テイルズオブゼスティリアクロスIF ~聖主の願い~ (ソフトな何か)
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一章.目覚めの時
0.プロローグ


はじめまして。よろしくです。

ゼスティリアもベルセリアも、出てくる全てのキャラが大好きなのにみんなが幸せになれなくてヤキモキしてました。

続きが見たい。でも続きがない。続いたとしても自分の望む結末じゃないかもしれない。また、誰かが泣くかもしれない。

そんなのはもう嫌。みんな大好きだから、だから救いたい。
でも、わたしが救ってもそれはなんか違う。

だったら、キャラに任せて自由に動いてもらおう!
私は大好きな彼らの動きをがんばって記録しよう!

そんなラストも決まっていない見切り発車でお送りいたします。

わたしの大好きな想いがみなさんに伝われば幸いです。
生暖かい目で彼らの活躍を一緒に見守ってください。


 ああ、ここはどこなのだろう。

 とても・・・。とても暖かい。

 

 気持ちのよい微睡みの中で目を覚ます。

 

 私は・・・ボクは・・・。

 思い出せない。

 なにか大事なことだったと思う。

 でもきっと忘れなくてはいけない。

 頭ではなく心がそう願っているのを感じる。

 

 とりあえず起きよう。

 起きたら何かわかるかもしれない。

 

 少し残念だけど、ここはとても居心地がいいけれど、それでも起きてしまおう。

 

 身体中に神経を流し込むように、徐々に体に感覚が生まれていく。

 

 ぼんやりとした頭の中でボクは思う。

 もしも。もしもボクが目覚めたら。

 彼はボクを必要としてくれるだろうか。

 

 あれ?

 ここまで考えてボクは気づく。

 

 彼とは誰だろう。

 とてもとても大事な事のように思うけど、キレイに頭からぼっかりと抜けている。

 

 彼の力になりたい。と感じた。そう思った。

 でも、彼が誰なのかは、なぜか思い出せない。

 

 なんだかとても悔しくて、ボクは数刻の時間、考えに浸る。

 しかし、やはりどれだけ考えても思い出せない。

 

 しかたない。とりあえず起きてから思いだそう。そしてまずは彼を探そう。

 だから・・・。

 

 「っ・・・!?」

 

 眩しい。生まれて見る光。

 自分はどれだけ長い間深い闇の中にいたのだろう。

 目に写る全てが輝いて見える。

 

 大きな建物の中に居るようだ。自分を取り囲む壁の白さに眩しさを感じる。ところどころヒビが入っていたりするのがすこし残念。きっと以前はもっとキレイだったのだろう。

 

 ボクが辺りを見回していると、背後から声が掛かった。

 

 「おはよう!」

 

 突然の声、いや初めて聞こえる音に体を震わせ、恐る恐る背後を振り返る。

 

 そこに立っていたのは少年だった。

 綺麗な飾りのついた剣を腰から下げている。

 

 あれ・・・?

 

 驚いたままの表情で固まるボクに、優しく微笑みながら早足で近づいてくる少年。

 

 茶色掛かった黒髪に真っ白なローブ。左手に着けたグローブには小さな鳥の羽の飾りがついている。

 

 あれ?

 

 彼の姿を確認したとたんに記憶が大きく揺り動かされる。

 この人は。えっと・・・。

 

 やっぱり思い出せない。誰かわからない。

 

 けど。間違いなかった。

 

 ボクが逢いたかった人だ。

 絶対に間違えるはすがなかった。

 それはなぜか、どうしてなのかはとても説明はできない。

 

 

 でもきっと、ボクは彼のために産まれた。

 

 

 よかった。すぐ会えた。こんなに素晴らしいことがあるのだろうか。

 何に祈ればいいのかわからないが、それでも何かに感謝をせずにはいられなかった。

 この喜びをどうしたらいい。彼に伝えたら一緒に喜んでくれるだろうか?

 

 近づいてくる足音に思わずボクは飛び付いてしまう。

 

 「うおぁっ!」

 

 彼は驚いたようだが、しっかりとボクを受け止めて、そして頭を優しく撫でてくれる。

 ボクはそれを目をつぶって受け入れ、彼の胸に顔をうずめた。

幸せな時間。ボクは初めて会う彼の匂いを知っているような気がした。

 

 しばらく時間抱き合っていたが、彼がボクの肩を掴み、そして体を離した。

 なんだかとても怖く感じて、泳ぐように手を動かしてしまう。

 

 彼は大丈夫だと言うように、もう一度ボクの頭に手を乗せると、目線を合わせ、少しだけ困ったような笑顔を浮かべて頬をかきながらこう言った。

 

 「言葉は、わかるかな?」

 「!?」

 

 わかる!彼の言っていることがわかる!

 また小躍りしそうなほどの嬉しさに、ボクは喜んで両手をあげ、そして・・・。

 

 微睡みから覚めて数分。

 だんだんと周囲や自分の置かれた状況を理解しはじめる。

 

 「ひっ!」

 「ひ?」

 

 視線を落とし、自分の姿を確認する。

 そして驚いたまま固まってしまった表情で彼へと視線を戻す。

 彼は困ったように笑顔を向けるだけ。

 

 なんということだ。彼に会えた嬉しさのあまり、ボクは、ボクは。

 産まれたままの姿。つまり全裸で彼と向き合っていた。

 

 まずい、えっと、どうしよう!

 頬が紅潮する。初めての感覚。止められるわけがなかった。

 だって、彼に全部見られてしまったのだ。いや、今も現在進行形で見られている。

 瞳に熱い何かが溜まっていく。

 

 「っ!っ!」

 

 せっかくの再開なのに!こんなに嬉しかったのに!

 ぜんぶ!ぜんぶ!台無しだ。

 

 思いもよらない事態の連続に、わけもわからず、とうとう感情が爆発した。

 

 「キャァァァァァッ!」

 

 これが情けないことに、ボクが産まれて初めて発した言葉だった。

 

 

 

 




プロローグは軽めです。

このボクちゃんは誰なんでしょう!?
こんな子ゼスティリアにいたっけ?あれー?

これからキャラがどんどんでてきますよー!

読みづらかったり何かあれば教えていただけると幸いです。


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1.新しい旅路

早速第一話です。


 雲の絨毯が眼科に広がっている。落ちたらなんて無粋なことを言うつもりは今さらないのだが、実際に落ちたことがあるのでなんとも言えない気分になってしまう。

 

 壁画の前。確か前に来た時はスレイが最初に見つけたんだっけ。

 

 僕はそっと壁に手を触れると、慈しむようにその表面を撫でる。

 

 この壁画に描かれた導師の姿を見て、僕とスレイは思いを馳せていた。

 ここに描かれているのはアスガード時代中紀に登場したという最初の導師。あれから僕も調べていろいろなことを知った。

 

 アスガード時代にも災渦の顕主が現れたこと。それをカノヌシと共に鎮めようとした初代の導師。

 過去にも沢山の導師が存在し、人間と共に災厄に立ち向かったこと。

 中には真逆の話しが書かれたものもあったが、大筋では初代導師と災渦の顕主が戦ったことが書かれていた。

 実はマギルゥという名のメーヴィンが残したと言われる書物を見たこともあるが、きっとこれは本物ではないのだろう。

 そこにはまるで導師が世界を滅ぼすとも取れるような記述や、カノヌシと共にこの空の向こうに渡ったなどの荒唐無稽な記述が多く書かれていた。

 メーヴィンを騙る誰かが書いたものだとしても、あまりにも内容が突飛すぎて、とても正気とは思えない。

 しかし、フィクションとして捉えるのであればとても面白く、スレイなどが聞いたら絶対に聖主の御座を探しに行こうと言い出して、きっと僕も一緒に旅をすることになるのだろう。

 

 少しだけ想像してフッと笑みが溢れる。

 

 最近はよくスレイの事を思い出す。

 今もこうしてイズチに戻り、ジイジの遺跡を探索しているのはスレイの事を思い出したからだ。

 

 あの最後の戦いから100年以上が経った。

 世界から穢れは消えていないが、それでもあの頃に比べると穢れの量も憑魔の数も格段に減ったように思う。

 今も"鎮め"の力を扱えているのはスレイが生きている証拠であり、また主審であったライラが健在の証でもある。

 今頃皆はどうしているだろうか。

 確か最後に会ったのはアリーシャ王妃が亡くなった時だったか。人間と天族の生きる時の違いを思い知らされた時で、少し余裕を失った僕は一人で旅に出たのだった。

 ライラたちは確かロゼの子孫が従士となった事で共に旅に出たはずである。

 便りなどはないが、力が使えている以上彼女らも元気に過ごせていると思う。

 そうだな。スレイが帰って来たらまたみんなに会いに行こう。きっとスレイもみんなも喜ぶはずだ。それから・・・。

 

 ガラッ!

 

 「!? しまった!」

 

 考え事をしていて足元を疎かにしていた。あれから100年以上経っているのに僕はまるで成長していないじゃないか。

 

 驚きと後悔が背筋を冷たくさせる。

 僕は崩れた足場の縁に手をかけようとして、そして。

 

 ガシッ!

 

 「うわっ!」

 

 突然手を掴まれた。

 

 ガララ・・・。

 

 落ちていく瓦礫がかなり深い場所で破砕していく音が響いた。もしそのまま落ちていれば、僕もそうなっていたかもと思うとまた背筋に冷たい汗が流れる。

 宙に浮いた状態でぶらぶらとぶらさがりながら、しかし、"そんなことよりも" 今はこの手を握っている主が誰かという方が気になってしまう。

 逆光のため、顔がハッキリ見えないがシルエットだけでも見間違うわけがない。

 それに握っている手にはめられたグローブこれはかつて・・・。

 

 「スレイ!」

 「久しぶり。ミクリオ」

 

 逆光に慣れてきた目で懐かしい笑顔を見つめる。

 間違いなかった。僕の知っているスレイだ。

 あの頃と少しも変わっていない。

 

 

 「いまっ!引き上げるから!」

 

 スレイはふんっと一瞬力を入れると、穴から引き抜くように僕を引き上げた。

 

 「ふぅ。間一髪だったなぁ」

 

 服に着いた汚れを軽くハタき落としながら、僕も一息つく。あの程度落ちたところで今の僕には造作もないことだったが、助けられた時、握りしめた手が僕らが旅立つ前のことを思い出させて、少しだけ嬉しかった。

 

 「今度は助けられちゃったね」

 「だな」

 

 屈託なく笑うスレイの笑顔が本当に懐かしくて。これは現実なのかと疑ってしまいそうだった。

 

 「いつ戻ってきたんだ?」

 

 話したいことが山ほどある。早く。早くスレイと喋りたい。行きたいところも沢山ある。

 

 「さっき。とりあえずイズチに戻ってからみんなを探そうと思ってたんだけど、まさかミクリオが戻ってるなんて思わなかったよ」

 「実は僕もたまたま立ち寄ったところだったんだ」

 「じゃあ、ラッキーかな」

 

 僕とスレイは拳を握りしめ、お互いのの手の甲をぶつけると、同時に微笑んだ。

 

 「おかえり。スレイ!」

 「ただいま。ミクリオ!」

 

 約束は守られた。スレイが戻った。ということは・・・。

 

 「ヘルダルフは?」

 

 あのキララウス火山での最終決戦。

 スレイは災渦の顕主であるヘルダルフを浄化するためにあの地に残り、100年という歳月を過ごしてきたのである。

 きっとここに彼が居るということは、ヘルダルフはもう・・・。

 

 「ヘルダルフは・・・」

 

 スレイは言い淀むと自分の後ろを振り返った。

 そして。

 

 「・・・」

 

 姿を現したのは人間で言うところの10歳くらいの少年。

 まだあどけない子供の顔立ちで、柔らかそうな銀髪にアメジストのような美しい紫の瞳が、怯えを孕んだ色で僕を見つめていた。

 

 「スレイ。この子は?」

 

 たぶん天族だろう。人間にはない清廉とも言える空気を纏った子供だった。

 どこかで見つけてイズチにでも連れてきたのだろうか。

 確かに憑魔も減ったとはいえ、こんな子供が一人で過ごすのはとても危ない。

 

 「いやぁ・・・」

 

 なんだ?やけにもったいつけるじゃないか。

 まさか・・・。

 

 「はっ!スレイの子供かっ!」

 「違う!それはないっ!」

 

 まぁ確かに。こんな大きな子供を育てている時間なんてなかっただろうし。うーん。

 

 「怒らない?」

 「子供以上に衝撃的な内容じゃなければね」

 

 スレイは少しだけ逡巡するような仕草をみせると意を決したように口を開いた。

 

 「この子がヘルダルフなんだ」

 「そっか、ヘルダルフくんね。よろしくヘルダルフ・・・ってええええええ!?」

 

 予想を遥かに上回る告白に思わず大声を上げてしまう。

 いや、驚くだろう。

 

 「へっ!へっ!ヘルダルフっ!嘘だろ!?」

 「ミクリオはちょっと見ない間に髪伸びたね。あと今の犬みたい」

 「サラッと流せる内容じゃないぞっ!」

 

 明らかに話題転換を始めるスレイを一喝し、改めてヘルダルフを見る。戦った時は大きな獅子の顔をしていて、瞳石で見た時の顔は髭を生やした精悍な顔つきだったのだが・・・。

 

 さっきの僕の大声でさらに怯えてしまったのか、スレイの後ろにがんばって隠れようとしているヘルダルフの頭を掴み、ジタバタ暴れているのを抑える。

 

 「まぁ、転生してるから元ヘルダルフだけどな」

 「むぅ。確かに」

 

 掴んでいた頭を話すと、一目散にスレイの後ろに回り込み、今度は涙目でこちらを見つめている。

 

 「昔のヘルダルフがこんな顔するわけないしな」

 

 僕は小さくため息をつくと、ヘルダルフと同じ目線になるように屈むと、努めて優しい声を意識しながら喋りかけた。

 

 「僕の名前はミクリオ。いきなりごめんな。別にキミをどうこうしようなんて思ってないから大丈夫だ」

 「ほら、ヘルダルフ」

 

 スレイに促され少しだけ顔をだしたヘルダルフはまだ少しだけ怯えているようだが、小さく、とても小さくだがコクりと頭を下げた。

 悪い奴じゃ無さそうで何よりだ。いや、今のは僕の方が悪いか。

 少しだけ凹みながら乱れた髪の毛を掻き上げた。

 

 

 100年ぶりの親友との再開。

 旧敵との不思議な出会い。

 僕はスレイが居なくなってから失いかけていた自分の世界の色が、少しずつ鮮やかさを取り戻しはじめているのを感じていた。

 




今回も読んでいただいてありがとうございます。
ここまではほぼテレビやらゲームやらの内容ですね。

次回で新しい旅の目的が!
あと、もしかしたら誰かでてくるかも?マジですか?(他力本願


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1.5.誰の子供?

いきなりの閑話です。
テイルズといえばスキッド!
新しい地域に行くと発生するあれです!

まじめな話もあれば、楽しい会話もあっていいですよね。
そんなスキッドを意識して、ノリのまま書いてみました。
もうちょっとキャラが増えたら特徴的なスキッドにも挑戦してみたいですね!



 スレイとミクリオの再開。

 ミクリオの提案でイズチに戻ると、イズチの村人のテンションは一瞬で最高潮に達した。

 

 「スレイ!おかえり!」

 「よかった。生きてたのね」

 「今日は祭りだ!うおおおおおお!」

 「ミクリオよかったね!最愛の人が帰ってきて!」

 

 涙ぐむ天族の中にはスレミクやらミクスレやら、やや不穏なセリフも飛び交っていたが、村の家族として二人を暖かく迎えてくれた。

 

 とても嬉しいことなのだが、二人の顔は浮かない。

 それもそのはず、二人には課題が残されているのだ。

 

 その課題となっているのがそう。ヘルダルフの存在。

 ヘルダルフをここまで連れて来たはいいが、どのように村人に説明するかである。

 村人や自分達にとって、ヘルダルフはジイジの仇である。

 とてもじゃないが、ジイジが亡くなったことを知らせに来たことがあるミクリオは、この少年がヘルダルフの生まれ変わりであることを伝えるのは気が引けていた。

 

 正直なところ、村に寄ることすらしたくなかったのだが、既に領域で察知されている以上、村に寄らないわけにもいかず、また、ヘルダルフの方も産まれたばかりの長旅でだいぶ消耗していたため、長く休ませる必要があると判断し、仕方なく村に寄ることとなったのだ。

 スレイはミクリオの居る居ないに関係なく、元々イズチに寄る予定だったようだが、自分が居なかったらどうやって村人に説明するつもりだったのだろうか、能天気に彼の正体を暴露してしまいそうな親友にミクリオは目眩を覚えた。

 

 「おや?ボウズはどうしたんだい?」

 「あら、かわいい。どこの子なの?いくつ?」

 

 始まってしまった。もう後戻りはできない。

 目敏くヘルダルフを見つけた村人達から口々に質問が飛ぶ。

 ヘルダルフどころかスレイの怯えようを見ると、最悪の場合は神依を纏って逃げ出すことも視野に入れるべきだろう。

 しかし、仮に神依化したとしてもこの人数の天族から、ヘルダルフを守りながら逃げ切れるのだろうか・・・。

 あらゆる最悪を想定し、必死に思案するが結論として、このノリに合わせるしかないな。との答えにしか辿り着かなかった。

 

 胸中で頭を抱えたい気分だが、もうここは自分が乗り越えるしかないだろう。スレイやヘルダルフではいつボロがでてもおかしくはない。

 

 「みんなすまない。スレイと連れの子は長旅で疲れているんだ。僕から説明するから二人には先にスレイの家で休んでもらってもいいかな?」

 「ああ、そりゃ構わねぇよ。スレイの家はキレイにしてあるから、ゆっくり休むといい」

 

 ミクリオはスレイに目を向けると、任せろと言うように頷いた。

 

 「すまん。ミクリオ」

 

 小さくミクリオだけに聞こえる声で言うと、スレイは急ぎ足でヘルダルフと共にスレイの家に向かった。

 

 「まぁ、こんなとこで立ち話もなんだから村長の家にでもいこう」

 

 村人に進められるまま、ミクリオはかつてのジイジの家へ向かった。

 

 

 ジイジの家・・・。

 ジイジことゼンライ亡き後、そこには誰も住んでおらず、村の寄り合い所的な役割を果たす場所となっていた。

 

 家の奥、囲炉裏のある部屋では既にお祭り騒ぎが始まっていた。ミクリオはジイジがよく座っていた場所を見つけるとそこに座った。

 

 「あれ、ミクリオだけか?スレイは?」

 「すまない。長旅だったようで疲れているみたいなんだ。先に休んでもらったよ」

 

 先に始めていた人たちに簡単な説明をすると、そのまま話しの輪に加わった。

 

 「しっかし、あの可愛い子供はなんだ?髪の色はミクリオにそっくりだし」

 「でも、目の色がどっちにも似てないのよねぇ」

 「なのにミクリオには懐かないでスレイにべったりだしぃ」

 「で、ミクリオ。お母さんになった気分はいかが?」

 

 みんな思い思いの質問をミクリオに投げかける。

 長く生きているイズチの天族達は、特に暇をもて余しており、とにかくイベントごとが大好きなのだ。

 一瞬たじろいだミクリオだが、コホンと咳払いをして姿勢を正す。

 すると村人たちも真似をするように静かに姿勢を正して視線をミクリオに向けた。

 

 「まず、驚かないで聞いて欲しい。あの子は・・・」

 「・・・」

 

 ゴクリと生唾を飲む音が聞こえる。

 

 言える。今のこの状況ならギリギリ言える。がんばれ自分!

 心の中で必死に自分を鼓舞する。

 充分に間を開けて、そしてなるべく真面目な顔を作り上げてから少し恥ずかしげに目を伏せると、ポツリと呟いた。

 

 「僕と・・・。スレイの子供なんだ」

 

 ワァァァァァァァァァァァァァア!!!

 

 瞬間。爆発しそうな程の歓声が上がる。

 予想していたとは言え、みなの歓声に耳を痛めながら、それでも表情を崩さない。ミクリオはこの100年の間にポーカーフェイスを覚えていたのだ。

 

 「え、え、なんで!?すごーい!」

 「ミクリオ。オレ信じてたよ。お前はスレイと幸せになるって!」

 「キャー!告白は?告白ってしたの?どっちから?」

 「ミクスレキタ」

 「スレミクよ!」

 「さすが性別ミクリオ。興味深い」

 

 もちろんこんなのは場を濁すための嘘だ。しかし、テンションの振り切れた村人たちは、天族と人間との間で子供が出来ないという、基本的なルールまで愛の前では些細なことと切り捨て、半狂乱で騒ぎまくるのである。

 

 (スレイ。ごめん。でも僕は乗り切ったよ。)

 

大騒ぎする村人達を横目に心の中で小さく嘆息する。

あぁ。もう休みたい。

ミクリオの精神は既に限界を迎えていた。

そんな瞳から光の消えたミクリオに誰一人気づく者はおらず、狂喜渦巻く大宴会は朝まで続くのであった・・・。

 

 

翌日。

村を歩くスレイに、村人達から口々に祝福の言葉を投げ掛けられ、スレイが苦笑いという特技を覚えることになるが、それはまた別の話である。

 




ごめん。ミクリオ。
今回の見切り発車の犠牲はキミだったね。

前回のあとがきで目的がどうとか言ってましたが、そんなことより目からハイライトを失ったミクリオを見て!

どうしても書きたかったから後悔はしていない。

でもこれはさすがにごめんなさい。


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2.ヘルダルフ

今回は今のところいいとこなしのヘルダルフちゃんにフォーカスを当てていきます。

この子なにものなんでしょう。全然喋んないんですけど。



 イズチに滞在して5日が経つ頃、ようやくヘルダルフも疲れが抜けたのか、元気を取り戻したため、次の目的地について話し合うことになった。

 

 「あの子はどうするんだ?」

 「もちろん一緒に連れていこうと思う」

 

 そりゃそうだとスレイは笑った。確かにイズチに置いておけば安全かもしれないが、正体がバレてしまう可能性がある。

 そうでなくても、まだ精神年齢で言えば5~6歳のこの子をじゃあよろしくねと、置いていくわけにもいかなかった。

 

 過去のヘルダルフはどうだったか知らないが、今のヘルダルフはとても臆病だ。これを人間で言うところの"人見知り"と呼ぶのだろう。

 村のみんなの話では、かつて子供のミクリオは人見知りを発症していたが、対するスレイの方は全くなかったらしく、幼い時のスレイは可愛い。ミクリオは生意気だったとみな口を揃えて笑う。

 

 「本人にも聞いてみようか?」

 「だな。ここに居たいと言うかもしれないし」

 「まぁ、その時は腹を括ってネタばらしだね」

 

 ミクリオの諦めきった顔にスレイが苦笑する。

 ミクリオは席を立つと、部屋の奥でスレイの本を読んでいたヘルダルフを呼ぶ。

 

 「エダ。ちょっとこっちに来てもらえるかな?」

 「はーい」

 

 可愛いらしい声と共に、白髪にアメジスト色の瞳の声の主であるヘルダルフが現れる。"エダ"という愛称は村に滞在した初日に、スレイとミクリオでつけた愛称だ。無論村人からバレるのを防ぐ目的と、ヘルダルフでは少し長いとミクリオが言い出したため、このような愛称になった。

 また、この愛くるしい見た目に対して、ヘルダルフという厳つい名前は少々不似合いだと感じたのも理由の一つだ。

 

 スレイは胡座をかいたまま二人を観察する。

 エダはいつの間にかミクリオに懐いていた。最初こそ怯えていたが、元々面倒見が良く心根の優しい彼にエダはあっという間に懐いていた。

 

 「ほらエダ、おいで」

 

 ミクリオが微笑みながら自分の膝をポンポンと叩くと、エダは当たり前のようにその膝の上に座り、まるで座りなれた椅子のようにミクリオに背を預け、満足そうに目を細めた。

 ミクリオはそれを後ろから優しく抱き締めるとエダのお腹あたりで手を組み、上からエダの顔を覗き込むように、先ほどの質問をエダに問いかけた。

 

 これから自分たちが旅に出ること、旅は辛いことや悲しいこともあること、それ以上に楽しいことや嬉しいこともあること。もし、エダが望まないのならここで平和に過ごせるよう手を尽くすこと。

 ゆっくりわかるように説明した。

 

 「イヤ。一緒!一緒がいい!」

 

 必死とも言える叫びにスレイとミクリオは真剣な顔でお互いの顔を見る。そして。

 

 「そっか。じゃあ決まりだな」

 「うん。決まりだ」

 

 スレイが言うとミクリオも頷いた。

 これからの旅にこの子も連れていく。決して旅は楽しいばかりではないが、それでもこの子が望むのならと、二人で連れていく覚悟を。守っていく覚悟を決めた。

 

 しかし、連れていくとなると、差しあっての準備と目的地が変わってくる。元々は一度近場のエドナの様子を見に、霊峰レイフォルクへ向かう予定だったが、エダを連れていく以上、まず必要な物がある。

 

 「どうしようか、ミクリオ最近何かみつけた?」

 「いや、それよりもまずこの子の属性を知るべきだろう」

 

 二人が話しているのは"器"のことである。穢れが減ったとはいえ、清浄な器無しではこの先、何がエダを憑魔にしてしまうかわからない。

 また、器が天族の特性に合った武器などであれば、ライラと合流後、陪審契約を結ぶことができ、そうすれば最悪エダが戦えなくても、スレイと神依を行うことで、足手まといどころか、戦力にもなりうるとミクリオは考えていた。

 

 「エダ。君は天響術は使えるのかい?」

 「えっと・・・。わからない。使ったことない」

 「これは試すしかないかな?」

 「ここではだめだよ。スレイ」

 

 ミクリオは幼い頃、初めて天響術を使った日の事を思い出していた。

 幼かったミクリオは覚えたばかりの天響術をスレイに見せようと、スレイの家で試したことがある。

 案の定、制御を失った天響術はスレイの家をまるごと洗濯し、危うく二人とも命を落としかけてしまった。

 幸いすぐに異変に気づいた村人たちに救出されたが、一歩間違えば大惨事だったと、後からジイジにこっぴどく叱られた。

 

 スレイもすぐに思い出したのだろう。すぐさま青い顔になって立ち上がった。

 村の出口まで移動しよう。と提案するとイソイソと準備を始める。

 

 「スレイ変だねー」

 「フフッ。そうだねエダ」

 

 ミクリオはエダの頭に軽く頬擦りすると、エダを膝から下ろして立ち上がる。

 

 「なんかミクリオがジイジに似てきた」

 「そりゃ光栄だね」

 

 半眼のスレイの軽口を受け流しながら部屋の扉を開けると、いろいろと準備があると残して手を振りながら出ていってしまった。

 

 「なんか"お母さん"みたいだね」

 「おかあさん?」

 「んー。オレもよくわかんないけど、優しくて、それからすっごく強いんだってさ!」

 「じゃあ、ミクリオだね!」

 

 スレイとエダはイヒヒと笑い合うと、手を繋いで村の入り口まで歩きだした。

 

 

・・・

 

 

 村の入り口付近。

 やぁ、待ってたよ。と既に準備を終えて先に到着している有能なお母さんと合流し、イズチの門より少し先。アロダイトの森の入り口付近にある、広場のようになっている場所まで移動した。確かスレイと村を抜け出して、初めて旅に出た日。二人で朝日を眺めた場所だ。

 

 「さぁ、始めるよ。まずはエダがどの属性を扱えるのか確認をしていこう」

 「うん!」

 

 ミクリオはわくわくを隠せていないエダに少し苦笑しながら、まずはお手本を見せると言い、水属性の初歩天響術である"フロウ"を空に向けて放つ。あえて杖を回転させずに放ったそれは、水流であったのも束の間。即座に失速し、ただの雨粒のように大地に霧散した。

 

 「おー!」

 

 エダが嬉しそうに手を上げる。そして、なんかわかっちゃったかも。と言いながら深く腰を落とした。

 

 何事かと目を見張る二人の前で、両手を腰の右側に組み合わせ、そして紫色の紋章がエダの周囲を取り囲むようにいくつも現れる。

 

 「これは!ジイジと一緒じゃないか!」

 「って、ミクリオなんかこれヤバい!!」

 

 あっという間に拡がった紫雷にミクリオとスレイも囲まれてしまう。制御などハナからされていない雷は草花を焼き、空気すらも焦がしていき、とうとうスレイとミクリオを飲み込もうした時。

 

 「はああああ!サンダァァアア!ブレェェェェド!!」

 

 叫ぶと同時に複数展開されていた紋章が、瞬時にエダの手の中に収束したかと思うと、眩いほどの光を放ち、ひと振りの長大な剣の形を成した。

 更にエダはその長大な剣を腰だめにすると、シッ!という呼吸に合わせてその剣を横凪ぎに振るう。

 

 キュガガガ!!

 

 まるで大気が悲鳴のように耳障りな音を立てたかと思うと、一瞬の内に紫電の光は遥か向こうに見える山に吸い込まれるように飛んで行き、後には派手な破砕音とまるで火山が噴火した後のような土煙が上がった。

 

一瞬呆然としたスレイとミクリオだが、復活が早かったミクリオが大声で叫ぶ。

 

 「スレイ・・・まずい!消火、消火だ!」

 「うわあああ!ルズローシヴ=レレイ!!」

 

 慌てたようにスレイが叫ぶと、ミクリオの体はスレイに吸い込まれ、そしてまばゆい青光の後、真っ白な衣服に身を包んだスレイが現れた。

 

 「まずは蒼穹の十二連!」

 

 先ほどエダが放った紫電の刃の先に向かって水の矢を放つ。そして今度は直上に弓を向けると、目では捉えられない速度で大量の矢を上空に放つ。

 

 「アローレイン!!」

 

 降り注ぐ水の矢が辺り一面に降りしきり、小さな火種を次々と消していく。他にも目立った火種や燻っている草木に水をかけていき、粗方火を消し去ったことを確認すると、額の汗を拭ってから、神依を解除した。

 

 元の姿に戻ったスレイとミクリオ。そしてその視線の先には驚いた表情のエダが居た。

 エダは何度か大きな瞳をパチパチと瞬かせると、とても驚いた様子でこう言った。

 

 「スレイ、ミクリオ・・・。なんか出たかも!」

 

 自分が今行ったことを全く理解していない様子のエダに、二人は毒気を抜かれてしまい、ただただ地べたに座り込むしかないのであった。




ヘルダルフの愛称がエダになるまでの流れ。

ヘルダルフ→へーるだるふ→へえるだるふ→ヘエルダルフ→エルダル→エル?ダル?(長考)→エダ!

という、このような単純な思考で決まりました。


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3.器

さて、ヘルダルフもといエダちゃんの力が垣間見えましたね。なんだこれ。
でも、アニメのクロスをご覧の方はご存知かもしれないですが、天族って本気出すと超強いのですよ。
ライラさんとかめちゃくちゃ強そうでしたね!

今回のお話はエダちゃんの器に関するお話です。
ちなみにまえがき書いてる時点でいつもの通りなーんにも考えてませんが、この子たちはいったいどんな器を見つけるのでしょうか。わたしも気になります!


 あの大騒動の後、盛大な爆発音に気づいたイズチの村人達が総出で事後処理を開始した。

 みんな妙に手際がいいのは、過去にスレイやミクリオだけではなく、村の誰かが盛大にケンカした後などは、村人達が総出で事後処理もとい、お片付けを行っていたためである。

 

 「おい、こっちに風をくれ」

 「はいよ」

 

 ずぶ濡れのエダに向かって風の吹かせ、そこに火の天響術を乗せる。すると暖かな温風が生まれ、エダの服と体を急速に乾かしてゆき、エダの後ろに控えたミクリオはわしゃわしゃとタオルでエダの髪を拭いていく。

 

 一方のスレイはというと、地の天族と水の天族を引き連れて破壊してしまった山の修復に行くという。たった3人だけだが、それだけで充分なのだそうだ。

 ただの人間が見ていたら卒倒してしまいそうな光景だが、イズチではこれが当たり前であり、それを指摘するものは誰一人居ないのだった。

 

 

・・・。

 

 

 「はー。いい運動になったな」

 

 ひとしきり片付けを終え、村人達にお礼を言って別れた後、スレイ一行も帰路につく。

 ミクリオがしきりに心配そうな顔でエダの顔を覗いているが、エダは顔を上げる素振りを見せず、小さな手でミクリオの手をぎゅっと握っているだけだった。

 反省でもしているのだろうか?そう思ってそのまま歩いていると、急にエダの力が抜け、ガクンと膝から崩れ落ちてしまった。

 

 「なっ!?」

 

 慌ててエダを抱き止めるミクリオ。だが、抱き止めたエダの顔を見て、すぐに安堵のため息を吐く。

 

 「寝ちゃったみたいだ」

 「ありゃ?そっか、おぶるよ」

 

 スレイがしゃがみ、ミクリオがエダを起こさないように慎重にスレイの背中へと預ける。

 よっ!という声と共にスレイは立ち上がると歩きだし、いつも通りミクリオはスレイの左側へと並んだ。

 

 「なんかさ、思い出しちゃうよね」

 「奇遇だね。ボクもだよ」

 

 西日が傾く村の中をゆっくりと歩く。

 二人はジイジを思い出していた。

 確かあの時はスレイが、あの時はミクリオが。

 ジイジに背負われて夕暮れの道を進んでいた。

 

 今でも忘れない。大事な記憶。

 泣きながらジイジにしがみついていたっけ。

 ジイジは何も言わず、ただゆっくりと歩いてくれた。

 ジイジの背中が暖かくて、どんなことがあっても不思議と最後は眠ってしまうのだ。

 とてもとても暖かい記憶。

 

 「エダが大人になっても、今日のこと覚えてるかな?」

 「どうだろうなぁ・・・。でも、きっとボクらの事は覚えててくれると思うよ」

 

 スレイの笑顔に釣られミクリオも笑顔を見せる。二人はそれ以上何も言わずにスレイの家に向かって歩きだした。

 

 その日の夜。

 エダを寝かしつけたミクリオはスレイに自分の考えを話した。

 「エダなんだけど、たぶん部類としては雷の天族なんだと思う」

 「そりゃ、確かに雷の天響術使ってたからね」

 

 ミクリオはスレイの言葉に頷く。

 しかし、本当に大事なことは、そこではない。

 

 「エダは最初から雷を使った。この意味がわかるかい?」

 

 スレイは一瞬悩んだが、すぐに何かに気づいた顔をして、そしてまた考え込む。

 

 そう。エダは最初から雷を使った。

 

 ジイジがあまりにも普通に雷を使うので、二人の感覚はマヒしていたが、本来それは"ありえない"のである。

 

 天族が生まれながらにして持つ属性は4つ。地、水、火、風。この4つしかない。

 もちろんジイジのように長い年月をかけ修練を積むことで、属性を掛け合わせて原理として雷を使うことができる者もいる。しかし、雷の天響術というのは、あくまでも火と風の天響術の掛け合わせであり、掛け合わせた結果、雷を生むのであって、本当の意味で雷の力を呼び出して扱うわけではない。

 ジイジであってもそうだったはずだ。

 

 つまり、ただの天響術を使うよりも遥かに難しい高度な組み合わせ技を、1つの属性の天響術もまともに扱うことができない子供がやってのけたのである。

 そんなことがあるわけないのだ。100年の時を過ごしたミクリオですら、まだ自分の対応属性の天響術しか使えないのに、あんなにつたない技量で、天響術を組み合わせることなどできるはずがなかった。

 となると、やはりエダは"最初から雷の天響術を使えた"と考える方が自然なのだ。

 

 「とりあえず、まだ一度しか天響術も使ってないし、しばらく様子をみよう」

 「だな。これから時間はたっぷりあるさ」

 

 スレイの言葉にミクリオは頷くと、もう1つと付け加えた。

 

 「エダに合う器なんだけど、さっきのエダの動きを見て思い付いたものがあるんだ」

 

 そう言うとミクリオは布に包まれた棒のような物をスレイの前に差し出した。

 

 「開けるよ?」

 

 ミクリオが頷いたのを確認し、スレイは布を開いた。

 

 「これは・・・」

 

 姿を現したのは長刀。

 片刃の刀はどこか東方の地のサムライソードを思わせる。

 しかし、それは明らかに片手で扱うことを意識しておらず、柄部分と合わせると、ミクリオの身長程の長さがあった。

 そして、これは実際にこの刀を前にしてみないと感じないが、異様なまでの迫力があり、この刀が尋常ならざるものだということを肌で感じる。

 作成されてから長い年月が経っているのだろう。柄の装飾部分は既に風化をはじめているが、その刀身はまるで昨日作られたかのように、美しい輝きを放っていた。

 

 「すごいじゃないかミクリオ!こんなのどこで見つけたんだ?」

 「これは・・・。キララウス火山で見つけたんだ」

 

 スレイがヘルダルフと共に地の底に沈んだあと、ミクリオは何度もキララウス火山に足を運んでいた。

 あの戦いの後、キララウス火山の地殻が不安定になっており、行く度に洞窟内の地形が変わっていた。この刀はミクリオが4度目にキララウス火山に向かった際に発見したもので、次に向かった際には、刀のあった場所は無くなっていた。

 まるで自分を見つけて欲しいと姿を現したその刀を、ミクリオは望み通り連れ出したのである。

 

 「僕の見つけた発掘品の中ではダントツだと思うよ」

 「そっか。一応他も考えるけど、これが決まりっぽいな」

 

 しばらくあれやこれや複数の発掘品を品定めしていた二人だったが、やはりこの刀以上に相応しいと思える物がなく、

スレイはこれをエダの器とすることに決めた。

 

 異様な雰囲気と不明な出自。見たところ器としては申し分ない。

 これで旅に出ても安心だと笑うスレイを横目に、ミクリオは一人、嫌な胸騒ぎを感じていた・・・。




さぁさぁ、出てきましたよエダちゃんの器。
こんなんでてくるんだね。都合よすぎてびっくりです。
わかる人にはわかると思いますが、あの刀です。

いや、ほんとに全然思い付かなくて悩んでたんですが、話を進めていくと、キャラたちがどんどんヒントくれるのですよね。マジ有能です。
わたしが遊んでもちゃんと軌道修正してくれるので本当に助かりますね!


話しは変わりますが、
お気に入り登録ありがとうございます!
私のお話を読んでいただけるだけではなく、気に入っていただけるなんて!本当に本当に嬉しいです。
すっごいやる気でますね!もう、やる気の王様ですよ!

これからもがんばって書いていきますので、キャラ共々最後までお付き合いいただければ幸いです。


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4.約束を果たそう

さぁ、ほのぼのタイムは終わりです。
とうとうスレイたちも旅にでますよ!

他のみんなは何してるのですかね!
わくわくが止まりません!

今回もそんなキャラ達頼みの
見切り発車でお送りいたします!

あれ?もう作者いらなくねぇですか???(困惑


 「いよっと!」

 

 荷物の入った皮袋を持ち上げる。

 中には旅に出ても困らないようにグミやハーブに食料など、さまざまな物が詰め込まれている。

 

 「スレイも準備できたかい?」

 

 「うん。大丈夫。まぁ、足りない物があったら現地調達かな」

 

 「エダもできたー!」

 

 旅の準備は万全。みんなでお揃いのウリボアの皮袋だ。

 スレイとミクリオの皮袋は巾着風で、エダのものは肩かけのポーチのデザインになっている。

 これは、少しでもエダが歩きやすいようにと、ミクリオが裁縫して作ったものだ。

 

 エダが嬉しそうにミクリオに飛び付く。

 ミクリオはエダの頭を軽く撫でると、行こうか。と言って歩きだした。

 

 

 村の入り口に着くと、村人全員が集まっていた。

 なんでも、スレイとミクリオの旅立ちの際も気づいていたが、ジイジに見送りを止められていたらしい。

 ジイジ曰く、若い者の旅立ちに後ろ髪を引かせてはならん。ということだった。

 

 しかし、今回はジイジもおらず、また二度目の旅立ちともあって、みんなほのぼのとした雰囲気で集まってくれていた。

 

 「なにかあったらすぐに帰ってくるんだよ」

 

 「なんにも無くても顔ぐらいはだせよ!」

 

 ワハハハと笑い声が起こる。

 

 「絶対帰ってくるよ」

 

 「ジイジのお墓のこと、お願いします。」

 

 二人はそれぞれ言葉を残すと、両側からエダを挟むように手を繋ぎ、村の入り口に背を向けた。

 

 「やっぱりさびしいもんだねぇ・・・。」

 

 「みてみて、あの3人ほんとに親子みたいね!」

 

 「ほんとだねぇ・・・」

 

 村人達にとってスレイもミクリオも幼い時から皆で育ててきた大事な子供だ。二人の連れてきたエダに至っては、初孫のような気持ちで見守っていた。

 もちろん本当にミクリオとスレイの子供だなんて誰も信じてはいなかったが、まるで本当の親子のように寄り添う彼らを見て、その事については本人達が口に出すまで黙っていようと村人全員で決めていた。

 「だから、絶対無事に帰って来るんだよ・・・」

 

 誰かが呟いた言葉に、イズチの村人達は彼らの大好きなふるさとを、これからも守っていこうと心に誓った。 

 

 小さくなる3人の背中。そして彼らが見えなくなった後も、しばらくの間、誰一人その場所から動くことなく、ただただその場に立ち続けていた。

 

 

 村を出て小一時間。

 エダが疲れてしまわないか心配していたが、その心配は杞憂だというように元気に先頭をずんずん歩いていた。

 

 旅の目的地は"霊峰レイフォルク"

 まずは居場所がわかっているかつての仲間に、スレイの復活と旅のお誘いをかけるつもりだった。

 その仲間の名前はエドナ。

 地の天族である彼女は、可憐な少女の見た目とは裏腹に、毒舌を吐きまくるミクリオにとってはもはや天敵とも言える間柄だった。しかし、見た目よりも遥かに年上の彼女の本質はとても優しい心の持ち主で、かつての旅の際もきっと思うところも沢山あっただろうが世界を救うために、本当は何よりも大切な物事を半ば諦めてまで最後まで一緒に戦ってくれた。

 

 そう、今回の旅の最終目標は、彼女の兄を救うというものだ。

 

 彼女の兄の名は"アイゼン"

 かつてはとても不器用だけど、とても優しい天族の青年だった。

 彼は長い年月を人と過ごすという生活を送っており、いつからか穢れに飲まれ、完全なドラゴンとなってしまっていた。

 

 ドラゴンというのは、天族の穢れの先にある成れの果てで、本来穢れを生み出すことのない天族が、人々の放つ穢れに長く当てられることで、ドラゴンパピーを得て完全なドラゴンへと変わっていくものである。

 ドラゴンパピーであれば、まだ救う手段は数多く残されているが、完全なドラゴンを救う方法は、これまで無いとさえ言われていた。

 アイゼンは、この完全なドラゴンに分類される。

 

 しかし、救う方法が無いというわけではない。

 これまでと表現した通り、ドラゴンを救う方法はあるのだ。

 

 ドラゴンと言えども憑魔である。浄化の炎を使うことで浄化は可能なのである。しかし、そこには問題があった。憑魔を浄化する際に放たれる穢れ。

 一人の人間が発する程の穢れであれば、難なく耐えることができるのだが、ドラゴンになるほど深く穢れた者を浄化するためには、一人の導師では耐えきることができかったのだ。

 

 そのため、本当は彼女を迎えにいった先で願いを叶えてしまいたいところなのだが、その前に仲間集めを行わなくてはいけなかった。

 

 少なくともかつて一度だけドラゴンを浄化した時と同じ3人。長くドラゴンの姿で過ごした彼を助けるためには、さらにそれ以上の数の導師の力が必要だとスレイは考える。

 実を言うとこの世界には既に導師がスレイ一人しかいない。スレイの後任の導師もいたようだが、スレイが眠っている100年の間に、人間の彼はとっくに寿命が尽きていた。

 もちろんかつての仲間も同じく亡き人となっているため、導師、もしくは従士を増やす必要がある。

 

 従士というのは名前の通り導師に付き従うもので、導師になる素質である高い霊応力を持つ人間が、導師と契約した主神である天族と従士契約を行うことで、従士となることができる。

 

 なので、途方もない話しではあるのだが、まずはスレイの主神を探す。その後従士になれるものを複数人探して契約し、そこまでして初めてドラゴン浄化の儀式にとりかかるという流れになる。

 

 しかし、これだけ大変な事とわかっていても尚、スレイもミクリオも表情は晴れやかだった。それはかつて何度も涙を飲みながら倒してきたドラゴンを今回は必ず助ける方法があることを知っており、さらに過去に助けた実績まであるからだ。

 あの助けられなかった頃とは心持ちが全然違うのだ。

 

 「もうすぐアロダイトの森の出口だよ」

 

 ミクリオが昔作った地図通りに道を進んでいくと、目の前に森の出口を現す、ひときわ強い太陽の光が射し込んでいた。

 

 「どうしよう、一度レディレイクに寄ったほうがいいかな?」

 

 「まだ時間も早いし大丈夫じゃないか?ここまで憑魔とも戦ってないし」

 

 「エダ早く山登りしたーい!」

 

 エダの様子次第で決めようと思っていたが、まだまだ元気な様子のエダを見て、レイフォルクに向かうことを決めた。

 

 一行は森の出口の前で一旦立ち止まる。

 

 「いいかいエダ?ここから先、イズチの結界からでてしまうと憑魔というモンスターが現れる可能性がある。まず出会ったら僕とスレイの後ろに、すぐに隠れて欲しいんだ。できるかい?」

 

 ミクリオは優しそうな、それでいて心配そうな顔をしてエダの顔を覗き込む。

 

 「エダも戦っちゃだめ?」

 

 エダの言葉にミクリオは少し考えた後に、柔らかい笑みを浮かべて言う。

 

 「エダは僕達を助けたいのかい?」

 

 「うん!」

 

 大きく返事をするエダの頬に手を添えて、ミクリオはエダの額に自分の額をあてる。

 

 「エダの気持ちはわかった。とても嬉しいよ。でも、違うんだ。これから現れる憑魔というものは、スレイのような浄化の炎を使える導師じゃないと戦うことができないんだ」

 

 「どうして?エダ戦えるよ。すごいてんきょーじゅつも使えるよ!」

 

 「うん。エダは強いよ。だけどだめなんだ。エダが戦うと・・・」

 

 「ミクリオはなんで意地悪いうの? ミクリオ嫌い!」

 

 エダは話を聞かず森を飛び出した。

 

 「スレイぃぃ・・・」

 

 「ま、理解するにはちょっと難しいよな。俺からも話すよ」

 

 泣きそうになっているミクリオの肩をぽんぽんと叩くと、スレイは早足でエダの後を追った。

 

 

 森を出て数分。エダはプリプリと怒ってますアピールをしており、スレイに隠れてミクリオを近づけさせない。

 

 「こりゃ一旦レディレイクに寄らないとだめかもなぁ」

 

 ミクリオは先ほどから死んでしまいそうな顔をしながらトボトボと歩いている。

 スレイは小さく嘆息しながら、レディレイクへの道を進むのであった。

 

 

・・・。

 

 

 「あれは・・・」

 

 スレイ達が去った後、森の出口付近に人影が現れる。

 

 「ようやく見つけたでこざる」

 

 人影は小さく呟くと、スレイたちの歩いて行った方に向かっていった・・・。

 




というわけで今回も読んでいただきありがとうございます。
とうとう旅の目的も明らかになりましたね。

でも、最後の影って誰なんでしょう?
すっごく気になりますね!

次回もお付き合い下さいませ!
それでは!


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5.災渦の顕主

さぁ、とうとう真面目にバトルです。
しかも、相手は・・・。

さぁ、今回も何があるのか。
わたしも色んな意味でドキドキです!


 「! スレイ!」

 「あぁ!わかってる!」

 

 突如背後に生まれた膨大な量の穢れ。

 二人はなんの冗談かと思う。

 あのヘルダルフとの最終決戦ですら感じたことのない、鋭い威圧感。少し気を抜けば体の自由を奪われかねないほどだ。

 その規模も恐怖もかつてのヘルダルフを遥かに越えていた。全員の足が止まってしまう。

 

 「まずい!」

 

 もう、あまりにも近すぎて、エダを逃がすことができない。

 エダはとっくに恐怖に怯え、まばたきすらできないような状態に陥っていた。

 こんな状態では走ることもままならず、誰かが抱えて逃げる以外の選択肢が浮かばない。 

 体の震えが極限に達している。

 もし器がなければ瞬時に憑魔へと堕ちてしまいそうな、それほどの穢れ。

 エダの器を見つけていなければ、と背筋に冷たいものが流れる。

 

 果てしなく黒いそれは、大地を飲み込むように徐々にその濃さを増していた。

 もう、逃げることはできない。なら!

 

 「スレイ僕が時間を作る!エダを頼む!」

 

 「ミクリオ!?」

 

 ミクリオは反転し、手にした杖を漆黒の穢れに向かって付き出す。

 

 「来いっ!」

 

 かつての仲間はもういない。

 しかし、目の前には明らかに今まで戦った憑魔とは比べ物にならない程の穢れを発する敵。

 放っておけば世界を飲み込んでしまうほどの穢れ。これを放っておくことはできなかった。

 だが、今のスレイとミクリオだけでは絶対に勝てない。

 それでも、スレイさえ、導師さえ生き残ってくれれば、起死回生のチャンスはある。

 ミクリオは瞬時に判断た。しかしその判断は自身破滅。自分を捨て石にする事だった。

 

 「くっ!ミクリオ!」

 

 その時、スレイも判断を迫られていた。

 ミクリオと共に戦うか、それとも逃げ出すか。

 しかし今のエダの状態では全員で戦うにしても誰かがエダを守らなくてはならず、それはすなわち神依を纏えないことを意味していた。

 二人では戦えない。しかし一人一人戦っても勝てない。ほんとうなら自分が守りたい。

 心ではそう考えているが、頭の冷静な部分ではここで逃げて体制を立て直す方法を考えている。

 もしライラが居れば、エドナが居れば、ザビーダがいれば、ロゼが居れば、アリーシャが居れば。

 そうすれば何かが変わったかもしれない。この状況を打破する選択を選べたかもしれない。

 だけど今は居ない。自分とミクリオとエダ。この3人で戦うには、生き残ってこの強大な敵を倒すためには、やはり自分が生き残るしかなかった。

 

 きっとミクリオも同じ事を考えて自分とエダを逃がそうとしているのだろう。

 今もミクリオの考えていることが手を取るようにわかる。

 

 スレイは決断するしかなかった。

 エダを守ることを。そして、自分が友を置いて逃げることを。

 しかし、絶対戻る。友をただ死なせるわけには行かない。

 必ず戻る!歯を食いしばってスレイはエダを抱いてその場から走り去った。

 

 ・・・。

 

 スレイの気配が遠ざかるのを感じる。

 少しさびしいけれど自分の考えを理解してくれた友人に、やはり感謝を感じずにはいられない。

 スレイ、どうか無事でいてくれ!

 

 いい。これでいいんだ。

 自分に言い聞かせるように、今にも震えだしそうな体に渇を入れる。

 

 未だに敵の姿は見えない。

 ミクリオは周囲を警戒し、迎撃体制をとる。

 直後。

 

 「はっはっはっ!いい判断だ。そしてその選択は正しい。だがな?」

 

 「なっ!」

 

 聞こえた声は背後からだった。

 突破された!?

 

 早い。早すぎる。姿を見ることすら叶わなかった。

 溢れる焦燥。

 後ろを振り向くと黒い影がスレイにもう届きそうな勢いで迫っていた。

 

 嘘だろ!そんな!

 

 「スレェェェェェイっ!!」

 

 ミクリオは声を張り上げた。

 半ば悲鳴のようなその声は、確かに友の耳に届く。

 スレイの判断は早かった。

 

 「ルズローシヴ=レレイ!」

 

 ミクリオの体が青い光となって漆黒の霧を追い越し、スレイを覆う。

 

 「蒼穹の十二連!!」

 

 合体して速攻。

 振り向き様に放ったそれは、実にただの牽制。

 

 12本の渦巻く青い光の矢は、確実に地面に着弾し、黒い霧を吹き飛ばす。

 狙いは本体ではなく霧の排除。

 

 いた!

 影の中から現れる人影。

 それももう手を伸ばせば届く距離。

 

 しかしそれを二人は予測していた。

 行ける!

 

 「散りし六星!!」

 

 キュイイイン...ズシャァァア!!

 

 目の前に展開された矢は6本に別れると、目の前の人影へ向かって勢いよく殺到する。

 

 直撃。

 

 黒い霧と土煙が混ざった爆風が辺り一面に広がる。

 

 スレイとミクリオはエダを抱えると、大きく背後に跳躍する。

 背中は決して見せない。

 確かに手ごたえはあったが、あれ一発で倒せる敵とは到底思えないからだ。

 

 追撃は・・・来ない。

 しかし、気は抜かない。目の前の土煙を懸命に睨み付ける。 

 いつでも逃げ出せるようにエダは脇に抱え、重心はいつでも背後に飛び出せるように後ろに掛けながら、

 開いた手で弓を掴み、土煙の向こうに向ける。

  

 「・・・」

 

 だんだんと土煙が晴れ、次第に周囲が見えてくる。

 

 「居ない!?」

 

 先ほどまであった人影は目線の先にはいなかった。

 そしてここまで時間が経ってやっと気づく。

 

 自分たちは判断を誤った。

 "さっき逃げるように動くべきだった"

 

 「!?」

 

 突如として背後に強大な気配が膨れ上がり、それは殺意を持ってスレイとミクリオに遅いかかる。

 とっさの判断で技を放つが・・・。

 

 「分けし天竜!!」

 

 「遅いな!二十六の型、黒川蝉」

 

 避けれない。

 

 人型の影が放った二本の黒い刃が、まるで獲物を見つけた鳥のように弧を描き、上下から鋭く仕掛けてくる。

 どちらを受けても致命傷。右腕と左足、両方を狙っている。

 どちらかを防げばどちらかを失う。

 

 逃げるためには足が必要。だが、この後も奴の攻撃を防ぐなら、攻撃をするなら腕が無くては話にならない。

 エダもここに置いていくわけにはいかない。

 足なら、1本あれば離脱はできる。地面に体を固定すれば攻撃もできる。

 

 足を・・・捨てるしかっ!

 

 弓を頭上に掲げて、下から来る衝撃に備える。ダメージを受けても立ち止まるわけにはいかないからだ。

 すぐに反撃をしなくてはいけない。

 

 ガキィィィン!

 

 金属同士がぶつかり合う甲高い音が響く、腕に衝撃。

 しかし、来ると思った足への斬撃が来ない。

 なぜ・・・?

 

 「童に助けられたようだな」

 

 「エダ!」

 

 視線を下に向けると、あの巨大な刀を握るエダが、下からの斬撃を防いでいた。

 いつスレイらの腕から逃れたのか。いや、今はそんな事はどうでもいい。

 

 ハァァァァ・・・。

 

 エダは大きく息を吐き一度肺に溜まった空気を吐き出す。そして刀を実際には存在しない腰の鞘に納めるように構える。その長すぎる刃から強大な殺気が溢れ出す。

 

 「・・・おい。まて、その刀、まさか!?」 

 

 「にじゅうろくのかた。くろかわせみ!」

 

 なぜか敵が驚いたように大声を上げるが、エダは既に動きだしていた。

 エダの体がブレる。その瞬間エダの前面、上下に紫の刃が二本現れる。

 先ほど敵が見せた技。しかしその色がエダの属性を現すように紫に変わっていた。

 

 「あれ?紫色?」

 

 「おいおいおいおいおい!待てと言ってるだろう!」

 

 紫の刃が敵目掛けて殺到する。

 先ほどの敵が放ったものよりは鋭さが足りない。しかし、明らかに紫雷を纏ったそれは威力だけで見るのなら敵が放ったものよりも高威力だとわかる。

 

 しかし、敵は殺到する紫の刃を容易く二つの斬撃で弾いてしまう。

 だが、顔は驚きの表情で固められていた。

 

 黒い霧は先ほどの攻防で既に晴れていた。相手の姿をようやく確認する。

 相手は男、どこか軽薄そうな東方の国の人間が好んで着るようなキモノを着ていた。

 背後にはエダの持つ刀とどこか酷似している長大な刀を背負っている。

 だが、未だにそれは抜かれておらず、彼の手には二本の小さな刀が持たれていた。

 

 一見すると人間に見えなくもない。この放っている穢れが無ければ、だが。

 一つだけ人間と大きく違うものを挙げるとすれば、

 顔の右側を仮面のように覆う黒い穢れだった。

 

 エダも敵もお互い動かない。

 そして敵が口を開いた。

 

 「悪かった。すまん!」

 

 一瞬何を言ってるのか理解できずに、構える手に力が入る。

 エダも一瞬驚きの表情を見せたが、体を強ばらせて刀を握り直していた。

 

 「いや、もう本当に攻撃はせん。ほれ!」

 

 握っていた二本の刀をポイと地面へ投げ捨て、そして胡座をかいてその場に座った。

 その言葉が本当だというように、先ほどまで放っていた穢れも殺気も嘘のように無くなり、

 視界に映る世界が色を取り戻していた。

 

 ・・・。

 

 (スレイ) 

 (ああ、話ができるみたいだ)

 

 スレイとミクリオは合体を解く。だが、警戒は解かない。

 スレイは彼に向かい、ミクリオはエダを胸に抱き、いつでも逃げられる態勢をとった。

 

 「信用されとらんな、ま、あんなチョッカイのかけかたをしたんだ。あたりまえか!」

 

 はっはっは!と豪快に笑う。

 

 「キミは、災渦の顕主・・・なのか?」

 

 スレイの問いかけに彼はニヤリと笑い。顎に手をやり答える。

 

 「そんな呼ばれかたをしたこともあったな。しかし、あれは俺のことではなく、ベルベットの事なのだがな」

 

 ベルベット。ベルベット=クラウ。

 かつての災渦の顕主。ローランド王の話やグリモワールの話、また、ミクリオが読んだマギルゥというメーヴィンの書物に出てきた女の名だ。

 なぜ、やつがそれを知っている。それに、あの書物はただの偽ものじゃ・・・。

 ミクリオは何か引っかかるものを感じたが、今はそれを考えるのをやめた。

 まずはこの男のことである。

 会話はできるが、れっきとした憑魔の彼をもっと知る必要があった。

 また、できるのであれば、こんな穢れを放っておくことはできないため、彼を浄化する必要があった。

 

 スレイは剣を収めて彼の瞳を覗き見た。

 

 「そんな悪い人には見えないんだけど」

 

 「わからんぞぉ?今も襲い掛かりたい衝動に襲われているからな」

 

 その言葉にミクリオとエダの顔が引きつる。

 

 「冗談だ。戦うのは俺の阿修羅としての本能だが、今は別のことに興味が沸いた」

 

 そういうとエダの持つ刀を指差す。

 

 「?」 

 

 「お前のその刀、それはどこで手にいれた?」

 

 ミクリオはエダの前にかばうように立ち、男に質問した。

 

 「それを答えるにはまずキミのことを教えて貰いたいところなんだけど」

 

 おっとそれはすまんかった。と男は頭を掻き、そして自己紹介をはじめた。

 

 「俺の名前はロクロウ。かつて災渦の顕主と共に世界を救った英雄だ」

 

 茶化すように言うと、ロクロウと呼ばれる人物は獰猛な笑顔を浮かべた。

 




あとがきですー。
いやぁ、ロクロウ。ロクロウでしたか・・・。
ベルセリア勢の中で初登場ですね。

なんでいきなり襲ってきたのか
なんでこんなイズチの近くにいるのか
謎だらけですねぇ。
しかしこれも見切り発車の醍醐味。

彼は何を考えてこの場所にいるのか
次回で明らかになるといいなぁ。


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6.友を助けに

さぁ、前回はロクロウでてきましたね。
彼は何を考えてるんでしょうか。

そんなことより、なんか男の子ばっかりなんでそろそろ女の子でてこないかなぁ。



 ロクロウと名乗る憑魔。

 先ほどから不穏な発言ばかり目立つが、その言動からは未だに本心が掴めない。

 まだ自分たちと戦う気があるのか、それとも別の目的があるのか。

 

 「俺の名前はスレイ。で、こっちがミクリオであっちがエダ」

 

 マイペースに自己紹介を始めるスレイ。

 しかし、マイペースな相手にマイペースを当てるのはどうなんだろう。

 

 「そうか、いきなり襲い掛かったことには謝る。お主らを一目見た時から相当の腕の使い手と見えてな。こんな平和な世界だろ?体がうずいて仕方なかったんだ。許してくれ!」

 

 ロクロウはそう言うとガバっと頭を下げた。

 しかし、ミクリオは腑に落ちない。あれは手合わせとか生温いものではなかった。

 明らかに命のやり取りだ。今思い出しても背筋が寒くなる。

 

 「本当にこっちを殺す気だっただろう。あの殺気は本物だった」

 

 「戦いに命を掛けず何が戦いか」

 

 ロクロウは顔を上げると当たり前だという表情で言った。

 

 「・・・」

 

 やはりコイツは危険だ。

 早く浄化をしなくてはいけない。

 ミクリオは考えるが、先ほどから気になることを発している彼にいくつか質問がしたかった。

 

 「この刀を知っているようなそぶりだったが、キミは何か知っているのかい?」

 

 「そうだそうだ!その刀!俺もその刀が知りたかった。それは俺の兄シグレの持ち物だ。キララウス火山で俺が倒した後、何度か向かったんだが、ついに見つけることができなんだ。お主らはどうやってそれを見つけたのだ?」

 

 ミクリオの質問にまくし立てると、ロクロウは瞳を輝かせた。

 

 「いろいろと長くなるけど、大丈夫かな」

 

 スレイとミクリオは、キララウス火山でこの刀を見つけたこと、地殻変動が起こってしまったのは、そこで災禍の顕主と戦ったことが原因であることを説明した。

 

 「なんと!そうであったか。しかし良かった。完全に失ったと思ってガッカリしておってな!」

 

 嬉しそうに話すロクロウだが、スレイもミクリオも複雑な表情をしていた。

 

 「その・・・。すまない。そのような大事な刀だとは知らなかったんだ。本当は返してあげたいところなんだけど、今はこの子、エダの器として使っている。だからすぐに返すわけにはいかないんだ」

 

 ミクリオが申し訳なさそうに言うと、ロクロウは豪快に笑って言った。

 

 「いや、それは構わん。特に取り戻したいとも思ってはいないさ。ただ、兄の形見なのでな、所在がわかっただけでも良かった」

 

 笑顔でうなずくロクロウにスレイとミクリオはほっと胸を撫で下ろした。

 エダも緊張が解けたのか、いつの間にかミクリオの腕から抜け出し、ロクロウの事を観察している。

 

 「ロクロウ。もう話は良いだろう。単刀直入に言う。キミを浄化したい」

 

 「ほう、お主らそんなことができるのか?」

 

 「オレ、一応導師なんだ」

 

 スレイが頭を掻くと、ロクロウはなんと!と驚きの顔をしたが、どこか納得したように笑顔を見せた。

 

 「やはりな。あれほどの強さだ。神依も纏っているようだったし、導師で相違あるまい」

 

 ミクリオは心の中で驚嘆した。これまでの憑魔とは性質が違いすぎる。言葉も通じれば、知識も豊富。もしかすると、長い年月を生きた憑魔なのだろうか。だとすると聞きたいことが山ほどある。

 

 ミクリオが考えこんでいると、ロクロウはさらに続けた。

 

 「しかし、俺の知っている導師らとはずいぶん違うな。奴らはまず憑魔を見れば殺すし、浄化なんて持ちかけられのは初めてだ。それにそんな力はかつての導師は持っておらんかった。それに導師といえば大体が偏屈なルールに縛られて、人間の幸せや意志を蔑ろにするやつらばかりだったが・・・。この数百年の間に何があったのだ?」

 

 「?」

 

 この言葉に、スレイもミクリオも困惑した。導師が殺す?人の幸せや意思を蔑ろにする?

 どちらもスレイとミクリオが思い描いていた導師とは真逆だ。

 こちらの空気を察したのか、ロクロウは笑みを見せると、まぁいいさと言葉を止めた。

 

 「キミが何を言っているかはわからないけど、俺はできればみんな。人間も、天族もそれに憑魔になってしまった人々も、みんな救いたい」

 

 スレイはロクロウの目を見て言った。

 これはスレイの本心。そして目指すもの。

 スレイはこれまでも何度も相手の命のやりとりを行わなければならない場面に遭遇してきたが、その全てを友や仲間たちと一緒に乗り越えてきた。

 スレイの言葉の迫力に、今度はロクロウが困惑した顔になる。

 

 「しかし、浄化するのは良いが、どうやって浄化する?ひとつ心当たりがないことも無いが、それでも昔の俺は浄化できなかったぞ?」

 

 「俺がやるよ」

 

 スレイは腰に下げた祭礼用の剣を抜き、そこに浄化の炎を灯した

 

 剣に灯される青白い炎。ゆらゆらと揺れるその炎を見て、ロクロウの目が驚きのあまり見開かれた。

 

 「おぬし!その力は、ライフィ・・・マオテラスの力かっ!」

 

 「えっと、詳しいことはわからないけど、たぶんそうなのかな?」

 

 スレイも詳しいことはわからない。この力はライラから預かっているものであるが、ライラからは誓約のため、詳しいことを聞きだせていないのだ。

 しかし、ライラの言動からマオテラスと関連するものであろうことはわかっているため、スレイはロクロウの言葉を認める形となった。

 

 「そうか、いや、いい。やってみせてくれ。正直なところ穢れが濃くなりすぎてな、街に入って心水を買いにいこうものなら片っ端から人間が穢れていくもので。どうにも困っておったのだ・・・」

 

 物騒なことを言い始めるロクロウ。しかし、ならばなおさら彼を浄化せねばいけない。

 スレイとミクリオは顔をお互いの顔を見て頷き合う。

 

 「スレイ」

 「うん。ロクロウ。早速だけど始めるよ」

 

 スレイは祭礼剣を地面に突き立てて、剣に青白い炎を纏わせる。

 その間ロクロウは微動だにせず、胡坐を掻いた格好でスレイから吹き荒れる炎を凝視していた。

 

 「ミクリオ、そっちに行ったのはお願い。あと、エダを守って」

 

 「ああ、任されたよ」

 

 ミクリオも構え直し、溢れ来るであろう穢れに備える。

 

 「はぁ!!!!!」

 

 スレイが気合を込めると、その瞬間、青白い炎は格段に大きさを増し、その炎は一瞬でロクロウの全身を覆った。

 

 「くっ!」

 

 溢れ出る穢れがドラゴンと同じかそれ以上に流れてくる。

 スレイは一瞬怯んだが、強く足を踏ん張ってそれを耐える。

 

 「スレイ!無理はするな!」

 

 「そうだ、一回で全部とはいかんくてもいい。出来るとこまででやめておけ」

 

 自分は逃げる気は無い。とロクロウが暗に伝える。

 

 「ぐぅおおおおおおおおおあああああ!」

 

 しかし、スレイはやめない。

 

 10分、15分、20分。

 

 どれだけの時間が経ったのだろうか。しかしそれは突然終わりを迎える。

 

 突如青白い炎の勢いが弱まったかと思うと、スレイの体が大きく左側に崩れた。

 

 「スレイ!」

 

 ミクリオは駆け出すと、スレイの肩を抱いた。

 

 「ごめん・・・。だいぶ、払えたと思うけ、ど、ぜんぶ・・・無理・・・」

 

 言葉を言い終わる前にスレイの意識が無くなった。

 力を使い切ったのだろう。まだ浄化の途中だが、これが今のスレイの限界。

 

 ミクリオはスレイが穢れに飲まれなかったことに安堵した。

 

 やはりこれほどの穢れを浄化するためには仲間が必要だった。

 わかりきってはいたことだが、やはりこれ程の穢れを導師一人での力で浄化することはできなかった。

 だが、このように安全に浄化を試せる機会はいままで無かった。

 そういう意味ではここで今のスレイの実力を測ることが出来たのは大きな収穫だと思う。

あとどの程度の人数が必要になるかもこれで知ることができるかもしれない。

 

 「ロクロウは?」

 

 ミクリオがロクロウを見ると、ロクロウは、おお!と声を上ながら自分の体の動きを確かめていた。

 

 「これはいいぞ。邪魔なぶんの穢れが全部消えた。これくらいなら町に入っても大丈夫だろう」

  

 その言葉を聞いてミクリオは困ったように笑う。

 

 「喜んでくれてなによりだけど、本当はキミを人間に戻してあげたかったんだ」

 

 「いや、いい。これでベストだ。だいたい俺は1000年以上生きているし。もし完全に浄化されれば、人間の身ではそれに耐えられず、その瞬間に死んでいただろうからな」

 

 さらっと驚愕することを言って、腕を組ながら何かを考える仕草をしている。

 

 「まぁ、このあとの戦いには支障が出るかもしれんが・・・。なんとかなるさ」

 

 このあとの戦い?

 不穏な発言に眉を潜める。そういえば、なぜロクロウはこんな場所にいるのだろう。

 これ程の強い穢れと力を持ちながら、前回の自分達の旅では全く話すら聞かなかった。

 もし仮に彼の介入があったとしたら、ヘルダルフよりも彼を討伐に向かう流れにさえなったかもしれない。

 だとすると、彼は身を隠していた?どうして?

 それに、なぜ今になって姿を現した?

 

 「ロクロウ。キミはこれから何処にいくんだい?」

 

 「そういえば話してなかったな。知っておるのなら場所を教えて欲しいのだが・・・霊峰レイフォルクという場所に行きたいのだ」

 

 霊峰レイフォルク!?

 これから自分達が向かう場所をなぜこの男が知っている?

 それにあそこは山があるだけで何もない、いや、あるにはあるが、しかし・・・。

 

 「知っておるようだな!なら教えてくれ、友に会いにいくんだ」

 

 「友?エドナの知り合いなのか?」

 

 「おお、エドナの知り合いだったか、しかし俺が会いにいくのはその兄のアイゼンの方なんだ」

 

 言いながら先ほど捨てた小太刀を拾い、ホコリを払ったあと懐に入れる。

 

 「俺の目的は、アイゼンを殺しにいくことだ」

 

 「なっ!?」

 

 さっきからなんなんだこの男は、優しそうな雰囲気を終始放っているくせに、言うことが突拍子もない。

 やはり敵なのか?ミクリオは警戒を高めて、いつでも武器を出せるように準備する。

 

 「まぁ、そう早とちりするな。スレイとやらも起きてしまうぞ」

 

 ミクリオは自分の膝を枕にして眠っているスレイの顔をみる。エダも先程から自分に寄りかかって眠っているようだ。

 だが、今の彼であれば自分だけでも倒せるかもしれない。

 殺せばスレイは悲しむだろうが、今ここで奴を倒さなければ、エドナにまで被害が及ぶ可能性もある。

 

 「アイゼンを殺すな。と言えばキミは止めてくれるのかい?」

 

 ミクリオの言葉にふむ。とロクロウは思案する。

 

 「それはできない。約束だからな。ドラゴンになってしまったら自分を殺して欲しいと、奴には言われている」

 

 「じゃあ、もしも元の姿に戻せるとしたら?」

 

 「そりゃあ、もう殺す理由はなくなるな!」

 

 よかった。と思う。

 やはり話が通じない相手ではないようだ。

 ミクリオは息を吐き出してロクロウに言った。

 

 「僕たちの目的は、エドナの兄、アイゼンを浄化して元に戻すことだ」

 

 「ほぅ・・・。できるか?そこの導師で」

 

 「やってみせるさ。と、いいたいところだけど、すぐには無理そうかな。でも、絶対やってみせる。僕たちだけでだめなら、もっと仲間を増やして、絶対に成し遂げる。これまでだってやってこれたんだ。今回だってできるさ。」

 

 ミクリオは今の自分の思いを口にする。

 なんて大層な思いなのだろう。確証なんてない。でも、スレイやみんなとなら絶対にできる。

 それは思いでも願いでもなく。誓いであり目標だった。

 

 ミクリオを見つめるロクロウの目が優しげに細まる。

 

 「そうか、ならばそれを見届けてからでも遅くはないかもしれんな」

 

 「!? じゃあ!」

 

 「しばらく待つさ。ここまで、奴を倒すために数百年は修行した。あと数年や数十年なんて誤差だろ?」

 

 よかった。わかってもらえた。

 やはり見た目よりも善性な考えの持ち主のようで、こちらの意思や心を尊重してくれる相手のようだ。

 

 ほっとするのも束の間。ロクロウから放たれた次の言葉に、ミクリオは自分の浅はかさに打ちのめされることとなる。

 

 「じゃあこれから、よろしく!ミクリオ」

 

 「は?」

 

 放心したように気の抜けた声を上げるミクリオに、ロクロウは面白いものを見たというように笑いながら告げる。

 

 「だから、見届けると言っただろう?旅は道連れ、世は情けだ。それにお前らにはシグレの太刀を見つけて貰った恩、それから穢れを払ってもらった恩もあるしな。借りたものは必ず返す。それが俺の家、ランゲツ家の家訓なんだ」

 

 「え・・・ええええーーーー!!!?」

 

 ミクリオの叫びにエダとスレイが飛び起きる。

 二人とも何が起きたのかわからず、目を白黒させている。

 

 新たな旅立ち、その開始早々。まさか災渦の顕主が仲間になるなど、誰が予想できよう。

 スレイ一行は新たな仲間を加えて、霊峰レイフォルクを目指して動きだした。




 最近暑いですね。
 みなさんは体調崩されたりしていませんか?

 夏はいっぱい水分をとって、涼しい部屋で小説でも読むのがおすすめですっ!

 今回はロクロウさんが仲間になりましたね。
ロクロウが災渦の顕主設定は完全に捏造ですが、まぁ1000年以上戦い続けて生きてたら、ヘルダルフなんて遥かに越える強さになってそうだなぁと思って、即戦力キャラ設定にしました。

 前回ちょっと気になった方もいたかもですが、ランゲツ流の型とか、絶対新しく開眼してそうだなぁと思ったので、ゲームでは九の型までですが、この世界ではもうちょっと先まである設定です。

 ステータス的な物も考えてはいるですが、それはそのうちもうちょっと仲間が増えて、需要がありそうなら公開していこうかなと思っています。

 それでは次回はやっとレイフォルクに行くみたいですね。もうすぐ、この男だらけのパーティーに一輪の花がっ!!

 では次回もよろしければお付き合いいただけますようお願いしますー。


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7.誓い

レイフォルクに向かうと言ったな。

・・・あれは嘘だ!!!!!






ひぃっ!?ごめんなさい!

次回からまたちょっとお話が動くので、絆強化と仲間強化するみたいです。

ロクロウの加入でみんなにどんな変化があるのか。
わたしもワクワクします!



旧ハイランド王国 王都レディレイク

 美しい湖に囲まれたその景観は、災厄の時代に一度失われかけたが、ある導師の活躍により、今も変わらず大陸随一と言われたその美しい姿を残していた。

 

 そのレディレイクの宿屋の一室。

 二つあるベッドにはスレイが眠っており、傍らにはミクリオが座り、心配そうにスレイの顔を眺めていた。

 エダはというと、ミクリオの足にすがりついており、どうみてもミクリオの看護の邪魔になっている。

 

 「なぁ、エダよ。こっちにきて一緒に座らんか?」

 

 「嫌です」

 

 即座に拒否。なんで敬語・・・。

 ロクロウは部屋に備え付けられたテーブルに突っ伏した。

 

 こう見えてもロクロウは人当たりは良い方だと自負している。実際にこうしてスレイ達と行動を共にすることになったのも、強引ではあるが、話し合った上で共に動いているのだ。

 

 しかし、この警戒のされよう。

 前途多難である。

 

 ロクロウは改めてエダを見る。

 真っ白な髪に紫の瞳。髪は全体的に短く切り揃えられてる印象だが、襟足だけが背中に届くほど伸びている。

 淡い紫を基調とした服に、白のラインが入っており、ワンピースの形となっている。下には白のホットパンツを履いているため、その短いすそが捲れても大丈夫なようだ。良く言えば天族らしい服装。

 そういえば男児か女児か聞いておらなんだが・・・?

 まぁいいさ。

 

 しかし、先の戦い。

 この幼い姿ゆえ侮ってしまい、結局手痛いしっぺ返しを受けることになったのだが、あのエダという子供はなんなのだろう。

 エダはあの大太刀を・・・、號嵐を全くと言っていいほど扱えていないように見えた。しかし、あの戦いの最中、エダは自分の技を盗んだ。それも、"見た目だけ"ならほぼ満点をつけてやりたい程の再現度でだ。しかし、技の出し方は全くの別物。

 

 ランゲツ流 二十六の型 黒川蝉

 

 これは本来、二本の小太刀を使う、裏ランゲツ流の流れを組むロクロウが編み出した新たな技である。

 憑魔であるアシュラの力を二本の小太刀に流し込み、それを前方上下に放つ。一見すると相手には大外れしたように見えるが、その実、その小太刀はまるで獲物を狙う鳥のように、弧を描きながら鋭く相手の致命傷となる部分を確実に射抜くのだ。

 二本同時ということから、判断や反応がしずらく、また、それぞれが生き物のように高速で飛び回る小太刀を両方避ける術はほぼ存在しない。

 これは確実に相手の戦闘力を奪うための必殺の技だ。

 特に武器を一本しか持っていない場合、二本の小太刀が自分に届くよりも早く打ち落とさなくてはならなず。それは超高速の域に達する剣術を習得しなければとても無理な芸当だ。

 

 そして、そんな凶悪な技。これをエダは一目で特性を掴み、そして放った。それも"武器を使わずに"だ。

 

 ロクロウは見ていた。あの時一瞬構えて、そしてエダの体はブレた。

 その動きから当初は一本の大太刀を神速で抜き放ち、居合いと呼ばれる東方の技で再現したと思ったが、それは違った。

 あの時体がブレたように見えたのは、自分が思ったように大太刀を動かすことができないことに気づいたエダが、動き出しから瞬間的に停止したためだ。つまりエダは刀を振ってすらいない。

 しかし、エダは技を放った。自分が動けないことを悟った瞬間に、二本の小太刀からアシュラの霊力に至るまで、全てを"天響術"で再現していたのだ。

 恐ろしいまでの判断の早さと応用力。

 唯一残念だったのは、"小太刀の重さ"までは再現できなかったようで、そのためエダの放った黒川蝉には鋭さが欠けていたのである。しかし威力は本物かそれ以上。自分が作った技でやられてしまうなど恥ずかしいにも程があるため、なんとか気合いで捌いたが、かなり焦ったことには間違いなかった。

 これは、もしかするともしかするかもしれんぞ。

 

 ロクロウは思い立つと、早速町に向かった。

 

 

・・・。

 

 

 先ほどからロクロウの姿が見えない。

 エダは安堵してミクリオの体から離れた。ミクリオもここまでスレイをおぶって来て疲れてしまったのか、先ほどから目を閉じて船を漕いでいる。

 

 ロクロウが居てくれたおかげで、スレイが気を失ってても宿屋の人間とコミュニケーションが取れたことには感謝するが、そもそもスレイが倒れたのはロクロウのせいなので、やっぱりキライだ。

 

 エダはミクリオにそっと毛布をかけると、眠っている二人の頬にキスをして、部屋を後にした。

 

 

 ひとりで宿屋を飛び出したエダ。

 

 「うわー・・・!」

 

 初めてだらけの世界に心が踊る。

 レディレイクの町。人間の町。どこを見てもあちこちに人間がいて、とても騒がしい。

 先ほどから人間に声をかけたり目の前でおどけて見せるが、やはり誰も反応してくれなかった。

 なんだか何もかもが新鮮でとても面白い。

 でも遊んでばかりはいられない。

 エダが町に繰り出した理由は一つ。"グミ"なるものを買うためだった。

 残念ながらイズチには売っていないそれをエダは見たことがないが、スレイやミクリオからどんな物かは聞いている。

 これを使うと疲れが吹き飛び、体力が一気に回復するという。

 道具屋さんに売っているらしいということもわかっているが、しかし、道具屋さんとはどこにあるのだろう?

 

 あれ?

 

 周りを見渡すと、所々で露店が開かれており、様々なものが売られている。

 そう、ここは元王都。世界中から商人が集まり、一大規模の露店群が立ち並ぶ場所。

 階段の向こう。遠くに大きな建物があるが、目を凝らしてみると、この露店の群れはその大きな建物まで続いているようだった。

 

 「これだけお店があれば、どこかに売ってるよね?」

 

 えっと、えっと・・・。

 大きな建物に向かって露店を一つずつ確認しながら歩いてゆく。

 

 しかし、どの店も不思議な物ばかり置かれていて肝心のグミを扱ってる店が一つもない。

 

 不思議に思うエダだが無理もない。実はこの町特有の理由で、露店には滅多なことではグミは並ばないのだが、人と話せないエダにそれを知る術がなかったのだ。

 

 ここには確かにたくさんの露店が立ち並んでいる。しかし、その店に置けるものはいくつかの制限があるのだ。

 たとえばその代表格たるはグミなどの日用品。

 

 異国の珍しいものであれば販売されることはあるが、基本的にこの街の商店で扱ってるものは露店に置かないのが暗黙のルールだった。

 

 例えばどこかの露店でグミを扱おうものなら、それは街の商人組合から酷いバッシング、最悪この町での露店営業を差し止められる可能性があったりする。

 

 当たり前である。外から来た商人に日用品を取り仕切られ、町の商店が店仕舞いした日には、日用品ですら露店に頼らなくてはならなくなるし、露店に値段を吊り上げられた日には、この町の消費が停滞してしまう可能性もある。最悪町民からの理解を得られず、大きな暴動や窃盗や強盗など、町の治安が悪化することも想像できてしまう。

 

 だからといって、完全に法律で販売を禁止すれば、今度は露店商たちからのバッシングや、最悪町に寄り付かれなくなるなど、それはそれで経済が停滞してしまうため、町も苦渋の決断で、日用品に関しては特に制限を儲けず、持ち込みに大きな税を課すことで、日用品などを取り扱っている商店を守っている。

 そんなお互いを守るためのルールから、露店には基本的にグミなどの日用品は置かれていないのだ。

 

 そんなことも露知らず、エダは時間をかけて露店を一つ一つ物色していく。

 そんなことを続けて小一時間。

 

 「あれ?ここどこ・・・?」

 

 気がつけば先ほどの大きな建物まで到着しており、先ほど自分が通ってきた道は、大勢のごった返す人で隠されてしまっていた。

 

 しまった。と思った時にはもう遅かった。とりあえずエダは周りの人々に話しかけるが、どの人間も全員がエダを無視する。

 当たり前である。一般的な人間は霊力が低く、天族を見たり話を聞いたりできるものなど皆無に近いのだから。エダもそれは先ほど試して充分理解している。

 しかし、万が一自分の声が聞こえる者が居ればと、大声で呼び掛けては諦めてを繰り返す。

 

 そして何人かに声を掛け、もう止めようと思った時だった。

 

 「助けが必要か?」

 

 見知った声。それも嫌な声が聞こえた。

 

 振り向くとそこに立っていたのはロクロウ。

 エダは少し涙の滲んでいた目を擦ると、その声を無視して反対方向に歩きだす。

 

 「お、おいっ!」

 

 制止する声を無視してただただ闇雲に歩き続けた。そして。

 

 

 もっと迷った。

 

 

 先程と更に景観が違う豪邸が立ち並ぶ場所に来てしまった。露店など、見渡す限りここには一つも見当たらない。

 まずい。これはとてつもなくまずい。宿を出てからだいぶ時間も経ってしまった。

 どこか豪華な服を着た人間に話しかけるも、やはり気づいてはもらえない。

 エダはたまらず頭を抱えて叫んだ。

 

 「ボクのバカーーーーー!!」

 

 大声で叫ぶが、反応するのは後ろのイヤな奴だけ。

 

 「はっはっはっ!元気だなぁ!どれ、そろそろ帰らんか?」

 

 くっ!しっかり着いてきてる。あんなに人間に隠れるように動いていたのに!

 エダは踵を返すと路地に向かって一目散に駆け出した。

 

 

 はぁはぁ・・・。ここまでくればきっと・・・。

 少し薄暗い路地裏、背の高い家々に囲まれたこの場所は隠れるならうってつけだった。

 呼吸をなんとか整え、塀から顔を出して周囲を確認する。

 

 うん。とりあえず、追ってはきてないみたい。

 

 ほっとため息をつき、隠れようと後ろに足を出したその時。

 

 「ギャン!」

 

 「うあ!?」

 

 なんか踏んだ。

 

 恐る恐る足元を確認すると、やはりというかなんというか、謎の生き物の尻尾を踏んでいた。

 なんか凄く怒っている様子だ。当たり前か!

 

 安心しきったタイミングでのエンカウント。

 エダの頭は完全に混乱。

 

 うお!?とにかく剣!?術!?わあああああ!!

 

 パニックの頭で思わず両方を出そうとして失敗。そして更にパニック。

 

 相手は今にも飛びかからんと、牙を剥き出しにして低い唸り声を上げている。

 まずい。本当にまずい。スレイもミクリオもここには居ない。

 それでも訳がわからず、エダは助けを求めてしまう。

 

 「ひっ!?た、たすけ・・・」

 

 口をパクパクと動かし、悲鳴と言葉が空気のようにぽっかり空いた口から抜けていく。

 エダは恐慌状態に陥り、とうとう泣き出してしまった。

 そして謎の生き物がエダに向かって飛びかかる。

 

 もうだめだ。

 

 諦めを示すように、瞳から大粒の涙をこぼし、ただ飛びかかってくる相手を呆然と見つめる。

 あの鋭い牙に噛まれたらどうなるんだろう。どうでもいいことが頭の中を過ぎ去り、ただ自分の無力に脱力した。

 

 

 「・・・まぁ、今のはお前が悪いがな」

 

 「ふぇ?」

 

 

 突然目の前を塞ぐように現れた人影。

 そして彼の言葉に一瞬理解が追い付かず、気の抜けた声がでてしまった。

 

 「ふんっ!」

 

 人影・・・ロクロウが腕を横に振ると、一本の銀線がロクロウから伸びる。

 そして、謎の生き物の鼻先を掠めて路地に突き刺さった。謎の生き物の動きが止まる。

 

  「グルル・・・」

 

 一瞬虚をつかれた謎の生き物は低い唸り声を上げたが、ロクロウが腕を組んで睨み付けると、諦めたようにすごすごと路地裏から走り、逃げていった。

 

 「あ、ああ・・・」

 

 まさに間一髪というところ、だった。エダはまだ回復しておらず、顔を伏せてその場にぺたんと座り込む。

 

 「・・・」

 

 ロクロウはエダの顔をしばらく見つめた後、エダの顔を覗き込むようにしゃがんだ。

 

 「まぁ、なんだ・・・帰るか?」

 

 エダはその言葉に顔を一瞬顔を上げ、驚いたものを見るようにロクロウの顔を見た。

 

 ロクロウの顔はとても優しい顔をしていた。

 

 何も言わずにただ顔を眺める。

 だんだんとエダも落ち着きを取り戻していき、瞳に正気が宿り始めた。

 もう大丈夫だろうとロクロウは判断し、よっこいしょとエダの隣に座った。

 

 「なぁ、エダよ。俺のことは嫌いか?」

 

 「・・・嫌い」

 

 ロクロウの問いに一瞬の間を空けてエダは呟く。

 やはり嫌いだ。でも、助けてもらった。

 だから・・・。

 

 「ありがとう」

 

 小さく呟いたエダの声。聞こえたか聞こえてないのか、ロクロウは笑うと、エダの手を握り言った。

 

 「さぁ、帰ろう」

 

 エダはコクンと小さく頷くと、ロクロウに合わせて立ち上がった。

 

 

・・・。

 

 

 貴族街を抜けて、また露店の立ち並ぶ場所へ。

 だんだんとエダも見知った場所に出てきた。

 

 日差しが傾き始めており、もう少しで夕刻という時間帯。西日が淡くオレンジ色に輝き、町の風景を優しい色で包む。

 

 大きな階段の前に着いたとき、ロクロウはエダに尋ねた。

 

 「して、エダはなぜ一人で町にでてきたんだ?」

 

 それまでロクロウの手を握ってトボトボ歩いていたエダは突然の質問に、なんでだっけ?っと一瞬考え、そしてようやく思い出した。

 

 「あぅ。グミ・・・」

 

 エダの纏う空気がとたんに重くなる。

 色々あって本来の目的を完全に忘れてしまっていた。

 どうしよう。もうロクロウに道具屋さんの場所を聞いてしまおうか・・・。

 

 エダが悩んでいると、ロクロウは自分の袖をまさぐり、数個の赤いグミを出した。

 

 「グミとは・・・これか?」

 

 「!? そう!たぶんそれ!」

 

 食い入るようにグミを見つめるエダに少し驚いたロクロウだったが、すぐにその理由に気づいた。

 

 「やるよ。そもそも使う相手は一緒だろうしな」

 

 エダの掌を上にさせ、その手にグミを握らせる。

 目をキラキラと輝かせて、エダはとても嬉しそうに見える。

 

 「いいの?ほんとに?」

 

 「ああ、欲しかったんだろ?ならもらっとけ」

 

 ロクロウはニッと笑うと、階段をスタスタと降りていった。

 

 早く宿屋に帰ろう。スレイとミクリオに食べさせなきゃ!

 エダはふんっと気合いを入れるように拳を腰に当てると、ロクロウの後を小走りで付いていった。

 

 

・・・。

 

 「エダ!?」

 

 宿屋に着くと、ミクリオがどこかに出かける準備をしていた。スレイも起きたのか、ベッドの縁に座り靴を履こうとしている。

 

 「ただい・・・ま・・・?」

 

 二人から感じる異様な雰囲気にエダは一瞬たじろいでしまう。

 

 えーと・・・。

 

 エダが悩んでいると、ミクリオはツカツカと足音を立ててエダの正面に歩いて行き、そしてそのままの勢いでエダをガバっと抱き締めた。

 

 「わぁ!み、ミクリオ?」

 

 驚くエダだが、ミクリオたちの行動の意味がわかってしまい、どうしたらいいかわからなくなる。

 

 「エダよ。まず言うことがあるんじゃないのか?」

 

 ロクロウの言葉にやはりと納得する。

 いや、二人のことだ、自分が居なくなった事に気付き、今から探しに出ようとしていたのだろう。

 

 エダはミクリオを抱き返して消えそうな声で言った。

 

 「ごめんなさい・・・」

 

 スレイを見ると困ったような安心した顔をしていた。

 

 

 しばし抱き合った後、ミクリオはキッと顔をあげると、ロクロウに詰め寄った。

 

 「ロクロウ!君がっ!!」

 

 「わわっ!違うの!ロクロウは違うの!」

 

 今にも殴り掛からん勢いのミクリオに、エダは慌てて訂正する。

 

 「これ!これを探しにいってたの!」

 

 エダは掌を開き、赤いグミをミクリオに見せた。

 

 「これは・・・?」

 

 ミクリオがポカンとした表情で二人の顔を見る。

 

 「ロクロウは・・・助けてくれただけなの・・・」

 

 懇願するようにミクリオにすがりつく。

 ミクリオはまだ訳がわからないというように、目をパチパチさせながら、ロクロウの顔を見る。

 

 「エダが二人のために大冒険して手に入れた品だ。文句があるなら相手になるぞ」

 

 茶化すように笑いながら言うロクロウに、やっと思考が追い付いてきたミクリオはエダに向き直り、そしてその掌を見つめる。

 

 「僕たちのために、持ってきてくれたのかい?」

 

 「うん・・・」

 

 よく見れば、服も靴もだいぶ汚れており、エダがどれだけ苦労したのかが見てとれる。

 

 ようやく完全に理解したミクリオは、たまらずエダを抱き締めた。

 

 「ぅわっぷ!?」

 

 勢いがつきすぎてエダの驚く声が聞こえるが、ミクリオは構わずエダを強く抱き締める。

 

 「ありがとう・・・。ありがとう、エダ」

 

 ミクリオはエダの頭を撫でながら、しばらくエダを抱き締め続けた。

 スレイとロクロウはそれを見て微笑んでいた。

 

 その後、スレイとミクリオにグミを食べさせ、起きようとするスレイを無理やりベッドに寝かせると、エダは相当疲れていたのか、そのままスレイのベッドで一緒に眠ってしまった。

 ミクリオはそれを愛しそうに眺めていたが、ふと顔を上げて、ロクロウに尋ねた。

 

 「そういえば君はどこにいってたんだい?」

 

 「あー・・・」

 

 少しバツが悪そうに頬をポリポリ掻くと、懐から色とりどりの紙束をだした。

 

 「これは?」

 

 「エダと仲良くなろうと思ってな。もう必要は無くなってしまったが・・・」

 

 これは東方に古くから伝わるオリガミという物だ。ミクリオも何度か目にしたことはあるが、実際に買ったことなどなかったため、面白げに紙束を見つめていた。

 

 「もしかして君、折れるのかい?」

 

 「まぁ、簡単なものならな」

 

 言うとロクロウは手早く紙を折っていき、一羽の鳥のような形の動物を作った。

 迷いのない見事な手捌きにミクリオは感嘆の声を上げる。

 

 「これは鶴といってな、東方に生息する鳥を模しているんだ」

 

 「おお・・・ツル・・・これが・・・」

 

 ミクリオでさえ聞いたことがない鳥の名前。ミクリオは驚きの表情で折られた鶴を見つめる。

 

 「欲しいのか?ほれ」

 

 「い、いいのかい!?こんな貴重な物を!」

 

 ロクロウがミクリオに手渡すと、ミクリオはそれを大事そうに両手で受け取った。

 ロクロウはそれを見て苦笑すると、もう一つと言って腰に下げていた真新しい鞘に納めた異国刀をミクリオに手渡した。

 

 「これは?」

 

 「エダに与えようと思って買ってきた。ただ、刃物だからな。保護者の同意無しには渡せんだろう」

 

 一応気は使ってるのか。

 困ったように言うロクロウに、ミクリオは少し苦笑しながら手に持った刀を見た。

 

 長さは柄を入れても50cm程の短い刀。

 見た目よりもかなりの軽さに少しばかり驚く。

 鞘から刀身を少し出すと、まるで透き通るかのように美しい銀色の刀身が姿を現した。

 光に反射する光は真っ白のように見えて、わずかに青色の光を放っている。

 

 「これは!?」

 

 「気づいたか? そう。刀身はミスリルだ」

 

 ミスリル。

 伝説の金属とも言われている超希少金属。鋼よりも剛性に優れ、アルミよりも軽い。もうかなり昔から採れなくなったと聞いていたが、どこで手にいれたのだろう。

 

 「ずいぶんな値段だったんじゃないか?」

 

 ミクリオが心配そうに問いかけるが、ロクロウは首を振った。

 

 「いや、それがな。店主の見る目がなかったのか、中古で二束三文だったんだ。たぶん軽さでオモチャとでも思ったのだろう」

 

 ふむ。ミクリオは考える。

 確かにこの刀があればエダも戦える。この長さと軽さなら、エダでも自由に振り回すことができるだろう。

 しかし、エダに戦う力を与えるのは本当に必要なのだろうか?

 

 ミクリオは考える。

 最初は守ろうとしていた。

 自分とスレイで、まだ幼いこの子を。

 

 しかし、現実は違った。

 

 3人で始めたばかりの旅。

 しかし初戦でいきなりピンチに陥り、守ろうとしていた相手に救われ、そして生き残って今がある。

 

 あんな事はもう無いと思いたい。

 しかし・・・。

 

 「それはお前さんが決めることなのか?」

 

 ロクロウの言葉にはっと瞳を見開く。

 確かにそうだった。エダはエダであり、これはボクだけが決めていいことではない。

 

 スレイにも相談しよう。そうだ。今は一人じゃない。みんなで決めればいい。

 

 「すまない。もう少し考えるよ」

 

 言って立ち上がると、部屋を出てどこかに行ってしまった。

 結局、その日ミクリオは部屋に戻ってくることはなかった。

 

 

・・・。

 

 

 次の日の朝。

 宿屋の一室に集合した一行は、部屋に設置されている丸テーブルを囲い、今後の行き先と方針について、再度話し合っていた。

 

 「じゃあ、とりあえず予定通りにレディレイクを出たらレイフォルクへ行こう。そこでエドナと合流。導師探しとライラたちとの合流はエドナと合流してからで。・・・とりあえずはこんなのでいいかな?」

 

 スレイの言葉に皆が頷く。元々探しながら動く旅なので、これくらいの方針の方が動きやすかったりする。

 良く言えば臨機応変に。まぁ、行き当たりばったりなのも旅や冒険の醍醐味なので、余裕があるのならそれも悪くない。

 

 「スレイ、エダ。ちょっといいかな?」

 

 ミクリオは立ち上がると、エダの目の前に一本の異国刀を置いた。

 

 驚いた顔をするスレイと、刀を置かれた意味を考えるエダ。

 

 「ミクリオ。これは?」

 

 スレイは神妙な顔つきになり、ミクリオに問いかける。この刀が意味するところ、つまりミクリオはエダを戦わせようと考えている?

 スレイは今回の旅立ちの前にミクリオと話したことを思い出した。

 二人の意見としては、やはり産まれたばかりのエダを戦わせたくない。という意見で一致していた。

 これを覆すということは、何か考えがあってのことだろう。大体察しはつくが、やはりミクリオの口から聞いておきたかった。それに、自分もたぶんミクリオと同じことを考えている。

 

 ミクリオは瞳を閉じて重々しい口調で話し始めた。

 

 「今回の旅。正直僕は甘くみていた。憑魔も減り、人間の戦争もない。他の仲間と合流して、導師を探して仲間を助けて、そこに至るまでに、エダを危険に合わせないようにする自信もあった。僕とスレイが居れば、大抵のことはなんとかなると思っていた。でも・・・違った。村から出て、いきなりの初陣で、早くもエダを命の危険に晒してしまった」

 

 「・・・」

 

 ミクリオの悲痛な告白にスレイは黙って耳を傾ける。それは皆も同じようで、誰一人身動ぎ一つせず、真剣な眼差しでミクリオを見つめていた。

 

 「旅にトラブルは沢山ある。きっと、これからもだ。今回のような事が二度と起こらない保証は無い。だから、これからはエダにも困難と戦う力を身につけさせる必要があると思った。・・・でも、正直に言うと、僕はまだエダには戦ってほしくはない。だから、エダに決断して欲しい。家族としてではなく、これから共に旅をする仲間として、君の意思を尊重したい。どちらを選んでも僕は君と共に旅を続けるよ。それは約束しよう。スレイ。君もそれでいいかい?」

 

 問いかけにスレイは迷うことなく頷きを持って肯定を示す。

 一同の視線はエダに注がれた。

 

 「ミクリオ・・・。ありがとう」

 

 これまで真剣な表情でミクリオの言葉を聞いていたエダは、優しげに微笑むと、躊躇することなく目の前の異国刀を握った。

 

 「二人が、ボクを大事にしてくれているのは解ってたよ。だから、ありがとう。でも、でもね。ボクは戦いたい。二人の事をボクにも守らせて欲しい。・・・だって、ボクも二人の事が大好きだから。ボクのために無理をして傷ついていくのを、ただ後ろで眺めてるのは嫌なんだ」

 

 エダの放つ覚悟にスレイもミクリオも難しい顔をする。

 しかし、エダはより笑みを深めた。

 

 やっぱりこんなに心配してくれる。二人は、ボクの事をこんなに大事に思ってくれてる。じゃあそんな二人の足手まといはだめだよね。

 

 「ロクロウ」

 

 「ん?どうした?」

 

 エダはロクロウに向くと、意を決して頭を下げた。

 

 「剣を・・・、ボクに教えてください!」

 

 唐突な言葉に場が静まる。ロクロウも少し考えているような顔になった。

 

 「俺でいいのか?スレイも剣を使うぞ」

 

 「ほんとはヤダ!ロクロウはスレイとミクリオいじめたから!今も大っキライ!・・・でも、この中で一番剣が強い!だから、ボクにスレイとミクリオの足手まといにならないくらいの力を下さい。二人を守る力を下さい!」

 

 大声で一気に捲し立てると、エダは強く拳を握った。

 エダは悔しかったのだ。ロクロウに勝てなかったことも、あの大きな刀を扱えなかったことも。

 

 だからロクロウを嫌いと言った。スレイとミクリオと戦ったことなんてそんなに怒ってない。本当は自分が戦えなかったことが悔しくて、悔しくて悔しくて悔しくて。ロクロウに辛く当たってしまっていた。

 

 渾身の思いを込めた言葉に、ロクロウは胸がむず痒くなる思いがした。かつての仲間たちとは確かにある種の絆はあったが、このように本気を言葉にするような奴らではなかったからだ。

 

 ロクロウは負けとばかりに嘆息すると、腕を組んで言った。

 

 「その願い、承った。・・・こう真っ直ぐお願いされては断れんな」

 

 ロクロウが笑いながら頭を掻くと、スレイとミクリオは静かに頭を下げた。

 スレイもミクリオもまだ思う所はある。でもこれはエダが選んだ道だから、二人が共に過ごしていこうと決めた家族が選んだ道だから、だから応援しよう。

 

 「エダを、よろしくお願いします」

 

 スレイの言葉にロクロウは腕を組ながらニヤリと笑う。

 

 「ああ、任されよ。お前たちより強くしてやる」

 

 

 新たな戦力としてエダを迎えた一行は、ついに霊峰レイフォルクへ向けて出発する。

 




あ、やば。1万弱くらい文字数いってたです。

かなり長くなりましたが、今回のお話はここまでー。
ロクロウは先生ポジに落ち着いたようです。

冒頭にも書きましたが、次回からお話が動きます。

たぶん!

それでは、次回もお付き合い頂ければ幸いですー。


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8.霊峰レイフォルク

さぁ、みんなのアイドル登場回ですよ。
みんなもあのゴミを見るような目で罵られたいですよね!
答えは聞きません!

それでは今回もれっつごー!


 今日も高い空には雲一つ無く、とてもいい天気。

 冷たい風が頬を撫でていき、強い日差しに火照った体を瞬時に冷ましてくれる。

 眼下に映る大きな雲を眺めながら、ちょうどよい岩場を見つけ、そこに少女は腰かけた。

 

 「兄さんはどこかしら?」

 

 領域を感じるのでそう遠くには行っていないと思うのだが、姿が見えないと不安になる。

 そろそろ時間はお昼というところ。自分は天族なので食事をしなくてもいいのだが、この日課のために食べ続けなければいけない。

 

 少女はポリポリとピーナッツを食べながら辺りを見回す。

 そして視界の端に一瞬移った人影を見つけた。

 

 「げ!」

 

 また来た。ほんとうに暇なヤツね。

 

 少女は一瞬嫌な顔をすると、手のひらに残ったピーナッツを全て口の中にポイポイと放り込んで、座ってた岩から飛び降りた。

 

 崖の下をそっと覗く。

 すると、長く伸ばした白髪に筋肉質な上半身裸の男が、ずんずんと鼻唄を歌いなが楽しそうに山を登ってきている姿を確認した。

 

 あっ!きりもみしてる。

 

 せっかく道っぽく整形した場所に落とし穴を設置していたのだが、早々に看破され軽々と飛び越えられてしまった。

 

 くっ・・・。あのきりもみ本当に便利ね。

 

 かつての仲間の若い風の天族がいれば、きっと、面白い事を言ってくれたかもしれないが、残念ながら彼はもうこの世には居ない。

 

 憎々しげに登ってくる男を睨むと、男がふと上を向き、こちらと目が合った。

 

 「死になさい」

 

 なぜか殺意が芽生えたので、崖の先の地面を傘で軽く突く。すると、まるで強い衝撃でも受けたかのように巨大な破砕音と共に崖が崩れ、大きな岩を含んだ土砂となって男に向かって殺到する。

 下で男が、うお!マジか!?などと言ってるが、わたしには聞こえない。えぇ、全然聞こえないわ。

 

 先ほどよりも先の短くなった崖の端に行き、下を見る。

 やはりというか、当たり前のように彼は生存しており、地形が変わった岩場をズボンのポケットに手を突っ込みながら、ぴょんぴょんと飛び跳ねている。

 

 「まるでゴキブリね。ゴキブリのように潰されれば良かったのに」

 

 あんまりな感想を残すと、少女は諦めたのか、自分も岩場を飛び移り、男の前へと姿を晒す。

 

 「おー。お久しぶりじゃないエドナちゃーん。今回はちょおおおおっとだけ死ぬかと思ったぜぇ・・・」

 

 男はいつものように笑顔で軽薄そうな挨拶をすると、よっと目の前の岩間を飛び越えた。

 

 「それはとても惜しかったわね」

 

 少女・・・エドナはこの男、ザビーダを知っている。

 かつて一緒に戦った仲間であり、今では数少ない自分の兄の友人と呼べる風の天族。

 一見ただの軽薄なチンピラにしか見えないが、彼の背中には想像も出来ないほどの重い過去がのしかかっている。

 長く天族として生きていると少なからず重い過去を背負うことはあるが、そんな中でも常に明るく振る舞える彼の性格には呆れではなく素直に尊敬している。

 

 でも、やっぱりウザイから死んでくれないかしら?

 

 エドナが物騒な事を考えてると、ザビーダがいつにも増して、まじまじと自分を観察していた。

 

 「なにを見てるのかしら?」

 

 「あ?いや、お前さん。ずいぶん成長したなぁっとな。まぁ、まだライラに比べて胸のボリュームがちょーっと足りてないがな!」

 

 言ってハハハッ!と笑っているザビーダにエドナは無言で傘の先を向ける。どうやら彼はとても死にたいらしい。

 

 「ちょっと!ちょーっと待ってよエドナちゃーん。今日はいい情報持ってきたんだって!」

 

 「何?くだらない話だったら、体に穴が空くわよ」

 

 半眼のエドナにザビーダは両手を上げて待った待ったと言いながら、腰から下げたペンデュラムを視線で差した。

 

 ペンデュラムを見ると、淡い緑色の燐光が灯っており、それは触れてもいないのに、先端の宝石がある一方向を向いていた。

 

 「これが?」

 

 結局わけがわからず、傘を彼の脇腹に突き立てる。

 

 「ぐおっ!いててて!スマン!スマンかったから!傘の先はホントに怪我すっから!」

 

 一旦傘を戻すと、半眼になり無言で早く言えと訴える。

 ザビーダは脇腹を押さえ、反対の手で腰のペンデュラムを掴むと、それをぶらぶらと振って得意気に言った。

 

 「スレイだよ!スレイが近くまできてる!」

 

 「は?」

 

 一体なんの冗談だろう。目の前の彼は何を言っているのだろう。

 スレイが・・・帰ってきた?

 

 あまりの衝撃に思考が停止してしまう。

 

 それもそのはず、エドナは彼との最後の約束を信じて、100年という長い時間をずっと待ち続けていたのだ。

 

 「ウソよ・・・」

 

 「ホントだ。山のふもとまで来てる」

 

 エドナは近くの崖から下を凝視する。

 見えない。どこ?

 

 ザビーダは救えないほどバカだが、くだらない嘘をつくような天族ではないことは知っている。

 

 ドゴッ!

 

 「ちょ!?」

 

 天響術を使用し、足元の岩を跳ね上げる。

 巻き込まれたザビーダから抗議のような悲鳴が上がるが無視。

 

 ジークフリートの弾丸のように勢いよく空に飛び出した二人は、遥か遠く、霊峰への入り口に彼とその仲間の姿を見つける。

 

 「スレイ!」

 

 「こらこらこらこら、余所見はいかんでしょ・・・。よっと!」

 

 目の前に迫る岩肌に激突しそうになった瞬間。ザビーダはエドナを抱えて、風の天響術を岩肌にぶつけた。

 反動で速度を相殺し地面になんとか着地する。

 

 とりあえず抱き抱える形のままでは都合が大変よろしくないため、ザビーダはエドナを地面に下ろす。

 いつもならここで、なに触ってんのよ!と、傘が突き立てられるところなのだが・・・。

 

 エドナはただ放心したように、大きな目を見開きその場に立ち尽くしていた。

 

 「・・・」

 

 エドナ。地を司る天族。

 "腰まで伸ばした"長い髪は彼女の待ち続けた長い時間と、その間に過ごした成長を象徴するものだった。

 

 エドナは今でも鮮明に思い出せる。

 彼と旅をしたのはほんの一年足らず、100年という時間と比べると、本当に些細に感じるほどの時間。

 それでも、彼を待ち続けるには理由があった。

 

 スレイ。かつての導師だった旅の仲間。

 エドナがこれまでずっと離れなかった、このレイフォルクから外の世界に連れ出した最初の人間。

 そして、誰もが殺そうとした、自分の兄を唯一救おうと戦い血を流し、模索し、そしてついにその方法にまでに辿り着いた人間。

 

 彼ほど自分の兄を救おうとしてくれた人はいなかった。

 

 彼ほど兄のために行動を起こしてくれる人はいなかった。

 

 彼ほど他人の為に悲しむ人を見たことがなかった。

 

 だから信じた。だから待った。

 100年という長い歳月を、常に辛い現実を突き付けるこの場所で過ごすことができた。兄を守ることができた。

 

 「うっ・・・ひっ・・ぅ・・・」

 

 エドナの細い肩が小刻みに揺れる。

 見開いたままの大きな瞳からは大粒の涙が溢れて止まらない。

 

 泣いたのはいつ以来だろう。

 嬉しさと安堵と新な希望。この涙はきっとそんなに悪いものじゃない。

 

 ザビーダは何も言わずにエドナの頭に手を置くと、そのサラサラな髪をぐしゃぐしゃとかき混ぜた。

 

 

・・・。

 

 

 「みくりおー。なんかいるー」

 

 「ああ、あれはアルマジロといってね。とても丸まるのが上手な生き物なんだ」

 

 端から見れば仲の良い家族のピクニックの風景に見えなくもない。

 ただ、場所がただの山で、子供が指差す先にいるのが、憑魔ではなくかわいい動物だったらの話だ。

 

 「来るよ!ミクリオ!」

 

 「ああ!エダ前に出るんだ。ボクらが援護する!」

 

 「うん!」

 

 各々の武器を構えて敵と対峙する。

 敵は都合のいいことに1体だけ。しかも自分たちが戦ったことのある相手。エダの戦闘訓練には持ってこいの状況だ。

 

 「エダ。相手の動きをよく見るんだ」

 

 「わかった!」

 

 散開。

 

 敵を取り囲むようにそれぞれが配置につく。スレイとミクリオが敵の背後。エダは敵の前面に一番近くで腰だめに構える。

 その横ではロクロウが、二本の短刀を構え、敵を睨み付ける。

 

 「俺が仕掛ける。エダは向かって来た敵を仕留めろ!」

 

 ロクロウは言うと、二本の短刀を敵に向かって投擲。

 

 「ブオオオオオ!」

 

 二本の短刀は敵の背中、固い皮膚に覆われた部分に深々と突き刺さる。

 怒りの鳴き声を上げた敵は、物凄い勢いでロクロウに向かって突進の態勢をとる。

 

 「エダ、行け!」

 

 敵がロクロウに向かって突進を開始したのと同時に、ロクロウの声に合わせてエダも走り出す。

 

 「はあああああっ!」

 

 敵の真横から、気合いと共に一閃。

 

 ギィン!

 

 「んなっ!?」

 

 恐ろしい程のスピードで抜き放たれたそれを、敵の固い皮膚はいとも簡単に弾いた。

 それに気づいたロクロウは瞬時に回避から迎撃の態勢をとるが、エダの変化に気づき、その場でエダを凝視した。

 

 刀を弾かれたエダは驚きで体が一瞬硬直。しかし、次の瞬間エダの刀に紫電が巻き起こった。

 

 「雷!神!剣!」

 

 弾かれたままの態勢で右半身が一歩後ろに下がった状態。それを無理やり左足に体重を乗せ、その勢いのまま敵に突きを放つ。

 

 ドン!バヂバヂバヂ!

 

 無理な態勢で放ったせいか、今度も刀は敵の皮膚を貫通できない。しかしその刀身が敵に触れた瞬間、まるで落雷でも起こったかのような爆発音の後、恐ろしい威力の紫電が敵を包む。

 

 「うわ!?」「なんかヤバ!」「なんと!」

 

 エダを除く三人は、それぞれ驚きの声を発すると、大きく後ろに飛び退く。

 紫の雷はどんどんと圧を増し、ついには目も開けられない程の強い光となって周囲を包んだ。

 




ええ!?ここで終わり!?
気になりますー!

エドナさんとザビーダさんの登場ですね。
エドナちゃんは長い年月を得てエドナさんになりました!

ミクリオもなんか成長してたけど、ミクリオはミクリオでしたね!(何

それでは今回も読んでいただいてありがとうございました。
次回もよろしくお願いしまーす!


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9.怖いもの

前回いいところで終わっちゃいました!
気になります!気になります!!

あの爆発の後みんなはどうなっちゃったんでしょう。
スレイたちはエドナさんと会えたのでしょうか?

今回もみんなの活躍が気になります!


 エダです。

 

 えっと・・・。

 

 始めはちょっとした思いつきだったんです。切れないなら雷混ぜてみたら、いい感じに敵が感電して動かなくなったり、あわよくば倒せちゃったりしないかなぁって。

 でも、なんかですね。

 地面、無くなっちゃったんですよ。いや、無くなるというのは少し表現が違いますね。溶けた・・・と表現すればいいのでしょうか。

 

 えーっと・・・。

 

 それでですね。戦ってた敵さんですが、アルマジロってミクリオは言ってたんですけど、なんかこう、食卓の前とかそういうところに、絶対にお出しできない感じに真っ黒になって、なんかもう、いろいろ取れてて。ああ、これは誰が見てもだめだなぁって形をしているんですよね。

 

 えーーーっと・・・。

 

 さっきからですね。ボク・・・じゃない。わたし、すごく焦っていてですね。なぜなら、さっきの爆発からスレイたちの姿が見えなくてですね。ちょっと想像したんですよ。あれ?これもしかして、スレイたちもこのアルマジロっぽくなってませんか?って。真っ黒になっていろいろ飛び散ってませんか?って・・・。

 

 えーーーーーーーっと・・・。

 

 控えめに言って、マジヤバかった。

 

 ひとしきり独白を終えて辺りの惨状を見回す。

 これはもう大惨事である。

 これを別の何かで表現しようとしても、行き着く先はやっばり大惨事。

 

 呆然と立つエダの瞳からは、完全にハイライトが消えていた。

 

 群生していた草木はごうごうと音を立てて燃える。その辺りにゴロゴロしていた大きな岩なども、なぜか真っ赤に焼けて形を小さくしており、元の形が何であったのか既にわからない状態になっていた。

 爆発の中心点である敵が居た地点には、なぜか大きなクレーターができており、本来居たであろう敵の姿は、クレーター内の遠く離れた場所に真っ黒な炭のような状態で静かに鎮座している。

 

 「スレイぃぃ。ミクリオー。ロクロぉー・・・」

 

 無駄とわかりつつも足元の石や岩をどけていく。

 どうしよう。どうしよう。どうしよう。

 取り返しのつかないことをしてしまったかもしれない。

 もし見つけたとき、みんなが真っ黒焦げだったら。もし、バラバラになっていたら。

 みんなが見つかるのを願うと同時に、そんな姿を見たくないという思いも膨らんでいく。

 ぽろぽろと涙で視界が塞がれていくが、そんなことを気にしている余裕はない。

 

 作業を開始して数分。

 そんなエダの後方。のそりと動きだしたのは黒い物体。

 バラバラだった体は黒い霧のような穢れが生き物のように纏わりついて、次第にその体を復元していく。

 後ろ足が戻り、ひび割れた背中の皮膚が戻り、そして遂に元の姿を取り戻す。

 

 「ブオオオオオオオオ!!!」

 

 怒りの咆哮。

 

 「な、なに!?」

 

 不安と恐怖で憔悴したエダ。

 突然の咆哮にいつものように反応ができなかった。

 

 「うわあぁぁっ!!」

 

 既に目前まで迫っていた敵に成すすべもなく、尻餅をついて悲鳴を上げる。

 

 「・・・アベンジャーバイトォ!」

 

 突如聞こえた声が力を生み、激しい風が周囲を包む。

 エダは両腕で風から顔を庇いながら、突然出現した嵐に目を凝らす。

 

 圧縮された空気はいつの間にか目視できるほど固まり、高速で流れながらエダの目の前。敵に立ち塞がる形で、まるで巨大な獣の牙と顎のような形を形成する。

 

 「子供に手ぇだしてんじゃねぇ!」

 

 苛立ったような男の叫び声。

 その声に呼応するかのように、先ほどの敵の咆哮よりも大きく風が唸ると、突進して来た敵に上下から激しく襲いかかった。

 

 バチィィィィィィ!!

 

 圧縮された空気に敵が触れた瞬間、先ほど復元したばかりの体に無数の切り傷を刻まれる。

 風の牙に無惨にも補食された敵は、空中に持ち上げられ、そして大きく体を振り回された。

 体の傷を癒そうと、黒い穢れが集まってくるが、激しい風に阻まれ、集まっては散らされるを繰り返していた。

 

 「エドナ。取り敢えず足止めだ」

 

 「はいはい・・・」

 

 何度目かの男の声。ようやく気付いたが、自分の背後から声が聞こえていた。

 そしてその男の声に続くように、気だるそうな女の声が続いた。

 

 「いんぶれー・・・」

 

 まだ空中に浮かんだままの敵がキラキラと輝く宝石のようなものに徐々に体を覆われる。

 そしてその輝きが全身を覆った瞬間に女は叫ぶ。

 

 「・・・すとっぷ!」

 

 女が叫ぶと、宝石のようなもの動きが止まり、そして高い空から勢いよく地面に突き刺さる。

 地面に突き刺さったそれは標本のように微動だにせず、その場に静かに鎮座した。

 

 「ふぅ・・・。どうするよこれ?」

 

 「仕方ないから捨てましょう」

 

 「えぇ・・・。まぁ、言うと思ったけどさぁ。もうちょっとやり方あるんじゃねーの?」

 

 

 男が困り顔で言うと女は呆れたように嘆息し、仕方ないわね。と言って背後の大きな岩に歩み寄った。

 

 「起きなさい。いつまで寝てるつもり?」

 

 なぜか大きな岩を突然げしげしと蹴り始める女。エダは突然の行動に頭に疑問符を浮かべる。

 男はやれやれといった風に両手を肩の高さまで持ち上げ、首を横に振っていた。

 

 「まぁ、そこのあんたも見てなって」

 

 エダは男に言われた通りその場で彼女を見続ける。

 女は蹴ることに疲れたのか、今度は手に持っていた傘で岩を突き始める。

 周りにゴッゴッっと乾いた音が響き渡るが特に何も変化はない。

 

 とうとう苛立ってきたのか、その音はどんどん大きくなり、そして遂に彼女はキレた。

 

 「いい加減に起きなさい!あいつを殺すしかなくなるわよ!」

 

 その言葉が何を意味するのか、エダは全く理解出来なかったが、その言葉がスイッチとなったように、辺りを青白い光が照らし始めた。その光はさっきから女が蹴ったり突いたりしていた大きな岩。もっと言えばその岩の下から青白い炎が漏れてているのがわかる。

 

 先ほどエダが撒き散らした破壊の代償として燻っていた赤い炎の色は次第に青い光に飲まれていき、そして遂に周囲全てを青い世界に変化させる。

 

 エダはこの青い光。この炎の正体を知っていた。

 

 "浄化の炎"

 

 聖剣を抜くことができる唯一の人間のみが放つことの出来る炎。

 そしてその聖剣を抜いた人物。

 エダはその人物が誰か知っている。

 

 「スレイ!」

 

 「待ちな!おい。そろそろだ!」

 

 男の声に振り向くと、宝石のようなものにヒビが入り始め、小刻みに振動していた。

 

 エダは驚き足が止まるが男に声をかけられた主である女は全く意に介さない。

 女にはきっと聞こえているはず。なのにその声を敢えて無視しているように見えた。

 

 「ブオオオオオオ!!」

 

 先ほどよりも大きな咆哮。

 黒い穢れが瞬時に先ほどの傷を修復を始めるが、それすらも待ちきれないと、終わる前に敵は走り出す。

 

 目標は自分に背を向けている女。

 

 ズドドドドドドド!

 

 「くそっ!」

 

 男が慌てながらチェーンのような武器を敵に向かって放つ。

 しかし、背中の硬い皮膚に刺さりはしたものの、動きを止める程の威力は無かった。

 

 危ない!

 

 エダは異国刀を手に走るがとても間に合わない。慌てて天響術の体勢に入るがもう敵は女の目と鼻の先。

 間に合わない。

 

 「ハクディム=ユーバ!」

 

 突如聞こえたスレイの声にエダは大きく目を見開く。

 

 「っ!?」

 

 辺りを見ると、先ほどの女の姿は見えず、代わりに先ほどまで青い炎を吹き出していた巨大な岩が砕かれ、その中から金色の光を放ちながら真っ白な衣装を身にまとったスレイが現れた。

 いつもの茶色い髪の毛は今は金色に輝き、両腕の横で宙に浮く巨大なガンドレットにエダは目を奪われる。

 

 敵は突然のスレイの登場に警戒し、その場で大きくたたらを踏む。

 スレイはそれを一瞥すると振り返ってエダに向けて言った。

 

 「おまたせ。もう大丈夫だ」

 

 「スレイぃぃ・・・」

 

 スレイの声に、その場にペタンと座り込む。

 よかった。本当によかった。

 エダは頭の中で想像していたスレイの丸焼き姿を頭から吹き飛ばす。

 

 「はぁぁぁ!流動の大地!」

 

 敵に向き直ったスレイは、構えもとらずにその大きな拳を持ち上げると、勢いをつけて地面を穿った。

 ズシン!と大地が軋みを上げた直後。大地が大きく揺さぶられ、間近でそれを食らった敵は、たまらず足をもつれさせ、その場に釘付けとなる。

 

 「霊命の脈動!」

 

 スレイは大地が揺れる中、それを何事も無いように一歩前に進み出ると、更に大きな掛け声と共に大地を穿つ。

 

 ズドド!

 

 先ほどと同じ大地の軋み。しかし今度は敵の足元の地面が盛り上がる。

 未だに揺れで動けない敵はそれを避けることが出来ず、そして勢いよく生えてきた石柱に勢いよく腹に一撃を食らって、大きく宙を舞う。

 

 「いくよ」

 

 スレイは宙に浮いた敵目掛けて跳躍すると、その腕についた大きなガンドレットで敵を握るように力強く空中で掴む。

 

 「デッドキャプチャー!!」

 

 掛け声と共に大きく振りかぶり、地面に向かって勢いよく投擲。

 敵はその力と投げられた速度に、成すすべもなく地面に叩きつけられて大きなクレーターを作る。

 

 土煙が流れた後のその場所には、ピクリとも動かずに横たわる敵の姿が浮かび上がった。 

 スレイは上空から敵が沈黙したのを見ると、エダの横に静かに降り立つ。

 

 「エダ。大丈夫?ごめんな。怖くしちゃって」

 

 スレイはまだ涙を溜めているエダの頭を撫でようと手を伸ばすが、今の自分の手の大きさに気付き、一度止まって神依を解くと改めてエダの頭を撫でた。エダはそれを疲れた笑顔で受け入れる。

 スレイはエダの体を見たが、幸いエダの体には目立った怪我などは見られず、スレイは安堵のため息をついた。

 

 「おーい。スレぇイ!」

 

 向こうからスレイの名前を呼びながら大きく手を振る男。スレイは声のほうに目を向けると嬉しそうに大きく手を降る。

 いつの間にかスレイの少し後ろに先ほどの女の人も背中を向けて立っていた。

 

 「エドナ。ザビーダ。久しぶり!」

 

 「おうよ。お前さんぜんぜん変わんねぇなぁ。安心したぜ」

 

 「まぁ、寝てただけでしょうしね。そんなに変わるとも思えないわ」

 

 ザビーダと呼ばれたが大笑いし、エドナと呼ばれた女が、顔だけこちらに向けて少しだけ微笑んだ。

 

 「そっちの子の事は後で聞くわ。まずやることをやりなさい」

 

 エドナの言葉にスレイは頷く。

 

 「うん。浄化を始めよう。二人ともお願い」

 

 今度はスレイの言葉に二人が頷くと、エドナはスレイの横に立ち、ザビーダは、エダを庇うように目の前に立った。ザビーダは先ほどのチェーンのような武器を。エドナは傘を構えて、来るであろう穢れに備えた。

 

 二人の準備ができたことを確認すると、スレイは腰の祭礼剣を抜き放ち、その剣に青白い炎を灯す。

 また辺りが青白い炎に照らされる。

 

 いつの間にか日が落ち始めた山の中腹に清浄な気配が生まれる。

 エダはその炎とスレイを見ているとなぜだか泣きそうになる。

 なんでだろう。

 ふとした疑問だったが、何かとても大事な気がする。

 でも、どうしても思い出せない。確か産まれた時にも似たようなことを考えていた気がした。

 

 うん。わかんないや・・・。

 

 少し寂しい気持ちになったが、大事なことであればいずれ思い出すだろうと、今は一旦頭の隅に追いやり、スレイの姿を見つめ続けた。 

 

 ボゥ・・・。

 

 スレイは数度剣を振るう。

 縦に、横に、斜めに。

 その度に炎は大きさを増し、そして周囲の穢れを焼いていく。

 いつの間にか炎は辺りの穢れだけでなく、先ほどまで戦っていた敵も燃やしつくし、気がつけば既に穢れの気配が消え去っていた。 

 

 「よっし。こんなもんかな?」

 

 スレイが言い、炎を消して剣を鞘に納める。

 途端に周囲に夜の帳が下りて、少しだけ肌寒さを感じた。

 

 スレイは座ったままのエダに近づき、そっと手を伸ばす。

 

 「さぁ、立てる?」

 

 「うん・・・」

 

 笑顔で手を差し出しながら、優しい声音でエダに囁く。

 

 スレイは考えていた。

 今回の戦い。嫌な物を沢山見せてしまう戦いだった。

 きっと今後もこんなことがあるだろうから、経験することは自体は悪いことだとは思わない。

 でも、早速一人で危険に晒させてしまったことは不可抗力だとしても反省しなくてはいけない。

 

 握ったエダの手の冷たさと、今も止まらない体の震えに少しだけ後悔の念が生まれる。

 確かに色々と不幸な事は起こった。しかし予想できないものではなかったはずだ。

 だから・・・。

 

 やっぱり反省しないとな。

 

 スレイはエダの顔を覗く。

 もう限界だったのだろう。その瞳にいつもの元気が無くなっており、若干フラつくのか、もう片方の手でスレイの腰辺りの服を掴んで必死に立っていた。

 

 「エダもういいよ。おやすみ」

 

 言うとスレイはエダを軽々と抱き上げて、そして優しく頭を撫でた。

 すると、数秒足らずで小さな寝息が首筋に当たるのを感じる。相当疲れていたのだろう。

 

 スレイは苦笑しながら振り向くと、背後の二人、エドナとザビーダに声をかける。

 

 「・・・ほんとは少し休憩しながら話したいとこだけど・・・。そうも言ってられないかな?」

 

 「まぁ、あれだけ派手に暴れたんだもの。気がつかれないわけないわね」

 

 「あぁー。マジかー。もう勘弁してくれよぉ」

 

 エドナが今日何度目かのため息をつき、ザビーダも何度目かの愚痴を零す。

 

 

 全員気づいていた。先ほど浄化が終わった直後から、誰かの領域内に居たことを。

 そしてこの禍々しい領域をかつて感じたことがあったことを。

 

 「来る!」

 

 ズダンっ!!!

 

 スレイの声と共に、大きく地面を揺らして着地した巨大な生物。

 

 "ドラゴン"

 

 穢れた天族の成の果て。

 恐怖と畏怖と、そして悲しみの象徴。

 

 しかし、ただのドラゴンでは無い。この真っ黒で巨大なドラゴンに全員見覚えがある。

 

 「グゥルルル・・・」

 

 「兄さん・・・」

 

 エドナが無表情のままポツリと呟く。

 突如目の前に現れた巨大なドラゴンに、今ここにいる全員が動けないでいた。

 

 




お兄ちゃん(ドラゴン)来ちゃいました!

イケメン枠ですね。尊い。
この人こんなに長いことドラゴンやっててまだ記憶とか残ってるのでしょうか。

さて、もうそろそろベルセリア勢が増える予感!

次回もわくわくですね!

それでは次回もわたしと一緒に応援してください!
ではではー!


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10.大逃走

ドラゴン。強い!(確信

ついに来ましたボスバトル!
手に汗握っちゃいます!

スレイたちはどうするんでしょう。

気になります!気になります!
それでは今回も見切り発車でゴー!ゴー!!


 足場の悪い岩山を颯爽と駆け抜ける。

 

 そう言うと聞こえは良いが、現在逃走の真っ只中。

 ちなみに追われているのはスレイとザビーダの二人である。

 

 必死の形相で疾走する姿は一見コミカルに感じるが、実際追われている者たちの心境は笑い話ではなかった。

 

 「スレイ!遅れてんぞ!ヤバイって!」

 

 「ざ、ザビーダ!早っ!?」

 

 

 数分前。

 突然目の前に降り立った漆黒のドラゴン。

 凶悪な雰囲気は昔対峙した時と変わらず、こちらを発見した瞬間に襲い掛かってきた。

 

 スレイとエドナとザビーダは瞬時に逃げの判断を下し、そして行動に移る。

 

 最初の突進。これを岩壁を背にしてなんとか避け、ザビーダは先ほどスレイが出てきた巨大な岩の下で延びていたミクリオとロクロウを担いで逃げ出す。

 スレイもエダを前抱きから背中におぶる形に変えてザビーダの後を追う。

 

 そしてエドナは傘を広げると、一人崖の下に飛び降りた!

 

 ・・・。

 

 ・・・・・・。

 

 ・・・・・・・・・。

 

 えーーーーーーーーー!!!!

 

 「スレイ!あいつ一人で逃げやがった!!今すぐ神依しろ神依!」

 

 「ちょ!?ザビーダ落ち着いて!」

 

 そんなことをしている間に黒いドラゴンことエドナの兄であるアイゼンの視線が二人を射抜いていた。

 

 「ヤバっ!」

 

 二人は一旦お互いの顔を見合わせて頷き合うと、一目散にその場から離脱した。

 

 

・・・。

 

 

 「はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・」

 

 「・・・」

 

 さすがに成人男性二人は重いのだろう。ザビーダの息が上がってきた。

 しかし、アイゼンはまだ視界の範囲内。彼の領域からも抜け出せておらず、今身を隠してもすぐに見つかってしまうだろう。

 背後に迫るドラゴンに理性の色は見えず、口の端からダラダラとよだれを流しながら、二人を追いかけていた。

 ああ、もうこれ完全にエサにしか見られてない・・・。

 スレイは背筋に感じるうすら寒さにブルっと身震いする。

 

 

 「・・・おい!スレイ!」

 

 「なに!?」

 

 走るザビーダがスレイの速度に合わせるように横に近づいてきた。

 

 「お前ら!なんでコイツと一緒にいやがる!」

 

 「・・・」

 

 ザビーダがいうコイツとはもちろんミクリオではなくロクロウのことだろう。

 確かに憑魔と一緒に行動をしているなんて、今までの旅ではありえなかった話である。ザビーダは彼が敵の可能性があると思っているのかもしれない。

 

 「ザビーダ!ごめん!・・・理由は!あとで話すけど!悪い人じゃないよ!」

 

 「んなこたぁ!知ってんだよっ!どこで、コイツと知り合ったか・・・はぁ・・・はぁ・・・聞いてんだよ!」

 

 息も切れ切れに会話する二人。お互い必死なため、半分叫んでいるような会話。

 それが岩山に反響してさらに大きく響き渡る。

 

 「アロダイトの!森を出たこと!」

 

 「マジか!?そんなに近くにいやがったのか!くっそー!」

 

 「?」

 

 ザビーダの言葉にスレイは頭をひねる。

 彼の言葉から推測すると、どうも知り合いのようだ。

 

 「ザビーダに!憑魔の友達がいるとか!初耳だね!」

 

 「はぁ!?そんなんじゃねーよ!!」

 

 言って走る速度を上げるザビーダ。

 スレイも離されまいと、速度を上げてザビーダに続いた。

 

 

・・・。 

 

 

 「あら?ずいぶん早かったじゃない」

 

 山の中腹。少し開けた場所の岩場に、エドナは腰をかけ、優雅に足を組んで座っていた。

 

 「はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・」

 

 「ぐ・・・うぉぇ・・・ぜぇ・・・ぜぇ・・・」

 

 いつの間にかアイゼンの姿は見えなくなっており、彼の領域からも抜けているようだった。

 やっと一息つける。

 エドナの言葉に返す余力も無い二人は、その場にへなへなと座り込んだ。

 そんな二人を嬉しそうに眺めるエドナは、やっぱり昔のまんまでスレイも少しだけ安心した。

 

 「?」

 

 やはりエドナもロクロウが気になったのか、スレイとロクロウをゆっくりと交互に見つめている。

 これは説明しろということなのだろう。

 

 「彼はロクロウ。えっと・・・見た目は憑魔なんだけど・・・。良い憑魔なんだ」

 

 相変わらずのスレイの説明にエドナとザビーダの二人は小さくため息をつく。

 

 「スレイ。あれだ。そいつの事は俺もエドナも知ってる。俺に至っては会ったこともある」

 

 スレイはその言葉を聞きながら、背負ったエダを降ろすと、その場に胡坐をかき、エダを前に抱き直した。

 スレイが話を聞く体勢になったことに気づいたザビーダはそのまま背後の大きな岩に背中を預け、腕を組みながら言葉を続ける。

 

 「そいつはロクロウ。かつてエドナの兄。アイゼンと一緒に旅をしていた仲間だ。エドナにもその時の話はしてなかったな」

 

 ザビーダがエドナに顔を向けると、エドナは黙って静かにザビーダの目を見返していた。

 やはり兄の昔話に興味があるようで、その目は早く話せと訴えかけている。

 

 「むかーしの話だ。オレぁ別行動してたんだが、何度かやり合ったことがあってな。アイゼンの仲間はすごかったんだぜぇ。そこに延びてるロクロウは阿修羅。ほかにも災禍の顕主、聖主、今のお前たちの定義で言う導師っぽいのもいたわ。だけどよ。みーんなバラバラ。誰一人仲間なんて言葉は絶対に口にもださねぇ。それでもよ。妙な連携があってな。オレも昔、仲間と一緒に旅に出た時の事を思い出したもんだ」

 

 「・・・だいたい兄さんの手紙と合っているわね」

 

 懐かしそうに目を細めて言うザビーダの独白に、エドナが相槌を打つ。スレイはそのやり取りを黙って聞いていた。

 

 「そんでよ。まぁいろいろあって、そいつらが世界を救ってその後バラバラになったんだわ。アイゼンはアイゼンで他の仲間と一緒にまた旅にでたんだが、あいつはもうその時にはかなり穢れにやられててな。ボロボロもボロボロよ。なんせ災禍の顕主に阿修羅が常に側にいたんだ。いくら器があるからって、穢れないほうがおかしい」

 

 「ロクロウが・・・。ロクロウたちがアイゼンを憑魔にした・・・?」

 

 「まぁ、ある意味な。でも恨むのはお門違いってぇもんだ。アイツは自分で選んでその側にいた。エドナの事に関しちゃそりゃ俺に託すくらいには心配しちゃいたが、それでも悔いはねぇって感じだったぜ。・・・わかったら武器を下ろせエドナぁ!」

 

 「!?」

 

 ザビーダの怒声にはっとしてエドナを向くと、傘の切っ先をロクロウに向けているエドナが映った。

 歯を食いしばりながら悔しそうに眉を吊り上げるその顔は、かつて一度も見たことの無い表情。

 もしザビーダの静止が無ければ既にロクロウに攻撃を始めていたであろうその姿に、スレイはエドナが抱える深い悲しみを強く感じた。

 

 「そいつも・・・ロクロウもな、気にしてんだよ。だからわざわざここまで来た。俺と一緒だ。アイゼンとの約束なんだよ」

 

 ザビーダはエドナを見ながら悲しそうに呟いた。そしてその言葉にエドナは手に持った傘を下に降ろす。

 

 「だったら・・・。だったら私はどうすればいいのよ!!知ってるわよ。コイツのこと!兄さんの手紙にもよく書かれてた。いいやつよ。仲間の面倒見が良くて、誰よりも戦いが好きで、結局マオテラスに浄化されても人間に戻れなくて!本当に馬鹿なやつって事くらい。何度も何度も何度もっ!兄さんの手紙を千切れるくらい読み返して知ってるわよっ!!」

 

 普段のエドナからは考えられない怒りの感情のこもった叫び。心のその内を全て吐き出すかのようなその叫びに、スレイは気圧されていた。しかし、ザビーダは黙ってそのエドナの姿を見つめる。

 

 「なのに・・・コイツのせいで、コイツらのせいで兄さんがって思うと・・・。もう・・・」

 

 声の最後は震えていて聞き取れなかったが、光る雫がポタポタとエドナから零れているのが見える。葛藤しているのだろう。頭ではエドナもわかっているはずだった。しかし、自分の最愛の人の仇とも言える人間が目の前にいる。複雑な心境に自身でも出口が見つかっていないようで、きつく手を握り締め、肩を震わせていた。

 ザビーダは一足飛びでエドナの横まで行くと、その頭にそっと手を乗せて言う。

 

 「お前さんの気持ちはな。正しい。人間と一緒だ。自分の近しい者が、大事な者が穢された。怒り。悲しみ。それが当たり前の感情だ。でもな、人間はその感情だけで穢れちまう。弱いんだよ。オレたちとは根本的に違う。アイツはそれでもそんな感情を守るために自分の命を投げ出して戦った。お前が恨むのはいい。でもアイツの守ったものでアイツと一緒に戦った仲間を殺すなんて。アイツの一番嫌がりそうなことすんのはやめとけ」

 

 尚も肩を震わせ続けるエドナに言い聞かせるようにザビーダは言う。

 ふたりの初めて見せる姿にスレイは何も言えず、ただ黙って見守るしかなかった。

 

 

・・・。

 

 「うぅ・・・ん」

 

 「ぐ・・・。」

 

 夜半を過ぎた頃、回復したのかミクリオとロクロウが目を覚ました。

 エダはまだスレイの腕の中ですやすやと安らかに寝息を立てている。

 山登りに憑魔との戦い。そうとうに疲れていたのだろう。

 

 

 「やぁ、おはよう。二人とも」

 

 「ずいぶん遅いおはようだけどね」

 

 「いや、すまなんだ。まさかエダがあれほどの威力の雷を放てるとは・・・」

 

 二人ともまだダメージが残っているのか、頭を振ったり、腕を回してみたりと、体の動きを確かめながら立ち上がる。

 

 「ここは山の中腹かな?」

 

 「だね。エドナとザビーダが助けてくれなかったらヤバかった」

 

 「二人と会えたの!?」

 

 驚きの声を上げるミクリオにスレイは笑うと、近場の岩の上を指差した。

 

 「あれ・・・?エドナ?」

 

 ミクリオが驚きの声を上げ、スレイはそういえばと思う。

 

 「何?わたしに見とれてるの?」

 

 エドナはぴょんと岩から飛び降りると、スレイとミクリオの前に立った。

 ミクリオはなぜか固まっている。

 

 「ふぅん。ミボ。ちょっとみない間にボサボサになったわね。ミボがボサボサ。略してミボサね。・・・あら、少しパワーアップしたみたいに聞こえるわね。どうしましょう」

 

 抑揚の無い声で続けるエドナが先ほどより冷静に見えて、スレイは少しほっとした。

 しかし、ミクリオはなおも固まり続けている。

 まぁ、たしかにミクリオの気持ちもわからなくない。

 

 スレイたちの記憶にあるエドナ。

 幼い少女の見た目で、金髪のサイドテール。そして足には兄のものだという、サイズの合わない大きな靴を履いていた記憶だが、今の彼女は身長がだいぶ伸び、かつてサイドテールにしていた髪も長く伸ばし、その髪がサラサラと夜風に吹かれて流れていた。。少女と女性の狭間。独特の雰囲気を醸し出しす彼女は、まさに深窓の令嬢と言った言葉が似合うような出で立ちへと変貌していた。

 

 「ミクリオ。なんか言ってあげなよ」

 

 「はっ!?な、なんで僕がっ!」

 

 スレイの声で我に返ったミクリオは慌ててスレイに詰め寄る。

 なんとなく昔一緒に旅をしていた時の騒がしさが戻ったようで、スレイは嬉しくなった。

 

 「ところでロクロウは?」

 

 「? あれ?さっきまで一緒にいたけど」

 

 話題を変えようとスレイが聞き、それに乗ったとばかりに大げさに周囲を見渡すミクリオ。エドナの視線が少し冷たいのは、やはり外見についてなんらかのリアクションを求めてのことだろう。

 

 「あ!あっちにいる」

 

 ミクリオは二人を見つけて、エドナとスレイに示すように指を刺した。

 スレイとエドナが目を向けると、二人は既に肩を組んで何かの飲み物を飲んでいるようで、久しぶりの再開を喜びあっているようだった。

 

 スレイがチラッとエドナに視線を向けると、エドナは最初難しそうな顔をしていたが、スタスタと自分から二人に歩み寄っていった。

 

 「あなたがロクロウね?」

 

 「やや!?もしやアイゼンの妹さんか!昔見せられた幻影よりもだいぶ大きくなっておるな。初めましてだが、アイゼンからよく話を聞いていたせいか。あんまり初めましてな気分がしないが、どれ、もう大人だろう。心水でもいっしょにどうだ?」

 

 ロクロウは嬉しそうに酒の入った盃をエドナに渡す。

 エドナはそれを平坦な顔で受け取ると、その盃を一息にあおった。

 

 「おお!いい飲みっぷりだ!さすがアイゼンの妹さんだな。しかしこれでやめておいた方がいい。顔が真っ赤だ」

 

 手を叩きながら喜ぶロクロウに、エドナはもう一杯と盃を突き出す。

 ロクロウは困った顔でザビーダを見るが、ザビーダは手をしっしっと振って好きなようにさせてやれとでも言うように自分の盃に酒を注いだ。

 

 「あまり無理をしてはいかんぞ。あとこれはとてもいい心水だからな。よーく味わって飲んでくれ」

 

 ロクロウは参ったとばかりにエドナの盃に酒を注ぎ、そして自分も盃に残った酒を飲み干す。 

 

 「ん・・・」

 

 「おっとこれはスマンな」

 

 エドナはロクロウから酒の入った入れ物を奪うと、ロクロウの盃に酒を注いだ。

 何度か酒を注ぎあって飲んでいると、唐突にエドナが話し出した。

 

 「わたしね。あなたが嫌いよ」

 

 「そうか」

 

 お互い手に持った盃を見ながら呟く。

 エドナからの突然の嫌い宣告を、ロクロウはただ優しく微笑みながら受け流す。

 

 「兄さんのこと、これだけは許せない」

 

 「そうか」

 

 「あなたが悪いわけじゃないのは知ってる。でも、どうしても許せないの」

 

 「そうか」

 

 「だけど、あなたが悪い人じゃないって知ってる。兄さんの大切な仲間だって、手紙にはそう書かれてた」

 

 「そうか」

 

 「わたし、今、どうしたらいいかわからないの」

 

 「俺は謝らんぞ」

 

 「・・・」

 

 ロクロウの言葉にエドナが止まる。ザビーダは二人のやり取りを目を閉じて静かに聞いていた。

 

 「アイゼン殿が決めたことだ。お前はそれだけ兄を好いていながら、その気持ちも汲んでやることはできんのか?」

 

 冷たい言葉だ。と、ロクロウは思う。

 謝ってしまうのは簡単だった。しかしそれをしてしまえば、彼女の憎しみを自分に向けてしまえば、必ず果ては殺し合いになってしまう。

 正直、そうなってもいい。自分が勝つのもいい。しかし、もし自分が討たれてしまえば、彼女はそれで終わってしまうような気がした。復習を終え、目の前のアイゼンすらも諦めてしまいそうな気がした。

 きっと長い間アイゼンのために身を粉にしてきたのだろう。彼女は見た目の可憐さとは裏腹に、心はもうボロボロになってしまっているように感じた。

 だから、ロクロウはあえて冷たく突き放した。自分を恨み続ければいいと思った。

 

 「兄さんの仲間ってこんなヤツばっかりなのかしら。ほんとうに馬鹿ね」

 

 「?」

 

 ロクロウが思考を中断し彼女の顔を見ると、彼女は薄く微笑んでいた。

 それを見てロクロウは自分の頬をぽりぽりと掻く。

 

 「一敗食わされたか」

 

 「これくらいの復讐なら安いもんでしょ?」

 

 「違いない」

 

 ロクロウは歯を見せて笑うと、エドナの盃に溢れるほど酒を注いだ。

 

 

・・・。

 

 

 いつの間にか向こうでは酒盛りが始まっているようだ。ロクロウにエドナにザビーダ。大騒ぎしているわけではないけど、話をしながら酒を酌み交わしている。

 

 「よかった・・・」

 

 「スレイ?」

 

 思わず口に出たスレイの言葉にミクリオは首をかしげる。

 向こうの声は届いてはこないが、最初エドナとロクロウの間にはどこか険悪な雰囲気があった。

 ロクロウがエドナの兄となにかあったことは知っているが、そういえばまだ詳しいことは聞けていなかった。

 

 「スレイ、何か知っているのなら僕にも教えてくれないか?」

 

 「えーと・・・。うん。そうだね。聞いてくれる?」

 

 スレイは先ほどエドナとザビーダのやり取りを簡潔にミクリオに説明した。

 ミクリオはそれを苦い顔で聞いていたが、一度酒盛りしている3人をチラっと見て、先ほどのスレイと同じように、安堵した表情をする。

 

 「とりあえず自分で乗り越えられたみたいだね」

 

 「そうだね。僕なら・・・もしエダがどうにかされてしまったら・・・。抑えられる自信が無いよ」

 

 「それでいいと思う・・・」

 

 スレイは抱いているエダの頭を一度撫でると、その体をミクリオに預けた。ミクリオはそれを受け取ると優しく膝の上に頭を置いて寝かせ、その頬に口付けをする。

 

 「でも、そんなことにはならないさ。がんばろ。ミクリオ!」

 

 「うん!」

 

 スレイの笑顔にミクリオも笑顔で答える。

 きっと僕たちは弱い。でもこの子は必ず守って見せる。

 決意を新たに、二人はいつまでも夜の星空を眺めていた。




まさかでもなんでもない戦わない決断。
お兄さんはドラゴン時間が長すぎてエドナ以外の人みちゃうと興奮してお腹が空きます(何

ロクロウとエドナがだいぶ大人の駆け引きしてましたね。
だって二人とも1000s・・・うわなにするやめろぉ!

次回のお話で新たな敵と新たな仲間が!でるといいな。
あ、でも人数増えたし、ずっと考えてたスキッド回もこのあたりで挟んでおきたい!

ああ!!書きたいこと一杯で困るぅ!!!

ではでは、今回はこの辺で。
今回も読んでいただきありがとうございました!
次回も私と一緒にみんなを応援して頂けると嬉しいです!


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11.大地の記憶

前回はエドナとザビーダさん加入ですね。

パーティーの人数が増えてくると描写が大変です。
初心者な私はなぜこんなに登場人物を出してしまったのだろうと、既に吐血気味ですが、しかし大好きなキャラはみんな活躍してほしいので、さっくりがんばっていきますよー!

それでは今回はいったい何が起こるのか!

気になります!気になります!!

どうぞー!


 「おぉー!」

 

 眼下に広がる広大な景色に思わず心奪われる。

 ここは霊峰レイフォルクの中腹。

 昨日の宴から一晩を過ぎ、現在は太陽が真上に位置する時間。

 二人は本当は鉱石を探す為にここにいるのだが、当初の目的は既に忘れ去られ、普段は見慣れない景色や、珍しい草花、珍しい昆虫など、とにかく見つけたものを楽しみながら散策をしていた。

 そう、これはいわゆるピクニック。

 

 

・・・。

 

 

 話は朝方まで戻る。

 

 本当は今日から新たな導師を探しに行く予定だったのだが、ザビーダがそれに待ったをかけた。

 理由は二つ。ザビーダ曰く。

 長らく旅をしてきてスレイやロゼに匹敵するほどの霊応力を持った人間を全く見かけなくなってしまったこと。

 もう一つはコレの存在。

 

 「うぅ・・・。おかあさん。お水を・・・お水をちょうだい・・・」

 

 「誰がお母さんだ!」

 

 ザビーダの膝を枕に、仰向けで寝転がる少女。

 冷たく塗らしたタオルを目の上に当てて、苦しそうに呻くその姿は、昨日までの凛とした雰囲気を完全に失っていた。

 

 「ほら、水だよ。飲めるかい?」

 

 まさに介護のごとく、ミクリオに甲斐甲斐しく上半身を起こされ、コップに入った冷たい水を渡される。

 それを震える手で受け取ると、真っ青な顔でコクコクと音を立てて飲み干していく。

 

 「おしゃけくさいね」

 

 そう、彼女は二日酔い。

 これにはみんな苦笑いするしかなく、仕方なく出発を一日遅らせようという話になった。

 エダにとっては一日オフの日が出来たことになる。

 

 今日は何をしようか・・・。

 イズチから出て、ずっと移動やハプニングの連続で心休まる暇のなかったエダは、久しぶりの休日にワクワクしながらミクリオの元に駆け寄った。

 

 「ミクリオー?」

 

 「ああ、エダごめんね。ちょっと今手が放せないからその辺りで遊んでおいで」

 

 「ぶぅ!」

 

 ミクリオはエダから声をかけられた瞬間に察したのか、申し訳なさそうに言うと、一度エダの頭を撫でてから、手のひらの上で氷を精製した。

 きっとエドナの頭にでも乗せてあげるつもりなのだろう。水の天族はこういう時にとても便利だと思う。

 

 お母さんに振られてしまったエダはむくれながら、今度はスレイを見る。

 

 「スーレーイー?」

 

 「ごめんよエダ。今のうちに情報交換とこれからの目的地をザビーダと話し合わないといけないんだ」

 

 「悪ぃな。スレイ借りるぜ」

 

 「ぶぅ!」

 

 スレイにも振られてしまったエダはどうしようかと考える。

 一人でどこかに行ってみようか。でもあんまり遠くに行けば怒られてしまうし、また昨日のように一人で憑魔と戦うことになったらと考えると、それほど遠くまでも行けない。

 

 「えーっと・・・」

 

 そしてエダは次のターゲットを見つけた。

 

 「ロクロー?」

 

 「お?エダか。どうした?」

 

 胡坐をかいて何かの作業をしていたロクロウは、エダの声に顔を上げる。

 見ると、いつもは背中に背負っている大きな刀を抜いて、その表面を丁寧に掃除しているところだった。

 

 「・・・なんかそれ、生きてるみたいだね」

 

 「ほぅ。エダにはわかるか・・・」

 

 長く黒い刀身。その表面には血管のように赤い模様が広がっており、まるで生き物のように感じる。

 それにエダの持つ剣に似た迫力が、この刀からも伝わってくる。

 エダはその迫力に圧されゴクリと唾を飲んでその刀を見つめた。

 

 「こいつはな、クロガネ征嵐という名前の刀だ。エダの持っている大太刀があるだろう。あれに勝つためだけに命を掛けた刀鍛冶が打った最高傑作だ。未だに刃こぼれ1つしたことない」

 

 「すごい刀なんだね。・・・あれ?ロクロウはあの刀のこと知ってるの?」

 

 小首を傾げる仕草のエダに、そういえば話してなかったなぁと刀の掃除を続けながら、ロクロウは話し出した。

 

 「お前の持つ大太刀はな、名を號嵐と言う。俺の家の家宝の刀で元々は俺の兄、シグレが持っていた刀だ」

 

 なんでもない顔で言い放つロクロウ。しかし、この大太刀はロクロウの家の家宝で、ロクロウの兄の持ち物。それって・・・。

 

 「・・・大事な刀なの?」

 

 「そうだな。俺はその刀に見合う剣士になるために、懸命に努力してきた。まぁ、いろいろあったんだが、結局、その刀を握ることは出来なかったな。」

 

 ロクロウは何かを思い出すようにどこか寂しそうな顔をした。

 エダはその顔を見て慌てて號嵐を出すと、それを申し訳なさそうにロクロウに差し出して言った。

 

 「えっと・・・。握ってもいいよ?」

 

 一瞬キョトンとしたロクロウだが、エダの意図に気づいて微笑むと、それを両手で受け取って刀身を眺めた。

 久しぶりに見る號嵐。その刀身は全く欠けることなく、昔見た時と同じ姿で強い迫力を感じる出で立ちをしていた。

 ひとつ残念だったのは、剣の柄が風化しており、スレイとミクリオが応急処置をしたのであろうが、それでも握るものの力を完全に伝えるには不十分な形となっていることだった。

 

 「エダよ。いつかこの刀もキレイにしてやりたいんだが、いいか?」

 

 「うん。大丈夫だよ」

 

 どことなく嬉しそうなロクロウにエダも嬉しくなって笑顔で応じる。

 ロクロウは自分の刀の掃除を入念に終えると、エダに號嵐を返し、よし!と言って立ち上がった。

 

 「エダ、欲しいものがある。付いてきてくれるか」

 

 「いいよ!行こう!」

 

 暇を持て余してしたエダにとって願ってもない申し出だった。

 エダはロクロウの手を握ると、急かすようにロクロウを引っ張って歩き出した。

 

 

・・・。

 

 「ロクロウは何が欲しいの?」

 

 「鉱石を探している。お前の刀の柄を直すためにな。そんなに良い鉱石でもなくていいが、それなりに強度があって軽い石が良いだろうな」

 

 正直なところ、ロクロウはそんな鉱石がこの場所で簡単に見つかるとは思っていなかったが、明らかに時間を持て余していたであろうエダに付き合ってあげるために、そのようなことを言った。

 

 「うーん。エダはよくわかんないけど、石が欲しいんだね?」

 

 エダの言葉にロクロウは微笑むと、そうだなと言ってエダの腰を両手で掴んで持ち上げ、自分の首の後ろに乗せた。

 

 「おおー!高い!」

 

 「これでよーく見えるだろう。探してくれ。あ、敵が居たらそれも教えるんだぞ」

 

 「うん!」

 

 いわゆる肩車の格好になったロクロウはエダの指す方に向かって歩く。

 エダはそれが嬉しいのか、大はしゃぎで見たもの、見つけたものをロクロウに報告し、久しぶりの休日をロクロウと共に満喫した。

 

 

・・・。

 

 

 「およ?」

 

 ふとキレイな石が落ちていることに気づいて、そこに向かうようにロクロウに指示した。

 

 「なんかあるよ?」

 

 「お、何か見つけたか!すごいな!」

 

 「うん。降ろしてー」

 

 エダはロクロウの肩から下ろしてもらうと、小走りに小さな岩陰に向かい、先ほど見つけた石を拾い上げた。

 

 「なんだろ?」

 

 拾い上げた石は一見ガラス玉にも見えるが、中心からは赤い光が溢れており、とても自然に出来た石のようには見えなかった。

 

 「キレイだね。なんの石だろう。・・・ロクロウこれ使える?」

 

 エダの渡す石を受け取ると、覗き込むようにうーんと唸りながら見つめる。

 どこからどう見てもガラス玉。手に持ってみるととても軽く、表面を叩いてみるが、密度の薄そうな音が返ってきた。

 

 「こりゃだめだな」

 

 「そっかーこんなにキレイなのにね。あ、ミクリオのお土産にしよう!」

 

 ロクロウの言葉に少し落ち込んだエダだが、すぐに閃いた顔をして、それを嬉しそうに愛用のウリボアのカバンに入れた。

 他にもいろいろなエダの”宝物”が詰め込まれたそのカバンは石を入れるとすぐにパンパンになってしまったが、笑みを深めるエダに、ロクロウも笑顔になる。

 

 「さて、もういい時間だ。またみんなが心配する前に帰るか」

 

 「うん!」

 

 名ばかりの鉱石探しでヘトヘトになるまで遊んだ二人は、仲良く手をつないでスレイたちの下へ戻った。

 

 

・・・。

 

 

 スレイたちの下に戻ると、少し落ち着いたのか、エドナは日陰でうつむいたまま座っており、ミクリオは食事の準備をしているようだった。

 スレイとザビーダは朝と同様でまだ何かを真剣に話あっている。

 

 「エダ、ロクロウ。おかえり」

 

 「うん。おかーさんただいま!」

 

 「なっ!?」

 

 エダの言葉にミクリオが盛大にコケる。

 

 ギギギと擬音を立ててミクリオがエドナに顔を向けると、膝を抱えながら顔を伏せたエドナはこちらに向かって親指を立てて、どこか嬉しそうな雰囲気を漂わせている。

 

 「やっぱりエドナだったか・・・」

 

 やれやれと言った風にミクリオは立ち上がると、ズボンについた土を払った。

 食事の準備に戻ろうとするミクリオに、エダは、そうだ!と言い、ごそごそとカバンから赤い光を放つキレイなガラス玉を取り出してミクリオに差し出した。

 

 「ミクリオにね。これ、おみやげ」

 

 「え、本当かい?ありがとうエダ」

 

 ミクリオはエダの目線に合わせるようにしゃがむと、その赤く光るガラス玉を受け取った。

 長く遺跡などを探検するミクリオでも見た事のないガラス玉。中の赤い光は一体どういう方法で入れているんだろう。

 ミクリオは先ほどロクロウがしたのと同じように、ガラス球を覗き込んで思案する。

 

 「あ、ミクリオ!お鍋!」

 

 「わぁ!!」

 

 危うく吹き零れそうになった鍋をミクリオは慌てて火から下ろす。

 ミクリオはふぅっと息を吐くと、エダからもらったガラス玉を大事にエプロンのポケットに入れて、皆の分の皿の準備に取り掛かった。

 

 「後でスレイにも見せよう。エダ、手伝ってくれるかい?」

 

 「うん!」

 

 エダがエドナ作の平たいテーブルのようになっている岩に皿を並べ、ミクリオがそれに鍋の中身を一皿ずつお玉を使って入れて行く。今日はウリボアの肉を使ったシチューのようだ。

 エダの大好物のこれは今日構ってあげられなかったエダを思って、ミクリオがお詫びとして作ったものだったが、エダがハイテンションに喜んでいる姿を見て、ミクリオは顔を綻ばせた。

 

 「おーい!ただいま!」

 

 「導師さまのお帰りだっ!つってな!」

 

 匂いに誘われたのか、スレイとザビーダが帰ってきた。

 エダは一目散にスレイの胸目掛けて飛び込むと、スレイもそれを嬉しそうに抱きとめて、そのままエダを抱えて食卓に着く。

 

 「ごめんなエダ。遊んであげられなくて」

 

 「ううん。ロクローが遊んでくれたから大丈夫!」

 

 朗らかに笑うエダに釣られて、申し訳なさそうに眉をひそめていたスレイも一緒に笑う。

 

 「じゃあ、今日は何をして遊んでいたか教えてくれるかい?」

 

 「うん。いいよ!」

 

 顔を寄せて笑いあうスレイとエダ。

 それを優しい笑顔で見つめるミクリオ。

 三人の間に暖かい空気が流れる。

 

 「なぁ、エドナ」

 

 「なに?」

 

 「なんかあいつら、ホントの家族みたいだな」

 

 「みたいじゃなくて、本当の家族なのよ」

 

 いつものように一見つまらなさそうにスレイたちを見つめる彼女。しかし、どこか嬉しそうにしている雰囲気を感じるのはそれだけ長い間彼女のことを見ていたからなのだろうか。

 

 「そうかい・・・。まぁ、そうなんだろうなぁ」

 

 「家族は血筋じゃないわ。一緒に居て、一緒のご飯を食べて、泣いて、笑って、そして一緒に眠る。そうして過ごした時間が強い信頼になって、お互いがかけがえの無い者になっていく。・・・きっと家族ってそんなものよ」

 

 「エドナ・・・」

 

 暖かい雰囲気にほだされたのか、いつもより饒舌なエドナにザビーダは少しだけ嬉しくて。

 

 「絶対に・・・アイゼンの野郎取り戻そうな」

 

 「うん・・・」

 

 これから・・・。これからきっとアイゼンを救える。

 スレイが居ることでますます現実味を帯びた未来を、二人はただ目の前の家族に写して暖かな未来を夢想した。

 

 「ところでエドナ。さっきの話だけど」

 

 「?」

 

 「やっぱり、これだけ長いこと一緒に居た俺の事も家族と思ってるのか?」

 

 「・・・・・・」

 

 「・・・」

 

 「・・・・・・・・・ごめんなさい」

 

 「・・・」

 

 「・・・」

 

 「おいおいおいおいおい!そこ謝っちゃだめだろ!それ一番傷ついちゃうから!」

 

 横でクスクスと笑うエドナ。ザビーダはため息をつきつつも、彼女の笑顔を見ることができてホッとする。

 

 「あ、そうだ。スレイ面白いものをエダが見つけてきたんだ」

 

 「お?なんだろう?」

 

 ミクリオがごそごそとエプロンのポケットから出したそれ。赤い光を放つガラス球のようなもの。

 それをミクリオがスレイに手渡そうとした時。

 

 「ちょっとまて!それを導師に渡したらっ!」

 

 

 

 暗転。

 

 

 

 ザビーダの声が届いた瞬間に、全員の意識は赤い光を放つガラス玉に飲み込まれた。

 

 

 ・・・。

 ・・・・・・。

 ・・・・・・・・・。

 

 

 

 月。

 赤い赤い月。

 

 照らされた大地も海も赤く染まり、まるで世界の終末を迎えたような様相を示す。

 

 どこか祭壇のような場所。

 一人の男とまだ幼い少年。

 そしてその二人の目の前の広場には一人の女が必死の形相で立っていた。

 あれは・・・。まさか・・・。

 

 いや、でもあれは・・・。

 

 スレイは考える。

 髪型はや服装は違えど、それはキララウス火山での最終決戦の前日の夢で見た女。 

 

 「・・・っ!・・・・っ・・・!! 

 

 女が何かを叫んでいる。しかし、なぜか近くに居るのに聞こえない。

 そうこうしているうちに祭壇の上の男が腰の剣を抜く。

 

 「まずい!」

 

 スレイはそう思うが、なぜか体が動かない。

 いや・・・。動くための体がなかった。

 

 「くっ!なんだこれは」

 

 突然の目の前の光景と自分の置かれた状況。

 慌てふためいてしまうが、それどころではない。

 

 「やめろおおおおおお!」

 

 唯一精一杯の声を張り上げるが、こんなに近くに居るのにその声は届いた様子も無く、更にそれがスレイの焦燥に火をつける。

 

 「やめろ!頼む!やめてくれ!」

 

 逃げ出す様子のない少年。そしてそれを冷めた目で見つめる男。

 女は叫んでいるのだろう。しかしその声はまたもや聞こえない。

 

 「・・・・・・・っ・・・・・・・!!!!!!」

 

 そして遂に男が持つ長剣は、少年の胸を突き刺した。

 

 

 ・・・。

 ・・・・・・。

 ・・・・・・・・・。

 

 

 

 「はっ!?」

 

 スレイは思わず腰の剣に手を伸ばす。 

 

 「スレイっ!」

 

 いつからそこに居たのであろう、ロクロウがスレイの剣の柄を押さえ、その動きを止めていた。

 

 「スレイ!スレイぃぃぃ!」

 

 まだ放心した顔でロクロウを見つめるスレイに、エダが抱きつく。 

 

 「・・・・・・ここは?」

 

 搾り出したように言うスレイをロクロウが見つめ返す。

 

 「レイフォルクだ。正気に戻ったか?」

 

 「・・・」

 

 先ほどの光景はなんだったのだろう。正直、現実味がなかった気もするが、見たものが悪すぎた。

 

 「お前さんが見たのはな、大地の記憶だ」

 

 声の聞こえた方に目を向けると、沈痛な面持ちをしたザビーダとエドナの姿があった。

 

 「二人も見たの?」

 

 「お前の後ろのやつもな」

 

 「ミクリオ!?」

 

 そこにはうずくまるミクリオが居た。

 

 「くそっ!なんなんだあれは!後味が悪いにも程がある!」

 

 ミクリオは憔悴した顔をしながら、怒りを露にし、握ったこぶしをワナワナと震わせていた。

 

 「ミクリオも・・・見たんだ・・・」

 

 「ザビーダよ。大地の記憶と言ったな。俺も昔見たことはあるが、あれは地脈の中だったぞ?」

 

 「じゃあ、その地脈を仕切ってたの誰だって話よ?」

 

 「カノヌシ・・・なのか・・・」

 

 ロクロウはそれきり黙ってしまう。

 

 「ザビーダ。さっきの光景は・・・」

 

 「まぁ待てスレイ。説明してやるよ。・・・そこのロクロウたちの話だ」

 

 ザビーダの言葉に全員がすごすごと自分の席に戻る。

 食事をする雰囲気ではなくなってしまい。テーブルの上のミクリオ特製シチューはとっくに冷めてしまっていた。

 

 「話が長くなるがよ。さっき見たヤツとかそういうのピンポイントに説明してくぜ。ロクロウは補足頼むわ。質問は後にしてくれ」

 

 ザビーダの言葉にそれぞれが頷き、それを見たザビーダは頭を掻きながら話し始めた。

 

 「お前らが持ってきた石な。ありゃ瞳石だ」

 

 「瞳石?」

 

 不思議そうな顔のエダにザビーダは頷く。

 

 「さっきロクロウが言ってた大地の記憶ってやつが込められた石だな。導師がそれを持つと、この世界で起こった過去の記憶を見ることができる」

 

 「記憶・・・。だからオレ達は動けなかったのか」

 

 スレイがまだ興奮が収まらぬように、手を開いたり握ったりを繰り返した。

 

 「んで、話を続けるが、さっき見た光景。赤い月に、男が少年を殺す瞬間だった。あれはカノヌシの復活の瞬間でいいのか?」

 

 「相違ない」

 

 ザビーダの言葉にロクロウが頷く。ザビーダ自信もカノヌシ復活の瞬間は見たことがない。昔、話に聞いたことを総合的に判断して答えを出していた。それがロクロウの言葉で間違っていないことが証明される。

 

 「見た人物を言う。俺も知ってるヤツも居たが、そいつらが誰か教えてくれ。黒髪を長く伸ばした女。背の高い片腕の長剣を扱う男。それからまだ小せぇ男の子供だ」

 

 「・・・女の名はベルベット。災禍の顕主。少年の名はライフィセット。ベルベットの弟。それから、男はアルトリウス。過去の導師だな」

 

 「!?」

 

 ロクロウの口から出た人物にスレイとミクリオが驚いた表情をする。

 スレイ達が見たあの光景。では、あの時導師が、強い力を持つはずの導師が、ただの子供を殺したというのか・・・。

 ますますわけがわからない。出てきた情報にしてもそうだった。

 なぜザビーダはあの光景にでてきた人物を知っている?

 なぜロクロウはあれがカノヌシ復活の瞬間だということを断言できる?

 

 スレイたちの顔を見て察したのか、ロクロウが腕を組ながら瞳を閉じて口を開く。

 

 「俺と、そこのエドナの兄のアイゼンは、かつて、災渦の顕主と共に・・・導師アルトリウスを"殺した"」

 

 山を吹く風はとても強く。夜の風は更に冷たさを増していた。

 しかし、ここにいる全ての者たちの背筋を凍らせたのはロクロウが発した言葉だった。




 瞳石はゼスティリアとベルセリアを繋げる上でとてもよさげなツールですね。

 さぁ、ベルベットの存在。過去を知ったみんなは、これからどう動くのでしょうか!?

 あと、全然関係ないけど、お盆で時間あったのでエダ描いてみました。
 みんなのイメージと違くないといいですが、私はこんな子を想像しながら書いてたりします。

 あ、イメージ崩したくない人は見ない方がいいです!
わたし絵描きでもなんでもないので、本職の人みたいに描けないです!



【挿絵表示】



それでは次回も私と一緒にみんなを応援してください!
ではではー!


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二章.混じり会う世界
12.第二のプロローグ


大きなくくりで今回から第二部といったところです。
またお話が動きます。

さぁ、始まりますよ。





 止めろ!

 

 私に笑顔を向けないでくれ。

 

 

 止めろ!

 

 私に優しくしないでくれ。

 

 

 止めろ!

 

 私に信頼など向けないでくれ。

 

 

 止めろ!

 

 私を・・・兄と呼ぶのは止めてくれ。

 

 

 

 いつからこの葛藤を止めてしまったのだろう。いや、無くしたと言った方がいいかもしれない。

 

 彼女を失った数年間。

 何かを成そうとする度に続いた葛藤。それも今ではほとんど感じることはない。

 心が壊れてしまったのだろうか?

 ・・・いや、そうではないはずだ。

 確かに今でもこの胸の奧ではチリチリと小さな痛みが走っている。

 

 ああ、そうか。

 本当に覚悟ができた。ということなんだろうな。

 

 これが本当に正しい道。これが本当に救われる道。

 繰り返してはいけないのだ。あの惨劇を。あの絶望を。

 だから、これは必要なことなんだ。

 だから・・・。

 だから・・・。

 

 

 そんなに涙を流さないでくれ。

 

 

 目の前で涙を流す、美しい黒髪の女性。

 彼女の涙を拭いたくて右腕を伸ばす。しかしその右腕は肘から先が黒く霞んで見えない。

 

 彼女の顔はこんなに近くにあるのに、その涙すら拭えないことに絶望を感じる。

 

 そうだ。これだけ犠牲にして、これだけ失って、それでもまだ、私は世界を救えないのか。

 

 

 本当におかしな話だね。

 

 

 "セリカ"

 

 

 

・・・。

 

 

 

 うっすらと目を開ける。

 視界に映るのは緑の草木。

 長く人の手をつけられていないであろう木々たちは、太陽の光を遮り、昼間なのにとても冷たい空気が辺りを支配していた。

 少し湿ったような土の匂いと草木が発する独特の匂い。どうやら、自分は森の中に居るらしい。

 

 「ぐ・・・うっ・・・!」

 

 上体を起こそうとしただけで体がバキバキと音を立てる。どれほど長く自分はここに倒れて居たのだろう。

 いや、そんなことよりも気になることがある。

 

 右腕が・・・。

 

 右腕を見ると、肘から先が無かった。

 

 "おかしい"。

 右腕はどこで無くしてしまったんだ。

 それにこの胸の傷跡は・・・。

 

 視線を落とすと、服のみぞおち部分が破れており、その下には大きな傷跡が残っていた。

 まるで何かに刺されたかのような傷。

 

 私は誰かに刺されたのか・・・?

 

 とりあえず近くの木を支えに立ち上がる。

 辺りを見回すと長い剣が落ちていた。

 自分の腰辺りを見ると鞘。

 なんとか拾い上げ、それを鞘に挿してみると、すんなりと収まってしまった。

 きっとこれは自分の剣だったのだろうと判断する。

 もう一度鞘から抜き出して見てみると、美しい装飾の施された剣は少しの歯こぼれはあったが、研ぎ直せば問題ないという程度の損傷しか受けていないようだった。

 しかし・・・。こんなに重い剣を振り回せるのか?

 鞘に挿し直して軽く振ってみるが、思いの外手に馴染むような感覚があり、振り方さえ気を付ければ振れないことはなかった。

 

 ふむ。

 

 剣をそのまま杖代わりにし、少し呼吸を落ち着けてから辺りをもう一度見回す。

 先ほどは横になって見えなかったが、少し行った先に道のようなものが見える。

 

 「少し歩いてみるか」

 

 思うように動かない体に四苦八苦しながら前に進む。

 左手に体重を乗せすぎたのか手首があっという間に悲鳴を上げた。まだほんの数分しか歩いていないというのに、足もすぐに限界を迎えたようだ。

 

 近くにあった大きな木を背に、ずるずると腰を降ろす。

 

 「ふぅ・・・」

 

 疲れた足を投げ出して、服の襟元を大きく開ける。

 今になって気づいたが、自分はとても豪華な衣装を身につけていることに気づく。

 真っ白な頑丈な下地に、金であしらった装飾の数々。そのデザインから、よっぽど身分の高い者が着るような服に感じて、少しだけ違和感を感じた。

 

 さて。これからどうするか。

 

 「・・・」

 

 あまり考えないようにしていたが・・・。

 

 「記憶が・・・無い?」

 

 いや、全く無い訳ではない。ここが森の中であるとか、自分が着ている服が豪華な物とか、そういったことが判断できるほどの記憶はある。

 しかし、なぜなのだろう。自分の過去や自分に関すること、そういったものが全くと言っていいほど思い出せない。

 この胸の傷と関係があるのだろうか。それとも倒れる際に頭でも打ったのだろうか。何も思い出せないのである。

 

 とにかく森を抜けねばな。

 見たところ食料や水なども持ち合わせていない。

 今の体調では獣を狩ることも出来ないだろう。

 

 「まぁ、仮に獣が狩れても、火を起こす道具が無いがな・・・」

 

 

 

 「あら、火ならここにありますよ?」

 

 

 

 「っ!?」

 

 突然背後に現れた声と気配。

 木を挟んで後ろ側。

 そこから"聞き覚えのある女の声が聞こえた"。

 

 「そんなに警戒しないで下さい。と言っても無理がありますよね」

 

 そう、本来なら女の声が聞こえただけで、警戒する必要なんてない。

 だが自分の心と体が早く逃げろと警鐘を鳴らす。

 

 彼女から感じる分かり易すぎるほどの"殺気"。

 

 それを駄々漏れにさせながら、女の足音が、草を踏む音が、少しずつ自分に近づいている。

 

 逃げろ!

 

 早鐘を打ったような心臓の鼓動がそう告げるが、そもそも立ち上がることすら一苦労であるこの状況。

 立ち上がっている最中に殺されでもしたらたまったものではない。

 

 ならば・・・!

 

 足で前に向かい地面を強く蹴り、そのまま全体重を前に倒して前転する。

 

 ゴゥ!

 

 その瞬間背後の大きな木が炎に包まれ、大きな音を立てて崩れ落ちる。

 

 「くっ!なんだ!」

 

 前転の勢いのままバランスを崩さないように立ち上がり、背後を向く。

 先ほど少し動かしたおかげか、幾分か体が言うことを聞くようになってきているようだが、戦うにはまだ足りない。

 

 「あら、避けられてしまいました。これは少し甘く見すぎていたのかもしれません」

 

 炎の向こうから、やけに楽しげな女の声が聞こえる。

 やはり聞いたことがあるその声に少しの違和感を覚えながらも、頭を強く振って逃げることに意識を集中する。

 

 「では、もう少し本気を出させていただきますね」

 

 言うと自分の足元に、真っ赤に輝く紋章が現れる。

 

 「我が火は舞い踊る・・・紅蓮の業嵐・・・」

 

 マズいっ!

 後ろも確認せずに背後に大きく跳躍。

 

 「トルネードファイヤー」

 

 ゴォオオオオオ!!

 

 「ぐぅ!クソッ!」

 

 目の前で起こった炎の竜巻に体が押され、宙に浮いた体が大きく吹き飛ばされる。

 

 「ガっ!?」

 

 飛び降りた先、大きな岩がありそこに勢いよく体をぶつけた。

 なんとか炎を避けることはできたが、ダメージは深刻。早くこの女から逃れなければ。

 

 「また避けたんですか?これはいけませんね」

 

 まだ炎の竜巻が渦巻くその向こうから、女が走って来るのが見える。

 炎をものともせずに進んでくるその姿に、今度こそ背筋が寒くなるのを感じる。

 

 あまりにもデタラメな行動。

 一瞬剣を抜こうか迷ったが、剣を抜いたところで炎に巻かれてしまっては戦うことすらできない。

 それに近接戦すら自分よりも強かったらと思うと決断を鈍らせる。

 今のこの絶不調の状態。絶好調だとしても勝てるかわからない相手に剣を向ける気すら起こらなかった。

 

 近づいてくる人知を遥かに超越したその存在に、胸の奥がなぜか少し痛むのを感じたが、それを無視して背後を向いて走る。

 

 地形を無視した全力逃走。

 突きだした木々に体を切り裂かれるがお構いなしに走る。

 そして見えたのは崖。

 

 「くっ!」

 

 急ブレーキをかけて滑りながら背後を向く。

 

 「つかまえました」

 

 「!?」

 

 目の前に女の顔。

 

 とても整った顔立ちをしていたが瞳は見開かれ、そこには狂気が宿っていた。

 女は口の端を大きく歪めていびつに嗤う。

 

 「こんな瞬間が訪れるとは思っていませんでした。ほんとにほんとに偶然なんですよ?だから私嬉しくって!」

 

 瞬きもしない女は、自分の頬をその繊細で真っ白な手で、まるで恋しいものにでも触れるように両手で撫でる。

 体が恐怖で動かない。なんだこの女は。

 

 「震えていますね。恐いのですか?・・・でも、あなたに殺された人たちは、もっと恐かったんですよ?」

 

 この女は何を言っている!

 知らない!私は知らない!

 

 「私と話す気はもうありませんか・・・。では、お別れです。あの子たちによろしくお願いしますね」

 

 違うっ!そうじゃない!

 

 女の足元から先程と同じように赤い紋章が浮かび上がる。

 

 逃げ・・・!!!

 

 「イグニートフォトン」

 

 ドンッ!!

 

 至近距離。

 女を中心に膨れ上がった炎は大きく広がり、こちらの体を飲み込んでいく。

 その圧力と熱から意識を刈り取られ、男は成す術もなく崖の下へと落ちていった。

 

 「・・・これでは殺せたか分かりませんね。失敗しました」

 

 しばらく女は崖下を眺めていたが、静かに呟くと男が落ちた崖に向かって躊躇なく飛び降りていった。




 始まりました第二部。
 男の正体は、それに女の正体は、一体誰なんでしょうか。

 本格的にゼスティリアとベルセルアが干渉を始めました。

 不安で不安で仕方の無い幕開けですー。


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