戦うことを選ばなかった凡人 (ロック大佐)
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日常編
神も意外な転生特典


 仕事を終えて家路へ向かうエンジェル見習い。
 疲れからか、不幸にも黒塗りの高級車を一般人に追突させてしまう。
 配下を庇い全ての責任を負った神様に対し、車に引かれた平々凡々人藤原に言い渡された転生の特典とは……。

 あ……ありのまま、今起こったことを話すぜ!
 俺は連載の続きを書こうとしたら新たな短編を書いていた。
 な、何を言ってるのかわからねーと思うが以下略ッ!

 リハビリも兼ねて書きました。やっぱ書きたいと思ったもの書くのが一番楽(ry
 今回のお話は神様転生を見る度に思ったことを書いたって感じですねぇ。
 あ、警告タグにないように神様転生に対するアンチとかではないのでご安心を。
 それにしても原作キャラ一人しか出てないからタグ付け辛いなぁオイ。
 更にサーヴァントじゃない上に原作主人公の藤丸立香なんだ(しかも出番少なめ)
 すまない……生存タグ付けといて生存キャラ未登場ですまない……。
 まあ続けば登場するからいいよね!(続くとは言ってない)


「ん……?」

 

 目が覚めたら白い空間で謎の爺さんから謝罪された。

 突然謎の空間に自分は居て、なんとなく偉そうな立場の爺さんに謝られる。

 ……その状況だけで全てを察してしまった。所謂お約束というやつだろう。

 

「神様転生ですか?」

「如何にもだ」

 

 やっぱりか。なんとなく神っぽい爺さんだとは思ったがやっぱりそうなのか。

 流石に開幕土下座とかじゃなかったけど、神様が頭を人間に下げるとか異常事態じゃないか?

 神様と転生が実在したことにも驚いたが、まずその事実に驚いた。

 ……それにしても自分と神様以外に何もないと言えるこの白い空間はなんなんだろう。

 わざわざ用意したのか? それとも空き部屋とかを利用してるだけなのか?

 色々聞いてみたいが、流石にそんなことを悠長に聞いてる状況じゃないか?

 さて、現実逃避をやめて目の前にいる存在がドッキリの仕掛け人かガチの神様か確かめないと。

 

「死んだ記憶がないのですが、何が死因でしょうか?」

「黒い車に轢かれたのだ。その衝撃で死ぬ前後の記憶が飛んだのだろう」

 

 確かに眠った記憶どころか帰宅した記憶すらない。

 いくらテレビ企画でも帰宅中の疲れた人を拉致同然なドッキリを仕掛けたりはしないだろう。

 もしそんな犯罪行為が行われていたのなら流石に訴えるレベルだし。

 そうか、ドッキリじゃないのか……ドッキリならどれだけよかったか。

 ドッキリじゃないということはつまり、もう元の世界には帰れないということ。

 

「君の未来をこちらの不手際で奪ってしまった。本当に申し訳ないと思っている」

「元の世界に戻ることは、やはり?」

「死ぬ前と同じ存在として元の世界に戻ることはできん。別の存在としてならできなくはないがお勧めはできない」

 

 つまり、絶対に俺が俺として元の世界に戻ることはできないということだ。

 もう二度と家族とは会うことができない。もう二度と友達とも会えない。

 まだ親孝行していない。友人から借りた漫画も返せてない。学校を卒業できていないのに。

 その事実を確認し終わった頃には、先程までは少しはあった転生できることへの喜びは俺の中に微塵も残ってはいなかった。

 代わりに存在しているのは怒りだ。もう以前の人達とは会えないことへの怒り。

 

「お詫びとして特典は好きなものを与えよう。だから恨むなら私だけを恨み、他の神や天使は恨まないでほしい」

 

 しかしその言葉を聞いた瞬間、怒りは少しだけ収まってしまった。

 流石にここまで真剣に謝罪されて絶対に許さないなんて言えるほど、俺は無慈悲ではない。

 逆に無理矢理転生させる為に殺したと悪意を持って言われれば、心置きなく恨めたのだが……

 

「……特典はなんでも好きなものを授けてくださるんですね?」

「その言葉に嘘偽りはない」

「世界を滅ぼす力でも? ニコポナデポでも? 神様を道連れとして連れて行くのも?」

「君がそれを心の底から望むのであれば、従おう」

 

 神様は仕方がないと言わんばかりに顔を悲しそうに歪め、許可を出した。

 ……神様が言ってることは嘘か本当か、所詮普通の人間である俺にはわからない。

 少なくともこの神様は転生先で八つ当たり同然に暴れられるのは嫌なようだ。

 でもどんな特典でも授けるという言質は取った。俺が今欲しかったのはそれだ。

 

「最後に一つだけいいですか?」

「かまわない」

「元の世界の皆はどうなりますか?」

「そちらは私達がどうにかしよう。だから特典を元の世界の為に使わなくても大丈夫だ」

 

 心配はいらない……そんな感情が込められた笑みを神様は浮かべる。

 特典を元の世界に使うか悩んでたこともお見通しか。神って凄いわ。

 一番の気掛かりが聞けた以上、もう俺からの質問は残ってはいない。

 それでは遠慮なく与えて貰おう。俺の考えた特典を。

 

「君を勇者にも魔王にもしてあげよう。それで、君の望む特典は?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「今から行く世界の主人公とその仲間達が最高のハッピーエンドを迎えられるようにしてほしい」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 こうして俺は、藤原裕司(ふじわらひろし)は転生した。

 Fate/Grand Orderの世界で新たな人生を歩み始めたのだ。

 

「いや本当、下手にチート特典とか頼まなくてよかったなぁ」

 

 今の日常があることをこの世界の主人公、藤丸立香に感謝しながら椅子に座って寛ぐ。

 ……既にわかったかもしれないが、現在は2017年。つまり一部ラスボスは立香が倒している。

 そして今俺がいる室内はカルデアの室内ではない。いたって普通の家の室内だ。

 このことからわかるように、俺はカルデアには行かなかった。

 俺は特典を他人の為に使ったんだ。余計な特典を付与されていないか調べる為に一時期自己流で鍛えていたが、特に超人的な力に目覚めることはなく、黒歴史が増えただけだった。

 この分なら魔術の才能も恐らくない……ならレイシフト適性なんてもっとないだろうよ。

 カルデアに行くこと自体多分できなかったんじゃないかな? ただの予想でしかないけど。

 まあこれで封印指定される心配もなくなり、充実した生活がある程度保障された訳だ。

 自分の身長が平均より低いことを省けば特に日常生活に不満な点はないのも素晴らしい。

 やっぱ……至って普通の……日常を、最高やな!

 そう思考に沈んでいると、ピンポーンと来客を告げるインターホンが鳴った。

 俺は椅子から立ち上がって玄関に向かい来客を出迎える。

 

「久しぶり! ……ていうのも変かな?」

「いや、()()()()()()一年もの年月が経過してるから変じゃないと思うぞ?」

 

 そこに立って挨拶をしてきたのはオレンジ色の髪をサイドテールにした活発そうな女子。

 先程まで感謝の念を送っていた相手である藤丸立香だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 藤丸立香と知り合い……いや、友達になったのはかなり昔からだ。

 といってもこちらから友になりに行ったのではなく、あちらからぐいぐい来たのだ。

 いくら小さい頃から隣の席になることが多かったからと言って積極的すぎた気もする。

 最初は神が原作に関わらせようとしているのかとも思ったほどだ。

 後に立香が一人でカルデアに応募した時に俺を無理に連れて行こうとしたりしなかったことから思い過ごしだと判断したが。

 

「──それでね、所長は美女でドクターも美男で……とにかく美人ばっかりなんだよね」

「劣等感やばそうな職場だなぁ」

「でも仕事内容は辛いこともあるけど、皆いい人で凄く楽しい職場なんだ!」

 

 そう言う立香の顔は確かに楽しそうな表情を浮かべている。少し疲れも見える気がするが。

 こうして元気にオルガ所長とドクターロマンを話題に出せるということは二人共多分死んでないな。

 所長は二次創作のお蔭で予想しやすいからともかく、ドクターはどうやって助かったのか? そもそもどうやってラスボスを倒したのか?

 色々疑問はあるけど俺には関係ない話である。重要なのは二人が今も生きているという事実だ。

 

「ところで裕司、一つ提案というかお願いがあるんだけど……いいかな?」

「なんだ? 俺にできることならなんでも言ってみな」

「うん、あのね──」

 

 ……もしも神様に戦闘関連の特典を願っていれば、英霊と絆を結び、魔術を駆使し、立香と共に戦い、世界を救う未来もあったかも知れない。

 それでも英霊と出会えなかったこと、憧れていた魔術を使えないこと、立香と共に戦えなかったこと……もう手に入らないだろうそれらを選ばなかったことを、俺は後悔していない。

 どんな理不尽な戦闘力を持とうと、反則的な超能力を持とうと……精神力はどうしようもない。

 元々一般人でしかない俺が凄い力を会得した所で敵に怯えて役に立てなかっただろう。

 だから俺は戦う力はいらなかったのだ。足を引っ張ることしかできなかっただろうから。

 流石にFateの世界に行くのは予測してなかったが、結果論で言えば俺の選択は大正解だった。

 

 ……立香、お前の幸運は約束されている。だからカルデアの皆と存分に幸せになってほしい。

 この世界の主役は間違いなくぽっと出の異物たる藤原裕司()ではなく、元々いた藤丸立香(原作主人公)だ。

 英霊達は癖のある奴が圧倒的多数だが、特典がちゃんと仕事しているなら危険はないしな。

 ただまあ、折角友人になれたんだからたまには俺に会いに来て欲しい。

 流石に友人と言えどもこちらからカルデアに行くことはできないだろうから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「職場で皆に裕司のこと話したら連れて来いって言われたんだ! だから面接を受けてみない?」

What's?(はい?)

 

to be continued……???




 原 作 の 魔 の 手 か ら は 絶 対 に 逃 れ ら れ な い !(絶望)

 続くかどうかは未定ですが、もし続くなら次回はゲロを吐くぐらい怖がりながらカルデアの皆々様にご挨拶することになると思います。可哀想に(他人事)

 追記ー。
 連載にはなったけど、せっかくなのでこの下にあるアンケートは残しておきますね。


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どうしてこうなった

 一週間かけて書いた続きです、なんなりとご覧ください。

 馬鹿な……感想数、しおり数、お気に入り数、平均評価が連載を完全に超えている……。
 流石にこれは書くしかないなと思って頑張りました。褒めて?

 ちなみに前回とは違って今回はちゃんと生存組が出るけど、ちょい役です。悲しいなぁ。


 前世のご両親へ。元気にしてますか? 俺は一応元気です。

 神様が元の世界の皆のことは心配いらないと言ってましたが、やはり少し不安になってます。

 

 さて、不幸な事故で死んだ俺は……なんと二次元の世界へ転生することになりました。

 その時にお詫びとして神様に何でも特典を与えると言われました。

 しかしどんな能力を得ても使いこなせる気がしなかったのでハッピーエンドを求めました。

 神様は大変驚いたみたいで、しつこく様々な特典を押し付けようとしましたが全却下。

 その時の神様の顔は凄く何か言いたげでしたが、知ったこっちゃありません。

 どこに転生するかもわからないのに戦闘関連の特典を貰って迫害されたらどうすんねん、と。

 

 その結果、なんの力も持ってない状態でFGOの世界を生きねばならなくなりました。

 まさか神様はこうなることを事前に察知していた? だから特典を沢山勧めたのか?

 でも下手にチート特典とか頼んでたら封印指定される可能性が高かったので結果オーライ。

 ……避けていたはずの立香といつの間にか親友になってた時は少しは戦い関連の特典を貰った方が良かったかなと後悔したけど、カルデアに連行されずに済んだことで考えを改めました。

 やっぱり俺に戦闘関連の転生特典なんていらんかったんや! と心の底から思いましたね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「カルデアへようこそ。私達は貴方を歓迎します」

「採用決定おめでとう裕司! 一緒にお仕事、頑張っていこー!」

 

 やっぱり胃痛耐性ぐらいは貰った方がよかったかなぁ?

 そんな感じで俺の思いはコロコロと変わるのでありました。まる。

 さて、原作に関わりたくない俺が何故カルデアに就職することになったのか?

 その説明には少し前の過去を振り返る必要がある……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「職場で皆に裕司のこと話したら連れて来いって言われたんだ! だから面接を受けてみない?」

What's?(はい?)

 

 立香は何かを決意したかのような、強い覚悟を決めたかのような、そんな真剣な表情で言った。

 ちょい待て。俺にできることならなんでも言えとは言ったよ? 確かに言ったけどさ。

 なんでそこで俺の就職の話になるんだよゴラァ! 余計なお世話だボケェ!

 ……そう考えた俺は絶対に悪くない。なんでもやると言ったら面接受けろって酷いだろ絶対。

 しかもカルデアでのお仕事をやれと? 立香は俺に遠回しに死ねと仰っているのか?

 その何がなんでも連れて行くという表情をやめなされ。そんなに俺と仕事したいん?

 ふざけるな! 死亡フラグの畑と言っても言いすぎではないカルデアになぞ、俺は絶対行かん!

 よし、断る。例え皆の中に英霊が入ってても絶対行かない。あっちからは来れないだろうし。

 一部ここへ来れそうな人物に心当たりがあるが、まあそこまで暇じゃないでしょう。決定。

 俺はお断りの返答を口にしようとした──その瞬間、ある疑問が頭の中に思い浮かぶ。

 

 あれ? カルデアが危ない場所なのは流石にわかるよな? なんでそこで俺を働かせたい?

 

 冷静に考えれば奇妙である。藤丸立香という人間は自ら友人を危険に巻き込む真似はしない。

 しかし目の前の立香の表情からは、まるで決戦に赴く勇者のような意志を感じる気がする。

 正直俺と一緒に働きたいだけでこうはならんよな。じゃあ理由は他にある? その理由とは?

 皆とやらに連れて来いと言われたから? いや、それだけじゃこんな表情はしないだろう。

 ならどんな理由で? 他にそれらしい理由なんてあっただろうか……。

 俺は脳をフル回転させて考えに考え抜いた結果、ある一つの仮説に辿り着いた。

 

 もしかして、立香の友人という立場ってだけで危ないのかしら。

 

 カチリとパズルのピースが揃ったような音が聞こえた……気がする。

 よく考えれば第二部の連中が俺を人質にする可能性とかあるんじゃね?

 他にも藤丸立香の友人だから同じように優秀かもという理由で誰かに狙われるんじゃね?

 あれ? これ冷静に考えなくても詰んでね?

 

「……よしわかった。受けるだけ受けよう」

「了解! じゃあ案内するよ!」

 

 立香は椅子から立ち上がり、そのまま外へ出ようとする。

 幼少期から立香と友人だったのはやはりフラグか……今出発する? 私も同行する。

 カルデアへのご招待は心底嫌であるが、流石に身の安全と天秤にかけたら行かざるを得ない。

 ただ、原作に関わっても足を引っ張るだけだと思うからね。あくまでも凡人として行こう。

 俺は何も知らない一般人! 魔術も英霊も何も知らない平々凡々の人間である!

 それならきっと身の安全も知ってる側よりは保障されるはず! されてほしい! される!

 自分自身にそうやって自己暗示をかけながら、俺はカルデアへ面接しに行くことになった……。

 

 そんなこんなで俺はカルデアの面接室っぽい室内へほいほいとやって来てしまいました。

 ちなみに面接官担当はオルガマリー所長様である。やっぱり生きてたんやなって(感動)

 所長の生存確認もしたことだし、今からでも全力拒否して帰っちゃ駄目かな? かな?

 でも帰ったら狙われるかも知れんのよね。駄目だどうあがいても人生強制ハードモードや。

 ……で、今マリーさんからめっちゃ見られてる。目の形からして多分睨んではないはず。

 所長さん美人だからそんなに見られたら恥ずかしくなってくるんですがそれは……。

 こちらをずっと見続けるのはやっぱり素質とかを見極めてるのかしら。

 だとしたらやっぱり不合格? 不合格にされたら俺はどうすりゃ……待てよ?

 むしろ不合格にされた方が皆も藤原裕司は無能なんだなって思うんじゃね?

 我ながらグッドアイディア! そうと決まれば不合格だ! 所長さん遠慮なく落としちゃって!

 

「合格です」

 

 なんでさ。

 

「カルデアへようこそ。私達は貴方を歓迎します」

「採用決定おめでとう裕司! 一緒にお仕事、頑張っていこー!」

 

 やっぱり胃痛耐性ぐらいは貰った方がよかったかなぁ?

 ──とまあここで冒頭に戻るって感じでございます。

 面接が終わった後、立香に案内された部屋……自室にて待機命令が出された。

 なんでもカルデアはかなり広いから挨拶周りに行かせるより、職員全員を一部屋に集めて一度に挨拶させる方が早く済むから待ってろ! とのこと。

 おめでとう俺。これで俺もカルデアの一員だ! 嬉しいやら怖いやら。

 ぶっちゃけると恐怖の感情が大部分を占めるけど、やっぱり嬉しい思いだってある。

 英霊達や職員達との出会いや会話は誰だって憧れるでしょう。俺だって憧れてる。

 怖いもんは怖いけどな! どう接すればいいかわかんない奴とか結構いるし!

 まあ俺は一般人と認識されているはずだし、英霊達とは出会えるか不明だが。

 

「裕司ー!」

 

 ふと、俺の名前を呼ばれた気がした。その直後にドアが開いたので幻聴ではなかったのだろう。

 ドアの向こう側に立っていたのはやはりというべきか立香だった。

 その表情がどことなく嬉しそうなのは気のせいではないと思う。

 これからは小さい頃から過ごしてた友人といつでも会えるようになったんだから当然と言えば当然か。

 

「どうしたんだ立香。もう職員が集まったのか?」

「ううん、皆が待ちきれないって言うから職員よりも先にサー……業員と挨拶させようと思って」

 

 おい誰だよ英霊達と会えるか不明とか言った奴。強制遭遇イベントじゃねーか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「は、初めまして~。自分の名は藤原裕司と言います……よろ、しく!」

 

 い、胃が! IGAAAA! 体が震える! 気分も悪い! ……あ、吐き気もしてきた気がする。

 立香をちらりと見てみるも、ニコニコしてるだけで特に俺の状態には気が付いてない様子。

 俺の演技力が高いのか、立香の鈍感さが想像以上なのか……。

 なんで俺がこんな状態になっているかと言うと、皆様の前で挨拶をしているからです。

 勿論ただの挨拶如きでこんなんになるほど俺は弱くない。

 初対面の相手なら少しは緊張するが、こんな酷い状態にはならない。

 

「…………」

「しゅ、趣味はゲームや漫画、ネットサーフィンです……よ?」

 

 でも清姫と頼光に半目で見られながら挨拶するなんて拷問だと思うんだ。

 睨んでるのかただ眠いのか、判断し辛いのが俺の中にある不安を更に加速させる。

 更にこちらを見ているのはその二人だけではない。食堂という人が集まりやすい場所なのもあってか、かなりの数の英霊に見つめられている。胃袋が更に追い詰められる。

 多くの英霊さんが席に座ってて自然と見下ろす形になっているのも怖い。吐きそう。

 唯一の救いは英雄王や花の魔術師、山の翁(じいじ)の姿は見えないことですね。

 ここに英雄王がいなくて本当に良かった。最悪殺されていたかもしれない。

 召喚できてないのか、たまたまいないのかは不明だが……あ、静謐のハサンもいない。

 溶岩水泳部員で彼女だけいないのが逆に不安になってくる気がするのは俺だけだろうか。

 ちなみにエミヤさんとタマモキャットの存在を確認できました。

 ということはエミヤ(おかん)のご飯が食べれるのか! これは楽しみだな!

 ……食べる前にデッドエンドとかないですよね?

 

「そうか、マスターが言ってた友人ってのはアンタか」

「た、多分そうです」

 

 そんな勇ましい声と共に姿を現したのは、クー・フーリンだった。

 ただ、槍ではなく杖を持っているのでキャスニキの方だと思われる。

 まさか溶岩水泳部よりも先に話しかけてくるとは、流石に予想外。

 でもちょっと救われた気分だ。クーの兄貴は頼れる人だからな。

 

「……坊主、ちょいと付き合っちゃくれねぇか? 確かめたいことがある」

「確かめたいこと? わかりました!」

「よし、付いて来い」

 

 キャスニキは俺に背を向けると歩き出した。

 当然ここで追いかけない選択肢はなく、キャスニキに付いて行く。

 挨拶は既に終えたも同然だし、もう食堂から離れてもいいよね!

 あのほぼ無言無音な状態だと質問も特になさそうだしな。尚更問題ないだろ。

 なーに、仮に質問があったとしても後でたっぷりと聞けばいいさ!(現実逃避)

 ……何より俺自身があの重苦しく感じる空気をこれ以上吸いたくない。

 

 そうこう考えている内にキャスニキは目的地に到着したようだ。

 キャスニキが扉を開くと、そこはかなりの広さの部屋だった。

 ん? 広い部屋? はて、何故か嫌な予感がする。

 カルデアで無駄に広い部屋。どんな用途で使われてるんだ?

 間違いなくキャスニキの自室ではないだろうことはわかるが、はて?

 すると突然足元に棒状の何かが転がってきた。

 なんだと思ってそれを拾い、よく見ると……それは()()だった。

 ……え?

 

「さあ構えな、一勝負と行こうぜ!」

 

 視線をキャスニキの方へ向けると、そこには杖を槍のように構えたキャスニキの姿が!

 ……え?




 やめて! サーヴァントの一撃で主人公を薙ぎ払われたら、身体能力最低クラスでなんの特殊能力も持っていない藤原裕司は絶望で真っ白に燃え尽きちゃう!
 お願い死なないで裕司! 主役が今ここで倒れたら、生存組や英霊や立香との物語はどうなっちゃうの?
 希望はまだ残ってる。ここを耐えれば、きっと秘められた転生特典に目覚めるんだから!

 次回『藤原死す』

 デュエル(公開処刑)スタンバイ!


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貧弱! 貧弱ゥ!

 予約投稿をやってみるのまき。
 深夜に書き上げたから変な部分があるかもです。
 その時は遠慮なくご指摘くだサイヤ。

 まさか三話まで続くとは思わなかったよ。短編ってなんだっけ?
 あ、そうそう。この小説について大切なお話があるので後書きをお見逃しなく!

 ん? 今回はどんなお話かって?
 ヒロイン好きの諸君、ちょっぴり期待していいぞ♡
 それとオリ主(藤原裕司)の無双を期待してるそこのお前!
 今の内、別の小説、漁ってこい。


 逃げちゃ駄目かな。

 ……同じことを八秒もしない内に五回は思った。

 もし逃げれないというのなら、俺は一体どうすればいいのだろう。

 手には木刀、目の前には杖を槍のように構えた男。

 そして自分は剣なんか持ったことはない素人。相手は槍の達人。

 得物は杖というハンデこそあれど、どう考えても勝ち目はない。

 

「どうした、来ねぇのか?」

 

 構えないのか? ではなく来ないのか? と聞いてくるってことは戦うことは強制かい。酷い。

 やっぱり確かめたいことがあるって言ってたのは俺の実力のことなんかねぇ。

 とりあえず隠れ場所と逃げ道を探してキョロキョロと周りを観察する。

 しかしどれだで見渡しても隠れられそうな障害物は影も形もない。隠れられねぇ。

 逃げるなら出入口は入ってきた扉の一つだけなので、そこから逃げ出さなくてはならない。

 その扉は俺の背後にあるが……残念ながらとある二人が陣取っているので逃げられそうにない。

 

「せ、先輩。藤原さんは大丈夫なのでしょうか?」

「力を確かめたいって言ってた皆の中では一番マシだから、きっと大丈夫……」

 

 そう、主人公とヒロインが俺……達? のことを心配そうに見ている。

 何気にマシュと初めての遭遇だが、状況が状況なので気にかける余裕なんてない。

 カルデアに来てから笑顔しか見せなかった立香も流石に難しそうな顔をしている程だ。

 まあ英霊ならともかく、この二人が陣取るだけなら逃げられそうにないなんてまだ思わない。

 女子の前で逃げるのは恥ずかしいが、それで命を拾えるなら安いと思える人間だからな。俺。

 ただ……立香の発言を聞く限りだと逃げたらもっとやばい奴と戦うことになりそうなんだよ。

 もしもトップサーヴァントと戦うことになったら気迫だけで吹き飛ぶ自信がある。

 そう考えると魔術さえ使われなければ筋力Eのキャスニキは一番苦しまずに済むと思うのだ。

 だから俺は立ち向かうしかない。でも逃げたい。敵に背中を向けたい。全速後退したい。

 だって筋力Dでも人間の頭を握り潰せるんだぜ? 怖すぎてチビりそう。マジで。

 

「術ニキならちゃんと手加減してくれるはず……後は信じる」

 

 あ、立香は術ニキ呼び? じゃあ俺もキャスニキじゃなくて術ニキって呼んだ方がいいかしら。

 

「早く来な! じゃねぇとこっちから行くぞ?」

 

 立香のアニキの呼び方に気を取られている内にキャスニキが先制攻撃を検討し始めた。

 このままだと防御する暇もなく攻撃されそうだぞ……それはとてもまずい。

 そうなれば俺は英霊の一撃を無防備な状態で食らわされることになる。

 それは嫌だ! 俺は痛いのは嫌いなのだ! ノーガード戦法なぞ御免だ!

 

「……術ニキさん、俺の全力を見て失望する準備をお願いします」

「お、おう?」

 

 キャスニキ改め術ニキは何言ってんだこいつと言いたげな表情になったが今は無視。

 もう俺は決心した。手にした木刀で術ニキに殴りかかる決心を。

 結局のところアニキの高速の突きをガードできるわけがないので突撃するしかない。

 攻撃と防御、どっちを選んでも死ぬほど痛い目に遭うだろうが……。

 もしかしたら俺の無様極まる攻撃を見て闘志が萎えて試合終了になったりするかもしれん。

 そういう意味では防御に回るよりも希望があると言えよう。

 可能性は高くはないだろうが、それに全てを賭けよう! 願うは無傷の敗北!

 

「おんどぅるぁーーーーー!」

 

 これを見て失望しやがれ! とある勇者が使ったとされる剣技!

 その名もやたらめった切り(別名ただの恥晒し)! 剣を考えなしに振り回すだけの技!

 まあ俺は剣道なんてやったことないし、考えなしなのも多少はね?

 叫んだ勢いのままに両手で持った木刀を振り回しながら術ニキに接近していく。

 それを見た術ニキはこちらを迎撃する態勢に入っている……気がするような。

 ……まさかこの攻撃を見てもまだ実力を確かめる気でいると?

 木刀を振り回しながらそう考えた時だった。

 

「い?」

 

 一瞬で目の前から術ニキが消えた。それと同時に全身に衝撃が走る。

 ……何が起きてるの?

 視線を回りに向けると、景色が流れているのがわかる。

 天井がどんどん近付いて、背後の壁が下に流れて……あれ? 天井に出入口がある?

 それに立香達が壁に立っているぞ? いつの間に忍術を会得したの?

 ……いや、違う! 天井だと思っていたのは壁で、背後の壁だと思っていたのは床だ!

 

わあああああああああああああああ!?

 

 冷静に考えられたのはここまでだった。

 このままじゃ壁か床に激突する! それは絶対凄く痛い!

 最早余裕の消えた俺はただただ叫ぶことしかできない。

 視界の隅では立香達が慌てた様子でこちらへ駆け寄っている気がする。

 誰でもいいから頼む! お願いだから俺を受け止めて! できればすっごい優しく!

 

「くぉ!? ぐぅぅぉぉぉぉおおお……!」

 

 しかしそんな願いも空しく、俺は背中から床に叩き付けられた。

 吹っ飛んだ時の受身の取り方を知らなかったことをこれほど恨んだことはない。

 肺の空気が抜ける。今まで感じたこともないぐらいの痛みが背中を襲っている。

 両腕を背中側に回すものの、痛みは当然ながら治まらない。

 痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。

 頭の中がその一言で埋め尽くされる。無様に床を転がりまくる。

 

「何をやっているのよ貴方は……」

 

 誰かの声が聞こえた。高い声だから女性の声だ。

 それと同時に背中の痛みがどんどん和らいでいく。

 何かを背中に塗られた感じでもないし、これは誰かが回復系の魔術を使っているのか?

 流石に薬もなしでこれほどの回復は不可能だろうからな。

 

「はい、これで動けるぐらいには痛みは治まったでしょう?」

 

 背中が少しヒリヒリする程度にまで痛みを感じなくなった。

 地面に激突した直後とは思えないぐらい体の調子がいい。魔術すげぇ。

 すると誰かに抱き起こされる……ちょっと待て、俺は誰に抱き起こされている?

 声の感じは立香でもマシュでもないような?

 痛みでずっと瞑っていた目を開け、俺は自分を抱き起こしている人物を見る。

 

「まったく、何も知らないっていうのは面倒ね」

 

 その人物は俺の予測通り立香でも、マシュでも、ましてや術ニキでもなかった。

 俺を抱き起こしていた女性……その正体はオルガマリー・アニムスフィア所長だった!

 アイエエエ! オルガ!? オルガナンデ!?

 

「こ、これはお見苦しいところをお見せ──」

「裕司! 大丈夫!? 怪我はない!?」

 

 今の状況に気が付いた俺は即座に所長の腕の中から飛び起きた。

 何故所長がこんなところにいるのかという疑問はあるが、今はそんなこと関係ない。

 俺は自分を抱き起こしてくれた所長に感謝と謝罪をしようとした……が、立香の声に阻まれる。

 ……このまま謝罪する雰囲気でもなくなったので立香の方へ顔を向ける。

 こちらへ駆け寄ってきた立香の表情はとても申し訳なさそうな感じがした。

 チラリと立香の傍を見れば、立香の横にいたマシュも同じ感じだ。

 顔の向きを立香の方へ戻すと、目元にハンカチをポスポスと当てられる。

 もしかしなくても俺涙流してた? 流石に涙を拭かれるのは恥ずかしいぞオイ!

 俺は涙を拭いてくれたことに複雑な感情を抱きながら自分の無事を伝える。

 

「一応怪我はないよ。背中はまだヒリヒリするけど……そういやなんで痛みが急に治まったんだろうな?」

「それはあれだよ、所長はそういうのに長けてるから!」

 

 立香よ、その言い訳は少し苦しいんじゃないかね?

 思わず立香をジーっと見つめていると、術ニキが気まずそうにこちらへ近寄ってきた。

 俺が強くなかったからって理由……かはわからないけど、アニキもそんな雰囲気を出すんやな。

 

「あー、わりぃな坊主。あんな派手に飛ぶとは思わなかった」

 

 ……………………まあええわ、許す。逆に考えるから。相手が術ニキで良かったと。

 よく考えたら筋力Eでこれだもんな。魔術で強化されている可能性はあるけども。

 もし筋力Bの槍ニキに殴られたらマジで死んでたんじゃないの?

 冷静になって振り返ると吹っ飛ばされた時に痛みは感じなかったし、もしかしたらかなり手加減してくれたのかも。

 

「いいよ、最終的には俺も了解したんだし」

 

 でも不本意で戦うことになったのは事実だからなー? そこんとこよろしく。

 

「う~ん、今日は色々あって肉体的にも精神的にも疲れた……休みたい」

「じゃあ私が裕司を部屋まで()()()あげるよ!」

 

 気が付いたら俺は立香におんぶされていた。

 あれ? なんで俺は極自然に立香におんぶされているのだ? キンクリでもされた?

 しかし今更降ろしてって言ったらじゃあなんで乗ったのって言われそうだしなぁ。

 少し考えたが俺はこのまま立香に背負われることにした。

 もう歩くのも面倒だし、このままでいいやぁ……。

 立香がドアへ向かっていると、背後から声が聞こえた。

 もしかして術ニキ達が何か話してるのかしら? じゃあ何を話してるんだろう。気になる。

 俺は背後の会話にそっと聞き耳を立てた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「予想以上に弱かったな」

「本当になんの力も持っていなさそうでした」

「立香の話だと一般人みたいだし、当然の結果じゃない?」

 

 当たり前だ馬鹿野郎共! 凡人に一体何を期待しているんだぁ!?(全ギレ)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「昨日は酷い目に遭った……」

 

 あの後、立香に部屋まで送られた後はすぐに眠りに付いた。

 その時に頭をナデナデされたような気がするが、記憶違いだと思いたい。

 さて、早速だが昨日の反省会だ。

 はっきり言って俺は英霊の力を舐めてたと言えよう。

 まさか術ニキにあれほど派手に飛ばされようとは……。

 挨拶は恐怖の思い出しかないわ、痛すぎて意味わかんないわ、立香におんぶされてる現場を職員や英霊と思われる個性的な人物に見られて超恥ずかしいわで散々だった。

 俺はこの一件で決めたよ。もう英霊とは極力接触を避けようと。

 新たに生まれた決意を胸に抱いて、俺は自室から出ようとドアを開ける。

 

「んな!?」

 

 ドアを開けた先に、静謐のハサンが()()()()()




 主人公が地面と激突した程度で悶絶しすぎって思った人いる?
 もしいるなら本来俺ら一般人は足を挫いただけで悶絶することを思い出してほしい。
 勿論肋骨が折れたのを気にせず戦うなんて主人公みたいなことを到底できるわけがない。
 なので裕司くんを存分に悶絶させました。本来痛みの耐性なんてこんなもんでしょう。



 さて、皆様にはお知らせがあります。是非最後までお読みください。
 この小説が短編の状態での続きの投稿はこれで最後とします。
 何故なら短編の癖に続きものやってんじゃねーぞゴルァというお叱りがそろそろ来そうなので。

 勘違いする前に申し上げますが、書かないわけでも続かないわけでもないです。
 投稿を最後にすると言ったのはこの小説があくまでも短編形式だからです。
 つまりどういうことか?

 読者さん……短編ってのは次話投稿に限界があるんだ。
 俺が短い人生で学んだことは…………どんな小説の投稿にも覚悟が必要ってことだ!
 もしも続ける覚悟ができた時にはこの小説を……戦うことを選ばなかった凡人を……。










 俺は連載に変えるぞ! 読者ーーッ!!


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毒身怖いでしょう……

 まさかこんなに早く投稿されるとは夢にも思うまい。

 呪! 日間1位! 週間4位! やったぜ。
 思わず素早く続きを書き上げて投稿しちまう程に嬉しいじゃねぇか!
 そして自分で言うのもあれだけど正式連載化成し遂げたぜ。
 これも読者の皆の応援のおかげです。感謝感謝。

 でも感想で展開のほぼ全てを言い当てられて悔しい。
 こんな調子で完結まで行けるのか、内心ビクビクしてる。
 もっと読者が予測できない展開を思い付きたいなぁ。

 それと、皆さんに先に謝罪しておきます。
 サクッと読めると評価を頂いてる本小説ですが、今回5000近く文字数があります。
 分割はしたのですが、分割はこれが限界でした。本当にすまない……。
 今後はこういうことがないように気を付けます。


「大変だああああ! 誰か来て! 部屋の前に女の子が倒れているうううううううう!!」

 

 自室の前で倒れている静謐のハサンを見た時、最初にしたのは叫ぶことだった。

 他の英霊だったらまだ他の選択肢もあった。普通に大丈夫かと声をかけて頬を軽く叩くとか。

 しかしうつ伏せに倒れているのはあの静謐である。あの妄想毒身の使い手である。

 武器は勿論、衣服どころか全身が毒で塗れている物理的な超危険人物。それが彼女だ。

 その毒は英霊でさえ触れれば体調悪化。キスなどの粘膜接触をすれば三回くらいで死に至る。

 そんな強力な毒に俺という一般人が触れればどうなるか……考える必要すらない。

 

 だから俺がまず取った手段は大声で誰かを呼ぶことである。

 もし毒耐性持ちの立香が飛んで来てくれれば御の字。大声で静謐ちゃんが起きれば万々歳。

 他の職員や英霊が来た場合でも適当に言い訳すれば乗ってくれるはずだ。

 納得できる理由があれば立香の友人を死なせないように動いてくれるはずだから。

 言い訳の内容は迂闊に触るとセクハラで訴えられるのが怖いとかでいいか?

 でもそれで通じなかった場合も想定して複数考えた方がいいかもしれない。

 ……しかしそれ以前に叫んでから十秒ぐらい経過したのに人影は見えないし足音も聞こえない。

 更にダメ押しと言わんばかりに静謐ちゃんもピクリとすら動かなかった。

 

 なら電話しようと思って部屋の中に電話がないか探してみるが、それらしきものはない。

 せめて電話が置いてあれば立香に助けを呼べたんだけどなぁ……番号は覚えてるし。

 ちなみに携帯電話は持ってこれなかった。荷物は採用決定したら持ってきて良いって。

 後々荷物は運ばれてくると言われたが、残念ながらまだその荷物はまだ届いていない。

 俺は少し考えた後、微かな希望を持って隣の部屋の内部を確認した。

 もしかしたら誰かいるけど防音とかで聞こえなかったかもしれないという希望を持って。

 まあそんなご都合展開があるはずもなく、自室と同じ感じの部屋があるだけだった。

 一応用途不明の長い木の棒を見つけたが……これでどう助けを呼べと?

 駄目だ、ここまで何もない上に誰もいないとなると助けを呼ぶ選択肢は完全にハズレだ。

 

「まずいぞ、残る選択肢は全て茨の道しかない。どうする?」

 

 今の俺の頭が出せた案は助けを呼ぶのを省いて三つ。

 一つ目、見なかったことにして自室に篭る。

 二つ目、静謐のハサン……面倒なので略す! 静謐ちゃんを一旦放置して立香達を探しに行く。

 三つ目、危険なのを覚悟してどうにか静謐ちゃんを助ける。

 

 まず一つ目の選択肢。これは毒で死ぬ危険はほぼないだろうが、俺の信用は間違いなく落ちる。

 英霊達の好感度が下がってしまえば、最悪殺される可能性がかなり高い。

 何よりこの殺風景な部屋にずっと引き篭もっているなんて不自然極まりない。

 その場凌ぎで生き残れてもお先真っ暗とか本末転倒だろ。却下。

 

 次に二つ目の選択肢。一見最上の策のように思えなくもないが……これもリスクが高い。

 何故なら助けるためとはいえ、倒れた女の子を放置なんて外道行為だからだ。

 助けを呼びに行くのに女の子は床に置いたままとか不自然極まりない。

 一応勝手に体を動かしたら危ないかもと言い訳すればいいかもしれないが……。

 余程の理由がない限りどんな言い訳も聞いてくれない可能性がある以上却下だ。

 

「しかし、だからと言ってなぁ」

 

 はっきり言って特典を完全に拒否した俺が毒耐性を持ってるなんて考えられない。

 そんな俺が静謐ちゃんに触れるなんて自殺行為もいいところだ。

 だからもし三つ目の選択肢である救助を選ぶなら触れずに助けなければならない。

 触れずに助ける方法なんてあるのか……? 考えろ、考えろ俺!

 ふと隣の部屋にあった木の棒の存在を思い出す。

 あれを使って医務室とかに運べば行けるだろうか?

 いや駄目だな。倒れた少女を棒で転がして行くとか完全に外道のそれ。却下!

 

「どうしようもう案が思い浮かばないもしかして詰んだのかもうわかんねぇな!(早口)」

 

 とりあえず自室のベッドに飛び込んでゴロゴロする。

 新しい案が思い浮かぶように何度も枕へ頭突きするが、やはりすぐには思い浮かばない。

 助けは来ない。呼びに行くのも絶望的。放置はできない。触れば死ぬ。どうしろと?

 俺は頭が特別良い方じゃないんだ! だからこんな困難な問題を持ってこられても困る!

 おや? こんな……こんなん(困難)……?

 偶然な親父ギャグの完成である。今度立香の前で言ってみよう。

 

「立香はどんな反応をするかなって今そんなこと考えてる場合じゃないだろ!」

 

 新しい親父ギャグを思い付く余裕があるなら何故解決策を思い付かないのか。

 もう自分で自分の能天気さに呆れてしまう。こんな状況でよくそんな余裕があるもんだと。

 俺の頭があまりにもドアホなので今被っている布団で自分を包んで外に捨ててやろうかと少し本気で思ったわ。いや自分を包んで捨てに行くとか物理的に無理だけど。

 ……………………ん?

 

()()()()()()……!」

 

 閃いたぁ! 難題突破ぁ! これなら行ける! 俺って頭良いのでは?

 俺は早速隣の部屋に再度お邪魔する。そしてその部屋から布団とシーツを拝借する。

 これで静謐ちゃんを包んでしまえば直接触れなくても運ぶことができる!

 まあ完璧ではないだろうけど、それでもないよりは百倍以上マシである。

 手に持ってみた布団は予想より分厚かった。少し重いがその分安全性は増すのでよし。

 毛布を被せようと俺は静謐ちゃんに近付いて行く。

 しかしそこで一つの可能性に気が付いた。気が付いてしまった。

 

 仮にも相手は暗殺者。迂闊に近付いて大丈夫なのか?

 

 これだけ周りを動き回っても起き上がる気配はない。

 つまりさっきの叫び声でも起きなかったことから彼女の意識はないと思っていいだろう。多分。

 そこでもしも捕獲のために布団を被せようとした俺を彼女が無意識に迎撃しようとしたら?

 寝込みを襲ったら相手の肉体が無意識に動き出して返り討ちにされたなんてよくある話だ。

 勿論フィクションの中での話だが、英霊である彼女にそれがある可能性は否定できない。

 流石にそんな悲しすぎる死に方はしたくないぞ! だけどこのままじゃ近付けない。

 なら無意識に動き出さないかどうかを試せばいい。さて、何を使って試すべきか?

 硬い物でも投げれば一発だろうが、動かなかった場合にゴツンと直撃ルートになってしまう。

 多分痛くない可能性が高いけど……流石に可哀想だから硬い物を投げる選択はなしだな。

 かといって枕を投げても無意識は攻撃と判断してくれるかな?

 正直脅威であると認識されなきゃ意味なさそう。でも他にいいのないよなぁ。

 使う物に妥協し、俺は枕を取りに部屋に入った。

 

 そこにはやっと俺の出番かと言わんばかりに存在感を放つ木の棒の姿が!

 

 そうだよお前がいたのを忘れてたよ、許してくれたまえ。

 俺は木の棒を手に持って静謐ちゃんの元へ戻る。

 これでツンツンして反応するかを試してやるぜ……!

 反撃されても多分大丈夫な距離まで離れてから木の棒を静謐ちゃんに向ける。

 まずは後頭部を棒の先端で軽く突いてみる。

 

 ツンツン。ツンツン。

 

 特に反応はない。相変わらずピクリとも動かない。髪の毛への接触は問題なし。

 次に剥き出しで寒そうな背中を軽く突いてみる。

 

 ツンツン。ツンツン。

 

 やはり反応はない。まるで人形のように動かない。肌への接触も特に問題なし。

 ……なんだか真面目に検証してるのが馬鹿馬鹿しくなってきた。

 そもそも眠っている英霊に倒されたなんて聞いたことがないし、無駄な努力じゃない?

 俺は腹いせと最後の確認の意味を込め、静謐ちゃんのお尻をツンツンしてみる。

 

 プニプニ。プニプニ。プニプニ。プニプニ。

 

 うわ、超柔らかそう。あれがパン生地ちゃんですか。目の保養や~。

 棒で尻肉を押したり離したりするのに合わせてプルプル揺れる太ももがたまらんです。

 第三者から見たら完全に悪戯小僧そのもの。まあ助けようとしてるんだし、多少はね?

 でもここまで無反応を貫かれると怖くなってくるんだけど。死んでないよね?(失礼)

 俺は死の危険とは別の恐怖を感じながら布団を手にし、今度こそ静謐ちゃんに近付く。

 木の棒? あれはもう用済みなので投げ捨てました。

 

 まず静謐ちゃんの横にシーツを敷きます。

 次に布団を手袋代わりにして静謐ちゃんを掴み、シーツの上に寝かせます。

 この際にせっかくだから仰向けの状態に変えておきます。

 寝かせ終えたらシーツで静謐ちゃんの身体を包み始めます。

 包むときに顔の部分は包まないように気を付けて。

 最後に布団で静謐ちゃんをシーツごと簀巻きにしましょう。

 これで静謐巻きの完成~! なお、食べたら死ぬもよう。

 俺は出来上がった静謐巻きを医務室へデリバリーするため、早速持ち上げようとする。

 

「おっっっっもぉい!」

 

 しかし予想以上の重量だった。持つことはできても運べそうにない。

 よく考えたら単純計算で十キロの米袋四個分以上はあるんじゃなかったっけ。

 そこに分厚い布団の重量も追加されて更に重くなっているという。そんな重いの持てるか!

 静謐ちゃんに負荷が掛からないように床に降ろす。この時点でもう腕が限界っす。

 さてさて、どうやって運ぼうか? ここまで来たらもう後戻りはできんしなぁ。

 ……さっき捨てた棒で静謐巻きを転がして運ぶか? いや駄目だろ。冷静になれ俺。

 そんなモップ掛けというかカーリングというか、そんな扱いで運ぶのは……待てよ?

 俺はしゃがんで床を指で擦る。結構ツルツルしている気がする。

 流石にワックス掛けの床には負けるだろうが……これだけ滑りやすそうなら充分!

 俺は雑巾掛けの姿勢で静謐巻きに手を付け──

 

「よーい、ドン!」

 

 一気に駆け出した! 予想通り静謐巻きは転がらずに押せば押すだけ滑ってく!

 これなら静謐ちゃんも気持ち悪くなったりしないだろ! 我ながら完璧よな!

 ただ布団でグルグル巻きにしているからか、少し暑そうだが……すまん、もう少し耐えて!

 後はこのまま医務室まで運ぶだけ! それだけで俺の任務は達成される!

 というか今日の俺ちょっと冴えすぎじゃね? まさに発想の天才じゃね?

 ……俺ってやっぱり頭良いぜ! はははは!

 そんな慢心をしながら走っている最中、肝心なことを思い出した。

 

「そういえば医務室ってどこや?」

 

 まあ適当に走ってれば辿り着けるでしょう。今日の俺は凄いからな!

 ぶっちゃけ今の状況を他の人達に見られたら死ねるけど、今更遭遇なんてしないだろ!

 今の俺はまさに無敵! どこまでも突っ走ってやるぅぅぁぁぁあああああ!!

 何故か凄いハイテンション状態になりながらも、俺は医務室を目指し続けた。

 

 そして途中の壁にあった案内マップで逆走してることを知って少し泣いた。

 

「ぜぇ……はぁ……しゃあ!」

 

 序盤に全力疾走で医務室から離れるというトラブルはあったものの、目的地が見えてきた。

 後はこのまま医務室の扉という名のゴールに到着するだけだ。

 ああ、やっとこれで山場を乗り越えられる……やっと。もう何も怖くない。

 ゴールを前にしたことで思わず休めてしまった足に力を込め、走り出そうとする。

 

 しかし俺は走り出せずに床に倒れた。

 

「あ、れ?」

 

 足に力が……いや、足どころか全身が動かない。もう体力に限界がきたのか?

 でも疲労だけでここまで動けなくなるはずが……いや、待て。

 まさか静謐ちゃんの毒にやられたのか?

 いや、そんなはずがない。もし肌に触れていたのならもっとやばい状態のはずだ!

 しかし現に俺の身体には異常が発生している。どうしてだ?

 静謐ちゃんの方を見る。多少息が荒くなっているが、顔以外の部分は布団から出てない。

 だから触れて毒にという展開では──

 そこまで考えて、俺は一つ静謐ちゃんのことで少し思い出した。

 

 そういえば吐息や体臭にも毒が含まれていなかったか……?

 

 それなら触れてないのに倒れた理由に納得がいく。

 実際俺の顔は布団にかなり近かった。吐息や体臭を吸い込む機会は充分あっただろう。

 そこまで考えが及んだ頃にはもう視界が悪くなり始めていた。景色が歪む。

 こんなことなら汗の匂いを堪能しておくべきだった。もっとお尻を突いておくべきだった。

 意識がだんだん遠のいていってる気がする。また童貞のまま死ぬのだろうか。

 折角の第二の人生も生かせなかった……転生させてくれた神様に申し訳ない……。

 もっと生きたい。生きていたい。死にたくないのに……。

 俺ってやっぱり頭悪いぜ……畜生……。




 さよなら主人公、君の活躍は忘れない(五分ぐらいは)


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油断大敵

 四話の毒身怖いでしょうの後半部分を分割し、そこにカットした部分を付け足した第五話として新しくお話を投稿しました。
 改めて見てみると四話だけ異様に長いのと、一回目を書かないのは手抜き感が凄かったので。
 正直割り込み投稿をすると色々ずれたりして問題が少なからず起きそうだったのでどうするべきか悩んでいたのですが、最終的に投稿することにしました。すいません。

 ついでに一話から三話までのお話を微修正。こちらは気になった部分を手直しした感じです。
 ぶっちゃけ以前と違うところを探そうとすると間違い探しになるので、そちらは無理に読まずとも大丈夫です。設定変更等はありませんので。

 新たなお話は油断大敵を投稿後から近い内に投稿予定です。もう少しお待ちください。
 また、様々な理由で以前の分割前の方が良かった場合は報告お願いします。
 意見が多い場合は直ちに修正しますので。
 尚、上記の文は最新話投稿後、消滅します。


 ……ここはどこだろう。あたまがぼんやりする。

 かんがえがまとまらない。なんかふかふかする。

 おかしいな、たおれたのは確か廊下で──!?

 

「ひゃ!?」

 

 勢いよくベッドから上体を起こす。

 いきなり動いたせいか、少し頭がふらふらっとしたが、今はそれは問題ではない。

 自分の体をペタペタと触って状態を確かめる。

 心臓、動いてる。苦痛、どこにも感じない。体の不自由、特に感じない。

 ……俺は生きているのか? 静謐の毒を吸い込んで尚生きているのか?

 

「だ、大丈夫なの? 裕司?」

「死んで、ない?」

 

 先程から誰かの声が聞こえる気がするが、今の俺には気付く余裕がなかった。

 もう死んだと思った。二度目の人生も終わったと思った。

 だけど俺はこうして生きている。どんな治療を受けたかはわからないけど生きている。

 実感した途端、目から涙が溢れてきた。同時に鼻も詰まり始める。

 

「う……ぐぅう、ぅぁ……」

 

 涙が止まらない。鼻水も止まらない。泣き叫んでいないのが奇跡だ。

 生きていることの素晴らしさを今最大限に実感している。

 それと同時に恐怖が心へ徐々に押し寄せてきた。

 もしも治療されていなければ死んでいた事実。英霊を甘く見ていたことの愚かさ。

 様々な感情が溢れて爆発しそうだ。いっそのこと叫んでしまおうか。

 

「大丈夫、もう大丈夫だよ」

 

 ふわっと誰かに頭を抱きしめられる。頭を誰かに撫でられた。

 とても柔らかくて、とても安心して……昔感じた温かさだ。

 幼少期に情緒不安定で泣いていた時に感じた温もりだ。

 

「うあああぁぁ……あぁぁぁああああ!!」

 

 懐かしくて、嬉しくて、そのせいで涙が止まらない。

 泣き声まで出始めた。もう自分の意思では止められなくなった。

 なのに抱きしめてくれている相手はそれを許すと伝えるように包み込んでくれる。

 それがまた嬉しくて更に泣き叫んだ。抱擁してくれる相手を両腕で捕まえながら。

 

「……落ち着いた? 裕司」

「……うん、かなり落ち着いたよ立香」

 

 どれほどの時間が経っただろうか。気が付けば涙は止まっていた。

 立香は未だに俺の頭を抱きしめたままである。胸が当たってるんですが。

 しかし不思議とエッチな気分にはならず、寧ろずっとこのままで良くなってきた。

 もう立香がいればどうでもいいかなぁ……。

 

「初めまして! ちょっと失礼……おっとっと?」

 

 突如この部屋のドアが開く。そこから見覚えのあるドクターが入り込んできた。

 その瞬間俺は今の状況がどうなっているのかを思い出す。

 物凄く恥ずかしくなった俺は突き飛ばす勢いで立香を離れさした。

 こらそこ! あ……とか残念そうに聞こえる声を出すな! 俺だって超名残惜しいわ!

 それと俺を無償の愛を与える母のような目で見てくるのをやめなさい。辛いです。

 

「後遺症がないかチェックしに来たんだけど……お邪魔だったかな!」

「死ねぇ!」

 

 思わず俺は手元にあった枕をドクター・ロマンに投げつけた。

 枕は丁度ロマンの顔面にクリティカルヒット! 我ながらすげぇコントロール。

 突然枕を投げつけられたロマンは一瞬驚き戸惑ったが、すぐに笑みを取り戻した。

 

「ごめんごめん! 凄く仲良さげだったからそういう関係かと!」

「ちょ、ロマン!? 違うから! まだそういう関係じゃないから!」

 

 確かにあれだけ熱烈に抱きしめていたら勘違いするかもだけど……。

 でも流石に立香の反応を見ればわかるやろ。顔こそ赤いけど首振って否定してるぞ。

 これがラブコメなら照れ隠しと取れるけど、人の心はそんな簡単じゃないわい。

 ……立香が俺をどう思ってるかはさておき、恋人関係じゃないのは事実だしな。

 

「おっと、自己紹介が遅れたね。僕はロマニ・アーキマンだ」

「え? えっと、先程はついカッとなってしまいました。すいません……藤原裕司です」

「裕司くんだね。君は静謐ちゃん……君が運んでいた少女の毒で倒れたんだけど、体調はなんともないかな?」

「あ、はい」

 

 突然の自己紹介からの突然の健康診断である。

 でもまぁ、自己紹介は大事だからね。突然でも仕方ないね。

 体の方も特に怠いとか辛いとかはなし。寝起きだからか少し眠いくらい。

 

「静謐ちゃんの体液には毒があってね。我々の配慮不足で君を危険な目に合わせてしまった。本当に申し訳ない」

「いや、こっちも知らなかったんで……」

「そう言ってもらえると助かるよ。それじゃあ一つ質問いいかな?」

 

 突然の自己紹介からの突然の健康診断からの突然の質問である。

 断る理由も特にないので、ちゃっちゃとロマンからの質問に答えよう。

 あんまりやばい質問とかしてこなければいいけど。

 

「倒れていた静謐ちゃんを医務室まで運んでくれたことには感謝するけど、どうして布団でグルグル巻きにして運んでたんだい?」

 

 ロマンはかなり真剣そうな表情で問いかけてきた。

 ……確かに気になるよね。まるで触ったら死ぬのを知ってたかのようだもんね。

 事実俺は知っているわけだが、流石にまだそれを教えるわけにはいかない。

 今の段階で明かしたらどうなるかわからんからな……。

 だから上手く誤魔化す必要がある。一応誤魔化す為の文句は用意してあるんだぜ。

 

「最近はちょっと触っただけで訴えられることも多いからね……それに俺の筋力じゃ抱えて運べないし。だから廊下を滑れるようにああするしかなかった」

「……そうなんですか?」

「うわ!?」

 

 突然立香とは反対の方向から声が聞こえた。予期せぬ声の方に驚いて振り向く。

 そこには眉毛をハの字にした、申し訳なさそうな静謐ちゃんがいた。

 貴方はいつからそこにいたの? まさか最初からじゃないよね?

 

「う~ん……気持ちはわかるが、普通そこまでやる?」

「童貞のヘタレ度を舐めんな」

 

 小さくそう呟くと、流石のロマンもピシッと固まってしまった。

 そりゃ出会ったばかりの人から童貞なんて言われたら固まるよな……。

 俺も羞恥心が刺激されまくってるけど、これで言い逃れできるのなら後悔はない。

 密かに満足していると、静謐ちゃんが話しかけてきた。

 

「あの、私を医務室まで運んでくださり、ありがとうございました。それと、本当にすいませんでした。私の毒が貴方を苦しめてしまった……」

 

 頭を深く下げながら感謝と謝罪をしてきた。

 感謝されるのは実に気分が良くなるよね。いいことしたわってね。

 それと謝罪の件だけど……正直あまり気にしてない。

 俺が毒に侵された原因を作ったのは他ならぬ俺自身じゃないの。

 それに運が良かったのか、毒で倒れる寸前の時も実は苦しくはあっても痛みはなかったしね。

 

「私の全身は毒に塗れていますから、分泌される汗も危険なんです。だから、その……これからは私に近付かないようにしてください」

「静謐ちゃん……」

 

 こちらの身を案じてか、静謐ちゃんは自分の体質のことも告げてきた。

 同時にもう近寄らないように、と言うその姿は……どこか寂しそうだ。

 いや、実際寂しそうではなく寂しいのだろう。彼女に触れられる人は限られているのだから。

 数少ない触れられる相手である立香も、触れられないロマンもどこか悲しそうだった。

 やっぱり仲間が悩んだり苦しんだりするのは辛いのだろう。気持ちはわかる。

 

「静謐さん。貴方の言い分はよく理解しました……が、それはそれとして提案があります」

「……はい」

 

「例え触れられなくても、友達として仲良くなってはくれますか?」

 

 言葉が届いた瞬間、静謐ちゃんは驚きで目を見開いた。

 恐らく信じられなかったのだろう。自分のせいで死に掛かった奴がそんなことを言うなんて。

 まあこちらとしては寧ろこれからを考えると仲良くなっとかないとまずいってのもあるが。

 

「俺の名は藤原裕司。君の名は?」

 

 しかし解除不可能な毒に彼女自身苦しんでいるのを知ってるからなぁ。

 例え打算を抜きにしたとしても、苦しんでる女性を邪険にはできんよ。

 ……さて、静謐ちゃんの答えは?

 

「……静謐のハサンです。私で良ければ喜んで!」

 

 毒の耐性を持っていない人に友達になろうなんて、今まで言われたことがなかったんだろう。

 静謐ちゃんは心底嬉しそうに無意識に差し出していた俺の手と握手をした。

 吐血しながら意識が遠のいたのは、握手されてすぐのことだった。

 

「あ」

「あ!」

「え!?」

「ぐべぶぉぉぁあああ!?」

 

 しまった! 静謐ちゃん相手なのに無意識に手を差し出していた……ぐふっ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そんなこんなで二度目の起床……から数分後。

 流石に二度目ということもあってか、一度目程の動揺はなかった。

 人間は慣れる生き物だから? それとも一度助かってるから危機感薄れてる?

 とりあえず二度も気絶したんだ。そろそろ状況を確認したい。

 そう考えながら立香がいた方へ振り向こうとした時だった。

 

「初めまして、ますたぁのご友人様」

 

 隣から声が聞こえる。しかしこの声は立香のものではない。

 この声はこっちへ転生してから初めて聞く。しかし聞き覚えのある声だ。

 その幼く、しかしねっとりとマスターと呼ぶこの声は……!

 思わず俺は横へゆっくりと振り向いてしまった。

 

「わたくしは清姫。ますたぁとはとっても親密な関係ですのよ?」

「そ、そうなんですか……俺は藤原裕司。よろしくです」

 

 まるで牽制するかのように立香との親密アピールをしてきた。

 ああ、遂にこの時がやってきてしまったか……カルデア最高の嘘発見器よ。

 最初の挨拶の時からいつかはこの日が来るんじゃないかと思っていた。

 でも早すぎじゃねー? もっと遅く来てくれてもいいじゃん。

 結果的に溶岩水泳部の一人と早い段階で仲良くなれたと思ったらこれかよ。

 試練の連続だぁ……もうギブアップしたい……。

 

「……ご友人様、一つお尋ねしてもよろしいですか?」

「な、何でしょう? 答えられる質問ならなんでも答えるけど?」

「ふふふ、では嘘偽りなく答えてくださいませ」

 

 清姫は嘘を吐いたら殺すと言わんばかりにこちらをじーっと見つめてくる。

 ……仕方がない。こんな状況だと逃げられないだろうし、こうなりゃやけくそよ!

 さあ清姫! 何が聞きたいんだ! 立香と俺の関係か? 立香の女の好みか?

 どんなことでも聞いてこいやゴルァ! どんな質問をされても正直に答えてやろうじゃないか!

 立香(ますたぁ)がいる以上どれくらい仲良くなれるかはわからんが、絶対に仲良くなってやろう!

 そう、毒耐性は持ってなかったのに少しは絆を結ぶことができたあの静謐ちゃんのようになぁ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「貴方は、安珍様の生まれ変わりですか?」

 

 なんで?




 Q.なんできよひーそう思ったんや……。
 A.ちゃんと理由はありまっせー。次回明かされるかはわかりませんが。

 Q.なんだぁ? 静謐ちゃんときよひーはハーレム入り確定かぁ?
 A.まず好感度上げないとやばいんだよなぁ……つまりハーレムをさせるかはまだ未定。というかラブコメをするかどうかすらまだ決めてないという。

 Q.主人公死なないの? 実質不死身?
 A.裕司以外はそう言えるかもしれない。でも裕司は条件を満たすと死ぬ。決して安全ではない。

 Q.結局なんで静謐ちゃんは倒れてたの? 叫んだ時に誰も来なかったのはなんで? そもそも運搬中になんで誰とも遭遇しないんだよ! ご都合主義がすぎねぇか作者ァ!?










 A.ヒント1:花。


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一難去ってまた再来

 活動報告で更新予告ってお気に入りユーザーに登録されてないと意味ないのでは?
 そんな疑問を抱きながら続きを投下じゃい。

 UAが偽乳隊長の戦闘力を上回っているんですがそれは……。
 お気に入りもナッパ様をとっくに突破してるし、平均評価も高め。
 近日中に俺死ぬん? だからこんな凄いことになってるん?(疑心暗鬼)

 今回はなんとか3500文字前後に収められたぜ。
 でも後書きを含めたら4000超えてそうだ……まあ5000は超えないだろうからいいか(楽観視)
 最低でも前回並に長いとかはないので安心してサクッとお読みくださいませ。

 あ! 今回きよひーあんまり出番ないです。期待してた皆様ごめん。
 その代わり……まあご期待くださいな。


「えっと、多分違いますよ?」

 

 突如清姫に聞かれた安珍の生まれ変わりかという質問に対し、俺はハッキリとNOと答える。

 俺が安珍様の生まれ変わり? ありえんな。何故なら今世と同じく前世も現代人&一般人故に!

 ……FGOプレイヤー=安珍ってことになるのなら前世は安珍と言えるかもだが。

 しかし彼女が聞いてるのは元ますたぁ(プレイヤー)か? ではなく元安珍か? なので嘘探知に引っ掛かることはないだろう。

 どうだ清姫! 俺は嘘を言ってないぞ! まあお前さん相手に嘘なんて言えるわけないしな!

 わかったら早くぐだ子の後方警備をしに戻るんだ。

 

「…………」

「…………」

 

 メッチャ見られてる。この男嘘をついてるんじゃないかと言わんばかりに見つめられている。

 こんな状況じゃなければそんなに見つめられると照れるぞと思えたんだが、今は恐怖しかない。

 初めてですよ? 美少女と二人っきりなのに恐怖しか感じないのは……。

 暫く見つめ合った後、清姫は顔を少し下に傾けて俺から視線を外した。

 

「嘘ではないようですね」

 

 何か考えてる雰囲気だが、一応俺が安珍の生まれ変わりではないことはわかったっぽい。

 失礼しますねと清姫は言って俺のベッドの横から離れ、医務室から出ようとする。

 ……どうやら質問はさっきの一つだけだったようだ。

 ミッションコンプリート! これで俺が清姫に狙われるという展開は避けれたわけだな!

 なんでますたぁじゃない俺に聞いてきたのかは謎のままだが、直接聞くことはできない。

 一応俺は一般人と認識されているはずだ……魔力とか多分ないだろうし。きっと。

 

「またお会いしましょう」

 

 清姫はふふふと微笑みながら退室した。緊張で心臓が壊れるかと……ちょっと待て。

 また会う? あれ、安珍疑惑は晴れたはずでは? なんで?

 俺は腕を組んで思考を巡らせるが、特に理由は思いつかなかった。

 今度会う時は友達になろうって意味なら凄く嬉しいけど、まあ社交辞令とかそこら辺でしょう。

 焦るな、俺。危険な相手だからこそ確実に仲良くなるのだ!

 

「あ! もう起きてたんだね裕司!」

 

 扉が突然開いた。それと同時に立香がこちらへ駆け寄って来る。

 結構嬉しそうな顔をしているのは友が無事に起きたことに対してだろうか。

 まあ静謐ちゃんと握手なんて自殺行為をしたらそりゃ心配もされるか。

 

「おはよう立香。まさか握手した瞬間倒れることになるとは、ちょっと甘く見てたわ」

「うん。静謐ちゃんの身体は特殊だからね……うん、私が傍にいれば良かったね。ごめん」

 

 立香は頬を指で掻きながらばつが悪そうに答えた。可愛い。

 別に倒れることはわかってたけど、言わないのは少し不自然だ。だから言わないのは拙い。

 静謐ちゃんの運び方だって疑問を抱かれるレベルだったし、もう安易な行動はできぬ。

 これ以上カルデアの皆に疑われたら、俺の命は破壊し尽くされてしまう!

 そんな絶望の未来を少しでも遠ざけなければなるまい。絶対に。

 そういう意味では清姫が帰ったのは痛い。立香がいれば一気に仲良くなれたような気がする。

 逆に修羅場になった可能性もあるが、そこまで分の悪い賭けではなかったはず。

 まあ過ぎてしまったものは仕方ない。今は立香に集中しよう。友人を放置するのは良くない。

 

「立香のせいでも静謐ちゃんのせいでもないさ。俺が手を差し出したのが悪いんだし」

「それでいいの? 死に掛かったのに」

 

 ……確かに死に掛かったけど、じゃあ手を出すなよって言われたらぐうの音も出ないからなぁ。

 とりあえず意図的に殺そうとしなければ気にしない努力をすると立香に伝えた。

 そんなついうっかり静謐ちゃんが俺に何度も触れるなんて悲しい事故は起こらんだろ。

 今度からは俺も触らないように気をつけるしね。だからきっともう大丈夫だよね。うん。

 

「う~ん……裕司って普段ビビリなのに変なところで勇敢だよね」

「命知らずとか楽観的とかと間違えてないか?」

 

 この俺が勇敢ってマジで言ってるん? 確かに消去法で術ニキに立ち向かったりしたけどさ。

 立香より主人公力の劣る俺が勇敢などと、そのようなことがあろうはずがございません!

 別にマジの危機が迫れば遠慮なく逃げるから安心してくれ。そこまで無謀じゃないよ俺。

 しかし立香はそうは思ってないらしく、困ったような笑みを浮かべながら俺の頭を撫でてきた。

 本当にお前さん頭撫でるの好きね……他の英霊さんの頭とかも撫でたりしてるのかしら。

 

「無茶だけは絶対しないでね。静謐ちゃん以上に色々凄い人もいるからさ」

「そ、そうなん?」

「あ、でも勘違いしないでね! 全ての職員や作業員のことじゃなくて……えーと、主に危険なのはライバル会社とか? とにかく仲良くなるのが大変な人も多いけど静謐ちゃんも含めて皆良い人だから安心してね!」

 

 安心できない相手は英雄王とか二部勢とかですねわかります。

 わかんないふりするけど。余計な死亡フラグはいらないです。

 立香は俺の頭を撫で続けながら心配そうに俺を見つめている。

 一体いつまで頭を撫でるつもりなのだ? 男は普通嫌がるもんだぞ……俺は嫌じゃないけど。

 

「そうだ!」

 

 大人しく頭を撫でられていると立香に突然笑顔が戻った。

 俺の頭を撫でることもやめ、胸の前で掌を合わせる。

 

「気絶……気絶? させちゃったお詫びとして私がどんなお願いでも一つだけ聞いてあげるよ!」

「え? どんなお願いでもいいの?」

 

 思わずそう聞いてみると、立香は自分にできることならと言い直した。

 確かに空を飛びながら寝ろって言われても無理だもんね。仕方ないね。

 しかし、どんな願いでも……このチャンスはどう活かしたもんか。

 今後を考えるとお約束のエッチなお願いとか絶対できないし。

 英霊や魔術師関連も頼めないとなると……凡人としての俺ができる頼み事はこれだ!

 

「恋人になってくれそうな女の子を紹介してください立香様!」

「それは不可能だ。他の願いを言え」

 

 立香は迫真の表情で拒否してきた。ですよねー。

 冷静に考えれば今の立香が紹介できる人って所長と後輩省いて英霊ばっかだしな。

 真面目な顔で拒否されるのも仕方ないか……でも故郷に帰ったら紹介してほすぃ。

 前世は恋人できたことなかったし、今度の人生ではちゃんと恋愛したい!

 立香と恋仲になれたらと思ったこともあるけど、後輩と立香LOVE勢の英霊の壁が超えられん。

 というか今女性を紹介してくれたとしてもそれどころじゃなかったわ。危ない。

 原作に凡人の俺が巻き込まれるんじゃないかと不安で恋愛に集中できなさそうや。

 これからも原作からは極力逃げるつもりだからなぁ……。

 もう既にカルデアに来ちゃったけど、まだ関わらない選択肢は取れるはず!

 何故ならまだ俺は一般人として認識されているだろうからな! ちょっと疑われてそうだけど。

 

「手料理とか頼もうと思ったけど、それに使うのはもったいないから保留で。強いて言うならそろそろ自室に戻りたい」

「それぐらいならお安い御用! というかそのためにここへ来たんだよね私」

 

 立香は顎に手を当てて今思い出したという風に言った。おいおい。

 俺は少し呆れながらベッドから降り立つ……うん、やっぱり身体に不調はないな。魔術最高。

 

「じゃあ早速連れて行くよ! 忘れ物はない?」

「そもそも荷物がない!」

 

 立香が手を差し出してきたので、俺はその手を掴んで歩き出す。

 ……気のせいか立香がやけに過保護な気がする。

 術ニキと静謐ちゃんの件で守らねば! という使命感にでも目覚めたのだろうか。

 まるで子供になったような気分になりながら立香に手を引かれて移動した。

 

 立香と共に部屋に戻ると、そこにはダンボールの山が出来ていた。

 気絶中にようやく荷物が届いたようだ。どれくらいの時間寝てたんだろうか?

 ま、そんなことはどうでもいいか。重要なのはそこじゃない。

 

「荷物が届いてるやん! 明日のためにも今日中に全部片付けてやるぜ!」

「私も手伝うよ! 一人じゃ設置が大変な物もあるでしょ?」

「ありがたい! やはり持つべきは友人よな!」

 

 まさか自分から手伝うと言い出すとは、流石英霊誑し! 俺の扱いもお手の物ってか!

 そうと決まれば早く取り掛かろう! これで明日からゲームやネットサーフィンができるぞ!

 早速近くにあったダンボールを開けた立香を見ながら俺も意気揚々とダンボールを開け始めた。

 

「あ、トランクスが入ってた」

「それは俺がやる!」

 

 流石に女性に下着は任せたくねぇ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 終わったー! 片付け完了です! でももう遅い時間だから寝ないとだ。

 平たくしたダンボールを全て運び終えた俺達は一息ついた。

 もしも立香がいなかったら今日中に終わることはなかっただろう。

 

「感謝! 圧倒的感謝! 今度は俺がなんでも言うこと聞く番だ! 俺にできる範囲で!」

「じゃあ私も保留で。ふっふっふ……どんなお願いしようかな」

 

 不敵な笑みを浮かべながら立香はドアの方へ歩いていく。

 どうやら自分の部屋に帰るようだ。まあ夜這い組のせいでここで寝泊りはし辛いだろうしな。

 

「おやすみ裕司。明日はいよいよ本格的な職場案内だよ」

「おやすみ立香。多分一度じゃ覚えられないからその時は頼むぜぃ」

 

 立香が退室するのを見届け、俺は部屋の電気を消す。

 リモコンで消せるとか便利だね。科学の力は素晴らしいわ。

 手にしたリモコンをベッドの近くに置き、俺はベッドの上で布団を被った。

 職場案内の時に寝坊しないためにも素早く眠りにつかなければ。

 

「改めて、おやすみなさい……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おやすみなさい。ご友人様」

 

 今夜は悪夢を見そうだなぁ……こんな幻聴を聞いちまうなんて……。




 一体何故清姫が自室にいたのか? 何故清姫は裕司に元安珍疑惑をかけたのか?
 その真相は次回明かされるのでご期待あれ!
 あ、清姫は別に夜這いしてたわけじゃないのであしからず。
 おやすみの挨拶をした後は布団に潜り込むとかは特にせずに自室へ帰りました。










「ううん、むにゃ……起きる~」
「おはようございます。ご友人様」
「お()よう美少女さん、背の高さに似合わず幼い感じの顔ねぇ……」
「それ、褒めているのですか?」
「可愛いって意味で褒めとるよ(寝惚けてる)」

「おはよう裕司! ……あれ、きよひー? なんでここに?」
「おはようございます、ますたぁ。ご友人様を起こしておりました」
「朝に美少女からモーニングコールなんて俺ぁ幸せ者じゃ……でもまだ眠いぞぃ……」
「急いで顔を洗って完全に目覚めよう! ね!?」

「ふー、さっぱりしたぜ。じゃあ早速案内してくれ立香」
「了解! 全力で案内するからね!」
「わたくしもお供しますわ、ますたぁ」










「いつの間にか俺の部屋に清姫さんがいる!?」
「今更気付いたの!?」
「美少女としか認識してませんでした……」
「ふふふ、ご友人様はうっかりさんなのですね」
「俺は朝に弱い上にここが自宅じゃないことを忘れてたのだ……許して」


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今日()は厄日だわ!

 予告なしで予約投稿するので初投稿です。

 UA偽乳と対峙した時の界王拳孫悟空の戦闘力超えやったぜ。
 こんなに沢山読まれるなんて、嬉しすぎて踊りだしそう。
 次は打倒フリーザ様でも目指してみる?(調子に乗ってる)

 平均評価がレッドになったりオレンジになったり忙しいね。
 この小説をそこまで高く評価してくれるなんてなぁ。
 できる限り失望されないように頑張らなくては!
 とりあえず週一更新を守りたい。このまま週間小説にしたい。
 止まるんじゃねぇぞ……(願掛け)

 あ、そうだ(唐突)
 今回のアンケートは今までのと比べてもかなり重要だから参加を勧めるゾ。


 目を覚ました俺は立香に誘導されて洗面台へ到着。そこで顔を洗って眠気を吹っ飛ばした。

 何故か立香の隣に清姫が再来してたのには驚いたが、まあ立香と共に来たのだろう。

 ……これは清姫と仲良くなるチャンス? でもこのチャンスは活かせそうにないなぁ。

 危険な鯖達とはできる限りお友達になって命の危険を減らしておきたい気持ちは確かにある。

 しかし今はタイミングが少し悪い。流石に職場案内を後回しにするのは駄目だろ。

 不真面目な女好きなんてレッテルを貼られたら目も当てられないし。

 一応チャンスであることは確かなはずなので、案内中に不自然じゃない程度に絆を作らねば!

 密かに決意を胸に抱き、立香達に改めてカルデアの案内を頼んだのだが……。

 

 えー、まず右手側をご覧ください。幼馴染の立香が俺と並んで歩いています。

 次に左手側をご覧ください。自称後方警備担当の清姫が俺の隣で歩いています。

 ポジションおかしくない? 主にきよひーのポジションがどう考えてもおかしくない?

 これはあれか。まだ清姫の安珍疑惑が晴れていないのか。

 仲良くなりたいだけで恋愛関係になりたいわけじゃないんだが。余計な死亡フラグはいらぬ!

 そもそもそういう役割はますたぁのはずでは? なんで俺を生まれ変わりだと疑っているのか。

 考えられるとしたら俺の願った特典が変な方向に作用しているとかだが、どこをどう解釈したら俺に安珍疑惑をかけることになるねん。ハッピーエンドと関係あんの?

 まさか立香の幸福のための踏み台にされるとかないよな……。

 

「ははははは!」

 

 廊下を進んでいると、小さな声らしき音が聞こえた。

 どんな意味を持ってるかはわからないが、同じ音を連続で鳴らしている?

 

「あっはははははは!」

 

 前へ進むにつれて声も大きくなる。どうやら爆笑しているようだ。

 この特徴的な声……まさか……。

 俺が声の主の正体に思い当たると同時に立香は一度立ち止まった。

 同じく立ち止まった清姫と共に近くにあったドアへ目を向ける。

 

「あれ? この部屋には誰もいないはずだけど、誰かいるの?」

 

 立香が扉を開け、中を覗き込む。

 声で誰がいるか判断しようぜぐだ子ォ! 多分そいつは関わったらあかん奴や!

 しかし既にドアは開かれた。立香を見ていた俺も必然的に部屋の中を見ることになった。

 

「ほひ、ひょほほほほほほ!」

 

 そこには何が面白いのか、仰向けの状態で大爆笑しているメフィストフェレスの姿があった。

 狂った様に大笑いしている子安の声という時点でお前だろうなと思ってたよ……。

 立香が笑い声の正体を理解すると同時にメッフィーは笑うのを止めた。

 そしてこちらをゆっくりと顔を動かして見つめてくる。

 ……気のせいか俺と目が合ってるような? まさかロックオンされてないよな? 俺死ぬ?

 

「ぷ、はははははは! くひひひひひ!」

 

 五秒ぐらい見つめたかと思ったら先程よりも大きな声で笑い始めた。そんなに俺の顔は笑える?

 面白いという感情を全力で表現するかのように部屋中を転げまわる。わけがわからないよ。

 狂ったように笑いまくるピエロを眺める趣味はないので俺は無言で部屋の扉を閉めた。

 

「見なかったことにする。あれは関わっちゃ駄目な人だ。一目でわかる」

「彼は、その、えっと……」

「…………」

 

 撤退を選ぶ俺。良い言い訳が思い付かない立香。終始無言の清姫。

 そんな奇妙な俺ら三人組はメフィストの笑い声を無視して先を急いだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「知らないというのは幸福ですなぁ? あひ! ひゃははははは!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「到着ー! 一度来たことあるよね? ここが食堂だよ。早速朝ご飯食べよう!」

「ああ、(サー)業員に挨拶した時の場所ね……よし! 確かにお腹空いてるし、何か食べよう!」

 

 まず案内されたのは食堂だった。美味しそうないい匂いが漂っている。

 こんな匂いを嗅いだら既に空いているお腹が余計に空きそうだ……。

 しかし仮にも案内中なのにいいのか? まあ立香がいいならいいか(思考停止)

 先に席を確保してから食事を注文しようと、適当に空いてる席を取る。

 すると立香が俺と清姫にそのまま席に座っててと言ってきた。

 

「私が二人のご飯を持ってくるよ! 何かリクエストとかある?」

 

 あ、持ってきてくれるん? じゃあ肉類でお願いします。

 そう伝えると立香は次に清姫のリクエストを聞き、カウンターへ向かっていった。

 それを見届けた清姫は俺の目の前に座る。立香を追いかけたりはしないのか。意外。

 

「さて、せっかくですから少しお話をしましょうか」

 

 ……あれ、これって清姫と擬似的な二人っきり状態?

 周りに食事に来ている英霊達がいるとはいえ、少し危険な状態だったりする?

 立香についていかなかったのも俺の前世が安珍かを確かめるため?

 

「お話か……何を話せばいいかな」

「ではわたくしが幾つか質問をしますので、それにお答えくださいませ」

 

 やっぱりな。俺の予想は間違ってなかった。

 どんな質問をしてくるのかは予想できないが、俺が答え辛い質問は必ずしてくるはず。

 その質問達をどう切り抜けるかで俺の未来は変わるだろう……。

 まあ嘘さえ言わなければ命の危険はないだろうから大丈夫、大丈夫! だいじょーぶ!

 俺が嘘を言わない決意をすると同時に清姫が質問攻めを開始した。

 

「まず初めてのご挨拶の時にかなり緊張していたご様子でしたが、何に対してそこまで緊張していたのですか?」

 

 おっと、初っぱなから答え辛い質問をするな。

 美人に見つめられてたからじゃ駄目か? 引っ掛かる可能性があるから駄目か。

 

「こんな凄そうな場所でやっていけるかな? と不安になってね」

 

 清姫の笑みが深まる。怒ってないっぽいので、どうやら嘘と認識はされなかったようだ。

 ふふふ、この調子で真実の一部をお伝えしてやろう。無論本音は隠すけど。

 

「模擬戦で吹き飛ばされたと聞きましたが、その相手のことをどう思っていますか?」

 

 術ニキをどう思っているかだって? そんなん気のいいアニキに決まってるやん。

 でも何も知らない一般人視点だと突然吹っ飛ばされたんだから恐怖してないと変だ。

 一応術ニキにも怖い点があるから恐怖しているというのも嘘ではないんだろうけど。

 かといって思ったことをそのまま伝えても嘘判定を下される可能性があるしなぁ。

 

「術ニキさんは何か事情があってあんなことをしたんだろうなって考えてるよ。だから今はどんな事情で挑んで来たのかなって思ってる」

 

 清姫の笑みがますます深まる。なんとか嘘と思われなかったようだ。

 ……でもこのまま嘘を言わない=反省した安珍とか認識されそうだなぁ。

 まあもし訂正失敗したら立香になんとかしてもらおう(他力本願)

 

「静謐さんは触れた相手を毒に侵す体質ですが、何故友人になりたいと? 怖くないのですか?」

 

 ……実は誰かから言われて質問攻めしてるんじゃないだろうな。

 さっきから答え辛い質問ばかりしおってからに! 嫌がらせだと言われたら信じるレベル!

 好感度を下手に下げると死ぬんじゃないかと思って! なんて言えるわけがない。

 怖くないっていうのも嘘になるから言えない。だから怖くても仲良くなりたい理由を考えねば。

 こうなったら当たって砕けろ作戦実行よ! 一部を隠して本音を暴露してやる!

 

「怖くないと言ったら嘘になるね。握手したのだってうっかりだったし」

 

 俺は右手をじっと見つめる。何故静謐ちゃんに触れて助かったのかはわからない。

 本当なら即死してもおかしくはないはずだ。医務室だから助かったのか?

 でも一般人なら普通に治療が間に合わずに死んでもおかしくなさそうだが。

 粘膜接触じゃなければ意外と即死ではないのか……もっと設定読めばよかった。

 

「自分から彼女に触れることができるかと言われたら、自信はない」

 

 いくら好感度を上げねば危ないとはいえ、俺は命を一々賭けれるような男じゃない。

 静謐ちゃんに自ら触れるなんて真似は余程のことがない限りできないだろう。

 ……所詮俺はその程度の男だ。

 

「でも、危険なのは()()()()()だ。彼女の人格は危険じゃないし寧ろ優しい」

 

 毒は怖いけど彼女自身に罪はない。彼女だって自分の体質をなんとかしたいと思っているのだ。

 それをわかっていて毒を理由に静謐ちゃんの全てを否定はしない。流石にそこまで屑じゃない。

 

「それに泣きそうな表情で謝罪してきた相手を、悲しそうな表情で自分には触れるなと警告してくれる相手を無碍にはできない……ここまでかっこよさそうなことを言ってるけど、友人になってくれるかと聞いたのは思わずって部分が大きいな」

 

 俺は清姫の目をしっかりと見つめて言い放つ。

 これぞ下げてから上げる大作戦! 触れる勇気はないけど友達にはなりたいアピールよ!

 どうですかい清姫さん!? 嘘は言ってないぞ! これでもう質問攻めは終わりにして!

 

「ふふふ……」

 

 清姫がこれ以上ない程に嬉しそうに微笑んでいる。いや、嬉しそうなのかこれは?

 もしかして嬉しいのとは別の理由で微笑んでいるのか? なんか嫌な予感がする。

 俺が危険を察知していると清姫がそっと立ち上がり、俺の隣に歩いてくる。

 そして耳元で小さく、しかしはっきりとした声で囁いてきた。

 

「なるほど、全く嘘は言っておりませんね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ですが、隠し事をしておいででしょう?」

 

 なんで? どうしてわかった? え? マジで?

 

「その反応、やはりまだ話していないことがおありのようですね」

 

 バレた。上手く行ってたと思ったのにバレた。何故だ?

 思わず清姫から視線を外してしまう。

 それは清姫の言葉に同意する行為に他ならないというのに。

 

「ご安心を。今はその隠し事を追及はしませんから……今は」

 

 今はってことはいずれは聞かれるってことじゃないか。全然安心できない。

 近い内に聞かれてしまったてもそれで終わりなのだ。

 転生者であることと、特典のことを隠しきれなくなるだろう。

 そうなったら俺はどう扱われるのか想像できない。したくない。

 思わぬ時間制限ができてしまった……非常にまずい。

 

「……わたくしは以前、ますたぁを安珍様と思い込んだことがあります。ですが安珍様ではなく私自身をちゃんと見て欲しいという言葉で、ますたぁの必死の説得で、ますたぁを立香様として認識することができました」

 

 なんだと? そんなことがありえるのか? どんなミラクルが起こったのだ?

 まさか転生特典が仕事した結果か? ハッピーエンド補正で清姫の精神に変化が?

 そもそも何故それを俺に告げてくるんだ? 俺がそれを知っているのは知らないはず。

 まるで清姫は俺が清姫が以前どんな人物だったのか知っていると思っているみたいじゃん。

 もう頭の中がぐちゃぐちゃだ。そもそもどうしてこのタイミングでカミングアウトを?

 

「……ご友人様は安珍様に似ておられます。どこかへ行ってしまいそうな、引き止めても嘘で誤魔化しそうな雰囲気が。まあご友人様を安珍様の生まれ変わりだと思ったのは別の理由なのですが」

「ど、どうして俺が生まれ変わりだと?」

 

 俺がそう問うと、清姫ははっきりと言い放った。

 清姫に注意するあまりに犯してしまったミスの内容を。

 

「隠したいことがあるのに嘘をつかないからです。まるで()()()()()()()()()()()()かのように」

 

 完全に盲点だった。死なないための作戦が完全に裏目に出てしまった。

 さっきの質問攻めは俺のことを試していたのか。

 いや、それなら医務室でその質問をしてきたのは何故だ?

 もしかして食堂の挨拶の時には既に安珍かもという疑問を抱いていたのか?

 だから俺のことをずっと監視していたのか……そしてボロをだしてしまったと。

 

「ですが、ますたぁと同じようにご友人様も安珍様じゃない自分を見てと言うのでしょうね」

 

 当たり前だ。自分に自分じゃない好きな人を重ねられて喜ぶ人は少ないだろう。

 いや違う。今重要なのはそこじゃないのだ。冷静に。冷静になれ俺。

 パニックになると現実逃避しがちになるのは俺の悪い癖だ。反省しなくては。

 それに不幸中の幸いとして、清姫は俺の警戒心の原因は前世が安珍だからと思ってるっぽい。

 それを上手く利用すれば俺が英霊達の知識を持ってることは誤魔化せそうな気がする。

 しかし本当に誤魔化せるのか? 自信があるかないかで言えば圧倒的にないんだけど。

 改めて清姫を見つめる。その顔は悲しそうにも怒っているようにも見える。

 しかし観察眼が優れているとは言えない俺の考えが正しいかは不明だ。

 仮に悲しそうにも怒っているようにも見えるという俺の予測が正しくても、その表情にどんな意味を込められているかはわからない。

 ……しかし、ただ一つだけはっきりしていることがある。

 

「ご友人様。いえ、()()()()()

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「本当に、()()()()()()()()()()()()()のですか?」

 

 次に言う言葉の選択を間違えれば、俺の未来は確定するということだ。




 ちょっと駆け足気味だったかもですが、まあダレるよりはいい……のか?
 ぶっちゃけ主に深夜~早朝に書き上げたのでおかしい部分があるかもしれません。
 その場合は遠慮なくご指摘くださいませ。全力で修正します。

 今回は怒涛の質問攻め! 更に安珍の生まれ変わりだと思った理由が明らかに!
 こんな感じで特典くんはちょくちょく仕事をしております。
 例えばアイドルコンビの頭痛や桜セイバーの病弱とかもかなり穏和されてる。
 過程や方法はどうでもいいというタイプじゃなくて良かった……。
 あ、そういえばオリ主ニキと清姫が会話してる場所って食堂なのよね。
 他の人達に会話内容が丸聞こえだったかは……ナオキです。想像してくだせぇ。

 次回は狂祭り開催予定です。どうなっちまうかなー裕司くん。


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皆揃って狂戦士(時々ママ)

 危うく週一投稿記録が切れそうだったので初投稿です。
 俺はギリギリ間に合ったぞ! ジョジョーーッ!!


「本当に、何も覚えていらっしゃらないのですか?」

 

 ……なんて答えたらいいのだろうか。

 俺には当然ながら安珍としての記憶なんてない。

 だが、清姫がどんな人物かは知っている。つまり覚えていないという答えは嘘になりかねない。

 せめて安珍の時の記憶をって言ってくれれば即否定できたのだが。

 

「……安珍の記憶は俺にはない。清姫さんと出会ったのも最初の挨拶の時だ」

 

 ここまでは嘘センサーには引っ掛からないはず。事実清姫の様子に変化はない。

 ただ、これだけでは納得はしないだろうから上手い言い訳を言わなければ。

 俺は脳を回転させて考える──

 

「ふむ、そうですか」

 

 ──が、意外なことに清姫はあっさりと納得した。え? 今の返答だけでいいの?

 質問攻めがもう終わったことに困惑したのを察したのか清姫は俺に説明をし始める。

 

「わたくしが知りたかったのは覚えているかという一点でしたので。先程も言ったようにそれ以外のことについて追求するつもりはありませんから」

「そ、そうなんですか」

 

 それだけ言うと清姫は自分の席へ戻って行った。

 どうやら他のことについての質問は次の機会に持ち越されたようである。

 意外すぎるほどにあっさり終わったな。実は罠じゃないよね?(疑心暗鬼)

 まあこれ以上質問されないのなら万々歳である。ここ食堂だし。

 そうだよここ食堂だよ! 誰かが今の会話を盗み聞きしてた可能性もあるんじゃ?

 思わず周りをチラチラ見てみるが、特にこちらへ注目している人はいなかった。

 ざわめきで聞こえなかったのか? それとも凡人の会話内容なんて興味ないのか……。

 机を見つめながら考えていると目の前にステーキが置かれた。

 それに続くようにご飯茶碗が置かれる。どうやら立香が丁度ご飯を持ってきてくれたようだ。

 

「ありがとう! 朝からステーキとは贅沢だね」

「裕司の好物は肉! ならそれを持ってくるしかないと思ってさ。遠慮なく食べてね」

「Fuuuuuuuuuuu……」

 

 流石立香。正直朝からステーキは若干重いが、確かに大好物である。

 立香も清姫の隣の席に座ったので早速食べ始め……ちょっと待て。

 隣から変な声が聞こえた気がする。フー! ってな感じの声が。

 ゆっくりと横を振り返ってみる。そこには黒い鎧姿の人物がいた。

 

「Guuuuuu……」

「あ、バサスロさん! どうしたの?」

 

 そこには手にお盆を持っているバーサーカーランスロットが立っていた。

 ランスロット()、俺達に一体なんの用事や。

 お盆の上に料理が乗っているが、まさか相席したいとか?

 というかどうやって食うんだよ。食う時ぐらいは兜を取ったりするのかな。

 

「Vaaaaaaaaaa!」

「なるほど、相席してもいいかっと……裕司、相席大丈夫?」

 

 俺 に 聞 く な !

 断ってもいいことなんてないだろ。実質選択肢は一つだけじゃないか。

 そもそもなんで言葉がわかるのだ立香よ。それも特典の影響? 元から?

 とりあえず断る理由はないのでOKサインを出した。だからこっち見んな。

 

「Merciiiiiiii!」

 

 するとバサスロさんは感謝の言葉を叫びながら俺の左隣の席についた。なんでさ。

 

「あれ、裕司の隣でいいの? バサスロさん」

 

 バサスロットは立香の質問にコクコクと頷いた。

 すると立香はそっかーと言いながら食事の方へ集中する。

 おう、友人がバーサーカーの隣にいるんやぞ。もっと危機感持ってください。

 

「ご安心くださいませ。バサスロさんは温和な方ですのよ」

 

 不安に思っていると清姫が彼は見かけに寄らず穏やかな人物だと説明してきた。

 確かにバサスロットはバーサーカーの中でも比較的穏和とか言われてたが……。

 そんなことを考えていると、突如右隣に誰かが座った。

 今度は許可も取らずに座ってくる人が現れたぞ。一体誰だ?

 俺はチラリと右側を見てみると、その人物はヘラクレスだった! なんでさ!?

 

「■■■■■■■■■■ーーー」

「あ、ヘラさんも相席希望? ……裕司、席変わる?」

 

 流石にバーサーカー二人に挟まれてる状態はやばそうだと思ったのか、立香が提案してくる。

 その表情は結構心配そうで、こちらの身を案じていることが一目でわかる程だ。

 正直、凄く魅力的な提案だが丁重にお断りした。

 この二人がわざわざ俺の隣に座ってきたということは何か考えがあってのこと……のはずだ。

 ならば逆にこのまま食事をすることで信頼を勝ち取ることができるのではないだろうか?

 そう考えた俺は凄く怖いけどバーサーカーに挟まれた状態で食事を取ることにした。

 何かが切っ掛けで暴れ出さないか少し不安だが、まあ立香がいるから大丈夫だと信じよう。

 

「いただきます」

 

 立香達と一緒に食事の挨拶を済ませ、箸を取って肉を分ける作業に取り掛かる。

 

「ぬ、む」

 

 箸を取って肉を分ける作業に取り掛かる(Take2)

 

「ぐむむ!」

 

 ……取り掛かったは良いものの、肉がしぶとく繋がり続けている。

 しばらく肉と奮闘していたが、どう頑張っても切れそうにない。

 おのれ、箸じゃ無理なのか! ナイフを持って来いってことか!

 

「立香。ナイフがどこにあるか教えてくれない?」

「あ、ごめん。箸じゃ切り辛かったかぁ……じゃあ私が持ってくるよ」

「いや、俺が自分で持ってくるから大丈夫だよ」

「いやいや、私が──」

「いやいや、俺が──」

 

 立香とどちらが持ってくるかの議論をしていると皿からカチャリと音がした。

 なんだと思って見てみるとそこには俺の皿にバサスロットがナイフを置いていた。

 もしかして使えってことなのか?

 バサスロットに顔を向ける。するとバサスロットはサムズアップをした。

 ありがとうバサスロさん。気持ちは凄く嬉しいよ。

 でもこのナイフ()()()()()()んだけど使っても大丈夫なの?

 

「ありがとうございます。バサスロ、さん?」

「…………」

 

 バサスロットは既に侵食されているナイフとフォークで食事をしている。

 わざとなのかマイ食器のつもりなのかどっちだろう。

 というか兜の隙間に料理突っ込んでるんだけど、それちゃんと食えてるのか?

 チラリと視線を立香に向けるが、既に立香は自分のハンバーガーを頬張っている。可愛い。

 ヘラクレスに目を向けると豪快に巨大な肉を頬張っている。ワイルドだぜぇ。

 とりあえず折角渡してくれたナイフを無碍にするわけにもいかないので食事を再開する。

 結果、バサスロットの渡してきたナイフは驚くほど簡単に肉を切断した。

 そのお蔭で美味しくステーキを食べれたのだが、皿が傷だらけになってしまった。やべぇ。

 

「すいませんでした! 本当に!」

「かまわないがそのナイフは危険だ。こちらで預かっておく。今度は直接取りに来るといい」

 

 優しい。怒らないでくれてありがとうおかん(エミヤ)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「本当に美味しかったね、今日ねー」

 

 食事を終えた俺達は再び仕事場の見学&案内を再開させた。

 ちなみにバサスロさんとヘラさんは食事を終えたらどこかへ行ってしまった。

 結局何がしたかったのだろうか……実は何も考えてなかったとか?

 疑問を抱きながらも立香と二人で通路を歩いていく。ちなみに清姫は用事があるとかで別れた。

 安珍疑惑のある人間を一旦放置するレベルの清姫の用事って嫌な予感しかしないんだが。

 

「これから毎日あのレベルの食事ができるんだぜ? だぜー?」

「それは毎日が楽しみになるな!」

 

 今日食べたステーキは本当に今まで食べたものの中でも一番レベルで美味しかった。

 あんな美味いものが毎日食えるなら永住するのも悪くないかも……。

 いや、騙されるな俺。ここは死と隣り合わせのブラック企業だ。

 俺は意思をしっかりと持つ。

 

「ここの職場は個性的な人達が多いね」

「まだまだいるけど大丈夫? 疲れてない?」

「大丈夫だ、問題ない」

 

 既に覚悟はできているよ。主に頼光ママと出会う準備はな。

 ここまで連続でやばい鯖に出会ったら流石にわかるぞ。

 恐らく今までの出会いは偶然じゃない。偶然で溶岩水泳部と連続エンカウントなんてするかい。

 静謐ちゃんと清姫とはもう出会った。ならば次は必然的にあの人だろう。

 さあ、掛かってくるがいい。溶岩水泳部の中でも最も面倒臭いと言われているお母さんよ。

 覚悟はいいか? 俺はできている!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おかあさん見ーつけた!」

 

 俺が、俺達がお母さんだったのか?(錯乱)




 好感度を上げると一般人解体ショーの始まりや。
 好感度を下げると一般人解体ショーの始まりや。
 詰んだッ! 第一部完!

 次回からは英霊に殺されたという事実から逆説的に英雄が殺すに値する凄い人間という意味不明な理由で魂を英霊の座に誘拐され、すぐにカルデアに召喚された裕司がなんやかんや色々苦労する第二部が始まります(大嘘)



警告
次の話 >> をクリックすると番外編へ飛んでしまいます。
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番外編:呪われし婿君

 今回は続きではなく番外編なので初投稿です。

 記念すべき番外編第一回目は結婚式でございます。盛大にやろうぜ!
 とりあえず書きたいものが書けて満足。この調子で番外編祭りやっちゃう?
 べ、別に七話終了後の展開が思いついてないとかじゃないんだからね! 勘違いしないでよね!

 あ、今回とある事情によりキャラ崩壊を基本形として突っ込みどころ満載なので注意。
 具体的に言うとカニファン時空やリヨ時空を見る気持ちで見ないと多分発狂する。
 なのでどんなありえへんことが起きても許せる人だけお読みくださいませ。


 リーンゴーンと鐘の鳴る音が聞こえる。

 それを俺はぼけーっと聞きながら立香と共にヴァージンロードを歩く。

 周りはおめでとうコールで騒がしい。まあマスターの結婚だし寧ろ静かなのは問題か。

 しかし周りの人の視線が痛い。まあ当然か……立香の結婚相手がこんなだもんなぁ。

 二人で老人姿の神父の前まで辿り着くと、神父が早速例の問い掛けをしてきた。

 

「汝は健やかなる時も、病める時も、喜びの時も、悲しみの時も、富める時も、貧しい時も、これを愛し、敬い、慰め合い、共に助け合い、その命ある限り真心を尽くすことを誓うか?」

「誓います」

 

 立香はしっかりと宣言した。

 こうして改めて見つめると花嫁衣装の立香はとても綺麗だ。

 花嫁衣装も似合っているし、幸せそうに微笑まれると胸がときめく。りつかわいい。

 神父は立香が誓ったのを聞くと、その視線をこちらに向けた。

 

「汝は健やかなる時も、病める時も、喜びの時も、悲しみの時も、富める時も、貧しい時も、これを愛し、敬い、慰め合い、共に助け合い、その命ある限り真心を尽くすことを誓うか?」

 

 神父の問い掛けと同時に立香がこちらを見つめる。

 このまま誓ってもいい気がするが、誓う前にこれだけは聞いておきたい。

 

「……立香、誓う前に一つ聞きたいことがある」

「ど、どうしたの?」

 

 誓ってくれないと思ったのか、立香が不安そうな表情を浮かべる。

 心配することはない。俺は立香のことが嫌いなわけじゃない。

 少し過程が吹っ飛びすぎな気がするけど、それは些細な問題だ。

 でもね? どうしても無視できないことってのはあるんだよ。

 

「この結婚式さ、おかしいって思わないかな?」

「何が?」

 

 どうやら立香はわかっていないようだ。はっきり言わないと駄目? 駄目かー。

 俺は胸の内に溜め込んでいたものを立香達に吐き出した。

 

「なんで()()()()()()()()()()()んだよ!?」

 

 なんで花婿がフリフリドレスを着てる!? なんで俺がブーケ持ってる!? おかしいだろ!

 花嫁衣装の女と花嫁衣装の男の結婚式ってどんなカオスだ! 花婿衣装は仲間外れか!

 

「ええ!? 似合ってるじゃん!」

「そういう問題じゃねーだろ!」

 

 立香は似合ってればそれで良かったのか心底驚いているようである。

 あれか、ダサい格好じゃなければどんな服装で結婚してもいいのか。

 俺が立香に抗議していると、誓わない俺に焦れたのか神父が語りかけてきた。

 

「……誓わぬのか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ならば首を出せ」

 

 初代様ぁ!? 何故貴方が神父役に……何やってんすかマジで!

 神父が己の顔に手を当てたかと思ったら(マスク)を破り捨て、その下からキングハサンが出てきた。

 あまりにもあんまりな事態に俺の思考回路は停止する。どういうことなの。

 次に思考回路が動き出したのは立香にお姫様(王子様)抱っこをされている時だった。

 

「裕司は私が守る!」

 

 立香は無駄にかっこいいことを叫ぶと教会のドアを蹴破って逃げ出した。

 花嫁衣装の立香が花嫁衣装の婿を抱えて走るとかどっちがヒロインかこれもうわかんねぇな。

 立香が走り続けていると、移動先に何やら人影のようなものが見え始めた。

 

「ますたぁ……藤原様……」

 

 道を塞ぐようにして清姫が立っていた。何故か()()姿()で。ランサーにクラスチェンジしたん?

 それはともかく、どうして清姫が移動先にいたのか……恐らく偶然じゃないだろう。

 となると必然的に俺か立香のどっちかに用があるということになる。どっちを狙っているんだ?

 ますたぁのことはもう安珍として見てない。俺には安珍疑惑がある。

 そう考えると俺を狙っているようにも思えるが、確定とするには少し弱いか。

 もしかしたら安珍への未練を断ち切って立香大好きよひーになってるかもしれないし。

 いや、でもきよひーが安珍への未練がもうない状態ってありえるのかな?

 

「きよひー、悪いんだけどそこをどいてくれないかな?」

「それはできませんわ。わたくしは彼に用事がありますから」

 

 俺狙いかよぉ!? やっぱり安珍疑惑の魔の手は恐ろしや~。

 いや待て! まだそういう意味で狙っているとは言ってない。なら穏便に済みそうでは?

 しかしその考えは俺を地面に降ろした立香の発言で無意味となった。

 

「裕司は渡さないよ。このまま愛しのマイホームでラブラブ新婚生活を送りたいからね!」

「……話し合いの余地はなしですか」

 

 立香が構えると同時に清姫も戦闘態勢に入り、お互い目を離さずにじりじりと接近する。

 そして足元にあった小石をコツンと立香が蹴った瞬間、立香と清姫は鍔迫り合いをしていた。

 遅れてガキィンと甲高い音が鳴る。清姫の薙刀と立香のブーケがギリギリと火花を散らす。

 ブーケって武器になるものだったっけ? それにいつ動き出したんですかね……。

 攻撃する時の動きが全く見えないとかフリーザ様最終形態か何か?

 

「ゴブフォ!?」

 

 突然俺は何者かにまたお姫様抱っこをされた。それと同時に口から赤い液体が溢れ出す。

 抱えられただけで吐血するだと……。

 俺は自分をお姫様抱っこしている人物の顔を見ようと視線を動かす。

 

「裕司さん、突然ごめんなさい。でもどうしてもやりたいことがあって……」

 

 抱えてきた相手は静謐ちゃんだった。触れただけでダメージって言ったらまあ君だよな。

 どうやら二人に注目してたことで背後からアサシンが迫ってることに気が付かなかったようだ。

 気配遮断を持ってるから注目してなくても気付かなかった可能性大だが。

 ……で、やりたいことってなんぞ? その口振りだとお姫様抱っこじゃなさそうだけど。

 

「私と、口付けをしてくれませんか?」

 

 は?

 ……ああ、そうか。神は俺に死ねと言っているのか。ふざけんな。

 

「その、裕司さんの花嫁姿を見ていると、キュンキュンするんです。もう唇を奪ってしまいたい」

 

 静謐ちゃんはやけにギラギラした目でキスしたい理由を言った。

 ほうほう、俺の花嫁衣装にキュンキュンね……どこにキュンキュンする要素があるんだよ。

 ぶっちゃけ中性的な顔をしてた時代は中学校低学年ぐらいに過ぎている。

 つまり別に花嫁衣装を着てるからといって、可愛い女の子に見えるなんてことはないです。

 せめて化粧とか髪型をもうちょい変えるとかすれば見えなくはないだろうが……。

 これにキュンキュンするのはホモ好きな腐女子だけだと思うんですけど(凡推理)

 

「げほっげほっ」

 

 そして衣装姿よりも先に俺の口とか手足に注目してください。

 俺の口からはさっきから血が止まらないでしょう? 両手と両足も生まれたての子ジカみたいに震えているのがわかるだろう?

 正直、なんでここまで冷静に思考を巡らせることができているのかが不思議でならない。

 つまり俺が今言いたいことは一つ。めっちゃ苦しいから早くHA☆NA☆SE!

 しかし口の中に血液が溜まっているせいでまともな言葉を話せない。

 だから言葉で止めることができない。まさかそこまで計算して……!?

 

「裕司さん、貴方のことが好きだったんです!」

 

 大胆な告白は女の子の特権、とか言ってる場合じゃねぇぇぇ!

 マジなの!? 本気で一般人代表たるこの俺とキスしようとしてるの!?

 静謐ちゃんの顔がドンドンこっちの顔へ近付いてきた。

 そこにやっと俺が危ない状態であることに気付いた立香と清姫がこちらへ向かってくる。

 しかし彼女達が到着するよりも前に静謐ちゃんとチューしてしまう方が多分早い。

 アカン触れられてるだけでこんな死に掛けな状態なのにキスなんてされたら間違いなく死ぬぅ!

 

 お願いだから止まって良い子だから待て待て待て話せばわかる交渉を駄目なら命の危機がないお願いをいくらでも聞いてあげようどうかキスした後は不幸しかないということを理解してくれないというのならこちらも全力で抵抗したかったけど力が入らないこれも毒の影響かよマジでもう無理やめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてヤメテヤメテヤメテヤメテヤメテヤメテヤメテヤメテヤメテヤメテヤメテヤメテヤメテヤメテヤメテヤメテヤメテヤメテヤメテヤメテヤメテヤメテヤメテヤメテヤメテヤメレヤメテヤメテヤメテヤメテヤメテヤメテヤメテヤメテヤメテヤメテヤメテヤメテヤメテヤメテヤメテヤメテヤメテヤメテヤメテヤメテヤメテヤメテヤメテヤメテヤメテアッーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 という夢を見た。

 

「良かった……夢で本当に良かった!」




「あわわわわ……ひ、裕司と結婚……あわわわわ!」

 同時刻、裕司と同じ夢を見て悶えているマスターがいたとかいなかったとか。

 今回は試しに文字を揺らしてみました。
 前にやめてって言われたのは読み辛かったからだと思うんです。
 だから叫び声なら大丈夫だよね! ほぼ一文字も同然だし!(駄目なら修正します)

 本当は一番投票数多かった皆の好感度のやつ書こうかと思ってたけど……。
 愛されにするか男子混同ハーレムにするかヤンヤンものにするかで迷ってるのだ。
 だからそれはまた今度ね!


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でんぢゃらすロリータ

 えー、まず皆様に番外編についてのお知らせっす。
 とある読者様に番外編を一番上に移動されると最新話がずれて困るという意見を頂きました。
 確かに……でもそういう意見が出るわりには一番上派が圧倒的なんですよね。
 これは恐らく続きを読もうとして番外編に飛んでしまうのが嫌なのでは?
 だから一番上派はこれを理由に上に移動してほしいのではないかと作者は思ったのです。
 かと言って貴重なご意見を無視するのもなー……というわけで今回は実験として七話に九話への直リンクを設置してみます。
 更に目次からでもわかるように番外編のサブタイトルには番外編と付けたままにします。
 これで一応皆ハッピーですかね? 一番上派の意見が欲しい。
 もしこれで大丈夫そうならこの方針で書いていくぞー!


 立香と廊下を歩いていた時。それは突然やってきた。

 上半身はジャケットであり、ブラでもサラシでもないのに下半身は紐パンもどき。

 顔に切り傷があり、腰のあたりにナイフを装着し、ハイソックスを履いている謎の銀髪少女。

 どう見てもアサシンのジャック・ザ・リッパーです。本当にありがとうございました。

 

 ジャックは俺達を見付けたと言って、こちらへ走り寄ってきた。

 先程お母さんと呼ばれてびびったが、立香のことだよね? 俺を母扱いする理由ないよね?

 ある意味カルデアの中でも上位に君臨する程の危険な鯖と出会ってしまった……どうしよう。

 機嫌を損ねないのは絶対として、無知な一般人はどう反応するのが普通なのだろうか。

 幼女が職場にいることを指摘? 顔に切り傷があることを指摘? 短剣所持してるのを指摘?

 駄目だ駄目だ! どれもこれも死亡……かどうかは置いといてフラグの匂いしかしねぇ!

 

「おうおうジャックちゃん! 一体どうしたの?」

 

 立香が嬉しそうに駆け寄ってきたジャックを受け止めた。

 これは母性本能を刺激されていますね。間違いない。

 

「あのね、おかあさんを探してたの」

 

 ジャックは頭をなでなでされながら立香を見つめている。

 良かった。もしここで俺を見ながらの発言だったらどうしようかと。

 俺が密かに安堵の息を吐いていると、ジャックの頭を撫でている状態で立香がこちらへ顔を向けた。

 

「この娘はジャック。ちょっとした理由で私が母親代わりになってるんだ」

 

 ちょっとした理由か。ちょっとした理由なら仕方ないね。深くは聞かんよ。

 でも腰周りの布面積が壊滅的なのはどう説明するんですかね……。

 更にジャック自身もこの格好を恥ずかしがってるんだよね。着せた奴は間違いなく変態だな。

 とりあえず着ていた上着を脱いでジャックに渡した。

 

「ジャックちゃん。そんな格好じゃ風邪引くよ? お兄さんの上着を貸してあげよう」

「わたしたち、風邪なんかひかないよ? でもありがとう。()()()()()

 

 ジャックはお礼を言いながら、早速渡した上着を羽織った。

 うむ。丁度ワンピもどきになっていい感じである。

 上着の裾がスカートの役割になって逆にチラリズム的な意味でエロい気もするが、細かいことは指摘しない方が安全だろう……………………今この幼女俺のことなんつった?

 

「お、かあ?」

 

 こちらを見ながらジャックはお母さんと呼んだが、立香がお母さんなのでは?

 それを間違えて俺にお母さん呼びをするなんておっちょこちょいだね。

 そうだよね? そういうことだよね? さあ間違えたと言うんだ! 言ってください!

 

「あ、おかあさんじゃなかった。ごめんね()()()()()

 

 どういうことなの?

 思わずお前の仕業かと立香の方へ目を向けるが、立香も俺と同じように絶句していた。

 どうやら立香も初耳だったらしい。じゃあ誰がなんのために俺をお父さんに?

 ジャックは堕胎された赤子の霊の集合体という性質上、お父さんという概念が存在しない。

 父を知らぬ身で自分から誰かをお父さん呼びするとは考え難い。なら誰かが教えたのだろう。

 問題は誰が教えたかだ。悪戯か作戦かで予測できる相手が変わってくるが?

 

「ジャックちゃん。今裕司のことなんて言った? ワンモアタイム」

「おとうさんだよ?」

「更にワンモアタイム!」

「おとうさん」

「私は?」

「おかあさん」

「裕司は?」

「おとうさん」

 

 相当衝撃的だったのか、立香がジャックに何度も俺に対する呼び方を聞いている。

 一度も会ったことがないはずの俺がお父さん呼びされてるんだ。驚くのも当然だろう。

 当然俺もいつ立香と結婚したっけか? と考えたほどには頭の中が大混乱である。

 心なしか顔が熱いような。これ赤面しているのでは? 絶対赤くなってるよね?

 

「そ、そうだ! まだ一度も俺の部屋のゲームを起動してないね! 今からやりに行くか!」

 

 いたたまれなくなったので立香とジャックの手を掴んで歩き出す。

 今の俺の手元には朝に立香から渡されたカルデアマップがあるので、道に迷うことはない。

 立香も気分転換をしたかったのかコクコクと頷き、なすがままについてくる。

 途中ジャックをチラチラ見たけど突然手を繋いだのを嫌がってはなさそうだったので安心した。

 え? 職場案内? 知るか馬鹿! そんなことより交流会だ! 好感度下げると死ぬしな!

 そんな感じに立香の言ってた職場案内のことをすっかり忘れて自室へ急いだのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 自室に到着。幼女誘拐犯に見えなくもない強引さだったが気にしたら負けだ。

 

「ここがおとうさんの?」

「お部屋だよ。殺風景だけども」

 

 何が楽しいのか、ジャックは俺の部屋のベッドの上でぴょんぴょん跳ね始めた。

 あの、跳ぶ度に上着の裾が捲れて紐パンがチラチラ見えるんですが……誘ってんの?

 こうして見るとジャックって意外と肉付きがいいな。やばいかなりエロく感じてきた。

 太ももとか尻肉とか結構むっちりしているし、思わずガン見してしまいそう。

 でもこれ以上見続けると立香の視線が絶対零度になると思われるので、そろそろ本題に入ろう。

 

「ジャックちゃん。早速遊ぶか?」

「うん!」

「じゃあこれがいいって要望はある? 好みに合うやつがあればいいんだけど」

 

 俺はジャックの前にゲームのカセットを並べた。この中から選ぶがいい幼女よ。

 でも格闘ゲームはあんまり得意じゃないから勘弁な! それがいいなら止めないけど。

 

「じゃあおとうさんになでてほしい!」

 

 どこか眩しささえ感じるほどに明るい笑顔を浮かべながらジャックはおねだりしてきた。

 子供は風の子元気の子ってことね。もうちょっとゲームに興味を移して、どうぞ。

 

「いいよぉ!」

 

 しかし要望を聞いた手前、ここで断れば少なからず悪印象を持たれそうだ。

 危険な英霊の一人であるジャックの好感度を下げるなんて真似は俺にはできねぇ。

 いくらでもなでなでしてあげるからお腹を裂いたりしないでね。お願いします。

 そんな悲願を込めた手でジャックの頭を撫でた。髪の毛サラッサラやね。

 

「次はたかいたかいして?」

「了解したぁ! 立香も手伝って!」

「……裕司って昔から面倒見がいいよね」

 

 俺はジャックの右手を掴んでから立香に左手を掴むように頼む。

 そして俺達はいっせーのーせ! でジャックを持ち上げた。意外に重かった。

 しかしこうしていると本当に家族のようである。俺達結婚してないけど。

 

「おとうさん。次は肩車をしてほしいな」

「イエス・マム!」

 

 敬礼の姿勢を取りながら同意し、俺はジャックの脇に手を入れて持ち上げようとする。

 しかし重すぎて失敗した。子供だからって軽いとは限らないというわけか。

 いや、これ俺が貧弱すぎるだけかな? 立香も持て……いや、立香は主人公だしなぁ。

 ああ見えて俺より力強いし、あっさり持ち上げそうである。

 仕方ないので俺はジャックにあるお願いをした。

 

「俺の貧弱な腕の筋力では持ち上げられん……ジャック。大股開きになってくれる?」

「いいよ」

 

 俺はジャックの足の間に後ろから頭を突っ込ませ、そのまま起き上がる。

 こうすることによって腕の筋力がない人でも肩車ができるのだ!

 ミッション達成! ジャックの好感度が多分上がった! 立香の視線の温度が下がった!

 確かにパン一の幼女の足の間に頭突っ込むとか変態みたいだけど俺は絶対に悪くない。

 

「遊んでくれてありがとう、おとうさん」

「いいってことよ……」

 

 おとうさんの肩車にジャックちゃんもご満悦である。

 俺も貧弱だけどこれぐらいはできるんだぜという意味を込め、立香に向けて親指を立てた。

 しかしここで問題が発生した。

 

 こいつ……やっぱりむちむちしているぞ!

 

 頬に当たる太ももがもっちりしてて、擦れる度に柔らかさを堪能する破目に。

 後頭部にはお腹が当たっているような気がする。上着を着てるはずだし気のせいだよね?

 更に首の後ろに柔らかい感触がががが! これは理性がガリガリと!

 は、早く降りたいと言ってくれ! いや、俺から提案するぜ!

 

「そろそろ別の遊びをする?」

「もうすこしこのままがいい」

 

 神は死んだ。ふと立香を見てみると立香の目も死んでた。なんでさ。




 タイトルのでんぢゃらす(デンジャラス)の部分はそういう意味だったのさ!
 立香の目が死んでるのはロリコン疑惑が浮上したからですかね?(すっとぼけ)

 すまない……今回もかなり遅めの投稿で本当にすまない……。
 家庭の事情が色々ありまして、疲労で執筆時間&意欲が削られてしまう。
 一応目標文字数を少なくしているので楽ではあるのですが。
 もし5000文字とかにしてたら既に週一更新守れてなかったなこれ。畜生。


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やめろぉ! ナイスゥ!

 えっちなのはいけないと思いませんので初投稿です。

 今回もほのぼの回です。愉悦部の皆さんすいません。
 前回のアンケですが、好きな時が圧倒的で凄いなと思った(小並感)
 でもネタバレしてくれ勢も僅かにいるので、せめてジャックがおとおさん呼びしてきた理由だけでも明かそうかと思います。真相とはあまり関係ないし。


 性格は高圧的ではないけど体はむちむちな子供はメスガキに分類されるのだろうか。

 そんなくだらないことをジャックに肩車をしながら考える。

 太ももの柔らかさ、匂いの良さ、どれを取っても大きなお友達が好みそうな代物である。

 そんな少女を肩車なんてしたら興奮するのも仕方ないと思う。だから俺はロリコンじゃない。

 

「…………」

 

 でも立香のこの目は俺をロリコンとして見てる目だよなぁ……。

 ジャックを肩車してから約五分ぐらい経っている。

 その間ずっと立香はこの野郎と言いたげにジト目で俺を見続けていた。

 最初はジャックちゃんを取られて嫉妬していると思ったが、それなら代わってとか言うんじゃ?

 そう考えた俺はもう一度立香の顔を見つめ、すぐに視線が下に向かっていることに気が付いた。

 

 立香が視線を向けているであろう方向は……俺のズボン。

 

 これ以上の説明は不要だろう。これは死んだ魚のような目で見られるのも無理ないわな。

 とりあえずこの状態から脱するために、今一度ジャックちゃんに声をかける。

 

「ジャックちゃん……そろそろ別の遊びを──」

「もう少しだけ、だめ?」

 

 せめて立香と交代させてくれ。これ以上立香から冷たい目で見られたくないんだぜ。

 まあそんなことを馬鹿正直に言えるはずもなく、仕方なく肩車続行である。

 正直ジャックの機嫌を損ねて太ももで首をゴキッてされないか心配なんだけども。

 だけど頬に擦れるもも肉はパン生地のような柔らかさで俺の顔の横を暖めてくれて幸せである。

 まあパン生地なんて触ったことないんだけども。

 そんな感じで、さっきからジャックの足が動く度に幸福と恐怖を同時に味わっている。

 でもエロいボディをした幼女の太ももで死ねるなら本望では?

 

「むー」

 

 そんな俺の考えを見透かしたのか、遂に立香が不満しかないぞという感じの雰囲気を全身で表しながらこちらへ近付いて来た。

 これがラブコメならビンタコース。いや、両頬は足が邪魔で叩けないから顔面(ジャイアン)パンチかな。

 だが立香は殴るのではなく、俺の手を取って自分の体の前に移動させる。

 あれか、顔面行くとジャックが落ちる可能性があるから代わりに俺の指をバキボキと──

 

「ほい」

 

 もにゅんっと、掌にジャックの太ももとはまた違った柔らかい感触を感じる。

 ……目がイカれたわけではないのなら、俺の手は立香の手によってパイタッチさせられていた。

 ということは今感じている柔らかな感触は立香のおっぱいというわけで。

 立香ってこう見えて意外と胸があるんだねぇと感じたわけで。

 突然の嬉しすぎる状況に俺の脳味噌は爆発しそうなわけで!

 

「り、りりりりり立香!?」

 

 思わず体を硬直させて立香を見つめてしまう。その顔はしてやったりって感じの表情だった。

 

「うん。これでロリにしか反応しないわけじゃないことが証明された!」

 

 幼女にしか興奮しないんじゃないか疑惑を持たれていたんか。泣くぞこの野郎。

 でもこの状況ならそう思われても不思議でもなんでもないか……。

 俺は頭で太ももを、片手でおっぱいを堪能しながら少し落ち込む。そしてすぐ元気になった。

 ところで、いつまで俺に胸を揉ませる気だよ。いや嬉しいからそのままでいいけども。

 というかロリ以外に反応するか確かめたかったんなら他の方法もあったのでは?

 

「さて、検証も終わったことだし、そろそろ私とも遊んでくれないかな?」

「うん! いっしょに遊ぼう、おかあさん」

 

 立香がジャックを遊びに誘うと、驚くほど簡単にジャックは俺の肩から飛び降りた。

 華麗な身のこなしは流石アサシン。でも俺が降りてって言っても降りなかったのになぁ。

 俺と立香では発言力に差がありすぎるらしい。まあ彼女はマスターだし当たり前か。

 ……もう少し太ももを堪能していたかったと思ってしまうのは男なら仕方ないよね。

 若干の名残惜しさを感じながら俺はズボンをちょちょいと調整する。

 よし、これで外からはもっこりしてるようには見えないはず。既に手遅れなのは知らない。

 

「よし、それじゃあ今度こそゲームでもしようか!」

「賛成! 裕司とゲームなんて久しぶりだね」

 

 早速テレビとゲーム機の電源を入れて準備に取り掛かる。やっとお前の出番やぞ。

 どのジャンルのゲームにするか迷うが……ここはわかりやすいゲームにするか。

 俺は操作が簡単そうなマリオカートをゲーム機に入れ、ゲームスタート。

 この世界にマリオが存在するとは思ってなかったから最初見た時はかなり驚いた。

 マリモカートとかマツオカートとか、そこら辺の本家とは違う名前になってると思ってたのに。

 ちなみにFate系ゲームはありませんでした。ついでに月姫も。検索してもヒットしなかった。

 いや、あったらかなりやばいんだけどね。

 

「まずはジャックに一回、一人用モードをプレイさせてから対戦するか」

「じゃあ私と裕司はアドバイザーだね」

 

 俺はコントローラーをジャックに渡し、立香が操作方法を教える。

 ちなみに俺は説明が上手くないので基本的にアドバイスはしない。

 だって立香の教え方が俺の何百倍も上手いんだもの……。

 

 ジャックがルールを完全に理解したところで対戦プレイ開始。

 対戦は対戦でも、風船を割り合うモードではなく普通のレースモードでだが。

 初心者のはずのジャックはスタートダッシュを完璧に決めた。

 子供だからかどうかはわからないが、飲み込み早いなオイ。

 

「流石に初心者には負けられん! 悪いが手加減はなしだ!」

「私は最初からフルスロットルだよ!」

「負けないよ、おかあさん! おとうさん!」

 

 順調にコースを進んでいくがアイテムの運に恵まれず、二位になってしまった。

 一位はジャック。立香は三位。他CPUは省略。

 しかしこれはアイテムありのレース。序盤に独走状態でも一気に負けることもありえる。

 更に俺には秘策があるから序盤に抜かれても問題はない。ふっふっふ。

 

「食らいやがれ我が奥義! ジャンプ台サンダー!」

「あー!」

 

 飛んでる最中にサンダーによって減速させられたジャックのカートは奈落へ落ちていく。

 どうだ! この雷の一撃はッ! 勝ったッ! 第一回戦完!

 意気揚々とジャンプ台から飛びながら勝利の喜びを感じていた。

 

「一体いつから、サンダーは自分しか持っていないと錯覚していた?」

「なん……だと……」

 

 が、駄目! 仇を取ってやると言わんばかりに立香がサンダーを発動する!

 空中にいた俺はなすすべもなく奈落へ落ちていった。切ない。

 これが原因でジャックにも再度抜かれてしまい。結果は俺三位。ジャック二位。立香一位。

 ちくしょう……!!! ちくしょおおおーーーっ!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あれからずっとマリオカートをやり続け、すっかり夜の時間になりました。

 子供は寝る時間だべー。というわけで皆解散! 歯磨きして寝よう!

 となるはずだったのだが、ジャックの皆と寝たいという発言によって解散はなし。

 おかげで立香とジャックの二人と一緒の布団で寝ることになりました。ジャックGJ!

 女の子の良い匂いを堪能していると、不意に立香がジャックに話しかけた。

 

「さて、ジャック。寝る前に一ついいかな?」

「おかあさんどうしたの?」

「さっきお母さんを探してたって言ってたよね。それって裕司のお父さん呼びと関係ある?」

 

 ジャックと向き合った立香は真面目そうな感じの表情で質問をした。

 そういえば自然に受け入れてたけど、冷静になって考えたら異常事態じゃないか。

 初遭遇時になんかおかあさんって呼ばれたのは明らかに変だ。呼ばれる理由がない。

 そもそも初対面である俺をおとうさん呼びすること自体おかしい。絶対何かあるぞこれ。

 

「おかあさんのともだちはおとうさんだって教えてもらったんだよ」

 

 やっぱりな。おとうさんという存在を知っていたのは教えられたからか。

 しかし誰がそんなことを教えたんだ? 俺を父親にして利益のある奴と言えば……。

 俺が一番怪しいと思う人物を思い浮かべるのと、犯人の名が告げられるのはほぼ同時だった。

 

「教えてもらったって誰に?」

「マーリン」

 

 あ の ク ソ 野 郎 !




 さぁーて、来週の裕司くんは?

「お花さんだよ。立香くんには今回のことも全てマーリンの仕業だと思われているけれど、本当の真犯人は静謐のハサンなんだ。初めて友達ができたことに浮かれてジャックに色々話してしまったみたいでね。それが原因で裕司はジャックにロックオンされたんだよ。これはいけないと思った心優しいマーリンは、彼をお父さんにすることでお腹を裂かれる未来を回避させてあげたということさ。だから皆もこれからはマーリンのことを素敵なマーリンさんと呼ぶように。まあジャックの裕司くんへの疑問を確信に変えたのは静謐のハサンではなく私の仕業なんだけどね。だってその方が面白そうだろう? さて次回は!」

 藤原裕司ちょろいん説
 初対面は朝チュンで
 貴方の平凡を征☆服☆王

「──の、いずれかでお送りするよ」

 来週もまた読んでくださいねー?
 ジャック! ザ! リッパー! うふふふふ。


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早起きは藤原の損

 最近ほのぼのな日常を過ごしている裕司くん。
 しかしそれを終わらせると言わんばかりに、新たな刺客が迫る……かもしれない。

 ちょっと遅過ぎるんとちゃう?(更新)
 来週もまた読んでくださいとか言っておいて週一更新守れないとか恥ずかしくないの?(自虐)
 これは詫び石のような感じで何か詫びになるものを用意しなければ……!

 今回の主人公は寝惚けているので口調も思考もかなりおかしいです。見るに耐えないぐらい。
 それに伴って地の文もおかしくなってます。ご注意を。
 更に今回ほとんど話が進みません。色々と本当にすいません。


「ふわあぁぁ……」

 

 眠い。凄く眠い。この眠さは早朝じゃないかな。昼まで寝かせてくれ……。

 背中に謎の違和感を感じて意識が半覚醒。しかし眠いので二度寝の準備に入る。

 違和感の正体なんて添い寝組が原因でしょう。だからへーき。

 とりあえず目の前の相手を抱き枕代わりにして寝始める。

 

「むぎゅ」

 

 抱き枕にした相手から声が出た。腕の中でもぞもぞと動く。

 この感じは立香かな? 昔と同じで安心する温もりだ。

 前に立香ということは、背中のくっ付き虫は間違いなくジャックだな。

 幼女と密着とか通報されそうだけど、向こうからだからなんの問題もない。

 背後の相手の正体に納得した俺は意識を落とそうとして──

 

「よく眠ってるわね」

 

 ふと、新たな声が聞こえた。大人びてるような落ち着いてるような。

 ジャックの声ではないので、昨日はいなかった人物が俺の部屋にいる?

 更に頭を撫でられる感覚。しかしすぐに離れた。でもまた撫でてくる。

 ここまでされると流石に正体が気になるので、渋々薄目で犯人の正体を確認した。

 

 そこにいたのはママのような人だった。おっぱい大きい。優しそう。

 そして黄色いひらひらがうっとおしそう。邪魔じゃないのかな?

 その人は俺達三人の頭を撫でているようだった。

 道理で撫でられたり撫でられなかったりしたわけですな。よし寝る。

 

「うふふ」

 

 今度こそ寝ようとしたら何故か両手を使って俺を撫でてきた。

 心地良くはあるが、ここまでされると逆に眠れない。

 俺の眠りを妨害しようとは! どうやら怒られたいらしいな!

 俺はちょっと文句を言うために口を開いた。

 

「我が眠りを妨げるのは誰じゃあ……」

「あら、起こしちゃった? ごめんなさいね」

 

 黄色い人は申し訳なさそうな感じで謝ってる気がする。

 悪いと思うなら今すぐ出て行くか、頭か背中だけを撫でるかにするのだ。

 これ以上安眠妨害をするというのならば、この藤原裕司は容赦せん。

 

「聞きたいことがあるの。ちょっといいかしら?」

 

 眠いと感じる俺に更に質問やと? もう許せぬ。ここはキレるしかない。

 いくら目の保養になる格好をした美女でも決して許せないことはあるのだ。

 

「ええで」

 

 しかし露出の多い美女の姿はやはり目の保養。だから特別に許可してやろうではありませんか。

 今日の寝起きの機嫌の割合は紳士気味だ。運が良かったな黄色い美女。

 許可を得た黄色い美女は身を乗り出してこちらの顔を覗き込んでくる。

 そんなに見つめても寝惚けた俺は照れも隠れもしねぇぞ。残念だったな。

 

「貴方のお名前は?」

「ふじわらぁ、ぁあ……ひろし」

「趣味は何かある?」

「げーむぅ、ネットォ、娯楽」

「女性の好みは?」

「絶対浮気しない人かなぁ?」

 

 普通な感じの質問しかしてこねぇ。合コンじゃないんだからもっと聞くべきことあるやろ。

 その質問をするためだけに俺を寝かせないというのであれば、極刑は免れんぞ貴様……。

 でもふむふむって頷いてるのが可愛いんで許す。ボコボコ刑はまた次の機会。

 まあその可愛さは立香に及ばんがな。立香に可愛さで勝てる奴はいないから仕方ないが。

 

「年齢はお幾つ?」

「36、普通だな! 嘘だよぉ」

「ここはどう? 楽しい?」

「怖くて辛くてやばたん。慣れたい」

「学校生活はどうだった?」

「立香とずっと一緒、ふぁ……だったねぇ」

 

 なるほどねと言いながら、黄色い美女はこちらへ微笑みながらナデナデ続行中。

 よくも俺を質問攻めで丸裸にしていやーんなことをする気だな!? あのお姫様のように!

 でも別にバレても怖くないから丸裸でもいいかぁ。俺ってつまんない生き方しかしてないし。

 そんなことを考えていると、ひらひら美女が俺の頭を豊満な胸に抱き込んできた。

 顔を極上の感触で包み込まれて幸福。匂いも良きで幸福。暖かさも適温で超幸福。

 こんな極上の枕を用意してくれるとは、気が利くじゃあないか。いい人だなぁ。

 あ……もう眠気がマッハでやばす。そろそろ二度寝の準備をしようそうしよう。

 でも質問されてる最中なんだよなぁ……もう適当に答えればいいかぁ……。

 とりあえず次の質問の答えの時に寝るって言えば相手も質問してこないやろ。

 

「どこで生まれたかわかるかしら?」

「じゃぱにーず。もうおやすみなさいで寝るです」

「じゃあマスターのことはどう思ってる?」

「いっぱいちゅき」

「……最後に私のことを知っているか教えて頂戴な」

「おかあさん、おやすみなさい……」

 

 最早自分が何になんて返答しているかも曖昧。堪らなく眠いのだ。

 さらばだ黄色いひらひらの大人のお姉さんよ……次は起きてる時にその姿を拝ませ──

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おとうさん起きて、おとうさん」

 

 誰かにゆさゆさと揺さぶられている。同時に幼い感じの声も聞こえた。

 この感じはジャックかな。一緒に寝たんだっけ……? そういえば立香も?

 駄目じゃあ! 頭が全然動いてない! 毎度のことだが早起きと朝には凄く弱いのだ。

 えっと……確か俺はお父さんでジャックは娘だったよな。

 なら必然的に立香はお嫁さんか。幸せで温かそうな生活が待っているとか最高。父親万歳。

 

「会いたかったぞ我が娘よ。再会を祝うナデナデをプレゼントしましょう」

 

 頭を撫でてあげると、ジャックは光り輝いてそうな笑顔でナデナデを堪能している。

 うむうむ。仲良きことは美しきかな。仲がいいと言えば一番の仲良しである立香はどこ?

 俺はジャックの頭を撫でながら立香の姿を探す。ベッドの上にはいないし、どこに行った?

 部屋中を見渡すが、いるなら起きた時に声をかけてくると思ったのですぐに見渡すのをやめた。

 立香め……折角娘がここにいるというのに! 母が不在とは何事だ! 出会え出会え!

 そんな理不尽な怒りを勝手に抱いていると、部屋の扉が開いて立香が入ってきた。

 どうやらどこかに出かけていたようだ。手に持っているのは……タライ? 水?

 

「おはよう母よぉ。お父さんは寂しかったぞ。早くおはようの挨拶をするのだ! リッター!」

「…………やっぱり完全に寝惚けてるし」

 

 呆れたような表情を浮かべながら、お母さんはタライの中から何かを取り出した。

 あれはタオルだろうか? 冷たそうな感じがするな……あれで体を拭いたら気持ちよさそう。

 立香は手にしたタオルをよ~く搾ると、そのタオルでこちらの顔を拭いてきた。

 ひんやりしたタオル気持ちいい! こんな素晴らしい気配りができるとか流石立香様や!

 

「生き! 返る! 最高!」

「フキフキっと、これでよし! というわけでおはよう裕司」

 

 濡れタオルで立香に顔を拭かれた俺は完全に目を覚ました。

 同時に起きてから今までの言動がどれほどアホだったかを自覚してしまう。

 畜生! いつもはこんな馬鹿なことを言うほどは寝惚けないはずなのに!

 顔がどんどん熱くなるのを感じる。恐らく俺の顔は徐々に赤みが増しているのだろう。

 

「す、すまない立香。勝手にお父さん面してしまって本当にすまない……」

「今回は特に酷い寝惚けだったね……さて、今日こそ職場を案内するよ!」

 

 さらっと昨日は果たせなかった職場案内の話になった。

 こっちが恥ずかしがってるのを察して話題を変えるとか神か。

 俺は立香に最大限の感謝の念を送りながら立ち上がる。

 顔をタオルで拭いてさっぱりもしながら今後について少し考える。

 

 今一番気になっているのはやはり昨日のジャックの発言である。

 マーリンが何か企んでることがわかった以上、このまま日常を過ごすのは危険過ぎる。

 迅速に常識人な鯖達と仲良くなって花の魔術師の魔の手から保護してもらわなくては!

 英霊と関わればトラブルにも巻き込まれやすくなるだろうが、贅沢は言ってられない。

 もう初期に抱いていた英霊と極力関わらないという想いは捨てた。マーリンがこちらに興味を持ってる時点で関わらない方が危険だからな。

 そのためにも早く職場見学を終わらせ、カルデア内を自由に動けるようになるのだ!

 俺は命と身の危険がない状態で生きたいのだ。だからお前の謎の思惑には乗らんぞマーリン!

 先に部屋を出て手招きをしている立香を追いかけながら、そう決心したのだった。

 

「いってらっしゃい。おかあさん。おとうさん」

 

 あれ、ジャックはお留守番? それともどっか行くの? ……まあ好きにしたまえ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ、マスターと裕司だ! やっほー!」

「うお!? いきなりなんか現れた!?」

 

 道を進んでいる途中でなんか桃色の髪の毛をした美少女と遭遇した。

 この声の感じと格好からして多分アストルフォだろう。よく見れば肩幅が広いような?

 でもやっぱりどう見ても美少女にしか見えないんだよなぁ。

 

「かの……彼はアストルフォ。ああ見えて男の子だよ」

 

 立香は俺と同じように突然現れたアストルフォに驚きつつも説明をしてくれた。

 やっぱりアストルフォだったか。外見は間違いなく美少女なのにな……。

 アストルフォは俺の目の前に来ると、両手を挙げてハイタッチの構えを取った。

 

「裕司! ありがとー!」

「はっはっは! 元気いっぱいでノリのいい性格は好きだぞー!」

 

 俺は感謝の言葉を聞きながらハイタッチをかます。

 一瞬吹っ飛ばされるんじゃないかと不安になったが、流石に手加減は忘れなかったようだ。

 術ニキ戦で吹っ飛ばされたこと、まだ覚えとるからなぁ……。

 過去の苦い記憶を思い出しつつ、俺は目の前の男の娘に質問をした。

 

「……で、君は誰? 会うの初めてだよね」

 

 俺は不思議そうな表情を浮かべる努力をしながらアストルフォを見つめる。

 実際は色々と知ってるけど、会うのは本当に初めてなので質問はちゃんとする。

 じゃないと立香達が後で疑問を抱いて怪しんでくるかもしれないからな。

 

「あれ、会うの初めてだっけ?」

 

 アストルフォは意外そうな表情で逆に質問してきた。直接対面するのは初めてだよな?

 最初の挨拶の時にいたのなら会うこと自体は初めてではないが、それ会ったと言えるの?

 あのガチガチな挨拶の後に話しかけてきたのは術ニキだけ。それに今の時点ではアストルフォの名前を俺は知らないはず。一応立香が教えてくれたけども。

 会ったと言えたとしても誰か聞くのは普通だと思うんだが、俺が変なだけ?

 少しの違和感を抱いて頭を捻らせていると、ふと一つの答えを思い付いた。

 

 ……まさかこれもマーリンの仕業か?




 だんだん裕司が疑心暗鬼に囚われていってる気がする……。
 その内当たり前の行動すら疑い始めて発狂しそう。
 まるでどこぞの症候群みたいだぁ……まあそうはならないんですけどね(ネタバレ)

 Q.どうしてここまで遅れた! 言え!
 A.ぶっちゃけると私生活で疲れることがあったからです。すいません。

 Q.次回予告の征服王さんどこいった?
 A.いずれかってお花さん言ってただろう? 今回は初対面は朝チュンでが選ばれたのだ。

 Q.今まで伏線結構あるっぽいけど、考察するのって迷惑?
 A.寧ろたまに参考にさせてもらってるので遠慮なくやってくだせぇ。でも推理を否定しているとどこぞの魔女になった気分である。

 Q.主人公早起きに弱過ぎじゃね?
 A.たまに朝起こされた記憶とかないやん? その時変なこと言ってたりするやん? ほら普通。

 Q.前半に出てきた黄色いひらひらの美女って?
 A.一体何・ハリさんなんだ……?

 Q.黄色い人が寝起きの裕司に色々質問してきたのって一体?
 A.……実は裕司くん感想の返信でも書いたけど、静謐ちゃんの件から結構疑われてるのよね。だから裕司くん気が付いてないけど毒で倒れてからずっと監視されてる。勿論朝に弱いという情報もバレバレなのだ。黄色さんはそこを狙いました。独断かどうかは秘密。

 Q.アストルフォと裕司って出会ったことあるの? 実は疑似サーヴァント化してたとか? それとも実は特異点修正の旅に同行しててその時のアストルフォのマスターだったけど何かが原因で記憶を失ったとか? もしかして裕司くん強化フラグですかー!?










 A.妾には赤き真実があるダルォォ!? 裕司は人理修復の旅に同行なんてしていない。というか人理と一緒に燃やされた。裕司の疑似サーヴァントも出ていなければ今後の登場予定もない。更に裕司がマスターになったり英霊達や人類悪と戦えるようになる隠された特典覚醒の未来は一切存在しない。だから安心して、どうぞ。



警告
次の話 >> をクリックするとボツシーン集&裕司くんプロフィール(おまけ)へ飛んでしまいます。
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ボツシーン集 ~おまけもあるよ~

 完全なおまけのくせにいつものように初投稿です。

 今回は色々な事情やらでちょっと書いてみたけどボツにしたシーンを公開します。
 お話として乗せる際に手直しはしてますが、クオリティは察してください。
 それでも読んでみるか、読んでみないかは……自由だー!(HRS)
 でも、人によってはネタバレって感じちゃうかもやで。
 なのでネタバレを気にするなら最低でも11話まで読み終えてからがオススメ。


 その1:ラッキースケベ?

 

 

「うぉ、ああ!?」

 

 なんということだ! 何もないところで転びそうになってしまった!

 いや、ただ転びそうになっているだけなら別に問題はないのだ。

 転びそうになっている先に驚いた表情をしている清姫がいるのが問題なだけでな!

 このままだときよひーの胸元に顔が当たってしまう。

 まるで計算されたかのような位置関係に絶望しながら体勢を立て直そうとする。

 

 頑張れ俺! このままだとキャーエッチー! という発言と共に張り倒されてしまう!

 特にきよひーは意外にも初心なのだ。最悪焼かれてしまうのでは?

 命が超危ないじゃないか! 踏ん張って立て直し立ち上がれ!

 うおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!

 

「ぬぅん!」

 

 無理矢理足を前に出した。これで転ぶ勢いをストップさせる作戦だ。

 そして俺の努力は……見事転びそうになった勢いを停止させた。

 かなり清姫の胸に顔が近い状態だけど、触れてはいない。

 俺は勝ったのだ。ラブコメにありがちな展開から見事逃れられたのだ!

 

「いやぁ危なか──」

 

 俺は清姫の方へ顔を上に向けながら危険回避の宣言をしようとしたその時。

 

 チュッ

 

 俺の目の前に清姫の顔があり、唇に柔らかい感触がした。

 

 ガチン!

 

 そして俺の歯と固い何かがぶつかり合い、俺と清姫は悶絶した。

 滅茶苦茶痛い。何が起こった? 顔を上げただけで接触するほど近くなかったはずだ。

 床に這いつくばって悶絶しながらぶつかった原因を考えるが、悶絶状態で思いつくはずもない。

 結局何故清姫とハプニングなキスをすることになったのかは迷宮入りである。

 

「ご、ごめん! きよひー、裕司、大丈夫!?」

 

 どこからか、そんな声が聞こえた気がした。

 

 

 ボツ理由:ハーレムが望まれてるのならこうなってたっちゅーわけよ。でも立香とが多い感じなので、一旦ハーレムの件は保留の意味を込めてボツに。それにヒロイン(藤原裕司)のファーストキスが事故ってのも少し可哀想かなって……ちなみに最後の声の正体は作者も知らない。

 

 

 

 

 その2:対戦ゲームで協力プレイ!

 

 俺の部屋には今、なんやかんやあって静謐ちゃんがいる。

 別に静謐ちゃん以外にも立香ともう一人いるんですけどね。

 今は四人で2対2の対戦ゲームをしているところである。

 順番が巡り巡って俺と静謐ちゃんのタッグになったわけだが、静謐ちゃんと俺の距離がかなり近いんだよなぁ……。

 レースゲームとかでよくある体を傾けるとかすれば当たりそうなぐらい近い。

 とりあえず接触しないように気をつけてプレイしなくては、俺の命が危ない。

 そんな決意を胸に抱き、ゲームをスタートさせた。

 

「くそ、やっぱり立香達は戦いの中で上達する分厄介だな」

 

 どれだけ考えて攻撃してもそれにすぐさま適応してくるからどんどん活躍できなくなる。

 このままでは役立たずの役印を押されてしまうぞ……!

 

「裕司さん、支援をお願いします」

「任せておけぃ!」

 

 俺は敵から逃げて離れ、遠くから遠距離攻撃で静謐ちゃんの援護をする。

 ヘタレ? 違うな……適材適所だ! それに遠距離攻撃好きだし(得意とは言ってない)

 遠くからの攻撃が予想以上にうざかったのか、静謐ちゃんの攻撃を掻い潜って俺のキャラを倒そうとダッシュで近付いてくる。

 しかしその隙を見逃す静謐ちゃんではない! その動体視力を活かす時だぜ!

 

「今だ静謐ちゃん! 強攻撃でぶっ飛ばせ!」

「はい!」

 

 敵は慌てて静謐ちゃんに対応しようとするが、もう遅い! 静謐ちゃんの一撃が炸裂する!

 そのまま避けることも防御することもできずに敵は場外へ吹っ飛ばされた。

 ……この戦い、我々の勝利だ!

 

「やった! 勝ったぞー!」

「やりましたね、裕司さん」

「いえーい!」

 

 目立つ形で役に立てたことに思わず小躍りする。

 そしてこの喜びを分かち合いたくて、我が相方とハイタッチをかました。

 

「あ……」

「こふっ」

 

 そして我が相方である静謐ちゃんの毒の効果でぶっ倒れたのは……語るまでもない。

 

 

 ボツ理由:握手の時はともかく、二回目も触るとかオリ主を殺したいの? そうじゃなくても迂闊過ぎて首出し案件でしょ。そもそも静謐のハサンを何度も近付けるとかカルデア勢もオリ主を殺したいのか? ……等のアンチ・ヘイトが付きかねないため。この小説はコメディでもあるんだけど、シリアスも混じってるからあんまり裕司を苦しめるとアンチ・ヘイトが発生してしまうという怖さよ。ちなみに立香の相方が誰だったのかは作者も知らない。

 

 

 

 

 その3:トリガーハッピー!

 

 ちょっとした気まぐれと立香の誘いで訓練ルームにやってきました。

 訓練……術ニキ……う、頭が……!

 まあ俺のトラウマはさておき、今訓練所にいるのはランスロさんである。

 あ、バーサーカーの方ね。紛らわしいからバサスロさんって呼ぶか。心の内では。

 バサスロさんはどこからともなく短機関銃を取り出して前方の的に連射する。

 かっこいいよなあれ。ガトリング砲とか対戦車ライフルとか色々あるのもいいよね。

 そんなことを考えていたら、バサスロさんがこちらに歩いてきた。どったの?

 

「Fuuuuuuu」

「ふむふむ。裕司」

 

 立香がバサスロさんの言葉を読み取ると、突然に俺の方を向いた。

 もしかして俺に用があって近付いて来たのか? 邪魔すんなとか言ってる?

 色々と考えていると、立香が俺の両手に何かでかい物体を持たせてきた。

 持たせてきたものをじろじろと観察すると、それはバサスロさんの使ってた短機関銃である。

 ……え?(デジャブ)

 

「ランスロさんがそれ貸してあげるから的を撃ってみてってさ」

「Guuuu……」

 

 ああ、そういうことね。良かった! 殺し合おうぜとかじゃなくて本当に良かった!

 そういうことなら是非やらせてもらいましょう。マシンガンには前から興味あったしね。

 早速的から少し離れたところに移動し、サブマシンガンをしっかりと両手に持つ。

 実は銃って想像以上に重いし、撃った時の反動もやばいらしい。

 だからよーく狙いを付けて、一回でかっこよく撃ち抜こうって思惑だ。

 覚悟しろ標的よ! その綺麗な的を吹っ飛ばしてやる!

 俺は両手に力を込めて発砲を開始した。

 

「うにゃあああ!?」

 

 バババババッと弾丸が大量に発射され、前方にあった的を蜂の巣にしていく。

 その時に出た発砲音が想像の2倍ぐらい大きかったので少し驚いてしまった。

 しかしそれ以上に驚いたのは、意外過ぎるほどに反動がないこと。

 てっきり狂化による怪力で反動を抑えてるものかと思っていたが……。

 戦闘機も改造してたし、もしかしたら反動も小さくなるように改造してたのかもしれない。

 ……やばい、予想以上に楽しい。弾丸を連射するのが止められない。

 

「あは、あはははははは! たーのしー!」

 

 次々に出てくる的を短機関銃で粉々に撃ち砕いていく。

 爽快感は最高で使い心地も最高でもう何もかもが最高でヒャッハーな気分だぜ。

 今の俺なら雑魚エネミーぐらいなら余裕を持って倒せる自信がある。もう何も怖くない。

 

「ヒャッハー! 汚物は消毒だー!」

「当て身!」

「ぼぅ!?」

 

 せっかくだから弾切れになるまで撃とうとした、その時だった。

 突然首か後頭部のどっちかに衝撃が走り、体が動かなくなる。

 制御の利かない体になった俺は持っていたマシンガンも落として地面に倒れ伏す。

 もっと撃ちたかったのにぃ……畜生めぇ……許さんぞ……。

 あの短機関銃をなんとかして貰えないかなと思いながら、俺の意識は沈んでいった。

 

 

 ボツ理由:バサスロさんが裕司に短機関銃を貸す理由が思いつかんかった。それとどのタイミングで入れればいいのかちとわからんかった。ちなみに当て身を食らわせた犯人は作者も知らない。




 実は他にもあるんですが、致命的なネタバレも混じっているので今は公開しません。
 丁度文字数も3000ちょっとだし、公開される日を楽しみにしててね! デュフフ。

 あ、そうだ(唐突)
 実は暇潰しに後書きに裕司くんのFate風プロフィールを書いてたゾ。
 落書きのつもりだったけどせっかくだから置いておきます。




【キャラクター詳細】

 CLASS:フォーリナー(読者談)
 真名:藤原裕司(ふじわらひろし)
 イメージカラー:黒
 特技:現実逃避、戦略的撤退もどき
 好きなもの:日常、遊戯、かっこいいもの、藤丸立香
 苦手なもの:早起き、暴力、命の危機
 天敵:ほぼ全ての敵
 ILLUST:不明
 CV:不明


【パラメータ】

 筋力:E 耐久:E
 敏捷:E 魔力:E
 幸運:D 宝具:EX


【HP/ATK】
 初期:1200/900


【絆Lv.1で開放】
 身長/体重:158cm・52kg(適当)
 出展:史実?
 地域:日本?
 属性:中立・中庸・人  性別:男性
 噂ではセイヴァーのクラスにも適正があるらしい(読者談)
 別に誰かを直接救ってはないのになんでやねんとは本人の弁。


【絆Lv.2で開放】
 自他共に認める最弱の存在。
 同じ最弱のアンリマユは人を殺すことに特化しているが、こちらは特にそういうのはない。
 その弱さは裕司一人ではどのサーヴァントも倒せないほどである。
 それどころかスキルのせいで英霊と戦う前に敗退する危険すらある。
 聖杯戦争で呼び出した時は極一部の例外を省いてハズレ以外の何物でもない。
 しかし自分の代わりに戦ってくれるパートナーがいる場合はアタリとなる。
 何故なら彼の宝具は味方支援特化だからである。


【絆Lv.3で開放】
 ○領域外の生命:B
 完全な別世界の生物だったので本来ならEXランク。
 しかし肉体がこの世界のものなのでランクダウンしている。

 ○神性:A(読者談)
 気が付いたら持っていたスキル。
 何故持っているのかは本人にもよくわからない。

 ○凡人:A
 英霊と化してもこのイメージからは逃れられない。物理干渉を受けるようになる。
 わかりやすく言うと交通事故とかで普通に座に還る。多量出血でも還る。
 その代わり現界を保つのに魔力を必要としないという凄いメリットがある。
 ただしマスターという世界に留まるための要石は必要。
 なのでマスターがいないと消滅するのは変わってない。


【絆Lv.4で開放】
 『英雄よ、その道に幸あれ』
 ランク:EX 種別:対軍宝具
 裕司が英雄の資格ありと判断した裕司以外の味方全員に主人公補正:EXを付与する。
 転生する際に願ったものが宝具となった。なんでやねん。
 この通り非常に強力だが、聖杯戦争ではマスターが戦えないとほぼ意味を成さない死に宝具。
 他の英霊と同盟を結べば使用機会があるが、それは勝ちを譲るということに他ならない。
 ちなみにパッシブ(常時発動)型である。

 『フレンド・レスキュー』
 ランク:EX 種別:対人宝具
 まさかの第二宝具。
 なんか色々困ってる時に英霊とかによく助けられたことから生まれた宝具。
 わかりやすく言えばマ~リオ~! である(桃姫)
 その効果は生前仲の良かった英霊を召喚するというとんでもないもの。
 ただし召喚には膨大な魔力が必要。一流の魔術師でも第二宝具発動は一回ですらほぼ不可能。
 更に召喚される英霊は完全にランダム。触媒を使っても意味はない。
 頑張って発動したらサポート系が来たなんてことになったら泣いてもいい。
 運良く強い英霊を呼べたとしてもマスターの言うことを聞くかは不明。
 この宝具で呼ばれた英霊には令呪が使えないから強制もできない。
 一見イスカンダルの王の軍勢の完全下位互換だが、勿論こっち独自の強みがある。
 この宝具で召喚された英霊は裕司と同じく現界を保つのに魔力を必要としない。
 ただし裕司が消えると同時に消える。現界を保つ手段はない。
 そして最大の特徴として宝具を使用可能である(ただし発動には魔力が必要)


【絆Lv.5で開放】
 ???


【???】
 ???


【???】
 ???




 何故か英霊のような感じで書いてるけど、別に英霊化の予定はないです。
 だって疑似鯖化してるんじゃないかって声が意外に多くてつい想像しちゃったんだもん。
 パラメータは最後まで規格外に弱いという意味で幸運以外EXにするかでかなり悩みました。
 ……ぶっちゃけ強くし過ぎた? 凡人のくせに強過ぎるかな?
 まあ本領発揮したいならイリヤとか黒桜とかに呼ばれるしかないし、大丈夫だな!(慢心)

 追記。
 アンケの回答が結局全部同じじゃんという意見を頂いたのでちょっと上げ直します。
 上げ直す前のアンケに投票してくれた皆、本当にすいません……。


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理性蒸発のお知らせ

 最近暑さがダル過ぎるので初投稿です。

 UA36万超え、普通だな!(現実逃避)
 一体誰がこんな伸びると思うのよ。いつの間にか40万超えてるし。
 もう感謝感激雨霰。ここまでのご愛読、本当にありがとうございます。

 あ、それと一つ報告。
 もしかしたら次回の更新は遅れるかもしれません。
 確定ではないですが、確率は高めです。すいません……。


 初対面の人に会ったことないか聞かれたらどうするか?

 多くの人はこの問い掛けに無視するか、人違いですと回答するだろう。

 そういう人達は大体面倒な人が多いからだ。触らぬ神に祟りなし。

 もしどこかで見たことある感じがするなら別だろうが、そうじゃないならそれが普通だ。

 

「う~ん、会ってると思うけどなぁ」

 

 でもこの状況で同じ手は使えませんよね。本当にどうすればいいんだ……。

 今、俺の目の前には理性蒸発でお馴染みのアストルフォくんが難しい表情で立っている。

 胸の前で腕を組んで首を傾げる姿は目の保養になるレベルで可愛らしい立ち姿だ。

 ただ立っているだけならリアルアストルフォくん可愛いやったーで済ませられたのだが、なんとそのアストルフォくんが突如として今まで会ったことはないかと聞いてきた。

 最初の挨拶を省いたら間違いなく会ってないはずなんだけど。実はどこかで会っていた?

 しかしアストルフォと出会うタイミングってどんなタイミングだろうか。

 普通に出会ったのなら俺に記憶があるはず。つまり記憶に残らない感じで出会ったことになる。

 記憶に残らない感じで出会う状況って言ったら、やっぱり最初の挨拶の時だろうか。

 それ以外に可能性があるとすれば……静謐ちゃんの毒で倒れている最中とか?

 

「んんん……まあいいか!」

 

 組んでいた腕を解くと同時に、アストルフォは深く考えるのをやめた。

 どうやら真相は迷宮入りしそうだ。明かされないのは良かったのか悪かったのか……。

 まあ本当に出会ったことがあるのならその内判明するでしょ。多分?

 少しだけ謎が気になっていると、今度は立香がアストルフォに質問をした。

 

「それで、どうしたの? 今日はいつもよりテンション高くない?」

 

 あ、いつもよりテンション高いの? だから出会った瞬間にハイタッチしたのね。

 心の中で納得していると、アストルフォはテンションが高い理由を話す。

 

「裕司は昨日マスターとジャックをマイルームに連れて行って遊んでたよね? だからボクも一緒に参加して遊ぼうと思ってさ! いいでしょ!?」

 

 遊びに回ってるわけじゃなくて、職場案内っていう立派なお仕事なんだよなぁ。

 でもやっぱり周りから見たら遊び回ってるようにしか見えないのかな。

 まあ確かに食堂でご飯食べた後は幼女を連れて自室に帰った後はずっとゲームやってたしな。

 あれ? ほぼほぼ案内できてなくね? いやでもジャックと遭遇したらそれどころじゃないし!

 というか二連続ですっぽかすと所長が怒りそうだからな。そろそろ完遂したいところ。

 

「まだ職場案内が残ってるから──」

「わかった! じゃあボクが案内するから付いて来て!」

 

 言い終わらない内にアストルフォは俺の腕を掴みながら案内すると言い出した。

 いや、立香がいるから大丈夫だよ? という言葉を発する前に俺の体は宙に浮いた。

 

「ヤッホー!」

 

 全身に風を感じる。どこからかアストルフォの声が聞こえる。

 気分はまるでこいのぼりで使われる鯉。風が気持ちいいねぇぁははははは。

 ……うん。アストルフォが俺の手を掴んで走ってるせいで、俺は凧揚げ状態で移動してますわ。

 

「ぎゃあああああああああ!!」

 

 何これ怖い! 滅茶苦茶怖いんだけど!? これはギャグ漫画でやれ! 俺でやるなぁ!!

 床に足も何も接触していない状態がこれほど恐ろしいとは思わなかった。

 幸い廊下は広いので壁や天井には今の所当たってないが、曲がる時とか当たりそうで怖ひ。

 やめてね? 俺はギャグ補正とか持ってないからね? ぶつかったら痛いよ? 打撲よ?

 

「アストルフォオオ! 早く優しく降ろしてくれえええええええ!」

「大丈夫! 壁とかにぶつけたりは絶対にしないから安心して!」

 

 相変わらず元気そうな声を返してくる。ぶつけないのは安心だけど怖いんだよぉ!

 というか俺をこいのぼり状態にするとか筋力と敏捷どんだけ高いの? 君そんな凄かった?*1

 これで英霊の中では弱いとか言われてるんだからマジで英霊の座は地獄だぜ!

 時々意識が真っ白になりそうになりながら、俺はどこかへ運搬されてった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お、置いて行かれた……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぜぇ……ぜぇ……死ぬかと思ったわ」

 

 なんとかどこにもぶつからずに済み、床に降ろされた俺は両手を床に付けて息を整える。

 そんな自分をどこか心配そうな眼差しでこちらの顔をアストルフォは覗き込んでくる。

 

「だ、大丈夫? そんなに辛かった?」

 

 当たり前だよなぁ? 自分は訓練した逸般人じゃないんで、この状態になるのは当然と言える。

 そして俺の全身は走ったわけじゃないのに汗がビッショリ。十中八九冷や汗でしょこれ。

 お蔭で全身がベタベタの状態で結構気持ち悪いっすね。今すぐにでも湯船に浸かりたい。

 

「凄い汗! ごめん!」

「いや、いいよ別に……それよりお風呂に入りたいんだけど、どこかわかる?」

 

 流石にこの状態で職場を回るのは勘弁願いたい。

 臭いもキツくなってくるだろうし、初対面が汗だく状態とか第一印象最悪だし。

 さっさとシャワーを頭から浴びてサッパリしたい。職場見学はまた一旦お預けだ。

 

「オッケー! それじゃあ……」

「待て待て! もう凧揚げ状態は勘弁して!」

 

 もう一度あの状態になるのはマジで許してください!

 

「丁度そこが男用のお風呂場だから大丈夫だよ!」

 

 アストルフォはこちらを安心させるように言い聞かせてきた。

 なるほど、それなら確かにもう大丈夫だな。

 

「教えてくれてありがとうアストルフォ! それじゃあ行ってくる!」

 

 安心した俺はアストルフォが指を刺した扉に入った。

 ほうほう……タオルと着替えを常備か。これはわざわざ持って来る必要がなくて楽だな。

 俺はいそいそと服を脱ぎ始めようとした、その瞬間扉が開いた。

 誰かが入ろうとしてるのかと思って扉の方へ振り向くと、そこにいたのはアストルフォだった。

 

「……何してるの?」

「走ったからボクも入るよ!」

 

 ファッ!?

*1
筋力のランクはD。敏捷のランクはB。




 可愛い子とお風呂で二人っきり。何も起きないはずがなく……。


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あれは誰だ?

 誰だろうと裕司くんにとってはデビルみたいなもんやろ(適当)
 最初はそう考えたけど、冷静になった今では悪魔というより死神に思えてきたので初投稿です。

 ここまでお待たせしてしまい、本当に申し訳ございません!
 本当はもっと早く投稿する予定だったのですが、リアルが忙しくなってしまいまして……。
 多分これからも週一は難しい状態が続くと思われます。本当にすまない……。
 お詫びとして今回のお話に重要なヒントを突っ込みました。これで許して。
 遅れた理由はもう一つありますが、予想以上に長くなったので活動報告に投げときます。

 そういえばボツネタ集で裕司くんのプロフィールを適当に書いたのですが、身長158cmって中学二年生ぐらいの身長なんですよね。
 適当にぐだ子と一緒の身長にした結果がこれだよ!
 このままショタ路線で突っ走るかどうか少し悩みますね……。


 アストルフォに凧揚げされて汗だくになった俺は今、大浴場に来ている。

 広いお風呂場ではかぽーんという音がなるイメージがあるが、あれってなんの音だろうか。

 そんなくだらないことを考えながらシャワーの前に屈み、お湯を浴び始める。

 石鹸で洗ったわけでもないのに既に気持ちがいい。

 シャワーは良い文明……そんな誰かの口癖を脳内で真似しつつ、一旦シャワーを止めた。

 シャワーのお湯が出る音が途切れるのと同時に風呂の扉が開く。

 宣言通りにアストルフォが入ってきたようだ。

 同性とはいえ、可愛い外見をしてるからなるべく見ないようにしなくては。

 俺はアストルフォが入ってくるのを音で確認し、そっと体を見ないように顔を背けた。

 

「やっほー裕司! 折角だし洗いっこでもする?」

「出会ったばかりなのにもう洗いっこするの?」

 

 相変わらずアストルフォきゅんのコミュ力は異常。

 ぐいぐい押してくるタイプだから仲良くなりやすいという意味では悪いことじゃないが……。

 でも理性蒸発してるから何仕出かすかわからないのが怖い。

 それに女性と見間違えちまいそうな容姿の彼と洗いっこなんてしたら息子が多分やばいことになりそうだからできれば洗いっこはお断りしたいところ。

 節操なし? 性欲に勝てる男の子なんていません!

 

「で、できればアストルフォの体を洗うのは遠慮したいなぁ」

「えー? なんで?」

「だってアストルフォは可愛いし……」

 

 適当な理由では納得しないだろうから本音を吐き出してみた。

 とはいえ本音を吐き出す恥ずかしさで小声になってしまったが。

 男の娘の前でこの発言ってどんな羞恥プレイやねん。自分から言ったことだけど。

 しかしばっちり耳に届いてたらしく、アストルフォは目をパチクリさせていた。可愛い。

 

「それってボクに欲情しちゃうってこと?」

「正直かなり美少女に見えるんで」

 

 ド直球な発言が効いたのか、流石にアストルフォも一旦口を閉ざす。

 いくら会った事がある気がするからって初対面同然の同性に欲情されるのは嫌だよね?

 いや、アストルフォなら受け入れるか? でも理性蒸発してるとはいえ、流石に──

 

「まあ裕司とならいいかな? マスターの親友だし」

「たったそれだけで信用しすぎでは!?」

「大丈夫! ボクを信じろ!」

「このタイミングで何を信じればいいのだ!?」

 

 あまりに突っ込みどころ満載な発言に思わず俺はアストルフォの方へ振り向く。

 まず網膜に飛び込んできたのは顔。やはり男とは思えない程に可愛い。

 彼の美少女そのものと言える顔を堪能し、次は視線を体の方へ移動させる。

 

 ……想像以上に男らしくね?

 

 アストルフォの隠されていない体をじっくり眺めて、俺は思った。

 確かに女顔ではあるのだが、体はなんというか男性なのだ。

 いや、性別が男なんだから体は男の子で間違ってないが……。

 触ったら柔らかそうではあるが、全体的に見ると結構ガッシリしてる?

 よく見ると肩幅が広いような気もするし、わりと体は男の子をしていた。

 何より股間にぶら下がるモノは完全に男子の証です。ありがとうございました。

 

「裕司?」

 

 アストルフォの息子を眺めていたら、視界に彼の顔が入り込んできた。

 突然フリーズした俺を心配して顔を覗き込んできたようである。

 その瞬間俺の頭は一気に冷静になった。

 男の娘の股間をガン見するとか変態か? 俺はいつから同性愛に目覚めた?

 他人の股間を凝視していたという事実に俺の頭は再度混乱状態へ陥る。

 ……とりあえず洗おう。

 俺は一旦アストルフォのことは放置して頭と体を洗い始めた。高速で。

 それを見て洗いっこをする気がないと判断したのか、アストルフォも自分で体を洗い始める。

 このままだとリアル同性愛に目覚めそうで怖いなぁ。

 体に付着した泡をシャワーで流しながら、間違ってもその性癖が開花しないようにと身を引き締めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いい湯だなぁ、はふぅ……」

「これだけ広いと泳ぎたくなるよね裕司」

「気持ちはわかるよアストルフォ」

 

 でもマナー違反なのでやりません。

 体を洗い終わった俺達は湯船に浸かった。温度が熱すぎなくて丁度良い感じで最高。

 全身の疲労が湯に吸い取られているかのようで極楽極楽。

 ここまで気持ちいいと例の歌を歌いたくなるが、今はアストルフォがいるのでやめておこう。

 流石に人前で歌うのは恥ずかしいし、更に人が増えたりなんてしたらもっと恥ずかしくて死ぬ。

 

「あ、思い出した!」

「どうした? 何か用事でも忘れてた?」

「さっき会ったことないかって話をしてたよね?」

「お、おう」

 

 横に座っていたアストルフォはこちらをチラチラ見ながら先程の話を蒸し返した。

 そういえば会ったことなかったっけって言ってたね。

 あの話はあのまま真相は迷宮入りするのかと思ったが、まさかここで真相が暴かれるのか?

 もし、もし会ったことがあるとしたらどこで出会うことになるんだろうか。

 ……まさか遠くない未来にアポ時空へ俺が飛んでしまうフラグが!?

 

「会ったことがあるような気がしたのは気のせいだった!」

「気のせいだったのか……」

 

 朗報。アポ時空行きフラグ、建設途中で圧し折られる。

 だよねー。英霊でも記憶を他の平行世界に持ち込むことはできても、直接移動はできないしね。

 ただの一般人である俺が平行世界行きなんて、そんなことがあるはずもなし。

 冷静に考えればわかることだったわい。余計な心配をしてしまった。

 少しだけ安心しながら、無意識に入っていた肩の力を抜いた。

 

「でも会ったことがあったんだ。()()()()()()()()()()に」

「んあぇ?」

 

 俺と凄く似ている奴? はて、誰のことだ?

 記憶している限りではアポ時空にもテラリン時空にも俺に似ている人はいなかったはず。

 いや、ジークくんを黒目黒髪にして情けなさ成分を500%ぐらい突っ込めば辛うじて似てるか?

 駄目だ。それだと凄く似ているなんて言われないだろう。ならば誰に?

 

「そ、その似ている奴って?」

「名前は確か、デ──」

 

 アストルフォが名前を言いかけた瞬間、俺の目からアストルフォの姿が消える。

 時を同じくしてパシャンと水が跳ねるような音が聞こえた。

 

「……えぇふぇ?」

 

 まるで初めから誰もいなかったかのように風呂場が無音になった。

 もしかして突然湯船の中に潜ったのかと想い、キョロキョロと見渡してみても人影はない。

 どうして突然消えたのだろうか。もしかしてデなんとかさんは俺が知ってはいけない人物?

 だから誰かがアストルフォを移動させたとか? それなら少しはありえそうである。

 ただ、もしこの仮説が正しいのならその俺と似ているらしい頭文字Dさんは何者?

 頭にデが付く人物といえば……誰だ?

 

「デ……デ? デ……大王? んなわけないか」

 

 何をどうやったらあの陛下(屁以下)と俺が凄く似ているってことになんねん。

 そもそも人間じゃないから似ようがないっていう。性格だってあそこまで酷くない。多分。

 他にも色々と思い出そうとしてみたが、やはり俺と似てる人は誰も思い浮かびそうにない。

 

「む? 先客がいたのか」

 

 そういえばディルムッドがいたけど、ほぼ似てないからないなと思ったところで出入口から声が聞こえた。

 はて、女性的な気しかしない声だったような。ここはアストルフォ曰く男湯だったはずじゃ?

 声の正体を確かめるべく、俺は風呂場と脱衣所を繋ぐ扉へ顔を向ける。

 そこにいたのは……絶世の美女だった。

 いや、可愛らしい顔立ちなので絶世の美少女の方が正しいのかもしれない。

 長い金髪を下ろしていて、目はエメラルドのように輝いている。

 あれは誰だ? 服を着ていないからどうしても判断材料が少なくて特定できない。

 いつもは服装で七割ぐらい判別しているので、着ていないと途端に誰かを見抜くのが難しく──

 

「……着て、なあ!?」

 

 思わず視線が顔の下に行く前に正面へ向き直り、自分の視界に女性が入らないようにする。

 なんでこんなところに女の子が? ここは男湯だったはずだよな!?

 突然の乱入者に脳内が大パニックになっている。ここは深呼吸をして落ち着かねばばばば!

 必死になって落ち着こうと努力しているが、こちらの慌てぶりなど知ったことではないと言わんばかりに風呂場へやってきた美少女? は俺を更に混乱させる爆弾を落としてきた。

 

「ふむ……丁度良いな。そこの貴様、顔を余の方へ向けるがよい」

 

 なーに言っちゃってんのこの人ぉ!?




 Q.あれは誰だ?
 A.勿論、余だよ!(大ヒント)

 ここまで読んでくださいまして、ありがとうございました。
 お気に入りが9000件を超えてて凄いビビってるけど、なんとか書き上がってよかったマジで。
 ……もしこのキャラはこんな口調じゃないよというのを発見したら教えてね(小声)

 そういえば最近妙にガチャ運がいいんですよね。
 初めての星5鯖の水着BBを10連で当てて、福袋でカーマを当てて、呼び符で水着のおっきーと武蔵を当てて、更に10連でマーリンを当てて……これが当てさせてやるからはよ書けという賄賂か。
 ちなみに水着BBを当てる前にも星5鯖は三人いましたが、それらは全て姉に引かせたら出た鯖達だったので、初めて自力で引けた星5であるBBちゃんは即行でレベル100にしましたん。元々好きなキャラでもあったが故に後悔なぞない。

 ちなみに前のお話で裕司くんが凧揚げ状態になりましたが、実は元々の予定ではギャグ漫画みたいに壁にガンガンぶつかりまくって最後は突然手が離れてしまったことで思いっきり壁に張り付け状態になるという展開でした。
 でもシリアス混じりのこの小説でそれはアンチ・ヘイトになるのでは? と思い直して少しマイルドな感じに修正。
 命拾いしたねぇ裕司くん。

 さて、最後に登場せしは謎の美少女。
 今まで出会った鯖達は危険度に差はあれど、なんだかんだで話がわかる人達ばかりでした。
 しかし次回から本格的に関わることになる女性は暴君として知られるお方だ!
 王に対する礼儀作法なんて全然知らない裕司の運命や如何に!?


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デデドン!(絶望)

 UAが50万を超え、お気に入りも9000件を突破し、評価投票者数も250人以上。
 プレッシャーがどうのこうのという次元を超えてて凄く怖いけど元気なので初投稿です。

 ギルガメッシュ王を引き当てる。そんな夢を見ました。呼び符を十枚使いました。
 代わりにアナスタシアがすり抜けで来ました。なんで?
 もう星5鯖が出る気がしなかったのでこれ以上回すのはやめました。

 オニランドに行く為の入場券(参加条件)を手に入れる為に頑張ってました。
 ぴょーんで死にました。

 とまあ色々あったけど、とりあえず目標文字数まで書けたぜ。うん。
 しっかしまさか皇帝様を書くのがここまで難しいとは……。
 特に皇帝様のマスターじゃない凡人と風呂場で遭遇した時の台詞がわからんかった。
 だから少しでも違和感が発生しないように暴君様の入浴シーンの動画を検索&視聴する毎日。
 何度も幾つも何度も幾つも何度も幾つもなんどもいくつもなんどもいくつも。

 ……投稿してやる。違和感なんて知らねぇへへへへ。動画にはもう用はねぇ!
 へへへへへへへ、予習も必要ねぇや。へへへ……誰が警察なんか……。
 Fate警察なんか怖かねぇ! 野郎初投稿じでやらああああ!!


 俺の後ろには全裸の美少女が立っている。

 その美少女は俺に顔を見せろと要求してきた。

 ……もし状況が状況ならすぐにでもその裸体をガン見していた。

 俺だって健全な男の子だ。女性の裸を合法的に見れるのならめっちゃ見る。

 しかし、今回の相手はガン見するのはやばそうな相手なのだ。

 金髪、緑色系の瞳、低身長、先程見えたのは一瞬だが、特徴はこれだけ確認できた。

 そして聞き覚えのありまくりな可愛らしいこの声。

 後ろにいるのはほぼ間違いなくネロ・クラウディウスだろう。

 普段は半ケツで透けスカート着用で胸の谷間が覗ける男装をしているが、決して痴女ではない。

 彫刻などの芸術品を作る時にモデルとして見られるのは大丈夫だが、邪な意思を込めた目で見られるのは許さないのだ。

 どういう意図で顔を向けろと言ったのかはわからない。

 わかっているのは俺がネロ様を目視すれば最後、簡単に邪念が目に宿るということ。

 それがわかりきっているのに振り向くのは自殺行為以外の何物でもない。

 

「どうした? 早くこちらへ顔を見せよ」

 

 とはいえ、ネロの指示に背くのはもっとやばい。

 仲が良ければ拗ねられるだけで済むかもしれないが、今の俺とネロ様の関係は完全に赤の他人。

 更に俺はマスターでも天才でもないから危険度はかなり高めだと予想できる。

 ネロ様に限らず、王様系や神様系の鯖は気に入ってない相手には容赦ないのが多いし。

 だから俺がこの状況を安全に脱するには言われたことをなんでも聞くしかない。

 冷や汗を流すだけのつもりがとんでもないことになってしまった……。

 俺は恐る恐る後ろへ振り返り、もう一度ネロ様を視界に収めた。

 

「…………」

「…………」

 

 意外にも俺の視線はネロの体ではなく、まるで吸い込まれるかのようにネロの目に向かった。

 そのままお互いの目と目を見つめ続ける……見つめ続ける……いつまで続くんだこれ。

 こちらから目を逸らそうにも、目玉が固定されてしまったかのように目を動かせない。

 いや、目を動かせないというより視線がネロの瞳を見つめ続けたいと言ってるかのような。

 このままネロの瞳の中に吸い込まれてしまいそうな……。

 

「……ふむ。ふむふむ!」

 

 お互いにしばらく固まった状態を維持し続けていると、突然ネロちゃまが嬉しそうに頷いた。

 動いたわけでもないのにいきなり喜び始めるとか少し怖いんですがそれは。

 

「うむ! そなたには美を愛でる心があるようだな! 余は嬉しい!」

「は、はぁどうも?」

 

 なんかよくわからないが、ネロ様は何かに対して満足そうに腕を組んだ。

 腕を組んだ影響で胸が柔らかそうに歪む。そこでやっと俺の視線は顔より下へ移動した。

 これこそ正しくも悲しき男の性。エロく美しい裸体があれば目を奪われるのも仕方ないね!

 流石に長くジロジロと見たら何か言われるだろうから、早い段階でネロの体から目を逸らすが。

 

「えっと、それでどちら様です?」

「余か? そうだな……余のことはネロと呼ぶがよい。そなたは確か裕司だったか?」

「その通りです」

 

 ネロは少しだけ思い悩んだ後、俺に自らの真名を告げた。

 それマジ? 初対面の皇帝を呼び捨てOKとかとんでもねぇな。

 流石に一般人相手に余はローマ皇帝である! とか言うわけにはいかないからだろうけど。

 

 そういや今の俺ってネロと一緒に風呂に入ってることになるんだよな?

 はたしてマスターでもない俺がこのままここにいてもいいのだろうか?

 原作ではテルマエを共にするのは奏者にだけとかなんとか言ってた気がする。

 セイバー危機一髪というミニゲームでは明らかにマスターじゃない奴に見られても許してたが。

 まあ俺は風呂を沸かす人でもなければ奏者でもないから逃げた方が良さそうではある。

 風呂のドアの位置を横目で確認しつつ、俺はこの場から離れる為にネロに話しかけた。

 

「あー……その、このままお風呂に入るなら上がりましょうか?」

「いや、後から来たのは余の方である。邪念を抱かぬのであれば特別に余と共に湯船に浸かることを許そう」

「はいぇ?」

 

 風呂に入るなら上がると言ったら一緒に入ってもいいと言われました。なんでさ。

 そういうのは月のマスターか同性であるここのマスターに言うべきだと思うのですが!

 それにジャックに性欲を刺激されてから発散してないのもあって一緒に風呂は勘弁願いたい。

 ギンギンになった俺の息子を目撃されるなんて最悪な事態になりかねないからな!

 

「えー、このままだと邪念が芽生えそうなぐらいネロが魅力的なので上がりますね(早口)」

 

 邪念がなければ入ってもいい。それは逆に言えば邪念があるなら入っては駄目ということ!

 というわけで今は邪念はないけどこれから芽生えるのでさよなら作戦開始である!

 早速俺は風呂場から退室する為に立ち上がる。なるべくネロの体は見ないように……。

 ちなみにネロは俺の後ろにいるので股間を見られることはない。やったね。

 

「待て」

 

 しかし歩き始める前にネロの手によって再度湯船に沈められた。

 肩に手を置かれてそのままザプンである。肩から感じる手の柔らかさがエッチ(小並感)

 人が折角最もらしい理由で退場しようとしたのに引き止めてどうすんじゃ!

 俺はまだ肩に手を置いているネロに文句……は怖いので疑問をぶつけることにした。

 

「あの、なんで引き止めるんです?」

「余が許すと言ったのだ。それを断るとは何事か!」

「なんでやねん! 俺がここにいてもネロに得はなくない!?」

「得するかどうかは余が決めることだ。そして余は得すると判断した!」

「ええ!?」

 

 どこにあるのか全くわからない自信を満々にしながらネロは力強く宣言した。

 俺と一緒にいることでの得とかマジで思いつかんのじゃが……う~ん?

 強いて言うなら立香が距離が近い俺らを見て好ましく思うとか?

 でも好感度上げなら人理修復の旅で充分すぎる程稼いでると思うのだが。

 

「心配するな。裕司はただ余の話相手になるだけでよい。無理難題は押し付けぬ」

 

 ネロは俺の隣に腰を下ろしながらそう告げた。

 こちらを安心させる為か、もう逃げそうにないことを察したのか、こちらの顔を見つめるネロの目は優しげな眼差しだ。

 そういう問題じゃないんだけどなぁ……本気でバキバキになるぐらい溜まってんだよなぁ。

 湯にプカプカと浮かぶ巨乳とか凄く目に毒。これはもう収まりそうにはないな。

 諦めとか辛さとかを色々含めた一息をつきながら、俺はネロの方へ顔を向ける。

 

「後でいやらしい目で見ていたとかの難癖は付けないでくださいね?」

「うむ!」

 

 余程話相手が欲しかったのか、返事をしたネロの表情は凄く嬉しそうだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「裕司よ、余はそなたに伝えたいことがある」

 

 お風呂イベントは本当に会話オンリーで終了した。今はお互いに風呂から上がって新しい衣服を着ているところである。

 問題だった俺の息子も長い会話のおかげか、風呂から上がる頃には収まってたのは幸いだった。

 チラチラと視界の端に移りこむ皇帝おっぱいには本当に苦労させられたがな!

 いつか発散しなくてはならない。問題はどこでどうやって発散するかだが……。

 そんなことを考えていたら突然ネロが何かを言いたくなったようだ。

 

「突然どうしたの?」

「今は意味を理解できぬだろう。ただ聞き逃すことがないように聞け。よいな?」

「う、うん」

 

 ネロはまるで重大発表でもするかのように真剣な表情をしていた。

 そんなにシリアスモードな雰囲気を纏ってまで何を伝えたいんだ?

 

「藤原裕司よ。ここへ来てくれたこと、誠に感謝である!」

 

 左手を胸の前に置き、右手を天高く振り上げてネロは俺に感謝を伝えてきた。

 ……え~と? 何故にカルデアに就職しただけでそこまで感謝されるん?

 ネロの言っていた通り、本当に意味を理解できぬぅ……。

 

「余はその感謝の印として、そなたに褒美を取らせるぞ!」

「ほ、褒美?」

「うむ!」

 

 全然よくわからないが、とりあえずネロは俺に褒美を与えたいらしい。

 ……やばい。さっきからちょっとしたことで揺れる胸に視線がががが!

 落ち着くのだ俺。深呼吸して落ち着こう。素数はわからないから数えない。

 さて、正直高価な物とかを渡されても使い道とかに困るが、一体何をくれるんだろうか。

 

「裕司には特別に余のを特等席で聞かせよう!」

 

 ……よく聞こえませんでした。もう一回言ってください。

 

「そうと決まれば早速向かうぞ! 余の後に続け裕司!」

 

 ……よく聞こえませんでした。もう一回言ってください。




 Q.パドルパドル~♪
 A.さようなら裕司さん……どうか死なないで。

 モチベって本当に大事だねぇ……書く気しない時はとことんしないしね。
 で、無理して書こうとすると察せれるレベルで酷い文が書き上がるし。
 かといって今回みたいにモチベ回復を待つと一ヶ月以上かかったし。
 まあ今回はボックスとか章を進めるとかがあったからモチベだけが理由じゃないけど。
 以上、見苦しい言い訳でした。

 さて、謎の感謝と共に突如として現れた歌という名の死神様。
 はたして裕司くんは生きて帰ることができるのでしょうか?
 頑張れ藤原裕司! 現実逃避してる場合じゃないぞ!

 追記:すいません書き忘れたのでここに書いておきます。
 下のアンケートの第二部とはFGO本編の第二部のことではありません。
 つまり神もクリプターもこの小説の二部とは一切関係ないです。
 むしろ期間限定イベント的な感じですね。はい。
 すまない……紛らわしくて本当にすまない……。


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贈り物(良い物とは言ってない)

 無事セイバーアストルフォをお迎えできたので初投稿です。
 がわいいなぁアズドルブォぐん。
 できればもっと沢山登場させたいけど、一人だけ特別扱いは許されないんDA。
 後に再登場するけど。

 今回ネロちゃまが歌いますが、載せる歌詞が思い付かないので「~~♪」で表現します。
 実際にどんな歌を歌っているのかはご想像にお任せしますというやつです。
 流石にボエ~で表現するとギャグになりすぎるし。エリちゃんと被るし。

 ぐだ子がマシュと並んで立っている一枚絵を見て気が付いた。
 身長158のマシュよりでかくない? ぐだ子の身長158じゃなくない? もっと大きくない?
 そう思って調べてみたらキャリーバッグのサイズ感を測るための目安だそうな。
 つまり一枚絵を信じるならぐだ子の身長は158以上あるってことになるんよね。
 何が言いたいかって言うと、ボツシーン集にあるプロフィールでマシュと同じく身長158と書かれた裕司はぐだ子より小さいことになってしまうのだ。ついでにザビ子より小さい。
 ぐだ子と同じ身長にしたかったのに……自分ブチギレいいっすか?


「ふふんふふん~」

 

 目の前ではネロが鼻歌を歌いながら歩いている。可愛い。

 それに重い足取りで俺はついて行っている。辛い。

 足取りが重い理由はいたってシンプル、これからネロの部屋でコンサートが開かれるのである。

 俺はその特等席に強制参加させられることになったのだ。至近距離直撃待ったなし。

 今からでも逃げ出したい気持ちが溢れそうだ。事実さっきまでどう断ろうか悩んでいた。というか既に一度遠慮の言葉を投げている(遠慮するなって言われて押し切られたが)

 英霊でさえ悶絶する歌を凡人が聞いて無事でいられるはずがない。

 

 しかし冷静に考えて、断り続けた後のリスクがあまりにも高すぎることに気が付いた。

 ネロちゃまが悲しんだり泣いたりするのはまだマシな方で、まるで余の歌がどんなものか知っているかのような口振りだな? とか言われた場合、それで終わりである。

 流石にネロなら他の王様達とは違って即処刑とはならないと思うが、まだ隠しておきたい。

 勿論、俺だっていつまでも隠し通せるとは思ってない。そもそも一目で見抜いてくる英霊がいる時点でずっと隠し通すなんて無理だろ。

 だけどできる限り隠し通したい。できればもっと英霊と職員の味方が増えてからが望ましい。

 具体的には英雄王や酒呑童子、メッフィー等の危険な英霊を抑えられる人と絆を結べてから正体を明かせれば最高だ。

 だからまだ仲良くなった人が少ない今の段階でバレる訳にはいかないのだ。

 

「ふんふんふ~ん」

 

 ネロの歌を聞いて気絶した人はともかく、死んだ人はマスターを含めてもいなかったはず。

 なら凡人である自分が歌を聞いてしまったとしても、気絶するだけで生き残れる可能性はある。

 断って疑われ、味方が少ない今の状況で正体バレして殺されるよりはマシなんじゃないかな?

 せめて善意100%じゃなければもう少し断り様があったんだけど。

 

「ふふふんふ~ん」

 

 色々と考えている間もまだ楽しそうに鼻歌を歌い続けるネロ。俺の来訪がそんなに嬉しいの?

 心なしか足取りもスキップ交じりな気がしてくる。楽しそうで何よりです。

 ……しかし、こうして鼻歌を聞いている限りだと全然音痴には感じない。

 転生特典が都合良くネロの頭痛と音痴を直してます! とかなら最高すぎて惚れるんじゃが。

 

「余の部屋の前に着いたぞ」

 

 突然ネロが立ち止まり、こちらへ振り向いた。どうやら目的地へ到着したらしい。

 ということは今ネロの横にある扉がネロが歌を披露する劇場(地獄)への入口か。

 遂にここまで来ちゃったよ……もうちょっと心の準備をさせて欲しかった。

 いつまで経っても心の準備なんて完了しそうにはなかったけどな!

 湧き上がってくる恐怖心を抑え込みながら部屋の中へお邪魔する。

 部屋の中は……なんというか、豪華だ。上手く言えないけど豪華である。

 まあ内装のことは一旦置いといて、部屋の真ん中にある椅子に座ればいいのかな?

 念のためネロに確認を取ってみるとその通りだった。それじゃあ早速座りましょっと。

 椅子に俺が腰を下ろすのとネロが俺の前に陣取るのはほぼ同時だった。

 

「さて裕司、準備は良いな? 余はもう止まらぬぞ!」

「ははは……」

 

 準備? できてる訳ないです。多分どれだけ時間かけても無理です。

 しかし無情にも音楽が鳴り始めた。歌への恐怖からか、体が反射的にビクッと痙攣する。

 覚悟は決まってないけどここまで来たんだ。せめて苦しむ時間が短いことを願う!

 

「~~~~♪」

 

 遂にネロが歌い始める。美しい声をしている……が、歌い方は上手くはない。

 残念ながら音痴は直ってなかったようだ。誰だよ特典が直してるとか言ったのは。

 ネロの音痴による音波攻撃を前に、俺は成す術もなく失神する……かと思いきや。

 

「~~~~♪」

「……あり?」

 

 なんともない。失神どころか苦しんだりもしない。

 確かにネロの歌は酷い音痴だが、その歌自体はうるさくなく、音波兵器でもなく。

 ただただ音痴な人が歌っている……という印象でしかない。

 どうして俺は苦しまないんだ? 英霊ですら悶絶するはずでは?

 俺はネロをよくよく観察して原因を探る。

 緊張で声が小さくなっているのでもない。俺に特殊な耐性があるとも思えない……あ!

 

 今目の前で歌っているネロちゃま、マイクを持っていないじゃあないか!

 

 そういえばエクストラでエリちゃんも戦闘前にはくのんの前で歌ったことがあるけど、音痴が酷かっただけで実害はなかった。

 エクステラの方でもネロが超至近距離で子守唄とか歌ってたけど、命に別状はなかった。

 以上の事実を踏まえると、マイクとアンプさえなければ兵器にはならなかったりするんじゃ?

 でなければ俺が無事でいられる理由が説明できない。ほぼ間違いないだろう。

 つまり俺はネロの可愛い音痴な歌を安全に聞ける立場というわけだぁ!

 人によっては音痴なんて聞いちゃいられないって理由で地獄かもしれない。

 しかしこの俺は時々ネロの歌を動画サイトで聞くぐらいには彼女の音痴な歌が好きだった。

 そんなわけで完全にご褒美です。本当にありがとうございました。

 

「最高だぁ……」

「なん……だと……」

「え?」

 

 ふと正気に戻ると、ネロが驚愕の表情でこちらを見ていた。

 歌を中断でもしたのかとも思ったが、音楽が鳴っていないので歌い終わった後……かな?

 終わったことにも気が付かなかったなんて、どれだけ聞き入ってたんだ俺。

 

「そうかそうか最高か! そこまで感動したとは! 余も嬉しい!」

 

 凄く嬉しそうにネロは顔を綻ばせている。天使か。

 まあ普通音痴を褒める人は少ないだろうからな、そう考えると嬉しさも倍の倍だろう。

 無意識の内に最善の一手を取れたようだ。これはもう仲良くなれたと言ってもいいのでは?

 美少女の無邪気に喜ぶ姿に俺も思わず微笑んだ。

 

「よし! 一曲で終わらせる予定だったが気が変わった! もっと聞かせてやろうぞ!」

「あ、ありがとうネロ」

「今の時間と余の仕事時間から……そうだな、四時間程歌い続けよう!」

「え?」

 

 悲報。朝食抜き決定。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さて、時間ももうない。今回はここまでだな」

「あ、そっかぁ……」

 

 まさかのガチで四時間ぶっ通しである。もうお腹ペコペコで結構辛いです。

 俺は椅子から立ち上がると、部屋の外へ向かいながらネロに話かける。

 

「それじゃあ俺はここいらで。良ければまた歌を聞かせてね」

「うむ、ではまたな。ライブの公演には必ず呼ぶ故、安心してよいぞ」

 

 別れの挨拶を交わしあってネロの部屋から退室した。

 ……ネロちゃまは王様の中では仲良くなりやすいとはいえ、こんなとんとん拍子でとはね。

 はっきり言ってもっと難しいかと思ってたんだけど、予想をかなり上回る早さだった。

 マスターである立香と友人という肩書きがかなり効いているのだろうか?

 この調子なら近い内にコミュ力高い鯖全員と仲良くなるなんてこともできるかもしれない。

 俺は希望で胸を膨らませ、ちょっとスキップ気味な足取りで廊下を歩く。

 

「ちょっと君! そこの楽しそうな君!」

「ん?」

 

 誰かに声を掛けられた。声の高さからして恐らく女性だ。

 俺の前方には誰もいないし、スキップ気味なので楽しそうな部分も当て嵌まるから勘違いではないはず。

 ふっふっふ。声だけじゃ誰かはわからないけど、今の俺は無敵よ!

 例え誰であろうと面倒臭い奴でなければ絆をちょちょいのちょいと結んでくれるわ!

 まず話しかけてきたのが誰かを知る為、俺は声がした後方へ振り向いた。

 

「すまないがちょっとこれを預かっててくれないかい? 勿論お礼は必ずするとも!」

「え、あ、ちょ」

 

 外見は白くてふわふわしてる長髪にゆったりとした服を着たゆるふわな雰囲気の女性だった。

 女性は手に持っていた布で包まれた何かを俺に渡した後、ドタドタとどこかへ走り去った。

 ……誰だ今の? パッと見では全然わからなかったぞ。まさかのオリキャラ?

 一瞬アルテミスかとも思ったけどこんな喋り方じゃないし、そもそも俺に興味持つ?

 彼女の正体について考えていると、突然渡された包みがモゾモゾと動いた。

 

「生きてるもん渡された……?」

 

 両手に持っている包みは結構な重さとそこそこの大きさだ。一体何が入っているんだ?

 もしも虫が大量とかなら投げ捨てる。小動物とかなら……どうしよう?

 俺は包みを丁重に開いて中身を確認する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 中身はまさかの赤ちゃんだった。

 

「んん~、まぅ」

えがおのえがおのべびーちゃあん!?

 

 ひろしは こんらん している!!




 裕司はまだ気付かない。ネロの歌によって裕司を監視していた人物が気絶したことに。
 裕司はまだ気付かない。監視していた人物には護衛の役割もあったことに。
 裕司はまだ気付かない。今の自分はかなり無防備な状態であることに。
 裕司はまだ気付かない。これを好機と動く者がいることに。
 要はトラブルメーカー達との遭遇率が上がります。
 わかりやすく言うと今がチャンスと動き出す人もいるようです。大変そう(他人事)


 今回登場した白髪の女性と赤ん坊はオリキャラではありません。
 ちゃんと原作に登場するキャラですのでご安心ください。

 ネロの歌は音痴な上で長時間逃げ場なしで聞かされるから気絶するという設定にしました。
 正直本当にそれで大丈夫なのか? と微かに疑問を抱いてますが、特典もあるし多少はね?

 前回の日常編が終わったらのアンケですが、アンケで言ってた二部は原作の二部のことじゃないです。アンケの二部は異聞帯とは一切関係ありません。
 言い方的には一章から二章に移るって言った方が伝わったかも。すまない。
 そして原作の第二部編は少なくとも原作の方が完結するまで書きません。本当にすまない。

 さて、今回裕司くんの意外な趣味が発覚しました。実際ネロの歌って音痴なのが可愛いよね?
 あんな感じで彼にはちょっと変わった趣味がちょくちょくあります。
 例えばネコアルクとかもキモいとは思わずに可愛いと思うタイプなのです。
 ちなみに裕司が今一番好きなデフォルメキャラはリヨぐだ子。他意はない。


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初めての子守

 このリンクをクリックすると前書きを飛ばせます。

 前書きと後書きの長さに不満な方がいらっしゃったので、試験的にリンクを設置しました。
 ただし携帯版やスマホ版縦書き表示時など、一部機能しない環境があるようです。私は悲しい。
 早速リンクを踏んだ奴、至急メール(感想)くれや(変態糞土方)
 ちなみにリンクを踏むのも面倒な人や、そもそもリンクが機能してない人は閲覧設定で前書きと後書きを隠すことができるので、是非そちらをお試しください。
 元の長さを削ればいいじゃんと思う人もいるかもしれませんが、前書きと後書きの長さを削るのは前書きと後書きに感想を書いてくれた読者がいるので無理です。お兄さん許して!

 皆様お久しぶりです。作者のロック少佐です……間違えた、ロック大佐です。ご機嫌よう。
 UAが600000超えてて草も生えない。フリーザ様の初期戦闘力超えちゃったよ……。
 えっと、それで前回……2019/12/10投稿!? うせやろ? 実質初投稿やんけ!
 すいません許してください! なんでもしますから!

 アポイベ、自分は未プレイだったので参加できて嬉しいです。
 そして無事におかあさんになれました。できればモーさんも欲しいけど今回は見送ります。
 昔は残弾800石ぐらいあったが、ライデンも木馬も爆死してしまってな……。
 でも良妻狐さんは無事にお迎えすることができたのでヨシ!(現場猫)
 それはともかくがわいいなぁジャッグぢゃん。頭を撫でるだけで一日を終えたい。
 


「ふぅ~……何事もなく帰還できた。赤ちゃんいるけど」

 

 廊下を歩いている最中に赤ちゃん渡されたんだけど、突然そんなことする人間ってどうよ?

 拒否権は使う暇もなく消滅するし、お酒飲めない年齢の赤の他人に任せちゃ駄目でしょ。

 しかしそのまま突っ立ってる訳にもいかないので、一度自室に戻ってきた。

 道中に英霊や職員と遭遇することがなかったんだけど、皆忙しいのかしら。

 できれば子育て経験のある英霊にお任せしたかったんだけど……。

 

「無事に自室へ帰ってこれたのはいいんだけど……う~んどうしましょう?」

 

 ……帰り道には特に問題は発生しなかったのだが、自室にて二つの問題が発生した。

 まず一つ目の問題。まあこっちは俺が気付かなかっただけなんだが。

 横目にベッドの上に乗せた赤ちゃんを見る。

 

「…………うぅ」

「む~ん、むう?」

「まぁ!」

 

 悲報、赤ちゃんは三人いた。

 最初は布の中から新たに二つの頭部が生えたように見えて、地獄の番犬かと思いました。

 実際には体も三つあったので、ただの三つ子だったというオチ。

 血の繋がりがあるかどうかはさておき、一人でもキツイのに三人かぁ。

 これはもう死ぬ気で面倒を見切らなくては……。

 絶対にただの赤子じゃないだろうし、誰かが小さくなった姿である可能性が高いと思う。

 ただの赤子だとしても雑に扱った時点で死亡確定。超丁寧に扱わなくてはなるまい。

 そして、二つ目の問題。

 

「見るからに怪しいんだよなぁ」

 

 部屋に謎の段ボールが届いてました。ついでに机の上に見覚えのない紙があります。

 もう引っ越しの荷物は全部届いているので、謎の段ボールは俺の荷物ではないと思われる。

 机の上の紙は全然心当たりがない上にナイフが重石として置いてあってちょっと怖い。

 だからといって無視する選択肢はないです。さて、どっちから確認するか……。

 

「よし。まずは危険物の方を対処しよう」

 

 俺は机の上に置いてあるナイフを机上の端へ置き、紙を確認した。

 文字がずらずら書かれているあたり、どうやら誰かの手紙だったようだ。

 一瞬読んでいいのか迷ったが、わざわざ俺の部屋にあったんだから多分俺当てだろう。

 赤ちゃん達が変なことをしてないかチラチラ確認しつつ、手紙を読み始める。

 

「えーっと、何々……」

 

 おとうさんへ。

 昨日は遊んでくれてありがとう!

 わたしたち、今日はお仕事があるから遊べないんだ。

 またいつか遊んでね! じゃあね!

 ジャックより。

 

「なんだ、ジャックの置手紙だったのか」

 

 ということはこの重石代わりのナイフはジャックのナイフなのかな?

 聖遺物、ゲットだぜ! という冗談はさておき、このナイフはどうしましょう?

 

「とりあえず危ない道具はしまっちゃおうね~」

 

 数十秒の熟考の末、とりあえず内ポケットにしまっちゃうことにした。

 赤ちゃんがいる中で放置して大怪我ってことになったら目も当てられない。

 勿論ナイフを持ち歩くリスクはあるが、まあ指摘されたらあっさりポンと渡してジャックに返しといてくれって言えばいいか。

 返しといてとお願いできない王様や神様にもジャックの物を預かってるって言えば多分いける。

 取り上げられて困るもんでもないし、逆に軽く渡すことで無害アピールも期待できるしね。

 そこまで上手くいくかは謎だけど、赤ん坊が手にして振り回す危険性を天秤にかけたらね?

 ……せめてただの赤ちゃんであることさえ判明すれば、高い所にしまっとく選択肢が取れたんだけど、十中八九ただの赤ちゃんじゃないと思うし、仕方ないね。

 

「次は謎の段ボール箱か」

 

 部屋のド真ん中に堂々と設置された謎の箱。早く開けろと言わんばかりの存在感である。

 引っ越しの荷物は全て届いているので俺の段ボールではないことは確かだ。

 はっきり言って凄く邪魔でもあるので、さっさと開けてしまうことにする。

 

「うん?」

 

 段ボール箱の中身は様々な玩具と一枚の手紙だった。

 玩具達も気にはなるが、まずは手紙を読んでみよう。

 俺は玩具の上に置いてあった手紙を取って読み進める。

 

「どれどれ……」

 

 藤原裕司くんへ。

 カルデアでの暮らしはどうかな? 楽しめているかい?

 君にとってここが楽園と言えるような場所であれば幸いだ。

 さて、突然赤ちゃんを押し付けてしまって申し訳ない。

 しかしこれは君にとって初めての、つまり最初のお仕事だ。

 さっき渡した赤ん坊達を大きくなるまで育てて欲しい。

 子育てに必要な道具は全てこの段ボール箱の中に入れておいたからね。

 一度に三人も育てるのは大変だろうけど、君なら成し遂げれると私は信じている。

 ちなみに赤ん坊達は三日もしない内に大きく成長する。

 成長が終わった後は大きくなった人達の評価を聞いてお仕事は終了だ。

 色々と不思議に思うかもしれないが、まあそういうものだと思ってくれ。

 はっきり言ってこの仕事の出来具合で君の評価はほぼ決まると言ってもいいだろう。

 頑張って初仕事を完了させるといい。私は遠くから君の幸運を祈っているよ。

 白くて素敵なお姉さんより。

 PS:上手く子育てができたら私がちょっとした贈り物をあげよう。内容はお楽しみに!

 

「ブーディカとかに頼めや!!」

 

 俺は思わず手紙を地面に叩き付ける。来たばかりの人間に頼む仕事じゃねぇだろこれ!

 ……まあ冷静に考えるなら多分俺の人格、性格をチェックする為かな。

 それがなんで子育てになるのかはちょっと、いやかなり理解しがたいが。

 他にも確かめる方法は色々とあったでしょうに……。

 しかしこれが本当に最初のお仕事だとするなら誰かに押し付けることもできない。

 任された仕事を誰かにぶん投げてボイコットする奴は即刻クビである。当たり前だよなぁ?

 仕事を辞めさせられるならともかく、物理的に首が飛ぶとかなったら目も当てられない。

 評価を高めるチャンスでもあるから完遂するしかない。子育て経験はないけど頑張ろう。

 俺は色々と入った段ボール箱を壁際に押して移動させながら覚悟を決めた。

 

「さて、まずは何から始めるか……」

 

 赤ちゃん達の方を見つめる。

 三人の赤ん坊は今でも布に包まれたままの状態でモゾモゾ動いている。

 なんか拘束されてるように見えてきた。よし、まずは布を取っ払おう。

 俺は布に手をかけ、赤ちゃん達に引っ掛からないように回収した。

 

「あ、女の子だ」

 

 赤ちゃん達の性別は全員女の子だった。元気な女の子ですね!

 今目の前に三人分の女性の全裸が晒されている状態だが、まあ興奮する訳がないね。

 俺はストライクゾーンは広めだと自負するが、流石に赤ん坊は対象外です。はい。

 勿論このまま赤ちゃんをすっぽんぽんで過ごさせる気は全くないが。

 とりあえず部屋に置かれた段ボールにオムツが入ってないか調べよう。

 必要な道具は全て入ってるって書いてあったし、オムツぐらい入ってるべ。

 早速俺はオムツを探しに段ボール箱を調べた。

 

 ……余談だが、女の子だと発言した瞬間に赤ん坊二人に顔を蹴られました。

 タイミングが完璧すぎて怖い。もし記憶と意識がそのままなら俺の死亡はほぼ確定ですね……。

 ただ約一名無反応というか、完全に我関せずな子もいたので考えすぎかな?

 

「お、あったあった」

 

 どうやら白い女性が書いた手紙の内容は本当のようで、オムツ以外にも色々必需品を発見。

 これで玩具だけしかなかったら絶望でしたね……とにかくオムツを履かせよう。

 一度もやったことがないオムツの装着だが、幸いというべきか赤ちゃん達が大人しかったお蔭で簡単に済ますことができた。い~い子だねお前ほんとに。

 オムツを装着した途端、一斉に元気に動き始めた赤ん坊達に思わずほっこりする。可愛い。

 ただベッドの下に入ろうとするのはやめなさい。綺麗かどうかわからんぞ。

 

「あ」

 

 ベッドの下に潜り込もうとした赤ちゃんを救出した瞬間、お腹の音が鳴った。

 音の発生源は赤ちゃん達……ではなく、俺のお腹からである。

 思えば朝起きてから何も食べてない。風呂とコンサートで朝食の時間が消えたのだ。

 さっきまで思い思いの行動を取っていた赤ん坊達が一斉にこちらを見る。

 お腹の音に反応したようだな。ちょっと恥ずかしさを覚えるぜ……。

 育児は体力勝負と聞いたことがあるし、ここいらでちょっと補給してきましょうか!

 ついでにこの子達用のミルクも作ってこよう。前準備はいくらあっても困らないし。

 

「ちょっとご飯を持ってくるね。頼むから良い子にしててくれよ?」

 

 さっきからずーっと俺を見つめてくる赤ん坊達に告げながら、部屋の外に出る。

 万が一にも赤ん坊達が外に出ないように戸締りを確認し、俺は食堂へ向かった。




 このリンクをクリックすると後書きを飛ばせます。

 というわけで今回はこの辺で終了です。
 数ヶ月ぶりの更新がこんな特に異変もない平凡回でいいのか?
 本当は三月には間に合う予定でしたが、エイプリルフール的な話を書こうとしたから……。
 結局エイプリルフールの話は諦めて普通に投稿。馬鹿な俺を許してくれ。

 前書きと後書きを飛ばせるようにしてみましたが、如何でしたか?
 適当に最初の部分から終わりへ飛べるようにしただけですが、これが助けとなれば幸いです。

 さて、押し付けられた赤ん坊を育てるのが裕司くんの記念すべき最初のお仕事です!
 果たしてこのまま何事もなく育てきることができるのでしょうか!?
 え、赤ん坊達の正体はなんなんだって? 真名当てもFate要素の一つなんで(微笑)
 え、やっぱり普通の赤ちゃんじゃないんだって? そうだよ(暗黒微笑)
 彼女達は全員赤ん坊にされた感じです。一体犯人は誰なんだ……。
 ちなみに三人の赤ん坊にはある共通点があります。それが答えです。
 他にも下にヒントを書いといたので存分に考察するがよい!
 ただし外見特徴は書きません。なんか書いたらすぐバレそうな気がする。

 赤ん坊その1。
 他の二人と比べて一番大人しい。
 初期設定では赤ん坊はこの子一人だった。後に作者の思い付きで増加した。
 実は三人の中で唯一既に登場済み。逆に言うと他の二人はまだ成長後の姿は未登場。

 赤ん坊その2。
 他の二人と比べて一番行動的。
 どことなく礼儀正しさを感じるような気がする。
 全裸を見られて唯一無反応だった赤ちゃんである。

 赤ん坊その3。
 他の二人と比べて一番やんちゃガール。
 すっごい元気いっぱいに動き回るよ! ちょっとは自重して(切実)
 ベッドの下に潜り込もうとしたのには理由がありそう。薄い本目的ではないことは確かだ。
 


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藤原裕司は平和に暮らしたい

 配布BBちゃんを完全体にしたので初投稿です。
 こんなサブタイトルですが、別に裕司くんが手フェチの殺人鬼になったりはしません。

 前回実装したリンクですが、アンケの投票数が上三つのいるを合わせてもいらないに負けてる上に感想でも特に助かる報告はなかったので、リンクは設置しない方針で行きます。
 とはいえ折角設置したので前回のリンクは消さずにそのままにしておきます。
 前書き後書きの対策については設定でOFFにするか作者が頑張って短くするしかないです。チクショーメ!

 プーリンアーケード登場おめでとうございます。設定が性癖に刺さりまくって痛い。
 ちなみに裕司くんに子育てを任せたのはプーリンではないです。書いてた時に未登場だったし。
 登場してたらプーリンにしてたかもしれないけどね。というかしてたと思うけどね。惜しい。

 前回のあらすじ。赤ちゃんが三人いた。腹減った。飯食おう。以上。


「いやはや、まさか道中で王様系と遭遇してしまうとは……肝が冷えた」

 

 あれは赤ん坊のミルクと自分のクソ遅い朝食、つまり昼食を手に入れる為に食堂に向かう道中。

 迷子にならないよう手に持った地図をちょくちょく確認しながら進んでいた時のこと。

 前方からピンク色の髪の毛をした女の子が歩いてきたのだ。

 一瞬アストルフォかと思ったのだが、それにしては服装が白一色で違和感を覚えた。

 じゃあ誰だろうと思ってよく見てみると、歩いている女の子はなんと女王メイヴだったのだ!

 アイエエエ!? メイヴチャン!? メイヴチャンサイコー!?

 ここはカルデアなので別に王どころか神が歩いててもおかしくはないのだが、それはあまりにも突然の遭遇で超驚いた。

 どれくらい俺が驚いたかというと、驚きのあまり足がもつれて転んだ程である。

 倒れた俺をメイヴが貴方大丈夫? と言いながら起こしてくれたのはもっとビックリだったが。

 しかも俺を起き上がらせた後は私が魅力的すぎて驚くのも無理はないけど、次は気をつけなさいと言いながらこちらに何もすることもなく去って行った。

 あれは本当にメイヴだったのだろうか? ただの似ているだけの優しいお姉さんだったのでは?

 でも声は原作のメイヴちゃんそのものだった……まあ面倒事が起きないに越したことはないのでヨシ!(現場猫)

 

「さて、そんなこんなで食堂に到着したわけだが……はて?」

 

 食堂には誰もいなかった。食事をしている人は勿論のこと、料理人達すら影も形もない。

 微妙な時間の食堂ってこんなにシーンとしてるもんなんだな。誰一人いないとは恐れ入った。

 念のため台所を覗き見してみたが、マジで誰もいなかった。皆はレイシフト中なのだろうか。

 ミルクとかはできればミスをしたくないから料理人の誰かに頼みたかったんだけど。

 しかし誰もいないのなら仕方ない。昼食もミルクも全部自分で作るしかないね。

 台所にずかずかと突入し、少し調理場を調べてみると、驚くほど簡単に色々と見つかった。

 

「冷蔵庫はともかく、調理器具や調味料がわかりやすい場所にあったのは幸いだな」

 

 とりあえず見つけた物の中からフライパンとヤカンを取り出す。

 まずはミルク。ヤカンに水を入れ、強火にかけ、沸騰するまで待ち、沸騰したら更に10分待つ。

 沸騰する前もした後も時間がかかるので、フライパンをコンロに乗せてから火を付けて温める。

 同時進行で昼食を作るのだ。俺は10分後にアラームをセットし、フライパンの方へ向き直る。

 

 次は目玉焼き。調味料置き場? から油を取り出し、少量フライパンに入れて全体に油を引く。

 油を一面に塗り終わったら、冷蔵庫から取り出した卵を二個割って落として焼き始める。

 その際に卵の殻をコップ代わりにして水を少量入れ、弱火にした後に蓋をする。

 こうすることでカリカリではない目玉焼きが焼けやすくなる(必ず焼けるとは言ってない)

 目玉焼きの黄身部分が色付いてきた辺りで火を消し、後は余熱で焼く。

 こうすることで黄身がトロトロな状態で焼けやすくなる(必ず焼けるとは言ってない)

 焼き終わったらお皿に移して終了。我ながら上手に焼けました。

 

 次にサラダ。これはサニーレタスがあったので、それにドレッシングかけて終わり! 閉廷!

 流石にある程度は洗ったり千切ったりしておくが、他人に出すわけじゃないから多少はね?

 ついでにお米もお茶碗にパパパッと盛って、終わり! 綺麗な白米だぁ……。

 とりあえず昼食はこんなもんでいいか。貧相な昼食だが、食べるのは俺なので問題ない。

 

 ……ここまでやっておいてあれだが、勝手に使って作って良かったのだろうか? 良いよね?

 皿や調理器具はちゃんと洗うし、消費した食材も卵二個にレタスが少々。多分大丈夫だろう。

 いざとなれば全力土下座で許しを請えばいいか。プライド? 何それ美味しいの?

 

「プライドで飯は食えない。至言だと思いますね、はい」

 

 昼食の準備を終えたのでミルクの準備を済ませてしまおう。

 まず懐から粉ミルクを取り出し、携帯で検索したミルクの作り方通りに哺乳瓶に入れる。

 慎重に粉を入れてる間にアラームが鳴ったので、ヤカンで沸騰させたお湯を大体70℃ぐらいまで冷まし、哺乳瓶にできあがりの2/3の量まで注ぎこむ。

 注ぎ終わったらすぐに哺乳瓶にふたをつけて、軽く振りながら粉ミルクを溶かす。

 ……哺乳瓶をゆらゆらさせながら底の方を覗くが、特に溶け残しはなさそうかな。

 ヤカンのお湯を人肌程度に冷ました後、哺乳瓶に残りの1/3の量を足し入れる。

 最後はミルクが37℃ぐらいになったらこれで完成らしい。初めてにしてはよくできたのでは?

 知らない情報は携帯で調べられるってやっぱり便利よねぇ……文明様様や。

 

「ではでは、昼食とミルクを持って行くとしますか」

 

 トレイに貧相な昼飯とミルク×3を乗せ、自室まで歩き始めた。

 ミルクしか飲めないのに目の前で飯を食うのは可哀想かなって思うけど、勿論理由はある。

 もしこれで羨ましそうな態度を取ったら完全に黒。中身は赤ちゃんではないことが判明する。

 逆にこっちを気にせず哺乳瓶をチュウチュウ吸い続けるなら白……かな?

 結局のところこっちの主観で決めるしかないんだよなぁ。超わかりやすく行動してくれればまだ見極めやすいんだけど、流石に高望みだろう。

 でも罪悪感は確かにあるので、黒なら赤ちゃんでも食べられる適当なおやつでも用意しよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 自室前に到着した。行きとは違って帰りは誰とも遭遇しなかったな。

 何事も起きなかったことにほっとしつつ、足でドアを開ける。

 

「……届かねぇ」

 

 高さの問題で足で開けるのは無理だったので、肩や肘を使ってなんとか開けた。

 

「え? ちょ、おま、何してるんだ!?」

 

 自室に入ると、やんちゃな赤ん坊が行動的な赤ん坊に掴みかかっていた。

 いや、あれはじゃれているだけなのか? 微笑ましい光景に見えなくもないな。うーん。

 少なくとも大人しい赤ん坊が不安そうに見守っているので遊んでる雰囲気ではないと思う。

 万が一怪我でもされたら困るのは俺なので、さっさと事態を収束させることにする。

 

「おら! 強制高い高ーい!」

「むー!」

 

 持っていたトレイを机の上に置いてからやんちゃな子の元へ急ぎ、脇腹を掴んで持ち上げる。

 そこそこ重い上に暴れるので持つのが面倒だが、ジャックと比べたら楽勝である。

 少しの間不満そうに赤ちゃんはバタバタしていたが、無駄な抵抗だとわかると大人しくなった。

 流石に赤ん坊の状態で男の力を超える筋力はなかったようだ。良かった良かった。

 丁度いいので段ボール箱からベビーハイチェアを取り出し、そこに座らせる。

 更に二つ取り出して残りの赤ちゃん二人をそこへ座らせる。やんちゃな子とは違って抵抗らしい抵抗はなかった。良い子良い子。ご褒美に頭をナデナデしてやろう。

 

「それじゃあ、頂こうか」

 

 ベビーハイチェアに哺乳瓶を置いて、自分も食事をする為に席に着いた……チラッ。

 

「…………」

「…………」

「う~!」

「ふむ、なるほど」

 

 黒……! 圧倒的に黒……! まっくろくろすけ……!

 大人しい子はチラチラ見てるし、行動的な子は俺を凝視、やんちゃな子は不満タラタラである。

 はい、これで彼女達がただの赤ん坊じゃないことがわかりましたね! いや知ってたけど。

 本当に普通の赤ちゃんがこんなところにいるはずもないしね。絶対そうだと思ってました。

 とりあえずこのまま放置は可哀想なので、赤子でも食べられるたまごボーロでもあげようか。

 俺は一旦立ち上がり、俺専用お菓子置き場からおやつを三つ取り出し、三人に配った。

 ほら、これで満足やろ? 渡す前に開けておいたから開けられないという悲劇も起きぬはずよ。

 

「それじゃあ今度こそ、頂きます」

「まう」

「あぃ、まう」

「まーう!」

 

 一斉におやつとミルクに手を伸ばしたのを確認し、俺も目玉焼きを食べ始めた。

 ……ちょっと冷えてら。




 今回はザ・日常って感じの話でした。こういう日常的なお話っていいよね。
 特にアニメとかでたまに出る料理シーンとか大好きです。
 ちなみに今回本当は円卓の三馬鹿が登場する予定でしたが、話が進まなくなったのでボツに。
 でも折角思い付いたネタを使わないのは勿体ないのでいずれ出すさ。いずれな……。

 前回に引き続き真名当てクイーッズ!(勝手に言ってるだけ)
 今回は外見をヒントに加えるので参考にして想像してください。
 多分これでほぼ真名がバレるだろうけど、待たせすぎたしいいよね!
 ……いや本当にすいませんでした。

 赤ん坊その1。
 他の二人と比べて一番大人しい。
 薄紫色の髪と紫色の目をしているっぽい。
 その正体はまだ感想欄でほとんど当てられてない。可哀想ななげふんげふん!

 赤ん坊その2。
 他の二人と比べて一番行動的。
 金色の髪と碧色の目をしている。
 その正体はそこそこ感想欄でも当てられてるあの人です。結構わかるもんだねぇ……。

 赤ん坊その3。
 他の二人と比べて一番やんちゃガール。
 金色の髪と碧色の目をしている。
 その正体は……今更ヒントいる? なんで皆やんちゃってだけでわかるの?(困惑)


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でっかくなっちゃった

 明けましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします。
 最後の更新日がいつかは覚えていますか? そう、12月02日です。
 これが2023年だったらまだよかったんですが、2020年なんですよね……。
 今年に限定すれば本当に初投稿です。オラッ! お年玉!

 正直このままだと永遠に続きを投稿できる気がしなかったので駆け足で行きました。
 更にリハビリ目的でもあり、お年玉に間に合わせる為にいつもより短めです。
 クッソ情けない作者で本当に申し訳ない。サクシャ人の面汚しめ!

 前回のあらすじ。裕司くんが料理して赤ちゃんと交流してた。以上。
 書けるところまでは、せめて一区切りまでは書きたい……カキタイ……(切実)


「さて、飯を食って食器を洗い終わって自室へ帰還したわけだが……これからどうしよう?」

 

 三人の赤ん坊を前にしながら俺は真剣に悩む。

 先ほどの反応で赤ん坊の中身は元のままである可能性が高いことがわかった。

 つまり赤ん坊が喜ぶ高い高いやいないいないばあっ! にそこまで魅力は感じないと思われる。

 かといって赤ん坊にゲームやろうぜって誘うのは明らかにおかしいしなぁ。

 既に何回か摩訶不思議な現象と遭遇しているが、俺はあくまで一般人だ。

 赤ん坊とゲームしてる場面を誰かに見られたらその時点で疑問を持たれるだろう。

 何故この藤原裕司は赤ん坊がゲームをプレイできることを受け入れているんだと。

 まだ玩具で遊んでるなら疑問なんて持たれないだろうに……うーん。

 

「そもそもなんで赤ん坊を預けられたんだろうか、俺」

 

 冷静に考えてみるとたかが人格、性格をチェックする為だけに赤ん坊を預けるか?

 何か別の目的というか、何か企んでそうという思考が頭の中で膨れ上がる。

 極寒の地にある施設での初めての仕事がベビーシッターってのも大分アレだが……。

 なんとなくマーリンの差し金であることはわかるんだけど、なんの為なのかがわからない。

 マーリンは人、特に女を弄るのを楽しむ糞だが、ここまで大規模な悪戯はしないはず。

 でも目的が全然わからん! 思わず手を頭に当ててため息をつきそうになった。

 

「あーうー!」

「お?」

 

 色々と考えていたらやんちゃな赤ん坊が服を引っ張ってきた。

 なんかよくわからんが、とにかく放置はしないで欲しいらしい。

 とりあえず赤ちゃん用玩具で楽しめるかは不明だし、ネットの動画でも見せるか。

 俺は一旦立ち上がり、パソコンのディスプレイを床に下ろして動画視聴の準備を進めた。

 どうせ普通の赤ん坊じゃないし、悪影響とか気にしなくていいのは幸いである。

 

「そんじゃ全員で動画見るぞー! ただしお前の指定席はここだ」

 

 俺は動画再生の準備を整えると、やんちゃな赤ん坊を膝の上に座らせた。

 そのまま逃げられないように腕をベルトにして拘束する。

 さっき冷静な赤ん坊に喧嘩売ってたし、視聴中にまた売られても困る。

 案の定ジタバタし始めた赤ん坊の頭を撫でながら動画の再生ボタンをクリックする。

 

「はい、よーいスタート」

 

 最初はジタバタしてた赤ん坊も動画が再生され始めると大人しくなった。

 動画とは関係なく諦めただけの可能性もあるけど、どっちでも同じようなもんじゃろ。

 やんちゃな赤ん坊を見てた二人も、動画が再生されるとそっちに釘付けとなった。

 これで時間稼ぎをしつつ、今後の赤ん坊への対応を動画を見つつ考えて行こう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………………」

 

 動画を見ながら考え事などと、その気になっていた俺の姿はお笑いだったぜ。

 そもそも面白い動画を見ながら考え事とかできるわけなかったんだよなぁ。

 昔から面白いことには熱中しちゃうタイプだった。考えようとしても無理だった。

 時間稼ぎ自体はできて、もう寝る時間にまではなった。時間だけ稼げても……ねぇ?

 赤ん坊三人が退屈することなくお眠の時間になったのは良かったんだけどね。

 

「ほら赤ちゃん三人衆。良い娘はもう寝る時間だぜ」

 

 俺は眠たそうにしている赤ん坊三人を一気に抱き上げる。重すぎて背骨逝きそうだった。

 そのままフカフカなベッドに三人を寝かせ、よく眠れるように頭を撫でていく。

 やんちゃな赤ん坊も眠気が強いのか、暴れようとする気配はない。

 頼むからそのまま大人しく寝てくれよ……そんな願望を手に込めてナデナデ。

 

「おや~すみ~ベイビ~……安~らか~に~寝ろ~」

 

 俺は即席で作り上げた子守唄を歌いだした。ちゃんと子守唄になってるかは知らない。

 睡眠の邪魔にはきっとならないはず。うるさい音量で歌ってはいないし。多分。

 

「ん~」

 

 赤ちゃん達の頭を撫でていると、突然ギュっと手の指を握られた。

 ……握ってきたのはやんちゃな赤ん坊か。こいついっつもなんらかの行動起こすな。

 俺は握られた手とは反対の手で頭ナデナデを続行する。

 三人の赤ちゃんはとても気持ちよさそうな顔をしている……気がする。

 いいぞ、その調子だ……ドンドン夢の世界に近付け、ベイビーちゃん達よ。

 

「すぅ……すぅ……」

「………………」

「Zzz……Zzz……」

 

 就眠確認、ヨシ! ちゃんと寝かしつけられて良かった良かった。

 まあ中身が普通の赤ん坊じゃないからここまで上手くいったんだろうが。

 これが中身まで赤ちゃんならここまで上手くはいかなかったに違いない。

 

 それじゃあ俺も寝ることにしよう。今日は色々ありすぎて疲れた。眠い。

 俺は事前に床に敷いておいた布団に潜り込んで寝る準備を進める。

 ……あのダンボール箱、何故かベビー用ベッドがなかったんだよなぁ。

 中身大人疑惑があるとはいえ、流石に赤子を床に寝かせるわけにはいかない。可哀想だ。

 なので普段俺が使ってるベッドを赤ちゃん達に使わせ、俺はお泊り用布団で眠ることにした。

 正直俺にベビーシッターが務まるとは思えん。早く赤ん坊達が大人に成長しますように。

 その為にも今夜はさっさと寝て疲れを取らなくては……おやすみなさい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「すぅ……すぅ……」

「お腹が空きました……むにゃむにゃ……」

「ぐ~……が~……」

 

 朝起きてふとベッドを見ると、そこには三人の()()()()()()()寝てました。なんで?




手紙「三日もしない内に大きく成長する(嘘は言ってない)」

 例え渡された次の日に少女にまで成長したとしても三日以内に成長だから嘘じゃないよ。
 ちなみに全裸な理由は着ていた服が体の成長に耐え切れずに破けたからです。
 赤ちゃん用の服を少女が着ようとしたら当然そうなるわな。

 さて、藤原裕司くんは果たしてこの窮地を乗り越えることができるのでしょうか?
 少なくとも胃が犠牲になることは確定してます。そろそろ胃薬、飲もう!

 赤ん坊その1。
 他の二人と比べて一番大人しい。
 その正体はマシュ・キリエライト。ヒントを言ったら爆速ですぐに大正解された。

 赤ん坊その2。
 他の二人と比べて一番行動的。
 その正体はアルトリア・ペンドラゴン。裸を見られて動じない女性は中々のレア。

 赤ん坊その3。
 他の二人と比べて一番やんちゃガール。
 その正体はモーさん。なんでこんな簡単に言い当てられたのか謎。マジでなんで?

 ちなみに三人はギャラハ込みなら円卓関係。
 ギャラハ抜きでも出生に人の手が加わってるという共通点がある。


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