神話級の巨大蜘蛛、異世界で無双。【凍結】 (光車)
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1章 学園都市① 地位向上編
異世界


超絶改訂しました。
あまりにも酷かったので。


 目を覚ます。

 僕は暗闇に居た。

 どこかも分からない、変な場所。

 

 ガサガサ、と体を動かしてみる。

 すると、何かが体を包んでいる感覚がある。

 

 少し動いた程度じゃ割れなかったけど、じゃあ今度はもっと思いっきり動いてみよう。

 そんな感じで動いてみれば、今度は割と簡単に割れた。

 

 辺りはかなり暗い。

 けれど見えないほどじゃない。

 下を見れば、僕を包んでいたものは……糸でできた繭?

 

 落ち着いて考えるために一旦座ろうとしてみるけれど、体がうまく動かない。

 と言うか、とてつもなく違和感がある。

 

 よく見てみれば、鋭い何かの足。

 感覚が正しければ、それは8本存在している。

 そして視界もおかしい。

 目が8つある感覚もある。

 

 足が八本、目も8つ。そして糸を使う生物。

 ……うん、どうやら僕は蜘蛛になったみたいだ。

 

 現実逃避してしまいそうだけど、今の現状を受け入れる。

 そしてとりあえず外に向かうことを目標とする。

 

 周りを見渡すけどあまりにも暗くて見えない。

 けど、よく観察すると見えないのではなく、近すぎて分からなかっただけみたいだ。

 

 何があったかと言うと、岩。

 岩がすぐそこにあったみたい。

 

 足を動かそうにも、周りも岩に囲まれている。

 どうにかならないかなと思いながら少し力を入れて足を動かした。

 訂正、動かしてしまった。

 

 直後、轟音が鳴り響き、岩が崩れ落ちる。

 

 僕の足が岩に当たって、そのまま岩を崩したのだ。

 あまりにも簡単に破壊できたことに、数分呆然としていた。

 

 まだ洞窟の中だけど呆然としていた僕に、何かが近づいてきた。

 

「グギャギャ!」

「ギャギャ?」

 

 それは緑色の肌。

 小さな角が頭に生えている。

 異世界モノではテンプレである、ゴブリンだった。

 ただしやけに小さい。

 僕の足先程度の大きさしか無いのだ。

 

 そんな奴らが10匹程度。

 手に持つ石の斧で僕を攻撃してくるが、斧が逆に壊れてしまう。

 

 鬱陶しかったのでさっきと同じように足を動かした。

 とはいっても、さっきより何倍も力を入れてしまっていたが。

 結果、一瞬ですべてのゴブリンが弾け飛んだ。

 

 足が当たらなかったゴブリンも居たはずなのに、即死した。

 ついでに洞窟も揺れる。

 落石が僕の体に落ちてくるけど、全く痛くもない。

 

 あまりの惨状にもしかしたらステータスとかもあるのかな。

 なんて、現実逃避をする。

 

 でも、現実逃避にはならなかった。

 

***

 

種:クイーンタラテクト《原種》

名:なし

ランク:S

HP:9999×5+

MP:9999×5+

SP:9999×4+

力:9999×3+

防御:9999×3+

魔攻:9999×3+

魔防:9999×3+

敏捷:9999×3+

スキル

『順応』『蜘蛛糸』『蜘蛛毒』『魔法』『ブレス』『射出』『全属性耐性』『全異常状態耐性』『偽装』『鑑定』『小型化』『産卵』『眷属支配』『念話』

 

***

 

 直後出てきたステータス。

 そこに書かれている内容は、ある意味納得をさせてくれるものだった。

 

 これを信じるならば、僕のステータスは軽く3万。

 HPやMPに至っては、5万以上あることになる。

 果たしてそれが高いのかどうか、それはわからないけれど、さっきの惨状をみるに高いのだろう。

 それも、極端に。

 

 声なんて出ないはずなのに、乾いた笑いが出そうになった。

 

***

 

 その後。

 洞窟内なので時間とかはわかりませんが。かなりの時間が経ちました。

 ステータスは当然変わってません。

 

 この時間の間に、一応魔法の研究とかスキルの研究とかもしている。

 それによってある程度の魔法なら使えるようになっている。

 スキルの内容も割と分かってきてるし、一人でずっとやっているにしては割といい線まで行っているんじゃなかろうか。

 

 と、僕が気を張り巡らせているエリアの中に、とある気配が入ってくる。

 大半の魔物は僕という存在の気配に慄いて近づいてこないのに。

 

 それは男の子だった。

 ボロボロで、全身傷だらけの男の子。

 そんな男の子は僕の影を見て、

 

「うっ、これまで、なのかな?」

 

 そう言って、男の子は倒れた。

 

***

 

 男の子が起きた。

 

『あ、気付いた?』

「え?誰………うわあ!」

 

 男の子は、僕を視認するなり飛び起きる。

 そして、震える足で僕に言う。

 

「お、大きな魔物……」

 

 そう、実は僕はかなり大きい。

 今の目の前にいる少年が150cmくらいだったとしても、僕の大きさは軽く30mはあるだろう、という大きさだ。

 そんな大きな魔物が目の前にいたら、驚くのも無理はない。

 

『まぁ確かに私は魔物だけど、あんまり気にしないで』

「え、喋った!?」

 

 そこで驚かれることには僕も驚いた。

 なんで驚くの? とも聞こうと思ったが、それより僕今『私』って言ったな?

 クイーンタラテクト、即ち女王だから『私』と言わなきゃいけないのか。

 

「喋れる魔物なんて……神話級じゃないですか。そんな魔物がこんな近くにいたなんて……」

 

 男の子は僕が喋った事を驚いた理由を、僕が聞かずとも教えてくれた。

 うん、空気が読める子は優秀だよ。

 そして理由もわかった。

 

『なるほど、喋れる魔物なんて滅多にいないんだね』

「そう、です」

 

 僕は男の子の言葉を聞く。

 でも、何かこの子はあるような気がする。

 僕の勘もそう言ってる。

 

『じゃあ君。私に何があったかを教えてみなよ。何か解決するかもしれないし』

 

 とりあえずの催促。

 意味はないかもしれないけど、もしかしたらこの子は僕の運命を変えてくれる子かもしれない。

 

「え、えっと、僕は魔物使い(テイマー)なんですが、テイムできる魔物が虫系しかいなくて……。それで落ちこぼれって言われてて……。今日は見返すために外の森に来てみたんですが、ゴブリンに殺されかけて。それでこの洞窟に逃げてきたんです」

 

 なるほどなるほど。

 随分と無謀な事をする子だね。

 でも、それくらいこの子は見返したかったって事かな。

 

『よし。私がテイムされてあげるよ』

 

 とりあえずはそう言ってみる。

 この子の選択だ、別に何をとっても良い。

 けど、予想通りなら……。

 

「い、いいんですか? 僕なんかが、貴女みたいな神話級の魔物をテイムしちゃって」

『そこは気にしなくていいよ。正直言って暇だったし』

 

 僕のことは気にしなくていい。

 僕は僕が気が向いた事をやるだけだ。

 

「わ、わかりました。……所で契約内容ですが……」

 

 契約内容?

 ……あ、もしかしてそういう事かな。

 そもそもテイムというスキルを知らなかったから、テイムを掛けて終わりだと思ってたんだけど。

 

 でも、ならこうで良い。

 

『私はなんでも良いよ。余分な束縛さえなければね』

「え、でも……」

 

 未だに渋るこの子だけど、僕はそもそもそんな契約なんて自分で破棄できる。

 そんなものを気にするくらいなら、今自分の命を気にかけたほうがいい。

 

 全く、大物なんだか小物なんだか……。

 自然と笑いが込み上げてきた。

 

「で、ではテイム行きます」

『うん』

 

 無抵抗でこの子から飛び出た光の粒子を浴びる。

 それはだんだん僕に絡みつく鎖となる。

 

 そして最後に、シャランという音を立てて消え去った。

 

「……成功です」

『よろしい。じゃあ君の元の場所へ帰ろうか』

 

 僕はこの子がこの子をいじめてる奴らを見返す所を想像しながら、そんな事を言った。




12/23 スキルの偽造を偽装に直しました。

2021/5/18
改稿完了しました。


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神話級

2話改稿はじめました。


「えっと、あの……」

 

 男の子が僕に何かを聞こうとする。

 

『ん? なんかあったの?』

「その……。僕は魔力も少ないので、ただでさえ魔物の格が高い神話級となれば、召喚ができないんです」

 

 なるほど。

 でも召喚って何の話だ。

 

『……召喚って、なんでそんな話を?』

 

 話の脈絡が繋がっていない。

 内容がよく分からなかったため聞いてみる。

 

「あ、召喚についてですか。テイマーは魔物と契約するとその魔物を召喚できるんですが、その時に魔力を消費するんです。その魔力は魔物の格が上がれば上がるほど高くなっていくので……」

 

 なるほど、大体わかった。

 まぁ要は召喚できないってことだよね。

 

『じゃあ、私は一緒に行けば良いのかな?』

「そうなります」

 

 やっぱりそうだよね。

 さて、それじゃあ……。

 そういえばこの子の名前聞いてないね。

 

『じゃあ、契約者の名前は聞いておかなくちゃ行けないよね。君の名前は?』

「あ。僕の名前はアルシナ・ケル・セルメリトです」

 

 結構長い名前だった。

 まぁ、名前を聞く限りでは貴族なんじゃないかな。

 

『じゃあ、最後に私に名前をつけて』

「わかりました。……アイ、とかどうでしょうか」

 

 うん、まぁ悪くない名前ではあるんじゃないかな。

 

『アイね。分かった、ありがとう』

「いえそんな」

 

 僕の礼の言葉を否定するアルシナの言葉を止めるように、自分の体を小さくする。

 今の自分の大きさは大体普通の蜘蛛と同じくらいじゃないだろうか。

 そんな事を考えながら、遠慮せずにアルシナの頭に飛び乗った。

 

「え、ちょ、アイさん!?」

『一緒に行くって言ったでしょ? だったら小さくなったほうがいいから』

「いや、そうですけど……」

 

 困惑するアルシナのことは気にしない。

 

『さ、そんなことは置いておいて、行こう』

 

 学園都市に向かうことを催促する。

 僕の意識はすでに学園都市へと向いていた。

 

***

 

↑改稿済み

───────────

↓未改稿

 

到着した。

途中で魔物も出たが、僕は神話級。

その程度では相手にならない。

そして都市に着いた。

 

『へえ。ここが学園都市、ねえ。思ったより活気あるじゃん』

 

『当たり前ですよ。ここは王都の次に発展している場所なんですから』

 

『そうなんだ』

 

そういえばアルシナは念話を使えた。

だから人混みでは念話を使っている。

そして、今日は寮で寝た。

ちなみに僕は学園都市に入るときに小さくなって普通の蜘蛛より小さくなっている。

 

翌日。

 

今日は学園がある。

寮は学校の中にあるので直ぐに着く。

ちなみに学園の名前は都立アクシオン学園だ。

 

そして学園に到着。

教室に入ったところでアルシナの顔が強張った。

 

「は、落ちこぼれが来たぜ〜」

「マジだ」

「落ちこぼれなんて来なけりゃいいのに」

「目障りだね」

「男爵貴族の落ちこぼれ」

「魔物使いなのに立派な魔物も使えない雑魚が」

 

………は?

なにこれ?

やばくない?

流石にここまでとは思ってなかった。

これはひどい。

 

と言うかこれに耐えれたアルシナ君すごいな。

 

………思わず現実逃避してしまった。

とう言うかマジかこれ。

 

『これが、僕へのいじめです』

 

『………そう。で、やり返したいのよね?』

 

『そうです』

 

『なら、やっちゃいましょうか』

 

………あまりにもイラついて敬語になってしまった。

 

「ぼ、僕はもう落ちこぼれじゃない!僕にはもう立派な従魔がいるんだ!」

 

だが、

 

「だから何だ?」

「虫系の魔物なんて強力な魔物いないじゃない」

「結局は初級モンスターしか従魔にできねぇんだろ」

 

と、笑われていた。

 

ブチッ!

僕はブチギレた。

 

『サッサとコイツらぶっ潰しちゃおうよ。殺ろ『ストーップ!それはいけない!』………わかった。けど、サッサと蹴散らしちゃおうよ。こんな奴らに僕の主が侮辱されてたまるか!』

 

『………はあ、わかったよ』

 

そしてアルシナは。

 

「なら全員で僕の従魔にかかって来てください。貴女たちじゃあ僕の従魔には絶対に(・・・)勝てない」

 

そう、告げた。




ごめんなさい!
文章力もっと欲しい………。


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神話級の強さ

「んだと?」

「………は?」

「………バカにしてるんですか?」

 

みんながアホ面晒してくる。

ふ、雑魚めが。

 

「バカにするもなにも、事実ですよ。もう一度言いましょうか?貴方達じゃ「ふざけるな!」なんでしょう?」

 

「お前ごときに負ける訳ねえんだよ!」

「そうだそうだ!」

 

「では、やりましょうか。時間は放課後。場所は訓練場で」

 

***

 

『ふふふ、ナイスだ』

『ありがとうございます』

 

僕はとてもイラついていた。

それはアルシナにも伝染していたようだ。

ちなみにステータスは従魔によっては強化される場合があるらしい。

それはアルシナにも言えて、元々20前後しかなかったステータスが今では2000を超えている。

しかも制御できていないからという理由でで下がっているので、本来は9999以上のステータスを誇る。

 

流石神話級。

授業は魔法の使い方があった。

最もこれまでの時間に魔法なんて使える様になってるけど。

スキル持ってると何となくわかるんだよ。

その他にも色々とあったが、他は何もやることが無かった。

因みに今はアルシナの髪の中にいます。(某剣士を監視する蜘蛛の如く)

 

さて。

そろそろ授業が終わる。

行こうか。

蹂躙しに。

 

***

 

これから始まる。

アルシナに言質を取ったからかコイツらさらに調子に乗ってる。

最も、女子は大半抜けているし、男子も数人抜けている。

まあコイツらはあまりいじめに関わってなかったらしいけど。

元々いじめてたのはコイツらだ。

 

「ふん、今なら土下座で許してやらんこともないぞ?」

そんなことを言う馬鹿はリオン=ケル=ロインテルと言う子爵家の奴だ。

典型的な馬鹿貴族。

このグループのリーダーでもある。

 

「する訳ないでしょう?」

 

そう言うのはこちら。

アルシナだ。

でも、相手は虚勢だと思っているらしく、

 

「ふん、だろうなぁ。ま、テメエ程度簡単にやれれるけど?」

 

と、調子に乗り続けてる。

 

さて。

始めるかい?

 

『始めましょうか』

 

「そろそろ始めましょうよ。これまでの借り、返してあげますから」

 

「テメエ!」

 

そして、戦い(蹂躙)が始まる。

 

***

 

「ハアアアアアああ!」

 

馬鹿みたいに大きな声を上げて切りかかってくる馬鹿。

 

………思った以上に力があるみたいだ。

 

でも。

 

私が出たら、その程度意味ないよね?

 

「行って、アイ」

 

その言葉と共に飛び降りる。

 

そして巨大化。

大体1メートルくらいの大きさになる。

 

「ふ、そのまま叩き斬ってやる!」

 

そう意気込んで、僕を切る。

 

カキン!

 

弾き返す。

 

「………は?」

 

一見柔らかそうな体なのに剣が弾き返されて呆然とする馬鹿貴族。

そこにタックル。

 

「グアっ!」

 

一撃で終わる。

 

壁にぶち当たり、そのまま気絶。

みんながシーンとする。

 

「ッツ!化け物!」

 

そう言って女子生徒の一人が火魔法を叩き込んでくる。

確かに弱点だけど………。

甘いね。

 

[キシシシシシシ]

私は虫の音を立ててさらに巨大化。

 

全長10メートルほどになり、そのまま魔法を受ける。

 

煙が晴れた先にいたのは。

無傷の私。

 

「ヒイッ!」

 

怯える生徒たち。

 

あとは一方的。

私が空気を吸い込み、射出スキルで吐き出す。

それだけで、生徒達は吹き飛び、壁に当たる。

 

………ここまで本気出さずとも倒せるか。

意外と弱いね。



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当然の気持ち

その後。

僕たちは自室に戻ってきていた。

あの決闘は無効だと、うじゃうじゃと言っていたけど、勿論突っぱねてある。

 

そして、アルシナは部屋に着くなり、崩れ落ちた。

 

『!?アルシナ?どうしたの?』

「…いえ、なんでもないです。疲れが出ただけですから」

 

そう言ったアルシナ。

けれどその体は微かに震えていた。

 

『……もしかして、怖かった?』

「ッ!」

 

……図星らしかった。

そっか。

当たりまえだ。

いくら僕からの影響でイラつきが出ていたとしても、これまでいじめられていた事は変わらない。

その分の恐怖が残っていてもおかしくない。

いや、寧ろそれが当然。

どうして気付かなかったんだ。

勝てる勝てないの問題じゃない、できるできないの問題じゃない。

ただ、逆らうのが怖いんだ。

僕がいたからそれはなんとかなった。

けど、なんとかなったのは逆らうという行為だけ。

つまり、感情は一切克服できていないんだ。

今だってそう。

きっと、逆らったことによる仕返しが怖いんだ。

そんなものない、と分かっていても。

 

『大丈夫だよ、僕がいる。僕がいる限り、僕はアルシナを守るよ』

「……アイ?」

 

少し怪訝そうな感じで僕をみてくる。

でも気にせず慰める。

 

『僕はそういう恐怖は味わったことなんてないから、何かを語る事なんてできないよ。けど、それでも僕は君を守る。だから、安心して?ね?』

 

「……ありがとう」

 

アルシナはそういうなり、寝てしまった。

……はあ、ベットに移動させるか。

 

『おやすみ、アルシナ』

 

***

 

次の朝。

 

朝早く起きたアルシナに、僕も合わせて起きる。

僕もアルシナも食事が終わり、何をしようかなと考え、ふと思い出し、僕はある事をアルシナに聞いて見ることにした。

 

『アルシナ、この世界のことを教えてくれない?僕まだそういうこと知らないからさ』

 

そう、この世界の事。

僕はこの世界で10年は過ごしている。

けど、僕はこの世界のことを何も知らない。

だから、知りたい。

この世界の事を。

 

「……アイ?どうしたんですか?」

『この世界の事を教えて欲しいんだ』

「まあいいですけど……。知ってどうするんですか?」

『別にどうもしないよ。ただ知りたいだけだし』

「そうですか」

 

そして、アルシナは僕にこの世界の事を話し始めた。

 

この世界は、主に4つの国があるらしい。

聖法国ホリス、魔帝国ルツエニア、レオグム王国、そしてここ、中立国クシルだ。

この中で仲が悪いのは聖法国ホリスと魔帝国ルツエニアだ。

聖法国ホリスは魔帝国ルツエニアが魔物を労働力として起用しているのが気に入らないらしい。

聖法国ホリスは人間至上主義らしく、それが原因らしいが。

魔帝国ルツエニアは、魔物を労働力として扱っている。

変な事をしなければ人間と平等に立場に扱われているらしい。

中立国クシルはどの戦争にも関わらないという国。

一見纏め役に見えるが、他の国とは一切関わらないという排他的な国で、纏めるなど絶対にしない。

学園都市を管理しているのは中立国クシルだ。

クシル国民はあまり入学しないが、他の国の人間が入っても何も言われない中立国クシルの唯一の場所である。

レオグム王国は、その三国の纏め役。

聖法国ホリスと魔帝国ルツエニアは仲が悪く、その仲裁を良くしている。

時々起こる戦争も、彼等が仲裁することが多い。

 

この中で一番国力の高い国はレオグム王国。

ホリスとルツエニアは同等くらいで、中立国クシルはそれより上という程度。

 

次に、種族。

人型の種族は、人間、精霊人、獣人、魔族。

これらの種族が存在している。

他は動物と魔物、精霊と妖精だ。

 

魔族は世界の敵、というものらしく、生命が死ねば死ぬ程強化されていく。

魔族とわかり合うことは不可能であり、説得は無意味。

そう決め付けているわけではなく、魔帝国や王国辺りが何度か取り込もうとしたらしいが、出来なかったらしい。

 

「……まあ、主な所だとこんな感じです」

『うん、ありがとね、アルシナ』

 

アルシナに礼をいう。

 

「……あ、もう時間ですね。じゃあそろそろ行きましょうか」

『そうだね、行こうか』

 

昨日のように髪の毛の中に隠れる。

そして、アルシナは教室へと向かった。




復活しました。

知っておくと後からわかりやすい設定。
①学園都市の名前
学園都市の名前は、マソウカ。
②この世界での冒険者
この世界には冒険者は存在しません。
存在するのは傭兵と開拓者です。
③傭兵と開拓者
傭兵はスラムの人間でもなれますが、開拓者はしっかりとした身分と学歴がなければ入る事はできません。
しっかりとした身分というのは、国籍などがしっかり登録されていれば大丈夫です。
また、傭兵はならず者が多いので荒ごとは良くありますが、開拓者ではそのような事が起きれば大体開拓者としての資格を剥奪されます。
④開拓者
開拓者とは、国に一定の身分を与えられたものです。
準男爵家と同等の権限を持ち合わせています。
そこまではっきりとした特権は持ち合わせていないが、一般人には敬われる存在だと思ってくれればいいです。


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屋上で

かなり後になると思います、と感想で返したその日に書く人である。

モチベが上がりました。
次はわかりませんが、できるだけ書きます。


「……アルシナだ」

「あいつ、急に強くなってどうしたんだよ……」

「……ヒッ」

 

アルシナが教室に入ると同時にクラスメイトは全員こちらを向いた。

反応は様々。

けれど、こちらを怯えるような視線が多い。

 

アルシナは落ちこぼれとして扱われ、仲の良い人は皆無だったらしい。

だからか、こんな風に扱われても庇ってくれる人なんていない。

 

『大丈夫?』

『……っああ、はい。大丈夫です』

 

それがなんだか、自分に言い聞かせているようでこちらも辛かった。

 

***

 

その日の昼。

 

「………なあ、あんた」

「…はい?誰ですか?」

 

ご飯を屋上で食べていた時。

誰かがアルシナに話しかけてきた。

 

「あんたはいつもここで昼飯食べてんのか?」

「え、ええ。そうですけど……。あなたは?」

 

話しかけてきたのは赤髪の少年だった。

 

「ああ、そういや自己紹介を忘れてたな!俺はF・Bのレオネ・フェルタ・バークレイズだ。あんたは?」

「僕はアルシナ・ケル・セルメリトです。クラスはS・Yですね」

「そうか!よろしくな、アルシナ先輩!」

「え、ええ……」

 

ん?

んんん?

 

どういうこと?

 

『ああ、F・BとかS・Yっていうのは、クラスのことです。最初が学年、次がクラスです。』

 

僕の思念から困惑しているのが伝わってきたのか、アルシナがそう念話で伝えてきた。

 

『アルシナ、ありがと』

『どういたしまして』

 

そして、その会話が終わると同時にレオネという少年がアルシナにもう一度話しかけてきた。

 

「んで、いつもここで食べてんのか?先輩は」

「ああいえ、今日はたまたまですよ。クラスのみんなと食べるのが気まずくて」

「そうか。……にしても先輩、ちょっと堅苦しすぎないか?もっと気楽に行こうぜ気楽に!」

 

レオネはそう言う。

まあ確かに思ってた。

レオネが先輩って言っていることだし、恐らくレオネは下級生。

そんな下級生に対して敬語は堅苦しい。

 

まあ、それはアルシナの癖だと思うけど。

 

「ああ、それは癖なので気にしないでください。……レオネさんはどうしてここに?」

 

やっぱり。

 

「レオネでいいぜ!どうしてここにきたか、か。……理由なんているか?強いて言うならこの景色が見たいから程度だぜ」

「そうでしたか。確かにここから見える景色は絶景ですもんね」

 

レオネはどうやらかなりフランクな性格をしているようだ。

それにつられてかアルシナも結構喋っている。

 

確かにここから見える景色は絶景だ。

触れていなかったが、森に少し大きい池、巨大樹もあって、その奥には平原。

そして右を向けば海が見える。

うん、絶景だね。

 

「んじゃ、昼飯食べようぜ!俺の早くしねぇと冷めちまうからさ!」

「……ふふ、そうですね、そうしましょうか」

 

僕が景色を見ていると、いつのまにか二人はご飯を食べていた。

アルシナも和やかに、僕が今まで見ていた中で一番穏やかな顔をして。

 

(仲良くなれるといいね、アルシナ)

 

僕は心の中でそっと、呟いた。




っとと、忘れてた。

知っておくと後々楽な話

①国によって真ん中の名前が違う。
中立国クシル=ケル
レオグム王国=フェルタ
魔帝国ルツエニア=ルダ
聖法国ホリスに関しては貴族制度が存在せず。その代わりとして聖職者が貴族的な立場に。
②クラス分け
◯・◯でクラスを言うことが多い。
何年何組みたいなもの。
Fが一年、Sが二年、Tが三年。
そして、R(レッド)が一番上、B(ブルー)が2番目、Y(イエロー)が一番下です。


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アルシナの感謝

いきなり連続投下。

仕方ないじゃないか。
筆が乗ってしまったんだから。


アルシナ視点

 

「なあアルシナ、明日もここで食べようぜ」

「いいですよ、レオネ」

 

食べ終わって、そんな会話もしながら帰っていく僕たち。

あの頃だったら、こんなこと考えられなかっただろう。

そう思いながら、アイに感謝する。

 

あの日、もしアイに会っていなかったらどうなっていただろうか。

いや、考える必要もない。

あそこで死んでいた。

もしアイに会っていたとしても、アイの性格があれほど良かったのも奇跡みたいなもの。

性格が良くなければ、そもそも理性がなければ……。

今思えばゾッとする。

だけど、行かなければアイに会えなかったことも事実で。

今思えばあれは運命だったんだろう。

 

『どうしたの?アルシナ』

『ああいや、なんでもないです』

 

本当になんでもないから誤魔化す。

 

あの時は学園生活に嫌気がさして、死ねれば楽なのにとあの森へと入ってしまった。

けど、いざ死が近づいてみれば怖くて怖くて仕方がなくて。

僕は逃げ出した。

その先にいたのがアイだった。

僕はアイに「見返したくて」なんて言ったけど、実際にはただ嫌で逃げ出しただけ。

そんな僕に対してゴブリンから助けてくれた上、テイムされてくれた。

アイが叩きつぶした影響でいじめもなくなって。

まあ昨日の今日だからって言うのもあるんだろうけどね。

 

それに、反抗して、僕はとても怖かった。

いつ打たれるかわかったものじゃなかった。

そんなことありえないと分かっていても、怖くて怖くて。

そんな臆病者の僕に対して心配してくれていた。

それが僕のことを、とても短い付き合いながら、しっかり考えてくれていると言うことがわかる行動で。

 

そう思うと、やっぱりアイに感謝を伝えなければと思う。

けど、なんかそれは照れ臭くて。

 

(ありがとう、アイ)

 

せめて心の中で、感謝を言うことにした。

ありったけの感謝、いつか伝えれたらなと思いながら。

 

***

 

アイ視点

 

あれ?

なんかアルシナに言われたような……。

 

気のせいか。

そんなことより、この教室に戻ってきてしまった。

弛緩していた空気も、アルシナが入ってきた瞬間張り詰める。

 

教室が静かになる。

誰も言葉を話すことはない。

 

先生が来てからも教室は緊張したまま。

人が当たるようになってからはみんなも緊張が解れてきていたけれど。

やっぱりアルシナに対する怯えは完全には消えていなかった。

 

でも、それでも朝に比べればまだマシだと思う。

だって朝は悲鳴も出てたし。

 

***

 

下校時。

 

「その、アルシナくん、これまでいじめを無視しててごめんなさい」

「すみませんでした、アルシナさん」

 

みんながアルシナに対して謝罪をする。

恐らく恐怖からの行動だと思うけど、アルシナはそれで満足したのか、

 

「いいですよ、これからはクラスメイトとして仲良くやっていきましょう」

 

と、寛容に受け入れていた。

 

……その足が若干、本当に少しだけ震えていたのは見なかったことにしてあげよう。



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実戦訓練開始

今回は前書きに置いておきます。

①エリア
エリアは生息している魔物の危険度によって変えられています。
基本的に奥に行けば行くほど危険なので、必然的に奥が制限されます。
②クラスカード
クラスカードとは、そのクラスの人間ですよということを証明するためのアイテムです。
実戦訓練エリアのみ、脱出効果が使えます。
また、出席を取ったりクレジットカードとして使ったりします。
③ゲート
初代学園長が作った超高性能なゲートです。
決めた形に結界を作り出す力があります。


次の日。

 

アルシナが何やら色々と準備してたから何やってるのか聞いてみた。

 

「これは今日の実戦訓練の為の準備ですよ」

『実戦訓練?』

 

ここに来て3日目。

どうやらこの学園都市マソウカにはかなり厳しい実戦訓練があるらしかった。

 

***

 

詳しく聞くと、毎週1日目と4日目に実戦訓練があるらしく、学園都市周辺にある森、海、平原、砂漠、湿地、岩山、洞窟の七つの場所のどれかでやるらしい。

特殊な結界でエリア分けされていて、学年とクラスが下であれば下であるほど移動できるエリアが狭くなるらしい。

アルシナはS・Y、つまり2年でも一番下のクラスだからあまり移動はできない。

今回はクラス別でやる為、別のクラスの人と一緒に行くという手段も取れないから今回はあまり移動できないみたいだ。

 

「……今回は岩山エリアで実戦訓練をやるので、野宿とかの必須の道具を用意しなきゃいけないですからね」

 

岩山エリアでは、岩の魔物を中心とする魔物が出現する。

岩の魔物だと、弱点は水か風。

ただ、水は弱点じゃなくてむしろ耐性がある魔物も結構いるから大抵風を使うらしい。

これは授業で習った。

 

となれば、僕は風系の魔法を使えばいいのかな?

僕は魔法は全種類使えるから、そこはどうとでもなるか。

あとは、糸でアルシナの事を支えてあげればいいかな。

そう思って。

 

「行きますよ、アイ」

『あ、わかっ』

 

ーー————

 

……何か聞こえた?

でも周りをサーチしても、何もいない。

 

……気のせいかな?

 

「どうしたんですか?急にサーチなんかして」

『あ、いや、なんでもないよ。行こ!』

 

 

そしてアルシナとアイは部屋から出て行った。

 

ーー——————。

 

***

 

僕たちは岩山エリアの入り口まで到達した。

入り口と言っても、それは学園都市が決めてるだけで門が一個立っているだけだけど。

最も、この門はかなり高性能らしく、限定的な空間移動すらも可能とする。

ただし帰還時のみであるが。

 

クラスカードというもので移動が可能らしく、エリア内に入っていればこの入り口のゲートから出られる。

魔物と戦闘をしている緊急時にも使用できるため、かなり便利らしい。

ただし、これを使用すると、その日はゲートの中には入れなくなるらしい。

まあやけっぱちで入ってもしょうがないし、最悪死ぬからそういうふうになってるのも仕方ないかも。

クラスカードをゲートについているタッチパネルにかざす。

そして出席を取って僕たちはゲートを潜る。

 

潜った時、僕の体を何かが通り過ぎるような感覚がした。

多分あれが結界だろう。

 

潜った先には既に岩山。

勿論外から見えてはいた。

けど中に入るとやっぱりなんか違うような気がする。

 

ただの錯覚だと思うけど。

 

『錯覚じゃないですよ』

『え?』

『あの結界は生き物を見えないようにする効果もあるんです。あの魔物が見えていましたか?』

 

そしてアルシナはとある岩に指を差す。

 

『ああ、つまり中にいる生き物は見えないし、中から外の生き物は見えないということ?』

『そういうことです』

 

そういうことらしかった。

僕は周囲の魔物をサーチしていく。

 

『うわぁ〜、結構いるね』

『まあ訓練場ですから、たくさん居ないと狩尽くされてしまいますから』

『え?……じゃあ早く行かなきゃ!』

『そんなに慌てなくても良いですよ、アイ』

 

アルシナが苦笑いする。

僕はサーチの結果をアルシナに送る。

 

『こっちの魔物を倒そう!』

『はいはい』

 

……少しはしゃいでしまったのは目を瞑ってください。




アイが珍しくはしゃいでる………。


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悪意との邂逅

『結構倒したね』

『そうですね……』

 

僕たちはそう言いながら歩く。

僕たちがあらかた狩り尽くしてしまったため、魔物はもう殆どいない。

その数少ない生き残りも、全て隠れてしまった。

 

『サーチで見つけることはできるんだけど……』

『絶対に攻撃しないでくださいね?警報が鳴りますから』

 

フィールドを壊しすぎると、警報が鳴ってしまう。

だから下手に手を出せないのだ。

 

『……なんでこんな奥深くまで潜るの。はあ』

『アイが狩り尽くしたからです』

 

ーー————。

 

ふと、何かが聞こえたような気がした。

それは寮室から出る時、聞こえたようなものと同じもの。

 

反射的に周囲をサーチで覆う。

半径10キロ。

これで大丈夫なはず。

 

そして、それを発動したから、

 

 

ーーそれに気付けた。

 

 

『っアルシナ!』

『ぇ、っ!?』

 

僕はアルシナを今の大きさで出せる最大限の力を出し、アルシナを吹き飛ばした。

直後、その場所に、

 

大きな口が現れた。

 

“GOAAAAAAAA!”

 

『「っ!」』

 

あまりにも大きな声。

最早爆音とも形容できるその声を放った主は。

 

岩の体を持つ、巨大な竜だった。

 

『ウソでしょ?アルシナ、こんな魔物いるの?』

「……いえ、普通はいないはずです。そもそもRクラスが潜るエリアでもこんな魔物は……!」

 

混乱が伝わる。

それは当然だ。

こんな魔物がここにいるなんて、ありえない。

確実にステータスは5000は到達しているような、かなりの強者のはず。

そんなのがこんな学生用の狩場に生息しているはずがない。

だって、そんなのが生息しているならそもそもここを狩場にしないはずだから。

 

そして、状況も悪い。

まず、アルシナが震えている。

アルシナのステータスは大体2000代。

それに比べて、向こうは低く見積もって5000。

それだけの差が、アルシナに恐怖という感情となって襲いかかっている。

勿論僕なら容易く倒せるだろう。

本来なら。

だが、今は無理だ。

なぜなら、アルシナがいるから。

幾ら僕と契約して強くなったといえど、先程も言った通りアルシナはまだ弱い。

そんなステータスでは、あれに対抗することはできない。

ただただ足手纏いになるだけ。

むしろ、僕はアルシナを守らなきゃいけないからちょっとキツい。

更に言えば、本来の大きさになれば地盤が崩れ、それこそアルシナはそれに巻き込まれる。

確実に、アルシナは死ぬ。

だとすれば巨大化もできない。

そういう面で考えれば、今の大きさが限界というわけで。

 

現在の自分のステータスは推定6800。

前後はあるだろうけど、この大きさだとあまり力を出せない。

そんな状態で勝てるか。

 

いや、勝たなきゃいけない。

そんな覚悟を決め、突撃しようとしたその時。

 

“GOAAA!”

 

再度地面を掘り進め、何処かへ行ってしまった。

慌ててサーチしようにも、何故か既にいない。

 

『……なんだったんだ、今のは』

 

何が起こったかわからない。

そんな気持ちだった。




タイトル詐欺じゃないですよ。


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新たな目的

あの後、僕たちはエリア崩壊について報告をすることとなった。

実は同時刻、他の実戦訓練場でも同じようなハプニングが起きていた。

そして、それに見舞われた人たちは全員死んでしまっていたのだ。

一応参考程度でも、実際に見て伝えられる人間の話を聞きたかったのだろう。

まあ死んでしまったのも仕方ないと思う。

あれほどのものが目の前にきたら、脱出するという思考そのものに行き着かないと思うから。

そして当然、そんなことが起こってしまった原因が突き止められるまで実戦訓練は休止となった。

 

「アルシナ!大丈夫だったか!?」

「レオネですか!はい、アイのおかげでなんとかなりました」

 

教師陣から解放された直後、アルシナの元へとレオネが駆け寄ってきた。

 

「アイ?ってのはアルシナのテイムしてる魔物のことか?」

「ええ、そうです。アイ、出てきてください」

 

僕はアルシナの髪から飛び出して、大きくなる。

大きさは約80cmで、あまり大きくなってるわけじゃないけれど。

 

「うおっ、こいつがアイか。蜘蛛型の魔物なのな」

「弱そうに見えるかもしれませんけど、アイは神話級ですよ」

「いや弱そうには見えないけど……ってはぁ!?神話級!?マジで!?」

『よろしく、レオネ』

「うおっ、マジか」

 

僕も話しかけて、会話に加わる。

 

『さすがに大きいままでも困るし、いつもの所で念話するね』

「わかりました」

 

そして僕はまた小さくなって、アルシナの髪へと戻った。

 

「マジかアルシナお前……。神話級の魔物テイムしてたのか?」

「ええ。ですが成り行きですし、運が良かっただけですよ」

「運も実力のうちってのもあるだろよ」

『確かにね』

 

……そういえば。

 

『そういえば、レオネの方のエリアも異常事態は起きたの?』

「ん?ああ、異常事態か。……まあ、起きたっちゃ起きたな。俺がいたエリアの隣で、土竜が出たらしい」

「ほんとですか?危なかったですね」

「ああ、数分移動するのが遅かったら俺、死んでたかもな」

 

そう、レオネはカラカラと笑う。

 

「……笑い事じゃないですよ」

 

本当にね。

 

「そういえば、半月後に学園祭がありますけど、あれには参加しますか?」

「あれって……ああ、剣魔祭か。勿論参加するぜ。俺も強くなりたいからな」

 

ん?

剣魔祭?

また知らない単語が出てきたな。

 

『剣魔祭って何?』

「ん?剣魔祭ってのは武闘会みたいなもんだな。参加者は学園内にいる人間だけだけどな」

『ああ、そういうの。ありがと』

 

武闘会となれば、やる事は決まったかな。

それに今回のような場合が今後ないとも言えない。

 

これから何をやるか。

それは、アルシナとレオネの強化だ!



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出場決定

さて、次やる事を決めたはいいけど、どうしようか。

 

取りあえずステータスを十全に使うことが出来るようになるのは前提かな?

技術云々は教えれないし………。

 

魔法技術からかな?最初は。

 

魔法はスキルでも行使できるけど、スキル無しで使えた方が魔力消費が少なくて済む。

そして勿論、術式を自分で組む事が出来れば色々な状況に対応する事ができるようにもなる。

その上、スキルが無くとも使えると利点もある……はず。

僕は10年もの月日でそれくらいはできるようになっている。

まあ、授業で教えられた魔法の使い方はスキル頼りのようだし、こういう事は人間の間では主流じゃない、若しくはしられていないのかもしれない。

 

まあなんにせよアルシナには剣魔祭に出場してもらわなければならないね。

それにちょうど良くもある。

アルシナは今は立場が悪いわけではない。

けれど、何かの拍子にその立場が崩れてしまえば、最悪この学園を出なければならなくなる可能性も出てくる。

だから早いうちに地盤を固めておかないと……って頭の片隅で思ってたけど、剣魔祭で優勝したり、できなくても好成績を出せれば立場は確実に固まる。

少なくともそう簡単に崩れる事はなくなると思う。

 

というわけで。

 

『アルシナ、剣魔祭には参加するよね?』

「え?あ、はい。以前は強くなかったので参加しませんでしたが、今回は参加しようかと思います。アイもいますし」

『そう、よかった。でも剣魔祭に私は出場しないよ』

「え?」

 

アルシナは参加するようだし、うん。

この剣魔祭を通してアルシナには強くなってもらおうかな。

最初来た時は冷静じゃなかったし周りのサーチはしっかりとやってなかった。

けど、今ならしっかりと調べれるし、それで分かっていることもある。

それは、とてつもなく強い生徒が数人いること。

この剣魔祭なら彼らも出てくれるだろうし、アルシナを強くするきっかけにもなるだろう。

 

『アルシナの力をコントロールする必要もあるし、個人としての実力もあげなきゃいけない。さっきみたいなことが起きた時はどうするの?私がいない時にああいうことが起こったら大変じゃない。だから少しでも身を守れるようになってもらわなきゃいけないなぁって思って』

 

僕は思っていることを全部言った。

全部本音だ。

ずっと僕が隣にいてあげられるわけでも無いし。

優勝はできなくてもいい。

それでも、アルシナの戦力強化になればいいかな……って思ってる。

 

「……わかりました。僕一人で戦います」

『うん、頑張って。アルシナ』

 

これから、二人の修行が始まる。



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特訓スタート

お久しぶりです……。

はい、二年ぶりですかね。
全然思いつかなくて投稿できてなくて……。
ごめんなさい。

そしてこれからHJ2021に集中するのでまた投稿できないのです……。
ということで少しだけ投稿します。


 まずはスキルを使わない技術の強化。

 スキルはただ補助をするための道具。

 いわば自転車の補助輪みたいなもの。

 当然、慣れればそのうちスキルなんてなくても使えるようになる。

 

『だからアルシナ、まずはスキルを使わないという感覚を鍛えようか』

「え? ……あ、はい」

 

 まずやってもらうことを順に。

 1つ目に魔力の操作。

 スキルを使わないとできないと人間が思ってる理由は多分ここ。

 魔力の操作ができないから、そこをスキル任せにすることで発動させてるんだと思う。

 

 2つ目に術式の記憶。

 術式を記憶できればだいたいどうにかなる。

 その通りに魔法を構築すれば、魔法は発動するからね。

 それに、ある程度違ったとしても発動しないことは無い。

 

 最後に、実戦。

 知ってるのと発動できるのとはちょっと違うし、そういう事。

 後は、戦闘中に使えるかどうかだよね。

 戦闘中に自力で発動するのは意外と難しいし。

 とは言ってもちょっと練習すればできる範疇だ。

 

『──って感じかな』

 

 まぁそういうことを、アルシナにも伝えた。

 しかし、

 

「いや無理ですよ」

 

 そんな反応が帰ってきた。

 む?

 割と簡単なことを言ってたような気がするんだけど、それを無理と。

 でもやってみないことには始まらないし。

 それに、僕だってこれを成功させるには数日でできた。

 きっとできる。

 

『だからまずは一個目から行くよー』

「……はい」

 

 だからとりあえず、無理やりやらせてみた。

 

***

アルシナ視点

 

 アイがすごくスパルタだ。

 魔力操作とか、初めて聞くことを簡単にやらせてくる。

 アイはできると思ってるみたいだし、でもやってみると全然できないことが多い。

 3時間くらいの練習を、既に4日間やってるし。

 

 それくらいで済むのなら、確かに簡単かなと思ってしまうかもしれない。

 けれど、その練習中はずっと全力疾走してるような疲労感がつきまとう。

 当然そんな特訓はとてつもなく辛い。

 終わった後は、いつも床に倒れ込んでいる。

 

 強くしようとしてくれてるのはありがたいんだけど、ちょっと限度があると思うんだ……。

 

「アイ、もうちょっと苦しくない方法とかないの……?」

 

 5日目、僕はついつい聴いてしまった。

 それに対するアイの返答は……。

 

『え? なんで?』

 

 ……は?

 

***

 

 アイ視点

 

「ちょっと待ってください、なんでってなんですか」

 

 アルシナからこれまでにないくらい怒りの感情を感じた。

 僕、何か返答を間違えてたかな。

 

『え、いや……。だってそんな苦しい?』

 

 僕がやった時はそんなに苦しくなかった。

 そもそもなんで苦しいかもわからないし。

 だから聞いてみた。

 

 でもそれもいけなかったみたい。

 

「3時間くらい全力疾走くらい疲れる練習させられて、それで苦しくないわけないじゃないですか!」

『えー……。そんな辛いかなぁ』

 

 アルシナがめちゃくちゃ怒ってる。

 けどわからない。

 僕がやった時はそんなに苦しくなかったし……。

 

 ……もしかしてアルシナは人間だからってやつ?

 

『まぁ、そんなに苦しいなら、休憩とか挟みながらやっていこうか』

「……もうそれでいいです」

 

 とりあえずアルシナの体力とか、そういうのが分かって良かったの……かな?




まぁ、理由とかわかっててもめちゃくちゃ辛い訓練やらされて、「他にない」と言われるならまだしも「なんで?」って言われたらさすがのアルシナ君も怒るよねと言うことです。

そしてこれ以上怒るアルシナを想像することができませんでした()


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全力

なんかすっごい人気だったので投稿します。

予定なんかない、ただの気紛れ投稿です。


 アルシナに怒られてから一週間が経った。

 アルシナもだいぶ魔力操作に慣れてきて、息切れもしなくなった。

 

 って事で、次のステップに進むことにする。

 

 次のステップは、術式の記憶。

 術式を記憶することで、いつでも魔法を発動できるようにするためだ。

 

「……それ、本当にできるんですかね?」

『それは分からないかな。こればっかりは記憶力の問題だし』

 

 そう、こればっかりは記憶力の問題だ。

 体に教え込む事もできるけど、それはたかが一か月でできるようなものじゃない。

 ましてや今回は2週間と少ししかないのだ。

 だから僕は、1週間やってできなかったら、僕がアルシナの体に術式を刻み込むことにした。

 

『1週間。それだけやってできなかったら、アルシナに術式を直接刻み込む。これをやったら応用なんてできなくなるし、別の術式を刻み込む事が難しくなる。だからできればこの1週間で術式を覚えて欲しい』

「……分かってます」

 

 アルシナは、覚悟の表情を僕に向ける。

 いい表情だな、って思いながら、僕は術式の講義を開始した。

 

***

 

アルシナ視点

 

 分かってはいた。

 術式を覚える事が難しいってことは。

 

 アイも教える時は真剣だ。

 魔力操作の時は、アイはそこまで真面目じゃなかった。

 テンションも高かったし、まぁできるんじゃないかなって感じの雰囲気だった。

 けど今回は違う。

 何が何でも覚えて欲しい、そんな思いがすごく出ていた。

 

 実は、アイからやる事を聞いてから、毎日寝る前とかに魔法の術式について調べていた。

 けれど術式を書いてある本なんて図書館にもほとんど無かったし、あったとしても超高等技術が必要な魔法ばかり。

 僕ではできない魔法の術式ばかりだった。

 

 だから、予習をしようとしたけど結局できず、そのままこの講義が始まってしまった。

 それでも、アイの信頼に応える為に僕は全力で受け続ける。

 

 一人でも戦えるようになる為に。

 

***

 

アイ視点

 

 講義最終日。

 今日で講義を始めてから、1週間が経つ。

 講義と言っても、勉強と実践の半々だったりする。

 

 そして、これから始まる実践でアルシナが成功できなかったら、アルシナに術式を刻み込むこととなる。

 

『アルシナ、できそう?』

「わかりませんが……やります」

 

 アルシナの決意は固くなっている。

 けど、その分体も硬くなってるし、緊張してる。

 

 それじゃできないよ、アルシナ。

 それじゃ、失敗してしまう。

 

『アルシナ、落ち着いて』

「……え?」

 

 アルシナの体の震えが収まる。

 そして、僕を見る。

 

『大丈夫、落ち着いてやろう。きっと落ち着いてやればできる』

「アイ……」

 

 アルシナに言うと、アルシナは深呼吸をして前を向く。

 そして笑った。

 

「そうですね。緊張していたらできるものもできなくなってしまう」

 

 自然体のまま、アルシナは手を前に向ける。

 そして──

 

「ふっ」

 

 火球が放たれた。

 それは確かに脆い、儚いただの火だった。

 的にすら当たらず、途中で立ち消えるほどの。

 

 でも。

 

「はぁっ!」

 

 もう一回。

 もう一度放たれた火球は、先程の火の何十倍もの威力を持っていた。

 今度は的に当たり、それどころか的を焦がす。

 木でできた、最も耐久力の低いものとはいえ、的を焦がした。

 1週間前から考えればありえないほどの飛躍であって。

 

「はっ、はぁっ、はっ、はぁっ!」

 

 元々アルシナの魔力は低いから、この程度でも疲れてしまうみたいだ。

 けど、これほどのことをやってのけた。

 

 しかも今の術式は──

 

『……頑張ったね、アルシナ』

 

 なにがともあれ、アルシナは頑張った。

 その頑張りに素直に称賛を送り、今にも倒れそうなアルシナを支えるのだった。



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剣魔祭スタート

《さぁ、今年もやってまいりました、第132回剣魔祭! 今年は一体どのような戦いが観れるのでしょうか!》

『うぉおおおおおおおおおお!』

 

 あれから一週間ちょっと。

 訓練をし続けたアルシナだけど、あれ以降強さはあまり変わっていなかった。

 

 不安が残る現状だけど、アルシナなら何とかしてくれる。

 そう信じて、でも心の片隅で心配していた。

 

『大丈夫、かなぁ』

 

 その不安は、思わず口に出てしまうほど。

 僕は、剣魔祭の会場の上から見ていた。

 

 ……今は見守るしかないか。

 不安でも、自分にできることはもうないから、僕は何があっても見守る事を決めた。

 

 アルシナの試合は第三試合。

 最初の方だけど、どうか緊張しないで。

 そう願った。

 

***

 

アルシナ視点

 

 僕には魔力が無い。

 ステータスも低い。

 出来ることなんてそんなに無い。

 

 そんな僕だ、アイが居なかったら何もできない。

 

 けど、アイは信じてくれた。

 僕の弱音も飲み込んで、それでも信じ続けてくれた。

 なら、僕もそれに応えなきゃ。

 そう思う。

 

《さて、第三試合、アルシナ・ケル・セルメリトvsルーガン・ルダ・ジェイド! さぁ、勝つのはどっちだ!?》

 

 声に反応して、僕は壇上に上がる。

 

「テメェが元々落ちこぼれだと言われてたとしても、油断はしねぇ。行くぜ、アルシナ・ケル・セルメリト」

「こちらこそ、よろしくお願いします」

 

 お互いに一応の挨拶を行い。

 

《さぁ両者が向かい合った! 準備はできたか?》

 

「「ええ/ああ」」

 

 僕は、この人に、勝つ。

 そう決意をする。

 

《じゃあ、3、2、1》

 

 スタート。

 

《スタート!》

 

 始まると同時に僕は踏み込む。

 まだ走りながらでは術式は使えない。

 だから、手に持つ剣で攻撃をする。

 

「甘ぇ!」

 

 けれどそれは易々と防がれる。

 当然だ、僕はこれまで剣技なんてそんなにやってないんだから。

 でも、一瞬でも足を止めれば術式の準備はできる。

 

 術式の準備をすることで、更に攻撃をしようとして、

 

「力抜いたな?」

「っ!?」

 

 弾かれた。

 術式に意識を向けた結果、剣に対する意識が疎かになっていた。

 ついでに、術式が霧散する。

 

《おっと、剣を弾かれてしまう! しかもこれは……アルシナ敗北か!?》

 

 そんな状態の僕に、ルーガンさんの剣が振り下ろされる。

 守りと攻撃、その二つを同時に失った僕はどうする事もできない。

 

 ……な、訳がない。

 

「っぁ!」

 

 弾かれた衝撃を殺さず、むしろ後ろに倒れ込む。

 咄嗟の対応力だけは、アイとの特訓で鍛えたんだ。

 最後の1週間の訓練は、決して無駄じゃなかった!

 

「……テメェ、今のを避けるか」

 

 けれど、勢いよく倒れたせいで、背中を地面に打ちつけた。

 一瞬息が出来なくなって、けれどこのままなら攻撃を受けてしまう。

 避けた意味がない。

 

「けどよ、これで終わりだ!」

 

 もう一度、剣が迫る。

 今度は回避も無理だ。

 でも、僕は勝ちに来たんだ。

 

 勝ってやる、勝って、勝って……!

 

 無意識に、何かが放たれた。

 爆音、いや轟音。

 魔力がごっそりと抜ける感覚。

 意識が持っていかれそうになるが、それをなんとか堪えて、目を開けて。

 

「──」

 

《い、今のは何だぁ!?》

 

 実況も、混乱の声を上げて。

 

 僕も、頭の中は混乱していた。

 

 土煙で何も見えなかった先が、晴れて見えるようになる。

 僕も立とうとして、

 

《こ、これは! ルーガン・ルダ・ジェイド戦闘不能! アルシナ・ケル・セルメリト勝利! まさかの逆転劇、大火球がルーガンを焼き尽くしたー!》

『うぉぉぉぉおおお!』

 

 大歓声に包まれる僕。

 なんとか立った僕の目下には、焼け倒れ伏したルーガンさんが居た。

 

「……か、った?」

 

 よく分からない。

 けど、勝てた。

 その嬉しさは、少しだけ僕に自信を持たせてくれた。




この話以降は、剣魔祭終了までアルシナ視点が増えます。


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予選

アイ視点

 

 今のはなんだったんだ。

 混乱する。

 理解ができない。

 

 僕が咄嗟に対戦相手側に結界を貼ってなければ、アルシナは相手を焼き殺していた。

 それに、咄嗟とはいえ僕の全力の結界だぞ。

 それをあんな簡単に貫通して、そのうえこのフィールドに貼られている結界すらも貫通して、その上でまだ対戦相手を一発で気絶させるほどの威力。

 

 込められた魔力は少なかった。

 アルシナにとっては多くとも、僕から見れば極小の魔力だ。

 けど、それでアルシナはあんな馬鹿みたいな火力を出した。

 

 ……アルシナ、今君の中では何が起こっているの?

 

 そう、聞きたかった。

 

***

 

アルシナ視点

 

 よくわからないけど、勝った。

 多分アイは何もしていない。

 今回のは僕の力だ……と思う。

 

 息切れをしながら控室へ戻る。

 良かった、勝てた。

 

「まずは、一回戦突破だ」

 

 自分に言い聞かせる。

 このままじゃだめだけど、まぐれで勝ってもだめだけど。

 それでも、勝ちは勝ち。

 

 次の試合も、全力でやろう。

 そう決めた。

 

***

 

アイ視点

 

 順調に大会は進んでいく。

 アルシナは予選を勝ち進み、次で予選準決勝。

 また、レオネも予選準決勝まで進んできている。

 

 残念なことに、二人ともAブロック。

 ここでどちらかが負けて、本戦には上がれないことになる。

 

 一戦目以外はアルシナの普通の実力で応戦しきれている。

 だからここまで上がることができた、けど……。

 

 レオネは天才だ。

 アルシナの1/3程度の訓練で、アルシナの何倍もの結果を引き出すような天才だ。

 そんな天才相手にアルシナはどれだけ耐えきれるか。

 

 そこが問題だ。

 

***

 

アルシナ視点

 

《次は予選準決勝! アルシナvsレオネ! もう面倒クセェから家名は省略するぜぃ!》 

 

 声が聞こえる。

 始まりを告げる声だ。

 

 勝てるか、と聞かれたらわからないと言える。

 でもだからといって負けるか、と聞かれたら絶対に嫌だ、と言える。

 

「「……」」

 

 何も喋らないし、喋れない。

 こここそが、今回の大きな壁。

 アイが口から漏らしていた。

 レオネは天才だと。

 

 どれくらいかはわからない。

 けど、アイがそう言うほどなのならば……。

 

「……行くぜ」

 

 レオネが言った。

 そして。

 

《んじゃ予選準決勝、スタートだ!》

 

 始まる。

 

《3,2,1,0!》

 

 直後に、レオネは僕の目の前に居た。

 

「っ!?」

 

 対応できない。

 咄嗟に放たれた火球。

 スキルを使用した弱い一撃。

 

「っらぁ!」

 

 当然、そんなものは簡単にかき消されて、そのまま袈裟斬りを体に食らう。

 かき消すタイミングで後ろに下がれた、だからこそダメージは少ない。

 けど、胸が切り裂かれた。

 開始2秒で、致命傷に近い傷を負ってしまった。

 

《おっとやはりレオネは強い! ほんと去年から一体何があったんだ!?》

 

「どうしたアルシナ、まだまだ行くぜ」

 

 一撃を喰らい、よろめく僕に容赦なく追撃を放つレオネ。

 剣を振るって応戦するけど、軽くあしらわれる。

 

 まずい、想像以上に戦力差がある。

 一回戦のあれを使えばどうにかなる、と思っていたけど、そんな程度の戦力差じゃない!

 

「シっ!」

 

 応戦することで受ける傷は減る。

 けど、なくなることはない。

 時間が経てば僕はどんどん切られていく。

 

 焦った僕は、全力で魔法を使う。

 

「ま、そう来るよな」

 

 一回戦にはなった火炎弾を放つ。

 術式は理解できていた。

 だからもう使えはするし、今使った。

 

 早いけど、試合を決めるための、もしくは逆転するための一撃。

 それを、レオネは冷静に対処して、あろうことか。

 

「終わりだ」

 

 火炎弾を切り裂いて(・・・・・・・・・)、勝負を決めに来た。

 

 この段階になって、ようやく気づいた。

 

 僕とレオネでは、絶対的なまでの差があることに。

 当然、無防備な僕は何かをする術もなく。

 

 総身を切り裂かれ、意識を失った。



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ライバル認定

アルシナ視点

 

 目が覚める。

 そこは治療室。

 学校で怪我をした人を治療するための場所。

 

 これまで、アイと会うより前によく見ていたその光景を見て、僕は負けたということを実感した。

 

「負けた、かぁ……」

 

 当然だ、圧倒的戦力差があるのだから。

 当たり前だ、才能の差がありすぎる。

 

 そんな声が、頭の中から響いてくる。

 

 けれど、そんなものは慰めになっていなかった。

 

「……悔しい」

 

 悔しかった。

 あんな簡単にあしらわれたことが。

 あんな簡単に、自身を持って放った一撃を対処されたことが。

 

 情けなかった。

 まぐれで勝った勝利を、自分の実力だと勘違いした慢心が。

 

「悔しいッ」

『ならその悔しさをバネにしよう』

 

 声が聞こえた。

 思わず目を見開く。

 

 アイだった。

 

『分かってるよ、アルシナ。あんなふうに簡単にやられて、悔しくないわけがない』

「……それは」

 

 そうだ。

 悔しい。

 とても悔しい。

 けど、それでどうにかなるものじゃない。

 

 それくらい、実力差はあった。

 そんな思いが、強くなろうとした時。

 

『アルシナ、その考えはだめだよ』

 

 アイの言葉が聞こえた。

 静かな、けど怒りが含まれているその声。

 

『それで諦めるの?』

「……え」

 

 気づけば、アイは僕の上に立っていた。

 

『たった一回、たった一回負けた程度で諦めるの?』

 

 同じ問いかけ。

 けれど、先程よりも大きな怒りがそこにはあった。

 

「諦める、わけ無いじゃないですか」

 

 そうだ、諦められるわけがない。

 確かに、今の僕はそんな大きな目的はなかった。

 ただ漠然と、強くなる。

 そんなことを思ってた。

 

 自分の中で思ってた決意というものも、そうたいしたものじゃなかっただろう。

 所詮あれは、ただの緊張。

 

「せっかく大きな目的ができたんです」

 

 笑う。

 

「それに、初めて全力でやって、負けた。」

 

 僕はこれまで全力で何かをやってきたなんてことはなかった。

 どこかで手を抜いて、全力でやってないし、という逃げ道を作っていた。

 けど今回は違う。

 全力でやった結果だ。

 

 だから、逃げられないし逃げない。

 

「僕は、全力でやって、レオネに勝ちたい……!」

『……うん、良かったよ』

 

 アイが安心したように笑う。

 

『じゃあ、剣魔祭が終わったら更に特訓だね』

「はい、分かってます」

 

 そうやって、笑い合って。

 

「ところで今はどれくらい進んでるんですか?」

『今は……本戦第4試合、かな』

 

 今の進度を確認した。

 にしても本戦第4試合。

 結構進んでたみたい。

 

『とりあえず今の戦いを映すね』

「え?」

 

 そうアイが言った後、空中に画面が現れる。

 

 そこに写っていたのは、レオネと生徒会長。

 今の目標と、学園最強。

 

 生徒会長はこの学園において、先生などを除けば最強。

 だから、レオネは一体どれくらい戦えるのかな、と思って。

 気付く。

 

「……レオネが、押してる?」

 

 レオネが押していた。

 戦いそのものをレオネが動かしている。

 

『そう、それがレオネ。正真正銘の天才。システムに頼ったから開花しなかった才能が、システムを使わなくなって開花した結果』

 

 生徒会長の戦い方は、魔法と槍を同時に使い、相手を近づかせない戦い方。

 けれどそれはレオネに対して通用していない。

 魔法は切り裂かれ、槍は弾かれる。

 そして近づかれて攻撃を受ける。

 

 だからといって徹底的に遠距離で戦えば、生徒会長が放てる魔法の量より何倍もの魔法が襲いかかるから、近づくしか無い。

 

 これでは、レオネが勝つのも時間の問題。

 

『対戦相手の人も強いけど、今のレオネには一歩及ばない。才能はあると思うけど……。それでもレオネ程じゃあない』

 

 想像以上だ。

 けど、ここで心折られていても仕方ないなんて言えない。

 

 僕はレオネを超える。

 言い訳はしない。

 

 だから、どうかその時まで、誰にも負けないでいてほしい。

 

「絶対に負けるな、レオネ」

 

 そう思った。




次話で剣魔祭編は終了。
ということで後2話で第二章に行きます。


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次へ

 結局あの後、優勝したのはレオネだった。

 誰も止められない快進撃。

 少し前までは考えられなかったレオネの実力に、大会は大きく沸いていた。

 熱気に包まれていて、決勝戦などはかなり盛り上がっていた、らしい。

 僕はアルシナに付きっ切りで、魔法も行使しなかったから見てなかったけど、かなり凄い試合ではあったらしい。

 

 その後はアルシナと一緒にレオネ対学園長の戦いを見た。

 レオネと学園長。

 流石に学園長の方が有利だったらしく、終始学園長のペースで試合が進んでいた。

 

 所々惜しい所はあったけど、それも学園長の試合運びの上手さが出ていた。

 惜しいと思わされたそれは、大半が学園長が作り出した嘘。

 適度に接戦をしていると思わせる為の物だと思う。

 

 でも時折想定外っぽい様子を出していた所から見ると、レオネはかなり強くなっているらしい。

 それでも僕には当然ながら遠く及ばない訳だから、調子になんて乗ってほしくないけど。

 

 でも、負けたと言うことに意味はあったらしく、悔しそうにしてたから多分調子には乗らないかな。

 

「……僕も、あんな風に」

 

 アルシナもやる気になっているみたいだし、雰囲気としてはかなり良いんじゃないだろうか。

 まぁそれより僕は気になっている事がある。

 

 アルシナの大火球。

 あれは一体なんなのか。

 一見ただの魔法に見えるけど、そうじゃない。

 あれはスキルには一切頼らない、というかスキルとはまた別のもの。

 僕も見たのは初めてだからなんとも言えないけど、少なくとも僕が知っている限り、スキルであの魔法式はあり得ない。

 

『確認しなきゃいけない事は多そうだね』

 

 他にも、アルシナの為になる教育法とか、そういう事も考えなきゃいけないし。

 

 少しの間、やる事が増えそうだ。

 

***

 

「……して、魔帝国はどのような動きを見せているのだ」

 

 とある密室。

 白い壁に覆われた場所で、会議が行われていた。

 

「今のところは動きはありません。あくまでも防衛側という姿勢を崩さないつもりかと」

「フン、新たな皇帝も馬鹿ではない、か……」

 

 彼等は一様に白い服を着ている。

 まるで神官のように。

 

 しかしその体は大半が肥えたものであり、とても神官とは思えない姿だった。

 

「だが、魔物の被害が増えているのも事実。そしてその魔物には魔帝国の首輪が付いているのもまた事実です」

「やはり魔物を庇うような愚図どもは愚かだな……」

「我々の目が腐ってしまう」

 

 口々に言いたい事を言う彼等は、会議室の中に赤黒い2つの目が存在している事に、気付いていなかった。

 

やはり人間は愚かだ




1話で終わってしまった……()

次から二章。


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2章 学園都市② 能力強化編
それから一週間


 剣魔祭が終わった時から、アルシナもレオネも一層頑張って特訓している。

 アルシナなんか、前以上に頑張ってて実力もつけ始めている。

 僕がレオネの方に教えてるときも一人で特訓したりするなど、以前と比べてもモチベーションがとてつもなく高まっている。

 その影響を受けたのか、レオネもこれまで以上に頑張るようになっていた。

 

 そして、剣魔祭から一週間ほど経った頃。

 とある事情で実家に帰る人も増えた。

 とある事情とは、もうすぐ聖法国ホルスと魔帝国ルツエニアの戦争が起こるからだ。

 お互いがお互いを攻めたとして、戦争が始まるのだ。

 

 名目上はどちらも間違ったことを言っていないのだが、どちらも信用できるものではない。

 それに、どちらが正しいかなどはどうでもいいのだろう。

 ただ、敵国を潰したいだけなのだから。

 

 そしてこの都市は、あくまでも『学園都市』。

 学園なので、生徒の半数以上が居なくなってしまったら当然機能停止してしまう。

 店を経営しているような大人はともかく、市民の3/4は学生なのだし仕方ない。

 その関係で学園も休校を設けた。

 なので、それに乗じて実家が聖法国や魔帝国でなくとも帰国する生徒も出てきている。

 僕たちとしては、より質の高い特訓というか、訓練ができるのでありがたいのだが。

 

 それと、僕の存在が学園にバレた。

 今更かよ、とも思うが、それでもその関係でアルシナが一度呼ばれたし間違いないだろう。

 

 そのおかげで、学園長や一部の講師とも関わりを持てたためありがたいと思う。

 また、彼らのおかげでアルシナやレオネに向いている訓練を作り出すことができた。

 本当にありがたい限りだ。

 

『でも授業方針とかは変えれないよね』

「そうだな。これまでスキルを前提とした教育をしてきたからな……。それを突然変更したとして、それは生徒の混乱を招くだけ。良いこととは言えんしな」

 

 今話しているのは今代学園長。

 ミラクルム・ケル・マソウカという、立派なクシル貴族である。

 とはいっても本人にそんな自覚はほとんど無さそうだが。

 

 話題としては、以前僕が持ってきた『スキルを使用しない』ということ。

 ミラクルムとそのことを話しながら、アルシナの強化に繋げていた。

 

「まぁ、スキルを使用しない戦い方という物自体は以前から分かっていたものではあるがな」

『そうなんだ』

「ああ、何しろ私もスキルを使用しない戦闘方法を使っているしな」

 

 ああ、なるほど。

 でも、それならやっぱり色々聞けそうだ。

 

「どのみち君はアルシナ君の強化をしたいのだろうし、手助けになれる範囲なら答えてやるさ」

『それはありがたいね』

 

 ミラクルムはやけに僕に対して友好的だ。

 ちなみにだが、神話級の魔物を目の前にして怖くないのか、という質問をこの女にするのは無意味だ。

 どうやらこの女、神話級の魔物すらも単独討伐を成し遂げたことがあるらしい。

 正真正銘の化け物じゃんか。

 

「とはいっても君ほどではないがな」

『当たり前のように思考を読むのやめてくれない?』

 

 ミラクルムは念話スキルを魔法で再現できるらしく、それで相手の思考を読むことも可能なんだとか。

 人間にしては本当に強すぎる気がする。

 

「第一、私が倒したのはステータス9999オーバー前後の魔物だ。オールステータス9999×3などという君のような相手と戦うのは……不可能では無いが、相当厳しい戦いになろうだろうな」

『いやそれでも勝ち筋がある時点でおかしいんだけど』

 

 本当にそう思う。

 人間で私に勝ち筋がある時点でおかしいと思うのだ。

 

「私も魔攻ならば9999オーバーはしているし、MPは9999×2は到達しているからな」

『嘘でしょ!?』

 

 うん、化け物だった。

 私には届かなくとも、人間でそこまで高くなる時点でおかしいのだ。

 

「伊達に学園都市の管理貴族をやっているわけではないということだ」

『あー……うん。そうだね』

 

 なんか凄い納得した。

 まぁともかく。

 

『なんにせよ、スキルを使用しない戦い方を教えるのは無理そう?』

「そうだな。前代からの教育方法に比べればスキルを使用しない戦い方の基礎を中心とした教育方法に変えてはいるが……。そう簡単に変えることはできん。そもそも聖法国などの兼ね合いもあるしな……。今のところは自分で気づいてもらうしか無い」

 

 そっか。

 その辺の問題もあるのか……。

 人間社会って厄介だなぁ。

 

 そんなことを思っていると、

 

「それはそうと、そろそろ一刻を過ぎるぞ。アルシナ君との訓練は良いのか?」

『え?』

 

 学園長室の机の左側に掛かっている時計を見れば、確かに既に話し始めてから一時間を過ぎようとしていた。

 そしてその時間にはアルシナとの訓練を予定していたわけで……。

 

『まっず!? ミラクルムありがと、行ってくる!』

「ああ、行って来い」

 

 焦った私は、閉まっていた窓の隙間を小型化でくぐり抜け、飛び降りる。

 そして、すぐにアルシナのいる場所へと向かっていた。

 

「ふっ、なんとも人間臭い蜘蛛だな」

 

 そんな言葉は、急いでいた私には届かなかった。



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衝撃の事実にして盲点

 アルシナが本気で強くなるって思い始めてから、今日は模擬戦をすると決めていた。

 僕は強いし、まぁ経験にはなるだろうし。

 とはいっても、当然だが私が本気でやっても僕が圧勝するだけ。

 当然、手加減しながら戦う予定だったのだが……。

 

 一つ、問題があった。

 

『……うん、ごめん。私じゃ教えきれそうにない』

「まさかこんなことになるなんて……」

 

 僕の戦闘経験があまりにも無さすぎて、教えるものがなかったのだ。

 魔法ならいくらでも教えられる。

 術式だって、何でも。

 けど、僕はこれまで強い魔物とまともに戦ったことがなかった。

 だから、戦闘経験が無い。

 

 その結果、立ち回りとかを教えることができなかった。

 

 まぁ考えてみれば当たり前の話だ。

 僕はこの世界に来てから、一度たりとも立ち回りが必要になってくるような上位に位置する魔物と戦ったことがない。

 当然、一撃で終わって、攻撃を受けてもダメージすらくらわないような相手に対して特別なことなどする意味もないし。

 だから立ち回りが本当に駄目駄目だった。

 実際、アルシナと同条件でやったらあっさり負けてしまったほど。

 結局僕の強さはステータス上のものでしかなかったというわけだ。

 

 それに、蜘蛛の魔物なわけだから蜘蛛らしく搦手ができるかと聞かれれば、否と言うしか無い。

 なぜならなにかに罠にかけたことが一度もないからだ。

 

 まぁ、そのような関係で僕は相当弱いことが発覚してしまった。

 

 ということで。

 

「何故私が呼ばれたのだ……」

『だって私がまともに話してる人って、教師側だとミラクルムしか居ないし』

 

 学園長を連れてきました。

 

「え、いや、え。……仕事大丈夫なんですか!?」

「ん、ああ。仕事は問題ない。大半は終わっているし、今は休校中だ。やることは意外と少ない」

 

 まぁそういうわけだ。

 そもそも立ち回りを教えるとか、それにはかなり適していると思っている。

 なぜなら、ミラクルムはあんなに実力差があるのにも関わらずレオネと接戦だと見せかけていたのだから。

 

 相手に接戦だと見せかけるのにも技量は必要だ。

 それは相手に違和感なくそう見せるということなのだから。

 違和感がないからこそわからない。

 そして分からなければ相手が手札を隠して居た場合も警戒できない。

 

 こんな風に立ち回りはかなり重要になる……はずだ。

 

 これらは全部、ラノベとかで手に入れた知識。

 正しいかどうかはわからない。

 けど、そう大して間違っていることは無さそうだ。

 

「まぁそこの蜘蛛が立ち回りができないというのは予想していた」

『そんな馬鹿な』

 

 僕だって知らなかったことを知っていたというのかこの女は。

 しかも僕のことなのに。

 

「ステータスがそこまで極端に高い魔物で、君ほど人間臭い魔物はそう居ない。大半が仙人のように何かを悟っているからな。そういう魔物は戦闘経験もかなり積んでいる傾向がある」

 

 ん?

 なんか唐突にミラクルムの語りが始まった。

 

「逆に人間臭い、というより感情の隆起が激しい魔物は戦闘経験も積んでいないことが多い。ステータス9999×3などという魔物がそんなことになるということは、おそらく生まれた時からそのようなステータスだったのだろう」

 

 はい、正解です。

 生まれた時からこのステータスでした。

 

『凄いね、全部当たってる』

「経験から少し考えただけだ」

 

 いやそれでも凄いと思う。

 

「しかし私も暇ではない。君たち二人共まとめて教えることは時間が進むにつれて難しくなっていくだろう。だから特に蜘蛛を重点的に教えていこうと思う」

『……え、私?』

 

 なんか変な方向に話が進んでいる気がして冷や汗を書き始める。

 え、いや僕は良いんだよ?

 僕は鍛えてくれなくても。

 

『いや、私は』

「貴様に教えておけば私が居なくても教えられるだろうが。アルシナにはこちらの教師を付けておくから安心しろ」

『いや全然安心できないんですけど!?』

 

 ギャーギャー言ってる間に、いつの間にかミラクルムが近くに寄ってきていた。

 

『え、なに、何するつもり?』

「強制連行だ」

『え、ちょ、ま』

 

 僕は慌てて逃げ出そうとする。

 しかし遅かった。

 

「やっと眠れると思ったところを貴様に邪魔された仕返しだ」

『思いっきり私怨じゃないですかヤダー!』

 

 僕とミラクルムの足元に魔法陣が展開される。

 この効果は……転移!?

 

「行くぞ蜘蛛」

『いやまじでまっ』

 

 そしてアルシナを残して私達はその場から消え去った。

 

「……なにいまの」

 

 残されたアルシナの目は少しだけ死んでいた。



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弾幕回避練習という名の八つ当たり

「さて、まずは貴様には回避の練習をしてもらおうか」

 

 ミラクルムはそう言った後、僕にステータス低下魔法をかけてきた。

 僕はやはり何となく嫌な予感がして聞いた。

 まず僕のことを貴様って言ってる時点で嫌な予感しかしない。

 

『……えっと、何するつもり?』

 

 恐る恐る聞く僕に、ミラクルムはとてもいい笑顔で言った。

 

「なに、私が放つ弾幕を避けるというだけだ」

 

 あ、やばい。

 一瞬そう思ったものの、今いる場所はよく分からない暗い空間。

 逃げることはできなさそうだし、魔法で迎撃しようとして──

 

『え』

「魔法は封印しておいたぞ。すべて移動で回避してみせろ」

 

 魔法は放てなかった。

 そんな混乱する僕に対して、ミラクルムは相変わらずのいい笑顔で僕に言う。

 そして逃げられない僕に向かって魔法が飛んでくる。

 あ、でもステータス的にダメージは食らわなさそう。

 

「ああ、防御や抵抗も下げておいたからな。当たったら痛いぞ?」

 

 甘い考えは通用しませんでしたごめんなさい。

 そんな思考をしている間にも、僕に向かって魔法は向かってくる。

 というかそろそろ本気でまずいのでは……。

 

 一応今の姿は結構小さい。

 具体的に言えば、人サイズ。

 高さにして2m程度だから、本来の大きさの1/15。

 ステータスも約1/15。

 大体2000程度のステータスなので、本来ほど早く動けるわけでもない。

 それに、今は耐久関係のデバフも掛かっているわけで。

 当然この程度の魔法を食らうと結構痛い。

 

 最大HPは減ってないから死にはしないけど、これ普通に危険なのでは!?

 

『やばいやばいやばい!』

「……プッ」

『笑うなぁ!?』

 

 ミラクルムは相変わらず魔法を撃ち続けている。

 撃たれる魔法はほぼすべてが威力が低く、死ぬようなものはない。

 けど、時折混じってる高威力の魔法はまずい!

 そして何故そこまでやるかなぁ!?

 

「貴様が私がようやく寝れると思ったところに来たからだろうが。アルシナ君にはああ言ったが、私もそろそろ寝たいし休みたいのだよ!」

 

 あ、そこ?

 それなら一瞬申し訳ないなと思ったけれど、魔法の雨でそんなことを考えている余裕はなくなった。

 

『ああぁぁあぁぁああぁ!?』

「あと2時間位続けるからな」

『それきついって!?』

 

 そんな感じで、2時間ほど魔法の雨の回避をし続けたのだった。

 ちなみにミラクルム曰く、立ち回り的なあまり意味は無いらしい。

 解せぬ。

 

***

 

 その頃。

 

「……貴方が僕に戦い方を教えてくれる人ですか?」

「おうともさ。お前に戦い方を教えるのは、この俺『剣聖』フレイル様だぜ」

 

 アルシナも、立ち回りを教える教師と出会っていた。



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剣聖

アルシナ視点

 

「感謝しろよー? この俺様に戦闘を教えてもらえるなんて機会、Rクラスですらなかなか無いんだからな?」

 

 少しプライドが高そうな目の前の男は、笑いながらそう言う。

 フレイル、って言ってたけど。

 その名前って今代剣聖の名前だし本物なんだろうな。

 目の前に立つとわかるんだけど、アイが暴力的な強さだとしたら、この人や学園長は研ぎ澄まされた強さだ。

 特にこの人はそんな雰囲気が更に強い。

 

「はい、フレイルさん。よろしくおねがいします」

「……お、おう。素直だな」

 

 挨拶をすると、フレイルさんは困惑したような様子を見せる。

 何かあったのかと思い、聞いてみる。

 

「えっと、何かありましたか?」

「ああいや……。こんな風に挨拶すると大体偽物って疑われるからな。最初っから本物だって信じたやつはお前含めて3人しか居ねぇぞ」

 

 な、なるほど。

 確かに損合いそうな相聚してたし、そういうこともあるあろうけど。

 けど雰囲気的に間違えることはないだろうけど、と思ってしまう。

 

「それくらい雰囲気でわかりませんか? なんというか……研ぎ澄まされた強さを感じるっていうか」

 

 そんなことをつい漏らす。

 それにフレイルさんは直ぐに反応した。

 

「おいおいまじかよ。これでも実力は結構隠してたんだけどな。お前の感覚すげぇな」

 

 実力を隠してる、と言われてもピンと来なかった。

 なにせ、こんなに制圧的な威圧を放っているのに、何を言っているのだろうか、と。

 

「じゃあ、戦い方を教えて下さい」

「切り替え早いな。じゃ、はじめっか」

 

 苦笑いをしながら、フレイルさんは腰に下げていた剣を抜いた。

 何かが僕を押さえつけるような感覚に襲われて、からだが重くなる。

 

「っとすまねぇ、感覚ミスったな」

 

 重くなりすぎて体が崩れ落ちかける寸前、フレイルさんから感じられる圧力が消える。

 なんとか崩れ落ちるのを止めて、けれど息は荒くなる。

 

「……あー、とりあえず剣を構えてくれ。矯正から始める」

 

 少しバツが悪そうな顔をしながらフレイルさんはそういった。

 

***

 

「まず、剣を扱う上で最も大事なことは、自然体でどれだけ扱えるかということだ。他ごとを推奨するわけじゃないが、そうすりゃ剣戟の途中に他ごとをする暇ができる」

 

 構えている僕の体を少しずつ調整しながら、フレイルさんは言う。

 

「俺様は戦いに対する心構えとして、『余力は残さず、されど暇は残す』っていう感じでやってるな。まぁ簡単に言えば必要ないところまで力を入れすぎないってことだ」

 

 そんな風に、戦いについての心構えを話しながらフレイルさんは構えの矯正を着々と進めていく。

 1分ほどで矯正は終わり、すぐにその体制を維持する訓練が始まった。

 

「あの、素振りとかはいいんですか?」

「ああ、素振りはやらなくて良い。まずは戦う準備ができる体勢を何時間も続けれるようにやるんだ」

 

 素振りは実家でもやらされた。

 だから素振りも重要だと思っていた。

 けれど違うのだろうか。

 体勢を維持しながら聞く。

 

「素振りはなんでしないんですか?」

「素振りってな、実際に使うものは練習しないだろ? だから練習しても実戦に使う技術はあんまり上がらないことが多い。まぁだからといって、最初っから素振りをしないのも違うがな」

 

 そう言って、フレイルさんは剣を構え、目を閉じた。



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体勢維持と素振り

「……腕が少し動いたぞ」

「えっ」

 

 数分間姿勢を保ち続けてると、少しずつ腕が痛くなってきた。

 そして、少し楽な体勢に……と思った瞬間、指摘された。

 

「楽にやろうなんて考えるなよ」

「……はい」

 

 そう釘を刺される。

 けれど何十分も続けていくと、全身が痛くなってくる。

 何度も何度も指摘されながら、この訓練意味あるんだろうかと思い始めた頃。

 

「お、じゃあ一旦休憩だ。次は素振りだぞ」

 

 という声が入り、一気に体の力が抜ける。

 緊張感と言うか、そういうものの糸が切れたからだ。

 

「次の素振りは型を覚えるためもあるが、体をほぐすというのが一番の目的だ。だから上から下の縦斬りもやるぞ」

 

 その言い方に少し引っかかる。

 まるでそれでは縦斬りは本来はやるものではない、と言っているかのようで。

 

「縦斬りって本来はやらないんですか?」

「ああ、実戦で縦斬りなんて使うことはほぼほぼ無い。使ったとしても横から殴られて終わりだ。まぁ対処もできなくないが、やるくらいなら最初っから別の動きをしておいたほうが良い。けどな、縦斬りって全身を均等に使うからこういう目的なら最適なんだよ」

 

 そういうことか。

 実戦で使うことがないから練習ではあんまりやらないし、けど全身を使うから縦斬りは必要なのか。

 

「剣において最も使われるのは袈裟斬り。斜めの斬撃だから縦斬りに比べたら対処もしにくいからな。わずか程度ではあるが」

 

 なんとなく分かってきた。

 対処のしにくい剣技。

 それがこの人の練習させようとしている剣技だ。

 

 僕は戦い方を教わりに来たのであって、剣術を教わりに来たわけじゃないんだけど……。

 まぁ、これはこれでありがたいし、いいかと思う。

 

「そろそろ時間だ。素振り行くぞー」

「え、あ、はい」

 

 数分休んで、素振りに移行する。

 確かに体の形を一定に保つだけだったから、体が凝っているだけだが。

 

「まずは縦斬り、1000回やっとけ」

「えっ、1000回!?」

 

 そしていきなりの無茶振り。

 想定外の無茶振りに思わず悲鳴を上げてしまう。

 

「大丈夫だ、その程度はできる。お前の身体能力なら、おそらくな」

 

 そう言われて、渋々剣を振る。

 フレイルさんにちょくちょく指摘されながら、振り続ける

 実家でやってた頃は100回くらいで音を上げてたなぁって思いながら。

 

 が、100回、更に200回を超えてもそこまで苦しいという感覚が湧いてこない。

 それどころか、体が軽くなっていく感覚を感じていた。

 

「直前まで動かして無くて、固まった筋肉を動かすんだ。だから全身ほぐれていくし、体は軽くなったように感じる」

 

 フレイルさんがそう教えてくれる。

 たしかにそうか。

 全身を動かすように意識していけば、更に体が軽くなっていくような気がした。

 

 500、600と続け、800に入った頃。

 ようやく体が重くなるのを感じてくる。

 けれど意識が高揚しているからか、やはり苦しいとは思わない。

 

 900に到達して残り100を切れば、流石に苦しいという感覚が体の重りになり始める。

 けど、なんとか最後まで振り切って。

 

「おお、お疲れさん。ちょっと休憩したら方の練習に行くか」

 

 そんな言葉に。

 あ、苦しいのはここからだ、と悟ったのだった。




この世界で言う素振りは縦斬りのみです。
現実世界では違うと言われようと、この世界ではそれだけなのです。


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進捗

 剣を振り続ける。

 流れるように。

 限界まで連結させて、途切れないように。

 

 100、1000とやっていって、やがて──

 

「おう、お疲れさん。よく頑張ったな」

 

 不意にそんな声が聞こえる。

 無心でやっていた影響で、その言葉を飲み込むまでに5秒ほどかかり。

 

 飲み込み、意味を理解した瞬間体が崩れ落ちる。

 剣すら取り落し、前のめりに倒れ込む。

 

「……あー、流石にきつかったか?」

 

 そして、僕の意識は闇の中へと消えていった。

 

***

 

 目を開ければ茜色の空が広がっている。

 動こうとするも体が重く、全身をまともに動かすことはできない。

 そんな中なんとか顔を動かして周りを見れば、フレイルさんが剣を振っていた。

 何かと戦っているかのようなその動きは、とても鋭かった。

 

 特に早いわけじゃない。

 僕ですら目で追える。

 きっとこの人の全力はこの程度ではない。

 

 けど、それでも実力の片鱗はたしかにそこに現れていた。

 何もかもを切り裂くような鋭い気配もその事実を表していて。

 見入っていた。

 数分間、フレイルさんが戦い続けている様を、ずっと見入っていた。

 

 そうして、おそらく仮想の相手の首に剣を突きつけたのだろう。

 一段と鋭い刺突が空を刺し、そしてその仮想の戦いは幕を下ろす。

 

「ふぅ……。さて、見てたよな。これがいずれはお前も至る領域だ」

 

 僕が起きたことに既に気づいていた様で、終わった直後に僕に話しかけてくる。

 

「そ、そうなんですか?」

「自分のことに対して疑問を持ってどうする。お前の職業は魔物使いだと聞いたが、それでも才能はある。さっきのでもそうだったしな。お前ならいずれそこまで至れるさ」

 

 そう言われて、嬉しい気持ちがこみ上げてくる。

 

「ありがとうございます!」

「おう」

 

 わしわしと僕の頭をなでてくるフレイルさん。

 そして。

 

「じゃ、今日はこれで終わりだ。これ以上疲労重ねても良いこと無いしな」

「あ、はい。ありがとうございました」

 

 練習を終え、僕たちは別れた。

 風呂に入ったりしてから寮の部屋に戻って見れば、部屋にはアイがいた。

 大人の腰くらいまでの大きさになった状態で、床にダラーッとしていた。

 

『あ、アルシナ。どうだった?』

「剣術の修行になぜかなってましたけど大丈夫そうです」

 

 今回の修行で一つ気になることは、僕は立ち回りを教えてもらおうとしたのになぜか剣術の修行になっていること。

 まぁ、フレイルさんなりの考えがるんだと思うけど……。

 

『そっか。私はひたすら回避の練習をさせられたかなぁ……。疲れた』

「僕は剣技の型の練習を10000回くらいやらされました」

 

 そう言うと、アイから驚きの雰囲気が伝わってきた。

 

『……あー、お疲れ。……とりあえず、寝よっか』

 

 アイはそう言って、小さくなりながら最近定位置となっている物置の上に移動する。

 そしてそのまま眠ってしまった。

 

「……ですね」

 

 そして、僕もベッドに寝転がり、目を瞑った。



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戦争の裏

完全新規キャラが唐突に登場。
正直ここに入れる意味はそこまで無い。
強いて言うなら時系列。


 とある平原。

 草が所々に生える、どちらかと言えば荒れ地に近いその広い平原。

 そこでは、一つの戦争が起こり始めようとしていた。

 

「なんで戦争なんか起こるのかねぇ」

「……肯定。ただ命を無駄に散らすだけ」

 

 戦争前特有の煩さの中、二人の少年と少女が話していた。

 周りから少しだけ離れた位置で、この戦争について話し続ける。

 

「にしても、なんで戦争になったんだっけ?」

「解説。此方側の魔物が聖法国側に危害を加えたとして戦争が起こった」

 

 独特な話し方をする少女は、少年の疑問に答える。

 その様子は、友達や仲間というよりは主従という関係に近そうだった。

 

「ああ、なるほど。オレの知る限りじゃ魔物は聖法国には送られてないはずだけどねぇ」

「正答。魔帝国側は聖法国に魔物は送っていない。結論。国内の人間では無いのは確定」

 

 二人はそのようなことを言う。

 

「継承権は無いに等しいと言えど、オレも一応皇太子。第12皇子たるオレに対し、喧嘩を売ってるって認識でいいんかね」

「否定。オーネ様だけではなく魔帝国に対し喧嘩を売っている」

 

 それに対し、少年──オーネは返答する。

 

「ああ、そっか。……にしても誰がそんなことをしてるんだか……」

 

 直後、オーネはあり得ざるものを見た。

 

「──」

「不明。情報が無い……オーネ様?」

 

 オーネが固まり、その目を震わせながら何かを凝視している。

 何事か、と少女もそれを視認して。

 

「……え」

「ま、ぞく?」

 

 これから始まる戦争、その部隊となる平原。

 その上で黒い羽根を広げた男が居た。

 その目は赤黒く、こちらがソレを認識していると理解した瞬間──。

 

ほう、人間も全くの馬鹿ではない、か

 

 何かが聞こえ、二人の意識は闇に落ちた。

 

***

 

「──ネ様、オーネ様! どうされたのですか!?」

 

 オーネはその声を聞いて、目を覚ます。

 目を開けば、そこにいるのはオーネ直属の兵。

 それを確認し、オーネは先程見たものを言う。

 

「魔族だった。魔族がこの戦争を起こした黒幕なんだ」

「ど、どうされたのですか?」

 

 いつもと違う雰囲気と、信じられない内容を言うオーネの言葉を兵士は信じきれず、困惑する。

 しかしオーネは続けた。

 

「この戦争には魔族が関わっているかもしれない。だから、そのことを調べてほしい」

「え……ですが」

「兵を使え。オレの直属の兵ならばどれだけでも使っていい。オレはこれから第9皇子と交渉をしてくる。オレの兵にはそう伝えろ。アルにもそう伝えておけ」

「は、ハッ!」

 

 そのように、やってもらわなければならないことをまくしたてる。

 そして、オーネはすぐさま第9皇子の元へ向かった。



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第12皇子

魔族は実質初絡みだから閑話だけど割と大事な気がする()



 魔帝国ルツエニア第12皇子、本名オーネ=ログ=ルツエニア。

 光歴195年の春に生まれた彼は、愛妻から生まれた関係上、継承権はないに等しかった。

 その関係もあってか、皇族に連なるものとしては教育をあまり受けさせてもらえなかったりするなど、不遇の扱いを受けていた。

 第9皇子など一部の者には例外も居たが、基本は煙たがられ、時には居ないように扱われることもあった。

 

 だから、継承権を持つ者の中でオーネの言葉をまともに聞くのは第9皇子一人だけ。

 オーネは必然的に第9皇子の所へ向かっていた。

 いつの間にか起きていた少女もオーネに付いていく。

 

「質問。何故ルーシェルム様のところへ向かう?」

「オレだけでは使える兵が足りないの。まぁ戦争中だから兵は使ってもらえないだろうけど、報告しておくことくらいは悪くないだろうし、きっと戦争後からでも遅くはない」

 

 そう言って、少女の問に答える。

 が。

 

「否定。ルーシェルム様は今回の戦争の総指揮官。明白。魔族の案件に思考を割く余力は無い。」

「それはっ……」

 

 少女のその言葉によってオーネは自分が言った事の問題点に気付く。

 第9皇子たるルーシェルムは、この戦争の総指揮官を任されている。

 仮にも皇族たる彼に戦争の総指揮官を任されている理由は偏にオーネに良くしているから、などというくだらない理由。

 が、その原因となってしまったオーネにとっては大きな理由。

 

「そっか、ルーシェルム兄様の足を引っ張ってしまう……」

「肯定。ルーシェルム様にそれを言うのは戦争後が良い」

 

 けれど、オーネは少しだけ嫌な予感がした。

 それに、今回の戦争が魔族に引き起こされたものである以上、魔族を警戒しなければいけない可能性がとても高いわけであって──。

 

「疑問。そもそも魔族がこの戦争を仕組んだという証拠は?」

「それ、は……」

 

 しかし、そもそも魔族がこの戦争を仕組んだという証拠もなかった。

 魔族がこの戦争を仕組んだというのはあくまでオーネの妄想。

 その可能性もあるのだ。

 そんな風には思えないが、しかしその可能性程度で戦争の作戦を崩すわけにもいかない。

 

「……分かった。魔族が居た、という報告だけして、あとはオレの兵でどうにかする」

「了承。それがいい」

 

 二人の意見はある程度合致した。

 そしてもう一度止めた足を動かして、第9皇子ルーシェルムの下へと向かった。

 

***

 

「どうしたんだ? オーネ」

「報告だよ。魔族が居たってだけ」

 

 軍用テントの中、オーネはルーシェルムに報告していた。

 そしてその報告にルーシェルムは露骨に顔をしかめる。

 

「……最近帝国内でも魔族を見たっていう報告は相次いでいたが、まさか戦場でも……。分かった。警戒しておく」

 

 そう言うと、何かを考え込もうとしたのでオーネはすぐさま次のことを言う。

 

「できる限り対処はオレたちがするから、ルーシェルム兄様は戦争に集中して。魔族のことは戦争が終わってから対処しよう」

 

 そのオーネの発言に対し、ルーシェルムは一瞬ぽかんとした後笑う。

 

「ああ。くれぐれも気をつけてな」

「ルーシェルム兄様も、負けないでね」

「分かってる」

 

 兄弟は笑い合い、その後オーネはテントから出ていった。




王族など、一部の人々は貴族とはまた違う名前の付け方がされています。


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本格的な訓練

そして本編に戻る。
どっちも変なところで切り過ぎな気はする()


 魔法を避ける。

 避けて避けて、近付いて魔導人形に攻撃を当てる。

 何度も何度も繰り返して、そのうち精神が疲弊していく。

 

『……あっ』

 

 肉体は疲れておらずとも、精神が疲れればそれで終わり。

 足が縺れ、魔法を避けきれず被弾する。

 

「……じゃあ、休むか」

 

 動けなくなったアイに魔法が殺到し、命中する直前。

 ミラクルムが指を鳴らし、その瞬間魔法と魔導人形が消え失せる。

 

 そして、へたり込んでいるアイを自身と共に転移させた。

 

***

 

 時は少し遡り。

 

『今回の訓練は特に意味はないとかないよね?』

「流石にない。今回も実戦形式だがな」

 

 前回の訓練が全くの無意味とは言わないが、主に憂さ晴らしであった前回があったので一応聞いていた。

 何よりもあれは若干トラウマになりかけている。

 

「今回の訓練も前回と同じで魔法を避けるわけだが、今回は魔法を避けながら私が作り上げた人形を攻撃する、という形になる」

『な、なるほど』

 

 前回に近いものだと聞いて、身震いをするアイ。

 しかし終わりがないわけでもない。

 前回ほど苦しむ必要は無さそうだ、とも思って。

 

「終わりはお前が疲れたらだ。ちなみに疲れたふりをしても意味はないからな」

『え゛』

 

 変な声が出たが、まぁそれも仕方ないとも言える。

 そして察した。

 下手をすれば前回以上の苦しみを味わうことになると。

 

「とりあえずやるぞ」

『いーやー!』

 

 悲鳴を上げるも虚しく、アイは魔法の嵐に飲み込まれていった。

 

***

 

 そして現在。

 

『……もう動けない』

「ステータス的にはいまので疲れることなど無いだろうに」

『体は疲れて無くても精神的には疲れるの』

 

 僕は倒れ込んだまま、ミラクルムに抗議の視線を向ける。

 当然ミラクルムは受け取らないが。

 

「それよりどうだ。なにか分かったか?」

『……ああ、そういえばこれって訓練だったね……』

 

 今更のように思い出す。

 これは訓練、イジメじゃない。

 正直イジメみたいなものだけどイジメじゃない。

 

『なんというか、回避する感覚は分かったかなぁ。なんというか、当たらない位置に移動するだけじゃないってのは分かったような気がする』

「そこまでわかれば十分だろうな」

 

 まぁ確かに、戦闘の技量はこれで上がるかも知れない。

 回避しながら相手に攻撃を当てる。

 それは言葉にするだけならば簡単だが、実際のところただ避ければいいだけじゃない。

 当たらないようにしながら、相手に攻撃を当てるという行為はなかなか難しいのだ。

 

「次は防御だろうな。ただ避け続けることもできるが、時には防御などをする必要もある。わざと攻撃を食らって反撃を与える、などということもできるようになるしな」

『……戦闘って考えること多いね』

「お前が何も考えていないだけだ」

 

 実際僕は何も考えずに戦っている。

 今回は結構どうすればいいかを考えていたが、これまで考えたことなんてなかったかも知れない。

 

「何にせよだ。私が楽になるように早めに覚えてくれよ」

『勘弁してよ……』

 

 今更ながら、この人に頼ったことを後悔していた。



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剣聖の理

「ん、そうだ。お前は俺様がなんで剣聖って呼ばれるか知ってるか?」

 

 訓練を1,2週間ほど続けたある日。

 フレイルさんは僕にそう聞いてきた。

 

「……剣が世界で一番巧いから、ですか?」

 

 でも、僕は知らない。

 少し考えたけど、この程度の答えしか出てこない。

 

「残念、違うな」

 

 まぁその答えは即座に否定されたわけだけど。

 でもそうすると、一体なにが理由で剣聖なんて呼ばれているんだろうか。

 

「……ごめんなさい、わかりません。なんで、ですか?」

 

 いくら考えてもわかりそうにないから、しかたなく聞く。

 フレイルさんはそれに少し笑った後、答えてくれた。

 

「まぁ、剣聖ってのは有名だが、どうやってその称号が受け継がれるかは知られてないよな」

 

 そういった後、フレイルさんは説明してくれた。

 

「まず、剣聖ってのは初代剣聖“アルフィード”から受け継がれた称号だ。ここまでは知ってるよな」

「はい」

 

 流石にそこは常識だ。

 遠い昔、勇者が魔王を倒した時のパーティーメンバーの一人だった、アルフィードっていう人が王様からもらった称号、それが剣聖。

 もう一個同じような称号があるけど、そっちは今は置いておく。

 

「剣聖っていう称号は、とある技術が使えなければ受け継ぐことは許されない。それが『理の凌駕』だ」

「理の、凌駕……?」

 

 初めて聞く単語だった。

 理の凌駕ってのは、一体どういうものなのだろう。

 

「理の凌駕。わかりやすく言えば、世界の法則に対する反抗だな。ま、言ってもわかんないだろうから実演しよう」

 

 そういった後、フレイルさんは剣を抜いた。

 そして少し迷った後、

 

「……すまんが俺様に向けて魔法かなんかを放ってくれ」

「あ、はい」

 

 申し訳無さそうに、フレイルさんは僕に言った。

 

「じゃあ、行きますよ」

「おう」

 

 軽く火球を放つ。

 特別大きくもなく、さりとて小さくもない火球。

 それはフレイルさんに向かって進んでいき──

 

「ほいっと」

 

 一回の剣閃がはしり、直後に火球が4つに割れた(・・・・・・)

 

「……え?」

 

 割れた火球は火の粉となって消えていく。

 けれど僕に与えられた衝撃は消え去らない。

 

「とまあ、今のが理の凌駕だな。本来ならば起こり得ないことを起こす。まぁ、普通に剣を振るだけじゃ絶対に起きないことをできるようになればいいんだ」

 

 ……でも、その衝撃が消え去る前に、僕は一つ疑問に思った。

 何故それを僕に見せたのだろうか、という疑問だ。

 嫌な予感にかられて、僕はフレイルさんに聞いた。

 

「……無いと思いますけど、もしかして見せた理由って僕にやらせるためですか?」

「ん? やらせるために決まってるだろ?」

 

 その言葉に、僕は顔を引き攣らせることしかできなかった。



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半年の時

これ以上引き伸ばしても書けなくなる一方なのでここらで締めておきます。
と言うかどこまで引き伸ばすべきかが分からなかった()


 アイ視点

 

 僕たちが特訓するようになってから、おおよそ半年が経った。

 戦闘技術はまぁまぁ上がったはず。

 自分のステータスを6000前後まで下げた状態だとしても、ミラクルムと張り合える様になってたからそれは間違いないはず。

 まぁミラクルムもステータスを3000程度まで下げていたらしいけど。

 

「自分より高いステータスを持つ魔物に対し、ステータスで劣る人間が勝つためのものが技術だからな。確かに立ち回りとかも含むが、剣技などもそこには含まれる。当然魔物がそれを習得するのは難しいしな。この短期間でここまでできれば上出来と言えるだろう」

 

 結局、ミラクルムは最後まで手伝ってくれた。

 フレイルっていう人にアルシナのことを任せて、僕につきっきりで教えてくれた。

 特に磨かれたのは回避技術。

 他にもスキルの使用速度や魔法の展開速度も上がったりなど、終わった今から考えてみればとてもありがたいことばかりだった。

 ……まぁ特訓は精神的にとてつもなく辛かったんだけど。

 

『改めて考えるとキツい特訓ばっかだったなぁ』

 

 アルシナの方は肉体的に辛い特訓だったらしく、時折ボロボロになって帰ってきたこともあった。

 でも、アルシナは割と楽しめて特訓をできていたみたいだった。

 特訓を楽しめる感覚は素直に羨ましいと思った時もあった。

 

「休校もあと2週間ほどで終わる。その辺りの処理も私はしなければならないからな。これ以上お前に付き合ってやることもできない」

『分かってる、ミラクルム』

 

 そして、もうすぐ休校が終わる。

 戦争も終わり、一度帰郷していた人々が戻ってくるからだ。

 既に戻ってきている人もいるし、未だ戻ってきていない人もいる。

 この休校が終われば、また授業が始まる。

 休校で進行が止まった授業をやるためにカリキュラムを再構成したりするのだから、大変だろう。

 そうでなくてもやることはあるのだ。

 そう考えると、申し訳ない気持ちも湧いてくる。

 

「いや、いいさ。ある程度の息抜きにもなったしな」

『そっか』

 

 ……息抜きってことは僕をサンドバックにしてストレス発散していたということだろうか。

 うん、有り得そうで怖い。

 

「いや、そんなことはないぞ? 少しやりすぎた事もあったかもしれんが、お前と話すのも息抜きにはなっていた」

『あー、そういうこと』

 

 でも違ったらしい。

 まぁなんにせよ、これからはまた授業が始まる。

 アルシナもここから休んで、しっかり授業を受けてほしいと思う。

 

「相変わらず、主想いだな」

『……主って言えるかどうかはわからないけどね』

 

 そう、僕はアルシナのことを心配することはあるし、色々としてあげることがよくある。

 けど、僕はまだアルシナの事を主とは認めていない。

 ただ可哀想だったから契約してあげただけ。

 だからアルシナの事を『主』というのは違和感がある。

 

「……それもそうか。ま、私はそろそろ行くよ」

『了解。またね』

「ああ」

 

 そしてミラクルムもどこかへ去っていく。

 転移魔法で消え去った、ミラクルムが居た場所を眺めながら、僕は一瞬だけ思ったことがあった。

 

(僕はアルシナの事を主と認める日が来るんだろうか)

 

 そんな思考は、これからの事への思考にすぐにかき消されていった。




プロット覚えてないのでちょっと止まるかもです。
プロット自体はあるんですけどね。


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3章 学園都市③ 卒業編
休校明け


昨日はプロットの確認をし忘れたので投稿できませんでした。
ごめんなさい。


 休校が明けて一週間。

 休校になる前よりは授業が増えたり、実践訓練をなくして座学にしたりと、ミラクルムは色々工夫しているみたいだった。

 授業内容も前に比べれば少しばかり駆け足気味。

 けれど以前の内容を踏まえた上での発展内容も少し増えており、これまでの授業とはまた違う授業が広げられていた。

 

 まぁ要は、駆け足で完全に退屈する授業では無いということである。

 

『とはいっても、内容は私達がこれまでやってきたことを座学にしたようなものだけどねぇ』

『まぁ、それはそうですが』

 

 とはいっても、その授業内容は僕やアルシナがやってきたこと、即ち魔法の発動などを理論的に説明したもの。

 僕たちが授業を受ける利点はあまりなくなっていた。

 

『……でも、クラスメイトから数人居なくなってしまった人がいるのは寂しいですね』

『私は関わりはなかったからわからないけど、空席があるのは確かに寂しいかもね』

 

 でも、それとは別に変わったことがある。

 それはクラスメイトの人数だ。

 それだけにとどまらず、学校自体の生徒の人数も減っている。

 何故か、その理由は簡単だ。

 

 戦争に参加したり、巻き込まれたりするなどしてその生命を落としたからだ。

 その中には、昔アルシナをいじめていた人も数人含まれていた。

 

『いじめてきていた相手とはいえ、実際に死んでしまったとなるとなんとも言えない気持ちになります』

『優しいね、アルシナは』

 

 僅かながら伝わってくる気持ちの中に、スッキリとしたなどというような感情が湧いていない辺り、やはりアルシナは優しいと思う。

 自分のことをいじめていた相手だ、そんな可哀想なんていう思いを抱く必要はないのに。

 

『優しい、んですかね』

『少なくとも私はそう思うよ』

 

 そんな風に話して、授業を受ける。

 流石にアルシナも授業中に自分だけ言葉を話すわけにもいかないし、念話で話している。

 

 そんなこんなしているうちに、授業は終わった。

 

『にしてもミラクルム、こんな早期に授業を変えてきたんだ。兼ね合いとかはどうなったんだろ』

『アイ? 兼ね合いって何の話ですか?』

『ああ、なんでもないよ』

 

 気になることと言えば、以前聖法国との兼ね合いとかがあるから授業の形は変えられない、という話があった。

 けれど授業は早くも変わった。

 

 ミラクルムにはどんな考えがあるんだろうか。

 そんなことが気になるけれど、まずはミラクルムと話してからか。

 

『ちょっと気になることがあるから、私はミラクルムの所へ行ってくるよ』

『学園長の所ですね、わかりました』

 

 アルシナにそう伝える。

 今は忙しい時期だ、もしかしなくても相手にされないかもだけれど。

 それでも気になるものは気になる。

 それに結構重要な話だと思うから、それだけを聞きに僕は学園長室へと向かった。



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散策……?

そういえば、一話に付き1000文字程度の文章になっている理由ですが。
この作品は授業と授業の合間、つまり休み時間に書いているものです。
なので勿論一日に書ける時間は限られています。
確かに書こうと思えば5000や10000なども書けなくは無さそうですが(話数を圧縮すればいいので)、圧倒的に時間がないんです。
この投稿スタイルは変えるつもりはありません。
もし変えてしまえば僕はこの作品を書き続けることができなくなってしまいます。


「明日の昼に時間を取る。それまで待ってくれないか?」

 

 ミラクルムからそう言われてしまったため、僕はアルシナの所へと戻っていた。

 というのも、案の定ミラクルムは忙しくて僕と話している時間はなかった。

 けど、明日の昼には一定の休憩時間があるから、そこで話そうということだった。

 元々明日には僕と話す予定だったらしく、僕が来なかったらミラクルムの方から来ていたらしい。

 

『今日も訓練とかする?』

「確かに一週間の間座学だったので、体を動かすのも良いですが……そうだ」

 

 アルシナが何かを思いついた。

 僕は特にやることを思いついたわけでもないので、聞いてみる。

 

『何を思いついたの?』

「アイが来てから学園都市を見て回ったことはないじゃないですか」

 

 たしかにそうだ。

 けれどだから何だと……。

 

「アイ、学園都市を散策してみませんか?」

 

 納得した。

 確かに僕もこの学園都市でものを見ることはなかった。

 せいぜい実践訓練について行った程度。

 それだって学園都市を見て回っているわけでもないし。

 

『なるほど、それは面白そうだね』

「実のところ、僕も散策とかはあまりできてないので案内はできませんけど、一緒に見て回りましょう」

 

 ということで、僕たちは学園都市を散策することにした。

 

***

 

「広いですね……、学園都市」

『都市っていうくらいだから当然だし、最初に来た時に分かってたけど歩いてみるととてつもなく広いね……』

 

 おそらく数時間後。

 学園都市が広すぎて、僕たちは迷子になっていた。

 魔法でどうにかすることは可能だから、帰ることはできるけど。

 けれどそれでは散策ができない。

 仕方ないので、一旦学園まで転移で戻ってからもう一度散策することになった。

 

「歩き疲れました。こんなに迷うなんて……」

『僕は歩いてないけど、結構気疲れするものだね……』

 

 その後、あまり寄れる場所もないまま暗くなってきてしまった。

 よく考えれば地図もないし、少し無謀な挑戦だったのかも知れない。

 学園都市内で情報系の魔法を使用すると捕まるので、上空から何かを見るということもまともにできない。

 

 次に散策する時は地図を持ってこよう、そう二人で思ったのだった。

 

***

 

「何も見れませんでしたね……」

『うん、何も見に行けなかった……』

 

 寮の中で二人でそう言い合う。

 僕は物置棚の上で、アルシナはベッドの上でぐだーっとしながら。

 結局、夜になっても何も見ることはできなかった。

 とても残念だし、何もできなかったという虚無感がある。

 

「あ、でも次はきちんと色々見て回りましょうね」

『……そうだね』

 

 どのみち終わってしまったことだ。

 切り替えて次にいかなければならない。

 

(……次ってなんだろ)

 

 自分の思考にツッコミを入れながら、僕の意識は少しずつ闇の中へ落ちていった。



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魔族の影

間に合わないかと思ったけどなんとか間に合った。
あ、明日は投稿あるかどうかわからないです。


 翌日。

 この世界の週は地球と同じ7日。

 そして1〜5日目で勉強し、6、7日目は休憩という形で授業は行われている。

 

 まぁ何が言いたいいかといえば、今日は6日目であり、休みだということである。

 

「今日は地図もありますし、散策をもう一度やりますか?」

『いや、今日はミラクルムとの約束があるからやめとく』

 

 今日の昼にはミラクルムとの話がある。

 昼、と聞いているだけで具体的な時間の指定はされてないし、今行ったとしても途中で終わってしまうかもしれない。

 そう考えれば、今もう一度散策に行くことはできない。

 

『んー、図書館に行って本を読んだりしてきたら?』

「……そうですね、やることもないですし、そうします」

 

 そう言うと、アルシナは部屋から出ていった。

 僕はやることもないし、そのまま物置棚の上で昼までぼーっとしていた。

 なにも考えず、ぼーっとし続けていたらいつのまにか太陽は真上近くに来ていた。

 そろそろ行ったほうが良いかな、と思い立ち上がった所。

 

『仕事が終わったぞ。ここから話せる』

『あ、りょーかい』

 

 ミラクルムに呼ばれた為、僕は返事をしてすぐに学園長室へ向かった。

 

***

 

「早いな」

『ただのステータスの暴力みたいなものでしょ』

 

 そんな会話を交わしながら、机の上に飛び乗る。

 今の僕の大きさは10cm程度の蜘蛛。

 机に乗っても問題ないくらいだ。

 

「さて、おそらくだが聞きたいことは授業スタイルについてだろう?」

『そうだよ。前聖法国との兼ね合いが〜とか言ってたから、急に変えて良いのかなって思って』

 

 僕が聞きたいことはこれだけ。

 興味というよりは、ミラクルムへの心配に近い。

 これをやってしまっても大丈夫なのか、という思いからこの問が生まれたのだから。

 

「ああ、問題ない。というよりクシル王から直接そうしろという命令が出たからな。私としてもそれに乗らない理由はないし、それに乗っただけだ」

 

 なるほど。

 国が指示してきたなら、僕が心配する必要はないのかな。

 国が守ってくれるはずだし。

 

『あ、ミラクルムは私に何が言いたかったの?』

「ああいや、ただの休憩だ。……と、言いたいところだが違う」

 

 ん、珍しくミラクルムが歯切れの悪い言い方をしている。

 すぐに言うタイプだと思っていたから意外だ。

 

「以前、お前とアルシナを襲いかけた魔物が居ただろう?」

『あー、そんなのも居たね』

「あれの正体がわかった」

 

 僕の意識がそちらに向く。

 それはかなり重要なことだから、当然だ。

 

「一旦落ち着け、そして殺気を戻せ」

『……あ、ごめん』

 

 どうやらいつのまにか殺気を出していたようだった。

 すぐに引っ込める。

 

 そして、ミラクルムの言葉を待った。

 

「さて、お前たちを襲いかけた魔物の正体は、魔族だ」

 

 その言葉に、僕の思考は一瞬停止した。



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暗躍する者

「正確に言えば、魔物を送った存在が魔族、ということだな」

 

 ミラクルムは言葉を続ける。

 半ば放心状態にある僕の精神状態だが、それでも優秀な僕の頭は聞こえてくる情報を正確に把握する。

 

「魔族、という存在は魔物を従える事ができる。魔帝国のように魔道具を使わずともな。だからこそ、以前のように魔物を従えて襲わせる、というようなこともできる」

 

 時間が経って冷静さが戻ってきた為、気になったことを質問をする。

 

『テイマーって魔物を従えられるよね。あれってどういう扱いなの?』

「あれはまた別だ。テイマーは厳密に言えば契約。問答無用に従える魔道具や魔族とは違う」

 

 テイマーってそういう扱いだったのか。

 その時、一瞬一つの可能性が頭をよぎったが、すぐに頭の中から消える。

 

「ともかく、魔物は魔族の下に置かれるものだと思って良いはずだ」

 

 けれど、その言葉で頭をよぎった可能性がもう一度出てくる。

 もしかしたらあるかも知れない。

 そしてそれがあったならば……。

 

『既にテイムされてる魔物……私とかは魔族に支配されることってあるの?』

「実際にそんなことがあると聞いたことはないな。テイムされている魔物に支配の魔道具を使っても支配されないし、おそらくそういったことはないだろうな」

 

 それを聞いて僕は安心した。

 僕が支配されるようなことがあれば、それは人間にとってとても危険なことだろうから。

 

「まぁそれがなくとも、お前を支配することは魔族でもできなさそうだがな。神話級の魔物を魔族か従えるなどと言った話は聞いたことがない」

 

 それなら安心……なのかな?

 とりあえず、僕は安心しておくことにしよう。

 

「なんにせよ、魔物がこうやって魔族の手によって人を襲い始めた以上、ここからは魔族にも注意を向けたほうが良い。そこで、だ」

『ん?』

 

 そんな中、ミラクルムは僕に言った。

 

「アルシナ君が卒業するまででいい。この学園都市を守ってくれないか」

 

***

 

「……アイ、どうかしましたか?」

『……あ、うん、なんでもないよ』

 

 ミラクルムの言葉に対する答え。

 それは未だ決めかねていた。

 僕もまだまだ弱い。

 ステータスのゴリ押しではいずれ勝てない相手も出てくるだろう。

 そんな存在が学園都市を守れるのか。

 いやそれ以前に、僕は果たして全力が出せない状態で魔族を倒せるのだろうか。

 

 半年間の訓練で、僕は強くなった一方、自信を喪失していた。

 

『私って、弱いな……』

「強いですよ。魔法もすぐに作っちゃいますし、色々できるじゃないですか」

 

 それはそうだけど、と僕は思う。

 だってどう考えてもそれは力の暴力じゃないか。

 

「悩んでることって、もしかしてそれですか? なら気にしなくてもいいと思いますよ」

『……でも』

 

 戸惑う。

 僕はそんなに強くは……。

 

「神話級っていうのは、そんな簡単に負けるような存在なんですか?」

 

 アルシナは僕に笑いかける。

 それにつられて、僕も苦笑いのような声を出した。

 

『……そうだね。自信が戻ったわけじゃないけど、それでいっか』

 

 きっと僕が驕るにはまだ早い。

 そう思う。

 

「それに、弱いと思うなら強くなれば良いと思うんです」

 

 そんな声は。

 残念ながら声が小さくて、僕にはその時は届かなかった。




時間がなかった(泣)


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