モンストD×D 〜我、堕天の王なり〜 (☆桜椛★)
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我、堕天の王なり

“冥界”と呼ばれる場所にあるとある戦場。そこでは蝙蝠の様な羽を持った悪魔、背中に純白の翼、頭上に天使の輪を浮かべる天使、そして烏の様な真っ黒な翼を持った堕天使と呼ばれる3つの勢力…通称“三大勢力”が大きな戦争を続けていた。

そんなある日の事、互いに本気の殺し合いを続けている最中、突然ドライグとアルビオンという、“二天龍”と呼ばれる赤と白の2匹のドラゴンが大喧嘩を始め、それぞれの勢力は多大な被害を受けた。

多くの同胞達を失った三大勢力は戦争を休戦し、互いに協力してその2匹のドラゴンを討伐する事を決定した。だが2匹のドラゴンの力は凄まじく、討伐は難航していた。悪魔の勢力は四大魔王が命を落とし、天使と堕天使も今まで以上の実力のあった同胞達を失った。

二天龍は三大勢力を蹴散らしながらも喧嘩を続け、三大勢力の主柱であった聖書の神はその2匹を神器の中に魂を封印する事を提案し、三大勢力は協力して二天龍を神器に封印する為に再び二天龍に挑み掛かり、喧嘩の邪魔をする三大勢力に腹を立てた二天龍もそれを迎え討とうとした。

 

 

だが、突如出現した乱入者によって、二天龍も三大勢力も大ダメージを受けた。

 

 

 

 

 

 

「ハァ…!ハァ…!畜生!何者だアイツ!?いきなり現れて二天龍どころか俺達にも攻撃してきたぞ!?」

 

 

堕天使総督を務めているアザゼルは、ボロボロの姿になりながら突如現れた乱入者を睨み、悪態をついた。

 

 

「ハァ…ハァ……さぁね。それはこっちが聞きたいよ」

 

「少なくとも…人間や悪魔、天使や堕天使ではないのは確かですね」

 

 

アザゼルの問いに、新たに魔王となったサーゼクス・ルシファーはたらりと嫌な汗を流しながら苦笑し、四大熾天使の1人であるミカエルは難しい顔で乱入者を分析していた。

3人の目の先には3匹(・・)のドラゴンが激しい戦闘を行なっていた。新たに乱入して二天龍相手に優勢なドラゴンは、ブロンズレッドの毛で全身を覆われた見た目をしており、そのドラゴンの背中には1人の少女が立っていた。

薄墨色の肌に黒い目にうっすら光る紫色の瞳をしており、胸元に鍵穴が付いた赤いベルトの拘束衣を身に纏っている。少しボサついたドラゴンと同じブロンズレッドの長髪をしているが、よく見るとその髪はドラゴンと一体化…いや、ドラゴンそのもの(・・・・)となっていた。

自身の髪をドラゴンにしているその少女はニヤァ♪と顔に笑みを浮かべながら楽しげに笑い声を上げている。

 

 

キャハハハハハハァ♪アハハハハァ♪

 

『グッ!貴様よくも!!俺達の戦いの邪魔をするな!!』

 

 

少女が操る髪のドラゴンによる攻撃によって二天龍は傷付き、苦しげな呻き声を上げたドライグは髪で出来たドラゴンに向けて火球を放った。髪の毛で出来たドラゴンはそれを躱す素振りも見せずに火球をその身に受けた。

自分の火球に自身を持っていたドライグと、ドライグと殺し合いをしてその威力を知っているアルビオンは勝ちを確信していたが、爆炎が晴れるとそこには髪の毛1本焦げてすらいない少女の髪の毛で出来たドラゴンが唸り声を上げながら二天龍を睨んでいた。

 

 

『バカな!?』

 

『“赤いの”の火球を受けて無傷だと!?』

 

さぁて…殺っちまうか!

 

 

自分の予想が裏切られ驚愕する二天龍を見た少女は楽しそうに叫ぶ。それと共に髪で出来たドラゴンは大きく吼えると、目を見開いていまだに現実を受け入れきれていない二天龍に襲い掛かった。

三大勢力の悪魔や堕天使達の攻撃を弾いていた2匹の赤と白の鱗は髪で出来たドラゴンの牙に貫かれ、爪に切り裂かれ、傷口からは2匹の鮮血が噴き出した。

 

 

『『グガァァァァァ!!?』』

 

食い散らかせ!もっと罪を!もっと罰を!キャハハハ♪アッハハハハハハ♪

 

「おいおいなんの冗談だ!?アイツの髪はどんな硬さしてやがる!?」

 

 

その光景を目にしたアザゼル、そして口には出さなかったがサーゼクスとミカエルは目を見開いて驚愕した。自分達の攻撃を受けて殆ど傷付かなかった二天龍の鱗が少女の髪の毛に貫かれたのだから当然だろう。

そうしている間にも二天龍は体に傷を負って行き、遂には髪で出来たドラゴンに殴り飛ばされて意識を失った。三大勢力的には二天龍が倒れた事は幸いと普通なら感じただろうが、目の前の乱入者を前にしてそんな感じはしなかった。

 

 

さぁ、次はお前達だ!アッハハハハァ♪

 

 

狂った様に、楽しげに笑う少女の髪が作り出したドラゴンが口を開き、その口に球体状の光の玉の様なものが出現し、段々大きくなって行った。それを見たアザゼルは嫌な予感を感じて叫んだ。

 

 

「なんかヤバいぞ!全員退がれ!!」

 

燃え尽きてしまえ!キャッハハハハァ♪

 

 

サーゼクス達の背後にいた三大勢力の仲間達は慌てて下がろうとしたが、少女の髪が毛で出来たドラゴンの口に出現した光の玉は既に口から少しはみ出る程大きくなっていた。もうすぐ攻撃が発動すると察知したサーゼクス達は全力で結界を張った。

そしていよいよ攻撃が発動しようとした瞬間……。

 

 

ドガアァァァァァァァン!!!

ッ!?クゥゥッ!!?

 

「な、なんだ!?新手か!?」

 

 

突如飛来した光のレーザーが髪の毛で出来たドラゴンの口に出現していた光の玉を撃ち抜き、大爆発を起こした。爆発の威力は凄まじく、髪の毛で出来たドラゴンの頭は内側から弾けた。三大勢力の者達は皆唖然とそれを眺めており、サーゼクス達魔王とミカエル、アザゼルは新手の敵かとレーザーを放った者を探した。

 

 

「なかなか面倒な事になっているな……」

 

 

すると凛とした女性の声がサーゼクス達の耳に入り、声のした方に視線を向けると、そこには6枚3対の紫色をした翼を広げてこちらを見下ろす1人の少女がいた。

金髪のロングヘアーに澄んだ紫の瞳をし、胸元に水色のリボンの付いた白いネグジュリエの様な服の上に水色のローブの様なものを羽織り、額には紫の角の様なエフェクトがあった。そして彼女を中心に円を描く様にガラスの破片の様な光が漂っており、何とも言えない美しさを見せていた。

彼女は腕を組みながら二天龍、三大勢力、そして乱入者を順に見た金髪の少女は、面倒そうな顔をして溜め息を吐いた。

 

 

「はぁ……アイツも面倒な仕事を押し付けて来たものだ。さっさと済ませるとしよう」

 

ッ!!お前ぇ!!

 

 

乱入者の少女は髪を伸ばし、空を飛ぶ金髪の少女を串刺しにしようと7本の槍の様にして突貫させた。だが髪の槍は金髪の少女を串刺しにする前に、ガラス板を繋ぎ合わせたかの様な球体状のピンク色の光のバリアによって弾かれた。

二天龍の鱗を容易く切り裂いた髪の攻撃を弾いくバリアの硬さに悪魔や堕天使達、天使も驚愕の表情をしていた。

弾かれた後もなんとか貫こうと乱入者の少女は何度も何度も攻撃を繰り返すが、そのバリアは貫かれる事はなかった。

 

 

「全く、私の手を煩わせるな……」

 

 

金髪の少女は自身を守る光のバリアに甲高い音を立てながら弾かれる髪の槍を詰まらなそうに見つめ、少し両手を広げた。すると彼女の周りを漂う光の破片がその光を強くし、段々上に昇って行く。光の破片がまるで天使の輪の様に彼女の頭上にまで昇って来ると、乱入者の少女も、堕天使も、悪魔も、天使ですら美しいと感じた。

 

 

我、堕天の王なり……!!

 

 

彼女が声高々に自身をそう称すると、何処からともなく異形の軍勢が出現した。槍を持った細身の天使、数十メートルはある巨人、正体不明の獣などの異形の軍勢は、皆黒と紫が混ざった様な禍々しい影の様なもので出来ており、それ等は堕天の王と名乗る少女の合図に従って乱入者の少女に襲い掛かった。

 

 

ッ!?グッ!来るな!!来るな!!

 

 

突然の事に反応が遅れた乱入者の少女は、自身の髪を伸ばして迫り来る軍勢を串刺しにしたり、切り裂いたりしたが、物量に負けて天使の影が持った槍に体を貫かれ、断末魔の叫びを上げながらその体を光の粒子に変えて霧散した。

散った粒子は金髪の少女が取り出した小さな檻の様な物に吸い込まれて行き、全ての粒子が入ったのを確認すると、彼女はそれを仕舞い、チラリと三大勢力達に目を向けると何も言わずに翼を羽ばたかせて飛び去って行った。

残されたアザゼル、サーゼクス、ミカエル達はただ唖然と彼女が飛び去って行くのを眺めている事しか出来なかった。

その後、我に返った三大勢力の面々は無事二天龍を神器に封印する事に成功した。だが代償として聖書の神が命を落とし、三大勢力は二天龍と乱入者によって多大な被害を負って戦争を終えた。

その後、自身を堕天の王と称したあの少女を“英雄”と呼ぶ者が多くいたが、同時にプライドが高い悪魔達や、多くの堕天使達には彼女は快く思わない者が多かった。

 

 

 

 

 

 

金髪の少女side…

 

 

私の名はルシファー、前世の記憶……いや、知識を持った所謂“転生者”と呼ばれる元男子高校生の堕天使だ。

ある日、普通の何処にでもいる男子高校生だった私は、気が付くと既にこの姿で見知らぬ場所に立っていた。そこは“モンスター界”という、私が生前好きだった引っ張りハンティングRPG、【モンスターストライク】…通称『モンスト』に登場するモンスター達が暮らす世界だった。

最初の頃はその『モンスト』のルシファーになれて嬉しさ半分、女になって悲しさ半分という複雑な気持ちになったものだ。

そして、モンスター界の外には勿論人間の暮らす“人間界”があったのだが、この世界では悪魔や堕天使、天使や妖怪、更には神も存在する世界だったのだから驚きだ。人間界とは“モンストゲート”という門から行き来出来、私達モンスターは様々な理由で人間界に行く事がある。

 

 

「まぁ、まさかカインを捕まえる事になるとは思わなかったがな」

 

「済まぬなルシファーよ。他に頼める者がいなかったのだ」

 

 

私は今、モンスター界のとある神殿の再奥にて、この神殿の主人であり、私にカインの捕獲を依頼して来た筋肉隆々の髭を生やした老人…“全知全能の最高神” ゼウスに申し訳なさそうに謝られている。

ゼウスは全知全能の割には浮気ばっかりやっており、よく奥さんのヘラさんに半殺しにされたり、私に今回の様な面倒な仕事を持ち掛けてくる。

因みにカインとは、人類で初めて人を殺し、嘘をついた旧聖書に載っている人物がモデルにされたモンスターで、私が先程倒した少女の事だ。普段は封印されているのだが、ゼウスがまた何かやらかしたらしく、脱走したので私に捕まえてくれとゼウスが頼み込んで来たのだ。何をしているのやら……。

 

 

「はぁ…ほら、早く再封印しろ」

 

 

私は小さな檻の様な物…“小さな監獄(スモール・プリズン)”という倒したモンスターを閉じ込める道具をゼウスに差し出した。

このまま何処かに保管する手もあるが、この監獄は力の強いモンスターなら時間が掛かるが破る事が出来る為、キチンとした封印が必要になる。私は封印は専門外なので、この神に預けておけばいい。コレは簡単に壊れる心配も無いので、故意に開けようとしない限り外側から開く事も無いので安心だ。

だが、差し出された監獄をゼウスは手に取ろうとしなかった。

 

 

「………おい、何をしている?早く再封印しろ」

 

「い、いや〜その……全知全能の私でもこんなにも早く捕らえてくるとは思わなかったのでな。まだ再封印に必要な準備が出来ていないのだ」

 

 

目を逸らしながら汗を一滴流す自称(・・)全知全能を私は冷めた目で見る。私にカインを捕まえてくれと頼んで来たのが1週間前、本来コイツなら準備が出来るのに十分過ぎる時間だ。なのにそれが出来ていない。

 

 

「………つまり?」

 

「つまりだな……封印の準備が出来るまでカインを其方の家で預かってくんね?」

 

ふざけるなこの浮気常習犯。消し炭にしてやろうか?

 

 

その後、結局カインはうちで預かる事になった。まぁ、監獄から出したカインは私にかなり臆している様で、大人しく言う事を聞いてくれたのは幸いだった。

取り敢えずゼウスには追加料金を請求するとしよう。



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冥界の森の鎌鼬

ルシファーside…

 

 

♪〜〜♪〜♪〜♪♪〜……

「……うむ、ここはもう少し変えた方がいいか」

 

 

私は家の自室にあるベッドに座り、ベースの練習をしていた。私はこう見えて、従兄弟が作った“背徳(はいとく)ピストルズ”というバンドでベースとボーカルを担当している。

メンバーは私とギター担当で従兄弟のサタン。そしてドラム担当の茨木童子(いばらきどうじ)の3人。私は最初は気が進まなかったが、サタンには本気の土下座、茨木には半泣きでお願いされて仕方なくやってみたら、いつの間にか私自身もライブが楽しく感じるようになっていた。

今ではなかなかの人気を集めており、近日中にまたライブをするらしい。その為私は暇があればベースや歌の練習をしたり、新しい曲の歌詞を考えたりしている。

……まぁ、あの2人と話すのは少し疲れるのだがな。

 

 

♪〜♪〜♪♪〜〜♪…

「………ん?」

 

 

ベースの練習を続けていると、廊下の方からドタドタと慌しい足音と、ゴロゴロと何か重い物が引き摺られる様な物音が近付いて来た。そして部屋の扉の前まで来ると、バン!と扉が壊れるんじゃないかと思う勢いで扉が開き、家で預かっているカインが入って来た。

 

 

「ルシファー!この漫画の続きは何処だ!?」

 

「もう読み終わったのか?ほら、そこの本棚に並んでいる。私はもう読み終わっているから、一気に3・4冊程持って行くといい」

 

「おぉ!ありがとう♪ルシファー!」

 

 

私が部屋に置いてある本棚を指差すと、カインは礼を言いながら本棚に歩み寄った。カインが歩く度に左足に付けられた足枷の大きな鉄球がゴロゴロと音を立てながら引き摺られて行く。

彼女の再封印の準備が完了してから長い月日が経過しているが、彼女は未だにこの家に住んでいる。何故なら、彼女の再封印をする必要が無くなったからだ。

これは私が彼女と一緒に暮らし始めた日に気付いた事なのだが、彼女はどうやら戦闘以外の娯楽を知らなかったのだ。それに気付いた私は彼女とテレビゲームをやったり、漫画を読ませたりした。

その結果、私は彼女に懐かれ、今では彼女は新しい家族として一緒に暮らしている。

 

 

「え〜っと?…7巻…7巻……あ!あった♪」

 

 

子供の様な笑みを浮かべるカインは、両手を拘束されている為自分の髪の毛を手足の様に操って本棚から漫画を引っ張り出した。

彼女が今嵌っているのは、『約束の地の大冒険』というモンスター界でも大人気の漫画だ。私の親友であるカナンという、旧約聖書に登場する“約束の地”がモデルとなった天才漫画家が書いた作品で、私もよく読んでいる。

 

 

「じゃあ借りて行くぞ!あぁ、そうだ。さっき冷蔵庫の中を見て来たんだが、ジュースとかが切れていたぞ?」

 

「そうか。だったら買いに………む?」

 

 

何時も通りにカインに買って来てもらおうと財布を開いたが、もう殆どお金が入っていない事に気が付いた。しまった、カインが一緒に暮らすようになって食費が1人分増えたから計算より早くお金が無くなってしまった。

 

 

「はぁ……仕方ない。カイン、この金で飲み物を買って来てくれ。私は今から仕事に行ってくる」

 

「よし!任せろ〜〜♪」

 

 

カインは私からお金を受け取ると部屋を出て飲み物を買いに向かった。相変わらず騒がしい奴だと思いながら私もベースを片付け、部屋を出た。カインはもう外に行ったようで、玄関のドアは開けっ放しだった。

 

 

「あのバカ……ちゃんと閉めろとあれ程言っているというのに」

 

 

ここで住み始めてからカインが段々と子供っぽくなって行くように感じながらブーツを履く。すると背後から声を掛けられた。

 

 

「………ルシファー。仕事?」

 

「ん?あぁ。そろそろお金が無くなりそうなのでな」

 

 

私が振り向くと、そこにはこの家のもう1人の住人である少女、アヴァロンが立っていた。腰辺りまで伸びた金髪に、リンゴの様な赤の中央に金色という独特な瞳を持っており、手術を受ける患者が着る服に似たワンピースを着た彼女は、あの『アーサー王物語』の舞台であり、致命傷を負ったアーサー王が癒しを求めて渡り、最期を迎えた伝説の島がモデルとなったモンスターだ。

彼女はカインが家に来る以前から一緒に暮らしており、立場的には私の養子という事になっている。

 

 

「……私も、行ってもいい?」

 

「………まぁ、構わんな。いいぞ」

 

 

私が許可を出すと、普段無表情な彼女が心なしか笑った様に感じた。家に誰も居なくなってしまうが、鍵を掛けておけば問題ない。カインには念の為鍵を渡しているので、帰って来たらリビングのソファーで漫画を読んでいるだろう。

私は手を握ってくるアヴァロンを連れて、家を後にした。

 

 

 

 

 

 

私はアヴァロンを連れて、浮気常sy…ゴホン!ゼウスがいる神殿に訪れていた。私がこの場所に来たのは、仕事の依頼を貰うためだ。

この世界には外の世界とは違い、少し特殊な仕事がある。外の世界に迷い込み、暴れているモンスターを討伐又は捕獲してモンスター界に戻すというものだ。

以前話したモンストゲートには、許可証が必要だが自由に出入り出来る固定されたゲートと、不定期にランダムで自然発生するゲートの2種類ある。自然発生するゲートは知能が低かったり、力が弱かったりするモンスターを引き込んで外の世界に出て行ってしまう事がある。

それをモンスター界に戻してお金を貰うのが私がやっている仕事だ。外に出て行ったモンスターは浮気常習犯…じゃなかった、ゼウスの能力で場所を特定出来る。ゲートは頻繁に発生している為、基本ゼウスに会いに行けば仕事は貰える。

そうこう言っている内に神殿の最奥に着き、私達は扉を開いて中に入った。ゼウスは正面にある机に座って書類にペンを走らせていた。

 

 

「おい浮気常習犯。仕事を貰いに来たぞ」

 

「おい先ずその不名誉な呼び方を改めてくれ」

 

「なら手当たり次第にナンパするのを辞めることだな」

 

 

この全知全能(仮)はホントに手当たり次第にナンパしては玉砕されているのに懲りずにナンパし続けているからな。ナンパがバレる度にヘラさんに半殺しにされているのに尚続けるこいつはある意味凄い神だと私は思う可能性が0.01%はあるかも知れん。

 

 

「それで?今日の仕事は何処だ?今日はアヴァロンも行くから簡単で高額な仕事がいい」

 

「その娘もか?なら確か……あぁ、これなら丁度いいだろう」

 

 

ゼウスは書類の山の中から1枚の紙と、引き出しから“小さな監獄”を1つ取り出し、私に差し出した。受け取った紙には白い毛並みをし、両手が紫色に妖しく輝く鎌になっている鼬の写真とモンスターの名前と共に達成報酬金額が書いてあった。

 

 

「今から6時間前、1体のかまいたちが外に出た。場所は冥界の森深く、知能が低い個体らしく、目に入った生物を切り裂いている」

 

「引き受けた。すぐに向かおう」

 

 

私はこの仕事を引き受け、アヴァロンと共にゼウスの神殿を後にして冥界に向かった。

 

 

 

 

 

 

???side…

 

 

「追い詰めたぞ!裏切り者め!」

 

「もう逃げられんぞ!」

 

 

私は森の奥深くで7人の悪魔達に追い詰められていた。背後には大木、左右に2人ずつ、正面にリーダーを含めた3人…完全に逃げ道を失ってしまっていた。

 

 

「クッ!……」

 

「ふん!やっと大人しくなったか」

 

 

魔力も底をついてしまい、体力も限界だった私はズルズルと大木に背を預ける状態で座り込んでしまった。もう空を飛んで逃げる気力も無い。出来たとしてもすぐに捕まってしまうでしょう。なんとか逃げなくては……!

 

 

「さて、後は始末するだけだが……ふむ」

 

 

私がこの状況を切り抜ける方法を必死に考えていると、リーダーの悪魔が私を…正確には私の体を悪寒がする様な目付きで見始めました。凄く不快に感じます。

 

 

「裏切り者にしてはいい体をしている……どうせ殺すなら、少し遊んでから始末するのはどうだ?」

 

「な!!?」

 

「おお!それはいい!」

 

 

リーダー悪魔の提案に他の悪魔達が便乗し、ジリジリと歩み寄って来る。

ふざけないで!そんな事、絶対に嫌だ!!

 

 

「さぁて、楽しませてくれよぉ?」

 

「や、止めて!近寄らないで!」

 

 

私はこちらに伸ばされる彼等の手が恐ろしくなり、つい目を瞑って頭を下に向けた。

………すると。

 

 

ズパンッ!!

「………ァ?」

 

「「「「ッ!?」」」」

 

 

突然突風が吹き、私が背にしていた大木と正面に立っていたリーダーを含めた3人の悪魔達の胴体が真っ二つに斬られた。あと少し頭を下げるのが遅れていたら、私の首も跳んでいただろう。

私と他の悪魔達が突然の事に驚愕して固まっていると、再び突風が吹いた。私が反射的に頭を下げると、他の悪魔達の悲鳴が耳に入って来た。

 

 

「な、何だ!?どうn《 ザシュッ! 》ガッ!?」

 

「ヒィ!?た、助けk《 ザシュッ! 》ギャ!?」

 

「に、逃げろ!早くにg《 ザシュッ! 》ガァァッ!?」

 

「ヒッ!?来るな!止m《 ザシュッ! 》…」

 

 

悪魔達の叫びが聞こえなくなり、次第に戦争で嗅ぎ慣れた血の匂いが漂って来た。私は生きている。首も繋がっているし、体の一部が無いなんて事もない。という事は、この匂いは私を追っていた悪魔達の物だと理解出来た。

……だとすれば、彼等を攻撃したのはいったい?

私が恐る恐る顔を上げると、白い毛並みをし、両手が巨大な鎌になっている空中に浮いた鼬が目に入った。一瞬綺麗な毛並みだと思ったが、その鼬の目が私を捉えた瞬間、そんな考えは消え失せた。

その鼬の目は、獲物を狩る狩人の目だったからだ。

 

 

「キュォォォォォ!!」

 

「クッ!!《 ザンッ! 》ア゛ァ゛ッ!!」

 

 

嫌な予感がしてすぐにその場から飛び退いたけれど、右腕を切り裂かれてしまった。幸い腕が切り落とされはしなかったが、いつ首が飛んでも可笑しくない。

私は切り裂かれた右腕を押さえながら再び走り出した。背後からあの鼬の化け物の鳴き声と木が切り倒される音が聞こえて来る。そして再び突風が吹い荒れ、身の危険を感じた私は咄嗟に横へ飛んだ。

………しかし。

 

 

ザシュッ!!

「カハッ!!?」

 

 

私は躱し切る事が出来ず背中を切られてしまった。その衝撃で私は地面を転がり、近くにあった岩にぶつかった。最早動く事も出来ず、私は空中を滑るように近付いて来る化け物に凄まじい恐怖を感じた。私はこのままあの悪魔達の様に斬り殺されるのだろうか?

 

 

 

 

 

……嫌だ……絶対に嫌だ!折角旧魔王派の考えが嫌で逃げ出したのに、こんな所で死にたくない!!

私は這いずる様にしながらもなんとか逃げようと試みた。だが化け物は私が逃げようとしているのに気付くと、止めを刺そうと鎌を振り上げた。

私はそれに気付いて振り向くと、鎌に映るボロボロの姿をした私が私を見詰めていた。そして振り上げられた鎌は風を切る様な音と共に振り下ろされ、私の命を……。

 

 

ガキィィィィィィン…!!!!

 

「キュォ!!?」

 

「………え?」

 

 

奪う事はなかった。振り下ろされた化け物の鎌はガラス板を繋ぎ合わせた様な壁に甲高い音と共に弾かれた。

 

 

「危ない所だったな……間に合って良かった」

 

 

何が起こったのか分からないでいると、背後から凛とした女性の声がした。ゆっくり振り向いてみると、そこには紫色の翼を広げた金髪の綺麗な女性が立っていた。同じ女性で有りながらその美しさに茫然と見詰めていると、彼女は優しい笑みを浮かべて私を見た。

 

 

「よく頑張ったな。後は私がやっておく。ゆっくり休め」

 

「……は、……は…い……」

 

 

私は意識だ遠のいて行く中なんとか返事をした。血を流し過ぎたのか視界が暗くなって行き、私は意識を手放した。



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聖杯システム・アヴァロン起動

最後の辺りを少し書き変えました。


ルシファーside…

 

 

私は弱々しく返事をして気を失った女性悪魔を見ながら本当に間に合って良かったと安堵した。

かまいたちを見付けるのは思っていたより簡単だった。空を飛んで森を見下ろすと、一本の道が作られる様に次々と森の木々が切り倒されて行ったからだ。私はアヴァロンと一緒にその跡を辿っていたのだが、道中悪魔達の死体が7人分程転がっていたので、スピードを上げて跡を辿ると、この女性悪魔がかまいたちに襲われているのが目に入り、すぐにこの女性悪魔をバリアで守った。

かまいたちは自分の鎌を防がれたのが気に食わなかったらしく、私に向かって唸り声を上げて威嚇している。そして私がかまいたちに視線を向けると、かまいたちは私を攻撃して来た。だが嵐の様に襲い掛かってくる斬撃は全て甲高い音と共に私のバリアに防がれた。何度も繰り返しバリアを切りつけて来るかまいたちに、私は早く済ませる為にレーザーを放った。

だがかまいたちはまるで風の様な速さでそれを躱し、今度は高速で移動しながら斬撃を飛ばして来た。勿論全てバリアで防ぎながら再びレーザーを放つが、擦りはしても直撃しない。

これではかなり時間が掛かってしまう。

 

 

「面倒な奴だな。………なら」

 

 

私が指をパチン!と鳴らすと、私を中心に薄紫色の光の輪…エナジーサークルが現れ、かまいたちを周囲の木々ごと貫き両断した。周囲の木々はエナジーサークルが貫いた部分が綺麗に焼失してメキメキと音を立てながら地面に倒れ、かまいたちは光の粒子となって私が取り出した“小さな監獄”に吸い込まれていった。

そして全ての粒子が吸い込まれたのを確認して監獄を仕舞った時、タイミングよくアヴァロンが到着した。

 

 

「………ルシファー、早い」

 

「済まないアヴァロン。急がねばこの女悪魔がかまいたちに斬り殺される所だったのでな。………そうだ、アヴァロン。お前の能力で彼女を直してやってくれないか?」

 

 

アヴァロンは表情を変えること無くジッと私の足元に倒れて気を失っている女性悪魔の怪我を見てから私の方を向いてコクリと頷いた。

 

 

「………ん、分かった」

 

「感謝するぞ。帰ったらお前の好きなアップルケーキを作ってやろう」

 

「………頑張る」

 

 

心成しか嬉しそうな顔をしたアヴァロンは女性悪魔の側に歩み寄ると、ゆっくりと目を閉じた。するとアヴァロンの胸を貫く様に巨大な黄金の鍵が出現した。

 

 

「“聖杯システム”……アヴァロン治療システム起動」

 

 

アヴァロンが呟く様にそう言うと、彼女の背後に巨大なリンゴの様な赤い外殻の機械が出現した。元々アヴァロンは彼女の背後に出現したこの巨大な機械の事なのだ。このアヴァロンには傷付いた者を拾い、癒す習性がある。ある日昏睡状態だった少女を治療すると、未熟だった彼女の自我によって機械部分と自身の肉体との境界が不明瞭となり、一体化してしまったのが今の彼女だ。

以来その治療された少女…アヴァロンは、その高度な医療システムを搭載した戦闘古代兵器を自分の意思で操る事が出来るようになったのだ。

そして機械部分から多数の赤と青の人間の手の様なアームが伸びて、気を失った女性悪魔を抱き上げた。アヴァロンも機械部分の中心にある赤い手が作り出した椅子の上に座り、抱き上げられた女性悪魔をジッと見詰めた。

するとアヴァロンの胸を貫く黄金の鍵がもう1本出現し、女性悪魔の胸を貫いた。これが治療なのかと疑問に思うかもしれないが、あの黄金の鍵がアヴァロンが持つ医療器具なのだ。以前ライブの打ち上げ会で私がつい流れで絡んでくる酔っ払ったサタンを瀕死状態にした時、アヴァロンがあの鍵をサタンの胸に刺して治療した事がある。初めて見た時は私も目を見開いて驚愕したものだ。

 

 

「……むぅ、見た目より酷い傷。……治すには少し時間が掛かる」

 

「そうか、だが治るなら問題ない。ゆっくりやるといい」

 

 

アヴァロンはコクリと頷くと、女性悪魔の治療に集中した。あの怪我ではかなり時間が掛かりそうだったので、私は背後に神化ルシファーが座っていた玉座を出現させ、それに座って治療が完了するのを待った。

だが待っている内に段々睡魔が襲って来たので、私はゆっくりと目を閉じて睡魔に身を任せた。

 

 

 

 

 

 

アヴァロンside…

 

 

「スゥ……スゥ……」

 

「……ルシファー、寝ちゃった?」

 

 

私は女性悪魔の治療を続けながら、玉座に座って小さく寝息を立てるルシファーに視線を向けた。

彼女は私がモンスター界に生まれたばかりの時、自分の力を制御出来ずに暴走していた所を止めてもらってから、私を養子として引き取ってくれた私の大好きなお母さんだ。

普段は恥ずかしくて『お母さん』ではなく、『ルシファー』と普通に名前で呼んでいるけど、彼女がいない時にはいつも『お母さん』と呼んでいる。

 

 

「……起きてる時はカッコイイのに、寝ている時は可愛いわね」

 

 

普段あまり表情を顔に出さない私の顔に、自然と笑みが浮かぶのを感じる。このままジッと彼女を見ていたいけど、この女悪魔を早く治さなきゃ。

お母さんの料理はとっても美味しい。偶にお母さんと最近新しく家に住み始めたカインと一緒に外食をする時はあるけど、私はお母さんの料理の方が好きだ。

特に私が大好きなのは今回のご褒美のアップルケーキ。多分お母さんのアップルケーキの為ならこの冥界を滅ぼせると思う。

 

 

「な、なんだコイツは!?」

 

「……あ、悪魔だ」

 

 

後もう少しで女悪魔の治療が完了するという時に、空から沢山の悪魔達がやって来た。その中でも偉そうな悪魔が私達に順番に目を向けると、私の前……今治療している女悪魔で目が止まった。

 

 

「おい小娘、その女に何をしている?」

 

「……治療。治せばご褒美が貰えるの」

 

 

偉そうな悪魔に聞かれたから私は正直に答えた。するとその偉そうな悪魔が突然炎の塊を放って来たから、私は高速移動で回避する。自分ではよく分からないけれど、お母さんから見たら瞬間移動している様に見えるらしい。

 

 

「な!?は、速い!!」

 

「……どうして攻撃するの?私は何も悪い事はしていない筈」

 

「ふ、ふん!貴様がその女を治療しているからだ!その女を殺す邪魔をするならば、貴様とそこで寝ている女を殺す!さぁ、その女を渡せ!」

 

「……………」

 

 

私はその悪魔が言っている事を理解した瞬間、凄まじい殺意を感じた。今あの悪魔は何て言った?私のお母さんを殺すって言った?あの悪魔がお母さんを殺すイメージが全く湧かないけれど………私と、お母さんに害を及ぼす彼は絶対に排除する。

 

 

「……聖杯システム、アヴァロン第2形態起動。外敵排除システム起動」

 

『外敵排除システム起動。治療と並行して外敵を排除します』

 

 

私がアヴァロンの外敵排除システムと第2形態を起動させると、アヴァロンは左右に3つずつ巨大なアームを伸ばし、左側のアームが巨大な金の装飾が施された大剣を握り、右側のアームが巨大な黒い槍を握り締めた。

悪魔達はアヴァロンの形が変わった事に驚いている。

 

 

「な、なんだ!?変形したぞ!?」

 

「おい小娘!貴様何のつもりだ!!?」

 

「………貴方達は、私とルシファーの敵と判断した。よって、私は貴方達を排除する」

 

 

私の言葉を聞いた偉そうな悪魔は顔に青筋を浮かべて仲間に攻撃するよう命令した。多数の火の玉や雷の槍が私に向かって放たれたが、そんな物ではアヴァロンには傷1つ付く事はない。

私は無傷のアヴァロンを見て驚き動きを止めた悪魔を次々と槍で貫き、大剣で両断して行った。

 

 

「く、クソ!小娘を狙え!あのデカ物を操っているのはあのガキだ!」

 

「そ、それが…あのデカいのが速過ぎて攻撃が当たらないんですよ!」

 

「……迎撃システム。リワインドブラスター、起動」

ドドドドドドドドドドドドッ!!!

 

「ギャァァァァァァァ!!?」

 

「グワァァァァァ!!」

 

 

アヴァロンから64発の住複属性弾が悪魔達に向かって放たれた。放たれた住複属性弾は空中を逃げ惑う悪魔達を次々と撃ち落とし、遂に残りは仲間達が落ちて行くのを唖然と見ているあの偉そうな悪魔だけになった。

アヴァロンが大剣を振り上げると、我に返った悪魔が意味がよく分からない事を叫び始めた。

 

 

「ヒィ!?き、貴様!この私を殺す事がどういう事か分かっているのか!?私を殺せば旧魔王派の仲間達が黙ってn「……うるさい《 ザンッ!! 》」ガハッ!!?」

 

 

その悪魔はアヴァロンの大剣によって一刀両断された。私は他にも彼等の仲間が辺りに潜んでいないかアヴァロンに索敵させる。

 

 

『………周囲に敵対反応無し。外敵の全滅を確認。第2形態から第1形態へ移行。外敵排除システムを終了します』

 

「……お疲れ様、後は彼女の治療だけね………?」

 

 

私はアヴァロンに労いの言葉を掛けて治療の約98%が終わっている女悪魔に目を向けた時、ふと彼女の違和感に気付いた。さっきまで戦っていた悪魔達と同じ気配がしていたのに、今は何か違う物が混ざっている感じがする。

 

 

「………あ、しまった」

 

 

私が違和感の正体に気付いた時には既に遅く、丁度お母さんが目を覚ましてしまった。………どうしよう?

 

 

 

 

 

 

ルシファーside…

 

 

「はぁ……どうしたものか」

 

 

私の目の前で眠っている傷跡すら残っていない女性悪魔を見ながら悩んでいた。私が眠りから目覚めた頃には彼女の治療は終了し、寝ている間に襲撃して来た悪魔達はアヴァロンが全て倒していてくれた。

コレだけなら全く問題無いどころか完璧だったのだが、問題はこの眠っている女性悪魔の変化だ。

 

 

「まさか種族が変化してしまう(・・・・・・・・・・)とは……」

 

「……ごめんなさい、ルシファー」

 

 

アヴァロンは申し訳なさそうにペコリと頭を下げて謝って来た。確かに治療は成功したのだが、女性悪魔の種族が悪魔とモンスターのハーフになってしまったのだ。

原因はおそらく輸血に使用した血だ。アヴァロンは今回初めて外の世界の住人の治療を行った。そして治療の際、足りない彼女の血を輸血したのだが、この輸血で使用した血はモンスター界のモンスターの血だったようだ。

そしてアヴァロンの検査の結果、彼女は私達モンスターと外の世界の悪魔のハーフになってしまったらしい。

 

 

「これは、どうすればいいんだ……?」

 

「………う、うぅん」

 

「「ッ!!?」」

 

 

私が腕を組んでどうするか考えていると、件の彼女が目を覚ました。私達とは対の銀色に輝く長髪をしており、モデルさんの様な整った顔と容姿をした美女だ。

彼女はしばらくぼんやりと空を見上げていると、突然ガバッ!と体を起こし、自分の首や胴体を何かを確かめる様に触り始めた。

 

 

「い、生きてる?……夢?じゃ、ないわよね」

 

「目が覚めたか……具合はどうだ?」

 

 

私は目が覚めたばかりの彼女に話し掛けてみた。すると彼女は私達の方を向き、目を見開いた。

 

 

「ッ!!?あ、貴女は…さっきの?」

 

「あぁ、いきなりで済まないが……少しいいだろうか?」

 

「え?あ、はい…」

 

 

私は彼女に、かまいたちに襲われている所を助けた事、怪我が酷かった為アヴァロンの能力で治療した事、そしてその際事故で彼女の種族が変化してしまった事を話した。

彼女は黙って私達の話を聞き、口を開いた。

 

 

「そうですか……ちょっと不思議な感じですね。モンスターとは…」

 

「済まない。今回の事は全て私達の責任だ」

 

「いえいえ!滅相もありません!御2人のお陰で私は生きているんですから、感謝こそすれ恨みはしません」

 

 

彼女は笑顔でそう言ってくれた。過去に何度か仕事中に外の世界の悪魔と遭遇した事はあるが、彼女の様な悪魔は初めてだ。因みにそれ等は基本私に襲い掛かって来るのでエナサーで消した。

私とアヴァロンがちょっとホッとしていると、今度は彼女が質問して来た。

 

 

「ところで、私はこれからどうなるんでしょうか?」

 

「取り敢えず私達の住むモンスター界に一緒に来てもらう。最悪向こうに住まないといけなくなったら私が責任を持って家で預かろう」

 

「分かりました。私も出来れば貴女方に恩を返そうと思っていましたし、出来ればメイドとして雇って欲しいぐらいです」

 

 

メイドか……確かに彼女の服はボロボロになってはいるがメイド服だ。私としても彼女の願いを出来るだけ叶えるつもりだから、別に構わないな。

………少し複雑ではあるが。

 

 

「分かった雇おう。さて、早く行こう。また悪魔達が来ては面倒だからな………そういえば名前をまだ聞いていなかったな?」

 

「あぁ、申し遅れました。私はグレイフィア・ルキフグス。グレイフィアとお呼びください」

 

「グレイフィアか……いい名前だな。この子はアヴァロン。私はルシファーだ。呼びやすい言い方で呼んでくれ」

 

 

彼女は私の名前を聞くと少し驚いた表情を浮かべたが、すぐに「よろしくお願い致します。アヴァロン様。ルシファー様」と言って綺麗な一礼をした。

そして私とアヴァロンはグレイフィアを連れてモンスター界に帰還した。



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神々からの面倒な仕事

ルシファーside…

 

 

「ルシファー様、紅茶のお代わりは如何ですか?」

 

「うむ、頂くとしよう」

 

 

私は蒼と白のロングスカートのメイド服を着た銀髪の美しい女性…グレイフィアに微笑みながら礼を言った。彼女も顔に小さく笑みを浮かべて空になったティーカップにポットに入った紅茶を注ぐ。

私とアヴァロンがグレイフィアと出会ってから早くも約2000年程か?まあそれくらいの年月が過ぎた。あの日から彼女は私達の家で一緒に暮らす事になり、今はメイドとして家事の殆どを彼女がやってくれている。

まぁ、彼女が今の様になるまで少し時間が掛かった。どうやら彼女は昔カインが暴れていた戦場で何度も死に掛けた事があったらしく、家のソファーに寝転びながら漫画を読んで笑っていたカインが目に入った瞬間私の後ろに隠れて子犬みたいにプルプル震えていた。どうやらかなりのトラウマになっているらしい。

今ではなんともないが、カインに慣れるまでずっと私から離れる事は無かった。グレイフィアが慣れるまで、トラウマ対象であるカインは偶に涙目になりながら自分の部屋にトボトボ戻って行く事が何度かあった。

 

 

「………ふぅ、やはりグレイフィアが淹れる紅茶は美味いな」

 

「ありがとうございます」

 

 

私は淹れてもらった紅茶を飲んでホッと息を吐いた。彼女が淹れる紅茶はとても美味しい。初めて飲ませて貰った時はその美味しさに驚いたものだが、ここでの生活で更に美味しくなった。なんでも茶葉の専門店で知り合った蓬莱(ほうらい)という古代中国で、東の海上にある仙人が住むと言われた仙境の一つである理想郷がモデルとなったモンスターに色々教えて貰ったらしい。

私も彼女とはカナンの紹介で知り合ってはいるが、かなり気難しい性格なのでよくグレイフィアが気に入られたなと今でも思っている。

 

 

「おぉ〜!このクッキー美味いな!グレイフィア!」

 

「………うん、美味しい」

 

 

私の座っているテーブルの向かい側の椅子では、カインとアヴァロンがグレイフィアが焼いたクッキーを美味しそうに頬張っている。2人の反応にグレイフィアは嬉しそうに微笑み、綺麗に一礼した。

私達がそんな風にゆっくり過ごしていると、玄関のインターホンが鳴った。はて?今日は家に来客がある予定は無いはずだがな。

 

 

「宅配便でしょうか?少し失礼します」

 

 

グレイフィアは疑問符を浮かべながらもペコリと一礼して玄関に向かった。私達が彼女を見送ってしばらくすると、玄関の方からグレイフィアと聞き覚えのある男性…ゼウスの声が聞こえて来た。

 

 

『ちょ!?何故無言で扉を閉めようとするのだ!私はルシファーに要があるのだ!中へ入れてくれ!』

 

『ダメです!貴方の事ですからどうせまたヘラ様のご機嫌を損ねたからルシファー様を頼りに来たのでしょう!少しはご自分でご機嫌を直して下さい!』

 

『ち、ちちち違う!今回()ヘラちゃんのご機嫌は損ねていない!今日はルシファーにどうしても頼みたい仕事があるから来たのだ!』

 

 

その後もずっと2人の言い争いが玄関から聞こえ続けた為、私は仕方なく溜め息を吐きながらも席を立ち、玄関に向かった。

しかしゼウスが態々家に来る程頼みたい仕事か……また何かロクでもない事をやらかしたのではないだろうな?

私は実際にあり得そうな予想をしながらカイン達といたリビングを出て、廊下を進んで玄関に向かった。そして玄関に着くと、そこではチェーンロックが掛かったドアの隙間から中に無理やり入ろうとしている何故かピチピチのスーツを来たゼウスと、彼を入れまいと必死にドアを押しているグレイフィアの姿があった。

 

 

「いいから入れたまえぇ!!後は私が話すから……!」

 

「ダメですって!お引き取り下さいゼウス様!」

 

「……何をしているんだお前達は?」

 

 

 

 

 

 

取り敢えず私はゼウスを家に入れ、話を聞く事にした。グレイフィアはかなり不満そうな顔をしていたが、私がお願いすると何故か少し頰を赤く染めながら了承してくれた。

 

 

「………それで?いったい私に何の用だ?」

 

 

私は向かいのソファーに座るゼウスに気怠げに質問した。どうせコイツの事だから非常に面倒な仕事を持って来たのだろうと容易に想像出来るからだ。

特に普段は着ないスーツを着て家に直接訪れる時は、基本的に私に断られる可能性が非常に高い仕事なのだ。前回は外の世界でとある娘の教育係になってくれというものだった。ただし、その娘は将来的にそこ等一帯の地域を統べる長になる為、成長してからもしばらくの間一緒に仕事をやり、仕事を引き受けてから終わるまで200年程は掛かった。

 

 

「うむ、其方に頼みたい仕事があってな。単刀直入に言うと、人間界にある駒王町という町の管理をして欲しいのだ」

 

「よしグレイフィア、お客様のお帰りだ」

 

「畏まりました。さぁゼウス様、お帰りはこちらです。もう二度と来ないでくださいませ」

 

「そこは『またいらしてください』ではないのか!?いや待て!待ってくれ!責めて話だけでも聞いて欲しい!」

 

 

私はさっさと帰してしまおうと思ったが、あまりにも必死になっていたので話だけでも聞いてやる事にした。取り敢えず色々聞きたい事はあるが、先ずは何故そんな事をする必要があるのか聞くとしよう。

 

 

「何故そんな事をする必要がある?」

 

「うむ、其方は外の世界の悪魔共が作った“悪魔の駒(イーヴィル・ピース)”なる物を知っているか?」

 

 

“悪魔の駒”…外の世界の悪魔共が戦争で減った悪魔を増やす為に作った他種族を下僕悪魔に転生させる道具だったな。正直言って私はアレは不愉快に感じている。双方合意の上でその後の事もちゃんと保証するならば勝手にやればいいが、その中には他種族を騙したり、脅したりなどして無理矢理転生させる悪魔が多い。それに強制的に下僕悪魔にする為、転生させられた側はその悪魔を恨み、殺したり裏切ったりなどして“はぐれ悪魔”という所謂お尋ね者の悪魔になる者も多いのだ。

 

 

 

「知っている。だがそれが今回の仕事となんの関係がある?」

 

「実は駒王町では最近、その“悪魔の駒”で転生したはぐれ悪魔や、堕天使などの連中が人間達を襲う事件が増えて来ていてな。日本神話の神々と話し合った結果、私達モンスター界の誰かに管理をしてもらう事になったのだ。そこで白羽の矢が立ったのが……」

 

「私という訳か……」

 

 

しかしそれは別に私ではなくてもいいのではないか?例えば親友の大天使であるウリエルやラファエル、ミカエルは……管理には向かないか。だがガブリエルでもいい。他にも沢山の管理に向いた能力を持ったモンスターは居るはずだ。

 

 

「その通りだ。だが、それだけじゃあない」

 

「ッ!それは………」

 

 

ゼウスはそう言うと1枚の紙を取り出した。その紙はとても長いのか折り畳まれており、水色の文字らしきものが書かれていた。私はその紙を見て何故私なのか理解した。

 

 

「ノストラダムスの予言か……」

 

「その通りだ。実は日本神話の神々と話し合いをする数日前、アンゴルモアが私にこの紙を渡しに来たのだ」

 

 

ノストラダムスとアンゴルモアは2人で1人のモンスターだ。ノストラダムスは未来を見る事が出来る預言者で、その予言は100%的中する。だが彼女は超が付く程説明が下手で、何時もアンゴルモアが口から予言が書かれた紙を吐き出すのだが、その紙に書いてあるのはまるで暗号のようになっているのだ。

文字だけなら私も読む事は出来るので、ゼウスから予言書を受け取り、読んでみた。

 

 

【堕天の王が守りし盤上の町に、力無き赤き王が降り立つ時、赤き龍の力を持つ愚かな人が命を落とす。生まれ変わりし赤き龍は、力無き赤き王の僕となり、堕天の王が守りし盤上の町に数多の人ならざる者と共に災を呼び寄せる】

 

「“堕天の王”を名乗るのは外の世界とモンスター界を含めても其方のみ。そして“盤上の町”とは、おそらく駒王町の事であろう」

 

「それで私か……」

 

 

さて、どうするか……ハッキリ言ってしまえば私は面倒そうだからやりたくはない。だがノストラダムスの予言には私が町の管理をしていると読み取れる。予言は内容と別の行動を取れば多少未来は変えられるが、基本的な部分は変わらない。つまり今断っても結局は私が引き受ける事になるだろうな。

しかし私1人で町1つを管理しきれるだろうか?

 

 

「あぁ…言い忘れていたが、既に其方が町を管理するのに協力してくれる者達は揃っている。最初は皆微妙な顔をしていたが、君が引き受けてくれるかも知れないと知るとすぐに了承してくれた。ただ人数が多かった為、私がその中から選ばせてもらったがな」

 

「………はぁ、分かった。引き受けよう。ただし、カインとアヴァロン、グレイフィアは連れて行かせてもらうぞ?」

 

「勿論だ。駒王町には既に其方が気に入りそうな家を用意してある。引越し業者も既に呼んでおいた。必要な物があれば連絡してくれたらすぐに送ろう。それと日本神話側から其方の手伝いをしたいと申し出てくれた者がいる。その者は話をしてすぐ駒王町に向かったらしいぞ。生活費や戸籍などについては全て私と日本神話の神々が用意するので安心したまえ」

 

「………貴様まさか、私が断ろうとしたらその話を持ち出して断れなくするつもりだったのではあるまいな?」

 

 

私がジト目でゼウスを見ると、ゼウスの顔の笑みがピシリと固まり、そのままゆっくりと立ち上がった。そして次の瞬間………。

 

 

「ではそういう事で!私は他にもやる事があるので失礼する!さらばだルシファーよ!!」ガシャーーン!!!

 

「待て貴様!!人の家の窓を割って逃げるんじゃない!!我、堕天の王なり……!!

 

「それは流石にやり過ぎではないか!?ちょ!もう追い付いて来…ギャァァァァァァァァ!!!」

 

 

窓を突き破って空へ逃げたゼウスに私は“ストライクショット”をお見舞いした。ゼウスが私の軍勢に撃ち落とされたのを眺めた後、私はグレイフィア達に引越しの準備をするよう命じた。

 

 

 

 

 

 

あれから1週間後、私はグレイフィア達と一緒にこれからしばらく管理をする駒王町にやって来ていた。

 

 

「ここが駒王町か……思ったよりいい町だな」

 

「へぇ〜?外の世界もかなり発達した様だな」

 

「………2000年ぐらい外の世界に来なかったら、これぐらいは当然」

 

 

カインは久しぶりの外の世界が珍しいのかキョロキョロと辺りを見渡している。因みに私とカインは流石にそのままの姿だと人間界では色々とマズイので、普通の人間の姿になっている。私は翼を仕舞い、黒いシャツの上に私の角の様な紫の模様が付いたフードが付いた白いパーカー。下はショートパンツにスニーカーという動きやすい服装。カインは肌が普通の人間の色になり、赤いパーカーにジーパン姿をしている。

 

 

「グレイフィア、他の皆はどうした?」

 

 

私は少し後ろに立っているメイド服姿のままのグレイフィアに質問した。他の皆とは今回町の管理を手伝ってくれる者達の事だ。ガブリエル、天草四郎時貞(あまくさしろうときさだ)(さくら)

アリス、卑弥呼(ひみこ)、そして小野小町(おののこまち)の計6名が今回私を手伝ってくれる者達だ。

 

 

「皆様なら既に自分達が住む家に向かいました」

 

「そうか、なら私達もこれから住む家に向かうとしよう」

 

「新しい家かぁ……なんだか楽しみだなぁ♪」

 

「………うん、楽しみ」

 

 

私達はこれから住む家に向かって町を観察しながら歩き出した。こうして、私達は駒王町の管理をする事となった。



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神社に鳴り響く天使のラッパ

ルシファーside…

 

 

(……この辺りも異常なしだな)

 

 

日が傾いて夕日に染まり始めた駒王町を、私は人間の姿になって巡回していた。

この駒王町の管理を任されてから2年が経過し、管理の仕事やこの町での生活にも十分慣れた。管理の仕事は思っていたより簡単で、町で人間を襲っている悪魔や堕天使などの人外を討伐しておけば、後は町に異常がないか巡回して週に1回日本神話の神々に報告しておけば後はほぼ自由だった。

最初は既に町に侵入していたはぐれ悪魔共の討伐と、次いでに町を根城にしていた人間の犯罪者共を縛り上げて警察に通報するのに忙しかったが、そこは日本神話側が送ってくれた助っ人と、一緒に町の管理をしてくれているガブリエル達のお陰で早く済んだ。その助っ人は今休暇中でこの町にいないので、紹介はまた今度にしよう。

 

 

(さて、後は神社の近くを見て終わりだな。確か今日の夕飯はシチューだとグレイフィアが言っていたな。早く済ませて帰るとしよう)

 

「……ん?あ、ルシさ〜ん!パトロールの帰りですか?」

 

 

歩く速さを少し上げて巡回ルートを歩いていると、背後から声を掛けられた。私が足を止めて振り返ると、制帽を被った少し癖のついた緑色のロングヘアーの少女…ガブリエルが手を振りながら駆け寄って来た。女性の郵便配達員を思わせる紺色の制服を着て、首には愛用のゴーグルを掛け、黒い革の集配バッグを肩から掛けた服装をしているから今は進化の姿だな。しかし相変わらず元気いっぱいだな。

 

 

「なんだガブか……進化の姿という事は、戦闘でもあったのか?」

 

「そうなんですよ。実はさっきすぐそこの空家に住み着いていたはぐれ悪魔に襲われましてね……あ、勿論ちゃんと討伐しましたよ?」

 

「逃していたら私と呑気に話をする訳ないだろう?もし出来てなかったら私が直々にお前を鍛えてやる」

 

「あははぁ〜………冗談ですよね?」

 

「さぁて、どうだろうな」

 

「ちょ!それどういう意味ですか!?ねぇルシさ〜ん!」

 

 

フフフ♪ガブリエルを揶揄うのはやはり面白いな。焦った様子の彼女はとても可愛らしい。

私は我慢出来ずにクスリと小さく笑ってしまった。それを見てガブリエルは自分がまた揶揄われていると気付いて今度は頬をプク〜ッと膨らませて怒り出した。元々可愛らしい顔をしているから全く怖くないな。

 

 

「ま、また私を揶揄ってますね!?もぉ〜〜!!酷いですよルシさん!」

 

「フフッ♪済まない。お前の反応が可愛らしいのでな、ついやってしまう」

 

「か、かわッ!?いきなり何を言うんですかルシさん!!」///

 

 

ガブリエルは顔を真っ赤にさせながら怒っているが、今のは本当の事を言ったまでなんだがな。

 

 

「ところで、町に侵入した()のはぐれ悪魔はいるか?」

 

「……いいえ、残念ながらいません」

 

 

私がそう聞くと、ガブリエルは少し残念そうにしながら首を横に振った。私達が言う《白のはぐれ悪魔》とは、止むを得ない理由で主人を裏切ったり、濡れ衣を着せられてお尋ね者にされた転生悪魔などの事だ。

はぐれ悪魔には2つの種類がある。1つは自分の力に溺れて主人を殺害し、自分の快楽の為に人間を襲い、殺したり喰らう《()のはぐれ悪魔》。

そして悪魔に騙されたり、弱味を握られ強制的に悪魔に転生され、主人の悪魔からの虐待などが原因で主人を殺害または裏切ったりしてお尋ね者にされた《白のはぐれ悪魔》の2種類だ。

黒のはぐれ悪魔はそのまま野放しにしておくと人間達を襲ったりする為、見付け次第討伐している。だが白のはぐれ悪魔は見付けたら先ず会話を持ち掛け、私達が“白”と判断出来たらアヴァロンによる治療を受けてもらう。

人間などの他種族は“悪魔の駒”を体内に入れられる事でその駒の持ち主の下僕悪魔に転生する。それをアヴァロンによる治療で摘出して元の種族に戻す(・・)のだ。普通こんな事は不可能なのだが、現代医療を遥かに凌いでいるアヴァロンがするならば話は別になる。そして元に戻した者達は全員モンスター界で第2の人生を送ってもらっているのだ。

私は出来るだけ白のはぐれ悪魔はなんとかしたいのだが……来ていないのなら仕方がないな。

 

 

「そうか……まぁ、いればラッキー程度に聞いてみただけだ。見付けたら知らせてくれ」

 

「ッ!はい!了解であります♪」

 

「フフ♪……うむ、期待しているぞ」

 

 

ガブリエルとそんな会話をしながら巡回していると、パァン!と何かが弾ける様な音が聞こえた気がしたので、一度足を止めて周囲を見回した。今いる場所は神社に続く石階段前の道。今まで何度もこの道を歩いて来たが、あんな音が聞こえたのは今回が初めてだ。それにあんな音がする物はこの付近には無いはずだが……?

 

 

「どうしたんですかルシさん?」

 

「いや……今何かが弾ける様な音が聞こえた気がしたんだが、ガブは何か聞かなかったか?」

 

「え?弾ける様な…ですか?私は気付きませんでしたけど……」

 

 

やはり気の所為か?だがどこかで聞いた事がある様な音だったのだが……どこで聞いたんだったか。

私がなんとか思い出そうとしていると、再び先程と同じ音が聞こえた。今度はガブリエルも聞こえた様で、私と一緒に音が聞こえた神社の方を見た。

そうだ思い出した!あれはこの町を管理して初めて人間の犯罪グループを潰しに行った時に聞いた……銃の発砲音だ!!

 

 

「ッ!!ガブリエル!先に行くぞ!!」

 

「え!?ちょっとルシさん!待って下さいよぉ〜……」

 

 

私は神化の姿になって翼を広げて空に舞い上がり、銃声がした場所…姫島(ひめじま)神社の裏の居住区に向かった。

 

 

 

 

 

 

「おい朱璃(しゅり)!!大人しくその子供をこちらに渡せ!その子供はあの忌々しき邪悪な黒い天使の子供なのだぞ!」

 

 

姫島神社の居住区の前では、10人程のローブの様な服を着た男達が1人の女性と小さな女の子を取り囲んでいた。男達はそれぞれ手にナイフや剣を握り、1人だけナイフと一緒に拳銃を握っている。朱璃と呼ばれた女性は右腕から血を流しながら女の子を守る様に抱き締めていた。

男達のリーダーらしき拳銃を握った男に子供を引き渡すよう言われた女性は、女の子を抱き締める力を強めて首を横に振った。

 

 

「嫌です!!この子は私の……あの人と私の大事な娘です!絶対に渡しません!!」

 

「か……母さま………」

 

 

抱き締められている女の子は、右腕から血を流している自分の母親を今にも泣きそうな顔で見上げた。あまり詳しく状況を理解出来ていないが、朱璃が自分を守ろうとしてくれている事は分かっているのだろう。朱璃は右腕を撃たれて激痛が走っているのにも関わらず、自分の娘に優しく微笑みながら安心させる様に優しい声で話し掛けた。

 

 

「大丈夫よ。貴女は絶対に渡さないわ。安心しなさい」

 

「う…うん……」

 

 

女の子はガタガタ震えながらも、必死に朱璃に抱き着きながらコクリと頷いた。朱璃はそれを見て安心したようだが、男達のリーダーはそれが気に食わなかったのか、痺れを切らして銃口を朱璃に向けた。

 

 

「フン!どうやらあの堕天使に心まで汚されてしまったようだな朱璃よ。ならばその子供の前に、貴様から先に始末してやる!!」

 

 

銃口を向けられた朱璃はキッ!とリーダーを睨み付けながら自分の娘を更に強く抱き締めた。自分の母親が危ない事を悟った女の子は母親を引き離そうと暴れるが、大人と子供では力の差があり過ぎて腕から抜ける事が出来ない。

 

 

「……ッ!!ごめんなさいね」

 

「いやぁ!!ダメ!母さまぁぁぁぁぁ!!!」

 

「………死ね」

 

 

パァン!!と乾いた破裂音が鳴り響き、リーダーの持つ拳銃の銃口から1発の弾丸が朱璃の命を奪う為に放たれた。朱璃は我が子を守ろうと目を固く閉じて襲って来る痛みに備え、愛する夫と娘に謝った。抱き締められた女の子は自分の母親の顔を見て涙を流し、泣き叫んだ。

そして放たれた弾丸は………。

 

 

「「「「「ッ!!?」」」」」

 

「な、何ぃ!?」

 

「………え?」

 

 

空中で停止(・・)した。取り囲んでいた男達やリーダーは突然の出来事に顔を驚愕に染め、痛みが襲って来ない事に疑問を抱いた朱璃は恐る恐る顔を上げ、目の前で止まっている弾丸を見て目を見開いた。

弾丸は薄っすらと紫色の光に包まれており、やがてその光が消えると、弾丸は力無く地面に落ちた。

 

 

「私が管理するこの町で、随分とふざけた真似をしているな…?」

 

 

男達と朱璃が突然の出来事に唖然としていると、朱璃と女の子の背後に空から1人の少女…ルシファーが降り立った。男達はルシファーの容姿を見て一瞬見惚れていたが、すぐに気を取り直して武器を構えた。

ルシファーは詰まらなそうに彼等を見た後、自分の側にいる親娘に視線を向けた。朱璃が腕を怪我していたのを見て少し顔を歪めたが、2人共生きているのを見てルシファーは安心した。

 

 

「ふぅ……間に合った様で良かった。すぐに終わるからそこを動くなよ?」

 

 

ルシファーの言葉に朱璃は少し混乱していたがコクコクと頷いた。するとリーダーが突然現れたルシファーに拳銃を向けながら叫んだ。

 

 

「おい!何者だ貴様!?人間ではないな!?」

 

「黙れ、それくらい見れば分かるだろう。私はこの町を管理している者だ。貴様等、私が管理する町で何をしている?」

 

 

ルシファーに睨み付けられてリーダーは数歩後退ったが、なんとか気を取り直して問いに答えた。

 

 

「そこの女は忌々しき邪悪な堕天使に心を汚され、それの子供を産んだ!我が一族は他種族の存在を許さん!よって我々はその女と、堕天使の子供を始末せねばならん!邪魔をするなら、貴様から消してやる!死ねぇ!!」

 

 

リーダーはルシファーに向かって残っていた3発の弾丸を放った。朱璃は危ないと叫ぼうとしたが、弾丸がルシファーが展開したバリアに弾かれたのを見て固まった。

 

 

「な!?神器(セイクリッド・ギア)か!!?」

 

「はぁ……うるさいな。……ガブ!準備はいいな?」

 

「はぁ〜い!ラッパさん達は全員配置OKです!」

 

 

男達が新たに聞こえて来た女性の声がした方を見ると、背中に6枚3対の純白の翼を広げ、頭上に光の輪を浮かばせたガブリエルが神社の屋根の上に立っているのを見つけた。それと同時に、いつの間にか自分達の周囲に沢山の羽が生えたラッパが浮いている事に気付いた。

ガブリエルは鞄から先端が百合の花の様な形に開いた金色のラッパを取り出すと、ニコリと笑った。

 

 

「ちょっぴりビリビリさせちゃいます♪スゥ……」

パァァァァ!!!

バチバチバチバチバチバチバチッ!!!!

 

「「「「「ギャァァァァァァァァ!!?」」」」」

 

 

ガブリエルがラッパを吹くと、羽根が生えたラッパが電撃を放ち、バリアに守られているルシファーと親娘以外は全員感電し、意識を手放した。

 

 

 

 

 

 

ルシファーside…

 

 

「やり過ぎだぞガブ。死んでないか?」

 

「ちゃんと手加減したので大丈夫ですよ!」

 

 

神社で親娘を襲っていた男達は全員ガブリエルの電撃によって気を失った様だ。ガブリエルは手加減したと言っているが、これは生きているのだろうか?

私が黒焦げになってピクリとも動かない男達をチラ見していると、襲われていた親娘が話し掛けて来た。母親は右腕を撃たれた様だが、2人共命に別状は無くて私は内心ホッとしている。

 

 

「あ、あの…助けて頂き、ありがとうございました」

 

「うむ、気にするな。2人共無事で何よりだ。お前も怪我はないか?」

 

 

私が母親にしがみ付いている女の子に出来るだけ優しい笑みを浮かべながら聞いてみると、彼女は少しポ〜ッとするとすぐに答えてくれた。……少し顔が赤い様だが大丈夫か?

 

 

「(わぁ…すっごくキレイな人///)…う、うん。ありがとう、母さまと私を助けてくれて」

 

「フフッ♪さっきも言ったが気にするな。怪我がないならそれでいい」

 

「(〜ッ!///)あ、あの!私、姫島 朱乃(あけの)!お姉さまの名前は?」

 

「ほう、朱乃か…いい名前だな。私はルs「朱璃ぃぃぃぃぃぃ!!朱乃ぉぉぉぉぉ!!」……今度はなんだ?」

 

 

私が朱乃に名前を言おうとした瞬間、親娘の名前を呼ぶ叫び声が聞こえて来た。全員が声のした方を向くと、1人の堕天使が体に電気を纏いながら猛スピードで飛んで来ていた。おそらく朱乃の父親だろう。

 

 

ッ!!何をしている貴様等ぁぁぁ!!朱璃と朱乃から離れろぉぉぉぉぉ!!

 

「ちょ!?あれ完全に私達を敵だと思ってますよ!?」

 

 

うん、一目見れば分かる。このままだと面倒な事になりそうなので私達は逃げるとしよう。

 

 

「仕方がない。ガブ、逃げるぞ。ではな朱乃、達者で暮らすのだぞ!」

 

「あ!ちょ、ちょっと待って!!」

 

 

私達は翼を広げ、向かってくる堕天使と反対方向に向かって飛び去った。あの堕天使よりも私達の飛ぶスピードの方が早いので追い付かれる事はないだろう。……あ、しまった。まだ名前を言っていなかった。……まぁ、いいか。

 

 

 

 

 

 

一方名前を聞きそびれた朱乃は、ルシファー達が飛び去って行った空を悲しげな表情で見詰めていた。自分と朱璃を助けてくれた命の恩人である2人…特にルシファーの名前を聞きそびれてとてもショックだったのだ。

2人が飛び去ってから少し遅れて纏っていた電気を消して神社に降り立った朱乃の父親…バラキエルは、ルシファー達が飛び去って行った空を悔しげに睨み付けた。

 

 

「クッ!取り逃がしたか!朱璃!朱乃!無事だったか!」

 

「ッ!父さまのバカ!!もう知らない!!

 

「………え?」

 

 

バラキエルは愛する妻と娘の無事を確認したが、朱乃は涙目になりながらバラキエルに向かって怒鳴ると家に向かって走り去って行った。バラキエルは愛する娘に怒られて石化した様に固まってしまい、2人の様子を見ていた朱璃は深い溜め息を吐いてやれやれと頭を振った。

 

 

「………?……ッ!」

 

 

朱乃が家に入ろうとすると、目の前に綺麗な紫色の羽が舞い降りて来た。朱乃はそれがルシファーの羽だと気付くと大事そうにそれを手に取った。

その後、バラキエルは朱乃に嫌われてしまい、朱乃は紫色の羽を自分の宝物にし、いつかまたルシファーに会いたいと願うようになった。



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堕天使が拾った白の黒猫

駒王町のとあるビルの1階部分に、“旋律の翼”というバンドや音楽が好きな者達がよく集う喫茶店があった。中はとてもお洒落で落ち着く雰囲気のある内装ではあるが、店の入口から左手に小さなステージがあり、店に来るバンド達が偶に演奏を行ったりしている。

この日もお店には学校帰りの学生やバンドを組んだ若者達がちらほらと来店しており、皆お店で出されるマスター手作りのケーキやオムライスなどの料理を美味しそうに食べながら会話を楽しんだり、小説を読んだりしていた。

そんな彼等をこの店でマスターをしている白髪に白い髭を生やした初老の男性が、カウンターの向こうでコップを拭きながら優しい笑みを浮かべて眺めていた。

 

 

カラン♪カラン♪

「いらっしゃ……おや、君か」

 

「あぁ、何時ものを頼む……」

 

 

お店の扉を開いて入店した黒いシャツの上に白いパーカーを着た金髪の少女……ルシファーは、まっすぐカウンター席に座りながらマスターに注文をした。店のマスターは彼女の注文を聞いて「分かったよ」と頷き、コップにアイスコーヒーを注いで彼女の前に出した。

ルシファーは礼を言ってアイスコーヒーをストローで飲み、少し乾いていた喉を潤した。

 

 

「ふぅ……どうだ?この町には慣れたか?」

 

「大分慣れたよ。いやぁ、君が外の世界の町を管理すると聞いて驚いたけど、住んでみると意外といい町だね」

 

「私…いや、私達が管理しているんだ。いい町でないと仕事が増える」

 

 

店のマスターは「そうだね」と言いながらルシファーが何時も注文している料理を作り続ける。

この会話で察した通り、この店のマスターは人間ではなく、ハデスというギリシア神話の死者の国を支配する神がモデルとなっているモンスターだ。彼は元々モンスター界で喫茶店を経営していたのだが、2週間程前からこの駒王町でも店を開いている。ルシファーは彼の店の常連であり、モンスター界でもよくバンド仲間のサタンと茨木童子と一緒に通っていた。

因みに彼以外にも駒王町…というより人間界で活動する様になったモンスターはいる。例えばカナンは人間界で『約束の地の大冒険』の第1巻から売り出して瞬く間に人間界でも大人気漫画家になったし、他にもモンスター界でアイドルや音楽作家などをしている者が何人か人間界でも活動している。

実は何人かルシファーが人間界にいるからという理由で人間界に来た者がいちゃったりするが、彼女は知らない。

 

 

「はい。オムライス、お待ちどう様」

 

「あぁ、ありがとう」

 

 

ハデスがルシファーの前に置いた皿には、とても美味しそうな出来立てのオムライスが乗っていた。これはルシファーの好物で、この店に来るとほぼ毎回これを注文している。ルシファーはハデスに礼を言うと、スプーンを手に取って出来立てのオムライスを食べ始めた。

 

 

 

 

 

 

ルシファーside…

 

 

〜1時間後〜

 

「ご馳走様。美味かったぞ」

 

「それは良かった。また来ておくれ」

 

 

ハデスが作ったオムライスを完食した私はカウンター席に代金を置いて店を後にした。お昼休憩で昼食を食べる為に寄っていた為、これから午後の巡回をしなければならないからだ。最近ははぐれ悪魔や堕天使の被害が無いが、いつ何処から連中が町に侵入しているかはこの町では小町にしか分からないからな。

彼女は町のあちこちに巣を作っている蜘蛛が見た光景を共有する能力を持っている。一度に見れるのは8匹分までだが、過去にその蜘蛛が見た光景も見る事が出来る為、その蜘蛛が過去にはぐれ悪魔などの人外を見ていればどんなはぐれ悪魔が侵入したか分かるからとても助かっている。

 

 

「……にゃ〜…」

 

「……ん?猫?」

 

 

しばらく人気の無いルートを巡回していると、何処からか弱々しい猫の鳴き声が聞こえた。少し気になったので辺りを探してみると、物陰に怪我をしてぐったりしている1匹の黒猫を見付けた。

 

 

「誰がこんな事を……いや、それより傷の手当てをせねばな」

 

 

私はしゃがんでぐったりしている黒猫を出来るだけ優しく抱き上げた。黒猫は驚いた様子で私の腕から逃れようと暴れたが、すぐにまたぐったりとしてしまった。意識はある様だが、もう動く気力もないのだろう。

それより抱き上げて気付いたのだが、この猫から妖怪と悪魔が混ざり合った様な気配を感じる。という事は猫又か何かの転生悪魔か?

 

 

「そこの君、ちょっといいかな?」

 

「……なんだ?」

 

 

私が黒猫の事について少しの間だけ思考を巡らせていると、顔に笑顔を浮かべた30代くらいの無駄に高価そうな服を着た男性が話し掛けて来た。男の声がした瞬間、黒猫がビクリと震えてその男を見た。

 

 

「君が抱き上げているその黒猫なんだが、実は私の猫なんだ。だから私に渡してくれないかな?」

 

「ほう?飼い主という事か……だがこの黒猫は貴様を異常に嫌っている様だが?」

 

 

この男を見てから黒猫が殺気を出しながら威嚇している。それに怪我をして弱っているからあまり気にならないが、私の手からも逃れようと暴れているのだ。もしこの男が本当に黒猫の主人なら、黒猫が殺気を出しながら威嚇する事は無いだろう。

黒猫の反応を見て一瞬笑顔を消した男だが、すぐに顔を笑顔に戻した。

 

 

「いやいや、実は私がその子に熱いコーヒーを溢してしまってね。今私の事を嫌っているんだよ。その怪我は多分家を飛び出した時に何処かで負ったものだろうね。はははは…」

 

「もっと言えばこの猫には首輪が無い。それに熱いコーヒーを溢したと言うが、火傷の跡が何処にも無いぞ?……貴様、本当にこの猫の飼い主か?」

 

 

私が更に質問すると男は完全に笑顔を消し、私を殺気を込めた目で睨みつけて来た。そして男の背中から黒い羽をが出現し、彼の背後から同じ羽を持った2人の男性が現れた。

 

 

「やはり悪魔か…」

 

「ほう、悪魔の存在を知っているのか?まぁ今はそんな事はどうでもいい。その猫ははぐれ悪魔というお尋ね者だ。大人しくこちらに渡せ。そうすれば貴様の命だけは助けてやろう」

 

 

……嘘だな。猫を渡せば私を口封じだとか言って殺しに掛かって来るだろう。それに脅しのつもりか殺気を放って来るが、こんなものヘラさんのゼウスが他の女にナンパしているのを知った時の殺気に比べれば全く気にならない。

まぁ、そもそも渡すつもりは無いがな。私はどうもこの猫は悪い奴に思えないのだ。これは私の勘だが、おそらくこの猫は白のはぐれ悪魔だと思う。

 

 

「断る。私から見れば貴様等の方がはぐれ悪魔に見える」

 

「……ッ!」

 

「なんだと貴様!ならば貴様を先に始末してやる!」

 

「ハッ!やってみろ。出来るものならな」

 

 

私が挑発すると黒猫は耳をピクリと動かして私を見上げ、奴等は挑発に乗って魔力を練り上げて火球を放って来た。それを見た私は瞬時にバリアを展開し、迫り来る火球を防いだ。

 

 

「な!?貴様、神器持ちだったのか!」

 

「生憎そんな物は持っていない。さて、これ以上攻撃を続けるなら……私も容赦しないぞ?」

 

「ッ!!?ちょ、調子に乗るなぁぁぁぁぁあ!!!」

 

「「うおぉぉぉぉぉぉぉ!!!」」

 

 

私は右手に紫電を纏わせながら悪魔達に弱めの殺気を放った。奴等は汗を1雫たらりと流しながら少し後退したが、持ち前の無駄に高いプライドで持ち直し、ナイフや剣を取り出して切り掛かって来た。

引く事は先ず無いとは思っていたので、迎撃しようとしたが、その前に奴等が空中で静止した(・・・・・・・)為、私は攻撃の手を止めた。

 

 

「な!?か、体が……!?」

 

「なんだコレは!?い、()?」

 

 

慌てふためく彼等の周りには、まるで蜘蛛の巣の様に無数の細い糸が張り巡らされており、彼等は蜘蛛の巣に掛かった虫の様に糸に絡まっていた。

 

 

「人払いの結界が張られているから気になって入ってみれば……随分とお痛が過ぎる輩がおりますわね」

 

 

背後から聞き覚えのある女性の声が聞こえて振り返ると、そこには1人の美少女が妖しい笑みを浮かべて立っていた。

肩まで伸びる紫色の髪に赤と白の2種類の花の髪飾りを付け、袖を別途で腕に付ける和風のセーラー服の様な服装をし、右に四角い模様の付いた赤、左には黒色のニーソックスに、桐下駄を履いており、首には模様が付いた赤くて長いマフラーを巻いている。彼女が今町の管理を手伝ってくれている親友…小野小町だ。

 

 

「小町……また糸を張るスピードを上げたな」

 

「はい…ですが、やはりルシファーにはバレてしまいますか……私もまだまだですわね」

 

 

小町は残念そうに溜め息を吐いているが、彼女の糸のトラップを仕掛けるスピードは凄まじい。今糸に絡まっている悪魔達にはいつ糸を張られたのかすら気付いていないだろう。

 

 

「……あら?その猫は…」

 

「あぁ、はぐれ悪魔らしいのだが……私はこの猫は白のはぐれ悪魔だと思うのだ」

 

 

私が思っていた事を小町に話すと、彼女ははぐれ悪魔について書かれている紙の束を取り出してパラパラとめくった後、少し驚いた表情を浮かべた。

 

 

「……どうやらその通りのようですわ。よく分かりましたね?」

 

「ただの勘だ。それよりコイツは怪我をしている。奴等の事は頼んでもいいか?」

 

「えぇ、お任せ下さいませ♪」

 

 

糸に絡まってギャーギャー騒いでいる悪魔達を小町に頼むと、彼女は笑顔で引き受けてくれた。私は彼女に礼を言い、今度町で何か奢る約束してから猫を治療する為にその場を後にした。

 

 

 

 

 

 

ルシファーが小走りで去って行くのを、小町は妖しい笑みを浮かべながら眺めていた。表面上はいつも通りだが、内心ではルシファーと出掛けるチャンスが出来て喜んでいたりした。

 

 

(やりましたわぁ♪ルシファーとお出掛け出来るなんて何時振りでしょうか?今日は運がいいですわね♪)

 

「おいそこの人間!今すぐこの糸を外せ!コレは貴様の仕業だろう!」

 

「……あぁ、そうでしたわ。貴方方のお仕置きをしませんと」

 

 

小町は耳に入った悪魔達の怒鳴り声に顔から笑みを消し、振り返って糸に絡まる悪魔達を冷たい目で見つめた。

 

 

「おい!聞いているのか!?今すぐこの糸を外せ!」

 

「黙りなさい。彼女に攻撃をした輩を解放する気はありませんわ」

 

「ヒィ!?」

 

 

悪魔達は小町に当てられた殺気に顔を蒼ざめた。小町は殺気に震える悪魔達を睨みながら自分の側に張ってある1本の糸を指で摘んだ。

 

 

「私の糸はよく切れますのよ?では、御機嫌よう……」

 

「ま、待て!止め…」

 

 

……ベン♪

 

 

悪魔達の必死の叫びを掻き消す様に、美しい三味線の様な音が辺りに鳴り響いた。その後、糸に絡まった悪魔達の姿を見た者は、誰1人としていなかった。

 

 

花の色は〜♪うつりにけりな、いたづらに〜♪わが身世にふる、ながめせしまに…♪

 

 

 

 

 

 

黒猫side…

 

 

(……あれ?ここは…?)

 

 

私は気が付くと、何処かの部屋のフカフカのベッドの上で寝かされていたにゃ。なんで私、こんな所に居るんだっけ?えっと……確か私は駒王町で悪魔達に見つかって、撃退しながら逃げたけど攻撃を躱し切れずに食らっちゃって、咄嗟に猫の姿になって物陰に隠れて、それから………ッ!!

 

 

「そうにゃ!あの子は……!?」

 

「ん?あぁ、目が覚めたのか。調子はどうだ?」

 

 

私を抱き上げて悪魔達に渡さないと言ってくれた金髪の綺麗な女の子の事を思い出して慌てて体を起こそうとすると、部屋にある机の椅子に座って漫画を読んでいたあの子が話し掛けて来た。

 

 

「ッ!貴女……ッ!?」

 

「あまり動くな。治療した後でかなり体力を消耗している。大人しく寝ていろ」

 

 

体を起こそうとすると凄い疲れが襲って来たから、彼女の言う通りそのまま横になったにゃ。それと今更だけど、今の私は人型になっている。多分気を失っている内に解けちゃったみたいにゃ。

あの子は机に漫画を置いて私の寝ているベッドの側に来た。改めて見ると凄く綺麗な人にゃね。不思議な力を使ってたし、雰囲気的に人間じゃなさそうにゃね。

 

 

「ここはどこにゃ?」

 

「私の家の自室だ。他に家族はいるが、お前は私が連れて来たからな。私のベッドで寝かした。……さて、私もお前に聞きたい事がある」

 

 

彼女は机の側に行って数枚の紙の束を手に取りながら聞いて来たにゃ。私も怪我を治してもらっているから、コクリと頷いたにゃ。

 

 

「では聞くぞ?お前はSS級はぐれ悪魔の黒歌(くろか)で間違いないな?」

 

「ッ!……そうにゃ」

 

「よし、では続いてお前に幾つか質問する。間違っている箇所があれば正直に答えろ。いいな?」

 

 

彼女は綺麗だけど鋭い目で寝ている私を見下ろして来た。でも今まで沢山の悪魔達に向けられた犯罪者を見る様な目じゃなく、どちらかというと真実かどうか確認する様な目をしていた。その目を見て不思議と私は彼女には正直に答えようと思い、再びコクリと頷いた。

それから始まった質問の数々にはとても驚かされたにゃ。何故なら私の大切な妹の事、私達姉妹が悪魔になった理由、私がはぐれ悪魔になった本当の理由などが本当かどうか質問され、その全てが本当の事だったからにゃ。

私は何故彼女が私達…私しか知らない様な事を知っているのかと驚いて目を見開いて彼女を見詰めていたにゃ。

 

 

「ふむ……情報に間違い無し。どうやら白で間違いない様だな」

 

「な、なんでその事を知って……?」

 

「情報通な者に調べてもらっただけだ」

 

 

どんな人物にゃ?冥界の悪魔達ですら知らない様な事を知っているだけでも普通じゃないにゃ。

 

 

「さて、黒歌。私はお前に1つ提案がある」

 

「て、提案……?」

 

「うむ。はぐれ悪魔から元の猫魈(ねこしょう)に戻り、私達の世界の住民になる事だ」

 

 

私は話の意味が理解出来なかったにゃ。はぐれ悪魔から猫魈に戻る?私達の世界の住人?分からない事が多過ぎたにゃ。

私が理解出来ないでいると、それを察した彼女が丁寧に説明してくれたにゃ。先ず彼女…いや、彼女達はこの世界とは別のモンスター界という世界の住民で、その内の1人のアヴァロンっていう子の力で私の体から“悪魔の駒”を摘出して元の種族に戻る事が出来るらしいにゃ。住む家も、向こうの世界での生活も可能な限りサポートしてくれるらしい。

信じられない話だったけれど、彼女の表情は真剣で、嘘を言っているとは思えなかったにゃ。私はしばらくずっと考えて、体を起こして彼女を見上げた。

 

 

「ねぇ、“悪魔の駒”を抜いた後もこの世界にいちゃ……ダメ?」

 

「……妹の事か?」

 

 

私はそう問われると頷いた。私の大切な妹…あの子を見付けるまではこの世界を離れる訳にはいかない。もしダメって言われたら、はぐれ悪魔のままでも構わないわ。

私は腕を組んで考える素振りをする彼女をジッと見詰めた。そして数分もすると彼女は閉じていた目を開け、口を開いた。

 

 

「よし、なら私もお前の妹探しを手伝おう。妹が見付かるまではこの家で暮らすといい」

 

「……いいの?」

 

「勿論だ。まぁ私もこの町の管理の仕事があるのでな。それをやりながらだが……どうだろうか?」

 

 

彼女は首を傾げながら聞いてくるけど、それなら私の答えはもう決まっているにゃ!

 

 

「うん!お願いするにゃ!」

 

 

こうして私は彼女…モンスター界のルシファーの家で暮らす事になったにゃ。

それにしても、本当にモンスター界のルシファーって綺麗だにゃ〜///




黒歌ってこんな感じでいいんですかね?


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静寂を求める無限の龍神

ルシファーside…

 

 

「にゃ〜〜♪気持ちいいにゃ〜〜♡」

 

「そんなにいいのか?普通に撫でているだけなのだが……」

 

「これが普通なら人類の99%は撫で方がダメダメにゃん♪」

 

「いや、流石にそれは言い過ぎだろう」

 

 

私は今、家のリビングにあるソファーに座り、膝に乗っている猫の姿になった黒歌を優しく撫でている。こういった事はあまりした事は無いのだが、そんなにも気持ちがいいのだろうか?私はあまり撫でられるなんて事はされた事が無いから分からん。

 

 

「ふむ……この辺りはどうだ?」

 

「ッ!ふにゃ〜〜♡そこ気持ちいいにゃ〜〜♪」

 

 

やはり元々猫の妖怪だからかは知らないが、どうやら普通の猫が撫でられて喜ぶ所を撫でられると気持ちがいい様だ。

………しかし、黒歌の反応面白いな。

 

 

「ぐぬぬぬぬ…!黒歌めぇ〜…羨ましいのじゃ」

 

 

私に撫でられて気持ち良さそうな声を上げている黒歌を、ソファーから離れた場所にあるテーブルの椅子に座っている狐の様な耳と9本のフサフサな尻尾を生やした着物姿の女性が羨ましそうに睨んでいた。

彼女の名前は八坂(やさか)といい、日本神話側が送ってくれた助っ人の九尾の大妖怪だ。彼女は昔私が引き受けた仕事で200年程一緒に暮らした娘で、今では立派に成長して京都を取り仕切るまでなっている。だが今は駒王町で日本神話の神々に送る報告書や書類の整理、更には間に合わずにはぐれ悪魔などに殺害されてしまった人間達やその家族の対処などをグレイフィアと一緒にやってくれている。

京都は彼女の九重(くのう)という幼い頃の八坂にそっくりな娘にサポート役を付けて任せているらしい。九重にはいずれは立場を継がせるつもりでいた様で、今の内に経験させるとの事だ。勿論何か問題が発生すれば京都に戻る事になっている。

因みに九重をサポートしているのは京都に住んでいるモンスター界の九尾の妖狐である妲己(だっき)が引き受けているらしい。正直私はあの狐に任せるのは不安なのだが、問題は起きていない様なので今は任せている。悪い奴ではないのだが、彼女に別の意味で襲われそうになった私としては心配になる。気に入った奴ならどっちでもOKだからなぁ……あの狐は。

 

 

「私は猫の様に撫でられた経験がないのですが……そ、そんなに気持ちがいいのでしょうか?」

 

「うむ、妾も幼い頃によくやってもらっておったのだが……アレは最高じゃ♪現に見よ!黒歌のあの幸せそうな顔を!」

 

 

グレイフィアは八坂に言われて私が撫で続けている内に人型に戻ってしまった黒歌の幸せそうな顔を見た。人型に戻っている為、私から見ても今の黒歌はとても幸せそうな顔をしているのが一目で分かった。

 

 

「………幸せそうですね」

 

「そうじゃろう?」

 

 

グレイフィアは少し羨ましそうな表情を浮かべた。グレイフィアがあんな表情をするのは珍しい。………今度機会があれば撫でてみようか?

 

 

「ふにゃ〜〜♡…にゃふ……スゥ……スゥ……」

 

「……ん?寝たのか?」

 

 

しばらく撫で続けていると、黒歌は私の膝を枕にして気持ち良さそうに寝息を立て始めた。彼女はこの家に来てまだ2週間も経っていないが、既にこの家に馴染んでいる。初日は私の名前や寝転んで漫画を読むカインを見て驚愕していたが、今ではこの通りだ。

私は慎重に黒歌の頭を膝から退かしてそのままソファーに寝かせた。

 

 

「む?なんじゃ、黒歌の奴は寝おったのか?」

 

「その様だな……そう言えばカインとアヴァロンはどうした?」

 

「カイン様はカナン様の漫画の新刊を買いに書店へ。アヴァロン様は先程卑弥呼様から連絡があり、白のはぐれ悪魔を見付けたので“悪魔の駒”を摘出しにワープホールで向かいました」

 

 

ワープホールとは生前のモンストに出て来るギミックの1つだ。配置されたワープホールから別のワープホールへと飛ばされてしまうこのギミックだが、実際に使うとなると移動手段としてはとても便利なもので、私も遠出する時や急いでいる時はよくアヴァロンに頼んで送ってもらったりしている。

しかし今回は白だったか……やはりはぐれ悪魔には白の者も結構いるものだな。今月に入ってから町に侵入したはぐれ悪魔は16人、内白のはぐれ悪魔は6人だ。まぁ先月は14人で黒のはぐれ悪魔が12人だったがな。

 

 

「そうか……しかし、未だにはぐれ悪魔や堕天使共がこの町によく侵入するな。もしや予言の“赤き龍”の力を持った人間がこの町にいるのか?」

 

「可能性はありますが、それらしき人間を見たという報告は来ておりませんよ?」

 

「まぁ、あの予言はいつ起こるかまでは載っていなかったからな。だがこの町を管理し始めてからもう10年以上(・・・・)になる。いつ予言が始まっていても不思議ではないぞ?」

 

 

というか、私個人としてはもう予言は始まっていると思っていたりする。理由は私達モンスターやはぐれ悪魔や堕天使…更には1人だけだが八坂という妖怪が駒王町にはいる。それに神社で親娘が妙な集団に襲撃されたり、女の子が暴走トラックに轢かれそうになったり、銀行で強盗が発生した上に人質にされたり、モンスターが町に迷い込んで人間を襲ったりなど…色々とこの町では事件が起きまくっているからだ。

まぁ女の子はギリギリだったが助けたし、強盗は全員叩きのめして後は警察に全部丸投げしたがな。

 

 

「確かにのう……じゃがその予言には力を持った人間が死んで“力無き赤き王”の僕になるのじゃろ?ならば予言の“力無き赤き王”らしき者が現れるまではいつも通りでいいのではないか?」

 

「それもそうだな。じゃあ私は少し出掛けるとするか。ケーキでも買って来るとしよう。お前達も何か食べるか?」

 

「いや、妾は結構じゃ」

 

「私も遠慮しておきます。それよりご自身で行かれなくても私が代わりに買って来ますよ?」

 

「それだと私が出掛ける意味が無くなるだろう。では行ってくる」

 

「行ってらっしゃいませ。ルシファー様」

 

「面倒事に巻き込まれない様気を付けるんじゃぞ〜?」

 

 

私は「分かっている」と返事を返してからフードを被り、財布の中身を確認しながらケーキ屋を目指して家を出た。

八坂はあぁ言っていたが、そうそう面倒事に巻き込まれる事はない筈だ。

 

 

 

 

 

 

「(……と、思っていた時期が私にはあった)はぁ……」

 

 

私は現在、“旋律の翼”でいつもとは違ってテーブル席に座り、額に右手を当てながら小く溜め息を吐いた。

私はつい先程まで何事も無くケーキ屋に行って、苺のショートケーキやチョコレートケーキなどを幾つか買って家に向かっていたのだ。普段なら既に家に着いてグレイフィアに淹れてもらった紅茶を飲みながらケーキを食べていた筈なのに……とある面倒な客が突然私の前に現れ、話があるとの事なので渋々ソイツを連れてこの店にやって来た。今はマスターに頼んで貸切状態にしてもらっている。

で、その面倒な客とは………。

 

 

「…………」モグモグ

 

 

私の目の前で注文した出来たてのオムライスを黙々と食べているちょっとアレなゴスロリ風のワンピースを着た黒髪ロングで細身のまるで人形の様な姿をした少女の事だ。

彼女の名前はオーフィス。こう見えて“無限の龍神(ウロボロス・ドラゴン)”と呼ばれている無限を司るドラゴンだ。

彼女は先程も言った通り彼女は本当に突然私の前に現れて、力を貸して欲しいと言い始めたので、取り敢えず落ち着いて話ができる場所として近くにあったこの店に連れて来たのだ。因みにオムライスは私の奢りだ。

 

 

「……それで?かの有名な“無限の龍神”が私にいったい何の用だ?」

 

「ん……我、お前の力借りに来た」

 

「おい口、汚れてるぞ。ジッとしてろ」

 

「ん……」

 

 

オーフィスは口の周りを少し汚しながら私の問いに答えた。取り敢えず彼女の口元の汚れを紙ナプキンで拭き取ってから理由を尋ねた。

 

 

「それで?なんで私なんだ?」

 

「お前、ドライグとアルビオン倒した乱入者倒した。我と一緒に、グレートレッド倒す」

 

 

グレートレッド…“真なる赤龍神帝(アポカリュプス・ドラゴン)”とか呼ばれているドラゴンだったか?確か“次元の狭間”とかいう空間に住んでいる外の世界最強と呼ばれてるドラゴンだと八坂やグレイフィアから聞いた事がある。

 

 

「何故そんな事をする必要がある?あのドラゴンはこの世界にあまり関心が無いと聞いた。無理に倒す必要は無いだろう?」

 

「でも我、次元の狭間に帰り、静寂を得たい。でも次元の狭間にグレートレッドが居て、静寂を得る事が出来ない」

 

「静寂……?」

 

 

私が聞き返すとオーフィスはコクリと頷いた。よく分からないが静かな場所が欲しいと言う事でいいか。

さて、どうするか……正直言ってグレートレッドを倒すのは出来なくもないかもしれないが、面倒過ぎる。それに勝手に倒したら三大勢力や神話の神々やらが何を言い出すか分からないしな。

 

 

「その話は他の誰かにもしたのか?」

 

「ん、グレートレッド倒す為に、我は“禍の団(カオス・ブリゲード)”作った。でも、彼等は我の“蛇”求めるばかりで、なかなかグレートレッド倒さない。だからお前に力借りに来た」

 

 

ん?知らない単語が出て来たな。

 

 

「その“蛇”とはなんだ?」

 

「我の力を分けたもの。飲めば力が手に入る。お前もいる?」

 

「蛇なんか飲むか。後私は『お前』じゃなくてルシファーだ」

 

「ん、ルシファー。一緒にグレートレッド倒す。我とルシファーなら勝てる」

 

「いや、私は面倒だからやりたくないんだが?」

 

 

というかその“禍の団”は絶対オーフィスの“蛇”が欲しいだけの集団だろうな。何が目的かは知らないが、オーフィスの“蛇”を手に入れて禄でもない事を考えているに違いない。一応ゼウスや日本神話の神々に報告はしておくか。

 

 

「取り敢えず“禍の団”は抜けた方がいいだろう。そいつ等はグレートレッドを倒す気が無さそうだ」

 

「でも、それだと我、静寂を得られない……」

 

 

オーフィスは困った様な表情で俯いてしまった。残念そうにしている彼女を見ていると私が悪い様な感じがするな。

 

 

「そもそも静寂なんて、手に入れてどうするのだ?」

 

「………考えてない。静寂が得られればそれでいい」

 

 

もう私は彼女が何を考えているのか分からなくなって来た。ただ静寂が欲しいだけって、静寂なんて手に入れてもすぐに飽きるだろうに。

それに私は自分1人だけ静寂の世界にいるのは、とてつもなく詰まらないものに思えるのだ。

 

 

「……なぁオーフィス。お前、私達と一緒にいないか?」

 

「……?ルシファー達と?」

 

「あぁ…一度私達としばらくの間一緒に過ごして、それでも静寂がどうしても欲しいと言うなら、私も力を貸すかどうか考えよう」

 

 

オーフィスは私の提案を聞くと、しばらくの間考える素振りをしてからゆっくりと頷いた。

 

 

「………ん、分かった。我、ルシファーと一緒にいる。そして、しばらく一緒に過ごしてから、どうするか考える」

 

「そうしてくれ。じゃあ私の家に来るといい。部屋は片付ければ幾つか空いてる筈だ」

 

「……ん、分かった」

 

 

こうして、オーフィスは私の家でしばらく一緒に暮らす事になった。お代を払って家に帰ると、オーフィスを見たグレイフィアと八坂と起きていた黒歌の3人は驚愕して少し質問攻めに遭ったが、訳を聞くと皆オーフィスを歓迎してくれた。正直帰ってすぐ戦闘……っていう線も考えていたが、仲良く出来そうで安心した。

 

 

 

 

 

 

〜数週間後〜

 

 

 

ルシファーが自室でベッドに寝転びながら漫画を読んでいると、部屋のドアが開かれて、オーフィスが入って来た。ルシファーは彼女に気付くと、体を起こして読んでいた漫画から視線を外し、オーフィスの方を向いた。

 

 

「ルシファー、今帰った」

 

「お帰りオーフィス。ちゃんと“禍の団”は抜けて来たか?」

 

「ん、『我、求める場所手に入れたから、“禍の団”抜ける』って、言って来た」

 

 

オーフィスがルシファーの家に来てから数週間。最初はあまり慣れない感じだったオーフィスだったが、グレイフィアの作る料理を皆で食べたり、カインと一緒に漫画やゲームを楽しんだり、アヴァロンや黒歌と一緒にお昼寝をしたりしている内に、静寂の世界よりルシファー達と一緒にいる方がいいと思うようになった。

そして今日、彼女は自分がグレートレッドを倒す為に作った“禍の団”を抜けて来たのである。

オーフィスはトテトテと小走りでルシファーが座るベッドに登り、胡座をかいているルシファーの足の上に座って背中をルシファーに預ける様にした。今やこの位置は彼女の特等席になっており、よくアヴァロンと黒歌…偶に八坂と取り合いになっていたりする。

 

 

「ルシファー、撫でる」

 

「分かった分かった。ほら、これでいいか?」

 

「ん〜〜♪」

 

 

ルシファーは仕方なさげにオーフィスの頭を優しく撫でた。するとオーフィスは気持ち良さそうに目を細め、ルシファーの手の感触を楽しんだ。

こうして、オーフィスは正式にルシファーの家族の一員となったのである。



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動き出す予言の物語

ルシファーside…

 

 

オーフィスが我が家の一員となってから数年経過したある日の事、私はリビングのソファーに座って小説を読んでいた。何故かは知らないが、今年に入ってからはぐれ悪魔が侵入したなどという報告が激減しているので、こうしてゆっくり出来ている。今だって私はこうして小説を読み、グレイフィアは八坂と一緒に買い物へ。アヴァロンは二階でオーフィスと遊んでいる。黒歌とカインは今テレビの前に座ってゲームで対戦している。

 

 

「にゃああああ!?また負けたにゃ!カイン強過ぎるにゃ!!」

 

「アハハハハハハァ♪これで10連勝♪私にゲームで勝とうなんて2000年早いんだよ!じゃ、今日のおやつは頂くよ」

 

「うにゃぁ〜……わ、私のおやつ……」

 

 

どうやら黒歌達は今日のおやつを賭けて対戦していたようだ。負けてしまった黒歌は涙目で耳や尻尾を垂らしてしょぼんとしており、カインはニカッ♪と笑いながら髪の毛を操ってピースサインをしている。

確か今日のおやつは八坂の要望で抹茶味のバームクーヘンだったか?楽しみだな。

 

 

「うぅ〜……こんな事なら、カインと勝負するんじゃなかったにゃ」

 

「残念だったな黒歌。次からは何かを賭けてカインとゲームはしない事を勧めるぞ」

 

「にゃ〜……抹茶バームクーヘン……」

 

 

黒歌はガックリと肩を落としながら今日のおやつの名前を呟いた。正直おやつを賭けて対戦したのだから仕方ないだろうとは思うのだが、流石にあんなに落ち込まれたら困る。後で私の分を少し分けてやろう。

そう思いながら小説を読み続けていると、玄関のチャイムが鳴った。

 

 

「グレイフィア……は、買い物中だったな。やれやれ…」

 

 

私は小説に栞を挟んでテーブルに置き、リビングを出て玄関へ向かった。しかし誰だだろうか?グレイフィア達はさっき出かけたばかりだから帰って来るにはしては早過ぎるし……ガブリエル達だろうか?それともカインがまた通販で新しいゲームでも買って宅配便が来たのだろうか?

そんな風に考えながら玄関のドアを開けると、そこには1人の女性が立っていた。髪型は前髪で左目が隠れた黒髪ショートで、服装は上が腹部を露出している和服の上に同じ丈の襟の立った紺色の袖のないジャケットの様な服を羽織り、下は燕尾服のテイルの様なものが付いたショートパンツといった和装と洋装を組み合わせた様な姿をしていた。

 

 

「お久しぶりですね、ルシファー」

 

「……あぁ、久しぶりだな。ゼフォン」

 

 

彼女の名はゼフォン。私と違って翼は黒く、2枚1対ではあるが、同じ堕天使のモンスターだ。彼女とはモンスター界では偶に一緒にモンスターを捕まえに行ったり、一緒に飲みに行ったりするぐらいには仲が良い。

 

 

「お前が来るとは珍しいな。何か用か?」

 

「えぇ、実はゼウス様より言伝を頼まれまして……お邪魔してもよろしいですか?」

 

「無論だ。紅茶でも淹れよう」

 

 

ゼウスからの言伝と聞いて今一瞬とてつもなく嫌な予感がしたが、取り敢えず彼女を家に招き入れる事にした。

………アイツ、今度は何をやらかしたのだろうか?

 

 

 

 

 

 

「それで?ゼウスの奴は今度は何をやらかしたんだ?」

 

 

私はリビングの向かいのソファーに座って紅茶を飲んでいるゼフォンに今度は何をやらかしたのか質問した。態々ゼフォンに言伝を頼んだのだから、また何かの封印を壊してしまったとか、孫のがまた食べ物求めてこの世界に逃げ出したとかだろうか?

私は様々な予想を挙げるが、ゼフォンは首を横に振った。

 

 

「いえ、今回は違います。確かに私が神殿に訪れた時は死にかけではありましたが、特に何かやらかした訳ではありません」

 

 

それを聞いて私は安心した。死にかけだったという部分は少し気になるが、どうせ浮気がバレてヘラさんに半殺しにされたんだろう。一応モンスター界では一夫多妻や同性婚などは双方合意の下ならば特に違法ではないが、ヘラさんが独占欲が強くて他の女性と会話をしているのを見ただけで機嫌が悪くなる事ぐらい理解しているはずなんだがな。

 

 

「そうか、まぁ何も問題を起こしてないなら安心だ。それで?アイツはなんと言っていたのだ?」

 

「先ず町に侵入するはぐれ悪魔が今年に入ってから激減した原因ついてですが、こちらで調べた結果、駒王学園に通う2人の悪魔が原因だと判明したとの事です」

 

「……悪魔だと?」

 

「えぇ、名前はソーナ・シトリーとリアス・グレモリー。2人共この世界の現魔王のサーゼクス・ルシファーとセラフォルー・レヴィアタンの妹らしいです」

 

 

サーゼクス・ルシファーの名前を聞くと不快な気持ちになった。サーゼクス・ルシファーはこの世界の()だ。モンスターの中には私の様にこの世界に別の自分がいるのだ。

だが、この世界の私は男で、更に堕天の王ではなく悪魔の魔王……正直言ってかなり気に食わない。奴の存在をミカエルが知った時なんか、しばらくの間は私の顔を見る度に「悪魔ルシくん…プッ!」などとからかって来た。

勿論、お灸は据えてやったがな。

 

 

「しかし何故そんな奴等が学園に?」

 

「そこまでは何も……しかし一応警戒しておくようにと」

 

「分かった。後で手の空いている者に監視させよう。他には何かあるか?」

 

「後は私もこの町を管理する手伝いをする事になったので、よろしくお願いします」

 

「分かっ………今なんて言った?

 

 

聞き間違いだろうか?今ゼフォンがこの町の管理を手伝う事になったと言った様な気がするのだが?

 

 

「ちゃんと聞いてたんですか?私も、この町の管理を手伝う事になったので、よろしくお願いしますね」

 

「聞き間違いではなかったか………理由を聞いていいか?」

 

「魔王の妹が町にいると分かったので念の為に戦力の増強。後は私が個人的にルシファーが管理しているこの町に興味があったから……でしょうか」

 

 

確かにゼフォンの実力はかなり高い。主に足技を得意としており、本気でスピードを出すと私でも目で追う事は困難な程の速さを出す。更に彼女の履いているローラーシューズには自由に出し入れ出来るブレードが搭載されている為、鋼鉄製の扉も簡単に斬る事も出来る。現魔王にも引けは取らないだろう。

 

 

「まぁいいか。どこに住むかは決まっているのか?」

 

「この近くのアパートに部屋を借りる事になっています。荷物は予定より来るのが遅れているので届くのは明日になるそうですが」

 

「あぁ、あそこか。荷物が来ないなら今日は泊まっていくか?」

 

「いいんですか?」

 

 

私が今日泊まるかと聞くと、ゼフォンはキョトンとした表情を浮かべながら聞き返して来た。

 

 

「私とお前の仲だ。遠慮するな」

 

「………では、お言葉に甘えて。今日はお世話になります………ところで、あちらで半泣きになりながら落ち込んでいる猫の妖怪は新しい同居人ですか?」

 

 

ゼフォンはテーブルの椅子に座って半泣きになっている黒歌を見ながら言った。そう言えばゼフォンは黒歌とオーフィスと会うのは初めてだったな。

 

 

「あぁ、白の元はぐれ悪魔の黒歌だ。少し前から私達と一緒に暮らしている。それと後もう1人、今二階でアヴァロンと一緒に遊んでいる」

 

「また増えたんですね。後何人増やすおつもりですか?」

 

「出来る事なら増やしたくはないのだが………まぁ、その時はその時だ」

 

 

正直私だって聞きたいぐらいだからな。昔は1人静かにゲームしたり小説や漫画を読んだりとゴロゴロした生活を希望していたが、アヴァロンを引き取ってからカイン、グレイフィア、八坂、黒歌、オーフィスと増えて行っているからな。今の暮らしが不満という訳ではないが、これ以上増えるとなると家を改装しなければならない。せめて後何人増えるか教えて欲しいものだ………今度の休日にノストラダムスに予言してもらうか。

 

 

「さて、黒歌。確かお前の部屋に予備の布団があったな?それを私の部屋に運んで置いてくれ」

 

「グスッ……分かったにゃ」

 

「………はぁ。後で私の分を半分分けてやる」

 

「!本当かにゃ!?ルシファー!!」

 

 

黒歌は私の言葉を聞くとしょんぼりさせていた耳と尻尾を立ててキラキラした目で私を見た。

 

 

「本当だ。ほら、分かったら布団を私の部屋に運んでくれ」

 

「分かったにゃ!行って来るにゃ〜〜♪」

 

 

黒歌は嬉しそうにリビングを出て自分が普段使っている部屋から予備の布団を取りに行った。………というか、自然な感じでゼフォンを私の部屋で寝てもらう事になっているが大丈夫だっただろうか?

 

 

「あー……ゼフォン。勝手に寝る場所を決めてしまったが……私の部屋で構わなかったか?」

 

「え?…あ、はい。構いませんよ?寧ろありがたいです」

 

「そうか?なら良かった。………そうだ、グレイフィアに今日お前が泊まる事を伝えておかねば」

 

 

私はスマホを取り出してグレイフィアに今日ゼフォンが家に泊まる事を伝えた。急に決めてしまって少し申し訳なく思ったので、彼女には今度何かお菓子を作ってやろう。

そう思ってどんなお菓子がいいかとしばらく考えていると、私のスマホが鳴り出した。電話をかけて来たのは今の時間は巡回をしている筈のアリスだ。

 

 

「(なんだか面倒な予感がするな)…………はぁ」

 

 

私は小さく溜め息を1つ吐くと、嫌々ながら電話に出た。どうかそれ程面倒な連絡ではないよう願おう。

 

 

 

 

 

 

夕日に染まる駒王町のとある公園、そこに1組のカップルが訪れていた。彼女らしき女性は黒髪ロングの可愛らしい少女、そして彼氏らしき男は茶髪のツンツン頭の少年だった。2人はデートにでも行っていたのか、手を繋いで楽しげに歩いている。

しかし、男を知っている者が2人を見たら、今の光景は幻覚か悪夢と思い、取り敢えず男の方が何か彼女の弱味を握っているのではと疑って警察に連絡するために携帯を取り出すことだろう。

流石に疑い過ぎだと思うだろうが、これは決して過言ではない。何故ならば、今彼女の隣にいるのはこの町の私立駒王学園で常日頃から仲間の2人と一緒に女子更衣室を覗き見したり、教室で堂々と変態発言をしている駒王学園の“変態三人組”と呼ばれる男達の1人である兵藤(ひょうどう)一誠(いっせい)という男だからである。

普通なら彼女が出来るなんて有り得ないのだが、彼の前に数日前に隣にいる彼女…天野(あまの) 夕麻(ゆうま)が現れ告白し、今まさにデートの最中なのである。

夕麻は小走りに公園にある噴水の前に行き、一誠に向き直った。

 

 

「あのね一誠君、私達の初デートの記念に、1つだけお願い……聞いてくれる?」

 

 

そう言いながら歩み寄って来る夕麻に、もしやキスでは!?などと甘い考えが頭に浮かんだ彼は、頰を少し染めながらお願いとやらを聞く事にした。

 

 

「な、何かな?お願い「ハ〜〜イ!そこまでぇ〜〜♪」…え?」

 

 

突然可愛らしい少女のものらしき声が聞こえ、2人はその声のした方を見た。

そこにはまるで絵本の世界から飛び出して来た様な金髪の少女がアイパッチを付けて不気味な笑みを浮かべるピンク色の時計ウサギのぬいぐるみの耳を掴んで立っていた。服装は所々に西洋甲冑の防具が付いたエプロンドレスを着ており、肩には腰辺りまであるマントを羽織り、頭には小さな王冠が付いた水色のリボンを付けている。夕麻と一誠はまるで『不思議の国のアリス』の主人公の様だという感想を抱いたが、それもその筈。彼女は本当に『不思議の国のアリス』がモデルとなったモンスター……アリスなのだから。

 

 

「(お!いいおっぱい!…じゃなくて、誰だ?あの子?)あ、あの〜……どちら様でしょうか?」

 

「私?私はアリス☆悪いんだけど、夕麻ちゃん?アリスと一緒に来てもらおうかぁ♡」

 

 

アリスはガントレットを付けた手で一誠の隣にいる夕麻を指差しながら言うと、夕麻は目を細め、一誠は突然の言葉に驚いた。

 

 

「は…はぁ?何言ってんだよ。夕麻ちゃんが何か悪い事でもしたのか?」

 

「今はまだってとこかな?どうする?断るならちょっと強引にしちゃうけどぉ♥︎」

 

 

笑顔で言うアリスの言葉を聞いて、自分の彼女が何かされると理解した一誠は、アリスを睨みつけながら叫んだ。

 

 

「ふざけんな!夕麻ちゃんはお前には渡さねぇ!」

 

「……そうよ。私は絶対に行かないわ!」

 

「……あっそ。じゃあさぁ」

 

 

同行を拒否した2人を見たアリスは、左手にあるものを出現させてそれを夕麻に向けた。出現したものを見て一誠は有り得ないとばかりに目を見開いた。アリスの手に現れたのは、銃口が3つもあるピンクカラーのガトリングガンだったのだから。

 

 

「足の一本や二本は覚悟してね♥︎キャハハハハハァ♪」

ドガガガガガガガガガガガガガ!!!

 

「ヒッ!?ゆ、夕麻ちゃん!!」

 

アリスは躊躇いなく弾丸の嵐を夕麻に放ち、夕麻の立ってあた場所は土煙で覆われた。一誠は本物の銃と知って腰を抜かしたが、自分の彼女を心配し名前を叫んだ。すると土煙の中からボンテージぽい格好になり、背中に黒い翼が生えた夕麻が空に向かって飛び出した。

 

 

「くっ!まさか本当に撃つなんて……貴女何者!?」

 

「そんなの後でたっぷり教えてあげる♠︎キャハハハハァ♪」

 

 

再びアリスは射撃を再開しようと銃口を夕麻に向けたが、引き金を引く直前、驚きの連続で混乱した一誠が姿の変わった夕麻を守ろうと銃口の前に立ち塞がった。

 

 

「ちょ!?何してるの君!?」

 

「う、うるせぇ!夕麻ちゃんは渡さねぇ!」

 

 

銃にしがみ付いて射撃を妨害する彼をアリスはどうにか引き剥がそうとするが、彼は一応この町の住人なので傷付ける訳にはいかず、強引に引き剥がす事が出来なかった。

 

 

「ちょっと放して!危ないじゃない!」

 

「誰が放すか!この人殺しめ!」

 

「あれ人間じゃないよ!それにあの子は、君を殺す(・・・・)つもりなんだよ!?」

 

「………え?」

 

 

アリスの言葉に一誠は一瞬動きが止まった。今の内にアリスは銃から彼を引き剥がそうとしたが、次の瞬間彼の腹を光の槍が貫いた。

 

 

「ガハッ!!?」

 

「あぁ!!しまった」

 

「ちょっと予想外な事が起きたけど、これで目的は果たしたわ。貴女の事は今は見逃してあげるわ。次会ったら確実に始末してあげるから覚えてなさい!」

 

 

一誠は血を吐きながら地面に倒れ、夕麻はアリスを睨みつけてから翼を羽ばたかせて飛び去って行く。アリスは一瞬追うかと考えたが、まだ生きていた瀕死の一誠の治療を優先した。だが止血と治療の半分を終えた頃に突如紅い魔法陣が出現した為、治療途中で動かせない少年をそのままにすぐに物陰に隠れ、様子を伺った。

魔法陣からは1人の赤髪の少女が現れ、辺りをキョロキョロ見渡した。

 

 

「おかしいわね。確かに堕天使の魔力を感じたのだけれど……あら?貴方、死にかけね。ふぅ〜ん、面白いわね」

 

 

少女は一誠を品定めするかの様に見た後、チェスに使う“兵士”の駒を取り出して一誠の胸の辺りに置いた。そして少女の背中からまるで蝙蝠の羽根の様なものが生えた。

 

 

「どうせ死ぬなら、私が拾ってあげる……あら?1つでは足りないのね。フフッ♪実に面白いわ。貴方の命…私の為に生きなさい」

 

 

少女…いや、悪魔のリアス・グレモリーはそう言うと、駒を幾つか追加して一誠を転生悪魔に転生させた。転生を終えた後、リアスは気を失っている一誠を連れて先程と同じ様に何処かへ転移していった。

そして、初めて人間が悪魔に転生する所を好奇心に負けて眺めて悪魔と堕天使の夕麻を取り逃がしたアリスは、ルシファーに家に呼び出されこっ酷く怒られた。



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現れたもう1人の管理者

ゼフォンside…

 

 

「やれやれ、まさか町に来た翌日から仕事とは……この世界の堕天使も面倒な事をしてくれましたね」

 

 

私は今、すっかり日が暮れて暗くなった駒王町を地図に書かれた巡回ルート通りに歩いています。本来ならもう少し時間が経ってから仕事に就きたかったのですが、今朝町を監視している天草四郎と卑弥呼、そしてガブリエルの3人から町に“はぐれエクソシスト”と呼ばれる教会から追放された悪魔祓いが侵入したと報告があり、ルシファーの頼みで町の管理に少し早めに参加する事になりました。

代わりに落ち着くまではルシファーの家に泊まらせてもらえる上、後日一緒に町を案内していただく事になりました。「そんな事でいいのか?」と聞かれましたが、私はそれがいいんです。

 

 

「さて、次は………!アレは……」

 

 

しばらく巡回ルートを歩いていると、幾つかの人外の気配を感じ、そちらの方向を見ると、遠くの空に黒い翼を生やした男性の堕天使が飛んで行くのを発見しました。先日アリスが取り逃がしたのは黒髪ロングヘアーの女性の堕天使なので、現在この町には少なくとも2人以上の堕天使が侵入していることになりますね。あの堕天使とは別に悪魔のものらしき気配が4つ程固まっていますが、今回は方向だけにしてあの堕天使を捕えるとしましょう。

私は翼を広げ、少しだけ本気のスピードを出して一瞬(・・)でその堕天使の目の前に躍り出た。

 

 

「な!?なん《 ドゴッ!! 》グハッ!!?」

 

 

突然現れた私に目を見開いて驚愕していたコートを着た堕天使の顔面に蹴りを入れ、近くのビルの屋上に叩き付けました。感触からしておそらく3〜4本程骨が折れたでしょう。私も堕天使の反撃を警戒しつつビルに降り立ち、ゆっくりと歩み寄って行きましたが、どうやらダメージが大きく、動く事すら出来ないようですね。

 

 

「……遅い。堕天使はこの世界で戦争をしていた勢力の1つと聞いていたのですが、この程度で戦闘不能になるとは………平和ボケしていると言わざるを得ませんね」

 

「ゴフッ!?ハァ…ハァ…き、貴様……いきなり何を……!?」

 

「意識は残っていましたか。さて………」

 

 

私は口元を自分が吐いた血で汚している堕天使の首にローラーシューズに付いているブレードを突き付け、少し殺気を込めながら彼を見下ろした。

 

 

「首を切り裂かれたくなければ、大人しくすることです。幾つか質問しますので、偽りなく答えなさい」

 

「ゴホッ!……貴様、何が目的だ?その翼…何故同じ堕天使が攻撃を…ッ!」

 

「質問をするのは私の方です。貴方は黙って私の質問に答えなさい」

 

 

ブレードを少し強く突き付けると、首に小さな傷が出来て血が流れる。私が本気だと理解した堕天使は私を睨み続けながらも大人しく口を閉じた。

 

 

「先ず、貴方には仲間がいますか?居るならばその人数と名前を答えなさい」

 

「……………」

 

 

私は取り敢えず仲間がいるかどうかを確認する為に質問しましたが、今度は質問にさえ答えなくなりました。待ってても喋る気が無さそうなので、一度殺気を強めると、彼は汗を一雫垂らしながら話し出しました。

 

 

「ッ!……仲間は堕天使は私を含め5名(・・)。後はそこらの町で拾い集めたはぐれ悪魔祓い(エクソシスト)共だけだ。はぐれ悪魔祓い共の人数は興味が無かったので、数えた事は無い」

 

「(ふむ、堕天使は全部で5名……アリスが取り逃がした夕麻という女堕天使と目の前にいる彼の他に後3人いるという事ですか)では次の質問です。貴方と、仲間の名前を答えなさい」

 

「わ、私の名はドーナシーク。貴様がいう天野 夕麻…レイナーレ様の部下だ。部下には私の他にカラワーナ、ミッテルト、そして新入りのエバルという男がいる」

 

 

この男…ドーナシークはそのレイナーレという女堕天使の部下でしたか。しかしいったい何が目的でこの町にやって来たのでしょうか?

 

 

「では最後に、貴方達の目的は………ッ!?」

 

 

最後にこの男達の目的を聞き出そうとした所で、私から見て7時の方向から一本のレーザーが私の上半身を狙って放たれました。レーザーを回避する為にドーナシークから距離を取ると、レーザーが放たれた方向から今度は蒼い火炎弾が飛来し、私とドーナシークの間に着弾し、炎がドーナシークの姿を隠しました。

 

 

「ッ!ハァッ!!!」

 

 

このままではドーナシークに逃げられると直ぐに理解した私は蹴りによって生み出された風を利用して炎を搔き消し、ドーナシークの姿を探したのですが、どうやら逃げられてしまったようです。

 

 

「チッ!まさか私もアリスと同じ失敗をするとは!………しかし、先程の攻撃は……」

 

 

私はアリスと同じ失敗をしてしまった事にショックを受けましたが、それよりも先程の攻撃について考えていました。おそらく今の攻撃はドーナシークの仲間のものと考えて間違い無いのですが……あの攻撃は、我々モンスターが使っているレーザーと火炎弾でした。

 

 

「………これは、少々面倒な事になりそうですね」

 

 

私はボロボロになってしまったビルの屋上から飛び立つと、スマホを取り出して先程の事をルシファーに報告しました。その際敵かどうか分からないのにいきなり蹴りを入れないようにと注意は受けましたが、今度町で何か美味しいものを奢ってもらう事になりました。楽しみですね♪

 

 

 

 

 

 

「………どうやら、行ってくれた様ですね」

 

 

ビルから飛び去って行くゼフォンを、建物の影から1人の男がドーナシークに肩を貸しながら覗き見ていた。

 

 

「グッ!ハァ…ハァ……助かった。礼を言うぞ、エバル」

 

「まったく、油断は禁物ですよドーナシークさん。この町は魔王の妹君の管轄。常に自分より強い相手がいる可能性を考えて行動しなければ、いつ何処から攻撃されるか分かりませんよ?」

 

 

自分の後輩であるエバルと呼ばれる男に呆れ顔で言われたのがかなり気に食わないドーナシークだったが、実際油断していたのは確かなので、苦い顔をするだけに終わった。

 

 

「兎に角、今はアジトに戻りましょう。また連中に襲撃されてはたまりませんしね」

 

「あぁ、分かった。しかし、あの女…!!あの女だけは私が直々に殺す!」

 

「なら、今はその女に受けた傷を癒すとしましょう。明日には例の少女が町にやって来る筈ですし」

 

 

エバルは眼鏡をクイッと上げながらドーナシークを連れて自分達のアジトに向かった。

 

 

 

 

 

 

ルシファーside…

 

 

ゼフォンがドーナシークとかいう堕天使を発見してから2日目の夜、私は現在人間の姿で桜と卑弥呼の2人と一緒に駒王町の外れにある今は使われていない廃工場に訪れていた。卑弥呼の話によるとこの廃工場に黒のはぐれ悪魔の……バイザーだったか?が住み着いたらしい。今の所まだ被害は出ていないが、早く排除しなければならない。

 

 

「卑弥呼、本当にここにいるのか?」

 

「我が眷属達がこの廃工場に入って行くはぐれ悪魔を確認済みです」

『『『『ハニー!!』』』』

 

 

装飾の施された赤と白の巫女服を着た卑弥呼は、自信満々の表情を浮かべ、彼女の周りに浮かんでいる眷属の紫の衣を着て小さな拡声器を持った埴輪達もその通りだとでも言うように返事をする。

………ちょっと可愛いな。

 

 

「………確かに悪魔の気配が1つだけあります。ルシファー、今回は私にやらせてもらえませんか?」

 

 

桜の花模様が特徴的な紫のミニスカ和服を着て、背中に美しいステンドガラスの様な蝶に似た羽根を生やした桜が、自慢の愛刀を撫でながら期待を込めた視線で私を見て来る。別にダメだと言う理由もないので、今回は彼女に討伐を任せるとするか。

 

 

「あぁ、構わない。……ちょうど向こうも来たようだな」

 

 

私が廃工場の暗闇に視線を向けると、その暗闇から1人の女性の声が聞こえて来た。

 

 

「ふふふふ♪甘い匂いがするわぁ。今まで嗅いだことがない程美味しそうな匂い。いったいどんな味がするのかしらぁ?食べてみましょうか」

 

 

闇の中から現れたのは1人のはぐれ悪魔。上半身は人間の女性のものだが、下半身はまるで獣の様な四足歩行の何かだ。桜は愛刀の柄に手を添えながら前に出てそのはぐれ悪魔…バイザーに問いかけた。

 

 

「貴女がはぐれ悪魔、バイザーですね。1つお聞きしますが、貴女は何故はぐれ悪魔になったのですか?」

 

「ん〜?あの主人がウザかったから……ただそれだけよ。でもアイツのお陰でこんなに素晴らしい力が手に入ったからまぁそこの所は感謝しているわよぉ?」

 

「そうですか………ならば、貴女は討伐対象です」

 

 

桜はスラリと鞘から愛刀を抜き、構えた。抜かれた刀は窓から差し込む月明かりが刃の部分に当たり、薄っすらと紅く妖しく輝いていた。バイザーもその刀の美しさに一瞬見惚れたが、同時に発せられた桜の濃厚な殺気を浴びて即座に戦闘態勢に入った。

・・・・・だが、遅過ぎる

 

 

「…………へ?」

 

 

チャキンと音を立てて桜の刀が鞘に納められた頃には、バイザーの首は宙を舞い、上半身と下半身……更には手足が全て切断されていた。飛ばされたバイザーの顔は、自分が何をされたのか分からないとでも言いたげな表情で固まっている。

 

 

「終わりました。しかし、やはり少々物足りなく感じますね」

 

 

桜は少し不満げな顔をしながら戻って来た。確かに彼女程の腕ならこの程度のはぐれ悪魔は物足りなく感じて当然と言えるだろう。

 

 

「そんな事言ってないで、さっさと死体を燃やして帰るぞ。卑弥呼、頼む」

 

「分かりました。では…「待ちなさい!」おや?」

 

 

卑弥呼が炎でバラバラになったバイザーを焼却しようとした所で、私達がやって来た方向から女性の声が聞こえた。まだはぐれ悪魔でも残っていたのかと思いながら振り向くと、そこには金髪で剣を構えた少年と、バイザーの死体を見て顔を青くさせている茶髪の少年、拳を構えた小柄な白髪少女と笑みを浮かべる黒髪ポニーテールの少女……そして、私達に弱い殺気らしきものを放ちながら睨み付けてくる赤い髪の少女が立っていた。幾つか別の種族の気配を若干感じるが、全員悪魔で間違いない。

 

 

「貴女達、ここで何をしているの?」

 

「見ての通りはぐれ悪魔の討伐だ。貴様等こそ何者だ?」

 

「私はリアス・グレモリー。今まで勝手にはぐれ悪魔を討伐しているのは貴女達ね?ここは私が管理している領土よ。勝手な真似をしないでちょうだい」

 

 

リアス・グレモリーと名乗る彼女の言葉に私は首を傾げた。この町を管理しているのは私だ。しかもゼウスだけではなく、日本神話勢力からの正式な依頼だ。なのに私になんの連絡もなく勝手にこんな悪魔の娘に管理を任す筈がない。どういう事だ?

私達は同じ疑問を抱いたが、勝手にこの町は自分の領土だと言っているこの娘に多少の苛立ちを感じた。

 

 

「まぁいいわ。貴女達には幾つか聞きたい事があるの。大人しく私達について来なさい」

 

「……ほう?もし断ったらどうなるんだ?」

 

「その時は力尽くで行かせてもらうわ」

 

 

グレモリーは脅迫のつもりか知らないが、魔力を練って顔に笑みを浮かべながらそう言った。完全に私達を舐めている。流石に腹が立ったので、フッと鼻で笑いながら挑発した。

 

 

「やってみるがいい。やれるものならな」

 

「ッ!ならお望み通りにしてあげるわ!祐斗(ゆうと)!!」

 

「はい!」

 

 

祐斗と呼ばれた金髪の剣士は、剣を抜いて一番近くにいた桜に斬りかかった。スピードからしておそらくスピード特化型の“騎士(ナイト)”の駒だろうが、狙った相手が悪かったな。

 

 

「いいイッセー?次いでだから“悪魔の駒”の特性について教えておくわ。祐斗の役割は“騎士(ナイト)”。その特性はスピードと「ぐわぁぁぁぁぁ!!」……え?」

 

「敵の目の前で授業とは……我々も舐められたものですね」

 

 

桜に斬りかかった祐斗は身体中に斬撃を受けて血を流して地に倒れ伏した。確かに普通の人間よりかなりのスピードはあるが、桜から見たらかなり遅く見えただろう。

 

 

「桜、殺してはいないだろうな?」

 

「勿論手加減はしました。見た目程酷い怪我ではありません」

 

「よくも祐斗を!!行きなさい!私の可愛い下僕達!!」

 

「「「はい!!」」」

 

 

祐斗が倒された事に顔を怒りに染めたグレモリーは、残りの眷属達に指示を出した。白髪の少女は私に接近して“戦車(タンク)”の駒の特性を使ってパンチを繰り出した。“戦車”の駒は力と防御力が自慢と聞くが、この程度ならバリアは必要ないと判断し、私はその拳を片手で受け止め、気絶する程度の電撃を与えた。

 

 

バチィッ!!!

「にゃ゛!!?…ぁ……」

 

 

気を失って力無く倒れる彼女を優しく抱き止め、ゆっくりと地面に寝かした。

……ふむ、どうやらこの子は猫又の類の転生悪魔の様だな。となるとやはりこの娘は黒歌の……あとで本人に確認するか。

 

 

子猫(こねこ)ちゃん!!テメェ!よくも子猫ちゃんを!いいおっぱいをしてるからって許さねぇ!!」

 

 

子猫と呼ばれる少女が倒されたのを見た茶髪の悪魔が、右腕に龍のものらしき気配を発する籠手を出現させて殴りかかって来た。……というかこの男、さっきから私の胸をガン見していて気持ちが悪いな。

 

 

「食らえ!!“(セイクリッ)《ザシュッ!!》グハッ!!?」

 

 

私に向かって殴りかかって来た茶髪の悪魔は、背後に回った桜によって背中を切り裂かれた。何故だろうか?物凄くスッキリした気分になった。

卑弥呼の方ももうすぐ終わりそうだな。

 

 

『『『『ハニー!!』』』』

 

「ッ!攻撃が効かない……!!」

 

 

ポニーテールの悪魔は電撃を卑弥呼に何度も放っているが、その全てを卑弥呼の眷属の埴輪達が集まってバリアを張り、防ぎ切っている。

 

 

「そこです!!」

『『『『ハニー!!』』』』

 

「え!?きゃあああああ!!?」

 

 

遂に魔力が切れたらしく、息を荒くしながら攻撃の手が止まった彼女の隙を狙って、卑弥呼は埴輪に指示を出して彼女の足元にレーザーを放った。足元に着弾したレーザーは威力を弱くされていたが、それでも発生した爆発によって少女は吹き飛ばされ、気を失った。

 

 

「子猫!イッセー!朱乃!クッ!!よくも私の可愛い下僕達を…!!消し飛びなさい!!」

 

 

グレモリーは赤い魔法陣から何やら妙な魔力の玉を放って来た。魔力の練り方がまだまだ甘いが、どんな能力を持っているのか分からないので一応バリアを展開して魔力玉を防いだ。ヒビ1つ入った様子は無いが、デバフ効果のある玉だったのか?

 

 

「な!?なんで効かないの!?」

 

「?よく分からんが、少し眠っていろ」

 

「ッ!?キャアァァァァァァァ!!?」

 

 

私は取り敢えず自分の攻撃を防がれた事が信じられない様子のグレモリーを衝撃波で吹き飛ばし、壁に激突させてグレモリーの意識を奪った。さて、これで全員倒した訳だが……管理者を名乗るにしては実力不足過ぎるな。

 

 

「この程度ですか……ルシファー、この娘はどうしますか?ここで首を落としても構いませんが…?」

 

「……いや、放置して帰ろう。下手に殺すとこの娘の兄が何をしでかすか分からないからな」

 

「「分かりました」」

『『『『ハニー!!!』』』』

 

 

私達はグレモリー達をそのまま放置して帰った。家に帰ると黒歌が「白音の匂いがするにゃ!!」と騒ぎ出し、私が相手した子猫と呼ばれていた彼女が黒歌の妹だと分かった。いつか2人を会わせてやろう。

しかし赤い髪の娘か………あの娘が予言の“赤き王”なら、今よりもっと面倒な事になりそうだな。



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ソロモン72柱の総帥

ルシファーside…

 

 

魔王の妹の一行を叩きのめしてから数日が経過し、私は今“旋律の翼”のいつものカウンター席でアイスコーヒーを飲みながら報告書を見ていた。魔王の妹…グレモリーは暇を持て余しまくっていた黒歌に猫に化けて監視をしてもらっている。アイツもグレモリーの眷属に自分の妹がいると知ったからか喜んで引き受けてくれた。

報告によると、あの娘は私達に手も足も出ずに負けた事にかなり御立腹だったそうだが、数時間もすると私達の力に興味を持ち、今ではなんとか自分の眷属に出来ないかと画策しているらしい。勿論なるつもりは全く無い。

因みに、あの後日本神話勢力に確認を取ったが、向こうはグレモリーを町の管理者に任命した覚えは無いとハッキリ言っていた。勝手に管理者を名乗っているのは間違いない様だ。

 

 

(はぁ……悪魔も堕天使もいったい何を考えているんだ?悪魔は勝手に管理者を名乗り、堕天使はまだ可能性だがモンスターと手を組んでいる……やっぱりあの娘が予言にあった“赤き王”か?お世辞にも強いとは言えなかったしな)

 

 

桜の話ではあの剣士は百歩譲ってスピードはあったとしても力は無く、技も桜から見たら素人より少しは戦える程度だと聞いたし、私が相手した黒歌の妹は駒の特性によるゴリ押しのみで、技術は素人の喧嘩同然。卑弥呼の相手をしたあの娘…おそらく神社で会った子供は、魔力の扱いはあの中で一番長けていたが、攻撃は電撃のみで他の属性を使ってこない。グレモリーは何がしたいのか分からない上に、罠かと逆に疑ってしまう程に隙があり過ぎる。あの茶髪の変態に至っては初めて喧嘩しましたと言わんばかりの素人だ。よくあれで管理者を名乗れるものだ。

 

 

「取り敢えず魔王の妹は黒歌に任せるとして、問題は堕天使に協力しているモンスターが誰かだが……」

 

カラン♪カラン♪

「いらっしゃい。お1人かな?」

 

「……1人です。あの、外の看板にあった“1日5個限定特製ビックチョコレートパフェ”ってまだありますか?」

 

 

私が思考を巡らせていると、お店に新しい客がやって来たようだ。どんな客だろうかとふと気になって入口の方を振り返る。そこには無表情で小柄な体格の白髪の少女……黒歌の妹が私服姿で立っていた。

 

 

「………あ」

 

「………え?」

 

 

 

 

 

 

リアス・グレモリーの眷属である塔城(とうじょう) 小猫は今、自分の隣に座る人物を警戒していた。彼女は今日、以前から来ようと思っていたスイーツが美味しいとクラスの間で評判のあるカフェ…“旋律の翼”に1日5個限定の特製ビックチョコレートパフェを食べる為に期待を胸にやって来たのだが、店を入って見つけたのは先日自分達グレモリー眷属を完膚なきまでに敗北させたパーカーを着た女性…この町の本当の管理者であるルシファーだった。

彼女の姿を視認した子猫は顔を蒼ざめて後退ったが、ルシファーが引き止め、なんやかんやで2人並んでカウンター席に座る事となった。

 

 

(……今日はパフェを食べに来たのに、最悪な日です)

 

「………お前、確か名前は子猫と言ったな」

 

「ッ!!……は、はい。塔城 子猫です」

 

 

子猫は突然ルシファーに話し掛けられて肩をビクッ!と震わせたが、コクリと頷いて自分のフルネームを答えた。

 

 

「先日は済まなかったな。気絶させる程度に電撃を与えたのだが……あの後体に何か異常はないか?腕が麻痺しているとか……」

 

「……大丈夫です。なんともありません」

 

「そうか。それは良かった」

 

 

ルシファーはそう言うとアイスコーヒーを飲みながら報告書を読み始めた。何か異常があるようなら桜やアリス…それでもダメならアヴィロンやモンスター界の病院にでも治してもらおうと考えていたが、何も異常が無いならいいかと内心ホッとしていた。

一方子猫は自分を一瞬で戦闘不能にしたルシファーを不思議そうに見つめていた。まさか謝られる上に体の心配をされるとは思わなかったからだ。意外に優しい人だったりするのだろうかと思い、子猫はルシファーに話し掛けてみることにした。

 

 

「……あ、あの」

 

「はいお待たせ。特製ビックチョコレートパフェだよ」

 

「ッ!おぉ〜!!」

 

 

話し掛けようとした所でマスターのハデスが子猫の前に巨大なチョコレートパフェを置いた為、子猫の視線はそのパフェに釘付けになった。巨大な器にチョコレートやアイス、ホイップクリーム、果物などの具材がふんだんに使われており、甘く美味しそうな香りが子猫の鼻をくすぐった。キラキラと目を輝かせてパフェを眺める子猫の姿を見たルシファーは、まるで大好物の手作りお菓子を目の前にした黒歌とそっくりだと思い、クスリと笑った。

 

 

「(やはり姉妹だな)ふふ♪……さて、私は帰るとするか。あぁ、マスター。この娘のパフェの代金は私が払おう」

 

「え!?い、いえ!自分で払えますから……!」

 

「電撃を浴びせた詫びだ。気にする事はない」

 

 

ルシファーはそう言うとアイスコーヒーとパフェの代金をカウンターに置くとフードを被って店を出た。子猫はルシファーの背中とカウンターに置かれた代金を交互に見ながらオロオロしていると、カウンターの向こうでコップを拭いていたマスターのハデスが「貰っておきなさい」と言った。

 

 

「原因は詳しく知らないけど、彼女が『払う』って言ってるなら、素直に貰っておいた方がいいよ。それに、君はどうやら気に入られたみたいだしね」

 

「……気に入られた…私がですか?」

 

「うん、彼女は家族や親しい人かその身内、そして自分が気に入った者以外に対してああいう行動はしないんだ。彼女が奢ると言うなら、素直にもらっておいた方がいいと思うよ?」

 

「……………」

 

 

子猫は閉まったドアをしばらく見つめ、やがて席に戻ってパフェを食べる事にした。

因みに、特製ビックチョコレートパフェのお味は………?

 

 

「ッ!!?〜〜〜〜♪♪♪♡♡」

 

 

美味しかったようだ。

 

 

 

 

 

 

ルシファーside…

 

 

子猫と“旋律の翼”で出会った翌日、私は今ゼフォンとアリス、天草四郎の3人と一緒に町外れにある今は使われていないとある教会に訪れていた。

実はついさっき、ガブリエルが堕天使共の目的とアジトの場所の情報を持って来たのだ。目的は数日前にこの町にやって来た金髪の少女…アーシア・アルジェントとかいう教会を追放された娘から神器を抜き出す事のようだ。

神器の名前は“聖母の微笑(トワイライト・ヒーリング)”。簡単に言えば怪我を治す人間界では珍しい貴重な回復系神器だ。だがこの世界の神器には面倒な事に、宿っている者から神器を抜き出すと元の持ち主は死ぬ。聖書の神が人間に与えた特別な力だとこの世界ではいわれているが、私からしたら死の呪いか何かだと思っている。

そしてアジトになっているこの教会は、今まで何度か卑弥呼の埴輪達が見に言った場所ではあるが、どうやらあそこには地下の祭儀場に続く階段があるらしく、その入口を私達の世界(・・・・・)の術式で上手く隠されていたので今まで見付からなかった様だ。まぁ、そこからコソコソ出て来る金髪ツインテールの堕天使が出て来たのを埴輪達が偶然見つけたらしいがな。

因みに協力しているモンスターの情報は掴めなかった。かなり頭がいいのか、はたまた警戒心が強いだけかは分からんが、どの道私達が管理するこの町で好き勝手されては困る。

 

 

「本当にこんな場所にいるんですか?」

 

「ガブが自信満々に言っていたんだ。おそらくそうなのだろう」

 

 

ゼフォンは訝しげな顔で教会を見上げる。教会はどこからどう見てもただの廃墟。ゼフォンの疑いたくなる気持ちは分かるが、ガブリエルの情報は信用出来る。

 

 

「ねぇねぇ!この中にいる人達ってさぁ、蜂の巣にしちゃってもいいかなぁ?いいよねぇ♥︎」

 

「いや、アルジェントとかいう娘はダメだ。それ以外なら構わん」

 

 

私が今にも中に飛び込んで銃を乱射しそうなアリスに注意していると、青い長髪と纏っているマントを靡かせながら拡声器が付いた巨大な金の釈杖と一冊の分厚い本を持ち、腰や腕に鎧の防具をつけた和服の少女…江戸時代初期のキリシタンであり、島原の乱と呼ばれる一揆を起こした最高指導者が元となったモンスターである天草四郎時貞が釈杖を握る手に力を込めながら私の方を向いた。いつもは穏やかな顔をしているが、キリシタンの彼女は廃れたとはいえ教会が少女を殺す為に利用されるのが許せない様子だ。

 

 

「では参りましょう。祈りの場を少女の命を殺める為に使う輩を、一刻も早く捕らえましょう」

 

「そうだな。行くぞ」

 

 

私は閉ざされている教会の木製の扉を押し開けた。中は沢山の長椅子が祭壇に向かって並んでおり、思ったより汚くはなかったが、十字架や石像などは壊れており、それを見た天草四郎は少し悲しげな表情を浮かべる。

まっすぐ祭壇に向かおうとすると、私達の前に1人の白髪の神父が現れた。

 

 

「おんやぁ〜?てっきりクソ悪魔共が来ると思ってたんでやんすが、予想が外れやがりましたねぇ」

 

「なんだお前は?その服装からして神父の様だが……お前もはぐれ悪魔祓いか?」

 

 

すると白髪の神父は「御名答ぉ〜〜♪」と笑いながら左手に銃、右手に刃の部分が光で出来た剣を持ち、剣の切っ先を私に向けた。

 

 

「俺の名前はフリード・セルゼン。とある悪魔祓い組織に所属している少年神父でござんす♪」

 

「剣を向けながら名乗るとは、随分と物騒な神父がいたものだな。生憎私達は悪魔ではない。そこを通して貰おうか」

 

「そういう訳にもいかぬでありんす。『教会に入った者は殺しなさい』って指示貰ってますからぁ」

 

 

無駄に腹が立つ話し方をするフリードと名乗る神父に殺意を感じ、一気に頭を蹴り抜いてやるかと思っていると、天草四郎が手で制した。

 

 

「お待ち下さい。ここは私にやらせて貰えませんか?」

 

「………分かった。先に地下へ行っている」

 

 

私はこの場を天草四郎に任せ、アリスとゼフォンを連れて祭壇に向かって歩みを進める。するとフリードは光の剣を構え、私に襲い掛かって来た。

 

 

「さっきの俺っちの話聞いてましたぁ!?行かせる訳ないでしょー《 ドゴッ!! 》ブベラッ!!?」

 

 

だがフリードは一瞬で私の前に移動したゼフォンの蹴りを腹に受けて吹っ飛び、長椅子を幾つか破壊しながら壁に激突した。ゼフォンは手加減をしていた様だが、どうやら気は失っていない様だ。人間にしては丈夫だな。

取り敢えず後は天草四郎がやるだろうから、私達は祭壇の裏に隠されていた地下への階段を見つけ、降りていった。

 

 

「〜〜ッ!いってぇ!!よくも思いっきり蹴飛ばしてくれやしたねぇ!!」

 

「………フリード・セルゼン。貴方のお相手は私です」

 

「あん?………ッ!!?」

 

 

フリードはゼフォンに蹴られた腹を押さえながら後を追おうとしたが、背後から掛けられた声に振り返ると目を見開いた。フリードの視線の先では、聖書を開いてこちらを睨む天草四郎の姿と、彼女の背後に浮く何人もの水で出来た人型の式神の姿があった。彼女は聖書を高く掲げ、自分の背後に浮く式神達に指示を出す。

 

 

信仰こそ、我らが武器。……進め!!

 

 

彼女の命に従い、水の式神達はフリードに向かって突撃して行った。

 

 

 

 

 

 

ルシファー達は階段を降りた先にあった扉を開けて地下室の中へ入ったが、そこには予想外の光景が広がっていた。

室内には血を流しておそらく死んでいる悪魔祓いと思われる黒いローブの男達に加え、ボロボロの状態で同じく地に伏しているレイナーレの部下であるミッテルト、カラワーナ、ドーナシークの3人の堕天使達。そして祭壇の上には十字架に磔にされてぐったりしている金髪の人間の少女と、白いジャケットを着て紫のチェック柄のマフラーを首から下げている青っぽい髪を後ろで結った男性の堕天使に首を持ち上げられている全身傷だらけのレイナーレの姿があった。

 

 

「おや?予想よりも早く来てしまいましたね。やはり人間にモンスター(・・・・・)の相手は荷が重過ぎましたか……まぁ、目的は果たせましたから良しとしましょう」

 

 

男はレイナーレを放り捨てると、ルシファー達の方へ体を向けた。ルシファーは男の顔を見ると、顔を険しくする。この男の顔に見覚えがあったのだ。

 

 

「成る程……貴様だったのか。通りでこれまで正体が掴めなかった筈だ」

 

「ふふふ……お久しぶりですねぇ?“堕天の王”ルシファー。貴女が人間界で町を1つ管理している事は知っていましたが、まさか駒王町だったとは…」

 

 

男はやれやれと首を横に振る。ゼフォン達は男を知っている様子のルシファーを見つめていたが、ゆっくりと体を起こして男を睨み付けるレイナーレに気付いてそちらに視線を向けた。

 

 

「エ、エバル……貴方、私達を裏切るつもり!?」

 

「裏切る?私は最初から貴女方堕天使の仲間ではありませんよ。私はコレが欲しかったので、貴女方を利用しただけです。私は人間からコレを抜き出す方法を知らなかったのでね」

 

 

そう言いながら男が見せたのは緑色の光に包まれている2つの指輪……十字架に磔にされている少女、アーシア・アルジェントの神器、“聖母の微笑”だった。

 

 

「回復系の神器というのはこの世界ではとても貴重な品だ。その道の連中に売れば莫大な金になる。コレが手に入った今、貴女方はもう用済みですので……」

 

「エバル!!貴様ァ!!!」

 

 

エバルが眼鏡をクイッと上げながら堕天使達に向かって『用済みです』と言った瞬間、光の槍を出現させたドーナシークがエバルに襲い掛かった。だがエバルはそれを見ても動じず、ゆっくりと腕を上げて向かって来るドーナシークに向けた。

 

 

「後、私の名前はエバルではありません(・・・・・・・)

 

 

エバルはそう言うと手からレーザーを放ち、ドーナシークを跡形も無く消し飛ばした。レイナーレ達がドーナシークの名を叫んでいる間、エバルの体が光に包まれた。やがて光が消えると、そこには額から青い2本の角が生え、背中に機械の様な悪魔(・・)の羽と尻尾を生やしたエバル(?)の姿があった。

彼は姿が変わっている事に驚愕しているレイナーレ達と警戒を露わにしているルシファー達に向かって綺麗なお辞儀をすると名乗り始めた。

 

 

「改めまして自己紹介を、私は“ソロモン72柱の総帥”、バアルと申します」



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悪魔のチェスゲーム

ルシファーside…

 

 

「さて、本来ならば後はレイナーレ達を始末してこの場を去るだけだったのですが……そちらのお2人とルシファーを相手にそれは難しいですね。一応お聞きしますが、見逃してはくれませんか?」

 

「私が自分が管理する町で殺人を犯した悪魔を見逃すとでも思うか?」

 

 

私は右手に紫電を纏わせながらバアルを睨む。同時にアリスはピンクカラーのガトリングガンを出現させてバアルに銃口を向け、ゼフォンはローラーシューズに搭載されているブレードを展開した。

そんな私達を見て、バアルは深い溜息を吐いた。

 

 

「はぁ〜……やはりそうなりますか。ならば仕方ありません。私も捕まりたくはありませんので……」

 

 

バアルはそう言うと懐から5個のチェスに使う駒を取り出し、空中へ放った。投げられたチェスの駒は光を発して巨大化し、チェスの駒を模した鋼鉄の鎧を纏う兵士となった。これがバアルの能力で、奴はチェスの駒に自分の魔力を与える事で本物の兵士にする事が出来るのだ。

だがバアルの能力で作られた駒兵士は本体の6分の1程の力しか無く、更に細かい命令が出来ないという欠点がある。本来ならアリス1人でも楽に倒せるのだが……なんだ?なんだかいつもと違う気がする。

 

 

「アリス、あの兵士を撃ってみろ」

 

「え!?いいの!?なら早速、穴だらけの蜂の巣にしてあげるね★アハハハハハァ♪」

ドガガガガガガガガガガガガガッ!!!

 

 

私がアリスに指示を出すと、アリスは喜んで弾丸の嵐をバアルの駒兵士に浴びせた。バアルの駒兵士程度ならば簡単に貫通出来る筈だったが、どういう訳か弾丸は駒兵士達にめり込みはしたが貫通せず、更にゆっくりとではあるが破損した部分が再生(・・)までしている。

以前は再生能力どころか、アリスの弾丸を貫通させない程の硬度も無かった。やはり以前よりも強くなっている。この分だと力やスピードも上がっているかもしれないな。

 

 

「あれ!?なんで!?防がれちゃったよ!?」

 

「ククク……そうでしょうねぇ。なんせ今回使っている駒はちょっとだけ特別製なんですよ」

 

 

驚くアリスを見てバアルは笑いながら駒を私達に見えるように見せた。何処にでもありそうなチェスの駒ではあるが、その駒から悪魔の気配を感じる。しかもモンスター界の悪魔のものではなく、この世界の悪魔の気配(・・・・・・・・・・)だ。

………成る程、そういう事か。

 

 

「貴様……“悪魔の駒”を盗んだな?」

 

「御名答……この町にいた赤髪の悪魔の小娘を中心に冥界から隙を見て少しずつ拝借させて頂きました。さぁ、行け!!兵士達よ!!」

 

 

バアルはニヤリと笑いながら駒兵士達に指示を出し、駒兵士達は剣や槍を構えて襲い掛かって来た。予想通り以前モンスター界で闘った時よりも速い。私達なら簡単に対処出来るが、堕天使共は動けなさそうだな。アイツ等にはアイツ等でこの町で悪事を働いた罰は受けて貰わないといけないし………仕方ない。

 

 

「アリスはそこの堕天使共と……生きているならあの神器を抜かれた娘(アーシア・アルジェント)を連れて天草と合流しろ。戦いの邪魔だ。ゼフォンはこの大量に湧いた駒兵士の相手を頼む。私がバアルの相手をする」

 

「う〜〜〜ん………ホントはアリスも暴れちゃいたいんだけどなぁ♤ま、いっか☆その代わり、今度一緒にお茶会しましょ♡」

 

「相手に少々不満がありますが……まぁいいです。では私には“旋律の翼”で何か奢ってもらいます」

 

「お前達………はぁ、分かったから早くし……っと、話し過ぎたな」

 

 

話している間に駒兵士達はすぐ近くまで迫っており、剣を振り上げていた。だが振り下ろされる前にゼフォンが前に出て足を一閃させる。ブレードによって駒兵士達は横に真っ二つになり、ガラガラと音を立てながら崩れ落ちる。

それを合図にアリスは銃弾をばら撒きながら動けずにいる堕天使共と神器を抜かれた娘の回収に向かい、ゼフォンはローラーシューズで滑走して他の駒兵士達を倒しに向かった。

 

 

「さて、私も自分の仕事をするとしよう。久々に少しはマシな戦いが出来そうだな」

 

 

そうして私は上からこちらを見下ろしているバアルの方を向いた。早く終わらせてグレイフィアの淹れた紅茶を飲むとしよう。

 

 

 

 

 

 

ルシファー達が地下でバアルとの戦闘を開始した頃、フリード・セルゼンと天草四郎による礼拝堂での戦闘は既に終了していた。天草四郎の目の前では、フリードが破壊された長椅子の上にボロボロの姿で倒れていた。

 

 

「ふぅ……全く、何故この様な男が神父とされているのか理解に苦しみますね。祈りを捧げる場である礼拝堂がボロボロになってしまいました。後でルシファーにこの教会を修復出来ないか聞いてみましょう」

 

 

天草四郎は少し哀しげな表情で礼拝堂を見渡す。彼女は出来る限り礼拝堂を破壊しないよう注意しながら戦っていたのだが、フリードはそんな事御構い無しに銃を撃ちまくり、光の剣で無駄に椅子などを破壊しながら彼女と戦っていたので、今礼拝堂内は破壊された椅子や割れたガラスなどで散らかっていた。

後で掃除をしようと考えていると、地下への入口からなんとか生きていたアーシアを背負ったアリスがレイナーレ達3人を連れて出て来た。

 

 

「あ!やっぱり終わってた♧天草ちゃ〜ん♪」

 

「あぁ、アリスさんですか。………ルシファーさんとゼフォンさんはどうしたのですか?それにその少女とそちらの方々は?」

 

「ルシちゃんとゼフォちゃんはまだ下で戦っててぇ、私が背負ってるこの女の子は神器を抜かれた人間♤この堕天使達は戦いの邪魔になるからルシちゃんに頼まれてこの女の子と一緒にここへ連れて来たの☆」

 

 

ガトリングガンの銃口をレイナーレ達に向けながらアリスは笑顔で答える。一方銃口を向けられている3人は何か諦めた表情で大人しくしている。

 

 

「そうでしたか。所で彼女達と手を組んでいたモンスターはどなただったのですか?」

 

「バアルって言う魔王族だったよ☆今下でルシちゃんとゼフォちゃんが戦ってるよ♤いいなぁ〜♡私も戦いたかったなぁ☆」

 

 

アリスは可愛らしく頬を膨らませて下で戦っている2人を羨ましがる。可愛らしい顔とは裏腹に結構物騒な事を言う彼女に天草四郎はやれやれと首を振った。

その時、地下からよく知っている魔力を2人は感じた。その直後ズシン!と鈍い音が鳴り響き、少しだけ教会が揺れた。

 

 

「ッ!……この魔力はルシファーさんですね」

 

「だねぇ〜♪それよりこの教会大丈夫かな?倒壊したりしない?」

 

「多分大丈夫だと思いますが………」

 

 

アリスと天草四郎はルシファーとゼフォンの心配はせず、ボロボロになった教会が壊れないかを心配した。

 

 

 

 

 

 

ゼフォンside…

 

 

「ハァッ!!」

 

 

私は戦斧を振り下ろそうとする戦車の駒を模した鎧の駒兵士をシューズに搭載されているブレードで斬り、この広い地下室内を滑走する。これで57回は駒兵士を斬っているのですが、何度倒しても再生するのでキリがありません。

更に“悪魔の駒”で作られたからなのか、騎士ならスピード、戦車ならパワーといった感じにそれぞれ“悪魔の駒”の特性を持っているようで、油断出来ません。

 

 

(ですが矢張り駒は駒……単調な攻撃しか出来ない所が変わらないのは幸いですね)

 

 

そう思いながらまた2体の騎士と僧侶の駒兵士の間を滑り抜けながらブレードで真っ二つにする。これで59回目……矢張りバアルを倒さなくては再生能力は解除されないのでしょうか?

翼を使って壁を滑走しながらチラッとルシファーとバアルが戦っている方を見る。どうやらバアルはまだ駒を持っていたようで、戦車と女王(クイーン)の駒で2体ずつ兵士を作り、ルシファーと戦っていました。こちらとは違って両手に巨大な盾を装備した戦車の駒2体が遠距離からレーザーや火炎弾を放つバアルを守り、2本のレイピアを持った女王の駒兵士がルシファーに近接攻撃を仕掛けています。

援護に向かいたいですが、今戦っている駒兵士達を連れて行くと却ってルシファーの邪魔になりそうですね。

 

 

「……ッ!チッ!!」

 

 

そんな事を考えていると進行方向で2体の戦車の駒兵士がバットを振る様に戦斧を振っており、私は舌打ちをしながらも上半身を仰け反る様にして戦斧を回避しました。

 

 

「これではいつまで経っても終わりませんね。いつまで遊んでる気ですかルシファー?早く終わらせて下さい」

 

 

 

 

 

 

ルシファーside…

 

 

女王の駒を模した鎧の駒兵士が繰り出すレイピアの連続の突きを躱してレーザーを放って吹き飛ばす。するとバアルがレーザーや火炎弾を放って来て、それをバリアで防いでレーザーを撃ち返せば戦車の駒兵士の盾に防がれる。そしてもう1体の女王の駒兵士が向かって来る……さっきからこの繰り返しだ。

 

 

(はぁ……ここ十数年この世界のはぐれ悪魔や堕天使の相手しかしていなかったし、“悪魔の駒”でパワーアップしたならそれなりに楽しめると思ったのだがな……)

 

 

正直少しも楽しめない。しかも私があまり激しい反撃をしないからか、バアルの奴は油断して動きが疎かになって来ている。そろそろ仕留めないとゼフォンの奴が遊んでないで早くしろと不機嫌になるだろうし、もう終わらせるか。

 

 

「どうしましたかルシファー!?手も足も出ませんかぁ!?“悪魔の駒”はもう残り少ないですが、私が普段使っているものは沢山ありますよ!!」

 

 

どうやらバアルは余裕が出来てきたのか、顔に笑みを浮かべながら懐から青い駒を取り出し、新たに兵士を作った。仕留めるなら………。

 

 

「(……今だ!)ハァッ!!!」

 

 

私は同時に斬り掛かって来た女王の駒兵士を魔力を纏わせた蹴りで破壊し、バアルに向かって猛スピードで飛ぶ。バアルは急に動きを変えた私に虚を突かれたのか一瞬動きを止めたがすぐに駒兵士に指示を出して壁を作った。普通の駒で作った兵士なら再生能力は無い筈なので、私はレーザーを横薙ぎに放って駒兵士を焼き切り、そのままバアルに接近する。

 

 

「く、来るなぁ!!」

 

 

バアルは接近する私に焦りを感じたのか、出鱈目にレーザーや火炎弾を放つ。だが私にそんなものが当たる訳がなく、最後に奴を守っている盾を装備した戦車の駒を0距離で衝撃波を放って吹き飛ばし、唖然としているバアルに向かってレーザーを放つ為に指を差す。

 

 

「な!?ま、待って下さいルシファー!と、取引を………!!」

 

「いや………チェックメイトだ

 

 

放たれたレーザーはバアルの眉間を貫通し、バアルは断末魔の叫びを上げながら体を光の粒子に変えて霧散する。同時にゼフォンが何度も破壊しては再生を繰り返していた駒兵士達はその場に崩れ落ちると元の“悪魔の駒”に戻った。バアルが倒された事によって、奴の能力が解除されたんだろう。

霧散した粒子が取り出した“小さな監獄”に全て入るのを確認すると、私は監獄を仕舞って人間の姿になる。

 

 

「やっと終わりましたか。少し遊び過ぎではありませんでしたか?ルシファー」

 

 

ゼフォンが少し呆れた表情で戻って来た。どうやらバレていた様だ。

 

 

「最近骨のある奴と戦っていなかったからつい…な?まぁ、思ったより楽しめなかったが……」

 

「でしたら今度模擬戦でもしますか?空いている日ならばお相手しますよ」

 

「考えておこう。さて、アリスと天草と合流しよう。堕天使共に与える罰も考えねばならないしな………ん?」

 

 

フードを被り直してゼフォンと一緒に地下室を出ようとすると、バアルが霧散した場所に小さな緑色の光を放つものが目に入ったので、それを拾い上げる。それはアーシアから抜き取られた回復系の神器……“聖母の微笑”だった。

 

 

「おや?それは……あの人間の神器ですか?」

 

「あぁ、バアルが消えた場所に落ちていた。全く、あの娘も運がないな。こんな物が宿ったばっかりに、悪魔や堕天使に狙われるとは……」

 

 

やはり人間界の神器は呪いだ。この“聖母の微笑”も珍しい回復系の神器と言われているが、これの所為であの娘は命を落とす事になった。何が回復系の神器だ?こんな物はただの呪いだ。

 

 

「どうするんですか?……それ」

 

「そうだな……後で考えるとしよう。そう言えばバアルの奴は“悪魔の駒”も持っていたな?どっかの馬鹿に悪用されないように回収してからアリス達と合流しよう」

 

「分かりました」

 

 

私とゼフォンは手分けして“悪魔の駒”を回収してから地下室を出る。礼拝堂へ続く階段を登り切ると、礼拝堂は見事なまでにボロボロになっており、アリス達は無事だった椅子に座って私達を待っていた。

 

 

「遅かったですね、ルシファー。何かあったのですか?」

 

「“悪魔の駒”の回収に手間取ってな。……ところで、神器を抜かれた娘はどうした?」

 

「彼女ならそこですよ。………もう長くはありませんが」

 

 

天草四郎は悲しげな表情で近くの椅子に寝かされている少女を見詰めた。

 

 

「そうか………ん?」

 

 

私は教会の外から近付いてくる複数の覚えがある気配を感じ、顔をしかめた。それは天草四郎、アリス、ゼフォンも同様だ。

 

 

「全く、黒歌の奴は何をしているんだ?帰ったら説教だな」

 

 

私が深い溜息を吐いた直後、既にボロボロだった教会の扉がバン!と乱暴に開かれ、5人の悪魔が現れた。



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正体不明の青年

ルシファーside…

 

 

「これは……また貴女達ね?今度はここでいったい何をしているのかしら?」

 

 

教会の扉を開けて入って来たのは、やはりリアス・グレモリーとその眷属達だった。彼女達は確か黒歌に監視を任せ、何か動きがあればすぐに私達が持っている携帯に連絡をする事になっていたのだが……何故黒歌からの連絡が来なかった?

私は疑問に思いながらスマホを取り出して確認すると、スマホは圏外になっていた。この場所は圏外ではなかった筈だ。となると、おそらくバアルの奴が外との連絡を遮断する術式か何かを使っていたのだろう。だから黒歌からの連絡が来なかったのか。全く……最後の最後まで面倒な事をしてくれたな。

 

 

「ッ!?ア、アーシア!!お前等、アーシアにいったい何をしたんだ!?」

 

 

すると茶髪の悪魔が椅子に寝かされているアーシア・アルジェントを見付けると、私達を睨みながら叫んだ。おそらく私達が彼女に何かしたと思っているんだろう。

 

 

「勘違いするのはやめて欲しいですね。私達は彼女に対して何もしていません。寧ろ彼女を保護する目的でここへ来ました。………まぁ、来た時には既に彼女の神器は抜かれた後でしたが」

 

 

ゼフォンは茶髪の悪魔を睨みながら問いに答える。だがどうやら茶髪の悪魔は人間が神器を抜かれるとどうなるのか知らない様で、ゼフォンの返答に首を傾げた。

 

 

「神器を……抜く?部長、それってどういう事なんですか?」

 

「いいイッセー?よく聞きなさい。人間は持っている神器を抜き取られると……死んでしまうの」

 

「なッ!!?アーシアが……死ぬ?」

 

「その通りだ。神器の方は回収した。これがその神器だ」

 

 

私は証拠としてポケットの中から緑色の光を放つ“聖母の微笑”を取り出し、グレモリー達に見せた。これに見覚えがあったのか、茶髪の悪魔は慌て始めた。

 

 

「部長!なんとかならないんですか!?ほ、ほら!あいつが持ってる神器を取り戻して、アーシアに戻すとか!」

 

「残念だが、この娘が神器を抜かれてからかなりの時間が経っている。今更神器が戻って来てもこの娘はもう手遅れだ」

 

「そ、そんな……」

 

 

茶髪の悪魔は絶望の表情を浮かべて膝から崩れ落ちた。随分とこの娘と仲が良かった様だな。だが、こればかりはどうしようもない。モンスター界ならこの娘を生かす方法がある可能性はあるが、どの道抜かれてからモンスター界へ戻るのに時間が掛かるから間に合わなかっただろうな。

 

 

「……い…一誠…さん」

 

「ッ!アーシア!」

 

「ん?気が付いたか……この娘はお前達と知り合いなんだろう?なら最後に話くらいするといい」

 

 

私達がアーシア・アルジェントから離れると、茶髪の悪魔は彼女の下へ駆け寄った。彼女は茶髪の悪魔…確か一誠と呼んでいたな。そいつに最後に会えた事が嬉しかったのか、笑顔を浮かべてしばらく一誠と話をした後、眠る様に静かに息を引き取った。

私とゼフォン、アリスは彼女に対して黙祷を捧げ、天草四郎は静かに十字を切り、祈りを捧げた。天草四郎が十字を切るとグレモリー達が頭を押さえて苦しげな表情を浮かべていたが……まぁ、私の知った事ではないな。

 

 

「……でだよ

 

「なに?」

 

「なんでだよ!?なんでアーシアが死ななきゃならないんだ!アーシアは傷付いた悪魔だって治してくれる程優しい子なのに!!お前等もなんでもっと早く助けに来てやらなかったんだ!」

 

 

小さくてよく聞こえなかったから聞き返すと、茶髪の悪魔が涙を流しながら私達を睨み、叫び出した。私達がアーシア・アルジェントを保護しに来たに間に合わなかった事が許せないんだろう。

 

 

「確かにもう少し早く駆け付けていれば、その娘は助かったかも知れないだろうな……だが、私達が事を済ませた後にやって来た貴様等に言われたくはない。まぁ、貴様等が私達よりも先にこの娘を助けに来ていたとしても、返り討ちになるのがオチだっただろうな」

 

 

この間会った時にも思ったが、こいつ等はお世辞にも強いとは言えない。こいつ等程度の実力では、バアルどころか、普通の駒で作り出された駒兵士にすら苦戦するのが目に見えている。“悪魔の駒”で作られた駒兵士が相手となると、確実に全滅していただろう。

 

 

「そ、そんな事……!」

 

「無いと言い切れるのか?更に言えば、その主犯はちょっとした能力を持っていてな。チェスの駒を自分の兵士に変える能力を持っていた」

 

「……チェスの…駒?……ッ!ま、まさか!」

 

「「……ッ!」」

 

「………?」

 

「何言ってやがる!そんなオモチャの兵士くらい、俺がまとめてぶっ飛ばしてやる!」

 

 

ほう?どうやら昔神社で助けた娘と子猫、後金髪の男の悪魔は気付いた様だな。だが、ここまで言ってやったのに何故グレモリーと一誠は気付かない?

 

 

「そいつが作り出す兵士の強さや能力は、使われる駒の質によって変化する。そして奴は、コレを大量に持っていた」

 

「……ッ!?そ、それは」

 

 

私がグレモリーと一誠に見えるように先程回収した“悪魔の駒”を見せてやると、一誠は首を傾げ、グレモリーは目を見開いて驚愕を露わにした。2人以外の悪魔達は「やっぱり」とでも言いたげな表情で“悪魔の駒”を見ている。

 

 

「奴の話だと、この町にいた赤髪の悪魔の小娘……つまりグレモリー、貴様を中心に冥界の悪魔共から盗んだらしい。お陰で何度潰しても再生する、貴様等で言う所の上級悪魔程度の力を持った駒兵士の軍団を相手にしなければならなかった。さて、そんな奴を相手に貴様等は確実に勝てるのか?」

 

「「「「………ッ!」」」」

 

「それがどうした!相手がどんなに強くても、全員ぶっ飛ばせばいいだろ!」

 

 

ふむ……流石に上級悪魔程の力を持った軍団を相手に確実に勝てるとはグレモリーも思っていないようだな。だが一誠は本気で言っているのか?頭に血が上っているからか、本気でそう思っているのか……まぁ、貴様がバアルに挑んで勝手に負けても私には関係ないが。

 

 

「はぁ……まぁいい。その娘の事は貴様等に任せる。私達はもう用は済んだのでな。帰らせてもらうぞ」

 

「ッ!待ちなさい!!」

 

 

私が“悪魔の駒”を仕舞ってゼフォン達と堕天使共を連れて外に出ようとすると、グレモリーが道を塞いで来た。

 

 

「まだ何か用でもあるのか?」

 

「貴女の持ってる“悪魔の駒”と神器、そしてそこにいる堕天使達を引き渡しなさい」

 

 

グレモリーは私に指を差しながらそう要求して来た。だが私は勿論渡すつもりは微塵も無い。神器はまだ決めていないが、“悪魔の駒”は持ち帰って処分するつもりだし、この堕天使共には私が管理する町で好き勝手やった罰を受けてもらわなければならないからな。

 

そして何より、何故私がグレモリーの言う事を聞かねばならないんだ?

 

 

「断る。私達が貴様の要求に応える理由が無いからな」

 

「この町はこの私、リアス・グレモリーの管轄よ。それだけでも十分な理由だと思わないかしら?」

 

 

自信満々な表情で言うグレモリーに私は少しだけ腹が立った。それは私以外も同じで、ゼフォンはグレモリーを睨みながらローラーシューズのブレードを展開し、アリスは狂気的な笑みを薄っすらと浮かべながらガトリングガンを構え直し、天草四郎は無言で聖書を開いた。

ゼフォン達から漏れる殺気を感じてグレモリー達も緊張した表情でそれぞれ身構えた。このままグレモリーを始末するのは簡単だが、そうすれば兄の方が何をしでかすか分かったものでは無い。最悪この町が私達と悪魔との戦場になる可能性もある。それは避けなければならない。

 

 

「落ち着けお前達。今この場でグレモリーを始末しても面倒になるだけだ。さて、私の応えは変わらない。堕天使共はこちらで処罰しなければならないし、“悪魔の駒”は処分するつもりだ。……そうだな、ついでにこの神器(ガラクタ)も破壊しておくとするか」

 

「……おい、今なんて言った?」

 

「ん?聞こえなかったのか?堕天使共の処罰は……」

 

「そこじゃねぇ!テメェ、アーシアの神器をどうするって言った!?」

 

「なんだそんな事か……“悪魔の駒”のついでに破壊しておこうと言ったんだ。こんなガラクタがあったら、また誰かが死ぬだろうからな」

 

 

こんなものがある所為で、悪魔や堕天使に転生させられるか殺されて人間の数が減っていくのだからな。初めての試みだが、破壊する事で他の人間に宿らなくなる可能性があるなら、やってみる価値はあるだろう。

だが、何故この神器を破壊する事に一誠が怒る?こんなものがあった所為で貴様が助けに来た娘が死んだと言うのに。

 

 

「アーシアは、その神器は神様から貰った素晴らしい力だって言ってたんだ!それをガラクタ呼ばわりした上にぶっ壊すなんて!」

 

「神様から貰った素晴らしい力だと?こんなものがあったからその娘は殺されたんだ。寧ろこれは神にかけられた死の呪いだろう」

 

「うるせぇ!それはアーシアのもんだ!返しやがれぇぇぇぇ!!」

 

 

一誠は左手に神器を出現させて私に向かって殴り掛かって来た。はぁ……こういう男は本当に面倒だ。このまま殴られてやる気はないし、放っておくとゼフォン達に殺されそうだったので、私は一誠に向かって紫電で作った1発の矢を放った。

一誠はギリギリでその矢を神器で防いだが、その衝撃で後ろに吹き飛ばされ、教会の壁に激突して止まった。グレモリー達は吹き飛ばされた一誠の名を呼びながら駆け寄って行った。

 

 

「ルシファー、何故手加減したんですか?貴女ならあんなど素人くらい、簡単に消炭に出来たでしょう」

 

「殺す意味もないからな。それよりとっとと帰るとしよう。今日はもう疲れた」

 

 

ゼフォンは少し不満そうな顔をしていたが、私が教会の玄関の方へ歩き出すとやれやれと頭を振りながらも大人しく付いてきた。その後に不満そうに頰を膨らませたアリスと静かに聖書を閉じた天草四郎、そしてアリスに銃口を向けられている堕天使共も付いて来る。

 

 

「待ちなさい!貴女、よくも私の可愛い下僕を…!!」

 

「ならちゃんと躾をしておく事だ。感情に任せて動く様な下僕をそのままにしておくと、いずれ取り返しのつかない事を仕出かすかもしれないぞ?」

 

「黙りなさい!!」

 

 

グレモリーは魔力を練り、赤い魔法陣からあの奇妙な魔力の玉を私に向けて放って来た。この間は何がしたいのか分からなかったが、その玉の軌道上にあった椅子の一部が削り取られたのを見て漸く理解した。どうやらあの玉は触れたものを削り取る力がある様だ。

 

 

(だから防がれてあんなに驚いていたのか)

 

 

私はあの時と同じ様にバリアを展開する。グレモリーの魔力玉はまっすぐこちらに飛来し、展開されたバリアに当たると、魔力玉の方が消滅した。

このバリアは許容量を超えると消えてしまうが、バリアが受ける物理的なダメージ以外の効果……例えば毒やアビリティロックといったものは無効化するのだ。グレモリーの魔力玉の削り取る効果はそれ等に分類される様で、魔力の玉がぶつかったダメージ分しか耐久値は減っていない。と言っても、殆ど減っていないがな。

 

 

「クッ!どうして!?なんで“滅びの力”が効かないの!?」

 

「ッ!?……アレは、まさかあの時の?」

 

 

グレモリー達は私がその“滅びの力”とやらを防いだ事に驚愕している。特にグレモリーは自分の攻撃……おそらく余程の自信があった自慢の攻撃が全く効いていない事が信じられない様だ。

ふと気付けば先程吹き飛ばした一誠がボロボロになりながらもゆっくりと立ち上がった。はぁ……やれやれだ。さっきので気を失っていれば楽だったのだがな。

 

 

「……せよ

 

「うん?」

 

「アーシアの神器を……アーシアを!返せよぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」

 

『Doragon Booster!』

 

 

一誠の左手の赤い籠手からそんな声が発せられると、手の甲に付いた宝玉から眩い光が発せられた。それと同時に神器から感じていた龍のものらしき気配が少しだけ大きくなった。

 

 

『explosion!』

 

「ほう?形が変わったな」

 

「うおおおおおおおぉぉぉぉぉ!!」

 

 

一誠は雄叫びを上げながら再度私に向かって殴り掛かって来た。だが悪いが私はもう帰ってグレイフィアの淹れる紅茶を飲みたいのでな。

 

 

「……大人しく寝ていろ」

 

「グッ!?ぐわぁぁぁぁぁぁぁ!!?」

 

「イッセー!」

 

 

私は向かってくる一誠を衝撃波で吹き飛ばした。そのまま壁に激突して今度こそ気絶してくれれば楽に済んだのだが、金髪の悪魔と子猫がギリギリで受け止めた。だが一誠はそれなりにダメージを受けた様で、立ち上がろうとするが体が上手く動かない様だ。

 

 

「グッ!ち、畜生……!」

 

「はぁ……もう面倒だ。このガラクタがそんなに欲しいならくれてやる。私達も暇ではないのでな」

 

 

私はポケットから“聖母の微笑”を取り出し、一誠に向かって投げ渡すと、そのまま教会の外に向かって歩き出した。その時またグレモリーが止めようと眷属達に命令していたが、アリスがグレモリー達の足元を撃ち、狂気的な笑みで手加減されていたが殺気をぶつけた為、グレモリー達は動けなかった。

そして私達は背後から聞こえてくる一誠の悔しそうな叫びを聞きながら教会を後にした。さぁ、早く帰ってグレイフィアの紅茶を飲むとしよう。

 

 

(……そう言えば、何か忘れている様な気がするな)

 

 

 

 

 

 

「イテテテ……畜生あのクソ青髪女ァ!次会った時は首と体をバイバイさせてから、脳天に風穴を開けてやんよぉ!」

 

 

一方その頃、隙を見てこっそり教会から逃げ出したフリード・セルゼンは、自分を完膚無きまでにボコボコにした天草四郎に対して怒りを抱きながら人気のない裏路地を歩いていた。

 

 

「あーあ、俺っち自慢の剣も銃もガラクタのお仲間入り。こりゃ新しいのを仕入れないと、クソ悪魔共を皆殺しに出来ないじゃあ〜りませんか」

 

「へぇ〜?随分とこっ酷くやられたんだね。君」

 

「ッ!!?」

 

 

フリードはいつの間にか目の前に立っていた青年に声を掛けられ、一気に距離を取った。負傷してイライラしていたとは言え、今まで数多くの戦いや殺しをして来たフリードに気付かれる事無く目の前に立って見せたその青年に対し、フリードは一雫の汗をたらりと流しながら警戒した。

 

 

「おっと、そんなに警戒しなくていい。僕はただ、君をスカウトしに来ただけだからね」

 

「いやいやいや〜、俺ちゃんに気付かれずに目の前に立たれちゃ警戒しまくりますですよ。それとスカウトの応えはノー!俺っちは自由にクソ悪魔共を狩って狩って狩りまくりたいんでありんす♪」

 

 

フリードはいつもの様にふざけた話し方で青年と会話をするが、対する青年は気にした素振りもなく話を続けた。

 

 

「だと思ったよ。でも、僕等(・・)と来れば悪魔どころか堕天使や他の種族を好きなだけ殺せる……って言ったら、どうする?」

 

 

青年の言葉にフリードは一瞬ポカンと呆けた表情をしたが、次第に口角が上がっていき、狂った様に笑い出した。

 

 

「ク…クヒヒ……アッヒャヒャヒャヒャヒャ♪何それ俺ちゃん凄い気になるんですけど〜♪ちょいとその話聞かせて欲しいでやんす♪」

 

「君なら乗ってくれると思ったよ。じゃあ、僕について来てくれたまえ。フリード・セルゼンくん。怪我の手当てもしてあげよう」

 

 

そう言うと青年は踵を返して歩き出し、フリードは先程まで不機嫌だったのが嘘だったかの様に上機嫌で彼について行った。



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