IS〜古都国最凶と蛇と成りて舞う一夏〜 (第八天黒鴉)
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第1部第0章 古都国最凶は一夏と出逢う〜プロローグ〜
プロローグ1


初投稿です。
至らない点もあると思いますが
生暖かく見守ってくれると幸いです。


5年前───アーカディア帝国

 

100年に渡り圧政を敷いてきたアーカディア帝国に突如訪れた破滅の日、アティスマータ伯主導によるクーデターは鎮圧するどころか規模が大きくなっていった。

城のあちこちから火の手が上がり地面には帝国軍のものと思われる装甲機竜(ドラグライド)の残骸が散らばっている。それに乗っていた機竜使い(ドラグナイト)は全員死亡している。

その数は優に500機は超えているだろう。

その惨劇を起こしたのは後に『黒き英雄』と呼ばれる事となる神装機竜1機だけによる物だった。

 

「ハァ、ハァ、まだだ、もっと引き付けないと」

「いたぞ!」

「あそこだ!」

「反逆者を捕らえろ!」

「クッ・・・!ハァァァ!」

 

しかし、連日戦い続けた彼は既に満身創痍だった。

そんな彼を嘲笑うように帝国軍の追っ手に囲まれた。

それでもアティスマータ伯のクーデターを成功させる為にと僅かな余力を振り絞り抵抗するが、多勢に無勢、少しずつ追い込まれていった。

 

(まずい・・・!?このままじゃやられるっ!?・・・そうしたらクーデターも失敗する!)

(ようや)く追い詰めたぜ反逆者」

「これでもう終わりだ!」

「んじゃまぁ、死ねや!!」

 

部隊長と思しき男がトドメを刺そうと《エクスワイバーン》の機竜牙剣(ブレード)を振り上げた瞬間、彼は死を受け入れようとした。

 

(ごめん・・・アイリ・・・)

 

ギャイィィィィィンッ!

 

諦めようとしたその時、凄まじい轟音と共に目の前を黒と紫の斬撃が通り過ぎた。

それだけで、()()()()()で帝国軍が半分以上絶命し、堕ちていった。

何が起こったの確認しようとした彼が横を向いたら、そこには居た。

銀色の装甲に隙間から走る紫色のライン、細長い長刀を携えた蛇神が──。

 

【よう、少年。だいぶ危なかったな】

 

いきなり聞こえてきた竜声、恐らく目の前の神装機竜だろうとすぐに彼は当たりを付ける。

その一言だけ呟いた後は長刀を横に一閃、残った帝国軍は全滅した。

それだけで目の前の神装機竜の殲滅能力の高さが伺える。

 

【貴方は何者だ。敵か?味方か?】

【敵か味方かと問われれば味方だ。だが協力するつもりはねぇ。ヤバくなったら助けてやる】

【・・・分かった。助けてもらった件があるから一先ず信用する】

 

帝国軍が全滅したことでできた余裕を使って会話を試みると返事は返ってきた。

落ち着いて聞くとその声は年若く自分より年上だが、大きく離れてないと彼は感じた。

協力するつもりはないと言う言葉に怪訝な表情をしながらも了承する。

 

【貴方のことを何と呼べばいい?】

【あ?んなモン機体色で良いだろ。つー理由(わけ)でおめェのことは『黒』って呼ぶから俺は『銀』って呼べ】

 

目の前の神装機竜改め銀はそう名乗った。

そう言い残した銀は何処かへ飛び立って行った。

 

 

数時間後───クーデターはアティスマータ伯側の勝利で幕を閉じた。

その後、黒い神装機竜は『黒き英雄』、銀色の神装機竜は『銀の厄災』と呼ばれるようになる。

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

5年後───■■■■■■王国

 

とある王国、とある場所で二人の男が居た。

片方は少年のように小柄な男で、もう片方が190cm程ある男だった。

 

「・・・という訳で、お前にはアティスマータ新王国に逝ってもらう」

「何がという訳だ、開口一番巫山戯(ふざけ)たこと抜かしてんじゃねぇぞ。てか、字がおかしくねぇか?」

「おかしくない、そしてこれは仕事だ俺の為に馬車馬の如く働け」

「まぁ、仕事ならしっかりこなすが理由を話せ。先ずはそっからだ。」

「不穏な動きがあると()()()から入ってきた」

「成程・・・アイツの話しなら信憑性が高いな。・・・んじゃ、行ってきますよ依頼主(クライアント)殿」

「フッ、期待してるぞ《死を想え(メメント・モリ)》」

 

《死を想え》と呼ばれた男は手早く荷造りをして早速出発しようとしたが、

 

「あぁ、言い忘れてたが、お前は向こうで何かしらの職に就いて怪しまれないようにしておけよ。」

「・・・・・そう言うのは先に言え。俺の戸籍なんかねェだろ、どうすんだ?」

「偽名でも使っておけ。その程度なら根回しをしといてやる」

「あっ、はい。そっすか」

 

出鼻をくじかれ、結構重要なことを簡単に返す依頼主に少し不安になる《死を想え》なのだった。




如何でしたか?改善点などが有れば是非教えてください。
良ければ次回も読んでくれると嬉しいです。

それでは、
また次回会えることを楽しみにしてます。


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プロローグ2

今回は少し長いです。
それでは。どうぞ


数日後───アティスマータ新王国・城塞都市(クロスフィード)

 

「待てぇぇぇ!!」

 

銀髪に黒い首輪を付けた少年─ルクス・アーカディアが屋根伝いに猫を追いかけていた。

 

「一宿一飯の恩なんだ!絶対取り返す!」

 

猫を捕まえることに夢中なのか、自分が何処を走っているのかよく分かっていないだけでなく、かなり大声で叫んでいた。

そんなことをすれば怒られる筈だが、何故か人の気配がしない。

 

「これで・・・あっ!」

 

逃がさないように回り込んで飛び掛ると分かっているぞと言わんばかりに躱されるが、ポシェットに手を伸ばし指を引っ掛けることに成功する。

 

「よかった、ちゃんと取り返せた」

 

ピシッ!!

 

ルクスが安堵したのも束の間、足下から罅割れるような嫌な音が鳴り出した。

 

「えっ?・・・ま、まさか・・・」

 

顔が青褪めつつも今すぐ退避しようとするが、呆気なく屋根は崩れていき、ルクスは落ちていった。

 

「あ、ああぁぁぁぁあっっ!!!?」

 

バシャァァァァアッ・・・・!!

 

落下したルクスは衝撃に備えようとするがそんな暇もなく着水した。

疑問を感じたが水から伝わる熱と、周りに漂う湯気から此処が浴場なのだとすぐに気付いた。

 

(と、取り敢えず謝らないと・・・!)

 

今すぐ謝罪しようとするルクスは天井の破片が自分の近くにいた小柄の少女に落ちてきていることに気付いた。

 

「危ないっ!」

 

反射的に身体が動いて彼女を突き飛ばし、覆い被さった。

 

「・・・・・」

「・・・・・」

『・・・・・』

 

ルクスは自分の下にいる少女を見る。

鮮やかな金髪、勝ち気な赤い瞳の少女。

色白の柔肌は入浴により上気し、頬も赤く染まっていた。

間違いなく美少女と言える彼女から立ち上る剣呑な気配にルクスは身動ぎひとつできずに固まった。

 

「・・・おい変態。死ぬ前に何か言うことはないか?」

 

引きつった顔から何とも物騒な言葉が飛び出す。

それも仕方ないことだろう。何せ、ルクスは乙女の柔肌を見てしまったのだから。

次の一言で自分の運命が決まるかもしれないと、混乱した頭をフル回転させる。

人間の脳は窮地に追い込まれると走馬灯を見るらしい。そして、ルクスの頭の中を駆け巡ったものの一つに酒場の店主が過ぎった。

 

(そうだ!店主が教えてくれた技術(テク)に女の子の容姿を褒めろってのがあった筈・・・!)

「・・・えっと、その。可愛いですよ。全体的に子供・・・いえ、まだ幼い感じなのに、胸は結構あって──エロいです。・・・・・ってあれっ!?」

(死んだ。何を言ってるんだ僕は!そういうことじゃないだろ!?誰だよ!?僕に間違ったテクを叩き込んだの!?あのエロ店主め!)

「・・・・・・ふっ」

 

それを聞いた少女は小さく苦笑した。

一瞬、満足したような笑顔を浮かべ、

 

「いつまで私の上に乗っている気だこの痴れ者があぁぁあぁぁっ!」

 

怒声を上げた。

 

「キャアアァァアアァッ!?」

 

それと同時に、浴場全体からも悲鳴が上がる。

裸体の少女達が、次々とその場にある物を、全力でルクスに投げつけてきた。

 

「ご、ごめんなさいいいいっ!」

 

ルクスは慌てて、逃亡を開始する。

涙目になりながらもポシェットを手に全速力で走りながら、弁明を試みる。

 

「こ、ここに入っちゃったのは、屋根が壊れたせいで、僕はただ、これを取り戻したかっただけで──」

 

そう言いながらポシェットを掲げると、走り出した拍子に口が空いたのか2枚の布がひらひらと落ちてきた。

下着だった。

下着だった。(大事な事なので2回)

ポシェットの中に入ってたのは上下白の下着だった。

 

(確かに、持ち主は女の子だったからその可能性もあったけど──)

「キャアァァアアァッ!下着ドロッ!覗きの上に下着泥だわ!」

「衛兵を、誰か早く衛兵を呼んでっ!」

「剣を取ってきて!今なら正当防衛が成立するわ!」

 

哀れ、ルクス。罪が増えた。

 

「ちょ、ちょっと待ってくださいっ!これは僕のものじゃなくて、その──通りがかった女の子のもので──!?」

 

必死に弁明しようとして、頭の回転がいつもより早くなっているルクスは気づく──何の言い訳にもなってないことに。

 

「何ていうかその、ごめんなさいっ!」

 

無理だと悟ったルクスは慌てて浴場を飛び出し、脱衣所を走り抜ける。

その際に脱ぎかけの少女がいた気がするが見なかったことにした。

 

「な、何でこんなことにっ・・・!?」

「誰か捕まえてっ!絶対に逃がしちゃだめよ!」

 

間一髪で危険地帯を抜けたルクスは、少女達に追われながらも全力で、見知らぬ建物を駆け抜ける。

そこらじゅうに明らかに高級品な絵画や調度品、絨毯があるこの建物に違和感を覚えた。

 

「この建物はもしかして──」

 

最初は大浴場付きの高級宿だと思っていたようだが、それにしては広すぎる。

まるでちょっとした王宮のような雰囲気だが、何故そんなものが城塞都市(クロスフィード)に──。

 

「あっ!いたわ!胸を触った痴漢はこっちよ!早く槍を持ってきて!」

 

思考の沼に入ろうとした時、正面に鉢合わせた少女が悲鳴を上げる。

冤罪まで増えたようだ。死刑は免れないだろう。

 

「ちょっ・・・!何で話が大きくなってるのっ!?」

 

身の潔白を証明したいなら逃げなければいいのに。悲しいかな、人は追われれば逃げたくなってしまうものなのだ。

逃げられれば追うように、追われれば逃げるのもまた、生物の本能なのだと悟りかけたルクスは、そんなことはどうでもいいとヤケになっていた。

 

「こうなったら、1回逃げ切って、落ち着いたら戻ってこようっ!」

 

ヤケクソ気味に叫びながらエントランスに辿り着くと、

 

「え──!?」

 

その光景にルクスは目を疑った。

吹き抜けの階段下、シャンデリアで飾られた、広い空間。

そこに見た目も雰囲気も違う三人の、帯剣した少女が立っていたのだから。

 

王立士官学園(アカデミー)校則、第十八条」

 

静かな声が、三人の真ん中に立つ蒼髪の少女から発せられる。

見た限り、年齢の違う三人に共通することは、身に纏った制服と剣帯だけだった。

 

「学園の内外を問わず、上官の許可なく機攻殻剣(ソード・デバイス)を抜くことを禁ずる。ただし現行犯の確認、あるいは自身に危険が及ぶ場合のみ、抜剣と装甲機竜(ドラグライド)使用を許可する」

 

広いエントランスによく通る声で、蒼髪の少女は微笑む。

それを聞いたルクスは弁明するかとも忘れ、混乱の中に叩き込まれた。

 

(今、なんて言った?機攻殻剣と──装甲機竜だって?どうしてその名がこんな少女達から──?)

 

「ふうむ。変態にしては今までで一番いい顔つきをしているな。私の見合い候補に加えてもいいくらいだ」

「そんなことより、すみません。さっき、なんて──?」

 

ぶつぶつ呟くリーダー格と思われる蒼髪の少女に問いかけるが─

 

「だが、残念だったな。この女子寮に忍び込み、私達──三和音(トライアド)に見つかり、逃げおおせた変態はいないのだ!」

「ダメだこの人!話聞かないタイプだっ!?って、えっ!?女子寮?」

「行くぞ。ティルファー!ノクト!」

「おっけー!」

「Yes. ですが、一応気をつけてください。シャリス」

 

シャリスと呼ばれた蒼髪の少女と、その両脇に佇んでいた、2人の少女。その三人が、一斉に剣を抜き払った。

鈍色の刀身に、輝く銀線が浮かんだ剣──それは、見間違う筈もなく機攻殻剣だ。

 

「そんなっ!まさかっ!?」

 

ルクスが驚愕に目を見開いたとき、声が聞こえた。

 

「──来たれ、力の象徴たる紋章の翼竜。我が剣に従い飛翔せよ、《ワイバーン》!」

 

同時に、振るった剣先の空間が揺らめき、歪む。

そこに高速で集まる光の粒。それは、淡い光を放ち、うねりを帯びて、ひとつの実体を形成する。

現れたのは、竜。人を二回りほど大きくしたような、機械の竜だった。

鋭角な金属が無数に折り重なった、流線型のフォルム。

その表面の光沢は、使い込まれたかのように、禍々しくも美しい。

 

「装甲機竜!?どうして──」

 

装甲機竜(ドラグライド)

それは、世界に七つ発見された遺跡(ルイン)でのみ発掘される古代兵器。その威力は数百年で培ってきた戦争概念を一瞬で覆す程の超兵器だった。

そんな代物を使いこなせる人間は機竜使い(ドラグナイト)と呼ばれ、育成は急務だった。

だが、装甲機竜は希少かつ高価で一部の人間にしか持つことはできない。

それを、何故持っているのか疑問に思っている隙に──。

 

接続(コネクト)開始(オン)

 

シャリスが呟き、蒼い流線型の機械から無数の部品(パーツ)が展開される。

両腕、両脚、胴、頭と部品が向かい、高速で装着される。

竜の形をしていたものは瞬く間に装甲と化した。

 

「まさか、此処が何処だか分からず忍び込んだとでも?すっとぼけずに諦めたまえ変質者くん。今なら一発殴るだけで済ませよう」

「覗きは犯罪だよー」

「Yes.どちらにしろ、処罰します」

「そんなもので殴られたら、僕死んじゃうんですけどっ!?」

 

シャリスの言葉に、軽い調子のティルファーと、冷静な雰囲気のノクトが同意するので、ルクスは慌ててツッコミを入れる。

二人もそれぞれ、別種の機竜を身に纏い、構えを取った。

 

「・・・・・って、ヤバい!?ホントにヤバい!?」

 

生身の人間相手に向けるものじゃない装備を向けられて本気で焦るルクス。

そんなルクスに《ワイバーン》を身に纏ったシャリスが床を蹴り、飛翔し、接近する。一階から二階の吹き抜けにいるルクスへ一瞬で近づくと、腕を大きく振りかぶり手刀を叩きつけた。

 

「うわああぁあっ!?」

 

ルクスは咄嗟に横転して躱すことで難を逃れた。

回避はできたが木製の手すりが砕け散った。

 

「しまったっ!スピードを抑え過ぎたか?」

「違いますっ!パワー出し過ぎです!って言うか、驚くとこそこですかっ!」

 

見当違いの驚きを見せるシャリスにツッコミを入れつつ、ルクスは階段を転げるようにして降りる。

すると、入口にいた陸戦用の装甲機竜。《ワイアーム》を装着したティルファーが行く手を塞いできた。

 

「あーあー、てすてす。そこの変態さんに告ぐ。今なら罪は軽いよー?」

「既に並の刑罰より重い扱いなんですけど!?」

 

何で、彼女達はこんなにツッコミ所が多いんだと思いつつもルクスは考える。

屋内では飛翔能力を生かせず、行動の足枷になる。

故に飛翔汎用機竜《ワイバーン》はいいのたが、こちらは危ない。

厚い装甲に覆われた四肢は、複数の可変フレームにより高い機動性を持ち、パワーを漲らせている。

陸戦汎用機竜《ワイアーム》は、近接戦闘に最も適した性質を持つ機竜だからだ。

 

「何でもいいから、大人しくしなよ。変に暴れるとかえって危ないんだよっ」

「このままじゃむしろ殺されますって!?」

 

ルクスは行く手を塞がれた階段を降りずに、手すりに足をかけ、一階へ飛び降りた。

だが──、

 

「おおっと!ここは通さないよー!」

 

強気な笑みを浮かべ、瞬時に立ちはだかる。

階段の手すりを軸に側転し、着地。

 

「てやっ」

 

軽い掛け声と共にその剛腕が振り下ろされた。

バァン!という破砕音が鳴り響き、木製の床が砕け、粉塵が舞い上がった。

 

「・・・・・あれ?」

 

ティルファーが鉄拳を見舞った床を見て、首を傾げる。

いない。

たった今、目の前で驚かせた筈のルクスの姿が。

 

「床下だ!ティルファー!」

「えっ・・・・・?」

 

シャリスの凛とした声が床下を走るルクスにも届いた。

威嚇のために繰り出した一撃。

それが作った穴の中へ潜り、床下に逃れていたのだ。

 

「追うなよ、ティルファー」

 

指摘されたティルファーが不満そうに床の穴を覗き込むと、シャリスの冷静な声がティルファーを止めた。

 

「いくら小回りの利く《ワイアーム》でも、この床下は狭すぎる。これ以上量を壊せば始末書ものだ。私も、もう追わない」

「でもでも!このまま逃したら──」

「安心しろ、ノクトが既に動いている。取り逃しはしない」

 

シャリスはティルファーを宥めつつ、周囲に視線を彷徨(さまよ)わせる。

 

「だが、どういうことだ?生身で逃げ切るだと・・・・。あの動き。まるで、私達三種の機竜特性を瞬時に見抜いたように──」

 

普段は自身たっぷりな彼女の困惑にティルファーは首を傾げる。

 

「んん?どしたの?シャリス」

「白銀の髪に、黒の首輪。まさか、あの少年は──?」

 

何時になく真剣な声色(こわいろ)で呟いた。




如何でしたか?

それでは、
次回会えることを楽しみにしています。


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プロローグ3

キリがいいところで区切っているので、
キリが悪いです。

それではどうぞ


「うあわあぁぁあぁあっ!」

 

建物の外へ抜けたルクスは、土の道を疾走する。

二機の機竜から逃れられたと思ったのも束の間。

特装汎用機竜《ドレイク》を纏った3人目の少女──ノクトが追いかけてきた。

飛翔型の《ワイバーン》、陸戦型の《ワイアーム》に対し、特装型に分類される《ドレイク》は、迷彩、索敵、支援、補助、修復など特殊機能を備えた機体は、基本性能こそやや低めだが、特定状況下では他の二種を凌駕する。

頭部に装着したゴーグルにより、暗闇の中でもはっきりとルクスを視認できるため、ノクトは正確に追いかけてきた。

 

「止まりない。止まらなければ撃ちます。止まってくれれば優しく撃ちます。」

 

冷静な口調で有り得ないことを口走るノクト。

スピードは言うまでもなく、ノクトの方が速いが、ルクスは木々の多い茂みを縫うようにして走ることで追走の勢いを削いでいた。

そんな彼女に振り向かずに訪ねた。

 

「優しくって、どういうこと!?」

「Yes.死なないといいなぁ。的な意味です」

「気持ちだけの問題だったんだ!?」

「Yes.あと、なるべく苦しまないといいなぁ。的な意味でもあります」

「何でもう殺してもやむなしって空気なの!?」

 

ルクスに止まれない理由ができた。

止まったらほぼ確実に殺されるだろう。

あと、正体がバレたらとんでもないことになるだろう。

 

「Yes.──なら、仕方ありませんね」

 

物騒な呟きを漏らすと共に機竜息銃(ブレスガン)を構える。

機竜使い(ドラグナイト)としては低威力だが、生身で喰らえばひとたまりもない。

トリガーを引く気配を察したルクスは斜め前方へ飛ぶ。

姿を隠すための暗闇から、明るく照らされた正門への道へ。

そこには、通り道を照らすための篝火があった。

 

「ッ・・・・・!?」

 

瞬間、ノクトは装甲のゴーグルを、自分の手で遮った。

感度を上げた視界では眩し過ぎたからだ。

 

「Yes.《ドレイク》特性は知っているようですね。ですが、それだけじゃ──」

 

すぐに《ドレイク》の視界感度を調整し、再び機竜息銃(ブレスガン)照準を合わせるため、手で覆っていた顔を晒したとき、

 

「──!?」

 

眼前に火が迫っていた。

篝火の一部であった、一本の薪。それを掴んだルクスが、後方のノクトに向けて投げていたのだ。

 

「くうっ・・・・」

 

慌てて装甲腕を振るい、薪を弾く。

本来、攻撃にもならない目眩しの投擲。

だが、急停止した僅かな隙に正門近くの道に辿り着く。

ちょうどそのとき、ノクト達と同じ制服を着た少女が、ゆっくりと正門から女子寮へ歩いてきた。

巻き添えにする危険がある以上、撃つことはできない。

頭の片隅でそう考えながら、ノクトは驚愕していた。

 

「どうして?有り得ない・・・・、です」

 

いくら手加減をしていたとはいえ、生身で機竜使い三人から逃げおおせるとは思えない。

 

「何者ですか?あの少年は──」

 

「よかった、これで何とか──」

 

背後でノクトが銃を下ろすのを、ルクスは軽く振り返って確認する。

このまま逃げていいわけないのだが、背に腹はかえられないんだろう。

そう思ったとき、気づけば目の前に少女がいた。

美しい少女だった。

すらりとした細身の身体と、端正な顔立ちに、冷たい瞳。

まるで完璧な美術品のように、そこに立っていた。

 

「追わなくていいわ。私が止めるから」

「クルルシファー、さん・・・」

 

目の前の少女は、軽く右手を上げて、後方のノクトに声をかける。

あまりに迷いのない動作に、ルクスは思わず足を止めてしまった。

 

「はぁ、はぁ・・・・。あの・・・・これは、誤解で──」

 

建物から聞こえてくる悲鳴を背に誤解を解こうとする。

 

「ええ、分かっているわ。随分可愛らしい覗き魔で、痴漢の下着ドロなのね。まだ子供じゃない」

「えっ・・・!?いや、違・・・・、僕は──」

 

すっかり誤解されてしまっているが、それよりも気になることがある。

動揺しつつも、気にしてることを言われルクスはカチンときていた。

確かに、同年代と比べたら小柄だが、目の前の少女と同じ年頃のはずだ。

なのに──。

 

「・・・・・これでも僕は十七歳なんだけど?そりゃ、顔は幼いって、よく言われるけど──」

 

自らの置かれた状況を忘れ、ルクスは反論する。

妖精のような少女は、ふいに悲しげな表情を見せた。

「・・・・・そう。でもごめんなさい。いくら子供でも、犯罪者を見逃すわけにはいかないのよ。」

「こ、子供子供って、さっきから人が気にしてることをっ・・・・!?」

 

この騒動(トラブル)とは無関係の部分で、ルクスは更に心を抉られる。

これでもルクスは、毎日牛乳を飲んでいるのに身長が全く伸びないことを、割と本気で危惧しているのだ。

いきなり大浴場に突っ込んで言い訳できてない自分が全面的に悪いのは分かる。

それでも、子供扱いされて全く気にしないほど大人になりきれていないのだ。これは、本人のプライドの問題だった。

白兵戦の訓練だって、それなりに積んできたつもりだ。

なら──。

その子供でもそれなりにできるってところを見せようと意気込む。

もちろん、ビビりなルクスに女性に手を上げる気概など、ある筈もないので、逃げに(てっ)することは確定しているが──。

 

「・・・・・・はっ!」

 

気合を込めて、ルクスは勝負を仕掛ける。

フェイントを左にかけ、ターンして右へ。

抜きさった、とルクスが確信した瞬間──、

 

「──甘いわね」

 

クルルシファーと呼ばれた少女の声と同時に、天地が逆転した。

 

「え──!?」

 

疑問を感じる間をなく、全身に衝撃が走る。

それが、クルルシファーに投げ飛ばされた衝撃だと気づくのにそう時間は掛からなかった。

 

「それじゃ、後は任せたわ。私はお風呂に行ってくるけど、もう覗き魔はいないわよね?」

 

淡々とした声が聞こえた直後、ルクスの視界が暗転する。

こうして、自身に降りかかった不幸を、経験と知識で乗り越えようとしたルクスの逃走劇は、呆気なく幕を閉じた。




これでプロローグは終了です。
次回から本格的に始まると思います。

それでは、
また次回会えることを楽しみにしています。


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第1章〜再会する『黒き英雄』と『銀の厄災』〜
第1話 巡り逢う者・動き出す歯車


はい。
今回から物語が動き出します。

感想なんかを頂けたら嬉しいな〜、
とか思ってます。
誤字脱字報告も待ってます。

それではどうぞ


翌日───城塞都市(クロスフィード)

 

「ここが新王国の城塞都市(クロスフィード)か。初めて来たけど、案外広いもんだな」

 

朝から賑わいを見せ始める街に、一人の大柄な男が立っていた。

この国では珍しい黒髪黒目に、これまた珍しい黒コートを着込み、物珍しそうに辺りを見回している。

目立ちそうなものだが、何故か人々は彼に目を向けない。

まるで──、

()()()()()()()()()()()()()()

 

「さて、と。あの野郎に渡された紙によると、仕事場は王立士官学園(アカデミー)の機竜整備士で、偽名はジークフリート・エーレンブルグ。・・・・語呂悪くねぇか?──ん?えっと、『採用面接があるからあとは自分でどうにかしろ』、だと?巫山戯(ふざけ)んなよ」

 

何とも無責任な物言いに若干苛立ちながらも、男─ジークフリートは歩き出す。

 

「仕事は仕事だ。しっかりこなしますかね。先ずは王立士官学園(アカデミー)に向かうか」

 

そう言いながら、人混みに紛れるように姿を消した。

 

 

●◯●◯●◯●◯●◯

 

 

「はぁ・・・・やっちゃったなぁ」

 

薄暗い地下室で目を覚ましたルクスはそう言葉をこぼした。

石壁と鉄格子で囲われた、簡素な独房。

手枷や足枷は付けられていなかったが、所持品は全て没収されていた。

腰に差していた二本の機攻殻剣(ソード・デバイス)はもちろん。ナイフや工具一式などの、逃亡の手助けになりそうなものもなくなっている。

 

「まいったなぁ。今日も仕事の予約が入ってたのに・・・・、」

 

ため息を一つして、よくよく考えればそれどころではないことに気づく。

 

「ていうか、僕の正体も完全にバレたよなぁ・・・・」

 

ルクスの特徴的な白銀の髪。そして、新王国の恩赦を受けた『咎人』を示す、黒い首輪。

これだけで、既に素性は特定されてしまっただろう。

永きに渡り圧政を敷いたアーカディア旧帝国。

その生き残りの皇族であるルクスに課せられた釈放の条件とは、「あらゆる国民の雑用を引き受ける」というものだった。

雑用の内容は多岐にわたるが、『便利なヤツだ』と認められ、一ヶ月後のスケジュールまでみっちり詰まっていた。

今回も新しい依頼をこなすため、ある場所に向かう予定だったのだが──。

 

「どうみても、仕事に間に合わないよなぁ・・・・」

 

唯一没収されなかった手帳を見ながら、ルクスはぼやく

 

「一度約束した仕事をすっぽかすと、借金がまた増えちゃうしなぁ。一体どうしたら──」

「お目覚めかな?王子様」

「うわっ・・・・!?」

 

ふいに聞こえたこえに、ルクスはドキッとする。

声のした方に目を向けると、いつの間にか一人の少女が立っていた。

一部を黒のリボンでくくった金髪と、剣先のように鋭い真紅の瞳。

白を基調とした制服に身を包み、どこか影のある笑みを見せている。

 

「えっと、君は──」

 

やや身長が低めのルクスより、更に小柄な少女。

にも関わらず、少女の存在感は恐ろしく強かった。

不敵で、絶対的で、強烈な自身をまとっている。

 

「昨晩は助けてくれてありがとう。ついでに、素晴らしい口説き文句だったぞ?思わず惚れてしまいそうになるほどにな」

「・・・・ああっ!?」

 

瞬間、ルクスは声を上げる。

昨晩、ルクスが浴場に落ちた際に、勢いで組み伏せてしまった、(くだん)の少女だった。

少女の怒気を孕んだ気配に、ルクスは冷や汗が流れた。

 

「ふっ。まあお前に言いたいことは死ぬ程あるけどな。その前に学園長から話があるそうだ。ついて来い」

 

金髪の少女は牢の鍵を開けながら告げる。

 

「・・・・学園長、って?」

「ほう。純朴そうな顔をして、口も立つようだな。知らずに忍び込んだとでも言うつもりか?この学園(アカデミー)の女子寮に」

「え、ええぇぇえぇえっ!?」

 

少女の返答にルクスは驚きの声を上げる。

慌てて手帳を開き、今日の日付を確認する。

 

【仕事場】城塞都市(クロスフィード)王立士官学園(アカデミー)

【依頼主】学園長、レリィ・アイングラム

【仕事内容】新王国・第4機竜格納庫の機竜整備

 

「ま、まさかここって。僕が今回、働きに来る予定だった──」

 

アティスマータ新王国が設立した、機竜使い(ドラグナイト)の女学園。

昨日、襲い掛かってきた少女達が、機竜を使っていたのはそのせいか。

それに、今更気づいたルクスが、半ば呆然と立ち竦んでいると、

 

「リーズシャルテ・アティスマータ」

「え・・・・?」

「私の名だよ。新王国第一王女──通称、朱の戦姫。お前の帝国を五年前に滅ぼした新王国の姫だ。よろしくな、()()()

 

ぽん、とにこやかに少女から肩を叩かれる。

その目は半分笑っていなかったが。

 

「ええぇぇえぇぇえっ!?」

 

再び、ルクスの絶叫が地下室に反響した。

 

 

●◯●◯●◯●◯●◯

 

 

「それじゃ結局、今回のは不幸な事故、ということでいいのよね?ルクス・アーカディア君?」

 

学園長室へ通されたルクスはこれまでの経緯を話すと同時に、仕事場であるこの学園の説明を、学園長のレリィから受けていた。

ここは、新王国が管理する、機竜使い(ドラグナイト)士官候補生の学園。

いわゆる士官を育成する場所であり──。

 

装甲機竜(ドラグライド)に携わる人間を育成する学園、ですか・・・?」

「そういうことになるわね」

 

装甲機竜(ドラグライド)構造(メカニズム)はまだ殆ど解明されていない。

遺跡(ルイン)で発掘された古代兵器であることと、ある事情によって、遺跡(ルイン)の調査自体が中々進んでいないのが主な原因だ。

だがそれでも、『技術が解明しきれていない』という理由から使用を控えるには、あまりに途方もない力を秘めていた。

 

装甲機竜(ドラグライド)が、遺跡(ルイン)より発見されて十余年。私達女性は旧帝国が敷いてきた男尊女卑の風潮と制度により、その使用は、ほとんど禁じられていたわ。でも──」

 

レリィが言葉を区切ったところで、ルクスの隣に立っていたリーズシャルテが口を開く。

 

「五年前のクーデターで新王国が設立したのを境に、その認識は一変。操縦に使う運動適性はともかく、機体制御自体の相性適性は、女の方が遥かに上というデータが報告され、以後、専門の育成機関で、他国に負けない機竜使い(ドラグナイト)の士官を揃えるべく、その育成に力を注いでいる──というわけだな」

「ええ、その通りです」

 

その辺の事情や、機竜使い(ドラグナイト)の育成機関があることはくらいは、ルクスも知っていた。

 

「で、でも、何で僕なんかが呼ばれたんですか?」

 

仕事の依頼について、困惑した表情で聞くと──、

 

「あらあら。かの『無敗の最弱』ともあろうものが、随分と謙遜するのね」

 

『無敗の最弱』とは、王都のコロシアムで定期的に行われる公式模擬戦(トーナメント)

戦績によっては賞金も出るその場で、最多の出場回数を誇り、その戦闘スタイルからルクスに付けられた異名であるが──。

 

「この学園でも屈指の実力を使い手であるリーズシャルテさんにも劣らない実力でしょう?決して場違いな仕事じゃないと思うけれど?」

「ほう・・・・」

 

レリィの言葉が不服だったのか、リーズシャルテの肩がぴくっと震える。

 

(あ、これ。地雷踏んだかも・・・・)

「そ、そういうことじゃなくて、ここって女学園ですし、僕が仕事なんて──」

「残念だけど、人手が足りないのよ」

 

ルクスが反論する前にレリィが答える。

 

機竜使い(ドラグナイト)の歴史はまだ浅いでしょう?長年、装甲機竜(ドラグライド)を独占してた旧帝国の使い手は、大半がクーデターで死んでしまったし。となれば、不本意といえど、男の協力者を招くしかないのよ。機竜整備士も機竜使い(ドラグナイト)もね」

「・・・・僕は、整備の方はほとんどできませんよ?」

「これから覚えてくれればいいわ。使い手として予備知識があるだけでも貴重なのよ」

 

レリィは即答する。何がなんでもここで仕事をして貰いたいようだ。

まるで、婚期目前の女が男を狙う、必死さのような執念を感じる。

 

「この学園の敷地内にある、新王国第4機竜格納庫。あなたの働き口はそこだから、今日から週三回、通ってもらうわ。汚れるし、重労働だし、怪我の危険もあるわ。良家のお嬢様達にそんな仕事させられないでしょう。あなたも男冥利(おとこみょうり)に尽きると思わない?それに、整備士が一人住み込みで増える予定だから安心して」

 

からかうような声で、レリィは微笑んだ。

 

「・・・・・・・」

(相変わらず、強引な人だなぁ・・・)

 

と、ルクスは苦笑いを浮かべる。

内心でため息をついてると、レリィはひとつ、深呼吸をして、

 

機竜使い(ドラグナイト)としてのお仕事も、考えているから、それもいずれ──ね」

 

そう、話がまとまろうとしたとき、

 

「学園長。少しいいか?」

 

ふいに、リーズシャルテが手を突き出し、話に割り込んできた。

 

「話は分かった。だが、()()はまだ、この男を認めたわけではないのだが?」

 

その口端は、微かな笑みを作っていた。

 

「・・・・・・」

 

ほんとにお姫様何だろうか、この子。などと、失礼なことを考えるルクスをよそに──、

 

「私の疑いは晴れていないぞ。この男は覗き魔、痴漢、下着ドロの変態で犯罪者だ。そんな『男』をこの学園で働かせるなど有り得ないな。というか、先ずは軍に突き出す方が先だ。司法の場で裁かれ、臭い飯を数年食ってから外の空気を吸うがいい!」

「い、いえっ、ですからそれは誤解で──!?」

 

ルクスは反論しようとするが、一睨みされただけで、口を噤んだ。

 

「なるほど、猫を追って偶然風呂場に乱入したと言っていたな。だが、それはどう証明する気なんだ?学園長。信用に足らない犯罪者を匿うのは、かえって危険だと思うが?」

 

「そうねぇ。私は付き合いがあったから、ルクス君のことはよく知っているけど──」

レリィは、苦笑しながら答える。

 

「今回の騒ぎを、本当に偶然起こしたと、断言はこれっぽっちもできないものね」

「そこは断言してくださいよ!?」

 

やや涙目で、ルクスは訴える。

ここに味方はいないようだ。

 

「でも実際、故意かどうかと言われると、誰にも証明できないのよね。なら、本件の被害者でもあり、二年の首席であるリーズシャルテさん。彼の処分は、あなたの裁量に任せてもよろしいかしら?」

「えええっ!?」

(何で任せちゃうんですか!?)

 

という魂の叫びは、誰にも聞かれることなく、ルクスの中で消化される。

ルクスは新王国設立時の恩赦として、仮釈放されてはいるが、同時に交わした契約で、国家予算の五分の一に相当する額の借金を負わされている。

そんな『咎人』のルクスが、更に犯罪者になるのは、とても都合が悪いのだが──。

 

「ふっ」

 

ルクスが慌てるのを見たリーズシャルテは、小さく鼻で笑い、

 

「じゃあ、そうだな。ではお前にも一度、名誉挽回の機会をくれてやろう」

「・・・・えっ?」

「お前が本当に『男』の機竜使い(ドラグナイト)として、この学園で働くほどの価値があるヤツか。単なる変態じゃないのか。その気概と実力を私が試してやる。」

「それは、あまりにも横暴な勝負だな。新王国の姫さんよぉ?」

『っ!?』

 

突如、学園長室に響く若い男の声。

全員が入口に顔を向けると、扉はいつの間にか開いており、一人の男と少し離れたところに学園の生徒が大勢立っていた。

 

「貴様、何者だ!侵入者かっ!」

 

リーズシャルテが、男に問うと──。

 

「あ?・・・・整備士の面接に来たモンだ。門番には話を通してるぞ」

 

そう言って、男は許可証を掲げた。

 

「あら、もうそんな時間?ごめんなさいね少し、待ってもらえるかしら?」

「・・・・私が横暴とはどういうことだ?」

 

レリィは悪びれずに答え、リーズシャルテが先程の男の発言に突っかかる。

 

「どうもこうもねぇよ。てめぇは試すと言った。それはつまり、そこの雑用王子が勝とうが負けようが、認めないと言えばそれでお終いなんだよ。」

 

確かにその通りだが、リーズシャルテがそんな大人気(おとなげ)ないことをするとも思えない。と、ルクスは感じた。

 

「・・・・いいだろう。私に勝てば無罪放免で働いてよし。勝負は装甲機竜(ドラグライド)を使った短時間一騎打ちの模擬戦。それでいいな?」

 

最後の一言は部屋の外にいた生徒達に向けて放たれたものだろう。

 

「学園の皆に伝えろ。観客は多いほどいいぞ。新王国の姫が、旧帝国の王子をやっつける見世物はな」

 

きゃああああっ。

と、それを聞いた女生徒たちは楽しそうな声を上げて去っていく。

 

「自信満々だねぇ?負けたときに恥ずかしいぞ」

「いちいち癪に障る男だな・・・・、貴様は」

 

いやらしい笑みを見せる男に、一言残してから部屋から出ていくリーズシャルテ。

 

(何か、この二人の喧嘩みたいになっちゃってない・・・?)

 

話に置いてかれ、ルクスは諦めつつも苦笑する。

 

「ところで、ルクス君。彼の面接があるから、貴方にも出ていってもらわなきゃなんだけど、決闘の前に寄って欲しい場所があるの」

「えっと・・・・どこにですか?」

「すぐ近くの応接室よ。あなたの妹さんが、そこで待ってるわ」

「──えっ?」

 

驚きの声を上げるルクスに、レリィはただ、微笑を返した。

 

 

●◯●◯●◯●◯●◯

 

 

ルクスも退室したことで、この場に残ったのは学園長とジークフリートの二人のみ。

お互い、面接をするとは思えないほど自然体だった。

 

「それじゃ、面接を始めましょうか。ジークフリートさん?」

「はい。そうですね」

 

先程の会話が嘘のように丁寧な口調で返すジークフリートに、レリィは少し驚いた表情を見せる。

 

「──切り替えがはっきりとしてるのね」

「よく言われますよ。最低限の礼節ぐらいなら、出来て当然かと・・・・」

 

すぐに顔を引き締めて彼に聞くと、この程度は当り前と返ってきた。

 

「機竜の整備経験はあるかしら?」

「標準的な調律から、微調整、複雑な調律など一通りはできます」

「へぇ・・・・。それは頼もしいわね」

 

想像以上の腕前に、少々粗暴なところが目立つがメリハリのついた接し方。仕事場の人達とも上手くやれそうな彼は採用か。と、レリィはそこまで考えたところであることに気づく。

 

「その腰に差しているのって、機攻殻剣(ソード・デバイス)よね?見たところ、普通の機攻殻剣(ソード・デバイス)じゃないみたいだけど──貴方は使えるのかしら?」

 

彼の腰には棒状の物が布に(くる)まれた状態で差してあったのだ。

その形状から機攻殻剣(ソード・デバイス)──それも、恐らく神装機竜のモノと思われた。

その事を彼に尋ねると、彼は懐かしいような、悲しいような表情を見せた。

 

「これは・・・・、知り合いに託されたモノなんです。確かに、神装機竜の機攻殻剣(ソード・デバイス)ですが、俺には使えませんよ」

 

死を想え(メメント・モリ)》であるこの男が、自分の神装機竜であるこれを、使えない訳がないのだが、それを知らないレリィは信じてしまう。

このとき、すでに男の策にはまっているとも知らずに──。

 

「そう・・・・。なら、大切にしなさい。それと、貴方は採用よ。今日から住み込みで、()()()()()()として働いてもらうわ」

「えっ・・・・?」

「えっ?」

 

驚愕の顔を見せるジークフリートに、疑問の顔を浮かべるレリィ。

 

「教官?俺がですか・・・・?」

「ええ。貴方には生徒達に整備の基礎を教えてもらいます」

 

さも当たり前のように告げるレリィにジークフリートは思わず詰め寄る。

 

「な、何でですかっ!?」

「調律って言葉はね、機竜使い(ドラグナイト)しか使わないのよ。だから、貴方は装甲機竜(ドラグライド)を使ったことがあるのよ──、少なからずね。なら、適任でしょ?」

「うっ・・・・」

 

図星をつかれたジークフリートはバツが悪そうな顔をする。

 

「・・・・分かりました。教官の件、(うけたまわ)ります」

「そろそろ模擬戦が始まる頃ね。私達も行きましょうか」

「はい・・・・」

 

最後の最後で出し抜かれたことに意気消沈しながらも、レリィと共に歩き出すジークフリート。心なしか目が死んでいる。

 

(面倒なことになったぞクソがっ!この仕事が終わったら一回?????をぶっ飛ばすっ!!)

 

心に誓う《死を想え(メメント・モリ)》であった。




今回はここまでです。
次回、戦闘シーン・・・だと思います。

それでは、
また次回会えることを楽しみにしています。


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第2話 力の一端・暗躍する者

遅くなりました。
決して、艦隊指揮をしていたとか、荒魂討伐していて執筆をサボったわけじゃないんです。

アズレンで綾波が出ません。
翔鶴、瑞鶴、雪風は出たのに何故か綾波だけ出てくれません。

戦闘描写は初めてなので上手く書けてるか心配です。

それではどうぞ


───王立士官学園(アカデミー)・演習場

 

学園敷地内にある、装甲機竜(ドラグライド)の演習場。

そこに、装衣を纏ったルクスとリーズシャルテが対峙していた。

中心のリングは低く、外側に向かって高く盛り上がった形状は、旧時代のコロシアムを彷彿とさせる。

観覧席には等間隔で石柱が築かれており、その上では生徒の機竜使い(ドラグナイト)数名が、常に障壁を展開して守っている。

 

「それでは新王国第一王女リーズシャルテ対、旧帝国元第七皇子ルクスの、機竜対抗試合を執り行う!」

 

審判役のライグリィの声と同時に、舞台(ステージ)が歓声と熱気に包まれる。

ルクスが周囲を見渡すと、相当な数の女生徒や教官が、この私闘とも言うべき決闘を、見物しに来ているようだった。

 

「何で、こんなに人が集まってるんだろう・・・」

 

大勢の学園関係者に見られて、緊張するルクスを視界の端に収めながら、新たな仕事場が決まった大人がするものじゃない、澱みきった目をしているジークフリートは嘆息する。

 

(こいつら暇すぎねぇか?──ったく・・・・雑用王子は珍獣か何かか?)

「理由を知りたいか?ルクス・アーカディア。私が何故お前に戦いを挑んだのか」

 

ジークフリートが心の中でちょっぴりルクスに同情していると、リーズシャルテが不敵に笑う。

王都のトーナメントとほぼ同じルールを使用しているため、まだお互いに装甲機竜(ドラグライド)を纏っておらず、リングの上に佇んでいた。

 

「──僕が旧帝国の王子だから?」

 

目の前の姫にルクスは問う。

男女と国、二つの因縁を孕んだ決闘。

確かにそれだけ見れば、これ程人目を引く見せ物はないかもしれないが、本当にそれだけだろうか?

 

「それは、私に勝ったら教えてやる」

 

ルクスは気になっていた。

確かにリーズシャルテは、好戦的な少女だろう。

だが、あのとき風呂場に落ちて彼女を組み敷いた直後、ルクスに向けていた視線はただの羞恥だけだはなかったはずだ。

 

「えっと。戦いの前に、確認してもいい?」

「何だ?怖気づいたか?今更命乞いは見苦しいぞ」

「命乞いって・・・・、僕を殺す気だったの!?・・・・じゃなくてさ。その、引き分けだったら、この勝負はなかったことにしてくれませんか?」

「・・・・・・」

 

一瞬の沈黙。

ふいに、リーズシャルテの気配が変わる。

 

「ふっ。私の気のせいかな?」

 

ルクスの問いかけに、リーズシャルテは蜂蜜色の前髪をかき上げ、微笑む。

 

「この期に及んで、寝言が聞こえたような気がするのだが」

「寝言じゃなくて、僕は本気で──」

「そうか。なら、いいぞ?」

 

リーズシャルテが目を細めて、機攻殻剣(ソード・デバイス)の柄に手をかける。

 

「私の()()に気づいて言っているなら、それでもいい」

(へぇ・・・・ただのお姫様じゃねぇってか)

 

リーズシャルテの射抜くような視線に、ジークフリートは感心する。

 

「ルクス選手、接続の準備を!」

 

同時に審判役のライグリィが、ルクスを促した。

 

「・・・・・・」

 

仕方なく、ルクスは機攻殻剣(ソード・デバイス)を抜く。

二本の色違いの鞘のうち、白い鞘から。

 

「来たれ、力の象徴たる紋章の翼竜。我が剣に従い飛翔せよ、《ワイバーン》」

(グリップ)にあるボタンを押し、詠唱符(パスコード)を紡ぐ。

 

接続(コネクト)開始(オン)

 

更に呟くことで、機竜はルクスの身体を覆う。

多大な戦力を秘めた威光はしかし、瞬時に対面の、巨大な威圧感に呑まれてしまう。

 

「そのもうひとつの剣は飾りか?ルクス・アーカディア」

「ッ・・・・・!?」

 

リーズシャルテの身体が、見たことのない、赤い機竜に覆われていた。

ルクスの《ワイバーン》より更に巨大な、赤の機竜が、そこにあった。

 

「新王国の王族専用機。神装機竜──《ティアマト》。この機竜は、そこいらのものとはわけが違うぞ?」

 

神装機竜。

世界でそれぞれ一種しか確認されていない希少種の装甲機竜(ドラグライド)

使用時の疲労で死ぬことが珍しくない神装機竜は、新王国の法律で厳しく管理されており、相応の実力者しか持つことは許されていない。

性能はさることながら、操作難易度が桁違いなそれを扱えることこそが、無二の才能と弛まぬ努力の証明であった。

その脅威性を認識しながらも、ルクスは冷静だった。

それは、ルクスの《ワイバーン》が基本(ベース)こそ汎用機竜だが、装甲や武装を防御特化に改造しているからにほかならなかった。

賑やかに騒いでいた観客が、静まり返る。

ぴりぴりとした緊張の空気を破るように、ベルの音が響き渡った。

 

模擬戦(バトル)開始(スタート)!」

 

ライグリィの声と同時に、二機の装甲機竜(ドラグライド)がうごきだす。

《ティアマト》を纏ったリーズシャルテが機竜息砲(キャノン)を展開しつつ上空に躍り出る。

それを追うようにルクスも《ワイバーン》を飛翔させるが、リーズシャルテの構えを見て中空に留まった。

 

「まさか、いきなり撃つ気か・・・・?」

 

動力たる幻創機核(フォース・コア)からのエネルギーを充填して放つ、高熱と衝撃を秘めた一撃は、家屋一件をゆうに吹き飛ばせる威力を持つ機竜息砲(キャノン)だが、発射までに『溜め』を要する分、回避や防ぎやすいという弱点を持つ。

現にルクスも充分回避が取れる距離にいる。

それゆえ、開始早々狙っていくものではないはずだが──。

 

「ふっ・・・・!」

 

そんなルクスの思惑を読んだかのようにリーズシャルテは笑った。

リーズシャルテは照準を、すっと、少し横に逸らし、

 

ドウンッ!

 

発射した。

うねりを帯びた高熱の光芒が、上空から地上のリングへ直線に向かっていく。

しかし、ルクスを狙ったものではないため、当然当たらない。

威嚇か?肩慣らしかのつもりなのか?

リーズシャルテの不可解な行動にルクスは僅かに硬直する。

 

「はっ・・・・!」

 

遥か上空にいるリーズシャルテは、ルクスを見下ろして、口元を弧に歪めた。

その左手には機攻殻剣(ソード・デバイス)の柄が握られていた。

機攻殻剣(ソード・デバイス)装甲機竜(ドラグライド)を操るための操縦桿のひとつ。

それはつまり──、

 

「──ッ!?」

 

ふいに、大型の(ハンマー)に振り抜かれたような衝撃が、ルクスの横腹に走った。

《ワイバーン》ごと、側方に弾かれ、突き飛ばされる。

すなわち、リーズシャルテがあえて照準を逸らし放った、本来の砲撃。その軌道上へと、ルクスは押し出されたのだ。

 

「なッ・・・・!」

 

完全に虚を突かれたルクスは、瞬時に機竜牙剣(ブレード)を斜めに構え、砲撃の盾にした。

幻創機核(フォース・コア)からエネルギーを全力で注ぎ込み、刃に纏わせた。

本来、攻撃力を増幅させるために行う能力だが、そうすることで砲撃の威力を逸らし、自らも軌道上から弾き飛ばされた。

 

「う、あっ・・・・!」

 

吹き飛ばされ、空中を回転するルクス目掛けて、更に高速の何かが飛んでくる。

破損しかけのブレードを素早く振るい、で四つの飛来物を弾き飛ばすと、その何かは、上空に佇むリーズシャルテの周囲に戻っていった。

 

「あれは──!」

「ふむ。思ったよりできるな。」

 

《ティアマト》を纏ったリーズシャルテが、ルクスはを見下ろし、不敵に微笑む。

その少し離れたところに、巨大な(やじり)型の物体が四つ、浮いていた。

 

「まさかあの体勢から、剣捌きだけで私の攻撃を躱すとはな。プライドが傷ついたよ。さすがは『無敗の最弱』といったところか?」

「な、なんて真似を──!?」

「おいおい。ありゃ、殺す気だったぞ!?正気かよ、あの姫さん・・・・!」

 

リーズシャルテを見上げて、ルクスは汗をかき、ジークフリートは驚愕の声を上げる。

 

「どうした?私の特殊武装についても、妹に聞いてのだろう?」

「そ、それは、そうだけど──」

 

神装機竜のみが使える、専用の特殊武装。

《ティアマト》が持つ特殊武装《空挺要塞(レギオン)》についてはルクスもアイリから聞いていた。

それは、《ティアマト》が制御(コントロール)する、小型の流線型金属で、それ自体が推進力を持つ、遠隔投擲兵器だ。

その厄介な性質故にルクスも警戒していた。

 

「・・・・くっ!」

(でも、いくら何でも、あんな使い方──)

 

開幕と同時に、リーズシャルテは飛翔しつつ、《空挺要塞(レギオン)》をルクスから隠して側方へ発射。

更に機竜息砲(キャノン)をルクスへと向けたのだ。

汎用機竜を、出力、性能共に上回る神装機竜。

それにいきなり主砲を向けられれば、誰だって意識がそちらに向かう。

更に、側方に発射することで、ルクスの意識を右側に逸らし、視界に入らないように迂回させた《空挺要塞(レギオン)》を左側からぶつけ、最大出力の主砲、本来の軌道上へ押し込んで攻撃する。

一撃必殺の計略。

一切の容赦のない、悪魔のような戦術。

何より恐ろしいのは、その一連の動作に、一切の淀みがないことだ。

どれほど優れた戦術でも、不自然な動きなら、その時点で察知できたし、避けられた。

だが、王都の模擬戦でも、ルクスはここまでの手合いと戦ったことは、ほとんどない。

本当に、新王国のお姫様なのか?この子は──?

 

「旧帝国第七皇子、ルクス・アーカディアよ」

 

ルクスが体勢を立て直していると、リーズシャルテの声が降ってきた。

 

「正直みくびっていたが、撤回するよ。お前は中々やるな?ちょっとだけ感動したぞ。だからな、今のうちに言っておいてやる。その壊れかけた《ワイバーン》を解除して、もう一本の機攻殻剣(ソード・デバイス)を使うがいい」

 

今までよりどこか優しい、親愛を込めた声色(こわいろ)

周囲の観客席から、小さなどよめきが起こった

 

「どんな装甲機竜(ドラグライド)か知らないが、半壊したそいつよりはマシなはずだ。見せてみろ、お前の全力を」

「・・・・・ええと。じゃあ、僕からももう一度、一言いい?」

 

リーズシャルテの言葉に、ルクスは上空を見上げる。

既に、ルクスのの主兵装である機竜牙剣(ブレード)は半壊、防御装甲も三分の一が削り取られ、充分な障壁も発生できない、

どう足掻いても、《ティアマト》の防御障壁と、厚い装甲を貫けない。

だが──、

 

「悪いけど──。こっちの剣は、使うわけにはいかないんだ」

 

それでも平然とした態度で、ルクスは言った。

 

「だから、このまま引き分けになったら、この件は手打ちにしてくれないかな?正直、他の仕事も立て込んでるし。お、お風呂のことは、ご、ごめん。謝るけど──」

 

リーズシャルテはルクスの言葉に、ひくりと眉を引きつらせる。

そして、頬どころか顔全体を赤らめて、ぶるぶると機竜ごと全身を震わせた。

ルクスはもちろん、本気で言っていた。

だが、『舐められてる』と、思ったのだろう。

 

「はっ。なるほど。ただの馬鹿ではないらしいな──この大馬鹿者め!」

 

リーズシャルテがいきなり、機攻殻剣(ソード・デバイス)を天に掲げ、叫ぶ。

 

「《ティアマト》よ!本性を(あらわ)せ!」

 

その声と同時に、大きなどよめきが波紋のように広がっていく。

その後、光と共に何かが転送されてくる。

普段はその不可故使用を控える付属武装(サイドウェポン)

主砲である機竜息砲(キャノン)よりも二回り大きな砲身。

それが、《ティアマト》の右腕部と右肩に接続された。

七つの竜頭(セブンスヘッズ)》。

その名の通り、七つの砲口が設けられた付属武装。

 

「踊りは得意か?ルクス・アーカディア」

 

絶対の自信と威圧的な笑み。

優雅な声を上げ、リーズシャルテは機攻殻剣(ソード・デバイス)を構える。

 

「私のダンスは、少々荒っぽい。楽しませてくれ、王子様」

 

その周囲には、先程まで四つだった《空挺要塞(レギオン)》が十六機に増えていた。

どうやらこちらの武装も、機攻殻剣(ソード・デバイス)で追加転送していたらしい。

これほどの武装を前に、ルクスの装備はあまりに貧弱過ぎた。

だが、武装を増やせば操作も複雑になることを知っているルクスは、僅かな勝機を見出していた。

 

「ちょ、ちょっと待ちなさい!リーズシャルテ姫!相手を殺す気ですか!?付属武装まで使ったら、もはや模擬戦の域を超えてしまう!」

 

それを見た教官達が、慌てて声を荒らげるが、

 

「だ、そうだが?負けを認めるか?」

 

リーズシャルテの問いに、短く、されどはっきりと──。

 

「いえ──僕からは、まだ」

 

そう答えるのだった。

 

「では、この場で果てろ!旧帝国の誇りと共にな!」

 

リーズシャルテが叫ぶと同時に、機攻殻剣(ソード・デバイス)を振るった。

先程まで、くるくると《ティアマト》の周囲を回っていた《空挺要塞(レギオン)》が一斉にルクスへ襲いかかっていく。

 

 

●◯●◯●◯●◯●◯

 

 

リーズシャルテとルクスの激闘を、ジークフリートは観客席から眺めていた。

 

「結構やりますね──彼女。どうやら口先だけじゃなかったみたいですが──」

「そうねぇ。それでも、まともに戦えているのは、(ひとえ)にルクス君の実力かしら?」

「そうかもしれませんね・・・・。あの防御を崩すのは並大抵の実力じゃ無理そうですしね」

 

目の前で繰り広げられるハイレベルな戦いに、レリィとジークフリートは素直に感嘆の声を上げた。

 

「それで、ジーク君──」

「ジーク君?」

「長いからジーク君ね。・・・・で、元機竜使い(ドラグナイト)の貴方から見て、どっちが勝つと思うかしら?」

「引き分けになった際の勝敗が有耶無耶のままですからね・・・・、防御に徹した雑用王子に軍杯が上がるかと思いますが──」

 

レリィに問われ、ジークは答える。

如何に機竜適性が高かろうが、あれだけ特殊武装を多用すればすぐにガス欠を起こす。

そうなった場合、ガス欠を起こした《ティアマト》よりも、半壊状態の《ワイバーン》の方が動けると予想した。

 

「まあ、結果は神のみぞ知る──ですね」

 

そして再び、二人の意識は模擬戦に向けられる。

 

 

●◯●◯●◯●◯●◯

 

 

時を同じく、ルクスの妹アイリと、三和音(トライアド)の三人も、観客席で見守っていた。

 

「あっちゃー。もう無理だよ!先生に言って、止めさせないと──!」

普段は軽い調子のティルファーも、流石に慌てたように言う。

シャリス、ティルファー、ノクトの三人は遊びも、勉強も、いつも一緒に楽しんできた幼馴染みだ。

特に、正義感の強いシャリスは進んで自警係に名乗りをあげた身だ。

男尊女卑の風潮は廃れつつも、人の意識は簡単には変えられない。

それ故に、暴動を起こす人間も少なくない。

だからこそ、男の犯罪者から生徒達を守ることに、誇りを抱いていたのだが──。

 

「まさか、こんなことになってしまうとは・・・・」

 

今となれば、騒ぎを大きくしてしまったことに、三人は少なからず後悔していた。

 

「済まない、ルクス君」

 

このままでは、敗北はもとより、ルクスの命が危ない。

リング上を縦横無尽に飛び交う無数の《空挺要塞(レギオン)》。

一瞬でも動きを止めれば、発射される超火力の《七つの竜頭(セブンスヘッズ)》。

《ティアマト》と半壊した《ワイバーン》では、性能差がありすぎるのだ。

 

「あなたが気に病む必要はないですよ。シャリス先輩」

 

ふいに、隣にいたアイリが声をかける。

 

「あの一件は兄さんが勝手にやったことですから、自業自得です。半端な正義感なんてもっているから、余計な事件(トラブル)に巻き込まれるんです。一見繊細そうですが、ただのお人好しで単純バカな人ですから仕方ありません」

 

その端正な顔に微笑を浮かべ、さも当たり前のように、アイリは淡々と言葉を続けた。

 

「・・・・以外に面白い子だな、君は──」

 

その傍観ぶりに、シャリスは苦笑を返すと、

 

「でも、そんな兄さんにもひとつだけ、私も認める、とても良いところがあるんですよ」

 

アイリはそう言って、中央のリングをそっと指さした。

まるで、ささやかな自慢をするかのような笑みで、

 

「それは──?」

 

シャリスが聞き返し、リングに視線を戻すと、大きなどよめきと共に、それは見えた。

 

「一度決めたことは必ずやり通してみせることです」

 

 

●◯●◯●◯●◯●◯

 

 

演習場のリングの中で、激しい熱風が渦巻いていた。

発射された後、それ自身の推進力で攻撃を行う《空挺要塞(レギオン)》。

十六機からなる一斉攻撃を、ルクスは紙一重で躱していた。

 

「くっ・・・・ッ!?」

 

機攻殻剣(ソード・デバイス)を左手で振るい、それを操るリーズシャルテの顔に、焦燥が浮かぶ。

一方的な攻撃をしながらも、叫びたい気持ちを必死に飲み込んでいた。

空挺要塞(レギオン)》は一機も破壊されていない。

ルクスはただ、躱し、弾いているだけ。

半壊したブレードと、残された武装を巧みに使い分け、全ての攻撃を防いでいた。

攻撃そのものが、全く当たらないわけじゃない。

装甲も徐々に剥がれ、展開している障壁の出力もあと僅かだ。

残っている武装も《空挺要塞(レギオン)》を弾く度に摩耗し、壊れかけていた。

だというのに──勝てるイメージがまったくない。

これが、『無敗の最弱』たる所以か!

リーズシャルテが全力を出してから、ほんの五分。

いや、すでに五分なのだ。

神装機竜の全力を受け止めることなど、普通の汎用機竜では数十秒と持たないはず。

その驚異的な事実が、リーズシャルテの戦術思考を足止めしていた。

試合の残り時間は、あと三分ほどだが、このままではリーズシャルテの体力が先に尽きることが予想される。

 

「リーズシャルテ様っ!?」

 

呆然としていた頭に、観客席の生徒から、声が届く。

 

「くッ・・・・・!?」

 

思考に気を取られた瞬間、ルクスの投げたダガーが迫っているのが見えた。

回避は間に合わない。

 

「舐めるな!」

 

だが、リーズシャルテが機攻殻剣(ソード・デバイス)を眼前を指すと、ダガーは見えない力に弾かれたように起動を変え、地面に落下していく。

 

「・・・・!?」

 

その不可解な現象に、ルクスが顔色を変えた瞬間、リーズシャルテは息を吸った。

 

「ふっ。いいだろう、『無敗の最弱』!お前の腕に敬意を表し、拝ませてやる!我が《ティアマト》の神装をな!」

「・・・・・え?」

 

神装──。

その言葉を聞いた瞬間、ルクスはほんの一瞬、硬直する。

 

「神の名の下にひれ伏せ!《天声(スプレッシャー)》!」

 

高らかな声と同時に、リーズシャルテは再び、ルクスに機攻殻剣(ソード・デバイス)を指す。

瞬間、今まで高速で空を舞っていた《ワイバーン》が、地面に落ちる。

咄嗟に踏みこたえた装甲脚ごと足場が沈んみ込んだ。

 

「これは──!?」

 

神装とは、神装機竜にのみ秘められた特殊能力だ。

その能力は神装機竜の種類だけあると言われ、その多くは明かされていない。

アイリから聞いた情報にも、これはなかった。

装甲機竜(ドラグライド)と共に全身にかかった強烈な負荷、先程のダガーの起動から察するに、《ティアマト》の神装は重力制御のようだ。

だが、今更気づいたところで遅い。

ルクスの周囲を高速で《空挺要塞(レギオン)》が旋回し、逃げ場を奪っていく。

 

「──終わりだ。没落王子」

 

《ティアマト》の付属武装、《七つの竜頭(セブンスヘッズ)》の照準がルクスを捉える。

 

(・・・・神装まで使ってくるなんて!もう、僕もやるしかない)

 

ルクスがある覚悟を決めた──そのとき、

 

「──なッ?」

 

ガクン!

という音と共に、《ティアマト》を纏ったリーズシャルテが、ぐらりと傾いた。

ほぼ同時に、ルクスの《ワイバーン》にかかっていた重力も解除される。

リーズシャルテは、何が起こっているのか把握しきれていない様子で自分の身に纏った機竜を見つめている。

 

(まずい──!)

「──暴走か」

 

その正体にルクスとジークが理解するのすぐだった。

機竜は肉体操作と精神操作を巧みに使い分けることで操作を行うのだが、極度の疲労や負担により使い手のリズムが狂うと、機竜は想定外の行動をとってしまう──つまり、暴走する。

早々に決着をつけなければ、お互いに危険だ。

それを理解すると、ルクスは《ワイバーン》の推進出力を最大にして、飛翔した。

 

「くッ・・・・・!?こんな、こんなことで・・・・・」

 

リーズシャルテの顔に、明らかな動揺と憔悴の色が浮かぶ。

だが、瞬時に切り替える。

リーズシャルテは素早く機攻殻剣(ソード・デバイス)を振るい、新たな思念を飛ばす。

すると、十六機の《空挺要塞(レギオン)》が力を失ったように次々と落下していく。

制御を切断することで、分散していた意識と力を集中し、ただ、一撃の火力を選択した。

七つの竜頭(セブンスヘッズ)》に全エネルギーが収束される。

 

「私が負けるかぁぁああ!」

 

裂帛の気合いと共に《ティアマト》が制御下に戻った。

上昇して斬りかかるルクスと、眼下に狙いを定めるリーズシャルテ。

二人の戦いが最高潮に達した。その瞬間──。

決して起きるはずのない、異変が起きた。

 

ギィイイイイエエエェェエエエアアアアッ!

 

「・・・・・!?この声は──!」

 

雲を縦に貫き、獣の絶叫が降りてくる。

演習場の空から、人ならざる闖入者が、突っ込んできた。

幻神獣(アビス)

十余年前、機竜が発見された遺跡(ルイン)から時折現れるようになった、謎の幻獣。

その尋常ならざる強さから、ほとんどの大国で、遺跡(ルイン)の近くに砦や関所、城塞都市を幾重にも置き、機竜使い(ドラグナイト)を配備して、不測の事態に備えている。

この城塞都市(クロスフィード)も、王都と遺跡(ルイン)の間にある、防衛拠点を兼ねた都市なのだ。

だが──、

 

「きゃあああっ!?」

「な、何でこんなところに、いきなり幻神獣(アビス)が──!」

「あれって・・・・・、本に載ってたガーゴイル型!?どうして、警報が鳴ってないのよ!?」

「落ち着け!下級階層(ロウクラス)の生徒は機攻殻剣(ソード・デバイス)を抜くな!慌てずまとまって、後者へ避難しろ!」

 

観客席の女生徒達から悲鳴が上がる。

機竜使い(ドラグナイト)の士官候補生とはいえ、実践を経験した生徒は少ない。

幻神獣(アビス)は出現率こそ低いものの、装甲機竜(ドラグライド)の数倍の戦闘力を有する。

しかも、本来は砦や関所から鳴るはずの警報が鳴っていない。

観客席の障壁を貼るために配置されていた機竜使い(ドラグナイト)数名ですら、この未曾有の出来事に、まるで身動きが取れずにいた。

 

「一体、何が・・・・?」

 

ライグリィは、生徒をまとめつつ上空を睨み、腰の機攻殻剣(ソード・デバイス)に手をかける。

幻神獣(アビス)の習性は、肉食動物のそれによく似ている。

故に、迂闊に手を出せば、眼下の観客席に攻撃を仕掛けるかもしれない。

だからこそ、ライグリィは判断を迷う。

たが、そのとき──、

 

ギィイアアアイイエェェエエアアア!

 

翼人のフォルムを持つ機械型のガーゴイルが吼える。

同時に、開いた両翼の一部から、羽根型の光弾をばらまいた。

射出方向は、眼下。

すなわち、この演習場の──観客席。

 

「ッ・・・・・!?」

 

教官と生徒が息を呑んだ、その刹那。

 

機竜咆哮(ハウリングロア)!」

 

ルクスの《ワイバーン》の全面に渦状の衝撃波が展開される。

幻創機核(フォース・コア)から発生させた衝撃波により、敵の投擲攻撃を弾く、機竜使い(ドラグナイト)基本技術(スキル)

それにより攻撃の軌道が逸れ、光弾は演習場ではなく、周囲の空き地に降り注いだ。

ドウンッ・・・・・!

一瞬遅れて、轟音と衝撃波が連続して弾けた。

爆風で木々がなぎ倒され、激しく土煙が立ち込める。

観客席から、女生徒達の悲鳴が聞こえてきた。

 

「どういうことだ!?何故、幻神獣(アビス)がいきなり──」

 

動揺しつつ、リーズシャルテと《ティアマト》が《七つの竜頭(セブンスヘッズ)》を構えようとすると、

 

【──リーズシャルテ様】

 

ルクスの声が、頭の中に、直接聞こえてきた。

その声を送りながら、ルクスはガーゴイルの行く手を阻む。

細長い腕と、紫に光る爪。

そこから繰り出される高速の連撃を、ルクスは半壊のブレードでいなす。

 

【僕の《ワイバーン》の火力では、幻神獣(アビス)を破壊できません。だから、お願いします。地上のリングに降りて、敵を狙ってください】

【私に命令する気か?だいたい、お前ひとりで、幻神獣(アビス)を抑えられるとでも──】

【何とかなります。砲撃の合図は、僕が剣を振りかぶった直後です】

【お、おい!ちょっと待て!?ルクス・アーカディア!】

 

プツッと、勝手に竜声の通信を断たれて、リーズシャルテは歯噛みする。

だが実際、《ティアマト》は極度の消耗により、稼働限界が近づいていた。

確かにあと一発、全力最大の砲撃を撃つ余力しかない。

ルクスの読みは適切だ。

しかし──、

 

「正気か!?王国軍の機竜使い(ドラグナイト)でも、ひとりじゃ何も──」

 

地上のリングに降りたリーズシャルテが、空を見上げたとき、それは見えた。

 

 

●◯●◯●◯●◯●◯

 

 

ルクスがガーゴイルの気を引いているのを確認したジークはすぐ様行動に移した。

 

「帯剣している生徒は今すぐ抜剣!2年が中心になって障壁を展開して、剣を持ってねぇ生徒を守れ!──死にたくなかったら今は大人しくいうことを聞けっ!」

 

恐慌と混乱に包まれた女生徒に、素早く身を守るように指示を出す。

現場慣れしていない素人が前に出ても戦況を悪化させることは分かり切っていたが故だった。

知らない男に指示されたことに不信感を抱く女生徒たちだったが、ジークの最後の一言で大人しく従った。

これにより、混乱は一応の落ち着きをみせた。

現在、上空ではガーゴイルが両腕の爪から繰り出す高速の連撃をルクスが防ぎ続けていた。

ひとつひとつを完璧に防いでもなお、装甲が軋むほどの攻撃を受けているが、ルクスは冷静さを欠かなかった。

ガーゴイルの黒と《ワイバーン》の蒼。

二色の軌跡が中空で幾度となく交わり、激しい火花が舞った。

 

「・・・・・ッ!」

 

回避は最小にしかできない。

ルクスのシナリオが完成するまで、標的を変えられるわけにはいかないのだ。

幾度かの攻防のあと、突き出された合金の爪を掻い潜り、ブレードが完璧なタイミングでガーゴイルの胸に突き立てた。

 

「ギッ・・・!?」

 

ガーゴイルの身体には僅かにだが小さな傷跡がついた。

たったそれだけのことだが、ルクスを強敵と認識したのか。ガーゴイルが硬直する。

幻神獣(アビス)の中でも高い知能を持つ部類に属するガーゴイルの硬直にルクスは警戒するが、

 

『ルクス・アーカディア!増援が来た!包囲の準備をしている!もう少しだけ待ってくれ!』

 

演習場のライグリィからの通信に意識をさいたそのとき、ガーゴイルが空を蹴って襲いかかってきた。

反射的にブレードを構えるルクスだったが、ガーゴイルはそのまま急降下、演習場へ向かって漆黒の翼を広げた。

最初に見せた砲撃の予兆。

その狙いは──観客席!

避難しつつ、成り行きを見守っていた生徒があっと息を呑む。

ルクスは推進出力を最大に切り替え、ガーゴイルの後を追う。

その背後に追いつき、ブレードを上段に振りかぶった瞬間──。

 

「ギェアッ」

 

砲撃を止め、くるっと、ガーゴイルの身体が反転した。

 

「・・・・・ッ!?」

 

ガーゴイル種の高い知性は、あの短い攻防でルクスの実力と戦いの意図を見抜いていた。

ルクスの行動目的──観客席を守るための動き。

それ故、敢えて観客席を狙うことでルクスの隙を誘った。

 

「くっ・・・・・!?」

 

ルクスの全力を込めた斬撃は、虚しく空を切る。

ガーゴイルの前に完全な隙を晒してしまった。

 

「シャアァアッ!」

 

下から上への爪の一閃。

障壁を貫通し、ルクスの肩を覆う装甲が弾け飛んだ。

それと同時に噴き出す、鮮血の飛沫。

 

「く、ああっ・・・・!」

 

《ワイバーン》のシステムがダウンし、自由落下を始める。

だが、

 

「・・・・・なるほどな。分かったぞ」

 

リーズシャルテの微笑が、顔を向けたルクスの目に映った。

 

「守りが堅い者が隙を晒したら、全力をもって一撃で仕留める──。確かに、定石(セオリー)だな化け物。()()()()()()

「ギ──!?」

 

ガーゴイルの動揺が、極大の閃光に打ち消された。

《ティアマト》が誇る《七つの竜頭(セブンスヘッズ)》の最大火力。

砲口から放たれた七つの光柱が、金属の身体をぶち抜き、粉砕した。

 

アァァアアアァアァアアッ!

 

断末魔の残響を撒き散らし、ガーゴイルが爆散した。

パラパラと、黒い金属の破片が降り注ぐ中を、ルクスが落ちてくる。

悪鬼の敗北と戻った平和に、女生徒達は歓声を上げる。

 

「しかし。なんて男だ・・・・・、お前というヤツは」

 

落下してきたルクスを受け止めたリーズシャルテが、《ティアマト》を解除しながら笑う。

あの攻防技術と、ルクスの恐ろしさを理解できた者は何人いるだろうか。

 

『砲撃の合図は、僕が剣を振りかぶった直後です』

 

つまり、ガーゴイルがルクスを出し抜いたと思った駆け引きこそが、ルクスの描いたシナリオだった。

しかし、ジークは解せなかった。

 

(・・・・・襲撃はお互いに消耗しきった決着の際だった。笛の音も聴こえていたし、一体で倒し切れると思い込むほど相手も馬鹿じゃないはず──ッ!?まさか──)

 

それに気づくと同時に、ジークは叫んでいた。

 

「違うっ!まだ終わりじゃない!二体目だ!」

 

ギィイアアアイイエェェエエアアアッ!

 

言うが早いか、再び奇声が演習場に響いた。

教官と生徒はありえない事態に動きが止まってしまう。

 

「──なッ!?」

 

一直線にルクスへと襲いかかるガーゴイルに、リーズシャルテは一瞬硬直してしまい回避が遅れる。

元より、生身で幻神獣(アビス)から逃げ切れるはずもなく、リーズシャルテはルクスを守るように抱えて目を瞑る。

 

ガキン!

 

だが、いつまで経っても痛みがやってこない。

さっきの音は一体・・・・、と思いつつ恐る恐る目を開くと、驚愕の光景があった。

ガーゴイルの合金の爪を、ジークが腰に差していた機攻殻剣(ソード・デバイス)で防いでいたのだ。

 

「おま──」

「さっさとそいつ連れて下がれ!邪魔だ!」

「──馬鹿かお前は!生身で幻神獣(アビス)に勝てるわけがないだろう!」

 

ジークの物言いに文句を言うが、リーズシャルテはもう《ティアマト》を召喚できないほど消耗しきっていた。

ガーゴイルがいったん距離を取ろうと、腕の力を緩めた一瞬を逃さずに、ジークは上段に構え、腕目掛けて振り下ろす。

リーズシャルテはまた驚愕することとなる。

本来なら、傷一つ付けられずに弾かれるはずの攻撃が、ガーゴイルの腕を()()()()()()のだから。

 

「ギィイエェエッ!?」

 

ガーゴイルも予期せぬことだったのか、苦悶の声のようなものを上げながら、上空へと退避する。

 

「逃がさねぇよ」

 

そう呟いたジークは、ガーゴイルのいる場所に最も近い石柱の下へ素早く移動すると、柱の壁を()()()()()

そのまま、ガーゴイルの方へ壁を蹴り肉薄し、翼を切り落とす。

このままでは自由落下してしまうので、ガーゴイルの尻尾を掴むことで、落下を防ぐ。

片翼となってもなお飛び続けるガーゴイルは、ジークを振り落とそうと暴れるが──。

 

「暴れんな──よっ!」

 

ジークが機攻殻剣(ソード・デバイス)をガーゴイルの核に突き立てたことで力を失い落下していく。

ガーゴイルの死骸を足場に跳躍することで、ジークは体勢を整えて着地した。

 

「お前は、いったい──」

 

その場にいた全員が、信じられないモノを見たような顔をジークに向けていた。

たった三撃でガーゴイルを殺したジークは、機攻殻剣(ソード・デバイス)をしまうと、踵を返し演習場を去ろうとする。

 

「ジーク君・・・・・、貴方には聞きたいことが色々あるけど、明日からよろしくね」

 

疑念が絶えないレリィだったが、一言声をかけるだけに留めた。

その後、ジークが去った演習場に、リーズシャルテがルクスの無罪放免を宣言し、模擬戦は幕を閉じた。

 

しかし、すでに暗躍する者がいることを彼女達はまだ知らない。




如何でしたか?
めちゃくちゃ詰め込んだせいでかなり長くなりました。

あと二、三話で一巻は終了だと思います。
ただ、課題があるので執筆が遅くなります。

それでは、
また次回会えることを楽しみにしてます。


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第3話 束の間の平穏・蠢く悪意 その1

だいぶ遅くなってすみません。
遅くなるどころかほとんど触れませんでした。
高校が始まったため中々執筆時間が取れなくなるので、これからは週1投稿を目安にします。
ただ、今回遅くなった理由はオリ主の機体を再設定してました。

それと、綾波が出ません。
私の艦隊に綾波は実装されてないのではとか本気で考える程に出ません。
なので、腹いせに投稿します。

それではどうぞ


───学園(アカデミー)・教室

 

模擬戦のあった翌日、二年の教室では異様な光景が広がっている。

1人には好奇の視線。もう1人には懐疑の視線が向けられていた。

男物に改良された制服に身を包んだ銀髪の少年─ルクスと、動きやすそうな黒い作業着に、フード付きコートを羽織った黒髪の青年─ジークの二人が、居心地悪そうな表情を浮かべて立っていた。

 

「今日から新しく、生徒としてこの学園に通うことになったルクス・アーカディア君と、教官のジークフリート・エーレンブルグ先生だ」

 

そう説明したライグリィは、ルクスへ挨拶するように促した。

 

「──えっと、ルクス・アーカディアです。よろしくお願いします・・・・・」

 

『将来の共学化を検討しての試験入学』という強引な理由を、リーシャに聞かされていたルクスは、場違いだと思いながらもぎこちなく挨拶する。

 

「──次に、エーレンブルグ先生に自己紹介をしてもらう。・・・・お願いします」

「ん?あぁ、はい」

 

ライグリィがジークに自己紹介を促すと、生徒全員が視線を集中させた。

当の本人は欠伸を噛み殺しながら、億劫そうに自己紹介を始めた。

 

「・・・・えぇー。この度、整備士兼教官として雇われたジークフリート・エーレンブルグです。長いのでジークでも何でも、好きなように呼んでください。人に何かを教えた経験がないので、ライグリィ先生の補佐という形になりました。──これでいっすか?」

 

心底面倒くさそうに話すジークに、違う意味で呆気に取られる全員だったが、未だその目には警戒心が宿っていた。

 

「ちょっ、ちょっと待てッ!」

 

そそくさと下がろうとするジークに、生徒達が座る方の真ん中らへんから声が掛かる。

 

「お前は確か、昨日学園長室に来ていた男だったな。・・・・・整備士として面接に来たお前が何故教官をすることになっている?」

 

一番の疑問はそれだろう。特に当事者であるルクスは後で聞こうかと思っていたぐらいだ。

もしもの可能性を考え、機攻殻剣(ソード・デバイス)をいつでも抜けるようにしていたリーシャに、ジークはあっけらかんとして答える。

 

「ああ、最初は整備士だけの筈だったんだけど、学園長に元装甲使い(ドラグナイト)ってことがバレてね。生徒達に機構(システム)面を教えろって言われてしまったんだ。──安心しろ。お前達が思うような趣味は持ち合わせていない。俺だって迷惑してる。」

 

ジークの発言にざわめく生徒達だったが、その後の言葉ですぐに黙ることになった。

 

「はぁ、・・・・・もういいか?ルクス君。空いている席に座って構わない」

 

これ以上の問答は無意味と判断したのか、ライグリィが話を切り、ルクスへ座るように言った。

それを聞いたルクスは、何をトチ狂ったのか懐疑の視線は自分に向けられていると勝手に思い込んで、皆嫌がってるしなどと見当違いのことを考えながら歩き出した。

後に鈍感や変態などと言われる所以はここにあるのだろうか・・・・?

 

(ああ・・・・、帰りたい)

「あ、ルーちゃんだ」

 

内心涙目になっていると、ふいにそんな声が聞こえた。

 

「え──?」

 

教室の窓際の席にいた、桜色の髪の少女。

ふわりとした髪は、リボンで二つにまとめられ、少女のぼんやりとした雰囲気によく合っている。

何より、制服を押し上げる豊かな胸が、幼さの残る顔立ちの彼女に魅力を持たせていた。

 

「久しぶり、だね」

 

少女は優しく微笑む。

その間延びした喋り方と、独特の空気にルクスは覚えがあった。

 

「もしかして、フィルフィ?」

「うん、そうだよ」

 

フィルフィ・アイングラム──

大商家、アイングラム財閥の次女で、ルクスの幼馴染でもある少女。

そして、レリィ・アイングラムの実妹。

こうして会うのは7年ぶりだろうか。

当時、旧帝国と関わりがあったアイングラム家で、年が同じだったこともあり、よく遊んでいたことを覚えている。

 

「ルーちゃんも学園に通うんだ?嬉しいな」

 

あまり嬉しくなさそうな棒読みのような言葉だが、感情を表に出さないだけであることをルクスは知っている。

二人のやりとりを聞いた生徒がざわめくが──、

 

「騒ぐな。授業を開始する」

 

ライグリィの鶴の一声で静まることになる。

女ばかりで気が滅入っていたところにいた知り合いのおかげで、少しほっとしたルクスは、フィルフィの隣の席に座った。

だが、急遽編入が決まったため、生憎ルクスの手元に教科書はない。

故に借りなければいけないのだが──。

 

「あの・・・・フィルフィ。教科書見せてくれない?」

 

ところがフィルフィはぷいっと顔を背けてしまう。

あれ?何か失言をしてしまっただろうかと、救いようのない鈍感をルクスは発揮してしまう。

 

「・・・・・」

 

とても気まずい・・・・。

 

「フィーちゃん、でしょ?」

 

えっ?いやいやいや!確かに昔はそう呼んでたけど、この歳になってまでその呼び方はちょっと・・・・・。

昔からの呼び方で呼ぶように要求されたルクスは、恥ずかしさと抵抗を感じていた。

何よりも、知らない同級生の女子に聞かれたくないという、そこらへんの事情を汲んでもらえないかと淡い期待を向けるが──、

 

「・・・・・・」

 

やはり顔を背けられてしまった。

 

「フィ、フィーちゃん。教科書を見せてくれないかな・・・・・?」

 

何これ!?恥ずかしいッ!

羞恥に耐えながらもそう呼ぶことで、やっとフィルフィはルクスの方を向いてくれた。

 

「はい。どうぞ」

 

周りの女生徒達からクスクスと笑い声が聞こえてくる。

「きゃー、フィーちゃんだって」「あの二人ってそういう仲なのね」などの言葉と共に、ライグリィも笑いをこらえているのが見て取れた。

 

「ぷっ、くははっ。ル、ルーちゃんって。フィーちゃんって。くくくくくくくっ」

 

何それオモロっ!何の罰ゲームだよ。

一番ツボに入ったジークが、隠す素振りもなく、申し訳程度に笑いを噛み殺していた。

朝から精神的に疲れたルクスはこれからの生活に不安が募るのだった。

 

 

●〇●〇●〇●〇●〇

 

 

しかし、フィルフィとのやりとりが功を奏したらしく、クラスメイト達の警戒は一気に解けたようであった。

 

「ねえねえ、ルクス君とフィルフィさんってどういう関係?」

「なんで一人幻神獣(アビス)と戦えるの?すごくない」

「男の人って装甲機竜(ドラグライド)の使い方ってうまいの?本来適性率は女性の方が高いって聞いたけど──」

 

新王国の姫との決闘、幻神獣(アビス)の撃退により、風呂場での悪印象は拭われたようで、休み時間の度に質問攻めにあい、昼休みになる頃には好奇と興味だけが残ったらしい。

それにしては、砕けすぎではないだろうか?と心配するほどに積極的にルクスに話しかけていた。

 

(何か、想像と違う・・・・)

「ねえ、ルクス君って雑用の依頼を引き受けてくれるんだよね?」

 

そんな中、ルクスの机を囲んでいた生徒の一人が質問した。

 

「あっ、はい・・・・僕の義務ですから・・・・」

「じゃあ、お願いしたらここで『お仕事』してくれるんだ」

「あー、ずるいずるい。私がお願いしようと思ってたのに──」

「はーい。ストップストップ。いっぺんにお願いしたらルクっちも困っちゃうからね。ルクっちへの依頼はこの紙に名前と内容を書いて箱に入れてねー」

 

クラスのムードメーカーであるティルファーが皆をまとめあげ、あれよあれよと勝手に話が進んでいき、箱が依頼でいっぱいになっていった。

ていうか、ルクっちって誰・・・・?

変なあだ名までつけられたルクスは嘆息した。

 

「ところで、ジーク先生。」

「んあ?」

 

交流を深めるべしと、教官に言われ教室に残っていたジークに、ティルファーが話しかけた。

 

「先生は何を教えてくれるのー?」

 

全員が気になっていたことをティルファーが聞いた。

だが、誰もジークの近くに集まらず離れていることから警戒の強さが伺える。

それでも、ジークは大して気にすることもなく面倒くさそうに黒板に寄り掛かっている。

 

「んー、それについてはこの後の時間で分かることになるから、今は答えなくていいだろ」

 

少し考えた素振りを見せたのち、すぐに分かると答えた。

ならばと、ティルファーは踏み込んだ質問をする。

 

「じゃあさー、昨日装甲機竜(ドラグライド)も使わずに幻神獣(アビス)を倒せたのは何で?」

『ッ!?』

 

核心を突こうとする質問に全員が息を呑む。

しかし、ジークは全く慌てる様子もなく、分かりきったことだというように、さも当たり前の如く答える。

 

「機竜適性が低かったからな。それを補うためには身体を強くしなきゃならねぇ。そしたら、生身でも幻神獣(アビス)を殺せるようになっただけだ」

 

それだけ言った後は、教室の外へジークは歩き出した。

 

「・・・・だが、真似しない方がいい。──最悪死ぬぜ?」

 

去り際にそう言い残して──。

 

 

 

●〇●〇●〇●〇●〇

 

 

ジークが去った少しあと、クルルシファーに連れ出されたルクスはお礼を言っていた。

 

「ありがとう、クルルシファーさん。お陰で助かったよ。」

「・・・・・ねえ、『黒き英雄』と『銀の厄災』って知ってる?」

 

唐突に問われた質問の意図が分からず困惑するルクスに構わず、クルルシファーは続ける。

 

「五年前のクーデターでたった二機で千二百機もの装甲機竜(ドラグライド)を落とした伝説の機竜使い(ドラグナイト)。それに《銀の厄災》は最後の数時間した確認されてないって噂よ」

「その噂なら、僕も聞いたことあるけど・・・・」

「その二人のどちらか一人でもいいから探して。それが私の依頼よ」

 

それだけ告げるとクルルシファーは踵を返し、教室へ戻っていった。

《銀の厄災》の正体は知らない。《黒き英雄》は自分であるが故に、ルクスはオワタ式ルートが確定した。




プロット制作をしているのですが、IS編をどうするか悩んでます。
なので、第1章が終わったら活動報告にてアンケートを取りたいと思います。
期限は第7章突入までと大きく取るので、ぜひ答えて言ってくれると嬉しいです。

それと、流石に前回は長すぎたので反省して分けるようにします。

また次回会いましょう。


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第4話 束の間の平穏・蠢く悪意 その2

本日友人と映画を見てきたんですが、学生証を忘れて一般料金で見るハメになりました。皆さんは気をつけてくださいね(笑)

それと、原作だと歓迎会があるのですが、やりたいことがあるのでアニメ基準で後日談に回したいと思います。

それではどうぞ


───学園(アカデミー)教室

 

昼休みも終わり、午後の授業もつつがなく進みこの時間で最後となった。

初日で緊張していたルクスも、幾分か緊張が解けたのかリラックスしているように見えた。

だが、本来武官は外で基礎体力作りを含めた訓練であったはずだが、何故か文官も含め全員が教室待機を命じられ、戸惑っていた。

そんな中、扉が開き、ジークが歩いて教卓の前へと立った。

 

「えぇー、ではこれより授業を始めたいと思う」

 

相も変わらずやる気のなさそうな声質ではあったが、その目には遊びや手抜きといったものは見られなかった。

 

「待て。その前に私達もここに残った理由を説明してもらおう。武官は外で基礎訓練だったはずだ」

 

やはりと言うべきか、異を唱えたのはリーシャだった。

しかし、そんなことはお見通しと言うかのように、ジークは即答した。

 

「その答えはさっきのオレンジ髪の質問に答える必要がある」

 

自分のことを呼ばれるとは思っていなかったティルファーは、驚きと疑問をあらわにした。

 

「俺がお前らに何を教えるのかという質問に答えよう。・・・・・それは調律だ。機構(システム)面の基礎をお前らに教えてやる」

 

ジークの答えの意味を正しく理解できたものは、あとから入ってきたライグリィ以外にはいなかった。

各々、理解をしても納得などしていなかったのだから。

 

「・・・・・言いたいことは分かった。だがそれと私の質問に何の関係がある?」

 

二学年首席と言われたリーシャですら、正しく意味を理解できなかった。

唯一ルクスのみは、どこか引っかかりを覚え、考え込んでいた。

 

「くっ、はははははは。──嘘だろお前ら?まさか本当に理解できないのか?さてはお前ら実戦経験ないだろ」

「なっ、巫山戯るな!私達は幻神獣(アビス)を倒したことだってあるんだぞッ!」

 

マジかよコイツら。ほんとに二年生かよ。

呆れたと言わんばかりに盛大に笑うジークに、自尊心を傷つけられたと思ったリーシャはかみつく。

 

「そりゃ、おめぇ、幻神獣(アビス)討伐経験ぐらいあるだろう。俺が言ってんのはそうじゃねぇよ。本物の戦場で殺し合ったことねぇだろって言ってんだよ」

「それとこれと何の関係がある!」

 

未だジークの言っていることが理解できないのか、なおも反発するリーシャ。

周りは誰も口出ししようとしない、というよりできなかった。

ルクスやクルルシファーは何となく言いたいことが理解できたのか、思考を繰り返している。

 

「まだ分かんねぇのか?仕方ねぇ、問題を出してやる。──まず調律とは何だ。さっきも俺が言った通り、装甲機竜(ドラグライド)機構(システム)を調整することだ」

 

ジークはそこで一度区切り、周りを見渡し全員が話を聞いていることを確認する。

そしてそのまま続けた。

 

「じゃあ、それの何処が重要なのか、それが今から出す問題の論点だ。『ある戦場において、故障または戦闘により装甲腕が一本使えなくなった。整備士が待機している拠点まで距離は離れており、一人でも戦線離脱すればかなり不味い状況だ。さぁ、お前らはどうする?』・・・・ここまでヒントだしてやったんだ、分かってくれなきゃ困るぞ」

 

ジークの出した問題にルクスは言いたいことがはっきりと分かった。無論その答えもだ。

クルルシファーも理解できたのか、納得した顔だったが、リーシャは完全に理解したとは言いがたく、眉をひそめていた。

数分の間が開き、充分考える時間をおいてジークは再び全体を見渡す。

 

「・・・・・完全に理解できたのは数人と言ったところか・・・・・。答えを聞こうかお姫様?」

 

ジークは先程まで強気でいたリーシャならば答えられるだろうと思い、指名した。

 

「・・・・調律で修理する、か?」

「おしいな、言葉が足りない。それじゃ腕自体がなくなったときに説明ができない」

 

自信なさげに答えるリーシャに、ジークはそのままでは説明しきれないと告げた。

その後、次の回答者を選ぶジークに確信の表情を浮かべるルクスの顔が目に映った。

 

「──次はお前だ、雑用王子。テメェの経験のほど、見せてもらうぜ」

 

指名されたルクスは、少々驚きながらも焦る様子は見られなかった。

 

「その使えなくなった装甲腕へ送るエネルギーを切って、他に回すことで継戦能力を補う、ですよね?」

「──正解だ。流石だな、雑用王子」

 

迷わずに答えるルクスに、流石『黒き英雄』と心の中で賞賛しつつ、ジークは正解だと告げた。

 

「いいか。今の問題はつまり、『損傷箇所が見つかる度に、整備士のとこまで戻るのか』と聞いてるんだ。これで意味も分かるだろ?」

 

漸く、ジークの言いたいことを理解できたのか、全員が息を呑むのが見て取れた。

 

「さて、姫様の質問にも答えたところで、授業を始めるぞ。武官文官合同については、事前に学園長から許可を取っている」

 

サラリと合同についても説明するジークは、案外教官に向いているのかもしれない。

尤も、そんなことは死んでも御免だと言うだろうが・・・・。

 

「調律の基礎つったって、まずはさっきの問題の解説から始める」

 

そう言うジークは、どこからともなくコップを六つ取り出し、五つを前に、一つだけ後ろにして教卓の上に並べた。

周りの生徒達は不それを思議そうな顔をして見つめるしかなかった。

 

「これは前にある五つが両腕、両脚、推進翼、後ろのは幻創機核(フォース・コア)だと思ってくれ。分かりやすいように《ワイバーン》として説明させてもらう」

 

これまたどこからか、水差しを取り出した。

どう見ても確実に隠し持てるサイズではなかった為、全員が今のどっから取り出した、と言いたい気持ちを堪えていた。それはライグリィも同じだったのか、少し震えていた。

そしてジークは、後ろの一つのみに水を並々と注いだ。

 

「この状態を調律の施されていない初期状態だと考えてくれ。水はエネルギーで、全部位は動かすだけのエネルギーは送られている」

 

用意の整ったジークは説明を始めた。

前置きを言った後、後ろのコップに入っている水を前の五つに均等に注いだ。

 

「これで全体にエネルギーが行き届いているのは分かるな?じゃあ、腕が一本使えなくなった場合、エネルギーを注ぎ続けたらどうなると思う?答えは簡単。無駄に消耗するだけだ」

 

端っこにあったコップを手に取ると、中身を元のコップに戻しそれを仕舞った。

 

「損傷した部位にエネルギーを使い続けるのは非効率だ。例えるのなら一々使わねぇ部屋に灯りはともさないだろ?つまりはそういうことだ。そしてそれは継戦時間を減らすことにも繋がる。何せ装甲機竜(ドラグライド)の出力には限界があるからな」

 

ジークの説明に生徒達は食い入るように聞いている。

言わんとしていることが機竜使い(ドラグナイト)としても、整備士としても必要なことであるからだろう。

 

「そんな時に役立つのが調律だ。使えない部位に注いでいるエネルギーを、他のところに回せば同じ時間だとしても、調律前より僅かとはいえ高い性能を発揮できる。切断のみならば継戦時間の延長にもなるだろう」

 

コップの水を残り四つに分けながら説明を続けるジーク。

その高い知識にルクスは彼の前の職について考えていた。知識や経験の高さに反して、一度も見かけたことのない顔。

この国であそこまでの黒髪は珍しいため、一度見れば少なからず印象に残るはずなのに覚えがないということは、少なくとも新王国の軍人ではないはずだとルクスは予想していた。

見事だルクス君、流石は原作主人公。だが忘れてはいけない。ジークはまだ二十前半、つまりまともな経歴な訳がないのだ。

 

「調律についての知識や必要性は、戦場に出れば嫌でも学ぶことになる。だが敵は待ってくれない、自分を守るためにも大きく役立つ知識だ。知っておいて何の損もない。そこを充分理解した上で学んでほしい」

 

そう調律の重要性をジークはまとめた。

その後も授業は問題なく進み、その日の授業は終了した。

生徒達の反応は概ね好評、リーシャも認めざるを得ないほどのものだった。

最初の不信感が完全に拭えたわけではないが、彼の言葉に嘘は感じられないとして、一応の信用を得ることになった。

 

ルクスが主人公特有のラッキースケベを発動したり、アイリの出番がかなり少ないことを除けば特に問題なく毎日が過ぎていった。

 

そんな安心しきっていた時、事件は起こる

 

ゴオォオン!

 

学園中に鐘の音が響き渡る。

その音は幻神獣(アビス)の出現を知らせる警報であった。

騎士団(シヴァレス)と呼ばれる組織に所属する生徒はすぐさま格納庫へと集まっていた。

そこには三和音(トライアド)やリーシャの姿も見られた。

 

「な、何があったんですか!?」

 

少し遅れてルクスが駆け込んできて、問うた。

 

「現在は第二、第三砦の機竜使い(ドラグナイト)が討伐に向かっているが、敵は大型だ。突破される可能性も考え我々も出撃する」

 

王都にも救援要請を出しているというが、国の軍力からして機竜使い(ドラグナイト)が派遣される可能性はかなり低いと見ていいだろう。

 

 

●〇●〇●〇●〇●〇

 

 

「我々騎士団(シヴァレス)は有事の際は率先して出張らなければならないのだよ、ルクス君」

 

シャリスの言葉を背にしたジークもとい『死を想え(メメント・モリ)』は物陰に隠れ独りごちた。

 

「ああ、そろそろ俺が本格的に動き出すときか。まったく、?????の野郎、可能性だけで俺をこんな所に送りやがって」

 

いつか絶対ぶっ飛ばす

心に誓うジークは、自らの機攻殻剣(ソード・デバイス)を確認する。

 

『黒』と『銀』の邂逅はもうすぐだ




ジークの本名を皆さん予想してみてください(無茶振り)
分かった人は私と思考回路が同じ可能性があります。

話が変わりますがつい先日、
初めて感想を頂きました。
言いようのない喜びが湧いてきましたね。
こんなに嬉しいものなんですね。

それでは
また次回お会いしましょう(* 'ω')ノ


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第5話 波乱の幕開け・予期せぬ来訪者 その1

前回のあとがきで言い忘れましたが、調律云々だの効率がどうだのは完全な捏造設定なので本気にしないでください。

今回からちまちまとオリ主無双が始まります。

それではどうぞ


───荒野

 

城塞都市から少し離れたところにあるだだっ広い荒野。そこには小さな村や町があったはずだが、十余年前に発生した幻神獣(アビス)によって、その残骸が辺りに散らばるのみであった。

すでに第三砦までは突破され、残存する王国軍は周辺の機竜使い(ドラグナイト)を集め部隊の再編成中とのことだ。

城塞都市へ向かう幻神獣(アビス)を止めるのは『騎士団(シヴァレス)』の活躍次第だった。

 

「こいつが──例の幻神獣(アビス)か?」

 

目標から二百mほど離れた上空と大地から『騎士団(シヴァレス)』のメンバー十数名は幻神獣(アビス)を確認する。

粘着質の巨体を持ち、尖塔のような大きな腕が二本、そして紫色の眼球と思しきものが、浮いている。

 

ただそれだけの生物。

 

知性をほぼ持たないと言われる、スライム型。

しかし、大型という情報通り、城一つを呑み込まんばかりの途方もない巨体を誇っていた。

半透明の体の奥には、核と呼ばれるものが存在したが、それを攻撃するには分厚い粘液の層を突破しなければならない。

 

「さて──ぶっ放すか」

 

部隊長を任されたリーシャが、どう攻略するか悩んだ末に、ふっと口元に笑みを浮かべ、機竜息砲(キャノン)を構える。

 

「いきなり撃つ気ですか!?」

 

背後にいた『騎士団(シヴァレス)』の一人が慌てたようにそう叫ぶ。

 

「スライム型幻神獣(アビス)は威力を分散させ、致命傷を避ける性質がある。だから、ちまちま攻撃しても無駄だ」

 

何も適当に考えたのではないと言うかのように答えるリーシャ。

 

「で、作戦はどうする?部隊長殿」

 

隣に滞空するシャリスの問いに、リーシャは鼻を鳴らし、

 

【決まっている。核を目がけて、主砲での最大射撃だ。十分な距離を取って、構えろ。離れすぎると威力が落ちる。秒読みは私がやる。いいな?】

 

竜声を通して地上の『騎士団(シヴァレス)』たちにも声をかけると、リーシャは自らのキャノンにエネルギーを充填させる。

 

(これで、確実に倒せる。私達の勝ちだ)

 

リーシャは勝利を確信する。

十数機の機竜使い(ドラグナイト)による集中砲火。

如何に威力を分散させようとも、この威力なら貫けるはず。

 

「カウントを始める。ゼロで斉射だ。5、4、3・・・・・」

 

リーシャの指示に従い、全機が最大充填したキャノンを構える。

 

「2、1、発射──!」

 

──イィィィイィイイイイ!

 

そのとき。どこからか奇妙な笛の音が辺りに響いた。

 

(何だ、この音は?一体どこから──)

 

リーシャが頭の片隅でそう思ったとき、一斉射撃による衝撃と熱風が大気を震わせる。

同時に、目の前の幻神獣(アビス)に異変が起きた。

 

「何ッ・・・・・・!?」

 

照準を合わせていた、体内の赤黒い核。

それが破滅を孕んだ泡のように、急激に膨れ上がる。

 

「ゴァァァアアァァアアア!」

 

直後、砲撃が当たるより先に、幻神獣(アビス)が自ら弾け飛んだ。

 

核の爆発

 

一斉射撃を遥かに上回る高熱と衝撃が、キャノンの奔流を塗り潰して押し寄せる。

 

【障壁展開だ!機竜咆哮(ハウリングロア)も使え!】

 

リーシャの叫びは、轟音に掻き消されて吹き飛んだ。

 

 

●〇●〇●〇●〇●〇

 

 

時は少し遡り、笛の音が響く前、どこか引っかかりを覚えるルクスは、格納庫で考え込んでいた。

短期間に三体の幻神獣(アビス)出現。

決闘のときの不意を付いた襲撃。

三年生の『騎士団(シヴァレス)』の留守というタイミング。

何か一つ、決定的な何かが足りない。

 

「よお、雑用王子」

 

そんなルクスに話しかける者──ジークはいつも通り、面倒くさそうな表情をしていた。

 

「・・・・・何か?」

「いやなに、笛の音が聞こえたもんだから一応な・・・・・」

「音?・・・・・僕には聞こえませんが──」

 

音が聞こえたと言うジークに対し、ルクスは聞こえないと答える。

だがそれすらも、ルクスは引っかかりを覚える。

 

「・・・・・そうかい。まあ、俺が五感も他より優れてるだけに過ぎんのかもな」

 

けど、と一度区切ったジークはルクスを見据える。そこには先程の気だるそうな表情はなく、核心を秘めた目をしていた。

 

「もし、幻神獣(アビス)を操れる笛が存在したとしたら。

もし、その笛をある連中が手にしたとしたら。」

「ッ・・・・・!?まさか──!」

 

幻神獣(アビス)を操る笛。

それこそがこの謎を解く鍵となった。

全ての歯車が噛み合ったとき、その答えに辿り着いた。

 

 

●〇●〇●〇●〇●〇

 

 

幻神獣(アビス)と交戦していた『騎士団(シヴァレス)』の部隊は、今や半壊状態にあった。

 

「く、ぁあ・・・・・!」

「う・・・・・くっ、あ・・・・・・!」

 

ジュウっと、酸で焼かれる音と共に、いくつもの機竜の装甲が溶ける。

手にしていた武装を盾代わりにしたメンバーも多く、その武装は最早、使い物にならなくなっていた。

飛翔していた機竜使い(ドラグナイト)も、爆発の衝撃で吹き飛ばされ、全員が大地に落とされていた。

 

「・・・・・・くッ!『騎士団(シヴァレス)』の小隊は全機待機だ!一度体勢を立て直す。武器が使えない者は一旦下がれ!」

 

予定していた攻撃の失敗。

及び多大な損害の現実に眉をひそめながらも、リーシャは叫ぶ。

 

「まだ十分に交戦可能だ!狼狽えるな!」

 

そう仲間たちに声をかけ、気力を奮い立たせようとする。

だが、

【ほう、随分と王女ヅラが板に付いてきたじゃないか、リーズシャルテよ】

 

ふいに竜声を通じて、頭に中にしわがれた男の声が聞こえてきた。

男であることから『騎士団(シヴァレス)』のメンバーではない。

周囲を見渡すと、幻神獣(アビス)を追っていた、新王国軍の警備部隊に所属する機竜使い(ドラグナイト)

灰色の機竜を纏った男が、爆散した幻神獣(アビス)の背後上空に佇んでいるのが見えた。

 

【だがな。お前はそんな器ではない。そのような誇りなどないのだよ】

「貴様、何を言って──ッ・・・・・・!?」

 

不遜な声の直後、その機竜使い(ドラグナイト)から、砲撃がリーシャに向かって放たれる。

 

【部隊長!】

【姫様!】

 

騎士団(シヴァレス)』たちの悲鳴が、竜声の通信上に響き渡る。

 

「くッ・・・・・・!」

 

完全な虚を衝いた砲撃だったが、リーシャは咄嗟に横に飛ぶことで、かろうじて直撃を回避。

だが、掠めた砲撃は装甲を砕き、《キメラティック・ワイバーン》は使用不可の大破に追い込まれた。

 

【うッ・・・・・く!一体、何の真似だ・・・・・!?王都から配備された、警備部隊の隊長が──】

 

リーシャが、上空で下卑た笑みを浮かべる男を睨んで、そう叫ぶ。

対する壮年の男は、落ち着いた様子で、

 

【それは間違いでございます】

 

そう、嘲るように言い切った。

 

【私がやってきたのは()()からでございますよ。リーズシャルテ王女殿下。アーカディア帝国近衛騎士団長、ベルベット・バルトが、私の名です】

【ッ・・・・・・!?】

 

竜声を介して聞いた慇懃な声に、『騎士団(シヴァレス)』一同が、はっと息を呑む。

クーデターにより帝国が滅びた後、戦力不足を補うために、忠誠を誓い、身の潔白を証明された人間は、新王国の機竜使い(ドラグナイト)として、再び士官として釈放されていたが──。

『帝都から来た』、という一言を聞いて、リーシャは男の正体を察する。

この国の敵。

旧帝国の復権を目論む、信奉する反乱軍。その意志を身に宿す男なのだと。

 

「この国を裏切った、というわけか?わざわざ遺跡(ルイン)から、幻神獣(アビス)を引っ張ってきて──」

【裏切ったなどと、人聞きの悪いことを。正道に立ち返ったのだよ。力を得てな】

 

勝ち誇ったような男の声が、竜声を介して、頭の中に聞こえてくる。

 

【不意打ち一発で私に勝てると思っているのか?傲慢は身を滅ぼすぞ、ベルベット】

 

《キメラティック・ワイバーン》が大破してなお、リーシャは泰然と構える。

それを見たベルベットも、変わることなく余裕の表情だった。

 

【勝てますとも。勝算もなくおびき出すなど、愚の骨頂。そのようなことは犯しませんよ】

 

旧帝国の象徴たる塗装を施された、強化型飛翔機竜《エクス・ワイバーン》。

ベルベットはドロドロに崩れた幻神獣(アビス)の前で、小さな黄金色の笛を手に取った。

 

【さあ、還れ。卵よ】

 

そして、酷薄な笑みを浮かべ、笛に口を当てる。

聞くに耐えない不協和音が、荒れた大地に鳴り響いた。

直後。

破裂して崩れ落ちていた幻神獣(アビス)の表面に、無数の気泡がぷくりと浮かぶ。

小さな泡は、ぷつぷつと高速で大きさを増し、一斉に弾け飛んだ。

 

「あれは──!?」

 

騎士団(シヴァレス)』のメンバー達が、恐怖と驚愕により目を見開く。

出てきたのは、黒い金属の鳥人。

数日前に学園を襲った、ガーゴイル。その群れが、幻神獣(アビス)の体内から生まれていた。

 

竜声の回線に、無数の声が重なる。

幻神獣(アビス)を中に孕んだ泡が、音を立てて弾ける。

ぷつぷつと、悪寒を感じるほどの異音。

本来は美しいはずの朝焼け空を、黒き災厄の化身が覆っていく。

ガーゴイルの数はおよそ、三十体。

一人前の機竜使い(ドラグナイト)に換算して、百機以上の敵戦力が、この荒野に突如として生まれることとなった。

 

「──目覚めろ、開闢の祖。一個にして軍を為す神々の王竜よ《ティアマト》!」

 

リーシャが、大破した《キメラティック・ワイバーン》の接続を解除し、神装機竜《ティアマト》を纏う。

 

決死の覚悟で挑むリーシャと『騎士団(シヴァレス)』の戦いはじきに幕を上げる。

だが、今日、彼女らは反乱軍を遥かに超える暴威と狂気を目の当たりにすることとなる。

 

 

●〇●〇●〇●〇●〇

 

 

「──以上が、私が遠距離から視認し、ノクトさんから竜声を介して聞いた、現在の戦況よ」

 

神装機竜《ファフニール》の速度を以て、クルルシファーが持ち帰った事実に、待機中の生徒達は、静まり返っていた。

機竜格納庫に重い沈黙が満ちる。

まんまと策にはまり、現状での城塞都市の最大戦力、『騎士団(シヴァレス)』が壊滅寸前であること。

その事実を突きつけられ、士官候補生の生徒達は、言葉を失っていた。

 

尤も、最大戦力はジークの持つ神装機竜なのだが、知る由もないことなので割愛しておくことにする。

閑話休題(話は戻して)

 

「・・・・・・」

 

そんな中、ルクスは一人、格納庫の外に出ようとする。

外へと続くその扉の前に、思い詰めた表情のアイリが、立っていた。

 

「どこへ行くつもりですか?兄さん」

 

覚悟を決めた顔つきのルクスに、アイリは尋ねる。

必死に感情を押し殺した、悲痛な表情で。

 

「リーシャ様を助けに行く」

「ダメです!」

 

そうきっぱりと、アイリは告げる。

 

「あの《ワイバーン》では、防御はできても、幻神獣(アビス)は倒しきれませんし、もう一方の剣もつかえない。今の兄さんに、できることなんてないんです」

「でも──」

「兄さんの気持ちは分かります。でも、この世界には、どうにもできないことだってあるんです。いくら頑張っても変えられないものが、いっぱいあるんです。私達は、それをいやというほど見てきたはずです!」

 

普段の澄ました表情をかなぐり捨てて、アイリは訴える。

それがどれほど本気なのかを、ルクスは知っていた。

 

「私達は、大義のために戦っているのではなかったのですか。目的を忘れないでください。ここで死ぬつもりなんですか?私達は、この国のために──」

「それは違うよ、アイリ」

 

ルクスは、アイリの言葉を切って、優しく微笑む。

 

「僕の目的は、帝国を討つことだ。僕らから何もかもを奪う、あの敵を倒すことだ」

「・・・・・・・」

「大丈夫だよアイリ。僕は君を、一人になんて、しないから──」

 

アイリはその言葉に、静かに俯く。

 

「あの機竜の調整はもう、済んでいます。あくまで候補生の私なりに、解析した程度ですが・・・・・。それでも、もって十分です。それ以上の保証は、できません・・・・・・」

「ありがとう」

 

ルクスは妹に微笑みかけると、ジークから声が掛かる。

 

「なあ、雑用王子」

「‥・・・・はい」

 

ジークからの声色は穏やかで、諭すような感じだった。

それには少々驚くも、ルクスは返事をする。

 

「お前が何を思い、何を考え戦ってきたのかは知らないが、後悔だけはするなよ。『何をしたいかじゃなくて、何をするか』、これは俺の座右の銘だ。いつだって、自分が歩んだ場所が道になるんだ。

・・・・・・だからよ、後悔だけはすんな。答えは必ず、見つかるんだからさ──俺みたいにはなるなよ

 

最後に呟いた言葉は聞き取れなかったが、言わんとしていることは、ルクスには理解できた。

だからこそ、ルクスは力強く頷いた。

そのまま扉の外にいた、クルルシファーに歩み寄った。

 

「クルルシファーさん。お願いがあります」

「・・・・何かしら?」

「あなたの力を貸してください。僕の援護ではなく、リーシャ様を救うために。今、それを十全にこなせる人はあなたしかいません。」

 

真っ直ぐな瞳を向け、ルクスがそう言うと、

 

「前にも言ったでしょう?私はユミル教国の命で、戦いに出向くわけにはいかないのよ」

 

あくまで冷静な口調で、クルルシファーは告げる。

だが──、

 

「『黒き英雄』の正体を、僕は知っています。『銀の厄災』についても、知っていることはお話します。取引です。お願いを聞いてくれれば、教えます」

 

アイリがルクスから視線を逸らしたのが、見えなくてもはっきりと感じ取れた。

 

「分かったわ」

 

クルルシファーが、少し考える素振りを見せ、頷く。

 

「では、行きましょう」

 

そして、二人は同時に、機攻殻剣(ソード・デバイス)を抜き払った。

 

それから数分。

念の為にと、待機していた生徒全員が移動した為、誰もいなくなった機竜格納庫にて黒いローブを羽織った男──■は一人反芻する。

 

「ああ、これでようやく動ける。お前の覚悟を見せてもらうぞ『黒き英雄』」

 

男は一切の光がなく、他者を認識していないとすら感じる、無機質な瞳で嘲笑を浮かべるのだった。

これこそがこの男の本質。“自己愛"の究極系である。

この境地に至った者は、万象あらゆるものが自分のための装飾品にしか見えていないだろう。

──いつか他者と向き合えると信じて()()()は祈る。




すいませんでした!
無双させるとか言って結局次回です!
許してください、何にもしませんけど。

最後のわたしとは誰なのか、
色々疑問が絶えませんね(すっとぼけ)

私の作品で名前のところなどに■がある場合は、
その文字数に当てはめれば答えが出るので、
埋めてみてください。

それではまた次回お会いしましょう。


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第6話 波乱の幕開け・予期せぬ来訪者 その2

※Warning※
少し、というかかなり過激な表現が含まれます。
それが無理だという人はブラウザバックすることをお勧めします。
それでもいいよという方のみ進んでください。





先週投稿できなかったのは、GWが全て部活で潰れ、筆が進まなかったことや、そもそも本当にこれは投稿してもいいものかと真剣に悩んだ為です。
お待たせしてしまい、申し訳ありません。




荒野にて、リーシャと『騎士団(シヴァレス)』のメンバーは死闘を繰り広げていた。何故か幻神獣(アビス)に襲われないベルベットは、後方から指揮官の様に眺めている。その『笛』の力なのか、まるで幻神獣(アビス)を統率し、動きを支配しているようにも見えた。

 

神装機竜《ティアマト》の三大武装をフル稼働することで応戦していたリーシャだったが、とっくに限界は超え、いつ強制解除が起こってもおかしくない状態だった。

 

「く・・・・・はぁっ!」

 

ついには気力だけではどうにもならない限界がやってきた。視界が霞み、手足に力が入らない。

しかし、残る幻神獣(アビス)は十数体。一体でも脅威的な相手ではあるが、ようやくにして、最後の策を打つチャンスができた。

 

【シャリス、ティルファー・・・・・・、無事か?】

 

竜声を『騎士団(シヴァレス)』のみに絞り、声をかける。

 

【・・・・・・済まないが姫、私は既に戦えない、仲間の手助けを受け、撤退を始めている】

【うん、私ももう限界みたい・・・・・・武装が両手の装甲ごと使い物にならないし──】

 

かすれたような声の返事に、リーシャは苦笑する。

むしろ圧倒的戦力差の中、ここまで戦ってくれた仲間に、感謝した。

 

【お前達は撤退しろ。代わりにひとつ頼まれてくれないか。城塞都市で待機しているはずの教官達に、攻撃に出るよう伝えてくれ。今から私の狙いが成功したら、だが】

【姫。それは、まさか・・・・・・・?】

 

シャリスはリーシャの目論見を察する。

 

【ああ、私は──あの笛を持つ、親玉を狙ってくるからな】

 

幻神獣(アビス)は本来、生物を無差別に襲う習性があると記録されている。だというのに、ベルベットは攻撃されるどころか、巻き込まれる気配すらない。

恐らく、あの笛が幻神獣(アビス)を操ることができる遺跡(ルイン)の宝物なのだろう。

つまり、あれの破壊ないしベルベットを倒しさえすれば、幻神獣(アビス)の統率を失う可能性が高い。

今までは数が多すぎてできなかったが、ようやくその機会が巡ってきた。

 

「──無様だな、リーズシャルテ。本来は、男にかしずいて生きるための雌犬如きが、たとえ一時でも、王女の椅子に座ったのが、そもそも間違いだったのだ」

 

幻神獣(アビス)達の後方で滞空するベルベットは、嘲りの笑みを浮かべて、リーシャを見下ろしている。

 

「ふん。男とは、お前のように終わってからグダグダ負け惜しみを言って偉ぶるようなヤツを言うのか?そのくせ、絶対的に有利な状況でしかモノを言えないとはね。なるほど、私達女に帝国(くに)を滅ぼされて当然だよ」

「・・・・・・・いい度胸だ。いや、見事な虚勢だと褒めておこう。既に纏った神装機竜が、暴走を始めるほど消耗しているくせにな」

 

ベルベットは嘲笑うと、笛に唇を当て、息を送る。

不快感のする異音が響き、幻神獣(アビス)達が一斉に、ベルベットの後方に舞い戻った。

 

「いいだろう。望み通りの一騎打ちだ。お前には名誉の戦死という終わりをくれてやる」

 

大型ブレードを上段に構え、ベルベットは告げる。

 

「笑えない冗談だな。お前のような小物に命を取られるなんて、末代までの恥でしかないよ」

 

対するリーシャも、小型ブレードを転送し、ベルベットの前まで上昇する。

神装機竜と汎用機竜では地力が違いすぎる。だが、今の状況ではベルベットの方が有利と言えるだろう。

故に──、勝機はある。

 

「さあ、その命を散らすがいい!偽りの姫よ!」

 

ベルベットがブレードにエネルギーを注いだ瞬間、

リーシャは手にしていたブレードを投擲した。

 

「──!?」

 

だが、そんな見え透いた陳腐な攻撃では、当たるわけがない。

現に、ベルベットはブレードを振り下ろし弾いていた。

 

「馬鹿め、そんな攻撃が通じると思ったか?」

 

リーシャの両手には、代わりとなる武器はない。

勝負は決まったも同然。

 

「はっ。抜かったのは、お前の方だ」

 

リーシャの小さな笑い声が、対峙するベルベットの耳にも届く。

その両手には、細身の双剣が握られていた。

《キメラティック・ワイバーン》に対応する二本の機攻殻剣(ソード・デバイス)

装甲機竜(ドラグライド)を纏った後では、武器として使われることはまず有り得ない。

故に、予測不能の一撃。

刀身の一部には幻創機核(フォース・コア)が使われている機攻殻剣(ソード・デバイス)ならば、装甲機竜(ドラグライド)の障壁も破ることができる。

ベルベットは、大剣を振り切った直後で、完全に隙を晒している。

 

(取った!)

 

リーシャが、確信を込めて双剣を振るった瞬間、

 

「残念だったな、雌犬」

「な──ッ!?」

 

時が止まったように、リーズシャルテの感覚が鈍る。

自分が感じる時の流れ、その認識をすり抜けるように、

 

ドンッ!

 

ベルベットの大剣が、先に振るわれた。

《ティアマト》の装甲の破片が、リーシャの眼前を舞う。

大地に落ちたリーシャはそのままぱたりと力尽きた。

 

「く、あ・・・・・!」

「はッ!ははははははっ!」

 

ベルベットの哄笑が、広い荒野の戦場に響く。

 

「な、んだ・・・・・今のは・・・・・?」

 

リーシャの呻きを聞いたベルベットは、不敵に微笑んだ。

 

「『神速制御(クイックドロウ)』──。かつての帝国軍につたわる、機竜使い(ドラグナイト)の三奥義の一つだ。近衛騎士団長まで上り詰めてから、さらに五年もの修練を経て──ようやく俺は、こいつを体得(マスター)したのさ」

 

肉体動作による制御に加え、精神操作による制御。

一連の動作に、異なる操作方法を完璧に重ねることで、ほんの僅かな、一動作(ワンアクション)のみ、目にも止まらぬ攻撃を繰り出す絶技。

機竜三奥義と呼ばれるそのひとつでも会得すれば、超一流の使い手として称えられる。

 

「俺はな、クーデターの日から五年間、このときのために牙と研いできたのだ。お前ら雌畜生どもの番犬になるという苦痛の演技に耐えてな。はははははは!最高の気分だ!」

「ゲスが・・・・・!」

 

リーシャは大の字で仰向けになったまま、下唇を噛む。

 

 

●〇●〇●〇●〇●〇

 

 

ガキンッ!

 

最後の悪あがきをし、死を覚悟したリーシャ。

だが、金属音が響くだけで痛みは来ない。

何故なら目の前には、蒼色の機竜──すなわちルクスの《ワイバーン》が盾となり、攻撃を防いだからに他ならない。

 

「ル、クス・・・・・、どうして・・・・・?」

「・・・・・・すみません、リーシャ様。せっかく直してもらったのに」

 

ルクスはリーシャに、寂しげな笑みを浮かべる。

そして、大破した《ワイバーン》の接続を解除し、その腰に残ったもう一本の機攻殻剣(ソード・デバイス)に、素早く手をかけた。

 

ルクスが黒鞘から、機攻殻剣(ソード・デバイス)を抜き払い、天にかざす。

そして、柄のボタンを押すと同時に呟いた。

 

「──顕現せよ、神々の血肉を喰らいし暴竜。黒雲の天を断て、《バハムート》!」

 

光の粒子が高速で集まり、形作る。

現れたのは、黒。

禍々しい殺気と光沢を帯びた、幻玉鉄鋼(ミスリルダイト)の塊。

竜を模したその頭部からは、二つの赤く輝く眼光が覗いていた。

 

「これは──?」

 

そのただならぬ威光と気配に、上空のベルベットは声を上げる。

 

接続(コネクト)開始(オン)

 

ルクスの前に現れた機竜が無数の装甲と化し、全身を包み込む。

 

「お前は・・・・・・まさか──?」

 

それを見たリーシャが、目を見開いて呟く。

直後、眼前に迫る帝国軍百機の前に、漆黒の巨竜であり、五年前の暴威、《バハムート》を纏ったルクスが立ちはだかった。

その手には、闇よりも深い黒色の大剣が一振り、握られている。

 

「何者か知らんが、構わん!たかが一機だ!始末しろ!」

 

ベルベットの声に従い、前にいた三機が、ブレードを振りかぶり、愚直な程まっすぐに突撃する。

それぞれ幻創機核(フォース・コア)からのエネルギーを込め、障壁を貫いて切り捨てるつもりだ。

左右と正面、三方向から同時攻撃が、ルクスに襲いかかる。

その刹那──、

 

バギン!

 

「──え?」

 

気がついたときには、既に男達の纏っていた装甲機竜(ドラグライド)は砕け散り、ガラクタに成り下がっていた。

機竜牙剣(ブレード)を握る装甲腕、両肩にある幻創機核(フォース・コア)、そして腰に差していた機攻殻剣(ソード・デバイス)

攻撃、動力、制御の要である三点が、その一撃で粉砕されていた。

それも一度に襲い掛かった──三機同時に。

 

 

●〇●〇●〇●〇●〇

 

 

激戦の真っ只中より、少し離れた位置にて、『死を想え(メメント・モリ)』は佇んでいた。

その視線は、暴威を振るうルクスと《バハムート》を横目に、別の場所を捉えていた。その先にいるのは──アイリとノクト。

 

「危ねぇ危ねぇ。神装機竜を展開して突っ込んでたらあいつらに見つかってたな・・・・・・。大人しく走っておいてよかったな」

 

それはそれでぶっ飛んだ発言をしているが、大真面目だった。

そして、視線をルクスに向けると、凄まじい勢いで敵を撃墜しているのを捉える。

 

「さて、あの小娘共には用はねぇ。俺の仕事はあっちの塵屑(ごみくず)共の掃除だ」

 

無機質で、それでいてどこか寂しそうな声を上げながら、布に巻かれた機攻核剣(ソード・デバイス)へと手をかけ、抜き放つ。

 

「──覚醒せよ、恩恵授(おんけいさず)ける叡智(えいち)蛇神(じゃしん)。破滅と安寧(あんねい)を与えたまえ《■■■》。」

 

光の粒子が高速で集まる。

現れたのは、銀。

不気味な憎悪と輝きを帯びた、矛盾の権下(ごんげ)

銀色の装甲は優しさはなく、龍を模した頭部は鋭い眼光を放っている。

 

「さあ、(ごみ)掃除の時間だ」

 

そう言ったジークは《バハムート》よりも速く飛び立った。

その手に、黒く輝く不気味な長刀をを携えて──。

 

 

●〇●〇●〇●〇●〇

 

 

「僕の顔に見覚えはないか?ベルベット・バルト」

 

何者かと問われ、逆にルクスは問うた。

そう言われルクスの顔を注視するベルベット。

『三十過ぎ(多分)のオッサンが、十七歳の中性的な美少年を値踏みするようにに見ている』と言い換えるだけで、何とも犯罪臭がするシュールな構図ができあがった。──元々ベルベットは犯罪者ではあるが・・・・・・。

 

「これはこれは、第七皇太子殿下ではございませんか。存ぜぬこととはいえ、度重なる無礼をお許し願いたい」

「やめてください」

 

恭しく挨拶をするベルベットに、ルクスは素っ気なく返す。

 

「今すぐ投降してください。これ以上の戦いは無意味です」

「ふ、ははは・・・・・・」

 

堪えるように口元を押さえて、ベルベットは嗤う。

 

「それより殿下。私からも一言、申し上げたき言葉がございます。なにゆえ──、どうして、新王国の──帝国の敵などの味方をなされるのですか?」

「・・・・・・」

「何故だ!ルクス・アーカディア!王子であり皇族の生き残りであるお前が、何故我らに剣を向ける!民のために戦って、英雄気取りか偽善者よ!?お前は間違っている!そんな安っぽい感情では、民は、国は何ひとつ──動かんのだ!」

「僕は、英雄なんかじゃありませんよ」

 

ルクスは自嘲めいた笑みで、そう答える。

そして、

 

「聞いてください、リーシャ様」

 

地上に横たわるリーシャを見て、優しげな声をかける。

 

「僕は国のために、民のために──。王子として、何もできなかった。母を失って、他にもまた、大切な人を失うのが怖くて」

 

呟きながら、その脳裏に五年前の記憶が浮かんでくる。

 

「僕は、大義のために強くなれなかった。全ての人を救おうとして、でも、失敗して。今度はそうならないために、使命を果たすために、雑用王子として隠れていました。」

 

「だけど──やっぱり、助けたい。新王国の王女として相応しいあなたに、認めてほしいと思えたんです。だから・・・・・・」

「ルクス・・・・・・」

 

掻き消えてしまいそうなリーシャの声。

それを聞きながら、ベルベットに大剣──《刻印剣(カオスブランド)》を向け、宣言する。

 

「僕は、英雄なんかじゃない。帝国を亡ぼす、最弱の機竜使い(ドラグナイト)だ」

 

そう、ルクスが啖呵を切った直後、

 

「・・・・・・いいだろう」

 

ベルベットが剣を掲げ、部下達に合図を送る。

 

「ならば、死ぬがいい!新たなる帝国の礎として、我が仕えしアーカディア帝国の、大義の元に朽ち果てろ!」

 

一斉に、残る数十機が、総攻撃を始める。

──その瞬間、

 

【兄さん!逃げてください!】

 

切羽詰まったアイリからの竜声が届く。

疑問を感じ、聞き返そうとしたのも束の間──。

 

Disce libens (喜んで 学べ)

 

静かな声と共に訪れた斬撃と轟音。

この斬撃にルクスは既知感を覚えた。

そう、あれは五年前の──。

 

「まさか・・・・・、そんなっ!?」

 

ベルベットよりも遥か上空から、舞い降りるかのように姿を現したその機体。

銀色の装甲に、紫色のライン。推進翼は大きな主翼が一対、その下に少し小さめな補助翼が一対の二対四枚。手には、光を呑み込んでしまいそうな程黒く、禍々しい長刀を握っている。

そして、搭乗者はローブで隠れて見えないが、大柄な男だと分かる。

それは紛れもなく、五年前に帝国を亡ぼした一機──『銀の厄災』であった。

 

「久しぶりと言っておこうか『黒』。ああいや、今は『黒き英雄』だったか?」

「できれば、あなたには会いたくありませんでしたよ」

「それは冷たいな。・・・・・・まあ、どうでもいいことだがな」

 

『黒き英雄』は顔を強ばらせ、『銀の厄災』は興味なさげな様子で会話を区切った。

除け者にされたベルベットは、憤慨したように叫ぶ。

 

「お前は何者だ!何が目的で姿を現した!」

「俺か?一応、周りからは『銀の厄災』なんて呼ばれてる。目的は・・・・・・そうだな、世界にとっての(ごみ)掃除だ」

 

ベルベットなど初めから眼中に無いのか、顔も見ずに返事をした。

 

「く、ははははははっ!」

 

どこに笑う要素があったのか、いきなり笑いだすベルベット。

 

「・・・・・何がおかしい?」

「ははははっ!『銀の厄災』が来たときにはどうしたものかと思ったが、どうやら運は俺達帝国側にあるらしいな。まさか──、『銀の厄災』が味方になってくれるとはな!」

「・・・・・・・・・は?」

 

たっぷりと、二、三秒の沈黙の末に上がった声。

そんな間の抜けた声を上げたのは誰だろうか。少なくともジークではない。だが、眉を少しひそめていたのが見て取れることから、本気で予想外だったのだろう。

 

「さあ、『銀の厄災』よ!まずは手始めにこいつらを殺せ!」

 

勘違いを続けるベルベットは、勝った気でいるのかいやらしい笑みを浮かべながら前に出てくる。それはちょうど──、『銀の厄災』の前に出るような構図となった。

 

「どうだ、この絶望感は。たっぷりと味わいなが──」

「うるせぇよ」

「がぁッ・・・・・!?」

 

調子に乗り始めるベルベットに、再び斬撃が襲いかかる。

これにより、推進装置がやられたのか、地上に落ちてきた。

 

「な、何を・・‥・ッ!?」

 

『銀の厄災』を睨みつけようとしたベルベットは見た、見てしまった。自分を見つめる無機質な目を、ルクスよりも冷たい目を──。その目にベルベットは思わず息を呑んだ。

 

「なあ、モルモット・──なんちゃらよぉ。俺は一言もてめぇらの味方をするなんて言ってねぇぞ?」

 

そう言いつつ近づいたジークは、長刀で推進翼を切り落とした。

これでもうベルベットは空を飛ぶことができない。

 

「けどよ、ひとつだけお前の言葉に共感したところがある。それは──この国が雌畜生が統治しているという点だ」

「ならば我らの仲間になれ!『銀の厄災』!」

「まあ、尤も、俺にとってはお前もその畜生の一匹に過ぎないんだがな」

 

そう言ったジークは、ベルベットの足を装甲脚で()()()()()

 

「がぁあぁあぁああぁぁあッ!?」

 

その痛みにベルベットは絶叫を上げる。

 

「うるさい、黙れ」

 

潰す

潰す

潰す

手を、足を、腹を、

そこに同情の余地はなく、

己が気に入らないから踏み潰す。

 

雑音雑音雑音(や、やめてくれ!)雑音雑音雑音(俺が悪かった!)雑音雑音雑音雑音(だ、だから命だけは──)

 

目の前の何かから雑音(ノイズ)が聞こえる。

 

「煩わしい。誰の許可を得て音を鳴らしている」

 

雑音(断末魔)を止めるために、腕の関節を逆に曲げてみようとして、装甲脚を振り抜いてみた。

だが、勢いが強すぎたのか、腕がちぎれて吹き飛んでしまった。

宙を赤く、汚い汚物(ベルベットの血)が飛び散る。

 

雑音雑音雑音雑音雑音雑音雑音雑音(ぎゃあぁあぁああぁぁあッ!?)

 

しかし、雑音(ノイズ)は止まらなかった。

イライラしてくる。

気に入らない。

静かになれよ。

 

次は、長刀を目の前の畜生如き(ベルベット)に突き立ててみる。

期待はしてない。

少しでも雑音(断末魔)が小さくなればいい程度だった。

 

雑音雑音雑音(あぁああぁぁあッ!?)雑音雑音雑音(だ、誰か助けてくれ!)雑音雑音雑音雑音(俺はまだ死にたくない!)

 

案の定、断末魔(ノイズ)は止まらないどころか、さらにうるさくなった。

 

 

この光景を見ていたルクスやリーシャ、『騎士団(シヴァレス)』のメンバーは呆然としていた。

遠くから見ていた『騎士団(シヴァレス)』のメンバーは青ざめ、半分以上が嘔吐していた。

──無理もない。彼女らは幻神獣(アビス)との戦闘経験はあっても機竜使い(ドラグナイト)との戦闘経験などないのだから。

それも、こんな虐殺じみたことなどめったに起こるものでもないのだから、(よわい)十六、七歳にはキツすぎた。

離れた場所で見ていたアイリは必死に吐き気を堪え、ノクトはアイリの視界を覆うように壁となっていた。

だが、その顔に浮かぶ嫌悪感は隠しきれていなかった。

近くで見ていたリーシャですら顔を逸らし、ただ一人、ルクスだけが『銀の厄災』をしっかり捉えている。

 

 

刺しては抜き、

刺しては抜き、

踏み潰し、

踏み潰す。

これを何度も繰り返す。

 

雑音雑音雑音雑音(た、助けて・・・・・くれ)

 

耳に響く雑音(ノイズ)は最初よりも小さくなっている。

これには喜びを隠しきれず、声を上げた。

 

「ああ、いいぞ。静かになってきたな」

雑音雑音雑音雑音雑音雑音(そこまでにしてください!)

雑音雑音雑音雑音雑音(彼を此方に引き渡し、)雑音雑音雑音雑音雑音(速やかに投降してください!)

 

目の前の畜生如き(ベルベット)の指を1本ずつ切り落とそうとしたところで、周囲から雑音(制止)()が聞こえた。

 

 

何やら煩わしかったので、()()()()()()()()()()()()()

 

 

そして、長刀の鍔が左右に展開し、刀身からエネルギーの奔流が迸る。

そこから放たれる一撃は、五年前に帝国の装甲機竜(ドラグライド)を大量撃墜したものと同じ。ならば、直撃した場合がどうなるかは明白であった。

ベルベットは肉塊どころか肉片ひとつ残さず、蒸発した。

 

「なッ!?貴方はなんてことを!」

「ああ、なんて清々しい気分なんだ。なのに脚に糞が付いちまった。穢らわしい。だが、取るのも面倒だ。糞になど触れたくない。残りの塵屑(ごみくず)を掃除してから考えよう」

 

ルクスの声が聞こえていないのか、独り言のように呟き続ける『銀の厄災』。それはまさしく狂気。誰よりも己を重んじる最凶の“自己愛”。

 

誰か、誰か彼を止めてくれ。彼は絶望してしまっただけなのだから。目的が分からず、迷子になってしまっているだけなのだから。

いつか必ず、彼に正面から向き合い、愛してくれる人が現れることを・・・・・全てが手遅れになる前に──。

 

そして、『銀の厄災』が反乱軍を切り捨てようとした瞬間、

 

「神の名のもとに平伏せ《天声(スプレッシャー)》!」

 

いつの間にか機攻殻剣(ソード・デバイス)を拾っていたリーシャが、障壁も特殊武装も全て捨てて放った、文字通りの全霊の一撃。

その重圧は普段となんら遜色がないほどであったが、『銀の厄災』は重力がかかっていることに今気づいたとでも言うように()()()()()()()()

 

「馬鹿なッ!?《天声(スプレッシャー)》を受けて普通に動けるだと!一体どういうことだ!」

「アホか貴様ら。俺の神装機竜は他の装甲機竜(ドラグライド)よりも強い障壁を特殊武装として持っている。重力程度、押し返せずになんとする?」

 

無論そんな特殊武装など持っていない。

己がしたことなど《天声(スプレッシャー)》で()()()()()()()だけに過ぎない。

手の内を明かす必要も無いだろう。

 

気を取り直したジークは、反乱軍に牙を剥く。

逃げようとする者を、残っていた幻神獣(アビス)と一緒に、斬撃で撃ち落とす。

その左手を反乱軍に向け、本来の特殊武装を使用する。

 

「アクセス――我が(シン)

 

すると装甲の隙間から紫の粒子が吹き荒れる。

 

「イザヘル・アヴォン・アヴォタヴ・エル・アドナイ・ヴェハタット・イモー・アルティマフ

イフユー・ネゲッド・アドナイ・タミード・ヴェヤフレット・メエレツ・ズィフラム 」

 

どこの言語か分からない言葉を紡ぐ『銀の厄災』。

だが、これから放たれるモノはまともじゃないことは、反乱軍にも容易に想像できた。

 

「おお、グロオリア。我らいざ征き征きて王冠の座へ駆け上がり、愚昧な神を引きずり下ろさん。

墜ちろ 墜ちろ 墜ちろ 墜ちろ

Fuck off foolish God!!」

 

吹き荒れた粒子は『銀の厄災』の周りを漂い、やがて左手に集中していく。

それを阻止しようとする反乱軍だが、粒子に阻まれて攻撃が届くことはなかった。

 

「主が彼の父祖の悪をお忘れにならぬように、

母の罪も消されることのないように

その悪と罪は常に主の御前に留められ、

その名は地上から断たれるように」

 

そこに善性はなく、あるのは圧倒的な破壊の権化。

その禍々しさに幻神獣(アビス)も生存本能を刺激されたのか、『銀の厄災』に襲い掛かるが、やはり届かなかった。

 

「彼は慈しみの(わざ)を行うことを心に留めず、貧しく乏しい人々、心の挫けた人々を死に追いやった 」

 

この男に慈しみなどくだらない感情(もの)であり、相対した敵は一人残らず殺してきた。

 

「彼は呪うことを好んだのだから、

呪いは彼自身に返るように

祝福することを望まなかったのだから、

祝福は彼を遠ざかるように

呪いを衣として身に纏え。

呪いが水のように腑へ、油のように骨髄へ、

纏いし呪いは、汝を(くび)る帯となれ 」

 

彼は今まで世界を呪ってきたし、世界に呪われていた。だから誰かを祝福するなんて大切な存在(アイツら)以外にしてこなかったし、されなかった。

左手の粒子の充填は完了した。不気味に光るそれは全てを染め上げてしまいそうな程、深い闇の色をしていた。

最早、反乱軍は逃げることしかできず、それでも逃げないのは意地か、それともただの阿呆か。

 

「ゾット・ペウラット・ソテナイ・メエット・アドナイ・ヴェハドヴェリーム・ラア・アル・ナフシー ──『滅尽滅相』!」

 

左手に集中した粒子はその手を離れ、反乱軍の中心へ──。

そしてそこで破裂した。高熱と光を放ち、全てが塵も残さず消し飛んでいく。

何も難しいことはない。現代における核爆弾。それを小規模ながら人為的に引き起こしただけだ。ウランとは別の原理による為、放射能汚染が起こることはありえない、地球に優しい核爆発。

それを喰らった反乱軍と幻神獣(アビス)は全滅した。

 

「これで俺の仕事は終わりか。」

 

そう言って帰ろうとするが、それが許されるはずもなかった。

 

「待ってください」

「あ?まだいたのかてめぇ」

「・・・・・貴方を捕縛します」

「はっ!やってろみろや」

 

その言葉を皮切りに、上昇し切り掛るルクス。

即撃は使えない。無造作に振るわれた攻撃しかしなかったため、動きを読めるほどの情報がないからだ。

鍔迫り合いで拮抗する二人。

そんな中、ルクスは『銀の厄災』へ叫んだ。

 

「何故、ベルベットを殺した!確かに彼は犯罪者だ。けど、なにも殺すことなかったはずだ!」

「『何故』だと?そんなもの──塵屑(ごみくず)が邪魔だったからに決まっているだろう!」

 

長刀を切り上げ、間合いを開ける『銀の厄災』。そのまま『銀の厄災』は長刀を上段から振り下ろした。

その動きに、ルクスは違和感を感じていた。

それは動きに統一性がなかったことだ。まるでいくつもの流派を持ってるかの如く、構えや太刀筋が変化し、先が読めなかった。

だが、これがこの男の戦い方。

相手に合わせ動きを変えることで、自らを有利に運ぶ。

本来の型は持ち合わせていてもあまり使うことはなく、その刃に必勝に掛ける思いもない。故に、ある男はこの剣術をこう名付けた──『無想剣』と。

 

「どうした雑用王子!その程度か!」

「くっ・・・・・・・!」

 

十全の戦法が取れないルクスは決め手に欠け、遊ばれるように攻撃をいなされていた。

暴食(リロード・オン・ファイア)》を使ったところで、最初の五秒で潰されることは目に見えていた。

だが、『銀の厄災』は特殊武装も神装も使う素振りを見せることなく、流れるような連続攻撃をしてくる。

しかし──、

 

(この動きは、さっきの動きと同じ。なら、ここで・・・・!)

「はァッ!」

 

連続攻撃の終着点、切り上げに合わせるように

烙印剣(カオスブランド)》を横に振るう。

すると、ぴったりと装甲腕を切り裂き、長刀を弾く。

ルクスはその最大のチャンスに、今できる最大の技を放つ。

 

「『神速制(クイックド)──」

「『絶牙』」

 

ガキンッ!

 

だが、ルクスの神速制御(クイックドロウ)よりも速く、弾いたはずの長刀が《バハムート》の腕と《烙印剣(カオスブランド)》を弾き飛ばしていた。それに気づくと同時に距離を取ったルクスは流石と言えるだろう。

 

「弱い、弱いぞ『黒き英雄』よ。五年前から何も変わっていないな。人の上に立つことを恐れ、コソコソと隠れ回って生き恥を晒す。そのくせ、立派な夢物語の理想を掲げては、やれ使命だ、やれ背負った業などと、嘆かわしい。だからお前は・・・・・・、嫌いなのだよ」

 

興味を失った瞳で、ルクスの理想をくだらんと唾棄した。

そのまま立ち去る『銀の厄災』をルクスは見つめることしかできなかった。

 

 

●〇●〇●〇●〇●〇

 

 

数日後───学園(アカデミー)

あの後、気絶してしまったルクスはようやく目が覚め、学園長室に向かう途中で、クルルシファーと話していた。

 

「『黒き英雄』と『銀の厄災』が仲間ではなかったとは思わなかったわ」

「あの人はクーデターの最後の日だけ現れたんです」

 

結局、反乱軍は一人残らず、跡形もなく消し飛ばされたため、一体どうやって角笛を手に入れたのか、機竜はどこから手に入れたのか、何も分かっていないそうだ。

今、クルルシファーには契約通りに『銀の厄災』について、知っていることを話していた。

 

「僕も彼について話せることはあまり多くないですけど、神装を使ったところを見てないんです」

「あの神装機竜は名前も特殊武装も、神装すら分からないなんてね。まだ何かを隠していると考えるのが妥当かしら」

 

その後も、いくらか情報交換をして別れた。

 

 

学園長室でレリィに工房に行けと言われたので、訪れるルクス。

恐らくは、リーシャにお別れの挨拶をしろということだろうと考えたルクスは、少し寂しげな表情で工房に入っていった。

 

「あ、これ、僕の《ワイバーン》」

「おっ、来たなルクス。見てもらいたいものがあるんだ、こっちに来てくれ」

 

修理された《ワイバーン》を見ていると、リーシャから声が掛かる。

促されるまま奥に進むとそこには『黒き英雄』の象徴、《バハムート》が鎮座していた。

 

「《バハムート(コイツ)》はお前のものだからな。一応確認を取ってもらいたくてな」

「でも、僕は──」

「へえ、これが『黒き英雄』の神装機竜か。なかなか立派なもんじゃねぇか」

「「ッ!?」」

 

突如、免れざる声が聞こえ、驚く二人。

そこには珍しく楽しそうな目をしたジークが立っていた。

 

「・・・・・・やっぱり、僕が『黒き英雄』だって、分かってました?」

「分かっていたと言えば嘘になる。だが、お前が『黒き英雄』だと推測できるだけの材料はあったさ」

 

自嘲気味の笑みを浮かべるルクスに、ジークは微笑を浮かべ、こう告げた。

 

「まあ、何はともあれ。()()()()()()()()()雑用王子。これからもよろしくな」

「え?えぇえぇぇえええぇッ!?」

 

てっきり別れるものだと思っていたルクスは、嬉しさと驚きが混じった複雑な声を上げた。

彼の苦難はこれから待ち受けている。

 

 

●〇●〇●〇●〇

 

 

時は少し遡り、『銀の厄災』が去った後。

ある場所にいる依頼人と連絡を取っていた。

 

【ああ、アイツの情報通り動きがあったぜ。きな臭いのはヘイブルグだろう。ところで、角笛は新王国側に渡したが問題ないだろう?】

【構わん。あんなモノ、何の役にも立たんからな。しかし、やはりヘイブルグか。──だが何が目的だ?いきなり攻めたところで何になると?】

 

この二人の声は静かだが、聞くものを震え上がらせるような威圧感と、底知れぬ恐怖を感じる。

 

【今考えても詮ないことだ。いずれ分かる。いやしかし、『龍匪賊』のドラ──なんちゃらの《アスプ》には出くわしといてよかったな。こんな長距離会話ができるとはな】

【・・・・・・・引き続き内部で探れ。必要であらば干渉しても構わん】

【了解だ】

 

依頼続行の命を受け、了承するジークは通信を切った。

機竜を解除すると、出せる全力を以て学園へと移動を始める。

それはさながら小さな台風。

過ぎ去った場所は、大地が陥没し、木はなぎ倒されていて、後日噂になって、ジークが冷や汗をかいたのは完全な余談である。




あれぇ〜おっかしいぞ?どうしてこうなったんだ。
キャラ設定通りに作った筈なのに、いつの間にかこんなことになってしまった。
ベルベットさんは犠牲になったのだ。(何のだよ)
もしかしなくても、《創造主》の方々の人生HARDモード?逃げて!超逃げて!


・・・・・・・すいません、めちゃくちゃ遅れた挙句後書きでもふざけてしまって。
如何でしたか?どうか見捨てないで生暖かく見守ってください。
活動報告にてアンケートを実施しているので、寄ってみてください。

では、次幕の悲喜劇(シェイクスピア)をご期待あれ
↑これ恒例挨拶にします


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第2章〜切望する『管理者』と欠片の厄災〜
第7話 ただで終わらない歓迎会


前回の予告に特にコレといったモノがなくて、ちょっと複雑な第八天です。
今回から友人に勧められた書き溜め投稿をしようと思ってます。なので、4000字前後で二・三日に1本出せると思います。

それではどうぞ


反乱軍襲撃から数日、ルクスは雑用の依頼を受け、浴場の清掃をしていた。

しかし、その表情は迷いが見て取れた。

 

「はぁ、僕ってこんな幸せでいいんでしょうか?」

「・・・・・・どうした?藪から棒に」

 

呟かれた言葉は、隣で同じく清掃していジークに届いていた。

 

「旧帝国の王子である僕が、雑用の仕事をせずに、こんな所で生活してていいのかなって、思ったんです」

 

百年に渡り圧政を敷いてきたアーカディア帝国。その王子が、契約を全うしないで、毎日規則正しい生活、そして、今まで十全と言えなかった機竜使い(ドラグナイト)の勉強ができる。

このことにルクスは、こんな待遇を受けていいものかと、疑問を感じていた。

 

「はぁ・・・・・・、お前は馬鹿か?」

「な、何で!?」

 

だが、その悩みはジークに馬鹿と切り捨てられた。

 

「あのな、旧帝国の王子つってもよ、お前は直接関与してないんだろ?ならば、己となんの関わりがある。なぜ、他人の言動に影を受ける?それにお前は、『咎人』として雑用を引き受けてきた。それどころか、旧帝国を滅ぼした『黒き英雄』だろ?ホントはもっと堂々としていいはずなんだ。だというのに、何も知らないこの国の民は、お前に心無い罵声を浴びせる。お前は対価を払ってる。なら気にするな」

 

ジークの口から出た言葉は、紛れもない本心だった。

“自己愛”に至るよりも昔、まだ大切なもの(自分)以外を気にすることができていた頃の残滓が、■の無意識に矛盾した本心を溢れさせた。

 

「ジーク先生・・・・・・でも、僕は──」

「悩むなとは言わん。ただ、今はそれでいいだろ?」

 

それでも葛藤しようとするルクスに、ジークは諭す。

悩んでればいい、前を見れないのならばそれでいいのだ。それが人間というモノだから。

ならば、そう。現実()を正しく受け止めればそれだけで、歩む勇気を得られるのだから。

 

「そう、ですね」

 

先程よりもスッキリとした表情を浮かべるルクスは、今を楽しむことを心に決めた。

迷いが少し薄れたことで、作業速度が上がった浴場に、二つの気配が近づく。

 

「わあ!ご、ごめんなさい!今はまだ清掃中で──」

「・・・・・・何をしてるんですか?兄さん」

「って、アイリ?」

 

開け放たれた扉から急いで顔を逸らし、弁明を始めるルクス。それをジト目で追求する妹のアイリと、従者のノクト。そして、その三人を生暖かい目で見つめるジーク。

何とも奇妙な光景が広がっていた。

特にジークは旧知の仲に見られたら、本物かと疑われるレベルである。

 

「裸の女生徒じゃなくて残念でしか?」

「べ、別にそんなんじゃないよ!?」

「どうせなら、久しぶりに一緒に入りますか?」

「Yes. 家族の団欒も大切です。」

「入らないからね!」

 

初々しい反応をするルクスをからかう二人。

ジークは完全に置いてきぼりである。

解せぬとか聞こえてきても気のせいだ。

 

「それで、何の用か知らんが、話があるのは雑用王子の方だろ?なら俺は先にあがるぞ」

「え?あの、ジーク先生!僕を見捨てるんですか!?」

「ご愁傷様。後で酒を奢ってやるよ。だから精々頑張れよ」

「飲めませんからね!?」

 

知らぬが仏。触らぬ神に祟りなし。

関係ない己はさっさと撤退しよう。

そんなゲスさが滲み出るジークは、ルクスをスケープゴートにして、逃げ出していた。

ルクスは飲めないのに酒を奢ると、約束を残して。

それを横目で見たアイリは本題を伝える。

 

「兄さん、この後時間がありますか?」

「この後?清掃が終われば何もないけど──」

「なら、食堂に来てください。忘れないで下さいね。」

「分かった。けど、どうして?」

 

要件を伝えられ、それを了承するが、なぜ食堂に来て欲しいのかをルクスは尋ねる。

だが──、

 

「それは、来てからのお楽しみです」

 

アイリは答えてくれなかった。

妹というのは、なぜ、いつだって悪戯をするのか。それは永遠に、研究者(妹萌え勢)によって議論されても、解かれることのない未知である。

 

「・・・・・・それと、ここからは内密にお願いします」

 

話はそれだけで終わりではなかった。

強ばった表情を浮かべ、少し声のトーンを落とすアイリ。

それにはルクスも顔を引き締める。

 

「・・・・・・それは、どういうこと?」

「エーレンブルグ先生に気をつけてください。学園長に聞きましたが、彼の素性には謎が多いんです。生身で幻神獣(アビス)を倒せたことや、ライグリィ先生を超える調律の知識。──まだ何かを隠している気がするんです。」

「分かった。僕の方でも少し探ってみるよ」

 

このことは、学園長とこの場にいる三人だけの秘密であることもアイリは伝えた。

 

「ふっ、やはり感がいい。気を付けなきゃバレちまうかもな」

 

扉の裏で、男が聞いているとも知らずに──。

 

 

●〇●〇●〇●〇●〇

 

 

『ルクス君!正式入学おめでとう!』

「・・・・・・えっと、これはどういうことですか?」

 

アイリに指定された時間に食堂を訪れると、主に2年生の生徒達に祝われていた。

 

「ささやかながら、君の歓迎会だ。元王子の君をもてなすにしては少し粗末だが、そこは目を瞑ってくれ」

「皆で料理を作ったんだよー。あ、私のは食べなくていいよ、すごい下手だから」

 

三和音(トライアド)の二人、シャリスとティルファーが簡単な説明をする。

何でも、反乱軍の襲撃から助けてもらったお礼と、正式な入学決定のお祝いを兼ねた歓迎会らしい。

少し離れたテーブルには、レリィやライグリィ、ジークなどの教官陣もいた。

昼間っから酒を飲んでいるように見えるが、気にしたら負けだ。どうせ、このあとの授業はすべて催し物(イベント)で潰れるのだから。

 

「こ、この度は大儀であったぞ、これは私達なりのお礼だ。・・・・・・改めてようこそ、ルクス・アーカディア。私達はお前を歓迎する。存分に──」

 

リーシャの慣れていない畏まったかつ、有難いお言葉は、ノクトの茶々入れにより崩れ去った。

歓迎会の主役であるルクスを置いて、勝手に料理に手をつけるフィルフィや、本当にお嬢様かと疑ってしまうほど、思い思いに騒ぐ彼女達。

だが、その顔には笑顔が浮かんでいる。

この笑顔を守れてよかったと、ルクスは心の底から安堵した。

 

 

▲△▲△▲△

 

 

他愛ない話を続け騒ぐこと数十分、いやらしい笑みを浮かべたレリィがルクスに近づいてくる。

その後ろでは、ライグリィとジークが少しニヤついていた。

絶対ろくなもんじゃない。

 

「ねえ、ルクス君。最近、貴方への雑用依頼がすごく多くてね?ちらほらと不満の声も上がってきてるのよ」

「はあ・・・・・・すいません。僕の体はひとつしかないもので──」

 

嫌な予感を察知したルクスは、今すぐ逃げ出せないか考える。

自分の周りには多数の生徒、入口付近にも何名か・・・・・・逃げ場はなかった。

 

「そこで、不満を解消するためにひとつの催し物(イベント)を執り行うわ」

催し物(イベント)、ですか?」

「そう、これよ」

 

そう言ってレリィは、懐から赤い紙を取り出してルクスに見せた。

 

「ルクス君の1週間優先依頼書よ。今からこれの争奪戦をしてもらうわ」

「え?えぇぇええぇえッ!?」

 

意味を理解したルクスは叫ぶ。

つまりこれを取られたら1週間、無茶なお願いをされる可能性があるということだ。

 

「制限時間は1時間。装甲機竜(ドラグライド)の装着は禁止。怪我をさせなければ、ある程度はおっけいよ。この紙を持って逃げ切れば、誰からの依頼も受けなくて済むわ」

 

周りにいた生徒達の目が怪しく煌めく。

・・・・・・完全に狙っている。

 

「用意はいいかしら?それじゃあ──開始!」

『きゃあぁぁああぁあぁあっ!』

「勘弁して下さいっ!」

 

開始の合図と同時に駆け寄ってくる生徒達。

それを見てルクスは、慌てて逃げ出していた。

 

「哀れ、雑用王子。骨は拾ってやる」

※死んでません。

 

手元で十字架を切り、黙祷を始めるジーク。

 

「あら、そんな事をしていて良いのかしら?」

「は?どういうことだ」

 

言われたことの意味が分からず、聞き返すジーク。

そんな彼に、レリィは真実を教えた。

 

「あの依頼書、貴方にも効力があるのよ。だから、ルクス君が取られたら、貴方も依頼を受ける義務が発生するの」

「いや待て、聞いてないぞ!そもそも、俺に依頼する物好きなんて──」

 

初めて知ったことに驚愕するも、自分に依頼は来ないと淡い期待を抱く。

しかし、レリィはその期待を打ち砕く。

 

「容姿は悪くないし、実力もある。多少粗暴なところが目立つけど、分からないところは放課後に真摯に教える。・・・・・・優良物件じゃないかしら?」

 

意外に評価が高いことに内心驚きつつ、ジークはどんどんと顔を青ざめていった。

 

「え、なに?てことは──」

「確実に依頼されるでしょうね」

「・・・・・・拒否権は?」

「給料減らすわ」

「横暴だ!」

 

雇い主の権力を振るわれ、逃げ場をなくされたジーク。

最早、ルクスを助けるなりして、依頼書が誰かの手に渡ることを、阻止しなければいけなくなった。

 

「じゃあ、頑張ってね」

「おのれ、学園長ぉ!」

 

にこやかな笑みを浮かべ、手を振る学園長。

それに恨み言を言いながらも、駆け出すジーク。

今頃ルクスは、リーシャから逃げている頃だろう。

中庭まで来たジークは、辺りを見回しながら愚痴を零す。

 

「あのアマ、いつか覚えてろ」

 

仕事とはいえ、色んなやつに殺意を覚えることに危機感を感じたが、“自己愛”であるのだからどうでもいいかと割り切った。

そして、二階の一室の窓が開いているのが目に付いた。

 

(行ってみるか。誰かいれば御の字だろ)

 

そう考えたジークは、地を蹴り、ひとっ飛びで窓枠に足をかける。

そこが何の部屋かは当然知らない。

 

「よう、雑用王子のを見な──」

「え?」

「は?」

 

本棚の側で下着姿で固まるクルルシファー。装衣に着替えるところだったのか、下着を外しかけている何名かの女生徒。

そう、ここは更衣室だ。

 

「・・・・・・ああ、悪ぃ」

『きゃあぁぁああぁあぁあっ!』

 

至って普通に返し、顔を背けるジーク。

見られた女生徒達は、手当たり次第に物を投げるが、見えてないにも関わらず全て躱された。

 

「一つ質問がある。雑用王子を見なかったか?」

「見てないわよ変態!」

「失礼な。お前らみたいなどこにでもいるような貧相な体を見たって、何も思わねぇよ」

 

色々なところに喧嘩を売っていくジーク。

下着を見てその言い様はあんまりではないか。

 

「見てないんならそれでいい。──じゃあの」

 

本棚の物陰に件の雑用王子がいるのだが、汚物を見たと本気で思っているジークは、一刻もここから立ち去りたくて、その可能性を完全に忘れていた。

 

「くっそ、マジでどこにいやがるんだあのガキ」

 

ゴオォンゴオォン!

 

探すこと数分、争奪戦終了を告げる鐘が鳴った。

 

「終わっちまったか。誰の手にも渡ってないことを祈るぞ」

 

優先依頼書の行く末を祈るジークだが、無情にもクルルシファーの手に落ちていたことを知るのは、もう少し先のことだ。

聡明な彼女に駆け引きをされてちょっと焦ることになるのを、まだ彼は知らない。




はい、また遅くなって申し訳ありません。
部活の大会があったり、書き溜めをしてました(全く進んでませんが)

次回は三日後だと思います。予定なので投稿されてるかもなー程度に認識していてください。

では、次幕の悲喜劇(シェイクスピア)をご期待あれ


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第8話 彼は色々と頭がおかしい

誠に申し訳ありませんでした!(開幕謝罪)
三日後投稿するとか言いながら結局三週間以上投稿をしてないクソからすです。
クズとかゴミとか好きなように罵ってください。
でも、どれだけ時間がかかっても完結はさせるので、そこだけは覚えておいてください。
言い訳は後書きにてお話します。

それではどうぞ


争奪戦の翌日、ジークは機竜格納庫でルクスとクルルシファーを呼び出していた。

 

「テメェ、何で取られてやがるんだよ」

「えっと・・・・・・、すみません」

 

自分にも効力をもつ優先依頼書が他人の手に。それを許容できるほど、ジークは優しくなかった。その証拠にこめかみはひくつき、くっきりと青筋が立っているのが分かる。

 

「百歩譲って取られたのは、まあいいとしよう。何で時計の針をいじられてるのに気づかない挙句、すんなり依頼書を渡してんだよ!?」

「ルクス君はちょっと優しすぎるわね。騙した私が言うのもなんだけど、少し心配だわ」

「少しは疑うことを覚えやがれ!人間なんて騙し騙されが常だぞ。出会って間もない人間なんか簡単に信用すんな!」

 

ジークからは容赦のない口撃と、騙した張本人による哀れみの視線が混じり、ルクスはなんとも言い難い居心地の悪さを感じていた。

 

「ところで、エーレンブルグ先生」

「あ?」

 

まだまだ続きそうな説教に待ったをかけたのは、以外にもクルルシファーだった。

 

「疑うことを覚えろや、簡単に信用するなと言っているのだから、私に疑われても文句はないわよね?」

「え?そればどういう・・・・・・?」

 

クルルシファーの質問の意図が分からず困惑するルクス。だが、ジークには理解できたらしい。

勘がいいクルルシファーに内心舌打ちをしつつ目を細め、警戒を少しだけ強める。

 

「生身で幻神獣(アビス)を討伐してみせた時の銀の機攻殻剣(ソード・デバイス)と『銀の厄災』の機体色との一致、タイミングを見計らったようなルクス君が現れてからの乱入。そして──、その時間帯に貴方を見た者がいないこと」

「・・・・・・・・・」

「もしかして貴方が『銀の厄災』なのではなくて?もし、違うと言うのならここでその機攻殻剣(ソード・デバイス)から神装機竜を召喚してもらえないかしら?」

 

そう言って警戒心をあらわにしながら、自分の機攻殻剣(ソード・デバイス)にクルルシファーは手を掛けた。

それに対し、ジークは無言で見つめ続ける。

何も図星だから黙っているわけではない。

むしろその逆である。

ジークにはこれを切り抜ける確信と自信があった。

 

「・・・・・・・一応聞くが拒否権は?」

「この依頼書を使うわ。それでも嫌だと言うのなら憲兵に突き出してから聞くことにするけれど?」

「正直これだけは譲れねぇ。例え給料が減らされようがな。」

 

一触即発の空気の中、先に折れたのはクルルシファーだった。

 

「・・・はぁ、ならこの依頼を受けてくれたら今後依頼はしない。──それならどうかしら?」

「・・・・・いいだろう。つってもこれが答えだ」

 

そう言いながらジークは、腰に差してある機攻殻剣(ソード・デバイス)をクルルシファーへと投げる。

 

「手練の機竜使い(ドラグナイト)は機体名を知らずとも高速無詠唱召喚ができるのは知ってるよな?」

「ええ、一応私もできるから」

「なら話が早い。──やってみろ」

「・・・・・・?」

 

ジークの口振りに疑問を感じるも、高速無詠唱召喚をしようとクルルシファーは、機攻殻剣(ソード・デバイス)のスイッチを押しながら振るう。

だが、何も起こらなかった。

 

「・・・・・・これはどういうこと?」

「な?何も起こんねぇだろ?俺にも反応しなかったんだ」

 

信じられず二度三度と振るうが、やはり何も起こらなかった。

本来ならば失敗したとしても何かしらの反応があるはずだが、この機体は何の反応もしなかった。

 

「こいつは担い手を選ぶらしくてね。どんな能力を持ってるのか、どんな見た目なのか。──俺は何も知らない」

「つまり──」

「俺は『銀の厄災』じゃねぇよ」

(まあ、俺が『銀の厄災』ですけどねぇ!?逃げ道の一つや二つ、用意せずに何が『死を想え(メメント・モリ)』か!)

 

当たり前のように嘘をつくジーク。心の中では勝ち誇った嘲笑を浮かべている辺り、ここまでくると清々しいまでの屑である。

 

「んじゃそういうことで、俺への依頼はもうなしだからな」

「分かってるわ。疑ってごめんなさい」

「・・・・・・僕、完全に忘れられてる?」

 

空気と化していたルクスの一言を皮切りに解散する三人。

一人は困惑を、

一人は疑念を、

一人は慢心を、

その胸に宿す。再びの邂逅はそう遠くない。

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

時は移り翌日。ジークはレリィに呼び出されていた。

 

「じゃあ、今日からお願いね」

「ホントにやるんすか?これまでの成果を含めた実践訓練の参加」

「当たり前でしょ。みんな充分な知識が付いたみたいだし、そろそろ頃合だと思うのよね。そういうことで、今やってる実技訓練の次の時間からね」

「マジすか。まあ、仕事なんでやりますけど」

 

いきなり呼び出されて次の授業からお前も入れと言われてキレなかった俺を褒めて欲しい。

そんなことを思いながらも了承するジーク。

最近、自分は何のために新王国に潜伏しているのか、分からなくなってきているのが悩みらしい。

これも全部依頼主(イカレ野郎)のせいなんだ。

どうせ次から入るのだし、今から演習場に行こうと思うジーク。

だがこの時、演習場で何が起こっているのか知らないが故、素で半ギレすることになるとは思いもしなかった。

 

 

●〇●〇●〇●〇●〇

 

 

時は少し遡り、演習場ににて。整列する女生徒の前に三人の男が立っていた。

 

「ほう・・・・・・やはり来て正解でしたな」

 

三人の中心に立っていたリーダーと思しき男が、含みのある声を上げる。

 

「まったくだ。女だからといって甘やかされているのが見て取れる」

「いくら何でもこれはいただけない」

「・・・・・・まだ教育中の身ですので」

 

残りの二人も見下すような下卑た笑みを見せる。

それにライグリィは、努めて平静に返す。

 

「・・・・・・彼らは臨時で来てくださった講師だ。ここで、しっかりと学ぶように」

 

彼女も本心ではないのだろう。普段よりも数割増しで鋭い表情を浮かべている。

困惑する女生徒達だが、逆らってもどうともならないので大人しく従っていた。

彼らの指導は酷いの一言に尽きた。

回避訓練と称して三人で所構わず機竜息銃(ブレスガン)を撒き散らし、実戦訓練という名で見せ物のように負かされる。

そして、わからないことを聞けば、

 

「甘ったれるな!自分で考えろ!」

 

と言った。

彼らの目的は指導することではなく、王都での合同訓練の鬱憤を晴らしたいだけだった。

挙句の果て、講義をした一人の生徒の武装を弾き、追撃をかまそうとした。

だが、その追撃は《ワイバーン》を纏ったルクスによって止められた。

 

「何だ、誰かと思えば没落王子じゃないか。どうした、こんな所で?草むしりでも頼まれたか?」

 

リーダー格の男は侮蔑を込めた言葉を口にする。

それをルクスは淡々と聞き流して答えた。

 

「いえ、今は事情があって生徒として通っています。それはさておき、指導を代わっていただけますか?僕が教える約束になっているので」

「えっ・・・・・・?」

 

ルクスの言葉に驚く少女。咄嗟に思いついた嘘だが、ここを切り抜けるには充分だと確信する。ここから先はルクスの本領発揮だ。

 

「他の皆さんにも、放課後、僕が装甲機竜(ドラグライド)の操縦を教える先約があるので、補習は勘弁してもらいます」

 

ルクスは言外に、お前達の教えなんぞいらんから帰れと言っているようなものだった。

そんなことを言われてのこのこ帰るようなら、そもそも臨時講師で来たりはしない。それ故、軍人達は腹を立て、わかりやすい怒りをあらわにした。

 

「なんだと・・・・・・!?ならば貴様が教えるに足る実力者か見せてもらおうじゃねぇか・・・・・・!」

「ああ、そうだな・・・・・・!だが、俺達は訓練で疲れている。ハンデをつけさせ──」

「これはどういうことが説明していただけるかな?ライグリィ殿」

 

不穏な空気が漂うこの場に響いた男の声。

全員が演習場の入口付近へと意識を持っていくと、そこには普段の気怠そうな表情は何処へやら、静かな怒りを込めた表情をした一人の男が佇んでいた。

 

「・・・・・・誰だ、貴様は」

()()()()()()()()()()()()()()()()ジークフリート・エーレンブルグだ」

「何・・・・・・?ライグリィ殿ではないのか?」

「そうだ。基本はライグリィ殿に全て一任しているがね。自分の仕事が終わったので来てみれば何だこの有様は」

 

ぽんぽんと出てくる口からでまかせ。それに対し何かを言わんとするライグリィをジークは視線で黙っていろと念を押す。

それを察したライグリィは口を閉ざした。

 

「もう一度尋ねよう。これはどういう状況だ?」

「そこにいる没落王子が我々の指導の邪魔をした挙句、自分が教えるから引っ込んでいろというのでね。その実力があるかどうか試そうとしただけだ」

「別に貴様らには聞いてなどいない。俺は雑用王子に聞いているんだ」

「なっ・・・・・・!?貴様ァ・・・・・・!」

 

取り合う気などないと言わんばかりの塩対応に唖然とする軍人。

尤も、『死を想え(メメント・モリ)』としての彼を知るものからすれば、問答無用で斬り殺していないだけマシと答えるだろう。

 

「正直に答えろ雑用王子。どういう状況だ?」

「・・・・・・彼らの指導方法が明らかに悪影響だと思ったので僕が割って入りました」

「そうか・・・・・・、ならば雑用王子」

「はい」

「下がっていろ」

「はい、すいま──って、えっ?」

 

てっきり怒られると思っていたルクスは拍子抜けする。

決してあのジーク先生が罵倒しない!?などと失礼なことは考えていない。いないったらいないのだ。

 

「何を惚けた面をしている?下がっていろ、これは大人の仕事だ。──というわけで軍人共、俺が相手をさせてもらう」

「いいだろう。だが、俺達は疲れている。ハンデをつけさせてもらうぞ」

「構わん。結果は変わらないしな」

 

そう言って模擬戦の準備が進められた。

ジークは汎用機竜を持っていないので学園の《ワイバーン》を一機借りることとなった。

 

「何よ、あれっ!?あんなに重量パーツをつけたら飛翔どころか満足に動けないじゃない!」

「いくら何でもあれはやりすぎよ!」

 

生徒達はみな驚愕する。不満の声が挙がったとおり、彼の《ワイバーン》に搭載限界ギリギリまでパーツを積まれたことで、重量超過でまともに動くことすらできなくなっていた。

 

「重量もそうだが、あいつは正気か?装衣もなしで装甲機竜(ドラグライド)を扱うなど・・・・・・」

 

今リーシャが言った通り、ジークは装衣を着ていない。それはすなわち自分の身を守る障壁が展開されず、死に至る危険性があることを意味している。

 

「んじゃまあ、準備もできたし始めたいところだが・・・・・・幾つかいいか?」

「何だ、今更命乞いか?」

「そんな訳ねぇだろ」

 

小馬鹿にしたかのような含みのある笑みを見せるジークは観客席を見渡した。そして、用のある生徒を見つけたのか声をかける。

 

「おい、貧乳の方の蒼髪」

「ひん・・・・・・っ!?それは私のことかしらエーレンブルグ先生?」

「ここにお前以外に貧乳の蒼髪がいるか?」

 

なんとも失礼なことを口にするジーク。クルルシファーにとって胸の話は禁句なのは共通認識だというのに、怖いもの知らずである。

 

「・・・・・・せめて名前で呼んでもらえない?」

「じゃあ、乳房・タイラーで」

「喧嘩を売ってるのなら表に出なさい」

「そんなつもりはない。・・・・・・お前の呼び方云々は置いておくとして、担架を三つ用意しといてくれ。念の為にな」

 

そう言ってクルルシファーの話をスルーしたジークは、軍人の方を向き次の目的を果たす。

 

「お前らにひとつ言っておく。テメェらなんかよりここの生徒の方が余っ程強いぞ」

「き、貴様ァ・・・・・・。言うに事欠いて小娘よりも弱いだと・・・・・・!?」

「別に機竜使い(ドラグナイト)としての腕が上ってことじゃねぇよ。精神的にお前らよりも上って話だ。技術はまだまだひよっこだが、後でどうとでもなる」

 

彼がここまで直接褒めることが珍しいのか周りが少しざわめく。あのリーシャでさえ目を丸くしていることからその異様さが伺えるだろう。軍人は顔を怒りからか真っ赤にして震えている。

 

「んで、最後にひとつ」

 

これが本題だというように間を開けるジーク。

 

「俺はこの模擬戦、動くと宣言するまで一切の移動をしない。推進器も蒸さない」

「何だと!?舐めているのか貴様は!」

「いいや、まったく。これで十分だからな」

 

そう言って脱力するジークからは動こうとする意志が感じられなかった。

 

「本当にいいのか?」

「勿論だとも」

 

心配するような表情を見せるライグリィにジークは不敵に答えた。

 

「それでは・・・・・・模擬戦(バトル)開始(スタート)!」

 

その掛け声と共に軍人は三方向に分かれて突っ込んでくる。

左右の二人は機竜息銃(ブレスガン)を構え、正面の男は機竜牙剣(ブレード)を上段に構えて斬りかかってくる。

 

なるほど、効果的だ。何処を防いでも何処かが空く。だがな──。

 

直線的な攻撃には直線で返す。互いの武装が交差するようにジークはブレードを真横に振るう。そして、男とジークのブレードが触れ合う瞬間、

 

ベキンッ!

 

と盛大な音を立てて男のブレードの方が触れた箇所から真っ二つにへし折れた。

 

「なっ!?」

「はァっ!?」

 

その場に居合わせて全ての人間が声を荒らげる。片方だけへし折れるなど到底理解できるものではないのだから。

それはこの中で一番実力の高いルクスですらそうだった。彼ですら何が起こったのか半分も理解できていない。

 

「驚くなよ、ただ武装が折れただけだぜ?」

 

さも当然だというように笑うジークの方がこの場では異常に写る。

全員があっけに取られる中、ブレスガンを転送し、高速で左右の二人も撃ち抜いた。《ワイアーム》の車輪と《ドレイク》の補助脚が一撃で砕けるという異常が再び起こった。

 

「そうか!解ったぞッ!」

 

この異常性にいち早く気付いたのはリーシャだった。

 

「えっ?あれってどういう原理なんですか?」

 

隣に座っていたルクスが尋ねると構ってくれたのが嬉しそうにリーシャは話し始めた。

 

「ああ、あれは恐らくだが調律の応用だな。簡単なことだよ。武装に大量のエネルギーを注いで強度や威力を無理矢理上げているんだろう。」

「そんなことって可能なんですか?」

「原理上はな。だが、一回やるだけでかなりのエネルギーを消費するはずだ。幾ら移動しない分を回せるからってすぐに底を・・・・・・ってまさか!?」

 

なまじ整備士としての知識があるが故にリーシャはその答えに行き着いた。

 

「まさかアイツ、障壁のエネルギーも攻撃に回しているのか!?」

 

そう。ジークは移動と防御に使われる筈の出力を切って、攻撃に回していたのだ。つまり現在、彼の身を守る障壁は一切展開されないということだ。

また、似たような技にブラックンド王国の騎士団長が使う戦陣が存在するが、ジークのは完全な力押しであり非効率であった。

 

「この、化け物め!」

 

こちらの攻撃は全て弾かれ、宣言通り一歩も動くことなく終始圧倒するジーク。痺れを切らした軍人が三方向からブレードで一斉に襲いかかった。

これならば確実に一撃は入るだろうと甘い考えを巡らせるが、現実は非情であった。

 

「『()()()()』」

 

ニヤリと弧を描く笑みを浮かべたジークはブレードを視認不可の速度で一閃。手首の装甲を吹き飛ばされる結果に終わった。

そして、それに驚くのはルクスとリーシャの二人だった。

 

「あれは旧帝国の機竜三大奥義!?何故あいつが使える!?」

「あ、疑問に思ってるやつも多いだろうから、改めて全員に名乗っておくよ。元旧帝国軍中尉ジークフリート・エーレンブルグ。現役時代はとある親友からはその戦い方に因んで『串刺し公(カズィクル・ベイ)』なんて呼ばれてたが、どうでもいいことだな」

「ッ・・・・・・!?」

 

ジークの口より放たれた言葉により彼女達は息を呑む。

旧帝国軍。それが意味することなどひとつしかない。この男は旧帝国の人間だ。

消え掛かっていた警戒心が再び漂い始める。

勿論、こんなものは依頼主(クライアント)に予め用意されていた嘘であることを彼女達は知る術など持たない、

 

「親しみを込めて『ベイ中尉』と呼んでくれよ」

 

嘲り、それでいて煽るかのようなねっとりとした声を出すジーク。()()に聞かれたらキモいと言われること待ったなしのクソだった。

 

「ふっ!」

 

息を吐く声と共に機竜爪刃(ダガー)が三本、同時に投げられる。破損していない方の装甲腕で弾くが体勢を崩してしまう。

 

「クソがァ!?」

 

《ワイアーム》に搭乗する男が崩れた体勢のままブレスガンを放つが、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

次に《ドレイク》を駆る男がブレスガンを撃とうとすると、『神速制御(クイックドロウ)』による超速で投げられたブレードでブレスガンが砕かれてしまう。

 

「はぁ、はぁ・・・・・・何で、一回も攻撃が当たらねぇ!?」

「何なんだよ!?コイツは!」

「クソっ!計画が台無しだ!?」

 

口々に文句を垂れる軍人達をジークは興味を失った無感動な瞳で見ている。

 

「さて、準備もできたし始めますかな」

 

そう言ってジークは両手にブレスガンを構えた。そして、彼らに銃口を向け引き金を引く。無論彼らとて軍人。いかに精細さに欠けていようがその程度躱すことは造作もない。

 

「今更こんな攻撃が──ぐァッ!?」

 

認識外からの衝撃が軍人を襲う。衝撃のした方に意識を向けるとそこにあったのは地面に突き刺さったブレードやダガー。何故衝撃を受けたのか理解できていないようだった。

 

理屈はこうだ。

武装にはそれぞれ少量だがエネルギーを蓄えておくことができる。そこにブレスガンなどで衝撃を加えた際、威力が強すぎるとエネルギーごと武装を吹き飛ばしてしまうが、弱すぎると衝撃が霧散してしまう。

だが、適正な威力で武装に衝撃を加えた場合、威力は減衰するが弾丸を弾くことができる。

もしも、武装と射撃のエネルギーの適正値を導き出せたら。威力の減衰率を把握できたら。入射角と反射角を全て計算できたら。

 

それら全ての“もしも”を理解出来た場合、反射を利用した攻撃を可能とする。

 

これこそ、地形も武装も思考させも利用し、意のままに翻弄するこの男の真骨頂。

 

(これが俺のやり方。『白人胡久美(しろひとこくみ)トハ国津罪(とはくにつつみ)』)

 

ここから先は語るまでもないだろう。

結果はジークの圧勝。最後まで一歩も動かすこともできず軍人は担架で運ばれていった。

しかし、その場に拍手喝采は起こらない。旧帝国軍だという事実が喜ぶことを躊躇わさせた。

 

 

●〇●〇●〇●〇●〇

 

 

模擬戦のあった放課後、リーシャやルクス、クルルシファーの他数名が学園長室を訪れていた。──ジークを呼び出して。

 

「何なんですかー、いきなり」

 

一番最後に入室し、開口一番に心底面倒くさそうに疑問の声を上げるジークに多量の含みのある視線が突き刺さる。

それを無視しながらジークはレリィを見据える。

 

「知っていたのか学園長!この男が()()()()だと!」

 

睨んだところで埒が明かないと思ったリーシャは単刀直入にレリィへ尋ねる。知っていて雇ったのかと。

 

「勿論知っていたわよリーズシャルテさん。履歴書に書かれていたのだから知らない方がおかしいわ」

「なら何故雇った!?コイツらが何をしたのか忘れた訳ではないだろう!」

「彼の人柄を見た上での決定事項です。いくら貴女と言えども異論は認められないわ」

「しかし!」

「まあ、落ち着けよお姫様。そうカリカリすんなって」

 

口を挟んだのは口論の元凶であるジークだった。髪をガシガシと音がするほど掻いて欠伸までするなんとも緊張感のない男だった。

昼間の大人な対応や威厳はどこいった。

 

「つまり、俺が他の帝国軍の連中と違うってことを証明すればいいんだろ?なら簡単だ」

 

話を聞いていないように見えてその実、相手の望むモノを的確に見抜く観察眼はさすが傭兵。

 

「元々俺が軍に入ったのはこんな男尊女卑な政治を変えたいと思ったからだ。けど、現実は優しくない。貴族でもなく、神装機竜を扱える適性もない俺じゃ中尉クラスが限界だった。だから軍を辞めて反帝国側についた、それだけのこと。

こんなもの世界を知らない青臭いガキの理想だったよ。結局クーデターも帝国とやってることは変わらない。対立する者を武力を以て制圧する。圧政を拒むはずのクーデターが、圧制と何ら変わらないなんて皮肉だよな」

「クーデターが間違っていたとでも言うのか!?」

「だってそうだろ?男尊女卑に染まってなくても帝国の方が(しょう)にあってた奴はいる。そんな奴らにとって新王国は果たして住みやすいと言えるか?その結果が今日の軍人達(ああいう奴ら)を生むんだ。無理だと分かっていても話し合いこそが真の解決策だなんて傑作だ。滑稽だよ。声を大にして嘲ってやる(嗤ってやる)

 

この場にいる者は改めて理解した。この男はどこかオカシイ。正気の沙汰ではない。

何故なら、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

だが、この時。ジークは心の中で全く違うことを考えていた。

口を開けば虚偽だらけ。こんなんだから彼女(あいつ)に『嘘で塗り固められた男』とか『本音がない奴』だとか不名誉な渾名で呼ばれるんだ。

これは自分で変えられないと分かっていても、彼女から言われたことだから気にし始めているちょっと子供っぽいジークの一面であった。




はい、書き溜めが底をつきました。(これは酷い)

こんなに遅れた言い訳をさせてください。
まず、前回を投稿した時点で今回の一割も書けておらず、その後は部活や学校のことなどで手が回りませんでした。
毎日執筆時間が1時間程度しか取れず、全然進まなかったことが大きな原因です。
そして、部活で少々揉めまして、結果として退部をしました。なので、色々とやることがあったことも原因のひとつです。

最後に、私には書き溜めが不可能そうなので不定期に戻します。
できれば見捨てないで頂けると幸いです。
度々申し訳ありませんでした。7月はあと二本投稿できたらと思っています。(期待はしないでください)


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第9話 ジークフリートは死ぬほどムカつく

またもや遅くなってすみません。
前回の串刺し公(カズィクル・ベイ)とか『ベイ中尉』とか、某チンピラシスコン変態アルビノ吸血鬼が出てきますが全く関係ありません。(迫真)
それと、乳房・タイラーのネタが分かった人はいますか?もしいたら私と握手しましょう。

それではどうぞ


先日の騒ぎから翌日、遂にジークは初の一日休みを謳歌していた。

労働基準法はどうしたって?そんなものこの時代にあると思うのか?・・・・・・という冗談は置いといて、いつもは週に二回ぐらいの半日休みがあるだけで一日中休みというものがなかっただけだ。

そんな休日も整備道具の買出しや傭兵としての根回しなどで既に日は暮れ、居酒屋でストレス発散をしている状態だった。

なぜ仕事先でも仕事をして苦労しているのだろうと半ばどうでもいい自問自答を繰り返しつつ、酒を煽るジーク。

 

「つか、何だよ。不穏な動きって・・・・・・。出処が信用できるってのは分かるがもう少し情報を整理してだな・・・・・・、いや、そもそもこの俺を顎で使うってのがまず許せねぇな、うん。ああ、ヤダヤダ。帝国を潰せればそれで良かったのに何で今も傭兵なんてやってんだろ。大体なぁ──」

 

酔いが回ってるのか普段は絶対に漏らさないほどの愚痴をジークは呪詛のように垂れ流していた。

その愚痴に付き合ってくれる友人などこの国にいるわけがないため、ただ延々と不吉なオーラを醸しつつ独り言を呟き続ける危ない男にしか見えなかった。そのオーラに当てられたのか周りの客も距離をとっていた。

 

カランッカランッ

そんな中、ジークの耳に響く来客を告げるベルの音。どうでもいいことではあるが、どんな奴が来たのか興味が湧いたジークは、音のした方へと視線を向け即座に後悔する。

 

「ここで構いませんか?」

 

訪れたのは数名の男女。先頭を歩いているのは肩口で切り揃えられた黒髪の少女。だが、問題はその後ろの人物達だ。それを知覚した瞬間、ジークは心中で盛大な悪態を吐いた。

ふざっけんなよクソがァ!何で休日にまでアイツらの顔なんか拝まなきゃなんねぇんだよチクショウ!

その人物とは学園の、ひいては己の仕事に大きく関わるであろう雑用王子(ルクス)御一行であった。

 

「お嬢・・・そち・・・方は?」

「わた・・・・・・人の・・・ス君よ」

 

席へ着いて居酒屋なのにコーヒーや紅茶なんかを注文した彼女らの話が所々聞こえてくる。

つまるところ、黒髪の少女は貧乳の方の蒼髪(クルルシファー)の従者か何かであり、そこら辺でばったり出会って恋人(ルクス)の紹介とかをしているのだろう。

 

「なんだ、つまらん。爆弾発言の一つや二つ、して見せろや」

 

あくまで他人事であるが故に面白いことを期待しているが、いざ起これば面倒事を持ち込むなとキレるであろうジーク。さすが理不尽の塊、横暴な振る舞いに対し妥協がない。

そんな和やか─に見えるだけ─な会話に水を差すかのように近づく一人の青年がいた。

 

「ありゃ、確か四大貴族の一角の・・・・・・どう見てもかませ犬だな」

 

何やら不遜な態度で、くだらない自分語りに入っている金髪の青年─バルゼリッド・クロイツァーをかませ呼ばわりするジークは平常運転どころか、妥当であった。

 

「どうせなら二対二の決闘をしましょう。当事者である私たちが傍観というのも、目覚めが悪いわ」

「ほう?良いのかな。俺は公式模擬戦(トーナメント)で三位に入り、『王国の覇者』と呼ばれているほどの実力を有しているのだぞ?」

「これはこれは、神装機竜を使ってもいまだに公式模擬戦(トーナメント)三位の『王国の覇者』殿ではありませんか。こんな居酒屋に一体なんの御用で?」

 

口の端を歪め、自信たっぷりに戦績を宣言するバルゼリッドに掛かる、嘲りを含んだ無粋な声。そう、新王国最大の脅威(味方)ジークフリート(偽名)である。

 

「・・・・・・誰だ、貴様は」

「ジークフリート・エーレンブルグ。なに、しがない整備士だよ。」

「そんな男が何の用だ」

「いやいや、さっきから黙って聞いていれば、やれ未来の妻だ、やれ格が違うだのさ、──ホントくだらない。死ねば?」

 

初対面ですら罵倒するジークには、流石のバルゼリッドも顔を引き攣らせていた。その後ろでは彼女達が三者三様の表情を見せている。特にルクスが青ざめているのがジークには見え、ますます口を弧に歪めた。

 

「整備士、何故貴様がここにいる?」

 

訝しんだ視線を向けているリーシャが問いかける。

 

「貴様は確か休暇に出ていたはずだ。何故こんなところにいる」

「だからこそだよ、お姫様。折角買出し含めて休日を満喫してたのにさぁ、痴話喧嘩なんか見せられてよぉ・・・・・・酔いも覚めるってモンだぜ?」

 

やれやれと、心底苦労しているとでも言うように肩を竦めるジーク。だが、その視線はバルゼリッドを見据えて逸らさない。

 

「それで?貴様は決闘がくだらないと?」

「ああ、そうだとも。お前の言いようじゃあ、まるで自分の実力を分からせてやるみたいに聞こえるんだよ」

「それの何が悪いと?」

「それがくだらないって言ってんだよ。テメェらみてぇな人種は唯我独尊だろ?欲しいものは奪って、邪魔するのなら潰して、都合の悪いことは隠して揉み消す。・・・・・・貴族ってぇのはそういうもんだろ。なら、力ずくで奪えばいいじゃねぇか」

 

極端でいて偏見。

だが、傭兵として雇われ、多くの貴族を見たジークは、九割そういう人種だと理解していた。そしてこの男もそれだと見抜いている。

ジークの冷たい目と極論を目の当たりにし、バルゼリッドは少しばかり怖気づき困惑する。

 

(なんだ・・・・・・この俺が恐怖している・・・・・・こんな男に・・・・・・?だが、この言い様の知れぬ感覚は一体・・・・・・)

 

バルゼリッドは理解できない。この男が何を考え、こんなことを口にしてるのか。

だがそれは、彼女たちも例外ではなかった。

彼が何故こんな考えを持つのか、何がここまで思わせるのか、過去に一体何があったのか。

何も知らない

故に誰も理解できない

この男の矛盾(絶望)を──

 

そんな彼等の思考を知ってか知らずか、ポケットから小さな紙箱を取り出す。箱を開けるとそこには、二十本ほどの筒のような物が詰まっている。そのうちの一本を取り出すと、咥えてから火をつけ、煙をはき出す。

それは世間一般で煙草と呼ばれる物に見える。

そして白い煙は、バルゼリッドの目の前にいるが故に、彼の顔に直撃し、端正な顔を顰めるが、ジークはお構いなしだった。

 

「・・・・・・煙草なら外で吸ってもらえるかしら?」

「アホか、ンな身体に悪ぃもん吸うわけねぇだろ。こいつは鎮痛だとかリラックス効果だとかがある薬草を乾燥させて、煙草と同じ要領で丸めたもんだよ。実際、無いよりかはマシぐらいだが、まあ、暇つぶし程度にはなる」

 

そう言いつつ煽るかのように煙をバルゼリッドにはき出すジーク。

 

「・・・・・・いいだろう。望み通り力ずくで貴様を潰してやろう」

 

煽りまくって満足したのか、踵を返し、代金を払って帰ろうとするジークに、逃すまいと低い声を浴びせるバルゼリッド。

散々煽られ、虚仮(こけ)にされたバルゼリッドはジークをただで返す訳にはいかなかった。四大貴族として、上に立つ者として、何より己のプライドが許さなかった。

近づいたバルゼリッドは懐に差してある短剣型の機攻殻剣(ソード・デバイス)を抜き放ち振り下ろす。

首席で卒業しただけあり、その一撃は鋭く速いものだった。

しかし──、

 

「・・・・・・遅せぇ」

 

最凶には遠く及ばなかった。

振り下ろされた一撃を半身を逸らすだけで躱され、首筋に何時の間にか抜き放たれていた機攻殻剣(ソード・デバイス)を突きつけられていた。

 

「あまりにもだよクソ貴族・・・・・・。もう少しできるかと思ったが・・・・・・所詮は恵まれた奴(貴族)か」

 

そう冷たく吐き捨てて、ジークは店をあとにした。

 

「あの〜、僕の意思は一体どこに・・・・・・?」

 

 

●〇●〇●〇●〇●〇

 

 

遺跡(ルイン)調査決行の日。格納庫には生徒達が集められバルゼリッドの紹介が行われていた頃、ジークは学園長室にいた。

 

「なんで俺まで遺跡(ルイン)の調査に駆り出されなきゃなんねぇんだよ」

「貴方が予想以上の実力を持っていたからよ。期待しているわ」

 

当初予定されていない仕事を次々と押し付けられて辟易するジーク。

なんだか社畜に近づいている気がするんだけど。

 

「まあ、程々にやってきますよ。あくまで彼女達の護衛でいいんですよね?」

「ええ、そうよ。よろしくね」

 

その言葉を皮切りにジークは学園長室を出た。

 

「そんなこんなで箱庭(ガーデン)に到着しましたー」

「何を言っているんだ貴様は・・・・・・?」

「何か分からんが言わなきゃいけない気がした」

 

状況説明をありがとう。

よくわからないことを言い出すジークにリーシャは呆れの表情を見せる。

 

「と、まあ、色々言ってるうちにゴーレムのお出ましだぜ」

「私が出るわ。みんなは下がって」

「おい、待てクルルシファー!・・・・・・ああ、クソッ!全員いつでも援護できるようにしておけ!」

 

箱庭(ガーデン)の近くでは、迎撃体制なのかは分からないが比較的多数の人数で近づくと幻神獣(アビス)が出現する。

今回出現したのはゴーレムと呼ばれる個体。飛行能力がない代わりに高い腕力を誇る幻神獣(アビス)で、近づかなければ危険度が低い個体としても知られている。

 

「まったく、仕方ねぇな」

 

クルルシファーの駆る《ファヴニール》は高い機動性と精密射撃が特徴の飛翔型神装機竜。彼女自身の腕もあってか、関節部などを狙って確実にゴーレムを消耗させていた。

だが──

 

「ッ・・・・・・!」

「おお、あっぶねぇ・・・・・・」

 

突如、ゴーレムの頭部が開き、そこから閃光が放たれる。この個体最大の脅威である熱線。その威力は神装機竜の障壁であっても容易く貫くだろう。

 

「別に私には『財貨の叡智(ワイズ・ブラッド)』があるから問題ないのに・・・・・・」

「数秒先が見える神装だったか?だからってはいそうですかって訳にもいかんのよ、コチラとしても」

 

自分は大丈夫だと、頑なに告げるクルルシファーにルクスは僅かな違和感を感じるも、すぐにゴーレムへと意識を移しつつバルゼリッドを警戒していた。

汎用機竜では幻神獣(アビス)は倒せなくとも、彼なら抑え込めるだろうと思っていることに、ルクスは驚きを隠しきれずにいた。

 

「貴方、ブレスガン(そんなもの)でどうする気?」

「確かにコレじゃあ倒せんが、モノはやり用ってね」

 

エネルギーを充填したブレスガンをゴーレムへ向けると、反射行動なのか熱線を放とうと頭部が開いた。

その刹那を見切り、ジークは思いっきり()()()()()()()()()()()

 

「『零落・絶──『神速制御(クイックドロウ)』」

 

ブレスガンを投げた勢いをそのままに、推進器を蒸して一回転。それと同時にダガーを神速で投げる。

放たれた二つの物体は、一直線に開いたゴーレムの頭部へと飛んでいく。露出した核へ到達する頃には、ダガーは寸分狂わずブレスガンへと突き刺さり、爆発した。

爆煙から出てきた幻神獣(アビス)は核が破壊され崩れ去っていった。

 

「・・・・・・貴方は、本当に何者なの?」

「いや、違う。今のトドメは俺じゃねぇ。見えたか?雑用王子」

 

クルルシファーの疑念の声にジークは頭を振り否定する。

そして、見ていたであろうルクスへと確認する。

 

「はい。今のはバルゼリッド卿が──」

「危なかったな、未来の我が妻よ」

「その未来の妻というの、やめてもらえないかしら?」

 

神装機竜《アジ・ダハーカ》を纏ったバルゼリッドが不敵な笑みでクルルシファーの肩へ手を置く。その機体の両肩に付いている砲門からは、僅かに煙が出ていた。

 

「・・・・・・おい、うだうだ言ってねぇで向こう見ろ。次来るぞ」

 

そう言って警戒を移したのも束の間。高速で飛来した黒い巨体が同行していたノクトへと襲い掛かる。

 

「くッ、はっ」

「ルクス・・・・・・さん・・・・・・?」

 

間一髪。いち早く飛び出したルクスがブレードを盾にして幻神獣(アビス)の剛爪を凌いだ。

だが、その威力は高く、たった一撃でブレードに罅が入っている。

 

「早く・・・・・・離れてッ・・・・・・!」

「ッ!分かりました」

 

このままでは足でまといだと理解したノクトは、その場を後退する。周りの『騎士団(シヴァレス)』のメンバーが射撃で引き離そうとするが、歯牙にもかけずにルクスを鏖殺しようとする。

 

「雑用王子!一瞬でいい、奴を押し返せ!」

「押し返すって、どうやって!?」

「推進器とブレードにエネルギーをありったけ注ぎ込め!調律で教えた筈だ!」

「わ、分かりました!」

 

言われた通り、推進器とブレードにエネルギーを注ぎ、一瞬で解放して押し返す。その反動でブレードは折れてしまったが構わない。

押し返したのを見計らったジークが、ブレードを幻神獣(アビス)の横っ腹に突き立てて吹き飛ばした。

致命傷ではないにしろ、傷を付けられたことに評価を改めたのか、一旦距離を取る。

これ幸いと、ジーク達も距離を取り仕切り直しのつもりだ。

赤茶けた肉体に、幾つもの捻れた角。一体で小国を滅ぼすと言われる中型幻神獣(アビス)ディアボロス。神装機竜の使い手といえど単騎で戦うことは避けられているほどの怪物。

 

「どうだ、一つ勝負をしないか?」

「勝負だと?貴様、こんな時に何を言っている!」

「あのディアボロスを貴様が先に倒せれば、決闘の件はなかったことにしてやろう」

「アホくさ。別の連中が倒したらどうすんだよ」

 

くだらないことを言い出すバルゼリッドにリーシャは噛み付くが、ジークは()()()正論を小さく呟いた。

 

「ギィエェェエエェエェエエッ!」

 

埒が明かないと感じたのか、絶叫を上げディアボロスは突っ込んでくる。

しかし、不意打ちならいざ知らず、真正面からならばいくら速くとも十分回避できる。

そして、方向を変えようと止まった隙に充填した砲撃を撃つ。

そんな単調な作業の繰り返しが続くかに思われた戦況は、バルぜリットによって崩される。

バルゼリッドがハルバードを振りかぶり、投げたのだ。

ディアボロスは一度回避を取り、方向転換をしようとしたため動きは止まっている。しかし、距離は少なからず離れており、気付かれれば躱されるだろう。

 

いいや、まさか

 

「ナイスパス。『慟哭・劫炎』『神速制御(クイックドロウ)』」

 

案の定気付かれ、躱されると思いきや、そのハルバードをジークが掴み、そのまま振り下ろした。

掴む前に竜尾鋼線(ワイヤーテイル)で足を縛っておいた。故に避けることは不可能。

調律による武装強化と神速による一閃。

それがトドメとなりディアボロスの核は砕け散る。

 

「んじゃあ、全員障壁張れ!あれは爆発するタイプだ」

 

幻神獣(アビス)には核が破壊されると爆発するものがいる。ディアボロスは基本爆発するタイプだ。だからこその判断は正しい。

だが、暴走しかけている《ファヴニール》では満足に障壁を展開することすらできず、とっさにルクスが間には入り、障壁を張るが防ぎきることはできない。

そんな時、箱庭(ガーデン)が光り輝き二人を包み込んでしまった。

 

「それでいい、お前らは真実を知る時だ」

 

ただ一人、ジークは静かに笑っている。

 

「くっ、どういうことだ!?あの二人はどこに行った!」

「さぁな。俺の仕事は遺跡(ルイン)内部に入るまでの護衛。捜索するにしろ、撤退するにしろ、俺の仕事は終わりだ。」

 

言うが早いか、狼狽える『騎士団(シヴァレス)』の面々を置いて帰路につくジーク。リーシャが睨むが気にしない。

 

 

 

「それで?碌に指揮も取らずに帰ってきたと?」

「はいそうですよ」

 

学園長室にて、今回の調査報告を淡々とするジークに、流石のレリィも青筋が立っていた。ここまで開き直って悪びれもしないと勢いが削がれてしまうのをレリィは感じた。

 

「・・・・・・今月は減給ね」

「解せぬ」




先日、と言っても1ヶ月くらい前のことですが感想にてヒロインを増やして欲しいとの要望がありました。
そこでもお答えさせていただきましたが、一応言っておきます。
私はハーレムが嫌いなので“絶対に”(←これ重要)増やしません。1体1以外は書きません。語ると書ききれないので聞きたい人が多ければ活動報告にでも書いておきます。

それと、感想繋がりですが活動報告にてアンケートを実施しています。そこで要望も受け付けていますので、そちらに書き込むようお願いします。(利用規約に引っかかるので)

では、次幕の悲喜劇(シェイクスピア)をご期待あれ


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第10話 厄災の目的は・・・・・・

いつも通りの不定期ですね
申し訳ございません(初手安定の謝罪)

ちょっと英雄の方々と人理修復したり、同人書いたりしてました。
後、第四次聖杯戦争にもちょっかいかけたりしてたんで・・・・・・
クソみたいな言い訳ですね、はい。

それではどうぞ


遺跡(ルイン)探索があった日の夜、ルクスの部屋でアイリは一人、月を見上げていた。

 

「兄さんは超がつくほどのお人好しですが貴方も大概ですよ、クルルシファーさん。貴方は兄さんのことを何も分かっていません」

 

瞑目して呟くアイリの耳に扉を叩く音が響く。

その音と共にジークフリートが入ってきた。

 

「よう、雑用王子。ぐっすりして・・・・・・いないな、行ったか?」

「はい、つい先程ですが目が覚めて飛び出していきましたよ」

「そうか、別にこれといって用があった訳でもなし、邪魔したな」

 

ルクスが既に決闘に向かったことを聞き、内心舌打ちしながらも『死を想え(メメント・モリ)』として彼らに邪魔し(ちょっかいを掛け)ようと足早にここを去ろうとするが、アイリに呼び止められた。

 

「貴方はどうするのですか、エーレンブルグ先生?」

「・・・・・・どういう意味だ?」

「いえ、リーシャ様達も決闘の場に向かうようですし、貴方はどうするのかな、と、ちょっとした興味です」

ルクス(アイツ)には《バハムート》がある。神装機竜の使えない俺が加勢しても意味を成さん。だが、見物には行くさ」

 

見据える様なアイリの視線に若干驚きながらも、肩を竦めておどけてみせる。

やがて、視線から含みが消えのを感じると、ジークは再び歩き出す。体裁上味方であるが故に、一応手を挙げてじゃあなと意思表示をしておく。

 

(雑用王子の妹、文官候補として優秀であっても小娘と侮ったか・・・・・・。アレにはヒントを与えすぎると早々に気付かれるな。・・・・・・事が動き出すまでは警戒しておくか)

部屋から幾許か離れるとジークは心の中で彼女との会話を反芻し、思考する。

彼女は聡い、侮るなかれ。注意せよと・・・・・・。

ジークの中でアイリが有象無象の(ゴミ)から(ゴミ)にランクアップした瞬間である。因みにルクスは羽虫(ゴミ虫)である。蛇足ではあるが依頼主(クライアント)ですら“ちょっと他よりはマトモな知性ある豚”程度にしか思っていない。

 

・・・・・・少し他者の認識が低すぎではなかろうか?

昔はもっと優しかった筈なのに・・・・・・。

 

 

●〇●〇●〇●〇●〇

 

 

時をほぼ同じくして決闘の場にて。

そこには悠然と構える者と地に伏した者、今まさに暴威を振るわんとする者の三つの神装機竜の影があった。

地に伏しているのはクルルシファーと《ファヴニール》であり、バルゼリッドとの勝負に敗北したことを意味している。

ユミル教国で如何に天才と持て囃されようと、殺し合ったこともない強がっているだけの小娘に過ぎず、腐っても戦場を知る『王国の覇者』に勝てる道理は初めからなかったのだ。

 

バルゼリッドにとってクルルシファーとの決闘は児戯しかなく、勝てると分かっている相手にわざわざ希望を見せただけであった。

 

「まさか、ここまで愚かだったとはな『黒き英雄』!」

「・・・・・・ルクス・アーカディア。現時刻を持って、決闘に途中参加致します」

 

言うが早いか《アジ・ダハーカ》に肉薄したルクスは『烙印剣(カオスブランド)』を横へ振るう。しかし、どれほど速くとも正面からの剣閃では届かない。それをバルゼリッドは冷静にハルバードで対処し、お返しとばかりに『双頭の顎(デビルズクロー)』の砲撃を放つ。

砲撃をすぐさまステップの要領で躱し、ルクスは一度距離をとる。

 

この一合の攻防で二人は理解する。ただでは勝てぬと。だが、負けるわけにはいかない。各々の目的の為に。

バルゼリッドは傲慢な自信家ではあるが、一人の将としても優秀である。ただ、ジーク(アレ)が規格外すぎるのだ。簡単に勝てぬことを理解したが故に、策を練る。確実に、《バハムート》の神装を奪えるように。

 

その後も両者の激突は続くが、勝負は互角に見えてバルゼリッドが有利であった。ルクスは飛翔型の最大の利点である空中での高速軌道が、活かしきれていないのだ。《バハムート》には近接装備しかなく《アジ・ダハーカ》には遠距離装備が存在している点が大きい。

 

ルクスが攻撃を当てるには近づかねばならず、近づけば陸戦型の得意距離であり、離れれば一方的に砲撃を受けるのみとなる。一種の膠着状態に陥った戦況に変化をもたらしたのは、なんとバルゼリッドであった。

 

バルゼリッドは『双頭の顎(デビルズクロー)』の砲口を、戦闘不能でまともに動けずにいたクルルシファーへと向けた。

 

「・・・・・・ッ!?」

 

バルゼリッドの成さんとすることを理解したルクスは、全力で彼女を守るために砲口の正面へと割って入った。

引き金を躊躇なく引いて放たれる熱線。殺すつもりはなかったのかその威力は障壁を僅かに貫通した程度であったが、バルゼリッドの狙いは消耗ではない。

 

隙だ。数秒程度でもいい。奴を止められる隙が欲しかったのだ。

強者の戦いにおいて隙は命取りと成り得る。だからこそバルゼリッドはルクスの隙を作ることにした。それにルクスはまんまと嵌り、神装を奪うチャンスが生まれた。

 

「《千の魔術(アヴェスタ)》」

「なっ!・・・・・・しまっ──!?」

 

気付いた時にはもう遅く、《バハムート》の腕には『竜尾鋼線(ワイヤーテール)』が巻き付いており、その先は《アジ・ダハーカ》へと繋がっていた。

バルゼリッドの顔に浮かんだ笑みが濃くなるのが分かる。この男はあの女を見捨てられない。騙されているとわかっていても助けてしまう程のお人好し。遅れてでも決闘に参加したのが何よりの証拠。それを瞬時に見抜き、策へ転じた手腕。すぐには実行せず、タイミングを見計らう慧眼。どれをとっても間違いなく首席に相応しいものだった。

 

 

だが、それだけだ──。

近くで見ていた『死を想え(メメント・モリ)』には糞が茶番を演じて、羽虫(ゴミ虫)が付き合っているだけに過ぎなかった。

あらゆる物を利用しようとする点は評価する。しかし、そこに第三者や人柄しか存在しない時点で論外。見るに堪えぬ即興劇でしかない。

俺ならば雑用王子の目の前で貧乳を殺して、降伏を要求。飲まなければ()()()()()()()()()()()()()()リーシャ達(塵屑共)を殺すと脅せばいい。そして神装機竜を解除したところを刺し殺すべきだ。

たったこれだけの作業に何故策を講じる必要があるのか理解ができない。

 

この男は悪鬼外道の畜生ですら躊躇う様なことを考え、あまつさえ何ら疑問を抱いた様子などなかった。

破綻した思考の男は()()()()()()()()()()()()を眺めながら何かを乞うかのように想いを馳せていた。

そう、『死を想え(メメント・モリ)』は現在空中にいる。それはつまり神装機竜を纏っているということだ。だというのに、近くに待機しているノクトのレーダーには()()()()()()。戦闘領域にいる四機目の装甲機竜(ドラグライド)の反応を誰も補足していない。いや、できない。

この機体が、迷彩を使っているが故に──。

 

あれから三十分ほど経っただろうか、バルゼリッドは機体性能で、ルクスは技術をもって一進一退の攻防を続けていた。

男であり、機竜適性で劣るバルゼリッドはこのままでは負けることを悟る。

故に、勝てないのであれば勝てるようにすればいい。即ち、ルクスの懐柔へと方針を変えたのであった。

 

終末神獣(ラグナレク)は知っているな、没落王子?」

「・・・・・・遺跡(ルイン)にそれぞれ一体ずついるという大型の幻神獣(アビス)──それがどうかしましたか?」

 

バルゼリッドの問い掛けに不意打ちを警戒しながらも答えるルクス。

そんなルクスにバルゼリッドは、素晴らしく栄誉であるかのように、声高らかに宣言した。

 

「俺はな、この国に迫るその終末神獣(ラグナレク)を倒してやろうというのだぞ?そのためには、一刻も早く遺跡(ルイン)から新たな武器を発掘せねばならん。クルルシファー(ソイツ)はその道具に過ぎん」

「何が言いたい?バルゼリッド・クロイツァー」

「負けを認めろ、ルクス・アーカディア。そうすれば貴様の今までの不敬は許してやろう。なんなら、そこの女を好きに抱いて犯しても構わん。・・・・・・まあ、俺がたっぷりと楽しんだ後にだがな」

 

人を人として扱おうとも思わない発言。

どこまでも下衆で腐った男尊女卑の思考。

それを聞いたルクスは腸が煮えくり返りそうな思いであった。認めてはいけない、許してはいけない。

何も守れなかった僕だけど、それでも譲れない意地があるのだと言うように。

 

「もういいわ、ルクス君!もう、やめて・・・!」

 

剣を握る手に力が入り、《バハムート》の装甲が震え、不気味な駆動音を上げているルクスへと、クルルシファーは叫ぶ。

 

「これ以上、私のせいで貴方が傷つくのは見たくない!──お願いだから・・・私を道具と言って、そうすれば・・・・・・もしかしたら、なんて期待せずにいられるから・・・・・・っ!」

 

聞く者が心苦しくなるような悲痛な叫び。家族から疎遠にされ、バルゼリッドに罵られ、それでも見捨てずに戦うルクスに期待などしたくないと、諦めさせてほしいと訴えるクルルシファー。

だが、ルクスは見捨てない。何があっても、これ以上取りこぼさないと誓ったから。

 

「クルルシファーさん・・・・・・。貴方は人だ。僕らと同じ、立派な人間です。そして僕は、貴方の恋人だ!」

 

軋む装甲で剣を上段に構え、しっかりと断言するルクス。そこに羞恥心など欠片もなく、彼女を尊重する優しき言葉であった。

 

「はっ、暴走寸前の機体で何が出来る、没落王子!」

 

勝った。

勝利を確信したバルゼリッドは哄笑を上げつつも、油断せずに《竜鱗装盾(オート・シェルド)》と《暴食(リロード・オン・ファイア)》の重ねがけで絶対の布陣を取る。

暴食(リロード・オン・ファイア)》を十全に扱えないバルゼリッドはルクスの即撃のような離れ業はできない。ならば始めから防御にまわせばいい。合理的であり、堅実な判断だ。

 

(くっだらねぇなぁ、おい。別に(ゴミ)が人かどうかとか、どうでもいいからさっさと終わらせてくれます?どうせどっちが勝っても俺が潰すんだし、できれば面倒が少ない方で──)

 

ずっとつまらなそうに見ていたジークは、待ってましたと言わんばかりに結果を催促する中、ルクスは暴走寸前の《バハムート》で突貫する。

 

「っ!?『強制超過(リコイル・バースト)』」

 

バルゼリッドの障壁に《烙印剣(カオスブランド)》が当たる瞬間、何かに気づいたルクスは推進器を全力で稼働させ、斜め上へと、即ちジークのいる場所へ振り下ろした。

 

「『慟哭・空踏』、『零落・狂化』」

 

『慟哭・空踏』。調律の応用で障壁の性質を受け止めるでも、受け流すでもなく、跳ね返すことに変質させ、相手の攻撃を弾く技。

だが、『強制超過(リコイル・バースト)』の威力はそれだけでかき消せるはずもないが、この神装機竜の持つ特殊武装の能力がそれを可能とする。

長刀の能力は大きく分けて三つ。増幅、圧縮、放出。この三つのうちの増幅はエネルギーを何十倍にも跳ね上げる程の性能を誇り、刀身に障壁を纏わせれば『強制超過(リコイル・バースト)』を防ぎきることができる。

そして今回、『慟哭・空踏』が弾く方向は自分側。つまり、長刀の方が弾かれるように調律している。これにより、本来は地面を抉りとるほどの衝撃を、全て遠心力へと変えられている。

この時に右翼だけ推進器を稼働させることで更に加速。

莫大な遠心力に加え、『強制超過(リコイル・バースト)』と名前が違うだけで同じ技、『零落・狂化』を使用し上段から振り下ろし、地面に叩き付ける。

この一連の動作、僅か二秒ほど。

 

始めから当たるとは思っていなかったのか、ルクスは直ぐに後退していた。ジーク自身も一撃で終わらせるつもりなどなかったのか、かなり手を抜いていた。

本気で殺す気であれば絶対必中の技術を使っていたし、そもそも先の一連の動作に、もう一つ、二つ技を使っていた。

侮蔑の篭もった笑みを貼り付けながら、ジークは軽い口調で口を開く。

 

「へえ、よく俺がここにいるって分かったな?」

「・・・・・・ほんの少しだけ、貴方から殺気が漏れていました」

 

ルクスの返答にジークは余程驚いたのか固まってしまった。顔は隠れて見えないが、フードの下でジークは目を丸くしていた。

殺気に気付かれたことではなく、自分が殺気を出していたことに──。

 

「あなたのその神装機竜の神装は“光の屈折、もしくはそれに準ずるもの”じゃないですか?だからあの時も、五年前も、近くに接近するまで気付けなかった・・・・・・」

 

動きを止めているジークへルクスは問う。今まで限りなく近ずかれなければ気づけなかった理由を、それに対する自分の推測を。

だが──、

 

「くはッ、はははははははは!」

 

ジークは嘲笑を上げる。自信満々に間違った解答をする間抜けを馬鹿にするような笑みをルクスへ向ける。

 

「少ない情報でそこまで考えられるとは賞賛に値するよ。だが、大した読みだがハズレだ!俺の神装はそんな甘っちょろいもんじゃねぇ!冥土の土産に教えてやる。・・・・・・《千の魔術(アヴェスタ)》」

「馬鹿な!《アジ・ダハーカ》の神装だと!?」

「神装《蛇王の叡智(ヴァスケイ)》──()()()()()()()()使()()()()()()()()神装だよ」

 

動きが見えないほどの速度でルクスへ肉迫したジークは、左手を翳し神装の名を発する。それは強奪。《アジ・ダハーカ》の神装にして全神装機竜にとって脅威たり得るもの。

ルクスの《バハムート》の出力が落ちるのを感じる。エネルギーを奪われたらしい。

それを理解したルクスは剣を横薙ぎに振るい、距離を取った。

 

「ふむ、今思えば俺達は一度も名を名乗ったことがなかったな。」

「そうですね。それが何か?」

「つれないねぇ。まあいいさ。じゃあ、改めて、名乗れよ小僧(ガキ)。戦の作法だ、聞いてやる」

 

あくまでも自分が上だと主張するような高圧的な態度を崩さないジーク。

それに対し、ルクスの返答は冷たかった。

 

「貴方に名乗る義理も義務もない」

「そう睨むなよ『黒き英雄』。そんじゃあ、自己紹介だ。俺とて本名を名乗る訳にはいかんのでね、通り名で悪いな。──俺の名は『死を想え(メメント・モリ)』、フリーの傭兵をやっている。記憶する栄誉をくれてやる塵虫(ゴミ虫)共」

「・・・・・・ルクス・アーカディア。元旧帝国第七皇子で、今は『咎人』だ」

 

人を下に見る態度は変わらないが、相手が名乗ったのならばと自分も名乗るルクス。ジーク本人としても特に意味はなく、故郷の名残だろう。

 

「『死を想え(メメント・モリ)』・・・・・・、聞いたことがある。報酬次第でどんな依頼もこなすイカれた傭兵。誰であろうと関係なく殺す狂人と聞くが、そいつが『銀の厄災』とはな。成程、言い得て妙だな」

「知っているのか、バルゼリッド」

「噂程度だがな。最初は名無しの傭兵で目立った活動もしていなかったらしい。だが、どうにかして連絡を取れればどんな依頼でも達成してくれるとかな」

 

死を想え(メメント・モリ)』の存在を知っていたバルゼリッドは内心戦慄する。この男の最凶の噂、通り名の意味を知っているから。

 

「この男が報酬として要求するのは前金だ。それが決して法外な訳じゃない。むしろ依頼の難易度を考えれば安い。だが、問題はそこではなく後金にある。」

「後金で法外な額を請求するだけなら問題には──」

「違うぞ没落王子。あいつが依頼達成の暁に求めるのは──依頼主の命だ。依頼主が男だろうが女だろうが、善人であっても悪人であっても、必ず殺している。」

「なッ!?全員をっ!?」

 

バルゼリッドによって告げられた真実にルクスは驚愕する。依頼主を殺す傭兵など常軌を逸しているからだ。

 

「人聞きの悪いこと言うんじゃねぇよ。ただ、俺に連絡を取れる時点でまともな奴がいねぇから殺してんだろうが。全員浅ましい汚職だらけだったぜ?」

 

ジークの言う通り、絶対に殺す訳ではない。万が一失せ物探しの依頼が来ればちょこっとお金を貰うだけで殺しはしない。ジークにはジークの基準がある。ただ、それを満たせた人物がいないだけに過ぎない。

一度、神装機竜持ちの機竜使い(ドラグナイト)数名で返り討ちにしようとした貴族がいたが、虐殺されて無惨な状態だったと言う。この男に依頼をするということは死を覚悟せねばならない。

故に、付いた通り名が──

 

「『死を(メメント・)・・・想え(モリ)』」

「貴方が本当に『死を想え(メメント・モリ)』なのだとしたら何が目的だ?」

 

機竜も纏っておらず、その圧倒的なまでの威圧感に恐怖してしまったのか、地にへたりこんだクルルシファーが呆然と呟き、ルクスは最大の警戒を見せる。

 

「依頼主の目的ねぇ。何でも新王国に良からぬことを企む連中が不法入国したらしくてね、そいつ等と繋がってるヤツを潰せって言われてんのよ。まあ、どこの国が不法入国したのかは目星がついてるんだけどな」

「数年前から誰も連絡が取れなくなり、遂に死んだかと思われた傭兵が今更何を・・・・・・」

「これでも傭兵だからな、信頼は必要なんだよ。一つの依頼を受けている間は他の依頼は受けないようにしているんだ。」

 

今度はこの言葉にルクスが驚いた。他者を塵屑(ゴミクズ)と罵る男が信頼の必要性を知っていることに。

 

「俺ってなぁ、争いとか嫌いな性分だしさぁ?好き好んで塵屑(ゴミクズ)に触りたい奴なんていないだろ?円滑に仕事が進むことに異論はない訳でぇ、俺って優しいし?アフターケアもしっかりしておくべだとおもんだなこれが」

 

──ああ、いつもの『銀の厄災』だった。

三度目の邂逅にして既にこの男の在り方を理解したルクスは、何が言いたいのか纏まっていない支離滅裂な発言から、彼の言わんとすることを理解して辟易とした。

 

「前回は顔見せってことで来たけどよぉ、今日は乱入する気なんか微塵もなかったんだぜ?さっきも言ったけど争いとか御免だし、面倒事は避けたい主義でしてね?」

「──後ろがガラ空きだぞ、『死を想え(メメント・モリ)』!」

 

突如聞こえた鋭い声。いつの間にか隙を伺っていたバルゼリッドが背後からハルバードを振り下ろしてくる。

 

「昔から思うのだが、何故そんな見え透いた攻撃が通じると思うのだ?」

 

左に逆手で持ち直した長刀を背後に突き刺す。長刀は寸分狂わずハルバードを弾き、その一瞬を使い右足で回し蹴りを放つ。

後退したバルゼリッドとの距離を一瞬で詰め、右手に持った長刀から左足の装甲の関節部へと一撃が振るわれた。

 

「『生剝(いきはぎ)』」

「くっ、有り得ん!関節部を一撃で当てるだと!?」

許多ノ罪ト(そこはのつみと)法リ別ケテ(のっとりわけて)─『生膚断(いきはだたち)』『死膚断(しにはだたち)』」

 

続けて振るわれた剣閃は計四回。先の二回は右手と右足の装甲を斬り落とし、後の二回は左足と胴体の生身を斬り裂いた。

 

「がッ、あぁぁあぁああぁあッ!?くっ、はあ、はあ。この俺がこうも簡単に──」

「安心しろバルバトス。おm「それは違う奴だぞ!というか、二文字しか当っていないぞ!」・・・口を挟むなよ。──取り敢えずテメェは殺さないで新王国の情報源にしろって依頼主に言われてんだ」

 

生身を斬られたことで想像を絶する痛みが身体中を蹂躙する。耐えようと思っても肉体が本能的に拒否反応を起こし、思うように動かない。しかし、ジークのボケには痛みを無視してでもツッコまなければならない気がした。

 

「言われてるけど、別に死んでなければちょっとぐらいはいいだろ」

 

碌でもないことを企むような笑みを見せるジークはバルゼリッドへと近ずき・・・・・・腕を思いっきり踏み潰した。

 

「あ、あぁァァぁああアぁアァぁっ!?」

 

筋肉は断裂し、血管は破裂。肉の押し潰れる音と骨の砕ける音が響く。つまるところ、腕が千切れたのだ。その痛みは温室育ちの貴族には耐えられるものではない。この世界のどこに日常的に腕が千切れる痛みを味わう人間がいるという?

そのまま、足も一本踏み潰そうとすると──、

 

「やめろォッ!」

「はっ、貴様が気にすることか?敵だろ?」

「それでも、目の前で殺されていい理由になんかならない!」

「自分は殺すくせに他人が殺すのは怒るのか?貴様も大概腐ってるな?」

「こんな、こんなことをして、貴方の仲間は悲しまないんですか!?貴方にだって信じて、信頼して、守りたい人がいるんじゃないんですかっ!?」

 

横薙ぎに振るわれた剣を長刀を縦にして受け止めつつ問答する。

ルクスは叫ぶ。守るべき人の為に戦うべきだと。

ジークは嗤う。守らない人を消しているのだと。

 

「信じる?信頼?ああ、知っているとも、理解しているとも、誰よりも。何故ならそれが──俺が何より求めたものに他ならない。俺の信用も、信頼も、もう既に向けるべき相手がいる。ならば他に向ける余地がどこにあると言う?」

「な・・・に?」

「俺が守りたいモノはごく少数。俺は最凶だが弱いから。そいつ等を守るのに精一杯なんだよ。だからこそ、他を気にする余裕などないんだよ」

「は、はっははははは!面白いものが聞けたよオタクら」

「・・・・・・誰だ」

 

決闘場に突如、笑いが響く。それは、ルクスやクルルシファーには聞き覚えがあるもので──、

 

「名乗る程の者じゃないが一応、()()()()()()()()()()()()()()()だ」

 

建造物の影から姿を見せた男はそう名乗る。

 

「ああ、続けてどうぞ。俺のことは気にせずに。そこらの石ころとでも思ってくれていい」

 

ルクス達は気づいていないがジークフリートは目の前にいる『死を想え(メメント・モリ)』である。ならば、彼は一体誰だ?

 

「・・・・・・もう一度問います。貴方の目的は何ですか?」

 

何故、彼がこんな近くまで来ているのか疑問であったが、その事は頭の隅に追いやり、聞きたいことを問う。

 

「あ?さっきも言っただろ?新王国に変な奴らが──」

「いいえ違います。雇い主ではなく、貴方個人の目的を聞いているんです。」

 

ジークの話を途中で切り否定する。個人的の目的がある筈だと。

 

「──なんでそう思った・・・・・・?」

「まだ、これで三度目ですが何となく分かります。傭兵をしているのも、今ここにいるのも別の目的がある。人を(ゴミ)と断じる貴方が人の下に就くほどの理由がある筈です」

「・・・・・・」

 

ルクスが確信を込めて言い放った途端、今まで絶対に崩すことのなかった笑みが消えた。

無表情でルクスを見つめるジーク。

緊張が高まり、ルクスの背中には冷や汗が流れる。

瞬間、ルクスの視界からジークが消える。

 

「・・・・・・平穏だよ」

「ルクス君っ!」

「ッ!?」

 

ジークの声とクルルシファーの叫びが重なって聞こえた刹那、反射的に身を翻す。

背後から、空ぶった長刀が地面に叩き付けられ、砕け散る。

 

「金も、地位も、名誉も何もかも、そんなものはどうだっていい。一日を生きるのに必死でも構わない」

 

淡々と紡がれる言葉と共に振るわれる剣閃は一撃が重く、受け止める度に装甲が軋みをあげる。

 

「ただ、アイツらがいてくれればそれで満足だった。俺は平穏な日常こそを焦がれ、徹頭徹尾それのみを求めた」

 

その言葉は決して冷たくはない。だが、温かさも感じられない。一つのことに従事する機械のようでもあるそれは、無我の境地とも言えた。

一体どれだけ追い求めれば熱を失うというのだ。

 

「それが、貴方の目的・・・・・・」

「そうだ、傭兵などその為の情報源に過ぎん。未だ殆ど、誰がどこにいるかも分からんが、遂に一人は新王国にいることが分かった。ようやくだ、ようやく見つけたんだ」

 

ジークの語尾が強くなっていくのがルクスには分かった。如何に熱を失っていようが、すぐ近くにいることがわかって気持ちが抑えられないのだろう。初めてルクスは、彼の人間らしいところを見た気がした。

 

「だからよォ、お前に関わっている暇なんかねぇんだ。『零落・狂化』」

 

ジークの神装機竜が軋みをあげながら長刀を上段から振り下ろす。『強制超過(リコイルバースト)』と同種のものだと判断したルクスは、僅かに後退してギリギリで躱す。

振り下ろした勢いを殺さずに反時計回りに一回転したジークはそのまま横に薙ぎ払う。今度は受け止めようとしたルクスだったが、()()()()()()()()()()()ことに気づき、咄嗟に上昇して回避した。

再び空ぶった長刀が建造物を粉々に粉砕する。

 

「まさか、『強制超過(リコイルバースト)』を連発したのか!?そんなこと出来る筈がない!」

「はっ!そりゃテメェらだからだろうが。原理的に言えば、全力の肉体操作を精神操作で抑え、力を蓄えてから一気に放出する。いわば抑制と解放だ。」

 

常人ならば機体が吹っ飛ぶような負荷を掛けていながら、素知らぬ顔をして挑発するジーク。これは彼のとある能力と神装機竜の性能が高いからこそできる荒技であった。

 

「本来ならば人間は同時に複数のことを考えることはできねぇ。できたとしても20%程まで思考低下するそうだ。だが、俺の同時思考能力(マルチタスク)と情報処理能力はそれを可能にする。」

「っ!そうか!そういうことか!」

 

そこまで言われてルクスも理解する。『強制超過(リコイルバースト)』を連発?いいや、一度しか使っていない。

 

「『強制超過(リコイルバースト)』が単調な動きしかできないのは精神操作に思考を取られすぎるせいだ。つまり、俺は精神操作をしながらでも複雑な思考をすることができるって訳だ!」

 

分かりやすく言うならば、肉体操作を抑える精神操作のON/OFFを切り替えつつ、他の精神操作を行えるということだ。

 

「さて、と。お前を殺すなとは言われたが──」

 

そう言つつジークは再び姿を消す。ルクスは自分の周囲を警戒しつつ、いつでも剣を振るえるようにしている。

 

「──お前を殺すなとは言われていない。死ね」

「ッ!?」

 

クルルシファーの背後にいつの間にかいたジークは何の躊躇もなく長刀をを振り下ろした。

それは正しく奇跡だろう。機竜を纏っていても躱すことはほぼ不可能なそれを、本能的に飛び退くことで事なきを得たのだから。

だが、ジークは躱されたことよりも、クルルシファーが生きていることに逆上した。

 

「何で生きてんだッ!俺が死ねって言ったんだ、死ねよォ!」

 

今度は技も何もなく無造作に長刀が振るわれる。

 

「クルルシファーさん!」

 

ルクスが辛うじて防ぎ、お互いに押し返す。勢いに逆らわず距離をとる両者。

 

「《暴食(リロード・オン・ファイア)》」

 

異口同音に放たれる《バハムート》の神装の名。先の五秒間の圧縮により、お互いは減速する筈であったが、ジークはむしろ加速していた。

 

「なっ!?」

「俺の神装がただ真似するだけだとでも思ったかこの(カス)ゥ!」

 

『零落・狂化』は解除した筈なのに、そうではないかと錯覚するほどの重い一撃。後の五秒間による加速が始まるとやはりジークもそれ以上に加速した。

上下左右からの剣閃に何とか付いて行くルクスだが、反撃は一度しかできず、それも上回る速度で防がれて終わった。

 

「この速さは、貴方の本来の神装という訳ですか」

「神装《蛇王の叡智(ヴァスケイ)》に含まれる俺の機体専用の神装、《蛇神の諸王(ナーガラージャ)》だ。能力は至ってシンプル、機体性能強化倍加で、負荷も倍加だ」

 

機竜の性能を三倍強化すると機体の負荷が約二倍になるという強力だが、簡単に死に至る危険な神装。

 

「そして──、機体性能五倍で負荷三倍だ。ゴホッ、ガァッ」

 

そう言ったジークはかなりの量を吐血した。抑えた手が赤く染まる。黒いコートに血が滲む。流石の『銀の厄災』と言えど、負荷三倍は無茶だったらしい。

 

「それ以上は死にますよ!もう戦うのはやめましょう!」

「はぁ?俺ァ、敵だぞ?情けのつもりか?・・・・・・でもまあ、確かに辛いもんがある。だから、撤退する前に一つ聞かせろ」

「何でしょうか」

「お前は帝国の皇子でありながら常に奪われる側だった。何故憎まない。何故許せた。何故笑っていられる?」

 

ジークではなく◾️が五年前から気になっていたこと。似た境遇であるはずなのに、自分のようにならなかったルクスへ感じていた疑問。

 

「それは、大切な仲間がいるからです。復讐なんかより優先すべき、守りたい人達が、僕を支えたくれたから」

 

そう言ってルクスは◾️へと優しく微笑んだ。

 

「・・・・・・何故だ、何故だなぜだナゼダなぜだなぜだ何故だナゼダァ!答えろ没落王子!俺と同じく奪われてきたお前が!俺よりも弱いお前が!何故平和に笑っていられるんだァ!奪われたから、奪い返してやろうと必死になった俺は何も取り返せていないのに、臆病にも隠れていたお前は守りたいものに溢れている!俺とお前、何が違う!」

 

初めてジークの仮面が完全に剥がれた。◾️としての叫びがルクスへと突き刺さる。手からこぼれるのなら何度でもすくい上げてみせようと誓った己は、結局何も守れなかったというのに、ただ責任から逃れようと逃げてきた臆病者が、まるで定められていたかのように仲間に恵まれていった。

そんな現実を直視したくない、認めたくないという慟哭を隠すように、狂い叫ぶ。言葉と共に振るわれた連撃は精細さを欠いておりルクスでも軽く流せた。

 

「貴方は他者を見なかったんだ!自分に差し伸ばされた手を払って、独りで足掻いてたんだ!僕だって、みんなが居てくれたから今の僕があるんだ!独りじゃ何もできないから!貴方は守れなかったんだ!」

 

◾️の慟哭に対し、ルクスは力の限り叫ぶ。自分一人の力なんかじゃないと。こんな臆病者を信じてくれたから今の自分がいるんだと。今、目の前の真実に向き合えと、二度と失わないと誓った意志をぶつける。

 

「・・・・・・そうか、なら、きっと、俺達は・・・・・・結局、何も守れないんだろうな」

 

先程の激情が嘘のように落ち着いたジークは長刀を逆袈裟斬りに振るった。そこから放たれたのは先の二度の邂逅で猛威を奮ったエネルギーの奔流。即ち、放出である。

 

「ガハッ、グッ」

「死なないように手加減はした、じゃあな」

「ルクス君っ!」

 

闇に飲まれ、遠退いて行く意識の片隅にそんな声が聞こえた。

銀の流星は紫の残影を残し、飛び立って行った。

彼のいた場所に煙草の吸殻を残して──。

 

 

●〇●〇●〇●〇●〇

 

 

決闘場から少し離れた洞窟にて、銀の機竜が鎮座していた。

そこは表に出せない『銀の厄災』の神装機竜の簡易格納庫兼拠点であった。

 

【と、まあ、これが今回のことの顛末だな】

【最後の方、なんか端折っていないか、貴様?】

【・・・・・・何の事かな?】

 

自分がみっともなく叫んだ所を誤魔化して伝えると、やはりバレた。だが、そのまま押し通す。

 

【んで?これからはどうすんだ?お前のことだから現状維持なんてつまらんことは言わんよな?】

【話を逸らしたな貴様・・・・・・。まあいい、お前は次に奴らが動いた場合、絶対に手を出すな。『黒き英雄』達だけの実力を見ておきたい】

【構わんが、ジークフリートとしてなら手を出していいのか?】

【好きにしろ。やりすぎなければ勝手にするがいい】

 

威圧的な雰囲気に一切流されずに話を進める両者。ジークの隣には同じ顔をしたもう一人のジークフリートがいる。

 

【特殊武装で偽の器を作って一人二役を演じたのだろうが、その為だけに《魔楽聖唱(ヘルクァイア)》を使うとはな。やはり貴様は頭のネジが欠けた間抜けらしい】

【お前、マジ覚えてろよ、お前】

 

この男、依頼主を知性ある豚程度とか言っている割に、何だかんだで楽しそうである。

 

 

 

 

 

 




もっと早く、それこそ初投稿の時に言うべきだったと思います。
私はこの小説を趣味で書いておりますので、学校や他のゲーム、バイトなどを優先させて頂いています。
皆様に早く、良い物を読んでもらいたいのは山々ですが、書かねばという強迫観念で書いていると駄文を書いてしまうのは目に見えているので、書きたい時に少しずつ今も書いています。
これからもスタイルを変えるつもりはありません。
説明・投稿が遅くなり、大変申し訳ありません。
こんな自分勝手な私ですが、少しでも楽しんでいただけたら幸いです。

では、次幕の悲喜劇(シェイクスピア)をご期待あれ


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第3章〜戸惑う『学園最強』と嗤う教官〜
第11話 私の矜恃


はい、今回はなるべく早く出せました。
えっ?予告?あれを書くといいネタが思いついても上手く使えないんで勝手ながらやめました。←ホントどうしようもないなコイツ

皆さんも先がわからない方が楽しめますよね(押し付け)

それではどうぞ


──とある日の夜

 

月明かりが灯り、風も穏やかなその日。二人の男女が見つめ合っていた。片方は口を開けて呆然と、もう片方はこの世の終わりを見たかのような絶望を浮かべていた。

否、二人の男女ではなく二人の男が正しい。

 

「ああ〜、雑用王子?」

 

呆然と口を開けていた男──ジークフリートは素で引きながら声をかける。

 

「な、なんですか・・・?」

「・・・・・・悩みがあるなら相談に乗るぞ?」

「違います!これには深い訳が──」

 

もう一人の男、女装しているルクス・アーカディアへジークは務めて優しく励ました。

ルクスの趣味を知ってしまったことで演技でも何でもなく本心で心配してしまうジーク。その顔には動揺がありありと見てとれた。

 

「そもそも、これは囮に必要だってシャリス先輩達が──」

「・・・・・・はあ。まったく、これで俺なんかより大層ご立派な意思があるってんだから皮肉なものだよな」

「えっ?何か言いましたか?」

「いや、何でもねぇ」

 

この前の戦闘のことを思い出して嫌になってくる。

あれだけ大層なご高説を垂れていた男が、己の前で女装をしているのだ。嫌になるなという方が無理な話だろう。

 

 

●〇●〇●〇●〇●〇

 

 

「それで、三和音(トライアド)に頼まれたから仕方なく女装をしたと?」

「はい、ですのでこれは決して僕の趣味というわけではないんです」

「バカか貴様は。そういうのは教官の仕事だろ、学生風情で何ができる?」

 

お互いベンチに座り、話を聞くと最近、学園の敷地内で不審者がでるらしい。そこで正義感の強い三和音(トライアド)が調査をしようとしたが彼女らは女。機竜を使えようが危ないことには変わりない。ということで、男であるルクスに白羽の矢が立ったという訳らしい。

 

まったくバカバカしい。そんなことを思いつくあの塵屑(ゴミクズ)トリオもそうだが、当たり前のようにお願いを聞いている雑用王子も理解ができない。己に一体何の得があるという?

・・・別に俺のように()()()()()()()()()()()()のに。

 

「ふむ、ところで気づいているか?」

「え・・・っと、何がですか?」

 

突然、周囲を軽く見渡しながらジークが問いかけてくる。いきなりのことに困惑しながらも、何のことかさっぱり分からないルクスは、遠慮がちに聞き返すと返答が返ってきた。

 

「やはり気づかないものか。そこと、あっちに、それぞれ一人づつ誰かいる」

 

そう言いながらベンチの後ろと少し離れた藪の中を、指で差しながら立ち上がる。

 

「えっ!?」

「出てこいよ。お前だろ、学園を騒がせてる不審者ってのは?」

 

気配に全く気づかなかったことに焦るルクスとは裏腹に、彼は冷静に藪へ近づき投降を促した。

藪の中まで後3mといったところで、影から何者かが飛び出してきた。

飛びかかってきた者はジークに近づくや否や、彼の顎に向けて鋭い蹴りを放ってくる。しかし、ジークは半歩後ろに下がるだけで躱す。目の前を足が通り過ぎても一切動じることはない。

空振りに終わったことを理解すると同時に、蹴りの勢いのまま半回転し、不審者は体勢を低くしつつ反対の足で足払いを掛けてきた。

それを予想しない訳がないジークは、バク転でルクスのいる場所まで交代すると、これ幸いと不審者の方も距離を取る。

不審者は黒いローブに仮面、帽子と正体がバレなくとも、いかにもな格好をしていた。

 

「危ないねぇ。まったく、桑原桑原(くわばらくわばら)

「だ、大丈夫ですか!?」

 

これっぽっちも本気を出さずに躱し、いつでも反撃できたのにしてこなかったことに疑念を感じる不審者。

ルクスは余裕の表情を崩さないジークを心配していたが、要らぬ気遣いであった。

 

「問題ない、それより俺から離れるな。一応お前はか弱い女生徒ってことなんだろ?」

「ぼ、僕も戦えます!」

「そこの不審者!今すぐ彼女から離れなさい!」

 

ルクスが自分も戦えると、二人で取り押さえましょうと提案しようとしたとき、凛とした女性の声と共に()()()()()()()()突きが飛んできた。

 

「・・・・・・え?」

「は?」

 

うん、この独特な流線型のフォルムと太さはどう頑張っても機攻殻剣(ソード・デバイス)じゃなくて突撃槍(ランス)なんだよなぁ。つまり、この攻撃は機竜によるものでって、ええぇぇ!?

 

人間よりも遥かに強く、速い機竜の一撃が、ジークの顔面直撃コースを狙っていることに二人は素っ頓狂な声を上げつつも、認識するが早いか大慌てでジークは回避行動をとる。

先程まで二人が座っていたベンチの後ろから出てきた彼女は、この学園の制服を纏った金髪の女性で、リボンの色からして三年であることが見て取れる。そんな彼女の背後には、威圧感の強い黄金の神装機竜が部分的に展開されていた。

 

「無詠唱高速召喚に部分接続。相当の手練のようだが──」

 

くっそ、なんでそんな高等技術使えんだよ。俺だって未だにどっちもできねぇのに。

 

こういうところで自分と比べるあたり、やはり彼は根っからの自己愛なのだろう。

 

あまりにいきなりだった為、転がるように回避をする羽目になった。結果として躱すことはできたがルクスと離れてしまった。

最も、彼女の目的はルクスから不審者だと思い込んでいるジークを引き離すことであるのだが。

 

「大人が二人がかりで彼女を攫おうだなんてこの私が許しません」

「え、え、えっ・・・・・・?」

 

彼女はルクスを庇うように自分の後ろに隠し、鋭い目付きで二人を睨む。

戸惑う様なルクスの声が聞こえるが、ジークとて正直自分の神装機竜で今すぐ逃げ出したい気分だった。

 

「いや、あのだな金髪の三年生よォ?俺、一応ここの教官なんだけども?そこのところはどういう認識なわけ?」

「この学園は整備士以外は女性しかいません。少なくとも教官に男性はいない。よって、貴方が教官な筈がありません」

 

まったく、ぐうの音も出ない正論だ。王都に演習に行っていたという三年生は男の教官が雇われたことなど知る由もないのだから。

 

(ぶっちゃけぇ?新王国にとっての不審者は俺なわけでェ?そこの金髪巨乳が機攻殻剣(ソード・デバイス)を俺に向けているのも納得してしまうというか、当然と言える部分もあることは否定はできないし?しかし、それは別として冤罪で殺されかけて、はいそうですかと言える訳がないんだなぁこれが)

 

外面は余裕の笑みを浮かべているが、内心、かなり不満タラタラで刀を抜きそうになっているジーク。

それを見抜いているのか彼女は特にジークを警戒しているようだった。

構図的にはジークと不審者の二人が彼女とルクスを挟むように離れて立っている為、どちらか片方に意識が向いてしまうのは仕方ないといえた。

 

「抵抗は不許可です。腰に差している機攻殻剣(ソード・デバイス)を地面に置き、大人しく投降することを許可します。」

「そうはいかねぇ、こっちも仕事なんでなァ!」

 

そう言った瞬間、駆け出したジークへと彼女が槍を叩き付けてくる。

だが、ジークの標的は金髪の女ではなく、不審者の方。バックターンで躱し、止まることなく不審者との距離を詰める。

その時、槍を叩き付けたことで無防備となった女へと不審者がナイフを投げてくる。

 

「危ない!」

 

装甲を纏っていない部位に刺さりそうになったナイフは、寸でのところでルクスが間に入ったことで彼の肩口を切る結果に終わった。

不審者がルクス達に意識を割いた隙を狙って肉迫したジークの拳が顔を捉えようとした刹那、予め逃げるつもりだったのか、煙幕を使ってジークの視界を奪い逃走した。

 

「ちっ!逃げやがったか」

(足音と呼吸音から追えそうだが、そうしたら俺まで逃げたと思われて面倒だな。・・・・・・ここに残っても槍を向けられる未来しか見えない。うっわ、二択に見える一択かよ)

 

肩を切ったルクスの心配より先に、自分の心配をするジークが煙幕からでてくる。二人に近づくと案の定槍を向けられて辟易とする。

 

「あのなぁ、その心意気は構わないがそれよりもそいつの手当てをしてやれよ」

「・・・・・・そうですね。大丈夫ですか?」

「あ、はい。何とか」

 

彼女は警戒をしつつも機竜を解除して、ルクスの傷の具合を確かめる。

それに彼が大丈夫と答えると安堵した笑みを浮かべた。

 

「申し訳ありません。私がいながら──」

「どうだっていいが無事なんだな?なら俺はもう行くぞ」

 

そう言ってジークはその場を後にした。

 

 

●〇●〇●〇●〇●〇

 

 

時は少し遡り、ジークとルクスが女装の経緯を話し合っている頃、学園長室にクルルシファーとレリィがいた。

 

「それで?私を呼び出したのはもしかして──」

「ええ、貴方に頼まれていたジークフリート・エーレンブルグという男の素性、機竜適性とその神装機竜についての調査結果が出ました。」

 

先日の決闘の一件からジークフリートと

死を想え(メメント・モリ)』の共謀を疑ったクルルシファーは、レリィへ調査を依頼していた。そして、その結果が出たらしい。

 

「あまり良くない話とかなり悪い話があるのだけれど、どちらから聞きたいかしら?」

「そうね・・・・・・。あまり良くない話から聞きましょうか」

 

レリィの声のトーンと強ばった面持ちからどれもいい話ではないことがわかり、クルルシファーは順番に聞くことにした。

 

「そう。では・・・・・・調査の結果、ジークフリート・エーレンブルグは機竜適性が全くないことが分かりました」

「・・・・・・・どういうこと?」

「そのままの意味よ。彼の機竜適性を調べたところ、神装機竜は疎か、汎用機竜すらまともに扱えないものでした。つまり、彼は常人の半分にも満たない適性しか持っていないの」

 

有り得ない、と、彼女は言いたくなった。現に彼は大勢の前で汎用機竜を纏い、高度な操作技術を以てディアボロスを討伐しているのだ。そんな彼が常人の半分以下だというのなら、自分達は何なのだと叫びたい衝動に駆られた。

 

「本来ならば彼は、汎用機竜を三十分でも使おうものなら、二度と動けない体になってもおかしくないそうよ。これは王都から招いた文官による報告だから信憑性については保証するわ」

「なら彼は、本当に身体能力だけで機竜を動かしているというの?」

 

正気ではない。そんな無茶を続ければいずれ死んでしまう。しかし、彼にとって自分の肉体がどうなろうが関係ないほどの目的がある。それを果たすまでは止まるつもりなどないし、止められない。

さながら狂戦士のように、ボロボロになっても進むだろう。

 

「次に彼の持っている神装機竜についてよ。あれについては何も分からなかったわ。男女混合の文官十数人の誰一人として、あの神装機竜を展開することすらできなかったわ。」

「私の時と同じね。私も一切反応がなかったもの」

「彼らが言うのには機攻殻剣(ソード・デバイス)そのものに問題はないそうよ。問題があるのは機体の方。余程遠くにあるか、既に修復不可能なまでに破損しているかのどちらかでしょうね」

 

彼の持つ神装機竜は、クルルシファーの時と同じように光の粒子が舞うことすらなかったそうだ。それはつまり、機能が正常に働いていないということであり、調査が進められなかったと言う。

 

「そう、ありがとう。じゃあ、かなり悪い話を聞こうかしら」

「ええ、正直、こっちが本題よ。初めに言っておきます。・・・・・・この新王国に()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。」

「・・・・・・嘘、でしょ?」

 

クルルシファーは耳を疑った。学園長の冗談かとも思ったが、この場面で冗談を言う理由が見当たらない。だからこそ、信じたくないという思いが顕著に現れた。

 

「言い方が悪かったわね。確かに、帝国軍にはジークフリート・エーレンブルグは在籍していました。しかし、彼は五年前のクーデターで死亡が確認されています。──革命軍の一人として」

「なら、この学園にいるジークフリートは一体誰なの?」

「それはまだ分からないけれど、帝国軍のジークさんを知る人と接触ができました。結果として、彼は中尉だけれど『串刺し公(カズィクル・ベイ)』と呼ばれたことはないし、機竜使い(ドラグナイト)としての腕が高かった訳でもなかったらしいわ」

 

絶句する。クルルシファーの背筋に悪寒が走る。今までジークフリートだと思っていた人間は全くの他人だと言うのだ。素性のわからない人間がずっと傍にいたと思うと恐ろしいものがあった。

 

「そして何より、彼の経歴に書かれた店を訪れたところ、誰も彼を知らないそうよ。要するに、彼の経歴は嘘しかないのよ」

「あの男は・・・一体何が目的で・・・・・・この学園に来たというの?」

 

思考が定まらないのか歯切れが悪い。露見するかもしれない嘘で学園に忍び込み、いつ死ぬかも分からない危険を犯して機竜を纏い、何が彼をそこまでするのか。どれ程の目的がそこまで駆り立てるのか。クルルシファーはそれが分からなかった。

 

「一つ分かるのは、今のところ彼が敵ではないということ。だって彼は貴方達を守るように動いたのでしょう?今はそれで充分よ」

「ええ・・・・・・そうね。ありがとう、調査してくれて。助かったわ」

 

不安を拭うどころか不確定要素が増えてしまったが、進展がなかった訳ではない。今はそう納得することにした。

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

翌日、色々バレ始めていることに気づいていないジークは機竜格納庫にいた。もうすぐ行われる校内戦のために調整がしたいと、リーシャやルクスに捕まったせいだ。

 

「何で俺までなのさ、いらないでしょ」

 

何故だかリーシャに扱き使われる未来が見えたジークは帰って寝たかった。惰眠こそ正義、働かずにタダ酒を飲みたいを地で行く男は、今日も今日とてブレなかった。

 

「た、大変だよー!ルクっち、ジーク先生!」

「え、どうかしたの?」

 

そんな主に一人のせいでピリピリしだした空気を壊したのはティルファーだった。何やら慌てた様子で二人を探していたらしい。

 

「セ、セリス先輩が、二人を学園から追い出すために学園長に直談判してるんだよぉ!」

「はあぁぁああぁぁぁあァッ!?」

「え、ええぇぇええぇええェッ!?」

 

二人の驚く声が格納庫へ響き渡る。その五月蝿さはリーシャとティルファーが耳を抑えるほどであったと明記しておく。

 

 

●〇●〇●〇●〇●〇

 

 

「ちょっ、ちょっと通してください」

「どういうことか説明しろやァッ!」

 

学園長室の扉の前に集まる女子生徒を押しのけて二人が入室してくる。一人は既にキレている。

 

「二人とも、落ち着いて」

「そこの愚図で愚鈍で間抜けな雑用王子はともかく、何で俺まで追い出されなきゃなんねぇんだよ!」

「しれっとバカにされてる!?」

 

開口一番にルクスの悪口を言うジークはレリィに詰め寄った。

 

「まだそうと決まったわけではないわ。貴方達をこの学園から追い出すように具申してきたのは彼女よ。取り敢えず自己紹介を──」

「あ、貴方は先日の不審者!?」

「ちげーよバカ!整備士兼教官のジークフリート・エーレンブルグだ!」

 

自己紹介を促すレリィの言葉を切って驚きの声を上げる少女。その言葉についムキになって言い返してしまうジーク。

 

「本当にこの学園の職員だったのですか・・・・・・。っと、そちらの貴方がルクス・アーカディアですね。私の名はセリスティア・ラルグリス。私がいない間、この学園を守って頂いたことは感謝します」

「は、はい。僕にできることをしたまでです。」

(い、言えない!昨日会ってるなんて口が裂けても言えない!)

 

三年生の少女─セリスティアの当然とも言える対応に、ルクスは内心冷や汗をかいていた。

 

「ああ、もう。面倒くせぇ、本題に入るぞ。聞きたいことは一つ、俺たちを追い出す理由は何だ」

「この学園は女性のための育成施設です。貴方は共学のための試験生としての編入と聞いていますが、共学は創立後七年はしないという約束のはずです。」

「要するに、話が違うから出て行けと?つか、それなら追い出すのはコイツだけで俺は整備士に格下げで良くないか?」

「あれ、先生?僕の味方になってくれるんじゃないの!?」

 

セリスはルクスに向き直りながら理由を口にする。

要約すると、男であるお前はここに居てはいけないから出て行け、ということだ。だからこそ、ジークは生徒であるルクスだけ退学にして、自分は整備士として再就職という妥協案をだした。つまり、ルクスをトカゲの尻尾にしたのだ。正しくクズ

 

「何度も言ってるが問題はない!コイツ・・・はともかくルクスは信用できる。実力とて申し分ないはずだ!」

「私の不在の間に決められた編入を認めるわけにはいきません。例外を認めると、他の例外も認めることになります。確かに、学園を危機から救ってくれたことは感謝しますが、それでここに居ていい理由にはなりません。」

 

まず先にジークを見てからルクスを見つつ反論するリーシャ。それをピシャリと切って捨てるセリス。頑固者の引かぬ争いが始まりつつあった。

 

「ところでジーク先生、貴方がそこまで保身に回るのは珍しいわね?むしろ嬉々として出ていきそうなものだけど?」

「・・・・・・正直、働きたくない!部屋でゴロゴロしたいし、他人の金で飲み食いがしたい。けど、そういう訳にもいかないからな。ぶっちゃけ、整備士ってサボれる割に給料いいし」

「うわ、こいつクズだ」

 

異口同音。セリスを始め、この場にいる全ての人間が口を揃えてジークをクズと断定した。だが、ジークは反省しない。彼にとって有象無象の戯言など虫のさえずり程度でしかない。

 

「つーわけでだ、雑用王子が退学になるとそのまま俺までクビになりそうなんで、俺の為にもここはひとつ、雑用王子から何か言ってもらいましょうや」

「えっ!?えーと、セリスティア先輩。僕を終末神獣(ラグナレク)の討伐に同行させてください。僕だってこの国を守りたいんです」

 

突然の振りに慌てながらもすぐに落ち着き、自分の言いたいことを口にする。

バルゼリッドが投獄されたことで次の討伐部隊の隊長はセリスであることは聞いていた。ならば、最悪退学にされることは良しとしよう。本当は良くはないし、寂しくもあるが自分のことよりも国のことだ。

てっきりセリスの説得をすると思っていたジークは宛が外れたと、内心舌打ちをした。このまま二人とも追い出されれば全てが水の泡となってしまう。

()()()()()()()。そんなものは認めない。

 

「・・・・・・そのことをどこで知ったのかは問いませんが、不許可です。私一人で十分です。必要ありません」

「なっ!?終末神獣(ラグナレク)は簡単に勝てる相手ではありません!いくら先輩が強くても万が一はありえます!」

 

当然、と言うべきかセリスは同行を拒んだ。彼女のことだ、意志を曲げることはないだろう。ならば、己が動くしかない。

 

「はあ、よせよ、雑用王子。言っても無駄だ」

「で、でも──」

「なあ、金髪?お前さ、()()()()()()?」

 

ジークが言い放った言葉はこの場を凍りつかせるには十分だった。それ程までに予想外であった。彼女の実力は国内でもトップクラス。その事はこの学園の生徒なら誰もが知っているが故に、それを驕りとは到底思えなかった。

そんな中、1番先に再起動したのセリスで言い返そうとするが──、

 

「違いま──」

「違わないさ。お前はただ運が良かっただけ。男は機竜適性の問題で長期戦になれば負けるし、女に至ってはまともな機竜使い(ドラグナイト)が近年、ようやく形になり始めたところだろ?帝国時代から機竜に触れているお前に、国内で相手になるやつがどれだけいると思う?」

 

そう言ってセリスへと近づいていくジーク。その目には既に侮蔑の念が灯っている。

 

「つまりだ、お前は強くなんかないのさ。自分よりも、弱い奴らの上に立って、お山の大将気取ってるただの──ガキなんだよ」

「そ、れは・・・」

 

言葉の意味を理解したセリスは言い淀む。国内で強いと言ってもまだこの国は歴史が浅い。実力のあった男はクーデターでほとんど死んだのだから比べるまでもないことだ。では他国はどうだ?新王国とは比べる必要がないほど昔から存在する国もある。その国の最高戦力に勝てるかと問われれば分からないと答えるしかない。

 

「何だ、言い返せねぇか?だからお前は──」

「そこまでよ、ジークさん?それ以上は貴方に対して処罰を与えなくてはならないわ。」

 

セリスの傷口を更に抉ろうとしたジークにレリィから制止の声が入る。学園長として、これ以上は看過できないと思ったのだろう。

 

「このままでは何時まで経っても平行線になりそうね。一度決まったことは、いくら四大貴族の貴方といえど、簡単には覆せない。いいわね?」

「無論です・・・・・・」

「宜しい。ではこうしましょう。今度行われる校内戦で、ルクス君派とセリスティアさん派に分かれて競い合い、勝った方の意見を通すというのは。ルクス君の意見は学園の残留、ならびに終末神獣(ラグナレク)討伐の同行、セリスティアさんの意見は男二人の学園からの追放、並びに同行の拒否。これでどうかしら??」

「構いません」

「僕も同じくです」

 

平行線になることを察したレリィは、校内戦の勝敗でどちらの意見を通すかを決めることに決定し、二人はそれに同意した。

 

「で、俺はどうすればいい?校内戦に俺が混ざるのは色々と不味くないか?」

「うーん、貴方にも関係のあることだし今回だけは参加を許可します」

「ですよねー。ああ、面倒だ」

「それじゃあ、解散」

 

レリィの一言によってその場はお開きとなった。学園長室から去っていくジークを何人かじっと見つめていた。

 

 

●〇●〇●〇●〇●〇

 

 

その日の放課後、自分の担当した授業も終わり、整備室へと戻ろうとするジークに近づく影がひとつ。

 

「ああ、ようやく見つけましたエーレンブルグ先生。」

「あ?何だ雑用王子の妹かなにか用か?」

「はい、ひとつお願いがあってきました」

 

近づいてきたのはアイリ・アーカディア。ジークを警戒している一人であり、ほとんど会話したことのない相手であった。だからこそ、自分に話しかけたことが不思議に思うが、考えても分からんと、思考停止をする。

 

「へえ、お前が俺にお願いだなんて一体何が・・・・・・何だこの札束は?」

「あまり多くはありませんが謝礼です。引き受けてくれるのでしたら全額お渡しします」

 

アイリが手渡してきたのはお金だ、それも決して少なくない額。

それを理解しているジークは眉根を寄せる。確かに自分は傭兵だがお金が欲しい訳ではないし、ただでさえ多額の借金を持つアーカディア兄妹から金をせびるつもりもなかった。

 

「まあ、この金を受け取るかどうかは後にして──お願いってのは?」

「兄さんを、退学にはしたくないんです・・・・・・。だから、校内戦で勝ってください。まだ一度も全力を出していない貴方ならきっとセリス先輩にも勝てると思うんです!」

「・・・・・・理由は?どうしても退学にしたくない理由があるだろう?」

 

アイリが伊達や酔狂で自分にこんなお願いをしたのではないと、理解したジークは柄にもなく、受容的であることに驚きつつも理由を聞いた。

 

「兄さんは超がつくほどのお人好しで、私が心配しているのに無茶ばかりして・・・・・・、どうしようもない人ですけど、それでも、私に残されたたった一人の家族なんです。私の──大好きな人なんです」

「クッ、クク、クハッ、アーハッハッハッハッ!素晴らしい!素晴らしいよアイリ・アーカディア。君はまさしく自己愛だ。いや、君の場合は家族愛と言ったところか」

 

愉快そうに笑い、顔を近づけてくるジーク。ほんの少し動けば唇が触れてしまいそうなほど近づき、その瞳を見つめる。暗く、(くろ)く、あらゆる光を呑み込んでしまいそうな、深淵の如き先の見えない瞳。しかし、アイリには何故だか、その目が輝いているように見えた。

初めて自分と似た存在を認識できて、嬉しそうな無邪気な目であった。

 

「あ、あの、それでお願いは聞いてくれるのですか?」

「あ?ああ、すまない。質問の答えはYesだよ。そのお願い、引き受けよう。・・・・・・それにしても、そうか、君の自己の定義は遺伝子的な繋がりを持った家族なのか。俺とは少し違うがそういう自己愛もあるのか──」

 

何やら哲学めいたことを口にするジークにちょっと怖くなって、アイリは距離を取る。

 

「一つ教えておこう、君のそれは自己愛と言われるものだ。君の場合は兄を、まるで自分のことのように大切に想えること。それは素晴らしいことだが、普通、君ほど純粋な人はそう居ない。その想い、大切にしたまえよ。

最も、殆どの自己愛を持つ人間は自分優位主義の糞共だが、人間とは得てしてそんなものだろう」

 

聞く人が聞けば正気を疑うであろう穏やかな声で、自己愛の塊である自分を否定しているとも取れる発言をするジーク。

答えは単純、彼の自己の定義が『自分が何よりも優先して守りたいと思えたもの』であるが故。そして、“自己嫌悪”も持っているためであった。

それこそがこの男の矛盾の正体、自分が何より大切なくせに、大切なものを何一つ守れなかった自分が何より嫌いなのだ。

 

「では、そろそろ行くよ。それとお金の件だが、必要ないよ。どうせなら二人で兄妹水入らずの時間を過ごすといい」

 

アイリはそう言って歩いていくジークの背中を見ながら呟いた。

 

「彼は、もしかしたらそこまで酷い人ではないのかもしれません・・・・・・。きっと何か訳があったのでしょう」




うん、今回長いですね。
三章は三話で終わらせるつもりだったので詰めすぎてゴチャゴャしてましたかね?意見を聞かせてくれると嬉しいです。

次回とその次は連続して戦闘回です。
出来るだけ早く投稿できるように頑張ります。

では、次幕の悲喜劇(シェイクスピア)をご期待あれ


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第12話 忌むべき男の言葉

いつもどうりの激遅更新、申し訳ありません。
明日書こう、明日書こうと、悪い癖が出ました。

と、まあ、言い訳は置いといて。
どうしてこうなった・・・・・・。

キャラが勝手にとはこういうことを言うんだと、なんか勝手に納得してます。

それではどうぞ


程よい陽射しが照りつけ、気持ちのいい風がそよぐ校内戦前日の昼。ルクスはリーシャやクルルシファーに誘われ外のベンチで昼食をとっていた。

そしてその後ろの草薮では、『死を想え(メメント・モリ)』が彼らの様子を伺っている。

 

「あーあ、いいご身分だねェ。俺がレーション食ってるっていうのにアイツはお手製弁当とは。この差はなんなんだ一体?」

 

耳を澄ますとどうやらフィルフィもいるらしい。それぞれが作った料理をルクスに食べてもらっているのか、明るい会話が聞こえてくる。

何やらほとんど料理をしたことがないらしく、手伝ってもらったと自信なさげに言う彼女達。

愛されてるねェ・・・と、独り言ちる。

 

って、そうじゃねぇよ。目的はこんなどうでもいい恋愛モドキを見に来たわけじゃねぇ。ちゃっちゃと済ませますかな。

 

「よお、傷はもういいのかよ雑用王子。」

「っ!?あ、貴方は!」

 

突如目の前に現れた黒ローブの男に驚きを隠せない四名だったが、直ぐに切り替えて警戒をあらわにする。

 

「貴様、何の用だ。とうとう私達の始末でも命じられたか!」

「落ち着けよ、今日は別に()り合うつもりはない。まあ、いつもないけど」

「その言葉を信じられると思うか?」

「落ち着いてお姫様。本当に始末するつもりならとっくにやられてるわ。少なくとも別件のはずよ」

 

噛みつくリーシャと諌めるクルルシファー。何だかいいコンビになりそうだとどうでもいいことを思いつつ、面倒だと確信する。

やっぱ一人の時に声をかけるべきだったと後悔する。

 

「そっちの蒼髪は冷静だな。血気盛んなお姫様とか、この国の未来は大丈夫か?」

「と、取り敢えず落ち着きましょう。それで貴方は一体何の用ですか?」

「簡単なことだ。今回の件、俺は介入しない。お前ら全員で頑張れって、依頼主からのご指示だよ」

 

肩を竦めた『死を想え(メメント・モリ)』は愉快そうに声を漏らす。

 

「今回の件って、終末神獣(ラグナレク)のことですか?」

 

無言で首肯を返す。

 

「なぜ貴様がルクスが終末神獣(ラグナレク)討伐戦に参加しようとしていることを知っている!この学園に裏切り者がいるとでも言うのか!」

 

そう言ってリーシャは機攻殼剣(ソード・デバイス)を引き抜こうとするが、またもやクルルシファーに止められる。

 

「待って、ここで争うのはやめた方がいい。最悪、学園の生徒全員を巻き込むことになるわ」

「ホントに冷静だねオタク。それに引き換え・・・・・・」

 

言いつつジークは今にも斬りかかって来そうなリーシャへ視線をむける。

 

「貴様には言われたくないな。勝手に激情した挙句、ルクスを斬った貴様には」

「それを言われると辛いな。俺だって反省してるんだ。どうせ最後には失うんだし、気にすることもなかったなってよ」

 

言い返された言葉には苦笑を返すしかなかった。

 

「この前も言ってましたよね、何も守れないって。どういう意味ですか?」

「そのまんまさ。俺もお前も、大切なもの程切り捨てられない。だから守りきれない、失っちまうのさ」

 

そう言った彼からは悲壮感が漂い、これ以上踏み込むことを戸惑わせる。

 

「まあ、仕事はこんくらいにして、こっからは個人的な要件だ。お前・・・・・・既知感を感じたことはあるか?」

「既知・・・感?」

 

男の雰囲気が変わる。あるゆるものを射抜く視線がルクスに突き刺さる。

 

「知らないか。ってことはまだコイツはこっち側じゃねぇのか」

「え・・・・・・?何か言いましたか?」

「いや、こっちの話だ。」

 

聞き返すが、有無を言わさぬ圧力で黙殺される。

男とて何故こんなことを口にしてるのか理解していない。

だが、言わねばならぬと思った。そうすることが当然だと心が叫んだ。

なぜなら現状に、男は()()()を感じているのだから。

 

「デジャブるんだよ。何しても、何食っても新鮮な驚きを感じられねぇ。いつ起こるのかも分からねぇ。こんなこと前にもあったな、この話前にもしたなって、そう思っちまうんだよ」

 

今、尚感じられる既知感に、男は欠けていたものが取り戻される予感がしても、より一層の不快感により塗り潰される。

何かを欲している、心が何かを求めている。

いっそ狂ってしまいそうな程の飢餓。

それを感じた男は既知を続ければ答えが分かると信じて、既知に苦しみながらもその通りに動くしかなかった。

 

男から発する狂気に思わず後退りをしてしまう。

それもまた当然のこと。既知感とは常人に耐えられるようなものではないのだから。

 

「なあ、雑用王子。もし、自分の記憶に違和感を感じたら記憶の場所へ行け。そこに答えはあるはずだ。そして、お前が既知感を感じた時がこの時代の終わりだ」

「何故それを僕に教える」

「これは親切じゃねぇ。忠告だ」

 

半ば確信して、男は告げる。

時代の終わりを。待ち受けるのは新たな時代。

新たな支配者の選定は既に始まっている。

 

「さて、用件は済んだしそろそろ帰ろうと思うのだが、さっきから無言の視線が痛いんだがピンクいの?」

「・・・・・・敵意を感じなかったから見てただけ」

 

今まで一言も話さなかったフィルフィが口を開いた。

何やら彼女なりの意図があったようだが男にも読めなかった、と言うより表情が全然変わらないから分からなかった。

 

「はあ、お前らほんっと面倒な奴が多いな。俺はそろそろお暇するが──っとそうだ、ひとつ忘れてた。終末神獣(ラグナレク)は既に動き出してるからな、気をつけろよ」

 

言い残した男は姿を消す。目の前から、一瞬にして。

意味深な言葉。それが意味すること。

謎は多くとも一つだけはっきりしている。

争いは終わらない。

それこそが人の業なれば──

 

 

●〇●〇●〇●〇●〇

 

 

ローブを脱ぎ、いつものジークとしての姿に戻った男は、石畳の道を歩きながら先程の会話を思い出し疑問を抱く。

 

この俺がまともな会話を成立させてる?

何故だ?

 

疑問を感じても晴らす術を持たないジークはより深い思考へ潜る。既に周囲のことなど頭になく、あるのは底知れぬざわめき。

 

──お前、さっきは随分とまともな会話をしていたな。他者を塵屑(ゴミクズ)と認識している貴様が

 

突如頭に響く声。知っている声だ。

何故ならそれは、他ならぬ己の声なのだから。

何かに魂を引っ張られる脱力感が襲う。

気がついた頃には暗闇の中にただ一人、自分だけが朧気に見える。

 

そして、目の前には十六歳ほどの幼き少年が胡座(あぐら)をかいて座っている。その表情は嘲笑を貼り付けていた。

 

「お前・・・誰だ。いや、それよりも何故お前がいる──何で()()()()()()()()()()()()()()!」

 

そう、間違えようもない。その憎たらしい面は紛れもなく昔の俺だ。ここがどこだとかどうでもいい。昔の自分が目の前にいることの方が重要だ。

本能が警報を鳴らす。これ以上考えるなと、現実を見るなと訴える。

 

しかし、一度抱いた疑問は消えることなく侵食する。疑念を晴らしたいという好奇心が進めてはいけない歩を進める。

 

──何故も何も俺はお前だからだ。お前の抱いた渇望のひとつ、“自己愛”こそが俺だよ

 

ノイズのかかった下劣な声と共に発せられる事実。

そうだ。確か俺はこの時だったはずだ。他者を認識しなくなっていったのは。

 

──別にお前は他人を塵屑(ゴミクズ)だなんて思っちゃいない

 

やめろ

 

──お前はただ怖いだけだ。失うことが

 

やめろ

 

──失うことが怖くて、また失うかもしれないって、他人と関わることが怖くなった

 

それを俺に見せるな

 

──だからお前は壁を作った。元々どうでもいいと思っていた連中を、塵屑(ゴミクズ)と見下すことで自分の心を守ろうとした

 

それ以上、俺に踏み込むな・・・・・・!

 

──失うことは怖いよなァ。自分のことが守りたいよなァ。・・・・・・諦めろよ、お前はそういう宿星の下に生まれたんだ

 

やめろォォォ!

 

──認めちまえよ、大事なものを失うこの世界なんかぶっ壊したいんだろ?それこそが自己愛だ。

クハハハハハハハァ!

 

ああ、そうだ。他人なんか()()()()()()、本当は塵屑(ゴミクズ)だなんて思ってないさ。

怖かっただけだ。情が湧いてしまえば、失うことが辛くなる。だから認識しないようにしてたんだ。

自分はコイツらを守る義務などないって思わなきゃ、心の平穏が保てなかった。

俺はただ、争うことなく静かに暮らせればよかった・・・・・・!

誰か、誰か俺を助けてくれよッ・・・・・・!

 

──自覚しろよ、自分の存在意義を。間に合わなくなるぞ、アレの目覚めはもうすぐだ

 

意識が暗転する刹那、少年の全身にノイズがかかり、金髪で褐色肌の童子が見えたような気がした。

 

 

「ッ!?・・・・・・あ?」

 

気がつくと自分の部屋の前に立っていた。どうやらかなり深く考え込んでいたらしい。()()()()()()()()()()()()()

だが不思議となにやら清々しい気分だった。まるで溜め込んでいたものを吐き出したような、そんな気分だった。

 

「明日は本番だし、幸先がいいな。機体の細工も終わった、金髪巨乳の弱点も調べ終えた。よし、寝るか」

 

既に準備は上々、あとは成るように成るのみ。

目指すは勝利。それ以外の結果など見えないのだから

 

「勝つのは俺だ」

 

勝利を願う家族愛の少女へと、そう宣言した。

 

 

●〇●〇●〇●〇●〇

 

 

校内戦当日、早速ペア決めで揉めるルクス達。結局クジ引きでフィルフィとルクスが組み、残った二人が組むらしい。

三者三様と言うべき反応を魅せる彼女たちは放っておいて敵情視察に勤しむことにしよう。

 

一般戦と『騎士団(シヴァレス)』戦で別れていて、ハンデとして『騎士団(シヴァレス)』組は一度でもどちらかで負けると他の試合には出れないと言う。それはジークにも適用されるが一般戦には出ないし、個人戦一本なので然したる問題は無い。

リーシャとクルルシファーは初戦からセリス・シャリスペアと当たるから情報を引き出してみせると息巻いていた。

正直、実力を正当に評価して負けることは目に見えているが、彼女達の名誉のために口を噤んでおく。

 

 

結果から言うと、まあ、負けた。

予想以上に食い下がっていたし、即興とは思えない連携も見せた。それにはセリスも素直に賞賛の声を上げ、トドメの一撃をお見舞していた。

 

「僕、ちょっと二人の様子を見てきます!」

「あ、おい、今行くのはやめた方が──」

 

一応声をかけるジークだったが、ルクスは聞く耳を持たずに走り去っていく。

・・・・・・数秒後に悲鳴と乾いた音が聞こえてきたが俺のせいじゃない。

 

【続いての試合、サニア・レミスト選手、ジークフリート・エーレンブルグ選手、準備をお願いします。】

「さて、行きますかね」

 

その後の試合も恙無く進み、少し眠くなってくる。そんな時、ちょうどよく竜声による召集がかかり規定の場所へと移動する。機体の調子は確かめた。

問題はない、勝利は目前だ。

 

「これより個人戦第六試合、サニア・レミスト対ジークフリート・エーレンブルグの試合を執り行う。両者、接続を!」

 

「───来たれ、力の象徴たる紋章の翼竜。我が剣に従い飛翔せよ、《ワイバーン》」

 

サニアは剣を掲げ詠唱符(パスコード)を口にする。すると無数の光が集まり、いくつものパーツとなって《ワイバーン》を身に纏う。

だが、それを目にしたジークはその場を動こうとせず、機攻殼剣(ソード・デバイス)を抜こうともしない。

 

「エーレンブルグ教官?早く接続を」

 

いつまでも機竜を召喚しないジークに疑問を感じてライグリィは声をかけるが、帰ってきた答えは予想と違ってその場にいる全員を驚愕するものだった。

 

「まあ、待ってくれよ。一つ言いたいことがある」

「どうしました?今更ハンデが欲しいとでも言うつもりですか?」

 

ジークの煮え切らない態度に業を煮やしたのかサニアは挑発してくる。最もそんなものが通用するようならば、ジークは傭兵など出来ずにそこらで野垂れ死んでいる。

 

「逆だよ、ハンデをやる。好きなだけ出てこいよ。俺に勝てたら人数分ポイントをくれてやる。俺が勝っても一人分でいい、最高の条件じゃないか?何なら、俺が負けたら死んでもいい」

 

彼が口にしたことは自分を圧倒的不利に追い詰める自滅行為。冗談か?否、この男がそんなくだらないことを口になどしない。

暗に『お前一人だと役不足だから好きなだけ仲間を呼べよ、もっとも負けるつもりなど欠けらもないがな』と言っているだけだ。

 

無謀?自殺行為?否、否、断じて否。この男の目に敗北はない。不可能を成し遂げるだけの強烈な決意がある。不屈の精神が、この男ならやってしまうという凄味を出している。

演習場が彼の圧力に呑まれそうになったところで無知蒙昧な愚か者が舞台へあがる。

 

「馬鹿にするのもいい加減にしなさい!」

「いくら男とて、適性が低い装甲機竜(ドラグライド)で私たちに勝てるとお思いで?」

 

そう口々に出てきたのは五名。合計六名が彼の前に敵として立ちはだかる。慢心はしない、己の全力を以て相手を叩き潰す。全ては勝利をこの手に掴むため。

 

「───来たれ、不死なる象徴の竜。連鎖する大地の牙と化せ、《エクス・ワイアーム》」

 

口にしたのは()()()詠唱符(パスコード)。その身に纏うのは雄々しくも翼を持たぬ竜。専用機なのか黒く染められた機体がより一層の不気味さを煽り、降臨する。

 

「なッ!?強化型(エクス)だと!いや、そんなことよりも《ワイアーム》だと!?」

「貴方は《ワイバーン》ではなくって!?」

 

先方から発する困惑の声など既に殆ど届いていない。だが、答えてやってもいいかと思い、返答を口にする。

 

「おかしなことじゃないだろ?誰が、何時、飛翔型が俺の本気って言ったんだよォ!俺の本気は元々陸戦型(こっち)なんだからな!」

 

隙無く構える様はぎこちなさを感じさせない自然な物。嘘をついていないことを雄弁に物語っていた。

 

「本当にいいのか、エーレンブルグ教官」

「構わない、初めてくれライグリィ教官」

 

考え直すよう促すが悠然と構えるジークから無駄だと判断すると、短く嘆息をついてから気持ちを切り替えた。

 

「それでは、校内戦、開始(バトルスタート)!」

 

開始の合図と共に車輪を駆動させ戦場を駆ける。

敵構成は飛翔型 三、陸戦型 二、特装型 一。

バランスが取れた構成だ。しかし、故に崩しやすい。初めに狙うは目の前にいる《ドレイク》。これを潰せば激的に戦況は変わるだろう。迷彩などを持つ存在を先に潰すのは戦いのセオリー言っても過言ではない。

 

「させません!」

 

だからこそこうして《ワイバーン》がカバーに入る。それこそジークは狙っていた。上段から飛び掛って振り下ろさんとする一撃は接触する瞬間、《エクス・ワイアーム》の挙動ごとブレ、《ワイバーン》を駆る女生徒に横から重い衝撃が走る。

 

「きゃぁっ!?」

 

何が起こったのか理解していない。だが、周りで見ていた者も理解しきれていない。

確かに剣は防がれそうになっていた。しかし、ジークの挙動はまるで地面を蹴ったかのように空中で加速し、懐に潜り込んでからの右脚蹴りを放ったのだ。

 

「一体どうやって!?陸戦型は飛べないはずなのに!」

「教えるか、バーカァ!」

 

近づくのは得策ではない判断した女生徒達は機竜息銃(ブレスガン)機竜息砲(キャノン)を構えて包囲射撃に移行する。

まともに示し合わせずにこれだけ迅速な行動が取れるあたり、伊達に『騎士団(シヴァレス)』やってないと言える。

 

いやいや、この程度で勝ちを譲るわけねぇだろ。

もちっと工夫しろや、こんな風に!

 

いつの間にか両手に機竜息銃(ブレスガン)を構えたジークはそのまま乱射する。適当に撃ったように見えるそれは寸分狂わず女生徒の射撃を打ち消した。

 

「これなら!」

 

そう言って何本か機竜爪刃(ダガー)を投げるが──、

 

「甘いってぇの!」

 

同じようにジークは投げ返す。お互いの機竜爪刃(ダガー)がぶつかり、軌道が逸れる。逸れた軌道は駆ける《ワイアーム》二機の先回りをしたかのように着弾した。

 

「馬鹿な!?私たちの動きが読めるとでも言うのか!」

「これで、どうかしら!」

 

動揺の声が上がるとほぼ同時、背後から迫る気配と声。迷彩を使って近づいた《ドレイク》が剣を振るう。誰もがこれなら一撃入っただろうと思ったのも束の間、

 

「『串刺(くしさし)』」

 

超高速の突きが後ろを見ずに突き出される。咄嗟に回避を取ろうとしても最早遅く、右肩の幻創機核(フォース・コア)に直撃する。

 

「そんな!?これすら対応するというの!?」

 

ジークの表情に焦りはない。あと数分で()()()()()()()()()()()()()。必ず勝つ、その為に平静を装い続ける。

 

 

それから十数分、戦況は半場膠着状態と化している。未だ一度も攻撃を当てる事が出来ていない女生徒と、有効打を全て邪魔されて決定打に欠けるジーク。《エクス・ワイアーム》の活動限界など既に超えている。いつ強制解除が起こってもおかしくない臨界状態。

 

それでも尚、闘志は揺るがない。諦めるものかとその両眼に裂帛の意志を携えている。だからこそ、次善の策を打つ。

 

「はあ、参った、降参だ。俺の負けだよ、全く予想以上だ、油断した」

 

肩を大きく竦めて手を上げる。降参の合図のつもりだ。次いでとばかりに手に持っていた機竜息銃(ブレスガン)機竜牙剣(ブレード)を投げ捨てる。

訝しながらも少しずつ近づく《ワイアーム》を纏う女生徒。

 

もう少し近づけ・・・・・・。

 

「約束通り、殺してくれて構わんぞ」

「流石にそこまではしません、大人しく機竜を解除してください」

 

もっとだ、そのまま近づけ。

 

「どうせならあんたらにトドメを刺されて負けるって名誉をくれよ」

 

そこまで言われて信じてしまったのか《ワイアーム》はジークの目と鼻の先に立つ。

そこで異変に気づいたのはサニアだ。ジークの表情が負けを認めた悔しそうなものではなく、価値を確信して口角がつり上がっていることにハッとする。

 

「待って!今すぐその男から離れなさい!」

「え•・・・・・?」

 

言うが早いか《ワイアーム》は異音と共に切り裂かれる。下から上へ、逆袈裟斬りによって左装甲腕を切り跳ねる。

 

「ちっ、余計なことをしてんじゃねぇぞォ!」

 

左手に持った機竜牙剣(ブレード)をサニアに投げると同時に《エクス・ワイアーム》の車輪が唸りをあげる。鬼気迫る勢いのジークに危険を感じたサニアは、機竜牙剣(ブレード)を弾くと空高く飛翔する。

 

陸戦型は空を飛べないのだから当然の戦法である筈だ。しかし、そんな常識知ったことかと、不条理を打ち砕く一つの刃はそこにいた。

 

「『慟哭・空踏』」

 

呟いた彼は一度跳躍すると二度、三度と()()()()()()サニアへと肉薄する。それに驚くのはサニアのみならず全員だ。陸戦型である《エクス・ワイアーム》がまるで空を飛ぶように空中戦を仕掛けてくるなど常軌を逸している。

 

次々と常識を砕かれ唖然とするも直ぐ様行動に移したサニアは賞賛されるべきであった。

 

「堕ちろォ!『生剝(いきはぎ)』」

 

空気全てが地面とでも言いたげな無茶苦茶な軌道を以て背後に回ったジークは、推進器の片翼を切り落とすことで自由落下をさせる。

それだけでは終わらないと鋭い眼光でサニアを射抜き、()()()()()()()()()()()()()()を蹴り飛ばし、引力と合わせて落雷のような速度で追撃を仕掛ける。

 

「『畔放(あなはち)』」

 

防ぐことは不可能だと本能が察したサニアは斜めに機竜咆哮(ハウリングロア)を放つことで直撃を逸らした。しかし、地面に叩きつけられた一撃は陥没させる程高い威力を誇り、飛び散った土の破片がサニアの頬を掠める。

 

「さあ、第二ラウンドと行こうか!」

 

陸戦型の常識を粉々にしたジークに多対一のセオリーは通じず、損壊した機体が二機もいるという状況で終始押されていた。

 

機竜息銃(ブレスガン)の牽制の中に時たま混じる機竜息砲(キャノン)の急所を狙った砲撃。反撃の手立てを見つけられず僅か数分で絶望の淵に立たされる六名。

 

「危ない!足元を見て!」

 

左装甲腕をなくした《ワイアーム》を纏う女生徒に声をかける《ワイバーン》。そこは先程ジークによって穴を開けられた場所。平時ならばなんの問題もないが平衡感覚をなくしたと言える《ワイアーム》ではバランスを保てず転倒してしまう。

 

「余所見をする余裕があるのか?」

 

救援に向かおうとする《ワイバーン》へと『空踏』で接近し、今出せる全霊の一撃をぶちかます。

 

「斬り落とせ!『雷切』ィィ!」

 

機竜牙剣(ブレード)から放出された尋常ではない量のエネルギー。技も何もなく無造作に振るわれたそれは女生徒を呑み込み、演習場を囲っていた障壁を切り裂き、尚も大気を切り裂いていく。

 

その途方もない威力の代償か、一度で機竜牙剣(ブレード)が砕け散る。それを好機と見たかもう一人の《ワイバーン》が背後から切り掛るが、振り返ったジークはそのまま砕けた機竜牙剣(ブレード)を突き立てることで撃ち落とす。

 

地面に着地した途端、射撃しようとするがその手が止まる。ジークの──いや、《エクス・ワイアーム》の装甲腕には装甲の六割が吹き飛び、ボロボロとなった《ワイバーン》が掴まれている。

 

「撃てねぇか?撃てねぇよなァ。大事なお仲間だもんなァ。はっ!仲良しこよしやってんじゃねぇぞォ!甘めぇんだよテメェら!」

 

ジークは挑発する。そんな甘さでは真に大事なものを守れないことを知っているから。どこかで妥協しなきゃ取り返しのつかないことになるぞと解らせてやるために。

 

「俺に勝つんじゃねぇのか!最初の威勢はどこに消えちまったんだ、アァ!?」

 

温室育ちの貴族には理解できないとわかっていても、やはり言わなければ自分の気が済まない。己という悪を倒して見せろと、お前達にはそれが出来るはずだと、さもなければ失うのみ。

 

「どうしたどうしたァ!攻撃の手が緩いぞォ!そんなもんじゃ守れねぇ──」

「はぁッ!」

 

《ワイバーン》を持って死角となっていた場所から接近したサニアは横一閃。見えていなくとも障壁で防御される筈の一閃は、防がれることなくジークの薬指と中指の間を抉り、そのまま肘まで骨ごと斬り裂いた。

 

「きゃあぁぁああぁあぁッ!?」

 

骨が砕かれる不快な音と共に大量の血が飛び散る。その現状を見て顔を蒼くする者、嘔吐する者、卒倒する者と様々だがアイリは悲痛な面持ちでジークを見つめ、祈っていた。どうか無事であって欲しいと、兄以外に抱かなかった感情を彼に感じながら。

 

「はっ、ようやくまともに入ったな。これでお前らは善戦しましたって箔が付いたなァ!」

 

嘘だ。本当は防御しなかったのではなく、出来なかった。最早ジークと《エクス・ワイアーム》に障壁を張る余力すらなかった。

 

しかし、代わりにひとつ確信が持てた。

コイツ、自分がやった割に動揺が少ねぇ。この学園の生徒ならありえないことだ。

つまり、このサニア・レミストとかいう奴は学園の生徒じゃねぇなァ!

 

「救護班今すぐ担架を──」

「要らねぇよ!まだ終わってねぇ。そうだ、その意気だ。守りたいなら死ぬ気で殺らなきゃなァ」

 

ライグリィが救護班を呼ぼうとするが要らんと突っぱねる。

とっくに限界を超えて肉体はズタボロ。いくつか血管は破裂しているし、筋肉断裂の音も聞こえた。正常な骨を探す方が難しいぐらい骨も砕けた。場所によっては文字通りの粉々だろう。

 

それに伴い、全身を駆け巡り続ける激痛。今すぐ叫びあげたいほどのそれを()()()()()で耐え切る。

これで敗北?──いいや、否!

まだ終わらない、まだ終われない。

 

昔、祖国で平和に暮らしていた頃に初めて解読した古文書。それに記されていたのは子供には難しい英雄譚。だが、当時既に精神が大人びていた自分は理解できた。

 

遥か昔に生きていたとされる一人の英雄。『悪の敵』になりたいと願った男は幼き自分にはカッコよく見えて、何よりも憧れた。

自分は彼のようにはなれない。悪が何より許容できないわけでも、民のためにと滅私奉公の精神など持っているわけでもない。

 

それでも、その生き方を真似出来ずとも、在り方ならば。どんな苦境だとしても諦めないその精神ならば、自分にだって真似できる筈だ!

 

あの『光の英雄』にできて、俺にできない筈はない。

 

「諦めて下さい、エーレンブルグ教官」

「いいや、()()()!」

 

決死の覚悟で放たれた一言でジークから考えるのも馬鹿らしくなる闘志が湧き上がる。不屈の意思は尚も上昇し、そこにいるだけで押し潰されると錯覚するほどの重圧を放ち続ける。

限界など知ったことか、気合いでいくらでも超えてみせよう。

死ぬ?否、ここで終わるつもりなど微塵もない。

ここに降誕するのは英雄などではない。

故に、紡がれるのは英雄譚ではなく、

只人による邁進劇だ。

獣と化した男に不可能はない。ここにいるのは英雄ではないが限りなく近いもの。

 

本能が全力で逃亡を推奨する。

これはダメだ。人が勝てる相手ではない。

恐れ戦き、離れようとするが、何かによって背後から突き飛ばさる。

 

「今度は一体なんなんだ!?」

 

後ろを見た彼女達の視界には何も映らない。

視線を戻そうとした時には横にいた筈の《ドレイク》が消えている。

《ドレイク》がいた場所にはワイヤーのようなものが通っている。片方は《エクス・ワイアーム》の腰部装甲と繋がっていて、まるで尻尾のようだった。もう片方は演習場の端にある壁に突き刺さっており、そこには《ドレイク》が強制解除された生徒が倒れている。

 

「まさか、今の一撃でやったのか!?」

 

慌てたように機竜息銃(ブレスガン)をばら撒くように撃つが、一つも当たらない。全て見えているかのように弾と弾の間をくぐり抜ける。

その間に彼は腕の応急処置をする。自分の服を破いて操縦桿と腕を巻き付けて固定するだけという粗末なそれは、動かせればそれでいいと言っているようなものだった。

 

そして、射撃が止んだ瞬間、彼は大きく跳躍する。

目で追っていたはずなのに彼女たちの視界から彼は消える。

 

「『屎戸(くそへ)』」

 

人間の無意識に己の存在を滑り込ませたジークは見えていても認識できない。だから今まで目の前から消えたように見えていたのだ。

獣のような動きで背後に回ると竜尾鋼線(ワイヤーテイル)の先端に機竜牙剣(ブレード)を取りつけたような武装──機竜尾剣(テイルブレード)を真上から突き刺す。

 

また一人、確実に急所を刺したことで《ワイアーム》が強制解除される。

最早狂乱した残りの四名は我武者羅に撃ちまくる。

ジークは被弾するが知ったことかと肉薄する。

 

「ひッ!?ッッッッッッ!?!?」

 

声にならない悲鳴を上げた《ワイバーン》を纏う女生徒は機竜爪刃(ダガー)を持っている全て投げつける。五、六本、足や胴体に刺さるが《エクス・ワイアーム》は止まることなく無事な右装甲腕を振るう。

それは確実に装甲を剥がし強制解除まで無理矢理持っていく。ヘッドギアの竜を模した頭部は紅い眼光を放ち、残り三名を睨みつける。

 

「あ、悪魔めッ!」

「化け物が・・・・・・!」

「だ、誰か、助けて・・・・・・ッ!」

「どうとでも言うがいい。俺は負けない、何があっても。“勝つのは俺だ”」

 

そう言い残して彼女達は半ば意地の特攻をかける。

それに敬意を評したジークは正面からぶつかり、機竜尾剣(テイルブレード)を柔軟に使って翻弄する。

情けも容赦もない無慈悲な蹂躙。

 

「今すぐ担架を!彼を医務室へ!急げ!」

 

ジークが《エクス・ワイアーム》を解除して静まり返ったこの場に最初に響いたのはライグリィの凛とした声。しかし、焦っているのかいつもより声を荒らげている。

 

「不要だと言っている。彼女達を運んでやれ」

 

そういうジークだが彼の方がよっぽど酷く、唇の端から血が垂れている。臓器も幾らかやられている証拠だろう。

先程よりは鳴りを潜めているが、刺し突く雰囲気はまだ残っている為、救護班も迂闊に近づきたくなかった。左腕を抑えながらジークは数秒、どこかを見つめそのまま演習場を後にした。

 

見つめていた先、それはお願いをしてきたアイリがいた。

アイリは何が彼をそこまで駆り立てるのか酷く気になった。思考の七、八割はそれで埋め尽くされていると言っても過言ではない。

そして、彼の助けになりたいと思う自分がいることに気付かずにいた。

 

 

●〇●〇●〇●〇●〇

 

 

演習場から少し離れたところにある井戸。本来は訓練の汗を軽く流すためにあるのだが、そこでジークはブチギレていた。

 

「クッソがァァァ!!痛ってぇじゃねぇか!何回か死んでたぞあれ!」

 

さっきまでの厳格な雰囲気はどこへやら、いつもの調子に戻った彼は痛みで悶絶して当たり散らしている。

尤も、どちらが素の言動かと聞かれればさっきまでの方と答えよう。

この全てを小馬鹿にした態度は心を守る過程で無意識に作りだした仮面の性格。本来は冗談は好まず、敵であろうが相応の志を持つ者、努力をする者に敬意を払う真面目な性格である。

 

故に、泣いている子がいれば味方になるし、

虐げられた者がいれば助けに入る好漢と言える。

今はその当時の面影が少ししかないだけで決して冷徹ではない。アイリのお願いを聞いたことからもそれは伺えるはずだ。信じて欲しい。

 

「身体、大丈夫?」

「あぁ?大丈夫に見えたらお前は相当頭がイカレてるぞ」

 

突然聞こえた声に当たり前のように返したがよく考えよう。

・・・・・・今俺は誰に返事をした?

 

嘘だと信じて声の聞こえた方をゆっくりと向く。

そこにはいつも通り眠そうな──なんてことはない真面目は表情でこっちをジッと見つめるフィルフィの姿があった。

 

「ウオォォォッ!?学園長の妹!?」

 

素っ頓狂な声が出たが許して欲しい。

後ろにいつの間にか立たれていたら誰だって驚くだろ。

 

「な、何でてめぇがここにいる?」

「先生がこっちに歩いてくるの、見えたから」

 

どうやらバッチリここまで来たことを見ていたらしい。ということは必然、最初の愚痴も聞こえていたわけだ。

 

「クソっ、敵意がない奴は本当にやりにくい」

「・・・・・・どうして嘘をつくの?」

「──は、はあ?一体なんのことだ?」

 

ギクリとするジーク。まさか気づかれたかとも思うが、カマ掛けかもしれないと敢えて平静を取り繕う。

 

「先生、『死を想え(メメント・モリ)』さん・・・・でしょ?」

「俺が伝説の傭兵だァ?何かのまちが──」

「気づいてるから嘘つかなくていいよ。後、多分アイリちゃんも気づいてると思うよ」

 

自分の発言をバッサリ切られ断言される。この子、結構強引なところもあるんだなと思いつつ、サラッと流しそうになった重要な部分を聞き返す。

 

「あの子も気づいてるってマジ?」

 

無言で頷くフィルフィ。この状況で嘘を言う理由もメリットもないことからほぼ確実に真実と言っていいだろう。俺の経験と勘が囁いている。

 

「ウッソだろ、うわー、マジかよ。じゃあ金を渡してお願いしてきたのってそういう──何それ、逃げ場ないじゃん」

 

つまり、彼女は依頼達成の暁に殺される覚悟の上だってことだろ?何それ、絶対殺せないじゃん。というか殺させないわ、そんな健気な子。

お兄ちゃんちょっと嬉しいわー。そういう子に育ってくれてほんと嬉しいわー。

 

驚愕の事実に本気で現実逃避を始めたジークの左腕を、フィルフィは思いっきり摘む。

それはもう酷い激痛が襲い掛かる。

 

「痛ったァ!?ッッ〜〜〜〜、そうだった。まだ治していないんだったな」

「それ、治るの?」

「ああ、問題ない」

 

依頼主(クライアント)に正体はバレるなと言われているのに既に隠そうとしないジークは問題ありだろう。と言うより、この状況を受け入れていることにジークが疑問を感じていないことの驚きだ。

敵意がない相手にはかなり警戒心が薄いらしい。

 

「ちょっと離れとけ。───覚醒せよ、恩恵授ける叡智の蛇神。破滅と安寧を与えたまえ《■■■》」

 

接続されたのは銀色の神装機竜。旧帝国と新王国のどちらにも恐れらる傭兵、『死を想え(メメント・モリ)』。その所以たる叡智の蛇神が降臨する。

 

「《迦楼羅焔(かるらえん)》」

 

神装機竜の装甲の隙間、紫色の光が漏れるそこから大量の粒子が溢れる。

それこそ、反乱軍百機、幻神獣(アビス)約三十体を消し飛ばした怨恨の種そのもの。しかし、それが暴威を振るうことはなく、ジークの体を包み込む。すると、見る見る内に傷が癒えていく。

破裂した血管が、断裂した筋肉が、砕けた骨が、グチャグチャになった内臓が、元通りに修復されていく。初めからなかったかのように跡すら残らず傷は消えた。

 

元素変換・粒子操作

それがこの粒子の正体。あらゆる元素へと変換できる粒子は核爆発を起こすことも可能だった。尤もそれは、実験として適当に元素変換をしていたら発生した現象で、偶然の産物でもあった。

 

しかし、いくら元素変換ができても常人では傷を癒せない。それは常人では肉体を構成する物質、質量を把握しきれないからだ。

だが、ジークはそれを成し遂げた。必要なことだったから何度も書物を読み返して記憶した。

故に、ジークは何の問題もなく肉体を再構成できる。

 

「まあ、こんなもんだろ。おい、天然娘。このことは絶対誰にも言うなよ」

「分かった、絶対誰にも言わない」

「イマイチ信用ができな──ってお前・・・・・・何だ、お前も存外こっち側か」

 

信用しきれないジークはフィルフィの顔を覗き込むが、何か分かったのか疑うことをやめて信用することにした。

彼女は絶対誰にも言わない。その保証がアレにはあった。




いつもより長くなったし、難産でした。
そして、どうしてこうなった(二度目)
いや、ほんと。何でですかね?

死にかけでも諦めない精神を持った結果、トンチキが生まれ始めたんですけど。
何はともあれ、ヒロイン化が進むアイリとオリ主を認めてくれそうなフィルフィの2人でした(チャンチャン)

あ、機竜尾剣(テイルブレード)ってまんまバルバトスルプスレクスのテイルブレードを想像してもらって構いません。
・・・・・・《エクス・ワイアーム》の性能(スペック)データ、要ります?

最後に、感想ください!(切実)
一言でも、励みになりますんで!

では、次幕の悲喜劇(シェイクスピア)をご期待あれ


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