鋼の錬金術師 錬金術師も神に縋る (章介)
しおりを挟む

プロローグ 原点

というわけで『鋼の錬金術師』やっていきます!


 

 

 

 

 

――――アメストリス国。世界有数の錬金術先進国家であり、軍事国家でありながら国民からの不満度が低いという稀有な国だ。軍部最高責任者にしてアメストリス国国家元首、キング・ブラッドレイ大総統の神懸った政治手腕によって、周辺を敵性国家に囲まれながらも高水準の国民所得及び食料自給率を誇る、本当に色んな意味で稀有な国家である。

 

 

 アメストリスと言えば、と問われて真っ先に飛び出すのは、先程も上がった錬金術であろう。この錬金術とは何かと言えば、早い話が『過程を経ずして結果を得る』技術だ。錬成陣と呼ばれる独自の紋章を刻み、それに手を翳すことで様々な奇跡を起こす。例えば、地面に敷き詰められたコンクリートの形状を自在に操りくいの平原のようにして攻撃したり、大量の鉄屑と弾薬の火薬を使って大砲に変じてみせたり自由自在だ。

 

 

 しかし当然問題もある。錬金術の肝は『理解』『分解』『再構築』の三つなのだが、これらの過程と結果を決定づけるのが錬成陣なのである。この錬成陣の図形は線の一本から点の一つまで意味が籠められており、ほんの少しでも配分に誤りがあると望んだ結果が出来ないか、はたまたとんでもなく効率の悪い成果になるか、最悪致命的なズレの対価を自身の身をもって贖う羽目になるのだ。

 

 

 また、錬金術の使役者の素質によっても結果が異なる。『分解』は錬金術の根幹を成すものなので陣さえ書ければ最低限機能する。ところが再構築については何を、どれだけの幅を持たせて、どのような結果を求めるかで作成すべき陣が全く異なってしまう。広範囲をカバーするような構築式を組んでも強力な破壊力が無ければ役に立たず、特化し過ぎて汎用性を失えば『人間兵器』として成り立たない。

 

 

 他にも、『理解』については使役者の力量に大きく作用される。錬金しようとする物質についてどれだけ理解できたかは本人の知識量によって異なるため同じ錬成陣であっても効果は異なる。それにどんな結果を求めるかについて明確なイメージが無ければうまくいかず、どこまで精密性を突き詰められるかでもクオリティは大きく異なる。つまり何が言いたいかというと、この技術は才能の有無が物凄く重要になってくるのだ。

 

 

 そういう技術を国家の象徴としているせいなのか、この国では錬金術に関する知識を誰でも持つことが許されている。勿論錬金術を商売に用いたり金銭が生じる契約に用いるのは相応の免許が必要になるが、唯学ぶだけであったり、日常生活に用いたりしても何のお咎めもないのである。それどころか、優秀だと評価されれば軍にヘッドハンティングされることすらある。近所の肝っ玉母さんが実は凄腕のモグリ錬金術師だった、なんてこともあるくらい、錬金術や錬金術師はこの国では身近な存在だった。

 

 

 

 

 

 

 ――――彼、ウィリアム・エンフィールドもそんなモグリの錬金術師の家に生まれた。彼の母方の家系は機械工学に明るく、その中でも変わり者であった母が『たとえ現在の技術では作れない部品でも錬金術を使えば作ることが出来る』というとっても俗物的な理由で錬金術師の門を叩き、同門でガチガチの探究者体質であった父とどういう訳か上手くいった結果授かった一人息子が彼だ。快活で適度に世俗にまみれていた母と、真理の探究者として生きながら父としても接してくれた父に囲まれ、幸せに暮らしていた。

 

 

 

 しかしそんな暮らしは長くは続かなかった。ある日、父が何者かに殺された。片田舎で慎ましく暮らしていた彼らには誰かに恨まれる理由はなく、地元警察の懸命な捜索にもかかわらず事件は迷宮入りした。その日を境に母は狂ったように研究に没頭し続けたが、ある日研究成果をウィリアムに託し研究所に入ったきり行方不明となった。後に施設内に入るとそこには複雑な錬成陣が一つ描かれていただけだったという。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 相次ぐ不幸に見舞われたウィリアムは唯一の親戚である叔母を頼ってアメストリス東部に位置するリゼンブールへと訪れた。彼の新しい家族となる一家、ロックベル家を目指して。

 

 

 ロックベル家に身を寄せて暫くの間、ウィリアムはとても聞き分けの良い優等生として過ごした。まだ10にも満たない年齢で両親を失ったにも拘らず泣くことも塞ぎ込むこともしない。だが、それが無理をしているのだというのは誰が見ても明白であり、ロックベル夫妻たちは彼を心から心配していた。幸い彼にとって姪に当たる、ロックベル家の一人娘や後に彼を実の兄のように慕うとある兄弟の影響もあり、彼は立ち直ることが出来たようだ。

 

 

 彼はロックベル夫妻の助手やオートメイル技師であるピナコ・ロックベルの手伝いをして見聞を広めていた。が、最も精を出していたのは兄弟の父を師と仰いでの錬金術への没頭だった。勿論最初はにべもなく断られたが、彼の凄まじい熱意に根負けしたことと、彼の素質から下手に何も教えないのは却って危険と考え、本を見ればわかるレベルのものに限定してだが、彼に教えを施すことにしたのだ。

 

 

 

 

 

 

 ウィリアムは普段師の奥方の手伝いや子供たちの世話を焼き、僅かな時間錬金術の授業を受けるのが日課となった。彼にとっては明るく騒がしいロックベルの団欒も居心地がよかったが、どちらかというと此方の方が性に合っていた。『手先が器用になると生きるのが不器用になる』を地でいく師匠が亡き父を思い出させ、そんな師に不満そうにする兄弟の反応が自分とあまりにも違うのでひどく新鮮に感じただろう。

 

 

 

 ウィリアムが弟子入りしてから半年が経過しただろうか。この頃になると基礎は余すところなく制覇してしまったので、約束通り彼は教えを乞うことを辞めた。それでも変わらずエルリック一家の世話を焼く彼に、師匠は駄賃代わりに自身の蔵書を自由に覗かせてくれていた。また、入門編までとはいえ師弟関係にあった少年を放り出すのも忍びない。そういった理由で知り合いの信頼のおける錬金術師を紹介してやろうとも思っていた。

 

 

 ウィリアムを交えた円満な家庭によってますます研究に精が出ていた彼はこの時久しぶりに外の世界に目を向けたのだ。もし電話帳だけでなく地図まで取り出していなければ、この地で何が起こっているか気づかなかっただろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ある日、ウィリアムの師は詳細を何も伝えることなく旅立った。幼い兄弟にはもちろん、妻や弟子にすら。しかしウィリアムは師を止めることはしなかった。その双眸の決意は並大抵ではなかったこと、そして断腸の思いであることが見て取れるほど思いつめた表情で『トリシャと息子たちを頼む』と言われたからだ。

 

 

 

 こうして一人欠けたエルリック家を支えるべくウィリアムは奔走した。そのあまりの甲斐甲斐しさは『お兄ちゃんを取られた―!』とロックベル家の御嬢さんが飛び込んでくるほどだった。

 

 

 特に彼が手を焼いたのは兄弟の兄の方のメンタルケアだ。彼は父親が自分たちを捨てたと傷ついていた。無理もないことだと思う。彼らは小さく、まだまだ親の庇護と愛情が不可欠な年頃だ。そんな時に姿を消されては情を疑ってしまうのも仕方がないだろう。それがどれだけ大切な事かなど関係ない。幼い彼らからすれば、自分達以外のものを選んだ、という意味では相手が愛人だろうが世界の危機だろうが同じこと。彼の言葉を否定することなく師匠のフォローを入れたいと思っても、ウィリアムも肝心なことは何も知らないため二人の仲を取り持つのは至難の業だった。

 

 

 

 

 

 

 

そんな彼らの生活に追い打ちをかける事態が起きてしまう。師匠の奥方であり、兄弟の母親が流行病に罹り、看病の甲斐なくこの世を去ってしまったのだ。この一番大事な時に行方の知れない師をウィリアムは心の内で呪った。これで彼らの仲は修復不可能かと頭を抱えたが、驚いたことに兄弟は母の葬儀後父親の書斎に籠ることが多くなった。ピナコは彼らの行動を、父親の足跡を辿ることで寂しさを紛らわそうとしているのだと解釈し時間が解決してくれるまで支えていこうと判断したが、ウィリアムはそれを危険な兆候であると考えた。

 

 

 

 入門編で足踏みしているとはいえ、ウィリアムも錬金術師の卵である。錬金術の禁忌については師に聞かされている。――――即ち、『人体錬成』死者の蘇生、生者の創造のことだ。彼らはそれに魅入られているのではないか、同じく家族を失った自分にはその気持ちが痛いほどよくわかる。だが、それだけは駄目だ。そこは絶対に踏み越えてはならない領域だ。けれど彼らを理屈で止めることなど不可能。どうしたものかと思案に暮れていた彼らの元に、ターニングポイントとなる出会いが訪れる。

 

 

 

 

 

 

 

 エルリック兄弟の師匠となる女傑、イズミ・カーティスとの出会いだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Side ウィリアム

 

 

 

 

 

「さて、荷造りは済んだかい?忘れ物なんかしたら大変だよ。セントラルから此処へ帰ってくるにはちょっと距離があるからねぇ」

 

 

十分な着替えと必需品をトランクに詰め終え、一息ついた頃にピナコおばあちゃんが部屋に入ってきました。

 

 

 

「ばっちりですよ。大事なものは持ちましたし、まあ何か足りないものがあれば行きがけに買い足しますよ」

 

 

「そう。けど良かったのかい?あの人の度量はなかなかのもんだ。本当は一緒に行きたかったんだろう?」

 

 

「そうですね。あれほどの達人から教われるエドたちが羨ましくない、と言えば嘘になります。でもあの子たちだって男の子ですからね。大事な勝負所に甘えられる人がいるのは好ましくない。じゃあ我慢の一つや二つ、なんてことないですよ。なんたって『お兄ちゃん』ですからね」

 

 

「・・・・本当にあんたは昔から『良い子』だねえ。最近はますます磨きが掛って来たけど、あんまりよい男になって妹分泣かせるんじゃないよ」

 

 

 

 ははは。昨日も首を縦に振ってもらうのに一晩中かかりましたからね。正直今凄く眠たいです。

 

 

 

「我慢しな。エドたちに続いてあんたまで出ていくんだ、あの子からすれば弱り目に祟り目だよ。まったく家の知り合いの男どもはどうして勝手なんだろうねえ。若い内から申し訳ないだとか思うもんじゃないってのに」

 

 

 

「耳が痛いですね。でも一人の男として養われるだけじゃみっともないでしょう?僕にもオートメイル技師の才能があれば良かったんですけどね」

 

 

「・・・・あんだけ手先が不器用じゃ口が裂けても筋が良いとは言えないねえ。なんで図面を引かせたらピカイチなのに、スパナ握らせたら『名状しがたいナニカ』が出来上がるんだい?」

 

 

 

 そんなこと僕に言われても・・・。設計図書いたりとかは思い描いた通りに出来るのに、なぜかそれを実践してみるととんでもないことになる。この前もより軽量化した義手の制作に取り掛かったら、いつの間にか八本の触手型の腕になってたし。しかも失敗作ならともかく、お箸を小豆が拾えるレベルで使い熟せるほど精密に動かせるんだから何とも言えない。そういえば押し入れに入れておいたはずがいつの間にか作業机に出てきていた記憶が・・・・こ、この話は止めよう!うん。

 

 

 

「まあ良いさ。大の大人が子供の将来にとやかく言うのも野暮ってもんだ。男子三日会わざれば括目せよ。でっかくなって帰ってくるんだよ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 こうして僕は第二の故郷を飛び出した。いつまでも居心地の良いところにばかりいられない。特に育ちざかりの弟たちがいるからね。負けたくないって気持ちもあるし、やっぱり自分にしか出来ないことを探したい。あそこに行けば錬金術に関する文献もたくさんあるだろうし、何より学費が免除されているというのが一番大きい。

 

 

 

「目指すはセントラル。出世にはあんまり興味ないけど、親孝行目指して頑張りますか」

 

 

 

 

 

 

 




ここまでご覧いただきありがとうございます!感想等おまちしております!!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第一話 陽だまりと凶報

 二話連続投稿です。


 

 

 

Side ウィリアム

 

 

 

「――――それではアメストリス士官学校公認課外活動、『下手物倶楽部』第19回を開会します!!」

 

 

『『おぉ―――ッ!!』』

 

 

 

 はいどうも。初端から何トンチンカンなことやってるかと突っ込まれそうですが、これは純然たる課外授業、つまりは部活動です。まあ士官学校なせいで若干物騒なお題目の部活ですが。ちなみに創設者は僕です。ちゃんと学校の認可は降りているのでご心配なく。どんな活動をしているかというと――――。

 

 

 

「いよいよこの活動も19回。今までも色々お披露目してきましたが、いよいよあのお題を叶える品が出来上がりました!」

 

 

「おおっ!企画をぶち上げてから随分かかったじゃないか。期待してるぜ!」

 

 

「『最強』って一口に言っても何に比重を置くかで答えが大分変わるからな。はやくみせてくれよ」

 

 

「それではさっそく。これが今回僕が作ったとっておきです!!」

 

 

 ――――軍の備品を錬金術を用いて魔改造してみよう、という活動です。ちなみに今回のお題は『自分にとって最強の拳銃』です。こんな酔狂な活動に何故か乗ってくるノリの良い人たちが多く、気付けば中々の規模になってしまいました。ここまで漕ぎ着けるのに紆余曲折ありました・・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 事の始まりは2年前、晴れてこの士官学校に入学し勉学と訓練に勤しむ中、国立図書館への無料入館権があるのを良いことに錬金術の進展に全力を注いでいました。そしてある程度発展型を修めたあたりで大きな壁にぶち当たりました。それは僕が国家錬金術師としての素質に乏しい、という事です。

 

 

 気付いたのは郊外で錬金術の試し撃ちをしていた時。錬成したものの質は申し分ありませんでしたが、錬成する規模が広がるにつれて、出来上がりが極端に悪くなることに気づきました。『両の手で持てる物以上の質量』や『地面を覆い尽くすような広く浅く』を条件に入れるとその劣化は顕著でした。これが意味するところは、国家錬金術師に求められる『人間兵器』としての側面が果たせない、ということです。戦闘能力が国家錬金術師の絶対条件ではありませんが、その代わりハードルがとてつもないレベルで跳ね上がります。それこそ世紀の発明レベルでもないと取得できず、しかもそれと同等の成果を上げ続けないと容赦なく資格を剥奪される。この国が錬金術師に何を求めているかがよくわかることでしょう。

 

 

 

 自分は錬金術師として大成できないというのは良くわかりましたが、さりとてここまで来て今更諦める気にもなれず、どうしたものかと途方に暮れていた僕に光明を齎したのが、今は亡き母の研究成果でした。今までは難解すぎて碌に理解できませんでしたが、リゼンブールに居た頃とは比べ物にならないほど錬金術の知識に触れたおかげで少しずつですが解読していくことが出来ました。どうやら母は錬金術に真理など求めておらず、人の技術を超えたオートメイルを作ることを目的としていたようです。義手を作るのに大規模破壊など不要でありむしろその逆、より軽量且つより精巧な成果を求めた錬金術を目指していた。謂わば『最巧の錬金術』とでもいうべきでしょうか。まさしく僕の目指すべきものであると言えるでしょう。

 

 

 

 

 

 

 

 方針が決まった以上寄り道は無駄以外の何物でもありません。今必要なのは知識ではなく経験。とにかくより繊細、より巧みな錬金術を目指して、とりあえず身の回りの物を片っ端から手を加えていったのですが、これが一部の同期の反感を猛烈に煽ってしまったのです。唯でさえ主席入学などという悪目立ちする入り方をしてしまったため、中央の温室育ちの坊々に目を付けられていたようですが、そこに来てさらに錬金術というエリートの代名詞のような物を使用しているのだから彼らの僕に対する敵意は並大抵のものではありませんでした。

 

 

 

 それからの彼らのやっかみは相当なものでした。やれ『国家錬金術師にもなれない出来損ないの技術で点数稼ぎをしている』だの『高尚な技術を隠れ蓑に着飾って粋がっている田舎猿』だの、しまいには『錬金術師を騙る詐欺師』とまで言い出す始末。正直言いがかりにもほどがあるでしょうに。そもそも一般軍人の人事考課に『錬金術』がない以上、医療用錬金術でもない限り趣味以上の評価などある筈もない。よって点数稼ぎの仕様がないのですが彼らには知ったことではないようでした。しかも質が悪いのは、人を陥れる方法に熟知しているのか、僕を知らない人はつい信じてしまいそうなプロパガンダを吹聴して着実に評判を落としてくることです。鬱陶しいことこの上ない。

 

 

 

 

 しかしそんな状況にも転機が訪れました。あれは夏ごろでしたか、白兵戦の訓練用にサバイバルナイフ(刃挽き済)が支給された時の事です。せっかくの貰い物なので良い訓練教材になると柄や刃渡り、刃の密度や硬度など色々錬金してカスタムしていたらいつも通り連中が嫌味を吐きにやってきました。ここまでならいつも通りの光景ですが、ここに偶然ある人物が通りがかりました。

 

 

 その方は数少ない国家錬金術師の一人であり、現在大佐の地位にあられるバスク・グラン大佐です。連中はこれ幸いとあることないこと大佐に吹き込みますが、大佐は一言『その件の一振りを見せてみろ』とだけ言い放ちました。僕としても自身の技術に引け目など無かったのですぐに応えました。

 

 

 連中はこれから起こることが楽しみで仕方がない、という表情でした。彼らの脳内では、身の程知らずの猿が本物の錬金術師に自身の未熟をこれでもかと罵られる光景がありありと浮かんでいたのでしょう。

 

 

 ところが大佐はじっくりとナイフを見定めると、あろうことか「見事な柄細工だ。これを錬金術でやってのけたとは驚きだ。刃の出来は意地にかけて遅れは取らぬが、この繊細さは私には不可能だ」と僕を称賛しました。そして続けて「私は彼が錬金術と呼ぶのも憚られる詐欺師だとたった今聞いたところなのだが、これでは私は下より、『鉄血』の錬金術を戴くグラン家が無能に劣ると罵られたわけだ。もしこれが嘘だというのなら、その者はあろうことか上官を謀ったことになるのだが、誰か心当たりはないか?」と彼らを睨みつけた後部下に連行させました。その後彼らをこの学び舎で見ることは二度とありませんでした。

 

 

 

 

 

 

 正直夢でも見ているのかと状況についていけなかった僕にさらに驚くような話が飛び込んできます。グラン大佐に初めて出会ってから数日後、学長閣下から呼び出しを受けました。内容は『イシュヴァール内乱が当初の予定以上に泥沼化し人的資源の損失が深刻な数字となってきている。よってこれ以上の被害を抑えるためにも兵の生死を分ける装備の向上は急務である。その大役を貴官に一任する。成果については逐一報告し、上層部に通った武装はグラン大佐指揮下の部隊に試験的に実装する』というものでした。色々突っ込みたいところがありますが、とりあえず入校1年未満の学生に課すものではないと思うのですが・・・。

 

 

 

 校長室を辞した後、とりあえず元凶であるであろうグラン大佐に面会を希望しました。大佐は僕が来ることが分かっていたのでスムースに通され、事の次第を説明してくれました。

 

 

 

 大佐は国家錬金術師であるため、現時点では内乱に参加することが出来ません。しかし何世代にも亘って軍部を支えてきたグラン家には分家や門弟が多く存在し、日夜彼らが戦場に散っている情報を耳にし心を痛め、少しでも助けになろうと開発部門をせっついても成果が出ず焦っていたようです。あのとき学校で出会ったのも、民間や見込みのある学生から開発の協力が得られないかと上層部に直談判を行った帰りだったとか。

 

 

 

 そんな時、僕の錬金術を見て今回の案件を思いついたそうです。生産分野の錬金術を専門とする人間と若く柔軟な発想が出来る人間を組み合わせれば、既存の常識にとらわれない発明が出来るのではないか。そうすれば今まで無能呼ばわりされていた錬金術師にも名声が与えられたり、行き詰っている技術開発に追い風を吹かせられるのではないか、と。

 

 

 

 とはいえ、前線が深刻化しているなどという情報は候補生たちに余計なプレッシャーをかけ、肥大化した噂が世論を不安にさせるため、表向きは錬金術に心得のある生徒が自身の技術を活かす場を作るべく学校に部活動の要請を行ったら通ってしまった、という体で行くとのこと。最初からダメでもともとの計画なので気負わず、錬金術師らしい探究心を満たすべく邁進してくれたらそれで良いと言われてしまいました。あの、僕の両肩に掛かるプレッシャーについてはもう少し考慮していただけませんか・・・・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 まあ、そんな事情が絡んで始まった部活動『下手物倶楽部』。当初はこんな怪しい活動に加わる奇特な人間はいないだろうと思っていたのですが、意外と多くの人が参加してきて驚きました。件の嫌がらせ事件で、自身も目を付けられかねないのに庇ってくれたり世話を焼いてくれたロス先輩やハボック先輩、他にも理論関係はプレダ先輩、テスターにはホークアイ先輩やカタリナ先輩が協力してくれました。特にハボック先輩はイシュヴァールの内乱がきっかけで軍に入ってきた人なので殊更熱心に参加されていましたね。

 

 

 

 発足してからしばらくは、とにかく使用者の生存率向上に重きを置いた物に取り掛かることになりました。例えば植物の『セルロース』という物質の構造を弄って高密度にした物を軍服に編み込んで強化したり、非常に強力な鎮痛効果のある薬物から配列を変えずに毒性や中毒性のみ分解して副作用を減少させた麻酔や鎮痛剤を開発したり、ネズミ取りから着想を得た、誰でも患部に当てるだけで使える瞬間止血帯なんかも作ってみました。

 

 

 特に軍服は絶大な効果を齎したそうです。わが軍の正式採用銃はともかく、アエルゴ製のちゃちな銃弾なら完璧に防いで見せたことから発注が相次ぎ、3か月くらい栄養ドリンク片手に缶詰めになっていた時がありました。あれはもう二度とやりたくないです。

 

 

 

 今は頼まれた品は全て届け終わり、特に追加の依頼もないので割と趣味に走った研究も取り扱っています。一応部活動なんですから、真面目すぎるのも良くありませんし。

 

 

 

 そういう訳で、思い切り話が横道にずれましたが今日の集まりの本題に入っていきましょう。今回僕が持ち込んだのは1丁のリボルバー形式の拳銃です。そのうちの一つは非常に重厚で、丸型の筒が多い一般的なリボルバーと異なり長方形の四角い形状の銃筒になっています。

 

 

 

 

 

「ではこちらを。南の方で作られた『マテバ』という銃をベースに改造したものです。元の銃から全体的に巨大化させてあります。全長39センチ、重量は6キロ。弾はは60口径の専用弾を使用します!」

 

 

 

 僕はこの傑作を生み出せた感動をぜひ分かち合いたいと満を持してお目見えしたのですが、反応は真っ二つでした。威力至上主義のイカれた(褒め言葉)方々やハボック先輩のようなロマンを解する人は興味深そうに見ていますが、プレダ先輩やホークアイ先輩のような常識人枠の人は『なにやってんだ、こいつ』といわんばかりの表情をしています。

 

 

 

「60口径ってたしか、対戦車ライフルとかに使われるサイズだよな?一発撃ったら壊れるんじゃないか?」

 

 

「強度に関しては以前開発した炭素繊維を高密度で圧縮したものを使っているので問題ありません。専用弾についても対戦車のような貫通力と威力に重点を置いた物ではなく、とにかく衝撃力に重点を置く仕組みを採用しました。未だ実践使用がされていないため正確なデータはありませんが、掠るどころか真横を通るだけで肉体を吹き飛ばせる仕様となっています。対多数用の面制圧用拳銃を目指しました」

 

 

「・・・てことはこいつが弾を吐き出すたびに人間の挽肉が出来上がるってことか?」

 

 

「何それグロイ」

 

 

「まあ、戦意を折る分には有効・・・なのかしら?」

 

 

「あとこの銃の最大の特徴は、リボルバーにフルオート機構を採用していることですね」

 

 

「は?装弾数6発にフルオートは無駄じゃないのか?」

 

 

 

「言ったでしょう?これは『僕にとって』最強の銃だと。僕なら左手に弾丸または鉄屑を入れた袋を持っていれば、分解と再錬成で薬室に弾を補充することが出来ます。なので弾切れどころかリロードすらせずに撃ち続けることが出来るんです!」

 

 

「ほう・・!けどオートマチックじゃ駄目なのか?」

 

 

「オートマは薬室を排莢しちゃいますからね。バネが隙間を埋めてしまうので再錬成がとても難しいんです。なので薬室が残るリボルバーが一番適してますね」

 

 

 

 なんて説明していると皆さん好意的に見てくれるようになってきました。うんうん、やっぱり自分にとって良いと思える品が評価されるのは気分が良いですね。・・おや?

 

 

 

「ホークアイ先輩、どうかしましたか?」

 

 

「・・・・ねえ。確かに機能美や素材は凄いと思うけど・・・・・・・これ、片手で撃てるの?」

 

 

 

―――――――あっ。

 

 

「まず撃てないよな、これ」

 

 

「機能や性能に拘り過ぎて、実用性がすっぽ抜けちゃったのね」

 

 

「くうぅ・・・」

 

 

 

 

 ・・・・傑作は日の目を見ることなくショーケースの飾りとなりそうです。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『―――まったく、自分の稼いだ銭を人にやるもんじゃないよ!!しかもあんなにふざけた額を送ってくるなんて。とうとう孫が犯罪に手を染めたかと肝を冷やしたよ』

 

 

「いやー。ごめんなさい、おばあちゃん。僕もいきなりあんなもの貰って動転してしまいまして。学生があんなの持ってても碌なことにならないだろうからつい・・」

 

 

「まあ、そりゃそうだけどねぇ・・・・」

 

 

 

 

 しばらく会ってない祖母から何を叱られているかというと、ちょっと引くくらいのお金を振り込んでしまったんですよね。

 

 

 

 下手物倶楽部の集まりから数日後、またまた校長室に呼ばれたので言ってみたら、僕らにとっては雲の上の御方がいらっしゃった。この国の頂点に君臨しているトップ、キングブラッドレイ大総統その人です。

 

 

 

 

「君がエンフィールド君だね。グラン大佐から聞いているよ。とても前途有望な錬金術師の卵だと」

 

 

 

―――あの人何言っちゃってるの!?僕は一般軍人の候補生としてここにいるんだから、そっち方面ではあまり持ち上げてほしくないんですが・・。

 

 

 

「今日ここに来たのは、君の成した功績を正しく評価するためなのだよ。君らの発明品は前線の被害を確実に減らしている。未だ内乱が収まる気配がないことと、学生の身に過分な称賛は良くないという理由で大それた表彰が出来んが、信賞必罰は軍の倣い。せめてもの誠意として労いに来させてもらった。まあ儂の様な老骨に褒められるより勲章や出世の方がよほど良いだろうがね」

 

 

 

 いえ、正直畏れ多すぎて卒倒しそうです。

 

 

 

「あと、君の口座にささやかだがこれまでの貢献に対しての報酬を振り込んでおいた。戦費が拡大する一方だからと秘書官がうるさくてな。額面に対する愚痴は家族の方に頼む」

 

 

 

 いえ、不眠不休で缶詰にされた精神的な負担はともかく、只管手を物品に翳すだけだったので肉体的負担はほとんどなかったんですが。しかも試験関係皆免除して貰えたので寧ろ有難かったというか・・・。

 

 

 

 それからも2,3言続いたのだが、正直一杯一杯だったので覚えてません。あと、色んな方にご協力と迷惑を掛けたので、できれば参加した人全員を労ってほしかったです。罪悪感が凄いです。まあ、とても口には出せませんでしたが。

 

 

 

 何とか気力と根性で校長室を退室した後、とりあえず通帳をのぞいてみたら、とんでもない額が入金されてましたので、何も考えずにおばあちゃんに振り込んだらすごい剣幕で連絡が来た、という訳です。

 

 

 

 その後、とりあえず就職するまでは預かっておくから、しっかり錦を飾りに帰ってくること、それから帰ってきたらみんなで盛大にパーティをするので、楽しみにしておいでといわれました。久しぶりの電話でしたが、本当に家族というのは良いものですね。

 

 

 

 なんて感傷に浸りながら過ごした夜、寮長からまた電話だと呼び出され向かったら再びロックベル家からでした。何か伝え忘れでもあったのかと出てみれば、意外な人からの電話でした。

 

 

 

「おや、ウィンリィちゃんでしたか。どうしましたか?こんな夜更けに」

 

 

『―――ごめんなさい。おばあちゃんには伝えるなって釘刺されてたのに、どうしても不安で・・・・・・』

 

 

 てっきり自分が出られなかったことに拗ねてかけてきたのかと思いましたが、切羽詰まった子供らしくない深刻さに嫌な予感を覚えました。

 

 

 

「何かあったんですか?おばあちゃんやエド君たちにまさか・・・」

 

 

 

『・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・お母さんたちが、イシュヴァールに行ったきり帰ってこないの』

 

 

 

 その一言に、僕の頭は真っ白になった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ、いた!ホークアイ先輩!!」

 

 

 

「きゃっ!?何だ、ウィリアム君じゃない。そんなに焦ってどうしたの?」

 

 

 

「先輩、来週からイシュヴァールに向かうんですよね?」

 

 

 

「・・・ええ、上からの命令で。それが何?」

 

 

「志願兵の申請、まだ打ち切られてませんでしたよね?」

 

 

「え?」

 

 

 

 

 

 

 




ここまでご覧いただきありがとうございます!次回から戦闘回に入っていきます。感想等お待ちしています!!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第二話 内乱と悪意の泥沼

 

 

 

 

 ――――イシュヴァール。かつては太陽神イシュヴァラを主神とするイシュヴァラ教を国教とする小国であったが、信仰の自由を保障することを条件にアメストリス国に併合された歴史を持つ。多少排他的な点と教義から錬金術を忌避する習慣があったためアメストリス人とは折り合いが悪かったが、厳格な教えの元に生きているため秩序を重んじ、家族や誇り、約束を大切にする風土から決して民族間の仲そのものは悪いものではなかった。現にアメストリス軍内にもイシュヴァール人が在籍していることからも国家への融和が高いことが窺える。

 

 

 

 しかしそれも今や過去の話。現在のイシュヴァールは地獄と化している。アメストリス軍人によるイシュヴァール人少女の射殺を引き金として内乱が勃発し、さらに隣国等の介入もあり泥沼状態となっている。あまりの被害から、学徒動員がなされたり、その後すぐに国家錬金術師の実戦投入という内外を問わず物議を醸す事態に陥ったことからも深刻さが理解できる。

 

 

 

 

 

 それはさておき、ここはイシュヴァール第20区。第18区に並んで著しく制圧が遅れている地区であり、あまりの指揮の下手さから部下が指揮官を引きずり下ろしたほどである。そんな激戦区に後任及び補充兵として多くの人員が導入された。その中で有名どころと言えば名将として名高いグラマン少将、そして『紅蓮の錬金術師』であろう。そんな集団の中にウィリアム・エンフィールドの姿もあった。

 

 

 

 

 

「あー、後釜に入ったグラマンだ。外がうるさいから面倒な挨拶は省くよ。とりあえず、ワシ等がせにゃならんのは、このどん詰まりの状況の打破だが、こいつについてはエンフィールド候補生と紅蓮の錬金術師に腹案があるそうだからそちらに一任する。上からも好きにさせるよう言われてるしね」

 

 

 

「承知しました。候補生如きに配慮頂き感謝に耐えません」

 

 

「えーよえーよ。上からのお墨付きだから万一失敗してもワシの責任にならんし、成果が上がれば言う事無しじゃからむしろ感謝しとるよ」

 

 

「・・・・えっと、そう言って頂けると何よりです」

 

 

「さて、そいじゃあ1030時から行動開始じゃから各自準備にかかること。と、その前にワシから諸君らに一つ申し付けとくぞ。後で報告書出す時に上の反応が怖いから、死にそうになったら死ぬ前に返ってくるように。隣の奴が死にたがってたなら引き摺って帰ってこい。あ、これじゃ2つじゃな。まあ良い、破ったら命令違反で厳罰じゃからそのつもりでな。以上解散!」

 

 

「「「「はっ!!」」」」

 

 

 

 

 

 グラマン少将からの訓示(?)を受けた後、それぞれの持ち場に分かれて散らばっていく。ただ殆どがキャンプの方へ向かう中、20区側へ連れ立って歩いてく者がいた。先ほど話題に上がった『紅蓮の錬金術師』ゾルフ・J・キンブリー少佐とウィリアムだ。

 

 

 

「それでは期待してますよ、エンフィールド候補生さん」

 

 

 

「こちらこそ、今回はご協力感謝します、キンブリー少「――敬語」・・・はあ。あの、さすがに学生が佐官相手にタメ口は不味いのでは?」

 

 

 

「貴方なら増長することなんてないでしょうし、私が許可してるんですから構わないでしょう?キャラが被りますし、どちらが何喋っているか分かり辛いですから」

 

 

 

「・・・あの、少佐が何言ってるのか全く分からないんだけど」

 

 

「気にしないで頂きたい。それよりこれから仕込みに入りますのでこれで失礼。そちらも準備は万端でお願いしますよ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

場所:第20地区 

 

 

 

 

 

「くそっ!!あの化物共が出てきてから、他の地区の同胞は次々やられていってる。ここに出てくるのも時間の問題だ。どうすりゃ良いんだよ!?」

 

 

 

「馬鹿者!嘆いている暇が我らにあると思うのか。我々が此処を抜かれれば、未だ逃げ延びていない親兄弟たちが奴らの餌食になる。何としても死守せねばならん!」

 

 

 

「ここだけ守れてもどうにもならないじゃないか!?たとえ此処に錬金術師が投入されなくとも、他の同胞を喰らい尽くした奴が来るのは時間の問題だ。そうなったらお終いなんだよ」

 

 

 

「安心しろ。もうじき奴らの優位性は崩されることになる。その時が勝負だ」

 

 

 

「あん?それってまさかここの奥であのバカげた外法の解析をしてるっていうあの・・・?」

 

 

 

「そうだ。イシュヴァラ僧になれなかったあの貧弱な■■■■が今や我らの救世主になろうとしている。あれが忌まわしい錬金術を修めることが出来れば、その時こそ一世一代のチャンスだ。だから良いな!ここだけは絶対に死守せねばならんのだ!!」

 

 

 

「そうか。ここを抑えられれば、たとえ俺達が死んでも家族は助かるかもしれないんだな?俺達の無念を晴らしてくれるんだな!」

 

 

 

「そうだ、だから決して諦めるな。・・・ところで、朝から妙な違和感を感じるんだが、心当たりはないか?」

 

 

 

「ん?そういえばなんかおかしいような・・『コツ、コツ』・・・・そう言えば、このあたりの道って舗装なんてされてたか?」

 

 

 

「まさか。アメ公共はケチだからそんな予算は回してもらえなかったよ。ここらは一面砂利の筈だぞ?どうしてこんなことになってんだ?」

 

 

 

「・・・ひょっとして国家錬金術師が?」

 

 

 

「それこそまさかだ。何の目的があってこれから吹き飛ばす場所の舗装なんてするんだ?我々が逃げやすくするためとでもいうのか。そんな無駄なこと―――」

 

 

 

『敵襲!アメ公共が来やがった――!!』

 

 

 

「またかよ、しつこい奴等だ!――!?何だあれは!?」

 

 

 

「は、早い!?逃げ―――――」 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Side ウィリアム

 

 

 

 

「イイイイイイイイイイイイ良い音だ!!視界一杯の爆炎は見慣れたものですが、戦列を並べた砲兵の一斉射撃の如き轟音は見事としか言いようがない!たしかパンジャンドラムとか言いましたっけ」

 

 

「ええ、道が悪ければあらぬ方向に突っ込む欠陥兵器だけど、錬金術で足元を整えてやれば、時速90キロで飛び込んでくる自走爆弾だ。不意打ちされたらまず逃げられないよ。と、話し込んでる場合じゃないね。では我々は予定通り一番槍として突っ込むのであとはよろしく」

 

 

 

「ええ、お任せを。貴方こそヘマをしないで下さいよ?こんな面白い方が死んではつまらないですからね」

 

 

 

 

 

 ・・・はあ。なんだってあんな妙な人に気に入られたんでしょうね?そんなに締め切られていた志願兵枠に入れてもらいに直談判したことが面白いことだったのでしょうか?確かに規定数を満たすまでは、志願兵という名の事実上の徴兵だったようなので選ばれなかった人は安堵していました。そんな中直訴してまで前線に出たがる死にたがりは確かに珍しいかもしれません。

 

 

しかしだからといって前線に送られるまでのわずかな時間を態々その死にたがりに会うために使うとは思いませんでした。学校で初めてお会いした時に2,3言葉を交わしましたが、何が面白かったのかあれ以来妙に構ってくるんですよね。お陰で僕まで変人呼ばわりされてしまいそうで不安ですね。え?もう既に手遅れ?そんなバカな。

 

 

 

 それはともかく、本当に時間がないので慌てて軍用トラックの荷台に乗り込みます。これはキンブリー少佐にお願いして現地で調達したもので、作戦までの間に可能な限り改造を施した代物です。フレームに注射の様な要領で金属密度を補強し、増加した重量を支えられるようタイヤのゴムやホイールの構造にも手を加えました。それからより速度が出るように最新式のエンジンへと錬成しておきました。露払いはしたので大丈夫とは思いますが、少しでも集中砲火を浴びないように出来る限りのことはしておきました。

 

 

 

 

「それでは出発してください。恐らく地区の入り口までしか舗装はされていないでしょうから、そこからの運転は細心の注意を払ってください。皆さんに支給した装備なら複数人相手に接近されない限り問題ありません。ですから必ず全員で帰還しましょう!」

 

 

 

「「「「「了解!!」」」」」

 

 

 

 ちなみにこの部隊は全員が士官学校から動員された人員で組織された実験部隊であり、この日までの間、前線から送られてきたデータをもとに可能な限り訓練を積んできました。なぜ僕なんかが指揮権を任されているのかについては小一時間問い詰めたいところですが、そのおかげで色々勝手に武装を導入していることに目を瞑って貰っているので文句は言えませんが。

 

 

 

 確か噂によればユーリ叔父さんたちの診療所はここからかなり奥にあるらしい。他の部隊が先に到着したらどうなるか予想が付かない。戦争している相手の治療を行っているわけだから、医者としての道徳としては美徳でも、軍人、国民目線からすれば利敵行為に等しい。最悪の場合は恐らく・・・・。一刻も早くここを突破して、一番に乗り込まないと!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふふふ、本当に面白いですよ、ウィリアム・エンフィールド。至って善良な人格を持ち、素質は十分ですが私たちの様な異端者でもない。それなのに今しがた自身の策で大勢の人間を吹き飛ばしたにも拘らず、良心の呵責はみられない。恐らく彼は、自身の優先順位を揺るがせられない方なのでしょうね。周りの人間が言い含めてきたから命を尊重するが、その命に価値を付け区別する。そして最優先事項は何をおいても守ろうとする。例えその次に優先すべきものを犠牲にしてでも。実に私好みの人間だ。これからも良い友人でいたいものですね」

 

 

 

Side out

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――一台の軍用トラックが道を駆けていく。迎撃の布陣を引いていたイシュヴァール人が銃で応戦するが、どこに当てても弾かれてしまい、止めることが出来ない。そこで機転を利かせた数人がまき散らした灯油に火をつけ、炎の壁を作り足を止めることに成功した。そして確実にしとめるため手榴弾を投げ込める位置まで近づくが、突如幌から顔を覗かせた機関銃の凄まじい掃射によって挽肉にされる。そのまま悲鳴のような銃撃を浴びせかけ、動くものが居なくなると車から15人ほどの軍人が降りてきた。

 

 

 

「炎が消えるまで車両を死守せよ!何度も言いますが頭上等の死角だけは注意して下さい。彼らの驚異的な身体能力なら両手だけで壁を登り切って銃撃を躱したり不意打ちが出来ますからね。その代わり彼らの銃の腕は素人レベルです。粗悪品も相まって貴方たちの武装なら確実に防げます。とにかく白兵戦は避けてください!」

 

 

 

 その怒声を聞き付けたかのように、あらゆる場所からイシュヴァール人が飛び出してくる。しかしウィリアムの部隊は誰一人として隠れることなく、その場で銃撃戦を始める。イシュヴァール側もいままで交戦してきた経験から、唯の服なのに銃弾をものともしないことを知っているため、露出している顔目掛けて射撃を行う。が、吸い込まれるように顔面に飛び込んでいったはずの弾丸が見えない何かに弾き飛ばされてしまい、驚いて硬直した隙を突かれて逆に頭を吹き飛ばされてしまった。しかもそれが一人ではなく全員であり、イシュヴァール人達は魔術か何かとパニックを起こし始める。

 

 

 

勿論魔術などではなく、正体は軍帽のつばに仕込まれた、ウィリアム特製の特殊ポリカーボネートの防弾プラスチックである。ウィリアムはこの部隊の練度不足と、それから来るパニックによって犠牲が出ることを恐れ、とにかく射的場と同じシチュエーションに持ってくることに腐心した。軍服はすでに普及しており問題ないが、露出した部分を守ることで、白兵戦以外の危機を可能な限り減らすことに成功した。このため、経験皆無な新兵の部隊でありながらも、比較的落ち着いて行軍することが出来た。

 

 

 

 

しかし敵も百戦錬磨のイシュヴァラ僧。銃が不利と見るや即座に身を隠してしまい、捕捉が不可能となってしまった。

 

 

 

「・・・隊長。奴さん蛇みてぇに音もなく消えやがった。スモークか何か焚かれりゃ俺達はお陀仏だ。ここは早いところトラックに乗って行っちまった方が良いんじゃないか?」

 

 

 

「いえ、取り逃がした敵が想定よりかなり多い。このまま進んで挟撃された方が危険です。皆さんはここから動かないでください。ここは僕が何とかします。念のため左腕はいつでも動かせるようにしていて下さい」

 

 

 

 そう言い聞かせ終わるのを見計らったように一発の煙幕弾が投げ込まれた。視界を塞いだこの瞬間を唯一の好機と見做し、一切の躊躇を捨てたイシュヴァラ僧たちが殺到する。彼らの鍛え上げられた心眼をもってすれば、この程度の煙幕は無いも同然。一人残さず始末せんと、まるで鋼の様な拳による手刀、抜き手を叩き込むが―――――それより一手早く鳴り響いた銃声により、誰一人本懐を遂げることなく息絶えた。

 

 

 

「うわぁ・・。一呼吸で8人同時に仕留めるとは、拳銃の腕なら“鷹の目”にも匹敵するってマジだったんですね」

 

 

「いやいや、そんなに持ち上げないでください。やっちゃいけないことを色々してこれですから。先輩には到底及びません」

 

 

 

 ウィリアムの腕にはまるでサーベルと見紛うほど長い銃筒のリボルバーが握られている。これは以前『下手物倶楽部』で紹介したマテバとは別の角度から性能を追求したものであり、一丁目がショーケース行となったため、そのままお蔵入りしてしまった作品である。この銃はマグナムリサーチというライフル弾を撃てるという変わった品物だ。しかし拳銃の全長ではライフル弾本来の威力を出し切れず、他の弾丸を使った方が威力が出るという欠陥を抱えていた。そこで銃身を15インチまで引き延ばし、強度の問題を錬金術で解決することでライフル弾の威力を存分に発揮できるリボルバーに仕上げた。

 

 

尤も、此方にも深刻な欠点が存在する。連射しても壊れないだけの強度を得るにはかなりの高密度が要求され、結果として非常に重くなってしまったのだ。細工を加えても重量5キロにもなるので運用が困難となってしまった。ではなぜ彼がこれを扱えているかについては、今はあえて伏せておくことにする。

 

 

 

「さて、無駄話はここまでにしておいて、そろそろ移動を再開しましょう。想定よりかなり敵の数が多かったので、もしかしたら最初の爆音で普段より前線の層が厚かったのかもしれません。油断は禁物ですが、この勢いに乗って少しでも前線を押し上げましょう!」

 

 

 

 

 

 ウィリアムの予想は正しく、後の騒動の中核となるある兄弟を死守するため前線に多くの戦力が割かれており、それらが最初のパンジャンドラムの大群と彼らの突撃により粉砕されたため、20区はそれまでの遅れを大幅に取り戻す快進撃を遂げることとなった。しかしこれが某区の指揮官の焦りを増長させてしまい、結果的にアメストリス側の被害が増えてしまうのだが、それはまた別のお話。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――2週間後――――

 

 

場所:イシュヴァール戦線作戦司令部

 

Side ウィリアム

 

 

 

「ウィリアム・エンフィールド少尉、帰投致しました」

 

 

「同じくゾルフ・J・キンブリー中佐、帰投致しました」

 

 

 あれから2週間が経過し、怒涛の日々を過ごしながらも何とか生き残ることが出来ました。ユーリ叔父さんたちのところへはあともう一歩で辿りつけそうです。ただ、とにかく前へ、前へと戦闘を突き進み続けた結果、いつの間にか候補生から少尉に変わっていた。とてもとても胃が痛いです。まだ十代で尉官とかおかしいでしょう。戦場とは別の意味で叔父さんたちと生きて再会できるか不安になってきました。

 

 

 

「さて、前線から急に呼び戻して済まない。だがこれは目覚ましい成果を上げている君達にしかできない極秘任務なのだ」

 

 

 そう断りを入れると、目の前の上官方は瀟洒な宝石箱を開き、此方に差し出してきました。中には小ぶりの石が二つ。決しておかしなところは無いのに生理的な嫌悪を掻き立てる緋色の宝石でした。

 

 

 

「これは賢者の石。軍上層部が創り出した機密中の機密だ。よって他言することは絶対に許さん。キンブリー中佐には攻撃における増幅効果のほどを、エンフィールド少尉には才能の補填の可能性及び生体錬金術における可能性のほどを検証してもらいたい」

 

 

 

 賢者の石!?錬金術の到達点の一つ、製造方法から効能まで全てが不明であり、最早おとぎ話か何かとまで思われている伝説の人工聖遺物。こんなものが出てくるとは、さすが錬金術大国といったところでしょうか。しかし、才能云々はともかく、生体錬金術?

 

 

 

「君が工学分野だけでなく医療錬金術にも明るいことは既に報告に上がっている。実際に何人もの負傷者を救助しているそうじゃないか」

 

 

 

「・・いえ、医療錬金術は等価交換の法則が特に厳しく、救えたのはほんの一握りの身で、多くの方は見送ることしかできませんでした」

 

 

 

「謙遜する必要はない。数の大小はどうあれ、君は助からなかった命を確かに救ったのだから。まあそれは良い。寧ろそんな君にこそこれは役に立つだろう。賢者の石は等価交換の法則を無視した成果が出せると言われている。もしそれが事実なら、即死していない限りどんな人間も助けることが出来るということだ。君が此処に来た目的を達成するためにもそれは必要不可欠ではないかね?」

 

 

 

 そういわれて改めて手の中にある石を注視しました。言われてみれば確かに戦況は佳境に入っています。イシュヴァール側もアメストリス側も相当煮詰まっており、そもそも兵站が破綻しているあちら側ではもう満足な治療も出来ていないはず。いつ誰に危害を加えられるか分からない状況にある今、叔父さん達が身は相当不味い状況にいます。最悪の状況を考えれば確かに心強いですが・・・よく知りもしないものを使うのはやはり抵抗がありますね。知らない内にとんでもない悪行の片棒を担がされているかもしれません。が、そんなものは叔父さん達の無事に比べれば比較にもなりません。

 

 

 

「それと・・・これも念のために渡しておこう」

 

 

 

 さらに懐から取り出された一枚の羊皮紙。それを見た瞬間、何も考えられなくなりました。それはもう微かにしか残っていない、幼いころの記憶。母が姿を消した、あの研究所に残されていた一陣の錬成陣。細部が少し異なりますが、あれと瓜二つの模様、これが意味するものは、まさか・・・。

 

 

「こ・・れは、もしや人体錬成の」

 

 

 

「―――何故君が其れを知っているのかはいまは問わん。わが国では決して人体錬成を認めていない。だが、君の献身と才能、情熱が失われることはあってはならん。これは軍上層部の総意だ。故に今回に限り戦場で何が起きても黙認することとした。これは君が今までなしてきた多大な功績に対する報酬と思ってくれて構わない。その代わり、これからも誠心誠意軍に仕えてくれたまえ」

 

 

 

 正直あまりの代物に頭が付いて来ず、彼らが何を言っているのか碌に覚えていませんでした。もしあの時少しでも冷静さが残っていれば、その場にいた彼らがどれだけ醜悪な表情をしているか、そしてそれがこれから何が起きるのかを、知ることが出来たかもしれない。

 




ここまでご覧いただきありがとうございます!感想等いつでも大歓迎です!!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第三話 邂逅とそして・・・

 

 

 

 

Side イシュヴァールの非戦闘員

 

 

 

 

 もうお終いだ!この地は『死神』に憑りつかれちまった!!

 

 

 本格的に国家錬金術師共が投入されてから数日、積木が崩れるように防衛線が瓦解している。もう組織だって抵抗している地区は殆どありゃしない。俺達が住んでいるこの場所も、およそ半分の区域が丸ごと吹き飛ばされ、今や惨めに追い立てられて逃げ回っている所だ。

 

 

そんな哀れな同胞たちを喰らいに『死神』が降りてきやがった。あれは何時だったか、一人でも助かる人間が出るようにと散らばって逃げる一団がいた。健気にも年のいった人たちが囮になるように表通りを走り、その隙に路地裏や死角の多い場所を若い連中が駆けて行った。ところが、だ。涙も拭わず必死で逃げていた坊主の首が突然宙を舞った。後ろを走っていた奴らも後を追うようにバラバラになっちまった。アメ公の姿はどこにもなく、何もない空間でだぞ!?こいつが死神の所業でなきゃなんだっていうんだ!!?

 

 

 そんな有り得ない事態が起こってから随分と俺の周りの人間は減っちまった。隠れるように進めば死神に切り刻まれ、表を逃げればアメ公共にハチの巣にされる。これでどう生き残りゃ良いってんだ。

 

 

 だがもうそんな心配は必要なくなった。ああ、そうだ。今度は俺の番って訳だ。おれは戦闘員にもなれないモヤシだったが、昔から走るのと壁登りだけは得意だった。そのおかげで上手いこと見つからずにここまで逃げてこれたが、とうとう年貢の納め時だ。いつものように屋根から屋根へと飛んだら『死神』に左足を飛ばされちまった。幸い屋根にはたどり着けたがもう動けねえ。だが黙ってくたばるつもりはねえ。神の最後の御慈悲か、俺がいる建物の真下にはアイツがいる。アイツが来た途端此処の守りが総崩れになった。きっと『死神』もあいつが連れてきやがったんだ!どうせ死ぬならあいつも道連れにしてやる!!

 

 

 俺は懐に入れておいたナイフを握り締め、屋根から飛び降りた。落ちてる最中に気付かれたがもう遅い。同胞たちを惨たらしく殺してきた悪魔め、死―――――。

 

 

 

 

Side out

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――ぐちゃり、と肉が叩き付けられる音が聞こえる。男の決死の一撃は届くことなく、ナイフ諸共両断された。彼とウィリアムの間にはほんの僅かに日光を反射する線が見える。これが男が『死神』と呼んだものの正体である。

 

 

 

 賢者の石を手に入れたウィリアムはその恩恵によりかなり長距離での錬金術の行使が可能となった。しかし相変わらず広い面積に作用する錬金術は扱えず、そこで自身の欠点を補うために編み出したのが『面ではなく点の連続錬成』だった。建造物等に含まれる炭素を極細のワイヤーへと錬成することで、死角になる場所や戦力を分散させられる方向へと逃げた相手を効率的に始末していった。また、伏兵の心配がなくなったため進軍速度がさらに速まることとなった。

 

 

 

「少尉、このままでは突出し過ぎて隊が孤立します。敵勢力が残り僅かとはいえ聊か危険では?」

 

 

「ええ、そうですね。本隊と合わせるために少しペースを落としましょうか。・・・すみません。少し焦りが出ていたようです。戦場に私情を持ち込むなんて軍人失格ですね」

 

 

「いえ、少尉は未だ学生の身、それに育ての親が絡むとなれば致し方ないことかと。それよりも目下のものに安易に謝罪することの方が問題です。少尉のその御立場は多大な貢献に対する正当な評価であると我々は理解していますが、残念ながら口さがない者も少なくありません。威を損なうことは慎むべきかと」

 

 

「わかりました、重々気を付けます」

 

 

「いえ、出過ぎたことを申しました。それでは―――『ドゴォン!!!』――なっ!?敵襲!!?馬鹿な、少尉の仕掛けが―――」

 

 

「――っ!?不味い、伏せろ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Side ???

 

 

 

 くそ、仕留め損ねたか!万全を期すために腕を狙ったのが裏目に出たか。

 

 

 

 己れは師の頼みで19区の同胞を逃がすべく救援に来ていたが、20区が陥落寸前と聞き慌てて戻ってきた。兄者とはすぐに合流することが出来たが、同胞たちは『死神』とやらに心が折られかけていた。兄者が解析したところ、そいつは目にも映らないほど細いがとてつもなく強靭なワイヤーだという。最悪なことに射程距離は約5キロほどもあり、このままでは一人残らず鏖殺されてしまうという。

 

 

 

 同胞たちを救う手段はただ一つ。元凶とみられる国家錬金術師の殺害、若しくは最低でもそいつを戦線離脱させることだ。幸い連中は件の錬金術師に頼り切って哨戒を疎かにしている上に、そいつの部隊は常に先陣を切ってくる。付けこむ隙はある筈だ。

 

 

 

 作戦はこうだ。まず兄者の錬金術を用いて少し開けた区画のワイヤーを分解する。そこに俺と、まだ立ち向かう意思が残っている同胞で待ち伏せる。そして連中がやってくれば周りの建物をありったけのダイナマイトで吹き飛ばし、その土煙に紛れ奇襲を仕掛ける。こうすれば例え躱されても見えないワイヤーに怯えて身動きが取れなくなる、なんてことは防げる筈だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 奇襲は成功した。連中の進行が想像以上に性急だったため間一髪だったが、間に合ってしまえば寧ろその速さは此方の味方になる。本隊の合流までまだ猶予がある。ここで何としても仕留めなくては!

 

 

 

 しかし初撃を仕損じたのは痛かった。経験上、錬金術師は腕を潰せばその脅威度を著しく下げる。確実に戦力を殺ぐ為に右腕を圧し折ろうとしたが、まさかびくともせんとは。

 

 

 

 手応えはまるで鋼のようだが、独特の軋みがしないということは機械義手ではない、か。想定外ではあるが、まだこの距離なら拳の方が早い。銃を抜く暇も、錬金術に頼る暇も与えまいと飛び掛かるが、左腕の袖口から飛び出してきた仕込み銃を見て咄嗟に来ていたローブを脱いで盾にする。

 

 

 

 ――次の瞬間、何十発もの弾が降り注いできた。貫通力が無いのか厚手のローブにすら穴が開なかったが、布越しに衝撃を全身に浴びせられてしまい吹き飛ばされる。飛びかかった意識を無理やり戻すが、既にサーベルの様な拳銃が此方に向けられていた。身構える暇もなく発砲されるが、それが己れを射抜くことは無かった。あれほど鈍臭いと自己申告していた兄者が己れを庇っていたからだ。倒れ伏す兄者に向かって叫ぶ直前、後ろから強烈な衝撃を受け今度こそ意識を失った・・・。

 

 

 

 

Side out

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Side ウィリアム

 

 

 

 

 

 ・・・痛い。主に全身が痛い。特に最後に吹っ飛ばされたのが一番痛いんですが、そこのところどうなんですか、キンブリー中佐?

 

 

 

 

「いやいや、御無事で何よりです少尉。白兵戦はからっきしと聞いていたのですが、なかなかどうしてやるじゃないですか。イシュヴァラ僧との白兵戦の死傷率は8割を超えるそうですよ?」

 

 

 

 そんな恐ろしいこと言わないでください。僕は小細工と錬金術以外脳のない男なんですから生き残れたのは奇跡ですよ。この右腕と仕込が無ければ5回は殺されてましたね。それより、貴方の爆撃のせいで足が何処かへ行ってしまったので、慰謝料請求して良いですか?

 

 

 

「・・・貴方、医療錬金術使えたでしょう。石を使えばどうとでもなるのでは?」

 

 

 

 いや確かに治せますが簡単にはいきませんよ、骨折じゃないんですから。石があるおかげで何とかなりますけど普通ならオートメイルのお世話になりますからね。

 

 

 

「まあまあ、細かいことは言わずに。しかし貴方抜きで目標地点に行くのは私の美学に反しますね。あの場所は貴方のために用意された舞台なのですから。とりあえず早くその足くっ付けちゃってください。部隊は待機させますので」

 

 

 

 ・・・『僕のために用意された』? それより何他人事みたいに言ってるんですか。

 

 

 

Side out

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ―――それから数時間後、ウィリアムたちは遂に目的地である一軒家に辿り着いた。そこは御世辞にも診療所とは呼べないほど寂れており、碌に物資も残っていなかった。だが懸命に救命活動に勤しんだ跡が随所に見られた。

 

 

 

 だが、命を救うはずの場所は既に命を奪われた現場に変わり果てていた。そこで倒れていたのは無事を求めて止まなかった二人の姿だった。

 

 

 

「・・・貴賤を問わず、ただ目の前の命を救い続けた。その結果がこれですか。とても残念です。是非生きている内にお会いしたかった」

 

 

 

 一人ごちるキンブリーの傍で、ウィリアムはただ茫然と亡骸に寄り添っていた。そこにはこの地獄のような戦場を潜り抜けてきた威風は無く、涙を流すどころか、目の前の現実を受け入れることさえも出来ていないように見えた。

 

 

 

「・・・まあ、仕方ありませんか。エンフィールド小隊は先に帰還なさい、代わりに私の部隊を着けます。そこの2人、ここに残って護衛を。他の18名は外の見張りをなさい」

 

 

「「はっ!」」

 

 

 

 

 キンブリーはそう言いつけると場を後にした。外にいる部隊は命令に忠実に従っていたが、中の2人のうち1人は下卑た表情でウィリアムを見ていた。

 

 

 

「――はっ!天下の錬金術師様も人の子ってことか。ざまあねえな」

 

 

「おい、馬鹿!仮にも上官だぞ!!」

 

 

「どうせ聞こえてやしねえよ。大体お前も、あんなガキを上官だなんて勘弁だって言ってただろうが!」

 

 

 

 ここにいた男は、かつてウィリアムを誹謗中傷していたメンバーの一人だった。しかし仲間が現役軍人に睨まれ退学させられたことから学内で孤立しており、全く無関係であるのだが今回の徴兵もそれが原因であると考えウィリアムを恨んでいた。それに加えて次々と戦果を挙げ出世していったことへの嫉妬もあり、凄まじい憎悪の念を抱えていた。

 

 

 

「・・・なあ、もしあいつがここで死んでも、肉親の死に心を病んでってことで片付きそうだよな?」

 

 

「そんな訳にいくかよ、あいつはグラン大佐のお気に入りだぞ。そんな夢みたいなこと言ってる暇が――『パンッ!』―――は?」

 

 

 

 

 傍にいた同僚は毎日のようにウィリアムへの罵声を聞かされていたが、いざ本人が近くを通ると縮こまって隠れていたのを知っていたため相手にしていなかった。それ故にまったく止めることが出来ず、弾丸は正確に彼の頭を撃ち抜いていた。

 

 

 

「は、はは――――やっ――こんな簡――――」

 

 

 

「な、なん―――を!お――早――――生兵を――――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 薄れゆく意識の中、最後にウィリアムの視界に映った者は、育ての親の死に顔ではなく、いつの間にか懐から出していた羊皮紙と、そこからの目を覆いたくなるほどの錬成の光だった・・・・・。

 




ここまでご覧いただきありがとうございます!感想・質問等いつでも大歓迎です!!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第四話 終点と始まり

 

 

 

 

 

 

 

『ふーん、ひぃ、ふぅ、みぃ・・・・・君を含めて23人か。これだけ用意してきたのは久しぶりだな』

 

 

 

 

 ―――気が付けば一面真っ白な空間にいた。目の前には全身白タイツの妙なのが一体。正直そいつの後ろの扉のような何かが無ければ背景と見分けられる自信がありません。

 

 

 

『おいおい、白タイツは無いだろう。それじゃお前も全身白タイツの変態ってことになるぞ?』

 

 

 

 ・・・何で僕が?至って普通の恰好じゃないですか。後しれっと変態を追加して投げ返さないでください。

 

 

 

『・・・・つい先刻まで死んでいたとは思えないほど元気だな。まあ良い、オレは『真理』とお前たちが呼ぶもの。オレは「全」、オレは「一」、オレは「世界」、オレは「宇宙」、そしてオレは『お前』だ』

 

 

 

 真理?世界?・・・ここは夢かな?それとも現実逃避が過ぎて発狂しましたかね?

 

 

 

『んー、その認識でも別にかまわんぞ?どうせここで見たことは誰にも言えやしないからな。それより、実はオレ困ってるんだよなー。お前何にも考えずに弾みで来たんだし、相応しい罰何かないかなー。まあ良いか、とりあえず真理を見せてやるよ、23人とその石ころの中の30人分』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『―――よう、おかえり。どうだった?』

 

 

 

 ・・・・戻ってから体がうまく動かせないんですけど、壊れちゃったんですかね?

 

 

 

『いや、どちらかというと故障に近いな。なんせ53人も質に入れた対価だ。正常に体を動かす、という情報が無数の新しい情報に塗りつぶされているんだろう。直良くなる。ああそれから、お前から取り立てる『通行税』が決まったぞ。安心しろ、たぶん他のやつより安い。「前金」になる者を先にもらったからな』

 

 

 

 『通行税』、この知識に対する代償の事でしょうか。いやそれよりも、『前金』・・・?私はこれに何かを奪われただろうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ・・・・ちょっと待ってください。23人?あの場にいたのはキンブリー中佐が置いていった護衛が20人、それから僕。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ―――じゃあ、後2人とは一体・・・・?

 

 

 

 

『そら、今生の別れだ。最後に挨拶くらいして行けよ。丁度そこにいるんだから』

 

 

 

 

 これが指差す方へ振り向くと、良く見知った2人がいた。とても大切な、それこそ死に物狂いで戦場を駆けずり回ってでも取り戻したかったほど大切な育ての親が。どうして彼らが!だって、死んだ人間を錬成することが出来ないなら、対価にすることも出来るはずが無い!!

 

 

 

『お前達は魂について何を知っているというのだ?そいつらは確かに死んだ。心肺は停止し、瞳孔も開いていた。だが、何時、どのタイミングで魂が消え去るかなど知っていたか?知らんだろう、だからそいつらは此処にいる』

 

 

 

 な―――じゃ、じゃあ人体錬成はどうした!?魂はまだ現世にあるんでしょう?それならあの人たちを救えたはずだ。こんな所に居るはずが無い!!

 

 

 

『それこそ何を言っているんだ?人体錬成にこいつらを選ばなかったのはお前だろう?』

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・え?

 

 

 

『お前は頭を吹き飛ばされ、最早意識すら保つことが出来ないにも拘らず、本能だけで人体錬成を行って見せた。その生き意地汚さは称賛に値するよ。だが、死に瀕したお前が選んだのは育ての親ではなく自分の命だった。お前もヒトの子だという事さ、恥じることは無い』

 

 

 

 そんな、これじゃ・・これじゃあべこべだ!?あんなに救いたかったのに!そのために此処まで来たのにッ!!こんな、こんなことって・・・・!

 

 

 

『・・・だれが言い出したかは知らんが、「真理」とは残酷な存在らしい。だから分不相応な叡智に手を出した愚か者に正しい絶望を与えるのさ。まあ、お前が代わりに得たものはそれなりの価値がある。上手く使えば、京に一つだがオレに勝てるかもな。あ、それと一応言っておくがこいつらはもう『完全に』死んだ。もう一度ここに来ても無駄だ。つまり、お前がこの不条理を覆さない限り、こいつらは永遠にオレのものだ』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Side ウィリアム

 

 

 

 

 

 ――――意識が浮上する。今は自身の思い通りに体を動かせる。一通り調べてみましたが、特に変わったところは見当たりません。そして視線を前に向けると―――――そこには『人だったナニカ』が捨て置かれていました。

 

 

 

 それは黒い肉塊、という表現が一番適切でしょうか。それから手足や内臓、あと頭らしきものが飛び出している。大きさから丁度成人男性50人分といったところ。あまりにも名状しがたい、この世のものとは思えない姿を悍ましいと感じるのに・・・それ以上に今は自分がその何倍も悍ましく思います。あれをただただ冷静に見つめていられる自分が。あの中に大切な人だったものが混ざっているのが分かっているのに、だ。

 

 

 

 何も感じないわけではありません。痛ましさ・悲しさ・怒り・気持ち悪さ、そのどれも正常に感じています。ですが、まるで他人事のような、唯の信号のように感じるだけです。

 

 

 

「―――ああ、これが僕の『もっていかれた』ものですか」

 

 

 

 

 

 さしずめ『情動』とでもいうのでしょうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ご無事でしたか、少尉。いや、私の部下が大変な不始末を仕出かして申し訳ない」

 

 

 

 いえいえ、偶然“扉”を開けられたので何とか事無きを得ましたよ。

 

 

 

「・・・“扉”ですか。その単語を私に態々聞かせるということは、全部ご存知だという訳ですか」

 

 

 

 ええ、ですから一つだけ聞かせてください。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 貴方に、僕の足を吹き飛ばしてでも足止めをしろと命じたのはどこの誰ですか?

 

 

 

Side out

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 場所:イシュヴァール戦線作戦司令部

 

 

 

 

 

「ひ、ひいいいい!!?だ、誰か!紅蓮の錬金術師が叛逆を!!誰か居ないのかぁ!」

 

 

 

 ―――ここは作戦司令部、より正確に言うなら作戦本部だった場所だ。ここにいた連中はこの内戦を賢者の石精製及びそのフィールドワークに利用していた。そろそろ終戦が見え始めたので石を渡していた2人の錬金術師から回収しようとしたが、その内の一人によって司令室が吹き飛ばされ、最も近くにいたにも拘らず何故か無傷の男を除いた全員が室内の調度品と同じ運命を辿っていた。

 

 

 

「いくら叫んでも無駄ですよ。ここの壁と窓は一際耐久性と防音性に気を遣って作り直しましたので。外観を一切変えずに中身に細工するのは骨が折れましたよ」

 

 

 

「おお、エンフィールド少尉!助けてくれ、私が幾らでも出世させてやる!だから―――」

 

 

 

 男は恐怖のあまり先程青年が何を言ったかも碌に聞こえていないようだ。これでは話も出来ないので、足元に縋りついてくる男を蹴り飛ばし、右腕で鷲掴みした後ぬいぐるみのように軽く持ち上げた。

 

 

 

「貴方をたった今殺しかけた方から伺ったのですが、僕が間に合わなくなるよう彼に直接指示したのは貴方ですね?」

 

 

 

 今度は彼の言葉が一言一句伝わったのか、男は青を通り越して真っ白になった顔色で慌てて命乞いを始める。

 

 

 

「わ、私はただ命令に従っただけだ!!私より遥かに上の方の命令で、さ、逆らえるはずが無いだろう!!お願いだ、たす、助けて―――」

 

 

 

「命令?おかしいですね。中佐からは貴方が自身の手柄にするために、彼に個人的に頼んできたと聞きましたが?何がしたいのか知りませんが、随分仕事熱心ですね?」

 

 

 

「な・・・あ・・ああ、あんな男の言葉を真に受けるのか!?」

 

 

 

「少なくとも貴方方より余程信用できますが?彼は貴方の言う『あんな男』ですが、色んな意味で自分に忠実に生きていますからね。手柄のために筋書きに手を加えるような美学に反することはしないでしょう。別に嘘なんてつく必要ないんですよ?残念ながら貴方のお陰でどれだけ感情が沸騰しても行動に移ってくれないんです。ここで感情に任せて貴方を惨殺したり、頭が真っ白になってとんでもないことをすることは、僕にはもうできないんですよ」

 

 

 

 その一言に一瞬安堵するが、続く言葉に今度こそ絶望に叩き落される。

 

 

 

 

 

 

 

「ですから、何の感慨もなく、どうでも良く殺されて下さい」

 

 

 

 錯乱した男が再び命乞いを始めようとするが、息を吸った途端喉が焼切られるような激痛が走り言葉にならなかった。

 

 

 

「貴方があまりにも隙だらけだったので、少し神経を弄らせてもらいました。大したことはありません。痛覚を何倍にも引き上げただけですよ。僕も中々やるもんでしょう?錬成光を限りなく抑えて、被験者である貴方にも気づかせずにやってのけたんですから。・・・・・ダメですね。無様に転がる貴方に確かに何かを感じてはいるのですが、行動に表れないので何を感じているのかよくわかりません。本当に、最後まで役に立ちませんね」

 

 

 

 男の醜態に飽きたように手を翳すと、まるで風化していくように男の体が崩れ始めた。男が有らん限りの絶叫と釈明を続けるが、数秒も経たずに音は聞こえなくなり、一人の人間が塵へと変わった。

 

 

 

 

 

 

「――――やるねぇ、『紅蓮』の!それから、『翠煉の錬金術師』。二人目の人柱であるお前に相応しい席を用意してやるよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 こうして彼の内戦は終結した。何もかもを投げ捨てておきながら、その実何も果たすことが出来なかった、取るに足らない何処にでもある悲劇。しかし、凡そ殆どの人間が得ることのない力を手に入れたことで、ここから先の話は、正真正銘『彼だけの物語』へと続いていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――――――そして、6年の歳月が過ぎた・・・。

 




ここまでご覧いただきありがとうございました!次回から原作一巻へと入っていきます。

しかし戦闘描写の勉強のつもりで内乱篇から入りましたが、上達した気がしないorz
皆さん、アドバイス等あればいつでも大歓迎です、マジで。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

閑話 其々の印象と人物紹介

すいません、一巻に入る前に書きたくなったので閑話を挟みます。次回から原作一話目に入っていきます。


 

 

 

 

 ある兄の独白

 

 

 初めて会った時の印象は「気持ち悪い」だった。笑いたくないくせに笑ってるのがムカついて随分偉そうなことを言っちまった。そんな生意気なガキにいつも笑顔で付き合ってる変わった奴だった。

 

 

 何時ごろから仲良くなったんだっけな・・・?あ、思い出した。けどあんまり思い出したくないのもおまけでついてきやがった。たしか、アイツに説教されてアルとの向き合い方を考え直した時だった。『急にお兄ちゃんですね』って言われて得意げにアイツとあったことを話すと、今まで見たことのない表情で『お揃いですね!』と笑ってた。多分あれが初めて見た自然な笑顔だと思う。

 

 

 何でも、アイツの弟子になって直ぐに俺と同じことさせられたらしい。しかも丸一日、それで言われたんだと。

 

『ついていくと決めた相手に言われれば、どれだけ無駄に見えることにでも貪欲に肥やしに出来る、その愚直さは探究者に不可欠な素質だ。だが、得てしてそういう直向さは色々なものを忘れさせる。お前が今日担いだ重さは、母親が一年間その誕生だけを望んで背負い続けたものだ。絶対に蔑ろにするなよ』

 

 

 ・・・ちょっと嫉妬したとか、絶対に気の迷いだ。

 

 

 

 

 

 俺達が先生の所へ修行に行ってる間にウィルは家を出ていた。軍人になるための学校に入ったとか。ウィンリィを一人ぼっちにして何やってんだと騒いでたら、その当人に『お前らが言うな』ってスパナで殴られた。仰る通りです。

 

 

 なかなか帰ってこなかったけど、定期的に写真が送られてきた。最初のころは辛気臭そうな顔ばっかで心配したけど、少ししたらあの笑顔を浮かべていたから安心した。ただ、アルの奴が要らんこと吹き込んだらしく、写真の横に『今月○○センチ身長が伸びました』って書かれるようになり、それに憤慨する俺を見て皆が爆笑するのが日常になった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ある弟の独白

 

 

 僕にとってウィルはこうなりたいっていう目標だった。何でもテキパキこなすし、兄さんやウィンリィがどれだけ我儘言ってもニコニコ笑って叶えてくれた。しんどく無いの?と聞いたら『怒ったり、泣いたりする方が笑うよりしんどくないですか?』って返された。そういう意味じゃないんだけど・・・。ウィルは偶に天然というかなんというか。

 

 

 

 『イシュヴァール内戦』が終わって2週間後、ようやくウィルが帰ってきた。でもおばさん達は・・・。あの日からウィルはおかしくなった。何がどう、とは言えないけど、まるでボタンを押せばそれに応じて動く機械のような。前はこう反応していたよな、と確認するようなとにかく不自然なんだ。ピナコばっちゃんは時間が解決するしかないって言ってたけど、小さい時からあんなにお世話になったウィルに何かしてあげたい。それにウィンリィが毎晩泣いている姿が見ていられなくて、彼女には笑っていてほしいから。

 

 

 多分、だから僕たちはあの研究を再開させたんだと思う。

 

 

 

 

 

 

 軍から来たっていう男の人と女の人が帰ってから数日後、血相を変えてウィルが帰ってきた。でも僕たちを叱るわけでも、幻滅するわけでもなくただ昔のように僕たちをあやす様に抱きしめるだけだった。

 

 

『二人の周りにはしっかり叱ってあげられる人達がいますからね。もうお腹いっぱいでしょう?だから僕からはこれだけですね。「皆の団欒を取り戻そうとしてくれてありがとう。そして生き残ってくれてありがとう。僕が帰る場所を守ってくれてありがとう」』

 

 

 僕たち2人はずっと『ごめんなさい』と謝り続けた。自分たちがどれだけのことをしてしまったのか、本当の意味で理解できたような気がした。

 

 

 

 

 

 ある女性士官の独白

 

 

 私と彼が親しくなったのは、彼が始めた奇妙な課外活動に参加してからだった。先に参加していた友人のレベッカから話を聞いて興味を持ち、向こうからも是非テスターをお願いしたいと快諾して貰えた。銃を扱うものとしては性能はより良いに越したことは無く、自分たちの考えや要望が形になっていくのはとても楽しかった。

 

 

 

 彼の腕前については在学中に相当悪質な噂がばらまかれており、恥ずかしいけれど当事者でなかった私も踊らされていた一人だった。だから実際にこの目で見るまでは正直それほどのものではないと思っていた。本当に実力者なら私の父の弟子のあの人のように国家錬金術師になっていただろうと。

 

 

 しかし彼の技術には脱帽させられた。どれだけ精密で繊細な細工でも完璧に錬成して見せ、その柔軟性も並大抵ではなかった。参加者の何気ない一言や思い付きさえも少し時間を掛ければあっさりと形にしてみせた。あの沢山の発明も彼抜きでは決して完成できなかっただろう。錬金術は比較的身近なものだったけれど、改めて規格外の存在だと認識させられた。机上の空論だろうがなんだろうが、構成や設計図さえ突き詰めてしまえば何でも形にしてみせるのだから、世界中の技術者に喧嘩を売ってる業よね。

 

 

 ただ、機能美や限界を突き詰めすぎて失敗していることも少なくなかった。あのどう考えてもやり過ぎな拳銃にはじまり、防弾・防爆加工のし過ぎで走れなくなったトラック、切れ味を追求しすぎて逆に使い物にならなくなったナイフなど、挙げればきりが無かった。なまじ理論さえ整えば何でも作れてしまうせいで歯止めがきかないらしい。錬金術師は皆こうなのかと、少し昔を懐かしんでしまうことも多かった。

 

 

 

 いきなり出兵志願の相談をされたあの日以来、彼はそんな失敗をするときと同じ目のままだった。唯目的を果たす、それ以外は自分も含めて眼中にない様子だった。気持ちは理解できる。だけど本当に限度というものを知らない、偶然彼の右腕について知ってしまった時、何も聞かずに彼を引っ叩いてしまった。

 

 

 

 けれど、そこまで身を挺しても願いを叶えられないのだから世の中は無常だと思う。彼はあの戦いで多大な功績をあげ、最後は突如反逆し、上官を7名殺害した国家錬金術師を単身制圧したことで特例で国家錬金術師の資格を得たとか。その後も出世を重ね、一機関の長もやっているらしい。誰もが羨む栄達を迎えながら、本当に求めたものを取りこぼしたなんて皮肉も良いところだ。

 

 

 

 今でも私やハボック少尉、プレダ曹長は彼と交流があり、偶に東部に来た時などは一緒に呑むこともある。どれだけ偉くなっても相変わらずの低姿勢なことを皆にからかわれている姿に、もうあの時の面影は見当たらないはずなのに、あの鬼気迫る表情がいつまでもちらつくのはなぜなのだろうか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

プロフィール

 

名前:ウィリアム・エンフィールド

性別:男

愛称:ウィル

好きなもの:一家団欒、アップルパイ

嫌いなもの:真理、錬金術抜きの工作

特技:生体錬金術、工学錬金術、拳銃(特に早撃ち)、写真、図面引き

武装:

マグナムリサーチカスタムモデル『ワイアット』

 イシュヴァール内戦で愛用した下手物銃。マグナムリサーチの欠点である銃身の短さによるライフル弾の威力低下を、15インチまで銃身を伸ばすことで克服している。普通それだけ長い銃身だと破損のリスクが付きまとうが、錬金術によって既存の技術では再現不可能な金属構成で作ることにより強度も問題ない仕上がりとなっている。

 ただ欠点として、長い銃身と高密度の金属のためとても重い。普通なら扱えない銃を、ウィリアムは右腕に細工を施すことで運用している。また、左手で金属を持った状態なら、リロードなしで薬室に再装填されていくため、リボルバーでありながら機関銃の如く連射することも可能。

 

 

 仕込み散弾銃

 イシュバール内戦にて、とある屈強なイシュヴァラ僧に使用した銃。左腕の袖に仕込んである飛び出し式の拳銃。イメージは映画『シャーロック・ホームズ』でモリアーティ教授の仕込み銃、もしくは某吸血鬼漫画の狗の餌兄ちゃんのあれ。

 モデルはMILサンダー。散弾を撃てる拳銃、ただし袖に隠せるよう小型化したために威力が著しく減少したので、代替手段としてダブルバレルに改造し、とにかく2メートル以内の至近距離での緊急手段として開発、部隊全員に支給している。貫通力は皆無で、厚手のローブすら抜けない。その代わり衝撃を効率よく伝えられるよう細工がされている。

 開発の切欠は、イシュヴァラ僧と接近戦になった時の死傷率が8割を超えていると報告が上がったため、非常手段として急遽用意したもの。

 

 

 

『死神』(イシュバール人からの通称)

 賢者の石を手に入れたことで可能となった、広範囲殲滅用錬金術。建物や金属等に含まれる炭素から極細のワイヤーを精製し、主に隠れられそうな場所周りに展開し切り刻む。賢者の石が無くても室内で、且つ自身の周囲になら展開可能。敵に回避・潜伏を躊躇させるため、殲滅戦において絶大な効果をもたらす。

 その代わり欠点も多く、乱戦ではフレンドリーファイアの危険から使用できず、室内や市街地のように壁がすぐ近くにある地形でなければならない。

 

 

 

 

 

概要:ロックベル一家の親戚筋に生まれる。両親はともに錬金術師であったが、父親は何者かに殺され、母は人体錬成の失敗により他界。その後ロックベル一家に引き取られる。その後はホーエンハイムに弟子入り(基礎のみの条件付き)したり、士官学校に進学して青春を過ごす。

 在学中にウィンリィから両親がイシュヴァールにいることを聞かされ、志願兵として内戦に参加する。装備の強力さから新兵ながら士気のたかい部隊を率い、彼の発明により九死に一生を得た軍人たちの協力もあり、快進撃を続けるが人柱候補に上がったことからキンブリーに足止めが命じられ、それが原因でロックベル夫妻救出に失敗する。悲観に暮れていた所を、士官学校から因縁のあった人物に頭を撃たれ、弾みで人体錬成が発動してしまう。

 もって行かれたものは『情動』。感情を失ったわけではないので、怒りや悲しみ、喜び等は正常に感じる。しかし、それが行動に反映されず、まるで他人事のようにしか思えない。幸い過去に何度も経験している感情や相手によっては記憶から『こういう時はこんなふうに思ったり行動したりしてたなあ』と判断できるため、エルリック兄弟やロックベル一家に関しては以前とそう変わらず接することが出来る。しかし相手の機微に鋭い人間には不審に思われる。

 性格は基本的に温和で優しいと言われるが、キンブリー曰く、命を尊重してこそいるが、命の価値について厳格に区別しており、優劣に劣る存在についてかなりシビアな目線をしているとのこと。

 




ここまでご覧いただきありがとうございます!感想・質問等いつでも大歓迎です!!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第五話 再会と悲劇

原作読み直してみると、この内容はもう2巻に入ってるんでしたね。失礼しました。

気が付けばこの小説も評価バーに色が付き、週間ランキングにも入っていたので筆者は小躍りしています。これからもよろしくお願いします。


 

 

 

 

 

Side ウィリアム

 

 

 

 

 

「23番!作業完了しました!!」

 

 

「14番、33番も完了しました!」

 

 

「―――局長、全行程完了致しました。こちらが第6機関が本日実地訓練を行った区画です。どうぞ御検分を」

 

 

「わかりました。―――ふむ、ふむ。コンクリートの精製は大分様になりましたね。しかし

土の掘り起こしや化学肥料の出来はまだムラがありますね。これじゃ当分値段はつけられませんが、中期計画の見直しまではしなくて済みそうです。引き続き彼らの指導を頼みます。講習会が必要であれば、時間は都合しますので」

 

 

「はっ!寛大な処置痛み入ります」

 

 

 

 

 さて、僕が今何をしているかというと、何時の間にか押し付けられていた機関の実地訓練を目的に、東部までやってきております。

 

 

 

 ―――特務機関『エメス』。内戦終結後、国内外で高まった『錬金術』に対するマイナスイメージの解消のために創設された、錬金術専門開発機関です。国家錬金術師が軍事利用を主としているのに対し、『エメス』は公共の福祉を目的としております。

 

 

例えば、今日のようにテロ活動により損壊した建物の修復や、戦争に取られた働き手の補てんとして錬金術で土を耕したりなど。これらによって『錬金術は大衆の為にあれ』という原則を蔑ろにしていないというアピールをしています。また、イシュヴァール内戦の悲惨さに心が折れた国家錬金術師たちの多くを取り込むことが出来、国が保有する錬金術師の質を落とさずに済んだのはうれしい誤算です。この機関はいかなる理由があろうと、在籍する人員を戦争に動員しないという大総統のお墨付きを頂いていますからね。

 

 

 

 

 

・・・・もっとも、これらはあくまで表向きの話で、裏では『計画』の隠れ蓑として利用されているんですけどね。何か企んで入局してきた奴とかを言い包めて事件に加担させたりとか、そういえば少し前にラストさん達に要請されて一人リオールに送りましたが、あれからどうなったんでしょうかね?

 

 

割と便利屋のように使い走りを命じられますが、アメストリスのあちこちを飛び回れるのは僕としても好都合なので文句はありません。色々仕込むには時間が幾らあっても足りませんしね。

 

 

 

「―――それと局長、先程セントラルより入電がありました。それが・・・」

 

 

「・・・機関員の即時帰還、しかも残りの日程はすべてキャンセル?珍しいですね、横槍を入れてくるのもそうですが、埋め合わせや説明もなしに命じてくるとは」

 

 

「局長に直接連絡が言っていないところを見るに『例の件』ではないと思います。恐らく本当に突発的に起きた、それも致死性の高い緊急事態が濃厚かと。既に機関員全員に通達し、最も近い便のチケットも抑えました」

 

 

「わかりました。僕は本部に連絡を取ってみます。迅速な手配をありがとうございます、レーヴ中尉」

 

 

 

 先程から僕と会話をしていた女性はラビ・レーヴ中尉。『エメス』にて教導官を務める僕の副官で、自身も中々の腕前の錬金術師です。他にも色々と込み入った事情があるのですが、それは又追々。

 

 

 

「―――そうだ。今日はあの子たちが上京してくるんだった。今からホームにいけば間に合いますかね?」

 

 

 連絡はその後にしましょう。多少危ない事態でも僕はそう簡単には死ねませんし。

 

 

 

Side out

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「てんめ~ッ!ウィル、偶には帰って来いっつったろうが!」

 

 

「いやー、すみませんねぇ。機関の立ち上げやら復興作業やらで離してもらえなかったもので。あ、アルも久しぶりですね。エド好みのデザインに魔改造されてやしないかと心配していましたけど」

 

 

『久しぶりウィル兄さん。うん、それだけは全力で死守したからね』

 

 

「おい、何二人で人のセンス貶してんだ!つうか無視すんな!高い高いすんな!子ども扱いすんなーッ!」

 

 

 

 エドが駅に顔を出したウィルを見つけた瞬間飛びかかった。勿論本気で飛び蹴りした訳ではないのと、何よりリーチが違い過ぎたため白兵戦が苦手なウィリアムでも簡単に往なすことが出来、そのまま持ち上げられる。

 

 

 

「子ども扱いなんてしてませんよ?ただ僕にとっては君たちがどれだけ大きくなってもエルリック家のエド君とアル君ですからね。その証拠にほら・・・」

 

 

『――え?わ、わわわっ!!』

 

 

 そう言ってエドワードを下してすぐに、隣りで見ていたアルフォンスもひょいと持ち上げ始めた。どう見ても30キロ以上はある全身甲冑を腰も使わず腕だけで、しかもひょい、という表現が相応しい軽さで持ち上げたので、周りで微笑ましく見ていた人たちも目が点になった。エドは既に何度か見ているが、相変わらずどういう構造してんだと半目になっている。

 

 

 

「―――エンフィールド技術大佐、技術大佐ー!あ、いらっしゃった。さっきから中央からの催促が凄いんですよ。グラマン中将のストレスがヤバいので早く来て下さいって!」

 

 

「おや、本当にせっかちですね。ではそろそろお暇しましょう。エド君、もし中央まで来る機会があれば是非うちに寄って行ってくださいね。それではマスタング大佐、どうか二人の事をよろしくお願いしますね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それから少し時間が経過し、現在エルリック兄弟はマスタング大佐の執務室へと来ていた。

 

 

 

「今回は一つ貸しが出来たな、大佐!」

 

 

「・・・君に借りを作るのは怖いな、鋼の。で?堅苦しい司令部まで来たんだ、もう何が欲しいか決めてきてるんだろう?」

 

 

「さっすが、話が早いな!ちょいと大佐の伝手で生体錬金術の専門家を紹介してほしいんだけど―――って、なんだよ、俺変なこと言ったか?」

 

 

 せっかく押し付けた貸しを有効活用しようと持ちかけたエドだが、『何言ってんだ、こいつ』みたいな顔をされてたじろいでしまう。よく見ればホークアイ中尉もポカンとしている。

 

 

「・・・あー、鋼の。つい先ほどまでお前たちを持ち上げていた男は、この国有数の生体錬金術の権威だぞ?癪だがあの男以上となると国をひっくり返しても見つけるのは難しいと思うぞ」

 

 

「『・・・えーーーー!?』」

 

 

「まさかと思ったが、本当に知らなかったのか。この6年で特務開発局『エメス』の名は随分有名になっただろうに」

 

 

『いや、その・・・。あの人本当に極偶に帰ってくるんですけど、いつもあんな感じで・・・・・。どうしても近所のお兄さんのイメージが抜けなくてつい』

 

 

 

「そういやウィルの奴、偉かったんだよな。・・うん?そういやウィルって『技術大佐』って呼ばれてたけど、大佐とどっちが偉いんだ?」

 

 

 

「それは・・・」

 

 

「―――それは勿論私だッ!別称付の階級は本職より権限が僅かだが劣る。謂わば『技術大佐』というのは中佐以上大佐未満といったところだ」

 

 

「へー」

 

 

「でも、彼は特務機関長でもあるから、東部ではともかく中央上層部での発言力は実質中将並だそうよ」

 

 

『・・・てことは?』

 

 

「もしあちらから何か要請があれば、突っぱねられるのは東方司令部だとグラマン中将だけね」

 

 

『あっ(察し)』

 

 

「・・・大佐、大丈夫だって。まだまだこれからなんだし」

 

 

「私に生温かい視線を向けるのは止めろっ!!!だいたい、あの男が異常なのだ。この平時では私ですら6年かけて階級を一つ上げるのが精一杯だった。それを大尉から3階級も上げて見せるなど有り得んことだ。一体どんな超常の手を使ったのか是非教授願いたいところだ。それはともかく、どうするんだ?技術大佐を頼るならここで動いても二度手間にしかならんぞ」

 

 

「いや、紹介頼むわ大佐。ウィルは多分知ってても教えてくれないだろうから。錬金術に関しては凄く口が堅いけど、俺たちに必要なことを教えてくれなかったことは一度もなかったから」

 

 

『必要ならとっくの昔に教えてくれてるだろうしね』

 

 

「そうか、なら一人心当たりがいるぞ。『綴命の錬金術師』ショウ・タッカー氏だ。私も今は時間があるからすぐにアポを取ってやろう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・“傷の男”ですか。最近噂のテロリストが東部に・・・なるほど、あの撤収命令はそれでですか。で、僕はどう動けばよろしいでしょうか?中央に戻りますか、それとも―――」

 

 

『いや、君はこのまま東部の援護に回ってくれたまえ。ラストやエンヴィーは追跡に関しては正直、な。それにそちらには希少な人材が固まり過ぎている。ここまで来て代わりを用意するは難しい。有象無象はともかく、絶対に「人柱」を殺らせるな』

 

 

「もちろん、心得ております。ではしばらく単独で東部に留まりますね。不測の事態があればラストさん方に相談しますので、これで失礼致します大総統閣下」

 

 

 

「・・・さて、大佐は問題ないでしょうし、モグリの錬金術師が襲われたという報告も受けてませんね。では、やはりエド君達が一番の懸念材料ですか。恐らくあの子たちの今のところの目的は『アレ』でしょうから、行くとすれば恐らくあそこですかね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Side ウィリアム

 

 

 

―――えっと、これどういう状況?『綴命の錬金術師』の自宅へ向かうと何故か憲兵が塞いでいたので身分証を提示して中に入ると、ボコボコにされたタッカー氏と犬型のキメラ、それからマスタング大佐一行が居ました。

 

 

 

「エンフィールド技術大佐、ちょうど良かった。是非君の協力を得たいと思っていた所だ」

 

 

「さっきぶりですね、大佐。大凡の予測はついてますが、状況の説明を戴いても?」

 

 

「それは私からさせていただきます、技術大佐。鋼の錬金術師から通報があり、調べたところ実の娘と飼い犬でこのキメラを作成したそうです。それから国家錬金術師の資格を得た時も妻を犠牲にしたと供述しております」

 

 

「そうですか。ありがとうございます、ホークアイ先輩」

 

 

「・・・公的な場では階級に応じた扱いをお願いします、技術大佐」

 

 

「おっと、これは失礼しました。それよりも、協力は勿論させていただきますが、具体的には何をすれば?」

 

 

「錬金術を命の冒涜に用いたとなると、せっかく上向きになり始めた世間の評判がまた失墜しかねん。国家錬金術師のトラウマを掘り起こすことは出来るだけ避けたい。生体錬金術師の専門家として穏便に済ませられるか?」

 

 

 

「・・・ああ、そういえばエド君たちは見てしまったんですね。彼らが直面するには厳しすぎますからね。ご心配いただいてすみません」

 

 

「・・・そんなことは良い。それよりどうだ、何とかなりそうかね?」

 

 

「ではちょっと失礼しますね。ふむふむ、これはまた、程度の低い術を行使したものですね。まあそのお陰で魂にまで干渉がされていないようですね」

 

 

 

「程度が低い・・・?は、ハハハハッハ!!私の、私のキメラは完璧に錬成されている!誰にも元に戻せんよ!少なくとも戦場で親を死なせたような奴に『ピンッ』は――ご―けほっ―かっ――!」

 

 

 それまで大人しくしていたタッカーだったが、流石にウィリアムの言葉にプライドを傷つけられたからか、猛烈な勢いで騒ぎ立てる。が、この場でもっとも言ってはいけない一言を口に出してしまったために突如伸びてきた『何か』に首を締め上げられ黙らされることとなった。

 

 

 

「技術大佐!!この男を殺すことは許さん。裁判にかけなくては――」

 

 

「ええ、勿論。彼を殺したい人間は沢山いるでしょうし、抜け駆けはしませんよ。一応血液に酸素を錬成してますから、このまま首を落とさない限り死にはしませんよ。あんまりうるさいので少し大人しくなって貰いました。ああそれと、殺しはしませんが、殺人犯に凶器を持たせたままでいるのは都合がよくありませんよね?」

 

 

 

 タッカーに絡みついていた鋼線が解け首から離れた瞬間、凄まじい速さで巻き取られその弾みで絡みついた両腕が千切れ飛んだ。

 

 

「あ、あああああ私の腕が、早く、早く治して、じゃないと研究が、これまでの努力が全て無駄にいいいいいい!!?」

 

 

「中尉、申し訳ありませんが止血をお願いします。それから、そんなに喚かなくても良いでしょう?貴方の研究なんてとっくに無価値なんですから」

 

 

 

 そういってタッカーの飼育室へと入り、適当に見繕ったキメラに手を翳し錬成を開始する。

 

 

 

「これでよしっと。ハッピーバースデー、今日から君の名前はココだ」

 

 

「・・・ナ・・マ・・・・?コ・・・・・コ??」

 

 

「―――――へっ?」

 

 

「つい最近まで医療分野の研究をしていましてね。主に痴呆や呆けの治療をテーマに脳の研究をしていたので、このくらいは筋の良い部下でもできますよ。いかがですか?・・・聞こえていないようですね」

 

 

 

「・・・・どうやら『エメス』の技術力は想像以上のようだ。技術大佐、君ならこのキメラの治療も可能か?」

 

 

「残念ながらすぐには無理ですね。僕は彼女が人間だったころを知りませんから。抜け毛でも何でも構わないので彼女のDNAを回収してください。それから人間のころの写真も。後は僕たちが引き受けますので、彼女をセントラルまで輸送してください」

 

 

「わかりました。急いで手配します」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 こうして俄かに騒がしくなったタッカー邸。しかし、慌てて拘束され連れて行かれるキメラが、外部からはどう見えていただろうか。突然の猟奇事件に東部軍も浮き足立っていたのか、この事件の関係者にこのことが伝わらなかったことも悲劇の一因となってしまった。

 

 

 

 トラウマを掘り起こされ、気が動転していたエルリック兄弟は彼女の移送を実験動物としての連行だと思い込んでしまい、移送を妨害してしまった。そうして彼女は路地裏に姿を消し、そして―――――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――――翌朝、原型を留めないほど粉々に分解された姿で発見された。

 

 

 

 

 




ここまでご覧いただきありがとうございます。感想・質問等いつでも大歓迎です!!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第六話 遭遇と狩り

 

 

 

 

 

「おいおい、マスタングさんよ。俺は裁判にかけるために中央から来たんだぜ。死体を法廷にでも引っ張り上げろってか?」

 

 

 キメラの死体発見から数時間後、中央から派遣されたマース・ヒューズ中佐並びにアレックス・ルイ・アームストロング少佐がタッカーの身柄の引き渡しのためにやってきていた。尤も、既に目的は引き渡しから現場検証に変わってしまっているが。

 

 

「・・・こちらの不手際については謝る。タッカーの被害者の護送に人手を割いた僅かな時間を狙われとはな。しかもそのキメラすら殺害されてしまった。完全に私の落ち度だ」

 

 

「何言ってる。タッカーはともかくキメラの方は―――」

 

 

「・・・トラックを検分したところ錬金術を行使したとみられる破壊跡があった。タッカーの娘に錬金術の才はない。恐らく、『父親にキメラにされた』などという情報が明るみに出ないよう秘密裏に移送する姿が、動揺する彼らには後ろ暗いものに見えたのだろう。今この地上で最もあの子供の安否を危惧しているのが誰か気づかなかったとは、上に立つものとしてあるまじき失態だよ」

 

 その一言にヒューズも得心が言ったのか頭を抱え溜め息する。となりにいるアームストロングの表情も暗い。もし“傷の男”が東部に流れてこなければ、キメラになっていなければ、エルリック兄弟が動く前に事情を知ることが出来れば・・・。数多の要素の中でどれか一つでも欠けていれば、この悲劇は起こりえなかった。

 

 

「・・・ったく、肝心なところでポカするのがお前の悪い癖だよ。子供と変質者は何を仕出かすか分からねぇんだからきっちり見張っとかねえと。まあ良い、あいつらを責めるのはお門違いだ」

 

 

「ああ、そうだな。それとエンフィールド技術大佐、例の件は彼らには黙っておく。これ以上追い詰めるのは、な」

 

 

「はい。あの子たちが誰にも相談せずに場当たり的な行動をしたことは叱っても、『お前たちが何もしなければ助かったかもしれない』などという有もしない咎を負わされるのは筋が違います。罪なんてそんなの、あの子をあんな姿に変えた奴と殺した奴にしか無いんですから」

 

 タッカーの娘は元に戻せた、その事実を無かった事にする。もし彼らが悪いほうに捉えていたのならそれこそが真実だった、そういう事にする。欺瞞かもしれない。だが14、5歳の若さで健気に邁進する子供に、大人が負うべき罪を被せさせはしない。それがこの場にいる全員の総意だった。

 

 

「・・・ちょっと待て中佐。この事件は中央で騒ぎになっている『国家錬金術師殺し』の仕業かもしれないといったな!?中尉、エルリック兄弟の動きは補足できているか!」

 

 

「えぇ。たしかプレダ曹長が朝様子を見にいった時は、一日ホテルにいると―――」

 

 

「すぐ人をやって確認しろ!彼らは事件について何も知らん。もし気分転換に外出し、“傷の男”と鉢合わせでもしたら最悪だ!マース、直に人員を掻き集めてくれ!少佐は先にエルリック兄弟の捜索を頼む!」

 

 

「おうっ!」 「了解!」

 

 予想される最悪の事態に、その場にいる全員が動き出す。しかしその中で一人、ウィリアムは少佐たちとは全く別方向へ歩いていく。

 

 

「―――ではそちらは皆さんにお任せします。すみませんが僕は独自で動かせてもらいます。もしかしたら無駄骨になるかもですが、ちょっと『網』を貼っておきます」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――数時間後―――

 

 

 

 

 市街の外れで一際大きな破砕音が鳴り響く。マスタング大佐の予想通り“傷の男”に襲われ、満身創痍となったエルリック兄弟であったが、間一髪間に合った救援により九死に一生を得た。

 

 

 その後、アームストロング少佐とホークアイ中尉の連携で時間を稼ぎ、包囲網を完成させたが大規模な『分解』の錬成により地下への逃亡を許してしまう。

 

 

 

「ハボック、総員撤収だ。追撃は諦めるぞ」

 

 

「・・・もちろんですよ。あんなヤバいのの相手なんてできませんて」

 

 

「違う。いや、それもあるが地下通路は恐らく『死神』の寝床になっているはずだ。足手纏いで済むならマシだが、諸共スライスされたら私の責任問題になる」

 

 

 上司が事もなげに口にした一言にハボックは咥えていた煙草を落としてしまう。『死神』はウィリアムのもっとも有名な通り名の一つだ。内戦でイシュヴァール人に渾名された、数えきれないほどの同胞を切断した鋼線が元だとか。

 

 

「・・・こんな事仲間を何人もぶっ殺した奴にいう事じゃありませんけど、今降りてった奴に同情しますわ」

 

 

「まったくだ。屋内で、しかも視界の利かない地下であの男との殺し合いする位なら、雨の日にイシュヴァール僧100人と遭遇戦する方がまだマシだ」

 

 

「うわぁ・・・。大佐が男相手にそこまで言うなんて相当っすね。そんじゃあ件のテロリストがこのまま技術大佐様にサイコロステーキにされちまえば一件落着!最高のハッピーエンドってことですね」

 

 

「いや、それは次善の結果だな。一番はエンフィールドが程々に奴を痛めつけて取り逃がし、その後我々の手で仕留める。中央で名を轟かせた男の首は、平時では考えられんほどの大手柄になるだろうさ」

 

 

 ―――この時ハボック少尉は思った。あ、これ自分の発言で首絞めるパターンだ、と。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 場所:地下通路

 

 

 

 

「・・・『死神』か。同胞たちの言葉は正しかったと見える。ここまで厄介とは、地下に下りたのは誤りだったか?」

 

 

 

 ―――“傷の男”は信心深くはあるが、意外と信託だの啓示だのは信じていない。イシュヴァラ教にそのような風習が無いからなのかは不明だが、そんな彼でも今日はずっと予感めいたものを感じていた。自身の兄を死に追いやった片割れに会えると。

 

 

 そういった心構えがあったからだろうか、鋼線が頬に僅かに食い込んだ時点で気づくことが出来た。その場で飛び退くような愚は犯さず、慎重に体をずらす。しかし死角にでも配置していたのか、振動が伝わり鈴の音が辺りに木霊する。

 

 

―――瞬間、強烈な悪寒を覚え、最小限の動きで地面に伏せる。その数瞬後に元居た位置に弾丸が通過していく。壁にめり込んだ音がしないのは恐らくその前に糸で切断されたためだろう。

 

 

 どれだけ身体能力に自信があろうと、決して目に映ることのない凶器。それが齎す恐怖とストレスは筆舌に尽くしがたい。ましてや埃を発生させて可視化させたくてもその振り下ろしで腕を持って行かれる危険性が高いし、第一目立ちすぎる。

 

 

 故にとれる対策手段は一つ。こうして息を潜め、敵の隙を突くこと。相手が人間である以上、この鋼線を視認することは出来ないため、視界の悪いこの環境で必殺を望むのなら、一部を解除して接近するしかない。自分が動けないということは、相手も近づけないのと同義。奴の速射を掻い潜るのは困難だが、それ以外に勝機は無い。

 

 

だから怨敵へと募る激情を抑え息を潜めるが、そんなもので首が獲れるのなら彼はイシュヴァールを生き抜けなどしなかった。ウィリアムにとっては鋼線での殺傷などできれば儲けもの、その最大の目的は相手を釘付けに出来るということにある。

 

 

 

「――――む?―――――っ!!?」

 

 

 研ぎ澄ました五感から仄かに異臭を感じた。その直後、急に頭に霞がかかり、全身にまるで酸欠にでもなったかのような倦怠感を覚えた。

 

 

「・・・これは、毒か!?」

 

 

 囁くほどの声での呟きだったが、すぐそばに鉛玉が着弾し額に新たな傷を生む。呻きたくなる衝動を何とか堪え、懐からハンカチを取り出し口元に宛がう。

 

 

「・・・外しましたか。ええ、御名答です。実は予め憲兵さんに農薬を運び込んでもらいまして、そこから水銀を気化させてみました。早く逃げるなり僕を始末するなりしないと手遅れになりますよ?」

 

 

 あっさりと種明かしをしたが、勿論慢心した訳でも、自分の能力を誇っているわけでもない。相手の焦燥感を煽るためだ。ぶっちゃけてしまうとこの農薬に含まれる無機水銀は大した毒性もないので、この地下から逃げ切り、養生して自然排出してしまえば特に問題ない。標的が自棄を起こし崩落させて流失するリスクを考えれば当然の配慮なのだが、科学者でもない人間が水銀と聞けば、悪名高い公害等を連想してしまうだろう。

 

 

 

 現に“傷の男”は気が気ではなかった。もし仮に神が味方しこの劣勢を覆しても、後遺症が残っては復讐を果たすことが出来なくなってしまう。そうして焦りから地面に這わせていた右手で有りっ丈の『分解』を行い、地面と周囲の鋼線諸共水銀を分解する。その手段を先程悪手だと切り捨てたことも忘れて。

 

 

 隠密性皆無な爆発を起こした標的を外すほどウィリアムの腕は鈍っていない。サーベルの様な長さの愛銃から放たれるライフル弾が4発、それぞれ胴に2つ、腕、足にそれぞれ1つ喰らい付き穴を穿つ。その衝撃に受け身も取れず頭から倒れ込み、意識が朦朧とし始める。

 

 

 弾丸の飛んできた反対側から引っ張られるような感覚を最後に、“傷の男”の意識は途切れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Side ウィリアム

 

 

 

 

「ひ・・・ひぃ。げほ、ごほ・・」

 

 

 

 ・・・・狙い通りに事が運び、首尾良く足も撃ち抜けた。後は止め、という段で突然声が聞こえたので振り向くと、浮浪者と思わしき男性が首を抑えて倒れていました。おかしいですね。前もって避難勧告を憲兵さんにしてもらったはずなのですが。

 

 

 とはいえ、放置しておくのも不味いので一旦銃と毒を収めましょう。あの傷なら医療錬金術の使い手でも擁していない限り動けないでしょうから。とりあえず体内の水銀を分解してやり無理やり排出させます。で、簡潔に話を聞いてみると、碌な説明もどれだけ離れれば良いかも聞かされなかったので、このあたりなら大丈夫だろうと入ったらこの様だったとか。・・・浮浪者相手とはいえ、もっとちゃんと仕事してくださいよ、全く。

 

 

 とりあえず危険なのは十分わかっただろうと男を追い帰し、改めて“傷の男””へと向き直りましたが、既に彼の姿は無く。近くには傘の骨らしきものが大量に落ちています。なるほど、傘を前に突き出して探知機代わりにしたんですか。これなら気休めにはなりますが、戻りはどうすることも・・・・!?しまった、さっきの浮浪者もグルか!!彼を帰させるために鋼線を解かざるを得なくしたという訳ですか。

 

 

報告では“傷の男”はシリアルキラーと聞いたのですが、さて?まあ考えても仕方ありません。逃げられてしまった以上作戦はここまでですね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――――という訳で、残念ながら取り逃がしてしまいました。申し訳ありません。ですが4発ほど新しい穴を拵えておきましたので当分動けないでしょう。心残りですが、後は皆さんにお頼みしますね」

 

 

 あれから当方司令部へと帰還し報告に上がりました。皆さん顔色がよろしくないですが、それは“傷の男”が無事であることへの恐怖ですよね?間違っても僕に対してじゃありませんよね!?

 

 

 こら、そこ!エド君『うわぁ、エゲツねぇ・・・』とか言わないで!!身内にドン引きされるのはさすがに傷つきますよ!?・・・あと、マスタング大佐は何故でしょうか?

 

 

「・・・良かったっすね、大佐。最善の結果なんですから頑張って先陣切ってくださいね。俺達はやば過ぎるんで勘弁すけど」

 

 

「 orz 」

 

 

 

―――???

 

 

 

 

 




ここまでご覧いただきありがとうございました!感想・質問等いつでも大歓迎です!!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第七話 休息とスパナ

 

 

 

 

 

 

「―――ったく、アルをトンデモナイところに放り込みやがって」

 

 

「貨物の方が運賃が安いのだ。“傷の男”に散々市街地を破壊されたせいで経理がうるさいのでな。それよりリゼンブールまでかなりある、今のうちにアームストロング家に代々伝りし製法で作られた軽食を食べておくが良い。さ、技術大佐も御一つ!」

 

 

「お、サンドイッチじゃん」

 

 

 

 “傷の男”との会合から数日後、機械義手を壊されたため、役立たずの豆チビと化したエドワードを使い物にするため兄弟はリゼンブールへと帰郷していた。“傷の男”に協力者がいる可能性が出たことから、未だ警戒体制が維持されており二人の護衛としてアームストロング少佐、そしてもう一人の計4名で行動していた。

 

 

 

「・・・何で僕まで一緒なんでしょうか。近いうちに今度は南部に遠征しなきゃいけないし、東部での報告書も上げなきゃいけないのですが」

 

 

「こうでもしねえと帰って来ねぇからだろうが!」

 

 

 もう一人の護衛としてウィリアムも同行していた。本人の言もあるが一つの機関の長だけあってウィリアムも忙しい。本来東部に彼の人事に口を出す権限はないが、貴重な人柱を無理なく監視できる関係であること、そして“傷の男”の捜索に人手を割きたいある人物たちの意向もあり随行することとなった。残念ながら彼への皺寄せは考慮されていない。帰ったらしばらく徹夜であろう。

 

 

「へっ!ウィンリィがスパナ振り回して待ってるだろうから覚悟しとけよ」

 

 

「・・・その時は多分君もスパナの錆ですよね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――待ちやがれ!!」

 

 

「待つのだエドワード・エルリック!弟を置いていくでない。しかし抱えて行っては見逃してしまうが・・」

 

 

「僕が此処で一緒に待ってますよ。彼が本物のマルコー博士なら、僕が居たら怖がって話にならないでしょうから」

 

 

「お頼みしますぞ!これエドワード、一人で行くでない!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 大人しく駅で留守番することになったアルフォンスとウィリアムは、通行の邪魔にならないところで待機していた。ただ途中でウィリアムが用事を思い出したと言い出し、公衆電話の傍にいる。勿論アルもすぐそばに連れ出して。優男が平然と甲冑入りの木箱を運ぶ姿に、通行人全員が目を点にしたのは言うまでもない。

 

 

「やあレーヴ中尉、仕事中にすみません。少し戻るのが遅れそうなので南部遠征の人選を頼みます。それから、最近妙に色々物騒なので腕の立つ護衛も揃えておいてください。あ、あと『ソラリス』に言伝を。昔度数の高いお酒を飲み逃げしたアーツトさんを見かけましてね。軍務で忙しいので代わりに建て替えた代金を徴収しておいてください、と。はい、場所は東部の・・・はい、よろしくお願いしますね。それでは」

 

 

『あれ、ウィル兄さん知り合いが居たの?僕の事なんて気にせず話してくればいいのに』

 

 

「・・・いえいえ、学生時代に酒代をちょろまかされた相手だったもので。下手に声かけて逃げられては取立てできませんから。それに、自分のことを『なんか』なんて言ってはいけませんよ?唯一戦犯じゃないアルまでスパナの刑に処されますよ?いや、むしろ泣かれかねませんね」

 

 

『あはは・・・それはやだなぁ。気を付けなきゃね』

 

 

 それからエドワード達が戻ってくるまでの数時間、久しぶりの幼馴染の会話を楽しんでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「~~~~っ!!帰ってくるなら前もって連絡しろって言ったでしょ!それと不良兄!!忙しいのは分かるけど、せめて電話位しなさいよ!!昔は頻繁に送って来たのに、最近は手紙も碌に出さないし」

 

 

「いや・・あの・・・・・その、すいません」

 

 

 その後は特にトラブルもなくリゼンブールへと到着したが、待っていたのは笑顔の出迎えより先にスパナの洗礼だった。アメストリスにその名を轟かせた『翆煉の錬金術師』も妹分には勝てず、仁王立ちした彼女の前で正座させられていた。

 

 

「ぷ、あっははは!ウィルも昔からウィンリィには勝てなかったもんなあ。大総統直轄の特務機関長も形無―――」

 

 

「―――ところでエドォ♡いつもより横に小さく見えるんだけど、目の錯覚かなぁ?私の最高傑作は何処に行ったのかしらぁ?」

 

 

 

 

 

~~~~しばらくお待ちください~~~~

 

 

 

 

 二人仲良く頭にスパナを生やして(ウィリアムはエドの巻き添え)昼食を過ごした後、エドワードとウィリアムは墓参りに訪れていた。

 

 

 

「―――そういえば、御母堂の元を参るのは初めてでしたね」

 

 

「・・・そういやそうだったな。だからもっと頻繁に帰って来いっつってんだ」

 

 

「えー、たしか以前戻った時はどこかの誰かさんたちが小さいころみたいにしがみ付いて離してくれなかった所為でもあるんですが」

 

 

「ギャーッ!!恥ずかしいこと思い出させんじゃねえ!・・・でも正直感謝してもし足りないよ。あいつが居なくなってからは母さんの手助けから何から、ずっと俺達を助けてくれてたんだから」

 

 

「改めて言われると照れ臭いですね。ですが恩義に思う必要はありません、あの日々は僕にとっても掛け替えのない宝物ですから。だからお相子です」

 

 

 どちらかともなく笑いあう。本来トラウマの地であるこの焼跡で穏やかな気分でいられるとは思わず、束の間の休息を噛み締めていた。

 

 

 

「・・・・なあウィル、マルコーさんから聞いたんだ。『翆煉の錬金術師』は自分なんかより遥かに真理の近くにいるって。元の体に戻る方法を教えてくれっていう訳じゃない。多分ウィルが言わないってことは何か理由があるんだろうから。ただ、あの内戦とその後の6年間に何があったんだ?」

 

 

 ―――空気が凍る。もう既に先程までの穏やかさは無くなり、二人とも一錬金術師として顔を見合わせる。

 

 

 

「やはり件の男性はマルコーさんでしたか。彼とは内戦で何度もお会いしましたね。・・・僕から話せることはありません。ですが、僕は脅されているわけでも、惰性で歩んでいるわけでもありません。例え師の教えを破ってでも成し遂げたい願いがある、それだけですよ」

 

 

「珍しいな、ウィルが願いなんて言葉口にするの。それって―――」

 

 

「そんなことより、君たちがこれから飛び込もうとしているのは掛値なしの蟻地獄です。一度でも踏み込めば、転げ落ちて食われるか、それとも捕食者の喉笛を食い千切るか、二つに一つです。ですから、危険から身を守る手段を用意しなさい。君たちを助けようと手を伸ばした人が身代わりになってしまわないように。さて、そろそろ戻りましょう。もうじき晩御飯ですよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ―――3日後、無事機械義手が完成したため、兄弟たちは玄関前の広場に出て作動確認を兼ねた組み手を行っていた。

 

 

 

 

「へえ、随分腕が立つようになりましたね。これもカーティスさんの教えの賜物ですね。・・・ん?」

 

 

「ですな。よろしい!僭越ながら吾輩も作動確認に協力しよう」

 

 

「『ギャーッ!!』」

 

 

 突然上着を脱いで乱入してきた筋肉に仲良く悲鳴を上げる兄弟。2階で呆れながら見守るウィンリィ。ただし彼女の心配は兄弟の安否ではなく、仕立てたばかりの機械義手の無事なのだが。

 

 

「むぅん!!うむ、これだけ出来る者は軍でもそうはいまい。吾輩も良い修練になる!どうですかな技術大佐?貴殿も組み手に参加しては?」

 

 

「あ、私も見たいかも。いつもほんわかしてるし、強そうな兄さんも見てみたい!」

 

 

 突然少佐に振られ、しかも思わぬところからもリクエストが入った。良く見れば兄弟も興味津々のご様子。やはり自分たちが瞬殺された“傷の男”を追い詰めたという兄貴分の実力は気になるようだ。

 

 

 

「うーん、僕は肉弾戦苦手ですから・・・。あ、これ使っても良ければ―――」(チャキッ)

 

 

「『良い訳無いでしょ!』」

 

 

「俺達が何のためにここまで来たと思ってやがる・・・」

 

 

「(いつ抜いたのかまるで見えなかった・・・)」

 

 

 ・・・結果、満場一致で不参加となった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そしてさらに時が過ぎ、兄弟一行がセントラルに帰る日となった。ウィンリィもすごく眠そうにしながらも見送りに出ていた。

 

 

「うー、徹夜は勘弁してほしいわ」

 

 

「別に良いじゃねぇか。肌なんて気にする女っ気もねえ――『ガンッ!!』――痛ぇっ!?」

 

 

「ねえ、久しぶりに感想聞かせてよ!兄弟子としてさ」

 

 

「弟子入り30分で破門された身ですけどね。まあそれより・・・・残念ながら皆伝はまだまだ先になりそうですね。多分すぐに会えるでしょうから、セントラルに来たときは連絡下さいね」

 

 

 

 最後に不穏な発言を聞かせ、「えっ?」という表情をした一同を尻目に駅へと向かっていく。彼の頭は、既にどれだけ速やかに書類を処理できるかしか考えていない。

 

 

 

 

 

 




ここまでご覧いただきありがとうございます!感想・質問等いつでも大歓迎です!!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第八話 変化と水面下

 最近すごい勢いでお気に入りやら何やらが増えてビックリ仰天しております。

 さて、今回から少しずつ原作の流れに変化を加えていきたいと思います。


 

 

 

 

 

 ―――リゼンブールからセントラルへと辿り着いたエルリック兄弟は、燃えて無くなってしまったドクター・マルコーの研究資料の復元を元国立図書館司書、シェスカに依頼した。ちなみに少佐は護衛任務を部下のマリア・ロス少尉及びデニー・ブロッシュ軍曹へと引き継ぎ本業へと戻った。ウィリアムは馴染であるロス少尉に会いたがっていたが、プラットホームに待ち構えていたラビ・レーヴ中尉と部下数名に連行されていった。―――合掌。

 

 

 

『・・・やっぱり悪いことしちゃったかなぁ』

 

 

「気にすんなって、少佐も言ってただろ?ちゃんと上の許可得てるって。それより複写に結構時間かかるって言ってたし、俺はちょっと長電話してくるけどアルはどうする?」

 

 

『うーん、セントラルは初めてだし、一人でうろつくのはちょっと。ところで長電話ってどこに?』

 

 

「・・・ウィルにちょっと宿題出されたからな。ちょっとむかつく奴にむかつかせ方聞いてくる」

 

 

『本当に兄さんって昔からウィルの言う事は素直に聞くよね。ハッ!もしかしてお兄ちゃん欲しかったクチ?僕だけじゃ物足りないっていうの!?』

 

 

「誤解を招く発言は止めろーーーっ!!!?」

 

 

 

 ―――この会話を聞いた後、コソコソ話していたロス少尉とブロッシュ軍曹の顔が作画崩壊したのは言うまでもない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Side マスタング

 

 

 

「・・・頼み?君が、この私に貸しがあるわけでもないのに??・・・明日は槍どころか豪雨だな。その上私は三人の“傷の男”に襲撃に会うのか。すまん中尉、君との約束は守れそうも―――」

 

 

『アホな上に失礼な妄想してんじゃねぇ―ッ!!この世に三人も“傷の男”がいて堪るか!!?』

 

 

 

 ・・・うむ、この撃てば響く火薬のような反応は鋼ので間違いないな。一瞬本気で声マネ世界王者のドッキリかと思った。しかしなんでまた急に、それも私を訪ねて電話してくるなど予想外も良いところだ。

 

 

 

『―――いや、俺らの探し物がなんか物騒な話に絡んでるみたいでさ。もうちょっと自衛手段を持っといたほうがいいって言われて。そういうの大佐得意そうだし、“傷の男”の件で俺達の事情結構知られたから、巻き込みたくないっていうか。特に少佐とヒューズ中佐とか』

 

 

 

 ・・・物騒?賢者の石が?伝説が先走り過ぎて実際どれほどのものなのかは知らんが、その言い回しだと、まるで既に悪用している人間がいるみたいではないか。ふむ・・・。

 

 

 しかし奴の口から出た人選に思わず口が歪んでしまうな。確かにあの二人は相当な御人好しだ。この兄弟が危ない橋を渡ろうとしていたら、有無を言わさずお節介を焼くだろうな。

 

 

 

「確かにその二人は、クギを刺しておいても知ったことかと踏み込んでくるだろうな。私も気を付けておくとしよう。それより、そういう注意はもっと早くからしておくものだ。自分たちがどれだけの代物を追っていると思っている?もし君が手に入れたことを知ったら、殺してでもほしい人間はごまんといる。かくいう私もその一人だろうな」

 

 

 

 多分気付いてないのだろうな。でなければあれだけ吹聴して回るものか。いや、これを成長というんだろうな。

 

 

 

『えー!?よりにもよって大佐もかよ・・』

 

 

「当然だ。君らにとっては元の肉体を取り戻す装置なだけかもしれんが、人体錬成を成功させるということは、どんな死に体でも新品の肉体に造り替えられるという事だ。本来の使い方は知らんが、私にとってはそれだけで値千金だ。自分と仲間の命に保険を掛けられるなど我々軍属にとってはどれほどの価値があるか、想像着かんわけじゃないだろう」

 

 

『・・・あー、昔っから思い込んだら他のことが見えなくって嫌になるよ』

 

 

「せいぜい君たちに助言をくれた人間に感謝することだな。さて、お互い暇じゃない。詳しいことはまた会ったときにでも話す、だから簡潔に言うぞ」

 

 

 

 電話口からでも居住まいを正しているのが分かるな。まったく、普段からその位聞き分けが良ければ可愛いものなのだがな。

 

 

 

「一番良い方法はその物騒な対象を刺激しないことだが、君らは目的が知られ過ぎてるからな。今更諦めましたとか言っても却って怪しまれるだろう。周りを巻き込まないとなると、今すぐできる細工は3つだ。一つ、なるべく直接的な表現を避けること。二つ、周囲に繋がりを悟られないようまとまって動かないこと。そして3つ目、代替手段・別の解決法に乗り換えた振りをして騙す。小細工ではあるが、今より確実にヘイトは下がるだろうな」

 

 

『えーと、要は知られない、ばれない、騙すってことか。上手くやれるか分かんねえけど、ちょっくらやってみるよ。・・・・・・・・さんきゅ、大佐』(ガチャッ)

 

 

 

・・・・やれやれ、上官より先に電話を切る奴があるか。まったく。

 

 

 

「――失礼します、大佐。あら、何か良いことでもありましたか?」

 

 

 

 やあ中尉。いや何、自分のことで精一杯だった子供が随分大人になったものだと思ってね。

 

 

 

Side out

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 場所:セントラル刑務所

 

 

 

 

「―――おや、随分懐かしい顔じゃないですか。相変わらずお忙しいようですね?」

 

 

「ああ、どこかの誰かさんを取っ捕まえて以来仕事を押し付けられる毎日でね。はいこれ、新聞。持って帰れって言われてるからさっさと読んじゃって」

 

 

 

 もしいつもの彼を知っているものは、普段の言葉遣いとのギャップに驚いたことだろう。恐らく世界で唯一ウィリアムが敬語を外す人間の元へ面会にやってきていた。

 

 

 

「外は随分物騒になりましたねぇ。これはいよいよ世紀の瞬間が近づいているという事ですか?」

 

 

「まだまだこれからさ。対抗馬は有望ではあるけどいまいち危機感がね」

 

 

「ほう、ではこのまま『彼ら』の勝利は揺ぎ無いと?」

 

 

「いや、そっちはそっちで身内に足を引っ張られ通しでね。一番肝心の『人柱』が今一人しかいないし、それも降って湧いた天然の宝石ときた。あの人たち普段何やってるのかな?あんな働きぶりで不老不死が貰えると本気で信じているんだからもうどうしようもないね」

 

 

 ちなみに人払いはしっかり済ませてあり、独房の外にはレーヴ中尉が見張りをしている。刑務所の責任者は私室で胃を抑えているだろう。何せ傍から見れば独房にぶち込んだ男とぶち込まれた狂人が同じ部屋にいるのだ。万一間違いでもあれば物理的に首が飛ぶこの状況は耐えがたいものがある。

 

 

 

「趨勢を握るのは7匹の小人と4人の餌。そしてまだ見ぬイレギュラー達。これらがどう脱落していくのか、誰が支えていくのかで決まっていくだろうね。ああ、物語には裏切りも付き物だったね」

 

 

「おやおや、特大の厄種をお忘れですよ?『人柱』なんて目じゃない、50人分の命を糧に真理を覗いた彼の方も重大なファクターでしょう」

 

 

「僕が?残念ながら僕はただ『本屋の立ち読み』がしたいだけで、この争いも、彼らの計画に賭ける情熱も興味ないよ」

 

 

「これはこれは実に興味を惹かれる答えですね。人類に対する裏切りともいえる大逆を働きながらこの戦いに関心が無いとは。では、貴方を射止めてはなさいその名書とは一体?」

 

 

「在り来たりの陳腐な答えですよ。錬金術師のあなたには話すのも恥ずかしいほどの

 

 

―――――――君は僕が『神頼み』がしたいって言ったらどう思う?」

 

 

 

「・・・?それは、いったい―――『ズズンッ!』――これは、爆発物で建物が崩れ落ちる音ですね。ああ、いい音だ」

 

 

「・・・はあ、忠告して直これか。本当に落ち着きのない子ですね」

 

 

 

 牢獄の外も騒がしくなり、ウィリアムを呼ぶ声が近づいてくる。どうやら面会はこれで打ち切りのようだ。

 

 

 

「じゃあこれで失礼するよ。今後の展開によってはまたひと仕事あるかもだ。それまでこの爆音を子守歌にでもして待っていろ」

 

 

「そうさせてもらいましょう、とても楽しみです。ああ、それにしても本当に良い音だ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――翌日―――

 

 

 

 

「本当に良かったのか、エドワード・エルリック。せっかく足を運んでいただいた中佐を追い帰すなど―――」

 

 

「後で謝っとく、でも今回の件で確信した。『あの朱いヤツ』はやばい。『人柱』とやらの俺や武闘派の少佐ならともかく、ヒューズ中佐が自分で身を守るのは限界があるだろ?悪いけど情報共有は少佐の何時もの特技で何とかしといてくれる?」

 

 

「・・・であるな。よろしい、アームストロング家に代々伝わりし暗号術で密かに伝えておこう」

 

 

 

 第五研究所の崩壊から一夜明け、病院にて久しぶりの兄弟の大喧嘩にヒューズによるウィンリィ誘拐(笑)事件と濃密な時間を過ごした後、いざ情報整理という段でエドワードが中佐を追い帰した。まあヒューズはエドワードの考えがある程度分かったのかさっさと引き上げていったのだが。

 

 

 その他にも、これまでもなるべく一塊にならずに情報収集していた。特に護衛の2人には気を遣い、多少面倒をかけてでも頻繁に交代して貰いながら動くことで、彼らには何の情報か分からないよう、いつでも白を切れるよう心掛けていた。

 

 

 

「『ウロボロスの入れ墨』、『東部内乱にも使用』、『犯罪リスト』、大体このくらいか。よし、しかと暗号化したぞ!後は吾輩に任せておくが良い」

 

 

「ああ、頼むわ。俺はアルと南に――『コンコン』――ん?」

 

 

 

 ノックされた扉の向こうには、メロンを抱えた色んな意味で地雷の超大物がやってきていて大騒ぎとなった。

 

 

 

 嵐が去ったのち、何とか復帰したエルリック兄弟は師匠に会いに行くため、南部の真ん中に位置する町、タブリスへと向かった。

 

 

 

 

 

「・・・ん?そういや誰かが南に用事があるとか言ってたような?」

 

 

 

 

 

 

 




ここまでご覧いただきありがとうございました!感想・質問等いつでも大歓迎です!!




 そろそろみんなのトラウマシーンが近づいて参りました。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第九話 凶報

 

 

 

 

 

 

場所:軍法会議所

 

 

 

 

「―――クソッ!何がどうなってやがる!リオール、イシュバールそして・・・・。錬金術はサッパリだが、ここまでヒントがありゃ俺でもわかる。どこのどいつだ、こんなこと考えやがるのは!?」

 

 

 

 マースヒューズ中佐は混乱の極みにいた。アームストロング少佐から秘密裏に情報を得た彼は、特に大規模となった事件を洗っていた。賢者の石にウロボロスといった錬金術の要素からの先入観が功を奏し、彼はおそらく人類で二番目に早くこの計画に辿り着いた。

 

 

 

(どうする?ロイ・・・直接は駄目だ、ヤバすぎる。時間は掛るが暗号化してアイツが送ってくれた伝手に流すしかない。少佐に鋼の・・・・論外だ!どっちも腹芸が出来る質じゃない。大総統・・・無理だ、たかが一佐官が直通で繋いで貰える訳がない。十中八九途中で感づかれる。どうする、マジでやばいぞ!!)

 

 

 

 中佐はエドワードの計らいで病院からすぐに出たため大総統と顔を合わせることが無かった。そして元々鋼の錬金術師との接点も薄かったこともあり、現在特に怪しまれてはいない。しかし、大総統からの掣肘が無かったためこの事態がどこまで軍を侵食しているか分からず袋小路に陥っていた。

 

 

(あの猪突猛進が服着て歩いてるエドが妙に慎重だったからつられちまったが正解だったな。周囲の目も相当気にして情報を集めたから多分まだばれてない。だが時間の問題だ、こんなとびっきりの爆弾抱えて普段通りになんて振舞えねえよ!?正直、今の俺じゃあ愛しの家族と天気の話もまともに出来そうにねえ。)

 

 

 

 どうすれば良いのか、せめて家族だけでも無事でいられるようにするには・・・。思考を巡らせるが答えは出ない、あまり書庫に長居するのも怪しまれる。結果妙案は浮かばず、とりあえずマスタング大佐への情報の送信と帰宅の為に退館した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 彼のこれまでの対応は完璧といって相違なかっただろう。しかしここは軍法会議所、謂わば『彼ら』が今まで行ってきた悪事の資料館といっても過言ではない。そんな場所に『目』が配置されていないはずが無く、況してやそこから不審な様子で去っていく人物が目を付けられないはずが無かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「これで良し、と。はあ、早く受け取ってくれよロイ」

 

 

 

 エドワードとの通話で老婆心が湧いたマスタング大佐から送られてきた、極秘の連絡手段を利用した後、ヒューズ中佐は表通りへと戻ってきていた。マスタングに届くのが何時になるかは分からないが、自分が出来るのはここまでだ。

 

 

さしあたっては、滅多に飲まない度数の高い酒を沢山飲んで風邪を引いたふうに見せかけて休み、そのまま家族と共に姿を晦ます。目指すなら北だ、もし次に惨劇が起きるとしたらあそこしかない。幸い総司令官であるアームストロング少将は頭も切れるし、自分が持つこの情報の重要性をきっと理解してくれる。半ば中央と切り離されている『北壁』でなら隠れ家の提供はさほど難しくないはずだ。

 

 

 

 

 ―――決して油断はしていなかった。しかし僅かに下りた肩の荷に付けこむ最悪のタイミングでそれは起きた。向かい側から何故かこんな遅い時間に迎えにやってきた愛しい妻に違和感を覚える前に、カバンの裏から見えた拳銃の凶弾を受けてしまう。

 

 

 

「があッ!?な・・何がどうなってやが・・・?」

 

 

「何がどうなって?はっ!あれだけ写真ばら撒いといてよく言うよ。お陰で簡単に不意打ち出来たよ。無駄に騒がれないよう一発で仕留めてやろうと思ったのに、変に躱そうとするから痛い思いをするんだよ。本当はさっさと仕留めておきたいんだけど、一発しか撃っちゃいけないからさ、可哀そうだけどそこで苦しみながら死んでもらうよ?」

 

 

 

 口調とは裏腹に心底楽しくて仕方ないという風に笑うが、ヒューズの耳には入ってこない。今思考を一杯にしているのは、妻の姿から突然別人へと姿を変えた非現実的な光景しかない。

 

 

 

「ああ、安心してよ?あんたの家族には手を出してないから。流石に軍人一家皆殺しは騒ぎが大きくなりすぎるからさ。あんたがこのまま大人しくくたばってくれれば、の話だけどね」

 

 

「・・・・・・・・・くそったれ・・」

 

 

「へー、それがあんたの人生最後の台詞?冴えないねえ、じゃ、バイバーイ」

 

 

 

 ヒューズが諦めたように全身から力を抜いたのに気を良くし、嘲笑いながら襲撃者は姿を消した。

 

 

 

「・・・あとは任せたぜ、ロイ。エ・・リシ・・・・・グレイ・・・・・ア・・・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――――翌日、マース・ヒューズの訃報がセントラルを駆け巡った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 場所:南方司令部

 

 

 

 

「ぬぅおおおおおおおッ!!」

 

 

 エドワード・エルリックは只管爆走していた。弟と震えながらも、人体錬成について、そして自身を鍛え直すために師匠の元へとやってきていた。ところが、よりにもよってそんな時に、まだ国家錬金術師の査定を受けていなかったことを思い出し、南方司令部まで飛んできていた。そして――――。

 

 

 

「おおっ!久しいなエドワード・エルリック!相変わらず息災のようで吾輩感動ッ!!」

 

 

「ギャアアアアッ!!!!?」

 

 

 

 ―――まったく嬉しくない熱い抱擁を味わっていた。

 

 

 

 

 

「―――これにて査定終了!これからもがんばりたまえよ、鋼の錬金術師君」

 

 

「なんつーいい加減・・・いや、早いのは凄く有難いんですけど」

 

 

 

 大総統の鶴の一声により、エドワードの査定は手続き一切省略のスピード解決を果たした。実は汽車内で必死に書き上げたレポートが日の目を見なかったことを気にしていたが、口に出すのは野暮だと流すことにした。

 

 

「――む?随分慌てておるようだが、何か急ぎの用事が?」

 

 

「いや、早く帰らねえとアルの身が(組手的な意味で)もたないだろうから」

 

 

「・・・本当に凄い方なのであるな、そなたの師匠は(姉上と意気投合しそうな方だ)」

 

 

 

 少佐と嫌な汗をかきながら帰り支度を進めるエドワード、しかしそこで大総統が待ったをかける。

 

 

 

「エドワード君。もし君が良ければなのだが、これからエンフィールド君と『エメス』の第2機関が演習を行う。見学がてら、彼らの成果について外部からの忌憚ない意見を聞きたいのだが」

 

 

「え、ウィル・・・じゃなくて、技術大佐が?前東部に来てた時は土木建築してたって聞いたけど・・・」

 

 

「それは第6機関であるな。『エメス』はそれぞれ専門分野を抱えた6つの機関で構成されておる。今回の第2機関は生体錬金術、医療分野を専門にした―――」

 

 

「是非見学させてください、お願いします!!」

 

 

 

 ・・・この時、エドワードの優先順位は、探究心>>越えられない壁>>弟の安否 となっていた。アルフォンスは泣いて良い。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Side ウィリアム

 

 

 

「―――とにかく医療錬金術で大事なのは、患部を正確に把握することです。意外に思うかもしれませんが医療錬金術って実は錬成に限って言えばほかの分野より簡単なんですよね。だって腫瘍や血栓は形質が異なるだけで、構成している要素はほとんど変わりませんから。すぐそばに錬成先の見本もたくさんありますし。一番の問題点は、どこに異常があるかを把握する手段、そして精密な錬成方法のノウハウがあまりなかった点でした。しかし、我々『エメス』が開発した精密作業用の錬成陣と超音波検査器、そして内視鏡がこれらを解決します。今回は事前に公募した200名の皆様にご協力いただき研究成果を実践していきたいと思います。どうかよろしくお願いいたします」

 

 

 

 

 ――――ねむい。4日前に飛び込みの要件があった所為で予定が滅茶苦茶になりました。そのせいで昨日完徹させられた挙句、次の日に遠征&即講演会とか殺人スケジュールにも程があるでしょうに。まあ十分な収穫があったので良しとしましょう。

 

 

 えーと、まずはデモンストレーションに僕が末期ガン患者の治療を行うんでしたっけ。今回が最終試験の様なもので、認可が下り次第国内に幅広く普及させる予定です。ちなみにこの講演会は国内の錬金術師ならいつでも無料で参加できます。大総統閣下様々ですね。

 

 

 

 最初の一発目は度肝を抜けとの要請なので、目の前の簡易ベッドに横たわる患者の上に手を置き、医療器具を使わず且つ切開もせずに錬金術を行使します。がん細胞は正常な細胞が特定の傷がつくことで異常化してしまった細胞なので、ガン細胞を一つ一つ分解するのと同時に正常な細胞を複製していきます。施術が済んだ後にレントゲンを撮ると、ガンの影が全て消え失せました。

 

 

次に、全身に深い火傷跡を負った女性に術を施します。傷跡は皮膚へのダメージが深く達したことで正常な皮膚が形成できないために起こります。要は故障しているせいで欠陥品しか作れない機械と同じようなものなので、変質した部分を分解し正常な細胞に置き換えてあげれば、傷一つない何処にでもいる淑女に早変わりしました。

 

 

 

 何か凄いことをしたかのように表現しましたが、これ僕じゃなくても少し才能があれば器具を用いて全く同じ成果が出せます。というよりそのための機関ですから。今まで出来なかったのは、構築式を広く公開するという文化が無かった事が最大要因だったからですし。

 

 

 

 僕の出番はこれにて終了、後は機関のメンバーの補助に回りましょう。序列1ケタの精鋭は機材を用いた直接の治療を、それ以外は傷跡の修復や手術の手伝いに回します。この調子なら昼までに終わりそうですね。

 

 

Side out

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・すげぇ。どんどん人が治って、錬金術ってこういうことも出来るのか!」

 

 

「ほう、最年少国家錬金術師が太鼓判を押すなら、私も全面的に支援した甲斐があった。しかし見事なものだ、あそこにいる連中の殆どが、かつて無能の烙印を押されていたとは到底思えん」

 

 

 大総統の一言にエドワードは驚愕する。あそこにはたくさんの救いと喜びがある。自分たち兄弟には羨ましくて仕方がない彼らが、これまで日の目を見なかったなど信じられなかった。

 

 

「アメストリスは軍事大国故か、武断的な判断が優先されやすい。現に彼らの多くが国家錬金術師の試験を落ちている。今この光景があるのも、技術大佐とその御母上のお陰だな。大佐は母の研究成果から、『最巧の錬金術』を確立したらしい」

 

 

 アームストロング少佐の補足を受け俄然興味が湧いたエドワードは、講演が終了し此方にやってきたウィリアムを早速質問攻めにする。しかし半分夢の世界に入っている彼が真面に応えられるはずもなく、憤慨するエドワードを少佐や機関の面々が微笑ましそうに眺めていた。

 

 

 

「実に見事な公演であった、エンフィールド技術大佐。非の打ちどころのない成功で誠に結構。これからもよろしく頼むよ」

 

 

「はっ!恐悦至極に存じます」

 

 

「うむ、しかしあの一種崇拝さえ感じさせる感謝の眼差しを見ると、君と仕合った時のことを思い出すよ。さて、次の予定が入っているのでな。また会おう、エドワード君」

 

 

 去り際にまた爆弾を置いて去っていく大総統に頭を抱えるウィリアム。気のせいでなく足元からの視線が強くなった。

 

 

「ウィルお前、大総統とやり合ったことあるのか!?結果は!!?俺試験で槍ぶった斬られたんだけど―――」

 

 

「待った、待った。落ち着いて下さい。本当に眠くて頭が回ってないんですよ、後しれっととんでもないことやったんですね、君」

 

 

 一旦エドワードを落ち着かせた後、部下にコーヒーを用意して貰い話を再開した。

 

 

「『エメス』を立ち上げて直ぐにちょっとゴタゴタしちゃいましてね。元々が国民への人気取りで立ち上がったような物なんですが、ちょっと評判を集めすぎて高官連中に目を付けられちゃったんですよ」

 

 

 内戦に人手を取られた農業へのテコ入れ、医療の発展への貢献、科学技術の躍進。どれもこれもが国民の生活に直結しているため、『エメス』に対する評判は飛躍的に上昇し、権威の様なものにすらなっていた。

 

 

しかしアメストリスは独裁政治、いわば専制政治のような国家体制であり、君主を差し置いて権威を得ては今後に大きな禍根を残す、早い内に禍の芽は詰むべきだという声が軍部において強くなってしまった。それが20代で機関長へと出世したウィリアムへの嫉妬や恐れから来るものであっても、放置しては何かと面倒な事態になりかねない。

 

 

そこで、あくまで『エメス』は国家の駒の一つであり、真に頂点に立っているのは大総統であると国民に改めて認識させるため、御前試合という形で対戦カードが組まれたのである。

 

 

 

「結果がどうだったかについては聞かないでくださいよ。好き好んで恥を晒す趣味は無いですから。でも、そうですね。君たちが元の体に戻れた時、お祝いの席の肴になら話してあげても良いですよ?」

 

 

「言ったな!?俺達も師匠のところでヒントを掴んだんだ、そう遠くない内に吐かせてやるから、今の内に思い出しとけよ!」

 

 

「そういえば今はカーティスさんのところでお世話になってるんですよね?もう結構な時間ですけど、早く帰らないと夕方になりますよ。修行に来ておいて寄り道とかしてたら怒られません?」

 

 

 

 ・・・その後、来た時と同じくらい全速力で帰ったエドワードであったが、師匠の鉄拳制裁を逃れることは出来なかった。

 




ここまでご覧いただきありがとうございました!感想・質問等いつでも大歓迎です!!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第十話 制圧と昔語り

週間「その他原作」ランキング2位にランクインしておりました。(2月24日現在)



( o )  ...。 。


感謝感激です!これも皆様の暖かい評価のおかげです。これからもよろしくお願いします!!


 

 

 

 

 

 ―――アルフォンス・エルリックの誘拐。査定と関係ない理由で遅く帰ってきたため師匠に一通り折檻を受けたエドワードはその知らせに飛び上がった。・・・隣の部屋で育まれている筋肉の友情を見ないようにしながら。

 

 

 そして続けて語られた下手人の特徴に、今度は同席していた大総統とウィリアムが目つきを鋭くする。

 

 

「――手の甲にウロボロスの入れ墨をしたグリードという男だ」

 

 

 エドワードは師匠と2,3言葉を交わした後、アルフォンスを取り戻すため『デビルズネスト』と呼ばれる酒場へと向かった。残された大総統一行も店を出てゆっくりと歩を進める。

 

 

 

「これは憂慮すべき事態だな、エンフィールド技術大佐」

 

 

「ええ、アルフォンス・エルリックは資格こそ取っていませんが、もし試験を受けていれば最年少国家錬金術師記録をさらに引き上げたであろう逸材です。何処の誰とも知れない組織の手に渡って良い人材ではありません」

 

 

「加えて、エドワード・エルリックとの強い絆は、少し調べれば誰でもわかること。国家錬金術師の凄まじさを鑑みれば、そのレベルの実力者を、明確な意図をもって脅迫しようとした時点でただの無頼とは到底呼べますまい」

 

 

「・・・現刻をもって、『デビルズネスト』とやらに潜む連中を国家不穏分子と認定する。田舎町に凶悪なテロリストが潜んでいたなどと、近隣住民を不安にさせるのは避けたい。精鋭をもって即刻切り捨てる。技術大佐、南方司令部はすぐに動かせるかね?」

 

 

「既に連絡は入れておきました。此処までなら凡そ30分もあれば到着するかと」

 

 

「では、1600時よりテロリスト鎮圧作戦を開始する。各自準備を急げ!」

 

 

「「了解!」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ―――彼らには突然の事態であっただろう。一切の警告無くばら撒かれた機関銃の掃射により、店のフロアにいた人間は一人残らず全滅した。そして南部軍が次々と店内に入り込んで――――――来ることは無く、入り込んできたのは一人だけ。

 

 

 本能で店奥に隠れられた『合成獣』達は猟銃や己の肉体を駆使して迎え撃つ、がまるで歯が立たない。誰かが銃火器を構えた瞬間、眉間ど真ん中に風穴を開けられ、他はそもそも近づく前にこの世から退場させられる。

 

 

 例え所有する武器が拳銃一丁であろうとも、ウィリアム・エンフィールドが持てばリボルバーも機関銃と変わりない。弾丸が放たれた端から薬室に薬莢が再装填されるためシリンダーが回転し続ける限り発射は止まらない。

 

 

 

「こんなところですか。しかし、まさか離反したホムンクルスが居たとは驚きですね。是非一度お話を伺いたかったですが、やはり大総統は一目散に奥へ行ったようなので無理そうですか。まあ、お陰で情報収集は捗りそうですが。・・・聞こえていますね、『ヴリーヒトイヒ』、まだ体が慣れないでしょうが、盗み聞きくらいは出来ますね?」

 

 

 

 動くものが視界から消えたところで、誰もいない方へ声を掛ける。勿論返事は帰って来ないが、気にすることなく奥へと進む。

 

 

 ―――天井裏から一匹の忠犬が奇襲を仕掛ける。当然玉砕覚悟だ、音に聞こえた『翆煉の錬金術師』がこんな見え見えの手に気付かないはずが無い。一番良いのはギリギリまで隠れていたロアが白兵戦を仕掛けられる距離まで近づくこと、この男が肉弾戦で功績を立てたという記録はない。仕込散弾程度ならロアは怯まず突っ込むことが出来る。尤もあの早撃ちが来なければ、の話であるが、彼らにとっては最悪グリードとマーテルを逃がすことが出来ればそれで良い。

 

 

 

 ところが、ウィリアムは迎撃するどころか、まるで差し出すかのように左腕を突き出す。困惑しながらも、ドルチェットは見事左腕を切り落とした。ロアの渾身の一振りこそ回避されながらも、予想だにしない戦果に二人は訳が分からない様子だった。

 

 

 

「こいつ、態と腕を切らせやがった。何を考えてやがる!?」

 

 

「・・・・・何をって、整備不良を起こしてないか確認するのは技術者の基本でしょう?」

 

 

「―――ッ!?ウルチ、後ろだ!!」

 

 

 本能で察知したロアが叫ぶが、後方で様子を窺っていたトカゲの『合成獣』は切り飛ばされたはずが何故か背中に張り付いている左腕に『分解』され、まるで解体されたかのように無傷の臓物を腹から撒き散らかした。そして左腕は独りでにウィリアムの元まで戻り、何事もなかったかのようにくっ付いてみせた。

 

 

「いや、人目がある所為で中々試せなかったんですよね。お陰で問題なく機能することが分かりました。ご協力感謝しますよ」

 

 

「な、あ・・コイツも『合成獣』・・・なのか・・?」

 

 

「いやいや、あんな元に戻すのが手間な出来損ないと一緒にしないでください。一昔前はお偉いさんに頼まれて研究しましたけど、拒絶反応のない人外の細胞構築以外何の役にも立ちませんでしたし」

 

 

 ウィリアムは、神経節のような機構を左腕に仕込んでおくことで腕に万一のことがあっても、逆に奇襲に利用できるようにしたのである。昔とある研究所にいた時、偶々虫と上手く混ざることが出来た『合成獣』の細胞の構造から着想を得て自身に施術してあったのだ。

 

 

 

「・・・だからって自分に仕込むかよ、普通!?」

 

 

「安全策作っておいて自分に仕込まない方がおかしいでしょう。弄るだけで切るわけでも混ぜた訳でもなし。寧ろ親から貰った大事な体だからこそ長く使える様にという子供心なんですが」

 

 

 予想の斜め上な回答にドン引きするロア達。研究所で散々学んだが、やはり極まっている学者というのは変態しかいないらしい。

 

 

 

「―――ところでその距離は僕の間合いですけど、どうします?もう貴方たちに興味もありませんし逃げるのであれば追いませんよ?」

 

 

 聞き終わるより前に二人は建物の地下へと走っていった。奇襲に失敗して距離を取られた以上勝ち目は皆無。ならば全力で逃走した方がまだ希望がある。何よりこれだけ騒いでいたにも拘らず増援が一切来なかった事態が、彼らの不安を煽りボスの元へと急がせた。

 

 

 

「・・・本当に一目散に逃げていきましたね。ま、良いでしょう。外に出ても南部軍の方が片づけたでしょうし、そうしなかったところを見るに放っておいても大総統閣下が始末してくれるでしょう」

 

 

 そもそもが過剰戦力である上に、一番興味のある敵を上司に取られたためウィリアムのやる気は最底辺であった。粗方始末したことを確認した後は特に動くことなく、部下からの報告を待っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 数時間と絶たずに酒場は制圧された。騒動に慣れていない住民達はこの事件に興奮を隠せないでいたが、テロリストの首領が大総統の手により捕縛され、近くセントラルにて処罰されると報じたのを最後に軍が引き上げたこともあり、今はもうそんな騒ぎが無かったかのように鎮まり返っている。

 

 

 エルリック兄弟は大総統に詰問こそされたが、深く追及されることもなく解放された。ただし、兄弟の消耗具合から残党による報復を避けるため、護衛としてウィリアムが残ることとなった。エドワードは(師匠夫婦だけで過剰戦力なので)丁重に断ろうとしたが、誘拐未遂にあった国家錬金術師を民間人に丸投げするのは軍の面子に関わるとのことで押し切られた。急な話に勿論宿等とっていなかったウィリアムは、イズミの厚意に甘えて世話になることとなった。

 

 

 

 

「―――それにしても、初めて会ったときはエドたちと変わんないくらいだったのに、随分出世したねぇ。流石マリアとクラッサの忘れ形見なだけはある」

 

 

「おや、僕の両親を御存じなんですか?」

 

 

「ウチの師匠があの人たちの師匠と竹馬の友だった縁でね。結婚式じゃ司会だってした仲だよ。周りからは凸凹夫婦なんて言われてたけど、近くで見ればお似合いの夫婦だってわかるよ。そうだ、一つとっておきのネタがあるのよ!研究莫迦のクラッサが『おしどり夫婦とは何をすれば呼ばれるのかね?』なんて聞いてきてね。つい冗談で『人前でも構わずハグしてればいつの間にかそう呼ばれてる』って答えたら本当に実践してマリアに照れ隠しにスパナの錆にされたのよ」

 

 

「うわぁ・・・・全然想像できませんね。あの堅物が服着て歩いていた父が・・・」

 

 

 

 エドとアルが外に出て話し込んでいる間、イズミとウィリアムは昔話に花を咲かせていた。意外な繋がりに改めて世間の狭さを感じるばかりであった。

 

 

 

「それにしても・・・小さいあんたにあれだけ釘を刺されていたのに止められないなんて、本当に師匠失格だよ」

 

 

「いえ、あの子たちを人体錬成に走らせたという意味では僕も同罪です。たぶん、御母堂の件だけなら踏み止まれた筈ですから」

 

 

「ああ、聞いてるよ。幼馴染のご両親が亡くなったんだったね。どうして不幸って奴はぶん殴れない所からネチネチと仕掛けてくるかね、しかも決まって弱ってる人ばかり」

 

 

「・・・・・」

 

 

 

 

 

***

 

 

「―――すみません、カーティスさん。エド君たちの修行の件で相談したいことが・・・」

 

 

「あら、あなたは・・・・。悪いけど自分も連れてけってのは出来ない相談よ。流石に3人は面倒見きれないし」

 

 

「いえ、そうじゃありません。あの子たちが錬金術を学びたい本当の目的についてです」

 

 

「ああ、何か隠してるのは見ればわかるけど本人達が話さないことを―――「人体錬成です」――ッ!?・・・どこでそれを?」

 

 

「・・・母が居なくなる直前までそれを研究していました。あの子たちの目はあの時の母によく似ているんです」

 

 

「あ・・・、あのバカ・・(ボソッ)。それで相談って?」

 

 

「あ、はい。相談というか、お願いになるんですけど・・・」

 

***

 

 

 

 

「―――今にして思えば、あんたもあの時から物騒な性格してたわね。『死者の蘇生なんて現実逃避できる余裕もないくらい絞ってくれ』なんてさ」

 

 

「・・・そんな物騒なこと言いましたっけ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 イズミ・カーティスと一頻り話をした後、今度はエルリック兄弟の元へと顔を出していた。

 

 

 

「――大丈夫ですかアル?エドもですが、君たちは人の死、とりわけ殺害に関しては見慣れていないでしょう。何かあれば必ず相談してくださいね、心の傷に錬金術は無力なんですから」

 

 

『・・・ありがとう、でも大丈夫。何とか割り切れそうだから』

 

 

 声に疲れこそ混じっているが、沈んだ様子はない。どうやら本当に大丈夫そうだと判断したウィリアムはそれ以上言及しなかった。その後エドワード達は自分たちがグリードなどから聞いた情報をウィリアムにも伝えた。

 

 

 

「―――なるほど、不老不死ですか。それで君たちに近づいたんですね。しかし、伝説ではホムンクルスは久遠の時を生きると聞きましたが、それで足りないというんですから名前通り強欲ですね」

 

 

「だよな。ったく、良い迷惑だぜ!あ、それからウィル、病院に大総統が来たとき軍上層部で不穏な動きがあるって言われたんだけど何か知らないか?今回の件も腑に落ちないことが多いし」

 

 

 何でもないことのようにしれっと聞いてきたことにウィリアムは頭を抱える。いや、信頼の証なんだろうが、一応その上層部の端くれである自分にそんなにストレートに聞くのは如何なものか。

 

 

「・・・エドはもう少し腹の探り合いというものを学びましょうよ」

 

 

「?何でウィルとそんなことしなきゃならねえんだよ。つか、ぜってぇ負けるし」

 

 

『ウィル兄さんのポーカーフェイス鉄壁過ぎて何考えてるか分かんないときあるしね』

 

 

「・・・・・あれ、幼馴染にさり気無く胡散臭い呼ばわりされてる?まあ良いですけどね。僕から話せることはほとんどありませんが、そんな答えで納得してくれる君達じゃありませんからね。代わりにちょっとしたアドバイスで勘弁してください」

 

 

 そう前置きして、懐から取り出した手帳に記述しながら話を続ける。

 

 

「まず一つ、ホムンクルスは決して自然発生的に生まれません。必ずグリードを作った人物がいます。そして2つ目、1匹いれば36匹はいる、とまでは言いませんが他にもホムンクルスが存在することを念頭に動いておくべきです。そして3つ目、君たちが貴重な人材であり殺せないということは他の手段で止めるしかないという事です。例えば人質や見せしめなどでしょうか。なので身の回りに注意することは勿論ですが、見方を変えればそういった事案はほぼそいつらの仕業であると判断できます。山を貼れれば尻尾を掴む機会は必ずできます」

 

 

 そう言ってメモをエドワードに渡して話を切り上げた。それから3日程経過し、全快した二人を見届けた後、ウィリアムは兄弟と別れてセントラルへと帰った。本当は着いていってウィンリィの様子も見ておきたかったのだが、予定外の滞在で、またもや遠征のレポートや溜まってしまった書類の始末を急かす連絡が来てしまったために断念することとなった。

 

 

 

 

 

 




ここまでご覧いただきありがとうございます!感想・質問等いつでも大歓迎です!!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第十一話 躍進と影

 

 

 

 

 南部から帰還した後、積み上げられた書類を片付けたウィリアムの耳にある情報が流れてきた。

 

 

 

 

―――マリア・ロス少尉、マース・ヒューズ准将殺害事件の犯人と断定。

 

 

 

 

「・・・・どういう風の吹き回しかな?他の件と違ってこの事件は『彼ら』が直接手を下しています。蒸し返すより他の事件を利用して目を逸らす方が得策でしょうに。普通こんな中途半端なタイミングで身代わりを立てますかね?」

 

 

「推測の域は出ませんが、マース・ヒューズ准将に関連した何かで敵対勢力に尻尾を掴まされた可能性が濃厚かと」

 

 

「・・・つまりは身代わりの餌ですか。うわぁ、餞別程度に考えてたアドバイスが早速活きてきそうだ。ヒューズ准将に所縁のある要注意人物・・・まあ間違いなくマスタング大佐ですね。問題は彼が掴んだ蜘蛛の糸が何なのか、ですね。ここ最近の騒動といえばリオール、“傷の男”、第五研究所。うーん、もう少しヒントが欲しいところですね」

 

 

 執務室にて副官であるレーヴ中尉と問答を交わす。ここ最近セントラルから離れる機会が多く、中尉に代わりに情報を集めさせているが、立て続けに事が起こり過ぎている。できれば『彼ら』も万難を排したいのだろうが、事件の殆どに『貴重な人柱』若しくはその候補たちが絡んでいるのだから頭が痛いことだろう。つくづく軍上層部が人柱を用意できなかったことが悔やまれる。彼らが約束を守れていれば、計画に一切の狂いが無かったに違いない。

 

 

 

「――それで、如何致しましょうか?こちらに要請は来ておりませんが」

 

 

「・・・今回は静観します。『彼ら』には『約束の日』を必ず遂行していただきますが、その過程がぐだぐだになるのはむしろ好都合です。『ヴリーヒトイヒ』に監視をさせておくだけで十分です、精々マスタング大佐のご手腕を拝見させてもらいましょう」

 

 

「仰せのままに、局長閣下」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ―――夜、留置所にて脱走事件が発生し2人の人間が脱獄した。一人は不法滞在で連行されたシン国の青年、リン・ヤオ。そしてもう一人が話題の渦中にいる人物、マリア・ロス元少尉。

 

 

 ウィリアムのアドバイスから、近年の事件について調べていたエルリック兄弟は彼女がヒューズ准将殺害の犯人にされていることを新聞で知り、居ても立ってもいられずホテルを飛び出した。僅かな時間ではあるがアームストロング少佐やブロッシュ軍曹から話を聞き、何とか少佐相当官の権限で使途不明の銃弾に関する弁護を請け負おうと留置所へと向かった。

 

 

そして―――裏切り者として『焔の錬金術師』に焼き尽くされた無残な姿と再会することとなった。

 

 

 

「―――どういう事だよ大佐!ロス少尉が拘束されたのが昨日、碌に捜査もせずに決めつけられた報道だぞ!?まさかそんなものを信じてこんな事したってのかよ、説明しろ!!」

 

 

「・・・ヒューズを殺したマリア・ロスには射殺命令が出ていた。それだけだ」

 

 

「てめぇ――――」

 

 

***

 

『―――そして3つ目、代替手段・別の解決法に乗り換えた振りをして騙す。小細工ではあるが、今より確実にヘイトは下がるだろうな』

 

***

 

 

「―――どうした、鋼の。君の事だから頭に血を登らせて掴みかかってくるかと思ったが」

 

 

「・・・くそっ!これがあの時言ってた『助言の詳しい部分』なのかよ!?」

 

 

「ほう、良く覚えているじゃないか。お互いやることが次から次に増えるせいで暇じゃないが、今度『ちゃんと詳しいことを教えてやる』から大人しくしていろ」

 

 

 話についていけてないアルフォンスは訳が分からなかった。普段なら間違いなく噴火しているはずの兄が落ち着いているのも良くわからなければ、大佐らしくない性急な対応も分からない。

 

 

 だが、次の行動は良くわかった。人目が増えてきて発火布を外したのを見計らって、エドワードが大佐に猛スピードで突っ込んでいった。勿論油断していた大佐に成す術はなく、左手で強かに張り飛ばされてしまう。

 

 

『ちょっ!?兄さん何やってるの!!?幾ら納得いかないからって一応上官だよ!!』

 

 

「うるせぇ!この位やんねえと『俺らしくない』、そうだよな大佐?」

 

 

「ぐっ・・・た、しかに猪みたいに扱いにくいのが君達だからな。ただし、これは相当デカい貸しだぞ」

 

 

『む、無茶苦茶だなぁ(そういえば何で左で叩いたんだろう?)』

 

 

 この後憲兵隊が駆け付け事情聴取を受けたが、遠目でこの騒動を見ていた住民の証言、そしてマスタング大佐の頬の打撲跡と上官に対する暴力行為などという軍属にあるまじき(といっても正式に軍役についているわけではないので軍機では処罰できない)行為を鋼の錬金術師が行ったという状況から、責任者のダグラスは焼死体がマリア・ロス少尉のものであると信じて疑わなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 数日後、エドワードが少佐に誘拐されリゼンブールへと向かっている頃、マスタング大佐一味は『釣り』に興じていた。餌は『バリー・ザ・チョッパー』、ヒューズの死と軍上層部の闇の具体的根拠を齎したこの男に目立つ行動をとらせれば必ずや口封じに動くという大佐の予想は的中し、今は刺客として送られたバリー(の肉体)を追跡していた。

 

 

 

 

 ――――その後方から、車と同等の速度で二重尾行をしてくる影に気付かないまま。

 

 

 

ホムンクルスの襲撃という予定外の事態が発生したが、シン国の二人が請け負ってくれたため一行はアルフォンスを連れて第三研究所へと潜入していた。

 

 

 

 

「『ソラリス』・・・何でここに!?」

 

 

「ひどいわあ、ジャン。私とのデートをすっぽかして何をしてるのかと思えばこんなところに来て」

 

 

 

 二手に分かれたマスタング大佐とハボック少尉は、少尉が最近付き合いだした女性、ソラリス―――改めラストと遭遇していた。そして明かされるホムンクルスと賢者の石の存在、そしてヒューズの死に大きくかかわっているという事実。彼らがぶつかり合うには十分すぎる理由だった。

 

 

 

「それにしても・・・少し人間の力を借り過ぎたかしら。いつもならワーカーホリックみたいに出張ってくるあの男が居ないだけでここまで良い様にされるなんてね」

 

 

「・・・やはり貴様は私が知りたいことを良く知っているようだな。力尽くでも吐かせたいところだが、此処の守りを任せられるような奴相手に手心を加える余裕はない。ハボック、こうなった以上女のことは忘れろ」

 

 

「はっ、俺って本当に女運が悪ぃ・・・」

 

 

 

 その後、奇襲を仕掛けられ発火布を湿らせられるという事態に陥ったが、可燃ガスによる爆発で反撃し、吹き飛ばすことに成功した。しかし彼らはホムンクルスに対してあまりにも無知であった。例え全身を粉々に吹き飛ばされようとあっという間に再生してしまい、賢者の石を少し消費すれば人が到底居られない土砂の中ででも息を潜めることが出来る。

 

 

 

 連続して不意を討たれてしまい、二人は地に伏せることとなった。

 

 

 

「―――クソッ!何があっても私より先には死なせんぞ、ハボック。・・・この手は使いたくなかったが背に腹は代えられん。幸いこの国ほど傷痕治療が進んでいる場所はあるまい、歯を食いしばれハボック!!」

 

 

 自傷防止に布をかませ、手の甲にガラスの破片で錬成陣を刻み付けたマスタングは、一切の迷いなく自身と部下の身に焔の錬金術を行使した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「があッ!?あの傷と出血で・・どうやって・・・」

 

 

「焼いて塞いだ!2、3度気絶しかけたがな・・・!!」

 

 

 

 傷口を焼き潰して復帰したマスタング大佐は部下の窮地に間一髪間に合い、そこから怒涛の連続爆破を喰らわせた。こいつらに死の概念は無く、唯賢者の石を消耗するのみ。しかしこの世の物質である以上限界は必ずある。石のエネルギーを枯渇させるべく、大佐は焔を浴びせ続ける。

 

 

 

 だが、ラストも黙って焼かれ続けるはずが無く、一心不乱に大佐の首を落とすべく突撃する。それでも冷静に爆炎を続けるが吹き飛ぶどころか怯みすらせず距離を詰めてくる。そして鎧すら紙の様に貫く黒い爪が伸ばされて行き、大佐の眉間へと突き刺さる直前―――後方から投げ込まれた一本のスローイングダガーが逆にラストの眉間を刺し貫く。

 

 

 

 予想外の衝撃、しかも脳を物理的に破壊されたために出来た隙を逃すことなく、焔の錬金術は遂に賢者の石を焼き尽くした。

 

 

 

「・・・完敗よ。あの男の狙い通りに踊らされたのは癪だけれど、貴方『達』のような男に殺られるなら悪くないわ。・・・その迷いの無い真っ直ぐな目が・・歪むところを見ら・・れないのが・・・・残念ね・・・・・・」

 

 

 

 こうして『色欲』のホムンクルスはこの世から完全に消え去った。それを確認した後すぐにマスタング大佐は後方へ目を向ける。そこにいたのは、異形の黒い影であった。全身を真っ黒の襤褸布が覆い隠しているため背格好は不明。顔も骸骨をあしらった仮面で隠しているため人相も分からない。ただ、燃やし尽くしてしまったため確認できないが、一瞬見えたあのナイフが記憶に引っかかる。

 

 

 

 黒尽くめは敵意を見せること無く、ホムンクルスの死を確認するとすぐに姿を消し、緊張の糸が切れた大佐はそのまま崩れ落ちた。

 

 

 

 

 

 

 

 




ここまでご覧いただきありがとうございます!感想・質問等いつでも大歓迎です!!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第十二話 発覚と露見

 

 

 

 

 

 場所:病院

 

 

 

 

 

 

「それにしても、よくよく考えてみれば『巡り合せ』の運が凄いよな、お前さんたち」

 

 

 

 ラストとの戦いが終わった後、マスタング大佐とハボック少尉は即刻入院させられた。ホークアイ中尉と東部から帰還したブレダ少尉、そしてアルフォンスが護衛兼見舞いにやってきていた。

 

 

「そうだよな。幼馴染とその祖母が凄腕の機械鎧技師で、国家錬金術師に誘ったのがタッカーみたいな外道じゃなくて大佐と中尉だし、全くの別件で東部にいったらドクターマルコーに会えたんだろ?」

 

 

『あー、言われてみれば凄く周りの人に恵まれてるね、僕たち』

 

 

「それに比べて俺は・・・。どっかの鬼畜上司のせいで彼女に振られるは、馬鹿上司の命令で行ったお見合いじゃあ、御令嬢に会って三分で振られたり、好みドストライクの『ソラリス』はハニトラだったしで、もう散々」

 

 

 

 全身から滲み出る負のオーラに笑うか慰めるか悩む一同。原因の鬼畜上司は隣で大爆笑して腹の傷口が開いていた。勿論誰も心配しない。

 

 

 そんなまったりした空気の中で一人、アルフォンスだけ神妙な雰囲気でぶつぶつと呟いていた。

 

 

 

「あら、どうしたのアルフォンス君。何か引っかかることでも?」

 

 

 

『いや・・・『ソラリス』って名前に聞き覚えが・・・・あっそうだ!兄さんがマルコーさんを追いかけた後にウィル兄さんが電話してた時だ!!』

 

 

 

 ―――思いも寄らない人物の登場に、全員の空気が張り詰める。特に馴染のブレダ、ハボック、ホークアイの三人は何かの間違いであって欲しいという感情がありありと出ていた。

 

 

 

「・・・・アルフォンス君。その話、詳しく聞かせて頂戴」

 

 

 

『え、でも特に変わった話じゃなかったよ?確か・・・度数の高い酒を飲み逃げした・・・えっと、アーツトさん、だったかな。その人を見かけたから代金を取り立てておいてほしいって』

 

 

 

 その言葉にマスタング大佐、そして語学に明るいブレダ少尉が目を見開いた。特に少尉は完全に顔面蒼白状態になっている。

 

 

 

「・・・アルフォンス・エルリック。西の国の言葉で『アーツト』というのは『医者』を意味する言葉なんだ。そしておそらく度数の高い酒というのは『エリクシル』のことだろう。上手い手だ、プライベートな話題を装えば早々又聞きされることもないからな」

 

 

『え・・・ちょ、ちょっと待って!?『エリクシル』って、賢者の石の別名!!?しかも『医者』と賢者の石ってもしかしなくても・・・』

 

 

「そう、ドクター・マルコーだ。君たちは未成年でしかも錬金術に没頭していたから外の文化にも疎い。目の前で話していてもばれないと踏んだのだろう。勿論これがかなり強引な推測であることは私も分かっている。しかし軍上層部の一員である男が『ソラリス』と呼ばれる人物と連絡を取り、しかも内容は賢者の石絡みだ。これを偶然と切り捨てるのはあまりにも危険だ」

 

 

 

 

 その時、外からノックをする音とともにフュリー曹長が顔を見せる。その表情にはありありと困惑が見て取れる。

 

 

 

「すみません、大佐。ハボック少尉にお客様が来られているそうです」

 

 

「・・・客?家族以外に態々見舞いに来るような奴はいないはずだが・・」

 

 

「それが・・・ウィリアム・エンフィールド技術大佐です。何でも御家族の方が『エメス』に治療の依頼を申請していたみたいで・・・」

 

 

 

 今まさに話題に上がっていた人物からの不意打ちに、病室は騒然となった。

 

 

 

 

 

 

Side ウィリアム

 

 

 

 

 

 ・・・・・何この状況。物凄く空気が重いんですけど。こう、僕の行動の一挙一動見逃さないぞという気迫というかなんというか。まあ気にしていても仕方がないのでとりあえずハボック先輩の症状を見ていきますか。ふむ、火傷は表皮の最も浅い部分のみ、それでいて完璧に止血できている。これなら態々傷の修復はせずともすぐに後は消えますね。流石は焔の錬金術師、という訳ですか。

 

 

 

 おっと、早く治療に移りましょう。男の裸を熱い視線で見ていたなんて噂を立てられたら社会的に死んでしまいます。とりあえず内視鏡を突っ込んで脊髄の様子を確認します。ふむ、刺突による損傷、ですがかなり鋭い獲物だったお陰で傷ついてない部位も残ってますね。モデルがちゃんとあるなら修復は問題ありませんね。

 

 

 

 一応念のため同意書を書いてもらおうと渡したら、舐め回すように検閲されてしまいました。あの自分の事に関してはテキトーなハボック先輩が。・・・これ、もしかしなくてもばれましたかね?ヘマをやらかした覚えはありませんが、どれ、カマかけてみますか。

 

 

 

「しかし最近物騒ですよね。皆さんの怪我もそうですけど、僕の知り合いの女性も今行方不明でご家族の方も心配されてましてね」

 

 

 

 ・・・・はいアウト。先日のラストさんとの戦闘がトラウマになってるっていうのはともかく、怯えだけでなく敵意まで滲ませるのはいけませんね。まあ、彼らの満身創痍具合なら致し方ないでしょうが。この空気にも納得です。多分彼らは僕が皆さんを始末しに来たとでも思っているのでしょう、心外な。

 

 

 

「―――さて、こんな所でしょうか。無傷の箇所があったことと、軍の定期検診のデータがあって幸運でしたね」

 

 

「・・・・・エンフィールド技術大佐、ということはハボック少尉はまた歩けるようになるのか?」

 

 

「大丈夫、問題ありませんよ。ただ、治したというより新しく神経やら何やら作り直したという方が正しいですね。暫くはリハビリ生活になりますが、その後は軍務にも復帰出来ますよ。こちらからも施術結果を上に出しておきます。休職申請は問題なく通るでしょう」

 

 

「・・・・・そうか・・・はは・・俺、戻ってこれるのかよ。ありが―――」

 

 

「これで少しは信用して貰えますか?心配しなくても『知り合いを殺されたからといって変なことはしませんよ』」

 

 

 

 何かもうこの空気が面倒臭くなったのでこちらから切り出しましょう。よくよく考えてみれば彼らに発覚したところで特にデメリットもありませんし。

 

 

 

「・・・マリア・ロスの件か?彼女は――」

 

 

「とぼける必要はありませんよ。大佐たちが昨日殺した、爪の手入れが素敵な妙齢の女性の事ですよ」

 

 

 

 ここまであからさまに挙動不審にしておいて今更言い逃れする必要はありませんよ。うん?先輩方の反応が変ですね。・・・・ああ、ロス先輩には士官学校時代かなりお世話になっていたからでしょうかね。

 

 

 あの人のことは心配してませんよ。中央ではあまり知られていませんが、マスタング大佐はアメストリス軍きっての謀将、グラマン中将の薫陶を受けている切れ者です。あんなあからさまな餌に釣られるほど安くはない。そして外面はともかく、中身はアームストロング少佐やエドたちに負けないくらいの御人好しだ。僕が何もしなくてもきっと無事なのでしょう?

 

 

 

「・・・お見通しという事か、ならば余計解せない。なぜ我々を始末しない?君の腕なら動けない私を殺すことなど造作もあるまい。それどころか、半身不随となった部下の治療まで」

 

 

「勘違いしないで頂きたいのですが、僕と『彼ら』は同志ではなく単なる雇用関係です。仇討なんてナンセンスですし、彼らが欠けても計画に支障はありませんから」

 

 

 

 そう、極端な話彼らが居なくても人柱さえ揃えておけば問題ない。寧ろ彼らが万全であることの方が問題です。計画が成ってしまえば僕の利用価値は消滅します。『彼ら』にとって人間など精々賢者の石の素でしかないのですから、むしろ余計なことを知り過ぎた無駄に技能のある不安材料は率先して排除する。会ってみて良く分かりましたが、彼らに信賞必罰などという人間らしい価値観は期待できそうにありませんし。

 

 

 

『でも、どうして?人体実験やヒュ-ズさんの件を見ても、その『彼ら』って人たちが碌でもないことは分かる。ウィル兄さんは何故その人たちに協力してるの?』

 

 

「簡単な事ですよ。彼らがやろうとしていることは他の誰にもできず、且つ僕の望みにも不可欠だからです」

 

 

 

 これ以上追及されるのも面倒ですのでお暇しましょうか。話せることは話しましたし、ここで敵認定されても和解する手土産は確保してますから特に問題ありません。

 

 

 

「そうだ、言い忘れてました。ヒューズ准将から大佐宛にお預かりしていた資料があります。ここまで来た貴方方なら渡しても大して問題ないでしょうから後ほど執務室に送らせていただきますね」(バタン)

 

 

「なっ!?待て、ヒューズは誰に・・・くそっ!!」

 

 

 

 これで良し。僕の情報網に引っかかってきたヒューズ准将の遺産、どう処分したものか頭を抱えていましたが上手く引渡せてよかった、よかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――数日後

 場所:セントラル 住宅街

 

 

 

 

『こちら4班、3人目の“傷の男”と交戦中!至急救援を!!』

 

 

『こちら8班!“傷の男”と思わしきイシュバール人と・・・うわ、何をする!やめ・・ぎゃああああッ!?』

 

 

 

 ・・・・・えーと、何だこのカオス。あの後中央司令部に出頭したら大総統から『鋼の錬金術師君がまた妙なことをし始めたから、ちょっと見てきてくれたまえ』と命令を受けたので街を散策していたらこの騒ぎ。はあ、また厄介ごとか。

 

 

 

 たしかレーヴ中尉に聞いたところ、エドたちが急に修理のボランティアをし出したらしい。あの子は直情的だけど結構理屈っぽいところもあるから妙な正義感に目覚めたとかじゃないとは思いましたが、まさか“傷の男”を誘き出す為とはまた思い切ったことを。

 

 

 実力で言えば決して兄弟は見劣りするわけではありませんが、如何せんカーティスさんの『生き残るための戦い方』と“傷の男”の『戦場で研磨された殺すための戦い方』は相性が悪い。格上、というよりも圧倒的不利な戦いの経験値も段違いですし急がないと。確かこの辺でいつも作業をして・・うわぁ、これは酷い。まさしく戦場といった壊れ具合ですね。音の方角からして此方に―――。

 

 

 

「―――返してよッ!!お父さんとお母さんを返してッ!!!」

 

 

 

 ――――は?

 

 

 

Side out

 

 

 

 

 

 

 

―――久しぶりに兄さんがエドたちと帰ってきたとき、どうして戦ってる姿が見たいなんて言ったんだろう。憎しみ・悲しみ・怒りで気が動転していたウィンリィはそんな場違いなことを考えていた。

 

 

突然知らされた両親の末路、衝動的に落ちていた銃を拾い向けたが撃つことが出来ない自分、そしてそんな自分のせいで家族に等しい幼馴染が窮地に陥った時、後ろから飛んできた無数の弾丸が“傷の男”を退け、アルフォンスの追撃により見えない位置まで後退していった。

 

 

「怪我はない様ですね、ウィンリィ。エドも無事で何よりですが、さっきのは少し無謀すぎますよ。あの男に同じ経験がなければ諸共に死んでいましたよ?」

 

 

「同じ経験って・・ウィル、“傷の男”のこと知ってるのか!?」

 

 

「イシュバールで直接殺し合った仲ですよ。しかし彼が叔父さん達の・・・。薄々そんな気はしていましたが、因果は巡る物ですね。彼の家族を奪い、殺しかけた所為で叔父さん達が殺されるとは」 

 

 

 

 エド達はその言葉に見ていられないという様に顔を背けたが、ウィンリィだけは兄の表情に違和感を感じた。悲しんでいるというより悲しみたいというか、悲しいと思いたいとでもいうような、言葉に出来ない何かを感じ取った。

 

 

 

「それでは、僕はアルの加勢に向かいます。エドはここでウィンリィについてやって下さい。あ、技術大佐権限による命令ですので、破って着いてきたら厳罰物ですよ!」

 

 

「え、ちょッ!?ウィル、待ち―――」

 

 

 

エドワードはウィルを制止しようとしたが、先程の会話を聞いていた憲兵たちに抑えられてしまい、そのままウィンリィと共に安全な場所へと護送された。

 

 

 

 

 

 




ここまでご覧いただきありがとうございます!感想・質問等いつでも大歓迎です!!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第十三話 乱入と・・・

*2月28日、一部改編しました。


 

 

 

 

 ―――戦場は廃駅の近くへと移る。“傷の男”は逃亡することなく、アルフォンスとウィリアムの二人と交戦していた。口ぶりから知り合いだとわかるが、連携は兄弟よりも劣るだろうと判断し、その条件が、殺傷能力が高すぎる武装で戦うウィリアムの足を引っ張るに違いないと。

 

 

しかし、予想とは裏腹に終始守勢に回らされる。原因は前衛のアルフォンスだ。極端な話、血印さえ無事なら何とかなるため遠慮せず火力を注いでくること、そして彼の銃弾の威力が高すぎてアルの鎧を容易く貫通するので、アルを盾に射線を塞ぐことがむしろ危険であるためだ。

 

 

 

「うーん、流石にこう開けた場所では分が悪いですね(アルには刺激が強すぎて使えないものが多いですし)」

 

 

『わわッ!?ちょっと、直るからってバカスカ撃たないでよ!!このままじゃ装甲が持たないよ!』

 

 

「そうは言っても、元イシュヴァラ僧相手に白兵戦なんて出来ませんし、殺しが御法度となるとこうでもしないと一気に間合いを詰められますよ?」

 

 

 

 一方、“傷の男”も攻めあぐねていた。『翆煉の錬金術師』の手口がエゲツないことは先日身をもって味わったところであり、口でどう言っていても、思いもつかないような搦め手を仕掛けられるか分かった物ではない。しかも『分解』の錬金術を地面に用いて牽制を行っても何故か途中で錬成が中和されて届かない。さらに悪いことに、戦い通しでスタミナを最も消費しているはずのアルフォンスの動きが鈍らず、ウィリアムは射撃しかしておらず殆ど動いていない。このままでは間違いなく先に体力が尽きてしまうだろう。

 

 

 

 それ故“傷の男”は勝負に出た。追い詰められた体を装い貯水槽の傍へと行き、タンクを大量の水ごと吹き飛ばし目晦ましにする。まんまとおびき寄せられた鋼の錬金術師の弟を無力化し、とにかくサシの勝負に持ち込む。

 

 

 ―――しかし、“傷の男”の右腕はアルフォンスの目前で何かにぶつかったかのように弾かれてしまう。咄嗟に錬金術を使われても対応できるよう金属だけでなく土やコンクリートにも対応した術式を使用したにも拘らずだ。そもそも自分の掌底をも弾く物質が何故見えない?

 

 

 どれだけ予想外の事態に備えていても、突然起こってしまえば動作に乱れが生じる。百戦錬磨の“傷の男”ですら例外ではない。対してアルフォンスは回避は不可能と判断し、ウィリアムを信じてカウンターを放っていた。当然“傷の男”は避けることが出来ず、水月に強烈な右ローキックを叩きこまれた。

 

 

 

「ぐぉッ!!?・・・くっ、何をした!?」

 

 

「透明度99%の強化プラスチックですよ。合成樹脂の塊だからその分解式じゃあ破れません」

 

 

『よ、良かった~~~ッ!!一瞬駄目かと思った』

 

 

 

 咄嗟に左腕で庇われたものの、金属の塊に全力で蹴られた事で決して浅くない傷をつけることが出来た。暫くは左腕と腹に力が入らないだろう。ようやく流れを引き寄せることが出来た。

 

 

 

 ところが、ここに来てさらなるイレギュラーが発生する。臭いを辿ってホムンクルス・グラトニーが飛び込んできたのだ。わき目を振らず“傷の男”に向かって飛んできたグラトニーの牙を何とか避けるが、腹に激痛が走り避けきれずに体当たりを喰らってしまう。とにかく時間を稼ぐために、一切の加減抜きで『分解』を行い、脳を重点的に破壊されたグラトニーは地面に倒れ込む。尤も、既に半分ほど再生しており今にも動き出しかねないが。

 

 

 

『あれは・・・たしか『エンヴィー』とか言うのと一緒にいた・・!リン達はどうなったんだ!?』

 

 

「・・・なるほど、彼らをおびき寄せるのが目的ですか。さて、加勢はするべきか否か・・・む?」

 

 

 

 ――突如、マンホールが高々と跳ね上げられ半裸となったリン・ヤオが飛び出てきた。そして未だ再生途中のグラトニーの口に手榴弾を放り込み内部から破裂させた。さらに間髪入れずアルフォンスに丈夫なワイヤーを錬成させ、チャーシューのようにぐるぐる巻きにしてしまった。強制的に再生される体がワイヤーに食い止められ、逆に自身を縛り付けてしまいグラトニーは一切身動きが取れなくなった。

 

 

 

「―――獲ったぞ、ホムンクルス!!」

 

 

『や、やった―――』

 

 

「シン国所縁の・・・彼がエンヴィーの言っていたリン何とかさんですね。さすがにこれを見逃すと契約違反になるので、とりあえず5,6発撃ち込んでおきますか」

 

 

『えぇッ!?え~~、あ~っと。ほ、ホアチャ~~~~ッ!!』

 

 

「はっ!?え、ちょ――『ドゴォッ!!』―――グエッ!!?」

 

 

 

 どこぞの傘がトレードマークの戦闘民族のような咆哮を上げたアルフォンスに面食らったウィリアムはそのまま諸にラリアットを受け吹き飛んで行った。状況が読めないリンであったが、『早く逃げないと穴開きチーズより酷いことされるアルッ!!』とのジェスチャーを受け、駆け付けたホークアイ中尉の車に急いでグラトニーを乗せて去っていった。

 

 

 

『はぁ、な、何とかなった。いやそれよりも、さっきの蹴りも手ごたえあったけど、今の体当たりで恐らく肋骨がやられたはず。つまり、“傷の男”を捕えるなら今――』

 

 

「スカーさん、助太刀しまスッ!」

 

 

『え?うわぁッ!?』

 

 

 

 ―――二度あることは三度ある、というべきか。グラトニー、リンに続いてメイ・チャンが現れ、アルフォンスの頭部を蹴り飛ばし“傷の男”の下へと走り寄る。凶悪犯に駆け寄る子供にアルフォンスも、そして追い付いてきた憲兵隊も訳が分からず、つい場違いな呼びかけをしてしまう。

 

 

 

「ムッ!多勢に無勢ですネ。スカーさん、此処はいったん引きますヨ!!」

 

 

 

 言うや否や、無数の鏢を投げるとそれが独りでに錬成陣を形成する。そして手元にも作成した錬成陣で術を発動させようとした瞬間―――。

 

 

 

 

 

「―――ちょっと失礼しますね」

 

 

 

 

 

 ―――いつの間にか復活していたウィリアムが、今まさに発動しようとしていた錬成陣に手を置くと、既に起動していたはずの錬成陣が停止してしまった。

 

 

 

『な――ッ!?既に発動した錬金術を強制的に止めた!!どうやって!?』

 

 

「――なるほど、これがシン国に伝わる錬丹術とやらですか。是非一度見てみたかったんですよ。何やら妙なエネルギーを使って遠隔地でも発動できる仕組み、これは勉強になります。しかし随分単純な陣模様ですね。もう少し色々と見せてもらいませんかね?」

 

 

 

 メイは突然現れた男に心底恐怖していた。錬丹術を止められたことが・・・ではない。陣諸共手を抑えられてしまったことでもない。目の前の人物が自分を見ている目が何より恐ろしかった。

 

 

 

「(こ、この人・・・まるで物か何かを見るような目で!?どうすればこんな冷たい表情が出来るんですか!!?)は、離してくださ――「ぬぅおあああぁッ!!」――スカーさン!?」

 

 

 

 

 痛みに怯む体を叱咤して“傷の男”は腕を突き出し、メイを抑えているウィリアムの右腕に『破壊』の錬金術を叩き込んだ。

 

 

 

 

 

「・・・そうか。あの時己れの拳が効かなかったのはこういう理由か」

 

 

「これは意外でしたね。てっきり頭を潰しに来ると思いましたが、その子のこと大事にしているんですね?」

 

 

 

 袖口こそ弾け飛びはしたが、ウィリアムの右腕は健在であった。しかし、その中身はおよそ人間のソレには見えなかった。アルフォンスの目にはかつて相対したグリードの硬化させた腕とよく似ているように見えたが、それ以上に濁った様な色や重厚さに不気味さを感じていた。

 

 

 

 破壊こそできなかったものの、衝撃で離れたことで錬丹術が今度こそ起動し辺りは煙と水蒸気に包まれた。視界が晴れた時にはすでに“傷の男”とメイの姿は無かった。

 

 

 

『・・あぁ、逃げられちゃったか。もう少しだったんだけどな、でもくよくよしてても仕方ないよね。あ!ウィンリィと兄さんは無事かな?早く合流しないと―――』

 

 

 

 一秒でも早くここから逃げ出さないと、とでもいうように言い訳染みた独り言を呟いて離れようとするが、後ろから凄まじい力で掴まれ否応なく止められてしまう。心なしか触れられている右手から軋み音が聞こえてくるが、きっと気のせいに違いない。

 

 

 

 恐る恐る後ろを振り向けばそこには・・・・・・本気でブチ切れた師匠と同じオーラを纏って笑みを浮かべる、兄と慕う男の姿があった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 場所:中央司令部 

 

 

 

 憲兵隊に保護されたウィンリィとエドワードは中央司令部のとある一室で待機させられていた。本当なら今すぐにでもアルの元へ駆けつけたいところだが、まさかの大総統の登場でそうもいかなくなった。ウィンリィの気が紛れる様昔話や世間話に花を咲かせているが、エドワードは正直上の空であった。

 

 

 

 数十分後か、それとも数時間は経過したか、ある士官が入室し、『鋼の錬金術師の弟殿と翆煉の錬金術師殿が帰還なされました』と知らせると一気に部屋の空気が明るくなった。直に通す様にと命令すると大総統は気を利かせて退席した。直後、こちらに向かう足音が一つ聞こえてきた。訝しむ二人であったが扉が開かれるとそこには――――。

 

 

 

『あだだだだッ!?凹むッ!どんどん凹んで行ってるよウィル兄さん』(メキゴキバキッ!!)

 

 

「大丈夫ですよぉ?ひん曲がっても僕かエドがとっても格好良く直してあげますから。それよりも、大事な弟分にぶん殴られた心の痛みはどうすれば治るのかなぁ?そうだ、アルって当たり前のように双眼で物見てるけど、兜をモノアイにしたらどういう風に景色が映るか興味ありません??」

 

 

『うわあああぁんッ!!ごめんなさい、ごめんなさいいぃッ!!?』

 

 

 

 ―――そこには若干埃塗れのウィリアムと、右腕で鷲掴みされているアルフォンスが頭部のみの姿で現れた。

 

 

 

「アルゥッ!?え、体は!!?あっちに大事な血印が―――」

 

 

「嵩張るので置いてきました♪安心してください、血印なら襟の部分ごと引っぺがして兜に咥えさせてあります」

 

 

 

 何が一体どうなっているのか問いただしたかったが、ウィリアムの笑顔があまりにも怖くて何も聞けない二人であった。

 

 

 

 

 




ここまでご覧いただきありがとうございます!感想・質問等いつでも大歓迎です!!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第十四話 密会と進路

 今更ではありますが、誤字脱字、文章に関するご指摘いつもありがとうございます。
大変助かっております!!


 

 

 

 

 

 

 場所:郊外の小屋

 

 

 

「腕ぶった切ったまま下水の中を歩いただぁッ!?ったく、破傷風になっても知らんぞ!!」

 

 

 

 

 ホークアイ中尉はリン達を連れて、大佐に指示された合流先へと辿り着き周囲を警戒していた。その後、大佐がエルリック兄弟とノックス医師を連れて姿を見せ、現在は手術の助手を務めていた。

 

 

 

「・・・・妙だな?傷口が清潔すぎる。前傾姿勢でしかも汚水が歩行で撥ねたんだろ?ここに来て応急処置したにしても黴菌が入ったように見えねぇ。どういうこった??」

 

 

「は・・・はあ、若と別れたあと、すぐ・・・妙な二人組に・・・。そのうちの一人は、襤褸布に包まれて・・分からないが、もう一人は女性だった。その女が・・・恐らくは・・錬金術を使って―――」

 

 

「ああ、もう良い傷に障る!話は体調を整えてからにしやがれッ!!」

 

 

 

 

 

 

 同時刻、エドワード達は情報の共有をしていた。大総統の正体、大佐の執務室に届いた『ヒューズ准将が遺した国土錬成陣の情報』について、下水道であった正体不明の二人、そして・・・ウィリアム・エンフィールドについて。

 

 

 

「・・・透明な壁作ってガードとか反則も良いところだよな。初見殺しにも程があるよ」

 

 

「ふむ、私が気になったのは“傷の男”の『分解』や錬丹術を無効化した業だな。ここにいる戦力はシン国の物を除いて錬金術が主力だ。もし我々に対しても同じことが出来るのなら、はっきり言って詰みだぞ」

 

 

「だよなー。燃やせない大佐とか『む』から始まる役立たずだもんな」

 

 

「・・・人のことが言えるのか?そういう君は『チ』から始まる無能になるんじゃないのか、うん?」

 

 

『二人ともこんな時まで喧嘩しないでよッ!!それより、エンヴィーの名を出してたりリンを撃とうとしたあたり、やっぱりウィル兄さんはあっち側なんだよね、はあ。・・・なんだったのかな、あの右手は。最初鉛色だったから機械鎧なのかなと思ったけど、全然違った。むしろグリードの硬化した腕の方が近い感じだった』

 

 

 

 会うたびビックリ箱の様に次から次へと何かしらとんでもないものが飛び出してくる男に全員で頭を抱える。しかもそんな男が敵に回っているのだからますますマズイ。

 

 

 

「俺はその男が何かする前にアルフォンスが吹っ飛ばしたからよく知らんが、そんなにヤバい奴なのカ?」

 

 

『錬金術のせいで常に拳銃が機関銃みたいになってる。あと、リゼンブールで拳銃出した時、いつ抜いたのか全く分からなかった』

 

 

「たしか南部で開腹もせずに病気治してた。あと、毒作ったり極細のワイヤーで切断したりはお手の物って聞いたことがある」

 

 

「・・・学生の内からイシュヴァール内乱に参戦しているから、あの年齢で既に百戦錬磨だ。しかも奴は最激戦区を国家錬金術師すら凌ぐ進軍速度で攻略した実績を持っている。ついでに言えば、キング・ブラッドレイと御前試合で真面にやり合って見せたこともあるそうだ。出来れば彼の地盤作りのためのヤラセであってほしいところだ」

 

 

「\(^o^)/」

 

 

 

 実はアルの奇声付キックで九死に一生を得ていたことを知り凄い表情へと変わるリン。しかもこれらに加えて『エメス』の最新技術も掌握しているのだ。どうして味方じゃないんだというのが全員が共有する感情だった。

 

 

 

「・・・・もう良い。奴について考えるのはまた今度だ。とにかく私は、ヒューズが遺してくれたこの重大な情報と、大総統がホムンクルスであり人間を食い物にする何かを企んでいるという情報を武器に、軍内部で味方を選別し外堀にいる無関係の人間を味方へと引き込む。いくら成り上がりの田舎者に協力するのが嫌でも賢者の石の材料にされることよりはマシだと思うはずだ」

 

 

「――――それじゃあ動くのに制限のない俺とアルは余所で味方を探すか。リオールで態々中央軍を使ったあたり、あいつらセントラルの外にはあまり根を張ってないみたいだ。他の地方司令部なら上手くやれば立ち上がってくれるんじゃねえか?」

 

 

「ふむ、南と西はやめておけ。あそこは意図的に膠着状態を維持されている。恐らく連中の手先が潜り込んでいるはずだ。有力なのは北だな。アームストロング少将とは合同訓練で何度か顔を合わせたことがある。性格はともかく、人柄で言えば最有力だ。特に資料によれば次に奴らが動くのは間違いなく北だ。ここを前面に押し出せば力になってくれるだろう。ただ―――」

 

 

 

 唐突に言葉を切った大佐に他の面々は訝しむ。常に自信満々に断言する大佐らしくない姿だ

 

 

 

「あの御仁はエンフィールド技術大佐を物凄く毛嫌いしていたはずだ。勿論そんなことで君たちの評価に色眼鏡は掛けんだろうが、余計な事を言って話を拗らせん方が良いな。」

 

 

「――おーい、マスタングさんよ!処置が済んだぞ、そんなとこで駄弁ってないでさっさと来い!!」

 

 

 

 

 

 着々と話が纏まっていく最中、ある一言を聞き咎めた怪物が、怨敵を丸呑みにせんと咆哮を上げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Side ウィリアム

 

 

 

・・・AからLまでの列はもう調整の必要はなし、他の棚はまだまだ大人しすぎる。もう少し前頭葉を退化させて―――。

 

 

 

「―――やはりここにいたか!こんな不気味な場所に何時間も籠っていられるなど、正気とは思えんなッ!」

 

 

 

 ・・・無能1号、御登場ですか。

 

 

 

「おや、どうしましたクレミン中将?確か今は軍議の時間では?」

 

 

「大総統閣下が御呼びなのだ、そうでなければ選ばれた人間であるこの私が貴様など相手にするものかッ!!まったく、自分から死地に飛び込んだ東部の猿を笑っていた所を邪魔しおって」

 

 

 ・・・やれやれ、人を会議室から追い出したかと思えば会議に参加しろと言ってきたり、面倒な人たちですね。どうにも自分たちが何も役に立てなくて焦っているようですが、そう思うならせめて陣頭指揮をとってその綺麗な軍靴の底を擦り減らしてからにしてくださいよ。

 

 

 

「ところで・・・貴様の作ったものだから心配しておらんが、これはちゃんと使えるんだろうな?有事の際はこれが我らの切り札なのだぞ」

 

 

「そうですね、あと一週間もあればここにある物は全て稼働できます。もし彼らが目覚めるときが来れば、『愚か者たちは一人残らず』殲滅されることでしょう」

 

 

 

 僕がそう言えば、言質は得たとばかりに揚々と去っていきました。・・・呼びに来たのではなかったでしょうか。

 

 

 

「閣下、このような不出来な木偶人形に閣下の貴重な御時間を割く必要はありません。後のことは我々にお任せを」

 

 

 

 おや、レーヴ中尉。もう帰ってきたのですか?詰まらない雑用を命じてすみません。

 

 

 

「いえ、二重尾行は私の得意分野ですので。『体の大きな幼児』は無事御家に帰られました、堅そうなお友達のみを連れて、ですが」

 

 

 

 ・・・ふむ、『あの人』命な彼らがまさか目的に真っ向から反することなんかしないとは思いますが、一応準備だけはしておきますか。どうも最近失策続きですね、彼らも。これが古典的な時代劇なら粛清でもされてそうなものですが。

 

 

 それよりも、マスタング大佐ともあろう人が、随分と脇が甘いことだ。例え骨の髄まで腐っていれど、事ここに至るまで自分たちの本性を隠して来れたゾンビ狐たちですよ?簡単に手の内を見せてどうするんでしょうかね。

 

 

 

「しかしこれで危険因子と認識されたマスタング隊は解体ですか。閣下の仰られた『対抗馬』は縮小ですね」

 

 

「それは早合点というものですよ。寧ろ都合が良い、追い詰められた人間が獲る行動は二つ。一つは頭に上った血が沸騰しての自滅行動、そしてもう一つは青い焔の様に静かに冴えわたるか。まだまだ捨てたものではありませんよ」

 

 

 

 さて、長話してるとまた一号がやってきそうだし、準備は中尉に任せて大総統の元へ急ぎますか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 場所:大総統執務室

 

 

 

「―――えーと、つまりあの爆弾魔を釈放して来いと仰せで?」

 

 

「そうだ。ラストが欠け、グラトニーも現在一時離脱中、生まれ直したばかりのグリードに遠方任務は任せられん。役に立つ駒を遊ばせている余裕はなくてな、君がブリッグズまで行ってくれるのであれば構わんが」

 

 

「勘弁してください、そんなことしたら北壁さんが僕の血でウォールアートを始めそうだ」

 

 

「はっはっはッ!それならそれで面白い。君の血なら一滴でも紋が刻めそうだ」

 

 

 

 いや、本当にシャレになりませんて。しかしなんであの人にあんなに嫌われたんでしょうね?心当たりなんて・・・偶々遠征に行ったときにドラクマ軍を一人で潰したから、それとも北壁渾身の戦車を勝手に改造したから、いやいやアームストロング家に代々伝わりし名剣に細工をしたから・・・・あれ、心当たりしかありませんね。

 

 

 

「まあそれは冗談として、紅蓮の錬金術師の釈放手続きに関してはエンヴィーがやっておいてくれる。君には彼が存分に働けるよう手の者を貸してほしいのだ。あそこは色々遅れていてな、血の紋は無論のこと、スロウスもちょうどあの辺を掘っている所だ」

 

 

 

 ・・・うわぁ、これまでの経緯を考えると厄介ごとが起きる予感しかしない。腕利きを手配しておきますか。

 

 

 

 

 

 

 

 ―――数日後

 

 

 

「えーっと、あんたがウィリア――『『『『『『『チュンッ!!』』』』』』』――うわ、あっぶねぇッ!!?何しやがるッ!!」

 

 

 

 ・・・これはこれは何時ぞやの不法滞在者さん。確かあの時5、6発鉛玉を御馳走するって言いましたよね?弟分に殴られた分も上乗せしてもう2発おまけしただけですよ。

 

 

 

「・・・うっわ、マジで服に穴が7発空いてやがる。・・いや、そうじゃねぇよ。ラースから聞いてねえのかよ!?俺が新しいグリードだって」

 

 

 

 いや、聞いてますよ。新しくシン国の皇子様の体を貰ったとか。ただ最強の盾とやらがどれ程のものか知りたかったものでして。

 

 

 

「・・・・・・・・あー、うん。もういいわ。それより、あんたも居残り組なんだろ?俺もしばらくは暇そうだからよ、話し相手になってくれねえか?あんたからは面白そうな話が効けるって俺の勘が言うもんだからよ」

 

 

 

 ・・・また変な人が寄ってきましたね。しかし『強欲』ですか。ならこんな話は如何でしょう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――――『約束の日』の翌日について貴方は考えたことがありますか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




ここまでご覧いただきありがとうございます!感想・質問等いつでも大歓迎です!!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第十五話 北と問答

 

 

 

 

 

Side エドワード

 

 

 

 

「あ~~~ッ!沁みる~~~~ッ!!」

 

 

『凍傷になってなくて良かったね、兄さん』

 

 

 

 ―――畜生、足跡を残さないよう司令部に寄らなかったのが裏目に出た。ここが本物の最前線だって忘れてた。改めて考えると、俺たち二人って本当に知識が偏ってるよなぁ。全部終わってウィルを10発ほどぶん殴ったら、その後で一般教養教えてもらおう・・・。

 

 

 

「それにしても、施設の中は驚くほどあったかいよな。外とは大違いだ」

 

 

『あれ、そうなの?その割には中の人たち厚着してるけど』

 

 

「ああ、これね。エンフィールド技術大佐がフィールドワークとか言って着けてった機械のお陰なのよ。たしかエアコンとか何とか。ただ、少将が『こんなもの無くても生きていけるッ!電気を喰うし魂に余計な脂肪が付くわッ!!』って抜き打ちで節電するから上着が脱げないんだけどね」

 

 

 

 ・・・ああ、会ったばっかだけどすごく想像できるわ。みんなが助かる物なら喜んで使うけど、楽になる物は嫌がりそう。

 

 

 

「そういうこと。ここはドラクマに対する最前基地にして最後の砦。ここを抜ける力があるなら北方司令部なんて紙屑ほどの遮りにもならない、そういう覚悟を持てってね。・・・・でも一度楽を覚えたら捨てられないのが人情でねぇ。少将もそれは分かってるから撤去だけはしないのよ」

 

 

 

 ふーん、やっぱり場所が変われば考えの優先順位も変わるんだよな。これから散々陰謀に関わるんだから、此処の人たちのシビアな考えは参考になりそうだな。

 

 

 

 ・・・やべぇ、最近セントラルでキナ臭いこととばっかり関わってたのに甘ちゃん呼ばわりされてる俺らで、あの少将に交渉できる自信がねえ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――あの後直に顔を合わせたけど、滅茶苦茶手強い、つか怖えぇッ!!まるで師匠に睨まれたときみたいに体が縮みそうだった。しかも外が吹雪いてきたせいで全員砦に籠ってるから、人の目が有り過ぎてヤバい話が出来ねぇ。まあ、事前に大佐と話す内容を練っておいたお陰で多分こちらの意図は伝わったと思うけど。

 

 

 

 しっかし、本当にウィルのこと嫌いなのな。アームストロング少将。『エメス』に行けば良いだろって言われて、“傷の男”の件であいつ錬丹術には明るくないと思うって言ったら滅茶苦茶やる気出してたし。

 

 

 技術は幾らあっても良いとか言ってたし、相性は悪くないと思うんだけどなぁ。そこら辺なんでかわかる?マイルズ少佐。

 

 

 

「ふむ、私はイシュヴァールの件があるからどうしても良い印象を持てないが、少将についてか。色々あった様だが、大きな要因は二つらしい。一つは錬金術を前提にした、というより錬金術でしか出せない成果を主としたところだ。内乱で軍事力として地位を確立したというのに、建築・科学・工学・果ては医学にまで手を伸ばした。それも圧倒的に、確かにアメストリスは錬金術大国ではあるが、このままでは錬金術師に依存し無様な特権階級が生まれるのではと危惧しておいでだった」

 

 

 ・・・今中央で起きてることを考えれば強ち杞憂とは呼べないよな。第五研究所やイシュヴァールの件とかみれば、上層部はまるで自分たちは人の命なんて思うままに出来る神か何かとでも考えてる節があるし。賢者の石だのホムンクルスだの、誰でも学べるにしては危なすぎる学問だよな。

 

 

 

「そしてもう一つなんだが・・・、どうにも技術大佐の表情が気に入らんらしい。人を救う時と殺す時に全く違いが無いのだとか。うーむ、何と言えば良いのか、『自分の立場故に感情を押し隠す人間は幾らでもいる。だが、奴は極めて自然体だ。つまり人の死も救済にも一切影響されない。もし奴の中で優先順位が変わればあっさり自身の立ち位置を変えるだろう』と仰っていた」

 

 

 

 ・・・優先順位、か。俺とアルが、ウィルをどうしても完全に敵視できない理由が其れだ。あれだけ目に入れても痛くないって位愛情を注いでくれたあいつが俺たちを、特に妹として愛しているウィンリィを危ない目に遭わせるのかってことだ。何せ学生の頃命を投げ捨てる覚悟で助けに行った位だ、あいつのロックベルに掛ける思いは並大抵じゃない。

 

 

 

 だがこのままいけば国土錬成陣によってアメストリス国民は一人残らず賢者の石にされる。にも拘らず反抗するどころか助勢している有様だ。何を考えて―――『ズズンッ!!』

 

 

 

『うわあッ!?』

 

 

「何だッ!!?」

 

 

 

 ―――あれは・・・まさかホムンクルス!?

 

 

 

Side out

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お初にお目にかかります鋼の錬金術師殿。わたくしはラビ・レーヴ中尉と申します、セントラルより紅蓮の錬金術師殿の補佐、並びに専属技師で在らせられるウィンリィ・ロックベル殿の身辺警護を仰せつかっております、どうぞよろしく」

 

 

 

 騒動がひと段落し、トンネルの中で本格的な情報共有が終わったエドたちは中央から来た一団と引き合わされていた。その中に大事な幼馴染が居たことに動揺した兄弟であったが、何とか気を落ち着かせていた。

 

 

 

「・・・しかし、北というのは本当に物騒なのですね。渇き切った老人の刺身をセメント漬けなんて今時無頼でもやりませんよ?」

 

 

 

 その一言に、周囲でそれとなく観察していたブリッグズの面々の空気が変わる(ちなみにウィンリィはさっさと技術部門のところへ飛んで行った)。レイブン中将の件はつい先ほど起きたばかりで、その間この女は一歩も動かずウィンリィと入り口付近で待っていた。行方不明に関してはキンブリーに伝えているので知らされているだろうが、何故そこまで具体的に知っているのか周囲は不気味に感じていた。

 

 

「―――なあ、それ中央に報告すんの?」

 

 

 

「セントラルへの直接の報告権限はキンブリー殿に一任されていおりますので、わたくしからは特に。それにわが主はレイブン中将が派遣された時点でこうなることを予見されてましたから今更報告するまでもありません」

 

 

 『主』、というキーワードに兄弟は嫌な予感を感じた。目の前の女性はホムンクルスの肝煎りである『エメス』に長く務めている。ならば最近復帰したばかりのキンブリーより実際の発言力は高く、連中へ直接連絡する手段を擁しているのでは、と。しかし――

 

 

 

「――勘違いしないで頂きたいのですが、目晦ましに掻き集めた連中はともかく、我々が『主』として仕えているのは、ウィリアム・エンフィールド局長閣下唯一人です。・・・何を不思議そうな顔をしているのです?貴方方は中央と反目しておいででしょう?外に漏れる心配が無いのに発言を慎む必要はありませんから」

 

 

 

 かなり大胆な発言に目を丸くする。しかし彼女の言うとおり、現状中央の狐狸妖怪と『エメス』の変態技術を同時に敵に回すことは出来ず、敵同士を噛ませ合う謀略を仕掛けるのも、それぞれ単独でも危険すぎてリスクが高い。

 

 

 

 一枚岩でない事実に少しは気休めになるが、結局彼らの目論見通り動かされている現状が歯痒いばかりである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『―――なるほど、ブリッグズも相変わらずのようですね。となると、想定通り北壁の外から血の紋の材料を調達することになりそうですね。それらの作業はこれから送られてくる増援に任せてください。『仕込み』についてはどさくさに紛れて何とかお願いします』

 

 

「了解。キンブリーがこれから“傷の男”の捜索に出ますのでそこで手を打ちます。それと、妹御については如何致しましょうか?」

 

 

『ブリッグズのモラルは相当高いので、中央の老害どもだけ注意しておけば問題ないでしょう。天候からかなりの期間缶詰めになるでしょうから、命さえ無事なら問題ないだろうとか言い出しかねませんし』

 

 

「・・・では、此方から彼女の離脱・帰還についてのエスコートは必要ない、と?」

 

 

『―――念のために『ヴリーヒトイヒ』に追跡を命じてください。彼らも事情を良く知るエドたちのアキレス腱ですから、それなりの護衛を付けてくるでしょうが保険として一応』

 

 

「ではそのように。・・・いよいよ、ですね」

 

 

『ええ、ここからは急転直下で状況が動くでしょう。事が済んだら迅速に帰還してください』

 

 

 

「仰せのままに」(ピッ!)

 

 

 

「―――レーヴ中尉、此処でしたか。出発前だというのに、一人でこの寒空で何を?」

 

 

「申し訳ありません、燃料の匂いに参ってしまって風に当たっていました」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 場所:中央司令部

 

 

 

 

Side マスタング

 

 

 

 

 

「これはこれはお久しぶりです、少将。おやその剣、てっきり捨てたと思いましたが、まだ愛用頂いているようで何よりです」

 

 

「ふん、どこぞの手癖の悪い奴に弄られたときは溶鉱炉に投げかけたが、節操のない殺人鬼のように何でも切るからな。危なくて軽々しく捨てることも出来ん。貴様こそ、何時もの布教活動はどうした?」

 

 

「いやいや、物騒なこと言わないでくださいよ。我々が世に出す技術のペースが速すぎるとしても、だからこそ救われた人たちが確実にいるのですから。彼らが対価以上の信仰を持ったとして、それは彼らが選択したことですから」

 

 

 

 ―――方や睨み殺さんとばかりの表情を向け、もう片方はただ口の端と目尻を歪めているだけというのが傍からでも分かる。ここまで仲が悪いとは思わなんだ。そしてそんな状況に居合わせた我が身の不運が憎い。

 

 

 

「それで、錬金術に頼る風潮が一層強くなったことはどう考えるのだ?錬金術師に縋る非錬金術師という構図を常態化させる気か」

 

 

「それは聊か飛躍し過ぎでは?」

 

 

「・・・貴様らが軍事と、百歩譲って医学以外に手を出さなければ私もそう思った。今は『エメス』以外がまだ貴様らに子供のように学んでいる最中だから表面化しておらんが、彼らが芽吹けば二次産業と四次産業は完全に錬金術に染まるだろうよ。貴様ほどでないにせよ、手を合わせるだけで何もかもが解決するのだ、それが特権階級化に繋がらんと言えるのか」

 

 

 

 ・・・・ふむ、確かに鋼のが“傷の男”をおびき寄せるまで、物品から建物まで瞬く間に修復していたな。あいつが特別だから周りも称賛するだけで終わったが、もし錬金術師の殆どが出来るようになれば、人間の労働力としての価値は激減し搾取の対象となるかもしれない。特権階級化もそれほど突拍子もないことではないかもしれん。

 

 

 

 

「―――なるほど、確かに閣下の憂慮されることは至極もっともです。それでは逆に問いましょう。この命題は我々『エメス』がなくとも、いつかは人類がぶち当たります。それが早いか遅いかの違いしかなく、そしてそれらを憂慮すべきは我ら技術屋ではなく、運用する君主ではありませんか?生み出す者の責任など所詮責任転嫁。散々より良いものをせっつき使役しておきながら、間違いは使用者ではなく生産者の責任とは」

 

 

 普段の技術大佐からは想像も出来んようなプレッシャーを感じる。それに温厚な事なかれ主義とは思えん挑発的な発言に此方を品定めしているような目線も気にかかる。何を考えている?

 

 

 

「むしろ我々に感謝の一つでも戴きたいところですね。この問題は君主制のような、独裁者の号令が全てに優先する現在だからこそ解決しうるもの。もしこれが時代が進み、民主制などが主流となれば泥沼化してしまいますから」

 

 

「ほう、意外だな。貴族でもない君から否定的な意見が出るとは。現行のアメストリス政府は主義主張については寛容だったはずだが」

 

 

「ああ、別に立場故の発言でも、民主制を卑下しているわけでもありません。単純に制度の性格の問題なのですよ、マスタング大佐。君主というのは様々な方向から制約を受け、国家運営のために己を律することが課せられます。ところが民主制の主権者は違います。彼らは最大公約数の幸福を求めることを至上命題としているため、目の前にあるデメリットのない安楽に対する規制にはとても脆弱です。しかも選挙ではそういう方々に配慮した物腰が必要となるため、例えば錬金術に歯止めをかける、なんてマニュフェストがはたして勝てるかどうか。独裁政治であれば、君主に意見が確立されていれば鶴の一声で政策が決められますし、それが恒常化すれば当たり前という概念に変わります」

 

 

 

 さて、あなたはどうしますか、とでも言いたげに、今度は少将でなく私に視線を向けてくる。この男は中尉達とかなり親しいのだったな。もしや色々聞いていたのかもしれん。なるほど、現政府は国土錬成陣発動までしかこの国を運営するつもりが無いから、錬金術に首輪をつけたいなら私がやれ、そういうことか。

 

 

 

「・・・ふん、やはり私は貴様が嫌いだ。いや、より嫌いになった。先を見据え、変える力も持ちながら傍観者でいられる在り方が特にな。己の戦いから逃げた弟と良い勝負だ」

 

 

 

 それきりアームストロング少将は去って行った。・・・いろいろ考えさせられる話だったが、ひとまず昼食がてら、昨夜から様子のおかしい中尉のところへ行ってみるか。

 

 

 

 




ここまでご覧いただきありがとうございます!感想・質問等いつでも大歓迎です!!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第十六話 終わりの始まりと切られる火蓋

 無い知恵振り絞って悩みましたが、北で書くことが思いつかなかったので一気に話を進めてしまいます。それでは、どうぞ!


 

 

 

 

 

 

 

 

Side ウィリアム

 

 

 

 

 ―――グリードは予想通り離反し、グラトニーはプライドに食われ、そのプライドも東で足止めを喰らっている。エンヴィーは北で容れ物を壊され――尤も、あの性格なら生きていれば口八丁で帰ってくるだろうが――ラースも列車を落下させられ、健気に全力疾走で帰っていることだろう。ホムンクルス勢は壊滅状態であり、しかもセントラルに残っているのはスロウスのみ。

 

 

 

 ただし、彼らにとっては残念なことに、『約束の日』は来てしまいました。事ここに至っては、人柱がアメストリス国内にいればすべてが事足りる。『フラスコの中の小人』は保有する戦力に邪魔をさせなければ悲願に手が届きます。

 

 

 

 ようやっとここまできました。最初は少しでも彼らの牙城を崩せればとだけ思っていた方々が、一騎当千の活躍で飛車角落ちまで持って行ってくれるとは。

 

 

 この後の流れは・・・間違いなく『小人』はひきこもる。師匠という最大の難敵をおびき寄せ、確実に封じ込めるためにも中心から離れるわけにはいかない。

 

 

 大総統は邪魔ものの排除、プライドはあと一つの空席を埋めるために罹りきりになるでしょうね。最初は僕を当て込んでいたようですが、一人だけ50人分という桁違いの真理を覗いたことと、かなり色々弄ってしまったせいで人柱にするのはかなりリスクが高いのだとか。まったく、人生何が味方するか本当にわからないものですね・・・。

 

 

 

Side out

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――――遂に反攻の狼煙が上がる。先陣を切るはマスタング隊、それに呼応するように続々とブリッグズ兵がアームストロング邸から飛び出していく。マスタング隊は死者を出さない戦い方をしているため、直に中央兵に足止めされてしまうが想定内だ。

 

 

彼らが見据えているのは戦後統治。殆どの中央軍が『約束の日』に関与していないため、また世間には到底出せない内容であるため今日ここで起きた真相はほぼすべて闇に葬られる。つまりでっち上げられた事実が歴史となるわけだがそれにどれだけ真実味を持たせられるかが今ここでの行動にかかっている。

 

 

 

―――悪漢どもの野望を防ぐため、泣く泣く同胞と矛を交えた。それでも己の務めをただ忠実に果たしているだけの兵たちを殺すことなどできなかった。足手纏いになることを覚悟の上で大総統夫人を弾雨の中守り通したのも正義感故―――英雄譚としてはちょうど良い塩梅だろう。

 

 

 

 しかし英雄的行動はすぐに行き詰ってしまう。碌に補給線も持たない少数精鋭では、物量作戦は圧倒的に分が悪い。マスタング大佐に消耗が無くとも銃弾等の物資はすぐに底をついた。

 

 

 

 まさしく詰みの状況、しかし英雄が英雄たる由縁は武力や叡智だけではない。窮地に在って活路が開ける豪運もまた重要なファクターである。一台のトラックが中央兵の封鎖を突き崩し、彼らの前に躍り出る。しかもただの車ではない、人材はともかく、武装に関しては間違いなく最新式であるはずの中央兵の軍用ライフルすら弾き、タイヤに打ち込んでもびくともしない。おまけに積んである兵器はどう考えても時代を間違えて存在しているとしか形容できない変態武装ばかりであった。

 

 

 

 想定外の救援に驚く大佐であったが、乗っていた人物にさらに驚愕させられる。東部軍所属のレベッカはまだわかる、しかしシンにいたはずのマリア・ロスまで姿を現したのだ。どうやって間に合わせたのか問うと、運転席に座る忍者のような恰好をした男の仕業だという。

 

 

 

「シン国所縁の方ですか?御助勢感謝します、私はロイ―――」

 

 

 

「―――堅い挨拶は抜きにしましょうや、俺と大佐の仲でしょう?」

 

 

 

 聞き覚えのある、いや此処に居るはずのない男の声に全員が動きを止める。覆面を取った先には、未だベッドの上の住人であるはずの顔があった。

 

 

 

「愛されて80年、あなたの町のハボック雑貨店!パンツのゴムから装甲車、最近はとある違法ルートまで開拓し、外骨格強化スーツから国家機密レベルの試作銃まで幅広くお取り扱い、電話一本でいつでもどこでもお届け参上!!―――で、お支払いは?」

 

 

「出世払いだ、ツケとけッ!」

 

 

 

 ―――解散して約半年、マスタング隊が全員セントラルへと帰還した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 第二の狼煙は外では決して分からない形で上がることとなる。オリヴィエ・ミラ・アームストロング少将が完全に手薄となった上層部に対して反旗を翻した。可能なら最大の障害となるウィリアムの消息を確認してから行動に移りたかったのだが、これだけの騒ぎになっても未だ表に出てこない。周囲の罵声から事前に取り決められた行動ではないと察した彼女はプライドだけの腐った連中を挑発によって間合いに招き、即座に利き腕を切り裂き、残りは拳銃によって始末した。

 

 

 

 だが狼煙とはこのことではない。ウィリアムが上層部によって作らされた人形兵、それらを起動するトリガーこそが本当の狼煙である。

 

 

 起動した人形兵は、ウィリアムが仕込んでいた通りにその場の人間たちを皆殺しにした。上層部はこれを切り札に当て込んでいたが、その実全く異なる存在へと書き換えられていた。

 

 

そもそもこの人形兵はターミネータ遺伝子の調整によって半日と絶たず機能停止するよう設計されている。また、負の光走性を付与されており、内側へ、暗い方へと動いていくため、外に漏れる心配もない。凶暴性については一切手を加えていないが、これは軍の腐敗がどこまで進んでいるのかわからないため、とりあえず襲わせておこうと判断したからである。中央へと向かっているエドたちにも危険な存在であるが、彼らがこんな玩具にやられるはずが無いという、嬉しくない信頼でスルーされてしまった。

 

 

 

 ―――尤も、人形兵の最大の役割は、ホムンクルス達から僅かでも賢者の石を手放させ、混乱に乗じて回収することにあるのだが・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 場所:会議室前 廊下

 

 

 

 

 

 ―――まさしく死闘、という状況にあった。アームストロング少将の始末を命じられたホムンクルス・スロウスと戦い満身創痍となったところに追い討ちを掛けるように現れた人形兵。何とかその場にいた中央兵をなし崩しに指揮下に入れることで互角の戦いに持ち込んでいたが、大量の杭に串刺しとなっていたスロウスが復活したことで再び形勢が大きく傾いてしまった。

 

 

 

 窮地に立たされた姉弟であったが、彼女らを殺させまいと奮起した中央兵たちによって間一髪救われることとなる。そのまま血路を開き二人を逃がそうとするが今度こそ自身の戦場から逃げまいと少佐は立ち上がる。その咆哮に応えるかのように救いの手が現れる。

 

 

 

 恐らく現勢力で錬金術・白兵戦の総合力で言えば間違いなく最強と言える人物、エルリック兄弟の師である『主婦』イズミ・カーティスとその夫、シグがブリッグズ兵からの要請で駆け付けた。

 

 

 

 彼女たちは姿を見せるや否や人形兵たちを薙ぎ倒し、生き残った軍人たちの安全を確保すると最大の脅威であるスロウスへと向き直る。そして中央兵を振り切ったスロウスを迎え撃とうと構えた瞬間―――突如足元から崩れ落ち、頭から突っ込んできたため慌てて回避することとなった。

 

 

 

「・・・あらあら、こんなにも賢者の石を消費してしまって。貴重な資源の無駄遣いをする位なら潔く主の糧となりなさいな」

 

 

 

 イズミたちからは巨体が死角となって見えなかったが、向こう側に一人の女性が立っていた。その手にはスロウスから抜き取ったと思われる賢者の石が握られており、そこから再生しようと骨や筋肉が構成されようとしたが、女性が握り締め錬成光がしたかと思えば構成途中の物質は霧散し、スロウスは完全に消え去ることとなった。

 

 

 

「・・・貴様、エンフィールドの子飼いの――」

 

 

「数か月ぶりでしょうか、少将?そちらはイズミ・カーティス様ですね。お初にお目にかかります」

 

 

 

 その女性とは、数か月前までブリッグズに滞在していたウィリアムの副官、ラビ・レーヴ中尉その人だった。ただしその様相はだいぶ異なっているが。

 

 

 

「・・・なるほど、通りで幾ら経歴を洗っても出てこん訳だ。まさか奴の副官が合成獣だったとは」

 

 

「まさか。あのような後天的に歪められた出来損ないと一緒にしないでください。勿論子を成すことも、錬金術も行使出来ないホムンクルスのような欠陥品でもございません。あえて名乗るとすれば『ゴーレム』とでも呼んでください」

 

 

 その姿は、腰の部分から無数の茨が天井や地面へと巻き付き、背中からは蛾とも蝶とも取れる翅が生え鱗粉をまき散らしていた。

 

 

 

「――――はあ、随分な有様だねえ。あの男は命を冒涜するような奴じゃないと思ったんだけど」

 

 

「その認識で間違いありませんよ、ミセス・カーティス。―――あなた、御子息はいらして?」

 

 

 

 その発言にシグは憤怒の表情で詰め寄ろうとするが、イズミはそれを手で制して止めた。彼女からは揶揄や挑発の雰囲気がなく、表情も至って真剣そのものだったからだ。

 

 

 

「・・・ああ、居たよ。不甲斐ない所為で産んであげられなかったけど」

 

 

「そうでしたか、大変失礼をいたしました。ですが、私たちも同じかそれ以下の存在なのですよ。生まれるはずの無かった命、誰にも誕生を望まれなかった試験管ベビー。かつて『エメス』が外聞を気にする上流階級に向けた中絶処置を名目に、未だ胎児ですらなかった私達に奇跡の業を施し、複雑な機械に繋いで産み落とされたのが我々なのですよ」

 

 

 

 思いも寄らない出自にその場にいた全員が驚愕の表情を彼女に向ける。特に『望まれなかった命』という言葉にイズミは表情を酷く歪めた。しかし、敵として立ち塞がる以上、しかもウィリアムがこの土壇場で送り込んできた存在に手心を加える余裕など彼女らにはない。

 

 

 

「さて、意味のない昔話はこのくらいにしましょう。いま私の同胞が人形兵から賢者の石を抽出している所です。このまま貴方達を野放しにしては人形とその中の石が破壊されてしまうでしょう?錬成陣が起動するまでの間、わたくしと踊って下さいな。あ、前金ではありませんが、此方を差し上げます。十分今回の企みを知っていますし、吐かせるなり戦後に利用するなり御随意に」

 

 

 

 そういって上層部メンバーの一人であるエジソン准将をアームストロング達の下へ放り投げる。イズミは僅かに目を閉じ気を落ち着かせると、何時もの不敵な笑みを浮かべ腕を鳴らして前に躍り出る。

 

 

 

「―――上等ッ!ご主人様と一緒にぶん殴られる覚悟は出来てんだろうねッ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 場所:中央司令部 正門

 

 

 

 

 少し時間が進んだころだろうか、此方でも死闘が繰り広げられていた。司令部の九割がブリッグズに落とされ、勝利を確信した一瞬を狙ったかのように宣言される『主の帰還』。大総統キング・ブラッドレイが戦場へ舞い戻り、まさしく鬼神の如き活躍に中央兵は息を吹き返し、抑えの要であった戦車を潰されたブリッグズは窮地に立たされていた。

 

 

 

 ―――しかし、ここでも救いの手が伸ばされる。

 

 

 

「――激情に任せて吠えたところで、得な事なんざありゃしねえッ!!・・・だけど何でかねえ、見捨てる気になれねえんだよな、そういうの」

 

 

「・・・・・あのまま黙って逃げておればよいものを。今一度切り捨てられに戻ったか」

 

 

「生憎底なしの強欲なんでね、お前の命も欲しいんだよ、ラース。それに、あんたの首が欲しいのは俺だけじゃねえみたいだぜ?」

 

 

「―――ほう、裏でコソコソ動くかと思ったが、貴様もここへ来たか。エンフィールド技術大佐」

 

 

 

 まさしく一触即発、そんな雰囲気でありながら向かってこないグリードを妙だと感じたが、扉を開いて現れた男に納得する。確かに自分と相対するのであれば、これ以上ない助っ人であろう。

 

 

 

「契約を反故にした、という訳ではなさそうだな」

 

 

「ええ、もちろん。人柱とその候補が全員この司令部内にいる以上、もう我々にすべきことなど無い。なら、僕が姿を見せなければ心配性の皆さんは落ち着かないでしょう?なら、こうやって誰にでも分かる位置にいることこそ契約に沿うというものです」

 

 

「・・・ではなぜ反逆者らを討たん?計画を妨げる全てを排除することが君の務めだ」

 

 

「つまらないことを言わないでください。彼らが今更陣の起動をどうにかできるはずが無いでしょう?であれば僕が関与する対象ではありませんし、彼らはことが成った後で重要になる人材です。貴方にスパスパ切らせるわけにはいかないんですよ。それと最後に、反逆者も何も、貴方方『約束の日』以降の統治なんて考えてないでしょう。義務を放棄した王からそれらを引き継ごうとする彼らは反逆者などでは無く、どこに出しても恥ずかしくない立派な後継者ですよ」

 

 

 

 言いながら間合いを調整するように歩き、懐から愛用のロングバレル・リボルバーを、そしてもう一丁大型のリボルバーを左手に構える。この場にそれを知る人間はいないが、かつて学生時代に却下され、長らくガラスケースのオブジェとなっていた逸品である。

 

 

 

「まあ、そんなことは些細な事です。今この場で重要なことは、ホムンクルスという超越者でありながら、60年間一度も胡坐をかくことなく己を磨き続けた真正の怪物である貴方に無傷でいられては、何もかもをひっくり返されかねないという事だけです。如何ですか、大総統。嘗ての御前試合の決着、この大一番でつけておく気はありませんか?」

 

 

 

「くっはは、はーーっはっはっはッ!!面白いッ!全身全霊を賭して足掻いてみせよ、人間ッ!!」

 

 

 

 ―――その言葉を最後に、正門前の戦いは人外が凌ぎを削る地獄と化した。

 

 

 

 

 

 




ここまでご覧いただきありがとうございます!感想・質問等いつでも大歓迎です!!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第十七話 それぞれの戦い

 ・・・かなり難産でした。やはり戦闘描写は苦手です。期待に応えられてるかどうか内心ビクビクです。


 

 

 

 

 

 

 

 

 ラジオ・キャピタルへと大総統夫人を送ったマスタング隊は、ほぼ全員を残して嘗てラストと戦った研究所地下へと移動していた。大佐の後ろを守るのは二人、リザ・ホークアイ中尉とジャン・ハボック少尉だ。

 

 

 

「ハボック少尉、本当に大丈夫なの?リハビリは相当かかるって聞いたけど」

 

 

「今んところ問題ないっすね。この腰の機械が脊髄の代わりをしてくれるらしいんで、それから全身タイツみたいなスーツにも色々機能が付いてるみたいですね。相当速く走れますし、岩や瓦礫も軽く持ち上げられるのには驚きましたが」

 

 

 

 ―――その言葉に誰が作った物か容易に想像がついた。間違いなくあの男の仕業だと。

 

 

 

「・・・あの時のトラックと言い、間違いなく技術大佐が絡んでるわよね。私達が異動させられてからほとんど会えなかったけど、一体何があったの?」

 

 

「丁度半年前ですね、中尉達が飛ばされたときに俺にも異動の辞令が来たんすよ」

 

 

「異動?休職扱いになるんじゃなかったのか」

 

 

「その予定だったんすけど、急遽取り下げられて『エメス』に出向扱いになったんですよ。することは病院と変わらずに、それでいて給料も出るからって家族に通達があって。大佐からは何の連絡もなかったんで人質扱いか見せしめかとビクビクしてましたよ。ところが蓋を開けてみたら手厚いリハビリに今日のための兵器の横流し、おまけで身動きできない俺のためにこのトンデモスーツもポンッと支給してくれるしで、何が何やらでしたよ」

 

 

「・・・どう思います、大佐」

 

 

「ふむ、以前ハボックを治してくれたこと、それに鋼のが言う幼馴染とやらのことを考えても、あの男もアメストリス人が皆殺しにされても構わないという訳ではないだろう」

 

 

「それなのにホムンクルス達に与している。たしか連中にしかできないことで利害が一致しているとか」

 

 

「つまり『約束の日』は強大な賢者の石を作ることが目的ではないという事だ。石は前提でしかない。その先にある物をエンフィールドは欲している。我々に助け舟を出しているのは、計画が実行された後を見据えて、か。奴には計画が成就してもひっくり返す算段が付いている訳だ」

 

 

「でもそれなら共闘は・・・無理っすよね」

 

 

「後で助けるから一旦石にされてくれとは言えんだろう。アームストロング少将は特にそういうのは嫌うだろうからな。それに『―――ッ!』―――この騒ぎは・・先を急ぐぞッ!」

 

 

「「了解ッ!!」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 場所:中央司令部 回廊

 

 

 

 

 

 

 

「アレックス、五秒後に三発、シグ殿はそれに合わせて奴の翅へ投擲ッ!」

 

 

「アイ、マム!!」

 

 

「あいよッ!」

 

 

 

 ――――イズミ・カーティス他3名(中央兵には荷が勝ちすぎるので撤退して貰った)とラビ・レーヴの戦いは砲撃戦と見紛うほどの様相であり、回廊は既に原形をとどめていない。これは、レーヴ中尉のこれ見よがしに翅から放出される鱗粉を警戒せざるを得ず、遠距離戦を強いられているからである。

 

 

しかも敵はこの手の戦いに手馴れているのか、茨を巧みに操り錬成された無数の砲弾や鉄塊を捌いている。しかも時折裂けた切り口から樹液が漏れ飛んでくるため回避にも気を配らなければならない。液が付着した石像が音を立てて溶け落ちたのだから気が気でない。

 

 

 

 

 一方、レーヴ中尉も攻めあぐねていた。前衛を任されているのは手練れ中の手練れであり、しかも野生というべきか、冴えわたる勘と百戦錬磨の経験が生半可な攻撃など掠らせてもくれない。

 

 

 それに加えて、ブリッグズを支え続けてきた指揮官による的確な支援砲撃が最も意識が薄くなった部位を常に抉り続けるため、攻めにも守りにも集中することが出来ないでいた。

アームストロング少佐も錬金術師としての格こそイズミに劣るが、砲撃による火力に限ってみれば決して劣るわけではない。しかも殴りつけるついでに錬成した砲弾をシグが力任せに投擲してくるものだから、実質戦車二台に支援砲火を喰らっているようなものだ。

 

 

 戦力差で見ればカーティス側に十分勝機がある。しかしそれでも拮抗しているのはお互いの思惑が噛み合っていたためである。イズミたちにとってレーヴ中尉は相討ち覚悟で打倒すべき敵ではなく、本命はあくまでホムンクルスの親玉である。毒らしき鱗粉や溶解液など、あからさまに犠牲を強要してくる様な敵など相手にしていられない。

 

 

対して、レーヴ中尉の目的はあくまで同胞が賢者の石を回収するまでの時間稼ぎなので積極性は皆無であり、攻撃もあくまで相手の攻め手を潰すためのものである。そもそもイズミは『人柱』なので全力で攻撃しては本末転倒も良いところだ。

 

 

 

 ―――しかし唐突に均衡は崩れる。突如盤石の構えを見せていたレーヴ中尉の茨が砂状に崩れていき、翅は花弁のように剥がれ落ちていった。全てが消えた後には倒れ伏すレーヴ中尉のみが残り、ピクリとも動く気配がない。

 

 

 

「・・・流石にブリッグズの北壁と鋼の錬金術師の師匠を同時に相手取るのは無謀だったかしら。まさか10分でストックが切れるなんて思いもしませんでした。」

 

 

「・・そうか、あれだけ茨を無尽蔵に錬成して何処から賄っていたのかと思ったが、賢者の石が貴様の動力なのだな」

 

 

「そういう事です。普段は生命維持にのみ使用されていますが、私如きの腕で貴方達クラスを留めるのは不可能でしたから、多少無理をさせてもらいました」

 

 

「あれが多少だって!?自分の何もかもを燃料にして、生きてるのがやっとの有様じゃないかッ!自分の命を何だと思ってるッ!!」

 

 

 

 アームストロング少将達がただ冷徹にレーヴ中尉を見据える中、イズミだけは感情を爆発させていた。唯の敵であれば彼女も一顧だにしなかっただろう。しかしレーヴ中尉の出自を知ってしまった彼女は、どれだけ甘いと言われようと感情移入を止められなかった。しかしレーヴ中尉は倒れたまま自嘲するだけだった。

 

 

 

「親に望まれず、消費されるどころか生まれたことすらなかったことにされた命。そんな世界でただ一人、我々の命を欲してくれた人がいた。元々あの方から頂いた命、あの方の糧に成れるなら本望です。それに―――最低限の務めは果たせました」

 

 

 

 ―――直後、司令部全体が揺れ、イズミの足元に巨大な目玉のような『何か』と手を模した黒い触手の様なものが出現した。

 

 

 

「ああ・・・ようやく閣下の望みが叶う日がやってきた。それをこの目で見届けられないのが・・・・・残念です・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

場所 正門前

 

 

 

 

 

 正門前の戦いも苛烈さを増していた。グリードとウィリアム、さらに駆けつけたフーも交えての三対一の戦いを強いられているキング・ブラッドレイであったが、未だにその体に僅かな掠り傷さえつけられてはいなかった。しかしそれは三人も同じであった。

 

 

 

 均衡している鍵はやはりウィリアムにあった。彼が今回初めて戦場に投入した大型リボルバーは、唯でさえ60口径という頭の可笑しいサイズであるうえ、『エメス』の技術の粋をつぎ込んでとにかく風圧や衝撃力の強化に特化させてある。どのくらいの威力かというと弾に当たらずとも、横を通り過ぎられるだけで肉を引きちぎられてしまう、と言えば分って貰えるだろうか。

 

 

 戦車の主砲すら切り捨てることが出来る大総統にとって大した脅威にならないように思えるが、主砲から見れば遥かに小さい弾丸で僅かに劣る程度の衝撃が加わるため、安易に切り捨てようとすれば『父上』手製の剣であっても折れる危険性がある。紙一重でかわすことも出来ず、またフー達を射線に置いてもいざとなれば平気で撃ちこみかねない為、普段より格段に攻め手を抑えた立ち回りを行っていた。

 

 

 

「むう、これでは埒が開かン。どうするのだ、グリード」

 

 

「いや、そろそろ行けそうだッ!何とか動きを合わせてくれよじいさんッ!!」

 

 

 

 勝負に出るのか、今までと違い露骨に誘導する様に圧力を掛けてくるグリード達に対し、あえてブラッドレイは誘いに乗ることにした。眼前の二人を抜いてウィリアムに切り込むことが困難である以上、敵の策を上回った瞬間に均衡を崩すしかない。そして何より、この身を滅ぼせるという作戦がどれ程の物か、無意識のうちに喜悦に顔が歪んでいた。

 

 

 

「―――ッ!離れろじいさんッ!!」

 

 

「ッ!?これは・・父上が言っていた遠隔操作の・・・!」

 

 

 

 ただ撃ち殺す為と思っていた弾丸の痕が線を結び、幾重にも重なった複数の錬成陣となる。相変わらず面制圧型の錬金術が使えないウィリアムであったが、メイの錬成陣から錬丹術の一部を盗み取ることに成功し、弾痕を用いた遠隔錬成、そして複数の錬成陣の同時運用によって、疑似的な広範囲錬成を可能とした。

 

 

 無数の杭がまるで麦畑の様に大量に生え始めるが、フーが身を引くための一瞬のタイムラグが隙となってしまう。接近していたグリードを柔術の要領で巧みに崩し、その背をジャンプ台に見立て信じられない高さへと跳躍する。追い縋る様に杭が伸びあがるが、あと数センチのところで停止してしまう。眼前の杭を足場に降りたち、凄まじい速さで地上へと掛けていく。狙いは杭が死角となり確実に対応が遅れることになるフー。しかし、半ばまで降りた途端、突然浮遊感が襲い、足場が砕け散ってしまう。

 

 

 

 これこそが彼らの必殺の策である。たとえフーがいなくとも、桁外れの目と反射神経を持つブラッドレイに対してどれだけ不意を衝いても紙一重で回避されるであろう。ならば、回避の仕様が無い場所へ誘い込めば良い。杭はあくまで退路を空へ限定するための囮、本命は全ての杭を爆破し前後左右から降らせる黒曜石の雨だ。

 

 

 実はこの杭、最初から避けられることを前提に、内部に爆薬を積んだ非常にもろく不完全な構造で錬成していた。そして黒曜石は割れると非常に鋭い断面になるため、爆風に乗れば即席の鏃となる。しかもブラッドレイはその鏃の雨の中心にいる。

 

 

 

 

 

 ―――しかし、ここで幸運の女神はホムンクルスへと味方した。たまたま傍の杭に引っかかっていたブリッグズ兵の死体を引き寄せ、厚手のコートを右方の傘代わりに、死体を踏みにじり足元を確保し、ナイフを引き抜き刀との二刀流をもって残る左方と上からの雨を完全に捌き切ってしまったのだ。

 

 

 

 仕留めるまではいかずとも確実に手傷を負わせられる―――事実死体が傍になければそうなっていたのだが―――予想が覆され、全員が硬直した一瞬を逃さずブラッドレイは疾走する。

 

 

 グリードは爆破に巻き込まれ直ぐには動けない、フーも避難したために距離が遠い。今この瞬間、ウィリアムとの間に一切の障害は存在していない。既に銃口はブラッドレイへと定まっていたが引き金を引くより一瞬早く黒曜石の破片を投げ込まれ使い物にならなくなってしまう。左手のロングバレルを向けるより前に刃が首へと伸びていき―――その間に右腕を割り込ませ、刃を受け止めた。

 

 

 

「―――ほう、自慢の早撃ちとイシュヴァールの死地を切り抜けた秘密はこれか」

 

 

 

「・・・・グリードから自分よりは柔いと聞いてはいましたが、ギリギリでしたね」

 

 

 

 

 ―――時はイシュヴァール行きを志願した日まで遡る。どれだけ気概があり、自作の武装で固めても、経験まではどうにもならない。危機に陥れば硬直してしまうし、人を撃つにもいちいち躊躇してしまう。歴戦のイシュヴァラ僧に殺気をぶつけられれば逃げることもままならないだろう。

 

 

そう思った彼が自身の生存率を引き上げるため決意したのが右腕を造り替えることだった。機械義手はリハビリに年単位の時間が必要であり、出立まで一週間しかない為不可能。それなら元から存在する腕と神経を利用してしまえば良い。普通考えても実行等しないが、他に優先すべきことがあるからと躊躇しないのがウィリアムという男である。

 

 

 まず神経以外から水分を吹き飛ばし、強度と神経との共存を両立している歯の構造を参考にしたものへと変質再構成する。そして機械鎧の疑似神経構造を利用しよりデジタライズされた回路へ造り替え、虫の神経節を模した小型脳を内包し炭素繊維でカバーを掛けて完成。反射より早く銃を抜き、どれだけ心身が乱れていようと正確に目的を実行し、おまけに下手な防具より頑丈な腕の出来上がりだ。

 

 

 

 

「―――私の剣戟について来られるとは大した絡繰細工だ。だが、貴様自身は目で追うことすら出来ておらんッ!」

 

 

 

 あれだけ白兵戦は苦手と言っておきながら自身の剣を捌いたことに呆れながらも、腕だけが追い縋っていることを早々に見抜いたブラッドレイは、まるで東洋の武術にある長椅子くぐりの要領で背後を取ってしまう。咄嗟に体をねじるが躱し切れず、左腕が切り飛ばされてしまう。

 

 

 

「・・・私より遥かに若いのに、良くもこれだけ練り上げたものだ。だが、これで終わりだッ!!」

 

 

「――――させるカッ!!」

 

 

 そのまま無防備を晒す左脇から心臓目掛けて突きを放つが、間一髪頭上から割り込んできたフーが、文字通り我が身を盾にして受け止めた。怪しい男なのは重々承知であるが、もしこの男が倒れれば最早息の上がった老いぼれでは若を守りきれない。それに、これなら確実に抑え込める――!

 

 

「この機会を逃すな、儂ごと殺れッ!」

 

 

「ぬ・・・ッ!!?」

 

 

 猛烈な悪寒を感じ剣を手放そうとするがフーが両腕で握りこんでいるため叶わない。蹴り剥そうとする前に柄からハリセンボンの様に無数の針が錬成され諸共に縫い止められてしまう。

 

 

 

 忠臣が命を捨てて創った好機を掴むべく、猛追してくるリン・ヤオ。何とか拘束を振りほどこうとナイフを左手に構えるが、今度は裾から違和感を感じる。目線を向けると、切り落とした筈のウィリアムの左腕が足に纏わりつき、今まさに錬金術を発動しようとしていた。咄嗟に足を蹴り上げ振り払うが、僅かに『分解』の錬金術が作用し足の筋と筋肉を少し切断されてしまう。

 

 

 最早回避が間に合わず退路が絶たれたブラッドレイであったが、掌底を当てて自ら剣を半ばで圧し折り拘束に隙を作る。そのまま剣を振り下ろしフーの両腕を振り払い、リンの渾身の一撃に合わせようとする。が、僅かに腕を逸らすだけに終わり、咄嗟に身をよじったものの右目を引き裂かれ、続くウィリアムからの射撃が腹部を貫いた。

 

 

 

 そのまま感情に任せて追撃を行おうとしたリンであったが、突如空へと昇る凄まじい雷と振動に意識を逸らしてしまう。その隙を突かれてブラッドレイに背負い投げを喰らい、一緒に堀へと落下しかける。そのまま引きずり降ろされそうになるが、駆け付けたランファンとブリッグズ兵の加勢もあり何とか正門へと帰還する。

 

 

 

「フー!!しっかりしろッ!誰か医者を、錬金術が使える医者を―――」

 

 

「落ち着いて下さい、貴方が引き上げられるまでの間に出来る限りの処置はしておきました。失血は酷かったですが命に―――」

 

 

「助かるんだナッ!?ありがとウ、大切な臣下を失わずに済んダ。本当に良かっタ・・・」

 

 

 

 思わず腰が抜けたのかフーの傍で座り込むリン。しかし現状は予断を許さない。大総統はおらずとも中央兵は止まることなく進軍しているのだ。

 

 

 

「・・・うーん、蹴り飛ばされた拍子に堀へ落ちたかな。左腕は諦めますか。リン・ヤオ、もしくはグリードどちらでも構いません。一つ頼みたいことがあるんですが」

 

 

「何でも言ってくレ。あなたはフーの恩人ダ、出来ることは何でもすルッ!」

 

 

「先程の雷を見たでしょう、あれが起動したということはいよいよ大詰めです。下には僕も向かいますが、此処にいる彼らには後で頑張って貰わないといけません。・・・頼めますか?」

 

 

「・・・・グリード」

『別にかまわないぜ、こっちは身一つだし予定まで少し余裕がある』

 

 

 

 後を請け負ったリンに任せて再び門の中へと足を進めるウィリアムに、それまで静観していたバッカニア大尉が呼び止める。

 

 

 

「ウィリアム・エンフィールドッ!あんたを問い詰めてる時間がないことは分かってる。だが一つだけ聞かせてくれ!奴らに付いていると思えば我々に加勢したり、あんたの目的は一体どこにあるんだッ!?」

 

 

「・・・・・彼らが宿願に手を掛けることに関しては僕の願望にも沿うものです。しかし、彼らが望みを叶えた後も同じとは限らないという事です。それに、僕は一度ととして誰かに敵味方の線引きをしたことも、それを公言したこともありませんよ?」

 

 

 

 その言葉を最後に、ウィリアムは扉の向こうへと姿を消した。

 




ここまでご覧いただきありがとうございます!感想・質問等いつでも大歓迎です!!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第十八話 連戦と逆転

 

 

 

 

 

 

 

 Side 地下

 

 

 

 

 エンヴィーを下したマスタング隊とエドワードは、迷路のような通路を進んでいると、得体のしれない金歯の老人と遭遇した。男は自身を『キング・ブラッドレイを作った男』と名乗った。その言葉に即座に戦闘態勢を取るが、頭上から現れた『ブラッドレイの成り損ない』の奇襲を受ける。

 

 

 その後、金歯の男が発動した謎の錬成陣が原因でエドワードが姿を消し、戦力を減らされたマスタング隊は追い詰められ――――ることなく、一人ひとり確実に撃破していった。その大きな要因はハボック少尉、厳密に言えば彼に取り付けられたパワードスーツの性能だ。

 

 

 

 これは嘗てウィリアムが対峙したキング・ブラッドレイから得たデータを元に設計されており、不測の事態があればリミッターが外れ驚異的なスペックを発揮する。使用者に多大な負荷を強いるが首を刎ね飛ばされるよりはマシであり、何より重要なのは使用者の実力に依存しないという事だ。

 

 

 

 これにより、ハボック自身に優れた白兵戦の実力が無くとも、彼の視覚や聴覚から得た情報をもとに、機械が勝手に対ブラッドレイ用プログラムで体を動かし迎撃する。それが所詮一回り以上スペックの劣る成り損ないを迎え撃てないはずが無かった。

 

 

 

 

 ハボックと“傷の男”が討ち漏らさない以上、後衛は万全に機能する。何の障害もない以上、『鷹の目』が的を外すはずが無い。確かに成り損ない達は人の臨界に迫る実力かもしれない。しかし人の域を出ない以上、銃口から軌道を読み先んじて的を外させることは出来ても、放たれた弾丸を見てから回避することなどできない。成り損ないたちは次々と数を減らしていく。

 

 

 

 それでも、数で圧倒的に勝る成り損ない達は初撃こそ食い止められるが、直に脇をすり抜け接近してくる。そのまま一気にホークアイ中尉を無力化しようとするが、並び立つ男が其れを許すはずもない。僅かなタイムラグが大佐の錬金術の発動を許してしまう。

 

 

 

 大佐が指を鳴らすと、凄まじい閃光と炸裂音が成り損ない達に降りかかる。『焔の錬金術』は可燃物を錬成し、発火布に導火線の様に着火して成立するものであるが、これを非常に細かい粒子上に形成することで後の世で「スタン・グレネード」と呼ばれるものと同じことをやって見せたのだ。幸い、精密技術用の構築式は何処かの機関が公布しているので容易に組み込むことが出来た。伊達に英雄などと呼ばれてはいないのだ。

 

 

 

 前衛に支障が無いよう威力は控えめにされ(念のため他の面子には耳栓をさせておき、前衛の背後で爆発させた)たが直傍にいた成り損ない達は甚大な被害を被り、平衡感覚と視力を奪われた彼らはたやすく殲滅された。

 

 

 

 自らが傑作と豪語した連中が無様にやられる姿に激怒した金歯の男が予備の成り損ないも全て投入するが、救援に駆け付けたメイ・チャンと合成獣の仲間たちによって殲滅されることとなった。

 

 

 

 

 

「皆さン、御怪我は有りませんカ!?」

 

 

「ああ、全員かすり傷程度だ。ありがとう、助かった」

 

 

 

 敵が完全に沈黙したことを確認すると、ハボックが突然膝から崩れ落ちた。もしやどこか負傷したかと、マスタングが血相を変えて近寄るが―――。

 

 

 

「―――も、もう無理っす。体中ガタガタで動けませんて。あと十秒あんたらが遅かったら膾切りにされてたっすわ」

 

 

「・・・まったく、驚かせるなッ!とはいえ良く持ち応えてくれた。しばらく休んでいろ。ところで、君らもこんな複雑な迷路の中を良く駆けつけられたな」

 

 

 

「俺達もエドと“傷の男”が居ないのに気が付いて引き返してきたんだが、嬢ちゃんがエンヴィーの気配が消えて追えなくなって立ち往生してたんだ」

 

 

「どうしたものかと焦っていたんですガ、途中で会った方にここまで案内してもらったんでス!ほら、ちょうどあそこに・・・ってあれッ!?居なくなってまス!!」

 

 

 

 メイが指差した方にはもう誰もおらず、マスタングは敵の罠を疑わなかったのかと尋ねたが、その時はまとめてぶっ飛ばすつもりだったと返ってきたので頭を抱える。おかげで助かったので何も言えないが。

 

 

 

「もう探さなくて良いぞ、御嬢さん。それよりそいつはどんな奴だったんだ?」

 

 

「えっと、骸骨みたいなお面をした人でしタ。声からして中年の男性みたいでしたガ」

 

 

 

 それを聞いたマスタングはホークアイに目線を向け、彼女も首肯する。恐らくラストという女との戦いでこちらに加勢したあの人物だ。

 

 

 

「こんな敵陣の中枢にいて君たちに危害を加えなかったところを見るに、その男も恐らくエンフィールドの手先か。あのナイフ捌きに中年声・・・・いや、まさかな。それより、思わぬ足止めを食った。鋼のをどこへ連れていったのかその男に吐かせねばな。まああれは簡単に殺されるタマでは――――」

 

 

 

 金歯の男を宙吊りにして捕えているカエルのような合成獣・ジェルソの下へ向かおうとしたマスタングであったが、此処に居るはずが無い満身創痍の男が、暗闇の向こうから姿を現した為に動きを止めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Side ウィリアム

 

 

 

 

 ・・・まさしくこの世の終わり、といった風情ですね。地球の『扉』を開き、さらに向こうに引きずり込まれるのではなく、此方に引きずり出す術式ですか。しかしこんな方法何処から得たんでしょうかね?ホムンクルスの皆さんに警戒されて中々会えませんでしたから経歴とか全く知らないですし。

 

 

 

 まあ、そんなことは置いておいて。国土錬成陣が発動した以上、契約は完了です。後は実験の成果をこの目で確かめる、それから、色んな約束やツケを払いにいかないと、ですね。

 

 

 

「・・・できれば全部終わってから出ていきたいところですが、ちょっと旗色が悪いですね。正直どの面下げて出てきたって話ですが、遅ればせながらの加勢に向かいますか」

 

 

 

 

 

Side out

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ―――アメストリスから音が消えた。約5000万人ほぼ全てが賢者の石へと錬成され、恐らくこの地で動いていられる人間は10人にも満たないだろう。そんな終焉の地と化した場所の中心で、エドワード達は『お父様』と対峙していた。

 

 

 

 ・・・とはいっても、錬金術封じが施され、実質戦力として数えられるのは2人だけなのだが。

 

 

 

 

「―――ご苦労だった、人柱諸君。ここで君らを消してしまうのは容易いが、どうせ片付けるならまとめてやったほうが効率的だろう?そら、もう来ているのだろうウィリアム・エンフィールド。君が求めたものが此処にあるのだぞ?」

 

 

「・・・おやおや、あわよくば漁夫の利を得ようと考えていたのですが」

 

 

「戯言をほざくな。子供達から君の功績は良く聞いている。恐らくホーエンハイムの次に危険人物である男を放置などしておかんよ」

 

 

 

 何時の間に侵入していたのか、ウィリアムが仮面の男と共に影から姿を現した。エドワードとアルはこれまでの所業に関して、イズミはレーヴ中尉のことで声を荒げかけたが、左腕が失逸していること、何より今まで見たこともない鬼気迫る表情に何も言い出せなかった。

 

 

 

「ウィル・・・・・」

 

 

「お久しぶりです、先生。状況が状況なので礼を失した挨拶で申し訳ありません。それよりも・・それが神の力とやら、ですか」

 

 

「そうだ。真理を、全を、神をこの地に引きずりおろした。最早私は何者にも縛られはせんッ!!」

 

 

「それはそれは。ご機嫌なのは結構ですが、唯あなたを見ているだけではどれだけすごいのかがいまいち分からないのですよ。今までと何がどう違うのですか?」

 

 

「何もかもが違う。まさしく全能と呼ぶにふさわしい、今までどれだけ知っていても、この忌まわしい限界が其れを縛り付けていた。だが、今の私には寧ろできないことの方が限りなく少ない。たとえば、こんな風にな」

 

 

 

 『フラスコの中の小人』が肘置きを指で叩くと空から凄まじい落雷が束の如く、そして正確にエドワード達の頭上へと落ちてきた。ホーエンハイムは自らを盾に受け止めようと身構えるが、接触する直前に収束していた雷が突然四散し、その結果想定よりはるかに少ない負担で受け止めることが出来た。

 

 

 

 

「・・・ほう?土壇場まで姿を見せなんだが、賢者の石を掻き集めていたか。その『最巧の錬金術』とやらは良く出来ているが、随分と冷や汗をかいているじゃないか?石のバックアップがあろうが、君の方はあと何回受け止められるかな」

 

 

 

 ―――言葉の通り、ウィリアムは表情に色濃く疲労を刻んでいた。自身の部下に人形兵を狩り尽させ、パイプの中からも可能な限り石を収集させてきた。しかし、無から有を作り、雷という最速を雨の如く降らせる一撃を人間如きが介入し改竄する等、限界を幾つ超えても足りはしない。その無理が着実にウィリアムの肉体を蝕んでいた。

 

 

 

 

「・・・・さて、厚顔無恥にも加勢させていただきますよ。これまでの経緯を水に流せとは言いませんが、とりあえずこの場は乗り切ってからにしませんか?」

 

 

 

「・・・今の俺らに拒否権なんてねえよ。その代わり、ウィンリィを石の錬成に巻き込むのを容認したことに関しては、最低100発殴られるのは覚悟しとけよ?」

 

 

「・・・てことは、アルと本人を含めて300発は覚悟しとかないとですね。受け入れますとも。―――先生、逆転の一手はあとどれくらいですか?」

 

 

「わからん、が直ぐの筈だ。それまで奴の攻撃は俺が極力受け持つ。無理はするなよ」

 

 

「ここで無理せずに何時するんですか。後ろに大切な御子息を抱えてるんですから、今までのツケも含めて精々格好つけましょう」

 

 

「はは、お前とも後でじっくり話さなきゃならないしな。・・・来るぞッ!!」

 

 

 

 ―――再び雷が、マグマが彼らを襲う。ウィリアムが散らし、ホーエンハイムが受け止める。さらに戦線に復帰したメイ・チャンの錬丹術も加わり、ギリギリのところで踏ん張り通している。

 

 

 

 想定以上の抵抗に業を煮やした『フラスコの中の小人』は、早々にケリをつけるべく疑似太陽を創り出し、確実にウィリアムたちを葬ろうとする。

 

 

 

 ・・・もしもっと早くに決断していれば、若しくは彼らに最後の慈悲と高を括り会話を嘲笑っていなければ引導を渡すことが出来ただろう。長年の悲願を達成し、言い訳の仕様がないほど慢心していた。故に―――足元をすくわれる時が訪れたのも必然と言えるだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――好き放題やってくれやがったなこの野郎ッ!クソ真理と一緒にぶっとばす!!」

 

 

「・・・カッコつけてるとこ悪いんですが、さっきまで先生の後ろで背中押してただけですよね、君達?」

 

 

「こんっな時に茶々入れてくんじゃねえッ!!」

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・・・・ッ!!」

 

 

 

 ――――ロイ・マスタングは自らの無力さに憤っていた。エドワードの父親が打っていた大逆転の秘策が功を奏し、さらに“傷の男”が逆転の錬成陣を起動させた。今こそこの中でウィリアム以外で唯一軍人である自分が先頭に立たねばならないというのに、子供を矢面に立たせ、その命綱を民間人に任せることしかできないで何が『国の先を見据えたもの』だッ!?

 

 

 

 

 ――――おいおい、下向くにはまだ早いぜ、ロイ。見下ろすのはトップになってから、だろ?

 

 

 

 

 

 周囲から爆音が鳴り響く中、聞こえるはずのない声を聴いた。そんなはずはない、この声の主は今も冷たい土の中にいるはずで、エンヴィーもこの世にいない。じゃあいったいこの声は・・・?混乱する自身を無視して無理やり立たされ、どこかの方角へ向きを変えさせられる。

 

 

 

 

 

 ――――方位64ってとこか。奴さん、動く余裕もないのか、それともこの期に及んで慢心してやがるのか・・。この国の黒幕気取って踏ん反り返ってたやつを引きずり下ろすチャンスだ。未来の大総統様の実力、文字通り目に焼き付けてやれッ!

 

 

 

 

 この声が幻聴なのかはたまた罠か、盲目となった自分にはわからない。だが、切って捨てたはずの夢のような予測を信じて、マスタングは渾身の一撃を叩き込んだ・・・。

 

 

 

 

 

 

 




ここまでご覧いただきありがとうございます!感想・質問等いつでも大歓迎です!!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第十九話 因縁

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ―――エドワード達の怒涛の反撃、さらにマスタングが放った特大の爆炎が決め手となり、焔により賢者の石を消費させられ続けることを嫌ったのか『フラスコの中の小人』は溶鉱炉の中身を足場へと変え地上へと向かった。

 

 

 

 

「さて、ここで石を創り直されては元の木阿弥です。我々も―――」

 

 

「―――その前にちょーっと訊かせてもらっていいかな?」

 

 

 先んじて追っていったホーエンハイムに続くよう促そうとしたウィリアムであったが、横からイズミが胸倉を掴み制止する。事態についていけず止めようとするエルリック兄弟であったが、今までの怒りが可愛く見えるほどの殺気に近寄れないでいた。

 

 

「私と少将さんの所へ嗾けてきた女軍人さんのことについてよ。身に覚えがないなんて言わないわよね」

 

 

「もちろん、6年近く連れ添った副官ですから。今も私の所へ戻らないので察していましたが、彼女は殉死しましたか」

 

 

「――――ッ!ええ、そうよ。産み落としてくれた人の為なら命さえ惜しくないって言って自分の命を燃やし尽くしてねッ!!」

 

 

「・・・・・そうですか」

 

 

 

 平然と彼女の死を口にする姿に、会って間もない自分ですら目に焼き付いたあの散り際を叩き付けても眉一つ動かさない姿に激昂し、そのすまし顔に拳を叩き込もうとしたが続く一言に気勢を削がれてしまう。

 

 

 

「―――悲しいと思えても悲しんであげられないから、必ず帰ってきなさいと言いつけておいたんですがね・・・」

 

 

「・・・そう、あんたも『扉』を開けたんだね。知ったような口きいて悪かったわね」

 

 

『え・・えっと、ほら!父さん一人に戦わせるわけにもいかないから、早く上に―――』

 

 

 

 先程までの怒気も収まり、バツが悪そうに手を離した師匠と、気にした風でもないウィリアムに心底安堵したアルフォンスが空気を変えようと一歩前に出た瞬間―――ウィリアムの腹部右側を、すっかり見慣れてしまった『影』が貫いていた。

 

 

 

「・・・ちぃ、あれだけ狙いを付けたというのに心臓を外しましたか。やはりこの体はもう限界ですね」

 

 

「な―――セリム、てめえッ!?」

 

 

 一気に頭が沸騰して殴りかかるエドワードだったが、むしろそれを狙っていたように僅かな『影』を最大限投入してエドワードを拘束しようとする。アルは兄の加勢を、イズミはウィリアムの手当て及び避難を優先しようとしたが、当の本人達に先に行くよう促される。

 

 

 

「先に行ってくれ!コイツ俺に用があるらしい」

 

 

「ぐ、ふぅッ!こ・・この程度の負傷は問題ありません。石もありますから手当は無用です。治したらすぐにエドと片を付けますから、カーティスさんたちは早く上にッ!!」

 

 

「・・・・わかった。行くよアルッ!エドも負けるんじゃないよッ!!」

 

 

『ウィルも、絶対死んじゃ駄目だからね!』

 

 

 

 

 他の全員を先に向かわせたエドワード達、プライドは先程の一撃で力を使い果たしたのか、最早『影』を刃物化させることさえ出来ず、唯エドワードを拘束するので精一杯といった有様だった。

 

 

 

「どきなさい、エドワード・エルリック!君の後ろにいる人間だけは此処で始末しておかなくてはならないのです」

 

 

「ふざけんじゃねえよ、セリム。ウィルの大馬鹿野郎にはとっくの昔に先約が大勢いるんだよ!俺達でのべ300発殴り飛ばすまで死なれちゃ困るんだ」

 

 

「・・・そうですか。なら丁度良い、私が代わりにやっておいてあげますよ!!」

 

 

「ッ!?何を―――うがあああああぁあッ!!!?」

 

 

 

 刻一刻と崩壊していく容れ物、そして早くしないと奥で倒れている男がまた動き出してしまう。そんな焦りからホムンクルス・プライドは一世一代の博打に出た。祖を同じくするエドワードの傷口から自身の本体を流し込み、人型ホムンクルスの術を応用してエドワードを乗っ取ろうとしたのだ。

 

 

「父上と同じくホーエンハイムから生まれた我らが血族よッ!その器を私に―――ッ!?・・・え?ぬ・・あ・・・・な、なにが・・・?」

 

 

 

 窮地に追い詰められたが故に、普段とはかけ離れた手段に打って出たプライドだったが、決して不可能な方法ではないはずだった。・・・・ある男の魂を取り込んでさえいなければ、だが。

 

 

 

『いただけません・・・実にいただけませんねぇ・・ホムンクルス・プライド』

 

 

「まさか、ゾルフ・J・キンブリー!?ばかな、どうやって自我を保って・・・いやそれより、何故邪魔をするのですッ!?」

 

 

「・・・・!」

 

 

『・・・ええ、貴方があのまま己の『誇り』とやらに最後まで準じていれば何もしなかったのですがね。生き意地汚く、自らの危機を回避するためなら下等生物と見下した存在との同化さえ躊躇しない。まるで自称上層部の方々の様ではないですか。・・・はっきり言って貴方、美しくない』

 

 

「で・・・では、何故ウィリアム・エンフィールドを庇ったのですかッ!!肉体の限界のせいだとばかり思っていましたがこの感覚、あれも貴方の仕業でしょう!」

 

 

『ああ、あれですか。すいませんねえ、6年前からずっと預けていた「借り」を返す絶好の機会でしたので、つい・・』

 

 

「ぬ―――ッ!くう・・・こ・・のお・・・・ッ!」

 

 

『意志と意志とのぶつかり合い、力と力の共鳴、それらがごく自然にぶつかり合った結果が真理となる。そんな私の美学を、一度だけ無粋な横槍で曲げてしまったという大きすぎる借りをね』

 

 

 ―――内側から力を抑えられ、そんな問答で致命的な隙を晒したプライドは、拘束を振り切ったエドワードに頭を鷲掴みにされ、自身を賢者の石に変え内側に侵入するという無茶苦茶な手段によって完全に無力化された。

 

 

 

 

「――――ブラッドレイ夫人に謝りに行かなきゃな。そこで待ってろ、バカセリム!・・・終わったぜ、ウィル・・・・何してんだ、お前?」

 

 

 

 大口叩いておきながら一向に復帰してこなかった兄代わりが心配になって振り返ると、何時の間にか完全復活していたウィルが塵となったプライドの残骸を掻き集め、みたこともない錬成陣を刻み発動していた。

 

 

 

 一体何事かと身構えていたエドワードだったが、塵の中から出てきたものに仰天してしまうと同時に治ったはずのわき腹が疼き出した。錬成光が止んで出てきたものは、手のひらサイズではあるが、五体満足の『紅蓮の錬金術師』キンブリーだった。

 

 

 

「――はッ!?え、ちょ・・おま・・・えーーーーッ!!?」

 

 

「・・・ふう、いやはや助かりました。持つべき者は羽振りの良い上司ではなく旧知の戦友ですね」

 

 

「―――まったく、背後に注意しろって言っておいたのに何ディナーにされてるんだよ」

 

 

「背後から襲われたのはお互い様でしょうに。まあ私もいざとなれば見捨てられる覚悟は出来てましたが、まさか頭から食べられるとは思いませんでしたよ」

 

 

 

 

 ―――話はキンブリーの出所日まで遡る。散々文句を垂れながらもキンブリーと再会したウィリアムは、ある取引を持ちかけていた。それは『「この闘いを見届ける」という目的に関して全面的に協力するから、此方の計画については目溢ししろ』というものであった。

 

 

 本来キンブリーは性格的に雇い主への利敵行為は嫌っている。しかしホムンクルスは自身の快楽を存分に堪能させてくれる無二の契約者ではあるが、万一の際の社会福祉や信賞必罰などという概念は持ち合わせていない。用済みになるか、若しくは役立たずとなればあっさり切り捨てられるだろう。それでは一連の事象の結末を見届けることが出来ないためこの取引に応じることにしたのだ。

 

 

 

 北にレーヴ中尉が派遣されたのも、万一の際に救助できる腕利きであることと、例え大総統の勅命があったとしてもエンフィールドが動けば、アームストロング少将は何をおいても監視に全力を注ぐであろうこと判断したためである。独自に動きまくってくれたお陰で上首尾で仕込みを終えることが出来たことは一応感謝していた。

 

 

 

 

「・・・・いや、何か普通に会話してるとこ悪いんだけどさ、ウィルがやったのってまさか死者蘇生?」

 

 

「それこそまさか、ですよ。キンブリーは魂をモグモグされてはいましたけど『扉』の向こうに行ったわけではありませんから、消滅する前に仮初の器を用意して定着させてやればこの通りです。原理はアルとあまり変わりませんよ?」

 

 

「・・・・大丈夫なのか?そいつかなりの危険人物だぞ?」

 

 

「勿論よく知ってますし、手は打ってありますから。錬成陣は刻んでありませんし、それにあくまで契約は『結末を見届けるまで』です。用意した器も後半日持ちませんから」

 

 

 

 言われてみて良く観察すれば、確かにキンブリーの体は既に先程のプライドの様に所々欠け始めている。復活させられて直ぐ二度目の死が来るってどうよ?と思ったエドだが、当のキンブリーは全く気にした風でないため、この話題には触れないことにした。

 

 

 

「さ、こんなところで無駄話をしている時間はありませんよエド。アルやカーティスさん達皆が戦ってるんですから。僕は最後の仕込みがありますので少し遅れますね」

 

 

「はあッ!?お前この期に及んでまだコソコソ―――」

 

 

「大丈夫ですよ。もう君達を裏切ることは絶対しませんから」

 

 

「~~~~ッ!!・・・・・・逃げんじゃねえぞ。ウィンリィの前まで突き出して、100発スパナを振わせんだからよ!」

 

 

「・・・ははは、甘んじて受け入れますよ。猛烈に帰りたくなくなりましたけど」

 

 

「今まで散々迷惑かけたんだから我慢しやがれッ!!・・・ほら、先に行ってるから、さっさと追いついて来いよ」

 

 

 

 そう言って錬金術で上へと昇っていくエドワードを見送った後、ウィリアムは別ルートで上へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――――そうしてウィリアムが向かった先は地下中層部、つまり“傷の男”とブラッドレイが死闘を演じた場所だった。既にブリッグズ兵とアームストロング少将もいたが、全員が大なり小なり負傷しており、とても彼の相手など出来ないため固唾を呑んでその動向を注視していた。

 

 

 

 彼が向かう先はこの国の中心、錬成陣がある場所でありその傍には瀕死の“傷の男”が座り込んでいた。かつて3度殺し合った二人は、しかし視線を交わすのみで殺気立つこともなく、そのままウィリアムは“傷の男”の隣へと座りこんだ。

 

 

 

 

「・・・・・己れの兄者を覚えているか?」

 

 

「ええ、良く覚えていますよ。見るからにイシュヴァラ僧にも兵士にも見えない普通の青年でしたが、凶器と狂気に怯まず我が身に代えて家族を守った方でしたね。たしか、貴方方の切り札の『逆転の錬成陣』もその方の成果ですよね?可能なら全く別の立場で出会いたかったですね」

 

 

「・・・そうか。確かに貴様と兄者が唯の錬金術師として出会っていたら、きっとウマが合っただろうな。―――身を隠しているとき、貴様と貴様の機関の噂は良く聞いた。不治の病を治し、次々に人に明るい発明を齎しておきながら市民からは一銭も取らない、錬金術師の鑑だとな。己れはそれを受け入れられずにずっと耳を塞いでいたが」

 

 

「それは当然の事でしょう、僕は貴方達一族の仇なんですから。・・・・仇と言えば、貴方はロックベル夫妻の最期を覚えていますか?」

 

 

「――――――覚えている。いや、正確にはあの娘に会って思い出したというべきか。・・・空き巣に入られたあばら家より酷い物資で懸命に治療をしてくれた。傍で震えていた同胞は、医者夫婦を殺した己れを、憎悪と絶望を込めて見つめていた。同じ志に殉じた者達を絶望させた挙句、八つ当たり同然の復讐に邁進した。そして今では自分のしてきたことを棚に上げて、自分が生かされている意味を探そうと・・・生きようとしている人でなしだ」

 

 

 

「・・・・・・なるほど、いやよかったですよ。正直あの人たちを殺した貴方に強烈な『何か』を今も感じていますが、彼らが最後に遺したものが無意味でなかったことに安心しました」

 

 

「己れも正直アメストリスに対する憎しみは消えていない。だが、あの兄弟やマルコー達と轡を並べたことは、悪くないと思っている」

 

 

 

 お互いに目を合わせることもしないが、非常に穏やかに会話が続いていた。凄まじく重くデリケートな話題を聞かされている周囲はどちらかが何時暴れ出しはしないか、と胃痛に苛まれていたのだが。

 

 

 

「――――おっと、いよいよですね。それじゃあ、この史上最悪の馬鹿騒ぎにもそろそろ幕を引きましょう」

 

 

 

 地上から一際大きな振動が伝わってきたのと同時に立ち上がったウィリアムは、周りの声に一切耳を貸すことなく、自らの集大成ともいえる錬成陣を起動させた。

 

 

 

 

 

 

 




ここまでご覧いただきありがとうございます!今日中にもう一話あげる予定です。


 いよいよ次回で最終話(予定)と後日談が続きます。最後までどうかよろしくお願いします!!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

最終話 


※3/14、キンブリーとの会話を加筆しました。そして投稿して初めて1万字を超えてしまいました(笑)


 

 

 

 

 

 ―――戦いはいよいよ大詰めを迎えていた。ブリッグズの命がけの総攻撃、そして今ここに生きる様々な勢力が一丸となった戦いに、とうとう『フラスコの中の小人』は限界を迎えた。

 

 

 

 その後、抑えきれない力を爆発させた一撃に総崩れとなり、身動きの取れなくなったエドワードは、アルフォンスが等価交換の逆転を行い腕を取り戻させたことで窮地を脱した。弟に命を投げ出させた自身の不甲斐なさも眼前の敵を打倒す力に変え、滅多打ちにされた『フラスコの中の小人』は遂に形振り構っていられずに息子と呼んだ命を糧に長らえようとする。

 

 

 

 賢者の石の吸収があまりに強く、このままではリン・ヤオの魂まで巻き込んでしまう。『強欲』が生まれ落ちて初めて、自分の為でなく誰かのために命を賭けようとしたその時――――国土錬成陣起動よりも更に大きな揺れと雷光が天地を駆け抜けた。

 

 

 

 その場にいる全員が事態を掴めずにいる中、最初に動いたのはシン国の二人だった。何故か石の吸収は止まっており、その隙をついて『フラスコの中の小人』に貫かれた部分をボロ炭へと変え、いち早く駆け付けた従者がその部位から上を横一線に両断した。

 

 

 ランファンにとっては、仕えるべき主を真っ二つにするのは凄まじく抵抗があったが、一刻も早くこの場から主共々離れるのが先決である。足元へ落下するリンの上半身を抱え飛び去り、着地するころにはリンの体は元通りとなった。

 

 

 

「・・・何がどうなった?中尉、決着は着いたのか」

 

 

「いいえ、まだです!ですが、様子がおかしいんです。まさかあの錬成陣には続きが・・・!?」

 

 

「いや、それならあやつが吾輩たちに勝ち誇った笑みでも浮かべるはず。此処に居ない人物でこのような事態を起こせる人間と言えば・・・ッ!?」

 

 

 

 ―――突如、『フラスコの中の小人』を中心に『人体錬成』の陣が展開され、そこから無数の透明な鎖が伸び上がり拘束していく。最早満身創痍だった『フラスコの中の小人』は回避など出来る筈もなく、まるで死刑囚の様に締め上げられるとそのまま地面へと引きずり込もうとする。

 

 

 

 どうやら鎖に質量も物理法則もないようだが、肉体は当然そうはいかない。まるで『貴様にこれは必要ない』と言わんばかりに容れ物は軋みを上げ、肉が裂け血飛沫を上げる。最後は何もかもが押し潰され、血溜りのみを残して消え去ってしまった。

 

 

 

「・・・・おわった・・のか・・・・・?―――ッ!アルッ!!」

 

 

 

 誰もが沈黙し続ける中、エドワードは再び『扉』の向こうへ行ってしまった片割れの名を呼び続けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 場所:中央司令部 地下中腹

 

 

 

 

 

「・・・・これが先程の錬成の結果か。一体何をしたのだ?」

 

 

「そうですねえ、この中に錬金術師が僕以外居ないので少しわかりにくいかもしれませんが、一応説明しますね」

 

 

 

 ―――地下中層部は現在光に満ち溢れていた。突如頭上から降りてきた鎖の中央には、太陽のように燦然と、しかし痛みや眩みを一切感じさせない不思議な光を放つ存在があった。

 

 

 

「―――僕がホムンクルスと組んで初めて計画のことを聞かされた時に聞きました。彼らが得ようとする『神の力』とは、神の力の一部を切り取って奪うのか、それとも神の力全てを掌握するのか、と。答えは後者でした。ここにある物は『一にして全の力』、つまり他に比較するものは神でさえ用意できない最上級の力という事です」

 

 

 ここまでは良いか、と目で問うウィリアムにそれぞれ首肯する。例え錬金術師でなくとも『一にして全、全にして一、の全 ≒ 神 』というのはアメストリスで博学を気取る人間からは常識といって良いものだ。

 

 

 

「なら、例えばですよ?そんな無限ともいえる存在から見れば芥子粒にも劣る代物であろうとも、何かを上乗せして対価を求めれば、神とやらはそれを用意できると思いますか?」

 

 

 

 ―――丁寧な説明ではあるが、神だの神の力だのと想像すらできない話題に一同は答えを出せないでいた。しかしそんな問答もウィリアムの姿が徐々に『分解』されていったために終わりを迎える。

 

 

 

「それでは、ちょっと行ってきますね。これが『翆煉の錬金術師』最後の人体錬成となれば良いのですが・・・」

 

 

 その言葉を最後に、ウィリアム・エンフィールドは完全に世界から消失した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 場所:???

 

 

 

 

 

 

『―――なんだ、お前も来たのか。よりにもよってそいつまで連れてきて』

 

 

「おや、エドたちも来てましたか。それに業とらしくしなくても、お前の興味はこれだけでしょう?」

 

 

 

 ――――何もない真っ白の空間、ウィリアムは後ろに黒い玉擬きと光り輝く『神とやらの力』を従え6年ぶりにこの場所に訪れていた。

 

 

 

『・・・小賢しい真似をしてくれたものだな。そこの痴れ者の様に扱える器を持たないなら、と躊躇なく等価交換に利用するとはな。しかも掻き集めた賢者の石に盗人の首級も手土産ときた。―――それで?お前は対価に何を望むんだ?』

 

 

「・・・てっきり白を切るものかと思いましたが、話が早いですね。そう、自身の持てる全ての力にしてこの世の『全』そのものの対価など、例え神でも用意することは出来ない。難癖付けられた時用に上乗せ分も用意しましたが杞憂でしたか。まあ良い、今この場で対価の決定権は僕にある」

 

 

『それで真理に勝ったつもりか?確かに対価を用意できない以上お前が望むものを用意しなければならないが、逆に言えばお前が把握しているものしか対価に選べないんだぞ?』

 

 

「ご心配なく。とうの昔に何を願うかは決めてありますので」

 

 

『ほう?あの時犠牲にした夫婦の開放か?随分と酔狂な回り道を―――「その椅子からどけ」―――はっ?』

 

 

「聞こえませんでしたか?お前が胡坐をかいているその『神とやらの席』を空けろと言っているんです」

 

 

『・・・は、ははははッ!自分が何を言っているのかわかっているのか?確かにお前は俺を認識している。引き摺り下ろすことも可能だろうが、このなにもなく自ら干渉することも出来ない空間に人間如きが耐えられるはずが―――』

 

 

「何勘違いしてるんですか。僕は神とやらの役割を放棄しろと言っただけで、自分が代わりに座る気なんてこれっぽっちもありませんよ。お前のくだらない娯楽に付き合うのはもう御免なんですよ」

 

 

『・・・・・・』

 

 

「初めはお前のことを、自分を罰したいと考える罪悪感か、将又集合無意識の様なものかと思っていました。しかし、僕とマスタング大佐の件ではっきりしました。お前はシステムや世界の機能などでは無く、神という役割を請け負いその権能で好き勝手する唯の不思議生物だと。思い上がった物に罰を与えると言っておきながら、手にするだけで罪だという真理を見せる。しかも本人の同意や目的もお構いなしに一方的に、だ。しかも罪や罰などという極めて主観的なものの尺度や量刑もそちらの裁量のまま。こんな筋の通らない存在など人間には必要ありません」

 

 

『・・・正気か?ここから誰もいなくなるということは、二度と真理の扉が開かないことと同義だ。お前達の代で真理を見た者はいなくなる。唯の人間が一人で決めるには随分大それているな』

 

 

「別に良いんじゃないですか?そもそもあなたが勝手に決めた『人体錬成を行ったら真理を見せる』というルールが無ければ露見しなかった代物ですし。大佐や少将に偉そうに言いましたけど、どこかで錬金術に縛りを掛けなければと思っていた所ですから。そもそも無から有を生み出す奇跡など人間には荷が勝ち過ぎるんですから、無い方が都合がよいでしょう?―――さて、それではどうか御覚悟を」

 

 

『ま、まてッ!そんな自身に帰らない望みで『神』を切り捨てるというのか!?不老不死・超常の力・万物の創造、お前達にとって夢と呼ぶに値するものを永遠に失――――』

 

 

「良い加減黙ってくださいよ、見苦しい。しかしエドは相変わらず肝心なところが抜けてますね。長年の悲願が目の前にあったとはいえ、あれだけ『クソ真理をブッ飛ばす』と息巻いていたのに頭から抜け落ちてるんですから。まあ良いか、あまり強い言葉を使うのは趣味じゃないんですが、此処は少将殿に肖るとしますか。

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――さっさとその汚い尻をどけろ、老害ッ!!」

 

 

 

 

 

 大きく振りかぶって繰り出した拳は、寸分違わず『真理』の頭を撃ち抜き、埃か何かの様に弾け飛んだ『真理』は、そのまま残る体の様なものも崩壊していった。完全に消え去ると、それまで後ろで燦然としていた『ナニカ』は役割を終えたマッチの様にその輝きを失い、持ち主の後を追った。

 

 

 

 ようやっとこれまで抱いていた那由多の悲願を果たし終え、大きく息を吐き出したウィリアムは、空気と化していた『フラスコの中の小人』へと向き直る。

 

 

『・・・・次は私の番、という訳か。アレと同じように私も殺すのか?』

 

 

「・・・・・・今までやらかしたことを考えればそれも妥当かもしれませんが、同じ人でなしが下すべきかというと何とも。それに罪には罰を、というのはアレの焼き直しのようで嫌ですから。ただし―――」

 

 

 

 一頻り思案した後、ウィリアムは黒マリモを鷲掴みし錬成陣を発動させる。

 

 

 

『―――ヒィッ!?』

 

 

「プライドもそうですが、生まれた時から余計な知識を持ちすぎなんですよ貴方達は。そんなものに人生引きずり回されて、肝心なものを見失って。ちゃんと最後まで面倒見てあげますから文字通り生まれ変わってやり直してください。償いだの罰だのはそれからの話ですよ」

 

 

 

 ―――辺り一面が錬成光によって包まれる中、ウィリアムたちは自分たちがあるべき場所へと帰っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

場所:中央司令部跡地

 

 

 

 

 

 

「ウィルてめえ、コノヤローッ!!!」

 

 

「え、ちょ――――ウボァッ!!?」

 

 

 

 無事地上へと辿り着いたウィリアムを待っていたのは、満身創痍にも関わらず機敏な弟分のラ○ダーキックであった。

 

 

 

「てんめぇ、あのふざけた錬成は一体なんだッ!つうか、後から追いつくとか言って結局最後まで出てこないとかどんだけ嘘付きゃ気が済むんだよッ!!滅茶苦茶心配しただろうがこの馬鹿ーーーッ!!!」

 

 

 

 ものすごい剣幕で捲し立てられ二の句が付けないでいたが、周りの人間も大体同じような反応だったので大人しく受け止めることにした。

 

 

 

「―――で、結局あれは何だったんだよ?」

 

 

「いやあ、神の力とやらを餌にちょっと『クソ真理』をブッ飛ばしてきたもので」

 

 

 

「「「―――はっ?」」」」

 

 

 何を言ってるんだこいつ、という目線と質問攻めを躱してウィリアムはある遺体の傍へとやってきた。そこにいたのは長年共に歩んできたラビ・レーヴ中尉である。

 

 

 

「・・・君には本当に世話になりました。身の回りの世話から後ろ暗い依頼まで、君が居なければ今の僕は無かったでしょうね」

 

 

「・・・そんな湿気た顔するもんじゃないよ。その子は笑って逝ったんだ、やっとあの人の願いが叶うって。胸を張ってあげなよ」

 

 

「・・・・そう、ですか。本当に困った人ですね。真意はどうあれ、形的に僕は君を使い捨てたも同然だというの――『ポタッ・・・』―――に。・・・あれ?どう・・して・・・・・。どうして僕が泣けるんだろう。あの時失くした筈なのに」

 

 

 

 ――とうの昔に『持っていかれた』はずの感覚。しかし彼の目からは尽きることなく涙が零れ続けている。それはつまり、失ったはずのものが帰ってきたという何よりの証であった。

 

 

 

「・・・そうか、『真理』が空席になったことで、アレが有史以来奪い続けてきたものが解放されたんですか。ああ、それなら、叔父さん達の魂もきっと・・・」

 

 

「・・・ウィル兄さん。えっと、大丈夫?」

 

 

「ええ、あまりにも僕なんかには不釣り合いだったもので、つい感極まっちゃいまして」

 

 

「あ、ぼく『なんか』なんて言っちゃだめだよッ!いつも僕にそう言ってくれたのは兄さんじゃないか」

 

 

「・・ふふ、確かにそうですね。さあ、全部終わったんですから、あとは取りこぼすことなくみんなで笑って帰りましょう。アルも大変お疲れでしょうからゆっくりしていて下さい。ぼくはちょっと方々へ話をしなければならないので席を外しますね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 場所:救護テント

 

 

 

 

「―――良かった、此処に居たんですね。無事視力も回復したようで何よりです」

 

 

「・・・・・・エンフィールド、他に私にいう事があるんじゃないか?」

 

 

 

 救護テントの中には、マスタング大佐にアームストロング少佐、それから『ヴリーヒトイヒ』改め、マース・ヒューズ元准将が集まっていた。

 

 

 

「いや、悪いとは思いましたよ?しかし僕が保護した時にはいろいろ不味かったのでとても伝えられませんでしたし」

 

 

 

 ―――ヒューズがエンヴィーの凶弾で倒れた日、偶然ウィリアムがアメニティーを買いに近くを通ったのである。身の回りの大概はレーヴ中尉が請け負っていたのだが、旅行用品だけは趣味が壊滅的に合わない為自身で管理していた。南部行前日まで報告書と睨めっこしていたウィリアムは買い足しをすっかり失念していたため、夜中に出歩いていた所にヒューズと遭遇した。

 

 

 

 突然の事態に面食らったウィリアムであったが、即座にあることを思いつく。『エメス』は創設に上層部が深くかかわっているため組織員は全員面が割れてしまっている。今後のためにもフリーで動ける諜報が欲しい。

 

 

そこで一旦ヒューズの魂を別の肉体へと移し、本体に最低限の治療と仮死薬を施し、殉職を偽装する。葬儀が終わった後、遺体を掘り出し錬成で隠滅して『エメス』に運び込む。流石に死ぬ寸前で数日放置された体の修復は一昼夜とはいかなかったため、改めてヒューズと取引をしたのである。

 

 

 

 ヒューズの肉体は『エメス』が威信にかけて復元し、必ず妻子と再会させる。その代わりウィリアムの目となり足となる。その条件を承諾したヒューズは、ウィリアム手製の全身機械鎧(早い話がロボット)に魂を載せ替えられ、今日まで『ヴリーヒトイヒ』として過ごしてきたのである。ちなみにアイデンティティー・クライシスを起こさない様、顔と声は完全再現しており、その都合で骸骨の仮面をかぶっていた。

 

 

 

「こちらが求めた契約は完全に果たされました。准将の御体ももうじき完治すると報告があったので、恐らく一週間たたずにご家族に会えますよ」

 

 

「そう・・か。はは、まだ実感わかねえよ、ロイ。あいつらに、エリシアとグレイシアに会えるんだぜ。ふ、目が霞んできやがる。ご丁寧に涙まで搭載してんじゃねえよ・・・」

 

 

「マース・・・・」

 

 

 後ろで空気を読んで黙っていた少佐だが、いまはヒューズと同じく顔が涙でとんでもないことになっている。マスタングも同じく沈痛な表情をうかべており、これ幸いとウィリアムは黙ってテントを後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

場所:仮設野営地

 

 

 

『ようッ!お互い、何とかうまく生き残れたなッ!!』

 

 

「おや、貴方もご無事でしたか、グリード」

 

 

『まあな。しかし親父殿にかなり持ってかれちまったから、いつまで生きられるか怪しいけどな。ま、ランファンが代わりの賢者の石もちゃっかり確保してるからシンの皇帝には問題ねえし、生きてりゃ丸儲けってなッ!!』

 

 

「いやはや、本当にポジティブな方ですね。貴方達はこれから故郷に?」

 

 

「ああ、覚悟はしてたガ、想像以上に故郷を離れすぎタ。宦官どもが馬鹿なことを考え出す前に帰らねばならン。そんなことより、此度はこの老骨に骨折りいただき感謝の言葉もなイ」

 

 

「それこそお互い様ですよ。貴方が割り込んでくれなきゃ僕が膾切りにされてたんですから」

 

 

 

 リン達シン国民達は、ブリッグズ兵に帰りの身支度を整えてもらい、リンは意識を取り戻したフーを背負っていた。当然フーは遠慮したがリンに『お前の主は命を賭けた忠臣を背負うことも出来ない暗愚だと国に伝えさせる気か』と問われたため渋々折れた。メイたちとは既に下話が出来ているようで、お互いに暗い表情は見受けられない。

 

 

 

「シンの人間は受けた恩を決して裏切らなイ。もし貴方に困ったことがあればいつでも言ってほしイ。ヤオ家の名に懸けて、全力で支援することを誓う」

 

 

「・・・そう畏まられると照れ臭いですねえ。まあ僕もちょっと疲れましたし、いろいろ請け負ってしまったので旅に出ようと思っていた所です。シンを訪れた時は期待させてもらいますよ、次期皇帝さん」

 

 

 

 ―――その後、シンの名産について等取り留めのない話を続けていたが、準備が出来たとブリッグズ兵が呼びかけたことにより彼らはシンへと帰国していった。その後ろ姿を見届けた後、ウィリアムは誰にも見られることなくその場を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 場所:セントラル中央駅

 

 

 

 

 

「―――はあ、ぎりぎり間に合いました。まったく、放浪癖がまだ抜けませんか、先生?」

 

 

「・・・・ウィル」

 

 

 

 一連の騒動でほぼ無人となっているセントラル駅に二人の師弟が言葉を交わしていた。尤も、片方は早くこの場を後にしないと職務質問を受けかねないほどボロボロなのだが。

 

 

 

「やれやれ、地下では散々負担を肩代わりしたというのに、地上で相当無理しましたね。もう尽きる寸前じゃないですか」

 

 

「・・・やれやれ、お前さんは昔から本当に気が付く子だったな。俺にはもったいない弟子だよ。石も限界寸前、あの子たちを見てると無理に生き長らえるのだけはしたくなくてな。せめてトリシャに報告だけでも、とな」

 

 

「・・・はあ、本当にこの生存不能者親子はまったく。・・・ちょっと失礼しますね」

 

 

「な―――ムグッ!?お前、何を――『バキャッ!』―――がはッ!!?」

 

 

 ―――心底呆れたと溜め息をついた後、ウィリアムは師の傍へと近づき何かを口に突っ込んで飲み下させた。そして問い詰めようとする前に右腕で思い切り殴り飛ばした。

 

 

 

「まったくもう。突然手を挙げたのは誠に申し訳ありませんが、今御母堂の下へ逝ったら今の百倍痛い一発を貰ってましたよ?貴方御母堂より何年生きてるんですか。なのに碌に土産話も持たずに会おうとするなんて」

 

 

「い、いや結構積もる話はあるぞ?アルが体を取り戻したこととか、エドに『親父』って呼んでもらえたこととか―――」

 

 

「はいはい良かったですね!それじゃ二人のお子さん、つまりはお孫さんについては?お嫁さんは何処の誰で、将来の夢は?」

 

 

「いや、それは流石に―――」

 

 

「当然知らないでしょう?けどね、これ全部御母堂が知りたくて仕方が無かった事なんですよ?」

 

 

「あっ・・・・」

 

 

「大体今まで散々苦労と迷惑かけておいて、目的果したらサヨナラはないでしょうに。・・・今飲ませたのは僕の副官が遺した賢者の石です。残念ながら先の騒動でほぼ失逸してしまい何時まで生きられるかは分かりませんが、天の配剤と思って精々長生きしてあの子たちに扱き使われてやってください。親孝行も出来ずに置いていかれるのって結構堪えるんですよ?」

 

 

「・・・・・ああ、そうだな。お前さんにも随分迷惑かけたもんなあ。しかもそんな重荷まで背負わせて、本当は俺がやらなきゃいけ無かった事なのに。それを全部投げ出して消えるってのは格好悪いよな!」

 

 

「本当にそうですよ。そんなことしたら多分エドは自分の子供にあることないこと吹き込んで『おじいちゃん』とすら呼んで貰えなくなりますよ、きっと」

 

 

「・・・・・それはいやだなあ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

場所:『エメス』機関長執務室

 

 

 

 

 

 

昨日も帰っていたのに、まるで久しく戻っていなかったかのような感慨に耽りながら、私室兼自宅へと着いたウィリアムはソファーに倒れ込んだ。

 

 

 

「・・・・・はあ疲れた。いや、何とか一通り話を付けることが出来ました。しかしこれからどうしましょうかね?散々ホムンクルスの下でやりたい事しておいて、今更勝ち馬に乗るのも可笑しな話ですし。ここで投降しても、これまでの功績のせいでものすごく扱いづらいでしょうからこのまま夜逃げでもしましょうかねえ。それとも―――――」

 

 

「・・・・今後の人生設計は大変よろしいのですが、いい加減放置は止めてもらえませんか?」

 

 

「・・・・・そういえばポケットに入って貰ってましたね、すっかり忘れてたよ」

 

 

 独り言を呟きながら思案していると、すっかりウィリアムに忘れ去られていたキンブリーが苦言を呈す。珍しく空気を読んで、これまで一切話に入ってこなかったのにひどい扱いである。

 

 

 

「その優先順位から落ちた存在への冷たさは相変わらずですね。まあ良いでしょう、しかしアルフォンス・エルリックは真実、有言実行を果たしたわけですか。元の体に戻り尚且つ仲間を救う。実に見事です、その仲間に中央兵の皆さんが含まれていなかったのは御気の毒ですが」

 

 

「そうだね、悪漢をやっつけて円満解決、とはいかないだろう。どうしてこうブリッグズのやることは極端なんだろうね。巨悪を討つため、何より身内を守るために非情であるのは重要だが、広義で言えば中央兵も同じアメストリス軍の同胞だったわけだ。自国民への殺傷を眉一つ動かさず実行して見せる兵の存在など、微温湯に浸かった中央兵は無論、現場を見ていた一般人もとても許容できまい。『北壁』に対する不信、目に見える形での処罰を求める声は内外問わず大きくなるだろうね」

 

 

「まあそんなものは勝ち残った連中の仕事、私にはあまり興味のない話です。もう残り時間が少ないことですから、ぜひ私の疑問に答えて頂きたい」

 

 

「・・・なんだい?今は機嫌が良いから大抵は答えてあげるけど」

 

 

「それは素晴らしい、では早速質問ですが・・・。何故貴方はこれだけの労力と時間を注ぎ込んでまで『真理』を抹殺したのですか?貴方の性格からして自分に直接の影響を加えない存在なんて無価値と切り捨てるでしょうに」

 

 

「・・・・・その話か。そうだね、一区切り付いたことだし、言葉に出して整理するのも悪くはないか。

 

 

―――始まりは言うまでもなくイシュヴァールで人体錬成を行ったとき。あの時僕は自分をわが子同然に育ててくれた叔父夫婦の魂を奪われた。持っていかれた後で時点で死者となってしまった以上人体錬成ではもうどうにもならない。何とかしてあのクソ真理から彼らを取り戻す、それが僕の出発点だった。

 

 

 

 ・・・だけど、君はポケットでやり取りを聞いていたからわかると思うけど、僕はあれを神様だのシステムだのとは捉えていない。あれは高次元から自分勝手に見下すだけの、人を傲慢と謗る資格など持たない害悪に過ぎない。しかもアレに関する全ての決定権が向こうにある。何を持っていくのかも、等価値の秤も皆アレの胸三寸だ。正攻法で行っても好き勝手された挙句難癖付けられて無効にされると思ったのさ。たとえば、僕が形振り構わず53人分の賢者の石を携えてもう一度行っても、質が悪いだのなんだの言われて失敗に終わった、みたいにね。

 

 

 

 それにね、真理を得たことで良く分かったのさ。これは人の手に余る物だと。唯でさえ僕は人より多く支払わされた分の真理を見させられたからね。病気は幾らでも治せるし、頑張ればゴーレムみたいに、紛い物とはいえ生命の誕生にすら携われる。才能があるからなどという理由で得られて良い代物じゃないよ。この事件、偶々『人柱』がエドたちやカーティスさんみたいな善人ばかりだったから何とかなったけど、もしこれが君やタッカーみたいなやつだったらと思うと改めてぞっとするよ。そういう訳で、目的が魂の奪還から、真理そのものの排除へと移ったんだ

 

 

 

 そんな僕にとって、彼らホムンクルスの目的を聞かされた時はこれだッ!って思ったよ。打倒を誓ったは良いものの、僕には真理も『神とやら』もあいまい過ぎて全貌を理解することは到底叶わない。奴に交渉の場で有無を言わせない対価となると、『神』と同等の存在が必要である以上僕には用意できない。そんな時、彼らは『神とやらの力』を引き摺り下ろすと言ったんだ。それなら全てが終わった後で取引のテーブルに乗せてしまえば全て片が付く。

 

 

 

 それからは東西南北、奔走の毎日だったよ。『彼らが国土錬成陣を発動するまで』は誰にも阻まれない様手を尽くし、表では国力増強を免罪符に、銃火器の革新や錬金術の新技術の一般公開などして対抗馬の助力にも尽力した。それらの片手間に国土錬成陣や、それからカウンターとなる錬成陣にも干渉しない、『神とやら』とその所有者のみを生贄とする『扉へ至るためだけの錬成陣』を構築した。幸い遠征とか視察とか、あちこち飛び回れる理由は幾らでもあったからね。

 

 

 

 そうして待ちに待った『約束の日』で、僕は無事悲願を果たすことが出来た。けれどレーヴ中尉を失ってしまったり、沢山の人を自身のエゴに巻き込んでしまった。嘘はついてないけど、大事な人たちを騙したり利用したり、『情動』が持っていかれていた間は何とも思わなかったけど、改めてまともな感性が戻ってくると結構堪えるなあ。

 

 

 

 つまり結論から言うと、昔大事なものを取られた男が、奪った奴に6年越しに仕返しをしただけっていう、どこにでもある復讐劇だったわけさ。・・・つまらない話を長々と聞かせて悪かったな。それに、見届けさせるとか言って肝心の総力戦は後方待機で見逃させてしまったね」

 

 

「いえいえ、御気になさらず。お陰ですっきりしましたよ。それに私は過程より結果に重きを置くタイプですから、勝ち上がったのがどちらで、その立役者が誰かが分かればそれで満足ですよ。何より、神殺しを一から最後まで見届けたのはこの世界で恐らく私だけでしょう?この上なく有意義な時間でしたよ。――――そろそろ私も幕引きのようですね。ではお先に失礼しますよ、精々ごゆっくりしてください・・・・・・」

 

 

 

 指先から少しずつ崩壊が始まり、しかし苦痛が無いためか、将又その非常識な精神構造故か、穏やかに満ちたりた表情で会釈をするとそのまま塵へと帰っていった。ウィリアムはただ黙ったまま、しかし最後まで目を逸らすことなくかつての戦友の旅路を見送り続けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――――こうして『彼だけの物語』に一応の区切りがつけられた。取るに足らない何処にでもある悲劇は、しかし確かな足跡を残していき、ついには神の御許にさえ届いてみせた。彼のこれからが希望に満ち溢れているか、それとも絶望に覆われているのかは誰にもわからない。しかし確かなことは一つ、これからの彼らに『真理』などという理不尽だけは二度と姿を見せることは無かった・・・・・。

 

 

 

 

 

 

 




ここまでご覧いただき、誠にありがとうございました!!このあと後日談をいくつか挿んで完結と相成ります。どうか最後までお付き合いください。


感想・質問等いつでも大歓迎です!!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

後日談① 弟と准将編

 というわけで後日談その一です。あ、あと最終話にキンブリーとの下りを加筆しておりますので、まだご覧になっていない方はよろしければ見てみてください


 

 

 

 

 

 

 

 某日某所

 

 

 

 

「―――へえ、そんじゃあエドの足は機械鎧のまんまか」

 

 

「ええ、恐らく腕と違って機械鎧がちゃんと付いてたからなのと、兄さんが取り戻すのを求めてなかったからだと思います。推測ですけど、兄さんは戒めとして丁度良いと言ってますしそれに、『こ、これがないとウィンリィが困るだろ・・・?』とかアホなことほざいてますし」

 

 

「あら、何そののろけ。・・・それにしても、元に戻れて本当に良かった。この人も私達の所へ戻ってきてくれて、今でも夢みたい・・」

 

 

「のろけッ!」

 

 

 

 ―――あの戦いからしばらく後、すっかり健康体となったアルフォンスはヒューズ邸を訪れていた。そこでは同じく快癒し最愛の家族と過ごすマース達一家が歓迎してくれた。同行していたザンパノとジェルソは席をはずそうとしたが、来客は多い方が楽しいという一家に流され紅茶を頂いていた。ちなみに、厳つい人相の中年に会っても笑顔で挨拶してきたエリシアに頬を緩めたら真横に投げナイフが突き刺さったので終始顔を引き締めている。

 

 

 

「――今回の旅で、僕たちが如何に周りの人達に支えられているか改めて実感しました。だからお世話になった人たちにお返ししていきたいんです」

 

 

「・・・錬金術師で言うところの等価交換?」

 

 

「いえ、一貰って一返してではいつまでも何も生まれません。かといって自分の出来ることを過信して大量に返せばそれも歪になります。だから十を貰ったらそれに一加えて返す、微力ですが僕たちが辿り着いた、等価交換を否定する新たな法則です。これから実践していかないといけないんですけど」

 

 

「・・・何かやりたいことがあるんだな」

 

 

「・・・・・僕たちが助けられなかった女の子が居ます。その子のことが何時までも頭を離れないんです。それで―――」

 

 

 

 アルフォンスは兄弟二人で考えたある計画を話す。それぞれ国内外を問わず渡り歩き、行く先々で多くの物を得て帰る。そして最後にそれらを二人で統合した成果で今度こそ誰かを救いたい、と。

 

 

 

「―――そんなわけで、これから僕たちはシン国へ向かいます。錬丹術を学ぶのと、此方の二人が元の体に戻れる術を探すために」

 

 

 

 それを聞いたヒューズ夫婦は顔を向き合わせ少し呆れたように微笑むと、アルフォンスにデコピンをかました。

 

 

 

「い~~~ッ!?きゅ、急に何するんですか!!?」

 

 

「はぁ、お前さんたちが錬金術馬鹿なのは重々承知だが、これから海外に出ようってんならちっとは世界情勢に目を向けとけ。今シン国は国境を封鎖してるぞ、原因は内政不安だ」

 

 

「えぇッ!!?な、なんでまたそんなことに・・・」

 

 

「主な火種は賢者の石を持ち帰ったヤオ家とチャン家だ。不老不死の手掛かりを持ち帰った功績でリン・ヤオの席次は跳ね上がった。幾ら皇位継承権が狙える位置とはいえ本命どもから見れば遠い場所にいたのが一気にまくられた訳だ、見下してた連中が慌てふためくには十分すぎる理由だな。チャン家はヤオ家の庇護下に入った。あそこも不老不死の手がかりを見つけてきたが、他家に権力で持っていかれる前に勢いづいているヤオ家に取り入った。ヤオ家もせっかくのリードを他家に齎す訳にいかないから高待遇で受け入れる。お互いの面子が立つが、話が上手く行きすぎてるところ見ると、帰国する前から打合せしてたみたいだな」

 

 

 

「それで焦った人たちが無茶なことを始めたり、皇位により近い人達が其れを利用して潰し合せようとしてかなり治安が悪化してるみたい。シン国は昔から来訪者や賓客に対して最上の敬意をもって接することを誇りとしているから、こんな有様じゃ余所の人を入れられないのよ」

 

 

「そんな・・・・ッ!メイやリン達が危険な目に遭ってるのに、外で指をくわえて終わるのを待ってなきゃいけないなんてッ!!」

 

 

 

 愕然として俯くアルフォンスにザンパノたちが声を掛けようとするが、それより前にマースが肩を叩いて顔を上げさせる。向き直った先には、先程までの穏やかな表情ではなく、歴戦の兵を思わせる威圧感があった。

 

 

 

「・・・連れてってやろうか、シンに?」

 

 

「え、でもいったいどうやって・・・?ヒューズさんもう軍辞めちゃったんでしょう」

 

 

「ああ、あの騒動で家族を大分苦しめちまったからな。行かないでって泣く娘に背を向けるわけにはいかないからな。なによりロイの奴に蹴り出されちまったからな。『私が行く茨の道に、今のお前のような腑抜け顔を歩かせる余裕は無い』ってな。しかし長年一緒に見た夢をあっさり捨てるのも後ろ髪引かれてな。ウダウダ悩んでるところにグラマンじいさんから頼みごとをされてな」

 

 

 

 ちなみに、ヒューズは生存が確認されても二階級特進は取り消されず、それどころか退役時にもう一階級昇格し少将待遇での年金と退職金を得ることとなった。まあ早い話が、決して表沙汰に出来ない事情に対する口止め料の様なものである。

 

 

 

「俺にシン国との国交樹立のための親善大使を任せたいってよ。上手いところついてくるよあの爺さんは。こいつはオフレコだが、今ロイが携わってるイシュヴァール政策は、次代の大総統に足るかの試金石だと言われてる。今一番国内でデリケートな問題を円満解決させりゃあ誰にもアイツの手腕に文句はつけられない。そしてイシュヴァールはシン国との間にある。もし交易が成れば間違いなく追い風を吹かせてやれる。愛しのマイハニー達の前で自堕落な生活するわけにもいかんし、ちょっくら一念発起してみようと思ったわけよ」

 

 

「・・じゃあその交渉に僕たちも連れて行ってくれるんですか?」

 

 

「さっき国境は閉じてるといったが、あくまでそれは一般人の話だ。俺達には関係ない、向こうから便宜を図ってくれるさ。何せ不老不死の手掛かりはここアメストリスから齎されたんだからな。交渉はすぐに終わるだろうが、バカの頭が湧いてる時期だからな、優秀で気心の知れたボディガードが欲しかったところなんだ」

 

 

「・・・はいッ!任せてください。ヒューズさん達には指一本触れさせません!」

 

 

「よし、決まりだな。まああんまり気張らなくて良いぞ。さっきも言ったが来賓に粗相をしないのがシンの信念だからな。俺達に下手を打てば皇位どころか国の面子に泥を塗ったとして粛清されかねん。旅行よりは気を付けるくらいでいとけ、俺達が無事帰れる段取りが付けばそこからは好きにして良い。仲間を助けに行くのも、研究に熱入れるのもな」

 

 

「わかりました。あ、二人ともごめん!勝手に話進めちゃって・・・」

 

 

 

 慌ててザンパノたちに謝罪するが、二人は気にした風でもなくむしろ表情にからかいを多分に含んで笑っていた。

 

 

 

「水臭いこと言うなって!愛しのガールフレンドのピンチなんだから俺らの事なんか気にすんなよ」

 

 

「そうそう、多少寄り道しようが構わねえよ。俺達自身の力で元に戻ろうって決めた時点でこんなの想定内だろ」

 

 

 

 当初、アルフォンスは二人の事をウィリアムに頼もうと考えていたが、当の二人が其れを断った。決してウィリアムに悪感情があるわけではなく、彼の力に頼り切るのはホムンクルスに縋るのとあまり変わらないのではないか、と。足掻き通してそれでもダメな時はともかく、それ以外で彼を頼みとするのは自律した人間としてどうだろうか、という結論になったのだ。

 

 

 

「もう、メイの事でからかうのは止めてって言ってるでしょ!まったく・・・、それじゃあホテルに戻って準備を―――『駄目だッ!』――えッ!?」

 

 

「まったくお前たち兄弟は分かってないなあ。俺達は来賓で、シンにはそれをもてなす文化があるんだぞ?つまり、何らかのパーティが開かれても不思議じゃない。礼服とかちゃんと持ってるのか?丁度良い、今日グレイシアの新調したドレスを受け取りに行くんだ、お前のも見繕ってやる。さあ時間は有限だ!今から行くぞッ!!」

 

 

「え?え、ちょっ・・と。へッ!?まってまってわーーッ!ひとさらいーーーーーッ!!?」

 

 

 

 最早恒例となりつつある、そして非常に懐かしいやり取りをしながらアルフォンスは引き摺られて行くのであった・・・・。

 

 

 

 




ここまでご覧いただきありがとうございます!感想・質問等いつでも大歓迎です!!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

後日談② 父と兄

 

 

 

 

 

 

 

「―――た・・・頼む、エド。一個だけで良いからお前も持って・・・・」

 

 

「あ?無理矢理着いてきたのはテメエだろうがくそ親父。そのくらいの荷物屁でもないだろ」

 

 

 

 ―――数えきれないほどの人間が行きかう異国の地、ホーエンハイム親子はその雑踏をかき分けながら進んでいた。エドワードはいつもの恰好に旅行カバン一つだが、ホーエンハイムの方は巨大なリュックにスーツケース三つと、見る人が見れば夜逃げと間違えられかねない有様だった。

 

 

 

 アルと分かれ、共に多くを得るために始めた果てなき旅路。当初一人旅を考えていたエドワードだったが、そこにヴァン・ホーエンハイムも同行を願い出たことで期せずして親子水入らずの旅となった。ちなみにいつの間にか姿を消し、事後処理もせずに一足早くリゼンブールで茶を啜っていたホーエンハイムを見つけた兄弟は息の合ったドロップキックで再開の挨拶を交わすこととなった。

 

 

 それはさておき、勿論エドワードは同行を拒否した。死に損ないは墓守でもやっとけと、相変わらず不器用で口汚い返答であったがホーエンハイムは着いていくと言って聞かず、それに加えて周りまで賛同したことで押し切られてしまったのだ。

 

 

『トラブルが向こうから飛び込んできた挙句首突っ込んでそう』(ウィンリィ)

『現地の馬鹿有力者にチビって言われて暴れた挙句指名手配になってそう』(アルフォンス)

『そもそもお前外国語出来ないだろ』(ピナコばっちゃん)

 

 

 ―――ストッパー兼通訳が必要だというのが全員の共通見解だった。

 

 

 

「しかし相変わらず頭良いのに後先考えないよな、お前。アメストリスを取り巻く環境考えたら、未成年の外国旅行なんて出来るはずないだろうに」

 

 

「・・・悪かったな、昔からイノシシで」

 

 

 旅に出て間もなく、エドワードは壁にぶつかることとなった。それはアメストリスの外交状況の酷さである。一応不可侵を結んでいるドラクマ国や広大な砂漠のせいで国交と共に諍いも途絶していたシン国はともかく、アエルゴ国とクレタ国は血の紋を刻むために戦場を泥沼化させたこともあって国家間感情が相当悪い。当然未成年が一人で赴くなど出来るはずもなく、ホーエンハイムが同行していなければ間違いなく国境の関所で門前払いを喰らっただろう。

 

 

 

「つーか、本当に外国語ペラペラなんだな。さっきも現地の人と冗談言って笑い合ってたし」

 

 

「昔みんなと対話がてら、散々放浪して回ってたからな。多分ほとんどの国の言語と文化は分かるぞ?昔取った杵柄がこんなところで役に立つとはな」

 

 

 

 ゆったりと歩きながら言葉を交わす二人。念のため目立つ髪の色を染め、カラーコンタクトをしてアメストリス人に見えない様気遣ったおかげで特段トラブルに見舞われずに済み、国境からかなり距離が開いたのでそろそろ警戒を緩めても良いところまで来ていた。

 

 

 

「・・・でも本当に良かったのかよ?せっかく肩の荷が下りたんだからゆっくりしてりゃ良いのに」

 

 

「気遣うならこの大荷物の方を気遣ってくれよ。それに、何度言っても答えは変わらんぞ。向こうでトリシャにあった時に碌に思い出も作らずに来たとか言ったら蹴り返されるだろうからな。それに、息子と旅が出来るなんて夢にも思わなかったからな、もう良い年なのにどんどん欲が出てきて止まらなくてな」

 

 

「・・・・・・・・・・けっ。あーそうかよッ!」

 

 

 

 ぶっきらぼうに返しながらスーツケースを一つひったくって前を歩くエドワード。乱暴に言いながら口元が緩んでいるのを見咎め、『・・本当に若いころの俺にそっくりだ』などと惚けたことを考えながらホーエンハイムは後を追いかける。

 

 

 

「そういえば、『ウィルの宿題』には一通り目を通したんだろう?何か得るものはあったか」

 

 

「・・残念だがさっぱりだわ。日記風なのは良いんだけどなあ、見たこともない言語をとっかえひっかえした挙句宗教用語も相当散りばめられてるからサッパリ内容が入って来ねえ。本格的に外を知らないと入り口にすら入れなくしてやがる」

 

 

「そうか。あいつ意外と性格悪かったんだなあ」

 

 

「親父は良い子ちゃんやってるときのウィルしか殆ど知らなかったんだったな」

 

 

 

 ―――『ウィルの宿題』、それは騒動が終わって一度だけリゼンブールに帰ってきたウィリアムがエドワードに渡した、自身の研究成果全てが納められた一冊の本の事である。「もう僕には必要ないものですからあげますね」と何気なく渡されたものだが、これの存在を知れば国家予算の数倍もの金を積んでも欲しがる人間がごまんと現れるだろう。

 

 

 

「しっかし、本当にウィルには頭が上がらんよ。幼いお前たちの面倒を沢山見てもらったし、俺がやらなかきゃならなかったことまで任せて、その上思ってた形と違うが俺の願いまで叶えてくれた。本当に初歩の初歩しか教えなかった駄目師匠なのにさ」

 

 

「・・・たしか、母さんと一緒に老いて死ぬ、だったか?」

 

 

「いや、そっちじゃなくてな。まあ厳密に言えば一緒なんだがな」

 

 

「?」

 

 

 

 一段落した後、ホーエンハイムは改めて自分の状態を診察した。その時分かったのが、ウィリアムから託された賢者の石は『フラスコの中の小人』の攻撃の余波で術式の根幹に致命的な損傷を負っており、何もしなくても徐々にエネルギーが漏れ出てしまっているのだ。尤も、かつてホムンクルスの核として使われていただけあり日常生活や普通に錬金術を使う分には全く問題ないのだが。

 

 

 

「人が呆れるほど長く生きてきたし、当然そういう経験も腐るほどしてきたんだけどな・・・・お前たちを『見送る』のだけは絶対したくなかったんだ」

 

 

「―――ッ」

 

 

「・・・俺の見立てじゃ大体2~30年ってとこだな。こいつもクセルクセスの皆でできてるから早く解放してやりたいんだが、まああっちで散々謝ることにするよ。あ、だからって急かしてるわけじゃないぞ?俺は最終的に孫を抱いたってトリシャに報告できればそれで―――」

 

 

「―――結局そういう話に行くのかよッ!?ああもう、下らねえこと考えてる暇があったらとっとと足動かしやがれッ!この旅が終わらなきゃ子供も何もねーよッ!!」

 

 

「ま、それもそうだな。良い年したおっさんがグダグダ言ってもしょうがないし、この旅が終わったら俺もゆっくりするか」

 

 

「はあ?たかが旅に一回付き合っただけでテメエが積み上げた負債がチャラになると思ってんのか?次はアルに振り回されて、戻ったらウィンリィかメイに散々扱き使われる未来が待ってんだ。死んだ後の事なんて考えてる暇はねえぞッ!」

 

 

 

 言うだけ言ってまた歩を早めるエドの背中を見ながら、『ああ、そいつは退屈しなくて良いな』とつぶやくと気合を入れ直し、ホーエンハイムは見失わないように追いかけて行った。

 

 

 

 

 

 ・・・・ちなみに後ろを向きながら歩いていたせいでエドワードは見るからに身なりがよさそうな男とぶつかってしまい、謝罪する前に禁断のキーワードが出てしまったためにひと騒動起こってしまうのだった。―――前言撤回、この男にストッパーが一人程度では無理があったようだ。

 

 

 

 

 

 

 

 この後自分が収めないといけない事態に冷や汗をかきながら、それでもこれまでとは比べ物にならないほど晴れやかな顔をしながら、ヴァン・ホーエンハイムは息子と並び歩んでいった。

 

 

 

 

 




ここまでご覧いただきありがとうございます!感想・質問等いつでも大歓迎です!!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

後日談③ 前途多難な大団円

 

 

 

 

 

 場所:イシュヴァール自治領府

 

 

 

 ―――神に捨てられし地、イシュヴァール。嘆きと怨嗟と嘲笑に彩られた悪意の泥沼、無関係の諸国からは一連の事件より『ゲヘナ』とまで呼ばれる大地である。しかしそれも正鵠を射ていると言えるだろう。始まりこそホムンクルスの都合であったが、命令の下虐殺したアメストリス軍、それを利用し油を注いだアエルゴ国、血の紋を名目に非道の実験をし尽くした上層部たち。結局自らの意志で流血を際限なく広げさせたのが、『フラスコの中の小人』を除けば全て人間だったのだ。

 

 

 

 ・・・しかしそれも今や過去の話。ロイ・マスタング少将がイシュヴァール再建総責任者についてから2年、急激な速度で復興は進んでいた。『エメス』から派遣された人員が今は亡き街並みを良く知る“傷の男”達の指示の元、急ピッチで住居を整え、一か月経たずに帰還したイシュヴァール人たちは全員仮設住宅を出て夢にまで見た嘗ての故郷に瓜二つの家へと戻ることが出来た。

 

 

 

 二年がかりでようやく一息が付けた、と自治領府にてマスタング少将はホークアイ少佐が入れてくれたコーヒーの香りを楽しみながらでつかの間の休息を取っていた。

 

 

 

「・・・あっという間の二年だったな。まさしく忙殺の日々だったが、この地位についてから一度も『焔の錬金術』を使わずに済んで何よりだよ」

 

 

 

「まったくです。しかし問題はここからですよ、今までは故郷に帰れた喜びと衣食住が十全に整えられていたから特段不満が上がることなくやってこられました。そろそろ満たされることに慣れ始める頃です、新しく湧き始める欲求をどれだけ叶えられるかでここまでの苦労が水の泡になる可能性もある。2年は決して短くありませんが、恨みが風化されるにはあまりにも足りません」

 

 

 

 休憩がてら同席していたマイルズ中佐と今後の展望について話を進める。人間という生き物は最低限の生活が保障されれば、次は娯楽や贅沢といったものを求めるものだ。そして残念ながら理不尽にスラム街暮らしを強制されたこともあり、一部の若者のモラルは決して高くない。中佐の言ったことは決して大げさな話ではない。

 

 

 

「わかっている、幸いブチ上げるのにちょうど良い朗報もある。ヒューズ親善大使がようやくシン国との国交の約定を取り付けてきてくれた。しかもリン・ヤオ新皇帝直々の声明文付でだ。これからここにはシン・アメストリス両方から選りすぐりの交易品が行きかうことになる。それが上手く軌道に乗れば観光業や飲食業など、あらゆる業界がイシュヴァールに食指を伸ばすだろう。娯楽と雇用、どちらも満足いくものが手に入るだろう」

 

 

「・・・・そうなると問題は、我々の地位権限をいつイシュヴァールに委譲するかですね」

 

 

「ああ、そこが頭の痛いところだよ。早く譲り渡してしまわないと、旨い汁の出所を知った業突く張りが動き出してからでは遅い。かといって“傷の男”を含めた元イシュヴァラ僧たちを優遇すれば後から馬鹿者たちを煽動する理由にされかねん。『厳格な振りをした破戒僧たちは崇高なイシュヴァラ文化を金と権力に変えた』などとね。踊る馬鹿は事実や現実には興味ないからどうなるか分からん」

 

 

「その場凌ぎにしかなりませんが、我々が現状を維持するしかないでしょう。ようやっと立て直した大学の卒業生たちは若すぎて権限を持たせるのは危険すぎますし、彼らに緩衝剤なしに、本物の金の亡者の相手をさせるわけにはいきません。再び内乱、いや最悪戦争が起きかねません」

 

 

「とにかく時間が足りんな。いや、愚痴を言う資格は我々にはない。全ては何もかも焼き払った我々の自業自得だ。この遺恨を次代に持ち越すことだけはしてはならない、そのためににも粉骨砕身せねばな。幸い、『エメス』は全員エンフィールドの教育が行き届いた一枚岩で、我々の活動を全面的に支持してくれている。中央の狐狸妖怪も彼らを敵に回すことだけはするまい」

 

 

 

 ちなみに『エメス』は影響力が高すぎるため、ウィリアムが去った後も解体されることも、次の局長を指名することもなく維持されることとなった。その代わり徐々に規模を小さくし、最終的にはごく一部が先端科学の研究機関として国家直属となり、残りは非営利機関、または新設された錬金術専門学校に振り分けられる予定だ。

 

 

 

「・・・そういえば、そのシン国で起こったお世継ぎ騒動で我々の良く知る子が大立ち回りしてましたね。新聞には確か『ヤオ家は「鎧の巨人」を味方に付けた』だったかしら」

 

 

 

 話を変えようとホークアイ少佐が切り出す。新しい話題は此処に居る全員が良く知る兄弟の弟の事である。

 

 

 

「誰が入れ知恵したか直ぐにわかる事件ですな。確かにアルフォンスは猛吹雪の中でも仲間の為に飛び出せる勇敢な少年でしたが、あそこまで派手に動くとは思いませんでした」

 

 

「同感です中佐。エドワード君ならともかく、アルフォンス君はもう少しブレーキが利く方だと思ったんですが・・・・」

 

 

「そうかね?鋼のからちらっと聞いたが、あの国にはアルフォンスが懸想している少女が居たはずだ。しかもあの騒動の真っただ中にだ。私としては、一刻も早く安全を確保しようと形振り構わなかった割には随分手間取ったなと思ったがね」

 

 

 

 

 

 

―――この2年間、シン国は大いに荒れた。その有様は2年前この国で起きた騒動に負けず劣らずだった。超常の化物こそ居ないが、その代わりアメストリスの何倍もの数の思惑が複雑に絡み合った政争だ。ヒューズ一家は役目を終えて早々に帰国したが、アルフォンス一行はこっそり残ってチャン家に匿われていた。

 

 

 そこでアルフォンスは皇室の闇をまざまざと見せつけられ、一日でも早くメイをここから解放しようと邁進した。しかしアルフォンスは典型的なアメストリス人顔である。安易に表に出てはヒューズたちに甚大な迷惑を掛けてしまう。

 

 

 そんなアルフォンスの強い味方となったのが、エドワードと同じくウィリアムに渡された『宿題』であった。メイと協力してシンの言葉のみ重点的に翻訳して得られた成果に、『持続型錬成陣』というものがあった。本来、錬成陣には一度使用すれば消滅してしまうものだけでなく、入れ墨などの様に何度でも使い回せるタイプも存在する。そこに錬丹術を組み合わせたのが『持続型錬成陣』である。

 

 

 

 これは発着点と作用させる点両方に消滅しない錬成陣を敷き、龍脈の力を用いてトンネルの様に何度も使い回すことが出来る、というものだ。普通の錬成陣より結果が小規模になるうえ燃費が悪いと欠点も多いが、アルフォンスにとっては光明となった。彼は錬成した鎧にこの錬成陣を施し、遠隔操作で自身の代理人に仕立て上げたのである。錬丹術に関してずぶの素人であったアルフォンスが瞬く間にこの業を修められたのは偏に愛の成せる奇跡というべきか。

 

 

 

 ある意味で不死の兵隊と呼べる強力な追い風を得たリンとグリードであったが、一年間一切反攻に出ることなく、送られてくる刺客や謀略を退けじっと耐えていた。そして一年後、ある狼煙を合図に一気に攻勢に出た。その狼煙とは―――皇帝崩御、より正確に言えば皇帝暗殺―――であった。

 

 

 

 事の発端は、ヤオ家に後塵を拝し散々刺客を送ってきた連中が焦るあまりに・・・・ではない。原因は皇位継承からほど遠い遠戚の面々であった。彼らは想定しえなかった皇位継承争いの激化に怯え、寄り集まって震えていた。しかし、ある時気付いてしまった。もしヤオ家が勝利したならば、遺恨のない自分たちは皆殺しに合うことはあるまい。あるいはチャン家に貸しを作り助命嘆願を頼むのも良い。だが、もし順当通り継承権1,2位が即位したならばどうなるか。恐らく真っ先に粛清の嵐が吹き荒れるだろう。何せ今までノーマークだった連中が自分たちの地位を揺るがしたのだ、彼らからすればこれは由々しき事態である。二の舞を踏まぬよう間引きに走るのは目に見えている。

 

 

 

 廃絶の恐怖に駆られた彼らが恐怖のあまり行った愚行が、一致団結しての皇帝暗殺であった。そうして継承争いに発破をかけヤオ家も上位者たちも共倒れさせるか、損耗した勝利者に数の力で牽制しようと考えたのだ。尤も、そうなる風にヤオ家が仕向けたのだが。

 

 

 

 皇帝崩御の知らせが届いて直にリンは行動を起こした。帝葬が終わり、皇家が一堂に集う中でリンは宣言した―――自身がすでに不老不死を手中に置いていることを。

 

 

 

 忽ち憤る面々は、しかし自らの手でその事実を証明することとなった。帝の葬儀の場を穢したとして皇位第一位の者がその首に刃を振り下ろしたが、次の瞬間宙を舞ったはずが元通りになる様を見てその場にいた全員が絶望することとなった。

 

 

 

 リンは自らの不死性を見せつけつつも、力で屈服させることは無かった。『この身は既に不死、かような些事など気にも留めん。しかし今後も自身に敵対するのであれば、不老の身をもってその一族を末代まで害する。わが身を皇位に足ると忠義を示すのなら、これまでの禍根はすべて水に流し、この場にいる者のみならず、一族全員の無事を保障する』と公言し、殆どの人間が其れに従った。

 

 

 

 こうして劇的な逆転劇を演じ、見事皇帝の座に就いたリン・ヤオであったが、そう話は簡単には終わらない。膝を屈するのを良しとせず、不死と最強は別物であると自らを奮い立たせた嘗ての皇位最上位者達とその一族は国家転覆を計画していた。しかし、一族の戦士を掻き集め、いざ帝都に上がらんとした時、都から突如姿を現した全長100Mにも及ぶ鎧の巨人に踏みつぶされ、追って駆けつけた皇帝直属の軍によって生き残りは全員捕えられた。そして鎧の巨人は役目を終えると事の顛末を見届けに参じた新皇帝へと膝をつくと、そのまま眠りについたという。

 

 

 

 以上がリン新皇帝誕生の経緯である。そしてこの一連の騒動は思わぬ形でアルフォンスに報いることとなった。全てが終わった後、リンはアルフォンス・エルリックの事を有力者に他言無用を厳命して公表した。曰く、『西の大賢者』の血を引く無二の錬金術師であり、皇帝の不老不死に最も貢献したものの一人である、と。そしてこれまでの功績の褒賞として、皇家の遠戚たるメイ・チャンを除籍し妻として娶ることを許す。後は先祖に倣い再び旅に出るなりなんなり好きにせよ、と。

 

 

 本来皇帝の血を引く者は婚姻から身柄まで全てが家に縛られる。そして万一結婚出来てもその者は何もかもを皇帝と家に差し出さなければならない。ましてや不老不死に関する人材であり自由放免など夢のまた夢であったが、既に皇帝としての威信を確立させたリンに反論することなど誰も出来ず、アルフォンスは新たにメイを仲間に加え再び一行と旅を続けることとなった。

 

 

 

 

 

 

「―――それにしてもやる事成す事派手になる辺り、やっぱりあの子はエドワード君の弟よね。これが他の人間だったら、まずプロパガンダを疑います」

 

 

「ふっ、事実は小説より奇なりという訳だよ。・・・さて、休憩はこの位にしておこう。若者が随分頑張っているんだ、後ろ指を刺されて笑われるなどあってはならん」

 

 

「あら、自分から仕事をしようなんて珍しいですね少将」

 

 

「偶にはな」

 

 

 

 マスタング少将が立ち上がるとホークアイ少佐たちも後に続く。彼らも中々に前途多難であるが、若さ溢れる話題に背を押されて再び激務へと戻っていった・・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 場所:国立錬金術師専門学校

 

 

 

 

 

「―――アームストロング教諭、貴様に任せた生徒の親族から『また』怪我についての苦情があったのだが、どういう事だ?」

 

 

「あ・・いえ、姉上―――『ギリッ!』――申し訳ありません校長閣下!!それが、なかなか芽が出ず、微力ながら目を掛けていた者がようやく成果を上げ、吾輩感動してつい・・・」

 

 

「つい・・・で全身骨折などさせるな戯けッ!軟弱者は好かんが今は『国家錬金術師=軍人』などという時代ではないのだから手加減位出来んのかッ!!」

 

 

「・・・閣下が其れを言いますか(ボソッ)――『メギッ!!』―――何でもありません、マム!!!」

 

 

 

 ―――ここはグラマン大総統の肝煎りで創設された、錬金術師を養成・管理することを目的とした国立専門学校である。そして校長室にて叱責しているのが初代校長:オリヴィエ・ミラ・アームストロング元少将であり、叱責されている方が教員として配属されたアレックス・ルイ・アームストロング元少佐である。

 

 

 

 2年前の動乱の事後処理で最も揉めたのがブリッグズ兵と少将の扱いであった。何せ大総統と直接闘い、街中で白昼堂々中央兵を殺害したのである。ホムンクルスの件を公に出来ない以上、庇うのにも限界があった。

 

 

 

 

 当初、アームストロング少将は部下を守るために自身が全ての責任を取り処罰されるつもりであった。しかしそれに待ったをかけたのがグラマン大総統であった。最も多くのリスクを被った彼らを蔑ろにすれば、そのツケは必ずアメストリスに暗い影を残すからだ。

 

 

 

 そこにさらに手を伸ばした―――彼女からすれば余計な事をした―――のがウィリアムだった。彼がレーヴ中尉を北に送っていた件を利用することにしたのだ。彼が最初に一連の情報を北に流したのだが上層部がどこまで病んでいるか迄は掴みきれず、業を煮やした少将は『守護するもの』の務めとして、逆賊の汚名を着てでも国民を守るため立ち上がった鋼の女傑だ、とするプロパガンダを流したのである。

 

 

 

 それでも国民が抱いたブリッグズ兵への不信感を拭うために、少将はブリッグズ砦から異動することとなった。その代わりのポストとして、新設されたこの専門学校の校長を任命された。この役職に就けるということは、国内の有望な錬金術師をどのように指導させるかも、どういう思想を浸透させるかも彼女次第であることを意味しており、大総統は彼女に絶大な信頼を置いていると言外に示しているのである。

 

 

 

今後錬金術師は免許制となり、国家資格なしでの使用は緊急事態を除いて処罰の対象となった。これはアームストロング校長が依然唱えた錬金術に枷を付けるべきであるという意見が反映されたという体を取っており、彼女を尊重する態度を全面的に押し出している。

 

 

 

「―――失礼するわよーって、貴方達またやってるの?もうすぐ終業式なんだから程々にしておかないと準備が間に合わなくなるよ?」

 

 

 

 ノックをしてから入ってきたのは、実技最高責任者として雇われているイズミ・カーティス客員教諭だった。つい先月まで育児休養を取っていたのだが、この度無事復帰してきたのである。

 

 

 

「ああ、もうそんな時間か。・・・アレックス、次同じことをしたらその無駄な立派な筋肉が萎むまで入院させてやるから覚悟しておけ。しかしカーティス教諭もすまんな、子供が生まれたばかりだというのに現場に駆り出して」

 

 

「あら、校長閣下が主婦に気を遣わなくて良いわよ。家には最高の旦那が居てくれてるから心配しないで」

 

 

 

 アームストロング少将と同じく、イズミ・カーティスも今後の身の振り方に難儀していた一人だった。何せ司令部で暴れすぎた上に、何人かは彼女が『人柱』だったことを知っている。妙なトラブルを負う前に何らかの後ろ盾を欲していた彼女は、アームストロング少将から来た客員教諭の話を受けることにしたのだ。彼女とは司令部で初めて会ったがその人柄は信頼している。それに彼女も国家が錬金術を野放図に広めている現状に思うところがあったので協力を申し出たのである。

 

 

 ・・・とはいっても、就職して直ぐに出産前休暇をとってしまったのは申し訳なく思っているのだが。『持っていかれた』臓器が帰ってきたことを旦那に話した時、真っ先に話題に上がったのが子供についてであった。彼女がシグと自分の子供を切望していたことは周知の事実であったが、死なせてしまった挙句その死までもを冒涜してしまった我が子への負い目があった。

 

 

 

 夫婦でじっくり話し合った結果、エドワード達の様に過去を背負いながら前を向いていこうと改めて決意し、その結果今度こそ無事に、元気な男の子を生むに至ったのである。ちなみに懐妊の一報を電話で聞いた途端、旅半ばで帰ろうとした馬鹿弟子親子を一括し、その代わり名付け親になってやってほしいと頼んだのはまた別の話である。

 

 

 

 

「しっかし改めて思うけど、これまで国立の錬金術学校がなかったのが不思議で仕方がないわ。これで馬鹿が馬鹿みたいな力を持つ可能性が少しでも減れば良いけど」

 

 

「まったくだ。ホムンクルスの連中からすれば、5000万人もいれば人柱も4人くらいは出てくると踏んでいたのだろう。『エメス』もあることだしな。しかしそのツケを我々人間が負う羽目になるのは業腹だが」

 

 

 

 そうぼやきはするものの、この役職に責任とやりがいを大いに感じているのか珍しく表情を緩める姉を見て、『今の御顔を見せていればもっと嫁の貰い手が―――』などと戯けたことを口走ってしまった弟は、残念ながら本日の式典を欠席することとなった・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 場所:???

 

 

 

 何処かに存在するある国でとある祭りが開催されており、で店や派手な飾りが彩る街中を少年と青年が歩いていく。少年の顔は仏頂面だが、その手には綿飴や串焼きが握られているため祭りは満喫しているらしい。青年はそんな少年に苦笑いしながら寄り添っている。二人の顔立ちは非常に似ており、一見すると親子か何かに見えることだろう。

 

 

 

「ほらほら『アダム』、食べながら歩くと喉に詰まらせますよ?宿はすぐそこなんですから我慢してくださいね?」

 

 

「・・・余計な御世話だ、エンフィールド。あと、わたしを子ども扱いするのは――ムグッ!」

 

 

「あーあ、言わんこっちゃない」

 

 

 

 街並みを歩いているのはウィリアム、そして隣でフラグ通りに喉を詰まらせたのは自らの子供・・・ではなく、ウィリアムの遺伝子から作った『容れ物』に放り込まれた『フラスコの中の小人』である。

 

 

 

 ―――真理の間にて、『神とやら』を消滅させたウィリアムであったが、『小人』の命は奪わなかった。罪には罰を、では不愉快なクソ真理と同じ判断を下したことになるのと、特段彼から直接被害を被った訳ではなかったからである。その代わり、彼は『小人』から錬金術に関する全ての知識を奪い、無力な子供として文字通り人生をやり直させることにしたのである。

 

 

 

「・・・ふう、ひどい目に遭った。―――それで、こんな遠くまで連れ回して結局何がしたいのだ貴様は。何もかも失った私を見て嘲笑っているのか?」

 

 

「まさか。ほとぼりが冷めるまではアメストリスに帰れないし、一人旅も寂しいと思っていた所に丁度良いお供を見つけただけですよ」

 

 

「・・・良くもぬけぬけとッ!『すべてを理解する』という私が数百年恋焦がれてきた願いをぶち壊しておきながら!!」

 

 

「ぶち壊すも何も、どうも君には不要な物だった様なので有効活用しただけですよ」

 

 

「――ッ!!この上更に私を愚弄する気―――『なら君は一度でも満たされましたか?』―――何だと?」

 

 

「例え弄した時間に比べて瞬きほどであったとしても、君は確かに『神の力』を完全にものにしたんですよ?もし君が言うとおり神の力を得れば全てが理解できるのであれば、もう既にすべてを知り終わっているはずです。それに、神を得た後の君は手に入れる前と何も変わらない不満そうな表情でしたし、とても悲願を達成したとは言えない御姿でしたよ?」

 

 

「・・・・・・・それは」

 

 

「ご存知でしょうが僕が奪ったのは錬金術に関する知識のみです。それに、あの時君がやってのけたことは5000万人分の石があれば出来そうな事ばかりでした。結局のところ、あれは『力』以上の何物でもなく、『理解』とは全くの別の存在だったのでしょう」

 

 

「・・・つまり、最初から私のしてきた事に何の意味もなかったというのか?馬鹿の様に見当違いへと進み、満たされることなく貴様ら人間に滅ぼされる以外何もなかったというのか?」

 

 

「――――やれやれ、世話が焼けますねえ」

 

 

 深々と溜息を吐いた後、立ち止まったウィリアムは唐突に『小人』――改めアダムを脇から持ち上げ自身の肩へと座らせた。いわゆる肩車である。

 

 

 

「わッ!?ッな、ななななな何をするッ!?」

 

 

「君と言いプライドと言い余計なことに脳味噌使いすぎなんですよ。生まれた時から不老不死だの賢者の石だの、煌びやかで派手な知識を持ってるせいで肝心なものが影になって見えてない。ご飯の美味しさも、食事の楽しさも、くたびれた時に潜る布団の心地よさも、みんな僕との旅ではじめて知ったことでしょう?人間とホムンクルスは違う生き物かもしれませんが、人間の満たされ方も試したことが無いなんて、随分遠回りだと思いませんか?」

 

 

「・・・そんなものが何になる。一時の快楽の先に全てを理解する術があるとでも?」

 

 

「そんなもの無知蒙昧な僕が知るはずないでしょう。僕から言えることは、偶には頭を空にすることも大切だという事です。東の文化には性行為の絶頂に悟りの境地があるなんてとんでもない宗教観もあるみたいですし、もしかしたら君の言う下らないことに、案外ヒントになることもあるかもしれません。その器は人と同じくらいは持ちますから、じっくり目の前のことを楽しんでみるのも乙でしょう」

 

 

「それで、死ぬまで遊び呆けても見つからなければどうするというのだ?」

 

 

「いや、遊ぶのは結構ですが呆けるのは止めてくださいね。その時はこの地上にはそんなもの無かったというだけの話です。後はあの世なり地獄なりで探し物の続きをすれば良いでしょう?どうせ僕も同じところに送られそうですし、もし暇ならおつきあいしますよ?さあ、そろそろ右手の串焼きのタレが重力に逆らい切れなくなってますから宿に急ぎますよ。洗濯機の材料はこの辺にはなさそうですし」

 

 

 

 そういって話を切り上げたが、アダムは特に苦言を呈すことなくおずおずとウィリアムの頭にしがみ付いた、タレ塗れの手で。しかも走ったことでタレが勢いよく散ってしまい、結局服を新調し直す羽目になった挙句、昼間からシャワーを浴びることになってしまった。

 

 

 

 彼らの旅はこれからもぐだぐだ続いていくのだろう、どちらかが飽きたとぼやく日まで。そうして長旅から帰ったウィリアムを待っているのは、長らく音信不通で死ぬほど心配した妹分のスパナなのだが、それはだいぶ未来の話である。

 




 これにて、『鋼の錬金術師 錬金術師も神に縋る』完結です!ここまで続けられたのも皆様の応援のおかげです!!

 もしかしたら設定だの裏話だのは挙げるかもしれませんが、物語としてはこれで終了です。最後までお付き合いいただきありがとうございました!!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

あとがき

 

 

 

 

 『鋼の錬金術師 錬金術師も神に縋る』を読んでいただきありがとうございました!!

 

 

 何とか無事完結させることが出来ました。書き始めるといろいろアイデア等が浮かんできたので投稿していたら、気が付けばほぼ1~3日に一回投稿、完結まで一か月と一週間とかいう訳分からんことやってました。人間やればできるもんですね(笑)

 

 

 

○ストーリーについて

 

 

 元々はもう一つの拙作『BIOHAZARD Iridescent Stench』にて、私の戦闘描写の拙さを克服するために取ったアンケートの結果がスタートでした。共通した意見として完結した話をプッシュする声が多かったのが印象的でしたね。

 

 なので主人公の位置づけは、戦闘がなるべく入るポジションを予定していました。しかしこの作品完全に原作主人公組と敵対しては、約束の日まで人柱殺害御法度の都合により狂言回しか黒幕ポジションしかできないし、かといって国土錬成陣反対+有能のコンボだとヒューズの二の舞になる。

 

よって、目的は違うけど利害は一致している同盟関係が一番都合が良いのかなと思いました。ここならエドワード側ともホムンクルス側とも戦う動機が出来ますし。早い内に『打倒クソ真理』という折り合いがつけられる目的を思いついたのが行幸でした。

 

 

 

 

 ちなみにストーリーについてはもう一つ案が出てました。テーマは『怠惰な錬金術師』で狂信者レベルで錬金術にのめり込んでいる親の所為で英才教育を受けていたが、他界した途端今までの反動が出て仕事もせず錬金術でひたすら娯楽と快楽につぎ込むニート駄目錬金術師がひょんなことから原作に関わるというものです。が、絶対こんな性格だと戦闘なんかしないだろってことで没になりました

 

 

 

 

 

 

 

 

○キャラクターについて

 

 

 

 ウィリアム・エンフィールド

 

 

 今作の主人公ですが、多分一番設定が雑です(笑)。別作品のオリ主の一人称が「私」だからこいつは「僕」、あっちがタメ口だからこっちは敬語キャラにしようとかそんな感じでした。

 

 彼の描写で特に意識したのが、『こいつが敵に回ったら何仕出かすか分からない』というイメージです。私のイメージなんですけど、『鋼錬』のキャラの強さってすごく分かりやすいじゃないですか。例えばエドワードは万能で天才錬金術師だけど、敵に自分の土俵を押し付けられるとキツイとか、大総統閣下だと有り得ないくらいハイスペックだけど、良くも悪くも人間に近いから『眼』でどうにもならないことはお手上げなところですかね。多分ブリッグズ兵が捨て身で正門に毒を散布したりしてれば、嗅覚は一般人並(多分)だから吸い込む前に神回避とか厳しいですし、既に大炎上している場所とかは再生できないからごり押しで侵入とかは難しいと思います。

 

 そこから着想を得たのが他の錬金術師のように派手に立ち回るのではなく、毒やワイヤー、拳銃との併用といった手のひらの上で収まるような錬金術や最先端科学を専門分野とすることでした。『鋼錬』の錬金術って理論とイメージ、あと錬成陣さえ用意できれば過程をガン無視できるのも非常に大きかったですね。他の作品で同じことやるとご都合主義観が酷いですが、この世界だと『真理』と『錬金術』と言えば大体通りますし(笑)。

 

 

 

 性格はエドワード達からも好かれるよう、基本的には優しくて物腰柔らかな感じにしました。けど、唯優しいだけじゃイシュヴァールになんかいったらすぐに二階級特進しちゃうよなってことで『優先順位上位の存在は何を投げ出しても守ろうとするが、下位者に落ちた存在は平然と踏みにじれる』という危なくて強靭な面も付け足しました。エドワードやウィンリィ達に付きまとう危険性を何とも思ってなかったのも、人柱そのものに命の危険が無かった事と国土錬成陣へのカウンターにめどが立っていたので『神降ろし』の方が優先順位が高くなってしまってたからです。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ラビ・レーヴ中尉&『エメス』(ゴーレム)

 

 

 流石にウィリアム一人で行動し続けるのは無理があるよな、てことで導入しました。ホムンクルスの肝煎りで上層部に参加したは良いものの、どいつもこいつも使えないので、じゃあ使える手駒を作ってしまおうということで生まれたのが彼らです。作品中にも触れましたが、何らかの理由で中絶を選んだ人々の肉体から特殊な機器へと移し替え、『合成獣』から得た知識を用いて調整を施されて誕生しました。ホムンクルスとは『賢者の石』を動力にしているのは変わりませんが、子供を作ることが出来錬金術も使えるが超人的な力は持たない、というのが違いです。

 

 

 全員がウィリアムを深く敬愛していますが、別に洗脳とかではなく(刷り込みはあるかもしれませんが)本物の感情からです。ただ、彼らは家族等に向けられるはずの感情が殆どウィリアム一人に向けられているが故に、時に自己犠牲染みた行動も平気でとってしまうことがあります。

 

 

 

 

 

 

 その他原作組

 

 

 

 本当に書きたいシーンに絞って書いたせいであまり出番を作れませんでしたが、それでもウィリアムと関わったことで何かしら変化が出るように心がけました。やっぱり周囲の価値観や心境に大なり小なり変化を齎せて改変させるのがオリジナル主人公の醍醐味だと思いますので。

 

 特に頭を抱えたのがマース・ヒューズですね。生存は早くから決めてたんですが、そのまま一度も出番無しにフェードアウトさせてエピローグにちらっと顔を出させるのはもったいないなと思いましたので。そこで、ウィリアムが顔を出せない場所への情報収集役として採用しました。ヒューズ本人にそういった技能が無くても、アルフォンスや原作のバリー・ザ・チョッパーのように魂を移し替えて、そういった隠密に特化した器に入れてやれば問題ないですし。軍からノーマークの人材が欲しかったのでちょうど良かったです。

 

 

 

 

 

○最後に

 

 

 

 この作品を最後まで読んでいただき、重ね重ねありがとうございます。特に感想や質問、暖かい評価を付けて頂いた皆様には本当に助けられました。何かあるたびにモチベーションがガンガン上がっていきましたね。あと、作者もあまり深く考えていなかったようなところに指摘が言ったりしていて結構参考にさせていただきました。そして何より、本当に多くの誤字脱字報告をしていただき助かりました。こっちは来るたびに顔から火が出そうでしたが(笑)

 

 

 

 さて今後の活動についてですが、またバイオの方に戻ろうと考えてはいますが、なかなか満足のいく描写が書けてないんですよねえ。構想は『6』時点まで出来ているので早く再開したいんですが、今度は神話生物や人外の描写の勉強のため、何よりモチベーションの維持のために、また別作品を先に上げるかもしれません。その時はまた暖かい目で見てやってください。

 

 

 

 それでは、最後までお付き合いいただき、本当にありがとうございました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む




評価する
一言
0文字 ~500文字
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10は一言の入力が必須です。また、それぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に
評価する際のガイドライン
に違反していないか確認して下さい。