IM NOT MAN.I AM A DEAD MAN (HIKUUU!!!)
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死して尚誰かを思う

感想は気軽にくれよなぁ~。頼むよ頼むよ~。
ただ批判だけはいらないんで、そこだけ勘弁してクリ~
お兄さんヤメチク・リー(懇願)


夢なんて、ありふれて何の変哲もないものだった。

普通に生活して、飯を食えて・・・家族が笑ってればそれで良かった。それだけで良かった。俺もその中で笑えてれば最高だった。

 

―――でもいつだって【世界はこんなはずではなかった】。誰かの過ちによって無知な人々は絶望の中を生きていく。俺もそうだった。人生は思い通りになんかならない?当たり前だ。上手く行くことほどつまらなく退屈なものもないだろう。それでも・・・・

 

 

 

 

こ の 様 な 事 は 決 し て 許 さ れ る べ き で は な か っ た が な !!!!

 

 

 

 

 

戦火に焼かれ家族は死んだ。苦しむ間もなかったろう。母は崩れた自宅に取り残されて逃げ場のなくなった所で炎に炙られ、呼吸も出来ず絶望の中死んだ。父は避難する中、暴漢に頭を撃たれ呆気なく死んだ。妹は敵兵に玩具にされた挙句首をナイフで掻き切られて苦しんで死んだ。俺が職場から息も絶え絶えに自宅を目指して走り寄ればこの様だ。ほんの少し、世界大戦とやらが勝手に開戦され3時間家族から離れていただけで、全員を一度に惨たらしく失った。自宅について一番最初に見たのが泣き叫ぶ妹を犯す敵兵たちの姿だった。まだ高校生になったばかりだったのにそんなことはお構いなしに彼らは獣欲を妹の未発達な肢体にぶつけていた。その後からの記憶は鮮烈に燃える炎と自宅の残骸、血濡れた自分の両腕、それと敵兵共の怯えて死んだ顔しか覚えていない・・・。

 

 

何故今になってこんな事を思い出すのかは分からない。俺が戦場に立つ様になった切っ掛けだったか。祖国等どうでも良かった。只々、俺の家族を奪った奴らが憎くて、戦火を悪戯に振りまく連中にも対する復讐心と、俺の様な者を増やしたくないという思いからだったか・・・。今はそれすらわからない。何故なら俺は家族を失ってから今までの自分が死んでしまったのだから・・・。

 だから俺は今日も死者の無念を胸に抱き戦地へ行く。何故なら俺は【死人】だから。

 

 

 

 

 

 

 

「大戦が終了してもう2年か。あれは酷い戦争だった・・・。特に日本は地獄だったな」

 

「条約が無視されて日本が焼かれたって奴か?」

 

「ああ、特に北海道と関東がひどかったらしい宣戦布告もなしにいきなりだとよ。同情するね」

 

「だが今じゃ漸く復興も追いついてきたって話じゃないか。何にせよ。もう戦争はごめんだがな」

 

古びた酒場の一角で昼間から呑んだくれている親父達二人の会話を聞きながら、カウンターの席に座ったままだった俺はコートの内側から硬貨数枚を年季の刻まれたカウンターに投げつけるように置くと座って固くなった背筋を解しながら立ち上がる。 

 

「お客さん、もう行くんですかい?」

 

カウンタ―の奥で古ぼけたグラスを磨く鼻の下にちょび髭を蓄えたおっさんが目敏く席を立った俺に声を掛けてきた。

 

「ああ。会計は足りてる筈だ。予定がある。もう行く」

 

 

適当に返事をしながら「確かに・・毎度。また来てください!」硬貨を数え終わったおっさんの気のいい返事と笑顔を尻目にコートの右ポケットに手を突っ込み、記憶を探りながらオイルライターと煙草の箱を取り出す。煙草を咥え、火を付けながら紫煙を肺に吸い込み、吐き出しながら古びた酒場の唯一の出口にあるドアノブを捻りドアを開け放つ。秋から冬へと変わろうとする寒気を孕んだ空気を、開け放ったドアから浴びながら俺は外へと歩を進めた。

咥えた煙草を惰性で吸いながら歩く俺の胸中は怒りで燃えていた。大戦が終了した?だからなんだ?俺の復讐は、戦いはまだ終わっていない。これからも続く。その思いだけが沸々と尽きず燃えて行く。

奪われた者たちの嘆きは、怒りは、憎しみは何処へ消えるというのだ?

 

 

 

――――復讐を果たしきれずにこんな会話を一時の平和の時に聞いて思った。今の状況で役にも立たないどうでも良い事を何故鮮明に思い出しているのだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――――デッドマン!起きろ!!しっかりしろ!ああ糞!傷口から血が止まらねぇ!!誰か止血帯持ってこい!!急げぇ!!!」

 

「マズイ!奴等の第二波だ!!此処の陣地はもう持たないぞ!負傷者多数に、第一波を止めてた大尉の部隊が壊滅した!フロントラインが壊滅したぞ!突破される!」

 

「マァァァック!!弾持って来い!少しでもあの糞野郎共足止めするぞ!設置したLMGに誰か付け!!此処を死守しないと後ろの難民迄やられるぞ!!!」

 

瞼が重い。全て夢の様だ。今まで見ていた地獄も今起きているこの地獄も全て大差なく夢のように思える。体がふわふわする。高熱で魘(うな)されている時と同じ状態だ。そういや昔、お袋が魘されていた俺に氷枕敷いてくれたっけな。懐かしいな・・・。

 

「おいデッドマン!ざけんな!笑ってるんじゃねぇ!逝くな!逝くんじゃねぇぞ!!まだやることあるんだろう!?残されたお前の義妹さんどうするつもりだ!?馬鹿野郎が!死なせねぇからな!!聞こえてんのかオイ!!」

 

「止血帯だけは間にあったが血を流しすぎてる!アドレナリンを刺すぞ!お抑えとけ!」

 

腕にチクッとした痛みが一瞬だけ指した。だけど何故か胸が凄く熱いんだ。ワクワクしてるわけでもないし、ましてや今燃えるような要素何処にあるんだ?なのに凄く熱いんだよ・・。なぁ・・・。教えてくれよ。

ぼやけた視界の中で知っているような人達が必死になって俺を囲んで何かしてくれてる。さらに外側ではこれまた何処かで見た奴らが銃を片手に必死に叫びながら人の様なナニカを撃ってる。

ぼんやりと自分の胸元に何げなく視線を向けると赤く染まった止血帯から止まらない血液が心臓の鼓動に合わせてジワジワと溢れ出してきている。

 

 

 

ああ・・・そうか・・・。俺は・・撃たれて死にかけてるのか・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 




開幕主人公瀕死は様式美。
細かい設定やら世界観やらは基本ドルフロベースですが主人公の設定とかは本文中に書くようにするから。設定集とかは特にないです(半ギレ)


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やっと家族に会いに行ける

基本私の書くものはシリアス調ってかクッソ重いストーリーになります。その中になる希望って素敵やん?


「血は止まったが意識が混濁してる!これじゃ使い物にならねぇ!クッソ!おいしっかりしやがれフニャ〇ン野郎!!!」

 

「マック!!どうしよう!LMGの銃身焼き付いてもう撃てねぇこれぇぇぇぇ!!!!!」

 

「テメェが後先考えずにバカスカ撃ちまくるからだこのハゲェェェェ!!サイドアームでも抜いて戦え馬鹿が!」

 

「LZ(ランディングゾーン)まで走れだと!?こっからの距離分かってるのか?!しかも難民どうする気だテメェ!?放置だと!?いうに事欠いてそれかこの無能HQめ!!!」

 

 

「だったら徹底抗戦だ!難民捨てて自分らだけ助かろうなんて思っちゃいねぇよ!糞ったれども!!」

 

 

意識が混濁している。アドレナリンの効きが悪いのか。未だに周囲の喧騒が遠くの出来事のように感じる。撃たれた胸が熱いが体に力は入る。まだ何処かふわふわするが・・・。

肩口からスリングによってぶら下がったSCAR-Hのマガジンを引き抜き残弾をチェック。マガジンの中は半分切った程度だった為そのままマガジンを装填しなおしコッキングレバーを引く。意識せずとも繰り返し覚えた動作を、体は無意識レベルに刷り込んでいた様で淀みなくその動作を終える。

続いてグリップを掴みトリガーガードに人差し指を置き立ち上がろうとした所で俺の動作に気づいたメディックのヘルドッグが慌てて俺の肩に手を置いて静止してきた。

 

「待ってくれデッドマン!もう君は戦える状態じゃない!血を流しすぎてるし、何より戦況は我々の負けだ!死にに行く場面でもないだろう?」

 

「退いてくれヘルドッグ・・。俺はまだやれるし、戦況が負けだろうとフロッグの奴が無線に怒鳴ってる様に難民を放置して撤退は出来ん・・!」

 

 

血を流しすぎたせいか体までふらつくが肩に手を置いたヘルドッグを逆に退け、寝転んでいた薄汚れたカーペットから立ち上がると、果敢にも窓から手だけを出してM9で敵兵に向かって威嚇射撃を刊行している禿頭と手元の銃が光るスケイルに声を掛ける。

 

「・・・状況は?」

 

「見りゃ分かるだろ?テロリスト共の第二波がこのオンボロ民家囲んじまった。今はジリジリとこっち詰めてきやがってるよ。あっちも弾があんまりねぇらしい。それよりお前傷は?」

 

「最高とは言えないが死が先延ばしされた」

 

「そんだけ言えれば上等だろ。手持ちのLMGも銃身が焼き付いて撃てねぇ。おれはもうハンドガンしかない。他の奴らもARの弾がマガジン三つもねぇぞ」

 

「投降してみるか?」

 

「応じると思うか?奴ら」 

 

「ないな。有り得ない」

 

「こりゃもう詰みだな」と諦めたのかちらちらと窓から周囲にゆっくり散らばる敵の行動に顰め面を晒すスケイルに「見張りは任せた」と声を掛けさっきから人に不名誉極まりない事を吐き捨てていた奴の肩を叩く。

 

「起きたか。イン〇野郎」

 

「言ってろ。嫁を寝取られた負け犬が」

 

「それは言ったらダメな奴だろうが!」

 

ギャイギャイ五月蠅い奴を放置し連れてきた難民の一家を見ると銃声と俺の姿に怯えてしまったらしいすっかり委縮して震えるだけ彼らの姿に溜息を付き、未だに無線に怒鳴るフロッグから無線を毟り取る。

 

「HQ、LZは変更できない?そうだな?」

 

【その通りだ。残念ながらAC-130が着陸できる広さはそこしかない。又、繰り返すが難民を保護出来るスペースは用意できない。君達だけで精一杯だ】

 

「なら、俺達が敵の車を奪って逃走すればどうだ?行けるか?」

 

【分かった・・。こちらの負けだ。君たちの持っているマイクロチップを紛失するわけには行かない。全く、後で高く付くぞ?】

 

「ふん、知るか。30分後にLZに着く。通信終了」

 

無線の電源を切りすっかりこちらの会話を聞いていたチームメイトと難民の一家に注目するように声を掛ける。

 

「みんな聞け。今聞いた通りこの一家も連れて帰れるようになった。が、依然としてこの民家は包囲されたままだ・・。銃弾も残り少ない。LZは包囲を強行突破した後、全速で向かう。この一家の安全は最優先だ?質問は?」

 

 

全員特に何もないようで各々今使える銃器に手を伸ばし始めた。一家は話について行けず

困惑しているが、なぁに安心しろ。楽しいハイキングの時間さ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「LZに到着!ACも来てる!走れ走れ!」

 

「奴ら鈍足だぞ!このまま突っ切れ!」

 

「デッドマン急げ!後少しだ!」

 

難民にも俺達にも被害を出さずに何とか包囲を抜けてLZまで走っては来れたが俺には限界が来ていた。被弾した箇所からは傷口が開いたらしく止血帯から新しい血が滲みだし、

走るたびに激痛が胸からする。

 

「ぐぅぅ・・!」

 

苦悶の声が出るが一向に走る速度は上がらず寧ろ落ちて行く。後ろからは近づきつつある怒号と銃声が聞こえてくる。道中で手持ちのアドレナリンも尽きた為、ここから先は苦痛との愛の逃避行だ。全く持って嬉しくもない。糞が。

何とかAC―130の姿が見え先に着いたみんなが手招きしている姿に安堵し最後のスパートをかけようと走り出した瞬間、

 

 

 

 

 

――――ダガァン!と一際大きな音が聞こえて俺の世界は反転した

 

 

 

 

 

「スナイパァァァァァァ!!!ゲッドダウン!!!」

 

「伏せろぉぉぉ!!!!デッドマン!!デッドマァァン!!!!!」

 

 

 

どうやら俺の左膝から下がさよならしたらしい。もんどりうって地面にうつぶせに倒れ込んでしまう。どうやらあいつら条約無視してアンチマテリアルアイフルを俺に撃ち込んだらしい。不思議と痛みがないが何処か冷静な部分でこのままでは全滅するというシナリオが見えた。見れば先に乗っていたスケイルが形振り構わず俺の方に走ってこようとするのをマックが必死に羽交い絞めして抑えている。馬鹿どもが・・・。俺には過ぎた仲間だったな。全く・・・。

 

「俺を置いて・・・行けぇ!!!このままだと全滅する!!」

 

「馬鹿野郎出来るかぁ!明日香ちゃんはどうなる?!お前の帰りを待ってるんだぞぉ?!」

 

「スケイル!お前に任せる!幸せに生きろと伝えてくれ!頼む!」

 

「畜生!!認めねぇ!!待ってろ今助けてやる!!!」

 

一際また大きな発砲音が響いたと思ったら今度は俺の右腕が柘榴のように弾け飛んだ。今度は見ていて知覚出来たからか今まで感じた事のない激痛が襲ってきた。

 

「ぐうおぉぉぉっ!!!!!!!があ”ぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!!!」

 

 

「セイジ!!セイジ!!!クッソがぁぁぁぁ!!!!!」

 

 

「い”け”ぇ!!!!い”っでぐれ”ぇぇぇ!!!!!!!お”れ”を”むだじに”にさ”せ”る”な”あ”ぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!!!!!」

 

 

 

 

――――最後に見えたのは泣きながら俺に手を伸ばすスケイルの姿だった。あばよダチ公。先に地獄で待ってるぜ。

 

これでようやく家族の元に逝ける・・・。ごめんな、明日香。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ドゴォン!!!!!!!!!!!!!!!!!




主人公なんですぐ死ぬん?(節子)


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何故まだ死ねない

二話目は所々描写消えてるのは仕様です。又の名を手抜きですが、何故抜けているのかは物語の根幹に幾らか触ってしまう場面があったの意図的に削っています。
許して


鼻を刺す様な化学薬品の匂いを感じて目が覚めた。

 

「・・・・!?」

 

どうやらアンチマテリアルライフルの一撃で俺は死に損なったらしい。辛うじて動く首を動かせば視界に鮮やかな黄緑色の再生培養液が満たされた医療用ポッドの内部が見える。

医療用ポッドに叩き込まれたらしい俺は装備品の全てを外され全裸のまま、培養液の中を力なく漂う。

口元に着けられた酸素マスクから酸素が供給されているとはいえ落ち着かない。寧ろ、たかが一傭兵でしかない俺に何故高価な再生医療を施されているのかが分からず困惑する。

俺をあの状況から救出できたのか?それとも俺は、敵の手に落ちているのか?それすらも分からないが一時的に覚醒しただけらしく、眠気に襲われる。強烈な眠気に抗えずに俺は闇の中へとその意識を落とした。

 

「貴重な義体化の実験を行う素体だ。死なれては困る。さあ、素体の意識レベルが低下した。実験を始めるぞ・・!」

 

 

 

 

 

 

「―――片腕が吹き飛んだとのことだったか。もう片腕も不要だ。切除して両腕とも義体化する。無論、両足も義体化するがな」

 

 

 

 

 

 

 

「――――くくく・・・。胴体部も切除する予定だったが、気が変わった。精々苦しめ。ヒトと機械の中間点で何方にもなれずに苦しむ様も実験体の貴重なデータとなる。アンドロイドにもなれぬサイボーグ擬きとして苦しみながら生きる羽目になるのはどんな苦痛だろうな・・・。想像するだけで興味深い。それではおやすみ。坊や、良い夢を」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 かつて家族が愛した雲一つない日本晴れに桜吹雪が舞う山間部の森林。その光景がずっと頭から離れない。それを見ながら母も父も妹も穏やかに笑い思い思いに母が作った弁当を食べている光景・・・これは夢だ。もう二度と永遠に見る事の叶わない夢。あの日、家族を失って二度と見れなくなった姿。そこに母からは父に似て育った優しげな顔と、平凡なだけの男が弁当をがっついて家族と笑っている筈だった。

夢の中ですら俺はかつての母や家族の愛してくれた姿ではなく、下顎から鼻の下まで唇事切り上げられた傷痕に、額から眉間を通り左頬を奔る深い切り傷痕。涙は枯れ、殺意と憎しみだけが炎の様に揺れる瞳をした白髪の男がそんな家族の姿を遠くで眺めていた。

決まってこの夢を見る時は脆弱な男でしかなかった自分が家族に会いたいと、二度と叶わぬ夢と知りながら苦痛に喘ぎ、張り裂けそうな悲しみに身を引き裂かれながら、現実という地獄から逃げ出さぬ様に、この光景を奪った奴等に復讐を果たすその時まで殺意を鈍らせぬ様に無意識的に自分を追い込む夢。

 

分かってる。よく小説や誰かが言った様に復讐など虚しいだけだと。それでも止まらない、止められない。俺から愛した人達を奪って、この青空の下で戦火を広げる奴等が、屑共が許せない。

俺の魂はずっと叫んでいる。報復を。復讐を。帰るべき場所を奪った奴らを許すなと。

 

分かってるよ。母さん、父さん、妹よ。

 

 

 

 

 

「帰るべき場所等、もう何処にもないのだ・・・!咎人にぃ・・制裁をぉ・・・!」

 

 

 

口から殺意が、憎しみが漏れ出す。夢の中で囁いた筈だった言葉は気付けば音となって溢れ出していた。その事実に呆けてしまい、言葉と共に覚醒した俺は周囲の光景を確認して愕然とする。

 

「何だこれは・・?」

 

突きつけられる銃口。銃口。銃口。――――――数えるのが馬鹿らしくなる様な様々な銃器を俺は突き付けられていた。

 

「目標が起動。いえ、目覚めました。改めて肉眼で確認しましたがどうやら人間の様です。鉄血の人形ではないようです」

 

「ふ~ん、指揮官のいた時代の生き残りかぁ。この人、本当に人間なの?この姿で?」

 

「顔を覆う髑髏型のバトルマスクのせいで余計に鉄血製の人形にしか見えないよねー。45姉、この後は?」

 

「目標を連れて脱出よ。9、遅れないでね?」

 

目覚めたと思ったら様々な美少女に銃器を突き付けられていた。絵面だけ見れば三流映画の様相だが目覚めて見た俺からすれば拷問も覚悟していた中でいきなりの予想斜め上過ぎる現実に狼狽えながらリーダーと思わしき45姉と呼ばれた灰色髪に冷ややかな目のまま笑顔を絶やさずこちらに銃器を突き付けてきた少女に質問する。

 

「何だこの状況は。すまんが答えてくれ。一体全体どうなっているんだ。そして君たちは何なんだ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――――私達は指示を受けてあなたを目覚めさせただけ、ようこそ100年後の世界へ。貴重な人間さん?」

 

   

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――拝啓。天に召します我が家族へ。どうやら敵の捕虜になったとかそんな問題ぶっちぎる事態に俺は巻き込まれたようです。昔から運はないと思っていましたが、今回は群を抜いて悪いと思います。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




リハビリが上手く行ってない感(沼にはまる自分の姿を見つつ)
もっと状況の描写とか心理描写の移項とか凄く下手だなって自分で読んでて思う。まぁ気に入らなかったら細部はちょいちょい修正していきます。


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時代は移ろへど闘いは続く

苦労して書いた文が消えて頭に来ますよ!!
※4000字程



「100年後?何を馬鹿な・・」

 

「信じようが何しようが構わないけど、事実よ」

 

45と呼ばれた少女が何が楽しいのか相変わらず微笑を携えたまま嬉しくもない言葉を投げつけてくれる。

初対面の人間に思う事でもないがもう少し愛想よくしてくれれば可愛げのあるものを・・。

 

「45、移動したほうが良いわ。あんまりゆっくりしすぎると11が保たないわ」

 

「そうね、11?聞こえる?目標確保したわ。あなたも適当に相手したら退きなさい」

 

『やっとぉ?あいつらしつこすぎてもう眠たかったんだぁ。もう寝てもいいよね?』

 

「寝るのは全てが終わってからね。早くしなさいよ?通信終了」

 

 

水色がかった美しい銀髪を靡かせた少女にせっつかれて、俺への興味を失ったのか無線越しにいる誰かに通信をする45と呼ばれた少女がその華奢な体に似つかわしくないサブマシンガンUMP45の安全装置を弄り、手慣れた動作で銃口を何処かへと向ける。

 

「私が先導するわ。416がカバーをお願い。9はそいつのお守りをお願いね」

 

「了解。発砲は各自の判断で良いわね?」

 

「勿論。私たちは何時だってAllWeaponsFreeよ」

 

416と呼ばれた銀髪の少女がその手に持つアサルトライフルのチャージングハンドルを引き、四方へと銃口を向けながらゆっくりと警戒した動作で、45の近くへとにじり寄る。

 

「髑髏さん、目が覚めたばかりで悪いけど動ける?私たちの後ろを付いて来てね?」

 

茶髪をツインテールで結わえた45と呼ばれた少女に何処か面影が似ている少女に声を掛けられ、気怠さが残る体に鞭打ち、医療用ポッドの縁へと右手を掛ける。

 

「動く分は問題ない」

 

返事をしながら、視界に飛び込んだ強烈な違和感に背筋が凍り付き、そんな筈はないと、ある筈がないと硬直してしまう。有り得ない。何だ『コレ』は?

 

「髑髏さん?もしかして自分の姿が気になる?正面に大きな鏡があるからそれで確認してみると良いよ?」

 

彼女のどこかのんびりした言葉もこの焦燥感に拍車を掛け、急いで医療用ポッドから這い出た俺の視界に飛び込んできたものは―――――――

    

 

 

 

 

 

  

 

 

 

「お・・・・ぉぉぉ・・・・・・・・・・うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉおぉぉぉぉぉおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉっっっ!!!!!!!!!!!??????????????」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

彼女の言うとおりに全身が映り込むほどの大きな姿見を通して俺の目に映るモノは、

金属で加工され両肩から指に至るまでサイバネティック技術の粋を集めたであろう重厚な造りの武骨な両腕と、両脚は戦闘に耐えうるだけの精悍さを感じる義肢へと挿げ替えられ、極めつけは防弾チョッキ等とは言えない見るからに堅牢な黒鉄のボディアーマーを装着し、見慣れた憎しみと復讐の暗い炎を灯した瞳は、朧火の様に真紅に揺らめく双眼が貼り付けられた、嘲笑うかの様な表情を模った髑髏面へと変貌させられていた。

かつて家族が愛した男の面影が欠片も残らぬ姿に困惑し、慟哭の叫びを上げる。

 

現実は甘いものではない。そんな物当の昔に実感していた。痛感していた。それでも、俺から死を取り上げるだけでなく運命とは、現実とは、己の肉体さえも奪ってしまったのか。

その事実、衝撃に慟哭が終われども突き付けられた残酷な現実に、姿見に見える己の変わり果てた姿を見つめながら震える右手で医療用ポッドを殴った。

金属と金属がぶつかる激しい衝突音と共に医療用ポッドがひしゃげた。殴った右手は痛みすら感じず、憎たらしい程に傷もつかないで健在だった。

力も生身だった頃と比べ物にならない。何だこれは。俺は兵士ではなく兵器として生きるのか。これから。

 

「髑髏さん、御傷心のところ申し訳ないけど行かなきゃ。詳しい話は後で出来るから・・あなたに会いたいって人がいるの。だから行こう?」

 

 

俺がある程度落ち着いたのを見計らってかすまなさそうに声を掛けてきた9と呼ばれた少女の言葉に黙ったまま、こちらを気にしながら銃を構えて歩き出した彼女の後ろへと続いて行く。俺は何だ?この姿は、人間じゃ、ない・・・。こんな死に損ないの化け物に会いたい奴だって?随分と奇特な奴だな。

 

 

 

 

 

 

「――――――伏せて!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

「がっはぁ!?」

 

 

突如として襲ってきた激しい揺れと、衝撃、一瞬で視界を埋め尽くされる鮮やかな爆炎を認知したと思った時には俺のカラダは宙を浮いていた。

浮いた俺は抵抗らしき抵抗も出来ずに、先程自分が壊した医療用ポッドへと背中を強打した。瞬間、肺の中から悲鳴と共に酸素が抜け出し、苦痛を堪え、床に這いつくばったまま呼吸を行う。

 

「9!9!大丈夫?!邪魔しないで鉄血の屑が!立ったまま死ね!」

 

「目標沈黙。不味いわね。囲まれたわ。長居し過ぎたようね」

 

 

何が起きたか把握するべく周囲を見渡せば、部屋の壁に開いた穴から少女の形を模ったナニカが続々と45と416へと手に持った様々な銃器を発砲しながら、彼女達を殺すべく殺到している。彼女達も応戦しているらしく、銃声がしきりに響いていた。粉塵の舞う中,これ以上の把握は出来ないが戦況が芳しくないのと、45は口が悪いのが理解できた。

 

「おい無事か・・?クソ!」

 

「・・ぅ・・・つぅ・・・」

 

 

近くにいた筈の9を床を這ったまま探し出し、俯せに倒れる彼女に声を掛けるとどうやら気絶しているらしく返答がないまま力なく倒れている彼女の元へと駆け寄り、俺は彼女を両腕で抱え上げると壊した医療用ポッドの陰へと彼女を隠した。

ここなら丁度あのナニカ達の射線は切れる。

 

「cover!」

 

「了解。残弾チェック。あとマガジン4つよ。あなたは?」

 

「私はこれで看板!此処に来るまでに使い過ぎた!」

 

「ならスモークだけ展開して。当初の予定通り逃げるわよ」 

 

「言われなくても!自惚れないで!サッサと死ね!」

 

 

この状況は打開する術はあるらしく45がスモークをナニカに向けて投げつけ、416がスモークが広がる迄の間牽制射撃を行いながらジリジリと後退し、45がこちらへと走り寄ってきた。

 

「ああ、9そんな・・」

 

「気絶しているだけの様だ。逃げるのなら彼女は俺が抱えて行こう。走るだけなら何とかなる」

 

 

気絶した9を見て幾分か動揺したらしい45に努めて冷静に提案する。

 

「でも・・私たちは包囲されてる。11が戻ってきても弾もみんなないし、それに私達の足だと追いつかれるわ」

 

打開する術はあると思ったらどうやらノープランだったらしい。このままいても弾切れを待つまで抗戦など出来ないし、何より俺には武器がない。あるのはこの拳か。医療用ポッドがひしゃげたんだ。奴等もミンチに出来るだろうが、あの銃火の中、不確かなこのカラダを信じて突撃する無謀さは持ち合わせていない。

 

「どうして・・?完璧なはずなのに・・・!!」

 

「416!」

 

 

後退しながら牽制していた416が被弾したらしく、手前で仰向けに倒れ込んだのを直ぐ様医療用ポッドの陰へと引きずり込み、被弾した箇所を診断する。撃たれたのは右腕一か所に左の脇腹一か所か・・。もう戦えんな。

 

「畜生!このまま・・終わりだっていうの・・?認めない・・!」

 

 

ギリギリと歯軋りしながら憤慨する45が何かないかとうわ言の様に呟く中、とうとうスモークが晴れてしまい奴らがこちらへと前進し、銃火の勢いが増す。医療用ポッドも限界が来ているのか激しい銃弾の嵐に見舞わられ遮蔽物としての役割を保てるか怪しくなり始めてきた。

ふと、9の様子が気になり9の顔を見ると、気絶して苦しそうに呻く彼女の姿に、昔の思い出が、姿かたちが似てもいないのに『思い出される。』【忌まわしい記憶がフラッシュバックする。】

 

 

 

 

『け・・・に・・ちゃ・・・・』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【メインシステム。コンバットモード、オールウェポンズフリー、一部の銃器のロックを解除します】

 

 

 

 

――――――気付けば俺は医療用ポッドから飛び出していた。飛び出した俺は何も考えずに、自身の右太腿へと右手を伸ばす。すると義̪肢が音を立てて展開し太腿の外側にホルスターのような形へと変化すると、内側に収められていた銃を開放していた。瞬間俺はその銃のグリップを掴み、太腿から引きずり出して奴等へと銃口を向けた。

 

 

 

 

 

 

 

「――――――銃を捨てて投降しろ。面倒な事になるぞ」

 

          

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




ユーアンダーザレスト
※お前を逮捕する
尚最後の元ネタのヒントです。これが分かった奴がいたら握手。


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再び戦場へ

結構待たせてもうしわけナス。
まぁサボりはすれど書くから気長に待ってくれよなぁ~


「最重要目標の起動を確認。鹵獲失敗に付き任務の優先度を移行。直ちに排除します」

 

少女の形をしたナニカが手に持った銃器をすかさず俺に発砲。俺はそれを意に介せず、自らの右手に握ったハンドガンを向ける。

 

【戦闘補助システム作動。FCS管制開始】

 

 

脳内で先ほどから流れる人工音声の一言に俺の視界が、室内の風速や湿度などを表示したグラフや、視認した敵の位置が記録されたミニマップが視界の端に写し出されていく。

何時もの様に、このカラダになる前から繰り返し行ってきた動作を、疑問等微塵も持たずに只行う。

少女の形をした敵の胴体に狙いを付け発砲。

 

断続的な3発の銃声と共に吐き出された弾丸は、寸分違わず目標の胸部を貫通し形のいい胸から、止めどなく血を流しながら先頭にいた敵は崩れ落ちた。

 

「怯むな。撃て」

 

 

敵から嵐の如く撃ち込まれる弾丸は、皮肉にも先ほど微塵も信じていなかった義肢とボディアーマーが弾いていく。堅牢に感じた造形は伊達ではないらしく。彼女らの弾丸では微塵も傷がつく様子がなかった。何処かに弾が当たれば衝撃は感じるものの、痛いとすら感じない。

 

すかさず次の標的にハンドガンを向け発砲。3点バーストからなる鮮やかな発砲炎の先で、敵が倒れていく。

 

「何・・あれ・・・あれが・・・人間・・・?」

 

「私達よりよっぽど戦術人形してるわね。あの堅さ、敵に回したくないわ」

 

「それより、9は起きそう?」

 

「後少しと言った所かしらね。全く何時も心配させてくれるわ」

 

弾丸の嵐の中、怯みもせずこの装甲で弾きながら、的確に相手を撃ち抜き、突き進んで行く。今の最優先事項は敵の殲滅。あの子を守らなければ、いや今度こそ守ってみせる。

 

彼女たちの様子を盗み見て見れば思ったより元気そうであるが、彼女達を狙う敵の射線上へと大股で歩み、彼女たちに向かう弾丸を悉く叩き落していく。床を踏み締める度に鳴るガシャガシャと唸る我が義肢に、今では頼もしさすら感じる。

 

「コレは良いな。実に戦いやすい。俺が戦略兵器になるわけか」

 

思わず漏れた言葉に内心苦笑する。あれだけ悲嘆に暮れていたのに今ではこのカラダに信頼を預けそうになっているではないか。

彼女達をしつこく付け狙う、敵の後衛に彼女達に弾丸が届いていないか、振り返り確認しながら即座に右手を後方の発砲炎が見えた場所へと向け一瞥もせずにトリガーを引く。

 

「無事だな?」

 

 

俺の言葉に彼女は毒気を抜かれたかのように呆けながら返事をする。416は止血したらしく傷口の上に包帯が綺麗に巻かれている。その様子を確認した俺はその場でターンし、ジリジリと後退し始めた敵の集団へとハンドガンを向けながら歩み寄っていく。

 

「ノ、ノールック射撃・・!しかも頭部を的確に・・!?」

 

「どうやら私達はとんでもない仕事を掴まされた様ね・・・」

 

 

さきほど

もう後がないのか更に激しくなった銃火に晒されながら、進む俺の目に少女の形をしたナニカ・・・。バイザーやヘルメットに隠れて表情が解らないはずなのに、彼女達が俺に怯えて必死に抵抗しているのが手に取る様に解る。

一歩ずつ歩を進める度に、彼女たちの恐怖が増幅されていくのが理解できてしまう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――もう怯える心配はいらない。恐れるな。死ぬ時間が来ただけだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【戦闘終了確認。メインシステムクルーズモードへ移行】

 

 

撃ち尽くしてスライドが後方へと下がったハンドガンを、右手でクルクルとガンスピンを行いながらいつの間にか変形していた太腿のホルスターへと納める。ハンドガンを納めるとホルスターは相変わらず機械的な音を立てて、内側へと銃を収納する。

 

「たった一人であれだけの人数を・・・」

 

 

呆然と呟く45を尻目に、俺は自らが撃ち殺した少女の亡骸の傍へと寄り、片膝をついて左手で恐怖に目を見開いたまま硬直した瞳をそっと閉じてやる。次々と死んだ少女の亡骸へ近づいては繰り返しその行為を行い続ける。

 

「何、同情のつもり?そいつらは人形よ?私達もだけど。そういう意味ではあなたは髑髏だったっけ」

 

45の何処か呆れた台詞に、俺は彼女達の死に様を思い出す。確かに、撃った時に彼女達の体からは人体にあり得ない機械の部品や、ネジ、配線等が吹き飛んでいたが俺にはそんな事些事以外の何物でもなかった。

 

「だからなんだ、誰が何と言おうと俺は敵であろうと、悲しく無念の中に散っていった者達の思いを受け継いでいく。俺はそうやって戦場を渡り歩いて来た。邪魔をするな小娘、俺を髑髏等と呼ぶな。俺は――――――」

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――――死人【デッドマン】と呼べ。死者の無念を聞き、死者の願いに答え、罪深き者共を地獄へと叩き落す者。俺の・・・名だ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




思ったよりうまくかけないし、んにゃぴ・・これもうわかんねぇなぁ?(池沼)


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帰還への道

漸く正解を出したホモの兄ちゃんがおったのぉ?ついでに言うとこの主人公はマーフィーと違って、生存欲求に特化しているわけではないです。


「ねぇ、何か話しかけなさいよ」

 

「無理よ。見れば分かるじゃない」

 

ヘリの内部で定期的に耳元を叩く轟音を聞きながら、時代が変わろうとも大して進化していない固いヘリの座席に身を沈め、ぼんやりと己の両腕を見つめ続ける。

機械的な両腕、肉体の温もりも、命の脈動さえ感じない。それ自体は最早どうでも良い。全身が機械にすげ替えら様とも俺はあの時、狙撃を受けた時点で死んでいた筈だった。

 

それが何をどうとち狂ったのか、俺は医療用のポッドに幽閉されている間に時代は遥かに進み、気づけば戦術人形等という見た目、ただの少女にしか見えない高度なAIを持ち、学習し自己進化し、過酷な環境に適応していく一つの兵器達が・・・俺達兵士に代わり、戦場へと送られているそうだ。当時考えられなかった遥か未来の出来事が今の時代の有様を如実に現していた。

 

核で世界は壊滅的な打撃を受け、WW3が勃発。崩壊液なんぞというどう足掻いてもとんでもない厄ネタに、馬鹿な学生共のせいで起きた悲劇。そして、この荒れ果てて人類が生存出来る僅かな土地を巡り今も昔も変わらず、政治家は自慢の舌で相手国の外交官と舌戦を繰り広げ、武力衝突が起き、僅かな人類を更に減らす。

人間は愚かだ。間違いを繰り返す。過ちを・・・。何度も何度でも。

 

あの後、緊急要請したヘリとやらに無理矢理詰め込まれ、45と呼ばれた少女、いや45にこの世界の有様を掻い摘んでだが説明を受けた。そして、俺がどんな状態、目的で連れ出されたのかも。

 

「タバコが吸いてぇ・・」

 

「機内は禁煙よ?今も昔も。そこは変わらないんでしょ?我慢してよ」

 

ふと辟易し果てた俺の口からは無意識な呟きに、俺の横に座る416が咎めるような視線で俺の口元に手を伸ばす。気づけば、俺は片手の中に、妙に気のいいヘリのパイロットから、お裾分けと言われ古ぼけたオイルライターと赤いパッケージに包まれた封が切られていない紙巻きたばこを手渡されていたのを思い出し、またぼんやりと視線を向ければ煙草は既に封を切られ、手慣れた動作で口に咥えていたらしく、416に奪われる。

 

「だろうな。だが、100年ぶりの一服だ。固い事言うな。それにこの後、目的地に着いたらお前たちのボスとやらに会わなければいけないんだろう?」

 

416のタクティカルグローブを外し、露になった雪のように真っ白な肌が美しい細く、しなやかな指に摘ままれる煙草を優しく奪い返し、オイルライターの蓋を親指で跳ね上げ着火。

それの吸い口を咥えなおし、、肺一杯に紫煙を吸い込み一息に吐き出す。

 

「フゥゥゥ・・時代が変わろうともこいつだけは変わらないな。美味い。この上なく、な」

 

左手で自らの顎を摩りながら右手で尚も煙草を奪おうとする416を牽制しながら、機内の窓に映り込んだ自分の顔を見やる。

死んだ当時と変わらぬ濁った暗い、殺意と憎しみが灯った瞳に、切創、銃創を放置し残った傷だらけで日光など真面に浴びなかった為に、416とは対照的に不気味な程に死人の様に白い皮膚、艶のない白髪を無造作に生やした柄の悪い若年の男が窓越しに此方を睨みつけていた。

 

「煙たい・・」

 

「で、お前は何故俺の膝を枕にしている訳だ?小娘」

 

煙草を吹かせながら、いつの間にか俺の左膝に頭を乗せ、寝息を立てていた灰色がかった豊かな銀髪を腰まで靡かせた小柄な小動物の様な印象を与える少女が俺の吸う煙草の匂いが、鼻についたのか眠たげに両眼をこすりながらむくりと起き上がる。

 

「こんな狭い機内だと枕もないもん・・。大柄のお兄さんだったら丁度良い枕に・・・zz・・・」

 

「喋りながら眠るとは器用な真似をする小娘だな。不問にしてやるから寝てろ」

 

うつらうつらと舟を漕ぎだした少女を、優しく己の左膝に再び不承不承ながら側頭部を導いてやり、すぐさま寝息を経て始めた少女を見つつ、手元の煙草の灰を、指で弾いて振るい落とす。

 

「マナーが悪いわよ。全く・・・」

 

苦言を申す416を無視しながら右手で後頭部を掻きながら、揺れるヘリの機体に合わせてぶらぶら晒された生首の様に揺れるフェイスガードとヘルメットが一体化した尚も嘲笑うかの様な意匠にしか見えぬ、ストラップに吊り下げられた髑髏面を睨みつけつつポツリと零す。

 

「半サイボーグのジャガーノート(装甲歩兵)を創ろう等と考え付いた奴は間違いなく天才だ。だがとんでもねぇイカレサイコ野郎でもあるな。皮肉にもそれで俺が生き延びちまった。誰だが知らねぇが借りを返さなきゃならねぇな・・」

 

眺め続ける限り、益々腹立たしく感じる髑髏面から一旦目を離し、対面に座るニコニコとこちらに何が楽しいのか笑顔を向ける姉妹に声を掛ける。

 

「何が可笑しい?」

 

「口ではぶっきらぼうな事言いながら、優しくG11の頭を撫でてるデッドマンの事を面白いなとか微塵も思ってないよ」

 

「お兄さん、面倒見良さそうだもんね。あ・・これはもう家族なのでは?」

 

「ふん・・馬鹿言え」

 

45と9の戯言に暴言で返しつつ、手元の煙草を一気に吸い込む。濃厚な煙の味をしたで楽しみ、芳醇な香りを鼻でも楽しみながらフィルターぎりぎりになった煙草を右手のひらに押し付け無理矢理消火。痛覚なぞない機械化義手だから出来る芸当に内心、多少は便利だな庫位の感想を思いつきつつ機内の床に吸い殻を放り出す。

 

「しかし意外だね。私はもっと起きた時みたいに取り乱して機内に乗り込むと思ってたよ」

 

「・・起きて鏡を見れば、勝手に改造されて生身とは言えないカラダにされた衝撃は消せないが、戦場の目まぐるしい変化に置いて行かれる程、眠りこけていた訳でもボケた訳でもないつもりだ」

 

45の笑ってはいるのに目だけは笑ってはいない顔を眺めつつ、皮肉を言い放ち、機内は静まり返る。するとパイロットから着陸態勢に入ると警告の声が入り、全員が着陸に備えるべく装備や、服装の再点検。伸びなどを行い、一様に待ち侘びたかのような反応を見せる。

 

「zzz」

 

「起きろ。・・・チッ」

 

 

訂正。一人だけ未だに眠りこける眠り姫様は熟睡中らしく、俺の膝の上でほにゃりと表情を崩したまま安らかに寝続けている。声を掛けたが起きる様子がないので仕方なしに彼女の体を抱える様に自分側に寄せ固定してやり、着陸に備える。

 

「そんじゃ、降りますぜ。本日は当便のご利用ありがとうございました。又のお越しを心よりお待ちしております」

 

「いつの時代の航空機乗りもこのジョークだけは鉄板か。笑えるな」

 

ヘリ故に大した衝撃もなく緩やかなホバリングからの着陸にパイロットの技量の高さに感心しつつ、スライドドアを開け放った416に声を掛ける。

 

「ストラップに掛かってる髑髏面を俺に投げてくれ」

 

「あんまり甘やかさない方が良いわよ」

 

そう言いつつストラップに掛かったフェイスガードを俺へ無造作に投げつけてきた416はそのままさっさと機外へと消えて行った。投げつけられたバトルマスクを被り、視界に戦闘中にも表れたインジケーターやらグラフやらが表示されていくが無視し、眠りこけるお姫様の体を両手で抱き起し、抱え上げる。

 

「ひゅ~大胆~」

 

「茶化すな。起きないならこうするしかないだろうが・・糞が・・・」

 

9の後ろから投げつけられる茶化す言葉に悪態を付きながら眠る彼女の華奢な体を胸元まで寄せ、落ちないようにしっかりと姫抱きした後、頭をぶつけぬように細心の注意を払いながら、未だに回るヘリのローターの轟音を煩く感じつつも懐かしく思い、機外へと俺も足を踏み出した。

 

 




遅れたけどメリークリスマス。休暇はいれば定期的に投稿できるかも?

こんかいはちょっとしたほのぼの(?)回。G11をすこれ(脅迫)


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その目で世界を見ろ

関係ないけどLOLで実力は上がったはずなのにランクは上がらない。これ呪われてるんじゃねぇのか?


徐々にローターの回転数が落ちる音を背後に、物々しい建物が立ち並びアスファルトが敷き詰められた滑走路を周囲を観察しながら歩けば、着陸したヘリから降りてきた俺を物珍しそうに、否、珍しいのだろう、様々な好奇の視線や懐疑的な視線に晒される。

着陸誘導したであろう赤いつなぎを着た男のスタッフや、タクティカルベストを着こんだ女等、様々な人物達の視線を鬱陶しく感じながら、先行していた416へと追いつく。

 

「あなたは機密扱いよ。それでも、まぁ一般の社員や非戦闘スタッフに事実は通達出来ないわ。あなたは何食わぬ顔で私に付いて来て」

 

「あいつらは?」

 

「あの子たちは心配いらないわ。後で合流する」

 

 

そういうと踵を返して肩で風を切る様に歩いていく彼女にゆっくりと付いて行く。歩くたびに揺れる丈が短か過ぎるチェックのスカートについ目を奪われてしまう。男の本能故、致し方がないが、腕の中で眠るこいつも416も不用心過ぎる。黒の二―ソックスに包まれたムッチリと肉感的でいて健康的な416の太腿を見てしまい、溜息を吐き、首を横に振って雑念を振り払いながら彼女の後ろに付いていくことに専念する。

それにしても、左右に揺れるスカートの中の、魅惑的な臀部について考えるのは自分でも腹が立つくらいだと男の本能の業の深さに自嘲し、腕の中に眠るG11を見やる。

 

「ぅ・・・ん・・・」

 

「はぁ・・・前途多難だな」

 

 

夕日が照らす建物から照り返される残光がまぶしくて眠りから覚めかけたのかむずがしがった彼女の様子に溜息を付き、滑走路を経て416が先行して中に入っていた基地内部へと進入する。

基地の内部はもう点灯し始めたのか温かな光に満ちた照明が、無機質な渡り廊下を照らし出してた。

 

「滑走路から直接通じる廊下がある航空基地なんて、防御面が心配じゃないのか?」

 

「心配いらないわ。まずここは攻められないから」

 

彼女の返しに疑問を覚えつつ、付いてきた姿を確認するや否やまたも歩き出した彼女の横に並び長い渡り廊下を歩いて行く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「着いたわ。さて・・・」

 

「?」

 

「いい加減起きなさい!いつまで寝てるつもり!?」

 

「わわわ・・!」

 

耳元で416の怒声を聞いたG11もこれには堪らなかったらしく目を開け、俺の腕の中から慌てて跳ね起き、床に危なげなく着地するとさらに怒られるのは勘弁とばかりに俺の背後に隠れた。どうやら俺は体の良い盾と枕扱いらしい。

 

「ここから先は私達は入れない。あなただけで行って」

 

「ふぅん?面倒な事だな・・」

 

「私も傷の治療に行かなければならないし・・私達の任務は貴方を待っている人の所まで連れて行く事。それと・・」

 

「何だ?」

 

「いえ、後は当人達で話し合って頂戴。行くわよG11」

 

「うん」

 

 

負傷したことを微塵も感じさせぬしっかりとした足取りで、あの長い渡り廊下を戻って行くらしく、彼女達は振り返る事無く、渡り廊下の先へと姿を消していった。

そんな彼女達の姿を見送った後、振り返るとそこには艶出し加工を施された見るからにお偉いさんがこの先にいますと自己主張が激しい木製のドアに、何ら臆する事もなくドアノブに手を伸ばし捻る。

 

「邪魔するぞ」

 

「邪魔するなら帰れ。死人野郎」

 

「ハッ・・・質の悪い冗談だろう。100年後なんだろう?くたばっておけよ。『スケイル』」

 

「他の奴等もいるぜ?ま、最もかなり複雑な状況だ。落ち着いて話そう。座ってくれ」

 

 

ドアを開けた先には見慣れたツルリと綺麗に反り上げられた禿頭の鋭い目をした白人男性、スケイルが上級将官もかくやと言わんばかりの白い軍服にジャラジャラと勲章を飾り付けられ、片手で見るから高級そうなソファに座るように促され、遠慮なく座り込む。ギシリと俺の義肢が相当に重いのかソファは悲鳴を上げるが肩の力を抜いて、リラックスして座り込む。

 

「俺が死んだ後どうなった?彼女達からは俺を目覚めさせた理由は掻い摘んで聞いた。が、詳細を一から頼む」

 

「そうだな。かなり長くなる。お前さんが死んだってのは書類上での話だ。正確には生きてると確信はしてたよ。救出に行こうとはしたよ。が、状況と時世がそれを許してくれなかった」

 

「だろうな。俺の死んだ直後か?コーラップス事変とやらが起きたのは」

 

「ああ、あれは酷いモンだった。と言いたいが、実は俺達は何にも絡んじゃいねぇ」

 

「どういう事だ?俺達Good Smileはいかなる事情があろうと国境を越えての作戦展開ができたはずだ。その為のPMC扱いの特殊偽装部隊だろう?」

 

「100年越しの再会だ。知らない事の方が多いだろう。今から話す内容はかなりぶっ飛んだ内容だ」

 

「もったいぶってないで早く話せ」

 

「ああ。そうだな・・。俺達はまず事実からだけ言うとこの世界では異世界人だ」

 

「あぁ?」

 

「俺達のいた世界はいうなれば『この世界』の平行世界らしくてな・・。こっちが戦術人形なんてもんが発達したが俺達のいた世界は、歩兵の徹底的な肉体改造を主流とした有視界戦闘での歩兵戦が主な戦闘方法だった。ここまでは理解できるな?」

 

「ああ、俺達歩兵が昔ながらの有視界戦闘に戻った理由は良く理解している。核による同時多発EMPパルスによる最新鋭の電子機器が文字通りガラクタになっちまったからな」

 

徐に懐から葉巻を出したスケイルは葉巻を咥え、懐から一緒に取り出したマッチ箱からマッチを取り出すと着火。紫煙を吐き出しながら再び口を開く。

 

「お前が幽閉された直後だ。また世界で核での飽和攻撃が始まった」

 

「何故だ!?それを止める為に俺達は文字通り命を捨ててあの作戦に従事した筈だ!マイクロチップはお前が、持っていただろう!?二度とあの悲劇を繰り返さない為に!俺は、俺達は――――――」

 

「――――――偽装情報だった。巧妙に誘導された罠だった」

 

「・・・・糞が・・・糞が!糞が!糞ったれがあぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!!!」

 

限りない憤怒が、湧き上がる激情が口から咆哮となって漏れ出した。行き場のない怒りから右腕で自分の義肢を力強く叩く。ガキン!!と硬質な音を立て、義肢と義肢とが激しく衝突するがどちらも傷はつかず、虚しさと虚脱感に力なくソファの背もたれに寄りかかる。

 

「すまない。お前がKIA判定を食らった後、情報を頼りに現地に向かえば、出迎えたのはもぬけの殻の、核発射基地だった。奴等、既に別の発射基地へと核も人員も移した後だった。待ち構えてたのは大量のジャガーノート、スナイパー。テクニカルやMARPまで配備してやがった」

 

「・・・・結果は敗走だろう。大方、陽動部隊が全滅、俺達はいつも通り死神と揶揄されたわけか」

 

「お前の想像通りだ。その後死に物狂いで再び情報を捜索したが・・間に合わなかった」

 

「・・・・『奴』はどうなった・・・!」

 

怨嗟の声が口から溢れ出す、炎の様な激情をぶつける相手が、抹殺するべき対象がどうなったか兎にも角にも聞きたかった。

 

「生きてる。俺達と同じで、な・・・」

 

「それが聞けて安心した・・・。今度こそ・・・今度こそは―――――」

 

 

 

 

 

 

「―――――奴は必ず俺がこの手で始末する。誰の為でもない。俺自身の命にかけて殺すべき相手だ・・!何としても抹殺する!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

バトルマスクを乱暴に脱ぎ捨て、義肢のホルスターに開くよう念じ、中から現れたクシャクシャに潰れた赤いパッケージが目立つ煙草と古ぼけたオイルライターを引っ張り出し、煙草を咥え火を付ける。

 

「落ち着いたところで、続きを話そう」

 

「頼む」

 

「簡単に説明しよう。核飽和攻撃により地表は国も何もかも関係なく焼け野原・・・とはならず酷くあり得ない話だが、核同士が空中で突如起爆。その膨大なエネルギーで次元の壁が崩壊、そして核の焔から逃れられた僅かな人々が・・・次元の歪とでも言うべきブラックホールに吸い込まれ、今に至るってわけだ」

 

「安物のSF映画じゃねぇんだぞ・・馬鹿じゃねぇのか・・」

 

「事実は小説よりも奇なりという奴だな。俺達も、巻き込まれたサバイバーだったわけだが。どうやら一部の土地や施設もこっちに転移したらしくてな。又、次元の歪みから発生したブラックホールも一気に吸い込まれた人達を吐き出す訳でもないらしくてな。かなりの年数を置いてまちまちに現れるわけだ」

 

「それで、俺が100年後に出てきたわけか?」

 

「いや・・それが、だな・・」

 

 

何やら言いづらいのか咳払いをしたスケイルに怪訝さを覚え、片眉を吊り上げながら訪ねる。

 

「どうした?言え」

 

「うむ・・・お前のいた場所がだな。所謂こっちの世界での事変が起きている最中の激戦区でな。そこに到達するまでにかなりの時間を要した」

 

「で?」

 

 

「ぶっちゃけ、コールドスリープもされているのはUAVで確認出来ていたから、周りの地域を制圧しながら後回しにしていた」

 

「死ね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――その晩、電球代わりに窓から逆さに吊られている禿頭の立派な白人男性がスタッフが気づいて救出に来るまでの2時間弱、口汚くとある人物に向けた罵詈雑言を喚き散らしていた。

 




すこーしずつ調子戻ってきたかな?


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己を知れ

ドルフロのストーリー通りになんて進まねぇよぉ?(キチガイ)
主人公は苦しまなきゃなぁ?共に苦しめ(BO2並感)


「昨晩は良くもやってくれやがったな・・!」

 

「久々に再会した隊長からのプレゼントだ。思い出したろ?禿げてる坊主」

 

 

「ああ、嫌でも思い出したよ。テメェが一番最初に俺を吊るした時のこともな」

 

「俺を捕獲する作戦の時だったか?馬鹿正直にトラップに引っかかってる間抜けを見に行けば、陽光に照らされた見事なテルテル坊主だったな。あれは死んでも忘れないぜ」

 

「糞ったれが・・。スタッフの指示通りにあの後検査を全部受けたか?」

 

「ああ、結果は?」

 

「今研究スタッフが持ってくる。・・・正直今でも信じられん。お前がこうして目の前にいるのが」

 

「だろうな。俺が同じ立場でもそう思うさ・・」

 

昨日の夕方と同じく、互いに思い思いに、煙草と葉巻を吹かせながらソファに寄りかかりリラックスしながら、下らない昔のことを話して暇を潰す。

 

「そういやお前、腹は減ってないか?」

 

スケイルの腹から豪快な腹の虫の雄たけびに苦笑しつつ返事を返す。

 

「いや、あまり・・正直に言うと内臓まで全部なくなってるんじゃないかと思ってな。空腹感はそれなりにあるが、結果が分かるまで何も食いたくない」

 

 

「そうか・・話してたら更に腹が減ってきた。またお前が作った料理も久々に食いたいな」

 

しみじみと語るスケイルの横顔に映る憂いを感じつつ、煙草を更に深く吸い込み、一息に煙を吐き出す。

 

「味覚迄持っていかれてないなら作るさ。家族との唯一残された俺の繋がりだ・・・。これだけは・・失いたくない」

 

「分かってる。が、煙草の味は分かるんだろう?なら心配ないとは思うが」

 

「まぁな。俺も煙草を吸って依然と変わりなく吸えてるから余り心配していない」

 

 

ふと、背後の扉から人の気配が複数近づいてきているのを感知し、座った体制のまま太腿に手を伸ばし、変形展開したホルスターから飛び出すハンドガンのグリップを掴む。

振り向くことなく銃口を扉へ向けた所で、対面に座るスケイルから叱責が飛んでくる。

 

「やめろ。ここは戦地じゃない。俺の部下だ、気配で分かる。銃をしまえ。セイジ」

 

「俺をそう呼んでくれるのは部隊の仲間とお前、明日香だけだったな。もう・・」

 

 

徐々に研ぎ澄まされ、鋭敏化していく感覚と共に思考が相手の無力化、及び殺害に最適化されていく中に冷や水を頭から浴びせられた様に平時の状態へと、まだ復讐心に囚われて無かったの頃の哀れで、無力な男の残滓に戻って行く。

 

「何をそんなに殺気立つ必要がある?何時ものお前らしくもない」

 

「昨日の核飽和攻撃の話が尾を引きずっているのかもしれん。俺は作戦を成功させられず、明日香さえも失った。もう二度と家族を失わないと決めていたのにこれだ。俺は兵器として生きるべきだと、無意識に思っていたのかもな」

 

 

「・・・入れ。その件は心配いらない」

 

「?」

 

「入ります。データの方ですが、少々時間がかかってしまい、申し訳ありません」

 

「構わん、急に事情も言わずにやれとだけ言ったこちらにも非がある」

 

白衣を着た神経質そうな顔立ちをした男性が、立ち上がったスケイルにクリップで纏まった書類を手渡しながら、こちらに視線を向ける。

 

「彼が・・そうなのですか?」

 

「ああ、俺の戦友だ。タフで戦意が人の形をとったような男だよ。お前も時機に目にするさ」

 

スケイルがこちらに手に持った書類を差し向けてくる。

 

「読んでくれ。お前の今の状態と、体に仕込まれた装備の詳細の情報だ」

 

手渡された書類を受け取り熟読し始める。

 

 

 

 

 

【セイジ・シノノメ(デッドマン)の生体情報・装備詳細】

・四肢は切除され強固な義肢に転換。義肢の材質はいずれもチタン合金と思われる材質の類似点が見られるも、相違点も幾分か診られる為、後程、詳細な研究解明が必要。

・胴体のCTスキャンの結果、内臓は心肺、消化器官等の生存に必要な主要器官が全て人工物に変更。要経過観察。

・胴体部の皮膚、頭皮や顔面の皮膚等も、何らかの遺伝子改造されている形跡あり。採取した細胞片から通常の人体では有り得ない再生能力を記録。

・脳の一部が電脳にされているらしく、それにより何らかの電子戦能力を獲得していると予想。左手のひらに電磁パルス発生装置とみられる装置を確認。

・右手の甲にマチェットサイズのタングステン鋼と思われる両刃剣が仕込まれているのを確認。本人の使用意思に反応して展開を確認。

・太腿左右に仕込み拳銃を確認。左方は本人の意思による展開を試みるも展開せず断念。右方は3点バースト機能が標準搭載された大型スタビライザー兼ロングバレルを装着したM93Rをベースに開発されたと思しき大型拳銃を確認。装弾数、期待威力値、使用弾薬共に不明。

・用途不明の開口部を両脚脹脛、外骨格型鎧に3点、足の裏にそれぞれ一つずつ確認。

 

「分からないのが分かっただけか?これ」

 

「そう言うな。幾つか判明したこともあるだろう?」

 

「・・・ひとまず、改造されていない所はないってのは良く解ったな」

 

「生命維持に主要な器官を人工物にまでして治してるって事は人並みの生活は送れそうだな」

 

「だといいがな」

 

読んだ書類を適当に目の前のテーブルに投げだし、神経質そうな男の両隣にいる人物に対しての疑問をスケイルに投げつける。

 

「で、そこに立つ小娘共は何だ?」

 

「一人はお前が良く知る人物の筈だ」

 

神経質そうな男の左手側にいる少女を観察する。癖のない黒髪を肩口に切り揃えた、十代後半程度のいかにも気弱そうな表情を見せ、オドオドとした態度を隠さない白いワイシャツにネクタイ、チェックのスカートを履いた少女に既視感を覚える。

 

「えっと・・お兄・・ちゃんだよ・・・ね?」

 

「!!」

 

聞こえた言葉に我を疑いながら、思わず硬直し彼女を見つめ返す。聞こえた声の主はもっと幼かったはずだが、その声色を俺は知っている。遠慮がちに失った両親の温もりを求めながら、決して自ら言い出せずに戦地の傍らで震えているしかできなかった幼かったその娘を俺は知っている。

 

「明日香・・?」

 

俺の声に反応して漸くその少女はオドオドした態度を改め、花の咲いた様な笑顔を見せてくれた。

 

「やっと会えた・・。長かったよ。寂しかったよぉ・・!」

 

震えた声で独白しながら、俺へと一歩ずつ歩み寄ってきたかと思うと涙を零しながら、しっかりと俺の胸元にしがみ付き両手を背中へと回す。俺もそれに応え、ゆっくりと彼女の小さな背中に両手を回し抱きしめる。

 

「ごめんなぁ・・独りにさせてごめんなぁ・・・俺も寂しかったよ・・。お前を想わなかった時はない。片時も忘れなかった・・・!」

 

柄にもなく震えながら涙を零す幼かった筈の義妹の姿に、込み上げる想いが募り、眦から止めどなく熱い涙が零れ

落ちる。

 

テロリストと戦っていた時も、死ぬ直前だって、片時も彼女の事を忘れた事なんてなかった。健やかに育ってくれと、夜は寒くて眠れていないだろうか、俺の姿がなくて泣いていないだろうか等どうでも良い事まで心配もした。復讐に囚われて、殺意で塗り固めて殺戮兵器に成り掛けていたこの俺を、人間に引き戻してくれた義妹をどうして忘れようか。

右手で幼き時にしてあげた様に、彼女の柔らかな髪を漉く様に撫で、一層強く抱きしめる。

 

「無事でよかった。立派に育ったなぁ・・明日香・・」

 

「うぅぅ・・・ああああ!!うわぁぁぁ!!!!!」

 

火が付いたように泣き始めた彼女を抱きしめ、あやす様に背中をトントンと優しく叩いてやる。幼い頃、両親に会いたいと泣いていた彼女にずっとしてきた事を懐かしく、温かな気持ちで行う。

もう二度とこの腕で抱いてやれないと思っていた義妹に、何度も何度もこの現実が嘘ではないと実感するように泣き止むまでずっと、彼女の小さな体を抱き締めて上げた。

 

 




幼かった義妹が大きくなって帰ってきたら、慕っていた義理の兄がサイボーグ。フランク・なんちゃらかな?(すっとぼけ)


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利用価値

すっかり待たせたな。こっちもいろいろ立て込んでたもんでな。まぁ、気長に待っててくれや。


―――滑る様に空いた遮蔽物に大柄な体を押し込み、右手に握る大型拳銃『オート9』を殺意を剥き出しに、銃火を浴びせてくる敵へとサイトしトリガー。崩れ行く奴に、一人減った位の所感しか感じず、更に減らす為に撃ち続ける。当たろうが、外れようが関係なかった。今この瞬間にこそ、俺は明確な生を感じていた。

 

お互いの殺意のぶつけ合い、人間の闘争本能に基づく原初の戦い。どれだけ歴史を重ねようと、時間が過ぎ去ろうと変わらないもの。

 

自分が死ぬか、生きるか・・・。

 

そこに生物の本質が現れる。人格の本質が浮き彫りになる。発狂するのか、激怒するのか、はたまた、悲しむのか、笑うのか?俺の場合はどれも違った。

―――失ったものを埋めるような充足感と高揚感に包まれた。失い、惑い、傷ついた心に潤いを齎してくれた。

 

只只管にどうしようもなく楽しかった。失い続け、鬱屈した復讐の中でも戦闘中だけは、確かに生きている実感を得られていた。

放つ銃弾に感情を乗せ、吐き出す吐息に死を連想させられ、吸い込む一息に更なる生の実感を。

 

俺はどうしようもなく魂を戦場に縛られている。それはきっと・・

 

 

死ぬまで変わらないのだろう。ならば進み続けて倒れるその日まで、俺は戦い続けよう。

でなければ俺は何の為に戦場に立ったか、分からなくなってしまう。失われてしまったものはもう二度と戻ってこない。俺の家族を奪った戦いを恨み、憎み、愛し・・俺は生きて行こう。

 

 

渇いた銃声のオーケストラを心から楽しみながら俺はさらに引鉄を引き続けた。

 

 

 

「信じられない・・。敵の包囲網が見る見る内に殲滅されていく。VRとはいえこれは・・信じられない戦果だ」

 

「だろうよ。生身の時でさえこれをやり遂げた男だ。包囲網を食らい尽くす殲滅戦ならあいつの右に出る男を俺は未だに知らねぇよ。我が元隊長とはいえ恐ろしい強さだぜ全く」

 

モニター越しに中継されているVR訓練の様子に戦々恐々しながらもデータの記録を纏めていく神経質そうな男・・ジムは隣で茶化しながらも、モニターの中で縦横無尽に暴れまわるデッドマンの姿に失笑を禁じえなかった。

 

「我々の戦術人形が玩具に見えてしまう。彼女達には申し訳ないが・・これの光景を見てしまえば・・」

 

「だろ?俺達人間の兵士が不要になることはないよ。人間は確かに弱く脆い。だがそれすらハンデに成らない奴なんてごまんと知ってるぜ。俺も含めて、な・・」

 

大型の機銃を背中にマウントした良く解らない機械の獣の背に強化され人知を超えた脚力を誇る義肢の性能に任せたロデオを繰り広げ、抵抗に放たれる弾丸を強固な装甲で弾きながら、煩わしく感じたのか画面の中のデッドマンが機銃を握力と腕力に物を言わせ、毟り取り、拳銃をホルスターに収めて機械の獣を背中から拳の乱打で滅茶苦茶にしていく光景に思わず苦笑しながらスケイルは、頬を掻く。

 

「あー、だからって俺も改造されたとはいえこんだけ馬鹿みたいに暴れられるとは思っていなかったがなぁ・・」

 

「データ収集と報告のためとはいえ、これは本部にどう報告したものか・・・」

 

捕まえた敵兵士の首を拳でへし折り、崩れ落ちる兵士の体を左手で羽交い絞めにし即席の遮蔽物にしたデッドマンが躯を弾丸よけの盾にしつつ右手の拳銃で敵を撃ち殺していく光景にジムは胃の辺りを抑えて呻く。

 

「大昔の映画を見ている気分だ。ああ・・くそ、胃が痛い」

 

「敵勢力第3波までくる包囲網を突破するだけのシチュエーションだった筈が偉い事になったなコレ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「VR訓練か。信頼していなかったがここまで五感をリアルに感じられるならば、足しにはなるな」

 

敵の弾丸でボロボロになった鉄血人形を地面に放してやり、空いた左手で胸部装甲が開口し現れた新たなマガジンをオート9に叩き込みながらすかさずスライドリリースを行い、即射撃待機状態に移行する。

 

 

「人間の兵士の様に仲間の死体を気遣う様子はなし。なら機動、奇襲のみで十分だな」

 

再び戦闘態勢を整え、遮蔽物をジグザグに走り抜けながら死角にならぬ位置に居る人形を破壊しながら目標地点に向けて進行していく。

近くに寄る迄遮蔽物から動かなかった敵兵士の懐に潜り込み、展開した右手甲のブレードを喉にねじり込み、命を絶つ。噴き出す血液を全身に纏いながら素早くブレードを引き抜き、持っていたM16A1とマガジンを幾つか拝借。

M16を右手に保持し早速構え発砲。崩れたコンクリート片に身を寄せていた敵兵士の一団を其処に縛り付けながら突貫。直後、ボルトが下がり切ったM16を、地面に放り投げ、ブレードを再び展開、左手でオート9を構え、コンクリート片を飛び越える。

 

「撃て!寄らせるな!」

 

「遅ぇよ」

 

左側面の数名をブラインドファイアで黙らせ、右側の4名を展開したブレードで八つ裂きにする。喉やら首を断ち切った死体に目もくれず、左側で呻く死に損ないにオート9をぶち込み今度こそ息の根を止めてやる。

 

「こう考えると、何故超帝国主義者共と鉄血人形が手を組んでいるのか良く解らないが、データでこうなら、現実もこうなんだろう。ならいくらでも隙はある。混成軍ほど脆いものもない」

 

 

散発的になってきた銃弾に目もくれず一目散に目標地点に向けて走る。

これだけ食い荒らせば敵の損害も手酷いだろう。ゴールと書かれたラインに向かってただ走り、到達。廃墟街が見る見る内に消えていき、白い何もない空間へと変化していく。

 

「戦場の空気程度は味わえただけマシか。次は、もっと鮮烈な戦場が良いな」

 

合成音声で現実に帰還しますとのアナウンスを聞き、伸びをしながらガンスピンを行い展開変化したホルスターにオート9を叩き込み、VRで吸う煙草の味は如何程のものかと考えを巡らせている中、視界が筐体の機械で構成された天井で埋め尽くされ、現実に帰還したことを理解するとぶち込まれたVR筐体の無機質な内部座席からドアをこじ開け、モニターで逐一報告書を作成していた筈の、引き攣った笑みを浮かべたジムに声を掛ける。

 

 

 

 

「これなら、時代遅れとも、死に損ないとも言えないだろ?さて、お前らが俺につける商品価値はどれ程か。聞いてもいいか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




ちゃんと書くから許してくれよな。頼むよ~。

それと待て。しかして希望せよ。じゃ、俺バイオRE2S+クリアあるから・・。


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ヒトか機械か

サボるって言ったな?あれは場合によってだ。熱下がらんのじゃいぼけこらぁ


この職場に来たときのことを私は思い出していた。我がG&K社と連盟しているGSカンパニーの橋渡し兼、一技術者として彼らの扱うテクノロジーに興味を惹かれて、候補に名乗りを上げ、見事そのポストに収まることに成功した。確かに苦労の割に、本部からの覚えも余り良くなく、彼の会社との橋渡しもうまくいっているとは言いづらい。本部に召集された私に待っていたのは、重役達の虚偽は許さぬと鋭く光らせた瞳と、重苦しい雰囲気だった。

 

「ジム・カートマン。報告は以上かね?」

 

「はい・・」

 

重役の中でも特に、嫌、この会社に入っているものなら知らぬ者はいないであろう人物。わが社の社長、クルーガー氏が会議室にいる面子に配られたレジュメを会議室のデスクに放り投げ、未だに黙読する重役達の一人に声を掛ける。

 

「ヘリアン、所感を聞こう」

 

「はい、まず間違いなく我が社にとっても極めて重要な・・いえ、我が社の商品以上に欲しがる輩は多いかと」

 

「で、あろうな・・。嬉しい事に彼らは、我々に彼をレンタルという形で派遣してくれるそうだ。だがこのテストの結果だけで実戦投入する事態は避けたい。現場で指示を出す指揮官や、それを支えているスタッフ、それこそ戦場に立つ彼女達の事も考えれば反感も一入(ひとしお)だろう」

 

 

溜息を吐き、片眼鏡の奥に潜む懐疑的な視線をクルーガー氏と私へと彷徨わせながら読み終えた資料をデスクの上に置き、隣で熱心に熟読しているペルシカ氏に意見を求める。

 

「どう見る?ペルシカ、他の重役達が納得しそうか?人間としての彼を、君の娘たちと同じように扱うんじゃないのか?」

 

「そんな事、君が良く解ってるじゃないか。私にいちいち意見を求めないでくれ。どうせ私と同じ意見だろう?」

 

「ああ、率直に言って彼は、私達の大事に扱ってる彼女達と同じ扱いかそれより酷い扱いを受ける可能性が高い」

 

「だろうな・・。我々人類の為に尽力してくれている彼女達に申し訳ない話でもあり、彼にとってこの世界の歪さを知る事になるだろう・・。ヘリアン、ペルシカ、それにカートマン君、この件は私を含め此処にいるメンバーで基本対応に当たろう。人権擁護団体の格好の的だろうからな。彼は」

 

丁度映像資料として観察を始めたデッドマンの縦横無尽な暴れ振りにクルーガー氏は顎髭を撫でながら不敵な笑みを浮かべ、ヘリアン氏は驚愕の表情を浮かべ、ペルシカ氏はどう動いているのか分からない頭頂部の猫耳を頻りに左右へと動かしながら、興味と歓喜に溢れる熱を帯びた視線を画面の中の彼へと向けていた。

 

「誰よりも痛みと悲しみを知り、それでも戦い続けるヒトか・・。いいなぁ。ステキだなぁ」

 

「あら?あなたみたいなのでも好みのタイプってのはいるみたいね?ペルシカ」

 

「合コンで負け続けてる誰かみたいにがっついてないだけさ。見る目はあるつもりだよ、私は」

 

「なっ!?」

 

「はぁ・・下らない言い合いはやめないか・・」

 

 

早く家に帰ってゆっくりとコーヒーでも飲みながら、昔の映画が見たい。厄介事の報告だけだと思ったら更なる厄介事を引いてしまうとは、私はこのポストに志願しないほうが良かったのかもしれない。徐々に瞳が潤み始めたペルシカ氏の反応を盗み見ながら、痛くなってきた胃を私はそっと抑え込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ん・・まぁまぁだな、鮮度やらが悪い食材にしちゃ上等な調理の筈だ。食ってみろ」

 

「おお、早速・・いただくぜ」

 

「頂きます。お兄ちゃん」

 

「頂きます!指揮官様!」

 

「・・その指揮官って呼ぶのをやめろ。カリーナ、良いから食え」

 

スタッフが働く厨房に無理を言って入り込み、サッサと飯を作れと五月蠅いスケイルと再会したからか俺の手料理が食べたいと控えめにお願いしてきた明日香の訴えに根負けし、使って良い食材を、俺のヒトとは思えぬ異様な出で立ちにおっかなびっくり教えてくれるスタッフに謝罪を入れ、作り上げたハンバーガーとフライドポテト、ハンバーグステーキ定食をテーブルの前で今か今かと待ち構えていたみんなの前に置く。

 

 

「お得意の在庫処理兼整理か?本当にマメな奴だよなお前。顔に似合わず」

 

「放っとけハゲ」

 

ハンバーガーとフライドポテトをスケイルの前に、ハンバーグ定食をカリーナと明日香の前に出し、茶化すスケイルの言葉に頭部についてのヤジを入れてやる。

冷蔵庫の中はお世辞にも状態の良い食材が少なかったので、余っていたであろう牛肉と豚肉の塊を包丁で滅多切りにした後に玉ねぎやニンジンなどを使った野菜多めのハンバーグにしてしまった。卵とかも使っちまったが、文句も言われなかったし、思ったより食糧関係はそこまで悲観的にならなくても、良いのかもなと独り言ちながら早速ハンバーガーに齧り付いたスケイルが満面の笑みで伝えてくる。

 

「ウメェ。ドリンクコーラな」

 

「あいよ、カリーナと明日香は?」

 

「あ、私はお茶がいいな」

 

「し・・デッドマン様、私は食後にお願いしますわ。コーヒーをお願いしても?」

 

「様はいらねぇ。デッドマンでいい。今取ってくる。カリーナは欲しいタイミングで言え」

 

ほうじ茶とコーラを取りに踵を返せば、元々食事の時間外の為少なくなったスタッフの一人が冷蔵庫前に居座り俺に嫌悪感を隠さずに尋ねる。

 

「最近の戦術人形は調理もお手の物ってわけか?今度は俺達の代わりに料理も作ってやるってか?」

 

「あぁ?テメェ何言ってやがるんだ。退けよテメェ、邪魔なんだよ」

 

 

大柄な如何にも外国人のおっさんという風体の調理スタッフのいらだちに反感を覚えた俺は唸る様に退く様に吐き捨てる。

 

「テメェ・・人形風情が人間様にたてつこうって訳かい?」

 

「下らねぇ勘違いしてんじゃねぇよ。俺は人間だ」

 

「ほっほぉ?そのカラダで?そんな戦場に立つしか出来ないようなスクラップの体でか?人様おちょくるのも大概にしやがれよ!!」

 

「ウゼェ・・言っても分らねぇなら一発ぶち込んでやっても構わねぇんだぜ?俺は」

 

「テメェこそ偉そうになんなんだ!人形は人間様に跪いて大人しく言われた事だけやってやがれ!」

 

「聞き分けのねぇオヤジだな。今、ここで、くたばるか?」

 

俺とおっさんの騒ぎを聞きつけたスケイルがハンバーガー片手に呑気にやってきながらおっさんに話しかける。

 

「おい、そこのスタッフ、こいつは人間だ。俺が保証するぜ?それともここの社長の言葉が信じられないか?」

 

「ス、スケイルさん、いや、これはその・・」

 

「まぁ落ち着けって。この野郎は確かに恰好は戦術人形みたいに見えるかもしれないが、紛れもない血が通った人間さ。俺と一緒に戦場を駆けたかけがいのない戦友だ」

 

ハンバーガーを咀嚼しながらコーラをくれと空いた手を差し出してきたスケイルに慌てておっさんが冷蔵庫から冷えたコーラの瓶を引っ張り出し、手渡す。

スケイルは蓋を起用に片手で引き剥がし、コーラを飲み込み、口の中のものを胃袋に収める。

 

「ゲッフ、まぁこれから一般職員にも通知するから焦るなって。行こうぜセイジ、飯は落ち着いて食いてぇ」

 

「ああ・・」

 

「それとコーラありがとよ~」

 

怯えるおっさんを無視し、冷蔵庫からほうじ茶を取り出した俺は食いながら歩くスケイルの背に続く形で厨房を後にした。

 

「悪かったな」

 

「何がだ?」

 

「ま・・これからいろいろ知るさ。気楽に行けよ相棒」

 

「お前ほど気は抜くつもりはない。・・・相棒」

 

「その方がお前らしいよ。俺達が揃えば何でも出来るさ。こんな程度障害にすらならないだろう?」

 

「ふん。・・と言うかお前社長だったのか」

 

「・・・あれ?言ってなかったっけ?」

 

 

 

 

 

 

 




エイシャァ!(ねっとり)人権問題とか色々な描写、又、ドルフロ世界の政治などについて深く掘り下げた内容なども今後出てきますが、一言言います。
別に今の現実の問題とか風刺するつもりないからね?それだけ言っておくよ。別に今の政治家に期待してないし。一部の連中位だね。まぁ複雑な描写とか嫌な描写あったりするかもだけど、戦闘の爽快感みたいなものやらは損なわないようにするから、そこだけ楽しみに待っててくれてもいいよー(投げやり)


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擦れ違い

お 待 た せ。一話しかなかったけどいいかな?
待ってる奴なんておらへんやろ・・。適当に一話だけ投げて、帰ってオナ〇ーでもするか・・


フォークをで取り分けた肉片を口に運び、生物の根源的欲求に従い咀嚼する。咀嚼した瞬間、口内を野性的な旨味を帯びた肉汁が、物陰に潜んでいた伏兵の様に口内を蹂躙し食欲を刺激していく。強烈な味という刺激に無意識ながら、肉片を更に噛み締め、肉汁の暴力的な蹂躙から援軍の様に訪れた玉ねぎの瑞々しい甘み、シャキシャキとした歯触り、人参の控えめな甘みと肉とはまた違う固さの食感による制圧。その事が舌で、歯で、口の中で分かり自然と咀嚼したハンバーグを本能のままに嚥下する。

 

嚥下した後に訪れる食道を伝い、胃に食物が届いたとき特有の安心感、満足感から来る吐息を吐き出しながら独り言ちる。

 

「美味い。作った自分が言うのも変だがな」

 

肩の力を抜きながら、背もたれのあるソファに体を預けると俺の重さのせいか、ソファのスプリングが一瞬ギシリと悲鳴を上げるが、見事に俺の体を支え続ける。

 

「本当に美味しい・・。え?これ、食堂に合った食材で作ったんですわよね?し・・デッドマンさん」

 

「ああ。まぁ・・さんはいらねぇが・・良いか。確かにあの冷蔵庫やら資材室とやらから持ってきて貰った食材しか使ってねぇよ」

 

目を見開いたまま上品に手の甲で唇を隠し、ハンバーグを咀嚼しているカリーナが俺へと驚愕しながら問い掛けてきたがそれを肯定で返し、冷めない内に食べちまえと促す。

 

「デッドマンはなぁ。俺達の料理番だったんだぜ?こいつの作る飯が食えない日は全員士気が駄々下がりだった・・」

 

食後のコーラをぐびぐびと豪快に煽りながらスケイルは遠い目で「それ以前の作戦行動中は糞不味いレーションか、栄養剤とサプリメント生活だったしなぁ・・」と食堂の天井を眺めながら呟く。その呟きに思わず引き攣った笑顔を浮かべたカリーナは恐る恐ると行った感じでスケイルに尋ねる。

 

「因みにあの人達の中で他に料理が出来る方って・・・?」

 

カリーナが言うあの人達、つまりはウチの部隊の連中の事だろう。俺とスケイルは特に示し合わすこともなく同時に口を開いた。

 

「「あ?いねぇよ。んなもん」」

 

 

その言葉に引き攣った笑顔から完璧に引いた表情を見せるカリーナに、更なる爆弾を投げつけてやる。

 

「俺が入隊した直後の作戦行動中、俺達はトラブルで持参した装備、食糧、医療品、弾薬をほぼ全て失った状態で飯を作る羽目になってな。各自で食えそうな物を取りに出た。幸い火が使える状況だったからあまり俺は心配してなかったが、この馬鹿共すげぇものしか

持ってこなかったぞ」

 

「・・あの時の事かぁ・・・」

 

「あ、それってスケイルさんに聞いたロシアでの事?お義兄ちゃん」

 

「ああ・・生きたネズミにミミズ、どこから見つけて来たのか大量の昆虫、得体の知れないきのこなんかもあったな。流石にそれを見た瞬間こいつらを見限って魚やら鹿、蛇を狩った俺は悪くない」

 

「うぇ!?蛇を食べたんですか!?」

 

「ネズミも食ったぞ?鹿が一番大変だった。狩ったは良いものの、血抜きが至極面倒だった。解体はそうでもなかったがな」

 

顎を右手で撫でながら昔の光景を思い出す。マックの馬鹿が半分以上、鹿肉で作ったドライカレージャーキーを一晩で食いつくしたことには愕然としたもんだったな。あー懐かしい。

 

「や、野蛮人・・」

 

「生き抜きたいなら食べる事だ。口から物が食えなくなって緩やかに死ぬのは嫌だろ?少なくとも俺はごめんだ。それにネズミも蛇も味は悪くなかった。個人的にはカエルが一番見つけやすく食いやすい。ウシガエルのモモ焼き・・また食いたいな・・だがアマガエル、テメーはダメだ。糞不味かった記憶がある」

 

「今思えばお義兄ちゃん結構悪食だったよね・・しばらく一緒にいた頃、私の分の食事はまともなもの作って、自分は良く分からないもの食べてたよね・・?」

 

「・・知らないほうがいい」

 

「何食べてたの!?お義兄ちゃん!?時効という言葉はないから言ってよ!」

 

「犬」

 

「犬ぅ?!」

 

「野犬は貴重な蛋白源。治安維持にも一役買ってたぞ俺は」

 

三人揃って盛大に顔を真っ青にしながらひそひそと話し始める。

 

「やっぱこいつ合理主義と復讐に囚われすぎて頭可笑しくなったんじゃねぇのか?」

 

「流石にわんちゃんが可哀想だよぉ・・!」

 

「私、これからこの方のサポートをこなせるか心配になってきましたわ・・!スケイルおじ様・・!」

 

会話の内容が面付き合わせて話し合うもんだからよく聞こえないが、どうせロクな内容でもないであろうことは確定的に明らかなので特に突っ込むこともせず残ったハンバーグと付け合わせに作っておいたガーリックライスを口に放り込む。うん。おいしい。

空になった食器を重ね、まだグチグチと小うるさい三人に声を掛ける。

 

「おい、俺は食い終わったが――――」

 

「ひゃぁ!?」

 

俺が声を掛けたのがそんなに驚くことなのか知らんが、驚いて体をビクリと跳ね上げさせたカリーナがいつの間にか頼んでいた食後のコーヒーが入ったマグカップを宙へと放ってしまう。

未だ湯気が上がる熱々のコーヒーが天高く舞い上がり、重力に従いカリーナの頭上へと落ちて行く。咄嗟に俺は対面に座っていたカリーナに向かい、食器が乱雑に積み上げられたテーブルに上体を乗り上げて、右腕を差し出し落ちて来たコーヒーから彼女の頭を庇う。

バシャリと液体が硬質な腕の装甲を撥ね、滴るコーヒーをカリーナに当てぬよう直ぐに右腕を引っ込め、遅れて落ちて来たマグカップを左手でキャッチする。

 

「大丈夫か?火傷は?」

 

「え、あ・・大丈夫ですわ。それより指揮官様は?!」

 

簡潔にけがを負っていないか尋ねただけだが、慌てたカリーナが俺の右腕に視線を当て、右手で触る。

 

「あっつい!?」

 

「金属なんだからそりゃ保温性は高いだろ。それにあの熱さなら・・これくらいにはなるさ」

 

予想以上に腕の装甲が熱かったのか、条件反射で手を引っ込めたカリーナの頭部や顔を見やりコーヒーがかかっていないことを確認した俺は左手に握ったマグカップをゆっくりとテーブルに据え置き、自分の席へと戻る。

 

「いや、デッドマン・・お前腕は熱くないのかよ?」

 

「あ・・?いや、全然」

 

スケイルの困惑した声に訝しみながら返事を返した俺はテーブルの隅に置いてあった布巾を手に取り右腕を拭う。多少べたつくだろうが、後でシャワーを浴びる予定だし、とりあえずの応急処置だ。

腕を拭っている俺を見ながら、顔を蒼白に染め始めたスケイルが重々しく口を開く。

 

「セイジ・・お前・・・」

 

「んだよ?」

 

「義肢の部分、もしかして感覚がないのか・・?」

 

「ああ。さっきのコーヒーで確信した。温度、触覚、冷たい、熱い、義肢の部分だけ何にも分からん。当たり前だよな。こんな金属の塊に感覚器官なんか必要ないだろうに。多分痛みも感じないだろうよ」

 

「すまん・・!すまん・・!」

 

「おい、止めろよ。俺はまだ生きてるんだぜ?こんな物ハンデになりはしねぇよ」

 

呻きながら頭を下げ始めた禿頭をぺしりと左手で叩いてやり、カラカラと笑い飛ばしながら困惑した表情でこちらを見る明日香に謝る。

 

「って訳だ。ごめんな。兄ちゃん、もうお前の髪を結った時の柔らかな髪の手触りも、抱き締めた時の温もりも、お前のほっぺを引っ張って遊んでた感覚も全部分からなくなったんだ」

 

聡い彼女が変に気をまわして傷つかない様に、努めて明るく笑いながら告げる。

 

「いや、本当、参ったな。ロクに育ててやることも出来ずに、親代わりの愛情すら満足に注げない不出来な男の妹に――――」

 

「―――――何で」

 

 

 

 

「――――何で自分の事なのにそんなに笑ってられるの!?」

 

 

「お義兄ちゃんもう、二度と手に物を持った時の感触も!熱いとか冷たいって手を引っ込めることも!結婚して愛した誰かの指輪をはめた感触だって分からないんだよ!?なんでそんなにへらへら笑えるの?!」

 

「赤ちゃんを抱き締めた暖かな感触だって!私を抱き締めた感触だって・・・わ、わからないんだよぉ?一緒に散歩した時の心地いい足の痛みも、一緒に旅をした時の足の疲れもわからないんだよ・・・?ぁんで・・わ”らっで・・ら”れるのぉ・・!!!!!」

 

俺の言葉を遮って、明日香は席から立ち上がると、、へらへらと笑う俺の態度が気に食わないのかLMGの様に次から次へと、俺の想像していた生きる上でのハンデより重い『感触』を失った四肢の歩んできた過去、そして送っていたであろう未来の話を持ち出され、

彼女の何時も柔らかに優しさを携えた綺麗な瞳からボロボロと、雨の様に涙が零れ落ちる。ただそれを俺は黙って見つめながら聞き続ける。引き締められた形の良い唇からは、嗚咽と俺を糾弾するように問い詰める言葉が紡がれ、俺を追い詰めていく。

 

「生きてるからだよ。明日香、お前にまた会えた。それだけで兄ちゃんは十分だ。なぁ、明日香。兄ちゃんはな―――」

 

泣き始めた彼女を宥めようと口を開き、語り掛けていく。

 

「―――聞きたくない!自分の心も偽って笑ってる人の言い訳なんか聞きたくない!」

 

尚も笑みを浮かべて話す態度が気に入らなかったのだろう。明日香は俺の本心を指摘して、踵を返し食堂のドアを乱暴に安慶名は夏とそのまま消えてしまった。

 

「お、おいセイジ・・」

 

「・・明日香を頼む。今は俺の顔も見たくないはずだろうからな」

 

消えていく彼女の姿を眺めながら俺もふらりと立ち上がる。立ち上がった所をスケイルに声を掛けられ、明日香の事を頼みこみ、明日香の開け放ったドアへと足を向ける。周囲で何ごとかと野次馬根性を働かせて、こちらの一挙動にすら興味を強く示す者達に、睨みを利かせる。

するとたちまち、明後日の方向へと視線を彷徨わせた野次馬達にふと興味すら失い、ノロノロとした足取りでドアを潜り抜ける。

 

「デッドマン様、いったい何方へ向かうつもりなんですか?」

 

「腕がべたついたからシャワーでも浴びてくる」

 

カリーナの心配したような表情をぼんやりと眺めながら、言外に付いて来るなと釘を刺して俺は踵を返してドアを潜り抜けた。

この心に重くのしかかる重圧は彼女を泣かせたからだろうか、それとも俺の四肢を失った事実が今更になって漸く正しく認識されたからかは、正直何方かは分からなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ただ、酷く、無性に大声を上げて泣き叫びたかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




低評価は俺に送るだけ無駄だぞ?直すつもりもない。読みたくなければ見るなとしか俺は言わんし、低評価だけ付けてほっぽり出しても何処を改善しろとかの意見もないものにいちいち心労を裂いてられるかよ。趣味でやってんだよ。こっちは。余計な口出し無用。



コラボに欲しい?勝手に持ってけw主人公しか貸し出せないし、まだ大して進んでないから最低限の情報しか出てないけどw一言くれればいーよw


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慟哭

年度末だからか忙しい。そして密かに崩壊したワシントンでエージェント活動中。必死に助けてたはずの民衆がただのテロリスト落ちになってる所もあって頭に来ますよ!
じゃけん、殲滅しましょうね。(M4とMK17持ちつつ)


ガランとしたシャワー室の前の脱衣所、そこで俺は大きな姿見の前でボディアーマーのロックを解除する。肉体事拘束されているかのような出で立ちが徐々に己の手によって外され、秘められた肉体が露になっていく。

――――――皮肉にも、姿見に映った己の上半身は数多の傷痕こそ残っているものの、このカラダになる以前のものだった。

外した装甲や中に着込んでいたラバースーツを無造作に床に放り投げ、姿見に映る自分の姿を見て、沈鬱な気持ちが更に落ち込む。

 

「なんだよこりゃあ・・・ホントにダルマじゃねぇか」

 

股間を守っていたプロテクターとラバースーツを脱ぎ捨て、改めて全裸になった己自身を眺める。分かっていた事だった。目を逸らしてきた事だ。義妹に指摘されたのを機に、焦燥感とでも言うべきか、一度シッカリと己自身を知るべきだとシャワーを浴びる目的でシャワー室に訪れて見れば、非情なまでの現実が俺を待ち受けていた。

 

接合された義肢を除けば、俺の残った肉体は胴体と頭部、そして僅かに残った下半身、嫌もう股間周辺のみか。自然と渇いた笑いが漏れていた。

 

「くくくく・・・・死に損ないもここまでくれば呆れるな。俺は何時になったら家族の元に逝けるんだろうな?」

 

被りを振りながら、右手で頭を押さえて呻く。

 

「あ”あぁぁ・・・・」

 

見れば見る程、生かされて『兵器』としての面が強調された今のカラダに不快感を隠せない。両親が俺に最後に残してくれた、俺の・・・

 

「俺の体すら持って行くのか糞がぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!!」

 

映る自分の姿に不快感や怒り、悲哀を感じ、もう見たくない一心で姿見を拳で叩き割る。

バリンと勢い良く拳を叩きつけても皮膚は裂けない。血は流れない。その光景が更にいら立ちを加速させていく。

 

一度殴れば、更に鏡が砕ける。痛くない。

 

もう一度殴って今度は鏡を立てかけていた壁が凹む。それでも痛くない。血も流れない。

 

鏡をグシャグシャにしても、壁をどれだけ壊そうと、凹ませようと痛くない。痛くないんだよ!!感触も!!何もかもないんだよ!!!!!!

 

「糞が糞が糞が糞がぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!」

 

頭を掻き毟ると頭皮は義肢の強烈な力に痛みを示す。その事実が更に俺を怒らせていく。

怒りのまま両手を見れば、指にゴッソリと白髪が引っ付いていた。砕けた鏡片から頭部から出血した俺の姿がチラリと映った。それを見ただけでもう耐えられなかった。

 

「あ”あ”あああああ!!!!!!!!!!!」

 

絶叫を上げながら何度も何度も砕けた鏡片へと頭突きを繰り返す。ここなら感じられる。痛みもある、血も出る。なら俺はまだ生きてる。こんな姿だろうと生きてる。

 

流血をそのままに、脱衣所からシャワー室に続くドアを怒りのまま蹴り壊し、タイルを踏みしめる。どんな力で蹴ろうが痛くもない。凹みすらない。そんな義肢の姿にドアから砕けて飛んだ樹脂製の素材を踏み壊しながら手近にあったシャワーのヘッドを引っ掴む。

力加減を間違えたのか、シャワーのヘッドはミシリと軋んだ。荒い動きのまま水道のコックを捻り、湯を流血した頭から被っていく。

頭皮に奔る痛みに顔を顰めながら、コーヒーを浴びた右腕をもう片方の腕で乱暴に濯ぐ。傷口に湯が染みる感覚がこんなにありがたく感じる日が来るとは予想していなかった。

 

少しずつ頭が冷えてきたが、いつも感じていたあの包まれる様な温かさを全身に感じない。入浴した時のあの多幸感が感じれない。そういう意味でも俺を苦しめるのか。

 

半減した心地よさに収まって来た筈の怒りが再び燃え上がっていく。

戦闘時に頼りになるこの義肢は、日常生活に置いては殊更不便だった。分かっていた。理解していたつもりでも実際に体験すると愕然とする。

 

「クソ死にてぇ」

 

気付けばぽつりと弱音を落としていた。人並みの幸福だとか、そんな物には今更頓着はしていないつもりだったが、辛いの次元ではない。気が狂いそうになる。四肢の感覚がないのはこんなにも心細いものだったのかと。

 

「う・・おおぉぉ・・・」

 

頭に感じる温かさとは別に頬に温かさが滴り落ちてくる。

 

「父さん、母さんごめん・・・!ごめんなぁ・・・!」

 

俺を愛してくれた最初に贈ってくれた大切な体。色んな愛情を注ぎ込んで貰った思い出も悲しみも、苦楽を共にした体が勝手に他者に作り替えられたのは自分の責任だ。こんな復讐者なんてやっているからいつか死ぬとは思っていたが、これは死より辛い仕打ちだった。親不孝者な自分をお許し下さい。

こんな姿になっても、あなた方の、息子として、あなた方が最期に望んでいたであろう幸せに生きる道に納得せず、戦場を渡り歩き、復讐を続ける不出来な息子をお許しください。

 

降り注ぐ水滴に混じって瞳から涙が零れ落ちて行く。俺に残された家族との直接的な繋がりが失われたのが、酷く、俺の心を苛ませる。悲しい、寂しい、苦しい、父さんに会いたい。このバカ息子がとこんな時に叱って欲しかった。母さんに頬を打たれても良いから心配して欲しかった。妹に大泣きされてボコボコにされたって良かった。

 

何時までも。何時までも、俺の心にいるのは温かく迎え入れてくれた家族なんだよ。会いたいよ。寂しいよ。

 

膝から崩れ落ちて、タイル床へとへたり込む。力なく震える手で頭部を覆い隠す。ああ、大丈夫。泣いて、泣いて、届かない願いを求めて心が張り裂けそうになってもまだ立てる。まだ終わりじゃない。まだ終わってない。『俺達』を絶望に突き落した奴等ははまだ生きている。あいつらは必ず地獄に叩き落す。だけど今だけ、今だけで良い。あなたの方の家族に戻らせてください。

今の俺はデッドマンじゃない。愚かな馬鹿息子だ。だから今だけは心の底から泣かせてくれ。

子どもの様に、無様にみっともなく泣かせてくれ。

 

 

「父さん、母さん、リサ・・会いたいよぉ・・・痛いんだよ・・・胸がずっと痛いんだ・・・うああああああ・・うわぁぁぁぁぁあっ!!!」

 

涙を乱暴に拭った右腕が、シャワーで温められている筈なのに俺には死人のように冷たく感じられた。

俺の傷は癒されない。奴等を殺して止めない限り、永遠に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




んー。不満足な出来。正直ちょっと強引な描写な印象。


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不穏

スキン出しやがってどいつもこいつももう許さねぇからなぁ?
これからしばらく更新しないでエージェントしてるぞ?いいのか?(脅迫)
※どっちにしろペースは上がらない


「では、全員揃ったようだしブリーフィングを行う」

 

「・・・・・」

 

シャワーを浴び、再び装備を身に着け浴場から出た俺を待っていたのかスケイルが壁に背を預け佇んでいた。俺に気づくや否や、一声かけ先導し始めたあいつに続いて行けばある意味見慣れた連中・・・ジムとカリーナが会議室の中で先に着席し、緊張した面持ちで紙媒体の資料を読み漁っていた。

その姿を尻目に会議室の空いた席にドカリと座り込み、机の上に両足を放り投げ用意された資料を左手に、適当に読み流す。

 

 

「おい、会議室は一応禁煙だぞ」

 

「知るかよ」

 

口寂しくなった俺は荒んだ心も落ち着かず、ストレスを解消すべく手慣れた手つきで片手で煙草を取り出し着火。思い切り肺に紫煙を吸い込み、会議室の天井へ向け、煙を吹き掛ける。

 

スケイルの注意もぶっきらぼうに返し、喫煙を続行。

 

「お前の気持ちも分からんでもないが今はブリーフィング中だぞ?何を考えてる?」

 

「はっ、実働が俺しかいねーで何がブリーフィングだ笑わせる。端的に死ねって言ってる編成だろうが」

 

資料を流し読みしながら、見た項目にはG&K社の治める()()地域から救援要請があり、そこに()()()()現在G&Kと提携している俺らの会社から出す救援部隊の実態だ。そこにかつての仲間のコールサインもなければ、俺をここに連れて来た彼女達の名前もない。これに反応するなって言うのが可笑しな話だ。

 

「移動はヘリ、そこからのヘリボーンを行い、現在交戦中の治安維持部隊の即時合流。又、交戦中の敵対組織の撃破。まぁこれは良い。で、その後は治安維持部隊の指示に従えだぁ?随分温い事言うようになったな、お前」

 

「何が言いたい?」

 

グチグチと言えば言うほど可笑しな裁量にたまらずスケイルに挑発の意も込めて侮蔑の視線をくれてやれば、即座に奴はその鋭い目つきを細めてこちらに噛みついてくる。

 

「世界が違うから独自行使権はないのは理解るが、何故いちいち他社に部隊の指令権を渡す?何やらされるか分かったもんじゃないぞ。お前は信用できるのか?そいつらを」

 

「お前は知らないだろうが俺達が来た当初の土地の確保、食糧、水の提供、医療物資の優先的販売やら上げればきりがないが、借りはデカいんだぞ!此処迄建て直すのにだって彼らの支援がなければ出来なかったことだ!!」

 

顔を赤らめて、怒りのままデスクを拳で叩くスケイルの姿にジムもカリーナも、俺とスケイルの一触即発な雰囲気を察してか所在無さげに、モゾモゾと椅子の座りを確かめて縮こまっている。その姿を見た俺は、更に痛烈に暴言とも取れる発言を行う。

 

「第一、こいつらそれこそ他社の人間だ。ブリーフィングに呼ぶべきでもない奴等だぞ?わかってやってんのかテメェ」

 

「セイジ!!いい加減にしろ!!!!」

 

遂に怒鳴り始めたスケイルに口に咥えた煙草の灰を落すべく、手前に置いてあった灰皿を引っ掴み灰皿に乱暴に灰を弾き入れ、改めて喫い直す。

 

「フゥ・・・この資料見て俺が納得すると思ってんのか?!あぁ!?言うに事欠いて、即時出発の上に、通信オペレーターは他社のジムとカリーナ!連携以前の問題でお互いにまだ深くも知らない上にどっちも本業じゃないと来た!頼りになる戦友はいねぇで単身、何処とも知らねぇ治安維持区の市街戦!まだあるぞ!味方の最前線位置に降下し合流せよだと!?馬鹿も休み休み言え!!!!」

 

「対空砲撃を行う野砲や高射砲は治安維持部隊が排除したとの報告もデータもある!全てないんだぞ!?何を恐れる必要がある!?」

 

「挙句、ヘリボーン用のヘリが輸送ヘリでもなく偵察ヘリだぁ?それで最前線?撃ち落とされるのは目に見えてるだろうがっ!ガキの遠足じゃねぇんだぞ!」

 

「偵察ヘリでもテクニカル級のMGじゃねぇと装甲抜けねぇだろうが!テメェやんのかコラ!!」

 

「上等だ節穴。表出ろ!返り討ちにしてやっからよぉ!!」

 

遂にお互いに歯止めが利かなくなった俺達は間近で互いを睨みつけ合いながら荒々しく会議室のドアを蹴り開けながら退出するべくお互いに面を付き合わせたままドカドカと床を踏み鳴らして行く。

 

「あの!待って下さい!!信用できる情報ですので、スケイル氏の仰る事の通りにプランを進めた方が・・」

 

見かねたジムが助け舟を出すが、もう遅い。この節穴野郎は甘い。糞ほど甘い。昔にそれで痛い目見たのも忘れていると感じた。

 

「それに私もジムさんも通信資格は保有してますし、オペレーションの習熟訓練は終えてますわよ!」

 

間髪入れずにカリーナまでもが援護射撃を行うが、それに対して俺はツッコむ。

 

「実戦でのオペレーション経験は?」

 

「・・それはありませんけど・・」

 

「僕も・・・その・・・」

 

伏し目がちに告げられた事実に眩暈を覚えた俺は、急に何もかもどうでも良くなってしまい、目の前で肩を怒らせて今につかみかかってきそうなスケイルの姿にももはや興味も敵意も湧かずに舌打を一つ打ち、煙草を義肢の手のひらに押し付け、強引に消火しドア向こうのデスクに鎮座する灰皿に吸い殻をシュート。

綺麗な放物線を描き、灰皿に落ちた吸い殻を見やり、馬鹿野郎に向き直って皮肉を言い放つ。

 

「最高のドリームチームだな」

 

「人員が取れねぇんだよ!!他のGood Smileの連中は他の作戦に展開中!お前を救出した404小隊だってG&K社の好意で専属契約してまでこっちに派遣して貰ったんだ。お前を救出し終えたから、今はその契約履行により帰投!どこに戦力があるってんだ!」

 

「あー、分かった。分かった。もう良い。聞きたくない」

 

聞けば聞くほどに何をやってるのか、理解し頭痛も覚えた俺は溜息を吐き出しながら思考に耽る。

簡単だ、救援に行って俺が独りで戦線切り開いて、敵を撤退させて治安維持部隊の体勢を立て直す時間を作る為に遅延戦闘。体制が整い次第、即反撃。もうこれしかないだろう。しかも敵対勢力は治安維持区の体制に不満を爆発させた武装蜂起した民衆。もうこれもツッコまない。新人オペレーター二人の実戦経験を積ませる為に体の良い教材がわりのこの案件。そして極限なまでコストカット&人件カット。

そして極め付けに此処迄支援して貰って、まだ何も返せてないのが現状だからこそ、現時点で恩を返す意思はあるというアピールも含めたこの強引なやり口。

 

それを理解した瞬間、この馬鹿野郎がマジギレしてる理由の裏も考察した処で、俺は思わず廊下の天井を仰ぎ見た。

 

 

どんだけカツカツなんだようちの会社ぁ!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




あ、はげのおじさんがゆでだこになってぎゃくぎれしたよ!




マジでマネジメント能力も政治的手腕のかけらも感じられねぇな(辛辣)


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死の宣告/出立

憤死。それだけである。


「アハハハハ!!もっと、もっとぉ!大きな声を出せぇ!」

 

「イカレ野郎がぁ!」

 

正確無比に装甲と義肢の継ぎ目を狙う射撃からそれぞれの被弾個所を予想し、()()()ながら大声を出して心底楽しそうに笑う全身黒尽くめの少女へと果敢に、唯一残された兵装の両刃剣を振りかざし切り掛かる。

振るわれた刃の軌跡が解っていた様に獣のような俊敏な動きで、少女は危な気無く躱すと口角を目一杯吊り上げ手に持つアサルトライフルを右手で保持し、銃口を俺の頭部へと向けてくる。

 

「これでゲームオーバ-だね!バイバイ!」

 

「死ぬかよぉ!!」

 

割れたバトルマスクでは最早この銃撃を防げない事が解っていた俺は、目前に迫る死の恐怖に怖気ず、更に一歩少女へ向けて踏み込む。

すかさず銃口の軌道上へと肘から先がなくなってしまった左義肢の残骸を宛がい、その銃撃を防ぐ。

 

「ぐぅぅぅ!!」

 

「アハハ!まだ粘るのぉ?じゃあもっと私を楽しませてよ!珍しい男性型の人形さん!!」

 

「テメェは絶対にここで殺す!サイコ女が!!」

 

短連射のアサルトライフルの銃撃が防がれたとみるや、彼女は空いた左手の鉤爪で俺へと格闘を仕掛けてくる。連続して振るわれる殺意を持った鉤爪を盾にしかならない左腕で弾きながらこちらも反撃に右手の両刃剣を小刻みに振るう。手の甲から突き出たコレだけが今現状、あの女を早急に仕留められる手段である以上、躊躇せずにこちらも殺しにかかる。

 

何度かの鉤爪と両刃剣、左腕での攻防を繰り広げ断続的に辺りに響く鍔迫り合いの音が更に激しさを増していく中、この危うい均衡が崩れていくのが俺の脳裏には最悪の形で描かれていた。

 

 

――――心臓が痛む。正確には動きがどんどんと悪くなっていっている。そして意識すらぼんやりとしてきた。

 

「どうしたのぉ?動きが悪くなってきたよぉ!」

 

「抜かせっ・・!ハァ・・!ハァ・・・!」

 

 

チャンスとばかりに大振りに振るわれた鉤爪を左腕で大きく弾きお互いに距離を離す。()()()()()()()()()()()

バランスを崩し、片膝を付くような形で衝撃を吸収した俺に対し、彼女は軽やかにステップを踏むかのような足取りで次の動作に殺意を込めた花咲く様な満面の笑みで、再びアサルトライフルを向けてくる。

 

 

「今度こそ、これでおしまいだね!バイバァイ♪」

 

「チィィ」

 

鈴の鳴る様な声音で心底嬉しげに告げた彼女から、弾倉内に込められた弾丸が明確な死の形となって押し寄せてくる。咄嗟に顔面を覆う様に、残された左腕と攻勢に回していた右腕も動員し、亀の様に防御を固める。

防御姿勢をすり抜けて皮膚を抉っていく弾丸の熱さに、目を細めながら、銃撃が止んだ瞬間に右腕を引き絞り、接近してくるであろう彼女の姿を予想しながら迎撃の準備を―――――

 

 

「はぁい、おしまぁい♪」

 

「・・・・ご・・はぁあ・・っ!」

 

予想以上に速く、俺の懐に潜り込んでいた彼女は左腕の鉤爪で砕けた俺のボディアーマーの中央を抉り抜き、胸部を貫いていた。知覚した時点で、心臓部を握り潰されたのかたとえようのないを覚え、反撃をしようにも一気に全身の力が抜けていく。そのまま彼女に倒れこむ様に凭れ掛かる。

食道から逆流して来た血液を、盛大に吐き散らしながら彼女の柔らかな体に抱き抱えられるようにして拘束された。

 

「もう壊れちゃうの?折角楽しくなってきたのに・・」

 

「は・・・っ・・・はっ・・・」

 

「もう息もできないの?そうだなぁ、お兄さんの目、綺麗だからしばらく飾っておこうかなぁ」

 

もう俺を殺した気でいる様で、死後の俺の目を刳り貫き飾りたいらしく、心底嬉しげに語り掛ける彼女の姿に、死へと向かいつつある俺は、答えるまでもなく、最後の力を振り絞り、右腕へと力を込める。

寒気が全身を包んでいく、暗い水底へと溺れた小さき時の覚えがある感覚より更に、本能的に逃避したい、何よりも避けるべきものの這い寄る感覚に最後の抵抗と言わんばかりに俺を抱き抱え、心臓を胸から引きずり出した彼女へと右腕を、ブレードを下段から振るう。

 

 

 

「――――SOPMOD2!!!止めなさい!その人は―――――――」

 

 

 

「―――――地獄で続きをやろうぜ。テメ・・・も・・・・みち・・・れ・・・」

 

 

 

 

 

 

 

意識が暗転するその間際、閃く刃の軌跡の先に少女の細いその首筋を切り裂く光景を目にし俺は闇の中へと意識を消した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「旦那、お裾分けした煙草、気に入ったんですかい?」

 

「ん、まぁな。前に吸ってた銘柄に味が似てる」

 

腹正しい程の快晴の中、情状酌量の余地もなく厄介払いの如く偵察ヘリの中へと押し込まれた俺は苛立ちながら煙草を取り出し咥え、離陸に備えシートベルトを装着し、救出された際の迎えにもヘリを転がしていた見覚えのあるヘルメットを被った柔和な笑みを浮かべた初老の男の言葉に返答し、溜息を吐き出す。

 

「全く、最高だ。ほぼ民生用のヘリを改造したような偵察ヘリか、もうツッコまねえぞ」

 

「現状戦闘できるヘリも他の部隊の支援に向かってますからねぇ。申し訳ないが、現状出せる最高のヘリがこれですってよ。俺だってこんなもんよりもっといいのを転がしたかったですぜ」

 

「挙句、コレだ。追加のタクティカルベストに弾倉詰め込んでSCAR-Hのみ渡されて最前線。あー控えめに言って死ねって感じだ」

 

 

「普通なら死にますよ。その姿なら、防弾ベストはかえって邪魔でしょうよ」

 

「まぁな。アサルトだけ持たせて装備は完成。パラシュートは座席にあります。ツアーかな?」

 

「死出の旅という意味では間違いないですよ」

 

「違いねぇ。普通なら死ぬわな」

 

話せば話すだけ現状にイラつき遂に煙草に着火して喫い出す。

俺を癒してくれるのはこの紫煙だけだ。頭悪いとは言わねーが交渉ごとにマジで向いてねーんだよな。あいつ。

遂に離陸したヘリに座席に深々と座り、煙草を喫いながら雲一つない青空を死んだように眺め、ポツリと漏らす。

 

「時々、独りで超帝国主義派潰してた頃が懐かしく感じる。あの頃の方がこんな苦労もなかったな・・・。それこそ、戦力差だけだった。問題は・・・」

 

「はい?なんですって?」

 

「なんでもねぇよ・・」

 

 

現状を嘆いても何も変わらないとは言え、本当に頭痛がする。目的地へと向けて、飛び立ったヘリの座席で、義妹を宥める事も出来ずに出撃してしまった事実も、酷い扱いにも一旦、心の片隅へと追いやり、何故か設置してある灰皿に灰を落しながら、もう一度紫煙を肺へと送り込んで吐き出した。

 

「最高に・・ツイてるぜ・・・・」

 

 

 

 

 

 

 




スキン出るのは幻想。終わり!閉廷!以上解散!


何時まで経っても出ません


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スカイフォール

落ちぶれたもんだなぁホント。年を取る度の目が、指先が遅くなっていくのが解る。昔反応出来てたものが出来なくなるとは・・・。もうランカーには戻れねぇなぁ・・・。悔しいってより、諦めがついた。俺は、もうFPSで無双できない。(糞雑魚スコアしか叩き出せなくなりましたw)


上空から眺める地平線にはまだ緑がちらほらと見え、荒廃した世界だという事実を忘れそうになりながら手持ちの最後の煙草を喫い終えた俺は灰皿に吸い殻を捨てて、眼下の大地をこの目へと焼き付けた。

その様子を見ながらヘリを操縦するおっさんが、相変わらず笑みを湛えながら声を掛ける。

 

「緑が残ってるのが意外ですか?」

 

「ああ、荒廃した世界だと。事前に聞いてはいたからな」

 

「ここは『人間』が生活できる居住区に近いからですぜ。それ以外の場所だと・・・それは酷いもんです・・。化け物に、訳の分からない環境、かつての栄華の名残の残る廃墟街・・。正直、任務で行っても狂いそうになる。悍ましいなんてものじゃない。文字通り人が住める土地じゃなくなってるんですよ・・」

 

珍しく苦々しい表情を浮かべて、忌々しげに告げた彼の言葉に深く頷き、疑問を口にする。

 

「随分と詳しいな。ウチの仕事で行ったのか?」

 

「いや、正規軍での話でさぁ・・。忘れて下さいや、思い出したくもないんでさぁ」

 

胸糞が悪いとでも言う様に吐き捨てた彼の強い拒否に追求もせずに、別の話題へとすり替える。操縦桿を操りながら耳を傾けている彼へと。

 

「何故ウチに?他にも傭兵をやるのなら良い会社があったんじゃないのか?それこそG&Kとか」

 

「その会社の事は話さないでくれ。頼む・・。色々、色々あったんだ・・」

 

弱弱しく告げた彼に、思わず口を閉ざし、先程から彼の地雷しか踏んでいない事実に内心、我ながら見事に爆破したなと辟易しながら気まずいコクピットの中、手持ち無沙汰にSCAR-Hの改良されたアイアンサイトを眺め、ヘリの前方遥か先を飛ぶ野鳥の群れにイメージの中でソレを構え、単発射撃へとセレクトファイアを弄り一番ケツを飛ぶ野鳥へと弾丸を放った。

イメージ上の弾丸は上空の気流に逸らされ、右翼を撃った筈の弾丸は野鳥の胴体を貫き、地へと落す。

 

「補助システムがないと、こんなもんか・・」

 

所詮イメージ。この通りではなく、実際に撃っていたら外れていたかも知れない。

実戦前にイメージだけとは言え、昔に愛用していたアサルトライフルの癖を思い出して戦闘に備えているが、戦闘は水物だ。絶対もないし、奇跡だって起きる。

こんなカラダになる前に、一番最初に()を殺した時だって本来なら俺が死んでいた筈だ。何が起きるかわからない。だからこそ、自分にとっての最善を掴み取る為に俺は迷わずに行動する。必要なら、どんな事でも。

 

「旦那、そういやあんた名前は?」

 

「デッドマン、死に損ないとでも覚えておいてくれ」

 

「死に損ないね。まぁ一応俺も簡単に紹介しておきましょうか。俺ぁトーマス。トミーと呼んでくれ」

 

「よろしく、トミー。今生の別れかも知れんがな」

 

「そこが俺達兵士の辛いところでさぁな。まぁ死ななきゃ一杯やりましょうぜ。旦那」

 

「期待しないで待っとけ。死んだら、墓には煙草とウォッカを頼む」

 

「厚かましい男だな、旦那」

 

「こう言っとけば死にはしねぇよ」

 

小さく鼻でお互いに笑い、トミーは片手で懐を弄り、俺の方へと封の切られていない新しい赤いパッケージの煙草を放り寄越してくる。

 

「良いのか?」

 

「良いんでさぁ。あんた、煙草売ってる場所知らねぇでしょ?っていうか基地から出てねーでしょうし」

 

「それはまぁ・・その通りだな」

 

「そいつは選別でさぁ。まぁ・・そろそろ支度して下さい。あと10分弱で目的地上空。降下準備は?」

 

「見ろよこれ行軍用のバックパックより薄いんだぜ?」

 

「薄くていいのはコンドームと始末書だけですなぁ」

 

「違いない。5分前に弾倉を装填して待機する」

 

二人してニヤリと下衆い笑みを浮かべ、長年の相棒かの様に淀みなくお互いの状態を確認し、俺は貰った煙草を展開した右太腿のホルスタースペースに捻じ込み再び眼下の景色を眺める。

 

「了解」

 

チラホラと人の気配がない廃墟が見えてきた遥か先に巨大な防壁に囲まれた都市区がいよいよ見えてきた。あれが、この世界での俺の初めての戦場だ。

 

「現地到着5分前」

 

「了解、弾倉装着及び、最終装備点検開始」

 

灰皿の近くに置いておいたマガジンを右手で拾い上げ、空のSCAR-Hにマガジンを差し込み、何時も通りにチャンバー内に弾丸を送り込むべくチャージングハンドルを引き、セレクトファイアが射撃不可になってるのを確認してから抱き抱えるようにして保持。

 

「手慣れてますな」

 

「空からの出撃は初めてじゃないからな」

 

「それは心強い。っと、こちらトミー、HQ現地到着間近。これよりヘリボーンを行う」

 

≪了解。デッドマン降下後は速やかに当基地へ帰投し、燃料補給を済ませ待機されたし≫

 

「了解。任務遂行します。旦那、時間です」

 

「ああ・・じゃあ行って来る」

 

背中に背負った極薄のパラシュートを確認し、左肩口から展開用にぶら下がったチェーンに絡まりがないのも確認し助手席のシートベルトを外し、ドアを開け放つ。

 

「なぁ。一言良いか?」

 

「何です?」

 

「やっぱり止めだ。俺は行くぞ」

 

頬を撫でる等とは口が裂けても言えぬ強風の中、嘲笑っているかの様なムカつく髑髏面を無造作に被り、背中の装甲と連動して連結したのを感じながらそれだけ呟き、下で光を乱反射し煌めく都市部の中で断続的に響く銃声を聞きながら降下体制へと入る。

 

「ドロップシーケンス開始!幸運を!」

 

「デッドマン、出撃る(でる)ぞ!」

 

へリのタラップを蹴り落ち、一瞬の浮遊感の後、頭から真直ぐに最前線を目指してSCAR-Hを右手に、装甲越しに押し寄せる風圧とGに歯を食い縛りながら徐々にマズルフラッシュやら爆炎が見えてきた大通りへと視線を向け、パラシュートのチェーンを思い切り引っ張る。

パラシュートは正常に展開し風を孕んで急に膨らんだ為にガクンと強烈な衝撃を俺の全身に与え、すかさずトグルを操作し、最前線に程近い遮蔽物となっている車両止めを目指して進路を切る。

 

「んだありゃあ!」

 

「構うもんか!やっちまえ!」

 

目敏く降下してくる俺を補足した敵兵・・姿を見るに私服の上に粗雑な手製であろうアーマーやら防具を付けた若年から老人に至るまでもが目を血走らせて銃火を俺へと向けて来た。

だが、こちらもタダでやられるわけには行かない。

右手に握ったSCAR-Hを左手で支え、パラシュート上と言う不安定な状態にも拘わらずセレクトファイアをAUTOへと切り替えた俺は手前でMAC10を乱射してくる敵兵に狙いを付け5連射。2発ほど至近弾として外れるもサイトの先で男は胴体に3発鉛球を食らいもんどりうって倒れる。

7・62㎜弾の強烈な反動をコントロールしながら、次々へと俺に銃火を浴びせる連中を黙らせていき、地面が近くなった所でパラシュートをパージし両脚で衝撃を押し殺し、仁王立ちするように大地へと降り立った俺は、殺気立つ敵兵達を前に弾が切れたマガジンを地面へ投げ捨て、新しいマガジンをタクティカルベストから抜き出し再装填。

無言のままチャージングハンドルを引き、流れる様に発砲。

額に風穴を開け、血の華と脳漿をぶちまけた男を最後に辺りを掃討し終え、付近に味方らしき姿がない事に気づき管制役のカリーナとジムへとどういうことか確認するべく、バトルマスク内の通信機能を立ち上げた。

 

「カリーナ、ジム聞こえるか?」

 

≪ええ、ばっちり聞こえていますわよ≫

 

≪大丈夫です。感度良好≫

 

「降下は無事成功。手厚い歓迎を受けたが、丁重にお断りした。だが味方がいない。どういうことだ?」

 

≪どうやら、今デッドマンがいるのは敵後方ですね・・。合流地点を間違えましたか?

 

「可笑しいな。最前線に降下しているんだぞ?それが後方・・・?」

 

 

≪すいません、治安部隊が押されているみたいです。それで降下前との合流地点の変更が今、連絡されました・・・≫

 

思わず舌打ちし、すぐさま向かい合流する旨を伝えた俺は肩にSCAR-H担ぎ上げ、敵兵の亡骸を一瞥し、新たに視界の端に映る周囲のミニマップに更新された赤く点滅する合流地点へと目指すべく駆け出した。

 

 

 

 

 

 




そんでも、経験による読みはまだ負けねぇ!(QSできなくなった砂の末路。つまり芋砂)


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最低の戦場

こんな時間に投げてもバレへんやろ・・。


引っ繰り返った廃車の陰から銃器を握った腕だけを突き出しこっちに向かって弾丸をバラまく敵兵達の必死な抵抗を強固な装甲で容易く弾き返しながら、何者も俺を止められぬと言わんばかりの傍若無人な歩みで彼らの隠れる遮蔽物へと進む。

 

「誰かあいつを止めろぉ!」

 

「今やってるだろ!糞!止まらねぇ!なんだありゃあ!」

 

「俺達を潰す為だけにあんな化け物引き連れて来たのかよ!あいつら!」

 

更に激しく銃火に合わせて、ボディアーマーや義肢に当たって何処かへと跳弾する弾丸と装甲が作り出す火花が太陽が昇り切った市街地の中で一段と目立つ。カラダに当たる弾丸に恐怖を微塵も感じず、遂に廃車まで辿り着いた俺は横からのしのしと回り込み、右手に持ったSCAR-Hを片手で隠れていた奴等に向け、無造作にぶっ放す。

 

「がっ!」

 

「げっ!」

 

悲鳴を上げながら崩れ落ちる奴等を尻目に、左手で新たなマガジンを掴み取りリロード。近くの死体に近寄り、手持ちの武器を眺める。

 

「・・酷使された形跡のある銃・・。刻印も消されてない。ブラックマーケット産ではないのか」

 

見るからにボロボロな銃を丁寧にメンテナンスして使っている様子を確認し、各メーカーが刻印しているマークも確認し、疑念が沸き上がるがその考えを捨て俺が現れる前に激しく銃火を晒していた大型のスーパーマーケットに目をやりそちらへと歩を進める。

近寄った途端、玄関口から一斉に様々な弾丸に撃たれるが、相変わらずこの装甲を貫通するような弾丸はなく、総じて無視し玄関口で恐怖に顔を引き攣らせた今まで殺してきた奴等とは違い、まだまともな装備をしている兵士たちのアーマーにG&Kのロゴを確認し口を開く。

 

「救援に来たGoodSmileカンパニーのデッドマンだ。指揮官はいるか?」

 

「きゅ、救援・・?そういえば言ってたな・・・助かったぜ。指揮官、いや、隊長なら屋上の看板裏にいる筈だ」

 

「ふん、分かった。容姿についてはそちらに伝えていた筈だが、何故撃った?」

 

「んな事言っても何処からどう見ても鉄血製の戦術人形にしか見えねぇよ!確信がなかったんだ!許せよ!」

 

「下らねぇ・・・平常心すら保てねぇか。弱卒だな・・仮にも味方を撃つなんてな。邪魔だ。退け」

 

先頭に立っていた男との短い問答の内に、あんな装備ですら勝っている連中に良い様にやられ、恐慌状態や負傷状態に陥っている治安維持部隊と思わしきこいつ等にこの仕事におけるモチベーションを更に削られ、玄関口に店内の棚などを移動して作ったであろうバリケードの横で縮こまる兵士を突き飛ばし、屋上へと続く道を探すべく店内に進入する。

尻もちを付いた兵士が睨みつけるがそいつを無言で見据え、態度にイラついた俺は玄関のガラスを拳で叩き割る。

 

「良いか?俺は貴様等の尻拭いに来たんじゃなく、助力として来た。少しは理解しろ。雑魚共」

 

心底イラつき吐き捨て、奴等の反応も見ずに奥に見える鉄梯子に捕まり屋上へとさっさと上る。釘を刺しておいたが、理解はしないだろう。奴等は先に伝えていた俺の容姿も把握していたのに躊躇なく撃ってきた。体の良い捨て駒にしか思っていないのをしっかりと理解した。

スケイルの奴は指揮権を渡しているなんてほざいたが、これは無理だな。協力はすれどこいつらと心中するつもりも轡を並べる気にも俺にはどうしてもなれなかった。

梯子を上り切った先に偉そうに口髭を生やした白髪交じりの金髪の中年がふんぞり返って数人の男達と簡易の机に並べられた戦場に用意するには不釣り合いの豪勢な料理を平らげていた。

 

「お前がここの指揮官か」

 

偉そうに食事を乱雑に頬張る、顔の肉が張り油でテカッている小汚ぇ中年に声を掛ける。

 

「ん?なんだ貴様は?」

 

「GoodSmileカンパニー所属、デッドマンだ。で?お前は俺にどんな仕事がして欲しいんだ?無駄な口は開くなよ。俺は今イラついている」

 

俺の言葉にフォークを机に置いた中年が顔を赤らめながら予想した通りにがなり立てながら拳で机を叩きこちらを威嚇してくる。

 

「何と言う口の利き方だ!儂がここの治安維持防衛を任されているフラスゴ・ヴェルニーと知っての狼藉か?!」

 

机を叩いた衝撃で小さく宙を舞った料理やスープに目が行き、机の上に少し散らばる姿に

もったいないと思うもイラついていた俺はさらにこの馬鹿を煽る。

 

「んな肩書知るかよ。テメェが料理を堪能してる間に俺は敵兵の一団潰してきたんだぜ?ヘリボーンを行えば、合流地点の変更?糞ったれだなこれが普通の兵士なら死んでたぜ」

 

カリーナやジムと通信を開いていない現状も手伝ってか、怒りにブーストが掛った俺は更に追及する。

 

「それに対するテメェらの礼は下の奴等の一斉射撃の歓迎だ。全くありがたいね」

 

盛大に皮肉を放ち、手元のSCAR-Hを肩に担ぎ上げ冷笑を零す。奴には髑髏面しか見えていないだろうが雰囲気は伝わったのだろう。拳をぶるぶると震わせ、青筋を額に浮かばせ怒鳴ってきた。

 

「貴様ぁ!貴様には儂の指揮に従うという契約を知らんのか!」

 

「ああ、お望み通りに戦ってやろう。が、下の奴らとお前の指示はダメだ。お前はウチのオペレーター共に殺して欲しい奴等のリストアップを行え。作戦は俺が考え、独りで実行する」

 

この言葉に意地悪く笑ったフラスゴは顔をガマガエルの様に醜悪に歪ませながら吐き捨てる。

 

「ならば今から貴様は独りで、指示した連中を殺してきて貰おう。出来るからこそ言ったのであろう?」

 

「無論だ」

 

簡単な算数の問題に対する答えの様に至極当然に応え、踵を返して呟く。

 

「お前等みたいな肩書だけの気取った雑魚にはできない本物の戦争って奴を見せてやるよ」

 

 

バトルマスクの口部分のみ部分展開を行い、無意識に取り出していた煙草に火を付け紫煙を吐き出しながら胸糞悪い肩書だけの雑魚共の巣窟から俺は堂々と玄関口から奴等が睨みつけてくるのも無視して抜け出した。

 

 

 

 




次回から激化予定。


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孤立無援

自ら選んだ道は間違いなどではない。今それを証明する。俺は自分の意思で戦い、そして死ぬ。


≪聞きましたわよ?!一体、何を考えてるんですの!?≫

 

「怒鳴るな喧しい。マップのデータ更新とターゲットの仔細を話せ」

 

バトルマスクに内蔵された骨伝導スピーカーから激しい剣幕でこちらを怒鳴るカリーナの声量の大きさに思わず顔を顰めながら、今一番欲しい情報の更新を要請するが・・俺を怒るのに全力傾けているせいでしばらく動けなさそうだなこりゃ。

 

短くなった煙草を整備された路面へとプッと吐き捨て足で踏みにじり消火。展開していた口元を脳内で指令を送り、閉口。ガシャリと閉まり気密性の高まったマスク内で次いで、変声機能を起動し、視界端でミニマップ上に表示された敵意の高い生体反応が密集しているエリアへと緩やかな足取りで前進する。

 

「カリーナ、先に言っておく。俺は死ぬ為に戦場に来たんじゃない。仕事で達成しなければならない任務のために来ているんだぞ?それを・・傭兵とはいえ、契約内に認められている筈の範囲で動いているだけだ。実際、あいつらの戦力にも物資にも何も痛手にならない働き方だぞ?何をそんなに怒る?」

 

≪何処の世界に契約元を挑発して激怒させる馬鹿がいますか!?≫

 

「俺の世界なら、嫌、大抵傭兵なんてそんなもんだろ。舐められて足元みられりゃ使い捨てだ」

 

≪全くもう・・!帰投しましたらキッチリスケイル社長に絞られて下さいね!≫

 

「それは無理だ。あいつの下に着く時に俺は先に契約してる。俺の判断で戦時独自に動く事を許可されてるからな」

 

≪そんなこと一言も聞いてませんわよ?≫

 

「・・俺がGoodSmileカンパニーに入社した際に規定に確かに結んだ規約だ。嘘だと思うなら確認してみろ」

 

追及の手が止まないカリーナに手を焼きながらもHUDのミニマップが消失し、クローズアップされた一人の男の顔が映し出される。この辺の地域には珍しい、黒髪を短く刈り揃えた黒縁眼鏡を掛けた同じ東洋圏内の顔立ちをした若い男の顔を記憶に焼き付け、未だグチグチと怒り続けるカリーナに聞かずにジムへと通信を繋ぐ。

 

「ジム、ターゲットはこの男か」

 

≪はい、彼の名はケント・フジサワ、我が社の防衛地区の一地区を任された優秀な戦術指揮官だったのですが・・・現在は反逆罪及び、紛争幇助等の嫌疑が掛けられています」

 

「見た感じ真面目そうな男だが・・・」

 

≪彼の首には懸賞金が掛けられています。又、この地区の反乱分子の首魁の可能性が極めて高く、反乱当初から姿が見えずにいる為、敵勢力側に潜伏して居る事は明らかです≫

 

「こいつを抹殺すればいいのか?」

 

≪いえ、出来れば喋れる状態で確保して欲しいとの事ですが。激しく抵抗される可能性があるためその際は殺害の許可も出ています≫

 

HUD内に表示されたターゲットの男の凛々しい目付きに、こんな混乱を生む様な真似をする奴には見えないと内心では思いながらも画像が消失し、再びミニマップに表示されたエリアへとナビに従い移動しながら、残弾のチェックに入る。

SCAR-Hのマガジンは残り5つ現在装填分を除けば150発。オート9は一度も使っていないため弾薬はフルにあるが、果たして足りるかどうか・・。

 

≪それと注意事項で彼の秘書戦術人形も一緒に行動しているようです≫

 

「そいつは強いのか?」

 

≪ダミーリンク2体は操れるそうですからそこそこ最適処理が終わっている戦術人形の様です。負けはしないでしょうが、手強いでしょう≫

 

「その戦術人形のデータは?」

 

≪現在捜索中です≫

 

「まぁいい・・分かった。追加情報があればくれ」

 

そう告げてから通信状況をオープンにしたままミニマップに表示されている目的地に到着した俺はSCAR-Hのセレクトファイアを弄り、連射状態に移行して構えたまま二人に伝える。

 

「今から敵性反応の強いエリアの掃討に入る。何か注意事項は?」

 

≪僕からは何も・・というかちゃんとナビゲートで来てるんですかコレ?あなたの反応がないからちゃんと機能してるのか分からないんですよ≫

 

「キッチリ反応してるさ。お陰でルートやら敵の視認がしやすい。凄い技術だな」

 

≪いえ、それは元々あなたの体とそのマスクの機能を利用して此方からデータ送信とかをしてるからですよ。ある意味、戦術人形と同じようなやり口で助かりました≫

 

ジムの何気なく告げたであろう言葉に思わず閉口し、当たり前に享受していたナビゲーション機能やミニマップが機械化したが故に手に入れた能力であるのを理解する。

それはそうだろうな、生身の時にこんな便利な機能なんかなかったものな。目覚めてからずっと違和感なく機能していたから生来から持っていたものと本来なら有り得ない勘違いをしていた。

手元の銃を強く握りしめ、眼前にこの都市部には珍しく古惚けた教会の見るからにオンボロな木製の両開きの扉へと歩を進め、腰を屈めて銃口を扉へと向ける。

 

「まずは怪しい教会から調査・・いや、ターゲットの所在を生き残りから尋問する。突入するぞ」

 

≪了解、あの、通信を切っておくことはダメですか?≫

 

「好きにしろ・・また掛け直す」

 

通信が切れたのを確認してから一息吸い込み、体制を屈めた状態で片手で強く扉を開け放った瞬間、中から弾丸の嵐が見舞われ扉にブービートラップがなかった事を把握し、立ち上がった俺は弾丸の嵐の中を突き進み中へと侵入する。

 

「死にやがれブリキ野郎ぉぉぉ!!」

 

扉の直ぐ脇にいた男が両手で構えた散弾銃M870を至近距離で撃ち放ってきた。その攻撃に予想出来ずにいた俺は見事に胴体をバックショットで撃たれ、装甲越しの凄まじい衝撃に一瞬息が詰まり動きが止まってしまう。

すかさず、男は俺に攻撃が有効と見るや否や凄まじい速さのポンプアクションで次弾を装填し、撃ち据えてくる。

至近距離からのショットガンの連射にたまらず体制を崩してのけぞった俺は、数歩よろけて壁に寄り掛かりながら片手でSCAR-Hをそいつに向けて短連射する。

同じく至近距離から撃った此方の弾丸もM870を持っていた男の粗雑なアーマーを貫き、胴体部を抉る。血を噴き出しながら無言で崩れ落ちた男を尻目に教会の椅子から顔を覗かせながらこちらに弾をばらまく連中に目を向ける。

カキンカキンと9㎜弾や、小口径ライフル弾、下手したら大口径でも止められるであろう装甲でありながら先ほどのショットガンの衝撃が抜けきらず、壁に寄り掛かったまま俺は

歯を食い縛り両手でSCAR-Hを支え、小五月蠅い奴等へとお返しとばかりに銃撃を見舞う。

 

「ぐ・・っ」

 

先ほどのショットガンでの銃撃が深刻なダメージらしく、強烈な血の鉄臭い味が喉元からせり上がってきた俺は銃撃の中、口の端から零れ落ちる粘着質な液体の感触を一旦無視し、サイト越しに狙いの付いた敵兵の頭部に弾丸を放つ。

 

「げへぇ!」

 

苦痛で狙いが反れたのか眉間を狙った筈の弾丸は鼻を貫通し、顔の中心部からだくだくと流血した男が苦痛に噎び泣きながら、床に蹲り数秒後、失血の為かそのまま死んだ。

その死に様に隣で、そいつと一緒に戦っていた若い少年が顔を青ざめ動きが止まってしまっていた。

 

「この鉄血の悪魔がぁぁぁ!!」

 

「俺達の故郷から出ていきやがれぇぇぇ!!!」

 

更に抵抗の激しくなった銃撃に苦痛が徐々に収まってきた俺は寄り掛かっていた壁から立ち上がり、近くで必死に俺へと銃撃を加える男へと歩み寄る。

 

「ち、畜生!止まりやがれぇぇ!!!」

 

相変わらず弾かれる弾丸に絶望感を感じたのか脂汗を流しながら自身へと歩み寄る俺の姿に恐怖を感じたのか、カチカチと弾の切れたガリルのトリガーを何度も引きながら、忙しなく左手は腰もとにある萎んでもう空になったポーチからマガジンを引っ張り出そうと足掻いている。

そいつを空いた左手で首を絞め、宙に浮かせる。

 

「離せ!離し・・やが・・・」

 

「・・・」

 

無言で更に力を込め、酸欠で真っ赤になった男の苦しげな男の表情に致死ラインを見極め、死ぬぎりぎりで首を絞め、そいつ自身を俺の体の正面へ持って行き、生き残り達の銃撃に対する盾にする。男は左手の拘束を外そうと両手で俺の胸元を殴ってくるが何のダメージにもならずにいる。

 

「どうした?何故撃ってこない?撃ち続ければ俺は死ぬかも知れんぞ?」

 

盾にして数瞬、途端に銃撃が止んだのを疑問に思い、変声機能によりエコーのかかった様な自身の声が静かになった教会に響く。

歯噛みしたような表情で銃口を向けて戸惑っている彼らに、すかさず右手のSCAR-Hで手近な一人を射殺し、更に口を開く。

 

「仲間を撃ちたくないのか。そうか、すまん、なら懸念材料をなくしてやろう」

 

たった今撃ち抜かれて死んだ仲間の遺体に目を向けた彼らの目の前で弱弱しく足掻く左手に握った男の息の根を止めるべく更に握力に力を込める。

ミシミシと男の頸椎が悲鳴を上げていき、左手の中でもがく男は赤を通り越して紫色へと変色し始めた頃に―――――――

 

ボキリと一思いに彼の頸椎をへし折り、その息の根を止める。静まり返った教会に嫌に耳に残る骨の折れた音が響き渡り、ブラブラと力をなくした手足が俺の胸部を叩く。

酸素を求めて口を開いたまま目が飛び出んばかりに見開かれた男の亡骸の姿に、耐えきれなくなったのか。顔を青ざめさせていた少年が跪き、床に盛大に嘔吐し始めた。

 

「う”ぉえぇぇ・・」

 

「安心しろ、すぐにお前らも同じ地獄に送ってやる」

 

ドガガガとまた盛大に鳴り始めた銃声の中、それだけを告げ死体を再び抵抗してきた男達の集団へと思い切り放り投げてブチ当て無力化する。

一発一発丁寧に死体に覆い被されて足掻く男達の頭部に弾丸をプレゼントしてやり、ただ一人の生き残りになった少年の元へと歩み寄る。

 

未だに吐き続ける少年はもう胃の中の物もないのか胃液だけを吐き続け、目前に立つ俺の姿に気づき吐瀉物で汚れた顔で俺を見上げ涙を零す。

その姿に憐れみを覚えた俺は―――――――

 

 

 

 

 




気付けばこいつ悪役みたいなムーブしかしてねぇぞ!どうなっちゃってるんですか!?まずいですよ!


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正しき事の為に

誰が悪とか、正義とかどうだっていい。俺は、自分自身が正しいと思った事に力を振るう。俺の邪魔をするなら死ね。死ね。死に絶えろ。



「嫌だぁ・・!死にたく・・うっぷ・・・ぉえ・・」

 

「・・・」

 

向けた銃口の先で震えて蹲り、死の恐怖から何も出て来ないながらも吐き続ける少年の姿に憐憫を覚えた俺は銃口を外し、口を開く。

 

「ケント・フジサワは何処にいる?」

 

「教えたら殺さないでくれるんですか?殺さないで。僕は死にたくない・・」

 

即座に命乞いを始め、足元に縋り付いてきた少年に天井に銃口を向けた俺はマガジン内の弾丸を全て撃ち尽くして威嚇射撃を行う。

 

「喋らなければ死んだお前の仲間の様に撃ち殺す」

 

適当にばらまいた弾丸によって古惚けた木製の天井からパラパラと埃が落ちてきて俺と少年を汚すが、少年は恐怖に目を見開きながら黙って頷き、徐にマガジンを交換している俺の姿に本気を感じたのか捲くし立てる様に必死に話始める。

 

「この廃教会の地下内の一室にいます。だから殺さないで。彼だって僕らの為に戦ってくれてるんです!お願いです!僕も彼も殺さないで――――」

 

「―――協力感謝する。おやすみ」

 

気になる事を話し始めていた少年だったが、恐慌状態に陥った彼の話に付き合う気はなく、左手で彼の首を絞め気道を塞ぎ窒息させる。

 

「かっ・・・!ご・・・・」

 

酸欠により彼が気絶したのを確認した俺はまだ無事な教会の片隅にある椅子へと彼の体を持ち運び、横にする。色鮮やかな金髪を脂汗でびしょびしょにしながら気絶した彼を一瞥し、ジッと自らの左手を見据える。

やりたくもない。未来ある者に要らぬ恐怖を植え付けてしまった事に内心必要な事だったとは言え納得できる筈もなく苛立ちが募るが、仕事と無理やり割り切りこの様な戦いに向いていない子が必死に助命しようとしていたケント・フジサワという男のカリスマともでも言うべき人望に疑念が更に募る。

 

「少年兵なんて何度も見てきた。殺しもした。が、リーダーを守ろうと必死に敵に縋り付く奴は初めて見る。臭いな・・・」

 

決して少年の嘔吐した吐瀉物の事を指しているのではなく、この仕事自体何か作為的なものを元々感じていた俺は、教会内の礼拝用の教団裏に隠された木製のハッチを床に発見し力任せに蹴り砕く。容易くバラバラの木片になって薄暗い地下に続く階段上に散らばり埃が立ち込めるも、構わずにSCAR-Hを構え前進する。

カツカツと階段を踏み鳴らしながら、地下へと降りて行き奥へと続く薄暗い狭い地下道内でアサルトライフルを構えた艶やかな黒髪を背中まで伸ばした偉く扇情的な体型をした白尽くめの少女が鋭い目で此方を狙っているのを確認した瞬間に俺は階段を下りた先にある通路の窪みへと背中から張り付く。

 

「敵を補足しました。攻撃体制に移行します」

 

「チッ!」

 

ばれていない事を祈っていたがそもそもあれだけ盛大に射撃戦をした後でばれないという事が可笑しく、当たり前だろうと内心楽天的に考えていた事に舌打ちが漏れ、早速正確無比な弾丸が窪みのすぐ手前の壁を削っていくのを壁越しに見ながら口元の渇き始めた血をぺろりと舐める。

独特の鉄臭さに雑念を強制的に振り払った俺は、己の防御力に今一度信を置き、突撃する。

 

窪みから、一足で飛び出し、両手で構えたSCAR-Hを走りながら射撃し、少女に詰め寄るが少女も俺の行動を読んでいたのか的確な射撃で俺の頭部へと集中した銃撃を行い絶え間なく飛来する弾丸に恐怖心を煽られるもバトルマスクが無慈悲に少女の弾丸を弾いて行く事に安心感を覚え、左手に弾の切れたSCAR-Hを持ち、彼女に向けて太腿から展開したホルスターパーツからオート9を引きずり出し引き金を引く。

 

「あっ!・・くっぅ・・!」

 

少女の右肩と張りに張った豊満な右乳房に着弾し、その白い衣装を血で汚していく。苦痛に一瞬怯んだ様子を見せるも、即座に立て直し更に苛烈になった頭部への銃撃に今度は俺が蹈鞴(たたら)を踏み、呻く。

 

「ぬぅぅ・・!」

 

「標的をもっと、正確に狙う!」

 

苛烈になった銃撃の成果が表れたのかバトルマスクの左目から頬にかけての部分が遂に壊れて砕けてしまった。

 

「なに?!」

 

この事実に驚愕した俺は大分近寄っていた彼女へと勢いを殺さずにタックルを見舞い縺れ合う。このまま銃撃されれば流石に死ぬ危険性が出てきた為に悠長に出来ない為彼女の副部へと馬乗りになり両手の銃を放棄し彼女の両手首を掴み取り、床へと磔にする。

 

「ハァ・・!ハァ・・・!冷や冷やしたぜ全く」

 

取りあえずの形で無力化した彼女の顔を覗き込みながら独り言ち、悔しげに唇をかみしめる彼女の強気な表情から戦意がまだ衰えていない事を確認する。抵抗する様に身を捩るが、俺の義肢の馬鹿力はその程度の抵抗では拘束を解けず、体を捩る度に彼女の豊満な乳房がブルンブルンと左右に暴れる。その様子に一瞬気を取られてしまうも、抵抗を止めさせるべく声を掛ける。

 

「抵抗は止せ。お前の負けだ」

 

馬乗りになったまま年若い彼女の顔を覗き込みながら吐き捨てるが、平時だったら事案物だろうが今は戦時でこいつは暫定敵。何もこの状況に問題はない。彼女の衰えぬ戦意を削ぐ為に右手のブレードを展開し彼女の顔横スレスレヘ突き刺す。踏み固められた土の上に突き刺さったブレードについに抵抗を止めた彼女が眉を顰め怒りのままに、俺を罵倒する。

 

「この獣!私の体を好きに出来ても心までは奪えはしませんよ!」

 

「お前にとっては嬉しいお知らせだ。俺は男として死んでる。良かったな。っとそうじゃなくてだな。ケント・フジサワは奥だな?」

 

何を勘違いしたのかこのまま俺に犯されるとでも危惧していたであろう彼女に思わず律儀に返事をしてしまい、彼女に尋ねる。

 

「・・・」

 

途端に無言になり、口を噤んだ彼女の姿にこの先に居る事を確信した俺は彼女の拘束を止め床に落とした彼女の銃と自分の銃を拾い、馬乗りを止め立ち上がる。

唖然とする彼女に、オート9を太腿が部分展開したホルスターへと納めながら無言で右手を伸ばし差し伸べる。

 

「何故止めを刺さないのですか?」

 

「良いから立て」

 

訝しげに尋ねる彼女の姿に強引に彼女の手を取って立たせて彼女の持っていたアサルトライフルを押し付ける。

 

「俺は殺しには来たが、この反乱には疑念がある。故に奴には聞かなければならない事が出来た」

 

「あなたは治安維持部隊の回した傭兵ではないのですか?」

 

「いや、事実そうだが、俺はここの地区の指揮官に俺の指揮権を渡している契約の筈だ。あの隊長ではない。だからこそ確認しなければならない。今何が起きているのか」

 

話している途中に左目のバトルマスク越しの割れた視界から見慣れた血がツーと俺の左目の視界を汚し俺はそれを左手の指で乱暴に拭う。

 

「では、あなたは敵ではないのですね・・?」

 

「そうなるかもしれないし、ならないかもしれない」

 

それだけを残し、奥に続く通路の先にある古臭い裸電球で照らされた木箱が積まれた部屋へと目指し歩きながら困惑する彼女に額の皮膚が裂け流血しているのも拘わらずに告げる。

 

「良い腕だった。出来れば次は戦いたくない」

 

 

俺に銃口を向けるべきか悩みながら付いて来ている少女を背に俺は前へと進み続けた。

 

 

 

 

 

 




ダーイ!ダーイ!ダーイ!(暗黒盆踊りリーパー)


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真相

一言だけ、スコーピオンに迫られる夢を見た。死にたい。俺は・・・95式やFALの様な子の方が好みなのに・・・

※スコピッピも勿論好きです。変なところ触って蜂の巣にされてぇなおれもなぁ・・・



「先程の質問に答えて貰っていません。なぜ、私に止めを刺さずに武器を手渡したのですか?」

 

むっとした表情で躊躇いがちに銃口を向けてきた彼女に振り返り、一瞥した後に退きそうにない彼女の姿に根負けし話す。

 

「もしだ。ターゲット、つまりケント・フジサワが()()()()()()()()()()()()()()()今回の反乱に加担していた場合、俺は治安維持部隊の依頼を果たす気がないからだ」

 

「つまり?」

 

「反乱勢力の防具が明らかに粗雑で寄せ集めの物で埋め合わせたようなのも一点、そしてお前の反応だ」

 

「え?」

 

「俺を鉄血側の人形等と呼ばなかった点だ。先程俺がお前を犯すと思っていた発言から確信したが俺を人間と見なしたな?」

 

「確証はありませんでしたが・・指揮官から聞いていた派遣されている傭兵の容姿と一致したため、そう判断しました」

 

「間違いないな・・・あの偉そうにふんぞり返っていた治安維持部隊の隊長が俺の容姿を知ってたんだ。指揮官が知らないはずはない」

 

 

再び額から滲み出てきた血を左手で拭い、床へと払い捨てマスクの欠けた左視点とHUD越しに見える右の視点に違和感を感じながら木箱の積まれた一角へと辿り着いた俺は裸電球で照らされた薄暗い地下室内の質素なテーブルに置かれた紙製の市街図を見ながら此方へと視線を向けた画像通りの姿をした指揮官、ケント・フジサワに声を掛ける。

 

「お前がケント・フジサワだな。俺の質問に答えろ」

 

「君は・・そうか、95式は君に負けたのか。彼女を殺したのか?」

 

「いいや、生きてる。俺の後ろにいる」

 

俺の2mちょいはある身長のせいで後ろにいた彼女が見えなかったのか的外れな質問をしたために一歩横にずれ、彼女の姿を確認させる。

 

「さて、何が聞きたい?治安維持部隊に裏切られた哀れな指揮官にこれ以上何をやらせたいんだい?」

 

自嘲気味に吐き捨てたケント・フジサワが忌々しいと言わんばかりに俺に投げやりな態度で俺の手に持つ銃器を指刺す。

 

「それとも、それで片を付けてくれるのか?反乱を起こした首謀者として俺を殺すのか。治安維持部隊の暴虐無尽な弾圧に立ち上がった市民をも皆殺しにして、次は俺か?」

 

「やはり民兵だったか。練度もない。装備も最低限。予想は出来ていたが」

 

「知っていて殺したのか!?」

 

「確信はなかった。それに俺に自身の身を守るなと言いたいのか?」

 

「それだけ強ければ、殺さずに無力化できたはずだ!彼等は何の罪もない市民だぞ!?」

 

憤慨しながら俺へと詰め寄るケント・フジサワの態度に冷ややかな冷笑を零しながら俺は吐き捨てる。

 

「言いたい事はそれだけか?」

 

「言いたいことはそれだけって・・お前、人が死んだんだぞ!?」

 

「武器を持ち戦地に立った時点で立派な兵士だ。それがどんな理由であれな」

 

掴み掛らん勢いの彼の白い指揮官服の胸倉を強引にこちらから掴み上げ顔を寄せ怒鳴る。

 

「甘ったれたこと口走ってんじゃねぇ!!!」

 

「何だと!!!」

 

「テメェは指揮官だろうが!!部下が・・お前に付き従う奴が死ぬ覚悟も出来てねぇのか!?お前の為ならと、彼女も!あいつらもお前の無念を晴らすために命掛けて戦ったんじゃねぇのか?!」

 

必死に効きもしない弾丸を俺の装甲へと当て何とか倒そうと奮戦していた彼らの殺害した場面を想いながら激情のままに怒鳴り散らす。

 

「君のデータは本社から送られてきて理解していた!だからこそ彼らを無力化して此方に向かうだろうと思い、配置したんだ!!それを君が殺した!!!」

 

「戦地で出会って敵意を持った者同士が戦うのは過去から延々と続く不文律だろうが!!それを俺が強いから手加減して無力化してれば彼らは死ななかった筈だぁ!?」

 

きつく握りしめた胸元から親の敵と言わんばかりに俺を睨む此奴の姿に俺は怒りを加速させる。

 

「テメェの甘い打算であいつらが死んだんだ!命を盤面と書類上でしか扱えないなら指揮官なんざ辞めちまえ!!!」

 

殴る価値すらない此奴に反吐が出る想いで床へと放り投げ、甘ったれた発言につい説経染みた余計な発言をしたと後悔し、近くの木箱を殴り壊す。

 

「ほんとに最低の戦場だ。甘ったれの指揮官に裏切り者の治安維持部隊、本社はこの様子なら情報錯そうによる混乱中か?俺一人で食い止めろってのかよ・・糞がぁ・・」

 

予想されている以上に最悪な現状に歯軋りしながら、更に情報を搾り取るべく床へと尻餅をつく甘ったれ指揮官に手を伸ばす。

 

「お兄ちゃんに手を出すなぁ!」

 

手を伸ばすと薄暗い地下室の隅から子供の甲高い声と共に木片が俺の胸部へと投げられ装甲に弾かれる。

 

「こ、これ止めなさい・・!」

 

「お兄ちゃんを虐める悪者なんか僕がやっつけてやる!」

 

よくよく片隅へと目を凝らしてみると幼少の子供達が数人と戦えない如何にもヨボヨボな老人が数名片隅にひっそりと息を殺して此方の様子を窺っていた。先頭に立ち鼻息荒く木片を片手に握った生意気な小僧が老人に肩を掴まれながらも俺へと向けて突撃しようと足掻いている。

 

「非戦闘員・・これで全部か?」

 

「お前、今度は何をするつもりだ!」

 

手に持つSCAR-Hの状態を確認し始めた俺に思わず最悪の想像をしたであろうケント・フジサワが俺の凶行を止めるべく立ち上がり掴み掛ってくる。それをストックで鳩尾を突き、苦悶の表情を浮かべて床に跪いたのを確認し、未だに老人の腕の中で喚くガキへと

歩み寄る。

 

「動かないで!」

 

「お前に俺が撃てるか・・・?」

 

遂に様子を見守っていた彼女・・95式が我慢の限界が来たのか手に持つアサルトライフルを俺へと向け止まるように警告する。その発言に俺は嘲笑しながら返す。

 

「俺を仕留めるつもりならよぉく狙えよ。こんな室内なら俺の装甲で跳弾した弾がどこに行くかも分からんなぁ・・?」

 

「この・・・!」

 

「止めろ。95式・・誰も死なせたくない」

 

俺をずっと睨み続けてくるガキに苦笑しながら見下ろし、尋ねる。

 

「おいガキ、俺が憎いか?」

 

「分かんない。だけどお兄ちゃんやお姉ちゃんを虐めるお前が悪者だっていうのは良く分かる!」

 

「そうか・・良い目をしてる」

 

真直ぐなまでに疑問を挟まずに純粋な敵意を、兄と呼び慕うこの甘ったれな指揮官を守る為に無謀にも俺へと向け続ける子供に、昔に信じていた正義とやら思い出し、非戦闘員を匿ったであろう自分の危険な状況にも関わらず他人を助けるべく行動したのだろうこの若造に少し好感が持てた。立ち上がった市民が、こいつを守る為に自分達の命すら投げ打って俺へと挑んできた事実を加味し、笑みを浮かべる。

 

「くくく・・・俺の無くした物を持ってる奴と出会えるとはな・・・これだから・・・人生は面白い」

 

薄っぺらで不要だと思っていた正義感。戦い続ける日々でその価値が次第に失われ、敵を殺す為なら悪逆非道と言われようと仲間と自分が生き残る為に残虐であろう手も使って来た自分が今更この若造やこの子どもに絆(ほだ)されて、損得勘定を抜きにして()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「なぁ。俺とお前の契約はまだ成立してるよな?」

 

「はぁ?何を言って・・・ああ、まだ何も履行されてはいない」

 

「なら命令(オーダー)を寄越せ・・・」

 

俺の意図を理解したであろうケント・フジサワが神妙にうなずきながら右手を差し出してくる。俺はその手を右手で掴み返し握手する。

 

「改めて自己紹介させてくれ。ケント・フジサワ。この防衛地区の元指揮官だ。治安維持部隊の裏切りに会い、追われている立場だがそれでも協力してくれるか?」

 

「生温い事言うなよ。お前は俺に命令すれば良い。務めを果たせと。簡単だろう?」

 

苦笑交じり左手で頭を掻く彼が人懐こい笑みを浮かべ、俺に命令を下す。

 

「俺の無罪を証明してくれ。犠牲になった彼らの為にも何が何でも俺は、生きなきゃいけない。治安維持部隊を倒してくれ・・!市民を、助けてくれ・・!お願いだ!」

 

「任せろ。俺があいつらを全員地獄に叩き落して来てやる。俺はデッドマン。いや、セイジと呼んでくれ」

 

「それは本名じゃ・・?」

 

「青臭いお前の事が少し気に入った。友人や戦友、親しい人には俺は名前で呼んで欲しくてな。嫌じゃなきゃ頼む。戦友」

 

「!!・・・ああ!改めて宜しく頼む!セイジ!」

 

血を吐くように悲痛な表情で懇願して来た彼に力強く頷き返しがっちり握った手に本来

感触がないのに確かな熱が感じられたような気がした。

 

 

 

 

 

 




たまには感想が欲しいとか思ってないよ。





ケント「そんな傭兵!修正してやる!」

デッドマン「こ、これが若さか・・」


※実はデッドマンの方が年下。


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背負い立て、俺達にはそれしかできない

真面目な小説説明文を遂に投下。現段階では謎でしょうけど、小説内でどういうことなのか執筆していきますので気長にお待ちください。
ぶっちゃけ言うとある程度書いて打ち切るつもりだった作品ですがせめて風呂敷くらいは畳んでから〆る事に致しました。ま、こんな小説楽しんで待ってる奴おらへんやろww


「状況を整理しよう。今ならまだ間に合う」

 

「ああ、その通りだ。俺達はまずはお互いに認識の齟齬から取り除こう」

 

黴臭い地下室の一室でバトルマスクを外した俺は咥えた煙草に火を付けながら睨みつける様にして机の上に置かれた手書きの地図を見やる。

 

 

「随分と傷だらけの顔だな。本社の言っていた通り、激戦を潜り抜けて来たんだな」

 

「俺達の世界は有視界戦が全てだった。要は騎士同士の様な昔の古くせぇ殴り合いが多かったんだよ。例外はあるがな・・・」

 

煙草の煙を吹かせながら手持ちのメディキットでテキパキと自身を治療している95式の姿を心配そうにチラ見しながら、マジマジと俺の顔を見て頻りに顎を摩るケントの言葉に当たらずも遠からずな曖昧な中身を暈(ぼか)した昔話をして部屋の隅ではなくケントの近くで逐一俺の様子を窺う非戦闘員達に声を掛ける。

 

「俺は此奴を殺す意思はもうない。それでも信じられないか?」

 

「いえ!わしらは・・・」

 

「いきなり信じろと言っても土台無理な話だ。それで良い。自分を疑うな。俺は確かにお前達にとっての敵だった。傭兵ってのは金に煩く、生き汚く卑怯。その認識で間違ってない」

 

一旦咥えた煙草を外し、灰を地面へと弾きながら思い切り紫煙を吸い込み心地良い陶酔感に目を細め紫煙をゆっくりと吐き出しながら告げる。

 

「俺の様に裏切る奴も傭兵には多い。まぁ俺の場合は裏切ったのではなく本来の雇い主に戻ったという認識で良いがな。お前達から見たら、治安維持防衛部隊を裏切った様にしか見えんだろうよ」

 

 

俺の言葉に戦々恐々としながら頷き、返事を返していた老人の納得したかのような表情に一先ずの安心感を見て取れ、俺はケントへと向き直る。

 

「さて・・お前は俺の本社から送信された戦闘データを検討して此方に向かうと判断したな。それで無力化してくるはずだと確信したのは何故だ」

 

「非戦闘員や民兵に対しては積極的に交戦しないとのデータがあったからだ。あれは嘘だったのか?」

 

「ああ・・あのVRの状況判断シュミレーターで取らされたデータ群か・・。いや間違いない。俺は民兵なら戦闘するつもりは自衛程度に止めるつもりだった」

 

ケントの言葉に傭兵登録前のVR筐体を使って取らされた各々のシチュエーションからどのような行動をするかを判断させられた変な訓練を思い出し肯定する。ジムが泣きそうな顔で必死に記録をまとめ上げてたのを思い出し頬を指で掻く。義肢の指の力が強すぎたらしく、頬を走る熱を持った痛みに顔を顰める。

 

「待てよ・・・セイジ、治安維持部隊は君に敵対勢力についての詳細情報は通達していたのか?」

 

「答えはノーだ。俺はターゲットを殺せとしか伝えられていない。敵対勢力については何も通達もなかったから自己判断を下した。あそこ迄殺気立った民兵と言うのもまず珍しい。俺からしたらテロリストだと判断して徹底的に叩いた。・・・今思えばそういう点では俺のミスだな。考えれば・・・装備を見てその可能性があったことを無視して殲滅へと走った俺のミスだ」

 

「あいつら・・そこまで腐ってたのか!あいつらの弾圧に耐えかねて立ち上がった市民達だぞ?!」

 

憤慨した様子で机を叩いたケントの姿に煙草の火を左手の義肢に押し当て消火し地面へと放る。

 

「前言撤回する。お前は何も悪くなかったな。俺が民兵だと通達されているという点で判断していたなら・・・お前は正しかった。迂闊に殺しに行った俺の責任だ。お前は悪くない」

 

「なんで・・こんな・・・彼らは何の為に・・・」

 

肩を落としてうなだれるケントの姿に平静を装って今回のミスの所在、武装蜂起した市民に虐殺を行ったいう点では俺の一存によるものだと断言し俺のミスとする。正直に内心を吐露すれば、俺の中では彼らは無駄な犠牲だとは思うものの口にはせずに黙る

あそこ迄敵意を持った奴等に果たして俺は知っていたとして戦闘不能程度に追い込んでいただろうか。

多分、俺は何人かは戦意を削ぐ見せしめに惨たらしく殺して民衆の心を折っていたであろう。その事は告げずにケントに寄り添うように彼の肩を後ろから抱く悲しげな表情を浮かべる95式の姿を眺めながら歯軋りする。

 

普段ならしない短絡的であり致命的なミス。そんな有り得ない事態に自身の判断の拙さに反吐が出る想いだった。俺と同じように、頼りになる者はいれど自分達が立ち上がらねばならぬ状況で恐怖を押し殺し、愛する者たちを守る為武器を手に取った彼らを殺したのは俺だ。俺なのだ。俺の何が人間だ・・・。邪魔をするから。目的の障害になるからそんな思いで排除したのは正直否定できない。これでは、俺は傭兵ではなく、本当の意味で兵器に――――

 

 

 

≪そこに隠れている反乱分子に告ぐ!!!直ちに武器を捨て投降せよ!!!!繰り返す!武器を捨て投降せよ!!!!≫

 

 

 

 

不意にそんな大声が拡声器越しに地上から大音量で聞こえたのを皮切りに意識が切り替わった俺は机に置いていたひび割れたバトルマスクを被り直し、背中の連結器と連動して

固定されたのを確認してから机の上にあるSCAR-Hを指さしケントへと指示を出す。

 

「そいつの残りのマガジンとそいつをくれてやる!防衛隊の奴等どうやってか此処を嗅ぎ付けたらしい!俺が時間を稼ぐ!非戦闘員を連れて逃げろ!」

 

「待って下さい!私も残ります!」

 

「非戦闘員を連れて逃げなきゃならないそっちの方が戦力がいる!守りながら逃げる状況だと一人でも人手が欲しい筈だ!俺の方は気にするな!頼む。俺が言えた義理じゃないが守ってやってくれ!」

 

 

壁に立てかけたプルパッブ式のアサルトライフル95式のチャージングハンドルを引き、チャンバーに弾丸を送り込んだ95式が毅然とした表情で参戦を希望するが却下し、ケントや非戦闘員を守る事を頼み、何時もの様に右太腿が展開し姿を現したオート9を引きずり出し、スライドを引き安全装置を外し右手に保持する。

ボディアーマー越しに括り付けたタクティカルベストを素早く外し、俺の言葉に即座に反応し、SCAR-Hを操作し射撃体制に移行していたケントへとタクティカルベストを手渡す。

 

「撃ち方は分かるようだな。残りのマガジンもそう多くはないが、他に隠れられる場所はあるか?」

 

「他のレジスタンスの隠れ家がある。この地下通路から通じてるから道中大丈夫だと思うが・・」

 

「もしその隠れ家が抑えられてたらそっちから敵が来るはずだ。抵抗せずに捕まるわけにもいかないだろう?それに奴等はお前を捕まえた後で後ろの非戦闘員を確実に殺すぞ。お前が、守ってやるんだ」

 

「ご武運を。独りで残して行く事をお許しください・・。私に続いて下さい。絶対に死なせはしません」

 

血の滲んだ包帯で純白の衣装を汚した95式が木箱の裏に隠されていた小さなトンネルへと身を屈め消えていき、それに続くように混乱もなく沈痛な面持ちで続く老人達の姿が小さなトンネルの暗がりへと消えていく。最後に残ったケントと俺へと木片を投げつけてきた子供が残り、俺は急ぐように告げる。

 

「急げ、お前達が行ったらトンネルを木箱で隠す。俺が死んでも時間は稼げるはずだ」

 

「おっちゃん、死ぬのか?」

 

「死ぬつもりはない・・。まあ、念のためだ。そうだガキ」

 

漠然と疑問を口にした生意気な顔をしたまま唇を尖がらせている子供に話す。

 

「お前、もしデカくなって兵士になるなら俺のようにはなるな」

 

俺の膝に届くかどうかの背丈の子供がうーんと唸り、一度大きく頷き俺にこう返してきた。

 

「少なくともおっちゃんよりもっとイイ男になる!!色んな人を助けれるケント兄ちゃんの様なイイ男に!!!」

 

「わっはっは!!それは一本取られたな!!それはいい!!」

 

あんまりな返事に思わず愉快な心持になった俺は大口を開けて笑い声を上げ、膝を左手で叩き、笑いが収まってから子供の目線迄しゃがみ込み子供の柔らかであろう髪を左手で撫でてやる。

 

「さぁ、行きなさい(生きなさい)

 

「おっちゃんも元気で・・・」

 

何度も振り返りながら俺の身を案ずるようにしていた子供が暗がりへと消えたのを確認し、最後に残ったケントが俺へと告げる。

 

「任せた」

 

「任せろ」

 

俺の肩を叩き、微塵も心配して居ないとばかりに振り返る事もなくごく自然に告げられた俺なら突破などされないとばかりに信頼しきった言葉に俺も即座に返し、暗がりへと堂々とSCAR-Hを構え先に消えた95式達へと合流するべく暗がりへと消えて行った。

その姿を確認し、俺は重い木箱をトンネルの入り口に押し付け引きずった形跡の残る地面へと別の木箱を持ち上げ痕跡を隠して踵を返し、教会へと戻る道へと歩き出した。

 

 

 

 

 

 

―――――教会の内部へと戻り、開け切った正面扉から教会を包囲した大多数の治安維持防衛部隊の隊員達が俺へと銃器を油断なく構えている姿を確認し、扉を抜けて俺の姿を晒す。

 

≪これはこれは、傭兵君。依頼は果たしたとみて構わんのだろうね?≫

 

拡声器片手に装甲車のハッチから上半身だけを晒してふんぞり返った治安維持部隊の隊長、フラスゴ・ヴェルニーは教会から出てきた俺の姿にケントを始末したとばかりに思ったのか上機嫌に話しかけてきた。

その姿に反感を覚えた俺は、右手に持ったオート9を奴に向ける。

途端、一挙として俺を包囲するような形になっていた隊員達が今度は明確に俺へと銃口を向ける。

 

≪何の真似だね?これは裏切りと見て宜しいかな?≫

 

「白々しい事を。どうせ確信犯なんだろう?」

 

≪ふん、厄介な奴だな貴様は。まぁ良い。奴はケント・フジサワ側に寝返った。総員構ぇぇぇぇ!!!!≫

 

 

 

 

「俺を殺れるなら殺ってみろよぉ!!!!!雑魚共がぁぁぁぁぁ!!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 




これで打ち切りだったら駄目ですか?www


この反乱編もいよいよ佳境に突入いたしました。あと少しを持ちましてこの作品は終了致します(大嘘)
※ホモはうそつき


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命は投げ捨てるもの。俺の命なんて特に安い

今回のピックアップ残念ながら本命を迎える事はなかったが、大収穫やったぞ?おう冷えてるかぁ~?
★5 PKP、G36C、79式、SR―3MP、K2 ★4 シプカ、★3 M249
どうだ?悔しいか?俺は悔しい。







本命のネゲブとG11来ねぇんだよォォォォォォ!!!!!!!!




弾薬配給グロ画像だぁ!終わり!閉廷!!傷口抉るの止めて解散!!!!!!


治安維持部隊の全員から押し付けられる一体感を伴った殺気に咆哮を上げ奴等へとオート9を構え、憎きニヤケ面を醜悪に歪めて拡声器越しに怒鳴る奴へと弾丸を叩きこむべくサイティングを行う。極度の怒りと興奮からか、全ての俺以外の動きがゆっくりと流れる様に遅く感じる。

何度も激戦を潜り抜ける度に経験したこの現象を俺は、『アクセル』と名付けて頼りにしてきた。このカラダになる前からこの力で何度も危機を脱し、自身と仲間達を救って来た。今までは自分の意思で発動なんかできなかった。医学など齧った位しか知らぬ俺でも所謂極度の集中力が発揮される状態になって発動されるゾーンというものだと知ってはいた。

 

が俺はトップアスリートでも何でもない。ただの死に損ないの傭兵だ。特別な才能なんて何もない。

 

俺だけの能力じゃない。こんな物、あの世界では極々普通に当たり前に使って来る奴等が多過ぎた。それでも、これしか知らない。これしか頼れる力などなかった。

 

だからこそ俺は―――――

 

メリメリと顔中の血管が浮かび上がり、目元周りの血管が激しく脈動するのを感じる。命を、生きている実感を感じる。

 

武骨なオート9のアイアンサイト越しに俺の尋常ではない速さのクイックドローに驚愕に目を見開いたフラスゴ・ヴェルニーのアホ面を眺めながら周りの遅すぎる有象無象を無視し、トリガーに指を掛ける。

引くのは一瞬、余韻は永遠に。その対価はお前の命。それ以外は何もいらない。

 

 

「死ぃぃぃねぇぇぇぇぇ!!!!!!!!!!」

 

 

戦火を広げる者、罪なき者を食い物にして高笑いを浮かべる奴等がこの世で、何よりも憎い。俺の家族を、奪った者達と同じ腐臭しか感じられぬ。その怒りが、憎しみが、怨嗟の声となってエコーが掛った俺の声を更に凶悪に歪め、辺りに伝播される。

何時もの様に、標的にサイトを合わせて発砲。戦場に初めて出てから繰り返し行ってきた憎むべき者達を殺してきた動作を今正に終え―――――――

 

 

あと1㎜トリガーを引けば弾丸が放たれ、奴の醜い面に血染めの化粧を施せたというタイミングに横合いから強烈な銃声と衝撃を受け、思わず苦悶の声を上げる。

 

「がはぁ!」

 

ボディアーマー越しに横腹に訪れた強烈な衝撃に息を吐き出し、それを行った下手人にジロリと殺気が存分に混じった視線を向ける。

銃口の先から朦々と立ち上る煙をそのままに、涙を頬に伝わせながら震える体でM870を両手に構えてポンプアクションを行い、空のショットシェルを排莢し次弾を装填した気弱そうな気絶させていた金髪の少年が、俺へと明確な殺意を持って走り寄って来る。

 

「おじさんの、みんなの仇だぁ!!!!」

 

 

自身も彼より悲惨な同じような経験をしたから分かる。理解出来てしまう。俺は彼にとっては愛した者を奪った憎しみを向けるべき存在だ。死ぬほどに理解出来てしまう。

 

撃てない。

 

反応して構え直したオート9を下ろし、正面から俺へと接触できる距離まで走り寄ってきた彼は殺意をそのままに俺へと銃口を向けM870をぶっ放す。

分かるからこそ、撃てない。撃ちたくない・・・!

 

一発目は至近距離からの銃撃で今までの銃撃以上の衝撃にたまらず教会前の正門の鉄格子に背中からぶつかり、左手で後ろの鉄格子を握りしめ痛みを堪える。

 

二発目はボディアーマー越しにピトリと這わせた跳弾も恐れないという気迫溢れる少年の憎しみに染まり切った顔を見ながらの接射に血液が胃から逆流してきたのか込み上げる吐き気に逆らわずにマスク内に盛大に血を吐き散らし背を、再び鉄格子に激しくぶつけながら仰け反る。続け様に三発、四発と続き―――――

 

―――――カチカチと銃身内のショットシェルが尽きたのにも関わらずにトリガーを引き続ける少年とその直ぐ傍で片膝を付く形で蹲る俺は腹から胸にかけて押し寄せる今まで経験した事のない強烈な鈍痛に脂汗と血を吐き出しながら、義肢のバカ力故にひしゃげた鉄格子を力なく握りしめそれを頼りに立ち上がろうと踏ん張る。

マスク内の髪は額にへばりつき、マスク内の溜まった血液と脂汗が混じりチャプリと首元辺りに溜まり独特の粘着性に不快感を感じるが、立たねば、奴を始末しなければ・・・・

 

 

≪総員撃てぇぇぇぇぇぇ!!!!!≫

 

 

俺が弱り切った様子で片膝を付いているのが奴等には好機に映ったらしく、静観した状態から動きがあり、様々な銃器からの一斉射撃が俺へ向けて放たれる。

 

「うあああああああああ!!!!!!」

 

今までの比ではない弾丸の密度の嵐と押し寄せる桁違いの衝撃に欠けたバトルマスクでは守り切れないと判断した俺は悲鳴を上げながら左手で欠けたバトルマスクを覆いカバーする。幸いショットガンなどは撃たれていないようだが、ギャリン、チュインと義肢の装甲が今まで弾いていた筈の弾丸が見る見る内に装甲を削っていきズタズタに義肢やボディアーマーを引き裂いていく。

 

「AP弾かぁ!!!」

 

装甲を削る弾丸に覚えがある俺はそれの正体に気づき射線から避けるべく右手のオート9を太腿のホルスターにしまい込み空いた右手で鉄格子を掴みこの場から一旦離れるべく立ち上がろうと力を込める。が、足は立ち上がる事を忘れた様に反応がなく沈黙したままだった。

 

「なんで・・・!?」

 

見ればふくらはぎの両脚義肢の装甲が削れ切ってしまい、神経接続バイパスと思わしき部品がむき出しになって激し過ぎる銃火にバイパスの一部が切断されていた。

石製のタイルが敷かれた地面へと俺は奴等に背を向けて崩れ折れ、何とか未だに動く膝上を使って這いずるような形で銃火から遠ざかろうとタイルを両手と義肢を駆使しガリガリと削りながら情けなく地面を少しずつ這いずる。

 

≪跪いて命乞いか!?情けない男だなぁ!貴様は!攻撃の手を緩めるな!総員前進!!!≫

 

振り向けばにやにやと下卑た笑みを浮かべた隊員共が銃器を思い思いに俺へとぶっ放しているのを確認し、怒りが胸中を支配するがどうにもならず距離を離すべく決死の思いで教会から離れるべく敷地内の裏門へと続く道へと這って行く。

 

≪尻を振って誘っているのか!?すまんが儂は男色の毛はなくてな・・まぁ貴様の様な肉片など誰もそそられんだろうがなぁ!≫

 

どっと銃声の大合唱の中でも聞こえる隊員共の嘲笑に唇を噛み締め、徐々に装甲が削られてきて反応が鈍ってきた両手にまだ死ぬなとばかり念じて牛歩の歩みの様にさらに遅くなった進行速度で裏門を目指す。

ふと横にいた筈の少年が気になり、視線を逸らせば血の海を作って正門で安らかな顔で寄り掛かって果てていた。その事実に、血が出る程唇を噛み締め憎しみを押し殺し、目と鼻の先にまで来た裏門へと赤ん坊の様に這いずりながら辿り着く。

 

 

その先には案の定奴等の別部隊が待っていてにやにやと笑いながら裏門に到達した俺を隊員の一人が蹴り飛ばし仰向けに寝そべさせられる。

何人もの下衆野郎が俺を取り囲み、ボディアーマーに集中して銃撃を与え俺を執拗に嬲る。

 

「がああああぁぁぁぁぁ!!!!!!!」

 

遂に装甲を貫通して胴体へと着弾した弾丸の抉られる肉の痛みに悲鳴を上げ、義肢を踏みつけ俺を地面に磔にする奴等へ反撃しようにも義肢の何時もの様な快活なパワーは微塵も発揮せず反応すらしない。その事実に焦燥感を覚えた俺は咆える。

 

 

 

 

「動けよ、動けってんだよ!このポンコツがぁぁぁ!!!!!」

 

 

 

 

 




ああああああ!!!!眠り姫来ない!!!せや!デッドマン苛めたろ!!!(下素顔)


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生存本能

いくらでも、いくらでも俺は待ち続けるぞぉ・・・。眠り姫ぇ・・・・


「なあ、おい!俺達の事さんざん舐めてくれたよなぁ?いい気味だぜロボさんよ?」

 

「何とか言ってみろよ。あれだけ粋がって結局俺達に負けたなぁ?」

 

俺の意思など関係ないと沈黙した義肢に散々動けと念じて生前動かしていた己の手足の様に動かそうともピクリとも義肢は反応せず沈黙を貫いたままで、俺は囲まれた状態から引きずり立たされ膝立ちの状態で両手を片方ずつロクな訓練もしていないと見て取れるお世辞にも鍛えられたと言えない防衛隊の人員の弱っちい腕に拘束される。

マスク越しに怒鳴られ挑発されるが、着弾し負傷した箇所の把握にリソースを割き、奴等の応答に沈黙を貫く。

 

負傷した箇所は貫通した胴体胸部の右下部。そこに数発貰っているらしく熱を持った痛みと出血して負傷個所に異物が埋まっている違和感が押し寄せる。弾丸は肉体を貫通せずに皮肉にも強固な装甲が仇となって中途半端に威力が削がれた弾丸が俺の体に食い込み残留している。浮かぶ脂汗と痛みの波に歯軋りし、俺の眼前でニヤニヤといやらしく笑い続ける隊員達が、反応のない俺に対し業を煮やしたのかストックで俺の顔面を殴打する。

 

「ぶは・・!」

 

ガツンと鼻をマスク越しに殴られ、衝撃に首が仰け反り視界が揺れる。今までの出血と痛みから蓄積したダメージに頭が緩慢としか言えぬ遅さで思考を始める。

 

「おい何とか言ってみろよ。ブリキ野郎」

 

「・・・まるでテメェのフニャチンみてぇな殴打だぜ・・思わず・・・欠伸が出る」

 

何度目かによる煽りに俺はギリギリと異音を発して緩やかに動き始めた右手の指を中指を突き立てた姿勢で固定し挑発し返す。ジクジクと熱を持った胸の痛みに歯が折れそうな程噛み締め耐える。

此処で俺が死んでも次の奴等が、マック達が上手くこの事態を収拾してくれるだろう。俺は何時もと変わらず、前を見据えて死ぬ。

 

本当に?俺は死ぬのが怖くないのか?やれることはもう何もないのか?やり残した事は?

 

突如として不意に現れた胸中の吐露に自身で困惑しながら、目前で怒鳴り散らす隊員の姿を虚ろに眺めながら思考へと意識を傾けてみる。

 

 

何時もそうだ。死ぬのは怖くないと嘯き(うそぶき)ながらも、心底思ったんじゃないのか?死にたくないと。何かやり残したんじゃないか?

 

―――死ぬのは怖いし、何も残せずに死ぬのも嫌だ。誓いはまだ何も果たされていない。やり残した事なんて山ほどある。マックの奴の女にしか見えない顔が、俺の手料理を食べて優しさのある温かい味だとあの無表情が綻んで喜ぶ姿がもう一度見たい。スケイルにだって返しきれてない恩がある。最後まで俺を見捨てなかったあいつに

俺はまだまだ恩を、礼を返しきれてない。ヘルドックにおかえりって抱き締められてもいない。フロッグの曲芸だってまだ、このカラダになってから一度だってない。俺の仲間全員にまだ会ってない。

 

 

ああ、俺が死んだらマックはボロボロと涙を零すのかな。ヘルドックには何時も通りに俺が死体になっても頬にビンタを食らうのかな。それで後から一人で部屋に閉じこもって泣くんだろうな。何時もみたいに。スケイルは泣かないだろうなぁ。きっと俺の遺志を継いでくれる。俺のやり残した任務を完遂してくれるんだろうなぁ・・・。そんで墓前に報告に来てくれるのかな、俺の好きなウォッカと煙草片手に・・・。フロッグは笑うんだろうなぁ。殺しても死なない奴ってずっと言ってたしなぁ。嘘だろって質の悪い冗談はやめろって笑い飛ばすんだろう・・・。

みんなにまだ会ってないんだが・・・。

 

明日香にもまだちゃんと話せてない。謝ってやれてなかったなぁ・・・。

 

ぼんやりとそんなどうでも良い事を考えながら、反応のない俺に怒り心頭な隊員の一人が手に持つ銃器の銃口を俺に向けてくる。人の命を奪う物。俺が戦場に立ってからずっと相手に向けて来た物。向けられた回数なんて数えきれないし向けた数も覚えちゃいない。だけど俺にはそのありふれた光景が酷く心をかき乱した。

 

―――死ぬのか?やっと俺は死ねるのか?

 

もう休める。もう戦わなくて良い。もうこれ以上自分の心を壊さなくて済む、やっと楽になる。そんな思いを胸に哀れな白髪のやつれ切った老人の様なみすぼらしい姿をした俺の心とまだ任務は終わっていない、まだあいつらの陰に怯え虐げられる者達に手を差し伸べられていない。超帝国主義派の連中の悪行を、暴走を止めていない。殺し尽くしていない。そんな義務感とも使命感とも何とも言えないものを翳した目だけが異様にギラついて痩せ細って顔の骨格が浮かび上がった俺の姿をした心が争っているのを幻視した。

 

人だかりが割れ、中から丸々太った腹を惜しげもなく左右にリズミカルに振りながら歩いてきたフラスゴの姿を眺めながら幻視した俺達が遂には現実まで進出したのか、隊員達の真ん前で争っているのに誰も気づいておらず二人の俺は殴り合いをしている。

 

老人の様な俺は元々死んでた俺が生きてるのが可笑しい、死ねる内に死のうと叫びもう片方を殴り、ギラついた目

の俺は私の様な者を生まない為に、武器を取り立ったのではなかったのか。自身の欲望のままに楽になりたいがために死ぬのは愚者の教えだと老人の様な俺を蹴る。

 

その光景を眺め続けている俺は目の前で煙草を吹かせて煙を此方の顔面に吐き出してきたフラスゴの姿に今の状況を思い出し、現実へと引き戻される。

 

「情けない格好だなぁ?えぇ?傭兵」

 

「ああ、そうだな・・・」

 

フラスゴの言葉にも適当に返事を返しながら目の前で争う二人の俺の姿がどうにも気になり目で追ってしまう。

 

老人の俺は楽になりたいから死のうと、目がギラついた俺は愛すべき者の悲劇を再び生まぬ為に私は戦場に立っただろう。誓いを忘れるなと遂には殴り合いを止めてフラスゴの左右に立ち俺を見下ろし叫ぶ。

 

『俺も早く家族の元へ行きたいだろう?なぁ、もう疲れたろう?もう苦しみたくない、痛みも怒りだってすべて忘れて横になりたい。それで良いじゃないか!』

 

『始めたのは奴等だ。それは変わらない事実だ。胸に抱いた誓いと義務を忘れて楽になるのか?死んだ戦友達の思いは?この怒りと憎しみの矛先を向ける奴等はまだこの空の下でのうのうと暮らしているぞ!任務を果たせ!兵士よ!!』

 

「哀れだなぁ、儂がガキの頃に足を引き千切って遊んでいたアリのようではないか?ん?」

 

『血も繋がってない、あそこまで勝手に育った明日香なんか放って、本当の家族の所へ・・』

 

『義妹を救ったのはただの自己満足の為だったのか?最後に残った良心のかけらだったのか!?兵士として、一人の人間として弱き者を守る為に義憤に駆られて行った行為ではないのか!?』

 

『この世界は地獄だ。リサも、父さんも母さんもいない。何で俺だけ残して逝ったんだ。痛いよ。苦しいよ。寂しいよ・・・』

 

『思い出せ。最初の心を、最初の願いを・・・。何時だってそこにお前の原点がある』

 

嘲笑を浮かべて煙草の灰を俺のバトルマスクの頭へと振りかけるフラスゴの姿に怒りも湧かずにギラついた目の俺の言葉に耳を傾け、自身の心の内へと没入する。さいしょのこころ・・・?

 

 

 

 

 

 

 

【ぼく、おおきくなったらお父さんみたいなみんなをまもれるようにつよくなる!おとなになったらおとうさんのようなりっぱなけいかんになるんだ!】

 

【ハハ、お前なら成れるさ。俺と母さんの息子だ。セイジ、覚えておくんだぞ。お前が大きくなったらきっと色々知って学んで辛くなるだろう。そんな時はお父さんが言った言葉を思い出しなさい】

 

【他者の痛みと苦しみを知りそれを分かち合い背負えるような大きく、強く、優しい人になりなさい】

 

【むずかしくてわかんないよぉ!】

 

【うーん、まだセイジには早かったかぁ】

 

【けど、つよくやさしいヒーローになれってことでしょ?】

 

【ふふふ、そうだな。そうなってくれよ。セイジ、おとうさんが困ったら助けてくれよ?】

 

【うん!!】

 

 

 

 

ヒーロー・・・・・・・強く優しい人になれと、父が言っていた。俺もそれを目指した。今はでもどうだ。父の言う姿からかけ離れた憎悪に駆られた姿は父が見たらなんといって嘆くか。ヒーローの様に戦友たちを救えなかった。家族だって守れなかった。取り零してきたものはいっぱい、いっぱいあった・・・。後悔もした。何度だって心折れそうになった。それでも、そのたびに父との約束を思い出しここまで来たじゃないか。

 

この世界で目覚めてから、このカラダになってから初めて、俺の心に火が灯った。憎悪の心と恐怖を撒き散らす何時もの俺じゃない。初めての意味で『ヒト』としての俺が目を覚ました。

 

・・・・そんな気がした。けど思い出した。お父さん、あなたの言葉も忘れる様な馬鹿息子ですが、どうか天国から見守り下さい。この世界で、このカラダで、かつて目指した人間になってみたいと思います。

 

 

貴方の様な強く優しい男に。

 

 

 

 

 

 

 

≪被験体の戦意増大。『ヒト』としての目覚めを検知。左大腿部のロックを解除。及び、神経バイパスをメインからサブへ移行≫

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




今までの作風と違うとか思うだろうが中身は一緒やぞ?w


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心起

今ここで、かつて貴方に憧れ誰かを救える様な男になりたくて・・だからこそ現実の辛さに狂いそうになった。もう立ち上がれないと何度も心折れて死んだ心で復讐を望み敵は皆殺し、恐怖を振り撒き、仇を求めるのは変わらないでしょう。それでも、俺はあんたと同じように誰かを救うためにもう一度、戦うよ。今度は自分の心で求めたものをもう一度夢見て。

必ず、俺は貴方に誇れる様な男になるよ。守りたい人達がいるんだ。帰りたい場所があるんだ。みんな、だからもうちょっとだけ待っててくれ。俺はきっとみんなと同じ場所には逝けない。分かってるけど、もうちょっとだけ抗ってみるよ。

一人の人間として。


バトルマスク内、いや、脳内で囁くように告げられた言葉に一瞬耳を疑い、機械的な音声が告げた内容を噛み締める様にじわじわとその意味を理解して向けられた銃口をなにも恐れずに、今までの荒れ様が嘘だったかのような平静な心境に溜息を一つ小さく付く。

 

悪運、だけは・・昔から変わらずあるんだな。やはり『私』は。キチキチと何かが義肢内で蠢く小さな音を聞きながら私は何時までも拘束されているままにもいかずに緩やかに手足に力を込める。

 

「ん?なんだ此奴急に力が・・」

 

「おい、大人しくしてろ!今なら楽に殺してやるからよ!」

 

私を拘束する治安維持部隊員にも目もくれずに先程迄の沈黙が嘘の様に素直に駆動する義肢の反応に思わずマスク内で破顔し私を押さえつけようと必死に体を使って拘束する彼らを眺めながら徐々に立ち上がる。左腕を抑えた隊員が顔を赤らめながら必死に私の動きを阻害しようとするが無駄な行為だ。

 

「テメェ!死にたいらしいな」

 

「いや、私はもう死んでいるよ」

 

「はぁ!?」

 

正面からアサルトライフルを向ける隊員が唾を飛ばしながら恫喝するのに返事を返し、左腕と右腕に張り付いていた隊員を両腕を振り上げて思い切り下ろし、吹き飛ばす。

 

「ぐあ!」

 

「いでぇ!」

 

徐に立ち上がり、そそくさと隊員達の後ろへと隠れたフラスゴの姿に興味も湧かずに放っておき、左手のひらを左大腿部へと伸ばし、右大腿部と同じ様に展開したソレの内部へと手を伸ばし中身を引きずり出す。

 

「おい・・・なんだよそりゃあ・・・」

 

「さて、な。私も初めて使う。ただ・・・楽には死ねるだろうさ。苦痛もなく」

 

左手の義肢に掴んだ余りにも巨大なマグナムとも言えない様な回転式弾倉のリボルバーに目を細め、繁々とそれを眺める。黒光りする武骨な銃身には炎を模した様なレリーフが各所に散りばめられ、それと相まって見事な調和を成す一つの銃器としての力強さをフォルムに感じ、芸術品としても遜色ない見事な造形美に溜息を思わず漏らす。

 

「あぁ・・美しい」

 

地面へ投げ飛ばした隊員二人がノロノロと立ち上がるのを尻目に私はその銃を正面でアサルトライフルのトリガーを引きだした隊員へと向ける。

 

「なんで!当たってるのに!血も出てるのに!!!」

 

彼の放つ弾丸に私のアーマーの装甲が遂にひび割れ、弾丸を通すが痛みをあまり感じずに血が噴き出る感覚はあるものの私はそれを無視し彼に弾丸を放つ。

 

ドゴォンと大砲でも発射したかのような騒音に一同身を竦め蹲りだしたが私にはその音が福音に感じられた。私を、漸く長い眠りから覚めたお祝いとでも言うかの様な爽快な発射音が耳に長く、長く残る。

着弾した場所は隊員の胸だが、当たった場所は炸裂砲でも食らったかの様に見事に爆ぜ、大穴を開け肉片と臓器と血液を辺りに雨の様に巻き散らす。

 

「あの日、ヒトとして私は死んだ。家族を失ってからこの地獄で微睡んで(まどろんで)いた。だが、こんな私を、慕って、愛して待ってくれている者がいる」

 

スケイルの苦笑いした顔、マックの無表情、ヘルドッグの如何にも私怒ってますと頬を膨らませたあの表情。フロッグの馬鹿笑いした顔。

そして、俺の姿が変わろうと受け入れ、泣いて喜んでくれた義妹の涙を零しながら喜んでいたあの笑顔。

 

近すぎて、自分の苦しみが辛すぎて私を友だと、家族だと言ってくれていた彼らを私は見失っていたらしい。

 

力なく仰向けに倒れ伏す隊員の凄惨な死に様に一同が顔を青ざめ、手に持つ銃器を私へと向ける。倒れ伏した隊員の亡骸から血が絨毯のように広がりタイルを汚していく。

 

「救われぬ者達が、いる。戦火に身を焼かれる弱者が、いる」

 

続けて二発近くの隊員を撃ち据え、血の花を咲かせる。一人は頭部が砕けたトマトの様にべしゃりと破裂し、もう一人は下半身と胴体が泣き別れて腸の断片が宙を舞う。

 

思い出されるのは先程出会った子どもと老人達、身を寄せ合い縮こまりながら此方を怯えた目で見ていた彼ら。次は我が身かと覚悟を決め、子供達はどうかと縋り付いてきた彼ら。

 

自分が苦しい中でも彼らを見捨てずに、自分の身すら犠牲の覚悟で立ち上がったケント。そんな彼に付き従う健気な95式の姿。

 

思い出せ。戦火に焼かれ、嘆く者が増えぬ様にと願い戦場に立ったのは誰だ。祖国の杜撰な対応に絶望し、故郷を捨て、国境を越え、独り復讐に走った俺を辛うじてヒトへと押し留めてくれた義務を、責任を、戦友達を思い出せ。

 

 

 

兵士よ。義務を果たせ。任務が私を呼んでいる。(Call of Duty)

 

 

 

「ひ、ひあああああ!!!!!!」

 

私の凄惨な銃撃に恐怖を感じて武器を取り落とし逃げ出した隊員の姿に私は右大腿部から引きずり出したオート9を構え逃げる彼らの背に向けて何度もトリガーを引く。

何時もと比べて反応の悪い義肢に走るのは無理そうだと、自己判断を下し歩きながら倒れ伏し喚く一人にリボルバーを向ける。

 

「いやだ!死にたくねぇ!死にたく―――」

 

「―――そういって無抵抗だった市民も殺したんだろう。彼らを待つ家族がいるのも関わらずに。故に私は、貴様に掛ける言葉は一つしかない」

 

 

 

「Die in Darkness!!!」(絶望の中死ね)

 

 

 

足元で倒れ伏す男の情けなく鼻水を垂らして意味も無く何事かを泣き喚く男を肉片へと変えてやり、侮蔑の意味を込めて左手のリボルバーをガンスピンを行い大腿部に収納し、空いた左手で自らの首を親指で掻き切る動作を行い地面へとそのまま親指を振り落とす。

 

「治安維持部隊とは名ばかりのチンピラ共が。私は正義などとは口が裂けても言えぬが、貴様らはただ、藁のように死ね」

 

逃げ出した全員をすでに撃ち抜いて地面へと倒れ伏しているのが解っている私は、一発一発丁寧に奴等を葬り、蹲って黄色い水たまりを作って腰を抜かして後ずさりするフラスゴの前に仁王立ちする。独特のアンモニア臭にひび割れたマスクから流れ込んだ臭気に思わず顔を顰める。

 

「そんなはずは・・!なぜだ!なぜそれほど撃たれて立っていられる!?貴様不死身の化け物か!?」

 

「人間だよ。普通より、ただ死に難い哀れな・・・生き残りさぁ!!」

 

空いた左手でフラスゴの頭部を殴打し、自ら作った小便の水溜りにばちゃりと顔面から沈んだフラスゴの背部から服を引っ掴み、引きずりながらマスクの通信機能を立ち上げようと念じる。

が、ノイズが混じった音のせいで何も聞こえず、又、カリーナやジムに繋がった状態にもならずに困惑する。

 

「どういう事だ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

「みぃつけたぁ♡」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




戦地での激務のせいか背後から忍び寄る影に不幸にも追突してしまったセイジ。影が命じる示談の条件とは!?


???「三回回ってワンって鳴くんだよぉ。あくしてよぉ」(田村ゆかりボイス)

セイジ「ワン!ワン!ワァン!!(迫真)」

※こんな展開は訪れません。


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私と俺

予想外にわんこにわんこの真似させられるデッドマン見たいようだなおぬしら・・(困惑)
思わず、き、貴公・・!って言葉出たわいww
あ、それと前回の前書きはセイジの心情ね。


突如真後ろから聞こえた鈴の鳴る様な声に乗った純粋な殺気に慌てて振り向き右手のオート9を声の主へと向け尋ねる。

 

「何者だ」

 

「これから死ぬ人形には必要ないでしょお?」

 

此方の質問には答える意図はないとばかりに手に持つアサルトライフル・・見るにかなりカスタマイズされたゴテゴテとしたM4系列のアサルトライフルの下部に付いている独特の形状の小型榴弾砲に私は目を見開き、それを今正に撃とうとしている彼女の姿に戦慄する。反撃する余地もなく、色素の薄い金髪に赤いメッシュが入った笑顔の可愛らしい少女がグレネードランチャーを私に放ってきた。

寸分違わずひび割れたアーマーの胸部中央に着弾した40㎜グレネード弾に世界が炎の赤一色に染まり、仰向けに私は地面へと倒れ伏す。着弾した瞬間に感じたのは今まで経験した事のない想像を絶する衝撃と一瞬で広がって収縮する炎の炙られて焼ける皮膚の痛み。内臓がこれでもかと言わんばかりに激しく揺れ動いたのを感じ、地面に伏した私は押し寄せてきた痛みと逆流してきた血液を力なく吐き出す。

 

「ごほぉ・・」

 

「キャハハ、鉄血の普通の人形と違って本当に人間みたいな反応するんだねぇ!ハイエンドでも珍しいよぉ?」

 

噴水の如く吐き出した血によって私の顔面が生暖かく湿りマスク内で浅く息をするだけが精一杯で彼女が何かを喜びながら言っているが、それも先程の爆発音で耳がイカレたのか良く聞こえない。

 

「じゃあ、簡単に壊れないでね?いっぱい、いっぱい悲鳴を聞かせてから壊れてよねぇ」

 

横たわる私の直ぐ傍に寄ってきた彼女は徐にリロードが済んだグレネードランチャーを私の左腕へと照準を合わせて放ってきた。

 

「がはぁ!!」

 

再び訪れる爆炎と衝撃に彼女から離れる様に転がり、全身の力が入らずにまた仰向けに倒れた姿勢で私は首だけを動かし、グレネードランチャーの直撃を受けた左腕を見やる。

肘から腕の先が見事に爆発の衝撃で引き千切られたらしく、バチバチと上腕部の破損個所から電流の青白いパルス光が点滅し、火花を散らす。

 

その様子に私は、左腕で済んで良かったと思い、力の入らない全身を叱咤して立ち上がらろうと体制を変えて右腕を支えに膝立ちの状態へと変える。

 

≪被検体の意識レベル低下。警告。人工心臓の損傷を検知。直ちにメディカルスタッフに申告し治療を受けてください≫

 

脳内で囁く機械的な音声に通りで力が入らずに息苦しい訳だと納得し、最早怪我をしていない場所はないのではないかというほどのボロボロの全身と損傷だらけの義肢の姿に惨めな物だと感じながら激しく笑う彼女へと睨みを利かせる。

 

「ぐぅ・・!」

 

「当たらないよぉ?」

 

膝立ちの状態で右手のオート9を彼女に向けて連射するがどういう事か彼女の顔面を目掛けて撃っているのにオート9の弾丸は彼女の髪を揺らすだけで一発も彼女へと届きはしない。

 

≪警告。意識レベル低下による照準システムの補正激減。腕部義肢とのシステムとのリンクが切断状態。警告。警告。警告。ダメージレベルが生存に影響が著しいレベルを超えました。戦闘を止め直ちに帰投して下さい≫

 

機械音声の冷徹な知らせに歯噛みし、今まで自分の腕で撃ってきたものだと思っていたものは機械の補正によって齎されていた驚異的な命中精度だった事には今更何とも思わないが、ここ一番の肝心な時に役に立たないオンボロに舌打ちを一つ零し、右大腿部へとオート9を何時もの様に収納する。

 

「もう抵抗をやめちゃうの?」

 

つまらなそうに溜息を零し眉をハの字にして悲しげな表情をする彼女に私は無言で右腕義肢に内蔵されたブレードを展開し、立ち上がる。ジャリンと右腕の甲から突き出したブレードの状態を視認し、折れや欠けがないのを確認し正面に水平に構え、早歩きで彼女へと向かう。動くたびに胸部を走る激痛に意識を割かれながら、衰えぬ戦意をそのままに彼女を倒すべく立ち向かう。

 

「そうこなくっちゃ!」

 

 

 

 

 

貴様は私が止める。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

温かく柔らかい布の感触に包まれ、『俺』は微睡んでいた。白い清潔感溢れるベッドの上で押し寄せる激烈な疲労感と倦怠感に全身を包まれ、周りでざわめく声に意識を落していた俺は覚醒し、目をゆっくりと開く。

 

「・・・」

 

「指揮官!彼が目を覚ましました!」

 

見開いた目に映り込む光景は見知らぬ天井に此方を覗き込む95式の嬉しそうな声音で誰かを呼ぶ声と、辺りの一層五月蠅くなった喧騒。首を傾け辺りの様子を確認してみるとそわそわと落ち着きなく室内を行ったり来たりしているスケイルの姿と、椅子に座って転寝している明日香の姿に、ジムが端末を弄りながら必死に何かを入力している様とカリーナが明日香の肩によりかかりよだれを垂らしながら寝ている光景だった。

 

咄嗟に起き上がろうと手を動かそうとするが動かす筈の手は動かずに、何の反応も帰って来ない。その事実に、あれだけ派手にぶっ壊せば修理も間に合わないかとぼんやり考えながら肩から先、そして股間周辺から下の重みが全くないのを冷静に考え天井を眺め続ける。

 

負けたなぁ。

 

状態が最高に近い状態ならきっと俺が勝っていただろう。あいつを殺しきっていただろう。そして意識が落ちる間際に聞こえたあいつに静止を呼びかける別の少女の声。誰だったのだろうか。

 

そして心臓をぶち抜かれたはずなのにまた俺は生き延びてしまったらしい。ここまで死に難いのも、ここまでくると呪われているんではないかとすら思ってしまう。ふと視線を胸へと下げて見れば様々なチューブがぶち抜かれた胸部の傷をそのままに抉り取られて見るからに痛々しい傷を通り体内に酸素、血液を直接機械を使い送り込んでいるらしく、しばらくベッドの上で拘束されている事が確定し舌打ちを一つ打つ。

 

忌々しい事に麻酔でも効いているのか傷の痛みも疼きもない。

 

よくよく様子を確認してみるとマスクも外され、今は医療用の酸素マスクが俺の口元に宛がわれており一層鬱陶しく感じる。あんだけ久々にガチで殺し合ったんだから煙草の一服ぐらいしたい。けど腕も足もない。この最高の芋虫状態がしばらく続くのかと想像した瞬間に俺は死にたくなった。

 

「セイジ、目覚めたか」

 

「・・また死に損なったな」

 

俺が目覚めたのに気付いたスケイルが俺の傍により、俺を覗き込む。

 

「そう言うな。今回の件だが、俺も悪かったな。だがあそこで救援の依頼を受けていなければ俺達はG&K社との提携が切られていた」

 

「知ってるよ・・。だから文句は垂れ流しながらも行ったんだろうが・・」

 

「ジムから義肢の状態を聞いた。出撃前で本来のスペックの40%しか発揮できない状態だったそうだ。・・・100年の経年劣化だ。コールドスリープも無機物には効果がなかったらしい。俺も初めて聞くがな」

 

「100年も眠りこける奴なんか普通はいねぇからな。だからたかが小口径ARのAP弾があんなに易々と貫通した訳だ・・・」

 

改めて聞かされた話に杜撰すぎる俺の状態に苦笑しか出ずに笑い声を小さく漏らす。

 

「ははは・・ならあのままくたばりゃ楽だったろうに。あの野郎、俺にまた押し付けて微睡みやがった・・・」

 

「あの野郎?」

 

「何でもねぇよ・・」

 

訝しむスケイルの今日も見事に光る禿頭に何でもないと突き返し、微睡んでいるであろう『私』の精神に脳内で言葉を叩きつける。

 

(いい加減出て来いや。俺はテメェの強い部分でもあり、醜い部分だ。押し付けるだけなら一生寝てろ。別にテメェは死んだんだからな?俺が生きてたって問題ないだろう?)

 

俺の詰りに無言と無視を決め込むもう一人の俺自身に舌打ちをし再び天井を見上げて呟く。

 

 

 

「何時になったら俺達は楽になるのかねぇ・・・」

 

 

 

 

 

 




釈然としないながらもとりあえずを持ちまして反乱編は一旦の締めに入ります。後は細々とした状況整理とかの描写なのでそれは後程と言う訳で、デッドマンが全快後にコラボを絡めたストーリー進行を予定をしております。


あ、あと描写サボったんではなく中途半端に熱を持った状態から、次は本当の意味の本気のデッドマンが暴れますので所謂これはゲームで言うところのチュートリアルです。楽しみにしてる人がいるかはわかりませんがこの作品はまだまだ続きます。

???「はやくぅ!鳴けよぉ!」

作者「ワン!ツー!スリー!フォオオオオオオオ!!!!!」

???「きちゃない。死んじゃえばぁ?」

作者「あ、そうだ。(唐突)デッドマンのバトルマスクのイメージが気になる人はproject:Jinで検索してみてくれ。あれに赤い塗料で嘲笑う髑髏の面が浮かび上がったものをな」

???「私の出番次はぁ?」

作者「しばらく休み。次404小隊と任務しながら人形集めとかだから」







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結末

特にいう事はないです。しいて言うならこれにて反乱編完結です。


「臨時ニュースです。先週から引き続きC-3地区で起きていた武装蜂起した市民とG&Kの社の治安維持部隊との激しい抗争が先日、GoodSmileカンパニー所属の傭兵並びにC-3地区の防衛指揮官により鎮圧。市民側が勝利し、G&K側の治安維持部隊が超帝国主義派と裏で繋がっていた証拠をケント・フジサワ指揮官が確保しました。これにより治安維持部隊を紛争幇助のテロリストと断定し、現地に派遣されたGoodSmileカンパニー所属の傭兵と結託し市民を弾圧する治安維持部隊を壊滅にまで追いやり、この抗争に終止符を打ちました」

 

TVモニターに映る金髪をポニーテールに結んだ清楚な雰囲気のする若い女性がスーツ姿で抗争の起きた地区の市街地の弾痕が刻まれた壁や建物を背にカメラ目線で報道を行っている。

 

「この抗争を終わらせた功労者の一人であるケント・フジサワ氏とのコンタクトに成功しました。早速インタビューをしたいと思います」

 

マイクを片手に緊張した面持ちの女性が、市民と共に作業着姿で建材を運ぶケントの姿を見つけ駆け足で彼の元へと訪れる。

 

「失礼します。ケント・フジサワ氏ですね?ぜひ一言お願いします」

 

「ん?ああ、レポーターですか。お疲れ様です・・。構いませんよ。ごめん、みんなちょっと外れるよ!」

 

「あいよぉ!ちょっと早い休憩だと思ってのんびりして下さいなぁ!指揮官様!」

 

「分かりましたぁ!お気をつけてぇ!」

 

土汚れや汗で汚れた作業着を纏ったケントがTV越しに額の汗を拭い、一息つきながらカメラの前で堂々と腕を組み荒い息を整えている。ケントの声に復旧作業を行っていた市民達は口々に了解の意を告げて作業に没頭している。

 

「フジサワ氏、今回の抗争、当初は貴方が首謀者として疑われていたにも関わらずに何故市民の為に行動しようと?」

 

「軍人としての義務だからだよ。それと弱き者を守るのはこのご時世には珍しい事だろうさ。だけど例え不利な状況になろうと俺は正しき道を背く事は出来ないよ」

 

「何故です?」

 

「今は亡き両親の墓前に誓ったからです。正しき為に力を使うと、父と母が幼き時から俺に口を酸っぱくして言っていた言葉がずっと俺の胸にあったからです」

 

レポーターのマイクに一呼吸置いたケントが柔らかな笑みを浮かべて自信満々に胸を張りカメラ越しに映る人々へと伝える。

 

「人として正しき行いをしなさい。俺がずっと言われて今も胸の中に生きる両親の言葉です。だからこそ俺は自分の行動を恥に思う事はしない。そして無念の中で死んだ市民の皆さんに今一度追悼の意を表します。それと・・・ありがとうデッドマン」

 

「デッドマン?」

 

レポーターの女性が訝しげな眼で死人に礼なんて何を言っているんだと言わんばかりの表情にケントは画面の中で苦笑し、レポーターにその名前の意味を告げる。

 

「俺の戦友ですよ。GoodSmileカンパニー所属の傭兵のコードネーム。彼は独りで大多数の治安維持部隊を相手に一歩も引かずに自身が瀕死になりながらも戦い抜いた英雄ですよ。本来ならインタビューは彼にこそ相応しいのに・・・」

 

ケントは寂しそうな表情を浮かべ遠くを見据え、又額に浮かび上がった汗を作業着の右袖で乱暴に拭い、溜息を付く。

 

「なるほど、今噂で持ち切りになっている傭兵の名前ですね?」

 

「ええ、今彼は集中治療室で大怪我を治している最中です。次期に元気な姿で現れてくれるでしょう」

 

「失礼ですが一般公開されたVTRを見ましたが本当に彼は・・その・・・人間なんですか?」

 

「誰が何と言おうと、熱い心を持った正しい行いが出来るヒトだ。鋼鉄の体を身に纏い、他者の為に立ち上がれるそんな人間だ。それのどこに疑問の余地が?」

 

「い、いえ・・失礼しました・・!」

 

むっとした表情のケントの表情に怒りを感じたのかレポーターは自身の迂闊な発言を謝罪し、慌てて話題を切り替える。

 

「して、そのデッドマン氏ですが容体の方をお聞きしても?」

 

「前面面会謝絶中ですよ。彼は心臓を失った。予備の心臓が届くまで暫くベッドの上かとげんなりしていたよ」

 

「心臓を失った重傷なのにもう起きてるんですか!?」

 

「彼曰く昔から打たれ強かったらしいよ。打たれ強いとかそういう次元じゃないと思うけどね」

 

「し、失礼ですがまだ戦闘が終了して24時間しか経ってませんよね?!」

 

「まぁ、彼だからねぇ。早く元気になった姿で一緒に一杯やりたいくらいさ。じゃあ失礼。95式がお昼ご飯持ってきてくれて待ってるみたいだから俺は行きますよ」

 

笑うケントの姿にデッドマンの驚異的な生命力に恐れ慄いたレポーターが慌てて尋ねるが笑ってその質問をやんわりと躱したケントは作業員達の近くでバスケット片手にケントの姿を探しているらしくキョロキョロと辺りを見回しているの95式の姿を発見したケントはカメラの前から立ち去る。

 

「あ、ちょっと!もう・・・!以上、キャサリン・マグワイヤーのインタビューでした。一旦スタジオに中継をお返しします」

 

追及のにべもなく遠ざかるケントの姿にまだ聞き足りないらしいレポーターはぷりぷりと怒りながらカメラが回っているのに気づき、中継をスタジオへと返す。

 

TVモニター押しに場面が切り替わり円卓を囲んだむさいおっさん達が熱い議論をあれやこれやと熱論している光景が映し出され興奮気味に一人の頭頂部が禿げたおっさんが叫ぶ。

 

「彼こそが我々、人類の新たなる象徴!ヒトと機械との完全な融和だ!素晴らしい!!!!」

 

「だがあのような姿では戦術人形より兵器らしいではないか!何が新たなヒトの象徴か!

馬鹿馬鹿しい!」

 

「だがあれこそが我々人権権利団体が目指すべき本当の姿ではないか!?何の為に機械技術が進化してきたと思う!?本来なら人形などいらぬのだ!完璧な機械化された人間の兵士!!これからは彼によって訪れた新しい時代の幕開けが来るぞ!」

 

「群を個で殲滅する力か・・・。戦術的価値、曳いては戦略的価値にもなりえるぞ。たった一人の機械化された兵士が鍛え上げられた人間の軍団を圧倒する時代・・・」

 

「素晴らしい。ヒトの可能性を体現した彼は正しく・・・稀代の英雄に成れる・・いや、我々の手でして見せようではないか!!!」

 

「ひ、評論家の方々の議論が白熱している所ですがここで一旦、拘留所に更迭された治安維持部隊元・隊長フラスゴ・ヴェルニーの様子をレポートして貰いたいと思います。キャサリン?」

 

白熱して止まない評論家たちの過激な発言にすかさず司会役のキャスターがスタジオから

レポーターへと中継を切り替える様にスタッフに指示を出し強制的にスタジオから、現場へと映像を切り替える。

 

「やめろぉ!儂を誰と心得る!G&K社所属のフラスゴ・ヴェルニー様ぶふぇ!」

 

「私達に余計な仕事を、しかも友軍を攻撃させるとは恥を知りなさい」

 

長身のモデルの様なスラっとした身長の桃色髪の少女に頬を張られ、別の意味で顔が腫れ上がったフラスゴがもう意味のない権力を振り翳しながら何度も少女に頬を打たれている画面が映し出され撮影しているであろうスタッフの忍び笑いが聞こえる。

 

「儂はぐへ!ちょっ!げへぇ!帝国等知らん!ばはぁ!」

 

フラスゴの背後にいた眼帯を付けた黒髪をおさげにまとめた凛々しい女性が冷たい表情でフラスゴの頭からバケツに入れた冷水をバシャリと乱暴に振りかけ、イラつきながら吐き出す。

 

「無駄な抵抗は止めて吐いちまいな。あたしらは人間に対しては限定的にロックが解除されてる。場合によってはもっと苛烈な尋問になるぞ」

 

「本当に腹の立つ男・・!汚らしくて品性のない・・・!」

 

桃色髪の少女が何かが気に障ったのか往復ビンタを高速でフラスゴの左右の頬を酷くリズミカルにしばきながら鬱憤を吐き出す様に胸ぐらを掴み凄む。

 

「次はこの比では無い程の痛みをあなたにあげるわ。痛いのが好みなら黙ってなさい。私が満足するまで付き合ってもらうわよ・・!」

 

「ひ、ひえぇぇぇぇ!!!だれか!!!だれかぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!」

 

 

拘束された椅子の上で失禁し大声で泣き叫びながら誰かの助けを呼ぶフラスゴの哀れ過ぎる醜態についに耐えきれなくなったのかスタッフの爆笑とレポーターのくすくす笑いが鉄格子内の狭い室内に木霊し、現場の中継は突然切れた。

 

「え、えぇ・・・」

 

現場の余りに過激な尋問風景に困惑を隠しきれない視界は未だに議論を繰り広げ挙句の果てには殴り合いに発展している評論家達の姿に額の血管が盛り上がり、それでも努めて画面の前の視聴者に要らぬ心配をさせぬ様に青筋を浮かべたまま笑顔で言い切る。

 

「それではお時間も良いようなので、臨時ニュースを終了したいと思います。ご視聴ありがとうございました」

 

 

 

 

 

 

 

おいテメェら!いい加減にしろよ!視聴者見てんだぞ!」

 

「新しい時代!希望の幕開け!人類の栄華を再びこの手に!」

 

「機械になってまで生きたくねぇって言ってんだろうがこのスカポンタン!!」

 

「やんのかゴラァ!!未来は我々の手に!!!」

 

「上等だ表出ろハゲェ!!!」

 

「やめろぉぉぉぉぉぉ!!!!AD止めろぉぉぉぉぉぉ!!!この馬鹿共とめろぉぉぉぉ!!!!!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――プツン。

 

 

 

 

 

 




珍しく二回更新。


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幕間・新生

さてここから本編には余りというかゲームで言うところのチュートリアルが終わり、サイドストーリーが細々と進行します。まぁ、本編にもガッツリ絡む要素あるし、ほのぼの書かないつもりだったけど書けと五月蠅いのがいるから(リアフレ)書くよ。



さて、ここからギアを上げるが付いて来る気はあるかな?諸君。
私は当の昔に批判されようが何をしようが今度こそ、自分自身の作品を、盗作されようと書き上げる所存だ。もうあの無力感や徒労感は味わってもあの屈辱程ではない。私の覚悟をあまり舐めないほうがいい。何度でも言おう。私の作品を批判したければするが良い。下らん内容なら耳も貸さぬがな。趣味でやっているのだ。金儲けでやっているのではないからな此方は。


とうさくにはきをつけよう!(ゆうさく)


尚セブンデイズトゥダイの世界では外人兄貴の鯖でロケラン片手に拠点ぶち壊して奴等の鉱物資源盗掘して銃弾生成してたら鯖内で指名手配されてもう顔中草まみれや。

や  っ  た  ぜ   。


※隙有自語


「さて、初めましてだね。出来ればこんな形で初めましては迎えたくなかったけどね・・・。私の名前はペルシカリア。I.O.P社技術開発部門16Labの主席研究員兼16Labの主任を任されているよ」

 

「・・・GoodSmileカンパニー所属のデッドマン。見ての通り死に損ないさ。しかし、あんたもわざわざ一傭兵に過ぎない俺に良く興味なぞ持ったな。物好きだなお前」

 

ベッドで義肢が全部外されダルマ状態のままあれよあれよと新しい人工心臓を移植手術され、容体が安定した瞬間に何処かで見た陰のある笑みを浮かべたあの小娘達の小隊に護送されながら訳も分らず俺の意思も皆無のままやけに近未来チックな(実際俺達からしてみれば未来か・・・)研究施設に搬入され、今に至る。

お世辞にも快適とは言い辛い機械的なベッドに俺の体が担ぎ上げられ、することもなくぼーっと天井を眺めていたら頭頂部に猫耳を生やした気だるげな雰囲気を醸し出す白衣を着崩した白い素足でペタペタと歩み寄ってきた桃色の髪をふわりと靡かせた美人が自己紹介しながら俺の頬を右手で優しく撫でてくる。

 

その対応に一抹の気まずさを感じ、皮肉を言い放ちながら視線を逸らし、部屋の片隅でニヤニヤとこちらを見ている小娘・・UMP45に舌打ちを一つ放つ。

 

「チッ・・!何ニヤニヤしてやがる」

 

「別にぃ~?デッドマンって何だかんだで美人には弱いんだぁとか思ってないよぉ?」

 

「うるせぇ、単に行き成り好意を向けられると困惑するだけだ。勘違いするなアホ娘」

 

此方を慈母の様な美しい笑みを浮かべながら、限界まで鍛え上げたが傷跡が無数に残りボロ雑巾の様な四肢のない肉体に細いその指を、頬から首を伝い、自分で言うのも変だが盛り上がった胸筋へとペルシカリアは這わせ愛おしげに撫でてくる。その姿にますます困惑した俺は彼女のその姿と、身を屈めた瞬間に見えた胸の谷間に思わずドギマギしながら視線を彷徨わせてむず痒さに身を捩る。

 

「おい、俺の体なんて撫でても楽しくないだろう。本題に入ってくれ」

 

「すごい・・鍛え上げられた筋肉だね。無駄な贅肉なんか一切ない激戦を潜り抜けた男の体かぁ。綺麗だなぁ・・・じゅるり」

 

慈母の様な笑みが鳴りを潜め、危ない雰囲気を醸し出し始めた彼女に俺は眉を顰め、だんだんと危ない手つきで胸筋から割れた腹筋を執拗に撫で、トランクスの近くまで指を這わせたペルシカリアの所業と表情が崩れ、よだれを垂らし目を光らせ、猫耳を忙しなく動かす彼女に嫌な予感がし遠ざかろうと身を捩る。

 

「暴れんなよ・・暴れんなよ・・・大丈夫、痛くなんかしないから。君は天井のシミでも数えてれば良いんだよ。すぐ終わるから・・!」

 

「45ぉぉぉ!!!助けてくれぇぇ!!こいつやべぇぇぇ!!!!」

 

「ペルシカリア!ストップ!ハウス!」

 

白衣を脱ぎだした彼女に思わず冷や汗を浮かべながら部屋の片隅でニヤニヤしていた45に助けを求め、45が流石に笑みを引っ込め慌ててペルシカリアを羽交い絞めしながら俺から遠ざけてくれる。流石にトランクス一丁しか着用していない俺のトランクスに手を掛けたペルシカリアに激しい危機感を覚えた俺は助かったことに対し素直に45に礼を言う。

 

「すまん、割とマジで助かった・・!」

 

「いえいえ、こちらこそなんかごめんなさい」

 

「デッドマン君!家族になろう!」

 

「それ9のセリフだから!むしろシャレにならねぇから!大丈夫かマジでお前?!」

 

 

羽交い絞めされた状態で尚も暴れ、脱ぎかかった服のせいで胸がプルプルと右往左往し、白い素足の先にある、短すぎて隠す気があるのかと言う様な黒のスカートの下から見える暴れるせいでチラチラと露になる研究職という割には以外にハリがあるむっちりとした太腿に目を奪われながらも、血迷ったペルシカリアに突っ込みを返しながら俺は戦々恐々とする。

 

 

 

 

どうしてこうなった。

 

 

 

それとお前ブラぐらいはつけろよ。後少しで乳首見えそうだったぞ。それと、紫のハイレグカットのランジェリーって・・・かなり際どいの履いてるんだな。ご馳走様とだけは言っておいてやるか・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

落ち着きましたか?

 

「はい」

 

「むしろ落ち着いてくれないと俺が困るんだが・・・」

 

正座した状態で、猫耳もしょんぼりさせたペルシカリアが凄みのある笑みを浮かべた45のドスの効いた声色に素直に返事をし、すっかり意気消沈した姿に安堵を覚えた俺は再び本題に入るように促す。

 

「なぁ、本題に入ってくれないか?俺も暇でしょうがないんだが。文字通り手足も出ないわけだしな」

 

「はいはい、わかったわよ。ペルシカリア、後でね?

 

はいっ!

 

無駄にいい返事をして冷や汗を流す彼女の姿に残念な美人だなと自身の中で評価を位置づけ、45は怒らせない様にしようと固く心に刻む。昔、今は亡き母親にマジギレされた時並に恐ろしかったあれは。

 

 

「さて、話は脱線してしまったが、私は君の義肢を完璧な状態で復元するように頼まれてね」

 

「脱線したのはお前のせいだと思うんですがそれは・・・」

 

「んん!まぁ、兎に角!それ自体は一からの開発でもないし、君が手術中に終わったわけだけど」

 

「こいつ誤魔化しだしたぞ」

 

「いっつもそうなのよね。都合が悪いと聞こえないふり。やめたら?」

 

「げふんげふん!まぁ現物はここに有る訳だけども・・・」

 

俺の寝そべる機械的なベッド。多分手術台のすぐ横のストレッチャーに鎮座する黒光りし鈍い光を放つ見慣れた武骨なシルエットの頑強そうな義肢の姿に安堵し、最初に見た時より力強さと威圧感を増した本来の性能を取り戻したであろう義肢の存在感に思わず破顔する。

 

「待ち草臥れたぜ。漸くテメェで動けるのか」

 

「さて接合自体はすぐに行える訳だけど、一つだけ確認するよ」

 

「ん?」

 

「多分、接合するときかなり痛いよ」

 

「何を今更。痛み程度で引くかよ。やってくれ」

 

心配するような表情のペルシカリアに合図し、今か今かと接合されるその時を待ち侘びる。作業が行われる事を察した45が右腕を両腕で重そうに抱え、よろよろと俺の右腕接合箇所へと運んでくる。

 

「すっごい重い・・!」

 

「片腕だけで40㎏近くあるそうだよ。いやぁ凄いね」

 

顔を赤らめ踏ん張る45の姿に何となく気まずくなり、接合部に繋がる瞬間をその目で見届ける。

 

「行くよ?」

 

「ああ」

 

ガチリと接合部越しに金属と金属がぶつかりあい接合部内の神経バイパスと固定する為のロック機構が連動し動作するのを耳で聞き取り、押し寄せてきた接合部の焼き鏝(ごて)を押し付けられたような激しく燃えるような痛みに思わず歯を食い縛る。

 

「ぐっ・・ぎぃ・・・!!」

 

「大丈夫?」

 

「痛かったら無理をせずに悲鳴を上げてもいいんだよ?これは設計した奴の悪意とも取れるね。神経バイパス接続に伴う痛みは麻酔とかでは沈痛出来ないようになってる」

 

心配そうに俺を覗き込む二人に構わずサッサと続けてくれとジェスチャーで伝え、今度は天井を見て痛みに備える。

 

左腕。

 

「がぁぁ・・・・!!」

 

右脚。

 

 

「くぅぅ・・・!!!」

 

左脚。

 

 

「あ”あ”あ”あぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!」

 

 

 

 

四肢全体に広がる焼ける様な苦痛にラストの左脚迄連続で繋がれても何とか堪えていたが、一向に痛みの引かない寧ろ、更に炎上するかのように全身に広がる痛みに両腕でキツク肩口の接合部を抑え絶叫を上げる。

 

自身の物とは思えない怨念を纏った地の底から聞こえてくるような絶叫を上げベッドの上で激しく悶える。

痛い。焼ける!焼け落ちる!

 

全身を苛む神経を広がる想像を絶する苦痛に怒りの焔が灯る。この程度で俺が屈すると思うのかぁ・・・!!

 

「デッドマン。しっかりしなさい!」

 

身悶える俺の体を固定しようと45がすかさず俺が義肢を苦痛に耐えきれず振り回せば大怪我を負うにも関わらずに俺の股間部に馬乗りになって、ギュッときつく正面から抱き締められ固定される。

彼女の温かく柔らかな体の感触を服越しとはいえ感じ、鼻腔を擽る彼女の髪から香る柑橘系の香料の匂いに気がそれた俺は情けなくも、すがる様に彼女の華奢な体を抱き締め返し、苦痛に喘ぐ。

 

「うぐ・・!!がああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!!!」

 

 

絶叫を上げ、漸く痛みの引いてきた全身に荒い息を吐き出しながら、きつく抱きしめてしまった彼女の顔を見て礼を言う。

 

「アァ・・・ハァ・・・ハァ・・・!すまんな・・どうも・・ハァ・・今回はお前に助けられてばっかりだ」

 

「最初に出会った時のこと覚えてるでしょ?救出任務なのにあなたに私達は助けられた。だからこれは借りを返しただけよ。私は借りは早めに返す主義なのよ」

 

初めて見る彼女の柔らかな影のない笑みに思わず見惚れ、俺は誤魔化す様に彼女を放す。

 

「なぁに?照れてるの?」

 

「んな事あるかよ。童貞でもねぇんだし・・それに俺は、巨乳のが好きだ」

 

「何?私がないって言いたいの?」

 

「事実だろ?」

 

威圧感のある笑みを浮かべた45が何が気に障ったのか思い切り俺の鼻に拳を振り下ろしてきた。ハンマーブロウじゃねぇか死ぬわおい。

 

 

 

 

「前が見えねぇ」

 

「レディにデリケートな話題をした事を後悔するべきね」

 

「レディ(笑)」

 

「お説教が足りないかしら・・?」

 

「あー、君達、乳繰り合うのは構わないがね。私も混ぜてくれないかなぁ?」

 

「してないんですがそれは」

 

「誰が、こんな大男の死にたがりと」

 

「合意と見て宜しいですね!?」

 

「何言ってんだ此奴。やっぱ研究者頭可笑しいわ」

 

 

この後飛び掛かってきたペルシカリアを取りあえず拘束した。俺の義肢がありゃこんなもの怖くもねぇ。

 

 

 

 

 

 

 




デッドマン復活。完全復活まで要した期間何と驚きの3日。お兄さん許して。前線壊されちゃ~う^

この後、馬車馬の如く働かされるんだよなこいつ(主人公)


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幕間・ステータス

さてここでデッドマンの現在のステータスをゲーム風に紹介。ドルフロの戦術人形達と違ってGoodSmileカンパニー社や超帝国主義派などの核戦争後の世界の奴等は陣形効果を受ける事や与える事は出来ませんが、代わりに強力なパッシブスキルと味方ユニット(核戦争後の世界の人間や兵士を指す)を強化するクラス補正。個人を象徴する固有のパーソナルスキルと戦況を一変させるアルティメットスキルを保有しています。
アルティメットは基本どのタイミングでも使用できますが、代わりに使用したユニットにそれ相応のリスクや代償を請求します。使い所は良く考えて使用しましょう。




名前:デッドマン

クラス:ヒーロー、アンチヴィラン、ジャガーノート

クラス説明:ヒーロー、戦場に降臨するだけで士気が低下した味方が活性化し奮起する英雄の象徴。100人殺せばお前も英雄だ。

これを所有するユニットは戦場にこのユニットが参戦するとアクティブ化した戦場にいる味方全体に戦意高揚を齎し味方ユニットの攻撃力と攻撃速度を強化する。又、戦況が終了する一度だけ瀕死の味方を『如何なる』状況でも生還させる事が出来る。

戦意高揚=攻撃力+2、攻撃速度+1(味方のNPC兵士の平均ステータスを攻撃力3、攻撃速度2とする)

アンチヴィラン、社会的に定義される、又は彼にとって悪や害にしかならないと判断された者達に対する特攻を付与される。貴様らの様な者達のせいで俺の家族は死んだのだ。お前も死ね。

敵対ユニット全てに対し自身の攻撃力が1,7倍の状態から戦闘が始動する。

ジャガーノート、堰き止められぬ大きな力を指す言葉。重武装した装甲歩兵を指す言語。

敵対ユニットの攻撃に対し、耐性を付与する。防御力+5、スーパーアーマー付与(一定の攻撃を連続して食らわなければ態勢も変わらない)俺を止めて見せろよ。

 

パッシブスキル:抹殺の誓い

超帝国主義派に加担する者達に対する並みならぬ殺意と憎悪により戦闘開始前に指定した対象を抹殺するまでこのユニットは死亡する重傷でも死亡せずに10秒間のみ戦闘を続行できる。10秒経過するか、対象を抹殺した場合このユニットは強制的にホームへ送還され治療が終了するまでいかなる行動も行う事が出来ない。

 

パーソナルスキル1:マグナムチャージ CD12秒

常人より遥かに頑丈な義肢とアーマーを生かした強烈なタックルを行い、短距離ブリンクの効果を受ける。直撃した敵ユニットに200ダメージを防御力を無視して与える。直撃した敵ユニットに1.5秒のスタンを与える。直撃した時のみ追加入力で相手を拘束しミートシールドとして自身に受けるダメージを強制的に拘束した相手に肩代わりさせる。拘束時間は一律して3秒。一度拘束した敵はCD中行う事は出来ないCD70秒。

パーソナルスキル2:フラッシュアウト CD22秒

義肢の驚異的な脚力を駆使し消えた様に指定位置まで短距離ダッシュを行う、ダッシュ中はインビジブル判定で強制移動不可。指定タイミングの追加入力で発動中もう一度だけ3秒間の間使用できる。直線状にいた敵ユニットは強制的にスタンになり1秒間動けない。

パーソナルスキル3:お前が死ね CD7秒

入力後、防御姿勢を取り被ダメージを2秒間50%カット。防御姿勢中に一番攻撃を与えた敵ユニットにリボルバーによる反撃を行い大ダメージを与える。600ダメージを直撃時の最大とし、敵ユニットが死亡した際真後ろのユニットに弾丸は貫通し残りのダメージを受ける。

 

アルティメットスキル:ガンパレードオーケストラ CD120秒

両手に持つ銃器で弾をばら撒きながら体ごと回転し全方位を薙ぎ払う。その後ショットガンに持ち替え両手のショットガンの弾が尽きるまで全方位無差別射撃を行いランダムダメージを与える。(300~600)最後の締めに直線状を撃ち抜く肩にマウントしたランチャーでレーザー砲撃を行う。(1200~1500)アルティメット使用後デッドマンは全ての弾薬が尽き果て、P3とウルトの使用が不可になる。ホームで弾丸が補充されるまでP3は我が身を盾にへと変化する。被ダメージを常に30%カットし、瀕死の味方ユニットの前へと立つと効果が増大する。ウルト中は範囲内の敵ユニットにスロー45%を与える。ウルトはアニメ―ション終了までの時間が2、5秒。

 

HP:5400、攻撃力8、防御力10(MAX)、攻撃速度4

少し特殊な動きが要求されるがそれ以外は典型的なジャガーノートスタイルタンク。敵に対しバッドステータス付与と徹底的な生存能力によるしぶとさで敵のタンク陣を突き抜け中枢からかき回すのが得意な割とテクニカルなユニット。火力がないわけでもなくウルトの使用タイミングによっては敵後方の火力ユニットを蒸発させる事が可能。寧ろコンボスキルがうまく決まれば逃げにも攻めにも使える万能さ。初心者向け。

 

 

 

ゲームジャンルMOBAですな。LOLイメージしてみましたw。糞チートキャラ。BAN待ったなし。

平均的なNPC兵士(ミニオン)

HP:1600

攻撃3

攻撃速度2

防御力2

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




ちょっとやってみたかったんだよ。許してくれよ?な?下らねぇとか
あ ほ く さ と思った奴許してくれメンス。みんな観戦だけでも良いからLOL見てくれよな。ルールは分かりやすいし、見るだけでも満足できるから文句はそれから受け付けるから。な?

やれ(豹変)

ほんへ書けって?


あ ほ く さ

※今日か、明日の間にほんへ基幕間ちゃんと進めるから・・じゃないと417ちゃんの結婚式とユノちゃんたちに会いに行けないダルルォ?!ジャベリン君とも仕事が出来ないでしょうが!!このままだとぉ!もう許せるぞおい!
(逆ギレおじさん)


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幕間・着任

28話目にしてようやく戦術人形が着任する会社があるみたいですよ?ところで、ウチのストーリーの基本部分ってここまで来たら流石にみんな分かるよねぇ?(下素顔)


「さて、俺の義肢の復元については礼を言っておくが・・・45、こいつ本当に大丈夫か?」

 

「いいのよ。この人本当に暴走すると見境ないから」

 

「デッドマン君!わたしは諦めないぞぅ!」

 

寝かされていたベッドから起き上がって飛び掛かってきたペルシカリアを拘束したのは良いものの、45がすかさずどこからか取り出した荒縄で彼女を簀巻きにすると俺の寝ていたベッドに彼女を転がし両手を一仕事したと言わんばかりにパンパンと払う。

彼女が暴れる度にスカートが捲れて大胆な下着が露になるのに最早色気より脱力感を感じた俺は、眉間に皺を寄せながら癖である眉間の傷跡を指でなぞりながら目を瞑り閉口する。

 

何をここまで彼女を暴走させるかは分からんが、取りあえず落ち着いて欲しい。

 

「それとウチの会社から今回の騒動の鎮圧をしてくれた特別報酬が出てるわよ。デッドマン」

 

「嫌な予感がする・・・」

 

45の陰のある笑みで告げられた一言に全身の肌が粟立ち、寒気を感じた俺は一歩後退し45から遠ざかる。

 

「まず一つ目にあなたのカラダの全体的な修復金額の全面負担」

 

「随分と太っ腹だな」

 

「二点目が私達404小隊の暫くの間の指揮権の付与を」

 

「ん?」

 

思わず首を傾げ、続きを話す彼女の唇に注視し一層濃くなった彼女の顔の陰に、本能による警告がより過激になる。すんごいイヤーな予感がする。

 

「そして最後にG&K社の指揮系統を外れた戦術人形の指揮権と指揮官としてのライセンスに戦術人形を今回の騒動の戦力の補填として贈与されるわ」

 

「うわ・・・絶対もめ事になる厄ネタだろ。お前らのお株奪うほど俺は無能じゃねぇぞ・・・」

 

告げられた内容に眉間の傷跡を何度も摩り、内容をもう一度吟味し内心で復唱する。聞き返せば聞き返す程、厄ネタどころの騒ぎではない。他社の商品の指揮権ライセンスだぁ?癒着どころの騒ぎではない。提携の筈が胸元までずぶずぶの関係とか何がそんなにあの会社の琴線に触れたのか・・・。

 

「どう?嬉しいかしら。今から色んな美少女や美女を侍らせられるのよ。男の夢なんでしょぉ?こういうのって」

 

「それと、忘れてたわ。UMP45が来ました。指揮官、仲良くやりましょう~」

 

ニコニコと何が可笑しいのか告げた彼女に俺は肩を竦ませ会釈だけする。ある意味知った仲だ。俺の紹介など今更だろう。ねっとりとした何処か責めるような口調で訪ねてくる彼女の姿に頭痛を覚えた俺は溜息をついて否定する。

 

 

「馬鹿言うな。俺は・・普通の男とは違う。ハーレム作って喜ぶ様な下衆野郎ではねぇよ」

 

「ほんとぉ?」

 

「ああ、本当だ」

 

更に棘のあるねっとりとした口調で責められる俺は両手を上げ降参の意を表し、顔の前まで詰めてきた45の背伸びをしながら俺の顔を覗き込む姿に思わず失言する。

 

「まるでキスをせがむかの様な姿勢だな」

 

「なぁに?やっぱりそういうのには興味があるの?じゃあキスしてあげよっか?」

 

揶揄う様に笑う彼女はより一層俺の顔へと距離を詰め、猫の様に俊敏な動作で俺の両頬をふわりとその柔らかく温かな手のひらで包み、俺を捕まえる。

 

「冗談は止せ。シャレにならん・・・それに俺はEDだ。心配する必要も何もない・・・」

 

そう吐き捨て、彼女を俺の体から遠ざけて俺は右手の義肢を眺めて言葉を続ける。

 

「・・・精神的なトラウマ。過剰なストレス、そして性的興奮への激しい拒絶反応。嫌悪感。それらのせいで俺は戦場に立ってから女性に性的興奮を微弱にすれど抱きたいと思った事も勃起すらした事もない。俺は戦う為の兵士だ」

 

俺の言葉に怯む様に表情を一変させた45は黙って俺の言葉に耳を傾けながら、俺の言葉を引き続き黙って聞く姿勢でいる。俺はその姿を一瞥し、右手の義肢を操作し手のひらを開いたり閉じたりしながら語る。

 

「戦場で戦い、失い、惑い、高揚し、殲滅し、立ち尽くし・・・俺は、俺達は何度も癒えぬ傷を抱えて戦ってきた。皆、どこかに隠し切れない傷がある。癒しきれない大きな傷が・・・・」

 

見ればペルシカリアもベッドの上で大人しく此方の話を聞いている姿に変な気持ちになりながらも俺は語り続ける。

 

「それが俺の場合は・・・」

 

溢れ出る殺意。尽きぬ復讐心。燃え上がる憤怒。それらが心の内から止めどなく溢れ出て俺の表情を歪め、辺りに威圧感となって俺のカラダから放出されていく。どす黒いこの感情が今も俺の根幹。俺という存在を成す重要なファクターだ。これが尽きた時、俺に何が残るのだろうか・・。

激情は辺りに目に見える様なオーラとなって俺のカラダから滲み出て行く。赤黒い不穏なオーラ・・・こびり付いて時間経過したかの様な禍々しい血の色のオーラ。俺の心象風景でしかないソレを二人は感知したのか。表情を強張らせる。

 

「奴等に対する異常な復讐心。女性との性交による興奮や興味の欠如。そしてこのカラダだ・・・」

 

自嘲する様に親指を自分の胸元へと向けて俺は皮肉げに言い放ち、ペルシカリアの横にある見覚えのある衣服を無造作に掴み、着用していく。

夜の様に漆黒の天然革使用の磨き上げられ、艶出し加工の施された脹脛に届くほどあるレザーコートを何時もの様に裸の上から羽織り、ボタンは止めずにそのままで。

アクセント程度に光る銀加工のバックルのベルトと黒めのGパンをササっと着用し、最後にミリタリーブーツを義肢の上に履き、履き心地は・・・感じなかった。忘れていた。足も触覚なかったなそういえば。

 

「俺の私服を持ってきてくれてありがとな・・」

 

俺の話を聞き強張る45の頭を出来るだけ優しく撫で、義肢にしまいっ放しにしていた煙草を取り出し、煙草を喫うべく手術室を後にし、左手をコートのポケットに突っ込みブラブラと当てもなく彷徨うべく退出する。煙で機材故障したとか難癖付けられても困るし、3日ぶりにタバコが吸いてぇ。

 

「そう言う所が、もう・・!」

 

「あれ?もしかして私このまま放置・・・?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おいちぃ」

 

ぼへーと研究スタッフらしき連中にぎょっとした目ですれ違わられながらも、無事に外へと辿り着いた俺は煙草に何時も通りに火を付け染み渡る様な煙の旨さに一言漏らす。

そんなに全身義肢が珍しいかこの野郎馬鹿野郎。

最早、義肢に対して感じていた怒りも余り湧かずに俺は煙草を燻らせながら曇天の空を眺めこれからの事を考える。途中、慌ただしげにバタバタと走り回る白衣の連中が俺の姿を視認し一瞬立ち止まって呆けているのも見慣れ始め、それも一つの風景として楽しみながら俺は思考を巡らせ、煙草を喫う。

 

あ”ぁ・・・また面倒事の匂いがするんじゃあ~・・・。

 

 

 

今だけは全快祝いの細やかな祝福として誰にも邪魔されずに一服して居たい俺は45達が呼びに来るまでの間黙って外の片隅で空を眺めながら煙草を喫い続けた。

 

どうせ逃げれないだろうしな。運命とやらからは、俺はそれを嫌というほど知ってるよ。

 

 

 

 

 

 

 




お待たせ。短めだけどいいかな?ショットガンはモスバーグ師匠とスーパーフラ・・間違えた。スーパーショーティーをなけなしのグロ画像でお迎え。死んだわ死在庫。


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幕間・保護者死人

ネクストヒント・メンタルボム実装済み。デッドマンの一番嫌いなものの被害者。


煙草をぼへーっと吸って風景の一部と化していた俺をわざわざ探しに来たペルシカリアと404小隊の面々に呼ばれ、立ったまま寝始めたG11を面倒に思いながら俺は背負い、施設内を練り歩く。

 

「こいつ何時もこんなもんなのか」

 

「そうよ。けどここまで誰かに気を許して見境なく寝るのは珍しいかもね」

 

「絶対俺舐められてるだけだろコレ」

 

「zzz・・・」

 

すやすやと邪気も無く安堵した様子で安らかに眠るG11の頬を、首を後ろに向け見ながら

突くが起きる様子も微塵もなく、その様子に微妙な気持ちになり隣で歩く416に尋ねるが彼女も腕組みしたまま呆れた様子で返し、溜息を付く。腕組みした事により彼女の豊満な胸が強調され俺は一瞬目に留まるが、後ろからの45の冷ややかな視線に気づき目を逸らし再び前を向く。

 

「今、何を見てたの?」

 

「何も見ちゃいねぇよ・・」

 

「っていうか誰もデッドマンの格好にツッコまないんだね・・」

 

9のボソリとした小声に俺は答える。

 

「継ぎ接ぎサイボーグの半裸コートなんか誰も徳しねーし、放っておけよ。それに人目なんざ俺は気にしねぇし俺が楽だから良いんだよ」

 

「じゅる・・・」

 

「訂正だ。何か知んねぇけどコイツだけ反応しやがる。俺を野獣の様な眼光で見るんじゃねぇ・・・!」

 

右隣にいたペルシカリアが再び怪しい雰囲気を醸し出し、歩く度にチラチラ見える俺の胸筋や腹筋に反応して忙しなくよだれを口の端から垂らし乱暴に拭い、餌を前にした空腹の獣の様に食い入るように見てくる。

その姿に危機感を覚えた俺は警告しながら左にいた416側へと詰め、猫耳をピーンと峙たせ始めたペルシカリアから距離を取る。何だってこんな傷だらけの半死人の様な男に欲情するんだコイツ。普通じゃねぇ・・!

 

「でだ。俺は何処に向かってるんだ?ここでの用事は終わったはずだが?」

 

じりじりと詰め寄ってきたペルシカリアが頬を染め瞬きもせずに俺の胸筋を眺めている姿に戦慄しながら話題を逸らそうと口を開く。416もペルシカリアの姿に流石に平静さを

保っていられない様で眉を顰め、注意している。

 

「ペルシカリア、止めなさいよ」

 

「私達はデッドマンに贈与される人形達の待機してるラボに移動してる最中よ」

 

「今、最終チェックを受けてる最中だからその迎えだよ」

 

45と9が交互に俺の質問に答え、9はニコニコしながら俺の背中に背負われ、子泣き爺・・・(この場合は妖怪眠り娘か・・?分からん)よろしく張り付いているG11の頬を突き始める。むずがり始めたG11が9の指から逃れようと寝ながら俺の背中へと顔を押し付け寝息を立て続けている。この眠りに対するこいつの異常な執着は何なんだマジで・・・。

45は45で何を考えているのか分からない表情で後ろから引いた位置で俺達の姿を見てポツリと零す。

 

「なんか保父さんみたい」

 

「はぁ!?」

 

思わず言ったであろう一言に俺は過剰に反応し声を荒げる。こんなガラの悪くて粗野、ぶっきらぼう、威圧感のある大男、サイボーグ。子どもの嫌がる要素満載の俺の何処が保父だって?冗談も休み休み言え。

 

「だってなんだかんだ言いながらG11背負って歩いてるし・・」

 

「効率の問題だろ。起きねぇなら誰かが背負わなきゃいけない。それが他人よりはるかに膂力のある俺が適任だと判断しただけだ。何をそんな馬鹿な事を言えたな」

 

右手で思わず額の傷跡をなぞりながら目を瞑り嘆息する。間違えても俺の容姿でそれはないし、子供は好きではあるが手のかかる悪ガキだけはごめんだ。

序にこいつらは厄介な部類の悪ガキだと俺は定義している。ペルシカリア?変人、危険人物だろ?俺の貞操的な意味でも。

 

「まぁふざけてる間に着いたわけですが・・」

 

「誰もスタッフ居ないね・・」

 

「俺はふざけてるつもりは一切ない。さっさと用件済ませて帰るぞ」

 

「え?私達も一緒に帰って良いの?」

 

「当たり前だろうが、お前らの指揮権預かったからには俺の部下だ。部下置いて帰るなんて真似死んでもしねぇぞ俺は。俺の唯一の美点だと思っているのはな、戦地に部下を置き去りにしねぇ事だ」

 

かつての戦場で部下が取り残されて脱出しなければならない状況で置き去りにしたことは一度もない。部下や仲間置いてくなら俺が残るわ馬鹿共がぁ・・!

かつての上司とHQの数々の理不尽な撤退要請に却下連発をした昔を思い出し俺は怒りを再燃させる。囲まれて孤立した味方を救助した回数なんざそれこそ星の数ほどあるわ。包囲した雑魚共の殲滅なんざ得意中の得意だしな。

 

 

「一緒に帰るぞ。俺らの家に。お前等にとってはしばらくの宿かもしれねぇが、俺にとってはあの基地が文字通り俺の家だ。俺達の帰る場所だからな」

 

俺の何気なく言った言葉にペルシカリア以外の全員が俺の方向へと顔を向けにへっとだらしない笑みを浮かべた。んだよ。気持ち悪いな。

 

「一緒に帰るぞ、か。これはもう家族ですねぇ」

 

「おとーさん・・」

 

「パパ―。おこづかいちょうだい♡」

 

「完璧な私が妻になれるのは当たり前ですもの。で、挙式は何時かしら?あ・な・た♡」

 

「貴様ら真面目に出来んのならここに置いて行くぞ・・?」

 

俺の何気ない一言にボケて、9がにやにやと笑い、いつの間にか起きたG11が俺の背中でコートをキュッとつかみ再び微睡み、45がいやらしく笑いながらにじり寄り、416は澄まし顔で爆弾を落としやがった。その悪ふざけが過ぎた態度に思わずドスの効いた声で脅しを掛け寝ようとするG11を背から下ろし、頭を小突いて起こす。

 

「起きろ寝坊助」

 

「やー・・」

 

「やーじゃない。やーじゃ、ここまで来たんだから自分で歩け。全く・・・」

 

寝ぼけ眼でふらふら立つG11を見ながら自動ドア前で訝しげに首を傾げ、顎に手をやるペルシカリアの姿に違和感を覚え俺は自動ドアへと近寄る。

 

「トラブルか?」

 

「いや、いつもドア前に立っている筈のガードマンがいない・・。何かあったのかと思ってね」

 

その言葉に何となく嫌な予感がした俺は右手を太腿へ近づけ、オート9を引きずり出しコッキングを行い薬室内に弾丸を送り込み、何時でも撃てる様にセーフティーを切り替えトリガーガードの前に指を置き構える。

 

「全員俺の後ろへ。杞憂であれば良いが・・・全員ペルシカリアを守れ。俺が戦闘不能になったら彼女の安全を優先し離脱しろ」

 

今回は16Lab内とあって内蔵している武装しかなく、おまけにアーマーとバトルマスクは未だ修理中との事でない。その上、404小隊はラボ内のため非武装で来ている。ペルシカリアは言わずもがなココの責任者でもあり、非武装で代えの利かない人間であるため小隊メンバーに命じて彼女の周りを固める様に指示を出す。

 

オート9を両手で構え直しゆっくりと前かがみのまま自動ドアの前に立ち、自動ドアが俺を検知して空いた瞬間に俺は室内へと侵入し周囲のクリアリングを行う。

 

侵入した室内はガランとしており人の気配が全くなく、一瞬オート9を下ろしかけるが奥へと続くドアを発見しそちらの方へとオート9を向ける。

 

「あの奥は?」

 

「人形メンテナンス部門の機材が揃えられた大型スペースだよ」

 

ペルシカリアの言葉に俺はジリジリと鉄製のドアに近寄り、取っ手に手を掛け腰を屈めた状態でドアへと耳を押し当てる。

 

 

 

 

 

「いやああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!やだ!!!よらないで・・・・いやぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!」

 

 

 

 

 

 

突如ドアの奥から聞こえた絹を裂く様な悲鳴に迷わず俺はオート9を片手にドアを蹴り開け、室内へと突入して行く。俺のいる前で、誰かに危害を加えるという事がどういう事になるか不届き者に教え込ませてやるか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




君達の好きな展開だよ。喜べよ(棒)
尚、メンタルボムの意味に気づいた奴は感の良いガキは嫌いだよ・・・w


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幕間・傷ついた娘達

注意!この話は凌辱を匂わせる描写や過激な表現が含まれます。読みたくない場合は閲覧を避けてください。それでも構わない来いやという方のみ閲覧願います。
一応この回と後バラバラに数話といった予定のみですが、今後こう言った表現が含まれる場合は事前告知いたします。


ドアを勢いよく蹴り開け、中に突入した俺を待ち受けていた光景は聊か(いささか)予想していた物とは違った。

 

「暴れないでくれ!分かった!俺は離れる!離れるから!」

 

「やだぁぁ!!いや!いや!いやぁぁぁぁ!!!」

 

「何故男性スタッフ厳禁と言ったのに入れた!?」

 

「それが連絡の手違いとの事で!うわ!くそ!鎮静用の薬はまだですか!?」

 

ドア前で立っていたと思われる腰にハンドガンのホルスターを下げた男が、鮮やかな金髪をツインテールに結んだベッドに拘束具を取り付けられ寝かされている小柄な少女を強引にベッドに押さえつけ暴れる少女を宥めようと必死に声を掛けている。

少女の腕はまだ拘束されておらず拘束から逃れようと必死に両腕を押さえつけたガードマンを退けようと恐怖に駆られた表情のまま拘束された脚すらも必死に動かし暴れ続けている。

鬼気迫る表情の少女に俺は一瞬判断を悩み、オート9を太腿部に収納しガードマンの近くに歩み寄る。

 

「どうした?」

 

「あ!離れて!メンタルリセットを掛けようとした人形が勝手に起動してしまって・・混乱して暴れてるんです」

 

「この娘に何があった・・?」

 

近くで一緒になって少女を拘束している白衣を着た女性スタッフ達が慌ただしく走り回りながら作業をしているのを尻目に俺は近づいた途端に近くの女性スタッフに両手で押し留められ、仕方なく俺は状況を把握する為に質問する。

 

「・・・任務中に傭兵の集団と思わしき連中に捕縛され、その・・・」

 

沈痛な表情で口を淀ませる女性スタッフに俺は全てを察し、左手を掲げ彼女の口を止める。

 

「分かった。もう言うな。理解した・・・。この子だけか?被害者は」

 

「一緒に任務に従事していた他の子達も・・後は別口に捕縛されてこの子達の前に慰み者になっていた子も保護しましたが・・・」

 

「・・・やらかした馬鹿共はどうなった」

 

「数名を殺害できたようですが・・・殆どは逃げられました」

 

「・・・・」

 

あんまりな話に一瞬で沸点を超えた俺は目を瞑り、見開いた瞬間に殺意を放ちながら女性スタッフに尋ねる。

 

「そいつらの特徴は?」

 

「く、首筋にアルファベットと数字のタトゥーが刻まれた傭兵が数名――――」

 

「――――何だと?」

 

女性スタッフの冷や汗を滲ませた一言に全身の血が沸騰しそうになるほどの強烈な殺意と怒りを覚えた俺は噴き出る殺意をそのままに独り言ちる。

 

「あぁ・・・ようやく手掛かりを見つけたなぁ。今度は逃がさんぞ・・・」

この世界に来てから音沙汰の無かった怨敵の思わぬ手掛かりに薄暗い笑みを浮かべながら俺は女性スタッフの肩を叩き、退けるように促す。

漸く見つけたぞ薄汚い選民思想のイカレ共がぁ・・!!

 

「それと訂正しといてやる。そいつらは傭兵なんかじゃない。稀代のテロリストだ。幾つもの国を焼いたなぁ・・!」

 

自然と口角が上がり、凄惨な笑みを浮かべているであろう俺の表情を間近で見てしまった彼女は、凍り付いたかのように固まってしまっており仕方なく俺は左手で退け、ベッドに拘束され未だに暴れる少女を見下ろす。

 

「やだ!痛くしないでぇ!気持ちよくないの!そんなの入らない!いやだそんなもの近づけないでぇぇぇぇ!!!!」

 

 

「精神的に多大なストレスによるフラッシュバックか」

 

汗を浮かばせ歯をガチガチ鳴らしながら喉が枯れる様な大声で激しい拒絶を表す少女の姿に思わず目を瞑り、哀れ過ぎる姿に歯軋りをする。左目を眼帯で隠したその拘束された少女は、近づいた俺の姿に更に絶叫を上げガシャガシャと激しくベッドを揺さぶる。

溜まらず抑えていたガードマンが力負けし吹き飛ばされる。

 

「っつぅ・・!人形の分際で・・!」

 

転倒し、怒りから腰のホルスターに手を伸ばしたガードマンの左手を俺は左で咄嗟に握り、警告する。

 

「それを抜いたら俺はお前を殺さなければならなくなる。止めろ」

 

「だ、誰だあんた!?人形なんか庇って何になるんだ?!」

 

尚も食い下がり、ホルスターの拳銃を何とか抜こうとしたガードマンに頭に血が上り埒が明かないと判断した俺はガードマンの顎下を右拳で殴り抜く。

 

「ぐふっ?!」

 

顎下を殴り抜いたことによる衝撃で脳震盪を起こしたガードマンはふにゃりと力なく床に倒れた。俺はその姿を眺めながら左手で奴のホルスターに収まった拳銃を奪い、右手でスライドを逆方向に引き簡易分解する。更に、弾倉をマガジンキャッチボタンを押して排出させグリップ部分とスライドを男の胸元に投げて寄越し、マガジンをコートの左ポケットに突っ込んでおく。

 

「言葉が通じて感情があるならどんな奴だろうと俺は人間として扱う。貴様らの都合など知った事か。人形がなんだ。ならこの姿の俺を見て見ろ」

 

コートを無造作にバサリと脱ぎ去り、上半身を晒しながらガードマンの目を見て告げる。

 

「こんな姿の俺をお前は人間と判断するか答えて見ろ。俺も人形に見えるか?」

 

俺の言葉と晒した無数の様々な傷跡に惨たらしく切断された痕の残る義肢の接合部、そして銃創と切創で傷だらけの俺の顔を見やり。ガードマンの男は目を逸らした。

 

「何故目を逸らす?俺は定義上人間だが、そこで暴れる子と殆ど変わらないぞ?生命維持の殆どを機械や代替品で補っている。そういう意味では俺は彼女より人間に見えないだろう?」

 

「わるひゃった・・」

 

男は下も回らぬ口で謝罪をポツリと零し俯いたまま、沈黙した。俺はそれを尻目に少し落ち着き始めたベッドの上で激しく震え、涙を零す少女の拘束具を拳で乱暴に叩き割る。

ガシャリと激しく壊れた金属製の拘束具を少女を傷付けない様に一つずつ叩き割りながら

、周りで俺の行動に思わず固まったスタッフ達が慌てて俺を止めようと殺到する。

 

「何をしてるんですかあなた!」

 

「止めなさいよ!この子は傷ついてるのよ!?」

 

「うるせえ。退け」

 

俺を拘束しようと密着する女性スタッフ達を弾き飛ばしながら拘束具を全てを叩き割り、呆然としながら涙を零し続け固まる少女に俺は右手を差し伸べる。

 

「俺と一緒に来い。お前を苦しめた連中は必ず俺が地獄に叩き落してやる。記憶を消去されるのが嫌ならそのままでも良い。幸せにしてやるなんて保証はしねぇが、嫌な事を忘れられるようにはする」

 

俺の顔と差し伸べられた右手を交互にゆっくりと少女は見やり、涙を零しながら訪ねてくる。

 

「痛い事も気持ち悪い事もしない?」

 

「ああ、勿論だ」

 

「みんな、あたしの仲間も連れて行ってくれる?」

 

「お前達がそれを望むなら」

 

「ヒトとして、女の子として扱ってくれますか・・?」

 

「どこからどう見てもそうだろう?変な事を聞くんだなお前は」

 

思わず俺は吹き出し、小さく笑いながら慎重に彼女の頭に左手を持って行き撫でてやる。拒否される様子もなく漸く涙を止めて俺の顔を真直ぐに見つめる彼女の姿に、かつて小さかった頃の明日香もこんなやり取りをして拾ったなと懐かしい思い出を思い出し柔らかな笑みを浮かべる。

 

「ふわぁ・・・」

 

「あの表情は卑怯」

 

「あの人絶対垂らしだよ。何時か刺されるね。っていうかあんな表情も出来たんだ」

 

「指・揮・かぁん?」

 

「・・・デッドマン君、君は・・・ずるいよ」

 

 

後ろでごちゃごちゃ言ってる奴等がいるが俺は何も聞こえない。泣き止んだ彼女をゆっくりと抱き締め、頭を撫でながら背中をトントンと叩いてやり、話しかける。

 

「辛かっただろう。もしだ、俺が約束を破ったと思ったらお前が俺を殺せ」

 

「「「「!!!!」」」」」

 

俺の告げた一言に思わず驚愕する連中を放っておき、続ける。

 

「どうせ一度死んだ身。ならどうなろうが別に何とも思わない。が、ひとつだけ、俺からも約束だ」

 

目を細めて黙って俺の胸元で俺の顔を見上げる彼女に視線を落とし笑い掛けながら、右手で彼女の柔らかそうな頬を撫でてやる。こういう時に触感が死んでいるのはもの悲しく感じるな・・・。

 

「俺達の所に来て良かったと思える様に楽しい思い出を作ってくれ」

 

「・・・分かった。なら裏切らないでね・・・」

 

「ああ。俺は裏切らない事に定評がある。任せろ」

 

「プッ・・・何それ」

 

漸く泣き顔を止めた彼女が俺の胸元にぐりぐりと顔を押し付け涙を拭い、小さく笑うと口を開く。

 

 

 

「あたしはvz61スコーピオン。サソリと言っても毒はないけど、裏切ったら・・・殺すから」

 

 

 

 

 

 

 

 




微妙に表現ぼかしながらだから結構表現するのがいやー、キッツいっす。次は過激になるかもね書く時は。あとスコーピオンはかなり好きな子よ?嫌いじゃないよ?本当だよ。

序に構図的に上半身裸のデッドマンに抱き着かれてるスコーピオン。事案です。

警察だ!(インパルス板倉)


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幕間・114514食堂

連れて帰った傷ついた戦術人形達と404小隊のメンツを連れトラックで帰路に就くデッドマン。出撃前にスケイルの善意からデッドマンが人目を気にせず伸び伸びと調理できる環境が欲しいと愚痴ったことで給料から天引きという形で実現叶った基地内の離れのレストラン。だが付けられた仮名称が・・・。


「本当に私達なんか連れて行くつもり?失礼だけど。私はもう戦場に立ちたくないわ・・・あんな辱めを受けて生きてるのも信じられないくらいだもの・・・もうあんな目にあいたくないわ」

 

「告知した通りだ。戦いたくないなら引き籠ってて良い。俺は戦意のない兵士に戦地へ行けと命じる事はしない。何なら俺の稼ぎが増えるだけだ。撃破スコアとなってな・・・」

 

トラック内の狭いスペースで天井を睨むように見上げ、煙草を咥えながらプラプラと唇を動かし遊びながら陰気な笑みを浮かべて自嘲気に呟く5―7(ファイブセブン)の言葉に返しながら俺は右手の中のライターを開いたり閉じたりしながら返す。煙草に火を付けようとすると416が凄まじい勢いで銃口を向けてくるため、止む無く咥え煙草で我慢中だ。どんだけ厳しいんだよコイツ。

俺の右膝をちゃっかり枕代わりにしているG11の姿に最早突っ込む気力もない俺は黙って好きな様にさせている。

堅いだけの義肢で寝るなんてコイツ相当寝るの好きだな。

 

「私は、被害者と言う訳ではないんですが・・・もう銃を握る気にはなれません。それでも引き取って下さるんですか?」

 

「言った筈だ。全員連れて帰ると、別に足手纏いとか思う必要もないぞ。多対一なんて腐るほど経験がある。返って独りのが動きやすい場面が多い・・・。俺の戦術は特にそうだ。心配の必要なんて欠片もいらん」

 

自信なさげに俯く豊かな美しい茶髪を結わえたスプリングフィールドに切り返し、俺は女性だらけの空間を務めて意識しない様に天井を只管見ながら今日の晩飯の事を考える。肉が食いてぇな。分厚いステーキに、ガーリックライス。それに冷えたラガーをジョッキで

流し込み、締めに至福の一服。完璧な野郎の好みのガッツリ系。ソレが良い。

サラダはフレンチドレッシングにトマトとブロッコリーの色彩豊かな物がいい。それが食いたい。

 

折角なので、スコーピオンの部隊に所属していた全員、その以前の被害者1名、トラウマで銃が撃てなくなったRF人形のスプリングフィールド。そして・・・

 

「あの・・・指揮官さんは、日本の出身者なのですよね?」

 

濡れているかの様な艶のある黒髪を靡かせた小柄な東洋圏の顔立ちをした少女に思わず苦い顔を晒した俺は、彼女の質問にぶっきらぼうに返す。

 

「ああ・・・まぁな」

 

製造されたての新品の100式と呼称される彼女、全く戦地に出たこともない起動されたばかりの彼女を流石に全員が戦力にならないのは論外だろうとG&K社の傭兵登録された100式をあちらの好意で譲り受けたが、俺の胸中は複雑の一言に尽きた。

新兵ならば最初から俺達の持つ技術を継承しながら鍛える気はあったので問題もなく寧ろありがたい話であったが、日本というワードに俺の心がささくれ立つのがひしひしと実感できた。

ぱぁっと顔を輝かせた彼女の表情を可愛らしいとは思うがそれ以上に元・祖国の醜態、崩壊の原因を思い出し苛立ちから煙草に火を付けようとする。

 

「駄目よ」

 

「チッ!」

 

又も反応して銃口をこちらに向けた416に思わず忌々しげに舌打ちを零し、天井を見上げる。

 

「指揮官さんの世界の日本はどうなったんですか?こっちと違って存在してるんですよね?」

 

ワクワクとした表情で訪ねてくる彼女に意味のない怒りだと、彼女に向ける必要性のないものだとわかりながらも俺は棘のある一言でその質問を答えてやる。

 

「あの国の話はするな。馬鹿で私欲に走った政治家共のせいで潰れて、挙句テロリズムに反撃もせずに滅亡したあんな国家と名前だけの烏合の衆の話なんか・・・!」

 

家族が失われたあのテロリズム運動後に対応した自衛隊に感謝はすれど、その後反撃や抵抗も禁じて武装解除させ、挙句に滅亡までした日本という国を、祖国を俺は血反吐が吐くほど嫌いだった。怒りにより掲げられた国民の拳を自分達の命、富、名誉の為に無理やり下ろさせ、超帝国主義派の連中に焼かれて消えた馬鹿な国の末路なんか思い出したくもない。

 

「あぅ・・すいません・・・」

 

「すまねぇな。俺は死ぬほどあの国が嫌いなんだよ。祖国と思いたくもない・・・」

 

俺の怒気に委縮し、小さく謝る彼女に俺も謝罪し返し、苛立ちながら煙草を唇で動かし揺れる先端に意識を注力する。下らない事を思い出してイライラしてしまった。ただでさえ思いトラックの中の雰囲気がさらに重くなり俺は、意識しないようちトラックが基地へ着くまで黙って煙草を咥えたまま目を閉じ、怯えて様子を窺う被害者の戦術人形達の視線を受け止めながら時間を過ごした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふぅぅ・・・煙が肺に染みるぜ・・・」

 

「なら止めたらどうなのヘビースモーカー」

 

「タバコを止めるなら死ぬ」

 

トラックが基地に着いた瞬間にさっさと社内の狭い貨物スペースから俺は降り立ち咥えた煙草に火を付け深く煙を吐き出す。

416のジト目交じりの一言に止めるなら死ぬと返し、堂々と煙草を喫う。俺から煙草を抜いたら炭酸のないコーラみたいなもんになっちまうぜ?

案の定寝ぼけているG11を416が今度は背負いながら、俺のケツに416が小さく蹴りを入れてくる。

 

「早く私達の宿舎に案内しなさいよ。結構夜更けでしょ」

 

人影も殆どなくなった暗闇に佇む基地の建物群の浮かぶ照明の光を感慨深く眺めながら煙草を噴かせる俺の姿に疲れから何時もにしては手荒な416の言葉にそうだなと返し、ついでに指摘する。

 

「パンツ見えたぞお嬢ちゃん。もう少しアダルティな方が俺は好みだがな」

 

「無駄口叩いてないで早く案内しなさいよ」

 

ちらりと見えた純白のショーツを脳内のメモリに保存しながらもう一度俺のケツを蹴り上げた416の苛立った姿に小さく鼻で笑いながら、車内から降りた全員に聞こえるように口を開く。

 

「ふん・・・さて、今日はもう何もやる事はない。後は飯食って風呂入って寝るだけだ・・・。スケイルから事前にお前達の寝泊まりする宿舎は聞いている。俺が案内する。食堂はもうこの時間は流石にやってないだろうから飯なら、俺が調理したものを食べるか購買スペースにある出来合いのインスタント食品で凌ぐか好きなのを選べ。まぁ・・こんな不愛想な大男と食いたいというモノ好き以外は購買にいるカリーナに何か貰ってくるのが賢明だと思うがな」

 

「え?配給じゃないんですか・・?」

 

「そんなもん誰が食わせるか。あんな糞マジーもん、お前らに食わせるかよ出撃中以外はだがな」

 

茶髪をツインテールに結び、学生服の様な衣装のM14の怯えながらの質問に憮然と答え、腕を組みながら歩きだす。手術後に試しに食ってみたが不味いなんてもんじゃない。化学調味料の味がこれでもかと際立ちお世辞にも食えたものじゃない。手早く処理出来て

嵩張らないのは魅力的だったが、あんなもの戦時中以外は絶対に食わせない。

俺達も食いたくないしな。

 

「あらあら、配給以外を食べるのは久しぶりですね・・・。素直に嬉しいです」

 

「45姉!ごはんだって!暖かいのが食べれるよ!」

 

「そうね9。この大男が真面に調理できると思わないけれど・・・最悪インスタントあるし、あまり心配はいらないわね」

 

「・・・別に好きにすればいいわよ。私は、もうどうでも良いのよ・・」

 

「・・・なんでも良いわ。口に入れば、それが食べれるならね」

 

「起きなさい。寝坊助、ご飯よ。久しぶりにまともなものにありつけそうね」

 

「デザートにラムレーズンアイスを所望するぅ・・・zzz」

 

俺の言葉に色めき立つ彼女達に普段どんなもん食わされてたんだと歩きながら思い、更に口を開く。

 

「基本、この基地にいる間はお前達が何を食べようが、どんな物を買おうが俺の口座から天引きされる事になっている。変に使い過ぎなければ咎めるつもりも口出しするつもりもない。好きにしろ」

 

この世界に来て俺の死んでも使いきれない程の莫大な財産も無くなったかと落胆していたが、スケイルの奴が俺の口座と財産を俺の死後、遺言の通りに明日香が成人するまで押さえてくれていたため、再び口座と財産を引き継ぎ、今は俺と明日香が遊んで暮らしても余りある莫大な財産をどうしようか悩んでいたから丁度いいとばかりに告げる。無駄に超帝国主義派の資金源をかっぱらって経済的ダメージを与えていた時期があったために無駄にあったんだよな。助かった。

 

俺の言葉に唖然とした彼女達に首を傾げながら目の前に聳え立つ宿舎の前で新しい煙草へとチェーンスモークし、古い方の吸い殻を地面に捨て踏みにじる。

 

 

「さて着いたぞ。ここから先は男性厳禁の女性宿舎だ。俺は中に入れないが、案内は入ってすぐのロビーに受付がいる手筈だ。部屋を確認し、荷物を置いたら自由に行動して構わん。束縛するつもりはない。明日以降の用件は俺が直接呼びに行く。もしだ、俺と飯が食いたいというモノ好きは一時間待つ。ここで突っ立って煙草吸ってるから来い。以上だ。好きにしろ」

 

「じゃあ、行って来るから少し待っててねぇ?しきかぁ~ん?」

 

「行ってきまーす。ふああ・・・」

 

「すぐ戻るね。デッドマン」

 

「あなた本当に料理できるのかしら?まぁ良いわ行って来るわね」

 

「任務でもないんだ。焦る必要はねぇよ。それと416、お前後で覚悟しとけよ?後指揮官じゃなくてデッドマンで良いっつったろうが45」

 

サッサと一言ずつかけて宿舎内に消えた404小隊のメンバーの後を慌てて戸惑いながら追いかける他のメンバーを見送りながら、一人残ったスプリングフィールドに煙草を喫いながら行かなくて良いのかと尋ねる。

 

「行かないのか?」

 

「私は荷物というほどの物もありませんし・・・どうして私達にここまでしてくれるんですか?」

 

「さてな、母親からの躾で女性には紳士的であるべしと小さな頃から仕込まれててな。そのせいかもな」

 

スプリングフィールドの疑うような視線と問いに嘘もなくそう告げ、ぷかりと輪っか状の煙を吐き出し遊びながら茶化す。

何より、女性が食い物にされてるのが気に食わなかったからとか、別れる前にペルシカリアからこの世界の人形の実情を聞き、せめて笑っていて欲しいと思ったから連れて帰ってきたからとか恥ずかしくて言えねぇよバカ。

 

 

 

 

 

 

 

「結局全員来たのか、まぁ構わねぇけどよ」

 

煙草の煙で犬の形をした煙を作るべく四苦八苦しながら、時折上手く出来たその煙にスプリングフィールドが小さく微笑み拍手をしながら30分ほど待ち続けていたら全員が結局玄関前に集まり、俺は最後の煙草を消し、吸い殻を放り投げる。

幸い、俺の調理スペースってかレストランか退院後に見た間取り図の間取りを見た感じはそう感じたが・・個人用にしてはデケェよなぁ。そして女性宿舎からは近い。

人がいねぇいねぇ、とかいう割りに三日で施工完了って建築班のが戦闘班より多いんじゃねぇのかこれ。

 

女性陣がぺちゃくちゃとトラックで来る前の沈鬱な雰囲気が少し和らぎ、404小隊を筆頭に少しずつ交流している様子を眺めながら、清潔感のあるガラス張りの小洒落たレストラン風のペンションを俺は眺め、立て看板があるのに気づく。

 

「ん?」

 

 

 

 

――――――名称・114514食堂。8101919代目料理長 デッドマン。以前の料理長デッドマンの死因。調理棚に足の小指をぶつけ、誤って塩を頭から引っ被り浄化され果てる。R・I・P

 

 

 

 

 

 

「スケェェェェェェェェェェイル!!!!!!!!!!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




過去一番書きました。出勤前に最後の交信、これから以降ちょっとペース落しまーす。仕事再開なのでw


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幕間・連鎖爆発

先に言っておくぜー。なんか要望っつうか文句とかあるんなら活動報告書いといてやるから其処に投げ込め―。ウチの所の主人公使えやダメゲーマー!!!とかG11まだ来てねぇの?!ダッサwwwwwとか言うのでもいいぞ。基本要相談に応じるが、最後の奴はダメだ。お前を殺す。


「あの野郎ぉ!やりやがったな!絶対に殺す!」

 

「落ち着いてよ!皆びっくりしちゃってるよぉ!」

 

今すぐ諸悪の根源をぶちのめすべく、腕まくりをしてコートの袖を託し上げて荒い息をそのままに、司令室へ向かおうとすれば9が俺を背後から羽交い絞めにして必死に抑えてくる。今頃基地中に響いた俺の怒声にゲラゲラ腹を抱えて笑っているだろうスケイルの姿を想像し怒りが募る。

 

「野郎ぉ・・!あの禿頭がぁ・・!明日絶対に仕返ししてやる。玉絞り生の刑か、ハゲテル坊主2だなぁ・・!」

 

「男子中学生みたいな仕返しの仕方ね。良い大人が恥ずかしくないの?」

 

俺自身も、ここにいる全員も腹が減っている事を加味し、明日の朝会った時に仕返しする事を決め、肩を怒らせながらレストランのドアを開ける。ドアを開けると416が呆れたと言わんばかりに中に入りながら冷ややかな目線を向けてくるが知らん。

 

「男なんて図体がでかくなっただけのガキだよ。何時まで経ってもな。ガキの頃昆虫のケツを必死に追いかけてたのが、年をとりゃその対象が女のケツに変わるだけさ」

 

「じゃあ、デッドマンも私のおしりを追いかけて?」

 

「何でテメェまでいるんですかねぇ・・?」

 

「あれ言ってなかったけ?後から私も別件で行くよーって」

 

「聞いてねぇよ!帰れや!I.O.P首席研究者ぁ!」

 

背後から聞こえた聞き覚えのある気怠るそうな声音に振り返れば人形達の前ににゅっと飛び出してきた桃色の髪を靡かせた痴女研究者の姿に思わず片手で頭を押さえて呻く。何でコイツまで来たんだマジでぇ・・!

 

「マジで何しに来た。帰れ」

 

「酷いな君は。こんなか弱い女性にもてなしもせずに帰れなんて、紳士の風上にも置けないね」

 

「うるせぇ帰れ」

 

咎める視線で俺を上目遣い気味に見つめてくるペルシカリアに微塵も劣情を催す筈もなく、間髪入れずに雑に左手を払いながらあっちへ行けとジェスチャーを交えて歓迎してない意思をこれでもかと表す。

 

「まぁまぁ、指揮官。こんな夜更けですし、女性をこのまま帰すのもどうかと思いますよ?」

 

スプリングフィールドの困った様な笑みを浮かべながらの一言に俺は渋々ながら頷き、仕方なく適当な椅子に座るように声を掛ける。

 

「適当な場所に座れ。しょうがねぇから飯食ってけ。どうせ食ってないだろ?」

 

「いやぁ嬉しいねぇ。今日もめんどくさくなったから抜こうかなとか考えてたんだよね」

 

「アホンダラ。余計に質悪いわ。聞くが肉はイケるか?」

 

「私は大丈夫だよ。珍しく凄くおなかがペコペコさ」

 

「あーっと確認だが、今日のメニューは牛肉のリブロースステーキ、フレンチドレッシングのスタンダードなトマトと生野菜サラダ、ガーリックライス、スープはコンソメかコーンポタージュ。デザートは苺ババロアか、季節のフルーツのミニパフェ。酒はビールかワインしかないが、これの予定だ。肉が駄目だって奴は?」

 

「私は大丈夫です。ただ、殿方の前で口臭を気にする食材はちょっと恥ずかしいですね」

 

「・・・あたし達にいきなりそんな高価な物食べさせるなんて何考えてるの?」

 

「・・・お肉はヤダ。他のメニューはないの?」

 

スプリングフィールドが頬を染め困った様に笑みを浮かべ、俺を見つめてくるが別に気にするなよ。俺を意識なんてするな。男として死んでる人間だぞ?

疑うように睨みつけてくるスコーピオン達の前に捕縛されていたUZI・・・今もなお人間自体が信じられない様で俺が彼女達を体の良い性処理の道具として引き取ったとばかりに思っている様で一向に警戒が解けないまま、ここまで来てしまった。まぁ、ゆっくり時間をかけて誤解を解くしかなさそうだ・・・。

 

胡乱な目で首をプイっと背けた5-7に俺は代案として手軽かつステーキに引けを取らないと自負している自信のある料理を提案する。

 

「ならボンゴレ・ビアンコに、サーモンのマリネにするか?デザート、スープに酒は変わらんが・・・」

 

「どうして・・・」

 

俺の言葉に俯きながら忌々しげに表情を歪めた5-7が俺を睨みつけながら、怒気を発しながら怒鳴る。

 

「何でそんな真似するのよ!あなたがアタシ達の上で本来なら拒否権だってない筈でしょ!?アタシ達は貴方の所有物でしょ!?なんでっ・・!そんな人間の女性みたいに扱ってくれるのよ?!私達は・・人形よ!!体の良い使い捨ての駒で!あなたたちみたいな下卑た男達に抱かれるためだけに存在する淫売な―――」

 

「―――止せ。そんなに自分を傷つけるな」

 

肩を震わせ涙をその綺麗なブラウンの両目からボロボロと零しながら叫ぶ5-7の痛々しい姿に思わず、口を挟みそれ以上言葉を続かせない様に止める。

 

「あの糞野郎達の事だ。思い出すのも嫌だろうが、精神的にも肉体的にも好きに嬲ってお前らを貪ったんだろうさ。お前達が納得するまで誓うよ。あいつらは必ず地獄に叩き落すし、お前達をせめてここに来て良かったと思えるように楽しませる努力はする」

 

拒絶され反撃されるのも覚悟の上で5-7に近寄りそっと抱き締める。辛かったろう。女性として設計されたが故に、男の俺では考えもつかない、女性としてこれ以上にない屈辱を味あわされ凌辱の限りを尽くされたのだろう。スコーピオンの時と同じく激しく震えながら嗚咽交じりに俺の手から離れようと力強く俺の胸元を殴り抜いてくる。

戦術人形としての力強さに、一瞬息が詰まるも些事だと切り捨て、耐える。

 

「なんで!?ねぇなんで!?もっと早く来てくれなかったの!?アタシ達がどれだけ辛かったと思ってるのよ?!ねぇ答えなさいよ!!!今更・・・終わった後に手を差し伸べられても遅すぎるわよ!」

 

「最もだ。俺は間にあわなかったな。君達を助けるという点では」

 

理不尽な責められ方だと理解しているが、彼女の溜まり切った暗い感情を少しでも晴らすべく肯定し、俺が悪かったと全面的に認める。彼女が捕まっていた時、俺は彼女達を知らず、又、ケントとあの反乱を終わらせるべく戦っていたが、彼女達には関係ないだろう。

 

俺が、今彼女達の指揮官としてここにいるのだから・・・。

 

視界の片隅で、腰のホルスターに手を伸ばした416の姿に片手でやめろと伝え、5-7の気が済むまで好きに殴らせる。幸い俺は常人より遥かに頑丈だからな。どうってことはない。痛みにも慣れてる。

 

「この・・・!離してよ・・・!偽善者ぁ・・!」

 

「ぐっ!」

 

俺の拘束から逃れられないと判断した彼女は俺の首筋に噛みつきギリギリと力を込めて肉を引き千切らんばかりに噛みついてくる。首筋の鋭い痛みに苦悶の声を一瞬上げるも、気合で堪えより一層彼女を強く抱きしめる。

 

「フゥウウウ!」

 

「ぬぅ・・・!」

 

息を吐き出しながら瞳を輝かせ、涙を零し続けながら睨むように俺を見上げた5-7の姿に妹の最後が一瞬過り、思わず表情を歪める。玩具にされて死んだ妹。体が弱くて体調の良い日には一緒に彼女の手を引き、日向の中で散歩してにこにこ笑っていた病弱だった彼女の最後が過り、思わず今の光景が彼女がもし生きていたら俺が受けていたであろう詰り(なじり)なのかと想像し、訪れはしないその光景と重なり、余計に俺の心を締め付ける。

 

ああ、許してくれ。俺は無力だ。妹も救えず、被害を受けた彼女達すら救えない。何時も間に合わない。肝心な時に。何時も・・・。

 

目頭が熱くなる。唇が、喉が震え俺の口からも嗚咽が小さくこの静まり返ったレストランに広がる。

 

伝う涙をそのままに泣き始めた俺の姿に思わず動きを止めた5-7を見つめ返し、呟く。

 

「ごめんなぁ・・ごめんなぁ・・・」

 

似もしない5-7と妹の姿が重なっていく。リサが俺を責める。助けれなかったヒーローでもないただの殺戮者だと。俺を。家族の敵討ちを理由に殺し続ける殺人鬼と。

 

『人殺し・・・私を助けれなかったのを理由に殺し続けるの・・・おにいちゃぁん・・・』

 

「俺を許してくれぇ・・・無力で哀れな男なんだ。お前も救えない。彼女達も救えない。

ただ壊して殺すだけしか出来ないんだ・・・!」

 

幻覚の筈のリサが、妹が、何人も周囲に現れ俺を詰り、罵倒し消えていく。

 

『人殺し・・・』

 

『痛かったよお・・おにいちゃぁん・・・』

 

『おにいちゃぁん・・・・まだ死なないのぉ・・・?』

 

 

 

 

 

 

 

『わたしたちだけしんだんだよぉおにいちゃぁん』

 

 

 

 

 

 

 

最期の一言に5-7を抱き締めたまま膝から崩れ落ちた俺は、カタカタと大男が情けなく震えながら右太腿に手を伸ばし何時もの様に引きずり出したオート9を自身の右米神に宛がう。ああ、ああ、お前が望むなら兄ちゃんも、随分待たせたけど、今そっちに逝くからなぁ。

 

「あぁ・・・・リサァ・・・俺も今逝くぞぉ・・・・」

 

ハンマーを上げ、セレクトファイアを単発に切り替えトリガーに指を掛ける。ああ漸く死ねる。家族の元へ・・・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「セイジ、まだその時じゃない。任務は終わってないよ・・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




ほのぼのするだけだと誰が言った?幕間でも平然と俺はメンタルボムぶち込むぞ!(いうほどほのぼのしてない・やっぱり悲劇的な描写しか出来ない作者の末路)


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幕間・傷だらけの心

漸く、頼りにしてた背中を預けた戦友達との再会。しかしそれでも男の精神は、心は、崩れていく。家族を失ってから、ずっと復讐心を糧に壊れて砕け散った心を無理矢理つなぎ止め、保ってきた。それが今限界に至る。


米神に当てた銃口を横から強引に逸らされ、右側に立つ流れる様な色素の薄い金髪を腰まで結わえた無表情で中性的な細身の男を俺は茫然と見つめる。

 

「マックか・・・?」

 

「お帰り、セイジ。また会えて嬉しいよ。でも、まだ、死ぬ時じゃないよ・・・」

 

思わず力の抜けた俺の右手からオート9をマックは奪い取り、マガジンを外してスライドを引き、チャンバー内の弾丸すら排出し、オート9を遠くへ投げ捨てた彼の姿に震える唇から声を絞り出し、抗議する。

 

「返してくれ・・・俺はもう死にてぇんだ。もういいだろう。もう十分だ・・・もう休ませてくれぇ」

 

「セイジ。まだだろ?俺達はまだ任務を終えてない。グラウス達との約束は?俺達が看取っただろ。家族の元へ帰れないで、戦場で果てた戦友達を!俺達の仇を討ってくれ。子供達に戦争のない世界を残してやってくれって頼まれただろう!」

 

突然の戦友の来訪に更に固まる場の空気を尻目に俺達は言葉を交わす。

 

「俺には無理だぁ・・・俺は無力なんだ。何時もそうだ。間に合いやしねぇ!」

 

5-7の戸惑う表情を眺めマックの常に無表情な表情が今は珍しく変わり、眉を顰め語気を荒くして俺に詰め寄る姿を交互に見比べ、俺は頭を抱えて蹲る。頭を抱えながらマックへと叫ぶ様に昔の事を話す。

 

「サンドストームの時を覚えてるか!?現地に取り残されたダニエル達を助けに行った時の話だ!あいつだけ生き残って俺達を待ち続けたあいつを!」

 

「覚えてるさ。あいつが最期どうなってしまったのかも・・」

 

脳裏に浮かぶ賭け事が好きで、ポーカーで良くあいつに有り金持っていかれた時の事を思い出しながら俺は叫ぶ。妙に気の良い、入隊時部隊に馴染めず、孤立しがちだった俺を仲間の輪へと導いてくれた気の良いあいつを。バイクで高速ぶっ飛ばすのが大好きだったダニエルの事を。

 

「砂嵐でバグダットに足止め食らってた俺達が遅れて到着した時にあいつは両目刳り貫かれてのた打ち回ってた!今でも思い出すんだ・・・大尉、大尉、何処ですか?目が見えないんだ大尉って・・・セイジ、何も見えねぇだって!俺ぁ・・・俺は必死になってあいつの刳り貫かれた目ん玉這いずり回って探した!!!」

 

俺の激情から溢れ出して止まらない言葉を黙って耳を傾ける一同に、嗚咽交じりに叫び続ける。

 

「でも見つからねぇんだよぉ!!どれだけ必死に探しても!!!戦友の目ん玉一つすら見つからねぇんだよぉおお!!!!!」

 

頭を掻き毟りながら脳裏に浮かぶあいつが両足をばたつかせながら叫んでいた横で必死に這いずり回って目玉を探し回っていた俺を思い出し、心の軋む苦痛から泣き叫ぶ。

 

「あああ・・うあああ!あぁ・・うぐ・・!」

 

「あの時だって間に合わなかった・・今もそうだ。もう俺じゃなくて良い筈だぁ・・・みんな待ってる。ダニエル、父さん、母さん、リサ。頼れる戦友達・・・みんな、みんな死んでいなくなっちまった」

 

「セイジ、それでも前へ進んで、あいつらを殺し尽くすって決めたのは俺達だろ。逃れる事は許されない。俺達の戦争はまだ、終わっちゃいない!!」

 

「死なせてくれ!皆に会いてぇんだよ!!俺だけ置いて行かれた!俺だけ、俺達だけ!みんな何処に消えた!!あああああ・・・・・・うわああああああああっ!!!!!」

 

 

子どもの様に噎び泣きながら床へと何度も頭をぶつけ、絶叫を上げる。みんな気の良い連中だった。愛すべき善良な人達だった。みんな惨たらしく殺された。ダニエルは衰弱していって生きる気力をなくし失血したまま搬送される最中に死んだ。他の戦友達だって、みんな状況が違えど俺の前を去っていった。ケツの毛まで毟られたって構わない。あの気の良いダニエルの勝った時の笑い声が、もう一度聞きたい。二人でバイクぶっ飛ばしてサツに追われた時にゲラゲラ笑ってたのをもう一度経験したい。ダニエルにテメェ元サツだろって言われて鼻で笑って返し、ビール片手に意気揚々と二人で酒場に繰り出していったあの楽しかった思い出をもう一度・・・・。

 

「俺だけがどんな状況でも生き延びてきた。生き延びちまった・・・挙句の果てには死んだと思えたのにこのカラダだ・・・俺にはもう生きる資格なんかねぇのに!まだ生きろとお前らは言うのか!こんなスクラップのダルマに!まだ戦えって言うのか!」

 

「お前が自分自身で決めたんだぞ!それを忘れるな!俺達の任務は?復唱しろ!セイジ・シノノメ大尉!!!」

 

「超帝国主義派一派の壊滅・・・最重要目標Z1の殺害ぃ・・・」

 

マックの珍しい怒声に頭が焼けるように痛い。思い出す最後の任務の内容が、浮かぶ度に激痛が走る。

頭を抱えながら上を見上げればマックの俺を睨みつける視線が、戦術人形達の戸惑う視線が、ペルシカリアの悲しげな視線が俺に突き刺さり、俺の心が激しく揺さぶられる。

 

「俺を見るなぁ・・・見るな・・・・」

 

 

 

 

 

「そんな哀れんだ目で俺を見るなぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!」

 

 

 

 

 

 

その絶叫を最後に俺の意識は暗転した。

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・」

 

「気絶したの?」

 

「うん、精神的な負荷に耐えきれなくなって落ちた。けど大丈夫直ぐに目を覚ますよ。もう一人が」

 

「もう一人?」

 

固まった様に身じろぎ一つなく沈黙する大男の姿を厳しく見つめながら、僕は一つ漸く大事が片付いたかと嘆息する。セイジ、出来ればこんな再会の仕方はしたくなかった。今回は予断を許さない状況だったからこうせざるを得なかったけど・・・。

栗色の髪をツインテールに結んだ子、(UMP9だったかな?)の質問に僕は返しながら頷く。遅かれ早かれ彼女達はセイジの状態を知るだろうし、早くなっただけだし問題ないだろう。

 

ピクリと動いた大男、セイジがゆっくりと蹲った状態から動き出し、目の前にいる銀髪をポニーテールに結んだ子を一瞥し、自分の涙に濡れた顔を無表情気味に乱暴にコートの袖で拭いながら僕の方に振り向きつつ立ち上がる。理知的な光を宿しながらも全てを諦め切った様な死んだ瞳、以前の彼だ。部隊に入る前のセイジだ。

 

「随分派手に叩いたらしいなマック。あの様子だと俺はしばらく起きないぞ」

 

「そうしないと何時ぞやかのように暴れるよ?自殺しようと。今は止めれる余裕もないよ。僕らも」

 

「それもそうだな。まぁしばらくは私と変わって微睡むだろう。さて、お嬢さん方、改めて自己紹介させてくれ。私はセイジ・シノノメ。このカラダの主人格だ。ほとんどは申し訳ないが、表に出るつもりは一切ないがね私は」

 

腕を組み立ち上がったセイジはそのまま追及を許さないといったばかりに彼女達に関わる気もないようで颯爽と肩で風を切りながら厨房へと姿を消し、困惑だけが彼女達の間で広がっている。

 

「え?二重人格・・・?」

 

「うん、重度のPTSDと精神的ショックの連続による疑似的な二重人格なんだよ。どっちもセイジでいや、君達に分かりやすく言うとデッドマンであることには変わりないよ」

 

困惑した様子の彼女達に肯定で返してやり、僕は久々に食べる俺じゃなく私のセイジの料理を期待して出されるメニューを待ち侘びながら席について告げる。

 

「砕けて壊れ切った心を、復讐心と僅かに生き残った仲間との絆、そして義妹の明日香ちゃんの存在と科せられた任務によって死ねないように縛り付けられた男。それがデッドマンの正体だよ」

 

いつの間にかカウンターに用意されていた温かいコーヒーをすすりながら僕は表情を何時もの無表情に戻し、ホッと一息吐く。本来なら、僕じゃなくてヘルドッグの役目なんだけどなぁ。こういう役割って・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




はい、爆弾らしきもの投降した糞作者は私です。まぁ二重人格匂わせる描写はしてたし今更感はすごいだろうけどね。まぁいらないと思うでしょ?必要だから書くのよ。二重人格は


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幕間・温かい食事

思ったより気に食わなくて何度も書き直してしまった。難産でした。後言える事はAPEXでチャンピオンになったけどあれさー。VC繋がってないと上位に入るのすら結局辛いよー。5キルして雑魚死とか良くなるわぁ


ふんわりと辺りを漂う香ばしいコーヒーの香りが緊縛した雰囲気を和らげ、カウンターに着いたマックが緩やかな笑みを浮かべながら、先ほどの出来事がなかったかのように振舞う姿に戦術人形達やペルシカリアが困惑する中、上品にカップを音を立てずにカウンターの上へと置き、女と見間違う様な美貌を崩し、呆れた様に溜息を付いたマックは口を開く。

 

「ボケっと突っ立ってないで座ったら?」

 

「・・・そうだね。じゃあ遠慮なく」

 

覚悟を決めた様にマックの左隣にペルシカリアが座り、カウンターの奥からチラリと見える薄暗くなった厨房から音もなく件の大男がぬっと現れ、ぶっきらぼうにコーヒーの入ったカップをペルシカリアの前に置き、又厨房へと消えていく。ペルシカリアは自身の前に置かれた温められたカップと湯気を出すコーヒーにごくりと生唾を飲み込み、目の前の誘惑に負けずにマックに問い詰める。

 

「何時から何だい?」

 

「それを聞いてどうする?僕はスケイルの次にセイジと組んで長い。それ以上は言うつもりはないよ。聞きたければ本人から聞くべきだね」

 

ペルシカリアの真摯な視線も何のその、ぴしゃりと言外に自分は話すつもりはないとマックは切り捨て、自分のコーヒーにカウンターの上に無造作に置かれていた砂糖とミルクが入ったバスケットから砂糖を二本、ミルクを一個取り出すと封を切りティースプーンを同じくバスケットから取り出し、丁寧に混ぜ合わせる。

 

「・・・この世界で会うのは初めてだけど、変わらないね。機械化しようと、優しい味・・・僕の好きな味だ」

 

眦を下げ、後頭部の後ろに結わえた儚い色合いの金髪を楽しげに揺らし誰に言うでもなく混ぜ終えたコーヒーを味わうように嗜み、マックは独り言ちる。コーヒーの雫が形の良い唇を湿らせておりマックはそれを舌先でペロリと嫌味にならない色気を醸し出しながら拭う。その所作に、ペルシカリア達は何故だか居心地が悪くなり椅子の上で小さく身じろぐ。

 

「たかが、コーヒーだろ。そんなもんで喜ぶな。下らねぇ・・・シッカリと手順通りにやれば誰でも出せる味だ。私の母上だけは別だが・・・」

 

 

再び死んだ瞳のセイジが心底どうでも良いとばかりに吐き捨てながら、人数分のコーヒーカップをそれぞれの席に置き、腕組みしたまま片手で煙草を取り出し火を付ける。

 

「少し待て、今短時間だけだが肉を柔らかくするのに下ごしらえは済んだが、時間が欲しい。一服ぐらいはさせろ・・・」

 

答えは聞かないとばかりにマイペースに煙草に火を付けたセイジは目を閉じながら関わるつもりはないといったスタンスを崩さない雰囲気のまま煙草を吹かせ、沈黙する。

 

「え?もうですか?」

 

「トロイのは嫌いでな。手早く、静かにだ。・・・殺しも、調理も、な・・・」

 

以前調理する環境で働いていた経験のあるスプリングフィールドだけが彼の早業に驚愕し目を見開く。その驚愕にセイジは吐き捨てる様に呟き、溜まった灰をいつの間にか左手に持っていたガラス製の灰皿へと乱雑に払って再び口へと咥える。

 

「早業だったらセイジより早い人はあんまり見たことないよ。クイックドローやリロードも含めてね」

 

「余計な事を言うな。あんなもの、反復してその場その場で最適化すれば誰でも出来る・・・」

 

「でも昔から手先は結構器用だし、何事も早かったよね?何時だっけ?入隊前の時にやったサバイバル術の話って」

 

「・・・マンハッタンだ・・・その場にある物を加工して武器にする。相手より早く相手を殴り倒す。複数人に囲まれた際は前の一人を捕まえ盾にする。そして拘束した相手の武器を奪い使う。ふん、手癖が悪いといえばいいだろう。こんな簡単な事恐怖を押さえればできる。誰でも、容易くな」

 

「実際にそれをやろうとするのはセイジ位だよ・・・」

 

呆れたようなマックの呟きに小さくセイジは鼻で笑い、艶のない白髪を揺らしながら傷だらけの彼の顔色を窺いながら恐る恐るコーヒーを啜り始めていた戦術人形達の顔をまじまじと観察しながらフィルターぎりぎりまで喫った煙草を消火し、灰皿に捨てる。

 

「貴様らに一つだけ言っておく。私に関わろうとするな。俺の時は存分にやってやれ。でないと死にたがるぞ。文字通り、私の死に対する渇望を奴は担っている。皮肉にも疑似的な二重人格である我々はほぼ大差ない人格であるが、私は奴等を始末する時、俺が何らかの理由で微睡む時、そして・・・」

 

「――――『作品』作りの時しか現れるつもりはない」

 

「作品?」

 

「知らぬ方が良いぞ。常人には耐えられん所業だ」

 

45の様な薄暗い笑みを浮かべ、楽しげに鼻歌を奏で始めたセイジの姿にコーヒーの熱さに涙目になりながら問い返したG11が首を傾げながらナニカを察したかのようにコーヒーを再び啜り、熱さにまた慌てる。

 

「あちち、したがいひゃい・・・」

 

「ふっふふーん♪・・・ふふふふ・・・・」

 

薄暗い笑みを携えたまま鼻歌をのんきに奏でながら厨房へと姿を消したセイジの後姿をマックだけが無表情で厳しい目付きのまま見続けていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

目の前に豪勢に盛り付けられた一生に一度食えるかどうかといった天然の食材をフル活用したステーキやガーリックライスの食欲をそそる香りや鉄板の上で撥ねる肉汁の弾ける音にいかにも新鮮な水滴の滴るサラダに一同は生唾を飲み込み、この光景を作り出した下手人へと視線を向ける。

 

「私の許可などいらない。存分に食したまえ。肉は一人もう一枚のみおかわりを許可しよう。ボンゴレを注文した者は私に言うが良い。ハーフサイズでもう一度提供しよう」

 

まだメニューの全てが全員に行き届いておらず各々のスープを運びながら各自の前に無造作に置きながら忙しなく動く黒いエプロンを身に着け、目が隠れる程深く赤いバンダナを頭部に巻いたセイジがいただきますもなく無言で食い始めたマックの前に特盛のガーリックライスを置きながら動き続けている。

 

「そういえばブレッドでなくて良かったのか?マック」

 

「今日は米の気分だった」

 

「たまに私はお前の方が日本人らしいと思ってしまうよ・・・」

 

モリモリと口いっぱいにガーリックライスを掻き込む黙っていれば絶世の美女と呼んでも遜色ない中性的な男性、マックの食事の風景にセイジは額に手をやり溜息を吐く。

セイジとマックのやり取りを見て我先にと温かな食事へと手を伸ばしだした戦術人形の姿をペルシカリアは嬉しそうに一瞥すると自身も目の前の巨大なステーキ肉を食すべくフォークとナイフへと手を伸ばし、分厚いながらもナイフで切り分けた瞬間に抵抗無く刃はスルリと肉の繊維を解き、簡単に欠片となって別れる。

 

(レアか、私は苦手だけど・・・)

 

欠片の状態をペルシカリアは眺め、焼けた断面とピンクがかった内部の肉との二色のグラデーションに昔に食べた合成ステーキのモチャモチャとしたゴムを噛んでいるかのような弾力を思い出し顔を顰めるが、意を決して口へと運ぶ。

 

「あ・・・おいしぃ・・・」

 

「そいつはどうも・・・」

 

腕を組んでニヒルに口元だけを歪め笑うセイジは何処からか葉巻を取り出し緩やかに煙を吐き出しながら玄関前の離れた木製の椅子へ座り、全員が談笑しながら食べている様子を眺めつつ、普段喫わない葉巻の煙を堪能しながら瓶に入ったウォッカを豪快に飲み続けていた。

 

「セイジ食べないの?一緒に食べたい・・」

 

「私は後で食べる・・・一人でゆっくり食べたい気分なんだ。悪いな」

 

マックの咎めるような視線を少し赤らめた顔でやんわりと拒否しながらセイジは黙々と葉巻とウォッカを嗜み彼女達の食事を見続けていた。まるで、尊い何かを見ているかの様に何処か遠くを見つつ自分は加われないとでも言う様に独り、酒を飲み続けていた。

 

 

 

 

 

 

 

 




久々の更新です(?)
そして案の定G11煽り来て草。いいぞ、もっとやれ(憤死)


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幕間・父性

おまえたち。辛い辛いなのである。イベント辛い辛いさんなのだ。


う・・・ぐす・・・おいしい・・・おいしいよぉ・・・・」

 

両目から滂沱の如く涙を落しながらむぐむぐと肉を口いっぱいに頬張りながら、スコーピオンは泣き続けており、その姿に居た堪れない気持ちになった私は、酒瓶を片手に厨房の奥から使用してない清潔なタオルを持ってきて一心不乱に食事を食べ続けるスコーピオンの涙をタオルで拭う。

 

「泣くな。これから・・・私はお前達が望んでくれる限り、私達の手料理なんかで良ければ作ってやろう」

 

食事の手が止まりながらも、私を見上げた傷ついた彼女の心情を表すかの様なくすんでしまった青い瞳を正面から私も見つめ返し、酒瓶を持ってない方の手で彼女の髪を手櫛で梳(す)いてやり酒瓶を乱暴に煽り、ウオッカを胃に流し込む。喉がヒリヒリと焼ける様なウオッカの強烈な風味を味わい、胃に響く重いアルコールの衝撃が容赦なく私の胃と喉を焼いていく様な感覚が私を心地良い酪調状態へと導いていく。

 

「リサは・・・家族は、私の手料理をよく喜んで食べてくれた・・・。お前達みたいな年頃の娘を見ると、つい、平和だった当時の思い出が顔を表す・・・。それが良い方向へ向く時もあれば、俺の様に悪く傾く事もある・・・」

 

普段なら口を割っても言う事のないことを喋っている事を私は自覚しながらも、酒瓶をもう一度呷り喉を潤してから平和だった、もう訪れない光景を脳裏に浮かび上がらせ、その光景を忘れぬ様に何度も繰り返し見た色褪せる事ない過去の幸せだった頃の記憶を噛み締めながら、黙って私の話を聞くスコーピオンの髪をもう一度梳く。

 

「・・・妹の分まで食べて、笑ってくれ。哀れな男の情けないちっぽけな願いだ。私達はもう一度彼女におなか一杯食べさせてあげたかった。ただ、それだけなんだ・・・。君達に行ってる事は、代替行為だというのも私達自身分かってる。だけど・・・」

 

目頭が熱くなり、視界がぼやけていくがお構いなしに私は告げる。

 

「嬉しいなぁ。やっぱり誰かが一生懸命作った料理を食べてくれるのは・・・」

 

「セイジ、何時でも僕は食べるよ。お代わり」

 

「お前はもうちょっと食べる量を抑えようか・・・」

 

水を差す様な形のマックの要求に思わず涙が引っ込み、溜息を付きながら私はマックの突き出してきた皿を受け取り厨房へと歩を進める。どうせコイツの事だ。また特盛だろうに。ステーキも二枚は焼いてやるか・・・。

不意に、背中に軽い衝撃が走り、思わずよろめいた私は振り返り、私の背に抱き着く形になったスコーピオンに声を掛ける。

 

「どうかしたか?」

 

「ねぇ、私達が人形だって知っててこんなに良くしてくれるのもさっきの話でなんとなく分かったけどさ・・私から我が儘を一つだけ言っても良いかな?」

 

「内容によるが聞こうか」

 

「私達ってIOPの技術者達が言わば、お母さんみたいのものだけどさ。お父さんていないんだよね・・・」

 

「だから」

 

ギュッと私のコートを力強く握ったスコーピオンが上目遣い気味に、涙を零しながら震える声で訪ねてくる。

 

「お父さんって呼んでも良いかなぁ?」

 

私はそんな些細過ぎる我が儘に思わず苦笑を零し、振り返って彼女の小さな体を抱き締め、彼女の髪を優しく撫でながら、殊更優しく告げる。

 

「私達で良ければ・・・。壊れかけた復讐者でも良いのか?」

 

「うん・・・」

 

「これから先きっと、私のカラダのせいで辛い事もある。それでもか?」

 

「うん・・・」

 

「幸せにできる保証も、生きて帰ってくる保証もできないぞ?明日香も、それは承知の上で私の義妹になった。そんな身勝手な男の娘になりたいのか?」

 

「うん・・・」

 

私の問いに徐々にぎこちなく私の背に回していた彼女の細い両腕が力を増して、私を抱き締め返してきて、彼女の決意が固い事を認識しつつ、最後の質問を投げかける。

 

「奴等を根絶やしにするまで戦い続けると決めた男の、娘になる覚悟はあるんだな?」

 

「うん・・・!」

 

私から離れないとでも言う様にしっかりと私のカラダに抱き着き、私のエプロンを涙で汚しながら力強く肯定した彼女の背をトントンと優しく叩いてやり、口を開く。

 

「分かった。私達で良ければ、父と・・呼ぶがいい」

 

部下候補になる筈だった戦術人形がいつの間にか、私達の娘、か・・・。つくづく明日香を拾った時を思い出す・・・。まぁ、良い。少人数で戦うのも、独りで戦うのも、何も変わらない。変わるのは奴等を殺す時間が長くなるか、短くなるかだけだ。天国の父上と母上に目出度い報告をするのが、初めてかもな。こんな事を伝えられるのは。

だが何故だろうな。まだまだこれから先、娘が増えそうな気がするのは・・・。

 

腰を屈めて、私の腹に縋り付くようにしてわんわんと泣き出したスコーピオンを落ち着かせるべく、彼女の小さな体を包むように抱き、ほぼ空になった酒瓶をその辺に無造作に置きながら彼女が落ち着くまで私は背中を撫で続けた。

 

「お代わり・・・」

 

「少し空気読みなさい。欠食性別不詳。ガーリックライスは作り置きあるから適当に装って(よそって)来なさい。スープは鍋にサラダとデザートは冷蔵庫だ」

 

余談だが、この時ペルシカリアが不気味に微笑んでいたのを目撃し私は背中が凍り付いた。いやな予感がする。404小隊はずっとニヤニヤと底意地悪く笑っていたし、他の戦術人形・・・100式とスプリングフィールドを除き、全員が訝しげな眼でスコーピオンと私を交互に見つめ、猜疑心と侮蔑に満ちた視線を投げかけてきていた。

 

まぁ、前途多難ではあるが・・・どうせ俺が何とかするだろう。私はあいつが起きたらまた微睡むわけだしな。

 

 

 

 

 

 

 

 

「あの・・・」

 

「ん?」

 

泣き止んだスコーピオンがそのまま安心したのか寝落ちてしまい。私のコートを強く掴んで離さない為に仕方なく私はコートを脱ぎ、彼女の体をコートで包んでやりながら、使ってない予備の椅子を並べて即席のベッドにして彼女を寝かせてから再び厨房へと向かう。が、100式におずおずと声を掛けられ立ち止まる。

 

「お代わりと、あの、指揮官が日本が嫌いなの解ってますけど、もし・・良ければ・・・和食を一度食べてみたいです・・・」

 

後半になるにつれ、元々伏し目がちに告げてきた内容が、俺の時の怒気を思い出したのか若干涙目になりながらの要望に、思わず彼女には悪い事をしたなと思いつつ、承諾する。

 

「良かろう。というか私達は料理は和食系のが得意だ。食べたいものがあるなら遠慮なく言うがいい。料理については俺も私も怒らないさ・・・因みにだが、義妹の明日香は私の鳥の照り焼きが好物だぞ」

 

少なめに盛ったガーリックライスを皿に装い、私の言葉に喜びながら、はぐはぐと美味しそうに笑顔で食べ始めた

100式がご飯をほっぺにつけながら、一生懸命に身振り手振りで話し始める。

 

「えっと!えっと!じゃあお寿司とか、うどんとか食べてみたいですっ」

 

「寿司は・・五目チラシぐらいは出来そうだが、魚がこの世界だと貴重過ぎるからな・・・うどんなら今度天ぷらうどんでも作って食べるか?」

 

「わぁ・・!はいっ!」

 

「そういえばセイジ、あのマッド遂にクローン製造できるようになったから食材は困らないよ。後なんか勝手に食肉用の家畜と、魚を繁殖させてる」

 

「んん?!何やってんだあのバカ!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




そろそろ結婚式行けそう。多分、来週位?早くても。幕間もそろそろ終わりよ。一旦締めてまた戦場へだ・・・。


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幕間・警備依頼

こっそり投げてもばれへんか・・



飯も食い終わり、戦術人形達から多少の嫌疑も晴れた私は、ウォッカの酒瓶を片手に煽りながら就寝しに女性寮へと戻って行った彼女らを見送りつつ(ペルシカリアは夜分と他社の幹部という事でしょうがなく、女性寮の空き部屋に招待して貰った)司令室で今頃むっつりと私が来ることを待ち受けているだろう禿頭の元へと向かう。

歩みながらの飲酒で気を紛らわせながら、人影が微塵もない無人の廊下を堂々と歩き、廊下の先にいる人物に気づき声を掛ける。

 

「まだ起きてたのか?明日香。夜更かしは美容の大敵らしいぞ?ま・・・そんなことはどうでも良いか・・・」

 

本日2本目に突入したまだまだ半分は瓶の中にあるウォッカを飲みながら彼女の困った様な眉尻を下げた表情に、何を言いたいのか目星をつけて待つことにする。

 

「お義兄ちゃん、あのね・・・ニュース見たよ・・・お義兄ちゃんが負傷する所も、人が倒れてる所も・・・」

 

「何が言いたい?私がお前を保護した時はもっと酷かった。分かるか?その時お前はまだ幼く、気を失っていたから知らなかったのが今でも幸運だと私は思うね」

 

チャプチャプと音を立てて、瓶の中を波打つウォッカの水音に少々機嫌が良くなりながら、酪調状態に近い私はそう言い返しまた一口煽る。ウォッカは良い。喉を焼くこの感覚。胃にガツンと来る重い感じ。まるで敵に食らったボディブローを思い出すが、あれより数百倍はマシだね。そして気分も良くなる。嫌な事も思い出さない。最高だね。

 

「お義兄ちゃんは私が戦うの止めてって言っても戦うんだよね?」

 

「当たり前だ。私のライフワークだぞ?それを取れば何が残る?四肢のない肉片か?はたまた、傷だらけで剥き出しになった心か?」

 

うつむいた表情のまま、悲しげに喋る彼女の姿に内心心苦しくもありつつ、そんな事は微塵も表情に出さずに皮肉を言い放つ。

 

「・・・この前の事は私も言い過ぎた。だけど、あんな死ぬ様な目にあってもまだ戦うの?」

 

「それが私達の任務だ。そして私達の望みだ。今もこの世の何処かで、家族を奪った連中が戦火を広げている。それを駆除するまでは止まるつもりも、死ぬつもりもない」

 

ぐびりと景気よくウォッカを胃に流し込み、息を深く吐き出す。何を今更、見てなかった現実がようやく映像となって押し寄せてきたか?それで私達を説得しようと?無駄だ。その程度でこの怒りは、憎しみは、奴等を消し去るまで消えない。永遠に。

 

「今更どうしてそのような事を?」

 

「家族の身を案じるのは変?私達家族でしょ」

 

「はははは・・・いいや、変じゃないさ。ただな・・・」

 

俯いていた顔を上げ私を睨む様に、鋭く見つめてくる明日香の表情を笑いながら近づき、肩を軽くポンポンと叩き告げる。

 

「私に意見するな。お前に私達の怒りの焔を消せるとでも?笑わせる・・・退くが良い。何せ私は・・・心を偽っている偽善者だからなぁ」

 

「どうして・・!どうしてそんなことしか言えないの!?」

 

「私の心は死んでるからだよ。家族を失ったあの日からずっと・・・どうせ死ぬまでの余暇でしかない。ま、精々楽しめ。義妹よ・・・私に近寄らない方が良いぞ。俺の時以外は、な・・・偽りの家族など、反吐が出る」

 

声を押し殺して泣き始めた彼女を無視して通り過ぎ、酒瓶を振りながら長い廊下をズカズカ歩いて行く。

何も悪い事は言ってない。事実を突きつけただけだ。『俺』の内心が寝てる今だと分らぬが、起きていたら激怒していただろうがな。そんな事は些事だ。

 

廊下の先にある司令室のドアを乱雑に蹴り開け、机の上で腕を組んで鎮座していたスケイルの姿に鼻で笑いながらウォッカを煽る。

 

「来るのが解ってたのか?」

 

「ああ、ついでに監視カメラの映像でさっきの明日香とのやり取りも見てた」

 

ただでさえキツい眼光を更に鋭くさせ私を睨みつけているスケイルに、抑えきれずについ吹き出してしまう。

 

「ぶっははは!なんだその顔は?!私は可笑しな事を言ったか?」

 

「あの子はずっとお前の身を案じていた」

 

「だろうな」

 

軽く返事をしながら更に酒瓶を煽り、残り少なくなった酒に寂しさを覚えた私は酒瓶を振り、溜息を付く。

 

「もうないのか・・・」

 

「お前が死んだと聞いた時あの子がどれだけ泣いたと思う?自分の体が切り離されたかのような泣きようだったぞ。見ろ!」

 

モニター上で近くに寄っていたであろうマックの胸元に埋まり、咽び泣いている彼女の姿

と彼女を無表情で頭を撫で、抱き締めているマックの姿に思わず吹き出す。

 

「ははは!なんだあいつら付き合ってたのか!そりゃ目出度いじゃないか!」

 

「セイジ!!そんな問題じゃない!!お前を案じてあの子は泣いているんだぞ!?何故冷たく当たる!?」

 

怒鳴り散らし、私の胸倉を掴んで来たスケイルの間近に迫った顔を冷ややかに見つめ返し冷静に返す。

 

「私の本当の家族ではない」

 

「貴様っ・・・!」

 

「だが事実だ。私はそう思い、そう扱う。俺は変に人情味がある。切り捨てれば良い物を何時までも未練がましく抱える」

 

「お前・・誰だ?」

 

「セイジだよ。お前が良く知る。セイジ・シノノメ」

 

困惑しながら私の胸倉を掴んでいるスケイルの緩まった手を払い退け、最後の一口を煽りりさらに話す。

 

「お前達の隊長であり、死に損ない。亡霊、肉片、ブリキ野郎。まだあるぞ―――」

 

「―――もういい!わかった!」

 

スケイルが私の肩を掴み、制止してくる。

 

「お前に何があった・・・」

 

「何も。これも私だ。二重人格を知っているか?」

 

「それがお前だとでも?」

 

「如何にも。まぁ疑似的らしいがね・・・ヘルドッグが言うにはだが・・・」

 

「独立した人格じゃないのか?」

 

「違う。私達は記憶を、感情を、共有している。まぁ、そんなことはどうでも良い」

 

スケイルを片手で退け、机の上にあるホログラフィックディスプレイを見ながら呟く。

 

「警備依頼?依頼主はD08地区ディーノ・タカマチねぇ。依頼金は高いな。随分私を買ってるな」

 

義肢でディスプレイの操作が反応するか少し疑問だったが問題なく動いたのを内心ほっと一息つきつつ、さらに操作して詳細を調べる。

 

「おい、勝手に触るな。機密だぞ」

 

「どうせ行くのは私だろう?何の懸念事項がある。見せて見ろ」

 

私を邪魔して来たスケイルを片手で追いやりつつ、ファイルに記された指名という項目に思わず笑みを浮かべ、迷わずに義肢を操作してその依頼を受けるイエスの項目をタッチして許可を出す。

 

「これで良い。楽な仕事で儲けが出るぞ?良かったな」

 

「お前・・・ホントに・・・ああ!クソ!洗いざらい吐いて貰うぞ!」

 

「私はそのような些事に興味がない。おっと・・・俺がお目覚めの様だな。意外といや・・・かなり・・・早いな。まぁ良い。一言だけ言っておく。私は何時でもお前達を見てるぞ」

 

「おいセイジ!」

 

「殺戮の中でのみ私は咲き誇る・・・夜明けの花の様に。私の居場所はここではない。Aナンバーを探して置け。その時こそ、真の意味が解る。では、アディオス。親愛なる禿頭君」

 

その言葉を最後に私は家族が待つ、最愛の微睡みへと包み込まれていった。誰にも私の傷は癒せない。私の気持ちも理解できない。必要なのは・・・・奴等の死のみだ。

 

 

 

 

「ああ・・・クッソ、頭がいてぇ・・・。私の野郎、又勝手に・・・」

 

「お前なのかセイジ・・・?」

 

「ああ、正真正銘の俺だよ。糞・・・吐き気がする。なぁ、オレンジジュースでもないかよ?」

 

「ああ、何時ものお前で安心した・・・」

 

「何言ってるんだよ。俺は俺だ。あいつはそうそう出て来ねぇよ。言わなくて悪かったな」

 

「何で黙ってた」

 

「言って信じられるかよ。まぁ、気にするなよ。持病みたいなもんだ」

 

コートの懐を弄り、煙草を取り出し一先ず俺は火を付けそれを喫い、煙を吐き出し呟く。

 

「で、これはもう俺が行くのが決定か?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




久々に投稿やけどばれへんやろ。


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cross line 結婚式 上

夜勤+残業で頭回ってねぇけど投げつけてもばれへんか・・・
割とクオリティ低くなってたら先方に申し訳立たないんでいざとなったら書き直す。大筋決まってるけど詳細な描写省いてたりしてたら追記するんでそこだけご勘弁・・・いや、お兄さん許して許し停。


昇る朝日を煙草を咥えながら目を細めて、夜が明け、徐々に空が明るくなっていく様を、俺は静かに眺めていた。何度見ようと、世界が変わろうと・・・この光景は美しい。不思議な魅力がある。ずっと眺めていても飽きない程に・・・。

煙草に火を付け、早番担当のスタッフ達が緩やかに起床したのであろう宿舎の明かりがついたのを遠目で見つつ煙を吐き出し、基地内の端にいた俺も依頼された任務の指定時間にはかなり余裕があるが、装備を選別するべく基地内に点在する弾薬庫の一つに足を運ぶ。基地内の中で滑走路に程近い、倉庫型の弾薬庫に掛けられたナンバーロックをホログラフィックパネルを指で操作し暗証番号を入力して進入。

 

「やぁ、セイジ。相変わらず機嫌の悪そうな顔だ。あ、ところで私の創ったラボ兼養殖場を見たかね?あれは実に素晴らしいだろう?あああ、その顔は言わなくても分かる。感動した。そうだろう?やはり思うんだが、遺伝子の神秘的な構造。そして生命体の驚異的なバイオニズム、進化。実に興味が尽きない。曳いてはそれを我々が解明し、世の中に還元し化学を発展させる。実に素晴らしい。そして行く行くは私は神にも等しい存在へと―――――」

 

「――――BB。悪いが、無駄口叩いてる暇はねぇ。依頼だ。内容は重要人物の結婚披露宴での警備だ。威圧感を与え過ぎない方が良いだろうが、前情報だと結構恨みを買ってるのと綺麗所が多いらしい・・・LMG1丁。AR2丁。ラストは適当な非殺傷性のグレネード寄越せ。フラッシュでも、コンカッションでもいい」

 

所狭しと様々な銃器が壁に掛けられ、専用の棚に収められ陳列された銃器のデパートとでも言うべき場所の中心で、粗雑なパイプ椅子に座り俺の姿を見るや捲くし立てる様に呪文を唱えるがごとく、興奮した面持ちで充血した目をギョロギョロと頻りに四方に向ける黒人の男が囀る(さえずる)のを敢えて遮り、必要な武器のリストアップをそいつに叩きつけ黙らせる。

 

「ああ、ああ。分かったとも・・そう言えばここでは初めて会ったな。お帰りセイジ」

 

「今更かよ。・・・ただいまBB。また会えて嬉しいよ」

 

「随分姿が変わったが、やはり君は君だな。私もすごく嬉しい。また君とこうして話せるのが」

 

ガチャガチャと棚や壁にある銃器に手を伸ばし、淀みなく指定された武器を引っ掴み目の前にある机に置きながらBBは言葉を続ける。

 

「君がいなくなってから色々あった・・・ヘルドッグ、彼女には会ったかね?」

 

「いや・・・今は別の任務でいないらしい。こっちの世界に来てからは一度もだ」

 

「そうか・・・まぁ、キッチリ絞られる事だな。後で、な」

 

「言われなくても・・・っと、このラインナップでどうだ?」

 

「M16A3が2丁。M249か。悪くない。っというか過剰な威力になる7.62㎜系列は使えんわな・・」

 

「ミドルレンジからインレンジ主体で近接戦闘でも取り回しが悪くなく、又リロードも早いM16、そして過剰な威力ではなく高レートで単独での制圧射撃が可能なM249。要人を逃がすには持って来いのセレクトだと思うが?」

 

「文句もない。グレネードは?」

 

「フラッシュを5つだ。今ダッフルバッグに入れた。銃と弾もな」

 

「昔を思い出すな・・・」

 

しみじみと、昔からいる古参兵でもあるBBの鮮やかな手際に惚れ惚れとしながら呟き俺は腕を組む。

その様子に、ダッフルバッグのチャックを閉めたBBは煙草を取り出し、自らの口に咥えて火を付ける。

 

「ふぅぅ・・・私達も長いからな。初めて会ったのはマンハッタンだったか。亡霊のような姿のお前を見た時、私は本当にオカルトは存在するのだとあの時ばかりは信じてしまったよ」

 

「素直にゾンビみたいだったと言えばいいだろうが、血だらけで臓物を体中に塗りたくって敵の死骸の山に潜んで、確認しに来た敵兵を八つ裂きにしてた頃だからな・・・。銃器なんて真面に使ってない時期の話だろ?忘れてくれ・・・」

 

「無理だな。今でもたまに夢に出るよ」

 

「そこまでかよ・・・」

 

お互いに苦笑し合いながら煙草を喫い、俺は右手でダッフルバックを引っ掴み弾薬庫の出入り口へと歩を進める。

 

「ああ、セイジ」

 

「なんだよ?」

 

出入り口に向かった俺に掛かる背後からのBBの声に思わず振り返ると彼は煙草を指で挟みながら、俺へと笑いかけ話した。

 

「今度ゆっくり話そう。クローン技術の事もそうだが、刺身が食べたい。あとパンケーキもな」

 

「・・・帰ってきたら作ってやる。パンケーキは・・・週末にな」

 

「約束だぞ!?作らなかったらまたコーラを作るぞ!今度は3倍炭酸じゃなくて10倍だ!!!」

 

「変な所でキレるよなお前って・・相変わらずだな・・・コーラは、そうだな。何時かの時みたいに寝ている俺の部屋に忍び込んで、メントス入れて俺に投げつけて来なきゃご自由に、だ。じゃあ、行って来る」

 

ひらひらと左手をBBに振り、深く煙草を喫い始めた彼の姿を、俺が死ぬ前と何一つ変わらない様子に一安心・・・いや、やっぱりイカレてやがるから安心できないのか・・・?まぁ、問題を起こさなきゃいいか・・。

兎に角、目を瞑って煙草を喫ううちの部隊のやべぇ馬鹿の姿に後ろ髪惹かれつつ弾薬庫を後にした。弾薬庫から這い出た俺に、斜陽となった日光の眩しさに目を細めながら半分ほどになった煙草を咥えつつ、駐車スペースに適当に停められていたセダンタイプの車の後部座席に荷物を放り投げ、運転席へと座り込む。

 

「クソみてぇな悪路じゃない事を祈ろう・・・」

 

網膜認証して始動したエンジンの唸りを感じつつ、俺はアクセルを踏み指定座標へと向かうべく単身基地を後にした。

 

 

 

 

道中快適なドライブとは行かなかったが、独りで煙草を吹かせつつのゆったりとした通勤は何となく家族がいた時期を思い出し、憂鬱となる一面もあったが、色々な事が一気に起きた現状では気持ちや考えの整理に一役買ってくれて、俺自身の心の平穏を取り戻せた。

粗雑なアスファルトを敷いただけの舗装を、車を転がしながら目的地周辺が近くなった事を人工音声のナビゲーションシステムが告げ、徐々に近くなってきたこの世界では見慣れつつある壁に囲まれた市街地を見やり、思わず呟く。

 

「D08地区か・・・。厄介事の依頼じゃなきゃいいが・・・」

 

車をドリフトさせながら指定地の場所へと乱暴に慣性を押し殺して停車し、運転席を開け放ちながら俺は車から降りて、目先にある依頼主がいるであろう防衛基地のゲート前に立っていた小柄な金髪にカウボーイハットを被って露出が多めのアメリカンな出で立ちの少女に煙草を吹かせながら訪ねる。

 

「ここがD08防衛基地で合ってるか?」

 

「えっと、合ってるけど・・・ここ駐車禁止ですよ!」

 

「・・・悪かった」

 

一先ず駐車できるスペースを確認してこの車を置いてから詳細な打ち合わせとなりそうだな。まぁ、ひとまず幸先がいいスタートではないのは確かだな・・・。それと資料で確認してたが、ここの戦術人形・・・マジで通常のモデルより胸デケェのな・・・。

プリプリと怒りつつジャンプする度に揺れる彼女の胸に思わず戦々恐々しながら俺は彼女の言う駐車スペースに車を移動させるべく、再び車へと乗り込んだ。

 

 

 

 

 

 




イベント完走できずおじさん。もうしらねー。あきらめたー。そしてねみー


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cross line 結婚式 中

前回までのあらすじ
ロリ巨乳に叱られた大男


車を基地外周区にある目立たない建物の陰になった場所へと車を運転し、網膜認証を再度行いエンジンを停止させる。後部座席に放り込んでいたダッフルバッグを地面に置き、持ち込んでいたボディアーマーを装着して何時も通りに頭部から被る形でバトルマスクを装着する。胴体部の連結器と首筋の連結器がそれぞれ余分な空圧を排出してプシュゥと音を立て、密閉されたのを確認し俺は首を左右に揺らし骨を鳴らす。

バキリ、バキリと二度大きな音を立て鳴った骨に幾分か爽快感を感じ、地面に放り出したダッフルバックを右手で担ぎ上げ、先程のロリ巨乳アメリカンガールが待っているゲート付近へと歩を進める。

 

日が昇って間もないせいか、人影もまばらな基地周辺と基地内部から醸し出される、余り軍事色の強い感じがしない空気の漂い方を感じて何となしに呟く。

 

「・・・結婚式以前からあまり・・・前線に立っていない・・・?いや違うな・・・なんだ・・・?この感じ・・・何処かで・・・」

 

先程チラリと見かけたアメリカンガールは立ち振る舞いは何処か無邪気さを孕んでいたが、何気ない体の動かし方や視線から、そこそこ手練れの雰囲気を感じ取ってはいた。相手の警戒の仕方、腰に付いたホルスターのリボルバーを抜き、俺が敵だった場合に撃つ最速で抜ける位置への立ち回り・・・悪くはないが及第点だな。あれレベルがこの基地にゴロゴロいるか、もしくは上の奴がかなりいるなら・・・この仕事はマジで楽かもな。

それと思い出した。この基地の雰囲気・・・

 

「自衛隊か・・・クッソ。嫌なこと思い出した・・・」

 

戦時後の自衛隊の雰囲気に似てるんだ。大戦を終えて、新兵が精鋭として成長して精鋭がそれなりに揃ったおかげで一時の平和を勝ち取った、あの日本の雰囲気に何となく似ているんだ。

俺の嫌いなあの日本に。

 

「ああ・・・クソ・・・考えるな。ここはあの国じゃねぇ・・・」

 

嫌な記憶が隙をついて噴出しそうになるが、それを頭を左右に振り、追い払って俺はダッフルバックを担ぎ直してゲート付近へと歩み寄る。俺の接近に気づいていない様子で、こちらに背を向けて鼻歌を歌っているアメリカンガールに仕方なしに俺は声を掛ける。

 

「待たせたな」

 

「いえいえー、そんなに待ってなんか・・・何ですかそれぇぇぇぇ!?」

 

「何って・・俺のフル装備だが・・・」

 

「こちらが依頼した側とは言え、そんな威圧感ありすぎるマスクは外してくださいよ!来賓の方々が怖がるでしょ?!」

 

「・・・ええ・・・」

 

嘲笑う表情を浮かべたデュアルアイ型多機能カメラ搭載の髑髏面は甚く彼女の気に触れたらしく、烈火の如く怒りだした彼女の姿に何となく俺は脱力感を感じ、髑髏面を取り外して左手で取り外した髑髏面を見つめる。髑髏面は相変わらず妙に腹の立つ表情を浮かべたまま、デュアルアイを日光によって赤く怪しく輝かせながら俺と視線を交差させた。

この表情が本当に糞ムカつく。

仕方なく俺はダッフルバッグに髑髏面を突っ込み、M16を2丁共、スリングを使って交差させる感じで背中に背負い、Ⅿ249のグリップを右手で引っ掴み、左手でボックスマガジンを銃身下部へと叩き込んで、マガジン上部から飛び出た弾帯を銃身左側面にある給弾口へと引っ張って噛まない様に慎重に装填する。まだ戦闘待機状態でもないのでコッキングレバーは引かずにそのままの状態で保持して動作を終え、不備がないのを確認した俺は再び彼女へと視線を向ける。

 

「・・・今度は何だ?」

 

「いや、戦争でもするかのような装備だなって思って・・・」

 

「不満か?俺は受けた依頼がまともなら最善を尽くすだけだ。そして、事前データにはこの機を狙って不穏分子が来場する可能性が高いと聞いたんだ。俺独りで団体ぐらい殺し尽くせる装備を持ち込んだだけだ。ましてや俺はシークレットサービス気どりはするつもりはないぞ」

 

何処か責める様な彼女の視線に事実を述べ、密かにこの依頼は信頼はしているという意味で告げたが、果たしてどう取ってくれたか・・。

それに俺は黒服着て、拳銃を懐に忍ばせての警護なんて二度とごめんだ。大金を積まれてもやらない。第一相手が重武装してるのに拳銃だけで警護とか、俺には二度とやりたく無い部類の仕事だ。過去にそういう経験があるだけに、シークレットサービスの様な警備は絶対にやらない。

 

「まぁ、装備については概ね申請されてたデータ通りなので不満は・・あんまりないですけど。ああ、それとあなた一人ではないですよー。もう一人他社のPMCさんからも依頼して派遣される方が一名いらっしゃいます」

 

「聞いてはいる。コードネームはジャベリンだったか。投げ槍ねぇ・・仕事も投げやりにはならないで欲しいが・・・変わったコードネームだな」

 

「あなたのデッドマンだって大概なコードネームだと思うんですが!なんですか死人ってー!」

 

「そら死人だろ。見ろこの完璧な肌の色。白すぎて血色が悪いと何時も勘違いされる。序に傷だらけのせいで惨殺された死体にでも見えるんじゃないのか?あー、四肢は全部黒い義肢だがな、ははははは」

 

「そう言う事じゃなくてぇぇぇ!!」

 

叫ぶ様にして怒り出したアメリカンガールと揺れる胸のコミカルな様子と何とも言えぬ背徳感に、ついついイジって楽しんでしまったが、不意に背後からの小さな息遣いと僅かな足音に反応して右手に持ったM249を気配を殺して忍び寄っている奴へと向け、左手でコッキングレバーを振り向きながら引っ張り、チャンバーへ弾薬を詰める。そしてトリガーに指を掛けて、忍び寄ったそいつへと憮然と尋ねる。

 

「誰だ」

 

「撃つな。俺は味方だ。俺はジャベリン・・。あんたと今回組むことになったPMC武器庫所属の傭兵だ」

 

片手で保持していたM249の銃口を、立っていたそいつの腹から避けて肩に背負う。じろじろと無遠慮な視線をそいつにくれてやり、装備と顔を覚えるべく脳へとそれを刻む。肩口からスリングでぶら下がったM4、アクセサリーはCQBを意識してかバーティカルフォアグリップに、サイトは広視野低倍率のリフレックスサイト。右の大腿部に付いたホルスターにはM9。軽装ボディアーマーを様になる着こなし方をした黒髪をショートウルフカットに小綺麗に整えた、目鼻立ちの整った意志の籠った目をしている若い青年の特徴を頭に叩き込み、データ通りの姿に俺はM249を左手に持ち替えて、右手をぶっきらぼうに差し出し話しかける。

 

「GoodSmileカンパニーのデッドマンだ。お前、モデルでもやった方が良いんじゃないのか?こんな仕事なんか辞めて」

 

「どういう事だ?」

 

訝しげな瞳を俺に突きつけながら、差し出した俺の武骨な黒光りする右手の義肢に一瞬目を見開き、次いで俺の顔をまじまじと俺がやった様に無遠慮に視線を寄越しながら、俺の手を取り握手を交わす。

 

「何、少なくとも、俺の傷面よりはイケメンだって事だ。他意はない・・・」

 

俺の言葉にはにかむ様な笑顔を浮かべたジャベリンが、それにこう返した。

 

「少なくとも俺は傭兵以外の生き方を知らないから、それはないな。まぁ、よろしく」

 

「ああ。ま、よろしくな・・・」

 

「ちょっと良い雰囲気みたいにさっきの事!流さないでくれますか?!デッドマンさん!?」

 

「さんはいらない。ああ、それと俺の背後に立つな。場合によっては死ぬぞ」

 

「そう言う事はもう!いいですから!まったく!一緒に組む仲間ですよ!?何考えてるんですかー!?」

 

また怒り出したアメリカンガールの姿と暴れる胸に思わず苦笑しながら、俺は先程の気配の殺し方から接近時の冷静な対応に、今回限りの相棒としては満点に近いと評価を位置づけ、怒る彼女をどう宥めるか一先ずそれについて考える事にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




サマシュさん許して~。俺の中のジャベ君のイメージが何故かショートウルフカットの街ですれ違うイケメン風なんだ・・・。書き直せというなら書き直すから・・・お兄さん許して!後、SAAイジるのたの(渇いた銃声)


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cross line 結婚式 中2

かなり遅れたねごめんよ。先週の土曜から熱でずっとぶっ倒れてた。今はおかげさまで元気。あそれと貴様等!ついにやったぞ!眠り姫来たぞ!!!イベント?あんなもん投げ捨てたよ。DSRもゲットできなかったしもうどうでもええねん。


「手元だけには残させろ。俺の戦闘を補助する機能があるんだ。金だけ貰って手抜きの仕事をする趣味はねぇ。必要だと感じた時だけ着用する。それ以外はバトルマスクよりはマシなこのツラで仕事するからよ」

 

「むむ・・いいですか!絶対に変な事はしないでくださいね!?」

 

「お前の中で、早くも俺の評価が変人って辺りに嬉しくて涙が出そうになるよホント」

 

「まぁまぁ、落ち着けってなんなら俺ら巡回警備じゃなくて立哨(りっしょう)なんだからさ。SAAも抑えて・・デッドマン?」

 

祝いの場だというのに髑髏面はあまりにも不適切だと喧しく責め立てるSAAの嬢ちゃんの金切り声に片耳を塞ぎながら俺は、髑髏面の機能を説明しつつ、非常時以外は着用しないと宣言しているのこの始末である。この短い時間で如何に、俺を普通の人間としてみていないかの対応に嬉しくて涙が出そうだね全く。誰が変人かよ。

 

余りにもしつこい追及にジャベリンが仲裁に入ってくれたが俺は、イラつきを抑えるべく煙草を咥え、何時もの様に火を付け虚空へと煙を吐き出す。

 

「んだよ?」

 

「あ、いや・・ここ禁煙じゃ・・?」

 

「Fuck・・・一本だけ目を瞑れ。SAAももう時間がない。許せよ」

 

「しょうがない人ですね・・一本だけですよ?それと口が悪いのも直してくださいよー?

私は現地で待ってますからね?」

 

SAAの呆れたと言わんばかりに額に手をやり、溜息を付いた姿に胸の谷間が寄り、煽情的な光景にジャベリンが一瞬反応したのを見て若いなと内心鼻で笑い、晴天の青空をぼへーっと眺めながら煙草を喫い堪能する。まろやかな口当たり、肺に押し入って行く煙の充足感、吐き出す煙の後味どれをとってもそれなりだが、ガツンと来る感じが前に吸ってた銘柄に本当によく似ている。トミーは良いものをくれた。高級すぎるのは俺の舌に合わないからな・・。

 

「対処しておく・・。さて、時間か・・・じゃあ、依頼は契約通りに果たす。デッドマン、これより持ち場に付く」

 

「同じく、俺も行こう。正面ゲート前で良かったよな?」

 

「ああ、俺達がゲート前で武器持って威圧しながら不審人物を通さない。又は場合によっての排除だ。まぁこの基地の奴等はやり手らしいから強襲してくるような馬鹿は、別部隊が始末する手はずだとさ。俺達は・・・」

 

煙草の吸殻を携帯灰皿に入れ、腰に付けたポシェットに叩き込み、傍らに置いたⅯ249を右手で無造作に拾い上げて弾帯が給弾口に噛んでいないか再度目視で確認して、異常がないのを確認してから歩き出す。

 

「それをすり抜けて、悪戯じゃすまないようなことをしでかそうとする馬鹿共を纏めて捕縛か、排除だ。場合によっての判断は各自によって任せるとの事だ。どうする?俺は指揮経験・・・というより今までの任務で大隊までの指揮を預かった事が複数度ある。お前は?」

 

「俺は原隊に部隊長権限がある。というか俺は隊長だぜ?こう見えても」

 

ジャベリンのニヤリと笑いながらのセリフに思わず口笛で感嘆の意を表し、優男に似合わずに隊長を張っているとの情報に、評価を内心更に上方修正して話す。

 

「なら避難誘導やら、要人のいざと言う時の退去までの時間稼ぎ等は俺が、要人の先導護衛はお前に決まりだな。ケツは任せろや」

 

「オイオイ、一番危険な役をお前がやるのかよ」

 

「なら弾丸は防げるか?その体で」

 

「それは無理だが・・・」

 

「適材適所だ。それに俺の得意なのは殲滅戦だ。気にすんな」

 

「・・・その体ってやっぱり。作り物じゃないんだよな?」

 

「見ての通りだ。今じゃ俺のカラダそのものだ。不快だったか?」

 

俺の言葉にジャベリンは数度首を横に振り、俺の目を見て話す。

 

「いや、そんな事はない。ただ、あんたを始めて見た時から只物じゃない雰囲気はしてた」

 

「なぁに・・俺はただの死に損ないだよ・・・」

 

くくくと薄暗く笑いながらジャベリンの探るような視線と言葉を躱し、ゲートまで先程はいなかったこの基地のスタッフやら他の人形達が生き生きと慌ただしげに物資やらを持って走り回っていたり、受付の準備をしている所を見つつ歩み寄っていく。

SAAが腰に手をやり、俺達を待っていた様で機嫌良さそうに口角を上げ、笑顔を浮かべながら緩い敬礼と共に話す。

 

「それじゃあ警備お願いしますねー!あ、それとコーラいります?」

 

「依頼通りに果たすだけだ。俺は遠慮しておく」

 

「同じく。報酬分はキッチリ働かせてもらおう。それとごめんな。紅茶持参してるんだ」

 

申し訳なさそうに持参したであろう水筒を揺らすジャベリンの姿とにべも無く断った俺の言葉にしょんぼりしたSAAの痛ましい姿に俺は咳払いし告げる。

 

「依頼が無事に果たされた際に報酬としてコーラも貰おうか・・。こう見えてコーラは好きな方でね」

 

「はいっ!じゃあ、よろしくお願いしますねー!」

 

一転して花が咲いた様な笑顔を見せたSAAは他の持ち場の監督もしなければいけないのか急ぎながら片手を振り、去っていく姿をジャベリンと二人で眺めつつ呟く。

 

「すげぇ揺れてたな・・・」

 

「・・・この基地に戦術人形はかなり。その、恵体の持ち主が多いらしいぞ。通常モデルと違って」

 

「この基地来て良かった」

 

「単純な奴め・・・」

 

「あんただって見てたろ?」

 

「否定はしない・・・が、お前は少し視線の切り方とかを学ぶべきだな。多分彼女、気づいてたぞ?」

 

「・・・良く怒られなかったよな俺ら」

 

「ガキに欲情する趣味はない。ふざけた事言ってないで仕事を果たすぞ」

 

「ああ、そうだな」

 

ジャベリンからの咎めるような視線を受け流しながら、俺はⅯ249片手に金属探知機とスキャニングセンサーを兼ねたゲートの前に立ち、受付の準備が整ったらしくスタッフの一人が俺に声を掛けてきた。

 

「ええと、あなたがデッドマンさんでしたよね?」

 

「ああ、間違いないが?」

 

「この前のニュース見ました!あの、失礼ですけど本当に人間なんですか?」

 

「間違いなく血が流れ、心臓は鼓動を刻んでいる。俺は人間だ」

 

「あ・・失礼しました。すいません。ゲートの動作確認の為、協力して欲しいんですが」

 

「請け負った」

 

スタッフの不仕付けな質問に憮然と返しながら淡々と答え、冷めた目でそいつを見やりゲートの真ん前へと立つ。

 

「それじゃあ通って下さい」

 

「了解」

 

銃器を体に括り付けたままゲートを潜り抜け、通り抜けた瞬間喧しいサイレンを立てて警告灯が回りだしたゲートを待機していたスタッフの一人が即座に警報を切り、両手で丸を描き問題なく装置は起動して居る事を確認して俺は持ち場へと早々へと戻る。

 

「ありがとうございました」

 

「容易い事だ」

 

気分的な問題でⅯ249は却って持ち続けるのが邪魔になるなと思い、俺はゲートの傍らにⅯ249をセットして腕組みしたままパラパラと訪れだした来訪者たちを目を細めて注意深く観察しながら呼吸を静かにして気配を希薄にしつつ、悪意を持ちそうな人間の選別を開始した。

隣でジャベリンはⅯ4にこれ見よがしにマガジンを叩き込んでチャージングハンドルを引き、保持した状態で同じように注意深く来訪者を観察している。

 

まぁ、何かあっても対処は楽に素早く終わらせてやるか・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




後れて申し訳ナサス


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cross line 結婚式 中3

武装してきたは良いもの結局、背中に背負った二丁のⅯ16もⅯ249も使う気が起きなくなったデッドマン。周囲の雰囲気にもあまり過剰な装備での火力も必要ないかと思い、Ⅿ249を地面に置き、石造の如く警備するその様子と来客者達の交流を描く。


「御来場誠にありがとうございます。IDを確認しますのでゲートにてお願いします」

 

「はい。お疲れさん。しかしディーノ君も結婚かぁ・・目出度いねぇ」

 

「ウチの指揮官、ああ見えてモテますので」

 

「ああ見えてっていうかモテる様な男だろ?」

 

「違いないですね。ははは、照合完了です。どうぞ」

 

「ああ、ありがとう」

 

ゲート前にて手首に着けたブレスレット型の端末でゲストID登録をしているらしく、その様子を俺はチラ見しながら把握し、ゲートの先を通って行った男を見送りながらリラックスした様子で周囲を観察するジャベリンに声を掛ける。

 

「今の所不審な奴はいないな」

 

「だな。何事もないのが一番さ。こんな目出度い日だ。出来れば一発も撃ちたくない」

 

「それは同意するが、いざとなったら躊躇うな。俺はお前を守るつもりはないぞ」

 

「守られるような強さだと思うか?」

 

「言っただけだ。任務を果たすだけだ・・俺は・・・」

 

まだ時間が早い為にポツポツとしか来ない来賓の姿に俺は無意識に煙草を咥え、火を付け煙を堪能する。

 

「バレたら怒られるぞ」

 

「固い事言うな。ラストだよ。もうない・・」

 

煙を吐き出しながら遠くで、キャイキャイと嬉しそうに騒いでいる戦術人形達の姿を眺めながらふと、自分の右手を覗き込み物思いに耽る。

幸せ・・・幸せか。俺にはもう縁のない言葉だな。結婚もそうか・・・。こんなカラダ、誰が愛してくれる・・・?元々、人殺しの道に入った時から、警官を辞職したあの時から覚悟はしていたが、他人の、結婚式や披露宴を見る度に何時も思うな。俺には眩しすぎる。

 

薄暗く、血で湿った屍の積み上がった闇に続く道こそが・・・俺達には相応しい。

 

民間人を殺した事だってザラにある。俺も、超帝国主義者共の事を声を大にして責められやしないが、それでも誓ったのだ。戦友に、家族を慈しむ人達の姿に、必ず平和な世を残すと。

 

「―――ッドマン?デッドマン?おい、大丈夫か?」

 

「!!・・・ああ、大丈夫だ・・」

 

「・・何か悩みか?」

 

「知らない方が良い。お前が知らない方が良い類の話を思い出してた・・・」

 

不意にジャベリンの心配した様な表情が視界に飛び込み、思ったより思考に没入していた様で、根元まで火が近づいた煙草を握りしめて消火し携帯灰皿に入れてしまう。

 

「指輪か・・・二度と付けれないな。この腕じゃ・・」

 

「恋人でもいたのか?」

 

「いや・・・将来を約束した人はいた。が、振った」

 

「振った?なんで?」

 

「・・・俺の、いや・・彼女に俺は相応しくなかった。それだけだ」

 

「でも好きだったんだろ?」

 

「愛してた。だが、俺にはやらなければならない事があった。命を賭しても」

 

ジャベリンの質問に淡々と答えながら、マイクロバスから続々とやってきた様々な戦術人形や、他基地の指揮官達の認証していく姿を眺めながら呟き、納得のいってない表情を浮かべたジャベリンに口を開く。

 

「そしてそれはまだ尚続いている。このカラダになろうと、俺が・・・俺がやらなければならない事なのだ。この魂朽ちるその日まで、俺は止まらない」

 

「じゃあなんで、そんな悲しげな表情してるんだよ」

 

「彼女をまだ愛してるから・・・この思いは墓の下まで持って行く。俺と共に煉獄に焼かれなければならない」

 

「不器用な奴だな。あんた」

 

「良く言われる。さて、下らない世間話もここまでだ」

 

俺の言葉に首を傾げながらも保持したⅯ4を構え直したジャベリンも俺の視線の先にいる

白いチャラ着いたスーツを着こなした若い男を訝しげに眺め始める。

俺はそいつに近寄り、右手で指さし止まるように警告する。

 

「そこの男、動くな。動けば害の有る者として貴様を排除する」

 

「あぁ?」

 

気怠げな様子で振り返った男は振り返った先で男を見下ろす俺の体躯に驚いたのかびくりと体を撥ねさせて、怒鳴り散らしてきた。

 

「んだテメェ?何の権限があってこんなことしてやがるポンコツが!!」

 

どうやら俺を新型の戦術人形とでも勘違いしたのか俺の脛を、つま先の尖った革靴で蹴り上げ俺の顔面に唾を吐きかけながら怒鳴っている。

 

「俺の権限だ。文句あるか?右腕に違和感があるな貴様。左腕と比べて少し太い上に長いぞ」

 

「おい、あんまり大事にはしない方が」

 

ジャベリンがガラの悪いこの男をID認証もしてない状態で詰問するのはまずいと判断したのか俺に止めるように言うが俺はそれを無視して右大腿部に手を伸ばし、部分展開した右大腿部からオート9を引きずり出し男に突きつける。

 

「デッドマン!止めろ!お前可笑しいぞ!?」

 

「いいや、可笑しいのはこの男だ。俺の目は誤魔化せないぞ。右腕に武器を仕込んでるな?」

 

「チィッ!」

 

ジャベリンが男と俺の中間に割って入り俺のオート9を下げさせようとした瞬間、若い男は舌打ちを一つ打つと左腕で右腕をズルリと引き抜き、中から露になった義肢型の仕込み銃を俺に向けてくる。俺はその姿を確認した瞬間、正面のジャベリンを抱き締め、ジャベリンを抱えたまま背を向けて男の銃撃に備える。

 

「うぉぉぉ?!」

 

「喋るな舌噛むぞ」

 

振り向いた瞬間に周りの被害もお構いなしにぶっ放し始めた男へと背部を向けたまま後退

し自分自身のカラダを、盾にしながら周りに弾丸が逸れて行かない様に男に向けて背を向けたまま近寄っていく。

周囲も突然の発砲に驚いている様で、他基地の戦術人形が挙って武器を取り出し此方に向けてきている。俺はそれを片手を上げて制止し、ジャベリンに告げる。

 

「ジャベリン、こいつの後方から複数の熱源探知。多分仲間だ。俺らで排除しよう」

 

「らしいな。ああ、クソ。ツイてねぇ」

 

「ただ働きよりはマシだろ?」

 

ジャベリンを開放し弾かれた様にⅯ4を構え、数度タップ撃ちで白スーツの男を黙らせた

ジャベリンの正確な射撃に口笛でやるなと伝え、後方から迫る連中を対処するべく俺は、反転してオート9を後方から来る3人にそれぞれ、胴体部に3バースト射撃を一度ずつ見舞いし昏倒させる。

 

「こいつ等だけか。拍子抜けだな」

 

「ああ、ってかあんたやっぱ強いのな」

 

「弱いつもりはないが、自分で強いと思った事も無い。出来る事をやってるだけだ」

 

「そうかよ。さっきは助かった。ありがとな」

 

「どういたしまして」

 

寝転がる白スーツの男と似たような恰好をした男達をオート9を癖でガンスピンを行いながら右大腿部へ収納しながら近くに寄り、既にこと切れた最初の男は無視してまだ息のある増援の内の一人を胸倉を掴み上げ顔元迄引き寄せて尋問する。

 

「死ぬ前に言え。ディーノ・タカマチに恨みでもあっての犯行か?」

 

「だ・・誰が言うかよ・・」

 

「まぁだろうな。別に情報収集迄するつもりもないが、無駄な手間は省けた。じゃあ死ね」

 

男の鼻面を義肢の強力な力で殴りつけ、陥没させて命を奪い無造作に地面に放り投げ生き残っている二人のうちの一人をもう一度同じ様に掴み上げ、同じく尋ねる。

 

「誰の、命令だ?」

 

「V・・Vだ・・・お前に会いたがってたぜぇ・・・スカーフェイスゥ・・」

 

「そうか。わざわざ死にに来てご苦労な事だ。俺が奴に会った時に伝えておこう。部下は無駄死にだったとな」

 

同じように始末し、最後の一人は首をストンプして頸椎を破壊して息絶えさせ、死体を両手に引きずって行き、目立たない場所へと移動するべく歩を進めると、厳しい目付きをしたジャベリンが俺に尋ねる。

 

「知ってる奴か?」

 

「ああ、因縁の相手の部下だ。どうってことないさ」

 

「あいつらは、何があっても俺が確実に殺すからな」

 

一先ず死体を来賓達の目に留まらない様に処理するべく、まずは自分の車を目指して死体を4つ引きずりながら俺はその場を後にした。

 

 

 

 

 




カカオの錬金術師さんへ、ちょっとアクセント入れて見ましたゴメンなさい(焼き土下座)


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cross line 結婚式 中4

死体を自分の乗ってきたSUVのゴアバッグに詰め、念の為持ってきておいたドライアイスを適当にゴアバッグの中に放り投げ、現場へ戻るデッドマン。


SUVのトランクを乱暴に閉め、D8地区の他の警備担当戦術人形達に事情を説明し、俺の来訪のせいで起きた事件を謝辞し、外される覚悟で説明したが、彼女らは何処にでもいろいろな事情があるとし咎める事もせずに、無事に俺は警備任務を再開する手筈となった。ディーノ・タカマチからの指示らしく、披露宴の準備に忙しい中、わざわざ通信越しからの契約の履行の催促に頭が上がらずに、俺は素直にそれに応じ、ジャベリンの待つ現場へと歩を進める。

 

「死体の処理は?」

 

「俺が受け持つ、俺の世界の技術が奴等の肉体に使われているかどうか判別しなければならない」

 

「技術?」

 

ゲートへ戻ると早速質問してきたジャベリンに答えつつ、頭に疑問符を浮かべた様子のジャベリンの質問に質問に世界も変わり、部隊は散り散りになった俺達に守秘義務なんぞほぼないと判断し、触りだけを伝える。

 

「簡単に言うとカロリーと体力を消費しての傷の超速回復。視神経及び反射神経を向上される肉体改造の事だ。他にもあるが基本はこれくらいだ」

 

「そんな技術があるのか・・・だが奴ら何故それを使わなかったんだ?」

 

「何事にも弱点はある。意識が混濁する程の負傷の場合、自分の意思で発動させるものだから使いたくても使えない場合のが多い。それに、一度の発動の燃費が異常に悪い」

 

「・・・あんたは?」

 

「俺も改造されているが、殆ど使えないと思え。このカラダになってから発動すればどう作用するか分からん」

 

カロリーさえあれば傷の回復位は訳ないだろうが、もし超速回復の範囲が誤認されている場合義肢を繋ぐジョイント部から俺の肉が異常発達し盛り上がって生物兵器のようになるというのも否めない為、この世界に来てからは一度も使用していない。

 

「・・・なんだ?」

 

ふと視線を感じ、視線を感じた方向を見るとワインレッドの瞳に、俺と同じ様な色素の抜けた白髪、(だが彼女の方が艶があるか・・?)肉付きの薄い小柄な指揮官服に身を包んだ少女がポカンとした表情で俺を遠くから見上げていた。彼女の周りには戦術人形のPPK、P7、ステア―などが周りにいて彼女を守る様に、そして彼女を包み込むような雰囲気でゲートへと向かってきていた。

 

少女の視線の先に俺がいるのに気づいたPPK達はチラリと俺を一瞥して、彼女に話しかけながら楽しそうに俺の横を通っていく。俺はそれを気にせずに、このような少女まで指揮官として戦場に関わっているのかと、内心でこの世界の秩序の崩壊振りに辟易しつつ、一刻も早く超帝国主義者を排除しなければならないと心に誓い直し、拳を握る。

 

「マネキン・・・?でも認識できる部分もあるし・・・う~ん・・・」

 

「・・・気になるなら触ってみるか・・?」

 

俺の近くでマジマジと俺を見て首を傾げる真っ白な少女に武骨で、命の温もりの感じられない機械的な右腕を差し出して声を掛けて見る。この世界でもこれだけ機械化された人間というのも珍しいのだろうという軽い気持ちで、何となく少女の疑問を解消するべく差し出した右腕を少女はおっかなビックリの様子で触れ、ゆっくりと撫でている。

 

当然ながら感覚が微塵もない義肢に少女の温もりも、這わせる指の感触も感じられぬが此方を気遣う様子に心がじんわりと暖かくなり、思わず顔が綻ぶ。

 

「わっ・・冷たい・・・」

 

「ああ、金属製の義肢だからな・・」

 

リサも生きていたらこの子と同じ年頃だったろうに、妹が育った年頃位の少女の姿に感傷を覚え、胸を去来する寂しさに凍てつく様な胸の痛みを感じながら、そんな事は微塵も周りには感じさせない様に表情を笑みのまま固定し、少女が指を離し離れた個所の熱を確かめる様に左手でその個所を撫でて見るが、相変わらず俺には何も感じられなかった。

その悲しみがまた胸を締め付けるが、俺の葛藤も今は必要ない。ただ、この式を警備して危険を排除しなければ。

 

「お兄さん、ありがとうございました。なにかすみません・・」

 

「いや、気にしないでくれ。ああ、そうだ。披露宴楽しんで行ってくれ・・」

 

「はいっ!」

 

彼女の元気な返事と家族の様に、いや、本当に家族なんだろうな。こちらの様子を逐一変な動きを見せればお前を殺すとばかりに此方を見ていた戦術人形達が、少女が無事に彼女達の元へと戻ると皆笑顔で彼女を迎えID認証を済ませて、ゲートを潜っていた。

その様子を見ていたジャベリンが俺を冷かしてきた。

 

「何だお前ロリコンだったのか?」

 

ニヤニヤとこちらを笑うジャベリンの姿を横目でチラリと一瞥してから、俺は告げる。

 

「死んだ妹が、順調に年を取っていればあのくらいだったかなと思っていただけだ」

 

「悪い・・」

 

今はゲートを潜っていた彼女の姿の残滓を幻視として頭で再生しながら、彼女の姿をリサに置き換えて見て、生きていたならああして友達の結婚式に行って、おめかしして、楽しそうに笑って・・・・。

 

俺はその想像に耐え切れずに右手で頭を抱え、妄想した場面を消すべく瞳を閉じて深呼吸を行う。

息を吸い込む度にリサ/あの子の笑顔が脳裏を過る。息を吐く度にリサ/あの子の笑顔が楽しげな表情が脳裏から消えていく。

消えていく、消えていく。俺の思いも、願いも今は必要ないんだ。務めを果たさなければ。

 

最後の深呼吸を行い、息を吐き出した時には表層上は落ち着きを取り戻した俺は腕組みをしたまま訪れる来訪者達をぼんやりと眺めながら、時を過ごしていく。今の俺は、一つの機械としてここに存在していると思い込んで彼女の笑顔が脳裏にちらつく度に、無意識に右大腿部に格納している最後の煙草を喫うべきかと手を伸ばしていた。

 

ジャベリンもぱっと見は初見の俺と雰囲気が微妙に差異があるのか、チラチラとこちらを気にしながら警備を行っていたが、落ち着きのない俺の所作に思うところがあるのか、ぼんやりと地面に置いたⅯ249を眺めていた俺の肩を叩き、その微妙な衝撃に俺はゆっくりとジャベリンに視線をやり口を開く。

 

「どうした?異常はないだろう?」

 

「どうした?どうしたはこっちのセリフだ。あんた一体どうした?ユノちゃんが通ってからぼんやりしてるぞ?」

 

「ユノ・・彼女はユノというのか・・」

 

ぼんやりしながらジャベリンの口から出てきた名前をゆっくりと復唱し、被りを振りⅯ4を片手で握ったまま左手で俺の肩を揺さぶるジャベリンの顔を見つめながら俺は口を開く。

 

「すまん、少し煙草を喫ってきても良いか?」

 

「・・・一本だけだぞ」

 

「ああ、ありがとう」

 

何処かふらつく足取りのままSUVへと向かい歩を進め俺は、熱に浮かされた様にふわふわする心持の中、少しでもマシな頭に戻すべく何時もの古ぼけたオイルライターにクシャクシャになったパッケージの煙草を片手にゲートを離れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




トラウマってそうそうなくならないし、トリガーって意外と多いんだよぉ?(下衆顔)


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cross line 結婚式 中5

長らく待たせて申し訳ナス


車に戻った俺は、右大腿部に入れていた煙草が空になっていたのを思い出し、ドアをこじ開けダッシュボードにぶち込まれていた新しい煙草のパッケージを取り出して封を切る。あたりの喧騒が一時的に消えた車内で、緩やかに煙草を咥えて何時もの様に火を付け肺へと煙を流し込む。

ふぅぅぅっと溜息交じりに煙を吐き出して、空気へと溶けて消えていく紫煙をぼーっと眺めながら、病弱で病院と自宅療養の繰り返しだった妹の姿を何故あの子に見たのかを、疑問に思いながらも額に左手をやり、視界から来る光を遮りながら眉間に寄った皺をほぐす様に撫でる。

 

ああ・・どうして・・・。戦い続ければ、この未練も消えるものだと思っていた。妹への救えなかった後悔も、家族への思いも、全て燃え尽きて黒く塗り潰されるとばかり思っていたのに・・・一つ命を奪えば、また一つ家族が恋しくなる。優しく幸せだった頃の思い出を遠ざければ遠ざける程、後悔が、郷愁が募っていく。銃を一発撃つ度に、有りもしない母の泣く顔が見える。父の戒める様な怒声が聞こえる様だ。

それらと折り合いをつけて今があるのに次は、リサに似た子が現れた・・・。世界はどうあっても俺を許しはせずに、苦しみ続けろとのお達しらしい。こんな目出度い日に気の緩んだ瞬間を狙うかの様に訪れた予期せぬ衝撃は、最大限の苦しみとなって俺を襲ってくれた。

傷を負うのは慣れた。痛みだって、一時的なものに過ぎない。敵を殺すのに支障が出るだけで、そうじゃない。違う、違う、違う。

 

心の苦しみは、痛みだけは、この胸の痛みだけは何時になっても癒えなかった。寧ろ酷くなっていく。過酷な戦火に身を焼かれ、銃弾が鍛え上げた肉体を貫き、血を流す度に胸が痛んだ。今日、今この時だって痛み続けてる。心の内で、遥か昔に離れた故郷から残響する家族の俺を呼ぶ声は今は、悲痛な声ばかり聞こえる。

 

気を抜けば聞こえるんだ。セイジ止めて。もう戦わなくていいのよ。私達の事を悔やんでも良い。だけど幸せに生きてと母の泣きながらの悲痛な叫びが、父のお前にそうなって欲しくて俺達は君を育てたんじゃない。目を覚ませ。という父の竦める声。リサは心の中で会えば何時も俺に対する呪詛を吐いている。そうだろうな、何もできなかった無能な男・・・。優しさで世界が変わると思っていた頃の、糞愉快な男・・・。

 

そんな物はなかった。俺はデッドマン。超帝国主義派を壊滅させる願いを抱えた幾多の思いを背負って、戦っている。セイジは眠れ。眠るのだ。任務が終わる迄、俺は死ぬのだ。死んで戦うのだ。この自己暗示も何度目だ。精神がブレて機能する度に、行ってきた自己確立は。もうやりたくない。そう思っても現状がそれを許さない。俺自身も許せない。

 

休憩は終わりだ。立て、兵士。

 

 

ガチリとむりやり当て嵌めた自己の精神の器へと、煙と同じ様に、空気へと霧散して逃げて行こうとする哀れな男の魂をこの継ぎ接ぎの鋼鉄の肉体へと押し込めて、不死身の男は完成する。逃げれない。逃がさない。敵も、俺もこの運命から逃げれない。どちらかの命尽きるまで殺し合うのだ。

 

酪調状態にも似た一種のトランス状態を、振り払うべく残りの煙草を一息で吸い込み、握り潰して消火。携帯灰皿に吸い殻を叩き込んで車のドアを開けて、持ち場へと戻る。

 

ああ・・あと何度これを繰り返す事になるのだろうと、己自身に分かる筈もない疑問を投げかけながら、俺は警備へと戻るべくしっかりとした足取りで地を踏みしめて歩いて行った。

 

「早かったな?」

 

「流石に煙草を喫うだけだ。早々、変な遅刻はするはずがないだろう」

 

「まあそれもそうか・・」

 

想定していたよりも早く戻ってきた俺に、ジャベリンがスキットルに入れた紅茶を嗜みながら声を掛けてきた。それに対して10分も動いてない腕時計の針を指さし、心外だと告げると納得した様子でスキットルに入った紅茶を一口噛み締める様にジャベリンは飲み、スキットルのキャップを閉めた。

後、どうでも良いがスキットルに飲み物入れて飲む奴を見ると、作戦行動中にウィスキーやウォッカ隠して入れて飲む奴を知ってるからか、微妙な気持ちになるのは伏せておこう・・。

 

その後も特に、あの糞共の様なやらかそうとする輩は来なかったものの、ナンパ目的で来たのか変なチャラい男共を、ジャベリンと奴等のケツを蹴り上げながら追い返したくらいか。

 

「俺達はG&K社の基地所属の小隊指揮官だぞ!こんな真似してただで済むと思うなよ?!」

 

「だからIDで今回の来賓登録されてねぇって何度も言ってるじゃねぇか。さっさと帰れ。ヤることしか考えてねぇ猿共。目出度い日に仕事増やすな恥知らず」

 

「あー、って訳だから説明したた通りお宅等のIDが率直に言って拒否されてるから帰ってくれ。あんた等一体なにしたんだ?」

 

「言わずとも分かるだろうよ。ここの基地の戦術人形のスタイル見て口説きにかかった事がある連中だろ。データベース見て見りゃ罪状というかなんというか・・見て見ろ。糞見てぇな連中だ。俺が女ならタマ蹴り上げてるね」

 

ジャベリンと話しながら最後の一団であるナンパ師(自称小隊指揮官)達の戯言をうんざりしながらケツを蹴り上げて、ゲートから転がしながら溜息を付いてゲート横のモニターに映る罪状を見て、更に顔を顰めて飽き飽きとしながら更にケツを蹴る。とんでもねぇ馬鹿野郎共だ。

 

「悪い。正直お前が女になった想像が出来ない」

 

「奇遇だな。俺もだ」

 

「痛い!タマを蹴ってる!僕の大事なハニー達を喜ばせる大切なものだぞ!?」

 

「じゃあ今日でバイバイだな。お薬出しておきますね~・・・レックゥ!!!」

 

「あ”あ”ああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!」

 

「効き目一生。今日から女として生きて見ろ。案外性に合ってるかもしれんぞ?」

 

「うわっ・・えげつなっ・・そこまでやる必要なくないか?」

 

「義妹が万が一会ったら事が事だから早い内に禍根は潰しておこうと思ってな・・・」

 

「あんたの義妹さん、こんなバカに引っかかるってのか?」

 

「変に純粋だから騙されそうな気がしてな・・・」

 

「あぁ・・成程ね」

 

口喧しい一人の股間にぶら下がった粗末な物を気合を込めて鋼鉄の義肢の出力30%程度で蹴り上げ、ぐしゃりと潰れたのをズボン越しに確認しながら叫び声をあげて涙を流して股間を抑えて蹲る一人を摘まみ上げながら他のナンパ師共に尋ねる。

 

「今日から、新しい人生を開拓したい奴はいるか?こいつの様に」

 

奴等は一斉に顔を青ざめて首をブンブンと横に振りながら、泡を吹き始めた玉無し君をひきずりながら逃げるように出て行った。そんな必死に逃げなくても撃つ気はないんだがなぁ・・・。

 

「いや、撃たれる心配じゃなくて確実にタマ潰される事の方が恐怖だったんだろ」

 

「なくても生きては行けるだろ?」

 

「男としての尊厳失いたくないんだろうさ。俺も同じ立場なら逃げるね」

 

「・・・解せんな・・・」

 

逃げていく集団をジャベリンと二人で見つめながら先程アメリカンガールに持って来て貰った瓶の表面に水滴が集ったキンキンに冷えたコーラを、何気なく手刀で飲み口を水平に切り落としながら一気に煽り飲み干す。

 

「変に喉渇いたからなぁ・・・あの子には感謝だな・・・」

 

「いや・・お前、それ・・・」

 

「ん?」

 

「何でもないわ。悪いな」

 

地面に落ちた飲み口部分の瓶と俺が手に持つ瓶を交互に指さすジャベリンに首を傾げながら、一気にコーラを煽り、口内を刺激する炭酸と爽快な甘さにリフレッシュして切り落とした飲み口と、瓶を近くのごみ箱へと入れながら腕組みをして日が暮れ始めた綺麗な夕焼けに目を細めて呟く。

 

「そろそろ、披露宴か・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 




お待たせしました。申し訳ナサス。こっそり投降してもばれへんやろ・・・(脱走兵)


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cross line 結婚式 中6

この場所に、今日このような場所に俺の様な奴がいる事を未だに違和感を感じる。


馬鹿共を放り出して数分後程に、SAAからの通信に気怠い気持ちながら、答えるべく骨伝導イヤホンとボディアーマーの喉当てに内蔵されたマイクを起動させる。

 

「どうした?今ちょうどID登録してない馬鹿共を放り出した所だ。一人はこれから女として生きるしかないだろうが・・」

 

「え?なんの話ですか?」

 

「いや・・忘れてくれ」

 

柄でもない下系統の半死を振るがイヤホン越しにでもきょとんとしている様が浮かぶ様な声音に溜息を吐いて、柄でもない事はするもんではないなと自嘲しつつ用件を催促する。

 

「で、何かあったのか?」

 

「んと、私達の指揮官と新婦さん『達』がぜひ披露宴に参加してくれないかって言うお願いで」

 

「・・・俺の様な奴が参列していいのか?いや、好意でそう言ってくれているのは分かっているが・・」

 

お人好しな様子の新郎新婦の提案に思わず苦笑いを浮かべながら、イヤホンから相変わらず直接見なくても分かる様な、分かりやすいSAAの現状の、俺に断られないかと不安そうな声音に本当に此処の基地の奴等は、俺の様な血生臭く陰気で、ぶっきらぼう、止めに威圧感しかない大男に、律儀にコミュニケーションを取ろうとしてくれたりと様々な融通をして貰って、心が優しい者が多いのだなとつくづく思い知る。

俺といても楽しくもないだろうに・・・全く、困った奴等だ。ジャベリンにしてもそうだ。仕事の間だけの付き合いだというのに、まるで昔から組んでたかのような来やすい態度に此方もついつい心を許し始めているのを俺は自覚していた。

 

本来なら、こういう奴等を巻き込まない為にも、俺は・・・殺人の為の、任務にだけ忠実な兵士でなければならないのに。

 

「すまないが、俺は遠慮しておこう。目出度い日にわざわざ血の匂いが濃い男が出る幕はない」

 

折角の好意に申し訳ないが、俺が出たせいで他の来賓にまで陰気な雰囲気が移っては堪らないだろうと、後ろ髪惹かれる想いながら断りを入れてイヤホンとマイクの接続を切ろうと操作しようと、キラリと、自己主張するかのように夕日に煌めく義肢の指に、これから一生この指にエンゲージリングを填める事も、愛する女性に送る事もないのだろうとふと思いながらマイクとイヤホンの接続を終了するべく操作しようと指を伸ばす。

兵器としての、側面しか感じられない冷たく熱の通わない武骨なその指を。

 

「まぁ、待てよデッドマン」

 

その指を横からジャベリンがついと俺の喉元から退け、間髪入れずに喉元のマイクに口を近づけてSAAへと喋り掛ける。

 

「SAA。俺達も出るよ。せっかくのお誘いだ。残念ながら俺達は礼服じゃないけど・・」

 

「わぁっ!本当ですか!みんな喜びますよー!」

 

「おい勝手に・・」

 

「けど警備は良いのかい?」

 

「データベースに登録されてた来賓は全員参列されてますから大丈夫です!若干名は遅れてますけど他のスタッフが対応してくれるとの事ですので、お二人は今から迎えに行きますのでそこで動かさないで下さいねー!?」

 

マイク越しの向こうで相変わらずその体躯に似つかわない爆乳をブルンブルン揺らしながらジャンプして喜んでいるんだろうなとわかりやすすぎる喜色が浮かんだ声音とドタドタトいう慌ただしい音をイヤホンに拾いながら、これはもう断れないなと眉間に皺を寄せ、指で揉みながらしてやったりの顔を浮かべているジャベリンに問いかける。

 

「何のつもりだ?」

 

「何って、折角の目出度い日だぞ?花嫁姿と花嫁を見事射止めた新郎の姿を見て運気を頂戴しようって事だよ。お前、気づいてないかもしれないけど、SAAのお願いを聞いてから凄い形相だぞ」

 

「当たり前だ。誰が好き好んで、死の気配を振り撒く男を大事な披露宴に呼ぶ?頭が可笑しいんじゃないのか?」

 

先程の銃撃戦を思い出せば俺が厄介事を運んで来たような物だ。最悪、依頼料全て突き返すつもりでもいた。到底、それだけでは保障にも信用にも関わるから、使い捨て同然の依頼だろうと数回は呑む覚悟も契約することも考えていた。超帝国主義派共は、意外とこの世界に速く順応して、急速にその勢力を増長させているのかもしれない。戻ったら本格的な情報の収集を開始しなければ。今度は手遅れになる前に。

ジャベリンの言葉に固まっているであろう顔の力を意図して抜き、目に集い始めていた力を殊更平時を意識して抜きながらにしっと気楽に笑うジャベリンを睨みつける。

 

「あんた、目元から一瞬血管が浮き上がって凄い事になってたぞ?さっきまで。今は精神を落ち着けでもしてるのか初対面の時の様な雰囲気に戻ったが・・」

 

「何が言いたい?回りくどい事はなしにしよう」

 

「そうカッカしなさんな。俺が言いたいのは、此処の基地の指揮官も人形達も、あんたの雰囲気や姿なんて気にしないって事だよ。見て見ろよ。余所者の俺達にだってあんなにみんな気を使って歩み寄ろうとしてくれてるんだ。それを突っぱねるってのはちょっと違うんじゃないのか?」

 

「それはお前のスタンスの問題だ。俺には関係ない」

 

ジャベリンの言う事も正しく、間違っていないだけに俺には耳が痛く、言葉の端々に怒気を滲ませながらそれはお前の社風であり、うちとは関係ないとピシャリと言い放つ。依頼は依頼だ。命賭けるのも、敵を殺すのも金を、報酬を貰ってるなら是が非でも喜んで果たすし、くれてやる。だが、仲良くする必要はない。

そう思いつつも、脳裏には初めて車を降りてから物怖じせずにこの鋼鉄のカラダや傷だらけで威圧感のある凶悪な相貌。オマケに完全武装と来た大男をまるで普通の人間の男の様に、叱ってきたSAAの姿を思い出す。俺を一目見てぎょっとしたような様子で挙動不審になりつつも、平時からそうなのかイサカM37にしなだれかかられながら励まされつつ俺に挨拶してきたスタッフの一人や、他のスタッフ達の徐々に俺に慣れていって話しかけてくる姿を思い出す。

やめろ。俺の心はもうこれ以上何かを背負いたくない。俺はもうこのままでいい。この状態が最高でこれが最も、パフォーマンスを発揮できるんだやめろ。俺を哀れな男の残滓に戻さないでくれ。

 

「お前を否定なんてしないよ。受け入れてくれてるのさ。この会場に来た来賓だって見ただろ?誰もお前を否定的な目で見てなかっただろ。この世界じゃあんたの様な奴は探せばいるさ。全身ほぼ義体化は珍しいけどさ・・・」

 

ジャベリンの諭すような言葉に、揺らぐ。揺らいでいく。兵器が、兵士が、殺人機械が崩れてIKU。YAめロ・・・。もう、KUルSIみたくないンダ・・・!

 

「何が変わるって訳でもないけど。少なくとも、誰かの幸せな光景を見ればそれは心が・・救われるような感覚がするらしいぞ。俺は社長にそう聞いた事がある。だから行ってみようぜ。俺達戦う者達にだって幸せになる権利ぐらいあるぜ?」

 

ジャベリンのその言葉にギギギと錆びた機械部品を無理矢理駆動させていたような異音を発する心が解放されたような気がした。何処か、ヒトであった頃の温かくて純粋だった頃の気持ちを少しだけ取り戻せたような気がした。

 

「・・・今回だけだ」

 

「やりぃ!実は部下と約束したんだよな!披露宴のご馳走持って帰るって!」

 

「・・・・・お前も意外と豆というか面倒見がいいというか、人生の先達として一つだけ言っておく。お前に女難の運命を感じる」

 

「なんだそりゃ!?」

 

「俺の勘は良く当たるらしい。下手な占いより当たるぞ・・・まぁ女に気を付けろ。若いの」

 

「そんなに歳離れてないだろ!俺達!」

 

「こう見えて29だ。コールドスリープをした年月も含めれば129歳か。もう年だな・・」

 

「まだ30いってないだろーがっ!十分若いだろ!」

 

二人でギャイギャイと言い争いしながら遠くに見えたSAAがぴょんぴょんジャンプしながらこっちへ小走りで来る姿を見つけ、ふと小さく笑みを浮かべながらどこか晴れやかな気持ちで横で未だに噛みついてくるジャベリンをあしらいながらSAAの元へと俺達はオン軸小走りで彼女の元へ向かった。まるで在りし日に、友と語らって下校した楽しかった頃の遠い昔を何となく思い浮かべながら・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




ジャベリンが主役食ってる。主人公交代かな?(すっとぼけ)
キャラが動かしやすいんですよね。あとブルンバストの遺志は俺が引き継いでいく・・!

ただ単にエロおやじです本当にごめんなさい皆さん。


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cross line 結婚式 中7

中々書く時間がまともに取れずに申し訳ない。まあ、ゆっくり書かせてくださいな・・。あ、それとエロいの興味あるなら拙者のページから18歳以上のお友達だけ見る事が出来るモノ公開してあります。


汗ばんだアンダースーツを車内に放り投げて、念の為に車内にぶち込んであった私服一式を見やり、式場に合わない雰囲気のラフ過ぎる服装に思わず、立ち止まり悩んだ末に替えのアンダースーツを引っ張り出し着用してアーマーを再び装着する。

どう考えてもこの格好で行けば追い返した奴等と同じナンパ師にしか見えなくなるだろうと自己完結して私服よりはマシと自己暗示して、寂しげに座席に引っかかっているコートやGパンを渋面で見やり呟く。

 

「冷静に考えればこの格好もだいぶやばいよなぁ・・・」

 

露出狂ととられるかもしれないが、この服装は合理的判断によるものだと弁明させてもらう。前を閉めて携帯武器を隠し持てるし、場合によっては丸腰にしか見えないので馬鹿な敵兵がよく釣れたのだ。だからこその長年の愛着があったのだが・・・。

この場ではどう足掻いても変態のそれになってしまうし、なんならユノ達未成年組にとっての情操教育的にも大変宜しくないだろうと思い、来賓者の顔を見た連中をざっと思い出して着る事のなくなった私服を畳んで座席に押し込んでおく。

お前はオフの時か、昔みたいに潜入や陽動時にまた出番だ。

 

バタンとドアを閉めて、首を左右にゴキゴキと鳴らしながらブラブラとゲートを突っ切って、ブゥゥゥ!!と鳴らされ、苦笑いしたスタッフに警報をすぐ切られて内心でFuckと毒づく。金属製の義肢も武器扱いかよそうですか。分かっちゃいたけど納得いかねぇ。

事実、敵を始末した場面も一同には見られているので、そんな気はないのは分かっているらしく早く行けとスタッフの一人に手で追い払われながら、どこか納得のいかないささくれ立った気持ちでむっすりしながら奥へと大股で進んでいく。

 

軽くオフの様な気分だから、戦時ほど冷徹にもなれずに・・・ただただ、納得いかない。俺の手足だぞ全く現在の・・外したらただの肉ダルマだぞ・・・。

 

只管ずんずんと奥へと進み、空調により快適な室温になっているホール前の厳かな造りの大きな両開きのドアの前に立ち、俺にしては珍しく一瞬躊躇い、中に入るべきか悩んでしまう。

来て下さいとは言われたものの、こんな戦時の格好で、尚且つ、こんな雰囲気の男が本当に式場などという一生に一度の大事な場面に、出席しても良いのだろうかと本気で思いつつ、思わず蝶番に伸ばしかけた手を出してみたり、引っ込めたりと決心の付かない子供のような姿を晒してしまう。

端から見たら不気味な装備に身を包んだ全身義肢の大男が、渋面を作って苦悶の様子で入るかどうか悩んでいるシュールな姿だろうが、俺にとっては一大事だ。

 

可笑しな話に感じるだろうが、それくらい結婚という物に俺は、かなり幸福で平和なイメージがあるのだ。それを考えても見ろ。俺の様な歴戦の兵士だぞ?それが出席?馬鹿も休み休み言えと当事者に言われても、ぐうの音も出ない正論だ。

 

花嫁の美しいウェディングドレスに、新郎の凛々しいタキシードと神父の問いに対する二人の固い誓い。そして参列者たちの幸せそうな笑顔・・笑顔なのだ。みんな笑ってるはず。俺は上手く笑える自信がない・・・。

幸せから遠ざかりすぎて、気づけば、逆に幸せに置き去りにされていた男だ。

そうあるべしと覚悟していた。だが、他人のとはいえ・・それを壊してしまうような雰囲気の男が・・・。

 

グルグルと脳内を同じ思考で同じ答えを出し続け、完璧にフリーズしてしまった俺は背後からの気配に気づかずに、葛藤したまま手の出し入れをし続けており、声を掛けられて我に返る。

 

「何、愉快な事をしてるんですか?」

 

「・・・一発芸の練習」

 

我ながら苦し紛れ過ぎる発言に、内心で頭を抱えながら楽しげな様子の初めて聞く誰かの肉声に、知らない奴かと内心取りあえずどう取り繕うかと思いながら振り向き、思わずその人物の姿を見て本当の意味で固まる。

 

その子の胸はとても大きく――――

 

 

張っていて――――

 

 

――――――あまりにも目立っていた・・・・。

 

 

 

生きてきた中でも見た事のないサイズをその小さな体で見事にぶら下げている二房のツインテールに結んだ416によく似た容姿の戦術人形と思われる子の巨大過ぎる乳房に視線を落としてしまい、我ながら普段はしない事で嘘だろうという思いで目を擦ってからもう一度彼女を見る。

どう見ても現実で、そして衝撃的だった・・・。

ヘルドッグよりデカい子なんていたんだなぁ・・・。思わずどうでも良い事を呆けながら一瞬考えこんでしまい、胸部に移していた視線を不躾だなと思い、謝罪してから目を離す。

 

「すまん、思わず二度見してしまった」

 

「クスッ♪良いんですよ。ウチのダーリンも最初の頃はそうやっていてくればまだ、カッコよかったのになぁー。最初は。まぁ、今はダーリンしか考えられないんですけどね」

 

「・・という事は今回の花嫁は君か・・・それは猶更失礼な事をした」

 

姿勢を正し、彼女に向って今自分のできる最大限の流麗さで45度に傾けた綺麗なお辞儀をして彼女の目を見て深く申し訳ないと思いつつ、頭を下げて姿勢を戻す。女性に対してするべきことではなかったな全く。いちばんやってはいけない事をした・・。

 

彼女はくすくすと上品に笑いながら、今はまだ私服なのだろうか。なんというか・・男として死んだ俺が言うと変だが、彼女の盛り上がった胸部のせいで、酷く扇情的に見える衣服にドキリとしながら話題を変えるべく口を開く。

 

「そろそろ、式の時間では・・?」

 

「そうですね。だから、本体は今一生懸命ダーリンの為におめかし中♪失礼とは分かっていてもこうしてダミーで申し訳ないけど、今日警備してくれた人にお礼をと思ってねー?」

 

ニコニコ笑いながら・・・416とは対照的な明るい笑みに、彼女と容姿も顔の造形も似ているので違和感を感じながらも頷き、それに対して返す。

 

「・・依頼は果たすものだから別に礼などいりません。ましてやまだ終わっていない事であります。重ね重ねお気遣い、痛み入ります・・・」

 

・・・己の腰に届くかどうかの背丈の彼女と話していたが、今回の件色々と自分のせいで巻き込んだ事案が一件発生している為に、普段ならしない敬語を使って対応する事を決め、再び頭を下げる。俺の軽い頭など、今の社の人間食わせる為なら、どぶに捨てるくらいには軽い。今は信用を得なくては・・・。

働ける場所、いや、依頼が来そうな場所はまだ少ない。依頼という形でも、情報は集まりやすい・・。その為なら、プライドも何もいらない。実利。実利だけが今はいる。

 

「そんなに堅苦しい言葉使いもいらないですよ?凄い窮屈そう」

 

「いえ、今回は我等もご迷惑をおかけしております。残り短いですが、それでも態度は改めなくてはと・・・」

 

彼女の言葉に思わず敬語を崩しそうになるも、徹底してそれを貫く。どう相手が判断しているかわからない現状。弱みは・・出せない。

此処の指揮官には直接謝罪を入れてるが、それでもだ。俺の中の矜持が許さない部分がある。迷惑を掛けたならそれ相応に、何かで報いなければならない。

今回は分かりやすく態度として、それを表した。

 

「まぁ、あなたがそれで良ければそれで良いんですけど・・」

 

「・・・性分故、お許し下さい」

 

表情を微塵も変えずに居心地が悪くなった空間を抜けるべく、何度目になるか分からない頭を下げて、扉に手を掛けてこの場を去るべく力を入れて押す。

 

「あっ・・・」

 

まだ何か言いたげな彼女を残して、俺は中へと進入して――――――――

 

 

 

 

沢山の目に晒されて思わずたじろぐ。いや、俺が来たくらいで一斉に見るな貴様等。俺ぐらいのサイボーグ擬きこの世界ではごまんといるだろ?

来賓の無駄に揃った視線の転換に思わず真顔になった俺は視線を気にせずに取りあえず端の方で突っ立っていることにした。コミュ障?違う。今の俺の仕事は警備だ・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




スパス来ない。なんで?(殺意)
※通算10体目のモスバーグちゃん


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cross line 結婚式 中8

前回のあらすじ

コミュ障大男


煌びやかな装飾と華美な照明に照らされた室内を、何となしに突っ立ってぼーっと眺めて・・・今まで出席した友人や同僚たちの披露宴を思い出しながら感嘆の溜息を吐く。

美しい・・・。此処迄凝った室内の装飾などもそうだが、参加者のテーブルまで豪勢にこの時代の価値にしては高いであろうコーディネートを施された様子に、気合が入っているなと所感を覚えて俺は目立ちづらい壁に寄り掛かろうとすり足で壁際へと後退する。

足音すら目立つような、静かに行われている周りの歓談を邪魔するつもりは微塵もないからだ。

壁際まで後退した俺は、手持ち無沙汰に己の両手を広げて見つつ、ぼんやりと考えに耽る。結婚。出産。育児。・・・つまりは平和だ。愛だ。一般的に定義されるものの幸せの象徴の始まりだ。俺はそれを、この世界で初めて見届ける事になる・・・。

幸せから遠ざかり、闇の道を行く俺には最も縁のない場所・・・。この腕で、愛した人など抱けはしない。冷たく、硬いだけの両腕。見るも無残な傷だらけな体。陰気な性格に、何時も不機嫌そうに表情を歪めた喫煙者。

こんな男、誰も愛してなどくれはしないだろう。頼まれても、それこそ金を積まれたとしても。俺だって同じ身だったらごめんだなと自嘲し、腕を組んでただ待つことを決める。

 

どうせ、一度死んだ身。地獄に落ちるべき奴等と共にこの身もまた地獄に行くだけか・・・。

 

「おい、デッドマン。そんな所に突っ立ってないで、此処に座れよ。凄い目立ってるぞ」

 

「・・・分かった」

 

ちゃっかり来賓に紛れてテーブルの一角に座っていたジャベリンがこちらへと手招きしていた。おまえ、もう座ってたのか・・・。

壁際からのそりと緩やかに歩を進めながらジャベリンの空いた右隣へと座るべく歩んでいく。義肢のサスペンションから空気が抜ける音が響き、近くで喋っていた見覚えのある白い髪の娘が俺へと声を掛けてきた。

 

「あ、お兄さんもこっちに来たんですね」

 

「ああ、是非とも披露宴に参加してくれと言われてな。・・・依頼された側としては複雑な心情だが」

 

「何でですか?」

 

「考えても見てくれ。途中で依頼を放り出しては信用に関わる。つまりはそういう事だ」

 

「別にそこまで深く考えなくても良いと思いますけど・・」

 

「単に性分の話だ。あまり気にしなくて良い」

 

「そういえばお名前をお聞きしてなかったですね。わたし、ユノって言います!」

 

「・・・デッドマンだ。様も敬称もいらない」

 

良く未だに様付で呼ぼうとする守銭奴娘を頭に思い浮かべながら話し、眉間をなぞる。あいつ、後方幕僚が元々の仕事って言われてたのに俺らの基地に来てからやった事のない業務ばかり押し付けられてるからな。そりゃあ・・・出来んわな・・。

帰ったら、カリーナをねぎらってやるかと思いつつ、座ったまま懸命に俺へと視線を合わせようと頑張っている彼女の為に身を屈めて、膝立ちの状態へと移行する。

 

「じゃあデッドマン」

 

「ああ、それでいい」

 

何が楽しいのかニコニコしている彼女の瞳が常人のそれとは違うと勘づくも、俺も似たようなものだし・・・この世界では有触れた事なのかもしれないと一人納得した俺は特に言及もせずに彼女の病的に白い肌と、若干やつれた頬を見て口を開く。

 

「ふーむ・・・もし、何か困った事があればうちの会社を訪ねてくれ。格安で受け負う」

 

「へ?本当ですか?」

 

「依頼などについては嘘は言わん」

 

俺の顔を見ているのか良く分からない何処か焦点のあってない彼女の瞳をぼんやりと眺めながら、顧客になりそうな雰囲気と厄介事が付きまとう匂いを感じて気づけば口を開いていた。まあ、何にせよ。現状の我が社はG&Kにかなりの支援を未だに受けているのが現状だ。抜け出すにはそれなりの利益が必要だ。奴等を追う自由な行動力を発揮するには・・・支援を受けなくても動けるだけの資金が必要だ。今のうちに我が社の宣伝もしとかないとな。

 

「機会があったらお願いしますね」

 

「その時が来れば、俺は依頼を果たすだけだ。気にするな。使い捨ての駒の宛てが増えたくらいに思え」

 

ぺこりと丁寧に頭を下げた彼女に気を追う必要な度はないと自分なりに伝え、何処か亡くなった妹と同じ儚げな印象を受ける彼女の様子に後ろ髪を引かれつつ、途切れた会話をそのままに、彼女の隣に座る副官であろうPKKをちらりと盗み見る。俺の動きを警戒していたような印象を当初から感じていたが、複数連れてきていた他のHG人形達とのびのびと会話をしているのを盗み聞き、多少は警戒が薄れてくれたかとホッとする。警備担当がいらん警戒を来賓に与えるなど、笑い話にもならんからな。

そして俺の隣ででごそごそと何かを探っているジャベリンの様子が気になり、声を掛ける。

 

「何をしている?」

 

「ん?準備だよ。そろそろ挨拶と新郎新婦の入場だろ?」

 

と言いつつ、タッパーをテーブルの上にそっと並べたジャベリンの姿に、眉間の皺が寄るのを感じ、眉間の皺を咄嗟に左手で抑える。何も言うな。何も・・・。ひとまずその行為を放置し、他のテーブルの来賓達に視線を彷徨わせて、俺は特に何も考えずに様様なおめかしをしてきた彼ら、彼女らを眺める。そして自分の姿もチラリと鑑みる。やはり、今度からスーツくらいは持ち歩くか・・・。

自分の浅はかさと言うか、先見の無さに軽く渋面を浮かべながら、会場のスピーカーから流れたアナウンスが耳に入り姿勢を正す。

 

【皆様、大変お待たせいたしました。新郎、『新婦達』の入場でございます。どうか盛大な拍手でお出迎え下さい】

 

遂に始まるかと、思いながら新婦達という事は、花嫁を引率するて者と一緒に新婦は入場かと勝手に理解し、手を合わせてパラパラと鳴り始めた拍手に合わせて、俺も柏手をしようとし、はたと両手を眺めて動きを止める。

 

 

拍手が出来ない。

 

 

両手とも金属製のせいで拍手した瞬間、金属がぶつかる音しかしないのではないかこれは?

試しに軽く、本当に軽くだが、拍手をしてみた。

 

 

 

――――――ガギン!ガギン!ガギンッ!!!

 

 

剣戟の様な音を立てて、違和感と共に奏でられる不協和音に思わず首の向きを変えて此方を見てきたジャベリンとユノの視線から顔を背けながら、仕方なしにこのポンコツ義肢の指の形を変え、親指と人差し指で輪を作り、口の中に入れて思い切り息を吹いて指笛を鳴らす。せめて拍手もできないなら少し、どころか親しい間柄でもないのにこんな真似をするのを許してもらいたいが、せめてもの祝福の意思を込めて指笛を吹き続ける。鉄の味しかしない。ぴゅいぴゅいと控えめに鳴らし続けながら、可哀想なものを見る様な目で見てくるジャベリンに少しイラっとしながらユノのポカンとした表情に更に顔を深い角度で背ける。

俺を見るな。新郎新婦を見ろ。

 

ステージ風に整えられた壇上の奥から、人影が複数見え現れた女性達と新郎の姿に思わず指を口から離し、無心で

見つめる。ああ、新婦達ってそういう意味かと。

 

現れた彼女達は花嫁衣装に身を包み、感涙を流しながら新郎に寄り添って歩く先程ダミーとはいえお会いしたHK417を筆頭に新郎を囲む形で現れた花嫁の一団に思わず感嘆の溜息を漏らす。

美しい光景だ。これが、俺/私の本当に見たかったものかもしれない。幸せ、平和の形・・・。

 

俺にしては珍しく、本当に何も考えられずに彼らの幸福の絶頂の瞬間を共に過ごせる事に、感謝を抱く。ありがとう。この光景を見せてくれて。ありがとう。ただ、素直にその感想しか出て来なかった。

気付けば自然と口角が上がり、緩やかな笑みを浮かべながら俺は、彼等の姿を目で追っていた。

 

 

ああ、この光景のおかげで、改めて覚悟が決まったよ。こんな光景を、明日香が恋人を作って安心してこうなれる

様に・・・俺は、

 

 

戦える

 

 

 

 

 

それと。どうでも良い事かも知れないが417はダミーより・・その・・・なんだ・・・かなりデカいんだな・・・

 

 

 

 

 




最後まで締まらねぇなこいつ(死人のブレを楽しみつつ)


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cross line 結婚式 中9

417本体のおっぱい思わずガン見死人。
それと失礼承知で遅いですが告知。基本的に業務が途切れず、残業も多い為週末投稿となりそうです。場合によっては不定期。それでも見たい人だけ残って行って。一気に減ってももう何も感じないから


「汝、病める時も健やかなる時も、この者達を愛すると誓いますか?」

 

「誓います。死んでも離すつもりは無い」

 

「宜しい。では、妻達も同じくこの者を如何なる時も愛すると誓えますか?」

 

「「「「「誓います」」」」」

 

厳かな雰囲気と粛々とした進行の中、遂に始まった彼らの宣誓を何処か半ば放心した気持ちのまま、ありのままに何も考えずに見つめ続ける。凛々しく着飾った依頼主のディーノ・タカマチ指揮官の男らしい宣誓に思わず、彼の妻達だけでなく、警備に居合わせていたこの基地の人形達や、来賓の方々も想いを寄せる誰かを思い浮かべながら、情熱的な言葉にほぅっと熱い吐息を漏らしながら聞き入っている。よく、おもての様で・・・こいつはまだ増えるな・・・。

何となく、新郎の未来を予想し、波乱万丈ながら幸せの中をこのまま進むであろう彼等を一時も見逃さないように目で追い、耳で聞き、残った僅かな肌で感じながら何処か世界で俺独りだけ、

 

俺だけ取り残されて、谷底へ突き落されたような気持になる。幸せだ。平和の形だ。それを今正に見ているのになぜ・・?

 

纏まらない考えを無理矢理纏めようとして不一致故に整合性のとれなさに苛立つ様に、自分だけ他人が共感できる感動する話を聞いて自分だけ何も感じなかったかの様な圧倒的な疎外感。

 

ああ、そうか。有り得ない光景。もう二度と掴めない光景を突き付けられて、俺は・・・嫉妬しているのか。このカラダで?このナリで?女々しい奴。あまりにも醜くて・・・我ながら反吐が出る。今日知り合ったばかりの彼等に嫉妬?何故?俺が愛した人を抱けないから?共に幸せを誰かと歩む事すら許されないからか?糞が・・・糞がっ!

 

ギチリと周りにバレない様に頬の肉を奥歯で強く噛み締め、出血した血を飲み込んで静かに息を吐き出す。痛みにより強制的思考の渦から抜け出して努めて無心で宣誓を終えた新郎新婦達の笑顔溢れる周りへのスピーチを黙って聞いていく。

 

「ダーリンは私達が絶対に幸せにします!」

 

周りよりも一層輝いて見える背丈が小さめでありながら・・・胸部が母性溢れすぎているHK417の宣誓よりも生き生きとした意気込みを見つめながら・・・俺は、

今すぐ自分の頭を銃で撃ち抜きたくなった。新郎の位置に俺を、新婦の位置に愛していたあの人を置き換えて考えてしまってから。もう死にたくなった。

永劫叶う筈も無し。有り得ぬ事。死人に生者の営みなど不要だろう。何故考える。止めろ。止めてくれ。

分かってるんだ。本当はそう生きたかった。俺だって幸せになりたかった。なりたかったんだよ・・・。

でも俺はそうなるには、殺し続けてて、感情もどんどん擦り切れて行ってて、何で彼女を愛したのかすら分からなくなって。だから遠ざけて。

 

より遠くに。

 

より、激戦に。

 

より生と死の狭へと近づいて行ったんだ。なのにまだ未練が捨てられないと見える。冷静な部分の俺がもう無駄だ。諦めろとずっと言って来る。そんなの俺が一番良く知ってる。

 

知ってるんだよ。俺が一番女々しくて、過去に縛られ続けてるのは俺が一番知ってるんだよぉ・・・!

 

 

音を立ててギチギチと球状へと無理やり纏めた粗雑な継ぎ接ぎの心が、耐え切れない不可に悲鳴を上げて俺へと訴えてくる。だからどうした。そんなもの。感じるな。残った人間の部分が激しく喚き立てているだけだろ。落ち着けよ。糞サイボーグ・・・!!!!

 

皆が笑顔で、一番見たかった分かりやすい平和の光景だったのに。俺だけ笑えない。心が冷える。冷え切っていくのに茹だる。沸々と激情が沸き上がる。置いて行かれた。

 

家族にも置いて逝かれて、次は幸せにも置いてかれた。次は戦友か?

奪われて周りを滅茶苦茶に壊すだけの人生。もうすぐ、もうすぐだ。あいつら始末したらやっと俺も墓に入れる。だから、もう少し頑張らなきゃ。さっき決めただろ。戦えるって。だから弱音はもう御終いにしないと・・・。

 

哀れな男の残滓に引っ張られ過ぎた。それを自覚して、テーブル上に置いてあるカップから上品な香りが漂う紅茶を、嗅いで芳醇な茶葉の香りを楽しんでから一口口内へと入れるべくカップを傾ける。

温かい液体が口内を満たし、未だ出血する頬の内側を、焼くような痛みが走るが務めて表情には出さない。良い茶葉を使っているな。自分のせいで血の味がするが・・。

 

幸い、二人には気づかれた様子もなく、壇上の新婦達のスピーチに夢中になっている。まぁ。彼らはオイオイ経験する事になるだろうからな・・・。今の内に勉強しておくがいいさ。音を立てずにカップをテーブルへと戻しながら、ふと溜息を吐き、ブーケトスの準備に入った壇上を見ながらユノへと声を掛ける。

 

「行った方が良いぞ。幸せのお裾分けと言う奴だな。あれを取れば次は結婚できると言われている。そういう奴がいるなら行ってみるのも手だぞ」

 

わたわたしているちみっこい白髪頭の彼女が業を煮やしたPKKと彼女らの・・・子どもか。度々お母さんと呼ばれていたからな・・・。子供達に手を引かれて、ブーケトスを今か今かと待ち侘びている女性陣の輪の中へと猛然とツッコんであぶぶぶと悲鳴を出している声を聴き、苦笑いしてしまう。何処の世も女性はここぞと言う時の力が強いなと。

 

「お前は行かなくて・・・」

 

「俺に行けというのか槍野郎」

 

茶々を入れてきたジャベリンの頭を小突いた俺は悪くない。悪くないのだ。

 

「それでは、ブーケトスを行います!皆一杯幸せになりますようにっ!」

 

 

ふわりと宙へと舞った想いが詰まったブーケの踊る姿に弾かれた様に女性陣が動き出した。

 

HK417を中心に広がった新婦達のブーケトスに一斉に前へ、前へと詰めていた女性達が色めきだった歓声を上げながら猛然と突き進んで行く。

おお、まるでロシアの大軍勢が突撃して来た時を思い出す素晴らしい初速だな。

先頭をひた走るへリアン女史を見てしまった俺はどんな顔を浮かべればいいのか分からず、思わず真顔になってしまった。あの噂は本当だったか・・・。

 

飲み込んでいた紅茶を勢い良く、咄嗟に出した左手のひらに吹き出しながら俺はブーケ争奪戦と化し出した壇上前を引き攣った笑みを浮かべながらジャベリンに話しかける。

 

「流石に止めないとまずいか?」

 

「俺パス」

 

「俺だって無理だ」

 

 

俺達二人は黙って事の行き末を見守る事にした。猛った女性が怖いとか、へリアン女史が

修羅の眼光で戦っている姿や、応戦している他の戦術人形達の姿も無い。ないったらないのだ!

 

 

ぼくたちふたりはわるくない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




名残惜しいが、後少しで締めですな・・・


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cross line 結婚式 終

ブーケトスを見届け食事を摂る事になった死人。


静かに義肢を動かし、両手に持つフォークとナイフを動かし脂の乗りに乗ったフォアグラを丁寧に切り分け、口へと運ぶ。咀嚼するというより揉み込むように舌の上で消えて行くフォアグラの官能的な旨味と甘みを口内一杯に感じ取りながら、頷き呟く。

 

「・・・美味だな」

 

「ああ、こんな美味いもの初めて食った」

 

「天然のものは異常に高いんだよな?この世界は」

 

「そうだ。だから養殖ものとはいえこんな上等なもの滅多に食えないぞ」

 

カチャカチャと余り音をたてないようにしてフォアグラの最後の一欠けらを口に放り込みながら、フォークを皿の端に静かに置き、ナプキンで丁寧に口元を拭う。大変美味かったが、前菜という形で高価すぎるものは全体に行き渡る様に、提供し他の物はビュッフェスタイルで食べれるようにしているのか。

基本顔見知りが多いこの基地ならではのスタイルにしたわけか・・・。参列者の事をよく考えているな。

 

「と言うか俺はお前がこんな上品にナイフとフォークを使えると思わなかったよ」

 

「それは、俺が粗野な見た目だと言いたいのか?」

 

「いや、そう言うわけではなくてだな・・・。俺達傭兵ってのは基本そういうイメージだろ?」

 

「下品で粗野、金に煩く下半身に忠実・・・か?」

 

「そうそれ」

 

「そういう奴ばかりではないって事だ。お前もそうだろ?」

 

「いや、そうだけどよ」

 

「俺は依頼の達成の事しか考えてない・・・良くも悪くもな」

 

ジャベリンの指摘を軽く受け流しながら立ち上がり、大きなテーブル状に並べられた色取り取りの料理を賞味するべく椅子を戻しながら奴に声を掛ける。

 

「折角の馳走だ。今の内に食える分だけ詰め込んどけ」

 

「言われなくても」

 

二人でテーブルへと向かいながら周囲の華やいだ雰囲気に若干しり込みしながら、サラダを皿へと運び、サーモンのカルパッチョなどを装っていく。

 

「しかしすげぇなジャパンの料理まであるじゃないか。ここの人形達が作ったのかな?」

 

「・・・」

 

その言葉にピタリと俺は止まり、ジャベリンが見ていた日本料理を幾つか装い、素早く席へと引き返す。

 

「あ、おい」

 

「・・・先に戻る」

 

言葉少なく、元の席に戻った俺は湯気を立てる炊き込みご飯と魚の煮つけを一瞥し、香りを嗅ぐ。醤油の照られた香ばしい香り、出汁の効いた煮汁のふんわりと暖かい匂い。そして・・・卵焼き・・・。

結婚式に相応しいかと言えば、違うものだが・・俺の琴線に触れた。懐かしい故郷の、他人が作ってくれたなじみ深い料理・・・。

もうそれしか目が行かなく、温かい炊き込みご飯をご丁寧に用意されていた箸を使い、口へと運ぶ。

 

「・・・!!」

 

・・・美味い。俺の知ってる味に近い・・・!何処かで食べたことのある味だ!望んでいた味だ!

 

感情のブレで震える義肢で卵焼きを摘まみ、口へ運ぶ。砂糖の控えめな甘さ・・・出汁が効いていながら主張しすぎない旨味に、卵本来の甘味。俺は知ってる。この味を・・!ずっと望んでた!

もう二度と食べれないと思ってた味に近い・・・!近いんだ!

 

「あ・・・母・・さん・・・・」

 

もう一口、今度は煮魚を食べて、気づいてしまった。ほろりと箸で崩れる程煮込まれながらも魚の身の弾力を損なわない、しっかりと煮られた美味しい切り身に・・・小骨が丁寧に取り除かれているのを見て気づいてしまった。

愛情たっぷりの食べるヒトの事を考えた手の込んだあったかくて優しい料理・・・。

 

母さんの料理の味に似てるんだ・・・

 

自覚した瞬間に涙が止まらなかった。失い続けて、カラダさえ滅茶苦茶なのに、覚悟を決め始めた所でのこれは辛い。優しい味なんだよ・・・。俺が欲しかった愛情。それが詰まってるんだ。

 

力なく両手をテーブル上へと置き、溢れ出る涙をそのままに顔を伏せる。優しいなぁ・・優しいんだよ・・今回の依頼で俺の知り合った連中・・・優し過ぎるんだよ・・・。だからこそどう接していいのか分からない。

右手で顔を抑えて嗚咽も漏らさずに、只ひたすら泣く。溢れ出る涙が止まらない。求める心が止まらない。家族に会いたい。

平和な世界でもう一度家族に・・・!!

 

「・・・!」

 

 

ギリリと歯軋りを零して、涙を引っ込めるべく耐える。どれだけ望んでも家族は帰って来ない。この現実を理解しないと、耐えないともう戦えなくなる。

 

深々と溜息を吐いて涙を拭い、無心で日本料理を口へ運び、じんわりと押し寄せる心の底から湧き上がる温かい感情に、募っていく悲しみ。それを耐え忍びながら俺は食べきった。

 

「・・・ご馳走様でした」

 

美味しかった。だがそれ以上に心も苦しかったが、満たされた気がした。

母に、しっかりしろと叩かれた時の事も思い出せた。

 

「美味しかったですか?」

 

「・・・これ以上なく、美味でありました」

 

いつの間にか、横でニコニコ笑っていたHK417の・・・こう判別すると失礼だが、胸部が一段とデカい方が俺へと話しかけてくれ、俺は真摯にそれに答える。限りなく美味かった。それは本当の事だから。416に似た銀の髪を煌めかせ、花嫁姿のまま微笑んでいるのを見て頭を下げる。胸の谷間が、身長差から見えてしまい目を背ける。

間違えても俺は不快な思いをさせるわけにもいかない。

一礼し、彼女の背後で不意に見えてしまったユノの、凄まじい食欲と食事を掻き込む姿を見てしまい、思わず驚愕する。

 

「うん?!」

 

「ああ、ユノちゃんですか?あの子良く食べるんですよ。ふふふ、今日も元気な様で良かった」

 

417は何度か彼女と面識があるのかそう何でもないように告げ、微笑を携えながら彼女の様子を見守っているが、ユノの周りを子供達として連れて来たであろう戦術人形が楽しそうにわちゃわちゃと、「お母さんこれも!」「こっちも美味しいよ!」とドンドン皿を持って来ているが、それ以上に吸い込まれる様に彼女の口の中へと食べ物があっという間に消えて行く。なんだあれは・・・

 

「お前はお前で有言実行するのな・・?」

 

「いや、こうしないと部下が五月蠅くてな・・・」

 

ジャベリンはジャベリンでマイペースにタッパーにいそいそと様々な食べ物を入れている姿が確認でき、俺は思わず額に手をやり溜息を吐く。主催者がいるのに、暢気な奴だ・・・

 

「あ、こっちのお料理も日持ちしますよ?」

 

「お、助かります」

 

・・・もはや何も言うまい。花嫁がタッパーに料理を詰めるのを咎めないのも可笑しな話だが・・・まぁ、これくらい緩い空気のがこの場所には合っているのかもしれないな。

 

「まぁまぁ、デッドマンも楽しんで行ってくださいね?」

 

「・・・楽しんではいます。ですが、私としては・・・いえ、何でもありません」

 

まぁ全員の気が緩んでようと俺が最悪盾になればいいか・・・。いつの間にか近くにいたディーノ指揮官が、417を迎えに来たのか、律儀にもわざわざ俺に声を掛けてきた。

 

「やあ、楽しんでるかな?」

 

「ええ、ここ数年で珍しく・・落ち着いてはいます」

 

「ははは、本部が提携してる会社の中で沈黙を保っていたGoodSmileカンパニーの看板とは思えない謙虚さだな。戦場では謙虚ではないのだろう?」

 

「お察しの通りです。望むなら全て灰にして見せましょう。超帝国主義者共なら尚の事喜んで」

 

暗に、この依頼が終わっても頼んでも良いかという含みを持った言葉にすかさず答える。

情報をくれ、依頼と言う形で信用を得る機会があれば・・・俺達はこの世界に根付きだした奴等を叩く準備が整える事が出来る。泥を啜ってでも、俺は奴等を殺し尽くしたい。

 

「まぁ、見ての通りこの基地は基本前線に近いが・・・穏やかなものだ。たまにハニー達が頑張ってくれるけどね?」

 

「手に負えない状況ならすぐにご連絡を。俺は何時でも出撃可能です」

 

「頼もしい限りだ。武器庫の傭兵部隊も噂は聞いていたけど、いや、何方も練度が高いな?」

 

「あちらは部隊として現状の我々より上です。ですが、俺個人なら余程の手練れでない限り食らいついて見せます」

 

「・・・戦力評価も色眼鏡で見ないか。油断ならないね、やっぱり君」

 

「あなたほどではございませんよ。今日は、あなた方の目出度い日です。これ以上ビジネスの話をするとそちらの奥方に不貞腐れられてしまいますよ?旦那様」

 

「おっと、それもそうか。ごめんよシーナ」

 

「ううん、大事な事って分かってるから。大丈夫だよダーリン」

 

いちゃつきだした二人を尻目に俺は密かに溜息を吐く。ディーノ・タカマチ・・・やはり曲者か。前線に近い位置の基地司令でここまで平穏に地区を納めているのも伊達ではないという事か・・・。

 

≪それではフィナーレに特別にご用意させて頂いた特性の花火をご観覧頂きまして締めとさせていただきます!本日は皆様ありがとうございました!≫

 

ガトリングを背負った金髪の戦術人形が「やっと私の出番か!待ち草臥れたぜこの時をよぉ!!」と一声叫ぶと式場を飛び出し、すっかり日が落ちて闇に包まれた空へ向かって、ガトリングから飛び出す様々な花火で夜空を彩り始めた。風情と言えば風情だが・・・ガトリングのせいで凄く五月蠅いな・・・。

 

 

 

 

 

 

 

「今日は本当にありがとう」

 

「礼を言うのはこちらです。また依頼がありましたら我が社へ」

 

「じゃあなデッドマン。次も敵じゃないこと祈るぜ」

 

「それは俺の台詞だ・・・」

 

「またね!おにいさん!」

 

「ああ、困った事があれば、俺達の会社に連絡してくれ」

 

一刻も早く死体をBBの元へ運ばなければならない俺は、式場の来賓が帰宅したと同時にSUVのエンジンを掛けると、まだ残っていたユノ、ジャベリン、ディーノの三人に別れの挨拶を交わし、帰るべくアクセルを踏もうとし・・・

 

「おっとそうだ、デッドマンこれ」

 

「名詞と煙草・・?」

 

「そうそう。ウチの会社の連絡先と結構いい所の煙草だ。何かあったら連絡してくれよ?」

 

「ありがたい。その時は山程金を積んで依頼してやるさ。その分ハードだがな」

 

「うへぇ・・藪蛇だったか・・・」

 

車の窓越しに渡された名刺と封が切られていない煙草の箱を押し付けられ一瞥する。一度だけ組んだ男にわざわざ丁寧な奴だ・・・。ひとしきり軽口を叩き合い、俺は再度三人に挨拶しSUVのアクセルを踏み込む。

 

「では、安らかなる時を・・・さらばだ」

 

 

・・・・・・単純に・・・今を精一杯に生きる彼ら・・・彼女ら・・・彼らの様な輝きは、俺にはもう手に入らないものかもしれない。それでも・・・

 

「・・・彼らの幸せを願って、俺は戦い続けるよ。それしか出来ないから・・・」

 

何が立ち塞がろうと、どんな困難が訪れようと・・・俺は戦い続ける。そして、いつか全ての因縁にケリを付けたら・・・今度こそゆっくり考えよう。死だけが答えじゃない筈だ。俺にもまだ何か出来る事がある筈だと。

 

「良い意味で・・・刺激になった依頼だったな」

 

独り言ちながら、SUVをかっ飛ばして俺は車中で緩やかな笑みを浮かべていた。ここ数年程ない・・・穏やかな笑みを・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




と言う訳で私の方でのHK417ちゃんの結婚式はこれにて終幕となります。遅くなりましたがコラボ許可していただいた方々ありがとうございました。紹介する作品が多すぎるため割愛してしまい申し訳ありませんが、次回も実はコラボなので読者の皆様はほんへのぞんでるかどうかわかりませんがもっと首長くして待ちやがれ下さい。

ネタだけばらすと焼肉です。色んな基地の人呼んでの。まー楽しみにしていてください?


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焼肉ですって!~こんな始まり方で良いのかな?~

今日の主人公は私、デッドマン。・・・じゃなくて、妹の明日香です!これはちょっとだけ未来のお話。お兄ちゃんが自分を受け入れる事が出来たそんな未来でのちょっとした日常です。


「何やってんだこの馬鹿やろォォォォォォ!!!!!」

 

――――その日、私達の基地。失楽園(ロストエデン)はお兄ちゃんの怒声から、一日が始まりました。

まだ、小鳥達も眠っている様な早朝の出来事でした。

 

「BB!テメェ馬鹿だろ!?馬鹿だな!馬鹿だったなぁ!」

 

「いひひひひ!!!お前がパンケーキ作らないのが悪いのだぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」

 

「こんだけ複数生成した牛肉と豚肉どうやって捌き切るつもりだテメェ!?冷凍庫一杯なんだぞ!?」

 

「BBQ!!!!」

 

「お前それやる為だけにこんなアホな真似したのか!?もう許さねぇからな!!!逃げんな!!!!!」

 

「いひゃぁぁぁ!!!来るなセイジィィーーーー!!!」

 

「パンケーキ焼かないだけでこんな七面倒な事すんな!!絶対に今日は〆るからな!!!」

 

朝から五月蠅いなぁ・・・

 

「ふぁぁぁ・・・」

 

お兄ちゃん達のせいで起きちゃったなぁ。私はのそのそとタオルケットをベッドの端に追いやり、大きな欠伸を漏らしながら伸びをする。ぶるんと、ここ数年で大きくなったおっぱいが曝け出されたまま、震える。私はそれを、両手で掬い上げてたぷたぷと揺らす。

本当に、おっきくなっちゃったなぁ・・・。ちょっと前まではぺったんこだったのに。

 

 

ベッドから起き上がって、生まれたままの姿でクローゼットに向かって、今日の服装はどうしようかなって考える。クローゼットから何時も使ってるお気に入りにのブラを出して、露出してる乳房に宛がって背中でホックを止める。もう何度も繰り返してきたけど、こうサイズが頻繁に変わるのは成長期だからしょうがないけれど。私的には、ちょっと複雑な気分です。

だって・・・重たいんだもん・・・

 

そして、お尻に私お肉つかないから・・・おっぱいだけ目立っちゃうんだよね・・・細いから突き出る様な感じで、ね?

 

これまたお気に入りのフリル付きの黒いTバックをゆっくりと履きます。パンツライン見える服装多いから、Tバック好きなんだよね私。その、男の人の視線分かっちゃうから。じろじろ見られるの好きじゃないので・・・

 

結局考えること数分経ったけど、何時ものワイシャツにお兄ちゃんがくれた私とお兄ちゃんの小さな写真が納まってるペンダント。それと太腿半ばまでのちょっと余裕のあるミニスカートに決まりました。あんまり活動的な格好好きじゃないの。走ったりとか、激しく動く事もないしね。

 

「捕まえたぞゴラァ!!!責任どうやって取るつもりだ!!!!」

 

「BBQパーチーしよう!セイジ!!それで今回の事はチャラにしてやる!」

 

「人の話位しっかり聞け!?この大馬鹿野郎!何でテメェの方が正しい事言ったみたいになってるんだよ!?」

 

むふーと姿見の前で満悦の笑みを浮かべてた私の耳にまだ、騒いでるお兄ちゃんとBBさんお言い争いの声が聞こえてきました。まずはお部屋から出たらお兄ちゃん達止めないとなぁ・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おはよう、お兄ちゃん」

 

「ん、ああ、明日香か。おはよう。すまねぇな朝っぱらから騒いで・・・」

 

「まぁ、起床のアラーム10分前くらいだし、大丈夫だよ?」

 

何処からか持ってきたのか、見るからに頑丈そうな黒光りする鎖でぐるぐる巻きにされた、ソフトモヒカン頭に眼鏡を掛けた黒人男性のBBさんがお兄ちゃんに腰掛けられながら、むごむごと口に張られたガムテープも気にせず何事か叫んでいますが、殆どは意味のない単語か叫びとしてしか聞こえません。相変わらず元気だなぁ、この人。頭が良いのに、ちょっとやる事とか意味わからないけど。

 

BBさんに腰かけたまま、つい先日換装・・・っていうのかな?ペルシカリアさんとBBさんの共同開発した生体義肢を身に着けた、小さな頃に見覚えのある姿に戻ったお兄ちゃんが、その傷だらけの、初対面の人から見たら怖いって良く言われる顔を、苦笑交じりに

歪めながら疲れた様に私に声を掛けてくれました。私の、大好きなお兄ちゃんです。

 

お披露目と言うか、付け替えが終わったのが昨日の深夜だったから、こうして見ると違和感なく、最近見慣れた機械義肢を付けてた時より一回りは小さくなった姿に、昔のなじみ深い姿のお兄ちゃんに感慨深くなって、私は思わず抱き着いてしまった。

 

「本当にお兄ちゃんだ」

 

「ああ、お前の義兄だ・・・ようやく馴染みのある姿に成ったろ?」

 

「うん。ちょっと・・・ううん、かなり嬉しい。またこうやってお兄ちゃんの温もりが頭にあるなんて」

 

「・・・そうだな。もう二度と、お前の髪を撫でる感覚も分からないと思っていたが、この馬鹿とペルシカリアに・・・一応、一応感謝しておいてやるか」

 

「~~~~~!!!」

 

「悪い。何言ってるか分からねぇから黙っててくれ」

 

抱き着いてしまった私を、お兄ちゃんはちょっと驚いた風に表情を変えながら、柔らかな笑顔を浮かべて、お兄ちゃんの腕の中に収まるくらいの体格差の私を優しく抱き留めてくれて大きなそのごつごつした温かな右手で頭を撫でてくれました。優しく髪を梳いてくれるお兄ちゃんの手つき。小さな頃の記憶と寸分違わぬ所作に思わず呟いた言葉にお兄ちゃんは優しく返してくれた。

 

不承不承と言った感じで苦々しげに頭上から聞こえてきたお兄ちゃんの皮肉に思わずクスリと笑いながら、私は頭をぐりぐりとお兄ちゃんの鍛え上げられた胸に押し付け、お兄ちゃんの温もりを一杯に感じる。ようやく、元に戻ったお兄ちゃんに甘えられる日が来たなんて。今でも信じられないくらい。

 

感謝しているなら鎖と、ガムテープを外せとけたたましく唸り出したBBさんの迫真の表情をチラ見して、頭上のお兄ちゃんの咎める様な声に思わず私は笑ってしまった。というか、食肉大量生産したのは流石に欲望に走り過ぎだと思うけどなー?どうしてそうなったのかな?

 

 

 

 

 

 

 

「お兄ちゃん・・・これ、どうするの・・・?」

 

「・・・冷凍庫がいっぱいで保存できない以上、どう足掻いても今日か明日中に消費しないといけない。冷蔵庫もこの前の大量生産でパンパンだ。これはスケイルとカリーナに一先ず俺の金で立て替えるから、焼肉して消費しようって伝えるしかないな。これは俺達だけの消費じゃ無理だ」

 

お兄ちゃんと拘束を解かれたBBさんと一緒に、生産ラインでもある培養槽安置室に来たけど、培養液が満たされたシリンダーには見るからにロストエデンの人員だけでは消費しきれない大量のお肉にお兄ちゃんが思わず頭を抱えて囁く様に呟いた。

いや、これ本当に今日明日中に消費できるのかな?

 

「だから言ったろ?BBQパーチーだと」

 

「うるせぇ、お前の頭は年がら年中パーティーみたいなもんだろうが」

 

ドヤ顔で喋るBBさんに疲れた様に吐き捨てながらお兄ちゃんは踵を返して、足早に何処かへと去っていた。きっと、スケイルさん達とどうするか相談しに行ったんだろうなぁ。

 

「さて、明日香君。申し訳ないがちょっと手伝ってもらうよ」

 

「うん、大丈夫です」

 

「氷を詰めたクーラーボックスに肉を移して行く。そうすれば大分持つのでね。もう培養槽から出さないと、過剰成長で、細胞の老化が始まって食えない物になってしまう」

 

「はい。急がないとね。他のスタッフさん達ももう動いてるみたいだし」

 

忙しそうに巨大な骨付きの牛肉の塊を数人がかりでお店でも見たことも無いような、大きな氷が敷き詰められたクーラーボックスに下ろしているスタッフさんや、骨付きの豚肉の塊をひいこら運んでいるスタッフさんを見ながら気合を入れます。BBさんも流石に申し訳なさそうにしながら作業に取り掛かかり始めました。

よし、頑張るぞ。

 

 

 

「ああ、スケイル俺だ。もう俺の叫びで分かってるだろ?そうだ、BBの奴やりやがった。食肉の大量生産テロだ。連日の激務で、全員ストレスも溜まってたろうし丁度いい機会だ。世話になった奴等を呼んで盛大なパーティーをしよう。オープニングセレモニーはまだ早いが、施設は大分完成してるわけだしな」

 

「まぁそうだな。それくらいしかあの量は消費しきれんだろう。カリーナには話を付けておくよ。ああ、そうだ。温泉とかはもう使えるんだよな?」

 

「ああ、ビーチもクリーニングが完了してるし、中和剤の散布に水質検査。それにバリアゾーンも展開してある。俺達のいた時代より海水が綺麗になった位だ。浜辺から400mは人体に悪影響のない放射線レベルまで下がったし、バリアゾーンが外界との海水を完璧にシャットアウトしてるのも検査済みだ。泳げるぞ」

 

「気が早いが・・・バカンスと洒落込もうか。俺達もなんだかんだで一息吐いてなかったしな。スタッフに通達して今日から1週間は最低でも休暇だ。問題はないだろ?」

 

「おいおい、良いのかよ?」

 

「幸い急ぎの依頼も無しだ。奴等の生産拠点もこの前破壊できたし、しばらくは動けんはずだ」

 

「だろうな。じゃなきゃ俺達が命張った意味がない」

 

「そういう事だ。それに情報通りなら奴等の3分の1はこの前の会戦で死亡したらしい。それにこちらの消費もでかい。今はお互いに牽制の期間だ」

 

「ちまちまとしたハラスメントをしても今じゃ意味がないしな。そうだな。そうしよう。休みだな。そうだ、もう連絡して他の基地の奴等やら呼び出した方が良いんじゃないか?」

 

「そうだな。もう呼んじゃえよ。俺も家族呼んでくる」

 

「はいはい」

 

『緊急秘匿回線のテストを込みでの通信となるが、緊急通信ではない。繰り返す。緊急通信ではない。スクランブルの要請ではないので各基地の指揮官や、この回線が繋がっている部隊にはどうか落ち着いて聞いて欲しい。単刀直入に言うが、食肉が大量に発生してしまった為、俺達だけじゃ消費しきれない。たらふく天然の肉に無料であり付きたい者。また当基地のレジャー施設。事前告知で気になっていた者達、今がチャンスだ。今日からオープンするまでの間、無料で提供しよう。正直に言うぞ、肉食いに来い。助けてくれ。ロストエデン所属デッドマンよりだ。返答すれば迎えはこちらで出す。連絡待ってる。じゃあな』

 

 

「はー・・・これマジで誰か来てくれないとあの肉殆ど腐るぞ・・・・?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




というわけで、当作品に珍しくほのぼのかつちょっと未来の話です。基本ギャグよりですね。読みたくなかったらほんへ始まる迄スキップでお願いします。実は感想待ってたりしてないのよ?(チラ見)


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焼肉の下準備です!

長らくお待たせしました。


「んっしょ・・・」

 

クーラーボックスのベルトを肩に掛けて、重たさに体をよろめかせながらBBさんの後をついて行きます。歩くたびにカラリと中の氷と氷がぶつかり合う音を耳にしながら重たさに思わず泣き言を漏らしてしまいました。

 

「重たいよ、これぇ・・」

 

「そうだろうな。流石にやりすぎたな。すまないね」

 

「本当ですよ」

 

「だが、ここらへんで息抜きをしないとオープンが直ぐに来て誰も休めなくなる。いいタイミングだったと思うがね」

 

「だからって、これは酷いよBBさん。お肉腐っちゃったらどうするつもりだったの?」

 

「ミンチにして畑の肥料に加工だな」

 

「・・・もう何も言いません」

 

腐ったお肉肥料にしても疫病とか衛生面でアウトだと思うなぁとか考えてたら、いつの間にか基地の片隅にあるお兄ちゃんのレストラン付近まで来ていました。

レストランの周りにはお兄ちゃんのお母さんと本当の妹さんが好きだったシクラメンの花壇に、季節の花を幾らか植えてるので今の季節的にミニひまわりと、ちょっと季節外れの紫陽花が誇らしげに咲き誇っていました。

そんな花壇の周りに、同性としても羨ましくなる様な魅力的な包容力がありながら茶目っ気もあるスプリングフィールドさんと、冷たい雰囲気からは想像も出来ないほど面倒見が良いHK416さんが花壇のお手入れをしてました。

何というか意外な組み合わせだなと思いながら二人を見ていましたが、何やら話している様なのでちょっと興味に駆られた私は盗み聞くことにしました。

 

「意外と女性的な装飾や花を好まれますよね。ウチの指揮官・・・今日も紫陽花がきれいに咲いてますね」

 

「鬼みたいな見た目に似合わず、女々しいのよ。後、気障ったらしい。だから色んな娘引っかけてくるんじゃないかしら?」

 

紫陽花の花に顔を寄せて微笑みながらスプリングフィールドさんが左で同じく、奇麗に紫陽花の伸びてきた葉等を剪定しながら小さな片手サイズの枝切りバサミでパチンと余分な歯を切り落としながらツンとしたまま返事を返しています。指揮官ってお兄ちゃんの事だよね・・・?

 

「あれで天然っていうんですから、罪作りな方ですよね。そこのところどう思いますか?HK416」

 

「そういうあなたこそどう思ってるのよ。私は別にあいつがどうしようと、誰を選ぼうと関係ないわ。私は、彼にとっての完璧な兵器よ」

 

「じゃあ私が狙っても問題ないんですね?」

 

「知らないわよ。勝手にすればいいわ。選ぶのは彼よ」

 

な、何か雰囲気も会話も怪しくなって来たなぁ。笑顔なのにどこか威圧感のあるスプリングフィールドさんと、赤い涙のタトゥーが陽光できらりと光って流し目で、スプリングフィールドさんを睨む様にちらりと見たHK416さんの間に火花が見えるよ・・!!

 

「明日香君、レストランの厨房スペースにボックスを置いたら一旦休憩しよう。セイジのやつが作り置きしていたアイスを見つけた」

 

それ、たぶんお兄ちゃん個人用に楽しみにして作っておいたものだと思うんだけど、食べて大丈夫かな?

二人の会話も気になるけど、確かに暑い中移動したからか体は火照ってるし、のども乾いて来たなぁ。ちょっと、お兄ちゃんには申し訳ないけどちょっとだけ貰おうかな。

後ろ髪を引かれつつ、徐々に剣呑な雰囲気になっていく二人からそっと離れて私は厨房に足を向けた。

何のアイスかなぁ・・・♡

 

 

 

「セイジを誑し込もうとしてるのはあんたじゃない。貞淑な妻のつもり?」

 

「如何にも私が妻ですってしれっと素知らぬ顔で傍らに控えてるあなたには言われたくないですね・・・?」

 

 

 

 

 

わたしなーんにもきこえなーい(棒)

 

 

 

「ん?外が何やら騒がしいな?」

 

「気にしない方が良いよ。BBさん、それよりアイス食べよ?」

 

「んぅ?まぁ、そうだね」

 

厨房からひょこっと顔を出したBBさんが、外で私が離れた後に本格的に言い争いし始めたのだろう小さく聞こえる声に首を捻りながら確かめに行こうとしたのを私は慌てて止める。行ったら絶対に八つ当たりされるよ。私の言葉に行くのを辞めたBBさんは冷凍庫からアイスの入った金属製の、霜が張り付いたボックスを複数個引き摺り出して、アイスクリームディッシャーを引き出しからボックス同様複数個取り出す。淀みなく行われる迷いのない行動の速さに私は一つ勘づいてしまった。

BBさんもしかしなくてもしょっちゅうお兄ちゃんのアイスとか作り置きの料理つまみ食いしてる?

 

眼鏡をきらりと光らせながらディッシャーを使い分けて、チョコレート、ストロベリー、バニラをお皿に分けながらいつの間にか持っていたスプーンを二人分のお皿にカランと音を立てて置いたBBさんがずいっとアイスが乗っかったお皿を差し出してくれた。

 

「味は何時も通りあいつが作ったものだ。保証しよう・・・なんてな。あいつの真似だ。似てたかい?」

 

「ふふふ、あんまり似てなかったよ?」

 

「うーむ、やはりあいつの様な低くて威圧感のある声は無理か」

 

「単にお義兄ちゃんが柄が悪すぎるだけだしね。声音まで怖いもん」

 

「知り合いじゃなかったら絡みたくないレベルだしな。傷面に大男、それにあの威圧感」

 

二人でなんとなしに他人だったらの場合を想定してお兄ちゃんを貶してみる。どう足掻いても兵士以外の職業人ですって言われても納得できない外見だもんね。

ま、それはそれとして・・・頂きます。

 

スプーンを使って私は口に運んだストロベリーフレーバーののひんやりとして体温で溶け出すアイスの独特な舌触りと爽快感に瞳を閉じて味を楽しむ。口内いっぱいに広がるストロベリーの甘酸っぱさとベースにしてた薄味のバニラを混ぜたコクのある味わいに思わず顔がニヤケちゃう。

美味しいなぁ。

 

BBさんも大きく掬ったチョコレート味とストロベリーのフレーバーを二つ同時に口に放り込みながら満面の笑みを浮かべて「美味い。やはり摘まみ食いは最高だな」と呟いている。ヤッパリ何時もやってたんだね。

二人でアイスをゆっくりと味わいながら、お日様で火照った体を冷ましてのんびりしていたら、レストランのドアからカランコロンと、開閉する度に音を鳴らす備え付けのベルの柔らかい音色が聞こえる。

誰か来たみたいだね。

 

「厨房に塊は置いていけ。俺が捌いて食べやすいようにカットしておく。ああ、それから指示通りにしっかりとホルモンやら内臓関係は培養漕から出して直ぐに冷蔵したのか?それなら足が早い食材でも多少は持つ。さ、時間は待ってくれない。急ぐぞ」

 

あ、お兄ちゃんが来たみたい。スタッフさんと一緒にクーラーボックスや氷が敷き詰められたビニール袋に入れたお肉の塊を持って厨房に足早に入ってきました。アイスを食べている私達を目撃したお兄ちゃんは、目をぱちくりとさせて苦笑しながら、荷物をキッチンの片隅に置いて私の頭を撫でてBBさんには空いた手で拳骨を落としていました。

 

「程々にな、明日香。全く、BBの奴にそそのかされたか?BB、お前がしょっちゅう摘まみ食いしてるのは分かってるぞ。明らかに在庫が合わないからな。原隊に居た時から変わらねぇなお前もマックも。この馬鹿垂れが」

 

「美味い食い物はそれだけで危険を冒す価値がある。分かるだろ?」

 

「物資に余裕はあるし、言えば食わせてやるんだからわざわざやるなって言ってんだよ!?」

 

反省も何もしていない状態でアイスを頬張ってもぐもぐと食べながら話すBBさんの姿に思わず怒鳴るお兄ちゃんの姿に小さな時に見た光景そのままのやり取り、何だかうれしくなって声を出して笑ってしまう。

 

「あはははは、お義兄ちゃんも、BBさんもわたしが小さい頃に見たやり取りそのまんま!ふふふ、なんか可笑しいなぁ」

 

BBさんが何かしでかしてお兄ちゃんがそれを叱ったり、後始末をする。本当に何も変わってない二人の仲の良さに

私はつい可笑しくなってアイスがなくなったお皿をテーブルに置きながら笑う。

 

ずっとこんな平和な時間が続けば良いのになぁ。

 

キッチンに備え付けの蛇口で手を濯いだお兄ちゃんが、BBさんを叱るのを辞めて本当に時間が惜しいのか素早い手つきで塊肉を大きな包丁で大胆に捌いていく様子を眺めながら、そろりと足音を忍ばせて厨房から逃げていくBBさんの姿に苦笑を漏らしつつ、お兄ちゃんの作業風景を眺めていました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




少しずつ意欲が戻って来たけど待ってる奴おらんやろ・・・ww


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お客さんのお出迎え準備!

忙しかったのもあるけどこんなに時が過ぎてしまった事に驚愕と失笑を禁じ得ない。すまぬな・・・


シャラリと鞘に収められていたマチェーテと見間違うかのような、室内灯に照らされ鈍く輝く解体包丁を、さやから無造作に抜き払い、鞘を片隅へと置いた後、ダン!と力強く振り下ろして肉塊を切断して部位を分けていくお義兄ちゃんの姿を後ろから眺めて足をぶらつかせてみる。

 

椅子から地面に伸びる脚が力なく振り子のように前後しながらリズムを刻むのをなんとなく楽しく思いながら、手の中で包丁をクルクルと回して何かの感触を確かめているのか、ジッと包丁を持つ手を訝しげに見て、首を傾げつつ作業に戻るお義兄ちゃんは、口を開くこともなく黙々と山の様にある肉塊を次々とバラしていく。

 

「ねぇ、お義兄ちゃん?」

 

「なんだ?」

 

「ヘルドッグ・・・雫お姉ちゃんは?」

 

「・・・知らん。俺に聞くな・・・あれと俺は、極力関わらない様にしている。尚更、その当事者たる俺が居場所を知ってると思うか・・・?」

 

顔を顰めながら解体作業の手を止めたお義兄ちゃんがそう苦々しげにポツリと呟き、ゆらりと頭上に解体包丁を掲げ、振り下ろす。

ガン!とまな板を叩き割るかのような勢いで振り下ろされたそれは目の前に鎮座する、巨大なロース肉を二つへと分かつ。

 

「でも、好きだったんでしょ?婚約を結んでた程に」

 

「・・・」

 

「無言は肯定と取るよ?」

 

「・・・資格がない」

 

「お義兄ちゃんに?」

 

「・・・そうだ。俺は、あいつから逃げた。やるべき事があったのも事実だが・・・俺より相応しい男がいるはずだ・・・」

 

「でも、まだ待ってると思うよ」

 

「俺が行くと思うか?」

 

「・・・思えないね」

 

「そういう事だ。お前は、気にするな・・・俺達の問題だ。皆の前では何時も通りに振舞うさ。俺達は・・・」

 

私の視線を背中で受け止めながらお義兄ちゃんは、嘆息しながら滅多に吐露しない自身の心情を私に晒して、作業が一段落したのか解体包丁をまな板に置き、解体した肉をお皿に盛り付けていく。私は椅子からそろりと立ち上がって、お義兄ちゃんの横に立ちながら再度口を開く。

 

「・・・二人に何があったの?」

 

「・・・言えない。あいつも口が裂けても理由を言う事はないだろう。そうだな、簡単に言うとだが・・・俺が・・・いや何でもない」

 

「ごめん・・・」

 

「・・・気にするな。悪いな・・・こればかりは・・・俺と雫だけの秘密と言う事にしておいてくれ・・・」

 

それっきりお義兄ちゃんは口を開かずに、黙ってお肉を盛り付け、解体作業を続けていった。まるで、それ以上はもう聞かないでくれと言った無言の訴えに私も、それ以上の事は聞かずにドアへと歩いていく。

 

「お客さん、そろそろ来そうだからもう行くね?」

 

「・・・ああ、悪いが対応は頼むよ・・・」

 

すっかり何時もの勢いも無く本当に珍しく物静かなお義兄ちゃんが、囁く様に振り向いて告げた言葉に私は返事を返してドアを開け放つ。

 

「うん、任せて。ところでお義兄ちゃん水着は?」

 

「・・・ダイバースーツを用意した」

 

「なんでそんなものを・・・?」

 

「・・・・・・他人に見せれる様な体じゃ無いと言うのもあるが、俺は、肌が弱いから日焼けすると長引くんだよ」

 

「あ、そういえばそうだったっけ」

 

「そういうお前は?」

 

「後でのお楽しみに!」

 

「あ・・・おい・・・」

 

渋面を作って聞き返すお義兄ちゃんを調理室に置き去りにしながら、私は逃げる様にその場から離れた。言えない。結構、その・・・攻めた水着だって事は、今は。絶対お義兄ちゃんの事だから過保護に止めてくるだろうし・・・。

ぱたぱたと小走りで長い廊下を私は駆けていく。しばらくはお休みだし、存分に食べて遊ぶぞ~!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「暑い・・・」

 

「怠ぃ~・・・これ先に呑んだら駄目か?おい」

 

「大変魅力的で素晴らしく、民主主義的に可決したいところだが・・・やってみろ。多分、砂浜に生き埋めにされるぞ。セイジに」

 

「畜生っ、あいつ前世ちょび髭の売れない画家だろ絶対」

 

「解り辛い例えだが、申し訳ないが第三帝国はNGだ」

 

照り付ける陽光とコンクリートに反射して茹だる様な熱気にすっかり意気消沈しながら、ヘリポートから少し離れた位置に設営されたテントの中で、何やら文句を垂れ流しつつ客人を待つ禿とガスマスクの小男はぐったりとビーチチェアーに凭れ掛かりながら下らない事を話して客人が乗ったヘリを待つ。

 

「大体、アンだけの量があるなら先におっぱじめても何ら支障がねぇだろ?」

 

「まぁ、そう言うなってフロッグよ~・・・俺だってそう思って聞いてみたさ」

 

「おう」

 

「そうしたらな・・・てめぇらの食う量考えてから言えって怒られちまったよ」

 

「まぁ・・マックだけじゃなくて俺らも結構食うからなぁ・・・」

 

「と言うかウチの基地大食い多い様な気がするんだが・・・?」

 

「まぁ肉体労働者ですしー?俺ら」

 

額から汗をじわりと滲ませながら二人は、話し続けて気温で溶けた氷がクーラーボックスの中でカラリと音を立てて崩れるのを耳にして生唾を飲み込む。

 

「くっそ・・・良い音だぜおい。キンキンに冷えたラガーだろうぜぇ・・・!」

 

「水滴が滴る缶のビールで火照りを冷ましながら喉に流し込みたくなる。やめてくれよフロッグ・・・!」

 

「お前だって同じ事考えてるんだろ?美味いラガーちゃんの固い大事な所を抉じ開けて大事な大事な中身を一滴も残さずに余す事無くむしゃぶり尽くしたいだろ?!」

 

「だからそれを!やめろって言ってんだよ!!がまんできなくなるだろぉが!!!」

 

「セイジのちょび髭が何だってんだ!!おれはやるぜぇぇぇぇぇ!!!!超呑むぜぇぇぇぇぇぇ!!!!!!!!!!!」

 

「やめろ馬鹿!連帯責任で俺まで呑めなくなるだろうが!!!!」

 

目を血走らせながらフロッグの名に恥じない驚異的な跳躍を敢行してクーラーボックスに辿り着いたフロッグは、中から水滴に濡れて気温差によりじっとりと汗を掻いた目的物のアルミ缶を利き手の左手で掴み上げた。快晴の青空から燦然と降り注ぐ陽光に照らされたそのビール缶は、止めに入ったスケイルから見てもあまりにも耐え難いほどの魅力を惜しげもなく放っていた。

至極簡単に説明すると、超美味そうだった。それも極悪なまでに。

 

「おいスケイルよぉ・・・指が、手が、震えるぜぇ・・・!こんなに冷え切ったおビール様だぁ!」

 

天へと至宝を掲げる様に眩し気に目を細めて、微かに震える左手で再度生唾を飲み込んだスケイルへと興奮と期待の混じった笑顔で見せつける。缶に付着した水滴が地球に呼ばれて、熱砂へと吸い込まれ・・・その一場面がまるで神話にある一場面かの様な無駄な荘厳さをスケイルは感じ取り、圧倒された。

今この瞬間は、紛れもなくフロッグは、聖剣を引き抜いた勇者と同一。いや、スケイルにとっては逃れられぬ誘惑を振りまく魔王の様に感じられた。

 

「やめろぉ!頼む!そっと戻してくれ!」

 

「いいや!限界だ!俺は!!!」

 

 

 

「呑むねっ!!!!!!!!」

 

 

 

―――――クワッと目を限界まで見開いたフロッグがスケイルの必死の懇願を振り切り、カシュッっと小気味の良い音を上げてプルタブを引き上げ缶を開封する。途端に周囲に溢れ出す麦の香ばしく、芳醇な何処か懐かしい香りにスケイルは何故か涙を流す事を止めれなかった。

 

「おぉぉ・・・うぉぉぉぉぉっ・・・」

 

「これだぁ・・・これ・・・なのだ・・・」

 

恍惚とした表情で匂いを、缶の開け口に鼻を寄せて肺一杯に香りを閉じ込めるかの如く堪能するフロッグの姿に、悔しさと、羨ましさからくる複雑な心境のまま、スケイルは唸る。飲みやすい様に直上に聳え立ったプルタブを押して倒し・・・フロッグは缶へと口を付けて舐める様に少量のビールを、口内へと含んだ。ゾンビの様に手をだらしなくこっちへ突き出し、最後の抵抗をするスケイルを嘲る様に容易く止めながら。

ゴクリと、フロッグの喉が鳴る。ゴキュッとスケイルの喉が生唾を飲み込む。

熱く、汗を掻いてまで、バーベキューの準備をしていた体に訪れる至福の一瞬。フロッグはそのビールの美味さに、言葉も出ずに只々味わい、本能のまま缶の中身を一気に飲み干してしまう。

 

「・・・・・・」

 

「あぁぁぁぁぁぁ・・・」

 

 

極楽。あまりにも超常的な至福。

 

 

それ以外にフロッグは何も感じる事が出来なくなり、凪いだ心持で、スケイルへとクーラーボックスから新たな缶を取り出しながら、この素晴らしい事を戦友であるスケイルにも味合わせてやらなければと言う使命感に駆られる。

 

「同志よ。共に、悦楽を分かち合おうぞ・・・」

 

「口調が可笑しくなってるぞ!フロッグ!!やめっ・・・!!」

 

 

 

 

 

「ふぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!!!!うめぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!!!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




酒は飲んでも呑まれるものではありません(戒め)


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