程度の戦闘など朝飯前か」

 

「ピニャ殿下、それはお褒めの言葉とお受け取りしてもよろしいですかね。しかしまだまだ楽観視しては行けませんぞ。まだ始まったばかりですからな」

 

「叙事詩では戦争は華々しく書かれているが、現実は何とも筆舌し難いものだな」

 

 

ピニャは無数の骸や血溜まり、知人の死を憐れみ悲しむ従卒や負傷者を運び、次なる戦闘のために準備する戦友たちを見てやるせ無い気持ちになる。

 

 

「皆さんここにいましたか」

 

 

見上げると返り血で黒く染まった戦闘服姿の加藤が爽やかな笑顔で近づいて来た。身体は傷だらけで返り血で全く爽やかでないが。

 

 

(此奴(こやつ)、できるな……)

 

 

グレイは冷静に分析する。少ししか戦闘を見ていないが、加藤は伊丹たちとは全く異なる戦闘方法を駆使していた。

銃器の使用はもちろんだが、状況に応じて敵から奪った鈍器(メイス)で敵の頭蓋骨を甲冑ごと破壊し、鎧を持たない軽装相手には腰の刀で斬るなど、自衛隊とは全く異なる戦い方を見せた。

 

 

(あれではまるで我々と同じではないか)

 

 

などと疑問に思っていると、加藤は何かの缶を渡してきた。

 

 

「どうぞ」

 

「なんだこれは?」

 

 

ピニャは受け取るとそれをマジマジと見つめる。

 

 

「エナジードリンク。疲労回復、眠気覚ましなどに効きますよ」

 

「なるほど、噂の薬物はこれか」

 

「いやいやいや、ちゃんと市販されているものだからね……確かに飲みすぎるとやばいけど」

 

「やはり薬物ではないか」

 

「……いや、この世界で言う回復薬(エリクサ)みたいなもんだから」

 

「む、そういうことなら少し飲んでみるか」

 

 

そしてピニャたちは口にする。

 

 

「んお?思ったより美味いぞ。万人受けしないが何というか、クセになる味だ。もう一本くれ」

 

「ダメだ、飲みすぎると良くないのは事実だから」

 

「ケチケチするでない、もっと寄越せ!」

 

 

ピニャはエナジードリンクを飲んだせいなのか元気になるのと同時に変に興奮している。野生を解き放ったのか、翼を授けられたのか

 

 

「ピニャ様、飲むなら早めに飲んだほうが良いかと。どうやら敵さんは待ってくれないようで」

 

 

グレイは城壁の様子を見ると、よいしょと声を上げて立ち上がる。

 

 

「おやまあ、予定より早いですな。今夜も夜通し(オール)かな」

 

 

加藤もエナジードリンクをもう一本開けて一気に飲み干す。

 

 

「まあ、このドリンクが有れば何とかなるだろう」

 

 

ピニャも片手を腰にぐびっと飲みながら眺める。

 

 

「姫様、なんだがお行儀が悪く見えます……」

 

 

ハミルトンはおいたわしいと言わんばかりに肩を落とす。

 

 

「ブフーっ!な、なんじゃありゃ!」

 

 

だがそんなささやかな休息もピニャが口の中のドリンクを加藤の顔にぶちまけたことによって台無しになる。

 

加藤は冷静にハンカチで顔を拭いた。

決して顔に吹き付けられたドリンクを舐めたりなどしない。彼もまた、伊丹同様にちゃんと線引きできる変態紳士(オタク)であった。

 

 

敵と思わしき影が松明を片手に近づいて来る。

暗くて正確な数は分からないが、取り敢えずたくさん、すごくたくさんいることは分かる。

 

だがそれらが近づいて来るにつれて、驚きは恐怖に、戦意は絶望へと変わった。

 

松明から放たれる朧げな光が、()()()を曖昧に映し出すことがかえって(おぞ)ましく感じた。

 

 

()()()を見た皆は絶句した。それとも、背筋が凍って声が出ない、と言った方が正しいかもしれない。

 

 

「な、なんだよアレ……」

 

 

今まで戦意だけは高かった兵の士気が一気に地に落ちた。

敵は外道の限りを尽くした、と言うのは簡単だが表現は困難を極めた。

 

切断され、断末魔の叫びが聞こえそうな形相をした(こうべ)がブトウの(ふさ)ように束ねて移動防壁に垂らされていた。

パイクや槍に頭が団子状に串刺しにされている。それどころか頭部のない死体が下腹部からの串刺しもある。

 

しかもその頭部全てが健やかな顔などしておらず、見るに堪えない形相がその死の直前までどのような非道の限りを尽くされていたかを物語っていた。

 

他にも身体の部位(パーツ)をアクセサリーの如く身に纏うオーガーや巨人などもいる。

 

 

「マスター・カトウ!何か飛んできました!」

 

「……防御姿勢を取れ。飛翔物に備えよ」

 

 

飛翔物に対して盾を構えるなどして備えた。

そこそこの重みが盾に伝わり、中には反動でよろける者や怪我をする者もいた。

 

幸い、大怪我をするほどのものではなかった。なかったのだが……

 

 

「ひ、ひい!?」

「いやぁぁあ!」

「わ、わぁぁあ!?」

 

 

飛翔物は同胞の生首や臓物だった。

遠くの状況でもおぞましさが分かるのに、それが足元に転がっているのだ。

 

 

「う……オエェ……」

 

 

あまりの恐怖で胃のものをぶちまける者もいた。

ピニャはかろうじて胃液を喉で押さえ込んだが、ハミルトンは膝をついて咳き込んでいる。

 

 

「き、貴様らはガキか?敵さんは目の前まで来てんだぞ、し、シャキッとやれ」

 

 

熟練兵たちが若い兵や臨時民兵に喝を入れるが、その熟練兵たちの声も震えていた。

 

 

「カトウ……あれ……」

 

 

死の神、ハーディの使徒である亜神ジゼルですら、恐怖で表情(かお)が引きつっていた。

 

ジゼルが指す方向を見る。

 

 

「……おや、まあ……」

 

 

先程の恐怖の死体の披露は前菜と言わんばかりの、目を背けて逃げ出したくなるような光景が広がっていた。

 

 

敵の陣列の最前線に移動式防盾が敷かれた。

 

問題はその防壁に貼り付けられていた者だった。

 

 

エロ同人やリョナ同人と茶化すことすらできないほどに尊厳を踏みにじられた同胞のたちが、目の前にいた。

 

四肢切断、舌、目、耳、鼻を損壊されてただ生かされている状態の者。

腹を裂かれて臓物を抜かれ、腸を何かのオブジェの如く貼り付けられていた者。

肋骨を背中側に折られ、まるで死の天使の翼のような姿にされ、薬で無理やり生かされる者。

 

加藤は双眼鏡で生存者を確認する。まだ息のある者はいた……

 

一部何かを呟くように口をぱくぱくさせる者がいた。読唇術を知る加藤はそれを見て双眼鏡を下ろした。いや、口だけではない。目が訴えかけてきた。

 

 

コ ロ シ テ 

 

 

これ以上はもはや説明ができない。

 

 

「う、うぁぁああ!!」

 

 

ついに恐怖が理性を支配し、戦意を失った者が武器を捨てて戦線を離脱しようとした。

 

しかし雨の中でもはっきりと聞こえた銃声が数発、彼らは倒れた。2人とも後頭部を撃ち抜かれていた。

 

 

「カトウ、きっさまー!!」

 

 

デリラが加藤の胸ぐらを掴むと同時に加藤も拳銃の銃口を彼女の喉元に突きつける。デリラもナイフを頸動脈を狙って首に当てる。いや、刺そうとしているが加藤の腕の力で止められているというのが正しいようだ。

 

 

「意外だな、デリラ。君のような優秀な戦闘民族のヴォーリアバニーであるから、敵前逃亡を許さないと思っていたが」

 

「だからって虫けらを殺すように殺さなくてもいいだろう!」

 

「なら私を殺して貴官が指揮するがいい。だが、このまさに崩壊しそうなこの戦線を維持できるかな?」

 

「くっ……」

 

「そして、ここで我々が敗走したら、我々の後ろにいる同胞や無力な弱者たちはどうなるか想像はできるな?まあ、この包囲された状態を逃れたら、の話だが」

 

「……く、くそったれがぁぁあ!」

 

 

デリラはナイフに一掃力を入れる。

加藤も指先の力が入る。

 

 

 

 

「いい加減にしろ」

 

 

 

ドスの効いた声の方向に皆の意識が向いた。

 

 

「今、それをやらないといけないことなのか?」

 

 

ピニャだった。

 

今までのピニャとは思えない深く、重みのある声だった。

 

恐怖に支配されている兵士たちは加藤とデリラのいざこざなど気にも留めなかったが、ピニャの言葉のおかげで少しばかり目の前の恐怖から気を逸らすことができた。

 

 

「さて、この場合の非はこの男と逃亡を図った者、どちらにあるものかな……」

 

 

ピニャは兵士たちの前を歩きながら続ける。

 

 

「確かに、これほどの恐怖を味わえば逃げ出したくなるのも分かる。かと言って、この男が同胞を殺めたことも許されるべき行為ではない」

 

 

ピニャは加藤とデリラの間を割って入るように歩く。

 

 

「だが、今やるべきことは目の前の敵を撃退することだ。その目的に反する行動を取った者を処遇及び同胞殺しの処遇はこの戦いを終えた後、速やかに行う」

 

 

概ね殆どの兵士たちはそれで納得か仕方ないと言った感じだが、一部はやはり不満なのか言葉に出さずとも表情に出ていた。

 

ピニャはその様子をひしひしと感じたが、眉ひとつ動かさず静観する。

 

軽い溜息を吐くと、加藤の前に立つ。そしてほんの少し、加藤の瞳を見つめる。

 

 

「……?」

 

 

そしてぶん殴った。

手甲つきの拳で左頬を思い切りぶん殴った。

 

無論加藤は後方へ吹き飛ばされる。騎士とはいえ、女性にしてはかなりのパンチ力である。

 

 

「……独房にでも放り込んでおけ」

 

 

そう静かにつぶやくと近くにいた兵士が加藤の両脇を抱えるように拘束してどこかへ連れ去った。

 

加藤の私兵たちは特に何もせず意識のない加藤がどこかへ引きずられて行くのを見守った。

 

他の兵士たちは唖然としていた。

 

一部は加藤の方が権力を持っているとさえ思っていたから今起きた光景がにわかに信じれない、という表情をしていた。

 

 

「我々は何のために戦っているか、まだ分からない者がここにいるかもしれない。訳のわからぬまま徴兵された女子供もここにいるだろう」

 

 

ピニャは見渡すことのできる台の上にあがる。

 

 

「今、君たちの目の前にいる怪異たちは異世界から来たものが大半と聞いてる」

 

 

それを聞いた兵士たちは騒めく。

 

 

「信じれない者もいるかもしれないが、目の前に迫っているオークやゴブリンにオーク、トロールが我々の知る以上に残虐で、知性を持ち合わせている」

 

「へ、陛下……我々はそんな奴らに勝てるのですか!?」

 

 

兵士の一人が胸の内を抑えきれずに口にしてしまう。

 

 

「勝てるのか、か……正直、妾にも分からん。だが一つだけ確かなことがある。戦わなければ、我々が、愛する人があそこで辱めの限りを受けている同胞と同じ道を辿るだろう」

 

 

それを聞いて多くが絶望に打ちひしがれ、涙を流したり嗚咽を漏らしていた。

 

 

「……だが、我々が一日ここで食い止めれば一日、一週間なら一週間、その魔の手から愛するものを遠ざけることができると確信しておる」

 

 

そしてピニャは剣を抜く。

 

 

「我々はここで朽ち果てるかもしれない。だが、妾は一分一秒でも家族が、戦友が、愛する人が生き延びれるのならここで貴殿らと骨を埋めよう」

 

 

まだ全員ではないが、戦意が上がっているのを感じた。

 

 

「あそこにいる同胞が死を望んでいるなど妾は微塵も思わん、だがそれ以上に尊厳を踏みにじられることを望んでもいないし、それを我々は黙って見ているのか?

いいや、我々同胞殺しとしての罪を背負い、地を這いつくばい砂を喰らってでも、世界に真の平和を届ける。繰り返す、貴様らが殺すのは同胞ではない、あのクソッタレの怪異どもだ。

案ずるな、責任と罪は皇帝たる妾が負う」

 

 

もうこの時点でほぼ全員の士気が回復していた。

それどころか戦意喪失前よりも戦意が高揚していた。

 

 

「これから引く引き金が、振り下ろす剣が、突き立てる槍が、魔法詠唱の全てが貴殿らの人生で最も重いものとなるだろう。だがこれだけは覚えていてほしい。それは決して、無駄ではないと。その怒りを、悲しみを、悔しさを、全てあのクズ共に見せつけてやれ!これを聞いて、なお逃たい者は止めない。敬意を持って『ここまでよく頑張った』と言ってやろう。

だが、最後に一つ言おう、『貴殿らと愛する人たちの為に、妾にその命を預けてほしい』!」

 

 

歓声がドッと湧き上がり、彼等は覚悟を決めた。

 

 

「総員戦闘用意!」

 

 

彼らは涙を堪え、悔しさを噛み締めて、引き金を引いた。敵に堕ちた同胞の知人や家族、それ以上の関係の者もいたが、彼らも目を背けることなく同胞の最期を看取るためにも、引き金を引いた。

 

 

怪異たちは相手が人質諸共攻撃したことに大いに驚いている様子であった。人質をとった意味がない、いや、むしろ逆効果であったと困惑していた。

 

 

***

 

 

アルドゥインはアカトシュの下で瞑想に(ふけ)っていた。

 

しかしただ瞑想していただけではなかった。

 

特地で起きていることの全ての情報を全身全霊で処理していた。その処理能力、人類が未だ開発中とされる量子コンピュータですら足元に及ばないほどの人知を超えた処理能力を叩き出すほどの集中力である。

 

しかし未だ下界に戻る術は見つからず。

 

アカトシュはいっそドラゴン・ブレイク(チート)を使って無理やり送り込もうかとも考えたが、アルドゥインはのただならぬ集中力がそれを阻害した。

 

もう一度言う、アルドゥインの集中力がアカトシュのドラゴンブレイク(チート)を跳ね除けた。

 

 

(なんと言うことだ……ドラゴンブレイクによる下界降臨を拒否したと言うのか)

 

 

このようにアカトシュが動揺していることにすらいに介していない。

 

アルドゥインの精神は既に我かそれ以外か、しか感じていなかった。

 

 

(不味い、このままではアルドゥインはここに居着いて下界に降臨しなくなる……)

 

 

アカトシュはアルドゥインの居候(ニート化)に危機感を覚える。

何もしなければ下界は崩壊する。

 

そして何よりも、ここ(エセリウス)も不味い。

 

エイドラの領域(エセリウス)デイドラの領域(オブリビオン)、そして異世界を含む下界のパワーバランスが崩れてしまう。

 

 

「不味い、このままでは妾の世界も……」

 

 

ミラルーツも焦りを隠せなかった。

 

 

「案ずるな……我の準備は出来上がった。少し気は早いが今の我なら問題ないだろう」

 

 

突如アルドゥインが発言した。

 

 

『アルドゥイン、どう言うことか?』

 

「まだ時期尚早だが、この能力を使えば良かろう」

 

『時期尚早?』

 

「物事にはタイミングというのがある。ベストなタイミングというものがな。だがこれ以上ここにいてはあらゆる理が崩壊するかもしれん。不本意だが、少し早めに行くことにした」

 

『しかし、それでは最高のタイミングと一致するのか』

 

 

アカトシュの問いに対し、アルドゥインは何かを見透かしたような視線をアカトシュに向ける。

 

 

「我が時間に合わせるのではない。時間が我に合わせるのだ」

 

『アルドゥインよ、まさか……』

 

「アカトシュ、悪く思うな。貴様のドラゴンブレイク(チート)のいくつかを奪い解析した。それとも、本来貴様しか使うことを許されない能力を我が簒奪した、とでも言うべきか」

 

 

アルドゥインは嗤う。

 

 

「やり直しの能力、未来予知、時間流の操作をいただく。流石に最高級の『因果の接続(辻褄合わせ)』またの名を『結果の逆算(あったことにする)』は無理だったが」

 

『アルドゥインよ、その能力は一歩間違えれば世界を滅ぼすぞ』

 

「それで?それが、どうかしたのか?」

 

 

アルドゥインは不気味な笑み向けた。

 

 

「世界は既に崩壊へと向かっている。我の知ったことではない。我がするのは、殺戮と破壊のみよ」

 

 

そしてアルドゥインは最後に笑う。

 

 

「そもそも我を誰と心得ている?我は破壊と支配を司る龍の王、アルドゥインだ。世の破滅こそ我が望むことよ」

 

 

アルドゥインの身体が白いベールに包まれ始めた。

 

 

「そしてその障害となるのを全て消し去るのみよ。アカトシュ、次会う時は貴様を滅ぼしてやる」

 

 

そしてアルドゥインは消えた。

 

 

「……アカトシュ、あれでいいのか?」

 

 

ミラルーツは尋ねる。

 

 

『わからん。未来予知ですら見えない未来について、知るもののみぞ知るだろう』

 

 

***




そろそろR-18になってもおかしくないかな。
いや、スカイリム基準だと既に18禁なのだが……
どうもジャパニーズ脳だと明確なエ●がないと18禁じゃない気もする。


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あーもうめちゃくちゃだよ!


Kul(良き) Kiin() Eruvos()、あけましておめでとうございます。
皆様にも良いお年で有りますように。
皆さんは初詣はどちらへ行きましたかな。
私はアズラの祠へ行こうとして断念しました。

なおめちゃくちゃにしているのは駄作者ですけどね。



 

「グレイさん、あんたが訪ねてくるとは思わなんだ」

 

「……」

 

 

独房で鉄格子越しに加藤の前に立っていたのは、ピニャの側近であるグレイである。

 

加藤は笑っているが、両手を鎖で吊るされ独房の隅で半立ちの状態だった。

 

 

「外は騒がしいが、戦闘は既に再開したみたいじゃないか。ピニャの元へ行かなくていいのか?」

 

「……加藤殿、小生がここを訪ねた理由、貴殿もわかるはずかと」

 

「……はて」

 

「貴方は、一体何者なのだ?」

 

「……元日本国海上自衛官3等海佐、加藤蒼也。現職、仮想国家ジパング総司令官兼新帝国軍事顧問、とでも言っても納得しないだろうな」

 

「……」

 

「しかしなんでこんな時だ?」

 

「貴殿の周りにはピニャ陛下を始め、恐らく真実を伝えるには早いという者が多かったので口を割ることはないと思ったまでですな」

 

「ほう、配慮してくれたのか。しかしなぜ俺が隠し事してると」

 

「小生は若くはない。それなりの経験を積み、戦闘のみならず世間やら多少通じてきたと自負しております。そしてそれなりに多くの人を見てきた。それこそ息子の歳のような若造からベテラン兵士、無能な上官から天才的な指揮官、政治家に貴族そしてピニャ様を始めとした王族。上げればキリがないほどに」

 

 

そしてグレイはため息をつく。

 

 

「しかしそれほどの経験を積み、見てきたにも関わらず貴殿のような人間を見たことはない。いや、何を考えているのか分からない、と言った方が正しいかもしれませんな。時々貴殿が人間かどうかも怪しく感じてしまうこともあるほどに」

 

「……」

 

「貴殿はピニャ殿を利用している。だが、それは私利私欲のためでも日本の国家的野心のためでもない。そこが不思議なのだ」

 

「それが貴方に何か関係あるのですかね?」

 

「小生に関係はないかもしれませんがピニャ様には多いに関係することですので」

 

 

グレイは何かを思い出すように続ける。

 

 

「ピニャ様はまだお若い頃から世話を焼いたものでしてな。それは大層お転婆娘であった。しかし今思うのは、従者としての忠誠心と、かつて教官としての親心……否、実の娘のように愛おしく思っています」

 

 

グレイは加藤に向き直ると続けた。

 

 

「これは小生のベテラン兵士としての勘ですが、小生はこの戦いで命尽きるであろうと思います。ピニャ殿のためのこの命、惜しいとは一度も思ったことはありません。しかし、小生は如何なる手段をもってしてもピニャ様を生かす所存であります!しかしそうなればその後のこと。気がかりなのはピニャ様のその後のことであります。そして貴殿がピニャ様を仇なす者でないという確証と、ピニャ様にふさわしい者かどうかを見極めたい」

 

「オイコラチョットマテ、勝手に俺とピニャをカップリングするなや。恐れ多いわ!」

 

「なんと、ピニャ様とは懇意にしていたかと存じておりましたが……何せ寝室で一夜を共に過ごしておりましたし。少なくともピニャ様は好意を持っておりますぞ」

 

「んなバカな。それに寝室の件は誤解だ!てか好きな相手をこんな独房に閉じ込めたり寝室で服剥ぎ取ってクッコロごっこしねえよ」

 

「ピニャ様は恋愛には疎いというか不器用でして」

 

「いや、俺とカップリングしたらいずれ俺と伊丹がカップリングされる未来しか見えねえんだけど!あの姫様いい具合に腐ってるからな!もしかしたらこの独房に放置してオークやゴブリンによるくっころを楽しむつもりかもしれんぞ、誰得だよ!」

 

「腐ってるとは、なんと無礼な!それに姫ではなくて皇帝陛下ですぞ!……まあ話を戻しますと、別に無理に結ばれなくとも、将来的に後見人などもあり得るのでそれを見極めたい所存であります」

 

「……そうだな話を元に戻そう。すまぬ、取り乱した」

 

 

そしてしばしの沈黙。

 

 

「で、だから俺の隠し事を知りたいと」

 

「左様で。もちろん口外はしませぬ、墓場まで持ってゆく所存です。せめて老兵の最後の願いとして、冥土の土産として教えていただければと」

 

「……」

 

 

加藤はしばらく考えた。

 

その沈黙の間、何度か牢獄全体が揺れ、その度に天井の隙間から塵が落ちてきたことから戦闘の激しさが増していることが分かる。

 

 

「残念ながら、教えることはできんな」

 

「……左様ですか」

 

 

グレイは肩を落とす。元々期待などしてなかったが、もしかしたらと一()の望みをかけたが無駄骨だったようだ。

 

 

「教えることはできない。なぜなら、あんたはこの戦闘では死なないからな。冥土の土産として話すことはできない」

 

「……なぜ、小生が死なないと?」

 

「……さあ。そういうことになっているからかな」

 

「勘、ですかな?」

 

「さあ、そういう運命とでも言っておこうか」

 

「……分かりました」

 

 

そしてグレイは一礼すると独房を去った。

 

 

「ご武運を。……ただ、残念なことに今回ではなく、次の戦闘で命を落とすことになるんだけどね」

 

 

加藤はどこか悲しげに呟く。

 

 

「かなり大きなヒントあげてましたけど、大丈夫ですか?」

 

「J か、ご苦労」

 

 

独房の天井付近の(はり)の影に腰をかけていた女性がゆっくりと降りてきた。

 

 

「問題ない、奴は喋らんよ。しかしかつての俺みたいな目をしていたな」

 

「マスター、一応あんた生物学的にも戸籍上でもそんな歳いってないからね?」

 

「まあ、そうだな。で、外の状況(戦況)は?」

 

「ピニャ陛下がうまくまとめています。さすがは皇帝と行ったところですかね。天性のカリスマを持っています」

 

「……なるほど、うまくやっているようだな」

 

「うまく、ですかね。消耗するのは時間の問題な気もしますが」

 

「問題ない。彼女なら時間稼ぎをしてくれるさ。ところで例の物は?」

 

「まだ輸送中です。到着時間は未定です」

 

「そうか……気長に待ちますかね」」

 

 

***

 

 

絶対に死んだ。

 

いくら運がいいとはいえ、あの装甲タンクローリーが目の前に突っ込んで来たのだ。助かるわけがない。

 

そう確信した伊丹だが、痛みも衝撃も感じない。

 

恐る恐る目を開けるとあら不思議、目の前には装甲タンクローリーなどなかった。

本当に元からそんな物無いと言わんばかりだった。

 

 

「へ、夢オチ……じゃ無いよな?」

 

 

周りのSAT(警察官)特戦(自衛官)も戦慄して尻餅ついているあたり、現実に起きてたもののようだ。

 

 

(と、取り敢えず生きててよかった……まだ消化してない今期のアニメがあるからな)

 

 

もちろん死亡フラグであることは伊丹は重々理解してるので、声に出さずに心の中に留める。

 

 

「に、任務を続行する……」

 

 

SAT の坂東が冷や汗をかきながらもマイクで本部にそう告げる。

周りも冷静さを取り戻し速やかに動き始めた。

 

 

そして全員が固く閉じた門に貼り付く。

坂東はある一定の規則で門を叩いた。

 

 

(モールスか……)

 

 

伊丹は咄嗟に理解した。

 

そして坂東はこのように叩いた。

 

『へ・ん・た・い』

 

そしてしばらくして門から音が返ってくる。

 

『し・ん・し』

 

 

(おいおい、ホントに誰だよこんな合言葉考えたの……)

 

 

伊丹は呆れていると坂東と目が合う。

 

 

「俺じゃねえ……」

 

「え?」

 

「この合言葉考えたの、俺じゃねえからな!」

 

 

伊丹の目が呆れていたのを察したのか、坂東は先に釘を刺していた。

 

 

「も、もちろんですよ。他の場面でも何回か聴いてますし……」

 

「そうか、ならいいんだ」

 

(しかし本当に誰がこんなしょうもない合言葉考えたんだろ……?)

 

 

伊丹の疑問は残るばかりだった。

 

 

しばらくすると門がゆっくりと開き、人が入れる程度までの広さで止まった。

 

 

「日本人か?待ちくたびれたぞ。しかしさっきなんだかすごく騒がしかった気がするけど……」

 

 

中から狼亜人(ワーウルフ)の兵士が出てきた。

 

 

「まあ、トラブルがあったからな。敵勢力は?」

 

「みんないなくなっちまった」

 

「は?」

 

「何かあったが知らんが、新帝国側の奴らはみんな新帝都の方に向かったぜ」

 

「……なんだ、無駄骨か。せっかく戦闘準備したのに」

 

 

坂東はガックリ肩を落とす。

 

 

「まあまあ、無駄な戦闘が無かったからいいじゃないか」

 

 

伊丹は安堵する。

 

 

「あんたみたいな優男には俺の気持ちわからねえよ」

 

 

坂東はなんだかガッカリしている。なぜだろう。

 

 

「取り敢えず、本隊に連絡して準備にかかってもらうか。『レレイ、安全なのでみんなを連れてきてくれ』」

 

『了解』

 

 

無線で安全地帯にいたレレイたちに呼びかけた。

 

彼女らは猛スピードで門に駆けつけた。テュカに至っては伊丹に飛びついて抱きしめた。

 

 

「わーん、お父さん死んじゃうと思ったじゃない!」

 

「そうだぞ、耀司殿が死んでしまったらこの身はどうやって生きていけば良いのだ!」

 

 

ヤオもポカスカと伊丹の背中を叩く。

 

 

「ご安心を、伊丹さんの代わりにロゥリィさんがミンチか黒焦げになるだけですよ。仮に死んでも私が生き返らせて使役させてあげますわ」

 

「ちょ、セラーナそんな縁起でもないことを言わないでよぉ。それに私の眷属を取ったりしたら許さないわよぉ!」

 

 

ロゥリィがセラーナの発言に頬を膨らませた。

 

 

 

「……隊長、あの男撃っていいですかね?」

 

「奇遇だな、俺も同じことを思っていた」

 

 

SAT 隊員たちの殺気を察知したのか、伊丹は彼女らを引き離す。

 

 

「今は任務中だからこういうのは後でな……」

 

 

皆口を尖らせるが仕方ないと諦めて門を潜る。

 

 

「ねえ、セラーナ……」

 

「なんなりと」

 

 

ロゥリィは静かに尋ねた。

 

 

「さっきのトラック?を消したのは貴方?」

 

「いいえ、私ではございませんわ」

 

 

セラーナは否定する。

 

 

「ではレレイ?」

 

 

しかしレレイは首を横に振って否定する。

 

 

「……私の詠唱では間に合わない。人がやっと入れる程度の門の生成には最低でも10秒はかかる」

 

「でしょうね。門の向こうは事情がかなり複雑になってそうねぇ。ああ、久しぶりの、か・ん・か・く……」

 

 

ロゥリィは恍惚の表情()を浮かべる。

 

 

「戦闘、それもすごく大きくて長い戦闘が起きているわぁ」

 

 

***

 

 

時間はどれほど経っただろうか。外の怒号が要塞深くの独房にまで聴こえてくるようになる。

 

 

「しかし、本当にどうにかなりますか?」

 

 

J は鉄格子のもたれながら尋ねた。

 

 

「全てはゼー●のシナリオ通りだよ」

 

 

加藤は細く笑うと変なことを言う。

 

 

「……まだふざけるだけの余裕があるみたいですね。殴られて大丈夫か心配しましたが杞憂でしたね。なんなら、右頬もやっておきます?確かマスターはクリスチャンでしたっけ?」

 

「……冗談だよ、ホント。その左拳下げてください、お願いします」

 

「……まあ余裕があるということは策があるのでしょうけど。今度は一体どんな汚い手を?」

 

「汚いは余計だ。とっておきの手を隠しているのは確かだが、君にも話すわけにはいかない」

 

「……貴方はいつもそうですね。誰も信じない」

 

 

だが加藤はそれに対する返事はなく、ただただ歯に噛んだ笑みを浮かべる。その優しそうな笑みがどこか不気味さを感じられずにはいられなかった。

 

 

あと気のせいかもしれないが、廊下がやたらと騒がしい。

 

 

「……どうやら敵さんは中にも侵入しているみたいだな」

 

「ええ、一筋縄ではいきませんね」

 

 

そう言って J は短機関銃(MP5)の安全装置を外す。

 

 

「しかし、中にはイタリカから借りた閉所戦闘が得意なキャットピープルやヴォーリアバニー、それにパイパー一味(ノッラたち)がいるはずだろう。あいつらは何やってんだか」

 

「……くたばったか気づかれずに侵入されたかですかね」

 

「ま、どっちみち敵はかなりのやり手ということか」

 

 

そう言い終わると扉の向こうから変な声が聞こえる。

 

 

「わ!?貴様ら何だ」

「何をするだっー!離せー!」

 

 

そして叫び声と断末魔が響き、しばらくの静寂が訪れる。

 

そして牢獄への扉が勢いよく開く。

 

さらに同時に青みのある灰色の小鬼(ゴブリン)のような小柄な怪異が多数雪崩れるように入ってきた。

 

しかしそれを想定していた J は短機関銃で駆逐してゆく。

 

ただ数が多かったので弾倉を交換するタイミングで閃光手榴弾のピンを抜く。

 

 

「マスター、耳を塞いで伏せてください」

 

「へいへい」

 

 

そしてスタングレネード(フラッシュバン)を投函すると轟音と共に目に刺さるような閃光が走りゴブリンもどきは戦闘不能となる。

 

J はすぐに弾倉を交換し、体勢を整えて反撃する。

 

つもりだった。

 

放たれた矢の数本が J の腕、脚と胴に刺さる。

幸い、銅はボディアーマーでダメージはほぼないが、腕と脚は腱をやられたみたいだ。

 

 

「……ちっ」

 

 

フラッシュバンで自滅しないよう目を瞑り耳を塞いだのが仇となった。その一瞬の隙を突かれた。

 

その間に新たな敵が入ってきたことに気づかなかった。

 

色白でヒトの成人を少し猫背にした感じの気味の悪いゴブリンだもどきである。

 

なぜかスタングレネードが効いていない。

 

J は間近でその気味の悪い醜悪な顔を見て理解した。目が退化して瞼がくっついていた。

 

 

(でもそれなら音に敏感な筈だ……なぜ……)

 

 

目の見えない動物は音に敏感になる、などと思考を巡らした一瞬の隙に敵の後方から矢を射られた。

 

 

「ふぐっ!?」

 

 

防弾チョッキの隙間や腕などに数本刺さってJ は壁にもたれかかる。

 

 

「なるほど、魔法か……防音魔法とは面白いな」

 

 

加藤は扉の向こうからいかにも魔法を使ってますみたいな姿をした盲目の怪異(ファルメル)が現れたのを視認する。

 

 

「マスター、ちょっとまずいかもしれませんね」

 

「おやおや、そのようだね。元某半島国家の特殊工作員でもやられるときはやられるか」

 

「つまらんこと言ってないで助けてください」

 

「へいへい」

 

 

加藤袖に隠し持っていたスイッチを入れると、鉄格子の扉が爆風によって勢いよく吹き飛ぶ。

もちろんそれで怪異の一部が巻き添えになるが。

 

腕に繋がれた鎖にも仕掛けがあったらしく、切れて自由の身となる。

しかし小規模とはいえ爆風で手のあちこちが血だらけだが。

 

 

「¥$€%°#○*+×÷<=>〒々〆!」

 

「あ〜〜〜?聞こえんなぁ!!」

 

 

加藤は襲い掛かっているゴブリンもどき(リークリング)に目掛けて手首につけたままの鎖を鞭やヌンチャクのように振り回す。

 

その威力は凄まじく、鉄棒で殴ってるかのように怪異たちが倒される。

 

 

「¥$€%°#○*+×÷<=>〒々〆!」

 

 

敵の指揮官の号令で矢が放たれるが、加藤はそれを鎖をヘリコプターの羽のごとく振り回して擬似的な盾を作って防ぐ。

 

 

「!?」

 

 

そして気を取られている隙に J が敵の足元に何かを転がした。

 

敵の魔術師が詠唱を唱えようとした途端、彼らの足元から破裂音と無数の小破片が身体中の肉という肉を引き裂いた。

 

手榴弾によって阿鼻叫喚の地獄絵図となるが、辛うじて防御魔法などで致命傷を避けた者もいた。

 

しかしそれを見逃すわけもなく防御魔法が失効した途端に頭蓋骨を鉄板入り軍用ブーツで壁に蹴り付けられて絶命する。

そして念入りに一つ一つ槍で刺して確認する。

 

 

「衰えたな」

 

 

加藤は確認作業終えると部下(J)に手を差し伸べる。

 

 

「……しばらく実戦しかしてませんからね。訓練の方がきついですし」

 

 

J は矢を抜いて応急処置を終えており、手を掴んで立ち上がる。

 

 

「マスター、ご無事でしたか!」

 

 

他の部下たちが敵を制圧しながらやってくる。

 

 

「遅いよ……」

 

「あと、例のものが届きました!」

 

 

それを聞いた加藤の口角が上がる。

 

 

「やっとか」

 

 

そして米軍装備を身に纏った兵士が現れる。

 

 

「ヘイ、マスター」

 

「カール……いや、今はオクトパスだったな。You are late(遅いぞ)

 

 

そして二人固く抱き合う。後ろには他の米兵らしき者も数名いた。

 

 

「例のものだ」

 

 

小型PCやUSBなどを渡す。

 

 

「これで次のフェーズに行ける……」

 

「しかし苦労したぜ。今回はマジで死ぬかと思った」

 

 

加藤たちは歩きながら話す。

 

 

「何があった?」

 

「門を開いたら砂漠でな。そこまでは良かった、あんたの計画通りだ」

 

「ほう……」

 

「問題はそこからよ。巨大なカマキリやらワームやらが襲い掛かってきてもうめちゃくちゃさ」

 

「生存者は?」

 

「多分半分はやられただろうな。兵器も多く失った。俺たちもやばかったがあんたの部下がピックアップしてくれたから助かったもんよ」

 

「……では協力者以外は残ったままか」

 

「まあな。一応簡易要塞やらで凌いでいるが長くは持たん」

 

「……これ終わったら救出に行くか。兵器の鹵獲もしたいしな」

 

「ああ、頼んだぜ」

 

「規模はどれくらいだ?」

 

「ざっと2万は取り残されたが、どれほど生き延びたかな……」

 

「捕虜が2万か……こっちも大変だなあ。その人員と兵器全部ここに持ってきたいくらいだ」

 

「おいマスター、ハーグ陸戦条約とジュネーブ諸条約忘れるな」

 

「残念、我々は国連加盟してないので。まあそんなことしたくてもまだできんからな。せめて米製の戦車と爆撃機とかあればなあ」

 

「そんなことだと思ってな、サプライズがあるぜ」

 

「え、なになに、大陸弾道核ミサイル搭載二足歩行戦車(メタルなギア)でも持ってきてくれたのか!?」

 

「いや、流石にそこまでは……おい、露骨に悲しそうな顔するなや」

 

 

などとやり合ってると屋内にも関わらず轟音が遠くから近づいているのが分かる。

 

 

「この音……」

 

「ああ、ホッグ(A-10)だ」

 

 

そして外の城壁では敵味方が空を見上げていた。

 

 

「援軍か……!?」

 

 

自衛隊の戦闘ヘリや戦闘機を知るピニャたちは歓喜した。

 

そして凄まじい連続的な振動音がしたと思うと敵が細切れになって血煙が砂塵と混ざり合う。

 

GAU-8 アベンジャーから吐き出される約4000発毎分の30mm弾はまさにオーバーキル。

 

オークだろうがトロールだろうが文字通りミキサーにでもかけたように細切れとなる。

 

そして最後にこれでもかと思うほど爆弾とナパーム弾を投下して去ってゆく。

 

その光景を見た友軍は声を上げて鼓舞した。

 

 

『こちらグリーンゴブリン、異常はないか?』

 

 

A-10の機長が各機体に問いかける。

 

 

『こちらブルズアイ、レーダなどの電子機器のノイズがひどい。事前に知らされていた通り、電子機器の不調のようだ』

 

『こちらパニッシャー、こっちなんかレーダやらがオシャカになった』

 

『マジか……まあ想定内だ。操縦桿系統は?』

 

『電気系統がダメになったからフライバイワイア(電線)からフライバイケーブル(鉄線)に切り替え、そのまま不時着する』

 

 

そしてクランクを回す。

 

 

『了解、と言いたいところだがこちらも不時着しなければいけないようだ』

 

『同じく』

 

『仲良く編隊ごと不時着って洒落にならんな』

 

 

そう言ってフラップを手動で開くと高度をゆっくりと下げてゆく。そして地平線へと消えてゆく。

 

その様子を下から見ていた加藤たちは軽く敬礼する。

 

 

「後で行く……」

 

 

そう静かに呟くとケプラーヘルメットの顎紐を締める。

 

 

「さて、こちらも仕上げに入るか」

 

 

状況を見るとかなり悪かった。

先程の航空支援も見た目とは裏腹に敵の数からすれば雀の涙ほどであり、まさに多勢に無勢だった。

 

そんな中、まだ死力を尽くして戦っていた者たちがいる。

 

ピニャたちである。

 

特殊な作りである(ラオ装備)であったのも生存性を上げていたが、彼女の強い意志、そしてそれに応えようとする部下たちが周りを圧倒していた。

 

 

「あの姫さん、強いな」

 

 

オクトパスは感心する。

 

 

「そうだな。だが今は皇帝だ」

 

 

加藤は彼の言葉を訂正する。

 

そして加藤たちは銃に弾倉を込めると一斉に射撃し、味方の周りにいた怪異を一掃する。

 

 

「か、加藤殿……いつのまに!?」

 

「やあ、陛下。暇だったんで出てきた」

 

 

加藤は小さく手を振る。

 

 

「貴様!助けてくれたことは礼を言おう。しかし勝手に脱獄するとは言語道断!」

 

 

すごい剣幕でピニャは加藤に近づく。

 

 

(ほう、やはりしっかりとした目になったな……)

 

 

加藤は感心する。

 

 

「ああ、もう!ピンチの時に妾が助けに行きたかったのに!」

 

「……」

 

「怪異たちの群れに性的な意味で蹂躙(くっころ)される丈夫(ますらお)が敵の陵辱に屈する直前に助け出す、という展開をしたかったのに……そして妾たちは男女を超えた漢と漢の絆に芽生えて……ハッ」

 

 

ピニャはよだれが溢れて少し垂れてきたところで我にかえる。

 

 

「くっ、いっそ殺してやる!」

 

 

自暴自棄になったピニャは大きな太刀を高く振り上げる。

 

 

「勘弁してくれ、それくっころの使い方じゃない!」

 

 

しかしその様子を遠巻きの兵士たちは勘違いして解釈してしまう。

 

 

「なんと、皇帝陛下は脱獄した者に容赦せんとは……」

「悪即斬、を徹底しておられる」

「さすが皇帝陛下、正義と公平性が保たれますな」

 

 

兵士たちはピニャの勘違い行動に概ね好感的だった。見事に思い込みと勘違いが発揮している。

 

 

「まあまあ、ピニャ殿、落ち着きましょう。ここは小生にお任せを」

 

 

これを見兼ねたグレイたちが双方の間に入って鎮める。

 

 

「う、うむそうだな。こんなことしている場合ではなかったな」

 

「これで死ぬのは悲しすぎる……」

 

「さて加藤殿、脱獄したからにはそれ相応の理由あったのだろうな」

 

「まあ、怪異たちが襲ってきたのでシカタナク(嘘)」

 

「なに、その話をもっと詳し……じゃなかった。うむ、そうか……大変だったな……ミタカッタ」

 

 

また興奮しそうなピニャをグレイが肩を軽く掴むことで現実に引き戻す。

 

 

「あともう一つ、脱出経路を確保できそうです」

 

「誠か!?この窮地を脱出できるのか!?」

 

「ええ、方法は……」

 

 

なんだか変な甲高い音が遠くから聞こえてきた。

加藤は話を止めると空高くを見上げた。

それにつれられて他の皆も空を見上げる。

 

 

「やっと来たか」

 

 

そして巨大な何かが敵陣に落ちて大爆発を起こす。

 

敵味方双方とも何が起きたのか分からず、パニックに陥る。

 

 

「な、何なんだこれは!?星が落ちてきたのか!?」

 

「軌道衛星兵器ならその表現で間違いじゃないけど、これは弾道弾です」

 

「ダンドーダン?何だそれは」

 

 

ピニャは初めての単語に首を傾げる。

 

 

「簡単に言えば我々の世界の投石器みたいな物でな。隣の国に投射するものから、星の裏側まで届く物もある」

 

「どこからそんなものを……」

 

「アルヌスの簡易イージスアショアをパクって改造したものを帝都から爆発魔法で打ち上げてる。終末修正は電子的な要素がないタイプなので、この雪のような物の干渉は受けないのが幸いですな」

 

「お前が言ってることの半分以上わからないが、取り敢えずすごい投射機(カタパルト)でここの敵を攻撃しているのだな?」

 

「まあ、そんなもんです」

 

 

そんな会話していると、大きい音と振動がした。

 

 

「……今のは近かったな」

 

「加藤、これは敵だけを攻撃するものだな?何故か城壁近くに落ちてきたような気もするのだが……?」

 

「自由落下タイプの終末修正は事前の高度な計算を行うんですけど、今パソコンやスマホすら電子障害で使えないので手計算でしたからかな」

 

「手計算って、誰が?」

 

「俺ですけど?」

 

「……」

 

「どうしました、皇帝陛下?」

 

「ええーい、総員退避!総員屋外、ベルナーゴの地下神殿まで撤退せよ!すぐに撤退だ!」

 

 

皆撤退する間も弾道弾は不定期的に降り続ける。大体1分に1個ぐらいで。

 

それを聞いた兵士たちは蜘蛛の子散らすように撤退する。

 

指揮官たちは皆がパニックになりすぎないよう交通整理の如く兵士達を撤退させる。

 

幸いなことに、弾道弾の威力が凄まじいためか怪異たちは攻撃の手を緩める。

 

 

「ピニャ様!」

 

「……え?」

 

 

ハミルトンの声に振り向いた瞬間、大きな金属破片がピニャに向かって飛んできた。

 

 

***

 

 

アルヌスで出撃準備を終えた自衛官たちはいざ帝都へ!

と意気込んでいたが、急遽出撃命令が停止された。

 

 

「くそ、こんな時に……」

 

 

狭間陸将は机を拳で叩く。

 

他の隊員にはパニックを起こさないためにも理由を知らせるなと念を押された上で防衛省からとんでもない情報が来ていた。

 

中国海軍が台湾海軍を壊滅させた。

 

一見日本には関係無さそうな内容だが、ここで推測または読み取れるのはいくつかある。

 

・台湾海軍を瞬時に壊滅させる規模であること。

・米軍が動いてないこと。

・目的は尖閣、与那国である可能も高いこと。

 

政府の方針により短期決戦で特地の解決をするため主要部隊の一部がアルヌスに集結している。

もしかしたら引き返して日本そのものを防衛しないといけなくなるかもしれない。

 

 

「狭間陸将、新たな情報です!北方領土付近でもロシア海軍が不穏な動きをしている模様!」

 

「くそ、アメリカは何をしているんだ!?」

 

「別情報、日本政府に対してサイバー攻撃、株価暴落、各地にて暴動などが起きているとの情報あり。これは……マルチドメイン攻撃です!」

 

 

作戦室で部下の報告や部下の本音などの怒号が飛び交う。

 

 

(これは、脅しや威嚇ではない……警告ということか)

 

 

ここですら混乱が酷いと、政府中枢は今大変なことになっていることは容易に理解できた。

 

『ここに優秀な自衛官がいる間、誰が本国を守るんですかね』

『今の自衛隊の規模じゃ、本国と特地双方を守るには荷が重いですよ』

 

狭間は、かつて加藤が雑談で話していた言葉が脳裏を掠める。

 

 

(あの男が言っていたことが、現実となったな……)

 

 

狭間は今は耐えるべきと、喧騒な作戦室で冷静を装った。

 

 

***

 

 

「ピニャ!ピニャ・コ・ラーダ!……くそ、まずいぞ」

 

 

意識のないピニャの肩を叩きながら加藤は呼びかけていた。

 

 

「ああ、ピニャ様……!?死んじゃだめです!」

 

 

ハミルトンも動揺して涙を流している。意識はないが、不幸中の幸いというべきか、異世界チートラオ装備の不思議な防御力のおかげで大きな外傷はない。ただ、使用者本人が衝撃に耐えられなかった。

 

 

彼らはベルナーゴ神殿最深部にて籠城しているが、神殿外では兵士たちが必死に敵を食い止めていた。

ちなみに男子禁制などとのたまっていたハーディと神官たちは脅迫説得した。

 

 

(まずい、ピニャがこの状態だと士気がガタ落ちだ……くそ、なぜ今回はこんなことが……)

 

 

加藤も内心かなり焦っていた。

 

 

「呼吸が停止しました!」

 

「くそ!AEDや応急キットはまだか!?」

 

衛生兵(メディック)は先ほどの戦闘に巻き込まれて死んでます、他のものが取りに行ってますが時間がかかります!」

 

「あー、もうわかった!CPR(心肺蘇生法)を行う」

 

「心肺蘇生法……そ、それは所謂(いわゆる)王子のキス、というやつか!?」

 

 

ハミルトンが動揺しつつも、なぜか少し興奮した様子で聞いてきた。

 

 

「えっ?」

 

 

しかしもっと動揺したのは加藤である。

 

 

「まあ!アルヌスの講習で教わった、あの人口呼吸やらが含まれる心肺蘇生法(王子のキス)!?」

「私、初めてお目にかかりますのよ」

「ああ、姫さま、じゃなくて皇帝陛下……おいたわしい」

 

 

なぜか周りの女騎士やら従卒やらが反応する。

 

 

「えっ、えっ……?」

 

「く、このような異世界の男に陛下の唇が奪われることになるとは……しかし今は緊急事態ですわ、仕方ありませんわ」

 

(おい、ここの世界の乙女たちは心肺蘇生法を一体なんちゅう目で見てたんだ!?)

 

 

加藤は改めて異世界の価値観の違いに驚く、というかもどかしさを感じた。

 

 

(やりづらいがここでピニャが死なれると困る……てかそんな目でみんな見るなし……やりづらいわ)

 

 

ピニャの気道を確保すると、加藤はポケットからある物を出した。薄いポリ袋みたいなものである。

 

 

「期待しているようで申し訳ないが、紳士たるもの俺は常にこれを携帯していてね……」

 

 

そして人口呼吸用マウスピースをピニャの顔に被せると、息を吹き込む。

 

 

「「ええ〜!?そんなあ!」」

 

 

乙女たちは期待はずれと言わんばかりにブーイングする。

 

 

「いや、しかしこれはこれで……」

「ええ、お姉さま……あの僅かな隔たり(マウスピース)によって一線を越えずに口づけを……」

「ああ、逆に切ないですわ。これが焦らしプレイという物ですわね」

 

 

などと高度な思考をお持ちな人たちもいたが。

 

 

「……ケホッ、ゴホッ!ゲホゲホ!」

 

「よし、息を吹き返した!」

 

「やはり王子のキスだったか」

 

「お姉さま、私たちも今度隔たりで練習しましょう」

 

 

周りからは歓声があがる。

 

だが加藤は素直に喜べなかった。

 

 

(まずいな……俺の好感度を上げると後々のシナリオの修正が必要になるな……やはりあれを強行するか)

 

「加藤……どうした、怖い顔して。妾は一体どうしていたのだ?」

 

 

ピニャは弱々しい声で尋ねた。

 

 

「陛下、少し気を失っていただけですよ。今しばらくお休みください」

 

「そういうわけにもいかん……うう、体中が痛くて動けん」

 

「安静にしてください、頼みますから」

 

「しかし、戦況は……」

 

「ベルナーゴ神殿の最深部です。取り敢えず撤退準備してます」

 

「撤退?しかしどうやって……袋の鼠だぞ」

 

「大丈夫です。大丈夫ですから」

 

「信じてるぞ……」

 

 

そしてピニャはしばらくの眠りについた。

 

 

(まるで子供みたいな表情で寝るな。情が湧くじゃねえか)

 

 

優しく頭ポンポンと撫でると、立ち上がった。

 

 

「オクトパス、まだか!」

 

「今やってわ!マスター、女の子誑かしている暇あるならちょい手伝えや!」

 

 

この間もどんどんと地下の祭殿に避難民やら人が流れてきた。

 

そして加藤はペンと紙を持つと数式を解きながら地面にコンパスや紐やらを使って何かを描いていく。

 

 

「こことここに魔硝石を置いて、固定する」

「こっちにはこの図形を描け」

「パソコン有れば一発なんだけどなあ」

「謎の雪で使えないから諦めろ」

 

 

異様な空間を周りはただただ見守るしかなかった。

 

 

「カトォ、もう限界だ……外の兵士は全滅した……」

 

 

満身創痍のジゼルが血まみれのハルバードを手に、全身に返り血を浴びて白い神官服が真っ赤に染まって降りてきた。

 

 

「クソッタレ、わかっとるわ!くそ、なぜ起動しない!」

 

「マスター、ここの定義ができてない。呼び出しも間違えている」

 

 

懸命に石を並び替えたり紋章を書き直したりしていた。

 

 

「プログラマーみたいなこと言うんじゃない!ようし、できたぁ!」

 

 

そして黒いクリスタルのような物を地面にねじ込むと、それは現れた。

 

ポータル、ワームホール、ワープホールなどと様々な呼称がある、(ゲート)である。

 

 

「……やったな」

 

「ああ」

 

 

加藤とカール(オクトパス)は拳同士をぶつける。

 

 

「ひ、開いたぞ!」

 

「間に合った……」

 

「しかし加藤、アルヌスのとは少し異なる様だが……?」

 

 

確かにアルヌスの門のようなものと違い、何か電気か雲みたいなものが渦巻いている感じだった。

 

 

「これ、入っても大丈夫なものなのか!?」

 

 

ジゼルが門を前にたじろぐ。

 

 

「入らないとここで弾道弾でやられるか、怪異たちにやられるしか選択肢ないよ?」

 

「う……ところで、これはどこに繋がっているんだ?」

 

「 一応、帝都に設定したつもりだが……正直他のところに繋がっている可能性もある」

 

「……俺に何かあったら責任取ってもらうからな!」

 

 

そう言ってジゼルはどうにでもなれ、と言わんばかりに目をつむって飛び込んだ。

 

 

そしてしばらくすると戻ってきた。

 

 

「だ、大丈夫だ!無事帝都に繋がっている。俺は今から御神体取りに行くぜ」

 

 

そう言って一度こちら側に戻ってベルナーゴ神殿の御神体や神器の撤収準備を始める。

 

 

「これより撤退を始める!女子供、傷病者及び民間人を優先的に入れ!」

 

「おい早くしろ」

「押すな押すな!」

 

 

一気に押しかけてパニックになりかけたが、帝国兵たちが規律を維持してくれたおかげでなんとか最悪な事態は免れた。

 

とは言え、車が入れる程度の大きさの門なので、1万はくだらない人数を通すのにはかなり時間がかかりそうである。

 

そして群衆は列を成して進んでゆく。

 

怪我人の中にピニャもいた。

 

 

「あ……う……」

 

 

まだ身体に負担が残っているらしく、言葉らしい言葉を発することは出来なかったが、手を軽く伸ばした。

 

 

「陛下、よく頑張りました。我々も後で行きますので先に休んどいてください」

 

 

加藤はピニャの手を優しく包むと、優しく腹の上に置いた。

 

そしてハミルトンやそのほか帝国の騎士団などの従卒たちとともに門をくぐる。それを見た他の者もどんどん入ってゆく。

 

 

 

「戦える者は最後の踏ん張りを見せつけろ!敵を絶対に通すな!なんとしても皇帝陛下をお守りしろ!」

 

 

グレイも剣をとって帝国兵を鼓舞する。

 

 

「誰かが言ったような言ってないような……撤退こそ戦術の基本にして奥義。機を誤れば敗走または包囲殲滅。功すれば万人の命を救い再起の機会を与える」

 

 

加藤は拳銃の弾倉を込めると、唯一の出入り口から溢れ出る怪異の足止めに加勢した。

 

 

「この状況なら弾が持つ限り押し留めることができそうだな」

 

 

その言葉通り、怪異たちは狭い階段から降りて攻撃を試みるが、いかんせん狭い通路なので出てきた瞬間に蜂の巣になる。撤退しようにもつっかえて結局ぐちゃぐちゃになる。

 

そのように楽観視したのも束の間、奴らも馬鹿ではなかった。

 

 

「なんだか変な匂いするぞ……それに足元が湿ってきてる」

 

「……火攻めだ!」

 

 

加藤が叫ぶのと同時に当たり一面が火の海になる。

 

 

「アチチチチ、アチャー!」

 

 

ジゼルの尻尾に火がついてヒ●カゲみたいになるが、誰も笑えない。

 

 

「消化器持って来い、ガスマスク着用!酸欠になるぞ!」

 

 

閉所で地下なのをいいことに、敵は可燃性の液体を流し込んできた。

 

ただ、道中の怪異ごと焼いているので敵の侵攻はかなり遅らせることができた。

 

そして運のいいことに、戦闘員以外のほとんども既に脱出済みとなった。

 

 

「グレイさん、陛下の元に先に行け」

 

 

加藤はグレイの肩に手をかけ、そう伝えた。

 

 

「貴殿こそ先に行ってください。殿(しんがり)は我々ベテランにお任せを」

 

「そう言うわけにもいかない性根でね。職業病というか、うち(海軍)最高責任者(艦長)が最後まで責任もって部下の撤退を見届ける文化があるわけだ」

 

「しかし……」

 

「案ずるな、俺のわがままみたいなもんだ。それにどんな間違いが起きる?門はすぐそこだし敵も大体抑えた」

 

「わかりました。必ず帰ってきてくださいよ」

 

 

そしてグレイは部下を連れて門をくぐる。

 

 

Fus Ro Dah(揺るぎなき力)!」

 

 

ジゼルがスゥームを発すると出入り口が崩壊した。

 

 

「最初からそうすれば良かったかもな。しかしジゼル、龍語(スゥーム)の出来が良くなったな。さすがアルドゥイン様が見込んだだけあるな。俺にはできない真似だ」

 

「へへ、当たり前だぜ」

 

「ならばさっさとハーディの御神体やら必要な物持って神官と一緒に脱出しろ」

 

「うへぇ、やっとかよ。かなり働いたから後でメシ奢れよ」

 

 

ジゼルは褒められて嬉しかったのか上機嫌だった。

そして神官たちとせっせと御神体を運んで門を潜っていった。

 

 

「カトォ、あとはあんたらだけよ。お先」

 

 

デリラたち亜人とパイパーたちも脱出したようだ。

 

 

「よし、ここは爆破処理して門を通じて敵が来ないようにしろ!」

 

 

そしてあちこちにC-4に設置する。そして崩落した出入り口付近にブービートラップを仕掛ける。

 

 

「さてさて、どれだけ敵を巻き添えにできるかな。ワクワクするぜ」

 

 

加藤はなんだか嬉しそうに仕事を仕上げる。

 

 

「マスターって時々ドS超えてサイコ発言するよな」

 

「ああ、中東での異名は伊達じゃないな……」

 

 

隊員の一部は聞こえないように話す。

 

 

「マスター・カトウ、あとは我々だけです。どうぞ」

 

「先に行け。艦長は最後まで見守る義務があるからな」

 

「ここ(ふね)じゃないですけどね。まあ、お言葉に甘えて行かせてもらいます」

 

 

そして加藤の部下たちも続々と入ってゆく。

全員が門を潜るのを確認すると、門の前に立つ。

 

 

「よし……」

 

 

加藤は退却準備を終えて門に入ろうとした瞬間、後ろから気配を感じた。

気配というか、違和感。

 

もし誰かがいるなら崩落した階段付近のブービートラップに引っかかっているはずである。

 

 

無論、躊躇いもなく拳銃を向けて振り返る。

 

 

「……お前たちは!?」

 

 

 

 

一瞬の油断だった。

 

気づくのが遅かった。

 

認識した時点で、胴体に無数の鉛玉が撃ち込まれる。

 

衝撃と熱が腹部を襲い、体勢を崩しかけたが踏ん張ると同時に大きく踏み込んだ。

 

そして抜刀と切り返しで全員の首を刎ねる。

 

敵は全員青白い灰となり、崩れ落ちた。

 

 

「……そうだよな、迷宮の探索に行かせたきり、消息不明のお前たちが……生きているはずがないもんな……」

 

 

しかしそんな感傷に浸る間も無く、背後から悍ましい気配を感じると同時に耳元から声がした。

 

 

「キットゥ、流石だな。まだ衰えないな」

 

 

加藤は振り向きと同時に刀を振るう。

 

 

この時、この瞬間のためにこれは何万もの振りを振り続け、極めた。

必ずこの一太刀で、確実に敵の、それも因縁の敵の首を一撃で刈り取るだけのために、極めた。

 

 

そして因縁の仇の首を捕らえた。確実に仕留めた。

 

 

……はずだった。

 

 

視界に映ったのは自ら顎の下から噴き出る血飛沫(ちしぶき)の血煙と、()だった。

 

そして奴の手には、先程まで握っていた筈の黒い刀身の刀が握られていた。

 

代わりに、自身の右手には木の棒が握られていた。

 

 

「すり替えておいたのさ!」

 

 

目の前にいるゾルザルに扮した敵は、面白おかしく笑いながら刀身に指を触れる。

 

 

「ほう、黒檀の剣がフルパワー状態じゃないか。やることはしっかりやってじゃないか」

 

(くそ、やはりマオか……)

 

 

声帯ごと切られているので声が出なかった。しかも頸動脈を切られて意識が朦朧とし始めている。脚にも力が入らず、正座の状態で見ることしかできない。

 

 

「しかし君もここまでか。まあ頑張ったんじゃないの、最後は油断したけど」

 

 

加藤も負けじと腹部に仕込んでいた紐を勢いよく引いた。

 

が、何も起きなかった。

 

 

(!?)

 

「ばかな!?って顔してるね。残念だが、二度も同じ手に乗るほど俺も馬鹿じゃない。指向性対人地雷(クレイモア)の起爆装置は予め斬らせて貰った」

 

(二度……こいつやはり……)

 

 

加藤は悔しそうに歯を食いしばりたいが、顎にも力は入らない。

 

ドヴァキン(マオ)は刀の柄で加藤の顎を上げる。

 

 

「いい目だ。あの時と比べるとだいぶ良くなった、かなり多くの死戦を潜り抜けて来たな」

 

 

マオは笑みを浮かべる。そして刀を高く構える。

 

 

「だが、今度はもっと楽しませてくれよ。出直してきな」

 

 

だが加藤は最後の力を振り絞ってC-4を起爆させ、門を閉じた。

 

 

「ふん、それがどうした。どうせ帝都は滅ぼす。お前がある目的のために築いた努力など、無に帰してやる」

 

 

そして加藤の首は刎ねられた。

 

身体は間もなく青白い灰となり、崩れ落ちた。

 

マオはその上を念入りに踏んで何かを探すようにほじくり返す。

 

 

「……」

 

 

小さな黒いクリスタルをみつけと、それを踏み潰して破壊した。

 

だがその瞬間、地面に爪痕のようなものが刻まれた。

 

 

Bel(召喚) Faal(唯一) Drog()

 

 

「……ふ、やるじゃねえか」

 

 

そう呟いた瞬間、超次元より彼が現れた。

 

 

Pruzah(よく) Dreh(やった)!ジョール共、帰ってきてやったぞ!」

 

 

アルドゥインは自身が眷属の魂に刻んだスゥームを使い舞い戻った。

 

ついでになぜか例のタンクローリーも超次元に飲まれていたらしく、アクション映画よろしくなんだか演出のように辺り一面が炎に包まれた。

 





タンクローリー書いといて処理に困ったからアルドゥイン様に対処してもらうとか……終わってますよ。
こんな駄作者を今年も暖かく見守っていただければ幸いです。


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大惨事世界大戦

アルドゥイン「ほう、日本とかいう国では我の幼女擬人化などがあるそうだな……
一段落したら焼き払ってやろう」

たまたま見つけてしまっただけなんですよ。決してそんな趣味ありま……いや、これはこれで……ぐはっ


しかしそれにしてもコロナは収まらんわ、烏克蘭と露西亜も大変なことになっておりますね……



「おい、マジかよ……」

「門閉じちゃったよ」

「カトォってやつ、来てなくない?」

 

 

帝都に帰還した兵士たちに何やら不穏な空気が流れていた。

 

 

「あれ、カトウさんは?」

 

 

魔法科学技術局長のアルペジオが彼を探していた。

 

 

「ねえねえ兵隊さんたち、カトウさんは?弾道弾のデータが欲しいから現地はどんな感じだったか知りたいのだけど」

 

「ええ、彼はちょっと所用で身を隠してます。後で行かせますので」

 

「そう、ではよろしくお願いします」

 

 

J はなんとか誤魔化したが、嫌な予感しかしなかった。

 

 

「まずいな……確かこの場合は死亡した前提で動けと言われたな」

 

「……よし、緊急フェーズに移行しよう」

 

 

ALT 隊員は他の人目を忍んでどこかに消え去った。

 

 

***

 

 

一方、元の世界の東シナ海周辺でも駆け引きが繰り出されていた。

 

 

「総司令、間もなく日本領海です。恐らく敵との会敵率がかなり上がります」

 

日本海軍(海上自衛隊)は恐るべき相手だが、必要以上に恐れる必要はないだろう」

 

「総司令、近くに恐らく敵と思しき潜水艦を探知しました」

 

「早速お出ましか。まあ、奴らは何もできんよ、この艦隊相手だからな」

 

「そしてさらに遠方からも潜水艦と思しきものを探知」

 

「位置は?」

 

「こちらです」

 

「ふむ、手筈の通りだな。米海軍だ、既に何もしないと言質(げんち)は取ってある」

 

「しかし、日米は同盟ですが本当に中立保ってくれますかね」

 

「まあ、その時はその時だ。外交なんぞそんなもんよ」

 

 

遼寧を旗艦とした中国海軍は侵攻を止めなかった。

 

 

 

「艦長、どうしますか?」

 

 

潜水艦『おうりゅう』の中で作戦会議が開かれていた。

 

音響員によれば、大規模の艦隊の感ありとのこと。

到底本艦及び近場の僚艦で太刀打ちできる規模ではない。それどころか日本中の艦隊集めてやっと勝てるか。

 

 

「この状況や動きから見て、日本に圧力をかけているのは明白だな。しかし我々から攻撃するわけには行くまい」

 

「圧力?奴らはやり合うつもりだと思いますけど。しかし、後出しで勝てるわけない。確実にやられますよ」

 

「ああ、そうだ。10年前の彼らならともかく、今の奴らには後出しで勝てるわけがない。しかし、それでも専守防衛の原則を守らにゃいかん」

 

「米国の原潜は?一体全体どこで何してんですかね」

 

「近くにおるよ。だが射程外だがな……最近の情勢からして、多分手は貸さんな。あちらの世界でも一悶着あったし」

 

「日米安保条約とは一体……」

 

 

副長と若手幹部が苦い顔をしながら会話を交わす。

 

皆冷静である。しかしそれでも決定打となる判断ができないでいた。それでも敵勢力は刻一刻と近づいてくる。

 

 

「艦長、敵方向とは反対から2つの感あり、とのことです」

 

「反対方向?本土からの味方か?まだ予定より随分早い気もするが」

 

「いえ、太平洋側からです。それに、音響が我が国の潜水艦、艦艇のどれにも一致しません」

 

「敵か?挟み撃ちにする気か」

 

「いえ、それが……今までのデータベースに全くないものです。スクリュー音、波浪音……どれも米露中、韓国や北朝鮮、その他の国の潜水艦、艦艇のものと一致しません」

 

「なんだと、他に特徴は?」

 

「かなりうるさいですね。まるで旧型の潜水艦を使っているのかと思うほど」

 

「は?」

 

 

それを聞いたある幹部が腕時計で時間を確かめると、艦長に小声で何かを打ち明けた。

 

艦長は何か驚いた様子だが、納得したように頷いた。

 

 

「正体不明の勢力は敵ではないとの情報あり。我々は速やかに離脱する」

 

 

艦長の命令に従い、おうりゅうはゆっくりと後進する。

 

 

「まさか君が例の組織の協力者だったとはな。分隊長、後でたっぷりと事情を聞かせてもらうぞ」

 

「ええ」

 

 

艦長は誰にも聞こえないように静かに呟いた。

 

 

「アンノウン1、アンノウン2からアクティブソナーです!」

 

「今どきアクティブソナー打つなんてな。まあ、あの雑音なら打たなくてももうバレてるだろうけど」

 

「連続で打ってます……これは、モールス信号です」

 

「何と言ってる?」

 

「『コールサイン、我、ゴジラ』、『同じく、ガメラ』です。日本語で打ってます」

 

 

それを聞いた幹部の一人が吹き出す。

 

 

「連中、ふざけてるな」

「ああ、ガメラなら飛んでこいよ」

「え……そっち?」

 

「まもなく、コールサイン、ゴジラ、ガメラの両艦が通過します!」

 

 

おうりゅうの両隣を挟み込むように謎の潜水艦が通り過ぎていった。スクリュー音やエンジン音が直で聞こえるほど近くを通り過ぎていったようだ。

 

 

「……やり合うつもりか?」

 

 

おうりゅうの艦長は見守るしかできなかった。

 

 

一方、中国海軍の方も既に謎の艦については補足していた。

 

 

「ふむ、アメリカや日本の潜水艦ではないな。だが、友軍の可能性も低い……まあ、悪く思うな。本国が現在よろしくない状態でな、予め危険な種は排除しなくてはならない」

 

 

空母遼寧の司令部にいた指揮官は冷静に分析する。

 

 

「日本が秘密裏に建造していたか、例のジパングとやらの仕業だろうな」

 

「総司令、敵の潜水艦よりモールスによる接触あり。『我、新帝国海軍潜水艦のゴジラ、ガメラなり。貴艦隊は早急に日本国領海から出られたい』とのこと」

 

「……無視しろ。潜水艦2隻で我々を止められるとでも思っているのか」

 

「続報です。『なお解答が得られず1分が経過した場合、貴殿を侵攻とみなす』」

 

「バカにしおって、奴らの領海じゃあるまいし。ならば攻撃してみるがいい、いい口実ができるな」

 

「総司令!魚雷発射管の注水音を探知しました!」

 

「ほう、日本と違って口だけではないか。案ずるな、たかだか2隻、我々の総兵力をもてば他愛もない!デコイ用意、対潜戦闘用意!」

 

「敵艦の注水音、止まりました!奴らいつでも撃てる状態です!」

 

「訓練通りやれ、なんの問題もない!」

 

「魚雷発射の感あり!」

 

「撃ってきたか。何本だ!?」

 

「……じゅ、十数本です!正確な数は不明!」

 

「な、何!?そんなにたくさんだと!?ええい、デコイ射出!」

 

「よーい、てい!……射出しました!」

 

「よーし、これで大半は無効に……」

 

「……魚雷がデコイに着いて行きません!妨害電波も出しましたが効きません!」

 

「何だと!?」

 

「この不規則な動き……旧式、しかも第二次世界大戦期の物と思われます!」

 

「今時の潜水艦で誘導なしの魚雷を使っているということか!?英国の原潜コンカラーの真似事か?回避行動を取れ!」

 

「回避行動を取ろうにも、扇状に魚雷が放たれてどこに回避すればいいんですか!?」

 

 

艦内も艦隊もパニックに陥る。不規則に航行する魚雷がより一層思考を混乱に陥れる。

 

 

「総員、衝撃に備え!」

 

 

乗員の各々が衝撃体勢を取る。

束の間の沈黙が訪れる。

 

そして衝撃と共に艦全体が震えた。

 

 

「被害状況知らせ!」

 

本艦(遼寧)への被弾、魚雷3本!内、一本は不発です。被害状況、小破!浸水、火災は小規模であり、制限はあるものの戦闘続行可能です!」

 

「応急処置を行え!僚艦の情報は!?」

 

「駆逐艦1隻大破、戦闘続行不可、沈没の可能性アリ。2隻中破、戦闘力大幅に低下。フリゲート艦1隻小破、戦闘続行可。潜水艦1隻、状況不明連絡取れません。艦隊の全体能力の約20%低下の見込みです!」

 

「ならば今度はこちらの反撃だな。思い知らせてやる。対潜ドローンを出せ!」

 

 

飛行甲板に大型のドローンが速やかに発進し、続々と潜水艦が潜んでいると思われる場所に突入してゆく。

 

 

「そこか……対潜ミサイル(アスロック)用意!」

 

「……総司令、ブロー音がします!」

 

「何、浮上するつもりか?」

 

 

ここにいる者は理解に苦しんだ。艦隊の前で潜水艦が浮上することは、即ち敗北を意味する。

 

しかし、例の潜水艦たちは浮上した。

 

 

「な、何だあれは……」

 

 

中国海軍総司令は双眼鏡に映っている物が信じられなかった。

 

 

「あれは、第二次世界大戦時代の潜水艦じゃあないか!?」

 

 

色々と手を加えられており、改修はされているものの、ミリオタやその手に詳しい者に見せたら大体こう答えてくれる。

 

 

伊四百型潜水艦、大日本帝国海軍が所持していた大型潜水艦である。

 

 

航空機3機を格納し、発艦できる能力は潜水空母などと称されることもあり、現代の戦略核潜水艦の発想に影響を与えたという都市伝説を持つ。

 

全て過去に破棄されたはずのものが、目の前にいるのだ。

 

 

「ぼ、亡霊船か!?」

 

 

乗員の一人がそう叫んだことをきっかけに、艦内の空気が恐怖に包まれた。

 

 

「バカモン、目の前にある艦は亡霊船などではない!現に存在してるではないか。今、こいつがそんなものでないことを証明して化けの皮を剥がしてやる……ドローンの攻撃を開始せよ!」

 

 

付近で待機していたドローンは一斉に突入を開始する。

 

 

「自爆ドローンの味を知るがいい!」

 

 

するとかつて航空機が格納されていたであろう格納筒が開く。

 

そこから現れたのは航空機(青嵐)ではなく、なんとM61 バルカン(CIWS)通称ファランクスである。

 

潜水艦にも関わらず、中から乾いた状態で出てきた高性能レーダーに追尾されたドローンは瞬く間に20mm バルカン砲によって撃ち落とされてゆく。

 

 

「は……はあぁぁぁあ!?」

 

 

一部近代化改修されていた。某擬人化艦娘ゲームもびっくりの旧式艦の近代化改修である。

 

 

(く……まさか格納庫にレーダー類を隠しているとは……考えたな)

 

 

総司令は悔しくも一瞬敵に敬意を表した。

 

 

「た、直ちに総戦力をもって破壊せよ!」

 

 

無人ドローンの数の暴力により潜水艦のバルカン砲の弾は切れた。無論、ドローンも8割ほど失ったが。

 

 

「しめた、対艦ミサイルを叩き込め!」

 

 

しかし詰めが甘かった。

潜水艦は弾切れのバルカン砲をいとも惜しげなく海に投棄すると、なんと後方からもう一つのバルカン砲が現れた。

 

 

「なん……だと?」

 

 

対艦ミサイルが撃ち出されるが、目視可能距離では打ち上がったミサイルは瞬く間に撃ち落とされる。さらに悪いことに打ち出し直後ということもあって発射した艦艇の至近距離で爆発してしまう。

結果、レーダーや電子機器をが損傷するという事態に陥る。

 

 

「バカな、CIWSでこんなことできるわけがない!しかも何だこいつら、まるで無駄や躊躇いがない……」

 

 

総司令は自分で言って違和感を感じた。

 

 

「総司令、やつらかなり接近して来ます!」

 

「くそ、目視で122mm連装砲を叩き込め!」

 

 

レーダー能力などを大きく失った現代戦闘艦の命中率は著しく低下した。

しかしそれでも数発は当たる。

 

だが奴らは当たっても、破損しても接近して来た。

 

 

(まさか……やはりこいつら、恐怖を感じていないのか……それともやはり誰も乗っていないのか?亡霊船なのか!?)

 

「このままだと衝突コースです!」

 

「か、構わん!潜水艦は脆い、衝突してもやられるのは奴らだ!」

 

 

総司令は賭けに出た。敵が人間なら最後の最後で進路を変えるはずである。所謂チキンレースである。その時に火力を叩き込んで倒すと決めた。

 

 

(さあ来い……どうせ避ける……例えカミカゼ(自爆)攻撃だとしても、そう被害は大きくない……きっと)

 

 

そう意気込んだが、妙に胸騒ぎがする。この選択肢が本当に合っているだろうか。何かが引っかかった。

 

なおも中国艦艇は射撃を続ける。

潜水艦はあちこちに穴を開けながら全速力で突っ込んで来る。

 

 

(な、なぜだ……なぜ避けぬ!?もう衝突回避できんぞ!死ぬ気か?本当にカミカゼか!?)

 

 

冷や汗が額から頬を伝って顎から落ちる。

首筋や胸元の汗はシャツに吸い込まれる。

 

 

「ぜ、全艦隊回避行動取れぇぇ!」

 

 

総司令の命令により艦隊が回避行動を取る。

しかし予定外の命令により僚艦でぶつけ合い、パニックになる。

 

そして旗艦と遼寧は例の潜水艦たちに挟まれるように接触する。

 

遼寧に衝撃が走るが、大きなダメージを受けるほどではなかった。

無論、潜水艦の方はもっと深刻なダメージを負ったが。

 

そして潜水艦はそのまま潜航し、消息を絶った。

 

 

「……被害状況知らせ」

 

「詳細は不明ですが、現在の戦力は元の50%程度です」

 

「……そうか。このままでは日本とは戦えんな。全艦、帰投せよ」

 

「元の軍港でよろしいですか?」

 

「……いや、自国領海でしばらく待機だ。軍港に戻ったところでまだ騒ぎが治まっていないしゾンビもどきがウヨウヨしてるからな」

 

「ところで総司令、一つお伺いしてもよろしいですか?」

 

「何だ?」

 

「最後の最後で、奴らとの接触を避けましたが、何か危機を感じとったのですか?」

 

「日本の怪獣、ゴジラを知ってるか?」

 

「ええ、まあ。今や世界でも人気ですし」

 

「あのコールサイン、そして近代化改修……もしあの潜水艦たちが、接触して来ることを望んでいたら?」

 

「……あ、もしかして奴らは原子力に換装してると?」

 

「絶対とはいえないが、もしそのようなカラクリを仕込んでいたら我々は今頃魚の餌だな」

 

 

そして艦隊はゆっくりと立て直し、来た方向へと進んで行った。

 

 

 

「……艦隊が離れて行きます」

 

 

おうりゅうの音響員が幹部に報告する。

 

 

「助かったな……」

 

 

幹部たちは胸を撫で下ろす。

 

 

「例のゴジラとガメラとかいう不審潜水艦たちは?」

 

「海溝の方に潜航後、追跡出来なくなりました」

 

「……ここの海溝は我々でも潜りたくない場所をか。無事だといいが」

 

「『あのゴジラが最後の一匹とは思えない。

人類が今後も核実験を続ける限り、

第二、第三のゴジラが現れるかもしれない』」

 

「艦長、いきなりどうしました?」

 

 

副長が驚いたように尋ねる。

 

 

「初代ゴジラの映画の終わりの言葉だよ。恐らく、今回の件で例の新帝国は海軍を有することが分かった。しかしその規模は未知数、あれだけかもしれないし、それ以上いるかもしれない。

例え先程の潜水艦が二度と浮上しなくても、第二、第三と来るかもな。それを相手と、我々(日本)に知らしめたのだろう」

 

 

そう呟くと電報が届く。

 

 

「……北方領土付近のロシアも引いたようだ。どうも我々同様、謎の潜水艦が追い払ったようだ」

 

「……コールサインは今度はモスラやギドラですかね」

 

「……ウルトラマンだそうだ」

 

「「ブフォ!?」」

 

 

幹部の何人かがエナジードリンクやコーヒー吹き出した。

 

 

そして少し離れた海域では、米海軍原潜のシーウルフではこんなやり取りがされていた。

 

 

「中国から何もするな、と牽制された時はどうなると思ったが、命拾いしたな」

 

「ああ、全くだ副長。もし中国に加勢していたら我々もやられていたな」

 

「……国防省から何があっても加勢は絶対するな、と言われたがこういうことだったとは」

 

「国防省にも協力者がいる、ということか」

 

 

彼らはコーヒーを(すす)ると、報告が上がる。

 

 

「……どうやら我々のすぐ後ろで待機していた謎の潜水艦も立ち去ったようだ」

 

「新帝国か、日本か?」

 

「さあな。これ以上首突っ込んで死にたくないからな、今日は帰るぞ」

 

 

***

 

 

かつてベルナーゴ神殿があった中心部で大規模な爆発が起きた。

 

そこはかつてベルナーゴ神殿の最深部であったが、そこが膨大なエネルギーの膨張に耐えられずまるで隕石が落ちたかのようにクレーターとなっていた。

 

そしてそこの中心には漆黒の龍が浮いていた。

 

 

 

「アルドゥイン、また君か。しかし私はもう飽き飽きしてね、世界を滅ぼすことにしたよ。どうせ君では私に勝てないしね」

 

「ふむ、それは困るな。非常に困るな……我の世界を壊すとは、気に入らないな」

 

「で、気に入らないならどうするんだい?」

 

「そうだな、まずは貴様を止めるとしようか」

 

「ほう、どうやって?僕の方が圧倒的に強いのに。そこらへんの雑魚(怪異)でも食って強化しするつもりかい?」

 

「はっ!そんな食べかすのような魂食ったところで腹の足しにもならんわ。その雑魚がジョールを殺すことの方が我にとって魂の補給となるわい!」

 

「それを聞いて安心したよ。やはり君はドヴァだね。てっきりジョールの味方になったかと思ったじゃないか。かつての我が師、お人好しのパーサナックスのようにね」

 

 

嘲笑うかのような表情だが、一瞬哀しそうな目をしたのは気のせいだろうか。

 

 

「我も無策で貴様に挑むわねではないぞ」

 

 

するとアルドゥインは自身とドヴァキンを転移させた。

 

 

「ここは……オブリビオンでもエセリウスでもない……何だこの空間は?」

 

 

ドヴァキンはあたりを見渡す。地球やニルンの大自然のような感じだが、(せい)を感じなかった。まるでバーチャルの空間であった。

 

 

「さあな、我も見当つかぬ。まあ、我が造ったのだが、名も無き世界(Vomindok Lein )、とでも呼ぼうか」

 

「ふーん、それで?君の有利な領域(フィールド)なら勝てると言うことかい?」

 

「我の領域(フィールド)?くく……そんな単純なものではないぞ。それに我が有利になったところでそれに何の価値がある?」

 

 

アルドゥインは笑みを浮かべる。

 

 

「この空間はありとあらゆる、Tiid(時間)Suleyksejun(空間)に関する能力を失効させる」

 

「ほう?」

 

「つまりだ、貴様の()()()()は出来なくなる。まあ、我についても同様だがな」

 

「なるほど、一度きりと言うわけか」

 

 

ドヴァキンは少し思考を巡らせる。

 

 

「くくく……つまりお互いに小細工なしの実力勝負というわけか。乗ったよ、その手に乗ってやるよ」

 

 

ドヴァキンは全く怯んでいなかった。

 

 

「さんざん考えてこれか。少々ガッカリだな」

 

「なにぃ?」

 

「君は無策ではない、と言ったね。実は僕も無策ではないんでねえ」

 

 

ドヴァキンは剣を抜いてポーションを飲み干す。

 

 

「空間の制約受けるから無限ポーチが使えないのは痛いね……異次元に結構面白いオモチャを用意していたのに、残念だな。

でも、それくらいのハンデがあってもいいね」

 

 

(おかしい……なぜ此奴は全く余裕なのだ?)

 

 

アルドゥインは理解できなかった。しかし、分かったことが一つある。

 

 

「行くぞ龍の王(アルドゥイン)……魂の保有は十分か?」

 

 

こいつ、廃人だ。

 

 

***

 

 

ファァァァァッ●(クソがー)!!」

 

*チュドーン*

 

 

アメリカのとある施設が大爆発を起こした。

幸い、人的被害はない。まさに奇跡だが。

 

 

アメリカに限らず、各国の軍事拠点やら生産工場がゲリラ的に故障やら事故やらが相次いだ。人為的に起こされてるのでは、と思うほどに。

事実、人為的に起こされているのだが。

 

規模は大きくないものの、中枢やら重要拠点が狙われ、復旧に手間取っていた。

 

しかし防犯カメラや、その他調査では誰も侵入した痕跡はなかった。

ただ、噂では銀座の(ゲート)のようなワームホールの小型版から手榴弾や即席爆弾が投げられたような噂が飛び交っていた。

 

各国政府は緘口令やらで情報統制を試みたが、情報社会の現在では実質不可能だった。しかも情報統制したせいで政府は何か隠している、これは政府の自演だ、などと陰謀論まで出る始末。

 

加えて、外交カードとしてあらぬ容疑で拘束されていた日本邦人やらがいつのまにか釈放されていて本国にいつの間にか送還されている事案も多発していた。

そして彼らは口を揃えてこう言う。

『現地警察に拘束されたと思ったら、某猫型ロボット漫画の通り抜け●ープみたいなのが現れて黒ずくめの何者かに拉致されて気づいたら日本にいた』

 

……という怪奇現象をテレビで伊丹たちは見ていた。

 

 

「これ絶対門と同じ技術だよ。ワープしてないと無理じゃね?」

 

「多分そうだと思う」

 

「マジかよ。レレイ、同じ世界に門は一つしか開通できないんじゃなかったのか?」

 

「そのはず……」

 

 

ポーカフェイスのレレイも困惑を隠せなかった。

 

 

「ああん、もぉう!世界をめちゃくちゃにして、野郎(加藤)ぶっ●してやる!」

 

 

ロゥリィはいつもより荒ぶっている。

 

どうも出動命令停止によりご褒美(戦闘)がお預けになっていることがさらに追い討ちをかけている模様。

 

 

「しかし、恐ろしいことになったな。これでは奴らは神出鬼没だぞ。下手すれば我々のすぐ隣にも来れるぞ」

 

「ええー、それ日本で見たゴキ●リっていう気持ち悪い虫みたいで嫌よ!」

 

 

ヤオが不安そうに呟くとテュカが例の虫を思い出して身震いする。

 

 

「……あいつが門の技術を持っていたことはブラフじゃなかったということか」

 

「それにしてはおかしいわねぇ、持っていたらさっさと使えば良いものを。なんで今更かしらぁ」

 

「……何か使えなかった理由(わけ)があったとしか思いませんわ」

 

「セラーナもそう思う?」

 

「もしかして持っていなかった技術をなんらかの形で手に入れた、だから今使っていると思う」

 

 

レレイが思考を巡らせて答えを出す。

 

 

「そもそも門は同じ世界同士を繋げれるのはひとつだけ。二つ以上になると世界への負荷がとんでもないことになる」

 

「レレイの言う通りよぉ、ただでさえ今世界がずれているのに2個も3個も門を繋げれば地震どころが星が崩壊するわよぉ」

 

「ええー、マジか。嫌だよそれ、来年のコミケ行けなくなるじゃねえか」

 

「……まったく耀司ったら」

 

「ただ、仮説だが不可能ではない」

 

 

レレイがまたぽつりと会話を続ける。

 

 

「まずそもそも門の生成技術が異なる可能性。これが一番可能性が高い。そしてもう一つ、別の世界を経由して門を開いていること」

 

「「は?」」

 

 

一同はレレイが言ってることに一瞬戸惑う。

 

 

「本当にあくまでも仮説や推測の域ではあるけど、こちらの世界→第三の関係ない世界→耀司の世界、と間接的に行えば私たちの門の技術でも不可能じゃないと思う」

 

「そ、そんなことしたら第三の世界も巻き込んじゃうじゃない!」

 

 

ロゥリィが机を強く叩きながら怒り驚く。

 

 

「世界の関係がよりおかしくなるか、分散されるか、それは分からない……あくまでも仮説だから」

 

「うへぇ……本当にまずいことになったな。いつもみたいにこっそり抜け出して……」

 

「伊丹2尉、その必要はないぞ」

 

「げっ、……じゃなくて狭間陸将」

 

 

伊丹は急いで敬礼する。

 

 

「安心しなさい、今のは聞かなかったことにする。それどころか、むしろお願いしようか迷っていたところだ」

 

「え、俺が抜け出すことをですか?」

 

「言い方は悪いが、半分間違ってはいない。まあ、要するに命令なき命令、ブラックオプス(非正規作戦)というやつだ」

 

「ええ……要するにまた私が勝手にやったと」

 

「まあそういう体で動いてほしいわけだ」

 

「……詳しくは聞きませんけど、狭間陸将が直接いうくらいですから今かなりやばい状況という認識でよろしいですか?」

 

「……ああ。北方領土及び東シナ海での事案は取り敢えず終了した。しかし今度はまた国内外での例の摩訶不思議な怪奇現象が起きている。まだ被害はないが、いつ日本にもそのようなことが起きるか分からん。なので戦力の半分は本国に戻さなければならない」

 

「半分も!?」

 

「警察だけでは既に対応が一杯だ。万一のためにも我々も警備しなければならんことになった。なので君たちはには先遣隊として動き、敵の情報を得ること。そして残された部隊で任務遂行可能な方法を模索してくれ」

 

「しかし、なぜそんな急いでいるんですか?本国の件が安定してからこちらに本腰入れても……」

 

「時間がないのだ……これは公安ととある情報からだが、(加藤)は新帝国に対してクーデターを起こすつもりらしい」

 

「え?何で、自分が支援していた国を?」

 

「そう、合理的に考えてなぜそんなことをするかわからんが、証拠もある。公安の協力者が盗聴したものだ」

 

 

そして狭間はボイスレコーダーを起動する。

 

 

『必要あらば……ピニャを消し……ここの覇権を得る……問題な……』

 

 

所々切れて聞きづらいが、確かに加藤の声である。

 

 

「これを一体どこで……?」

 

 

伊丹は空いた口が閉じなかった。

 

 

「つい先程、イタリカの領主のミュイという少女が従者と共に保護された。彼女が現地で偵察活動をしていた者から避難の際に託されたのだとか」

 

「ええ、ミュイさん大丈夫ですか?」

 

「うむ、少しやつれていたが健康状態等異常ない。しばらくは日本で保護するそうだ。確か外務省の菅原某のところで保護されているシェリー嬢が言って聞かなかったらしいぞ」

 

(そうか、無事だったか……良かった)

 

 

伊丹はミュイの無事に安堵した。

 

 

「ハザマ!私たちはぁ、いつ出発すればいいのぉ!?」

 

 

ロゥリィが何だがヤル気満々で聞いてくる。

 

 

「できればすぐにでも……」

 

「耀司、聞いた!?今すぐよ、今すぐ!さっさと準備してあの野郎(加藤)ぶっ●してついでにピニャを救うわよぉ!」

 

「ついでって、ピニャの扱い酷くない!?」

 

「今まで多めに見たけど流石に我慢の限界よぉ。ぶっ●して魂をハーディのところに送ってやるわ!」

 

 

***

 

 

菅原邸にて

 

 

「ミュイ様、いい加減お泣きになるのはおやめくださいまし。花のように可愛らしいお顔が台無しですわ」

 

 

シェリーはミュイに寄り添うように話しかける。

 

 

「私、聞いてしまいました……彼が、この国はまもなく俺たちのものになる、って……そうしたら、ピニャは用済みだって……」

 

「ええ、辛かったですね。大丈夫ですよ、もう怖くないですよ」

 

 

壊れたラジカセのように同じことを繰り返し嗚咽を漏らしながら呟くミュイの背中を優しくさすった。

 

 

「……じゃないとイタリカが……」

 

「イタリカがどうしましたの?」

 

 

ミュイはしまった、と言わんばかりの表情をして口元を抑える。周りに聞こえていたたは思っていなかったようだ。

 

 

「ミュイ様、落ち着いてくださいまし。ここには貴方の味方しかおりませんわ。何かあったのか、教えてくれませんか?」

 

「い、いやあ……いつも見ていると言われた……」

 

「ミュイ様」

 

 

シェリーはミュイの顔を両手で捉えて瞳を真っ直ぐと見つめる。

 

 

「怖いのは分かります。でも真実を話さなければ、もっと悪いことが起きることもありますのよ?」

 

 

ミュイはそれを聞いて安心したのか、それとも観念したのか、断片的に話し始めた。

 

 

「さっきの言葉をひたすら話すように、言われましたの」

 

「さっきの、って例の陰謀のことですの?」

 

 

ミュイはシェリーの問いに無言で頷く。

 

 

「さもなくば……イタリカを破壊すると言われました」

 

 

ミュイの声は再び鼻声になり、嗚咽を漏らす。

 

 

「まあ、酷い!一体誰に……?」

 

「例の、加藤(なにがし)……」

 

「え……?つまり、加藤某に、自分は国を乗っ取り、ピニャ様を消すつもりだ、と言いふらせと?」

 

 

ミュイは小さく頷く。

 

 

「じゃあ、ボイスレコーダーを渡したのも……」

 

 

ミュイ躊躇いながらも、無言で頷いた。

 

シェリーは頭に雷を受けたような衝撃と、背筋にツララが刺さったような寒気がした。

 

 

(い、意味が分かりませんわ……ただ、これはすぐにでも報告しなければ……!)

 

 

この内容を菅原にでも伝えようと立ち上がった途端、後ろから気配を感じた。

 

ミュイと共に保護されたヴォーリアバニーのフォルマル家専属メイド、マミーナだった。

 

 

「シェリーお嬢様……!」

 

 

マミーナは土下座をするが如くシェリーの足に縋り付く。

 

 

「お願いです!まだこの話は内密に……どうかご内密に!」

 

「し、しかし……」

 

「ミュイ様は、脅されているのです……これを口外すれば、イタリカを消し去り、ミュイ様を亡き者にすると……!」

 

「え……」

 

 

マミーナの肩は震えていた。

 

 

「あの男は……やります!本気でやります!イタリカを、フォルマル家を、そしてミュイ様も消し去ってしまいます。どうか、ミュイ様のためにも、この件はご内密に……どうかお慈悲を!」

 

 

シェリーはただならぬ雰囲気に飲み込まれてしまい、どうしたら良いのか分からなくなってしまった。

 

 

***

 

 

「妾は……無事なのか」

 

 

ピニャは呼吸停止までいったが、命に別状はないとの診断を受け、現在安静にしていた。

 

 

「ここは、新帝都か」

 

「ええ、ご安心ください。敵はここにはおりません」

 

 

グレイが隣で声をかけた。彼も全身に怪我を負っているらしく、包帯がない場所の方が少ないほどだ。

 

 

「……撤退は、成功したのか?」

 

「はい、非戦闘員の8割、戦闘員の2割ほどが無事脱出に成功しました」

 

「……ということは残りは……」

 

「残念ながら……」

 

 

それ以上は聞かなくても分かった。戦闘で八割を失うことは壊滅したも同様。残りの帰還した二割も傷病者がほとんどである。

 

 

「だが、ここで止まるわけにはいかんだろう。敵はこちらを攻めてくるはずだ……くっ!?」

 

 

ピニャは立ち上がろうとするが足どころか全身に力が入らない。

 

 

「陛下、ここはこのグレイにお任せを。陛下はしばしご休憩あそばせ」

 

「しかし……」

 

「ハミルトン殿、ピニャ陛下が安静するよう頼みましたぞ」

 

 

そしてグレイは将兵の指示に動き出した。

 

 

「流石だ、グレイ」

 

 

ピニャは安堵したように微笑む。

 

 

「しかしハミルトンよ、なんだかよそよそしいが何かあったか?」

 

「ええ!?え?その……何というか」

 

 

「ぬうぁにぃ!?妾の唇が奪われた?あの(加藤)に!?」

 

「ピニャ様、落ち着いて!ちょっと違うのです……」

 

「違う?何が違うのだ!?もしかしてあれか、唇どころか妾の(みさお)をも奪われたのか!?妾が気を失っている間にか!?これはいくら彼奴でも大逆罪だ、死刑だ!こんなことが許されていいのはあの薄い芸術品だけだぞ!もっとことの経緯を詳しく申せ!」

 

 

なんだが違う意味でも興奮していらしている模様。

 

 

「あ、うん……救命措置として例の王子の接吻(人工呼吸)したのだな……それも薄い膜越しに……」

 

 

ことの経緯を聞いたピニャは幾許(いくばく)か冷静さを取り戻した。そして先ほどの自分の発言と行動を思い出しては顔を赤らめた。

 

 

「という事は、妾はまだ純潔なのだな?」

 

「ええ、おそらくきっと……」

 

「そうか……」

 

 

ピニャは咳払いをする。

 

 

「しかしだ……膜越しとは言え……やはり何か思うどころがあるな」

 

「ピニャ様も、そう思いますか?」

 

「うむ、一線を越えないギリギリという、いわゆる焦らしというやつか」

 

「ええ、これは焦らしかと……」

 

「皇帝たる妾の純潔が守られたのは良しとしやう。だが無意識のため貴重な経験の機会を失したのは歯がゆいな。ハミルトン、再現してもらうぞ!」

 

「ええ!?ピニャ様、私はそのような趣味は……」

 

「ハミルトン、許せ!妾にもそのような気はないが、知らなければならないのだ」

 

 

ピニャは強引にハミルトンの唇に膜状の人工呼吸器をつける。

 

 

「い、いくぞ!」

 

「ピ、ピニャ様!?」

 

 

とこのようにうらやまけしからん関係に発展しそうになったが、誠に遺憾ながらも警報によって中断を余儀なくされる。

 

 

『緊急!戦闘員は手に武器を持て!』

 

 

***

 

 

銀座事件から約3年前、太平洋のどっかの無人島

 

 

「いやはや、やっと見つけましたよ」

 

「日本人か。お前さんのような若造がこんな辺鄙な無人島に来るとはどういうことかのう」

 

「ご老人、貴方も日本人じゃあないですか」

 

「ふん、ワシはお前さんの日本とは違う日本じゃ。んで、なぜこんなところに?」

 

「祖国の土を踏めなかった名もなき英霊たちの供養、とでも言いましょうか」

 

「……なんのことだ?」

 

「お爺さん、とぼけちゃいけませんよ。表には出ないが太平洋のど真ん中で不審船や幽霊船の話が出てくる。いきなり出ては消える、不思議とは思いませんか?」

 

「ワシはしらんぞ、何も知らんぞ」

 

「私は独自で調べましてね、大日本帝国海軍の潜水艦じゃあないか、仮説を立てて調べたら色々と辻褄が合うんですよ。ねえ、島本大佐」

 

「……なぜその名を」

 

「士官名簿、乗員名簿などで確認したまでですよ」

 

「んな馬鹿な」

 

「では、もっと率直に言いましょうか。草加拓海少佐をご存知ですか?」

 

「ああ、知っているだけだが」

 

「彼からの伝言があります」

 

「何を馬鹿なことを。彼は死んでいる筈だ、大戦でな」

 

 

しかし男は老人の手を優しく取ると、手のひらにトン、と指を軽く叩く。

 

 

「……なぜ知っている」

 

「なぜって、本人から聞いたからですよ」

 

「ありえん……」

 

「まあ、世の中不思議が多いですからね」

 

「あれは、渡さん」

 

「どうしてもですか?報酬は相応払いますよ」

 

「金の問題ではない!」

 

「知ってますよ。貴方が欲しいもの……果たせなかった任務でしょう?」

 

「お主ら、戦争でもおっ始めるつもりか?」

 

「……戦争は、始めるものじゃない。起きるものですよ」

 

「……ついて来い」

 

 

老人は男を洞窟まで案内する。

 

 

「お主が欲しいものは、これじゃろ」

 

「……素晴らしい。予想以上に保存状態がいい」

 

 

洞窟にはイ四〇〇型潜水艦が2隻、保管されていた。

 

 

「整備もしてある。最後の整備から20年ほどだが、保存状態は維持しておる。満ち潮になれば動かせるだろう。もっとも、今の平和な世のたるんだ若造たちに乗りこなせるか分からんが」

 

「先輩、心配ご無用。愛が有れば大丈夫ですよ」

 

「そこは大和魂じゃろがい。しかしまあなんでこんな古臭いものなんぞ……」

 

「新旧の問題じゃない。とにかく絶対に足がつかない潜水艦が早急に必要でしてね」

 

「ふーん。まあワシには関係ないことよ」

 

「今日のところはお(いとま)します。一緒に帰ります?」

 

「心配なさるな。ワシはここで骨を埋める、帰っても惨めな思いするだけじゃ」

 

「左様ですか、ではごきげんよう」

 

「ところで若いの、名は何という?」

 

「……元海軍大尉、加藤蒼一郎の孫の加藤蒼也、ということになっております」

 

「そうか……頼んだぞ。先人たちの大和魂見せつけてやれ」

 

「……」

 

 

しかし加藤は返さなかった。そしてポツリとつぶやいた。

 

 

「いや、大和魂では無理だな。必要なのはAI(人工知能)だ」

 

 

***

 

 

加藤はよくあるアニメよろしく、目覚めると病院の天井のようなものを見上げていた。

 

病院ではないが、間違いでもない。

 

目覚めた場所が霊安室みたいなものだが。

 

 

「おいそこのマスター、やっと目が覚めたか」

 

 

オクトパスこと、カールが顔を覗き込んできた。

 

 

「よく眠れたか?」

 

「最悪だ。最近よく昔の夢を見る。身体が重いな」

 

「そりゃ馴染むまでしばらくかかるだろう。まあ忌むべき方法だからなあ……」

 

「全身が痛い……鏡貸せ……」

 

 

加藤は手鏡で自らの顔を見る。

 

 

「んー、悪くないけど、もうちょいカッコよくしても良かったんじゃねえの」

 

「文句言うな。それでも大成功だ、こんな器具しかないところではな」

 

「もうちょい傷は隠して欲しかったな」

 

「へいへい、次はそうしますよ」

 

「ところで、状況は?」

 

 

加藤は戦闘服に着替えながら尋ねる。

 

 

「オペレーション・ドコデモドアは既に遂行中だ。しばらく時間稼ぎできるぞ」

 

「そうだな、最終仕上げといくか。その前に、一本寄越せ」

 

 

オクトパスはタバコを加藤に咥えさせると、火をつける。

 

 

「……禁煙家のあんたがタバコを吸い続ける必要がおるとは、なんとも皮肉なもんだね」

 

「ああ、だがこれがないと発狂するな、きっと。保存状態はいいとはいえ、僅かな死臭が常に付き纏うんだからな」

 

「同情するよ、そんな身体にされて」

 

「半分望んでやってるもんだからな……」

 

「しかし、背中の傷跡というか、獣に引っ掻いたような跡が痕があるのだが……その身体にそんなものあったか?」

 

「……あー……、新しい身体になっても主との契約というか呪いというか祝福というか……残るだな……」

 

「??」

 

「あ、気にし出さないでくれ。独り言だ、こっちの話だ」

 

 

そして吸い始めて間もないころ、警報(サイレン)が唸った。

 

 

『緊急!戦闘員は手に武器を持て!』

 

 

***

 

 

「くっ……これでもだめか!?」

 

「アルドゥイン、まあ楽しかったよ。でも終わりにしようじゃないか」

 

 

アルドゥインの身体が崩壊し始めた。初めてドヴァキンに倒された時のように外殻が崩壊し、本体の漆黒の影が(あら)わとなる。

 

 

「くくく、こんなこともあろうかと逃走経路は既に確保しておるわ!」

 

「ほう、負けることを想定していたと。アルドゥイン、君は何だが小物臭がしてきたぞ」

 

「勝てば良いのだ、最終的に我が勝てば良いのだ!ではさらば!」

 

「……残念だけど、その最終が今回なんだわ。そして、その最終で君は敗北するのだよ」

 

 

ドヴァキンはそう呟くとアルドゥインの魂は見えない大きな力で拘束された。

 

 

「な、何なのだこれは!?一体何をしたのだ!」

 

 

そしてアルドゥインはドヴァキンの方を見ると、驚愕した。

 

 

「き、貴様……なぜそれを……なぜ()()がここにあるのだっーー!?」

 

 

ドヴァキンの両手には大きな巻物が広げられていた。

 

 

「この星霜の書(ジ・エルダー・スクロール)のことかい?」

 

 

ドヴァキンは不敵の笑みを浮かべる。

 

 

「この世界にないからね、僕が作ったのさ……さしずめ、『名もなき書』と言ったところかな」

 

「作った、だと!?」

 

「まあ厳密には違うけど、同じようなもんさ。先程は僕も無策ではないと言ったよね?これのことさ。勝っても君の魂を頂けないのはちょっと癪でね……だから、強制的に僕のご馳走になってもらうよ」

 

「やめろ、ドヴァキン!」

 

 

しかしアルドゥインの悲痛の声も虚しく、断末魔を上げる暇もなく吸収されてしまった。

 

 

「……こんなものか?」

 

 

ドヴァキンは自身の身体から流れ出る力を感じていたが、そこまで驚くような感覚はなかった。

 

 

「つまり、私の力が圧倒的に上だったということかな。まあいい、この世界をぶっ壊すか」

 

 

ドヴァキンは名もなき世界から難なく脱出した。

 

 

***

 





ゴジラ、ガメラの件……

ゴジラ出したいなあ
読者のコメントでゴジラ出したい欲上がる
でもゴジラはなあ……オーバーキルだなあ
やっぱり出したいなあ
イ400潜水艦出そうな。
そーだ、昔潜水艦はドンガメとか言われてたっけ
亀だからガメラ。
ガメラガメラ……よし、ゴジラもだしちゃる
これだぁぁあああ
イマココ

すみません。


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俺じゃなきゃ死んでるね

変態おまたせ……じゃなくて大変お待たせしました。


亀更新ってレベルじゃねえぞ!
もはやカタツムリ更新だよ。
いや、カタツムリに失礼だよ!

ほんとすんません。リアルの方も忙しくなってまして←言い訳。

しかしまだ読んでいる方がいるので意地でも終わらせたいです。



 

「最近変わった本が流行ってる?」

 

 

駒門は訝しい顔をする。

 

 

「ええ、内通者(協力者)のデリラたちによれぼ、特地では変わった本が流行っているとか」

 

 

公安の分析官が報告する。

 

 

「それは、アルヌスや帝国領、その他地域でもか?」

 

「その他地域に関しては未調査ですが、アルヌスでは日本が奪還した時点で地域住民で既に流行っていた模様です。帝国領では最近流行り始めたとか」

 

「どんな本だ?プロパガンダ本か?」

 

「いえ、絵本だそうで」

 

「絵本?しかしなんで急に絵本なんかが……」

 

「恐らくですが、識字率を上げるために本を配ったのでは、と言われてます。配られた本の殆どが子ども向けの絵本です」

 

「ふーむ、意図はよう分からんが、奴ら(加藤)もそれなりの統治をしようとしているのか。で、どんな本が出されているのか?」

 

「主に現地のおとぎ話をわかりやすくしたものや、我々の『白雪姫』、『桃太郎』など童話が多いですね」

 

「ざっくりでいいから、何がどれくらい流行っているとか調べてくれ」

 

「既に簡易的なものはできてます」

 

「仕事が早くていいねえ」

 

 

駒門はサッと目を通す。

 

 

「この『龍と悪魔と姫』という本が流行っているみたいだが、どんな本だ?」

 

「まだ未調査ですが、すごく簡単に説明すると、一国の姫が龍とともに悪魔を倒してめでたしめでたし、と言った感じらしいです」

 

「まあよくあるおとぎ話か。引き続き調査を頼む、何か分かれば連絡を」

 

 

***

 

 

暗い城内廊下を少数の兵士が警戒しながら進む。

 

 

(おかしい……ベルナーゴから陸路では馬を使っても数日はかかる……怪異がここにいないはず……)

 

 

グレイは先の戦いで満身創痍にも関わらず身体に鞭打って哨戒に当たった。

 

 

(……まさか間者(スパイ)か?しかし警報とは少しやり過ぎな気もするが)

 

 

グレイは嫌な予感がした。

 

城内の薄暗い通路を少数で進んでゆく。

 

 

(血の匂い……)

 

 

普段使わない地下通路だが、すぐ異変に気づいた。

そこには数名の兵士の無残な姿があった。

 

 

「どうした、何があった?」

 

 

かろうじてまだ息のある兵士に問いかけた。

 

 

「く……か……う、うさ……」

 

「うさ?」

 

 

しかしそれを言い終わる前に事切れた。

 

 

「グレイ隊長!生存者らしき者がいます!」

 

 

支給されたライトを向けるとそこに真っ白な肌に真っ白な髪の少女らしき者がうずくまっていた。

しかも衣服を身に纏ってなかった。

 

 

(子ども?なぜこんなところに)

 

 

グレイは嫌な予感がした。

 

 

「君、大丈夫か?」

 

 

兵士の一人が手を差し伸べる。

 

 

「待て、そいつに触れるんじゃあない!」

 

 

その者にはウサギのような耳があった。

 

 

 

 

「しかし起きて早々トラブルとは。ついてないね」

 

 

加藤は歩きながらあたりを警戒する。彼も城内の通路を捜索していた。

急だったので上下ジャージ姿に拳銃を構えていた。

 

 

「まあリハビリだと思って動けばいいじゃねえか」

 

「それもそうだな、身体を鳴らすのにちょうどいい」

 

「マスター、前方に人型(ヒューマノイド)と思しき者がいます。いかがなさいますか?」

 

 

見ると肌が白い子どもがフラフラと歩いていた。

 

 

「……怪しいから排除」

 

「正気ですか?」

 

「何か問題でも?」

 

「……了解」

 

 

隊員の数名が銃を構える。

 

しかしそれに気づいた相手は恐るべきスピードで突進してきた。

 

 

「っ!?てっー!」

 

 

銃口から火が吹く。しかしジグザグに動き、壁や天井を器用に跳び回って射線をかわしながら接近してきた。

 

そして相手の射程距離にまで接近を許してしまう。

 

 

「あ……」

 

 

そして手に持っていたナイフを J の頸動脈に向けて斬りかかる。

 

 

「ざんねんでした」

 

 

しかし切先が首に届く前に加藤は相手の手首を掴みそのまま相手の勢いを利用して首に突き刺す。

 

 

「うっく!?」

 

 

そしてその子供の見た目の敵は首から鮮血を噴き出して崩れ落ちた。

 

 

「……マスター、すみません」

 

「お前らたるんでるな。子ども相手だとやはり躊躇うか?次同じ失敗したら少年兵を的に射撃訓練やっぞ。いやマジで」

 

「肝に銘じます」

 

「しかし、何だこいつは?」

 

 

加藤は敵の遺体の顎を掴むと、顔の側面を覗き込む。

 

 

「……ヴォーリアバニーですかね?」

 

「まあ、ウサギの耳あるからそうかもしれないが……こんなやつ見た事ないぞ?それにあのデリラより身体能力高かったぞ」

 

「確かに見ない顔ですね」

 

「それにこいつ……珍しく雄だ。業界(オタク)用語的には幼児(ショタ)だ」

 

「マスター、言い方……」

 

「色白で赤目のアルビノのウサギ耳美少年……マニア受け良さそうだな。生捕りにしたら売れるかな?」

 

「マスター、流石にまずいですって」

 

「冗談よ、冗談半分。まあショタがいるなら幼女(ロリ)もいるぞ、絶対に。絶対に売れる……あ、別に売るとは言ってないからな。売らないとも言ってない」

 

 

加藤は何やら邪悪な思考に陥ってる。

 

 

「しかしだな、今はそんな事やってる暇はないので取り敢えず老若男女問わず、敵は見つけ次第殺せ(サーチアンドデストロイ)

 

 

***

 

 

「嫌だ嫌だ、これは乗りたくない!」

 

「もう、耀司!駄々こねてないで早く乗るの!じゃないと無理矢理にでも縄でくくりつけて連れて行くわよぉ!」

 

「ひぃーー」

 

 

伊丹は何を駄々こねてるかと思えば、翼竜に乗ることを拒否していた。この翼竜たちはかつてヤオが用意したものでクナップヌイまでの道のりを共にしたものでもある。

 

 

「せっかくジゼルを脅迫……じゃなくてお願いしてここに隠しておいたのにぃ。これじゃあいつまで経っても出発できないわよぉ……こうなったら、最終手段ね」

 

 

ロゥリィは女性陣たちに協力を求めた。

 

 

「なるほど!私の精霊魔法で眠らせて翼竜にくくりつけるのね!」

 

 

テュカがロゥリィの提案を聞いて賛成する。

 

 

「ただ、念のため落ちないようくくりつけるのと、それを支えるのは誰がいいかな……?」

 

 

テュカが少し顔を赤らめてつぶやく。

 

というのも、意識はないとはいえ伊丹としばらく密着できるからである。

 

 

「そ、それならば無論この身であろう!何せ私は既に一度肌を合わせた仲だからな!」

 

「肌を合わせるって、前回翼竜で本当に掴まるだけのことじゃない。紛らわしいわよ!」

 

 

ヤオが我こそはと声を掲げて武勇伝の如くはなすが、テュカに盛大に突っ込まれる。

 

などとあーだこーだ言っているのを傍観していたセラーナはため息をつくと、立ち上がって伊丹の近くに寄る。

 

 

「セラーナさん、どうしました?」

 

 

伊丹は尋ねるがセラーナは拳を握ると思い切り痛みの腹部へと打撃を加えた。

 

 

「ごふぉ!?」

 

 

無論、声を上げたのはロゥリィである。

 

しかしあまりの威力か、結果として伊丹は気を失った。

 

 

「セ、セラーナ……なんてことをするのよぉ!?」

 

 

ロゥリィが腹部を抑えながら息も絶え絶えに抗議する。

 

 

「あら、申し訳ありませんわ。時間ないのに中々解決しないので手荒に行かせてもらいましたわ

 

そしてセラーナは死霊術を応用して伊丹を動かす。

白目剥いた伊丹がゾンビの如くゆっくり翼竜に跨り、手綱を取る。

 

 

「死霊術の本来の使い方ではないのでそこまで自由は効きませんが、移動程度なら大丈夫でしょう。それでは参りましょう」

 

「私の眷族なのにぃぃぃ!!」

 

 

ロゥリィは悲痛な叫びを上げる。

 

 

***

 

 

「おい、グレイさん大丈夫か?」

 

「なんのこれしき……」

 

 

敵の捜索にあたっていたグレイは深傷(ふかで)を負っていた状態で発見された。他の部下は惨殺されており、彼もとどめを刺される直前に保護された。

 

 

「しかしこいつらゴブリンよりタチが悪いな。小柄で見つかりにくい上に敏捷で戦闘能力も高い……しかも見た目がいいから駆除されにくいだろうな」

 

 

加藤が仕留めたウサギ型ゴブリンのような怪異を見て呟く。

 

 

「あれですか、ゴキブリは駆除されるけど猫は駆除されにくい、とか裁判では美女の方が有利になりやすいというやつですか」

 

「ああ。なんで人間は見た目で騙されるのやら……まあ可愛いは正義とはよく言ったものよ」

 

 

加藤は J と会話を終えると立ち上がる。

 

 

「さてと、出どころを潰さないと沸き続けるだろうな」

 

「……原因はもう目処がついているのですか?」

 

「ああ、だいたい検討はついてる……というかこのウサギどもの顔見たら面影あるんだけどね」

 

 

皆は視線を落とす。

 

 

「「……言われてみれば、似てるかも」」

 

「どう見ても、あのヴォーリアバニーの女王(テューレ)だな。クローンと思うほどに」

 

「我々みたいですね」

 

 

その時、至近距離で銃撃音が発生した。

弾丸は J の頬を掠め、血が滲み出た。

 

 

「おっとすまんすまん。指が滑ったみたいだ」

 

 

加藤は振り向きもせず謝る。

 

 

「……いえ、大丈夫です」

 

「さてと、では参りますか」

 

 

彼らはテューレが軟禁されていたはずの部屋に赴いた。

 

しかし、扉からは異様なほどの圧を感じた。

 

 

「普段霊感とか勘とか全くない俺から言うけど……」

 

 

加藤は扉を前に呟く。無論、周りは全員心の中で「嘘つけ」とツッコミを入れていた。

 

 

「扉の向こうはなんだかすごく嫌な予感しかしないわ」

 

「そうですね……我々も感じますよ」

「てかこれ死亡フラグじゃないよね?違うよね?」

 

 

隊員も口々に呟く。

 

 

「入るときの掛け声は『アマ●ンの配達です』か、『ウー●ーです』どっちがいいかな?」

 

「マスター、そろそろぶん殴りますよ?」

 

「冗談よ。全員暗視ゴーグル(ナイトビジョン)装着、そしてフラッシュバンを投げ入れて突入する」

 

「「了解」」

 

 

加藤はハンドサインで三つを数える。

同時に扉をほんの少し開けて隙間を作り、J が予めピンを抜いたスタングレードを放り込む。

そしてすぐに扉を閉めて起爆と同時に突入と制圧を行う。

 

はずだった……

 

扉を閉めると何故か放り込んだはずのスタングレードが加藤の足下に落ちている。

 

 

「「「……」」」

 

「マ、マスター……すみません」

 

「いや、お前のせいじゃない」

 

 

加藤は見ていた。部下の失敗ではなく、ドアの隙間に張り巡らされた無数の子どもの手のようなものが妨害していたことを。ちょっとしたホラー映画みたいに。

 

 

(ありゃ相当数中にいるな……)

 

 

そして爆音と共にあたり一面真っ白な空間となった。もちろん耳も大変なことになった。

 

 

***

 

 

アンヘルとヨルイナールは超高度から地表を観察していた。

 

 

「まずいな。非常にまずい……」

 

「何よあれ」

 

 

その高度からは砂ほどの粒にしか見えない物が無数に集まり、少しづつ動いていた。

 

 

「このままでは本当に人類が滅びるぞ」

 

 

その粒は文字通り無数の怪異である。

小アリの群れの如く地表を覆い尽くしていた。

 

 

「アルドゥイン様の気配がまた無くなったと思ったら、案の定こんなことになってなって……」

 

「うーむ、一体どうしたら良いのだ」

 

「私たちだけで対処できる数でもないし……」

 

「数どころか質も劣らずとも優っているぞ」

 

 

アンヘルが指す方向には龍や巨人の怪異もいた。

 

 

「……終わったな、この世界」

 

「……ああ、何てこと」

 

「アルドゥインの気配も消えた今、この世界で奴らに対抗出来る者はいない……悔しいが、我も歯が立たぬ」

 

「ではこの世界が滅ぶのをただただ眺めるしかないと?」

 

「そういうことだな」

 

 

アンヘルは残念そうに言うが、ヨルイナールはキッと睨みつける。

 

 

「貴方はこの世界の者ではないからそう言えるのでしょう、けれど私にはこの世界しか無いのですよ!」

 

「すまぬ……」

 

「私もついカッとなりました……」

 

「……だが、可能性はゼロではない」

 

「……それは本当?」

 

「ああ、限りなく無に等しいが、まだあるかも知れぬ……それは人間と手を組むことだ」

 

「そんな!?あの忌々しい人間共と!?」

 

「悔しいかな、我は人間が様々な困難に立ち向かい、転んでは起き上がり、打ち勝ってきたのを知っている。取るに足らぬはずの人間に負けた龍も数多く知っている」

 

「……確かに、客観的事実として私の同族もやられたことはあるわ……しかしどうやって?」

 

「あやつよ、我々が一時捉えた半人半龍のような小娘がいただろう」

 

「ああ、あのジゼルとかいう龍人族ね」

 

「あやつを通じて人間共に接触するしかあるまい」

 

「しかしまずはその小娘を探さなければ」

 

 

二頭の龍は頷く。

しかしその刹那、青白い落雷が二頭の間を走った。

 

ただならぬ気配を感じた二頭は恐る恐る上を見る。

 

かなり上空にいた二頭だが、それはさらに上で世界を見下すかのように浮いていた。

 

その特徴的な頭部の角は某国民的アニメキツネ野郎(ドラ●もんのス●夫)を彷彿されるが、そんな面白おかしいものではなかった。

 

それは天変地異を操り、数々の人々を恐怖に陥れたまさに厄災と呼べる者であった。

 

 

煌黒龍アルバトリオン

 

 

「ヨルイナールよ、ここは我に任せて早く行くがよい」

 

「アンヘル、ここは二頭で戦った方が良いのでは?」

 

「愚か者、お主がいると逆に足手纏いよ。それに我の高位魔法は範囲攻撃、お主も巻き込まれるぞ。お主はさっさと人間と接触するがよい」

 

「私は人語を話すことができないのよ。下手すれば問答無用で攻撃されるわ」

 

「ではここで死ぬか?お主が奴を足止めしたところで瞬殺されるだけよ。」

 

「貴方なら私が逃げるまでの時間を稼げると?」

 

「バカいえ、我は負ける気などない。倒してみせる」

 

「……分かったわ。ご武運を」

 

 

急降下で逃げるヨルイナールをその怪異龍は追いかけようとしたが、その前をアンヘルが立ちはだかる。

 

 

「どこへいくつもりだ?貴様の相手はこの我よ!」

 

 

アンヘルの体色が黒くなり、形状も本気(カオス)モードとなる。

 

しかしアルバトリオンの目はまるで石っころを見るかのように意に介していなかった。

 

 

(この我が……震えるとはな……ええままよ!)

 

 

そしてアンヘルは決死の攻撃を仕掛けた。

 

 

 

 

『……彼も、やられていたのか』

 

 

精神世界で白き龍の姿をした少女は目から血の涙を流す。

 

 

***

 

 

(な、何が起きたのだ?)

 

 

グレイは爆音と閃光の目眩しから回復すると同時に周囲の状況に驚いた。

 

周囲には血まみれの帝国兵、加藤の私兵、そして子供ヴォーリアバニーのような怪異たちが多く倒れていた。中には貪られた如く損傷の激しい者もいた。立っているのは加藤のみ、衣類はボロボロの半裸状態、全身は血まみれだった。

 

しかしそんなことどうでも良かった。

いや、どうでも良いと思うほどに、目の前の光景に背筋が凍るような感覚がしたからだ。

 

 

「も、もうやべて……」

 

 

現地語で弱々しく叫ぶのは件のヴォーリアバニーの少女の姿をした怪異である。

 

だが加藤は無言で頬を引っ叩いたと思うとその長い耳を掴んで壁に叩きつけ、腹を殴る。しかも死なない程度に手加減して。

 

 

「……俺は騙されんぞ。ガキであろうと、女であろうと、美少女であろうと……敵は徹底的に潰す」

 

 

そして今度は顔面を拳で殴る。その表情が、さらに恐怖を駆り立てる。怒りをぶつけるわけでもなく、サディストのように笑みを浮かべるわけでもなく、憐れみを抱いたな哀しみでもない。

 

無表情、まるで感情のない人間のように、淡々とと相手を痛めつけていた。

 

 

「加藤殿、もうおやめを!」

 

 

グレイは加藤がもう一発殴ろうとした手を握る って止めた。

 

 

「……意外ですな、グレイさん。こちらの世界も子供を痛めつけるのはご法度で?」

 

 

加藤はグレイの手を払い除ける。

 

 

「こちらの世界はハーフリングのように子供ぽい種族や、子供に擬態する種族もいると聞く。我々の世界の中世のようなそんな世界だからもうちょい子供に厳しいと思ったけど、そうでもないんですかね」

 

「必要以上に子供を痛めつけるのは蛮族か狂人だけですぞ……」

 

「この世界も甘いな……」

 

 

加藤はやれやれと言わんばかりに溜息をつく。

 

 

「俺は戦場で出会った場合、特殊部隊よりも子供を警戒するのだけどね。子供は未熟だが、バカではない」

 

 

加藤は目の前の少女に膝蹴りを加える。

 

 

「しかも中には自分は攻撃されないことを知って近づく子供もいる」

 

 

加藤はタバコの煙を少女の顔に吹きかける。

抵抗はほぼないが、咳き込んで嫌がっていた。

 

 

「こんなところに灰皿があるじゃないか」

 

 

そしてタバコを眼球に押しつける。

 

 

「ギャァぁぁあああ!……して、殺じて!」

 

「さて、どう料理してやろうか?」

 

 

そう口にした瞬間、後頭部に衝撃が走った。

 

グレイが鈍器(メイス)で思いっきり加藤の後頭部を叩きつけた。

 

 

「……痛てえな、改造してなかったらまた死んでいたぞ」

 

 

傷口の血に混ざって金属光沢が見えたが、再生されて見えなくなる。

 

 

「ば、化け物……!」

 

「化け物?心外だな……もっとおもしろいものを見せてやろう」

 

 

加藤はポケット胸ポケットから黒紫の宝石のようなものを出す。

 

 

「相手を屈服させる方法は沢山ある。拷問、殺戮、性暴力、大切なものを壊す、洗脳……だがな、究極の魂の屈服方法がある」

 

 

加藤はその石を握りしめながらナイフを握ると、少女の胸に突き刺す。

 

 

「むぐっ!?」

 

 

声を上げないよう口を押さえつけながらナイフを刺したまま回転させ、抉るように抜く。

 

少女の身体から刃が抜かれ、鮮血が流れ出ると目から光が失われる。同時に、石がわずかに光った。

 

そしてその石を倒れていた同胞の首筋に差し込んだ。

 

 

「うん……おや、もしかして私死んでましたか?」

 

「その様だな」

 

 

J が起き上がると身体を見渡す。

 

 

「一番損傷が少ないお前を選んだ、取り敢えず他の奴らのサルベージを頼む」

 

「了解」

 

「あ、悪魔だ……!」

 

 

グレイは一連の出来事が信じられなかった。しかし恐れて逃げるようなことはしなかった。

 

 

「悪魔、か」

 

 

加藤はそれを聞いてほくそ笑み。

 

 

「そうだな、俺は悪魔かもしれん」

 

 

そしてグレイと対峙する。

 

 

「ここまで見せた意味、分かるな?こちらに加わるか、死ね」

 

「残念ながら小生にはまだやるべきことがありましてな、丁重にお断りさせてもらいます」

 

「墓穴を掘ったな」

 

「ええ、貴殿の分をね」

 

 

グレイは忍ばせておいた散弾銃を発砲した。

しかもそれは加藤らが極秘裏に開発していた、魔硝石を用いた光線を発射する弾薬だった。

 

加藤の体を無数の光線が貫き、後方へ吹き飛ばされた。

 

その隙にグレイは全力で逃走し、暗闇に溶け込むように姿を消した。

無論、J は短機関銃で追撃するが手応えはなかった。

 

 

「どうします、マスター?」

 

 

ゆっくりと起き上がる加藤に問いかける。

 

 

「今はいい。それよりも貴重なデータが手に入った。後で俺の身体のダメージを記録しておけ」

 

「分かりました」

 

「それに、そろそろ部屋に放り込んだ催吐剤(さいとざい)が十分に効いてくる頃だ。先に『女王』を確保する」

 

「了解」

 

 

そして部屋に入るとまさに地獄絵図。ヴォーリアバニーの幼怪異たちは吐瀉(としゃ)物を撒き散らしながら悶え苦しんでいた。

 

 

「それにしてもひでぇにおいだ」

 

 

抵抗できないことをいいことに加藤たちは彼らを捕縛してゆく。

 

 

「極力殺さんようにな、こいつらは使い道がある」

 

 

そして葉巻を咥えて火をつけると、ベットに近づく。そこには変わり果てた姿のテューレがいた。

 

 

「こりゃひでえ有様だ、なあ女王様(テューレ)

 

 

テューレの腹は膨れており、目には生気がない。

 

 

「エイ●アンのゼノ●ーフ的な想像していたが、思ったよりマシだな。魔術的な類かな?」

 

「そうですね。生物学的に不可能な現象が起きてますから」

 

 

そう言ってる間にも、子ウサギのようなものが現在進行形で生まれてきた。しかも複数。

 

 

「まるで女王アリみたいにポンポン産むな」

 

「それでは我々はそれを乗っ取るサムライアリみたいなもんですね」

 

「……そうかもな」

 

「生まれたてのはどうしますか?」

 

「取り敢えず確保しよう。ただし、女王の生存、確保を最優先とせよ」

 

 

そう言いながら加藤は生まれたばかりの子ウサギみたいなものをポリ袋に入れていく。

 

 

***

 

 

「うむ、妾たちは出遅れたようだ」

 

 

ピニャたちも万全な身体ではないが、城内に不審者や不審物の捜索及び残党の掃討に当たっていた。

 

 

「こちらの調理場は異常なさそうですね」

 

 

ハミルトンが部屋を見渡してピニャに報告する。

 

 

「うむ、ではこの一帯は問題無さそうだな」

 

 

ピニャたちは報告のために一度戻ろうとするが、何か違和感を覚えた。

 

 

「陛下、いかがなさいました?」

 

 

ハミルトンが首を傾げる。

 

 

「ハミルトン、この調理場に違和感を覚えないか?」

 

「え?」

 

「外の壁の長さと、部屋内の大きさが一致しておらぬのだ……」

 

「設計ミスなのでは?」

 

「こういうのは大体隠し扉なんてものがある」

 

 

そう言いながらあちこちを触り始める。

 

 

「陛下、今そんなことしている場合じゃないですよ!」

 

「大丈夫だ、すぐ終わる。妾も幼い頃はこうやってよく隠し通路など探したものよ」

 

 

すると予想より早く仕掛けを見つけ、隠し扉が現れた。

 

 

「敵がここに隠れてやいるかもしれんからな」

 

「それはこまりますー」

 

 

しかし隠し部屋は暗いがシンプルな作りだった。あちこちに肉が置いてあり、冷蔵庫のように寒い。

 

 

「冬のように寒いな。貯蔵庫か?」

 

 

吐息が白く浮かび上がる。

ピニャは当たりを見渡すが特に目ぼしいものはない。

 

 

「ハミルトン、出るぞ」

 

「はい、陛下。おっとと……ひっ!?」

 

「どうした?」

 

「ひ、姫様……」

 

「姫じゃないぞ、陛下と呼べ」

 

「そ、そこ……」

 

 

ピニャはハミルトンが指す方向を見る。

 

薄暗くても分かった、それは人型生物の頭部であった。

 

 

「なっ!?」

 

 

ピニャは急いで明かりをつけた。

 

そして絶句した。

 

それはヴォーリアバニーの頭部、しかもまだ古くない。

 

それどころか、周りの肉のいくつかは明らかに人型のものや、人型のものでないと説明のつかないものが散見された。

 

 

「姫さま、ここは……死体安置所ですよね?ですよね!?」

 

 

ピニャは答えることができない。頭が今見ている光景の情報量を処理できなかった。いや、処理を拒んだ。どうしてとも認めたくなかった。

 

皮を剥がされ、血抜きされて吊るされている肉がある時点でここは安置所でないことは明らかだった。

 

ハミルトンも、心のどこかでは理解していた。しかしそれが間違いであることを願い求めていた。

 

二人は認めたくなかった。

 

ここが()()()()冷凍室であると。

 

 

「こ、ここを出るぞ!」

 

 

ピニャは我に返って見てはいけない物見てしまった如く部屋を出る。

 

しかし部屋を出たタイミングでバッタリと会ってしまった。

 

 

「加藤……」

 

「おや、陛下」

 

 

二人はそのまましばらく言葉を交えぬまま見つめあった。

一方は感情なき視線で、もう一方は困惑の目で。

 

 





リアルな話、現実世界も最近カオスですね。


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あえて言おう、ゲスであると!


読んでいただいた方ありがとうございます。
誤字脱字報告ありがとうございます。


 

「どひー!なんで俺は空飛んでんだぁ!」

 

 

伊丹が空中で目を覚ました結果、大変なことになっていた。

 

 

「ちょ、耀司!暴れたら落ちちゃうわよ!」

 

 

ロゥリィが注意するが、伊丹は別に暴れているわけではない。必死にしがみついているだけなのだがそれが災いし翼竜が暴れていた。

しかも今回は伊丹単独で乗っていた。

 

 

「あっ」

「「「えっ」」」

 

 

伊丹は手綱を放してしまう。

 

 

「ギャぁぁああ!」

「いやぁぁああああ!!耀司ぃいい!」

「いやぁぁああああ!!お父さぁぁああん!」

「いやぁぁああああ!!伊丹殿ぉぉぉお!」

 

 

伊丹が空中に放り出されると同時に女性陣が悲鳴を上げる。

 

 

「あらあらまあ、どうしましょう」

 

「隊長は運がいい人ですから大丈夫ですよ、多分」

 

「そうですわね、栗林さん。万一のことが有れば私の 死霊術(ネクロマンシング)で蘇生すればいいのですから」

 

「セラーナさん、それはどうかと……それに多分まずロゥリィが先に大変なことになるかと」

 

「まあ、それは大変。でもそれなら尚更安心ですわ。ところで栗林さん、以前頂いた日本の日焼け止めおかげで肌の調子が太陽光下でも良いのですのよ」

 

「へ、へー……」

 

 

こんなやり取りをしている間も伊丹は降下し続ける。皆もそれを追いかけようと急降下する。

 

 

「きーっ、耀司が叩きつけられたら私が木端微塵になるのよぉ!バラバラになったら私までしばらく活動不能になるじゃない!レレイ、あんたの新魔法の爆発で加速できないの!?」

 

「理論上不可能ではないが、今の状態だと対応遅すぎて無理。仮に可能であっても、ロケットブーストを行えばソニックブームによって翼竜、搭乗者、そして落下中の耀司も大変ことになると思う」

 

「よくわからないけど無理ってことねぇ、ちくしょぉぉお!」

 

 

ロゥリィは翼竜を急降下させて追いつこうとするが、自由落下している伊丹に追いつけない。

 

 

「耀司ぃ!少しは手を広げるなりして空気抵抗増やしなさいよぉ!」

 

 

残念ながら伊丹は既に気絶していた。空挺降下経験者とはいえ、心の準備ができていない上、落下傘(パラシュート)もない状態である。

 

まだ高度はそれなりにあるが地上はどんどん近づいてゆく。

 

しかし何という主人公補正かご都合主義か天は彼を見捨てなかった。

 

突如雲の合間から大きな赤い龍が現れた。

 

 

「炎龍!?」

 

 

テュカはかなり驚いた様子だが、炎龍には攻撃の意志は全くない。むしろ本当にたまたま遭遇してしまっただけのようだ。というか炎龍はこちらの存在にすら気づいていない。

 

 

「「「ぐへぇ!?」」」

 

 

伊丹とロゥリィと炎龍は同時に似たような声を上げた。

伊丹は炎龍の背中に当たった衝撃で。

ロゥリィはそのダメージの大半を受けて。

炎龍は予想外の背骨への衝撃で。

 

そして伊丹を乗せた炎龍は緩やかに降下していった。

 

緩やかにとは言ったが着陸というよりは不時着のような感じで、その巨体は地面を一部えぐるように激しく平地をスライドした。

 

伊丹はその勢いで前に投げ出されたものの、持ち前の強運のおかげか茂みに突っ込んで軟着陸(?)を果たした。

 

ロゥリィは木端微塵こそ免れたが(伊丹のせいで)全身打撲と骨折はした模様。

 

 

「お父さーん、大丈夫!?」

 

 

テュカがいち早く着陸して駆け寄る。

 

 

「な、何とか……それよりもロゥリィは大丈夫か!?」

 

「ば、バラバラにはならなかったわよぉ……」

 

 

普通の人間なら明らかにやばい状況だが本人が言ってるので多分大丈夫だろう。

 

 

「しかし伊丹殿もなかなか強運の持ち主……この身であったら確実に死んでいた」

 

 

ヤオが気絶中の炎龍をマジマジと見つめながら感心していた。

 

 

「む、これは例の炎龍ではないか!?エルフの里を焼き払ったのと、アルドゥインとやらの配下にいるやつに違いない!」

 

「な、何ですって!?」

 

 

テュカとレレイが戦闘態勢に入りとどめを刺そうとした。

 

しかしこれまで従順であった翼竜たちが間に入って庇おうとしていた。

 

 

退()きなさい!あなたたちもろとも撃ち殺すわよ!」

 

 

テュカが弓の弦を目一杯引く。彼女の目には復讐に燃える炎が上がっていた。

 

 

「待って、様子がおかしい」

 

 

レレイが状況を分析しながら行った。

 

 

「翼竜は炎龍の非捕食者。普通は逃げるが、庇うことはありえない」

 

「何か相当な理由があるのかもしれませんわね」

 

 

セラーナも冷静に分析する。

 

 

「……くっ」

 

 

テュカは何とか怒りを抑えて踵を返した。

そして単独で皆から離れた場所で座り込んだ。

 

 

(テュカ……)

 

 

伊丹は彼女の心境を察してしばらくそっとしておくことにした。

 

そして目の前の炎龍に目を向ける。

 

 

「全身に深い傷があるな。何かに襲われたか?」

 

「炎龍も弱くはない。それこそ他の同等の龍ではないと太刀打ちできないほどには。それにこの炎龍はエンシェント・ドラゴンと呼ばれるかなり年月をかけて生き抜いた猛者にあたる。それこそ数百、数千年に一度見れるかの希少性」

 

 

レレイが状況を詳しく補足した。

 

 

「となると、これに対抗できるのがアルドゥインしかいないわけだ。仲間割れか?」

 

「否定は出来ないけどぉ、命からがら逃げてきたというよりは意志をもってぇ、目的を持って逃げてどっかに向かっていると思うわぁ」

 

 

再生を終えたロゥリィが後ろから声をかけてきた。

 

 

「聖下、何故そのように判断を?」

 

「あらヤオ、私ほどのぉ経験を積んだ存在ならぁ、ある程度のことは分かるわぁ。特に人間の言葉を話さない動物などの意志などもよぉ」

 

「さすが聖下!伊達に1000年近く生きてはおりますまい」

 

「しかしロゥリィ、それはそうだとしてなぜだ?」

 

「そうねえ、彼女が飛行していた方向は……」

 

 

一同は向いた方角に気づいて険しい顔をする。

 

 

「……アルヌスねぇ」

 

「つまり、アルヌスへの攻撃を行うつもりと?」

 

「耀司、それは早計よ。炎龍はバカではないわぁ、貴方たち自衛隊の強さは痛いほど分かってるはず。無謀な攻撃は行わないはずよぉ」

 

「なんだか色々と矛盾して分かりづらいですね」

 

 

栗林が頭を抱える。

 

 

「この怪我の具合からしても、攻撃しに行くとは考えにくいわぁ。特攻するならまだしもぉ、彼女からは敵意を感じなかったわぁ」

 

 

ロゥリィは半開きの炎龍の瞳を覗き込む。

 

 

「むしろ焦り、恐怖はあれど、使命感を感じるわぁ」

 

 

そして笑みを浮かべる。

 

 

「レレイ、テュカ、彼女に治癒魔法をかけてあげてぇ」

 

「ちょ、なんで炎龍なんかを助けるのよ!?」

 

 

テュカがすごい剣幕で怒り出した。

 

 

「テュカ、貴方の気持ちは分かるわぁ。でも今ここで死なせてしまえば何か重要な手がかりを失うと私の勘がいってるわぁ」

 

「でもこいつは……こいつは……」

 

 

テュカは拳を握りしめて、唇を噛んで叫んだ。

 

 

「私のお父さんを殺したのよ!!」

 

 

テュカはそのまま走って行ってしまう。

 

 

「おいテュカ!」

 

「耀司っ!少しほっておいておきなさい」

 

「でも……」

 

「今の彼女に優しい言葉をかけるのも逆効果よぉ。下手したら以前のように壊れるかもしれないわぁ。心の整理ができるまで見守りましょう」

 

「……」

 

 

伊丹は小さくなってゆくテュカの背中をただただ見守るしかできなかった。

 

 

***

 

 

ピニャと加藤が対峙し、なんとも言えない静寂が訪れる。

 

 

「……加藤殿、あの部屋について説明してもらおうか」

 

「……冷蔵食料保存庫のことですかな?」

 

「……」

 

 

頭の隅っこではわかっていたことだが、いざ現実を突きつけられると言葉が喉から出なかった。

 

 

「何か問題でも?」

 

 

加藤はそう言いながらピニャの横を通り抜け部屋に入る。その時、加藤肩掛け鞄の如く仔ヴォーリアバニーの耳を持ちながら担いでいた。

 

そして台の上に置く。

 

 

「採れたてぴちぴちの若いメスですな」

 

 

そう言って肉包丁を高く振り上げると、頭部を躊躇いもなく落とした。

そして真っ赤な血が溢れる首元を下に、足を縛って吊るした。

 

 

「血抜きの次は内臓処理と皮剥ぎですな」

 

「加藤、貴様何やっている!」

 

 

ピニャはすごい剣幕で怒鳴りつける。ハミルトンは横で吐いていた。

 

 

「何って、下処理ですが」

 

 

加藤は手を止めない。今度は腹部を裂いて手を突っ込んだ。

 

 

「食うのか!?それを食うのか!!?」

 

「食わんのですか?」

 

 

加藤はさらっと聞き返したが、ピニャは背筋が凍るような思いがした。

 

 

「そういや、私の計画の一つを伝え忘れましたね」

 

 

加藤は臓物を慣れた手つきで取り払う。

 

 

「バニー・ソルジャー計画……なぜこれほどまでにヴォーリアバニーを重要視しているかを」

 

 

加藤は一旦作業を止めて、そこにあった椅子を後ろ向きに跨るように座り背もたれに腕を置くように座る。

 

 

「まずはその戦闘能力、優秀な兵士や労働力が見込める。さらに性欲が強く、容姿も良いし多産であることもその効果を大きく発揮できる。

次にメスが多い上に多種族と交えることが可能。爆発的に数を増やすことが可能である。

これらにより、戦場における人員不足、性欲問題からなる性犯罪の抑止、各種労働力問題、少子高齢化問題などの解決ができる。

さらに、闇ルート経由ならマニア向けの供給も可能だろう。

あちらの世界なら引く手数多でこの帝国の資金源になるに違いない」

 

 

加藤は立ち上がると先程下処理していた肉塊に近づく。もう血もだいぶ抜けていた。肉を叩きながら呟いた。

 

 

「そして何より、死んでも食料不足や臓器供給不足の解消にもなる」

 

「加藤、お前がやろうとしているのは……悪魔の所業だぞ……お前が食おうとしているのは、亜人(ヒト)なんだぞ、わかっておるのか!?」

 

「私がやろうとしているのは遺棄されたタンパク質の有効活用ですよ。自然界ではよくあることだ」

 

「ヒト種だぞ……こちらの世界でもあちらの世界でも禁忌のはずだ!」

 

 

ピニャは心の底から訴えかけるが、加藤の耳に届いても心には響かなかった。

 

 

「ヒトだったら、ダメなんですか。人間が、そんな偉い存在ですか?」

 

 

加藤はどこか悲しくも怒りの念の篭った視線を向ける。

 

 

「無論、誰も受け入れないでしょう、最初は。なので段階を踏んでそうするつもりです。もしかしたら1000年ぐらいかかるかもしれない。しかしその頃までには人間はヴォーリアバニー無しでは生きていけない社会(システム)になっているでしょうね」

 

 

加藤は下処理を終えた肉塊を愛撫する様に撫でながら、最後にこう呟いた。

 

 

「段階的に失敗しても、歴史上の先輩たちのわうに最後は(武力)によって都合の良い世界を作ればいいだけのこと」

 

「貴様、まさか……人間を弱体化させるつもりか!?」

 

「弱体化?いやいや、それは人間次第ですよ。もしその程度で滅ぶのなら、そんな人間はこの世にいらない。それに……」

 

 

加藤はため息をつく。そして誰にも聞こえないように呟いた。

 

 

「こうでもしないと、アルドゥインへの魂の供給量が不足してしまう……」

 

 

そしてもう一度ピニャに向かって問いかけた。

 

 

「さてと、ピニャ皇帝陛下。ここまで話したからには協力してもらうか、私の言いなり(傀儡)になってもらう。さもなくば、分かりますよね?」

 

 

そして加藤は包丁に手をかける。

 

しかし次の瞬間、背後の扉が蹴開けられグレイが入ってきた。

 

 

「ピニャ様、伏せてください!」

 

 

ピニャたちは言われるがまま伏せるとグレイの手元から閃光が走った。

もちろんかめ●め波などではない。

 

閃光と小さな爆発音と共に光のようなものが加藤の身体を複数箇所貫く。

 

 

「ピニャ様、ハミルトン殿、小生について参れ!」

 

 

ピニャは一瞬加藤がいた場所を見るが、すぐにその場を走り去った。

 

 

「……一度ならしも二度までも同じ武器でこの加藤に深手を負わすとは……グレイ、侮れん男よ」

 

 

加藤はゆっくりと立ち上がると注射器のようなもので手当をする。するとみるみる傷が塞がっていった。

 

 

 

 

「ピニャ殿下、ここを脱出しますぞ!」

 

「脱出って……どこへ逃れるというのだ!?」

 

「どこへでも、ここから遠く離れたところへ!」

 

「兵や民を見捨ててなどできるか!」

 

「貴女は皇帝なのですぞ!」

 

「民なくして皇帝など務まるか!」

 

 

しかしグレイから返って来たのは平手打ちだった。

 

予想だにしない出来事にピニャは足を止めてしまう。

 

 

「グレイ、貴様ぁ!これは立派な反逆罪……」

 

 

しかし今度はもう一つの頬に平手が襲い掛かる。

 

 

「二度もぶった! 今は亡き先代皇帝の父上にもぶたれたことないのに!」

 

 

ピニャは某どっかのアニメで聞いたような台詞を吐く。

 

 

「殿下、貴女は正義感が強く、優しい……優しすぎるのです。民なくして皇帝が務まらぬのも承知ですが、皇帝がいなくなれば国が消えるのですよ!国が消えれば、民はの運命はどうなるのですか……」

 

 

グレイは訴えかけるようにピニャに懇願する。

 

 

「もっと、ご自身のことを思ってください!」

 

 

グレイは片膝をつき、ピニャの手を両手で握りしめる。

 

 

「……余は幸せ者よ」

 

 

ピニャ自らを妾ではなく、余と呼ぶ。

頬には涙が流れている。そしてもう片方の手でグレイの肩に触れる。

 

 

「グレイ、貴殿の心からの願い、しかと受け止めたい。しかし、もはや帝国どうのう言ってる局面ではないのだ」

 

 

ピニャの目には涙が浮かんでいた。

 

そして城壁から異常を知らせる角笛の音が鳴り響く。

 

 

「この世界が、滅びるか否か……」

 

 

 

 

城壁外の地平線からは、敵の大群が押し寄せているのが見えた。

 

 

「うわあ、これはマジでやべえな……完全に包囲されているじゃねえか」

 

 

ジゼルは空中からその様子を見ていた。

 

 

「でもきっと、また加藤らが転移門(ゲート)開いてくれるから大丈夫駄よな……大丈夫だよな、きっと……」

 

 

それでもジゼルは内心恐怖抑え切れなかった。

 

 

***

 

 

あたりは暗くなっており、伊丹たちは野営をすることになった。

レレイが一人で治癒魔法をかけることになり、思ったより時間がかかってしまってる。

 

他の者も水を運んだり、見張りをしたりとそれぞれのできることをしていた。

 

炎龍も落ち着いたのかなされるままに眠っている。

 

テュカは皆から少し離れたところで川を眺めていた。

 

 

「落ち着いたか」

 

 

伊丹が夕食を持って近づいた。

 

 

「……」

「……」

 

 

返答なかったが、隣に座り込んで一緒に川眺めることにした。

 

どれくらい時間が経っただろう。

最初に口を開いたのはテュカだった。

 

 

「……ごめん」

 

 

ポツリと小さい声だった。

 

 

「お父さん、さっきみたいに取り乱してごめんなさい……」

 

伊丹は何も答えず、ただただ聞いた。

 

 

「……やっぱり私、炎龍のことは許せないわ。だって、お父さんが……本当のお父さんが殺されたのに……」

 

 

テュカの目には大粒涙浮かんでは溢れ、頬を伝って落ちていった。

 

 

「瀕死の炎龍を見た時、仇を取れると思って歓喜したわ。そして治療すると聞いた時、怒りと殺意が湧いたわ……おかしいかな……おかしいよね……」

 

「……おかしくなんかないさ」

 

 

伊丹もゆっくりと静かに話す。

 

 

「テュカの気持ちはわかる、なんて俺には言えない。テュカの気持ちはテュカにしかわからない。でも一つだけわかることは、もし俺が同じ立場で、テュカやみんなの誰か大事な人が殺されたら……殺したやつを許せないと思う」

 

 

伊丹はテュカの方を抱き寄せる。

 

 

「テュカ、君は良く耐えた。私情を抑えて、頑張った。君は弱くなんかない、おかしいとも思わない。ここまで頑張って、そして話してくれて本当、ありがとう」

 

 

これを聞いたテュカは一気に感情が解放され、大声を上げて泣いた。

 

 

 

 

「さすが耀司、上手く収めたわねぇ」

 

 

寝ているテュカをお姫様抱っこで連れてきた伊丹にロゥリィは笑みを浮かべる。

 

 

「ロゥリィの助言のおかげさ。俺も少し冷静に対応できた」

 

「べ、別に褒めても何もでないわよぉ」

 

 

ロゥリィは頬を赤らめてそっぽを向いた。

 

 

「で、炎龍の様子は」

 

「だいぶ傷は癒えてるわ。多分明日の朝には目を覚ますわぁ」

 

「そうか。おーい、レレイ、ヤオ、セラーナさんに栗林。今日はその辺にしてもう……」

 

 

言いかけたその時、炎龍が突如目を覚まして首を持ち上げた。

 

 

「あら、思ったより早かったわぁ」

 

 

ほとんどの者が唐突な出来事に驚き、固まってしまった。

炎龍は伊丹たちを睨みつけた。

 

 

「く、来るか!?」

 

 

ヤオが小銃を構える。

 

しかし炎龍はしばらく睨みつけたあと、周りに気をかけながらまた腰を下ろした。

 

 

「……敵意は無さそうだ」

 

 

皆は胸を撫で下ろす。

 

 

「しかし困ったわねぇ、意思疎通ができないわぁ。ジゼルならできるかもしれないけど、相変わらずどこにいるかわからないしぃ」

 

 

一同が頭を捻らせていると、炎龍は突如ある方向をジッと見つめた。

 

 

「……アルヌスの方向だな」

 

「ええ、何かあるのかしらぁ」

 

 

伊丹は少し考えた後、意を決した。

 

 

「ロゥリィ、一つ頼み事をお願いしてもいいか?」

 

「何ぃ?高くつくわよぉ?」

 

「炎龍と一緒にアルヌスに戻って欲しい」

 

「……私の個人的な意見わぁ、嫌ですぅ。でもぉ、何か考えがあってのことよねぇ?」

 

「ああ……本当は俺も行きたいが、そさこのままだと引き返して帝都に行くことになるから時間がかかる。でもピニャたちはそう待ってはくれないだろ、それに現地の状況を一刻も早く伝えないといけないからな」

 

「ふーん、それなら仕方ないわねぇ。でも、どうすのよぉ、炎龍がアルヌスに近づけば自衛隊に攻撃させたされるのは目に見えてるわぁ」

 

「そこでだ、俺にいい考えがある」

 

 

言葉はわからなかったが、炎龍はすごく嫌な予感を感じた。

 

 

***

 

 

アルヌスの奪還とした準備を終えた自衛隊は、奇妙なものを発見した。

 

 

「何すかね、これ?」

 

「自衛隊の爆発物処理隊によれば、IED(即席爆弾)や地雷の可能性はないことが分かったんだが」

 

 

駒門がSATの隊員と奇妙な装置を訝しげに眺めながら話していた。

 

 

あの野郎(加藤)、妙なものを残しやがって。今は電波通信、情報処理、暗号解析など色々調査中だ」

 

 

その様子をモニター越しに眺め、狭間陸将や柳田1尉たちと共に結果を待っていた。

 

 

「駒門さん、結果が出ました!」

 

「おお……で、結果は?」

 

「超音波を発する装置です。どうも機械学習やディープラーニング、ニューラルネットワークにやって構成された人工知能が発した音を超音波として出力してます」

 

「何、では何と発している!?」

 

「ええと……ヨル……イン……アール……?」

 

「何じゃそりゃ」

 

「何かしらの暗号かと思いますが、『ヨル・イン・アール』という言葉を繰り返し一定の間隔で発しています」

 

「そうか、急いで分析しろ!」

 

 

 

しばらく後に、日の丸が描かれた、というか白いドーナツのようなものを腹部に描かれた炎龍が背中にロゥリィを乗せてアルヌスに来た時は一同は腰を抜かしたという。

 

なお炎龍は日の丸についてかなり不満そうな顔をしていたとか。

 

 

***

 





現実世界も大変ですが、皆様お身体におきをつけください。


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