村雨のこころ (玖渚真白)
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設定画(見なくて大丈夫です)
個人的な絵をアップします。
見た目の設定とか。
見なくても話には影響ありませんので、スルーしておっけーです。
>
>
大丈夫な方だけ、薄目でごらんください。
村雨(基本的な人形)
髪は黒髪ストレート。
光が当たると群青。
瞳は蜂蜜のような金色で、ぱっちりたれ目のイメージ。
服は紅の着物に、深緑(青より)から緑のグラデーションが入った袴をきていて、羽織として彼岸花の描かれた暗めの打掛を纏っている。
刀はまだイメージなので省略です。
村雨って何色だったか思い出せないので、とりあえず着物と同じ色にしてしまいました。
ハイカラなイメージと、信乃のイメージを合わせて、靴は編み上げブーツ(茶色)です。
こんな子が基本的に無表情でいる…村雨ってそういうイメージで話を書いてます。
可愛い大和撫子になっていれば幸いですが、絵心が彼方へ去ってしまっているのとカラーセンスの出張により、あまり表現はできていません。
絵を公開するかも迷いましたが、肥やしになるよりはと公開しました、ごめんなさい。
ちなみに、刀は太刀ですが、身長はあまり高くありません。短刀<村雨<脇差くらいをイメージしています。
人形なのに、そのまま鴉の羽が生えたりしますが、もう違和感を感じないくらい村雨という存在をやってきたので、本人は便利だなーぐらいにしか感じていません。
内心、驚きや焦りなどいろいろ感じてはいますが、変なところで頓着しない、そんな村雨です。
村雨(鴉姿)
里見八犬伝(原作)をご存知の方は知っていると思いますが、人形より、鴉の姿が本来の顕現状態となります。
人形として顕現されたのは、刀剣乱舞という世界観の影響なのかは謎となります。
遥か昔は少女だった記憶はありますが、鴉の姿には慣れっこになっている村雨ちゃんです。
村雨(ラフ画)
落書き絵です。
とくにコメントは無いですが、こっちの顔の方が好み。
アホ毛はありません。仕様です。
後ろはハーフアップしてます。
まとめ方(リボンだったり、結紐だったり)は決まっていません。
ちなみに、人の姿で羽がはえたりしますが、着物を突き破ってはいません。少し体から離れた背中辺りにはえています。浮いています。
村雨(中傷)
─────────
と、つらつら感想を合わせて小さな設定は書きましたが、詳しい設定集は公開しない予定なので、よろしくお願いします。
あと、もしよろしければ、絵を誰か書いてくれないかなーなんて。さらにさらによければ、公開させていただけると嬉しいです。
……いないかな。
それでは、本編をお楽しみください。
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プロローグ
八犬伝→刀剣乱舞の設定混合を含む予定です。
よろしくお願いします。<(_ _*)>
静かな雨が降る。
山の木々が風で微かに揺れ、雫が降りそそいでいた。
それは鎮めの雨。
つい先ほどまで、山肌を舐めるようにあった火を沈下させるために降らせた雨だった。
木々が焼けたことで、あちこちから焦げ臭いが立ち上っている。まだ熱をもった風が吹き抜ける状況の中、漆黒の鴉が大きな羽を拡げて唯一残っている草原の地面に降り立った。
鴉の傍らには、草と土の広がる地に横たわる小さな人影がひとつ。
仰向けに寝転ぶ少年は、おもむろに口を開けた。
「………
雨の音に紛れるほどの、本当に小さな震える声音。それを聞き逃さないように鴉は少年の顔に頭を近づけた。
「………なぁに」
「…………」
村雨が問いかけると、少年はくしゃりと泣き出しそうに顔を崩す。その瞳からは涙は溢れていないが、降り注ぐ雨が丸みを帯びた頬を伝い、まるで泣いているかのようだ。
村雨は知っていた。
少年が、何を望んでいるのか。
かつて、村雨と契約を交わす際、少年は「生きる」ことを望んだが、今は───
「シノ…今の望み、おしえて」
「………っ…、村雨っ」
「……もう、知ってるけど、……お願いして良いよ」
これが最後の契約。
対価と引き換えに叶える願い。
村雨はソレを促すために、雨に濡れて少し冷えている少年の頬に頭をすりよせた。
少年、
そう、心を寄せたものの死が、どれほど痛いものなのか、人間ではない村雨にもわかるほどの歳月を共に歩んできたのだ。
だから、そう、これは村雨からの贈り物だ。
「……ねぇシノ、これは村雨からの願いであり、贈り物だよ…」
「………村雨?」
「だから、この願いは、対価は…」
「だけどっ」
いつもは大きなその真っ直ぐとした意思の強い瞳は、驚きと焦燥とでひどく陰っている。瞳を揺らしながら、信乃は村雨を横目に見る。それを覗き込むように村雨は頭をあげた。
「村雨も一緒に終わるから…だから──」
信乃の口から音は出ない。
でも、微かに動かすそれに、村雨は小さくうなずいた。
「………おやすみ」
山火事があった。
空は赤く染まり、木々を焼き払う炎は勢いよく山を焼いた。だが突如大きな雲が山のてっぺんに立ち込めて、大粒の雨を降らせた。
不思議なことに、瞬く間に炎は勢いを弱めていく。
その夜、雨があがった山の山中にて、白骨となった小さな亡骸がひとつ。
その傍らには、折れた刀がひとつ転がっていた。
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牡丹編:1
ふと、誰かに呼ばれた気がした。
それはどこか懐かしく、暖かく、優しい声で───
こちらに、どうぞこちらにお出でください
どうかお力を御貸しください
過去を守り、未来に繋げる為の戦いに
どうか…どうか……
その求める声に、村雨は思う。
あぁ、村雨にそれを求めるの…?
それが望みなの…
まだ村雨は望みを叶え続ける必要があるの?
信乃が最後の主であると思っていたが、村雨はどうやら、まだ必要とされているらしい。
折れた刀であるはずの村雨は、どこか漠然と、そう思考した。
───ならば、答えよう
───この村雨を求める次なる主の元へ
**************
のどかな本丸。
小さな短刀達が庭で遊ぶ声と、それを眺める太刀達。そこの主である御歳80を越えるおばあちゃん審神者である牡丹は、毎日の日課である鍛刀を行っていた。
今日の近侍は、薬研藤四郎。短刀だが、どこか大人びた漢らしい少年とともに資材を指定し、力をそそぐ。
いつも通り、出来上がりの時間を確認したとき、牡丹は異変に気づいた。
「……あら?」
「どうした、大将?」
時間を確認していた牡丹の声に振り返り、薬研も数字の並ぶ板を覗きこんだ。
そこに並ぶ時間は13時間。
見たことのない時間に、眉をひそめる。
「故障…とかじゃないみたいだな」
時間がたつにつれ、正しく減っていく時間に、首をかしげる。ちらりと隣にいる主を見うかがえば、同様に首を傾げつつ不思議そうな表情をしていることが見てとれた。
「新しい刀については、特に連絡もいただいてないものねぇ…どなたなのかしら?」
「手伝い札、使うか?」
「そうねぇ…そうしましょうか」
それを見て、薬研は手伝い札を牡丹に渡した。板で出来たそれを使うことであっという間に刀が一振り、できあがった。
それは緩やか曲線をえがく、漆黒の太刀。それに手をかざして牡丹は祈った。
こちらに、どうぞこちらにお出でください
どうかお力を御貸しください
過去を守り、未来に繋げる為の戦いに
どうか…どうか……
これまで、多くの刀剣を喚んだが、いつもと異なる感覚に、不思議な思いが広がる。
しかし、それを深く考える前に、桜の花びらがぶわりと舞った。
「村雨は村雨という。対価と引き換えに主の望みを叶える刀…きみが村雨を喚んだ主なの?」
そこに現れた人の形をした刀剣は、漆黒の長い髪をなびかせて、金色の瞳を牡丹へと向けた。
それは、あまり馴染みのない、いわゆる女型の姿。声から察するに、男士ではなく女士。
「あらあら、女性の方かしら?」
「…性別はない。見た目が女性なのは、きみが女性だから…?」
「あらまぁ…」
驚いた様子の牡丹だが、すぐににっこりと笑顔を浮かべた。
「私はこの本丸の審神者、牡丹(ぼたん)と申します」
「牡丹…審神者…始めにいっておくけど、村雨は付喪神とは外れた存在だから、たぶん、他の刀剣とはいろいろ異なるよ」
「ふふ、確かに 見目や力が違うのですね…」
かぶりをふった牡丹は、自分の本丸にいる他刀剣達を思いだし、目の前に佇む村雨と比較する。神というより、妖刀のような怪しげな気配。されど、どことなく柔なか気配は確かに人とは異なる存在感を放っていた。
「ひとまず、お話をしませんか?」
ふんわりと朗らかに笑みを浮かべる老婆に、村雨は頭をふった。
「大将、俺は何か飲み物でももってこよう。居間で良いか?」
「ええ、お願いね」
傍らで控えていた薬研は、ぼんやり佇む村雨を眺めたあと、部屋をあとにする。どこか面倒がおきそうだと感じつつ、はて、今日の茶菓子はなんだっただろうと思考をめぐらせるのだった。
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牡丹編:2
11月28日更新
ただ、普通に生きてただけだった。
好きなことして、ときには友達と喧嘩したり、好きな人が出来て、勇気がなくて勝手に失恋したり。
学生の頃は毎日が長かったのに、社会人になったら時間があっという間で、気づいたら5年、10年と働いてて…
どうしてこうなったんだろう…
この状況になっても、未だに信じられず、かえって現実逃避をしてしまう。
でも、考えてほしい。
自分が、なんか知らんが刀剣になってたら、現実逃避もしたくなりますよね?
─────────
ことのはじまりは、会社の年代が近いメンバーとの女子会でのこと。5つ下の後輩が、携帯アプリを紹介してきた。
刀剣男士というそのアプリは、日本刀を擬人化して敵を倒すというゲームで、刀剣に宿る付喪神を喚ぶことで、擬人化させることができるらしい。
あ、その喚び出すことができる人が、操作している自分のことで、
見せてもらった刀剣男士の絵も綺麗で、操作も簡単そうなので、わたしは後輩が勧めるままアプリをインストールして始めたのだった。
初期刀が誰かとか、審神者レベルが100を越えるぐらいには、まったりと日々ゲームをしていた。
そして。
ゲームしながら寝落ちしました。
(秘宝の里、眠くなるんだもん!)
次に起きたとき、わたしは日本刀になってました。
・・・・・・・・・・・ゆめ、かな?
動けぬ体、もちろん無機物の刀だから当たり前だけど。
最初は意識がふわふわしてたが、だんだんと鮮明になり、この目の前のよく知らんおじさまに、名前をもらいました。
「日照りが続いて、これ以上は畑がもたん…そろそろ雨でも降ってくれんかね……」
ここまでは、そっかーと聞いていた。
「……そういえば、まだこの刀に名を授けていなかったな…そうだな、縁起を担いで
村に雨…切実過ぎる名をつけてきたおじさまに、返事を返したいのになーとか思ったわたし。
そしたら、なぜか不思議なことに、それまで雲ひとつないカンカン照りの空がだんだんと薄暗くなり、すぐにひとつ、ふたつと滴が落ちてきた。
そう、本当に雨が降ってきたのだ。
偶然だと思ったけど、まさにタイミングはバッチリすぎて、めっちゃ崇め奉られたよね。
違うんだよー、別に雨をわたしが呼んだ訳じゃ無いんだよー!…とか弁解したくても、いまのわたしはただの刀。意思を伝えられないというのはとても不便だということを学びました。
その後、わたしは村雨と呼ばれ、干ばつが続くと刀なのに、ただの刀なのに!…人々がめっちゃお祈りしてくるようになりました。
そして、なぜかそれに答えるように雨が降る。
なんなの、天気どうなってんの!
わたし何にもしてないのに、評判だけが上がっていくんですが…。
そして、信仰が集まるとよくわからん力が着くんですねー。
まるで経験値を得てレベルアップしたみたいに、わたしの意思でできることが増えてしまっていました。
「え?」と思うよね、わたしも思うよ。
でもできるようになっちゃったんだもん!
いまのわたしなら、好きなときに雨を降らせたり、変な妖気をもったやつが村に来ないように結界はったりとか出来るようになりました。
そして、この頃から「願いを叶える刀」という噂は広がった。
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牡丹編:3
side:自分の話を、牡丹編に組み込む為、話数を変更しました。
11月28日更新
あれから、どれほど時間がたったのだろう…。
人から人へ
偶然と自分自身が意図して叶えた願いによって、雨の神様が宿っているといわれたが、わたしとしては大層恐れおおい伝承である。
そしてあるとき、願いが叶うことで生じてしまう不幸を知ることになる。
あるとき、とても家族思いの青年のもとに村雨が受け渡された。その青年は心根も良く、他者へも親切を行う優しい人間だった。
時が立ち、青年は幼馴染だった女性を嫁に迎えた。その二人に授かったのは、とても美しい娘で気立ても良く、年頃になると村の若い男達はこぞって憧れの眼差しを向けていた。
そんなある日、地主のあまりよい噂を聞かない若旦那が娘を嫁に欲しいと圧力をかけてきた。青年は「願いを叶える刀」として伝わっている
これまで、雨や水に関連する願い事ばかりだったので、わたしはどうすれば諦めさせられるのかなーと、呑気に考えていたときである。
地主の屋敷に働きにいっていた隣人の男が、若旦那が土砂崩れにあい死んだと知らせにきたのだ。
これにはさすがにおどろいた。
また偶然にも願いが叶ってしまったのだが、ここから青年の受難がはじまる。
あろうことか、その土砂崩れを青年がひきおこし、次期跡取りを殺したと噂がたったのだ。
もちろんそんなことはありえないのだが、村人達はそれを信じてしまった───きっと村雨に願ったのだ…と。
もちろん
(刀だからね!)
案の定、青年の家族は皆、罪人として捕らえられてしまったのだ。
ここでわたしは初めて怒りを覚えた。
厚く手のひら返しをしてきた村人達に。
…今思えば、わたしはあの青年を好きだったんだろう。
そして、その家族達へも愛を注いでいた。
また力を使うことにも未熟だったのだ。
ここまでいえば、お察しいただけるだろう。
あのとき、わたしの感情と共に、村雨の力が暴走し村人へ次々に災厄が及んだのだ。
始めに地主の裏手の山が崩れた。
ともすれば、今度は地震が村をおそう。
そして大雨が降ったとあれば地滑りがおき、村の半分を飲み込まれていった。
幸いにして青年とその家族、親類や親しい人間のほとんどは助かったが、これを切っ掛けに
───どうしてこうなったのか………
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牡丹編:4
11月28日更新
わたしは人間だった。
でも、あるときから村雨という刀がわたしという個になった。
それから里見八犬伝みたいな人間関係を眺め楽しんだりもした。
だけど、さすがにこれは想定していなかったな…
あれ、目の前のお婆ちゃん誰だ。
っていうか、隣にいる人…見たことあるぞ?
なんならわたしの近侍だったぞ?
………なんで、目の前に薬研藤四郎がいらっしゃるんでしょうか。
ってか村雨が烏姿じゃなく、人型になってるんですが、ダレカ、セツメイ、モトム……
──────
つい先ほど顕現した新たな刀剣村雨をつれ、居間にて改めてお互い自己紹介を行った。
「改めて、私は審神者をしております、牡丹と申します」
目尻のシワを深くして、穏やかに話す牡丹は、落ち着いた色合いの着物を着ており、その髪は生きた年月を現すかのように美しい白で染まっている。
対するは、漆黒の長い髪に大きな琥珀のような瞳、すこし華やかな着物と漆黒の太刀を脇に置き、彼女──村雨も言葉を発した。
「村雨は村雨…好きに呼んで、ください」
───(以下は村雨の内心をあえて載せます。)───
え、え、審神者って言った?このお婆ちゃん…
牡丹さん?、まじで、なんで今さら刀剣乱舞??
これまで数百年、数千年と刀で過ごさせたあとに、もうゴールでいいよね…的になったから自殺みたいに刀を折って眠りにつく予定だったのに。
いや、確かに刀剣乱舞ってゲームに登場する刀剣の中には、伝承とかで伝わった実在していない刀とか、戦時とかで消失しちゃった刀も確かいたはずだから、折れた村雨でも伝承とかからオッケーされちゃったかもしれんけど…それでも困るぞ、わたし自身は実践経験ほとんど無いんだから!
時間遡行軍(刀剣乱舞の中の敵ね)と戦うのって、擬人化した刀自身だったよね。
え、まじ無理なんですけど…鍛練でどうにかなるもんなのかな…っていうか、刀剣男士なのにわたし女なんだけども、そこんとこ大丈夫なんだろうか。
───(省略)───
挨拶を済ませたタイミングで、薬研がお茶とお茶菓子をお盆にのせて部屋へと入ってきた。
手馴れた様子でお茶が入った湯飲みを、静かに机の上に置き、牡丹からの感謝にどうってことないと笑って返している。
───(再度、村雨の内心を以下略)───
………っ、動いている
うわぁぁあ、推しが動いてる話してるわらってるぅぅう!!!
え、これまじで現実??
どうなってんの?
人間から刀になって、かなり時間がたったが、刀って折れても夢見たりすんの?
あ、でもお茶美味しい。
あれ、お茶の温かさも味も匂いもわかる。
やっぱり現実なのかな…
というか、当たり前のように人の形になってるみたいだけど、どんな見た目してるんだろう。以前のわたしだとぱっとしない平凡顔だったが、もし今もそれのままだと、あの顔面偏差値トップレベル集団の中に入っていけない気がする…
───────
村雨は内心穏やかではないのを外には出さず、静かにお茶を啜っていた。
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牡丹編:5
11月28日更新
最初、姿を見たときは自分の兄弟のように、女の格好をしているだけだと思った。
声を聞くまでは。
顕現したのは見たことのない少女。
黒い太刀を持ち、長いまっすぐな黒髪を靡かせて、まっすぐに主へと大きな瞳を向けていた。
黒い髪とは異なり、蜂蜜のようなとろりとした瞳。
どこか黒猫を連想させる彼女は、鮮やかな着物と羽織を身にまとっていた。
村雨───そう名乗る彼女は、どこか虚ろげで。
薬研藤四郎はどこか放っておけないと感じつつ厨に向かうのだった。
────
厨を覗けばいつものメンバーが夕食の下拵えとおやつ作りに精を出しているようだった。
背の高くジャージ姿の男、
そこに、気兼ねなく薬研は声をかけた。
「よう、お二方」
「あ、薬研くん、どうしたんだい?」
「おやつならもう少し時間がかかってしまうんだが…」
眼帯をした色男、燭台切光忠はにっこりと笑顔を浮かべ、片や歌仙兼定は困ったように薬研に笑いかけた。
どうやら、おやつの催促に来たと思ったらしい。
「あー、いやそうじゃないんだ───実は」
主の鍛刀に付き合ったところ、新な仲間が顕現した。
いま、主と居間にいるから、茶をもっていきたい。
そう簡潔に話をする。
「なるほど、なら先に出来上がっている練りきりと茶を用意しよう」
「うん、そうだね。薬研くん、ちょっとまっててね」
「あぁ、悪いな」
手際よく準備をする二人は、新しい仲間について薬研に尋ねる。
「その新しい刀は、どんな子かわかるかい?」
「あー…いや、まだよくわからないんだ」
どこか煮え切らない返答に歌仙は首をかしげた。
「顕現できたということは、うちにいない子なんだろう?」
「まぁ確かにうちにいない初めての刀剣ってのは間違いないんだが…どうも様子がおかしくてな」
悪いやつには見えないから、ひとまずこれから話をする予定だと告げる薬研。古株の一振りである彼がついているのだからと、歌仙達はそれ以上の詮索はせず、どうぞと用意した茶を差し出した。
「なにか困ったことがあったらいってくれ」
「僕達もなにか、お手伝いさせてもらうよ」
そう告げるふた振りに、薬研は助かると告げて厨をあとにするのだった。
────
「それにしても、何があったんだろうね?」
去っていく薬研を思い浮かべ、燭台切光忠は首をかしげた。
通常、鍛刀し顕現した刀は、情報だけでも伝達され、その日の夕食は歓迎会という名の宴になる。だが、まだ秘匿されているとなると話は別だ。
燭台切と歌仙は夕食の献立をどうするかと相談しあうのだった。
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牡丹編:6
11月28日更新
牡丹とは本名ではなく審神者名である。
彼女が審神者という存在となってから、どれ程の歳月が流れたか。半世紀以上、審神者として刀剣男士達と歴史修正主義者と戦ってきたが、いまだ終わる気配はない。
毎日の日課をこなし、刀剣男士達と戯れる日々が、ある日の出会いによって少し色を変えることになるとは。
そのときの牡丹にとっては、想像もしていなかった。
刀剣男士、は、男である
……というのは、審神者にとっては当たり前な常識であった。
説は様々ある。
刀は男性が多く使用していたからとか、元の主に影響されているなど。あとは、刀事態の由来から女の姿となっている刀剣男士もいるが、それは姿だけであることもあり、女として現れた刀剣は報告されていないのだ。
そんなときに、なんの前触れもなく現れたのが、彼女、村雨だった。
牡丹と向い合わせでローテーブルをはさんで座する彼女は、畳の上に置かれた刀がなければ、日本人形のように愛らしい姿をしている。
あどけないぱっちり二重の大きな瞳は、少し伏せられており、長い睫毛によって影ができている。肌は象牙の透明感のある白に、化粧ではない自然な頬の朱さと唇。ハイカラな和装は紅と深い緑から紺のグラデーションの袴を着ており、彼岸花が描かれた打掛を羽織っていた。
ぼんやりとしているように見える彼女へ、静かに微笑みを浮かべて牡丹は自己紹介を始める。
お互い名乗り終わり、丁度、薬研藤四郎がお茶を持ってきてくれたので、どうぞと勧めたあと、お互い状況を確認させてほしいと彼女に願った。
「急に喚び出されて申し訳ないけれど、まずはお互い状況把握をさせてもらえないかしら…まずは、私ね。こんなおばあちゃんだけど審神者としてあなたたち刀剣の方々と歴史修正主義者と呼ばれる敵と戦っています。審神者や刀剣男士という存在は知っている?」
「一応、知識として認識はしている。けれど、村雨が刀剣男士?」
牡丹の言葉に、村雨は首をかしげた。その際、漆黒の艶やかな長い髪が肩からさらりと滑り落ちる様は、やはり人間とは異なり神がかる美しさだと、牡丹は心の中で呟く。
「なら、話が早いわね。私は新たな仲間として刀剣男士を喚び出そうとしたのだけど、そこにイレギュラーが発生したの。何故か見たことのない時間での鍛刀時間で、顕現したら貴女がきてくれたわ。」
何故だかわからないと牡丹は困ったように眉を下げる。
「あと……失礼だけど、貴女は男性なのかしら…?」
その言葉に、村雨は自分の胸に手をやり、ふむ、と首をかしげる。
「…身体としては女、の姿だね。まぁ、姿かたちが女であろうと、刀剣にはかわりない」
「ということは、刀剣女士ってとこか?」
不意に牡丹の後ろに控えてた薬研藤四郎がそう問いかけた。
「足手まといに感じるの?」
「いや、刀剣でも男女の差が発生するか今はわからないからな…場合によってはそう感じるかもしれないが」
村雨の問いに答えた薬研藤四郎の意見に村雨は、そう、と一言返すにとどまった。
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牡丹編:7
11月28日更新
少し薬研と話をした村雨は、また静かに目を伏せお茶を啜る。そんな様子を見ながら牡丹はこの後のことを考えながら口を開いた。
「ひとまず、政府へ報告しないといけないから、こんのすけを呼びましょうか。もしかしたら、他でも似た事が起こっているかもしれないもの」
「…そうだな、大将の部屋から端末持ってこようか?」
「ええ、おねがいできる?」
のほほんとした口調の牡丹に、任せろと告げ、薬研は部屋を後にした。
薬研が去ったあと、牡丹は「さて、」と村雨へ視線を戻す。
「あなたのことは、村雨と呼んでも良いかしら」
その質問に、村雨はこくりと首を縦にふった。
「薬研が戻ってくる前に、1つ確認なのだけど…」
「…なに?」
「これからあなたには2つの選択肢が与えられると思うの。1つは私のもとで一緒に戦うこと。もう1つは政府のもとへ行き、状況の把握をした後に顕現を解く…かしら。他にもありそうだけどあなたの意見を聞きたいわ」
村雨は自分の意見を尊重するつもりの牡丹を、不思議そうに眺めた。
確か、ここに喚び出されるときの声は、戦いを共にしてほしいといった内容だった。それに答えたつもりだったのだが、違ったのだろうか。
(いや、戦えるかといえば、わからんから選択肢もらえるのは嬉しいんだけど…)
でもこれだけは言える。
いまのままでは、1つ目は選ぶことができないということ。
村雨という刀は特殊だ。
始まりは偶然、そして今では自身で少しは制御できるが、村雨を使うことのできる主人とは、何かしらの契約を結ぶ必要がある。
もちろん、刀として侍るだけならなにもしなくても良いのだが、力を使うには何かしらの繋がりがあった方がよいのだ。
とはいえ、それは主人本人が村雨本体を使うときの条件。今回のように、村雨自身が自分を使う場合に繋がりが必要なのかはよくわからないのだが……。
「村雨は、普通の刀と違う…けど、自分を操ったことはないから、あなたの力になれるかわからない…」
少し申し訳なさそうにそう言葉を紡ぐ村雨を、牡丹は微笑みを浮かべながら聞いていた。
それに後押しされるように、村雨もまたじっとシワの浮かぶ優しげな老婆を見つめる。
「……わからないことがいっぱいある。話す必要のあることもいっぱいある、と思う。力になれるかわからないけど、村雨を呼んだのは…喚んで捕まえたのはあなただから、村雨はここにいる」
不安げに揺れる蜂蜜色の瞳に、確かな芯を感じさせながら、村雨はそう答えた。
そして、それに牡丹はゆっくりと頷き、目尻のシワを深くしながら嬉しそうに笑った。
これからよらしくね。
と、和やかに告げる新たな主人に、村雨もまた小さく笑みを浮かべた。
そんな柔らかくなった空気の中に、端末を持ってきた薬研は、あぁまた大将がタラシこんだのかとどこか失礼なことを考えながら部屋に戻ってきた。
「ほれ、端末もってきたぞ」
「あら…ありがとう、ちょうどよかったわぁ」
うふふと笑いながら端末を操作する牡丹。
ちょうどよいということは、今後の方針を決めたのかと薬研は村雨に声をかけた。
「これからについて、なにか決めたのか?」
その問いに、無言で首肯する。
そして少し困ったように村雨は口を開いた。
「ぁ…ゃ、薬研、藤四郎…?」
「ん?あぁ、長いから薬研で構わない。本丸には藤四郎が多くいるからな」
「そう…薬研、にあとで相談したいことがある…いい?」
表情は変わらないが、目は正直だと薬研は小さく笑った。それの笑みの意味がわからず首を傾げる村雨に小さく謝り、もちろんと答えた。
そんなやりとりをしていると、遠くから小さな走る音が近づいてきた。と思うと、「さにわさまぁぁ」という声とともに部屋に飛び込む小さな影。
朱い隈取りをした小さな狐──こんのすけだ。
端末で呼び出され、現れた部屋(審神者の仕事部屋)に、その本人はなく、急ぎ気配を探して走ってきたのだ。
「こちらにいらっしゃいましたか、審神者さま!」
「あらあら、こんちゃん、急がせちゃったみたいでごめんなさいね」
「いえ、お気遣いありがとうございます。して、本日はどのよう、な………」
はきはきと言葉を話すこんのすけは、視界に入った違和感に視線を向け、ぱかりと口を開いたまま固まった。
というのも、本丸とは主である審神者と政府が把握している刀剣男士以外はいないはずなのに、そこには見たこともない少女が座していたのだから。
そしてさらに、その少女がただの人間ではなく、どこか妖刀に近しい禍々しさと神々しさをあわせ持つ珍妙な気配をさせているのだ。
「…………………」(こんのすけ)
「…………………」(村雨)
見つめ合う両者。
「…………………」(薬研)
それを見守る刀剣。
さらに、にっこにこしながらお茶を暢気に啜る審神者が一人。
暫くの静寂が辺りを包むが、えっ、と我にかえり(混乱状態だが)お茶を啜る審神者と少女を見比べるこんのすけ。
そして恐る恐る少女に向かって声をかけた。
「………どちらさまですか?」
「…村雨、は、村雨という」
簡潔かつ説明にならない返答に、再度こんのすけは混乱している。なんだかかわいそうになり、あらあらと笑っている主の変わりに薬研がこれまでの経緯をこんのすけに語るのは暫し後になる。
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牡丹編:8
11月28日更新
村雨という刀は、個を得てからかなり長い年月を生きてきた。それは刀になる前の個を忘れ去る程の年月を。
だが、思い出というものは不思議なもので、心が動くと湧き出る記憶、それに連なる記憶。
何を言いたいかというと、要は暫くの間忘れていた気持ちを、不意に思い出してしまい、村雨自身がもてあましているということだ。
刀に性別がないように、村雨も今ではほとんど性別という概念、思想を忘れていた。それこそ、主の性別に合わせられるように中性的な存在となっていたのだ。
(……まさか、推しへの愛を思い出すなんて…どうすればいいの、あぁ、めっちゃ動いてる。どうしよう、幻滅されないようにしなくては)
などと無表情の向こうで考えているなど、牡丹や見つめられている薬研は気づかない。
こんのすけへの説明を粗方済ませた薬研は、他の本丸で似た事がないかと話を進めている。
ちらりと自分に注がれる村雨の瞳が不安げに揺れるのが、まさか感動やら推しへの動揺やらだとは思うまい。
「そうですね…まず、女性の刀剣の存在は、まったくないとは言えないようです」
「そうなのか?」
予想外な答えがこんのすけから返ってくる。
牡丹の本丸や、知り合いの本丸では起こってなかったが、実は本当に極少数ではあるが女性として顕現した例を政府は把握していた。
「サーバーが異なるので、詳細までは不明ですが、何振りか女形での顕現が報告されています。…村雨殿」
「……なに」
「申し訳ありませんが、少しあなたについて教えていただけますか?」
簡単な自己紹介を求めるこんのすけに、村雨は素直にうなずいた。
「村雨、は村雨という。いつ打たれたかは、もう昔過ぎて思い出せないけど、確か、村が日照り続きで困っていたところに願掛けで村雨という名をつけたら、本当に雨が降ったことから、願いを叶える刀と言われている」
「まぁ、お願いを?」
「うん、気まぐれに叶えることも多いけど…願い次第かな」
すごいわねぇと笑う牡丹だが、薬研は少し眉を潜めた。
それは村雨から漂う妖気に対して。
「なぁ、そんな気配をしてるんだ。良いことばっかりって訳じゃないよな」
「……村雨は願いを叶える。その結果が良いことでも、悪いことでも…責任は願いを蒔いたものが刈り取ることになる」
「ということは、災厄となりえることもあるということでしょうか?」
「そうかも……でも、牡丹はそんなお願いを村雨にするの?」
村雨の質問に、薬研はからりと笑って言った。
「ないな」
こんのすけも便乗して。
「ないですねぇ」
そんな反応をされた牡丹は、あら、そうかしらぁと頬に手を当てて首を傾げているが、村雨からもこの主は人の不幸を願うようには見えなかった。
「なら問題ない」
そういうものかとこんのすけと薬研はお互いを見たが、まぁ良いかとため息をつくのだった。
「とりあえず、願いを叶える村雨って刀剣のデータはあるのか?」
「いま確認しますので、少々おまちください」
目を伏せるこんのすけは、村雨の目からはぬいぐるみのように見えている。できることならあの毛並みを堪能したいとすら考えているが、村雨とこんのすけの間には薬研がおり、下手に手を出せないので、仕方がなく残り少ない茶を啜るのだった。
こんのすけはちょこんとお座りした状態で、検索をかける。こんのすけのアクセスできるサーバー、複数ある他のサーバーへのアクセス権のあるこんのすけへの検索依頼、政府の個人データベースからのイレギュラー対応履歴など。しかし、結果は……
「申し訳ありません、いろいろ確認してみましたが、村雨殿の顕現履歴は見当たりませんでした……」
しょんぼりと耳を伏せてしまったこんのすけ。その姿に我慢できず、ずい、とこんのすけに近づき頭を撫でるのは、無表情な村雨である。
「しかたない。それに村雨は村雨という個だから想定内。願いを叶える刀がそこらへんにいっぱい転がっている方が問題だと思う」
その手つきはどこかぎこちないが、優しいものだった。
村雨の内心は、隙あり触れた!もっふもふー!……というのは内緒。
「ふふっ、ありがとうございます。───こうなってしまえば、あとは審神者さまと村雨殿との話し合い次第かと…」
「鴇はなんていってるんだ?」
「とき?」
聞き覚えのない名前に村雨はこんのすけの背を撫でながら薬研に声をかけた。
「あぁ、鴇ってのはうちの本丸の運営担当をしてる人間だ。今回の件も、念のためやつに意見を聞いといた方がなにかと良いだろうと思ってな」
「ふぅん。その鴇って人間は、牡丹より上なの?」
「うーん、上…というより、なぁ大将」
「そうねぇ、いろいろ助けてくれるお友達かしら」
「いや、それもちょっとな……」
「あら?私はお友達と思っていたのだけど、違うのかしら…」
ちょっとしょんぼりしてしまった老婆に、薬研は苦笑し、こんのすけはくすくすと笑っていた。
「鴇殿からは、審神者さまにおまかせする、とだけ。
政府からも村雨殿という新たな仲間が加わってくださると大変助かりますが、それはご本人さまに判断を御委ねします、とのことです」
「長年審神者をやってきたかいがあるってもんだな、たいしょ」
にんまりも笑って腕を組んだ薬研。牡丹はあらあらうふふと笑っていた。運営担当にも、政府からも信頼をされている様子に、なぜかこんのすけが、どやぁとして胸をはっているので、村雨はすかさず上がった顎のしたに手をやり、もふもふとくすぐった。
「はぅ、む、村雨どの…そこはぁぁ…」
こしょこしょと擽る村雨にこんのすけはふにゃりと力が抜けたようだ。
「こんのすけは可愛いね。毛づやも良いし」
最後に垂れた耳を触ってから手を離すと、にっこりとこんのすけはは笑い、毛繕いならおまかせください!と村雨を見上げて言うのだった。
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牡丹編:9
11月28日更新
「すっかりこんのすけを気に入ったみたいだな」
「うん、可愛い」
どこか満足気な村雨。
そんな会話をしていると、こちらに向かってくる足音が微かに届いた。
薬研はひょっこりと障子の向こうを覗くと、よっと片手を挙げた。
村雨は誰が来たのだろうと首を傾げるが、気配や繋がりをもつ牡丹達は見当がついている様子だ。
足音の正体は複数あり、開けたままだった障子の向こうから顔をだしたのは小さな少年達だった。
「あるじさまっもどりましたよー!」
「あ、あの、ただいま…です」
「あれ、お客さん?」
そこに現れたのは
「へぇ、こりゃ驚いた。女の客人なんていつ以来だ?……いや、人間じゃない、か?」
今剣の頭に腕を置いてこちらを覗きこんだのは、今剣と同じような白い髪をした青年、
その後ろにゆっくりと歩いてきたのは、なにやら頭からすっぽりと少し薄汚れた白い布をまとった青年、
この6振りは、今朝遠征に向かい帰ってきた第二部隊だ。
「主、報告はあとの方が良いかい?」
「そうねぇ、あとは村雨にどうしたいかを聞くだけなのだけど…」
「村雨?」
ちらりとこんのすけを撫でていた女性を見やる。
そして、ぱちりと、鶴丸と同じ、だがどこか少し金色というよりは蜂蜜を溶かしたような甘そうな瞳と目があった。
「
「男にゃ見えないな」
「女だからね」
村雨の返答に6振りはそれぞれの反応をする。
「へぇ、刀剣にも女がいるのか!そいつは知らなかった!」
「ぼくみたいに、女の子の格好じゃなくて、本当に女の子なんだ!」
と、驚きとともに興味を抱くもの。
「はじめてですね、こんなこと。むらさめはどうやってほんまるにきたんですか?」
「えと、よ、よろしくお願いします…?」
その存在に好意的に、または疑問を投げ掛けるもの。
そして。
「女が戦場にでるのか?」
「というか、そんななりで戦えんのか?」
という感想のもの。
それぞれの性格が現れる反応である。
そんな様子を眺めていた牡丹は、ぽん、とさも良いことを思い付いたといった風に手を叩いた。傍らにいた薬研や一番後ろにいた山姥切国広はひくりと頬がひきつる。
この主は時々突拍子のないことを言い出すのだ。
「ねぇ、同田貫、村雨と勝負してみない?」
「………はぁ?」
「…………おい、主…」
やっぱりなと、心の準備が整っていた刀剣は良いとして、村雨の内心は穏やかではない。ぴたりと体が固まっただけなので、回りは気づいてないが、背中に置かれた手のひらから、こんのすけだけはその様子を察するのだった。
「……村雨はまだ自分を扱ったことがない、勝負になるかわからない」
村雨のこの言葉が誤解を生んだ。
(戦ったことないし、刀振ったこともないし、ぜっったい負ける!負けるよ?!ぼろ敗けだよ!)
というのが村雨の本心だったのだが、ここにいる全員が同じように受け取った。
曰く、「まだ自分を振るったことがないから手加減できるかわからない。勝負にもならず相手を切ってしまうかもしれない」と。
これで、同田貫正国は喧嘩を売られたと認識した。
「……いい度胸じゃねぇか、いいぜ、相手になってやる」
真逆の意味で受け止められたことを知らない村雨は首をかしげた。
それが、さらなる誤解を生む。
「相手になれるの?」といった意味がこもっていると勝手に判断されるなんて想定外以外の何者でもないのだが、ここで誤解が生まれていることを知るものはいないため、だれも咎めることはなかった。
村雨本人だけが、あれ、なんで勝負することになってるんだ?!と内心悲鳴をあげていた。
こうして、第一回村雨との勝負祭りが開かれることになったのだった。
ちなみに、同じようなやり取りで今後も第二、第三と開催されることになろうとは、この時はだれも知るよしもない。
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牡丹編:10
動きが少なくてすみません…。
たぬき、ごめんね、
side:自分の話を、牡丹編に組み込む為、話数を変更しました。
11月28日更新
さて、審神者の提案と、村雨からの煽りも受けて(誤解だが)同田貫正国はそのまま庭へと降りていく。そして、村雨へくいっと顎をふった。
「移動は面倒だからな、ここでやるぞ」
さっさと降りてこい、と言う同田貫に村雨は暫くの沈黙の後、小さくため息を吐いて庭へ降りた。
村雨の頭には、戦えなさそうという気持ちと、ふと思い出した村雨の性質。意図せずなんでも壊してしまう、そういう刀であることへの不安が浮かび上がってきていた。
(昔、鴉の姿でも山の結界こわしちゃったしなぁ…刀合わせたら折れないかな……やっぱやばい??)
陰りを見せる村雨の表情。それに構わず同田貫は肩に担いでいた刀を鞘から抜いた。
「いくぜぇ」
「………(抜くとヤバそうだよね、さ、鞘ならまだ大丈夫かな、今回は鞘がなぜかあるからきっといけるはず…つーか、なんでそんなにヤル気満々なのさっ…しかたない、怖いけど派手に負けてやるわ!)どうぞお好きに」
その言葉を聞くや否や、同田貫はごうっと風を切り裂き刃を振り下ろした。
「………(やっぱ、痛いのやだーーっ)」
徐に村雨はその刃を自分の鞘で薙ぐ。
それからも同田貫の一陣を、端から見るとさも容易く(実際にはなんとかギリギリで)交わす彼女に鶴丸達は魅入っていく。まるで舞を踊るような、ひらひらと舞う紅の蝶。そこに墨で絵を描くように靡く腰までの髪は、同田貫とは違い、太陽の光を浴びて淡く群青に煌めいて。
「…っ、ならこれならどうだ!」
刀をすべて受け流していく村雨に業を煮やして、中段から下段に刃を閃かせた同田貫は、そのまま足元を狙う。
それをわかっていたのか、村雨は羽でも生えたかのようにふわりと浮かび、刀を避けて見せた。
いや、本当に羽根が生えた…。
ばさりと漆黒の羽根が。
「………は?」
「えっ」
「?!」
驚き動きが鈍くなった同田貫に、村雨は着地とともに鞘で彼の胴体を凪ぎ払った。
それは、鞘のはずなのに鋭く、鈍い音とともに同田貫は吹き飛ばされる。
ぐあっと呻き声をあげ、地に背中を打ち付けた同田貫を見て、村雨は静かに動きを止めた。
暫くの静寂。そのあと、咳き込みながら上体を起こす同田貫に、一同更なる驚きに包まれていた。
それに気づかず、村雨はこちらを見ている審神者に向き直る。
「………もう、いい?(終わって…疲れた)」
あらまぁ…と驚いている審神者は、声をかけられてそうねと頷いた。
「お疲れ様、同田貫は怪我していないかしら」
「…っ、打ち身程度だ、問題ねぇ」
あとで手入れ部屋ねと告げられ、くそっと悪態をついた彼は、立ちあがり村雨に近づく。
「おい」
「なに?」
「そんだけ強いんなら、俺ぁ文句は言わねぇよ。刀は強ければいいってもんだからな」
「……そう、(え、こういう刀だっけ、昔過ぎて覚えてない……)」
「それより、それ…」
「?」
同田貫の言葉が理解出来ず首をかしげた村雨に、他の刀剣達もわれ先にと声をかける。
「おっどろいたな、まさか、蝶じゃなく鳥だとは」
「ほんもの、ですよね?すごいです、はねがはえてます!」
もともと興味津々に彼女を見ていた鶴丸は、更に目を輝かせて。今剣はびょんぴょんと跳ねながら。五虎退は驚きすぎて、ぽかーーんと口を開けているが。いや、こんのすけも同じ反応なので、どこか共通するところがある。動物的なところが。
「……鳥…、村雨は鴉…だけど」
(あれ、でもなんで羽だけ?)
村雨本人も不思議そうにするが、それは驚いている刀剣達に向けられているとその場にいるものは勘違いしていく。さも当たり前のように表情を動かさない村雨が悪いのだが、村雨はそれに気づくことも勘違いされていることも今のところ気づくことはなかったのだった。
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牡丹編:11
11月28日更新
さて、その場を納めたのは審神者の牡丹だった。
戦えることを示した村雨のこれからの意思を確認するからと、鶴丸には仕事部屋へ。同田貫はもちろん手入れ部屋へ。他の第二部隊は解散を命じられた。
近侍の薬研と牡丹、村雨、こんのすけだけになり、再度それぞれ座して対面する。
「正直、まだ練度の低い村雨には酷なことをいってしまったと思っていたの、ごめんなさい。でも、あんなに強いだなんて驚いたわ」
そう先程の手合わせのことを牡丹は口にした。
それに薬研やこんのすけも同意を示しているようだ。
「しかし、どうして刀を抜かなかったんだ?」
「ん、えと……村雨は壊すのが得意だから、彼を折っちゃいそうで…」
「壊すのが…ですか?」
「うん、昔もほとんど無意識に結界とか色々壊してきてて、力加減とかもよくわかんないから…」
なるほど、とそこまですごい刀である村雨が仲間になってくれたら、どんなに心強いかと考えている牡丹達。でも村雨は、そーいえばと思考を遠くに飛ばしていた。
(お山や教会の結界壊したのは村雨だけど、他は信乃が使ってたから、信乃の意思を反映しただけだよなー…これって村雨がやったというより、信乃が無意識に村雨を使ってたからじゃない、よね?)
僅かに眉を潜めて下を向いた村雨を、牡丹達は不味いことを聞いてしまったかと、またもや勘違いする。いろいろなものを壊してきたことへの罪悪感やらを引き出してしまったのかと。実際は信乃のせいじゃない?的なことを考えているのだが、口にしないことでまたもや違う印象を与えてしまっているなどとは村雨は気づくことができないのだった。
「あ…」
「!…なんでしょうか」
「えと、本題、村雨を牡丹が使いたいか聞いてなかったから」
「なんだか、使うという意味が普通とは違うように聞こえるのですが…」
こんのすけがそう問いかける。
「うん、審神者としての契約はいいよ。手伝う。でも、村雨との契約は別にもあるから、願いがあるのか聞きたい」
「あー……その、村雨の契約ってぇのは、なにが違うんだ?」
「…村雨にお願いをして、村雨が応えるだけ。だけど、村雨が応えるかは気分次第だけど、牡丹は気に入ったから、内容次第で叶えてあげる」
「あら、まぁ…でも、私は一緒に時間遡行軍と戦ってくれるだけで、とっても助かるわ」
のんびりと応える牡丹の返答に、村雨は金の双眼を細めた。
「わかった。なら、できるだけがんばる」
「村雨殿、よろしくお願いいたします。鴇殿や政府への報告はわたくしからしておきますので、何かご不安な点がありましたら教えてください!」
「うふふ、こんのすけが報告してくれるなら、今日の政務も捗るから助かるわぁ」
「おいおい大将、あんまりのんびりしてると、また書類がたまっちまうぞ」
和やかな雰囲気が漂う部屋。
こうして、村雨の新たな生活が幕を開けるのだった。
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牡丹編:12
お待たせして申し訳ありません。
それから、村雨は頑張った。
女の身で、さらに精神は凡人ではあるが、村雨として過ごした長い日々を振り返り、これまでの主を思い出しながら。
遠いところまで来たものだと思いつつも、これから牡丹という新たな主のために。自分の手を汚すことにあまり抵抗を示さない凡人のような非凡な精神の彼女は、頑張ったのだ。
戦えるようにと自己鍛練を怠らず、毎日のように道場に通った。
(なぜか、その度に手合わせを望むものが群がることとなる)
また別の日には戦闘に出て、敵を凪ぎ払った。
(なぜか、味方の刀剣のピンチによく立ち会い、その後懐かれるというループが発生した)
またあるときは、審神者の実務の手伝いを行う。
どうも審神者業には波があり、山場になると、長谷部含め太刀を中心に紙媒体処理班とネット操作班に別れて手伝いを必要とする場面があった。
(もちろん村雨は前前世の現世の記憶より、ネットには慣れていることから、後者の班に属すのだが、なかなかネット操作出来るものは少なく、重宝されるのだった。)
…というような日々を過ごしながら、少しずつ牡丹の本丸に馴染んでいく村雨。
他の刀剣達も、最初は戸惑いがあったのだが、今では気軽に声を掛け合うようにもなったのだった。
牡丹の本丸は、多くの刀が存在する。
名前が覚えきれず何度も名前を確認するはめになったが、今ではある程度の仲を築き上げることもできた。
特に関わりを強く持ったのは、顕現当初を知る薬研と鶴丸である。いまは、第一部隊に配属されている村雨。変わらず第二部隊の隊長の鶴丸とは違い、薬研は同じ第一部隊員である。
(それに羨ましがる鶴丸を薬研は笑っていた)
村雨は始め、第三部隊で日替わりで様々な刀剣と組まされていたが、最終的に練度MAXとなった薙刀の
広範囲で攻撃できる彼との交代の理由は、村雨の戦い方にあった。
──────────
牡丹という審神者は驚いていた。
それは、村雨のステータスだ。
審神者には、こんのすけを通して自陣の刀剣達の強さを数値化する技能がある。
刀剣によっては数値という枠にあてられず、低、中、高の三段階にしか分けられないものもいる。
それは強さが定まらず、また古い刀剣や強すぎる刀剣に起こる現象だ。そしてそれは村雨にも当てはまってしまった。
これは初めて第三部隊で出陣をさせた後のこと。
その時のメンバーは、
─────────
太刀:村雨
打刀:へし切長谷部(隊長)、大倶利伽羅
脇差:鯰尾藤四郎
短刀:厚藤四郎、秋田藤四郎
─────────
この6振りであった。
隊長はへし切長谷部。
本当なら手合わせで多少スペックを読み取ることが可能なはずだったのだが、想定外に村雨は強く、本気になることもできずにいる様子から、早々に少しレベルの高い時代への任務に赴くように指示を出したのだった。
鯰尾や厚、秋田についてもレベルはそれなりに高いので、村雨の練度上げも兼ねている。
ちなみに大倶利伽羅は怪我からの復帰も兼ねて同行している。
さて、初の戦場は夜の三条大橋であった。
太刀である村雨は不利な夜間での戦だ。ちなみに自己申告として鴉である自分は夜目が効かないことは伝えてあったハズだが、いろいろなデータをとりたいとのことだったので、はじめに障害物の少ない橋での戦となった。
それに橋を越えるまでは短刀などのあまり強くない敵を相手取ることとなるので、瞬発力を含め村雨のステータス確認を行うこととなったのだった。
順調に、三条大橋を渡りきった先。
そんな中で村雨はやらかした。
彼女の一閃。鞘に納めた状態からの一太刀。漆黒の刃はまるで食い破るかのように敵全体を攻撃し、かつ、障害物である盾をも貫通して大将首を撃ち取ってしまったのだ。
これには同行していたものもぱかりと口を開けて呆けてしまった。相手は決して弱くない。それどころか高速槍もいたはずだったのにだ。
長谷部はすぐさま記録を録っていたこんのすけに、牡丹へデータを送るよう指示した。
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牡丹編:13
牡丹はこんのすけから送られてきたメールに気づき、なんともなしに開いた。
そこには村雨のステータスデータが記載されており、おもわず感嘆の声をあげてしまった。
そのメールは、以下の通りだった。
──────────
ご報告いたします。
村雨殿の現在のステータスは以下の通りです。
生存/中
打撃/中
統率/低
機動/高
衝力/高
範囲/縦横(薙刀+槍の範囲)
必殺/高(一撃必殺)
偵察/中
隠蔽/低
一撃で太刀や槍を含む敵を凪ぎ払い、大将首を落としました。
まだ本気ではないと思われますので、場合によっては上記以上の可能性があります。
──────────
「あらまぁ……」
「ん?どうしたんだ、大将」
そう声をかけて薬研は無言で差し出されたディスプレイを見た。
「……………………」
「………すごいわねぇ、」
まだ経験値を積んでないのにと珍しく驚いた表情の牡丹を横目に、薬研の頭の中は忙しく思考を巡らせていた。
「(機動が高い、それに必殺が異常、というかなんだこの範囲。縦横っておかしいだろ、どう見ても太刀にできることか?隠蔽が低いのはあれか、統率もあわせて当たらなきゃ倒せる的なやつなのか……)」
まじか、村雨……と、変なイメージを持たれたが、あながち間違いでもなかった。
村雨本人は無意識だが、攻撃力特化型のスピード重視なことは否定できない現実である。
薙刀と槍とをあわせ持つ範囲攻撃に、薬研は目を疑うが、何度見てもメールの文章はかわらない。
「はは、こりゃまた、すごい新入りが入ってきたもんだな」
「そうねぇ、帰ってきたら実際に見た皆の感想も聞いてみたいわ」
「確かにな」
そんなやり取りをしつつ、牡丹の指はディスプレイをポチポチと叩いている。
おそらく、こんのすけに返信しているのだろうが、なにを返しているのやらと薬研は苦笑しつつ、冷めた茶を啜るのだった。
──────────────
さて、急ぎメールを送ったこんのすけは、すぐに返ってきた返信に長谷部へと声をかけた。
「それで、主はなんと?」
「読み上げます。『なんだかすごいステータスだったわねぇ。皆からのお土産話を楽しみに待ってるわ。怪我の無いよう気を付けてね 牡丹』……と。」
「…………………あるじ…」
相も変わらず気の抜けた反応に、長谷部は肩を落とすが、すぐに頭を降り闇の先を見据えた。
現在はまだ戦闘区域だ。三条大橋を渡り終え、何度か戦いそろそろ戦も終盤となっている。
禍禍しい気は、長谷部の視線この先。闇の向こうにあるという状況だ。
仲間の状況も、掠り傷程度で疲労しているものもいない。村雨に関しては傷ひとつないという状態だ。
「敵が何であれ、斬るだけだ。全員いくぞ!」
長谷部の言葉に、皆力強くうなずいた。
闇の広がる道を進めば、鋭い槍が襲いかかってくる。
(ぎゃーっ!こっちくんなーーー!!)
という村雨の内心に答えるように、村雨本体をぶぉんという風を切り裂く音と共に、槍がスパンと切れ、そのまま相手をもさっくりと切り捨ててしまう村雨。
本人がどうあれ、端から見てればかなりの手練れに見えてしまうという不可抗力が働いてしまっている。また槍に狙われていたのは実は村雨ではなく大倶利伽羅だったので、彼を庇い、かつ、敵を凪ぎ払ったその背中が、いかに大きく優しいものに見えたかは、庇われた本人と短刀達のみしることとなる。
こうして村雨の意思とは関係なく、勘違いは広まっていくのだった。
ステータス補足。
例として、機動が高いとなっていますが、極め短刀には負けます。
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牡丹編:14
目の前に子供の成りをした少年がいる。
村雨はその少年の肩に鴉の姿で飛び乗り、キョロキョロとまわりに広がる出店を眺めた。
「なぁ村雨」
どこかぼんやりと、ゆらゆら揺れる大きな瞳。村雨は少年のその目が力強く輝くのが好きだった。
「なにー?シノ」
「おれさ、───────」
──────────────────
「………っ」
はっと瞼を開けると、まだ見慣れない木造の天井があった。
起き上がれば、牡丹の本丸で宛がわれた自分の部屋が広がっている。
まだ私物は少なく、広々とした部屋。
ぼんやりとそれを眺めながら、夢の中で信乃がなにを話したのか、あの先の言葉は何だったのか思い出そうとした。だが、いくら思考を巡らせても思い出せない。
単なる日常の会話だったのか、大切なことだったのか…見た目の変わらない少年の姿は、年月すら感じさせないため、余計にいつのことだったのかわからないのだ。
こうして、少しずつ忘れるの……?
その忘却というモノに、底知れぬ恐怖が芽生える。
村雨になる前のことは、もちろん覚えている。でも、その頃の名前、友達の好きだったもの、兄との最後の会話、少しずつ欠けていった『私』。そこに、信乃の笑顔、傍らの青年の苦笑、鬼の兄弟の漫才のようなやり取り、ふわふわした少女の歌声…───信乃を中心に広がる出会いが、『村雨』を形作った。
村雨はよかった。欠けたけど、得たモノがあった。
でも、信乃のいない『村雨』が欠けたらどうなるのだろうか。なにか残るものがあるのか。
───あぁ、なんで『村雨』は、ここに、いるの…
ふるりと頭を振った。
何を馬鹿なことを考えているのか。
いきなりの環境の変化で、思考がおかしくなっているんだ。頭を切り替えないと…
布団の上に上半身を起こしたままだったことに気付く。
外はまだ薄暗い。まだ朝早いようだ。
村雨は、早めに身支度を整え部屋を片付けると、静かに障子をひく。音もなく、横にすうっと動いた障子の向こうには、まだ朝日を待つ暁の庭。
音をたてることなく廊下へ進み出て、ばさりと漆黒の羽根を広げた。
そしてそのまま屋根の上へと移動し、藍色の空と霞む月を屋根の上にてぼんやりと眺めていた。
────────────
牡丹との契約は刀剣女士としてのものだ。それは降ろされた時に交わしたものだ。でも、村雨という刀は主の願いを叶える刀。代償が時にその主を呪い殺すものであっても、村雨とはそういう刀だ。
信乃の時はちょっとイレギュラー。時を定めない状態で、いや、今はそれは関係ないか。
とにかく、牡丹の願いをまだ叶えるという契約はしていない。
あの日、牡丹やこんのすけ、薬研と話をした結果、ひとまず普通の刀剣として生活を行うということで話がついた。
とりあえず、空が暮れてしまうということで、夕飯や風呂、部屋の割り当てなどやることが多く、ろくに他の刀剣と挨拶を交わすこともできないで部屋に上がってしまったのだった。
そのあとも刀剣が行うことや、本丸のルール、場所の把握などを説明してもらう日々。もちろん戦いにも出た。出てしまった。それはもう、無我夢中の時間だったが、周りはそう思わなかったらしく、なも知れぬ刀から称賛され、困ってしまった。(そのあと、きちんと自己紹介はした。後藤藤四郎というそうな。刀剣乱舞の記憶は薄れていることもあり、自分が推してた初期キャラクターしか覚えておらずちょっと申し訳なくなってしまった)
───そういえば、主が村雨のステータス見て、あらあらとか言ってたけど、そんなに低いステータスだったのだろうか…
明け始めた空を眺めながら、この生活が今後、どうなるのかと村雨は目を細目ながら思いを馳せるのだった。
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牡丹編:15
「あーー、こんなとこにいた!」
「む、村雨さん、探しました…」
ひょいっと屋根に身軽にあがってきたのは、乱藤四郎と五虎退の二人だ。
さすが短刀、動きも身軽だ。
「あっ羽根だしてる!さわらせてー♪」
無邪気に笑う乱は、村雨の漆黒の羽根を前に、手をワキワキさせながら笑った。
傍らにいる五虎退も、言葉にはしないが目を輝かせていた。
それを見て、小さく村雨は笑い片翼をふわりと広げてて招いた。
黒いもふっとした羽根に埋もれながら、きゃっきゃとはしゃく短刀の後ろからは、恐る恐る五匹の白い小虎が村雨に近づいてくる。村雨が本丸に来てからしばらくたつが、やはり動物は敏感なようで、村雨の放つ異様な力に身震いする。それでも、村雨の穏やかな性格を把握しているのか、一匹に続きもう一匹と最後には五虎退や乱と同じように羽根や村雨の膝にのり上がり気持ち良さそうにあくびをする。
戦場に片手で数える程度参加をしてから、本丸での知り合いも増えた。短刀始め、その兄(一期一振というそうだ。なんだかロイヤルだった)、大倶利伽羅を助けた(助けた記憶がないのだが)お礼をと眼帯のイケメン(燭台切光忠はやはり顔が良い。間違いない。)に感謝されたり。
なぜか村雨は範囲攻撃と本体直撃が出来るようで(槍と薙刀を合わせた感じか。火事場のなんたらで乗り気ったらステータスが縦横だったらしい。なにそれ。)槍や薙刀連中にも興味を抱かれたようで、やれ戦えと筋肉が迫ってくるようになってしまった。(まじこわい)
朝露が太陽に照らされる中、朝食の時間までまだあるなと思考し、ふとわざわざ自分を探しに来た様子だった二人に意識を向けた。
「そういえば、村雨になにか用事、あった?」
その一言に思わず二度寝しそうになっていた二人ははっとして、そうだったという表情を浮かべた。
実はこの二人、珍しく鍛練ではなく主である牡丹に朝から突撃をかまし、ついでにと村雨を呼んでくるように頼まれていたのだ。
「呼んでる?」
「うん、そろそろ慣れた頃だし、戦場以外のところに行く許可がでたりするんじゃないかなー」
「戦場以外?」
「は、はい…ここで生活している刀剣は、みんな、お小遣いを貰って、買い物とか、行ったりできるんです…」
なるほどと、まだ自分の荷物の少ない村雨は、買い物案が最適解ではないかと考えながら、わかったと膝に乗って丸まっている小虎をひと撫でしながら答えた。
「ならあまり待たせない方が良い、今から行ってくる───………」
そのまま立ち去ろうとする村雨を、二人の大きな瞳が見つめている。
(あれ、なんか期待の眼差し?え、どうしよう)
「二人も、くる?」
「いくー!」
「は、はい!」
ぴょんと片手を上げて立ち上がる乱に、村雨の膝に乗っていた小虎を抱えて立ち上がる五虎退。二人の顔には笑顔が浮かんでいる。
好意的な反応に(よかった)と胸を撫で下ろす村雨。
実年齢はあまり変わらないだろうけど、見た目小さい子どもなため、どうも調子が狂ってしまう。
(信乃も無言でうったえたりしてたなー…なつかしい)
ふわりと羽根を広げて屋根から降りる村雨と、後ろから身軽に危なげなく飛び降りる二人。
その足で、本丸の主である牡丹のもとへと歩を進めるのだった。
(しかし、今日日の子どもは身体能力が高過ぎやしないか?いや、信乃も乱たちも普通の子どもじゃないんだけどさ…)
そんなことを考えながら廊下を歩く村雨。
その背中は、羽根などもとからなかったように女性の細身な背中があるだけだった。
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