〜りっく☆じあ〜す 『英雄』我道指揮官奮戦ス〜 (休日ぐーたら暇人)
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序章
1 紹介短編


……マルタが終わってないのに、またもや、続編を執筆・投稿しました。


「司令官か…日本はボロボロ、こんな左遷野郎を慌てて招集するしか対応策が無い時点で詰んでるけどな」

 

 

「何を言いますか、司令官。あの日、東京で見せた事を再び私達に見せて頂ければいいんです」

 

……突如、世界の火山帯から現れた謎の軍隊…マグマ軍の攻勢により、世界の大半を支配下に置かれ、更に日本は首都東京が陥落、沖縄の那覇に臨時首都を置き、抵抗を続けるが連絡網は途絶し、各方面との連絡もやっとの状態な中、元特科(砲兵)隊員で先の『深海棲艦の戦い』において戦争終結の道筋をつけた『マルタの英雄』高塚健人少将はマグマ軍脅威が少ない第10師団所属、北陸の福井県鯖江市にある鯖江駐屯地へと赴任した。

 

 

「『マルタの英雄』をちょうどよく据え付けて、上のアホ共も上手く逃げたな…まあ、どっちにしても、今の自衛隊…陸軍が変わらないと日本奪還どころか、最後の抵抗線の維持も時間の問題だろうね」

 

 

「高塚司令、はっきりと言いますね」

 

 

「仕方ないよ。はっきり言わなかったからこその今の現状だ。そもそも、深海棲艦での一件で陸上自衛隊の現行制度の限界は見えていた筈なのに放置してこの様だ。だから、文句と愚痴とデスリ、やり方は好きにさせてもらう」

 

その為に『陸自・陸軍』ではやれない手を使いまくる。

 

 

「シーレーンは海軍と深海棲艦が確保しているから、通商はいけるし、伝の頼りだが、人員も資材も回してもらえる。但し、マルタ流にいくから、苦労すると思うが頼む」

 

 

「上層部から嫌われた『マルタ流』ですか」

 

 

「まあ、最近の戦闘は陸上戦闘を含めて、海軍の方が慣れてるのが皮肉だな」

 

 

「クレタで暴れた高塚司令が言いますか、それを?」

 

 

「あはは…」

 

 

「大丈夫であります。高塚殿を信じれば勝てないまでも負けぬ戦いは出来るであります」

 

 

「期待されても困るんだよな〜」

 

東京陥落時に助けた女性幹部の市ヶ谷愛、マルタ勤務時代から付いて来た艦娘のあきつ丸を筆頭に反撃を開始する。

 

 

 

 

 

高塚

「さて、硬いのは抜きにして、内容上、自衛隊はボロクソ言われます。悪しからず」

 

あきつ丸

「マルタの時点でわかるのであります」

 

市ヶ谷

「あの…私達、大丈夫でしょうか?」

 

富山

「作者の場合、ボロクソ言う割にはバッドエンドは嫌いだから、大丈夫」

 

市ヶ谷

「それはそれで違うような…」

 

 

滝崎

「あの、タグを見てわかる通り、艦娘や深海棲艦も出ます。まあ、味方でなんだけどな」

 

松島宮

「我らも時々出るからな」

 

 

 

 

『りっく☆じあ〜す 〜『英雄』我道指揮官奮戦ス〜』お楽しみに




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第10師団管区編
2 高塚健治少将着任


登場人物 1

高塚健治 陸自幹部 陸将補(元特科隊員)

初期の深海棲艦との砲撃戦を生き残り、『岡山市テロ事件』で『岡山の死神』と綴られる奮戦を見せる。
幹部昇進後、警務隊から拡張された憲兵隊に出向、後にマルタ島鎮守府へ憲兵として派遣され、後に陸自からの派遣警備隊並びにヨーロッパ諸国の陸上派遣部隊の統率と鎮守府の後方業務を担当、そんな中、深海棲艦との講和を模索した。
戦後は九州・佐世保の『陸上自衛隊水陸両用研究隊(水陸研)』隊長(1佐・大佐)に『栄転(左遷)』される。
マグマ軍出現後はその危険性を感知し、対策を取るよう進言するも、陸自上層部はこれを受け取らず、結果、東京陥落を招いた。
その際、高塚はマルタ島鎮守府の艦娘らを率いて撤退戦を指揮し、これが今回の就任へ繋がった。


あきつ丸 艦娘 陸自幹部 少佐

マルタ島鎮守府時代は高塚の副官として就任。
戦後は高塚と共に水陸研に異動、こちらでも副官を務める。
仕事は秘書官から戦闘任務まで多岐を熟す。これはマルタ島鎮守府時代に鍛えられた為である。
なお、彼女には『2つの記憶』がある。マルタ島鎮守府要員の大きな特徴である。


某月某日 東京湾 艦内

 

 

「ふざけるんじゃない!!」

 

怒りに任せ、手近なマイクを取り、テレビの向こう側へと憤怒をぶつける。

 

 

「何が『臨時政府の命令により降伏しろ』だ? はあ? 日本はな、天皇陛下の承認が無ければ幾ら臨時政府を作っても只の『エア政府』か『政府ゴッコ』なんだよ! 例えそれが形式的な通過儀礼だったとしてもな、バーカ!! そんな『命令』なんぞに従う義理も義務も無えんだよ!! 勉強し直してから出直せつーの!!」

 

………これを東京どころか、全国放送されたのであった。

 

 

 

 

1ヶ月半後 鯖江市近辺

 

 

 

「……なあ、あきつ丸」

 

 

「はい、高塚殿。なんでありますか?」

 

あきつ丸が運転する軽装甲機動車に揺られながら高塚健治少将は呆れ顔を外に向けながら言った。

 

 

「なんで俺を派遣するかね? それなりの人間なんて幾らでもいるだろうに」

 

 

「それはやはり、ネームバリューの影響でありますよ」

 

 

「…ネームバリューねぇ…」

 

気怠そうに高塚は呟く。

 

 

「それに高塚殿ほどの方で無ければ、この窮地を脱する事は不可能かと」

 

 

「『この窮地』になる前に対処するのが本来の筋なんどがな」

 

そう呟いて高塚は空を見上げた。

 

 

 

 

半年前…世界的に見るなら約1年前…突如として主に火山地帯近辺で現れた『マグマ軍』の侵攻は留まる事を知らず、未だに一進一退の先の見えない戦いが続いていた。

日本においては出現当初こそ、少数の目撃例があったのみだったが、半年前より徐々に集団・部隊化し、警察での対応は不可能となった事から自衛隊にお鉢が回ってきた。

その頃はまだ出現した山岳帯無人地域一帯を確保する程度でのあり、徐々に包囲網を縮めて縛り上げる方針であった……2ヶ月半前までは。

2ヶ月半前、重武装化していたマグマ軍は攻勢を開始、その半月後には疲弊していた対空防御圏を突破した一個師団規模の強襲精鋭部隊(後にロシアのモスクワ等の重要都市占領戦に参加していた部隊が日本に転戦していた事が判明)が首都東京を1日の戦闘で陥落させた。

結果、総司令部たる市ヶ谷にあった陸上総隊が消滅し、指揮・通信機能と中央統制機能を失った陸上自衛隊は各所で防衛線が崩壊・突破され、各部隊は所属駐屯地まで後退し、今や隣接方面との連絡どころか、同じ方面内の隣接駐屯地間同士の連絡も出来ないまでになっていた。(海自・空自は一時的な混乱はあったものの、陸自とは違い回復が早かった)

そして……かつて『マルタの英雄』と称され、東京戦で民間人脱出の指揮を執った高塚健治1佐が陸将補(高塚は陸自式が嫌いなので一般名称を使うが)に昇進し、『日本奪還部隊総指揮官』としてマグマ軍の攻勢が及んでいない北陸の鯖江にやって来たのだった。

 

 

 

暫くして 鯖江駐屯地内 司令部テント

 

 

 

「まあ、こんなんだろう」

 

 

「やはり高塚殿は慣れておりますな。野戦軍の指揮官ならば、高塚殿であるべきであります」

 

正門での受付を終え、駐屯地司令に挨拶をした後、高塚は司令部となるテントに来ていた。

中には簡易机と簡易椅子、更にノートパソコンとプロジェクターがあるだけだ。

なお、テントにしたのは高塚の希望である。

 

 

「野戦軍って…やめよう、頭痛がするだけだ」

 

 

「そうでありますね。ですが、予定では自分以外の副官が居られる筈…」

 

そう言っていたあきつ丸が言葉を切ったのは高塚と同様に『3人目』の人間の気配を感じ、振り向いたからだ。

 

 

 

「えっと…高塚健治陸将補ですか? 私、副官の市ヶ谷愛一等陸尉です」

 

 

「うん、よろしく。でも、ある意味、貧乏クジを引いたね。こんな左遷人間の副官なんてさ」

 

 

「いいえ! あの日、市ヶ谷駐屯地から後退する私達を助けに来てくれた高塚司令の下に就くなんて思ってもいませんでした!」

 

 

「おぉ、何処かで見た女性(にょしょう)の方と思っておりましたが、あの時の幹部殿でありましたか」

 

 

「あぁ、あの時はフル装具だったからな。まったく印象が違うよ」

 

 

「そ、そんな事無いです…」

 

あきつ丸と高塚の言葉に否定しながらも少し恥ずかしそうに頬を赤らめる市ヶ谷。

 

 

「すまないが市ヶ谷大尉、いまの時点で招集に応じてくれたメンバーを集めてくれ。面割りをしたい」

 

 

「あっ、その事ですが…」

 

 

「市ヶ谷さーん、みんな集合しましたよー!」

 

市ヶ谷の言葉を遮る様に1人の女性隊員が入ってきた。

 

 

「明野さん、司令官の前です。やめて下さい」

 

 

「いや、別にいい。堅苦しいのは嫌いだ。『明野』と言う事は明野駐屯地の子だね?」

 

 

「はい! 明野菜摘二等陸尉です! 目標は私の痛コブラを描いてもらう事です!」

 

 

「い、イタコブラ??」

 

 

「あー、あきつ丸、ほら、イタリアに居ただろう、好きなキャラクターを車とかに描く奴。あれのコブラ対戦ヘリ版な」

 

 

「あぁ、なるほど。わかりましたであります」

 

 

「司令官にあきつ丸さん、理解しないで下さい。明野さん、そう言った事を大ぴらに公言しない様に…それでは司令官、皆集まっていますので」

 

 

「あぁ、わかった」

 

 

 

駐屯地内会議室

 

 

 

「この駐屯地の鯖江駐屯地所属、鯖江静香。よろしく」

 

 

「金沢駐屯地から参りました、金沢香林です」

 

 

「M24軽戦車、チャーフィーです」

 

 

「M42自走高射機関砲だ」

 

僅か5名の隊員からそれぞれ紹介を受け、最後の1人になったところで高塚はニヤリと笑うと握り拳を作りながら言った。

 

 

「久しぶりだな、富山」

 

 

「司令もあきつ丸も元気そうでよかったぜ」

 

かつて、マルタ島鎮守府で派遣警備隊員として指揮下にあった富山ひみ子はそう言って握り拳を高塚の握り拳に当てた。

 

 

「富山が招集可能と聞いて真っ先に要請したからな。なにせ、俺のやり方を知ってるし」

 

 

「あはは…まあ、司令やあきつ丸、皆には鍛えてもらったからな」

 

こんな会話を交わした後、高塚は他の隊員達の方を向いた。

 

 

「さて、見知っている人間が大半だろうから、簡潔にいく。本日より『日本奪還部隊総指揮官』として着任した高塚健治少将だ。なお、『陸将補』なんて言う下らん名称を含め、『陸自式』並びに『自衛隊式』は極力必要でない限り排除していくからそのつもりで…まあ、皆んなを困らせる事ばかりになるな…よろしく」

 

……この日から、日本奪還は開始された。

 

 

 

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3 増強

登場人物 2

市ヶ谷愛 陸自幹部 大尉(一等陸尉)

市ヶ谷駐屯地の駐屯地娘で高塚の副官(その2?)。
高塚とは東京撤退戦時に市ヶ谷駐屯地から撤退する際に助けてもらったのが出会い。
陸海空自衛隊の中心地である為、情報管理等の秘書官業務は得意だが、自衛隊幹部の為か、諸外国の一部情報には疎い部分もある。
なお、可愛い物好き(服とか)。普段はそっぽ向いてるが、実は好き。


明野菜摘 陸自幹部 中尉(二等陸尉)

三重県明野駐屯地の駐屯地娘。
部隊は陸自航空学校・第10飛行隊・第5対戦車ヘリコプター隊が所属。
本人は痛コブラで有名になった木更津駐屯地をライバル視している為、夢は『私の痛コブラを描いて、イベントをやる事!』
なお、痛コブラの件は後々にアッサリと高塚の手により解決する。


鯖江静香 陸自幹部 中尉

福井県鯖江駐屯地の駐屯地娘。
部隊は第6施設群所属第372施設(工兵)中隊が駐屯している。
眼鏡が有名らしく、眼鏡に目が無い。
しかし、眼鏡娘の特徴が伊達では無く、結構優秀。冷静沈着かつ知的な観察眼を持つ。
癖の強弱が激しい面々の中ではブレーキ役でもある。
なお、高塚とは何故かしらウマはあう。


金沢香林 陸自幹部 中尉

石川県金沢駐屯地の駐屯地娘。
部隊は第14普通科連隊が駐屯している。
普通(歩兵)科部隊が駐屯している訳では無いが、何故か『普通』を連呼し、自信無さげで気弱い一面が目立つ。
高塚が着任した為、所属部隊がエラく掻き回される事になる。


富山ひみ子 陸自幹部 中尉

富山県富山駐屯地の駐屯地娘。
部隊は第7施設群382施設(工兵)中隊が駐屯している。
本来は後方職種だが本人は前線に出る気満々。
高塚とは高塚がマルタ島鎮守府で勤務中に陸自からの派遣警備隊要員の一員として参加しており、鎮守府の面々や実戦で鍛えられている。
高塚も頼りにしている。


M24チャーフィー

自衛隊創立時代に配備されたアメリカ製軽戦車。
第二次大戦期の軽戦車である為、既に退役していたが、マグマ軍の戦闘により、武器娘として復活した。
但し、肝心の主砲は航空機用75㎜砲を改装した物の為に対戦車戦はキツイ。(実際、朝鮮戦争時にはT-34相手にすら効き目は無かった)
その見た目同様、幼い。


M42自走対空機関砲

実は2000年代まで自衛隊で現役だったアメリカ製対空戦車。
40㎜連装機関砲を装備し、ベトナム戦争ではその掃射能力でベトナム兵を困らせた。
本人はツインテールがお気に入り。


その夜 2030 鯖江駐屯地

 

 

「……久々だな、夜の星空を見るなんてな」

 

鯖江駐屯地内の司令部テントから出て、手持ち無沙汰風に外で夜空を見つめる高塚。

 

 

「あっ、司令官」

 

 

「あぁ、鯖江中尉か。夜間哨戒?」

 

 

「えぇ、私の駐屯地だし」

 

 

「あはは、確かにな」

 

ニカニカと笑いながら高塚は言った。

 

 

「ところで司令、あんな事言ったけども、大丈夫なの?」

 

 

「あぁ、あれね」

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜回想 昼頃〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

「今後の方針等々は明日のブリーフィングで伝えるが、簡潔に言うなら、まずは足場の確保。第10師団担当地域を奪還する。しかも、時間はかけられない。半月から1ヶ月を期限に定めてる」

 

自らの挨拶を終えた後、高塚は皆の前で言った。

 

 

「ですが、私達には武器・弾薬はもちろん、車両等は足りていません。例え、兵員は奪還した各駐屯地から補充出来ても、ますます不足するのは明らかです」

 

副官として現状を知っている為、ハッキリと市ヶ谷が言った。

 

 

「しかも、実戦部隊は金沢の第14普通科連隊だけ。私や富山は施設科中隊が一個づつ。とてもじゃないけど、半月どころか、1ヶ月なんて無理だよ」

 

トレードマークの眼鏡を拭きながら鯖江が言った。

 

 

「そ、それに14普連にある装甲車輌は軽装甲機動車が第4中隊分あるだけで、後は指揮装甲車のみ。残りは非装甲車輌だけですよ」

 

おずおずと金沢が自部隊の現状を語る。

 

 

「チャーフィーも歩兵相手ならいいけど、戦車はちょっと…」

 

 

「対空戦車に戦車はちょっとなー」

 

チャーフィーとM42も自信無さげに言った。

それを聞いても高塚はもちろん、あきつ丸、そして、鯖江にも言われた富山も普通である。

 

 

「それについても明日に説明する。明野中尉、すまないが航空偵察を含めた偵察結果を纏めておいてくれないかな?」

 

 

「了解です! じゃあ、ちょっとひとっ飛びしてきますね! 明野レインボー!!」

 

そう言って明野は飛び出して行った。

 

 

「では、本日はこれまで。解散」

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜回想 終了〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

「あんな事言っちゃって大丈夫なの?」

 

 

「あぁ、大丈夫だ。伊達に『マルタの英雄』じゃあないしな」

 

 

「『岡山の死神』でもないけどね」

 

 

「その渾名はアメリカが調書に書いてたやつだ。まあ、ハッキリ言われたのはマルタだけど」

 

そう言って高塚は苦笑いを浮かべる。

 

 

「そう言えば、その調書を含めて『岡山テロ事件』の資料を見ようと思ったら、何でか規制かかるんだけど、司令は何か知ってる?」

 

 

「あぁ、陸上自衛隊じゃあ絶対無理だ。あれは少将以上のクラスしか見れない様になってる。外国軍ならアメリカさんの資料があるから、平の兵隊でも許可さえあればそっちを見れる。まあ、あれは陸自の汚点が満載な事ばかりだからな」

 

そう言って高塚は神妙な表情になってが、ひと笑いしてから言った。

 

 

「まあ、そんな話はまた今度だ。とりあえず、明日に備えておけよ。多分、忙しくなるからな」

 

そう鯖江に言って高塚は自分の寝床に引き上げた。

 

 

 

翌朝 0817

 

 

 

「予定より早いどころか、国旗掲揚後・課業開始に入ってくるとは、まあ、味な事をするな」

 

軽装甲機動車を始め、数両の装甲車輌に護衛されて到着した車列を見て満足そうな笑みを浮かべる高塚。

 

 

「あの、高塚司令、これはいったい…」

 

 

「あぁ、ちょっと早いけど、種明かしするなら…足りない物の補充品」

 

 

「えっ!?」

 

車列を見て訊いてきた市ヶ谷に高塚はケロリと答える。

 

 

「当面に必要な小銃、汎用機関銃、それらの弾薬、装甲車輌…まあ、他にも色々あるけどね」

 

 

「で、ですが、そんな都合良く…」

 

 

「その『都合良く』がおきてるんだよ、市ヶ谷さん」

 

そう言って富山とこの車列を率いて来た天龍がやって来た。

 

 

「少佐殿、嫌々、少将殿、頼まれた物、持って来たぜ」

 

 

「ありがとう、天龍。富山、色々とありがとう」

 

 

「いいってこと。まあ、天龍から電話があったのが意外だったけどな」

 

互いにニヤニヤ笑う富山と天龍。

それを微笑みながら高塚も見ていた。

 

 

 

暫くして 会議室

 

 

 

「ブリーフィングの前に水陸研と九州方面の駐屯地から少数だが援軍として来てもらった」

 

そう言って高塚は面々を立たせる。

水陸研からは天龍、龍田、木曽、睦月、吹雪、叢雲、夕立、綾波(全員元マルタ島鎮守府所属)の8名。

これに九州組+αが加わるのだが…。

 

 

「対馬警備隊の対馬まどかです。森林戦闘はお任せを」

 

 

「目達原駐屯地、目達原楓だ。ヘリ部隊を担当している」

 

 

「三式中戦車チヌです。よろしくお願いします」

 

そして、最後に……

 

 

「久しぶりっちゃ、高塚司令!」

 

 

「小倉中尉も元気そうでよかったよ。小倉駐屯地の小倉雛子中尉は富山と共にマルタへ派遣されていた時のメンバーの1人だ。皆、よろしく頼む」

 

 

「それにしても、昨日の司令の発言と言い、富山が何も言わないって事は富山も絡んで根回ししてあった、って事?」

 

 

「いやー、天龍や小倉から連絡を受けた時は驚いたけどさ、そう言う手でいくって事だったしね〜」

 

鯖江の言葉に富山はおちゃらけながら言った。

 

 

「さて、今後の方針だが、当面は10師団担当地域の奪還だ。まずは鯖江・金沢・富山の駐屯地近辺の安全化を図り戦線を形成、後に南下し、南部の奪還と駐屯地部隊との合流を果たす。それに際してだが…金沢中尉、先程天龍達が持ってきた73式装甲車を4中隊以外の中隊に配備し、歩兵中隊の装甲機械化を図れ。一応予備含めて15輌持ってきたが、あれで一個中隊分だ。必要なら定数を増やす。残りの中隊分は重迫(重迫撃砲)中隊分を含めて順次到着予定だ。小倉中尉の歩兵中隊は73APCでの装甲機械化が終わってるから、相談してみてくれ。浮いたトラックは輸送用に回す。いいかな?」

 

 

「は、はい!」

 

 

「任せてっちゃ!」

 

 

「鯖江、富山の工兵中隊にも73APCを回す。また、機材も増強するから、各隊に図ってくれ。明野と目達原のヘリ隊は彼らの援護を担ってもらう。戦車を含めた火力戦闘部隊が無い中だから、ヘリ隊の存在は重要だ。目達原中尉は明野中尉と擦り合わせを行え。火力なら目達原だが、土地柄なら明野が頼りだ。必要な機材等があるなら言ってくれ。こちらも出来る限り用意する」

 

 

「「「「了解!」」」」

 

 

「また、足りない銃器や重火器も一応用意はしてある。まあ、銃器は64式小銃と62式機関銃、9㎜機関拳銃だが、生産されて1年も経過していない新品ばかりだ。弾薬もあるから、気にせず撃ってくれ…質問は?」

 

締めの高塚の言葉に市ヶ谷が挙手する。

 

 

「司令、64を含めた銃器の新生産と言い、73式装甲車の数と言い、何処から持って来られたんですか? 特に73式装甲車は富士教導隊と第7師団しかほぼ無い筈ですが?」

 

 

「あー、うん、そのツッコミ入るよね。実は全て佐世保の水陸研で生産した物だ。マグマ軍に、って訳では無いが、1年前から海軍の工廠妖精さん達の力を借りて、備えていたんだ」

 

 

「ちなみにウチや対馬は知ってたっちゃ。なにせ、水陸研には九州の部隊がコテンパンにされて鍛え直して貰ったちゃからね」

 

 

「私も『鬼神通』と『夜川内』、『花魁那珂』にどれほど挑みましたね。まあ、その兼ね合いで73式装甲車の事は知ってましたけどね」

 

高塚のカミングアウトに続き、楽しそうに話す小倉と対馬に対し、目達原は少し苦い顔をしている。

 

 

「まあ、とりあえずは足場を固める事からだな。各員、機材・装備受領後、点検・慣熟訓練実施。以上、解散」

 

 

 

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4 準備

登場人物 3

天龍 海軍艦娘(出向員) 准尉

元マルタ島鎮守府・現佐世保の水陸研所属の艦娘。(改二済み)
マルタ島派遣終了後、出向の形で水陸研へ妹の龍田と共に教官として所属している。
富山とはマルタでの事もあり仲が良い。



対馬まどか 陸自幹部 中尉

対馬警備隊所属の駐屯地娘。
韓国との領土的いざこざから警備隊と名乗っているが森林戦を得意とするレンジャー部隊で、別名『山猫部隊』と呼ばれる。
当初は対馬にもマグマ軍が進出したが、警備隊と佐世保の海軍・艦娘部隊により撃退し、その余力から第10師団へと転戦した。
対馬警備隊も水陸研で研修を受けていたりする。



目達原楓 陸自幹部 中尉

目達原駐屯地所属の駐屯地娘。
国内唯一のアパッチ戦闘ヘリ部隊『第3戦車ヘリコプター隊』と西部方面航空隊が駐屯し、更に九州補給処が存在する。
口調が強い(と表情もキツイからか?)為か普段から『怒ってる』と勘違いされているのが密かな悩みどころ。
ヘリによる機動・支援等々を得意としているが、水陸研では散々に絞められた…らしい。



小倉雛子 陸自幹部 中尉

小倉駐屯地所属の駐屯地娘。
第40普通科連隊が所属する駐屯し、初の軽装甲機動車配備部隊である。
本人はアニオタ。服装もアイドル風……なのだが、服装に関しては富山と共にマルタに派遣されており、その際に軽巡那珂の影響を受けたのではないか、と噂されている。
水陸研とは頻繁に演習等のやり取りしており、水陸研製73式装甲車等の実地使用を対馬まどかと共に行った、とされている。
素で小倉弁を使う。



三式中戦車チヌ

旧帝国陸軍が大戦末期に製造した75㎜砲搭載戦車。
マグマ軍侵攻まで練馬駐屯地の片隅で他の展示兵器達と共に訓練・イベントを眺める平和な日々を送っていたが、東京陥落の際に高塚達が他の展示兵器と共に運び出し、武器娘として復活した。
なお、肝心の75㎜砲は元が野砲であり、これについては佐世保の水陸研で弄った模様。
あきつ丸とは仲が良い。当然かもしれないが。


翌日 鯖江駐屯地内 グランド

 

 

「おら! 姿勢は低く! だが、進む時はケツを上げろ!」

 

 

「うふふ、後退する人は死にたいみたいだから、私が楽にしてあげるわね〜」

 

 

(いま、後ろには鬼と死神が居ます。神さま、助けて下さい!)

 

……第14普通(歩兵)連隊第二中隊所属の杉谷太一二等陸士(二等兵)は密かに心中で祈った。

後ろでは73式装甲車から下車戦闘を行う普通科隊員の指導に天龍と龍田が担当している。

正に『鬼軍曹』天龍と『微笑む死神』龍田が隊員達を嗾けていた。

第二中隊は鯖江駐屯地にて73式装甲車の受領を兼ねて来ていたが…受領した次の瞬間にいきなりの訓練だった。

 

 

「なあ、杉谷、ここって海兵隊だっけ?」

 

 

「水陸機動団でない事は確かだよ」

 

同期の分隊支援火器要員である萩原満二等陸士の問いに杉谷は否定する。

なにせ、今の模様は映画に出てきそうなアメリカ海兵隊の訓練そのものだから…。

 

 

「おら! そこの2人! ベチャってないで進め!」

 

 

「「は、はい!」」

 

 

 

同じ頃 司令部テント

 

 

「……大丈夫かな? あれで?」

 

 

「それを私に訊かれましても…」

 

書類仕事をやりながらテントの外からの声を聞いていた高塚は側に居た市ヶ谷に訊いて、市ヶ谷は困り顔で答えた。

 

 

「それなら、あきつ丸さんを教官にすればよかったのでは?」

 

 

「あー、残念ながら先約がある。89式重擲弾筒の教官役を出来そうなのは陸軍だったあきつ丸なんだよな」

 

皮肉そうに笑いながら高塚が言った。

 

 

「62や64はまあいいとして、旧軍の兵器まで採用すると言うのは…」

 

 

 

「では、2013年採用の60㎜軽迫撃砲(B)はいくつあります?」

 

 

「………ないですね」

 

 

「でしょう? 早急に揃えられ、かつ、歩兵火力の増強を目指すなら、兵器の新旧など言ってられません。そもそも、小銃装着型グレネード・ランチャーを嘘か本当か『命中率』や『重量』の問題で長年採用せず、小銃擲弾で間に合わせていたのがそもそもの問題なんですからね」

 

実際、高塚は旧帝国陸軍の89式重擲弾筒を大量に持ち込み、小銃装着型グレネード・ランチャーや60㎜軽迫撃砲(B)の代わりに普通(歩兵)科部隊を含めた現存部隊に配備するつもりである。

 

 

「旧帝国陸軍をしっかり観察すれば、歩兵同士の撃ち合いでは擲弾筒の介入で有利に立てていた事実はわかったハズなのに、自衛隊だけ時代逆行してるんですから、今までホントに笑われなかったのが不思議なくらいですけどね、私としては」

 

 

「ですが、第二次大戦の撃ち合いでは米軍が有利だったとよく言われていますが?」

 

 

「まあ、米軍は有利ですよ。自動小銃であるM1ガーランド、更に支援の火砲を好き勝手に撃ちまくれるだけの弾を持ってる訳ですからね。ただ、それ以外の国はイギリスもドイツもコストの関係もあって形態としては日本と一緒でしたがね。また、分隊支援火器である軽機関銃の不在からガーランドの大型であるBARに宛てた為にヨーロッパでも太平洋でも苦戦しましたからね。当時のアメリカには良くて『重』中機関銃のM1917機関銃があったくらいで、歩兵隊の行動に追従出来ませんでしたし…太平洋、朝鮮、ベトナムを経て今のアメリカ軍が構成されてますから、今だけしか見ない方は勘違いするでしょうけどね」

 

 

「……火力を求めるのは元特科隊員の司令らしいですね」

 

 

「うーん、そう言った訳でもないんですが…まあ、いいや。さて、お喋りが長過ぎだ。仕事、仕事と」

 

そう言って高塚は再び仕事に手を付け始めた。

 

 

 

その頃 長崎 佐世保鎮守府 会議室

 

 

 

「よいか、佐世保〜舞鶴〜富山港のシーレーンは絶対に固持せよ。このシーレーンが瓦解すれば日本本土奪還は無いと思え。いいな?」

 

 

集まっていた佐世保鎮守府並びに指揮下の提督・参謀達に念を押し、退出させる。

全員が退出した会議室の上座席にドッカリと座ったのは『マルタの英雄』の1人にして、今や『日本海軍総司令官』である松島宮孝子大将(海軍こと旧海自は自衛隊式階級呼称を撤廃)である。

 

 

「お疲れ様、松島宮」

 

そう言って同じく『マルタの英雄』であり、松島宮の参謀兼副官の滝崎正義少将は紅茶を差し出した。

 

 

「あぁ、すまない…だが、奪還の要たる陸軍を率いる高塚に比べれば

まだまだマシだな」

 

 

「うーん、多分、マルタの時と立場が反対になったからだよ。あの時はコッチが前線、アッチが後方だったけども、戦場が陸になったからね」

 

 

「ならば、責任は重大だな。大戦の様に『海軍が護衛してないから負けたんだ!』なんて言われたら、それこそ恥ものだ…ふむ、今日の紅茶は茶葉が違うな」

 

 

「今日はフッドさんが送ってくれた物なんだ。気分転換にね」

 

 

「そうか……さて、我々も仕事の続きに掛かるか」

 

 

「そうだね」

 

 

 

夕刻 鯖江駐屯地内

 

 

 

「うーん、やっぱり、岐阜分屯地まで一気に下げたいな…空軍(旧空自)の岐阜基地と隣接する関係上、そこまで下げたら色々と有利だし…」

 

ブツブツと呟きつつ、高塚は廊下を歩く。

 

 

「重火力部隊がいないってのがな…砲兵は南部の豊川、戦車は滋賀の大津、ギリな偵察は春日井…何処かで臨時重火力部隊を作るべきだな…火砲は何とかなるが、問題は戦車ねーことだな」

 

上を向いて考えていた時、ケータイが鳴った。

それに出た高塚は…意外なところからだった。

 

 

 

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5 攻勢開始

と言っても2000字程度で終結


登場人物 4


龍田 海軍艦娘(出向員) 准尉

天龍型2番艦で元マルタ・現水陸研所属の艦娘。(改二済み)
マルタ派遣終了後、天龍と共に水陸研に出向、教官として所属している。
訓練を受けた人間からは『鬼天龍・死神龍田』『微笑む死神』のあだ名で呼ばれているが本人は全く意に介していない。


杉谷太一 第14普通科(歩兵)連隊第二中隊 二等陸士(二等兵)

第14普通科連隊第二中隊所属の二等陸士(新隊員)で小銃手。
金沢駐屯地から鯖江駐屯地へ73式装甲車受領・慣熟訓練の為に移動、天龍・龍田の訓練を受けていた。


萩原満 第14普通科連隊第二中隊 二等陸士

第14普通科連隊第二中隊所属の二等陸士で分隊支援火器員、杉谷の同期。
訓練の為に金沢駐屯地から鯖江駐屯地へ移動、訓練を受けていた。
分隊支援火器員であるのは身体つきが良く、力持ちだから。


松島宮孝子 日本海軍(旧海自) 海軍大将

『マルタの英雄』の1人で現日本海軍の総指揮を執る皇族。
マルタ派遣終了後は深海棲艦との講和作業を進めながら戦後を睨んだ艦娘の処遇等に奔走、東京撤退戦では海軍の指揮を執り、現在は海軍の総指揮を執る。
後記の滝崎とは転生者同士・恋人同士・戦友である。


滝崎正義 日本海軍 海軍少将

『マルタの英雄』の1人で松島宮の副官兼参謀。
マルタ派遣終了後は松島宮同様、各種戦後処理に奔走。松島宮が海軍の総指揮を執ると松島宮や高塚達のサポートに回っている。
高塚とは親戚、松島宮とは転生者同士・恋人同士・戦友、艦娘達とは松島宮と共にマルタと『前世』で戦った戦友。(詳しくはマルタ鎮守府を参照)
なお、現在海軍は佐世保を前線司令部として、各海軍拠点への指揮統制と陸軍支援を行っている。


4日後 0000時

 

 

 

「全隊準備完了です、司令」

 

普段の陸自制服と違い、本日は完全装備姿である市ヶ谷が言った。

そして、これまた完全装備姿の高塚は送受話器を握って静かに言った。

 

 

「全隊事前作戦通り。前進」

 

この指示の直後、周囲の73式装甲車を含めて全隊が動き始めた。

 

 

 

この日、奪還部隊は動き始めた。

鯖江駐屯地から金沢・富山両駐屯地に部隊を送り、駐屯地周辺の偵察を排除した。

その後、各駐屯地を起点に三方からの『南下奪還』を開始した。

 

 

 

約1時間半前 2230頃 マグマ軍防衛線前方

 

 

「ギッ…」

 

突然の襲撃に声を上げようとしたマグマ軍歩兵は背後を取られ、更に喉に銃剣のひと突きを受け、声も挙げれずに絶滅した。

その周囲には同じ様な死体が2つ転がっている。

 

 

「いや〜、いい夜だね…司令もこんな舞台を用意してくれるなんてね」

 

首に白いマフラーを巻いた人物はそう呟いた。

その周りには数名の影が見えるが全員物々しく武装している。

 

 

「じゃあ、次行こっか」

 

まるで何処かのお店にでも行くかの様な軽い感じでマフラーの人物は言うと、小集団は闇へと消えた。

 

 

 

0100 マグマ軍前線陣地

 

 

 

「……普通では無いです」

 

金沢は目の前の光景に呟いた。

明野達の事前航空偵察で確認していたマグマ軍前線陣地に突入したところ……陣地にはマグマ軍歩兵の死体しか残っていなかった。

 

 

(どの死体もAK47を持って、中には安全装置を解除した状態の物もあるのに…発砲した痕跡がない…しかも、背後から的確に人体急所をひと刺しで済ませてる…普通じゃあ無いです。かなりの遣り手の仕業ですね)

 

転がる死体を調べた金沢は心中でそう呟きながらある種の恐怖を感じていた。

本来、この類が得意な対馬まどか達の対馬警備隊は事前の作戦指示で『敵後方でのゲリラ戦』を命じられている為、前線のここには居ないのでそれは無い。

後は『S』と言われる『特殊作戦群』の噂は金沢も聞いた事はあるが…何故か違う気がした。

 

 

「……作戦通り、このまま前進します」

 

直率部隊に命じ、金沢達は再び進撃を開始した。

 

 

 

0200 高塚直率部隊

 

 

 

『各部隊順調に進行中です』

 

 

「そうか」

 

73式指揮装甲車(73式装甲車の指揮官用タイプ)の車長ハッチで外を眺めながら高塚はヘッドセット経由で市ヶ谷からの報告を聞いていた。

 

 

『ねぇ、司令官。1ついい?』

 

 

「なんだ、鯖江中尉?」

 

隣のハッチに居る鯖江からヘッドセットで質問が入ってきた。

 

 

『鯖江でいいよ。司令官、『S』の介入があると思う?』

 

 

「さてね…まあ、半分運に近いだろうね。ただ、俺は介入されなくても大丈夫な作戦を立てて実行するだけだが」

 

 

『だよね。うん、やっぱり、何時もの司令官だね』

 

 

「おいおい、なんだなんだ?」

 

 

『気にしなくていいよ。それより、司令官は前に集中して』

 

 

「はいはい」

 

……こんな状況で高塚達は進行中であった。

 

 

 

 

0630 富山・小倉隊

 

 

「よーし、みんな来いや!」

 

 

「蹴散らせ!」

 

富山駐屯地から南下した富山・小倉隊は遂に敵と交戦に入った。

今までは『何故か敵が殲滅』されていたが、増援か交代かはわからないが敵部隊と接触・交戦していた。

 

 

「富山2尉! 前方より『芋虫』!」

 

歩兵を蹴散らしていた最中、陸士の1人が叫ぶ。

前方から『芋虫』ことマグマ軍歩兵戦闘車(BMT-1)が10輌ほどやってきた。

 

 

「チッ、対戦車火器前へ! 対戦車戦闘…」

 

 

「富山! 俺に任せろ」

 

富山の声を遮ったのは同行していた木曽だった。

木曽は2人の前に出ると雷巡である木曽の魚雷発射管から発射されたのは魚雷……では無く有線誘導ミサイル。

魚雷発射管に取り付く妖精さん達が操る有線誘導ミサイルは歩兵を展開する前にマグマ軍歩兵戦闘車に命中し、爆散した。

 

 

「「さっすが木曽!!」」

 

 

「あはは…賞賛するより進もうぜ」

 

苦笑いか、照れ笑いか…微笑みながら木曽は言った。

 

 

 

 

1013 金沢隊 前進偵察班

 

 

 

「……T-34・54・62・72…これに芋虫と歩兵…うぅ、完璧な機甲部隊です」

 

地形を利用し、察知した敵部隊を偵察していた金沢は陣容を観て言った。

一方………

 

 

「ほぇ〜、久々に見る光景にゃし」

 

 

「う、うーん…でも、数は少ない様な…」

 

 

「ねぇねぇ、私が突入するっぽい?」

 

同行する睦月・吹雪・夕立(共に改二)はマイペース。

 

 

「(富山さんや天龍さんに押し付けられる形で預かりましたが…なんでこんな状況でこんなにマイペースなんでしょうか…)あ、あの、皆さん、し、静かに…」

 

 

「じゃあ、行くにゃしい」

 

 

「了解です」

 

 

「ソロモンの悪夢、見せたげる!」

 

 

「ひ、ひゃ!? ちょ、ちょっと!?」

 

金沢が止めるのも聞かず、3人は隠れていた藪から飛び出すと艤装の主砲をマグマ軍に向けると走りながら的確に乱射する。

なお、上記の旧ソ連製戦車も全てマグマ軍では人体化している。

それがT-34だけで20体、T-54で10体、T-62で3体、指揮官格のT-72が1体、『芋虫』BMT-1が4体、警戒の歩兵数名の陣容。

そんな中に3人で突入は無謀な行為だ…但し、『普通の人間』なら。

 

 

「歩兵は片付けたにゃしい!」

 

 

「歩兵戦闘車も撃破完了です!」

 

 

「指揮官格のT-72も片付けたっぽい!」

 

……そう、数と戦いなら『艦歴』とマルタで経験した彼女達にはどう対処すればいいのかお手のものなのである。

 

 

「後は残りを片付けるっぽい!」

 

 

「援護します!」

 

 

「ふっふっふ、我らと逢った事、後悔するにゃしい!」

 

目の前で次々マグマ軍を片付けていく3人に金沢はぽかーんと観ているしかなかった。

 

 

 

1248 高塚直率部隊 敵前線司令部

 

 

 

「……慌てて撤収したみたいだな」

 

そう呟いた高塚。

敵前線司令部に到達した高塚達の前にあったのは物が煩雑に置かれた空っぽの司令部。

通信機材や重要書類等の物品は流石に忘れていないが、撤収に邪魔であったのであろう重機関銃だけでなく、AK-47やRPG-7と言った個人火器すら散らばっている。

 

 

「周囲警戒しつつ、安全化開始。この慌てぶりたがら、敵兵の取りこぼしがあるかもしれないからね」

 

鯖江がテキパキと指示を下す中、高塚はポツリと呟いた。

 

 

「終わったら飯だな、こりゃあ」

 

 

 

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6 戦友

昨日は開戦日でしたね。
世界を変え、また、世界が動いた日。

登場人物 6

木曽 海軍艦娘(出向員) 曹長

球磨型軽巡洋艦五番艦で元マルタ・現水陸研所属の艦娘。(改二済み)
マルタ派遣終了後は水陸研に出向員し、雷巡であった事もあり、有線,無線誘導兵器と格闘等の近接戦の教官を務める。
マルタでの事もあり、富山とは仲良し。胸有りイケメンで女性隊員からは人気。



睦月 海軍艦娘(出向員) 三等軍曹

睦月型駆逐艦1番艦で元マルタ・現水陸研所属の艦娘。(改二済み)
マルタ派遣終了後は他の艦娘同様、水陸研に所属し、主に一般隊員の訓練官として動く。
吹雪・夕立とは仲良し。



吹雪 海軍艦娘(出向員) 三等軍曹

吹雪型駆逐艦1番艦で元マルタ・現水陸研所属の艦娘。(改二済み)
マルタ派遣終了後は他の艦娘同様、水陸研に所属し、睦月達と共に訓練官として動く。
睦月・夕立とは仲良し。



夕立 海軍艦娘(出向員) 三等軍曹

白露型駆逐艦4番艦で元マルタ・現水陸研所属の艦娘。(改二済み)
マルタ派遣終了後は他の艦娘同様、水陸研に所属し、睦月達と共に訓練官として動く。
特にかつて『ソロモンの悪夢』の名の如く、夜間の襲撃等で隊員を悩ませた為、教官達とは別の意味で隊員から恐れられていた。
睦月・吹雪とは仲良し。


翌日 日本軍前線司令部(元マグマ軍前線司令部)

 

 

 

「半日で予定達成ってのが意外なんだよな…1日か2日は掛かる予定だったし」

 

 

「でも、奇襲効果でサッササッサと進めた、と」

 

 

「ありがたい事にな。まあ、次からは強襲になるから、今回みたいな事は期待出来ないけどな」

 

机にある書類等々を確認しつつ、高塚は鯖江との会話も続ける。

マグマ軍が前線司令部をそのまま置いて行ったので高塚はありがたく使わせてもらっている。

 

 

「そう言えば、白山の警戒部隊から何か言ってきたかな?」

 

 

「定時連絡以外はなし。やっぱり気になる?」

 

実は岐阜の白山周辺には移動要塞『クロシュタット』とその直衛部隊が存在している。

火山火口を守る様に配置されている事から、この『クロシュタット』は『門番』であると予想しているが、それが南下した場合に備えて監視部隊を置いていた。

 

 

「マグマ軍の移動要塞があるからね。しかも、兵力供給地である可能性があるなら余計だ。まあ、近々潰すが…それには戦力が揃ってない。特に重火力部隊がいないのが問題だ。戦車・重火砲が無い現状だと…」

 

 

「あ、あの、困ります! 司令官に確認しないと…」

 

 

「はっはっはっは! なら、司令官には私が無理矢理入った、と正直に言えばいい」

 

話の途中で市ヶ谷が止めるのも聞かず、豪快そうな笑い声をあげながら司令部テントへと向かって来る人物。

そして、入り口で顔を見せた。

 

 

「軍団長、遅れてすまなかった」

 

 

「神州丸! 佐世保から来てくれたのか!!」

 

 

「あぁ、滝崎少将には無理を言ったが…早くも軍団長がお困りだと聞いてな」

 

やって来たのは元マルタ鎮守府で陸軍艦娘として高塚の指揮下にあった神州丸。

水陸研では高塚の副官の1人であり、部隊指揮を任せる程に高塚は信頼している。

 

 

「紹介するよ、市ヶ谷、鯖江。あきつ丸の先輩兼上官で艦娘の神州丸だ」

 

 

「旧帝国陸軍初にして、世界初の揚陸艦とは私の事だ」

 

 

「「………あっ、はい」」

 

 

「……軍団長、ホントに陸自は無知・無思考な連中だな」

 

 

「あはは……まあ、頼りにはなるんで、ご勘弁を」

 

2人の返答に神州丸は呆れ、高塚がフォローを入れる。

 

 

「はぁ…おぉ、そうだ。外に軍団長の知人を待たせていた。本来なら入れたいが、色々とあるからな」

 

 

「わかりました。鯖江、少しここを頼む」

 

 

「わかったよ、司令官」

 

鯖江に後を頼み、高塚と神州丸、そして、市ヶ谷が司令部入り口へと向かう。

 

 

「ホントなら、天龍かあきつ丸を捕まえたかったのだが、付近に居なくてな」

 

 

「天龍達は前線哨戒線の補強に向かわせました。残念のがら、此方の人員の大半が実戦未経験者ですので」

 

 

「ふむ、ならば、マルタで各種戦闘に慣れた天龍達を配置する…合理的な判断だ。うむ、さすが、軍団長」

 

 

「あはは……ただ、あきつ丸は明野達ヘリ隊との調整を任せてます」

 

 

「うむうむ、適材適所…やはり、軍団長は一流だ! あっはっはっは!!」

 

そう言ってバンバンと高塚の背中を叩く神州丸。

そうこうしている内に司令部入り口前に到着した。

そこに居たのは……

 

 

「同志! 戦艦棲鬼!?」

 

そこに居たのはマルタで『民兵隊』を率いてやって来た元自衛官で別中隊の同僚だった山本剛大佐、マルタで出会った深海棲艦地中海方面艦隊幹部の1人であった戦艦棲鬼。

これに見慣れない1人が居たが…高塚は顔見知りの方へ。

 

 

「お久しぶりです、同志。でも、まだインドの筈では?」

 

 

「何を言ってるんだ、同志少将。電話を入れてから5日もあったんだ、こっちの困り具合を聞いて、一足先に来たのだよ」

 

 

「すみません。そして、ありがとうございます。戦艦棲鬼も元気だった?」

 

 

「アァ、ソッチノオ陰デ気楽ニ日本を回レタ。ダガ、最近ハ『マグマ軍』トカ言ウ無頼者共ノセイデウンザリシテイタトコロニオ前ノ噂ヲ聞イタカラ、手助ケニ来タ」

 

 

「いや、助かるよ。なにせ、人が全然足りないんだ。ありがとう、戦艦棲鬼。ところで同志、そちらのお嬢様は?」

 

そして、ようやく山本大佐の背後に居た『お嬢様』に話題を振った。

 

 

 

「おぉ、そうだった。紹介しよう、同志。我がロシアが誇る武器娘のT-72B3だ。同志T-72、此方が同志の高塚少将だ」

 

 

「T-72B3です。嫌いな物はM1エイズラムスです。よろしく」

 

 

「あ、あぁ、よろしく(大丈夫…だよな?)。さて、状況を説明します、どうぞ」

 

 

 

 

暫くして 司令部内

 

 

 

「ふむ、白山の移動要塞と部隊は態勢が整い次第掃討し、先に岐阜分屯地、並びに空自の岐阜基地を奪還する、と」

 

 

「はい。岐阜分屯地と岐阜基地を奪還すれば補給中継拠点と各種航空支援拠点を確保できます」

 

 

「確カニ拠点ト言ウ基礎ヲ固メルノハ現時点デハ必要ダナ。特ニココガ反攻ノ足場トスルナラバナ」

 

軽く今後の方針を話すと山本大佐と戦艦棲鬼はそう言って頷く。

 

 

「それ以外には海軍さんしか支援が無いのが痛いが…陸軍があれ程腑抜けでは仕方ないな」

 

そう言ってジロリと向けられる神州丸からの視線に市ヶ谷はともかく、慣れてそうな鯖江すら気まずそうな顔をする。

そんな日本勢のやり取りの中、T-72が山本大佐に話掛けた。

 

 

「同志、あの指揮官は大丈夫なの?(ロシア語)」

 

 

「大丈夫だ。なにせ…(ロシア語)」

 

 

「やれやれ、直接本人に聞けばいいのに迂回するとは面倒な奴だな(ロシア語)」

 

2人の会話に聞き耳を立てていた神州丸が言った。

 

 

「我は支那語が十八番だが、ロシア語も使える。言っておくが軍団長はそこらにいる腑抜け士官とは訳が違う。自らの意思と思考、視覚、触覚で物事を判断する『死神』だからな(ロシア語)」

 

 

「(あ〜、話題を変えよう)ところで、武器貸与の件ですが、どうですか?」

 

 

「ティーゲル装甲機動車なら幾つか。後は個人火器ぐらいだね。重火器は新旧問わず、何処も欲しいようだ」

 

 

「ですよね」

 

 

 

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7 未知との遭遇 前編

明けましておめでとうございます。
旧年はお世話になりました。
新年もよろしくお願いします。


登場人物 7


神州丸 陸軍艦娘 大佐

元マルタ島鎮守府・現水陸研所属の陸軍艦娘。性格は豪快。
マルタで高塚の指揮下に入り、そのままあきつ丸と共に水陸研へ所属している。
高塚からある程度聞いていて、わかっていたが、まさかの陸自のヘタレぶりに呆れている。


山本剛 ロシア軍民兵隊 大佐

元陸自隊員であったが、『対馬海峡迎撃戦』後に退役、伝手を頼りにロシアへと渡り、元国営石油企業所属の民兵隊指揮官として活動、後にロシア政府からの『指示』でマルタ島鎮守府へ派遣された。
陸自の現状には在隊中から呆れており、その為、高塚とはウマがあっていた。
現在は正式にロシア軍所属となり活動中。


戦艦棲鬼 深海棲艦 中将

元地中海方面艦隊所属。高塚達とは敵だったが、地中海戦後半には共闘し、『大統領棲鬼』を滝崎・高塚と共に討ち取った。
戦後は来日し、自由気ままに日本各地を巡っていたが、マグマ軍の侵攻により、昔の恩義等もあり高塚達と合流した。


T-72B3 ロシア軍

ロシア軍が誇る第2世代MBTの武器娘。愛称は『ウラル』。
マグマ軍侵攻により、他の武器娘達と共にインドへ撤退後、一命を受けて山本大佐と共に日本へ渡る。
湾岸戦争の一件からM1エイブラムズが嫌い。


その夜 2230頃

 

 

この夜、当直(と言う程でもないが)に就いていたのは叢雲だった。

そして、その報告を直に夜間当直通信員から受け取った叢雲はマルタ鎮守府員であった事もあり、直ぐに仮眠していた高塚を起こした。

 

 

「高塚少将、ちょっと気になる報告が来てるんだけど?」

 

 

「叢雲か…水でもぶっ掛けて起こしてくれてもいいのに」

 

 

「冗談言わないでよ。完全装備に毛布一枚で軍刀と一緒に横にならないで仮眠する人間に水をぶっ掛ける気にはならないわ」

 

そう言って缶コーヒーと報告メモを渡す叢雲。

それを受け取った高塚は缶コーヒーを一気飲み空け、メモに目を通す。

 

 

「……ふむ、『AKとは違う複数の銃声が岐阜市内方向から聞こえる』か。報告してきたのは何処の斥候隊だ?」

 

 

「金沢中尉の所属部隊、第14普連第4中隊から出てるデルタ・レコン(デルタ偵察隊 D・R)よ。但し…」

 

 

「但し?」

 

 

「中隊本部も連隊本部も、その報告を半端無視しているわ。まあ、私達や高塚少将みたいにガチの戦場の『匂い』が分かる自衛官はいないみたいね」

 

 

「ふむ、君の毒舌は相変わらずだな…神州丸さんかあきつ丸を起こしてくれ…あと、同志と戦艦棲鬼、綾波もね」

 

 

「はいはい、前線に出るんでしょう。5分以内に集めるわ」

 

 

「あぁ、頼む」

 

 

 

30分後 デルタ・レコン観察場所

 

 

 

「け、けい…」

 

 

「礼式省略。それより、報告詳細を聞きたい」

 

叢雲、綾波、山本大佐、戦艦棲鬼を連れて報告元であるデルタ・レコンの担当観察場所までやって来た高塚。

そこには成り立ての若い陸曹と同じく若い隊員がいる偵察隊だった。

 

 

「は、はい。約30分程前、隊員の1人が岐阜市内方向からAKの他に複数種の銃声が聞こえた、と報告したので、中隊・連隊本部に報告しました」

 

 

「で、その報告は中隊・連隊本部には半端無視されてるわね」

 

 

「はい、自分としましては銃声の違いなど報告する事ではないとは思いますが、些細な事とは言え、報告せよとの事だったので…」

 

この時点で叢雲と若い陸曹との間に認識の違いがあるのだが、若い陸曹は気付いていないし、高塚達は気付いているがそれを論議する為に来たのではない為、話を先に進める。

 

 

「ふむふむ…ちなみに、その『銃声の違い』を報告した隊員は?」

 

 

「え、あ、そ、それは…」

 

 

「はい。自分です」

 

そう言って若い陸曹の後ろから1人の隊員が出てきた。

 

 

「第14普連第4中隊所属、貴志部真幸陸士長です」

 

 

「ふむ、貴志部士長。なんで違うと分かるのかね?」

 

 

「自分の父は商社マンで、取引先の関係でハワイやグアムの米軍への納品等を任されていました。その為、実銃を撃つ機会がありまして…まあ、ガンオタクですね」

 

少し照れくさそうに答える貴志部士長に高塚は苦笑を浮かべる。

 

 

「なに、私だってミリオタで歴史オタクだ。それで、種類はわかるかな?」

 

 

「はい…ただ、M1911ガバメントは確実と断言出来ます。ですが、後はMP40やワルサーP38、ステン短機関銃、M1895だったと思うのですが…」

 

 

「……なるほどね」

 

そう言って高塚は山本大佐に「ちょっと」と言ってヒソヒソと話す。

 

 

(どう思いますか、同志?)

 

 

(あの士長の言う通りなら、ガバメントについてはまだわかる。だが、MP40やワルサーP38は日本人は知っていても所持している人間なんて皆無だ。例え外国人が個人で持っていたとしても、弾の供給がある。マグマ軍が使うとも思えん)

 

 

(ですよね…)

 

高塚はそう呟いて振り向くと宣言した。

 

 

「ただいまをもってデルタ・レコンは一時的に任務解除。2つのタッグを編成し、岐阜市内に潜入する。山本大佐、軍曹と綾波を就けますので片方のタッグの指揮を預けます」

 

 

「あぁ、任せてくれ。ただ、戦艦棲鬼を借りるよ」

 

 

「私ハドッチデモイイ」

 

 

「軍曹、5分後に出発する。手早く準備と装具点検を行え。以上」

 

 

「りょ、了解です」

 

 

 

 

その頃 前線司令部

 

 

 

「さて、緊急の為、軍団長自ら我に指揮権を一時委託されたが…あきつ丸よ、お前はどう思う?」

 

 

「市ヶ谷殿や鯖江殿を起こさなかったのは報告が間違いだった時の為の拝借、我らを起こしたのは報告が事実でイザと言う時に対処法をわきまえているが故に…と推察するであります」

 

 

「だな。確かにあの女性達は優秀だ。ただ、一事に対して軍の指揮を預けれるかと言えばどんぐりの如き陸自士官だからな」

 

 

「あはは…それで、神州丸殿はどうする気でありますか?」

 

 

「ふむ…軍団長は御親戚の滝崎少将同様、この類の『匂い』を察知する事に長けている。故に我は今回の一件、8割がた『黒』と見ておる。ならば、その準備をしておけば問題は無い…と考えている」

 

 

「なるほど…そうなりますと、せっかくの高塚殿の心遣いも無駄になってしまいますな」

 

 

「ふん、戦用意は出来ていても、その意志と気構えが無い集団など雑兵にも劣る烏合の集よ。まあ、自衛隊の場合、その戦用意も現状に合致しておらぬのだから、軍団長の悩みは底知れぬがな」

 

 

「あはは……高塚殿も神州丸殿も辛口であります」

 

 

 

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8 未知との遭遇 中編

※別作品キャラが入りますのでタグを追加します。

登場人物 8


叢雲 海軍艦娘(出向員) 1等軍曹

元マルタ鎮守府の艦娘で現在は高塚の佐世保の水陸研に出向している吹雪型駆逐艦5番艦。(改二済み)
艤装が理由で日本への帰還後は槍術を本格的に習い始め、更に筋の良さから銃剣道・小太刀・戦闘用ナイフ等の戦闘術も指南された。
よって、水陸研では近接戦闘術の教官を務めている。
(故に階級が高い)



貴志部真幸 第14普通科連隊第4中隊 陸士長(兵長or伍長)

第14普通科連隊第4中隊所属の陸士長で小銃手。
父親は米軍とも取り引きのある商社の商社マンで幼い頃からハワイやグアムなどに行く事が多く、その為にガンオタクになった。
今回は臨時編成のデルタ・レコンの一員として配置していた。


暫くして 岐阜市内

 

 

「右、クリア」

 

 

「左、クリアです」

 

 

「よし、みんな、集まれ」

 

岐阜市内へ潜入した高塚達とデルタ・レコンの隊員は通りに出る路地から通りを叢雲と綾波に確認して貰い、一度全員を集めて軽くミーティングを行う。

 

 

「貴志部兵長を含む4人は私と叢雲、軍曹を含む4人は山本大佐、戦艦棲鬼、綾波に分かれて進む。いいな?」

 

高塚の言葉に警戒する叢雲、綾波を除いた全員が頷く。

 

 

「ここには味方は我々しかいない。だが、マグマ軍以外の何者かが居て、敵か味方かはこれまたわからない。接触には充分に注意する事。質問は?」

 

最後の問いに誰も何も言わない。

 

 

「じゃあ、散開して任務開始」

 

 

 

 

暫くして………

 

 

 

「はぁ…はぁ…老兵には少しキツイのじゃ…」

 

市街地戦には不向き過ぎる格好…と言うか白を基調とし、寒冷地に対応した防寒系着…を着て、回転弾倉式拳銃を持ち、古典的な言葉遣いな少女が壊れたビルの中の陰に隠れながら呟いた。

 

 

「ガバメントやステン達とも離れ離れな上に通信機の反応も鈍い…その上、なんじゃ、彼奴らは…鉄血の機械兵では無く、人間に近いときておるぞ」

 

様子を伺いながら今まで撃ち倒した『敵』を思い出しながら愚痴る。

 

その時、ハッと気付き振り向くと、いま、まさに手に持つAKを撃とうとするマグマ軍歩兵3人。

 

ダン! ダン! カチッ!

 

 

「し、しまった!!」

 

条件反射で咄嗟に得物の拳銃を撃つが最後の1人は弾切れで撃てない。

残ったマグマ軍歩兵が撃とうとした瞬間……

 

 

「愚か者は…沈め!」

 

 

 

 

「愚か者は…沈め!」

 

右手にベレッタM92拳銃、左手に戦闘用ナイフを持って前衛に就いていた叢雲は寸前のところでマグマ軍歩兵の首に戦闘用ナイフを深々と突き刺す。

マルタからの帰還後、水陸研への出向を機に(艤装の関係から)得意だった槍術を錬成し、筋の良さから棒術・小太刀・ナイフ戦闘術等も習い、いつの間にやら近接戦指導教官になっていたりする叢雲はここでもその腕前を披露した。

 

 

「周囲に散開後、警戒! 出来る限り発砲は控えるが、イザとなれば撃て! 叢雲、少し頼む」

 

率いていたタッグを周囲に展開させ、叢雲に場を任せると高塚は先程、叢雲が救った少女に話し掛ける。

 

 

「大丈夫ですか? 我々は日本陸軍です…その前に日本語わかりますか?」

 

流石の出で立ちに高塚も日本語が解るかを心配する。

 

 

「え、あ、と、当然じゃ! 世界の言語など多少の得意不得意はあるが、聞いて理解するなど造作も無い!」

 

 

「あっ、よかったです。いや〜、外国の方なら言語が通じないと色々と面倒で…あっ、お名前の方を聞いていませんでしたね。出来れば言って頂ければ助かるのですが?」

 

 

「儂か? 儂はM1895じゃ!」

 

 

「M1895!? なんで、帝政ロシアのリボルバー拳銃がここにいるんですか!?」

 

さすがガンオタの貴志部が興奮しながら言った。

 

 

「貴志部兵長、貴方は黙っておきなさい」

 

 

「あはは…ちょっと失礼」

 

叢雲が注意するのを横目で見ながら、高塚はヘッドセットの通話機能のスイッチを入れる。

 

 

「こちら、タンゴ・キング。ゲオルギー、応答せよ」

 

 

『ゲオルギーからタンゴ・キング、感度良好。ちょうど通信しようとしていたところだ、同志。なにか見つけかね?』

 

 

「こちらは少女…M1895を保護。帝政ロシア時代のリボルバー拳銃の名前だそうですが…お心当たりは?」

 

 

『大ありだ。実はこちらもM1911ガバメントとステンMarkIIと名乗る少女を保護した。彼女達曰く、そちらのM1895の他に2名と行動を共にしていたそうだが、転々バラバラになったそうだ…あと少し長居する必要があるな』

 

 

 

「そうですね……同志、3人の事、どう思います?」

 

 

『世界で有名な銃の名前と実物を持った少女がこの周辺に居る…色々と興味をそそられるね』

 

 

「それは同じく…とりあえず、残り2人を捜索・保護しましょう。通信アウト」

 

通信を終え、高塚は皆の近くに寄る。

 

 

「山本大佐と話したが、向こうも2人を保護した。しかし、あと2人、行方不明の為、捜索を継続する。多分、残る2人はMP-40とP-38だ。

貴志部兵長、君の耳が頼りだ」

 

 

「了解。建物の中でドンパチしていても聞き分けてみせます!」

 

 

「はいはい、元気はいいけど、ボリュームを下げなさい」

 

 

「あはは…さて、行こうか」

 

貴志部と叢雲のやり取りに苦笑いを浮かべながら、高塚は前進を命じた。

 

 

 

その頃 マグマ軍 岐阜分屯地包囲部隊司令部

 

 

高塚達の反撃により、いつの間にか前線防衛司令部にもなってしまった岐阜分屯地包囲部隊司令部の中は騒がしかった。

正体不明の小集団の侵入によって既に20を数える歩兵が倒されていた。

また、追撃する内にバラバラになった為に未だ1人として発見出来ず、司令部に詰める誰もがイライラしていた。

なにせ、目の前に『日本軍の大部隊』が自らの拠点を奪還せんと虎視眈々に狙っている中でのこの出来事を早く解決し、現状復帰を図りたいのに、それが出来ないのだから当然である。

そんな中、扉からコロンと音がした事に気付き、其方を見ると次の瞬間には強烈な閃光を解き放った。

これにより視野を奪われたマグマ兵はとにかく手近にあったAK-47に手を伸ばそうとするが、視界ゼロ状態では上手くいかない。

また閃光から少し間を置いて突入した2人が各々の得物であるMP-40とワルサーP-38で的確に司令部の人間を1人残さずに片付けた。

 

 

「ワルサー、そっちは?」

 

 

「制圧完了」

 

 

「ダンケ。無線をお願い。私はドアを見張る」

 

 

「了解」

 

MP-40がドアを見張り、ワルサーP-38がマグマ兵の死体を退けて無線を弄る。

暫くダイヤルを弄り、二、三言送信機に向かって話すが、諦めた。

 

 

「ダメだよ。グリフォン本部にはまったく繋がらないよ」

 

 

「いよいよ、私達が別世界に来た事を疑うしかないね…仕方ない、バラバラになった皆んなと合流して…」

 

その会話が中断したのは隣の小部屋から物音がしたからだ。

2人は慣れた動作で小部屋へのドアを警戒しながら開ける。

すると……中に居たのは後ろ手に縛り、ご丁寧に猿轡まで噛ませた眼鏡少女だった。

 

 

 

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9 未知との遭遇 後編

まあ、この流れから察せれる後編です。


登場人物 9


綾波 海軍艦娘(出向員) 1等軍曹

元マルタ島鎮守府・現水陸研出向中の『ソロモンの鬼神』の綾波型駆逐艦1番。(改二済み)
その優しそうな表情とは裏腹にマルタ島鎮守府で鍛えた近接徒手格闘を活かし、水陸研では近接徒手格闘教官を務めている。



M1895 民間軍事会社(PMC)グリフォン

旧ロシア帝国時代に正式に採用されたM1895拳銃を模した自律型戦術人形。(戦闘用アンドロイドと解釈していい)
故に冬型な格好で幼い容姿に古臭い言葉遣いである。
彼女達は本来、この世界とは違う世界の未来から来たPMC『グリフォン』に所属しており、何らかの任務中に何らかが原因かでこの世界に来た様であるが…。



MP-40 PMCグリフォン

旧ドイツ第3帝国時代に採用された有名なサブマシンを模した自律型戦術人形。
ドイツ軍の格好そのままである。サブウェポンとしてサーベルを装備。


ワルサーP-38 PMCグリフォン

ルパン三世の相棒としても有名な旧ドイツ第3帝国時代の拳銃を模した自律型戦術人形。MP-40と組む事が多い。
彼女もドイツ軍の格好そのままで、2丁拳銃とサブウェポンとして短剣を装備している。



暫くして

 

 

「邪魔ダ! 退ケ!!」

 

 

「「「「「ギ〜!!(泣)」」」」」

 

 

「えーい!」

 

 

「ギ〜!!(泣)」

 

艤装が無いとは言え、そこは戦艦棲鬼。

彼女が張り手をかまそうものなら、マグマ軍歩兵5人が一瞬にして吹っ飛ぶ。

そして、その脇を固めるかの様に『ソロモンの鬼神』にして水陸研格闘教官の綾波が見事な近接格闘技で近付くマグマ軍歩兵を倒していく。

 

 

「はっはっは! これ程楽な戦闘は久しぶりだ!! 全員続け!!」

 

そして、銃を乱射しながらその後に続く、山本大佐らのタッグ。

事のおこりは戦艦棲鬼が通信電波を傍受した事だった。

なにせ、昔の話で深海棲艦とは言え、本来なら戦艦は一個艦隊を指揮する艦艇であり、その通信能力は高い。

しかも、その通信電波の周波数から近付くにマグマ軍司令部が有ると判断した。

この為、『宛ても無く探すより、敵司令部を占拠して、通信聞いた方が早くね?』と(山本大佐以下のメンバー)の結論に至り、みんなで敵司令部を襲撃しに向かった訳である。

 

 

「ム、オイ、貴様。司令部ハ何処ダ?」

 

 

「グェェェェ!!」

 

 

「あ、あの、戦艦棲鬼さん、力加減を考えた方が…」

 

暴れ終えた戦艦棲鬼が格好の違うマグマ軍歩兵を捕まえて締め上げる。

それを綾波がオロオロ気味に止める。

 

 

「お、コイツはロシアでの戦闘で何度か見たぞ。その格好は親衛隊員だな。コイツならある程度喋れるし、司令部の場所を知っている筈だ」

 

 

「ホウ、ナラバ遠慮ハ要ランナ。早ク喋ラント、頭ト胴ヲ締メ千切ルゾ?」

 

 

「ヒィィィィィ!!!」

 

山本大佐の言葉に戦艦棲鬼が威圧感たっぷりに言うと締めを緩んでもらったマグマ軍親衛隊員が悲鳴をあげる。

 

 

「ほーら、ジタバタしてる暇があるんだったら、答えた方が身の為だぞ?」

 

カツアゲの様な状態で山本大佐がそう言った為に耐えきれなくなった親衛隊員が遂に吐いた。

 

 

「シ、司令部ハ5階ニ有ル会議室ダ!!」

 

 

「ソウカ…ナラバ、暫ク寝テイロ!」

 

そう言って戦艦棲鬼は親衛隊員を壁へと吹っ飛ばし、壁に直撃した親衛隊員はそのまま気絶した。

 

 

「……ちょっと、やり過ぎな気も…」

 

 

「大丈夫ダ。力加減ハシテイル」

 

 

「それより5階だ。5階に上がるぞ!」

 

自衛隊員達の思いを代弁した綾波の言葉に戦艦棲鬼が答え、山本大佐は先に進む事を促す。

そして、全員が階段を5階へと駆け上がる。

 

 

「……妙に静かだな。罠を仕掛けてあるか、他に理由があるか」

 

会議室までやって来た時、余りの何も無さに山本大佐が呟く。

 

 

「3でドアを破って突入する。いいか、油断するな」

 

ドアの両脇に付いて山本大佐がそう言うと全員が頷く。

 

 

「よし……1…2…3!」

 

3の声と共に戦艦棲鬼がドアを『殴って吹っ飛ばす』。

そして、全員が会議室へと銃口を向ける。

室内にはMP-40とワルサーP-38を構える2人と『アワアワ』と言いたげにオロオロする少女。

 

 

「す、ストップ! ストップ!」

 

 

「MP! ワルサー! そっちも銃口を下げて!」

 

室内に居るのか戦友とわかったガバメントとステンが慌てて両者を止める。

 

 

「やれやれ、抵抗が無いのも当然か。なにせ、先客が居た訳だからな」

 

 

「そちらも、ガバメントとステンを連れて来てくれた様で」

 

 

「なにせ、君らの保護の為に来たからね…ちょっと失礼。こちら、ゲオルギー、タンゴ・キング、応答願う」

 

 

 

 

その頃……

 

 

「こちら、タンゴ・キング。ゲオルギー、どうぞ」

 

岐阜市内を進んでいた高塚達は山本大佐からの通信に遮蔽物に隠れてから応答した。

 

 

『こちら、ゲオルギー。MP-40とワルサーP-38、それにこちら側の武器娘1名を敵司令部にて保護した。MPとワルサーが先に叩いてくれた様だ。故に敵指揮系統上部は手中にある…後は同志に任せる。以上だ』

 

 

「了解です…さて、どうやら、皆を起こさなきゃならんな」

 

苦笑いを浮かべ、叢雲達に言うと高塚は直ぐに通信チャンネルを変える。

 

 

「こちら、タンゴ・キング。HQ、応答願う」

 

 

『こちら神州丸。軍団長、通信良好』

 

 

「神州丸、皆を起こして攻撃態勢を…」

 

 

『さすが、軍団長。そうくると思って寝坊助達を叩き起こして配置に就かせてある。いつでもいいぞ!』

 

神州丸からの返答に高塚は再び苦笑いを浮かべる。

俺はそこまで色々と読みやすい人間なのかと…。

 

 

「あはは…じゃあ、神州丸。捜索の過程で敵司令部を山本大佐達が我が方の掌握下に入った。敵の上級指揮系統は断絶したも当然だ。これより、予定を繰り上げ、岐阜分屯地及び空自岐阜基地、並びに岐阜市内奪還を敢行する。敵を蹴散らし、拠点を構えるぞ!」

 

 

『了解した! ほら、さっさと攻勢命令を出さんか! では、軍団長、前線でな!』

 

そう言って通信が切れた。

 

 

「……なあ、叢雲、俺ってそんなに思考が読みやすいか?」

 

 

「まあ、少将の場合、滝崎副官と一緒で付き合いが長いとわかるタイプではあるわね」

 

 

「あはは……まあ、つまり、そう言う事で、どうやら、今夜は長丁場かな」

 

 

「少将かこうして来てる時点で長丁場は当然な上に、色々と含み全開だと思ってたわ」

 

叢雲の言葉に本当に苦笑いしか浮かばない高塚だった。

 

 

 

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10 岐阜分屯地

まあ、また、変な題名に…。


登場人物 10


M1911ガバメント PMCグリフォン

かの有名なM1911ガバメントを模した自律型戦術人形。
普段は指揮官を『ダーリン』と呼ぶ人懐っこさがあるが、二丁拳銃の天然クラッシャーだったりする。


ステンMk2 PMCグリフォン

イギリス製サブマシンガンとして有名なステンを模した自律型戦術人形。
赤のベレー帽に赤の服とイギリス軍空挺部隊を意識した服装で臭い事を意識している。(無論、そんな事は無いのだが、本人は気にしている)


翌日昼頃 岐阜分屯地内

 

 

「ふぁぁ〜〜、ダメだ。寝させてもらったのに、まだ眠い」

 

 

「司令が働き過ぎです。わざわざ、自分で出なくても…」

 

 

「の割にはその司令に気を使わせてるのはどうかと思うがな」

 

明朝まで続いた戦闘を終え、岐阜分屯地に入った高塚は周り(主にあきつ丸・神州丸)の勧めで仮眠をとらせてもらい、昼頃に起きた。

そして、市ヶ谷と神州丸を連れて歩いている。

 

 

「とりあえず、コーヒーちょーだい。あと、仮眠前に言った件はどうなってる?」

 

 

「既に手配済みだ…多分、早いものは昼過ぎには到着する」

 

 

「うん、結構。後は『頼み物』の到着だけだ…あぁ、すまない、ありがとう」

 

神州丸からの報告に満足しながら高塚は横から差し出されたコーヒーを啜る。

そして、ひと啜りした後に気が付いた。

 

 

「……ふむ、さすが神通さん。寝起きには最高な味で淹れてくれたね」

 

 

「はい、高塚少将」

 

そこにはコーヒーを差し出した主である神通が居た。

 

 

「あっはっはっは。軍団長も神通も、他人行儀などやめてくっつけばよかろう。さあ、さあ!」

 

何時もの様に笑いながらワザとらしく神通の背中を押して、高塚に引っ付ける。

 

 

「お、おいおい、神州丸。今は仕事中…」

 

 

「何を言われる、軍団長殿。我ら陸軍の艦娘が長く独り占めしていた状況だったのだ。偶には奥方と引っ付けておかないと、バチが当たってしまうからな」

 

ニヤニヤと笑う神州丸に高塚と神通は頰を真っ赤にする。

 

 

「し、司令官はけっ、結婚されていたのですか!?」

 

 

「ふむ、部外者ながら頰を染めながら聞くという事は市ヶ谷は知らなかったのか? 有名過ぎる話なのだがな」

 

頰どころか顔まで真っ赤で頭から湯気が出そうな市ヶ谷にさも当然とばかりに神州丸が言った。

 

 

「し、神州丸。そう言った事は後だ、あと! 皆のところに…」

 

 

「その皆なら、ここに居るけどね」

 

神通の姉である川内の言葉に振り向くと那珂を含めた貴下の水雷戦隊メンバーとあきつ丸らの直率メンバー、陸軍メンバーに山本大佐や戦艦棲鬼と言った主だった人間の視線が集中していた。

そして、ニヤニヤするマルタ関係者(一部は顔真っ赤)以外は鯖江を除いた人間は顔を市ヶ谷の様に真っ赤にしていた。

 

 

「……ほ、ほら、お前ら、見せもんじゃないからな…やめろ」

 

 

「はいはい。司令官と奥様のラブラブぶりはよくわかったから、話を進めるよ。市ヶ谷さん、進めて」

 

 

「は、は、はいはい! で、では、報告します!!」

 

 

「あ、うん、市ヶ谷さん、落ち着いてね」

 

鯖江により漸く揚がりながら市ヶ谷が報告を始めた為、話が動く。

 

 

「ま、まず、昨夜の夜襲により、マグマ軍の岐阜分屯地包囲部隊は完全に撤退し、前線が大きく下がりました。現在、残敵の索敵と構築されるであろう新たな敵防衛線の検索にあたっています。また、これにより、対馬隊と川内隊、神通隊、那珂隊が我々と合流しました」

 

 

「うむ、ご苦労様でした…川内、笑うな。締まりがつかん」

 

先程の事を未だに笑う川内に高塚が軽くツッコミをかます。

 

 

「それと、現在の岐阜分屯地の方ですが…」

 

 

「あぁ、そうだな。それを岐阜分屯地の駐屯地娘に聞きたいんだが……居ないよな?」

 

岐阜分屯地は岐阜歩見三尉と言うガタイのいい娘が駐屯地娘としている事を事前に調べていた高塚だが、見回しても一発でわかるその娘は見当たらない。

 

 

「……実は岐阜三尉は守山師団長の招集を受けて不在。代行としてM270 MRLRと久居真津梨二尉が居ります」

 

 

「はじめまして、M270です。元特科の司令官に私の紹介は必要なさそうですね」

 

 

「久居駐屯地の久居真津梨です。 岐阜さんの代行で一個中隊を率いてお待ちしていました」

 

 

「ご苦労様でした。ちなみに岐阜三尉が招集された理由は?」

 

それを問うた瞬間、何故か沈黙する2人。

 

 

「それが、守山師団長は独自判断で南部方面での牽制攻勢を行う為に築城スキルのある岐阜三尉を招集したので…」

 

 

「なるほど…ん、ちょっと待て。なんでそれで沈黙する必要があるんだ?」

 

市ヶ谷が代わりに答えると、高塚はそっちの事を疑問視した。

 

 

「多分、勝手な事をしたから、だと思うよ」

 

鯖江からの回答に高塚は合点がいった。

 

 

「通信網がズタズタなのだから、仕方ないと思うがね…よし、久居中尉、指揮下の一個中隊の現状は?」

 

 

「武器・弾薬類は揃えていますが、人員輸送の車両は岐阜さん達を輸送する為に使いましたので…分屯地の車両が使えるなら、大丈夫です」

 

 

「いえ、大型トラック類は物資輸送に使う為、基本無しです。まあ、ちょうどいいんで、73APCを配備しましょう。市ヶ谷さん、そちらの手配を頼みます」

 

 

「わかりました」

 

 

「では、話を変えて今後の概要を説明します。我々は守山師団長らの牽制攻勢隊の追尾・合流し、第10師団管区奪還に勤めます。しかし、後方の白山のクロシュタントが気になるところ……よって、これを撃破します」

 

 

「ですが、先日話した時は戦力不足だと司令官は…」

 

市ヶ谷の疑問に高塚はニヤリと笑って返答した。

 

 

「大丈夫です。目処が立ちました。部隊は司令を富山。サポートにあきつ丸、神州丸。そして、主攻に…」

 

そう言って高塚は視線をある娘に向ける。

 

 

「T-72B3、君に任せる。先程示した人員は後で別示で集まってもらう」

 

 

 

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11 叩く準備はよろしいか?

………また、訳の分からん題名に…。


登場人物紹介 11


神通 海軍艦娘(出向員) 少佐

元マルタ・現水陸研に出向中の『華の二水戦』を率いる川内型2番艦。
マルタ派遣完了後は高塚と結婚(ガチ)し、水陸研へと出向している。
水陸研で訓練された人間からは『侍神通』と言われ恐れられた。


川内 海軍艦娘(出向員) 少佐

元マルタ・現水陸研に出向中の川内型1番艦。
マルタ派遣完了後、神通や那珂と共に水陸研に出向している。
水陸研で訓練された人間からは『忍者川内』と言われ、特に夜戦スペシャリストとして恐れられた。

*水陸研人物語呂合わせ
『鬼(の)天龍 死神龍田 忍者川内 侍神通 花魁那珂(様) 霧込み(斬り込み)阿武隈 蚊落とし五十鈴 必中の木曽(様) スペシャル夕張 走り島風 人(一)刺し叢雲 格闘綾波 座学の香取(型)姉妹』(増加有り)


久居末津梨 陸自幹部 中尉

三重県津市久居駐屯地所属の駐屯地娘。
部隊は第33普通科連隊が駐屯しており、旧日本帝国陸軍第33歩兵連隊の連隊番号を継承している。
守山師団長LOVEゆえに本来なら牽制攻勢に同行するつもりだったが、岐阜歩見の代行として岐阜分屯地を守備していた。



M270 MRLR

陸自を含め、旧西側諸国が配備している多連装ロケット砲。
マグマ軍侵攻に対しての出動準備をしていたが、オスロ条約等の政治的要因により出動出来ず、東京陥落に伴い岐阜分屯地に一時避難していた。(故に岐阜分屯地代行者になっていた)
203㎜榴弾砲の完全退役後は陸自最大の火砲となる筈だったが、マグマ軍侵攻により、203㎜榴弾砲の退役も一時中断している。

*オスロ条約
2008年に日本が調印した『クラスター爆弾使用禁止条約』。
主な理由は『炸裂後の弾子が不発・地雷化する』と言う事で締結されたが、日本周辺国は誰も調印してないと言う日本にとっては有名無実な条約。


1430 岐阜分屯地内

 

 

「それで、なんで私達を集めたの、高塚少将?」

 

富山以下、白山のクロシュタント攻撃部隊を集めた高塚は事情を知るあきつ丸と神州丸を伴い先を歩く。

 

 

「富山、なんで今回、君を現場指揮官にしたと思う?」

 

 

「まあ、それはアレだろう? 手柄作り…かな?」

 

 

「はっはっは、当たらずとも遠からずだな。現場指揮官育成の為だ。特に軍団長とマルタから付き合いがある富山なら、下手な事はしない、と判断したからな」

 

高塚の質問に富山が答え、神州丸が正解を言う。

 

 

「俺も身は一つ。なんでもかんでも首を突っ込む訳にはいかないからな…1人でも安心して任せれる人間が必要なんだよ…って事で、頑張ってくれ」

 

 

「やれやれ、さすが、高塚司令だ…わかったよ」

 

 

「うん、頼んだ。それとだな…」

 

 

「やあやあ、皆さんお久しぶりです、青葉です! 一言お願いします!」

 

 

「ちょっと、青葉。みんな、久しぶり。衣笠さんだよ」

 

何故か青葉と衣笠が現れた。

 

 

「青葉と衣笠に戦闘の一部始終を撮ってもらう。プロパガンダと…陸自上層部の馬鹿に観てもらう為にな」

 

 

「ホントに高塚殿は上層部が嫌いでありますな」

 

 

「しゃーない、馬鹿は殴ってでも解らせるしかねーんだよ」

 

あきつ丸の呆れぶりに高塚が答える。

 

 

「てことで、青葉達も同行するから、よろしく。さて、これからが本命だ」

 

そう言って高塚は富山達と共にDS(装備整備工場)へと足を向ける。

DSの中には青葉・衣笠と共にやって来た明石と夕張、そして、昨夜、ワルサーとMPが保護してくれた少女、R30こと67式30型ロケット弾発射機がいた。

 

 

「よう、明石、夕張。どうだ? いけそうか?」

 

 

「戦後型対地用大型ロケット弾と言っても、基本的構造は魚雷や噴進弾で抑えてますから、まったく問題ありません!」

 

 

「誘導や命中精度も進化した今の誘導装置を取り付ければ劇的に改善しますよ! しかも、60年代の装置より小型・高性能化してますしね!」

 

技術屋の2人らしく、68式30型ロケット榴弾(新しい装備・玩具)を嬉しそうに目を輝かせて弄っており、嬉しそうに高塚の問いに答える。

 

 

「お、おう、そうか、それはよかった…で、技術屋陣からして、こいつでクロシュタント移動要塞に大打撃を与える事は出来るか?」

 

 

「時間があるなら、弾頭を重重量弾やバンカーバスターにしますけど?」

 

 

「いや、今回は大破に追い込んでくれればいいからな。つーか、それをして重量的に彼女…R30は大丈夫なのか?」

 

 

「「大丈夫ですよ!!」

 

「…わかった、わかった」

 

余りのテンションにそれ以上はツッコミを入れるのをやめた。

 

 

「と言う事で、R30…67式30型ロケット弾発射機…あー、もう、面倒だ、一発屋とかそんなんをミッちゃんは心配する必要ないから」

 

 

「は、はい〜」

 

どうもR30がまるゆを相手にするみたいな事になってる。

 

 

「つーことで、富山、T-72Bと共にミッちゃんも今回の策の主要メンバーだからな。頼んだよ」

 

 

「はいよ、司令官」

 

 

 

暫くして

 

 

 

「よう、高塚」

 

 

「おう、滝崎」

 

富山達と別れた高塚は輸送機が運んで来た『点検コンテナ』と書かれたコンテナの前にいた滝崎と合流した。

 

 

「青葉や明石達をわざわざ派遣してくれて助かったよ」

 

 

「急ぎの用事だったみたいだったからな。それにそろそろ様子を見に来るつもりだったし」

 

 

「なるほどね」

 

そう言ってから2人はコンテナの扉の中に入る。

中には病院のCTスキャンを始めとした機器が並んでいる。

そして、そのCTスキャンには『マルタのナイチンゲール』工作艦ヴェスタルと昨夜保護した戦術人形達が居た。

 

 

「で、彼女達はなんなんだ?」

 

 

「PMCグリフォンに所属する『自立型戦術人形』…戦闘用アンドロイドだそうだ。とある任務中に何かしらの原因でこっちの世界に来たそうだ…原因は未だ不明だ」

 

 

「ふーん…しかし、アンドロイドっなると…」

 

 

「あぁ、向こうは2045年…20数年先だ。但し…」

 

 

「但し?」

 

 

「向こうは第三次大戦はあったようだが、マグマ軍や深海棲艦の侵攻の記録はいっさいないそうだ」

 

 

「……似た時間軸の異世界か。ヤバイ、俺の反対バージョンかよ」

 

高塚の言葉に滝崎な苦笑いを浮かべる。

 

 

「だからこそ、お前を呼んだんだよ」

 

 

「確かにな。これを抱えるにはちょっと大き過ぎる…色んな意味でな」

 

 

「あぁ、色んな意味でだ。それと、これが一番面倒かもしれん」

 

 

「なんだ?」

 

 

「彼女達の『敵』…『鉄血』と言うらしいが…もし、マグマ軍と接触したら、更にヤバくなる」

 

 

「確かにな。現状でも向こうが戦力圧倒的なのに、20年後の技術が混じるなんて、ヤバすぎな話だな」

 

 

「まあ、ウチらとしてはこれに政治にまで絡めて頭を使う余裕がないからな」

 

 

「なるほど、後方担当となった海軍に何をしてほしいかは理解した」

 

 

「すまんな」

 

 

「マルタでは世話になったんだ。今度はこっちが支える番だ」

 

 

「あはは…情けは人のためならず、か…どうだ? 久々に飲むか?」

 

 

「やれやれ…まあ、付き合うよ」

 

久々の再会ともあって2人は飲み約束を交わした。

 

 

 

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12 白山移動要塞討伐戦

まあ、予告通り。


登場人物 12


明石 海軍艦娘(出向中) 大佐

説明も余り要らない有名人、明石型工作艦一番艦明石の艦娘。
マルタ派遣終了後、水陸研へと出向、主に装備開発に関わっている。
マルタでの経験を活かし、陸軍向けの兵器・装備開発を行っている。



夕張 海軍艦娘(出向中) 中佐

こちらも説明も余り要らない有名人、夕張型軽巡洋艦夕張の艦娘。
マルタ派遣終了後、明石と共に技術系で出向、陸自では余り扱わなかった装備の実地試験等を行っていた。
故に装備マニア。スペシャリスト過ぎて、水陸研での訓練受験者は『スペシャル夕張』と言って『装備の神さま』扱いされていた。



R30(67式30型ロケット弾発射機)

陸自が60年代後半に採用した大型ロケット弾発射機。
レール型発射方式で、使用用途は今の多連装ロケット弾発射機であるが、これは大型榴弾を上空炸裂させて制圧する方式。(どちらかと言うと地対地ミサイルに近い)
意外にも退役は1992年。現第1・第2地対艦ミサイル連隊に配備されていた。(実は昭和版ゴジラでちょこっと出てたりする)
また、ロケット榴弾は『68式30型ロケット榴弾』と、発射機・弾薬の年式が1つ違いの珍しい装備。




ヴェスタル 海軍艦娘 大佐

『マルタのナイチンゲール』と言われた元マルタ島鎮守府の元アメリカ海軍工作艦。
派遣終了後はエンタープライズに付いて行く形で日本海軍に所属し、松島宮の指揮下ひ入っている。
役割的に明石が技術系、ヴェスタルは医療系である。


2日後 白山麓

 

 

 

「……あれが移動要塞のクロシュタントか」

 

双眼鏡の視線の先にある周りと違うマグマ軍の人型兵器を見た富山が呟く。

既に資料で幾度も姿を見ている筈なのに、やはり実際に見るとそう呟かざるおえない。

 

 

「まあ、戦艦棲鬼を含めた姫や鬼を見過ぎた身としては普通だな」

 

 

「その意見に同意であります」

 

 

「そうですね〜。まあ、よくて戦艦タ級クラスですね」

 

 

「艤装があったら、衣笠さん達でちょいちょいと片付けるんだけど」

 

そんな富山とは対照的に場慣れした神州丸やあきつ丸、撮影役の青葉・衣笠は『あんなの余裕、余裕』な言葉を連発する。

 

 

「過去とは言え、祖国の都市名を使うのは死に値します」

 

一方、T-72はマグマ軍に名前を使われている事が気に入らないらしく、密かにキレ気味である。

 

 

「あ、あれにこれを当てるなんて…む、無理です〜」

 

そして、R30は完全に腰が引けている。

 

 

「大丈夫、大丈夫〜。あんな大きいだけの木偶の坊なんて余裕、余裕〜」

 

……そして、何故か付いて来た那珂ちゃん。

 

 

「……那珂さん、いつの間に?」

 

 

「え? 憲兵さんに頼んだら、アッサリとオッケーもらったよ? 『後輩の様子見してくるから』って言ったら」

 

 

「……そんな人だった。あの司令は」

 

富山の問いにアッサリと答える那珂。

そして、答えを聞いて納得する富山。

 

 

「富山殿、始めるでありますが、よろしいでしょうか?」

 

 

「あっ、うん、あきつ丸、お願い」

 

 

「了解であります。航空隊のみんな、出番であります!」

 

あきつ丸の指示で艤装から召喚されたのは旧日本帝国軍迷彩のAH-64Dロングボウ・アパッチ、AH-1コブラ、OH-1ニンジャ。

一応、自衛隊保有機ではあるが、コブラに関しては改良型であるスーパーコブラであり、ニンジャに関しては武装ラックには対空ミサイルの代わりに70㎜ハイドラ多連装ロケット弾ポットが装着されている。

 

飛び上がった航空隊は事前の打ち合わせ通り、クロシュタントとその周囲に居る敵部隊に攻撃を始める。

 

 

「では、ウラル殿。我らも始めるとしようか」

 

 

「ダー」

 

 

「さあ、我らが帝国の精鋭達よ! 真の日本兵を見せてやれ!!」

 

T-72の前進と共に神州丸からは旧日本帝国軍戦車迷彩の10式戦車と99式155㎜自走榴弾砲が艤装から召喚された。

ちなみに、あきつ丸・神州丸双方から召喚された兵器を操るのは、かつてマルタ島鎮守府で実戦を経験した航空・陸戦妖精達である。

神州丸から召喚された99式自走榴弾砲が素早く射撃を開始し、あきつ丸のヘリ隊攻撃に追打を浴びせる。

 

 

「ではでは、私達はお仕事して来ます」

 

 

「行って来まーす」

 

そう言って青葉と衣笠がT-72達を追いかけて行った。

 

 

「……那珂先輩、私、どうすればいい?」

 

 

「うーんとね、ひみ子ちゃんは何時も通りでいいと思うよ。今回は」

 

 

「何時も通り…わかりました、那珂先輩!」

 

そう言うと富山は側に置いてあった110㎜個人携帯対戦車弾を持つと後に続く。

 

 

「……やれやれ、これでは部隊指揮官の意味が無い気もするが」

 

 

「大丈夫。アイドルはステージの前で踊ってナンボの物なんだから」

 

 

神州丸の疑問に那珂が何時も通りキャピキャピしながら答えた。

 

 

 

 

 

『敵戦力、6割ニ減少!』

 

 

『歩兵ハホボ制圧。本命以外ノ残リハ雑魚ノ装甲車輌ダ!』

 

 

『コチラ、神州丸戦車隊。ウラル殿ト共ニ戦闘ヲ開始スル!』

 

 

『敵移動要塞ヨリ対空射撃! 各機間合イニ注意セヨ!』

 

あきつ丸の戦闘ヘリ部隊に押されていたところにT-72と神州丸の機甲部隊の参入により、次々とマグマ軍部隊は撃破されていく。

しかし、本命たるクロシュタントはさすが移動要塞…実は元試作巡洋艦…だけあって、数発の被弾など意も介さず、反撃を開始する。

 

 

『コチラ、若鷹-1ヨリ機甲部隊。敵移動要塞ガ主砲ヲ指向中、注意サレタシ!』

 

 

『了解! 全車散開!!』

 

OH-1からの警告にT-72を含めた10式戦車らは散開する。

クロシュタントは対空射撃を続けながら20.3センチ三連装砲塔を向け、射撃を開始した。

 

 

「…あれ、当たったら痛い?」

 

 

「20.3センチなんて衣笠さん達の主砲よ? 当たったら、痛いどころか、瞬間で痛みも感じずに肉片よ?」

 

クロシュタントの砲塔を指差して訊く富山に衣笠はテレビ用カメラを回しながら答える。

そんな事をしている内に周囲にいた護衛は撃破され、いよいよクロシュタントのみになった。

 

 

『チッ、無駄ニ堅イ装甲ダ!』

 

 

『愚痴ルナ! 我ラノ仕事ハ移動要塞ノ脚ヲ止メル事ダ! 砲兵隊モ航空隊モジャンジャン撃テ!!』

 

スクラーム射撃を行う神州丸戦車隊、弾幕を張る神州丸砲兵隊、航空攻撃を加えるあきつ丸航空隊の総攻撃にみるみる行動を制限されるクロシュタント。

そして、遂に……

 

 

「よっしゃー! 当たり!!」

 

機会を狙って放った富山の携帯対戦車弾がクロシュタントの移動基部に命中し、動きが止まった。

 

 

「観測妖精、座標をミッちゃんに送れ!」

 

 

「了解デス! コチラ、観測班! 座標ハレーザーポインターガ示ス通リ! 送レ!」

 

 

『コチラ、指揮班! 座標受信! 射撃開始!!』

 

 

『あ、当たって下さーい!!』

 

富山に付いていた観測班妖精が素早く後方の射撃指揮班とR30に伝え、座標を自動入力した68式ロケット榴弾が発射された。

2発のロケット榴弾はGPS誘導され、クロシュタント到達前に干渉装置が作動し、二基の20.3センチ三連装砲塔の基部へと分かれる。

 

 

「弾チャーク、イマ!!」

 

観測班妖精の掛け声と同時に狙い違わずロケット榴弾は命中し、クロシュタントの砲塔を上空へと舞い上げる。

 

 

「今だ、ウラル! 撃破しろ!」

 

 

「ウラー!!」

 

富山の指示にT-72が全速でクロシュタントに接近し、ゼロ距離で125㎜砲を構える。

 

 

「…ダスビダーニャ」

 

シベリアの如き冷たい表情と声で彼女は死刑宣告を伝えると引き金を引いた。

 

 

 

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13 10師団を追え!

間違っては無いはず。


登場人物紹介 13

那珂 海軍艦娘(出向員) 少佐

元マルタ島鎮守府・現水陸研所属の川内型三番艦。
マルタ派遣終了後は水陸研に出向しつつ、他の那珂同様にアイドル活動中。(但し、マルタでのヨーロッパ活動によりアドバンテージがヤバイ)
水陸研では『花魁(の)那珂(様)』として有名で、水陸機動団や海兵隊との模擬戦では鮮やかに敵をボテクリかました。(海兵隊からは指揮下の水雷戦隊員を含め『NAK・GIRL'S』として恐れられた)



青葉 海軍艦娘 中佐

有名過ぎて紹介も要らない『パパラッチ』の青葉型1番艦。
マルタ派遣終了後は松島宮・滝崎の下で広報活動を行なっているが、最近はご近所たる高塚の水陸研での記録係になっていたりする。
『青葉新聞』は他の青葉との連絡網もあり健在で、特に高塚の水陸研に出入りする事から、『水陸研コーナー』なる記事を出し、読者に対して陸自(陸軍)の各種脆弱性への警鐘を鳴らしていたのは皮肉な話。



衣笠 海軍艦娘 中佐

青葉の妹である青葉型2番艦。
マルタ派遣終了後は松島宮・滝崎の指揮下で青葉の広報活動の手伝いをしている。
実は水陸研でも訓練相手になってたりしていたが……他の艦娘同様、訓練相手の方々をボテクリかましていたりする。


2日後

 

 

 

 

「……なんも出ないな」

 

73式APC(指揮官用)の車長ハッチから高塚は呟いた。

クロシュタント移動要塞討伐完了を受けた高塚は1日明けて進撃を開始した。

本来ならクロシュタント移動要塞討伐を待たずに進撃をしてもよかったのだが、富山達ら討伐参加者の参加も人員的に必須な上、山本大佐率いる民兵隊(正規軍)『第422親衛空挺特殊任務連隊』先鋒隊が到着し、戦列に加わった為の調整(移動手段はあるが燃料等の補給都合付け等)の為に数日ほど間を開ける必要があったからだ。

 

 

『事前斥候でも敵部隊は退いてる、って話じゃあなかった?』

 

 

「それでも、軽い妨害は覚悟してたんだ。素通りなんてのは逆におかしい」

 

インコムを通じて鯖江からの質問に高塚が答える。

詳細状況は分からないが、守山師団長以下第10師団主力の牽制攻勢が成功しているのはわかる。

しかし、裏を返せばマグマ軍としては10師団主力と奪還部隊が合流してしまえば更に状況は不味くなる訳で、こちらを遅滞させなければならない筈である。

しかし、今のところ、その動きすら無いのだ。

 

 

「……とりあえず、守山駐屯地に向かうしかないな」

 

先ずは第1目的地の守山駐屯地に向かう。

 

 

 

 

2時間後 守山駐屯地

 

 

「守山師団長!!!」

 

 

「いや、居ないだろう」

 

守山師団長LOVEな久居が突入していくのを見ながら高塚が密かにツッコミを入れる。

そして、それに付いて行く形で駐屯地に入ると久居はガタイの良い少女…岐阜歩見を捕まえていた。

 

 

「岐阜さん、守山師団長は!?」

 

 

「守山師団長は親ビン達と一緒に行ったっすよ」

 

 

「当然な回答だな。岐阜少尉、ご苦労様」

 

敬礼しながらそう言うと岐阜も反応した。

 

 

「えーと、高塚司令すっね。噂は聞いてるっす!」

 

 

「うーん、どんな噂か気になるところだが、それは後にして、守山師団長達が出たのはいつだ?」

 

 

「5日前っす」

 

 

「5日!? 高塚司令、早く追い掛けましょう!」

 

岐阜からの答えに久居が急かす。

 

 

「もちろんだ。だが、先ずは燃料補給と休憩だ。状況によるが、1時間後に出発する。岐阜少尉は春日井駐屯地の様子見をしてからやって来る後続隊を受け入れ後、後続隊と合流し、戦列に加わってくれ」

 

 

「了解っす!」

 

岐阜が敬礼で応えた時、1人の陸士が猛スピードで駆け寄って来た。

 

 

「はあ、はあ、はあ…た、高塚司令が到着と聞いて…あ〜…岐阜三尉、て、手紙忘れてます」

 

 

「あっ、そうっす! これを預かってたっす!」

 

その陸士の言葉に岐阜は何処からか置き手紙を取り出し、高塚に渡す。

受け取った高塚は置き手紙の便箋裏を見ると『第10師団司令部付き幹部 筑波博貴大尉』と綴られていた。

 

 

「異動したとは聞いたが、第10師団だったのか」

 

 

「はい。筑波一尉は『高塚司令が来たら、絶対に渡せ』と言われていたので…あっ、自分は師団司令部付き陸士の飯田志郎一等陸士であります」

 

 

「ありがとう、岐阜、飯田。ところで、こいつの大まかな内容は?」

 

 

「自分も少ししか聞いていませんが、近況の資料一式は筑波一尉より自分が預かっています」

 

 

「わかった。飯田一等兵は資料と装具一式を揃え、我々先鋒隊に同行せよ。復唱」

 

 

「は、はい! 飯田一等陸士は資料・装具を揃え、先鋒隊に同行します!」

 

 

「うん、よろしい。さっそく、頼む」

 

 

「はい!」

 

 

 

1時間後

 

 

休息と燃料補給を終えた高塚ら先鋒隊は再び南下を開始した。

そんな中、高塚は車長ハッチから筑波からの手紙と資料(メモ帳)を見ながら考えていた。

 

 

『ねえ、高塚司令。筑波一尉って誰?』

 

隣のハッチからインコムを通じての鯖江からの質問に高塚は鯖江の方を見ながら答える。

 

 

「マルタ島鎮守府派遣警備隊隊長で、あきつ丸や神州丸に次ぐ、第3の副官だ。最初は『色々』あったが…まあ、悪く無い奴だ」

 

 

『それで、その副官はなんて?』

 

 

「うん、『一瞥以来、司令の噂は10師団でも聴こえており、東京撤退戦の活躍や奪還軍司令就任についても聞き及んでいます、本来なら奪還軍主力との合流が理想的ではありますが、戦略・戦術的観点から止められず申し訳ありませんでした。出発前までに収集した情報資料を別途預けておきますので、掌握・有効利用の方、お願いします。では、現地にて』…だとさ」

 

 

『……なんか、司令の下にいたせいか、キッチリしてない?』

 

 

「あいつは元々キッチリしてるよ。マルタに居た時は『色々』あったからな…で、この資料には5日前までの敵の展開状況が書いてあったんだが…」

 

 

『…だが、なんなの?』

 

 

「うん、敵さんの動きは春日井・守山駐屯地を包囲しつつ、俺ら主力の足止めを狙う様な動きだった…が、10師団の攻勢でなんでか知らないが、俺らの足止めを放棄して10師団を追撃したみたいだ…何故かね?」

 

 

『…戦力無尽のマグマ軍からしたら、おかしな行動だね』

 

 

「あぁ、本来なら、10師団は後方か包囲部隊を分派して追撃し、春日井・守山駐屯地の包囲を解かずに、ほぼ最低限の留守しかいない駐屯地を占領し、俺ら主力の足止め継続と拠点破壊をしてしまえばいい筈だ。なのに、この様子から見ると囮を追い掛けるバカな猟犬の様な醜態だ……何かあるな」

 

資料と睨めっこしながら、高塚は呟いた。

 

 

 

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14 『補給拠点』襲撃

あえてのカッコ付きです。

登場人物 14


岐阜歩見 陸自幹部 少尉

岐阜県岐阜分屯地に所属する駐屯地娘。
岐阜分屯地は空自岐阜基地に隣接しており、施設科中隊が駐屯しているが、分屯地の真の存在意義はここが補給廠である事。
施設科な為、ガタイがよく、M2重機関銃ほか、重量物をホイホイで持って行ってしまう程の怪力。
今回は守山駐屯地を代行で守備していた。



飯田志郎 陸自隊員 一等陸士

守山駐屯地所属の第10師団司令部付き陸士。
主に筑波の下にいる事が多かった為、第10師団が攻勢に出た後、筑波から預かった資料を託されていた。


翌日早朝(日の出数時間前)

 

 

「……あれだな」

 

途中から匍匐前進で目的の場所を偵察出来る場所まで前進して来た高塚は静かに呟く。

 

 

「……ねえ、司令官、あれが気になってた事?」

 

 

「あぁ、筑波の手帳に記述があったからな」

 

付いて来た鯖江の問いに高塚が答える。

視線の先には煌々と照らした数多の大型ライトの下でこれまた多数マグマ兵が作業をしている。

筑波の資料(手帳)にはこの場所のことが書かれていたが、詳細を調べる前に攻勢に出た為、赤丸で『要注意地域』と書いてあるだけだった。

 

 

「どう見ても、敵の補給拠点だね」

 

 

「確かにな…だが、どうも、納得出来ん」

 

確かに普通に見ればその結論に至るだろう。

しかし、高塚はどうも感覚的に違う様な気がしていた…言葉では上手く説明出来ないが。

 

 

「…どちらにしろ、放置していくには規模的に無理だ。今から襲撃を掛ける」

 

 

「了解、司令官」

 

 

 

 

しばらくして

 

 

 

(……にしても、朝駆けの様な夜討ちになるとはな)

 

 

一旦戻り、部隊を集めて来た高塚は内心呟く。

と言ってもその戦力は限られてはいるが。

そもそも、高塚が率いる先鋒隊自体が機動力重視の為に少数であった。

 

 

「それで、どうするの? 司令官」

 

 

「大型ライト利用して、ライトの外側から射撃を加え、ある程度減らしてから制圧する。ダスターとチャーフィーの火力もあるから、大丈夫だろう」

 

 

「待って下さい……発砲音がします」

 

鯖江との話が終わった時、久居がそう言って止まった。

高塚もそう言われて耳をすますと、確かに聞こえた。

 

 

「……司令、この連射音、妙に馴染みがあるけど…」

 

 

「あぁ、元砲兵の俺でも何度も聞いた音だ。急ごう」

 

 

 

その頃……

 

 

 

『わーちゃん、移動するから、お願いね〜』

 

 

「わーちゃん言うな、キャリバー」

 

いま現在唯一繋がる無線周波数の相手に刺々しく返す『わーちゃん』ことWA2000。

なお、相手は『キャリバー』でも有名なM2HB重機関銃である。

 

 

(そもそも、鉄血の追撃で逃げてる内に鉄血には似ても似つかない敵が拠点構えてる時点で大事なのに、キャリバー以外はグリフォン本部とも連絡すら取れないってどう言う事なのかしら)

 

キャリバーが次の射撃地点に到着するまでの間、WA2000はそんな事を考えながらマグマ軍兵士にヘッドショットを決めていく。

そうしている内に、キャリバーが再び射撃を開始した。

 

 

 

 

「間違いない。キャリバー50だ」

 

マグマ軍の補給所まで接近した高塚は射撃音とマグマ軍の様子を見て判断した。

 

 

「ですが、別働隊なんて…」

 

 

「いや、MGの射撃前に別の発砲音もしていた。多分、スナイパーがいるんだろう…と、なると、そんな歪な編成でも動けるのは…」

 

 

「まさか…岐阜で保護した『ドールズ』達?」

 

久居の疑問に高塚は自らの推測をある程度語り、それを聞いた鯖江が答えると高塚は頷いた。

 

 

「だが、これぞチャンスだ。鯖江と久居は10名づつ連れて左右に展開・援護射撃。チャーフィー、打撃砲撃開始!」

 

 

「はーい! いっくよー!」

 

元が航空機搭載用の75ミリ砲を地上用に仕立てなおしたと言えどもそこは大砲である。

射程は同口径の野砲に比べれば短いが、それは戦車砲と言う『直射射撃』型の砲が持つ物であり、しかも、今回は良くて300メートル程の距離にいる敵を薙ぎ払ってくれればいいのであって、別に問題は無い。

 

 

「よし、チャーフィーとダスターは先頭、歩兵はその後ろから続け! ダスターも掃射始め!」

 

 

「了解! ナムで見せた恐ろしさ、とくとご覧あれ!」

 

連装のボファース40ミリ機関砲の掃射が加わり、AKしか持たないマグマ軍歩兵を圧倒する。

だが……

 

 

「高塚司令! あれを!」

 

 

「あれは…マグマ軍のハインドか!」

 

飯田の声に視線を向けると補給か、あるいは警備用かはわからないが、マグマ軍のMi-24ハインドが飛上がろと背中の光輪を作動させようとしている。

 

 

「ダスター! 頼む!!」

 

 

「いいよ、司令官! それが本来のお仕事だしね!」

 

高塚の指示に連装機関砲をハインドに向けて射撃を開始。

漸く浮力を得た時の射撃だった為か、姿勢バランスを崩し、ハインドは地上に接触、ついで背中の光輪を地面に接触した為に飛べずに地上に転がる。

 

 

「制圧急げ!! 連絡させるな! 連絡されると、更に厄介になるぞ!!」

 

前に立ち、明らかに目立ちながら陣頭指揮を執り、制圧を進める高塚。

この制圧劇は陽の光が顔を見せるまで続くのだが……それまで高塚はずっと陣頭指揮を取り続けた。

 

 

 

そして……マグマ軍制圧後の捜索でこの『補給拠点』の正体がわかった時、高塚は余りの事に後続の本隊に急遽合流指示を出した。

今は1秒でも早く第10師団との合流を急ぐ状況下でありながら、高塚はそれを(自身の心情的にも)一時的に押し留めなければならない程の事がこの『補給拠点』にはあったのだ。

多くの者が語る『もし、偶然とは言え、これが判明していなければ、更に陸軍(旧陸自)は日本奪還の為に長期間の殲滅戦を行わなければならなかったかもしれない』と言われる事を……。

 

 

 

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15 日本人として

……また、訳のわからん題名になりました。


登場人物 15

M2HB『キャリバー』 PMCグリフォン

ほぼ説明不要なぐらい有名なチート国家アメリカが創り上げ、約1世紀使われている12.7ミリ弾を撃ち出す重機関銃を模した自律型戦闘用アンドロイド。
後継を作ってもコスパや操作・整備性でポシャり、世界のほぼ何処でも目に出来る元観測気球撃墜用重火器で、『キャリバー50』『MG』等の通称で呼ばれる。
なお、アンドロイド本体に関してはどちらかと言うとダラけ系人間であり、車両での移動を常に口にする。
(まあ、全装備30kg超え余裕なんだから、そう言いたくもなるが)



WA2000 PMCグリフォン

ドイツのワルサー社がミュンヘンオリンピック事件を契機に開発した狙撃ライフルを模した自律型戦闘用アンドロイド。
しかし、高品質部品・繊細設計等々により価格上昇と使用地域が限定されてしまうなどの理由から大量採用に至らなかった。
アンドロイド本体はその経緯がある為かツンデレ。皆から『ワーちゃん』と呼ばれる。


0830頃 マグマ軍『補給拠点』

 

 

 

「……なるほど、これは同志も呼ぶわけだ」

 

 

「これは知らせておいた方がよいと思いまして」

 

陥落させた補給拠点に集結した奪還部隊の後続の本隊。

後片付けが済みつつあるなか、高塚は山本大佐を連れて補給拠点内にある斜面を利用してくり抜く様に掘られたトンネルの中へと案内した。

そして、その長めに掘られたトンネルの中にあったのは……。

 

 

「あ、あの、司令官…これってまさか…」

 

 

「まさかも、すもももねーよ。マグマ軍の幼体だよ」

 

市ヶ谷の震えながらの質問に天龍が慣れてると言わんばかりに涼しそうな声で高塚の代わりに答える。

マグマ軍の幼体はまるで保護カプセルの様な紫色の容器の中に羊水と思われる液体の中をプカプカと上下に浮き沈みしながら蹲った状態でいる。

 

 

「……同志よ、今まで我々は出現時同様、マグマ軍の兵員補充は火山火口から行われているとばかり思っていたが…まさか、こんな風に『現地育成』していたとは驚きだったな」

 

 

「はい。私も只の隠蔽壕を兼ねた集積庫かと思って調べさせたら…こうでした」

 

鉄帽を上げながら高塚は言った。

 

 

「……もちろん、『処置』はするんだな?」

 

 

「やりたくはありませんが……仕方ありません」

 

山本大佐からの問いに高塚は鉄帽を深く被りながら言った。

 

 

 

その後、後続隊に同行していたM270に壕内へ270ミリ多連装ロケット弾を撃ち込んでもらい、壕を爆破・埋設し、高塚が最後に墓標代わりの白木の十字架を建ててから出発した。

 

 

 

 

暫くして 73式装甲車(指揮車型)車内

 

 

 

『鯖江さん。いま、大丈夫ですか?』

 

 

『市ヶ谷さん? 無線で私語なんて珍しいね』

 

出発後から高塚が車長ハッチから前進先をずっと見ている中、車内の市ヶ谷は鯖江に話しかけた。

 

 

『それは言いっこなしです。それより…司令は大丈夫でしょうか?』

 

 

『さっきの事? まあ、確かにやりたく無い感は出てたけどね…』

 

 

『はい…やはり、アレが司令なのかと』

 

 

『岡山市の一件やマルタでの戦闘だけ聞けば、古参曹長並みの事をやってるからね、高塚司令は……そんな風貌には見えないけど』

 

 

『でも、反対に深海棲艦との講和を果たしたり、陸海の境界を跨いで指揮を執ったり、戦術を考えたり…お人好しなのか、知恵者なのか、理想・夢想家なのか、正直、頭おかしい馬鹿野朗なんじゃないかな〜、なんて思えてきたんですよね』

 

 

『…市ヶ谷さんも結構毒舌だね』

 

市ヶ谷のぶっちゃけ言いに鯖江は苦笑いを浮かべる。

 

 

『……なあ、愚痴るのはいいが、外にも聞こえてるんだぜ、御二人さん』

 

別車両に乗る天龍が2人の会話に入ってきた。

 

 

『愚痴ってはないよ、天龍……天龍はどう思うの? 私達より、司令とは付き合い長いでしょう?』

 

 

『付き合いの長さなら、滝崎副官なんだがな……まあ、高塚司令は『日本が好きな日本人』なだけだと思うぜ』

 

 

『……ごめん、天龍、意味は理解出来るけど、わかんない』

 

 

『いや、理解出来るなら、わかるだろう、鯖江! つまり、憲兵殿は愛国者って事だよ!』

 

 

『それでも、全体的に繋がりが無い様に聞こえますが…』

 

 

『うふふ、天龍ちゃんは少し言葉足らずなだけよ〜』

 

市ヶ谷の言葉に龍田が会話に入ってきた。

 

 

『なんだと、龍田?』

 

 

『まあまあ、天龍ちゃん…昔、マルタに居た時に憲兵さんは言ってたわ。『滝崎や皆が過去と未来の為に必死に戦っているんだから、現代の日本人の俺がやれるのは贖罪の意味を込めて皆を支えてやる事だ』って』

 

 

『『現代の日本人…?』』

 

 

『ほら、憲兵殿は何時も言ってんじゃねーか。『今の自衛隊は旧日本軍に到底及ばない素人集団だ』って』

 

 

『ですが、日本があそこまで大敗北したのはその旧日本軍が原因で…』

 

 

『違うな。確かに敗北した原因の一端に旧日本帝国軍があるのは否定しない。だが、それだけでは到底説明出来ないな』

 

市ヶ谷の言葉に割り込む形で神州丸が会話に入ってきた。

 

 

『でも、学校の授業でも、幹部課程・防大の授業でも…』

 

 

『それだよ、それ。当時生きてた俺達が聞いたらなんて思うか、考えた事あるか?』

 

 

『『………』』

 

天龍の問いに市ヶ谷も鯖江も答えられない。

 

 

『…軍団長殿は滝崎副官と大学では歴史学を専攻したと聞いている。そして、歴史は『新事実や史料の発見で変わる』と言う事を忘れ過ぎているな』

 

 

『だからじゃねーか? 憲兵殿が自衛隊を弱いって言っちまうのはさ』

 

 

『…それはわかりません。ですが、それと『日本人である事』、そして、あの嫌がり方との関連性が…』

 

 

『簡単よ。市ヶ谷さんも言ってたじゃない。『お人好し』って』

 

市ヶ谷の言葉に龍田が答える。

 

 

『お人好しで、礼儀正しく、我慢強くて、義や情に弱く、勇猛果敢で、知識・知性豊かであり、歴史もありながら新しい事に興味津々で、世界の東西を問わずに対等でありながら、それを自慢する事も無く、ただ黙々と物事をこなす、不思議な国『日本』の国民である日本人に…憲兵さんはそうありたいだけよ〜』

 

 

「……全通回線でお喋りし過ぎだ。そろそろやめなさい」

 

ツッコミを入れるかの様に今まで黙って聞いていた高塚が言った。

 

 

 

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16 ルビコンを渡れ 前編

1話に纏める筈が2話になりました。


1200頃 矢作川西岸付近

 

 

「マグマ軍部隊は東岸に警戒・守備隊を置いているね」

 

 

「ヘリによる航空偵察の結果、名鉄西尾線に沿う国道12号線、西尾駅近くの橋と294号線の橋…この二ヶ所に守備隊を集中しています」

 

仮司令部を置いた高塚達は作戦会議を開き、鯖江や明野からの報告を聞いていた。

 

 

「ふむ…第10師団の位置は?」

 

 

「どうやら、幸田サーキット場付近で地形を駆使し、円形全方位防御で粘っています」

 

 

「なるほど…敵の包囲部隊司令部は?」

 

 

「そこまでは…」

 

 

「だが、我の通信班が気になる通信電波をキャッチした」

 

高塚の問いに市ヶ谷が残念そうに答えると、横にいた神州丸がバトンタッチで報告した。

 

 

「と言うと?」

 

 

「うむ、最初は近場から、残りは地形の関係か強めの電波での交信が行われていた。そして、発信場所はバラバラだが、受信場所は一ヶ所に集中していたのだ。それで、逆探知してみたら…」

 

そう言って神州丸は西尾市スポーツ公園を指差した。

 

 

「……なるほど、公園な上に地形はバッチリだな」

 

 

「どう言う事すっか?」

 

高塚の呟きに岐阜が訊いた。

 

 

「つまり、公園と言う直属隊や司令部機能を置ける立地に矢作川本流と支流が東西を挟んで、その合流点が北への障壁になってる…攻めに苦、守るに楽な所を選んだ、って事」

 

高塚の代わりに富山が答えた。

 

 

「よし、我々は12号線の橋を奪取する」

 

 

「何故ですか? 敵包囲部隊司令部を落とすなら、294号線の橋を…」

 

 

「司令部に近いからっちゃ! 敵がここに司令部を置いたのは、もし、第10師団が決死の覚悟でチェストして来ても大丈夫だからっちゃ」

 

 

「それに23号線の橋が隣接していて、何かあれば間違い無く、爆破するからな」

 

高塚の決断に市ヶ谷が異を唱えるが小倉と目達原が素早く答えた。

 

 

「更にあえて遠い所を選んだのは、それで敵を油断させる為だ。どちらにしても、戦後復興を考えると、出来る限りの破壊は避けたいからな。あっ、久居大尉、すまないが、連隊旗を借りていいかな?」

 

 

「え、あっ、はい…別に構いませんが…」

 

 

「ありがとう…全隊待機を解除、攻撃用意だ」

 

 

 

暫くして 攻撃発起位置

 

 

『攻撃前に言いたい事がある為、集合せよ』との指示に全隊員が集まった…….しかも、今から奪取する橋の前である。

そして、高塚が第33普通科連隊旗を持って前に立った。

 

 

「ここに居る全隊員に告ぐ。本日までよく付いてきた…だが、これは終わりでもは無い。逆に始まりの一歩だ」

 

そう言い切ってから、一度見回してから再び口を開く。

 

 

「皆に問いたい。皆はこの日本が好きか? 自分が生まれた土地が、母が、家族が、国籍がある、この日本と言う国が好きか? もし、『嫌いだ』とか、『国は何もしない』と言うのなら、私は何も言わない。戦列を離れ、故郷や家族の所へ帰ってくれ。あるいは『わからない』や『考えた事も無い』と言う者はここに残って考えてもいい。これについても私は何も言わない」

 

シーンとする場に高塚は続けた。

 

 

「私は…この国が大好きだ。約2000年以上続き、古今東西が混じりながらも、独自の流れを維持し、四季の美しさがある…国土の大半が山地で、各種自然災害が毎年襲い、幾度も自然の強大差を感じても受け入れる…かつて、明治維新を成し遂げ、ロシアと支那の2つの大国に打ち勝ち、非白人種として堂々と世界に踊り出し、アメリカとも互角に戦い、武運拙く全土を焦土にされ、核兵器を2度も受け、悪者への罰とばかりに全てを否定され、嘲り笑われ、二度と国際社会に出られない様にされても…不死鳥の如く、何度でも立ち上がり、世界に挑んだこの日本が…私は大好きだ」

 

そう言って再び見回してから口を開く。

 

 

「無論、先の言葉に反論がある者が居るのは承知の上だ…だが、皆に訊く。ここまであって、ここまでされて、200近い国がある中、未曾有の震災があれば民族人種を問わずに多くの人々が手を差し伸ばす国が何処にあろうか? これは過去現在を問わず、生きてきた日本人の軌跡がある故だ! いま、世界は亡国の時である! 皆は…諸君は未来を諦めるのか? この様な稀有な国の民が、先人から引き継いだこの日本を…未来に残す選択を取らないのか? 歴史は国無き民がどんな末路を辿るかを既に示している……諸君は良いのか? 宣誓した筈だ、独立と平和を守る…『独立』には民族と歴史、先人達の意志が入り、また、我々は武力侵攻時だけでなく、平時でもそれらを守る…継承する義務がある! いま、ここで立たねば…先の大戦で戦った先人達に到底及ばぬと自覚せよ!!」

 

そう言い切ると高塚は後ろに振り向くと……腰の軍刀を抜いた。

 

 

「言葉だけなら、何とも言えるが…決意ある者だけ続け!! この旧帝国陸軍第33歩兵連隊から継承されたナンバーの付く旗の下に!!」

 

 

そう叫ぶと高塚は『目を紅く』して一目散に走り出す。

 

 

「…って、えぇ!? 高塚司令!!」

 

 

「……何かやる気とは思ったけど…総指揮官自ら突撃をかますって…」

 

 

「ふ、普通じゃないと思ってましたけど、普通なんて生温かったです!! とち狂いです!!!」

 

 

慌てる市ヶ谷、唖然とする鯖江、発狂気味の金沢。

無論、彼女達でなく、大半の人間が目の前事態に混乱する。

 

 

「はっはっは!! さすが、軍団長殿! やりますな!」

 

 

「やれやれ…であります」

 

 

「おらおら! 突っ立てる暇なんて無いぜ! ケツ上げな!!」

 

 

「うふふ、死にたいなら、この龍田さんがバラバラにしてあげるわ〜」

 

さも当然とばかりな反応な神州丸とあきつ丸、前進を促す天龍と龍田。

 

 

「第442親衛特殊任務空挺連隊全隊! 同志に続け!! 真の日本兵はここにあり!!」

 

 

「高塚司令に続け!! マルタの英雄に遅れるな!!」

 

 

「全隊突撃っちゃ! 水陸研で鍛えられた成果を見せるちゃ!!」

 

山本大佐と富山、小倉がそれに続く。

 

 

「やれやれ…まあ、いいか!!」

 

 

「あー、くそ、自棄だ!!」

 

 

「ちくしょう! やっぱり、龍田教官怖い!!」

 

 

「筑波一尉が信じたお人です。ここは乗りましょう!!」

 

これに貴志部、杉谷、萩原、飯田らも続く。

 

 

 

 

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17 ルビコンを渡れ 後編

矢作川東岸 マグマ軍防御陣地

 

 

 

一方、マグマ軍は呆然としていた。

なにせ、敵の将校が軍旗とサーベル(日本刀)を手に単身先頭きって突っ走ってきているのだから当然である。

無論、それが敵の攻勢だと理解しているのだが…動物的本能と言うべきか、初めての光景に麻痺している、と言っていい。

 

 

「何ヲシテイル! 敵ノ指揮官ガ馬鹿正直二先頭デ突入シテイルンダゾ! 撃タンカ!!」

 

親衛隊士官の声に漸く思考的麻痺から回復したマグマ軍兵士達は己の武器のトリガーに指を掛ける。

しかし、次の瞬間……空から破壊の旋律が響いてきたのだった。

 

 

 

西岸 自衛隊側

 

 

「撃て!! 軍団長殿を見殺しにするな! 皇国の興廃、この一戦にあり!!」

 

 

「普通じゃない指揮官を援護して下さい! 中迫! 重迫! 撃ち方始め!!」

 

神州丸の99式自走砲隊、金沢指揮下の普通科迫撃砲中隊が東岸に向けて砲撃を開始する。

 

 

「航空隊のみんな! 出番であります!!」

 

 

「明野の航空隊! 今が活躍する時だよ!!」

 

 

「精鋭で鳴らした西部方面航空隊の力! 存分に見せてこい!!」

 

間隙を入れまいとあきつ丸、明野、目達原らのヘリ航空隊のアパッチ、コブラの攻撃ヘリが掃射を開始する。

僅か数百メートルしか無い橋を渡る為に過剰とも思える火力を投入して撃ちまくる。

そんな中……高塚は後続を10数メートル離して、一番先頭を走っていた……紅い目で。

 

 

「は、速いです!!」

 

完全装備で全速で走る市ヶ谷も余りの速さに叫ぶ。

 

 

「仕方ないよ、市ヶ谷さん。今の高塚少将は『本気』だから」

 

 

「それにしては異様だね」

 

その横を富山と鯖江が一緒に走る。

 

 

「あれが憲兵殿の強さの秘密さ…『深海棲艦の血が入った』人間だからな!」

 

ニヤリと笑いながら天龍が言った。

 

 

「「……えぇ!?」」

 

市ヶ谷と鯖江が驚く中、当の本人は…渡り切る手前まで来ていた。

しかし、そこは鉄条網付きのバリケードがあったが……。

 

 

「とりゃあっ!!」

 

走る勢いそのままで走り幅跳びでバリケードを越え、橋を渡りきり、土嚢を積んだ防御陣地内に踏み込んだ。

 

 

「自衛隊…いや、日本陸軍少将高塚健人! マルタの英雄此処にあり!! 討ち取りたいなら、掛かってこいや!!!」

 

着地と同時にそう叫ぶ高塚。

一瞬、唖然としていた陣地内のマグマ軍歩兵達が着剣していたAK-47で刺突するが…。

 

 

「遅い!!」

 

軍刀で刺突を払い除け、体勢を崩したマグマ軍歩兵を返す刀で薙ぎ払う。

薙ぎ払われた歩兵達が2、3歩退くと、その背後から重戦車T-72が主砲を向けたが…。

 

 

「アゴーイ(撃て)!!」

 

 

「ウラー!!」

 

高塚に追い付いた山本大佐の指示にT-72Bが125㎜主砲を撃ち、マグマ軍T-72を撃破する。

 

 

「おらおら! 天龍様のお通りだ!!」

 

 

「うふふ、天龍ちゃんの邪魔は私が許さないわよ〜」

 

 

「渡りきった人員から左右に展開! 東岸橋頭堡の確保と拡大を!!」

 

これに続いて天龍や龍田、市ヶ谷達が渡りきり、高塚に合流する。

これを皮切りに続々と後続が橋を渡りきり、戦線が形成されていく。

 

 

 

「はぁ、はぁ…もう! 高塚司令! 寿命が30年ぐらい縮まりました!!」

 

 

「いや〜、指揮官先頭の原則ってものがね」

 

 

「…総指揮官が先陣切ってる時点で負け戦じゃあ」

 

 

「何を言う。今が負け戦状態でなくて、何が負け戦状態なんだ?」

 

息を整えた市ヶ谷の抗議に高塚は苦笑いを浮かべ答える。

それに鯖江が静かにツッコミを入れるが、山本大佐がツッコミを返す。

そんなやり取りが交わされる中、続々と橋を渡り終えた奪還部隊が確保地域を広げていく。

 

 

 

その頃 西尾市スポーツ公園

 

 

「山猫部隊! 突入にゃ!!」

 

 

「第二水雷戦隊! 突撃!!」

 

司令部のある西尾スポーツ公園は対馬まどかの山猫部隊、神通ら第二水雷戦隊の強襲を受けていた。

矢作川東岸への渡河成功の通信を受けた山猫・第二水雷戦隊は手始めに西岸からのM270の奇襲砲撃と同時に西尾スポーツ公園に強襲を掛けた。

司令部直卒部隊が応戦するが、山猫部隊だけでなく、精鋭『華の二水戦』の艦娘達の攻撃にジリジリと追い詰められていく。

 

 

「ギー! ギギギー!?(おい! 近くの橋の守備隊は!?)」

 

 

「ギギー! ギギギ、ギギー!!(ダメだ! 別部隊の攻撃で動けない!!)」

 

また、川内・那珂の水雷戦隊が橋と周辺地域の確保に動いており、橋の防備に大部隊を置いた事が仇と出ていた。

 

 

「防げ! 防げば、包囲部隊から…」

 

 

「させません!!」

 

親衛隊の言葉を遮るかの如く、神通の艤装の主砲が火を噴き、通信施設を破壊する。

 

 

「山猫部隊も負けるわけにはいかないよ! 突撃にゃ!!」

 

 

「「「「「「おぉ!!」」」」」」

 

互いに水陸研で訓練しただけに第2水雷戦隊と山猫部隊は互いに連携し、マグマ軍を圧倒していく。

 

 

 

これらの戦闘は橋を確保した奪還部隊分遣隊と川内・那珂達と合流し、西尾スポーツ公園に部隊を向けた事が決め手となり、包囲部隊司令部は陥落した。

その間にも高塚達本隊は第10師団主力と合流すべく、市ヶ谷達に後を任せ、高塚は主力を率いて幸田町西部に向かって全速で前進していた。

 

 

 

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18 第10師団を救出せよ!

いよいよ、10師団戦も佳境です。


午後3時頃 幸田サーキット場付近 第10師団主力部隊司令部

 

 

「くそ、もう小休止は終わりか」

 

包囲状態にある中、敵の様子を眺めていた第10師団司令部付き幹部の筑波博貴大尉。

小休止で攻勢が止んでいたが、また始まる事に毒吐く。

毒吐いてから司令部の簡易テントの中に入ると、そこは別の意味で戦場だった。

 

 

「今なら、全部隊で一点集中攻撃を行えば解囲出来ます!」

 

 

「現状ならばその余力があります!」

 

 

「例え出来なくても、守山師団長が脱出出来れば機会は巡ってきます!」

 

 

「師団長! 決断を!!」

 

各連隊長・中隊長・師団司令部の参謀達が守山綾音師団長(陸将補・少将)に迫る。

その光景を春日井駐屯地の第10後方支援連隊所属春日井樹大尉が呆れ気味に見ていた。

 

 

「またか」

 

 

「あぁ、あれじゃあ、姉さんが可哀想だ」

 

なんだか妙に気が合う2人はそんな会話を交わし、筑波はその中に入る。

 

 

「皆さん、その回答は今朝したではありませんか。このまま、防御に徹する、と」

 

 

「うるさい! このままではジリ貧だ!」

 

 

「そもそも、昨日まで君は解囲に賛成ではなかったか!?」

 

 

「最初だって、攻勢に反対していたと思えば一転、賛成したではないか!」

 

 

「ころころと意見が変わり過ぎだ! そもそも、根拠はあるのかね!?」

 

筑波が話に入ると一斉に筑波へ矛先を転じる。

 

 

「敵包囲司令部との提示連絡が正午以降途切れたままです。味方が迫っている証拠でしょう。今は防御に徹し、味方の来援を待つべきです」

 

 

「ふん! 『マルタの英雄』が僅か数日でここまで来れる訳ないじゃないか!」

 

 

「やはり、マルタに行ってボケた様だな。あの敵大部隊を僅かな部隊で抜ける訳がない」

 

 

「最初は奇襲で来れても、敵も馬鹿ではないんだ。それに、それがなんの証拠になる? 気象的・機械的要因の可能性があるんだぞ!?」

 

 

「左遷された若造は黙ってろ!」

 

筑波の論拠に反論が飛ぶ。

中にはイラっとさせる物もあるが、マルタで散々に高塚達を怒らせ、怒られていた筑波からすれば、何故かかわいく思えた。

 

 

「それは皆さんがマグマ軍、ならびに近年の現代戦を知らない、と自分は受け取りかねますが…まあ、それを論争する気は自分にはありませんので」

 

 

「なんだと!?」

 

 

「黙りなさい!!」

 

黙って聞いていた守山がそう言って制する。

 

 

「筑波一尉、口調を改めなさい。それと、他に根拠があるの?」

 

 

「マグマ軍は旧ソ連軍を見本としており、ソ連軍は無線等のアナログ機材の水準は品質面から見ても堅実堅固な作りで信頼性が高いものです。その無線に定時連絡が無いままで無関心でいるとは思いません。有線等を使って確認するでしょう。また、この攻勢の増加です。正午以降、敵は何かに迫られているかの様に小休止時間を減らし、午前中よりも回数を増やして攻勢を掛けています。これは我が方の援軍が敵司令部を攻撃し、また、近くまで来ている、と考えます」

 

 

「つまり、包囲部隊は迫ってくる援軍を撃退する為に私達を撃滅しようと焦って無茶な攻勢を仕掛けている、と?」

 

 

「はい。そもそもな話、『マルタの英雄』が味方を助ける為ならば自身の犠牲など何処吹く風で単騎で乗り込んで来ますがね」

 

要らぬ事を言った連中を皮肉る様に言った筑波。

内心呆れながらも小言を言おうとした守山を遮ったのはある報告だった。

 

 

「西部防衛線より報告! 包囲部隊が背後から攻撃を受けており、また、アパッチなどのヘリが波状攻撃をしております!!」

 

驚きの表情で報告する通信担当幹部。

その驚きは報告によって、先程まで筑波に迫っていた連中にも伝播した。

 

 

「誰か、先頭に立つ幹部は見てないか?」

 

 

「え、あ、いえ…ただ、33普連の連隊旗を持った人間が居るのをチラッと見えた、と…」

 

筑波の質問に幹部は控え目に答える。

 

 

「どうやら、待ちに待った来援ですね」

 

そう言って筑波は自分の89式小銃を肩に担ぎ、テントから出ようとする前に春日井に声を掛けた。

 

 

「春日井、守山師団長を頼む」

 

 

「姉さんの事かい? もちろんだけど…なんでだ?」

 

 

「守山師団長は高塚司令にとっても重要な存在になる。早まった行動をおこしそうにならないか、見ていてくれないか?」

 

 

「……当たり前だろう。第10師団長なんだから」

 

 

「じゃあ、頼んだ」

 

そう言って筑波はテントから出て行った。

 

 

 

西部防衛線

 

 

 

「いまだ! 豆タン、撃て!!」

 

 

「は〜い! いくよ〜!」

 

阻止射撃を抜けてきたT-72重戦車を引き付け、『豆タン』こと60式自走無反動砲で撃破する。

 

 

「班長! 豆タンの弾はさっきので最後です!!」

 

 

「ちっ、遂にカンバンか!」

 

豆タンに射撃指示を出した対戦車(ATM)小隊所属の高山雄二三等陸曹はそう吐き捨てた。

ここまで…弾切れになった各種対戦車火器を…節約しながら、正に『必中必殺』で使い、なんとかギリギリ保たせてきたのだから。

 

 

「高山三曹! 全員を伏せさせろ!」

 

走ってきた筑波がそう叫ぶ。

その叫びに、とりあえず「全員伏せろ!」と叫ぶと自身も伏せる。

次の瞬間、飛来したヘリ隊が次々にヘルファイヤやロケット弾、機関砲を乱射し、先程まで波の様に押し寄せていたマグマ軍戦車を鉄屑スクラップへと変えた。

 

 

「喜べ、みんな! 援軍が、『マルタの英雄』が味方を引き連れて来てくれた! あと少し踏ん張れ!!」

 

そう叫びながら対戦車小隊の横を走り抜け、先程の航空攻撃で空いた『孔』に向かって走る筑波。

そこに………

 

 

「『マルタの英雄』、高塚健人ここにあり! 討ち取って名を上げたい者は掛かってこいや!!」

 

包囲部隊を突破してきた高塚が33普通科連隊旗と軍刀を手に叫ぶ。

 

 

「『マルタの英雄』によって包囲は突破されたぞ! 援軍の到着だ!!」

 

その背後を守るかの様に89式小銃を構えながら、背中へ回って叫ぶ筑波。

 

 

「ふっ、元気そうだな、筑波!」

 

 

「お待ちしておりました、高塚司令!」

 

2人のわざとらしい会話にマグマ軍兵士は後ずさり、自衛隊側からは大歓声が上がる。

そして、高塚の背後から続々と奪還軍が続いてくる。

これを見たマグマ軍兵士は己らの現状を悟ったのか、次々に持ち場を放棄し、敗走し始めた。

 

 

 

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19 10師団救出後

仕事の都合で本日更新しました。
そして、題名…。


登場人物 16


筑波博貴 陸自幹部 一尉(大尉)

元マルタ島鎮守府陸軍(陸自)派遣警備隊隊長、現第10師団付き幹部。
マルタ派遣終了後、完璧に『高塚色』に染まっていた為に10師団に左遷されていたが、皮肉にもマグマ軍侵攻に際してはマルタでの経験を素に守山師団長を補佐していた。
守山師団長とは入隊同期(一般幹部候補生)だが、その守山すら認める程の『復讐にとらわれた人間』もマルタで鍛えられた為か、様変わりしている。
家族は『深海棲艦事変』で死亡した両親と現在は回復した妹がいる。



春日井樹 陸自幹部 一尉(大尉)

第10師団所属の春日井駐屯地に駐屯する第10後方支援連隊所属する駐屯地娘。
岐阜少尉から『親びん』と言われて慕われ、守山師団長を『姉さん』と言い慕う男勝りな女性だが、皮肉にも職種は後方支援。
筑波とは何故だかウマがあう。


守山綾音 陸自幹部 陸将補(少将)

第10師団を纏める守山駐屯地の駐屯地娘にして、陸自初の女性師団長。
頭脳明晰で責任感が強く、また、その気配りの良さから、第10師団隊員から慕われる、人気ある師団長。
(故に年配幹部からは微妙な目で見られていたりする)
筑波と同期であり、左遷時には彼を10師団付き幹部として預かった。


高山雄二 陸曹 三等陸曹(軍曹)

第10師団守山駐屯地所属の第35普通科連隊対戦車(ATM)小隊に所属する三等陸曹。
第10師団攻勢・防衛戦時は豆タン以下の各種対戦車火器を用いて戦闘を行っていた。


60式自走無反動砲

通称豆タンと呼ばれた対戦車兵器・武器娘。
名前の通り、2門の無反動砲による対戦車戦闘(待ち伏せ)を行うのが基本戦術。
既に退役していたが、マグマ軍侵攻によって再配置された。
悪戯好きではある。(なお色違いがあるが、性格は一緒)


1830 第10師団司令部テント

 

 

高塚達による包囲網の解囲により、マグマ軍は敗走した。

しかし、その敗走も楽ではなかった。

高塚・第10師団の追撃、空自岐阜基地からの航空支援、更に戦艦棲鬼が事前に召集・待機させていた深海棲艦艦隊が三河湾から艦砲・航空支援を実施した事により、部隊として崩壊・敗走した。

本来であれば充分に追撃したいところであったが、第10師団の弾薬欠乏と高塚ら奪還軍の疲労を考慮し、地上部隊の追撃は早期に中断した。

だが、深海棲艦艦隊からの艦砲・航空支援による痛打を受けたのは確かであった。

そして、一通りの事後処理を終えた高塚は筑波の案内で第10師団司令部まで来ていた。

 

 

「第10師団師団長、守山綾音陸将補です」

 

 

「奪還部隊司令、高塚健人陸将補です」

 

互いのトップの顔合わせだが副官格である市ヶ谷と筑波、そして、春日井を除き、人払いしていた。

 

 

「…とりあえず、堅いのは抜きにしましょう」

 

どうも、空気が堅い気がする高塚はそう言った。

 

 

「そうですね! ささ、守山師団長…高塚司令も」

 

同じくこの空気に耐えきれなかったらしい筑波が慌て椅子を出して互いを座らせる。

 

 

「高塚司令、私の事はどんな処分も受けます。ですから、麾下の人間の処分はよしなにお願いします」

 

座る前に守山師団長が言った。

 

 

「ちょ、姉…守山師団長!?」

 

突然の事に春日井が驚き、筑波は頭を抱える。

 

 

 

「……市ヶ谷、俺に人事権ってあったけ?」

 

 

「え、えーと、師団長クラスを含めて、人事異動の権限はないかと」

 

 

「と、言う事なんで…そもそもな話、第10師団長を解任させた後のゴタゴタを考えたら、その手腕と隊員の信頼を失う事も含めて、損失が大き過ぎますからね」

 

 

「……はへ??」

 

高塚の答えに間抜けな声を出す守山師団長。

 

 

「ですから、守山師団長。先に言ったではないですか。高塚司令なら、そんな事は心配無い、と」

 

 

「え、あ、でも、そこは…」

 

 

「それに、言いましたよね。私以上に嫌われている高塚司令が人事権をどうこう言える訳ないんですから、今のところは」

 

 

「おい、筑波、暫く会わない内に言う様になったな」

 

皮肉かどうかはわからないが、筑波の言い様に高塚は苦笑いを浮かべながら言った。

 

 

「まあ、どちらを向いても、第10師団管区は反撃の要だ。その要の師団長を解任する訳が無いよ。なあ、市ヶ谷副官」

 

 

「はい! え、ふ、副官!?」

 

 

「高塚司令、3人居る副官をあと何人増やす気ですか?」

 

 

「いや、お前さん、今は10師団付きだろう?」

 

 

「筑波副官! よろしくお願いします!」

 

 

「市ヶ谷さん、なんでそんなにハイテンションなの?」

 

 

「だって、高塚司令って『市ヶ谷さん』って何時も呼びますよね? 副官格認識でなっかたみたいですけど?」

 

 

「え、その認識だったの?」

 

 

「あー、うん、まあ、高塚司令の『副官』って高塚司令が呼びやすい呼び方だから、まあ、みんなと一緒になるしね。まあ、それが高塚司令のいいところかと」

 

 

「おいおい、それはそれで心外だな…」

 

途中から高塚と新旧副官同士の会話になり、守山と春日井は蚊帳の外に置かれる。

 

 

「あっ、そうだ。筑波、お前が置いていったメモ帳の『敵集結地』の件だが」

 

 

「あっ、そうでした、そうでした。あれ、どうでした?」

 

 

「どうでした、なんて話じゃあないぞ。春日井や守山の包囲なんて忘れて10師団追っかける価値のある物だったぞ」

 

 

「……え、なんです、それ? なんか、嫌な予感が…」

 

 

「多分、それ当たってるね」

 

 

「えっと…実は、あそこ、マグマ軍兵士や武器娘の『育成施設』でした。まあ、中身は幼体でしたけど…」

 

 

「「「…はあ!?!?」」」

 

高塚の代わりに市ヶ谷が答えると筑波だけでなく、守山や春日井も驚いた。

 

 

「もちろん、ちゃんと『処理』はした。まあ、気持ち良くなるわけ無いけどな…兎にも角にも、今までのマグマ軍の補充が火山火口から、って認識は修正しておくべきだろうな。多分、他の地域でもやっているだろうし」

 

 

「厄介事が増えた、としか聞こえませんね。まあ、陸自上層部も同じくらい厄介ですけど」

 

 

「お前さんも皮肉を言う様になったな」

 

 

「マルタに比べたら、守山師団長や春日井達と話すのはいいですが、後の主要連中は話が一方通行過ぎなんですよ」

 

 

「なら、俺の下に戻るか? 出世は出来ないだろうけどな」

 

 

「出世するより、守る為に戦いますよ」

 

ニヤリと笑いながら答える筑波に高塚は溜め息を吐き、苦笑いを浮かべる。

 

 

「っと言ってますが、守山師団長はどうします?」

 

 

「…はぁ…同期のよしみで預かったけど、あの時よりかは随分とマトモになったわね」

 

 

「なんか、貶されてる様な感じがするんだけど?」

 

 

「あら、実際、あの頃は正に『復讐者の気配』を醸し出していたわ」

 

 

「あぁ、うん、確かにな。復讐者の気配ありありだったな」

 

『その頃』を知る2人は互いに頷き合う。

 

 

「では、高塚司令…筑波一尉の方、よろしくお願いします」

 

 

「了解しました。まあ、こちらこそ、第10師団には色々と頼み事やら何やらをすると思いますが、よろしくお願いします」

 

 

 

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20 二大巨頭動く

短めですが更新。
そして、合致している筈の題名。


その後、第10師団を含んだ高塚率いる奪還部隊は二手に分かれ、本隊は豊川駐屯地へ、明野以下の分遣隊を三重県明野駐屯地へと向かわせた。

明野分遣隊は途中で少数のマグマ軍残存部隊の接触を受けたが、戦艦棲鬼が支援に出してくれた深海棲艦艦隊の支援もあり、残存部隊を降伏させ、2日後、無事に明野駐屯地へと到着した。

これをもって高塚は『第10師団管区奪還』とし、那覇の日本政府・統合幕僚本部もこれを了承、海外へと発信した。

 

 

20分後 インド ロシア連邦亡命政府会議室

 

 

「さて、諸君。日本での出来事をどう思うかね?」

 

 

「我々よりも酷い有様なのに…と言いたいですが、ジェネラル・タカツカの指揮なら納得出来ますな」

 

元KGBである大統領の言葉に国防大臣が笑いながら言った。

これにはこの場に集まっていた関係者全員が頷いた。

何故なら、『不可能な事』を成し遂げた『マルタの英雄』の1人だからだ。

 

 

「日本政府が公開した撮影映像と422連隊からの報告は合致しています。やはり、艦娘の運用経験があるだけに、武器娘等の運用は日本側に一日の長がありますな」

 

 

「そこだ。皆に集まってもらったのは、我々は日本の出来事に対し、支援を行うか、否かだ」

 

ロシア軍参謀総長の言葉に大統領が言うと、参謀総長は苦い顔をしながら言った。

 

 

「我が方も戦力は潤沢、と言える状況ではありませんが?」

 

 

「だが、何かしろ動かなければ。世界の何処も一進一退…いや、津波を無理くり抑えつけている状況下の中、日本は自力で占領地の奪還を行なった。これに422連隊が正面戦闘で参加した、と言う確固たる事実がある。これを利用しなければ、士気も上がらんだろう」

 

 

「たしかにこれは良い話です。我らだけでなく、マグマ軍相手に勝った、と言うのは各国軍の士気を上げ、また、希望を持たせる事になりますな」

 

大統領の言葉に外相が言った。

 

 

「あぁ、しかも、戦後復興の事を考えれば、アメリカよりも早く支援を表明し、日本に借りを作るのも悪くは無い。まあ、あのジェネラル・タカツカのことだから、ワザと422連隊を正面に出したのだろうが」

 

 

「と言いますと?」

 

国防大臣が不思議そうに訊いた。

 

 

「422連隊からの報告にもありますが、陸上自衛隊の大半は冷戦期…下手をすれば第2大戦期のレベルで頭が凝り固まっているようですからな…皮肉にも昨今の戦闘を兵士として、指揮官として一番経験しているのがジェネラル・タカツカだと言う事です」

 

参謀総長が苦笑いを浮かべて答えた。

 

 

「では、再び諸君に訊きたい。日本に対する支援を行うか、否かを」

 

 

 

20分後 アメリカ 大統領府

 

 

「ロシアが日本に対する支援を表明したな」

 

所変わりアメリカでは元商売人の大統領がコーヒーブレイク後に再開した国家安全保障会議の場で言った。

 

 

「既にロシアは422連隊先遣を送り込んでいますがね」

 

 

「あれは元民兵隊…マルタでの縁で『派遣』の形にした様な物だろう」

 

CIA長官の言葉に統合参謀本部議長がジロリと睨みながら言った。

 

 

「それはどうでもいい。問題はあのロシアが支援を表明した事だ。戦後を考えれば、我々も何かしろのアクションを出さなくてはならない」

 

国務長官がとりあえず2人を抑える為に言った。

 

 

「そうだ。日本が日米同盟を棄てる事は無いだろうが、戦後秩序を考えれば、我々も支援を表明しなければならない」

 

 

「そうですな。特に奪還軍を指揮しているジェネラル・タカツカには地中海で『借り』がありますからな」

 

大統領の言葉に参謀本部議長がCIA長官を横目でジロリと睨みながら言った。

 

 

「更に今やボロボロの世界経済を動かしているのは日本ですからな。特に物流…今や安全な物流は海上物流ですし」

 

 

「うむ。日本人の逆境の強さには驚く。大半の国同様に祖国があそこまで蹂躙されたのにも関わらず、家族の安心がわかれば、あそこまで働くからな」

 

 

「深海棲艦と艦娘が護衛しているのが事を差し引いても、日本の企業によって世界は何とか抵抗出来ている状況ですからなあ」

 

国務長官の言葉に神妙に頷く大統領と事実を語る参謀本部議長。

 

 

「ところで、支援を送るとすると、どこまで可能かね?」

 

 

「細かい調整が必要になりますのでハッキリは言えませんが…物資や武器弾薬、あとは余裕のある車両等は現時点で供給可能です」

 

 

「ふむ…では、日本に対する支援は決定だな」

 

参謀本部議長の返答に大統領は満足そうに頷くと秘書官を呼ぶ。

 

 

「直ぐに会見の準備だ。我々も日本を支援する。ロシアとアメリカが支援表明をしたならば、他国も乗るだろう。なにせ、誰もが『勝ち馬』に乗りたいだろうしな」

 

 

 

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21 方針

ロシア・アメリカからの支援が決定され、高塚は今後の方針を示す。


翌日 豊川駐屯地

 

 

 

「ロシア、アメリカの支援表明に次々と日本への支援表明を行う国が増えましたね」

 

 

「腐っても経済大国だ。戦後復興の事を考えれば、その尻馬に乗ろうとするだろうな」

 

豊川駐屯地に身を寄せている中で入ってきた『支援表明』の話を筑波がすると高塚が苦笑いを浮かべながら答える。

 

 

「どちらかと言うと、高塚司令の勝ち馬に乗ろうとしている様にも見えますが?」

 

 

「勝ち馬か…まだ、その基礎固めが終わったばかりなんだがな」

 

 

「それだけ、『マルタの英雄』『ジェネラル・タカツカ』のネームバリューが大きい証拠ですよ」

 

 

「ネームバリューね…」

 

筑波の言葉に苦笑を浮かべる高塚だった。

 

 

 

暫くして 豊川駐屯地内 駐屯地作戦室

 

守山師団長以下、主要な人間を集めた高塚はこの場で今後の方針を決めるべく口を開いた。

 

 

「さて、今後の方針を話す前に…市ヶ谷さん、陸幕からは何と?」

 

 

「はい、『米露の支援を受け次第、態勢を整えて東京を奪還せよ』と…」

 

 

「やれやれ、陸軍参謀本部は揃いもそろって寝起き者の集まりか?」

 

 

市ヶ谷の言葉に神州丸が溜め息を吐きながら言った。

 

 

「アメリカとソ連…ロシアの支援を受けれるからと、浮かれているであります」

 

 

「我がロシアも、そして、アメリカも本来の全力を出せない事が解っていないな」

 

神州丸の言葉に合わせて、あきつ丸と山本大佐が言った。

 

 

「あれから何も変わっておりませんな…それで、高塚司令。司令はこのバカげた命令を横に置いて、どう致しますか?」

 

付き合いからか、ほぼ察しているであろう筑波の言葉に苦笑いを浮かべる高塚。

 

 

「……現段階では、米露の支援を受けても東京奪還は困難だ。例え出来たとしても、長期保持は現有戦力的に難しい。ここは東京奪還は脇に置いて、日本本土自体を奪還し、戦力を整えてから東京の奪還を行う。この方針に反対の者は直ぐに言ってくれ」

 

そう言って全員を見回す高塚。

この言葉に誰も反論はしなかった。

 

 

「ありがとう。では、直近の作戦だが、第10師団は豊川駐屯地を基点に防衛線を形成し、別命あるまで防御に徹してくれ」

 

 

「わかりました。命に代えても通しません」

 

 

「たから、守山師団長。そこまでするのは本末転倒なんで禁止です」

 

同期コンビでツッコミを入れる筑波。

 

 

「あはは…そして、一部人員で第12旅団管区に向かい、12旅団管区を奪還後は第6師団管区を奪還、東京並びに元第1師団管区を包囲・孤立化させる。無論、ここまでこれば他方でも動きがあるだろうから、柔軟に対応するがね」

 

 

「敵を東西に分断するだけでなく、更に東京と東北方面の敵を分断する…と?」

 

 

「つまり、分断・包囲による各個撃破だね」

 

市ヶ谷と鯖江の言葉に高塚は頷く。

 

 

「敵は無限に沸くマグマ軍だ。集団を細分化していかなければ、とてもでは無いが処理は追いつかないよ。なお、10師団だけでなく、合流した部隊は装甲機械化と装備改変を順次実施していくのでそのつもりで頼む」

 

 

「問題はその資材・機材ですが…そこは?」

 

 

「問題無い。海上補給路に関しては、北は富山港、南は中部日本最大の名古屋港を奪還出来たから、南北どちらにいても資材・機材の受け取りは可能だ。緊急時は岐阜基地が使えるし、シーレーン防御は佐世保から海軍・艦娘・深海棲艦の連携で大丈夫だ」

 

 

「なお、同志の要請で機材…人員輸送車両には修理した中古品だが、ロシアのティーゲル軽機動装甲車を供給出来るし、また、ロシア政府が支援を表明した為、その他の機材も供給出来る様になるから、そのつもりで」

 

市ヶ谷の質問に高塚と山本大佐が答えた。

 

 

「まあ、人員は後で発表するが、いつでも動ける様に準備しておいてくれ。あっ、実は沖縄の臨時政府と陸幕に呼ばれて、明日からちょっと行ってくるから…筑波とあきつ丸は随伴な」

 

 

「…遂に陸幕は高塚殿の排除に…」

 

 

「いや、違うからな。どうせ、東京奪還を念押しする為に呼ぶだけだからな」

 

あきつ丸の反応に高塚は苦笑を浮かべながら諌める。

 

 

「陸幕も変な事を言わない事を願いますよ。今や自衛官や一般人から信用無しの組織なんですから」

 

 

「いや、一般人は置いとくとして、自衛官は別だろう」

 

 

「軍団長殿が言うと説得力も何も無いのですが」

 

 

「あ、あの、話が脱線しているので、復旧したいのですが」

 

筑波の言いように高塚がツッコミを入れ、それに神州丸がツッコミを入れ、市ヶ谷が修正を進言する。

 

 

 

「そうだな。不在の間は守山師団長と神州丸が代行で指揮を執ってくれ。但し、もし、2人では解決しきれないと思ったら、私か同行している2人のケータイに掛けてくれ。緊急事態なら、全てを無視して早急に帰還するよ」

 

 

「わかりました」

 

 

「軍団長殿の手間が掛からない様にするがな」

 

 

「では、全員解散」

 

そして、お開きとなった。

 

 

 

その頃 沖縄 那覇

 

 

 

「…彼がこちらに来るのかね?」

 

 

「はい。政府と陸幕が招集した様です」

 

上座の人物の単調な問いに下座の人物はハッキリと答えた。

そして、上座の人物の暫しの沈黙の後、こう言った。

 

 

「彼を『ここ』に来れる様にしてくれないかな?」

 

 

「わかりました。なんとかしてみましょう」

 

そう下座の人物は答えると踵を返した。

 

 

 

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22 沖縄

さて、沖縄ではなにがおきるやら。


翌日 沖縄 那覇 (臨時)防衛省兼統合幕僚庁舎

 

 

「はぁ〜…くそ、来る意味すら無かった」

 

一通りの用事を終えた高塚は出た瞬間にそう呟いた。

 

 

「どうでしたか、陸幕の方は?」

 

待っていた筑波が声を掛けた。

 

 

「『東京奪還』の念押しは予想出来てたが、スーツの防衛官僚まで出て来て何を言うかと思えば、揃いも揃って気持ち悪い笑顔で『戦勝パレードと戦勝セレモニーはいつしますか?』なんて議題に上げて来たんだぞ? 思わず、『ふざけんな! んな物は東京奪還してからやれや!!』って言って退出して来たよ。あっ、『そんな事より、補給はしっかりして下さいね!』と念押しはしてきた」

 

 

「……文官の防衛官僚は頭パッパラパーですか?」

 

 

「マシな奴はいるんだろう。まあ、俺みたいに嫌われて日陰者にされてるんだろうけどさ」

 

高塚の話に軽く頭痛でもおきたのか、頭を抑えながら筑波が呟くと、高塚は呆れ顔で言った。

 

 

「はあ…もう、とっとと帰りましょう。車はあきつ丸が取りに行ってます」

 

 

「賛成だ。ここに居るだけで、イライラとストレス度数だけが増える」

 

 

「失礼します。高塚陸将補ですね?」

 

帰る事に決まった時、明らかに何処かの省庁職員と思われるクールビズ格好の男性が声を掛けてきた。

 

 

「あぁ、と言っても今は少しイライラしているから、用事は手短に頼むよ」

 

腰に携帯している拳銃に手を伸ばそうとする筑波を手で制しながら、高塚が言った。

 

 

「では、手短に…もし、時間が有る様でしたら、『首里城』へ『散歩』でもよろしいのでは、とお勧めに参りました」

 

 

「『首里城』に? 残念ながら、海軍の…」

 

 

「あっ、高塚殿。那覇空港からの連絡で我々の乗ってきたC-130が機械トラブルで2時間程出発を遅らせる、と」

 

車で戻って来たあきつ丸からのタイミングが良すぎる報告に高塚は職員の方に顔を向ける。

 

 

「ちなみに、『散歩』にこの2人が同行しても大丈夫ですか?」

 

 

「えぇ、『散歩』なので。迷惑が無ければ、ですが」

 

 

「では、少し時間を潰しますか…あきつ丸、首里城だ。いいな?」

 

 

「え、あ、はい、であります」

 

こうして3人は首里城へ向かった。

 

 

 

暫くして 首里城

 

 

首里城。

世界遺産(なお、建物は復元な為、世界遺産では無い)である首里城は現在、陸自第15旅団や元第1師団一部部隊、空自により、周囲は短・近SAM発射機やVADSが設置されている。

しかし、首里城内並びに公園等には『色々な配慮』により設置されていない。

そして、現在の首里城は『仮皇居』になっている。

首里城に到着した高塚達はまるで誘導されるかの様に『職員達』の案内の下、とある一角へとやって来た。

そこに居たのは……

 

 

「…やはり、今上陛下であらせられましたか」

 

 

「この様な手の込んだ事をして申し訳ない」

 

相手の正体に驚かない高塚と謝罪する今上陛下。

前陛下は深海棲艦との和解を気に皇太子殿下へと皇位を譲り、今は皇太子…つまり、今上陛下が皇位に就いていた。

 

 

「え、あ、高塚司令は気付かれていたのですか!?」

 

 

「仮皇居の首里城の時点で察してたよ。まあ、わざわざ、陛下がこうしたのは政治的にごちゃごちゃするから…ですよね、陛下?」

 

 

「うむ…『政治的配慮』でな….少し歩こうか」

 

 

「そうですね。『散歩』ですから」

 

後ろに筑波とあきつ丸を従え、高塚は今上陛下と共に『散歩』に出る。

 

 

「第10師団管区奪還、御苦労様でした」

 

 

「奪還については、後ろにいる2人を含めた戦友達の協力あっての事です。また、労の言葉を受ける段階ではありません」

 

 

「…そうですね。貴方方は現実を見て戦っていますからね」

 

 

「皮肉にも…ですが」

 

苦笑いを浮かべながら高塚は言った。

 

 

「ちなみに、東京奪還の事ですが…」

 

 

「….もう、陛下の耳に入っていたのですか?」

 

「政府と防衛省官僚から説明がありましたので…それで高塚陸将補、東京奪還は可能なのですか? 前線指揮官としての見解は?」

 

どんな説明を受けたかはわからないが、明らかに『彼らの説明には疑問がある』と主張したげな今上陛下の目に高塚は正直に答えた。

 

 

「『机上の可能』と『現実での実行』には隔絶な差があります。今の我らの力は少なく小さい…その様な状況での東京奪還は玉砕か、成功しても長期保持は不可能でしょう」

 

『玉砕』の言葉に険しい表情になる今上陛下。

無論、それは『負の意味』で使われるからだが。

 

 

「故に我々は東京奪還を最後に回し、他府県の奪還を優先したいと考えています。ですので…上皇陛下夫妻の救出は当面、期待しないで頂きたく存じます」

 

そう……政府や陸自が無理に東京奪還を推し進める理由の1つが前代陛下である上皇陛下夫妻が東京の皇居に居る為だ。

そして、上皇陛下夫妻は自らの意志で脱出を拒み、皇居に残っていた。

 

 

「……父も高塚司令の判断に納得するでしょう…守るべきは、救うべきは…なんと言っても国民ですから……高塚司令、国民の事を頼みます」

 

そう言って今上陛下は高塚に頭を下げた。

 

 

 

 

暫くして 車中

 

 

 

「…なぜ、陛下はこの様な回りくどい事をなさったんでしょうか?」

 

那覇基地に向かう最中、助手席に座る筑波がふと疑問を口にした。

 

 

「『政治的配慮』ってヤツだ。なにせ、立憲君主制である日本では陛下が関われる国事行為が決められている。下手に自衛隊の作戦に口を出せば、それは越権行為化してしまうからな」

 

 

「故に陛下は『偶然の散歩』を装って高塚殿に接触した、と?」

 

あきつ丸の問いに高塚は頷いてから答えた。

 

 

「あぁ、最後に言った国民の云々だって、ギリギリの玉虫色の返答だ。幾ら非公式でも、下手に明確なYES・NOを言えば政治介入な上に、『陛下の威光を借りた〜』の新聞が大好きそうな批判ネタの出来上がりだからな」

 

 

「…はあー、深海棲艦戦と訳が違う、って事ですか」

 

 

「深海棲艦戦は海だったからな。今は地上で首都を落とされている上に上皇陛下夫妻の人質付きだ。まあ、だからと言って、無理な物は無理なんだから、今上陛下が理解してくれただけでも助かるよ」

 

筑波の言葉に高塚は言った。

 

 

「兎にも角にも、早く帰って、陸幕が変な気をおこさない内に行動有るのみ、でありますよ。高塚殿」

 

 

「あぁ、その意見には賛成だ」

 

あきつ丸の言葉に高塚は頷いた。

 

 

 

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23 時代の流れ

まあ、またまた陸自批判山盛りと言う何時ものパターン。


翌日 豊川駐屯地

 

 

 

「まったく、茶番劇にも等しい! 対馬海峡迎撃戦の犠牲は全て無駄だったと言う訳だな!」

 

ムスーとした顔と怒りの言葉を隠しもせずに表に出す高塚。

それを見た富山は筑波に訊いた。

 

 

(司令官、どうしたの?)

 

 

(10特のデモンストレーションを我々と一緒に観てたんですよ。まあ、私も計測係やってましたので…後は察して下さい)

 

 

(10特のデモンストレーション…あぁ、なるほどね)

 

先程までやっていた10特の砲班訓練を思い出した富山は全てに合点がいった。

 

 

(特科は司令官の原隊…古巣だからね)

 

 

(しかも、下っ端で入ったが故にその苦労やら何やらを知ってるって言うね…それをドヤ顔で見せる10特幕僚達にも切れてるんですよ)

 

 

(まあ、そっちの関連で大学出てるし、ある程度世界を知ってる高塚司令からすれば、やり方も古いまんまで、今までの戦訓を知れば改善しろよ、ってのをフル無視だとキレるよな)

 

 

「失礼します。豊川かるら一尉入ります」

 

そんな2人のヒソヒソ会話を遮るかの様に豊川駐屯地の駐屯地娘、豊川かるらが入って来た。

 

 

「うん、御苦労さま。豊川大尉、君は我々と共に12旅団管区解放作戦に参加してもらう。なお、第10特科連隊は第10師団主力と共に守備任務に就く為、部隊から離れて行動する事になる。質問は?」

 

先程迄の怒り具合を潜ませて、目の前の事に対処する高塚。

 

 

「……指揮官がボクしか連れて行かないのは特科隊の態勢が問題だからですか?」

 

 

「あぁ…今のままなら、戦場に連れて行ったところで死体と残骸の山を築くだけだ…残念ながらな」

 

無論、高塚としては砲兵・機甲戦力を神州丸や民兵隊にばかり頼りたくは無いが、現状に合わないままで出すほどバカではない。

そして、その理由を黙っておく事もしない。それで関係がゴタゴタするより、スッパリと嫌われた方がマシだ、と高塚は思っているからだ。

 

 

「じゃあ…ボクの意見、聞いてくれますか?」

 

 

「まあ、事によるが…聞くだけは聞こう」

 

ちなみに豊川大尉はボクッ娘であり、自衛隊での一人称は『私』であるが、高塚はそんなの関係ねえ人間である。あしからず。

 

 

 

 

しばらくして

 

 

 

「…二曹止まりも珍しいな」

 

豊川大尉の提案…その鍵を握る人物の経歴を見ながら高塚は呟いた。

 

 

「そう思いますか、高塚陸将補」

 

 

「経歴と昇進具合を見れば、二曹になってから突然その類が無くなればね」

 

件の人物、第10特科連隊本部管理中隊所属の松堂健朗二等陸曹に顔を向ける。

松堂二曹は正に『昭和の兵隊』と言うべき人間で、50代ながらガッシリとした体躯は砲兵として、また、銃剣道で鍛えられたが故…実際、武道競技会数度優勝の経歴有り…の結果である。

また、人事経歴も自衛隊入隊後は射撃(ナンバー)中隊配属後、中級陸曹教育課程を修了するまで成績上位であり、アメリカでの実射経験のある経験豊富な砲兵軍曹だ。

だが……その中級陸曹教育修了で二曹になってからはパッタリとその経験や優秀さが鳴りを潜め、地方協力本部や本部管理中隊を移動したりのパッとしない経歴になっている。

 

 

「よほどの事でもなければ、貴方は今頃一等軍曹か、曹長…准尉や尉官の道が開けている筈なんですがね」

 

実際、『深海棲艦事変』において、対馬迎撃戦で陸自史上の最大被害(無論、マグマ軍の一件で更新されたが)を出した事と艦娘出現・海自拡大により、陸自では幹部・陸曹・陸士問わず大量の退職・(海自への)転属者が発生した為、高塚の様に既存者、筑波の様な新規者の幹部候補生受け入れ枠の拡大が発生しており、松堂二曹は経歴的に見れば受け入れられてもおかしくない筈である。

だが、今ある人事経歴資料を見る限りはその様な痕跡は一切無いのだ。

 

 

「……正直な話をしますと、私も陸将補と一緒だからです」

 

 

「つまり、現行制度に不満がある、と」

 

 

「中級陸曹教育課程前のアメリカ実射で仲良くなったアメリカ兵に言われたんですよ。『自衛隊っていつまで擬装網を持ってくるんだ?』と」

 

その話だけで高塚は大半を察した。

そして、それは高塚が察した通りだった。

中級陸曹教育課程を終え、部隊に戻って来た松堂二曹は教育中の空き時間を見つけて調べた・アメリカ・ヨーロッパ式を試そうと部隊に上申したが、却下された。

それでも諦めず、後輩や砲班に掛け合い、試してみたのだが、これが上に見つかり『砲班を殺す気か!』と叱責され、覚え悪くなってしまったのだ。

 

 

「……擬装網だけで隠れれる時代は終わったのにな」

 

 

「それどころか、火砲への擬装なんて意味の無い時代になりましたからね」

 

そう、偵察・光学機材等の技術発展により、目視以外での対象物の発見手段が多様化する中、それに逆行していたのが皮肉にも陸自なのだ。

そもそも、冷戦期でさえ、『アメリカの軍事偵察衛星は地上のブーツのサイズがわかる』なんて言われており、それが今や『手に持つタバコのラベル』すら見分けられるぐらいまで進化している。

これに赤外線暗視装置等々も加われば後は人の技量の話になる…アメリカやロシアがそんな低い訳が無いが。

また、赤外線暗視装置に関して笑えない話は『自衛隊の保有物はアメリカの二、三世代前の物』だったりするならまだしも、『対赤外線処置をした戦闘服をアイロンして劣化させる』事だったりする。

理由は簡単、『服の乱れは心の乱れ!!』と言うのだろう……但し、その案件はそんな技術も処置も無い第二次大戦期までの話で、その事を理解出来る様に話せばあのパットン大将ならアイロンをさせようとする軍曹をグーパンか平手打ちしそうだが…残念ながら、陸自にそんなトリッキーな人間はいない。

 

 

「さて、話を戻すとして…松堂二曹を中心として第10特科連隊から人員を抽出して、臨時の特科隊を作る話を豊川大尉から提案されたのだが…出来るかね?」

 

 

「連隊ですから、少しづつ人間を抽出すれば問題はありません」

 

 

「ふむ…火砲はどうする?」

 

 

「一番の悩みどころがそれです。FH70では今までと一緒ですし」

 

 

 

「だな…まあ、それはこちらで何とかしよう。松堂二曹は豊川大尉と共に編成を組んでくれ。手続きはこちらの仕事だ」

 

 

 

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24 人事

……まあ、合致してる筈。


登場人物 17


豊川かるら 陸自幹部 一尉

第10師団所属の豊川駐屯地の駐屯地娘。
豊川駐屯地には第10特科連隊・同野戦高射特科隊が駐屯している。
なお、ボクッ娘であり、走るのが好き。


松堂健朗 陸自陸曹 二曹(二等陸曹)

第10特科連隊本部管理中隊所属のベテラン陸曹。
砲手として入隊して以降、砲兵として携わり、照準手・砲班長・観測手・戦砲隊陸曹と陸自特科の発射プロセスを現場一線で歩んだが故に知識と経験を持つ。
アメリカでの実射で仲良くなった米兵からの指摘で二曹昇進後に改変を上申・実験するも、頭の固い連中には通じず、地方本部や本部管理中隊へ異動させられていた。



2日後 豊川駐屯地

 

 

 

「はあ……人数も人材も足りねーよ」

 

豊川大尉・松堂二曹を中心とした『抽出特科隊(仮)』の人事異動を含めた申請書に判子を押しながら高塚は呟いた。

 

 

「それは司令部スタッフ? それとも現場?」

 

 

「現場だよ。更に言うなら、その現場を支えてくれる事務官系統も足りん。くそ! 最低30万は必要だと言ってたのに、長年無視してた結果がこれだよ!」

 

鯖江の意地悪な質問に高塚は憤慨を隠さずに表に出す。

無論、陸自を含めた防衛省だって色々事情はあるだろう…だが、冷戦終結以降から深海棲艦事変終結までの事は責任があるどころか、財務省を含めたあちこちの言い分にイエスマンの如く従った結果がこれなのだから、高塚は聞く気もない。

 

 

「予備兵力なんて更にアテになりませんからね。質云々以前に量が絶望的ですし」

 

 

「常備戦力と同等…まあ、最低でも半分ならまだマシも、10分の1でありますからな」

 

 

「はぁ……母数違い過ぎて、対応し難いし」

 

筑波とあきつ丸の言葉に高塚は溜め息を吐きながら愚痴る。

予備兵力チートなロシア軍でさえ苦戦する相手に少数で時代遅れ確定な陸自が苦戦しない筈は無い。

 

 

「失礼します…あっ、司令、お取り込み中でしたか?」

 

 

「いや、愚痴しか言ってないから、大丈夫。それで、要件は?」

 

 

「はい、司令部スタッフの増員要員が参りました」

 

 

「申請した覚えがまったく無いんだが…あぁ、陸幕のチョッカイかな? ウチに必要なのは前線要員、最低限に前線指揮官なんだがな」

 

 

「元上官が聞いたら少し悲しくなるんだけども…まあ、年齢も実力も今や階級すらも上ですからね。高塚陸士長…いえ、先輩」

 

そう言って市ヶ谷の後ろから入って来た幹部に高塚は立ち上がる。

 

 

「桃屋三尉…あ、いや、いま、尉官でしたっけ?」

 

 

「残念ながら、色んな絡みで三佐になってしまいましたよ…まあ、また、『逃れて』しまいましたがね」

 

 

「まあ、それは仕方ないかと…あっ、紹介するよ。桃屋博士(はくし)三等…面倒だ、少佐。俺の原隊に所属してて、なおかつ、俺の大学の間接的後輩だよ」

 

 

「桃屋です。幹部候補生教育後に高塚先輩所属の特科中隊に配属されていたんで、色んな意味で後輩になってしまいました」

 

高塚による桃屋三佐の紹介に筑波がポンッと手を叩いた。

 

 

「あー、確か幹部候補生時代に聞きましたが、『母親の盛大な勘違いで行方不明にされた候補生』の苗字が桃屋…」

 

 

「…うん、そうなんだよ…だから、あの時、俺は部屋に居たって…」

 

 

「落ち着いて、落ち着いて…で、桃屋少佐がスタッフ要員と言う事で配属された、と?」

 

 

「えぇ…ただ、私1人ではないのですが…」

 

 

「1人ではない?」

 

 

「幹補課程修了の曹長、それに即応前の准尉の2人を連れてきました。私や皆んな同様に原隊にも配属先にも行けない人間は沖縄でゴマンと居ますが、大半が配属転換を中々受け入れない様子で…そんな中で配属転換を受け入れた中でも優秀そうな課程修了者をチョイスしました。准尉は付近の即応のリストを探って打診してみました。まあ、本人達は直ぐに了承したんですがね」

 

 

「で、その曹長…いや、士官候補生と准尉は?」

 

 

「部屋の外に…呼んでも大丈夫ですか?」

 

 

「あぁ、早く面割りしたいからな」

 

 

 

暫くして

 

 

 

「細川優希幹部…いえ、士官候補生です。高塚少将」

 

 

「大桐次郎准尉です。即応前の老兵ですが、よろしくお願いします」

 

外見から言って親子程の歳の違いがある2人。

 

 

「細川候補生は…総合成績4位か。こんな左遷か地獄の1丁目によく志願したな」

 

人事書類を一読しながら高塚が言った。

 

 

「成績4位でも、つまらない部署にいるよりは、自分のやりたい事が出来る所に居たい人間なので」

 

 

「野心家の様な発言だな。猫でも被っていたか?」

 

 

「候補生時代は猫被りな毎日ですよ。まあ、その野心がある理由の一端に高塚少将もあるのですがね」

 

 

「やれやれ…士官なんだから、その言動に責任を持つ立場である事は重々承知する様に」

 

 

「わかっております」

 

さて、これが猫被りなのかどうなのかはわからないが、高塚は大桐准尉に話を回す。

 

 

「大桐准尉は……部隊付きに入るには少し早くないですかな?」

 

基本的に自衛隊において陸曹からは定年退官であり、退役年齢が決まっており、退役日はその人物の誕生日になっている。(例外は多少ある)

そして、各部隊先任上級曹長(曹長・准尉)定年退官者は退官2〜3ヶ月前から部隊付きとなる事が定例なのである。

だがだ…人事書類を見る限り、部隊付きへの異動が若干早い。

 

 

「…耳汚しになりますが、よろしいですか?」

 

 

「人間生きていればそんな事は一度、二度ぐらいは自ら経験するから大丈夫です」

 

そもそも、耳汚し話なら高塚の方が知っている。(笑)

 

 

「派閥争いです。それで着任したての若い部隊長が心理的にまいりまして…それを止めるべく一喝したところ、上級からの圧力で少し早い隊付きになりました」

 

 

「……なるほど」

 

なんとも言えぬ話に高塚も内心ため息を吐きながら頷く。

 

 

「まあ、ここには派閥だ、恩恵だ、と騒ぐ輩はいないので、内部統制…下士官兵の統率をお願いします」

 

 

 

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25 戦力

大量編入になりました。


登場人物 18


桃屋博士 陸自幹部 3佐(少佐)

元特科隊幹部で、佐官幹部課程を修了した幹部。
幹部候補生課程修了後に高塚の原隊である特科隊に配属された為、高塚とは知己。(この時はまだ上司)
しかし、対馬海峡迎撃戦やマグマ軍侵攻時は(皮肉にも)タイミングよく教育入校中であった為、実戦は経験していない。
なお、高塚・滝崎とは直接では無いが大学の後輩。
幹部候補生教育時代に実家に帰った際、母親の勘違いで『行方不明』になっている。


細川優希 陸自幹部 幹部候補生(曹長)

幹部候補生教育を修了した幹部候補生。
配属先は決まっていたものの、マグマ軍侵攻で異動不可能になり、奪還部隊への異動が決まった桃屋が声を掛けた為に直ぐに志願した。
教育時代は猫を被っており、実は結構な野心家。
(と言ってもその野心とは出世と自衛隊の実力強化なのだが)
結構優秀。


大桐次郎 陸自準幹部 准尉

定年前のベテラン准尉。
原隊の派閥争いの激化を一喝して止めたところ、それを逆恨みされたらしく、少し早く隊付きに入れられた。
普段は優しく、怒ると怖い、仕事の出来る人間。


豊川駐屯地

 

 

「…まあ、仕方ないよね」

 

書類一枚をペラペラと揺らしながら高塚が呟く。

本来なら一日も早く鯖江に帰り、北陸からの攻勢を掛けたいのだが、人事書類やら補給やら何やらの調整が入り動けない。

(と言っても、既に手空きな選抜メンバーが鯖江に帰り、準備していたりする)

だが、それは別に鯖江駐屯地でも出来る事なのでもあるが…では、何故に奪還司令部が動けないかと言うと…高塚が持つ書類と部屋の現状が原因だった。

 

 

「まさか、兵站末端ではなく、兵站発進点でダブついていたのは私も予想外でした」

 

 

「まあ、機転を利かしてくれてありがとうございます」

 

高塚と桃屋がそんな会話を交わし、前記の事の理由……それはいま、この部屋には沖縄からやって来た、『本来ならもっと早く来ていた』武器娘達がいるからだ。

 

 

「あのまま沖縄でバカンスかと思いましたわ」

 

旧陸自作業服&戦車兵服装のM4A3E8(シャーマン・イージーエイト)中戦車が言った。

 

 

「私はもう嫌よ! 沖縄の道路は走り飽きました!!」

 

機動戦闘車が出るまで唯一の装甲装輪偵察車両だった89式偵察警戒車が不満を爆発させる。

 

「え、えっと、旧式の二世代戦車は要らないかと思ってました」

 

気弱そうに眼鏡っ子の61式が控え目に言った。

 

 

「空砲しか撃った事のない旧式榴弾砲なので…」

 

こちらもこちらで控え目な105㎜榴弾砲。

 

 

「前線に出す前に放置プレイ…うふふ…」

 

ドM丸出しな74HSP。

 

 

「やっとばら撒けるよ!」

 

前線に出れるとわかって元気な75MSSR。

 

 

「高性能な私を前線に出さないなんて、あり得ないわね」

 

自信満々な87式自走高射機関砲。

この7名が集ったのは無論、マグマ軍と戦う為である…しかし、一度に7名が送られた理由はなんと、『兵站管理の不手際』だった。

桃屋が豊川へ向かう際、沖縄からは佐世保経由の海路、もしくは空路なのだが、その次便を確認しようとした時、彼女達に出会った。

そして、事情を聞いた桃屋は呆れ果てるしか無かった…彼女達の奪還司令部への配属は『次々に新たに発注される補給物資等の輸送手続きによる兵站管理麻痺により宙に浮いていた』のである。

これに桃屋自身が足を運んで確認した時の担当の回答は『兵器枠なんでスペースがありません』…今まで武器娘に直接的接触が無かった桃屋も『彼女達は艦娘と一緒だ。人員枠で輸送機に載せろ』と『笑顔でお話』を行い、ここまで来たのである。

 

 

「佐世保に居たら、滝崎が上手い事回したんだろうけど…いや、みんな、ホントに済まなかった」

 

 

「まあ、そんな事は慣れっこですわ…それより、私や61さんはどうするの?」

 

高塚の謝罪にイージーエイトはそう反応してみせた。

 

 

「それについては我が水陸研技術部のお仕事だが…うん、入ってくれ」

 

ノックの音に入室を促す高塚。

そして、入って来たのは明石だった。

 

 

「プランが出来たみたいだね、明石」

 

 

「はい、勿論! 憲兵殿が絶対に満足できますよ!」

 

 

「そうか…では、当事者も居る事だし、軽くプレゼンをしてくれるかな?」

 

 

「ではでは、ホントに軽く説明しますと、戦車の御二人はM51スーパーシャーマンとM48A5です!」

 

 

「つまり、105㎜砲を積んで火力アップか」

 

解り易過ぎて苦笑いを浮かべる高塚。

 

 

「残念ながら、こうでもしないと攻撃力に欠けますからね…89式偵察警戒車さんに関しましてはぶっちゃけ機材が情けないんで、さっそく工廠にブチ込みます!」

 

 

「はあ!? ちょ、ちょっと、どう言う…は、離せー! 司令官! 司令かーん……」

 

何故か天龍と龍田に両脇を挟まれ、そのままどこぞに連行されて行った89式偵察警戒車。

 

 

「あ、アンビリーバボ…」

 

 

「……私達もあああなるの?」

 

 

連行模様を見て、61がそう呟き、イージーエイトは心配そうに明石を見て訊いた。

 

 

「大丈夫ですよ〜。まあ、89さんは早急に改装が必要なんで、ああなりました。では、続けて砲兵隊の皆様ですが…」

 

この言葉に105㎜榴弾砲と75MSSRがビクリと反応する…なお、74HSPは恍惚な表情である。

 

 

「105㎜榴弾砲と74HSPさんは砲身延長と砲弾の改良、75MSSRさんはロケット弾と装填機構の改良です。詳しくは後程に…87式自走高射機関砲に関しては現状問題はないので大丈夫です」

 

 

「だよね」

 

なにせ、この中では(生産数少量とは言え)現役&バリバリ使えるのが87式自走高射機関砲なのである。

 

 

「さすが、ガンタンク…いや、スカイシューターの名がいいかな?」

 

 

「…某ロボットの名前はやめて下さい」

 

 

「そうか…まあ、実際言われてるんだが…とりあえず、全員解散。明石、後は頼む」

 

「了解です」

 

 

 

暫くして

 

 

 

「はぁぁぁぁ……」

 

イージーエイト達が出て行った後、高塚は盛大な溜め息を吐いて机に突っ伏した。

 

 

「大丈夫…な訳ないですよね」

 

 

「当たり前だ。『奪還部隊の動きが速過ぎて、到着地を設定出来なかった』って理由なんか聞く気にもなれんよ」

 

筑波の問いに首だけ上げて高塚が答える。

担当者と『お話』して桃屋が聞き出した『もう一つの理由』に高塚は心底呆れていた。

 

 

「それは置いといて、改装したとして、このまま、イージーエイトや61を前面に出しての攻勢は…」

 

 

「無理だ。良くて2.5世代だぞ? 中東戦争時代なら通用するが、敵さんのT-72の前に出したら、間違い無く、装甲がボール紙だ。こちらも第3世代クラス以上を持ってこないと難しい」

 

桃屋の問いに市ヶ谷が持って来た麦茶に口をつけながら高塚は言った。

 

 

「そう言ってポンポンと出てくる物でも…誰か!?」

 

市ヶ谷が扉に向かって誰何する。

すると、明野が入ってきた。

 

 

「明野さん、立ち聴きはやめて下さい」

 

 

「別にいいよ、市ヶ谷さん。どうせ、聞かれてもいい話だし」

 

 

「その事で提案があります!」

 

ズイっと前に出てきた明野に高塚は苦笑いを浮かべながら言った。

 

 

「まあ、聞くだけ聞こうか」

 

 

 

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26 74vsT-72 前編

まあ、マルタでも似た事をやったんで…。

登場人物 19


M4A3E8 陸自武器娘

M4シャーマン・シリーズの1人で警察予備隊・保安隊時代の主力戦車。
本来なら、追加戦力として初期に送られる筈だったが、高塚達の攻勢が前倒しになった為、桃屋と会うまで沖縄で待ち惚けされていた。
アメリカお姉さんだが、流石に76ミリでは火力が足りない為、改装される。


87式偵察警戒車 陸自武器娘

日本初の装輪偵察車。
高度経済成長期の日本の舗装道路網が完成した事もあり開発された偵察車。
本来なら追加戦力として、初期に送られる筈だったが、(以下略)。
16式機動戦闘車が出るまでは唯一の装輪偵察・戦闘車両だが、その機材には多大な不備も存在しており、さっそく改装される事になる。


61式戦車 陸自武器娘

戦後初の国産開発戦車。
多数の旧軍関係者がアメリカ戦車等を参考に開発した陸自第1世代戦車。
しかし、開発完了時には既に105ミリが主流であり、改修出来ずに2000年代まで現役であった。
それを意識してか、必死に現代風な言い回しを覚えているが、それも古いと言うオチ。
本来なら、(以下略)。
同様に改修される。


105㎜榴弾砲 陸自武器娘

元アメリカ製火砲でFH70導入まで現役だった榴弾砲。
現代でも特科隊が音楽演奏の『楽器』として使用している。
本来(以下略)。
こちらも改修予定。


74HSP 陸自武器娘

正式名称74式105㎜自走榴弾砲。先の105㎜榴弾砲の後継(の予定だった)。
本来ならば近接火力支援を担当し、遠距離火力支援を75式155㎜自走榴弾砲が担当の二段構えの筈が105㎜榴弾砲の必要性が薄れた為に少数生産で終わった。
本来ならば、岐阜分屯地奪還により派遣される筈が(以下略)。
ドMだからではないが、改修予定。


75MSSR 陸自武器娘

日本国産の多連装ロケット砲。
色々と言われがち(トラック車載型にしろ・そもそも開発が無駄)だが、陸自特科での多連装ロケット砲運用を確立した協力者。
本来ならば、岐阜分屯地(以下略)。
こちらも改修予定。


87式自走高射機関砲 陸自武器娘

日本版ゲパルトで有名な対空戦車。
74式戦車の車体を延長、エンジンを高性能品に変え、レーダーを積んだ事から、値段高騰化し、少数生産に終わる。
本来ならば(以下略)。
あだ名はスカイシューター、ガンタンク。
今のところ、改修予定無し。


豊川駐屯地

 

 

「やれやれ、まさか、74を引っ張ってくるとは思わなかった」

 

明野の『提案』を素直に聞いた結果、目の前には陸自第二世代…世界的に第3世代戦車の74式戦車が居た。

そして、市ヶ谷に説明を任せ、高塚はそんな事を呟いた。

その結果……

 

 

「嫌よ」

 

全面拒否された。

 

 

「何故ですか!?」

 

 

「まあ、当然よね〜」

 

叫ぶ市ヶ谷と緩〜く理解する高塚。

 

 

「まあ、74なんて採用から40年は経過してるからね」

 

 

「そう! それよ!」

 

続けて放った高塚の言葉に74が反応した。

 

 

「改良型も少数な上に勤続年数飛び越えなのよ! その上に上層部の態度! こっちだって不満満載よ!!」

 

なお、74を含めた武器娘は開発から5年も経っていなかったりするが…本物の74式戦車自体は全く間違っていない。

 

 

「しかしだ…今はマグマ軍とドンパチ中だ。国家緊急事態時が故にその文句は一時的に抑えてはもらえないか?」

 

 

「嫌ったら、嫌。それとも、指揮官、貴方が保障してくれるの?」

 

 

「やれやれ、陸幕や防衛省どころか、財務からも嫌われてるからね…保障しようにも、難しいね」

 

 

「ふん、なら、お話以前よ」

 

 

「まあ、確かに…今の年金生活者の様にのんびりと駐屯地や演習場で置物状態の極楽生活は無理だからね」

 

 

「……何ですって?」

 

高塚の言葉にギロリと睨む74。

しかし、高塚は気にしなかった。

 

 

「確かに射撃試験や何やらで動かしてもらえるが、そもそもガタのきた旧型だ。新型に比べれば衰えも早く出てくるだろうな…まあ、そんなボロだと、実力も知れて…」

 

 

「ふざけるじゃないわよ! このボケナス!!」

 

頭に血が上った74の拳が高塚の顔面に向かう。

これに市ヶ谷が慌てて止めようとするのを隣に居た筑波は何時もの表情のまま、手で制する。

そして、74の拳は高塚の顔面に炸裂した…筈だった。

 

 

「…な、なんで!?」

 

 

「ふん、これが74式戦車の実力だと? マルタだと、新人の駆逐艦にすら劣るな」

 

そこには深海棲艦の能力を出して右手で74の殴打の拳を掴む高塚がいた。

 

 

「これが陸自第二世代…世界第三世代戦車の力と? こんなので最大とは拍子抜けだな」

 

 

「なんですって!?

 

 

「ほぼ同じ第三世代のT-72戦車の足元にも及ばん…と言いたいんだが?」

 

 

「あんなイランでビックリ箱になった鉄屑と一緒にしないで!」

 

次の瞬間、扉が乱暴に開き、入って来た『人間』は一直線に74へと向かい。

 

パコーン!!

 

74の頬に右ストレートを決めた。

 

 

「貴様! 実戦経験の無い素人が侮辱するな!! このお座り戦車!!」

 

そして、殴った本人のT-72は普段のクールな表情を捨て、額に青筋を立てて激怒していた。

 

 

「なによ! 105ミリに抜かれた主力戦車!!」

 

 

「シベリアで埋めてやろうかしら!!」

 

 

「湾岸の再現をするだけよ!!」

 

言い争いになった状態ではあるが、高塚は「やれやれ」と言いたげながらも放置している。

 

 

「…『何がおきても、何もするな』と言われていましたが、こうなる様にしていたんですか?」

 

 

「概ね計画通りだ…さっそく、ぶん殴ったのは計算外だが」

 

 

「司令も筑波副官も、だから止めなかったんですか!?」

 

2人の会話に市ヶ谷が訊いた。

 

 

「おやおや、同志とここまで居れば、そろそろ感づける様にもなるが…大尉はまだまだの様だな。

 

横の喧騒を放置し、山本大佐がやってきた。

 

 

「すみません、同志。事前よりも激化したみたいです」

 

 

「なに、別に構わんよ。これでもう少しは『世界』と言う物を知るだろう…陸自の方だがね」

 

 

「では…場所を移しますかね?」

 

 

「うむ、そうだな」

 

ニヤニヤと笑う高塚と山本大佐に市ヶ谷も漸くこの『喧嘩』が序章に過ぎない事を悟った。

 

 

 

暫くして 演習場

 

 

「…もしかして、74が来る事がわかっていたんですか?」

 

 

「いや…ただ、先に本物…と言ってはおかしいが、武器娘では無い74とT-72が来る事は想定していた。まあ、演習場はさっきとってもらったんだけど」

 

高塚達+手空きな人間が集まり、ちょっとしたイベントの様な状況になりつつある中、高塚と桃屋がそんな会話を交わしていた。

 

 

「で、先輩の予測は?」

 

 

「十中八九、74の負けだ」

 

夕張がドローンを飛ばし、青葉がノートパソコンを弄りつつ、ドローンからの撮影具合を調整するのを珍しそうに集まって眺める手空き組に苦笑いを浮かべながら高塚が言った。

 

 

「あはは…戦車の人間や幹部が聞いたら青筋モノですよ?」

 

 

「だが、現実は非情だ。少しくらい、目を醒ます様な事をしても、バチは当たるまい…始まるぞ」

 

高塚の静かな呟きと共に74とT-72の『模擬戦』が開始された。

 

 

 

74サイド

 

 

「あの生意気指揮官、後で吠え面見せつけて、トラウマにしてやるわ」

 

模擬戦開始からT-72を擬装して待ち伏せする74は静かに呟く。

そして、じっくりと近付いて来るT-72に照準を合わせる。

 

 

(焦ってはダメ…もう少し……もうちょっと……正面を向けてるから、もうちょっと近付けて……いま!!)

 

正に有効射程距離での発砲にら74は『撃破』の感触があった。

しかし……次の瞬間、彼女の砲弾は跳ね返された。

 

 

 

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27 74vsT-72 後編

まあ、こうなった。

74の紹介は次号で。


演習場

 

T-72サイド

 

 

まったくもって不愉快だ…そうT-72は思っていた。

最低限、同志(山本大佐)の戦友である指揮官(高塚)は旧ソ連兵器にも理解がある為か、信を置いてくれている。

しかし……一度も実戦を経験していない、自称『第三世代戦車』の言葉を許すつもりはまったく無い。

 

 

「よいか、同志ウラル。同志高塚はコテンパンにしていい、と許可は貰っている。存分にやりたまえ」

 

ニヤニヤと笑いながらそう言った同志ゲオルギー(山本大佐)に実は高塚司令と2人で工作したな、と察したものの、別にどうでもよかった。

一部の人間以外わかっていない、偉大なる祖国が生んだ私の劣化版についてしか知らない者に教育は必要だ。

模擬戦開始の合図と共に日本の、特に74式戦車からの得意技で走行装置の変換機能を活かした待ち伏せを警戒しながら慎重に進む。

いた! 向こうは105ミリライフル砲であるから、有効射程の更に踏み込むまで待つつもりらしい。

残念だが元自衛官の同志に散々聞いた為に全ては予測されてるとは考えていないらしい。

遂に発砲したライフル砲弾を前面の複合装甲が弾く。当然だ、幾ら砲弾を改良しているからといって、戦車は自身の砲弾を防ぐのが主力戦車の意義だ。

 

 

「引っかかったわね! アゴーイ!!」

 

125ミリ滑空砲を素早く指向し、撃ち放った。

 

 

 

 

74サイド

 

 

「なっ! 嘘!?」

 

撃破距離で発射した105ミリライフル砲弾は見事に弾かれる。

理論上であれば貫通撃破…悪くても損傷していてもおかしくない筈だった。

 

 

「くっ! バック!」

 

向こうが主砲を指向するのを見てフルスピードでバックする。

たかが知れているとは言え、125㎜なんてモノを向けられ、更に当てられてはこちらもタダで済む訳が無い。

発砲と共に走行装置の負担を無視し、思いっきり曲がる。

すると、砲弾は掠める様に飛ぶと後ろで着弾する。

 

 

「いきがるんじゃあないわよ!!」

 

お返しに再びもう一発撃ち込む。

今度は砲塔に命中…する前に砲塔に設置された箱が爆発しただけだった。

 

 

「爆発反応装甲…ちっ!」

 

思いっきり舌打ちし、態勢を立て直す為に全速で下がる。

こちらは牽制、向こうは当てる気で撃ち合ったが、どちらも有効打出なかった。

 

 

 

見学者サイド

 

 

「ロシアご自慢の爆発反応装甲ですか」

 

 

「おいおい、イスラエルもしているよ」

 

 

「先鞭をつけたのはロシアですから」

 

青葉が操作するドローンから送られてくる映像を見ながら桃屋と高塚が話していた。

 

 

「にしても、T-72の発射速度遅くないですか?」

 

ジーと見ていた筑波が質問してきた。

 

 

「ロシア戦車は125㎜砲弾を分離装薬式で発射しているから、装填が遅いんだ。無論、自動装填だが、弾数が少なく、下手にバカスカ撃つとあっという間になくなる。故にウラルも慎重に撃っているんだろう」

 

 

「…さすが、ロシアの数的主力ですね」

 

 

「実戦経験は折り紙付きだ。腑抜けの陸自と比べるのも烏滸がましい」

 

 

「ホントだったら、G型を量産するか、既存車をG型に改装するべきでしたがね」

 

 

「まあ、改修点は数多あげられていたが、予算がな…まあ、自衛隊の場合、いちいち装着装備を外さないといけないのも問題なんだがな」

 

桃屋の言葉に高塚は溜め息を吐きながら言った。

 

 

「さてと…こうなると、どうなるかは…2人次第だな」

 

 

 

 

45分後 74サイド

 

 

「ハア…ハア…くそ!!」

 

念のために持って来ていたミネラルウォーターをガブガブと飲んでから吐き棄てる。

あの後、74は考えれる限りの手段を用いてT-72を襲撃したが、結果は空振りに終わった。

こちらの射撃は当たるが撃破出来ない。対して、T-72は此方が避けるから命中しない…と言う膠着状態だった。

だが、故に74は焦っていた。

 

 

「不味いわね。動き過ぎて燃料は怪しいし、弾薬も結構浪費した…なら、最後の手段ね」

 

 

 

暫くして……

 

 

「……何も知らないで来てるわね」

 

稜線越しに走行装置を変化させ稜線射撃の態勢で待ち構える74。

僅かに見えるT-72が何も知らずに…とは言え、周囲は警戒している…近づく。

 

 

(得意の稜線射撃で一発撃って足を止める。その後は接近して側面が後方に撃ち込むしか無いわね)

 

流石に真正面から近付くのはマズイのでこの方針でいく。

だが…T-72は行き足を止めると発砲した。

 

 

「はぁ? 車体隠蔽していて当たる訳…!?」

 

砲塔が少し見えるだけの状況での発砲に訝しんだ74はその砲弾が『ミサイル』だと気付いた瞬間、思考停止した。

その一瞬の思考停止がまずかった。慌てて煙幕弾発射器から煙幕弾を撃とうとした時、既に先に使い切っていた事を思い出す。

 

 

「しまっ…ミサイルって…ミサイルって!!」

 

そう叫びながら走行装置を通常走行態勢に移行させ、T-72に迫る…が、最初の思考停止と煙幕弾の一件でのタイムロスは大きかった。

砲弾より遅いとは言え、下手な自動車よりは早い対戦車ミサイルは漸く加速した74の砲塔に命中、なんの対戦車ミサイル対策もされてない74の砲塔はノイマン効果を直に浴び、残弾の砲弾に引火した。

 

 

『状況終了! T-72の勝利です!!』

 

青葉の放送に民兵隊からは賞賛が、大半の自衛隊員からは驚きと落胆の声が流れた。

 

 

 

 

「……大丈夫か?」

 

民兵隊と共に悠々と去って行くT-72を尻目に高塚はそう言って大破して寝転がる74に声を掛けた。

 

 

「…これで大丈夫な、訳ないでしょう」

 

 

「そうだな…で、どうだ、ガチの第3世代戦車との対決は?」

 

 

「…主砲発射式ミサイルなんて卑怯」

 

無事な左腕で両目もとを隠している74が静かに言った。

 

 

「これでわかっただろう? イラクの一件はモンキーモデルだったって」

 

 

「…えぇ、わかったわよ」

 

認めたくないが、認めるしかない、と言いたげに74が言った。

 

 

「それとだな」

 

 

「なによ」

 

まだあるの、と未だにトゲトゲしい74の言葉に内心溜め息を吐きながら言った。

 

 

「泣きたいなら、遠慮せずに、声を出して泣けばいい。その悔しさを我慢する必要は無い。問題はその悔しさをバネに出来るかだが…今はそんな時じゃない。泣いても、誰も問題にしない」

 

 

「…うるさいわよ」

 

「はいはい」

 

その返事に高塚はT-72達の方へと足を向ける。

そして、10歩ほど進んだところで、74は声を挙げて泣き始めた。

そこから更にだいぶ歩いたところで回収部隊とすれ違った。

 

 

 

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28 支援物品

予定では平凡な回になる筈だった。
しかし、書いてついつい思い付いてしまったのだ!


登場人物 20

74式戦車 陸自武器娘

日本が61式戦車の後継として開発した第二世代(世界的第三世代)戦車。
105ミリライフル砲と避弾経始を意識したデザイン、油気圧サスペンションによる姿勢制御システム等々を採用した、本州に一番多くいる陸自戦車。
本来なら、10式戦車、16式機動戦闘車の配備により順次退役する筈がマグマ軍侵攻により延期された。
実はG型等々の改修・改良型はあるのだが、日本の悪癖である少ない予算・プレミアム高価で没シュートされている上に、陸自上層部の無頓着等々で追加防御等がなされていない為に同基準戦車に比べ弱体化している。
本人はプライドが高いのだが、前回の一件で落ち込み気味。


3日後 鯖江駐屯地

 

 

「…なんだ、なんだ? いつの間に鯖江駐屯地は兵器の集積場所になったんた?」

 

74とT-72の対決(&民兵隊の祝勝宴会)とその後処理を終え、漸く久々に鯖江駐屯地に戻って来た高塚はその現状に思わず口に出した。

佐世保から来た73式APCは置いておくとして、ロシアのティーゲル軽装甲機動車、BTR-80装輪輸送装甲車、アメリカのL-ATV、M113(少数派)、M119軽榴弾砲がズラリと並んでいるのである。

 

 

「腐っても大国…と言う事でしょうか?」

 

 

「まあ、それもあるんだろうがな…だが、輸送車系統は数があって困る事は無いし、L-ATVなら即席爆弾への対防性もあるからな」

 

筑波の言葉に高塚は答える。

 

 

「高塚司令、漸く来られたのですね」

 

 

「お、不知火に鯖江。すまないな、長い事、こっちを任せて」

 

高塚を見つけた不知火と鯖江が近付いて来た。

 

 

「別に。それより、司令が聞きたいのはこの現状じゃない?」

 

 

「うん、そうなんだよ。で、どうなってるいるんだ?」

 

 

「先日、沖縄からロシアとアメリカの駐在武官が来て、リストと一緒に置いていった」

 

 

「アメリカの駐在武官が以前、水陸研に来られた日系士官だったので、私が対応しました。まあ、お互いに高塚司令の事は察してたみたいですが」

 

 

「そうか…にしても、やっぱ多いな」

 

鯖江と不知火に事情を聞き、鯖江からリストを受け取り、一度見てから高塚は呟いた。

 

 

「あっ、これ、『先遣の第一陣』だそうです」

 

 

「……はあ!?」

 

不知火の言葉に思わず叫び、ズラズラと品目が並ぶリストをもう一回見てから訊いた。

 

 

「え、これぐらいのヤツがまだ来んの?」

 

 

「先陣だけで後、3回は来るって」

 

 

「ガチかよ…」

 

 

「さすが、超大国様々で」

 

絶句する高塚、苦笑いを浮かべる筑波。

 

 

「はあ…とりあえず、R30を含めた特科隊組は桃屋と一緒に抽出特科隊と合流。戦車と87とスカイシューターは神州丸と合流…俺はこの兵器群を捌くか」

 

怠そうに高塚は言った。

 

 

 

暫くして 司令部(inテント)

 

 

「…ふーん、アメリカさんはスーパーコブラを4機、ロシアは…Mi17輸送ヘリか。こっちでもマルタから続いてお世話になるのか」

 

富山空港に待機されている米露のヘリ(支援品)リストに高塚は苦笑いを浮かべる。

 

 

「とりあえず、明野に預けるかな……ん、ちょっと待てよ……うん、ちょっと遊んでみるか」

 

そう呟くと懐からケータイを取り出し、あちこちに電話を掛ける。

そして、30分ほどして、再び懐にケータイをなおした。

 

 

「よし、今からなら、間に合うだろう。さて、仕事、仕事」

 

そう言って高塚は再び仕事を手を付け始めた。

 

 

 

 

その頃

 

 

「ロシア軍兵器は大雑把と思っておりましたが…いやいや、74との演習同様、認識を改めざるおえませんな」

 

さて、こちらは筑波以下司令部要員ズ(市ヶ谷・桃屋を抜く)がBTR-80を前に集まっていた。

そして、大桐准尉は砲塔を旋回させたりしながら言った。

 

 

「そもそも、ソ連ですら60から70年代には一線級歩兵部隊への装甲輸送車配備が終わっていたのに、なんでこうもウチはガバガバなんですかね?」

 

 

「政治と…当時の防衛庁の限界だろう…まあ、その限界を背負わされた身からすれば、嫌な話だが」

 

細川の言い振りに筑波は苦笑いを浮かべながら答える。

 

 

「それで一部はロシアの14.5㎜機関銃を載せたままのそうだが、それ以外はどうするんだ?」

 

 

「とりあえず、砲塔にはM2重機関銃、或いは40㎜擲弾銃を設置するのは決まり、との事です」

 

案内役兼務の後方支援隊隊員(DS要員)が答えた。

 

 

「まあ、そうなるよな…しかし、こんだけあると、中に密航者か何かが紛れ混んでそうだな」

 

 

「あはは、筑波大尉、冗談はよして…」

 

そう言って細川が振り向いた瞬間、そこには明らかに日本人では無い格好の女性3人。

 

 

「「「………」」」

 

 

「「「「………」」」」

 

少女3人、筑波ら4人の間に沈黙が流れる。

しかし、それも短く、女性3人がダッシュで逃げ出した。

 

 

「…密航者!? いや、侵入者!? 何でもいい!! 捕まえろ!!!」

 

筑波の絶叫が響き渡った。

 

 

 

30分後

 

 

「…で、捕まえて、問い質してみたら、3人ともロシアの武器娘だった、と」

 

捕まえた3人を連れ、筑波が事情を説明すると高塚は苦笑いを浮かべた。

 

 

「理由は『日本の方が面白そうだった』との事です」

 

 

「あはは…豆タンみたいな事を言うな」

 

 

「そこでは無いかと…ところでどうしますか? ロシア軍の武器娘なら、後々問題にならない様に…えーと、ロシア側に引き渡すべきかと」

 

市ヶ谷の言葉に高塚はじっくりと3人を観察する。

3人はロシア軍軍章がつけられたロシアの特徴的な防寒帽ウシャーンカを被っているのはT-72と一緒だ。

また、身長は3人ともT-72とドッコイドッコイくらいだ。

ただし、明らかな違いは内2人は明らかに大口径長砲身の火砲を持ちにくそうに持っている。対して、1人は150㎜クラスの火砲を棒状の物を抱えているに過ぎない。

 

 

「……失礼だが、名前を聞いてもよろしいかな?」

 

 

「2A3 コンデンサトール2P自走砲だ」

 

 

「2B1 オカ自走迫撃砲」

 

 

「2S5 ギアツィント-S 自走カノン砲です」

 

名前を聞いて、特に前者2人に内心苦笑いを浮かべる高塚。

 

 

「わかった。まあ、そこは山本大佐と相談しよう。筑波、とりあえず、3人に部屋を提供してくれ」

 

 

「わかりました」

 

そう返事を返し、3人を連れて出て行く筑波。

そして、高塚は大きな溜め息を吐く。

 

 

「やれやれ、冷戦の遺物が出てきたか」

 

 

「はい? 冷戦の遺物?」

 

高塚の呟きに市ヶ谷は意味不明とばかりに言った。

 

「そう、冷戦の遺物さ。気になるなら、2人の名前を調べればいい。マニアなら、飛んでくるけどな」

 

そう呟き、高塚は山本大佐に連絡すべく、ケータイを出した。

 

 

 

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29 色物

なお、今作の姉妹については作者は持っていない。(おい)


登場人物 21

2A3 コンデンサトール2P ロシア軍武器娘

今作オリジナルの武器娘。
420㎜カノン砲を装備する自走砲で砲身は20mに達する。
もともとはオカ自走迫撃砲同様にアトミックカノンとして開発されたが、その後、主軸がミサイルに移行した為に退役したコンデンサトールをロシア軍は武器娘として復活させたが、方針転換等により放置状態になり、日本への支援物資に紛れ込み、日本にやってきた。


2B1 オカ自走迫撃砲 ロシア軍武器娘

今作オリジナルの武器娘。
かのオカ自走迫撃砲の武器娘。
コンデンサトールと共に武器娘として復活したが、此方も持て余した為に日本への支援物資に紛れ込みやってきた。
オカ自走迫撃砲も砲身は20mに達し、射程も大和と同等。


2S5 ギアツィント-S自走カノン砲 ロシア軍武器娘

今作オリジナルの武器娘。
コンデンサトールやオカと違い、此方は前線砲兵隊用の自走砲。
本来は戦闘室付き122㎜榴弾砲自走砲として開発されたのだが、現場等々の意見により152㎜カノン砲を搭載する仕様に変更した為、M110の様な吹き曝しの状態となった。
性能は悪くなかったのだが、ソ連本国部隊のみで運用された為、生産数等わかっていない。
此方も持て余されて、日本へ密航してきた。



翌日 鯖江駐屯地

 

 

「つまり、彼女達はこのままこちらに居てもいい、と?」

 

 

「うむ、どうやら、向こうも彼女達を持て余していた様だ。まあ、コンデンサトールとオカはアトミックカノンだからな。武器娘にしたはいいが、核砲弾なんぞ撃ち込まれた日には、担当者は顔真っ青だよ」

 

 

昨日の一件を素早く山本大佐に相談し、山本大佐ルートからロシア大使館・ロシア政府に確認をとったところ、『支援物品に紛れ混んだ? 日本に居るの? じゃあ、そっち所属でいいや』とアッサリ決まったらしい。

 

 

「さて、なら、3人は抽出砲兵隊に編入確定ですね。まあ、最初は大変だろうけど」

 

オカ自走迫撃砲は再装填・発射に5分から10分半を有する…まあ、物が物だけに仕方ないが。

しかし、750キロの砲弾を約40キロも飛ばすのだから、恐ろしいものである。

 

 

「その砲兵隊は何処に居るのかね?」

 

 

「今日はドライブです」

 

 

 

その頃 抽出砲兵(特科)隊

 

 

「すみません、急に押しかける形になってしまって」

 

 

「いえいえ、出来たばかりの隊に適材適所と砲兵武器娘を配備してくれましたからな」

 

松堂二曹を車長、後部座席に桃屋と豊川が座った軽装甲機動車を先頭にアメリカ製M119 105㎜軽榴弾砲を牽引した高機動車数台とR30・74・75・87ら武器娘、105㎜榴弾砲が乗る1トン半、弾薬車(仮定).2台の編成で『ドライブ中』だった。

 

 

「にしても、随分と小振りな編成になりましたね」

 

 

「手間やスペースを取るFHではなく、小回りの効く105㎜なんで特車も必要ありません。また、最低限必要な物に限定しましたから、FH装備に比べれば小振り見えます」

 

高塚と同じ特科隊だった桃屋からすれば『特車』と言われるクレーン付き大型牽引トラックを始めとした大型車で固められていたFH装備部隊との違いを正直に呟いた。

実際、幹部は殆どの場合、現場を動かす陸曹以下砲班員と共に火砲を扱うなんて事は無い。

よって、それを演習や検閲で横目で見ながら自分達の事をやるのだが、見てるだけでもそれは大変である。

防弾チョッキと装具を着けたまま火砲を展開し、背の高い荷台から重軽量様々な荷物を降ろし、孔を掘り、擬装網を展開し、更に射撃をして、更に撤収…天候や状況によっては追加の作業や警戒に人を出すわで、定員割れの砲班員の負担を更に増やしている…これではどんなに鍛えた人間でも疲れない筈が無い。

 

 

「やはり、下っ端だっただけあって、苦労を知っておりますな。高塚司令は『要らん物は構わず載せるな。ホントに必要な物だけ載せろ』と言ったお陰で随分と軽くなりましたよ」

 

 

「まあ、あの可燃物の塊はいただけませんな」

 

 

「いや、まったく…高塚司令が『行軍中の危険性フル無視な奴等なんて放置しておけ』とお構いなく言いますからね」

 

互いに苦笑いを浮かべる桃屋と松堂二曹。

確かに車両はディーゼルエンジン、幌や擬装網は耐火性である…が、荷台に乗る物の大半は耐火性は無く、逆に燃えやすい物ばかりだ。

そもそも、防御力皆無な幌や車体に中口径弾や砲弾・爆弾の破片・炸裂弾の命中とその被害を考慮して無い時点で終わってるが……陸上自衛隊はどうも、戦力の骨幹たる人員への配慮、特に疲労や防御意識は最後に回す悪癖が何処にあるらしい。

 

 

「さすが、生死の修羅場を潜っただけのお方ですな…ん、止まれ!」

 

関心するかの様に言った松堂は正面に視線を移した瞬間、そうドライバーに怒鳴る。

ドライバーの三曹は慌てて急ブレーキを踏み、軽装甲機動車を止める。

後部座席に座る桃屋は運転席と助手席の間に身を乗り出して前を覗く。

そして、視線の先には……明らかに『機械』らしい4本脚の如何にもスマートでは無い単純構造な『ロボット』が居た。

 

 

「…隊長、あんなロボット、ウチにありましたっけ?」

 

 

「いや、似たのはアメリカとかにあるが…あんなにスモールサイズにはなってない」

 

視線先にあるロボットに松堂と桃屋は言葉を交わす。

そして、ロボットは此方をジーと見つつ、クルリと身を翻すと暫く進み、また止まって此方をジーと見る。

 

 

「……付いて来て欲しいみたいですね」

 

その行動に豊川が呟いた。

 

「だな…松堂二曹、蛇が出るか、雉が出るかわからんが、付いて行ってみよう」

 

 

「わかりました」

 

 

数時間後

 

 

 

「で、付いて行ってみれば、ドールズの2人を見つけた、と」

 

桃屋の報告に高塚は苦笑いを浮かべながら呟いた。

あの後、桃屋達は『ロボット』にひたすら付いて行き、最終的にはM1895らの仲間であるドールズ2人を保護した。

 

 

「はい…ところで、あのロボットと彼女達は…」

 

 

「ロボットは『ダイナゲート』、『働き蟻』と訳すらしい。なお、保護した2人のペットらしいが、本来は彼女達の『敵』だそうだ」

 

 

「…の割には何もありませんでしたが?」

 

 

「曰く、戦闘の損壊や鹵獲後の処理でそこら辺の設定が消えた物をペット代わりにする者がいるそうだ。まあ、話の又聞きだがら、穴はあるがね。はて、あの2人…まあ、姉妹だが」

 

 

「…姉妹でしたか」

 

 

「あぁ、で、彼女達は95式自動歩槍と97式自動歩槍だ」

 

 

「歩槍…中国製小銃ですか」

 

 

「と言っても、支那に所有権はないがね」

 

 

 

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30 線引き

95・97姉妹や不知火の紹介はまたの機会にやります。


翌日 鯖江駐屯地

 

 

「……お疲れ様です」

 

 

「はい、お疲れ様です」

 

バツの悪そうにぎこちなく挨拶してきたWA2000に対し、細川はニコリとしながら挨拶を返した。

細川は各部隊に開封命令書を配り終えて戻ってきたところで高塚の居る司令部テントから不機嫌に出て来たWA2000と出くわした。

そして、挨拶を交わして別れた後、細川はテントに入った。

 

 

「高塚少将、命令書配布の方、終わりました」

 

 

「あぁ、了解。急かしてすまなかった」

 

 

「いえ…ところで、先程、出て来たばかりのWA2000と会いましたが、どうしたんですか?」

 

細川の問いに高塚の隣に居た市ヶ谷が答えた。

 

 

「昨日、保護した御二人の件についての御礼と…その、ちょっと困る案件ですね」

 

 

「困る案件?」

 

 

「『戦列に加えて欲しい』…無論、丁重にお断りした」

 

高塚の答えに全ての合点がいった細川は納得した。

 

 

「なるほど…普通の人間であれば諸手を挙げて歓迎するところですがね」

 

 

「彼女達は別組織なんだ…この『世界』にその組織が存在しないだけだがな」

 

 

「そうですね。ですが、彼女達の戦闘能力はどう見ても陸自(ウチ)の兵隊紛いの素人に比べれば天と地の差。我々と艦娘、深海棲艦、そして、彼女達の加入は大きな戦力増だ…と、こんな事は高塚少将は言われずともご存知ですよね」

 

 

「…保護した恩を盾にして戦線に出せ、と聞こえるのは気のせいか?」

 

 

「そう聞こえますよね。ですが、高塚少将がそれをしないのは正に『保護したから』。別世界の別組織故にそこら辺の正当性と手続きを踏む迄は出さない…そうお考えでしょう?」

 

 

「はぁ…さっきの言い草が猫被りなのか、真意を探る為の芝居なのか」

 

 

「最低限、司令は程の良い囮兼捨て駒戦力などと考えていないのは発言からわかりますので…まあ、マルタでの行動を見れば当然ですよね」

 

 

「細川、評価しているのか、貶しかかてるのか、どっちなんだ?」

 

 

「本音を言ったまでですよ。では、事務仕事を片付けてきます」

 

そう言って敬礼後、細川は退室した。

 

 

「やれやれ…まあ、頭がタングステンかやや並みに硬い奴らよりマシか」

 

 

「司令は司令でデスリが入ってますね」

 

 

「本音だから…さて、仕事を再開するか」

 

 

 

 

その頃

 

 

「あきつ丸さん、司令から何か聞いてますか?」

 

 

「とりあえずはアメリカからの支援品であるスーパーコブラ、同じくロシアのMi-17と聞いているであります」

 

明野とあきつ丸は富山空港から鯖江駐屯地に向かっている支援品のスーパーコブラとMi-17の編隊の到着を待っていた。

明野は編入部隊責任者として、あきつ丸は高塚の代理として、ここで待機している。

 

 

「それにしても、何でウチの部隊に?」

 

 

「次の作戦にも出るのは明野殿部隊ですからな」

 

無論、他にもある事をあきつ丸は知っているが今は言わない。

ただ、あきつ丸も言う事はその通りで、第10師団管区防衛に目達原らの航空部隊を始め多くの戦力を残した関係上、12旅団管区奪還には各隊の戦力増強は必要であった。

特に12旅団に関しては航空戦力がアテに出来ない以上、陸軍航空隊としてあきつ丸と明野航空部隊は重要ではあった為、伸びしろがある明野部隊を高塚は順次戦力拡大を図るつもりであった。

 

 

「お、明野殿、来たであります」

 

独特のローター音を響かせてスーパーコブラとMi-17の編隊が飛んで来る。

着陸態勢に入り、各機誘導員の指示の下で着陸する。

その中で一機のスーパーコブラは他の機体と塗装が違っていた。

 

 

「…あれ? これ…私!?」

 

その塗装が明野自身が描かれたスーパーコブラ、つまり、明野の痛コブラである。

 

 

「さて、自分は何も知らないでありますからな」

 

明らかに惚けているあきつ丸に明野は構わず飛び付いた。

 

 

 

司令部テント

 

 

「…痛コブラ、出したんですね」

 

呆れながらジト目で見てくる市ヶ谷に高塚は事務処理をしながら答えた。

 

「痛コブラ一機で明野がやる気になるなら安いもんだよ」

 

 

「ですが、痛コブラは…」

 

 

「木更津の一件ですか? 陸幕がやり過ぎと言ったから、いつまでも禁止と? 馬鹿馬鹿しい。そもそも、何がやり過ぎなのか、当時の陸幕に聞きたいぐらいです」

 

そう言って判子を押し終えた書類を横に置く高塚。

 

 

「官品の私的流用? 塗装が派手? イベントで興味を持ってくれる、いい宣伝・広報材料を封じ込むなんて、陸幕は何を考えていたのやら」

 

 

「…しかし、あれでは一機は使えなくなりますよ?」

 

 

「え? 当面は二機だけ運用する予定ですよ?」

 

 

「何故ですか? わざわざ戦力を低下させるなんて…」

 

 

「簡単ですよ。我が方のコブラと米軍のスーパーコブラですよ? ヘルファイア・ミサイル、短距離空対空ミサイル装備がウチのコブラに付いていたか? つまり、そう言う事です」

 

 

「これからも増えるであろうスーパーコブラの乗員確保の為の教導機ですか。まあ、リソースが無い以上仕方ないですね」

 

ニヤニヤと笑いながら、そう言って細川が入って来た。

 

 

「そう言う事…って、タイミングいいな、細川」

 

 

「たまたまですよ。それとアメリカ大使館から、次の支援物品についての書面が来ています」

 

 

「ありがとう…ふむ、やはり、アメリカはこちらにスーパーコブラを何機か追加で送っくるみたいだな」

 

 

「ロシアの方はまだですが…まあ、いずれ連絡があるかと」

 

 

「まあ、いつになるかはわからんが…そろそろ、こちらも動こうか」

 

 

 

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第12旅団管区編
31 東へ


と、言う事で今回から12旅団管区編です。


3日後 夜 富山・新潟県境(富山側)

 

 

 

「対馬隊、神通隊、那珂隊、川内隊、敵哨戒ライン並びに哨戒陣地突破、との報告入りました」

 

通信機に聞き耳を立てていた筑波の報告に高塚は頷くと命令を下した。

 

 

「とりあえず、越境に関しての問題は排除されたな…全部隊前進! 第一目標は高田駐屯地! 先ずは橋頭堡の確保だ!」

 

その指示の下、全部隊がエンジンの轟音を上げ前進を開始した。

 

 

 

この時点で高田駐屯地包囲部隊並びに県境哨戒ラインのマグマ軍は油断していた。

何故なら、偵察機・ヘリが時たま飛びにくるぐらいであり、東京の本部や12旅団管区担当司令部も『攻勢は10師団管区から直接東京を狙う』と信じきっていたからだ。

故に後々までに後手に回る事になるのだが、まだまだそれは先の話だった。

 

 

 

焼山付近

 

 

「…あー、これはマズイわね」

 

武器娘の87式偵察警戒車は県境〜高田駐屯地との間にある焼山へ高塚達主力より先行し、偵察に来ていた。

何故なら、この焼山は日本における最初の『マグマ軍発生地』であり、先の白山の例から見ても相当の戦力が居るのは間違いなかった。

また、白山と違い、焼山が高田駐屯地への直線ルート上にあり、ここが高田駐屯地包囲部隊の司令塔兼主力侵攻への障壁になるのは間違いなかった。

この為、事前の航空偵察の他に、戦闘前の直前偵察を行う必要があり、87はこうして偵察に来ていたのであるが…。

 

 

「クロシュタント移動要塞にT-72重戦車の団体様…これが正面に立ちはだかるなんて、無理無茶もいいとこね」

 

明石達の改修により車内に暗視装置付き偵察機材を使いながら87は呟いた。

87は改修により、89式歩兵戦闘車の35ミリ機関砲を搭載した大型化した砲塔に偵察機材、それらに直結したデータリンクシステムを搭載されている。

つまり、87が見ているものは高塚達も『リアルタイムで観れる』のである。

 

 

『こちら、タンゴ,キング。87、ご苦労様。そのまま潜伏待機してくれ。なお、ヤバくなったら離脱せよ。以上、終わり』

 

 

「87、了解…気軽に言ってるけど、大丈夫なのかしら?」

 

そんな呟きを呟きながら、監視対象を継続する87だった。

 

 

 

 

その頃

 

 

『クロシュタントですか。早々に厄介なのが出ましたね』

 

ヘッドセットで先程まで見ていた87からの映像に細川は正直な感想を言った。

 

 

『前の…白山の様にはいきませんな。どちらにしろ、焼山を通らなければ高田駐屯地へは近付く事も出来ません』

 

大桐准尉が両腕を組みながら言った。

 

 

『と言って正面から喧嘩は売れないです。まあ、当然ですけど』

 

筑波はさも当然の事を言う…まあ、これは筑波は高塚が何か考えていると読んでいるからだが。

 

 

『それで、司令。オープンチャンネルで余裕ありありそうですけど、どうするの?』

 

鯖江の言葉に高塚はニヤリと笑うと無線を入れる。

 

 

「桃屋、早速砲兵の出番だ。新時代の砲兵を見せてやれ」

 

 

 

 

暫くして

 

 

 

『砲班から戦砲隊、展開・射撃準備良し!』

 

 

『こちら、豊川。武器娘隊展開完了。現在、システム同調点検中』

 

 

「了解した。砲班はシステム準備。武器娘隊は点検完了次第、報告待機せよ」

 

松堂二曹が答える横で桃屋は砲兵隊指揮者用73APC内でパソコンを弄る鳥海の作業を見ていた。

 

 

「高塚先輩から聞いてはいましたが…やはり、前大戦で航空観測射撃をしていただけあって、この類のシステムを作るのは得意ですよね、海軍サンは」

 

 

「ですが、欧米は既にデータリンクシステムによる砲兵射撃システムを完成させていますし、私達の場合は海自やこの類が得意な夕張さんが居ましたから…はい、終わりました」

 

鳥海の言葉に桃屋がパソコン画面を覗くと87からの暗視補正入り映像と上空からの暗視補正入り映像がリアルタイムで流れていた。

 

 

「よし。松堂二曹、各砲班のタブレットにシステムが同調しているか確認して下さい。武器娘隊の方にもお願いします」

 

 

「わかりました。戦砲隊から各砲班、並びに武器娘隊へ。司令部システムの構築完了。同調を確認せよ。にしても、いよいよ現代戦らしくなりましたな」

 

 

「えぇ、まあ、これから色んなトラブルに遭うでしょうが、これも未来と将兵の為ですからね」

 

そう、漸く我々はスタート地点に立ったに過ぎないのだ、と桃屋は自らに言い聞かせた。

 

 

 

 

暫くして マグマ軍焼山展開部隊

 

 

それは突然であった。

クロシュタント移動要塞、T-72戦車部隊と共に此方へ侵攻してくる日本軍部隊と対峙していた。

日本軍部隊はクロシュタント移動要塞の火砲の射程ギリギリで停止すると左右に部隊を展開した。

しかし、それ以上なにもせずにジッとしている事を訝しんでいた時……それはおきた。

敵部隊後方から火砲の発砲光が連続で瞬いた。

そして、数秒後には次々と着弾する…最初から、試射も無しに全力射撃を夜間に撃ち込んでくるのである。

特に火砲と共に撃ち込まれた多連装ロケットが厄介であった。

『面制圧』を得意とする多連装ロケットは密集下にあるマグマ軍戦列に鉄の嵐の洗礼を浴びせる。

だが、クロシュタントにすれば散弾の破片など痛くも痒くも無い為、依然その堂々たる姿を見せ付けていた。

だが、その堂々たる姿も忍び寄るかの様に飛来した2発の大型ロケット弾と2発の大口径弾が命中するまでであった。

 

 

 

 

暫くして

 

 

『こちら87! 敵クロシュタント移動要塞撃破確認!』

 

 

「了解! こちら、タンゴ・キング! 砲兵隊、撃ち方止め!」

 

87からの報告に高塚は素早く砲撃中止を命じる。

 

 

「やれやれ、まさか、R30だけでなく、オカ自走迫撃砲とコンデンサトール自走砲を対移動要塞戦の切り札に運用するとは思いませんでした」

 

筑波の言葉に細川が言った。

 

 

「ですが、40㎝クラスの火砲をただ単に対地砲撃に使うのは無駄使いですからね。何せ、セバストポリを落としたのは60㎝自走臼砲カールや80㎝列車砲だった訳ですし」

 

 

「うむ…砲弾の命中率も誘導砲弾でカバー出来る。ソ連は核の小型弾頭化の限界故に40㎝クラスを採用したが、大口径故に誘導砲弾化工作が可能だからな。塞翁が馬、何が幸いするかわからんよ」

 

皮肉そうに高塚が言った。

 

 

「ところで高塚司令、敵戦列は崩壊、無事な奴らは潰走していますが、どうしますかな?」

 

大桐准尉の問いに高塚は素直に答えた。

 

 

「負傷者の収容後、前進します」

 

 

 

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32 高田駐屯地

登場人物 22

鳥海 海軍艦娘 中佐(二等海佐)

高雄型重巡洋艦四番艦鳥海の艦娘。
マルタ戦後、霧島や姉の摩耶と共に水陸研に出向、主に火砲射撃観測・指揮システム構築要員として勤務している。
今回は陸軍火砲の射撃観測・指揮システム構築の為に霧島と共に同行している。


少し前 高田駐屯地内

 

 

 

「はあ……眠れない」

 

事務所の自分の事務机でそう呟くのはこの高田駐屯地の駐屯地娘である高田沙織一尉(大尉)である。

と言っても、眠れ無いのは高田だけでなく、この駐屯地の人間全員と言ってもいい。

長い包囲下に何とか慣れて(我慢して)いるが、故に睡眠時間が短くなり、誰もが眠れ無い夜を過ごしていた。

 

 

「逆効果になるかもしれませんが、どうぞ」

 

和かな声と共にコーヒーを机に置いた女性はスプリングフィールド…先日、分隊を率いて偵察中に『彼女』と『連れ』を高田は保護し、こうして共に生活を送っている。

 

 

「ありがとうございます……それにしても、フィールドさん、慣れてますね」

 

 

「日常茶飯事でしたから」

 

和かな笑顔に対する返答の内容に高田は内心で乾いた笑みを浮かべる。

実際、夜遅くに寝れないと思い、ふと彼女を見るとソファーで毛布に包まりながら寝ている(そして、起きるのは早い)からだ。

 

 

「それにしても…何も動きがありませんね」

 

 

「えぇ…まあ、此方では動きは余り無いかと」

 

それは当然だ、と高田は思っていた。

駐屯地娘であり、幹部である彼女は上級幹部向けの情報を知る権利と義務があり、既に沖縄にいる陸幕は東京奪還に動いている事を知っている。

つまり、この日本海側で行動をおこす事はほぼ無く、あっても奪還部隊が牽制・陽動目的のフェイント攻撃をするのがせいぜいだ…と高田以下大半の人間が思っていた。

だが、その考えは今や聞き慣れた足音と共に覆された。

 

 

「サオ!! 大変、大変!!」

 

そう行って周りを気にする事も無く声をあげて入って来たのはスプリングフィールドの『連れ』ことFF FNCだった。

 

 

「ちょっと、FNC、みんな寝ようとして…」

 

 

「そんな事より! 西向き、南西方面から砲撃音が聞こえるよ!」

 

 

「……え?」

 

この時、高田はほぼフリーズしている頭の中で色々と思考していた。

高田駐屯地から南西方面と言えば妙高市、その更に西側にはマグマ軍が出没し、自分達が対処に向かい、そして、撤退した焼山がある。

その焼山から更に西に行けば県境兼管区境を越えれば富山に入る。

つまり、砲撃はマグマ軍か富山方面から来た『誰か』が交戦している事を意味する。

 

 

「…ちょっと待って、本当に砲撃音? それが本当なら第10師団管区から部隊が…でも、彼処には移動要塞が居るし…」

 

第10師団管区から部隊が来たとしてもそれは威力偵察か牽制の少数部隊。

ならばその『砲撃音』はマグマ軍の移動要塞が侵入部隊に対して砲撃している事になる。

つまり、此方は何も出来はしない。

 

 

「…果たして、ホントにそうでしょうか?」

 

スプリングフィールドの声にFNCと高田、そして、先程の騒ぎで寝床から体を起こした幹部達が目を向ける。

 

 

「もし、FNCの報告が事実なら、哨戒線を突破して来た事になります。なら、別に砲撃を行わなくても、指揮下の部隊を動かせばいいだけでは?」

 

 

「…まあ、はい、そうですが…」

 

この穏やかな女性が戦場では旧式ライフル片手にマグマ軍歩兵の眉間を眉一つ動かさずにブチ抜くを見ている高田はスプリングフィールドのその真剣そうな表情に明確な反論は出来なかった。

そして、そのスプリングフィールドの論を証明するかの様に誰にも聞こえる爆発音が響いた。

そう、こんな爆発音は多量の弾薬を抱え込んだ物にしか出来ない…つまり……。

 

 

「総員緊急呼集! 偵察を出す!」

 

そう言って高田は駐屯地司令の所へ走り出した。

 

 

 

数時間後 高田駐屯地

 

 

「さてさて、案外アッサリと高田駐屯地に来れた訳だが…駐屯地人員の疲労度がヤバイな」

 

高田駐屯地の人員に迎えられながら表門から入った高塚は密かに呟いた。

戦闘終了後、本隊は後処理をしつつ、87と金沢に分隊を率いての先行偵察を頼んだところ、妙高市郊外で高田達の高田駐屯地の偵察と接触、その後、後処理が終了した為、こうして高田駐屯地へとやって来た。

 

 

「マグマ軍出没後から対応していましたからね」

 

 

「まったくだ…高田駐屯地の人員は先ず休みだ。必要なら交代人員を回せる様に準備してくれ。それと駐屯地並びに管区状況の掌握も頼む」

 

 

「わかりました」

 

市ヶ谷に一通りを命じると待っていた高田の所に向かった。

 

 

「お初にお目に掛かります。高田駐屯地の駐屯地娘、高田沙織一尉です」

 

 

「高塚だ。まあ、紹介は余り要らんだろうがな。駐屯地司令は?」

 

 

「駐屯地司令は…その、今までの疲れから、面会は明日に、と」

 

 

「あぁ、なるほど…高田一尉も引き継ぎを終えたら、休んでいいよ。細かい事は明日からだ」

 

 

「あ、はい。わかりました」

 

 

「うん。引き継ぎは…市ヶ谷やあきつ丸を付けるから、そちらにな。部隊については別の人間を回しているから心配しなくていい」

 

 

「……ありがとうございます」

 

 

「何を言う。疲労困憊な兵を無理矢理働かせても支障しかおきないからな。ほら、市ヶ谷、頼む」

 

 

「あ、わかりました。では、高田さん、引き継ぎ事項を」

 

 

「あ、はいはい」

 

 

……この後、引き継ぎを終えた高田はホントに久々に自室のベッドに飛び込む事になった。

 

 

 

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33 作戦参謀

先週は更新出来ず申し訳ありませんでした。
今週は二話更新致します。


登場人物 23

高田沙織 陸自幹部 一等陸尉(大尉)

第12旅団隷下の高田駐屯地の駐屯地娘。
地元がかの有名な上杉謙信らで有名な新潟な為、歴史好き(歴女)。
主に戦国時代に精通していた為に作戦参謀になる。(ネタバラし)


スプリングフィールド PMCグリフォン

アメリカ軍のスプリングフィールド小銃を模した自立型戦闘用アンドロイド。M1ガーランドの先輩にあたる。
優しいお姉さん(or人妻)な雰囲気を醸し出し、更にコーヒーを淹れるのが得意。
故にカフェを始めたら、高塚が困惑する事態に発展する事になる。
戦闘下においても雰囲気は維持されているが、何の躊躇いも無く敵には銃弾を叩き込むお人。
FF FNCと共に高田に保護された。


FF FNC PMCグリフォン

ベルギー生まれのアサルトライフルを模した自立型戦闘用アンドロイド。
開発国がベルギーな為かお菓子大好き子であり、常にお菓子を持ち歩いている。
スプリングフィールドと共に行動中、警戒中のマグマ軍歩兵に遭遇、撃ち合いになり、偵察中だった高田らに保護された。
なお、本体に関しては陸自の89式小銃と形状が類似している事から、一時期はFNCのライセンス生産とも噂があったそうな…参考にはしたかもしれないが。


翌日 高田駐屯地

 

 

グランドに昨日のMVPであるオカ自走迫撃砲、コンデンサトール自走カノン砲、R30が山本大佐らロシア兵の警備の下に公開され、手空きの高田駐屯地人員がヤンヤンする中、駐屯地会議室を借りて高塚らは今後の方針を駐屯部隊に説明と情報交換を行い解散となった。

 

 

「ふう…第5施設群長と第2普通科連隊長が理解してくれて助かったよ」

 

最初こそ、一部幹部が『東京からの指示は東京奪還の筈だ!』とか、『いくら独自権限があるとは言え、越権行為だ!』と言っていたが、高塚は冷静に現状下の東京奪還の愚を説明し、更に『先の発言は第5施設と2普連は玉砕してもいい、と受けとってもよろしいのですか?』との発言に反論しようとする先の幹部達を高田駐屯地司令を兼務する東部方面隊所属下の第5施設群長、並びに12旅団所属下の第2普通科連隊長が睨み付けて抑え、更に第5施設群長が『方面も旅団も連絡不通な為、指揮下に入る』と言ってくれた為に収まった。

 

 

「そうですね…早速、第2普通科連隊から装備要求が来ましたが、どうします?」

 

 

「2普連は空中機動を意識した軽歩兵だからな…73APCより、軽装甲機動車系を融通すべきだな…タイガー軽装甲機動車を都合しよう。ロシアからの支援品から融通してくれ」

 

 

「わかりました」

 

筑波の問いに高塚はそう答え、筑波は返事と共にそちらの手配に向かう。

 

 

「次の進出拠点は新発田駐屯地ですか…30歩連。降雪地帯故に雪上戦を意識したスキー記章持ちが多い部隊ですね」

 

 

「あぁ。但し、今は冬では無いし、そもそも、向こうの駐屯地娘は冬は好きではないらしい。寒いから」

 

 

細川の言葉に高塚は苦笑いを浮かべながら答えた。

 

 

「……なんですか、それ?」

 

 

「まあ、体質とかの話だからね。だが、人員数が少ない状況では先ずは歩兵の確保だ。30歩連も軽歩兵だからな…車両を装輪か装軌を考えにゃならん」

 

 

「なるほど…では、こちらは?」

 

 

そう言ってもう1枚の地図を見ながら細川が訊いた。

 

 

「新発田の次の目標。松本駐屯地までのルートと周辺図だ。だがな、どのルートも山岳地帯を通るだけに難しい」

 

 

「なるほど、松本駐屯地の13歩連が山岳部隊と自負するだけありますな…しかも、松本駐屯地の西側の焼岳に移動要塞の痕跡…これは確かに難しい」

 

 

「うむ…敵もバカじゃない。我々が松本駐屯地に向かうのは百も承知だ。故に山岳地帯を利用して遅延戦を仕掛けてくるのは必然。だから、いま頭を捻ってるところだ」

 

 

「うーむ…ここは手近な人間に意見を求めては?」

 

 

「だな…すまない、市ヶ谷さん。高田大尉を呼んでくれないかな」

 

 

「わかりました」

 

 

 

暫くして

 

 

「私も現地を詳細に知っている訳ではありませんが、ここは此方も事前に掃討部隊を派遣し、安全化を図るべきでは?」

 

 

「まあ、定石的な事になるよな。となると、対馬隊と新発田の30歩連を投入するか…後は狙撃手を集めた掃討チームを編成するか」

 

 

「現代版雑賀衆ですか!?」

 

高塚の一言に高田が目を輝かせて反応した。

 

 

「ですが、狙撃手の大半は普通科所属です。編成を考慮すれば下手な引き抜きは出来ないかと」

 

 

「それに山岳地帯です。ゴルゴ13を見てもわかる通り、地形的要因が多分に影響しますよ?」

 

 

「うん…標高や環境が違うから妥当ではないが、アフガンの戦訓だとゲリラは軽中機関銃や迫撃砲を撃ってくる事から、800m〜1キロでのやり合いになったそうだ。そうなると、レミルトンやバーレットが妥当だが…まあ、陸自の対人狙撃銃でも対処出来ない事は無い。が、それを扱う頭数が問題だな」

 

市ヶ谷や細川の言葉に高塚は腕を組みながら言った。

 

 

「……司令、残念ながら、本気でドールズを、彼女達の参加を検討するしかありませんよ? 山本大佐のロシア兵や天龍さんを除けば余りにも人手が足らなさ過ぎます」

 

 

「わかってるよ…まあ、一番の障壁が越えられ無いから困ってるんだがな」

 

 

「まあまあ、それは横に置いとくとしましょう」

 

泥沼論争化になると思ったのか、市ヶ谷がこの話題を切った。

 

 

「そうですね…にしても、この山岳地帯は厄介ですね」

 

 

「ですが、この山岳地帯が武田信玄率いる騎馬隊や将兵を育て、更に金脈資源をもたらしたんですよ」

 

細川の言葉にウキウキ気分で話す高田に高塚はポツリと言った。

 

 

「高田大尉…その、戦国時代が好きな…えーと、歴女?」

 

 

「……あはは……高塚司令!! お願いです!! ドン引きしないで!!!」

 

半分涙目で頼み込む高田。

 

 

「…直江兼続の兜は?」

 

 

「『愛』の一文字です!」

 

 

「家康への挑戦状は?」

 

 

「愉快痛快!」

 

 

「上杉謙信と武田信玄」

 

 

「永遠のライバル!」

 

高塚と高田の一問一答劇に市ヶ谷と細川がヒソヒソと話す。

 

 

(いきなり戦国トークが始まりましたけど…)

 

 

(ふふふ、まあ、暫く任せましょう)

 

暫く戦国トークを交わした後、高塚は言った。

 

 

「高田大尉、君を作戦参謀に採用だ」

 

 

「はい! …って、えぇ!? さ、さ、さ、作戦参謀!? ファー!!」

 

そう叫ぶと後ろに倒れこみ、それを細川が受け止めた。

 

 

「高塚司令、副官枠をどれだけ増やすつもりですか?」

 

 

「作戦参謀枠なんて無いだろう。少しはそっちの方面で使える人間が必要なの」

 

細川の問いに高塚は答えた。

 

 

 

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34 PMCグリフォン

と言う訳で二話目です。
そして、こうなりました。


翌日 高田駐屯地

 

 

 

「何をしてるんです?」

 

高塚から『夕張達の様子を見て来てほしい』と言われてやって来た細川は夕張や明石、青葉らが配線やアンテナを弄っているのを見ながら質問した。

 

 

「あら、おはよう、細川くん。これはね、相互映像通信の為のセッティングなの」

 

 

「あぁ、なるほど。だからデカイ画面があるんですね」

 

4つほど並んだ大型画面と簡易机と椅子、ヘッドセット、カメラのみの簡単な物しかない。

 

 

「これで松島宮大将や滝崎少将と顔を合わせて話せるわけですね?」

 

 

「えぇ、どうせ、戦況が流動的になれば、面と向かって話をする事が多くなるからね」

 

 

「それに対して陸幕のアホ共は…おっと、失礼。愚痴を言いかけました」

 

 

「あはは…細川くんも高塚司令に似てきたね」

 

 

「おや、それは有難い。このまま、高塚司令の様に剛胆になれる様、努力しないと」

 

 

「うーん…なんて言うかな、憲兵さんは」

 

 

「思いっきり、苦笑いを浮かべますね」

 

そんな会話を交わし、夕張はセッティングに戻り、細川は暫くその状況を眺める。

そして、ふと大型画面に視線を向けると四つ目の画面がついていた。

 

 

「……夕張さん、いま、何処かと回線結んでますか?」

 

 

「いいえ。まだ、周波数とか合わせてるところだけど…どうしたの?」

 

 

「じゃあ…なんで、これ、何処かと繋がっているんですか?」

 

明らかに人工建造物、何処かの司令部か何かが画面に映っているのを細川は指差しながら訊いた。

 

 

「……ちょっと待って。確認してみる」

 

そう言って夕張は明石達の所に足を向ける。

暫く画面の様子を見ていた細川は画面の向こうで誰かが通り過ぎるのが見えた。

 

 

「ん、気のせい…」

 

 

『おい、カリーナ。なんでこの画面が点いているんだ? まったく、無駄な電気を…』

 

そして、互いが『それ』に気付いた時、絶叫が響きわたった。

 

 

 

 

暫くして

 

 

「えーと、まずは始めまして。日本陸軍少将の高塚です」

 

 

『グリフォン上級代行官ヘリアントスです。そちらの事はスプリングフィールドから事情を聞きました』

 

暫くのゴタゴタ劇の後、細川から報告を受けた高塚は『試験も兼ねて』、画面で話しているドールズ達の上司(直接ではないらしい)である、PMCグリフォン社『上級代行官』ヘリアントス(女性)と交信を始めた。

 

 

「こちらも其方の事は保護したドールズ達から聞いております。其方も気が抜けぬ状況の様ですね」

 

 

『形は違えど、人間は戦争から足を抜け出せないと言う事かもしれません。それと、遅れましたが、彼女達を保護して頂きありがとうございます』

 

 

「あぁ、いえいえ。成り行きと国内の戦闘下である為に一部法律が運用停止中とは言え、銃火器系武器の所持は我が国では逮捕案件です。警察が動いていない以上、我々の管轄ですし、しかも、所属組織が反社会組織で無い以上、連絡が取れる迄は下手な事は出来ませんので」

 

まあ、他にも色々あり過ぎて、政府や陸幕に預けれないのもあるが。

 

 

『ふむ…ところで、高塚少将。つかぬ事をお聞きしますが』

 

 

「なんでしょうか?」

 

 

『現場最上級者の貴方がわざわざ交信しに来たと言うことは、何か考えがあるのでは?』

 

ヘリアントスの言葉に高塚は苦笑いを浮かべながら自分の懸念、つまり、其方の敵である鉄血のユニットがこちらに流入しているのではないか。

そして、出来れば彼女達を戦列に加えたい、と希望を述べた。

 

 

『異世界の、しかも、過去の人間と話しているだけでも驚きだが…いや、高塚少将、その懸念は当たっているかもしれない』

 

 

「では、つまり…」

 

 

『ここ数日、前線から鉄血のボスクラス数名を見かけなくなった、と報告が上がっている…無論、確認はまだなのだが』

 

この時点で高塚も予想されていた事だけに渋い顔をするだけで済んだ。

 

 

『その事を鑑定しての、先の希望だが…」

 

 

 

 

暫くして

 

 

 

「え、彼女達の参加許可が降りんですか!?」

 

 

「と、言ってもお試し期間みたいなもんだがね」

 

交信を終えた高塚は市ヶ谷達に一連の事を話した。

 

 

「お試し期間、とは?」

 

 

「うむ、グリフォンの社長、クルーガー氏が別の用事で近くに居ないのと、最終的に社長の採択を受けなければならない事から、ヘリアントス女史の権限内でのとりあえずな処置なんだそうだ」

 

筑波からの問いに高塚が答える。

 

 

「それは…まあ、仕方ないですからね。と言うか、向こうに此方へ来る方法なんて…」

 

 

「やめとけ。それを考え始めたところでいい事なんて一つもないぞ…まあ、志願制である事や、『成績管理』やら何やら言われだが、此方としてはそれぐらいのリスクを抱えてもいいぐらいの良い話だしな」

 

 

「まあ、それは言えてますね。それで、彼女達はどう言う形で組み込みますか?」

 

細川からの問いに高塚は顎に手をあて、少し考えてから答えた。

 

 

「私直下の軽歩兵部隊と言う事でいいだろう。多分、その方が何かと都合がいい。済まないが、各種装輪・装軌車両と輸送ヘリの確保を頼む。無論、弾薬と予備部品の方もね…あー、嗜好品もかな? お菓子とか、供給追い付くかな…?」

 

 

 

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35 いま恩に報いざるは何時報いるのか?

中身を見れば題名と合致する筈。

登場人物24

ヘリアントス グリフォン 上級代行官

PMCグリフォン社の上級代行官を務める女性。
地位としてはナンバー2に近く、権限的には大凡の人事権やらを持つ重役クラス。
但し、合コンでは連敗中。容姿的に悪くはないのだが、何故なのか?(作者にはわからない)


翌日 台北市 中華民国総統府

 

 

この日、中華民国初の女性総統を含めた中華民国(台湾)政府首脳陣が集まっていた。

 

 

「派遣部隊はいま、どの辺りですか?」

 

女性総統の質問に台湾軍制服組トップの参謀総長が答えた。

 

 

「本隊は本日中に佐世保へ入港、派遣部隊司令部並びに先遣隊は富山空港から新潟に入り、高田駐屯地へ向かう予定です」

 

 

「本隊の護衛は大丈夫かしら?」

 

 

「はい、我が海軍が動員可能な戦力総出でサポートしております。また、松島宮殿下指揮下の日本海軍と艦娘達、深海棲艦もこれに参加しており、二重三重の哨戒・護衛態勢下にあります」

 

 

「わかりました。我が国初の大規模軍事支援でもあります。慎重にお願いします」

 

 

「は、何せ我が国民が熱望しての派遣。失敗は許されませんからな」

 

参謀総長の言葉に集まっていた政府関係者全てが頷いた。

何故かと言えば…この派遣は台湾国民の意志と台湾政府の威信をかけたものだったからだ。

 

 

 

マグマ軍が日本・台湾に出現したのはほぼ同時期であった。

しかし、台湾は大陸に近く、更に台湾にマグマ軍が出現した時には敵対する中華人民共和国の国土の8割が占領されており、それまでに続々と台湾へ(第三国へ逃げる際の経由も含めて)逃げてくる人間がその脅威を連日メディアが報道するぐらいであった。

もともと、内省人・外省人や独立派・穏健派のゴタゴタが水面下にあったとは言え、長年支那人民解放軍の脅威を受けていた台湾国民の愛国心と国防意識は高く、更に装備面は若干の見劣りがあるとは言え、対抗戦術・戦略と訓練は欠かしていなかった台湾軍は出現したと同時に素早く対応した。

皮肉にも、台湾の山岳地帯は内陸部の島の真ん中に集中しており、長年の対人民解放軍の侵攻作戦…第二砲兵隊や航空部隊空爆による軍事拠点無力化・航空優勢権奪取後から空挺部隊・上陸部隊による台湾占領過程…における第2段階、つまり、空挺部隊や潜入工作・特殊部隊による後方浸透・ゲリラ戦と似た形で出現した為、台湾軍は冷静かつ素早く対応し、早期にマグマ軍の進出を阻止していた。

そして、マグマ軍対処がひと段落した時、台湾国民の大半が親友とも義兄弟とも言える日本がマグマ軍にほぼ占領されている事態に声を大にして『次は我々の番だ!』と日本への支援を高らかに挙げた。

この時点でほぼ国民の8割がたが賛成であった。

しかし、台湾政府自身は慎重であった。無論、国益等々を考えれば日本支援をしたいのが政府の本心であったが、台湾政府はそれこそ『消極的賛成派』とも言える大半の『反対派』の意見を出す事で事が足りた。

つまり、『日本も首都を占領され、特に反攻主力の陸上自衛隊は指揮システムが崩壊した為に統一指揮での反攻は実施不可能。反攻予定も未定なところに支援部隊を派遣し、万が一全滅した時のリスクが高い』と至極まっとうな見解であった。

この懸念が解消され、派遣に踏む切ったのは当然の如く、高塚の第10師団管区奪還の報であった。

 

 

 

その頃 台湾軍支援部隊輸送船団 『鞍馬』艦内『統合司令部』内

 

 

一番艦『しらね』が解体され、更に深海棲艦出現による艦艇不足と講和後の戦訓から継続運用されている『くらま』は正式な海軍復活に伴い書類等々において艦名を漢字表記になっただけで無く、指揮統制艦に改装されていた。

そして、現在は最高現場指揮官である松島宮の指揮専用艦として台湾軍派遣部隊輸送船団の護衛輪形陣真ん中にいた。

 

 

「やれやれ、台湾軍も動員戦力総出とは…頭が下がるな」

 

 

統合司令部内で松島宮はそう呟いた。

なにせ、台湾海軍は虎の子主力のキッド(左営)級ミサイル駆逐艦4隻の内、3隻を動員している事からもその意志がわかる。

 

 

「今のところ、マグマ軍らしき機影や不審な物の報告もない。まあ、深海棲艦が敵だった頃なら、こんな風には構えていれなかっただろうね」

 

 

「ソノ意見ニハ賛成ネ」

 

滝崎の言葉にそう答えて現れたのは深海棲艦のゴスロリ衣装担当(?)の離島棲鬼。

今回、彼女は深海棲艦側の司令官として鞍馬に乗艦している。

 

 

「賛成されるのもどうかと思うが…まあ、こればかりは実例があるから否定出来んな」

 

 

「あはは…まあ、俺としてはマグマ軍が出るより嫌な話を聞いたけどね」

 

 

「なんだ、それは?」

 

滝崎の言葉に松島宮が訊いた。

 

 

「外務と陸幕が台湾大使館(深海棲艦戦終了後、日本は台湾を正式承認した)に『派遣部隊は沖縄に寄りますか?』と訊いたらしい」

 

 

「…あー、乞食より酷いな」

 

 

「…ゴメンナサイ、話ガ見エナイノダケド?」

 

事情が見えた松島宮、何も知らない離島棲鬼の素直な反応。

 

 

「つまりだ、台湾軍派遣部隊が沖縄に寄港するなら、パレードかセレモニーでもやって、台湾の派遣が外務や陸幕の手柄だと主張したかったんだよ。まあ、台湾大使はそれを知ってか知らずか『一刻も早く部隊を派遣する必要があるので佐世保に直行する』と返答したそうだ」

 

 

 

「…ガメツイト言ウベキカ、馬鹿ト言ウベキカ」

 

 

「高塚が聞いたら、呆れるか罵倒するだけならいいが…下手したら、陸幕と外務に火砲を叩き込みかねん」

 

 

「「うん、やりそう」」

 

この場にいる3人は高塚の事をよく知る3人であり、ブチ切れた高塚が目が笑っていない笑みを見せつけながら何をするか知っているからである。

 

 

「少しは高塚に感謝する事すら出来んのか? あるいは言ってる事に真摯に聞くとか」

 

 

「無理だろう。そうでなかったら、嫉妬と甘言でホイホイと陸自上層部が財務省の味方になる訳ないよ。あれだけ、高塚に警告されたのに」

 

 

「…そうだったな…やれやれ…」

 

 

 

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36 台湾軍派遣部隊

まあ、前話からの流れでわかったとら思いますがね。


登場人物 25

離島棲鬼 深海棲艦 中将

深海棲艦のゴスロリ担当(……)で、元地中海方面管区幹部。
スイーツ・甘物好きで、マルタでも日本でもスイーツ・甘物巡りをしていた。
今回は台湾軍派遣部隊輸送護衛支援部隊司令として、同行していた。


翌日 高田駐屯地

 

 

「初めてお目に掛かります。台湾軍日本救援派遣部隊司令官劉志偉(リウヂーウェイ)大佐です」

 

 

「同じく副司令官の呉恵君(ウーフェンジュン)中佐です。そして、こちらは台湾軍の武器娘です」

 

 

「CM-11アルヨ。よろしくネ」

 

 

「AH-1Wスーパーコブラです」

 

 

「日本奪還部隊司令官の高塚健人です。まあ、既にご存知だと思いますが、よろしく」

 

この日、佐世保の本隊より空路で先行していた台湾軍日本救援派遣部隊先遣隊(派遣部隊司令部要員、並びに各部隊の隊長・副隊長・参謀等の部隊幹部クラスと武器娘)が高田駐屯地に到着した。

 

 

「ご存知も何も、貴方はマルタの英雄、台湾では『マルタの林保源』ではありませんか! 貴方の活躍を聞いた台湾軍の将校達は『根本博中将がマルタで蘇った!』と口々に言っていた程です!」

 

 

「更に我が国の承認の口添えをしてくれた事も聞いております!」

 

 

「あ、いや、根本中将ほか帝国陸軍の方々と比べられるなど恐縮ですし、台湾の承認に関しては海軍と外務が主軸なので、私は別に…」

 

なんだかハイテンションな台湾軍将校達を前にタジタジながら話す高塚。

そして、話の内容にピンとこないが故に呆然とする市ヶ谷と筑波に対して、細川が動いた。

 

 

「あー、台湾軍の皆様。ちょうどこれから、新潟北部奪還の打ち合わせを行いますので、情報共有も含めて参加致しませんか? 別の見地からの意見も必要と思いますので」

 

細川の言葉に台湾軍首脳部も納得し、市ヶ谷の案内で会議室へと移動する。

 

 

「すまん、細川。助かった」

 

 

「いえいえ。ですが、高塚司令、旧帝国陸軍の将星方と比べられるのを謙遜されるのは理解しますが、ご自身のネームバリューを含めて、そこはご理解下さい」

 

 

「いや、アメリカやヨーロッパなんか、俺クラスの人間はゴロゴロいるぞ?」

 

 

「そのゴロゴロ居るヨーロッパやアメリカ、更にロシアが一進一退で苦戦しているの中にほぼ単独でここまでやってのけているんですから…まあ、それが高塚司令のいいところなんですがね」

 

 

「細川、その通りだが言い過ぎてるぞ」

 

 

「筑波、お前さんもか…まあ、自分も修行が足りない事は確かだしな」

 

そう言って苦笑いを浮かべながら、高塚は打ち合わせ場所の会議室に足を向けた。

 

 

 

暫くして 会議室

 

 

台湾軍派遣部隊と山本大佐以下のメンバーの軽い紹介の後、作戦参謀に就任した高田大尉から大筋の状況説明が始まった。

 

 

「…以上、航空偵察等の結果、新発田駐屯地方面に敵移動要塞等は確認されませんでしたが、下越、更には長野方面に敵大部隊が集結しています」

 

高田からの説明に多くの人間が困惑の表情を浮かべる。

そもそも、兵力母数はマグマ軍が圧倒的に優位であり、下越と長野方面に兵力を集めて二正面作戦を強要するなど朝飯前である。

対し、台湾軍派遣部隊が加わってくれるとは言え、主力である日本陸軍の兵数が少ない為、防御にしろ、攻撃しろ、頭を悩ませる。

 

 

「ちなみに、高田大尉。大筋の作戦プランは?」

 

 

「長野方面の敵兵力の事を考えるに、短期間で下越のマグマ軍を粉砕し、ここに戻る必要があります」

 

 

「ふむ、川中島の戦いの上杉謙信の様に襲い、武田信玄の別働隊の様に戻ってくるか…やれやれ、難しいな」

 

歴女高田大尉のフレーズに合わせて言うと、皆と同じく困惑顔だった高田大尉の顔もパッと明るくなり、聞いていた全員も理解出来たのか頷いた。

 

 

「ですが、そうなりますと大兵力との正面衝突になります。敵は我々を留めておくだけでいい。しかし、我々は下越の敵を撃滅・解放後に長野方面の敵に備える為に戻る…行動を縛られます」

 

細川の言葉に『では、どうするか?』の話になり、参加者から様々な意見が出始め、討論戦になる。

そんな中、高塚はジッと地図と偵察報告を眺め、それを細川と市ヶ谷は眺める。

 

 

(さすがにリスクが高い作戦だと思いますが?)

 

 

(そうですね…ですが、視点を変えれば打開策が生まれるかもしれませんよ…高塚司令みたいに)

 

ヒソヒソと市ヶ谷と細川が語り、そう言って細川はニヤリと笑う。

 

 

「…高田大尉、敵さんは長篠をやってるのかい?」

 

 

「長篠…あっ、野戦築城ですね? いえ、今のところは陣張り…部隊配置のみです」

 

 

「陣張りのみか…佐渡って上杉謙信とかの上杉家にとっては重要な資金源だよね?」

 

 

「え? えぇ、佐渡金山は江戸幕府に抑えられるまで……あぁ!!」

 

一連の高塚との会話の流れで何かに気付いて声を上げる高田大尉とその声に討論を止める参加者、そして、ニヤリと笑う高塚。

 

 

「…なるほど、我が方主力で敵主力を誘引し、佐渡島を起点に敵後方へ逆襲上陸を仕掛け、敵を包囲・撃滅する。毛利公の厳島合戦の逆バージョンですね、先輩」

 

桃屋の言葉に高塚は頷き、続ける。

 

 

「うむ、佐渡島には海軍の警備隊と警備府があるし、海からの攻撃は海の苦手なマグマ軍にとっても心理的に効くだろう。そうなると、問題は投入戦力だが」

 

 

「ならば、我々陸戦隊が志願致します!」

 

台湾軍派遣部隊先遣隊の中に居た中華民国海軍陸戦隊(台湾軍海兵隊)指揮官が立ち上がった。

 

 

「アメリカ海兵隊と共に鍛えてきた我々でありますし、逆襲上陸は我らの十八番。さっそく十八番で盟友の役に立てるなど、武人の誉れと言ってよい事ですから!」

 

 

「…急な作戦です。部隊行動に支障はありませんか?」

 

 

「御心配にはおよびません。陸戦隊を含めた本隊は休息と日本の環境に慣らせる為に暫く佐世保に留まる事になっています。今からでも対応可能です。また、私を通じて海軍へ支援要請を行いましょう。海軍も喜んでお手伝いしてくれる筈です」

 

 

劉大佐の言葉に高塚は頷いた。

 

「わかりました。こちらも部隊は無理でも輸送艦等の都合はつけましょう」

 

 

「ならば、我々も本国に打診してみよう」

 

そう言って山本大佐がニヤリと笑う。

 

 

「我々も部隊は無理でも、太平洋艦隊の艦艇ぐらいは回してくれる筈だ。海軍も艦艇は出番が無くてウズウズしているだろうしな」

 

 

「ありがとうございます…では、新潟北部奪還の大筋な作戦は以上となります。詳細なスケジュールは各隊の準備が整い次第お知らせ致します。以上、解散!」

 

 

 

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37 パナい!

……もう少し、題名はどうにかならなかったのか?(自己反省)


登場人物 26


劉志偉 台湾陸軍 大佐

台湾軍日本救援派遣部隊司令官。
軍人一族の出身で祖父は根本中将の指揮下で金門島防衛戦に参加している。
派遣部隊司令になったのはそこら辺の影響もある。


呉恵君 台湾陸軍 中佐

台湾軍日本救援派遣部隊副司令官。
両親は普通の会社員だが日本駐在経験もあり、本人も日本に住んだ事がある事、また、派遣される女性隊員や武器娘の配慮から副司令官に就任した。


CM-11 台湾軍

台湾軍の武器娘。
アメリカからの戦車供給を絶たれた台湾がM60の車体にM48の砲塔を積んだハイブリッド戦車として開発された。
(その後、方針転換によりM60が供給されたが…)
長らく第一線にあったが、アメリカがM1エイブラムスの売却を発表、矢面からは外れたが、数的には主力であり、今回の日本への対マグマ軍救援には地形等の関係により、彼女の派遣が決定した。
(故に台湾軍戦車隊はCM-11を装備)


AH-1Wスーパーコブラ 台湾軍


台湾軍の武器娘。
長らく主力にあったAH-1コブラの強化改修版でヘルファイヤ対地ミサイル使用能力がある。
アメリカがAH-64ロングボウアパッチの売却を決めたがそのアパッチと同性能であり、これからも長らく主力にあると思われる。






翌日 佐渡島 佐渡島警備府

 

 

「皆、急だが我が警備府に大任を任せられたよ」

 

警備府幹部達や艦娘の隊長クラス達が集まる中、深海棲艦事変時に少佐任官で提督となり、事変後も海軍に残り、今は警備府司令となった若い少将が言った。

 

 

「わざわざ佐世保からなんと?」

 

副司令である海自からの古参組で皆から『親父さん』と言われて慕われている古老の大佐が皆を代表して訊いた。

 

 

「佐世保と言うより、鞍馬の松島宮総司令からだ。近々、陸軍さんの高塚少将が下越奪還を行うんだが、台湾軍海兵隊を中心に逆襲上陸を仕掛ける。その部隊の受け入れ、並びに支援を任せられた」

 

 

「「「「「「「「な、なんだって!!!!」」」」」」」

 

今度は全員が驚きの声をあげる。

 

 

「それは大事ですね」

 

長年の経験故に冷静に返す副司令。

しかし、既に彼の頭脳では経験から必要な事を引き出して計算していた。

 

 

 

 

その頃 佐世保 鞍馬艦内 司令官室

 

 

 

「やれやれ…たった一晩、たった一晩でこれだからな」

 

そう言って苦笑いを浮かべながら松島宮は資料を机に投げる。

投げられた資料をこれまた苦笑いを浮かべながら滝崎は受け取った。

高塚から佐渡島からの逆襲上陸を提案され、その協力を頼まれた2人は快く承諾した。

しかし、急な作戦にもかかわらず、困った事(良い意味で)が発生した。

台湾軍からは陸戦隊は参加、参加艦艇を抽出中と返答があった。

また、山本大佐からの要請らしく、ロシア海軍の連絡武官がロシア太平洋艦隊艦艇並びに海軍歩兵隊の参加を報せてくれた。

そして、最後には何処から噂を聞きつけたのか、アメリカ海軍連絡武官からも参加表明が出たのである。

 

 

「とりあえず、今の段階で確定なのはアメリカからはアーレンバーグ級駆逐艦マスティンと揚陸艦艇に海兵隊、ロシアからはソヴレメンヌイ級駆逐艦ブールヌイ、ウダロイ級駆逐艦アドミラル・トリブツ、ロプーチャ型戦車揚陸艦ペレスヴェレートに海軍歩兵隊…双方、『艦艇は別として、部隊は派遣予定だった物を繰り上げ派遣する』との事だとか」

 

 

「まあ、ホントではあろうが…まったく、勝ち馬乗りとはこの事か? まあ、我らもマルタで経験しているがな」

 

 

「仕方ないさ。深海棲艦は海だったからこそ、内陸国は他人事だった。しかし、今回は陸だ。島国も内陸国も人間が陸上動物である限り無関係どころか、民族・人類の存亡に関わるしね」

 

 

「……やれやれ、第三者の様な敵が現れないと団結出来ないと言うのも色々と危ういが…それはとりあえず、横に置こう。後はどれくらいの部隊が来るか、だな」

 

 

「まあ、そうなると高塚の仕事だけどね…さて、ロシアからの『例の件』はどうする?」

 

 

「海軍上層部は承諾するだろう。政府は…まあ、なんとかなる。陸幕は放っておけ。どうせ、高塚以外は話すらロクに聞かんだろしな」

 

 

 

 

 

その頃 その高塚は……

 

 

「アメさんとロシアさん、パネーす!!」

 

 

「司令官、大丈夫? 壊れてない?」

 

 

「大丈夫だよ。あんな風に言えるなら、まだまだ壊れてないよ」

 

高塚の叫び様に鯖江が訊き、筑波が冷静に答える。

 

 

「いやいや、だってさ、支援の先発第二陣の内容が第一陣と同数数量な上にプラスαなんだよ? アメリカさんはスーパーコブラを一気に10機、カイオウ偵察ヘリ4機付きだよ! しかも、ロシアはM i17に加えてMi24ハインドだし! 更に更にロシアさんはT55やT62も付けてくれてるし! なにこれ? 陸自幹部達は卒倒して寝込むレベルだよ!」

 

 

「…少将がハイテンションでおかしくなってる」

 

 

「高塚司令、とりあえず落ち着きましょう」

 

唖然とする富山に対し、細川は冷静に対処する。

 

 

「なお、アメリカは戦車が無い代わりに武器娘2名の派遣との事です」

 

 

「ふ、普通じゃあ無いです…さすがアメリカ…」

 

 

「…ちなみに我ら陸自、もとい陸幕からは?」

 

冷静な不知火が淡々と追記事項を述べ、金沢はその内容に驚き、高田がおずおずと訊いた。

 

 

「よくぞ訊いてくれた。『東京に行かずに北陸を北上してどうすんだ!』と言う抗議兼叱言と武器娘1名に九州の部隊が装備転換で廃用にする筈だった74式戦車4輌、後生大事にして駐車場の置物にする気満々だった19式155㎜自走装輪榴弾砲の増加試験車2輌だ」

 

 

「「「「「「「「「「……えっ!?」」」」」」」」」」

 

高塚からの言葉に全員がそう言って呆然となった。

 

 

「…言っとくが、ガチな話だからな」

 

 

「それって支援って言うんですか!?」

 

 

「おぉ、市ヶ谷大尉。ナイスツッコミだ」

 

市ヶ谷のツッコミを山本大佐が褒める。

 

 

「やれやれ、流石腑抜け連中の多い陸幕だな」

 

 

「ちなみにロシアからの支援で来た戦車の総数は幾らでありますか?」

 

 

「えーとね…T62は4輌、T55は12輌」

 

 

「約1個戦車中隊分ですな」

 

何時もの事に呆れ果てる神州丸、戦車の数を気にするあきつ丸とそれに答える桃屋、そして、数を聞いて頷く大桐准尉。

 

 

「まったく、台湾軍は出来る限りの火砲を持ち込んでくれたのに対して、上層部のアホ共は…」

 

 

「司令、ボクとしては防空部隊の拡充を進言したいんだけど…」

 

 

「わかった、空約束にならない様に努力してみる」

 

台湾軍砲兵隊と陸幕の対応に呆れる松堂2曹、支援内容に進言を入れる豊川、それを聞いて受け入れる高塚だった。

 

 

 

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38 受け入れ

先週は更新出来なくてすみませんでした。
本日は午後に本日投稿予定分を投稿します。



登場人物 27

不知火 海軍艦娘(出向員) 曹長

陽炎型駆逐艦2番艦にして元マルタ島鎮守府所属の水陸研出向員。
マルタでは滝崎の秘書艦であった事もあり、水陸研でも秘書艦業務に従事しつつ、神通水雷戦隊員として働いてもいる。
今回も秘書艦兼戦闘員。


翌日 高田駐屯地

 

 

「ようこそ…とは優雅に言え無いが歓迎するよ」

 

明野が連れて来た武器娘3人、陸自のAH-1コブラ、アメリカ軍のM3A3ブラッドレー騎兵戦闘車、M50オントス自走無反動砲を前に高塚が和かに言った。

 

 

「先ずは初めに…コブラ、君は早速、工廠な」

 

 

「ちょっと! それ、どう言う…」

 

最後まで言えなかったのは天龍と龍田がコブラをそのまま工廠へと連行した為であった。

 

 

「………」

 

 

「…あの、コマンダー、戦闘ヘリに恨みでもあるの?」

 

引き気味のオントス、唖然としながら訊いてくるブラッドレー。

 

 

「いや、ホントに火急的に改修が必要だったからね…ブラッドレーとオントスはアメリカ陸軍部隊来援までウチの司令部の直轄だ。不知火、2人の案内を頼む」

 

 

「わかりました。どうぞ、此方へ」

 

高塚の指示を受けた不知火は2人を案内する為、2人を連れて退出した。

 

 

 

 

その頃……

 

 

「73式APCの件だが、なんでここまで派生出来なかったのかね?」

 

 

「『販売相手が自衛隊だけ』だったからでしょう」

 

並んだ73式APCを見ながら筑波と細川が話していた。

いま2人の前には今まで歩兵科にあったA型(M2重機関銃装備)、B型(40㎜擲弾銃装備)、コマンドカー型だけでなく、新たに改型(試作で終わった機関砲搭載型)、ATM(対戦車)小隊用の重・中MAT搭載型、迫撃砲小隊用の重・中自走迫撃砲型、衛生科用の非武装救急車型が並べられていた。

 

 

「60APCの後継の筈なのに、60がやった自走迫撃砲型やMAT搭載型をしなかった上に、開発費回収で割高になって、その影響で発注数を減らして悪循環化したんですよ? 似た様なM113なんか、アメリカでも改修されて現役だし、世界中にばら撒かれた物も様々な派生型があるのにですよ! おかしいでしょう!!?」

 

 

「す、すまん、細川。俺はそっちの類は苦手なんだよ…マルタで散々思い知ったけど」

 

細川の高塚並みのヒートアップ振りに落ち着かせる筑波。

 

 

「筑波先輩、余計な事だと思いますけど、高塚司令だけでなくて、桃屋先輩や山本大佐からも色々と教えてもらった方がいいと思いますよ」

 

 

「それは…わかってるよ…なにせ、知っての通り、深海棲艦への復讐の為に軍人になった馬鹿だからな…」

 

 

「それぐらいの馬鹿なら、まだマシです。最大の問題は今の陸自上層部がガンダムの連邦軍並みの『バカ』揃いな事です」

 

 

「ほんと、お前さん、容赦なく言うな」

 

 

「現状、日本人特有の空気を読んで発言を控える、は無意味です。それは筑波先輩も御承知では?」

 

 

「お偉いさんの部署を経験すると、そこら辺がわかってしまうんだよ…もちろん、高塚司令は違うがね」

 

苦笑いを浮かべながら筑波は言った。

 

 

 

これまた、その頃……

 

 

「やれやれ、我らは歳をとったよ」

 

 

「まったくですな」

 

次々に高田駐屯地へ運びこまれる兵器や物資を見ながら大桐次郎准尉は新たにやって来た元マルタ島派遣警備隊の岡元二郎准尉と話していた。

 

 

「我々が若い頃など、ロシア軍と戦う事は想定していても、彼らの兵器を使い友軍として戦うなど御伽噺でしたからな」

 

 

「更に台湾軍と共闘など夢にも見なかった話だった」

 

 

「時代は変わった…変わらなかったのは…いや、『変わる事を拒み続けた』のは陸自だったと言えるのかもしれませんな」

 

若き日を懐かしみ、そして、変わりゆく事を自覚しながら、2人の准尉は話している。

 

 

「それは我々もです。特に私など、マルタで様々と『世界の現実』と言うヤツを見てきましたからね」

 

そんな両准尉の話に入ってきたのは元マルタ島派遣警備隊で機甲科要員として派遣されていた谷沢佐武朗曹長と案内していた松堂二曹だった。

 

「谷沢曹長、そちらはどうかね?」

 

 

「戦車が回せるのが74で4輌だけとは情けない限りですな。ロシアからの支援品をみせて、陸幕連中の目を覚ましたいぐらいですよ。旧型とは言え、16輌をポンと出してくれますからね」

 

岡元准尉の質問に谷沢曹長は皮肉交じりで答えた。

 

 

「だが、聞いたところでは、T55は砲身が無い状態だったと聞いているが?」

 

 

「それについては解決済みだ。明石技師長や水陸研の工廠妖精達が改修してくれる。マルタでの腕を知れば、陸自随一の技量持ちなDSだからな」

 

松堂二曹の言葉に谷沢曹長はニヤリとしながら答えた。

 

 

「ならば、我ら古参はやれる事をやるだけか。まあ、高塚司令が最悪な手札を出す事は余程の事が無い限り、無いだろうがね」

 

 

「最悪な時に最悪な手札を出しそうなのはどちらかと言うと、陸幕連中な様な気がするがね…未だに東京奪還しか眼中にないらしい」

 

 

「はぁ…まだ、高塚司令の方が合理的な説明をしてるだけに、余計に馬鹿さ具合が目立ちますな」

 

 

「まったくだ…マルタでその馬鹿さ加減を見たんだろう?」

 

 

「あぁ、山本大佐の民兵隊やドイツ海兵隊、挙句はイタリア憲兵隊の実力をこの目で見てきたからな。陸自の実力など、たかが知れてるよ」

 

 

「ならば、我らロートルが意地を張るしかあるまい。『昭和の兵隊』としてな」

 

 

 

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39 逆襲上陸

皆さんお待たせしました。
本日分です。


登場人物 28

M3A3ブラッドレー アメリカ陸軍

アメリカ陸軍がM113の後継として開発したM2ブラッドレーの偵察用バージョン(故に『騎兵戦闘車』)。
戦車やらなんやらを支援品として出したロシアの対抗心(?)でアメリカ陸軍から派遣された。

M50オントス自走無反動砲 アメリカ海兵隊

ベトナム戦争に参加したアメリカ版豆タン。
戦績が微妙だったり、対戦車ミサイル・携帯対戦車兵器普及でお払い箱になったが、マグマ軍侵攻により武器娘として復活した。
ブラッドレーと同じくアメリカ海兵隊から対抗心で派遣された。

AH-1Sコブラ 陸自

陸自初の対戦車ヘリとして長きにわたり一線配備され、アメリカを始め数多く配備されている戦闘ヘリコプター。
本人は駐屯地娘の木更津茜LOVEなのだが、高塚の所にはまだ来ていない上に陸幕から派遣早々に高塚が明石達にボッシュートするぐらい装備の旧式化が目立っていたりする。

岡元二郎 陸自 准尉

元マルタ島鎮守府派遣警備隊最先任。
派遣終了後は原隊に復帰したが、マグマ軍侵攻と高塚の奪還部隊司令部要員充足の為に派遣された。
大桐准尉とは入隊同期。

谷沢佐武朗 陸自 陸曹長

元マルタ島鎮守府派遣警備隊機甲隊陸曹。
派遣終了後、原隊の戦車教導団に戻ったが、部隊の再編成とマグマ軍侵攻により、今回高塚の奪還部隊司令部に派遣された。
今のところは戦車隊を任せる予定。


2日後 夜 対馬沖 鞍馬艦橋

 

 

 

「そろそろ会合時間だね」

 

 

「あぁ、そうだな…レーダー、並びに目視の見張りは厳となせ」

 

 

「はい」

 

滝崎の言葉に松島宮は素っ気なく答えると同時に改めて見張りへの注意を促す。

 

 

「ココニマグマ軍ガ来ルトハ思エナイケド?」

 

そして、今回もちゃっかり(?)乗っている離島棲鬼が不思議そうに訊いてきた。

 

 

「いや、どちらかと言うと『会合相手』がレーダー索敵におけるステルス性に先鞭を付けた艦艇だからね……気を付けておかないと、事故って真っ二つにされる事になるからね」

 

苦笑いを浮かべながら答える滝崎。

そして、暫くして、『会合相手』は現れた。

 

 

「……西側が『巡洋戦艦』と言いたくもなる威容だな」

 

 

「絶対、言い始めたのはイギリスだと思う…だが、ホントに流石ロシアが誇る現代世界最大の戦闘艦艇だ」

 

滝崎と松島宮がそう語る艦艇…ロシア海軍『キーロフ』級原子力巡洋艦3番艦『アドミラル・ナヒーモフ』がその堂々たる威容を見せ付けるが如く現れた。

 

 

「『マグマ軍侵攻で一部艤装を突貫工事で完成させたアドミラル・ナヒーモフを整備出来る様に取り計らってくれたら、日本奪還までナヒーモフを専属艦として派遣してもよい』と打診された時は驚いたが…まあ、今は仕方無しだな」

 

 

「あぁ…まあ、ナヒーモフを作戦に投入して、プロパガンダに使いたいんだろうけど…お互い様だしな、この場合」

 

そんな会話を交わし、鞍馬とアドミラル・ナヒーモフは佐渡島へと舳先を向けた。

 

 

 

翌日 深夜

 

 

 

「で、マグマ軍の動きは?」

 

 

「信濃川の本流や支流を巧みに利用して配置したままです。確かにこれなら、余計な陣地は必要ありませんね」

 

高塚ね問いに市ヶ谷が答えた。

 

 

「まあ、あれだけ無線でわざとらしく『全部隊を使って信濃川を突破して、新発田駐屯地に向かうぞ』って流しましたからね」

 

 

「しかも、信濃川を渡って消耗している我々を燕市・三条市・加茂市がある広い平野部分で大部隊なのを活かして潰せばいいだけですし」

 

筑波と細川の言い様に苦笑しながら言った。

 

 

「おいおい、今回は本隊が目立たないと作戦の意味がないんだぞ? これくらいはしないとな」

 

 

「目立ち過ぎてバレませんかね?」

 

 

「上陸作戦の話はまったくしていない。まあ、勘のいい奴なら気付くだろうが、その前に決めればいい話だ。市ヶ谷さん、桃屋に伝令を。『事前通りの砲撃で頼む』と」

 

 

「わかりました」

 

 

 

更に翌日 明朝 佐渡島〜新潟間海上 鞍馬艦内『統合司令部』

 

 

 

「3、2、1、0! 作戦開始時間!」

 

 

「全参加部隊に作戦開始を打電せよ!」

 

カウントダウンをしていた滝崎の言葉に松島宮が各国の連絡将校を含めた通信員に指示を飛ばした。

 

 

「さて、いよいよ、高塚達の芝居のメインになったね」

 

 

「芝居のメインか…まあ、本隊の高塚は必死にマグマ軍相手に芝居をしているのだから、その表現も間違いではないがな」

 

 

「ホントだったら、ゆっくり観てもらいたいけど…残念ながら、今回の演劇はテンポが早いからね」

 

 

「時間との勝負だからな。まあ、それは誰にとっても一緒だがな」

 

 

「故に我々の支援と上陸部隊の練度が物を言うが…後は皆を信じるだけだ」

 

そう言って松島宮は騒がしくなった司令部に視線を移した。

 

 

 

 

鞍馬から発せられた作戦開始の打電に各上陸部隊と支援部隊は動き出した。

先ず手始めに対馬まどか隊を始めとしたアメリカ・台湾海兵隊とロシア海軍スペツナズが夜の暗闇を利用し、各所上陸地点の偵察・安全化を図る為に各種手段にて上陸した。

今回、新発田駐屯地奪還と敵主力部隊撃破の為、上陸作戦は阿賀野川以東の海岸に上陸する事が決定しており、また、対馬隊においては阿賀野川河口以西にある新潟空港の確保の命を受けていた。

そして、各先行隊は甘いマグマ軍の海岸監視の隙を突き、素早く上陸地点を確保し、更に先へと浸透していた。

この為、日の出前の薄明るくなった海岸をアメリカ・台湾海兵隊もロシア海軍歩兵部隊も何の妨害も受ける事無く上陸部隊第一陣が着岸した。

アメリカ海兵隊はワスプ級強襲揚陸艦ワスプ、深海棲艦・マグマ軍出現で再就役したタワラ級強襲揚陸艦ペペリュー、サン・アントニオ級揚陸艦グリーン・ベイらからLCACとヘリを使い海兵隊を海岸へ運んでいく。

台湾海兵隊は海軍から借りた大隅型揚陸艦3隻のLCACや自国のアンカレッジ級揚陸艦旭海のLCU・LCVP、ニューポート級戦車揚陸艦のビーチイングで対応している。

ロシア海軍歩兵部隊はロプーチャ型戦車揚陸艦ペレスヴェレートをビーチイングさせ、歩兵部隊はヘリによる佐渡島からのピストン輸送の形をとっていた。

上陸後、アメリカ・台湾海兵隊は阿賀野川沿いに展開し、マグマ軍の封じ込め、ロシア海軍歩兵部隊は残存戦力で包囲されている新発田駐屯地解放に向かう予定であった。

 

 

 

一方のマグマ軍は対応が出来なかった。

何故なら、新発田駐屯地包囲部隊を除けば数カ所の海岸近くに『沿岸監視隊』として5名ほどの人員を貼り付けていたに過ぎず、その人員を掻き集めても60人にも満たず、更に僅かなRPGを除けば個人火器AK47か軽機関銃しか無い状況であった。

そこに形態は違えど戦車・装甲車に完全武装の多数の兵員、加えて海軍艦艇や艦娘の援護が控えているとなると結果は明らかであった。

また、場所によっては一般人居住区や石油備蓄施設がある事を知っていたマグマ軍兵達は海岸部での抵抗を諦めて本隊・包囲部隊との合流の為に後退するか、上陸を本隊・包囲部隊に通報した後に通信機器を破壊し、上陸部隊に投降するかのいずれかを選択した。

そして、高塚率いる奪還部隊本隊と対峙していたマグマ軍本隊は後方への逆襲・強襲上陸に浮き足立つ事になった。

 

 

 

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40 防衛線破砕

高塚達本隊・台湾軍本隊の動きについてです。


奪還部隊司令部 73式APCコマンドカー前

 

 

 

「鞍馬より打電! 『佐渡の朝日はとても綺麗だ』以上です!」

 

マグマ軍に対し砲兵隊による牽制射撃を見守っていた高塚達に細川が叫んだ。

 

 

「『上陸成功。抵抗は皆無』だな! 全部隊に対し、第二段階への移行を通達! ウチらも動くぞ!」

 

それ聞いた高塚はニヤリと笑うとそう指示を飛ばす。

 

 

「ちなみにさっきの暗号って何か違うの?」

 

 

「抵抗を排除しての上陸成功は『佐渡の朝日は綺麗だ』です。『とても』が無血上陸を示す符号です。なお、苦戦した場合は『佐渡は曇りで朝日は見れない』、失敗は『佐渡は悪天候下にあり』です」

 

筑波からの問いに細川が答えた。

 

 

「な、なるほどな…と、なると、次は…」

 

 

「えぇ、敵さんが動揺した瞬間、『花火』の時間です」

 

 

 

暫くして 抽出特科隊

 

 

「了解! 射撃中の砲班に通達! 作戦は第二段階に移行した! 事前通知した通り射撃法を変えるぞ!」

 

桃屋の指示に特科隊司令部通信班が無線機の送受話器を片手に段階移行と射撃停止を報せる。

 

 

「隊長、普通科から中・重迫撃砲の準備完了と連絡がありました。なお、台湾軍も迫撃砲を含め、射撃中の自走砲を除き準備よし、と連絡がきました」

 

部隊間通信を受けた松堂二曹が報告する。

 

 

「よし、後は砲撃していた火砲の修正と装填が終わって、高塚先輩の指示が有ればいつでも本命が撃てるな」

 

ニヤリとしながら桃屋が言った。

今までの台湾軍を含めた砲撃は欺瞞と牽制に過ぎない。

何故なら、本命たるオカ自走砲達や19式装輪自走砲は射撃態勢下で待機中であり、台湾軍も『本命』が待機している。

つまり……本気は出していないのだ。

 

 

「さあさあ、高塚先輩。いつでも言ってきて下さいよ。『花火』の準備は出来てるんですからね」

 

 

 

再び奪還部隊司令部

 

 

 

「敵さん、動きますかね?」

 

 

「愚問だな。ここと新発田駐屯地包囲部隊以外の大規模部隊は存在しない。つまり、後方は空白地帯だ。そこに規模不明の敵部隊が入り込んだとなれば分断され、しかも背後を脅かされる。そんな状況を放置も出来まい。何故なら、向こうには上越から撤退・収容した部隊もいる訳だから、そこら辺の怖さはわかってるだろう」

 

筑波の呟きに高塚が答え、それに苦笑いを浮かべながら筑波は言った。

 

「つまり、どちらにしても動くしかないと…いやはや、ある意味エゲツない」

 

 

「仕方ないさ、戦は物的でもあり、実力的でもあり、心理戦でもあるし、戦術・戦略・大戦略と関わる物だ…こんなの、まだ生温い方だよ」

 

そんな会話を交わしていた時、細川が報告してきた。

 

 

「高塚司令、上空のプレデターの映像から敵部隊後方に動きあり! マグマ軍、一部部隊を反転させ、上陸部隊に向ける模様!」

 

 

「動いたな、マグマ軍! ウチと台湾軍の砲兵隊に連絡! 射撃開始!!」

 

待ちに待った射撃命令に抽出特科隊と台湾軍砲兵隊、そして、双方の迫撃砲が一斉に砲撃を開始した。

射撃を中断していた105㎜榴弾砲、台湾軍のM109 155㎜自走榴弾砲はもちろんの事、19式装輪自走砲、武器娘達、そして、台湾軍が持ち込んだ117㎜45連装多連装ロケット砲『工蜂IV』、台湾軍自慢の自国産重ロケット砲『雷霆2000』が一斉にその鉄の豪雨をマグマ軍に向けて撃ち込む。

特に『雷霆2000』は持ち込んだ4両全てが227㎜12連装タイプのMk45(117㎜・182㎜・227㎜の3タイプ)であり、その破壊力と面制圧能力は絶大で、無防備なマグマ軍部隊数個を瞬く間に吹き飛ばした。

多連装ロケットの斉射後、各榴弾砲・自走砲、歩兵の迫撃砲が掃射の打撃を受けたマグマ軍に対し追い討ちを掛ける。

しかも、既に先の牽制射撃で充分過ぎる程、試射をしており、その観測での修正分を加味して照準している為に面白いぐらいにマグマ軍部隊の周囲に着弾する。

この猛烈な射撃に上陸部隊対処の為の分遣隊だけでなく、このままこの場で防衛する為に居残る部隊にも動揺と混乱を巻き起こし、パニックになったマグマ軍は自然に後退していった。

 

 

「よし、明野にあきつ丸! 戦闘ヘリ隊を展開して航空優勢を取れ! 各隊前進開始! 工兵隊は仮設橋ら渡河装備展開! 信濃川を渡れ!!」

 

 

「我らも日本軍と海兵隊に遅れをとるな! 今こそ台湾軍の武勇の見せどころだ!!」

 

 

「さあ、同志達よ! 我らの時間だ!!」

 

高塚と劉大佐、山本大佐の指示に各隊が動き出す。

特に富山・鯖江・第5施設群・台湾軍工兵隊は仮設橋を含めた渡河機材を準備し、展開していく。

施設科からすれば使用機会の多い仮設橋を含めた渡河機材、更に第5施設群は地元である事もあって、慣れた様子で仮設橋を架けていく。

 

 

「第5施設群より連絡! 仮設橋1つが架け終わりました!」

 

 

「さすが地元部隊だ。後で一番に架け終わった人員を表彰しないとな! 谷沢曹長、お願いします!」

 

 

「わかりました、高塚司令! お嬢様方をエスコートしよう。戦車前進!」

 

細川の報告に高塚が戦車隊に指示を出し、指示を受けた谷沢曹長が車長ハッチから前進命令を出す。

4輌の74式戦車に続き、武器娘の74と61、M4、随伴歩兵を連れて仮設橋で渡河していく。

 

 

『こちら谷沢。渡河後のマグマ軍からの妨害ありません」

 

 

「了解しました。そのまま、安全化をお願いします。作業が終わった仮設橋より各自渡河せよ! 司令部も移動だ」

 

 

 

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41 追撃 前編

数話構成の予定。



暫くして 信濃川対岸

 

 

戦車隊が渡った仮設橋で渡河した奪還部隊司令部は先の多連装ロケットや長距離火砲砲撃で潰しきれなかったマグマ軍火砲が時たまに砲撃し、その砲弾が降ってくる対岸へ進出した。

 

 

「まあ、取りこぼしはあると…伏せろ!」

 

砲弾の飛来音に気付いた高塚が叫ぶと同時に伏せ、周りもそれに合わせる。

飛来した122㎜榴弾はかなり前方に着弾し、虚しく泥と土を巻き上げるのみにおわる。

 

 

「もう少し安全化が完了してから渡河した方が良かったのでは?」

 

 

「それまでに他の人間を的にするなんて意見は俺は却下だよ」

 

市ヶ谷の言葉に高塚はやんわりと断る。

その時、前方であきつ丸から出たOH-1がハイドラ・ロケット弾ポットで見つけた122㎜榴弾砲を吹き飛ばすのが見えた。

 

 

「敵の砲兵は頑張りますね」

 

 

「仕方ないさ。さっきの多連装ロケットの斉射とその後の制圧射撃を受けた中で被害も軽くて、前線から一歩引いた位置に居るんだ。戦列が混乱する中で敵を抑えれて、時間を稼ぐにしても、後退を支援するにしても、冷静に動けるのはアウトレンジ出来る砲兵だけさ」

 

筑波の感想に自身も砲兵であるが故にその心情がわかる高塚が言った。

 

 

「ですが、その割には精度が粗いですね」

 

 

「着弾観測修正が出来ていないんだろう。本来なら、信濃川で迎撃する筈だったからな…観測手も居ない中で撃ってる訳だから、精度も悪いだろう。まあ、当たったらヤバイがな」

 

細川の言葉に高塚は言った。

明野飛行隊とあきつ丸隊、更に台湾軍ヘリ部隊が上空を抑えた為、何の妨害も受けない施設科・工兵隊が次々に仮設橋を架け終え、それを奪還部隊・台湾軍が次々に渡って来ていた。

 

 

 

その頃 ロシア海軍歩兵隊&高田普通科隊

 

 

 

「……聞いてたけども凄いわね」

 

作戦参謀兼ロシア海軍歩兵隊の道案内役の高田は乗り込んだMi-17から進撃するロシア海軍歩兵隊を見ながら呟いた。

次第浜海水浴場から上陸したロシア海軍歩兵隊と案内を務める高田普通科隊は新発田市街中央部にある新発田城跡公園に併設している新発田駐屯地に向けて前進していた。

ロシア海軍歩兵隊はT-90戦車、PT-76水陸両用戦闘車を先頭にBMP・BTRシリーズが続く形で203号線を南進し、空には高田達のMi-17の他、海軍歩兵隊のKa-27の強襲輸送型のKa-29が兵員を乗せて飛んでいる。

この光景に最近、高塚との世間話(歴史好き同士の会話)を通しての近代戦=戦国合戦への変換による理解が進んでいるので高田は呟きながら内心悪寒を感じていた。

何故なら、(もし、村上水軍によって運ばれた騎馬隊を含む武田軍が新潟に強襲上陸し、主力不在の歩兵で防げって言われたら、君は出来るかい?)なんて事を冗談混じりで訊かれた時、高田は(謙信公が居ないと難しい)と答えてしまった。

そして、それを今の現状に組み替えると高塚の冗談が現実味を帯びてくるのだ…冷戦中、ソ連軍が計画していた『新潟上陸による東京奪取』と言う作戦にである。

 

 

『こちら、アムールスク。ケンシン、聞こえるかね?』

 

そんな時、海軍歩兵隊指揮官からロシア訛り混じりの日本語で通信がヘッドセットを通じて入ってきた。

 

 

「あ、こちら、ケンシン、感度良好。アムールスク、どうぞ」

 

 

『こちらも感度良好だ。ところで向かう先のシンハツダ・ベースの周囲は市街地だと昨日聞いたが、マグマ軍はベースのみを包囲しているのかね?』

 

 

「それについてはなんとも…どうやら、市街地内で駐屯地を包囲する部隊と郊外に展開し、第二包囲線を形成する部隊があるようですが…」

 

そこからハッキリしないのはマグマ軍に動きを悟られない為に新発田駐屯地への通信を行なっていない事が大きい。

実は副官の市ヶ谷は各種通信手段での接触を高塚に進言したが、高塚は苦い顔を浮かべたまま全て却下した。

市ヶ谷と高田もその事が気になったのだが、細川が代わりに答えてしまった。

曰く「行政文書で開示する上に、『鉄血』の件があるから慎重なんですよ」と。

 

 

『了解した。ならば、状況によってはこちらのやり方で対処する。無論、一般人の事を考慮するが…後は神に祈る事をお勧めする』

 

歴戦の佐官の言葉に高田は何も言えなかった。

何故なら、昨日あいさつに行った時、彼の経歴を聞き、彼女は高塚が見たであろう現実の一部を知ったからだった。

 

 

 

同じ頃 新発田駐屯地

 

 

 

「だから、味方が救援に来てるんだろう? だったら、員数外の俺らで見に行くだけだから」

 

 

「それが困ります! 味方でない可能性があるんですよ!」

 

駐屯する30普連の予備用の鉄帽と防弾チョッキを着込んだ一尉が同じくフル装備の30普連の一尉に言われながら歩いていた。

 

 

「ロシア海軍まで来てるのにか? マグマ軍とロシア軍が組んだなんて話は聞いた事がないよ」

 

 

「別部隊、北部方面隊の幹部に何かあったなんて事は許容できません」

 

普段はここまで硬くない30普連の一尉の言葉にマグマ軍兵から奪ったAK-47に手を伸ばしながら松塚壱勇(まつつかいちいさ)一尉は言った。

 

 

「新発田一尉、その言葉は散々聞いたが、もう我慢出来ない。だいたい、敵が上越方面に兵力を集中しているのを指咥えて見ていた挙句、ロシア軍が門前まで来るまで亀みたいに閉じ篭っておくつもりか? 帝国軍に居た祖父が聞いたら呆れて物も言えないよ」

 

駐屯地娘の新発田渚一尉との会話をそう言って打ち切った松塚はそのままズンズンと歩いて行く。

 

 

「ですが…鈴木一尉! 松塚一尉を止めて下さい!」

 

 

「あー、同期として言わせてもらえば、俺も我慢の限界なんだよね」

 

先輩であり、松塚と同期生である鈴木慎也(すずきしんや)一尉はニコニコしながらそう言った。

 

 

「金持ちイケメンが随分とアッサリ言ったな」

 

 

「敵にしろ、味方にしろ、このまま穴熊決め込むって言うのも癪に触るからね」

 

同期同士の会話に唖然とした新発田は最後の望みである彼らの同期にして松塚と同じ隊の同僚で同性の松平一尉を探して周囲を見回す。

だが、探していた松平弓子(まつだいらゆみこ)一尉もAK-47を持った完全装備で出て来てしまい、新発田の望みは絶たれた。

 

 

「遅いぞ、松塚…ん? 新発田一尉、どうしたの?」

 

最後の望みが絶たれたと知らない松平は愕然とする新発田へ呑気そうに訊くだけだった。

 

 

 

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42 追撃 中編

人物紹介は次号で纏めてやる予定。


同時刻 阿賀野川東岸沿い

 

 

新潟空港を占領した対馬隊は主力とアメリカ海兵隊の一部部隊を守備に残すと島見浜・太夫浜海岸に上陸したアメリカ・台湾軍海兵隊に同行し、阿賀野川沿いを進んでいた。

沿岸監視の小部隊を除いてまったく敵がいない中を爆進していく。

台湾軍海兵隊はM60パットンを先頭に、アメリカ海兵隊はM1エイブラムスの海兵隊仕様を先頭に進んでいた。

特にこの手に慣れている実戦経験豊富なアメリカ海兵隊は湾岸戦争並みの進撃振りである。

 

 

「…海兵隊とは水陸研で訓練した事もあるから実力は知ってるけど…やっぱり、すごい」

 

水陸研での訓練により、レンジャー部隊ながらも西普連の様とは言えないまでも準水陸両用部隊となった『山猫部隊』。

高塚は対馬の防衛に対して攻守の要となる『山猫部隊』の両用能力の不備に危惧を感じて……実は対馬警備隊設立構想時には舟艇隊の配備も構想されたが、内局のダメ出しで立ち消えになった……おり、この為、高塚は少数での海岸からの逆浸透・潜入偵察能力付与の為に海兵隊との共同訓練はもちろん、『水陸研との訓練の為』と評して、複合艇や現代版小発と言うべきユルモ型上陸用舟艇(高塚曰くマルタのツテで入手)を対馬警備隊に『(人員を含めて)出向』していた。

 

 

(それにしても、海兵隊の方々は濃かったな〜)

 

あいさつに行った時の海兵隊の主要メンバーを思い出す対馬。

隊員達から『御頭』と呼ばれている女性指揮官、『姐さん』と呼ばれている戦車型武器娘、明らかに海賊と言われそうな風貌とガタイの良い副官、ボクッ娘な水陸両用型武器娘…等々、特徴的な面々の顔を思い浮かべる。

部隊こそ歴戦であるそうだが、日本への派遣は訓練を含めても初めてらしいこの海兵隊部隊はそれでも他の部隊と変わらない素早い動きを見せている。

 

 

(後は上手く作戦が決まれば楽なんだけな〜)

 

嵐の前の静けさの中、対馬はそんな事を考えていた。

 

 

 

再び新発田駐屯地(外)

 

 

「上越への迎撃で兵員を取られて監視に孔が出来たのは予想出来てたが…やはり、残存主力は郊外に後退したか」

 

マグマ軍の包囲監視線を抜けて駐屯地の外に出た松塚は周囲を探りながら呟いた。

 

 

「惜しいな。戦車一輌、いや、89式歩兵戦闘車が有れば郊外の包囲線まで行けるものを…」

 

松平が悔しそうに言う。

 

 

 「仕方ない。予算も装備も無いもの強請りしても始まらないよ…マカロフ、41(ヨンイチ)は俺と一緒に前衛、28(ニーハチ)とPTRD、モンシ・ナガンは真ん中。殿は松平、頼む」

 

松塚は率いていた『ロシアン・ドールズ』に隊列配置を指示し、再び前進を開始する。

彼女達はつい最近、駐屯地に逃げ込んで来たのを『保護した』のである…何故に括弧がつくかと言うと、駐屯地の大半の人間が彼女達を信用していないからだ…まあ、こればかりは仕方が無い気もするが…松塚も『身内』での事が無ければ彼女達を預かる事まではしなかったかもしれない。

 

 

「それにしても…台湾軍だったり、海兵隊だったり、挙げ句はロシア軍すら動かす程って何気に凄いと思うけど?」

 

前衛に就いているマカロフが暇潰しげに呟いた。

 

 

「司令の高塚陸将補はほぼ現場で出世した様な人だし、マルタでの一件でアメリカやロシアを含めたヨーロッパに貸しがあるとか…まあ、ロシア軍に関しては元先輩同僚がロシア軍の知己でマルタの時に再会したそうだからだろうけど」

 

そう言いながらAKを構えて壁角から向こうを慎重に警戒しながら見る松塚。

 

 

「あら、そんな指揮官なら会ってみたいわね」

 

 

「うふふ、その坊やはどんな子かしら?」

 

『お姉さん』なPTRDとDP28の会話を背中越しに聞いた松塚は内心でツッコミを入れた…高塚司令は結婚してるんだよ、と。

 

 

「…ナガン、どうにかならないの、あの2人」

 

 

「あれが2人の何時もの調子だから」

 

 

「あはは…」

 

殿の松平が背中越しに居たモンシ・ナガンに訊いたが、モンシ・ナガンは『処置法無し』と言いたげに言い、前衛のPPsh41が苦笑いを浮かべる。

 

 

「にしても、だ」

 

本来なら4人1組のタックが7人になっている事、そして、戦闘経験なら彼女達の方が上なのを知ってるが故に幾分か心理的余裕のある松塚は苦笑いを浮かべながら言葉を続ける。

 

 

「俺の周りにはロシアが寄ってくるのかね?」

 

疑問とも問いとも取れる言葉だった。

 

 

 

その頃 ロシア海軍歩兵隊

 

 

マグマ軍歩兵が発射したRPG-7は標的にしたPT-76に『命中』した。

それは現実的な判断であった。今のRPG-7でT-90戦車を撃破する事は難しい。

故に戦車より装甲が薄い水陸両用の偵察用装甲車なら撃破は不可能では無いし、それを狙う事で遅滞戦法に出たのはこれまた間違い無いだろう。

しかし…T-90同様に携帯対戦車兵器対策をしない程、歴戦のロシア海軍歩兵隊は甘くはなかった。

発射された弾頭は高塚が予め用意し、着上陸から進撃までの短時間で張り巡らせた金網だった。

一応、PT-76にも爆発反応装甲はあったのだが、それではカバー出来ない部分をカバーする為に取り付けた『金網装甲』に弾頭は引っ掛かり、推進力を失った弾頭は地面に転がってから爆発した。

その間に発射地点に向かって海軍歩兵隊のKa-29がロケット弾を浴びせ、それに炙り出されたマグマ軍歩兵を地上の海軍歩兵隊員が囲んで捕縛する。

その光景を高田はヘリで見ながら通過した。

 

 

「偵察を兼ねた遅滞かしら?」

 

同じ光景を眺めていたスプリングフィールドが呟いた。

 

 

「そうね。海岸からの報告以外、マグマ軍は何もわからない訳だし」

 

 

「遅滞戦を選んだって事は、敵は準備が整って無いって事?」

 

もの珍しそうにM1895と共に眺めていたFNCが言った。

 

 

「あるいは本隊を待つ為の時間稼ぎかも…まあ、敵本隊は司令達がなんとかするけど…さて、どうしようかしら」

 

そう言って暫く思考にふける高田だった。

 

 

 

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43 追撃 後編

新発田市郊外

 

 

 

「んーと、人手を上越に取られたせいか、結構包囲網が孔だらけだったな」

 

新発田市内を抜け、マグマ軍郊外包囲陣まで辿り着いた松塚が陣容を偵察しながら呟いた。

 

 

「ロシア軍は辿り着いて無いみたいだけど…今なら、慎也を通して駐屯地から討って出れないか?」

 

 

「それも考えたが、残念ながら市内のマグマ軍を片付ける前に郊外の部隊が入って来て市街戦になる。様子を見るに事前に避難させてるだろうけど、学校や病院を巻き込む可能性が高いし、避難していない住民が居る可能性もある。多分、リスクが高過ぎて消極的になるだろうな」

 

 

「ちっ、絶好の好機を不意にするか」

 

松塚の返答に舌打ちをして吐き捨てる松平。

そんな同期に苦笑いを浮かべながら、松塚は思考に頭脳を回そうとした時、上空から独特の音が聞こえた為、顔を上げる。

 

 

「ロシア海軍のKa-27対潜ヘリ? なんでこんな所に??」

 

何故に対潜ヘリが、と思った時に松塚はシリアでの事を思い出す。

 

 

「みんな、そのまま伏せた状態で顔を上げるな! 下手に頭を上げると爆風で首をもってかれる!」

 

 

「え、え!?」

 

松塚の言葉に意味がわからない松平、意味がわかったのか、あるいはそう『プログラム』されているのか、何も言わず伏せるロシアン・ドールズ。

そして……それは『着弾』した。

 

 

 

新発田市郊外付近上空

 

 

『ダンチャーク、イマ』

 

ロシア語からの変換ソフトを使った為か微妙に感情の無い音声と共に地上では爆発がおきる。

新潟県沖合いのロシア海軍巡洋艦アドミラル・ナヒーモフから発射された『カリブリ』巡航ミサイルは新発田市郊外に展開するマグマ軍に向けて発射された。

無論、今回はロシア側のご厚意で被害範囲が市街地内に被らない様に発射してくれている…故に打撃力は微妙だが。

 

 

「いよいよね…総員、リペリング降下用意!!」

 

そう指示を出し、高田はリペリングロープと装具を確認する。

第2普通科連隊はヘリを主体とした空中機動(ヘリボーン)部隊な為、久々の十八番であり、真骨頂な任務である。

 

 

「よーい…降下!!」

 

M i17がハイドラ・ロケット弾ポットを乱射している間に高田はスプリングフィールド達と共にリペリング降下する。

 

 

「降下した隊員から周囲展開! 軍神謙信公の土地に土足で踏み込んだ奴らに天誅を下してやりなさい!」

 

 

 

 

「…あれは、2普連か」

 

巡航ミサイル攻撃が終わり、頭を上げた松塚が呟いた。

視線の先には見慣れた迷彩服の兵士達が第2普通科連隊の部隊マークが描かれたロシア製輸送ヘリ(M i17)からリペリング降下する光景だった。

 

 

「ようやく、あのロシア艦艇が味方である確固たる証拠が現れたな」

 

 

「あぁ、しかも、あの特徴的なKa-27から降りてるのはロシア海軍歩兵隊だ。となると、友軍はそこまで来ているみたいだな」

 

そうと解ればやる事は1つ。

 

 

「松平は28達と支援射撃、マカロフ、41は俺と共に友軍と合流する。オッケー?」

 

 

「「「「「ダー!」」」」」

 

 

「よし、じゃあ、行こうか」

 

 

 

 

暫くして 奪還部隊本隊 73APC(コマンドカー)

 

 

『高塚司令! 高田大尉からです! 高田・ロシア海軍歩兵隊は新発田市郊外に到達、現在、包囲軍と戦闘中。なお、新発田駐屯地からの偵察班と接触したとの事です!』

 

ヘッドセットを介して高田からの報告を興奮気味に伝える細川。

現在、高塚達は台湾軍と共に退却するマグマ軍を追撃していた。

 

 

「わかった。高田には此方も予定通りだから、焦らず確実に制圧・解放するように…と返信してくれ」

 

 

『わかりました』

 

そう返事をしてから細川は交信先を切り替えて、高田達の方に先程の返信を伝える。

 

 

『冷静だね、司令官』

 

 

「別に…まあ、今は一喜一憂してる時でも無いしね」

 

鯖江からの通話に高塚はそう答えた。

 

 

『追撃は順調です。敵は本来の後方への増援派と後退派の2つに分かれている為か、足並みが乱れに乱れています」

 

追加報告とばかりに市ヶ谷が言った。

 

 

「後は対馬達ら、アメリカ・台湾海兵隊が上手く展開していれば更に効率はよくなるが…どちらにしろ、油断しなければ勝ちは確定だな…ふっ、こんな事を言うから油断してしまうんだがな」

 

最後は自虐気味に呟く高塚。

作戦は順調に進行している…しかし、高塚からすれば『罠の臭い』がしないとは言え、少しの齟齬で成功一歩手前で大ドンデン返しをされた事象など歴史書を調べれば数多にある事を知っている為、神経質になったいる自分に苦言を言った。

 

 

『司令、少し肩から力を抜きましょう。それこそ、無駄に疲れますよ』

 

 

 

「…そうだな、筑波」

 

筑波の言葉に高塚は内心、溜息を吐く。

疲れているな…と思いながら。

 

 

 

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44 追撃戦後

日曜仕事、昨日仕事明けで更新出来ずに申し訳ありませんでした。


翌日 1000頃 海岸線沿い

 

 

 

「……ここはダンケルクかな?」

 

 

「状態だけなら日本版と言う限り、ダンケルクですね。但し、立場も結果も反対ですがね」

 

視線を先の日本海では無く、手前側のマグマ軍の捕虜達に向けながら呟いた高塚の言葉に同行している細川が答えた。

そして、その捕虜達はここだけで無く、複数箇所で規模こそ違えど同じ光景が見れると言う事なのである。

 

 

「それにしても、さすが憲兵殿だよな〜。ここまで敵を誘い込むなんてな!」

 

 

「いや、先人の知恵を拝借したまでだ。それを使っただけだよ」

 

同行している天龍の言葉に高塚は控え目に言った。

高塚がマグマ軍に対して使った策と言うのは、阿賀野川沿いを中心にら展開したアメリカ・台湾海兵隊の防衛ラインの幾つかを『わざと』薄くし、そこから徐々にマグマ軍を海岸線へと誘い込む、と言った策だった。

実際、後ろを高塚達本隊が迫り、前の薄い箇所を必死に突破し続けたマグマ軍は途中で追撃が止まった事を不思議がりつつ朝を迎えたところ、自分達が海岸線沿いにいて、しかも、陸はもちろんの事、海からも日本・台湾・ロシア・アメリカ艦艇、艦娘、深海棲艦から砲門を向けられていおり、ようやく自分達が包囲されている事に気付いた程、その意図を見破る事は出来なかった。

そして、この時点でマグマ軍の抵抗能力は無に等しかった。武器弾薬は後退時に遺棄し、燃料も枯渇、更に疲労と負傷者が多かった事と包囲された事により心理的に折れた事がマグマ軍が降伏を選ぶ最大の理由になってしまったのであった。

 

 

「ちなみに、その先人とは?」

 

 

「四国の覇者、長宗我部元親が豊臣秀吉の四国征伐の際に用いた策だ。大元は川魚の追い込み漁や木材の河川運搬法なんだが…まあ、史実的には見破られて、失敗に終わったんだけど」

 

 

「高田大尉が聞けば楽しい談話のネタになりますね。ですが、それを成功させていますから…」

 

 

「それとこれとは話が別だ。それで、今のところ変わりは無いか? 特に新発田駐屯地から何が言ってきてないか?」

 

 

「今のところは何も…新発田駐屯地が『ウラー祭り』をしてる以外は何もありませんら」

 

 

「なんだよ、『ウラー祭り』って…まあ、それぐらいなら、問題はないな。とりあえずな」

 

問題が無いなら、これから着手すべき長野解放の手段を考えるべく、高塚は2人を引き連れて歩きはじめた。

 

 

 

 

その頃 新潟空港(仮司令部)

 

 

 

「はぁ……どうしろって言うんですか、これ!!?」

 

 

「どうしたのかね、市ヶ谷大尉?」

 

仮設司令部の置かれたテントの中で市ヶ谷が周りも気にせずに叫ぶ様を偶々来ていた山本大佐が見ていたので訊いてみた。

 

 

「あー、実は陸幕から『東京攻略に掛からずに何やってんだ!?』的な問い合わせが来まして…」

 

代りに筑波が答えた。

 

 

「あぁ…馬鹿め、と言ってやれ、馬鹿め! と」

 

 

「某ヤマト艦長のネタを出しますか」

 

山本大佐の言葉に筑波は笑いながら返した。

 

 

「そんな答えは求めてません! 説明を求められているんですかね!」

 

額の皺を伸ばしながら市ヶ谷が言った。

 

 

「ならば、『これは東京奪還の為の牽制を兼ねた攻勢だ』と返せばいいんじゃないかね? どうせ、この後、我々は長野解放に掛かる事だし」

 

 

「そうですが…一応、台湾軍を含めた各国参加部隊には軽く今後の予定は伝えてありますし…」

 

 

「あぁ、陸幕との発表に差異が出る心配なんて必要ない。どうせ、陸幕の公式発表なんて主要国政府や軍部からすれば『ふーん』程度の物だろうからね」

 

 

「あれですか? 『公式発表の裏を読む』から、そんなに聞かない、とか?」

 

筑波の言葉に山本大佐は首を振った。

 

 

「いやいや、それもあるが、どちらかと言うと陸幕の発表なんて気にしちゃあいないのさ。戦略も無い上に『東京奪還』しか主張しない陸幕より、マルタでその手腕を見せた同志の方が個々の内容でもしっかりしている。更に各国の部隊派遣は同志が保証手形みたいな物だしな」

 

 

「何時もの『ネームバリュー』の件ですね」

 

 

「うむ、マルタからの講和だけでなく、艦娘・深海棲艦の日本企業就職の斡旋など、伝手やら何やらがあったとは言え、よくやった物だよ。特に深海棲艦の就職斡旋など、一瞬思考停止になる程だったがね」

 

 

「あー、やっぱり」

 

 

「ですから、マルタ組だけで納得出来る話をしないで下さい」

 

山本大佐と筑波の会話に市ヶ谷が額に手を宛てながら言った。

 

 

「兎にも角にも、そう返信してしまえばいいさ。どうせ、同志も似た様な事を言うに決まってる」

 

 

「わかりました…何かあったら、山本大佐が原因ですからね」

 

 

「はっはっは、その時は陸幕に殴り込みに行くよ」

 

 

「いやー、それはダメかと」

 

山本大佐の言葉に筑波は苦笑いを浮かべてツッコミを入れた。

 

 

 

暫くして 高塚達

 

 

 

「さて…長野解放をどーすっかな」

 

仮司令部に戻る道柄に次の作戦の話になった。

 

 

「そこは今回みたいに…」

 

 

「無理でしょう。平野と山岳に分かれ、更に松本駐屯地は山地内にある上に移動要塞が付近に居る。回り込もうにも、道がありませんし」

 

天龍の言葉に細川が答えた。

 

 

「後は…まあ、プランが無い事は無いが…どうも決定打に欠けるんだよな」

 

 

「とりあえず、移動要塞は一旦横に置いて、グリフォンの彼女達を中心とした狙撃隊での事前討伐で山岳は何とか出来ますが…問題は平野部です。砲兵隊を対移動要塞に使うので有ればある程度弾を残しておきたいですし、ロシア海軍歩兵隊やアメリカ・台湾海兵隊をここの守備に残すので有れば、何かしら策が要りますね」

 

 

「そうなんだよな…それを含めると……ん?」

 

ふと、ヘリのローター音が聞こえたので足を止め、顔を上げる。

すると、一機の迷彩ブラックホークがヘリ型の武器娘を従えてやって来た。

そして、高塚達の近くでホバリングしながら高度を下げ、着陸した。

 

 

「ふう…やれやれです。高塚司令達の移動速度が速過ぎて、一苦労しました」

 

ブラックホークから降りてきたのはかつてマルタ島鎮守府に警備隊員の一員として来ていた大宮氷乃だった。

 

 

「大宮!? しかし、大宮駐屯地は…」

 

 

「お久しぶりです、高塚司令。確かに大宮駐屯地は包囲下にありますが…ふっふっふ、このマッドサイエンティスト大宮を舐めてはいけません。技研に出向していたので難を逃れましたよ。まあ、青葉新聞のお陰ですがね」

 

 

「大宮、青葉新聞読んでたのかよ」

 

 

「当たり前です。マルタでの司令の発言を聞いていれば、論理性ぐらい私ぐらいの知能指数が有ればわかります。そんな私から…まあ、私以外にも居るんですが、提案があります。聞きますか?」

 

 

 

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45 プラン

1330 新潟空港(仮司令部)

 

 

 

「緊急ながら、皆んなに集まってもらってすまない」

 

仮司令部のテントの中で司令部メンバーと各駐屯地娘ほか、日本陸軍(+山本大佐)ら主要な幹部達を集めた高塚がそう言って話を始める。

 

 

「まず、富山と小倉は久しぶりだろうが、大宮駐屯地の大宮氷乃大尉だ」

 

 

「陸自のマッドサイエンティスト大宮と憶えて…」

 

 

「憶えなくていいです」

 

大宮の言葉を市ヶ谷が止めた。

 

 

「それでだ…此方は特殊作戦群の」

 

 

「須走隆美だよ」

 

 

「出浦信よ。まあ、見ての通り、私はスナイパーね」

 

曰く『特戦群の証』の銀の得物を持つ2人が軽く挨拶する。

 

 

「そして、此方の武器娘は…」

 

 

「ふん…AMTRS所属のAH-1Sコブラだ」

 

不遜と言うべきか、偉そうと言うべきか、見下した態度のAMTRS(アマテラス)のコブラ。

 

 

「ちゃんとしないか…さて、特戦群2名を含めての緊急招集の理由だが、特戦群からの提案もあり、プランが纏まったので皆の意見を聞きたい」

 

そして、纏まったプランを一通り説明し終わると…提案者側である特戦群の2人も微妙な顔をする。

 

 

「え、ちょっと待って、なんでその顔になるの?」

 

 

「い、いや〜、指揮官って色々噂は聞いてたけど、まさかそれをするって…」

 

須走が苦笑いを浮かべながら言った。

 

 

「いやいや、待て待て。第一師団管区からのマグマ軍増援を考えれば短時間で済ます必要がある以上、こうしないとだな…」

 

 

「敵の指揮官も相当なやり手なのに、自殺願望のある指揮官とは思わなかったわ」

 

今度は出浦が呆れた風に言った。

 

 

「じゃあ、誰かこれより最良なプランを出してくれ。多角的に観て問題無いなら修正して採用する」

 

高塚の言葉に2人は黙る。

特戦群であれば自分達以上にマグマ軍の動きを知っている訳で…故に手が思い浮かばないのだろう。

 

 

「なあ、同志。我々の部隊だが、松本駐屯地に向かってもいいかね?」

 

 

そんな状況を横に置き、山本大佐が言った。

 

 

「えっ、ですが、同志達の部隊は…」

 

 

「それについては代理のアテがある。その代理が来れるなら、我々は松本駐屯地に向かうが…どうかな?」

 

 

「……わかりました。その代理が来れるなら、ですよ」

 

 

「ありがとう、同志」

 

 

「他に何かある者は? いないなら、解散だ。あっ、大宮はちょっと来い。それと高田達は後で話したい事があるから、ちょっと残ってくれ。じゃあ、分かれ」

 

 

 

 

暫くして

 

 

「さて、大宮。包み隠さず話せ…なんだ、あれは?」

 

ジロリと睨みながら高塚は大宮に訊いた。

大宮はマルタで何度か見た『キレ気味の睨み』に内心冷や汗を流しつつ答えた。

 

 

「あのAMTRSのコブラの事ですね。彼女は特戦群に次ぐ対マグマ軍への切り札です」

 

 

「切り札ね…の割には性格や態度はともかく、敵も味方も全部吹っ飛ばしそうな気がするんだが? こう言っちゃあなんだが、まるで艦娘や武器娘に深海棲艦を足した様な…ある種の禍々しさが出てるぞ?

 

 

「仕方ありませんし、その指摘はあっているかもしれません。何故なら、彼女は我々の技術にマグマ軍の技術を足した、『キメラ種』ですから」

 

 

「キメラだと!?」

 

 

「はい。なので、マグマ軍兵同様に上官に忠実であり、命令に従います。私以外で、高塚司令の命令なら何も考えず本能的に従いますが、下の人間にはあの態度です」

 

 

「……そんな者を連れて来て何をするつもりだ!? マグマ軍を地上から殲滅するつもりか? 終わりが見えないどころか、泥沼に陥るぞ!!」

 

思わず怒鳴る高塚に内心の動揺を隠しつつ大宮は飄々と答える。

 

 

「『そんな者』だからです。高塚司令、彼女を生み出した時はそれこそ破壊衝動に駆られて暴れていたんですよ? それに比べれば随分大人しくなりました」

 

 

「そんな話は聞いていない。それに、それなら余計に作戦に参加させれるか。敵も味方も丸ごと皆殺しにさせる様な者を投入する程、俺は困ってないぞ」

 

 

「だからこそ、連れて来たんです。マルタでの経験がある高塚司令しか彼女を任せられないからです」

 

 

「…ようやく本音を出したな」

 

 

「事実を言ったまでです。それと高塚司令が色々と口を出し過ぎです。まあ、それはともかくとして、彼女はキメラ故に『感情が無い』に等しい存在。なので、レキシントン達や深海棲艦を繋いだ高塚司令でないと『修正』出来ない、と判断しました」

 

 

「なんか、実験道具にされてる気がするが?」

 

 

「戦場は巨大な実験場ですよ?」

 

 

「あぁ、まったく、皮肉な話だよ」

 

苦笑いをうかべ、高塚は答えた。

 

 

 

暫くして

 

 

「同期に会いに行って巻き込まれると言うのも大変だったな」

 

大宮との話を終え、高田が連れて来た新発田と松塚達との挨拶を終えた高塚は松塚と松平が巻き込まれた原因を聞いて言った。

 

 

「ですが、高塚司令に直にお会い出来ましたので、怪我の功名と言う物かと」

 

 

「あはは、上手い事を言う。さて、君と松平大尉の今後だが、原隊は戦車かな?」

 

 

「はっ、第11戦車隊です」

 

真面目の具体化の様に松平が答えた。

 

 

「『士魂の11』か…残念ながら、2人が知っての通り、指揮伝達システムが失われている上にマグマ軍が跋扈している状況だ。そこでだ、2人の意志に任せたいが、ウチの戦車隊に来る気は無いかな?」

 

 

「戦車隊ですか?」

 

 

「あぁ、まあ、『日本解放軍戦車隊』なんて素っ気も何も無いが…戦車型の武器娘3名と74式戦車、これに旧型のロシア戦車も加わる混成編成だが…どうかな?」

 

 

「と、言うより、戦車隊を指揮する士官が居ないのが現実なんですけどね」

 

 

「市ヶ谷さん、ニコニコしながら現実を言わないで下さい」

 

市ヶ谷がニコニコしながら言うのを筑波が苦笑いを浮かべながらツッコミを入れる。

 

 

「まあ、それが一番大きいな。で、どうかな?」

 

 

「わかりました。自分でよければ」

 

 

「私もこのまま無駄飯食いで厄介になるよりはマシです」

 

 

「決まりだ。市ヶ谷さん、お願いします」

 

 

「わかりました」

 

 

 

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46 次に備えて

……題名のセンスがどうにかならないかと思う今日この頃。


登場人物 29

松塚壱勇 陸自幹部 一尉(大尉)

第11戦車隊所属の若き一尉。
幹部候補同期のところに行っていたら巻き込まれた。
なお、彼の祖父は元帝国陸軍士官。


松平弓子 陸自幹部 一尉(大尉)
松塚と同じく第11戦車隊所属の若き女性一尉。
幹部候補同期のところに行っていたら巻き込まれた。
苗字からわかる通り、祖先は会津藩松平家の血筋。
射撃が得意。ツッコミはその次に得意。


3日後 高田駐屯地

 

 

「ふー、新発田駐屯地に寄る事なく、蜻蛉帰りだな」

 

 

「仕方ありません。と言うより、それを決めたのは高塚司令では?」

 

 

「うん、わかってる」

 

書類処理や報告受けの事務仕事が一通り終わった高塚はそんな会話を市ヶ谷としていた。

 

 

「長野方面の敵の進出が考えれましたからね。仕方ありませんよ」

 

 

「結果的には無かったから良かったけどな」

 

そして、それを手伝っていた細川と筑波。

 

 

「んでだ…31普連からは新発田と鈴木大尉が率いる形で部隊が派遣されて、それの装備渡して、次は…あっ、戦車隊の方はどうだ?」

 

 

「はい、松塚大尉と松平大尉の着任で部隊行動が可能になりました。隊長の松塚大尉がT-62を、松平大尉がT-55を率いる事で当面は動くそうです」

 

高塚の問いに筑波が答えた。

 

 

「そうか、時間があるなら見に行ってみようかな?」

 

 

「行って下さい。と言うか昼から行け」

 

何故かドスが効いた声で市ヶ谷が言った。

 

 

「い、市ヶ谷さん? 何故にその様な事を?」

 

 

「あはは…大丈夫です、高塚司令。私も同行しますんで」

 

細川が苦笑いを浮かべながら高塚に言った。

 

 

 

1330 演習場

 

 

『全車統制射撃! よーい、撃て!』

 

74式戦車・T-62・T-55(改)の戦車車列が松塚の指示の下、統制移動一斉射撃を行う。

砲撃は戦車射撃場にある模擬標的に命中し、粉々になった。

 

 

「…僅か3日でここまでやりますか」

 

 

「まあ、優秀な人間を揃えたのもあるが…それでもよくやるわ」

 

双眼鏡でその様子を観ていた細川と高塚が話す。

そして、この場には明石と夕張、高塚の隣に神通が居る。

 

 

「T-62とT-55に何か改良を施したか?」

 

 

「T-62はレーザー距離測定装置、装填機構の改善。T-55は主砲未搭載でしたから、16式機動戦闘車の105㎜ライフル砲搭載、エンジン装換…両車輌に増加装甲・爆発反応装甲、金網設置はオプション化してありますよ!」

 

最終的にはセールストークにもなっているが、夕張の言葉に高塚は頷く。

 

 

「これからも多種多様な戦車や装甲車輌の改修が必要になってくるからこそ、オプション化は有り難いな…なあ、神通、不貞腐れないでくれよ」

 

プクーと頬を膨らませながら此方を見ている神通に高塚は困り顔で言った。

 

 

(ちなみに、この見学を計画したのって…)

 

 

(市ヶ谷さんです。最近、高塚司令と神通さんが一緒で無いのを見て、こうして策を講じたんです。まあ、高塚司令は置いとくして、神通さんも忙しい上に我々の事もあって、遠慮気味でしたし)

 

その様子に明石と細川がヒソヒソと話す。

 

 

「お疲れ様です、高塚司令。まあ、なんとか形にはなりました」

 

 

「いや、性能もシステムも癖も違う車輌の集団を僅かな時間でここまで仕上げたのは充分称賛すべき事だ。さすが、11戦車の士官だ」

 

 

「いえ、やはり、優秀な戦車乗りが集まっているからですよ。ところで、お隣の方は奥様の神通さんで?」

 

 

「あぁ、知っての通り、我が愛しの神通だ」

 

 

「お初にお目に掛かります、神通です」

 

 

「自分もお噂はかねがね…水陸研でその名を聞いた海兵隊員が身を震わせる、と」

 

それを聞いて神通は困った表情を見せる。

それは『有名になり過ぎた故の困惑』と言うべきかもしれないが…。

 

 

「松塚大尉、今はその話は無しだ」

 

 

「はっ、すみませんでした。付け焼き刃ではあるかも知れませんが、近日中に発令される長野解放戦には出撃出来ます」

 

 

「そうか…あともう少し戦車を用意出来ればな〜」

 

流石の水陸研でも戦車の類は製造していない為、そんな呟きが高塚の口から出た。

 

 

 

 

その頃 高田駐屯地

 

 

「習志野飛音一尉以下、習志野第一空挺団志願隊、ただいま着任しました!」

 

 

「「「はあ!?」」」

 

何の通知も無く高田駐屯地にやって来た駐屯地娘の習志野飛音一尉以下の第一空挺団(志願)に司令部で残っていた桃屋、筑波、高田が驚きの声を上げる。

 

 

「え、えっと、ちょっと待って下さい、習志野さん。なんで此方に? 空挺団は陸幕の管轄ですし、しかも、志願とはいったい??」

 

情報通の市ヶ谷も自らを落ち着かせながら習志野一尉に訊いた。

 

 

「はっ、此方で空挺作戦が行われる『匂い』がしたので志願を募って参りました」

 

 

「…待て待て! 『匂い』云々は置いといて、『志願を募って』だと!? つまり、陸幕は承知してないって事じゃあ…」

 

 

「この事に関しては空挺団長は御承知です。団長が御一筆添えた手紙を預かっておりますので、高塚司令にお渡し下さい」

 

筑波の言葉に平然と返しながら、『高塚陸将補へ』と書かれた手紙を習志野は取り出し、頭を抱えている市ヶ谷に代わり、桃屋が受け取った。

 

 

「開封は高塚司令が戻ってからにする…筑波大尉、高田大尉、空挺団隊員達への手配を」

 

 

「「わかりました」」

 

 

「あっ、それと、ここに来る途中で少女を1名保護したのですが…その、言って事が意味不明な上に実弾入りのサブマシンガンを携帯していましたので…」

 

 

「あ、待って下さい、習志野一尉! まさか、その文言の中に『グリフォン』とかありませんでしたか?」

 

習志野の言葉に高田が反応した。

 

 

「え、あ、はい。他にも『ドール』や色々と…」

 

 

「わかりました。そちらも此方で何とかします」

 

桃屋がそう言う後ろで市ヶ谷が白目になっていた。

 

 

 

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47 運用

登場人物 30

習志野飛音 陸自幹部 一尉

『第一狂ってる団』で有名な第一空挺団で有名な習志野駐屯地の駐屯地娘。
堅実堅固で男勝りな幹部空挺隊員。
東京陥落時に習志野駐屯地を放棄・撤退し、沖縄に駐留していたが、空挺団長の独断で派遣された。


その夜 高田駐屯地

 

 

「………」

 

黙って手紙を読み終えた高塚は元の通りに折り畳み直して横に置いた。

 

 

「それで、内容は何でしたか?」

 

一番気になっていたであろう市ヶ谷が訊いてきた。

 

 

「概要だけ言えば、空挺団長も空挺隊員も我慢の限界が来たから、空挺団長が出来る範囲の権限で習志野達を送った…と言う事かな」

 

横に置いた手紙を市ヶ谷に渡しながら言った。

 

 

「ある種の自主派遣ですか。なら、『志願を募って』と言うのも筋は通りますね」

 

市ヶ谷の隣で手紙を見ながら細川が呟いた。

 

 

「陸幕直下じゃあ、越権行為って言われてもおかしくない『自主派遣』だがな……にしても、書いてる事はその通りなんですよね」

 

苦笑いを浮かべながら筑波が言った。

曰く『前線と陸幕では意識齟齬の差が激しく、このままでは戦いにならない』と空挺団長は書いていた。

 

 

「まあ、空挺団としては東日本の一件もあるから、日本初の実戦空挺を外国軍空挺部隊にやられたくないんだろうね」

 

 

「「「あー、なるほど」」」

 

 

「なんでそちらはそれで納得出来てしまうんでしょうか?」

 

納得した桃屋・筑波・細川に対し、困惑する市ヶ谷。

 

 

「仕方ないですよ。男の軍人はプライドを気にする物ですから」

 

 

「だが、少数とは言え習志野空挺団が来てくれたのはありがたい。維持する事を怠らなければ手札が多いに越した事はないからな」

 

 

「まったくですね、先輩。自衛隊はマルチロール路線に拘り、自らの手足を縛ってしまった雰囲気がありますからね」

 

 

「あぁ…まあ、予算があるからな、仕方ないさ…あはは…」

 

何時もの結論に高塚も市ヶ谷達も苦笑いと溜息を吐いた。

 

 

 

翌日 高田駐屯地

 

 

長野方面解放の為の集結拠点である高田駐屯地に下越から秘密裏に戻って来ている解放部隊が続々と到着していた。

そんな中に……

 

 

「あれが解放部隊司令部か…ホントにテントなんだな」

 

 

「それ以外は揃えに揃えた装備の塊ですね」

 

第30普通科連隊から派遣された鈴木大尉と新発田大尉が周囲を見ながら言った。

間借りと言うべき司令部テントの周りには73式APC、M113、BTR-80、ハンヴィー、ティーゲル等々と言った支援品を含めた装備が司令部テントの周りを埋めている。

 

 

「ふっ、『砲兵は戦場の女神なり』と言うが、高塚司令は『砲兵ゆえに神になった』と言うべきだな」

 

 

「と、言いますと?」

 

鈴木の言い様に新発田は訊き返した。

 

 

「簡単だよ。砲兵とは時代や戦況によっては最前線に出るが、大半は最前線の一歩後ろに居る。故に遊動的な戦況を一歩退いた形で観察する事が出来る…これは前線を任された指揮官に必要な事だ」

 

 

「ですが、それは戦闘職種の指揮官全員に言える事ではありませんか?」

 

 

「と思うだろう? これが実は難しく、そして、理解し難いんだ。歩兵科士官だから言えるが、我々はほぼ最前線に投入される。故に『最前線』の視点が多くなる。また、戦車科も最前線に投入されるが装甲の塊ゆえに『その視点』でしか語れない。その点、砲兵は各種兵科の支援が主になるからこそ、様々な情報と多方面からの視点を要求される。まあ、高塚司令は大学卒の学者系だから、余計に物事が見えたんだろうね」

 

 

「……まるで、今の陸自上層部にはその視点が欠けてる、と言いたい様に思うのですが?」

 

 

「実際そうだよ。多分、高塚司令が居られなかったら、今頃我々がここには居ないだろうね…さて、立ち話は切り上げて、高塚司令に挨拶に行こうか」

 

そう言って鈴木と新発田は司令部テントに足を向けた。

 

 

 

暫くして

 

 

「今回、30普連には松本駐屯地に向かう我々司令部部隊に同行してもらう…あぁ、私は別行動だから、居るのは私以外の司令部員だがね」

 

 

「特戦群ではありませんが、高リスクな行動ですね」

 

ニヤリと笑う鈴木に対して、高塚は苦笑いを浮かべる。

 

 

「敵の指揮官も武闘派だそうだ。そして、リスクとリターンを考えれば敵指揮官を狙うよ…まあ、お互い様な案件だな」

 

 

「なるほど、承知しました…それで、今のところ、作戦全体に変更は無い訳ですね?」

 

 

「あぁ、変更があったとすれば、習志野空挺部隊が参加するぐらいだ。それ以外の大きな変更は無い。今のところはね」

 

 

「わかりました。ところで、我々の部隊の車輌は装軌式が主になるようですが…少し、おねだりをしてもいいでしょうか?」

 

 

「内容によるが…ますば聞こうか」

 

 

「では、我が部隊に全地形対応車、バギーの様な小回りの良い物を提供出来ますか?」

 

 

「ほう…平時では道交法上運用出来ないから、今の内に使えるか試そう、と言ったところかな?」

 

 

「高塚司令ならば、全地形対応車を自衛隊でも導入すべきだ、と言われと思いまして…マルタでテッケンクラートに乗られた筈ですから」

 

 

「はっはっは、なるほど、うん、確かにな。わかった、手元には無いが、出来る限り早急に確保しよう。ただ、次の作戦に、しかも、初っ端からバギーが入手出来るかは不透明だがね」

 

 

「いえ、下知だけでももらえれば今は構いません」

 

 

「そうか…では、その運用報告も頼むよ。水陸研でもその類は使っていたが、平時運用しか出来なかったからね。すまないが、頼む」

 

 

「わかりました」

 

 

 

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48 長野北部解放戦 1

複数話構成の予定。(何話で終わるかは不明)

登場人物 31


鈴木慎也 陸自幹部 一尉

第30普通科連隊所属の一尉で、松塚達とは同期。
家は金持ち、容姿はイケメン、性格良し、の三拍子が揃っている。
今回は30普連からの派遣隊指揮官として参入した。


新発田渚 陸自幹部 一尉

第30普通科連隊に所属する新発田駐屯地の駐屯地女。
第30普通科連隊は冬季戦を重視する部隊ではあるが、本人は冬が好きではない。
鈴木一尉のより後発な為、今回は副指揮官として参入している。


2日後(深夜) 新潟・長野間県境(妙見市付近)

 

 

 

「全隊準備完了」

 

 

「では、『作戦計画通り』出撃しましょうか。全隊前進!」

 

桃屋の指示の下、松塚率いる戦車隊『騎甲隊』並びに台湾軍戦車隊を先頭に前進を始める。

既に特戦群の須走の手によって前哨警戒線の位置と制圧は完了しており、日台連合部隊が長野平野に出るまでの安全化はなされていた。

だが……その先は数量圧倒的、且つ特戦群の情報によるとマグマ軍でも武闘型知将派な親衛隊将校が鍛えた精鋭部隊が展開しているのである。

無論、高塚はそれを承知の上で長野県解放に乗り出す…側面は分厚い方がいいからだ。

 

 

「さて、先輩…無茶ですが、お願いしますよ」

 

桃屋は静かに呟いた。

 

 

 

その頃 高塚達は…

 

 

「………(クイクイ)」

 

念のために暗視装置で進路上周囲を確かめた高塚はハンドサインで前進する様に伝える。

そのハンドサインを見た天龍と龍田は素早く高塚より前に出て、高塚と交代して進路上の確認と警戒を行う。

それに続き、豊川、不知火、綾波がドールズ達を引き連れてやって来る。

 

 

「ふう…今のところ、敵さんには接触してないが、雰囲気的にいつ現れてもおかしくないな」

 

そんな事を呟きながら苦笑いを浮かべる高塚。

 

 

「ですが司令官。やはり、司令官自ら来るのは危なかった様な…」

 

おずおずと控え目に豊川が言った。

 

 

「無駄です。高塚司令は作戦考案時ならイザ知らず、今の場合で有れば岩の如く同行を撤回しませんから」

 

64式小銃(改)を点検しながら不知火が言った。

 

 

「敵の指揮官が自分を狙うなら、自分自らが行って敵の指揮官を狙ってもいいよね、なんて言うトチ狂った自殺願望者みたいな事を言う指揮官なんて初めて見たわ」

 

同じく得物の銀色の対物ライフルを点検しながら出浦が呆れた風に言う。

 

 

「おうおう、憲兵殿に何を言っても無駄だぜ。ブン殴る気があるなら、直接出向いてマフィアだろうと、化け物の親玉だろうとカチコミに行くのが憲兵殿だからな」

 

 

「そーね〜、準備はこそこそ、実行は大胆にするのが憲兵さんよね〜」

 

ケラケラと笑いながら我が事の様に自慢気に言う天龍とほんわかマイペースで言う龍田。

 

 

「…何処ぞの元帥顔負けね」

 

 

「あら、負け戦の中で、って言う点は一緒よ?」

 

 

「うふふ、指揮官って大胆〜」

 

それを聞いてデジャブを観た様なモンシ・ナガン、マイペースなDP28とPTRD。

 

 

「あー、うん、おかしいって意見には賛成するわ」

 

 

「あら、優秀である事は確かよ。編成を見ればわかるわ」

 

なんとも答え難い様にWA2000が言うとフォローするかの様にスプリングフィールドが言った。

今回、主体は天龍や出浦、豊川、WA2000をはじめとした狙撃・対物ライフル、援護役としてアサルトライフルの龍田、綾波、不知火、サブマシガンの高塚とPPsh41、索敵役のマカロフとM1895、支援役としてDP28を引き連れての構成だった。

 

 

「まあ、山なんで…しかも、如何やら敵は射撃を重視してるらしいので、こうなっただけですよ」

 

日本の山岳は余程の高い所に行かない限り『山林』が構成され、長物の使用を極限化される。

木々の隙間を縫えばスナイパーの狙撃も可能だろうが、下手に人間が手を加えていない場所なら、木々の間隔さえも『その場の場合』によってしまう。

故に取り回しが効くのは短物のアサルトライフル・サブマシンガン・拳銃である。

特に射撃機会すら極限化されるので有れば取り回しの効くサブマシンガンが威力を発揮する…但し、今回はチームである為、対応力も付随しているが。

 

 

「さて、前に進みましょう。我々も余り時間的余裕はありませんしね」

 

 

 

その頃 新潟沖 海軍総旗艦『鞍馬』

 

 

 

「各隊、状況知らせ」

 

仮眠から戻って来た松島宮の入室と同時に滝崎が状況を問う。

 

 

「はい、ワスプの海軍隊のF35は既に出撃待機態勢にあり。また、第一・第二海上航空集団も8割がた完了。空自は空挺隊もあって少々立て込んでいる様です」

 

担当の士官が端的に報告する。

報告の間に少し冷めたブラックコーヒーを受け取った松島宮はブラックコーヒーを嫌そうな表情で飲み干すと小さく欠伸をした離島棲鬼に視線を向ける。

 

 

「コッチハ久々ニ動カスノト、未ダ慣レテナイ機体ダカラ、モウ少シ時間ガ掛カルワ」

 

 

「作戦時間には間に合うかい?」

 

 

「ソレニツイテハ問題ハ無イワヨ」

 

滝崎の問いに離島棲鬼は答える。

 

 

「ふむ…各哨戒護衛も問題は無いな?」

 

 

「今のところは無いよ」

 

松島宮の問いに滝崎が答える。

 

 

「そうか……んー、マルタで散々やった筈なのに、なぜこうもしっくりこんのだ?」

 

 

「メインは陸だし、機材は随分変わってるからね」

 

松島宮の疑問に滝崎は苦笑いを浮かべながら言った。

 

 

「ソレト、私達モ参加シテルカラデショウ」

 

 

「おっと、これは失礼しました」

 

 

「はあ…こう、なんでお前達はマイペースでいられるのかね…まあ、よい、我々がドジを踏まなければ、後は高塚達がドジを踏まん限り問題は無いな」

 

 

「まあ、そのドジも何処に転がっているか分からないけどね」

 

 

 

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49 長野北部解放戦 2

0430 長野県北部 飯山市

 

 

「敵さん、今のところ仕掛けてきませんね」

 

 

「ブラッドレーさんの偵察でも、南の中野市に繋がる414号線に敵は配置されていなかったそうです…このボトルネックな場所は防衛線を敷くには絶好ですし、左右と前方の高台に射撃陣地を置けば少数でも大軍を阻むと思っていたんですがね」

 

主力を率いて県境から292号線を南下し、飯山市に到達した桃屋達はM3ブラッドレーを出して進路偵察を行い、その結果を桃屋と松塚が話していた。

 

 

「……桃屋少佐、ひょっとしたらマグマ軍は長野市で我々を迎え討つつもりでは?」

 

 

「中野市でも無く、その先にある須坂市でも無く、県庁所在地の長野市で…根拠は?」

 

 

「私の祖父は騎兵から機甲に転換した身でした。いま、規模の関係から我々とは別に台湾軍が18号線を信濃市経由で南下中です。マグマ軍も先の上越で台湾軍が参加している事は知っていますから、別ルートから来る事は想定済みでしょう。もし、我々が414号線で苦戦していれば台湾軍は一部部隊を分割し、96号線を使って救援に向かえます。しかも、敵防衛線の背後を取る形でです」

 

広げられた地図を指差しながら松塚は自分の根拠を説明する。

 

 

「なるほど、騎兵の様に迂回機動による後方浸透を恐れた、と」

 

 

「無論、隠れて防衛線を敷いている可能性はあります。しかし、今は地形上、我々が敵後方に迂回出来るルートがあります。ですが、長野市から先は敵が我らの後方に迂回出来るルートがあり、また、奥の手の移動要塞も来れるので敵に有利。だからこそ…」

 

 

「長野市で台湾軍と纏めて我々を迎え討つか。更に下手に分散防衛するより、兵力の集中を狙ったか…よし、ならば、警戒しつつ、須坂市まで進もう。そして、台湾軍と合流する」

 

そう方針を決め、桃屋達は進み事にした。

 

 

 

暫くして 信濃市付近 台湾軍隊列

 

 

 

「…との事です」

 

 

「なるほど、そう言われれば、敵が出てこない理由もスッキリしてわかりますね」

 

通信参謀から桃屋達からの通信内容の報告を受けた劉大佐はそう言って長野県内の地図に目を向ける。

妙高市からそれぞれ南下する道路網に分かれて進軍していた台湾軍も余りに敵が出て来ない事に罠の可能性もあるとして、休止がてらに斥候を出し、警戒している最中だった。

 

 

「分散している我々を地形的有利点まで誘い、一ヶ所に纏めたところを追加戦力を投入して叩く、ですか。確かに今までのマグマ軍と違い、戦力や地形を巧妙に使ってきますね」

 

呉中佐が自己分析した結果を呟く。

今までのマグマ軍ならば圧倒的数量と局地的地形有利を使って戦う場合が多く、全体地形や弱点を突く戦術を駆使すれば打開出来ていた。

しかし…今回の指揮官は視点が『大きい』のである。

 

 

「うむ…敵指揮官が高塚司令を狙うなら、これはそれを狙って作った可能性があるな」

 

 

「我々と日本軍が1箇所に纏まり、且つ、主力に随伴している司令部、特に高塚司令を狙撃なり何なりで戦死させてしまえば…なるほど、これは確かに罠ですね」

 

 

「さて、そうなると高塚司令が別働隊に同行したのは…偶然なんでしょうか?」

 

呉中佐の言葉に劉大佐は笑って答えた。

 

 

「狐と狸の騙し合いの結果だ。それに私もこの結果の先に興味がある」

 

 

 

「と、言いますと?」

 

 

「智将同士の対決なんて中々見れるものではないよ。無論、高塚司令が勝つ事を望んでいるがね」

 

 

 

 

同時刻 別働隊(司令部隊)

 

 

「主力隊は台湾隊と須坂市で合流する、との事です」

 

こちらも受信した内容を細川が報告した。

 

 

「須坂市ですか? 長野市まで順調に行ける、と言う事ですかね?」

 

 

「多分、長野市に敵の防衛線があると予想しているんでしょう。まあ、そうなると市街戦は…うん、無理だな」

 

細川の報告を聞いた市ヶ谷の呟きに筑波は地図を見ながら肯定しつつ、顎に手をあて難しい顔をする。

 

 

「どうしますか? 高塚司令は居られませんし」

 

 

「多分、高塚司令からすればこんなの予想内でしょうし、大丈夫でしょう。まあ、桃屋少佐に松塚大尉、台湾軍も居ますし、主力隊は下手に追撃はしないと思います」

 

市ヶ谷の問いに細川が答える。

 

 

「まさか、『敵が防衛線敷いてます。戻って来て下さい』なんて子供みたいな事をやる訳にはいかないな。それなら我々司令部の意味がありませんからね。いや、ホントに」

 

 

「なら、任せられた以上、任せられた期間まで持ち堪えるのが我々の仕事ですね。まあ、今回は問題無いと思いますけど」

 

自虐気味に言う筑波に対し、細川は纏めつつ自信有り気に言った。

 

 

「えっ、何故ですか?」

 

 

「臨時とは言え、桃屋少佐や松塚大尉と言う癖の有る方々です。敵を侮る事なんてしません。逆に敵の一挙動にさえ注意を払う事を知る士官方ですから」

 

市ヶ谷の問いに細川は和かに答えた。

 

 

 

同じ頃 高塚達

 

 

 

「…目標2、距離・風速変わらず」

 

 

「射界よし…Free or weapon」

 

その言葉が口から出た次の瞬間、銃口に減音器がつけられたオートマチックライフルの排出口から薬莢が飛び出す。

そして、射線の先にいた歩哨中の2名のマグマ兵がヘッドショットを受け、物言わぬ骸となって転がった。

 

 

「……着弾地点周辺に変化なし。排除完了」

 

 

「周辺も異常が無いな…よし、撤収・前進」

 

高塚の指示にスポッター役を務めていたスプリングフィールドとスナイパー役のWA2000はそれぞれの得物を持って撤収する。

そして、周辺の警戒とフォロー役の他の者達もそれに合わせて動き始める。

 

 

「それにしても、なんで私を選んだの?」

 

 

暫く足を進めたところでらWA2000が訊いてきた。

 

 

「1番の理由は君が減音器を装着したオートマチックライフルだからだ。歩哨2人を素早く撃つには槓桿式ライフルでは一拍空いてしまうし、出来る限り潜入されている事を悟られたく無い」

 

なお、そもそもWA 2000は原音器を装着していないが、明石・夕張が専用に作ってくれていたりする。

 

 

「その内バレる事なのによくやるわね」

 

 

「軍事作戦で意図がバレるのは遅ければ遅い程いいだろう? 時と場合によるがね」

 

 

 

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50 長野北部解放戦 3

本日は開戦日ですね。
英霊達の冥福を祈ります。


0650 マグマ軍(北部方面)司令部

 

 

「ソウカ、敵ノ本隊ハ須坂市マデ来タンダナ?」

 

 

「ハイ。分離シテイタ敵部隊ハ『狙イ通リ』合流シマシタ」

 

マグマ兵の報告を聞いたライサ近衛大佐。

この『ライサ近衛戦闘団』(一個師団+α)は松本市近くのカントリークラブ(ゴルフ場)に司令部を置き、松本駐屯地の攻略・並びに北部方面の守備を担当していた。

実は本来、彼女は浅間山に司令部を置いていたのだが、『連合軍南下』の情報に場所を此処に移していた。

 

 

「ウム、デハ、長野市内ノ部隊二ハ敵ヲ市内二引キ摺リ込ンデ消耗サセル様二伝エヨ。アト、機ヲ見テ浅間山ノクロシュタントヲ移動サセロ」

 

 

「ハ、ライサ大佐」

 

……実はこの時点で奪還軍の誰もが浅間山の移動要塞の存在を知らなかった。

 

 

 

 

0700 須坂市

 

 

「…………」

 

 

「…おいおい、マジかよ」

 

その光景に桃屋も松塚も苦笑いを浮かべながら困惑していた。

そこには406号線の橋を渡って千曲川を越えてくる民間人集団の長い列があったからだ。

 

 

「桃屋少佐、松塚大尉、見ての通りです」

 

2人に気付いた呉中佐が困惑した表情で言ってきた。

 

 

「呉中佐、この民間人の列はいったい?」

 

 

「長野市内の住民です。マグマ兵から『戦場になるから避難しろ』と強制退去させられたそうです」

 

 

「避難民の列か…」

 

どう見ても途切れる所が見えない列の状況に3人は内心頭を抱える。

 

 

 

「……長野市の人口ってどれくらいだろう?」

 

 

「何処かに市役所員か誰かいないか探さないと…これ、1万や2万ではききませんよ」

 

 

「仕方ない…進撃を一時中断し、受け入れの用意だ。高田に打電してくれ、生活物資がいるとな」

 

桃屋はそう松塚に命じる。

そもそも、長野市に突入する前に休憩と攻略法を見付ける必要があったし、この避難民を捌かなければ先になど進めないからだ。

 

 

 

……無論、これはライサ大佐の指示であった。

一般人が居る中で長野市内で防衛戦をやれば色々と邪魔で面倒臭い事と、この避難民により奪還軍の進撃スピードを落とし、時間的・精神的余裕を失わせようと言う意図もあった。

しかし、ライサ大佐の思惑とは反対に主力隊はこの避難民受け入れの為に進撃自体を停止した。

そもそも、作戦リミットなど有って無きに等しい作戦だった為、別に急ぐ必要も無かったからこそ、避難民の収容完了まで進撃を停止する事にしたからだ。

つまり……作戦スケジュールが狂ったのは主力隊では無く、マグマ軍の方だった。

なお、長野市の人口は約30万人である……。

 

 

 

 

0730 別働隊(司令部) 小谷村(中小谷)

 

 

「…との事です」

 

 

「確か、長野市の人口は30万だった様な…」

 

 

「マジですか…」

 

高田駐屯地に打電された内容を報告した細川に対し、情報通の市ヶ谷が呟き、筑波は絶望した表情で言った。

 

 

「30万人ですか…進撃停止どころか、再開に数日を要しますね」

 

隣で聞いていた鈴木大尉が言った。

 

 

「まあ、でも、それはそれでマグマ軍の注意を引きますから、ある意味、問題は無いですね」

 

 

「露骨過ぎる言い方だが、皮肉にもそうだな」

 

細川のもの言いに鈴木は苦笑いを浮かべて肯定する。

そして、筑波も市ヶ谷も主力隊の役目…もちろん、主力隊も知ってるのだが…はある意味で『囮』なのである事を知っている為に何も言えないのである。

 

 

「さて、そうなりますと…『本命』の件になりますね」

 

 

「そう言えば、そろそろ航空偵察が来る時間だね」

 

そう呟き、腕時計を覗いた時、新発田が飛び込んで来た。

 

 

「すみません! 敵斥候と接触しました! 現在、対馬隊が追撃しています!」

 

 

「ふむ…まあ、問題は無かろう。と言う事で、作戦は順調です」

 

冷静に、しかも、余裕ありげにニコリとしながら鈴木は言った。

 

 

 

その頃 高度9000メートル上空

 

 

日本海に展開する海軍部隊から発進したRF-2(F-2Bの偵察機型)が長野県上空に到達した。

この偵察機の役目はこの後の作戦推移の為の最終確認偵察だった。

そして、この偵察機に乗るのは二式偵察機(彗星艦爆の採用前の試作偵察機)の妖精ペアであり、皮肉にも空自よりも『実戦の場を踏んだ』ベテランだった。

そんなペアの偵察員が偵察・撮影機材を操作している途中である事に気付く。

彼らは事前情報として焼岳に移動要塞が居るのは知っていた。

だが、気になって偵察カメラをズームしてみれば長野市南、浅野山付近に居る移動要塞を発見した。

そして、これは鞍馬の司令部室でリアルタイムに見ていた松島宮達も確認し、事前の作戦要領通り、『空挺部隊降下の障害になる物』並びに『作戦上脅威となる物』である為、最優先無力化対象に決まった。

また、もう一つ挙げるとするならば、この偵察機の偵察状況をデータリンクにより司令部隊と主力隊も受け取っていた事だった。

 

 

同時刻 新潟空港

 

 

「空挺隊、気をつけ!!」

 

習志野の号令に居並ぶ空挺隊員が直立不動となる。

そこには特戦群や水陸機動団によって人員が減ったものの、かつて『第一狂ってる団』の異名を得た日本唯一の空挺・特殊部隊の精強な隊員達がいた。

 

 

「これより、高塚陸将補からの訓辞を述べる。『訓辞 本作戦の成否は空挺隊の双肩に有り 諸君らに『空の神兵』の英霊の御加護があらん事を』以上だ。搭乗!!」

 

短い高塚の訓辞を述べ、その号令に次々と空挺隊員は搭乗機に乗り込んだ。

 

 

 

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51 長野北部解放戦 4

0845 マグマ軍司令部

 

 

「ナニ? 長野ノ主力ハ動カナイダト?」

 

 

「ハッ、如何ヤラ、避難民ノ受ケ入レデ進撃ヲ中断シタヨウデス」

 

長野市の部隊からの報告にライサ大佐は思案する。

 

 

「…日本人ハ生真面目ダト聞クガ確カニ生真面目ダナ」

 

 

「ソレト長野市ノ部隊カラ…避難ガ完了シテイナイト報告ガアリマシタ」

 

 

「ナンダト? 市民ノサポタージュカ?」

 

 

「イイエ、市民ハ我々ノ指示ニ従イ秩序良ク避難シテオリマス。問題ハ30万ノ数ノ多サデアリマス」

 

 

「…抜カッタ。ソレダケノ人間ガイタカ」

 

それを聞いたライサは苦い顔をする。

軍隊で自己作戦完遂能力を持つ旅団が(各国によって基準は違う)5000人で有れば、それを維持するのに掛かる労力は並大抵では無い。

それが60倍なのだから……ライサの苦い顔の原因もわかる。

 

 

「ソレト…北部ニ現レタ敵ノ別働隊デスガ、装甲車ヲ主体トスル部隊デ、ドウヤラ、アノ駐屯地トノ合流ノ為ニ来タ部隊ダト思ワレマス」

 

 

「…ソウカ」

 

市ヶ谷達司令部隊の報告を受けたライサはうって変わって静かに言った。

確かに部下の推察はあってはいるだろう…だが、タイミングがおかしい。

しかも、敵は後退するどころか、前進を続行する気だと言う事…。

 

 

(オカシイ……ナニカ胸騒ギガスル…ナンダ…?)

 

何処か引っ掛かる物の正体をライサはまだ見つけていなかった。

 

 

 

その頃  須坂市内

 

 

 

「松塚、出頭しました」

 

 

「すまない、松塚大尉。少し…いや、だいぶ状況が変わった」

 

長野市民収容を手伝っていた松塚は桃屋に呼ばれて仮設司令部までやって来た。

 

 

「『だいぶ』ですか」

 

 

「あぁ、『だいぶ』だ。海軍の偵察機が長野市より南、千曲市周辺に展開する大部隊を発見した。なお、敵の中には移動要塞が居た」

 

 

「移動要塞ですか? 松本市近辺に居た物が移動したのでは?」

 

 

「いや、彼方にはしっかりと1体居ましたよ。海軍の見立ては近くの浅間山か何処かに潜んでいた物が、我々を撃退する為に移動して来た、と見ているそうだ」

 

 

「なるほど、確かに移動要塞は山岳に居る事が多いですね…では、要件は上田市に降下予定の空挺部隊の援護ですね?」

 

 

「察しがよくて助かる。406号線を使えば菅原高原を経由し、上田市に入れる。すまないが、一部部隊を預けるから、其方に言ってほしい」

 

 

「わかりました。では、私が直率する戦車1個小隊と61さん、歩兵・工兵隊を一個中隊ほど大丈夫ですか?」

 

 

「それだけでいいのかい?」

 

予想より少ない数に桃屋は訊くと松塚はニコリと笑う。

 

 

「主力隊は長野市民の収容もありますし、また、敵の注意を引く必要がありますから、下手に大人数を出して頂く訳にはいきませんよ」

 

 

「やれやれ…流石にそれだけでは出せんよ。砲兵隊から武器娘の74HSPと75MSSR、あと、19装輪を出すよ」

 

 

「砲兵の援護があるのは心強い。わかりました、直ぐに…」

 

 

「おっと、我々も噛ませてもらいますよ」

 

そう言いながら劉大佐が入って来た。

 

 

「我々からも戦車1個小隊と歩兵1個中隊、M109自走砲を出させて頂きます」

 

 

「劉大佐、ありがとうございます」

 

桃屋が頭を下げると、劉大佐は笑いながら言った。

 

 

「何を言いますか。我々の任務は日本の支援です。当然ですよ」

 

 

「と、言う訳だ、松塚大尉。行ってくれるかね?」

 

 

「お任せ下さい。騎兵隊の本領を見せてやりますよ」

 

ニヤリと笑いながら松塚は答えた。

 

 

 

 

0900 新潟・長野県境上空

 

FR-2を先頭に航空機の大群が飛んでいた。

この大群は新潟県沖に展開していた第一・第二海上航空集団と深海棲艦、アメリカ海兵隊が出した『第一次攻撃隊』である。

その機種は様々で、艦娘を中心とした海上航空集団は海洋迷彩を施したF35C、F14トムキャット、F2、F4ファントム、F1、深海棲艦は深海棲艦色のラファールM、シュペルエタンダール、Su-33、MiG29K、海兵隊のF35Bの団体様であった。

そして、彼らの任務は松本駐屯地、並びに千曲市付近に展開するマグマ軍、並びに移動要塞への航空攻撃。

焼岳だけでなく、千曲市にも移動要塞が出現した為、攻撃隊の一部は兵装を変更したが、第一次攻撃隊は時間通りに発進した。

攻撃隊は県境上空で2手…攻撃隊の3分の1が松本駐屯地付近担当…に分かれ、目標へと向かった。

そして、攻撃の開始は現代版対艦隊航空攻撃と言うべき、『全集方位からの一斉ミサイル飽和攻撃』から開始された。

マーベリックやヘルファイヤをはじめとした空対地ミサイル、並びに対移動要塞用も兼ねた空対艦ミサイルがマグマ軍へと殺到した。

対して、マグマ軍はこれを『前段階』で阻止する事は出来なかった。

 

 

 

0905 ライサ戦闘団司令部

 

 

「…ン、ナンダ?」

 

司令部で指揮を執っていたライサはジェットエンジン特有の音に空に目を向けた。

すると……ライサ達を嘲笑うかの様にミサイルの大群が我が物顔で次々に飛来・通過していく。

 

 

「シマッタ! 敵ノ遠距離航空攻撃カ!!」

 

空襲と判り慌てる兵員を他所にライサは苦々しそうに言った。

しかし、それは序章に過ぎなかった。

 

 

「大変デス、ライサ大佐! 千曲市の主力カラ!!」

 

 

「ナンダ!?」

 

 

「『敵ノ大規模空襲有リ! 敵ガ7ノ、空ガ3!』デス!」

 

 

「….奴等、コレヲ待ッテイタノカ!」

 

 

 

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52 長野北部解放戦 5

先週は更新出来ず申し訳ありませんでした。
今年最後の更新(予定)な為、2話同時投稿致します。



出現以降、世界でマグマ軍と戦うにつれて2つ判明した事がある。

まず第一に、マグマ兵自体が『海を嫌う』事だ。

これは湖として有名なカスピ海での事例だが、ロシア海軍スペツナズがマグマ兵を捕らえた時、このマグマ兵は誤ってカスピ海に落ちてしまい『全身を掻きまくっていた』そうだ。

よって、マグマ兵は『海水だけでも苦手』で『アレルギーに近く、全身蕁麻疹が出来たかの様に掻く』と言う事がわかったそうな。

そして、第二だが…ある意味、七不思議に近いが…マグマ軍は『航空・対空戦力が歪』である事だ。

まず、マグマ軍は『一部例外を除き』航空戦力はヘリしか『無い』。

つまり、高高度で戦える航空機なんて無い。故に固定翼機を投入されれば限定的航空優勢(或いはエアカバー)を取る事すら出来ない。

(実際、緊急事態と言う事で訓練機扱いにしていた妖精達が乗る烈風や紫電改等のレプシロ機に迎撃・撃墜される事案まで多数発生した)

また、ソ連・ロシア軍を模倣するマグマ軍はこれまた不思議な事に『対空火器にも偏りかある』のだ。

確かに対空戦車や携帯SAMは存在する。だが、中距離・長距離SAMが存在せず、旧ソ連の様に近接対空火器と中長距離対空誘導弾を組み合わせた、濃厚な多重迎撃網を構成していなかった。

そして……日本でもこの歪な構成を突かれたのであった。

 

 

 

その頃 千曲市 マグマ軍主力

 

ミサイルが四方八方から迫る中、擬体化されたシルカが23㎜機関砲を乱射し必死にミサイルを迎撃するマグマ軍。

しかし、対艦隊用航空攻撃を応用した全周囲飽和攻撃はその弾幕を抜け、次々に戦車やシルカをはじめとした目標にミサイルが着弾する。

密集状態で待機していたマグマ軍に数百機の大群から放たれたミサイルは例え本来の目標に外れたとしても、部隊中央部に向けて飛んでしまえば『まぐれ当たり』してしまう。

既にマグマ軍近接迎撃網は飽和状態であり、その迎撃能力は著しく低下していた。

そして、それを高高度で観察するグローバルホークからの映像により察知した攻撃隊は近接攻撃に移行した。

長距離レーダーとイージスシステムが有ればもう少しどうにかなったかもしれないが……それは無い物強請りだった。

 

 

 

その頃 高塚達

 

 

「よしよし、敵さん、空に注意がいってるな。タイミングがいいぞ」

 

特戦群の事前情報通りにライサ戦闘団司令部のあるカントリークラブに潜伏接近した高塚達。

慌てる司令部周辺の様子を見ながら高塚はニヤリと笑い呟いた。

 

 

「では、指揮官。はじめますか?」

 

豊川の言葉に高塚は頷いた。

 

 

「あぁ…皆、概要は話した通りだ。敵の指揮官は殺すな。生きて捕らえる。また、マグマ兵も戦闘不能にするだけでいい。無駄に殺す事はするな」

 

その指示に出浦を除く全員が頷いた。

 

 

「標的以外はどうでもいいのはともかく、敵指揮官を『生け捕りにする』なんて、高塚司令はリアリストね」

 

出浦が呆れながら言った。

 

 

「まあ、そう思われても仕方ないな。ただ、彼らを見てみろ。情報通りなら、敵指揮官が育てた部隊は精強だ。そんな中で総指揮官を戦死させた場合、孤立した人員がゲリラ化する。小野田少尉や南方でのゲリラ化した日本兵の事例から見れば厄介だ」

 

更に言うならば、総指揮官の仇を取らんと死兵化するのを高塚は恐れていた。

『死兵とは決して相対するな』は戦術の世界では絶対だからだ。

 

 

「故に出浦、下手に撃って殺すなよ」

 

 

「はいはい、わかってるわよ。射撃の腕は信じて欲しいわ」

 

 

「よし、じゃあ皆、やろうか」

 

 

 

数分後 ライサ戦闘団司令部

 

それは突然だった。

くぐもった発砲音が聞こえた様な気がした時、手近にいた歩兵が脇腹を抑えて倒れ込んだ。

そして、それが合図かの様に明確な発砲音な複数聞こえたと共に歩兵が数人倒れた。

 

 

「敵襲! 敵ノコマンドダ!!」

 

 

「敵ハ少数ダ! 落チ着ツイテ…グガッ!?」

 

 

「気ヲツケロ! 敵二スナイパーガイルゾ!」

 

高塚達の襲撃に慌てながらも素早く応戦するマグマ軍。

そして、将校の1人が通信機に手を伸ばした瞬間、その通信機に大孔があいた。

 

 

「マサカ…下手二装甲車輌ヲ前二出スナ! 敵二ハ対物…」

 

ガキーン!

 

ライサが叫び終わる前に襲撃部隊を掃射しようと近付いた擬体化したシルカに『対物ライフル』の銃撃が直撃し、シルカが大破した。

 

 

「ライサ大佐! ココハ自分達ガ対処致シマス! 司令部ヲ移動シテ下サイ!」

 

 

「…スマナイ。司令部移動! 決シテ無茶ハスルナ!」

 

 

「心得テオリマス。総員、ライサ司令ガ離脱スルマデ通スナ!」

 

 

 

一方 高塚達

 

 

「指揮官! 目標が逃走します!」

 

槓桿を引いて薬莢を排出していたスプリングフィールドが叫ぶ。

素早く確認すると司令部要員を引き連れ、撤収しようとしている。

 

 

「憲兵殿! ここはオレ達に任せて行ってくれ! 逃したら面倒なんだろ!!」

 

97式20㎜自動砲に新しい弾倉をはめながら天龍が怒鳴る。

 

 

「すまん! 恩にきるよ、天龍!」

 

 

「いいって事よ! 龍田! 憲兵殿に付いて行け!」

 

 

「うふふ、天龍ちゃんが言うなら、仕方ないわね〜」

 

 

「司令官、僕も行きます!」

 

 

「豊川もか。よし、3人行くから頼む!」

 

 

「へっ、やっぱ、憲兵殿だよな! おーし、皆、援護射撃!!」

 

 

 

その頃 松塚隊

 

 

「急げ急げ! 友軍が待っているぞ!!」

 

自らの乗車を抽出部隊の先頭に松塚は最大スピードで406号線を南下していた。

率いるのは高田・富山らが率いる歩兵・工兵の混成部隊に61と砲兵隊、更に台湾軍からのMC11戦車4輌を含めた抽出部隊。

まだ『本命』は投入されていないが、今は1分1秒も無駄にはできないからだ。

更に松塚は久々に興奮していた。元騎兵隊の祖父の血を受け継いだだけに先頭に立って指揮を振るいながら突っ走る事に。

 

 

「(馬が戦車に変わっただけだ。ハッチから身を乗り出し風を感じながら指揮を執る…悪くないな…ん?)……全車停止!!」

 

進路上に出た人影に松塚は停止命令を出す。

すると、その人影は此方に視線を向けるとまるで猫の様に首を傾げる、

 

 

「こりゃあ、ネコ! 飛び出すなと言うたやろ!!」

 

 

「あー、何時もの事や。諦めとき〜」

 

なんとも凹凸のある声とその主が出て来た。

 

 

「ん? 旅団管内で戦車は久々に見たが、何処の部隊や?」

 

ミニミ軽機関銃を持った女子…多分、自衛官…が松塚を見ながら尋ねる。

そして、それを答えたのは同行者。

 

 

「あぁ! 相馬原旅団長補!?」

 

 

「ガリルさん? IDWさん!?」

 

様子を見に来たのであろう高田とFF FNCが相手の正体を言ってくれた。

 

 

「おぉ、高田か! じゃあ、これは奪還軍の部隊か!」

 

 

「そうですよ、旅団長補! あっ、松塚大尉。第12旅団長補の相馬原1佐です!」

 

 

「あっ、どうも…車上からですが、松塚一尉です」

 

 

「おう、よろしく! で、なんだ、この戦車は? マグマ軍からぶん獲ったか?」

 

 

「それについては私が説明します。松塚大尉、時間がありません! 急ぎましょう!」

 

 

「あぁ、そうだな。えーと、ガリルさん、IDWさん、とりあえず乗って下さい。全隊、前進再開!!」

 

 

 

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53 長野北部解放戦 6

今年最後の更新です。(予定)


10分後 ライサ達

 

 

「止メロ! ライサ大佐ヲ逃スノダ!!」

 

 

「大佐殿! ココハ任セテオ逃ゲ下サイ!!」

 

走って逃げるライサ達ら戦闘団司令部要員と護衛達。

僅か3人の追跡者にも関わらず、ライサを逃す為に司令部要員と護衛が止めにかかるのだが、今のところ足止め程度にしかなっていない。

本来なら、『芋虫』のBMP2を使いたいところだが、既に先の対物ライフルに撃たれて大破していた。

 

 

「中々二シツコイナ…フッ、敵モ考エル事ハ同ジト言ウ事カ」

 

 

「大佐殿! 敵二関心シテイル場合デハアリマセン!」

 

ライサの呟きに同じく走る将校がツッコミを入れた。

 

 

 

一方 高塚達

 

 

「邪魔だ…退け!!」

 

そう怒鳴りながら抜いていた軍刀で立ちはだかろうとするマグマ兵をなり倒した。

他のマグマ兵は龍田と豊川が無力化する。

 

 

「それにしても…敵兵が自主的に殿に入るとは…」

 

 

「あら〜、地中海なら時々あったわよ〜」

 

 

「まあ、あったはあったな」

 

豊川の呟きに何時もの調子で龍田が答え、高塚は肯定する。

 

 

「それにしても憲兵さん。彼女達が逃げてる方向は…」

 

 

「あぁ、松本駐屯地包囲部隊がいる方向だ。まあ、当然と言えば当然だがな」

 

 

「天龍ちゃん達、あっちをどれ位で片付けるかな〜?」

 

 

「まあ、案外早めに終わらすだろう…それより、標的だ、標的」

 

そして、3人はそのままライサを追い続ける。

 

 

 

0920 上空

 

 

『こちら、第二次攻撃隊。これより、第一次攻撃隊に続き、敵地上部隊を攻撃する』

 

無線通話が機内放送を通じて流れ、自分達を護衛するかの様に飛んでいた攻撃隊が輸送機編隊から離れていく。

後に残ったのは陸自空挺団を載せた空自のC-2、C-1輸送機、そして、その数より多いロシア製I I-76輸送機。

今回の作戦の主役である空挺部隊を載せた『日露合同空挺作戦』であった。

 

 

『これより、降下コースに入ります』

 

 

「総員起立!!」

 

暫く飛び、機長からの通知に習志野の一命に空挺隊員が起立する。

 

 

「降下準備!!」

 

隊員達は素早く降下準備とバディ点検を終える。

 

 

『こちら機長。降下コースに入った。修正しつつ、コースを維持する。ちょい右、ちょい右……ちょい左…』

 

機長がパイロットにコース維持の為にやり取りする中、支援要員が降下用扉を開ける。

 

 

『ちょい右…コースよし。降下開始ポイント至近…コース良し、コース良し…降下ポイント! 降下! 降下!!』

 

 

「行くぞ!」

 

 

「「「「「「「「「「「おう!!」」」」」」」」」」

 

次の瞬間、先頭の隊員から次々に機外へ飛び出し、パラシュートの華が咲く。

最後尾の隊員が飛び出したのを見届けた習志野は支援要員に敬礼すると自らも飛び出した。

機外に出て、パラシュートを開き、周囲を見渡すと今回共に降下するロシア空挺軍のI I-76から装輪式車輌や装軌式装甲車輌が降下してくるのを目撃した。

 

 

(噂通りとはこの事ね…LAVの降下だけで終わらせてる私達とは違うわ)

 

 

そう思ったのも僅か数秒。

後は地上に着くまで気の抜けないパラシュート降下に集中する事にした。

 

 

 

 

同時刻 松本駐屯地

 

 

ライサ達に包囲を受けていた松本駐屯地。

しかし、何の通達の無かった空爆に包囲間の鬱憤もあり、隊員達が声を挙げる中、駐屯地娘の松本亜衣璃一尉は山岳レンジャーゆえの目の良さで駐屯地に近付く機影を捉えた。

 

 

「…あれは、輸送機?」

 

大まかな機種を判定出来たのは空自の岐阜基地がある隣県であり、時々、空自機を見ていたからと言うべきだろう。

そんな彼女も今まで見た事の無い輸送機の編隊から次々に空挺降下が開始されたのを見て指示を出した。

 

 

「味方の空挺降下が開始された。総員、反撃用意」

 

普段喋らない彼女とてそこは山岳レンジャーで鍛えた分析力と決断力で指示を下し、得物の対人狙撃銃を確認する。

その間にも降下してくる空挺隊員達は次々に松本駐屯地のグランドや敷地内(或いはその周辺)に着地した。

 

 

「失礼、部隊長は居るかね?」

 

唖然とする13普連の隊員達を前にそんなのは何処吹く風とばかりに落下傘を畳みながら山本大佐が訊いた。

 

 

「山岳レンジャーの松本亜衣璃一尉。私が部隊長」

 

 

「どうも、ロシア連邦軍所属第422親衛空挺特殊任務連隊連隊長、山本剛大佐だ。いきなり空挺で現れてすまない」

 

 

「…空挺団以外の空挺部隊投入が以外」

 

 

「まあ、そうかもしれませんな。さて、お気付きだと思うが、既に反攻作戦は動いている。我々は焼岳の移動要塞攻略に向かうので少ししか手伝えないが、良いかね?」

 

 

「それについては大丈夫。敵も空爆で弱体化してるし、空挺部隊を投入するなら後続の投入は必須」

 

 

「よかった。では、反攻といきますかな」

 

 

 

 

その頃 上田市近郊

 

 

 

「人員を展開! 機材の掌握とマグマ軍に対して防衛線を張れ!!」

 

着地した習志野達空挺団は防衛線を確保する人間と機材を回収する人間の二手に分かれて展開している。

そう指示した習志野達の隣を同じく降下したロシア空挺軍がBMDシリーズやBTR-D、2S9ノーナSと言った車輌が通過していった。

 

 

 

「……習志野一尉、我々もあんなのが欲しいです」

 

 

「……無い物強請りしても始まらないわ。とにかく、行動あるのみ」

 

 

 

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54 長野北部解放戦 7

先週・先々週と投稿出来ずに申し訳ありませんでした。
そして、今年もよろしくお願いします。


0940

 

 

「くそ、待ちやがれ!!」

 

 

「誰ガ待ツカ!!」

 

高塚の言葉にマグマ軍士官が言い返す。

罵倒の類は言語の壁を越えると言う一例を見せつけながら双方の逃走・追尾劇は続いている。

ライサを守っていた護衛も司令部要員も今や漸く両手で数えられる位に減っていた。

 

 

「…少佐、オ前ハ皆ヲ連レテ別ルートカラ逃ゲロ」

 

 

「大佐殿! ソレハ…」

 

 

「敵ノ狙イハ私ダ。ナラバ、私カラ離レレバワザワザ追イ駆ケテ来ル事モ無イ…今ハ一刻モ早イ指揮系統ノ回復ダ! 行ケ!!」

 

 

「大佐……ワカリマシタ!」

 

そう言って件の少佐は共に逃げる司令部要員と護衛に二言、三言言うとライサから離れていく。

 

 

「指揮官! 2手に分かれました!」

 

 

「団体様は無視だ! 指揮官だけ追うぞ!」

 

豊川の言葉に対し、高塚はライサに的を絞った。

無論、出来れば団体様も逃したくは無いが…3人しかいない上に手一杯だからだ。

だが、その心配は団体様側が100mも走らない内に解消された。

何故なら、その団体様の方に軽装甲機動車を先頭にした集団が足を止めたからだ。

 

 

「武器を捨てろ! 下手に動くと撃つぞ!!」

 

 

「逃げても無駄だ! 投降しろ!」

 

ターレットの機関銃、下車した隊員のアサルトライフルが向けられ、先の少佐以下のマグマ兵は大人しく武器を捨てる。

 

 

「…マ、マサカ…」

 

 

「あれは…対馬隊か!?」

 

思わず立ち止まったライサと高塚達だったが、ライサは状況から、高塚は軽装甲機動車の部隊マークから全てを悟る。

 

 

「指揮官! 市ヶ谷さんからの命令で手伝いに来たよ!」

 

降りて来た対馬まどかの言葉はその『悟り』を確認するものとなった。

 

 

「まどかちゃん、もう少し細かくお願い出来ない?」

 

わざとらしく龍田が言うと、対馬は答えた。

 

 

「別働の司令部隊は松本駐屯地包囲部隊と戦闘に入りました! 先の空爆も有り、状況は我らの優勢! 対馬隊は指示を受け高塚少将の支援に参りました!」

 

 

 

その頃  松本駐屯地近郊

 

 

「さあ、陸軍航空隊! 出番であります!!」

 

 

「戦車隊! 砲兵隊! 各個に撃ち方始め!!」

 

あきつ丸が召喚したヘリ隊と神州丸の10式戦車隊、99式自走榴弾砲隊が攻撃を始める。

先の2回にわたる航空攻撃により戦闘力、特に対空戦闘能力を著しく損失していた包囲部隊にはヘリの存在は悪魔に等しかった。

また、松本駐屯地から討って出た駐屯部隊と山本大佐の空挺部隊の攻撃により、前後両方から挟まれる形であった。

更に…

 

 

「邪魔するな! アゴーイ!!」

 

空挺部隊の装甲車輌と共に空挺降下したT-72が走り回りマグマ軍戦車をスクラップに変えていく。

人員同様に空挺降下させれる武器娘…今回初実施…だからこそ出来た事である。

 

 

「松本駐屯地の部隊と合流して下さい! 山本大佐の空挺部隊を長くここに留める訳にはいきません!」

 

コマンドカー型の73APCの中で市ヶ谷は指示を出していた。

本来なら、筑波が代理なのだが、本人が『今回は各個に委託されていますし、何時も自分が居るとは限りませんので』と市ヶ谷に指揮を執らせている。

 

 

「了解! 新発田、御嬢さん達を頼むぞ」

 

 

「は、はい!」

 

 

「よし! 北国の歩兵を見せてやれ! 行くぞ!」

 

鈴木の一命に第30普通科連隊抽出一個中隊が動き出す。

神州丸の自走砲隊と73APC120㎜、並びに87㎜自走迫撃砲の援護射撃の下、神州丸の戦車隊の後方からジリジリとマグマ軍に対して圧力を掛けていく。

 

 

「………いま」

 

その呟きと共に松本が対人狙撃銃の引き金を引く。

数瞬後、マグマ軍歩兵を率いていた隊長が負傷する。

戦場の銃撃戦下の狙撃は非常に厄介である。なぜなら、その銃撃が狙撃なのか、通常射撃のまぐれ当たりかが判別しにくいからだ。

また、狙撃がわかったとしても対処出来ない。銃撃戦の最中に甲羅に潜った亀に成れば死なないにしても、包囲されて…下手をすれば死ぬ。

それが松本駐屯地包囲部隊の現状だった。

つまり、この時点で例えライサ達が高塚達を撒いて辿り着いたとしても、危機的状況だった……但し、面倒さでは遥かに面倒になるのだが。

 

 

 

この時、ライサはまだ冷静だった。

それは彼女が精強な部隊を作るだけの知識と経験があったからだ。

故に彼女はこの状況でも動いた…狙いを高塚に定めて。

 

 

「高塚司令!」

 

密かなる殺意に気付いた豊川が声を上げる。

だが、それは高塚も気付いていた事であり、ライサの刺突を最小限の動きで回避する。

 

 

「チィ!」

 

 

「くっ、やっぱ、そうくるよな!」

 

既にライサも追尾して来た人間が何者かを認識している。

故に現状下において一番効果的なのは…高塚を排除する事。

だが、そんな対峙も長くは続かない…高塚達の後方から飛んで来た銃弾がこの状況を破砕する。

ライサの真横を掠めた対物ライフルの弾丸はライサを気を引くには充分だった。

その僅かな隙を見逃さず、龍田が得物の薙刀でライサに強烈な一撃をくらわせた。

 

 

「…ヒヤヒヤしたぞ、龍田」

 

 

「うふふ、天龍ちゃんと一緒で、腕は信じて欲しいわ〜」

 

気絶し倒れそうになったライサを受け止めながら高塚は言うと龍田は何時もの調子で言った。

 

 

「まあ、こっちより、あっちがヤバそうだがな」

 

苦笑いを浮かべながら、高塚は自分の背後を見た。

 

 

 

少し後方

 

 

 

「ミッション・コンプリート…かしらね」

 

得物の銀の対物ライフルのスコープから目を離した出浦が言った。

 

 

「1つ間違っていたら、呑気にそんな事を言えなかったと思いますが」

 

 

戦艦並みの眼光をした不知火がジロリと睨みながら言った。

つまり…ライサに撃たれた弾丸を撃ったのは出浦であった。

 

 

「はぁ…はいはい、終わりだ、終わり。憲兵殿と合流すっぞ」

 

天龍は溜め息を吐きながら言った。




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55 長野北部解放戦 8

今回で北部戦は終了です。


松本駐屯地包囲解除の最大の障害は焼岳に展開している移動要塞であった。

幾ら包囲部隊を蹴散らしても、移動要塞が出てくるか、或いはその火砲による制圧射撃を受けてしまえば、大損害は間違いなかった。

故に松本行きを志願した山本大佐に高塚はその対策を訊いたところ、答えは単純だった。

 

『革命と大戦を生き抜いた同志がいる。彼女なら、妥協の要塞など物の数では無いさ』

 

…まったくもって頷ける答えだった。

 

 

焼岳 移動要塞配置場所

 

 

「はっはっは! それで終わりか? そんなヒョロ弾で終わりか!?」

 

そんなセリフを発しつつ、パイプ片手に己の火砲を水平一斉射撃する。

その巨弾の嵐はマグマ軍戦列…移動要塞の直轄部隊を吹き飛ばすには充分だった。

その肝心の移動要塞クロシュタントも既に自慢の二基の三連装砲塔は破壊され、黒煙を上げて大破していた。

無論、これは巨弾を放つ彼女…ガングートがやった事だ。

 

 

「ガングート! こっちの掃討は完了したよ!」

 

 

「わかった、同志ちゅうくらいの! 同志ちっこいの達はどうした!?」

 

 

「私の反対側の掃討中!」

 

 

「なら、心配無いな!」

 

タシュケントと上記の様な問答をしながらもその砲撃を止めないガングート。

ぶっちゃけて言うと、やり過ぎである…射線の前には戦列だった『物』しか無いからだ。

 

 

「同志でっかいの。こっちも完了したよ」

 

そこにヴェルーヌイこと響と占守が合流した。

 

 

「そうか……で、どうするんだ、これは?」

 

ガングートの呟きの理由は、彼女の砲火により壊滅した直轄部隊残存が抵抗不能とみて次々に武器を捨て、手を挙げて投降しているから。

 

 

 

「ガングートさん、隊長なんだから、考えて下さいっしゅ!」

 

 

「…とりあえず、ウォッカでも配るか?」

 

 

「「同志!!」」

 

占守の問いにガングートが真面目に答え、響とタシュケントがツッコミを入れる。

なお、山本達が来るのは1時間後の事である…。

 

 

 

上田市近郊 空挺部隊防衛線

 

 

 

「マグマ軍部隊来ます!!」

 

 

「最強第一空挺団の見せ場だ! 全員、気を張れ!!」

 

自ら前に立って発破を掛ける習志野。

そんな彼らの前に現れたのは千曲市で待機していたマグマ軍主力。

しかし、2度の航空攻撃で消耗し、更に後方の上田市に敵空挺部隊出現した事により、その消耗を再編成しないまま部隊を引き連れて来た。

しかし、装甲車輌が少ない空挺部隊、特に第一空挺団には厳しいものとなる筈だった。

だが、そこに『救世主』が現れる。

それはロシア空挺軍の兵士達の歓声から始まった。

その歓声の向ける先を見ると、2つの航空機編隊が接近するマグマ軍部隊に向かっている。

その2個編隊は翼や胴体のウェポンベイからミサイルや誘導爆弾を発射し、1度フライパスすると旋回・再接近し、今度は大口径機関砲の銃撃を行う。

 

 

「なんだ!? 友軍の機体なのか!?」

 

航空自衛隊機でも数種類知っていれば良い方で外国軍機となればサッパリな習志野は訳がわからない、とばかりに言う。

この2つの編隊の正体は『ルーデルの化身』A-10サンダーボルトと『現代の黒死病』Su25フロッグフット(ロシア愛称はグラーチュ。『ミヤマカラス」)である。

この『対地襲撃機』は中低速度ながら、長時間の飛行時間を利用した地上部隊支援の為に開発された機体である。

故に今回の様な戦闘においては最適な機種であった。

この攻撃に合わせ、ロシア空挺軍部隊からアノーナ自走迫撃砲が砲撃を開始し、更に中長距離ATMが発射される。

空挺団も120㎜重迫撃砲や各種対戦車火器を使ってマグマ軍に撃ちまくる。

そして……管平経由から『彼ら』が到着した。

 

 

 

 

「騎兵隊、掛かれ!!」

 

乗車するT62の車長ハッチから半身を出した松塚はそう叫んで、率いていた部隊を戦闘に参入させる。

自らが率いるT62戦車4輌、台湾軍MC11戦車4輌が菱形隊形で進み、74SPや75SMRS、19装輪、台湾軍M109自走砲の援護射撃が加わる。

 

 

「航空支援にA10とフラッグフット、贅沢な航空支援だな! このまま畳み掛けろ!」

 

小勢とは言え、余り疲労していない部隊の参入、しかも、戦車を含んだ打撃力のある部隊の介入は散々に疲弊したマグマ軍戦列を食い破る。

そんな中で61は見つけたのである。

 

 

「隊長! あそこに移動要塞!」

 

 

「なに? あれだけ空爆されたのにまだ健在だったのか!?」

 

61の報告に松塚は双眼鏡を向けるとボロボロのクロシュタントが直轄部隊で周りを固めていた。

 

 

「61、行け! 周りの雑魚は仕留める! 陸自古参戦車の実力、見せてこい!」

 

 

「はい!!」

 

 

「全隊、61を援護しろ! クロシュタントが崩れれば、奴らの抵抗も下火になる!」

 

松塚の指示に砲兵隊も、更に上空のA10やフラッグフットもその意図に気付いたらしく、61を阻止しようとするマグマ軍に執拗な攻撃が行われる。

そして……至近距離まで近付いた61の105㎜はこの長野県北部解放戦の終幕を告げる一撃となった。

 

 

 

暫くして 松本駐屯地付近 解放軍司令部

 

 

「習志野一尉より入電。『マグマ軍主力部隊はクロシュタントの損失により降伏。これより、捕虜の収容に移行する』以上です」

 

 

「わかりました……はぁ、ようやく、1日が終わりましたね」

 

細川からの報告に夕日を見ながら市ヶ谷が呟いた。

 

 

 

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56 敵将と相語りる

少し長くなりました。
(約2900字)


2日後 諏訪大社

 

 

「いやー、まさか、武田勝頼と縁がある諏訪大社に行けるとは思いませんでした!」

 

 

「高田、一応これは命令だぞ。あと、解らん話はするな」

 

諏訪湖北側にある諏訪大社の前で梯団休止中に高田が諏訪大社を見ながら言うと、相馬原は若干呆れ気味に言った。

相馬原旅団長補を筆頭に駐屯地娘を基軸にした梯団は上田市以南、八ヶ岳以北のマグマ軍と飯田のマグマ軍を分断すべく諏訪方面に進出していた。

そして、今のところマグマ軍は出てきてはいない。

 

 

「にしても、あの指揮官はどう言う思考回路してるんや? まあ、アヒル野郎共とはまったく違うから何も言えんが」

 

 

「仕方ありませんよ。高塚司令はどちらかと言うと私と同類ですから」

 

 

高塚と付き合いが浅い相馬原と同類ゆえにウマが合う高田。

この時点でズレの差が激しい…仕方ないが。

 

 

「まあ、今の旅団長補に言えるのは高塚司令を『自衛隊基準』で見ない事をお勧めするくらいですね」

 

横から鈴木が入ってきた。

 

 

「鈴木、お前もあの指揮官に対しては好評だな」

 

 

「理屈・理論だけで語るのは自衛隊にも幾らでも居ます。ですが、本物の戦場で、しかも死にかけた人間は指揮官レベルだと高塚陸将補しかおりません。マルタで世界からお墨付きを得ていれば尚更です」

 

 

「直球に言うな、鈴木…はぁ、帰って旅団長にどう報告すべきかな…」

 

 

休止中にそんな事を呟く相馬原だった。

 

 

 

その頃 松本市警察署

 

 

一時的に摂取した松本市警察署に高塚は来ていた。

そして、取り調べ室で待っていると連行されたライサがやって来た。

 

 

「最高現場指揮官自ラトハ…尋問カ? 或イハ取リ引キデモシニ来タカ? ドチラニシロ、我々ノ内情ヤ、不利ニナル様ナ事ハ話サナイシ、シナイゾ」

 

 

「いや、流石に貴女みたいな中堅幹部がしない事はわかってますよ。ただ、私は貴女と話したいだけだ。それで、マグマ軍を少しでも多く理解したいのでね」

 

 

「ハッハッハ、話ヲシタイカ…マア、自ラ私ヲ襲撃シニ来ルナラ、普通ダナ」

 

 

「あはは…普通化していいものかね?」

 

ライサの言葉に高塚は苦笑いを浮かべながら呟く。

 

 

「最低限、人事資料ニアッタ事ニ関シテハ間違イ無イトワカッタ」

 

 

「…どんな人事資料か知らないが、あてにしない方がいいぞ。多分、見たのは市ヶ谷に有る資料だろうけど」

 

 

「ソウダ。ソシテ、ソノ中身ノ大半ハオ前ニ対スル否定的ナ内容ダッタ。マッタク、実ニツマラナイ物デ、資料デ無ケレバ、ゴミ箱ニ行ク物ダッタ」

 

 

「だろうね。まあ、自分自身を過大評価する気は無いが、少しはマシだと思うがね」

 

 

「フッ、謙遜ヲ述ベル気カ? アノ時…首都陥落ニ対シテ堂々ト我々ニ言イ返シテキタノニカ? アレデ一番ノ脅威ト司令部ハ見テイルガナ」

 

 

「他の人間は脅威では無いと?」

 

 

「陸ニ限ッタ話ナラナ。特ニ方面管区指揮官クラスナラ、他ノ連中ハ実戦経験ガ無サ過ギル。優秀デモ、実戦ノ場数ノ有ル無シノアドバンテージハデカイカラナ」

 

 

「ふむ、確かにそれには同意する」

 

今までの会話で高塚はマグマ軍の態勢を読んでいた。

つまり、ライサらを含めた上級将校達は油断はしていないし、また、遺された資料から出来る限りの調査はしている、と言う事だ。

 

 

「ソレヨリ…長野市ハ手コズッテイル様ダナ…イヤ、『ワザト』ソウシテイルノカ?」

 

会話のキャッチボールを得たライサが長野市の話をはじめた。

なお、長野市はまだ『奪還されていない』。

 

 

「実際、手こずってるよ。貴女を捕らえ、しかも、後方とも断絶されたのに『ライサ司令自身か、上級司令部からの命令が無い限り、我々は降伏も投降も武装解除もしない』と軍使に伝えてきたからね、守備隊指揮官直々に」

 

上田市での戦闘後、高塚は桃屋に対し、長野市守備隊に降伏を勧告する様に指示し、その桃屋自身が軍使の1人として勧告したのだが、マグマ軍からの返答は上記の通りだった。

しかし、その代わり、避難しきれなかった一般人、並びに長野市守備隊が収容した本隊の重傷者の受け入れを懇願された為、桃屋は敬意を評してそれを受け入れていた。

 

 

「フッ、生真面目ニ教エヲ守ル馬鹿野郎共ダ」

 

 

「あぁ、そうだな。だが、貴女が慕われていて、かつ、尊敬すべき馬鹿野郎だと思うがね」

 

 

「ソンナ馬鹿野郎相手ニ攻勢ヲ仕掛ケルノハ、リスクガ大キイト言イタイノダロウ? 更ニ市街戦トモナレバ各種インフラノ破壊ト、ソノ復旧ノ面倒モアルカラナ」

 

 

「そうだよ。案外、私は面倒事は避けたい不真面目な人間だからね」

 

 

そもそもな話、無理に突入し、ブービートラップまみれの市街戦をやるなど、地雷原とわかっているのに足を踏み入れる様なものだ。

守備隊が投降してくれれば済む事なので、高塚は攻勢は掛けず、包囲するなりだけにとどめる予定だ。

 

 

「イヤ、指揮官ナラ当然ノ判断ダ。シカモ、時間的・政治的リスクヲ無視シテダ。ソコマデ出来ル将官ハソウソウイナイ。特ニ自衛隊時代カラ居ル将官ノ頭ノママナラ尚更ダナ。オ前ハ、アノ『9条』ヲ絶対視シナイカラ当然カ」

 

 

「…ちょっと待った。なぜ、『9条リスク』を知っているんだ?」

 

高塚の質問にライサは一瞬驚いた表情を浮かべながらも、直ぐに普段の表情に戻し、脚を組んで話始めた。

 

 

「東京陥落後、我々ハ残留・残置シタ人間達ニ協力ヲ要請シタ。主ニライフライン維持ヤ、行政支援、日本語翻訳等ダ。ダガ、ソンナ人間達ノ一部ヤ、投降者、『積極的協力者』カラ『自衛隊ハ9条ニ縛ラレタ不潔デ不正義・非道徳ナ連中ダ』ト言ワレ、憲法9条ノ説明ヲシテクレタ」

 

 

 

「……ちなみに、そいつらは自分達をなんて言ってた? 団体名とか?」

 

 

「多分、オ前ノ予想通リカモシレン。色々ト言ッテイタガ、『労働組合』トカ、『日教組』、『共産党』…マア、色々トアリソウナ団体名ダッタナ」

 

額に手を置いて訊いた高塚にライサは同情するかの様に言った。

 

 

「あはは……って、内情を話してないかな?」

 

 

「協力者ノ事ハ話ハ別ダ。ソレニ私ハ受ケトル側ノ人間デ、ソレ以上ノ事ハ知ラナイカラナ」

 

 

「なるほど…やれやれ、仕事が出来てしまった。すまないが、退出させてもらうよ。また、こうして話したい時はアポイントを取るが…次は茶菓子でも持ってくるとするよ」

 

そう言って出ようとした高塚にライサは声を掛けた。

 

 

「ナラ、オ前達ニ不利ナ事ヲ話ソウ。オ前達ガ心配シテイル上皇夫妻ハ我ガ軍ノ保護・監視下ニアルガ元気デイルゾ。特ニ拘束モサレテイナイ」

 

それを聞いた高塚はドアノブに触れ掛けた手を戻し、ライサの方を向き直す。

 

 

「軍上層部モ当初ハ早ク処断スベキダト言ッテイタノダガナ…ナカナカ、ドウシタ事カ、アテガ外レタノサ」

 

 

「アテが外れた? どうしてだ?」

 

 

「アノ上皇夫妻ガ都内ヲ周リタイト言ッタノデナ、晒シ者ノ意味合イモ含メテ、上層部ハ許可ヲ出シタ。モチロン、『護衛』ヲ付ケテナ。ダガ、会ウ者達ハ恨ミ言1ツ言ワズ、反対ニ上皇夫妻ヲ心配シテイタ。ソレドコロカ、集団ナラバ『万歳』ト叫ビ始メタノダゾ? 私モソノ場ニ偶然立チ会ッタガ…フッ、王者ノ品格ヲ感ジタト共ニ、背中ガ異様ニ寒クナッタナ」

 

そう言って自虐気味に苦笑いを浮かべるライサ。

 

 

「…ありがとう、ライサ」

 

 

「サッキモ言ッタ筈ダ。オ前達ニ不利ナ話ナンダカラナ」

 

 

「あぁ、そうだったね」

 

そう言うと高塚は退出した。

 

 

 

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57 内への対処

翌日 松本駐屯地

 

 

「じゃあ、筑波。すまないが頼む」

 

 

「わかりました。司令こそ、気を付けて下さいよ」

 

 

「わかってるよ。じゃあ、頼む」

 

 

「はい」

 

そんな会話を交わし、筑波はAB412輸送ヘリに乗り、西へと飛び立った。

 

 

「長野南部奪還について、筑波一尉が守山師団長の所に行くのはわかりますが…何かありましたか?」

 

 

「予想された事が予想通りになった、と言ったところだ」

 

細川の問いに高塚は呆れながら言った。

 

 

「あぁ、なるほど」

 

 

「えっと、高塚司令。それはどう言う事ですか?」

 

事情を知る細川と実直な市ヶ谷の反応は対照的である。

 

 

「ライサ司令の話だと、共産系・民主系支持者や進歩系文化人等がマグマ軍に対して積極的に協力しているそうだ。多分、在日朝鮮人も各所で協力しているだろうな」

 

 

「そんな…幾ら自分達を守る為とは言え…」

 

 

「市ヶ谷大尉、アイツらが自分の身可愛さだけでマグマ軍に積極的に協力すると思いますか? アイツらにとってマグマ軍は冷戦時のソ連軍や支那解放軍、北朝鮮人民解放軍同様の『解放者』。今の機会に日本の破壊と私益増強に邁進する為、セッセと協力してるんです。つまり、元から売国奴だった連中が、マグマ軍の日本占領で正体を晒したんですよ」

 

 

市ヶ谷の言葉に細川が唾棄するがの如く言った。

 

 

「残念ながら、細川の言う通りだ。そして、マグマ軍より、そいつら『売国奴共』の方が数千倍厄介だ。情報の取り扱いにも今まで以上に厳しくしないといけない」

 

 

「マグマ軍よりも厄介でしょうか? それに情報の取り扱いとは?」

 

 

「元から日本軍嫌いな連中ですよ? 無形どころか、実力行使を含めた有形妨害が入りますよ。それに方面管区間のやり取りはいいとしても、司令部と沖縄の政府・統幕とのやり取りには絶対的に他者の介入があります。部隊行動も観察されている恐れがあります…ちっ、言っただけでも厄介だ」

 

高塚の言葉に市ヶ谷は疑問を呈するが、細川が答える…舌打ちまでする位の厄介さをわかっているからだ。

 

 

「市ヶ谷さん、議員選挙や地方自治体選挙で左翼系統者が統制するのは組織票が有るからです。裏を返せば彼らはあちこちに繋がりがある。しかも、労働組合を中心に行政・司法・教育・メディアと一般生活に密接し、溶け込んでいる連中だ。つまり、奴らは日本と言う身体の中に神経細胞の如く存在している…しかも、脳とは別系統、病原菌が作り出した神経細胞なんですよ」

 

こな説明に市ヶ谷は漸く合点がいき、そして、その意味合いに顔が青ざめた。

 

 

「つ、つまり、脳たる日本政府が制御出来ない神経細胞が身体を犯し、下手をすればその脳すら犯せてしまう…そ、そんな…」

 

 

「その究極体が先の民主党政権ですよ。民主党は自爆しましたが、今回は違います。警察は無く、政府が国家的統率能力が無いいま、北斗の拳の様な無政府状態。この状態で物を言うのは武力と組織力…いわゆる力のみですよ」

 

震える声で言った市ヶ谷に細川は暗転の先を言うだけだった。

 

 

 

数時間後 守山駐屯地 師団長室

 

 

 

「…と言ったところでお願いします」

 

 

「わかったわ。それにしても、左翼の一件は解るとして、上皇様と上皇后様の安否がわかったのに当分秘密にするって言うのはどう言う事なの?」

 

高塚の伝言を伝えた筑波に対して、守山は気になっていた事を訊いた。

 

 

「その左翼が煽動を得意とするからです。特に奴らはメディアを長きに渡って牛耳ってきた。そこに御二方の安否の情報が拡散された場合、奴等は耳心地良く報道するでしょう。『今こそ上皇后様達を救う為に東京へ進軍すべきだ!』と」

 

 

「…なるほどね。政府や陸幕が執拗に東京奪還を押し付けているのは周知の事実。そこに『御二方の救出』で世論が捲し立てれば、高塚司令も動き辛いわね」

 

理解出来たとばかりに頷きながら守山が言った。

 

 

「あぁ、まあ、政府や陸幕が東京奪還に拘るのは政治的要因と面子だ。

だから、政府も陸幕も世論の後押しは嬉しい訳だ…その裏に存在する意味や思惑なんてのは考えちゃあいないよ」

 

 

「うふふ、口の悪さは昔のままなのに、言ってる事は180度反対ね」

 

 

「よしてくれよ。皮肉な話だが、マルタで散々その類に巻き込まれたんだ…嫌でも高塚司令に同調してしまうよ」

 

 

「そうね…でも、世論操作はいいとして、国民は支持するかしら?」

 

 

「やはり、代替わりしてからも浅いし、今の皇室への理解は現陛下と上皇陛下のセットだ。国民や次世代の為に残られたが故に国民は心配する…ある意味、日本人心理を突かれた形だな」

 

 

「そうして押されて、今の戦力で東京奪還に動けば間違い無く、自衛隊…いえ、日本陸軍は壊滅的被害を受けて、日本の抵抗は瓦解する。そうなれば、マグマ軍も左翼も怖い物は無い…高塚司令がそう言ってくるのも当然ね」

 

 

「あぁ。高塚司令が言ってたよ。『遂に陸軍も国民の中に居る『敵』と本格的対峙する日がきた』ってさ。さて、そうなると、今の陸幕を含めた幹部連中が対処出来るかが…多分、未来を決めるな」

 

 

「ちなみに、前線は私達でどうにか出来るけど、後方はどうするの? 10師団管区は地元の警察官達が復帰して、警察機構が回復したけど、奪還直後の治安維持は問題よ?」

 

 

「うーん、実は高塚司令が一番に困ってるのがそこなんだよ。本来なら、警務隊の仕事だが…警務隊の特性上、駐屯地外では本職の警察官に劣るからな。しかも、規模も小さい」

 

 

「なら、高塚司令が居られて、先の深海棲艦事変に警務隊を統合した憲兵隊の復活が理想よね?」

 

 

「それがな…新潟に取り掛かる前にそれを進言したんだよ、高塚司令は。で、陸幕の回答が『海軍と違って陸の幹部は不正はしない!』だってさ」

 

 

「……ちなみに、高塚司令はなんと進言したの?」

 

 

「『警察機構回復までの空白期間内の治安維持、並びに機密保持・流出防止強化の為』と、包み隠さずにね」

 

 

「はぁ…内輪揉めやってる暇は無い時に…そもそも、警務隊の存在意義を取り違えて無い?」

 

 

「しゃーない、警務隊の仕事は大体、自衛官や職員に対する警察捜査が主だった業務だからな。いつの間にか認識が書き換わったんだよ」

 

守山は困惑しながら、筑波は呆れながら言った。

 

 

「高塚司令が言われてた、陸自の…いえ、陸軍が旧帝国陸軍に劣る理由がわかるわ。さて、とりあえず、私達は私達のやれる事をやるわ」

 

 

「あぁ、頼むよ」

 

 

 

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58 長野県解放

北部解放が濃厚過ぎて、南部解放がアッサリ…。


2日後 1000 第10師団管区 愛知県・長野県県境付近

 

 

「なあ、筑波」

 

 

「なんです、春日井さん?」

 

陸曹が運転する軽装甲機動車の車内で春日井が筑波に訊いてきた。

 

 

「ホントに砲撃とアタイらの攻勢でマグマ軍は降伏すんのかい? ここら辺はそのライサって指揮官のシマだったんだろう?」

 

 

「えぇ、そうです。ですが、南部に居る部隊の大半が先の上越での戦いで敗走した部隊が多いそうですから、あまり問題は無いでしょう」

 

 

「あぁ…なるほどねー」

 

筑波の言葉に春日井は妙に納得してしまった。

なにせ、その部隊は目の前で移動要塞が一撃で吹っ飛んでいるのを目撃している者が多い。

故に戦力にならない、とライサが判断して南部に配置したとしてはおかしくは無いからだ。

 

 

「まあ、気軽にいきましょう。気軽に」

 

 

「それ、フラグ立ててないよな?」

 

 

……春日井の心配は皮肉にも杞憂に終わった。

何故なら、飯田市に入った時にはマグマ軍部隊は先遣隊に投降していた。

更にマグマ軍部隊はこの時点で乗鞍岳・御嶽山配備のクロシュタント移動要塞も『まるでそうする様に命じられていた』かの様に飯田市や伊那市等に居た。

そして、小諸・佐久に展開していたマグマ軍も同様に解放軍へと投降した。

南部解放は意外にアッサリと終了したのであった。

 

 

 

 

1200 松本警察署 取り調べ室

 

 

「先程、連絡があった。南部の解放が完了した」

 

 

「ソウカ、オメデトウ、ト言ウベキカナ?」

 

間宮モナカを机に置き、高塚とライサは話していた。

 

 

「…無抵抗の開城に少々面食らっている。しかも、複数のクロシュタント移動要塞を含めての投降だ。あそこの部隊の大半が新潟の収容部隊だったとしても、貴女が鍛えた士官や兵士達なら、遅延戦闘は幾らでも出来た筈では無いかな?」

 

 

「ツマリ、裏ガアルト言イタイノカ?」

 

 

「あぁ、ここまでやるならね…多分、投降者による負担増でも狙っているんではないか、とね」

 

 

「フッ、生真面目ナ日本人ノ性格ヲ利用シテ、敵ニ降リナガラモ、敵ヲ消耗サセルト…悪クハ無イナ」

 

 

「他意は無い、と言いたいんだな」

 

 

「部隊長ヤ士官ノ説得ニソノ文言ハ使ッタ。ダガ、私ニ言ワセレバ移動要塞ハ壁ノ意味以外デハ無価値化シタカラダ」

 

 

「ほう、それはまた意外だな」

 

 

「砲兵科出身ノ貴様ナラ今更ナ事ダガ、要塞ヲ攻略スル一番ノ方法ハ大口径火砲ヲ持ッテクル事ダ。上層部ガ海洋進出ノ為ニ開発シタ巡洋艦ガ失敗シタ事ヲ受ケテ、ソレヲ転用シタノハ悪クハ無カッタ。ダガ、対抗手段ガ確立サレタ以上、クロシュタントハ唯ノ壁ニシカ過ギン」

 

 

「だが、クロシュタントも改良すればいいだろう?」

 

 

「皮肉ニシカ聞コエンナ。軍艦ナラ浮力デ重量ヲカバー出来ル。ガ、地上デハソウデハ無イノダゾ? 防御ト攻撃ヲ満足サセタ物ハ出来テモ、ソレハ『要塞』ダ。移動要塞ヨリ中途半端ナ物ニシカナラン。リソース誤リモイイトコロダ」

 

 

「あはは…なるほどね」

 

……やはり、知者と話すのは退屈しない。

 

 

「チナミニ…昨日、人ヲ介シテ渡シタ物ハ長野市ニ送ッタノカ?」

 

 

「あぁ、『暇だから、本が欲しい』って伝言と一緒に来た物なら、今頃、現地部隊が軍使を出して渡してるよ。あっ、忘れない内に本も渡しておくよ。俺の私物だけどな」

 

ゴソゴソと本を数冊出している最中の高塚にライサは訊いた。

 

 

「内容ハ訊カナイノカ?」

 

 

「……例えあれが攻勢命令だったとしても、それはそれで送ったね。そもそも、貴女は面子やプライドだけで無茶な攻撃命令など出さない人間だ」

 

 

「フン、見抜カレテイルト言ウノハツマラン…ウン、コノ『モナカ』美味イナ」

 

ブスっとしながら食べたモナカを素直に言うライサだった。

 

 

 

1500 須坂市

 

 

「『1500頃に返答するから待ってくれ』って言ってましたけど、あの大佐はなんて書いた書面を送ったんですかね?」

 

双眼鏡を片手に松塚が隣にいる桃屋に訊いた。

 

 

「さてな…まあ、攻撃に出てもいい様にはしたが、いまこの状況で正面切って攻撃なんてしないだろう」

 

 

「事前に書面を確認出来ればよかったのですが…まあ、ご丁寧に『未開封で渡せ』と高塚司令が直に言ってきましたからね」

 

 

「後輩だから言えるが、あれはライサ大佐を信頼しているからこそ、書面も信頼しているんだろうね、高塚司令は。故に現場裁量に任してるんだろうけど」

 

 

「なるほど…にしても、さっさと返答を聞かせてくれてもいいでしょうに」

 

夢想的な脆い考えだと思いつつ、何とも解る為に人の事を言え無い松塚はそう言って双眼鏡を覗く。

たが、その光景に一度目を離し、目を擦ってから、もう一度覗いてみた…だが、その光景は変わらなかった。

 

 

「桃屋少佐、どうやら、包囲しながらお茶する仕事は終わりの様ですね」

 

 

「…あぁ、そうだな。目立つ所に白旗を上げ始めたとなると…高塚司令の信頼勝ちの様だな」

 

目立つ所に上げられていく白旗を見ながら松塚と桃屋は言った。

 

 

 

 

後日 桃屋少佐提出の報告書より各所抜粋

 

 

『投降した長野市守備隊は一兵卒に至るまで身なりを整え、各所配置・集合場所に整列していた。また、武器・弾薬類も綺麗に整備・整理・整頓し、箱詰め出来る物はされていたため、受け渡し等はスムーズに進んだ』

 

『投降の際に指揮官・幹部将校に聞いたところ、事前にライサ大佐からは『努めて日本帝国軍を見習い投降せよ。敗者となっても、心まで敗者にならず、堂々と敗者となれ』と掲示されていたから、と話してくれた』

 

『この光景に見本とした物を訊いたところ、ライサ大佐が将兵教育で見せたDVDだったとの事。作品は『太平洋の奇跡』との事だった』

 

「なお、最後にライサ大佐の書面は『本隊敗れしとも、最後まで命令・任務を全うした将兵諸氏に対し感謝すると共に、精鋭として一兵も欠ける事なく、日本軍に投降せよ。私からの指示は以上である(日本語訳)』』

 

 

 

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59 群馬に

次号、ASEAN等が介入。


3日後 松本駐屯地 会議室

 

 

「さて、長野県が終わった事により、次は群馬県への進出となるが…現状はどうなんだろう、相馬原さん?」

 

長野市守備隊が降伏し、次の群馬県解放の為に作戦会議を開いた高塚は単刀直入に相馬原へ訊いてみた。

 

 

「ウチの河童野郎共が地形を活かした遅滞戦とゲリラ戦で保ってるが、正直言うと、武器・弾薬が無くなりかけとる。最近はマグマ野郎共の武器,弾薬で戦っとるぐらいや。あと、ヘリコプター隊は一切動けんからな」

 

 

「まあ、そうですよね〜」

 

予想通り過ぎて、高塚もそう言うしかなかった。

 

 

「そもそも、空中機動旅団なのに攻撃ヘリを持たない時点で編成としてはどうかと思うが?」

 

 

「ぐっ…」

 

 

「同志、わからんでもありませんが、やめて下さい」

 

露骨な山本大佐の言い様に相馬原が苦い表情になり、高塚が微妙な表情で山本大佐を抑える。

 

 

「まあ、首都圏の裏側と言う重要地域を守る部隊を弱体化させた上に空中機動部隊に改編した陸自はアホと言ってもいいがね」

 

 

「「「「あはは……」」」」

 

 

「主旨から外れまくってるので戻しますよ」

 

山本大佐の皮肉に細川・桃屋・松塚か苦笑いを浮かべ、額を抑えながら筑波が言った。

 

 

「そうだな…先ずは、マグマ軍の拠点が何処で、主力の動きや何やらを探る必要がある。まあ、当面は相馬原駐屯地の奪取とウチらの迎撃だろうけど…群馬県内の偵察を頼めるかな、特戦群?」

 

 

「了解だよ、高塚司令」

 

 

「はいはい、命令じゃあ仕方ないわね」

 

須走と出浦の返事に高塚は頷く。

 

 

「各部隊には近日中に動く事を伝え、準備・休息を行う事。では、次に各部隊の現状把握から…」

 

 

 

その頃 松本駐屯地グランド

 

 

「あっはっはっは、同志達よ、飲め飲め! さあさあ、どんどん飲め!」

 

そんな事を言いながらガングートは氷入りのグラスにウォッカを並々に注ぐ。

そして、その並々まで注がれたグラスをモンシ・ナガンはニヤリと笑うと一気に空けてしまう。

その光景を他のロシアドールズ達とロシア空挺軍兵士達、山本大佐の親衛空挺連隊の兵士達がヤイヤイと煽りたてる。

ロシア組は宴会の真っ最中だ。

なお、指揮官クラスは先の会議に出席中である。会議終了後、揃って宴会に参加する事になっている。(つまり、隊員達は先に楽しんでる)

 

 

「天然のウォッカなんて久々ね」

 

 

「そうなの?」

 

 

「どっかのバカ達が第三次大戦なんておこしたから、粗悪な人工酒でも中々高いわよ。天然物なんか、年代ワインクラスの値段ね」

 

PDRT、T-72B3、DP28がウォッカの瓶のラベルを見ながら言った。

30年も未来、しかも、人類同士の馬鹿げた大戦争の果てに戦闘アンドロイドの反乱(の様な状況)では農業自体が難しいが故の愚痴とも言える。

 

 

「それに比べれば、まだこの世界は余裕があるような気がしますけど?」

 

 

「うーん、環境破壊がおきては無いけど…まあ、大変なんだよねー、色々と」

 

PPsh41とクロシュタントがそんな話をしていた。

 

 

 

暫くして 会議終了後

 

 

「では、高塚司令。私は1度ラボに戻ります」

 

 

「では、ってなんやねん? ではって?」

 

会議終了後にやって来た大宮の発言にツッコミを入れる高塚。

 

 

「あのじゃじゃ馬コブラは大丈夫ですか? 今回、出番が無かった、って文句を散々言ってましたけど?」

 

 

「大丈夫ですよ。と言いますか、高塚司令が散々に階級社会を叩き込みましたよね?」

 

 

「いや、二等陸士の階級章を着けただけだからな」

 

細川の質問に大宮は平然と答え、高塚は再びツッコミを入れる。

大宮が連れて来たアマテラスのコブラは長野県解放作戦の関係上、出番が無かった為に最初こそ文句を言っていたが、マグマ軍のキメラ種である事が災い(?)し、下っ端の二等陸士の階級章を着けた後は非常に大人しくなった…一番の理由は天龍が『フフフッ、怖いか?』の威圧をやったからだとか、なんとか。

 

 

「まあ、次の群馬解放の為に新しいアマテラスの子を取りに行くだけですので、直ぐに戻ります」

 

 

「えー、コブラみたいな奴が増えるのか?」

 

 

「あれはプロトタイプだからです」

 

筑波の物言いに大宮が反論した。

 

 

「わかった、わかった。まあ、どうせ、直ぐには動けないから大丈夫だ。だが、急変するかもしれないから、そこは弁えろよ?」

 

 

「わかってます。では、さっそく」

 

高塚の言葉にそう言って早速出て行った大宮。

それと入れ替わりに今度は戦艦棲鬼が入って来た。

 

 

「お、珍しいな、戦艦棲鬼。どうした?」

 

 

「スマナイ、高塚。例ノライサト言ウ指揮官ト話セナイカ?」

 

 

「面会したいって事か? なら、別に構わないが…もう直ぐ彼女は後方に移送されるから、近日中でいいか?」

 

戦艦棲鬼の申し出に高塚はメモ用紙に件の事をメモしていく。

 

 

「アァ、別ニ構ワナイ」

 

 

「わかった。アポが取れたら連絡するよ。ついでで悪いが、彼女に本の数冊も差し入れないといけないんだ。持って行ってもらえるかな?」

 

 

「ソレモ大丈夫ダ…ニシテモ、オ前ノ酔狂サハ相変ワラズダナ」

 

 

「そうでないと、君とこうして話してもいないよ」

 

 

「マッタク…正論ダナ」

 

 

 

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60 動き出すASEAN

今回はASEANが中心。
次号は今回書ききれなかった部分と別箇所。


高塚達が群馬解放に向けて動き始めていた頃………ベトナムでは……

 

 

「政府が日本への派兵を決定したが、どうかね? 出来そうかね?」

 

ベトナム軍総参謀長の質問に主計科参謀が答えた。

 

 

「規模によりますが、可能です。先の深海棲艦との戦いと違い、海上輸送路は確保されておりますから、補給・補充は出来ます」

 

 

「ですが、台湾の様に大規模派兵は無理です。我々もマグマ軍と対峙しております。送れても、一個師団になるか、ならないかです」

 

主計科参謀に続き、作戦参謀の言葉にこの場に集っている面々は納得した様に頷く。

現在、東アジア方面はベトナム・支那人民共和国国境が最前線であり、ここでマグマ軍の進撃は停止・膠着していた。

シベリアから侵攻して来たマグマ軍は支那人民共和国の大半を制圧した後、休息・準備期間を挟んだ後に支那国境からベトナム領内に侵攻を開始した。

しかし……ベトナム侵攻は失敗し、現場はかつての中越戦争、或いはベトナム戦争の再現の場と化していた。

皮肉にも支那人民解放軍が再び侵攻すべく調査していたベトナムの資料がそっくりそのままマグマ軍に渡り、コレを頼りにマグマ軍はベトナムへ侵攻した…が、ベトナムの方が一枚上手であった。

支那人民共和国がマグマ軍に侵攻された直後から、ベトナムは直ちに戦時態勢へと移行し、約41万の正規軍はもちろん、約500万とも言われる予備役・民兵隊を召集、更に国境線から内側に対してはベトナム戦争時に活躍したトンネル陣地をはじめとした防御・防衛施設の設営・強化を開始し、マグマ軍の侵攻に際してはベトナム領内へと『わざと』奥深くへと侵攻させた。

そして、後は中越・ベトナム戦争の再現だった。

戦列と補給路が伸びきったところにベトナム軍が地の利を活かし、ゲリラ襲撃を敢行、戦列・並びに補給路を断ち切った。

更に昼夜を問わない複数箇所での襲撃は分散したマグマ軍を更に混乱させ、対応する兵士達を心身共に追い込んだ。

なにせ、アリの巣の様なトンネル陣地から神出鬼没に襲うベトナム軍は支那戦線とは違う戦いであり、しかも、頼みの装備や数がアテに出来ずに休息すら出来ないのだから当然である。

更にベトナムのジャングルと気候がマグマ軍を蝕んでいた。

冬には強いマグマ軍も熱帯であるベトナムの環境に身体が慣れておらず、更に休息出来ない事からの疲労もあり、たちまち非戦闘損耗(主に病気)が目立ち、次々と兵士達が戦闘不能となっていた。

また、頼みのヘリボーン・航空支援もベテランのベトナム空軍とジャングルに潜む携帯SAMを中心とした対空迎撃によって戦力を損耗しており、徐々にゲリラ襲撃迎撃の航空支援すら出来ないまでに追い詰められた。

結局、マグマ軍の損耗具合を見たベトナム軍の総反撃を受けたベトナム侵攻軍は散々な目に遭い全軍撤退し、侵攻当初の半数を消失、更にその残り半数も早期戦力復帰不能と判断され、ここにマグマ軍の侵攻は頓挫・一時中断し、ベトナム・支那国境で睨み合いが続いていた。

 

 

「となると…装備はどうするかね?」

 

 

「T-90やT-55を派遣しても問題はないでしょう。T-90はロシア海軍歩兵隊、第422連隊が保有しており、T-55は奪還軍戦車隊がT-62と共に運用中との事ですから、持ち込んでも大丈夫でしょう。なお、我が国の武器娘であるT-55、T-90も参加させるべきかと思います」

 

 

「T-55はわかるとして、T-90もかね?」

 

作戦参謀の返答に総参謀長が訊き返す。

 

 

「先の反攻に調整の都合で間に合わなかったT-90の実力を見てみるべきです。更に日本ならば支援している各国・各種武器娘の交流もありますから、無駄にはならないでしょう」

 

 

「うーむ……わかった。念のため、政府に上申しよう。他の事についても詰めていこうか。他には…」

 

こうして、ベトナム人民軍派遣が決定した。

 

 

 

 

同じ頃 タイ王国

 

 

「国王陛下の承諾もあり、我が国も日本への派兵が正式決定した。これに伴い派遣部隊の編成をどうするか…意見はあるかな?」

 

この場を仕切る陸軍大将の問いに参謀の1人が手を挙げた。

 

 

「T-84オプロートを一員に加えるべきです」

 

 

「オプロートをかね? だが、彼女は『仮軍籍』だが?」

 

T-84オプロートの話に件の大将は苦い顔をする。

T-84(戦車)は元々ウクライナ産の戦車であり、タイ陸軍次期戦車候補として売り込みがあった。

しかし、タイ側は支那製輸入戦車を購入した事によって次期戦車採用可能性は消えていた…が、マグマ軍侵攻により、ロシア同様に国外亡命となったウクライナの開発陣は売り込み元のタイにやって来てT-84オプロート(武器娘)の開発を継続し、タイ側は開発資金を出す事でこれを黙認していた。

タイ側の事情として、軍の近代化中であり、また、マグマ軍侵攻により武器娘の必要性が高まった為、『仮軍籍』として、『非採用』ながら、オプロートを在籍させていた。

 

 

「理由は2つ。1つは開発陣も我々も戦訓を得られる。もう一つは派遣される兵士達の士気です。日本側は武器娘が居るかどうかは気にしないでしょうが、現場の兵士達はそうもいかないでしょう」

 

 

「なるほど…開発陣に打診はしてみよう。他に意見はあるかな?」

 

そして、タイ陸軍も部隊派遣となった。

 

 

 

同じ頃 シンガポール

 

 

「海軍の協力もあり、我が国も日本への派遣が決まった」

 

会議室の中でシンガポール陸軍大将が集まった高級幹部達の前で言った。

 

 

「派遣は少数部隊となるが、我が国の武器娘を同行させる。各所は準備に入ってくれ。解散」

 

その言葉に幹部達は会議室を退出する。

 

 

「……やれやれ、やはり、マグマ軍とは遅かれ速かれ、砲火を交える事になったか。まあ、援軍なだけマシだな」

 

1人になった大将が呟いた。

確かにシンガポールは東南アジアの前線であるベトナムは遠く、タイ程に直接的な危機感は無い。

だが、ASEANの構成国として、また、直接的な理由より、間接的な経済の理由がシンガポール政府を動かしていた。

それはマレー半島の良港であるシンガポール港が未だに国内・国際経済的支点であるからだ。

ハブ港湾であるシンガポールに寄港する船舶関連税等々の財政収入に加え、ASEAN構成国として進出・発展している自国内の外国企業工場の生産地であるだけに、『貿易』が消滅する事はシンガポールの生死すら左右しかね無い問題だった。

そして、支那よりも長い年月の老舗顧客であり、安定的な経済中心国である日本が消える事はシンガポールとしては様々な意味で大問題だった。

 

 

「昔はイギリスの拠点として侵攻して来た日本を未来になって助けに行く事になるとは…皮肉だな」

 

苦笑を浮かべながら大将は呟いた。

 

 

 

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61 ダビデの星と対抗策

とある国とマグマ軍の話。


ASEANで動きがあったと同じ頃  イスラエル

 

 

「諸君、我が国も日本への派兵が決定した」

 

参謀総長の言葉に集まった将官達、特に陸軍の将官達が頷いた。

今のところ、マグマ軍は欧州・アジア方面への進出・前線構成が多く、中東方面に余り進出していない為、イスラエルは直接的脅威下には無い。

しかし、過去の中東戦争等の経験からイスラエル国防軍は既に戦時態勢に移行しており、予備役召集も順次行われていた。

 

 

「先ずは陸軍の派遣態勢を聞きたいのだが、どうかね?」

 

 

「はい。陸軍としましては武器支援はもちろん、派兵に関しましても大きく2陣に分けて実施する予定です。また、第一陣は武器娘を含めマガフ戦車を中心に置き、比率も前線部隊よりも、後方支援部隊を多くする予定です」

 

 

「数陣に分けるのはわかるが、なぜメルカバなどの主力装備を出さないのかね? 我が空軍は日本の技術的に大丈夫だと言う事で出来る限り一線級機を出す予定なのだが?」

 

陸軍の作戦参謀の言葉に空軍将官が疑問を呈す。

 

 

「我々陸軍は以前、ベトナムの戦車改修に協力した事があり、日本派兵に際しての近場の資料として再読しました。また、日本大使館、並びに軍に在籍する日本人に聞き取り調査を行い、その両方から出した結論は……我々は未知の領域に足を踏み込む、と言う事です」

 

作戦参謀の言葉に会議室全体が騒めき出す。

 

 

「一言で言えば環境の違いです。確かに我々は戦闘経験こそ豊富です。ですが、知っての通り、我が国は砂漠が支配する地。ですが、ベトナムはジャングルをはじめとした熱帯林です。これだけでも我々には未経験ですが、更に日本には四季があり、我が将兵は雪を初めて見る事になるでしょう。更に梅雨や湿気、霧、山岳など国土や環境の違いは将兵や装備を心身共に損耗させます」

 

作戦参謀の説明に会議室の面々は納得したとばかりに頷く。

 

 

「なお、マガフを派遣する理由ですが、台湾軍がM60やパットン系譜のMC-110を使用しており、台湾軍の手法を我が方に活かせる可能性が高い事もあります」

 

 

「メンテナンス性と稼働率、並びに環境の違う場での部隊運用の確立が優先、との事だね?」

 

 

「はい。行って戦え無いとなっては、我々が足ばかり引っ張る事になりますので」

 

これを聞いていた将官達も納得した。

 

 

「うむ…先の深海棲艦事変、そして、第二次大戦と言い、今のイスラエルがあるのは日本のお陰だったと言っても過言では無い。先人達も我々の決断を喜ぶであろう。では、次に空軍の状況を…」

 

 

 

その頃 東京

 

 

「長野が奪い返された…どうやら、我々の想定より手強い様だ」

 

とある会議室に集まった上座の将官の言葉に集まっていた皆が頷いた。

 

 

「あのライサが敗れ、しかも、捕虜になるとは…我々も少々、侮り過ぎた」

 

本来なら『四天王の中では最弱』等のセリフを期待するところだが、残念ながら、マグマ軍にとってはそんなセリフが出ない位の深刻な事であった。

 

 

「あぁ…敵は諸外国の支援を受けているとは言え、本隊の兵力は1個旅団程度しかいない。しかも、先に奪還した管区の兵力を余り引き抜いていない中で、我らの損害は1個軍に迫ろうとしている」

 

 

「そもそも、反撃を開始した時など1個連隊程度の兵力で仕掛けて来たからな…まるで、マジックでも見せられているかの様だ」

 

 

「更に、ライサの言った通り、東京陥落時に言い返して来た、あの佐官が総指揮を執っているそうだ」

 

 

「確か…タカツカ・ケントだったか? 人事資料の評価は酷いが、納得出来るな」

 

机の上にある資料を見ながら将官の1人が言った。

 

 

「先の『深海棲艦事変』に兵長として参加、最終的には佐官となり、更に講和工作に関与していた、と書いてあるな」

 

 

「ライサが散々に『コイツは強敵になる』と言っていたが、正にその通りになってしまったな。そもそも、他の陸軍幹部など経歴はそれなりだが、何の凄味も無い奴らばかりだ」

 

 

「諸外国が支援を打ち出したのも、このタカツカ大佐が指揮を執っていると知ったからだそうだが…なるほど、納得だな」

 

 

「更に押しも強い。通信の連中に聞いたが、傍受した通信を解析したら、沖縄に逃げた陸軍総司令部の命令を無視し、独自に動いているそうだ」

 

 

「それはそうだ。強度の低い通信周波数を使うのも馬鹿だが、首都東京を奪還しろなど、自殺志願者の様な事しか言わんのだからな」

 

吐き捨てる様に将官が言った直後、上座の将官が手を叩いて、場を鎮めた。

 

 

「敵を称賛していても始まらん。先ずは敵を撃破…最低限、今の勢いを抑える必要がある。次の侵攻先はわかるな?」

 

 

「はい、現状から推測するに、次は群馬です。現在、群馬は地形とそれを活かしたゲリラ戦による抵抗で制圧は進んでおりません」

 

 

「ならば、直ぐに増援を送り、群馬を制圧するか、敵反攻軍を止めるかしないと…」

 

 

「その一端のライサが敗北した。ただ単に増援を送るだけでは損耗するだけだ」

 

 

「だが、有効手段はあるのか?」

 

作戦参謀の回答に将官達から声が挙がる。

それを制したのは上座の将官だった。

 

 

「戦術レベルで止められないなら、戦略レベルで止める。群馬にはもちろん増援を送る。だが、増援を含めた部隊は防御に徹する様に指示を出す。作戦参謀、関西軍管区、九州軍管区に秘匿通信だ。敵の背後を食い破る。これだけ伝えれば、後はわかるだろう」

 

 

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62 かつての『敵』と『敵』

なお、今回は戦艦棲鬼とライサの会話は普通表記にしています。


数日後 松本駐屯地

 

 

「ふう……あー、また、報告書が分厚いな〜…」

 

自らの肩を叩きながら、皮肉タップリに呟く高塚。

机には自らパソコンで書いた漫画雑誌程の報告書が置かれていた。

 

 

「まあ、どちらにしろ、作戦推移は残しておかないと、後で色々と言われますからね」

 

 

「そうですね。我々は行政組織ですからね」

 

高塚の呟きに筑波と市ヶ谷が返す。

但し、市ヶ谷の言葉には高塚も筑波は苦笑いをうかべる。

 

 

「高塚司令! 良いニュースが入りました!」

 

そんな空気の中に興奮気味で細川が入って来た。

 

 

「良いニュースか。で、なんだ? 陸幕連中が総辞職したか?」

 

 

「高塚司令、それは無いです」

 

生真面目にツッコミを入れる市ヶ谷に筑波と細川が笑う。

 

 

 

「海軍系統からの情報ですが、ASEANのベトナム、タイ、シンガポール、更にイスラエルが武器支援、並びに派兵を決定したとの事です!」

 

この言葉に市ヶ谷は驚きの、筑波は歓喜の表情を浮かべる。

そして、高塚は思わず膝を叩いた。

 

 

「派兵だけでもありがたいが、ベトナムとイスラエルが派兵してくれるのか。これは随分と楽になるぞ!」

 

 

「…えーと、何故ですか?」

 

高塚の言葉に市ヶ谷は疑問符を浮かべる。

 

 

「ベトナムもイスラエルも、第二次世界大戦後の現代国家間戦争を経験している国ですからね。ベトナムはアメリカと中国、イスラエルはエジプトやヨルダンなどの中東イスラム系諸国と戦い、見事戦い抜いた国々です。また、両国共に軍事顧問団等の介入・参加で実戦経験は豊富、正直、練度は一般兵でも北海道第七師団と互角以上に渡り合えるかと」

 

 

「まあ、イスラエルはマルタ鎮守府が地中海航路解放をやったのがありますし、ASEANも日本海軍が航路解放をやりましたからね」

 

細川の言葉に筑波が続ける。

 

 

「勝ち馬乗りでも何でもいい。戦力が増えるのは歓迎だ。後は、彼らを失望させないようにしないといけない、って事だ。市ヶ谷さん、受け入れプランを立てます。担当部署に通知して、受け入れ態勢の構築と概略でもいいので、プラン提出をお願いします」

 

 

「わかりました」

 

 

「さて、じゃあ、我々も追加で仕事をしますか」

 

 

「あぁ、そうだな。先ずは明石と夕張だな。あの2人なら、翻訳アプリぐらい、自作しそうだし」

 

こうして、高塚達も動き始めた。

 

 

 

その頃 松本市警察署内 取り調べ室

 

 

「……ほう、人間以外の面会か」

 

 

「別に構わんだろう? 暇だそうだからな」

 

面会にやって来た戦艦棲鬼にライサは一瞬驚いた表情を見せたが、直ぐに何時ものクールな表情に戻して話す。

それに戦艦棲鬼は素っ気無く言った。

 

 

「元地中海方面艦隊の戦艦棲鬼だ」

 

 

「あぁ…岐阜で暴れた『移動要塞な者』は貴女だったか」

 

戦艦棲鬼の単純な自己紹介にライサは納得いった様に頷きながら言った。

 

 

「ほう、私の事を報告されていたか」

 

 

「だが、『戦闘状況下の見間違い』と判断された。まあ、あの時点で我々は深海棲艦が敵だと…最低限『日本側』に付いているとは思っていなかったがね」

 

ライサの自虐的な言葉の中の『日本側』のワードを戦艦棲鬼は聞き逃さなかった。

 

 

「日本側と言うのは意外だったのか?」

 

 

「あぁ、終戦してからそれ程経っていないのに、そこまで日本に味方するのか、とね。だが、なんと無くわかった気がする」

 

 

「ほう…何故だ?」

 

戦艦棲鬼の問いにライサはニヤリと笑う。

 

 

「簡単だ。結局はあの高塚を含めた『日本人のお人好しぶり』に惹かれている、と言ったところだろう?」

 

ライサの言葉に戦艦棲鬼は苦笑いを浮かべながら頷く。肯定の意味で。

 

 

「ふむ、やはりか。まあ、私もこの身で無ければ、大手を振るって賛意を示すが」

 

 

「それより、私が面会を求めた理由は気にならないのか?」

 

どうも会話の筋が逸れていってしまっているので、戦艦棲鬼は口に出してみた。

 

 

「はっはっは…やはり、将であるだけに読んでいるな。だが、わからんでも無い。あの総司令官同様、指揮官であるが故にマグマ軍の指揮官がどんな人物か気になった…そんなところだろう?」

 

 

「なんだ、わかっていたのか」

 

 

「あぁ、そして、私もあの総司令官とは別の、出来れば外国軍指揮官あたりと話せたら、と思っていたら、深海棲艦がやって来た、と言う訳だ…これはこれで面白い展開だったがね」

 

そう言ってライサは愉快そうに笑う。

これに戦艦棲鬼も半端呆れていた。

 

 

「にしても解らんな。何故、似た様な存在なのに、我々とは何処が違う?」

 

 

「我々、深海棲艦の根本はかつての先の大戦で沈んだ艦艇と乗員の怨念…と言うのが、日本を初めとした世界の統一的な意見だ」

 

 

「なに? お前達は自分が何者か理解していないのか?」

 

 

「なにせ、私が生まれた時にはそう定義されていた様だし、私自身、自らの存在意義や理解など考えた事もなかったからな。但し、深海棲艦が人類側との戦闘により浄化され、艦娘になったり、その反対もあった。まあ、私もその人類側の意見に賛成だがな」

 

 

「……なんだか、謎掛けの様な話だな」

 

今度はライサが呆れた風に言った。

 

 

「そんな事を言えば、お前達の呼ばれ様はどうなる? 『収奪者』『略奪者』と日本以外では言われる事が多いぞ」

 

 

「……ふっふっふ、『収奪者』『略奪者』か…中々良い響きではないか」

 

戦艦棲鬼の言葉にライサは笑みを浮かべながら言った。

が、そこは戦艦棲鬼である。

 

 

「…が、そんな行為はしないと」

 

 

「当然だ。我々は軍隊であって、盗賊・山賊の類ではない」

 

神経な表情で答えるライサだった。

 

 

 

なお、帰ってきた戦艦棲鬼に高塚が結果を聞いたところ、『とても有意義だった』と答えたそうだ。

 

 

 

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63 偵察

とりあえず、書けたのを出します。


数日後 松本駐屯地

 

 

「12旅団人員による斥候ね」

 

 

「そうだ。我々としても群馬全体を掌握しきれていない。よって、特戦群とは別で斥候を出したい」

 

高塚の元にやって来た相馬原旅団長補はそう言って許可を求めて来た。

 

 

「まあ、それはやぶさかでもありません。幾ら特戦群か潜入しているとは言え、彼女達は戦略的に潜入している訳で、やはり、個々の事例の対応を考えた場合、戦術的な斥候は必要ですね」

 

 

「おぉ、やっぱり、高塚司令もそう思いますか!」

 

何故か目を輝かせて相馬原が高塚に迫る。

 

 

「問題はだ…そう言うんだったら、ちゃんとした人員選定をしたんだよね?」

 

ニコリと笑う高塚に相馬原は一瞬悲鳴を挙げそうになりながらも飲み込んだ。

笑みを浮かべども、目は笑っていない…いや、もっと言うなら、『ちゃんとしてないなら、ブチノメス』と言いたそうに見えた。

 

 

「あ、は、はい! ただ、ウチの新人カッパ野郎を充てる事になりそうなんで…」

 

 

「あぁ、なるほど。腕利きを出してほしいと? 相談を兼ねた進言か」

 

相馬原の言いたい事を理解した高塚は思案顔になる。

そして、普段の目に戻った事に内心ホッとしながら相馬原は続けた。

 

 

「高塚司令の直下、特に水陸研メンバーならこの問題は解決出来るかと」

 

 

「相馬原旅団長補、それは確かに正しいよ。だがね、その話から察するに割り当てるのは新人の少尉か、中級幹部課程を履修したばかりの中尉じゃないか?」

 

 

「え、あ、はい、そうですが…なにか?」

 

相馬原の返答に高塚はニヤリと笑うと、楽しそうに答えた。

 

 

「じゃあ、ウチの軽歩兵隊を出そう。水陸研メンバーはあちこちに出してて余裕がないが、斥候任務ならドールズ達も適任だしね」

 

コロコロと笑う高塚の真意を相馬原が知るのは暫く経ってからだった。

 

 

 

2日後 群馬県 草津町

 

 

「え、なに、これ?」

 

相馬原旅団長補から斥候任務を言い渡された新人少尉(3尉)が草津町で見たのは営業を続けていて、人間・マグマ軍問わずにお客を受け入れて繁盛する草津温泉だった。

 

 

「あ、あれ、おかしいな…草津はマグマ軍の占領地の筈なんだけど……あれ??」

 

地図と双眼鏡を見比べながら現状と想像の違いに困惑する少尉。

 

 

「少尉さん、私と95姉で偵察して来よっか?」

 

 

「…はあ??」

 

今回、斥候員の一員として奪還軍からの派遣として同行しているグリフィンの97式歩槍の言葉に少尉は更に混乱した。

 

 

「私と妹の97なら、この格好です。怪しまれずに溶け込んで情報収集が出来ます」

 

迷彩服な自衛隊員に比べ、95・97姉妹を初めとしたグリフィンのドールズ達は元が艦娘や武器娘に似て格好が非軍人的(一般人的)である。

 

「う、うむ……と、とにかく、危ない事はしない様に…」

 

 

「はいはい。じゃあ、行ってきまーす」

 

戸惑いながらも許可する少尉を他所に97は陽気に姉の95と共に草津温泉へと向かって行った。

 

 

 

2日後 松本駐屯地

 

 

「な、な、なんだ、この報告は!?」

 

 

「ふーむ、なるほどね」

 

件の少尉の報告を読んだ相馬原旅団補と少尉と95・97姉妹の報告を読んだ高塚の反応は大分違っていた。

 

 

「高塚司令! このトンチキな報告を信用するんですか!?」

 

 

「なら、こっちも読んでみてくれ、旅団長補。双方の報告は多少の違いはあれど、概ね合致しているが?」

 

95・97姉妹の報告書を渡しながら高塚は言った。

 

 

「ですが、草津がこんな事になってるなんて…」

 

 

「そうですか? マルタ島鎮守府の事もありますから、別段おかしくないですよ?」

 

 

「あー、うーん、確かにな〜」

 

横から見ていた市ヶ谷の言葉に細川はあっけらかんに、当事者と言っていい筑波は苦笑いを浮かべながら答えた。

 

 

「とにもかくにも、草津に前線を張るのは愚策だな。行ってみたら、湯治のマグマ軍大部隊に遭遇しました、なんて洒落にもならないし」

 

 

「マグマ軍は湯治に来てるんですかね?」

 

 

「まあ、元は火山からの出現ですから、家に帰る感覚では?」

 

 

高塚の言葉に筑波が疑問を口にするが、細川が仮説を言う。

 

 

「あの…話が脱線しそうです」

 

市ヶ谷が横道に外れそうなのを修正した。

 

 

「そうだな。草津は非戦闘地域に指定しよう。下手に刺激する事も無いだろうしな」

 

 

「となると、長野から群馬へと入る西ルートと新潟から入る北ルートですね。新潟空港と岐阜基地からの航空支援を要請出来るのはいいですね。ただ、少し距離が遠いのが難点です」

 

 

「それはヘリ部隊や砲兵でなんとかするしかないだろう。だが、そろそろ敵さんも何かしら対抗手段を出してくるだろうしな」

 

 

「やはり、永続的ではありませんか?」

 

高塚の言葉に細川が訊いた。

 

 

「少数でもマグマ軍と戦えたのは航空優勢を取っていたからな…そろそろ向こうも、日本や他所での戦闘経過を見て、対策ぐらいはしてくるだろう」

 

以前書いた通り、マグマ軍の航空・対空装備はアンバランスである。

航空機はヘリを中心にした回転翼機ばかりで、対空装備は対空機関砲・携帯・短距離SAMが全てである。

しかし、ここまで戦っていて無策な程、マグマ軍も馬鹿では無い筈だ。

 

そもそも、マグマ軍の真似元の旧ソ連軍は一部分野では馬鹿にされているが、かつての東側宗主国だけあって軍も技術も堅実堅固ながらも発展していた訳だが。

 

 

「まあ、今は情報が少ないからな」

 

そう言って高塚は苦笑いを浮かべた。

 

 

 

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64 淡い者の決断 前編

題名要素が薄い……。


数日後 群馬県

 

 

「えーと、後少し行くと集落があると」

 

地図と周辺地形に視線を往復しながら筑波は呟いた。

その筑波は普段の迷彩服と迷彩帽ではなく、戦闘時と同様の完全フル装具。

30発弾倉付き9㎜機関拳銃(改)を肩掛け紐(負い紐)で肩から掛け、3型防弾チョッキの下の腰の弾帯には弾倉入れ4つ、大型の救出品袋に64式小銃の銃剣とガチなフル装備である。

 

 

「それにしても珍しいわね。本部付きの大尉が自ら斥候に出るなんて」

 

 

側から見てもその『誘ってる』服装ながら軽々と14.7㎜対戦車ライフル(現対物ライフル)を持っているPTRDの言葉に筑波は地図に視線を向け、振り返らずに答えた。

 

 

「まあ、後ろに入り浸りって言うのも問題だし…それに、後輩も育ないといけないしな」

 

そう言って横目で後ろに居る工科卒の童顔曹長に目を向ける。

 

 

「と言う事で頼んだ、PTRD」

 

 

「それ、丸投げって言うと思うわ」

 

苦笑な筈なのに何故か卑しく見える笑みを浮かべるPTRDだった。

 

 

 

 

 

「…と言う事で、ここで分離する。我々本隊は更に奥の斥候を行うから、君の班はこの先の集落、松井田町の監視だ。松井田町にはJR信越本線終着駅の横川駅があり、更に長野県軽井沢に通じる道路がある。必ず何か動きがある場所であり、いざとなれば撤退路確保の為に動いてもらう可能性がある。よって、監視と言っても非常に重要な役割だ。わかったかな?」

 

ミニマップ片手に緊張した表情の先程の童顔曹長こと佐山雄斗(さやまゆうと)曹長に説明する筑波。

 

 

「班員として、PDRD、モンシナガン、PPsh41の三人をつける。三人は我々よりもベテランだから、困った時は相談する事。質問は?」

 

 

「は、はい…もし、1尉達が見付かった場合、どうする気ですか?」

 

 

「最悪の場合は援軍を呼ぶ可能性はあるが…まあ、臨機応変だな」

 

 

「……わ、わかりました」

 

筑波の後半の軽い言葉に動揺を抑えようとしつつも、隠せていなかった。

 

 

 

 

筑波達と別れて1時間後

 

 

 

「…………(チラチラ)」

 

 

「…………」

 

 

「…………(チラチラ)」

 

 

「…………」

 

 

「…………(チラチラ)」

 

 

「……指揮官、どうした?」

 

 

 

「あ、いや、あまり歳上のWAC(ワック 女性自衛官)と組んだ事が無いから…」

 

共に集落の様子を見ていた佐山の視線にモンシナガンが訊いてきた為に正直に答える。

そもそも、工科学校卒業の佐山は女性との免疫も少ない訳なのだが。

 

 

 

「あぁ…指揮官って、たしか、自衛隊の学校の卒業だったけ?」

 

 

 

「うん、だから、しかも、今回が初めての部隊配属だったんだけどな……なんか、よくわからないけど、異質な感じがする」

 

なお、佐山の様な感想は高塚色に染まった人間以外なら誰でも思っていたりする。

 

 

「ちなみに、えーと、ピーディアールディさんって、いつもあの格好?」

 

 

「基本的に、我々ドールズの格好は今の格好だが…」

 

 

「……アッ、ハイ」

 

回答を聞いてトマト並みに顔を真っ赤にさせて佐山は空返事をするだけだった。

 

 

 

暫くして……

 

 

「指揮官、北からパジェロとピックアップが来たわ。民兵なんていたのね」

 

佐山、モンシナガンとは別位置で監視していたPDRD(なお、PPsh41も別位置で監視中)の報告に佐山は否定から入った。

 

 

「いや、日本に自衛隊や在日米軍を除けば武装出来る組織は警察や海保しかいない。そもそも、民兵なんて日本の法律上設立出来る筈がない」

 

 

 

「じゃあ、あの民兵達はなんなの?」

 

佐山の言葉にスコープ越しに見ながらモンシナガンが質問してくる。

そして、その答えも佐山は持ち合わせていた。

 

 

「くそ、腐れ左翼の裏切り者逹だな」

 

少尉候補生であるために陸士、陸曹より突っ込んだ話(と言ってもそこまで詳細な話ではないが)を直に聞いている佐山は苦々しく呟いた。

 

 

「あいつら、どう言った連中なの?」

 

 

「口悪い説明になるが、平和や自由、人権を叫ぶだけの利権活動家か、頭空っぽなバカだね。罵倒雑言の類なら事欠い連中だよ。今は武装した裏切り者だけどね」

 

 

「あぁ、私達も似た奴等を見た事があるから解る。頭が空っぽな連中だな」

 

 

「そうそう。それの武装した質の悪い方」

 

互いに似た存在が居た事に話が弾んでしまう2人。

 

 

『…それで、あいつらの目的に見当は?』

 

そんな会話にPDRDが呆れながら訊いてくる。

 

 

「さてはて…今はマグマ軍に協力しているからね…何が目的でもおかしくないんだよな」

 

普段から様々な『権利のクレクレ』と『拒否には暴力』な連中なだけに何をやっていてもおかしくない。

 

 

「ふむ……ん? 駅に人が集まってるな…しかも、数人を覗けば若い女性ばかり…まさか……そんな事ないよね?」

 

 

「指揮官、さっき自分でなんて言ったか覚えてる?」

 

 

「……嫌な予想ほどあたってほしくない」

 

様子を眺めていた佐山の言葉にモンシナガン軽くツッコミを入れる。

間違い無く、これは非合法な人刈り、或いは女性刈りだ。

 

 

「マグマ軍って、そんなに人が足りないの?」

 

 

「兵力は無尽蔵だから、それはない。どっちかと言うと、あいつらの独断専行だな」

 

9㎜機関拳銃に初弾を装填しながら佐山が言った。

 

 

「でも、どう見ても輸送力不足ね」

 

 

「なら、後続がいるか…サンダー・リーダー、サンダー・リーダー、どうぞ」

 

 

『こちら、サンダー・リーダー。感度良好、ブリッツ、丁度通信を入れようとしたところだ。どうした?』

 

ヘッドセットの交信チャンネルを広域周波数に変え、筑波のコールサインで呼び出す佐山。

すると、あっさりと繋がった。

 

 

「監視中に高塚司令より話が出た腐れ左翼複数が武装して出現。どうやら、女性狩りが目的の模様。ところで、そちらの様子は?」

 

 

『……あー、なるほど。此方もそいつらの車列と交戦した。トラックがメインだったから、其方に向かう途中だったんだろう。既に司令部に連絡し、ロシア隊を中心とした部隊が周辺制圧の為に移動している。これより、其方も武器の自己裁量使用を許可する。次に動くのは其方だ。無茶はするなよ』

 

 

 

 

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65 淡い者の決断 後編

明けましておめでとうございます。
旧年中お世話になりました。今年もよろしくお願いします。
旧年中の更新が少なくてすみませんでした。
本年は出来るだけ更新出来るよう、頑張ります。


松井田町仮設監視所

 

 

「了解、通信終了……いきなり、責任重大過ぎだし」

 

筑波と交信を終えた佐山がぼやいた。

 

 

「仕方ないぞ、指揮官。それで、どうする?」

 

指示を求めるモンシ・ナガンに佐山は言った。

 

 

「多分、あいつらに襲撃の報告は直ぐ入る。そして、やるなら、人質を取って、此方がやりにくくする様に動くだろう」

 

ここまで聞いたらモンシ・ナガンも言いたい事はわかった。

 

 

「女性達の解放か」

 

 

「あぁ、だが、この少数で出来る事は限りがある。そこで、実戦経験豊富な貴女達の力が最大限に必要です」

 

 

「わかったわ。それで、作戦は?」

 

 

 

 

暫くして……

 

 

 

「ガハッ! グッウゥゥ……」

 

腹に入れられた蹴りの衝撃を受け止めつつ、丸まる佐山。

状況にもよるが、アサルトライフルぐらいの弾丸は止めてくれる防弾チョッキもその命中衝撃までは受け止めてくれない。

故に蹴りの威力こそ素人だが、その打撃部と衝撃は身体に響く。

 

 

「で、お仲間は何処なんだ? 自衛隊さんよ?」

 

侮蔑感たっぷりな声と態度で佐山を蹴った男がニヤニヤしながら訊いてくる。

 

 

「(自分で言い出した事とは言え、少し荷が重かった…)この周辺に居るのは私1人だ」

 

腹這いで腹を抑えながらジロリと睨み付ける佐山。

その態度が気に入らなかった男は佐山の背中を踏みつけた。

 

 

「嘘を吐くな! 輸送トラックを襲ったのは自衛隊だろう!?」

 

ゲシゲシと踏みながらリーダ格の男は声を荒げながら質問する。

 

 

「(バカ…なんだろうな、こいつら。既にアメリカ、ロシア、台湾が支援しているのを知らないのか)それがどうした? あんた達が何者であれ、無届けでこんな武装をしていたら、マグマ軍かと襲われて当然じゃないか?」

 

わざとらしく挑発する様な物言いにリーダ格は我慢出来なかったらしく、持っていたトカレフを佐山に向ける。

 

 

「まあ、いい。あんた1人なのが物足りないが、お前の死体を警告代わりに置いておこう……あぁ、ここの住民にも『警告』しておかないとな」

 

ニタニタと笑いながらそんな事を呑気に口にするリーダ格。

周囲にいるAK47を持った3人の武装者も周囲の警戒も忘れ、同じくニタニタと笑いながら佐山に視線を向けていた。

 

 

(やっぱり、コイツらは素人だ。軍事訓練どころか、サバゲーもした事がないんじゃないか? まあ、だからこそ、こんなに無防備なんだな)

 

端から見れば絶体絶命な状況にも関わらず、佐山は内心でニヤリと笑っていた。

 

 

 

少し前

 

 

(それにしても、無茶な策ね)

 

愛銃のスコープ越しに佐山の状況を見ながらモンシ・ナガンは内心で呟く。

策は本当に単純な囮作戦。メンバーの中でもっとも自衛隊員らしい(当然である)佐山がわざと捕まり、注意が佐山に集まった時にモンシ・ナガンらが得物で制圧する、と言うもの。

故に佐山は彼らの前に堂々と現れて、『わざと』敵に捕まり、『わざと』敵の暴行にも侮蔑にも反抗していない。

更に佐山はモンシ・ナガンに対して、『奴らが私を刺射殺する素振りを見せるまで撃つな』と徹底していた。

 

 

(こんな無茶、後であの司令官になんて報告すればいいんだろうか?)

 

 

ふと、そんな事を考えた時、リーダー格が大袈裟に拳銃を構え直そうとしていた。

その光景にモンシ・ナガンはそれまでの思考を捨て、引き金を引いた。

 

 

 

……パーン!

 

 

「…ギャァァァ!!」

 

発砲音が聞こえた直後、トカレフを持っていた右手が手首の皮一枚で繋がっているのと、その激痛にリーダー格が叫び声をあげる。

一瞬の出来事に残りの3人は理解が追い付かないのか、視線も身体も固まる。

そして、慌て周囲を見渡し、リーダー格の右隣にいた男が持っていたAK47を佐山を向けた瞬間、無防備な頭をモンシ・ナガンの銃弾が貫く。

予告のない第2擊に反対側に居た2人が佐山の方に向き、AK47を構え様とする。

だが……

 

 

「ウ、ウラー!!」

 

その低身長と身軽さ、更に建物を巧みに利用して背後に回り込んでいたPPsh41が何時もの掛け声と共に得物を撃ちまくる。

無防備・無警戒の背後からの銃撃に2人の男は無様に撃ち倒される。

 

 

「皆さん! 早くここから離れて下さい!!」

 

立ち上がった佐山がその場に居た女性陣を含めた一般人達に叫ぶ。

何故なら、ここに居たのは『こいつらだけ』ではないからだ。

 

 

「指揮官さん! テクニカル!!」

 

気付いた41の叫びに佐山は横に飛び退く。

次の瞬間、TOYOTAのピックアップトラックに機関銃を荷台に据え付けたテクニカルが仲間の死体などお構い無しに轢きながら、佐山が先程までいた場所を猛スピードで通過する。

 

 

「早すぎだろう! 戻ってくんのがさ!!」

 

この厄介な車両は先程まで周辺警戒の為に離れていたが、佐山を捕まえた直後にリーダー格が呼び戻し、タイミングか悪い事にリーダー格達が撃たれたのを見ていたようだ。

 

 

『指揮官、もう一度囮をお願いね♪』

 

 

「はぁ!? って、くそ!!」

 

PTRDの要請に文句を言いかけるも、引き返してきたテクニカルに気付き、避ける事に意識を向ける。

そして、ギリギリながら2度目の回避を成功させた時……

 

 

「……ダスビダーニャ」

 

普段と変わらない妖艶ながら何処か冷たい声と共に引き金が引かれ、14.5㎜徹甲弾が放たれる。

3cm厚の装甲板を貫通出来るその弾丸はなんの防弾処置もされてないテクニカルの正面から入り込み、ボンネットの中をグシャグシャに壊し、運転手の胴体に大穴を開け、運転席後部を突き抜け、荷台に居た機関銃射手を上下半身に貫通・切断しながら飛び抜けた。

この時点で運転手と射手は絶命しており、荷台の副射手はその惨劇を見て飛び降り、助手席の男は慌てて横からハンドルを握るが、既に操作なと不能だった。

更に破壊されたボンネットの電装系のショートと油脂系の引火により、副射手が飛び降りて数秒後に爆発・炎上した。

 

 

「指揮官さん!?」

 

 

 

「大丈夫だ! それより、飛び降りた奴を捕まえろ!!」

 

近付いて来た41にそう命じ、彼女がそちらに向かったのを見ながら佐山は立ち上がり、リーダー格が落としたトカレフを拾い、右腕を抑え、のたうちながら逃げようとするリーダー格を足で踏んで止めた。

 

 

「てめーだけ逃げられる、なんて安い考えしてんのか?」

 

先程までの優しい口調から、荒い口調でトカレフをリーダー格の頭に向ける。

戦場の空気に呑まれ、今にもトカレフの引き金を引こうとする佐山は背後から抱き締められた。

 

 

「ダメよ、指揮官。貴方は若くて、こんな屑に手を汚してはダメよ」

 

PTRDの言葉に呑まれた意識が消えたのか、スッとトカレフを降ろす佐山。

そして、その時、援軍のヘリボーン部隊が到着した。

 

 

 

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66 如何に動くか

……また、変な題名になりました。


翌日 松本駐屯地 司令部テント

 

 

「昨日は不馴れな事の連続だったね。御苦労様」

 

 

「はっ、いえ、ですが、自衛官としての任務をまっとうしただけであります」

 

業務開始後、佐山を呼び出した高塚。

(なお、テント内には他に筑波と市ヶ谷が居る)

 

 

「いやいや、初めてであそこまで出来れば大したものだよ。ただ、最後にリーダーを撃とうとしたらしいね?」

 

 

「すみませんでした。どうも、空気に呑まれた様です」

 

素直な返しに高塚は微笑みを浮かべながら言った。

 

 

「なに、大抵の人間はそんなもんだ。それも馴れの問題で、後は馴れてコントロール出来る様になればいいさ。まあ、これは第一次大戦から特に問題になってる戦場精神病の類いだ……士官候補生なら、将来の為に覚えておいた方がいいぞ」

 

 

「はい! ありがとうございます!」

 

 

「うん、と言う事で、今日と明日は休んでいい。報告書も簡単でゆっくり書いたらいいからな」

 

 

「え、あ、はい……それで大丈夫なんですか?」

 

 

「あぁ、心理的整理も必要だからな。この戦いは長期になるのは確実だ。故に将兵の身体的、心理的損耗は極力抑える必要があるからね。話は以上だ、ゆっくり休みなさい」

 

 

「わかりました。では、下がります」

 

綺麗な敬礼の後、退室した佐山の入れ替わりに山本大佐が細川を連れて入って来た。

 

 

「ほう、やはり、一度実戦を経験した為か、18の童顔もキリッとしたな」

 

 

「漸くお眼鏡の端に見える程度で、まだまだ育てる必要がありますが…及第点と言ったところです」

 

 

「なるほどね…同志がそうやって種を蒔かんとダメとはな」

 

 

「今さらな話ですよ、同志。それで、昨日捕まえた武装犯の尋問は如何ほどに?」

 

 

「皮肉にも先ほどの士官候補生とドール達のお陰で『あんな目に遭いたくなければ全て話な』と言ったら、知ってる事を全て話してくれたよ。此方が質問しくてもね」

 

ニコニコと話す山本大佐に高塚は苦笑いを浮かべる。

なお、捕らえた武装犯は荷台から飛び降りて軽傷を負った副射手と右手を撃ち抜かれたリーダー格の2人だけ。

 

 

「尋問結果ですが、件の女性の連行はやはりパヨクの連れ去り…曰く『女性労働者の募集』だったそうです。無論、連れ去り目的は若い女性を確保する、とのこと」

 

 

「なるほど……あれ、これ、某国の『慰安婦案件』に似てるよね?」

 

 

「「「まあ、考えた奴等が一緒だし」」」

 

 

「え、えーと……えぇ??」

 

わざとらしい高塚に苦笑いを浮かべて答える3人、そして、事情が掴めない市ヶ谷。

 

 

「市ヶ谷さん、慰安婦問題はわかってますよね?」

 

 

「……性奴隷に関する歴史的、外交的問題とは認識してます」

 

高塚の問いに市ヶ谷は答え難そうに答える。

まあ、女性としては当然と言えば当然である。

 

 

「その認識は間違ってないよ。まあ、今回の謳い文句がそれに似てる、ってだけだからね」

 

 

「謳い文句ですか?」

 

 

「『女性徴用工を騙って日本が慰安婦を集めようとしていた!』と言う悪意満載な噂が戦時中にあったんですよ。もちろん、その噂の内容は嘘ですけどね」

 

市ヶ谷の疑問に細川が答えた。

 

 

「それで、どうするかね、同志? あんな下っ端がホントの事を知ってるとなると、占領地のあちこちで平然と行われている、と言っても過言ではないぞ?」

 

 

「残念ながら、今の我々にそれを阻止する事は出来ません。筑波、指揮下の全部隊に通知。『行方不明者情報、並びに自衛隊等を名乗る者の勧誘を受けた情報があった場合は直ぐに報告する事』以上だ」

 

 

「わかりました。通知して来ます」

 

そう言って筑波は通信室(テント)に向かって行った。

 

 

「なぜ、自衛隊等なのですか? 我々にそんな事が出来ないのは解りきった事だと思いますが?」

 

 

「市ヶ谷大尉、それを詐欺師に言ってみたまえ。まあ、あの連中も詐欺師みたいなモノだがね」

 

 

「山本大佐、それは説明になっていません。つまり、相手を騙すなら、敵だろうがなんだろうか名前を使う、と言う事です」

 

市ヶ谷の疑問に山本大佐と細川が答えた。

 

 

「そう言えば、あのリーダー格の容態は?」

 

 

「一命は取り留めました。まあ、右手の接合は期待出来ないそうですよ、綺麗に切断された訳ではないので」

 

 

ふと思い出した事を訊くと細川は事務的ながら皮肉を込めて返答した。

 

 

「決して逃がすなよ。後々色々と吐いてもらうからね」

 

 

「ふっ、同志よ、悪い顔だぞ?」

 

 

「いやいや、同志もですよ」

 

 

「「…….ふっはっはっは!」」

 

 

「……なんだか、付いていけません」

 

高塚と山本大佐が互いに笑い合うのを市ヶ谷は額を抑えながら言った。

 

 

「あわせて報告しますが、鯖江・富山隊を中心とした派遣隊は防衛線の構築と民生支援を行っております。なお、今のところ、マグマ軍の偵察等はない模様だと」

 

 

「ふむ……数日したら、彼方に本隊と司令部を移動する。準備を頼む」

 

 

「了解です。準備を命じておきます」

 

 

「さて、問題は攻略プランだな……もう少しマグマ軍の情報が入らないと…相馬原駐屯地の方も気になる」

 

 

「そちらの方も情報収集をしておきます」

 

そう言って細川は命令を出すために退室した。

 

 

 

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67 情報収集と検討

……題名のセンスが問題あり。


5日後 松井田町内 司令部テント

 

 

 

「それで、相馬原駐屯地はどうだ?」

 

そう言って高塚は特戦群の2人に質問する。

司令部テントには各部隊幹部が集まり、群馬県奪還作戦会議が行われていた。

 

 

「とりあえず、相馬原駐屯地は陥落してないよ」

 

 

「当然だ! カッパ野郎ばかりとは言え、旅団本部が簡単に陥落せん!」

 

須走の報告に相馬原駐屯地の現状に相馬原は満足している。

だが、高塚はその『含み』のある報告を聞き逃さない。

 

 

「陥落してはない、か…現状はマズイ様だな?」

 

 

「はい。途中、相馬原のゲリラ隊と接触しましたが、マグマ軍がゲリラ攻撃に耐性が出来たらしく、最近は武器、弾薬の入手が難しい、と」

 

高塚の問いに出浦が答えた。

 

 

「なに!?」

 

 

「まあ、ゲリラ攻撃は耐性が付いて、パターンがわかってしまったら、効力は半減以下になるからな」

 

ショックな相馬原と解説する山本大佐。

 

 

「そうなりますと、相馬原駐屯地の抵抗力はガクッと下がりますが…

それでも陥落していないと言う事は…」

 

 

「駐屯地を餌に罠を張ってあるか、自然陥落を待っているか、だな」

 

細川の言葉に高塚はその答えを言った。

 

 

「下手に攻撃して、恨みを作るより、戦国時代宜しくの包囲で敵の根負け狙いですか。まあ、現代人にはキツい話ですね」

 

 

「戦国時代でもキツいです。鳥取城や高松城の記録を読めば解りますよ」

 

松塚の言葉に歴女高田の捕捉が入る。

 

 

「包囲下でレーションばかりの生活では士気はあがりません。自分としては、早く解放し、間宮スイーツと鳳翔御飯を提供したいですね」

 

マルタでの経験(?)がある故にそんな事を言った筑波。

 

 

「鳳翔さんの御飯か~。久々に食べたいな~」

 

 

「その意見に賛成ですが、食べ過ぎで非戦闘損耗が増えそうですね」

 

懐かしがる富山と、筑波の言葉に鯖江は懸念を口にする。

 

 

「それは困るな。ただでさえ、ウチは猫の手も借りたいのだからね。他に情報は?」

 

 

「まだ調べきれてないから、後日報告になるけど、マグマ軍は重要な三ヶ所に主力を集中しているわ。相馬原駐屯地、赤城山、伊勢崎市よ」

 

高塚の問いに出浦が答えた。

 

 

「わかった。それについては引き続き頼む。では、諸君、何かプランはあるかね?」

 

 

 

 

その頃………

 

 

 

「おっ、ずいぶん面白い事やってるじゃん」

 

作戦会議でやる事もない富山はそこら辺をぶらりとしていた時、佐山がロシア・ドールズに囲まれながら拳銃の分解結合をしている場に遭遇した。

 

 

「あっ、お疲れ様です、富山2尉。はい、先の一件であのリーダー格が持っていたトカレフを高塚司令から渡されまして…これからは士官クラスはサブで拳銃を携行すべしと言う事だそうで」

 

 

「ふーん、で、分解結合を教えてもらってる、って事か」

 

 

「はい。昨日、やって来た本人にです」

 

そう言って佐山は今までのロシア・ドールズと格好の違うドール…一番の特徴は頭のリボンと白のスカートと一体となった服…である、トカレフに視線を向ける。

なお、トカレフ本人は分解された部品を一つ一つ見ながら点検している。

 

 

「こら、マールィシュ(ロシア語で『坊や』)。余所見をしてないで組みなさい」

 

 

「は、はい!」

 

そうトカレフに言われ、黙々と部品結合を始める佐山。

見た目には同い年か、トカレフが若干歳上だろうが…戦場での経験や、そもそも銃本体の存在年数(1930年生産開始)の前では佐山達など『坊や』でしかない。

 

 

「あんまり拳銃なんて持たない身だけど、遂に高塚司令もそう言ってきたんだな」

 

ちなみに陸上自衛隊での拳銃携帯者は佐官以上の将校、無反動砲等の大きめサイズな携帯火器の射手、戦車長、特殊作戦群隊員(なお、充足率はお察し)等である。

故に高塚は『士官クラスはサブで良いから拳銃携帯。下士官兵も機会があれば拳銃、機関拳銃の使用訓練を行う事』と解放軍内で出した。(なお、10師団でも通達が師団長権限で出た)

 

 

「その割には、AK47を分解結合してなかったかの?」

 

横で訊いていたM1895が訊いてきた。

 

 

「それはあれだよ、高塚司令が警務隊(憲兵)だった時に…えーと、地中海のマルイだか、丸太だかの鎮守府に警備隊の一員として参加した時に山本大佐達に教えてもらったから」

 

 

「…途中が訳が解らんが、まあ、わかったのじゃ」

 

富山の言葉に呆れながら納得するM1895と苦笑いなロシア・ドールズ。

 

 

「それにしても、その話を聞けばあの指揮官は中々奇抜な経歴だな? 確か一兵卒から試験を受けて将校に、そして、数年で将官とはな」

 

モンシ・ナガンの言葉にロシア・ドールズ達も頷く。

 

 

「まあ、あの人の場合、色々と尖り過ぎてるから…それが良いところだし」

 

 

「確かにのう。一兵卒から故に兵卒の大変さを知り、そうでありながら彼処まで上の物言いに彼処まで噛み付くからのう」

 

ロシア・ドールズ達は立場上、山本大佐の指揮下にあり、故に開放的な解放軍司令部に出入りしている。

だからこそ、高塚が上層部に噛み付く光景を見る機会は多い。

 

 

「故に…トヤマ、あの指揮官を離すなよ? あれ程、上層部の意向を無視出来る指揮官が居るのは、現場の我々にとって幸せなんだからな」

 

ニヤリと笑いながら、モンシ・ナガンが言った。

 

 

「いや、高塚司令、結婚してるんだけど? 私も結婚式に呼んでもらったし」

 

 

「……やはり、トヤマは少し鈍いバカじゃの」

 

富山の言葉にM1895はやれやれ、と言いたげであった。

 

 

 

 

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68 民間軍事警備会社

久々にタイトルと中身が合致しています。
そして、少し長め。


2日後 松井田町内 日本解放軍司令部

 

 

 

「先程、『鞍馬』から連絡がありました。ベトナム陸軍とタイ陸軍の先遣隊が数日後にやってくるそうです」

 

朝食を持って司令部に来た高塚達に当直に就いていた細川が報告した。

 

 

「先遣隊か。また、司令部要員と武器娘か現状把握で一足先に来るんだろうな。はい、細川の分」

 

 

「ありがとうございます。どうやら、タイ海軍がチャクリ・ナルエヴェトに両国先遣隊を載せてくる様です」

 

 

「チャクリ・ナルエヴェトか…随分久々に聞くな。確か皮肉効かせで『王室専用艦』なんて言われていたな」

 

 

「タイ王国海軍旗艦ですからね…まあ、色々ありますし」

 

事情を知る高塚と細川の会話に市ヶ谷や筑波らは横で『ふーん』程度に聞くしかない。

 

 

「さて…うちらもそろそろ、ニューフェイスが要るな~」

 

 

「ニューフェイス…ですか?」

 

漸く会話の流れが変わった為、市ヶ谷が訊いた。

 

 

「あぁ…出来れば、第四世代戦車だ」

 

 

「90(キューマル)式戦車ですか? ですが…」

 

 

「もちろん、わかってるよ。戦車にしろ、武器娘にしろ、今の現状では高望みなのはね…さて、それより、タイとベトナムの受け入れ準備を優先しよう」

 

 

 

 

 

暫くして………

 

 

 

「こ、困ります。一般住民なら、わからなくもないですが…」

 

 

「別にいきなり逢わせろ、とは言わないわ。取り次ぎだけでもしてほしい、とお願いしてるの」

 

 

指揮下の砲兵隊に一通りの指示を終えた桃屋は司令部テントに向かう途中、入り口で訪問者の対応をしている陸曹と困惑顔の立哨に遭遇した。

 

 

「どうした? 民間人から抗議でも来たのか?」

 

 

「あっ、桃屋3佐! じ、実は…此方の方々が高塚司令にお会いしたい、と…」

 

陸曹に近寄り声を掛ける桃屋。

声を掛ける前にもじっくりと相手を観察していたが、改めて桃屋は訪問者に目を向ける。

3人の男女(女性2人と男性1人)、歳も近く、何より3人の身なりはピシリとしている。

更に3人共に同じ組織の人間らしく、同じマーク(ロゴ?)のワッペンと名札を着けている。

また、桃屋は気付いていたが、前の女性と後ろに居る男性は同類、つまり、軍人である事を動きから感じとっていた。

 

 

「司令部幕僚の方かしら? はじめまして、PMC…日本語だと民間軍事警備会社『The Japanese Spirits』の社長、ケイシー・クロックフォードです。よろしく」

 

金髪美女の慣れた日本語と共に差し出された名刺を桃屋は素直に受け取る。

 

 

「お預かり致します。自分は奪還軍司令部砲兵隊隊長の桃屋少佐です。高塚司令にお会いしたいとの事ですが、自分がお取り次ぎしますので、どうぞ、中でお待ち下さい。すまないが、お三方を中へ…司令部テントの方にご案内してくれ」

 

 

「わ、わかりました」

 

軍曹にそう指示し、桃屋は一足先に高塚の居る司令部テントに向かった。

 

 

 

暫くして  司令部テント

 

 

「はじめまして、と言わなくても名前は御存知でしょう。日本奪還軍司令の高塚です。噂は深海棲艦出現前に少し聞いておりましたよ」

 

ケイシーらを招き入れた高塚はそう言った。

なお、この場には先の3人と高塚以外に桃屋に市ヶ谷、山本大佐が居る。

 

 

「あら、我が社が有名になる前から御存知でしたか?」

 

 

「噂程度ですがね。『東南アジアでの対支那の為に民間軍事警備会社を設立した』と。それが貴社の本来の設立目的だった」

 

 

「その通りです。さすが、高塚閣下ですね」

 

 

「あの、何時もの事ながら、私には事情が…」

 

 

「深海棲艦登場前の情勢は覚えていますよね? 対支那対策の一つとして、『民間軍事警備会社を活用した東南アジア諸国への軍事教導』を実施する予定でした。特に海軍力の梃入れを主眼に共産党からの抗議を無視出来る形を取るために設立された会社、と言う事ですよ」

 

 

「まあ、その支那共産党が深海棲艦で弱体化、マグマ軍侵攻でトドメを刺されて、今はマグマ軍相手にドンパチ中、と言ったところかさしらね」

 

桃屋のフォローにケイシーが現状を簡単に言った。

 

 

「さて、話を戻そうかな。まあ、事情はわかったから、言いたい事は解るが…残念ながら、本官と契約しても、支払う能力は皆無なんだがね」

 

 

「その点は御心配なく。既にアメリカ政府の仲介で日本政府への契約を進行中です。申し遅れました、TJSの副社長のフェリシア・リッツです」

 

 

「故に今回は重要な現場の総指揮官へのご挨拶に、と。TJS海軍部隊副司令の後藤武蔵です。今後ともよろしくお願いします」

 

高塚の言葉にケイシーに同行していた男女、フェリシアと後藤が続く。

 

 

「なるほど、それなら此方は支払いを気にしなくていいわけだ」

 

苦笑いを浮かべる高塚だった。

 

 

 

3人が帰った後……

 

 

 

「ふむ、名前からして解っていたが、あの後藤副司令は元海自幹部か」

 

 

会合が終わった後、人物紹介を掛けた結果が送られてきたので、その後内の1枚を見た山本大佐が言った。

 

 

「えぇ、ケイシー社長も日本駐在歴ありの元アメリカ海軍士官。お父さんが海軍将官、親戚筋も国防族。フェリシアさんはスイスの実業家一家の生まれですね」

 

 

「3人共、我々と近い歳なのに…それにしても、後藤副司令の経歴、丁度深海棲艦で海自がピリピリしていた時の一件で懲戒免職ですか。まあ、陸自も注意勧告があったので憶えていますが」

 

高塚も2人の資料を見ながら言うと、山本大佐の後ろから後藤副司令の経歴を見た桃屋が言った。

 

 

「『横須賀総監部侵入者射殺事件』だな。『表門から歩哨を突破した数名の内、1名を『結果的に』射殺した』が大まかな内容だったな」

 

 

「だが、それは『内容の一部』。実際は当日、深海棲艦と判明する前の『海洋害獣保護』を叫ぶ団体の抗議デモが表門で行われていて、閉めきっていた門を乗り越えた数名が歩哨や警衛所を襲ったのが発端だがね」

 

思い出した様に言う高塚と眼鏡を拭きながら『実際の内容』を話す山本大佐。

 

 

「実際、ネットで事実が拡散された瞬間、抗議団体と海自の双方に批判がおきましたからね」

 

 

「え、どう言う事ですか? 抗議団体は解りますが、海自への批判は…射殺したからですか?」

 

桃屋の物言いに市ヶ谷が疑問を口にする。

 

 

「いや、先も言った通り、深海棲艦への対処に明確な結果が出ていない時でのこの一件で海自は世論批判を恐れて早期の火消しに舵を切った。つまり、当日の警衛司令兼発砲した幹部をまだ捜査段階で懲戒免職にしてしまったんだ」

 

 

「まあ、海自に心理的余裕がなかった時ですから仕方ない部分が有りますが…下手に急進的に事を進めた結果、先の事実がわかった時にネットを先頭にした大衆の意見は『対処は妥当だった。逆に火消しを急ぐあまりの急進的な懲戒免職を行った海自の方針が問題』だった」

 

 

「更に、その後の深海棲艦の跋扈もあって、海自への批判は逆に強くなった。まあ、マスコミが深海棲艦を重視したから、この一件は薄らいだ訳だが……しかし、それもマスコミの作為的な誘導だったね」

 

 

「え? え??」

 

高塚、桃屋の解説に山本大佐の意味ありげな言葉に市ヶ谷は混乱する。

 

 

「実はこの一件、『サン・ロイヤル号事件』の事もあって一回再検証したんですよ。すると、乗り越えた数名は『ナイフ等で武装していた』、更にこの抗議団体の本当の目的は『横須賀総監部の占拠』、理由は『海自の作戦行動能力を奪い、深海棲艦の跳梁と北朝鮮への密輸ルートを確保する』意図があった、と。もちろん、抗議団体の実態は北朝鮮から資金提供を受けた工作集団…ね、マスコミが黙りするでしょう?」

 

最後の高塚の解説に市ヶ谷は何度目かも数えるのも嫌になる真っ青な顔になった。

 

 

 

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69 次を行く者

まーた、タイトルが微妙…。


翌日

 

 

 

「うん、なんとなく予想出来てた」

 

苦笑いたっぷりで呟く佐山。

本日は佐山の下に配置された隊員に室内戦訓練を実施していた。

そして、右手にはズラリと並んだ訓練参加者の名簿とその横に書かれた時間らしき数字と『戦死・重傷・負傷』の文字。

そして、視線の先には着ている迷彩服のあちこちにペイント弾がついている隊員の集団…皆、その表情はドヨーンとしていて暗い。

 

 

「一個小隊40名を投入し、戦死・重傷判定が28名。しかも、相手は僅か5人で1人も倒されていない…私には予想外でしたな」

 

自身も参加し、軽傷判定を受けたご意見番役の曹長が名簿を見ながら言った。

 

 

「負傷を入れたら38名、損耗率は9割。つまり、この小隊は戦闘不能ですね。5人の敵に8倍の戦力を投入してこれなら、指揮官が無能か、罠や策に嵌まったと言われますね、確実に」

 

曹長の言葉に佐山が言う。

『攻勢時には最低でも敵戦力の3倍を用意する』と言う常識から言えば、普通ならば敵の制圧は可能な筈だった。

 

 

「いくら余りやらなかった訓練とは言え、流石にこの数字は…再度訓練を徹底的にやりますか?」

 

 

「うーん……多分、それを求めて高塚司令はこの訓練をしてない…と思います」

 

まだ軍人としても、更に士官としても成熟していない佐山も僅か一回の実戦を踏んだ『体験』から違う、と感じていた。

 

 

「ハッキリ言いますと、此方の装備が『室内戦では不適合』だと思います」

 

その言葉に佐山と曹長が振り向くと私物のゴーグルを鉄帽に掛けた士長が居た。

 

 

「第14普通科第4中隊の貴志部士長です。高塚司令より此方を支援するように指示を受けました」

 

 

「あぁ、高塚司令から聞いているよ。ガンオタクな士長を補佐に送るから、とね」

 

 

「あー、はい、そうです」

 

佐山の言葉に気恥ずかしいそうに答える貴志部。

 

 

「それで、装備が不適合とは?」

 

 

「あっ、そちらの話についてですが…曹長、何発『撃てました』?」

 

 

含みのある貴志部の問いに佐山は黙って曹長からの答えを待つ。

 

 

「…弾倉一個も撃っていないな」

 

思い出す様に少し考えてから曹長が答えた。

 

 

「ありがとうございます。小隊長、実は攻勢側の此方の発砲者数と発砲数は母数に比べ極端に少ないんです。何故かわかりますか?」

 

 

「死傷者数が多いから…と言うのは核心を突いていないな。いや、死傷者と発砲数が少ない原因がイコールと言う事……なるほど、だから、『装備の不適合』か」

 

 

「はい。実際、室内戦の分隊編成から見ると、前衛と2番手の被害具合に比べ、大半の人間が発砲前に死傷して撃てていません。理由はアサルトライフルは発砲するには両手を使うために遮蔽物から身を出さなければならず、暴露面積が大きく、これが死傷者数を増やしています。よって、前衛や2番手が索敵を行えず、余計に被害を増やす原因になっています」

 

 

「なるほど…今回、仮想敵は経験豊富なドールズ達。編成も拳銃、機関拳銃2人、アサルトライフル、ライフルの5人だった……曹長、編成小隊人員の拳銃、機関拳銃の履修者は?」

 

 

「ほぼ居なかった筈です。陸曹でも拳銃止まりかと」

 

 

「うん、わかった。午後からは拳銃と機関拳銃の取り扱いと分解結合にしよう。格好はラフな物でよし。今からは各人着替えと洗濯時間とする。曹長も着替えてきてくれ」

 

 

「わかりました。伝えて来ます」

 

そう言って曹長が2人から離れてから佐山から口を開いた。

 

 

「ちなみに、そんな事をいつの間に調べていたんですか?」

 

 

「いやー、高塚司令が『私の指示、と言う事で調べておいて』と…どうも、高塚司令もこの結果を読めてたみたいです」

 

 

「なるほど…報告書に纏めて提出したら、予想通り過ぎて苦笑いしそうですね。さて、こんな出来たばかりの混成部隊ですが、よろしくお願いいたします」

 

 

「『星の数より、釜の数』とは言え、どうも濾そばい気がしますが…こちらこそ、よろしくお願いします」

 

 

 

その頃 司令部テント

 

 

 

「10式戦車です! 派遣命令を受け、この第4世代戦車、参上致しました!!」

 

 

「「……えっ!?」」

 

執務の最中に着任申請に来た10式戦車(武器娘)に驚く高塚と市ヶ谷。

 

 

「えーと…高塚司令、配属申請しました?」

 

此方も困惑気味な細川の問いに高塚は首を横に振りながら答えた。

 

 

「いや…司令任命の時に90か10の配属要請はしたが…まあ、そんな様子がなかったから、諦めて何も言ってない」

 

その答えに3人と筑波の沈黙、10式の動揺に10式と一緒に来た武器娘がオズオズと手を挙げながら言った。

 

 

「えーと、申請いいで……いえ、よろしいでしょうか?」

 

 

「あっ、いや、すまない。いいよ」

 

 

「では…機甲教導連隊所属の74式戦車で…ございます。10式と共に陸幕の命令により派遣されました。よろしく…お願いいたします」

 

 

「わかった。着任を確認、歓迎しよう。それと74、格好もだが、言葉遣いも無理する必要はないからな」

 

何せ、74(教導)の格好はヤンキーにメイド服を着せただけ、と言う非常に解りやすい格好である。

 

 

「あー、ありがとうございます。それで、司令達の困惑に答えるならですが…どうも、ウチラ…私達の派遣は陸幕より上の方が関わっている様です」

 

 

「……なるほどね。ありがとう、74。市ヶ谷さん、すみませんが、彼女達の寝床の用意と戦車隊へ案内をお願いします」

 

 

「わかりました。では、10さん、74さん、こちらに」

 

そう市ヶ谷が言って出た後に高塚と筑波、細川が顔を寄せる。

 

 

「陸幕の上…政府からの圧力が加わった、と?」

 

 

「先に言うが、政府には何も言ってないからな。身内もいないし」

 

 

「なら、松島宮殿下ら海軍か、外国から圧力が来て政府が陸幕に圧力を加えた、となりますが?」

 

 

「うーん、どうかな…どうも、少し違う気もするが…まあ、いい。戦力の増強は大歓迎だ」

 

 

 

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70 過去の禍根

少し昔のお話有り。


その日の夜 沖縄 議員宿舎内 とある一室

 

 

「頼まれていました件ですが、本日、高塚陸将補の下に配属されました」

 

 

「そうか、無事に到着したか」

 

 

陸幕付きの若い幹部からの報告に髭がトレードマークの議員が安心した様に呟いた。

 

 

「はい。ですが、あの言い様はよかったのですか? いくら、古巣で知己が多いとは言え…」

 

 

「だが、出し惜しみする程の余裕があるかね? 更に彼女達を上手く指揮し、マグマ軍相手に対等に戦える指揮官が他に居るのかね?」

 

 

「………残念ながら」

 

 

「そうだろう……まさか、古巣がこれ程弱体化していたとはな…」

 

そう呟きながら、議員は窓から外の光景を見る。

戦時中と言う事と物質節約の為に那覇市内は勿論、沖縄の各都市は電力統制が行われており、一部施設を覗いて街の灯りは消えている。

そうであるが故に、かつてのイラク派遣で指揮官として名を馳せた議員の古巣への落胆は大きかった。

 

 

「皆が言っていました。『駐在武官の口から高塚の名が出ない日はない』、『陸幕よりも高塚の方に挨拶へ行く人間が多い』と」

 

 

「それを聞いて反省している人間は陸幕に居るのかね?」

 

 

「……なんとも言えません」

 

 

「そうか……いや、すまない。まるでスパイをさせているな」

 

 

「いえ、これも大事な仕事ですので。また何かありましたら、報告致します」

 

 

「あぁ、すまんね」

 

そう言って若い幹部が出て言った後、議員は溜め息を吐いた。

別に特別親しい訳でもない、そもそも、高塚との初顔合わせが先の深海棲艦との講和式典パーティーであり、それからも数度顔を合わせた程度にも関わらず、彼しか適任者が見付からない現実に。

 

 

「……そもそも、旧海自の海軍と、それに強いパイプがある彼を予算案で敵に回した時点で間違いだったのに……バカな事をしたものだ」

 

落胆する理由しか見付からない事に議員は何度目かも数える気もない溜め息を吐いた。

 

 

 

 

翌日 戦車射撃場

 

 

「さすが教導連隊。腕がいいな」

 

 

「それ、誉め言葉になってないよ、隊長」

 

撃ち抜かれた的を双眼鏡越しに見た松塚の言葉に74式(教導)は苦笑い浮かべながら言った。

 

 

「だが、その技量は間違い無い。確かにあっちの74の技量も悪くは無いが…どうかな? T-72とひと勝負するかい?」

 

 

「あー、いや、あの時の映像観たけど…手の内知られてる上に、ミサイルまでくっついてるから勘弁するよ」

 

 

「賢明な判断だ」

 

 

「何が賢明な判断なの?」

 

74(教導)と松塚の会話にT-72が割って入った。

 

 

「おや、噂をすれば影と…山本大佐もですか。何か御用で?」

 

 

「なに、武器娘の10の出来具合をスパイしにね」

 

 

「宿敵エイブラムスを倒すならば、次世代1番手10式を研究する。当然では?」

 

 

「なるほど、なるほど、今から始まりますので、ごゆっくり」

 

そう言って松塚が右手を挙げると、入り口の隊員が白旗を振り上げる。

次の瞬間、70キロのフルスピードで侵入した武器娘の10は90式からの自慢の行進間射撃を見せ付ける。

 

 

「やはり、74式戦車クラスの車輌重量としながら、90式とその発展技術を詰め込んだ日本のコンパクト化技術の結晶だね。そう思わないか、同志ウラルよ?」

 

 

「はい。私も元は軽量級主力戦車ですが…あの流れる様な一連の動作は真似しにくいですね」

 

流れる様なスラローム射撃を観つつ、山本大佐とT-72は称賛する。

しかし、それを横で聞く松塚は苦笑いを浮かべる。

 

 

「武器娘の10式なら対等に戦えます。しかし、実体の10式の数となれば生産・更新は今回のマグマ軍侵攻で遅れ、更に少数集団にばらされている。更にロシアはアフガン侵攻やチェチェン紛争による戦訓で携帯対戦車火器をはじめとした防御対策に力を入れておりますが、我が方はそれを怠った。故に岡山市占拠事件での被害ですが…その後もまったく対策などされず、今に至ります。いまや、車輌スペックだけを比べても意味が無い時代ですよ」

 

 

「ふむ。やはり、戦車隊士官としては一心あるものだな。貴官も」

 

 

「当然です。祖父は元騎兵科隊員として転属配置され、占守島と日本を守った第11戦車連隊に居て戦いました。その後継たる第11戦車大隊に自分は配属されてから、独自研鑽と研究は怠ってはいません。ですが、調べればこんな新人士官でも解る事を放置していた訳ですからね、上は」

 

 

「故にやり易いだろう? 同志の下だと」

 

ニヤリと笑う山本大佐に松塚は溜め息を吐きながら、肯定の意味で首を縦に振った。

 

 

 

 

その頃 司令部テント

 

 

「空挺団に装甲車ね」

 

 

「はい。出来れば軽装甲機動車ではなく、機関砲を搭載した本格的な物を要望します」

 

習志野の要望に高塚はウンウンと頷きながら口を開いた。

 

 

「わかった。要望に沿う様にしよう。但し、輸送機で輸送できる装甲車輌となると色々と難しい。よって、直ぐに渡せる保証はない。そこは勘弁してくれ」

 

 

「わかりました。失礼します」

 

そう言って退室した習志野の背中を見ながら、高塚は溜め息を吐いた。

 

 

「さて、直近に無いからな…どうしたものかな」

 

 

「それ程、難しい案件なんですか?」

 

 

市ヶ谷の問いに高塚は珍しく『降参』と言いたげに両手を挙げる。

 

 

「スペースと重量に制限がある輸送機に載せるとなるとね。本来はら、敵後方への降下を実施する空挺団こそ、軽量装甲戦闘車輌が必要なんですが……どうも、陸自は自国防衛だからと開発はおろか、構想すらなかった様ですし」

 

 

「……この様子ですと、山本大佐に相談する案件でしょうか?」

 

 

「だね。まあ、ロシアが出してくれるかは望み薄だがね」

 

 

 

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71 未来と過去

翌日 司令部テント

 

 

 

「…と、言う話なんですがね」

 

 

「なるほど。空挺団も羨ましく思えた訳だ」

 

課業開始ラッパが鳴り終わると同時に缶コーヒーと数枚の資料を片手にやって来た山本大佐に昨日の空挺団からの要望を話した高塚に山本大佐は頷きながら言った。

 

 

「まあ、隣で見せられたら、そうもなりますよ。で、問題はそれを何処から引っ張ってくるか、なんですよ」

 

 

「そうだね…現在のロシアも余裕がある訳ではないからね」

 

 

「えぇ、まあ、空挺降下後の確保地域に降ろす事にすれば代用は幾らでもあるとは思いますが…どちらにしろ、『何にするか』ですからね」

 

 

「わかった。此方も候補を出してみるよ。で、此方の用件を初めていいかね?」

 

 

「おっと、すみませんでした。それで、用件はその資料だと思いますが?」

 

 

「あぁ、今回は私を通して支援物資の通達だ。まあ、理由は見たら解るよ」

 

 

「ありがとうございます……うーん、変わった点は122㎜多連装ロケットランチャーとその弾薬の供給が増えたぐらいかと……ん?」

 

資料の一番上にあった供給リストの内容を指でなぞりながら確認していた高塚は一番下に『ロシア陸軍正式派遣部隊』の文字を見つけ、顔を上げて山本大佐を見る。

 

 

「海軍や空挺軍、空軍が活躍してしまったからね。陸軍としても、となったそうだ」

 

 

「なるほど。戦力は…T-90を中心とした戦車、2S19ムスタ-S自走榴弾砲、ツングースカ対空戦車に……うわっ、BMPT! 戦車支援戦闘車『ターミネーター』まで出すんですか!? 実戦試験にはもってこいと」

 

 

「うむ。だが、悪くはないだろう?」

 

 

「さすがに最新のT-14アルマータは持って来ないですよね~…まあ、戦力が増えるのは歓迎です」

 

 

「そう言ってもらえて嬉しいよ。なお、T-90戦車隊は女性が中心だがね」

 

 

「……宣伝を兼ねて、と?」

 

 

「その側面はあるが、御飾り部隊と心配する必要はないよ。既に数度の実戦は経験しているし、隊長はやり手な上、彼女の祖父は独ソ戦を生き抜いたお人だ」

 

 

 

「なるほど……わかりました。到着時期が解りましたら、改めてお知らせ下さい」

 

とにもかくにも、手札増加は歓迎する高塚だった。

 

 

 

 

戦車隊待機所

 

 

 

「ふ~ふ~ふ~ふ~ん♪」

 

 

「おや、これは珍しい光景ですな」

 

待機所の隅で毛布を拡げ、鼻歌を歌いながら松塚が拳銃の整備するのをあきつ丸が見て声を掛ける。

 

 

「お疲れ様です、あきつ丸少佐。いやー、申請していた携帯の拳銃の許可が降りたので整備でも、と」

 

 

「なるほど。にしては、かなり年季の入ったリボルバー拳銃でありますな?」

 

 

「と言うか、最近よく見ている物ではないか。M1895だな」

 

 

 

「なんじゃ? 呼んだか?」

 

手を止めずに答える松塚にそれを眺めていたあきつ丸が物を見て疑問を口にする。

更に何処からか現れた神州丸が物を見て、それが見覚えのある物と言うと、これまた何処からか本人であるM1895ナガンが現れた。

 

 

「いやー、これが唯一と言っていい祖父の形見でして…これ以外は既に捨てられたりしていますので」

 

 

「確か、お祖父様は我らの身内の帝国陸軍だったとか?」

 

 

「えぇ、騎兵でしたが部隊改変で戦車兵になりまして…第11戦車連隊で占守島の戦いに参加、捕虜となり、抑留を経て帰って来ました」

 

 

「そうか….お祖父様はシベリア抑留体験者か」

 

神州丸の少し苦い呟きに松塚は軽く言った。

 

 

「大佐や少佐は気にしないで下さい。それに祖父達の所は比較的緩い収容所だったそうです。地元民もそうですが、収容所の所長が占守島占領の戦車隊の士官で、好意的に接してくれた為、無事に帰ってこれたそうですから」

 

 

「それで、儂を手に入れた話は未だなのか?」

 

我慢出来ない、とばかりに頬を膨らませて話を促すナガン。

 

 

「すみません、すみません。その所長、まあ、当時の祖父と同年代なんですが、まあ、護身用兼友情の証としてくれたんですよ。祖父は好意で返還された14年式拳銃を渡したそうです。帰国後も手紙でやり取りしていたそうなんですが、ソ連崩壊もあって音信不通になった、と」

 

 

「なるほど、故に新発田の時はナガン殿を受け入れた訳ですな」

 

 

「いやー、お恥ずかしい話ですが、その通りです。まさか、その流れで部品や銃弾の供給が可能となって、こうして使える様になるとは思いませんでしたがね」

 

そう言って松塚は弾倉シリンダーを眺めながら言った。

 

 

「ほぉ、ならば、これは儂の分身の1つとなるの…と言う事で、イチサ~、何か奢るのじゃ!」

 

ニコニコと笑いながそれを見ていたナガンは言った。

 

 

「あー、整備した後でいいなら」

 

 

「もちろんじゃ! まあ、整備が完璧かどうか、本体たる儂が確認するからのう」

 

 

「な、なるほど…御手柔らかにお願いします」

 

 

 

暫くして 司令部テント

 

 

 

「なるほど、松塚の拳銃にそう言った事があったか」

 

 

 

「申請許可を出したのは高塚殿では無いのですか?」

 

松塚のM1895ナガンの由来を話したあきつ丸は高塚の反応に疑問を示す。

 

 

「まあ、お祖父さんの形見と聞いたから、余り深くつっこまなかったのさ。まあ、何か機会があれば訊くつもりだったし」

 

 

「あぁ、なるほどであります」

 

 

 

 

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72 偵察小隊奮戦ス 前編

久々の戦闘回……かな?


翌日 司令部テント

 

 

「ですから、何度も申し上げますが、『東京の早期奪還』は机上の空論な上に、マグマ軍が待ち構えるど真ん中に突撃する事になりますので……いやいや、そもそも、そちらの供給はアメリカやロシアの何十分の一ですよ? 兵員の母数、武器の質量も到底足りていません。これでは援軍として来ている、又はこれから来る外国軍部隊の物笑いのネタにしかなりませんよ?」

 

市ヶ谷や筑波、山本大佐らが居る中で高塚は電話相手に冷静に理性的に話をしている。

そして、暫くして、高塚は溜め息を吐きながら受話器を戻した。

 

 

「……高塚司令、陸幕からなんと?」

 

 

「何時も通り。『何故、東京に向かわないのか?』だよ」

 

市ヶ谷の質問に高塚はやれやれと言いたげに答える。

 

 

「アホかな? いや、アホだったな」

 

 

山本大佐の言葉にその場に居た全員…珍しく市ヶ谷も…が苦笑いを浮かべて肯定する。

 

 

「さて、上の相手はここまでだ。現場も動いているし、我々も移動しよう」

 

 

そう、既に作戦は始まっていた。

 

 

 

 

その頃 富岡市 富岡ゴルフ倶楽部付近

 

 

 

「…………(集まれ)」

 

言葉を発せず、ハンドサインで指揮下の分隊に集合を命じる佐山。

この指示に分隊10名が集まる。

 

 

「すんなりと進めましたね」

 

 

「うん……あれだけ時間があったのだから、防御を固めていてもおかしくないが……今のところ、哨戒すらいないな」

 

佐山率いる一個小隊四十数名は前方斥候の意味合いも込めて分散し、前進していた。

当初、直ぐにマグマ軍防衛ラインに引っ掛かるであろう、と予測していたのだが、(徒歩である事もあり)かなり深く進入したにも関わらず、歩哨の1人にすら遭遇していなかった。

 

 

「マグマ軍は此方に来る事はない、と思っている可能性は?」

 

 

「いや、それはないわ。地図見れば解るだろう?」

 

この現状に分隊同士の問答が始まる。

実のところ、相馬原駐屯地に向かうなら信越線沿いに進み、高崎市に出てから北上するのが早いのである。

しかし、そのルートは途中の安中市近郊で高地と高地の間が狭くなり、ボトルネックの様な場所があった。

対し、安岡市から上信電鉄沿いに東進するルートはボトルネックの様な場所がなく、更に信越線ルートを通る場合と違い背後を気にしなくてよいと言う利点があった。

また、上信電鉄ルートだと東京方面からの援軍と群馬県部隊との接合部である県境から分断できる利点もあった。

だが、これは地図を見れば解る事であり、当然『マグマ軍は様々な事を考えて、防衛ラインや哨戒ラインを設定しているだろう』と思って、佐山も高塚達も動いているのである。

 

 

「とにかく、引き続き周囲を警戒しつつ…」

 

佐山の言葉を遮ったのは……銃声だった。

 

 

 

 

「あー、えー、うー、うーんんん!?」

 

 

「班長! 悩んでないで指示して下さい!!!」

 

分隊指揮官の三等陸曹が困惑する横で分隊員の陸士が半泣き気味に応戦しながら叫ぶ。

事の始まりは簡単で、この分隊の前に突然、中学生らしき少年と武装集団が現れた。

武装集団から逃げてきたと思われる少年に向け、武装集団の1人が

手にしていたAKを向けた。

が、そのAKから銃弾が飛び出す前に同行していたガリルが発砲、そのまま銃撃戦となってしまった。

 

 

「リロード! 7番はカバー! 8番、9番はあの少年の保護! 10番、次の切れ目で8番と9番の援護!!」

 

そんな中、分隊指揮官の三等陸曹を無視し、自分の班(本人含めた5人編成)を必死に指揮する陸士長。

 

 

「へー、結構やるやん」

 

 

「こんな事しか出来ませんので! よーし、8! 9! 行け! 行け!! 残りは援護!!」

 

ガリルの褒めに流す様に答えた陸士長は先ほど示した隊員に突入を指示し、自らを含んだ残りの人員で援護する。

保護役の二人は踞っていた少年を立ち上がらせ、9㎜機関拳銃(改)を交互に乱射しながら分隊隊列まで下がって行く。

そして、その瞬間に最初の銃声を聞き付けた佐山率いる一個分隊が横合いから攻撃を開始し、武装集団は敗走した。

 

 

 

暫くして ゴルフ倶楽部内 クラブハウス

 

 

「なに? 自衛隊の小部隊と接触した、だと?」

 

報告を受けた指揮官は何処か苦々しそうに聞き返す。

 

 

「はい。例の逃走したガキを追跡中に…」

 

 

「で、奴らは? まあ、どうせ退却したんだろう?」

 

 

「い、いえ、ガキを撃とうとしたら、先に撃たれて…撃ち合いに…」

 

 

「はぁ!? 自衛隊が先に撃っただ!? 彼奴ら、頭がおかしくなったのか?」

 

 

「さ、さあ……それで、どうしますか?」

 

部下の問いに指揮官は苦々しそうな顔そのままに答えた。

 

 

「チッ、どうせ、偵察の小部隊だ。ガキを保護して、本隊へ退却したんだろう…それより、早く積載を急がせろ。上からもせっつかれているし、自衛隊が近付いているなら余計だ。それにガキの事は積載している奴らに勘づかれてるだろう? なら、下手に探られる前に終わらせろ。いいな?」

 

 

「はい、わかりました」

 

この時点で彼らはある事を失念していた。

彼らの中では『自衛隊は先に撃てない』の認識で固定したままだった。

つまり、『このまま自衛隊が攻撃してくる』と考えていなかったのが、彼らの運命を決めたのだった。

 

 

 

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73 偵察小隊奮戦ス 後編

前回の続きになります。

本日は終戦記念日になります。
先の大戦で戦った英霊達よ、ありがとう。
安らかにお眠り下さい。

本来なら『大逆転! 大東亜戦争を勝利せよ!!』を更新すべきなのですが、お盆前に急にゴタゴタと忙しくなり、書き上げる予定が狂ってしまいました。
出来る限り、近日中に更新致します。

では、長くなりましたが、どうぞ。


その頃 富岡ゴルフ倶楽部 クラブハウス駐車場付近

 

 

 

「どう思う、貴志部士長?」

 

 

「曹長。ただの銃オタクに期待し過ぎです」

 

クラブハウスの駐車場が見える場所に潜伏する曹長が率いる分隊。

彼らの視線の先には到底ゴルフ場には似合わない光景があった。

普段であればゴルフ客の車が駐車される場が、余りにも似合わない荷物運搬用トラックが団体で駐車され、クラブハウスの入り口やその周辺には荷物の積載の為に男達がひっきりなしに往復し、更には直接その銃口を向けてはいないとは言え、御丁寧にAKを持った武装員数名が見張りについている。

これだけでも手を出しにくい事この上ないのだが、更に厄介な物があった。

 

 

「専門外ですが…装軌装甲車に戦車が2輌づつ、火器を向けられていないにしても、正面から挑むには無茶があります」

 

 

「じゃあ、この状態で何もしないで静観しておくの?」

 

貴志部の言葉に分隊に同行する97式が異を唱える。

 

 

「やめなさい、97。私達ならともかく、人質を取られた状態で正面から突っ込むなんて無謀過ぎるわ」

 

妹の言葉に姉の95式がそう言って窘める。

空気が悪くなりそうになり、曹長が口を開こうとした瞬間、状況が動いた。

何か騒動がおきたのか、AKを持って積み込みを見張っていた武装員が慌てクラブハウスに入っていった。

 

 

「曹長! 見張りは激減しました! 今です!」

 

 

「誰かは解らないが、上手い具合に騒ぎをおこしてくれたようだ。二手に分かれて接近する。地形地物を上手く利用しろ。前進!」

 

曹長の指示に分隊は前進を開始した。

 

 

 

その頃 クラブハウス内部

 

 

 

「邪魔なんだよ!!」

 

 

「グガッ!?」

 

出会い頭の一瞬で先頭を進んでいた三等陸曹は何の躊躇いもなく、64式改で気合いの雄叫び代わりのセリフを叫びながら相手の顔面に床尾板(しょうびばん)打撃を行う。

一方、相手は防ぐ暇さえない中で自衛隊の近接格闘をくらうはめになり、床へひっくり返る。

 

 

「出来る限り銃は使うな! 出会い頭に格闘で倒せ!」

 

聞けばおかしく思える命令だが、理由はある。

それは自分達が固まっているが故に、下手に発砲すれば同士討ちになりかねない事と、敵に数や実情を掴ませない為だ。

 

 

「ふんっ! はあっ! やあっ!」

 

それを体現するかの様に前に出たドール…100式短機関銃が自分の得物を使い、銃床(じゅうしょう)打撃(顎へのストレート)、床尾板打撃、銃床打撃(顔面右横)で3人を瞬く間に倒してしまう。

 

 

「上手いですな、100式さん。おい、お前! お前達のリーダー、指揮官は何処に居る!?」

 

件の陸曹が100式の動きを褒めると同時にあっという間に仲間が倒され、固まっている武装員を問い詰める。

 

 

「ぶ、VIP室! 奥のVIP室が居室になってる!!」

 

 

「よし。半数はコイツらの拘束とこの場の確保だ。半数は続け!」

 

5人を残し、残りの分隊員と100式を連れてVIP室に向かう。

 

 

「ここだな…擲弾手、閃光弾準備」

 

 

「はい、何時でもどうぞ」

 

VIP室に到着し、扉の前で突入に備え擲弾筒手に音響閃光弾の準備を命じる。

 

 

「じゃあ、いつも通り、3で閃光弾のピンを抜いたら投げて渡せ。部屋に投げて炸裂を確認したら突入だ」

 

陸曹の言葉に面々が頷く。

 

 

「よし、いくぞ。1、2、3!」

 

3の言葉と同時に擲弾筒手が音響閃光弾のピンを抜くと陸曹に投げてよこす。

受け取った陸曹は素早く扉を少し開けると間髪入れずVIP室へと放り込む。

放り込んで数秒後に扉ごしにも聞こえる炸裂音と耳鳴り音が響く。

 

「GO!!」

 

陸曹の号令に100式と隊員が突入する。

部屋に突入すると音響閃光弾で視覚と聴覚をやられて転がる武装員3人と奥に居て片目をおさえたリーダーが居た。

 

 

「くそ! 自衛隊が!」

 

苦々しそうに叫びながら右手の拳銃を向けるが、擲弾筒手が自らの9㎜拳銃を撃ち込み、リーダーの拳銃を撃ち飛ばす。

 

 

「上手いぞ。床に転がっている奴らを拘束しろ。さて、運が悪かったな、リーダーさん」

 

 

「ちっ…しかし、なんでここに集まって来てるんだ?」

 

 

「だから、運が悪かったんだよ。ウチの小隊長がこのゴルフクラブを偵察隊の集結ポイントにしたからな。まあ、あんたにはこれから色々と話してもらう事になるけどな」

 

陸曹がニヤリと笑いながら言った。

 

 

 

3時間後 クラブハウス

 

 

「マグマ軍がいなかったのは、コイツらが哨戒部隊として、更に治安維持や民間人への配給を担当していたから。保護した少年が追跡されたのが、積み込み物品の中身を見られたから。積載をしていた民間人は食糧の特配を行うから参加した。まあ、聞けば妥当と言えば妥当だな」

 

件のゴルフクラブに司令部を前進させた高塚は佐山から報告を受け、そう言った。

 

 

「そうだね、同志。で、問題は彼らが積み込もうとした中身、少年が追い掛けられた理由だが……これは酷いな」

 

山本大佐はそう言って溜め息を吐く。

高塚・山本大佐らの前には積載前の物、あるいは積載されたのを降ろした物の一部が並べられていたが物は様々。

武器・弾薬は少ないが、何処からか盗んできたと思われる貴金類、数の多い民間人用配給品の食料品や物資、そして、積載されていない物を含めても異様に多い木箱。

 

 

「頑丈そうな木箱ですね。なんでしょうか?」

 

 

「……高塚司令、山本大佐、まさか…?」

 

不思議がる市ヶ谷に対し、何かを察した筑波。

高塚が頷くと近くにいた富山がバールで木箱の蓋を無理矢理開ける。

そして、中にあったのはキッチリと並べられてビニールで包装された『白い粉』の塊。

山本大佐が近付き、その一つを破り、中の粉を僅かに掬うと、試験薬の入った容器に入れる。

そして、それを少し振って反応を促すと……たちまち色が変わった。

 

 

 

「ヘロインだな」

 

 

「ヘロインですか」

 

 

「ヘロインだったんですね」

 

 

「ヘロインかよ」

 

 

「……え、どう言う事です? なんで、麻薬の類がここに??」

 

山本大佐、高塚、筑波、富山の反応に対して、漸く物が解ったものの疑問を口にする市ヶ谷。

 

 

「さて、北朝鮮か、或いは支那か…そこら辺から来た物が彼ら武装員達によって東京か何処に運ばれる予定の物を我々が押収した。それだけさ」

 

 

「にしても、この量だと末端価格でもエゲツイ事になりそうだな」

 

 

「ちなみに自分と富山はマルタでの邦人救出で見たので」

 

 

「あれは忘れないわ~。市ヶ谷さん、念のために全体に徹底した方がいいよ。『薬物使用者は下手したら死刑だ』ってさ」

 

 

 

 

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74 群馬県南部解放戦 1

早め……かは微妙ですが、投稿します。


その頃 ゴルフクラブ 駐車場

 

 

「にしても、こんな珍しい物をコイツらが持ってるとはな」

 

駐車場にトラックと共に並んでいる2輌づつの戦車と装軌装甲車を眺めながら松塚が呟いた。

 

 

「そう言えば、自衛隊以外の戦車なんて、この部隊以外で初めて見るけど、なんなの、これ? なんか、戦車はウチにあるT-55に似てるよね?」

 

その呟きに鯖江が眼鏡を拭きながら訊いてきた。

 

 

「あー、まあ、外見だけ似てると言うか、うん、元の元がT-55だからと言うか」

 

 

「え、そうなの?」

 

 

「えぇ、高塚司令や俺みたいな奴なら知ってますけど…こいつは中国がライセンス生産したT-55、向こうでは59式戦車を元に山岳地帯等で運用出来る様にした62式軽戦車。多分、並べたら分かりますが、サイズと重量は一回り程ダウンしてます」

 

 

「へぇー…じゃあ、これは中国の?」

 

 

「いえ、それはなんとも。何故なら、軽戦車の類はコストが安いですから、他国にも需要はあります。実際、この62式軽戦車も北朝鮮へ輸出されていますからね。隣にある装軌装甲車、YW-531…63式装甲兵員輸送車ともども、他国に多数輸入されてますし、ライセンス生産もされていますから」

 

 

「なるほどね」

 

 

「まあ、そこら辺の事は後々わかるさ」

 

困惑顔の松塚と一応納得な鯖江に高塚が近付きながら言った。

 

 

「お疲れ様です。で、彼奴らは?」

 

 

「事情聴取は民兵隊が得意だから、お任せするよ。それより、明日は頼むぞ。なにせ、メインだからな」

 

 

「はい、お任せ下さい」

 

ニヤリと笑いながら松塚は言った。

 

 

 

翌日 12時頃 群馬県南部 藤岡市(西方)

(音声上ややこしいので、通常会話に致します)

 

 

「なあ、なんでウチらはここに居るんだ?」

 

 

「移動命令が来てないからな」

 

そんな会話を歩哨のマグマ軍歩兵2人が交わす。

 

 

「聞いた話だと、指揮系統の調整がごたついてるらしい」

 

 

「ふーん…….そう言えば、敵の指揮官の事を聞いたか? 東京侵攻の最後に壮大に言い返してきた佐官らしいぞ」

 

 

「佐官が指揮官? ライサ大佐が負けた理由が解らん」

 

 

「いや、特認と言う事で少将らしい。で、向こうの政府や軍上層部と喧嘩しなが現場を仕切っているそうだ」

 

 

「………ますます負けてる理由が解らなくなってきた」

 

 

「それだけやり手だ、って事だろう」

 

そんな会話ん交わしながら、西の方を眺めていた2人は174号線の道路上を進んでくる車輌車列を視認した。

 

 

「……おい、あれって……」

 

 

「……あぁ、間違いない…敵だ!!」

 

 

 

 

車列先頭 T-62

 

 

「よっしゃ! 計画通り! 時間通りだ!!」

 

車列先頭で車長ハッチから身を乗り出し、ニヤリと笑いながら叫ぶ。

富岡ゴルフ倶楽部からほぼぶっ通しで進んで来た(点検の為に小休止はあったが)のである。

 

 

『松塚! 少し音量を抑えろ!』

 

 

「すまん、すまん! しかし、さすが高塚司令。地中海に居た時に艦娘が使ってたヘッドセットを大量に取り寄せてくれてるとか嬉しいね」

 

 

『確かに、前のは性能はともかく、耐久性は微妙でしたからな』

 

松平の抗議に松塚はそう言うと谷沢曹長が入ってきた。

 

 

「やっぱり、高塚司令はわかる人だよ! 死にかけた事はある!」

 

 

『『もう少し、表現を考えた方がいいぞ』ですな』

 

最後に2人のツッコミが入った。

 

 

 

 

暫くして 藤岡市内 新町鉄南運動場

 

 

「くそ! 油断した!」

 

 

神流川沿いにある新町鉄南運動場に司令部を置いていたマグマ軍司令部に居た司令官の重戦車72號戦車(マグマ軍T-72)はそう言って簡易机を叩く。

 

 

「やはり、あの『協力者』達に任せたのは間違いでしたね。まあ、仕方ありませんが」

 

 

「嫌味は後だ……現状は?」

 

 

「敵は戦車を先頭に前進中。一部は群馬藤岡駅に向けていますが、大半はそのまま此方に向かっています」

 

副官のマグマ軍歩兵が冷静に地図を指しながら答える。

 

 

「藤岡市内の部隊は?」

 

 

「川を越えて埼玉に撤退しています」

 

 

「……嫌味はないのか?」

 

 

「これまた仕方ありません。藤岡市内の部隊は移動待ちの東京方面からの転出部隊です。数は我々より居ても、指揮系統が違いますし、そもそも、移動の為に荷解きをしていない味方に戦えとは無茶振りです」

 

副官の苦笑いに司令官も察して苦笑い。

 

 

「更に言うなら、時間が悪すぎました。昼食の真っ最中でしたからね。それで、どうしますか?」

 

 

「転出部隊はそのまま埼玉方面に撤退させろ。藤岡市は放棄、上越新幹線沿いに哨戒線、関越自動車道を抵抗線を張れ。自動車道は敵も壊したくないから、下手な攻撃は出来ん。指揮下に伝えろ」

 

 

「わかりました」

 

72號戦車の指示に副官を初め、司令部の者達が素早く動き始めた。

 

 

 

14時 40号線

 

 

 

「状況は?」

 

 

「乗員の飯、車輌の点検は完了。ですが、燃料はどの車輌も黄色です」

 

進撃の途中にあった広い駐車場があるローソンで大休止をしていた松塚隊。

状況を谷沢曹長から聞いた松塚は頷いた。

 

 

「やっぱり、燃料補給の為に本隊を待つしかないか」

 

 

「これ以上の進撃も危ないしな。敵が出て来ないと言うのも怪し過ぎる」

 

 

「本来なら、ここにマグマ軍の大部隊が居た訳ですからな。まったく何も無しにすんなりと退くとも思えませんしな」

 

 

 

 

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75 群馬県南部解放戦 2

遅くなりました、明けましておめでとうございます。
昨年は読者のお世話になりました。
今年もよろしくお願いいたします。


16時半頃 騎甲隊(解放部隊戦車隊)

 

 

 

「お疲れ様です、松塚大尉」

 

 

「おう、細川。急かしてすまなかった。あれ、高塚司令は?」

 

給油隊に同行して来た細川は松塚に声を掛け、松塚は礼を言いながら訊いた。

 

 

「高塚司令は北の弾薬庫がある吉井分屯地に向かわれました。弾薬の確認と補給集積所の開設の為です」

 

 

「あぁ、なるほどね。そう言えば、藤岡市はどうだ?」

 

 

「市街地の解放は完了です。ただ、もぬけの殻でしたが」

 

 

「やっぱりか」

 

細川からの報告に松塚は苦い顔を浮かべる。

 

 

「お気付き…いや、予想なされていたようですね?」

 

 

「なにせ、市内に入ってロクに抵抗も妨害もなかったからな。ごっそりと逃げられたんだろう?」

 

 

「はい。逃げ遅れたマグマ兵に尋問したところ、藤岡市内に居たのは東京などからの転出部隊で、群馬県内に分散配備される為に移動状態で待機中だったとの事です。大半が川向こうの埼玉へ撤退したようですね」

 

 

「なるほど、逃げ準備が要らなかったから、早く逃げれた訳か……まあ、逃げられはしたが、県外に出たんなら、こうして攻め込んだ意味合いはあったな」

 

 

「確かに…話は変わりますが、此方の現状は?」

 

 

「おっと、そうだな。とりあえず、燃料が大丈夫なところまで翔ばしてきたんだが……あの先、見えるか?」

 

松塚が指差す方に細川は目を細めて見る。

 

 

「新幹線の高架、その先に高速道路ですか…なるほど、ネックはあの高速道路ですね」

 

 

「あぁ、あの高速道路は盛り土して、人工的な丘になってる。多分…いや、間違いなく、高速道路の下を抜けるトンネルを潜った先に待ち伏せてるよ。こんな絶好な場所を防衛線に使わない訳がないしな」

 

 

「故にここで待機と…迂回は?」

 

 

「そう思ってGoogleマップとか見てみたが、こっから烏川までこの17号線が壁みたいに存在している。東側神流川と烏川が合流するから、ちょうど島みたいになってる。厄介な場所さ」

 

 

「確かに、ちょっとした要害ですね。となると…新町駐屯地と連絡をとり、背後を突くと言うのが常套手段ですが…」

 

 

「無理だな。多分、新町駐屯地は包囲部隊が付いてるし、あの先にいるのが群馬県の担当部隊なら逃げる訳がない。母数は向こうが多いし、なんと言っても、マグマ軍がそんな常套手段の対策を取らない訳もない」

 

 

「どうやら、頭の運動の時間ですね」

 

 

「そう言う事だ」

 

 

 

 

その頃 新町駐屯地

 

 

 

「うぅ…どうしましょうか…」

 

 

「どうしましょうか、なんて状況だと思う?」

 

 

新町駐屯地の駐屯地娘である新町かんな1尉に対し、同期生である萩原万智子2尉が呆れながら言う。

 

 

「ほら、普段から『目立ちたい!』って言ってたでしょう? 今がその目立ち時でしょう!」

 

 

「た、確かにそうだけど……うぅ…」

 

新町の態度に萩原は内心溜め息を吐く。

確かに地味で積極的ではないにしろ、物事をコツコツと真面目にこなすのが新町だと知っているし、更に普段から新町に『目立ちたい』と願望があるのも知っている。

故に今回がその『目立ちどころ』であるのだが……突然の出番に積極的でない性格により、すっかり普段の願望に二の足を踏んでいる。

 

 

「はいよー、失礼するよ~」

 

そんな中に入って来たのは同じく同期で新町駐屯地唯一の戦闘職種である第12対戦車中隊の杉柳大輔2尉。

 

 

「大輔、対戦車中隊の方は?」

 

 

「いやー、それがさ、中隊長が抑えてるけど、中隊長自身もね」

 

 

 

「なるほど…まあ、この現状だとね」

 

 

「あぁ、それで、我らが同期の駐屯地娘は二の足を踏みまくってると」

 

 

「で、貴方は何か作戦はない?」

 

 

「対戦車作戦なら思い浮かばないが、戦場のど真ん中で同期を目立たせる事なんて思い付かないよ」

 

互いにお手上げな案件に溜め息を吐く2人だった。

 

 

 

 

17時半頃 騎甲隊待機場所

 

 

 

「佐山くん、ちょっといいか?」

 

 

「はい、なんですか、細川さん?」

 

待機中の佐山に細川が声を掛けた。

 

 

「君の率いる小隊の中で最精鋭と思う一個分隊を貸してほしい。いいかな?」

 

 

「それは構いませんが…現状打破の方策でも?」

 

 

「その為の将校斥候だ。すまないが頼む」

 

 

「わかりました。少々お待ち下さい」

 

そう言って駆けていく佐山の背中を見つめる細川に高塚が声を掛ける。

 

 

「上官としてはプランを聞きたいんだが、いいかな?」

 

 

「敵陣を見て、弱点を見つけ、叩く。その為の将校斥候です」

 

 

「なるほど、単純明快で解りやすい」

 

そう言って、高塚は顎に手をあてる。

 

 

「……無茶はするなよ。色んな意味でな」

 

 

「それについては大丈夫です。高塚司令に出会えましたので、今度は高塚司令の下に…水陸研付き士官として永久就職するつもりですので」

 

 

「おいおい、エリート街道から、左遷街道に自ら足を向けるのかね?」

 

 

「おや、『左遷街道』とは皮肉ですか? まあ、高塚司令の思惑は解りますよ。こうして、『現場』を経験した人間が中央や各隊にいれば、滞留している『旧陸自の空気』を払拭出来る…そうでしょう?」

 

 

「ほぼ、一言一句間違いないな」

 

 

「なら、物好きな1人くらいは受け入れてくれますよね?」

 

 

「……未来の話だから、じっくり検討するよ」

 

やれやれ、と言いたげに高塚は言った。

 

 

 

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