岸波白野の転生物語【ペルソナ編】 (雷鳥)
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【プロローグ】

 いきなり注意です。
 あらすじでも書きましたがこの話にはペルソナ4の【重大なネタバレ】が存在します。
 ペルソナ4のゲームの未プレイ、またはアニメの未視聴の方はそれを踏まえた上でお読み下さい。


 ゆっくりと目蓋を開ける。

 

 ああ、またこの夢か。

 

 気付けば霧が覆う世界に立っていた。

 見える範囲は自分を中心に半径百メートルくらいだろうか。そこから先はだんだん霧が濃くなっていって輪郭が見える程度だ。そんな霧の中で、目視できる手摺りの無い赤と黒の四角い模様の床を歩きながら目的の場所に向かって進む。

 

 しばらく歩いていると赤と黒の四角い線が折り重なった扉の前に辿り着きその扉に触れる。

 扉はゆっくり回転しながら中央から外側に向けて開いていく。

 扉を潜りまたしばらく歩き続けると、大きく開けた扇状の場所に出る。

 そこから先は床が途切れて霧しかなかった。ここが目的の終着点である。

 

「こんばんわー! ナミ様ー!」

 

 霧の先に向かって大声で相手の愛称を叫ぶ。

 呼び掛けから少しすると、霧の向こうから自分の何倍もの大きさの影がゆっくりと現れる。

 

「ふっ、もはや遠慮も無いか人の子よ」

 

「あはは」

 

 巨大怪獣と遭遇した人間って、こんな気分なんだろうなぁ。

 

 遥か頭上から聞こえた声に顔を見上げながらそんなズレた事を考える。

 目の前には赤黒い巨大な骨盤、肉で覆われていない正に骨のみの骨盤が目の前にある。

 そこから視線を上に上げると巨大で長い背骨、先が鋭く尖った肋骨、羽の様に左右に大きく伸びた鎖骨には左右合わせて12本の巨大な腕、そして肋骨の上部辺りから白無垢のようにサラシの様な帯が幾つも巻かれ、その頂点に自分と同じくらいの身長のナミ様の本体であろう全身髑髏で縮れた長い髪の女性が、瞳の無い黒い眼窩でこちらを見据えている。

 

 因みにナミ様と呼ぶようになったのは最近で、その正体は日本では知らない人の方が少ないであろう有名な国生みの神にして黄泉の国の女王の一柱である【伊邪那美命】。

 

 ナミ様は自分が住むこの町、八十稲羽の土地神でもある。

 最初は彼女の姿を見た時はキャスターの本体と遭遇した時のようなプレッシャーを受け、恐怖と緊張で彼女の質問に返答するのがやっとだったが、最近では向こうが抑えてくれている為こうやって気さくに会話できるようになった。

 

「……ふん」

 

 ナミ様は自身に生えている手ではなく、巨大な身体の方の骨の手を一つ動かしてこちらに近づける。

 本来なら逃げるべきなのだろうが、自分は逃げない。そもそもこれも最近のいつものやり取りだ。

 ナミ様の血が乾いた様な赤黒い骨の指先が……自分の頭に触れる。

 

「…………」

 

「…………」

 

 しばらくお互いに見詰め合い、先に自分がナミ様に向かって笑いかける。

 

「……ふ。今日はお主の出会った我の娘について話してくれる約束であったな」

 

 ナミ様は指をゆっくりと下げ、それを見届けてから彼女の言葉に頷いて答える。

 

「はい。生前、というか別の世界と言った方が正しいですが」

 

 生前のパートナーの一人であったキャスター、タマモについて彼女に話す。

 彼女が己の意識の一部を分御霊として現世に落とし、人として過ごすも、ある日化生である事がバレ、そのせいで愛している人間に追い立てられ討たれてしまい、悲しい最後を遂げたことを。

 

 ここまで話すとナミ様は『我が子ながら行動力がありすぎる』と呆れた声を上げた。

 その後、英霊となっても人を愛し、人を支える事を第一としていたこと、酷い男に捕まった結果、色々はっちゃけて地を隠すのをやめたことを話す。

 この段階でナミ様が『男運の無いトコまで似たか。いや、最後に幸せなら別にいいが』と完全に母親目線になっていた。

 そして最後に『自分なんて元祖ヤンデレの母親に比べればまだまだ甘い』と言っていたことを伝えると、これには流石にナミ様も否を唱えた。

 

「待て。我はヤンデレではない。そもそも復縁しろとやって来て離縁を叩き付けた兄が悪い。あやつこそ元祖草食系男子にして自己中無責任男の代表格よ!」

 

 ナミ様は意外と現世の知識に富んでいる。理由を聞くと現世の様子を覗いてる上に、条件が揃えば人型でも行けるらしく、ちょいちょい情報収集に出ているんだとか。

 

「我は黄泉の管理と同時に地母神でも在る故、子を見守るのは当然。大体あの男は仕事をしない。本来ならあやつの仕事だと言うのに――」

 

 そこからは旦那兼兄であるイザナギの愚痴が始まった。そんなナミ様を見ているせいか、全然怖くない。というか、祖母が祖父の愚痴を言っているように感じて微笑ましかった。

 

「……ん、んん。まあ我の事はよい。今日はお主に大事な物を渡す予定であった」

 

 こちらの内心を感じ取ったのかナミ様は一度ワザとらしく咳払いすると、空中に手を翳す。するとそこに手の平に収まるサイズの小さな葡萄が付いたつる草の髪留めの様な何かと大輪に六つの小輪がついた錫杖が現れ、それはゆっくりと自分の手の中に降りてきた。

 

葡萄葛(エビカズラ)の髪飾り。それは我からの純粋な贈り物じゃ。そしてもう一つは『天逆鉾(あめのさかほこ)』の折れた刃で造った『金剛錫杖』、それをお主に送ろう。それを使えば『この世』から『お主の世』に戻る事もできよう」

 

 ……えっ、天逆鉾ってあの刃の部分がレプリカの……これ国から狙われない!?

 

「……どうしてこれを?」

 

 今迄こんな事は一度もなかったのと、現実にコレを持って行っていいのかという純粋な疑問からナミ様に尋ねると、彼女は視線をこちらに戻してから口を開く。

 

「……私が『伊邪那美命』で在れるのも、今日が最後であろう。故に、最後にお主に『私のもう一つの想い』を託してみることにする」

 

 するとナミ様はもう一度だけ自分の頭に触れる。不意に身体に何かが駆け巡ったような感覚が走る。

 そんな感覚に疑問を抱いている内にナミ様はゆっくりと霧の奥に戻って行く。

 

「ナミ様! また会えますか!」

 

「それは『お主』次第であろう。ではな、ただの人の身で我が下に来た子、久須美 白野(くすみ はくの)よ。願わくばまたお主と語り合いたいものだ」

 

 その言葉を最後に彼女は姿を消し、自分もまた睡魔に襲われる。

 

 ああ目覚める。目覚めると全てを忘れているんだよなぁ。

 

 それが残念で仕方がなかった。

 

 まあ今回は贈り物も貰ったし、もしかしたら覚えていられるかもな。

 

 そんな事を考えながら、自分はゆっくりと睡魔に意識を委ねた。

 

 

 

 

 シャリン。シャリン。という鈴の様な音が聞こえた。

 それはまるで自分を起こすかのようにずっと鳴り響き、その音に意識が目覚め、次に聞こえてきたのは小さな誰かの泣き声だった。

 ナミ様との邂逅が終わり、いつもの様に目覚めると思った自分の予想を裏切り、目蓋を開いた自分が立っていたのは真っ暗な空間だった。

 

 ここはどこだろう?

 

 初めての出来事に多少の戸惑いはあった。

 だがそれ以上に、誰かが泣いている。ならば助けないとという思いが勝り、思考はすぐに冷静さを取り戻した。

 

 こんな真っ暗な空間でどうすれば……あ。

 

 手に持った金剛錫杖に気付き、それを自分が立っているならきっと地面もあるだろうと、足元に石突を打ち付ける。

 

 シャリンという大きな音と供に輪から白いオーラの様な物が周囲に飛ぶ。それを何度も何度も繰り返していると、真っ暗な闇の向こうから、小さく輝く青白い火の玉がゆっくりとこちらにやってくるのが見えた。

 火の玉は音に導かれる用にこちらに近付く。手が触れられそうな距離まで来ても止らないので、軽く手を出して触れると、火の玉はその場で止る。

 

『……暖かい……ぐす……母に逢いたい……あああ…』

 

 火の玉から直接そんな言葉が送られてくる。

 子供のような声色からは、ただただ母への強い想いが込められている気がした。

 声は発せられない。故にこちらも相手に伝わるように心の中で念じる。

 

『それじゃ一緒に来る?』

 

 しかし火の玉は否定する。

 

『身体……ぐす……無い……無理』

 

 そしてまた泣く。

 

『なら自分の身体に入りなよ。そして君の身体を一緒に捜そう』

 

 諦めずにそう語り火の玉を抱き寄せる。

 

『……いいの?』

 

『ああ。さあ行こう。こんな寂しい場所に居ちゃダメだよ』

 

 火の玉をゆっくりと自分の身体に押し当てると、火の玉はゆっくりと身体の中へと入り込んだ。

 

『――ありがとう』

 

 感謝の言葉が頭に響くと、また意識が遠退き始めた。

 

 ああ、今度こそ目覚めるかな。

 

 ゆっくりと目蓋を閉じる。そう言えばあの火の玉の子に名前を聞いていなかった。今度会ったら聞いてみよう。

 そんなことを考えながら次に目が覚めると見慣れた天井を見詰めていた。

 

「覚えて……あれ?」

 

 今迄で覚えていなかった夢の内容を覚えている事に驚いたその時、両手に何かを握っている事に気付いて身体を起こすと、両手には夢で見た髪飾りと錫杖が握り締められていた。

 

 ……何かが、始まろうとしているのか?

 

 窓の外に視線を向ければ雪が降り、地元の神社から響く鐘の音が新しい年の始まりを告げていた。

 




 ナミ様の性格が原作より穏やかなのはまだ『アレ』の前だからです。
 というか原作やった人は白野の苗字で原作のどのキャラに近いポジションなのか分かってしまうと思う。(そのキャラの設定まんまではないですが)


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【最初の犠牲者】

とりあえず白野がペルソナ手に入れるまではテンポ良くいきたい。

 


『次のニュースです。稲羽(いなば)市議員秘書の生田目太郎(たまため たろう)氏が、不適切な女性関係から進退を取り沙汰されている問題――生田目氏と愛人関係とされる所属アナウンサー、山野真由美(やまの まゆみ)さんを全ての担当番組から降板――』

 

 あのアナウンサーの人やっぱり降板になったのか。

 リビングで朝のニュースを見ながら自分で作った朝食を口に運ぶ。う~んやっぱり一人でのご飯は寂しいなぁ。

 

 ナミ様との不思議な夢から数ヶ月、今は実家で一人暮らしをしている。

 両親が転勤で今年の3月から都会の方に行ってしまったのだ。

 自分も一緒に来るかと誘われたが、一月に見たナミ様との不思議な夢の事もあったのでこっちに残った。

 一人暮らしを許されたのはここが地元で顔見知りが多いのと、自分の落ち着いた性格のお陰だろう。

 子供の頃から生前の記憶があったせいで精神的に成熟していた自分は幼い頃は同い年の友達が少なかった。後輩には慕われていたと思う。

 因みに髪飾りと錫杖は部屋に置いてある。流石に外に持ち出せないし学校に身に着けて行く訳にも行かないからな。

 

『今日の天気は雨のち晴れでしょう。霧が出ますので外出の際には十分に注意してください』

 

 おっと、もうこんな時間か。

 

 今日の天気予報を確認しながら食事を終え、洗い物を済ませて用意しておいた制服に着替える。

 

 今日から二年生だ。心機一転、頑張るとしよう!

 

 登校時間になり忘れ物がないかチェックして傘を持って出かける。

 

 

 

 

 この辺も随分と寂れたな。

 学校に向かう途中にある稲羽中央通りの商店街の寂れ具合を確認しながら目的の店に向かう。

 商店街の北側にある神社の先にあるお店、『巽屋(たつみや)』の裏手に回って玄関のチャイムを鳴らす。

 

「はーい。今行きまーす」

 

 聞き慣れた女性の声からしばらく待つと、着物を来た少し年の行った女性が玄関の戸を開く。

 

「あら白野君、おはよう」

 

「おはようございます巽おばさん。完二(かんじ)起きてますか?」

 

 優し気な表情で挨拶してくれた巽おばさんにこちらも挨拶を返し、手の掛かる後輩が起きているか尋ねる。

 

「ちょっと待ってね。完二ー! 白野君が迎えに来てくれたわよー!」

 

 家中に聞こえるくらいの大きな声で巽おばさんが二階の天井に向かって叫ぶ。

 

「聞こえてるよババア! 恥かしいから大声出すな!」

 

 ドタドタと慌ただしい足音と共に長身で大きな体格、脱色した短髪をオールバックにし、更には耳にピアスといういかにも不良な外見の後輩、巽完二が大声で叫び返しながら下りて来る。

 

「だったらちゃんと起きなさい!」

 

 巽おばさんが容赦無くそう言って息子の完二の背中を叩いて送り出す。相変わらず男前だな完二のお袋さんは。

 

「ったく。すいません先輩、待たせちまって」

 

「いいよ。偶に来ないとお前、サボったり遅刻したりするだろ?」

 

「うっ。き、気が乗らない時だけっす」

 

「ま、進級できる程度にはちゃんと出席しろよ。んじゃ行こうか」

 

「うっす!」

 

 二人揃って商店街を抜けて八十神(やそがみ)高等学校に向かう。 

 

「それにしても先輩も物好きっすよね。俺なんかと登校して」

 

「そうか? というかこの辺りの奴らなんかみんな小学校からの顔見知りだろ?」

 

 完二の問いに頭を掻きながら答える。

 実際問題小学校中学校の数が少ないから友達と言う訳でもないが顔見知り程度の連中は多い。

 

 この町の外となると印象に残っているのは丸久豆腐店のお孫さんのりせちゃんか。彼女とは帰省した時に何度か遊んであげたっけ。今はアイドルをしていて、そのせいかここ数年は全然帰ってこなくなったけど。

 あとは小学校頃の夏休みに一度だけこっちに来た謎々が好きな女の子と遊んだっけ。探偵になるのが夢と語っていたがその後どうしているだろうか。

 

「ハハ、先輩らしいっすね」

 

「……?」

 

 苦笑いを浮かべる完二に首を傾げつつ『どういう意味だ?』と尋ねるが『なんでもねっす』と言って言葉を濁して次に何かを思い出したかのような仕草をする。

 

「そうそう。そういやぁ先輩、マヨナカテレビって知ってます?」

 

「マヨナカテレビ? いや、知らないな」

 

 完二の言葉に視線を少し上げて考えた後、首を横に振って答える。

 

「自分も詳しくは知らねっすけど、なんでも雨の晩の零時に電源の入っていないテレビを一人で見ると運命の相手が映るって噂っす」

 

「随分とロマンチックな噂話だな。というか、お前がそういう噂を覚えていた事にちょっと驚いてる」

 

「いや、昨日お袋から聞いたのを偶々覚えていたんで」

 

 言葉どおり暇潰しの話題として偶々覚えていただけなのか、完二は素直に答える。

 

「マヨナカテレビねぇ、今度試してみるか。別に魂が抜かれるとかって訳じゃ無さそうだしな」

 

「マジっすか。なんか映ったら教えてください!」

 

「おいおい先輩を実験台にするのか?」

 

 おどけたながらツッコむと完二も笑顔を浮かべる。それからはマヨナカテレビの話題を皮切りに、学校に着くまで雑談に華を咲かせた。

 

 

 

 

 振り分けられたのは二年三組だった。

 隣のクラスは学校で一番嫌われていると言ってもいい論理の諸岡金四郎(もろおか きんしろう)先生ことモロキンのクラスで、そちらには転校生が来たと話題になっていた。

 

 自分のクラスの担任は格好は兎も角、生徒に人気のある歴史の祖父江貴美子(そふえ きみこ)先生が担任なため、不満の声は殆ど無かった。

 

 今日はHRだけだったので早々に教室を出よう立ち上がると黒板の上のスピーカーからスイッチが入る音がした。

 

『先生方にお知らせします。只今より、緊急職員会議を行いますので、至急、職員室までお戻り下さい。また、全校生徒は各自教室に戻り、指示があるまで下校しないでください』

 

 なんだ? 学校の近くで事件でもあったのか?

 

 教室内がザワつき、少ししてパトカーのサイレンの音が響いた。

 

「お、なんか事件?」

 

「サイレン近かったな」

 

「つーか霧で殆ど見えねぇよ」

 

 サイレンを聞いて窓に近付いて外から様子を伺おうとしていた三人の男子だったが、霧で外の様子が解り辛く、つまらなそうな表情で愚痴り合うとすぐに別の話題で盛り上がり始めた。

 

「つーか事件て言えば、俺の運命の相手あの山野アナだったんだよ。ああ俺はどうすれば」

 

「え、お前も? 俺もマヨナカテレビ見て映ったんだけど?」

 

「おいおい不倫の後は二股ってか? お盛んだな~あの女子アナ」

 

 マヨナカテレビの話題かな? それにしても、運命の相手が同じなんてありえるのだろうか?

 

 一人でマヨナカテレビについて考えていると、再びスピーカーのスイッチが入った。

 

『全校生徒にお知らせします。学区内で事件が発生しました。通学路に警察官が動員されています。出来るだけ保護者の方と連絡を取り、落ち着いて、速やかに下校してください。警察官の邪魔をせず、寄り道などしないようにしてください』

 

「事件!?」

 

「マジ? おい急いで見に行こうぜ!」

 

 刺激の少ない町なせいか、事件と聞いてクラスメイト数名が足早に教室から出て行く。

 

 確かに通学路に警官が動員されるのなんて初めてだな。

 

 そんな事を考えながら帰り支度をしてさっさと帰宅する。興味は少しあるが野次馬するほどじゃない。

 

 

 

 

 帰りの通学路には確かに警察が配備されていた。帰りに食材を買いにジュネスに行こうと思っていたが、今日は止めて商店街にある丸久豆腐店でいつものように豆腐を買って家に帰り、日課の勉強と運動を終え、夕食の豆腐料理を作っていると、点けていたテレビから気になるニュースが聞こえてきた。

 

『今日最初のニュースです。本日正午頃、稲羽市の鮫川(さめがわ)付近で、女性の遺体が発見されました』

 

 鮫川って、まさか?

 

 火を止めてテレビを見に行く。

 

『遺体で見つかったのは地元テレビ局のアナウンサー、山野真由美さん、27歳です』

 

 この人って確か議員秘書の人の浮気相手だよな……そういえばマヨナカテレビにも映ったとか言ってたな。

 

『遺体は民家の屋根の大型のテレビアンテナに引っ掛かったような状態で発見されました。なぜこのような異常な状態になったのかは、現在のところ分かっていないということです。死因も今のところ不明で、警察では事件と事故の両面から捜査を進めることにしています』

 

 事故? それはありえない。民家の屋根にどんな理由があれば自主的に黙って上ると言うのか。

 では事件とし考えた場合、なぜ遺体をアンテナに引っ掛けたのかが問題だな。

 何か世間に対して行うメッセージにするには、リスクと労力しか掛かっていない。そして何より死因がハッキリしないというのが気になる。

 

 まさかナミ様の夢と何か関係があるんじゃないか?

 

 大きな事件とは無縁な地元で起きた不可思議な事件を前に嫌な予感を感じながら、それでも特に何かする訳でもなく数日が過ぎたある日――第二の犠牲者が出てしまった。

 




今後の為に御都合主義ですが白野は一年生ズとは面識がある設定でいきます(そうじゃないと夏に直斗の水着イベがごにょごにょ)



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【再会】

やっとペルソナ出せる所まできたぞっと。



 最初の事件が起きてから数日後、全校集会が開かれ小西早紀(こにし さき)先輩が亡くなった事を告げられた。

 

 やはりマヨナカテレビは関係しているのか?

 

 知り合いとは言っても商店街で見かけて他愛無い会話をする程度の知人だが、それでも顔見知りが死んだというのは少なからず自分の心に衝撃を与えた。

 

 彼女は死ぬ前にマヨナカテレビに映っていた。

 第一の事件から今日の間に雨の日があって噂を確かめるためにマヨナカテレビを見てみようとリビングのテレビを見続けた。

 

 そして深夜零時丁度にそれはおきた。

 何も映っていないはずのテレビの画面が急に映り、そこに人影が写ったのだ。

 一度目は映し出された映像の視界が悪く判別できたのは『髪の長い女性が映っている』という事だけだった。

 

 二度目に見た時は映像が以前よりも僅かにはっきりとしていた。そして映し出されたのは『小西早紀先輩が化け物に襲われる』映像だった。

 

 校長の話を聞き流しながら思案していると、ふとナミ様の言葉を思い出した。

 

『これがあれば、元の世界にも戻れる』

 

 不可解な死がナミ様達のいる世界で起きた結果だとしたら一応の辻褄は合う。じゃあマヨナカテレビはなんだ? なんのために『存在』している?

 

 意味が無いなんて事は絶対にない。なんせ既にマヨナカテレビに映った人間が『二人』も死んでいるのだから。

一人なら偶然かもしれないが、二人なら何かしらの意図が働いたと言っていい。

 

 体育館から校舎に戻る時、通り過ぎ様に悔しそうに項垂れた同じ学年の男子生徒と、それを心配そうに寄り添う男子生徒と女子生徒を見かける。

 女子生徒の方は知っている。友人の一人の里中千枝(さとなか ちえ)だ。

 彼女は項垂れる男子生徒を心配そうに見詰めている。きっと、あの男子生徒は小西先輩の友人か、もしくは……好きだったのかもしれない。

 

 

 

 

 学校から帰宅し、夕食を食べ終えた自分は履き慣れたスニーカーの靴底を拭いて履き、上着を羽織って部屋の押入れに置いてある防犯グッズの入ったリュックサックを背負う。

 自室に戻ってナミ様から貰った髪飾りを左の手首に巻き、錫杖を右手に取ってリビングのテレビの前に立つ。

 

「……さて、行くか」

 

 テレビに手を突っ込む。

 すると手はまるで湯水を通るようにテレビの中に吸い込まれる。

 

 この現象に気付いたのは一週間ほど前にテレビの周辺の掃除をしていた時だ。

 偶々画面に触ったらいきないり支えが無くなった感じがしてそのまま手から肩まで突っ込んでしまった。

 家のテレビは父親が会社の忘年会のビンゴ大会で当てた大型で、人一人くらいなら簡単に入れる程だ。正直頭まで行っていたらそのままテレビに入ってしまっていただろう。

 それ以来怪しいと思いながらも気にしない様にしていたのだが、事件が多発した以上、見て見ぬ振りをするわけにはいかない。

 

 手を入れ終えた自分は次に頭を突っ込み、最後にテレビの枠を跨ぐ様に全身を入れる。

 全身が入り込むと同時に身体が『落下』する。

 白黒の変な空間を落ちると、すぐに視界が開け地面に着地する。

 

 ここは……。

 

 霧があるせいで遠くまでは見渡せないが円形の広い空間にまるでテレビの撮影場のような鉄骨やスポットライトが辺りに設置されていた。

 地面を見ると中央に先程通った空間と同じ白と黒の円の縞模様が交互に描かれ、その円を囲うように人が倒れているかのような模様が描かれている。円の端の方は赤茶っぽいモザイク柄をしていた。

 

 変な場所に出たな。

 

 自分が立っている広場の東西南北に手摺のついた細道が続いている。

 とりあえず色々と確認する為に広場に座り、携帯や手動充電のできる懐中電灯やラジオを出して使えるか確認する。結果は予想していた通りどちらも通信できなかった。

 

「無理か」

 

『通じなかったね』

 

「は?」

 

『……え?』

 

 急に頭に響いた声に驚いて辺りを見回すが誰も居ない。というよりも今の声って……。

 

『もしかして……聞こえるの?』

 

「ああ聞こえてる。君、あの火の玉の子だよね?」

 

 聞き覚えのあった戸惑うような声に質問を返すと、今度は嬉しそうな声が頭に響いた。

 

『うん。ずっと、お兄ちゃんの中にいたよ』

 

「お兄ちゃん?」

 

『テレビでお兄ちゃんくらいの年上の男の人をそう呼んでたから……ボク、間違ってる?』

 

「いや、構わないよ。そうそう、ずっと君の名前を訊きたかったんだ」

 

 声が沈んでいくのが分かったので慌ててお兄ちゃん呼びで問題ないと伝え、あの日以来気になっていた事を訊ねる。

 

『……覚えてない』

 

 悲しそうに呟く。なんというか、声からして本当に子供なのかもしれない。

 

「さっきテレビを見ていたって言っていたけど、こちらが認識できなかっただけで君はずっと一緒に居たの?」

 

『うん。ボクはずっとお兄ちゃんと一緒にいたよ』

 

 そうか。ということは結構恥かしいところも色々見られていたのか……ならもういっそ開き直ろう。

 

「ならもう家族も同然だ。自分自身が誰なのかを思い出すまでは、そうだな。火の玉だからヒノって呼ぼうと思うんだが、どうかな?」

 

『家族……エヘヘ、うん、ボクはヒノ、お兄ちゃんの家族』

 

 嬉しそうな声で自分をヒノと呼ぶ。うん、気に入ってくれたなら良かった。

 

「それじゃあヒノ、これからよろしく。ところで、ここがどこだか知ってる?」

 

『分からない。でも、一つだけ分かる。ボクと同じ気配を感じる』

 

 ふむ……どうせここにいても仕方が無い、か。

 

「場所は分かる?」

 

『うん。正面の道から感じる』

 

「正面の道だな」

 

 ヒノの誘導に従って歩みを進める。

 しばらく霧と手摺の付いた橋の様な道を進んでいると、赤黒い空間の歪みを見つけ、恐る恐るその歪みに入り込む。

 テレビに入った時と似たようなぬるま湯を抜けるような感覚を感じながら通り抜けると、そこには見慣れた風景が広がっていた。

 

「ここは、商店街?」

 

 そこは景色の配色こそ違うが紛れもなく自分がよく行く地元の商店街だった。

 

「どうして商店街がこの世界に?」

 

『分からない。でもあそこ、あそこにボクの身体が居る』

 

 ヒノが示したのは一軒の酒屋だった。

 

「ここって、コニシ酒店か?」

 

 死んだ小西早紀の実家で間違いない。しかし店の入口の戸は開け放たれ、そこには商店街に来た時に潜った赤と黒の歪んだ波紋が広がっていた。

 もしかしたら別の場所に移動する時はこの歪みを通らないといけないのかもしれない。

 

「ヒノの身体はこの向こうか?」

 

 歪んだ空間を見詰めてヒノに問う。

 

『うん。この奥から気配を感じるよ』

 

「なら、行くか」

 

 意を決して歪みを通り抜けると酒屋の店内のような場所に出た。

 

「ここは……っ!!」

 

『お兄ちゃん!?』

 

 嫌な予感がして咄嗟にその場から飛び退くと先程まで立っていた地面が爆発する。

 

「なんだ……コイツは!?」

 

 錫杖を構えながら目の前の『敵らしきモノ』を観察する。

 

 大きさは大きめのワゴン車程度。

 円盤型のUFOの様な形状に、戦車のような頑丈な鉄を張り合わせた様な外観、戦車と評したのは他にも理由があり、目の前の敵の胴体からは四方に巨大な砲が設置されてたからだ。

 胴体はクルクルと回り、一番上には櫓の様な形状の頭部があって『Ⅷ』と記された黄色い仮面を被っていた。

 視線が合った瞬間、仮面の顔が笑った様な気がした。

 背中に嫌な汗が流れる。

 

『感じる。アレからボクと同じ気配を感じる』

 

「なに? ということは、アレはヒノに関係した何かって事か?」

 

『ごめんなさい。分からない』

 

 謝るヒノを慰めようと一瞬気が逸れた。

 意識が逸れた瞬間、目の前に勢い良く何かが突っ込んでくるのを感じて錫杖を前に出す。

 

「っ~!?」

 

 胴体を回転させたまま突っ込んできた敵の衝撃が錫杖越しに腕を走り、その衝撃の勢いに負けて身体は吹き飛ばされて地面を二転三転する。

 

『あっぐうう』

 

「ぐっ。大丈夫かヒノ」

 

 くそ、自分のダメージはヒノにも行くのか。

 

 痛々し気な声を上げるヒノに申し訳なく思いながら痛む身体をなんとか起こす。

 目の前の敵はこちらが弱っているにも関わらず追撃はゆっくりとしている。自分が倒されるとは思っていない動きだ。

 

 だが実際問題、こんなのとどう戦えばいい。

 

 今の自分は魔術を使えない。

 そしていくら神代時代の金剛石で出来た錫杖でもあの装甲を貫くのは無理だろう。宙を浮いてるせいで唯一攻撃が通じそうな頭部にも届かない。

 

『痛い、痛いよぉ』

 

 ヒノの声に意識が引き戻される。

 

 そうだ。今の自分の身体にはヒノがいる。自分のためにも、ヒノのためにも、こんなところで――。

 

「死んで、たまるか!!」

 

 燃え上がる。

 目の前の強大な試練、それに立ち向かうのに必要な感情が、意識が燃え上がるのを感じた。

 

 ――拳を握れ!

 

 頭に声が響く。

 

 ――顔を上げよ!

 

 懐かしい。とても懐かしい人の声が響く。

 

 ――そして告げよ。余の名を!

 

 身体の中心から湧き上がる感情に従って、右手の錫杖を打ち鳴らし、左手を手を前に翳しながら目の前に現れた光るカードを握り潰して彼女の名を叫ぶ。

 

「来い! ネロ!」

 

 

 自分の周りに青白い光が溢れ、背後に何か大きな力が現れようとしているのを感じて振り返る。

 

「……セイバー」

 

 そこには見慣れた赤い舞踏服に身を包み、見慣れた赤い大剣を携えた女性、セイバーの姿が在った。違う点としては肌部分の色が灰色で表情は人形の様に動きそうにないところか。

 

 そんな彼女と目が合う。 それだけ、目の前の存在は間違いなく自分の知るセイバーなのだと理解する。

 美しい翠玉の光を放つ瞳からは『よくぞ呼び出した』と褒め称えているような気がした自分は、その視線に強く頷き返して改めて前を見据える。

 

「行け、セイバー!」

 

 全身に活力が漲り、かつてそうしたようにセイバーに指示を出し、彼女は生前と同じように勇ましく敵へと向かっていた。

 




召喚の台詞を番長みたいに「ペ・ル・ソ・ナ!」にするか「来いセイバー!」にするか迷ったけど初回の呼び出しの時は名前の方がいいかとこうなった。
基本的に白野はネロ、無銘、タマモは普段はクラス呼びで統一します。
あと今回の敵はランクダウンしてますが原作に出ている敵です。ここでこの敵が出るって事はコイツが本来出るステージが……。


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【ベルベットルーム】

やっとペルソナ?召喚に成功。
そして公式の設定資料集などは持ってないので、ペルソナとシャドウ、ワイルドの能力に関してわかり易くする為に独自解釈による設定が含まれます。



 敵に向かって飛翔したセイバーが剣をUFOの化け物に向けて突き立てる。が、剣は甲高い音と共に回転する装甲に弾かれてしまう。

 

「っ、離れろ!」

 

 回転が止むと砲口がセイバーに向けられ、すぐにその場から離脱させる。

 セイバーがその場を飛び退くと同時に先程まで居た場所に光る砲弾が着弾し、爆発が起きて地面が抉れる。しかしその抉れた足場はすぐに元に戻る。

 

 おかしな地形だが少なくとも足を取られる心配はなさそうだ。これなら動き回れる!

 

「炎を!」

 

 セイバーを呼び出した時にまるでデータを送るように頭の中に送られた彼女の能力、その中にあった炎を操る能力を使って砲撃を行った直後の隙を狙って足元から火柱を発生させる。

 

 炎に飲み込まれた敵はわずかに動きが鈍る。

 

「今だ! 仮面を狙え!!」

 

 装甲は硬くて通らないと判断し、唯一攻撃が通りそうな場所目掛けてセイバーが大剣を突き立てる。仮面の傷口から黒い煙が勢い良く放出する。

 

『――!?』

 

 甲高い音を立てながら暴れる化物。その振り回しの遠心力に耐え切れずにセイバーの大剣が抜け、セイバーの身体が放り投げ出られるがなんとか着地に成功し、後退する。

 

「くっ、頑張ってくれセイバー!」

 

『お兄ちゃん……』

 

 セイバーを応援しつつ彼女の邪魔にならないよう敵の間合いから身を隠しつつ観察しながら指揮に集中する。

 

 思い出せ、サーヴァント達と戦ったあの頃を!

 

「セイバー自身の攻撃力を強化後にもう一度炎を!」

 

 セイバーがこちらの意思に答えるように剣を構え直すと彼女の頭上からオレンジ色の光が落ちるように降り注ぎ、その後すぐに炎を出して化物の動きを鈍らせる。

 

 よし、狙い通りだ!

 

 セイバーに意思を伝える。

 セイバーは一気に敵との距離を詰め、大剣を横薙ぎに払う。

 物理スキルが乗って威力が増した大剣が光る軌跡を描き、戦車の頭部が跳ね飛ばされる。

 頭部は地面に落ちると同時に黒い煙となって四散する。

 

 どうだ?

 

 相手の動向を伺う様に見詰めると、相手はそのまま黒い霧を放ちながら消滅し、その場にヒノと同じ様な火の玉が現れる。

 

『す、凄いよお兄ちゃん!』

 

「セイバーのお陰さ。それより、アレがヒノの感じていた気配か?」

 

 火の玉を指差して尋ねる。

 

『うん……あっ!?』

 

 ヒノが返事をすると火の玉は勢い良くこちらに飛んできて、自分の身体に吸い込まれ、暖かい力が流れ込むのを感じる。

 

『あ、なんかボク、少しだけ力が増した気がする。ありがとうお兄ちゃん!』

 

「そうか。それにしても事件に関してはあまりヒントは無かったな」

 

 立ち上がって改めて酒屋を見回す。そもそもここのお酒は飲めるのだろうか?

 試しに冷蔵ケースを開けて中のお酒を取り出して封を開けてみる。アルコールの匂いはするが、流石にこの世界の物を飲み食いするのはチャレンジが過ぎるか。

 

「さて、とりあえず元の世界に戻るか。とは言っても戻れるかは賭けなんだよなぁ」

 

 手に持った錫杖を見詰める。

 実はセイバーを呼び出した瞬間に一回、そしてあの火の玉を取り込んだ時にもう一回、錫杖からセイバー達が使うような『術』の名前とその内容が送られて来たのだ。

 

 まあ唱えてみるしかないよな。

 

 なるようになれと最初に浮かんだ術の名を口にする。

 

「それじゃあ……トラエスト!」

 

 呪文を唱えると自分の周りが光り輝き一瞬だけ視界が白くなると次の瞬間には家のリビングに立っていた。

 

 どうやら戻ってこれたみたいだな。しかし本当に何の収穫も無かったのが痛い。いや、向こうに行き来できるようになった事、そして商店街と同じ場所、得たモノも有る。これからだ!

 

 今後の事を考えて拳を握る。その時、消えている筈の背後のテレビ画面から光が漏れた。

 

 マヨナカテレビ!?

 

 外を見ると雨が降っていた。思ったより時間が経っていた様だ。

 新しい情報を得ようとテレビに近付いて画面を覗き込む。

 画面の人物はやはり顔は見えないが、辛うじて着物を着た髪の長い女性という事だけは分かった。

 

 着物を着た髪の長い女性、か。

 

 残念ながら心当たりは無いが、今の自分には向こうに行く手段がある。

 一番良いのは未然に防ぐことだが、向こうで助けられる可能性があるのは精神的に大分楽になった。

 安心したせいか不意に身体のだるさを感じ、身体が傾きかける。

 

 むっ。あの世界のせいか? あとは明日考えよう。

 

 荷物を降ろして靴を脱ぎ、着替えるのも億劫なのでいつもの様に目覚まし時計のスイッチだけ確認して眠りについた。

 

 

 

 

 ん?

 

 奇妙な感じを覚えて目が覚める。

 

「ようこそベルベットルームへ。私はここの支配人のイゴールと申します」

 

 イゴールと名乗ったまるでハゲタカの様に大きく開いた目と嘴のように長く尖った鼻の黒の燕服を着た小柄な老人が目の前の机を挟んだ先で笑みを浮かべる。

 

「マーガレットで御座います。以後お見知り置きを」

 

 老人の左側の長椅子に座った切れ長の目に銀色の髪、白い肌を青い服で包んだ女性がイゴールに続いて自己紹介を続ける。

 

「……久須美白野です。あの、ここは?」

 

 自己紹介された以上は自分もと思い名前を告げた後に辺りを見回しながらこの場所について尋ねた。

 周りは青を基調とした室内で豪華そうな長椅子にお酒とグラスの入った棚まで置かれていた。違和感を覚えてよくよく見てみれば外の景色は動いている。もしかして室内じゃなくて車内なのか?

 

「ここは夢と現実、精神と物質の狭間にある世界でございます」

 

 イゴールは静かにこちらの質問に答える。

 

「精神と物質の狭間、あの世界とは違うのか?」

 

 あの世界、テレビの世界と言う意味で訊ねるとイゴールは察しているようですぐに頷き答えた。

 

「はい。ここは何らかの形で『契約』を成された方々が訪れる部屋。あなた様は既に契約が成されております。故に今宵から貴方はこのベルベットルームのお客人となられた」

 

 契約……サーヴァントとの契約のようなものだろうか? だがどの事を言っているんだ? ナミ様との約束か、ヒノとの約束か、それとも今日使役したセイバーか、それとも全てか。

 

 こちらが悩んでいると傍に控えているマーガレットが口を開いた。

 

「お客様が戦われた相手はシャドウと呼ばれている存在で御座います」

 

「シャドウ?」

 

「シャドウとは抑圧された人々の本能や欲望等の意識から生まれ出でる存在でございます」

 

「となると、さっきの世界は精神世界って事か?」

 

 イゴールの最初の精神と物質の話を思い出す。

 

「残念ながら一概にそう言える程あの世界の構造は単純ではありませんが、人々の精神に大きく影響を受けている世界であることは間違いありません」

 

 イゴールが少々言葉を濁しながら答える。まあ世界どうこうは今はいいだろう。自分程度の人間が聞いても分からないだろうし。

 

「敵については分かったけど、じゃあ自分が呼び出したセイバーはなんなんだ?」

 

「あれはペルソナと呼ばれるモノでございます。シャドウが不特定多数の意識が集まって具現化した存在なら、ペルソナは自己の意識の一部、『もう一人の自分自身』を本人が御する事で具現化した存在で御座います。そういった者を我々はペルソナ使いと呼んでおります」

 

「ペルソナ能力とは『心を御する力』。そして『心』とは『絆』によって満ちるもの。他者と関わり絆を深め心を磨いて行くことで、ペルソナ能力は強くなって行くのでございます」

 

「更にあなた様のお力は他のペルソナ能力やワイルド能力とも大きく異なる。少々あなた様のお力を見てみると致しましょう」

 

 イゴールが手をかざす。すると自分からカードが現れ、次の瞬間眩い光を放つ。

 イゴールは始めてその目蓋をわずかに開け、マーガレットは何故か恍惚としている。

 そして光が収まるとそこには下に『000』の数字が描かれ、中央には宇宙を背にした旅人の様な格好の男女の透明人間が手を取り合って描かれていた。というか自分のペルソナはネロのセイバーじゃないのか?

 

「なるほど。お客様は『既に一巡』していらっしゃるのですね」

 

 イゴールの言葉に驚き彼へと視線を向ける。まさかカードを見ただけで自分が転生者だと言う事に気付いたのか?

 

 イゴールを探るように見詰めると彼はクククと笑った後に口を開いた。

 

「お客様を知り、支える事が私めの勤めです故。それにしてもお客様は面白い」

 

 そう言ってイゴールは手を組み直してもう一度宙に浮くカードをへと視線を向ける。

 

「『愚者』のアルカナを持つ者は、いずれ命の答えを得て別のアルカナへと昇華される。嘗てここに『宇宙』のアルカナに到ったお客様もいらっしゃいました。しかしあなた様が到った答えは『愚者』。愚者は新たな可能性を作って行く者。もう一人のお客人同様、貴方の旅もまた見応えがありそうだ……フフフ」

 

 イゴールの口が吊り上がり、笑顔が更に大きくなる。

 というか結局自分の能力について全然説明してないんだが?

 

「結局自分の能力は……んん?」

 

 ペルソナ能力について訊ねようとした途端、急に目眩がして額を押さえる。

 

「どうやら今宵はここまでのようですな。さて、お客人の手助けをするのが我々の仕事です。最後にこれを」

 

 イゴールが宙に手を翳すと、そこから光る青い鍵が現れる。

 

「そのカギをお持ち頂ければいつでもこちらに来訪頂けます故、今宵はゆっくりとお休みなさいませ」

 

 良く分からないが特に悪い気配も感じなかったので受け取ると鍵はそのまま身体の中に取り込まれる。

 

「それではいずれまた」

 

 イゴールのその言葉と共に意識が眠りについていくのが分かった。

 視界が途切れる前にふと視線を感じたのでそちらに顔を向ける。

 そこには表情だけ最初の頃のものだが目だけは自分を興味深そうに見つめるマーガレットの姿があった。

 

 




この作品におけるシャドウやペルソナ、ワイルド能力の解説です。ワイルド能力に関しては本編でもう一度説明しますが、ここにも乗せておきます。

シャドウ=人々の無意識の本能や欲望の集合体。その為姿は動物や無機物、怪物やら亡霊といった物が多い。基本的に無差別に人間を襲う。肉体を食うというより精神や魂と言った物を喰らうので外傷が無いに等しい。

ペルソナ=本人の意識の一面、所謂『もう一人の自分』。あくまでもペルソナとして使役できるのは『制御に成功した自意識』のみ。
例えばP4では『他人に隠している・または隠そうとしている自分』の具現。
P3は『死・危機に直面した際の自分』の具現。
P4メンバーがP3の方法で召喚した場合、また違ったペルソナが発現していた。
基本人間のスペック的に制御できるのは一人一体まで。
心の成長と供に進化していく。

ワイルド能力=ペルソナを付け変える能力。所謂世界からのバックアップ。
本来ペルソナは一人一つの自意識しか制御できないが、この能力を持つ者は己の様々な自意識をペルソナ化させて呼び出すことが出来る。
世界規模の大きな運命に立ち向かう事が定められた瞬間に、その者は一時的に『愚者』のアルカナとなってこの能力を得る。
そして最終的に運命を乗り越えて『命の答え』を得て『奇跡』を起こして『新たなアルカナ』へと到る。(キタローは『宇宙』番長は『世界』アイギスは『永劫』に一巡して戻った感じ)
この能力は答えを得た瞬間に能力を失う為、最終的に固有ペルソナに戻る。
キタロー=メサイア 番長=伊邪那岐大神 アイギス=アテナ

愚者(白野)
本来最初から最後まで愚者と言うアルカナの運命を持つ者はペルソナ世界には存在しない(代わりに道化のアルカナがある)
ただ白野は存在自体が『異端』な為に『自由』と『可能性』を宿したこのアルカナとなった。

というのがこの作品の設定です。
まあ個人的にはペルソナ=仮面なら初代の頃の仲間も付替え可能なのが一番自然な気がするんですけどね。
まあそれはそれって事でP3とP4の設定を色々吟味してわかり易くした感じです。
ワイルドの能力は最終的には消えるのが自然かなというので愚者と合わせて消える設定にしました。(番長は続編で普通に使ってるらしいですが)
こうすれば白野の『愚者』のアルカナの異端性も増しますしね。



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【雪子姫の城】


と言う訳でようやくダンジョン攻略の始まりです。



 夢の影響か、それともテレビの世界の影響か、翌日はいつもよりも遅く目覚めた。慌てて支度をして朝のテレビで天気をチェックして学校に向かう。

 

 あの夢はなんだったのだろう。それにあの鍵は一体……。

 

 下駄箱で靴を履き替えながらそんな事を考えていると千枝が切羽詰った表情で走って来た。

 

「おい千枝、どうした?」

 

 心配になって呼び止める。と彼女は足を止めて焦った様な顔でこちらに駆け寄ってきた。

 

「あ、白野! ねえ雪子(ゆきこ)見なかった?」

 

天城(あまぎ)? いや登校中には見かけなかったが、何かあったのか?」

 

 そもそも自分は千枝とはある程度の付き合いはあるが、彼女の友人である天城雪子とはあまり会ったことが無い。精々共通の友人を持つ知人程度の仲だ。

 

「あ、いや、昨日メールしたけど返事が返ってこなくて、今日の朝も連絡したけど出なくて……」

 

「旅館の方はどうだ? 家の手伝いをしていたら出られない場合だってあるし、携帯もバイブにしてたら気付かない時もあるだろ?」

 

「あ、そっか!」

 

 千枝は慌てて携帯を取り出して電話をかける。

 

「あ、もしもしあたってその声、雪子! 良かった~。うん、うん、いやあたしこそゴメンね。ちょっと心配になってさ。うん、じゃあね」

 

 どうやらちゃんと話せたようで、千枝は安心しきった表情で安堵の溜息を吐いた。

 

「良かった~。もう、あんな事があったせいで心配しちゃったよ」

 

 あんな事とはたぶん事件の事だろう。殺人事件が起きた時に友人と連絡が取れなくなれば心配するのは当然だろう。千枝は特に他人思いなところがあるし。

 

「ありがとね白野、やっぱ頼りになるね委員長!」

 

「そのあだ名以降、委員長をやり続ける羽目になった原因があだ名を広めたお前だという自覚はあるか、千枝?」

 

 千枝とは小学校が一緒で自分が小学校高学年に委員長をし続ける羽目になった原因が彼女だ。まぁそのお陰でこの年まで彼女と友達で居られたのだから悪い出来事ではなかったと思う。

 

「あはは、すいません」

 

 意地悪く笑いながら答えると、千枝は苦笑しながら謝る。まぁ気にしていないのですぐに話題を切り替える。

 

「そう言えば中学はクラスがずっと別々だったから休日に町で会ってそのまま遊んだり、愛屋で会う時以外で話すのって久しぶりだな」

 

「そう言えばそうだね。休日に遊ぶって言っても偶にだったしね。一年の時もクラス別だったし」

 

 そんな会話を切っ掛けにお互いに近況を話し合う。

 

「そう言えばウチのクラスに転校生が来たの知ってる? 鳴上悠(なるかみ ゆう)君なんだけど、不思議系イケメンって感じでさ。そう言えば花村の事も話題にはしてるけどちゃんと紹介はしていなかったっけ。今日……は昨日の事があるし、今度暇が出来たらまとめて紹介するね」

 

「ん、分かった。気長に待ってるよ」

 

「期待しててよ。それじゃあね白野、本当にありがとう!」

 

 千枝のクラスの前に来たため、千枝が手を振ってクラスに入っていく。

 さて、自分もクラスに向かうか。そう言えば今日も雨か、マヨナカテレビのチェックをしないと。

 

 

 

 

『こんにちは~。今日は私、天城雪子がナンパ、逆ナンに挑戦したいと思いま~す』

 

 ……はい?

 

 深夜、いつもの様にマヨナカテレビを見ようと待機していると、今までとはまったく毛色の違う映像が映し出された。

 

 こちらが唖然としてる間も、画面の向こうではお姫様と言った感じの幅広のスカートにフリルのついたピンクのドレスに身を包んだ天城雪子らしき少女が、マイク片手に愉快そうに笑っていた。

 

『もう私専用のホストクラブをぶっ建てるくらいのつもりで、それでは行ってきま~す』

 

 天城らしき少女は背後の西洋の城へと入って行き、そこで映像は消えた。

 

 どういうことだ?

 

 外見は完全に天城だが、彼女はこんな逆ナンなんて言う子ではなかったはずだ。

 少なくともつい最近目にしたときも千枝以外とは積極的に話すことの無い大人しい感じの子だった。

 

 とりあえず行くしかないな。それにこれで彼女が向こうの世界に居れば、向こうの世界が関係している証拠にもなる。

 

 昨日と同じように準備をしてから向こうの世界に向かう。

 広場に立つと自分の中に別の気配を感じた。多分ヒノの気配だろうが、昨日は感じなかった。ヒノの力が増した影響だろうか?

 

 ヒノ、聞こえるか?

 

『うん、久しぶりお兄ちゃん。またお話できて嬉しいよ』

 

 嬉しそうな声を上げるヒノ。そう言えば意識はあると言ってもヒノと話すにはこちらの世界に来ないといけないんだよな。

 暇な日はこっちの世界に来て話し相手になってあげても言いかもと考えつつヒノに確認する。

 

「すまないがヒノ、昨日みたいに何か感じられるかな?」

 

『えっと……ボクと同じようなそうでないような、よくわからない気配を感じるよ』

 

 ヒノは困ったような声でそう答える。

 

「そうか。とりあえずそっちに案内してもらえるか?」

 

『うん。えっとね、こっちだよ』

 

 ヒノに誘導を頼みその通りに暫く進むとまた歪みを見つけてそれを潜るとテレビで見た異様な雰囲気を放つ城の正門前に辿り着いた。

 

 ……ここはヤバイな。

 

 ここに来て自分も城その物から異様な気配が放たれているのを感じとる。まるでこちらの侵入を拒むような気配に自然と錫杖を持つ手に力が篭る。

 

「……今は危険を冒してでも情報が欲しい。ヒノ、自分の身体のダメージはお前にも行くんだよな?」

 

『うん。でも大丈夫、ボクも頑張るよお兄ちゃん!』

 

「……分かった。すまないが少しだけ付き合ってくれ」

 

 意を決して酒屋と同じように歪んだ入口に身体を潜らせて城の中に侵入する。

 城の内装もいかにもお城な感じだった。

 大理石っぽい白い壁に床、赤い絨毯にカーテン、天井や柱にはアンティーク調のシャンデリアや蝋燭立てが吊るされている。

 

「ヒノ、さっき感じた気配はまだ感じるか?」

 

『うん、さっきより強く感じるよ。あとシャドウ達の気配もあちこちから感じる』

 

「気配を感じられるだけ助かるよ。とりあえずその強い気配に向かおう』

 

『分かった。それじゃあ案内するね』

 

 辺りを警戒しながらヒノに誘導された道を慎重に進むんでいると正面から不穏な気配を感じるのとヒノが叫ぶのは同時だった。

 

『お兄ちゃん、正面から何か来る!』

 

 立ち止まりすぐにセイバーを呼び出して臨戦態勢を取る。

 正面の床から黒い霧が二つ溢れ、徐々に形を成していく。

 一つは仮面とローブを身に着け二人の人間が、頭を横から杭の様な物で貫通されて繋がった様な姿の化け物。

 もう一つは中型犬くらいのサイズで足にランタンを下げた鴉が現れる。

 

「セイバー炎を!」

 

 先手必勝とセイバーに炎で二体共攻撃してもらう。

 串刺し人間の方の化物はその場で一瞬で燃え尽き、鴉の方は炎を回避してこちらに向かってくる。

 動きを冷静に見極めてその場を飛び退きつつ、セイバーに大剣で迎撃してもらい、一撃で消滅させることに成功する。

 

 とりあえず一段落か。

 

 緊張を少しだけ解いて辺りを警戒しながら進む。

 ヒノの誘導は優秀だ。通路にはいくつも扉があり、もし一人なら一つ一つ調べなければならなかったが、ヒノのお陰で行き止まりに行く事無く最短ルートを進めている。

 階段のある部屋にいた手を逆さにし、手首の部分に頭がついた姿のシャドウを倒して二階に上がる。

 

 二階は一本道でその先にはひときは大きな扉がありそれを開ける。

 

「あれは、天城か?」

 

 大きなホールの中央にテレビで見た天城らしき少女を見つける。

 こちらが彼女に向かって駆け寄ると急にスポットライトの様な光が彼女を照らすと、彼女は笑いながらこちらに振り返った。

 

「あらぁサプライズゲスト? どんな感じに絡んでくれるかしら。フフフ、盛り上がってまいりました!」

 

「え、いや天城、でいいんだよな? でもなんか、気配が」

 

 天城と言えば天城のような気もするが違うような感じもする。なんだこれ?

 

「ええそうよ。私は天城雪子、さてさて、あなたが私の王子様ならきっと奥まで追って来てくれるわよね? それじゃあ最初の王子様候補一名様、ご案な~い」

 

 ジャンジャンジャン!!

 

【やらせナシ! 雪子姫、白馬の王子様さがし!】

 

「……なんです?」

 

『空中に文字、あ、ボク知ってるよ。アレってテロップって奴でしょお兄ちゃん? テレビで見たことある!』

 

 そう。ヒノの言うとおり急に音楽が鳴ったと思ったら天城の頭上になんとも目に優しくない配色のデカイ文字が番組のタイトルのように現れた。

 

「――それじゃあまだ見ぬ王子様、首を洗って待ってろよ」

 

「……あっ! しまった……」

 

 呼び止め損ねた。

 

 目の前で起こったインパクトの強い現象に唖然としてしまって何かを喋っていた天城の言葉が聞き取れず、気付けば天城が文字と一緒に消えて行く所だった。

 

 その場から姿を消したって事はやはり現実の天城とは何かが違う可能性があるな。

 

「……とりあえず追おう」

 

 なんとも釈然としない気持ちのままホール奥の扉を開けて更に階段を上る。

 それからヒノの誘導に従って無駄に部屋の探索をせずに通路や階段の部屋に居るシャドウだけをセイバーで倒して上り続け、五階に上がって通路を進み、もう少しで扉の前を通るという所で急に光に包まれて気付けば別の場所に飛ばされていた。

 

『え? な、何が起きたの!?』

 

「落ち着けヒノ……うん、たぶん転移の罠だな」

 

 慌てるヒノに声をかけながら落ち着いて周りを見渡し、先程自分が居た地点から扉を越えるように前方に数メートル程移動している事から生前のリターンクリスタルによる転移と同じ現象と判断する。

 

「ちょっとこのまま進もう」

 

 状況把握の為にそのまま進み、通路のシャドウを倒しながらフロアを一周する。

 

 ふむ、扉の近くに行くと転移されて部屋に入れなくされるのか、となると……。

 

 階段まで戻されそのまま進み、転移した後にそのまま進まずに後退する。すると今度は転移せずに扉の前に立つ事ができた。

 

「これがギミックの答えだな。確か強い気配を放つ部屋が一つあったからそこまで行こう」

 

 移動中にヒノが扉の奥から強い気配がすると言っていたのでその部屋まで向かう。

 転移を繰り返して目的の部屋の扉を開けると、そこに天城と馬に跨った騎士の様なシャドウが待ち構えていた。

 

「うふふふ。あなたが本当の王子様ならこの衛兵くらい簡単に倒せるわよね?」

 

 それだけ告げて天城はまた姿を消し、それと同時に傍に浮かんでいた騎士が叫び声を上げてランスを向けて突っ込んでくる。

 

「セイバー!」

 

 騎士のランスによる突撃を剣で受けながし、セイバーが身体をひねって大剣で切りかかるが、相手を切り裂く事は出来ずに軽く吹き飛ばす事しかできなかった。

 

 堅い、なら!

 

「セイバー炎を!」

 

 セイバーが炎の渦を発生させ、それに飲まれた騎士はその場で崩れ落ちて動きを止める。

 その隙をついてセイバーの攻撃力を強化、物理スキルで更に攻撃力を高めた一撃で切り裂く。

 切り裂かれた傷から黒い霧を放つも騎士は健在でもう一度宙に浮かんびランスを掲げる。

 騎士の全身を赤いオーラとオレンジのオーラが包み、更にはランスの矛の部分が毒々しい光を放つ。

 

「セイバーもう一度炎を!」

 

 あのランスは受けない方がいいと判断してセイバーに距離を取って貰い、相手の軌道を読んで、一度炎で攻撃して貰う。

 再度炎に包まれる騎士だったが、今度は倒れずにそのままランスを突き出して特攻してくる。

 

「セイバー! ぐあ!?」

 

『あぐ!?』

 

 大剣の剣脊でランスの先端を受け止めるも相手の攻撃の威力が先程以上の物だった為にそのままセイバーは壁まで吹き飛ばされて激突し、そのダメージが自身へとフィードバックされる。

 

 騎士の攻撃が終わるとランスの毒々しい色は消え、身体から発していたオレンジのオーラも消える。残っているのは赤いオーラだけだ。

 

 くっ。あのオレンジのオーラはセイバーの物理攻撃力上昇と似ている。攻撃と何か関係がありそうだな。赤い方はもしかして炎への耐性を上げる術か何かか?

 

 立ち上がりながら今の一連の攻防から相手の状態を推測し、セイバーにもう一度炎で攻撃して貰いながら相手のランスの突きをもう一度受けて貰う。今度は受けきり、そのまま大剣でランスを押し返して弾き、離脱ざまに物理スキルで相手の仮面を切り付ける。

 

 やはりさっきよりも威力が弱い。ならあのオレンジのオーラが出た時だけは回避に専念だな。それにあの赤い光もずっと効果を発揮し続けるとは限らない。そして遠距離らしい攻撃をしてこない時点で炎を操れるこちらが有利だ。

 

「距離を取りつつ、相手の赤い光が消えたら動きを止めている間に決める」

 

 騎士の突撃を回避しつつ観察し、赤い光が消えた瞬間にセイバーに炎で攻撃するように念じる。

 すぐさまセイバーが炎で攻撃し、最初と同じように騎士はその場に落下して動きを止めたのでこちらも明確にダメージを与えた時と同じ方法で騎士の傷付いた仮面の場所目掛けて大剣を突き立てる。

 黒い霧が勢い良く噴射すると、ついに騎士は黒い霧となり、その場にガラスで出来た鍵を残して消滅した。

 

「はあ、はあ……疲れた」

 

『大丈夫、お兄ちゃん?』

 

「正直、これ以上の探索は難しいな」

 

 ここまでのシャドウとの戦闘で軽い疲労感は感じていたが、今の騎士との戦いでそれが頂点に達した感じだ。

 軽い頭痛と気だるさを感じながら、落ちていた鍵を拾う。

 

「今日はこれで扉の鍵を開けて戻るしかないな……天城は大丈夫だろうか」

 

 なんとか身体を動かしここに来るまでにあった錠が掛かっている扉の前に立って鍵穴に鍵を差し込むと、鍵と錠が同時に消滅する。

 部屋の中を確認して階段があるの事を確認したあとにトラエストで城を脱出した。

 家に帰還すると更に疲労感が増し、なんとか身支度を整ええてそのままベッドに潜り込むと、すぐに眠気がやってきて意識を失うように眠りに付いた。

 




この作品の一番難しいところ→『二年生の攻略と被らないようにする』
いや、自分でやっといて意外と難しい。ダンジョンの攻略をゲームよりにしているのはそのため(日数調整)
特にこの雪子の城が千枝の覚醒があるせいで一番日程調整が面倒と言うね。



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【ペルソナとワイルド】

と言う訳で白野のワイルド能力についての回。
正直、白野のペルソナはメインの五人も含めてボス戦で徐々に増えて行く展開にするか、それともメイン所だけは最初から呼べる仕様にするかで現在も悩み中。そのせいで執筆が遅れてます。もし仕様変更する場合はこの回の内容も一部弄るので、その時は報告します。



 変な城を訪れた翌日、起きたらもう昼近くだった上に体調があまり良くない。今日は学校が休みで久しぶりに天気も晴れたので天城の事は気になるが探索は止めて代わりに向こうの探索用の靴と服を買いにジュネスに向かう。

 

 ジュネスは全国でも有名な大型デパートチェーン店だ。その影響で商店街は寂れて行く一方だがやっぱり一度に買い物が終わるのは助かるし便利だ。まぁ、豆腐は丸久さんの方が美味しいからあっちで買うけどね。

 

 一通りジュネスで買い物を終えて豆腐を買う為と情報を収集する為に商店街に行く。最近商店街では噂話をよくしている人が多いから、何かしら面白い話を聞けるかもしれない。

 

 商店街にたどり着くとそこにはいつもと違う光景が広がっていた。

 商店街の南側にある本屋『四目内党書店(よめないどうしょてん)』と『だいだら.(ぼっち)』と言う名の金属加工店の間に青白く光る扉が出現していた。しかし周りの人間はその扉の存在をまるで『見えていない』かのように素通りして行く。

 

 青色……まさか。

 

 気になって扉に近付きドアノブに触れる。

 ガチャリ、と言う鍵の外れる音が聞こえた。意を決して扉を開くと強い光が自分と辺りを包み、気付けばあの青い部屋に座っていた。

 

「ようこそベルベットルームへ。お待ちしておりました」

 

「やっぱりあの扉はここに繋がっていたのか」

 

 イゴールがいつもと同じ笑顔で迎え、傍に控えたマーガレットは軽く頭を下げた。

 

「なるほど、鍵はここを出入りするための物か」

 

「左様でございます。して今日の御用は?」

 

「自分のペルソナ能力について詳しく教えてくれ。何か気になる事を言っていただろ?」

 

「そうでございますね。ではまずペルソナ能力の基本から改めてご説明いたしましょう」

 

 イゴールのペルソナ能力の講座が始まり、疑問に思ったことを訊ねつつ色々と頭の中で纏める。

 

 自己の意識、所謂『もう一人の自分』を制御し顕現する能力をペルソナ能力と呼ぶ。

 もちろん普通に生活していればそんな力には目覚めないらしいが、特異な現象や存在に遭遇するのを切っ掛けに能力に目覚める事があるんだそうだ。ちょうど自分のように。

 

 次にペルソナは本来は一人につき一種類の意識までしか制御できないんだそうだ。

 しかし稀に『世界の補助』によって複数のペルソナを制御し、好きに交換できる者がいる。

 彼等はそういった存在を『愚者』のアルカナを持つ者と呼び、その能力を『ワイルド』と呼んでいる。

 

 なんでも人間にはそれぞれアルカナと言う物が定められており、愚者というアルカナは世界の命運を握るような大きな出来事に巻き込まれる運命にあるんだとか。生前の世界的に言えば抑止力のようなものだろう。

 そうした運命を乗り越えた愚者のアルカナを持つ者は『命の答え』というものを得て『奇跡』を成して別のアルカナとなり、世界からの補助も失ってワイルドの力を失うらしい。

 

 自分はその答えを得た結果が『愚者』らしく、かなり特異な存在なんだとか。そしてイゴール曰くそのアルカナの性質上、ほぼ確実に厄介事に巻き込まれる運命にあるらしい。泣けてくる。

 

 それとシャドウやペルソナにはどのアルカナに属しているのかを示す番号がシャドウは仮面に、ペルソナはカードにそれぞれ描かれている。セイバーは五番だから『皇帝』という訳だ。

 

「そしてお客様のペルソナ能力ですが、お客様も愚者を持つ為ワイルドの能力を行使する事が可能です。しかしお客様のワイルドは本来の物とは些か異なります。本来なら一つのアルカナでも複数のペルソナが存在し、それらを同時に持つ事もできるのでございますが、お客様の場合は一つのアルカナにつき持てるペルソナは一体のみ。そして我々はお客様の補佐としてペルソナ同士を合体させてより強力なペルソナを生み出すという事もしておりますが、お客様の場合それも不可能で御座います」

 

 いや、ペルソナを付け替えられる時点で十分なのにそこから更に好きなペルソナを生み出せたりできるって本来のワイルド能力者ってチートじゃない? 流石は世界の補正を受けただけはあるってことか。

 

「では次に今お客様が呼び出せるペルソナを調べると致しましょう。マーガレット」

 

「はい」

 

 彼女が手を宙に翳すと一冊の本が現れた。

 

「こちらに触れていただけますか」

 

 言われた通りに本に触れると本が勝手に捲れ、そこから光るカードが現れ宙に並べられる。

 光は徐々に薄れ、ペルソナを呼ぶ時に現れるカードが浮かび上がる。

 光るカードの数は二十一枚。

 中央に『愚者』のカードが配置され、その真上に『Ⅰ』のカードが配置され、それから時計回りに数字の順にカードが愚者を囲うように並んでいく。

 

 全ての配置が終わると一部のカードには絵柄が現れる。

 『Ⅳ』と書かれたカードにはセイバーの姿。

 『Ⅵ』と書かれたカードにはキャスターの姿。

 『Ⅷ』と書かれたカードにはアーチャーの姿。

 『ⅩⅤ』と書かれたカードにはエリザベートの姿。

 『ⅩⅩ』と書かれたカードにはギルガメッシュの姿。

 それ以外は絵柄の部分が光っている物と黒く塗りつぶされている物に分かれていた。

 

 ……まぁうん。セイバーが皇帝なのもアーチャーが正義のアルカナなのも分かる。エリザとギルガメッシュもそれぞれの在り方を思い出せば間違いない。

 だがキャスター、お前はなんで恋愛!? 存在的に太陽か魔術師じゃないの? いやでも人間に恋焦がれた所や恋人のアルカナは魅了や誘惑の暗示でもあるし、あながち間違ってもいない、のか?

 

 ギルガメッシュとはまた違った意味でこちらの想像をぶち抜いていくキャスターに対して懐かしさを覚えつつも盛大にツッコミを入れる。 

 

「……素晴らしい」

 

 そんなこちらの内心を気にした様子も無く、マーガレットがやはり恍惚とした表情でカードを眺める。イゴールが軽く咳払いして現実に戻ったのか、少し頬を赤くしながら説明を再開した。

 

「ごほん。申し訳ございません。これらがお客様が呼び出せるペルソナで御座います。光っている物は切っ掛けさえあればペルソナ化出来る物。黒い物はいまだ絆を育んでいないものでございます。それとこのギルガメッシュは存在そのものが御しがたい程の強力な力を持っています。使用は極力控えた方がよろしいでしょう」

 

 流石はギルガメッシュ、世界は違っても簡単には使われないとは何処までも自己主張の激しい王様だ。

 

「……えっと、つまり自分はギルガメッシュを除いた四枚のペルソナで戦いを切り抜けろ。という事ですか?」

 

 まあこの四枚でも状況に合わせて替える事が出来るのだから問題ない訳だが。

 

「『現状』ではそうでございます」

 

 なぜだろうマーガレットは今『現状』の部分だけ強調したような気がしたが、それっきり口を閉ざしてしまう。

 気にはなったが今は体調もあまり良くないし今度でいいかと話を切り上げて二人に別れを告げてベルベットルームから去る。

 

 扉を潜るとまた光が辺りを包み、気付けば商店街に戻って来た。ベルベットルームへの扉もそのままだ。

 

 どうもベルベットルームに関渉している間は時間は止まっているみたいだな。

 腕時計で時間を確認すると、けっこう話し合っていたのに時間が進んでいなかった。テレビの世界では時間は進んでいた事を考えるとやはりあのベルベットルームという空間は特別らしい。

 

 まぁ時間が進まないなら予定通りに行動できるからこちらとしてはありがたいな。

 

 当初の予定通り、商店街で噂話に聞き耳を立てながら豆腐を買って帰宅した。 

 

 

 

 

 帰宅した自分は遅めの昼食を摂ったあとに気休めだが薬を飲んでから横になり、眠りに付くまでの間に現状で分かっている事を頭の中で纏めてこの事件について推理する。

 

 今この町で起きている事件はただの事件じゃない。不可思議な世界と力が関わった異常な事件だ。

 犯人は現実の人間なのか、それとも向こうの世界の異形か、これは前者の可能性が高いと思う。向こうの異形がこちらに来て殺人を犯したならもっと派手な痕跡が残っていてもいいはずだ。

 

 ではその手口は?

 これは恐らく『テレビ』だと思う。

 犯人はなんらかの方法で被害者に近付き、テレビに放り込んだ可能性が高い。

 恐らくテレビに人を入れたら相手が死ぬと分かったのは山野アナを殺害した時だろう。

 自分にはナミ様のお陰で向こうに行っても戻って来る事ができる。だが犯人が都合良くそんな道具を持っているとは考え難い。もちろん出入りできる可能性もゼロではないが、可能性は低いだろう。

 

「問題はどうやってテレビに入れたかだな。人一人を入れるテレビなんて都合良く在るわけ無いから持ち運んでいるはず。となると、車を利用している可能性が高い。それに複数犯の可能性もあるか」

 

 手口についてはこんなものだろうと考えるのを止め、次はマヨナカテレビについて考える。

 

 少なくともマヨナカテレビの内容が向こうの世界と繋がっているのは間違いない。しかし映し出された映像が違うのは何故だ?

 

「少なくともあの逆ナンの番組が映る前は城なんて無かった筈だ。もしかし天城が向こうに行ったせいで生まれた?」

 

 町で情報収集と言う名の聞き耳を立てていた時に面白い話を耳にした。

 一つは死んだ山野アナが天城の実家の天城旅館に泊まっていたという情報。

 もう一つは天城が行方不明だということだ。しかし天城がマヨナカテレビに最初に映った時はまだこっちの世界に居たのを自分の前で千枝が確認している。

 つまり彼女が行方不明になったのは千枝の電話のその後からと言うことになる。そして行方不明と同時にあの不思議な番組が放送された。そこから推測するに何者かが彼女を向こうの世界に放り込んだって事だ。

 

 しかしなんのために? マヨナカテレビに映ったからか? でも映ったら殺すって、それじゃただの愉快犯だな。

 

「とりあえず纏める事は纏めたし、明日の夜にもう一度向こうに行こう」

 

 ゆっくりと目蓋を閉じ、天城の無事を祈りながらその日は眠りに付いた。

 




体調不良は御都合主義。でも実際あれだけボロボロになってたら翌日は痛みと疲れで満足に動けないよねってことでP3の体調不良設定を組み込んでみた。

わかり易くワイルド能力の違いを説明すると↓

原作のワイルドの仕様→同一ペルソナ以外のペルソナなら同じアルカナでも所持できる。更にペルソナ合体で別ペルソナを作り出す事も出来る。

白野のワイルドの仕様→1アルカナに付き一体のみ。ペルソナ同士の合体が不可能な上に呼び出せるペルソナも限定されている。

呼び出せるペルソナが限定されている説明も入れるはずだったけど、長くなるので別の回でマーガレットさんに説明させます。

違いとしてはこれくらいです。


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【矛盾の王戦】

という訳で原作のおまけボスシャドウ二体目です(一体目は商店街で既に倒してます)
基本『連中』が白野サイドのボスです。



 翌日、夕食の買出しを終えて向こうの探索の準備を終えた自分が城まで向かうとヒノが疑問の声を上げた。

 

『あれ、なんか気配が昨日と違う?』

 

「気配が? どういうことだ?」

 

 ヒノに昨日との違いを尋ねると、どうも曖昧だった自分に似た気配が強まったと説明する。

 

「……とりあえず進んでみるか」

 

 分からない事が多い現状では実際に進んで確かめるしかないと気を引き締め直し、昨日行けなかった階を目指して進む。

 

 

 

 

 ヒノの誘導に従って城を昇り続けて一時間程経ち、自分達は目の前の巨大な扉を見上げる。

 

『この部屋から強い気配を感じる……けどお兄ちゃん大丈夫? ここまで来るのに結構戦ったけど』

 

「まぁ少し疲れたけど、また最初から昇るんじゃ同じだろうし、そう変わらないさ」

 

 自分を心配してくれたヒノにそう答えてセイバーを出して部屋に入る。

 

 室内は今までの何も無い広場と違い赤い絨毯の先には大きな階段があり、その上にはまるで王様が座るかのように豪華な椅子が一脚置かれ、背後の垂れ幕には不死鳥が描かれた垂れ幕が下げられていた。

 天井には巨大なシャンデリアに蝋燭がいくつも挿されて全てに火が灯っている。正に『謁見の間』と言った感じの内装だ。

 

『っ! お兄ちゃん来るよ!』

 

 ヒノが逸早く気配に反応して警戒を呼び掛けてくれる。その声に従って身構えいつでも動けるようにする。ヒノの言葉から数秒後に目の前に黒い霧が集まり、霧は徐々に形を成す。

 

「……王様?」

 

 黒い顔に王冠の様な形の『Ⅴ』と書かれた紫仮面を頭に被り、ペリウィグの様な左右の髪を巻物のようにクルクルと巻いた白髪と白いカイゼル髭、胴体は鉄格子で作られているため空洞、それを赤いマントと青と水色の縦縞パンツと袖が覆い、右手には赤い宝石が嵌められた杖を持っている。

 外見的特長だけを挙げれば間違い無く王様だろう。体長が5、6メートルくらいはありそうだが。

 

「セイバー炎を!」

 

 先手必勝とセイバーに攻撃を行わせる。

 巨大な炎が王様を襲うが、王様は気にした様子も無く微動だにしない。

 

「効いてない!? 火属性か!」

 

 相手の様子からそう判断する。

 ここに来るまでの戦いでシャドウとペルソナには『属性』というものがあると判明した。弱点の属性は効果が大きく、逆に同属性だと効果が弱い。最悪まったく効かない場合もある。

 

 どう攻めればいい。

 

 こちらが攻め方について悩んでいると、相手も今の攻撃を合図としたのか、その場で屈んで勢い良くこちらに向かって跳んでくる。

 

 見た目以上に速い!?

 

 咄嗟にその場から飛び退きつつセイバーに退避するよう指示を送る。

 

 先程まで立っていた場所目掛けて王様が杖を持っていない方の掌を光らせながら叩きつける。爆音と爆風が響き、床には王様の手跡が残った。

 

 くっ。セイバーの攻撃スキルみたいなものか!

 

「くそ、接近して攻撃するしかない」

 

 セイバーに指示を送り空を飛んで突撃して行く王様の杖の振り下ろしを回避したセイバーが大剣を光らせながら王様の眉間目掛けて突き刺す。

 

 タイミング良し、あれは回避できない筈だ!

 

 が、そんなこちらの予測を上回り、王様はその場で軽く飛び上がることでその突きは空洞の胴体を通り背中のマントだけを貫く。

 

「なんとおぉ!?」

 

 以外な回避行動に思わず声が漏れる。ああ(りん)のサーヴァントのランサーが必中の槍を防がれた時の気持ちが今ようやく理解できた。つーかそんなの有り!?

 

「本当に頭部くらいしかダメージを与えられないじゃないか!」

 

 相手が振り回す杖の間合いからセイバーを逃がしながら打開策を考える。

 

 どうすればいい。遠距離、それも可能なら属性スキルがいい。あの胴体の鉄骨にはダメージが行くと思うが相手の動きが素早くて攻撃にまで余裕が持てない。

 

 ペルソナはサーヴァントと違って全て本体である『自身』の意識を読み取って行動する。

 

 例えば攻撃に対して瞬時に回避や防御行動を取ってくれるが、この行為は『攻撃を知覚』した自身が、その攻撃に対して回避や防御の意識を無意識の段階で確定し、その意識をペルソナが読み取っている為、彼らは瞬時に行動に起こせる。

 これは攻撃に関しても同じで、相手の隙を見つけてそこを攻撃しようと思うと、ペルソナは攻撃を瞬時に繰り出す。

 かなり危険だったが眼を瞑ってシャドウと戦った時にペルソナの動きがかなり悪くなった事から、これらの予測は間違っていないと思う。 

 

 だがそれだけでは勝てないのが戦いだ。ペルソナにスキルを使わせる為にはどのようなスキルを使うかこちらが明確に意識する必要がある。そして何かに意識を向ける以上、どうしても動きに僅かに遅れが出る。

 

 あの王様のシャドウは物理攻撃スキル主体だろう。つまり当たるとかなりのダメージが来る可能性がある。

 

 額から汗が溢れ、なんとかチャンスを見出そうと回避し続けるが、次第に王様の攻撃がなりふり構わない物になっていく。杖だけだった攻撃に手や頭が加わり、仕舞いにはまるで駄々っ子のように手足を振り回して転げ回る。

 

 こちらの存在お構い無しの暴れまわりに、流石にその場から慌てて対比するが、その際に一瞬視線を相手から切ってしまい、運悪く振り回された杖がセイバーの腹部に叩きつけられ吹き飛ばされる。

 

「ごふっ!?」

 

 腹部に激痛が走り腹部を押さえてその場に膝を付いて咳き込む。

 

『お、ごほ、お兄ちゃん、大丈夫?』

 

「あ、ああ。それよりヒノ、すまない」

 

 自分のダメージがヒノにも送られたのか、ヒノが少し苦しそうな声でこちらを心配する。そんなヒノに申し訳なさと自分の迂闊さに怒りを覚えながら、まるでテレビの砂嵐のようにモザイクが映ったり消えたりさせるセイバーに視線を送る。

 

 くっ。集中を切らしたからか。

 

 ダメージを受けないように気をつける理由の一つがこれだ。ペルソナの具現に本人の精神力を必要とするようにダメージを受けて精神が不安定になるとペルソナを呼べなくなるし動きが鈍くなる。

 

 進行優先でペルソナの変換を試さなかったのは失敗だったな。ぶっつけ本番だが……やるしかない!

 

 しかし自分には所謂『意識を付け替える』というイメージが出来ない。故に『意識を変える』のではなく『意識を呼び起こす』というやり方をする。

 

 左手を前に出して意識を集中する。

 呼び出したい『相手を意識』する。

 青い光が放たれ、左手の前にカードが現れる。

 

「来い! タマモ!!」

 

 現れたカードを握り潰すとセイバーの姿が消えてキャスターそっくりのペルソナが彼女が所持していた神鏡である玉藻鎮石と供に現れる。

 肌はセイバーと同じく灰色だが、生前共に過ごした時に着ていた紺色の着物に桃色の髪、そして金色に光る瞳には『また会えましたね』と言っているような懐かしさと嬉しさを宿していた。

 

「こっちもまた会えて嬉しいよ。行くぞキャスター、雷撃!」

 

 指示を送るとキャスターはその場で瞬時に行動を起こし、空から落雷を王様に落とす。

 王様は一瞬動きが止まり、その隙を突いてキャスターが鏡をぶつけて仰向けに倒す。

 

 雷撃は効くのか。

 

 こちらの意識を読み取ったキャスターが今度は力を溜めて先程よりも大き目の落雷を落として王様を追撃する。

 電撃を受けながら王様が立ち上がり大きく杖を振るって電撃を吹き飛ばす。が、それは同時に頭部と胴体を大きく曝け出すことにもなる。

 

「ネロ!」

 

 キャスターからセイバーへとペルソナを変える。

 

「切り裂けセイバー!」

 

 呼び掛けに答えるようにセイバーが宙を疾走し、がら空きだった王様の胴を発光させた大剣が横薙ぎに払う。

 王様の胴がまるで焼ききれたかのように切断される。

 王様はそのまま体を地面に叩きつけられると黒い煙が噴出して消滅し、ヒノの力の塊が現れる。

 

「勝ったのか?」

 

 その場に座り込み息を大きく吐く。力が抜けて集中が途切れたせいかペルソナは消えてしまう。

 

『お兄ちゃん大丈夫?』

 

「ああ……ヒノも痛い思いをさせてゴメンな。しかし流石に堪えた。今はとにかく、早く帰って寝たいな」

 

 頭痛は治まったが体が凄くだるくて喋るのも正直厳しい状態だった。

 

『待ってて、すぐに取り込んじゃうから』

 

 ヒノの言葉通り火の魂はすぐに自分の体に向かって飛んで来て吸収される。身体が熱くなるのを感じながら自室に戻り、着替えるのも忘れてベッドに身体を投げ出す。

 

 ああ、しんどい。もしかしてこれからずっとこんなのが続くのか?

 

 改めて早く犯人を捕まえ、ヒノの体を取り戻そうと心に誓いながら、すぐにやって来た睡魔に意識を委ねた。

 




実は後半をまるまる書き直した回。
本当はボスシャドウとの会話とかがあったんだけど……裏ボス全員分考える事が出来なかったので断念(なんか似たり寄ったりな会話にしかならないと判断した)
結果物凄くシンプルになった。
次回は二年生サイドの回になります。



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【特捜隊の四月】

と言う訳で二年組の話です。
四月に起きた出来事のダイジェスト回のような物となっております



 天城の事件から暫く経った。その間、自分は色々と噂に聞き耳を立てたり、クラスメイトとの会話から天城やマヨナカテレビについての情報を集めていた。

 

 なんでも天城は事件直後から一日、二日程度だが行方が解らなくなっていたらしい。

 女将さんであるお母さんが倒れて大変だった為に精神的に疲れていたのではないか、というのが近所のおばちゃん達の見解だ。

 

 それとマヨナカテレビだが、どうやら自分以外にもあのドレス姿の天城を見た人が多く、逆に『好きな人』が映ったという報告を耳にする事はなかった。

 そして天城が保護されてからも雨の日にテレビを確認してみたが、マヨナカテレビには誰も映らなかった。しかし天城が映らなくなってからはまた好きな人が映った等の噂は少しだが耳にした。

 

 これらの情報から間違いなくマヨナカテレビの内容の違いにはなんらかの法則が存在する。

 だがその法則を見つける為のピースが全然揃っていないというのが現状だ。

 可能性としては天城も他の人達同様に向こうの世界に行っていた可能性だ。

 だがそれでは何故彼女だけ無事にこちらに戻ってこれたのだろうか? そこも謎だ。

 

「あ、白野~!」

 

 考え事をしていると後ろから声を掛けられて振り返る。

 千枝が大きく手を振っていた。その隣には以前彼女と一緒に居た男子生徒の二人と天城も一緒だった。

 

「よう千枝、どうしたんだ?」

 

「ほら、前に転校生を紹介するって言ったでしょ。色々立て込んでたのが解決したから紹介しようと思ってね。こっちが今年転校してきた鳴上悠(なるかみ ゆう)君。で、こっちが一年の時に越して来た花村」

 

「おぉい里中さん! 鳴上に比べて俺の自己紹介がぞんざい過ぎませんかねぇ!?」

 

「ナイスツッコミ」

 

 花村と呼ばれた表情豊な男子生徒にサムズアップしてそう答える。

 

「お、おう。意外とノリがいい? というか感情があまり表情に出ない感じが鳴上に似てる奴だな。ま、いいか。俺は花村陽介(はなむら ようすけ)。よろしくな」

 

「鳴上悠、よろしく」

 

「自分は久須美白野、よろしく二人とも」

 

 二人に手を差し出してそれぞれと握手する。

 それから五人で登校しながらお互いの事を軽く紹介し合う。

 花村はなんとあのジュネスの店長の息子さんだった。もっとも、それを千枝が伝えると花村はなんとも複雑そうな表情をさせたのであまりその辺りの事は言わない方がいいだろう。千枝にもそれとなく注意しておいた。

 

 鳴上は家庭の事情で一年だけこっちで暮らす事になり今は刑事である叔父の家で一緒に暮らしているらしい。叔父さんの家には娘が居るらしく鳴上も一人っ子だからか年の離れた妹の様な存在が出来て嬉しいと語っていた。

 

「そう言えば天城は体調は大丈夫なのか? 一週間近く休んでたけど」

 

「うん、もう大丈夫。心配してくれてありがとう久須美君」

 

「なら良かったけど……なんか千枝と天城、雰囲気変わったか?」

 

 なんとなく二人の雰囲気が以前見かけた時と違うような気がして訊ねる。

 

「う~んまあね。なんというか、男子的表現をするなら川原で殴り合った、的な?」

 

「千枝、私達女の子だよ。せめて平手の応酬とかの方がいいんじゃない?」

 

「いや同じ意味だから」

 

 天城の天然なのかボケなのか分からない返答に千枝がツッコミを入れる。やっぱ雰囲気、特に天城の雰囲気が変わった気がする。良い意味で。

 

「つまりお互いになんか抱えてた物を吐き出したようなものか。いいんじゃないか? 親友なんだから喧嘩の一つもするだろ」

 

「おっ。さっすがの理解力だね委員長」

 

「委員長やめい」

 

 ははは、と皆で笑い合う。そんな感じで会話が弾んでいる内にクラスの前に来たので四人と別れて授業を受け、その日はそのまま帰宅した。

 

 四月ももう終わりだ。

 できればもう事件が起きない事を祈りつつ、就寝した。

 

 

 

 

「マヨナカテレビってなんなんだろうね」

 

 ジュネスの屋上のフードコート。

 そこにあるテーブルの一つにそれぞれ買ったメニューを並べて食べながら、天城雪子、里中千枝、花村陽介、鳴上悠の四人が話し合っていた。

 

「向こうの世界に送られたらテレビの内容が変わったけど、あんま参考にならないよねぇ」

 

 最初に疑問を口にした雪子の言葉に親友の千枝がストローを口に咥えながら答える。

 

「これまでの三件から、マヨナカテレビに映っている人がテレビに入れられるのは間違いない。そしてテレビの内容が変わった時にはもうテレビの中に入れられたと思っていいだろう」

 

 千枝の言葉に悠が改めて今分かっている情報を述べる。

 

「にしても犯人の野郎許せねえ。山野アナ、小西先輩に続いて天城と立て続けに三連続だぜ。絶対に調子に乗ってやがる」

 

「テレビに入れるだけで証拠が残らない完全犯罪だもんね。私達もクマ君っていう向こうの世界からこっちに戻してくれる存在と出会えなかったら今頃死んじゃってただろうし、性質悪いよね」

 

 陽介と千枝が忌々しげに眉を顰めながらポテトを口に放る。

 

 彼等が白野と同じテレビに入る能力に目覚めたのは悠が引っ越して来てすぐの事であった。

 マヨナカテレビを見ていた悠がテレビに触れた際に腕がテレビに入り込んだのだ。

 その翌日に彼が千枝と陽介にその事を話し、ジュネスの家電売り場の大型テレビで試した際に軽くパニックを起こして誤ってテレビの中に入ってしまった。

 白野が始めて降り立った場所と似たような場所に出た彼等はそこで自らをクマと名乗る『中身が無い』着ぐるみ

と遭遇し、クマによって現実世界に戻された。

 

 その後小西咲が殺害され、その特殊な殺され方からテレビの世界が関係していると判断した陽介と悠がもう一度テレビの向こうに赴く。

 クマを供とし、そこで悠は始めての戦闘を経験しペルソナ能力に目覚めた。

 陽介はテレビの世界の影響で現れた『抑圧されたもう一人自分』が現れ、彼から放たれる『本音』に苛まれ彼を拒絶してしまう。

 結果、もう一人の陽介は『自我』を得て化け物となって暴走し本体である陽介を殺そうとする。

 これを悠が退治し、陽介は悠の説得もあり改めてもう一人の自分を受け入れる事で彼もペルソナ能力とテレビの世界に入る能力を得た。

 

 千枝と雪子も陽介と同じで向こうの世界でもう一人の自分と向き合いペルソナ能力を得た。

 マヨナカテレビに映っていたドレス姿の雪子はもう一人の彼女であり、あの城は雪子の願望が形を成した場所であった。

 

「ねえ雪子、もう一回訊くけどテレビに入れられた時の事は覚えてないんだよね?」

 

「うん。気付いたら城のあの場所で、その前後の記憶がどうしても曖昧なの。でも家には居たと思う」

 

 向こうの世界に囚われていた結果か、雪子は事件当時の記憶の殆どを思い出せないでいた。

 しかし当時は宿泊していた山野アナの死についてマスコミが雪子の実家の天城旅館に取材やらなんやらで押し寄せていた為、彼女自身あまり外出はしていなかった。

 

「天城屋の従業員の犯行の可能性は?」

 

「どうだろう。私や山野アナなら兎も角、小西先輩が狙われる動機が想像できないかな」

 

「そもそも殺害現場すら存在しないから犯行の瞬間なんてそれこそテレビに入れる瞬間でもないと気付けないよな。くっそ三人供女性って事と事件当時にこの町に居たくらいしか接点が無いぞ」

 

 頭を掻きながら盛大に溜息を吐く陽介。

 他のみんなも似たような顔で軽く溜息を吐く。

 

「とりあえずマヨナカテレビのチェックだね。また誰か映ったらその人物を監視って事でOK?」

 

 千枝が最後に締める感じに告げると全員が神妙な顔で頷いた。

 特に悠は内心で彼女達に伝えていない情報について頭を悩ませていた。

 

(ベルベットルーム、そこの主であるイゴールが言っていた『もう一人の客』が気になる。誰なのか訊いても教えてくれなかった。ただ、今回の事件の犯人ではないとだけ言っていたな)

 

 悠もまた白野と同じベルベットルームを訪れた客であり『正規』のワイルド能力の保有者であった。

 

(いつか出会えるといいんだが)

 

 悠はそこで一旦考える事を止める。

 その後は学生らしい話題で彼等は談笑に花を咲かせてフードコートを後にした。

 

 彼等の話を『盗み聞いていた人物』に気付かないまま……。

 




ようやく四月が終わった。
さあ五月だ。ようやくあの子を出せる。



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【マーガレットの挑戦状】


お待たせして申し訳ない。
ぎっくり腰やったり(現在進行形でツライ)その後花粉症でやる気をなくしたり(マジでこの時期はツライ)で執筆が遅れています。
前回、完二回になると言ったけどその前にGWでマーガレットのイベントを発生させる事にしました。




 五月になったが自分の生活はあまり変わっていない。

 いつものように勉強やら運動、そして最近は暇を見つけてはヒノに合いに向こうの世界に行って話しをしている。

 他にもベルベットルームに行ってイゴールやマーガレットらとも話もしている。シャドウやペルソナについてや無意識集合体や彼らの様な存在について色々と知れるし、なによりせっかく知り合ったのだから仲を深めたいとも思ったのだ。

 

 そして五月の黄金週間と言う名の連休にベルベットルームに向かうと、珍しくイゴールが居らずマーガレットだけが座っていた。

 

「あれ? 今日はマーガレットだけなのか」

 

「あら……これはお客様、申し訳御座いません。現在主は出ておりまして急用でなければまた日を改めて……」

 

 マーガレットはそこで言葉を止めると何やら考えるように視線を下げる。

 

「いえ、違いますね。ここはお客様の定めと不可避の場所であり『全く無意味な事』は起こらない。となるとこの出会いもまた何か意味があるのでしょうね」

 

 そうだろうか? ぶっちゃけ自分はここにはお喋りしにしか来てない気がするが、それも無意味な事ではないのか?

 

「改めましてようこそベルベットルームへ。私の名はマーガレットと申します。前任が突然不在となったのを受けて招かれた『力を司る者』よ。ふふ、主以外がこうしてお客を出迎えたのなんて、初めての出来事じゃないかしら」

 

 マーガレットはそう言っておかしそうに小さく笑う。

 確かに自分が訪れると毎回イゴールが居て出迎えていたなと思い出す。

 

 まあ自分はイゴールに何か頼んだり出来ないから彼が居ても居なくても別に問題は無いんだけどね。

 

 本来ならペルソナ同士を合体させたりするのが客人を手助けするイゴールの仕事の一つらしいのだが自分のペルソナはそれが出来ない。

 正直に言えばここに来る理由向こうの世界やペルソナ、シャドウなどについての知識を得る事と折角出会えた二人と仲良くなろうと思っているだけだ。

 

「ふふ確かにその通りですね。お客様はいつもやって来ては我々と話すだけ……そう、今なら……」

 

 マーガレットは何かに納得したように一度頷くとこちらに振り返った。

 

「お客様、良ければこれから私にお付き合いくださいませんか?」

 

「別にいいけど、何所に?」

 

 今日は特にする事もないので了承すると彼女は嬉しそうに口元に笑みを浮かべながら立ち上がるとこちらに近付きなんて事無いようにこちらの胸に触れる。

 

 そして空いている手を上げると辺りを光が包み、気付けば自分は幾つもの扉が立つ海の上に立っていた。

 

「ここは?」

 

「ここは【ヴィジョンクエストの間】、私が用意した貴方の中の世界よ。そしてこの扉の中にはあなたの記憶を基に作られた敵が存在している」

 

「あっと、つまり?」

 

 いきなり新たな情報が増え過ぎて意味が分からず問いかける。

 

「戦いなさい」

 

 凄まじく簡潔な答えが返ってきた。要点だけを口にする時のラニだってもうちょっと文字数多いよ。そしていつの間にかマーガレットがいつもの丁寧な口調ではなく砕けた言葉になっている。もしかしてこっちが地か?

 

 唖然としていると彼女は少しだけ自分から離れ扉を背にしてから口を開く。

 

「絆とは出会いと言葉を重ね、相手への理解が深まる事で固まるもの。けれど時に心は千の言葉よりも一つの行動で大きく震えるわ。貴方に、分かるかしら?」

 

「……ああ良く分かるよ」

 

 何度も自分を護ってくれたその背中の頼もしさを、引っ張ってくれたその手の暖かさを、自分に向けてくれたその瞳の優しさを、自分は今も覚えている。

 言葉だけではなく行動で示してくれた彼等のその信頼が、何も知らず、何も持たない自分をどれだけ支えてくれたことか、どれだけ嬉しかった事か。

 

 今も忘れずこの胸に宿るその暖かさを改めて思い出しながら彼女の言葉に強く頷き返す。

 自分の返答にマーガレットは嬉しそうに微笑むと何かを決意したような瞳をこちらに向ける。

 

「愚問だったようね。そしてその目を見て『彼』か『貴方』か迷っていたのだけれど、貴方に決めたわ」

 

 マーガレットは普段は見せた事の無い愁いを帯びた表情で空を仰ぐ。

 

「私には知りたいことがあり、その答えを示してくれる者を探していたわ。貴方なら私が求めている答えを見せてくれるかもしれない。これはその為の一種の私からの挑戦状の様なものだと思ってちょうだい」

 

 ああなるほど合点がいった。

 先程の彼女の台詞と今の説明でマーガレットが何を求めているのかを理解する。

 

「つまり、その信頼に行動と結果で示して見せろと」

 

 自分の解答にマーガレットは合格だと言うように口元に笑みを浮かべてみせる。

 

「ふふ。さあ最初の相手はこの扉よ」

 

 そう言って彼女が扉を示した扉には『海賊船に乗った子供』の影絵が描かれていた。

 何となく、この先に居る者が誰なのかを理解しながら扉を潜る。

 

「………ああ、やっぱり」

 

 懐かしい戦場がそこにあった。

 初めて人を、『友人』を殺した廃船の甲板。

 そして正面には『見知った知人』に似た二つの人型の影。

 

 一体は海賊服の様な衣装に身を包み片手に銃、片手にカトラスを握る仮面を付けた女傑の影。

 その後ろに同じく仮面をつけた学生服のような衣装に海草の様な髪が特徴の青年の影。

 

「かつて貴方が一対一で戦ったように、この世界で呼び出せるペルソナは一体のみ」

 

 振り返るといつの間にかマーガレットが立っていた。

 

「よく選んでペルソナを召喚しなさい」

 

 自分は正面へを振り返り、目蓋を閉じて呼び出すペルソナを考え、目蓋を開くと同時に叫ぶ。

 

「こい、セイバー!」

 

 あの影が『ドレイク』と『慎二』なのだとしたら物理特化、魔術特化のアーチャーとキャスターは分が悪い。エリザと迷ったが、スキルとステータスの安定性を優先してセイバーを選択した。

 

 こちらのペルソナ召喚を合図とするように、仮名シャドウ慎二が手を掲げ、同じく仮名シャドウドレイクが動く。過去と同じようで、けれどまったく違う戦いが始った。

 




と言う訳でP3Pをやった人なら分かる【ヴィジョンクエスト】です。
P3Pでは現在の強さで過去のボスと戦えたり、マーガレットが出す条件で戦闘をクリアする詰め将棋バトル等の所謂『おまけクエスト』となっています。
マーガレットとのコミュ上げ(と言う名の好感度上げ)と白野のペルソナ獲得手段の一つとしてこれが一番かなと思ったのでこうなりました。
最初は化物形態のサーヴァントだけを出す予定だったけど……ちょっと全員分の化物形態を考えられそうにないと判断して原作同様に決闘方式という形にしました。



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【新たなペルソナ】


お待たせしました。
初めてのペルソナVSペルソナ戦。
楽しむ出来になっていればいいのですが。



 こちらに突撃してきたシャドウドレイクとセイバーが甲板中央で互いの剣をぶつけ合う。

 セイバーの一撃を受けたドレイクが後方に吹き飛び追撃を行おうとセイバーが駆け出そうとした瞬間に、彼女の背後から『四門の砲』が現れる。

 

「カルバリン砲!?」

 

 咄嗟にセイバーを射線から移し自分もその場から移動する。

 砲口から炎に包まれた鉄球が放たれる。

 地面に着弾すると同時にその場所が爆裂する。

 しかし地面は抉れていない。その辺りはテレビの世界と同じようだ。

 

 次にシャドウドレイクがカトラスをこちらに向ける。

 セイバーの足元が光ったのでその場から離脱させると竜巻が発生する。

 セイバーが炎のスキル扱うようにシャドウドレイクは風のスキルを扱うのかもしれない。

 

 ベルベットルームで話を聞く事である程度ペルソナの使う技や術についての知識も増えた。

 

 まずペルソナはそれぞれ【力・魔・耐・速・幸】のステータスと【物理・火炎・氷結・疾風・雷撃・光・闇】の属性が存在する。

 そしてペルソナの技は『スキル』と呼ばれていて、攻撃スキルは【万能属性】以外は全て七つのどれかの属性が割り当てられている。

 

 スキルには【単発】と【範囲】の二種類があり、ペルソナによっては片方しか使えなかったりする。

 因みにセイバーは物理スキル、強化スキルは単発だけだが火炎スキルは単発でも範囲でも発動が可能であり火炎と物理には強い耐性を持っている。

 

 シャドウドレイクはセイバーと同じオールラウンダーの可能性はあるが、攻めないと情報を得る事も出来ないか。

 

「セイバー!」

 

 セイバーが掌を向け、シャドウドレイクの足元から炎を放つが、それをシャドウドレイクは余裕の動きで避ける。

 シャドウ慎二が腕を動かすとシャドウドレイクはカトラスを消して新たに銃を握り、二丁拳銃をこちらに向けて白い光の弾丸を連続で発射する。

 

 そこまで弾速は早くない。先程の力比べを考えるとスピードとパワーはセイバーの方が上か、なら!

 

 セイバーに突撃を命じる。

 光る弾丸を時には回避し時には剣で弾きながら距離を詰め、彼女の大剣が届く間合いへと到る。

 

「そこだセイバー!」

 

 攻撃補助スキルで剣が光り、その刀身がドレイクの胴を水平に斬ろうとした瞬間、彼女は飛んだ。

 

「なっ!?」

 

 いや、確かに彼女の『生前のクラス』を考えれば『アレ』が有り、扱えるのは分かる。そして自分は現実ではそれを見ていないが、その『情報』は知っている。

 

「……作られた。そうだよなぁ再現じゃない。想定しておくべきだった」

 

 一度だけマーガレットの方へと視線を向けると、彼女は目を細めて笑ってみせる。

 

 目の前のシャドウドレイク、正確には空を滑る『ボート』へと視線を向ける。

 ドレイクはライダーだ。つまり彼女には最初から『乗り物』が存在する事になる。

 

黄金の鹿号(ゴールデンハインド)

 生前彼女が乗っていたガレオン船であり宝具。

 先程のカルバリン砲はこの船の物だ。

 つまり彼女は魔力さえあれば船その物を呼び出す事も可能だし、やろうと思えば『船の部品単体』での召喚も可能ということだ。

 

「だからってボートがあの速度っておかしいだろ!」

 

 空を滑るボートの速度はどう考えても人力では出せないレベルの速度が出ている。アレじゃまるでジェットスキーだ。

 

「そこは彼女の疾風属の力が有れば可能だと思って私がアレンジしたわ」

 

「くそ、その理由で納得してしまっている自分が悔しい」

 

 マーガレットの言うとおりペルソナの疾風スキルを応用すれば出来そうだし、そもそも生前からして魔力放出のスキルがあれば出来そうな気がしてしょうがない。

 

 こちらの気持ちなんて気にした様子も無く、ドレイクはそのまま空から拳銃を構えて連射してくる。セイバーに回避を命じているが距離があるせいでこちらが攻撃する暇が無い。

 

 視線を一度だけシャドウ慎二へと向ける。

 自分のように喋らない代わりに彼は手を動かしてシャドウドレイクに色々と命じている。

 そう、これはサーヴァント戦じゃない。ペルソナ同士の戦いだ。

 つまり今シャドウドレイクにこう動け、こう攻撃しろと命じているのは自分と同じくシャドウ慎二だ。

 

「そう考えると、慎二らしい戦い方とも言えるな」

 

 基本的に優位ポジションを取ったらそれを維持しようとする。

 無理や無茶はギリギリまでしない。というか殆どしない。

 最初の鍔迫り合いでセイバーに力負けしたから接近戦を避けた。

 スキルはアレ以降使わないところを見ると、あまり得意ではない可能性が有る。

 セイバーにあの速度に対しての遠距離武器が無いと悟られた。

 

 セイバーの動きに気を配りながらもシャドウ慎二の動きから彼の考えを読み解こうとする。

 あれだけの優位の場所でカルバリン砲を出さない。やはりあのボートの制御に力を持っていかれているか、呼び出せる部品は一つだけ、という設定だと考えるべきか。

 ならば自分が取るべき行動は……やれるか?

 

「このままではジリ貧ね。でも負けてもまた挑戦すればいいわ。今回駄目でも、また挑戦できるのだから」

 

「負ける……この二人に関してだけは、それは絶対にありえない。あってはならないんだよマーガレット」

 

 だってそうだろう。

 自分はこの二人の凄さを知っている。

 

「条件はどうあれ、互いに本気で、全力で戦った二回戦以降の相手なら、負けたっていい。だけど……」

 

 だが自分はそんな彼等の本気を知らない。全力を知らない。

 自分の記憶には、それがない。だから負ける訳にはいかない。

 

「実力を出し切れていなかった彼等から生まれた偽者なんかに負ける訳には行かない!」

 

 この戦いでの敗北は本来は強い筈のあの二人への冒涜に繋がる。それだけは自分自身が許さない!

 

 今までの情報から次の行動をセイバーへと伝達し、行動に移る。

 

「セイバー!」

 

 シャドウドレイク目掛けてセイバーが飛び出し、彼女が剣を横薙ぎに払った瞬間、シャドウドレイクの周囲に幾つ物の火柱が立ち上る。

 

 シャドウドレイクはそれを巧みにボートを操って回避するが、想定済みだ。

 セイバーは予め送っていたイメージ通りに『火柱』に突っ込み、突き抜けるとそこにはシャドウドレイクがいた。

 

 セイバーは火属性に強い耐性がある。炎を潜り抜けるくらいは対したダメージにはならない!

 

「――!?」

 

 シャドウ慎二が驚いたように動き、すぐにシャドウドレイクをその場から離脱させようとするが、こっちの方が早い。

 

 セイバーがそのままシャドウドレイクを蹴り飛ばしてボートから落とす。

 シャドウドレイクが落下中にカルバリン砲を出すが、それより先にセイバーの力が溜まる。

 

 今迄の倍近い火柱が、シャドウドレイクとカルバリン砲の背後の甲板から噴出して飲み込む。

 

「セイバー!」

 

 セイバーに攻撃力強化のスキルと物理攻撃スキルを発動させる。

 炎が止み、現れたシャドウドレイクは身体のあちこちをまるで映りの悪いテレビのように乱れさせていた。

 そんな彼女目掛けてセイバーは両断するように剣を振り降ろして切り裂く。

 

「――」

 

 シャドウドレイクがその身体と仮面を切り裂かれると同時にシャドウ慎二の仮面も砕ける。

 二人の身体が霧散するとその身体から光の玉が現れ、それが自分達の目の前で一つに合わさる。

 黒い霧が晴れ、現れたのはかつて戦ったフランシスドレイクと同じ衣装の二丁拳銃を持った海賊服の女性のペルソナ。

 

「これは……」

 

「それが貴方と『彼等』との絆の形」

 

 目の前のペルソナがその姿を『Ⅰ』の文字が書かれたカードへと変化させて自分の身体へと吸収される。

 目を閉じて胸に手を当てる。

 

 ……感じる。新しい力が自分の中で芽吹いているのを。

 

 新しい力の存在を感じていると、目の前に扉が現れる。

 

「とりあえず出ましょうか」

 

 マーガレットに促されて扉を潜って最初の場所に戻る。そして扉が閉まると扉はまるで役目を終えたように消えて無くなる。

 

「おめでとう。まさか初回でクリアするとは思わなかったわ」

 

「……なあマーガレット、もしかしてこの扉の向こうの敵、その源は」

 

「貴方が今想像した通り、貴方の『かつての絆』を基にしているわ。以前、貴方には既にペルソナへと到れる程の絆の力を幾つも有していると言ったのを覚えている?」

 

 マーガレットの言葉に頷くと彼女は次の問いを口にする。

 

「それでは以前『ペルソナ』がどうして英雄や神話生物として具現化するのかについて説明したのを覚えているかしら?」

 

 それならば覚えている。

 ペルソナは本来は『意識』という形を持たないものだ。その意識を『普遍的無意識』を介する事で具現している。そして具現化する際に『現実世界で一番形を成し易いモノ』で呼び出される。

 これは人間の世界の神々への信仰、物語への想像、偉人達への憧れ等が理由だとイゴールが言っていた。

 

 そのことをマーガレットに話すと彼女は満足気に頷く。

 

「それが本来のペルソナの在り方であり、ワイルドもまた例外ではないわ。けれど貴方は『個人的無意識』からペルソナに形を与えているのよ」

 

「個人的無意識……」

 

 自分は他人のペルソナを知らない。だが確かに呼び出したネロもタマモも『自分が知っている姿』をしていた。

 そして今回手に入れたフランシス・ドレイクも『男性』ではなく『女性』だった。

 

「貴方の絆の力は過去の物、故に貴方は今一度過去の相手を強く意識することでペルソナに形を与える必要があるのよ。このヴィジョンクエストは私の我侭でもあり、同時に貴方の為でもあるの」

 

「そうだったのか……ありがとうマーガレット」

 

 感謝の言葉を伝えると彼女は気にしないでと言って首を横に振る。

 

「ベルベットルームの住人はお客様をサポートするのが当然の務めですから」

 

 急に営業口調でそう言われて苦笑する。

 

「それじゃあ次は――あ?」

 

 不意に力が抜ける。

 これはテレビで感じた疲労感と同じものだ。

 

「アレだけの戦いをしたのだから当然よ。今回はゆっくり休みなさい。それとこの世界にこれるのは『主が居ない日』限定なの。だからこの世界に招ける時は、この『白蝶貝のブローチ』で知らせるわ」

 

 そう言って彼女は白蝶貝のブローチを自分の手渡すとここに来た時の扉を開ける。

 いつもベルベットルームから外に出る時の同じように意識が引っ張られる。

 

「それじゃあまたここで会える日を楽しみにしているわ」

 

 マーガレットのその言葉を聞き届けると同時に自分はいつもの商店街に立っていた。

 身体の疲労感はそのままだったので、その日は結局マーガレットの言葉通りにそのまま帰宅してすぐにベッドで横になった。

 




基本的にこの作品のペルソナはアニメ同様に明確にスキル名を言わない様にしています。
大まかにこういったステと属性で、こういったスキルが使えるよって感じです。
それとペルソナのアルカナはマスター基準ですのでそこはご理解下さい。
基本的にアルカナは本人の本編での性格や行動をメインに考えています。
慎二が魔術師なのはたぶん納得してくれる人も多いと思う。



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【探偵との再会】


ようやく彼女が登場です!



 最初の事件から一ヶ月が経ち、五月の中程になった。

 

 ゴールデンウィークはマーガレットのヴィジョンクエストを始め、完二や学校の友達と遊んだり、町で困っている人を助けたり、中間テストの勉強したり、テレビの世界を散策しながらヒノと話したりして過ごしたらあっという間に過ぎてしまった。

 

 そしてテストが終わった翌日の夜、いつものようリビングで地元のニュースを見ていると顔にモザイクがされている『知り合い』が映った。

 

『ああっ? 何撮ってんだコラ!』

 

 ……これ、完二だよな。

 

 映し出されているのは巽屋とその前を歩いていた完二だった。

 たぶん帰宅する直前だった完二にテレビクルーがコメントでも得ようとしたのだろう。無遠慮な感じで完二に話し掛けて彼を怒らせていた。

 

 やれやれ完二は見た目派手なだけでイイ奴なんだが。まぁアイツもちょっと人見知りだしな。

 

 テレビを見ながらまたお袋さんに怒られていないかと心配しつつ夕食を済ませ雨も降っていた為そのままマヨナカテレビの時間まで暇を潰す。

 そして零時になってマヨナカテレビ視聴すると、思いがけない人物が映っていた。

 

「……これ、完二だよな」

 

 見慣れた視界の悪い映像、そこに見知った大柄の少年のシルエットが虚空で暴れていた。

 これは間違いなく完二だ。数年来の付き合いの後輩を見間違うはずも無い。

 そしてマヨナカテレビに映った以上、次に狙われるのは完二という事になる。

 

「……なんとかマヨナカテレビに映る法則を見つけられないかな」

 

 そう一人で呟きながら明日からできるだけ完二の傍に居ようと決めて就寝した。

 

 

 

 

 翌日、愚痴を聞くと言う建前を用意して昼メシでも奢るべく巽屋に赴く。

 おばさんがいつも通りの対応をし、完二がちょっと不貞腐れた顔で出て来てそのまま一緒に商店街の中華料理屋の『愛家』に二人で入る。

 

「イラッシャイアル!」

 

 ふむ。今日は雨だからアレが注文できるな。

 

「おじさんいつものスペシャル丼」

 

「先輩、またアレっすか。あ、俺は肉丼大盛りで」

 

 席に着いて注文すると完二が自分の注文を聞いて呆れた顔をする。

 そんな彼に自分は不敵な笑みを浮かべつつ答える。

 

「一人暮らしの男の節約術として、他のメニューと同じ値段で食えるのはありがたい」

 

「ハクノクンハ、モウデンドーイリ、デスカラネー」

 

 自分が頼んだスペシャル肉丼は雨の日だけのメニューで、愛家で行われている所謂『時間内に食べ切れたらタダ』というチャレンジメニューだ。因みに駄目なら三千円払う事になっている。 

 自分はそれに何度も挑戦し、いつしか普通に食い切れるようになってしまってからは店長がチャレンジお断りの変わりにノーマルの肉丼の八百円で注文可能という事になった。今も雨の日なんかはよく来て注文している。

 

「そう言えば昨日テレビに出てたけど、大丈夫だったか?」

 

「あ~やっぱ先輩も観たんすね。アレのせいでお袋にすっげー怒られたんすよ。こっちは急にカメラ向けられた上に訳分かんない質問されたから怒っただけだってーのに」

 

「そんな感じだったな。山野アナ以降、テレビやら雑誌やらがこの町で色々特集したりしているらしい」

 

「たく。俺は族じゃねぇつってんのに。族を潰した方だっつの」

 

「ソレハソレデ、ドウカトオモウヨー」

 

 中学のときに完二のお袋さんが夜眠れず体調を崩したことがあった。

 その原因はこの辺を縄張りにしている暴走族が夜中に爆音で走り回っているせいだったらしい。

 完二はお袋さんが眠れるようにするため、その暴走族に単身で挑み、壊滅させた。その時完二も警察に連れて行かれ、今ではすっかり警察からも危険人物という扱いで警戒されてしまっている。

 

 ……完二も昔はこんな荒っぽい性格じゃなかったが、本人の身体的な理由や親父さんが死んだことなど、色々な要因が重なって段々今みたいになってしまった。

 それでも完二は相手を威かす事はあっても無闇に暴力を振るわない優しい奴だってことを知っている。

 

「もしまたああ言う手合いの連中が来るなら家に泊まりに来るといい。今は一人暮らしで気楽なもんだしな」

 

「うっす。いつもスンマセン!」

 

 完二はどこかバツが悪そうにそう言い、けれど何所か安心したような顔で軽く頭を下げる。

 そんな感じで今日は完二と遊んで過ごし、夕方になって別れ、夜中にマヨナカテレビを見るも昨日と同じだった事に安堵しならが就寝した。

 

 

 

 

 日曜日、完二の様子を見に行こうと向かったその時、目の前から青い鹿撃ち帽子を被った小柄な少女とも少年とも取れる中性的な子が向こうからやって来た。

 

 ……どこかで会った気がする。

 

 ただ思い出の中の該当する人物とだいぶ印象が違う。

 思い出の中の『少女』は自分の頭よりも大きな茶色い鹿撃ち帽子のつばを上げて得意気に『簡単な推理だよ』と笑っていた。

 

 雰囲気は、似ている。

 格好も、なんとなく探偵を意識した感じで纏められている……まあ訊ねるだけはタダだよな。

 

「失礼。もしかしてあなたは『白鐘直斗(しろがね なおと)』さんでは?」

 

「……そうですが、何か?」

 

 相手は一瞬の驚きの後、露骨に煩わしそうな表情でこちらを見上げる。

 

「酷いな先生、かつての助手をお忘れですか?」

 

 そう言って笑顔で胸を張って当時一緒に遊んだ時にやったとある探偵漫画に出てくる少年探偵団のポーズをしてみせる。

 しばらくこちらを怪訝な表情で見詰めていた直斗は、何かを思い出そうと考える素振りを見せ、それからしばらくして驚いた表情でもう一度こちらを見上げた。

 

「もしかして……白野、ですか?」

 

「流石は先生、記憶力に衰えは無いようで。そう、先生の助手の久須美白野ですよ。お久しぶりです」

 

 そう言ってポーズを取るのを止めると、直斗は少しだけ嬉しそうに、しかし何かに気付いたのか慌てて帽子のつばを掴んで表情を隠す。

 

「お、お久しぶりです。元気そうで何よりです。ですが、と、とりあえずその先生と呼ぶのは止めて下さい。あと口調も」

 

「よろしいのですか? 子供の頃は助手ならこう話せと力説されていましたが?」

 

「あ、あれはごっこ遊びです! とにかく恥ずかしいから止めて下さい」

 

 恥ずかしそうに頼む彼女に笑いながら頷き、それを見た彼女は大きく溜息を吐き、仕切り直しと言った感じに帽子を戻して口を開いた。

 

「それにしても本当にお久しぶりですね白野さん」

 

「いや、昔みたいに白野でいいぞ?」

 

「いえ、流石に年上の方に失礼ですよ。僕も、もう子供ではないのですから」

 

 どこか寂しそうな、達観したような感じに告げる直斗。何かあったのだろうか?

 

「それにしてもよく僕だと気付きましたね。僕がこっちで過ごしたのなんて小学生の頃、夏休みにおじいさまの付き添いで来たほんの一ヶ月程度でしたのに」

 

「当時あんな頭の良い子なんてそう居なかったからな。直斗のお爺さんが用意した謎解きを手伝ったのは楽しい思い出だよ」

 

 小学校の頃の夏休み。

 河川敷の公園で謎々の本に載っていた謎が解けずにいた直斗の代わりに謎を解いたのを切っ掛けに、その夏の間ずっと一緒に探偵ごっこ等で遊んだというだけの関係。

 けれど自分にとってはこの街の住人ではない子供と遊んだという変化の少ないこの街で起きた数少ない大切な思い出だ。

 昔を懐かしんでいると直斗も当時の事を思い出しのか『そうですね。懐かしいです』と言って少しだけ口元に笑みを浮かべてくれた。

 

「それで直斗はどうしてこの街に? またお爺さんの付き添いか?」

 

「いえ。詳細は教えられませんが、この街には仕事で訪れました」

 

「仕事、え? もしかして直斗、もう探偵として仕事をしているの?」

 

「ええ。お爺様のお手伝い、という名目で仕事を頂いています」

 

「そっか。子供の頃の夢を叶えた訳だ。さっすが先生!」

 

 子供の頃から直斗は将来はカッコイイ探偵になると言っていた。

 夢を叶えた彼女の姿が純粋に嬉しくなり笑顔でそう祝福する。

 しかし、当の本人はあまり嬉しそうではなかった。

 

「そうですね。ありがとうございます」

 

 それどころか何か思いつめたような、張り詰めた表情でまた帽子で表情を隠してしまう。

 

「……えっと、そうだ。時間があるならジュネスでケーキの一つでも奢ろうか?」

 

「いえ結構。今日はこのあと用事がありますから」

 

「そっか。あ、一応連絡先渡しておくよ。なんかこの街で聞きたい事があったら連絡してくれ」

 

 微妙な空気になってしまって引き止めるのも難しいと判断し、事件についての情報をいつでもメモれるようにと内ポケットに入れておいたメモ用紙とペンを取り出して急いで電話番号だけ書いて手渡す。

 

「……そうですね。一応頂いておきます。それでは白野さん、また」

 

 直斗はそう言ってメモを受け取り無造作にポケットに仕舞うと足早に去ってしまった。

 

 ……やっぱ探偵の仕事って大変なのかなぁ。

 

 直斗の態度にそう結論を出し、事件については改めて会った時にでも訊ねようと考え直してある事に気付く。

 

 もしかして直斗の仕事って、今街で起きている事件の事じゃないのか?

 

 もしそうなら自分が持っている情報は直斗に絶対に伝えないとまずい。何故なら犯人はテレビの中に人を入れて殺しているのだ。

 事件を追っている直斗の存在に気付けば間違いなく犯人は直斗を殺す為に彼女をテレビに入れるに違いない。

 凶器を持って殺しにくると言うのならまだ現実的で想定もできるだろうが『テレビに入れられる』なんていうのは事情を知っていなければ対処のしようがない。

 

 問題はどうやって信じてもらうかだな。口頭での説明じゃ間違いなく信じてくれない。というかヤバイ奴だと思われかねない。

 なんとかテレビに入れると言う事を教えられればいいんだけど、ジュネスの家電売り場で試すか……。

 

 新たに浮上した問題に頭を悩ませつつ、巽屋に寄って完二が無事な事を確認してから帰宅した。

 




原作やる限り、直斗は実家か別荘かは知らないけど町の近くに住む場所があるのは確定っぽいので子供の頃に一度くらいは町に来たことがあるだろうと思ってこういう展開になりました。
この辺りからちょっとずつオリジナルな展開が増えていきます。
そして番長のコミュがどんどん奪われていく。



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【熱気立つ大浴場】

ようやくダンジョンです!



『それでは怪しい熱帯天国に、あっ突・入!』

 

「…………」

 

 おっと、あまりにも凄い映像だったせいで言葉が出なかった。

 

 放課後に完二の様子を見に行こうと思ったらモロキンに捕まって色々と手伝わされ、雨も降ってきた為そのまま帰宅。

 そして深夜にマヨナカテレビの確認をし、そこに映っていたのは――褌姿でなんか銭湯みたいな場所に突入するちょっとおかしい完二の姿だった。

 

「くそ、よりによって忙しくて見に行けなかった日かよ」

 

 慌てていつものテレビに入る時の衣装に着替え、金剛錫杖を持ってテレビ内へと突入する。いつもの落下の後、地面に着地してすぐにヒノに声を掛ける。

 

「ヒノ、完二の場所は解るか?」

 

『……うん。辛うじてだけど。案内するね』

 

 ヒノの言葉に頷き走り出す。

 そしてしばらくして霧が晴れ、現れたのはテレビで見た銭湯。

 

「なんか、暑苦しい場所だなぁ」

 

 開いた扉から中に入るとまるでサウナの様に蒸していた。いや、風呂だと言うのならサウナがあっても間違いではないが……それより、なんか妙に艶っぽい男の声が建物中に響いていてそっちの方が精神衛生的によろしくない。

 

「にしても以前の天城の城もそうだが、いったいこの場所はどういう原理で出来ているんだ?」

 

『僕にも分からないけど、なんか新しい場所が出来る度に力を感じるのが難しくなってきているのは確かだよ。今回場所がすぐに特定できたのはあの完二お兄ちゃんとお兄ちゃんが親しい関係だったからだと思う』

 

「そうか。となると今後は最悪何回も探索しないといけなくなるかもしれないのか」

 

 ヒノと会話しながら霧と湯気の中を進んでいると妙な場所に出た。

 他の場所とは違うとても広い空間でその中央に探していた人物が立っていた。

 

「完二!」

 

「っ!? ああ先輩! まさかまさか最初に出会ったのが貴方だなんて。僕、嬉し過ぎて胸が張り裂けそうだよ」

 

 声をかけると以前のドレス姿の天城同様に完二にスポットライトが当てられ、完二はその場で頬を赤く染めて身体をくねらせながらこちらに全力で敬愛の視線を向ける。

 

 ……なんだろう。こう、仕草は確かに気持ちが悪い。そりゃ大柄な男があんな仕草をすれば多少そう思うものは仕方ないと思う。しかし口調そのものは、なんというか『昔の完二』に戻っただけの様な気もする。

 天城と同じ気配を感じるし、やはり完二もこの世界のなんらかの影響を受けているのかもしれない。

 

「……完二、ここで何があったのかは今は聞かない。ここはあまり良い場所じゃないんだ。一緒に元の世界に帰ろう」

 

 自分がそう言って完二に手を差し伸べると、目の前の完二は驚いたような表情をする。

 

「先輩は、僕を完二だと思ってくれるの?」

 

「ん? そりゃまぁちょっと変な感じはするがお前は完二だろう? 自分の事を僕だなんて昔のお前みたいで懐かしいけど」

 

 自分の答えを聞いた完二はどこか寂しそうに自虐的な笑みを浮かべた。

 

「やっぱすげーよ先輩は、そんな先輩と一緒にいながら、僕と来たら……」

 

「完二?」

 

「ん~先輩の折角のお誘いだけど僕はまだ帰りたくないんだ。だからもし先輩が『僕達』に帰ってきて欲しかったらこの場所の一番奥までズンズン、ガンガンあ、突入! しちゃってください」

 

 完二がそこまで喋るとまた派手な効果音と共に空中に【女人禁制! 突☆入!? 愛の汗だく熱帯天国】というテロップが現れる。

 

「―――お、おぉう?」

 

 え? まさか完二、そっち系? そっち系なの!? でもアイツ普通に……。

 

「そんじゃはりきって、行くぜコラアァァ!」

 

「っ!? また呼び止め損ねた!」

 

 またもあの強烈なテロップのせいで目の前の完二を呼び止める機会を失い自分を叱責しつつ、完二が言った言葉を口にする。

 

「完二は……僕達って言ってたな」

 

 完二の言葉に引っ掛かる物を覚えながら、それでも後を追う以外の選択肢も無いため気合を入れ直して完二の後を追いかけた。

 

 

 

 

「はあ、はあ」

 

「アアア……」

 

 目の前で『ⅩⅠ』の番号が書かれた青い仮面を付けたレスラーみたいな屈強な身体のシャドウが消滅し、その場に鍵を落とす。

 床に落ちた鍵を拾おうとして膝が崩れる。

 

『お兄ちゃん、もう今日は無理だよ。そんな状態じゃ……』

 

「……くそ」

 

 ヒノの言葉に己の無力さを悔やむ。

 ここまでの道中と先程の強力なシャドウとの戦いで体力が底をついてしまった。もはやペルソナの召喚もできない。

 

 こっちの世界に何度も来ている自分と違って完二は初めてだろうしあの豹変だ。早くここから助け出さないといけないのに。

 

「……一旦撤退しよう」

 

『うん。それがいいと思う。大丈夫だよお兄ちゃん。きっと完二お兄ちゃんを助けられるよ!』

 

「そうだな。ありがとう、ヒノ」

 

 ヒノの励ましに感謝し気落ちしている暇は無いと身体を起こしてトラエストで帰還する。

 帰還後、そのままベッドへと倒れこむとすぐに意識が薄れて行った。

 

 

 

 

 翌日。

 学校を休もうかとも思ったが完二が本当に向こうに行っているのか確認の為にいつものように登校の時間に迎えに行く。携帯にも一応連絡したが圏外だった。

 

 いつものようにチャイムを鳴らすとおばさんが出迎えてくれた。

 

「おはよう白野君。ごめんなさいねあの子ったら昨日帰って来なくて」

 

「……そうですか。ウチには泊まりに来てないので心配ですね」

 

「……そうね。いつもなら一日くらいってなるけれど、今は町も物騒だし、訊いた話だと天城旅館の雪子ちゃんも数日だけど行方不明になったらしいし」

 

「警察に連絡は?」

 

「一応入れたわ。でもほら、あの子普段から格好付けてるから警察の方の対応もあれでねぇ」

 

 まあ普段から不良扱いの完二では警察もたんなる家出や夜遊び程度と考えるかもな。

 

 やはり警察は当てにならない。今日、決着をつける。

 おばさんいつもと殆ど同じ口調と笑顔で話しているつもりかもしれないが、言葉の端々やふとした表情に心配の色が浮かんでいた。

 

「……大丈夫ですよ。自分も学校が終わったら散歩がてらに探してみます」

 

「そう。ありがとうね白野君」

 

 おばさんにお礼を言われ、笑顔でもう一度『大丈夫ですよ』と応えて巽屋から商店街に戻る。

 

 やはり今日は学校を休もう。病欠の連絡を入れてそれから――。

 

「おや? 白野さん?」

 

「え? 直斗?」

 

 来た道を戻っていると昨日と同じ服装の直斗が前からやって来る。

 

「こんな所でどうしたんだ直斗?」

 

「ええ……少し巽屋でお話を窺おうと思いまして」

 

 直斗は少し迷った後にそう答える。

 

「……もしかしてマヨナカテレビか?」

 

 直斗の先程の言葉からやはり彼女は連続殺人犯を追っていると可能性が高まり、確認の為に唯一の手掛かりであるマヨナカテレビという単語を口にする。

 

「マヨナカテレビ?」

 

 何? 直斗もマヨナカテレビを見たから、次に完二が狙われると判断したんじゃないのか!?

 

 直斗の反応から彼女がマヨナカテレビの存在自体まだ知らないと知り驚くと同時に何故彼女が完二が狙われている可能性に気付いたのかが気になった。

 

 ………よし。

 

 覚悟を決めた自分は顔を引き締め直し、彼女の目を真正面から見据えてから、助力を願った。

 

「直斗、力を貸してくれ。俺の後輩、巽完二を助ける為に」

 

「――詳しく訊きましょう」

 

 驚きの表情は一瞬、こちらの気迫に何かを感じてくれたのか、直斗は真剣な表情で頷き返してくれた。

 




原作だと完二のダンジョンに行くには情報集めで二日必要ですが白野は完二と仲が良かったので初日に行けました。
更にこの時点で白野は原作ゲームで言えば八階の中ボスまで最短ルートで走った感じです。
そして上に行く階段のある扉の鍵をゲットして外に出たので例え二年組が今ダンジョンに入ってもラスボスまで行けません。
次回は直斗に白野の状況説明の回。ダンジョンまでいけるかなぁ。


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【二人で】


遅くなりました。
ちょっと色々リアルが忙しかった。
ようやく彼女をテレビの中に連れて行けます。



「無理を行って悪いな直斗。流石に制服でどこかに寄る訳にはいかないし」

 

「いえ。それよりよかったのですか学校を休んで?」

 

「ああ。学校よりも友人の救出が最優先だ」

 

 直斗と協力する事になり、流石に制服のままうろつくのは目立つからと直斗を自宅に招く事に成功する。まあ家に招くと言った瞬間、露骨に警戒されて距離を取られたが仕方ないだろう。

 

 部屋でいつもの探索用の服に着替え金剛錫杖と二階の物置から鉄バットを持って一階に降りる。

 ぎょっとした表情で立ち上がった直斗に苦笑しつつ錫杖をソファーの脇に立て掛けてバットの方を手渡す。

 

「一応護身用として持っていてくれ」

 

「え、ええ」

 

 直斗はバットの柄を掴みしかしそれを脇におかずにそのまま手に持ったまま席に座り直し一度咳払いする。

 

「では、まずは情報交換しましょう。白野さんの口振りからもう気付いているようですが、僕は今この町で起きている連続殺人事件の捜査に協力しています」

 

「ああ。だから力を貸して欲しいし、力を貸したいと思ったんだ。正直言って警察では手に負えないし、何より今のままだと直斗が危ない」

 

「白野さんは犯人、または犯行の手口について何か知っているようですね」

 

 直斗の探るような視線を正面から受け止めて頷く。

 

「ああ。犯人は分からない。だが犯行の手口と次に誰が狙われるのかを判断する事はできる。それが」

 

「マヨナカテレビ、ですか?」

 

 直斗の答えに頷きつつマヨナカテレビについての説明を行う。

 

「雨の日の午前零時に電源の入っていないテレビを観ると運命の相手が映る。というのが自分が聞いた噂だった。俺が実際にその噂を試したのは四月だったが、何故か複数の人間が同じ人間が映ったと言っていたんだ。最初は山野真由美、次は小西早紀、次は天城雪子、そして今回が巽完二だ」

 

「僕自身はそのマヨナカテレビを観た訳ではないのでその言葉を完全には信じられませんが、ふむ……」

 

「なあ、直斗はどうして巽屋に? 自分はてっきり直斗もマヨナカテレビを観たから完二の様子を見に来たと思ったんだが」

 

「……これは僕がこれまで得た被害者達の情報から導き出した推理ですが、今回の事件の犯行にはある法則が存在します」

 

 直斗の言葉に驚きの表情を浮かべる。

 

「まず一つ、被害者となる人物がこの町にいるということ。そしてもう一つは被害者は殺害される前にテレビ報道されていたという事です」

 

 直斗の言葉に今日までの記憶を探る。

 

「……確かに全員テレビに映っていたな」

 

「ええ。三件目の天城雪子だけ突然行方不明になった所は前二件と一緒ですが、彼女は無事でした。ですのでこの法則も絶対とは言えなかった。そのため巽完二に接触し様子を窺っていたところで……」

 

「完二は行方不明となり、そこに自分が声をかけたと。でもそうか、普通に考えれば犯人が天城をもう一度襲う可能性もあったんだよな。マヨナカテレビに映っていなかったから狙われないと思い込んでいた」

 

 思い込みは真実を見つける上で一番の敵だ。特に今回は人の生き死にが掛かっているのだからもっと色々と考えるべきだった。

 

「本当に直斗と話せて良かった。こうして話せなかったらマヨナカテレビにだけ注目する所だった」

 

「いえ。僕もマヨナカテレビの情報を聞けて推理の幅が広がりました。それで白野さん、犯行の手口については?」

 

「ああ、それは直接見せたほうが早いこっちに来てくれ」

 

 そう言って立ち上がってテレビの前に立って直斗を呼ぶ。彼女は訝しみながらもテレビの前に立つ。

 

「このテレビが何か?」

 

「ちょっと画面に触ってくれるか」

 

 直斗は表情を変えずにテレビの画面に触れる。それを見届けて自分もテレビに触れた瞬間テレビが波紋の様に歪んで自分と直斗の手がテレビに入り込む。

 

「――!?」

 

 慌てて直斗は手を引き抜き自分の手に異常が無いか確認する。

 こちらも手を抜くと波紋は消えて元の液晶画面に戻る。

 

 直斗が恐る恐るもう一度触れるが画面に手は突き抜けず、こちらに視線を向けたので先程と同じように画面に触れると直斗の手も画面を突き抜ける。

 

「これは、手品? いやでも、こんなのどうやって……」

 

「手品じゃないよ。自分もまだ良く分かってないけど、ただ一つ言えるのはこの『テレビに入れる力』が現実に存在するという事、そしてこの力こそが犯人の犯行の手口だ」

 

 自分はそれだけ伝え、一度ソファーに戻ってからシャドウやペルソナ、テレビの中の説明をする。

 説明を聞いている間、直斗はこちらの話を信じていいのか迷うような表情で気になった部分を訪ね返し、自分も答えられるものには答え分からない事にははっきりと分からないと答える。

 

「……正直、先程のテレビの件が無ければただの創作話と笑い飛ばすところですね」

 

「まあ、直斗からしたらサスペンスにいきなりファンタジー要素が加わったようなものだからな。で、ここからが本題だ。自分には向こうに行っても戻る為の手段がある」

 

 そう言って錫杖握ってみせる。

 

「だが、『一緒に戻れる』という保証が無い。今迄は一人で向こうに行って一人で戻ってきたからな。もしもの場合、自分は完二と一緒に向こうの世界で帰還の方法を探す事になるかもしれない」

 

 ヒノは自分の身体と合わさっているから問題ないが、もしもこちらの世界に戻ってこれるのが自分一人だけの場合、向こうの世界でなんとかこちらの世界に戻る方法を探す必要が出てくる。

 

「だから直斗、君はこっちに残って事件を追って欲しい。完二は自分だけで助けに行く。自分が知っている情報は全て渡したからなんとかこっちで犯人を捕まえてくれ」

 

 こちらの願いを聞いた直斗は顎に手を当て下を向いてしばらく考え込んでから、顔を上げた。

 

「いえ、僕も一緒に行きます」

 

「……一応、理由を聞かせてくれ」

 

「一つ目の理由ですが、白野さんが犯人である可能性です。テレビの世界の事が本当なら向こうの世界と行き来が出来るあなたは、一番犯人に近い立ち居地にいる」

 

 ごもっとも、と頷く。彼女に犯人扱いされるのは初めから想定済みだ。

 

「二つ目ですが、帰還方法は間違いなくあるという理由です。なぜなら」

 

「天城がこっちに戻っているから、だな」

 

 自分の言葉に直斗が満足気に頷く。

 そう、自分は天城を助けていない。その事はちゃんと直斗にも話してある。

 つまり、天城はどうにかして向こうの世界からこちらに戻ったと言う事になる。

 

「脱出する方法があるなら、それを探す人手は多い方がいい。いつ中に入った者が死ぬのか分からないなら尚更です」

 

 直斗の言葉に今度はこちらが考える。確かに人手は欲しい。だが、最悪三人で遭難し、死ぬかもしれない以上、彼女が向こうに行くのはやはり止めた方がいい気がするが……。

 

 もう一度彼女の目を見る。その目は決して意見を変えるつもりは無いと言う様に強張っていた。

 

「……分かった。向こうは危険だ。自分の指示に従ってくれ」

 

「分かりました」

 

 頷く直斗にこちらも頷き返して以前向こうに行った時に持っていった防災グッズが入ったリュックを取りに戻り、二人でテレビに触れる。

 

「それじゃあ先に行くから直斗はすぐ後に来てくれ。それと入ると落下するから気をつけて」

 

「分かりました」

 

 彼女を安心させる為にまずは自分がテレビに入る。いつもの落下の後、着地してすぐにその場を離れる。

 少しして上から『うわあ!?』という小さな悲鳴が聞こえると霧の中から直斗が降って来て、足から着地するも勢いを殺しきれずに見事に後ろにひっくり返って尻餅をついてしまう。

 

「大丈夫か直斗?」

 

「え、ええ。このくらい問題ないです」

 

 ちょっと痛そうにお尻をさすりながらそう答えて強がる彼女に苦笑しつつ手を伸ばして引き起こす。

 

「ここがテレビの世界ですが、霧が濃過ぎて殆ど何も見えませんね」

 

「そうか? まあ遠くまでは見えないがあの鉄橋の中程までくらいなら見えるだろ?」

 

「いえ、僕には辛うじてこのフロアを囲む鉄柵の影が見える程度ですが、人によって霧の濃さが違う?」

 

「……また謎が一つ増えたな」

 

 今迄知らなかったがどうやこの世界の霧の濃さは人によって違うみたいだ。

 

「直斗は自分の傍からできるだけ離れないでくれ。この世界で逸れたらたぶん見つけるのは難しい。それに戦えるのは自分だけだしな」

 

「わ、分かりました。よろしくお願いします」

 

 直斗が少しだけ申し訳なさそうな顔をしたので気にするなと笑顔で応えて完二が居るであろう銭湯へを向かった。

 




話の展開を考えているといかに原作のクマが便利キャラだったかが分かる。(帰還方法と霧の問題解決で)
まあ帰還用のテレビや霧を見通す眼鏡の作成など実は原作でもクマがどうやってそれを成したか不明なまま進む(しかもクマが居なくなったときも帰還用のテレビはそのまま残る)



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【もう一人の完二と直斗】


お待たせしました。
かなり遅くなりましたが完二回の大詰めです。



「タマモ!」

 

 集団で現れた岩に手が生えてたシャドウを弱点属性である風の範囲スキルで一掃する。

 残りの仮面が付いたテーブルの上で剣や杖を浮かせているシャドウが浮いていた剣を直斗に向けて飛ばす。

 

「直斗!」

 

 直斗の前に出て飛んで来た剣を錫杖で弾き、このシャドウの弱点である氷結のスキルで倒す。

 

「大丈夫か直斗?」

 

「僕は大丈夫です。申し訳ありません僕の存在が反って足手纏いになってしまいました」

 

「気にするな。直斗はペルソナを持っていないんだから」

 

 リュックを背負い直していつもなら走る所だが自分よりも足が遅く更に視界が悪い直斗を置いて行くわけには行かないので歩いてダンジョンのような銭湯を進んでいく。

 

「僕にもペルソナがあればお役に立てるのですが。白野さんはどのようにペルソナを得たんですか?」

 

「自分の場合は初めてこの世界に来た時にシャドウと戦いになって、その時に内側から湧き上がった感じかな。あまり参考にならなくてすまない」

 

 直斗の問いにそう答えると彼女は少し残念そうに『そうですか』と答えた。

 直斗としてはただ守られるだけの今の現状をなんとかしたいのだろうが、実際にペルソナ能力の発現方法を知らない自分としてはこれ以上教えられる事がない。

 

 でも確かに、どうして自分はペルソナをすぐに得て直斗は得られないのか。また新しい疑問が増えたな。

 

 それからも道中で出現するシャドウを撃破しつつ以前手に入れた鍵のお陰で最短ルートを通って階を上る事ができ、そしてある程度の疲労は感じながらも最上階らしき階へと到達する。

 

『この奥から強い気配を感じるよお兄ちゃん』

 

(ああ。ありがとうヒノ)

 

 ヒノの声は直斗には聞こえないみたいなので返事は心の中でだけして直斗の方へと振り返る。

 

「この奥から何か気配がする……今までよりも激しい戦いになるかもしれない。そうなったら直斗は場合によっては完二を連れて避難してくれ」

 

「分かりました」

 

 神妙な顔で頷く直斗にこちらも頷き返して扉を開ける。

 中は今迄で一番広く壁際には周りを欄干が囲い、天井には吊り灯篭、正面の壇上には桜の屏風が置かれその上には『男子専用』と書かれた垂れ幕が張られていた。

 

 その中央で学校の制服を着た完二が倒れていた。

 

「完二!」

 

 慌てて駆け寄って身体を揺すって動かす。

 

「う……ここは……先輩?」

 

 起きた完二は顔を顰めながら頭を振って回りを確認する。

 

「大丈夫ですか巽君?」

 

「てめーはさっきの」

 

「さっき……もしかして完二、お前ずっと気絶してたのか?」

 

「気絶って、どういうことっすか先輩、それにここはどこっすか? 俺ぁ確かコイツと別れて変な連中ともめてそのあと家に……」

 

「やっと目が覚めたんだね」

 

 正面の壇上からの声に二人が振り返り、自分はそんな二人より前に出て警戒しながら徐々に姿を現した存在を見据える。

 

「完二……」

 

「なっなんだよありゃ!?」

 

「巽君が二人?」

 

 現れたのは褌だけを身に着けた完二だった。

 

「これでようやく話が出来るねもう一人のボク」

 

 そう言って身体をくねくねさせるもう一人の姿に、完二は憤慨した様子で叫んだ。

 

「もう一人の俺だと? ふざけたこと言ってんじゃね!」

 

「いいやボクはキミ、キミはボクさ。なんならその二人にも色々教えようか。キミが本当は裁縫や料理、可愛い物や絵を描くのが大好きな奴だってさ」

 

「なっ!?」

 

 相手の言葉に言葉を詰まらせる完二と意外そうにする直斗。まあ自分は家事が得意なのは知っていたし完二は隠していたかもしれないが普通に可愛い物が好きなのも知っている。

 

 そう言えば昔見せて貰った絵は確かに上手かったし工作は今も得意だったはずだ。手先が器用でセンスもあるのは羨ましい。

 

「丁度いいじゃないかボク。まあそこに女が居るのは気に入らないけど、大好きな先輩も居るし本音で語り合おうよ♪」

 

「は? 女?」

 

「……完二、直斗は女の子だぞ」

 

「マジっすか!?」

 

 完二は驚いて直斗の方に視線を向け、自分は男と間違えられた直斗に気遣う視線を向けるが、当人の直斗は特に気にしてはいない様子であった。

 

「大丈夫ですよ。男として見られる様にしていますから僕としてはむしろ喜ばしい事です」

 

 そう言って肩を竦めて見せる直斗の姿を見た正面の完二が汚らしい物を見るようにその顔を歪ませる。

 

「やっぱり女は恐い。そうやってすぐに化けて、騙して、嘲る。あの時もお前はボクの事を『変な人』だって言って内心で笑っていたんだろ」

 

「あの時?」

 

 直斗に視線を向けると直斗は慌てた様子で自分と完二へと振り返った。

 

「いえ、あれはあの時の巽君の態度が変だったからそう言っただけで、決して僕は君の内面を指摘した訳では」

 

「そうだよね。そんな事を言う資格、僕にはないもんね」

 

「え?」

 

 正面の完二の方から聞こえた『聞き慣れた声』に全員が振り返ると、まるでシャドウが現れる時と同じように周囲の霧が集まって『白衣を着た直斗』が現れる。

 

「巽君の言う通りだろ? お前はそうやって『理性的な大人』の振りをして自分自身を騙しながら過ごしている。ふふふ、誰よりも『女』である事を嫌っているのに実は一番『女らしい行動』をしていたなんて滑稽もいい所じゃないか」

 

「違う! 僕は、僕はただ理想の、カッコイイ大人な探偵を目指しているだけだ」

 

「ほらまた自分に嘘ついて誤魔化す。カッコイイ大人の探偵? 違うだろ? 僕達が憧れているのは『カッコイイ男の大人のハードボイルドな探偵』だろ? どうして態々『男』の部分を隠すんだい?」

 

「それは……」

 

 白衣の直斗の言葉に直斗が言葉を詰まらせる。

 

「白鐘お前……」

 

 不安気な表情をさせていた直斗に気遣うような視線を向けていたい完二に、正面の完二が話しかける。

 

「君だって同じだろ? 周りから『男のくせに』って気色悪がられるのがイヤで好きな物を好きと言えず、やれず、逃げ続けてる。ねえもう止めようよ。人を騙すものも騙されるのも嫌いだろ? やりたい事やって何が悪い」

 

「違う。それとこれとは……」

 

「巽君、君も……」

 

「ふふふ、つくづく君達二人は似た者同士なんだね。ねえ僕もそうだろ? 事件が起きて周りから必要とされても、事件が解決すれば『子供なんだから』、『子供のくせに』と言われ、反論すれば『駄々をこねるな』と追い出される。周りが欲しているのはお前の『頭脳』だけでお前『自身』じゃない。だから納得した振りして大人の言う事に従うんだろ? これ以上必要とされなくなるのが恐いから」

 

「誰かに受け入れて欲しい。ありのままのボクを!」

 

「誰かに認めて欲しい。ありのままの僕を!」

 

「それがボクの本心だろ?」

 

「それが僕の本心だよね?」

 

 正面の二人がこちらに両手を広げる。

 それを見た二人が数歩、まるで受け入れたくないような表情で後ずさる。

 

「ふ、ふざけんな。俺はそんな女々しい奴じゃ……」

 

「違う。僕はもうそんな駄々をこねるよな子供じゃ……」

 

「――いいじゃないか別に。女々しくても子供でも」

 

「「え?」」

 

 拒絶の態度を取る傍の二人を見据える。

 

 ベルベットルームでのシャドウやペルソナの在り方を考えると目の前の二人が後ろの二人から『別れた』か『生まれた』可能性はある。

 もしもそうであるなら目の前の彼等の言葉は後ろの二人の『本音の一つ』それも『負』の部分なのは間違いない。

 しかし自分の心の負の部分なんて簡単には受け入れられないだろう。なら第三者の自分が動くべきだ。

 

「裁縫や絵を描くのが好き? 染物屋の息子なんだ当たり前だろ? 可愛い物が好き? 男だって可愛いもんは可愛いと思うのは当たり前だなんら変な事じゃない」

 

 完二と目を合わせながら真剣な表情で伝える。

 

「子供扱いされる? それは仕方ない。事実自分達は子供だ。自分のした責任すら『取らせて貰えない』のだから。ハードボイルドな探偵、結構じゃないか。世の中、それこそ歴史にはカッコイイ女性なんて沢山いるんだ。何も男じゃなきゃなれない訳じゃない」

 

 次に直斗に向けて同じよう伝える。

 

「自分はほんの僅かにだけど二人に対して羨む気持ちも、妬ましいと思う気持ちもあるんだ」

 

 二人からも驚くような気配がしたが言葉を続ける。

 

「自分には将来成りたいものがない。そしてこれといって抜きん出た才能すらない。そんな自分からすれば夢があって、その夢を叶えるに足る才能を持った二人はとても羨ましい存在なんだ。けれど、そんな凡人で非才な自分だからこそ、二人にしてあげられる事がある」

 

 そこで一度言葉を切り、目の前にある二人の手を取り、強く握る。

 

「どうか好きな事から逃げないでくれ」

 

 二人が驚き目を見開く。

 

「好きな事をやる、好きなものを目指す。それには二人が経験したような辛い事や苦しい事が付き纏う。けれどそれが普通なんだ。なんら特別な事じゃない。だから辛かったら、苦しかったら、それを誰かに吐き出して、頼っていいんだ。少なくとも、自分は……」

 

 手を握ったまま二人を正面から見据え力強く笑ってみせる。

 

「そんな二人を元気付けてやれるくらいは、自分にも出来るからさ!」

 

「先輩……」

 

「白野さん……」

 

 二人はしばらく黙った後、自分が握っていた手を優しく解くと正面の自分自身の元へと向かった。

 

「……ああそうだよ。分かってんだよ。女だとか男だとかじゃねぇ。他人の視線が恐くて自分から嫌われようとしてるチキン野郎な部分がある事なんて。でもテメェを認めちまったらまたあの頃のように周りに否定されんじゃねぇかって恐くて逃げ続けた……なさけねぇぜ。俺の傍には、もう『ありのままの俺』を受け入れてくれる人がいてくれたって言うのによ」

 

「……僕は恐かった。大人が持つ強さが。だから納得した振りをしたり男の振りをして自分の今の立場を守る為に、本音を口にする事を諦めていた。けれど、白野さんの言葉で気付いたんだ。僕はただ、探偵の仕事を始めた時のように誰かに必要とされたかった。誰かに喜んで欲しかった。ただ、それだけだったんだって」

 

 完二と直斗がもう一人の自分自身をしっかりと見据えたまま、同じ言葉を告げる。

 

「お前は俺で、俺がお前だ」

 

「君は僕で、僕は君だね」

 

 二人のその言葉を聞いた瞬間、対面していた方の二人は満足そうに頷くとその姿を自分が持つセイバー達の様なペルソナへと変化させ、二人の身体へと吸収されて行った。

 

 その二体のペルソナが消える瞬間に、頭の中で声が響いた。

 

『やっぱカッコイイぜ先輩。そんですいません』

 

『後始末をよろしくお願いします』

 

「後始末――っ!?」

 

 背後から感じた気配に振り返ると入口の扉の前に大量の黒い霧が放出されるとどんどん形を成し、遂には警官服を着たお腹が空洞でそこに鍵を一本ぶら下げた巨大なシャドウの姿となる。

 

「先輩!?」

 

「白野さん!?」

 

 振り返るとそこには蹲る二人の姿があった。

 

「二人は端に逃げろ! 大丈夫だ。必ず二人とも守ってやる!」

 

『あのシャドウからこの前の王様のシャドウと同じ気配がする』

 

 あいつと同じ、そして消えた完二達の言葉、やっぱこのシャドウとこの場所にはなんらかの関係があるのか?

 

「いや、考察は後だ。さて後輩が頑張ったんだ。先輩として意地を見せないとな」

 

 疲労を感じる身体を気力で奮い立たせ、ペルソナを召喚しながら警官のシャドウ目掛けて駆け出した。

 




と言う訳で二人纏めてもう一人の自分を受け入れる形にしました。
色々プロット書いてこれが一番良かったので。
他には裏ボスと戦う前に千枝ちゃん同様に途中で一回直斗がもう一人に会って直斗シャドウ戦闘のパターンや完二シャドウと直斗シャドウのボス二体との戦闘のパターンのプロットもありました。
あと一応この作品では裏ボスにも設定が存在してます。その辺はいつか本編で明かしたいと思います。


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【狭量の官戦】

遅くなりましたが続きです。
色々修正は後ほど。暑くてやる気も集中も落ちてます……。



「アーチャー!」

 

 呼び出したペルソナであるアーチャーが両手に持った双剣、干将莫耶を振るうと、そこから幾つもの斬撃が飛んで正面のシャドウへと向かう。

 シャドウはその攻撃を横に跳んで回避すると、左手に持った銃を構えて引き金を引くとそこから光の弾丸が放たれる。

 アーチャーは持っていた双剣で弾丸を弾き飛ばしながら接近する。

 しかしアーチャーの剣が届く前にシャドウの腹の鍵が緑色に光ると、アーチャーの足元から大きな竜巻が巻き起こって吹き飛ばされてしまう。

 

「ぐっ!?」

 

 まずい。アーチャーは魔のステータスが低いから術スキルのダメージが大きい。

 

 身体に走った痛みと衝撃にその場に膝をつきながら、追撃として放たれた弾丸からアーチャーをなんとか逃がす。

 

 アーチャーは魔のステータスが低いが速のステータスが極めて高く物理に関しては近距離は双剣の干将莫耶、中距離は両手剣の永久に遥か黄金の剣、遠距離は黒い弓を使って対応する事ができる為、どんな距離からでも攻撃できる。

 そう、できるのだが……道中のシャドウには基本的に相性があるせいで術スキルの方が使い勝手が良く、なにより最初にここに来た時に遭遇した霧のシャドウに物理攻撃が効かなかった事もあって、物理特化のアーチャーの使用を控えていた。そのせいでセイバーやキャスターに比べてアーチャーの性能をまだ把握し切れていなかった。

 

 それにいつも以上に疲労しているせいで碌に物理スキルが使えないのも痛い。

 

 ペルソナのスキルは基本的に本体の人間の体力や精神力を消費して発動する。

 術系のスキルは精神力を、物理系のスキルは体力を消耗する。

 どちらも消耗し過ぎると虚脱感や疲労感に襲われ最悪の場合体力や精神力が回復するまでしばらくその場から動けなくなる。

 

 これまでの戦闘経験で得た体力の減り具合から見て、チャンスは一回。敵のスキルの予兆は分かった。なら次はかわせる。

 

 アーチャーの武器を弓に変え、物理スキルを発動する。

 アーチャーが弓を引くとそこに一本の白いエネルギーの矢が表れ、放つと同時に一本の矢は無数の針の様な形になってシャドウに襲い掛かる。

 シャドウが再度スキルを使って竜巻を起こして飛来する矢を弾くが、想定内だ。

 

「アーチャー」

 

 名前を呼ぶと同時に意思を伝える。

 アーチャーが保有する二つの補助スキルの内の一つを発動する。

 アーチャーが力を溜める素振りを見せ、それを解き放つ動作をすると全身を白い光が覆い、その状態でアーチャーが弓を構える。

 今度のは先ほどとは違う貫通力と攻撃力の高い単体スキルだ。そして何よりこの一撃で決めるために、『次の攻撃のみ二倍の威力』となる補助スキルを発動させた。

 矢として形成されるエネルギーが大きく鋭くなると同時にまるで帯電したかのような稲妻を纏う。そしてシャドウの術が切れかけた直前に、目標目掛けて手を振るう。

 合図と共に放たれた矢はまるで以前見た聖剣のビームの様な一撃となり、シャドウに直撃すると同時に大爆発する。

 

「くっ」

 

 その場にしゃがんで煙幕と衝撃波をやり過ごす。

 風が止んだのを確認すると同時に立ち上がろうとするが、足に力が入らず身体も上手く動かなかった。

 

 まずいな疲労が限界だ。帰還用の精神力はまだあるが、もう戦う力は。

 

 見ればアーチャーも消えてしまっていた。

 今の一撃で倒し切れてくれと祈りながら爆心地へと視線を向けると、そこにはシャドウは居らずヒノと同じ火の魂が浮かんでいるだけだった。

 

「はあぁ……勝てた。良かったぁ」

 

 その場で尻餅を付きながら安堵の溜息を吐く。

 

『やったねお兄ちゃん。それじゃあすぐに回収しちゃうね』

 

 ヒノの言葉に頷き返すと火の魂がこちらに近寄り身体に吸収される。

 それを座ったまま見届けると先に体調が回復した二人がこちらにゆっくりとやってきた。

 

「先輩大丈夫っすか?」

 

「ああなんとかな。まあ問題はこの後なんだが」

 

「このあと、ああこの世界から戻れるかどうかですね」

 

「どういうことっすか?」

 

 直斗の言葉に完二が首を傾げたのでトラエストについて説明する。

 

「さて、それじゃあ試すか。一応最悪の事を考えで荷物は完二に渡して置くな」

 

 正直向こうの世界に戻ったらすぐにこっちには戻れない為食料やらが入ったリュックは完二に渡して頑張って立ち上がって錫杖を打ち鳴らす。

 

 ペルソナのスキルは意識する事で範囲を変化させる。ならこの力も同じように出来るはずだ。

 

 傍にいる二人と一緒に元の世界に戻る事を強く意識しながら唱える。

 

「トラエスト!」

 

 術名を唱えた瞬間、光はいつもよりも広い範囲を覆い気付けばリビングに立っていた。

 

 が、すぐに身体から力が抜けてその場に三人で倒れる。

 

「う、身体が」

 

「な、なんかこっちに戻った瞬間いっきに疲れが」

 

「ぐ、ああ、駄目だ。しばらく動けそうにねぇ」

 

「せめて仰向けに」

 

 三人なんとか仰向けになり、窓から差し込む日差しがオレンジ色だと気付く。

 

「もう夕方か……二人共とりあえず動けるようになるまで少し休憩しよう。それと喋れそうなら家の人電話しよう。特に完二、巽おばさん凄い心配してたからな」

 

「うっ、うっす」

 

「それと完二、直斗」

 

「ま、まだなんかあるんすか?」

 

「は、はい?」

 

「二人が無事で良かった」

 

「せ、先輩……」

 

「白野さん……」

 

 本当に助けられて良かったと安堵の溜息を吐くと、完二が何かを決意したような声色で喋り始めた。

 

「決めしたぜ先輩。俺もこの事件の解決を手伝います」

 

「完二?」

 

「そりゃ、俺は先輩みたいに頭は良くねえけど、今の俺にはペルソナが、戦う力がある。なら向こうに行った時に先輩の背中を守る事ぐらいはさせて下さい」

 

 完二の言葉を聞きながらどうしたものかと悩む。

 確かにペルソナを手に入れた可能性は高い。だが、向こうの世界が危険な事には変わり無い。

 

 でもきっと、諦めないだろうな。

 

 完二の声色からその決意が固い事は容易に汲み取れる。

 

「白野さん、僕も巽君と同じ気持ちです。この事件は一人で解決できるものではない危険なものです」

 

 完二に続き直斗が口を開く。彼女の声色や口調にも完二と同じように決意が篭っていた。

 

「お願いします先輩! 俺を男にしてください!」

 

「……巽君、そういうとこだと思いますよ」

 

「完二、そういうとこだぞ。お前がそっち系と勘違いされるの」

 

「え? ばっ、違うから! 今のはこのまま助けられっぱなし頼りっぱなしじゃ男が廃るって意味だから!」

 

「ははは分かってる分かってる」

 

 声を荒げて慌てて否定する完二に和み軽く笑った後に二人へと返事を返す。

 

「分かった。二人共これからよろしく。ただし!」

 

 二人にしっかりと認識して貰うためにそこで言葉を止めて二人がこちらに集中するのを待ってから続きを口にする。

 

「無茶するのは自分の役割、そんな自分の事を支えるのが二人の役割だからね。それだけは絶対に譲らないから」

 

「うっす! 巽完二、精一杯支えさせて頂きます!」

 

「ええ。僕も全力で白野さんを支えて見せます」

 

 二人の言葉に満足した自分は改めてよろしくと伝えた。

 それから少しして二人は実家に電話。完二は巽おばさんに怒られ、直斗も少しの間連絡が取れなくて心配されたのか電話の相手に謝っていた。

 それから動けるようになった直斗は迎えを呼んで帰宅。完二は流石のタフネスで家まで歩いて帰っていた。

 自分はと言えばなんとか身体を起こして二人を見送った後にそのままリビングのソファーにダイブする。

 二人が無事だった事への安堵と強い虚脱感と疲労感からそのまま眠ってしまった。

 

 そして翌日、自分は見事に風邪を引いて数日学校を休む事になった。

 




ようやく完二編が終了。次は二年組の五月の締め語りのあと林間学校とりせちーですね。
いや~先は長い(苦笑)



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【生活の変化】

前回二年組と言いましたが今回は白野側の五月のエピローグ的な話になります。
それと推理分は自分が当時プレイしていた時に考えた推理を思い出しつつ、直斗や白野ならこのくらいは気付くし調べているだろうと考えて書いてます。



 う~ん! ようやくいつも通りの生活サイクルに戻った感じかな。

 

 手を組んで上に挙げて身体を伸ばす。

 テレビの世界に行って完二を助けてから一週間以上が経った。

 向こうの世界での無理が祟ったのか三日程体調を崩して寝込んでしまった。

 学校へは風邪で通した。普段から特に問題を起こしてはいなかったので、すんなりと信じて貰えた。完二は心配だがおばさんが直接学校に連絡したらしいのでたぶん大丈夫だろう。

 

 いや、いつも通りじゃないか。

 

 この一週間で身近で大きな変化が二つあった。

 

『ねえお兄ちゃん。今日の御飯はどうするの?』

 

 今日は肉ジャガにする予定だよ。

 

 頭の中に響いた声に心の中で応える。

 一つ目の変化は完二救出後、ヒノの声が現実でも聞こえる様になった事だ。勿論周りには聞こえていない。

 それと自分が誰かと喋っている時や考え事をしている時は邪魔をしないように黙ってくれる気遣いの出来る良い子だ。

 

 それとこれはヒノから聞いて知った事だが、今迄現実世界でのヒノはただ自分を通し

て世界を見ているだけだったが、そこに更に『音』が加わったらしい。

 そのため最近はヒノの為に暇があればテレビを観るようにしている。ヒノのお気に入りはヒノが幼いからか子供向けのアニメや動物が出る番組が好きらしい。ニュース等の時は興味が無いのか反応が無いのも子供らしい。

 

 あの火の魂が原因だとは思うが、なにぶんヒノ自体もアレがなんなのか解っていないため推測でしかない。

 こちらの世界で変化があった事を考えると向こうでもヒノになんらかの変化があるかもしれない為、一度向こうに行って確認しようと思っている。

 

 そんな事を考えつつ二つ目の変化の方へと視線を向ける。

 

「にしてもまさか直斗が学校に転校してくるなんて驚いたよ。な、完二?」

 

「いや、つか、なんで男の制服?」

 

「……こっちの方が動き易いからです」

 

 直斗はどこか誤魔化す様に視線を逸らしながら答える。

 完二救出後、学校に通えるようになって暫くして直斗が転校して来た。

 転校初日の朝に家に車でやって来たのには驚いたものだ。

 事情を聞いてみると今後は自分達と一緒に行動すると決めた時には既に行動時間を合わせられるように学校への転入を考えていたんだとか。凄い行動力である。

 

 ただ自分個人として事件だけじゃなくて今回の事を切っ掛けに二人にはもっと普通に学園生活をエンジョイして欲しいんだよね。

 

 完二は人付き合い、直斗は仕事で殆ど学生らしい遊びをしていなさそうだと思い、これからは積極的に二人を遊びに連れ出そうと心の中で考えている内に家に到着する。

 

「それじゃあ上がってくれ二人とも」

 

「「お邪魔します」」

 

 二人をリビングに案内してソファーにあったクッションを渡し、自分は鞄を置きつつキッチンからお茶のボトルと人数分のコップを用意し、お茶菓子としてスナックやチョコ菓子を皿に盛ってトレーで運ぶ。

 

「さて、それじゃあ改めて事件についての話し合いを行うとしようか」

 

「はい」

 

「うっす!」

 

 普通にお喋りする前に今日集まった本題を口にしつつノートと筆記用具を取り出す。

 

「まず、現状の情報の確認を改めてしよう。たぶん直斗が一番事件に詳しいだろうから進行を頼む」

 

「ええ。ではまず最初の事件から」

 

 直斗が今回の事件を時系列順に説明しそれをノートに書き出していく。

 

 四月十二日に天城旅館に泊まっていた筈の山野真由美が死体として発見される。

 直斗情報、山野真由美は十一日の正午過ぎから死体として発見されるまでの短い間だが行方不明になっていたらしい。それ以前は旅館の仲居さんが姿を確認している。更に山野真由美の関係者全員にアリバイが成立している。

 

 四月十五日に第一発見者である小西早紀が死体として発見される。

 同日の夜に天城雪子がテレビ報道され、その後マヨナカテレビに彼女らしき影が映る。

 直斗情報、彼女は警察で事情聴取されたあとから死体が発見されるまでの間山野真由美同様に行方不明となっていたらしい。

 

 四月十六日に天城雪子が行方不明に。

 マヨナカテレビに今迄と違うテレビ番組の様な映像が映り、もう一人の天城雪子らしき存在が映る。

 

 四月十八日にテレビの中で城に向かうも天城雪子の姿は無かった。

 直斗情報、天城雪子自身は十七日に発見されその後体調不良でしばらく学校を休んでいる。

 

 五月十三日に巽完二がテレビ報道される。

 直斗情報、彼女曰くこの段階でテレビに報道された人物が狙われている可能性に気付く。

 

 五月十四日以降に完二がマヨナカテレビに映り始める。

 直斗が接触を開始し、自分も完二に可能な限り接触する。

 

 五月十七日にもう一人の完二がマヨナカテレビに映る。

 この時点で完二がテレビに入れられているのが確定する。

 

「ふむ、これが今判明している事実だな」

 

「ええ。そして完二君の発言を考えると彼がテレビに入れられたのは彼が僕と別れてから彼のお母様が店番をしている数時間の内という事になります」

 

「完二、何か覚えてること無いか?」

 

「すんません。アレから思い出そうとはするんすけど、色々あってよく思い出せねぇんすよ。お袋も特に怪しい人は来てねぇって言うし」

 

「まあ向こうの世界でも色々あったしな仕方ないさ」

 

 申し訳なさそうにする完二にそう言って励ます。向こうの世界で起きた出来事を考えれば混乱して記憶が曖昧になるのは仕方ない事だ。

 

「だが完二が狙われた事で幾つか確定したな」

 

「ですね。まず、犯人は間違いなく車、それも人一人を放り込めるサイズのテレビを運んでいますね」

 

 直斗の言葉に自分も頷く。

 個室などなら兎も角として、テレビが近くにある状況なんて殆ど無いだろう。となればテレビは犯人が持参している事になる。

 

「そして犯人は複数か男性の単独犯の可能性が高まったな。完二は喧嘩慣れしているから薬か、またはスタンガンか何かで無力化した可能性がある。完二程のサイズの男性、それも自力で動けない身体をテレビに放り込むのは女性一人では難しいだろう」

 

「ええ、僕も同意見です。そして複数人による反抗は極めて低いと考えています。流石にその人数で動けばこの町で噂になっている思いますので」

 

 直斗の意見に確かにと呟き同意する。

 この町ははっきり言って狭い。知らない人が居ればすぐに分かるし何か起こればその日の内に噂が広まる。そんな田舎で大人数で行動していれば嫌でも目に付く。

 

「つまり犯人の最有力候補は男性の単独犯で最初の事件でアリバイの無い人物、という事になるな」

 

「ええ。もっとも条件に近い容疑者は生田目太郎氏ですが、彼にはアリバイが有る。となると、やはりこの町に住む誰かという事になりますね」

 

 直斗の言葉に頷きつつ腕を組む。

 

「しかし動機が分かんないな。犯人がテレビに入れる能力を持っているのは間違いない。そしてテレビに人を入れたら死ぬ可能があるのは最初の事件で分かったはず。その後も犯行を続けるのはなんでだ?」

 

「そうですね。天城雪子までなら最初の事件になんらかの関係があって口封じの為、という線で推理も出来ますが、それは完二君が狙われた事で否定されましたからね………正直、考えたくありませんが現状で一番近い犯人の動機は快楽殺人という事になります」

 

「……最初の事件を切っ掛けに殺人に快楽を見出した、か。有りそうで恐いなその推理、なんせ殺人の方法がテレビに入れるだけで直接犯人自身が何かする訳じゃないから証拠なんて殆ど残らない」

 

 自分の言葉にそこが厄介なんですよね。と直斗が真剣な表情で相槌を打ちつつ自分が書き込んだノートを見詰める。

 

「でだ完二……付いて来れているか?」

 

 会話に一切入って来ない完二に声をかけると、彼は一応話は聞いていたが情報の整理が追いついていないといった表情をしてせみる。

 

「ああ……すんません無理っす。そういう頭脳担当は苦手なんで二人に任せます。俺は肉体労働で頑張ります!」

 

 完二は少し考える素振りを見せるもすぐに諦めて腕を曲げて力瘤を作って見せてる。

 

「うん。話を聞いてるだけでも構わないさ。あとで必要な情報だけ纏めて教えるよ」

 

「ありがとうございます先輩!」

 

 とりあえず完二には犯人についてとマヨナカテレビの情報だけ把握しておいて貰えれば十分だろうと判断し、事件についてもこれ以上話し合う事も無いため次の話題に移る。

 

「次にマヨナカテレビについてだけど、アレはなんなんだろうな。もう一人の天城が映ってから完二が映るまで噂通り統一性の無い感じだったのに完二が映りだして暫くはまた完二しか映らなかった」

 

 完二救出後も雨の日のテレビにはもう一人の完二ではなく、今までの映りの悪い姿の完二が映っていた。

 

「正直マヨナカテレビについてはそもそも現象自体が不可思議によるものですからね。情報があまりにも少ない。唯一解っているのは向こうの世界に誰かが入れられると『もう一人の自分が映る』という事と、映った人物が犯人に狙われる可能性がある。という事ですね」

 

 直斗の言葉に頷きつつノートに書き込んでいく。

 

「とにかく今は『テレビ報道された人物』と『マヨナカテレビに映った人物』の両方を対象に調査した方がいいかもな。どちらを理由に犯人がターゲットを選んでいるか分からないし。ただ今後は二人もマヨナカテレビを必ずチェックしてくれ」

 

 自分の言葉に二人が頷くを確認し、最後の話題に移る。

 

「で、最後が天城雪子がどうやって向こうから戻ったのか、だけど……本人に直接確認するのは控えた方がいいんだっけ?」

 

 直斗に確認すると彼女は頷いて見せた。

 

「ええ。僕の予想ですが犯人はある程度生還した人物にはそれとなく注意を向けていると思うんです。殺したと思った人物が生きているのですから。その場合、犯人は口封じに同じ人物を狙う可能性が高い。しかし犯人は彼女ではなく巽君を狙った」

 

「……彼女の普段の言動から身元はバレていないと判断した可能性が高いって事か」

 

「ええ、警戒する相手よりは無警戒の相手をといった考えで巽君を襲ったのでしょう」

 

「つーことはアレか? あんま外でこういう話をしない方がいいって事か?」

 

「そうだな。今後は何か情報を得たら今日みたいに家に集まった話し合おう。もちろんそう言うの抜きで遊びに来てくれて全然構わないからな」

 

 そう二人に提案すると二人は笑って頷いてくれた。

 空気も変わったので事件の話はここでお終いとノートを閉じて姿勢を少し崩して別の話題に移る。

 

「そう言えば二人とももうすぐ林間学校だけど、どうするんだ?」

 

「あ~俺は出席日数の関係で強制参加だそうっす。休んだら進級させねって釘刺されました。つーかあの生活指導のモロキンだかっていうセンコーには腹立って軽くキレかけたっすよ。こっちはガチで病欠だって言うのにどうせ親を脅してズル休みしたんだろうだの、中学時代のように調子には乗らせない、問題起こしたら停学させるだの何だのって」

 

 話しながら当時の事を思い出したのか完二は不機嫌そうに顔を顰めつつスナック菓子を口に放り込む。

 

「諸岡先生ですね。僕も転校初日に会いましたが格好の事や都会から来た事等で幾つか小言を貰いました。ですがあの手の偏見持ちの大人は何所にでも居ますので気にしない方がいいでしょう」

 

 直斗もお茶を飲みつつこれまでに出会ったそういった大人達の事を思い出したのか肩を竦めて見せる。

 

「あの先生は言動が過激だし偏見持ちな上に小言が多いからなぁ。でも生活指導としてはかなり真面目に取り組んでいるみたいだぞ。夜の見回りをしているのをよく見かけるし、三年生の話じゃ進路相談の対応もしっかりしているらしい」

 

「でも普段はアレなんすよね?」

 

「そうだね」

 

 完二の言葉に苦笑しながら答える。まあ誰だって好き嫌い別に小言が多くて説教が長い人は苦手という事だ。

 それからしばらく学校生活の愚痴や林間学校の話を筆頭に世間話に華を咲かせつつ、今度一度テレビの世界に行く事を約束してから二人は帰宅して行った。

 




あとは二年組の纏め話で五月は終了です。
六月、特に林間学校のイベントは飛ばすか書くか悩み中。白野はクラス違うし完二は悠達と接点が無いのでテントに行かないだろうし。面白い感じに纏められたら林間学校からスタート、纏まらなかったらりせのテレビ報道からスタートって感じになると思います。



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【特捜隊の五月】


と言う訳で二年組による五月のまとめです。
次回から六月に入ります。



 五月も終わりまじか。悠達四人は四月のようにジュネス屋上のフードコートに集まって話し合っていた。

 

「もぐもぐ……。結局さ、完二君って向こうの世界に入れられたのかな?」

 

 千枝がビフテキを頬張りながら周りに尋ね、全員が難しい顔で唸る。

 

 彼等は完二がマヨナカテレビに映った後、彼を監視していた。

 完二が直斗と出歩いていた日も後を付けていたが結局完二にバレ、彼と一悶着あってその日は解散となった。

 

 そしてその晩のマヨナカテレビにもう一人の完二が映る。

 彼等は犯行を防げなかった事を悔やみながらテレビの中へと赴く。

 しかし唯一の探索能力持ちのクマが完二とう人間を知らないせいかテレビの中に誰かが居るのは間違いないがどの方角に居るのかは分からないと答える。

 クマは完二の人となりや何に悩んでいたのかが分かれば居場所が分かるかもと悠達に告げ、悠達はその情報を集める事から始めようと話し合い、その日は解散した。

 

 その後彼等は手分けして情報を集めようとしたが先に白野達が完二を助ける事に成功して現実に戻った為に四人は色々と中途半端な状態で今日まで過ごしていた。

 

「完二が向こうに居たのは間違いないだろう。現に今は向こうに誰かがいる気配は無いんだろ?」

 

「クマが言うにはもう人間の匂いは感じられないらしい」

 

 陽介の言葉に悠が答え二人は腕を組んで更に困惑した表情を深める。

 

「本当は本人に尋ねて確認するのが一番なんだろうけど」

 

「『テレビに入れられました?』なんて聞くのは流石にねぇ」

 

 溜息をつく雪子に同調するように千枝も下を向いて溜息を吐くも、ある事を思い出してすぐに顔を上げる。

 

「そう言えばその完二君、前はあまり学校で誰かと一緒にいるの見かけたこと無いけど、最近は白野ともう一人、一年に転入して来た子と一緒に居る事が多いよね。登校もよく一緒にしているし」

 

「ああ確か前に完二の店に来てた奴だよな。白鐘直斗って名前だっけ? 転校初日に一年の女子が騒いでたよなぁ。可愛い男子が来たとか言って」

 

「でもあの子、本当は女の子らしいよ。家の仕事の関係もあるから男子の制服でも許可が出たみたい」

 

「ウチらの学校、女子はセーラー服で男子は学ランが指定だもんね。あーあ、私も学ラン着たかったなぁ」

 

 千枝が羨ましそうに愚痴りながら最後の一切れを口に放り込む。

 

「とにかく今回の一件で幾つか分かった事を纏めよう。まず犯人が最初の事件の関係者を狙っているという推理だけど、これは外れてると思う」

 

「うん、私もそう思う。だってもし事件の関係者を狙うなら完二君じゃなくてもう一度私を狙うと思う」

 

「あっ! そうだよね。犯人がもう一度雪子を狙う可能性もあったんだよね。でも何で狙わなかったんだろ?」

 

 千枝の言葉に悠が少し考えてから答える。

 

「理由として一度狙われた事で本人が警戒している事と、向こうの世界に行っても戻ってくる手段を知っているからもう一度狙ってもリスクが高いだけ、とかかな?」

 

「あ~確かにそう考えれば納得できるな。テレビに入れるだけとはいえ、何度も同じ相手を狙えば証拠だって残るだろうし。そう言ったリスクを冒すくらいなら警戒心の薄い相手をって訳か」

 

 悠の推理に陽介は納得が行ったように何度も頷いてみせる。

 その様子を眺めていた千枝は頬杖を付きながら思いついたようにぽつりと呟く。

 

「そもそもマヨナカテレビってなんなんだろう」

 

「……犯人の思考が結果的に映ってる、とか?」

 

「でもさ、噂を聞く限り俺達が同じ人物を観る以外の時は映る人物は大抵バラバラなんだよなぁ。俺なんて試してみたけどなんにも映らないし」

 

「私も」

 

「私も試したけど映らなかった」

 

「だが何らかの法則はある。少なくとも不特定多数が同じ人物を観る様になったら注意が必要だ」

 

「じゃあ今後もマヨナカテレビに映った人物を優先的に監視するって事で決まりだね」

 

 千枝の言葉に全員が頷き今度は花村が疑問を口にする。

 

「そういやさ、クマの奴が妙な事を言ってたよな。俺達が行った時やマヨナカテレビに映った人物が入れられた以外の時期にテレビの中で人の気配がしたって」

 

「言ってた言ってた! ねえそれってもしかして犯人なんじゃないかな?」

 

「……もしそうなら犯人は向こうとこっちを行き来できるって事になるよね?」

 

「それ、最悪だな。場合によってはテレビの中に隠れてやり過ごす事も出来るって事だろ?」

 

 雪子の言葉に陽介が嫌な顔をして天を仰ぐ。

 しかし悠だけは黙しながら別の結論を出していた。

 

(もしかして完二を助けたのはその人物なんじゃないか?)

 

 悠は唯一ベルベットルームにて自分と似た様な人物の存在を知っている。

 しかしその人物の特定は出来ず情報すら殆ど手に入れられていない状態だった。

 

 そもそも最近の悠は忙しかった。

 特捜隊の仲間はもちろん、運動部と文化部に所属した事で週に数回は顔を出し、ゴールデンウィーク以降は堂島家の親子との仲も深まり休日に一緒に過ごす事も増えた。 

 

 もちろん悠にとってそこでの出会いは悪い事ではなく、彼は都会の頃よりも充実した学園生活に喜びと楽しさを感じていた。

 不謹慎だと理解しているがこうしてみんなで何かに向けて頑張る特捜隊の活動も心躍るものがあった。

 

「そう言えばさ、もうすぐ林間学校だよな。俺一年の時は転校前で参加出来なかったからすげー楽しみなんだよ」

 

 悠が考え込んでいる間に話題はいつの間にか変わり 陽介が待ちきれないとはしゃぎ、千枝が溜息を吐きつつ現実を突きつける。

 

「何でそんな楽しそうなのか知らないけど、ウチの学校の林間学校、近くの山のゴミ掃除だからね」

 

「ゴミ拾いぃ? なんの修行だよそれ……」

 

 楽し気な雰囲気から一転して落ち込み肩を落とす陽介に周りが苦笑する。

 

「あ、でも夜だけはちょっと楽しいかも。飯ごう炊飯とかテントで寝たりとか」

 

「テント!? まさか、男女一緒だったり?」

 

「死ね。男女別に決まってんでしょ。因みに、夜にテント抜け出したのがバレたら一発停学だから」

 

「それに期間も一泊して翌日の昼前には現地解散だから短いしね」

 

 千枝がちょっと軽蔑したような視線で注意し、雪子が笑いながら更に情報を伝えるとテントの件で一度持ち直した陽介のテンションが再度落ち込む。

 

「はあ。なんか思ってたよりもダルそうだな。面白イベント来たと思ったのに」

 

「まあそんなもんよ。私の去年の思い出も解散した後に河原で遊んだくらいだしね」

 

 千枝のその言葉に陽介が一瞬だけ眼光を鋭くさせるも、すぐにいつもの表情に戻す。

 

「河原って、泳げんの?」

 

「あー、泳げんじゃん? 去年も入ってる奴いたし」

 

「そっか、泳げんだ……」

 

 千枝の答えに意味深な笑みを浮かべる陽介に、悠は『また何か思いついたのか』と苦笑し、その後も彼等と他愛ない雑談を交わして過ごした。

 

 

 

 

「ちっ。あいつ等以外にもいるのか」

 

 彼等の会話が他愛無い日常会話になったのを確認した人物は小さくそう呟いて舌打ちするとフードコートを後にした。

 




完二がもたらす情報が無いために二年組の推理が原作と違います。
さて、次どうするかマーガレットか林間学校かりせの転校まで飛ばすか……。



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【マーガレットの挑戦その2】


大変お待たせいたしました。
とりあえずりせ編の大まかなプロットは出来たので投稿再開!



 六月に入った最初の週にマーガレットから受け取ったブローチが光ったのでベルベットルームに行くとマーガレットだけが座っていた。

 

「いらっしゃいませ白野様、今回は如何致しますか?」

 

 いつもの丁寧口調で出迎えてくれたがその視線は『もちろん行くわよね?』と語っていた。

 

「えっと、じゃあヴィジョンクエストの間に」

 

「ふふ。ではご案内致します」

 

 口元に微笑を浮かべながらマーガレットが扉を呼び出し二人で潜る。

 以前と同じ場所に立ち、マーガレットが今回の扉へと案内する。

 

「今回はこちらの扉よ」

 

 案内されたのは『イチイの木の前に立つ老騎士』の絵が描かれた扉。

 

「ロビンとダン・ブラックモアか」

 

 なんとなく順番的にそうじゃないかと思ったので驚く事もなく扉を潜る。

 潜った先はやはり彼等と戦った海底都市の廃墟だった。

 前回と同じく正面に仮面を付けたダン・ブラックモアにシャドウロビン。

 

 サーヴァントとしてのロビンのスキルは厄介なものが多い。ここは同じクラスでどんな距離にも対応できるアーチャーだな。

 

 アーチャーを呼び出しこちらも戦闘態勢に入る。

 ダン・ブラックモアがそれを待っていたかのように静かな動作で掌を真っ直ぐに伸ばしたままこちらに向けると同時にロビンがこちらに駆け寄る。

 

 『顔の無い王(ノーフェイス・メイキング)』を使わない?

 

 【顔の無い王】

 ロビンフットの宝具の一つであり、形状は彼が身に纏うフード付きの緑の外套。

 宝具として効果を発動すれば完全な透明化を成し遂げ、対象に触れでもしなければまず発見する事はできない。

 更に月の裏側で分かった事だが、この外套を切って巻き付けることでロビン以外の対象すらも透明化させることが出来る。

 

 生前の自分はロビンとは二度戦い、一度目はダン・ブラックモアの方針のお陰で『顔の無い王』は使われなかったが、二度目の時はこの宝具のせいでかなり苦戦させられた。

 

 ドレイクの能力をあれだけ再現したのにマーガレットがそこだけ再現しないとは考え難い……今は様子を見るか。

 

 迫るロビンに双剣を持ったアーチャーで迎え撃つ。

 ロビンは近接格闘をこなしながら右手に取り付けられたクロスボウ、『祈りの弓(イー・バウ)』で紫色の光の矢を放つ。

 

 どう見ても何かあるその矢を回避しつつ双剣を振るうもなかなか当たらない。

 

 ……というか本当にスキルすら使う素振りがない。

 

 相手の行動に困惑しながらアーチャーに指示を出し、互いに防ぎ、避けを繰り返す。

 しかし徐々にこちらが押され始める。

 まるで踊るように足技と射撃を組み合わせた攻撃に遂に捌き切れずにアーチャーの体勢が崩れる。

 その瞬間、今迄不動だったダン・ブラックモアが組んでいた腕を軽く横に振るって見せた瞬間、ロビンの足が白い光、物理スキルの輝きを纏って放たれアーチャーの腹部に突き刺さる。

 

「あっぐ!?」

 

 攻撃をまともに受けたアーチャーは吹き飛ばされ、自分は痛みでその場に片膝を付く。

 

 早く立て直しを。

 

 自分よりも更に後方に飛ばされたアーチャーの体勢をなんとか立て直そうとした瞬間――紫の一線が視線を通過していった。

 

「っ!?」

 

 気付いた時にはその一撃はアーチャーに当たり、アーチャーの身体が紫色に染まると同時に自身の身体に変調が起こる。

 

 まるで酷い風邪の時のような気持ち悪さで頭がくらくらする。

 

 更に追い討ちとばかりにロビンから強い力を感じる。

 振り返れば彼のクロスボウに装填された矢が深緑の輝きを強く放っていた。

 

 アレはまずい!

 

 咄嗟にアーチャーに回避を命じてとにかくその場から飛び退かせると同時に深緑の矢が放たれる。

 迎撃する間もない弾速で放たれた矢が、『避けた先』のアーチャーに命中する。

 

 読まれたっ!?

 

「がはっ!?」

 

 アーチャーの身体が紫色の爆煙を上げながら爆ぜて消滅し、自分はその衝撃と痛みでその場に倒れこむ。

 

 「あぁくそ、忘れていた。馬鹿か自分は」

 

 迂闊な自分自身に苛立ちを覚える。

 

 『祈りの弓』の二撃目は受けてはいけない。

 

 【祈りの弓】

 ロビンのもう一つの宝具。

 イチイの木で作られたその矢には強力な毒が付加されている。

 その矢を一度受けた者はその身に『イチイの毒』を受け、二度目を受けた場合その毒は増幅、流動する。つまり内側から爆発する。

 一応決闘方式であった前世での聖杯戦争ではコードキャストによって解毒や状態異状そのものを無効化する事で回避も可能だった事、ロビン自体のアーチャーとしての腕前や純粋な戦闘能力が低かった事で矢自体の回避が可能だった事で対処できた。

 

「……今回はここまでかしら?」

 

 マーガレットがこちらに近寄り見下ろしながらそう尋ねる。

 

 自分の身体の状態を確かめる。 

 アーチャーが消えた事で戦闘は終了という扱いなのだろう。先程まで感じていた気持ち悪さは消えていた。

 

 身体は、痛みは残っている。体力もかなり持って行かれた。

 

 だが……動く。

 

 身体をゆっくりと起こしてマーガレットへと振り返り、再度戦うという意思を持って頷く。

 

「そう。ただ、一つ気になっていることがあるのだけど、答えてもらえるかしら?」

 

 珍しくいつもの表情に困惑の色を浮かべた彼女にそう尋ねられ、答えられる事ならと応える。

 

「どうして彼が『顔の無い王』を基に作った一定時間自身を透明化するスキルを使わないのか、貴方には分かるか?」

 

 そうか。やはりマーガレットもそこを疑問に思ったのか。

 

 自分は既にある程度の予測は出来ている。

 その予測を確信にする為に、自分は彼女に尋ねる。

 

「なあマーガレット……あくまでもあのロビンはペルソナという扱いで、ダン・ブラックモアが操っているんだよな?」

 

「ええ」

 

 彼女の返答に対して、自分は頷き、自分が出した答えを口にする。

 

「ダン・ブラックモアにとって、ロビンは英雄なんだよ」

 

 そう。彼にとって彼の相棒は決して卑しい暗殺者ではない立派な英雄なのだ。

 たとえロビン本人が否定しても、彼だけは決してロビンの誇りを蔑ろにはしないしさせない。

 

「だから彼は相手が外道でも無い限り、絶対に卑怯な真似はしないしさせない。だって彼は」

 

 それが例え、自分達本来の戦闘スタイルでは無いと分かっていても。

 それが例え、自分達が不利になるのだとしても。

 

「『誇り高く戦う』と決めたのだから」

 

 『誇りの為に』戦っていい。

 

 そう優しく諭すように語った時のダン・ブラックモアの姿と、その言葉に戸惑い、けれど最後には満更でもなかったと笑ったロビンの姿が思い浮かぶ。

 

「誇りの為に敢えて最良の戦術を捨てると?」

 

「ああ。人間にはそういう戦い方をする者もいる。命懸けの戦いで何を、と言う者もいるだろう。自分はむしろそっち側だ。生きるために、生き残る為に全力でどんな手でも使う。でもさ、思うんだよ。だからこそ死ぬ最後の瞬間まで、誇りや信念といった目に見えない何かの為に最後まで戦える人間は――カッコイイと」

 

 アーチャーを出現させる。

 もはやこの戦いでアーチャー以外を出すつもりは無い。

 だって向こうは正攻法で来るのだから。

 

「向こうが正々堂々、『英雄らしく』を貫くなら、逃げるわけには行かないよな『正義の味方(アーチャー)』」

 

『当然だ。行くぞマスター』

 

 そう、アーチャーが答えるように双剣を出して構える。その姿に頼もしさを感じながら正面に向き直る。

 この戦いに死者は出ない。ならば体力が続く限り何度でも挑もうじゃないか。

 そして今度こそ成そう。

 かつて、自分が弱かったが故に出来なかった正々堂々の戦いを!

 

 

 

 

 マーガレットは目の前の戦いを見詰める。

 目の前で行われているのはなんとも泥臭い戦いだ。

 読み合いはあれど駆け引きは無く。

 荒々しいが派手さは無い。

 

(けれど何故かしら、目を見張る物は無いのに……目が放せない)

 

 マーガレットは力を司る者であるが故に、最適で最良の戦術を持って相手を捻じ伏せる。それが彼女の戦い方だった。少なくとも今目の前で行われている無駄の多い戦い方はけっしてしない。

 だからこそ、マーガレットはこの一戦には価値があるのではないかと考えていた。

 

(感情を優先した戦い、きっとこの一戦は私が求める答えに辿り着くのに必要な一戦なのかもしれないわね)

 

 マーガレットは白野を見詰める。

 

 白野は額に汗を流しながら、一戦目とは違い戸惑いの消えた真剣な表情でダン同様に声を上げずにペルソナへと指示を出していた。

 

(一戦目よりも動きが良い?)

 

 マーガレットは一戦目よりも疲弊しているはずの二戦目で何故善戦しているのか、その理由を探る。

 

(……ペルソナへの指示速度が上がっている。つまり、白野の『集中力』と『読み』が深く鋭くなっている)

 

 ペルソナの戦いはどうしてもペルソナ使い自身の状況を読み解く集中力と先読みが必要になってくる。

 特に今回のような純粋な殴り合いであれば相手の動きを読んで二手三手思考を巡らせた方が素早く行動できる。

 もちろんそれだけではなく予期せぬ咄嗟の動きにも対応する必要があるが、白野は既にそれをこなしていた。

 

(思えば集中した時の彼の状況把握能力は凄まじい物がありましたね)

 

 ヴィジョンクエストを作る際に見た白野の過去の戦いを思い出す。

 サーヴァントへの指示やサポート、状況観察による機転と反撃、白野は生前その場その場で自分ができる『最善』を尽くして勝ち上がってきた。

 

(どうしてそれだけの事を成せたのか、いずれ解る時がくるかしら)

 

 マーガレットが視線を白野から再度戦うペルソナの方へと向ける。

 何度目かの攻防の末、ロビンフットの下から上に向かってかち上げるように放たれた回し蹴りの一撃を双剣で防いだ無銘の腕が上がり、上半身ががら空きになる。

 ダンが腕を振るう。そこまでは一戦目の流れと同じ。

 違うとすればダンが腕を振るうと同時に白野も腕を振っていたと言う事。

 

 それに答えるように、無銘の身体が補助スキルのオレンジ色の輝きを放つと、その手から双剣を消して弓を取り出す。

 

(ロビンフットの方が早い)

 

 マーガレットが冷静に分析する。

 弓を構え始めた無銘に対して、ロビンフットは既に矢を放つ体勢に移っており、その手から矢が放たれる。

 

「決めろアーチャー!」

 

 その一矢が届く前に、白野の叫びと共に無銘が単体物理攻撃スキルを発動し、無銘もまたその矢を放つ。

 

 白と紫が交差し、そして――白は標的を穿ち、紫は空を切る。

 

 ロビンフットの額は見事に打ち抜かれ、倒れると同時に霧散し、ダンもまた霧散する。

 それに続くように既に消え掛けていた無銘も完全に消え去り、汗だくの白野は仰向けに倒れながら何度も深呼吸を繰り返す。

 

 そんな白野の姿を見詰めていたマーガレットが無意識に一言呟く。

 

「素晴らしい」

 

(わざと一戦目の流れを再現するように一撃を受ける事で相手のスキルを誘発し、それを迎撃する。何よりも素晴らしいのはスキルを使用する為の自身の体力や精神力の把握能力)

 

 言葉では簡単だが相手の動きを理解していなければ、最初の一撃を思い通りに防ぐ事はできない。

 あの長い攻防で相手の動きのクセを見抜いたであろう白野の観察眼に、改めてマーガレットが感嘆の拍手と感想を送ろうとして、白野がその場から動かないのを見て早足に近寄る。

 

「大丈夫かしら?」

 

「正直、しばらく動けそうに無い。体力と精神力を搾り出すだけ搾り出したから」

 

 疲れたような荒い呼吸をしながら、それでも白野は嬉しそうに笑みを浮かべる。

 そんな白野の健闘を称えるかのように仰向けに倒れる彼の目の前でダン・ブラックモアとロビンフットが一つとなって新たなペルソナ、深緑の外套を羽織ったロビンフットが現れ、その姿を『Ⅸ』の番号が書かれたカードへと変化させて白野の身体に吸収される。

 

「おめでとう。また新たな力を得たわね」

 

「ああ。まあこんな状態じゃ締まらないけど」

 

 苦笑を浮かべる白野にマーガレットは『その通りね』と口元に笑みを浮かべつつ彼の傍に座るとその頭を持ち上げて自身の膝の上に置く。

 

「マーガレット?」

 

 意味が分からず戸惑ったような視線を向ける白野にマーガレットはいつもと変わらない笑みを浮かべながら答える。

 

「しばらく休んでいきなさい。そんな状態じゃ帰れないでしょ?」

 

「あ、うん。それはありがたいけど、なんで膝枕?」

 

「あら、私の膝枕じゃ休めないかしら? それともマイルームの頃のように冷たい床の方が落ち着くのかしら?」

 

「膝枕の方がいいです」

 

 初期の英雄王とのマイルームでの生活を思い出した白野は即決で膝枕と答え、そんな姿にマーガレットが愉快そうに笑う。

 

「じゃあ少し休むよ」

 

「ええ、おやすみなさい」

 

 目蓋を閉じて自分に身を委ねながら眠りに付く白野に対して懐かしい物を感じながら、マーガレットは彼の寝顔を眺め続けた。

 




と言う訳でダンさんとロビンでした。
このコンビはエクストラシリーズでもかなり好きなコンビなんですよ。
エクストラやった人は分かるけど、基本月の召喚は『相性召喚』な為、ガトーや白野等の例外を除いて基本的にマスターと相性が良い相手が選ばれます。(公正だけど公平じゃないって奴ですね)
この二人は特に似た者同士で、そんなダンさんだからこそ不利や不和を覚悟でロビンを諭し続けられたんだと思う。

因みに個人的にだけどエクストラでダンさんがラスアンみたいに手段を選ばなくなった場合、間違いなく本編で暗殺されていたマスターの数が増えていたと思う。(原作はダンが、ラスアンはロビンが戦い方を縛ってたから勝てたみたいなもんだし)



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【林間学校 前編】


大変お待たせしました。ようやく林間学校です。内容が内容なので後編と連続投稿です。
正直凄い難産だった。理由としては鳴上達が通う学校の林間学校の内容が自由過ぎてそれに理由付けするのが大変だったのと、彼女のキャラ的にここで行動しないのはおかしいだろうと行動させたはいいがその際の推理で自分の構想していた話の致命的な問題に気付いてそれをどうしようか悩んでいる次第です。尚その問題点は推理中に語られていますので気付く人は気付くと思います。マジどうしよう。



 周囲を見渡す。

 

 花村、完二の二人が顔を青くして項垂れ、千枝、天城は青い顔をしながらも期待の眼差しをこちらに向け、直斗は青い顔で自分の事を心配そうに見詰めてオロオロしている。

 そして間違いなく自分と同じ表情をしているであろう隣に座る鳴上と視線を交わす。

 

 きっとこれは天罰なのだろう。

 あの時、自分が注意していればこの悲劇は起きなかったはずだ。

 目の前のオドロオドロしいオーラを放つ物体を前に、数日前の出来事がまるで走馬灯のように脳裏を過ぎる。

 

 

 

 

 マーガレットとの訓練から数日が経過し、林間学校が近付くとモロキンに職員室に呼び出された。

 

「完二と直斗の面倒ですか?」

 

「ああ。巽完二も貴様の言う事は聞くらしいし、転校生の白鐘とも仲が良いと聞いているしな。ああ言っておくが白鐘は夜は女子のテントで就寝して貰うから変な期待はするなよ」

 

 モロキンの言葉に分かりましたと答えて職員室を後にし、放課後に二人と合流した時にその事を伝える。

 

「と言う訳で林間学校は一緒に行動する事になった」

 

「先輩と一緒なのは嬉しいっすね。つか、班決めの時に俺と一緒の班になったクラスの奴ら、まるでこの世の終わりみたいに青い顔しやがったんですよ」

 

 失礼っすよ。と憤慨する完二だが、ビジュアル的にも過去の逸話的にも完二の事をよく知らなければ仕方ない反応だと思う。

 

「班が決まっていなかった僕は昼間と夕方の食事は先輩と一緒に行動、夜は二年生か一年生で人数が少ない班のテントで就寝ですね」

 

「そっか。じゃあ当日の飯でも買いに行くか」

 

 林間学校の夕飯は基本的にカレーのルーとお米は学校側が用意しているが、具材は生徒が用意する事になっている。何故かと言えば林間学校の参加者の人数が安定しないからだ。

 学校側もこの行事に関しては意欲がゆるいのか、病欠という名のズル休みや、お菓子の持参も黙認されている。もちろんお菓子はテント外で食べているのが見つかれば没収である。

 そんな訳でゴミ拾いは大変だが友達とワイワイする分にはそこそこ楽しいイベントだと個人的には思っている。

 

「具はどうする?」

 

「普通でいいんじゃねっすか? 凝ったモンにして失敗したら悲惨っすからね」

 

「……あの、御二人は料理ができるので?」

 

 直斗が意外そうにこちらを見詰めるので完二と一緒に頷く。

 

「まあ普通に料理本通りには作れるよ。一人暮らしも長いし」

 

「つーか料理なんて本の通りに作れば普通に美味いモンができるだろ?」

 

 いや完二、それはお前だけだ。自分は何度か作らないと味が安定しない。

 完二の家事スキルの高さを羨ましいと思っていると、直斗が『ええまあその通りなんですが……』と自信無さ気に呟いた。

 

「もしかして直斗って料理した事が無い?」

 

「……仕事をするようになってからは基本的に出来てる物や外食が多くて、自分で一から作ったのは子供の頃に数える程しか」

 

 不安そうにする直斗に、ふむ。と呟きつつ腕を組んで少しだけ考えてから提案する。

 

「じゃあ今日の家の夕食にカレーを作ってみるか? 一回作っておけば安心できるだろ?」

 

「いいんですか?」

 

「うん。今日の夕食何にするか決めてなかったしね。それじゃあ買い物行くか」

 

「うっす! ついでに持って行く菓子も厳選しましょう。俺、おっとと持って行きます」

 

「はは、お前は本当におっとと好きな」

 

 完二の言葉に笑いながら立ち上がり、三人で一緒にジュネスへと向かった。

 

 

 

 

『エブリデイ、ヤングライフ、ジュッネス~♪』

 

 耳に残るジュネスの音楽が放送される食料品売り場を三人で回る。

 

「えっと、ルーは買ったし具材も買ったし、あとは菓子か。二人とも、自分は私用の物を買ってくるから菓子コーナーに先に行っててくれるか?」

 

「うっす!」

 

「わかりました」

 

 二人にカートを預け新しい籠を持って目的の場所に向かう。

 

 えっと先に調味料関係を……ん? アレは千枝と天城か?

 

 香辛料のコーナーの通路の奥、小麦粉のコーナーで見知った二人を見つける。

 二人はこちらに気付いていないようで手に籠を持ちながら『薄力粉』と『強力粉』を持っていた。

 

「小麦粉ってどっち使えばいいのかな?」

 

「強い方がいいよ。男の子いるし。そう言えばトロみを付けるには片栗粉が必要らしいよ。あとはリンゴとハチミツ?」

 

「え~それだと普通じゃない? そうそう、コーヒーを入れるとイイらしいよ。でもあたしコーヒー苦手だからコーヒー牛乳でいいよね」

 

「あ、じゃあシーフードにしよう。伊勢海老と帆立で」

 

「え~あたしは断然肉! そうだ、いっそミックスなんてどう? その二つとステーキのブロック肉なら別けられるでしょ」

 

「千枝、天才!?」

 

 驚く天城、胸を張る千枝、二人はそれはそれは楽しそうに喋りながらこちらに気付かぬまま去って行った。

 自分はそんな二人に声をかける事が出来なかった。というかそんな余裕が無かった。

 

 え、なに? 何作るの二人とも!?

 強力粉使うのに更に片栗粉も使う料理って何!?

 シーフードにブロック肉!? 鶏とかじゃなくて!? 

 つーかコーヒー牛乳はコーヒーの代わりにはならないよ!!

 

 頭の中は軽くパニックである。

 

「え、もしかして二人ってメシマズ勢?」

 

 千枝は確かに食べ専だが旅館の娘の天城もとは意外だ。

 

「ま、まあ材料的に料理の練習だろう」

 

 それを食わせられるであろう二人の家族に心の底から同情しつつ、ほんの少しの不安を感じながら買い物を続けた。

 

 

 

 

 なんて思っていたら自分がその対象になるなんて。どうして止めなかったんだ過去の自分は!

 

 走馬灯のような回想から目覚め、現実に引き戻される。

 先程までゴミ拾いしながら三人で学校生活の話題で楽しみ、夕食のカレーも上手く出来た。

 あとは皿に盛るだけという時に花村に声を掛けられ一緒に食べる事になった。

 そして千枝と天城が持ってきたカレー、アレらの材料を使った割りに何故かそこそこ見られる見た目になったそれを花村と完二は笑顔を浮かべながら一口。

 

『おぐ、あっぐぁ!?』

 

『うおぉあうあ!?』

 

 そんな苦悶の声を上げたと同時に二人は口の中の物を吐き出して倒れた。

 その後二人からの怒涛の不味いコールに、千枝達は『まだ分からないじゃん!』という台詞と共に生き残ったこちらへと期待の眼差しを向けた。

 

『止めとけよ。ネタで進めるのも躊躇うわ』

 

『先輩、マジで止めといた方がいっすよ』

 

 二人は真顔だった。その目はこれ以上犠牲者は出してはいけないという使命感に燃えていた。

 しかし、しかしだ、やはり他人に出された料理を一口も食べないと言うのは……自分的にありえない。

 

「「……いただきます」」

 

 自分と鳴上の言葉が同時に発せられる。どうやら向こうも覚悟を決めたらしい。

 二人揃ってスプーンで掬って一口。

 

 ――――ああぁぁ。

 

 なんかもうそんな嗚咽しか出ないくらいに不味かった。

 味は苦味と臭みしかない。たぶんルーの部分の大半が焦げ、魚介や肉の下処理が出来てない。そして食感はもっと酷い。米はべちゃべちゃやら芯が残ってジャリジャリ、材料なんて火が通ってない感じがする物まである。

 

 ……これ食ったら最悪食中毒になるんじゃないか。

 

 ちらっと、横を見る。

 この料理を作った二人の顔を見て……エリザベートの悲しそうな顔が脳裏を過ぎった。

 

 不味い。と語って言いのは――食べた奴だけだ!

 

「――んぐ!」

 

「ぶっは!?」

 

 根性と気合で飲み込む隣で鳴上が噴出して倒れる。

 

「鳴上!」

 

「鳴上君!?」

 

「えっ!? 白野飲んだの!?」

 

 おいこら千枝、お前そこで意外そうな顔するとは何事だ。

 

「……二人とも」

 

「「は、はい」」

 

 最後の気力を振り絞って告げる。

 

「料理のさしすせそからやり直し。それと味見は最低限の礼儀……だ……あう」

 

 身体が横に向かってふら付き、倒れる。

 

「せ、先輩!?」

 

「先輩!?」

 

 直斗と完二が慌てて駆け寄ってくる。ああ、二人とも良い後輩だなぁ……持ってきた腹痛用の薬は効くだろうか。

 

 そんな事を考えながら、自分はしばらくその場から動く事が出来なかった。

 

 

 

 

「いや~酷い目にあった」

 

「すね。何したらあんな酷いモンが出来上がるんだか」

 

 テントの中、いまもまだお腹に違和感を覚えながら完二と二人で『ははは』とひと笑いしたあと、同時にそちらへと視線を向ける。

 

「で、なんで直斗はここに来たんだ?」

 

「お前、見付かったら停学だぞ」

 

 そこにはなんとも居心地が悪そうにしている直斗の姿があった。

 

 あのカレー事件のあと、自分達が作ったカレーを千枝達にも分け、満腹とは行かないが少しは腹を満たしながらお互いに親睦を深めた。

 食後に千枝が直斗を自分達のテントに誘い、直斗がそれを了承して彼女達と同じテントに向かう事になってその場で彼女達と別れ、自分と完二だけでテントに戻った訳だが、何故か夜が深けてから直斗がテントにやって来たのだ。

 

「いえ、その、確かに里中先輩方のテントに招かれたのですが、里中先輩と天城先輩ともう一人大谷先輩という方がいらしたのですが、その、女性の方に対してとても言い難いのですが大谷先輩の、いびきが酷くて……」

 

「……そう言えば去年そんな噂を聞いた気がするな」

 

 大谷花子(おおたにはなこ)

 同じ学年の女子でその、良く言えばふくよかな体型、悪く言えば肥満体型な彼女は同学年では自信家であり健啖家でもあることで有名だ。

 そんな彼女と去年同じテントになった女子が寝不足で体調を崩したと言う噂を思い出した。

 

「因みに千枝達は?」

 

「先輩方は鳴上先輩方のテントに向かいました。朝早くに戻ればバレないだろうと。なら僕もと」

 

「まあそんだけ酷いイビキならセンコーのチェックもねぇだろうな」

 

 完二の言葉に確かにと頷きつつ自分達のテントも二人でしか使っていないので直斗一人増えた所で人数的には問題は無い。

 

「それじゃあどうする? 早起きするならもう寝るか?」

 

「いえ、その前に事件について話して置きたい事があります」

 

 直斗が真面目な顔でそう告げ、自分と完二も表情を引き締め寛いでいた姿勢を正して座り直す。

 

「何かあったのか?」

 

「はい。眠むれなかったついでに天城先輩に山野アナが泊まっていた時に接触した男性が居ないかを確認しました」

 

「まさか居たのか!?」

 

 完二の言葉に直斗が頷く。

 

「はい。山野アナの死体が発見される前の晩に『彼女の警護』として一人の刑事が訪れていたそうです」

 

 直斗がそこで言葉を切り、少しの間を空けてからその人物の名を強調するように告げた。

 

「名前は『足立透(あだちとおる)』。天城先輩が言うには今年の春に稲羽署に配属された新人刑事だそうです」

 




後書きは後編で!



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【林間学校 後編】

前書きは前編で確認を。


 直斗の『犯人は刑事(ヤス)』発言に驚きつつ、改めて彼女に尋ねる。

 

「直斗はその足立刑事と面識はないのか?」

 

「稲葉署には顔を出しましたが、まだ捜査に関わっている全員の顔と名前は把握していませんでした。天城先輩の話では彼は鳴上先輩の叔父である堂島さんの相棒として連続殺人事件を追っているそうです」

 

「マジかよ。てことは俺らを襲ったのもそいつって事か?」

 

「いや、それはどうだろう。流石に警察が天城や完二の家に車でやってきたら目撃情報くらいはあってもいいはずだ」

 

 自分の推理に直斗が頷く。

 

「ええ。少なくとも天城先輩が攫われたと思しき時間帯に警察関係者が天城旅館を尋ねたと言う情報はありませんでした。つまり山野真由美殺しに関してはもっとも犯人に近い容疑者ではありますが、同時にその後の誘拐事件ではもっとも容疑者から離れた人物、とも言えます」

 

「……現状で山野アナを殺せたのは足立刑事だけ。なら彼が犯人だと仮定して、その後の事件を改めて見直してみよう」

 

「では次の事件、小西早紀さんについて。彼女は警察で事情聴取を受け、その晩から行方不明になりました……調書では彼女は聴取を終えて帰宅した事になっていますが……」

 

「もしも聴取したのが足立刑事だとしたら彼が虚偽の調書を用意し、周囲には彼女は帰宅したと伝えればそれで済むな。取調室にテレビがあればの話だが」

 

「それは署に出入りできる僕が確認しておきます。しかし、そう考えると小西早紀さんを殺したのも足立刑事の可能性が高いですね」

 

 ますます足立刑事が犯人である可能性が高まり、自分と直斗の顔が険しくなる。何故なら調査に参加している現役の刑事が犯人ということは、現場の証拠の隠滅やその後の調書の虚偽も可能という事になるからだ。

 

「次に天城の誘拐だが、さっきも言ったが刑事なんて職業の人間が居れば周りの人間に目撃情報の一つくらいはあると思う。完二はどうだ? 誘拐当時に警察関係者とか来たか?」

 

 自分が尋ねると今迄会話に参加せずに話を聞いていた完二は話を振られると思わなかったのか、一度だけ驚いた顔をさせた後に腕を組んで当時の事を思い出そうとうんうん唸る。

 

「……いや、サツは来てねっすね。俺もあいつ等も互いに好く思っていないって言うか、そんな感じの関係なんで尋ねて来てたら流石に印象に残っていると思うっす!」

 

 完二の言葉に確かにと納得するように頷き返し、首を傾げて唸る。

 

「つまり足立刑事が犯人だった場合、山野アナと小西早紀は足立刑事の犯行だが、天城と完二は別人の犯行って事になるのか。いや、共犯者の可能性もあるか?」

 

「どちらにしろ足立ともう一人の犯人の両方が『テレビの中に入れる能力を保有している』という事になりますね。これは、元々厄介な事件でしたが更に厄介になったかもしれません」

 

 直斗も難しい顔で唸る。確かに唯でさえテレビの中なんていう不可思議な世界が関わっているのに現実で犯人が複数存在するかもしれないという可能性が出てきたのは、犯人を追うこちら側としては頭が痛い可能性だ。

 

「もうこの際本人に訊いちまうのは駄目なんすか? もしくはテレビに触れさせて能力が有るかどうかの確認だけでもしておくとか」

 

「いえ、それは危険でしょう」

 

 完二の提案に直斗が真剣な表情で首を横に振る。

 

「今回の事件の一番の問題は物的証拠が何も無い事なんですよ巽君。確かにテレビに触れさせて能力が有るかどうかの確認はしたいですが、しくじれば対策を立てられてしまうでしょうし、警戒もされてしまいます。出来ればある程度状況証拠が揃ってから行うべきでだと、僕は思います」

 

 直斗の言葉に完二がやっぱり駄目か。と肩を落とす。

 

「とりあえず、その足立刑事に注意して過ご、いや注意しても駄目なのか、ホント難しいな」

 

 相手は本職の刑事だ。こちらが注意したりすれば気付かれるかもしれない。

 漫画や小説の犯人や探偵ならきっと名俳優ばりの『何食わぬ顔』の演技も出来るだろうが、こちらはそんな演劇とは無縁の一般人だ。どうしたって意識してしまう。

 

「ですがまったく注意しない訳にも行きません。幸いお二人は彼との接点は殆どありません。それと外では事件の話をするのは止めた方がいいかもしれませんね。小さな町ですから何所から情報が漏れるか分かりません。一般的な学生生活を送りつつ、可能なら次の事件が起きた時に『複数犯の可能性』の確証を得たい所です」

 

「一番は誰も誘拐されない事だけどな」

 

 自分の言葉に直斗がそれもそうですねと、複雑な表情で頷く。恐らく事件は今後も続くだろうと予感しているのだろう。自分もそうだから彼女の気持ちは理解できる。

 

 もし本当に誘拐が前の二件の殺人と別人によるものなら、恐らくまたマヨナカテレビに誰かが映ればその人物が襲われる可能性が高い。

 だが同時に別人の犯行だからこそ、既に二回殺人に失敗している事から犯人が犯行を止める可能性も残っている。

 

 成り行きを見守るしか出来ないっていうのは歯痒いな。

 

 内心でそんな事を考えていると、不意に外で物音がした。

 

「見回りか? 完二、明かりを消してくれ。直斗は毛布に包まって寝てくれ、荷物で少しでも見え辛くしておくから」

 

「うっす!」

 

「分かりました」

 

 自分と直斗が荷物で死角を作り、それが終わると完二がランタンの明かりのスイッチを切る。

 テントの中が真っ暗になり、しばらくすると足音らしき音が大きくなる。

 近場のテント一つ一つに確認の声かけが行われる。声からしてどうやらモロキンが見回って居るらしい。

 そしてついに自分達の番になる。

 

「おーい。もう寝てるか」

 

「はい、寝てます」

 

「寝てないじゃないか! いいからさっさと寝ろ。ああ、それと巽完二はいるか?」

 

「……うっす。」

 

 相手がモロキンだからだろう。完二が嫌々な感じに短い返事を返す。

 

「ああ、居るな。いいか、出回っているのを見かけたら即刻停学だからな。大人しく寝ろよ」

 

 何か言いたそうな完二の肩を叩いて落ち着かせる。まったく一言多い先生だ。

 結局とくに中を確認する事もなくモロキンは去っていった。去り際に『早く酒盛りしに戻りたい』なんて呟きが聞こえたから、おそらく軽く酔っているのかもしれない。

 モロキンが去ってからもしばらく身動きせずにじっとし、足音が完全に聞こえなくなってからランタンを付ける。

 

「ふう、行ったな。まあ夜も遅いし、いい加減寝るとしようか」

 

「そっすね。嫌な気分は寝て忘れちまうに限る」

 

「とりあえず荷物で直斗と自分達を分けて――」

 

 それから軽い雑談をしつつ直斗と自分達を遮るように荷物を並べて三人で就寝する。昼間の清掃で身体が、先程までの推理で脳が疲れていたのか、横になるとすぐに睡魔に襲われ数分と経たずに眠りに付いた。

 

 

 

 

 白野達が眠りについた頃、諸岡の見回りをやり過した悠達のテントでも事件の話で盛り上がっていた。

 

「――でね、白鐘君から尋ねられて足立さんが来た事を伝えたの」

 

「足立さんが?」

 

 悠が意外そうな表情で驚く。

 

「なんでも署の命令で彼女の身辺警護の為に来たんだってさ」

 

「まあ当時テレビで騒がれていたしな。芸能人の相手も大変って事か」

 

 千枝の言葉に陽介が同情を含んだ返事をする。

 

「もしかして足立さんが犯人、とか?」

 

 雪子が顎に手を当てながら呟き、それを聞き取った陽介と千枝が笑う。

 

「あははは、天城流石にそれはないっしょ」

 

「だよね。なんかやる気のない感じで頼りない感じだし。それにほら、私達が初めて足立さんに会った時も遺体を見て吐いちゃってたし、殺人なんてする度胸は無いって。ねえ鳴上君?」

 

「……そうだな。思い返しても家に叔父さんと一緒に来る時も普段と変わらない感じだった」

 

 三人の言葉に雪子も普段フードコートでサボる彼の姿を思い出し、それもそうかと納得する。

 

「それで実際の探偵の意見とかって聞けたのか? それともやっぱ守秘義務とかで言えない感じだった?」

 

 足立の話を早々に切り上げた陽介はむしろ夕食時に直斗が探偵である事を知り、彼女の今回の事件についての見解の方に興味があった。

 

「流石に詳細は教えて貰えなかったけど『自衛の為に何か注意とかない?』って言ったら来客時に玄関を開ける前に必ず相手を確認してから開ける事、それと出来るだけ外では一人で出歩かないようにって言われたわ」

 

「あーと、つまり普通に犯罪者への注意的な?」

 

「いや……」

 

 陽介の言葉に悠が待ったを掛け、しばらく考え込んでから直斗のある言葉に疑問を持つ。

 

「……扉を開ける前に相手を必ず確認する。なんて注意するって事は白鐘の推理では今迄の犯人は玄関からやって来た可能性が高いって事なんじゃないかな?」

 

「え、マジで? 玄関からピンポーンって?」

 

「――あっ!」

 

 悠と陽介のやり取りから雪子は何かを思い出したのか、大きな声を上げて目を見開く。

 

「ど、どうしたの雪子?」

 

「鳴ったかもしれない」

 

「鳴った?」

 

「チャイム。うん、鳴ったと思う。それで私が出た、と思う」

 

「え、マジで犯人玄関から『こんにちは』したってこと!?」

 

 雪子の言葉に全員が犯人の大胆な行動に驚きを隠せず慄く。

 

「で、でもさ。それなら犯人の目撃者が居てもいいんじゃない?」

 

「いや、そりゃつまり逆説的に『怪しくない顔見知り』って事になるんじゃないか? この町小さいし、他の場所から来た奴なら逆に目立つだろ」

 

「つまり犯人はこの街に住んでいる人間で確定って事か」

 

「となると、最初の事件の関係者が狙われるっていう当初の推理はやっぱハズレって事か」

 

「あとはどうやってテレビに入れたのかだよね。もし玄関から来るならテレビなんて近くにないし」

 

 千枝の言葉に悠は先程と同じようにしばし考えてから口を開く。

 

「車を使ってる、とか?」

 

「ああなるほど、常に持ち歩いているのか。でもさ人一人を、それもあの巽完二を入れる程だとそこそこ大きいテレビにならねえか?」

 

「少なくとも荷台が剥きだしのトラックは目立つよね。後部座席も人を入れる時だと逆に手間取りそうだから、やっぱり荷台部分が大きい車種だと思う」

 

「じゃあ今後はマヨナカテレビに映った人物の近くに止っている車にも注意だな」

 

 陽介の言葉に全員が頷き、今度の方針も纏まったため彼等も白野達と同じように眠りに付いた。

 

 




一年組と二年組での足立に対しての印象の違いはまさに『知人か他人か』という主観の印象の違いによる物ですね。
そしてようやく二年組も原作の推理段階まで持ってこれました。
次回からはりせ編ですが、まだちゃんとプロット最後まで出来てないのでとりあえず気長にお待ちを。いやまぁ、りせは一年組に入れるのは確定なんでその辺りは問題ないんですが、ぶっちゃけクマが問題なんですよねぇ……。



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【久慈川りせとの再会】

ようやくりせ編です。
色々下調べしてたら時間が掛かった。
ぶっちゃけこの導入の話が一番時間掛かった。



 林間学校から数日が経った。

 

 あれから直斗が稲羽警察署で足立刑事が署に居ない時を狙ってそれと無く取調室を確認しに行ってくれた。

 そして取調室にはテレビが有った。

 直斗の話では小柄か痩せ型の女性なら放り込めそうなサイズとの話だ。

 

 やはり足立刑事が犯人? しかし動機は? もしかして山野アナと過去に何かあったとか?

 

 新しい情報をノートに書き写し終えた所で今晩の夕飯を作ろうとして豆腐が切れている事に気付く。

 

「ありゃ。今日は麻婆豆腐が食べたい気分だったのに」

 

 それも激辛の。時折無性に前世で食べた購買の激辛麻婆豆腐が食べたくなる。味は違うがそれでも激辛で尚且つ美味しく作れるようになるのには苦労したなぁ。

 

『それじゃあ買いに行くの?』

 

 ヒノの言葉に時計を確認する。今から行けば間に合うかな?

 

「じゃあ買いに行くか」

 

 こちらの言葉にヒノが『お買い物だ!』とはしゃぐ。なんとも微笑ましい。本当に兄弟が増えたみたいだ。弟か妹かは分からないけど。

 ヒノの嬉しそうな反応にこちらも自然と笑顔になりながら丸久さんへ向かう。

 

 

 

 

 丸久さんの前に到着する。店はまだ開いているようだったのでそのまま入店する。

 

「あら白野ちゃん、いらっしゃい」

 

「こんにちはお婆ちゃん。絹豆腐ってまだ有る?」

 

「有るわよ。いつもありがとうね」

 

 マル久豆腐店を一人で切り盛りしている店主であり豆腐職人でもあるマル久のお婆ちゃんが、いつもの柔和な笑顔で対応してくれる。

 豆腐が美味しいのは勿論だがお婆ちゃんも好きだから自分はここによく買い物に来ている。かれこれ十年近い付き合いだと思う。

 

「そうそう。ねえ白野ちゃん、明日って時間空いているかしら?」

 

「明日ですか? 特に予定も無いですけど何かお手伝いですか?」

 

 お婆ちゃんは身体の方は健康そのものだが、それでも一人では大変な時もあるだろうと『力仕事はもちろん何か困った事があったらお手伝いしますよ』と伝えてある。何回か大掃除や店番を手伝った事もある。

 

「白野ちゃんはりせちゃんの事は覚えているかい?」

 

「ええ。あの可愛いくて大人しそうな子ですよね」

 

 数年前までお婆ちゃんの家族はお盆の時期にこちらに数日だけ帰省していた。その時に自分と同い年くらいの女の子がいて一緒に遊んであげたのを覚えている。

 親が厳しいらしくて服が汚れるような遊びは出来なくて、お婆ちゃんの家で一緒にあや取りや折り紙、あとは近所を一緒に手を繋いで散歩とかしたくらいか。

 

「そのりせちゃんが久しぶりに帰ってくるから一緒に駅に迎えに行って欲しいのよ。りせちゃん暫くはこっちで暮らす事になるみたいでねぇ。たぶん学校は白野ちゃんと一緒の所に通う事になるから、白野ちゃんさえ良ければ色々と面倒を見てあげて欲しいの。りせちゃん、こっちじゃ知り合いなんて私だけで不安だろうから」

 

 なるほど。確かにこの時期に転校してくるとなると友達を作るのも大変だろう。

 

「分かりました。そう言う事なら喜んで」

 

 笑顔で承諾するとお婆ちゃんも嬉しそうに笑顔を浮かべる。

 

「ありがとうね。迎えに行く時間は――」

 

 それから明日の予定を色々と話し合って目的の豆腐を買い、ついでに御礼として残っていたお惣菜も幾つか頂いてしまった。

 

『りせちゃんってもしかしてりせちー? わー! 本物に会えるの?』

 

 嬉しそうにしているヒノに、そうだね。と答えつつ別の事を考える。

 

 確かりせちゃん、映画の主演が決まっていたような気がするんだけど、大丈夫なのかな?

 

 ヒノと一緒に見た番組でアナウンサーがそんな事を言っていたのを思い出す。

 

 ……まあ何か理由があるのかもな。

 自分には想像すら出来ないため、りせちゃんに会うのを楽しみにしているヒノの話を聞きながら帰宅し、さっそく買ってきた豆腐で激辛麻婆豆腐を作り食べる。

 

 そして食事を終え満足感に浸っている時に、はたと気付く。

 明日、それも数年ぶりに会う女の子相手に、この香辛料マシマシな激辛麻婆豆腐の口臭は失礼になるのでは?

 せめて少しでも抑えるためにその日は牛乳を飲んだり入念に歯磨きをしたりしてから就寝した。

 

 

 

 

『ドキドキ、ワクワク!』

 

 学校が終わり私服に着替えてからお婆ちゃんを迎えに行き、一緒に駅までやってきた。

 生憎の雨で駅前のベンチには座れなかったので改札口前でお喋りして過ごす。その間もヒノは今か今かとそわそわしっぱなしだ。

 

『電車がまいります。黄色の線の内側まで御下がり下さい』

 

「あ、着ましたね」

 

 乗降場から響くアナウンスに視線を上げる。

 ガタゴトと言う響と共に見慣れた電車が改札口の向か側に現れ、しばらくして停車する。

 降りて来たのは手にキャリーバックを持ち、サングラスを掛け髪をツーサイドアップにした少女一人だけだった。おそらくあの子がりせちゃんだろう。

 

「あ、お祖母ちゃん。と……」

 

 りせちゃんは少々困惑、というか若干警戒したような仕草をしつつこちらに近付く。恐らくだが迎えに来るのはお婆ちゃんだけだと思っていたのかもしれない。

 

「久しぶりねりせちゃん。また可愛くなったわねぇ。あ、それと覚えているかしら、子供の頃によく遊んでくれ白野ちゃんよ」

 

 マル久のお婆ちゃんがいつもの笑顔を浮かべながら彼女を向かえ、その後自分の事を紹介されたので軽く頭を下げる。

 

「えっと、久しぶり、りせちゃん」

 

「あ、うん。久しぶり……久須美さん」

 

 なんともぎこちない挨拶を交わす。

 いや正直なんて話しかけていいか迷う。数年ぶりに会った年頃の女子との共通の話題なんてすぐには思いつかない。

 りせちゃんも久須美さんなんて他人行儀だし。子供の頃の記憶が正しければ白野君だったはずだ。

 因みにヒノは先ほどから『本物のりせちゃんだ!』とか『やっぱり可愛い!』と大はしゃぎだ。

 

「それじゃあ行こうかね」

 

「「あ、うん」」

 

 お婆ちゃんが傘を差してニコニコ笑顔のまま一人で先を進んでしまったので、自分とりせちゃんは戸惑いながらも並んで一緒に付いて行く。

 

「えっと、そう言えばこの時期にこっちに来るのって始めてだよね。少し前に映画の主演が決まったってテレビで言っていたからお婆ちゃんからこっちに来るって聞かされて驚いたよ」

 

「……昨日のニュース、見てないの?」

 

 りせちゃんがサングラスを外してこちらに探るような視線を向ける。

 

「昨日? あっとごめん、見てないや。お婆ちゃんからりせちゃんを一緒に迎えに行く事になったからすぐに身支度整えて寝ちゃって。あ、あとちょっと口臭が気になってそっちばかり気にしてた」

 

「口臭?」

 

 なんでそこで口臭と言いたげに首を傾げる彼女に昨日の夕食の事を告げる。

 

「いやぁ、女の子に会うのに昨日思いっきり激辛麻婆豆腐作って食べちゃって……」

 

 後ろ頭を掻きつつ思えば自意識過剰だったかなと少し恥ずかしくなって照れてしまう。

 隣のりせちゃんは話を聞き終えると過去の記憶を思い出そうとしたのか首を傾げながらしばらく間を置いてからこちらに向き直る。

 

「久須美さんって、辛いの好きなの?」

 

「うん好きな方だと思うよ。元々美味しければ極端に辛くても甘くても行けちゃう方なんだけど、時々無性に凄く辛い物のが食べたくなるんだよね。特に麻婆豆腐が好き。そう言うりせちゃんは辛いの好きなの?」

 

「私も辛いのは好き。アイドルしてた頃はキャラとか体型とかで殆ど食べられなかったけど。でもそっか、もうそう言うの気にしなくてもいいんだ」

 

 そう言ってどこか疲れたような笑顔を浮かべながら視線を下げるりせちゃん。今のやり取りでなんとなく彼女がこの町に着た理由に当たりがつき、少し迷ったが尋ねる事にした。

 

「えっと、もしかしてりせちゃん、アイドル辞めたの?」

 

「……私は辞めるつもり」

 

『えー!? りせちゃんアイドル辞めちゃうの!?』

 

 さっきまで嬉しさで騒いでいたヒノが今度は驚いて騒ぎ出す。

 

 はいはい、ヒノは落ち着くように。とりあえず今はりせちゃんと大事な話の最中だから。それにりせちゃん本人とはこれからも会えるんだから別に気にならないだろ?

 

『あ、それもそうだね!』

 

 驚き悲しんでいたヒノだったが、これからもりせちゃんに会えるのを思い出してようやく落ち着く。

 

「……ねえ、久須美さんはなんで今日、お祖母ちゃんと一緒に来たの?」

 

 ヒノを落ち着かせるために間を置いた事で何を思ったのか、りせちゃんは少しだけ眉を顰め、こちらを探るような視線を向けつつそう尋ねる。

 

「昨日、お婆ちゃんにりせちゃんがしばらくこっちで暮らすから色々面倒を見て欲しいって頼まれたんだよ。学校も同じになるだろうし、知り合いもいないからって」

 

「それ、どうせ私がアイドルのりせちーだから引き受けたんでしょ?」

 

「いやアイドルどうこうよりも、りせちゃんだから引き受けたんだけど?」

 

「え?」

 

 分かってるんだから。といった感じの表情で尋ねてきた彼女に対して、自分は何故そんな事を尋ねられたのかいまいち理解できずに思ったことをそのまま返答すると、今度は彼女の方が戸惑った表情をさせる。

 

「う~ん、上手く言えないんだけど……アイドルだろうが、アイドルじゃなかろうが、りせちゃんはりせちゃんだろ? 少なくとも自分にとっては子供の頃からの知り合いな訳だから手助けできる事があるなら手助けしてあげたいなって」

 

「アイドルじゃなくても私は私……」

 

 自分の言葉の何かが気になったのか、りせちゃんはそう呟き、先ほどまでとは違ってどこか戸惑ったような表情をさせる。

 

「だからその、困った事があったら遠慮なく頼って貰えると、先輩としてはあの頃の関係に戻ったみたいで嬉しい、かな」

 

 最後の方はもう自分の願望というか要望になってしまったが、とりあえず言いたい事は言い切ったので彼女の反応を待つ。

 しばらくりせちゃんと視線を交し合うと、彼女はちょっと頬を赤くしながら視線を前に戻した。

 

「そっか……うん、ありがとう先輩」

 

「先輩?」

 

「その、流石にこの歳で年上の人を君付けで呼ぶのは恥ずかしいって言うか。だからとりあえず先輩かなって」

 

 ちょっと恥ずかしそうにそう告げる彼女にこちらは苦笑を浮かべる。

 

「確かに。そっちの方が苗字でさん付けされるよりずっといいかな」

 

「だ、だってお祖母ちゃんしか出迎えに来ないと思ったらもう一人いる上に、何年も会ってなかったからすぐに先輩って分からなかったし、それに子供の頃の記憶の先輩と変わらないか分からなかったし……」

 

 ぶつぶつと文句を言いながら頬を膨らませるりせちゃんの反応が子供っぽく、それが歳相応でつい笑ってしまう。

 

「ははは。まあこっちも久しぶりで緊張していたからお互い様だな。でもまあとりあえず、これからよろしく、りせちゃん」

 

「あ、うん。よろしく、先輩」

 

 お互いにまだ少しぎこちなかったが、それでも再開した時よりはあの頃の様な距離感へと近づけた気がした。

 それから少しアイドル関係の話題を意図的に外しながら世間話や個人的近況の話をしている間にマル久豆腐店に到着する。

 

「あ、もう着いちゃった」

 

「ふふ。りせちゃんが楽しそうで良かったわ。やっぱり白野ちゃんに頼んで正解ね」

 

 店に着くとずっとこちらの話を黙って聞いていたお婆ちゃんが嬉しそうに笑い、りせちゃんはどこか恥ずかしそうだ。

 

「それじゃあ、自分はもう家に帰るけど何かあったら遠慮無く言ってくれ。連絡先はお婆ちゃんが知ってるから」

 

「ふふ、うん。分かった」

 

 りせちゃんと互いに挨拶し別れようと思ったその時、伝えておかなければいけない事を思い出す。

 

「そうだ。りせちゃんマヨナカテレビって知ってる?」

 

「マヨナカテレビ……えっと確か雨の日の零時に映るって噂だよね。殺人事件の話が上がった時にネットに一緒に書き込まれていたって誰かから聞いた気がする」

 

「りせちゃんの住んでた所では見た人は居ないの?」

 

「うん。もし見てる人が居たらもっと噂になってたと思う」

 

 という事はマヨナカテレビはこの町周辺限定で起きている現象って事か?

 

「えっと実は――」

 

 自分は殺人や誘拐、テレビの中については伏せたまま知る限りのマヨナカテレビに関する情報をりせちゃんに伝える。

 

「へーそんな内容なんだ」

 

「ああ。何か映ったら教えてくれ。それと殺人事件も起きてるから、来客があったら必ず相手を確認するようにね」

 

「大丈夫。そのあたりの事には慣れてるから」

 

 そっか、りせちゃんアイドルだもんな。そのへんの防犯意識は一般人の自分達よりもしっかりしているか。

 

「それでも気をつけて。それじゃあまた」

 

「うん。またね先輩」

 

 今度こそ手を振ってりせちゃん達と別れて帰宅した俺はテレビをつけてニュースを観る。

 その番組では『久慈川りせ突然の長期休業』というテロップと共に昨日開いたらしい記者会見の様子が映し出され、その後どうして彼女が休業したのかをコメンテイターがあれこれ言っていたが、その内容は耳に入らずテレビを消して溜息を吐きながらソファーに座る。

 

『りせちゃん、元気無かったね』

 

 ああ。

 

 ヒノの言葉通り会見でのりせちゃんはとても疲れた様子だった。

 何か悩みがあったのか、それとも身体的な疲労の延長線上でのストレスか、他の理由か、それはいまだ社会に出て働いた事すらない自分では想像すら出来ない事だ。

 

 そんな想像できない世界で、りせちゃんは今日まであの小さな身体で立派に立って生きて来た。それだけで自分は十分に彼女を尊敬できるし褒め称えたい気持ちになる。

 

 とりあえず自分達に出来るのはりせちゃんと一緒に遊んだりごはん食べたりして過ごして、少しでも笑顔になって貰う事くらいかな。そうすればきっとりせちゃんもまた笑顔を向けてくれるさ。

 

『そっかぁ。あーあ、ボクもこっちで過ごせたら、りせちゃんやお兄ちゃん、直斗お姉ちゃんや完二お兄ちゃんと過ごせるのになぁ』

 

 ヒノがとても残念そうにそう呟く。

 確かにヒノの身体の方もできれば何とかしたいが、こればっかりは自分ではどうにも出来ない。

 

 そう悲観する事ないさ。あのよく分からない火の玉を手に入れる度に、ヒノは色々変化してる。もしかしたら向こうの世界でなら会えるようになるかもしれないだろ?

 

『うん。そうなったらいいなぁ』

 

 ヒノの渇望するような呟きを聞きながら、少しでも元気付けようと今日はいつも以上に積極的にお喋りし、そしていつものマヨナカテレビの時間がやって来た。

 

「――やっぱり」

 

 その日マヨナカテレビに映ったのは、久慈川りせだった。

 




下調べで出てきた一番の問題点↓
【りせちゃん来たタイミングと移動手段】
いやホント、凄い悩んだ。車か電車かで最後まで悩みました。
結局一番展開を進めやすい電車にしました。
と言う訳でりせちゃんとは他の一年同様に最初から友好的な関係で開始!



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【思い掛けない二つの遭遇】

 小型液晶テレビ、高かった……サンキュッパだった……。

 

 箱から取り出した小型テレビを見詰めながら予想外の出費に心の中で溜息を吐く。

 

「うん、まあ何か天災があった時に役立つから無駄な買い物って訳ではないか」

 

「そんなちっこいので三万以上って凄いっすね」

 

「機能や性能を考えればお値段相当かと。テレビにラジオ、充電と電池両方に対応で防水加工もされているみたいですし」

 

 直斗が少年の様な純真な目で自分が持つ小型テレビを見詰める。

 

「直斗は機械に詳しいのか?」

 

「え、ええまあ。子供の頃は簡単なギミックの探偵グッズを自作したりもしていましたから」

 

「いや、それ普通に凄いと思うんだけど」

 

 直斗の多彩さに驚きつつ、背後から見えないよう自分の身体でテレビを隠し、周りを見回して誰も見ていないことを確認してからテレビの画面に触れる。

 

 軽い抵抗の後、掌が画面に沈み込む。どうやらテレビならサイズは関係無く能力は発動するらしい。

 手を画面から抜き出してからテレビを鞄に仕舞う。これでテレビに入る能力が有るどうかを判別する事が出来るようになった。

 

 あとは使う機会に恵まれるかどうかだな。

 

「確認したい事はしたし、このままマル久さんの所に行こう」

 

「はい」

 

「了解いっす!」

 

 りせちゃん大丈夫かな。

 

 今朝の事もあり、りせちゃんの事を心配しながら三人でマル久さんへと向かった。

 

 

 

 

 マル久さんに到着する。ここに来るまでに色々な噂を耳にした。

 りせちゃんが居るのはガセネタだとか、商店街に沢山の車が止められ交通の邪魔だからと警察が交通整備をしているとか。

 

「なるほど。交通整備しているから商店街の人通りが朝よりも少なくなっていたのか」

 

「まあいいじゃねっすか。そのりせって奴にも早く会えますし」

 

 確かに完二の言う通りだ。

 何人かが見せの前を通り過ぎる際にマル久さんの店内を覗いているが積極的に中には入って行こうとしない。

 

「しかし店の前に警官の方が居ませんね?」

 

「交代の時間とか?」

 

 交通整備しているらしい警官が居ない事を訝しみながら入店する。

 

「あら白野ちゃん、いらっしゃい」

 

「こんにちはお婆ちゃん。りせちゃん居ますか?」

 

「りせちゃんならあっちよ」

 

 店内で作業していたマル久のお婆ちゃんが店の奥の方の作業場を指差す。

 なるほどあそこなら入口からは見え難いから買い物する客以外には見付からないな。

 

「おーい、りせちゃん」

 

「あ、先輩」

 

 近付いて声を掛けると少しだけ疲れた様子の彼女がこちらに振り返る。

 

「買い物のついでに様子を見に来たよ。あと、こっちの二人はりせちゃんの同じ一年生の巽完二と白鐘直斗、二人とも良い子だから紹介してようと思って。ほら、完二から自己紹介」

 

「え!? あ、あ~巽完二」

 

「白鐘直斗です。よろしく」

 

「因みに直斗は男子の制服だけど女の子だから、自分や完二に相談し難い事なんかは彼女に相談するといいよ」

 

「え、女の子だったの?」

 

 りせちゃんが驚いた様子で直斗を見詰め、直斗は少し恥ずかしそうにしながら目を逸らす。

 

 ここは話題を変えた方がいいかな?

 

「まあ色々とね。そう言えばなんか警察が交通整備をしているって聞いたけど?」

 

「うん。さっきまで凄かったけど今は落ち着いてる。あ、そうだ先輩」

 

「何?」

 

「マヨナカテレビに映った人が『誘拐される』ってホント?」

 

 ――ドクンと、心臓が大きく鳴った。

 

「失礼、久慈川さん。その話、どなたからお聞きしたのか教えて頂けますか?」

 

 自分よりも先に驚きから復帰した直斗が尋ねる。流石は本職の探偵だ。

 

「えっと、少し前に来た二人組の男子学生からだけど」

 

「確認ですが、『失踪』ではなく『誘拐』と言ったんですね?」

 

「うん」

 

 真剣な表情で尋ねる直斗にりせちゃんが頷いて答える。

 

「先輩」

 

 直斗が緊張した様子でこちらに振り返り、たぶん同じ表情をしている自分もまた頷く。

 天城と完二の失踪事件を誘拐事件だと断定できるのは『テレビに人を入れられる』という事実を知っている者だけだ。

 

「あのりせちゃん、このあと時間を貰えないかな?」

 

「えっと……」

 

 りせちゃんがお婆ちゃんの方を見る。

 

「いいわよりせちゃん。みんな家に上がって貰いなさい。よく分からないけど大事なお話みたいだしね」

 

「う、うん分かった。じゃあみんなこっちから家に入れるから」

 

「ありがとう。それとごめんねりせちゃん。自分自身の事で色々と大変なのに……」

 

 申し訳なく思い謝罪する自分に、りせちゃんは首を横に振って答える。

 

「別に気にしないで。一人で居ても色々考えちゃうし。それに三人共凄い真剣な顔してたもん。流石に断れないし、私にも関係する話なんでしょ?」

 

 りせちゃんの言葉に頷いて返すと彼女も頷き返してみんなでお店と自宅に繋がっている出入り口から自宅に上がらせて貰う。

 

 みんなで居間に集まるとりせちゃんがみんなにお茶を配り、彼女が座るのを待ってから出来るだけ外に聞こえないように声の大きさに注意しながら昨日暈していた部分の全てを伝える。

 

 マヨナカテレビに映った人物が狙われている事。

 二件の殺人事件の後も犯人よって二人の人物が狙われ殺されかけた事。

 犯人の殺害方法が『テレビの世界に放り込まれる』という事。

 

「……テレビの世界?」

 

「うん。そういう反応をすると思ったよ」

 

 りせちゃんがテレビの世界関連の話題に移った瞬間に、真剣だった表情からこちらを疑うような表情と視線に変化する。

 

「りせちゃん、この画面にちょっと触ってそのままにして貰える」

 

 そう言って立ち上がってりせちゃんに居間にあるテレビに触る様に頼む。

 最初は鞄に入っている小型テレビで説明しようかと思ったが、彼女の家のテレビの方が説得力が増すと思い、そちらに変更した。

 

 りせちゃんは表情はまだ訝しんだままだったが、それでも立ち上がり指示通りに画面に手を置いてくれた。それを確認してから自分も画面に触れると、いつものように画面が歪み彼女と自分の手が沈む。

 

「きゃっ!?」

 

 りせちゃんが慌てて手を引き抜き自分の手の無事を確認した後、数回自分の手とテレビの画面を交互に見る。

 

「え、今の何? 手品?」

 

「いや違うよ……というかタネを仕込んでる暇なんてなかったでしょ?」

 

 そう言って自分も手を抜く。

 りせちゃんは元に戻ったテレビの周りを見たり触ったりして確認し、最後にもう一回画面に触れるも手は沈まない。

 その状態で自分がもう一度触れてもう一度沈む事を確認させると、りせちゃんは今度は手を抜かずに更に肘辺りまで沈ませてその先を確認するように動かす。

 

「なんか、画面の境界線は水みたいな抵抗感があるけど、その先は普通に空洞っぽい?」

 

「どうかな、少しは信じて貰えたかな?」

 

 自分の言葉にりせちゃんは小さくではあるが頷いて答える。

 

「うん。まだ色々納得してないけど、とりあえず今までの被害者は私みたいに腕だけじゃなくて身体ごとこの中に入れられちゃったって事だよね?」

 

「ああ。そして向こうの世界にはシャドウっていう化け物が居て、それに殺されるとこっちに変死体として戻されるんだ。犯人がシャドウの存在を知っているかは分からないけど、少なくとも山野アナが死んだ時点でテレビに人を入れると死ぬと言うのは理解しているはずなんだ。なのに今も犯行を行っている。正直、危険な相手だと思う」

 

「警察に事情を説明するんじゃ駄目なの?」

 

「能力を知られて逆にこちらが疑われて拘束される可能性もありますから迂闊に説明が出来ないんですよ」

 

 りせちゃんの言葉に直斗が説明する。

 

「それとこれまでの推理で犯人は男性で車を使用している。そして車にテレビを乗せている可能性があります。ただ単独犯なのか複数犯なのかまでは断定できていません」

 

「ああ、だから誘拐って教えに来た二人組を疑ってるんだ。でも普通、襲う相手に忠告なんてするかな?」

 

「そこなんだよ。自分達と同じでテレビに入れる能力を持っただけの連中か、それとも犯人側の人間で何かを狙っているのか……」

 

 更には足立刑事の存在に、殺人事件と誘拐事件は別人の犯行の可能性と、はっきり言ってこれ以上推理を進めるには情報が足りない状況だ。

 

 せめて足立刑事が誘拐事件の犯人ではない事が分かれば新しい推理も可能なんだが。

 

「……とにかく、これからは他人と接触する場合は今まで以上に気をつけて。この完二も家の中に居たのに、来訪した犯人にテレビに入れられたくらいだから」

 

「えっ嘘!?」

 

 りせちゃんがありえないとばかりに目を見開いて完二の方へと勢い良く振り返る。

 

「……これが負けたの?」

 

「これとか言うな! 不意打ちだったんだからしょうがねーだろうが!」

 

「そう。完二が不意を突かれる相手なんだ。恐らくだけど犯行の手口は玄関から尋ねて、家の人が出てきた所をって感じだと思うからりせちゃんも誰かが来たら必ず相手を確認してから対応して」

 

「う、うん。でももし犯人に捕まったら……」

 

「その時は必ず自分達が助けに行くよ。自分達なら向こうとこっちを行き来できるし、シャドウとも戦えるからね」

 

 そう言って不安そうにする彼女をなんとか安心させようと、表情を引き締めてしかりとりせちゃんの目を見て大きく頷いて見せる。

 

 こちらの答えを聞いたりせちゃんは、しばらくこちらを見詰め、少しだけ安心できたのか小さく微笑んで頷いた。

 

「うん。それじゃあもしもの時は助けてね、先輩」

 

「ああもちろん」

 

 笑顔で頷き返す。

 話が一段落し、他に何か忠告しておく事はと考えていると、マル久のお婆ちゃんが戸を開けてやって来た。

 

「お話中にごめんね。りせちゃん、交通整備していた刑事さんが何かお話があるみたいなのよ。少しだけいいかしら?」

 

「あ、うん分かった。それじゃあちょっと行って来るね」

 

「いやとりあえずこっちも伝えたい事は伝えたし、帰るついでに一緒に行くよ。靴、向こうだし」

 

 そう言ってみんなで店に戻って行く。

 店には無精髭を生やした体格の良い刑事と少し猫背でなよっとした感じの刑事が並んでいた。

 

「堂島さんと足立さん」

 

 直斗が驚き声を上げる。

 

「白鐘直斗? なんでここに?」

 

「こちらの先輩の付き添いです。そちらこそ何故こちらに?」

 

「いや~人手が足りないから僕達が交通整備の手伝いをしていたんだよ。あ、初めまして今年の春から稲羽署に配属になった足立です」

 

 そう言って苦笑しながら自己紹介をする彼を、自分は一度だけ観察するように眺める。

 彼が足立刑事、山野アナと小西先輩を殺した可能性のある容疑者。

 

「ちょ、ちょっとちょっとなんでそっちのヤンキー君は僕の事を睨んでるの!?」

 

 足立の言葉に振り返ると完二がこれでもかって位に疑いの眼差しで睨みつけていた。

 

 おおい! バレるだろうが!

 

 自分はそのまま完二の頭を叩く。

 

「いった!? 何するんですか先輩!」

 

「お前はそうやって相手がサツだとすぐ睨むクセは直せって言ってるだろ。あ、それじゃあ自分達はもう行きます。またねりせちゃん!」

 

「う、うん。またね先輩」

 

 慌てて完二を連れてお店を後にしする。直斗が慌てて後から駆け寄ってくる。

 背後を確認して足立刑事がこちらを覗いていないか確認し、巽屋の裏手に周り完二の自宅の前に行って誰も居ないのを確認してから注意する。

 

「完二、アレじゃあ疑ってるのがバレるだろ」

 

「そうですよ巽君」

 

「うっ。すいません。いやぁコイツが例の足立かと思ったらつい顔に出ちゃって」

 

「まあ気持ちは分かる。自分もいきなりの出会いで内心驚いた」

 

 それにしてもアレが足立刑事か、想像していた人物よりもなんというか、お調子者っぽい感じではあったな。

 しかし演技の可能性もある。例えばどこぞのコンビニ店員とか、魔性菩薩とか、ああそう言えばアーチャーもちょっとニヒルで皮肉屋な演技をしていたか。

 

「因みに二人は足立刑事にどんな印象を受けた? 自分はなんかお調子者っぽい感じな印象を受けたんだが」

 

「なんかビクついてる小心者って感じでした。なあ白鐘、アレが本当に殺しなんてできるのかよ?」

 

「出来るか出来ないかで言えば、できます」

 

 直斗がはっきりとそう答え、そう答えた理由の説明を始める。

 

「人は感情で人を殺せる生き物です。足立刑事と山野アナとの間に何かが有り、その何かで足立刑事の感情が高ぶり衝動に任せて行動したとしたら、可能性は十分に有ります」

 

「自分も同じ意見だ。これからも彼には注意して行こう。男子学生の二人組も気になるが、今はりせちゃんの安全が最優先だ。明日も放課後に様子を見に行こう」

 

 自分の提案に二人は頷きそのまま完二と別れ、途中まで直斗とお喋りしながら帰宅した。

 




と言う訳で足立と遭遇。二年組の存在を知る。という回でした。
最初は小型テレビで説明しようかと思ったけど、お婆ちゃんと知り合いなら普通に家に上がってそのテレビ使えばいいじゃん。という事で使いませんでした。
ぶっちゃけ足立にその内使いたいから持たせてるけど……使う機会が今の所思い浮かばない。



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