帝征のヒーローアカデミア (ハンバーグ男爵)
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プロローグのような何か
1 私が高校に上がるまで:前


リハビリ兼ねて投稿

作者はヒロアカにわか、ハッキリ分かんだね。







「はぁ〜…」

 

 

薄暗い倉庫、錆び付いた鉄の匂いが鼻につく。窓から見える空はもう暗くて、雲に隠れた星がちらほら見え隠れしてる。腕時計を見ればもう夜の19時を回っていた。

今日はバイトも無い、此処からチャリンコ飛ばして帰って40分…風呂に入る時間も考えると落ち着けるのは20時前後…ヒーロー特番に間に合うかギリギリ…

 

「もうまぢムリ、帰る…」

 

「まちやが…れ…ッ!!」

 

視界の隅でピクリと影が動く。なんだよ、全員殴り倒して気絶させた筈なのにまだ生き残りが居たのか。

辛うじて立ち上がったそいつの腕が触手の様にギュルンと伸びて、私の腕に絡みつく。なんだこいつは、アレだけボコボコにされたのにまだ懲りないの?馬鹿なの?死ぬの?そのガッツを勉強なりスポーツなり別の所に使えないの?

 

「許可なく〝個性〟使うとかいーけないんだ。中学生相手に恥ずかしくないの?」

 

「五月蝿ェッ!!テメェはぶっ殺す!

今までやられた奴らの分までなァ!」

 

ぶっ殺す…?そんな安い言葉をいちいち言うもんじゃない、プ〇シュート兄貴に怒られろ。

私の足下にはぶちのめされて山のように積み上がった不良共の山。全員が同じ高校の服装で、かなり人数居たけど20から先は数えるの辞めたからわかんないや。街で私に因縁付けてきたコイツらが悪いんだよ。

 

「私の放課後を邪魔したアンタ達が悪いんでしょうが。今日は31で新作のアイス食べるつもりだったのに、もう閉まってるよ。乙女の放課後どうしてくれんの。」

 

「はっ!『女帝』が一丁前に乙女とか語るんじゃねェよッ!!」

 

 

…むかっ

 

 

絡みつかれた右腕を思いっ切り引くと間抜けな声を上げながらそいつが反動でこっちへ飛んで来た。合わせるように私も山から飛び出して、空中でラリアットをぶちかます。そのまま地面に叩き付けたら変な声を上げて大人しくなった。

 

「気にしてんだよそのあだ名…」

 

…へんじがない、ただのしかばねのようだ。

まあクレーターできる程強めに叩き付けたし、気を失ってるんだろう。生きてるんだからセーフセーフ。

 

「…ぶっ殺すと心の中で思ったなら、その時既に行動は終わってるんだよ。なんてね。」

 

軽く肩を回しながら、隅の方に避難させていた私の学生カバンを拾い倉庫の扉を蹴り開ける。個性によって固定されてたのか、ガッチガチに鎖で固められた鍵は蹴ったら開いた。

良かった、カバンの中身は無事だった。また教科書買い直すとかやってられん、まして明日提出する進路希望のプリントあるんだから尚更。

 

狭い道を通り、人通りの多い大通りへ抜けると、奇抜な格好をしたプロヒーロー達とパトカーが大騒ぎしながら私の居た古倉庫の方へ向かって行くのとすれ違った。

遅いわ!何もかも!もう終わったよ!被害者一名、私!外傷なしで正当防衛!以上!閉廷!解散!

…ヒーローが遅れてやって来るのは漫画の中だけでいい。事件は現場で起きているのだよ。

それにそこの赤い帽子のヒーロー、私が絡まれてる現場見てたろ。見て見ぬふりしてたの知ってるからな?後で追及されて「事件性があるとは思えなかった。」とか言っても通用しないからね?柄の悪い男子高校生10人に囲まれる女子中学生を見て「事件性がない」とか言ってる奴は眼科か脳外科に行った方がいい。と脳内で散々ダメ出ししておいて、落ち着いたのでヒーロー達を視界から外して自転車置いてたコンビニまで歩いく。

 

特番、13号の特集するって知ったのは今日の昼だから録画とか全くしてないのだ。時間が経てばネットで見れるが私はリアルタイムで見たい。ああそれと、あいつらの餌も買って帰らないと…

と、足速に通りを闊歩している私を唐突な着信音が襲う。

 

ピリリリリッピリリリリッ

 

げっ、この番号は…

 

「…へい。」

 

『ごきげんよう、帝。夕方ごろ貴女が辺須瓶(べすびん)高校の不良達に絡まれてるとウチの生徒から報告があったのだけど…』

 

「この電話は現在使われておりません、ピーッという発信音の後にメッセージ残して下さいさようなら。」

 

ピッ…

 

ふう、一件落着。さて、自転車置いたコンビニまで戻らないと…

 

 

 

ピリリリリッピリリリリッピリリリリッピリリリリッピリリリリッピリリリリッピリリリリッピリリリリッ

 

 

 

 

「………ハァイジョージィ。」

 

『一度叔父様の所へ来なさい。何があったか詳しく話して貰いますからね。』

 

「ハァイパイセン。」

 

才子先輩は怒らせると怖い(報復に容赦無く家の権限で圧力掛けてくる)ので、大人しくバイト先へ向かう事にしよう。足取りは死ぬ程重いけど…

 

これ、特番見れないなあ…とほほ…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

はじめは中国、光る子供が産まれた。

それから世界各地で「普通じゃない」人達が現れ始め、気付けば地球は〝個性〟と呼ばれる異能力を持った超人達で溢れかえっていた。それから世界中が大混乱になって、色々あって、ヒーローという『抑止力』得た世界は一時の平和を取り戻す。

ざっくり教科書に載ってる歴史を説明するとこんな感じ、外を歩けば異形型の個性を持った全身タングステンの巨人みたいなおじさんが笑顔で大根を売り捌いているし、千手観音みたいに手がいっぱい着いたおばちゃんが銀行で十人分の手続きをスラスラ処理してる。

 

 

超常が日常になった、そんな世の中。

 

 

 

 

 

私の名前は龍征帝(りゅうせいみかど)、15歳。腰まで伸びる輝くような金髪と、ルビーのように深く真っ赤な瞳がチャームポイント。そして中学3年生にして身長175センチという女子にあるまじき高身長とグンバツのスタイルを持ったモデル顔負けの美女である、自画自賛?五月蝿い。

特技は料理と裁縫、理由は乙女の嗜みだからと言われ色々こなす様にしてる。ヒーロー13号がお気に入り。危険な個性を人命救助に役立てているのがポイント高い。私がヒーローに憧れるキッカケになった人でもある。

 

…え?私に個性はあるのかって?

 

あるよ、個性。

 

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「…と、ここまで話しましたが、ちゃんと聞いてまして?帝。」

 

「お嬢が聖愛入学1年目にして全校生徒を纏めあげ、フリー〇並の恐怖政治敷いて教師と生徒を手玉に取ってる話っすよね分かります。」

 

「聞いていないのなら素直に言いなさい。」

 

私は今、パイセンに呼び出されてバイト先の喫茶店に居る。

私のいっこ上の先輩、名前は印照才子(いんてりさいこ)。IQ150、聖愛学園高等部に所属する天才お嬢様。個性は『IQ』、紅茶飲むとむっちゃ賢くなる。あと金持ち、印照財閥っていう大会社の一人娘。3歳の時発現したその個性で財閥を支えてきたんだとか。

私がバイト先にしてるこの喫茶店も、叔父が経営しているという先輩の勧めで斡旋された。

 

「てか全寮制の高校なのにわざわざこっちまで戻ってくるとか、お嬢も暇ですね。」

 

「あら、信じて我が家から送り出してはや3年間、毎日喧嘩ばかりする私の付き人を気にかけて何か問題があるのかしら?」

 

「向こうが勝手に絡んで来るんで私悪く無い。正当防衛正当防衛。」

 

「貴女のは過剰なのよ、ただでさえ貴女は個性で身体が強いのに。まあ、不良(クズ)達に同情はしませんけど。うふふふ…」

 

そう言う先輩はサドっぽい笑みを浮かべ、目は妖しく光ってる。これ、よからぬ事を考えている時の顔ね、テスト出るよ。

私と彼女の出会いの切っ掛けは6歳の時、印照財閥の経営する孤児院に私が流れ着いた。そんでたまたま視察に来ていた先輩が私に目を付け、印照家に引き取られたのが始まりだ。

引き取られた私は一般教養や勉強を教えて貰い、持つ個性が便利だったので先輩の護衛兼世話係に抜擢される事になり、私は義務教育そっちのけで6年間を先輩の護衛として過ごした。

 

「貴女も聖愛に進学すれば良かったのに。そうすれば高校卒業まで一緒に…んんッ、苦労は無かったはずだけど?」

 

「…何時までも印照家におんぶに抱っこじゃ嫌なんで。」

 

「それにしても都内最底辺の餓鬼道中学は流石にどうかと思うわ。悪評ばかりの中学校では貴女の高校進学にも影響が出るのではなくて?」

 

「餓鬼道勧めたのはお嬢のお父様っす。『才子のそばを離れるというのならせめて母校の治安維持に一役買ってくれ。』って言われて行きました。」

 

「あの男…私の付き人に勝手な事を吹き込んで…」

 

先輩から黒いオーラが出てる、怖い(迫真)。

後から聞いた話だが、先輩のお父様は餓鬼道の出身で、年々治安の悪化する母校を憂いて私を送り込んだそうだ。完っ全に保護者の私情で私の中学3年間を棒に振った訳だが、私も色々と学ぶ事も多かった為、後悔は無いですハイ。

問題なのはこの事実を娘に黙っていたご当主様だが、まあ大丈夫だろう。遠回しに骨を何本かやられるだけだ。人間には215本も骨がある、1本くらいなによ。

 

「才子ャン、帝チャン、お待たせ。

話のお供に大サービス、飲むかい?」

 

その時、私達の座ってるカウンター席の奥にある扉が開いて、バーテンダーの格好をした髭爺さんが静かに現れた。片手に持ったステンレスのお盆の上には、縁にレモンの輪切りがかかった綺麗な色の飲み物が2つ乗ってる。

 

「ありがとうございます、守屋叔父様。

お店は定休日なのに突然来てしまって申し訳ございません。」

 

「いーのいーの!可愛い従姉妹の頼みだからネー。ゆっくりしていきたまえ。」

 

そう言って店長はカウンターの奥へと戻って行った。

 

守屋ジェームズ、銀髪のオールバックで若作りした初老の爺さん。此処、喫茶店「オールドスパイダー」のマスターで、私の義父にあたる人物だ。イギリス3、日本1のクォーターで、エセ紳士。だいたいふざけてる。たまに黒い笑いを浮かべる事はあるものの、概ね良い人。私が印照家を離れるにあたり、中学1年の時から今まで3年間、此処の2階に住み込みでアルバイトをさせてもらってる。

 

なんとなくお察しの方もいると思うが、私に両親は居ない。孤児院育ちだ。いや、本当はいるらしいが、所謂『ヴィラン二世』というやつで、捨て子。

ヒーローに保護された時は人里離れた山奥で、無意識のうちに個性を発動させて山の木の実やらを集めさせ、生きながらえていたらしい。

 

「あ、そうそう帝チャン。店の扉の前でキミの個性達がお腹を空かせて待ってるみたいだヨ。」

 

扉から頭だけ出してちょろっとそう言った店長はまた部屋の奥へと消えていく。

…そう言えば忘れてました。

言われた通り店の扉を静かに開けると、4匹の()()が捨てられた子犬みたいな瞳で私を見て「おすわり」していた。

取り敢えず外は目立つから入ってきなさい。

 

 

 

私の個性の一部、命令通りに動く小型の翼竜を4匹侍らせる事ができる。

 

 

『帝征龍』

 

 

それが私の個性の名前だ。翼竜を操り、自身も巨龍に変身できる。尋常じゃない熱さの火も吐ける。更に更に、人間の状態でも身体は龍と同じ怪力で、皮膚も甲殻と同じ強度。

どれくらい頑丈か?経験則から言わせてもらうと、ライフルの弾丸を頭に受けて首が若干傾く程度。素手でRPGの弾頭を掴んで爆発させても火傷ひとつ負わない火炎耐性。

…どんな人間兵器だ。

この世に存在しない「龍」の力を宿す、私の目指すものとは正反対の強個性。

因みに個性に「帝征龍」と名付けたのは才子先輩だ、巨龍になった私を見た彼女が目を輝かせながら名付けた。

 

「ほれ、今日は鯖缶だぞー食え食えー。」

 

此処に来る前買った鯖缶を4つ翼竜達に放り投げると、器用に牙を使ってそれをこじ開けガツガツと食べ始めた。余程腹が減っていたらしい。

 

「…帝、志望校は雄英に決まり?」

 

「私一言も進路の話してない。」

 

「簡単に予想できるわ。

貴女の望みを叶える為には、雄英に入学するのが一番手っ取り早い手段だもの。それに此処から近い。貴女の事だから、『今までセーラー服ばかりだったから、ブレザーも着てみたいなー』なんて考えているでしょう?」

 

天才に心の内がモロバレである。

 

「何年一緒に居たと思ってるの。

…出会った頃、お人形の様だった貴女が初めて自分から言い出した『我儘』、先輩として応援しているわ。」

 

「…どうも。」

 

「それに、入学した貴女が個性使用の仮免許を取ってくれれば、いちいち面倒な書類を仕事の度に書かなくて済むし。」

 

 

 

「帝、出会った時からずっと、貴女は私だけのヒーローよ。」

 

 

 

頑張りなさい。と締めくくり、先輩はカクテルを口に含む。

一見オシャレなカクテルだが中身はただのオレンジ風味のカルピスだ。私達未成年だし、グラスで出すなよ紛らわしい。

 

 

 

 

 

 

 

 

進路希望の紙には、第1候補に「雄英高校」と書いて提出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

これは、化け物()がヒーローになるまでのお話。

 

たぶんきっと、そう。







他作品様と展開が被るが許せトキ、どうせにわか作者の気まぐれだ!

アニメオリキャラ
印照才子:個性『IQ』
紅茶を飲んで目を閉じてる間、思考が加速する。彼女の素のIQは150、未来予知にも似た行動予測で相手を追い詰める知能派個性。紅茶のブランドによって能力に差が出るらしい。

当作品オリキャラ
守屋ジェームズ:個性無し?
印照家経営指南役、才子の叔父に当たる。戸籍上は帝の父親、苗字がバラバラ?気にするな!
謎の多いあらうんどふぃふてぃーん。某裏社会の帝王とはなんの関係もない。





もう1本投稿して原作開始まで行くよ


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2 私が高校に上がるまで:後

2

 

 

 

 

都内某所、誰も近寄らないほど煤けた土地に唯一存在するコンクリートの巨大な建造物。世間一般に言えば『学校』というカテゴリに属する施設である餓鬼道中学校では、今日も今日とて授業中にも関わらず窓ガラスの割れる音が響いていた。

 

私立餓鬼道中学校、近辺では『県内最底辺』、『屑の掃き溜め』、『世紀末中学校』、『汚物を下水に漬けて煮沸かした場所』などなどありがた〜い評判を頂いている、今最もホットな中学校である。

授業サボりは当たり前、息をする様に学生同士は派閥争いを起こし、喧嘩と馬鹿騒ぎがこの学校の日常だ。当然ながら就職率、進学率共に最底ライン。土地柄もあってか、不良校と聞けば餓鬼道と真っ先に言われるほど悪いレッテルを貼られている。

 

 

「…場所は?」

 

「1年棟、3組です。」

 

ノートにペンを巡らすのを止めて、同い年の書記の子に位置を確認。

私達3年生は受験を控えているためこの時間は自習だ、かといって教室は喧しくて集中出来ないので、許可を貰った私は生徒会室で勉強に励んでいる。私ってばピアスも着崩しもしない優等生だから。

 

「1年かぁ。入学式であんだけシめてやったのにまだ分からないか…」

 

「喉元過ぎれば熱さを忘れ、ですね。」

 

「会計は授業中だから私が帳簿持ってくわ。

書記、行くよ。」

 

「はい。」

 

勉強道具もそのままに、学校の会計帳簿を金庫から出した私はイライラを抑えながら生徒会室の扉を開けた。

 

最近大人しくなったと思っていたのに…また奴ら窓ガラスを割やがった。2年生と3年生はかなり丸くなったけど、此処に来たばかりの跳ねっ返り共は元気だなあ。(白目)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「げっ!?女帝…」

 

「そのあだ名止めろつってんだろ。」

 

「いやっ…割ったのは俺じゃ無くホグァッ!!?」

 

「せめてそのバットを置いてからマシな言い訳をしろ野猿共、授業中に野球始める馬鹿が何処にいるんだ。」

 

「「ひぃっ!?」」

 

「お前とお前は初犯だな?ならよく覚えておけ。

授業中は!座って!黙って!先生の話を聞いて!黒板をノートに写す!

あーゆーおーるらい?」

 

「「お、おーるらい…」」

 

「良かった、また1つ賢くなれたな。その調子で人に進化できるよう努力しよう。

…じゃあこれは授業料な。」

 

「え…初犯だからやられないんじゃ…ギャッ!?」

 

「ごめんなさいごめんなさい許して下ごッッ!?」

 

「謝るくらいなら最初からやるなよ…割れたガラスは私と書記で片付けるので、先生は授業を続けて下さい。」

 

「えっ、ああうん。いつもいつもすまないね…」

 

 

 

1年生のいる棟まで廊下を走らず辿り着いた私と書記は、現場を確認し冷静な判断力で元凶を探し出し素早く処理。襟掴みからのヘッドバットで3人ほど床ペロさせた後、割れた窓の後処理をしてる。

強く言えない先生も先生だけど、教育者とは保護者と生徒の板挟みで大変な職業なのだ。悪く言ってはいけない。私はデキる生徒会長、余計な口は挟まない。

 

「書記、技術の先生んトコ行って窓枠にはめ込むベニヤ板切ってもらうよう手配して。こっちは私が片付けておくから。」

 

「承知しました、帝会長。」

 

そう言うと素直な書記ちゃんはトコトコ歩いて職員室の方へ歩いていった。技術の先生(〝伐採〟の個性持ち、左腕がチェーンソーに変異した筋骨隆々ゴリマッチョおじさん。趣味は家庭菜園。)なら昼までには窓を塞ぐことができるだろう。受験シーズン真っ盛りの寒空の下、窓割れっぱなしは流石に酷だ。

 

「ああ、それと。

1番手前に座ってる茶髪の娘、ヤニ臭い。ちゃんと髪洗って。悪い事言わないからその年から吸うのは辞めなさい。

肺を悪くするだけよ。」

 

「ひっ…はい…」

 

香水で誤魔化してるつもりなのだろうが、残念ながら私にはバレバレだ。酒と煙草は二十歳になってから!

萎縮してる生徒達をよそにガラスの破片を集め、終わった頃に授業終了のチャイムが鳴り響く。

そのまま出ていく先生と共に世間話しながら廊下を歩いた。

 

「1年は相変わらず元気ですねえ…」

 

「すまないね…教師陣が不甲斐ないばかりに。

これでもこの学校、君が入学してからだいぶマシになったんだが、如何せん周囲の評価は変わらなくてね。」

 

 

一度張られた不良校のレッテルはそう簡単に覆らない。だがこの学校が無くなってしまえば、付近の子供達は片道1時間半のバスに乗って別の学校に行かないといけない。それ以外にも周囲の学校からすれば、問題児をひと纏めにしておける場所が必要なのだろう。文字通りこの学校は『掃き溜め』だ。他の学校に問題児が行かないようにする為のスケープゴート、正直言ってクソである。

私が入学してから3年間、生徒会室に抜擢されて色々な活動をしてはみたものの、正当な評価が得られたかと言われれば首を捻ってしまう。

誠に遺憾であるが、馬鹿共が他所で乱闘騒ぎ起こす度に武力介入していたせいで私は他校の人間にも顔と名前が知れ渡り、『女帝』なんてあだ名で呼ばれるようになってしまった。世も末だ。

 

「生徒達を抑圧するだけじゃない。導く者が居なければ…それこそオールマイトのような象徴が。」

 

「それは教師の仕事でしょう、先生方が頑張るしか無いです。幾ら私が生徒会長でも、3年間しか居られない生徒なんですから。」

 

まあ、丸投げだ。

実はご当主様からは母校の治安維持の他に「娘に危害が及ぶ可能性を1つでも潰す為」と言われこの学校で生徒会長をし不良共を纏めている。が、先輩が全寮制の聖愛学院に進学した一年前から私がこの学校に執着する必要はない。でもなんだかんだ愛着とか湧くわけで…

 

「分かってるさ。君が作ってくれた土台だ、これから僕達で少しずつ変えていくよ。」

 

学校の風評は変わらなかったけど、私が呼び込んだ新しい風は先生達の教育者魂に火をつけたらしい。

できる最善は尽くした、後を変えるのは先生次第。

 

「そう言えば、龍征君は雄英志望だったよね。どうだい、自信の程は?」

 

「偏差値79の倍率300倍ですからね、それなりに勉強はしてます。つい先程邪魔されましたが…」

 

「ははは…

そう言えば…これは教師連盟のあいだでまことしやかに囁かれている噂なんだが。

来年君達が入学する年に、オールマイトが教師として雄英に赴任するらしいよ。」

 

「オールマイトが?…倍率が更に上がりそう。」

 

「まだ一般公開はされてない。彼、サプライズ好きだろう?来年の四月あたりに『私が教師になった!』とか言いながらお茶の間を騒がせるんじゃないかな。」

 

まじかーオールマイト先生になるんかー…

あの人多方面から恨み買ってそうだし、雄英がヴィランの標的になったりしないかな?生徒の安全保障されてる?

 

「とにかく私は勉強するだけです、届け出はもう出しましたし。」

 

「そうだね、筆記試験なら僕らでも手を貸せる事がある。何かあれば言ってくれ。」

 

「その時はよろしくお願いします、先生。」

 

その後も軽くお喋りしながら私は自分の教室へと帰った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……時は流れ、雄英高校実技試験当日。

筆記の自己採点はまずまず、可もなく不可もなくといったところだろう。今日も試験が終わればバイトがある、欲しいゲームの封切りが近いから稼がなきゃなー、とかそんな事を考えながら他の受験者と一緒に試験会場で待っていると、突然ハウリングが会場に響いて皆を驚かせた。

 

『Hey!!雄英高校受験者の諸君!

早速実技試験について説明すんぞ!』

 

この声は確か…プレゼントマイクだっけ?

彼なりに受験者の緊張をほぐそうとしてくれているのかな、多分素でこのテンションなんだろうけど。

筆記の前にも説明されたな。強さで変わる1〜3ポイントの仮想ヴィランロボと、0ポイントのお邪魔ロボ、倒した数で得点を競うらしい。

流石にヒーロー科の実技試験はひと味違うなあ…

 

「(おい見ろよ、あの体操服…)」

 

「(もしかして餓鬼道中学校?やだ…試験会場被っちゃった。)」

 

「(絡まれると嫌だから離れて戦うか…)」

 

説明中は黙って話を聞きなさいよ、コソコソ嫌味言ってる場合か。

ていうか餓鬼道の体操服で試験受けたの失敗だったかな。リュック背負ってるし、私が背の高い女故に周囲の目が凄いことになってる。悪目立ちとはまさにこの事だ。あと金髪は地毛だから許せ。

なーんて言ってる間に試験開始の合図が鳴り響く。

準備もなくいきなりの『スタート』に反応出来ず、ぽかんとしてる他の受験者を横目に私はリュックの留め具を外した。

 

人ならざる叫び声と共に、4匹の翼竜がリュックの口から飛び立った。それぞれ上空を旋回して、索敵を行ってく。

…リュックの中にすし詰めにしたのは悪かったよ。あとで高いツナ缶買ってやるから機嫌治せ。

 

『おおーッ!?受験番号2675番、イキナリすげー個性だァ!』

 

プレゼントマイクが楽しそうで何よりです。

 

んじゃまー、頑張りますかねー。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇とある受験者side◇

 

まるで怪獣映画を見てるみたいだった。

黒地に金の線が入った独特の模様、県外でもかなり有名な不良校、餓鬼道中学校の体操服を着た女子生徒が背負ったリュックか放たれた4匹の翼の生えた小さなドラゴンが火を吐きながら飛び回り、仮想ヴィランを食い散らかしていく。

 

「あれ、アンタ達やんないの?ポイント全部貰っちゃうよ?」

 

そんな光景を先頭で眺める彼女の言葉で我に返った俺や他の受験者達は一斉に散り散りになり、それぞれの敵を倒し始めた。

 

 

 

 

 

 

……俺の個性はロボ相手には向いてない、恐らくこの試験は駄目だろう。

三体目の1ポイントロボを何とか倒しながら、俺は半ば諦め半分で戦っていた。

その時、唐突に起きた地震によってよろけた俺は変な具合に足を打ち付けて、挫いてしまった。

 

「痛っ、クソ…」

 

「ちょっと、今変な転び方したけど大丈夫?」

 

「確かに…怪我はないか?」

 

俺が倒れたのに気付いたのか、そばでロボットと戦っていた男女が駆け寄ってくる。

耳にイヤホンの着いた女子と、大柄で腕の複数生えた男子…多分異形の個性だろう。

情けない姿を見せてしまった…

 

「…早く試験に戻れよ、ただでさえ餓鬼道の受験生が放ったドラゴンに取られまくってるのに、俺にかまけてる場合じゃないだろ。」

 

「心配してあげたのにそんな言い方ないじゃん!」

 

「誰も心配して欲しいなんて言ってない。」

 

「ッ、この…」

 

「落ち着け二人とも。

お前が大丈夫と言うのならそうなんだろう、だが無理はするなよ。危険を感じたら監督官に報告してくれ。」

 

「ご高説結構だけどな、アンタ達は『早くロボの居ない安全な所へ行きなよ』。」

 

「「っっ!?!?」」

 

一瞬固まった2人は虚ろな目をして俺に背を向け去っていく。

…やってしまった。

つい個性を使って2人を遠ざけてしまった。折角心配してくれたのに…

俺の個性、〝洗脳〟は返事をした相手を操って思いのままにする個性。物騒な個性だからよくヴィランみたいだと言われるよ。

俺だってヒーローになりたくて此処に来たのにな…

 

揺れが更に大きくなる、急に影が俺を隠したので見上げてみると、今までのとは比較にならない程巨大なロボットがこちらに歩み寄って来ていた。

せめて離れないと…よろけながらも痛む足を動かして歩くが、1歩が大きい向こうの方がずっと速い、直ぐに追い付かれた。

 

これは試験だ、流石に死にはしないだろうが、この状況ではヒーロー科は諦めるしかない。

このまま終わりか、なんて半分諦め掛けていたその時。

 

「要救助者一名様入りマース。」

 

なんて巫山戯た事を言いながら、空飛ぶ翼竜の足から手を離して黒い体操服が降りてきた。

 

「お前は餓鬼道の…」

 

「やっぱこの体操服だと目え付けられるか、デザイン結構気に入ってるんだけどね。」

 

へらへらと笑いながら、俺の挫いた脚を触って「痛む?」などと聞いてきて、最終的に俺は翼竜達に介抱された。リュックのポケットから包帯を取り出して、痛む足を気遣うようにテキパキと処置を済ませた彼女は、0ポイントのロボに向かって歩き出す。

まさかアレと戦う気か!?

 

「おい!『アンタも早くここから逃げろ』!」

 

「ん…?なんだ今の、意識が一瞬ふわっとしたような…」

 

嘘だろ?この女、痛みもなしに俺の個性を振り切った…どんな精神力してるんだ。

 

「あー、もしかしてさっきの2人があんたからとぼとぼ離れていったの個性のせいか。何?催眠?」

 

「見てたのか…〝洗脳〟だよ。ヴィランみてえだろ。」

 

「イイじゃんそれ。」

 

「…は?」

 

 

「その個性使ってさっきの2人逃がしたんでしょ?此処は危ないからって。避難誘導とか、大人数がパニックになった時便利じゃん。

なれるよ、ヒーローに。

誰かを助けたい、救いたいって思ってる。最高にヒーローしてるよ、ソレ。」

 

頭が真っ白になった。

俺の個性が…ヒーローしてるって…?

そんな事、1度も言われたこと無かった。ずっと個性で俺の事を判断されてきた。

「お前もヒーローになれる」

その言葉を、よりによって餓鬼道の生徒に言われるなんて…

 

「あのデカいのは治療の邪魔、だから壊す。そうすれば逃げる必要も無い、おっけい?」

 

「いや全然OKじゃないぞ!?あのデカさのロボットどうやって壊す気だ!」

 

「大きさなら私も負けない。」

 

女の雰囲気が変わった。

翼竜達が彼女の上空を旋回し、周りに炎を吐き散らす。地面が炎上する中で、彼女のシルエットが大きく膨れ上がった。

 

背中からは黒く大きな羽根

 

長大な尻尾と巌の様に頑丈そうな四肢

 

まるで王冠のように綺麗な金色の角が輝いて

 

4本の足でアスファルトを踏みしめる巨龍が俺の目の前に現れた。

 

『アンタがヴィランなら、私は化け物だ。ちょっと待ってな。』

 

直ぐ終わらせるから。

 

大きく息を吸い込み、まるでジェット機の様な爆音が試験会場を揺らす。直ぐに彼女が発した『声』なのだと理解出来た。

次いで高熱が巨龍の口に収束していく。一拍置いて吐き出された炎の塊は0ポイントロボのどてっぱらに命中し、胴体をグズグズに溶かしながら貫通した。

大爆発が巻き起こり、バラバラに砕けたロボットがその辺に散らばって、最後に頭の部分が地面に落ちて砕けると同時に、試験終了のブザーが鳴り響いた。

 

 

『YEAHHHH!!!!!!!試験終了だ!

俺スンゲーもん見ちまったぜ!マーベラス!結果を楽しみにしてな!』

 

 

プレゼントマイクの声が響き、出口に繋がる扉が開く。まださっきの余波で戦塵が舞い上がり視界が悪いな…

受験者達が去っていく中、さっきの2人組が俺の下へ駆け寄ってきた。

 

「大丈夫か!?凄い爆発だったが…」

 

「てゆうか、うちら途中から記憶なくて気づいたら街の隅にいたんだけどアンタの仕業!?」

 

「…爆発は俺のせいじゃない。洗脳の件は悪かったよ、意地張らず素直になればよかった。」

 

謝罪の言葉は思ったよりすんなりと口から零れた。さっきの光景を見た後だからか…?

 

「思ったより素直じゃん、なら許す。」

 

「記憶の混濁はお前の個性だったのか、なら問題無い。此処は個性を使い競う場だからな。」

 

「それよりさっきの爆発!

何があったの?」

 

「ああ、それは…」

 

「あ〜ッ久しぶりに龍化使ったわ〜。」

 

後ろから声がする、餓鬼道の受験生だ。

御礼を言おうと思い振り返るとそこには…

 

一糸まとわぬ彼女の姿があった

 

全裸だ

 

上から下までハッキリ

 

胸…デカ…

 

 

「ぶはっ!?」

 

鼻から熱いものがこみ上げてきて、俺は気を失った。

 

……金髪の女って、下も金色なんだな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぎゃああああああああ!?アンタなんで全裸!?」

 

「ん?ああ、私の個性って変身するから、予め脱いどかないと服が駄目になる。」

 

「何落ち着いて説明してんの!?いいから早く服着なよ!男子こっち見んな!」

 

「見ていない…俺は何も見てはいないぞ!」

 

「…………」(顔血まみれで気絶)

 

『オーイそこでグズグズしてる受験者4名、早く出ないと失格にすんぞー…ってオイ!

なんで1人全裸なんだァ!?』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あ、雄英合格しました☆

 

 






雑?そうだよ


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高校入学的なアレ
3 高校生活、始まります(普通とは言ってない)


ガチャ爆死したので投稿






あ さ

 

龍征帝の朝は早い。

昨夜2時までフレとネトゲをしていた私はそのまま眠りにつき、気付けば朝の6時。4時間しか寝てないが入学初日から遅刻は流石に不味いため渋々起きて、準備して家を出た。

 

早めに家を出たこともあり、通勤ラッシュとは無縁の電車に乗って雄英高校校門前へ。日本有数のマンモス校だから案内板が鏡の大迷宮みたいになってる。わけわかめ。

パンフレット見ながらさ迷い歩くこと5分、やっとの思いで1年A組にたどり着いた。ていうか教室の前に人1人入る大きさの死体袋みたいなのが転がってて焦ったが、中の人は息があるのを確認したので放っておこう。

そんでどうやら早く来すぎたらしい、まだ誰も居ない。

 

私の机は1番後ろで、しかも窓際。横に誰もいない特等席、ご丁寧に名前が書いてある。机にカバンを放り投げ、翼竜達をリュックから出した。学校内なら個性OKだから出しても大丈夫だよね。

まだ朝のHR開始まで1時間以上ある、目を閉じるとだんだん眠くなってきた…ちょっと寝よう。ガイダンスが始まったら心優しい誰かが起こしてくれるだろうし。おやすみ…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇とあるデクside◇

 

 

「机から足を下ろしたまえ!」

 

「うるせーぞ端役、テメー何処中だコラ!」

 

「あわわ…入学早々喧嘩しとるよ…」

 

僕と麗日さんが教室に入った時、かっちゃんと、入試の時に出会った眼鏡の真面目そうな人が互いに言い争いをしていた。他にも早く来た人達は各々話に花を咲かせていて、僕完全に出遅れた!?

 

「あ、新しい女の子!あたしは芦戸三奈、宜しくね!」

 

「う、ウチは麗日お茶子。宜しくね芦戸ちゃん!」

 

そっちに気を取られているうちに、麗日さんは早速女子どうし仲良くなっているようだ。

 

「いやー数少ない女子と出会えてよかったー。」

 

「机は全員分埋まってるね。うちら最後かあ…」

 

「多分そうだよ。それでねそれでね!

A組女子が全員揃ったところで…あの子に声を掛けようと思うの!」

 

「人を指さすのは失礼ですわよ芦戸さん。」

 

芦戸さんがビシィッと指さす先に居たのは、1番後ろの席で顔を伏せている金髪の女の子。多分寝ているんだろうか、時々寝息が聞こえてくる。

それよりも気になったのは…

 

「空飛ぶトカゲ…?」

 

「翼竜…みたいだね…」

 

寝ている彼女の周りで甲斐甲斐しく世話を焼く4匹の小さな翼竜達だ。彼女の個性なんだろうか?

 

「あの翼竜達がいて、なかなか近寄りづらいんだよね…

さっきあの眼鏡…飯田君が寝てるあの子を注意しようとして、頭を噛まれてたの。」

 

「噛まれたの!?」

 

「怪我はしてないみたいだけどね、そっからみんな近寄るのが億劫になっちゃったみたいで…だから私達の出番だよ!A組女子の総力を結集してあの子とお友達になるのだ!

あ、私は葉隠透だよ!個性は見たらわかると思う!」

 

ばーん!とテンションあげあげの葉隠さんがまくし立ててる。彼女の個性は…透明化かな、見てすぐ理解した。

そうだ、予め配られたプリントの中に出席名簿があったはずだ。それで確認しよう。

A組全員で21人、あぶれる席の一番後ろだから…名前は…

 

「名前は…龍征帝さん、みたいだね。」

 

「出席名簿!その手があった!」

 

「かっこいい名前やねー。」

 

「あの子、そんな名前なんだ…」

 

「おっ!知ってるのか耳郎ちゃん!」

 

「入試で一緒だったんだよ。あの翼竜、火を吹いて仮想ヴィランをバリバリ噛み砕いてた。」

 

「ロボットをバリバリ!?凄い個性だね…」

 

「それから他にも秘密があるみたいだけど…その…会った時の印象が強過ぎて…」

 

急に顔を赤くして目を逸らす耳郎さん、一体何があったんだろう…?

 

「それ以上は追及しないでやってくれ、彼女の名誉の為にも。」

 

「わっ!?君は…」

 

「障子だ。此方にも話が聞こえてきてな。

俺も耳郎と龍征とは同じ試験会場だった。まあ…色々あったんだ…」

 

そう言う障子君も彼女の話をする時は少しだけ顔が赤い、それに「見ていない…俺は何も見ていない…」となにやらぶつぶつと呟いているみたい。

 

「う、うん…わかったよ。」

 

 

 

 

「仲良しごっこがしたいなら他所でやれ。」

 

急に響いた男の人の声で、冷水をぶっかけられたように教室が静まり返った。教壇を見ると、マフラーを巻いた髭ぼうぼうでだらしない人が立っている。

 

「はい。全員静かになるまで8秒掛かりました、君達は合理性に欠けるね。」

 

彼は相澤消太と名乗る、僕達の先生らしい。

 

「これ着てグラウンド出ろ。」

 

「ちょっと待ってください相澤先生!

入学式は?ガイダンスは!?」

 

「雄英高の校風は『自由』、それは教師にも言える事だ。ヒーロー科はひと味違う、さっさと着替えて来いよ。

それから…そこで寝てる龍征を誰か起こしとけ。」

 

言うことは言った。とばかりにつかつかと相澤先生は教室を出ていき、教室が静まり返った。

 

「と…兎に角皆着替えよう。隣に更衣室があるから男子は其方で!」

 

「おう、そうだな…」

 

「それから、彼女を起こさなければ…」

 

飯田君が気まずそうに寝ている龍征さんを見つめる。さっき思いっきり噛みつかれたんだもんね、近寄りづらいよ…

 

「おいクソモブ!いい加減起きやがれ!」

 

((((なんの躊躇も無く行ったアアアアッッ!!))))

 

かっちゃんがなんの脈絡もなく龍征さんの机を蹴った!翼竜が凄い目付きでかっちゃん見てるよ!怖い!

 

「んん…あと5時間…」

 

「長ぇわ!もっと遠慮しろ!つか今スグ起きろつってんだよ燃やすぞ!」

 

「う〜ん…」

 

眠気眼で顔を上げ、頭を搔く龍征さんは…一言で言えばすごく綺麗な人だった。

長い金髪にルビーみたいな赤い瞳、僕より背の高くすらっとした身体に整った顔立ちで、雑誌のモデルやアイドルと言われても不思議じゃない。

 

「…何この空気。」

 

「お前が起きねえからだよモブ女!」

 

「じー…」

 

「アア?んだコラ。」

 

「なんで寝癖のまま学校来てんの?」

 

「地・毛・だ・よ!!ぶっ殺すぞ!?」

 

「龍征君!詳しい説明は後だ、今は早く体操服に着替えたまえ!」

 

今にも爆発しそう(してる)なかっちゃんを諌めるように飯田君が間に入って、龍征さんに着替えを促した。それを理解したみたいで、うつらうつらしながらも頷いた彼女はそのまま…

 

「着替えりゃいいのね、はいはい。」

 

徐に着ていたブレザーを脱ぎシャツのボタンを外しだした…ふぁっ!?

 

「ななな何をしてるんだ君はァ!?」

 

「あんたが着替えろっつったんでしょ…」

 

「それば男子が教室から出てからにしてくれ!もっと慎みを持ち給え!」

 

「ええー…」

 

顔を真っ赤にした飯田君に促され、僕たち男子は駆け足で教室を移動した。1人だけすごい表情で食い入るように龍征さんを見ていたけど…

 

 

ブラジャー…黒だったな…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

悲報、教室で寝坊した。

気が付いたら皆私を見てる、起きて5秒で注目の的だった。着替えろと言われたから着替えようとしたら止めろと言われ、男どもはそそくさと教室を出ていった。なんか数名変に前かがみになってたんだけどどうした?

 

「目え覚めた?」

 

あ、この子は覚えてる。試験の時一緒だったイヤホンちゃんだ。雄英受かったんだね、おめでとう。

 

「おめめパッチリ。

確か試験で一緒だった子よね?」

 

「耳郎だよ、耳郎響香。

入学初日から教室で寝坊とか、龍征さんもなかなかロックだね。」

 

「帝でいい、そっちの方が呼びやすいでしょ。」

 

「そっか、じゃあ宜しく帝。」

 

「ん、響香。」

 

「お!耳郎ちゃんもう龍征さんと仲良くなってんの?私も私も〜!」

 

透明人間な女の子を皮切りに、クラスの女子と話が弾み仲良くなれた。中学校じゃ挨拶より拳が先に出る連中ばかりだったからなあ…これが普通の学校か、しみじみ。

 

「気になったのだけど、連れてるあの子達は個性なの?」

 

そう不思議そうな顔をして聞いてきたのは蛙吹梅雨ちゃんだ。カエルっぽいキュートな子。個性もそのまま〝蛙〟らしい。

 

「そうだよ、個性の一部だね。」

 

「一部…?という事は他にもあるのね。」

 

「私の個性はややこしくて話すのがめんどい…取り敢えずコイツらの操作と多少身体が頑丈な位かな。」

 

「私もカエルっぽい事なら大体できるけど、帝ちゃんもそんな感じなのね。分かったわ。」

 

「まあ詳しい事はおいおい分かってくるでしょ。」

 

梅雨ちゃんは納得してくれたようだ。

 

「自己紹介はまたの機会に!

今は先生に言われた通り急いで着替えてグラウンドへ向かいましょう!」

 

手を叩くポニテの子、八百万だっけ?に急かされながら皆と一緒に着替え終わり、グラウンドへと辿り着く。

 

 

 

 

 

 

…あ、不審者だ。

ぅえ?先生?この人が?

目の前で口に出しちゃったよ。目ェつけられたかな…

 

どうやらこれから個性を把握する為の体力テストを行うらしい。ビリは除籍処分と言われ皆ブルってる。緑髪の冴えない男の子はプレッシャーのあまりぶつぶつうわ言を呟いてた。コワイ。

 

まずは50メートル走、楽したいので飛んでる翼竜の脚に掴まって4秒96。脚にエンジン着いてるらしいメガネが速かった。

 

次、握力。

入試が一緒だった異形個性の男子(障子目蔵って名前らしい)が腕を複数生やして高記録を叩き出す。対して私は昔握力計を壊して結構な額を弁償したトラウマがあるのでちょっと手を抜いたら「真面目にやれ」って相澤先生から怒られた。なので本気で握ったら測定針が弾け飛んで測定不能になった。…弁償しないぞ私は。

 

持久走、バイクは反則だと思います。

え?「翼竜で飛んでる帝に言われたくない」?HAHAHA!響香ったら皮肉がお好きなのね。

 

立ち幅跳び、ここは相澤先生から翼竜禁止のお言葉を受けた為、普通に飛んだ。ざっと30メートルくらいか。

 

反復横跳び、人並み。峰田とかいうちっこい男子が残像見える速度で1位を勝ち取ってた。

 

上体起こし、特筆すべき事なし。長座体前屈も同様。

 

最後はボール投げ、翼竜にボールを運ばせて記録∞。触れたものを無重力にできる個性の女の子も同じく∞で同率一位。

 

結果、ビリではないので万事おっけー。先生から告げられた合理的虚偽にクラスの殆どが叫ぶ中、第1回個性把握テストは終了した。

1人指がバッキバキになってたけど大丈夫かな。

 

 

 

おひる

 

余は腹ぺこじゃ、初日なので興味半分に響香を誘って食堂に赴いた。もう1人の知り合い、障子君も誘おうとしたけど、ほかの男子と喋っていたので引き留めるのは悪いと思い、2人で向かうことに。

 

流石はマンモス校、広い食堂に人がいっぱいだ。私はざる蕎麦山盛り、響香は親子丼を頼み席を探していると、空いてる席に知った顔があったのでそこへ行く。

 

「お、心操。そこ空いてるなら隣いい?」

 

「龍征か…ああ、空いてるよ。好きに座るといい。」

 

「じゃあお言葉に甘えまして。」

 

「お邪魔しまーす。」

 

席に居たのはこれまた入試の時助けた生徒、名前は心操人使っていう。救護室に運んだ時聞いた。

心操の横に座り、響香と向かい合う形で座った私はざる蕎麦をつるつる食べる。

…!美味い!麺のコシ、ほのかに香る蕎麦の風味、味はしっかりとして尚且つくどくないツユ、中々の逸品である。

 

「うーまーいーぞー!」

 

「凄い勢いで食べるね帝…」

 

「美味いものは美味い、これなら毎日食べられそう。」

 

「食堂にはランチラッシュが居るからな。」

 

「ランチラッシュ?」

 

「帝知らないの!?

クックヒーローランチラッシュ、料理界では知らない者はいない有名なヒーローだよ。よく料理番組に出てる。」

 

「ヒーローなのか料理人なのか…」

 

「ヒーローで料理人なんだろ。」

 

「蕎麦が美味いならなんでもいいわ。」

 

 

なんて話しながら蕎麦をつるつる啜る。

 

 

「そういえば、心操は何組だっけ?」

 

「C組、普通科だよ。

ロボが相手じゃ俺の個性活かせないし、仕方ない。合格できただけでもラッキーだ。」

 

「友達出来た?失礼な事してない?」

 

「お前はお母さんか!?

…お節介な奴に何人か話し掛けられたよ。」

 

「ウチと障子の時みたいに突き放したり…」

 

「してない。…あの時のは反省してる。

そういえば、A組は入学式に居なかったが、何かあったのか?」

 

「個性把握テストって言われてグラウンドで体力テストやってた。おかげで入学式もガイダンスもしてないよ。

最下位は除籍処分なんて言われた時はドキッとしたけどね。」

 

「合理的とはいったい…うごご…」

 

「えぇ…」

 

心操は何か言いたそうな顔をしていたが、まあいいや。今は蕎麦を味わおう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「じゃあなー心操、友達と仲良くするんだぞー。」

 

「だからお前はお母さんかっ!!」

 

 

満腹になったので食堂の出口で心操と別れ、私と響香は教室へ戻る。昼休憩はもう少しあるから食後の昼寝でもするか…

 

「あ、翼竜達にエサやらないと。」

 

「そういえばあの翼竜、名前とか無いの?」

 

「無いね、今まで付けようとも思わなかった。」

 

私の個性で操る4匹の翼竜。

あいつらは物心ついた時から一緒にいるが、いままで名前つけようとかは全く考えつかなかった。それどころか「使い潰して当然でしょ」くらいの気持ちまである。翼竜は私の手足と同じだもの。

昔、才子先輩に「食べ物くらいあげなさいよ」と言われたので、それから毎日忘れないように3食分の食事を与えてはいるが。

 

「4匹もいるのに名前無いとか可哀想じゃん、名付けてあげなよ。」

 

「ええっと…『ああああ』、『いいいい』、『うううう』…」

 

「ドラクエのセーブデータかッ!!

呼びにくいからもっとマシなの考えようよ…」

 

「じゃあ響香が考えてよ。」

 

この通り、私にネーミングセンスは皆無である。ぶっちゃけ番号くらいで良くね?駄目?そっかあ…(納得)

 

「うーん…クィーン、エアロスミス、キッス、チープ・トリックなんてどう?」

 

「それロックバンドの四天王か、趣味丸出しだな。」

 

どれも有名なバンドグループ、もうそれでいい気がする。

 

「クラスの子達にも考えて貰おうよ、いい案が出るかもしんないでしょ。」

 

「私の昼寝時間は…」

 

「昼休憩の間くらい起きてな。」

 

おおおおぉぉ……睡眠時間んんん…

 

 

 

 

 

 

 

この後めちゃくちゃ名前考えた

 




実は体育祭半ばまで書き終わってるおじさん(投稿できるレベルとは言っていない)




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4 戦・闘・訓・練


ジョーカー参戦したので投稿





「私がァ〜…普通にドアから来たッッ!!!!」

 

劇画タッチの筋肉モリモリマッチョマンが扉を開けて滑り込んでくる。この暑苦しさのせいで教室の室温が5℃は上がったな間違いない。地球温暖化の原因はコイツと松岡修〇ってのは有名な話だ。

 

「オールマイトだ!」

 

「雄英の教師になったって話、本当だったんだ!?」

 

生徒達が騒ぐ騒ぐ、世界的な有名人が先生だもんね。凄い事だ。

しっかし近くで見るとホント筋肉ダルマだなこの男…

 

「これから君達には、戦闘訓練を行ってもらう!」

 

ポチッとな!

 

うぃーんって壁の一部が開いて、番号の書かれたトランクケースがせり出てきた。M・I・B(メン・イン・ブラック)で似たようなの見たなこれ…

 

「自分の出席番号のトランクケースを取りたまえ、それは君達が入学前に我々に提出した…ヒーロースーツだ!」

 

うおおおおおっとクラスの熱気は最高潮、対する私は翼竜達の名付けで時間を食ったので結局昼寝出来ず、眠くてつらい。

 

「それに着替えて順次グラウンド・βに集合!待ってるぜ!」

 

そう言って颯爽と去っていくオールマイト。

ついでメガネ飯田がキビキビと男子に移動するように促し、女子を残して出て行った。

 

 

 

 

 

 

「帝ちゃんすごっ!何そのヒーロースーツかっこいい!」

 

「大変よくお似合いですわ龍征さん。」

 

「帝ちゃん背も高いし、すらっとしてるから余計カッコイイ…ホストみたいだ。」

 

「けろっ、執事さんみたいね。」

 

ヒーロースーツに着替えた私を見て、女子達がそんな感想を述べている。

これ、実は私が頼んだものじゃない。自称デザイナー志望の義父が描いたスーツ案だ。

黒シャツと濃い茶色のストライプが入ったジャケットとズボン、それから耐熱性黒手袋と兎に角硬くしてくれと頼んで作ってもらった革靴。傍から見たらヒットマンか何かかと思うだろう。

 

「こっちのカバーみたいなのは?」

 

「それは翼竜達の足に取り付ける緩衝カバー。レスキュー中、救護者に爪が食い込むのを防ぐ為に頼んどいた。」

 

「へえー考えてんねー帝ちゃん。」

 

「一応私、レスキューヒーロー目指してるので。」

 

「そっか、ガナッシュ達は空を飛べるから、遭難者の捜索に便利だよね!」

 

お茶子ちゃんに呼ばれた翼竜達は嬉しそうにクルルと鳴いた。

先程の談義の結果、私の翼竜達にはそれぞれ「ガナッシュ」、「ガトー」、「ブラウニー」、「ザッハトルテ」とチョコレートにちなんだ名前を付けた。A組女子力全開である。チョコレートの参考は鳥顔の常闇君と、たらこ唇の印象的な砂糖君の2人から。二人共妙に詳しかったな…

本当は声を伝えるための無線通信用の首巻マイクなんかも欲しかったんだけど、スピーカー4つも揃えると馬鹿にならない値段なので断念。翼竜はどこに居ようと私の意思に従うけど、翼竜は喋れないからマイクとスピーカーでそれを補うつもりだった。

 

 

 

皆も各々のヒーロースーツに着替えて、グラウンド・βへ。くじ引きで二人一組に分けられて、戦闘訓練をするそうな。

 

「ルールは五階建てのビル内に置かれた核をヴィランチームとヒーローチームに別れて争ってもらう。

ヴィランチームは核を守護、ヒーローチームは核を奪取、という具合にね!」

 

ヒーロー側はヴィラン2人を捕縛するか核に触れたら勝ち、ヴィラン側は核を制限時間内に守りきるかヒーローを全員戦闘不能にすれば勝ち、わかりやすくて大変よろしい。

 

「じゃあクジを引いてもらうんだけど…クラスは21人いるから、何処か1チームはヴィラン側とヒーロー側両方やって貰うぞ!」

 

「うえー貧乏くじだー。」

 

「俺に殺らせろ俺にィ!」

 

なんと、二度も訓練しないといけないのか…めんどくさいな。外れますよーにっと…

 

「お、龍征少女と耳郎少女!それから青山少年の相棒の常闇少年が二役分引いたみたいだね、じゃあ頼む!」

 

なんてこったい、HAHAHAじゃねーよキン肉マン。

 

「知った顔が相棒で助かった…」

 

「経験積めるって事で良かったじゃん。

サポートするからさ、2回分頑張ろうか。」

 

「前向き過ぎて眩しいよ響香…」

 

というわけで、れっつ戦闘訓練だ。

 

 

 

 

私達の前に1回戦、個性把握テストでブツブツ言ってた緑髪の子、お茶子ちゃんVS私を起こしてくれた爆発頭、メガネ。

緑髪と爆発頭は何やら唯ならぬ遺恨がある様子、チームワークそっちのけでビルを破壊する大乱闘をして百ちゃんから酷評を頂いた。

つーか緑髪の個性、腕えらいことになってるがな、超パワーなのに反動すげえな。

 

 

 

 

 

んで

 

 

「へい、相棒。敵は尾白猿尾と轟焦凍って2人なんだけど、なんか知ってる事は?」

 

「尾白の方は見た目通り尻尾を使った近接戦闘が得意なのかな…でも注意すべきは轟の方かも、あいつ推薦入学者だし。」

 

要は能力分かんねーである。

 

そうこうしているうちに訓練開始のブザーが鳴った。

 

私たちの番。

建物は五階建て、窓があるから翼竜である程度の偵察は可能だ。相棒である響香の個性は音を感知できる。空と地面で同時に索敵する事で相手の位置は大体予測可能。

 

「ヴィラン側、足音から察するに1人は1番上の核の部屋に陣取ってて、もう1人が下に降りてきてる。」

 

「ブラウニーが確認した。上で守ってる道着姿の尻尾が尾白、降りてきてるモンスターボールみたいな髪色したのが轟かな。」

 

てことは轟は相当喧嘩に自信があるのか、なら…ん?ブラウニー?なんか氷が見え…

 

「…ッ!?響香、地面からプラグ離せ!」

 

「えっ…うわ!?」

 

きょとんとする響香を抱き上げて、無理やり耳のプラグを地面から外させた直後、急に部屋の温度が下がったと思ったら床に冷気が走って私の足下ごと凍り付いた。

 

「なななな何コレ!?

あと耳!キーンってなった!急に外すなよぉ…」

 

「ごめんごめん、でもそんな事言ってる場合じゃないなこれ。轟の奴、ビルごと凍らせたみたい。」

 

「び、ビルごと!?嘘…でしょ…?」

 

翼竜全員が確認してる、今の一瞬でビルが丸ごと氷漬けにされた。4階に居た轟の個性でだ。女相手に容赦が無い。

 

「ていうか帝、脚が…!」

 

「なぁにまだ大丈夫さ。計画変更、響香は外から直接核のある最上階に送るから、ザッハトルテ達と協力して核に触って。私は轟を足止めする。」

 

「えっちょっ…うわあ!?」

 

外に待機させたガトーが火炎を吐いて窓の氷を溶かし、そこから響香の肩を掴んだザッハトルテが飛び立った。

 

「無線でお互いの情報は随時交換、隙があったら積極的に核に飛び込んで!」

 

『りょ、了解!帝も気を付けて、相手は推薦入学者だよ!』

 

「あいあい、任しときな。」

 

響香が外に出たのを確認して、手袋に吐息を当てる。

人間状態でもある程度龍のブレスは出せる、吐き出したブレスもある程度操れるので、その熱を手に纏わせて脚を触れば、凍った箇所はあっという間に溶けて水になり私は自由になった。

 

氷…いや冷気を操る個性、しかもビルごと氷漬けにできるほど強力な出力。推薦組って凄いな。

 

高校上がって初戦闘の相手が推薦組とは中々…コレが高校デビュー…華の雄英生活…!

 

「Plus ultra、もっと先へって?」

 

気合を入れて手袋を締め直す。

 

さ、いってみよう!

 

 

 

 

 

 

 

 

◇とある赤白君side◇

 

 

「ヒーロー組が入ってきたら、開幕俺が4階から下を全部凍らせる。それで決着が付く。」

 

「え、マジで?そんな事できるのか…」

 

訓練が始まってすぐ、俺はパートナーの尾白にそう宣言した。

この大きさのビルなら全域を凍らせる事は容易だ、直ぐに決着を付ける。忌々しい左も使う気は全くない。全ては体育祭からだ。人の目に留まる雄英体育祭で、衆人環視の前で、俺は糞野郎(親父)を完全否定するんだ。それまでは…

 

「…っと、もう4階か。」

 

どうやら考え過ぎて階段を降りきったところでやっと我に返ったらしい。

床に手を当て、右の力を使う。

 

文字通り一瞬で、ビルは氷漬けになった。

 

「…ブザーが鳴らねえ。」

 

その後少し待ってもオールマイトからの通信もない。

相手が行動不能になれば訓練終了を告げるブザーが鳴る筈だ、それが鳴っていないという事は、ヒーローチームがまだ行動可能という事。

 

「尾白、いいか。」

 

『なんだ轟、トラブルか?』

 

「悪い。直ぐ終わると思ったが、まだヒーロー側は諦めてねえみたいだ。警戒しておいてくれ。」

 

『了解!』

 

通信を切り、更に3階まで降りる。

階段を降りきった所で、向かいの上り階段を上ってくる音が聞こえた。足音は1つ、ヒーロー組のどちらかだ。

耳郎響香と龍征帝、どちらも個性が不明だが…

足下から冷気を発生させ、上り階段の出口を氷の壁で塞ぐ。これで何らかのアクションを起こすはずだ。

 

「先ずは小手調べ…」

 

と呟いたその刹那、さっき作ったばかりの氷の壁が弾け飛んだ。強い力で思い切り殴られたのか派手に欠片を飛ばしながら、それにこれは…熱!

 

「いきなり塞ぐなんて酷いじゃないの。」

 

溶けた氷を払いながら乗り込んできたのはヒットマンのようなスーツ姿に身を包む龍征帝…ならもう1人は何処に…

 

『轟、外に龍征の連れてた翼竜が飛んでる。監視されてるぞ!

それに…(ガッシャーン)うわあああっ!?』

 

「おい尾白、どうした!?」

 

「え?ザッハトルテに出荷された?クレームは受け付けておりませーん。プランBだ、HAHAHAHA!!」

 

向こうの無線も大波乱のようだ、まさか…あの翼竜が最上階まで耳郎を連れて行って、直接窓から投げたのか!?

 

「無茶しやがる…」

 

「ビルごと氷漬けにしようとした轟よりはマシでしょ。」

 

一足飛びに近づいてきた龍征の拳が頬を掠め、慌てて距離を置いてから氷で拘束を試みる。が、龍征の手袋に触れた途端氷が溶けて蒸発した。

 

「熱を操る…炎の個性か!」

 

「さあ?どうだろなッ!」

 

あの野郎と同じ個性…!!

 

熱波が吹き荒れ、張った氷を溶かしながら迫る顔面狙いの回し蹴りを頭引いてすんでのところで回避する。

冷気を部屋中に這わせて、四方から氷柱で拘束…駄目か、手袋に触れた途端熱で溶かされ大量の水蒸気を巻き上げた。

 

「足下がお留守!」

 

「わざわざ口で言ってくれてありがとよ…!」

 

右脚が払われる寸前に冷気を発動させて、今度は龍征の脚を固定。これで脚は封じた!あとは全身凍らせて……

 

「終わりだッ…」

 

「いやあまだまだ。」

 

龍征の口元が仄暗く光る、口から吐き出された濃い赤色の炎が流れるように体を伝って凍らせた脚に纏わりついて、瞬時に解凍された。

そのまま脚は振り抜かれ、バランスを崩した俺はそのまま流れるような手つきであっという間に組み伏せられて、後ろ手に拘束される。

 

『ヴィランチーム轟焦凍、拘束!残り1名だ!』

 

無慈悲なオールマイトのアナウンスが鳴り響き、漸く自分が捕まったのだと自覚した。

 

「は〜い一丁上がり、次行ってみよう。」

 

「くっ…随分拘束するの手慣れてんな。」

 

「生憎と、荒事には慣れてるんで。

でも氷と炎だからねえ、相性が良かったなこりゃ。」

 

にぃっと笑う龍征の口の端から炎が漏れた。

脚を凍らせた時、吐いた炎と熱を纏わせる様に操作したのか?こいつ、尋常じゃねえ程個性の鍛錬を積んでやがる…

いや違う、個性の相性だけじゃない…龍征の身体能力を侮っていた俺の慢心だ。

アイツと同じ炎熱系の力、それだけで俺は迷っちまったんだ。

こんな怠慢じゃ親父を否定する事なんて到底…

 

「どうしたの轟、腹痛い?顔がえらい事になってるぞ。」

 

「…ッいや、なんでもねえ。我ながら呆気なかったと思ってな。」

 

「そんな事ない。

あんたも凄いじゃん、氷の個性。ビルごと氷漬けなんて無茶苦茶な出力してさ、びっくりするぞ全く。」

 

びっくり程度で済ませるか…なんで此奴が入試一位じゃないんだ?だったらもっと警戒してた。

4匹の翼竜に自身の身体能力も高い、それに肝も据わってる。相当()()()()()()()()()()()()()。一般入試はロボットとの戦闘試験だったと聞いた。ならポイントも相当取れるはず…

 

「もしかしてお前、入試の時手ぇ抜いてたのか?」

 

「手ぇ抜くとかまさかそんな。

本気で壊すと試験自体が台無しになりそうだったから、ほどほどにしただけだし。私は運営側に配慮するデキた女だから。

まあ、ちょっと押し付けがましい善意もあったけど…」

 

一番になんてなる必要はない、私は人助けのできるヒーローになりたいからね。と俺の背中に乗ったままおどけたようにへらへら笑う龍征。

 

「お前、結構な狸だな。」

 

「んまっ!乙女を狸とはなんて野郎だ。

お前はハバネロカクテルの刑に処してやるから今度バイト先に来いコノヤロー。」

 

「なんだよ、ハバネロカクテルって…」

 

つうか龍征バイトしてんのか…雄英ってバイト大丈夫だったか?

 

 

 

少しして、上でも決着が付いたらしい。もう1人のヒーロー、耳郎が核に触れたらしくヒーローチーム勝利のアナウンスが聞こえてきた。

 

…今窓の外を尾白が落ちていかなかったか?

 

 

 

なんか疑問だらけだな、今日は。






出席番号21番

龍征帝

身長178cm(成長期なので)

誕生日7月27日

個性:帝征龍
鉄をも砕く牙を持つ、空飛ぶ翼竜を4匹従えて使役できる!自身も巨龍に変身でき、吐き出すブレスは強弱調整可能。熱ければ熱いほど炎の色が濃く黒くなるぞ!バーニング!
人間の姿でも龍化時と同じ頑丈さで口から炎を吐けるし、炎を手や脚に纏わせ強化する!掌に回して火球として放つ事もでき、応用の効く個性だ!
ただし、人の姿で炎を使い過ぎると乾燥してささくれたり、口の中が切れたりする!乾燥肌には気を付けよう!
龍化にもデメリットがあるらしいがはたして…?


特技:料理、裁縫、基本的に手先が器用

趣味:テレビゲーム全般、ゲーセンにも通う、ガチャは悪い文明

好き:虹演出、確定演出

嫌い:クソアプデ、子供大人

家族構成
義父:守屋ジェームズ
身元保証人:印照才子

脚…そんなに速くない

身体…超頑丈

力…龍ぱわースゴイ



A組に対しては基本下の名前を呼び捨て、男子は苗字を呼び捨て。蛙吹梅雨だけは語呂が悪いので「梅雨ちゃん」と呼ぶ。
先生には基本的に敬語を使う。
中学生時代生徒会長として生徒の見本でなければいけなかった反動で、雄英制服はかなり着崩している。爆豪ほどとはいかないが、ネクタイは緩いしシャツも出したまま、一目でだらしないと分かる様な格好。
個性の関係でハンドクリームを常備している。





もっと戦闘シーン書き込んだ方がええか?作者クソザやからできへんけどな(謎の関西弁)


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5 戦闘訓練その後

キャラの口調が分からん(致命的)

戦闘訓練その後とちょっとしたオリ展開
捏造設定ありの地獄へようこそ

なおオチはない模様






「怖かった…本っっっ当に怖かったァ…」

 

「帝、ちょっとそこ正座。」

 

戦闘訓練2回戦、響香と見事なチームワークによって完勝した私はオールマイト先生と解説の百ちゃんからお褒めの言葉を頂き、喜びを分かち合おうとルンルン気分で響香に話しかけてみれば、神妙な面持ちの彼女に控え室の隅で正座させられていた。

 

「解せぬ。」

 

「解せぬじゃないわ!私があの後どうなったか教えてやる!

ザッハトルテにぶん投げられて核の部屋に放り込まれたよ。んで尾白は戦闘になったガナッシュ達に尻尾燃やされながら外に放り投げられたんだよ!?」

 

「それで尾白の尻尾黒くなってんのか…」

 

「ぐすっ…」

 

尻尾の先に着いていた金色の毛は見るも無残なチリチリに焦がされていた、火傷にはなっていないようなので幸いか。

 

「私はガナッシュに敵を五階からフリーフォールさせろなんて命令出してない、だってその時私は轟と戦闘中だった。」

 

翼竜達は半自立型のドローンみたいなものだ、翼竜の見たものや伝えたい事は私に直接入ってくるが基本はスタンドアローン。

今回は「戦闘をしろ」という曖昧な命令を出した為、最適解として尾白君を五階から放り投げるという選択をしたらしい。

 

「まあ、無事で何より…」

 

「あんたはガナッシュ達にもっとしっかり命令できるように訓練した方がいいね。

そうしないと、将来レスキューの時困るでしょ。」

 

「ぐふっ…!!」

 

おっふ…痛い所を容赦なくクるな響香。

まあそこは私の今後の課題だ、あの翼竜共に適切な命令を下して制御しなきゃいけない。

……才子先輩の付き人やってた時は判断基準が『敵』か『味方』の二択しか無かったもんなあ…中学には翼竜を連れていかなかったし、統制はしてても制御の精度がイマイチらしい。

もっと優しくなれ私。そんなんじゃヒーローになれないぞ。

 

というか尾白君には悪い事しちゃったなあ…あ、そうだ。

 

「なんかすまんかった尾白、そうだなんかお詫びを…

そうだ!餓鬼道(ウチ)でよくやってたやつ、してあげよう。こっち来たまえ。」

 

「え…なに…ちょっと怖いんだけど…」

 

響香からやっと解放された私は怖がる尾白君の手を引いて、誰も居ない控え室外の廊下へと連れ出した。

ジャケットのボタンを外し、ワイシャツ姿になる。

 

「…んっ、はい。」

 

胸を突き出す

 

「……は?」

 

「…?どうぞ、揉みなよ。」

 

「……………………………?」

 

なんだこいつ、フリーズしてる?

 

いつまで経っても揉んでこないのでもう面倒くさくなった、尾白君の両手首を掴んで私の胸に押し当てる。

 

「これで元気出たか?」

 

「ふぉあああああああああッッッ!?!!?」

 

おおっ!元気出たな!

世間ではE~Fカップと呼ばれる位にはある胸の私、普段は肩が凝って邪魔なだけどこういう時に役に立つ。

いやーこれ中学の時、同期からどーーしても元気が足りないから補給させてくれって土下座されてから何度かしてたんだけどさあ、効果抜群なのよ。大体5秒くらい触ってればどんな奴も元気になる!顔を埋めさせれば更に倍率ドン!どんな鬱野郎でも一発で飛び起きる万能薬よぉ!

 

「元気になった、良かった良かった。」

 

「ちょっ…おまっ…胸っ……!?」

 

「元気がない時、こうすれば昂るって中学の同期がな…って、これアイツ以外にしちゃいけないんだっけ?まあいいか、時効時効。」

 

「くぁwせdrftgyふじこlp」

 

口から謎の言語を発する機械と成り果てた尾白君、大丈夫?まだもの足りなかった?もしかしてシャツ越しじゃなく直の方が良かったかな…流石にそこまで重症には見えないんだけど。

 

「ねえちょっと!なんか尾白の悲鳴が聞こえたんだけど何があっ…た…」

 

尾白君の首がブリキ人形みたいにギギギって動いて、半目になってる響香と視線が交差した。

 

「ち、違うんだ耳郎!俺は龍征に無理矢理…待って!手が離れない!

尋常じゃない力で固定されててビクともしない!?離せ龍征!このままだと変な誤解生むから!」

 

「おう響香、早速反省して実践してるぞ!

取り敢えず尾白君を励まそうと思って私の胸を貸」

 

 

 

「お前らちょっとそこになおれえええっ!!」

 

 

 

廊下に正座させられた、解せぬ。

 

 

その後、訓練の反省会とは別に私と響香の反省会は2度目の出番が来るまで続いた。

顔真っ赤になった響香の説教は凄まじく、あのオールマイトが注意しようとしても

 

「先生は黙っていて下さい」

 

の一言で追い払い、それ以降追及する事ができなかった。後に彼は「耳郎少女、怒ると怖いね…」と引き攣った表情で語る。

 

この日以降、尾白君と目が合うと露骨に逸らされる様になった。解せぬ(10行ぶり3度目)

 

 

 

え?もう1戦あったろって?

上鳴君と切島君はガッツはあるが特筆すべきことも無く二人とも腹パンして戦闘不能(上鳴君は個性の使い過ぎで自爆)にしたよ。私がヘマしないか監視してる響香の視線が怖かった!

 

 

 

 

 

 

 

 

男子更衣室

 

切島「かあー疲れた!俺全ッ然駄目だった…」

 

上鳴「位置は全部耳郎に割られてて、龍征にボッコボコだったもんな俺ら…」

 

切島「クソォ〜次は負けねえぞ龍征…んで、さっきから尾白どうした?」

 

瀬呂「おーい尾白?尾白くーん?どうしたんだ一体…」

 

切島「訓練終わった後からずっと上の空になってんな、なんかあったのか?」

 

障子「分からない…だか尾白の様相に既視感を覚えている俺がいる。…まさかな。」

 

常闇「幻惑か?」

 

女を知った尾白猿尾「……柔らかかった。」

 

「「「「「何が!?」」」」」

 

峰田「(なんだろう…オイラすっげえ損した気がする。戦闘訓練やってる間に、何か大事なワンシーンを見落としたような…心に刻み付けなきゃならねえ光景を見逃した様な…そんな虚無感…)」

 

上鳴「峰田!?オマエ今すんげー顔になってんぞどうした?」

 

ラッキースケベ猿尾「でかいマシュマロ…」

 

砂糖「尾白がうわ言呟きながらわなわなし始めたぞ!?」

 

瀬呂「めっちゃ尻尾振ってる…いやホント何があった?」

 

轟「(龍征帝、次は必ず俺が勝つ…!!)」

 

緑谷「(授業の終わり際、オールマイトがかつてないほど張り詰めた表情だったのはなんでだろう…?それにかっちゃん、大丈夫かな…)」

 

 

 

 

 

 

 

 

女子更衣室

 

 

「帝はもっと恥じらいを覚えな、勘違いする奴絶対いるから。

そんなんでよく治安の悪い餓鬼道中に居られたよね。」

 

「餓鬼道の時は私より強い奴がいなかったから、襲われるとかは無かったぞ。」

 

さっきのアレは女子の入れ知恵だ。ああすると元気が出るって会計の子が言ってた。

 

「男にやったのはアレが初めてだわ。」

 

「尚更悪いわ!餓鬼道の風紀どうなってんの!?」

 

「男女交際はキスまでならセーフ。」

 

「「「禁止じゃないんだ!?」」」

 

そういや私と付き合いたいって言ってきた男は何人かいたな、才子先輩に相談したら翌日そいつ等は謎の失踪を遂げてたけど。

なんつーか、私って羞恥心が薄いんだろうか?付き人してた時も才子先輩によく怒られてたな、私の倫理観や恥じらいは一般人のそれとはズレているようだ。

さっきだって私は善意で尾白君を元気づけてあげようとだね…

 

「駄目だ、力の縦社会で生きてるから余計そういうのに鈍い…」

 

「帝ちゃん、餓鬼道出身だったの!?」

 

「そうだよ、生徒会長だった。」

 

「餓鬼道といえばドラマの題材にされるくらい不良生徒が多い事で有名な学校ね。」

 

そういえばそうだね、過去にゴールデン番組で高視聴率を記録した学園ドラマ『ごくティー(極道ティーチャー)』はウチの学校の空き教室で撮影されたんだっけ。大人数のシーンで出てくるエキストラは大体ウチの腐ったミカンだ。

学校の意識改革の一環で、印照家のコネを使って餓鬼道でドラマ作ろうって企画が持ち上がったんだ。

あいつ等普段不登校やら授業放棄で舐め腐っとる癖にテレビが来ると分かった途端出席率跳ね上がるんだよ、ミーハーかよ…

 

「ごくティー、ウチも見てた!

面白かったよね!若い俳優さんもいっぱい使ってて、最後に先生が大体暴力で解決するの!」

 

「たしかスネークヒーローウワバミも保健室の先生役で出てたはず!」

 

「ドラマだからね、現実はもっと…うん。」

 

「帝ちゃんが戦場から帰ってきた兵士のような顔に!?」

 

「けろっ…大変だったのね、生徒会長。」

 

分かってくれるか梅雨ちゃん…私の苦労を。

 

「スケジュール管理、撮影陣への配慮、騒ぐ馬鹿どもの鎮圧…ふふ…あの頃は休む間もなくて…

因みに、生徒会長龍道寺のモデルは私。」

 

「ええっ!ほんと!?」

 

「マジマジ。」

 

ドラマ内にて、主人公が担任をする不良共を集めたクラスを取り潰して全員退学にさせようと画策する女生徒会長。柔道五段空手八段、憎まれ役の生徒会長が物語にいたのだが、そのモデルは私だ。馬鹿どもを鎮圧する様子を見た監督が急遽脚本に加えたらしい。

 

「凄い話聞いちゃったかも…」

 

「私、あのドラマの大ファンでしたの!是非舞台の裏話などお聞かせください!」

 

百ちゃん食いつきが半端ないぞおい、お嬢様に見えて意外と俗っぽいな。

感心する女子達を見ていると、やっぱテレビの効果って凄いんだなとしみじみ思う。

餓鬼道の印象を良くする為の印象操作、焼け石に水程度の成果だったけどやらないよりはマシだった。先生のやる気も凄かったしね。

 

「まあ実際の不良校は1クラスだけとか生易しいものじゃないし、アテにならないけどな。」

 

「そこはドラマだもんね。」

 

話の種になるのなら、やって損はなかったのかな?

 

「話はズレちゃったけど、要は易々と肌を見せるな!胸を貸すな!

兎に角アンタは男どもの目に悪い身体してんだから!」

 

なんか私怨篭ってない?

 

「分・か・っ・た?」

 

「アッハイ」

 

 

 

 

 

 

 

放課後

 

皆はこれから反省会と称して集まるらしい、私はバイトだ。集まるんなら今日休みにしておけば良かった。

 

「雄英ってバイト大丈夫だっけ…?」

 

「バイトっつっても、世話になってる叔父の手伝いみたいなものだから。学校側に許可は貰ってるよ。」

 

勿論、そっちにかまけて成績が落ちた場合は相応の合理的処分が下されると相澤先生から仰せつかってますがね。

 

「なんのバイトをされてますの?」

 

「喫茶店…軽食屋…?そんな感じ。」

 

夜にはバーもやってるそうだが基本は義父の気まぐれだ。

 

「個性把握テストの時も相澤先生が言っていたけど、これからプロヒーローになるために雄英に通う上でバイトしている余裕があるのかしら…?」

 

「その辺は折り合いつけてやるつもり。既に3年世話になってるからね、私なりの恩返しなのさ。」

 

5歳の時預けられてから実に10年間、印照財閥には相応の恩がある。手伝いはやってて嫌じゃないし、できる限り続けたい。

あと金!足りないの!新作のゲーム買いたいし課金したいの!

 

「そっか…今度私達も遊びに行っていーい!?」

 

「うん、今日貰ったアドレスに場所と店名送っとくからいつでも遊びに来な。」

 

「わーいやたーっ!」

 

葉隠透ちゃん、嬉しそう。凄いキャピキャピした子だ、顔見えないけど。

プロヒーローを目指し、毎日が鍛錬と非日常で彩られる雄英高校ヒーロー科でも、羽を伸ばしたい時だってある。マックで談笑は諦めろ?甘いな、年頃の女子高生パワー舐めんな。遊ぶ時は遊んでこその青春、華の高校生だ。

 

帰りのHRも終わり、私の雄英高校1日目はこれにて終了した。背中のリュックには名前を付けられた翼竜達、片手には鞄を持って、雄英の巨大な門を潜る。神妙な面持ちの爆発頭とすれ違ったけど何があった?

 

A組女子のアドレスは全員分貰ったし、かなり仲良くなれた。これは高校デビュー大成功なんじゃなかろうか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

とある寂れた商店街。

行き交う人はまばら、昼間でもシャッターのしまった店の方が多い此処の街並みは、如何にも不良の溜まり場って感じだ。実際の所3年前までは、通りには煙草の吸殻がゴロゴロしていたし、ヤンキー座りのツッパリ共で溢れかえったかなり宜しくない景観の商店街だった。

これでも少しはマシになった方なのだ、シャッター街なのは大手スーパーに客を取られて廃業したり、高齢化による店じまいなのもある。

そんな商店街の一角、この街で唯一、私行きつけの古ぼけたゲームセンターがある向かいに、『オールドスパイダー』はある。

 

 

「ただいま店長。」

 

「やァおかえり帝チャン。入学初日はどうだった?」

 

聞き慣れた鈴の音の鳴る木の扉を開けると、寂れた商店街とは正反対のシックで落ち着きのある空間が広がる。

『オールドスパイダー』、才子先輩の叔父にあたる人物で私の義父、守屋ジェームズが経営する喫茶店兼軽食屋兼バー。彼は無個性だが、それを補えるほど多彩な才能と頭のキレで印照財閥を陰で支えている財閥影のブレーン(本人談)らしい。

 

「不良校出身だから避けられるかなって思ってたけど、そうでも無かった。」

 

「そりゃあ全国から集められたヒーローの卵が通う学校だもの、出身校だけで判断するような矮小な人間は居ないだろうサ。

早速だけど着替えたらあちらのお客サマに特製メイプルパンケーキを二つ、お願いできるかい?」

 

「んー、すぐ作る。」

 

カウンターの扉から入って裏に回り、鞄とリュックを降ろして翼竜達を解放。そんでいつもの場所に掛けてある制服に着替えて髪を上げ、厨房へ向かう。

この店は当たり前ながら個人経営だ、従業員も私と店長ともう1人のバイトの3人だけ。ドリンクは店長、料理は私達がやる。

そんな感じでゆるゆると回しており、客の入りは平日15人超えたら多い方、殆どが商店街の常連と向かいのゲーセンで遊んだ後のヤンキー共。採算取れるかって話だけど、私に給料出せる位には儲かってるんだろう。金勘定は店長の仕事だから分からない。元々趣味でやってるような店だし多少はね?

 

「店長、今の子は?」

 

「我が城のお姫様だヨ。今日から雄英に通うヒーローの卵サ。

そして喜ぶといい。彼女が出勤するならさっきお断りした当店特製パンケーキは解禁だ、少しお待ちを。」

 

「やったー!

この時間に来て良かったー!」

 

「パトロールの合間にサボりなど…」

 

「たまの息抜きも大事なお仕事でしょ!

そーいえばシンリンカムイは雄英出身よね、後輩よ後輩!」

 

「…うむ。」

 

パンケーキを焼いてると、表から店長の話声が漏れてきた。…お姫様て。

つーか奥の席に居た客ヒーローだったのか。

Mt.レディとシンリンカムイ、どっちも実力派の若手ヒーローだ。パトロールの自主休憩(サボり)中らしい。

ま、ずっと張り詰めてても良いことないし、誰も責められないでしょ。

 

 

……っと、パンケーキはこれでOK。焦げ目も無いし上々な出来栄え。あとは皿に盛って〜…ホイップクリームとメイプルシロップを良い感じにぶっかけて、アクセントに苺をちょこんと載せれば完成。喫茶オールドスパイダー特製メイプルパンケーキ(税込750円)だ。因みにこれ、私が出勤してる時以外は販売していない。店長はパンケーキを焦がす(無慈悲)。

 

 

「特製メイプルパンケーキ2つ、珈琲とメロンソーダお待ちどうさま。追加のシロップも置いておきますので、ご自由にどうぞ。」

 

トレイに載せたパンケーキを2人の席まで運ぶ。

 

「キャーキタコレ!美味しそう!インスタ映え必至!」

 

「…甘そうだな。」

 

「要らないなら私が食べてあげるけどぉ?

ここはシンリンカムイの奢りだしー。」

 

「なっ…そういう話だったか!?我は一言も…」

 

「あーキコエナイキコエナイ、パンケーキ美味しー!」

 

確かMt.レディは巨大化する個性で、敵を圧倒できるけど街の修理費で天引きされるから金が無い…ってのを特集で言われてたな。

 

「して、君が今年の雄英ヒーロー科1年生か。」

 

「はい、そうです。」

 

「ヒーローとは決して楽な仕事ではない。かといって、なくてはならない存在だ。君がどんなヒーローになりたいのか、じっくり考えながら三年間雄英で学んで欲しい。」

 

シンリンカムイ先輩の有難い激励のお言葉に無言で頷く。急に雄英の後輩とか言われても困るだろうに、優しい人だ。

その向かいでパンケーキを頬張る緊張感皆無のMt.レディ。

 

「当面の目標は雄英体育祭ねー、テレビやスカウトの目にも留まる晴れ舞台だし。目立てば一気に注目の的!

あ、苺もーらいっ。」

 

「Mt.レディ貴様、我の苺を!!」

 

正直知名度とかはどうでもいいんですがね、取り敢えずは外部でも個性を使っていいヒーロー免許と、雄英卒業の実績が貰えればそれでいいなあ。いちいちリュックに翼竜を詰めるのは面倒だ。箔なんてあっていいことないし(過去の自分を振り返る)。

 

餓鬼道の女帝…不良会長…うっ頭が…

 

 

 

なんか緊張感もクソも無くなったので適当に挨拶して私は厨房に引っ込んだ。可哀想だから苺はシンリンカムイにもうひとつオマケしてあげよう。

 

 

 

 

 

 

「ご馳走様でしたあ!

いやーいいお店見つけちゃった、今度はデステゴロも連れてこようね。」

 

「今度は自分の金で食え…

騒がせてすまない。パンケーキ、とても美味かった。」

 

「ありがとうございました。」

 

「またおいでネ〜。」

 

お客様をお見送りした後、喫茶店の閉店時間である20時まで勤務したが来客は殆ど無かったので、店内のテレビでゴールデンのヒーロー特集を眺めてた。

 

 

 

…あ、英語の課題やらなきゃなあ。

 

ヒーロー科、明日はどんな事するんだろ?

 




喫茶パートはちょくちょく原作キャラを来店させる予定、もう1人のバイトもそのうち出す。ちょいキャラだけどね、仕方ないね。


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6 委員長、君に決めた!


日常会の雑さ凄い(小並感)






「…じゃあ、クラス委員長は4票獲得した龍征。副委員長は2票の八百万な。頑張れよ。」

 

「くっ…やはり生徒会長就任経験のある龍征さんが有利でしたか…」

 

「……どうしてこうなった。」

 

 

 

 

 

はぁーーいぃーー!?!?

 

なーにーゆーえー?

 

私が委員長せにゃならんのじゃ?

私は八百万ちゃんに入れたぞ?メガネ飯田君でも良かったけど、彼女の方が委員長に似合う気がしたぞ?それを押しのけ何故私が?委員長?どうかしてる。

 

始まりは朝のHR、相澤先生の悪魔の一言から始まった。

 

「委員長を決めてもらう」

 

『クソ学校ぽいヤツ来たァーッッ!!』

 

雄英高校は倍率驚異の300倍、日本全国から個性含め我の強いティーンエイジャーがやってくる。そしてこの教室はヒーロー科、倍率300倍を越えた猛者21人が集まる場所。

 

当然、自己主張が激しい。あの賑わいから分かる通り、皆が皆自分に投票するもんだと思ってた!だって日本屈指の我の強さを誇る雄英高校1年A組ですよ、普段そういう事興味無さそうな響香だってノリノリで立候補してる位だから、きっと私なんて放っといて勝手に決まると思ってた。

 

だから私は余裕で百ちゃんを指名した。見た感じ委員長気質でリーダーシップあるし、個性万能だし、おっぱいでかいし!…最後は関係無いな。どちらにせよ教室の隅で目立たないよう伏せている私が就任する事はまず無いだろう、そう考えた。

だがしかし、蓋を開ければこれである。私に4票も入ってた。恐らく私が餓鬼道で生徒会長をやっていたと昨日更衣中に漏らしたからだ!まだ皆出会ってから日も浅い、だから端々の情報だけで判断したんだろう。

 

私が生徒会長をやっていたのは、手の付けられない不良共を力で締め上げて拘束する為だ。決して統率力とか支配力とか関係無いし、寧ろ私は誰かに付き従う方だ。実際才子先輩の付き人やってたし…

そもそもこういう仕事は成績の良い奴がやる事だろ、私は入試ギリギリ通過だったってネズミの校長先生が手紙で教えてくれたぞ。思ったよりポイント低かったよなあ、周りに遠慮せずもっと派手にぶっこわしゃ良かったかな…

 

 

「数の暴力…民主主義は敵だ…」

 

「龍征さん!?急に黒く…というかアカくなってますけど大丈夫ですか!?」

 

「決まった以上はしっかりやれ龍征、お前の仕事だ。じゃああと宜しく。」

 

死体袋(寝袋です)から顔だけ出した相澤先生はさっさと教室から出て行った。合理的っていうか自分の興味無いことにとことん無感情なだけでは…?

もうすぐ昼だし、委員長から解散を宣言しろという事らしい。

はー無理、マジ無理。

 

取り敢えず…

 

「私に投票した奴は全員ハバネロカクテルの刑じゃ…解散。」

 

『ハバネロカクテルって何…!?』

 

(…俺の時も言ってたな、それ。)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぬわああんで私が委員長なんじゃ!?

嫌じゃ嫌じゃ…毎回授業が始まるたびに一々立ち上がって号令するんは面倒じゃ。私は教室の隅っこで寝ていたいんじゃ…」

 

「嫌過ぎて雑な広島弁になってる!?」

 

「寝るのも問題だろ…」

 

お昼は今日も食堂だ。例の如く心操の隣、昨日誘えなかった障子君も誘ってのご来店。

大盛りのカツ丼をかきこみながら涙ながらに訴える。

 

「多数決で決まったものは仕方ないぞ龍征、それだけお前が信頼されているということだ。」

 

「やかましい、どうせ私が餓鬼道で生徒会長やってたって理由だけで投票したんだろくっそ…言うんじゃなかった。」

 

(実はウチも帝に投票したけど黙ってよう…)

 

「そんなに嫌か?委員長。」

 

「使役するのは翼竜だけで十分だ。

委員長っつったって要は雑用係でしょう?特段目立ちたい訳でも無いし…あーあ、誰かに押し付けられないかな。」

 

やるなら今日中にだ、なあなあで定着してしまった後では変えづらい。

 

「そ、そういえば今日、なんかマスコミ多くなかった?ウチも登校中インタビュー迫られて困っちゃった。」

 

「俺もコメントを求められた、オールマイトが教鞭を取った事が余程気になるらしい。」

 

響香と障子君がぼやく。

そういや私も今朝登校中に聞かれたなあ…手当り次第に声掛けてんのか、節操ないな。流石はマスコミ。

つか情報統制はどうした、ガッバガバかよ。

 

「オールマイトは世界的に有名なヒーローだからな、それがいきなり教師になったらそりゃ騒ぐだろ。」

 

うどんをつるつる啜る心操の言う通り、騒ぎ立てたい気持ちも分かる。

アメリカで言うところのス〇ローンやシュ〇ルツェネッガーが急に先生になりましたなんて言われたら誰だって話題に挙げるだろう。私だってそうする。実際シュ○ちゃんが何年か前に州知事になった時日本でも連日報道されていたからね。

 

「問題はオールマイトが先生になった事でマスコミ以外が釣られて雄英を襲おうとやってくる事じゃない?オールマイトって割と多方面のヴィランに恨まれてるし。」

 

「まっさかあ、総理官邸よりセキュリティがキツいと噂されてる雄英高校だよ?」

 

「それに加え、雄英の教師陣は皆プロヒーローだ。常時厳戒態勢と言っても過言では無い。」

 

そんなもんかねえ。

 

「随分心配症だな龍征。思う所があるのか?」

 

「心配ってか、逆になんで皆そんなに落ち着いてられるのよ。此処はプロヒーロー育成の場で、此処に勤めてるプロヒーローは教師として私達卵を守らないといけない立場。更にオールマイトが教師に加わって話題性も抜群なんでしょう?私がヴィランだったら真っ先に此処を襲撃するわ。

生徒1人傷付けるだけでオールマイトどころかヒーローの評判を貶められる。」

 

殺すより守る方が難しいって、義父も言ってた

 

 

あの手の人達が大好きなのは『いい報せ』より『悪い報せ』だもの。

仮にヴィランが雄英を襲撃して、生徒の一人に掠り傷でも付けようものなら喜んでマスコミは取り上げるだろう。

守れなかったヒーローと、助からなかった生徒の話を大袈裟に。

 

他人の不幸は蜜の味ってね。

 

世の中には千差万別色んな個性があるのだから、セキュリティを突破出来るような狡い個性があっても不思議じゃない。今までそうならず、雄英に限らず今の超人社会が成り立ってるのは、法による拘束とオールマイトの影響が大きいからだ。実際のところ超常黎明期の個性による犯罪率は今の何倍もあったらしいし、オールマイトという平和の象徴(抑止力)がいなければ、世界の犯罪率が20%なのに対して日本が5%なんて嘘みたいに少ない数字にはならないだろう。

 

「まっ、そうならないように大人達は厳戒態勢で頑張ってるんだろうけどな。生徒の私達が平和に胡座かいて備えもしないのは不味い。」

 

ヒーローはいつだってハンデに縛られて、それでも護らなきゃならない。未熟な私達はそのおこぼれに預かってるだけだ。

 

 

「帝って普段眠そうにしてる癖に、そういうのはちゃんと考えてるんだ…」

 

「…真面目に答えたのになんで私急にdisられた?」

 

「だが、平和に胡座をかいてはならない、か…心構えは参考になるな、やはり龍征が委員長に相応しいんじゃないか?」

 

「い'' や'' ぁ'' !!」

 

「どんだけ嫌ならそんな声出んだ…」

 

 

やぁーなの!面倒臭いの!中学校3年間でそういうのは懲りてるのぉ!

 

 

 

 

 

 

 

 

『緊急警報発令!!――“セキュリティ3”が突破されました。生徒の皆さんは屋外へと避難してください。これは訓練ではありません。――繰り返します――』

 

「あー?」

 

「…へ?」

 

「は?」

 

「オイオイ…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

教室の窓から飛ばしたガトーからの報告、校門を破って大量の報道陣が侵入してきたらしい。バイオハザードのゾンビみてえな人の波が押し寄せて、オールマイトを出せと喚き散らしてる。…手榴弾投げ込めばマルチキル取れそうな光景だな(ゲーム脳)

 

「…セキュリティを突破したのはマスコミ、相澤先生と山田先生が嫌々対応してるみたいだね。」

 

「山田…?」

 

「プレゼントマイク先生の本名。」

 

「何それ初耳学。」

 

「…お前の翼竜ホント便利だよな。」

 

「幾ら取材の為とはいえ、ちょっとやり過ぎなんじゃない?不法侵入じゃん。」

 

「侵入して来たのがヴィランの類ではないのが分かった訳だが、この騒ぎをどうするか…」

 

障子君の眺める向こうには、食堂の出口から我先にと出ていこうとする生徒の波が広がってる。さっきのアナウンスに怯えたんだろう。

 

「何!?龍征君、それは本当か!?」

 

「あ、飯田じゃん。それに緑谷と麗日も。」

 

皆出口に向かって逃げようとしてるのに、私達は落ち着いて座ってるのに気付いたA組3人が駆け寄ってくる。

 

「耳郎さん龍征さん、さっきの話本当!?」

 

「んー、翼竜が確認したから間違いないぞ。」

 

「ならそれを皆に伝えなければ!」

 

「この恐慌状態でどーやって伝えるの、下手に大声出しても余計混乱を招く。」

 

現に上鳴君と切島君はさっきから声を上げようとして人混みに呑み込まれた。二人共、南無三。

 

「それは…

!そうだ麗日君!僕に無重力を!」

 

「え!?…うんっ!」

 

お茶子ちゃんにタッチされ、ふわりと浮いた飯田君が足のエンジンを吹かし、慣性に従ってぐるぐる回転しながら入り口上の壁に叩き付けられた。ポーズが完全に非常口な件。

 

「皆さん、大丈ー夫!

只のマスコミです、大丈夫!此処は雄英、最高峰の人間に相応しい行動を取りましょう!

落ち着いて!ゆっくり!」

 

皆の注目が集まったタイミングで飯田君の声が通ったので、生徒達は落ち着きを取り戻したようだ。目立った事故も起きていないようだし、良かった良かった。

 

 

 

…そこで私の灰色の脳細胞がフル回転し、閃いた。この手があったな。

 

「これなら押し付けられる…」

 

「うわっ、帝がすっごい悪い顔してる…」

 

「ヴィランも顔負けだな。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

キーンコーンカーンコーン、授業が始まる。

その前に…

 

「HRの前に、委員長である私から提案があります。

昼休憩中の不審者騒ぎを経て、己の無力を実感しましたので私こと龍征帝は委員長を辞退し、後継を飯田天哉君に任せたいと思います。」

 

ハキハキと一言一句丁寧に、中学校時代に培った「余所行き口調」で私は告げる。

突然の私の発言に皆の注目が集まった。よしよしこの調子…

 

「先の不審者騒ぎ、飯田君はその判断力を駆使して混乱した場を沈め、事態を収拾しました。私はその功績を高く評価しています。」

 

「確かに…食堂じゃ飯田頑張ってたな…」

 

「非常口みたいなポーズで頑張ってた。」

 

食いついた…!切島君と上鳴君、あの二人は食堂で活躍する非常口飯田を間近で見ていたはず。いい援護射撃だ。

 

「故に、至らぬ私がやるよりも、やる気も統率力も高い飯田君が委員長に適任だと思います。」

 

最後にそう締めくくると、次第にクラスメイトの声は大きくなり、飯田君を支持する声が増え始めた。トドメに本人確認を…!

 

「という訳なので飯田君、委員長の職は貴方に引き継ぎたいのだけど、どうかな?」

 

自分でもドン引きするくらい表情筋動かして、余所行きの笑顔で非常口君に微笑みかける。手は前に組んで少し前屈み、頭も下げて上目遣い!

「貴女の本気の笑顔は人を殺すわ」と昔鼻血流した才子先輩に褒められたからね、笑顔には自信ある。普段表情動かさないから反動で翌日軽く筋肉痛になるがそれはそれ、背に腹は替えられん!

 

「だめ、かな…?」

 

「……ッ!?ぼ、俺でよければ喜んで!

謹んで職務を全うさせて頂こう!」

 

「良かった、じゃあそういう事で!」

 

私は平穏を取り戻したッ…計画通りッ!!

 

心の中で渾身のガッツポーズをし、顔がほんのり赤くなった飯田君と教壇を入れ替わって悠々と席まで戻る。はいそこ百ちゃん、「上手いこと理由付けて委員長から逃げましたわね…」って顔しない!私だってタイヘンココログルシイですが、向いてないから仕方ないもんなあ!

そして目を閉じ、私は夢の中へと誘われた…すやぁ…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇とある合理主義者side◇

 

 

「龍征君から託された、飯田天哉だ!

委員長の名に恥じぬよう、粉骨砕身努力する所存。どうか宜しく頼む!」

 

「頑張れよー非常口飯田!」

 

「宜しく頼むぜ非常口!」

 

「頑張ってね、飯田君!」

 

「つーか龍征あんな表情出来たんだな、いつも仏頂面だしなんか新鮮だ。」

 

「な、すっげえ可愛い笑顔だったぞ。飯田カオ赤くしてたし。俺もちょっとドキッとした…あざとい…」

 

「ミカドっぱい…八百万以上か…?オイラのリトル峰田が臨戦態勢になりそうだぜェ…ふへへ…」

 

「峰田が何か悟った様な表情に!?」

 

「帝のやつ、昼間のはこれだったのか…」

 

 

委員長を託された飯田が張り切るのをよそに席に戻って眠りにつく龍征の様子を寝袋から眺める。

 

雄英高校1年A組出席番号21番、龍征帝。

出身校は「落ちこぼれの掃き溜め」と呼ばれ不良ばかりが集まる餓鬼道中学校、例年ならば書類選考の時点で落選が決まっている『特別指定危険校』だ。

雄英高校は日本有数の名門、故に評判に耳聰い。これは非公開の事柄だが、餓鬼道中学校は全国的にも類を見ない荒れた学校。県外でも有名だ。雄英の教師陣はともかく、ヒーロー公安委員会や頭のお堅い教育委員会の人間にとって餓鬼道中学生は目の上のたんこぶだった。

校風がそうさせるのか、集まる連中がそうなのか、世間から避けられた爪弾き者達が集まる文字通りの『掃き溜め』。

そんな学校の生徒会長。試験監督を務めたヒーロー公安委員会からなる審査員の殆どは書類選考の時点で彼女を見限っていた。

そんな審査員達は彼女の実技試験で驚愕するハメになる。

飛び立つ4匹の翼竜を操ってポイントを稼ぎ、最後には0ポイント(お邪魔ロボ)すら木っ端微塵に破壊する実力と負傷した生徒を助ける様子も記録されており、とても底辺校とは思えない活躍ぶり。前評判を見事にひっくり返した彼女のポイントはどう低く見積もっても学年トップに匹敵する成績だ。

映像を見た審査員は掌を返し前言撤回。急遽、21人目のA組生徒として雄英に入学する事になった。

しかし実際のところ…

 

「なんだあの個性は?操作系に加えて増強系も兼ね備えている…変身系もか!?」

 

「あのロボットを融解させる程の熱攻撃とは…なんて恐ろしい個性だ。」

 

「もし彼女がヴィランになりにでもしたら、日本の被る被害は計り知れない。」

 

「何より餓鬼道の生徒だ。

彼女は雄英でしっかりと飼い慣らして、首輪を付けておくべきかと。」

 

以上が校長から聞かされたヒーロー公安委員会の審査員達による龍征帝の合格理由だ。大人の都合に付き合わされた龍征は入試トップの成績ながら採点調整され、合格ラインギリギリの点数で雄英高校へ入学した。これは過去でも類を見ない異例の処置であり、これには校長もかなり反対したらしいが、如何に「自由」が売りの雄英高校でも支援団体にもなっているお上の決定には逆らえなかったらしく、この結果と相なった。それに関して日頃の溜まっていた分まで何度か愚痴を聞かされたのは実に非合理的だったが…

彼女が将来ヴィランに堕ちるのを防ぐ為の処置。

非常に合理的で無駄がない。が、校長は「彼女にも目指すヒーローの形がある。それがある限り、雄英高校は龍征帝君を見捨てないよ。」とヴィラン堕ちを回避する『お情け』ではなく、彼女の決意を後押しする為の合格だと俺に話した。

 

 

…正直なところ、見込みがある無しで判断するなら彼女に見込みは『ある』。

緑谷の不安定なチカラとは違い、龍征の個性は完成されていた。

鋼鉄を溶かす熱を吐き、砕く牙を持つ翼竜を4匹使役し、本人も巨龍に変身可能。そして先日の戦闘訓練を見る限り、相当個性を理解し鍛錬を積んだんだろう。吐いた炎の操作、温度の強弱、そして技への応用、ともに及第点だ。

 

恐らく人間の姿でも龍の時と同じ身体能力を発揮できるんだろう。体力測定の時に確信した。

龍征が握力計を砕いた時、俺は〝抹消〟を使用していた。にも関わらず計器は粉砕、つまり彼女は素で1000キロは耐えられる設計の握力計を破壊した事になる。そんな生徒は当然、増強系持ちの者すら過去にも類を見ない。他の競技にしても、明らかに手を抜いていた。

徹底的に破壊に適した個性。仮に敵にまわしたとして、被害を鑑みると厄介この上ないヴィランとなるだろう、審査員が危惧するのも頷ける。

だが逆にヒーローとして世に出れば、オールマイトにも匹敵する抑止力となりえる強力な力、それが龍征帝には備わっていた。

 

本人はレスキューヒーロー志望と聞いているが…

 

彼女は孤児で、今の戸籍は印照財閥、日本有数の大財閥の庇護下にいる子が何故不良校なんぞに在籍していた?拾われた時期と在籍していた孤児院の情報はあったが、印照家に引き取られてから足跡がパッタリ途絶えてしまった事も気になる。

調べれば調べるほど情報は錯綜し、龍征帝の本性を掴む事が出来ない。まるで蜘蛛の糸に絡まったかのように、彼女の身辺調査は難航した。

龍征が身を寄せる印照家。彼処の一族は代々個性〝IQ〟を持ってる、将来的に雄英を取り込む為の尖兵として彼女を寄越したのかもしれない。なんて馬鹿げた陰謀論も頭の隅にあったりするが…まああちらさんの家庭事情だ、俺には関係無い。

 

 

兎に角、そんなイレギュラーだらけで別の意味で問題児な彼女をどう導くか、雄英高校の手腕が試されている。

 

 

教師にもPlus ultra(良き受難)を迫ってくるとはな…本当に、掻き回してくれるよ、龍征帝。

 

 

 

 

 

 

 







相澤ニキ、去年の1年見込み無しっつって全員除籍にしたのは良いけど絶対何人かに恨まれてそうだよなって思いながら書いた6話。原作で話進んだらいつか「あの時入学初日で俺達を除籍させた恨みィ!」とか言われながらボコボコにされそう。半端な覚悟でヒーロー目指した奴がヴィラン堕ちする未来は考えてなかったんやろか?ま、その程度でヴィランになる奴は元々ヒーローに向いてないか。考えるの止めよ(思考放棄)


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7 問:学校にテロリストが攻めてきたらどうすれば良いか答えよ

GWだね、平日学校や仕事を頑張ってる人はしっかり休んで、遊んで英気を養ってほしい。それはそうと男爵は仕事です、是非もないよネ!

(´・ω・`).;:…(´・ω...:.;::..(´・;::: .:.;: サラサラ..




「今日の訓練は…これだ。」

 

相澤先生がどっかから取り出したプラカードに書かれていたのは『RESCUE』の文字。

今日のヒーロー基礎学はレスキュー訓練、コスチュームに着替えてバスで移動するらしい。

 

「こういうタイプのバスだったか…ッ!!」

 

バスに乗りやすいように予め整列させたが、意味なかったね非常口飯田。まさかの路線バスタイプとは、この海のリハ〇の目を以てしても見抜けなかったよ。どんまい。

 

私の隣は轟だ。翼竜達は私と八百万ちゃん、麗日ちゃん、響香の膝に1匹ずつ乗って到着まで寛いでる。

手前の席の梅雨ちゃん達も会話が弾んでいるようだ。

 

「けろっ、爆豪ちゃん。個性は派手だけど人気出なさそう。」

 

「こんな短い付き合いで既にクソを下水で煮込んだような性格してるのか分かっちゃってるからな。」

 

「五月蝿ェ殺すぞ!つかなんだテメーのそのボキャブラリーはァ!!」

 

「かっちゃんが弄られてる…流石雄英…!」

 

爆豪の評価が母校と同じな件。

皆元気だなー、私はフレと朝まで素材集めやってたから眠い眠い…イベント期間中だからね、仕方ないね。

 

「眠い…」

 

「お前何時でも寝てるな。」

 

「眠いもんは眠い、着いたら起こして…」

 

「自分で起きろ。」

 

素っ気ないぞ轟コノヤロー、女の子に優しさくらい見せろよな。

 

(美男美女かよクソォ俺も龍征の隣がよかったぜそうすりゃあのミカドっぱいを堪能でき)

 

…なんか後ろの席でボソボソ聞こえるけどなんなんだろ。確か私の後ろに座ってたのは無口な口田君と身体の小さな峰田君だっけか。

 

「お前らその辺にしとけ、そして龍征は起きろ。もうすぐ到着だ。」

 

相澤先生の視線の先には大きなドーム状の建物がそびえ立っている、バスはそこに向かっているようだ。

 

 

 

 

 

「帝、手に何塗ってんの?」

 

「んー?保湿クリーム、個性で掌に熱を回すと後でカッサカサになるから。そのまま放置してると逆剥けたりひび割れるんだよね。」

 

「乙女の天敵みたいな副作用だな…」

 

逆剥けはなーきついぞー、皿洗ってる時に急に指がぱっくり割れた時の激痛は筆舌に尽くしがたい。物持つのも苦労するんだぞ、保湿ケアは大事だ。その為の手袋とクリームである。

 

「ようこそ皆さん、嘘の(U)災害と(S)事故ルーム(J)へ!お待ちしてました!」

 

「13号だ!私大好きなの!」

 

お茶子ちゃんが嬉しそうに叫ぶ。

出迎えてくれたのはレスキューヒーロー13号!私も一気に目が覚めた!

 

諸君、私は13号が好きだ。大好きだ。〝ブラックホール〟という、あらゆるものを吸い込みチリに帰す凶悪な個性を持ちながらその力を災害救助に使うレスキューヒーロー。

力の扱い方を熟知し、それを救助に役立てる。彼を見ていると、私みたいな破壊しか能のない個性でも人が救えるかもって思うのだ。

…化け物だってヒーローになりたいんだよ。

 

13号先生からありがた~いお小言を脳に刻み付けたあと、指示に従って行動しようとした時、突如ブラウニーが何かを感じ取った。

 

「なにあれ、噴水のとこ。」

 

ここから見える中央の噴水のそば、黒いモヤが広がって、そこからゾロゾロと人が現れる。異形型から人の見た目まで様々、1番最後に現れたのは…なんだありゃ。

私の少ないボキャブラリーでは身体中に手が張り付いた変態としか表現できない。

 

「コスプレ集団かな…」

 

「なんだありゃ、また『授業は既に始まってる』パターン…」

 

「全員動くなッ!!」

 

よく見ようと前に出る切島君を相澤先生が滅多にない大声で制す、つまりそれだけ状況は切迫してるって事…!

 

「…もしかしてあれ、ヴィラン?」

 

「ああ…そうだ!」

 

全身手だらけの変態が!?ヴィランネーム凄い気になる…

 

「13号、生徒を守れ!」

 

そう言って飛び出した相澤先生が正面切ってヴィラン達と大乱闘を繰り広げ始めた。

 

「そんな無茶だよ、イレイザーヘッドの戦闘スタイルは近距離からの不意打ちだ。多人数戦闘は向いてないのに…」

 

緑谷の言う通り、相澤先生の戦闘スタイルって対集団の長期戦は難しいのでは?あ、先生だから正面から戦って生徒を安心させたいのかな。

 

「あれ…?居ないじゃんオールマイト。折角こんなに引き連れて来たのにさあ…拍子抜けだよ。」

 

手の人が首をガリガリ掻きながら呟くと、隣の黒いモヤモヤがこちらを向いた。と思ったらいつの間にか背後に回られてた。

相澤先生がヴィランの個性を消してる筈…個性の途切れるスキを狙ってこっちに来たって事か。

 

「ワープの個性か…ッ!!

瞬きの合間を…面倒なの取り逃しちまった!」

 

「初めまして雄英高校の皆様、我々はヴィラン連合。本日はオールマイトに死んで頂きたく、此処へ侵入させて頂きました。」

 

平和の象徴を殺す。

ハッキリと口にしたその言葉で、生徒達に緊張が走る。

 

「あなた方はヒーローの卵、ならば雛に孵る前に…」

 

「んだテメゴラァ!!」

 

「うおおおっ!」

 

散らして、嬲り殺す。

 

13号先生が指先からブラックホールを出すより先に爆豪と切島が飛び出す、がワープで無効化されたらしく、黒いモヤモヤが私たちを取り囲んだ。悲鳴を上げながら1人、また1人と闇の隙間に消えていき、声も遠くなっていった。そして私にも、見えない何かに引っ張られるように身体が引き摺られる。

 

「麗日君!障子君!うおおおっ!」

 

すぐ隣にいた飯田君が咄嗟に脹脛のエンジンを吹かし、そばに居たお茶子ちゃんと障子を抱えてモヤから飛び出したのが見えた。なら…っ!

 

「行け…ッ!!」

 

シャアアアッ!!

 

翼竜のうちガトーとブラウニーをお茶子ちゃんを追うようにモヤの外へ飛ばした。取り敢えずあの子の傍に付かせておこう。二匹も私の意図を汲み取って、お茶子ちゃん達を守ってくれるはず。というか残り2匹が行方不明だ。もしかして既にモヤに呑み込まれて何処かへ飛ばされた?

次々消えていく生徒達、遂に私も視界が真っ暗に包まれて…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

気が付いたら私は建物が土砂で埋まったエリアに放り出されていた、多分シミュレーションルームのひとつなんだろう。

 

「龍征、お前も此処に飛ばされて来たのか。」

 

ふと横を見ると、半身氷のヒーロースーツに身を包む轟がいた。

 

「ぽいね、多分皆バラバラに飛ばされたんだと思う。委員長とお茶子と障子は黒モヤから飛び出してくとこ見てたけど、他はどうなってるか…」

 

「他人の心配よりまずはコッチの心配だ、周り見てみろ。」

 

「………絵に描いたようなピンチですな。」

 

私達の周りにはヴィランらしき連中がゴロゴロと、少なくとも20人くらいに取り囲まれていた。中学時代を思い出しますね(白目)

 

「なんだァ?此処に飛ばされたのはたった2人かよ。」

 

「男の方はどうでもいいが、女は結構な美人だぜ。オッパイもでけぇしよ。」

 

「そりゃいい。どうせ皆殺しにするんだ、皆でマワして遊ぼうぜ。」

 

ヴィラン達が下品な笑い声を上げる。

わかりやすいゲス野郎だ、安定感が違いますよ。

 

「…典型的なゲス野郎共で逆に安心したよ。」

 

そう吐き捨てた轟の足下から冷気が走り、広範囲に伸びてあっという間にヴィラン共を足下から凍らせていった。

対する私、一瞬で凍り付いていくヴィランを眺めながら、後ろに気配を感じて思いっきり腕を振り抜く。

 

「ぐぎゃッ!?」

 

「あっ、ごめーん。急に後ろに立つからつい。」

 

振った拳は背後から襲ってきた狼の顔したヴィランの鼻っ柱に直撃し、そのままそいつは鼻血吹きながら気を失ってぶっ倒れた。

 

「な、なんだコイツら…高校1年のガキなんじゃないのかよ!明らかに場慣れしてやが…ごあッ!?」

 

「はーいそこ余計な事言わない。私は喧嘩とは無縁の花も恥じらうヒーロー志望16歳の乙女だ、おっけい?」

 

「いや絶対無縁じゃなゲブッ!!」

 

「ぐおッ!?」

 

「ぎゃあッ!!」

 

近くにいる奴から順番に鳩尾やら顔面やらを殴り倒す。なんだコイツら、個性はちょろちょろ使う奴はいるけれど、全然連携が取れてない。まるでその辺から集めて来た寄せ集めだ。

流れるような動作で次々と敵の数を減らしていき、最後の仕上げに異形型の見た目が硬そうなやつの顔面掴んで地面に叩きつけ黙らせると、五分もしないうちに私達の前に立ってる奴はいなくなった。

よわっ、ヴィランだって言うからどんな個性で攻めてくるのかちょっと期待してたのに…

 

「ただのチンピラかよ、つまらん。」

 

おっとつい口から思った事が出ちゃったぜHAHAHA!

その時、何とも言えない表情で私を見つめる轟と目が合った。

 

「随分と喧嘩慣れしてるなお前。」

 

「あ〜…ちょっと昔やんちゃしてて…」

 

「模擬戦の時も似たような事言ってたな、餓鬼道中学校が原因か?」

 

「…その話どこまで広がってる?」

 

「前に女子達が話してたのが聞こえた、あの調子だとA組は全員知ってるぞ。」

 

「マジかよ、調子乗って話すんじゃなかった。」

 

出身校喋っちゃったのは私だけど、三奈ちゃんの拡散能力ヤバすぎぃ!

 

「しっかし、敵の目的はオールマイトの殺害って…何をトチ狂ったらあの筋肉ダルマを殺す算段ができるのよ。」

 

この前食堂で話してた事が現実になったかー。あくまでも生徒はついでで、私達を餌にオールマイトを誘い出す気なのかな?手の人、「オールマイト居ないじゃん」って言ってたし。

でもオールマイトを殺す方法か…

日本で最も有名なNo.1ヒーロー、オールマイト。

アメリカで下積みしてたんだっけ?だからアメコミみたいな服装してるのかな。大災害で1000人以上を救ったり、裏社会に君臨する悪の組織をたった1人で潰したり…話題には事欠かない日本最強の『平和の象徴』。噂じゃ1時間に3件のペースで事件を解決してるとか言われてる。

その性能は正にリアルチートと言っても過言じゃない、人生8周くらいしてんじゃないのってくらいの無茶苦茶なスペックをしてる。見た目は筋骨隆々の大男、建物が吹き飛ぶ規模の爆発に巻き込まれても怪我ひとつなく、前に銃弾避けたり筋肉で跳ね返したりする様子をテレビで見た事があるから、刃物なんかも殺害の役には立たないだろう。

殺す方法…毒殺とか?それともオールマイトに何も反抗させず殺せるほどの強力な個性?手の人があんだけでかい口叩くんだから、ハッタリって訳じゃなさそうだし。

 

「………まさか、『女帝』?」

 

「あ''ぁ?」

 

しまった、考え込んでると久しく呼ばれてない不名誉なあだ名を呼ばれてしまってつい変な声出ちゃった、めんご☆だからそんな目で私を見ないで轟君、今の私はヒーローを志すまっさら帝なの。

 

声のする方を見ると、轟君が氷漬けにして頭だけ無事なヴィランの1人が驚きながら私を見つめてるのと目が合った。

 

「やっぱりだ…!生徒会長、龍征帝!

よりによって雄英高校に進学してやがったのか…クソっ!」

 

「あー、その無駄にデカい図体は見覚えがありますねえ、巌先輩。」

 

確信を得たのか、私を睨みつけるのは、一般人より一回りほど大きく身体が岩のようにゴツゴツした男だ。

こいつ知ってる、餓鬼道出身で二つ年上の上級生だった。そのデカい身体バラバラに砕き割った事あるもん。壊れても治る個性で良かったね。

ていうかよく見たら、気絶してるやつの中には何人か見た事があるのがチラホラといるじゃない。

 

「先輩は手の人に幾らで雇われたんです?」

 

「相変わらず腹立つ位察しのいい女だ…テメーが居ると知ってりゃ雄英襲撃なんて話にゃ乗らなかったよ…!」

 

「まあ丁度いいや、雇い主の情報を吐けば、その氷溶かして自由にしてあげますけど。どうします?」

 

「…いいね、是非頼む。そっちの兄ちゃんの目が怖くて参ってたんだ。」

 

ちらりと轟君の方を見れば、凍らす気まんまんで準備をしてた。私が巌先輩に交渉を持ち掛けなかったら、その辺のヴィランを脅迫して情報を吐かせていただろう。

私達はヒーローなんだから、脅迫とかは極力ナシでいこう?ね?

 

「…脅迫なんてしねえ。」

 

ダウト!

 

「じゃあいくつか質問します、私の満足いく答えを出せたら氷溶かすんで。」

 

「ああ、さっさと頼むぜ。」

 

「ちなみ嘘を吐いたらまたバラバラにして埋めるんで宜しく。」

 

「吐かねえよ!もう自分の手首を一晩中探し回るのはゴメンだ…女子更衣室の中に隠しやがって!」

 

(結局脅迫まがいじゃねえか…?)

 

目に見えて怯えながら憤慨するという器用な事をしている巌先輩、轟君が「お前過去に一体何やったの?」みたいな顔でこっちを見てるが気にしてはいけない。餓鬼道(ウチ)の事情だ。

 

ああは言ったものの、私が1年の時3年だった先輩方、特に巌先輩の様に悪目立ちするタイプとはよくお話していたので、色々と骨身に染みているはず。今更下手に取り繕うとはすまい。

 

それから色々と聴取を取った。

と言っても、はした金をチラつかされて参加した小物ヴィランが集められた後、黒霧というワープの個性持ちに此処へと転送され、雄英高校の生徒を各個撃破しろ。くらいの大雑把な命令しか受けていないようだ。オールマイト殺しの本命は手の人が横に連れてた脳味噌丸出しの大男らしい。

 

「兎に角あの3人はやべぇ。ワープ個性の黒霧と脳味噌の大男、それから死柄木だ。

アイツの個性は凶悪すぎる、触れただけでなんでも灰にしちまうんだからな。」

 

作戦開始前、下手に絡んだチンピラが死柄木(手の人)に灰にされるのを見たそうだ。触れたらアウトって…私より凶悪じゃん、さぞ生きづらいだろうね。

 

「答えたぞ、さあ早く自由にしてくれ。」

 

「はいはいっと…」

 

私が熱を込めた手をあてると、みるみる氷が溶けていく。

 

「それにしても、貴方は卒業後に建築関係の仕事に就いていた筈でしょ。なのになんでヴィランの真似事なんて…」

 

「仕事はクビになった、半年前にな。」

 

「は?なんで…」

 

「会社のお偉方が、名指しで俺を退職させたんだよ。ある日突然、『我が社に相応しくない学歴を持つ社員が在籍している』ってな。

その日に雀の涙程の退職金を渡されて、お役御免だ…クソっ。」

 

そんな筈ない、私に殴られた後彼は改心した。職業訓練もちゃんと受けて、中卒ながらちゃんと就職した筈だ。餓鬼道で珍しく上場企業に就職したと先生達の間でも話になっていたから覚えてる。

 

「去年の暮に社長が代わってな、現場主義からインテリの学歴主義になった。そんでウチの部署と意見の食い違いで多少揉めたんだ、その腹いせだろう。

俺みたいなチンピラ上がりが一丁前に稼いでるのが鬱陶しいのも有るんだろうがな。そんで貯金も尽きて路頭に迷ってた時、黒霧に誘われたんだよ。」

 

「…そうですか。」

 

学校か…学校の風評がまた、足を引っ張るのか。

 

 

 

くっだらね

 

 

 

「おい、龍征…?」

 

「…っ!?大丈夫。

何でもないから気にすんな、母校の扱いがクソなのはいつもの事だ。」

 

轟君が話し掛けてきてはっと我に返る…まあ会社クビになったのは仕方ない、でも雄英襲撃は迷惑だから止めてほしい、私の高校デビューを邪魔するなっての。

 

 

……なんだろ、胸の中が妙にもやもやする。

 

 

「まあ情報は聞けたし、私達はもといた中央エントランスに向かうんですが、先輩は?」

 

「襲撃対象にお前がいる時点でヴィラン側の負けは確実だろ、このまま大人しくお縄にされるよ。当分留置所暮らしだろうが…またやり直すさ。」

 

「じゃあお勤めが終わったら、一度餓鬼道に足を運ぶといいです。先生方に話は通しておくので、再就職に役立つでしょう。」

 

「そうか、すまん…

俺が言うのもなんだが、お前はヒーローになれ、俺みたいなクズにはなるなよ。」

 

「当たり前です、私は貴方ほどゴツゴツしてませんので。バラバラになっても戻れないし。」

 

「見た目の話じゃねえよ!?」

 

 

なんだ結構元気じゃないかこの岩男。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…ねえ、なんて思った?」

 

「何がだ。」

 

「私が底辺校出身、しかも餓鬼道って聞いて、軽蔑する?」

 

「…別に、何も思わねえよ。世間の評判なんて気にしねえ、ウチも似たようなモンだからな。」

 

轟の姓はエンデヴァーの本名だっけ、その子供なら世間に色々言われる事も多い訳か。まあ飛び交う評価は母校(餓鬼道)なんかとは真逆だろうけど…常に期待されてるって辛いもんね。常に失望されるのもアレだが。

 

「そうか、そうかそうか…その心意気に免じて前回分のハバネロカクテルの刑は免除してやろう。有難く思いたまえ。」

 

「だから何だよ、ハバネロカクテル…」

 

わりと余裕な私達は土砂災害エリアを走り抜け、エントランスを目指す。途中ずっと隠れて付いて来てたらしい透ちゃんに気付いて、3人で向かった。

 

「轟君凄かったね!氷バーッて!帝ちゃんもボコボコーって!」

 

「透と話してると和むわあ…」

 

「(気付かず凍らす所だったな…)無駄口叩いてないで走れ、そろそろ着く筈だ。」

 

「分かってるよ。エントランスに残してきた翼竜は生きてるから、取り敢えず13号先生とお茶子達は無事だ。上鳴、百、響香もザッハトルテと一緒だから大丈夫そう。向こうのドーム…台風エリアだっけ?に口田と常闇がいて、ガナッシュに脱出を手助けさせてる。

取り敢えず今私から分かる情報はこれくらい。」

 

「…お前、翼竜が何処に居るか分かるのか?」

 

「アイツらの伝えたい事は頭の中に電波みたいに届くんだよ、原理はよく分からんけども。」

 

「それ凄くない!?チートだよ!」

 

「まだまだ、私が未熟で指示が雑だからレスキューには使えない。もっと上手くアイツらを使えるようにならないと………よし抜けた!今どうなって…」

 

私達がエントランスまで辿り着いた時、そこには分割された黒いヴィランにおかしな体勢で脇を拘束されるオールマイトの姿があった。

 

筋骨隆々の男共がくんずほぐれつ、そしてそこに黒モヤも混じって…これ、ネトゲのフレが好きな『びぃえる』ってやつなのでは?オフ会で会った時見せてもらった本の中のキャラクターもこんな感じで抱き合ってた気がする。

…んー取り敢えずなんか言った方が良いのかな。

 

「キマシタワー?」

 

「「何言ってんだ(の)」お前(帝ちゃん)。」」

 

二人とも、真顔にならないで。




オリキャラ
巌岩窟(いわおがんくつ)

個性:岩男
身体は岩でできている、四肢は岩石、心は硝子、幾度砕けても繋ぎ合わせれば元通り。この身体は、無限の岩で出来ていた。
見た目はファンタ○ティック4に出てくる岩の人、餓鬼道卒業生、端役なのでもう登場しないと思う。






ハーメルンのヒロアカ他作品様の感想欄見てて、「原作と違う!」ってのをよく見かけるけども、二次創作の時点で多かれ少なかれ原作からズレるんだよなあ…それだけヒロアカ原作はファンから愛されてるって事なんやね。
原作の雰囲気を壊さないようにアレンジを加えることができれば無言低評価兄貴達も満足してくれるんか?おじさんには難しいねんな…ごめんな…

それとお気に入り登録1000突破、ありがとうな…
あ''~生きる糧なんじゃあ^~


次回、たつ○監督がけ○フレに帰ってきたら続く


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8 解:物理で殴れ

未だに設定がふわっふわしてるヒロアカ二次はじまるよ~





◇とある平和の象徴side◇

 

USJ、中央エントランスにて。

龍征少女の連れていた翼竜に肩を掴まれ校舎まで飛んできた飯田少年からUSJのヴィラン襲撃を知らされた。

私はいてもたってもいられずに他の先生方より一足先にトップスピードで施設に突っ込み、なんとかボロボロの相澤君を救う事は出来た。騒ぎ立てる木っ端ヴィランなどものの数では無かったが、この騒ぎの中心実物ともいえる3人、特にこの脳無と呼ばれる大男だけは別だ。ショック吸収という厄介な個性を持っている。

 

「ぐうううううッッ!!」

 

そうとは知らずバックドロップで脳無を地面に叩き付けたと思ったら、霧のような男のワープ個性で逆に私の身体は拘束されてしまった。

 

Shit!脳無に古傷を掴まれ、折角のおろしたてのシャツが血で真っ赤になってしまったじゃないか!

下半身をワープの中に抑え込まれ、そのまま閉じられてしまえば如何に私がNo.1ヒーローとてただでは済まない。オール/マイトとか言われてしまうよHAHAHA!

…冗談言ってる場合じゃないな、何とかしなければ…!

 

「黒霧ぃ、このまま真っ二つにしろ。脳無はしっかり掴んどけ…ははっこれでゲームクリアだッ!!」

 

ぐぅ…なんという力っ!

 

 

「オールマイトおおおおッ!!!」

 

「緑谷少年!?」

 

突如飛び込んできたの緑谷少年…!?駄目だ!こちらに来てはワープが…

 

「浅はかですね…」

 

緑谷少年と私の間に黒い渦が開き、飲み込もうと口を開けた。このままでは…

 

 

「邪ァ魔だデクうッ!!」

 

突如、罵倒と共に爆破が黒モヤを焼き尽くし、爆豪少年がモヤの実体を掴む。それと同時に地を這う冷気が脳無を凍らせ、熱線が奴の手首を貫いた。

力が緩んだ!今ならばっ…

 

「くうあッ!!」

 

脳無の手を引き剥がし、跳躍して距離を置く。氷は轟少年、熱線は龍征少女か!二人とも私に危害が及ばないよう個性を調節している…日頃の訓練の賜物だな!

 

「すまない轟少年、龍征少女!」

 

「平和の象徴はアイツらごときに殺らせねえよ…!」

 

「先生がお楽しみの所悪いんですが、まだお昼だし未成年の見ている前なんで邪魔しました。続きは夜にして下さい。」

 

「楽しんでないよ!?龍征少女、何か酷い勘違いをしてないかい?」

 

「大丈夫です。私にそういう趣味はありませんが、需要というものは何処にでもあるものなんで。

ワープ男、脳味噌丸出し男とオールマイトのガチムチレスリングにもきっと需要が…」

 

「よーし、この戦いが終わったら少し話そう龍征少女!君の誤解を解かないと後でえらいことになりそうだ!」

 

龍征少女がとんでもない勘違いをしているな!?そういう本、昔興味本位でエゴサしてて見つけちゃってから軽いトラウマなんだよ!自分を題材にしたBL本とか勘弁して欲しい!

 

「で、誰かこの状況説明してもらえます?」

 

龍征少女、落ち着いているな…初めて見る筈の凶悪なヴィランを前にして、驚く程の冷静ぶりだ。

彼女の事は校長からいくらか聞いている。ヒーロー公安委員会監視対象の餓鬼道中学校からやってきた入学生、不良校で育ったとは思えないほど真っ直ぐで、レスキューヒーローを目指す志を有した生徒だと。

戦闘訓練で見せた翼竜の操作と彼女自身の身体能力は目を見張るものがある。きっと緑谷少年や他のクラスメイトと共に立派なヒーローに育ってくれるだろう。

そんな彼女は誰も自分の問いに答えないのを見ると気だるそうに溜め息を吐いた。

 

「取り敢えず爆豪はそいつ抑えといてよ。」

 

「命令すんなクソ金髪、言われんでも分かっとるわ!

動くんじゃねェぞワープ野郎…俺が抵抗したと判断すればスグに爆破するッ!」

 

「ヒーローの言う台詞じゃねえ…」

 

ワープヴィランの隙を突いて拘束した爆豪少年が随分と恐ろしい事を言っているが…この際気にすまい!非常事態だからね!

 

ぐぅッ…掴まれた傷が…

 

血が抜けていくのがハッキリと分かるな…かなりの出血だ。マッスルフォームも限界が近い、早いとこ勝負を付けなければ…

 

「脳無、黒霧を助けろ。」

 

手のヴィランがそう呟いた直後、大男が動く。不味い!あの速度では爆豪少年が…!

 

「ッッ!?がっ…」

 

踏み出そうと力を込めた直後、古傷から全身に痛みが走った。僅か一瞬、脚が止まる。コンマ1秒にも満たないその隙は、致命的だった。

 

脳無と呼ばれた大男の焦点の合わない瞳が黒モヤを抑える爆豪少年を捉え、彼の反応できない速度で迫る。

すべてがスローモーションの様に過ぎていく、脳無の腕が爆豪少年の頭を吹き飛ばそうと伸びて…

 

 

「あっ…」

 

 

直後に間に入ってきた何かが爆豪少年を突き飛ばす、代わり脳無に殴られて吹き飛び、蹴られた石ころの様に雑なバウンドをしながら近くにあった壁に叩き付けられた。ぶつかったコンクリートの壁はいとも容易く崩れ去り、砕け散った欠片からもうもうと煙が上がる。

 

 

 

 

瓦礫の隙間から、()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

 

「なっ…」

 

「なんだクソッ……は?」

 

「かっちゃんなんで!?避け…ぁ…」

 

一番最初に真実に辿り着いた緑谷少年の顔がみるみる青くなっていく、続いて切島少年、轟少年が気付いてしまった、そして爆豪少年も何が起こったのか理解し瓦礫の山を呆然と見つめていた。

 

「嘘…だろ…」

 

「龍征さんッ!!」

 

緑谷少年が思わず叫ぶ。

爆豪少年の代わりに脳無に殴られたのは龍征少女だった。

私は見てしまった、脳無が腕を振りかぶる寸前に、私より一瞬速く動いた龍征少女が爆豪少年と入れ替わるように彼を突き飛ばし、代わりに頭を殴られた場面を。

 

 

「龍征少女ォッ!なんという事だ…ッ!!」

 

 

相澤君が手も足も出ずにやられ、私と張り合うような力の持ち主だ。コンクリートの壁をビスケットの様に破壊する力、それが女性に振るわれたらどうなるか想像に難くない。

傷によるほんの一瞬の隙を突かれ龍征少女を…

私は…私はァ…ッッ!!

 

 

「は…ははははっ!先ずは1人だオールマイト!

お前は生徒を守れなかった!

正義だのなんだの語っておきながら、結局お前は肝心な時に役に立たない。お前は只の暴力装置だ!」

 

ヴィランが嗤う声が響き、脳無の目がショックで呆然と佇む生徒達の方へと向かう。動けないのも無理はない、ヒーロー志望とはいえ齢15の少年達にこの惨状は早すぎる!ましてやクラスメイトがああなった後では……ッ。

傷が痛む、マッスルフォームももうあと僅か、だが…ッ!!

 

「これ以上やらせるものかアアアアアアッッ!!」

 

「さあ次だ脳無…オールマイトを殺」

 

 

 

 

 

「いったあああああああいッッ!!」

 

 

 

 

 

 

……は?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いったあああああああいッッ!!」

 

埋もれた瓦礫を吹とばし、帝は何事も無かったかのように立ち上がった。ヒーローコスチュームに僅かに汚れが着く程度で、外傷は一切無い。脳無に殴られた頭も首と繋がっているし、健康体そのものだった。

突然の復活に緑谷達は思わず目をぱちくりさせて、狼狽えている。

 

「り、龍征さん!?さっき吹っ飛ばされたのに…あれぇ!?」

 

「いたた…殴られたよくっそ…

女の顔平気で殴るとか畜生かよこのドグサレがァーッ!!」

 

「龍征少女!?なんで無事…」

 

「私は頑丈なんですよ!」

 

『頑丈!?』

 

豪語する帝に総ツッコミが入った。

実際、オールマイトとタイマン張り合うような化け物に殴られて無傷なんて頑丈のレベル超えてるだろう。

 

「M134で蜂の巣にされた時より痛かったぞちくしょう…絶対許さんからな!」

 

周囲が呆気にとられる中、瓦礫を蹴飛ばし、何事も無かったかのようにずんずんと歩いて来る。

 

「君が何故機銃に撃たれた経験を持っているのか私とっても気になるが、無事でよかった龍征少女!今は早く逃げ…」

 

「だが断るッ!!」

 

「ええッ!?」

 

突然の大声に固まるオールマイト、だがヴィランはそれを許してくれない。脳無が再び龍征を捻り潰そうと迫り、巨腕を叩きつけた。が、彼女は手首を捻ってそれを受け流し、勢いを利用し背負い投げの要領で逆に投げ飛ばす。

ヴィランの巨体はぽーんっと放物線を描いてあらぬ方向へ飛んでいき、凍らされた手足ではろくに受け身も取れず地面に直撃した。

 

「あー頭クラクラする。あの脳味噌野郎思いっ切り殴りやがって…絶許だぞ。」

 

「な…投げた…」

 

「龍征少女、君は一体…」

 

「オイクソ金髪ッ!!何しやがったァ!」

 

唖然とする緑谷、オールマイトの言葉を遮り、爆豪が食ってかかる。命を助けられたというのに、随分御立腹のようだ。

 

「助けてやったのに随分な物言いじゃない、突き飛ばすんじゃなくてもっと優しく助けてほしかった?」

 

「俺を助けんじゃねェ…!」

 

「なんだよ、爆豪は死にたかったの?だったら助ける必要無かったじゃん、私の献身を返せよ。」

 

「テメェに恩なんざァ…クソがッ!!」

 

キレてはいるものの自分が命を救われた事は自覚しているらしく、歯軋りしながら龍征を睨みつける爆豪。視線で人が殺せそうだ。

 

投げ飛ばされた脳無が立ち上がる、同時に轟が凍らせて砕けた手脚はみるみるうちに復元され、何事も無かったかのように再び襲いかかった。

 

「この私を殴ったんだ。腕の一、二本は覚悟しろよ脳味噌筋肉野郎!」

 

指をバキボキ鳴らし、怒れる帝の口から漏れる炎が次第に黒みを帯びていく。吐き出された炎は宙を舞い、彼女の両手を覆う様に纏い漂った。

 

「な、何だあの黒い炎!?訓練の時は赤かったよな!?」

 

(両手の黒手袋に炎を纏わせて…

戦闘訓練で見せた熱はああやって補給しているのか。)

 

「ウチの卒業生誑かしといて、生きて帰れると思うなよ…ッ!」

 

脳無と肉薄し腕に触れた瞬間、赤と黒が弾けた。

帝の両手に籠る熱が更に上昇し、放たれた爆炎が触れた肉ごと焼き切ったのだ。

切断面はまるでバーナーに炙られた様に黒く焼け焦げ、肉の焦げる臭いが緑谷達の鼻まで届く。切断された脳無の左腕は高熱に焼かれ一瞬で炭と化し、地面に落ちた衝撃で崩れ去った。

 

「それだけじゃねえ。龍征の奴、脳味噌野郎の動きを先読みして攻撃を躱してやがる。筋肉の動きや視線を察知して相手よりも一瞬速く行動し、先手を打つ…これで爆豪を助けたのか。」

 

「助けられてねェよ半分野郎ッ!!」

 

「だから戦闘訓練で俺達常に不利だったのか!?」

 

「それとはまた話が別だろ。」

 

(対人戦の基本、相手の初動を見抜き常に先手を取る…クソ親父が言ってたな。実際にやってる奴を見ちまうと、嫌でもアイツが正しいと分からされるな…クソッ。)

 

腕を焼き切られた脳無は叫び声を上げるわけでもなく、不思議そうになくなった右腕を眺めている。無論、いつまで経っても腕は生えてこない。

 

(…もしかして超再生は死んだ細胞を身体から完全に切り離さないと発動しない?轟君の氷が効かなかった理由を龍征さんは気付いて、高熱で焼いたんだ!切断面が焼け焦げて付着したままだからそれが蓋をして超再生は発動できない!)

 

「炎を圧縮して両手に纏うなんて、一体どれだけ個性の訓練を積めばそんな事ができるんだろう…凄いや龍征さん!」

 

 

 

 

 

 

「戻れぇ、脳無!」

 

このままでは不味い。そう感じた死柄木の声に従って脳無はくるりと踵を返し、彼の傍へと舞い戻った。

がりがりがりがり、首元を掻き毟る死柄木の目には、憎いオールマイトと殴っても死なない謎の女が写る。

 

「なんだよ…オールマイト用だって言って寄越してきたのに、話が違うじゃんか()()!」

 

「落ち着きなさい、死柄木弔。

あの雄英生がイレギュラーだっただけです、流石に脳無の腕を焼き切るとは思いませんでしたが…」

 

まるで子供のように取り乱す死柄木を宥める黒霧。しかし彼も心做しか身体のモヤの揺れが大きくなって、少なからず動揺しているようだ。

 

「チッ、逃げやがった。

次は腹に風穴くらい空けてやろうかと思ったのに…」

 

「物騒過ぎるぞ龍征少女、後でお説教だからね!

それはともかく、よくやってくれた。後は先生に任せなさいッ!!」

 

「……わかりました、お願いします。」

 

「その顔は明らかに納得してないな!」

 

ぶつくさ文句を垂れる帝の手から熱が引いていく、それと同時に再び飛び出した脳無がオールマイトと取っ組み合い、壮絶な殴り合いを繰り広げ始めた。

 

「クソッ!クソッ!

途中まで楽勝だったのに…腕が再生してりゃオールマイトなんて…」

 

焦る黒霧の予感の通り、片腕を失った脳無はオールマイトの拳に着いていけず、徐々に押し負けていく。そしてそのまま、ラッシュで一瞬だけ身体が浮いた脳無の腹に一段と重いオールマイトの一撃が食い込み、USJのドームを突き破って空の彼方へ殴り飛ばされた。

 

「全盛期なら5発で済んだのだが…100発近く打ち込んでしまった。昔の様にはいかないな…HAHAHA!」

 

血を吐きつつも笑顔を絶やさないナンバーワンヒーローの本気の力。風圧により滅茶苦茶にめくれ上がった地面が戦いの激しさを物語る、その光景に爆豪たちは唖然とする他無かった。

 

「ショック吸収を力で上から捩じ伏せた!?

究極の脳筋かよ…」

 

「これがプロの世界か…」

 

「先生、余韻に浸ってる所悪いですが、ヴィランが逃げますよ?」

 

「何ぃ!?」

 

驚いたオールマイトが見つけた時には、既に半身をワープゲート呑み込まれ、消える直前の死柄木の姿が。

死柄木は顔を引き攣らせながら、オールマイトと帝を睨みつける。

 

「オールマイト…次は殺してやる!

そこの女もだッ!計画を邪魔しやがって、必ず殺して…」

 

「殺す殺す五月蝿えぞ手のオバケ、口だけは達者な小悪党だな。」

 

「ッ!?このヤロ…」

 

挑発的に中指立てて嗤う帝。

激昴する死柄木が何か言う前に、ワープゲートは完全に閉じた。黒霧がこれ以上ボロを出さないように配慮したのだろう、英断である。残るは有象無象のヴィランのみとなり、事態を聞き駆け付けた雄英教師陣の到着も相まって、事態は無事収束していった。

ワープ個性を持つ黒霧によって各地に飛ばされたA組生徒達は、互いに奮闘しヴィランを撃退したのか目立った外傷もなく、制御出来ない自身の個性によって指の骨を折った緑谷とオールマイトはリカバリーガールの居る保健室へ、脳無に叩きのめされ意識不明の重傷を負った相澤、黒霧との戦闘により半身に重度の裂傷を受けた13号は、救急車によって病院へ搬送される運びとなった。

 

警察による現場検証と、残ったヴィラン達の確保が雄英教師陣同伴の元行われている間、A組の生徒は皆USJ入口に集められ、点呼と軽い事情聴取が行われている。

そんな中…

 

「嫌だあぁああああああッ!!」

 

「いいから来なさいっての!」

 

我らが主人公龍征帝は警官5人を引き摺りながら、雄英校舎へと向かうバスに乗ろうとズルズル歩を進めていた。

 

「私は元気です!この通りピンピンしてます!たかが一発殴られたくらいでどうして病院まで行って精密検査なんですかぁ!」

 

「君の場合は殴られた相手が相手なんだよ!オールマイトに匹敵する力を持ったヴィランに殴られてるなんて、普通なら死んでもおかしくないんだぞ!?」

 

「大丈夫!私は頑丈なので!」

 

「痣ひとつも無いのは逆に異常だよ!?早く救護車両に乗るんだ!」

 

「うおおおおぉこの子力強いな!?

誰か!早く増強系の奴連れて来い!」

 

「やだあああ病院嫌い!薬の匂いで鼻がぴりぴりするから行きたくない!」

 

 

 

「「「「子供かッッ!!」」」」

 

 

 

170cm越えの金髪美女が喚きながら警察に引き摺られる姿は正直かなりみっともない。

クラスメイト全員に総ツッコミを受けた帝は、最終的には見かねた耳郎の説得(物理)により渋々病院へ搬送される事になった。因みに翼竜達は耳郎と八百万が帝の精密検査が終えるまで面倒を見る事になり、完全に解放されたのは日が傾いた頃になる。

 

 

 

 

 

 

かくして、USJヴィラン襲撃事件は幕を閉じた。

 

 

 

 

 

 

◇とあるデクside◇

 

 

 

「ごめんなさいオールマイト…僕、何も出来なくて…」

 

「いいんだよ、緑谷少年。

君は咄嗟の機転で蛙吹少女と峰田少年を危機から救った、自己犠牲こそヒーローの本質さ。

情けない話だが、正直私も龍征少女の援護が無いとやばかったからね。」

 

オールマイトと2人、リカバリーガールの下へ送られた僕は保健室で治療を受けた後、オールマイトの友人である塚内警部からクラスメイトや相澤先生の安否を聞いて一安心していた僕は、自分の不甲斐なさを彼に吐露してしまった。

あのヴィラン達との戦い、受け継いだワン・フォー・オールを使いこなせていれば、脳無は倒せないにしても、ワープゲートのヴィランは拘束出来ていたかもしれない。実際の所、かっちゃんが割り込んでなかったら僕は今頃…

 

「本当に君は…自己嫌悪の日本代表かよ!HAHAHA!

でもね、過ぎたことをいつまでも引き摺ってしまうのは良くない事だ。受け止めて、抱えながらでもいい、前を向きなさい。」

 

「…はい。

あの、ところでオールマイト。少しだけ、聞きたいことがあるんですが…」

 

「んん?何だい緑谷少年、なんでも言ってみな。」

 

「オールマイトと戦ったヴィラン…脳無は本当に貴方と同等の力を持っていたんですか?」

 

「…そうだね、実際に殴りあったんだから間違いないよ。奴のパワー、スピードは私と同等だった。

龍征少女の攻撃で片腕を失っていなければ、もっと早くに活動限界を迎えていたかもしれない相手だ。」

 

そう考えてぞっとした。

あの場でオールマイトの活動限界は僕達の命の終わりを意味する、それに加えてヴィランはまだ二人いた。

 

「龍征さん…かっちゃんを助けた時、脳無の動きに対応していました。オールマイト並の速度て動いたヴィランを先読みして代わりに自分が殴られて…」

 

「本当に、彼女には感謝しきれないよ。

あの一瞬、古傷を抉られた激痛に脚が竦んでしまった。No.1ヒーローが聞いて呆れる、生徒1人満足に守れないとは…」

 

「そんな事…

龍征さん、オールマイトと同じパワーで殴られたのに、なんで無傷でいられたんですか?それに彼女は複数の個性を持っているように見えます。」

 

頑丈だからの一言で片付けられる話じゃなかった。彼女の頑強さはそれこそ人外だ。他にも口から火を吹いたり翼竜を操ったり、複数の個性を発動させている。

複数、と聞いて僅かだけどオールマイトの表情が曇った。本当に少しだけ、眉根が動いた程度だったけど。

 

「複数の個性、それについては近々彼女から直接聞こうと思っているよ。

色々誤解も解かないといけないからね…」

 

彼女については私に任せなさい、HAHAHA!

 

そう笑うオールマイトはどこか遠い目をしていた。…誤解?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇手のオバケside◇

 

 

「クソ…クソッ!!

クソクソクソクソ!!話と違うぞ先生!脳無はオールマイトを殺せる戦力じゃなかったのか?餓鬼どころか女ひとり殺せてない!」

 

『そうかい、おかしいなあ。確かにあの脳無はオールマイトの100%の力を参考にして作られた筈なんだが…ドクター?』

 

『儂との共作を疑うのか?間違いなく対オールマイト用に調整した個体じゃよ。

回収出来ていれば原因も分かろうが…』

 

「申し訳ございません、脳無はオールマイトに吹き飛ばされた後見失ってしまい…

正確な位置座標が特定できなければ探す事も…」

 

『まあ、仕方ないさ。

それにしても…オールマイト並の速さの子に、オールマイト用に調整された個体が殴っても傷一つ付かない少女か、とても興味があるねぇ。』

 

『じゃな、どちらもいい素体になりそうじゃ。』

 

「……先生、俺はどうしたらいい?どうやったらあのチート野郎を殺せる…ッ!」

 

『精鋭を集めよう、じっくり時間を掛けて。我々は自由に動けない、だから君の様なシンボルが必要なんだ。

死柄木弔、次こそ君という恐怖を世に知らしめろ…!』




USJ終わり!閉廷!解散!




仕事疲れで何もする気が起きないんじやあ^~


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9 臨時休校って響きはワクワクする

体育祭前のワンクッション回、端役のオリキャラ、オリ展開諸々注意な

そこのお前!印照才子ちゃんの声優はFateのグレイちゃんと同じ上田麗奈さんだぞ!さあ今夏放送予定の「ロード・エルメロイの事件簿」を視聴するんだ!(唐突なダイマ)

それと前回の文章被りな…指摘ありがとうな…やはり過剰労働は人類悪なんや…





 

 

▼〝ミカド〟さんがグループチャットに参加しました

 

 

▼〝おっきー〟

おっ

 

 

▼〝ぐーや〟

来たな

 

 

▼〝もっちー〟

遅かったね

 

 

▼〝ミカド〟

すいません、遅れました

 

 

▼〝おっきー〟

おっつおっつー。

年末ぶりかな、あん時は急な頼みだったのに売り子役ありがとうねー。

 

 

▼〝ミカド〟

いえ、私も受験勉強のいい息抜きになったんで良かったです。

 

 

▼〝ぐーや〟

取り敢えずミカドは遅刻した罰として古代魚釣りな、10匹集めて私に献上しろふはは。

 

 

▼〝もっちー〟

レア度の関係で古代魚は譲渡出来ないんだよなあ…

 

 

▼〝おっきー〟

にしても珍しいね、ミカドちゃんが時間に遅れるなんて。

なんかあったの?

 

 

▼〝ミカド〟

病院で精密検査を少々

 

 

▼〝ぐーや〟

何それ気になる、kwsk

 

 

▼〝もっちー〟

緊張感皆無姉貴

 

 

▼〝ミカド〟

どうせ明日にはニュースになってるんでいいですよ。

授業中にヴィランの襲撃に遭いました、おかげで明日は臨時休校です。

 

 

▼〝おっきー〟

マジで!?Σ( ˙꒳˙ )!?

 

 

▼〝ミカド〟

まじです

 

 

▼〝ぐーや〟

臨時休校羨ま死。

つかそれって冗談抜きに危なかったんじゃ?

 

 

▼〝ミカド〟

まあ最終的にはオールマイトが物理で解決してくれたんで、生徒に危害は殆どなかったですよ。

 

 

▼〝ぐーや〟

い つ も の

 

 

▼〝おっきー〟

さ す マ イ

 

 

▼〝もっちー〟

平和の象徴なら大丈夫だな!!(脳死)

そういやミカドは雄英受けるって言ってたっけ、受かったんだ。おめでとう。

 

 

▼〝おっきー〟

おめー(ノ´∀`)ノ

倍率300倍でしょ?狭き門どころの騒ぎじゃないよね!

 

 

▼〝ミカド〟

ありがとうございます

 

 

▼〝ぐーや〟

エリート街道まっしぐらかよ…呪われろ(おめでとう)

 

 

▼〝もっちー〟

ぐーや姉貴、エリートへの殺意が半端ない件

 

 

▼〝ミカド〟

姉貴はいつもの事なんで大丈夫でしょ

 

 

▼〝おっきー〟

オールマイトの戦いぶりはどうだった?私、気になります!

 

 

▼〝もっちー〟

食いつきぱねえ

 

 

▼〝ミカド〟

なんか調子悪そうでしたけど、概ねいつも通り暴力の嵐でしたね。

私が発見した時は大男と黒もや人間がオールマイトと取っ組み合いしてました。

 

 

▼〝おっきー〟

なん…だと…ッ!?

男3人が取っ組み合い…しかも相手がガチムチと異形系…

生''で''見''た''か''っ''た''!!

 

 

▼〝もっちー〟

腐ってやがる…(人類には)早すぎたんだ…

 

 

▼〝ぐーや〟

今年の夏はオールマイト×ガチムチ大男×霧の異形本か。

業が深い、3部ほど取り置きで頼む。

 

 

▼〝もっちー〟

雄英と言えば、今年は体育祭やるんかな。

襲撃事件の後なら開催も危うくなるんじゃないか?

 

 

▼〝おっきー〟

それ困る!

今年も脱ぎ男くんの身体を楽しみにしてたのに!

 

 

▼〝ぐーや〟

通形ミリオ…『ルミリオン』ね、個性で服が脱げる2年生…今年は3年か。おっきーブレねえな…

まあヴィラン襲撃で運営側が萎縮しちまったら開催延期、最悪中止もあるかもだが。

 

 

▼〝もっちー〟

雄英体育祭はプロヒーローも視察に来るし、オリンピックに成り代わる様な大型行事をみすみす中止にはしないだろうけど、可能性はね。

 

 

▼〝おっきー〟

つか体育祭やるならミカドちゃんも出場するんでしょ?頑張ってね!

画面の向こうから応援してるゾ!

 

 

▼〝ミカド〟

私は監視されている…?

 

 

▼〝ぐーや〟

オフ会で顔は知ってるからな、せいぜいリア充共の宴に呑まれるがいい。

胸もあって顔面偏差値クッソ高いのにエリート学校とかほんと…これが格差か…ッ

 

 

▼〝ミカド〟

暗黒面に堕ちかけておられる

 

 

▼〝おっきー〟

姉貴の私怨凄い

 

 

▼〝もっちー〟

ミカドの個性もお披露目される訳だ、wktk

 

 

▼〝ミカド〟

見てて楽しいもんじゃ無いですよ、私の個性。

まあ私事はこのくらいにしておいて、今日は何狩りに行きます?プソ2でもダクソでも良いですけど。

 

 

▼〝もっちー〟

狩るなら古龍かな、玉がねえ。

 

 

▼〝おっきー〟

私は鎧玉が出るなら何処でも

 

 

▼〝ぐーや〟

ベ〇モス

 

 

▼〝ミカド〟

却下

 

 

▼〝もっちー〟

審議拒否

 

 

▼〝おっきー〟

駄目だ!!

 

 

▼〝ぐーや〟

なんでさッ!?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あ さ

 

昨日は結局夜中の2時までフレンドとモンスターをハンティングしていた私、起きたらもう昼前だ。

今日は先日のUSJ襲撃の件もあり臨時休校、この時間まで惰眠を貪る喜びを噛み締めながら、私は布団からもそもそ出てく。

今日は昼から厨房に入って仕事の予定、いつものなら店長ともう1人のバイトさんで回すのだけど、私が厨房にいるから少しは楽かな?

 

「おはよう帝チャン、そう言えば今日は臨時休校だったネ。テレビ出てるよー。」

 

店長がリモコンを操作しチャンネルを回していく。どの局も雄英襲撃事件で持ち切りだ。

マスコミさんの熱心な街角インタビューや、専門家による分析、雄英の危機管理体制に対する疑問や懸念が各局から飛び交う。話題の中心は勿論、オールマイトだ。

 

『絶望的な状況から21名の生徒と2人の教師を救い出した平和の象徴』

 

褒められてばかりだな、この男。コイツが赴任したせいで雄英が狙われたかも知れないのに。

…手のオバケ、もとい死柄木弔は言動こそ子供みたいなヴィランだったけど、触れたらアウトな強個性と、チンピラを集めるだけのカリスマも持ち合わせた凶悪犯だ。あの類は野放しにしておくと録な事にならない。

最悪なのは死柄木より上が居るケースなんだけど…あいつ「先生」って思っきり言ってたもんなあ…いるんだろうなあ、黒幕。

 

『それにしても、教師陣が皆プロヒーローである雄英高校ともあろう名門がヴィランの侵入を許すとなると、学校の信頼に大きな揺るぎが生じかねますね。』

 

『重傷を負ったプロヒーローの力不足も注目されます。』

 

局によっては対応の遅れた雄英教師陣や、重傷を負った13号先生と相澤先生に対して駄目出しも好き放題言ってる。

 

「馬鹿な奴だネー、イレイザーヘッドと13号の個性が力不足とか、どの面下げて専門家してるんだ。」

 

相澤先生もといイレイザーヘッドは見るだけで相手の個性を消す〝抹消〟、13号に至っては全てを塵にする〝ブラックホール〟。両方とも強力な個性で、それに見合うプロヒーローだ。その2人がボロボロにやられてしまったということは、敵がそれだけ手強かったという事。

 

ヤレヤレと呆れながらチャンネルを変える店長、この番組はお気に召さなかったご様子。

 

「公表されてるのは相手が『ヴィラン連合』と名乗ってることだけだし。現場見ないで言えることなんてたかが知れてるよ。」

 

巌先輩から聞いた死柄木達主犯格の個性の詳細は、取り調べの時に警部さんに全部話した。彼は残念ながら情報を私に漏らした程度では減刑こそされないが、未遂なので少しの間留置所暮らしで済むそうだ。

私が病院に行ってる間、生徒達も取り調べを受けたあと、順繰りに家へ帰されたらしい。響香と百には翼竜の面倒を見てもらってたので、今度なんかしらお礼を考えとこう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「た、大変ですううう!」

 

昼前11時頃、特に客もなく店長とテレビ見ながら暇してたら、喫茶店の扉を勢い良く開けて聞きなれた声が聞こえた。

大慌てで入ってくる女の人。アルバイトの夢見香子(ゆめみかおるこ)さん(22)、紫掛かった長い黒髪とメガネが印象的な大学生だ。いつもぽわぽわおっとりした文系お姉さんで、特筆すべきは着ているキャミソールを突き破らん程の大きなお胸だろうか、本人は年々大きくなって困っているそうな。

彼女の個性は〝書き起こし〟、紙に文字を書くとその事象が実体化する。火と書けば火が、水と書けば水が、書いた紙から生まれる個性。これだけ聞くと便利な個性だが、実体化する条件がかなりきつく扱いが難しいらしい。

本が好きで、将来の夢は司書さんなのだそう。

 

そんな彼女があわあわ言いながら店の扉を開けて入ってきた。年上なんだから少しは落ち着きなさいよ。

 

「おや夢見チャン、そんなに慌ててどうしたんだい?」

 

「あわわ…お、お店の前にオール…オおろろろろ…」

 

「緋村剣〇?」

 

「気持ち悪いの?」

 

「オールマイトがっ…お店の前に来てます…!

帝さんにご用だそうです!」

 

「…は?」

 

 

 

 

 

 

 

 

「私がァ、お忍びでェェェ…来たッ!!」

 

店前に聳え立つは筋肉の塊、1人だけ明らかに作画タッチの違うスーツ姿の大男。笑う顔が今日も暑苦しい、むさくるしいでお馴染みの平和の象徴さんだ。スーツっつってもそれカシミアのむっちゃ高い奴じゃん、色も黄色だし全然忍んでない。

 

「かなり失礼なモノローグを入れられた気がするぞぅ!?」

 

「気のせいですよ。

目立つんで早く入って貰えますか?オールマイト先生。」

 

「君はドライだな!お邪魔します!」

 

このまま平和の象徴様を外に置いておくとどんどん人が集まってくるので、渋々店へ招き入れる。

…扉が小さい、いやこの男が大きいだけか。

 

「おお、ホンモノのオールマイトだ!

生で見ると迫力が違うねぇ。あ、一緒に写真撮って貰っても良いかい?あと店に飾りたいからサインも貰えると嬉しいナ!」

 

「HAHAHA、勿論さ!

…コホンッ。突然の来訪、申し訳ない。貴方が龍征少女の保護者の方ですね?本日は雄英教師として、彼女と話したい事があってお邪魔させて頂きました。」

 

「帝チャンにかい?いいともいいとも、奥の事務所が空いてるから好きに使ってくれ。

おーい夢見チャン、カメラカメラ!」

 

「は、はい~!」

 

夢見さんにツーショットで写真を撮って貰い、ちゃっかりサインまで貰った店長はご満悦。夢見さんも生で見るオールマイトに大興奮で若干声が上擦ってるようだ。

店長の気が済んだ所で、オールマイトと私は奥の事務所に通された。表は店長と夢見さんの2人で回すらしい。

 

応接室も兼ねた事務所のソファーにお互い座って対面し、さっきまでとはうってかわって神妙な面持ちで彼は話し始める。

 

「臨時休校なのに突然すまないね、龍征少女。」

 

「いえ、急に休みになってもする事なんて思い付きませんし。暇してました。」

 

「そうか…

今日は君に直接聞きたいことがあって来たんだ。大切な事だ、嘘偽りなく真実を私に伝えて欲しい。」

 

「…わかりました。

でも事前にアポイントメントくらいは取ってください。先生として…というか大人としてどうかと思います。」

 

「ご、ごめんね!?急に決まった事だったから連絡出来なかったんだ、許して欲しい。

コホンッ…では、君の個性についてだ。

君の志願書には個性表記の欄に〝帝征龍〟とあったが、それについて詳しく教えて欲しい。これは私だけではない、雄英教師陣及び校長の願いでもある。」

 

私の個性について知りたい?

ああ、願書の個性記入欄に書いた奴ね。本当は自分の個性を文章で伝えるアピールポイントなのだけど、私は少し…いやかなーり横着して書いた記憶が…

 

「教えてくれ、君の〝帝征龍〟は一体どんな個性なんだ?」

 

そのツケがここに回ってきたわけか…まあ私の個性、傍から見ると複数持ってるように見えるもんね。炎の操作と怪力と頑丈なのと変身できるのと…次いでに翼竜の操作と意思疎通、巨竜になれば空飛べるし、イレギュラー過ぎる。

個性は親から引き継がれる、片方の個性だけ受け継がれる事もあれば、合わさったり、稀にまったく違う個性になったりするあやふやなものだ。雄英高校も生徒の個性を詳しく把握しておきたいんだろう。

 

 

「…正確に言うと、私の持っているのは〝この世に存在しない化け物になる〟個性です。帝征龍という名前は私の大切な人が付けてくれました。」

 

「この世に存在しない化け物…?」

 

「入試の時の映像見ました?

あの時見せた巨龍の姿が本来の私の個性。

御伽噺に登場する化け物(ドラゴン)です。翼竜を従え、口から鉄すら溶かす炎を吐き、尋常ならざる怪力と装甲で勇者を襲うモンスター。

私の個性は半異形と変身系が混じったものらしくて、人の姿でも巨竜とだいたい同じことが出来ます。」

 

オールマイト先生は考え込んでいる。

私の個性に興味があるのか、危険だと理解したのか…わかんないな。

 

「戦闘訓練や脳無相手に見せた動きは?

少なくとも素人の動きでは無かったね。」

 

「私は孤児で、印照財閥に引き取られてからある程度の訓練を積んで御息女の付き人をさせてもらってました。付き人って言っても護衛みたいなものなので、格闘技とか護身術も叩き込まれましたよ。

実際に()()()()()()にも何度か出くわしたので、経験はそれなりに豊富です。」

 

今思い返せば、当時5歳か6歳の子供に戦闘訓練を叩き込む大人とか気が狂ってるな。私の個性が戦闘向きだったからそうしたんだろうけど。

 

「ふむ…ならば君の頑丈な身体や、火を吐く能力は龍の個性の副次効果で、複数の個性を所有している訳では無い。と、言うわけだね?」

 

「はい、人の状態でも龍と同じような事ができるだけです。」

 

勿論いい事ばかりじゃなくて、人の状態で口から火を吐き続ければ乾燥して口の中切れるし、両手に纏わせすぎればささくれて最悪ぱっくり皮が割れる。それに巨龍化だって、デメリットがあるから。

 

「入試の時に見せた巨龍の姿は特別で、長時間あの姿のままでいるとデメリットもあります。」

 

「デメリット?」

 

「〝心〟が死んでいきます。

人間をゴミのように思ってしまったり、傷付けるのに躊躇いが無くなったり…道徳観念がどんどん薄くなっていって、人の精神状態から離れていくんです。あと服が脱げます。」

 

「なんと、それは中々ハードなデメリットだな…て、ええッ!?脱げる!?」

 

ゲームで言うなれば人の姿の時はテクニックタイプ、炎の操作とか翼竜の指示など細かい動きができるがずっと使っているとHPが減っていく。

 

逆に巨竜状態はパワータイプで、火炎ブレスの威力や機動力が上がる代わりに精神力…MPが削られる仕様。

 

 

「まあ、人の姿に戻って暫くすれば治りますからデメリットって言うほどでもないか、乾燥で手が割れる方が後に響いてよっぽどキツいですね。」

 

割れ方が酷いと包丁握って料理も出来ないし、何よりコントローラーが握れんのだよ。

まあ、このご時世わざわざ的の大きい龍になって戦うことなんで殆ど無いけどね。そもそも私はレスキューヒーロー志望なのだ、図体のデカい龍なんて人命救助で使う必要ある?ないでしょ。

 

「いや待って?今服が脱げるとか言わなかったかい!?」

 

「はい、だって巨竜化は体積から変わる訳ですし。戻った時に服も下着も殆どびりびりに破けてるんですよ。」

 

「それで入試直後の君は裸だったのか!

駄目だよ女の子が軽々しく肌を晒しちゃ、花の女子高生がはしたないぞ!」

 

「それ才子先輩にも言われましたよ、だから龍化する前は予め服を脱いで破れない様に気を使って…」

 

「根本的な解決になってない!?」

 

この後乙女の恥じらいについてオールマイト先生からみっちりお説教された。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「気を取り直して…以上が私の個性についての全てです。他に何かご質問は?」

 

「…いや、ありがとう龍征少女。

実は君が複数の個性を所持していた場合、虚偽申請となってしまう可能性があったんだ。そうなってしまったら国から色々と罰則があるからね、我々の方で聴取を取った訳さ。

だがもう大丈夫!

龍の個性、素晴らしい能力だ!将来が楽しみだよ、HAHAHA!」

 

急に元気になったオールマイトはいつもの調子で暑苦しく笑う。

 

「じゃあ私からも少しだけ、質問してもいいですか?」

 

「私ばかり問い詰めては不公平だもんな。

いいとも、なんでも聞いてくれ!」

 

「じゃあ遠慮なく…脇腹の傷、痛むんですか?」

 

「…ッ!!」

 

ちょっとたじろぐ先生、やっぱり普段無理してたんだね。今も力んでるのか、常に腹筋に力込めてる感じがする。

 

「なんの事かな…」

 

「USJでデカブツに脇腹を掴まれた後、左の脇腹だけ明らかに出血量が多かった。爆豪を助けようとして一瞬遅れたのもそのせいです。」

 

「うぐッ…」

 

「更に言うと、先生普段から力んでますよね?常に腹筋に力込めて割れたように見せてる感じです。画面越しだと分からなかったけど、こうして対面するとよく分かりました。」

 

 

先生、無理してるでしょ。昨日今日の話じゃなくて、かなり昔から。

 

「ムムム…」

 

かなり核心を突いたらしく、先生はかなり狼狽している。この人、意外とアドリブに弱かったりする?暫く考えて、先生は観念したように溜息を吐いて力なく笑った。

 

「…はは、鋭いな龍征少女。

そうだ、少し事情があってね。私はかなり無理をしてる。テレビ受けが悪いからこの事はナイショにしておいてくれよ?」

 

「No.1ヒーローは大変ですね。」

 

「そうだね、だが不満は無いよ!

『プロはいつだって命懸け!』

なんたって私は平和の象徴なのだから!」

 

「…そうですね。」

 

これ以上は追求しない方がいいか、No.1ヒーローにも色々と事情があるんだろう。

あの出血の具合からして、かなり重い後遺症が残る大怪我だ。それを今までずっと隠し続けるなんて並大抵の事じゃない。それだけ彼の意志が強いって事だ。

強くて完璧な皆の憧れ、No.1ヒーローオールマイト。

 

弱音も吐かない、疲れをおくびにも出さない。息をするように無理をして、何事も無かったかのように名前も知らない誰かを救う。

 

じゃあ…

 

「一番しんどい貴方は誰が助けてくれるんだよ…」

 

「?…何か言ったかい、龍征少女。」

 

「いえ別に。

他の人達から散々言われてるでしょうけど、あまり無理はしないで下さいね。命は1つしかありませんから。」

 

「HAHAHA!お気遣い感謝するよ!」

 

快活に笑う彼の姿を、私は複雑な気持ちで眺めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ、そうそう。

私の友人が夏の新刊を出すそうです。

ジャンルはオールマイト×筋肉の大男×異形で。」

 

「その報告要る!?

表現の自由は尊重するが、せめて私に伝えないで欲しかった!」

 

「その人、大手壁サーの常連です。軽く2000部は堅いと思いますよ。」

 

「ん~複雑ッ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後三十分ほど話して、先生は急に話を切り上げた。どうやらお帰りになるらしい。なんか咳に少し血が混じってたし、やっぱり今日も無理して家庭訪問したのかな。

 

「じゃあ私はこれで。個性の件は私から学校へ話しておくから大丈夫!

時間を取らせて申し訳ない。また学校で会おうな、龍征少女!」

 

「はーいあらっしたー。」

 

「雑ゥ!?本当にブレないな君は!」

 

ひらひら手を振る私を背に颯爽と去っていくオールマイト、なんかもう走る姿まで暑苦しい。

 

「で、なんの話だったんだい帝チャン。

あのオールマイトがわざわざ君に聞きに来たんだ、大切な用事だったんだろう?」

 

「別に、私の個性について説明を求められただけだよ。願書の個性アピール欄テキトーに書くんじゃ無かった…」

 

「帝さんの個性ですか?」

 

「そうそう、あーあ私も香子さんみたいに地味で便利な個性なら良かったのになー。」

 

「じ、地味…」

 

ぶつくさ言いながら3人で店内に戻る。

結局この日の来客はオールマイトと、夕方頃やってきた夢見さんのお友達の冬美さん含めて8名程だった、本当にこの店やっていけてるのか心配になってくるぞ。

 

 

「あ、そうそう。

体育祭はボクと才子チャンも見に行くからネ。応援してるヨ。」

 

「私もチケットが取れたので冬美さんと見に行きます…頑張って下さい!」

 

 

授業参観かよ…






◆帝のネトフレ紹介コーナー(誰得)◆

プレイヤーネーム〝おっきー〟 21歳
個性:『折紙』
自身の手で折った紙が生き物の様に動き出す大道芸みたいな個性、攻撃力は一切無し。
備考:私立星見台大学文芸科二年生、大手同人サークル『ひめの二乗』メンバーの一人。本人の趣味がガッツリ表現されたシャープな絵面と卓越されたストーリーは一部の女性からの受けがよく、業界内では知らぬ物はいないほど。ただ、同人誌作成に熱中し過ぎて学業が疎かになり、密かに単位を落としそう。いつも助けてくれる大学の先輩には頭が上がらない。大学の知り合いに顔バレするのを極端に嫌う為、即売会では奥でずっとスケブと会場限定本を描き続ける。
狩りは4人の中で一番の初心者、大剣を練習中。

プレイヤーネーム〝もっちー〟29歳
個性:『水上浮遊』
その名の通り水に浮ける、水上にいる間はどんな重いものでも曳航可能。
備考:海上自衛隊横須賀鎮守府所属、同じ職場の男性と婚約済み。パーティ最年長だが個性の副作用で見た目が12〜3歳の姿で止まっている、仕事柄ミリタリーの話題に詳しい。最近の悩みは旦那がロリコンだと思われている事。
遠距離専門、専ら弓かボウガンを使う。罠担当。

プレイヤーネーム〝ぐーや〟25歳
個性:『須臾』
須臾(しゅゆ)とは人間の認識出来ない一瞬にも満たない短い時間の事、要するに超スピード。使い過ぎると摩擦で焦げる。
備考:都内某所にある大病院の一人娘、常時ジャージが当たり前の引きこもり。かつヘビーゲーマーで廃人プレイヤー。ネカマを見抜く審美眼は超一流(自称)で、今のパーティメンバーは彼女の手腕により揃えられた。特技は個性を活かしたボタン連打、高〇名人もビックリの記録をたたき出す。完全に能力の無駄使い。
狩猟笛の腕は超一級、プレイ時間2500時間越えは伊達じゃない



オマケ
◆バイト先のオリキャラ◆
夢見香子 22歳
個性:〝書き起こし〟
文字に起こした事象を現実に引き起こす。但し発動条件が厳しく『和紙』と『筆』と『墨』を使い、事象の範囲や時間等の細かい設定が必要。それら条件を満たす為には必然的に巻物のような長さの和紙が必要になり、実用性はあまりない。書物なのでストックできるが個性で作った巻物は一度使うと自然と燃え尽きる。
備考:私立星見台大学文芸科三年生。轟冬美とは高校の時からの友人で、彼女は高校卒業後就職したのに対し、香子は進学の道を選んだ。学校が離れた今でも時間が空けば一緒に食事をするなど親しい間柄。読み物が好きで、新しい書物を求めて即売会へ赴く事が多く帝も時々誘われる。同じ学部の後輩を可愛がっており、ノートや教科書を貸している。


因みに帝の使用武器はガンランス、タゲ取りと壁担当。


端役に無駄な設定考えてるから投稿が遅くなるんだよ(半ギレ)、巌先輩同様、今後の出番未定。なくはないです。

え?挿絵もないのにキャラの姿がなんとなく思い浮かぶ?君は想像力が豊かなんやね(ニッコリ)


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体育祭なにがし
10 体育祭、序章





ヒロアカのSSは耳郎メインの話多くて好き…
個人的には病んでる耳郎とか純愛耳郎とか好き、作者様末永く書き続けて?

ともかくこっちは体育祭編始まるよ!








USJ襲撃事件から休みを挟んで、私達は雄英高校へ登校し、朝のHRが始まる5分前。

世間はまだヴィラン襲撃の話題で持ち切りだ、当然クラス内でも話はそればかり。お喋りな上鳴は早速響香とお喋りしてる。

 

「いやーテレビはまだUSJの事で持ち切りだな!」

 

「そりゃそうだ、プロヒーローを輩出する雄英がヴィランに襲われたんだよ?」

 

「龍征さん、精密検査から1日経ちましたけどお身体の具合は如何ですか?」

 

「…眠い。」

 

「それはいつもの事ですわよね…?そろそろHRが始まりますわ。ホラ起きて。」

 

「ん~…クソドロは悪い文明…」

 

「なんの話ですか?」

 

私は案の定フレと半徹だ、イベントの最終日でドロップ率3倍だから仕方ないね。

オカン百に揺すり起こされて、渋々顔を上げたら、何故かこっちを凝視してる轟と目が合った。

 

「どした轟、私の顔になんか付いてるか?」

 

「…なんでもねえ。」

 

話し掛けるとぷいっと顔を逸らす、轟の癇に障る事なんてした覚えは無いんだけど…

今までの経験だと、あの類の睨まれ方は放課後急に呼び出されて気付いたら20人位に囲まれてるパターンだ。背中には気を付けよう。

 

チャイムが鳴って少し、今日も委員長絶好調の飯田が皆を席に着かせた直後、入って来たのは全身包帯塗れのミイラマンだった。

 

「「「「相澤先生復帰早ッ!?」」」」

 

「俺の事はどうでもいい…」

 

クラスの総ツッコミも軽く受け流し、先生はつらつら言葉を紡ぐ。

 

「新たな戦いが始まろうとしている、それは…」

 

 

 

体育祭だ

 

 

 

「クソ学校っぽい行事来たアアアッ!!!」

 

 

 

本当にアップダウンの激しいクラスだ。

ヴィラン襲撃があった直後に?との不安も当然あるだろうが、逆に開催する事で雄英のセキュリティを世間に見せ付ける算段らしい。

警備も去年の5倍。雄英の警備、遂に首相官邸を超える。

 

「因みに…プロヒーロー達もこの大会を通してお前達を見定める。

将来を見据えるなら、よく考えて大会に挑め。

…焦れよ、お前ら。」

 

個性が発現し、それまでスポーツの祭典だったオリンピックは形骸化。代わりに注目を集めたのが雄英体育祭だ。

個性使用可能の体育祭、毎年話題性もバツグンで、毎年全国ネットで生放送してる。プロヒーロー達からは次世代のヒーローを見出すスカウトの場としても活用され、先生曰く大会後の職場体験にも影響する大イベント。ヴィラン襲撃などで中止していいものでは無いらしい。

 

「体育祭…イベント…」

 

ん…?待てよ、そう言えば私、この手のイベント初めてじゃね?

小学校は才子先輩の付き人で付きっきりだったし、餓鬼道ではイベント自体が禁止されてたから言わずもがな。不良共に軽々しくイベントを与えると暴走するからね、過去にPTAから滅茶苦茶文句言われてやらなくなったって聞いた。

 

人生初の学校イベントが雄英体育祭とか、豪華だなオイ。

 

「…楽しそう、なんて言ったら除籍かな。」

 

「プロヒーローの方々に私たちの日頃の成果を見てもらう場、なら…頑張らなければ!」

 

百はやる気満々、クラスの皆も各々闘志を燃やしている。私も内心ウッキウキだ。その中で、何故か轟だけは切羽詰まったような表情で何か考え込んでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆ヤオモモside◆

 

昼休み

 

「あ、そうだ百と響香。忘れないうちにコレ渡しとく。」

 

そう言って帝さんが私と耳郎さんに手渡したのは小さなタッパー、その中にはショートケーキが入っていました。

 

「帝さん、これは…?」

 

「この前、私が病院で検査受けてる間2人にブラウニー達の面倒見てもらってたでしょ?そのお礼。

店の新しいメニュー用に幾らか試作品作ったんだけど、余ったからあげるよ。」

 

「え…帝がコレ作ったの?」

 

「…?そうだけど。」

 

「えっ」

 

「えっ」

 

なんですか耳郎さん、その意外そうなお顔は。かく言う私も帝さんの意外な一面に驚いてますが…

綺麗に形の整えられたフルーツケーキ、てっぺんにはちょこんと苺が乗っていて、カットされたスポンジの断面からはマンゴーやキウイ等の色鮮やかな果物が覗いています。かなり手間を掛けて作られたのでしょう。

私の個性は脂質を消費しますので、こういったカロリーは大歓迎です!体育祭もある事ですし、今日も特訓が捗りますわ!

 

「帝さん、お菓子作りお上手なんですね。びっくりしましたわ。」

 

「喫茶店の料理は殆ど私が作ってるからな。店長の分の食事も作るし、大抵の料理はできるぞ。」

 

「帝の意外な一面だ…うまッ!下手にお店で食べるヤツより美味しいじゃん!」

 

お箸で御自身の分をつまみ食いした耳郎さんが頬を綻ばせているのを見て、お弁当を食べる前にも関わらずついつい一口フォークで切り取って食べてしまいます。

…美味しい。

スポンジケーキに包まれたフルーツの甘みとほのかな酸味がくどすぎない生クリームとマッチしていて、口当たりも最高ですわ。

 

「とても美味しいです、帝さん!」

 

「そーか、良かったな。」

 

「ヤオモモと耳郎ちゃんケーキ!?どしたのコレ!」

 

騒ぎを聞きつけたのか、芦戸さんと葉隠さんも此方に近寄って来ました。

 

「帝から貰ったんだよ、2人も一口食べる?」

 

「葉隠さんは私の分を一口どうぞ。」

 

「わーい!

…美味しっ!帝ちゃんお菓子作り上手だね!」

 

「今度私達にも作ってよー!」

 

「じゃあ次の新作は2人に味見して貰おうかな。」

 

「「やったー!」」

 

「けろっ。帝ちゃん、意外な一面ね。」

 

「ふっふっふ、惚れ直したかい梅雨ちゃん。

じゃあ私は食堂行って食べるから。あ、タッパーは私の机に置いといて。よろしくー。」

 

冗談交じりにそう言って翼竜達に缶詰を与えた帝さんは、そそくさと食堂へ言ってしまいました。

 

「帝ちゃんってさ、普段気だるそうにしてる割に、なんだかんだ面倒見がいいよね。」

 

「だねー、流石不良を取り纏めてた生徒会長なだけはあるよ。」

 

「それ関係ある?」

 

「面倒見がいい、というのは彼女の個性である翼竜達もそうですわね。USJの一件、私達はザッハトルテさんの援護が無ければ大怪我をしていたかも知れません。」

 

先のUSJ襲撃、私の飛ばされた山岳エリアでは人質になった上鳴さんを救い出し、そのまま皆さんの居るエントランスまで案内を務めて下さいました。

帝さんの命令に従い、自立する4匹の空飛ぶ翼竜は、彼女の目指すレスキューヒーローに大いに役立ってくれるでしょう。

 

「それなヤオモモ!

あん時龍征の翼竜居なかったらマジヤバかったよ!」

 

「上鳴、放電して役立たずだったもんね…ぷくくっ…」

 

「うっせ!その前まで役立ってただろが!」

 

私が電気を遮断する布で耳郎さんと自身を守り、上鳴さんの放電で一網打尽。あの時は上手くいって良かったです。

 

「救助活動において、帝ちゃんの翼竜達は強力だわ。空から救助者を捜索できるし、あの子達は人を1人運べるくらいの力があるもの。私と峰田ちゃんも相澤先生を運んだ時、みんなの所へ戻るまでに何人かのヴィランに出くわしたのだけど、ガトーちゃんが追い払ってくれたわ。」

 

「ぼ…俺は肩を掴まれてオールマイト先生の下まで猛スピードで運ばれたな。」

 

「山で遭難者の捜索とか、凄く役に立てそうだよね!」

 

話が盛り上がる中、私は缶詰の中身を貪り食っているザッハトルテをちらりと覗きました。

強力な個性…人を助けるに余りあるそれを、ひとたび傷つける為に使われたとしたら…

USJで見せたように、ヴィランに向かって炎を吐き、牙で噛みつき、爪で掴んで放り投げる。そんな単純ゆえに恐ろしい『力』を4つも彼女は保有している。

 

帝さんは、どんな気持ちで彼等を使役しているのでしょう…

 

クルルル…?

 

あっ、ザッハトルテさんがこっちを向きましたわ。

最初は少し怖かったですけれど、面倒を見ているうちに愛着が湧いてしまいました。よく見れば愛嬌のあるお顔をしています。

命を救ってもらいましたし、あの子には今度何か御礼を考えておきましょう。

帝さんは缶詰を食事に出していますから、やっぱり缶詰をあげると喜ぶのかしら?如何せん私は缶詰の種類には疎くてよく分かりませんが、この間すし〇んまいの重役の方が持ってこられたお中元があったはず…

確か黒い箱に入っていて妙に物々しい感じの缶詰でしたけれど、お父様に言って1つ分けて頂きましょうか。

 

ザッハトルテさん、喜んでくれると良いのですけど…

 

 

 

 

 

 

 

◆心操side◆

 

 

 

「よ、スーパー人使くん。今日もボッチか。」

 

「ボッシュートされねえぞ、俺は。

つーか今日に限ってはお前もボッチだろ。耳郎や障子はどうしたんだよ。」

 

「響香は今日弁当だから教室でクラスの子達と食べてる。障子は…トレーニングじゃない?体育祭あるらしいし、それに向けてさ。」

 

騒がしいいつもの食堂。今日も龍征は俺の向かいの席にやって来て、話し始めた。

 

「もークラス中体育祭の話で持ち切りよ。」

 

「そりゃそうだ、オリンピックに代わる日本の一大行事だからな。」

 

「それにしたってウチのクラスは血の気が多い、流石倍率300倍の面子だよ。全員我が強くて強くて、こないだなんてさー…」

 

話を続けながらカツ丼の大盛りを物凄いスピードで口に放り込む龍征。

入学してから数ヶ月、既にヒーロー科は数え切れ無いほどの経験をしてる。戦闘訓練やレスキュー訓練、そしてイレギュラーではあるがヴィラン襲撃に伴う実践戦闘。

俺のいる普通科とは比べ物にならない密度で経験を重ねていた。

 

同じ雄英でもこれ程に違うのか

 

選ばれた者とそうでない者の差を見せつけられているようで辟易してしまう。

それでも目の前の憧れは、気にしないと言わんばかりに俺の傍に現れて、こうして世間話しにやってくるんだ。

 

「そう言えば心操、筋トレしてる?

なんか最近筋肉質になってるよね。」

 

「…入学してからは身体鍛えるようにしてる。俺の個性は対人戦が基本だからな。」

 

流れるように肩を触ってくるあたり、この女には男女の距離感というものが存在しないのか。耳郎が頭を抱えていたのも頷ける。

 

「心操の個性強いのにな、入試がロボじゃ相手が悪い。」

 

「だがまだヒーローになれないと決まった訳じゃない。体育祭の成績次第じゃヒーロー科に転入できる可能性もある、俺は諦めねえ。」

 

「心操がヒーローかぁ…イレイザーヘッド並みに対人戦の鬼になりそう。相澤先生の怪我が治るのを見計らって、色々教えて貰ったらどう?

戦闘スタイルも似てるし、いいアドバイス貰えるかもよ。」

 

「いいな、それ。その為にも、先ずは体育祭で結果を出さなきゃな…」

 

ぐっと拳に力を込める。

入試の日、あの時から卑屈になるのは止めた。俺は俺の個性に自信を持って、ヒーローを目指す。

洗脳の力を受けて、それでも「ヒーローになれる」って言ってくれた馬鹿に後押しされて。

 

だから…

 

「放課後、A組に邪魔するからな。」

 

「…?」

 

Plus ultra(更に向こうへ)、踏み出そう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

放課後

 

 

さて、今日も1日お疲れ様です。今日の授業のハイライトは英語の時間に寝てた私を響香がイヤホンで無理矢理起こして、授業中に変な叫び声上げちゃった事かな。

 

「寝てるアンタが悪いよ、ノートをガナッシュ達に取らせてるとか狡過ぎ。」

 

「こ、これも個性制御の訓練だから…」

 

「おいウチの目を見て話せ。」

 

授業中急に思いっ切り起こされて「ぴゃあああああっっ!!」ってデカい声で叫んでしまったぞ恥ずかしい。それにびっくりしたマイク先生が英文の音読中に舌噛んで授業の後半悶絶してる姿はかなり面白かったけど。

 

「全く反省していない!」

 

 

それはともかく!

体育祭も迫ることだし、先生から許可取って訓練所で個性の練習とか、早く帰って自主練とか、そういう事したい人も多い今日この頃。

 

「…帰れん。」

 

「なんなのこの人の波!?」

 

A組の前には渡り廊下いっぱいに人が溢れてて、教室から出るのもままならない状態だ。当然私達も帰れないので、クラスメイトからも抗議の声が上がってる。

 

「なんだよ帰れねえじゃんか!」

 

「私たちすっかり有名人だねー。」

 

叫ぶブドウ、気楽な透。

多分先日のヴィラン襲撃事件が原因だろう、入学後1ヶ月足らずで経験してしまった『実戦』は他のクラスの人間にも少なからず衝撃を与えたようだ。それにしたって集まり過ぎでしょ、物見遊山で眺めに来た感じじゃなさそうだし、敵情視察みたいなもんかな?

 

「緑谷ぁ、アンタの超パゥワで道作ってよー。君の腕1本と引き換えに私たちは救われるからあ。」

 

「ええっ!?むむむ無理だよ龍征さん!

あとサラッと僕の腕犠牲にしたよね!?」

 

「頑張れって感じの君なら大丈夫!Plus ultra!!」

 

「都合のいい時だけここぞとばかりに校訓を!?」

 

「じゃあお茶子、私浮かせて。廊下の上通って帰る。」

 

「駄目だよ帝ちゃん!パンツ丸見えになるよ!?」

 

「いいじゃん下着の1枚や2枚…」

 

「帝!またはしたない事言って!」

 

セコム響香に怒られてしまった…じゃあどうやって帰ろうか…

取り敢えずほとぼり冷めるまでソシャゲの周回でもするかなあ。

 

「常闇くーん、モンス〇周回しーましょ。」

 

「む、龍征か。何処を回る?」

 

「ツクヨ〇かなあ、ラック80だからもうすぐ運極なのよね。書庫回ろ。」

 

「…フッ、いいだろう。」

 

『ヤッテヤンゼ!』

 

頭が烏に似てる常闇踏陰君。彼、なかなかのヘビーユーザーだ。この前たまたま1人でやってる所を見つけて仲良くなった。

端末2つ持って黒影(ダークシャドウ)と一緒にやってるとこ見たら声掛けずにはいられないでしょ、どんだけぼっちのレベル高いのよ。

 

「おっ!モン〇トやんの?俺も交ぜろよなー!」

 

「興奮して電気漏らすなよ上鳴ぃ、スマホ壊したら弁償だからな。」

 

「止めろよォ!それ昔やっちまって軽くトラウマなんだよ!」

 

「常闇と上鳴の野郎、ちゃっかり女子と仲良くなりやがって…あんな近くでミカドっパイを…」ギリギリギリ

 

「峰田ちゃん、素直に気持ち悪いわ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

教室を囲む野次馬はまだ居なくならない。

もうスタミナも全部使っちゃったし、いい加減帰りたいと思っていたその時、今まで机でぼうっとしてた爆豪がカバン掴んで立ち上がり、徐ろに人集りの方へ歩いてった。

…嫌な予感がする。

 

「意味無ェことしてねえで、退けやモブ共!!」

 

いやモブて。

 

突然の暴言に騒然とする廊下、緑谷の顔がどんどん青ざめたり、委員長が「知らない人の事取り敢えずモブって言うの止めたまえ!」とか嗜めてるが、全く意に介さない。流石クソを下水で云々の男。

 

「爆豪っていつもこうなの?」

 

「かっちゃんはこれがデフォルトなんだ…あはは。」

 

「なんか高校になった途端ヤンキー気取ってるイキリ野郎みたいな言動だな。」

 

「り、龍征さん!?」

 

『ぶっ!?』

 

もう慣れた、と言わんばかりに笑う緑谷に続く私の発言でクラスの何人か吹き出した。

上昇志向強いんだろうね。話じゃ爆豪が学年成績一位だったらしいし、実力はあるんだろうけど…どうも普段の言動が母校の腐ったミカン共を彷彿とさせる。

戦闘訓練の言動見る限り、なまじ実力があるから周りからちやほやされたんだろうなあ…()()()()()()()()()()()()

ああいうのはおっきーさんに言わせれば『俺様系総受け』…だっけ?普段は威張り散らしてるけどいざとなったらなんだかんだ押しに弱いそうな。おっきーさんの趣味はよく分からないや。

 

「聞こえとるぞクソ金髪!燃やされてえのか!」

 

「つーか要らん敵作ってどうすんのよ、余計帰るのが遅くなるでしょ。」

 

「知るかっ!んなもん…」

 

「随分と偉そうだな、本当にヒーロー志望かよ。

…正直、幻滅だ。」

 

「あ''あ''ん…?」

 

聞き覚えのある声が聞こえたと思ったら、人混みを掻き分けて見慣れた顔が現れた。爆豪が殺さんばかりの眼力で睨みつけるも心操これを華麗にスルー。

野次馬達が眺める中、静かに睨み合う爆豪と心操。

 

「知ってるか?ヒーロー科落ちた奴はそのまま俺みたいに普通科に入ったのもいる。

けど、体育祭のリザルト次第でヒーロー科へ編入が可能なんだ。」

 

その逆も然り

 

‘体育祭で体たらくを見せるようならヒーロー科から落とされる’

 

言うねえ心操、大胆不敵に宣戦布告ですか。

食堂で言ってたのはこれの事だったのね。

 

「要は舐めてっと足下掬っちゃうぞって事。…まあ、アンタはヴィランの才能の方がありそうだから心配は無用だろうけどな。」

 

「ンだと殺すぞデコモブがァ!!」

 

あー不味い不味い、爆豪の怒りが天元突破しそう。心操煽り過ぎだよ、宣戦布告が自殺志願になっちゃうぞ。

 

「はいはい二人ともその辺にしときな。

爆豪、アンタが喋るとA組全員にまでヘイトが溜まるんだよ。」

 

今にも掴みかからんとする爆豪の間に入って仲裁してやる、ホント喧嘩っ早いんだからコイツは。

 

「うっせェ!んなもん上に上がりゃ関係ねェだろが!」

 

「じゃあ下にいる間くらい静かにしてな。」

 

「んだとこのクソ金ぱ…ふもがっ!?ーッ!!ーッ!!」

 

喚く爆豪にガトーをあてがって、翼で口を塞がせる。なんかモゴモゴ喋ろうとしてるが無視無視。爆破してもこいつら火炎耐性高いから効かないゾ。バランスを崩したところをすかさず残りの3匹も飛びかかり、寄って集って爆豪の顔をベロベロ舐め回す。これでちょっとは大人しくなるでしょ。

 

「心操もらしくないじゃない、煽り過ぎだよ。

確かに爆豪はクソを下水で三日三晩煮詰めて汚泥ぶちまけた腐葉土にもならない性格してるって出会って1ヶ月足らずの私でも分かるけど、アレでも一応筋は通してるから。流石にヴィランは言い過ぎよ。」

 

「いやお前の方が語彙力溢れる罵倒してる気が…」

 

「とにかく今日の所は帰んな、教室前塞がれちゃ私達も帰れないし。」

 

「…まあ、言いたい事は言ったからいいか。邪魔したな。

なあ、龍征。」

 

「んー?」

 

「体育祭、負けねえぞ。」

 

「おうっ。」

 

スタスタ帰っていく心操を皮切りに、満足したのか野次馬達も去っていく。しかしその目は険しい者も多い、完全にマークされたなコレ…

 

「おうおうおう!俺ァ隣のB組のモンだけどよォ、さっきの話聞かせてもらったぜ!

襲撃事件の話聞いとこうと思って来たが…随分と偉そうな事言ってたじゃねえか!」

 

続けて現れたのはB組?お隣さんじゃん。

すげえ目元の男子だな…

 

「偉そうなのはソコで窒息しかけてる爆発頭だけ、私達…特に私は超謙虚でお淑やかな模範生徒だから。ソコ勘違いしないで。」

 

「お、おうマジか…一言文句言ってやろうかと思ったけど調子狂っちまうな。」

 

「私達もいい加減帰りたいのに廊下前に人が集るから飽き飽きしてるの。

USJの話は明日幾らでも話してやるから、今は大人しく帰らせて。いい?」

 

「そっか分かった!話はまた聞かせてくれ!」

 

随分素直な奴だなこいつ…チンピラっぽいけど悪いやつじゃない。

 

「じゃ、そゆことで。

今日はもう閉廷!解散!ホラ散った散った!」

 

手を叩くと今度こそ廊下前の人集りは完全に消え去って、A組前に静寂が戻った。

やっと帰れる…

 

「済まない龍征君!本来ならクラス委員長である俺がやらなければならないのに…!」

 

「気にすんな委員長、私もいい加減邪魔だったし。大体爆豪のせいだ。」

 

「その爆豪君は君の翼竜達に顔を舐め回されているんだがな…」

 

そう言えば爆豪を黙らせるよう差し向けてたな。おーい帰るぞー。

 

「あわわ…かっちゃんが涎まみれに…」

 

「爆豪wwwべっちょべちょじゃねえかwww」

 

「アアアアアクソ翼竜共がァッ!!」

 

思ったより顔がベッタベタでテカってる爆豪は無視して、さっさと帰ることにしよう。

あー後ろから悪鬼の叫び声がするなー幻聴だろうきっと。

 



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11 疾駆怒涛の体育祭予選:前


ご都合展開満載の体育祭始まるゾ






相澤先生から体育祭開催のお知らせがあってから約2週間、あっという間に過ぎ去った。

2週間の間、クラスメイトは各々実力を伸ばす為にグラウンドを借りて特訓などをしていたらしい。将来が掛かってるんだ、当然と言えば当然か。

 

かくいう私も、夜の公園とか周りに燃えるものがない場所で炎の制御の練習をしたり、翼竜の調教、救助関係のマニュアル読んで勉強などなど仕事の合間にちまちま努力してる。

 

「もうちょい強火の方がいいかな…」

 

今だってそうだ。夕食を作る傍ら、火力調節の練習をしてる。

べぇーっと舌を出して息を吐くと、口から出た炎がガスコンロの火に吸い込まれていって、更に煌々と燃え上がった。

これも個性制御の練習だ。けっして「お?もしかして私の炎、料理に使えるじゃーん?」なんて動機で始めた訳では無い。私の炎使うとチャーハンがご飯パラパラになって美味しく作れるから、なんて事はないのよ?(念押し)

 

慣れた手つきで手首のスナップ利かせながら中華鍋を引くと、中のお米が宙を舞う。店長は濃いめの味が好きだけど、血圧の気になるお年頃なので塩分は控えめにしてっと…よし、かーんせー。

卵と刻んだタマネギ、人参、ピーマンで炒めた炒飯の出来上がり。あとは野菜をサクッと切ってサラダにして、昨日のコーンスープが残ってるから汁物はそれで。

 

「ん、こんなもんか。

…で、パイセンなんで此処に?」

 

「明日は雄英体育祭でしょう?その前乗りで私だけ先に此方へ来たの。お父様は明日直接いらっしゃるわ。」

 

料理してる途中で気付いたんだけど、何故か才子先輩がビデオカメラ片手にずっとこっちを撮影してる。赤いランプ光ってるから録画してるの?何故に?と、私が聞いても上手いことはぐらかされてしまうので最近はもう気にしない事にした。

 

「夕飯は?」

 

「勿論頂きます。聖愛(向こう)の料理は美味しいけれど、マナーやら立場やらカッチリし過ぎて肩が凝りますもの。貴女の料理が恋しいわ…」

 

「多めに作っといて正解だったッスね。じゃー配膳手伝って、そっちの戸棚。」

 

「はいはい。」

 

私が指示を飛ばしブラウニーが向かいの戸棚を開くと、才子先輩はハンディカメラを懐にしまい棚の中から食器を次々取り出して食卓へ並べていった。

因みにこの間まで力加減が分からず取っ手を噛み砕いていたので、かなりの進歩と言えよう。ふはは。

3人分の炒飯とコーンスープを取り分けて、食卓の真ん中に山盛りのサラダの入ったボウルをどかんと置けば配膳終了。

 

「ン〜…良い匂いがするネ〜。」

 

ちょうど店の閉め作業が終わったらしい店長も合流したので、3人で夕飯にしよう。

 

 

 

 

……

 

 

 

「ご馳走様でした。」

 

「はーいお粗末さまー。」

 

「洗い物は私がやっておくから、2人は先にお風呂入っちゃいなさい。」

 

「はいよー。」

 

「…!ありがとうございます、叔父様。」

 

才子先輩が居る時、風呂は必ず私と一緒に入る。

我が家のお風呂は大きいので2人一緒に入った方が効率がいいのもあるが、昔から才子先輩が「一緒に入る」と頑として譲らないのだ。

「貴女は私の付き人なのだから、常に一緒に居るのが当たり前なのよ。」とお嬢様は仰せで、出会ってから今まで才子先輩が傍にいる時は2人で入らない日はない。

 

「なーパイセン。ずっと前から思ってたんだけど、この歳になってまで一緒に入る必要ある?」

 

「あるわ。」

 

「でも…」

 

「あるのよ。」

 

「アッハイ」

 

金持ちには敵が多いからね。護衛も兼ねてるからお風呂が一緒でも仕方ない…はずだ。

 

 

 

 

2人でお風呂に入ってさっぱりした後、お互いの髪を乾かし合う。

決まって私が先に才子先輩の髪を乾かし、その後は私がしてもらう番。

明日は早いので今夜はゲームをする暇もないなあ。寝る前にログボだけ貰っとくかな。

 

「そういえば、お父様が貴女と私宛に縁談を持ち掛けて来たのだけど、写真と一緒に破って捨てておいたから。」

 

「安定の事後報告…

今年入って5回目ですね。」

 

「全く…ヒーローになろうというのに許嫁なんて取っている暇なんてない。なのにあの男ときたら…

相手は皆企業の御曹司で年も20は離れてるのよ?女を何だと思っているのかしら。」

 

「はは…」

 

私の髪を梳かしながら恨めしそうにブツブツ呟く才子先輩。

要は政略結婚的なアレだ。超常世紀が始まってからは『個性婚』なんてのも問題になったらしいけど、私達に来る場合は単純に印照家に取り入りたいが故のお見合いだろう。

印照財閥の金とか地位とか、一部の大人が大好きな話題は興味が無いからその辺は才子先輩に一任しているが…なんで先輩は兎も角私にまでお見合いの話が来るのよ。私は印照家にお世話になってる側だから私とくっ付いても権力もクソもないぞ。

 

「先輩は兎も角、なんで毎回私にも縁談来るんですかねぇ…」

 

「貴女…自分の容姿を鏡で見てからものを言いなさいな。」

 

「?」

 

はっはっは、何を仰るお嬢様。

何だかんだ私の言ってる美少女云々はあくまでも()()だ。

自分で言ってるだけならタダだし?醜美の感覚なんて人それぞれだし?

そもそも私みたいな炎と汗と喧嘩に塗れた化け物女になんて誰も興味無いでしょ。

 

「私に興味のある男なんているのか…?」

 

「中学校の時、2ヶ月に3人のペースで告白を受けた女の台詞とは思えないわね。」

 

「アレはパイセンが適当にはぐらかして保留にしとけって言ったからそうしたら、自然消滅したじゃないっすか。

やっぱみんな途中で自分の勘違いに気付いてなし崩しになったんでしょ。」

 

「…ええそうね。」

 

告白って、その場の雰囲気とか一時の感情でつい言っちゃうこともあるんだよって前読んだ雑誌に書いてあったしきっとそうなんだろう。

 

告ってきた相手は決まってその後数日間消息不明になって、帰ってきた頃には私を避けるように一歩引いて話す様になるのだ。きっと勢いで告白しちゃって恥ずかしくなっちゃってるんだろう。

餓鬼道は出席率もめちゃくちゃな不良達ばかりだからね。ある日突然放浪の旅に出る奴とか良くいるしフツーフツー。

 

「本当に、貴女は私の言うことをよく聞いてくれるわ…」

 

ふふふ…と笑う才子先輩の目は妖しく光っていた。まーた悪い事考えてるな。

 

「はい終わり。帝の髪は綺麗な金髪なんだから、毎日キチンとケアしてあげなさい。」

 

「へぇい。」

 

「まったくやる気が感じられない…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…帝。」

 

「ん。」

 

「貴女の望んだ学校生活は楽しい?」

 

「うん。」

 

「なら良いわ。体育祭、全力で頑張りなさい。

貴女ならきっと、誰より人を救える。貴女は私のヒーローだもの…ねえ、私の帝。」

 

 

〝私の帝〟

 

聞きなれた優しい声。

 

才子先輩が私をこう呼ぶ時は、決まって『期待』している時だ。

たかが体育祭とはいえ勝負の世界、先輩が見ている前で手抜きなんてしようもんなら後でなんて言われるか分かったものじゃない。

 

「……分かってますよ()()()。」

 

期待には応えなきゃ。それが()()()()()()()()()()()()()()()

 

背中に当たる先輩の温もりを感じ、眠気に誘われ目を閉じた。

その日はいつもより気持ち良く眠れた気がする。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ねえ…やっぱりこの歳になってまで同じ布団で寝るのはどう…」

 

「いいのよ。」

 

「でも客間もあるのn「これがいいのよ」アッハイ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

次の日

 

 

 

 

「龍征、緑谷、ちょっといいか。」

 

「んー、どうした轟。」

 

「轟くん、どうしたの…?」

 

 

此処はA組選手控え室、開会式が始まるまで待ち時間暇だったので響香にFG〇のリセマラを頑張らせていたら突然私と緑谷は呼び止められた。大会が始まるまでもう数分も無いんだけど…

 

「いやこんな時にウチにリセマラやらせる帝もどうかしてるよ?」

 

「ヘ〇クレス出るまで燃える街を眺め続けるがいいふはは。」

 

文句言ってもなんだかんだリセマラ頑張る響香を背に、私を睨む轟の方へ行く。

ここんところずっと轟からは睨まれっぱなしだ、かと言って闇討ちやリンチ等の暴行を匂わせる気配も無い。でもあの目はなぁ、「お前を憎んでるぞ」って感じなんだよな。私アイツの恨み買うような事したかなー?

…まさか大会中に私を討ち取る腹積もり?

あとなんで緑谷と一緒なんだろ。

 

「…実力云々は別として、緑谷、龍征、お前達2人には負けねえ。それを伝えとく。」

 

まさかの身内から宣戦布告である。私嫌われ過ぎでは…?

 

「緑谷、轟に何したの。」

 

「ぼ、僕は何も!?」

 

「別にお前らに恨みがあるとかじゃねェ。

…緑谷、お前オールマイトに目ぇ付けられてるだろ。」

 

「?」

 

「…ッ!!」

 

緑谷の表情が変わった。

確かにここ最近オールマイト先生が緑谷をお弁当に誘ってる姿を何度か見たけど…ああ先生が特定の生徒1人を贔屓してるとも見えるし…それに轟は嫉妬した…?

 

「…痴情の縺れ?」

 

「龍征さん、絶対違うよ…」

 

クラス最強が宣戦布告。その報は控え室をどよめかせ、注目が一気に集まった。見かねた切島が止めに入るも、轟は「仲良しごっこやってる訳じゃねェ」と一蹴。理由はともかく、轟は本気だ。

 

「…轟君、体育祭に掛ける気持ちは僕も同じだよ。皆全力なんだ、僕にだって負けられない理由がある。

だから、僕も本気で取りに行く…!!」

 

そう言う緑谷の目は本気だった、覚悟完了って感じの緑谷だ。いつもオドオドふわふわしてる癖に、こういう時はシャキッとしてるのね。

 

「龍征もだ。お前の『炎』には絶対負けねえ。俺が勝つ。」

 

「ここ数日、アンタから謎の視線受けてた理由はそれなの?」

 

「睨んでたか…悪いな。」

 

「無意識か、アンタも闇が深いねえ…まあいいけど。

いいんじゃない?宣戦布告。

けど、やるからには本気出すからさ。後悔させたげる。」

 

この私に喧嘩ふっかけた事をね

 

そう優しく睨み返すと、轟はぴくっと反応したので、まあ意趣返しは出来たでしょう。

それどころか注目してた他の奴らまで反応したよ、なんなのさ。

いかんな、初めての学業イベントでテンションが上がってる。いつもの感じを保たねば。

 

「A組集合だ!全員外で整列したまえ!」

 

ばーんと勢いよく扉を開いて委員長がやってきたので、一足お先に出ちゃおう。おっさきー。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

後悔させたげる、私に喧嘩ふっかけた事をね

 

 

 

そう龍征に睨まれた時、動けなかった。

ルビーのような紅い瞳が俺を射抜く。言葉にできない恐怖が全身を引き攣らせ、縫い付けられたように足が床から離れない。

 

「君達もだ、キビキビ全員で移動しよう!」

 

ハキハキ喋る飯田に釣られ、固まっていた連中も1人また1人と控え室から出ていく。

 

USJで見せたオールマイトが放つ重圧に似た、押し潰されるようなプレッシャーに呑み込まれた。気が付けば握っていた拳が汗でじっとりと濡れている。

 

「気圧…されたのか、俺は。」

 

紅い瞳に、龍征帝に。

戦闘訓練では『熱』だけだった、USJで見せた黒い炎…

龍征が炎を使う度、憎いアイツの面影が頭をよぎる。龍征と奴は違うと頭の中では分かっていても、気持ちが着いていかない…情けねぇ…

 

「似てるなら尚更、超えなきゃいけねえんだよ…」

 

お母さんの力だけで俺は…クソ親父をッ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「凄かったな、龍征。」

 

「それな!俺ゾワッとしちまったよ!」

 

「あの迫力なら、不良だらけの餓鬼道を纏めてたってのも頷けるな。」

 

「強者の貫禄…」

 

「本気には本気で…男らしいぜ緑谷に龍征!龍征は女だけど!」

 

 

 

「…ねえ、さっきさ。

ほんの一瞬…一瞬だけだよ?普段ダラダラしてのんびり屋なのにウチ…帝が『怖い』って、思っちゃった。」

 

「正直な所、轟さんに返事した時私も一瞬だけ恐怖を感じました。

…脚を竦ませるようなプレッシャー。それだけ彼女も本気で体育祭に望んでいるということです。」

 

「帝ちゃんも本気なのね…けろっ。」

 

「うちも負けてられへん…!」

 

 

 

 

「あぁ…ゾクゾクした…こういうのもアリかも…」

 

「峰田が変な趣味に目覚めてんぞ!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

開会式だよ全員集合。

ヒーロー科、普通科、サポート科、経営科、1年生全員が集まる事なんて滅多にない。会場は大歓声に包まれて、カメラのフラッシュがバッシャバシャ光る。ポリゴンショックって知ってるか?目に悪いぞどうしてくれる。

真ん中に整列した私達は壇上に立つ18禁ヒーローミッドナイトに従って、選手宣誓を行う運びとなった。

誰がするかって?

 

学年首席だ。

 

すなわち、爆GO。

 

名前を呼ばれ、ズカズカと壇上へ上がる彼の後ろ姿を見ながら、隣の百と響香に無言の目配せをした。

 

(嫌な予感がする…)

 

二人とも無言でコクリと頷いた、多分色々察してるんだろう。

 

 

『俺が1位になる』

 

 

やりやがったぜ

 

 

『他の奴ら、せいぜハネのいい踏み台になれ。』

 

 

更にガソリンを注いでいくゥ

 

 

選手からブーイングの嵐が吹き荒れる。

スポーツマンシップなど爆発四散させた暴言にA組一同騒然だ。そんで他のクラスから冷たい視線が矢継ぎ早に浴びせられた。

あのボンバーマン…宣戦布告の時はフォローして治めてやったと言うのに。後日、鉄哲他B組の生徒に質問攻めにされたの私なんだぞ。

 

しかし大人の女性ミッドナイト先生はこれを華麗に受け流し、早速第一種目の説明を始めた。

スタジアムの巨大スクリーンにどでかく表示されたのは…

 

「障害物競走?」

 

『コース内なら何をしてもOK!

早速選手はスタート地点に着きな!』

 

ミッドナイトのふるうムチの先には、スタート地点らしき出口がある。ただし生徒の人数に比べて明らかに横幅が狭い。

天井は高いが…ああ、そういう事ね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『それでは位置について!』

 

各々スタート地点に着き、目の前の狭き門を一心に睨みつける。

私は結構後ろの方だけどまあ大丈夫か。

というかスタートしたら()使()()()()()()

 

 

『スタート!』

 

競技用のランプが赤から緑に変わり、一斉に選手が狭い通路に走り込んだ。

案の定、通路の中はすし詰め状態。後ろから眺めててクラスメイトが何人か巻き込まれてもがいているのが見える。緑谷とかブドウとか。

その途端に冷気が吹き荒れて、先頭集団が悲鳴を上げてるのが聞こえた。多分轟が足下を凍り付かせて妨害したんだろう。

先頭を走る轟は言わずもがな、爆豪は50m走の時に見せていた両手で爆破を使い、その反動で飛ぶ技を使っていち早く人混みから抜きん出た。他にも百や切島なんかもスタジアム外へ抜け出してる。

クラスメイトが奮起する中、私はと言うと…

 

『オイオイ最後尾の奴、まだストレッチしてんぞ?ありゃお前ん所の生徒だろイレイザー!』

 

はい、ストレッチしてます。準備運動って大事じゃん?怪我の元にもなるし。

 

『龍征…真面目にやれ。』

 

解説の相澤先生から静かなるお怒りの言葉を頂いたので準備運動はこのくらいにして、炎を吐いて脚に回す。そのまま混雑する最後尾を飛び越えるように思いっきりジャンプした。即座に脚の炎を足裏に圧縮させて小さな爆発を起こせば、推進力が生まれて私の身体は前に吹っ飛ぶ。他の生徒ひしめく下界を見下ろしながら、足裏で小さな爆発を繰り返して進んだ。

傍から見ればまるで空中を歩いているように見えるだろう。ONE P〇ACE読んでる時に思いついたこの技、暇な時に練習しておいて良かった。

私の炎はエンデヴァーのように身体中から吹き出せるわけじゃない、口から吐いた分だけだ。だから爆豪みたいに何度も爆発させて浮き続ける事はできないけど、このくらいの距離ならなんとか…

 

「やっぱ爆発を起こすと炎の消費激しいな…」

 

飛んでから2回くらい爆発させた所で、脚に回した分がなくなった。けど十分空中で距離は稼いだので、私は難なくスタジアムの外へと到達できる。

 

『ウオオオ!?最後尾だったA組龍征、たちまち先頭集団と並んだア!

なんでアイツだけ六式使ってんの!?』

 

『炎を足裏で圧縮させて起こした爆発を使い飛ぶ…混雑する集団を抜けるには一番合理的だが、思いつきでできるほど簡単な事じゃねえだろうに。』

 

スタジアムの外へ出たはいいものの、相変わらず轟の冷気が地面を凍らせて足下がスケートリンクみたいになってた。これは宜しくない。

 

「邪ぁ魔だ…ッ!」

 

着地と同時に地面に向かってブレスを吐いて、足下の氷を溶かす。

 

「龍征…!」

 

「来ましたわね帝さん!!」

 

「テンション上がって来た…!」

 

今度こそ着地、氷を溶かしたせいで若干地面がぬかるんでるが問題なし!

 

響香は少し後ろ、百は殆ど横並び、心操は…早速洗脳でラクしてるじゃん。

試しに手を振ってみると一瞬躊躇ったがちゃんと振り返してくれた。ツンデレかよ、カワイイ奴め。

 

 

『先頭集団に躍り出たA組龍征、轟のスケートリンクを熱で溶かしながら猛進中だァ!

だが易々と先に進めると思うなよ!』

 

いきなり通路が広がった。少し先は広場になってる様だけど、あのデカい影はまさか…

 

『第1関門、ロボインフェルノ!』

 

「入試の時の仮想ヴィラン!」

 

「何処からお金出てるのかしら…」

 

「そういうのは言わないお約束だぞ。」

 

入試で私が吹き飛ばした0ポイントも居る、小さいのも含めて数は50を超えてるぞ!

 

《ターゲット、大量…ブッコロス!ブッコロス!》

 

「ああっ!?峰田くん!」

 

緑谷が叫ぶ。考えてる間にブドウが犠牲になった、お前の事は3秒くらい忘れないよ…

 

「ウッソだろ…ヒーロー科は入試であんなのと戦ったのかよ…」

 

誰かがボソリと呟いた。

古今東西、入試試験でロボットと戦わせるのなんて雄英くらいのもんだろう。他の学校のヒーロー科はどんな試験してるのか知らないけど、少なくとも聖愛にいる才子先輩に実技試験の内容話したらちょっと引いてた。

雄英は良くも悪くも『自由』なのがウリだから…仕方ないね。

そう思ったのもつかの間、突如として0ポイントヴィランの一体が氷のオブジェと化し、地面に崩れ落ちる。

 

『トップをひた走る轟ィ!入試の0ポイントヴィランを凍結させ難なく通過だ!』

 

『轟にはあんなもん障害にもなってねえな。』

 

つーか崩れ落ちた先に誰か居なかったか?

あ、切島と鉄哲が這い出てて来た。轟の奴無茶するなあ。

 

「轟のヤロー、俺じゃなかったら死んでたぞ今の!」

 

「ぬがぁっ!!

轟といい爆豪といい…A組は嫌な奴ばっかりだなぁ!」

 

それでもデカブツは続々やって来て、3体ほど私の前に立ち塞がる。

 

「ちょうどいいや。鉄哲、切島、手ぇ貸しな。」

 

「おう!?龍征か!この前は色々聞かせてくれてサンキューなあ!」

 

「なんか策でもあんのか!?」

 

「あるよ。

取り敢えずアンタ達、硬化して私にぶん投げられろ。そんで真正面から叩き潰す2人の好きそうな正面突破だ。1発ヤってみる?」

 

「「よし乗った!任せろ!」」

 

ノリが良くて助かるわー。

 

「左右は任すよ、真ん中は私が潰す。」

 

先ずは切島。硬化した手を握り、右脚を軸にしてハンマー投げの様にぶん回す。

 

「行くぞ切島、漢気見せな…!」

 

「うぉらあああああああッッ!!」

 

いいタイミングで投げた切島は0ポイントヴィランの顔面に飛んでいき、勢いのままぶん殴った。結構な速度出てたから仰け反ったヴィランはそのまま後ろに倒れ込み、行動不能。切島も無事着地したみたい。

 

「次弾装填、行くよ!」

 

「よし来たァ!!」

 

今度は鉄哲。さっきとは逆回転でぶん投げて、捻りを効かせた為ライフル弾みたいに回転しながらヴィランの腹を貫いた。

 

最後に残った目の前の奴。振り下ろされた拳をひらりと躱し、そのまま腕を走って頭まで辿り着く。んでぇ…

 

「下の人、危ないから退いてなさいよ!」

 

思い切り足を振り上げ、ロボの脳天に踵落としを御見舞してやった。

 

ゴシャアっと鈍い音がした頭部はクレーターができるほどぐちゃぐちゃにへしゃげ、バランスを崩し勢いのまま胴体が地面に叩き付けられ戦塵を巻き上げる。

 

一丁上がりっと

 

『おおおおおおッ!!?A組龍征、硬化した切島と鉄哲を使い0ポイントヴィランを大量撃破!

なんちゅー怪力してんだァ!?』

 

「A組の奴が巨大ロボをぶっ飛ばしたぞ!」

 

「おっさき〜。」

 

「流石ですわね龍征さん…私も!」

 

ちらりと後ろを見れば、百は大砲を創造してデカブツを撃破してる。道は開けたし私は先に進むとしよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『第1関門をいち早く抜け、トップは轟!それを追う爆豪、飯田、塩崎、龍征。さっき人間砲弾にされた切島と鉄哲も後を追うゥ!

そして向かうは第2関門…』

 

私の前には断崖絶壁が広がっていた

 

『死にたくなけりゃ這いつくばりな!ザ・フォール!』

 

 






後編はなるべく早く纏めて上げる予定ゾ…


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12 疾駆怒涛の体育祭予選:後

障害物競走終わり

一部キャラ崩壊注意!







断崖絶壁、そう呼称するのが正しいか。

第2関門ザ・フォール。深い深い谷の間にある小島を繋ぐのはロープ1本、下は底も見えない断崖絶壁。全力で高所恐怖症患者を殺しにくるステージが私の前に立ちはだかった。

トップの轟は凍ったロープを滑り、もう第2関門を抜けようとしてる。続く爆豪、アイツ空飛んでるから穴とか関係無いじゃん!ひっきょ!

あとすっげえカッコ悪いポーズで綱を渡る飯田とかいるが、私はさっき使ったアレがあるのよ。

 

『龍征、断崖絶壁の前に怖気付いたか?背を向けたぞォ!?』

 

向きと角度は大体これくらい、一気に飛び越える為に大きいの一発で行きたいから吐いた炎を圧縮圧縮…斜め45度でえ…

 

「ここで…こうッ!!」

 

思いっきり地面に向かって炎の爆発を引き起こす!反動で私は大きく後ろに吹き飛んで、その勢いのままみるみる崖を飛び越えた。ちゃあんと後ろに被害が出ないタイミングでやりましたとも。

爆豪のパクリ?HAHAHAなんの事かな、リスペクトだよリスペクト。

 

『なんと龍征!大爆発の反動を利用して崖を飛び越えようって算段かァ!?』

 

『炎系は爆発力があるから応用も利きやすい。龍征には開始前に翼竜の使用禁止を伝えておいたが、まさか自力でここまでやるとはな。』

 

『入試んときのワイバーンか!

じゃあアイツがワイバーン解禁で障害物競走なんてやったら…』

 

『全部翼竜任せで終わりだ。

龍征は翼竜に任せっきりになるとダラダラやるからな、教師権限で禁止にした。合理的処置。』

 

『エンターテインメント!』

 

翼竜禁止の理由そんなだったんか…

 

『因みに、その翼竜達は俺が預かってる。

猫みたいでなかなか愛嬌あるぞ。』

 

『さっきから視界の隅で鯖缶食ってんのはソレだったのか!気付かなかったぜ!』

 

知らん間に餌付けされとるう!

 

「なっ!?あの女…」

 

なーんて呑気に実況を聞いてる間に爆豪を追い越して、そろそろ向こう岸に着きそうだ……て、あれ?

あれあれあれ…?

 

「やっべ、足りない?」

 

この飛距離だと向こう岸届くかギリなのでは?ぎゃああ横着するんじゃなかった!頼むあとすこし届いて届いてお願いします何でもしますから!

 

「ァァァあっぶなッ!!」

 

ギリギリッ!ギリッギリ右手が向こう岸に掛かった!でも片手が掛かればスグ登ってぇ…

 

「俺をパクんじゃ無ェよクソ金髪がァ!!」

 

その時、後ろから怒声あげながら飛んできた爆豪が私のすぐ隣に着地した。

結構な速度で着地したから振動が…

 

ボロッ

 

「「あっ…」」

 

思わず爆豪と顔を見合わせる。

一瞬身体がフワッと浮いて…

 

『おおおお落ちたァァァァッ!?

龍征、爆豪の着地の振動で崖が欠けてそのまま落ちてったァァァァァァ!!』

 

マイク先生の実況が全てを物語る、掴んでた地面が欠けて私は深い深い谷底へと落ちていく。

 

「あんの爆発頭がァァァァァッ!!」

 

力の限り叫んでやった。

 

落ちてる途中、チラッと綱を渡ってるB組の娘と目が合ったが、今は競走中。助けなんて求めてられん!

 

このまま終わると思うなよおおおおおおおッ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『龍征、奈落の底へ落ちいくゥ!

因みに下には教員がスタンバってて、ちゃんと命は助かるから安心しろよな!』

 

『アイツがこのままリタイアするとは思えんが。』

 

クルルル…

 

『なんだ、まだ食い足りねえのか。』

 

『甘やかし過ぎじゃね…?

龍征除いた先頭集団は続々と第2関門を抜けてくぞ!

そろそろ落ちた龍征がブラド辺りに助けられて…アレ?連絡来ねえな。』

 

 

 

………ン…

 

 

……ガン…

 

 

…ガン…ガン…ッ…

 

 

 

『トップの轟は第3関門を半分通過!強個性故に地雷原は慎重にならざるを得ないィ!他の生徒も着々と第3関門に差し掛かってんぞ!

…あー?なんかノイズが聞こえるな…なんだ?第2関門の方からか。』

 

 

…ガン…ガン…ガンッ…ガンッ

 

 

『…ブラドから連絡来たぞ、龍征はまだ回収されてねえ。』

 

 

ガンッ!ガンッ!ガンッ!ガンッ!

 

 

『さっきからガンガンうるせえYO!一体何が…ホワアアアットッ!?!?』

 

 

ガンガンガンガンガンガンガンッッ!!

 

 

 

『マジかよ!奈落に落ちたかと思われた龍征、なんと自力で這い上がって来たアアアアアアアッ!?

ソウクレイジィィィッ!!

つーか絵面!怖過ぎんよ!完全に地獄の使いみたいになってんぞォ!!』

 

『自分の腕を岸壁に突き刺して、ピック代わりに登ってきてるのか…なんつー力業だ。』

 

『そしてェ!今!奈落の底から龍征帰還ンンンンッ!!この女、文字通り底がねェ!まだまだ終わらねえぞ!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

た だ い ま

 

あークソッ…失格になるかと思ったぞ!

だいぶ先頭集団から離されちゃったし、爆豪の奴…絶対復讐してやるからな!

 

走り抜けた先は第3関門、『怒りのアフガン』。流石にスタロー○が立ち塞がって機関銃振り回してはいないみたいだけど、地雷原か…このまま走ってもいいが距離を離されすぎて轟達には追いつけない。前にいるのはざっと20人位だから、本戦に残るにはまだ十分余裕はあるはず…でも才子先輩も見てるんだ、もっと上位でゴールしたい。

 

 

 

 

「焦るな…焦るな…まだ間に合う…皆早く抜けることを考えてて入口の地雷はおざなりだからそれを利用して…」

 

その時、地雷原手前でブツブツ独り言呟きながら地雷をせっせとかき集める緑谷に遭遇。

 

「みーどりや、なにしてんの。」

 

「りりりり龍征さん!?第2関門突破出来たんだね!」

 

「おう。爆豪の奴、後で絶対泣かす…」

 

「あ、あはは…そんな事より僕はやらないといけない事が…」

 

キョドってるのか目を見て話してくれない緑谷の足下には集めた地雷と、第1関門で邪魔してきた仮想ヴィランの装甲板が転がってる。

 

「…?あー、ちょいまち。

やりたい事は理解したわ、火力足してやるから私も一枚噛ませて。」

 

「…!?龍征さんまさか…僕の作戦が分かるの?」

 

「…ほら、グズグズしてると轟達が地雷原越えちゃうから急いで急いで。」

 

「わわわわわわわわわ龍征さん近い近い!胸!胸当たってる!」

 

「細かい事気にすると禿げる、行っくぞお!」

 

恐らく緑谷は装甲板を盾にして、地雷を一斉起爆させた推進力で一気に前まで飛ぶ腹積もりなんだろう。なので私もそれに便乗させてもらう。

下から装甲板、緑谷、私の順になるように挟みこんで…

 

圧縮したブレスを緑谷が積み重ねた地雷原に向けて炸裂させた。

 

 

 

地雷の爆発+私の炎による圧縮爆発により起きた超爆発はキノコ雲を作る勢いで周囲を揺らし、その衝撃に吹き飛ばされて私と緑谷が他の選手のはるか頭上を一気に飛び越える!

 

『やりやがったぜ龍征の奴!それから緑谷!

地雷と炎の衝撃で一気に前方へカっ飛んだァ!緑谷そのポジション色んな意味で羨ましいぞ!』

 

緑谷ぁ?ああ、身長差あるから必然的に私の胸に埋もれる形になってるけど、んな事は知らん!

 

「~~ッ!!〜〜…ッ!!」

 

「私はちょっと用事あるから、緑谷パージするよ。じゃあね。」

 

「んーッぶはっ!?龍征さん!?」

 

「アリーヴェデルチ、さよならだ!」

 

爆発の勢いは凄まじく、何故か地雷原で格闘戦してる轟と爆豪を追い抜いたのを見計らって、私は緑谷に別れを告げる。

 

「龍征…!」

 

「俺の前を行くんじゃねェデクゥ!!」

 

「悪いけど、爆豪はさっきの仕返しだ。恨むなよ。」

 

着地の瞬間、右手に込めた炎を地面を這わせるように解き放つ。するとどうなるか?

 

疾る炎が地雷を纏めて傷付けて、爆音と共に轟と爆豪がピンクの煙に呑み込まれた。

 

 

 

 

『本日2度目の大・大・爆・発だァ!

A組龍征、なんと後続妨害の為に地雷をわざと起爆させやがったァ!』

 

『地面を這わせるように火炎を…

地雷の連鎖爆発で後続は滅茶苦茶だな。逆に自分は爆風で加速、実に合理的な判断だ。』

 

 

 

「ザマーミロ爆豪!あばよとっつぁーん!」

 

「ぶわはッ!!?あンのクソ女ァ!!」

 

「くっそ…!」

 

 

 

 

 

 

 

 

『スゲーなA組!

イレイザーお前どんな教育してんだ!?』

 

『俺は何もしちゃいねえよ、アイツらが勝手に焚き付け合ってんだ。』

 

『雄英高校体育祭第一種目、障害物競走!

数多の生徒の中から知恵と体力とほんの少しの運で1位にのし上がったのはァ…なんとォ…』

 

 

 

A組、緑谷出久ゥゥゥ!!

 

 

 

スタジアムが割れんばかりの大歓声に包まれる。

結局あの後、私のダメ押し地雷起爆で更に勢いのついた緑谷はトップに躍り出て、そのまま1位になった。私は2位、轟3位の爆豪4位という結果に収まり、障害物競走は幕を閉じる。

上位42名が本戦進出、という結果を受け先ずは一安心かな。

 

「おつかれ帝。」

 

「響香もお疲れ。A組は全員本戦出場してるみたいだ、やったね。」

 

「ウチはアンタの起こした誘爆に引っ掻き回されてた所を上手く抜け出せたからね。」

 

「いやー崖から落ちた時は流石にダメかと…緑谷の策に乗らなかったらヤバかった。

お、心操も本戦残ってんじゃん。」

 

「ホントだ、普通科じゃアイツだけみたい。普通科なのに中々ガッツあんね。」

 

個性を上手く使ったんだろう、いい事だ。

前おっぴろげの百は何故かげんなりして落ち込んでた。聞いてみると、途中からブドウが背中に張り付いて付いてきたらしい。あのもぎもぎにそんな使い方あるんだ。

 

「くっ…情けない…

峰田さんに最後までいい様にされてしまいました、こんな筈では…」

 

「ど、ドンマイ百。次頑張ろ?」

 

「また峰田か…いい加減制裁考えておかないと…」

 

「響香?目が据わってんよ?」

 

 

 

 

 

 

 

「………」

 

ふと、何処かを睨み付ける轟の姿が見えた。その視線は観客席に向いていて、その先には見るからに暑苦しそうなオッサンが居る。

コスチュームどころか髭まで燃えてる、歩く地球温暖化かよ。オールマイト先生ごめん、貴方よりアイツの方が物理的に数倍暑苦しいわ。夏場絶対に遭遇したくない。

確かアレはフレイムヒーロー『エンデヴァー』だったかな、オールマイトに次ぐ実力派のヒーローだ。

轟に声をかけようと思ったけど、ハイテンションな透と三奈に捕まってしまったので構ってやれない。

 

あの目、やっぱり引っかかるんだよねえ…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どうやら無事に帝は予選を通過した様ですね、叔父様。」

 

「崖から落ちた時はヒヤヒヤしたけどネ。」

 

「あんなにはしゃいで楽しそうにする帝は初めて見ました。やはり雄英に行かせて正解でしたわ。

ああ…本当に良い表情…うふふふふ…」

 

パシャシャシャシャシャ…

 

「んー取り敢えず一眼レフのシャッター切るの止めない?まだ予選だヨ?」

 

「フィルムの予備は大量にありますから無問題ですわ。」

 

「そういう問題カナー?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「焦凍、またお父さん睨んでる…やっぱりこの大会で炎を使う気は無いんだ…」

 

「冬美さん…?どうかしました?」

 

「ううん、何でもないの。

今日は誘ってくれてありがとう、香子ちゃん。

…ちゃんと向き合わないと駄目だよね。」

 

 

 

 

 

 

 

10分程の休憩の後、ミッドナイトから第2種目の発表がなされた。

 

2種目めは騎馬戦、各々2人~4人でチームを組んで、それぞれ予選の順位に合わせた得点のハチマキを奪い合う争奪戦だ。

ポイントは42位が5ポイントで、そこから順位が1上がる事に5刻みで増えていく。

という事は2位の私のポイントは205ポイント、そして気になる1位のポイントはなんと…

 

 

1000万ポイントよッ!!

 

 

あ、緑谷が吹き出した。

明らかに桁の違う得点、騎馬戦でそれを持つということはつまり…

 

『どんな順位からでも1位になれる…!』

 

緑谷を見つめる全員の目が修羅となった瞬間である。

産まれたての子鹿の様に足を震わせる緑谷、勝っちゃったのだからしょうがない。ほらほらプルスウルトラってやつよ。雄英に受難は()()()さ、HAHAHA。

…漢字が違う?良いんだよコレで。

 

 

 

 

 

 

というわけで、15分間のチーム決めの交渉タイム。

さー誰と組もうかなっと…取り敢えず響香誘って…

 

「ゴメン、ウチもう葉隠の所と組んじゃった。」

 

なん…だと…!?

 

「えー…じゃあ百…」

 

「私は轟さんの所へ誘われました。

それに…帝さんは2位です。緑谷さん程ではないにしても、高ポイントの貴女と組んで下さる方は少ないかと。」

 

やだ、私の人徳…低過ぎ?

どうしよどうしよ…爆豪ん所はダメだ、目の敵にされてるし。彼処で泣いてる緑谷の所へ行くか…?でも1000万のリスクヤバいし…

 

 

 

 

 

 

「…………」

 

…は?

 

「…………」

 

んんー…?

 

突然である。

確かB組の子だ、髪の毛が茨の蔓の様に伸びてる女の子。何故か私の目の前で綺麗な土下座を敢行していた。

 

「えっ…」

 

「……せんでした。」

 

「は?」

 

「申し訳ッ御座いませんでした…ッ!!」

 

女の子が顔を上げた、むっちゃ泣いてた。

まあ待て落ち着け、落ち着いて素数を数えるんだ。素数は自分でしか割ることの出来ない孤独な数字、私に勇気を与えてくれる…いや今は別に勇気とか要らないわ。

中学生の頃なら兎も角、高校入って暴れた記憶は一切ない!…無いよね?まして隣のクラスの子だ、尚更変なことしないよ。じゃあ何故…何故…

 

「B組の子よね?

…何で開幕土下座してんの?」

 

「私は…救えませんでした…

競技の場とはいえ、崖に落ちる貴女を。

私の個性なら救えたのに、救おうとしなかった…自身の保身の為に貴女を見捨ててしまった…!

貴女は皆の為に仮想ヴィランを打ち倒した、個人勝負なのに、鉄哲さんと共に堂々と皆を救ってみせました!

神の前で誓ったのです!私はこの個性に産まれた時から、人を助けるヒーローになると!なのに…なのに私は…」

 

ああ、そう言えばこの子、私が崖から落ちた時目が合った女の子だ。名前は確か塩崎茨。

どうやらあの時私を助けなかった事を悔いている様で、こうして土下座を敢行しているらしい。

いや公衆の面前で土下座とか止めろよ…私がさせたみたいだからさ…たしかに昔、書記ちゃんと買い物してた時ナンパしてきたチャラい大学生10人くらいボコボコにして土下座させたけどさ…アレは私の身体目的で絡んできた向こうが悪いわけで。

取り敢えず、尚も顔を下げっぱなしの茨ちゃんの頬に優しく手を添える。

 

「顔を上げなさい。」

 

「……」

 

「女の土下座は宜しくないから。ほら涙も拭いて、綺麗な顔が台無しになる。」

 

「ぅ…はい…ッ!!」

 

「貴女は悪くない。ヒーローを目指すんだから、時には矜持を曲げないといけない時もあるわ。

大事なのは、後悔を忘れない事。」

 

「貴女も…後悔した事があるのですか…?」

 

「あるよ、沢山。

でも雄英はよく言うだろ?『Plus ultra!!(さらに向こうへ)』って。

甘えも妥協もすればいい、でも途中で諦めるのだけは駄目だ。難しい事だけど、天下の雄英に入学出来た貴女ならできないはずは無い、違う?」

 

「……ッ御姉様!」

 

外行きの笑顔で必死に表情筋動かしながらフィーリングで喋り、胸に飛び込んできた茨ちゃんを抱き留める。その光景は思いっきり他の連中にも目撃されていた訳で…

 

「し、塩崎なんで号泣してんの?」

 

「わからん…A組の奴と抱き合ってるケド…」

 

「マリア様が見てる的なアレか?」

 

「き…キマシタワー!」

 

テンション上がってるブドウは後で殴ろう。良くわかんないけど、そうしなきゃいけない電波を感じた。

 

「御姉様、私をチームに加えて下さい。きっと力になってみせます…!」

 

「ええ、ありがとう。塩崎さん。」

 

「そんな…気軽に茨とお呼び下さい。」

 

「そう、宜しくね茨。」

 

「ッ!!…はいっ!」

 

花が咲くような笑顔で頷く茨ちゃんが仲間に加わった!

そんでもう1人は…

 

「おーい心操、一緒に組もうぜー。」

 

「来ると思った、良いぞ。」

 

二つ返事で許可を貰った、流石マイフレンド。

 

「コレで3人、あと一人欲しいところね。」

 

「それに関しちゃ大丈夫だ、ほら。」

 

心操の後ろを虚ろな瞳でとぼとぼ歩いてくるのは…

 

「鉄哲?…お前、洗脳使ったな。」

 

「ああ、簡単に返事してくれて助かったよ。」

 

抜け目ない心操、もう駒を手に入れていた。けど鉄哲なら普通に頼めばOKくれそう。

 

「洗脳解きな、私から直接話すから。」

 

「…いいのか?操ってた方が素直に動くと思うんだが。」

 

「いいから、ホレ。」

 

「わーったよ。」

 

ふっと心操が視線を外すと、鉄哲の瞳に光が戻る。戻った途端キョロキョロと慌てて辺りを見回して挙動不審。

 

「ああッ!?一体何が起こったぁ!?」

 

「よう、鉄哲。

率直に言うけどさ、騎馬戦私達と組まない?」

 

「龍征?気持ちは嬉しいが俺達ぁA組とは…」

 

「茨も協力してくれるんだって、それに私のチームはA、B、普通科だって混合さ。

んで、自慢じゃないけど私ってばA組のトップだから。確実に決勝まで勝たせてあげる。

A組の力を使って、真正面からA組を叩きのめす…アンタはどうする?」

 

「……分かった!A組でもお前なら信じていいぜ、龍征!お前には仮想ヴィランの時の恩もあっからなァ!」

 

 

これで騎馬は揃った!

クラス混成チーム、でも鉄哲と茨ちゃんの個性なら轟の企んでそうな事は阻止できるはず。

上鳴と百が居るんだもんな、やりたい事はバレバレよ。

四人の合計ポイントは630、意外と高い。守りに徹しても十分勝てるだろうけど、やるからには欲しいよね、1000万。

 

「勝ちに行くぞ、覚悟はいいか?私は出来てる。」

 

「おうよォッ!!」

 

「はいっ!」

 

「ああ…」

 

 

 

 

 

 

さあ、本戦(ゲーム)を始めましょう?

 









塩崎と鉄哲こんな奴だっけ?作者は訝しんだ。


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13 燃え尽きろ体育祭本戦:騎馬戦




オアー!艦これとアズレンのイベント始まっちまったァ〜!?

更新がよォ〜遅くなるぜェ…


ご都合展開あるゾ








『さァチーム交渉タイムは終了し、総勢12組の騎馬が出揃ったァ!』

 

『ヒーロー活動でも、時には見知らぬヒーローと連携を組むことを要される。それぞれの個性を把握し、急造チームでも連携する事が必須な訳だが…2組ほど面白いのが居るな。』

 

『だなぁミイラマン!1つは緑谷んとこ、もう1つは合計ポイント630!龍征率いる騎馬だな!A組とB組、そして普通科の生徒も取り込んでの参戦だァ!こいつぁおもしれえ!』

 

前騎馬は頑丈な鉄哲、左側が茨ちゃん、右が心操、私が上で騎首を務める。

 

「3人とも、私重くないか?」

 

「全然大丈夫だ!」

 

「舐めんな、これくらい問題無い。」

 

「御姉様、それでは計画通り…」

 

「ああ、頼むぜ3人とも。」

 

 

『それでは第2種目、騎馬戦!

レディー…スタァートッ!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

騎馬戦のフィールドは12の騎馬が動き回っても問題ないほど広さがある。

今回は騎首が落ちても騎馬が崩れても組み直せば復帰可能のルールなので、持ち点の多い私達が取れる手段は基本的には防衛戦、守りと回避を余儀なくされる。

 

「私達に機動力は無い、けど他の騎馬…主にA組連中の個性から考えて、やりそうな事は大体予想がつく。」

 

例えば轟の騎馬、エンジン持ちの高起動な飯田を始め、広範囲を電撃で牽制できる上鳴、そしてザ・万能個性の百、轟本人も氷が脅威だ。唯一サポート科を味方に付けた緑谷(1000万)だけが不確定要素だけど…背中のバックパックとお茶子の履いてるごてごてした靴で大体何をしたいのかは分かる。今にも無限の彼方へ行きそうだ。

事前の打ち合わせで、B組の足止めの得意そうな個性について情報も得ているし、ある程度は対処できるといいんだけど…

 

『開始早々、殆どの騎馬が1000万の緑谷を狙うゥ!!』

 

「と、思うじゃん?」

 

「クソ金髪女ァァァ!」

 

殆どが1000万を狙う中、雄叫び上げながら私たち目掛け突っ込んできた。

言わずもがな、爆豪だ。しかも1人爆風で空を飛んでやって来た。

 

「テメェ!さっきはよくも邪魔してくれたなァ!ぶっっっ殺ォすッ!!」

 

「アンタが崖から落としたせいでしょうが…!」

 

「うっせェ!落ちるテメェが悪ぃわ!」

 

「超・暴・論!!」

 

空中で私のハチマキを掠め取ろうとする爆豪の手を払い、目くらましも兼ねて火炎放射。

少しだけ怯んだと思ったのもつかの間、落下して地面に着く直前に爆豪は何かに引っ張られるように後ろへ吹っ飛んだ。

 

「初っ端から飛ばし過ぎだ爆豪!」

 

「龍征のトコ、前騎馬までダダ被りかよォ!?」

 

「帝ちゃん、ハチマキ寄越せ~!」

 

騎馬は三奈、瀬呂、切島ね。爆豪を引っ張ったのは瀬呂のテープだな。飛んでく爆豪を着地前に回収する離れ業、主審のミッドナイト曰くテクニカルなのでOKだそうだ。

 

『A組緑谷、下がダメなら上かよォ!?サポート科と個性の賜物で、優雅に空を飛ぶゥ!』

 

私達がいがみ合ってる間に緑谷は追っ手を躱し空へ逃げた。

普段オドオドしてる割に頭回るよねあの子。オールマイトからも目を付けられてるらしいし、優秀なんだ。身体ぶっ壊す個性は頂けないけど。

 

その時、ひんやりと白い空気が漂う。そう遠くない位置でチカチカ視界の端が光った。

 

「茨、鉄哲、予定通りに!」

 

「おう!」

 

「はいっ!」

 

すかさず茨の蔓が地面を伝って鉄哲の脚まで届き、地面に固定。更に伸びる蔓は鉄哲以外をバリアのように覆う。

 

「無差別放電、130万Vォッ!!」

 

その直後、上鳴の放電が辺り一帯にぶちまけられた。周囲の騎馬は軒並み感電してビリビリ悲鳴を上げてる、透の所で騎馬をしてる響香も言わずもがな。

 

「ぐぎぎぎぎ…ッ!!」

 

「鉄哲、どんな具合!?」

 

「問題ねェ!塩崎の蔓が殆ど地面に流してくれてっからなァ!」

 

「よっしゃ、なら大丈夫。放電で足を止めたら次は…」

 

着地する緑谷を追って走る轟の騎馬、百の右腕にある避雷針から今度は氷が地面を伝って伸びて来て、痺れて動けない騎馬の脚を凍らせていく。

 

「鉄哲、頭下げろ!」

 

「おっし……ほあッ!?」

 

迫る氷の拘束、それは私が炎で溶かすしかない!進行方向から氷は来ているのだから、必然私は鉄哲の頭の上から身を乗り出して、火球を目の前足下に炸裂させた。

火球の熱を避けるように氷の地面は形成されて、私の騎馬は難なく危機を脱する事ができたよ。

なに?胸が頭にのしかかってた?黙らっしゃいそんな些細な事気にしてる暇はねえんだよ!

 

「ラッキースケベは嬉しいけどよォ、女ならもっと慎みを持ちやがれ!」

 

「…また耳郎にどやされるぞお前。」

 

「ぴぃっ!?それは勘弁して!」

 

 

 

 

 

 

「やっぱ凌ぐか、龍征。

やはり警戒すべきはあのチームだな。」

 

「轟さん、今は1000万ですわ!幸いあちらの騎馬に機動力はありません、今のうちに例の作戦を!」

 

「…分かってる。取るぞ、1000万。」

 

「ヨシ来たァ!」

 

「ああっ!」

 

 

 

 

 

轟の野郎、氷でバリケード作って意図的に緑谷の騎馬と一騎打ちする構えか。

轟の氷の拘束をいち早く察知し避けた私達はひとまず固まって動けない騎馬からハチマキを幾らかちょろまかして、暫定2位の座に着いていた。

 

「透、響香悪いね。貰ってくよ。」

 

「わー!?」

 

「帝!?させるかっ!」

 

「守ります…!」

 

響香のイヤホンを茨の蔓で牽制させ、そそくさと他の騎馬へ。つーかさっきから後で騎馬やってる口田がずっと顔赤いんだけどどうした?

 

「……!…!!」

 

なんか凄い狼狽えてる、マスコットみたいで可愛いよね、彼。

 

 

 

 

 

 

 

「御姉様、左です!」

 

「…あーあ、やっぱ凌ぐか。防御に秀でた塩崎さんがいるもんなあ。」

 

咄嗟に伸びた茨の蔓に手を引いて、私の死角に立つ騎馬。こいつは鉄哲が言ってた要注意人物…

 

「確か物間だっけか。」

 

「二人から聞いたのかな?宜しくね龍征さん。

この前は貴重な話をどうも有難う。」

 

ちょっぴりダウナーな雰囲気を漂わせる男、物間寧人。個性は〝コピー〟、触れた相手の個性を5分間使用可能らしい。厄介な奴だな。

 

「その調子だと、僕の個性はバレてるみたいだ。

残念。君の個性、面白そうだから本命相手する前に借りたかったんだけどね。」

 

「本命?それってまさか…」

 

「クソ金髪女ァァァァッ!!」

 

「なんかデジャヴだ!?」

 

懲りずにまた1人で特攻仕掛けてきた爆豪、物間はにやりと笑って弾丸みたいにこちらへ飛んでくる爆豪から器用にハチマキをスり取った。

 

「んなッ!?」

 

「単純なんだよ、A組。」

 

どうやら物間の目的は最初から爆豪のポイントだったようだ。私に突っかかる素振りを見せて、爆豪の闘争心を煽る。中々の策士よのう。つーかアイツが直情的なだけ?首席取るくらい頭いいのにね。

再び瀬呂に回収された爆豪、顔がやばい。怒りで空間が歪んでる。

 

「本当なら最初の接触で君のポイントも貰うつもりだったんだけど、まあいいや。

撤収だ、ポイントセーブに専念しよう。」

 

爆豪の怒りを買ったまま、この後更に煽りまくった物間チームは私たちを離れ防衛戦の構えだ。実質アイツら3位だし、このまま耐えきった方が賢いよね。

 

「切島ァ…予定変更だ…

デクとクソ金髪の前に、アイツら殺そォ…ッ!!」

 

「れれれ冷静になれ爆豪!」

 

「俺は今…頗る冷静だッッ!!」

 

拳爆発させながら言っても一切信用出来ないぞボンバーマン。

取り敢えずコレで爆豪チームの気は逸れた、暫定順位は緑谷1位の2位が私達、3位物間で4位轟と言った感じか。

 

「御姉様、こちらを。」

 

「ハチマキじゃん、これどっから取ってきたの?」

 

「氷で皆様が足止めされていた時、A組の小さき方からこっそりと拝借致しました。」

 

御姉様の為ですので、とちゃっかりしてる茨ちゃんからハチマキを貰い首にかける。

轟の氷結のせいで半分以上の騎馬が実質行動不能、肝心の1000万は轟チームと一騎打ち状態、追っ手も居ないから仕掛けるなら今か。

 

「轟の作った氷のバリケードまで向かって、そろそろ仕掛けよう。」

 

「お!やるかぁ?

良いねェ熱くなって来たぜ!」

 

「これも主のお導きです…」

 

「頼むぜ心操。」

 

「…任せろ。」

 

事前の打ち合わせ通りにね。

心操は不敵に笑う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「キープ!」

 

騎馬戦も残すところ1分弱、未だに1000万を奪えない俺達は氷で囲ったバリケードの中で膠着状態に陥っていた。

 

俺の右半身から出せる氷結を、奴らは常に俺より左側にいる事で阻止している。

最短で凍結させると前騎馬の飯田が引っかかって一緒に凍っちまうからだ。賢しいじゃねえか緑谷…!

途中で故障したのか奴らもう空は飛べねえようだ。だが向こうの前騎馬、常闇の影が俺達の攻撃を阻む。

 

詰まっちまった、残り時間でどうやって…

 

「…これから数秒後、俺は使えなくなる。」

 

「飯田?何を…」

 

「いいから聞いてくれ!…取れよ、轟君!」

 

急にそう呟いた飯田のエンジンが唸る。

両脚に付いたマフラーから出ていた白い煙が青い炎に変わり、腰を屈め溜める様な仕草。

これはまさか…

 

「トルクオーバー…」

 

 

レシプロ・バーストッッ!!

 

視界が一気に動き出し、1000万の数字が真横を通り過ぎる。辛うじて反応して手を伸ばし、引っかかった指先がハチマキを緑谷から掠めとった。

急激なGに意識が飛びそうになる、気がついた時には俺達の騎馬は緑谷の後ろ側まで回り込んでいた。

 

「今…のは…」

 

「ハァ…ハァ…ッ!!

トルクの回転数を無理やり上げ、爆発力を生んだのだ。反動で暫くするとエンストしてしまうがな…」

 

エンジンから吹き出ていた青い炎が消え、変わりに少し焦げた様な臭いと黒い煙がちらりと見える。オーバーヒートを起こしているのか…?

 

「凄いです、飯田さん!」

 

「有難う八百万君、だが油断しないでくれ。俺はもう前のように高機動で動けない!それに緑谷君のあの顔は…」

 

「ああ…まだ諦めてねえ様だ!上鳴!」

 

「ウェイッ!!」

 

個性の副作用で若干アホになった上鳴はそれでも返事して、飛んでくる黒影に向かって放電を繰り出す。同時に八百万の用意した絶縁シートで感電を防ぎこれを防御。それでも緑谷は向かってきやがった。

 

自分はゼロポイントで残り時間は30秒も無い、なのにアイツの目は死んじゃいなかった。どうしてだ緑谷、お前はなんでそこまで…!

 

「近付かれますわ轟さん!」

 

「分かってる、氷で防御を…」

 

 

その時、ゾワリと舐めるような悪寒が背中を這った。緑谷からだ。

他の奴らは気付いていない、あの場で俺だけが気づいた。開会式の前、龍征から感じたのと同じで…USJでオールマイトが見せたような圧倒的な迫力。

 

緑谷の右手が振り抜かれ、風圧だけで俺の左手が横へ払われた。そして自分が無意識に左の炎を出してしまっていた事に気付く。

 

俺は今…何を…ッ

 

「あああああああああっ!!」

 

首元に軽い衝撃が走り、競技に意識を戻した時には緑谷が俺の首元のハチマキに手を掛けていた。

 

「取った…!これで…ああっ!?」

 

「甘いですわ緑谷さん!」

 

緑谷の持っていたポイントは70。

 

俺達の取ったハチマキは首のところで裏返してポイントが見えないようにしてる。緑谷は1番新しい上のハチマキを狙ったみたいだが…それはフェイクだ。首にある残りのハチマキは3つ、1000万と380、それから400だ。氷で足止めした時、少し多めに貰っといたのが功を奏した。

 

「轟君、何をしてる!油断するな!」

 

「…ッああすまねえ!」

 

会場内ディスプレイに表示されてるタイマーは残り20秒を切った!まだ緑谷は諦めていないがこのまま守り切って俺たちの勝ちだ…!

 

「ウェイ!?ウェイ!ウェイウェイ!」

 

放電使わせ過ぎたか?最早ウェイとしか喋れなくなってる上鳴が視界の隅でバタバタしてる、何かを伝えたい様だが…

 

 

 

頬に熱い風が触れた

 

 

 

ただそれだけで、何が来たのか理解した。

俺達の右側には氷で作った分厚いバリケードだけ、それを突破出来る個性を持った奴を俺は1人しか知らない。

 

「貰うぜ、1000万。」

 

「此処で来るかよ…龍征ッ!!」

 

バリケードは無惨にも溶けきって、既に水に変わってる。ちょうど騎馬1組分の穴から現れたのは、クラス混合で構成された龍征のチームだった。

 

 

 

 

 

龍征のチームは混成チーム、だから個性が不明なのが何人か居た。でも戦っているうちに、個性を把握すればいい。そう思ってた。

チーム決めの時、何故か土下座していた緑髪の女子は茨の蔓を操る個性。そして前騎馬の男は切島と同じ硬化する個性、そして騎首の龍征は言わずもがな炎の個性。こいつらが組んでいた時点で、俺は『機動力は無いが此方の妨害は抜けて来るチーム』だと判断していた。

だが1人だけ、どうしても個性の分からない奴が居たんだ。

 

 

「なあ、お前エンデヴァーの息子だろ。

親父といつも比べられるってどんな気持ちだ?」

 

 

少し考えれば、こんな下らねえ事を言われて答える必要なんて無かったんだ。残り時間10秒、秒読み数えていれば俺達の勝ち。

 

勝てる試合だった、油断しなければ勝っていた。

 

 

その油断が、コレだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『タイムアーーーップッ!!』

 

無慈悲な声が会場に響き渡る。

物間からポイントを取り戻し、此方を追って飛んでいた爆豪がべんっ!と痛そうな音を立て地面に打ち付けられた。試合終了と同時に相澤先生が個性消したのかな?

 

私のやった事に驚きの表情を浮かべる緑谷。

 

上の空で虚空を見つめる轟。

 

そして1000万のハチマキを天高く掲げる私。

 

勝敗は決した。

 

一瞬の静寂は怒号のような歓声に飲み込まれ、カメラのフラッシュが眩しい。

 

卑怯だなんて言うなよ?

最後の最後まで心操を隠してたのは誰にも悟らせない為、私の炎と茨ちゃんの個性で派手に立ち回って、注意を私達の個性だけに引き付けた。

一瞬だけでいい。轟が油断した最高のタイミングで、対人最強の個性を使わせる準備は整った。

 

「目標寸前が最も油断しやすい…

ご苦労さん、心操。」

 

「お役に立てて何よりだ。」

 

体育祭本戦第二種、騎馬戦。

 

私達のポイント、1000万飛んで1890。トップで決勝トーナメント通過。










トーナメント書くのしんどい…戦闘ムズい…死ぬる…


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14 選手達の昼休み



急ぎで投稿、後で手直しするかも







『雄英高校体育祭本戦、最後の最後で騎馬戦を制したのはァ…A組、龍征帝率いる混成チームゥッ!!

一体誰がこんな結末予想出来た!?轟の1000万を終了間際に奪い取りやがったアァァァッ!!』

 

逆転劇に割れんばかりの大歓声を背に、私は騎馬から飛び降り心操とハイタッチで喜びを分かち合う。続けて鉄哲。感極まって胸に飛び込んできた茨ちゃんと抱き合って、騎馬戦は此処に終結した。

 

『龍征のチーム、最後の最後に隠し玉を用意してた。周到な奴だ。

決勝トーナメントであの四人がどう活躍するか見物だな。』

 

『だなァミイラマン!

今年のトーナメントは荒れるぜェー!?』

 

「やったなぁ龍征!熱い勝負だった、お前に付いて来て良かったぜ!」

 

「おう、鉄哲もご苦労さん。昼休憩の間にちゃんと鉄分取っとけよ。」

 

「おうよ!」

 

「御姉様と共に戦えた事、神に感謝致します…」

 

「お、おう。茨もお疲れ様、お互い決勝トーナメント頑張ろうな。」

 

「はい…ッ!」

 

時々肌に当たる茨の髪の毛がちくちくするがそんな事は些細な事だぞ、うん。

 

「…ありがとな心操、お前が本作戦のMVPだ!」

 

「ああ、勿論だ。」

 

「なんだお前もっと喜べー?その暗い顔ではしゃいだりしたら逆に怖いけどな。」

 

「じゃあどうしろってんだ…

次は決勝トーナメントだ、カチ合ったら負けねえぞ。」

 

「お、いつもみたいに卑屈じゃないね。」

 

「お前と同じ舞台に立つのに卑屈になってる暇無ェからな。」

 

それだけ言って、心操は一足先に戻って行ってしまった。鉄哲と茨ちゃんもB組の集まりへ戻って行き、私も試合終わりに談笑する響香と百の下へ。

 

「帝さん…完敗ですわ…」

 

「まー3位で通過だし、決勝まで残れて良かったな。」

 

決勝トーナメントに進出出来るのは騎馬戦の上位4チーム、1位の私のチームと2位爆豪チーム、3位轟チーム、そして4位の緑谷のチームだ。

緑谷んとこは1000万を奪われた後、ラストアタックで常闇の黒影が轟の頭の方のハチマキをちゃっかり取っていたらしい。あまりの喜びに噴水の様に涙腺を爆発させる緑谷は見てて超面白かった。

 

「ねえ、最後の5秒にもしかして心操が…」

 

「そ、アイツの個性初見殺しだもん。最後まで隠して戦ってた。

轟も1000万取って浮かれてたし。」

 

「最後に轟さんが易々と1000万を取られたのにはカラクリがありましたのね…」

 

どうやら轟は緑谷を連れ出して何処かへ行ってしまったらしい。食堂が混むと面倒だから私達も早めに行かないと…

 

「おお~居た居た、帝チャーン!マイガ〜ル!」

 

選手専用出口から通路を抜け、一般向けエリアの近くまで出てきた時、聞き覚えのある声が。

 

「マイガール…?」

 

「頑張ってるわね帝。」

 

「パイセンと店長、来てたんスね。」

 

現れたのは才子先輩と店長だった。店長の両手には大きな手提げ袋が握られている。

 

「帝さんの御家族の方ですか…?それにあちらの方は…」

 

「あら、貴女は八百万家の…お久しぶりです。以前政府主催のパーティでお会いした時以来ね。」

 

「やっぱり!才子さん、お久しぶりです。」

 

互いに会釈する才子先輩と百。そういや百って結構なお嬢様だっだっけ、どうやら金持ち同士のコミュニティがある様だ。

 

「なんて言うか…金持ち同士独特のオーラ出てるね…」

 

「響香もそう思う?私も金持ちのキラキラした感じはどうも…慣れない。」

 

 

おほほ

 

うふふ

 

 

私が自意識過剰なのかなあ、金持ち同士が話す時ってなんか独特のキラキラオーラが出てる気ぃするのよね。今みたいに。

 

「才子チャン、選手と話せる時間は限られてるから手短にネ。

あとアラフィフ的にこの量の弁当いつまでも持ってるのはキツいナー…」

 

「ああ、そうでした私ったら…

帝、決勝トーナメント進出おめでとう。私と叔父様、次いでにお父様からの差し入れよ。

あの男、出席する予定だったの今朝急に会議が入ったみたいで来れなくなったの。いい気味だわ(残念だわ)。」

 

「本音と建前が見事に逆だあ。」

 

そう言って店長の持っていた大きな袋を渡された。中から肉の焼けるいい匂いがする。

 

「これは…」

 

「叙々○のお弁当、違いが分からなかったから1番高い奴を頼んでしまったわ。A組全員分と貴女の騎馬の方々の分もあるから温かいうちにどうぞ。」

 

「「金持ちの金銭感覚…!!」」

 

「まあ!有難うございます才子さん!」

 

百はカロリーいっぱい使う個性だもんね。

それにしても叙々○の特選ロース弁当…1個4000円位する奴だよなコレ。野菜サラダまで付いてるし…この日叙○苑からロース全部消えたんじゃないか?

 

「じゃあ食堂に向かった奴らに渡しとくか。パイセン有難うございます。」

 

「ええ、頑張ってね帝。」

 

やけに肌がつやつやしてるな才子先輩、いい事あったのかな?

 

「ああそれと、帝チャン。カウンターにハンドクリーム置き忘れてたヨ。決勝トーナメントで使うでしょ?」

 

「あ、置いたままにしてたのか。サンキュー店長。」

 

良かった、カバンに無くて焦ってたんだよね。弁当とハンドクリームを受け取って、才子先輩と別れ食堂へ向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おーいA組全員集合、うちの保護者から差し入れがあるぞー。」

 

「どうした龍征、でっかい袋持って…」

 

「弁当、叙○苑の特選ロース。食べたい奴は前に並びな。」

 

『いる!下さいッ!!』

 

A組は元気だなー。

ブランドの力は凄いのか、あっという間に集まったA組連中に持っていかれる弁当達。

 

「お、おいひい~!」

 

「お上品な味だあ~!」

 

「何だこれウメェ!肉が舌の上で溶けやがる…」

 

「人生で初めてだよ、叙○苑の弁当食ったの。しかも1番高い奴…俺今日死ぬのか?」

 

「ん~美味ッ☆」

 

「禁断の果実ッ…!」『イイナーウマソー』

 

「…!……!」

 

「…美味い、済まないな龍征。」

 

「気にすんな、どうせ貰い物だし味わって食べなよ。」

 

触腕の口でモグモグ食べつつ御礼を言ってくる障子に手を振りながら、私は騎馬戦で共に戦った戦友たちの下へ向かった。

B組の輪の中にいる2人に弁当を渡し、軽く挨拶を交わした後心操の所へ向かう。

心操はいつも通り窓際柱の傍、隅っこに座ってざる蕎麦を啜っていた。けど今日ばかりは同じクラスの子達に囲まれて、普通科唯一の決勝トーナメント進出者として目立っている様だ。

 

「…?なんか用か龍征。」

 

「おう、騎馬戦ご苦労さんって事で差し入れの弁当持って来た。鉄哲と茨には渡してるから残りはアンタの分だけよ。」

 

「ああサンキュ…ってこれ叙○苑じゃねえか?一個4000円とかする奴だろ。」

 

「貰いもんだから遠慮するなって。

ほれ、あーん。」

 

徐に弁当開けて、ロースを1枚箸でつまんで心操の口元まで持っていく。一瞬躊躇ったものの、観念したのか大人しく口にした心操の顔が珍しく少しだけ綻んだ。そんなに美味かったのか、私も食べるのが楽しみだ。

 

「勝利の味は格別だろ~?」

 

「っ…まあ悪く無ぇな。」

 

「んじゃ私は戻るから。

空の弁当はそっちで処分してよね。」

 

「ああ、ありがとよ。」

 

なんか取り巻きの普通科の子達がザワついてるが気にすまい。さあー残ってるのは爆豪、緑谷、轟の分か。

 

「しょうがないから届けに行くか。」

 

「爆豪だったら向こうの通路に歩いていくトコ見たぜ。」

 

「サンキュー切島、行ってみるわ。」

 

切島の教え通り選手控え室に続く通路へ向かう、早く届けて私も弁当食べたいのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ねえねえ心操!今の娘がアンタの惚れた相手ぇ?」

 

「そんなんじゃない、ただ憧れてるだけだ。」

 

「でも『あーん』なんてして貰っちゃってさ!お前も隅に置けないなコノー!」

 

「あいつはそういう事何の躊躇いもなくやる奴なんだよ。

だからそんなんじゃねえって…」

 

「お相手はヒーロー科でしかも超美人かよ…

クソーその肉俺らに寄越しやがれェ!」

 

「…絶対やらんぞ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

「なぁー鉄哲ゥ、1切れ位くれたって良いんじゃねぇかァ?」

 

「やらーん!これァ俺ん弁当だ!

うおっ!?足がっ…骨抜テメー!」

 

「カッカッカッ…叙○苑の特選ロースなんて滅多にあり付けねぇ。逃がさねェぞ鉄哲…!」

 

「うぉおおおやめろォォォォッ!!お前らに食わす肉は無ぇーーーーッ!!」

 

 

 

 

「うわすっご…流石叙○苑のお肉、柔らかっ!」

 

「ん!ん!」

 

「美味しいデース!アリガトーね茨ちゃん!」

 

「いえいえ、喜びは皆で分かち合うもの。

御姉様、お恵みに感謝致します…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

会場内を少し歩き爆豪達を探す、角を曲がったところに目立つ金髪のツンツン頭がちらりと見えたので其方へ向かった。

なにやら聞き耳を立てている様だが…?

 

「何やってんのお前。」

 

「…!?ンだよ金髪か、ちょっと黙ってろ。」

 

「角の向こうに誰か居るのか?」

 

ちらりと角を覗けば、緑谷と轟がなにやらのっぴきならない表情で話し合っていた。内容は個性婚とかエンデヴァーとか、轟の身内の話。緑谷はオールマイトに大切にされているらしい、そう言えば開会式の時に言ってたな。

 

俺は左手だけで親父を完全否定する

 

右手を睨み付けながら心底恨めしそうにそう言う轟からは、ハッキリとした憎悪の表情が見て取れた。しかし緑谷も負けじと反論、自分にも譲れない理由が有るから、轟に勝って優勝すると豪語する。

 

「…ケッ!俺を差し置いて優勝するだァ?クソナードが…」

 

「面倒臭い奴だなぁ…」

 

「ンだとこのクソ金髪!」

 

「悪い悪い、つい口から本音が出た。」

 

「尚更悪いわ!」

 

「お詫びと言っちゃあ何だけど、ほれ。

ウチの保護者から差し入れで弁当やるよ、他のA組連中にはもう渡してるからお前にも。」

 

「要らねえよンなもん!俺に施しなんぞ「叙○苑の1番高い焼肉弁当だぞ?」……ッッ!!………チィッッ!!」

 

かなり考えるような仕草をした後、デカい舌打ちをし乱暴に私から弁当箱をふんだくってのっしのっしと爆豪は去っていった。やはり叙○苑は偉大だ、食は全てを解決してくれる。

 

いつまでもあの二人を待っていても埒が明かないので、たまたま通りかかったふうを装って介入。勢いで弁当も渡した。轟の方はかなり渋っていたが、何とか受け取ってもらえたよ。

 

「有難う龍征さん、こんな高いものを…」

 

「…貰っとく。」

 

「いいのいいの、私達は決勝トーナメントあるんだし、しっかり食って午後から頑張ろう。二人共私に勝つんでしょ?」

 

「…ッ!!勿論だ。」

 

「うん、僕も負けられない。必ず勝つよ!」

 

男の子だね二人共、雰囲気変わった?特に緑谷の方は凄い、これがお茶子曰く「頑張れって感じのデク」って奴なのね。

今から食堂へ戻っても時間が勿体ないので、私の提案でこのまま外の休憩スペースを使って3人で昼食を取ることに。飲み物は轟に奢らせた。

 

 

 

 

 

 

 

「ウッソ、緑谷『ア〇ェンジャーズ』のBlueRay全巻初回限定盤で持ってんの!?

アレって確か数が少すぎてネットで買おうとするとウン十万は下らないレア物だよな?」

 

「う、うん…限定版には友情出演したオールマイトのコメンタリー動画が付属されてるって聞いたからどうしても欲しくて、駅3つ跨いで都心の販売店まで買いに行ったんだ。発売日の朝3時とかに…」

 

「ああ〜、そういえばあの映画、オールマイトが端役で出演してるって情報出てから日本の知名度爆上がりしたんだっけ?

マジもんのオールマイトオタクだ…ウチの学校にも似たような奴は居たけどフツーそこまでして買いに行く?」

 

「あはは…」

 

「でも『アヴェン〇ャーズ』は面白かったよね、3作目位でちょっとグダったけどちゃんと完結したし。ダラダラ続けてる他の奴よりかはさ。」

 

「そうなんだよ!それぞれのヒーロー達の心情や過去、人の繋がりも深く掘り下げられてて伏線の回収もちゃんとしてるしなにより世界で活躍するヒーロー達とオールマイトの共演!胸が熱くなって当時の僕はもうどうしようかと…」

 

「おうなんか急に饒舌になったな。」

 

「あ…ごめん…」

 

「……朝3時に電車動いてねえよな。」

 

「あ、歩いたんだ…3駅分。」

 

((行動力…!!))

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『どうしたA組!何のコスプレだよそりゃ!!』

 

プレゼントマイクのツッコミが冴える。

昼休憩も終わり、スタジアムに3人で戻ると、一足先に集合していたA組女子は何故か皆チアガールのコスチュームを着て落ち込んだ表情をしていた。

確かに決勝トーナメント前のレクリエーションは応援合戦の名目で海外の有名なチアガールチーム招いてるって話は聞いてたけど、何故A組まで同じ格好?

 

「峰田さん上鳴さん騙しましたわね!」

 

「「計画通り…ッ!!」」

 

「何やってんの響香。」

 

「峰田と上鳴に唆された…」

 

おへそ丸出し、ミニスカートに両手はチアのポンポン持って恥ずかしさのあまり身を小さくする響香。

どうやら2人の嘘に純粋な百がまんまと騙されて、チア衣装までわざわざ創造してしまったらしい。

 

「畜生ォ…龍征は食堂に居なかったから伝えられてなかったか!!」

 

「いや…逆に考えろ。アイツはいつも胸元とか服装だらしねえからそれがイイんだよ上鳴。蒸れる谷間…チラチラ覗くへそ…体操服の着崩しも一興だ!」

 

「お前の守備範囲広すぎね!?」

 

おいカメラこっち向けるな。

すげえ私の尊厳を貶められた気がするのは気のせい?

 

「…取り敢えず二人共殴ればいいのか?」

 

「許す、やっちゃえ帝。」

 

「「えっ…」」

 

響香からお許しも頂いたので、峰田と上鳴には特大サイズのたんこぶをプレゼントしておいた。相澤先生は呆れ果て、プレゼントマイクのゲラゲラ笑う声がお茶の間を和ませましたとさ。



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15 風雲告げる体育祭本戦 トーナメント




艦これのォ!

イベントがァ!

ぜぇんっぜん終わりましぇ〜ん!

毎年の事ながらギミックが面倒過ぎ長過ぎで仕事しながら攻略無理なのでは?




んな事より決勝トナメ始めるよ!オリジナル設定とか展開とかあるから注意な!








『レクリエーションタイムも終わり!

午後からはァ…お待ちかね、決勝トーナメントの時間だアアアッッ!!』

 

プレゼントマイクの実況にスタジアムは最高潮。セメントス先生の個性により中央に四角いリングが象られ、決勝トーナメントは一体一のガチバトルとのこと。

 

「組み合わせは~…コチラッ!」

 

ミッドナイトの指す大型ディスプレイに組み合わせが映し出される。

 

 

 

Aブロック

 

1回戦

緑谷出久

VS

心操人使

 

2回戦

轟焦凍

VS

瀬呂範太

 

3回戦

飯田天哉

VS

発目明

 

4回戦

上鳴電気

VS

龍征帝

 

 

Bブロック

 

5回戦

芦戸三奈

VS

塩崎茨

 

6回戦

常闇踏陰

VS

八百万百

 

7回戦

切島鋭児郎

VS

鉄哲徹鐵

 

8回戦

爆豪勝己

VS

麗日お茶子

 

 

 

 

おい8回戦、爆豪とお茶子かよ…

心操は緑谷とだし、私は上鳴とか。

百と常闇はどうなんだろ…あの黒影(ダークシャドウ)とかいう個性は分からないことが多過ぎる。モンス○できるくらいの知性はあるようだけど。

 

『因みに、引き続き龍征はお供禁止だから宜しくなァ!』

 

『メダルを掛ける相手が翼竜になっちまうからな、合理的処置。』

 

うぇ~い…

プロへのアピールの場なのに翼竜使っちゃダメなのは一言申したい。私の持ってる数少ないレスキュー要素が…

私から翼竜取ったら炎しか残らねーよ、殆どエンデヴァーと変わんないじゃんかあ。

 

「あわわ…ばばば爆豪君とかぁ…」

 

「…ブッ殺ス。」

 

「ひいっ!?」

 

「最早入試の仮想ヴィランと同じ言語しか喋れなくなってしまった、可哀想に爆豪…」

 

「喋れるわクソ金髪が!

デクもテメェも半分野郎も、全員ぶっ殺して俺が1位だッ!!」

 

本当に元気な奴だな、つか私はクソ金髪で固定なのね。名前呼ばないのはいつもの事として、乙女に対してクソはどーなの。と喉まで出掛かったが、私は空気の読める女。彼の意思を尊重して黙っていてあげよう。ほら、反抗期の子供って皆こんな目付きしてるし。

 

「ンだテメェその目付きはァ!!言いたいことが有るなら言いやがれ!」

 

「いや、懐かしいなって。」

 

「何がだよッ!!ぶっ殺すぞ!」

 

「あんま殺す殺す言うのは良くないぞ?体育祭は小さいお友達も見てるんだから。」

 

「雄英体育祭は子供向け教育番組じゃねェよクソがッ!!」

 

「ハイそこ!何時までも喋ってないで観戦席に移動しなさい!1回戦始めるわよ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『障害物競走と騎馬戦では個性を見せず大立ち回り!コイツからは何が飛び出すか分からねェ!A組、緑谷出久ゥ!』

 

『そしてお相手はァ…普通科唯一のトーナメント進出者!騎馬戦龍征チーム勝利のキーマンと噂される男!普通科からの刺客、C組心操人使ィ!!』

 

 

「刺客、ね。あながち間違いじゃないか。」

 

1回戦の相手、緑谷出久。

個性は自身の身体すら壊す超パワー、本人も殆ど制御出来てない。

近付かれるとまず勝てない、そもそも俺の個性は戦闘向きじゃない。搦め手使って初めて勝機が見えてくるからな。だから…

 

「宜しく緑谷、お互いベストを尽くそう。」

 

「……うん!よろし…」

 

 

 

速攻だ。

 

 

 

 

『スタァーートッ!!

…て、どうした緑谷!開始早々棒立ち!一体何が起こったァー!?』

 

『早速仕掛けて来たか…』

 

「悪いな、緑谷。恨みは無ぇが…

『そのままリング外まで歩いて出てけ。』」

 

虚ろな目をした緑谷はくるりと後ろを振り向いて、とぼとぼリングの外へと歩いていく。

 

『普通科C組、心操人使。

個性は〝洗脳〟…成程、ロボット相手の入試じゃ分が悪い。』

 

解説の相澤先生が俺の個性をバラしたがもう遅い、緑谷は既に俺の術中だ。

俺の洗脳は痛みや衝撃を受けると解ける、だが今は一体一のトーナメントバトルだ。リング内でのガチバトルなら誰の邪魔も入らねェ。

 

アイツの前で「負けない」と誓ったんだ。自分の個性に卑屈になってる暇はない。だから緑谷、お前は此処で…

 

 

 

 

ズドンッ…!

 

 

 

 

…は?

 

 

『なんとォ!緑谷、自力で心操の洗脳を解除したァ!?』

 

『人差し指を犠牲に正気を取り戻したか…危険だがアイツの個性から考えれば被害は最小限で済む。合理的な判断だ。』

 

『指弾いた衝撃で地面にクレーター出来たぞ!?なんつー力技だよ!』

 

 

「痛ゥ…ッッ!!ハァ…ハァ…!!」

 

「マジかよ…」

 

 

痛みで息を荒くしながらも立ち止まって、個性の反動であろう紫色に変色した中指をぶらぶらさせながらこっちに向き直る緑谷。

こいつ…自力で俺の洗脳を解きやがった!

どういう事だ?一瞬でも解除した覚えはない、龍征の時なら兎も角、一体どうやって…

 

…もしかしてアイツだけじゃなく、緑谷も特別なのか?

 

「ッ…羨ましいな緑谷!

派手な個性ならプロの目にもよく留まる、よく顔が売れるぜ。

上手く使いこなせていればの話だけどな。」

 

「………………ッ!」

 

軽く煽ってみても、黙りを決め込んだまま緑谷は此方に向かって一直線に突っ込んでくる。

不味い、俺の個性の発動条件がバレてるようだ。俺の洗脳は俺が声を掛けて相手が返事をした後でしか発動できない初見殺しの個性。それをバレないように予選では目立たないように動いて、騎馬戦じゃ龍征がギリギリまで隠してくれてたのによ。緑谷の洞察力にも驚きだが…流石ヒーロー科ってとこか。

 

「指、痛そうだな。個性の制御が利かないのはお前が未熟だからか?」

 

「…………」

 

煽っても駄目だ、意地でも緑谷は喋らない。指の壊れていない方の左ストレートが俺に迫り、ギリギリで反応しそれを躱す。緑谷の超パワーなら触れられたらそこで終了だ、避け続けて緑谷が返事する様仕向けなきゃいけない。そうしたい所なんだが回避に気が行き過ぎて頭が上手く回らねえ、戦闘経験の無さが露骨に出るな…身体は鍛えちゃいるが向こうだってそうだ、アドバンテージでもなんでもない。それを考えると場数を踏めるヒーロー科はずるいよなあ…

 

「俺だってお前等みたいになりたかった。」

 

「……」

 

「戦闘向きの個性を持って、胸張ってヒーロー目指したかった。でも俺の個性は洗脳(コレ)だ。「ヴィランみたいだ」って何度も言われたよ。」

 

「……」

 

「でもな…こんな個性でも俺に「ヒーローになれる」って、言ってくれた奴が居たんだよ。」

 

「〜ッッ!!」

 

一瞬だけ狼狽えた様に見えた緑谷が遂に俺の体操服の袖を掴み、超パワーまではいかずとも緑谷の全力を込めた背負い投げで場外へぶん投げた。

 

背中に強い衝撃が走る。尻から着地した後もんどりうって転がって、自分が負けたのだと悟った。

 

「心操君場外、緑谷君の勝利!」

 

ミッドナイトの無慈悲な一言がスタジアムに響き渡る。

 

悪ぃ龍征、まだ足りねえ。

経験も、実力も。俺にこの舞台は早すぎた。

 

 

 

『決着は一瞬だァ!

一度は心操の個性により絶体絶命だった緑谷。気合いで洗脳を打ち破り、最後は背負い投げで勝利!2回戦進出ゥ!』

 

『心操の個性、発動のトリガーは心操の声に返事する事か。騎馬戦で最後の最後に龍征が轟から1000万を奪ったのも心操の助けあっての事だろう。

…だから雄英の入試制度は非合理的だと言ってるんだ。』

 

 

「……僕もなんだ。」

 

起き上がろうと顔を上げると、緑谷が俺に向かって手を伸ばしている。

 

「僕も…ついこないだまで〝無個性〟で、卑屈になって…諦めてた。でもそんな時、ある偉大な人から言って貰えたんだよ。」

 

『君はヒーローになれる』って

 

「その言葉にどれだけ救われたか、心操君の気持ちは良くわかるんだ…だから…えぇと…」

 

おどおどしているが、瞳だけはまっすぐに俺を見つめてた。それだけ緑谷が真剣だって事が分かる。

 

「…ははっ」

 

「し、心操君…?」

 

「口下手過ぎるだろお前。」

 

「そっ…それは…」

 

「…次は負けねえぞ、ヒーロー科。直ぐに追い付いてやる。」

 

「ッ!!……うん!」

 

 

 

 

こっからだ

 

此処が俺のスタート地点

 

俺の始まり(オリジン)

 

俺を認めてくれた人の隣に立つ為に、この焦りは抱えて進む。

 

もし俺がお前に並べるくらい強くなったらその時は…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…カッコイイじゃん、心操。」

 

普通科の面々に励まされながら退場する心操を見送って、響香が隣の席で呟いた。

 

「心操の個性、初見殺しだからねえ。ネタが割れちゃえば後は自力で何とかするしかないのは不利になるよな。」

 

「にしてもよく洗脳解いたね緑谷の奴、指までバキバキにしちゃってさ。あの怪我、見てるだけで痛いよ…」

 

緑谷の左手中指は超パワーの反動でボロボロだ、幾らリカバリーガールに治してもらえるからって無茶し過ぎよ。

 

 

緑谷が砕いたリングの地面をセメントス先生が直すこと数分後、続く第2回戦、機嫌の悪い轟VS瀬呂。

…速攻だった。開始早々テープで場外へ追い出そうとした瀬呂を一瞬で凍らせて轟の勝ち。会場からどんまいコールが巻き起こる悲しい結末に。

轟の奴はいつにも増して顔が怖かった、昼休憩終わってから今まで一体何があったんだ、顔が完全にヴィランだったぞアレは。

 

どんどん行こう3回戦、委員長飯田VSサポート科の子、発目明。

商魂逞しい発目ちゃんによるサポートアイテムのプレゼンが繰り広げられる。『自分をアピールする場』と、相澤先生の言葉通り好き勝手やって、用が済んだら自ら場外へ退場した。

それに付き合わされた飯田がそのまま進出。

 

 

 

んで、4回戦。

 

 

 

 

『さァーガンガン行くぜェ!4回戦!

騎馬戦じゃ大活躍のスパーキングビリビリボーイ!A組、上鳴電気ィ!

 

対するはァ…

 

予選と本戦合わせりゃコイツが総合1位なんじゃねえの?底の見えねえ女!A組、龍征帝ォ!!』

 

 

リングの中央に立つのは私と上鳴。ご機嫌なプレゼントマイクの実況と共にスタジアムは大歓声に包まれる。

 

「宜しくなー上鳴ー。」

 

「アッハイ、ヨロシクオネガイシマス。」

 

んー?上鳴元気ないぞー?

放電もしてないのに半分ウェイ顔になってない?まだ頭のタンコブ引き摺ってるのか?

 

「…イタイデス。」

 

「自業自得では?」

 

A組の観戦席には同じく自分の頭くらい大きなタンコブを作り仏頂面で観戦してる峰田と、それをジト目で睨む一部の女子も居る。

アンタ達が嘘吐くから悪いんでしょーが。

 

『んじゃ行くぜェ!

レディー…ファイトォ!!』

 

 

そんなもんはお構い無しとばかりに試合開始のゴングは鳴り響く。

 

「くっそおおお痛かったぜ龍征!

俺が勝ったらデート位付き合えよな!」

 

「おう、いいよ。」

 

「…マジで?」

 

どよめく会場をよそに、やる気を取り戻した上鳴は身体に電気を帯電させ始めた。

買い物(デート)でしょ?勝ったらそれくらい付き合ってやるよ。

 

 

「二言は無しだぜ龍征!

いっくぞおおおおお…無差別放電ンン!」

 

「よっこら…」

 

「140万ボルトォォォ!!」

 

「しょっ!」

 

上鳴が放電する直前、地面に思い切り両指を掛けて食い込ませ、コンクリートを捲りあげた。

私をまるまる覆うほど大きくめくれ上がったコンクリート塊の後ろに隠れながら流れる電流を避ける。私の身体、外部からの攻撃には強いけど、電流とか振動とか、内側に直接クる攻撃は人並みに痛いのだ。つまり初戦から天敵と当たってしまった。

でも上鳴ができるのは放電だけ、一方向から来るだけならこんな感じで防ぐことが出来る。

 

『なァー!?龍征、地面を捲りあげて盾にしたァ!?力技すげぇ!!』

 

『上鳴の攻撃は単調だからな。加えて騎馬戦で散々見たんだ、一度パターンを見抜いてしまえば対処は難しい事じゃない…』

 

『セメントスの仕事が増えるぜェ!』

 

数秒続いた放電も終わり、光が収まってきたのでコンクリート塊の陰から顔を出す。リングの真ん中では放電しきって顔が面白い事になってる上鳴がウェイウェイ言いながら突っ立っていた。

私と響香のツボなのよね、そのウェイ状態。

 

「ぷ、ぷふふ…好きだわその顔…

さて…と。」

 

上鳴に近付いていって、胸ぐらを掴みあげる。近くで見れば見るほど面白いなコイツの個性、応用も利きやすいし、成長すれば色んな活動に活かせそう。

でも今回は私の勝ちだね。

 

「せぇー…」

 

「ウェイ…?ウェイ!ウェェェェェイ!?」

 

「のっ!!」

 

「ゴヴェッッ!?」

 

 

ウェイ状態でも自分が何をされるか察して狼狽える上鳴を徐ろにヘッドバットでうち伏せて、気絶した事を確認したミッドナイトが宣言した。

 

「上鳴君気絶、龍征さんの勝利!」

 

「悪いね、デートはお預けな。」

 

「……」

 

気絶した上鳴が護送されていくのをバックに、スタジアムの歓声を浴びながら、私はリングを後にした。

 

まずは1回戦突破!








戦闘下手くそ過ぎて死ぬ
死ななかったら次回に続く


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16 battle! battle! battle!


サクサク進めよう、書きたいところ忘れそうだ。







『ヒエー…すっげー鈍い音したぞ…

上鳴をリングに沈め、龍征1回戦突破だァ!』

 

 

「やったね帝、2回戦進出おめでとう。」

 

「お見事です帝さん!」

 

「いえーいぴーすぴーす。」

 

A組観戦席に戻った私は響香と百に迎えられ、二人の間に腰掛ける。上鳴は私のヘッドバット受けて気絶したので医務室で療養中だ、暫く起きてくる事は無いだろう。

 

「ヘッドバット一撃とか、恐ろしい奴だぜ龍征…」

 

「胸ぐら掴み上げる所とか妙に手慣れてたもんな、これが生徒会長の力か…」

 

「お、オイラもやられんのかアレ…」

 

はい切島と瀬呂、余計なこと言わないの。そっちでブルブル震えてるブドウも私の目を見てちゃんと話して、お願いだから怖がらないで。

 

「帝ちゃんの戦い方、荒っぽいものね。」

 

ぐっは…!相変わらず痛い所を突いてくるな梅雨ちゃん!

 

「次は芦戸ちゃんとB組の子の戦いかあ…

帝ちゃんはどう思う?」

 

「茨は強いよ。三奈も考えて戦わないと負けるかも…」

 

茨ちゃんの蔓は日光と水分さえあれば幾らでも伸びてくる、防御力と耐久性もあり、持久戦に持ち込むのは不利だ。幸い本体である茨ちゃんの身体能力はそうでもないので、私だったら速攻で近寄って何もさせずに倒すかな。そもそも茨の蔓に炎は天敵だから負けないわ。

 

そんな事考えてる内に、ゴングと共に始まった第5回戦。

茨ちゃんを中心に輪を描くように展開され、地を這いながら迫り来る蔓から必死に逃げ回る三奈。所々酸で溶かしながら道を開いて近寄ろうとするも、隙無く張り巡らされた蔓の包囲網を破る事は出来ず、最後に脚を絡め取られた三奈は宙ぶらりんに拘束されて戦闘不能。終始茨ちゃん優勢のまま第5回戦は幕を閉じた。

 

三奈、もっと近寄れば良かったのに。慎重になり過ぎて距離を取ったのが不味かったね。

 

『芦戸は慎重になり過ぎだ、塩崎の個性は持久戦になればなるほど布陣が完成されていく。

懐に飛び込む覚悟が足りなかったな。』

 

相澤先生の解説に言いたいこと言われた。

 

あ、リングを降りる茨ちゃんと目が合った。軽く手を振ると彼女も顔赤くしながら振り返してくれたよ、やさしみ…

 

「きっキマシぶへッ!?」

 

「それはもう良いわ峰田ちゃん。」

 

ブドウが梅雨ちゃんに潰されてる、なんだこいつは。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うわあ負けたぁ!塩崎さん強かったよお~!」

 

「よしよし、ご苦労さま三奈。」

 

悔しさの余り胸に飛び込んでくる三奈を抱きとめて、頭を撫でてやる。「やらかーい!」そうでしょうとも、胸だもん。

 

「騎馬戦で幾らか見てたから、対策したつもりだったんだけど。警戒し過ぎたかな~…」

 

「帝曰く速攻で決めちゃえば勝機はあったらしいよ?」

 

などと、百を除く女子達で姦しくお喋りしていた時、梅雨ちゃんが観客席である事に気付いた。

 

「…けろ?何かしら。西側の観客席、妙な人達が居るわ。」

 

「え、ドコドコ?

…ホントだ、みんな同じ服で髪型もすっごい派手。」

 

梅雨ちゃんと透の見つめる先は観客席、ちょうど西側ゲート横の立見席だ。

10人くらいの男達…皆同じ色のツナギを着て、モヒカンやらリーゼントやら 特徴的な髪型で異質な雰囲気を放つ連中が…

 

 

待って

 

 

「あ、目が合っちゃった…」

 

「此方に向けて全員凄い勢いで手を振っているわ、少し怖いわね。」

 

 

 

待って待って

 

 

「て、手を振ってるって事は、この中に知り合いが居るって事だよね…」

 

「見た感じ社会人っぽいけど、かなりガラ悪いぞ?よく警備に止められなかったな。」

 

「む…選手の集中を乱す為の妨害行為なら先生がたに報告しなくてはいけないな。」

 

さっきまでノートに何かを書きなぐりながらブツブツ呟いてた緑谷が気付いたのを皮切りに、砂藤、飯田もそれに続く。だんだん騒ぎが大きくなってきた。

 

 

 

だがしかし、もしかすると人違いって可能性もある。私達は集団幻覚を見ているのかもしれないし、そう考えて私に向かってちぎれんばかりに手を振り続ける彼等を私は必死に見ないようにした。

 

 

「あのさ、もしかしてあの人達帝のしr」

 

「あーッ!響香、私ちょっとお花摘みに行ってくるねぇー!!」

 

「おぅ!?

う、うん…行ってらっしゃい…」

 

 

真実に辿り着いてしまったか響香!ならば私はこの場に居てはならないだろう。

急に立ち上がったので、みんなの注目を集めてしまったが仕方ない。そそくさと私は奴らの居る西側入口へダッシュで向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「一体どうしたんだ龍征の奴…」

 

「随分焦っていたみたいだけど…もしかしてあの人達と知り合いなのかしら?」

 

「ああー、餓鬼道繋がり…」

 

「あ、帝ちゃんだ。」

 

「龍征君、彼等の所へ向かっていたのか。」

 

「先頭にいるリーゼントの人と話してるみたいだね…あ、龍征さん、リーゼントの人を物陰に連れ込んだ。

後ろの人たちもそれに付いて行ってる…」

 

「つか見たかよ。

龍征見た途端、先頭のリーゼントの奴最敬礼してたぞ。」

 

「なんて見事なお辞儀なんだ…

後ろの奴等も、まるでヤ〇ザの出迎えだったな…」

 

 

 

『餓鬼道って一体…』

 

 

 

1年A組の疑問は絶えない

 

 

 

 

 

 

 

 

「…で、なんで此処に居るんですか先輩方。」

 

スタジアム西側入口付近、陰になって見えない一角で、先輩方を正座させながら睨み付けた。

彼等の着ているツナギの左肩には『印照重工』と金色の文字が刺繍されている。お気づきの方も多いだろうが、この人達は餓鬼道の卒業生だ。印照財閥のトップ…つまり才子先輩のお父様は餓鬼道出身故に、中卒で職に困った餓鬼道生を引き取って、従業員として雇っている。餓鬼道に在籍していたという理由だけで落選させる企業は残念ながら少なくない、将来的に不利になる彼等を放っておけないのもあるんだろう。

この人達は私の一個上の先輩方…経済的な問題で全員高校にも進学できず、餓鬼道出身故に就職活動にも失敗した所をご当主様に拾われた。

因みに、在学中は当たり前のように跳ねっ返り連中だったので巌先輩と同様生徒会長として〝お話〟していた訳なのだけど…

 

「そんな!わざわざ敬語なんて使って下さらなくてもタメ口で大丈夫なんで!

朝1番に叔父貴が『自分は急な取引で行けなくなったからお前等が代わりに帝の勇姿を目に焼き付けてこい』って仰って、10人分の観戦チケットを俺達に下さったんです。

今日は午前上がりなんで仕事終わりに直接来ました!」

 

「雄英高校に進学された姐御の御姿、見逃す訳にはいかないんで!」

 

「姐御、雄英の体操服姿もお美しいっス!」

 

この通り、何をどう間違えたのか変な拗らせ方をしてる。私の事を『姐御』と呼び、才子先輩を『お嬢』、当主様は『叔父貴』だ。まるで何処かの任侠映画みたい。

 

いきなり叔父貴っていうの止めなさいよ、変な勘違いされちゃうじゃない。既にここを通り掛かった親子連れが私達見た途端凄い勢いで逃げていった後だけど…

 

「…じゃあタメで話すけど。

アンタ達、大人しく観戦してなさいよ。印照重工の紋が入った作業着を着てるんだから、問題を起こせば会社に迷惑が掛かるんだからね。」

 

『ウス!分かりました姐御ォ!』

 

なんでこいつらこんなに息ピッタリなんだ…あと声大きい、静かにしなさい。

 

 

 

「伝えられた場所に来てみれば…なんだこれは。」

 

威厳のある重苦しい声、振り返ってみればそこに居たのはフレイムヒーロー『エンデヴァー』。

どうやらさっき逃げていった家族連れのお母さんがエンデヴァーに通報したらしい。

 

「フレイムヒーローエンデヴァー…」

 

No.2ヒーローエンデヴァー。オールマイトが不動の1位を占める中、ずっと2位の地位に立ち続ける実力派。炎の個性〝ヘルフレイム〟でヴィランを焼き尽くすバトルヒーローだっけ。そんで彼の苗字は『轟』、アイツの父親か。

 

「君は…騎馬戦で焦凍に一泡吹かせた女子か、何故物陰で()()()連中とつるんでいる。」

 

ちらりと先輩達を眺める彼の目には明らかに侮蔑と嘲笑が混じってた。『こんな』ね…まあ全員髪型世紀末だもんね、一目でロクな連中じゃないと見抜いたんでしょ。よく昔からこんな目で周りから見られてたから慣れたわ。

 

「彼等は私の先輩方です、仕事終わりにわざわざ着ていただいたので挨拶するのは当然でしょう?少し見た目はアレですけど、問題は起こさないよう言い聞かせたので大丈夫ですよ。」

 

「…ほう、そうか。通報があった為不審者として追い出しておこうと思ったが…まあいい。お前達、くれぐれも妙な真似はするな。」

 

『ウス!エンデヴァーさん!』

 

だからなんでこいつら息ピッタリなん?

 

「それから君。

障害物競走と騎馬戦を見たのだが、炎の個性を使うのか?」

 

「はい、そうです。

エンデヴァーさんと違って口からしか吐けませんが。」

 

「ふむ…素晴らしい個性だ、炎を制御する鍛錬も積んでいるな。是非焦凍と戦って、打ち負かしてやって欲しい。

そうすれば無駄な反抗期も終わるかもしれん。」

 

「反抗期、ですか…」

 

轟は緑谷と話していた時、「父親が憎い」と言っていた。

爆豪みたいに常に反抗期のやんちゃ坊主ならともかく、轟はそういうタイプじゃない。もっとこう…内に秘める感じの憎悪をあの時彼から感じた。餓鬼道にもそういう家庭環境の奴は居たけど、轟もかなり苦労してるらしい。

 

「わざわざ言われなくても、轟には負けません。宣戦布告も受けましたから。」

 

「フッ、一丁前に生意気な息子だ。」

 

満足そうに鼻を鳴らして、エンデヴァーは去っていった。そのあと少しして、私も再度先輩達に問題を起こさないよう念を押してから、皆のところへ戻った。去り際に「屋台で美味そうなもん買っといたんで、皆さんで召し上がって下さい!」と沢山お土産を渡されて、全員斜め90度の完璧なお辞儀で送り出された時の複雑な気持ちよ。両腕にレジ袋抱えてA組の観戦席に戻った時の皆のなんとも言えない表情ったらもう…

 

 

「帝おかえり、長かったね。何その荷物…」

 

「タコ焼きとか焼きそばとか、差し入れで先輩達から貰った。とりあえず連中には大人しく観戦しろって伝えてるから問題は起こさない…ハズ。」

 

「やっぱ知り合いだったのね、皆心配してたんだよ。」

 

「危うく通報されてエンデヴァーに全員連れてかれる所だった…そんで、なんで百は凹んでんの。」

 

「6回戦見てなかったの?常闇の黒影に速攻掛けられて押し出されちゃった。」

 

「ふぐぅっ…!?情けないです…」

 

「…百、タコ焼き食べるか?」

 

「そんな目で見ないで下さい帝さん!…あ、タコ焼きは頂きます。」

 

常闇、百に勝つとは意外とやるね。ノーマークだったよ。

ちゃっかりしてる百にタコ焼きを渡し、ちらっと轟の方を見ると、直ぐに目を逸らされた。さっきまで間違いなくこっち睨んでたね、私がエンデヴァーの話した辺りから。

 

 

 

 

 

7回戦切島VS鉄哲。

お互い似たような個性で殴り合い、双方同時にノックアウト。回復するのを待って腕相撲で決着を付けることになった。

 

7回戦が保留に終わり、最後の8回戦目。

お茶子VS爆豪。

 

お茶子が懸命にアタックを仕掛けるも、尽く爆破して打ち払う爆豪。傍から見るとリンチにも見える光景に観客席からブーイングが殺到した。

 

「いや、ヒーローがブーイングは駄目でしょ。」

 

「でもさ…お茶子さっきからボロボロだし、爆豪もやろうと思えば一瞬で終わらせられるんじゃ…」

 

「お茶子はヤケになってるわけじゃない、上見てみ。」

 

「上…?ッ!?」

 

「まさか麗日さん、最初からこれを狙って…?」

 

 

 

 

 

『…さっきブーイング飛ばした奴、就職活動し直してこい。ヒーロー向いてねぇから。』

 

段々大きくなるブーイングを相澤先生が底冷えする様な冷たい一言で黙らせた。アンタら相澤先生が担任じゃなくて良かったな、全員除籍処分だぞ。

 

スタジアムの上空、リングの中からだと顔を上げないと見えない位の位置に、大小様々な大きさの砕けた瓦礫がふわふわと浮いている。爆豪の爆発に紛れ、砕けた奴を能力で気付かれないように浮かせていたんだろう。しかもあの量、お茶子はかなり無茶をしてる。確かあの子の個性は許容量超えると酔うんじゃなかったか?気合で我慢してるのかな。

 

お茶子が能力を解除して、無音で瓦礫の山が爆豪に向かって降り注ぐ。

これが決まれば一気に形勢逆転!…かと思ったんだけど、すんでの所で気付いた爆豪が放った特大火力の爆破によって瓦礫は木っ端微塵に消し飛ばされた。

 

「爆豪の奴、なんつー威力してるの。絶対ヒーローより解体屋の方が向いてるでしょ。」

 

「あっ、麗日が…」

 

最後の策が不発に終わったのを見たお茶子はまだ攻勢を掛けようとするも、身体が限界に達してしまったらしい。前のめりに倒れてしまった。

 

『麗日さん気絶、爆豪君の勝利!』

 

『あぁ~麗日ぁ…あ、爆豪2回戦進出~、お疲れ。』

 

『テンションの上げ下げおかしいだろ…』

 

残念ながら8回戦は麗日の負け、でもあの爆豪を翻弄したんだから大金星だろう。

 

 

 

 

 

 

そんで、切島と鉄哲の勝負の結果はというと…

 

 

「フヌウウウウウウ……ッッ!!」

 

「オアアアアアアアアッッッ!!」

 

 

ガァン!

 

 

『勝負あり!鉄哲君の勝利!』

 

「よっしゃあああああああッッッ!!!」

 

「クッソォ~!硬さで一歩及ばなかったァッ!」

 

腕相撲対決の結果、僅差で鉄哲が勝ち上がった。お互い硬化した腕にヒビが入るまで頑張っていたようだ。

 

「イイ勝負だったぜ切島…」

 

「鉄哲オマエ…!漢らしいじゃねえか…ッ」

 

お互いに熱い握手を交わし、会場は2人の健闘を讃えてる。昨日の敵は今日の友…男の友情って奴ね。

 

 

 

 

 

そんな訳でトーナメント1回戦は全て終了、私の次の相手は飯田だ。

心配なのは初っ端の緑谷と轟なんだけど…大丈夫かなあ…







GODZILLA新作最高やったで、みんなも観ような。
個人的にはキングギドラの右の首が好き、かわいい。




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17 準々決勝終了




はい捏造設定、独自解釈、その他諸々あるから注意







物心ついた時、父を見て最初に思ったのは酷く冷たい印象。

No.2ヒーロー『エンデヴァー』。その肩書きを持つ私の父は家族に対してとても冷淡で、愛情表現なんてまったくと言っていいほどしない。そんな父と、正反対に明るくて優しい母がどうして彼とくっついたのか、理由を聞かされるまで分からなかった。

 

『個性婚』

 

強い個性を持つ者同士を結婚させて、産まれる子供の個性を更に強化する倫理観の欠落した発想。私の母はその思惑で父と半ば強引に結ばれた。

個性婚を初めて母から聞かされた時、嫌悪感もあったし、そんな理由で母を選んだ父にも少なからず不快感を覚えた。だから幼い私は思わずこう言ったの。

 

「おかあさんはおとうさんが嫌いなの?」

 

って。

 

そうしたら、母は困ったように笑いながら私の頭を撫でて、優しく抱きしめた。

 

「どうかなあ…

確かに周りからは色々言われたし、最初は納得出来ないことも沢山あったたけど、貴女や燈矢達が産まれてくれたから。

貴女達を見る度に、嫌な事とかどうでもよくなっちゃうの。

一緒に居られるだけで、あの人とくっついたのも悪くないかなって思う。」

 

産まれてくれてありがとうね、冬美

 

 

 

窓の花瓶に掛かる、母が一番好きだと言っていた花をちらりと眺めながら呟いた。

 

父はヒーロー活動で家には殆どいないし、会話も殆ど無い。たった一人で私や産まれたばかりの夏雄の面倒を見ている母の手は温かくて、安心した。

 

 

 

 

そんな日々も、焦凍が産まれてから一変してしまう。

()(氷結)、両方の個性を持って産まれてしまった末っ子、焦凍は父から『最高傑作』と称され、6歳になったのを境に毎日泣きながらヒーローになる為の特訓に励んだ。

声を掛けようにも私達も会う事を極力避けられて、あの子はどんどん一人で孤立していく。そんな焦凍を止める為に母は何度も父に懇願したが聞き入れられず、母の心はすり減っていった。

 

そんな日々が続き、遂に限界に達してしまった母は焦凍の顔に熱湯を浴びせてしまい、病院へ入れられた。

重傷だった焦凍を置いて、母を病院へ閉じ込めた父は表情一つ変えずに私にこう言ったの。

 

 

 

「焦凍には何も話すな、あいつは完璧でなければならん。」

 

 

 

その無表情の裏にどんな感情が燻っていたのか、当時の私には分からない。

父は事の顛末を焦凍に話し、それ以降焦凍は父と会話する事も、食事を共にする事も無くなった。きっと父は焦凍に冷たく当たって、責任を全て自分で背負い込んでしまったんだろう。

 

それ以降、父は家族から孤立していった。

 

何かを忘れるよう必死にヒーロー活動に取り組む父。

消えない因縁を抱えたまま焦凍は雄英高校に進学し、父を憎んだままヒーローを目指している。

 

 

私は、どうすればよかったんだろう…

 

 

 

 

 

 

 

…………

 

 

 

 

 

 

君の…力じゃないか…ッ!!

 

 

 

 

 

 

ボロボロの体を引き摺りながら絞り出した少年の叫びは、焦凍の心に火を付けた。

左半身か憎かった筈の父譲りの(ほのお)が吹き上がる。凍り付いた右半身を溶かし温めながら、熱気と冷気を交互にスタジアムに振り撒く焦凍は今まで見た事ないほど晴れやかな表情をしていた。

 

『なりたい自分』になればいい

 

母が昔私にも言ってくれた言葉が頭の中で何度も響く。

焦凍はやっと、自力で父の呪縛を断ち切ったんだ。

 

自分でも気付かないうちに、涙が頬を伝っていた。顔が熱くなって、どんどん零れ落ちてくる。

 

「ハンカチです、冬美さん。」

 

「ごめんね、ありがとう香子ちゃん…」

 

「強い子なんですね、弟さん…

1回戦の時とは表情が全然違います。」

 

「うん…うんっ…!私の…自慢の…弟だよ…っ!」

 

一番近いはずなのに…私はあの子に何も言ってあげることが出来なくて…なあなあのままずっと…私は父と焦凍から目を背け続けてきた。

あの子の氷を溶かしたのは家族(わたしたち)じゃなくて彼だ。

 

「緑谷くん、ありがとうね…」

 

体育祭が終わったらちゃんと話そう。

今までの事と、これからの事と…お母さんの事も。

私も前に進まなきゃいけない。

 

そう決心した私は、涙で濡れる視界の奥で戦う弟の姿を目に焼き付けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

轟と緑谷が巻き起こした大爆発はスタジアムを大きく揺らし、舞い上がった水蒸気が視界を覆い尽くす。両隣の響香と百が悲鳴を上げて、観戦席に突風が吹き荒れた。

 

吹き出した炎を一気に冷やして起こす水蒸気爆発…でもそれは、アクセルベタ踏みの炎を制御せずに氷で抑え込もうとした結果だ。本当に使うの嫌だったんだな轟の奴、炎の制御に関しちゃまだ私に分があるか。

 

煙が晴れて、リングに残っていたのは轟1人。手脚がバキバキに折れた状態の緑谷は壁に叩き付けられ気絶してる。本当に酷い個性だ。

 

ミッドナイトが轟の勝利を伝え、一拍置いて会場は最高潮の盛り上がりを見せる。気絶した緑谷は救護ロボットに運ばれて行って、それを見たお茶子と飯田が席を立ち上がったのを私は呼び止めた。

 

「ちょいまちお茶子、緑谷んとこ行くんならこれ持っていきな。」

 

「へ?これ…さっきの屋台の焼きそば…?」

 

「リカバリーガールの個性で治療するのに体力を使うんでしょ?だったら食べ物持って行った方が回復早くなるはず。温めるから待って。」

 

「…うん!ありがとう帝ちゃん!」

 

「龍征君は行かないのか?」

 

「私?ん〜…いいや。次アンタと試合だし、準備あるから。」

 

「…そうか、お互い悔いの無い戦いをしよう!」

 

「おー。」

 

「緩いな!?」

 

私はハンドクリーム塗らないとだしねー、家に忘れてたから今まで手がガッサガサだ。

手早く焼きそばとたこ焼きを両手で温めてお茶子に渡してやる。ブドウや切島、梅雨ちゃんも一緒に医務室について行くようだ。

 

 

「なー爆豪。」

 

「……あんだよ。」

 

「緑谷っていつもああなの?」

 

「ンで俺に聞くんだクソが…」

 

「だって幼馴染なんでしょアイツと。

個性が制御不能なのもだけど、緑谷の奴、誰かを救うのに躊躇いが無いっていうか、自分の事放り出して誰かを助けようとしてる。ヒーローとしちゃ間違ってないけどかなり危ないよアレ。」

 

「ッ…知るかよ、俺にデクの話振るんじゃねぇクソ金髪。」

 

爆豪の表情が一瞬険しくなったのは思い当たる事があったんだろう。もっと聞きたかったけどこれ以上会話すると殴りかかってきそうだったので止めた。爆豪の手が壊れたら試合できないからね。

 

ともかく次は私と飯田か…あのレシプロどうすっかなー。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『リングの修復、終わったよ。』

 

『サンキューセメントス!

さァ会場の修理も終わったところでェ…準々決勝第二試合、始めようぜエ!!』

 

『1戦目はまんまと嵌められちまった可哀想な男!A組、飯田天哉!』

 

「くっ…忘れて欲しいッ!!」

 

『そんでもって対するはァ…上鳴を一撃で沈めたA組の女番長!龍征帝!』

 

「女番長…解せぬ…」

 

スタジアムいっぱいに広がる歓声を浴びながら、今開始のゴングが響く。

 

「速攻で決めさせてもらうぞ、龍征君!」

 

「よっしゃ来ーい。」

 

「本当に緩いな君は!?」

 

レシプロ…バーストッ!!

 

脹脛に着いたエンジンが唸りをあげて、一気にトップスピードに達した飯田はあっという間に龍征の眼前に迫る。

 

(!?これは…不味いッ!!)

 

帝の口元に赤い物がチラついた瞬間、悪寒にも似た何かを覚えた飯田は本能のまま踵で思い切りブレーキを踏み、90度方向を変え横っ飛びしてそれを避けた。

その直後、赤い波が先程まで飯田の走っていた空間を飲み込んでいく。

 

「うわ、避けたよ。やっぱり速いなーソレ。」

 

「くっ…うお!?」

 

帝の吐いた火炎放射はまだ生きている。

まるで蛇のようにうねりながら、彼女の指の動きに従って炎が踊り飯田に襲い掛かった。速さはそれほどでもない為レシプロ状態の飯田ならば逃げるのは容易い、だが何かが引っかかる。

 

「今回はちゃんとハンドクリーム塗ってるから、安心して炎使える。

さあ、あと何秒持つかな…?」

 

(くっ炎が…!

まさか彼女は…レシプロが切れるまで遠距離戦をするつもりか!)

 

その通り、帝は自分と飯田の間に常に炎を挟んで一定の距離を保つように動いていた。

レシプロバーストはエンジンの回転数を無理やり上げて速度を出す自爆技だ。爆発的な速度を生む分、冷却等の対策をしないと数十秒程度でエンジンがオーバーヒートを起こし、極端に遅くなってしまう。

一度エンストを起こしてしまえば飯田は個性を使えなくなると言っても過言ではない、1回戦や障害物競走でも分かる通り、素のフィジカルで勝る帝を相手にすればどうなるか想像に難くないだろう。

 

(レシプロが切れるまであと8秒と言ったところか。功を焦り過ぎた…失態だ。兄さんも見ているかもしれないのに…)

 

「さあ遠距離戦といこうじゃない…のっ!」

 

追加の炎を吐き散らす帝の振り下ろした右手に呼応して、アーチを描くように跳ねる炎の塊から逃げ回る飯田。

 

『スゲーッ!?炎が踊ってるぜェ!

A組龍征、吐いた炎を操って飯田を寄せ付けねえぞ!』

 

『飯田は個性の性質上近接に頼らざるを得ない、騎馬戦で見せたレシプロは持続力がない上にデメリットが大きいようだからな。切れるまで近寄られないよう徹するのが合理的だ。

今は速さで勝ってるから避け続けられてるが、リミットは近い。さあ、どうする…?』

 

(どうすればいい…!

残り6秒…切れたら確実に負ける、この状況を打開する為には…)

 

…あるにはある。

火傷にならないように調整しているのか、帝を守る様に渦巻く炎の層はそれほど厚くない。更に自身の身の丈より大きい炎のせいで視界も悪いだろう。ならば飛び交う炎を突っ切って不意打ち…それしか勝つ手段は残されていないと飯田は悟った。

 

(頭では分かっている…分かっているんだ、だがっ…!)

 

 

怖い

 

 

炎とは生き物が本能的に恐れる物のひとつである。野生動物は勿論、人間だって余程の訓練や経験を積んでいない限り、大量の炎を見れば身が竦んでしまう。ましてや彼はまだ高校一年生。掠める度に身を焦がす熱、頬に当たり続ける熱い風、走っていても感じる炎への恐怖を飯田は拭えないでいた。

 

そうこうしているうちに残り3秒、脹脛が妙な音を立て始める。こうなってしまったらエンストまで秒読み段階だ。

避け続けているうちに、ゆらゆら揺れる炎の向こうで飯田と帝の視線が交差した。

 

彼女は笑っている。

 

余裕の笑みでは無く、かと言って嘲笑している訳でもなくて。

 

乗り越えて見せろよ、と笑っている。

 

(試しているのか…僕を…ッッ!!)

 

勝つ為には炎の恐怖を超えるしかない、それしか勝ち筋は残されていないのだ。

必要なのは『覚悟』だ。

 

(負ける訳には…いかない…!

この戦い、『覚悟』が道を切り拓くッッ!!)

 

「おおおおっ!!」

 

踵で地面を踏みしめ思い切り方向を切り替える。一拍遅れて炎が着弾したのを合図に、飯田は龍征の下へと一直線にひた走った。

 

「…!!」

 

即座に反応した帝が指を動かし、後ろから炎が追いかけて来る。背中にチラつく熱が恐怖を煽るが、「こちらの方が速い。」その確信が飯田の脚を止めなかなった。

 

「プルスぅ…」

 

両腕をクロスし顔を守る。

 

飛び込むのは赤い波

 

乗り越えるのは灼熱の壁

 

「ウルトラアァァァッ!!」

 

覚悟は炎を突っ切って、飯田は帝の前へと姿を現した。

 

 

『飯田生身で炎を突っ切ったァ!?そのポーズTMR的なアレ?

火事に飛び込むようなモンだぞ!』

 

『アレが奴の覚悟だよ。火事場に飛び込む勇気…ヒーローに欠かせない素養の1つ。

まあ、物理的に飛び込んでるのは初めて見たが。』

 

両腕どころか四肢が焼け付くように熱いが残り2秒、向こうに待つ本体へと手を伸ばす。掴んでしまえばあとは速度に任せて投げ飛ばせばいい!

 

「わっ。」

 

「届くッ!!…なっ!?」

 

それでも、紅い瞳は笑っていた。

再び走る悪寒と共に目の前…ちょうど腹部の辺りに熱を感じた。局所的に蜃気楼が起きているのか視界が揺らぎ、膨大な熱の塊がそこ一点に収縮しているのが分かる。

 

ボンッ!!と何かが破裂する音と共に目の前が白に染まった。

 

「がは…っ!?」

 

何が起こったかも分からぬまま飯田は後ろに弾き出され、場外まで飛ばされ芝生に尻餅を突く。

会場が静まりかえる中、半ば動揺しながらミッドナイトの宣言により勝者が告げられた。

 

『い、飯田君場外…龍征さんの勝利!』

 

溢れる歓声と共に、帝は場外へ倒れている飯田に向かって手を伸ばす。ミッドナイトが「青い!青いわ!」とか言っているがこの際気にしてはいけない。

 

「お疲れ様、いい覚悟だったよ飯田。」

 

「龍征君…今のは一体…」

 

「ん〜今はまだ秘密、コレ結構奥の手だったんだけどな。びっくりして使っちゃった。」

 

「そうか……ともあれ僕の負けだ。準決勝、頑張ってくれ!」

 

「おう、がんばる。」

 

「やっぱり緩くないか?」

 

「こんな性格だからしゃーない。」

 

へにゃっと笑う龍征。

お互い笑いながら、飯田は伸ばされた手を握った。

 

 

 

 

『飯田を破り、準決勝へ進出したのは龍征!

あいつホントに底が見えねえなァ解説のミイラヘッド!』

 

『混ぜるな…

炎という個性の特性上、応用という点で見れば龍征は頭一つ抜けている、さっきの小爆発もその1つだろうな。だが今回はトーナメントだから戦う度に個性の幅は後の対戦相手に知れていく、他の連中はどう攻略するか…』

 

『さァドンドン行こうぜ〜!!

お次はB組塩崎VSA組常闇だァ!』

 

『…話聞けよ。』

 

 

(予想していた通り、準決勝の相手は龍征か。

…緑谷に言われた事がずっと引っかかる、俺は…どうしたら…ッ)

 

 

 

 

 

 

 

「うおおおお姉御ぉぉぉッ!!」

 

「戦う姿もお美しいっス!オイちゃんと録画してっか!?」

 

「ったりめぇだスカポン!何の為に叔父貴から4Kのビデオカメラ渡されたと思ってんだ!」

 

「貴様等喧しいぞ!静かに観戦しろ!」

 

「エンデヴァーさんだって前の戦いじゃ叫んでたじゃ無いですかァ〜?」

 

「……俺はいいんだ。

お前達、妙な真似をすれば即座につまみ出すからな!」

 

『ウッス!!』

 

息ピッタリの男共はやいのやいのと歓声を上げながらリングを去っていく帝をビデオカメラに収めている。

帝に再三注意された彼等は結局、エンデヴァー監視の下立見席で雄英体育祭を観戦していた。彼等の特徴的な髪型と全員同じツナギで初めは周りの観戦者達から訝しげな目で見られはしたもの、今ではすっかり場に溶け込んで熱狂している。たとえ何かが起こっても「エンデヴァーが傍にいるなら何とかしてくれる」という安心感もあるのだろう。

 

そんな感じですっかり彼等のお目付け役になってしまったエンデヴァー。実は彼も、息子である焦凍が殻を破りずっと忌避していた左の力を使った事に歓喜し、緑谷戦では周囲の目もはばからずに思わず叫んでしまったものだ。

 

(やっとお前は俺の完璧な上位互換となった。

オールマイトでは届かぬ高みに焦凍は必ず辿り着く!フフ…流石我が息子だ。

それにしても…)

 

物憂げに考えるエンデヴァーの瞳は、先程まで自分と同じ『炎』の力で同級生を圧倒した少女の姿を捉えていた。

 

(吐いた炎の持続力、操作性、申し分ない出来だ。

それに()()()()()()。焦凍にとってこの上ない刺激となるだろう、今年は『当たり』だな。)

 

彼の思考は加速する。

息子のこれからの事、そして将来設計。伴侶を選ぶなら誰にするのが一番良好か?焦凍の個性に負けないような素晴らしい個性を持った相手を選ばなければ釣り合わない。

 

(その点、彼女は候補に上がるかもしれん…炎を使うという点でも俺の理想と合致しているしな。)

 

帝はかなりの美女である。まだ高校一年生だというのに大人びた高身長にスタイルも抜群で、世の女性が羨むであろうきらびやかな長い金髪と、ルビーのような紅い瞳。十人に聞けば全員が「美しい」と判断するであろう容姿は将来プロヒーローになってからも引く手数多だろう。性格面も問題無い、先程出会った時怯まず丁寧な対応をされたあたり彼女が出来た女性であるとエンデヴァーは判断していた。

高身長でガチムチ、しかも常時物理的に燃えているエンデヴァー。本人が威厳を示す為に威圧感を出しているのもあるが、それ故に初めて話す相手は必ずと言っていいほど怯え、大抵が挙動不審になる。しかし帝はちゃんと此方の目を見てハキハキと喋っていた。それがかなりの好印象だった。

 

(あのような子がまさか餓鬼道から生まれるとは…分からんものだ。まだ確定とはいかんが、焦凍との試合次第だな。)

 

焦凍の将来を考えるにあたり、彼は同じヒーロー科A組の女子の情報をとあるツテからある程度仕入れていた。そこには勿論帝の情報も載っていたし、彼女が問題児の集まる餓鬼道中学校出身という事も判明している。

教員でも手が付けられない程荒れていた不良達を纏めるカリスマ性は将来期待出来るだろう。

 

…正直な話、息子の為とはいえ同じクラスの女子の情報を調べ上げるとかどんな不審者だと総ツッコミを受けるだろうが、これも息子の為だ。歪んでいるがこれも親としての愛情なのだ、異論は認めない。

美しい容姿に強力な個性、天が与えた二物を持つ少女。彼女ならば息子の妻に相応しいかもしれないと、半ば確信を持って轟炎司(親バカ)はほくそ笑んでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………」

 

「どしたの才子チャン、さっきまでの笑顔は何処へ?」

 

「いえ…あくまで私の勘なのですが、帝に近寄ろうとする輩がいます。消しておかないと…」

 

(ええ…怖っ)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

準々決勝第3試合、塩崎VS常闇。

 

序盤は終始優勢な常闇だったけど、防戦一方だった茨ちゃんが伸ばしたリング下のコンクリートを掘り進む蔓に背後を取られ身体を拘束された。黒影は強力だけど、本体をやられちゃおしまいだ。抵抗出来なくなった常闇はあえなく降参し、茨ちゃんの準決勝進出が決まった。常闇はフィジカル面が今後の課題ね。

 

そんで準々決勝最終戦、鉄哲VS爆豪なんだけど…

 

 

「死ねクソモブがァッ!!」

 

「煩ぇテメーが死ね!」

 

お互い罵倒し合いながら殴り合いを繰り広げてる、2人の相性は最悪だった。

個性〝スティール〟によって全身鋼鉄の塊と化した鉄哲を爆豪が爆破し続ける地獄絵図。地獄に行ってもこんな不毛な争いは拝めんぞFUFU☆と伝説の超野菜人の親父ィ…が言ってそうなこの戦い。なんとなんと、この膠着状態で もう10分近く経ってる。お互い罵倒しながら…しかも個性全開でだ、どんなスタミナしてるのよ。

 

「…そろそろかァ?」

 

「ああ?何言ってやが(BOMB!!)ぐおっ…!?」

 

「テメーの硬化はウチのクソ髪と被ってんだ。被ってンなら…ずっと気ィ張り続けてりゃどっかが綻ぶだろうよ!!」

 

不敵に笑う爆豪、どうやらわざと鉄哲を挑発して全力で個性を使い続けさせたらしい。個性は身体能力と同じだから、鉄哲もずっと硬化する事はできない。時間が経つにつれ、硬度に綻びが生まれたようだ。それを爆豪は狙っていた。

 

…本当に挑発は作戦に入ってたんだろうか、素で喧嘩してる様にも見えたけど。

 

「全ては爆豪さんの策の上、という事ですか…」

 

「ええーホントにござるか〜?」

 

 

 

 

 

「死ねェッッ!!」

 

「ぐっ…おおおおおおッッ!?」

 

そこから始まった爆豪怒涛の猛ラッシュ、爆破に次ぐ爆破により遂に鉄哲は吹っ飛ばされた。

リング際の攻防、一方的に爆破され続ける鉄哲にB組からの声援が聞こえる。

 

「耐えろ鉄哲ゥ!!」

 

「首席なんかに負けんな!」

 

「気張れ鉄哲!漢だろぉ!」

 

最後のは切島やんけ

 

「しっつけえんだよクソモブがァ!」

 

「さっきからモブモブ煩えよ爆発頭…!」

 

「んなっ!?」

 

なんと、鉄哲は爆豪が止めとばかりに繰り出した右の大振りを受け流した。

 

『おぉーッ!?鉄哲、爆豪の止めの一撃を受け流しリング外に押し出したァ!』

 

勢いのまま爆豪はリング外に倒れ込む、このまま手が着いてしまったら爆豪の負けだ。

相手を挑発していたのはお互い様だったみたい、お互い迫真の演技で…いやそれもうマジの喧嘩やん。

 

だがしかし

 

「くっっ…ソがあああああッ!!」

 

BOMB!!

 

手がリング外に着く直前、空中で起こした爆発の反動で大きく後ろに飛んでリングアウトを回避した爆豪。そしてそのまま鉄哲の腹に両手で爆破を打ち込んで吹き飛ばし、壁に勢い付けて激突した鉄哲は気絶して硬化が解けた。

 

『鉄哲君場外!爆豪君の勝ち!』

 

とっさの空中爆破からの体勢整えて反撃とか、普通に爆発させただけじゃできないよ。どんだけ個性の制御上手いのよ。

…いや、アレはどっちかっていうとセンスの問題か。上鳴が才能マンなんて言ってるのも頷けるね。

努力もして才能も持ってるのに、なんで性格がアレなのかねえ…

 

「ひえー今の動きえげつなかったな…」

 

「かっちゃん、更に爆破の制御が上手くなってる。きっと沢山努力したんだ…」

 

「お、緑谷戻ってたんだ。おかえりー。」

 

「あ…うん、ただいま龍征さん。や、焼きそば美味しかったです…」

 

壊れた腕にギプスを付けた緑谷がぎこちなく返してきた。お茶子の話だと手術するって話だったらしいけど、無事だったみたいね。

 

「あ、そうだ。ありがとうね緑谷。」

 

「りりり龍征さん近ッ…何が…?」

 

「轟のこと、()()()()()()()()()()()()?緑谷は強い子だなーもー。」

 

緑谷戦の後、轟から出てた威圧感や殺気が消えてた。

そして今は席の隅っこで1人考え込んでいる模様、緑谷と戦ったとこで何かしら心境の変化があったんだろう。いい事だ。

 

「いや僕はあの時はアドレナリンドバドバで…自分でも生意気なこと言っちゃったなって思ってるっていうかふもがっ!?ーッ!!〜〜ッ!?」

 

「デクくんが帝ちゃんの胸に埋もれとる!?」

 

おっと、感謝の余り思わず緑谷を抱き締めてしまったぜ。このサイズ、中々の抱き心地だな緑谷。エリザベス(長年愛用してる私の抱き枕)と同じくらい。モジャ髪も良い感じで撫でやすいし、ええですなあ…

響香、「またコイツは節操無しに…」とか言いたそうな目で睨まないで。

 

「でもな緑谷、身体壊す個性はよろしくないぞ。戦う度に身体ボロボロにしてたらヒーローになる頃には車椅子生活だろ。」

 

「う…うん。それは…何か対策を考えないと…」

 

「その個性、ほんとパワーだけならどっかの筋肉先生そっくりなのよね。」

 

「そそそそそそそうかなあ!?しょんな事ないとおおおお思うよぉ!?」

 

要は力の回し方と加減の問題じゃないかなあ?ガスコンロに例えると今の緑谷は()()()()()()()()()()感じだ、ツマミを回すみたいに火力調節できるようになれば毎度毎度スプラッタな骨折場面を見なくて済むんだけど。

緑谷は遅咲きの個性で体が追いついていないらしいし仕方ないかー。

 

「あの…龍征さん…」

 

「…んー?」

 

「そろそろ離してくれないかな…皆見てるし…なんか峰田君が呪詛吐きながら僕を睨んでくるんだけど…」

 

「悪い悪い、考え事してた。

いや、緑谷の抱き心地が良いのが悪いんだよ、ウン。」

 

「僕のせいなの!?」

 

『だ…抱き心地ィ!?』

 

一部男子が雷に打たれたような表情してるけど一体どうしたというんだ…

因みに緑谷を解放したあと、準決勝始まるまで時間いっぱい響香と百からお説教を食らってしまった。解せぬ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「緑谷が気付かせてやったんだ、()()()くらいは私がやるよ。」

 

「…うん、ありがとう。」








次は轟戦


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18 氷炎舞踏




捏造設定あり


『さァ行こうぜ…準決勝!

マスコミ共、見てるかァ!?どっちも話題性グンバツの生徒達だぜエ!!』

 

『炎と氷両方使えるとか強過ぎるよキミィ!

A組、轟焦凍!』

 

『対するはァ…

同じく炎の個性!負け知らずのA組女帝!龍征みか「女帝は止めて下さい」えっご、ゴメン…

お、女番長龍征帝ォッ!!(こ、コエー!?)』

 

大歓声の中、リング上に向かい合う轟焦凍と龍征帝。帝は相変わらず緊張感の無い笑みを浮かべたままだが、対する轟は何処か上の空で、心此処に在らずと言った感じだ。

 

「…………」

 

「睨まなくなったと思ったら今度は目も合わせなくなった…そんなに私嫌われてるのか?」

 

「…いや、違う。」

 

「まあいいけどさ。

それで左は?使わないの?」

 

「…分からねえ。」

 

「……そか、分かった。

全部受け止めてあげるから来いよ、轟。」

 

「……ッ!!」

 

『スタァートッ!!』

 

 

試合開始のゴングが鳴り響く、それと同時に轟の右脚から伸びた冷気が地面を伝い、あっという間に氷の塊が帝を飲み込んだ。

 

『おおおっとォ!?轟、瀬呂戦で見せた大氷壁で速攻だァ!これは早速勝負決まっちまったかァ!?』

 

突然産まれた大氷壁に観客席が騒然とする中、B組観戦席でそれを眺める塩崎だけは目を閉じ、静かに祈りを捧げている。

 

「御姉様……」

 

これから始まる激闘を見届ける為に。

 

帝が氷壁に呑み込まれてから十秒程経つと観客席が次第にザワ付き始め、実況席のプレゼントマイクが業を煮やして喋り出す。

 

『おいどうしたミッドナイト!まさか龍征はもう動けねえのか!?』

 

主審ミッドナイトからの応答は無い、彼女はただ食い入るように氷壁を見つめていた。

 

 

 

 

 

 

「終わるわけねえよな…」

 

轟が呟いたのと時を同じくして、氷の壁が音を立て融解し始めた。軋みを上げながら徐々に形を無くしていく氷の塊は、内側から放たれる熱に耐えきれずその巨体が溶けて崩れ去っていく。

溶けかけた氷の奥で赤い光が灯ったその刹那、大爆発と共に氷は火柱へと姿を変えた。

溶けた氷は一瞬で水から蒸発し、観客席に膨大な量の水蒸気となって振り撒かれていく。まるで遊園地のアトラクションじみた光景に観戦席から歓声の入り交じった悲鳴があがる中、巻き上がった水蒸気の煙が晴れ、炎渦巻く中心に、口から炎を漏らす帝は仁王立ちしていた。

 

「ぬるいぜ?」

 

「そう易々とは倒れてくれないか…ならッ!!」

 

再び轟の足下から冷気が伸びる。しかしそれは帝に近付くにつれどんどん勢いが弱まっていき、辿り着く頃には完全に溶けて蒸発してしまっていた。

 

(俺は手なんか抜いて無ぇ…龍征の奴、どれだけ高熱の渦で守ってやがんだ…)

 

「どうしたどうした紅白饅頭!ぜぇんっぜん届いてないぞー!」

 

焦る轟を嘲笑うかのように、渦巻く炎の一部がうねって地面を焼く。幾つものアーチを描く様に追い詰めていく炎の追っ手を、轟は氷の壁を作る事によって正面から防いでいた。

 

「くっ…そ……ッ!」

 

『龍征押して押して押しまくるゥ!

つーか炎と氷じゃ相性悪いんじゃねェかコレ!?』

 

『それもあるが、緑谷戦から轟の動きが妙に鈍い。何かあったか…』

 

炎から身を守る氷壁に右手を添えて、冷気を注いでも延々と続く炎の猛攻に晒され轟は防戦一方だ。

 

(どうすればいい…俺の冷気じゃ龍征には届かない。

それに、1度は忘れた筈なのに…炎を見る度にアイツの姿が…お母さんのあの顔が頭をよぎる。

クソッ…集中しなきゃいけねえのに…ッ!?)

 

突如として氷壁にヒビが入り、轟が冷気で補強する暇もなくそこから粉々に砕け散った。

唖然とするのも束の間、砕かれた氷の隙間から伸びるすらりとした腕が轟の右手をしっかりと掴む。

 

「轟さあ、大雑把だよね。私相手に視界塞ぐのは不味いっしょ。」

 

「なっ…!?」

 

「そーれ!」

 

視界がぶれた次の瞬間に轟の身体はリング外に向かって宙を舞っていた。

 

『轟ぶん投げられたァ〜ッ!!

つーか予選でも見てたが、結構な厚みの氷壁をヤクザキックでバラバラに壊す龍征やべー!アレだ!ステゴロがスゲーな!』

 

慌てて空中で体勢を整えて氷で作った傾斜を利用しリングアウトは回避出来たが、再び帝の炎が迫る。もう一度右の氷を使おうと地面に手を当てた時、異変に気づいた。

 

「…氷がッ!?」

 

「今頃気付いたか。でももう遅いんだよ、どうしようもない。

轟が1人でウダウダ考えてる間に舞台はできあがってしまったんだ。」

 

 

お前はもう、どうしようもない。

 

 

そう残酷に告げる帝の赤い瞳が轟を射抜く。

 

 

 

 

 

 

 

 

「なに…あれ…」

 

「なぁ…アレ?俺ってば疲れてんのかなあ。なんで轟と龍征が歪んで見えんだ?」

 

「私もそう見えるわ上鳴ちゃん。

蜃気楼みたいに2人がゆらゆら揺れて見える。」

 

「……熱か。」

 

「うん、多分そうだよかっちゃん。

龍征さんは自分で吐いた炎を操作できるって言ってた。炎が操れるって事は、それに付属する『熱』もそうする事が可能なのかもしれない。」

 

「じ、じゃあリングの周りをドーム状に覆ってる蜃気楼みたいなのは、今まで龍征が吐いた炎の余熱って事か!?」

 

「個性の応用…」

 

「本来散らばる筈の熱をリング内に集中させてるからあの蜃気楼が生まれたのか…?そんなの…どれだけ努力すりゃあんな規模まで操れるようになれんだよ!?」

 

「爆豪と一緒で龍征も才能マン…いや、才能ウーマンかよ…」

 

「一緒にすんな殺すぞ。」

 

「辛辣ゥ!?」

 

(だが個性だって身体機能だ。使い続ければ必ずガタが来る筈…あの個性のデメリットはなんだ?歪んでてよく見えねえが半分野郎の氷が使えなくなるほどの高熱の中で汗1つかいちゃいねェから使い過ぎて熱中症とかじゃ無ェだろうが…)

 

「…あー、それでハンドクリームなんだ。」

 

「ハンドクリームがどうしたの耳郎ちゃん。」

 

「USJの時、帝はハンドクリーム塗ってたんだよ。アレ、個性で炎を操作した熱と乾燥で手がひび割れるからって言ってた。」

 

「炎熱を操る代償として手の水分が犠牲になる、か。どの程度の症状が出るのかは分からないが、女性には少しきついな。」

 

「でもよー、手ぇひび割れるだけならかなり強過ぎね?」

 

「ううん、違うよ上鳴君。恐らくだけど龍征さんの個性の本質はそこじゃない。

身体が頑丈な筈の彼女は近接戦闘で足りない部分を補うというより()()()()()()()()()()()感じだったし…いやでも仮にそうだとしても翼竜達は個性の一部でブツブツブツブツ…」

 

「あー…デクくんが遠い世界に行ってもうた。」

 

「でも轟は絶体絶命だぜ!

プレゼントマイクの言う通り相性が最悪なんだからよォ!」

 

「なんで嬉しそうなの峰田ちゃん。」

 

(鬱陶しいがデクの言う通り、あの女の個性はまだ秘密が有る…間違いねぇ。だったらそれすら上から捩じ伏せるまでだ…ッ!!)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……暑い

 

息を吸うのを躊躇うほど、リング内は炎と熱気で満たされていた。特に高熱で熱せられた足下のリングは想像を絶する温度になっている事だろう。

足裏がチリチリと痛むなか、轟はなんとか紙一重で帝の炎を避け続けていた。

 

「…ッやっぱり出ねぇッ!」

 

右手の冷気を再度出してみるも、僅かに湯気があがるだけで氷にならない。

 

「轟は凍らせる時、必ず空気と一緒に地面や物を冷やすよね。今までも仮装ヴィランや瀬呂テープなんかを巻き込んで凍らせてた。

氷を作るには水分が必要だもんな。それをより遠くに届かせる為には物を伝った方が効率的だ。」

 

「全部見てたのか…」

 

「もちのろん、宣戦布告されたんだもん。

対戦相手(ライバル)の個性は分析して当然でしょ?

だーれかさんは自分の事に夢中で私の事なんて全くもってout of 眼中だったみたいだけど。」

 

「…………すまねえ。」

 

「素直かよ、そういうとこ好きだぜ。

そんでさ、緑谷戦で炎も解禁した事だし、炎熱系個性の先輩として少しレクチャーしてあげるよ。轟しょーねん。」

 

「何だって…?く…ッ!?」

 

炎がアーチを描く様にリングのあちこちから湧き上がる。

 

「覚えときな、私達みたいな個性は周りの影響をモロに受けるんだ。

周囲の温度が一定で水分が多ければ凍りやすく、逆に暑く乾いていれば燃えやすい。」

 

 

 

 

「私のコレは口から吐いた炎と、それに伴う熱の操作。んで、今このリングの周りは私の吐いた炎の熱気を充満させてんの。

轟の冷気は右半身を軸にして周囲の水分を凍らせてる、なら高温低湿の中で冷やすものがなくなればアンタの冷気は遠くへは届かないし、氷も生まれない。

まあ無理すれば生まれるだろうけど、今の轟じゃあ大した出力出せそうにないね。

限界なんでしょ?周りがこんなに暑いのに、右半身だけ寒さで震えてる位だもんな。」

 

「ッ…!」

 

思わず霜が降りて震える右手を抑えた。

 

「個性は身体能力だ。

使い続ければ消耗するし限界が来る、さしずめアンタの使う冷気の代償は身体が必要以上に冷えてしまうって所かね。

…ああ、それで半分が炎なんだ。

炎で解凍、氷で冷却、なるほどエンデヴァーがあんたを最高傑作だなんて呼ぶ理由が分かるよ。」

 

「……」

 

右の個性を左で、左の個性を右で中和する。

それぞれのデメリットを補うように使用すれば副作用無しの強個性となる。

その為にエンデヴァーこと轟炎司は氷の個性を持つ妻を選んだ。それがオールマイトを超える存在を生み出す為に画策した『個性婚』の真相。

轟は歯噛みしながら帝の話を聞いている。反論もしないで、ただ虚ろな瞳で下を向いていた。

 

「…ねえ、轟はどうしたいの?」

 

「……」

 

「答える気も無い?」

 

「……分からねえ…

自分がこれからどうしたいのか…どうすればいいのか…『考える』なんて考えもしなかった…」

 

「そう…じゃ、此処で無様に負けちまえ。」

 

「…?ッ!?」

 

突如として渦巻く炎が一斉に轟へ襲い掛かった。

氷も使用出来ない身では満足に防御する事も叶わず、横っ飛びで辛うじて炎の波から身を躱す。その後も繰り返される炎の猛追に轟は更に疲弊し、個性のデメリットも相まってどんどんリング際に追い詰められていく。

 

『龍征怒涛の猛攻ゥ!!

轟は氷の個性で防御しないようだが一体どうした!?』

 

『轟の個性は空気中の水分を凍結させて氷を作り出す、だから龍征はリング内を丸ごと炎と熱気で包んで高温低湿の空間を作り出した。

冷やせる空気も無けりゃ凍る水分も無い、そんな中で取れる選択肢は自ずと限られて来る、どうする轟。』

 

「まだ悩んでいるのか、早く左を使え焦凍…!」

 

「焦凍…!!」

 

相澤先生の解説に様々な思いがスタジアムで飛び交う中、熱気で歪んだリングではほぼ一方的とも言える攻防が繰り広げられていた。

 

「くそッ…!!」

 

迫り来る炎のアーチを潜り抜けながら再度地面に手を当てるも、やはり氷は出ない、それどころか逆に熱せられたコンクリートで此方が火傷しそうだ。場の流れは完全に帝に掌握されている。

 

「あっはっは!踊れ踊れェ!」

 

「どうしたらいい…俺は…ッ!!」

 

「さっきから下ばっかり向いてさ、何処見てんだよお前。」

 

「……」

 

「抵抗を止めないって事は、まだ諦めてないじゃん。

なんで此処に立ってんのよ。」

 

「それは………」

 

「前を向かなきゃ、見えるものも見えないぜ?」

 

「……ッ!!」

 

ふと、顔を上げたその時、帝と目が合った。

丁度炎を口から吐き出し撒き散らしている所だった。

僅かな空白の後、リングが炎に包まれ再び熱気が吹き荒れる。

 

(なんだ…?今一瞬だけ違和感…が…)

 

一瞬のみ気付いた違和感、その疑問を確信に変えるため轟は接近を試みた。

 

「…破れかぶれかな?イイ感じに無様だぜ轟ィ!」

 

炎の波が叩き付けられる。紙一重でそれを躱し、轟は一定の距離から帝を観察し続けた。

振り下ろす手に従って踊るように揺らぐ炎、それに伴う熱気を肌で感じながら。

熱と乾燥でジワジワと体力を奪われるなか、必死に思考を巡らせた。

 

(なるほど、そうか…ッ)

 

何度目かの着弾、炎が飛び散り消えた直後、ようやく周囲の変化に気付いたのだ。

 

(やっぱりだ…!

龍征は口から炎を出す性質上、必ずインターバルがある!そして炎を吐いている間は…ならッ…!!)

 

「ここだ…ッ!!」

 

叫ぶ轟が右足を強く踏み抜いた刹那、さっきまではどうやっても出なかった氷の柱が帝の横を通過した。

 

「おぅ!?っぶな!!

…気付いたんだね、私の個性の習性に。」

 

()()()()()()()()んだよ、龍征…

お前の炎は口からしか吐けない、だから炎を出してから操作するまでにインターバルがある。短い間だがその時だけは熱も炎も制御を失って、水分は元に戻る!!」

 

炎を避け続けていた事により、運動して体温が戻った事もあるが、帝の個性のカラクリを轟は見事見抜いてみせた。

 

「わざと大袈裟な炎の演出と大層な口振りで隠しやがって…盲点だったぜ。

もう誤魔化されねえぞ…騎馬戦の時、お前から学んだ教訓だ、龍征!」

 

「実は洗脳使われたの根に持ってんな?」

 

「……うるせえ。」

 

 

いける!

 

轟がそうして1歩踏み出そうとした瞬間、帝の姿がぐにゃりと歪む。

 

(また熱が!?…いや違う、これはッ!!)

 

咄嗟に足下から氷壁を出現させ身を守る、その直後氷の向こうで光が瞬いて大爆発が巻き起こった。まるで爆弾が爆発したかのような衝撃で観客達が悲鳴をあげる。

 

『なななななんだァ!?テロ!?爆弾テロか!?』

 

『落ち着け、龍征の個性だ。』

 

「ああくそっ…タイミング間違えた。

前回みたいに上手く制御できないなあ…」

 

「それ…飯田の時に起こしたヤツか。

熱を圧縮、膨張させて爆発を起こした…こんな事もできんのか、お前。」

 

「ぶっつけ本番だから精度がイマイチだけどね。

そう、名付けるなら…『キラークイーン』!

私のキラークイーンに弱点は無い!」

 

 

 

 

 

 

「キラー…クイーン…」

 

(なんでロックバンド…?)

 

「つーかなんでJOJO?」

 

(ッ!!良き名だ…)

 

「俺の爆発パクってんじゃねえよ!」

 

バァーンと奇妙なポーズをする帝に観客席から色んなご感想が漏れているが、そんなものは轟の耳には届いていない。

帝の個性の隙を見抜いたとはいえ、依然として不利なのは変わらない。炎を吹き出すタイミングをずらされればそれで終わりだ。

 

その時轟はポタリ…ポタリと帝の指先から血が滴っているのに気づく。

 

(指先から血…?

爆発をおこした副作用か?)

 

…と、そこまで考えて、顔を上げた轟の思考が思わず止まった。

 

 

「!?」

 

『なななななな……』

 

 

紅くなった視界がどんどん大きく膨れ上がる

 

「ウソ…」

 

『なんだありゃあああああッッ!?』

 

観客の誰もが言葉を失い、実況の悲鳴じみた叫びが事の異常さを物語る。

帝の口から猛烈な勢いで吐き出される炎が空に溜まり、群がる炎の点は線に、線は塊となって煌々と燃え上がった。

 

やがてスタジアムの上空に、もうひとつの太陽が生まれたのだ。

 

 

 

 

 

 

 

「オイオイオイマジかよ!?あんなの轟死んじまうぞ!」

 

「これが…お姉様の本気…」

 

「喧嘩売らなくて良かったね物間…」

 

「ふ、ふふふなんの事かな。他のA組連中じゃあるまいし彼女は別さ。けけけけっしてビビってなんか無いからねHAHAHAHAHA…」

 

 

 

 

 

「キラークイーンを初見で防いだのは褒めてやるよ。アレ1回出したら熱が霧散して再発動するまでに結構時間掛かるし、もう使えない。」

 

「…弱点あるんじゃねえか。」

 

「やっかましい、1度言ってみたかったの!

さてはお前、JOJO知らねえな?」

 

「漫画は殆ど読まねえんだ、悪いな。」

 

「…うん、さっきより随分マシな顔になったね。良かった良かった。」

 

「お前…」

 

「私は轟が抱えてるものが何なのか知らないし、轟がどんな想いでこの場に立ってるのかは分からない。

…けどね、私は大切な人に『頑張れ』って言われたんだ。だから勝つよ。

轟を超えて、1位になって私は優勝する。

私の勝ちたい理由なんて()()()()()だ。

でもね、()()()()()()()()()()()

あんたはどうなの?過去の復讐より、未来の償いより、今の私と向き合う理由は有る?」

 

「り…ゆう……?俺は…」

 

「迷って手を抜くならそれでもいいよ、私はあんたをズタボロに叩きのめして先に行く。そんで私はヒーローになる。

だって今日はその為の舞台だから!」

 

心臓のように脈動する上空の太陽が一層紅く輝き、リングへ向かってゆっくりと降下し始めた。

 

「さァ、これが()()姿()()()()()最高火力!

着弾すればリングいっぱいに広がる炎と爆風で確実に場外に吹っ飛ばしてあげる、逃げ場は無いよ!」

 

「…………ッ!!」

 

『なな、なんじゃこりゃアアア!?

龍征が上空に放った火球が降ってくるぞォ!あのデカさ!着弾すれば轟は終わりだ!決めにきやがった!』

 

『やり過ぎだあの馬鹿…』

 

驚愕するプレゼントマイクを他所に、相澤は通信機でリング傍に陣取るセメントスに連絡を入れた。審判であるミッドナイトの個性『眠り香』はもしもの仲裁時に効果的だが、強い風に煽られると香が上手く対象へ向かわない。下手に撒き散らせば関係ない者まで眠らせてしまう危険がある為だ。

そんな事はお構い無しに、紅く燃ゆる太陽がリングに向けて落下してくる。まき散らされる熱風と肌を焼くような熱に観客席から悲鳴が上がる中、その真下で轟は呆然と佇んでいた。

 

(理由…なんて…無い…緑谷との戦いで色んなことに気づいて、考えて…分からなくなった。

俺はヒーローになりたい、でも償わなきゃいけない事がまだある…)

 

自身の母の事、これからの事。

先の見えない暗闇の中を歩くような不安感が轟の判断を鈍らせている。

 

(くそ…駄目だ…怖いんだ…!拒絶される事が!

ここまでされときながら俺はまだ…)

 

だらんと手から力が抜けて、呆然と落ちてくる火炎を見つめていたその時

 

 

 

 

 

 

 

負けるな、轟君!

負けないで焦凍!!

 

 

 

 

 

 

 

声が、聞こえたのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

自分でもなんで叫んでいるのか分からない

 

普段生徒を叱る時でもこんな大声出さないのに、気付けば私は声を張り上げていた

 

 

 

君の事何にも知らない僕が言う資格なんて無いのかもしれない

 

こんな事、目を背け続けていた私が言う権利なんて無いのかもしれない

 

 

 

でも、僕と戦って気付いたんだろ?

 

でも、彼と戦って切っ掛けを掴んだのは分かったよ

 

 

 

お節介な奴だと思われたって構わない

 

都合のいい姉だと思われてもいい

 

 

 

君の力になりたいから

 

迷ってる貴方の背中を押したいから

 

 

 

 

轟君に今、負けないで欲しいから

 

焦凍に今、勝って欲しいから

 

 

 

 

だから、言うんだ

 

お願い、届いて

 

 

 

 

 

 

 

「「勝って!轟君(焦凍)ッッッ!!!!」」

 

 

 

 

 

 

目の前の太陽に皆が圧倒される中、2人の心からの叫びがスタジアムに響く。

 

「冬美…」

 

1人の男が静かに呟いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「緑谷…姉さん…」

 

 

ああ、そうだ。

シンプルでとても良い。

 

「……狡いな、二人とも。」

 

ボソリと呟いたその刹那、リングで冷熱が弾けた。

 

「あぁ……そうだ……

俺だって…見てるんだ…

家族が…ライバルがッ見てんだよ……ッ!!」

 

左右から溢れる冷気と熱気、2つが混じり合い、温度差で轟を中心に猛烈な風が吹き荒ぶ。

負けたくない理由が、勝ちたい訳が、彼の中で芽生えた証拠。

 

「勝ちてェ…

今、お前に…勝ちたいよ……龍征ッッ!!」

 

「…あはっ!

そうこなきゃあ面白くないよなァ!!」

 

もう轟の目は死んでいない。

帝が血の滴る右手を振り下ろすと、それにつられて上空の太陽の落下速度が増した。轟はそれを睨み付け、立っている。ただし今度は棒立ちではなく、ちゃんと()()()

 

(炎は駄目だ、あの火力に不安定な俺の炎をぶつけても相殺どころか火に油を注ぐだけ…!

なら…氷で受け止めるしかねえッッ!!)

 

「雄おおオオオオオッッ!!」

 

自身の炎で身体が温められた事により、万全の状態になっている右半身から飛び出た冷気が地を這い、瀬呂戦で見せた巨大氷壁が落下する灼熱の太陽を包み込むように受け止めた。

 

 

 

 

 

『うおおおおおおおおッ!?

轟、氷で火球を受け止めたァ!?

つーか絵面ヤベーよ!まるでこの世の終わりみてーな光景だァ!!』

 

なお、リング外部は熱風と冷気の嵐が吹き荒れており、気圧の激しい変化により猛烈な風が生まれている状態だ。観客席も阿鼻叫喚の様子である。

 

 

 

 

「私と個性の力比べなんて…いい度胸してんじゃん!!」

 

帝が叫ぶと太陽の色が明るいオレンジから濃い紅に変化し、触れた氷がじわじわと蒸発し始めた。

 

 

「うっ…ぐお……ッ!!」

 

確実に轟は押され始めていた。

冷熱を吹き出す身体も次第に勢いが弱まっていき、吹き出す冷気が小さくなっていく。

 

(マズいッ、炎の出力調整が上手く利かねえ…無駄が多い…!まだ使い出して日が浅いからか……いや、考えるのを止めるなッ!!個性は身体能力……筋肉と同じだ!箸の使い方だって、自転車の乗り方だって感覚で覚えてきただろ!なら今から合わせればいいッ!!)

 

 

『どうした轟、ガス欠か!?急に炎を消した!

炎の方は撃つの止めちまったのかァ!?』

 

『いや、違う…』

 

 

1度、大きく息を吸い、吐く。

両足を軸にどっしりとリングに構え、氷を放つ右腕を温めた左手で掴んだ。

 

(…イメージだ。右手と左手でそれぞれ別の文字を書く様に、右は全開、左はブレーキを掛けて、最低限でい。今は…)

 

 

アイツに勝つことだけ考えろッッ!!

 

 

氷は放ちながら、かつ左手からはじんわりと暖かい感覚が身体に広がってくる。

余計な炎は出さず、最低限体温を維持する。

尚且つ常にフルパワーで氷結を放ち続ける為、轟は嘗て無いほど集中していた。

 

「うっ!?この…押し返し始め…ッ!」

 

氷が太陽に当たっては蒸発し、更に当たっては蒸発しを繰り返す。凍結と蒸発は均衡を保っていたかに思えたが、轟から炎が消えた途端氷結の勢いが格段に増した。

 

(左を消したのはガス欠だからじゃない!

無駄を削って…体温を維持する為だけに炎を使ってる!?)

 

「小癪な真似を……ぁぎッ!?」

 

指先に鋭い痛みが走り、幾つも付いた切れ目から血が溢れ出す。帝の個性のデメリットは炎を操作する度に掌から湿気が奪われる事。

今までハンドクリームで誤魔化してきたが、轟戦では初めから殆ど100%に近い火力を出し続けていた為、乾燥と熱で手のひらがひび割れ始め、そこから血が滲み出す。それは指先からどんどん広がって、帝を蝕んでいく。ここに来て帝にも限界が訪れ始めていた。

 

「やば…けっこー血ぃ出てるか…

けど…負けない!」

 

もはや技術もへったくれもない、ここからは純粋な力の勝負だ。氷と炎、どちらが上か。

 

帝の決意と共に紅の太陽が更に黒く輝きを増していく、嘗て脳無の腕を焼き切った黒混じりの血のような紅。

地獄の業火とも見まごう程の火球を阻むのは大地から伸びる氷の巨木、蒸発と氷結を繰り返しお互いにぶつかり合う2人の意地がスタジアムを揺らす。

 

「あああああああああああッ!!」

 

「うおおおおおおおおおおッッ!!」

 

『両者1歩も譲らぬ炎と氷の大激突ッッ!

準決勝なのにこの絶戦、この後まだ2試合残ってんだぞオメーらよォ!』

 

 

「帝、手から血が…!」

 

「帝さんッ!!」

 

「……轟君ッ!」

 

「焦凍…!」

 

炎と氷がせめぎ合い、激突で生まれた水蒸気でそろそろ雲が出来そうになるかと思われたその頃、激闘は唐突に終わりを告げた。

 

 

 

「…………ぁッ」

 

 

かくんっと、不意に轟の膝から力が抜けた。

理由は簡単、慣れない個性の全力使用及び精密操作で身体と心が限界に達してしまったのだ。

スイッチの切れたロボットのように膝から崩れ落ちた轟はそのままうつ伏せに倒れ、有無を言わさず気絶してしまった。

 

『…不味いッ!!』

 

柄にもなく焦る相澤、それもそのはず。

轟と帝の個性は拮抗していた、互いが互いを打ち消し合っていたからこそ今まで被害が少なかった訳で、その均衡が崩されればどうなるか?

 

『ヤベッ!!轟倒れてるぞ!?』

 

「駄目…焦凍!!」

 

「炎が!着弾しちまう!」

 

轟の異変に気付いた切島が叫ぶも時すでに遅し、追加で生成されなくなった氷の壁など瞬く間に蒸発させた火球がリングに向かって降り注ぐ。

 

(…!?急に抵抗が…やばッ轟!)

 

1度出した炎は着弾するまで消える事はない、溶けた氷塊の隙間から気絶した轟が覗いた途端、驚愕する帝の背筋を冷たい物が走った。

 

(殺すのはダメ!殺すのだけは…ッ!!)

 

「…ッ行って、お願い!!」

 

ここまで降下させた火球を再び上昇させるのは不可能だ、だから全力で落下速度を殺す事に専念し、間に奴らを挟み込む事にした。

 

 

 

 

解説席から突如として4つの影が飛び立った。

生まれて初めて聞いた主人の『お願い』を受けて、音速に届きうる速度で飛び出したそれは、炎と轟の間に滑り込む。

 

 

その直後、リングと火球が接触し、紅と黒を纏った炎の柱がスタジアムの真ん中に立ち上る。次いで爆風と熱波がリングを中心に会場内を暴れ周り、観客を大いに騒がせた。

爆発の直前、セメントスが観客席の周りに防御壁を作っていなかったらと思うとゾッとする。

 

 

『着弾ンンンンンッッ!!オイ被害はどうなってやがる!轟!大丈夫かァ!?』

 

 

熱風も収まり、視界が明るくなる。

 

火球の着弾で焼け焦げ、所々融解しているリング内には、血の垂れる右手を抑えながら立つ帝と、黒いカーペットに覆われる轟の姿があった。

…いや、カーペットというか翼竜なのだが。

 

 

『ふ…2人は無事だァ!

アレ…?もしかして龍征の翼竜…?いつの間に?つか轟…もしかして無傷なんじゃね?』

 

『…そうか、龍征の奴が翼竜に指示を飛ばして庇わせたのか。アレだけの爆炎の中を無傷で耐えるとは…』

 

無事を確認した翼竜達が轟から離れ、帝の傍へと飛んでいく。

轟は気を失ってはいるものの、過度の疲労により疲れて眠っているだけのようだ。

 

『轟君、気絶。龍征さんの…勝利ッ!!』

 

服が焦げてあられもない姿になったミッドナイトが叫び、次第に大きくなる歓声がスタジアムな響き渡る。

そんな中、帝は周りで心配する様にクルルと鳴く翼竜達をよそに、複雑な表情で轟と自身のズタズタになった手を交互に見つめていた。

 

 

 

 

龍征帝、決勝戦進出









只今決勝戦執筆中

戦闘書くの疲れた



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19 決勝戦、その前に



最近ワザップジョルノ見てゲラゲラ笑ってる(今更)






体育祭本戦準決勝、帝と轟の大激突にスタジアムは騒然となり、その余波で破壊された会場が今、セメントス先生の手によって修復されている。

 

2人はあの後直接リカバリーガールの所へ向かったらしい。轟は気絶、帝は個性の反動で右手がズタズタになったからだ。

 

 

「炎と氷、相反する2つのチカラが衝突し合い生まれた光景…か。ここまで2人の実力を見せつけられるとはな。」

 

重苦しい雰囲気でそう言う常闇の言葉に皆も黙って頷く。

帝の落とした火球で所々ドロドロに溶けたリングや焼け焦げて真っ黒になった芝生、まるで戦争でも起きた後かのような破壊痕が2人の戦闘の激しさを物語っている。

先生達が急ピッチで修復しているから、私達はそれが終わるまで小休憩と相澤先生からお達しがあった。なのでウチ達は帝が持ってきてくれた屋台ご飯をつまみながらこうしてさっきの激闘の感想を皆で述べ合っていた。

 

「炎と熱の操作…個性の幅を広げるってああいう事なんだな。

俺の電気もどーにか応用利かせらんねえかなあ。」

 

ウェイ状態だった上鳴は漸く立ち直り、柄にも無く真面目に喋ってる。それにヤオモモも頷きながら今回の戦闘について語り始めた。

…片手にイカ焼きの入ったパックを持ちながら。

 

「まさに圧巻の一言でしたわ。帝さんの熟練された炎と熱の操作、それに匹敵する轟さんの氷炎…正直、同じ推薦組なのに彼とここまで差を付けられてしまうとは思いませんでした。」

 

「2人は確実に俺達の中でも頭一つ抜きん出ていると今回の戦闘で確信した。悔しいが…こればかりは認めざるを得ない。」

 

「うん…二人とも凄かった。『勝ちたい』って気持ちがこれでもかって伝わってきたよ。」

 

「…チィッ!!」

 

「あ、おいっ!」

 

派手な舌打ちが聞こえて、切島が止めるのもお構い無しにドスドスと爆豪は去っていく。

 

「帝ちゃん手ぇ大丈夫かなぁ…戻ってく時チラッと見えたけど、酷い事になってたし…」

 

「うん…ちょっと様子見に行かない?」

 

「良いね耳郎ちゃん!行こ行こ!」

 

「全員で行くと迷惑だろう、二人ともあの激戦を終えた後だ。」

 

障子の言うことはご尤もなので、選抜してウチと透、ヤオモモ、三奈の4人で帝の所へ向かう事にした。他の連中はもうすぐ始まるB組の子VS爆豪の戦いを見るらしい。

取り敢えずヤオモモ、手に持ってるイカ焼き早く食べちゃいな。

 

 

 

 

 

 

 

…………

 

 

 

 

「えーっと、確かリカバリーガールの出張保健室はこっちで合ってたハズ…」

 

「あ、あれじゃない?」

 

「ご丁寧に看板まで作ってありますのね…」

 

三奈の指さした先にはやたらコミカルな文字ででかでかと書かれた看板が。どうやら此処で合ってるらしい。

扉をノックしようとしたその時…

 

 

『ぎゃあああああああああッ!!』

 

 

「なっ!?悲鳴!?」

 

「しかも今の声は…」

 

「帝さんですわ!」

 

たしかに今帝の悲鳴が聞こえた!

いつも飄々として大声なんて滅多に出さないアイツがこんな悲鳴上げるなんて…手の傷は思ったより酷い事になっているのかも知れない!

 

ノックするのも忘れて慌てて扉を開ける。

 

「どうしたの帝ッ!!…って、何コレ。」

 

 

 

 

 

「ひいいいい痛い痛い痛い〜…」

 

「我慢しな!こんなに深い傷、個性で治しても跡が残っちまうよ!」

 

「だからってそんな強く消毒液押し付け無くてててててててててッ!?しみるしみほぉぉぉぉぉぉ…ッ!!」

 

なんか凄い表情で悶える帝と、手の傷にグリグリと消毒液の染み込んだガーゼを押し付けるリカバリーガール。そして変な声を上げる帝を不思議そうに見つめる轟…

 

カオスだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「全く!派手にやっちまったね、アンタは女の手をなんだと思っているんだい!

掌の水分か殆ど無くなって、あのまま個性を使い続ければ手がミイラみたいになる所だよ?」

 

「ええ…怖っ。」

 

「「「「なんで他人事!?」」」」

 

出張保健室に入って数分、落ち着いた私達は帝と轟の容態をリカバリーガールから伝えられて一安心。

重症に見えた帝の手も、本人の体力が幸いしてリカバリーガールの個性で十分治癒が可能らしい。

轟もここに運ばれた後直ぐ起きて、今は意識もハッキリしてる。

 

「いやあ危なかったね、ちょっと調子に乗り過ぎちゃった☆」

 

「あのねぇ…」

 

さっきまでの大激闘が嘘のようにヘラヘラ笑う帝。殴りたいこの笑顔…じゃなくて!

ホント無事で良かったよ…

 

「いつも通りの帝さんで安心しましたわ…

改めて決勝進出、おめでとうございます。」

 

「ありがと百。

あー、それなんだけどさ。私失格になるかも。」

 

「「「「…はあ?」」」」

 

し、失格って…なんで!?

 

「ホラ最後の爆発でさあ、翼竜で轟を守らせたじゃん。アレ一応ルール違反だし…」

 

ああそうだった。あの戦いの最後、帝の放った火球から轟を守ったのはガナッシュ達だ。相澤先生から使用禁止を伝えられていたのにあの時咄嗟に使ったから、ルールに抵触してしまうってことか。

 

「すまねえ龍征、俺を庇ったから…」

 

「さっきから謝ってばっかかよ轟、私がやりたくてやったんだから気にすんなって。

火傷跡がこれ以上増えなくて良かったじゃんか。」

 

「……そう、なのか?」

 

「そーそー、そういう事にしとけモンスターボールくん。」

 

「モンスターボール…」

 

轟はなんでちょっと嬉しそうなの?確実に馬鹿にされてるよね?

 

てゆーか轟ってこんな奴だったっけ?もっとこう…優等生オーラバリバリで近寄り難い雰囲気だった気がするんだけど。態度がかなり柔らかくなったっていうかなんというか…

そのまま仲良くお喋りしていると、「そんなに元気が有るなら早く観戦席に戻りな!」とリカバリーガールから追い出されてしまった。轟はもう少し安静にしてなきゃ行けないらしい。

 

「じゃねー轟、しっかり休みな。」

 

「ああ。

…さっきの話、考えといてくれ。」

 

「はいはーい。」

 

去り際、帝と轟がそんなやり取りをしていた。

ちょっ、何あの天然王子様スマイル。轟ってあんな奴だったっけ…2人の間に一体何が!?

 

 

 

 

 

 

「あ…ウチちょっとお手洗い行くから先に言ってて。」

 

「じゃー先に行ってるねー。」

 

「漏らすなよー。」

 

「漏らすかッ!」

 

さっきの試合、帝の撒き散らす炎でスタジアムが暑すぎて思わずいっぱいスポドリ飲んじゃった弊害が…

突然の尿意に私は足早にお手洗いの方へ方向転換した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

耳郎達がやってくる少し前

 

 

 

「………」

 

「………」

 

き、気まずい…

リカバリーガールことリカ婆は包帯の替えが無いと言って保健室まで取りに行ったばかり、私と轟は隣合うベッドに寝かされていた。

先に気絶した轟の方から処置が行われ、なんとか意識も戻り一安心。と思ったら目が覚めた途端私の方をじっと見ててなんか怖いんですけど!?

 

「……………」

 

「…なんだよ轟、焼き饅頭にされかけたの根に持ってる?」

 

「…違う。」

 

短い返事。ちょっとだけ考え込むように下を向いたり顔を戻したり、今までとは明らかに態度が違う。前まではもっとこう…雰囲気がピリピリしてた。でも今はそんな気配も無くて、オロオロしてると言うか…言葉に困ってるというか…

 

「その…悪かった。

戦闘訓練の時からずっと、龍征の炎を見るとクソ親父を思い出してイライラして、自分でも気付かない内にきつく当たってたかも知れない。」

 

「なんだ急に素直になったな。

変な因縁付けられるのには慣れてるからへーきへーき。」

 

「……そう…か。」

 

そんな事さして気にもならないよ。難癖付けられて睨まれるなんて、中学時代じゃ割と日常茶飯事だったし?寧ろ雄英は平和過ぎて退屈…おっと違う違う、これがフツーの学校生活なのよね。

 

やだ…私の学校生活の基準、ブレ過ぎ…?

 

「それでさ、轟はどうなの?」

 

「…どんなヒーローになりたいのかは分からねえ。

でも俺は、お前と戦って、()()()()()()()()()()()()()()()()。今はそれだけで充分だ。

姉さんや緑谷が背中を押してくれたんだ。

……望まれなくたって救い出す。」

 

「そか、良かったね。

きっとお母さんも笑ってくれるよ。」

 

「……!」

 

「わり、昼休みに緑谷と話してたの聞いちゃった。」

 

「そうか…親父にばかり囚われて気付かねえ内に俺は…皆に…助けられてたんだな…」

 

「お節介もヒーローの仕事でしょ?」

 

「ッ…ありがとう。」

 

自分の左手を握り締め、涙声でそう呟く轟は憑き物が取れたみたいに轟は静かに笑ってる。よかったよかった。

 

 

「なあ、龍征。頼みがある。」

 

「ん〜?」

 

「体育祭が終わって落ち着いたら、炎の制御を教えてくれねえか。」

 

「別にいいけど、私とあんたじゃ勝手が違うから、あんまりアテにしないでよ?」

 

「それでいい、アイツに教わるよりよっぽどな。」

 

「素直じゃないなあ…まあいいか。」

 

 

 

 

もう轟は苦しそうな顔してないし、これでいい。

 

轟を殺し掛けたとき、殺してしまうかもしれないって()()()()

咄嗟に駄目って判断出来た。大丈夫。

 

…私はまだ大丈夫。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あら、貴女は…」

 

「ど…どうも…」

 

お手洗いを済ませトイレから出てきた時、丁度目が合ってしまったのは昼休みに百と話していた帝の家族の人だった。

あいつは確か「先輩」って言ってたから、私より年上なんだっけ?

 

「八百万のお嬢様と一緒にいた帝のお友達よね?お名前は…」

 

「耳郎…耳郎響香です。」

 

「印照才子よ、宜しくね。」

 

モノクルを掛けた綺麗なお姉さん、印照才子さんは私の1つ上でお嬢様学校で有名な聖愛学園に通っているらしい。

 

「少しお時間宜しくて?」

 

「あ、はい。大丈夫です。」

 

「ふふ…そんな畏まらなくていいのよ。

お嬢様学校でもオフの時くらい普通に喋りたいわ。

向こうに休憩スペースがあるから其方で、どう?」

 

誘われるまま、ウチと印照先輩は休憩スペースへと向かう。

 

 

そう広くないスペースに自販機2台と長椅子があるだけの簡素なエリアで、ウチと印照先輩は隣り合わせに腰掛けた。

 

「折角だし飲み物でも買いましょう。カフェオレで良いかしら?」

 

「ありがとうございます。」

 

印照先輩からペットボトルのカフェオレを受け取り口に含む。先輩も後から買ったお茶をごくごくとお上品に飲み始めた。

…気まずい沈黙、こういう時何話せば良いんだろう。というか向こうから話がしたいって言ってた割には殆ど喋ってない。どうしてウチを誘ったのか、これが分からない。

 

「帝とはいつお友達に?」

 

「えっと…最初に会ったのは入試の時です。

彼女とは入学初日に仲良くなって、戦闘訓練でも同じペアを組んで戦いました。」

 

「そう…帝が何か失礼な事していない?

あの子ったらズボラで、特に羞恥心とかその辺りが一般とは少しズレているから…」

 

「あ〜…初対面は裸でしたね。」

 

「やっぱり。あれ程下着は伸縮性に優れた物を使いなさいと言っておいたのに…」

 

それあんまり意味無いんじゃないかなあ…

その後も聞かれたのは取り留めのない質問ばかりだった。

最近の様子とか、迷惑掛けてないかとか、帝の日常に関する事はなんでも。2人で密かにやってる動画配信の事は流石に恥ずかしくて話せなかったけど…

一通り話し終えると、印照先輩は楽しそうに微笑んで、またぐいっとお茶を喉に流し込む。

 

「良かった、楽しそうにやってるみたいね。

……あの子は本当によく笑う様になったわ。

昔は表情筋が死んでるんじゃないかってくらいピクリとも笑わなかったし、感情を表に出さなくて…まるでお人形みたいだったのよ。」

 

あの帝が?嘘でしょ?

面倒臭がりでいつもヘラヘラしてる癖にやらなきゃいけない事はちゃっかり終わらせてて、たまによく分からない専門用語喋りながら遊ぶ事に全力を出すアイツが?

 

「信じてない?

まあ、外からの刺激が1番効果的だったという事かしら。私達が少し過保護になり過ぎていたわ。」

 

「過保護…ですか?」

 

「…帝はね、孤児なの。

幼い頃私の家が経営する孤児院に送られて、それを見つけた私が引き取った。」

 

「え…」

 

帝が…孤児…?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

BOMB!!

 

BOMB!!

 

BOMB!!

 

 

『爆破!爆破!大爆破祭り!

だがしかぁし!それを以て余りある程荒れ狂う蔦の乱舞!

始まって早々猛攻を掛ける塩崎に爆豪タジタジかァー!?』

 

観客席に戻ったと思ったらプレゼントマイク先生の喧しい実況が耳に突き刺さった。

準決勝2回戦はもう始まっちゃってたか、どうやら茨ちゃんが優勢らしい。

 

リング全体に張り巡らせ、地面から縦に伸びる蔓と横から爆豪に向けて伸びる蔓。それぞれが絡み合い、まるであやとりみたいに全方位からどんどん爆豪を追い詰めていく。

 

「クソがァ!」

 

BOMB!!

 

腕に巻きついた三本の蔓を纏めて爆破で焼き払い、茨ちゃんへの接近を試みる爆豪だけど、三奈戦同様に既に蔓の包囲網は完成している様子。狭いリングの中、ジリジリと場外へ相手を押し出す消耗戦。場外有りの一対一デスマッチだからこそ活きる戦法ね。

 

「無駄です…!」

 

焼き切れた蔓の横からまた別の蔓が這い出て来て、爆豪を捕らえようと襲いかかる。

対する爆豪ができる抵抗は常に死角が出来ないように立ち回って、持ち前の反射神経をフル稼働させて逃げ続ける、現状それくらいだ。エリアの優位は完全に茨ちゃんにある。

 

「爆破で速度を維持しながら方向転換…うわ、あんな速度で直角に曲がるのか。よく気ぃ失わないな爆豪。」

 

「戦法は私がやったのと同じっぽいけど、速さがダンチだよ。う〜…狡いな爆破ターボ!」

 

「地の利は完全に塩崎さんにある、けど…」

 

「緑谷、爆豪の最大火力ってどれくらい?」

 

「ぅえッ!?龍征さん!?ええと…確証は無いけど、麗日さん戦で見せたのが今まで見た中で1番大きかったよ。」

 

お茶子の隕石群を吹き飛ばしたアレか…あの時は真上に向けて撃ったから分かんないけど、リングを纏めて吹き飛ばす位の威力あるんだろうなぁ。要注意ね。

 

「緑谷ってさあ、確かヒーローの特徴纏めたノート書いてたよね。観戦しながらちょくちょく書いてるの見たし。」

 

「うん、そうだけど…」

 

「爆豪のある?あったら見せて、参考にするから。」

 

「ででででも所詮僕なんかが書いた情報を人様に見せるのはちょっと気が引けるっていうかなんて言うかその…」

 

ああもう面倒臭い、早く貸してよ。

キョドる緑谷の胸ぐらをぐいっと引き寄せて殆どゼロ距離で詰め寄った。鼻先が触れ合う寸前まで近寄って優しく緑谷にお願いするのだ。

 

「もっと自信持ちなよ緑谷。あんたがその危ない個性を使いこなす為に人一倍努力してるのは知ってるし、分析力があるのも前にお茶子から聞いたよ。

だから頼りにしてる、使える物は全部使いたいから。貸して?」

 

「……はひゃい。」

 

やっと観念したのか、なんか赤くなって目がぐるぐるしてる緑谷は足下の鞄から古ぼけたノートを取り出して渡してきた。随分使い古されてる、中も相当書き込んであるし、やっぱり緑谷の分析力凄いじゃん。もっと胸張って堂々とすればいいのに。

 

「……スゲー迫力だったぞ今の。」

 

「やっぱ胸ぐら掴むの堂に入ってるわ。」

 

「つーかぶっちゃけ傍から見たら只のカツアg「それ以上は駄目よ上鳴ちゃん」もがっ!?梅雨ちゃん!舌がッ!ぐるじいッ!!」

 

おうなんだその目はキサマら、ちょっとお願いしたじゃんかあ…どうして私が緑谷からノートカツアゲしたみたいな雰囲気になってんの。もう知らない!

 

気を取り直して爆豪のページを探す…あった。

 

爆豪の個性は手のひらから出る汗が起爆剤になって爆発を起こす。発汗量によって汗の量も変わるから、運動して代謝が良くなればなるほど汗も増えて威力も上がるスロースターターか。

今はコスチュームとか着てないからサポートギミックとかはどうでも良いとして、汗を掻いて強くなるなら私の熱と炎じゃアイツの勢いに拍車を掛けちゃうな。対策考えないと…

パラパラとページを捲ると、なんと私の分析も記載されてる。ちょっと気になる、読んじゃお(好奇心)。

 

 

 

ペラ…

 

ペラ…

 

ペラ…

 

 

 

「……ん、ありがと緑谷。かなーり参考になった。」

 

「そ、それはよか「でもぉ…」ほわっ!?

龍征さんまた!近い近い近い!」

 

「もっと自信持ちな。個性もだけど、緑谷には良いところいっぱいあるんだから。お茶子や私が証人だし。しゃんと胸張って堂々とする!ホラ!」

 

「オヴッ!?背中痛ぁ!!」

 

「デク君の背中がぁ!?」

 

ちょっと強く叩きすぎたかな?背中を抑えながらゲッホゲホむせる緑谷にノートを返して百の隣へ戻った。

 

自信持ちな緑谷、少なくとも私のページに書いてあった予想と考察は大体正しいからさ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「邪魔なんだよクソ蔓がァ!」

 

BOMB!! BOMB!! BOMB!!

 

障害物となる蔓を爆破で焼き尽くし、リング内を駆け回る爆豪。そんな彼を冷めた目で見ながら、茨の蔓を操作し塩崎は確実に追い詰めていく。

 

「本当に乱暴な方…何故そこまで敵を作りたがるのか、私には理解が及びません。」

 

「ああ?何か言ったかよB組のクソモブ。

聞こえねえ…なッ!!」

 

BOMB!!

 

鬱陶しそうにまとわりついてくる蔓を爆破で再びなぎ払い、今度は反対側へ飛ぶ爆豪。だがしかし、そこにも既に張り巡らされた蔓が待ち構えている。

 

「うおっ!?」

 

「…掛かりましたね。」

 

爆豪が爆破で加速する一瞬前、足が地面と接触した途端に伸びた蔓があっという間に両手首両足首を絡め取り、磔された爆豪。会場からどよめきが上がり、実況が叫ぶ。

 

『ついに捕まったァ〜ッ!爆豪万事休す!』

 

「これで詰み、降参なさい。」

 

リングの中心で手足を拘束され、為す術なく宙吊りにされる爆豪は絶体絶命。だというのに、不敵にも彼の口元はつり上がっていた。

 

「何が可笑しいのです。」

 

「ンでもねェ、もう蔓の速度は分かった。」

 

「は…?何を言って『BOMB!!』きゃっ!?」

 

塩崎が言葉を紡ぐ暇もなく爆豪の両手が光ったその刹那、捕らえていた両手の蔓が爆散した。爆豪は落下中に残る左脚に絡み付く蔓爆破で引き千切る。そしてあろう事か、そのまま両手を真横に向けて爆発を起こし加速した。

 

『何ぃ!?』

 

たまらず実況が叫ぶ。

右脚に地面から伸びた蔓が絡み付いたままの爆豪は真横に加速した勢いでリングの外周をまるで弧を描く様に回転しながら塩崎の背後まで回り込み、反対側に爆破を掛ける事で減速、その過程で残る右脚の蔓を切除した。

予想外の動きに慌てて振り向いた塩崎が蔓を向かわせるも、それより早く近付いた爆豪が塩崎の目前まで迫り右手に溜めた黄色い炎を解き放つ。

 

閃光手榴弾(スタングレネード)…ッ!!」

 

威力ではなく演出に特化した爆破。

眩い光が塩崎の目の前で炸裂し、視界がゼロになった塩崎を即座に後ろ手に組み伏せて、完全にマウントを取った。

 

「テメーの個性は速いし強い、だが速度出す為には集中して俺の方を見てなきゃいけねえんだろ?バレてんだよクソが。

だから予想外の動きには対応が遅れンだ、こんなふうにな。

そら、詰みだ。降参しな。」

 

「くっ…」

 

塩崎の個性は捕縛する対象を視界に捉えていなければいけない事、さもなくば茨の蔓は満足な速度を出せないらしい。

 

塩崎がもがこうと試みるが、うつ伏せに後ろ手に拘束され、自力で抜けるのは不可能。更に残る爆豪の左手には赤い炎が灯っている、威嚇のつもりなのだろう。

 

だが

 

「……まだ…です…」

 

「あ?」

 

「まだっ…!!」

 

突如として、組み伏せられたはずの塩崎の身体が後ろに引き摺られた。

勢いに流され手を解かれた爆豪は慌てて引き摺られて行った先を睨む。

 

「地面に伸ばした蔓で自分の脚を引っ張りやがった!往生際の悪ィ事を…」

 

「負けない…私は勝って……御姉様と…っ!」

 

リング内に張り巡らせた蔓を1箇所に収束させる。塩崎の目の前の地面がモコリと盛り上がり、大量に組み合わされた蔓の束が塊となって猛スピードで爆豪に迫る。

それを爆豪は…

 

「うっっっっおらぁアアアアア''ッ!!」

 

BOMB!!

 

右手に溜めていた特大の爆発、麗日戦で見せたものと同規模の大爆発によって木っ端微塵に打ち砕いた。

 

「そ、そん…な…」

 

「相性がよォ、悪ィわ。

テメーの蔓はよく燃えるぜ、何本束になろうが俺にゃ届かねえよ()()()()。」

 

「ああ…ごめんなさい……御姉様…」

 

恐らく今のが塩崎の最後の攻撃だったのだろう、気力体力共に限界に達した彼女はそのままへたりこみ気絶してしまった。

ミッドナイトが駆け寄り、高らかに告げる。

 

『塩崎さん気絶!爆豪君の勝利!』

 

スタジアムが怒号の様な歓声に包まれる中、リングの爆豪は先程の大爆破で左手が痛むのも気にせず観客席のただ一点を睨み付けていた。

 

(さァ決勝だ、全力でテメーを叩き潰す…!そんでもって俺が一位だッ!!)

 

 

爆豪と塩崎の戦闘後程なくして、解説の相澤から補足が入る。

 

『教員及びヒーロー公安委員会で協議した結果、龍征帝の決勝進出を認める。

もともと翼竜禁止は俺とアイツとの口約束だったしな。

よって決勝は龍征、爆豪の一騎打ちとなる。以上。』

 

『つぅーワケで、良かったなァメディア連中!最後の撮れ高が残ってるぜェ!

決戦はセメントスがリングを修復する15分後にスタートだァ!それまで小休憩宜しくゥ!』

 

『やれやれ、今年は忙しいですね…』

 

 

 

 

決勝戦のカードが、決定した。









おわじ

爆豪戦は2話編成で制作中よー


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20 龍帝凱旋


ストーリー改変、オリジナル解釈あるから注意






気に入らねえ

 

1番最初は入試の直後だった。

実技試験が終わり、各々が帰り支度をしていた時の事。

 

『おい聞いたか、Hブロックの試験会場。』

 

『餓鬼道の生徒が受験してたんだろ?コエーよな、同じ会場じゃなくて良かったよ。』

 

『なんでも開始早々空飛ぶドラゴンで他の受験者巻き込みながら仮想ヴィランを吹っ飛ばしてたらしいぞ。』

 

『喧嘩は負け無し、3つ年上の学年ですら舎弟に押さえ付けているらしい…』

 

『前にヤクザらしき連中とつるんでる所を見た奴もいるってよ。』

 

『ヤクザ…?なんだっけそれ。』

 

『ヴィランの生まれる前からあった悪人の組織だよ、殆どオールマイトやヒーロー達に徹底的に潰されて、今じゃ天然記念物だ。』

 

『数多の不良達の頂点、餓鬼道の女帝だっけか。そんなおっかない異名が隣町まで広がってんだ、なんで雄英なんて受けてんだよ…こえーこえー。』

 

耳障りなモブ共の話し声が聞こえる中、気になったのは『餓鬼道の女帝』っつーワードだ。

 

餓鬼道中学校の事は昔から知ってる。全国でも有数の不良の溜まり場、この近辺に勤めるセンコーはよく『悪い事する奴は餓鬼道へ転入させるぞ』なんて冗談半分で叱り付けたりするほど有名な中学校。

毎年毎年、不良達の暴行騒ぎが後を絶たなかったが、俺が中学校に上がったタイミングで急に暴行事件は鳴りを潜めた。

過去に1度だけ、気になった俺はセンコーに興味本位で聞いてみた事がある。俺が職員室に来るなんて滅多な事は無ェから、目をパチクリさせながらソイツはこう答えたんだ。

 

『餓鬼道の不良達を纏める生徒会長が現れたんだ。その子のおかげで暴行騒ぎもなくなって、一安心だよ。』

 

と。

 

不良っつっても個性持て余した連中だ。中には危険な個性持ちだって居るかもしれねえ、そいつらを纏め上げ、力で押さえ付ける生徒会長…

俺だってそんな木っ端モブ共なんぞ余裕で全員ぶっ殺せる確信があるが、聞けばそいつは女だとよ。

 

不良達を力で押さえ付け、餓鬼道の頂点に君臨するソイツはいつしか『女帝』と呼ばれるようになったらしい。

 

 

 

気に入らねえ

 

 

 

それから時は過ぎ、雄英に入学して数日、クラスの女共が話しているのが聞こえたんだ。

 

龍征帝が餓鬼道出身で、しかも生徒会長だったと。

 

点が線で結ばれた。この女が、龍征帝が、不良達を締め上げた餓鬼道の女帝なんだ。

普段はダラッダラしてて毛ほどにも見せねえが、戦闘訓練の時やUSJの時、アイツの隠してる実力が見て取れる。場慣れした態度や無駄の無ェ動き、少なくとも真っ当に生きてきたんじゃ得られねえ『経験』をアイツは積んでやがる。

そいつを使ってUSJじゃ俺をたすっ…助けられてなんか無ェよクソがッ!!(BOMB!!)

 

 

極めつけは開会式前の控え室だ!

アイツの出す異様な雰囲気に呑まれた。

あの女の言葉に僅かながらもビビっちまったんだ!この俺が!たかが女1人如きに!

 

気に入らねえ…気に入らねえんだよ…ッ!!

 

俺が1番強ェ、俺が最強だ。雄英に入学して、こっから成り上がるって誓ったんだ!

勝ってやるさ、本気の龍征帝を叩きのめして俺の方が上だって証明する…!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『レディース・エェンド・ジェントルメェン!

決勝の舞台は整った!

皆ちゃんと水分補給したかァ?購買か露店でアクエリ買い込んどかないと、ここから先は熱くて熱くて燃えちゃうぜェーッ!!』

 

『テンション上がりすぎだろ…』

 

『先ずはコイツだ!

底は一体何処にある!?紅蓮の女番長!A組、龍征帝ォ!』

 

「また妙ちくりんな渾名が…」

 

『そんでもってェ…

対するは!凄まじいヒールっぷり!

我が道を征くボンバー野郎!A組、爆豪勝己ィ!』

 

「……」

 

 

リングに向かい合う私と爆豪。

獰猛な目付き…私的にはちょっと懐かしい感じがする。

自分が一番だと信じて疑わない、唯我独尊を征く奴がする表情。餓鬼道に居たのは周りから認められず拗れた連中が大半を占めてたけど、爆豪は少し違うな。

 

認められ過ぎて、自分を否定する人間が周りに誰も居なかったんだろう。本人の実力も相まって、周りに担ぎ上げられながら生きてきた人種だ。嗜める人が居ない故に膨れ上がった自尊心が高過ぎる上昇志向の原因…かな。

それがあの緑谷と幼馴染とか…もしかして緑谷があそこまで卑屈な原因って爆豪のせいなんじゃね?なんて考えたけど、試合と関係ないから今は置いておこう。

 

「目ぇえらい事になってるよ爆豪、血管切れるぞ?」

 

「……っせぇ!

おいクソ金髪。テメー、翼竜使え。」

 

「はい?」

 

「本気のテメーに勝たなきゃ意味無ェんだ。良いからさっさと呼べよ…!」

 

「なんて言ってるけど、どうなんですかミッドナイト先生。」

 

「青い…!青春ねッ!!」

 

答えになっとらんよ?

悶え終わった主審が相澤先生に問い合せたところ、無事に許可は降りたらしい。決勝だし、最後くらい翼竜達を使ってもいいんじゃない?

 

『龍征、翼竜使えるようになったからってサボるんじゃねえぞ。』

 

「はいはーい。」

 

実況席に向かってひらひらと手を振っておいて、翼竜達を呼び寄せる。

 

飛び出した4つの影が私の隣に舞い降りて翼を羽ばたかせながら浮いている。ガナッシュ、ガトー、ブラウニー、ザッハトルテの4匹は今まで燻ってたぶんやる気満々らしい。

相澤先生に餌付けされやがって…

 

翼竜達の突然の登場に、会場からはどよめきが上がってた。

 

「すげえ、何だアレ?」

 

「見た事ない生き物だわ。」

 

『龍征帝の個性で従える翼竜達だ。

決勝トーナメントは一対一というルール、本来なら今まで通り1人で戦ってもらう筈だったんだが、対戦相手きっての希望で4匹の参加を認める。』

 

『…つーわけよォ!エンターテインメントしてんな運営!』

 

 

「爆豪、これで満足した?」

 

「ハナっから使えクソ金髪。」

 

「お前ほんと可愛げないよね…」

 

既に両手からボンボン火花を散らして威嚇を繰り返す爆豪、こうなったらもう止まらない。

 

 

『それでは決勝戦!

レディー…スタァートッ!!』

 

 

 

今最後のゴングが鳴った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

帝の口の端から焔が漏れた。

翼竜達は大きく翼を翻し、四方から一斉に爆豪を襲う。

決勝トーナメントは一対一のガチバトル。リングがあり、ルールがあるならそれに則った勝ち方があるというもの。帝の目論見としては、『四方八方から絶えず翼竜に襲わせて、外に放り出せばいい』程度に考えていた。

 

「先ずは小手調べ…」

 

地面を這わせるように火炎放射、同時に翼竜達が一斉に爆豪を強襲する。

爆豪は波打つ炎を右手の爆破で打ち払い、更に爆風で上に飛んだ。

 

「ッ!!空飛ぶ翼竜相手に空中戦とか、どんだけ自信過剰よ!」

 

「っせェ!ぶっ殺ォスッ!!」

 

両手で角度と威力を調節しながら追撃をかける翼竜を器用に躱し、帝の前まで接近。そのまま着地し襟を掴もうと手を伸ばすが…

 

「チィッ!…がぁっ!?」

 

それより先に帝の右手が迫り、逆に引き寄せられた爆豪はヘッドバットを食らって吹っ飛んだ。

 

『爆豪吹っ飛ばされたァ〜ッ!

つかなんだ今の高速戦闘!?開始早々ぶっ飛んだ爆豪がカウンター食らったのか!?』

 

『速攻を読まれたか、爆豪。』

 

「ぐっ…ソがッ!!」

 

頭に激痛を受けてふらつきながらも顔を上げた爆豪に波打つ炎が迫り、咄嗟に爆風で横に飛ぶ。

 

「行け。」

 

横に逃れた爆豪に追い討ちを掛けるように低空を飛行する翼竜の1匹、ガトーが爪で爆豪の肩を掴んだ。

 

「だぁ!?離せクソ!」

 

「翼竜を解禁させたんだからこうなる事くらい予想できるっしょ。ばいばーい。」

 

ひらひら手を振る帝。

ガトーがいっそう大きく羽ばたき、爆豪を持ち上げる。そのまま場外へ放り出すつもりだ。

 

『爆豪、翼竜に掴まれたァ!このまま終わっちまうぞ!?

つーか今まで禁止されてた理由分かった!空飛ぶファンネル4つも持ってるとか反則級だコレ!』

 

「なんなんだあの個性は…」

 

「意思疎通が可能なドラゴン、上手く調教すれば遭難者の発見とかに役立てるか…?」

 

「本人の実力に加えあの翼竜、凄い強個性じゃないか。将来が楽しみだ。」

 

などとギャラリーがざわめく中、ぽーんと場外へ放り出された爆豪、しかし空中で起こした爆破の反動でリングへと舞い戻る。

 

「ンなもんで終わるかよクソが…!!」

 

「残念、終わってくれれば怪我せずに済んだのに。」

 

「ぬかせ!」

 

再び帝の懐へ飛び込んだ爆豪は近接戦闘の構えだ。

爆発直前なのか、黄色く光る左手が防御した帝の左腕に叩き付けられ、小爆発が巻き起こる。それを皮切りに爆豪の猛ラッシュが始まった。

勢いに任せた爆発の連撃、鋼の身体すらよろけさせる威力は鉄哲戦で実証済みだ。帝が先読みで避けても次々繰り出される爆発に対処が遅れていく。

 

「うおらァッ!!」

 

「……ちっ!」

 

両手から放たれた大きな爆発が帝の腹部を襲い、衝撃と共に後ろに弾き出された。

帝はすかさず翼竜をけしかけるが、爆豪の巻き起こす爆風の薙ぎ払いにより一蹴される。

 

「お茶子ん時もだけど、とんでもない反応速度してるな。今の絶対死角から入ってたのに。」

 

「ッセェ!テメーのクソ翼竜共は風を切る音と羽ばたきの風圧で見えなくても大体のタイミングは分かんだよ!もう何度来ようが返り討ちだ!」

 

「簡単に言うよねぇ…なら、これならどうだ!」

 

指を鳴らして帝が合図を送る、すると爆豪を中心に4つ角を囲うよう展開した翼竜達は周りに炎を吐き散らした。

 

その瞬間

 

「舐ァめんなァッ!!」

 

BOMB!!

 

一際大きい爆発音と共に、爆豪が炎の中から飛び出してくる。技の出がかりを潰されて流石の帝もびっくりだ。

 

「ちょーっ!?まだ演出の途中でしょうが!」

 

「テメーの小細工に付き合ってる暇は無ェんだよッ!!」

 

ぎょっとする帝に爆豪の苛烈なツッコミ(脚)が入る。この男、女にも容赦ない。

強度に優れるミリタリーブーツによる蹴りを帝は左腕で受け止め弾く、更に今度は爆豪の顔面を鷲掴みにして、口から焔が迸った。

漏れた炎が這うように素早く腕を伝い右手に集中していき、それと同時に爆豪の右手も帝の目の前で輝き始め…

 

「んもー!なら…」

 

「さっさとォ…」

 

 

「「ぶっ飛べェッッ!!」」

 

 

BOBOMB!!

 

音色の違う爆発音が同時に響き、磁石が反発し合うかの如くにお互いの身体が大きく反対方向へ弾かれる。

 

『だああああお互い同時に至近距離爆撃!

龍征は腹!爆豪は顔面を爆破されて両者吹っ飛ばされたアアアッ!!』

 

『いつもより3割増で煩いなお前…』

 

『だぁってよォ!こんな派手な戦闘見せられて興奮しねえワケねーだろ!』

 

「ごっほ…げほっ!

至近距離で爆破の振動はキツいんだってば…」

 

「ごっ…ぐぞ……がッ!!」

 

むせる帝と頭を揺すられふらつく爆豪、お互い態勢を整える。その間も翼竜達は特攻をしかけ、それに気付いた爆豪は反射で打ち払った。が、4匹の翼竜に襲われ、徐々に疲弊していくのは避けられない。

 

『翼竜達による怒涛の追い討ち、追い討ち、追い討ちイイィ!

龍征スゲーな!遠近両方を完璧にカバーしてやがる、無敵かよォ!!?』

 

『遠距離から翼竜の襲撃、接近戦は持ち前の体術と火力にモノを言わせる喧嘩殺法。

遠近両方でアドバンテージを取れる、か。

爆豪の戦闘センスだからこそここまで戦っていられるが、他の対戦相手ならこうはいかねえだろう。』

 

「すっげぇ!すっげぇよ龍征!

あの爆豪をボコボコだ!」

 

「鉄哲、ハシャぎ過ぎだ。ステイステイ」

 

「俺ァ犬か!?」

 

「……」

 

「?どうしたの茨、決勝始まってから表情固いけど。何かあった?」

 

「い、いえ…何でもありません。

ただ…御姉様、お顔の様子が優れないみたいで…」

 

「龍征が?戦ってる感じそうは見えないけど…」

 

「体調が悪い。という訳では無いのですが、その…なんというか…」

 

 

かなり無理して脱力している様な気がするんです

 

 

「脱力ぅ?手ぇ抜いてるってコト?」

 

「分かりません。でも準決勝の時はもっと…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「帝ちゃんも爆豪君も凄い、こんなハイレベルな戦いになるなんて…」

 

「爆豪の反応速度もだが、真に恐るべきは龍征の翼竜操作だな。」

 

「然り。

ファンネルというのもあながち間違っていない。翼竜を従える龍征は今回のルールならほぼ無敵に近いな、勝てるビジョンが浮かばん。」

 

「それよりもよォ!

爆豪もっと頑張れ!ヘタレてんじゃねぇよ!」

 

「お、峰田が真面目に応援してる。」

 

「もっとバンバカ爆発させて削るんだよ!主に龍征の服を!」

 

「いつもの峰田だった!逆に安心した!」

 

「くそぉ…あの胸と尻で無自覚に俺を誘惑しやがってよォ…!

体育祭の間ずっと上着の前おっぴろげでインナーの下に隠したはち切れんばかりのミカドッぱいを揺らしやがって!だらしねえもっとやれ!

無自覚で恥じらいを知らねえアイツにはどうやら『分からせ』必要なよ(ブスッ!!)ッッ!?ーーーーッ!?オンギャアアアアアアアッッ!!?!!?」

 

「「み、峰田ァーッ!!」」

 

「じじじ耳郎さんのイヤホンジャック!?」

 

「女の敵は成敗…」

 

「けろっ、おかえりなさい耳郎ちゃん。手を下す手間が省けたわ。」

 

「ん、ただいま。ゴメン遅れちゃって。

もう始まっちゃってるし…今どんな感じ?」

 

「帝ちゃんがガトー達使って爆豪を押しまくってるトコ!」

 

「どちらも1歩も引かぬ攻防戦…目が離せませんわ。はむはむ…」

 

「ヤオモモはさっきから焼きそばが手から離れないねー。」

 

「……本当だ、頑張ってる。」

 

「…けろ?どうしたの耳郎ちゃん、浮かない顔をしているわ。」

 

「え!?いやいやなんでも!」

 

(色々聞いちゃって気持ちの整理つかないや…帝…)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

なんだろう。少しだけ、胸がざわざわする。

 

轟と戦った時、いつも以上に張り切ってしまったからなのか。やたら食いついてくる爆豪にウンザリしたからか。理由は分からない。

 

 

紅い 紅い 紅い 紅い

 

 

血に飢えた本性が

 

 

理性の底に沈めていた筈の本能が

 

 

獲物(おまえ)と戦ってるとふつふつと

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「キラー…クイーンッ!!」

 

BOMB!!BOMB!!BOMB!!

 

リング内の所々で大小様々な爆発が巻き起こり爆豪を襲う。その中を掻い潜りながら接近する爆豪、すかさず飛び込んでくる翼竜を躱し前へと突き進み、爆発を見舞ってはまた下がる。これの繰り返しだ。

 

「パクんじゃ無ェつってんだろォ!!」

 

「パクリじゃないですー!リスペクトですー!アンタも男の子ならロマンくらい分かれ!」

 

「っせぇ!俺ァ『ホワイト・アルバム』一筋だクソが!」

 

「まじかよ意外、アンタみたいのは『世界(ザ・ワールド)』か『キング・クリムゾン』みたいな定番攻めてくるかと思ってた。」

 

「シンプルなモンほど強力だからなァ!

つかテメーのはどっちかってーと『魔術師の赤(マジシャンズ・レッド)』だろが!」

 

「それは…同感ッ!!」

 

 

 

BOMB!!

 

 

私が両手から放った火球を、爆豪が両手で大爆発を起こし相殺する。

リングの中心で炎と爆発が爆ぜて振動がスタジアムを震わせた。

個性フル稼働のまま戦闘を続けてお互い変なテンションになってるのか、爆豪もかなり饒舌になってるな!

 

 

「…チィ!気に入らねぇ…気に入らねぇンだよ。

何で半分野郎の時みたく炎を黒くしねえ…手ぇ抜いてんのか!?他の攻撃にしてもだ!

肝心なトコで()()()()()()()!舐めんなクソッ!!」

 

「何言ってんだか。

これは命の奪い合いじゃない、範囲もルールも決められた決闘なんだよ?そん中で出せる全力を私は出してるつもりなんだけど。」

 

当たり前でしょう?殺し合いでもないのなら焼き殺す炎は要らない。首をへし折る必要も、内蔵握り潰す事もない。

轟の時は…マジすまんかった。

 

「容易に人を殺せる個性でも制御して正しい使い方をする。USJで13号センセイが教えてくれたでしょ?

大体、私はレスキューヒーローになりたいんだよ。あんたみたいに何もかも蹴り捨ててトップに立とうなんて気はサラサラ無いの。」

 

「甘ぇ…甘ェんだよ!

ヒーローは勝たなきゃ意味無ェだろが!手加減してヴィラン相手に無様な負け姿なんぞ晒してみろ、目も当てられねぇ!そんなもんヒーローじゃねえ!

強え個性持ってる癖に飄々としやがって…ムカつくんだよォ!!」

 

「そりゃ完全にアンタの押し付けでしょうが。」

 

吐き散らす勝利への執着、両手をボンボンいわしながら飛び掛ってくる爆豪の手を掴み反対側へ投げ飛ばす。

普段の言動はアレだが爆豪の実力は大したもんだ。タフネスも個性の火力調節も一年生の中じゃトップで、実際学年首席だし。性格がアレだけど。

 

爆豪は全力を出せと言っている。でも私はちゃんと轟戦で反省して、ルールで決められた範囲内で全力を出してるつもりだ。爆豪の言う全力と私の思う全力にはズレがあるみたい。

 

「全力で来いやァ!!

俺が望むのは完膚無きまでの勝利なんだ!

舐めプのクソカスに勝っても意味無ェんだよ!」

 

アイツは嫌な奴だけど、その場のノリや悪ふざけでこういう事は言わない…と思う。

ハッキリとは分からないけど、爆豪からは勝利に執着する強い信念と覚悟を感じた。戦闘訓練の時のようにイキり散らしてた彼はもう居ない。準決勝の轟の様な、純粋に『勝ちたい』と強く願う覚悟だ。

 

なら、私は…

 

「……分かった。

爆豪、アンタ『覚悟』してるんだね。」

 

「アァ!?ッたりめえだクソが!」

 

「望み通り私の全力、出してやるよ。

でもさ、これだけは覚えときな。」

 

「……ンだよ。」

 

「アンタはヒーローの『勝つ姿』に憧れて、私はヒーローが『救う姿』に憧れた。

オールマイトがNo.1になれたのは何故だと思う?誰よりヴィランに勝って、誰より人を救ったからだよ。

両方やらなくっちゃあならないのがヒーローの辛い所だよね。他の奴を全部蹴落として、勝ち続けた先で、周りに誰も居ない空っぽの玉座でふんぞり返っても虚しいだけよ。」

 

「……ッ!!」

 

「5分…頑張って10分位は持つかな。

後悔すんなよ、爆豪(クソガキ)ッ!!」

 

「ッッ上等だ龍征(クソアマ)ァ!!」

 

 

入試の時みたくブレス1発撃ってすぐ戻るだけなら負担も何も無いけど、今回のはワケが違う。4年前の様に、ただひたすら動かず瓦礫の下敷きになるでもない。

動き回って、戦うとなると

 

 

私がいつまで正気でいられるか分からない

 

 

 

けど…

 

ふと、爆豪の奥、観客席に見慣れたお嬢様の顔と目が合った。

相変わらず優雅に笑って何考えてるのかわかんねー。でも、()()()()()()()()あの人はこう言ってる気がするんだ。

 

「貴女なら大丈夫」って

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お兄ちゃん早く早く!みー姉ちゃんの試合始まってる!」

 

「風呂上がりに騒ぐな壊理…あとリモコンは後でちゃんと消毒しとけ。」

 

「若旦那、タオルっす。」

 

「おう。」

 

「みー姉ちゃんが目つきの悪いヴィランと戦ってるよ。」

 

「いやお嬢、ヴィランじゃありやせんから。雄英の生徒さん。」

 

「……」

 

「どうした(カイ)、浮かねえ顔して。」

 

「…別に。

まだヒーローなんて()()()()()()目指してるのか、アイツは。

やっぱり蜘蛛ジジイ脅して帝はウチに入れよう、組長(オヤジ)

 

「あの守屋が簡単に娘を手放すかよ。

アイツにゃ昔から組の立て直しに手ェ貸して貰ってんだ、文句言うな。それに脅したら確実に嬢ちゃんに嫌われるぞお前。」

 

「壊理も待ってんだよ。

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。」

 

「若旦那も拗れてやすねえ…素直に帝嬢ちゃんに嫁に来て欲しいって言えb「おっと手が滑った」ぎゃあッ!?戯れ半分に腕ぶっ飛ばすの止めて下せえ!痛い!!」

 

「オイ止めろ馬鹿、せめて壊理の見てねえトコでやれ。」

 

組長(オヤジ)も見てねえで止めてくれやせんかねえ!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「帝、お前の()()は俺が…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

爆豪は間近で目撃した。

 

 

炎が舞う。翼竜達が帝の周囲を覆うように火炎を吐き散らす。踊るように燃え盛る炎の中で、彼女が人の姿を失っていく。

 

四つん這いになった四肢は丸太のように太く、リングのコンクリートを軽々穿つほど強く踏みしめた。

身体は大きく膨れ上がり、背中からそれよりも大きく、偉大な翼が伸びる。鋭い剣棘のびっしりと生えた尻尾の先まである翼膜からは紅蓮を思わせる赤と白の模様が浮かび上がった。

 

鮮やかな金髪は三本の鋭角に変わり、その周りには複数の小さな角が左右対称に生えていた。金色に眩く輝くその角は、正対すると金の王冠を模しているようにも見える。身体を覆う黒の龍鱗が、いっそう輝きを際立たせていた。

 

その佇まいは正に「王」、翼竜達を支配するに相応しい堂々たる風格を否が応でも感じさせるその姿は龍の王と呼ぶに相応しい。

 

 

 

■■■■■■■■■■■■ッ!!!!!

 

 

 

自身を覆っていた邪魔な炎を羽ばたきで振り払い、現れた巨竜は首をもたげ、高らかに吼える。

 

 

 

 

天を衝く特大の咆哮を以て、龍帝は凱旋を告げた。








※作者はアニメしか見ていません


キャラの性格が違うとか、ニワカがアニメ未登場のキャラ使うなとか、色々言いたいことはあるだろうけどユルシテオニーサン…
物語の未来に鬱エピソードがあるなら…その過程を消し飛ばすっ!そしてこの世界線には少女が笑顔になる結果だけが残る!これが我がSSの能力なのだ…ッ!


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21 お・や・く・そ・く


独自解釈、端役登場あり


くぅー疲れました!これにて体育祭編終了です!


いや、エピローグ書くんやけどね。


20話投稿してから感想とお気に入り増え過ぎィ!皆オバホ好きなんやな…『僕の(私の)オーバーホールはこんなキャラじゃないやい!』って思ってる人は10月まで待てばアニメが始まってヤクザサイドのSSが山ほど増えると思うから、それを待とう!もしくは書いて!お気に入りするから!

戦闘シーン頑張ったんだけどクソ雑魚表現力でごめんな…ユルシテ…ユルシテ…







あの子と初めて出会ったのは5歳の時、丁度連立方程式の応用を覚えて、経済学に興味を持ち始めた頃。

偶には外に出なさい。と半ば無理矢理連れてこられた父の支援する教会も兼ねた孤児院、礼拝堂の片隅で、見慣れない鳥のような生物に囲まれ目を閉じている彼女を見つけたの。

今はお昼休み時、他の子達はみんな元気に外で遊んでいる時に1人だけ静かに座っている。その子は祈りを捧げている様にも見えたわ。

 

「何に祈っているの?」

 

「……」

 

冷やかしたかったのかもしれないし、純粋な興味なのかもしれない。

本当にただの気まぐれだった、聞いても暫く答えは返ってこなくて、代わりに彼女を囲っていた生物がこちらを睨み付けてくる。

気まずい時間が流れていく。その間もじっと威嚇するように私を見つめてくる4匹に我慢出来ずに席を立とうとしたその時、漸く彼女と目が合った。

 

「祈って…ない。

確認してただけ、今日の私は『わたし』なのか…」

 

 

キラキラと輝く肩まで伸びる金髪と、相反する様に()()()()()()()()()。綺麗な顔なのに感情は一切感じられない無表情。

 

 

美しい、素直にそう思った。

 

「……きれい。」

 

「…?」

 

「あっ…ごめんなさい。つい口から出てしまったわ。

貴女、お名前は?」

 

「………みかど。

りゅうせい…みかど…神父様はそう言ってた…」

 

「私は印照才子よ、よろしくね。」

 

「……?」

 

「握手しましょう?ほら握手。」

 

「………ん。」

 

一瞬びくっと震えた彼女は無表情のまま恐る恐る右手を差し出してきて、ゆっくり私の手を握る。

 

まるで春の木漏れ日の様に暖かい、すべすべの手だった。

 

思えばこれが、彼女に魅入られた初恋(はじめて)なのかもしれない。

 

「ねえ、もう少しお話しましょう?私、貴女の事が知りたいわ。」

 

「…?」

 

私と彼女の始まり(オリジン)はここから…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

■■■■■■■■■■■ッッッッ!!!

 

 

 

天を穿つほどの大音量。大地は震え、音の衝撃で実況席の窓ガラスが今にも割れそうな程ビリビリと震える。

雄英体育祭本戦、トーナメント決勝戦。

一対一のガチバトルと称されたリングの上には1人の少年と、威風を放つ巨竜の王が向かい合っていた。

観客席の者は皆一切の余裕も無く、雄英教師陣だけでなくモニター越しに体育祭を観戦するプロヒーロー達、果てはあのエンデヴァーですら言葉を失い、ひたすらに目の前に現れた圧倒的な存在を注視している。

 

それを間近で受ける少年、爆豪勝己は肌で感じ取っていた。

 

(なん…だッ!!コイツはッ!?)

 

まるで準備運動の様に翼を伸び縮みさせ、身体を解す巨竜…いや、帝の姿に動揺を隠せない。

 

 

 

 

 

 

 

 

『なんじゃアリャあああああ!?

なんだよ龍征、アイツまだこんな手を残してたのかァ!?』

 

『…入試でもチラッと見えたが、これが龍征の個性本来の姿か。』

 

『決勝戦で解禁してくるとか!つか見た目!

the・ラスボスだぜ!』

 

 

 

「あれが…龍征の持つ内なる獣ッ!!!」

 

「と、常闇!?声大きいぞどうした!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「龍征、それがお前の本当の姿なのか…」

 

リカバリーガールの出張治療室で未だ横になっていた轟も、モニター越しに帝の本当の姿を目撃していた。

リング内ではたった一人の学生の前に身の丈何倍もある黒と金の巨竜が立ちはだかっている。少年が剣と盾でも装備すれば一昔前のRPGのラスボス戦の様な光景だ。

轟も他の観客同様、常軌を逸した帝の姿に唖然としていた。

 

(さっきまでと雰囲気が全く違う。これが…龍征の個性の本気…!)

 

「あの姿…成程、道理で傷があっという間に治るワケだよ。」

 

「焦凍、リンゴ剥けたよ…て何その映像!?怪獣映画見てるの!?」

 

同じタイミングで部屋に戻って来たのは松葉杖代わりに大きな注射針を突くリカバリーガールと、姉である冬美だった。

帝達が去った後、入れ代わるように駆け込んで来た冬美とそれに付いてきた友人の香子。どうやら学校側から許可を貰って選手専用の医務室まで来たらしい。

目が合った際、無傷だった焦凍に涙を流し抱き締めようとする冬美やそれを宥めようとあたふたする香子、そしてあまりにも喚くものだからリカバリーガールがやって来て2人まとめて折檻されかけたりなど色々あったが、今はこうして落ち着いて決勝戦を観戦している。香子と焦凍の顔合わせも済ませ、リカバリーガールの用意した林檎を切り終えた所だ。

 

「帝さん…あの姿を出すって事は、本気なんですね。」

 

「おや、その口ぶりだと幾らか知ってるみいだねぇ。」

 

「はい、少しだけ。

私も話に聞いていただけで、実際に変身している姿を見たのは初めてです。あの子、『図体がデカいだけでレスキュー活動に邪魔』と言って滅多に使わないみたいでしたし。」

 

(レスキュー活動に邪魔…)

 

香子の言葉に頷き、轟はモニターを再度見る。

翼を広げればリングの横幅いっぱいにもなる黒の巨体は、狭いリング内ではかなり動きにくそうだ。

 

(4匹の翼竜にコンクリートすら易々溶かす炎、オマケに巨竜に変身できる…なんて攻撃的な個性なんだ。

なのに本人が目指すのは『レスキューヒーロー』…)

 

「こりゃあイレイザーの言う通りかもねえ…」

 

そんなリカバリーガールの呟きは、たまたま轟の耳まで届いていた。

 

「……?」

 

 

 

 

 

 

 

「あらあら帝ったらはしゃいでしまって…大丈夫かしら。」

 

「…一応準備だけしとこうかネ。

アナログ作業は才子チャンとこの頼れる鉄人メイドに任せるヨ。」

 

「ええ、お願いします叔父様。

生で見るのは4年ぶり…かしら?あの時より()()()()()()()()()()()。帝の努力の賜物だわ。」

 

そう言って、守屋はバッグの中から小さなノートパソコンを開く。対する才子はポケットに入っていたスマートフォンの履歴からある番号を呼び出しながらリング中央に立つ巨竜を眺め微笑んだ。

 

「ああ、大好きよ…私だけの可愛い怪物(みかど)。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

■■■■■■■■■ッッ!!!

 

帝王の咆哮が再びリングを揺らし、音の振動は会場内に留まらずスタジアム全体を軋ませる。

如何に個性社会となり、人々が超常を当たり前のように受け入れ過ごしていても、目の前に現れた巨竜に爆豪は未だ鳥肌を隠せないでいた。

 

(異形系…変身系か…?

この肌にビリビリ来る威圧感、どっちにしろヤベぇ…!!これが…あの女の全力かッ!!)

 

 

「今まで舐めプしやがってよォ…借りはキッチリ返させてもらうわッ!!」

 

BOMB!!

 

粟立つ肌と湧き上がる恐怖を脳内麻薬で押し殺す。獰猛に笑い、両手を起爆させ一気に距離を詰める。巨体故に動きは鈍いはず、そう思ったがゆえの行動だ。

 

だが次の瞬間、爆豪の視界から巨竜が消えた。

 

「ッッッ!?!?」

 

観客席からどよめきが上がり、興奮しっぱなしのプレゼントマイクが叫ぶ。

 

『ととと、飛んだァーーッ!?』

 

そう、帝はその大きな翼を羽ばたかせ、飛び上がった。翼が付いているなら飛ぶであろう事は予想ができるものだろうが、驚くべきはその速度と高度。

爆豪は疎か観戦席に居るもの全員が捉えられないほどの速度で飛び上がった。

一拍置いて強烈なダウンフォースが巻き起こり、竜巻の如き烈風がスタジアム内を暴れ回る。それをモロに受けてしまったのは言わずもがな空中に居た爆豪だ。

 

「うおっ!?…チッ!!」

 

風に舞う木の葉のように吹き飛ばされ、そのまま場外へ落下しそうになるのを必死に堪えながら爆発量を調節し踏み止まる。

 

「俺より上に立つたァ…ムカつくなァ!!クソトカゲが!!」

 

見上げる爆豪、太陽を背に悠々と空を羽ばたく巨竜は紅い瞳で眼下のリングを見下ろしている。

 

BOMB! BOMB! BOMB!!

 

爆破を利用し更に上へ飛び上がる、そして爆豪は果敢にも空飛ぶ巨竜に接近戦を仕掛けていく。

 

「俺が上でぇ…テメーが下だッ!!」

 

爆破の勢いと回転を加えた踵落としが巨竜の眉間に突き刺さった。

が、巨竜はたじろぎもせず悠々と羽ばたいている。

 

『爆豪果敢にも空中戦だァ!

これってルール的にどうなの!?』

 

『リングの外に手が着いたら負けだからセーフ!テクニカルセーフよっ!!』

 

『だってよ二人とも!着地気を付けろよォ!』

 

(硬っってぇ!?ブーツの方が欠けたか…ならっ)

 

爆豪は緩急を付けながら帝の周りを飛び回り、連続爆破で攻撃を試みる。暫く攻撃を続けたが何処を爆破しても、巨竜は我関せずと言った感じでなんの反応もない。まるで爆豪の事など初めから見えていないかのように。

 

それが、彼のプライドを大きく傷付けた。

 

「コッチを見てもいねぇじゃねえか…なんだよコイツ…

俺ァ対戦相手だぞッ!!馬鹿にしてんのかクソがッ!!」

 

もとより全力で叩き潰すつもりだった決勝戦、本気で立ち会い、勝利するのが彼の望み。しかし焚き付けた先に待っていたのは自分の事など全く眼中に無い巨竜ときた。

 

「気に入らねぇ…ッ巫山戯んなよッ!」

 

爆豪の額にどんどんシワが寄っていく。どんどん機嫌が悪くなる。

 

「何処を見てんだテメェッ!!対戦相手は俺だぞ!飛んでるだけのウスノロに勝っても意味ねぇんだよ!」

 

巨竜の背中に飛び乗った爆豪、そのまま両手を硬い龍鱗に押し付けた。

 

「見ねえってんなら…」

 

爆豪の手のひらが赤い輝きを放ち彼の怒りと共に臨界点を突破する。

 

「死ねぇッッッ!!!!!」

 

 

麗日戦と同じ規模の大爆発が上空で炸裂した。

ぐんっ!と巨体が下がり、爆風と衝撃で真っ逆さまにリングへと落ちていく。

 

 

 

 

『爆豪怒涛の空中攻撃ィ!

トドメとばかりに大爆発で龍征を叩き落とす!』

 

「爆豪の奴やりやがった!あの巨体を!」

 

「龍征の奴、爆豪相手に的を大きくしちまっただけじゃねぇのか?」

 

「……違う…」

 

「ん?どうした緑谷。」

 

「『見てない』んだ…

龍征さんはかっちゃんを一度も見ていない。

敵とすら思ってない。風に浮かされる木の葉とか、その辺の石ころみたいに…」

 

「どういう事デク君…?」

 

「昔読んだ個性の専門書に書いてあったんだ。一部の個性、主に動物に変身するタイプの個性は素になった生き物に精神状態が近くなるって。

例えば人馬一体ヒーロー『ゴッドホース』。彼は首から上と下半身が馬の身体で、その影響で精神面も馬に近く菜食主義なんだ。」

 

「あー確かに。ゴッドホースって確か報酬に金の代わりにニンジン要求するヒーローだって有名だよな。」

 

「だから龍征さんも、あの姿になった事で精神状態に変化があったのかもしれない。」

 

「けろ…でも私はカエルと同じような事はできるけど、精神状態や好物まで似てはいないつもりよ?」

 

「個性は未だに解明されていない事が多いから、僕にも何とも言えないけど…個性によって個人差があるのかも。けど、大なり小なり精神状態が『寄っていく』というのだけは数ある変身系の個性を統計して得られた事実なんだ。

それが龍征さんにも当てはまるなら…」

 

「心までドラゴンになってしまった帝さんは爆豪さんなど眼中に無い、と?」

 

「で、でもよ緑谷!ありゃドラゴンだぜ!?

空想上の生物が素になってるのに精神状態もクソも…」

 

「世界の半分をお前にやろうってやつか?」

 

「上鳴、そりゃドラクエだろが。」

 

「……龍の記述については東洋、西洋で諸説ある。

東洋では『河』や『天』の象徴。時に恵みを与え、ある時は人を試す存在として語られていた。

そして西洋では、古来より『嵐』や『火山』など災害の化身として、又は『人間の破壊的な心の象徴』として物語に伝えられることが多い。文献では古代メソポタミアの神話より登場する『ムシュフシュ』や旧約聖書の『リヴァイアサン』、北欧神話の『ファフニール』、アーサー王伝説に登場する卑王『ヴォーティガーン』などが挙げられる。」

 

「なんか急に常闇が饒舌になった!?」

 

「常闇は過去の文献に詳しいからな。」

 

「ヒーローを目指す以上、過去の英雄や神話を遡り己の知を深めるのは当然の事だ。」

 

「その英雄譚(サーガ)に将来僕も名を残すんだけどね☆」

 

「話を戻すぞ。

文献により大きく見た目が分かれる龍だが、大きく分けて2つある。まず東洋の龍に四肢はなく、蛇のような姿をしたものが多い。

対して西洋では、物語に登場する殆どの竜は強靭な四肢と巨大な翼を持ち、口から火炎を吐く。

……今の龍征の姿が最も当てはまるな。」

 

「その話だとさぁ…帝はどうなの?まさか常闇の言ってるみたく『人間の破壊的な心の象徴』ってのになったなんて言わないよね?」

 

「…分からない。でも彼女はずっとこの姿になれる事を隠してた、という事は龍征さんにとってあの姿は大きなデメリットになる筈なんだ。

物理的な反動?いや見るからに頑丈そうだし今まで龍征さんが炎の自傷以外で傷つく所を見た事がないからそもそも身体に影響を与えるものじゃないかもしれないUSJじゃオールマイトと同じパワーで殴られても『痛い』程度で済ませるレベルだしとなると残るのは…いやでもあの論文は一種のオカルト本みたいなものだからろくすっぽアテにはならないけど状況的に1番当てはまるのは龍征さんだブツブツブツブツブツブツブツブツ…」

 

「緑谷…?緑谷!起きろ!」

 

「ヴァイッッ!?!?」

 

「イヤホンショック…!耳郎もおっかねえ…」

 

「ご、ゴメン耳郎さん…

とにかく、あの龍征さんは間違いなく以前までとは別物だと思う。

見た目も()もだ。今までは明確な危害を加えられる事はなかったからかっちゃんを視界に入れなかっただけで、攻撃された場合…仮に『敵』だと判断した場合、多分龍征さんは……」

 

 

 

 

 

■■■■■■■■■■■■■■ッッ!!!

 

 

 

『ッッッ!?!?』

 

緑谷の言葉を遮るように、再び豪咆が空に向かって響き渡った。

次いで全員の身体が強ばる。

 

 

 

帝の目付きが変わった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ーーーーッッッ!?ーーーーッ!!!!!」

 

赤い双眸が一点を捉え、不意に帝が吼えた、ただし今度は爆豪に向かって。

まるでジェット機のエンジンを間近で聞かされている様な破裂音、大音量の咆哮が爆豪の耳に直撃したのだ。

 

咄嗟に耳を塞ぐがもう遅い。

最早、煩いなどというヤワな概念などは通り越し、鼓膜を破裂させん程の勢いで空気が震え、爆豪は立っていられないほど脳を揺さぶられた。

堪らず膝を突きもがくように地面を転げ回る、だがそんな事をしても頭に走る激痛は一向に消えてはくれない。

 

「ぐっおおおおおおおあああああッッッ!?!?」

 

のたうち回る爆豪を他所にズズン…ズズンと地面が揺れる。

揺れが意味する所をいち早く感じた爆豪は痛む頭を必死に働かせ、咄嗟に地面を爆破し横に転がった。

 

「っっっぶねぇッ!!」

 

帝が行ったのはただの『体当たり』、たったそれだけ。それすらすれ違いざまの風圧で身を浮かされそうになる。

 

(明確に攻撃してきやがった…!!)

 

「やっと俺が見えたかクソトカゲェ…ッ!?」

 

負けじと吼える爆豪、振り向いた帝が翼をリングに打ち付け、反動で突風が吹き荒れる。目視出来るほどの風の層が爆豪を軽々と吹き飛ばした。

 

「チィッッ!!」

 

リング縁ギリギリに着地、続けざまに翼から放たれたソニックブームを躱し空へと翔ぶ。

 

空中の制御も慣れたもの。次は上からどう攻撃を仕掛けてやろうか思案していたその時、ふと下の帝を見た。

 

「……は?」

 

巨竜の口が開いている。

 

口元から赤い何かが煌々と輝きを増して、次第に赤が近付いてくる。

 

違う

 

()()()()()()()()

 

 

「ッッッッッッ!!」

 

 

身体中から汗が吹き出す。

爆豪の直感か、生き物の本能なのか、それを見た途端全身の細胞が叫んでいた。

なぜ、と思考する猶予もない。即座に爆豪は射角を直し、空からの攻撃を止め素早くリングの隅ギリギリの位置に着地した。

 

 

■■■■■■ッッッ!!!

 

 

彼がリングに足をつけたのと同じタイミングで、帝の唸り声と共に背後が赤く染まる。

巨竜が下から上空へ向かって火を吐いた、ただそれだけだ。

 

たったそれだけでリング全体を丸々覆える程の炎が観客の視界を塗りつぶして、一瞬で空は紅に染まった。

 

『なっ……』

 

『は…?』

 

リングから遠く、高い位置にある実況席からは唖然とする2人の声がマイク越しに聞こえてくる。観客席のプロヒーロー達も何人かは気付いている筈だ。

 

この炎は、爆豪を簡単に殺してしまえる火力だと。

 

人の姿の時とは比べ物にならない熱量。

熱波を浴びせられた観客から悲鳴が上がり、炎の余熱でチリチリと頬が痛む中、爆豪は振り返る。そこには灼熱のリングを4本の脚で踏み締め、赤く濁った2つの瞳で爆豪を睨み付ける巨体があった。

 

べしゃっ

 

(……?)

 

ふと、何かが爆豪の足下に落下する。

黒い塊に脚の様なものが生えた何か…いや違う。

 

(ッ!!ハトか!

さっきの炎にやられて落ちて来たのか!?)

 

最早原型も留めないほどに焼却された鳩。運の悪いことに、先程ブレスの直線上を飛んでいたらしい。落下の衝撃と風に晒されて、哀れ鳩だったものは崩れ去った。

 

(あのまま空を飛んでいたら…こうなるのは俺の方だったッ!!人間の身体してた時とは威力も範囲も段違いじゃねえか!これにこの…殺気は…ッ!!)

 

肩が震え、膝が笑い始める。

帝の僅かながらに怒りを宿す紅い双眸が爆豪を地面に釘付けにした。

 

「最初から使えって…何度言わせりゃ分かんだクソ女がッ!!」

 

巨竜から放たれる殺意を怒りで誤魔化した爆豪はますます機嫌が悪化していく。

 

「…もう一発くれてやる、食らってくたばれッ!」

 

小さな身体を爆風の勢いで飛ばし、更に回転を加えながら威力を高める。そのままあっという間に飛び込んで、自身が撃てる最大級の攻撃を巨竜へと叩き付けた。

 

「『榴弾砲・着弾(ハウザー・インパクト)』ォッッッ!!!!!」

 

着弾と共に空気が震え、一瞬遅れて大爆発がリングを覆い尽くす。

 

 

 

 

 

 

 

「オイオイ、ありゃやべーんじゃねえのか!?今の龍征のヤツ、殺す気だったろ!」

 

「やはりあの姿は制御が不完全だったか。

それを爆豪の挑発に乗ってまんまと使っちまうとは、合理性に欠ける…」

 

一旦マイクの電源を落とし、オフレコ状況で焦るプレゼントマイク。相澤は入試試験で初めて彼女を見た時から、あの姿について薄々勘づいていた。

 

(試合中止にするか…?だが俺だと龍征の個性は炎以外を止めることができん。セメントスに拘束させてミッドナイトで…いや、今試合を止めると()()()が問題だ。)

 

そう考えた相澤はちらりと後ろを覗く。

実況席の後ろ側、パイプ椅子に座る男と目が合った。

 

「構いません、試合は続行しなさい。」

 

茶色のスーツを着込んだ男は相澤の意図を汲んだのか、ニコニコと人当たりの良さそうな笑顔を浮かべたままそう答え、肩に乗せた子猿と共にリングで暴れ回る帝を眺めていた。

 

「ですがこれ以上は生徒を危険に晒します、人命が第一です。」

 

「爆豪勝己君、彼なら大丈夫。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、雄英には優秀な医療スタッフも居ますからねえ。」

 

「…ッ!」

 

相澤とプレゼントマイクの眉間に皺がよる。自分達の後ろで試合を観戦するこの男の口から出る言葉は、生徒の安否など二の次なのがハッキリと伝わるのだ。

 

「キキキッ…」

 

男の肩で猿が嫌味ったらしく笑う。このエテ公、とプレゼントマイクが漏らしかけたのを相澤は目で制した。

 

(ヒーロー公安委員会から派遣されてきた猿渡(さるわたり)というこの男、思考が謎だ。迂闊な事は言うな。)

 

(でもよォ!怪し過ぎんだろ!決勝トーナメントが始まった直後にアポも無しにやって来て観戦させろなんて…)

 

(()()()()()()()()()()()()()()()、良いから黙って実況してろ山田。)

 

(ヒーローネームで呼んで!?ていうか黙って実況ってどうすりゃいいの!!!)

 

 

プレゼントマイクこと山田先生は暫く考えた後、普通に実況する事にした。

 

(唯一の救いは、使役してた翼竜達が必死に飛び回って観客を炎のとばっちりから守ってるって所か。それが出来るほど龍征は()()()()んだろう。だが…)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『爆豪!先程見せた爆破に回転を加えた超爆撃で龍征を強襲!正に人間榴弾だァ!!』

 

『……』

 

プレゼントマイクが叫ぶ横で、相澤は真剣に事の成り行きを静観している。後ろから視線を感じつつも()()()()()()()()()()()()()()()()()常に他教師との連絡は怠らない。

 

 

リング内を覆っていた爆煙が晴れていく、そこには爆破の反動で地面に打ち付けられ、起き上がろうとする爆豪と…

 

「なんで…傷一つ付かねんだクソッ!!」

 

無傷で立つ黒い巨竜の姿。首元には着弾した跡らしき煙が僅かに立ち込めてはいるものの、それ以外の外傷は全く見受けられない。

不動のまま、帝は爆豪の最大火力を受けきった。

 

『無傷ッ!!龍征無傷だ!!!

人間榴弾を身じろぎひとつせず受け切りやがったァ!!』

 

「クッソがァァァッ!」

 

起き上がった爆豪が両手を赤く光らせながら再び近寄ろうとするが、帝は翼を羽ばたかせ、風に煽られ近寄れない。寧ろ風圧で飛ばされまいと踏ん張っていた所を、一足飛びに飛びこんできた帝の前脚に押し潰された。

 

「ごっ…!?離し…やがれェ…ッ!」

 

何度か爆破で脱出を試みるが、身震いひとつできない。丸太の様な前脚に身体を押さえ付けられ、必死にもがく爆豪。それを見据え、巨竜は口を大きく開く。

 

紅く淀んだ瞳と目が合った。

 

(ンだよその目は…ッ!!)

 

まるでそこらのゴミでも見るかのような、淀みきった瞳。反骨精神の塊である爆豪は更に噛み付いていく。

 

「テメェ、()()()()()()()…?うごぁッ!?」

 

押し付ける力が更に強くなった。

口の中に赤い光が溜まっていくと同時に、顔に焼け付くような熱が浴びせられる。これだけ近くで見ていれば馬鹿でも分かる。

帝はもう一度ブレスを吐こうとしている、ただし今度はこの至近距離で。

 

「……がッッ!!ンの…離せッ!!クソッ!クソォッ!!」

 

確実に焼き殺される

 

ぞわりと背筋に悪寒が走り、一層激しく爆破を繰り返すも、抵抗虚しく前脚と地面の間に磔にされた爆豪、これ以上は不味いと判断したミッドナイトとセメントスが動き出そうとしたその時。

 

■■■ッッッ!?!?ーーーッ!

 

突然巨竜が苦しみだした。口の炎が次第に収まっていき、押さえ付けていた前脚が緩む。

蹴飛ばされリングを転がる爆豪。リングの真ん中で巨竜は暴れ回り、最終的にはバランスを崩してリングの外へ転げ落ちてしまった。

 

 

『あっ…』

 

プレゼントマイクが素っ頓狂な声を上げる中、1番早く我に返ったミッドナイトが叫ぶ。

 

『り、龍征さん場外!爆豪君の勝利!』

 

「……は?」

 

呆気なく、勝敗は決してしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

目を開けるとそこは雲より高い砦の頂上、まるで布団の様に巨大な1枚岩の上に、私は寝そべっていた。

 

ああ、また此処か

 

龍になって暫くすると決まって私は此処へやってくる。きっと白昼夢みたいな感じなんだろう。

澄んだ空気の匂い、肌に触れる岩の冷たさは夢だというのに妙にリアルで、砦の周りには数え切れないほど沢山の翼竜が飛び回っていた。

見上げれば満天の星が夜空を彩っていて、伸ばせば手が届きそう。

私のいた世界とは違う、ありえないくらい幻想的で、現実離れした空間。だというのに私の心は不思議なくらい落ち着いてて、まるで実家のような安心感が私を包み込んでいる。

 

小さい頃はよく見ていたんだっけ?ガキの頃だから記憶が曖昧だ。でも、なんだか心地いいな…

 

このまま身をゆだねてしまえば…私は…きっと……

 

 

………………

……………

…………

………

……

 

 

 

『…って良い訳あるかいッ!!!!!』

 

叫んで意識を覚醒させる。

 

っぶねー!!危ねーっ!!

久しぶりに竜化したと思ったらコレだよ!途中から意識飛んでたぞ!

爆豪に空から落とされた時くらいからか?不味いぞもしかしたら殺してるかもしれない!

 

まだ身体は大きいままだ。被害が出ないようにスタジアム周辺に飛ばしていた翼竜達を呼び戻し、取り敢えず身体をもとに戻す!

意識戻った瞬間身体の主導権無理やり奪い返して、咄嗟にリング外に出ちゃったから勝負は負けちゃったろうけど、この際勝敗なんてどうでもいいや。才サマ許して。

 

視界がいつもの高さになった所で、慌てて倒れてる爆豪に駆け寄った。

 

「爆豪、爆豪大丈夫!?ごめん途中から意識飛ばしちゃって…」

 

「ぅ…ぐッ……」

 

よかった、生きてた。

見た感じ打撲の痣や軽い火傷だけみたいだけど、思っきり踏んづけちゃったし、下手すると内臓に傷が入っちゃってるかもしれない。早くリカ婆に診て貰わないと。

 

「痛い所無いか?取り敢えずリカバリーガールんとこ行って診察して貰わないと…」

 

「!?!?…離れろ。」

 

「こんな時までツンツンしてる場合かお前。

こっちは危うく殺しちゃったかと思ってヒヤヒヤしたんだぞ!」

 

「止めろ近付くな!というか馬乗りになるな!それ以上俺に触るんじゃねえ!ぐおっ!?」

 

「ホラ顔も赤い!絶対どっかおかしいって!」

 

もがく爆豪を押さえ付けて、顔やおでこをぺたぺた触る、顔も赤いし体温も高い…どっか腫れてるのかも。顔に火傷させてるとかなっちゃったらまずいよ、轟とキャラが被る!

 

「力つえーんだよ!おまっ…

おかしいのはテメーの方だ!なんで…ッなんでお前ェ…」

 

 

裸なんだよッ!!

 

 

 

 

………………ほわい?

 

 

 

きょとーんとする私

 

慌てたように飛んできた翼竜達が私を守るように取り囲んで、ガトーが何処から持ってきたのかバスタオルを掛けてくれた。

 

そういや竜化したんだった、服着てないじゃん私。どーりで胸がよく揺れると思った。

顔を上げて、周りを見渡してみる。これだけ人がいるというのにスタジアム内は時が止まったかの如く静かで、取り付けてある巨大モニターには、爆豪に馬乗り状態になった私のあられもない姿(バスタオル一枚)がでかでかと映し出されていた。

 

 

暫く考えた私はぽんっと納得したように手を叩いて一言。

 

 

 

「てへぺろ☆」

 

 

 

 

次の瞬間、色んな絶叫がスタジアムを埋め尽くした。

 

 

 

 

 

 

 

◆観客席の様子◆

 

 

 

『わああああああああああっ!!?

放送事故!放送事故だコレぇ!?』

 

『叫んでる暇あるならモニターの映像切れ馬鹿!』

 

『おいカメラ止めろ!映すんじゃねえ!』

 

(最悪の事態は免れた…か?いやこの結果もある意味最悪だが。

クソっ、龍のインパクトに気を取られて失念していたな…)

 

 

 

 

 

 

「うわあああああああああああああっ!?」

 

「みみみ帝ちゃん…ハダっ…はだだだだ…はだかやんッ!」

 

「男子見んな!絶対見ちゃダメだからね!」

 

「私じゃあるまいし、ハダカはダメだよ帝ちゃん!」

 

「あんのバカ帝ぉおおおおおッ!?」

 

「ぶあはッ…!」

 

「お、尾白が鼻血吹いたぞ!」

 

「ミカドっぱい…生のミカドっぱいがスグそこに…ぬへ…ぬへへへ「お前は見んな!!」ンンンンぎゃああああ目がああああああッッ!?!?」

 

「み、峰田あああッ!?」

 

「じ、耳郎さんのイヤホンジャックが峰田さんの両目にぃ!?」

 

「フーッ☆」

 

「……ッ!…ッ!?(アワアワアワ)」

 

「…可憐だ。」

 

「入試の時の謎が解けたな…俺は何も見ていないが。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おいカメラ!カメラ止めろ!生放送だぞ!放送事故になっちまう!」

 

「それが…さっきからカメラが故障してて動かないんです!」

 

「はあ!?そりゃ一体どういう事だ?」

 

「分かりません!他の局もそうみたいで、取材陣皆大慌てですよ!」

 

「全局のカメラが一斉に故障?一体どーなってんだ…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「叔父様、首尾は如何ですか?」

 

「…ん、スタジアム全域のデジタル写真機及び各局ビデオカメラの掌握は完了だヨ。会場内のモニターだけはネットワークが独立してるからボクの『個性』じゃ届かなかった。でも録画されていないのは確認したから大丈夫。

流石に全国放送で娘の裸体を晒されるのは勘弁して欲しいからネ。

才子チャンの方は?」

 

「メイさんに奔走して貰っています。会場内で静止画や映像を記録できる個性を虱潰しに調べ上げて、()()するそうです。閉会式までにはすべてカタが付くかと。」

 

「成程成程、なら後は掲示板の火消しだけかナ。」

 

「ええ宜しく。はあ…帝、帰ったらお説教ですからね。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「み、帝さん…あわわわわわわ……」

 

「わー!焦凍見ちゃダメ!ダメだってば!」

 

「…綺麗だ。」

 

「はえ…?ししし焦凍?綺麗ってどういう…」

 

「綺麗なもんは綺麗だろ。」

 

「そういう所だぞ弟よ!!」

 

「?姉さん、何怒ってるんだ?」

 

「帝さんは結構ハードル高いと思いますよ?」

 

「夢見さんも、何言ってんだ?」

 

「無自覚かい!?青春だねェ…若い頃を思い出すよ。」

 

「皆どうしたんだ、一体…」

 

 

 










〜完〜

提供:NH○



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22 体育祭エピローグ1


体育祭エピローグ、長くなったので2話に分けるよ






がりがり…がりがり…

 

がりがり…がりがり…がりがり…

 

がりがりがりがりがりがりがりがりがりがり

 

 

暗く狭い部屋で、首を掻き毟る男が一人。テレビの前に佇んでいた。

 

『観察するんだ弔、雄英高校体育祭を。

将来君の敵となるヒーローの姿を見定めろ。』

 

(先生はそう言ってたが、まるで見る価値もない。イライラする…

ああ、全部壊してやりてえなあ…)

 

画面の向こうでは少年少女達が汗を流して青春を謳歌している姿が映っているが、彼にとってそんな事はどうでも良かった。

内容など殆ど頭に入っていないまま、迎えた決勝戦。対戦相手はどちらも死柄木がUSJ襲撃の時に居合わせた雄英生徒だった。

 

(黒霧を抑えた爆発頭のガキと…ッ!?

チッ…脳無の腕を焼き切った女か。)

 

首を掻く頻度が一層早くなる。

どちらもあの時自分を邪魔した生徒、しかも片方にはオールマイト殺害の切り札を目の前で潰された。

 

「イライラすんなァ…」

 

衝動のあまりテレビを壊してやろうかとも考えたが、大事な『先生』の教えなのだ。

そこは彼も理性で我慢して、何とか決勝戦を観戦した。

 

 

 

…………

 

 

『…どうだい弔、気付く事はあったかい?

僕は()()()で見られないからね、君の意見を聞きたいよ。』

 

「………」

 

『…?弔?』

 

「なんだよ…アレ。

化け物じゃねえか!」

 

『ほう。』

 

「すげぇよ先生…ありゃ正真正銘の化け物だ!ヴィランもヒーローも関係無ェ、力だけで人類を蹂躙するモンスター…!

ははっ!アレが街で暴れたらどんだけ人が死ぬんだ?どんだけ世界に傷を残せるんだ?あんな個性でよくヒーロー目指そうなんて思ったよなあ?」

 

決勝戦を見る死柄木は先程とは違い、子供のようにはしゃいでいる。画面にはリングを埋め尽くさんばかりに翼を広げる黒と金の龍が映し出されていた。

 

『楽しそうだねぇ弔、そんなに良い駒を見つけたのかな?』

 

「ああ、先生。

使えそうなのがチラホラ居た、きっとあいつらはこっち寄りだ。」

 

『ふむ…まあ及第点かな。

それと、黒霧がヒーロー殺しと接触したようだ。今度連れて来るそうだよ。』

 

「どうでもいいな…役に立つなら会うけどさ。」

 

『大丈夫さ、きっと彼は我々にとって良い足掛かりとなる。』

 

光届かぬ所で悪意と欲望は牙を研ぎ、来るべき日に備えて闇に潜み力を蓄え続ける。

 

その悪意が解き放たれるのは…もう少し先の話

 

 

 

 

 

 

 

 

 

表彰式だよ全員集合!

 

あの後駆け寄ってきたミッドナイトに連れられて1番近い控え室で体操服に着替えた私。その場で待機する事10分、ガチャリと扉を開けて入って来たのは茨ちゃんだった。

 

「御姉様、こちらにいらっしゃったのですね。

準優勝おめでとうございます。」

 

「おー、茨も3位入賞おめでとー。」

 

「ああっ…ありがとうございます!

轟さん、大丈夫です。ちゃんと体操着を着ていらっしゃいますよ。」

 

「そうか、悪い。」

 

なんか大袈裟に喜ぶ茨ちゃんの後ろから轟がひょっこり顔を出す。2人は3位入賞だから一緒に表彰台に並ぶよって事かな?

 

「おう轟、もう身体大丈夫なの?」

 

「ああ、心配かけた。

お前こそ大丈夫か…その……裸が…」

 

ちょっと顔赤くして目を逸らす轟。茨ちゃんも気まずそうにしてる。

 

「大丈夫じゃね?」

 

「そんな訳ありません!御姉様の裸体があわや全国放送だなんて…なんて辱めを…!」

 

声大きくない?何故私より悲痛な表情なのだ茨ちゃん。

あれ?表彰式だから皆此処に集められたんだよね、爆豪は?

 

「そういや爆豪何処行った?」

 

「爆豪なら念の為リカバリーガールの治療を受けてから来るらしい。

ただまあ、かなり荒れてたが…」

 

「荒れてた?」

 

「本当に野蛮な方です、納得いかないからといってあそこまで暴れるなんて…」

 

「…それだけ勝負に拘ってるのかもな。」

 

二人ともかつてないほど深刻そうな顔をしながら爆豪の安否を語ってる、どういうこっちゃ。

 

 

『よっしゃあ!

色々あったが気を取り直して、表彰式やるゾォ!!表彰選手以外の生徒はスタジアム中央に整列しろォー!』

 

プレゼントマイクの元気な声が控え室のスピーカーから響いたのを合図に、扉をノックする音が。入って来たのはセメントス先生だ。

 

「マイク先生の放送が聞こえましたね?

皆さんはこちらです。さ、移動しますよ。」

 

「はーい、センセーもお疲れ様でした。

主に私のやらかした後始末とか…後始末とか…」

 

「自覚があるなら宜しい。

元気なのはいい事です、君が立派なヒーローになるのを楽しみにしていますよ。」

 

ひらべったい顔で聖人の如くニッコリ笑う先生には頭が上がらんとですよ…

 

 

それはそうと、長かった体育祭もこれで終わりだ。終わりよければすべてよし、祭りの〆くらいちゃんとしよう。才子先輩や店長の見てる前だし、もしかしたらテレビ越しにちー君も壊理ちゃんと見てるかもしれん。

 

2人に格好つかないのは恥ずかしいよね(公開全裸は棚に上げる)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

雄英高校体育祭表彰式、他の生徒達が整列する中表彰台に立つのは、3位入賞の轟と茨ちゃん。そして1段高い場所に立つ私、そして…

 

『■■!!!■■■■■■〜ッ!!』

 

全身を対ヴィラン用拘束具で固められ、口には猿ぐつわ、オマケにセメントス先生特製強化コンクリートの柱に鎖で縛り付けられたうえで竜化した私の咆哮と同じフォントで唸り声を上げる優勝者、爆豪勝己その人である。猛獣かな?

 

「爆豪がどえらい事になってんぞ?」

 

「リカバリーガールに治されてから暴れ回ったんだとよ…締まらねえ1位だなァ。」

 

「鎖が切れたら今にも龍征を襲いそうじゃん…」

 

瀬呂達がボソボソ言ってるのが聞こえた。

ガシャガシャ鎖の揺れる音が耳障りだ。それに私に向かってなんか喋ってるようにも見えるし、なんなんだコイツは。

 

「本当に野蛮な人…」

 

「元気な奴だな。」

 

茨ちゃんは心底呆れたように呟いて、轟は不思議そうに(はりつけ)爆豪を眺めてる。優勝者が厳重に拘束されて登場するという事態に会場も困惑を隠せないご様子。

 

『さあ、表彰式を始めちゃうわよ!

今年メダルを授与してくれるのは…』

 

勿体ぶって溜めるミッドナイト先生の向こう、スタジアムの屋根の上に誰かいる。

 

「ハーっハッハッハッ!!」

 

次いで聞こえるいつもの笑い声。

鳥だ!猫だ!いや、筋肉だ!

 

 

 

『「我たしがヒーダルをもっマイ来たト!!」』

 

 

 

あぁん?なんだって?

 

『被った…ゴメン!』

 

「……」

 

申し訳なさそうに笑うミッドナイトと何とも言えない複雑な笑顔で互いに見つめ合うオールマイト。うん、打ち合わせはちゃんとしよう。

気を取り直して、オールマイトによるメダルの授与式が執り行われた。

先ずは3位の轟と茨ちゃんから。

 

「轟少年、おめでとう!

準決勝、熱い戦いだった。私も思わず胸が高鳴なったよ!」

 

「ありがとうございます。」

 

「ウム!いい顔になった。

多くは語るまいよ。今の君なら大丈夫、成すべきことを為せるはずさ!」

 

「ッ!!はい…!」

 

「続いて塩崎少女、おめでとう!

優勝者相手にあの奮闘、強い子だな君は!」

 

「ありがとうございます。

ですが私などまだ未熟者…更に精進しなくては。」

 

「いい向上心だ、この大会で目標を見つけたようだね。」

 

「…はい。遠く高く、そして尊い目標ですが、いつの日か…あの方の隣に居ても恥じぬ様なヒーローに。」

 

「HAHAHA!!素晴らしい!

頑張れよ、塩崎少女!」

 

「はいっ!」

 

静かに、力強く頷く茨ちゃん。轟は相変わらず無表情だけど、もう憑き物は落ちたしこれでいいのだ。

表彰台を上がり、ガチムチ筋肉が私の前に立つ。

 

「さァ次だ!

準優勝おめでとう、龍征少女!」

 

「あざーっす。」

 

「HAHAHA!こんな時までマイペースかよ君は!

最後はまあ…色々あったが、幸い撮影機器の不調で全国配信は免れたようだ。危なかったね(ボソッ)。」

 

「明日の一面を飾らずに済みましたね。」

 

「ナゼ他人事!?

まあ、それは置いといて…おめでとう!

強いなぁ君は!卓越された炎と熱の操作、自分の個性をよく理解している証拠さ。見事だった!」

 

「理解、ですか…」

 

「?」

 

理解、理解ねえ…

 

「いやなんでも。

オールマイト先生、この際なんで聞いときます。」

 

「む?何でも言ってくれ!」

 

「決勝戦、私を見て、なんて思いました?」

 

「…ッッ!」

 

「別に嫌味とかじゃないんですよ、多分アレ見た人は皆そう思うでしょうし。

ねえ先生。(ばけもの)でもヒーローになれますか?」

 

「ッ勿論さ!優しい君なら立派なレスキューヒーローになれる、自信を持つといい!」

 

笑顔が一瞬揺らいだな…まあいいや。

取り敢えず頭は下げておこう。

きっと彼も、あの時の私を見て一瞬でも『危険』だと感じたんだ。それがヒーローとして正しい反応だ。

 

「やっぱり先生はヒーローですね、どうしようもないくらいに。」

 

「?」

 

「大丈夫ですよ、先生が一瞬でも考えた事は起きませんし、起こさせません。私が残ってる限りはね。」

 

「……ッ済まない龍征少女、私は…」

 

「でも万が一、億が一…明日から突然峰田が品行方正な好青年になるくらいの確率でそうなってしまったら、介錯は貴方にして欲しい。NO.1に倒されるなら本望だしい?」

 

「…………」

 

いかん、冗談のつもりだったのにオールマイトはこの世の終わりみたいな顔してる!

駄目やん!この男のジョークが通じない感じなんなの?ワイドショーじゃ鬱陶しいくらいお茶の間を笑いの渦に巻き込んでたじゃない!

 

「な〜んつって。

ンな事ある訳ねーでしょうが。ホラ早く爆豪のトコいったげて、いつまでも喋ってると贔屓してると思われますよぉ?」

 

「う、ウム…分かった…済まない…」

 

「あとその画風(タッチ)で落ち込まれると軽くホラーなんで止めて下さい。正直言ってキモいです。」

 

「酷いっ!?」

 

まだちょっとだけ引き摺ってるらしいオールマイトはそのまま更に1段上の拘束された爆豪の前へと立った。

 

「さあ優勝者…っと、コレは流石に酷いな。」

 

苦笑いでそう言って、爆豪の顔に着いた○ャギ様のヘルメットみたいな拘束具をがぽっと外すと案の定…

 

「■■■■■■■■ッ!!■■■■■■〜ッ!!!!!」

 

えっ、この声素だったの?

 

「すげぇ顔…!?

と、とにかく!伏線回収おめでとう、爆豪少年!龍征少女との大決戦、見事だったね!」

 

「ンな勝負認められるかッ!!

メダルも要らねえ!他の誰に認められようと…俺が認めてなきゃゴミなんだよ!

テメェもだ龍征ぇっ!!」

 

「んー?」

 

突然わたしに食ってかかる爆豪。

私はそろそろ表情筋がぴくぴくし始めた、今日は外行きの顔をし過ぎてそろそろ限界なのだ。顔が痛い。

…多分明日は顔面筋肉痛だ。

 

「あんな結末認めねエ…もっかい勝負しろオラァ!」

 

「やだよ面倒臭いし。あ、スマ○ラでならやってやらんことも無い。」

 

「小学生かおのれはァーッ!!」

 

ギャーギャー近づく爆豪が煩い

 

「でも良かったじゃん五体満足でさ、触診した時も大した怪我無かったし。」

 

「その話は出すんじゃねぇクソ痴女がァ……ッーーッ!!」

 

なんだ私見て顔赤くしたと思ったら急に大人しくなって、情緒不安定なの?

 

「…思い出しましたね。」

 

「多分な。」

 

「ハハッ!若いな爆豪少年!」

 

「……ッセェよオールマイトォッ!!あと外野!ぶっ殺すぞ!」

 

「このご時世、不変の価値観を持つことは素晴らしい事だ。でも今回のコレは受け取っときな、『傷』として。それがまた君を強くする!」

 

「要らねえって言ってんだろがああああああッッ!!」

 

首で必死に抵抗する爆豪だったけど、最後は口に咥える形でメダルを授与された。

 

 

「さァ御観覧の皆様、今回の勝者は彼等だった!

だが此処に居る誰もが表彰台に登るチャンスがある。新たなる時代の芽は着実に芽吹いているのだから!」

 

そんでオールマイト観客に向けてパフォーマンス。流石平和の象徴、こういうのは慣れてるな。実績もそうだけど、彼の人柄や雰囲気は傍に居るだけで人を安心させる。エンデヴァー見てるか?見習って?

…居たわ、北側の観客席。ビデオカメラ持ってハシャいでる先輩達の横でじっと私を見つめてる。目が合ったわ、怖ッ。何故ぇ…?

 

「そんな訳でぇ…そろそろ〆にしようと思う。最後は皆さんご唱和ください!」

 

ああ、いつものね。ハイハイいつもの。

 

「みんな、いつものよいつもの。」

 

「ええ、あの方と言われれば…」

 

「アレしかないよな。」

 

「チィッ!!言われんでも分かっとるわ!」

 

よし、体育祭の締め括りだ。ビシッと決めようぜぇ。

 

 

せーのっ

 

 

 

 

 

『Plus ultra!!』

「お疲れ様でした!」

 

 

 

 

 

 

 

…は?(威圧)

 

とどろきせんせーい、今空気読まずに「お疲れ様」とか言っちゃったNo.1ヒーローがいまーす!

 

「それ1人に絞られるよな?あと俺は先生じゃねえ。」

 

「細かい事は気にすんな。」

 

 

案の定観客から大ブーイングを浴びるオールマイト、流石平和の象徴はエンターテインメント精神を忘れな…ああ、素でしたか。

 

こうして私達の体育祭は締まらないながらも幕を閉じた。

 

 

 

 

 

 

 

………………

 

 

 

 

「体育祭御苦労だった。

今日の結果を含め、職業体験の行先を集計し後日発表するから楽しみにしとけ。

それと明日から振替休日含め三連休に入るが、しっかりと身体を休めておくように。馬鹿なハメの外し方はするなよ。」

 

体育祭は無事終了、教室に戻った私達は着替えてHRのお時間。

相澤先生の説明を聞くに今日の体育祭の結果で、後日行う職場体験の行き先を募集するらしい。プロヒーローからの将来に対する期待、要は野球のドラフト指名のようなものだ。

一通り説明した後、「じゃ、そういう事で。」と、相澤先生は教室を出て行った。途端に教室内が騒がしくなる。

 

「ああ〜つっかれたあ!」

 

「でも楽しかったね体育祭!」

 

「プロヒーローからスカウトかぁ…決勝進出できた連中はどんくらい来るんだろな?」

 

砂藤がぼやく、それにつられて三奈や透もウンウンと頷いた。

 

「特に爆豪、轟、帝ちゃんなんかはスカウト凄そうだよねえ。」

 

「3人とも大活躍だったもんねー。」

 

しょーじき私が見てもらいたかったのはレスキュー要素なんですがね…体育祭のルール的に戦闘面を評価してるんだろか?

私的にはバックドラフトとかワイプシからスカウト掛かってると嬉しいなぁ。

バックドラフトは火事場の得意なレスキューヒーローだし、ワイプシは山岳救助を中心に活躍するヒーローだ。あとラグドール可愛い。すこなのよね。

 

「つーかよ、こんだけ頑張ったんだから打ち上げとかやりてーよな!」

 

「お!いいねーそれ!」

 

お祭り大好き上鳴に三奈が乗っかって、クラスは大盛り上がり。

いいんでない?そういうの高校生っぽくて好きよ。

 

「ええねええね!」

 

「打ち上げ…(わたくし)そういうの初めてです!」

 

なんか百がぷりぷりし始めたぞ。

 

「会場とかどうする?カラオケにしても予約とか必要だし…」

 

「あ、じゃあウチ使う?」

 

「「へ?」」

 

「私の家、店長に連絡して許可貰えば明日辺り貸し切りにできるかも。20人程度なら店に入るし、外に行くよりお金掛からないよ。」

 

中学生時代よく生徒会の連中と打ち上げとかやってたし、場所の提供は慣れっこだ。

そう言いながら私は店長のスマホにメッセージを飛ばし確認を取ってみる。

 

 

 

ミカド▶お義父さん、明日友達呼んで体育祭の打ち上げしたいから店貸し切りとかできない?

 

 

ほい送信っと…返事が返ってくるまでちょっと待t

 

ピロリン♪

 

 

…早いな。

 

 

 

 

アラフィフ▶いいネ!(・∀・)b明日は夜しか開ける気無かったし、昼間は自由に使って構わないヨ。

体育祭御苦労サマ!( ^ω^ )

 

 

 

「……ん、許可取った。

準備しなきゃいけないから、明日の昼からでいいか?。」

 

「帝ちゃんすごっ!!」

 

「龍征マジで!?手ぇ早すぎんだろ!

よっしゃじゃあ龍征んトコで決まりな!

お菓子とか持ち寄ろうぜ!参加者は〜…」

 

トントン拍子で話が進んでく。

 

「…チッ、下らねえ。」

 

「あ…おい爆豪!」

 

そんな中、舌打ちした爆豪はさっさと帰ってく。そんな彼を追う切島にこっそりアイコンタクトを送っておいた。

私の考えを察してくれたようで、切島はニッと笑って爆豪を追い掛けてく。ま、切島なら大丈夫でしょ。

 

「じゃあ明日の昼、龍征ん家に集合な!

詳しいこたぁクラスのグループトークで連絡頼む!」

 

「轟はどうする?」

 

「…明日は行く所がある、昼過ぎからなら合流できるかもしれない。」

 

「そっか、待ってる。いっぱいお母さんと話してきなよ。」

 

「ああ。」

 

「それと、番号交換しようぜ。もしもの時の連絡用に。」

 

「……?そうか、ケータイか。

悪い、使わねえからやり方分からねえんだ。」

 

まじで?このご時世、ケータイの使い方分からない高校生とか轟くらいじゃないのかな?

しょうがないから轟のケータイを貸してもらった。

うわ、ホントに手ぇ付けてない。ホーム画面もアイコンも初期画像のままじゃん。保護シール貼ったままだし新品同然じゃない。

 

「SNSも入ってないのか…こっちで入れてもいい?」

 

「好きにしてくれ、龍征のと同じ奴を入れてくれればいい。」

 

「はいよっと。」

 

手頃なアプリを落としておいて轟にアドレスやら名前やらを登録させた後、私のアドレスとクラスのグループトークを記録させておいた。

 

「つーか今までクラスのグループトークに轟が居なかったのって、機械音痴だったから?」

 

「悪い、特に興味も無かったからな。」

 

「花の高校生がそれはマズイでしょ…最近の映画やゲームの話題とか、知ってれば話のネタになるし楽しいよ?」

 

「そうなのか…?」

 

「そうなのだよ。試しに緑谷にオススメの映画とか聞いてみなよ、ついでにアドレスも聞いてさ。やり方はさっき教えたでしょ。」

 

「分かった。」

 

そのまま席を立ち上がった轟は緑谷の方へ歩いて行って、話し始めた。チラっとこっちを見てきた緑谷に無言で親指を立てておいて、私も席を立つ。

 

「もうお帰りになられますの?」

 

「んー、明日の準備あるし。

それにちょっと疲れちゃったから、今日はさっさと帰って寝る。百もお疲れ様。」

 

「お疲れ様でした。

明日、宜しければ早めにそちらに行ってお手伝いしましょうか?」

 

「そういう話ならウチも手伝うよ。」

 

「まじ?助かる〜、じゃあ来る時連絡してね。」

 

 

おお、持つべきものは心の友よ…

 

 

 

…そういえば、体育祭の途中から飯田の姿が見えなくなってたけどどうしたんだろう。連絡した方が良いのかな?

 

 

 

 

 

 

 

 








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23 体育祭エピローグ2

後半



原作改変あるから注意


 

時刻は午後9時半を過ぎた頃、とある屋敷の一室で、2人の男女がテレビの画面と向き合っていた。男の方は長身に赤みがかった黒い髪の青年、その横には白い髪におでこに伸びた角が印象的な少女がちょこんと座り、その視線の先、46Vの大画面には赤と白の水玉模様をしたパジャマを着こなす帝が映っている。

 

 

『そんでなー、明日は皆で打ち上げする事になったんだ。』

 

「へえ、そうなのか。

なら壊理と顔を出すのは別の日にしよう。」

 

『遊びに来るつもりだったの?ごめんね壊理ちゃん。』

 

「ぜんぜんいいよ、みー姉ちゃん。

それよりも、大会準優勝おめでとー!かっこよかったよ!」

 

『……』

 

「あ、あれ?みー姉ちゃん?」

 

『壊理ちゃん…しゅき…結婚しよ……』

 

「な、泣いてる!?」

 

「ほっとけ壊理、いつもの事だ。」

 

 

 

 

 

死穢八斎會、その名が裏社会で名を馳せたのは今は昔の話。『個性』の発現から幾数年、超常が日常となった昨今では、ヒーローとヴィランが『善』と『悪』の台頭として挙げられる。そんな中、オールマイトを始めとするヒーロー達によって古い悪の象徴であった裏社会の住人達、早い話が暴力団やヤクザ等の組織は徹底的に淘汰され、昨今ではその存在すら殆ど知られない天然記念物と化していた。

そんな現状を憂う者、昔ながらの極道を貫く死穢八斎會の若頭である治崎廻は組の立て直しを図る為、自身の父親代わりでもある組長をその手に掛け、更に『巻き戻し』という危険な個性を持つ娘、壊理を使って非人道的な実験を繰り返す……

 

というお話が世界の何処かに存在し、進んでいくのだが、この物語では少し違っていた。

 

 

 

『任侠』を重んじる死穢八斎會、その組長にはある友人がいた。

「なーに、ボクに掛かれば世界征服の1つや2つ!ワハハハハハ!」と自慢の髭を撫で笑いながら豪語する彼(御年57歳)は、組長から相談を持ち掛けられるや否や独自のコネクションを駆使し、慣れた手際であっという間に組織存続の為の財源を確保した。やり方は限りなくグレーかつ合法スレスレ、なのに警察や公安に表立った証拠は一切残さない手際の良さは、治崎をして「なんでこんな奴が堅気やってんだ…」と言わしめるほど。

彼の行う様々な働きかけと組長の努力が功を奏し、組織は水面下で急成長を遂げ今では表舞台にこそ上がらないものの、死穢八斎會は裏社会でも随一の地位を獲得している。

 

悪は悪でもヴィランではなく『侠客』として

 

この超常社会でも真の『極道』を貫く大組織、それが今の死穢八斎會だ。

 

そんな組織の若頭である治崎と1人の少女は彼等によって引き合わされた。

 

『初めまして、龍征帝です。』

 

『…治崎廻だ。』

 

友人の子供同士の付き合い。

馴れ初めは淡白なものだったが、なかばコミュニケーションに困った治崎が気分転換にゲームセンターへ連れて行ったのを皮切りに帝とは友好な関係を築く様になった。

壊理を組長が引き取ってからは帝が積極的に彼女の世話を焼き、治崎もそれに付き合わされる、なあなあで過ごすうちに今では家族同然の間柄。

壊理の個性を制御できるように特訓したり、潔癖症の治崎を少しでも改善させようと奮闘したり、組の者達とのコミュニケーション等、出会って僅か3年程ではあるが死穢八斎會と龍征帝は親密な関係にあった。

 

『つーかごめんねなかなか連絡出来なくて、雄英に入学してから色々忙しくてさ。』

 

「お前から連絡が無くても組に影響はない。」

 

『すぐそういう事言う〜。

壊理ちゃんは寂しかったよね?ね?』

 

「うん!みー姉ちゃんが居ないと『げーせん』行っても楽しくないし。お兄ちゃん直ぐサ○ットでぼこぼこにするんだもん…」

 

『うわー、ちー君ってばいたいけな6歳児を格ゲーでボコすとか引くわ。』

 

「英才教育だ。」

 

『全然反省してねえ…待ってな壊理ちゃん、今度みー姉ちゃんのサイコパワーでメタクソに負かしてやる。』

 

「待ってる…!」

 

テレビ電話越しにお互いガッツポーズするパジャマ姿の2人、それを見た治崎は呆れた様にため息を吐いた。

 

「はァ…もう夜も遅い、壊理はそろそろ寝ろ。

俺はもう少し帝と話す事がある。」

 

「うー…まだみー姉ちゃんと話したいのに…」

 

「…寝ない悪い子は多部の所に連れて行くぞ?(ボソッ)」

 

「…!おっおやすみなさいみー姉ちゃん!

またお兄ちゃんと遊びに行くね!」

 

治崎が小さく耳打ちした途端、顔を青くした壊理はそそくさと部屋の襖を閉め去っていった。同じ組の人間でも苦手な人はいるらしい。

 

『はーいおやすみー。

…っと、そんでちー君どうよ。あれから少しは潔癖症マシになったの?』

 

「取り敢えず触られても蕁麻疹は出なくなったよ、知ってる奴限定だがな。」

 

『おお、いーじゃんいーじゃん。潔癖症って一種の強迫性障害らしいからね、あとちー君完璧主義で几帳面でストレス溜めた心配性だし、そういう人はなりやすいらしいよ?』

 

「…ほっとけ。そんな事よりも、だ。

体育祭、組の連中と見ていたぞ。まだヒーローなんて下らねえモン目指してんのか。」

 

『下らねーとはなんだこの野郎。』

 

「前にも言ったろう、ヒーローなんて所詮自己満足でしかない。」

 

『誰かを助けたいって思う事の何が悪いのさ。』

 

「お前は楽観的過ぎる。

表の連中は脆弱で、そのくせ日が当たっている分裏よりも残酷だ。」

 

『…ちー君が思ってるより人間は強いよ。

私は誰かの為に自分の力を使いたい。ちー君だって、組長さんの為に頑張ってるじゃん。それと一緒。』

 

「家族と赤の他人じゃ話が違う。」

 

『一緒だよ、心を許せる幅が違うだけ。

私は化け物だけど…困ってる誰かを助けられるって知ったから。力を必要としてくれてる人がいるなら「止めろ、俺の前で自分をそう呼ぶなと言ったろ。」うぇ…ごめん…』

 

「はァ……自己評価が低いのは相変わらずか。

お前は今日の体育祭で衆目に晒された。世間の目に留まった以上、良かれ悪かれ品定めされるだろう。大衆に受け入れられるにしろそうでないにしろ、ヒーローの卵という免罪符がお前を護ってくれる。

だがそれ1つだけだ、それすら無くなった時自分がどうなるか分かってんのか。」

 

『……ん、分かってる。』

 

ヒーローを育成する名門校に所属する生徒、それだけで帝の感じる世間の風は信じられない程に優しくなっていた。

身に感じる所で言えば、登校中のバスの中。餓鬼道の制服だと自分の周囲には避けられるようにぽっかりと空間ができ、周りの客はろくに目を合わせてくれなかったのに、雄英高校の制服を着る様になってからは全く知らない人にまで声をかけられるようになった。

この露骨なまでの対応の差、如何に雄英の評判が影響を与えているかが窺えるだろう。

勿論相応しい品格を求められる時もあるが、今まで雄英高校が築き上げてきた評判が所属する生徒達にも反映され、自動的に雄英生=『いい子』というレッテルを張られている。

実際の所、喧嘩っ早くてプライド激高の爆発少年とか、助平なブドウとか玉石混交ではあるものの「雄英生だから」という世間の風潮が彼等の評価を底上げしている現状だ。

 

『餓鬼道の頃とは比べ物にならない高待遇で私ってば涙ちょちょ切れちゃうね。』

 

「身に感じるなら分かるな?

…お前が世界に潰されるなんて見てられん。」

 

『ちー君優しい、ヤクザなのに。』

 

「煩い…俺が言いたいのはそれだけ。

今日はもう寝ろ。明日は学友と打ち上げなんだろ?

学生の身分でしか出来ねえ事もある、後悔はするな。」

 

『うん、ありがと。おやすみちー君。』

 

「ああ、おやすみ。」

 

寂しげな帝の笑顔を残してモニターは暗転する、電源が切れたのを確認して治崎はまた深く大きなため息を吐いた。

 

 

社会の闇を知る裏の住人だからなのか、彼は帝が雄英に入学する前からずっと、ヒーローに否定的だった。そして『個性』についても、治崎は病気とさえ思っている。

 

(皆『病気』なんだよ、お前も俺も。)

 

幼い頃芽生えた感情は日に日に大きくなり、組に拾われた今でも心の奥で燻っている。

 

ヒーローを目指してる間はまだいい。だかもし大きな挫折や外的要因に襲われて、龍征帝が世界に拒絶された時、自分を化物と貶める彼女を誰が救ってくれるのだろうか。

 

「…だからお前は(ウチ)に来るべきなんだ。」

 

ヒーローには救えない、()()が出来るのは裏社会に生きる自分だけなのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…お前らコソコソ何やってる。」

 

 

「「「「ギックゥッッ!?」」」」

 

 

襖の奥を睨み付けると、バタバタと音を響かせながら4人の男達が転がり出てくる。彼等は皆治崎の側近、若頭である彼を警護する親衛隊だ。

 

「ああ…こりゃあですね。

お嬢が先にお部屋に戻ったのに若旦那だけ戻らなかったので心配で…」

 

そのうち針の様に特徴的な前髪をした男、玄野がわたわたとまくし立てるが、それを一瞥した治崎は一言。

 

「…真本。」

 

「はっ!『玄野、何故隠れていたか言え。』」

 

「そりゃあもう!中々帝嬢ちゃんに想いの丈を伝えられない若旦那がいじらしくていじらしくて、どう組長に相談したもんかと(バツンッ)あべしッッ!?」

 

間抜けな声を上げた玄野の身体が一瞬で分解され、また一瞬で元通りに復元される。

治崎の個性、『オーバーホール』。触れるだけで『分解』と『修復』が可能な能力だ。当然分解される際相応の痛みが伴うが、流石裏の住人達、ツッコミ感覚で生死の境を彷徨うのもお手の物。命が安い。

 

「覗いてたお前らも同罪だ。」

 

「「「ひぇっ」」」

 

その夜、死穢八斎會の屋敷に男達の悲鳴が響き渡った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

オールマイト赴任や授業中のヴィラン襲撃など不測の事態の多い学期の始まりだったが、雄英体育祭も無事全て終了。生徒達が皆下校した後で、教師陣は後片付けに追われていた。

後片付けといっても力仕事などの作業は殆ど業者任せで、彼等がしなければならないのは本日の反省や改善点の協議など務的な処理になる。

 

本校舎のとある階では、長方形に並べた机に腰掛ける教師達が反省会も兼ねて会議の場を設けていた。もちろんその中にはトゥルーフォームのオールマイトも交じっている。

 

「じゃあ、今日の反省会始めよう。

といっても皆疲れているだろう、サクサクっと報告宜しくね。」

 

「はい、では私から…」

 

校長、根津の言葉に従い、一人づつ席を立ち報告していく。そして次は包帯だらけの相澤の番だ。

 

「では私の方から…

例年通り生徒達は大会を通し互いに切磋琢磨し、力を付けています。特に決勝トーナメント出場者は、今大会で多くのプロヒーローの目に留まった事でしょう。」

 

「だなァ!終わった後直ぐからスカウトの電話がモリモリ止まらねえぜ!」

 

「確認してる分じゃ既に1000件を超えている生徒もいるわ。今年は大豊作じゃない。」

 

嬉しそうにそう言うプレゼントマイクとミッドナイトを横目に、相澤は続ける。

 

「期待度が高いのもいいが、それだけヴィランにも目を付けられる可能性が高いという事だ。」

 

「確かに相澤君の言う通りだ。

特に1年生は職場体験を控えてる。

現場の空気を直に感じるのは確かに生徒にとっても大切だけれど、それ以上に彼らの身の安全が第一さ。」

 

「こちらとしても職場体験の候補には目を通し、事前に打ち合わせ等も行っていますが、今年はオールマイト赴任、先の襲撃事件もあり、よりヒーロー事務所と緻密な連携をとる必要があります。それと…」

 

急に歯切れの悪くなった相澤に皆が首を傾げる中、リカバリーガールだけはぷんすか怒り、相澤に催促する。

 

「なんだい勿体ぶらずに早く言いな!

ここに居る連中も大体の予想はついてるよ!」

 

「はァ………龍征帝についてです。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『先生、(ばけもの)でもヒーローになれますか?』

 

 

相澤君の告げる言葉で彼女の事を思い出す。

龍征帝、金髪と紅い瞳の印象的な1年生だ。前に個性の説明を口頭で伝えられてからあの姿を見るのは初めてだったが…凄まじいな。

あの龍が現れた瞬間、反射的にマッスルフォームにならなければという悪寒にも似た直感を感じた。過去に奴と対峙した時のような圧倒的な存在感、全身に走る緊張は思い出すだけで背筋に冷たいものが走る。

それと、彼女の全裸が全国放送されなくてホント良かった!

 

「決勝戦の件かい?」

 

「アレはまあ…こちらの配慮が足りなかったせいでもあります。何故かは知りませんがあの瞬間のみ全局のカメラが一斉に機材トラブルを起こし、痴態は晒されることはありませんでした。」

 

「それについてこちらかも報告がある。警備のプロヒーローからはメイド服姿の女性が目撃されていた、その女性は『印照財閥の者だ』と警備に説明していたそうだ。」

 

「恐らく彼等が動いたんでしょうね、龍征さんは印照家と縁がある。」

 

「カメラについてはあちらさんが手を回し、尻拭いしてもらった形になります。

そしてコッチが本題なんですが…今日の体育祭、ヒーロー公安委員会の方もトーナメントを観覧していました。随分と龍征にご執心の様です。」

 

「……それは何故だい?」

 

「会話の中で明言こそされませんでしたが、少なくとも彼女を見定めている様子でしたね。

龍征帝が『益』なのか『害』なのか。」

 

ヒーロー公安委員会…雄英高校のパトロンでもある国家公認のヒーロー支援団体か。個性が容認された超常社会において、国の平和を護るための重要な後ろ盾だ。そして危ういバランスで保たれている超常社会の均衡を守る組織でもある。

彼女が雄英に入学する際、最終的なゴーサインを出したのはヒーロー公安委員会。本来なら書類選考の時点で落選の決まっている餓鬼道生から排出された唯一の例外が龍征少女なのである。目を付けられるのはある意味当然か…

 

「品定めかよ、毎年の事ながらムカつく連中だなァ。」

 

「滅多な事を言うものではありませんよマイク先生。」

 

「…先輩は彼女についてどう思います?」

 

「ヒーローになる素養あり…あり過ぎて困るくらいだ。

個性、実力共に問題無し、精神面も安定している。怠け癖があるのが玉に瑕だが、人当たりの良さは他の生徒を活気づかせる起爆剤となり得る。表立ってリーダーシップを取るより細やかな気配りの利く裏方で活躍するタイプだ。レスキューヒーロー志望というのも龍征のそんな性格に起因するものだろう。

だがしかし、それに相反する様に攻撃的な強個性。『帝征龍』が自身のコンプレックスとなっているようだ。」

 

「正に『陰の女番長』って感じね。」

 

ミッドナイト君が青春だと何やら悶えているが、概ね私の評価も相澤君と同じ感じだ。

強個性『帝征龍』を持ち、4匹の小型翼竜を使いこなす。更に自分の力がその身に余ると理解し、恐れているね。表彰台で見せた彼女の表情からはそういった印象を受けた。13号君のファンなのは彼と自分の境遇を重ねているからなかな?どちらにせよ、肉体的にも精神的にも高校一年生とは思えない程大人びている少女だ。

 

「ソンナ彼女ヲ監視トハ、公安ハ何ヲ企ンデイルノヤラ。」

 

「初の不良校出身の雄英生徒だから、という訳でもなさそうだが…

今更心配になったか?最終的に入学許可を出したのは公安の方だろうに。」

 

エクトプラズム君とスナイプ君が半ば呆れたように呟く。

ヒーロー公安委員会は雄英のパトロン、つまり雄英側は公安の意見をある程度汲まなければならない。その矢面に立たされるのが根津校長になるのだが、彼の気苦労は計り知れないな…

そして龍征少女を監視するのにはなんの意図が…?

 

国家機関がわざわざ目を掛ける程の『何か』が彼女にはあるのか?

 

「何にせよ、今後は龍征帝と共に我々雄英高校も公安からより注目される事になる。校長にはそれを踏まえておいて頂きたい。」

 

「うん、分かった。こちらも注意しておくよ。」

 

そう告げて相澤君は席に着く。その後も先生方による報告は続き、そして最後は私の番だ。

 

「それじゃあ最後はオールマイト、君に纏めて貰おうかな。」

 

「は、はい。

と言っても、私には労いの言葉を掛けるくらいしか出来ませんが…教育者としての立場では皆さんの方が上だ。

ともあれ、今年の1年生。特に決勝トーナメントに残った16名の活躍は目覚しかった!私も思わず声を上げる一戦も多々ありましたよ。

願わくば金の卵達が無事孵り、立派なヒーローとして巣立って行くのを楽しみにしている次第です。」

 

トーナメントまで勝ち抜いた16名、その中から私がメダルを掛けた4名、そして緑谷少年…

当初の目的とまではいかないが、充分にアピールできたと思う。スカウトの数は自信にも繋がる為、彼に何処まで票が入るか期待しているが果たして?

 

「最後は締まらなかったケドな。」

 

「うぐっ!?それは…申し訳ない。」

 

「反省してます…」

 

ニヤニヤするマイク君の横で私と共に項垂れるミッドナイト君。

もっとちゃんと打ち合わせして、被らないようにすれば良かったなぁ…それと…うん。

 

「『お疲れ様』で良いかなって、思ったんだよ…ウン…」

 

「ま、来年頑張りましょう。」

 

セメントス君のフォローが心に刺さる!

 

 

 

 

来年、か…その時まで私は、今のままでいられるのだろうか?

 









ネットの反応編はもうちょいで完成するから待って


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24 ネットの反応:【雄英体育祭編】



京都アニメーション火災を受けて、ショックで軽く寝込みました。
学生の頃から「けいおん!」や「日常」等多くの作品で楽しませてもらっていたアニメスタジオが放火被害にあい、かつ35名もの優秀なクリエイターの方々が亡くなられてしまった事が今でも信じられません。
犯人に対する怒りや、マスコミによる過剰な取材行動に憤りを感じているものの、今は喪失感の方が上回っています。
被害にあった京アニスタッフの皆様におかれましては、今はゆっくりと静養して頂いて、再び世界に誇る京都アニメーション作品が世に出るのをいちファンとして心待ちにしている次第です。

なんかもう、おじさん辛いや…





あ、本編始まるよ




777ちゃんねるニュース速報+

Channel News Navigator

 

 

▼『雄英高校体育祭、結末が衝撃的過ぎる件www』

 

 

☆ーーーーーーーーーーーーーーーー☆

 

その他の掲示板はコチラ↓

 

▼オールマイト七不思議、8つ以上ある説

 

▼最近ウワサのペストマスクしたヴィジランテ集団について考察する

 

▼ブリテン島で見つかった古代人の遺骨、変身能力の個性保有者だった件。DNA鑑定で判明し議論広がる

 

▼【保須市速報】ヒーロー殺し、未だ逃走中。次の犠牲者はインゲニウム

 

▼エンデヴァーの娘さん、可愛すぎるんだがwww

 

 

☆ーーーーーーーーーーーーーーーーー☆

 

 

【雄英体育祭】結末が衝撃的過ぎる件についてwwwその他体育祭振り返り板

 

 

◆0001 名無しの姫ちゃん@進捗駄目です

 

脱げた

 

 

 

◆0002 名無しさん@一周年

 

は?

 

 

◆0003 名無しさん@一周年

 

嘘板乙

 

 

◆0004 名無しさん@一周年

 

どーせアレだろ、3年の脱げ男。壁すり抜けるモブ顔筋肉君

 

 

◆0005 名無しの姫ちゃん@進捗駄目です

 

ちゃうで、1年やで

しかも女の子や

 

 

◆0006 名無しさん@一周年

 

>>0005 kwsk

 

 

◆0007 名無しさん@一周年

 

チケット手に入れた勝ち組ワイ、現場で見たゾ

変身個性持ってる女の子がリングのど真ん中で全裸になって、会場内大パニック

 

 

◆0008 名無しさん@一周年

 

事案かな?

 

 

◆0009 名無しさん@一周年

 

1年の部の決勝戦な、テレビ勢だけど最後の所だけniceboatされてたのはそれのせいか

生放送なのによく切れたよな

 

 

◆0010 名無しさん@一周年

 

雄英バリアー!(電波妨害)

 

 

◆00011 名無しさん@一周年

 

全局一斉に映像が落ちたらしいぞ

 

 

◆0012 名無しさん@一周年

 

何故写真が1枚も上がらないのか…

ちな脱げた子ってどんな子なん?

 

 

◆0013 名無しさん@一周年

 

>>0012

お巡りさん此奴です

 

 

◆0014 名無しさん@一周年

 

>>0012

通報した

 

 

◆0015 名無しさん@一周年

 

>>0013 >>0014

なんでや!ただ気になっただけやろ!

 

 

◆0016 名無しの姫ちゃん@進捗駄目です

 

ホームページに選手一覧載ってるで

htpp.yuueikoukouHP@.jp

 

 

◆0017 名無しさん@一周年

 

1年だけで11クラスもあるやん

 

 

◆0018 名無しさん@一周年

 

>>0017

決勝トナメまで勝ち残ったのは16人、2人除いてヒーロー科だぞ

エンデヴァーの息子も今年1年だったハズ

 

 

◆0019 名無しさん@一周年

 

>>0018

なおその子はエンデヴァーJrにすら勝って決勝で脱げた模様

 

 

◆0020 名無しさん@一周年

 

痴女かな?

 

 

◆0021 名無しさん@一周年

 

ナイスゥ!(ナイスゥ)

 

 

◆0022 名無しさん@一周年

 

金髪赤目の子だろ?可愛いよな

 

 

◆0023 名無しさん@一周年

 

予選2位、騎馬戦トップ通過のエリート様やぞ

しかも美人

 

 

◆0024 名無しさん@一周年

 

>>>>picture/JPEG

 

こマ?くっそ美人やん、抱ける

 

 

◆0025 名無しさん@一周年

 

>>0024

この子が…全裸だと…?(昇天)

 

 

◆0026 名無しさん@一周年

 

>>0025

開会式の映像切り抜きか?

胸でけぇ…最近の子は出るとこ出てんな

 

 

◆0027 名無しさん@一周年

 

隣のポニテの子も同じくらいあんな、こっちの方が好みだわ

ヒーローなったら貢ぎたい、いや貢ぐ(確信)

 

 

◆0028 名無しさん@一周年

 

大 小 大

 

 

◆0029 名無しさん@一周年

 

胸 囲 の 格 差 社 会

 

 

◆0030 名無しさん@一周年

 

おい止めろ、間に挟まれてるイヤホンちゃん泣いちゃうだろ。

 

 

◆0031 名無しさん@一周年

 

ポニテの子はエンデヴァーJrと一緒の推薦入学者らしいぞ

苗字も八百万だし、良いとこのお嬢様だ

 

 

◆0032 名無しさん@一周年

 

現場勢ワイ、その3人が仲良く話してるところ見た

やっぱJKは最高やなって

 

 

◆0033 名無しさん@一周年

 

なんだこの板は変態しか居ないのか?

 

 

◆0034 名無しの姫ちゃん@進捗駄目です

 

何を今更

 

 

◆0035 名無しさん@一周年

 

YES JK No Touchは紳士の嗜みゾ

 

 

◆0036 名無しさん@一周年

 

たまげたなあ…

 

 

◆0037 名無しさん@一周年

 

つか今年の雄英ヒーロー科女子のレベル高杉な件、私的には芦戸ちゃんが推しなんだがお前らどうよ?

 

>>>>yuueipicture/JPEG

 

 

◆0038 名無しさん@一周年

 

>>0037

は?正統派金髪美女である帝様一択だろJK

なじられたい

 

 

◆0039 名無しさん@一周年

 

>>0037

爆発野郎相手に奮戦したお茶子ちゃん

地味系可愛い、健気で応援したくなる

 

 

◆0040 名無しさん@一周年

 

>>0037

B組の茨の子も忘れんじゃねぇぞ…俺は忘れねえからよ…塩崎ちゃん

 

 

◆0041 名無しさん@一周年

 

唐突なオルガニキ早く成仏して?

 

 

◆0043 名無しさん@一周年

 

サラッと帝様呼びしてて草

まあアレだけ活躍すれば一定の人気は得られるだろうな

学生の頃から既にファン(特殊)を獲得しているヒーローの鏡

 

 

◆0044 名無しさん@一周年

 

>>0043

帝ちゃんにその層のファンは要らない(無慈悲)

 

 

◆0045 名無しさん@一周年

 

>>0037

イヤホンちゃん、耳郎だっけ?

好きなんだけど両隣のせいで胸にしか目がいかん

 

 

◆0046 名無しさん@一周年

 

無条件で胸を比べられる耳郎ちゃん可哀想

 

 

◆0047 名無しさん@一周年

 

>>0037

葉隠透ちゃんに可能性を感じる

 

 

◆0048 名無しさん@一周年

 

可能性の獣

 

 

◆0049 名無しさん@一周年

 

↑は多分淫獣だからさっさと殺処分されて、どうぞ

 

 

◆0050 名無しさん@一周年

 

というか身体透けてるのに美人かどうかなんてどうやって判断しろと

 

 

◆0051 名無しさん@一周年

 

>>0050

体操服でボディラインは見えてるやろ?後は妄想で補完しろ

 

 

◆0052 名無しさん@一周年

 

>>0051

殺処分不可避

 

 

◆0053 名無しさん@一周年

 

>>0051

なるほどな(徐に引き金を引く)

 

 

◆0054 名無しの姫ちゃん@進捗駄目です

 

うら若き女子高生に劣情を催すとか万死に値するんだよなあ…

 

 

◆0055 名無しさん@一周年

 

>>0054

んな事言ったら昼休みに女子騙してチアコスさせた淫乱ブドウはどうしろと

 

 

◆0056 名無しさん@一周年

 

二階級特進

 

 

◆0057 名無しさん@一周年

 

雄英に紛れ込んだ異物を許すな

 

 

◆0058 名無しさん@一周年

 

辛辣で草

 

 

◆0059 名無しさん@一周年

 

邪 淫 マ ス カ ッ ト

 

 

◆0060 名無しさん@一周年

 

>>0059

申し訳ないが汚ねえ名前で岡山の名産品を穢すのはNG

 

 

◆0061 名無しさん@一周年

 

今年の1年は強固性多いよな

爆発小僧に炎と氷の両刀使い、身体壊すがオールマイトレベルの超パワー、万物創造に巨竜になれる…流石天下の雄英様

 

 

◆0062 名無しさん@一周年

 

>>0061

まるで強固性のバーゲンセールだな…

 

 

◆0063 名無しさん@一周年

 

裏山、ワイなんて腕の関節1個多いだけやぞ

 

 

◆0064 名無しさん@一周年

 

>>0063

突然の地味個性暴露に草を禁じ得ない

ええやんリーチ伸びて

 

 

◆0065 名無しさん@一周年

 

小中高の間、あだ名がずっと「手長族」か「ランキーコング」だった()

 

 

◆0066 名無しさん@一周年

 

www

 

 

◆0067 名無しさん@一周年

 

wwwwww

 

 

◆0068 名無しさん@一周年

 

ランキーコングってwwwwなつかしwww

 

 

◆0069 名無しさん@一周年

 

ラ ン キ ー コ ン グ っ て 知 っ て る ぅ ?

 

 

◆0070 名無しさん@一周年

 

>>0061

影のモンスター出す奴も強いだろ

 

 

◆0071 名無しさん@一周年

 

>>0070

常闇だっけか

確かに強いんだけどなんつーかな、彼の言動の所々に刺さるものが…

 

 

◆0072 名無しさん@一周年

 

>>0071

止めろ、それは俺に効く

止めてくれ…

 

 

◆0073 名無しさん@一周年

 

>>0071

 

✝︎黒影❮ダークシャドウ❯✝︎

 

 

◆0074 名無しさん@一周年

 

>>0073

ヤメロォ!

 

 

◆0075 名無しさん@一周年

 

やっぱ帝ちゃんだろ

強くて可愛い、リューキュウとは違うタイプのドラゴンになれる、あとエロい

 

 

◆0076 名無しさん@一周年

 

炎吐けるし身体は強いしオトモも連れて巨竜になれるとか、前世でどんだけ徳を積んだらあんな強固性になるの?

 

 

◆0077 名無しさん@一周年

 

それに加えてあの美貌だもんな…ヒーローになれば絶対人気になるぞ

既にウワバミの事務所とかからスカウト来てそう

 

 

◆0078 名無しさん@一周年

 

でも餓鬼道出身

 

 

◆0079 名無しさん@一周年

 

>>0078

そマ?

 

 

◆0080 名無しさん@一周年

 

超絶不良校じゃないですかやだー

 

 

◆0081 名無しさん@一周年

 

>>0078

ワイ餓鬼道出身、帝会長は俺らの代から3年間ずっと生徒会長やったで

というか生徒会メンバー全員ヤバい連中しか居なかったわ

 

会長 喧嘩負け無し、餓鬼道の女帝

 

副会長 常に帯刀してる人斬り女

 

会計 暗器使いの現代忍者

 

書記 回復個性持ち、唯一の癒し

 

顧問 ザンギ○フ

 

当時会長と書記は3年生、会計と副会長は2年生や

 

 

 

◆0082 名無しさん@一周年

 

>>0081

なんだその王道少年漫画の四天王みたいな生徒会、逆に見てみたいわ

 

 

◆0083 名無しさん@一周年

 

>>0081

おい顧問www

 

 

◆0084 名無しさん@一周年

 

>>0081

最後で笑かしに来るなや

 

 

◆0085 名無しさん@一周年

 

昔帝会長が顧問をうっかりそう呼んでから定着してしまった、因みに生徒指導の先生やで

 

 

◆0086 名無しさん@一周年

 

乱闘騒ぎなんて起こそうものならもれなく全員赤い竜巻に飲み込まれそう

 

 

◆0087 名無しさん@一周年

 

さっきから帝ちゃんのプライバシーが息してなくて草、まあいずれわかる事だしかなりボカされてるから大丈夫か

板消されたら負けって事で

 

つか餓鬼道って都内でも有名な不良校だったよな?いつからそこまで愉快な学校になったんだ…

 

 

◆0088 名無しさん@一周年

 

なんだかんだ帝会長が頑張ってたんだよ

暴徒の鎮圧もそうだけど、誰にも認められずにグレてた連中に会長だけが親身になって話聞いてくれて、理解してくれてた

かく言う俺もそんな彼女に救われた中卒底辺の1人

 

 

◆0089 名無しさん@一周年

 

>>0088

ええ話や…

 

 

◆0090 名無しさん@一周年

 

帝ちゃんは龍じゃなくて菩薩だった…?

 

 

◆0091 名無しさん@一周年

 

ますます好きになったわ

幼なじみの帝ちゃんに朝起こしてもらいたいだけの人生だった(27歳独身並感)

 

 

◆0092 名無しさん@一周年

 

テレビじゃ餓鬼道出身のヴィランが捕まったってしょっちゅう言われてるのにな、ええ子や帝ちゃん

 

 

◆0093 名無しさん@一周年

 

逆だよ、捕まったヴィランが餓鬼道出身だったら優先的に発表されてる

汚い流石マスゴミ汚い

 

 

◆0094 名無しさん@一周年

 

>>0093

連日報道続けるもんな、先日のオールマイト赴任インタビューとか、雄英生を執拗く追い回してる動画がツミッターに上げられてた

最後の雄英バリアーで笑ったけど

 

 

◆0095 名無しさん@一周年

 

なんにしても帝会長がヒーロー目指してるってのは餓鬼道の連中にとっても良い事だよ

実際彼女の活躍で餓鬼道からヴィランに堕ちる連中も減ってるし、希望になる

これは3年間で統計取ってるからガチな

 

 

◆0096 名無しさん@一周年

 

0095が帝ちゃんガチ勢な件

 

 

◆0097 名無しさん@一周年

 

これは帝ちゃん専用板を作る必要がありそうだな

それよりもワイは体育祭後の雄英生の動向が気になるんじゃが?じゃが?

 

 

◆0098 名無しさん@一周年

 

例年通りだと次は職場体験か

喜べお前ら、雄英女子を生で見られるチャンスだぞ

 

 

◆0099 名無しさん@一周年

 

いや、何処の事務所に飛ばされるか分からんやろ

 

都内だと通勤電車内とかでちらっと雄英の生徒見掛けたりするけどな

パンピー会社員には眩し過ぎる存在だわ

 

 

◆0100 名無しさん@一周年

 

>>0099

一般会社員ニキもっと自信もって?

 

 

◆0101 名無しさん@一周年

 

>>0099

普段個性使えない世の中でも君も社会を回す歯車のひとつなんやで?もっと自信持とう

 

 

◆0102 名無しさん@一周年

 

急に優しくなって草

 

 

 

◆0103 名無しさん@一周年

 

>>0100 >>0101

お前ら……ありがとう

腕関節三本でも頑張るよ

 

 

 

◆0104 名無しさん@一周年

 

お前上の方にいたランキーコングじゃねえかwww

 

 

◆0105 名無しさん@一周年

 

ランキーニキwwwwww

 

 

◆0106 名無しさん@一周年

 

つーか全裸ァ!現地勢は帝ちゃんの公開全裸1人くらいカメラに収めとらんのか!

 

 

◆0107 名無しさん@一周年

 

※このコメントは削除されています

 

 

◆0108 名無しさん@一周年

 

※このコメントは削除されています

 

 

◆0109 名無しさん@一周年

 

※このコメントは削除されています

 

 

◆0110 名無しさん@一周年

 

※このコメントは削除されています

 

 

 

◆0112 名無しさん@一周年

 

ひえっ

 

 

◆0113 名無しさん@一周年

 

なおその後0106を見た者は居ない…

 

 

◆0114 名無しさん@一周年

 

アイエエエ……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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職場体験だったもの
25 体育祭の後、職場体験のこれから



職場体験回プロローグって事で



※オリキャラ、オリジナル展開、前回に引き続き原作キャラの性格改変あるから注意…今更か





「んん〜ッ…」

 

 

ぐ〜っと背伸びをして、座りっぱなしで凝り固まった筋肉をほぐす。

雄英高校は超のつくエリート校、偏差値78は伊達じゃない。数学のチャート本は当たり前のように赤だし、宿題の量も尋常じゃないのだ。予習復習は当たり前、ヒーローとしての学習は勿論日々の勉強でも『Plus ultra!!』精神を求められる。

机に向かって教科書と睨めっこする事2時間ほど、体育祭と遊び疲れで手を付けていなかった数学の課題を漸く終えたウチは、登校日の教科を確認してテキストを鞄に詰めたあと、スマホの電源を入れた。つけっぱなしだと集中出来ないもんね。

 

「ん…通知来てる。」

 

ピコピコと点滅するスマホをタップしてトーク画面を表示する。差出人は帝からだった。

 

~〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

ミカド▼

明後日提出するテキストの範囲忘れた!

おせーてじろえもん!

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

「誰がじろえもんよ誰が!」

 

部屋で1人ツッコミを入れて、優しいウチはテキストの番号を順番に返信してやる事にした。

 

…………

 

「これでよしっ…と。」

 

ベッドに寝そべったまま返信していたスマホを枕へ放り投げ、ぼーっと天井を見つめる。

 

大きな行事が終わって、束の間の休息。

辛いこともあったけどその分皆との絆も深まった。昨日帝の家に集まってやった打ち上げ楽しかったなあ…今度は女子会がどうのとか言ってたし、また呼んでくれたりするのかな?

 

体育祭の帝は、普段と全然違う雰囲気だった。いつも気だるそうにして、ガチャでレアキャラが当たった時位しか口角上がらない癖に、あの日はいつもよりはつらつとして、沢山笑っていた気がする。そして思い知らされた、帝の本当の実力。轟戦の大火力に爆豪戦で見せた巨竜の姿。印照先輩から聞いた通りの、優しい帝に似合わない攻撃的な強個性。

 

「帝征龍、かぁ…」

 

決勝前に休憩スペースで聞いた先輩の話を思い出す。

帝は孤児で、今みたいな性格ではなかった事。白紙の紙に1から絵を描くみたいに、印照家に引き取られた後色んな経験を経て今の帝の人格は象られたんだと彼女は言っていた。

決勝戦で見たあの圧倒的な姿、龍になる度に帝は精神力を消耗してるらしい。

 

そして、更に使い過ぎると記憶まで消えてしまうかも知れないと、先輩は言っていた。

 

あくまでも先輩の憶測で、決定したわけじゃない。

個性の副作用で記憶が消えてしまうなんて馬鹿げた話だと思ったけど、真面目に話す先輩の表情は冗談を言っているようには見えなかった。

 

大いなる力には大いなる責任が伴う

 

……昔、何かの映画で耳にした事がある。多分意味合いは違うだろうけど、帝も大きなチカラと大きなリスクを背負ってヒーローを目指してるんだ。

 

『貴女や百さんには、あの子の味方でいて欲しい。沢山思い出を作って、あの子を「龍征帝」のままで居させてあげて。

観客席から見ていたわ。私も帝と一緒に居た時間は長いけど、貴女達と一緒になってあんなに笑う帝は見たことが無なかった、それだけ貴女達に懐いている証拠よ。

…少し嫉妬しちゃうくらい。』

 

なんか最後の方は先輩に影が指したような気がしたんだけど、多分気のせいだろう。

そして、高校生活で沢山思い出を作って欲しいとも言われた。それを彼女も望んでいると。

高校生活の思い出……それで帝は突然「動画配信をしよう!」とか言い出したのか。

 

丁度USJの事件が終わった後位だったかな、帝をウチの家に呼んで部屋で一緒に父のお古のスーファミして遊んでいた時だ。

部屋に置いてあった楽器に目を付けた帝と洋楽トークで盛り上がり、何故か音楽動画を投稿してみよう!という話になった。

 

…正直ちょっと興味はあったんだよね。私の父はミュージシャンくずれで、母も音楽関係の仕事をしてる。それに音楽は私も好きだ。

最近は『yootube』とか『ニタニタ動画』みたいに気軽に投稿できるサイトもあるから、いつか「歌ってみた」とか「弾いてみた」なんて名目で動画を録って投稿してみたいなあ、なんて心の隅で思っていた。思ってただけで実行する勇気なかったんだけど、帝が背中を押してくれて2人で練習して「弾いてみた」動画を作ることになったんだ。

帝は器用だからギターのキーも直ぐに覚えて、話を聞いて妙にノリノリな父主導のもと家のスタジオで録画した。

知らない人に私の演奏を聞かれるなんて、ちょっと恥ずかしいし怖かったケド…

 

それから「歌ってみた」とかゲームの実況なんかも2人で録ったりして、定期的に投稿してる。音楽のコメントは辛口なものも多いけど、ヒーローになるんだからこの程度の批判でへこたれる訳にはいかないよね。

でもなぁ…弾いてみた動画で私が映ってる時に限って『ぺたん娘』とか『絶壁』コメント連発する連中だけは許さん!絶対にだ!あとなんだ『山と壁』って!当てつけか!

 

うう…やっぱ帝は身長も胸もデカいもんな…並んで弾いてると揺れるし、動画は顔が見えないように首から下を録ってるから並ぶと余計際立つんだ。

なんだよ「胸が邪魔で弦が見えねえ」って!あの無駄乳削ぎ落としてやろうか…

 

「響香ーご飯よー。」

 

「ッ!はーい今行くー。」

 

貧乳の闇(ダークサイド)に堕ちかけた私の心を晴らすように母さんの声が部屋まで届く。扉を開ければスパイスのいい匂いがここまで漂ってきて、釣られてお腹も空いてきた。夕飯はカレーっぽい。

 

『耳郎さん、お願いね。

これから先、何があってもあの子とずっと友達でいてあげて。』

 

手を取って、悲しそうな表情で私の目を見て話す先輩は僅かに震えていた。あの表情の裏に何が隠されていたのかは分からなかったけど。

…言われなくても帝は友達だ。

同じヒーローを目指す大切な親友、アイツが助けを求めるなら、私が助けてあげなくちゃ…!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「帝チャン。5番テーブルにハニートースト2つ、メロンソーダとオレンジジュースはボクが用意するからお願いネ!」

 

「あわわわわ…

3番テーブルお会計…レジ行きますぅ!」

 

「カウンター席の清掃終わったぞ、外で並んでる客を入れてくる。」

 

「みー姉ちゃん、卵足りない!あとホットケーキミックスも!」

 

「一体どうしたというんだあ…(瀕死)」

 

此処は死地、大量注文蔓延る地獄の(ちまた)。そう、オールドスパイダーの厨房です。

時刻はお昼過ぎ、体育祭終わって三連休の最終日だ。週の始まり、月曜日という事でいつもなら人も疎らな店内で種火周回しつつぐーたらしながら店番すんだろなって思っていたんだけど、違った。

 

「なんで平日の昼過ぎなのにこんなに人が来るのっ!!」

 

厨房で1人叫ぶ。

コンロは4つフル稼働、ガトー達に火の番をさせながら果物切って生地こねて、1人クッキングマシーンになり果てる私がそこにおるのだ。あまりの忙しさに急遽午前で授業を終えた夢見さん、そして特別ゲストとしてちー君と壊理ちゃんを招集してヘルプに入ってもらう始末。

いつもこの時間は店内に2人居れば多い方なのに今日に限って満席で、あまつさえ外に軽く列ができる程の盛況ぶりだ。

皆がフロアを行ったり来たり、壊理ちゃんには厨房のお手伝いを、ちー君にはフロアの片付けと清掃を任せた。本当はレジ打ちもお願いしたいけど、潔癖症拗らせてるあの男が他人のお金を触る訳が無いから仕方ない。消毒液に1晩漬けないと硬貨触れないもんね、ってそもそもちー君カード決済しかしないわ。しかも限度額無制限(ブラック)、ブルジョアめ。

 

「とりあえず家で使う分の卵がある筈だからそっちで代用しよう、奥の部屋の冷蔵庫探してみて。ホットケーキミックスは後で翼竜を買い物に行かせるから他に足りない物をメモにリストアップしておいてくれる?」

 

「わかった!」

 

近所のスーパーならブラウニーを向かわせれば察して用意してくれる筈、日頃からあいつらパシらせといて良かった!

 

「よっし、チョコシロップパフェ2つ出来た。ちー君宜しく!」

 

「ん…」

 

厨房から直接カウンターに繋がる小窓に出来上がったパフェを差し出して持って行って貰う。ドリンクを作ってる店長も顔には出てないけどヘロヘロだ。

 

「イヤー忙しいネ、長い事店をやってるけど満席は初めてだヨ。」

 

「何故に平日の昼間からこんな人が…」

 

「フロアに出てみれば分かるんじゃない?」

 

「は?フロアに…?」

 

くふふっと含み笑いする店長。

言ってる間にホットケーキ3人前が焼きあがった。夢見さんはレジ対応中、ちー君は注文を取ってるし私が直接持っていくしかないか。

メイプルシロップとバターを掛けて、三段ホットケーキ×3つを大きなお盆に載せた私は扉を蹴り開けてフロアに出た。両手塞がってんだから許せ。

 

「はいよー、7番テーブルのお客さん。ホットケーキセットお待ちどう…さ…ま……」

 

 

ふぁ!?

 

 

私が出てきた途端、さっきまで騒がしかったフロアが急に静まり返ったんだけど。怖ッ。

そんで何故皆して私をじっと見つめるの!?待って怖い怖い!

 

『きゃああああああっ!』

 

「ひえっ!?」

 

突然の歓声にビクってなった。本当なんなの…

 

「体育祭準優勝おめでとうございます、龍征先輩!」

 

「とってもかっこよかったわ!」

 

「ずっと前からファンでした、握手してください!」

 

「し、写真一緒に撮って貰っても良いですか!?」

 

「バーテンダー服姿も素敵です!」

 

ひいっ!?近い近い!狭い店内でそんな詰め寄らないで!?

おい聖徳太子を連れてこい、全員がいっぺんに喋って何言ってんのかさっぱりわからんぞ。

…よく見たらこの子達餓鬼道の生徒じゃないの?それと他校の制服着た子もチラホラ。どうやら私が体育祭で準優勝したのを聞きつけてわざわざ来たらしい…ってそれって授業サボってるんじゃない!?遠いところだと隣町から来た子もいるようだ。

 

「イヤー人気者だネー。」

 

「体育祭大活躍でしたもんね。」

 

「騒がしい…」

 

いや…そこ3人遠巻きに眺めてないでさ…

 

「見てないで助けて!」

 

 

 

 

………………

 

 

 

 

 

「はぁ〜…」

 

つ、疲れた…

散々握手や写真撮影を求められ、褒められたり粗品を渡されたり突然告白されたり色々あったものの、漸く静かになったフロアのカウンター席に突っ伏して溜め息を吐く。

話を聞くに、あの子達は体育祭を見て私に会いに来たらしい。そういえば全国放送されてましたわ、私。

 

「昼間の忙しさは私のせいだったのか…」

 

まさにインガオホー。

ピークの去った店内には、さっき入ってきた男女3人組が奥のテーブル席に座っている以外人は居ない。ちー君と壊理ちゃんも今は裏へ引っ込んで休憩中、手伝ってもらった御礼に後でなんか作ってあげよう。

 

「夢見さんもありがと、もう波は引いたから後は私と店長だけで大丈夫だよ。」

 

「そ、そうですか…それではお先に失礼しますね。お疲れ様ですぅ…」

 

眼鏡がズレてるのを直す気力もないのか、ヘトヘトな夢見さんは裏へ戻って行った。あの人文系女子だからなのか体力ないのよね。

 

さ、後は奥の3人組だけだな。

 

「すみませーん!」

 

なんて考えてると、活発そうな女の人がぶんぶんと手を振って私を呼んでいる。注文用のメモ持ってテーブルまで向かった。足取りが重いけど許して欲しい、体力はあるけど心が疲れているのだ、心が。

 

「はいはーい、ご注文は?」

 

座っていたのは青みがかった黒髪に尖った耳が特徴の根暗そうな黒髪の男の人とデフォルメされたザ・平凡みたいな顔付きの大柄な男の人。それからさっき私を呼んだ水色のねじれた長い髪した女の人だった。全員私より年上っぽい。

 

「えっとー、三色ホットケーキ。飲み物はカフェオレで!」

 

「…ヨーグルトパフェ。」

 

「店長オリジナルブレンドってのを1つ!」

 

「はい、了解。

ホットケーキはできるまでちょっと時間貰いますけど大丈夫?」

 

「全然大丈夫!

…………」

 

「……?」

 

ホットケーキはこれから作るからちょっと時間かかるのだ。確認の為に目が合った女の人から凄いジロジロ見られてる。ガン飛ばしじゃないだけマシだけど、穴が開くほど見られるとなんかむずがゆい…

 

「ねえねえ、通形君!

この子ってもしかして…一年で準優勝した子じゃない?」

 

げっ、またこのパターンか。

…いや待てよ。『一年で準優勝した子』って言い方、よく考えたら外部の人の言い方じゃないな(黄金の理解力)。

もしかしてこの人達雄英生だっりするのか?

 

「ん?おお、そうだね波動さん!

君、一年の決勝戦で暴れ回った龍になる子だよね!」

 

「……はい、そうです。」

 

暴れ回った、って…ちょっと制御が出来なくなっただけですよーだ。先輩っぽいし取り敢えず敬語が無難かな。

 

「わーやっぱり!

確か名前は龍征さんだったよね!あってる?あってる??」

 

「はい。雄英ヒーロー科1年A組出席番号21番、龍征帝です。

多分雄英の先輩ですよね…?」

 

「そうそうー!

私は3年生の波動ねじれっていうの!

それでこっちが通形君で、ずっと俯いてる方は天喰君。宜しくね後輩ちゃん!」

 

「初めまして、先輩。宜しくお願いします。」

 

「……宜しく。」

 

「堅苦しいのはいいよ、龍征さん。

ほら環も挨拶くらい顔を上げなよ!」

 

いちいちオーバーアクションな通形先輩、キャラが濃い…

 

「ミリオ…彼女が反応に困ってるぞ。」

 

そう通形先輩を窘める天喰先輩も何故か私と目を合わせてくれない。

 

「龍征…長いから帝ちゃんって呼ぶね!

帝ちゃん背ぇ高いね、何食べたらそんなに大きくなるの?ねえねえ!」

 

「波動先輩、近いです近いです。」

 

めっちゃグイグイくる波動先輩をあしらいながら、ふと通形先輩の方を見る。

この人…尋常じゃない鍛え方してるな。シャツの上からでも分かるくらい隆起した筋肉を見る限り、並じゃない鍛錬を積んできたんだろう。雄英の3年生ともなると殆どプロヒーローと変わりないだろうし…

 

「先輩がたはどうしてウチに?」

 

「さっきも言った通り、本当にたまたまさ。

波動さんにSNSで気になる店があるからって呼び出されたんだ。丁度俺達も体育祭が終わって、インターンの境目で暇だったもんね!」

 

「うんうん!ホラこれ見て!」

 

ぱっと差し出された波動先輩のスマホ画面にはウチで出してるメイプルパンケーキの写真が投稿されていた。というかこれMt.レディのアンスタグラムじゃん。前に来た時出したのを載せてたんだ。

 

「すっごく美味しそう!」

 

「…波動さんは言い出したら聞かないんだ。」

 

「なるほど、分かりました。

先輩の期待に応えられるようにしっかり作りますよ。」

 

「お願い!」

 

波動先輩に見送られながら厨房に戻る、途中で店長にドリンクの方をお願いして早速予め用意しておいた三色の生地をそれぞれフライパンに入れて、火を付けた。

 

インターンって…確か私達が次にやる職場体験の後に控えてる奴だよね。目的は実際にヒーロー事務所にサイドキックとして所属して、プロと同じ空気を肌で感じる為だったり、現場の緊張感をより近くで身に付ける職業訓練みたいな感じの。

 

「みー姉ちゃん、お手伝いしよっか?」

 

「んー、じゃあチョコの生地が入ったフライパン任せる。頑張りたまえ我が弟子よ。」

 

「うん…!」

 

トテトテ事務所から出てきた壊理ちゃんが手伝ってくれるなら百人力だ。今の私は阿修羅すら凌駕するぞ(確信)。

 

「失敗しても『巻き戻し』じゃ戻らないからね?」

 

「言われなくても分かってるよ!」

 

 

 

 

 

………………………………

 

 

 

 

 

 

「ふわああ…すっごぉい…美味しそー!」

 

まるで子供のようにキラキラと目を輝かせる波動先輩。目の前には三段に積み上げられた三色のホットケーキ、下からチョコ、イチゴ、メイプル味の生地を混ぜ込んだ仕様の私特製品だ。

 

「はい、お待ちどうさま。お飲み物はこちらに。

天喰先輩のヨーグルトパフェと通形先輩のコーヒーはこちらです。」

 

「…ありがとう…ございます……」(ボソッ)

 

「ありがとうね、龍征さん!」

 

 

出されたコーヒーを「お、これ美味しいね!」と言いながらゴクゴク飲み始める通形先輩。熱いのにそんな勢いで飲んで大丈夫?

 

…やっぱり凄い筋肉だな、

雄英高校はヒーローを育成する学校の中でもトップクラスの排出率を誇る。

そんな学校の3年生ともなると、きっと経験も実績も尋常じゃない。ボディビルダーみたいな「見せ筋」とは違う、この人のは闘う為に鍛え上げられた筋肉だ。それに加えて腕には小さな傷が幾つも…

 

「傷跡が気になるかい?」

 

やば…ちょっとジロジロ見過ぎた。

 

「すみません、先輩。

インターンは過酷なんだなって思いました。」

 

「謝る必要なんか無いよね!

誰かを守るために付いた傷さ、俺にとっては勲章だよ。」

 

通形先輩はコーヒー片手に笑う。

 

「俺は皆を救えるヒーローになりたかった。

その為に死ぬ程努力して、今の俺がいる。

君もこれから雄英で培っていくんだ。

焦って、悩んで、ぶつかり合って、切磋琢磨し己を磨く。理想のヒーローになる為にね!」

 

「理想のヒーローに…」

 

「そう!

龍征さんにもあるだろう?理想の自分が。」

 

私、私は…()()()()()

困ってる人を助けられるヒーローになりたかった。ちー君は『都合のいい奴』とか鼻で笑うけど、誰かの為に自分の力を使えるヒーローに…

 

「…あります。」

 

「なら大丈夫!

一年はこれから職場体験だろう?体育祭であんなに活躍した龍征さんなら、沢山の選択肢が用意されている筈さ。じっくり考えて、君のなりたいヒーローに1歩でも近付けるような事務所を選ぶといい!」

 

「はい。ありがとうございます、通形先輩。」

 

笑顔に裏付けされた自信…その背後にあるのはきっと、血の滲む様な努力と挫折の繰り返し。普段食堂でチラホラ見かけるどの3年生よりも、通形先輩の姿は輝いて見えた。

こういう人が将来オールマイトみたいなヒーローになるのかもしれない。

 

「おいひぃ〜!」

 

「ハハハッ波動さん俺が折角いい事言ったのに間の抜ける声出してくれるよね!格好つかないじゃないか!」

 

「ねえねえ!なんでこんなに美味しいの?焼き加減?生地の配合?」

 

「企業秘密です。先輩近い近い近い…」

 

波動先輩はどうやらホットケーキがお気に召した御様子。喜んでもらえてよかった。

天喰先輩も殆ど喋らないけどパフェを食べる手は止めないし、気に入って貰えたのかな?

 

 

…………

 

 

「帝、いつまで喋ってる。」

 

「あ、あれ?ちー君?もしかしてちょっと喋り過ぎた…?」

 

後ろからちー君に声を掛けられる。時計を確認するとかれこれ30分位先輩方と喋り続けていたらしい、そういやちー君と壊理ちゃんに昼食待たせてるの忘れてた!

わざわざフロアまで出てくるってことは相当おかんむりだぞ。

 

「お前が直ぐ作ると言うから待っていたのに、無駄な時間を過ごしたぞ。」

 

「ゴメンゴメン、これから作るから許して。なんでも好きな物作ってあげるから。」

 

「……今なんでもと言ったな?」

 

ひゃあ悪人面!流石指定暴力団の若頭だ。

 

「先輩ごめんなさい、話の続きはまた別の機会に聞かせて下さい。」

 

「いいよいいよ、丁度波動さんも食べ終わった事だし俺達もお暇するよね!

ホラ行こう二人とも。」

 

「あー美味しかった!帝ちゃんご馳走様!」

 

「……ご馳走様でした。」

 

席から立ち上がった3人はレジの方へと向かう。途中ですれ違ったちー君と通形先輩の視線が交差した気がしたのは気のせい?

 

「じゃあ職場体験、悔いの無いように頑張ってね!」

 

「ありがとうございましたー。」

 

手を振って店の扉を閉める先輩を見送り、急いで厨房に戻る。ちー君はお怒りだ。

 

「よし、客も消えたしもう大丈夫。何作ろっか?」

 

「寿司。」

 

「冷蔵庫にあるもので作れる料理に限定します…」

 

「お前はなんでもと言ったろう。」

 

「寿司は流石に直ぐ作るには無理があるかな!主に材料の関係で!」

 

(ウチ)にならある。」

 

それは今から死穢八斎會まで言って寿司を握れって事かな!?

つーかナマモノだよ?潔癖症は何処行ったんだ。

 

「ちー君のいじわる!」

 

「当たり前だ、ヤクザだからな。」

 

悪びれないあたりいっそ清々しい!

 

 

 

 

カランコロン

 

 

 

「いらっしゃ…オヤ、君かい。

帝チャン、君にお客様だヨ。」

 

「はーい、ぁ…」

 

ちー君との不毛な言い争いを断ち切るようにドアの鐘が鳴る。

そこにはメイド服姿の女性が立っていた。黒髪を2箇所に纏めたお団子ヘアー、片目が掛かる位の長い前髪に嫌という程見た鉄仮面。

そして一番特徴的な、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

(フォン) 鉄美(ティエメイ)

印照家に在籍するメイドさん、普段は才子先輩のお父様…印照英雄(いんてりひでお)の護衛兼秘書をしている。

 

「お久しぶりです、メイさん。」

 

「…………」

 

軽く挨拶するもメイさんはこっちを一瞥しただけで何も喋らない、いつもの事だからいいけど。

 

「失礼致します、守屋様。

旦那様の御指示により龍征帝をお借り致しますのでご了承くださいませ。」

 

きびきびとお辞儀をしながら再び私に視線を…というか半目で睨み付けてくるメイさん。眼光が鋭い、怖い、昔からこうだから苦手なのよね…

才子先輩の付き人してた頃、私に格闘技や戦闘の手解きをしてくれたのがメイさんだ。

大体の戦闘経験や攻撃の先読みも彼女から、完全には習得出来なかったけど功夫(クンフー)や一通りの銃器の扱い、あと車輌の運転とかも教わった(免許?印照家の敷地内で乗り回すだけだからセーフセーフ)。いわば私の師匠のような人。戦ったら絶対勝てない。

 

 

「旦那様がお呼びです。

早く支度なさいノロマ、遂に思考まで亀レベルに落ちぶれたのですか?」

 

「はひぃ!?スグ着替えてきます!

ゴメンちー君、さっきの話夜でもいい?」

 

相変わらず言い方が酷い!言葉の端々がトンガリまくってる!

メイさんが来たということは、最早私に拒否権は無い。ご当主様からの招集なのだ。印照家の所有物である私は何よりも最優先で会いに行かなきゃならない。

主従関係は大事ってハッキリわかんだね。

 

「…良いだろう。

壊理を連れて先に帰ってる、必ず来い。」

 

そのへんはちー君も理解してくれてるみたいで、一瞬メイさんを睨みつけはしたもの再び奥へ戻って行った。

私も早く着替えなきゃ!

 

 

 

 

………………

 

 

 

 

 

メイさんが運転する車の助手席で、ジャージ姿の私は流れていく背景をぼーっと眺めていた。

 

「日本の街中で黒の高級外車を走らせるのはかなり目立ちません?」

 

「他人からどう思われようと知った事ではありません。」

 

今私が乗ってるのはマクラーレン・720S、流線型の車体が印象的な高級車だ。そのお値段なんと5000万円弱。映画とかにもよく登場する車ね。

世界的企業印照財閥ともなると秘書の車もレベルが違う。チョイスは多分メイさんだろう、あの人速くてかっこいい車好きだし。

 

「チッ…道幅の狭い国ですね。」

 

軽く舌打ちしたメイさんは疎らに混み合う道路を縫うように抜けて、マクラーレンが独特な排気音を響かせながらぐんぐん進んでく。

 

お互い黙って、何も喋らない。メイさんは無駄なお喋りが嫌いだと言う事を知っているから、必要以上の話はしない様にしてる。

 

ふと、運転するメイさんのスカートから覗く鋼鉄の脚が目に止まった。

メイさんの両足、太腿から下は機械の足だ。材料は強化カーボンと鉄、重さまで元の脚と変わらない程精密に、印照財閥の保有する技術の粋を集め作られた戦闘可能な強化義足。

元々事故や四肢を失ったヒーローの現場復帰に役立てるように開発された物だったらしいが、メイさんはそれのテスターも兼ねている。

 

 

 

「…ジロジロ見るな、不快です。」

 

「ご、ごめんなさい…」

 

「本社に到着したら定期検査を行います。お前が如何に無能でも検査室までの道は忘れていませんね?」

 

「はい。」

 

「宜しい、検査が終了しだい社長室まで来なさい。旦那様がお待ちです。」

 

「分かりました、メイさん。」

 

言われた事にだけ淡々と返事する。

 

「……」

 

「……」

 

でも気にしないわけないじゃない。

 

「あ、あの…」

 

「何か。」

 

「えぇっと…そのですね…足のこ」

 

「黙りなさい。

もう済んだ話だと前にも言ったはずです。」

 

「うぅ…はい…」

 

 

突き放す様にピシャリと言い放つ。それっきり、私もメイさんも口を開く事は無かった。

カーステレオも掛かってない、マクラーレンの駆動音だけが静かに車内に響く。

 

本当にメイさんは強い人だ。

両足を失っても弱音なんて吐かないし、疲れをおくびにも出さない。義足のリハビリだって完治に1ヶ月かかると言われたのにたった1週間で完璧に馴染ませた。個性の使い方も上手くて、強くてかっこいい、料理以外はなんでもこなすまさに完璧超人。完全で瀟洒な印照家の従者。

 

でも…あの時、もっと私を責めて欲しかった。

「お前のせいだ」って罵倒して、怒ってくれればまだ気が楽だ。

 

「着きました、さっさと降りなさい。」

 

「……はい。」

 

本社入り口の前に横付けしたマクラーレン、ガルウィングの扉を開けると、夕暮れ時の血のように紅い夕陽がメイさんを照らす。

 

きっと私は許されることは無い。事故だから、なんて甘い考えは通じない。

 

 

メイさんの脚を潰したのは私だ

 

 

あの人の未来を奪って、一生消えない傷を残してしまったのは、私なんだ。

 

 

負い目が心の奥でじくじく痛む。

四年前と同じ、メイさんの背中を付いていくだけの私は…何も変わっちゃいない。







この夜めちゃくちゃ寿司握った







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26 ヒーローのおなまえなんてーの?




のらりくらりと投稿していくんで宜しく





窓の外に見えるのは、白。

一面雪に覆われた田舎町。通り過ぎていく景色に目を奪われている私を隣で才サマが眺めてる。

 

『そんなに外の景色が珍しい?いつも車から見ているじゃない。』

 

『ーーーーーー。』

 

微笑む才サマに何を言ったか覚えていない、でも反対側の席にいたメイさんに半目で呆れられたのは印象に残ってた。それくらい下らない理由だ。

 

真冬の青森県、しんしん雪の降り積もる山中をローカル列車が進む。この時期は雪も深く、客も疎らでこの車両には私達と他に10人程度、家族連れが一組と女性の四人グループ(1人ガタイが良過ぎて本当に女なのか疑ったけど)が一組、ボックス席に座っていて、他は2人組のカップルだったり1人だったりが疎らに座ってる。取り敢えず怪しい人物は見受けられないかな。

 

『お前、護衛の役割を忘れているのではありませんか?』

 

『いいじゃない、今日くらい。

メイさんも手に持ったスタンガンをしまって、旅行を楽しみましょう?』

 

『……お嬢様がそう仰るなら。』

 

そうボヤいたメイさんが左手に持っていたスタンガンがスカートの中に消えていく。それ何処に押し付けるつもりだったの?私の方を向いていた様な気がしたけど、恐ろしくて聞けなかった。やっぱりメイさんはこわい。

 

今日は印照家の特別な日だ。例年通り贔屓にしている温泉旅館で休日を最低限の護衛と家族水入らずで旅行の予定だったのだけど、お二人とも急な取り引きが入ってしまったらしく、先に私達だけで向かっている。結構な山奥に位置する旅館で自家用車やヘリで行くことが出来ないため、こうして毎年ローカル線を使い現地に赴くようになった。

「偶には自家用車以外もいいじゃない」と才サマはノリノリだけど、身辺警護を任されたメイさんは毎年気が気でないみたい。私は才サマ専属の護衛だけど流れていく景色に興味の方が上回って、時々メイさんに怒られる始末だ。

 

 

『飾り付けに手間取ると思っていたし、丁度良かったわ。二人とも旅館に着いたら手伝ってね?』

 

 

ウキウキしながら鞄を抱きしめる才サマ、その中には前日に予め3人で作った手作りの部屋飾りが詰め込まれてる。パーティーモールにたくさんの風船、キラキラ光るラメ入りの折り紙で作ったちょうちょは私の自信作だ、向こうに着いたら一緒に飾ろうって約束した。

 

 

電車は白く染まった田んぼや農家を抜け、再び山を貫くトンネルに差し掛かかった。トンネルを抜ければ最寄りの駅まで目と鼻の先。

10回目の結婚記念日、雪降り積もる温泉宿で才サマにとっても御両親にとってもきっと、今日は素敵な1日になる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……ハズだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

 

…………ど

 

…………か…ど

 

………………みかど

 

 

 

 

「帝ォッッ!!」

 

 

ずぽッ

 

ギュイイイインッ!!

 

 

「くぁwせdrftgyふじこlp!?!?!?!?」

 

頭に堪らん衝撃を感じて飛び起きた。

何!?敵襲!?総員戦闘配備!?

 

「敵の潜水艦はダメだぞ!」

 

「何言ってんだ龍征。」

 

顔を上げると斜め前の轟が不思議そうにこっちを見てた、私の耳に入ってたイヤホンがするする縮んで、ジト目の響香のところへ戻ってく。

あ、察した。寝てたわ、私。

響香のイヤホンで叩き起されてやんの。

 

体育祭終わりの三連休も明けて三日ぶりの学校だ。

周りを見ればクラスの皆は苦笑いしながらこっちを見てて、最近学校の計らいで止まり木を貰った翼竜共も気の毒そうにこっちを眺めてる。オイなんだその可哀想な子を見る目は。

えーっと、そういえばなんの授業してたっけか…えと…職場体験の説明受けて、なんか私の所に5000件くらいスカウト来てた所までは覚えてる。それからすっげーエロい格好のねーちゃんが入ってきてヒーローネームを……そうだ。ヒーローネームだ。

 

「おはよう龍征さん。よく眠れたかしら?」

 

「おはようございます。

相変わらず凄い格好ですねミッドナイト先生、お腹冷えないんですか?」

 

「お気遣いありがとう、でも居眠りは感心しないわね。

私、個性使ってないんだけど。」

 

眠気まなこで顔を上げれば、大胆なヒーローコスチュームに身を包むナイスバディのお…ねえさん。18禁ヒーロー『ミッドナイト』が私の横に仁王立ちしていた。

ミッドナイトの個性は相手を眠らせるフェロモン出すんだっけ?

 

「無自覚、とか…」

 

「あらあらうふふ。」

 

「おほほほ…」

 

先生、目が笑ってないですよ?

 

「じゃあ次龍征さん発表ね。

残りはやり直しになった爆豪君と寝てた貴女だけよ。

ち・な・み・に、授業終了までにヒーローネームを完成出来なかったら居残りだから宜しく♡」

 

ふぁ!?居残り!?

ヤバいじゃないですか!

今日は放課後予定があるのにそんな理由で居残りになって堪るかぁ!

 

「さ、3分間待って「40秒で支度なさい♡」イエスマムッ!!

 

知恵を絞り出せ私いいいい!!

 

 

 

 

 

 

………………

 

 

 

 

 

「じゃあ発表!

龍征さん宜しく!」

 

「うへぇ〜い…」

 

ほんとに40秒しか待ってくれなかったミッドナイトに急かされながら教卓に登壇、持っていたフリップを机に立てる。

 

「……」

 

「………?」

 

「『グァンゾルム』…?」

 

「随分と変わった名前ですね。」

 

そう、私が40秒で考えたヒーローネーム。

我が灰色の脳細胞に有り余る知識を総動員した結果生まれた、他のヒーローに無い、かつ斬新で皆の記憶に残るであろう名前。

…というのは建前で、名前と聞いてポンと頭に浮かんだのがこれ。何故か分からないが、何となくこの名前を付けておけば間違いない気がするだけだ。

ポイントは濁点を多く使ってる所と、5文字発音な所。5文字って人間の印象に残りやすいんだってさ。

 

「力強い名だ。」

 

「龍の姿を見た後だと、その名前は何故かしっくりくるな。」

 

「でも『グァ』とか読みづらくね?書く時苦労しそうじゃん。」

 

「そんなの上鳴だけでしょ。」

 

「ンだとぉ!?」

 

クラスからは色んなご感想が漏れているが、肝心の先生の判定は…?

 

「ん〜〜……アリね。

名前のインパクト!龍征さんの個性と相まって一度覚えたら忘れらないヒーローネームになると思うわ!採用!」

 

どうやらお気に召して頂けたようだ。

その後爆豪が「爆殺卿」やら「豪爆神」やらぶっ飛んだ名前を考えて居残りが確定し、終了を告げるチャイムが鳴った。

ミッドナイト先生が笑顔で出ていって、さっきまで寝てた寝袋姿の相澤先生が徐に起き上がり締めくくるみたい。

 

 

「では爆豪はこの後ミッドナイトの所へ行くように。

それから、先程伝えた職場体験の候補を各自渡していく。さっきもグラフを見せたが、残念ながら指名の無かった生徒にもこちらで選んだ候補を渡す。

先ずは…青山。」

 

「ハァイ☆」

 

そう言って生徒の名前を呼んでいく相澤先生、黒板に映し出されたグラフの通り、スカウト先の多い常闇や飯田がノートみたいな厚みになったリストを持って帰ってくるのを眺めながら眠気で意識を飛ばさないように頑張っていると、遂に私の出番が来たようだ。

 

「…アレ、端末?」

 

「そうだ。

例年はもっとバラけるハズだったんだがな。今回のドラフト、お前と轟と爆豪に集中し過ぎてるのはさっき言っただろ。

特にお前は5000件以上のスカウトが来てる、流石に紙束で出力するのは骨だからな。候補が1000件を超えた生徒はタブレット端末にデータを纏めた奴を渡す。

ヒーロー公安委員会からのサービスだとさ。」

 

おお、なんという合理的配慮。

流石に5000件分の紙束持って帰るのは嫌だったのよね。

 

「ありがとうございます、相澤先生。」

 

早速貰った端末を確認…チッ、ネットには繋がってないか。でもWiFi繋げばなんとか…

 

「因みに、情報漏洩を防ぐ為にその端末には特殊な処置が施されてる。市販のWiFiなどのネット環境には絶対に繋がらんようになってるからそこんとこ宜しく。職場体験終わったら返却しろよ、以上。」

 

ガッデム!

 

私の企みを看破していたのか、呆れてこっちを見てくる相澤先生を軽く恨んでから席に戻る。言った通り轟と爆豪にも同じ端末が渡されてるみたい、そのまま流れで帰りのHRは終了した。

途端にクラスが騒がしくなってくる。話題の種は勿論、職場体験だ。

 

「しっかし改めてグラフで見るとすげえな上位3人。これが格差か…」

 

「轟君、爆豪君、帝ちゃんのスリートップだよねぇ…

トーナメントでアレだけ強さ見せつけられたら差も出るよ。

でも私だって、決勝戦がかくれんぼだったら優勝できる自信あるもん!」

 

「限りなく地味だなその決勝!?」

 

隠密なら透の右に出る奴はいないもんね、NINJAとか向いてるんじゃない?

 

「イヤーッ!!」

 

ノリのいい透はえいやーっとカラテっぽい動きで上鳴に向けて徒手空拳を繰り出した。透は可愛いなあ。

 

「アイエエエ!?ニンジャナンデ!?」

 

 

 

 

 

 

「百は何処の事務所志望するんだ?」

 

「私は…今の所『ウワバミ』の事務所にしようと思っています。

俗世に近いヒーローですし、学べる事があるかと思いまして。帝さんは…」

 

そう言って気の毒そうな…でも羨ましそうな眼差しを向ける百。

そう、私に来ているのは5000件のヒーロー事務所。全部見るのも一苦労…というか全部見れるのか?やばくないか?

いや、紙媒体と違って五十音順にソートできるからまだなんとか…一応ソート欄に『人気順』とか『ヒーローランキング順』もあったし、用途に合わせて調べやすい様にはなってるのかな?『ヴィランに見えるヒーロー順』とか謎の機能も付いてたケド。選択肢が多過ぎるのも困りますよ、通形先輩…

 

「試しにソート使ってみたら?」

 

後から響香も加わって、3人で端末とにらめっこ。

取り敢えず五十音順にソートして、上からつらつらスクロールしていこう。

 

 

 

………

 

 

 

「うわぁ…エンデヴァー、エッジショット、ベストジーニスト、ミルコまであるよ。ヒーローランキング上位総なめじゃん。」

 

「あれ程活躍されれば納得の結果ですけれど…悔しいですね。」

 

「いいじゃん別に、大事なのは行った先で現場の空気を感じて、生のプロを見て何を盗んでこれるかって事でしょ。

そういう体験をして来いって意味で相澤先生は『ドラフト』って言ってんだと思うし。」

 

盗む、って言い方はアレだけどね。

現場の雰囲気とか、実際に行うヒーロー活動は見る側と当事者とでは大違いだ。ヒーローは基本ヴィランを無傷で捕えないといけないし、現場では何が起こるかわからない。何が起こるかわからないからこそ、ひよっこどころか卵状態の私達が学べる事は多いはず。

 

「そう考えると、プロヒーローの知識が多い奴に相談すればいいアドバイス貰えるかも?」

 

「だねえ、この中でヒーローに詳しい奴ってーと…」

 

ぐるりとクラスを見渡してみる。

放課後なので教室は賑やかだ、職員室で居残りの爆豪を除く20人全員がまだ残ってる。

…飯田、鬼気迫る表情でプリント睨んでるけど大丈夫かあいつ。

結局打ち上げにも来なかったしなあ、その後インゲニウムの入院報道聞いて不参加の理由は察したけど…心配だ。

まあその話は置いといて、今はヒーローに詳しい奴にアドバイスを貰うべし。

 

「緑谷、君に決めた。」

 

「何がッ!?」

 

という訳で、轟と話していた緑谷をご指名入りまぁす。

 

 

 

 

 

〜少女説明中〜

 

 

 

 

「す、凄いな龍征さん。5000件って聞いた時はびっくりしたけどここまでとは…」

 

タブレットを物凄い勢いでスクロールしながらブツブツ呟く緑谷はいつもの3倍くらいオタクっぽい。

 

「龍征は何処か行きたい事務所あんのか?」

 

「大雑把には。

取り敢えずレスキューヒーローの所が第1候補かな、駄目だった時の保険はエンデヴァー事務所で考えてる。」

 

ぼんやりとだけどね。

レスキュー中心に活躍してるヒーローがいいな。戦闘だけならパトロンの水族館と連携してるギャングオルカや、動物園でチャリティー活動やってるミルコの事務所も魅力的だけど。

エンデヴァー事務所は同じ炎を使う個性だから、学べる事があるかもしれないと思って第2候補に選んだ。

使えない人には分からないだろうが、炎熱系の個性って扱いが難しいのだ。派手で目立つが炎だから燃え移る危険だってあるし、制御を間違えれば周りに甚大な被害が出る。ヒーローとして戦って、要救助者を火傷させたなんて笑えないし。

その点エンデヴァーの炎の扱いは群を抜いてる、さすがはナンバー2。

 

頭の中にぼんやりとしか行きたい所がイメージ出来ないので、ヒーローに詳しい緑谷なら悩める私に適切なアドバイスをくれるはず。アイツの分析には一目置いているからね。

 

「ナンバー2の事務所が保険扱い…」

 

「保険くらいで丁度いいだろ。」

 

引きつった笑みを浮かべる響香と吐き捨てるように呟く轟。体育祭で吹っ切れてもやっぱり「クソ親父」なのね…でも以前より言い方に棘がないから少しは改善されたのか?

 

「あ、ありがとう龍征さん。端末返すよ。」

 

少しして、緑谷が端末を返してきた。ちょっと興奮してるのか鼻息が荒い、どうどう…

 

「はいよ。で、緑谷的にはどう思う?

レスキューヒーロー中心に選ぼうとは思ってるんだけど…」

 

「うん、僕のおすすめはワイプシか13号、バックドラフトの事務所かなあ…

ワイプシは10年以上レスキュー活動を続けてる山岳救助中心のヒーローで安定感があるし、13号先生は若手だけど扱いが難しい個性を上手く使って人命救助に役立てるヒーローだ。同じように強個性でレスキューヒーローを目指す龍征さんも学べる事は多いと思うよ。」

 

やっぱりメジャーなその辺に絞られるかあ。

ド安定のワイプシか、授業で慣れてる13号先生。

バックドラフトはどうしてだろ?

 

「それとバックドラフトだけど、彼は主に火事の際に出動するヒーローなんだ。現地の消防隊と協力して消火活動や避難誘導が主な活動になる。それにバックドラフトは元消防隊員…多分だけど彼は本当の『炎の怖さ』を知ってて、その上で龍征さんを指名したんじゃないかな。」

 

「あー…体育祭であんだけ炎撒き散らしてたらそりゃ危険視されるわ。」

 

「で、でも龍征さんが炎の操作を上手く出来てるって事は体育祭で理解されてると思うし、ネガティブなイメージは持たれてないと思うよ。」

 

「……んー、そか。」

 

だといいんだけどなあ。

 

「サンキュー緑谷、参考になったよ。

因みに緑谷は何処に行くつもりなの?」

 

「えっと…僕は「緑谷少年ッ!いるかな!」ホワイッッ !?!?」

 

いきなり教卓側の扉が勢いよく開いて、なんかガリガリのおっさんがA組に飛び込んできた。

なんか凄い急いでるみたいだけど、こんな人先生に居たっけ?

 

「ど、どちら様!?」

 

一番近くにいたお茶子が驚いて声を上げるが、それ以上に緑谷がかなり狼狽えている模様。口が餌食ってる金魚みたいにパクパクしてる、そんな驚く事?

 

「ああいきなり済まない…

私は雄英の新人教師だよ、実はオールマイト先生から伝言を頼まれていてね。

緑谷しょう…君。直ぐに職員室横の休憩室まで来るように頼むよ。」

 

「は、はい。分かりました…」

 

ガリガリの先生はそれだけ伝えて去っていった。

なんだろ、どっかで見たような顔なんだけど…誰だっけ?つーか咳するたびに吐血してんだけどあの人色々と大丈夫か。

 

「ごめん龍征さん、僕呼ばれちゃったから行かなきゃ…」

 

「おー、No.1先生のご指名じゃ仕方ない。アドバイスさんきゅーな。」

 

「なんか言い方がいかがわしい!?

いやいや、僕ごときのアドバイスで申し訳ない…です。」

 

謙遜の激しい緑谷はいそいそと教室を出て行った。あの性格どうにかならんもんかねー。

 

まあまだ時間あるし、体験先はしっかり考えながら選べばいっか。

今日はこれから予定があるのだ。

 

「よし、じゃあ私達も行こっか轟。

申請しに職員室行かないとね。」

 

「!…ああ、悪いな。」

 

「…?お二人も何処か行かれますの?」

 

「個性の特訓、前に轟と約束してたの。

炎の制御をちょっとね。」

 

そう、体育祭も終わり職場体験まで1週間と少しの間時間がある。

この期間を利用して、使う様になったばかりの轟の炎を面倒見てあげようと思う。

 

あ、一応サポート科にも寄ってかないと。

翼竜に付ける通信機どうにかしたいのよね。休みの間にご当主様と話して色々と条件を提示されたけど、乗ってくれる子がいるかどうか…体育祭出てたあの子とかどうだろう。

 

「あ、そうだ響香。

今週の土曜日に新しいの録ろ、今度は『バイ〇5』COOPなんてどうよ?」

 

「絶っっっ対ヤダ!ホラーはやんないから!」

 

「いけずぅ。」

 

5はホラーの皮かぶったアクションゲームだから大丈夫だって、言っても分かってくれないだろうなあ。つーかホラー駄目なら予め言ってよね。

響香とはちょくちょくゲームを一緒に実況して、プレイ動画をニヨ動に投稿してる。親睦を深める為に提案したんだけど、響香のパパさんが「遂にウチの娘も世界に羽ばたく時が来たか!」とノリノリでスタジオを貸してくれたり録画に協力してくれたりで色々と助かった。

 

「『PSYCHOBR〇AK』初見実況は悪かったって、許せ許せ。」

 

「許すかぁ!アレのせいで昔何かの間違いで見ちゃった貞〇思い出したじゃない、ずっと忘れてたかったのに!

思い出したらまた怖くなってきた…」

 

怒ったり怖がったり青ざめたり忙しい響香。

収録やった時、悲鳴だけでMAD動画作れるくらいには叫んでたもんな…初ホラゲーがアレは悪かったと思ってるけど、後半はそんなに怖くなかったよ?どっちかっていうとグロとサイコスリラーがメインだったし。

 

「演出は良かったじゃん、血の表現とか女の叫び声とか…」

 

「あああああああああ煩い煩い!私は何も覚えてない!

つかなんでアンタはあの状況で演出までしっかり観察してんの!?評論家か!」

 

「他のホラゲーのオマージュとか結構使われてて、過去作品をリスペクトした良作だと思うけどなあ。とくにアルティメット貞…」

 

「止めろそれ以上喋るなあッッ!!」

 

「「?」」

 

慌てて私の口元を抑えに掛かる響香にきょとんとする轟と百。

一緒にゲーム、楽しいよ?今度2人も誘ってみようかな、4人プレイできるやつ探しとこう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「轟ィ……ナチュラルに女子の会話に交じりやがって、美男子君がよォ…爆発しやがれェ……!!」

 

「お前がどうしてヒーロー科に合格したのか偶に分からなくなってくるよ、峰田…」

 

 

 










~誰も得しないオリキャラ紹介コーナー~

蜂 鉄美(フォン・ティエメイ)
年齢:27歳
身長:168cm
個性:『四次元スカート』
腰から下、スカートに隠れた部分の内側が異次元になる個性。人間以外ならなんでも収容可能。空間内には酸素があり、動物も呼吸できる。自分の脚でないと個性が反応しない為、偽足となった今では個性の影響する範囲が膝から上に限定されてしまっている。

備考:印照家召使い、元軍人。本国では個性を使い犯罪の抑止や、異分子を排除する特殊部隊に所属していた。
日本とは違い平和の象徴がおらず、個性による犯罪率が15%を超える大陸本土で、時の首相が出した案は『個性によって個性を罰する特殊部隊』の設立。個性による犯罪者には殺害も厭わない非人道的な組織だった。
個性の都合上、暗殺や支援の得意だった蜂は若くしてその部隊に半ば強制的に徴兵され、訓練を積んだ後大義の為に多くのヴィランを手に掛けていく。しかし次第に首相に反乱を企てる議員の暗殺や、自由を訴えるデモ隊への強襲など、権力者に都合の良い仕事ばかりやらされるようになり嫌気の指した蜂は部隊を脱退、その後追ってくる刺客達をちぎっては投げちぎっては投げ、ジョン〇ィックも真っ青の逃走劇を繰り広げながら本国を脱出、その後は使い捨て部隊(エクスペンダブルズ)として世界中の紛争地帯を渡り歩く様になる。
印照家に仕えだしたのは19歳の頃。「やっぱり終身雇用と安定した収入が1番ですよね、歩合制とかやってられません。」と訪日、律儀に日本語を学び温泉や観光で荒んだ心を癒した後、エントリーシートと履歴書を用意して面接を受けに行き、見事合格し現在に至る。
年頃の娘は将来にシビアだった。

※外見の参考、何も調べずに作ったらまんまドル〇ロのキャラと被ってて草も生えない。感想で指摘してくれた兄貴有難うな…




~おまけ~
改変された死穢八斎會の人達まとめ

組長…健康体で存命、治崎がマトモに育ってくれてニコニコ。最近健康の為に組の者に隠れてヨガ教室に通い始め、奥様方の密かな人気者になりつつある。入れ知恵したのは帝。


治崎…原作ほど潔癖症を拗らせてないし原作ほど性格も歪んでない。壊理ちゃんには洗脳の代わりに格ゲーの英才教育を施す事にした、行きつけのゲーセンでは少女に10割コンボを教え込む若頭の様子が目撃されている。偶に帝も混ざる。次期組長として仕事の引き継ぎなど割と忙しい身で、オーバーホールというよりオーバーワークになりそうなのが最近の悩み。その過程で帝を壊理の後見人に仕立てあげ、そのまま死穢八斎會に迎え入れようと画策している。印照才子の語る『帝に近づく不穏分子ランキング(非公開)』堂々の第一位。


壊理…原作のように治崎に洗脳を受けておらず、帝も加えてのびのびと育った結果、立派な格ゲーマーが誕生しつつある。個性の制御もまずまず、怪我をして帰ってきた組員の傷を負傷前に戻せるようになるまでには成長した。帝と治崎は仲の良いお姉ちゃんとお兄ちゃん。ずっと一緒に居たいけどどうしたら良いんだろう…?そうだ!2人に結婚して貰えばずっと一緒にいられるよね!(10歳児並の感想)「お兄ちゃんはいつみー姉ちゃんと結婚するの?(無邪気)」治崎は飲んでいたコーヒーを吹いた。


玄野…死穢八斎會の苦労人、治崎のサポート役であるが仕事の間壊理の世話を押し付けられる半ば家政婦みたいな存在になっている。本人の学歴が割りと高い事もあり帝と共に壊理に勉強を教える。しかし近頃は色恋沙汰もなく、次期組長として奔走する治崎を見てこのままでは彼が婚期を逃してしまうのではないかと心配している様子。もはやオカン。


入中…キレやすいのは牛乳を飲んでいないからだと帝に諭され、毎朝欠かさず飲むようになった。他にもリラクゼーション効果のある音楽やセラピーを取り入れ、短気は改善されつつある模様。ぬいぐるみに入り込んで擬態できる個性から壊理に気に入られており、治崎不在の折は玄野と共に壊理のお守りを担当している。壊理の希望により最近は包帯ぐるぐる巻きの妙な熊のぬいぐるみに擬態して、演技と共に「やってやるぜぇ~」とか叫んでいる。もはや任侠者の威厳もクソもないが帝や壊理が楽しんでいるので本人は満更でもない模様




改変された八斎衆の解説も要る?要らない…?



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27 少し周りを見渡せば

初投稿ですね





不思議な奴

 

 

俺が周りをちゃんと見れるようになってからアイツに覚えた印象だ。

体育祭終わるまではクラスどころか自分の事すら見えてなかった不甲斐ない俺だが、こうして視野を広げてみると今まで気付かなかった景色が良く見えるようになってきた。

 

 

体育祭明けの連休中に、姉と共にお母さんの所へ行った。

病室の扉の前で一瞬、あの日の事を思い出して立ち止まってしまった俺に、姉は優しく背中を押してくれた。2人で病室に入り、10年振りに再開したお母さんは、笑って俺達を迎え入れてくれた。

 

沢山、話した。

 

いままで言えなかった事、これから言いたかった事、10年溜め込んだもん全部吐き出して、みっともなく泣いて、そんな俺を見てお母さんは優しく笑ってて…

 

正直、クソ親父はまだ憎い。でも父を拒絶するあまり俺の視野は極端に狭くなっていた。それを自覚した俺は、先ずは今まで避け続けていた自分の左側(個性)と向き合う為、同じ炎の個性を持つアイツに教えを乞う事にしたんだ。

 

龍征帝。

いつも眠そうに瞼を擦りながら授業を受けて、休み時間は大体机に伏せってる。一見やる気のないように見えるがちゃんと人の話は聞いていて、困っていたら手を差し伸べる緑谷に似たお節介焼き。そんなA組女子グループの中心人物と、今は職員室へやって来ていた。

理由は自主練の為に訓練スペースを確保する為だ。雄英の敷地面積は広い、だけど俺達のように自主練する為に運動場を借りる生徒もそれに余りある程多い。だから訓練スペースの予約はいつも満員で、競争率が高いらしい。

龍征は相澤先生の所へ行った、手持ち無沙汰な俺は職員室の外で待機中だ。

 

 

…両手を握り、開く。

姉兄達とは違う、両親から半分ずつ与えられた半冷半熱の個性。

 

先ずは轟焦凍(オレ)を…()()も含めて肯定しなきゃ先に進めない。

 

 

「相澤先生から許可貰ったよー、小型運動エリアε(イプシロン)だってさ。」

 

「そうか、悪いな。」

 

少しして、片手に印鑑の入った申請用紙を持った龍征が職員室から出てきた。

 

「ちょっとだけサポート科に寄り道してもいい?」

 

「ああ、構わねえ。」

 

のらりくらりと廊下を歩く龍征の後を追うのは俺と、4匹の翼竜達だ。

龍征の個性によって操られているらしい、感情もちゃんとあるようで前に八百万から缶詰貰って嬉しそうに食べてたな。

普段は教室に置いていくコイツらを連れてきているということは、サポート科に用があるのは翼竜の事に関してなのか?

 

 

………

 

 

「じゃ、そういう事でヨロシク。

印照重工の方には話を通しておくからね。」

 

「勿論です!御依頼通り最っ高のベイビーを仕上げておきますから!

ではこの子達少しお預かりしますね!

職場体験の件、忘れないでくださいね!!」

 

「おっけーおっけー、宜しく〜。」

 

すげえオーバーリアクションで別れを告げるサポート科の生徒と別れ、今度こそ俺達は小型運動エリアへと向かう。

…さっきのは確か体育祭本戦にも出てたサポート科の…発目だったか?

 

「サポート科にも職場体験ってあるんだな。」

 

「そうそう、サポート科もこの時期するのよ。

んで、私の保護者…印照家のお父様はサポートアイテムの会社も経営してるから、雄英の子を何人かスカウトして来いって言われたの。」

 

どうやら龍征はサポート科の生徒に用があったらしい。

印照家、といえば世界的に有名な印照財閥の元締めだ。たしか…クソ親父のコスチュームも印照重工の特殊防火繊維で作られていたんだったか。

実は龍征って八百万みたいなお嬢様だったのか?でも苗字違うしな…関係者って所か。

 

「要するにヘッドハンティング?って奴よ。サポート会社は競争率が高いもんね、発目みたいに目立つ子にはツバ付けとかないとスグ大手に取られちゃうんだってさ。」

 

「他に有名な所となると…CMでよくやってる『デトラネット』とかか?」

 

「だね。ぶっちゃけヒーローよりサポート会社の方がお金が絡むし、開発者が自社の技術進歩に直結するからどの会社も新しい人材を探すのに必死らしいよ?

大人の世界は怖いねぇ〜。」

 

ヘラヘラ笑いながら廊下を進む龍征に着いていくうちに、運動場εに辿り着く。

 

大きさはテニスコート4面分くらいか、戦闘訓練や他の授業で使ってる運動場と比べるとかなり小さく『岩場』をイメージしたのか所々に大小様々な大きさの岩が転がっている、天井も高いし燃え移る心配も無さそうだ。

 

「よっし、じゃあ始めようか轟クン。」

 

「分かった……なんで眼鏡掛けてんだ?」

 

「んっふっふ〜、気分よ気分。」

 

体操服に着替えた俺達は岩場の真ん中へ並ぶように立つ。同じく体操服姿で何故か黒縁メガネを掛けた龍征は気取った口調で喋り始めた。

 

「んじゃ、炎の制御について説明すんね。

といっても、前に言ったように私と轟じゃ勝手が違うだろうからその辺りはそっちで噛み砕いて解釈して。

あくまで参考にする程度でヨロシク。」

 

「ああ、頼む。」

 

「ん、炎の個性で轟がまず覚えないといけないのは火力よりも精密な操作だ。なんでか分かるよね?」

 

「…ヴィランと対峙した時、殺しになっちゃいけないからか。」

 

Exactly(その通りでございます)

炎の個性は強いし派手。けどその反面、簡単に人を殺せる危ない力なの。

不用意にヴィランに使って、焼き殺しちゃいましたーなんて事になったらポリスメン案件まっしぐらだかんね。

炎熱、氷結、電撃しかり、状況次第で威力が変わる個性でこれだけは絶対肝に銘じといて。」

 

そうだ、初歩的だが忘れ易い事。

俺達はヒーロー。ヴィランと交戦しても基本的には『無傷』で捕えないといけない、暴力はあくまで正当防衛の時のみだ。車の運転と同じ様にヒーローにも免許があり、持たずに使えば法的な罰を受ける。

そして俺達の使う炎は攻撃力が高過ぎる。直に触れれば当然火傷するし、最悪の場合焼殺もありうる危険な個性だという自覚が必要だ。

 

「その点だと、エンデヴァーは流石だね。

私が知ってる中じゃ炎の扱いはダントツ上手いと思う。

いつもやってる暑苦しい炎のヒゲ、実は結構高等技術なんだぜ?」

 

「…そうなのか。」

 

お手本として龍征の吐いた炎が中を舞い、空中で輪の形になったと思ったら今度は翼を広げた鳥のような形になって、そのままターゲットにした岩を焼く。龍征曰く、炎は無形だから使い手の技量とイメージ次第で形を自由に変えられるらしい。エンデヴァーのヒゲもその応用だそうだ。

あのヒゲ、実は凄いことしていたらしい。

バトルヒーローは威圧感が大事…とか昔言ってたな、そういえば。

 

「轟は今まで父親としてエンデヴァーを見てきたけど、視点を変えてヒーローとしてのエンデヴァーも観察するといいんじゃないかな。プロのNo.2が身近に居るなら、見て盗める事も多い筈だよ。」

 

「そうだな、その為に職場体験をエンデヴァー事務所に決めた。」

 

そうだ、視野を広げるんだ。父親としてのアイツじゃなくプロヒーローとしての姿を見ろ。私怨は抜きにして、No.2になるにはそれだけの理由がある筈…それを学ぶのが職場体験の目標だ。

 

「よしよし。それじゃあ前置きはこの位にして、実際に炎使ってみようか。轟がどれくらい炎扱えてるか確認もしないといけないからね。」

 

「分かった。」

 

龍征の指示に従って、岩場に向けて左の力を解放する。

何度か地面を焼いた後、説明をざっくり教わった俺は更に鍛錬に熱中していった。

 

 

 

 

~~~その頃、教室〜~~

 

 

「あ、そうでした。私ったらうっかり…」

 

「どったのヤオモモ?」

 

「明日の選択授業、帝さんとペアを組んで調理実習をするんです。作るものは決まっているのですけど材料を買わなくてはいけなくて…恥ずかしながら私スーパーでお買い物なんてした事が一度もないので帝さんに一緒に行って頂けないか相談しようと思っていましたの。」

 

「か、買い物経験ゼロとか…流石ヤオモモちゃんやね…」

 

「因みに何作んの?」

 

「以前打ち上げの準備で響香さんと3人で作ったのが楽しかったので『ハンバーグ』と『コーンスープ』を作る予定ですわ。」

 

「そっかあ、美味しかったよねーアレ!」

 

「八百万も龍征と轟を探してんのか?」

 

「切島さん、貴方も?」

 

「ああ。あの二人、今日は放課後個性の特訓するらしくてよ。参考までにどんなことやってんのか知りてえから見学させて欲しいんだ。ってのをさっき龍征にメールで送ったんだけど返事がなくてさ。

既読も付いてねえし特訓に夢中になってんだろうけどよ。」

 

「個性の特訓!?うちも気になるかも…」

 

「『炎』という共通の個性を持つ者同士、互いを高め合っているのか。興味深い。

何時出発する?俺も同行しよう。」

 

「お、常闇も興味あるか!行こうぜ行こうぜ!」

 

「じゃー探しに行こっか。

多分何処かの運動場借りてやってるんだろうし、職員室で相澤先生に聞けば分かるでしょ。」

 

 

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

 

 

 

 

 

「勢いにムラが出てる、集中して!」

 

「くっ…」

 

「感覚は書道と一緒だよ。

止め、はね、払い、集中して何度も同じ字を練習して、一角一角の動作を丁寧に、正確にしていくの。

軽くやった感じ轟は火力はあるけど持続と制御がイマイチだから、職場体験までにその辺り重点的にいこうか。」

 

「ああ…宜しく頼む…ッ!」

 

 

 

特訓を始めてから小一時間、炎の鍛錬は続く。

龍征の説明はイメージしやすくて、正直1人でするよりかなり捗った。それだけあいつは炎の個性を理解しているって事なのか。

 

指摘された通り、火力より制御を意識して肩の力を抜いてみるとバラけて揺らいでいた炎が大人しくなって、ゆらゆら一定の感覚で放たれているのが分かる。

 

「お、いいねえ。良い感じに絞れてるよ。

轟は氷があるから火力調節もやり易そうだし、羨ましいねー。」

 

「龍征も炎の制御、苦労したのか?」

 

「そりゃもうね、個性の扱いは特にシゴかれたから。

ガキの頃は扱いきれなくて辺り一面焼け野原にしてたもん。」

 

「シゴかれた…って事は龍征に教えた人がいるのか。」

 

「そうだよ。

実は私ってば印照家に引き取られて色々と仕込まれてきたマルチエージェントだから。」

 

訓練も一段落し、部屋の隅に設置された休憩スペースで一息入れる俺たち。

ふふん、と自慢げに鼻を鳴らす龍征の眼鏡がキラリと輝いた。

 

何故だろう、どこからともなく相澤先生そっくりの声で『眼鏡キラーンッ!!』と聞こえた気がする。幻聴か……?

 

「どした轟、ポカンとしちゃって。」

 

「…?いや、なんでもねえ。」

 

引き取られた…って事は龍征は養子だったのか?炎を出し続けながらそんな事を考える。クソ親父の事が一瞬頭をよぎって嫌な気分になった。

 

「私に稽古付けてくれた人がね、凄い人なんだよ。

昔どっかの国の特殊部隊にいたらしいんだけど、今は印照家の使用人やってるの。

個性の扱いも上手くてさ。私じゃ絶対勝てないくらい強くて、憧れてた。他にも格闘技や銃器の扱いとかも色々教えてくれて、目付きがキツいから今でもちょっと怖いんだけど責任感が強くて、誰よりも職務に忠実で…それで…」

 

初めは自慢するように話す龍征だったが、話すにつれて言葉がどんどん尻すぼみになっていく。一体どうしたんだ?

 

「まあ、そんな感じで凄い人なのだよ。私の師匠は。」

 

「…?そうか、龍征はその人に憧れてるんだな。」

 

「……んー、多分そう。

でも師匠は私がヒーローになるの反対してるだろうから、あんまり良くは思われて無いっぽいけどね。」

 

「何でだ?」

 

「だって元々印照家の使用人にするために私を育ててたんだよ?それなのにある日突然『ヒーローになります!』なんて言ったら師匠はどう思うのよ。」

 

「確かに…ある意味裏切られたと思うかもしれないな。」

 

「ふぐっ!……その通りなんだけど…

轟って偶に梅雨ちゃん並のストレートくるよね。」

 

胸を抑えて悶える様な仕草をとる龍征。

というか龍征は元々使用人になる為に印照家で育てられたのか、ならあの料理の腕も納得だ。

 

「料理もその師匠から教わったのか?」

 

「いやあれは自前、あの人料理だけは壊滅的にヘタクソだったから。

…徐に生卵をレンジに入れるのよね。」

 

「それは…酷いな。」

 

それは料理の腕以前の問題なのでは?

 

 

 

 

 

 

余談だが連休初日、俺はお母さんとの再開が終わった後少し遅れてA組の打ち上げに参加した。

小綺麗な店内には飯田以外全員が集まっていて、ボードゲームやテレビゲームなんかをやって各々が楽しい時間を過ごしてた。意外だったのは爆豪がいた事だ。後で話を聞いたら切島が上手いこと言いくるめて連れてきたらしい。

…暴言吐きながら緑谷達とスマ〇ラやってた。

 

カウンター席に座らされ、差し出されたミニハンバーグやピラフが乗ったランチプレートは少し冷めていたがとても美味かった。聞けば八百万や耳郎達と一緒に全員分の昼食を作っていたらしい。龍征は料理上手だな。

 

 

 

 

 

 

 

 

「…お?」

 

龍征と雑談を交えながら暫く特訓していると、不意にふらりと身体が傾く。炎を出すのを止めて思わず膝を突いた。

気付けば身体が暑い……少し使い過ぎたか、オーバーヒート気味だ。氷で冷やさねえと…

 

「あーあ、初日だからってちょっと気合い入れ過ぎたね。炎出し過ぎだ。

氷と飲み物買ってきてやるからちょっと待ってな。」

 

「大丈夫だ、左で冷やせば…」

 

「あー駄目駄目、今日はもうかなり個性使って疲れてるでしょ。その上また個性で身体冷やそうとすると疲労で倒れちゃうよ。」

 

「大丈夫だろ少しくらい。」

 

「あっダメだってば…」

 

そう言って氷を作ろうと右の力を発動させる、直ぐにひんやりとした感覚が全身を駆け巡って…

 

 

俺は気を失った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………ぅ」

 

軽い頭痛で目を覚ます。

身体がだるい、指が上手く動かせないくらい疲れきっていた。

俺は何をしていたんだったか…ああ、そういえば…

 

「何か申し開きはあるかね、轟少年。」

 

「……すいませんでした。」

 

メガネ越しにジト目でこっちを見つめる龍征の咎めるような声。

個性を使って身体を冷やそうとしたんだったな、俺は。止められたのに氷を使って、このザマだ。自分を過信し過ぎた…

次からは龍征の言うことはちゃんと聞こう。

 

「身体が動かん…」

 

「身体温まった上に急に冷やして疲労でぶっ倒れたからねえ、体温調節滅茶苦茶になったんでしょ。暫くそのまま反省してなよ。」

 

脇の下に氷でも当てられているのかひんやりする、そして仰向けに寝てる俺の口元へ徐にストローが差し込まれた。

飲んでみるとそれはスポーツドリンクで、気を失ってる間に龍征が用意してくれたらしい。

 

「頭痛や吐き気はする?関節が痛むとか、身体が普段と違う事はない?」

 

「少し頭は痛むし身体は動かねえけどそれ以外は大丈夫だ。」

 

「ふぅん、それならいいや。

…完全に熱中症患者な件。」

 

「くっ…」

 

情けねえ…

というか妙に視界が暗い、目は開けている筈なのに影が視界を遮ってる。頭上には大きな丸が2つ、そして頭の後ろに感じる柔らかいもの…なんか暖かいし、こんな枕あったっけか?

何度か動こうともがくも、思っていたより疲労が溜まっていたらしく、寝返りをうつことも叶わない。

 

「んっ…コラ動くな、くすぐったいだろ。」

 

龍征は団扇でこっちに風を起こしてくれているらしい、というか…これは…

 

「なんで膝枕なんだ。」

 

「氷枕が無かったからね、動ける様になるまで大人しくしてろ。」

 

というかさっきから頭上に浮いてるのはアレか、龍征のむ…胸か…

 

「…すまん、手間取らせちまった。」

 

「反省してるならよし。

こういう応急処置は慣れてるから。

熱中症の対応なんて理科実験室が瘴気で丸々汚染されるとか、校舎半分凍結した時の後始末に比べれば随分マシよ。」

 

「ひ、比較対象がおかしくねえか…?」

 

「そう?

餓鬼道じゃわりと日常茶飯事だったけど…」

 

「すげえ所だったんだな、餓鬼道。」

 

他にチラホラ聞いただけでも咆哮をビームの様に伸ばして3キロ先の沖に停泊したボートを吹き飛ばす奴や重油が主食で口から高熱のレーザーを吐ける奴、果ては背中に生えた翼からジェット噴射で空を飛び回る奴なんかも居るらしい。

個性って言えばそれまでだけど、どんな魔境だ、餓鬼道中学校。

 

「…餓鬼道には寮があってさ。

そこに行く生徒は、個性が危ないからって理由だけで親に突き放されて入学した子が殆どなんだ。他には金銭的な問題を抱えてる子や、家庭環境が悪くて親と無理矢理にでも離れて生活しないといけないくらい気が滅入っちゃってる子。

そういう子達が寮に入って生活してる。

世間じゃ不良と喧嘩沙汰ばかり取り上げられてるけど、超常世界でも普通に生きられなかった子供達が唯一通える学校が餓鬼道中学校なんだよ。」

 

「普通に生きられなかった子…」

 

「そ。

中学生って多感な時期だからね。

誰かに否定され続けて、誰にも認めて貰えなくて、拗れた結果相手を傷付ける事でしか自分を主張できないように育ってしまった子供達。

私からはそう見えたよ。」

 

「…龍征はどうだったんだ?

そんな学校で3年間過ごして、しかも生徒会長で…辛くなかったのか?」

 

「んー…特に辛いとかは感じなかったな。

元々直上的で喧嘩っ早い連中ばかりだったから上下関係をハッキリさせれば素直に言うこと聞く子ばかりだし。

むしろ高校入って峰田や上鳴みたいなタイプとは初めて会ったからびっくりしたよ。爆豪みたいな性格の奴は腐るほどいたけどね。」

 

「そうか…」

 

それで爆豪の扱い上手いんだな(謎の納得)

 

餓鬼道中学校、という名前だけは教師をやっている姉さんや親父からも何度か聞かされた事があった。

「個性を持て余した不良ばかりが集まる吹き溜まり」

その程度の認識だったが、当事者の龍征から話を聞くとまた見方が変わってくる。

 

()()()()()()()()()()…『あたりまえ』に順応できなかった子供達が集まる学校、か…

龍征はそんな生徒達が集まる学校で生徒会長をやっていたのか。

 

 

 

 

 

 

 

 

一通り餓鬼道の破天荒ぶりについて聞かされた後、龍征は鼻歌を歌いながらスマホをつついているようだ。横向きにしてるからゲームでもやってるんだろう。

相変わらず俺の頭は龍征の膝の上で動けずにいる。

 

…目を閉じたらそのまま眠ってしまいそうだ。

 

暖かくて…柔らかくて…安心する…小さい頃お母さんにして貰った膝枕を思い出すな。子供だったからか、母親のぬくもりに飢えてたのかもしれない。よくねだってた。

そんな昔の話を思い出すうちに、どっと疲れが押し寄せてきて、俺はまた眠るように気を失った。

 

 

 

「Zzz…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「轟…?あれー?

寝ちゃってる、まあいいか。」

 

 

疲れきっていたのか、いつの間にか膝に頭を乗っけたままの轟は寝てしまったらしい。そんなに私の膝は居心地が良かったのか?

 

あー、でも壊理ちゃん寝かしつけるときにもよくやってたから膝枕は得意だな。

私の膝ですやすや眠る壊理ちゃんを見ているとさあ…もう何も怖くないなって…思うんですよね……

 

壊理ちゃん曰く「人をダメにする膝枕」の称号を頂いた私なのだ、居住性はバッチグーですよ。ふはは。

 

それはそうと轟、初日にしてかなりの進歩だ。まさかここまで上手いと思わなかった。

苦手にしていた炎の持続もあの調子なら直ぐモノにするだろう、制御も後は基礎を反復練習すれば手足のように動かせるようになる。No.2の血を引いているからか、それとも今までの努力の成果なのか…物覚えの良い子は凄いなあ。

やっぱ自力で温度下げられるのはいいね、威力上げるだけなら風呂に浸かりながら熱と冷気を交互に出して、水温を一定に保つ訓練とかやれば効率的なんだろうけど、そこまで大掛かりに訓練できる施設も無いし。

 

ていうかどうしようかなあ、轟はぐっすり寝ちゃってる、起こすのも可哀想だ。訓練場の貸し出し時間もまだ少し残ってるし何に使うか…取り敢えずスマホ。

 

炎を使い過ぎた轟は軽い疲労と熱中症に近い状態になってしまってるっぽいので、処置はこれでいいだろう。備え付けの冷蔵庫にアイシング用の氷入ってて助かった、自販機で買ったスポドリ代は後でツケといてやる。今月は職場体験の遠征費や課金で飛んでくお金が多いのだ。

団扇でパタパタ轟を扇ぎながらスマホをつけると、切島から連絡が来ていた。どうやら私達の特訓に興味があるらしく、見学したいらしい。切島の個性じゃ畑違いだし見てもあんまり為にはならないと思うけどなー。

アレ?このメッセージ結構前に来てる、もしかしたら今頃私達の事探してるんじゃ…

 

 

 

ガラッ

 

 

 

「帝さん、こちらにいらっしゃいますか?

教室で聞くのを失念してましたが明日の調理実習の事で相談……が…」

 

「轟、龍征いるかー?

2人が個性の特訓してるって聞いて気になってよ、良かったら見学させてもらえねぇかなっ…て…」

 

両開きの引き戸が開いて、そこから百と切島が現れた。

2人とも目をぱちくりさせながら轟を見て…ゆっくり視線がこっちを向く。

 

轟を膝枕している私と目が合った。

 

百はどんどん顔色が赤くなって、切島は『あちゃー』って顔しながら天を仰いでる。

 

 

???

首を傾げる私。

 

「ヤオモモー、帝居た?つかなんで扉の前で立ち止まっ…てぇ!?

アンタ等何やってんの!!!」

 

その後から響香が遅れてやって来て、私を見るなりすげえ勢いでツッコミを決める。耳のイヤホンがグワングワン揺れて、動揺してるのが丸わかりだ。

ヤってるも何も、治療行為だ。疲労と熱中症でぶっ倒れた轟をこうして介抱してやってる女神の如く優しい私の図。やましい事などなーんもない。

 

「あー…悪ぃ龍征、なんか邪魔しちまったか?」

 

「?何の話よ切島。」

 

「切島ダメ、帝はこういう奴だから。

自覚無しにこういう事を平然とやってのけるから!」

 

「マジかよ無自覚か…そういや鉄哲の奴がそんな話してたな。」

 

「みみみみみ帝さんがとととと轟さんを膝枕…もももしかしてお二人はそういう仲でいらっしゃいましたの………?」

 

「燃ゆる青春の香り…」

 

「常闇、変な例え方止めて!」

 

「変ッ!?…ぬぅ。」

 

 

気まずくなる切島、顔を真っ赤にしたままうわ言みたいに呟いてる百、未だにイヤホンがグワングワンしてる響香、そしてなぜ居る常闇。

誤解が誤解を呼んで運動場εは騒がしくなっていく。

 

うーん、カオス

 

「Zzzz…」

 

この紅白モンスターボール君は呑気に私の膝で寝ていらっしゃるし…

 

この後百たちの誤解を解く為に滅茶苦茶説明した。案の定クラス中に言いふらされてまた一悶着起きるのをこの時の私はまだ知らない…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「放課後だというのに今日は客が多いな…」

 

「……」

 

ヒーロー科1年A組担任、相澤消太。

「合理的」がモットーで無駄を何よりも嫌う男。つい先日まで包帯ぐるぐる巻きのミイラ男だったが、それが外れたのはつい今朝の話。そんな彼の元に、1人の少年が訪れていた。

 

 

「お前が来た理由は大体把握してる。

…ヒーロー科への転入希望だな?」

 

「はい、その通りです。相澤先生。」

 

相澤はつくづく雄英の入試制度は非合理的だと内心嘆息していた。

単純な戦闘力しか評価できないと彼のような個性は埋もれていく、人間であるヴィランを相手にする上で『対人に特化した個性』はどれほど強力か、校内のヒーロー教師や根津校長が知らないわけも無いだろうに。

 

「(…大体は公安の怠慢だろうがな。)」

 

今年の実技試験、ロボットによる模擬演習に限らず、例年入試の問題を提案するのはヒーロー公安委員会だ。勿論講師達の意見も届ける機会はあるが、金を出すのは公安(パトロン)である。どちらの発言が強いか言うまでもない。

ここ数年の入試は単純な戦闘力を測るためのものばかり。それだけお上の求める人材(ヒーロー)が何なのか透けて見えた。

 

不意に、入試試験の採点が行われていたあの時を思い出す。

雄英の実技入試は隠れた得点である『救助ポイント』を採点する為、控え室に集まった審査員達が各々の試験会場を映し出すモニターでその様子を採点していた。

次々と仮想ヴィランを爆破していく爆豪、0ポイントロボを己の腕を砕きながらも破壊した緑谷など、未来のヒーローに相応しい素質を備えた者を現役ヒーローでもある彼等の目で直に判断するのだ。

たまたま審査係から外れた相澤もその様子を遠巻きに眺めていた訳だが、審査に同席していたヒーロー公安委員会の役員達がモニターの1つを見つめザワつき、何やら話し込んでいたのが気になった。

その画面には原形を留めないほど高熱でグズグズに溶かされ、吹き飛んだ0ポイントヴィランの残骸が横たわり、代わりに4本足で仁王立ちする黒と金の巨竜が映し出されていたのだ。

正直な所、相澤も驚きこの巨竜が『個性』だということに5秒ほど考える間を要したが、そこは彼もアングラ系とて現役のヒーロー。直ぐに気を持ち直す。

 

役員から漏れ聞こえる単語の端々からは「危険な個性」だの「首輪を付けるべき」だの、おおよそヒーローとは掛け離れた台詞ばかり漏らしていたが、良かれ悪かれあの時からヒーロー公安委員会はモニターに映る巨竜、龍征帝に目を付けた。という事になる。

 

 

(龍征に目を付け何を企んでるかは知らんが、そうそう連中の思い通りになる奴じゃないか。)

 

 

そこで一旦思考を止め、目の前の生徒に向き直る。本来ならヒーロー科とは無縁の普通科からの来訪者、普段友人達と話す時とは違う、決意の篭った表情で彼は真っ直ぐ相澤の目を見ていた。

 

「1年C組、心操人使。

個性は『洗脳』、体育祭では普通科で唯一の本戦出場者か。決勝トーナメントでは惜しかったな。」

 

「いえ、あれは自分の力で出場出来た訳じゃないんで。

他のヒーロー科の生徒達と協力して出し抜いて…決勝トーナメントまで()()()()()()()()

たまたま運が良かっただけです。」

 

それは謙遜ではなく本心からくる言葉だと相澤は悟った。

確かに心操は騎馬戦で帝の策略の最後のひと押しに起用され、競技終了直前に轟の1000万を奪い勝利した。だがそれは他の3人による防衛力と攻撃力あっての結果であり、心操の個性はサポートが主だった役割だ。

その結果は緑谷との1回戦で顕著に現れている、初見殺しの洗脳は対策されてしまえばどうということは無い。場外に放り出され呆気なく心操は敗北した。

 

あの時の自分に足りない物は何か、よく理解した上で相澤のもとへやってきたらしい。

 

「……俺は無駄が嫌いだ。

だからヒーロー科の問題児共が職場体験に行っている1週間の間だけお前の面倒を見てやる。1週間後にテストを行い、見込みが有ると判断すればその後も指導は続行、逆ならこの話は白紙に戻すし今後一切お前からの打診は受け付けん。さあ、どうする?」

 

「やります。」

 

心操の決断は早かった。

もとよりその覚悟を持って職員室の扉を叩いたのだ。

「ヒーローになれない」なんて甘ったれていた自分を、決勝トーナメントに「連れてきて貰った」自分を律して次のステップへ進める為に。

 

「俺はヒーローになりたい。

信じてくれた奴に背中を押してもらって、踏み出せないのは嫌なんです。

だから…」

 

 

宜しく…御願いしますッ…!

 

 

深々と頭を下げる。

 

相澤は自然とマフラーに隠れた口元が緩んでいくのを自覚した。雄英の、それも普通科からヒーロー科に転入しようとする者は彼が赴任してから片手で数える程しか存在しない、普通科からヒーロー科への転入には入試よりも更に厳しい審査基準が要求される。

雄英の花型『ヒーロー科』は伊達ではないのだ。

 

それに挑もうとする者が目の前に現れた。

 

Plus ultra(更に向こうへ)

 

暑苦しい謳い文句は嫌いだが、こういうアツさは悪くない。

 

「決まりだ。

明日、授業が終わり次第また此処へ来い。特別カリキュラムを用意しておいてやる。」

 

「……!!はいッ!」

 

再び深いお辞儀を終えた心操は職員室を去っていく。

隣の机で此方をニヤニヤ見ながら口笛を鳴らすプレゼントマイクこと山田を無視し、相澤は自分の作業へと戻った。「これは暫くネタにされるな」と内心嘆息しながら。

 

案の定、爆豪の居残りを終え帰ってきたミッドナイトに全てをリークされ、青春大好きな彼女の話に付き合わされる事になった。

 

 

 

 

原作(ほんらい)よりも少し足早に、心操人使のヒーローへの第1歩は此処から始まるのだ。




☆おまけコーナー 八斎衆偏☆

『八斎衆』とは極道組織死穢八斎會が若頭、治崎廻の下で動く鉄砲玉部隊である。
元ネタは仏教における戒律の1つで、出家した者が守らねばならない8つの教え

殺さない
盗みをしない
性交を行わない
嘘をつかない
酒を飲まない
正午以降は食事をしない
装飾品、化粧・香水など身を飾るものを使用しない
贅沢な寝具や座具でくつろがない

から来ている(wikiガン見のガバ知識並感)

八斎衆は全員がこの教えに関する個性を有しており、治崎の手となり足となり日夜組の為あくせく働いている。

「ちー君もしかして狙ってこの人達揃えたの?」

「……ノーコメントだ。」

8人は治崎から直々にスカウトされ組に所属している。皆はぐれ者ではあるもののチームワークは確かな実力派集団であり、新参にも関わらず組内では確かな地位を確立している模様。オーバーワーク治崎、努力の賜物である。
治崎の指示によりヴィジランテとして活動する事もしばしば。

窃野トウヤ(せつの とうや)
個性《窃盗》
治崎に救われたはぐれ者の一人。恋人に裏切られ借金を背負わされ自殺を図るもヒーローに助けられ世界に絶望したなんかもう可哀想な人。
過去のトラウマから女性恐怖症の気があるらしく、帝を避けがち。でも幼い壊理を喜ばせる為に個性を応用させマジックとか考えて披露しちゃう頑張り屋さん。基本的に後述する多部、宝生との3人トリオで行動する。
ヴィジランテネームは『マスク・ザ・スティール』


宝生結(ほうじょう ゆう)
個性《結晶》
窃野と同じく過去に傷持つ八斎衆の1人。彫りの深い坊主頭の男性。個性の性質上フィジカル面は人一倍強く、高硬度の結晶を生やした一撃はかなり強烈。ヴィジランテネームは『マスク・ザ・ジュエル』
身体から生える結晶に金銭的価値は無いが、気まぐれに帝が「なら加工してアクセサリーにしちゃえば売れるんじゃない?結晶自体は綺麗なんだし。」とか言っちゃったのを真に受けて一念発起。若者向けアクセサリーブランド『HOUZYO』は主に十代女性から絶大な人気を誇り、爆発的な売り上げを記録し今も死穢八斎會の隠れた財源として重宝されている。近々男性向けに新規開拓を狙う予定。
結晶の生成もやっているうちに強化され、硬度の強弱や7色の色付き結晶を生成出来るようになった……ゲーミング宝生かな?
「街角ですれ違った女の耳には俺の身体から作られたイヤリングが……変な趣味に目覚めそうだからこれ以上考えるのは止めよう」


多部空満(たべ そらみつ)
個性《食》
ヴィジランテネーム『マスク・ザ・イーター』。
個性の影響で食べることしか頭にない、その為社会に馴染めず路頭に迷っていた所を治崎に拾われた。
強靭な顎と胃袋は捕食可能な物ならなんでも食べて消化してしまう。一度その壮絶な捕食現場を死穢八斎會に来て間も無い頃の壊理に目撃され泣かれてしまい、それ以降怖がられるようになったのを気にしている。結構ナイーブな人。
食べることしか頭にない、とは言っても食べていいか悪いかの区別はちゃんとつくようだ。時たまやってくる帝が作る手料理により舌が肥え始めた。


乱波肩動(らっぱ けんどう)
個性《強肩》
喧嘩大好き、ヴィジランテネームは『マスク・ザ・ブロー』。
八斎衆きっての戦闘狂にして最大戦力。素手での殴り合いに拘りを持ち、ケンカ=殺し合いの方程式が成立している頭おかしい人(帝談)。これでも帝や壊理と接するうちに少しはマシになったほうらしい。
帝とは組内の道場で定期的にスパーリングを共にする仲……なのだが、彼の強肩から繰り出される殺人パンチで行うマシンガンジャブ(直喩)は相手が手慣れている且つ防御力カンストしてる帝でないと速攻でミットごとミンチにされてしまうだろう。そんな難易度Lunaticな限界スパーリングに付き合っているせいか、八斎衆の中では組に所属して一番日が浅いにも関わらず結構帝と仲がいい。
相棒、もといストッパー役の天蓋と共に治崎の命令でヴィジランテとして活動する事が多い。


天蓋壁慈(てんがい へきじ)
個性《バリア》
ヴィジランテネームは『マスク・ザ・シールド』。
稼ぎ頭である宝生の資売上管理が主な仕事。事務作業ばかりかと思いきや、個性が防御全振りなので乱波とタッグを組まされることが多く、よく荒事に駆り出される。
八斎衆の中ではコミュ力が高く、帝や壊理ともすぐ仲良くなれた。最初は帝の事は壊理のお守り役程度に思っていたのだが、興味本位で初めて乱波と帝の限界スパーリングを近くで観戦し、衝撃波で死に掛けて以降「乱波とタメを張れるヤバい女」として密かに恐れている(バリアの個性が無かったら即死だった)。


酒木泥泥(さかき でいどろ)
個性《泥酔》
ヴィジランテネームは「マスク・ザ・ドランク」
自分の『酔い』を伝播させる個性、酒を飲んでいる間周囲の生き物の平衡感覚を狂わせたり、頑張れば泥酔状態に似た症状にも追い込める。足止めや拘束に最適。
治崎に拾われるまではホームレスの呑んだくれで毎日やけ酒に溺れていた日々だったが組に入って以降は人並みの生活を取り戻す。後進の育成や壊理とのコミュニケーションを通して粗暴だった性格も安定し今では八斎衆きっての紳士と呼ばれるようになった。組の活動で懐に余裕ができたのか部分整形なんかも始めちゃって、オシャレも覚えた。ヴィジランテとして活動する事が多い為いつものマスクを被っているがその素顔は帝曰く「舘〇ろし似の渋いイケおじ様」らしい。誕生日プレゼントとして壊理と帝から貰った組の紋入りスキットルを長年愛用している。行きつけのバーはオールドスパイダー。

活瓶力也(かつかめ りきや)
個性《活力吸収》
乱波に続く巨漢の持ち主で触れた相手の生命力を吸い取る個性を持つ鉄砲玉。
ヴィジランテネームは『マスク・ザ・バイタリティ』
いつも気だるげ、個性で活力を吸うとハイになる。玄野や入中と同様古参の組員で、「鉄砲玉の方が自分に合っている」と自ら八斎衆へ加わった。
気さくで結構な女好き、小遣いは殆どを行きつけのキャバクラへつぎ込んでおり身体を鍛えた理由も「嬢にたくさん触ってもらえるから」と自ら話していた。
その反面、面倒見が良く女心は誰よりも理解していると自負し帝も何度か相談に乗ってもらった事がある。壊理と帝には「将来が楽しみ」と特に目をかけており、友好を深める為に他の八斎衆を巻き込んでツイスターゲームとか始めちゃう死穢八斎會のムードーメーカー。

最近はこっそり治崎からも色々と相談を受けているのだとか…


音本真(ねもと しん)
個性《真実吐き》
治崎の懐刀、ヴィジランテネームは『マスク・ザ・トゥルース』
八斎衆最古参のメンバーで治崎と最も付き合いが長い、その分忠誠心も高く治崎不在の際は八斎衆を取り纏める副リーダー的存在。
強制的に真実を吐かせる自分の個性に辟易していたが、嘘偽りなく自分を必要としてくれた治崎や暖かく迎え入れてくれた組長に恩義を感じており、その庇護下にいる壊理と帝にも好意的。
組、ひいては若頭の今後を誰よりも憂いている。主に婚期とか。
組の繁栄を心から願う音本であるが同時に治崎には1人の人間として満ち足りた幸福を、具体的には奥さん見つけて子供こしらえて心身共に『幸せ』と呼べる人生を歩んでほしい。そう願い続けて来た。
しかし治崎は毎日組の運営業務に追われ、色恋沙汰とは無縁の生活を送る日々が続いている。そんな折、組長が引き取ってきた壊理と遠縁の子として組に出入りするようになった帝に目を付け、「この期を逃してはならない」と同じく若頭の婚期を憂う組長や玄野と結託し治崎に2人の面倒を任せる事で異性との縁を作ろうと画策した。
計画通り今日までの3人の仲は良好、組長とその他の働き掛けにより外堀を埋め『治崎の許嫁』として死穢八斎會側は帝を迎え入れる準備を整えたのだが、帝専用SECOM(某印照家令嬢)は酷く難色を示しており帝を巡って今も水面下で泥沼の抗争を繰り広げている。


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28 職場体験が始まるらしい


はちゅとうこうでちゅ(3才)






世の中は理不尽だ

 

 

 

突然の凶報。

病室で見た兄さんの表情は今まで見たことも無い程弱々しく、衰弱していた。

何より、つい昨日まで見せていたヒーローとしての覇気溢れる姿は何処にもなく、病室の窓を眺めながら『ただ生きるだけ』となってしまった兄の姿はとても耐えられるものでは無かった…

兄のヒーロー人生は唐突に、呆気なく終わりを迎える。家族は命あっての物種だと励ますが、ヒーローとして輝いていた兄の姿はもう二度と見られない。

 

何故だ

 

理不尽だろう

 

何故誰も怒らない

 

兄は真面目にヒーロー活動をやっていただけだ

 

悪いのは全部彼奴だ

 

 

僕の心に暗い炎が灯る。

こんな感情、ヒーローとして間違っているとは百も承知だ。だがどうしても拭い去ることができなかった。

胸の中で負の感情が暴れ回る。抑えようのない怒りが僕の脚を速め、沸騰しそうな頭は『奴』の事で一杯だ。

 

兄さんを再起不能にした『奴』を

 

『インゲニウム』を殺した『奴』を

 

 

 

「ヒーロー…殺し……ッ!」

 

 

殺 し て や る

 

 

夕暮れ時の帰り道、誰にも聞かれないよう静かに呟いた怨嗟は血のように真っ赤な空へ溶けていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それでは本日より1週間、職場体験の期間に入る。

それぞれの体験先の事務所に失礼の無いよう務めろ。」

 

『ハイッ!!』

 

駅の入口、通行客の迷惑にならないよう隅っこで私達は相澤先生からの激励を貰う。

本日より職場体験、1週間の間ヒーローの卵としてプロヒーローの下で現場を見て学ぶのだ。

 

「ああ、それから…

この時期に他校のヒーロー科も職場体験を行ってる。被る事は稀だろうが、もし体験先で鉢合わせした場合は協力し切磋琢磨する事。

くれぐれも余計な問題は起こすなよ。」

 

「他校のヒーロー科も…」

 

「被ったら被ったで色々勉強できそうだな!」

 

まだ見ぬ競争相手に夢膨らますA組一同。

他校のヒーロー科ね…どんな人がいるんだろう?

雄英の他に有名な所だと傑物か士傑、才子先輩のいる聖愛とかかな。そういや書記ちゃんも士傑受かったって言ってたし、もしかしたら会えるかも?いや看護科だから別か、あの子寮生活してるって言ってたっけ。

 

「おーい帝。

ボーッとしてると電車行っちゃうよ?」

 

「あ、悪い悪い。ちょっと考え事してた。」

 

そんなことを考えている内に各々が列車の時間を確認し、バラバラに行動し始めた。

私は東行きの6番ホーム。ちゃあんと事前にヒーロー事務所までの道は調べておきましたとも。

 

「じゃあウチは2番ホームだから。また一週間後にね。」

 

「はい、お互い良い経験をしましょうね。」

 

「百が言うとなんか卑猥…」

 

「なんでですかっ!?」

 

響香は2番、百は7番、他の女子連中も見事にバラバラ。お茶子なんてガッチガチのバトルヒーロー『ガンヘッド』の事務所行くって言ってたし、相当気合い入ってんね。

 

「………」

 

「どした轟?」

 

「…いや、何でもねえ。」

 

乗り場へ向かう途中、何処かを見つめる轟が目に留まった。視線の先にいるのは切符を握り締め、思い詰めたような表情で俯いている飯田だ。

お兄さんが襲われてからまだ1週間ちょっとだもんね、立ち直れって言う方が無茶だろう。『インゲニウム』、一命は取り留めたけど後遺症が酷くてヒーロー活動出来なくなるらしいってテレビで何度も報道されてた。

 

うーん…

 

「おーい飯田。」

 

「…ッ!なんだい龍征君、お互い良い職場体験にしようじゃぬぉアッ!?!?」

 

トテトテ飯田の方へ歩いていき、丸まってる背中を徐ろに叩いてやった。

間抜けな悲鳴と一緒に背筋も伸びて良かったんじゃない?

 

「なっ何するんだいきなり!?」

 

「いや、ガチガチだったからつい。」

 

「ついじゃないだろう!

突然の暴力は止めたまえ!」

 

「…いや、飯田が無言で切符握り締めてるの見てトイレ我慢してるのかなって思ったからやったれって。轟が。」

 

「ぇ」

 

「絶対嘘だな!?

今轟君小さく『え』って言ったものなぁ!?というかトイレ我慢してるのなら尚更背中叩いちゃ駄目だろう!」

 

「なんだ思ったより大丈夫そうじゃん。」

 

「ッ…何がだい?」

 

「鏡借してやるから自分の顔見てみ。」

 

そう言って私は鞄の中から取り出した掌くらいの折りたたみ鏡を開いて飯田に手渡してみる。

写ってるのはもちろん、張り詰めて幽鬼みたいになってる飯田だ。

とてもこれから職場体験に向かうって表情じゃない。

 

「まるでこれから〝復讐〟に行こうって奴がするカオだよ、お前。」

 

「……ッッ!!」

 

「私は飯田じゃないから今飯田の抱いてる気持ちなんて分からないけど、これだけは言える。

例え仇を討ったとしても、胸のモヤモヤは消えない。一生着いて回るから。

いやー恨み妬みは犬も食わないってね。」

 

 

きっとそれは、飯田の夢を邪魔するよ。

 

 

「情報ソースは餓鬼道、そんだけ。

じゃ、電車出るから私はこれで。

ばーい。」

 

また俯いちゃった飯田の肩を軽く叩いてホームへ歩いていく。飯田から返答はない、何か言いたげな轟と、騒ぎを聞きつけた緑谷はじっと私を見つめていた。

次いでに1人で路線表確認してる爆豪の所にも寄っていこう。

 

「あ、そうだ爆豪。」

 

「ああ?ンだクソ痴女。」

 

「乙女に向かってクソ痴女とはなんだこの野郎…

まあそれはそれとして、体験先ベストジーニストさんだったよね?

行く次いでにこれ、渡しといてくれない?」

 

片手に持っていた大量の菓子折りが詰まった紙袋を爆豪に半ば無理やり押し付けた。

No.4ヒーロー『ベストジーニスト』、実は餓鬼道と深い関係だったりする。なのでご挨拶にも行けない代わりにせめて菓子折りだけでも…という訳だ。

 

「巫山戯んななンで俺が…」

 

「私の母校、知ってるでしょ?

ベストジーニストさんは餓鬼道の臨時講師なの、個性指導とか在学中お世話になってたからこの機会にお返しのつもり。

でも私は行先真逆だし、爆豪が向かうならその折にってね。ね?頼むよー。」

 

「……チッ!

オイ、1つ聞かせろ。臨時講師ってこたァ、ベストジーニストは餓鬼道中に行くんだな?」

 

「?…まあそりゃね。

私が卒業した後何も変わってなければ週2回は餓鬼道へ個性指導の為に通う筈よ。」

 

「そうか……」

 

何故かクックとあくどい笑みを浮かべる爆豪。やたら素直に菓子折り受け取ったし、一体どうしたんだ?

 

 

 

 

 

 

 

通勤ラッシュより少し遅めの時間帯、ホームは人も疎らなので余裕で座席に腰掛け背中の翼竜詰め込んだバッグを下ろす。実は私だけかなりの大荷物なのだ。

翼竜入りのリュックを背中に背負って、片手には1週間分の着替えやら何やらが入った旅行用のボストンバッグ。爆豪に渡しちゃったから今は無いけど大量の菓子折りが入った紙袋。

これから一週間、バイトも無しでヒーローの事務所へ付きっきり…かあ。

 

そんで電車の中、流れていく景色を眺めながらふと思い出した。

 

 

「……飯田に手鏡返してもらってない…まあいいか。」

 

どうせ百均の安物だし、とか考えながらイヤホン繋いでYooTubeの実況動画を車内で見る私を、隣の席に置いたリュックの中から首だけ覗かせる翼竜達(キン〇ギドラみがある)が何やら物欲しそうな顔で見つめているのに気が付いた。

USJの時と言い、体育祭の時と言い、最近色んな人に甘やかされて鯖缶以外にも新しい味を覚えてしまったこいつらは舌が肥えてきたらしい。

急いでいたから今朝の分を食わせてないので余計主張が激しいようだ。

贅沢を覚えやがって…

 

でも流石に電車内で缶詰を貪らせる訳にはいかない、今は私が食ってるプリッ〇をやるからこれで我慢しろ。特別だぞ?

視線はスマホに留めたまま、余った左手で試しに1本くれてやると鳴き声をあげてかっさらっていった。その後も一本、また一本と小袋からプリッ〇が消えていく。

 

クェェェッ! ポリポリポリポリ…

 

…クァァァァ ポリポリポリポリ…

 

クルルル… ポリポリポリポリ…

 

グルアッ…グルアッ… ポリポリポリポリ…

 

キキッ…ウキキキィッ!! ポリポリポリポリ…

 

 

 

……んん?

聞き慣れない声が聞こえたぞう?

 

 

 

 

 

 

 

「おさる…?」

 

 

おさるだ、ガナッシュ達より少し小さめでベースボールキャップ被った猿が私のプリッツを器用に齧っていた。

 

何処から来たのか知らないケド、動物園から逃げ出してきたのかな?それとも誰かの個性かも、いやネズミの校長先生という前例があるんだからこの猿もめっちゃ賢い個性持ちだったり…

っておいコラ、私の鞄を漁るな漁るな。あー学校から貰ったスマホ弄らないの。めっ!

 

「お〜いエイプリル!エイプリルやーい!」

 

猿からスマホを取り上げようとして席を立とうとした時そんな声が聞こえたと思ったら、前の車両からスーツ姿のナイスミドルなおじさんが焦りながら入ってきた。

猿はおじさんの足からよじ登り背中を通って肩まで上がり、此処が定位置と言わんばかり寛ぎ始める。

 

「おお探したぞエイプリル、こんな後ろの車輌まで来ていたのか!

おや何を持って…」

 

おじさんは猿の持ったスマホと私の顔を交互に見て察したのか顔を青くしながらペコペコ謝罪をし始めた。特に気にしては無いんだけど年上のおじさんからこうも腰低く謝り続けられるのはなんか凄い気まずい…

 

「いや申し訳ない!この子は目を離すと直ぐ何処かに行くもんだから…」

 

「あー…気にしないで下さい。スマホも返して貰いましたし。」

 

なんとか顔を上げてもらって、おさるの手から返してもらったスマホを再びカバンへしまい込む。別に画面に傷が入った訳でもないし問題ないでしょ。

……ん?待てよ?もし返す時に壊したり破損していたりしたら弁償しなきゃならなかったりする?公安から相澤先生伝いで請求書とか来るんだろうか?

 

『龍征、お前宛に公安から請求書届いてるぞ。

…何やった?言え(抹消ON)』

 

「ヒィン…」

 

…考えると怖くなってきたからカバンの奥へタオルとか巻いてていねていね丁寧〜に包んでおいた。国家権力から睨まれるとか命が幾つあっても足りないよ。先生にもすげえ叱られそうだし…

 

「そのお猿さんは…?」

 

「ああすまないね、私の個性なんだ。

『猿まわし』といってね、猿が懐きやすいんだよ。無意識に発動してお供にしてしまうから便利が効かなくて困ってるんだ。

…ところで君、もしかして雄英高の体育祭で準優勝した子じゃないかね?」

 

ゲッ!?またこのパターンか!いやまあ雄英高校の制服着てて顔も体育祭で割れてるから遅かれ早かれバレるんだけどさ!

どうしてもこの前の接客ラッシュを思い出しちゃう、知らない人間にいい顔しながら対応するの気ぃ張って疲れるからやりたくないんだよ…くそうこれが有名税ってヤツだな!?

 

「ハイ、ソーデス。ユーエータイークサイデテマシタ…」

 

「何故急にカタコトに!?」

 

アカン普段動かさない顔面がピクピクし始めた、朝早くから顔取り繕うとかムリムリの無理!勘弁してくれ!

 

「もしかして緊張してるのかい?…まあいいか。

準優勝おめでとう、体育祭頑張っていたね。

実は僕も娘も君のファンなんだ、帰ったら自慢出来るよ。」

 

「あ、ありがとうございます…」

 

「凄い個性だ、特にあの巨龍の姿には驚かされたよ!君みたいな子がヒーローになってくれるなら日本の平和も安泰だ。

オールマイトに続く〝平和の象徴〟なんて呼ばれる日も来るかもだねェ…」

 

いや、それはないやろ。

流石に1時間に3件ペースで事件を解決する男にはなれんやろ、ていうかなって堪るか。エンデヴァーやホークスにでもやらせとけばいい。

私が目指してるのは一般レスキューヒーローなのだ、チャート上位とか目指す気なんて爆豪の自制心くらいない。っていうかランク付けして競わせるあのシステム嫌いだし。

数字が付いてると比べたがるのよね、やはり人間は愚か…

 

まあ社交辞令って事で受け取っとこう。

 

その後もおじさんのべた褒めに適当に相づち打ちながら15分ほど経った頃、大きく電車が揺れた。どうやら駅に停車したみたい。

 

「おおっとすまない、話し込んでしまった。

じゃあ私はこれで。すまないね時間を取らせてしまって。

職場体験頑張ってね。」

 

「はい、頑張ります。」

 

どうやら此処が彼の目的の駅だったらしい、猿まわしのおじさんはおさるを肩に乗せたまま足速にホームへ去っていった。

なんか心にひっかかる。

 

『職場体験頑張ってね』

 

…アレ?あのおじさんに職場体験の話したっけ?

まあ雄英高校の職場体験はこの時期の定例行事みたいなものだし、知ってる人は知ってるよね、ウン。

 

 

 

おじさんの居なくなって再び一人になり、また車輌は静まり返る。

さあYooTubeの続きだとイヤホンを装備しようと手を伸ばした時

 

「うぉおおおおおおおおッッ!!!」

 

…なんかドタドタとホームの階段を駆け上がってくる足音が聞こえて、大荷物抱えた学生が一人滑り込んできた。『駆け込み乗車はお止め下さい』ってアナウンス言われてるぜ君、車掌さんにめっちゃガン飛ばされてたよ?

そんな事はお構い無しに大声で「セーーーーフッ!!!」って叫ぶ君のメンタルはアダマンチウムで出来てるのかな?ウ〇ヴァリンなんかな?

背の高い学ランの男の子だった。私のヤンキーセンサーに反応しないからとりあえず急にインネン付けられる事はなさそう…

息を整えた男の子はちょうど私の向かい席にドカッと腰掛けて、そのまま列車は動き出す。

 

私はスマホの画面に再び目を落とし、動画に戻ろうとした所で気付いてしまった。

 

 

向かいの子めっっっっちゃ見てくる

 

もうね穴が空くほど私の方を見てる

 

なぜ?急にメンチ切られた?

 

なんか私悪い事したか?

 

なにこれ気まずい、誰か助けて。

ダメだったわこの車輌私と向かいの子しか居ないし、下手に顔上げられんぞコレは。リアル喧嘩番長じゃないんだから出会い頭にメンチビームぶつけてくるとかマナーがなってないんじゃないのかね君ィ!

れれれ冷静になれ私、穏便に済ませるんだ…中学までの喧嘩上等な私はもういない、今の私はヒーローを志すまっさら雄英生、この場面で下手なアクションは戦闘に発展する恐れがある。こういう手合いは向こうが仕掛けてくるまで無視が基本だ、殴り返すのは触られてから。あくまで正当防衛の体を装って適度にボコボコにしてやればいい(路上喧嘩歴3年のベテラン)。

気づかないフリ気づかないフリ、あーマ〇ン船長は可愛いなぁー!ホロ〇イブは最高だz「もしかして雄英の生徒さんッスか!!!」声デッカ!?うるさっ!?

 

「ハイ、ソウデスケド…」

 

「自分は夜嵐イナサって言います!士傑高校の1年生ッス!

こんな所でお会いできるなんて光栄ッスよ!」

 

なんて言いながらすげえ角度までお辞儀して思っきり床に頭をぶつけた士傑の生徒さん。そうかこの学ランは士傑のだったのか、女子制服しか見たこと無かったから分かんなかったわ。

夜嵐イナサと名乗ったこの子、どうらやら彼も職場体験の為にこの列車に乗っていたらしい。私のことは案の定体育祭で知られていたようで、とにかくやたらアツいアツいと褒められた。

 

「体育祭観ました!

龍征さんのサイッッッッコーにアツい試合で俺、騒ぎ過ぎて途中から肉倉センパイに四肢もがれて頭だけで熱狂してたッス!」

 

えぇ…なにそれ、士傑こっわ

 

「た、楽しんで貰えたなら良かった…ね?」

 

「モチロン!

俺、雄英高校大好きッスから!」

 

雄英って人気だもんねー、入学倍率300倍とか正気の沙汰じゃねえもん。

やっぱヒーロー志す人間の憧れってカンジなのかな。

 

「えー…じゃあなんで士傑に?雄英は受けなかったの?」

 

「ッ!!!あー…それはその、一応受験はしたんですがのっぴきならない事情がありまして…」

 

なんか急に歯切れの悪くなった夜嵐君。

世間では『東の雄英、西の士傑』と呼ばれるほどレベルの高い学校を両方受けるなんて尋常ではない。とすると彼は轟や百のように推薦を受けた可能性もある訳だ、エリートだねえ…しかしそれであれ程変な顔をするって事は、もしかするとなんかしらの地雷を踏んでしまった可能性があるのでこれ以上追求するのは止めとこう。

 

「事情があるなら仕方ない、人には秘密の1つや2つあるもんだ。」

 

「ッス!お気遣い感謝します!

ケミィセンパイも人は秘密を持ってた方が美しくなるって教えてくれましたから!」

 

「それ多分女性限定なんじゃないかなー…」

 

その後、おじさんに続く夜嵐君の雄英べた褒めトークを聞いているうちに目的の駅に着いたのでお別れを言って降車…したのだけど夜嵐君もこの駅で降りるらしい。

改札出て乗ったバスも同じだった。

降りたバス停も同じ、曲がる角も同じ、そして…

 

「え…」

 

「おぉ!もしかして俺、龍征さんと目的地が一緒だったんスね!」

 

私達はとあるヒーロー事務所…というか消防署前にいる。

 

あの5000件の中から今回お世話になるヒーローの名前は『バックドラフト』

 

私の特別な1週間が始まろうとしていた






とういわけでね、オリジナルが加速するぞと

じゃあ…失踪しますね ͡ ͡


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29 私の職場体験記vol.1

本屋6件くらい回ってヒロアカ全巻揃えました

ワクチン副反応のお供に読もうと思います

レディ・ナガン好き…

オリジナル展開、オリジナル設定蔓延る地獄へようこそ。気に入らないならブラウザバックだ★








「バックドラフト事務所へようこそ、ヒーローの卵達。」

 

 

県内某所、都心より少し離れた山、そこを大きく切り開いて建てられた消防署に私はやって来た。

理由はモチロン、職場体験の為だ。

目の前にいるのはRay-Banのサングラスをかけたオフの日のトム・〇ルーズみたい格好してるの背の高い男性…細マッチョだ、いつもは全身ガチガチの消防士コスチュームだから知らなかったわ。

スカウトが来ていた中から私が選んだのは消防ヒーロー『バックドラフト』、空気中の水分を操れる個性を持ったヒーローでビルボードチャートは…幾つだったか忘れた。多分下から数えた方が早い。

 

「一週間よろしくおねが「ヨロシクお願いしまアアッス!!」…宜しくお願いします。」

 

夜嵐君の挨拶に掻き消されながらも挨拶を交わす。

バックドラフト事務所…といっても消防署の一部を間借りさせて貰っているだけで、彼自身は特に決まった事務所を構えている訳でもないらしい。

交通の便を考えた結果、此処が最適だったんだってさ。

 

「いやぁ今年は2人も来て貰えるなんて本当に有難い限りだよ。

特に龍征さん、ダメ元で誘いを掛けてたもりだったんだけどどうして受けてくれたんだい?

体育祭大活躍だったじゃないか、他にもスカウトは沢山来ていたんだろう?」

 

「レスキューヒーロー目指してますので。

ヒーローの人気とか関係なしに救助活動に密接で、災害時の対応…特に火災時に活躍する所に行きたかったんです。」

 

そう、バックドラフトは今でこそヒーローをやっているが前職は消防隊員だった。

超常世界でも災害時には自衛隊の次に頼りにされる消防隊、専門的な知識は勿論、時には命を掛けて人を助けるタフネスとガッツが必要なお仕事だ。彼はその道のプロ、レスキューヒーローとして充分信頼できる。

 

命の現場に一番近いから、これが此処を選んだ理由

 

まっ、あんまりトップヒーローと街へ出て無駄に衆目に晒されたくないのもあるからマイナーヒーロー選んだってのも一割…ごめん三割くらいあるわ。

特にウワバミの事務所なんてアイドル色強いから、職場体験に行ったチャンモモはいったいどうしている事やら…

因みに夜嵐君はスカウトとかではなく、学校で職場体験する事務所を割り振られたらしい。普通のヒーロー科1年生はそんなもんよね、雄英が自由過ぎるだけなのだ。

 

「ふーむ、そうかレスキューヒーローに…

だったらオレでも君の力になれるかもしれないな。」

 

「レスキューヒーロー…!それも良いッスね!

アツい龍征さんにピッタリだ!」

 

「…『人の生命は地球の未来!!』!」

 

「「ゴーゴー〇ァイブだとぅ!?」」

 

昔見てたニチアサの話題を振ったら2人とも思ったより食いつきが良くて会話が弾んだ。

男の子だもんねえ(ほっこり)

 

 

 

 

一通り施設内を案内してもらって、それぞれロッカールームでコスチュームに着替えグラウンドに集合。

今日のスケジュールは午前の間座学、基礎訓練の後、午後から街の見回りに行くらしい。

 

バックドラフトは基本的に身体で覚えてもらうスタンスらしく、座学の方は基礎的なヒーロー知識とか現在のヒーローの立場などの説明を小一時間程度受けてアッサリ終了。

 

外に出れば消防隊の皆さんに混じって基礎訓練。

ヒーローも消防士も身体が基本、走り込みや筋トレの他にも消防隊らしくロープ使って壁登りとか消防衣着てマラソン大会なんかにも参加させてもらった。それから除細動器(AED)なんかの機械を扱う救命訓練も行う。

そして現在は救助訓練の真っ最中、ハリボテのビルに向かって消防隊員の人達が梯子車やらを使って訓練している横で私と夜嵐君はバックドラフトの説明を聞いている。

 

「じゃあここからは災害時における我々の役割について説明していこう。

災害時にはヒーローとレスキュー隊で出来ることに違いがある、それがなんだか分かるかい?」

 

「個性使用の有無ッスよね!」

 

「そう、殆どの消防隊員は個性使用免許を持ってない。だから仮に火災が発生した場合、消防隊とヒーローとでは役割が変わってくるんだ。」

 

「…どうして消防士の方は個性使用の免許を取らないんですか?」

 

「単純に試験が難しいんだよ、オレみたいな転向組は君たちのように学生時代からヒーローになる為の教育を受けてきた訳じゃないからね。一から勉強し直しだ。それから『個性が使えるのはヒーローの特権』みたいな風潮もあるかな。」

 

うーむ、確かに。

消防隊の門戸は広いが個性を使えない、ヒーローは個性を使えるが狭き門。

でも人を助けたい思いはどちらも一緒だ。

 

「あとまァ…金がスッゴイ掛かるからかな。

個性免許は一般講習も試験も受けるのに結構な金額を払わないといけないからね。

落ちて再試験になった日にはその場で泣き崩れるよ…」

 

なんか急に黄昏たバックドラフト。

ていうか彼はその難関をクリアした訳だ、もしかして凄い優秀な人なのでは?

 

「なるほど…私達は恵まれてるんだね。」

 

「そうッスね。雄英もそうかは分からないッスけど、学費以外は全部向こう持ちッスから。」

 

「…因みに、増強系や異形系の個性持ちはレスキュー隊員に向いてる。」

 

「災害時に個性使っても誤魔化せるから…?」

 

「正解だ。

特に災害時、個性の規制って現場任せなんだ。命の掛かった現場でも土を盛り上げたり水を動かしたりの目立った操作系を救助隊が大っぴらに使う事ははばかられるけど、増強系なら『火事場の馬鹿力です』で言い訳が通っちゃったり…すまない、話が逸れてしまった。」

 

これも現場の苦悩ってやつなんだろう。

バックドラフトは消防隊員のままで個性を使ったレスキュー活動ができないと悟ってヒーローに転向したんだ。確かに1人で消防車一台分と同じ働きができるのはデカい、彼の場合ヒーロー活動はオマケのようなもので災害発生時のレスキュー隊への同伴が主らしい。

 

「それで災害時のヒーローの役割だけれども、ぶっちゃけ様々だ。全く同じ災害は二度と発生しない、その場その場で臨機応変に対応していく必要がある。個性が使えるってことは役割の幅も広がるって事だからね。レスキューヒーローはその辺りに重きを置いて活動しているよ。

ああ、オールマイトは例外ね。彼、謎の衝撃波とか出して中の人を一切傷付けることなく塞がった瓦礫だけ粉々にするから。」

 

「ええ、怖…」

 

「さすがオールマイトッス!」

 

まあアレは…半分くらいドラ〇ンボールの世界の住人だからね、実は伝説の超野菜人だったとか言われても納得する。

 

 

「じゃあ改めて君達の個性を教えてもらえるかい?」

 

「ッス!自分の個性は〝旋風〟、風を起こして飛んだり出来ます!」

 

夜嵐君のゴツいコスチュームから風が吹き荒れて渦を巻く、風操れるとかつよつよかよ。いつの間にか訓練止めてこっちを見てるギャラリーの隊員さん達が歓声を上げてた。物珍しいんかな。

 

「私のは体育祭で披露したので知ってるかもですが、身体が頑丈なのと翼竜を使役できます。あとは口から炎が出て、その応用で周囲の熱操作。」

 

紹介と共に私の周囲を飛びまわり鳴く4匹の翼竜達、今日も元気だな。

 

「ウン、どちらもいい個性だ。

じゃあ自分の個性で災害時何ができるのか考えていこう。

…といいたい所なんだけど、そろそろお昼だからね。昼食にしようか。

署内の食堂へ案内するよ、食べたら午後からパトロールだ。」

 

「はい「ハイっ!!」…」

 

この子いちいち声がデカぁい…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

昼休憩 食堂

 

「へぇー士傑は全寮制なんだ。

しかもヒーロー科は2年生と同室なんて凄いな。」

 

「なんだかんだ世話焼いて貰ってホント肉倉センパイには頭が上がらないッスよ。」

 

「夜嵐君の四肢もいだ人ね。

学校の雰囲気ってどうなの?士傑高校って雄英と違って規律ガッチガチのイメージあるわ。」

 

「そうッスね。確かにヒーロー科の生徒は特に生活指導が厳しいですし、外部で活動する時は必ず制帽を被る事が義務になってて、コスチュームも奇抜過ぎない、派手過ぎない物になるように学校側から指導が入るっス。ケミィセンパイは守ってねェッスケド!

授業中に居眠りなんかした日にゃ地下室に閉じ込められて一日補習地獄なんて専らの噂っスよ。」

 

「なにそれヤバい。

入学したの雄英で良かったぁ…」

 

居眠りしないとか私には無理だ、死ぬ(直喩)

 

案内された食堂で私はカレーを、夜嵐君は大盛りの温玉うどんを啜りながら雄英と士傑の違いについて語り合っていた。

西の名校、士傑高校は規律と礼儀に重きを置いて、自由が売りの雄英とは真逆のやり方でヒーローを育成してる。卒業生にはBMIヒーロー『ファットガム』がいたっけ?

才サマの通ってる聖愛もお嬢様校って触れ込みだからマナーとか作法をしっかりこれでもかと教えられるって言ってたが、士傑も負けていないようだ。

 

「雄英にあるサポート科、これも士傑には無いですよね。自前でサポートアイテム作れる環境は羨ましいッスよ!」

 

「他に雄英に無いものっていうと…看護科あるよね、士傑って。」

 

「おっ、詳しいッスね龍征さん!

自分も訓練で怪我ばっかして看護科の皆さんにもお世話になりっぱなしなんス。」

 

「同級生にそっちの看護科に行った奴がいてね、たまに話聞いてるんだ。」

 

「なんと!」

 

士傑高校看護科、ヒーロー科ほど難易度は高くないけどかなりの難関だ。医者や看護師を志す人達の登竜門とも言われてる。

私は雄英ヒーロー科、その子は士傑看護科、その年の餓鬼道きっての出世頭だって当時の先生たちはもて囃してた。

有名高合格…同学年だともう1人、才子先輩の通う聖愛学園ヒーロー科に首席合格した奴がいたっけか。

 

「名前はなんて言うんスか?会ったことがあるかも知れねえ!」

 

「ウルルだよ。

破柘榴羽留々(はざくろうるる)、背の小さくて声の可愛い女の子。」

 

そんで特異個性の山ほどいる餓鬼道でもいっとう難儀な個性を抱えた子だ。

元気してるのかな、ウルル…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

食事も食べ終えて、軽いミーティングの後私と夜嵐君、バックドラフトさんは街へとパトロールに繰り出した。これから一時間ほど回ったあと、地元の動物園に火災予防運動で訪問しに行くのでそれに私達も同行させて貰えるのだそう。

 

「動物園…災害が起きた時はどうするんだろう。」

 

「檻の中の動物とか火事でパニックになったりするんスかね。ライオンやトラなんかが脱走して暴れだしたりしたら大事件だ。」

 

「動物園側も万が一の事も考えて防災訓練や消化機器の設置は義務付けられてるし、今回はその点検と確認の為に訪問するって感じかな。

…ホントは()()の仕事なんだけど。」

 

「「?」」

 

マスクごしでも分かるくらい大きなため息を吐いたバックドラフトに疑問符を浮かべながら、この辺の施設についてスマホで検索かけてみる。

動物園動物園っと…

 

此処か

 

「国立『逢魔ヶ刻動物園(おうまがどきどうぶつえん)』…もしかして訪問先はココですか?」

 

「そうだよ。消防署からちょっと車で行った先、山の方にひっそり建ってる結構歴史のある動物園なんだ。

そして、とあるヒーロー唯一のスポンサー企業さ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

私達はヒーロー姿で街を哨戒中。

この辺は治安も良いし統計的に見てもヴィランが出る割合は少ないらしいけど、ヒーローがパトロールする事に意味がある。

 

「歩きながら説明するけど、君達は職場体験生。

オレの許可なしに個性の使用は法律違反で罰せられるから絶対にしてはいけないよ。

特にレップウの風操作は目立つからね、許可なくやったら一発アウトだ。」

 

「はいっス!」

 

「私の翼竜達はどうなんでしょう?」

 

「グァンゾルムの翼竜達は…グレーかなあ、あまり勝手な行動はさせないように。

パトロールひとつとっても周辺地理の把握やヴィランへの抑止になるからね。気を抜かずしっかり異常がないか見て回るんだよ。」

 

「了解です。

翼竜に空から周囲をチェックさせます。アイツらの意思は私に伝わるので異常があれば報告させますね。」

 

「それは有難いけど、グァンゾルムの翼竜達はそんな事もできるのかい!?

便利な個性だなぁ、君自身の竜化も相まってまさに竜の女王様だね。」

 

「竜の女王…女帝ッスか!なんかカッコイイッス!」

 

「止めてくれレップウ、女帝呼びは私に効く。ホント勘弁して…」

 

夜嵐君…ヒーロー名レップウは純粋に褒めてくれたんだろうけど、その通り名は私にとって汚点でしかない。

何よ『餓鬼道の女帝』って、そんなアホみたいな異名が拡がったせいで隣の県から不良が道場破り感覚で押し寄せて来るんだぞ。バーーッカじゃねえの!?

 

「あ!バックドラフトだー!」

 

「消防車のおじさーん!」

 

声のする方を見やれば道路挟んで向かい側で母親に連れられた子どものグループがこっちに手を振っている。バックドラフトさんも水分操作で水の手を作ってそれを振り返す。子供に人気なんだねえ、彼。

 

「この間保育施設向けの防災講習であの子たちの通う保育所に行ってね、その時に仲良くなったんだ。

地域に根ざすヒーローだから地元の人との交流もしっかりしないと。」

 

「へえ、そうなんですか。」

 

「良いっスよねこういうの…ザ・ヒーローってカンジがして!」

 

例え多くの人に知られていなくても、バックドラフトは個性で皆を守るヒーローなんだ。こういうの見ちゃうと私も皆に安心して貰えるヒーローになりたいなって改めて思っちゃう。人前で愛想良く笑顔とか人生のトップ3に入る苦行なんだけど…

 

エンデヴァーみたいにストイックにヒーロー活動やってるのも嫌いじゃ無いけどね。

 

「やっぱヒーローはアツくて皆に憧れられてこそッスよ!」

 

「その様子だとレップウはエンデヴァーとかとはソリが合わないかもね、あの人取材とか殆ど断っててファンレターも燃やしてるって噂が経つほどストイックなヒーローだし。」

 

「ぬ……そうッスね。」

 

冗談半分だったけどレップウはなんか落ち込んだ。

雄英に続いてエンデヴァーも地雷?なにこの子地雷多過ぎない?地雷原か?

 

「なあ、バックドラフトと一緒に居る女の子…」

 

「雄英体育祭で準優勝した子じゃんね?」

 

「やっべ超可愛くね?」

 

「コスチュームカッコイイ…ヒットマンみたい。」

 

バックドラフトが子供達の対応に追われるよそで、此方を見ながらコソコソと話す声が聞こえる。明らかに私の話をしてた。

 

う''ッ''…これは嫌な予感がするからこっそりレップウの影にに隠れるようn「おねーちゃん!私ゆーえー体育祭見ました!サインください!」ファッ!?いつの間にか知らないお嬢さんに裾を掴まれてる!?やめてそんな純粋な瞳で私を見ないで!

中学時代のせいで普段から悪評ばかりでやって来るのは不良ばっかりだったから何度やってもこういうの慣れないんだよ…というか不良の足掻き以外で裾掴まれたの生まれて初めてだわ。

 

「あ、ありがとう…でも私はそんな大した奴じゃ…」

 

「……だめ…ですか……?」

 

「わああああ描く描く!描くから!

あ〜お姉ちゃん今無性にサイン描きたい気分なんだよなあ〜10枚でも100枚でも描いちゃうぞぉ〜!!」

 

だ れ か た す け て

 

一縷の希望を込めてレップウに視線で助けを求めて…スゲーいい笑顔でサムズアップされた、この役立たずめ!

観念してお嬢さんの色紙にサイン(勿論サインなんて描く練習してないので自分のヒーローネームをそれっぽく崩して描いた落書き)を描いて手渡した。女の子、引率のおばあちゃんに駆け寄って大喜びしてる。

聞けばこの子達は近隣地区の()()にある施設からやって来たらしい。

保須って言えば話題の『ヒーロー殺し』が出没してるスポットだ、奴は今の所一般市民には手を掛けてないけど一応警戒が必要かな…

 

「良かったわねえ、大事にしなさいよ。」

 

「ウン、おばあちゃん!

…ぐぁん…ぞる…これがおねーちゃんのヒーローのなまえ?」

 

「そう、『グァンゾルム』。レスキューヒーロー目指してるんだ、応援よろしくね。」

 

「ぐぁんぞるむ…!かっこいい!

あのトカゲさん達にピッタリの名前だね!」

 

空を警戒していたザッハトルテを呼び戻して女の子に撫でさせてあげた。鳥とは明らかに違う未知の生物をかわいいかわいいと言って犬みたいに撫で回す彼女はだいぶ肝が据わってると思う。

というかさ、私より翼竜どもの方が人間慣れしてない!?なにさ女の子に擦り寄って手なんか舐めちゃって、コイツ人とのコミュニケーションに慣れきってやがる…!

 

クルルル…?(ニチャァ)

 

お?なんだその「ご主人、こんな簡単な事もできへんのん?」と言わんばかりの目は。焼き鳥にするぞクソトカゲ。

 

「君、その帽子は士傑高校だな?

君も職場体験?」

 

「ッス!士傑高校1年夜嵐イナサ!ヒーロー名は『レップウ』でやらせて貰ってます!」

 

「元気で良いじゃないか。

…という事は今年は雄英と士傑から一人ずつ職場体験が来てるってこと?」

 

「そうなんです、有難い限りですよ。」

 

「凄いじゃないバックドラフト!」

 

あっという間に私たちを取り囲んで人集りができてしまう。皆珍しいからなんだろうけど、このままじゃパトロールどころじゃないのでは…

 

 

ッ!?

 

 

「バックドラフト、事件です!

約1km先にある平屋の建物から不審な黒い煙が上がっているのを翼竜が見つけました!」

 

空を旋回している翼竜が異常を発見、すぐさまバックドラフトに報告する。

 

「!

よし、行こう2人とも。

それじゃ失礼しますね。」

 

抱き上げていた子供を優しく下ろし、バックドラフトの雰囲気が変わる。仕事モードって感じ。

 

「グァンゾルム、君の翼竜でオレ達を運べるかい?」

 

「問題ありませんけど良いんですか?学生が個性を無闇に使ったりしたら…」

 

「消防活動は如何に現場へ素早く到着するか、初動が一番大事なんだ。

オレが承認するから頼むよ、グァンゾルム。」

 

「…分かりました、乗り心地について文句は聞きませんからね!」

 

指笛を鳴らすと哨戒していた翼竜達が舞い降りてバックドラフトとレップウの肩をガシッと掴む、そして私もいつもやってるように飛んで来たガトーの脚を掴んで、市民の皆さんから声援を受けて空へ舞い上がった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「うおおお速えーーッ!?」

 

「結構揺れるねコレ!?

グァンゾルム、建物と現場周辺の状況は?」

 

「建物は古い木造平屋の一戸建て…たぶん中華料理店だと思います、煙が出てるのは奥の厨房…

…ッ今火が出ました!

看板の名前は『中華のマサ』。入り口から客らしき人達と店員が出てきてるのを確認、まだ出火から間もないですが隣の建物との間隔が狭いので延焼の可能性も有り得るかと。」

 

「OK、完璧な状況報告だ。

消防隊に連絡は入れた。現場に到着したらレップウはオレと一緒に野次馬の規制、グァンゾルムと翼竜達は付近の確認を続けて、消防隊が到着しだい彼等の指示に従って捜索を頼む。

…職場体験だから本当は危ない事には巻き込めないんだけど、命が掛かってる現場だ。使えるものは全部使わせてもらう。いいね?」

 

「私炎耐性高いですから、大丈夫ですよ。」

 

「勿論お手伝いさせて下さい!

アツくなってきたッスよーー!!」

 

「いやこれから火消しに行くんだから熱くなっちゃダメでしょ。」

 

「そうッスね!クールに…クールに燃えて行きましょう!」

 

「アンタよく言動が破綻してるって言われない?」

 

「安心してください!この間肉倉センパイに言われたばかりッス!」

 

「あはは、君たちマイペースだよね…」

 

 

 

 

 

 

 

私の翼竜なら陸路を行くよりも断然早い、ものの数分で現場に到着した。

 

『消防ヒーローバックドラフトです、じき消防車が来ます!道幅を確保して付近の皆さんは建物から離れて!

そこ写真撮ってる場合じゃないよホラ!』

 

「少年達危ないッスよ、下がって下がって!」

 

着くなりあの仮面の中に拡声器でも内蔵されてるのか大きな声で野次馬に注意を呼びかけるバックドラフトとそれに張り合えるくらい地声のデカいレップウを眺めながら、私は翼竜達を使って空から確認。

…火が出てるのは木造平屋、料理店奥の厨房、建物の裏側は路地を挟んでるから後ろに延焼する危険は無さそうだけど両隣は建物同士の間隔が狭いうえに右の店は床屋だ。髪染め用のスプレー缶とか大量に置いてたら大爆発が起きちゃうよ。

 

「バックドラフト、間もなく消防車来ます!」

 

『OK!皆さん消防車が来ます、道へ出ないで!』

 

報告した直後にサイレンと共に消防車が曲がり角から駆け込んできて、一斉に防火服に身を包んだ隊員達が降りてくる。先頭の人に状況を説明し、彼の指示のもとホースを担いだ隊員達がテキパキと動き始めた。

 

「周囲の建物内に人が居ないか確認!ホースの筒先は正面に2本、裏道に1本回せ!

バックドラフト、消火栓1つ任せる!」

 

「了解!」

 

叫んだバックドラフトの足下、消防隊の為に街あちこちに設置されている消火栓の蓋が開き、そこから大量の水が吹き上がる。

彼の個性『水流操作』だ、空気中の水分を操作して水を作り出す。そしてそれを応用させて周囲の水を自在に操るヒーロー。こと火災消火において彼の右に出る者はいないだろう。

轟とかなら氷でワンチャン右に出るかもしれないが。

 

「とりあえず周囲に水を撒いて湿気させるよ!

グァンゾルム、付近の避難状況を!」

 

「了解!

…大丈夫です、今消防隊の方が避難を呼びかけて両隣の家屋から人は居なくなりました!

店内に一匹突入させましたが逃げ遅れた人は確認してません!」

 

「ええっ!?大丈夫なの翼竜、めっちゃ燃えてるけど!」

 

「炎耐性高いですから。」

 

火災なんてチャラヘッチャラよ。

バックドラフトの降らせる雨によって隣へ延焼する危険は無くなったっぽい。

店内にはガトー、ブラウニーを続けて突入させたついでに側にある油のボトルとか燃えそうなものを掴ませて外へ出す。

その後も3匹に散策させて、違和感に気付いた。

 

…アレ?ちょっと待ってまさかこれって

 

「バックドラフト!この店地下がある!」

 

「何ィ!?」

 

「火元の厨房、そのすぐ横に金属製のハッチみたいなものを確認!」

 

「店長…店長がそこに居る!」

 

「えっ…」

 

私とバックドラフトの前に飛び出して来たのはこの中華料理店の店員らしき格好の男性。兎に角焦っているようで大声でまくし立てた。

 

「店の地下は香辛料の保存倉庫になってるんだ!さっきまでこの辺り探したんだけど何処にも店長の姿が見当たらなくて…きっと火事が起きる直前に地下へ入ってそのまま閉じ込められたんだと思う!」

 

「なんてこった…このままじゃ蒸し焼きにされちまうぞ!

グァンゾルム、ハッチは今どうなってる!?」

 

「崩れた棚と大型のガスボンベに下敷きにされてます!ハッチの持ち手も歪んでて…ッでも私の翼竜なら退かせます!」

 

「分かった、レスキュー隊に救助へ行って貰おう!翼竜達にはサポートを!」

 

「大丈夫なんですか!?ガスボンベに引火したりしたら…」

 

「誰かの為に命張るのがレスキュー隊の仕事だ!

寧ろ中の状況がここまで分かるのは有難い、急いで準備するから待っててくれ!」

 

そう言って私とバックドラフトの話を聞いていたレスキュー隊員の1人が駆け出して、他の隊員達と話し合い消防車の側でゴソゴソし始めた。

急いで残りのガナッシュも呼び戻し突入させて四匹総出で邪魔な棚とガスボンベを傷付けないように取り払わせる。その間にレスキュー隊が準備を整え突入、器具でハッチを無理やりこじ開けて中を確認し閉じ込められていた店長を引っ張り出して大急ぎで外へ脱出した。

 

「要救助者確保ォ!」

 

防火服を羽織り煤けた顔の店長らしき男性を連れて出て来たレスキュー隊に歓声が上がり、一安心したのも束の間。

 

店内の熱が一気に膨れ上がるのを感じた。

 

『…ッみんな伏せて!!』

 

体育祭後、印照重工へ職場体験へ行く為の推薦状と引き換えにサポート科の発目さんに頼んで作ってもらった首巻マイク、翼竜四匹の首に撒いて私の声が伝わるようになってるスピーカーで周囲の迷惑もお構い無しの大音量で叫ぶ。

 

ドカン!と大きな音と共に店内が爆発し衝撃で周囲の建物のガラス窓が纏めて割れ散った。

…翼竜を通して店内を状況を知った私なら分かる、これだけの爆発を起こせるものがなんなのか。

 

次いで勢いよく店内から飛び出した巨大な鉄の塊、突然過ぎて誰も反応できないまま人混みの中、何もわからず唖然とする男の子へと飛び込んでいくそれを止めるため殆ど反射で飛び出して彼との間に身体を挟み込んだ。

 

身を出すのが遅過ぎたからガードもできない。さっき翼竜に取り除かせたガスボンベ、そのひとつが引火、爆発し店外まで吹っ飛んで私の額を直撃した。

 

がごんっと聞いた事無いような異音が頭の中で鳴り響く

 

頭に強い衝撃が走って首が仰け反る、それだけだ。私は頑丈なのだ。でも不安定な体勢だったので思わずよろけて膝を着いてしまった。

鈍い音を立てて私に直撃し跳ね返ったガスボンベはあらぬ方向へすっ飛んで別の建物の壁に突き刺さった。それだけでどれだけ速度が出ていたのか伺える。あっぶね、跳ね返った先に人が居なくて良かった〜…

 

「「グァンゾルム(龍征さんッ)!?」」

 

「お姉ちゃん…?」

 

バックドラフトとレップウが叫び、後ろの子も我に返って震えながら服の袖を引っ張ってる。

大丈夫だよ、怖くない怖くない…

 

「ちょっ!?大丈夫ッスか!?」

 

「大丈夫、自分頑丈なので。」

 

「いやいやいや!当たったの30kgクラスのガスボンベだよ!?

首が折れてもおかしくは…ホントに無傷だ。何故!?」

 

野次馬もザワつきながら心配してくれてるみたいだが、オールマイトと同パワーで殴られても平気なのは過去に実証済みなのさ。ふぉっふぉっふぉ。

 

 

 

 

 

 

 

それから20分ほど経って。

さっきの爆発が最後だったのか、消防隊とバックドラフトの懸命な消火活動の甲斐あって火はもうすぐ消し止められそうだ。

地下室から救い出された店長は少し煙を吸ってしまったくらいで大きな怪我もなく、駆け付けた救急隊に介抱されている。

翼竜達には上空で哨戒を続けさせて、私は事後処理を行う事になったバックドラフトと交代でレップウと野次馬の規制に精を出していた。

 

「はいはい危ないよー規制線より前に入らないでねー。

いやーハラハラだったね、一時はどうなるかと。」

 

「いやいやいや十分大惨事っス!ガスボンベ当たったのが龍征さんじゃなかったらバッチリ明日の一面飾ってたッスよ…」

 

驚き通り越して呆れてるレップウの視線の先には建物の二階部分のコンクリートの壁にまるで生えているかのように突き刺さったガスボンベだ。

てゆうか壁崩れずに突き刺さるって凄くね?あとで写真撮って響香達に送ってあげよ。

 

「まあ私じゃなかったら頭が潰れたトマトみたいになるとこだったからね。HAHAHA。」

 

「なぜ他人事!?

あとオールマイトの声マネ上手いッスね!」

 

テレビでオールマイトがやってるような小粋なジョークを飛ばして場を和ませる私、デキル女。

 

「……」

 

そんな私と会話していた夜嵐君はなぜだかうつむき加減だ。もしかしてまたなんか地雷踏んだのか?年頃の士傑生はわからん。

 

「…俺、何にも出来なかったッス。

龍征さんや翼竜達は現場の情報を知らせたり、レスキュー隊と一緒に飛び込んで活躍したのに俺は何も…」

 

「適材適所だよ。

たまたま私の翼竜達が活躍できる場面だっただけ、ホントはレップウみたいに交通規制してるのが職場体験生の本来の仕事なんたろうし。

それにレップウは活躍したいから職場体験に来たわけじゃないでしょ?

現場の空気を生で感じて、今後のヒーロー活動に活かす為に此処に居るんだから。別に何かを成し遂げなきゃいけない訳じゃないよ。」

 

交通規制だって立派な仕事だぜ?

バックドラフトが言ってたでしょ、使えるものは全部使うって。

 

「…龍征さんはオトナッスね。」

 

 

「おーい君、翼竜を使役してた女の子!」

 

そんな会話をしているとさっき火事に飛び込んで行ったレスキュー隊の人から声をかけられた。

翼竜による報告と咄嗟の状況判断をこれでもかと褒め称えられ嬉しいやら恥ずかしいやらで変な気分、次いでに野次馬からも歓声を受けて褒めちぎられて…みんな揃って私を殺す気なのか?こちとら褒められ慣れてないんじゃ!

それでも頑張って外行き用の笑顔取り繕って手とか振ってみちゃう今日この頃。でも恥ずかしくなって最終的に体の大きなレップウに隠れて交通整理に専念することにした。

 

……誰かに感謝されるって悪くない

 

 

 

 

火事は無事に消し止められ、消防隊に現場を引き継いでもらい私達はパトロールに戻る…その直前で。

 

「おいオマエ。」

 

レップウとバックドラフトの元へ戻ろうとしたその時、不意に声を掛けてきたのは…

 

「さっきの動きは中々のモンだった、私が飛び出すより速いとか学生のクセに生意気だ。」

 

「えっ…」

 

現れたのは…というか野次馬の中を割って上から飛び降りて来たのはえっぐいくらいハイレグバニー姿のムキムキでムチムチな褐色女性、特殊性癖の塊みたいな人。

つかこの痴女…

 

「ラビットヒーローミルコ!?」

 

「オイコラ今スゲェ失礼なモノローグ入れたよな?1回蹴らせろオマエ!」

 

 

 

私の職場体験は一筋縄では終わりそうにない

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

★爆豪勝己の職場体験★

 

 

さて、雄英高校1年首席、爆豪勝己は職場体験先に都内某所のオフィスビルへと訪れていた。

彼が選んだのはNo.4『ベストジーニスト』、〝ファイバーマスター〟という服の繊維を操作し敵を捕縛するプロヒーローだ。服を着ない人間などごく一部を除き存在しない、故に非常に強力な個性である。

そんな事務所からスカウトを受け爆豪が此処を選んだ理由は単純である。

 

「トップヒーローの元でもっと強い敵と戦い実戦を積むため」だ。

 

そんな野望を抱きベストジーニスト事務所の門を潜った爆豪は今…

 

「キミ、癖毛が酷いな。ちゃんとトリートメントしているのか?」

 

「…しとらんわクソがっ!!」

 

個性により無理やり椅子に座らされ、髪型を八二カットに矯正させられていた。

 

 

ベストジーニストが爆豪を指名した目的、それは戦闘力云々は別として日頃の素行が悪過ぎる彼を少しでも矯正してやろうと思ったからだ。

初めは大量の菓子折を持って事務所に現れた爆豪を見て「もしかして最低限の礼儀は出来ているのかもしれない」なんて思ったベストジーニストだったのだが蓋を開ければ『下水を泥水で煮沸かした性格』は伊達ではなく、こうして見事に彼の矯正に当てられている。

 

「雄英体育祭で見た君の言動、実に矯正しがいがある男だと思ってね。

こうしてスカウトさせて貰ったんだ。それと菓子折については龍征さんにお礼を言っておいてくれたまえ。」

 

「はァ!?自分で言えや!連絡手段くれえあんだろがよォ!」

 

 

叫び暴れる爆豪だがファイバーマスターによって雁字搦めに捕らわれていては目立った反抗などできるはずも無く、為す術なく髪型を八二ヘアーにされていく。

因みにサイドキック達は爆豪伝いで帝から届けられた菓子折に舌鼓を打ってる最中だ。

 

「上昇志向の強い君の事だ、私のもとで更なる強敵と戦いたくて此処を指名したんだろう……そして、君がどうして我が事務所を選んだのか。他にも理由はあるね?

おそらく龍征さんから聞いているハズだ。」

 

「…ッ!!」

 

「喜ぶといい、もとよりそのつもりだ。ちゃんと連れて行くとも。

餓鬼道中学校へ、ね。」

 

 

 

餓鬼道中学校、問題児ばかりが集まり『県内最悪』の異名を持つ不良校。

乱闘騒ぎが絶えず、ほんの数年前までは毎日のように悪評が他県まで流れ、マトモな神経をしたものなら校内周辺一キロ以内に近寄らないとさえ言われている。

そんな教育機関と呼べるかさえ怪しい学校を3年前に統一し、無軌道な彼等に秩序をもたらした者こそ龍征帝その人なのだ。

 

「彼女の矯正は素晴らしいものだった、今までの私の価値観を全て塗り替えるほどにね。

君にも是非彼処の空気を肌で感じて存分に味わって貰いたい、そして一つでも多く学ぶんだ。」

 

懐かしそうに話すベストジーニストに縛られたまま爆豪は内心ほくそ笑む。

体育祭ではろくな決着にならず気に入らなかった女、龍征帝の原点とも言うべき中学校へ赴く事ができるのだ。聞けば餓鬼道中学校は特異個性持ちの多く集まった学校だというではないか、それを彼女はたった一人で制圧、統治した。「彼女に出来て自分にできないわけが無い」爆豪はそう思わずにはいられなかった。

 

 

 

原作と少し違った爆豪の職場体験はここから始まる

 

 

 




★帝に対する反応シリーズクラスメイト編(誰得)

青山優雅
「体育祭の彼女、キラキラしてた☆勿論ボクには劣るけどね☆」

芦戸三奈
「お菓子美味しいし面倒見が良い1ーAの姉御肌ってカンジ!」

蛙吹梅雨
「最初は怖い子なのかと思ったのだけど話してみるととても優しくて良い子なの。A組を陰で支えてくれる頼もしい存在だわ。」

飯田天哉
「普段はだらしのない行動ばかりだが、いざと言う時は率先して皆を導き守る。メリハリのある女性だ。しかしもっと恥じらいを持って欲しい!」

麗日お茶子
「かっこええよねぇ…ドレスよりもタキシードが似合う、女の子なのに下手な男子より白馬の王子様ってカンジ。ウチもあれくらい身長高ければなぁ。」

尾白猿夫
「彼女の近接格闘…喧嘩殺法は俺も参考にしているよ。経験を積んでるからこそののあの余裕と動きは羨ましい、いつか手合わせして欲しいな。」

上鳴電気
「不良校を統一したってヤバくね?才能ウーマンにも程があるっしょ!濃っゆい中学生活送ってんよなあ…」

切島鋭児郎
「龍征の頑丈さは俺も憧れてるぜ!USJん時のあの防御力、あそこまで到達できれば俺も『護るヒーロー』に一歩近づけるってもんだ!」

口田甲司
「彼女の従えてる翼竜、あそこまで知能の高い生き物は他にいないよ…もしかしてただの生き物じゃないのかも…?」

砂藤力道
「あいつの菓子作りの腕は本物だぜ、時々味見を頼まれるんだが食べる度にレベルが上がっていやがる…つってもあいつの目標が『食べただけで美味さのあまり服が破れるレベルの料理を作る』ってのはどういう事なんだ?」

障子目蔵
「実力、精神面共にクラスでトップクラスの生徒だ。索敵と戦闘を両立させる万能個性は俺も見習いたいところ。
もう少し恥じらいを覚えて欲しいんだが…天は二物を与えずと言うしな。」

耳郎響香
「めっちゃロックな私の友達。物覚えも良いしFコードもちょっと教えたら直ぐマスターしたよ。
でもなあ…暑いからって不用意に下着を晒すな!頼まれたからって物理的に胸を貸すな!アイツよく今まで貞操守って来れたよね!?」

瀬呂範太
「不良校出身!元生徒会長!餓鬼道の女帝!かぁ〜濃い!キャラが濃いね!羨ましいわ!」

常闇踏陰
「龍を操り、その身に龍を宿せし者…
あまり多くは語るまい、その圧倒的な力はクラスでも随一だろうな。しかし大いなる力には大いなるリスクが伴うものだ、俺のダークシャドウがそうであるように彼女の中に宿る龍にも恐ろしい秘密が隠されている…きっとな。」

轟焦凍
「いつも面倒くさそうにしてるけどなんだかんだ面倒見が良い、俺も世話になってる。
あと姉さんがよく行く喫茶店で働いてるんだってな、じゃあ姉さんも世話になってる。親父はあいつの事でなんかブツブツ言ってたが、ウチの事情に龍征まで巻き込む訳にはいかねえ。」

葉隠透
「可愛いよりカッコイイが似合うよね!
ヒットマンみたいなヒーローコスチュームだから余計思うんだろうけどすらっとした足にスーツが映えるっていうか。あとお菓子美味しい!A組女子完全に餌付けされてない!?まあおいしーからいーや!」

爆豪勝己
「ア゙ア゙ッ!?決勝の時の勝負はまだ着いてねェんだ、次こそあのクソトカゲを捩じ伏せて俺がトップだって証明すンだよ!
それとォ!女の恥じらいとかちゃんと持てやクソ痴女がァ!見とるこっちが恥ずかしいわ!」

緑谷出久
「4匹の自立する翼竜とオールマイト級の攻撃を防ぎ切る頑丈な身体、そして高熱の火炎と熱操作の応用…レスキューにも戦闘にも活かせる万能個性だ。更に巨龍化による『巨大化』という純粋なアドバンテージも取れるしまさに向かところ敵無しって感じ、でもそれに応じたデメリットを如何に最小限に抑えながらヒーロー活動を行えるかが彼女の今後の焦点になる仮に龍征さんと敵対した場合の最適解h(以下300文字省略)
あ、あと…距離が近くて…あいや慣れてない僕が悪いんだけど…その、胸とか当たってて…すいません…」

峰田実
「生で見たミカドっぱい…ぬへ…ぬへへへへ…
無知シチュとかオカズに困んねえな!土下座して頼んだらヤらせてくれs(ここから先は血で真っ赤に染まっている為判読不可能)」

八百万百
「彼女の咄嗟の判断力は私も見習いたいところです。
翼竜達の応用の幅も大きいですし、熱操作なんてどれ程努力した末に得たものなのか…彼女の友人として並び立てるように努力する所存ですわ。
あと、私と帝さんが並んでいると何故か響香さんが近寄って来ないのは何故でしょう?胸も押さえて…気分が優れないのかしら…?」



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30 私の職場体験記vol.2

外さっっっっっむ

失踪するわこんなん


※オリジナル展開オリキャラオリ設定並びに堀越先生の別漫画のキャラが若干改変されて登場するので注意な




響き渡る怒号、止むことのない喧騒。

今日も窓ガラスが割れ椅子や机が飛び交って、誰かが発動しただろう個性の炎やら雷やらが黒板に叩きつけられる。

今月の始めに赴任してきたばかりの先生は3日と持たずに辞めてしまった。理由は簡単、彼等の怒りを買い物理的に吊るし上げられたから心が折れてしまったんだろう。前の学校では厳格で有名な生活指導の先生だったらしいけど、此処では勝手が違いすぎる。普通の経験なんて宛にならない。

 

…半分欠けて壊れたスピーカーからチャイムの音が聞こえる、もうお昼だ。

今日も授業は予定の半分も進まなかった、クラスの誰かが巫山戯半分に個性で酸か何かを黒板にぶちまけて板書を取ることもままならなかったから。逃げるように去っていく先生を何人かが嘲笑して、それに連鎖してクラス中が下品な笑い声で満たされていく。

こんなのはこの学校では日常茶飯事、授業中にトランプで遊んだり、野球を始めるのはまだ優しい方で、酷い時は授業を妨害したり突然個性有りの大喧嘩を始めたりする。

今もそう、向かいに建つ二年棟は昼前から下階が全部凍っていたし、三年棟のある方角からは今もひっきりなしに爆音と雷鳴が聞こえてくる。

学級崩壊…なんて言葉すら生温い、学校全体がこうなのだ。

 

誰もが恐れて近寄らない最悪の不良校『餓鬼道中学校』、大変残念な事にこんな場所が私の母校だった。

 

私が使ってる机、入学当初からシールと落書きだらけのお下がり品に教科書やノートをしまい込み、喧嘩の巻き添えで壊れないよう祈りながら他の生徒達のがなり声を背景になるべく目立たないよう教室を出る。

人気の少ない校舎隅の消火栓まで駆け足で走って、隠れるように座り込んだ。道中でっかい針みたいなものが頭を掠めたけどどうせ誰かの喧嘩のとばっちりだろう。

そうして校舎の端っこ、誰も来ないような場所で持参したお弁当をかきこむ。学内食堂は勿論あるのだけど、彼処は三年生の先輩達が陣取っているから行くことはできない。女の子ならなおさらに、色々な意味で危ないから。

 

そそくさと食べ終えたお弁当を片付けて、私は校舎裏のもっと奥へと進む。

 

「またやられてる…」

 

視界の先に広がるぐちゃぐちゃに荒らされたチューリップ畑。土を踏みつけた大きな足跡と折られた茎は明らかに故意のもので、酷い惨状だった。

私はその中から完全にダメになったものを取り除いて、まだ使えそうなものは土を改めて植え直す。土壌も綺麗に(なら)して、手が汚れるのなんてお構い無し、もともと土いじりは好きだったからなんの苦にもならない。

私がこの花畑を発見したのは入学してまだ間もない頃、怖い先輩や同級生達から逃げ回って辿り着いた校舎裏で見つけた。その時はまだ誰の目にも停められず綺麗なままだったチューリップ畑、誰が作ったのかは知らないけれど、この夢も希望もない餓鬼道中学校(吐き溜め)で唯一『キレイなもの』だった。

それを壊されたくなかったのかもしれない、いつしか私は何度も荒らされるこの畑を毎日整え直すのが日課になっていた。

 

「あれあれェ…?こんな校舎裏で何してるのかなぁ一年生君。」

 

不意に声を掛けられ、びっくりして思わず身体が跳ねる、恐る恐る振り返るとそこには3人の男子生徒の姿があった。

靴の色からして二年生、校舎からも遠いし此処には滅多に人が来ない筈なのにどうして…

 

「こんな校舎裏でコソコソと、欲求不満なのか?w」

 

「ちがっ…違います!

私はただこの花畑を…」

 

「それはいけない!凄くいけないなぁ!

この辺りはボクたちのナワバリなんだ、勝手にウロウロされるのは困るんだよ。」

 

ナワバリってなんだ、ここ一年棟の裏だよ。二年生が何やってんの。

結局中学生のくだらない自己満足じゃないか。これだから思春期の男子は…

ガタイのいい2人に挟まれている真ん中のキザったらしい細い人が不意に私の手を握る、怖くて振りほどこうとして…身体が動かない!?

 

「ああ、ボクの個性は〝フェロモン〟。こうして相手に触れる事で特定の行動を制限したり誘発させたりできるんだ。異性には特に効きやすくてね。

見たところキミ、背は低いが一年の割になかなか可愛いね。

学内は危ないだろう?なんならウチの派閥で保護してあげても良いよ。」

 

「オマエそう言って女子連れ込んで今まで何人食って来たんだよw」

 

「そうそう、個性で無理やり欲情させてさあ。」

 

「煩いなお前たちにだって楽しませてやったろぅ?」

 

悪びれる素振りもなく嗤う男子たち。

最低だ、思った以上にヤバい人達だった。

というか中学校一年生とはいえ見るからに幼児体型の私にこういう事言っちゃうなんて別ベクトルでヤバい。一刻も早く離れたい。

校舎裏で助けも呼べない、仮に呼んだとしてもこの学校にヒーローなんて来ない。此処は教育機関という体裁で世間から隔絶された陸の孤島だ。自力で脱出するしかない訳だけど、フェロモンのせいで身体は動かないまま、このままじゃまずい、どうにかして脱出しないと…!

 

「さ、サイテーです…」

 

「いやいやちゃんと合意のうえだから。

たまたまその気になった女の子の欲求を満たしてあげてるだけさ。」

 

軽薄な笑みを浮かべたまま男の手が再び伸びてきて、危機を感じた私は思わず個性を使ってしまった。

 

「うわっ!?なんだこれ…ゴホッゴホッ!!」

 

私の右腕から突如膨れ上がった苔色のコブが割れ、その中に蓄積されていたガスが男に向かって吹き出す。

それから私の身体のあちこちに浮かびあがる緑の斑点、まるで病気みたいなその姿に連中は一瞬たじろいだ。ざまあみろ。

私の個性〝瘴気〟は見た目がすごく悪い。突然変異らしく両親から気味悪がられて私はこの学校へ放逐された。

個性を使った私を見る人はみんな同じ目をするんだ、この個性が初めて発現した時のおとうさんとおかあさんも今のお前と同じ目をしてた。「化け物め」って言ってる目、「気持ち悪い」「汚い」「醜い」そんな感情の篭った表情でみんな私を見る。

ほら、きっとお前も。

 

「なななんだその気持ち悪い姿は!個性か!?

もういいよこんな汚い奴なんて知るか!お前達行くぞ!

こんな所で寄り道してる暇はない、さっさとウワサになってる3組の金髪美女を手篭めにしに行くんだ!」

 

もう欲望を隠す気すら無くなったか、すっかり興味を無くした奴らは私から離れていく。

これでいい、後々になって目をつけられるよりずっと楽だし…誰も私の事なんて(パリンッ)

 

ぱりん?

 

「「「へ?」」」

 

間抜けな声を上げた男共と一緒になって空を見上げると、上の階の窓ガラスが吹き飛んだのが見えた。次いでそこから飛び出し落ちてくる大きな影。

それは丁度私と男共の間に落下して衝撃で土煙を巻き上げた。

 

「「「ぎゃあああああッ!?」」」

 

地面に当たった衝撃であの3人組はゴロゴロ転がりなが吹っ飛ばされてく。

落ちてきたのは異形個性持ちであろう3mほどある巨体の男子と、それに馬乗りになった女子生徒だった。

男の方は泡を吹いて気絶している。ボコボコに殴られた後なのか顔面が凹まされていて見るも無惨な姿になってた、息はしているようなので死んではいないみたいだけど…

落下時にその巨体をクッション代わりにしたのか女子生徒の方に外傷はなく、ボロボロになって気を失っている男の襟を掴みあげて眠たそうに睨みつけていた。

 

「あァ〜…?気絶してるじゃん、私の昼寝の邪魔しといてさ。

起きて下さいよぉ、大巌原センパぁい。生意気な後輩に礼儀教えてくれるんでしょー?

おーい……つまんな。」

 

大巌原…?それって学内でも凶悪で有名な三年生だって聞いたような…

興味を失った彼女は舌打ちをしてから男の顔を音が鳴るくらいビンタして、それでも起きない彼に呆れると巨体から飛び降り、丁度私と目が合った。

斑点だらけで瘴気まみれの気持ち悪い私と。

 

「……ぁ」

 

「……?」

 

「……」

 

「…最近の娘は変わったメイクが流行ってるのね。」

 

「違うよ!?」

 

はっ!?思わず大きな声でツッこんでしまった…

そんな縮こまる私に彼女は躊躇いもなく手を伸ばす。

 

「ほら手ぇ貸すから立って、スカート土まみれ。」

 

「…ぇ」

 

どうして?私の手、汚いよ?土も触ったし瘴気のコブあるし、見えたもんじゃないよ?

 

「?ほら早く。」

 

「…へぁ?」

 

そのままなんの躊躇いもなく手を握って引き寄せられた、私に触った。だと言うのに彼女の赤いルビーのような瞳には一切の嫌悪も厭悪(えんお)も無くて。

 

「あ、ありがとうございます…」

 

「おう、怪我ないみたいで良かった。」

 

輝くような金髪を靡かせながら彼女は微笑んだ。

 

あの日握ってくれた手の温もりは今でも鮮明に覚えてる

 

 

ある者には力をもって

 

ある者には知恵をもって

 

ある者には優しさをもって

 

教育機関なんて名ばかりの、血と喧嘩に彩られた地獄は変えられていく

 

オールマイトなんかより身近で素敵なヒーローに

 

 

 

 

これはとある少女の原点(オリジン)

 

そして龍征帝が餓鬼道の女帝(ヒーロー)になるまで、その始まりの物語だ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

午後4時半頃、逢魔ヶ刻動物園

県内某所に位置する山の中腹にその動物園はあった。

創立は古く、まだ超常黎明期の混乱が続いていたころに個性(この頃はまだ〝異能〟と呼ばれていた)を乱用し悪戯に乱獲される野生動物を保護し、その種を後世に繋げるため国主導のもと設立された機関だと言われている。

都会から離れた山中に建っているのは外界の影響を受けにくいように、と動物たちへの配慮の為だ。

そのうえ人間以外の生物から個性が発現する事も稀にある(根津校長がそれにあたる)し、万が一そのような事態が起きた時の為に小さな研究所も併設されている。

 

「結構ってゆうか…殆ど廃園に近いんじゃ?」

 

「言ったろ、歴史あるって。

もともとは超常世紀に取り残された動物たちを保護するってのが目的で園の運営は二の次らしいし。」

 

「おぉ〜…!動物園ってワクワクするッス!

夢、詰まってますよね!」

 

「夜嵐君にはそのピュアな心のまま大人に育って欲しいな…オジサンなんか涙出てきたよ。」

 

「いやバックドラフトさんギリギリまだ20歳でしょ、ヒーロー名鑑に記載されてたし。」

 

「龍征さんはどの動物が好きっスか!?

自分サイが好きっス!」

 

「ん〜…動物ねぇ、モルモットとか小さいタイプの子は好きだけど私が近寄ると逃げちゃうからなー。」

 

「逃げる?と言うと?」

 

「そのまんまですよ、触ろうとすると皆震えだして私から逃げて行っちゃうんです。なんでですかねー?」

 

「ああ、もしかして龍征さんが〝龍〟の個性持ってるからッスか!?流石龍の女帝ッスね!」

 

「待って私の悪評動物にまで響いてんの?死にたくなるんだけど…あとひっそり確実に女帝呼び定着させようとすんの止めて、これ以上は追加料金発生するぞ。」

 

「分かりましたいくら払えば良いっスか!?」

 

「ノータイムで財布を出すな私がカツアゲしてるみたいだから!」

 

「龍征さん、発言がヒーローとしてギリギリだぞ…」

 

「…ケッ!」

 

ガラガラのパーキングに車を停めて4()()はうす錆びれたアーチを抜ける。

…なに?1人多い?失礼、紹介し忘れた。

 

「なんで私がわざわざスポンサーの所までアイサツに来なきゃいけねえんだよ!」

 

入り口で叫ぶこの女性こそヒーロービルボードチャート上位に食い込む程の実力者にしてラビットヒーロー『ミルコ』。

先の火事の後帝にちょっかいをかけ彼女の職場体験を知り、これから逢魔ヶ刻動物園へ向かうバックドラフトから「唯一のスポンサー様なんだから偶には自分で挨拶くらいした方がいいんじゃない?」との説得を受け渋々承諾しバックドラフト事務所の訪問に同席する運びとなった。

バックドラフトとミルコ、一見全く関わりの無いように見える2人は意外にも既知の間柄だった。彼等の共通項を作ったのが逢魔ヶ刻動物園である。

事務所も置かずサイドキックも取らず、一匹狼ならぬ一匹兎を貫くミルコ唯一のスポンサー企業。そして地元が近いという理由で献身的に劣化しやすい施設のチェックに訪れてくれるバックドラフト。

本当はミルコが礼儀として挨拶なりチャリティーなりでスポンサーに恩返しすべきなのだろうが、それをやっているのは殆どバックドラフトである。

少なからず恩のあるバックドラフトの申し出だからこそミルコは渋々ではあるが了承する事にした。

 

しかし普段から自由奔放、敵を蹴り飛ばすこと以外自分勝手な彼女がただ恩の有る無しでわざわざ同行してくれたのか?それにはまた別の理由がある。

 

「ここまで来て何を言ってるんだか。

嫌なら今すぐ保須の大病院に連絡して看護師に来て貰ってもいいんだよ?ヒーロー活動という名目が無くなれば直ぐにでも君を捕まえに来るだろうね。

どうせ今日も逃げて来たんだろ?デビュー以来一度も健康診断を受けずに今年遂に最優先捕獲リスト入りしたミルコさん。」

 

「う''ッ!!?バックドラフトてめぇ…卑怯なヤツだ!」

 

ミルコは健康診断をサボっていた。

ヒーローとは立場的には公務員と同じ職業である、それならば当然人間ドックを初めとした健康診断は社会の規範となるべき職員の義務であった。勿論ヒーローも毎年2回の健康診断を受ける必要がある。それを彼女はデビューしてからずぅーっとサボり続けている訳だ。

異形個性持ちならその身体に適した特別な検査機器が別途必要になるため面倒な手続きも必要になるだろうがミルコは違う、体型は一般人女性と変わらないので特に面倒な事になる訳でもない。なのに彼女は頑なにボイコットを止めなかった。

 

「捕獲リストって…マジの兎じゃないんだから。」

 

「なんで健康診断受けないんスか?」

 

「ッ…………メンドイ」

 

「「理由が雑!!」」

 

2人がかりでツッコまれるミルコをバックドラフトはマスク越しに呆れため息を吐く。

 

(本当は注射怖いだけなんでしょ…)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いらっしゃいませバックドラフトさん!

って、ミルコさんもいるぅぅ!?!?」

 

「おお華くん、久しぶり。」

 

「……おう。」

 

園内料金所の前で私達一行を迎えてくれたのは半袖姿の飼育員らしい女の人だった。

 

「ミルコさんがココに来るなんて珍し…

っと、あなた達がバックドラフトさんの言っていた職場体験生ですね!ようこそ逢魔ヶ刻動物園へ!

飼育員の蒼井です、宜しくn(ツルンッ ゴシャ)ン''ン''ン''ッ!?…」

 

(こ、コケた…!!) (何もない所で…ッ!?)

 

あ、ありのまま起こったことを正直に話すぜ…

握手しに近寄ってきた蒼井さんが1歩踏み出した瞬間にホントなんにもない真っ平らの地面に滑って空中できりもみ回転しながらコケた!次いでに顔面思いっきり叩き付けられてる、超痛そう!

 

…バックドラフトさんからこっそり教えてもらった情報によると彼女、蒼井華さんは個性でもないのにすごくドジな人らしい(因みに個性は〝健脚〟脚が速くて超健康優良児)。掃除をすればぬかるみに滑ってデッキブラシが宙を舞い、動物達にエサをやろうとすれば糞を踏んづけてひっくり返りエサが宙を舞う。最早才能と言っても過言でもないそのドジっぷりは留まることを知らないそうな…留まってくれ頼むから。

 

「だっ大丈夫ッスか蒼井さん!?」

 

「ン''ン''ン''大丈夫…私ドジだからよくこうなっちゃうの。気''に''し''な''い''で''・・・

 

「その苦悶の表情見て気にしない奴はヒーロー依然に人の心が無えと思います!無理しないでくだい!」

 

「見てるこっちが痛いわ…」

 

改めて大ダメージを負った飼育員、蒼井さんと握手を交わし(当然手はドロドロである)私達は挨拶も兼ねてこの動物園の園長の下に案内された。

 

「園長ぉ〜バックドラフトさん達来ましたよー。」

 

「お久しぶりです椎名園長、消化機器の点検と施設のチェックに来ました。」

 

「ウ〜ス…」

 

園長室、その奥のやたらデカくて金ピカな椅子にふんぞり返ってカタカタとノートパソコンを弄っている、椎名と呼ばれた兎の頭に赤い水玉のマフラーを着けた人がこっちを一瞥し直ぐ画面に顔を戻した。彼が園長らしい。

園長室には大量の書類やら本やらが散らかっててかなり汚い、執務机なんて書類の束の山ができてて辛うじて園長の顔が見えるくらいだ。書類はなんかの研究文書みたいだけど…内容まで分からない。

 

「おうバックドラフト、はよ点検行け。」

 

(いきなり不遜な物言い!)

 

「そんでお前らが職場体験生とやらか、次いでに2人も働け。

丁度エサの時間じゃろ、華と一緒に行けホラ。

あ、ルミもな。」

 

「はァ?」

 

「えぇ…」

 

なんだこの傲岸不遜な兎男は…

あとミルコの本名ルミっていうのね、かわいいかよ。

 

「いいんスかバックドラフトさん!?」

 

「いやこの子達は職場体験生なのでヒーローの仕事を見せないと…というかレップウちょっと楽しそうだと思ってない?」

 

「そんな滅相も…あるっス!」

「あるんだ」 「あんのかよ」

 

「んじゃルミのスポンサー契約切る、次いでにシシドとウワバミのも。」

 

「スポンサーを盾にしたただとぅ!?」

 

「「やる事が姑息だ!?」」

 

「シシドとウワバミは関係ねーだろが!」

 

「連帯責任じゃろがい!」

 

「この世で責任という言葉から最も縁遠いヤロウが言ってんじゃねーよ!

お前がやりゃいいだろ!」

 

「ワシは面白い事しかしたくないから嫌じゃ!」

 

「「「子供(ガキ)か!!!」」」

 

突然の横暴すぎる発言に反論する私たちだったが、バックドラフトさんはしばらく唸ったあと…

 

「はぁ〜…しょうがない。

2人ともお願いできるかい?この人言い出したら聞かないんだ。設備の点検はオレとオーガミさん(もう1人の従業員:個性〝狼〟)でやっておくから。1時間くらいで済むはずだから頼むよ。」

 

なんと首を縦に振ってしまった。

 

次いでにミルコさんも

 

「私はイヤだぞ!

挨拶は終わったんだからもう帰る!」

 

「病院」

 

「くっ…!!!」

 

漢字二文字で即落ち二コマみたいに説き伏せられ参加決定。

と、言うワケで私達は更衣室に案内されて作業服に着替えさせられ、まさかの4人パーティーで園内の動物たちにエサをやる事になったのだけど…

 

「飽きた!」

 

「ミルコさん早いですまだ3件目です。」

 

二手に分かれてやった方が効率的だと蒼井さんの提案で私、ミルコペアと蒼井、夜嵐ペアでそれぞれ園の反対側から始めた訳だが見ての通り早速ミルコさんが飽きた。

私動物のエサのやり方なんて知らなかったんだけど、ミルコさんはとても詳しい。

さっきもアザラシのエサやりで教えてもらった、魚は頭からあげないとエラや鱗が喉に引っかかってしまい危ないらしい。

 

「ミルコさんもしかして昔此処で働いてました?」

 

「ちょびっとだけな、バイト代出たから。」

 

聞いたら彼女の学生時代のバイト先だったらしい、それで園長と顔見知りだったんだ。他にもライオンヒーロー『シシド』とスネークヒーロー『ウワバミ』、この2人も同期らしく同じ時期にこの動物園でバイトをしていたらしい。名鑑にも乗ってないヒーロー達の隠された過去だ。

緑谷あたりに高く売れそう(小並感)

 

ヒーローになってもスポンサーになってくれるくらいだから仲良かったんだね。

 

「園長と仲良いんですね。」

 

「はァ?馬鹿言うな、アイツは嫌いだ。

蹴る!絶対蹴る…!」

 

「バケツ歪んでますよ?」

 

止めてあげてバケツ君が可哀想、そして中身の餌がミチミチ漏れてるから!ライオン君のお肉が!

 

「ま、当時一回も蹴れた事無かったんだけどな。あの野郎速さと強さだけは本物だったから。」

 

「ミルコさんが勝てないくらいの強さだったんですか彼!?」

 

マジか、彼女より上か。

園長ってひょっとして昔ヒーローだったりしたのかな。

 

「でも兎頭のヒーローなんて聞いた事無いですね。相澤先生みたいなアングラ系ヒーローだったのかな…」

 

「ああ、アイツは元ヒーローとかじゃねえ。

椎名園長は昔っから自分が面白いと思った事しかやらん主義なんだよ。

ヒーローなんて面倒臭ェんだろ。掃除もエサやりも面白くねえからイヤ、園の運営は他の従業員に放り投げてやってて面白い自分の研究を好き放題してんのさ。」

 

「…なんとまあ自由な事で。」

 

彼女曰く、椎名園長は心が子供のまま身体だけ大人になったような性格の人らしい。「やりたい事しかやらない」の心情を体現するかのごとく奇抜な行動と突飛な発言が多く、研究員としても別の方法に有名なんだそうな。

彼の研究内容は秘密らしくミルコさんからも教えて貰えなかったが、その稼ぎは実は相当なものらしく、結構な金持ち学者らしいのだけど余程のことが無い限り園の方へ金は回さない。外観の補修とか工面してあげればいいのにね。

 

「ンな事よりだ!

お前!雄英の龍征帝!

なんで私ん所に職場体験来なかった、スカウト掛けただろ!」

 

なんでバックドラフトなんだよ!とぷんすか怒るミルコに私は苦笑い。

だーってミルコってガッチガチのバトルヒーローじゃーん。助け合いより殴り合いの方が絶対割合高いもん、私はレスキューヒーローになれればそれでいいのよ。

それとトップヒーローと一緒に…普段サイドキックも取らない一匹狼のミルコとヒーロー服着て一緒に歩いてたら絶対話題になるやん。

 

わたし 目立ちたく ないです(ないです)

 

OK?

 

「全然OKじゃねえ!!(ズドンッ)」

 

「ワッザ!?」

 

あっっぶな!?咄嗟に避けてなかったら顔面にミルコの両脚直撃するとこだったよ!何この人!てかノーモーションでドロップキック顔面に決めようとするなや!後ろのブロック粉々なんだけど!?

 

「ソレだよソレ!

お前のその動体視力と身体能力、尋常じゃねえ。何処で教わった?経験もそうだ、明らかに学生の慣れ方じゃ無かったよな。

それから決勝の時、爆発小僧と闘りあった時の喧嘩殺法。それ生で見たかったんだ!」

 

「おおぉバトルジャンキーさんだぁ…」

 

久しぶりだよこういう手合いは…つーかトップヒーローが学生に飛びかかっちゃダメだろう、ミルコだから許されるのか?権力って汚い。

曖昧な受け答えしてるうちにあれよあれよと園内の開けた広場っぽいところに連れてこられてミルコはこっちに向かって構えを取る。

 

これはアレだ、デート(模擬戦)のお誘いだな?

 

「わたし、学生。

あなた、プロヒーロー。」

 

「ハッハッハ、細かいことは気にすんな。

エサやりよりコッチの方が楽しそうだ、スカウト断ったんだから詫び代わりに1戦付き合え!」

 

「勝手に個性使って戦闘は…」

 

「ココは私有地だ問題ねー!」

 

「えぇー…園長にあとで何言われても知りませんからね。」

 

残りのエサやりは翼竜共に託して私はミルコの相手だ。

とりあえず、ミルコの所に行かなくてよかったなって思った(小並感)

 

 

 

 

 

 

 

 

「…シッ!」

 

「ッ!!」

 

空気の擦れる音と共にミルコの脚が頬を掠める、確実に狙いが首なんですが?彼女の脚力で当たると普通死ぬんですが?なんで?

先読みっつったってね、プロヒーローの…しかもガチガチのバトルヒーローで速さが自慢のミルコの蹴りだよ?脚見るので精一杯だ。ギリギリだ。

彼女我流っぽいんだけど、我流もここまで極めればプロになれるんだな。下手に型にハマった使い手よりも厄介だ、胴を狙ってる軌道だったのに胸に来たり動きがブレて何してくるか分かんない。

 

 

回し蹴り、首を逸らして避ける

 

腰に蹴り、身体をひねって勢いを逸らす

 

…今のは返しで鳩尾いけたかな

 

胸、脇、腹、膝、ラッシュは腕使って必死にガード!

 

も一発回し蹴りは敢えて受けるッ!!

 

「ん''っ!!」

 

「おおッ!?」

 

首狙いのミルコの回し蹴りを敢えて首で受け、肩と顎で挟んで固定。息苦しい。

 

「まらやるんれふか?」

 

「ったりめーだ!」

 

回し蹴り当てた体制のままミルコはそのまま両脚で私の首をガッチリホールドして逆立ちする勢いでバネのように伸び上がり、脚の力だけで私を放り投げた。ぽーんと弧を描きながら飛んでる間に体勢を立て直して着地、首もげるかと思うた。

 

「お前マジで頑丈なんだな、普通なら今ので首もげてんぞ。」

 

「いや首取るつもりでやったんかい…

生まれつきそうなんですよ、私。

刃物で刺されてもハンマーで殴られても銃に撃たれても傷1つ付かないんです。注射器の針も通りません。なんで産まれてこの方注射はされた事ないです。」

 

そう私はとても頑丈、傍から見れば異常な程に。

高速で飛来するガスボンベが頭に直撃しても、機関銃で蜂の巣にされても、オールマイトと同じパワーで殴られても外傷無し。

USJ後に連れて行かれた精密検査も注射針が通らなくて看護婦さん右往左往してたっけ、結局MRIに落ち着いて、じっくりしっかり隅々まで診られたおかげで帰るのが遅くなってしまった。

体育祭の時みたいに個性の副作用で手から出た事はあるけれど外傷による出血は記憶の限りだと一度もないはずだ。

 

ホントに人間かよ私(今更)

 

「えっ、何それ羨まし…ッ違う違う。

そんでお前の…なんだ?型はどっかで見た事あるがだいぶ崩してる。少なくとも我流じゃねえだろソレ。」

 

「む…」

 

ありゃ、気づかれた。訓練しなくなって3年近く経ってるからもう自分でもわかんなくなってるのに。プロの眼は凄いな。

私の本職は才サマの付き人、つまり護衛である。

当然戦闘技術とか叩き込まれている訳であり、その基礎を教えてくれたのはメイドのメイさんだ。武術の名前は教えて貰わなかったけど師匠である彼女に教えを受けた事により必然的に彼女に似た『型』を身体が覚えてしまってるらしい。

中学生時代に型もクソもないテキトーな喧嘩ばっかりしてたから忘れてると思ってた。

 

「そうですね、多分八極拳とかその類いだと思います。教えてくれた人がそっちの国の人だったんで。」

 

「へぇー今の御時世珍しい。

子供に殺人拳仕込んでるとは世も末だな、蹴ってやろうか。」

 

「…気づいてたんですか。」

 

「そりゃなんとなくよ。お前のソレはかなり大雑把だが根っこは全部〝殺しの技〟だ。無意識に目線が急所に行ってるし、なんならカウンターでキメる気まんまんだったろお前。」

 

「ソ、ソナコトナイヨーワタシフツーノ学生ダヨー害ハナイヨー…」

 

「確信犯か!蹴るわ!」

 

ブンッ!と顎狙いのサマーソルトキックを身を退いて躱す、ギリギリだったから顎に掠ったというかこの話してる最中もミルコの蹴りを躱し続けてるからね!?

ブンブン脚を振り回すミルコは全く諦めてくれそうにない、というかだんだん速度がマジになってる。

 

「ちょっ…まっ……速…」

 

「ホラホラどうした反応が間に合わなくなってんぞ!雄英生だろもっと限界超えてけ!」

 

ビュンビュンと高速で、まるでムチみたいにしなる脚。

ムチムチだけにな!…死にたくなってきた。

 

やばいやばい、この人加減する気が無くなってる。

ッこの前蹴り速過ぎ…!!

 

「ッ!!」

 

「ハァッ!!」

 

ミルコの前蹴りと私の前蹴りで靴の裏同士がぶつかって、反応遅れて脚が伸びきってなかった私は力負けして後ろに弾き出された。

 

「やっと反撃してきたな、おもしれぇ!」

 

ジグザグに跳ねながら迫ってるっていうかもう辛うじて軌跡しか追えない!無理無理無理!

 

あ、これ一発貰うわ。と思ったその瞬間

 

兎墜(ルナフォー)…っだぁ!?」

 

「ワシが来た!」

 

突然空に影が差して、兎頭がミルコの背中を背中を踏み付ける。

…つーか今ミルコ必殺技叫ぼうとしてなかった?私の幻聴かな?

 

「え、園長!」

 

「全部監視カメラで見とったわ、エサやりサボってなーにをしとるんじゃお前ら。」

 

「オイ降りろ!今いい所なんだから…つか人の背中に座り込んでこれみよがしにニンジン齧ってんじゃねー私にも寄越せや!」

 

「やらん、この愛知県産『へきなん美人』はワシのモンじゃ。」

 

「高級品じゃねーか!尚更寄越せ!」

 

「ニンジンは全部ワシが食う!

ところでルミよ、仕事もせずに学生一人連れ出して何を暴れとる。お前…」

 

助かった!園長が止めてくれるならこの人も少しは大人しくな

 

「何面白そうなことしてんじゃワシも混ぜろ!」

 

ダメだった!状況悪化した!

ミルコの背中からぴょーんと飛び降りた椎名園長はニンジン齧りながら品定めするように私を見てくる。というか腕とか腰とか腹とか満遍なく触られた、なんなの。

 

「お前、特異体質か…

皮下に尋常ではない筋肉量、凝縮かつ圧縮され極限まで洗練された合金の如き筋力、それ程のパワーを秘め、なおも黄金比を保つ肉体。ミオスタチン関連筋肉肥大の亜種、いや希少種と呼ぶのが相応しいな。

ヒトの限界を超え完成された身体、呼称するなら神兵(ヒュペリオン)体質と言ったところか?

面白いぞ!」

 

なんかすげえ早口でブツブツ言ってんだけどなんだこの人、緑谷みたいな感じの人なのかな。

 

「ワシの専攻は動物科学と人類生物学でな、お前のような珍しい個体は今までに類を見ん。

お前は面白い!参考までに血液を採取させてくれ、いやさせろ!」

 

そして懐から取り出した注射器で私を刺そうとしてる。いや怖いわ、マッドサイエンティストかよ。

椎名園長は逢魔ヶ刻動物園の園長であると同時にはぐれの研究員。個性によって変化する人間の体の構造を深く研究しており、過去にはそれについての論文でちょっとした賞を取ったこともあるんだって。

百人に百通りの個性がある時代だ、それに伴って個人の身体構造も百通りに分類される。異形系然り従来の人体構造図はもはや何の参考にもならず、今や人間の身体は一人一人に個別の人体マップを作らなければならないのだとか。その土台となる部分を作る為の研究を彼は「面白い事」として進めているらしい。

確かに響香のイヤホンとか障子の複製腕とか明らかに一般人と身体の構造違うもんね、仮に命の掛かった手術とかしなきゃならなくなった時に内臓の位置把握出来てませんじゃお話にならない。

 

「あーそれはちょっと…採血は駄目です。」

 

「なんじゃお前もルミと一緒で注射が怖いんか?」

 

「怖くねェよ!」と後ろで仏頂面のミルコさんが吠える。つーかミルコ注射怖いんかい、ギャップが凄いわ。

…健康診断サボり続けてる理由ってまさか…?

 

「針通らないのもあるんですけど、私は印照家の所有物なので採血やら遺伝子情報の提供は本家を通してもらわないと。

私一人で決めていい事じゃないんで。」

 

「なんじゃそりゃ面倒くさい。

…あー?印照?お前印照財閥の関係者か!」

 

「?」

 

「はぁーそういう事か、それであの破格報酬提示してきたんじゃなあの男。」

 

「???」

 

彼は納得したように頷いてすんなり私から離れてく、こっちは訳が分からないのに。

 

「ぬー惜しい、お前絶対面白いのに。

今からでも逢魔ヶ刻動物園に就職しろ、面倒な手続きは嫌いじゃ。」

 

「急に横暴!」

 

やっぱこの…話聞かないタイプの人苦手だなあ。

 

「おーい龍征さん!

コッチの檻はエサやり全部終わったッスよー!」

 

「今日は動物達も大人しくてすんなり進みました〜。

3人とも旧ゴリラのブースで何やってるんですかぁ?」

 

ミルコさんに戦闘、椎名園長からは身柄を狙われて壁際に追い詰められていた時、ようやく反対側のチームと翼竜共が戻って来た。

次いでに点検を終えたバックドラフトさんも合流して私は首狩り兎達から開放された。た、助かった…

 

これにて急遽追加した動物園のお手伝いも終了。

私たちが着替えている間にバックドラフトさんは椎名園長との打ち合わせを終わらせたらしい。ヒーローコスチュームに戻った私と夜嵐君は蒼井さんに園の出口まで案内されて(この間蒼井さんは3回コケた)、軽い挨拶を交わす。ミルコはもう少し滞在するらしい。

別れ際に「インターンは私んトコに来いよ!まだ決着着いてないんだから絶対な!」って捨て台詞吐かれたんだけど。不穏過ぎん?

 

バックドラフトさんの車に揺られながら手元の時計を確認すると時間はもう夕方6時を回ってる。

 

「初日から激動だったな…」

 

「本当はもっとのんびりしてるハズなんだけどね…火事の対応までさせてしまって本当にすまない。」

 

「いやいや全然!プロの現場見れて自分、感動したッス!」

 

「動物園のアレは予想外でしたけどねー。」

 

「そっちはプロヒーローとは全く関係ないんだけどね、動物園…まぁ普段やらない経験ができたってことで勘弁してくれよ。

…そうだ。ホントはこの後署で夕食にする予定だったんだけど、色々あったし今日は詫び代わりにオレが奢るよ。

君達の泊まるホテルまで送るついでにね。

コスチューム着替えたら入り口で待っててくれ。」

 

「おお…太っ腹…」

 

「自分焼肉が食べたいッス!」

 

「遠慮なくくるね!?ヨシそうしよう!」

 

バックドラフトのご好意により、晩御飯は焼肉でした。火事の功労者である翼竜共にも食わせてやるってバックドラフトあんたって人は…財布が空になっても知らんぞ…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…という事があったのだよ。私の所は。」

 

『濃いわ(ですわ)!』

 

時刻は午後9時を過ぎ、県内のビジネスホテルにて。バックドラフトの奢りでしこたま焼肉を食ったあとホテルまで送って貰って、私は風呂でさっぱりした後布団の上に寝そべって響香と百のいるグループトークで通話してる。

因みに夜嵐君も同じホテルだった、バックドラフト事務所は郊外だから泊まれる場所絞られるんだ。

 

『朝は消防隊員の人達と訓練して昼からパトロールに向かって…』

 

『そうしたら火事に遭遇してガトーさん達を駆使して火災救助を手助けし…』

 

『オマケに子供助ける為頭にガスボンベ食らってその後何故か動物園でエサやり手伝わされて一緒に居たミルコと手合わせした挙句バックドラフトに焼肉を奢ってもらった…』

 

『『いや濃いわ(ですわ)ッ!!』』

 

ノリいいね君達。

 

「いやーひと仕事終えた後の焼肉は最高でしたね。」

 

『なんっっなのその1日目!

ウチのとこなんてデステゴロと一緒にパトロールという名の筋トレしただけだったのに!?』

 

『私の所なんてなんの説明もなく唐突にCM出演の話をされましたわ!』

 

「響香はともかく百は何…?なんでCM?」

 

『知りません!』

 

3人で今日起こったことの報告会、響香は一日トレーニング、百に至っては何故かタレントの真似事をしていたらしい。「行く場所間違えたかも知れません…」と初日から本気で心配し始めた百、強く生きて。

それから他校の生徒と体験先が被ったという話になり、夜嵐君の事を簡単に説明してあげた。

 

『士傑の夜嵐さん…ですか。

雄英の推薦入試に居たのなら私もお会いしているかも知れませんね。』

 

『推薦入試ってどんなお題目だったの?

一般みたいにロボバトル?』

 

『体育祭の第一競技のような障害物レースでした。ただ障害物が多く個性を上手く使用しないと突破できないものが殆どで私も苦戦しましたわ。』

 

「百の万能個性ならアッサリ行けちゃいそうだけど。」

 

『そこで私の弱みが出まして…判断力不足でお恥ずかしながら2着でしたの。』

 

1着だった女子はB組に在籍してるらしい。そういえば体育祭の時にちょろっと見たな…身体をバラバラに出来る子。

なんて話していたらお茶子からメールが。

『コレ帝ちゃんちゃうん!?』とURL付きで送られてきたので開いたら昼間の火事の記事に私がちょっぴり写ってたらしい、『私だ』って返したら『お前だったのか…!』って返信が即飛んできた。流石お茶子はネタを分かってらっしゃる…暇を持て余したA組女子のアソビ。

 

『…?どした帝。』

 

「んー、お茶子から。

ネットニュースに私載ってたんだってさ。」

 

『マジ?……うわホントだ載ってる、交通規制やってるとこ?』

 

「こんなとこ誰が撮ったんだよ…」

 

『動画サイトにも上がってるみたいですわね、《中華料理店火災、爆発の瞬間》ってタイトルで。』

 

…ウソやん。

私が『伏せてッ!!』って言ってるとこまで全部撮られとるやん、恥っずぅ…

 

『凄い反応速度です帝さん!』

 

『ホントにガスボンベ頭に直撃してる…大丈夫なの?っても帝だし平気か。』

 

「平気だけどさ…なんか顔映されてるの小っ恥ずかしい…」

 

『珍しい、下着晒すのは恥ずかしくない癖にこういうのはダメなんだ?アンタの羞恥心どこにあるのかわかんないね。』

 

「恥ずかしさのベクトルが違うんだなコレが…」

 

 

その後もぐだぐだと駄弁りながら1時間ほど過ごした後、明日に備えて今日はもう寝る事に。

 

 

激動の職場体験初日はこれで漸く終了、バックドラフトさんは明日もスケジュール的には殆ど変わらないと言っていたけど、何が起こるか分からない。

スマホでササッとログインボーナスだけ貰っておいて珍しく早めに床についた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

時は少し遡り、帝達が去った後の逢魔ヶ刻動物園。その園長室、椎名の書斎にて。

飼育員蒼井華に閉園業務を無理やり押し付けて、彼は戸棚にあった古ぼけた本をパラパラと捲っている。

向かいのソファに寝転んでニンジンを齧っているのはミルコだ。

 

「……」ペラ…ペラ…

 

「……」ガジガジガジガジ

 

「………」ペラ…ペラ……

 

「………」ガジガジガジガジガジガジ

 

「…………」ペラ…

 

「………〜〜ッ!」ガジガジガジガジガジガジ

 

 

 

「静かかッ!!」

 

 

 

堪らずミルコが叫ぶ。

彼女の中の椎名園長はいつも鬱陶しいくらい飛び跳ねて神出鬼没、誰にも捉えられない奇抜な行動ばかりする男だった。

しかし今の彼はどうだろう。帝達と別れた後ずっと椅子に座り込んでは古本を読みふけっているその姿からは普段の彼を欠片も感じさせない。

 

「なんじゃルミ、ニンジンのおかわりは給仕室に置いてあるぞ。」

 

「そうじゃねえよ!体験生共と別れた後から静か過ぎんだよお前、らしくねえな!おかわりは貰うが!」

 

「今はコレが面白いんじゃ、邪魔するならさっさと帰れ。そもそもお前なんでまだおる?」

 

「泊まるとこねえから此処に一泊する、宿直室貸せ。」

 

「……そう言って無理やり泊まり込むのも高校以来か、懐かしい。」

 

ぷかり、と口に加えたニンジン型の葉巻から紫煙が伸びる。

ミルコの学生時代、誰にも手が付けられない暴れん坊だった彼女をこの動物園に雇い入れたのは椎名だった。

「居場所ならくれてやる、お前がやりたい事を好きなだけすればいい。」

自分以上に身に余る兎の力を持て余す彼女を個性使用可能な私有地に入れ、力の制御や戦闘技能の向上に務めさせた。萎縮させるより自由な環境で個性を伸ばす事を意識させ、今では彼女もプロヒーローでも指折り数える程の実力を得ている。

ミルコ、兎山ルミにとって椎名は恩人とも言える存在だ。勿論そんな事普段の彼女はおくびにも出さないが。

 

「ルミよ、お前も気付いてるじゃろ。」

 

「……ンだよ。」

 

彼等の個性、〝兎〟はなにもスピードが早くなるだけではない。兎の脚力や聴力を得ることも出来るし、第六感…所謂『野生の勘』とも呼ぶべき危機感知能力を備えていた。

 

「今もだよ、ずっとだ。

火事の現場で会った時から今まで、五月蝿えくらい響いてる。鬱陶しいったらありゃしねえ!」

 

本来なら危険予測や強敵との接触の際に発動し、使用者に〝命の危険が迫っている事を伝える〟機能。より危険な状況であるほどより強く、より長くそれは発動し続ける。

 

「兎の勘が働く時は大抵死ぬ直前だ、だからいつだって私は後悔しないように毎日死ぬ気で息してる。

なのによ…アイツ前にして鳴り続けるってのはどうにも頭が痛えなオイ。」

 

「……やはりか。

ワシもな、アイツの身体に触れた時から頭痛が酷い。得体の知れない何かがじっと此方を睨めつけてくるような不快感、あれ程の恐怖は過去一度もなかった。」

 

椎名とミルコだけではない、動物園にいる生き物全てが命の危機を感じ、皆同様に恐れおののいた。全ての生物の頂点に立つもの、得体の知れない夢物語の一端を直に肌で感じ取ってしまったから。命の危機をずっとずっと訴え続けていたから。

2人は勘は兎でも脳は人だ、だから一目散に逃げる事もせず踏みとどまっていられた。

 

龍征帝の内に秘める巨大な何かを感じ取って

 

「ルミ、()に居るのはなんじゃと思う?」

 

「知らね。

でもきっとロクでもねえ奴さ、個性の皮を被った正真の化け物だろうよ。」

 

一番気の毒なのはそれに付き合わされてるアイツ自身だろうがな、と吐き捨てるように言うミルコに溜息を一つ吐き、読んでいた古本を閉じる。

乱雑に並べられた研究書類の束の上にそれを放り投げると言った。

 

「じゃろなあ。

ふーむ…やはり一度問い合わせてみるか。」

 

「?」

 

彼の言葉の意味も分からないまま、ミルコはニンジンのおかわりを求めて給仕室へと足を伸ばした。

 

椎名の書斎机には他にも古本が無造作に置かれている。

『アーサー王伝説』『ヴォルスング・サガ』『旧約聖書』そして先程まで彼の読んでいた論文のタイトルは『個性特異点』。

 

また変なもんばっか読んでんな。と内心毒づいて彼女は書斎を後にした。









『逢魔ヶ刻動物園』は作者の堀越先生がヒロアカの前にジャンプで連載してた漫画だ、興味がある人は買って読もうな(唐突なダイマ)
あとヒュペリオン体質の元ネタはサンデーコミックス『金剛番長』に登場する剛力番長から。ミオスタチン関連筋肉肥大は本当に存在する体質らしいよ、画像検索したらムキムキの少年がいっぱい出てくるゾ。

本作におけるキャラ解説

主人公(つよつよ)
ミルコと殴り合いした、速すぎてなんも見えんしなんならボコられたが頑丈なので無事だった。特異体質認定されたが本人はよく分かってない。

夜嵐君
君なんで職場体験おるん?感が未だに拭えない。保済の一件に絡ませる予定なのでもうちょっとガヤで騒いでて、君セリフ書いてて凄い楽しいから。

バックドラフト
完全にオリキャラと化したヒーロー。漫画でも登場コマ四コマくらいで裏書きみたいな設定しかないから弄り放題。素顔は和製トム・〇ルーズをイメージした。

ミルコ
性癖の塊(原作者談)、蹴りの風圧だけで荼毘の炎をかき消しハイエンド五体と渡り合うヤベー女。帝と戦闘して思うところある様子。注射が嫌なのはオリジナル設定だ!作者はギャップ萌えが好きさ!

椎名園長
逢魔ヶ刻動物園園長、兎の頭と水玉マフラーがトレードマーク。設定は概ね原作『逢魔ヶ刻動物園』と同じ。しかし本作では研究者という肩書きが付いている為面白い事=自分の進める研究という式が成り立っている。のじゃ口調だけど年齢は30近いお兄さん。ミルコの元ネタになったキャラクターらしいので本作では彼女の叔父あたりのポジションなんじゃないかな。

蒼井華
本作における逢魔ヶ刻動物園飼育員、そして本家『逢魔ヶ刻動物園』の主人公。理不尽に園長からボコられてドジばかりでも明るく決して諦めない華ちゃんが原作でも大好きでした。カワイイ!
それはそれとして本作では個性〝健脚〟持ちの高校二年生、動物好きだからってアルバイト先に逢魔ヶ刻動物園を選んだのが運の尽き。個性のおかげで逃げ足ばめちゃ速い

オーガミさん
個性〝狼〟、こちらも『逢魔ヶ刻動物園』に登場するオオカミのキャラからパク…オマージュした。多分もう出ない

ジロチャン&チャンモモ
初日の夜から主人公と3人でオンライン女子会しちゃう仲良したち。アニメだと耳郎は人質の避難誘導で活躍したのに八百万はホンマにCM撮影しかしてないのね。クラスメイトとの絡みは書いてて楽しいのではよ職場体験終わらせて原作なぞって♡


原点の少女
他愛のない一幕だとしても、あの日手を握ってくれた貴女の温もりを今も胸に抱いてる。


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31 私の職場体験記vol.3 ■■■オリジン

書きたいこと書いてたら2万字超えた、後悔はしてない

なのに話全然進まんとかマジ?

オイオイ死ぬわ作者オイオイオイ






★轟焦凍の職場体験★

 

 

 

都内に設置された高層ビル、その広大なフロアひとつ貸し切ってフレイムヒーロー〝エンデヴァー〟は事務所を構えてる。

 

「よく来た焦凍よ、漸く俺と覇道を歩む気になったな。」

 

無駄に広いオフィスに絶対合ってないだろってくらいぽつんと佇む高そうなデスクにふんぞり返る親父(エンデヴァー)は、開口一番そんな口を聞いてきた。

ご覧の通り俺が職場体験先に選んだのは自分の親父の事務所だった。今までの自分なら絶対そんな道は選ばなかったが、体育祭で緑谷や龍征…そして姉さんに気付かされた俺はヒーローとしての親父を知るためにこの選択をしたんだ。

 

…親父はクソだ(突然の暴言)

 

お母さんを泣かせて、夏兄には拒絶され、姉さんには迷惑を掛け続けてる。そして俺が物心着く前に逝っちまった燈矢兄さんの死にもどうせあいつが関わってるんだろう。当然俺だって好きか嫌いかって言われたらハッキリ『嫌い』と面と向かって言えるくらいには嫌悪してる。

けど、そんなクソ野郎でもNo.2だ。日本で2番目にレベルの高いヒーローなんだ。別に馴れ馴れしくするつもりじゃねえ、親父としてじゃなくヒーローとして奴を見る。そして卵なりに盗める所は盗んでいこう、まずはそこからだ。

 

「…馴れ馴れしくすんな、体育祭で吹っ切れたからってアンタはクソみたいな奴だって事は変わらねえんだ。

今日はヒーローとしての轟炎司を見に来た、そのつもりでいろ。」

 

「…ふっ。」

 

「仕方ない息子だ…」って感じでニヒルに笑うの止めろ。ダメだやっぱり腹立つな。

そうだ、こんな時こそ龍征に教えて貰ったことを思い出そう。

 

 

……

………

…………

 

 

 

『嫌いな奴とどうしても面と向かって話さなきゃいけない時…?』

 

『ああ、きっとこの先そういう事もあると思うんだ。そんな時どうすりゃいいのかなって。』

 

『あーあるある、私も作り笑いしながらテレビ局の人と話したことあるもん。

そーいう時はね、相手の顔をカボチャに変換すればいいんだよ。ついでに脳内で音楽かけてそいつが反省促す為に踊ってるって思えばいい。』

 

『音楽…カボチャ被せて踊らせる…』

 

『いい曲あるからさ、今日はそれ聴きながら特訓していこうか。いい気分転換になるよ。』

 

『よく分かんねえが頼む。』

 

『やってみせろよ轟ィ、なんとでもなるはずだ!』

 

『???』

 

 

…………

………

……

 

 

 

 

そうだカボチャだ、コイツは人ではなくカボチャ。

これから1週間、親父をカボチャだと思うことにしよう。なんで反省を促すのかは未だに分からねえが。

…いや親父は反省しろ。

 

「よし、では早速保須へ向かうぞ。」

 

「保須…?」

 

「件の〝ヒーロー殺し〟を捕らえる。」

 

親父は今話題の凶悪犯、既に何人ものヒーローを手に掛けている〝ヒーロー殺し〟を捕まえるらしい。

ヒーロー殺し…俺も引っかかってた、職場体験出発前の飯田のあの表情だ。

龍征の言う通り「これから復讐に行こうって奴のするツラ」だった、けど飯田の気持ちも分からないでもない。

 

それに囚われすぎてなにも見えなくなるんだよな、俺だってそうだったんだ。目の前の踊るカボチャ(クソ親父)しか見えてなかった、体育祭で気づくまでずっと…

 

 

嫌な胸騒ぎがする

 

 

俺はあの時、駅で飯田に声を掛けるべきだったのかもしれない。

気のせいならいいんだが…

 

「行くぞ焦凍、本物のヒーローを見せてやる。」

 

「喋るな、神経が苛立つ。」

 

「焦凍ォ!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

私の職場体験はまだまだ続く、大体午前中はやる事同じで消防士の人達とトレーニングだ。私と夜嵐君はそれぞれの校の体操服姿で参加させてもらった。署で朝食も御一緒させてもらってコミュニケーションをとってみたり。

午後のパトロールも全くの問題なし、昨日のような火事を発見する訳でもなく凶悪なヴィランが出没することもなく、街は至って平和だ。近隣の地区は例の〝ヒーロー殺し〟が出没し警戒レベルが引き上がってるみたいだけど。

 

 

あ、そうだ。

2日目の昼過ぎにバックドラフトさんと訪問した幼児施設向けの防災集会、私達の他にも付近の病院から医療従事者が講師として招かれたんだけどその中にいたんだ。マイフレンドが。

 

「ウルル?」

 

「へぁ…?ミカドちゃん!?!?」

 

名前は破柘榴羽瑠々(はざくろうるる)、餓鬼道の同級生。

中学時代の私の数少ない友達の1人にして餓鬼道中学校生徒会役員、役職は書記だった。

枯葉色のショートボブに幼げな顔立ち、そして高校生にして身長145cmという幼児体型、見間違いようがない。ナース服を着て先生らしき女性の後ろを一生懸命着いて回ってた。カルガモの子供みたいでカワイイ。

 

「お!いつも怪我治してくれる人、お疲れ様ッス!」

 

「夜嵐君も!?なんでぇ?」

 

どうやら2人は知り合いのようだ。そういや夜嵐君よく怪我して看護科の世話になってるって言ってたね。つかウルルの名前覚えてなかったんかい。

 

「そっかあ2人とも職場体験で…そうだミカドちゃん体育祭準優勝おめでとう!同級生も生徒会のみんなも大騒ぎだったんだから!

緋銀(あかがね)さんは『どうして彼処に私が居ないのよ!ライバルなのに!』って何度も私に電凸するほど悔しがってたし、(てん)ちゃんなんて興奮のし過ぎで生徒会室氷漬けにして後片付けが大変だったって臨華(りんか)ちゃんが教えてくれたよ。」

 

「電凸はやめーや緋銀。つか凍皇梨(こおり)の奴またやりやがったのか…」

 

「そうか、昨日龍征さんが言ってたのは破柘榴さんの事だったんスね!いつもお世話になってます!」

 

そう言ってお辞儀(頭を地面にぶつける)した夜嵐君にウルルは苦笑い。どうやら士傑でも同じ事をやってるらしい。

ウルルはお隣の保須市の大病院に看護科の職場体験でやってきたようで、指導役の看護婦さんとチャリティーでたまたま私たちと同じ施設へやってきたそうだ。彼女の担当の看護婦さんにも挨拶したのだけど、凄い迫力で「ラビットヒーローミルコの所在をご存知ですか?」と食い気味に聞かれたのであまりの迫力に私と夜嵐君は黙って首を横に振った。

 

「(目が…目がヤバい…!!)」

 

「(完全に2,3人殺っちゃってるカオでしたよね!?思わず背筋が伸びたッスよ!)」

 

「(これ捕まったらミルコ殺されるんじゃないの…?)」

 

「えっとね、婦長様は本当は神野の病院から派遣されて来てるんだけど、捕獲リスト…?っていうのに載ってるヒーローを捕まえて検査を受けさせないといけないみたいで、婦長様ずっとそのヒーローを探し回ってるの。」

 

厳格で使命感の強い人だから…ってウルルは言うけど、目が完全に狂気を帯びてたぞあの看護婦さん。聞けば嘗ては世界中を飛び回って医療活動に従事していた元ヒーローで引退してからも彼女の奉仕精神は多くの人の心を動かし、今でも数々の病院で講義を行い個性医療の重要性を説いて回って、引く手数多らしい。ウルル曰く歴史にも残ってるかの〝白衣の天使〟の再来なんだとか。

 

施設向けの防災公演つってもやる事は日頃からの防災の心構えとか、消火器の使い方講座とか、看護婦さん側からは心臓マッサージなどの救命措置のレクチャーなど一般的な事が多い。子供向けだからね。

個性社会つっても人は死ぬ時にはあっさり逝ってしまうのだ、リカバリーガールみたいな回復系の個性だって存在するけどアレってかなり希少(レア)な部類だし。超常以前、昔ながらに培われた救急救命措置は今に受け継がれている。

緊急時は処置はなるだけ素早く丁寧に、そして1秒でも早く救急車を呼ぶこと。それ超大事。

 

そう熱く語る婦長さんのお話が長引いたが、1時間ポッキリで公演は終了、バックドラフトと私たちはまだ施設の子供達と梯子車体験会とかがあるのでそっちに残るが、ウルル達はもう次の施設へ出発するらしい。結局話せたのちょっぴりだけだったが、お互い遊びに来てる訳じゃないからね。

 

「あんまり時間取れなくてごめんねミカドちゃん。次の連休はそっちに戻る予定だからその時にお話しよ?」

 

「おう、ウルルも頑張れ。」

 

次の連休は…期末テスト期間真っ最中じゃなかったかな。まあなんとかなるなる。

 

「…ねえミカドちゃん。」

 

「んー?」

 

「私、助けられるかな。個性(コレ)で。」

 

「できるよ、優しいウルルなら。」

 

「…うんッ!」

 

 

 

 

 

 

2日目も目立った事は無く概ね普段通り、バックドラフトさんは「初日がハードモード過ぎたんだよね」って苦笑いしてた。

その日も夜に少しだけ響香達と会話して、風呂上がりにエントランスで寛いでたら出くわした夜嵐君と少し話して眠りに着いた。

 

 

そして3日目の夕暮れどき、事件は起きる。

 

 

 

 

 

 

 

消防署の食堂にけたたましいサイレンの音が鳴り響く。

途端にさっきまで和気あいあいと食事をとっていた隊員さん達が一転して険しい表情でバタバタと動き出し、備え付けのポールを伝って下階へ降りていった。その動きは洗練されて無駄がない。

 

『保須の駐屯所より応援要請、位置は保須市北本町〇〇ー〇、15階建ての雑居ビルから大規模な火災発生、至急現地へ急行し消火活動にあたるよう伝達。繰り返す…』

 

「2人とも行こう、移動は消防車を使うよ。」

 

「了解です。」「了解ッス!」

 

私たちヒーローも勿論出立だ。

消防車に便乗させてもらい向かう先は保須市…保須?ヒーロー殺しが出てるっていう街だ、流石に火災と関係はないと思うけど…ないよね?

 

到着した時にはもう日が暮れていて、暗い街並みを煌々と照らすようにビルの一角が燃え上がってた。ビルの真ん中よりちょい上から吹き出すように炎がはみ出てて、電飾で飾られたデカい看板が立ってる屋上も延焼したのか火の海と化してる。周りでは沢山の消防隊、レスキュー隊、医療関係者問わずひっきりなしに走り回っていて、傷付いた人達でごった返していた。

 

「来たかバックドラフト!

火元はこのビルの12階をまるまる貸し切ったサーバールームだ、出火原因は不明。

レスキュー隊を突入させたがどの階段も焼け落ちた瓦礫で塞がっちまってて11階より上に上れねえ。既に下階の人間は避難が完了したんだが…」

 

「…マジか、このビルには来たことあるぞ。

不味いな…グァンゾルム急いで翼竜を上階に飛ばしてくれ!13階より上を虱潰しに!」

 

「了解!」

 

焦る彼の指示に従い翼竜を解き放つ、目指すは13階より上、窓のある部分を片っ端から覗かせて…

 

「…ッ居ました13階!児童福祉施設『やすらぎ荘』…左奥のフロアです!」

 

負傷した沢山の人が大部屋に固まって炎を凌いでいた。

見るからに重症なのが何人か、応急処置されたまま寝かされているのも見える。あの火事の中誰かが施したんだろう。それで…それで…!

 

「ッウルルがいる…」

 

私の大事な親友がやつれて寝かされてるのか見えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

3年前

 

餓鬼道中学校本館:廊下

 

 

 

 

「技術の授業で花瓶?オシャレなもの作るんだね。」

 

「うん、真面目に出席してるの私だけだから落ち着いて作れるんだ。先生も良い人だし。」

 

なんか言ってて悲しくなってくるけど事実だから仕方ない、この学校で真面目に授業出てる人の割合が低いから。

 

ヒュンッ

 

ひょいっと、私の頭を押し込むようにミカドちゃんが手で制して頭を下げた瞬間、頭上を火の玉が通過した。

 

「ミカドちゃんは選択授業何取ってるの?」

 

「私?家庭科、こう見えて料理は得意だから。」

 

突然私を抱き抱えてその場で一回転、ちょうど私がいた空間に机が飛んできて派手に壊れた。

私を降ろし、歩き続ける。

 

「凄い!じゃあお弁当も持参なの?」

 

「そうだよ、今日は昨日の野菜炒めが余ってたから「ウッシャンナアアオラアアアッ!!」…」

 

教室の窓が突然開いて、そこから釘バット持った男子が奇声上げて襲いかかってくるのを慣れた手つきで受け止め、すかさずお腹に膝蹴りを入れて相手が悶絶してるのを冷めた目で見ながらその襟首を引っ掴んで躊躇いもなく窓の外へ放り投げた。此処は3階だけど餓鬼道の生徒はこの程度じゃ死なないし大丈夫でしょ。

落ちていった生徒を一瞥し手を(はた)きながら再び私達は歩き出した。

 

「み、ミカドちゃんは得意料理とかあるの?私個性がアレだからあんまり料理とかできなくて…」

 

「お菓子は大体作れるよ。

家が喫茶店やっててね、私は厨房で新しいメニューとか考え「おうコラァ、お前が生意気で有名な一年坊か。この前はよこぺっ!?…」最近はケーキも出してみようかと思って色々研究してんの。」

 

目の前に立ちはだかった巨漢の先輩の顎にノールックで壁キックからの見えないくらい速い空中回し蹴りをクリーンヒットさせ、沈む巨体を素通りしてミカドちゃんは何事もなかったかのように話し始める。

 

「凄いねミカドちゃん!色々と…」

 

「…廊下くらい普通に歩かせろバカ共。」

 

脚を止めてミカドちゃんと振り返ってみれば廊下のそこらじゅうに倒れた人人人、これ全部移動中にミカドちゃんが倒した生徒たちだ。窓に投げたのも含めればもっといる。

ここの所毎日こんな具合に絡まれっぱなしだ。

廊下を歩けば因縁を付けられ、階段を登れば踊り場で4、5人に囲まれるのは当たり前、移動教室の際は絶対私達の後ろに屍(死んでないけど)の山が出来上がってる。

 

龍征帝、そう名乗った彼女と話すようになってから時は経ち、もうすぐ梅雨の時期を迎える頃。私達はこの喧嘩だらけの地獄で毎日のように会っては他愛ない会話をして、一緒にお弁当を食べたりしてた。

今日も人目を避けて誰もいない旧校舎の1番奥にある理科実験室へ辿り着くと、お弁当を広げてお昼ご飯の時間だ。落ち着いて昼食をとるなんて今までじゃ考えられなかった。此処はミカドちゃんが見つけた穴場スポットらしい、偶に掃除してサボりに使ってるんだって。

 

「授業サボったりしちゃダメなような…」

 

「いーのいーの、テストで点数取れば卒業できるんだし。出席率なんてこの学校に有って無いようなモンでしょ。」

 

「確かにその通りかもだけど…点数取れるの?」

 

「ここだけの話な、私はもう中学校卒業程度の学力はあるんだよ。勉強は才サ…先輩に教えて貰ってるから。」

 

「ええっ!?なんかずるいね!」

 

「賢い餓鬼道の過ごし方と言いなさいふははは。」

 

こんな和やかに笑いながらお弁当をゆっくり食べるなんていつぶりだろう。気づけば私はミカドちゃんの後ろをずっと着いて歩いてた。

先輩達をことごとく返り討ちにできるくらい強いのに決してそれを威張らない、何処の派閥に所属する訳でもなく、この壊れた学校で自由気ままに過ごす彼女に私は憧れて、惹かれていた。

 

食べ終わったお弁当を片付けたらミカドちゃんは実験室特有の長机に寝そべって昼寝の体勢に入ったみたい。私もその辺の椅子に座って、なんとなく窓の向こうの曇り空を眺める。

 

「……もうすぐ梅雨かあ、やだなあ。」

 

「いいじゃん雨、消火する手間省けるし。ウルルは雨嫌い?」

 

「私の個性ね、湿気に敏感だから。

梅雨は気を付けないと瘴気が暴発しちゃう…」

 

私の個性は火と乾燥に弱い代わりにカビと一緒で湿気と適温でどこまでも成長する。個性が発現した後、初めて迎えた梅雨の時期に暴発して子供部屋を瘴気まみれにしてしまったからよく覚えてる。嫌な思い出だ。

 

「瘴気が暴発って、そこだけ聞くと厨二病みたいだな。」

 

「こっちは真面目な話してるのに!?」

 

「悪かったって」って笑いながらひらひら手を振るミカドちゃんとこの後も雑談を繰り返し、反応が無くなってきたので顔を覗けば彼女はすやすや寝息をたてていた。

 

「おなか冷えちゃうよミカドちゃん。」

 

無防備に腹部を晒すミカドちゃん。

梅雨前の少し気温が下がったこの時期だ、お腹が冷えたら大変だから着ていた上着を掛けてあげよう、つられてミカドちゃんの隣に寝転んでみる。

学校で昼寝なんて…ッもしかして私も不良になってしまったのでは!?

なんて考えながらぼうっと天井を眺めているとどんどん瞼が重くなってきて、眠気に誘われた私は意識を手放した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……

………

…………

 

 

 

『止めて!離れて!』

 

ごめんなさい

 

『気持ち悪い…近寄らないで!』

 

ごめんなさい

 

『どうしてそんな個性になってしまったの…?』

 

『私達とは似ても似つかない醜い個性、そんな成りじゃ外になんて出られない。』

 

『…そうよ、この子は本当は私達の子供じゃないんだわ!こんな汚い姿をした子がウチの子な訳ないじゃない!』

 

ごめんなさいごめんなさいごめんなさい

 

『ごめんな、もう限界なんだ。見てくれこの家、お前が暴走させた個性のせいで家はメチャクチャ、どこから掃除すればいい?食べ物は全部腐ってしまった。

全部お前の瘴気のせいだウルル、お前はもう家に置いておけない。』

 

『出て行って!家から出ていきなさい、この醜い化け物めッ!!』

 

 

ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい

 

 

汚い姿でごめんなさい

 

醜い個性でごめんなさい

 

普通の子供に産まれてこなくてごめんなさい

 

 

生きててゴメンナサイ

 

助けを求めて伸ばした手は払われて、許しを求めて声をあげても誰も来てくれなくて、苔と緑に覆われた部屋の隅ですすり泣く音だけが虚しく響く。

いつもテレビで輝いているヒーローなんてどこにもいなかった。

 

土壇場で現れる英雄(ヒーロー)も、助けを乞えば駆けつける救世主(ヒーロー)も、全部絵空事で

 

ヨロイムシャも、エッジショットも、ベストジーニストも、ミルコもギャングオルカもクラストもマジェスティもエンデヴァーも、オールマイトでさえ

 

来ない

 

いつも画面の中にしかヒーローは現れない

 

 

 

誰もが個性という名の能力を持つのが当たり前になった超常世紀でも偏見というものはどこにでも存在する。

遺伝で受け継がれる筈の個性が何故か受け継がれず、全く別物の個性をもって産まれてしまった突然変異の子供。それが私だった。

個性の名前は〝瘴気〟、母親の〝念力〟とも父親の〝反動制御〟とも違う異質なものだった。

個性が発現した当初、疑心暗鬼になった父は母の浮気を疑って一悶着あったらしい。医師の説明でなんとか落ち着いてその後も暮らしていたのだけど、母の私を見る目つきは厳しいものだった。

 

個性は第4の欲求だって、昔開いた本に載っていた。感情の昂りによって個性の働きも活発になる、だから臆病だった私は梅雨の湿気も相まって、ちょっとした事で驚いてしまい個性を暴走させて取り返しのつかないことをしでかしてしまった。

 

両親が留守の間に家を一件丸々瘴気で埋め尽くしたのだ

 

帰宅して驚愕した両親…特に母はヒステリックに私を罵って、諌めようとする父の言葉も聞かずに家から私を蹴り出した。

 

あの時ヴィランにでもなっていればまだ心が楽だったのに。

非行に走る度胸もなければ自傷に堕ちる気概もない中途半端な私は空っぽな心のまま家を追い出された。

 

その後おとうさんとおかあさんは住居を変えて新しく子供を設けたらしい。その子にはきっちりと両親の個性が受け継がれていて、たいそう可愛がって育てているそうだ。やけに手早い手続きにより私の戸籍があの家族から抹消され、とうとう帰る場所は無くなった。

親としての情はなかったのかとか、簡単に子供を捨てて恥ずかしくないのかとかそういった怒りは不思議と湧かなくて、ただただ虚しさだけが胸に残る。

 

迷惑かけてごめんなさい、これでもう2人は安心して暮らせるよね。

 

戸籍を失って、役所で迎えた別れの日にそう言った私はどんな顔をしてただろう。

それから施設に入れられて…義務教育なんて名ばかりの小学校へ通って…そして餓鬼道中学校へ流れ着いた。

 

記憶の中のおかあさんはいつも私を睨んでる

 

 

化け物

 

 

気持ち悪くて汚い私、文字通りゴミを見るような目で私を睨んでる

 

 

ばけもの

 

 

私が全部悪いんだ

 

 

バケモノ

 

 

私は

 

 

 

 

『………ル』

 

 

 

『……ウ…ルル』

 

 

『ウルル』

 

 

 

 

…………

………

……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ウルル、おーいウルル。」

 

「……へぁ?ミカドひゃん…」

 

体を揺さぶられて微睡みから引き戻される。

…嫌な夢を見た。

 

「随分うなされてたけど何かあった?」

 

「大丈夫だよ。もう平気だから…」

 

「そう…時間見てみ?」

 

「へぁ?」

 

ミカドちゃんの付けたスマホの画面に映る数字は16:30……よじさんじゅっぷん!?!?

 

「授業は!?」

 

「残念、もう放課後だ。サボり記録更新おめでとう私達。」

 

「ええええええええっ!!!?」

 

私の叫びと共に放課後を告げるチャイムの音が虚しく響く。

 

「起こしてよミカドちゃん!」

 

「いやー私もぐっすりよ、あの机寝心地良いからさーHAHAHA!」

 

「反省してないし無駄にオールマイトの声真似が上手い!?」

 

友達と話して、笑って、昼寝して、これが普通の学校生活。

今となっては捨てられて良かったとも思ってる、この学校に来なければミカドちゃんと出会うこともなかったわけだし…こんなふうに笑う事もきっとなかった。

 

伸びをしながら教室を出ていくミカドちゃんを慌てて追いかけながら、この幸せが卒業まで続くようにと祈ってた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから時は過ぎて、アレが起きた日

 

 

その日は曇天の雨模様で、空は分厚い雨雲に覆われて辺りは薄暗く昼間でも校舎の廊下も電気を付けないとよく見えないほどだった。

 

授業と喧嘩のとばっちりを避けきって今日もミカドちゃんとお昼ご飯を一緒に食べる。最近は2人で話し合ってお互いのお弁当を作ってくるってプチ企画をする事になった、昨日はミカドちゃんが私の分を作ってきてくれたので今日は私の番。個性のせいで上手くご飯が握れなかったんだけどなんとか頑張って作ったおにぎり弁当だ。

…でもミカドちゃんのお弁当凄かったなあ、キャラ弁っていうんだっけ?「ちょっと張り切り過ぎちゃった☆」で済ませられるレベルの出来じゃなかったよ?次作るの私なのにプレッシャーがやばい。

 

ミカドちゃん食べてくれるかなあ、美味しいって言って貰えたら嬉しいな。

 

うきうきしながら理科実験室の扉を開けると、そこにはまだミカドちゃんは来ていなかった。

ん〜、最近ミカドちゃんは上級生の先輩から絡まれる事が増えたしあしらうのに時間掛かってるのかも。1年生の中じゃもう殆ど敵無しで、唯一毎日挑みに来るのは5組の緋銀さんくらいかな?あの人の派閥が学年じゃ一番大きかったはず。

 

待ってればそのうち来るよね

 

そう思って椅子に腰掛けて少し、扉を引く音がしたので暇つぶしに読んでいた教科書から目を離し顔を上げるとそこには。

 

「お、ホントに居た。ケンゴの情報大当たりじゃん。」

 

「……ぇ。」

 

知らない生徒が十人も、ぞろぞろと誰も来ないハズの理科実験室へ乗り込んでくる。

先頭にいる先輩の顔は見た事がある、前にミカドちゃんに無理やり言い寄って頬にビンタされた後取り巻き共々ボコボコに殴られてた。

 

「へえーこんなとこに空き教室なんて有ったんだなァ。

一年の破柘榴ちゃんだっけ?君。

ちょっとお話ししようよ、時間は取らせないからさ。」

 

そう言うリーダーらしい彼の頬にはまだ新しい紅葉がくっきり残っている。

 

「いやさあ、この前君の友達にぶん殴られちゃってまだ跡が残ってるんだよね。

責任取って貰いたいんだけど龍征さん強情でさあ、代わりに友達の君に頼もうかな。」

 

「い、嫌です…そもそもあの時はあなた達がミカドちゃんを無理やり誘ったから……」

 

「そうは言ってもねえ、このまんまじゃ俺も気が収まらないんだわ。」

 

卑下た笑みを浮かべる取り巻きの人達に両腕を掴まれて宙ぶらりんに拘束される私。

 

「ひっ…」

 

「そう怖がんなよ悪いようにはしないから…お、弁当作って来てるんだ。しかも2つも。」

 

机の上に並んだ弁当箱を見つけた男はそう言って中身を開ける。やめてよ…それはミカドちゃんに作ってきたぶんなのに…

 

「やめて…それはミカドちゃんの…」

 

「ふーん…」

 

何かを察した彼はおもむろに弁当箱を持った手を振りかぶり、あろう事か床に叩き付けた。当然中身は散らばってぐちゃぐちゃ、箱は壊れたし卵焼きもおにぎりも原型を留めないくらい崩れて、更にそれをなんどもなんども上から踏みつける。

 

「ハハハ、ウケる。」

 

「そん…な…ひどい…」

 

「しょうがないだろう龍征が俺の誘いを断ったんだから。せっかく彼女にしてやろうって言うのにさ、アイツ断りやがった。オマケにこんな跡まで残してくれちゃってさ、どうすんのこれ。

恥ずかしくて外歩けねえよ、責任取れよあのアバズレ!」

 

何言ってるんだこいつは、思い上がりも良いとこだしあの時先に手を出したのは彼の方だった。ミカドちゃんは何度も断ってた、お前の薄っぺらい自尊心を満足させるために私達は巻き込まれたんだ。

それを逆恨みして本人ではなく私に復讐に来るなんて程度が知れる。

冷静にならないと…外…雨降ってる…湿気が…

 

ぐちゃ

 

「恨むなら」

 

ぐちゃ

 

「俺をフった」

 

ぐちゃ

 

「あの女を恨めよ!」

 

原型を留めないくらい靴裏で何度も潰されたおにぎりを眺めながら、私はショックでどんどん意識が遠くなってくるのを感じた。

これ…覚えがある、あの日個性を暴発させた時と同じ感覚。

 

私は髪を引っ張られて不意に背中に衝撃が走る、多分投げられてどこかにぶつかったんだろう。

あたまがぐわんぐわんと揺れている。前髪を掴まれ無理やり顔を上げさせられて、醜悪な笑みに染まった男と目が合った。

 

「やめ…て…ッ」

 

「嫌だね、これから君には龍征を手篭めにする為に人質になってもらうんだ。

絶対あの女に股開かせてやるからな!そしたら隣で破柘榴さんも一緒に遊んであげるよ、ちょうど君みたいな体型の子が好みの奴を何人か知ってるからね。楽しみにしとけよ!」

 

頭がいたい、ぶつけた衝撃じゃない。割れそうなくらいぐわんぐわんと脳みそが揺れている。喚き散らす男がもうひとつの弁当箱に手を掛けた。

視界がぶれる、意識が朦朧とする。きもちわるい。

 

 

だめ…それ…みかどちゃんの…ぶん…だめ……あたまぁ……いたぃ……

 

もう…おさえ…きれ…な……

 

あああ…

 

あああああ……ッ

 

 

「あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああッ!!」

 

 

 

 

 

吐き気と一緒に瘴気(こせい)が一気に体の中から湧き上がってくるのを感じたのを最後に私は気を失った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

………へぁ?

 

床に這いつくばった状態で目が覚めた。

頭がぐちゃぐちゃになりそうなくらい痛い…

私何してたんだっけ?

そうだ、ミカドちゃんを待っていたら不良に囲まれて弁当箱を…

 

「ぁ……」

 

見渡す限り一面の緑色だった

 

「ああぁ…」

 

窓も床も全部が苔色のコブと吹き出すガスに覆われて、おどろおどろしい空間が目の前に広がっている。

恐る恐る腕を見ると、もとの皮膚が見えなくなるくらい手も腕も斑点とコブだらけで指を動かす事も難しい。

 

「ああああああああぁぁぁ…」

 

そうだミカドちゃんのお弁当は…緑色に染まっていた、もう見た目が悪すぎて食べられない。

 

また個性が暴発してしまったんだと本能で理解した。あの時と同じ光景、瘴気に染まって腐海と化した部屋。

ただひとつだけ前回と違う事があるとするならば…

 

…ごめんなさい

 

目の前で苔色の泡を吹いて転がってる男達くらいのものだろう。私と同じような斑点模様が顔まで広がっていて目は虚ろ、息はしているようだけど意識がないようで揺さぶっても全員一切反応しない。

 

ごめんなさい…ごめんなさい…

 

誰に謝っているのかも分からない、ただ口から空っぽの言葉だけを垂れ流す。

溢れる涙からまた瘴気の苔が生まれ部屋は一層瘴気のガスが濃くなっていく。

この人たちはどうなるの?教室は?お弁当は?

 

私にも止め方が分からない

 

もう誰にも止められない

 

立ち上がろうとして不意に教室の隅の鏡に私が映る。

ぐちゃぐちゃになった頭の中で唯一分かっていたのは、こんな姿を見られれば確実に嫌われてしまうって事。

 

 

『醜い化け物』

 

 

そう言って私を突き放したおかあさんとミカドちゃんの顔が重なって

 

私は考えるのを止めた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

時刻は昼過ぎ、帝はいつものように旧校舎へ向かう廊下を歩いていた。

今日も餓鬼道は平常運行、止まぬ喧騒と怒号をBGMにさっきそこで絡んできたモヒカンの気絶した体を襟首引き摺りながら角を曲がり、道中で教室に彼を乱暴に投げ込んで約束の理科実験室を目指す。

 

「………?」

 

階段を降りきった先で違和感に気付く、廊下の奥から鈍色のガスが床を這うように漂っていた。

嫌な予感がした帝はガスの発生源を辿り足を速めた、そしてたどり着いた先は目的地の理科実験室。

引き戸の硝子はグロテスクな緑色の物体がへばりついており、更に教室内はガスで満たされているのか一面霞んでいる。

 

「ウルル、居る?」

 

『…ッ!来ないでミカドちゃん。』

 

返事はあるが声がくぐもっていて聞き取りづらい、扉を開けようと力を込めると更に大きな声で静止を叫ばれた。

 

『おねがいやめて…もう…私をほっといて…』

 

「どうして?」

 

『個性…暴発しちゃった…今私すごく汚いから…気持ち悪い姿になっちゃってるから……』

 

「別に気にしないよ。」

 

『ッそうじゃないの!

私のせいでこうなったの…私が悪いの……今も個性が身体の中で暴れてて…また瘴気が溢れるかもしれないから…ミカドちゃんに迷惑が掛かっちゃうから……だから…』

 

「…………」

 

『お願い、私一人でなんとかするから…醜い私を見ないで…』

 

「………分かった。」

 

扉から離れていく足音を聞き、ひとりぼっちで涙を零すウルル。

友達に嫌われたくないと必死で拒絶して、自分でもコントロールできない個性をこれからどうやって始末を付けようか、いっそ此処で全部終わらせてしまえば楽になれるのかと、どんどん悪い方に考えてしまう。

 

(これでいいの……きっと今の私を見たらミカドちゃんに嫌われちゃう…おかあさんと同じように……醜い個性のせいで…)

 

部屋の隅に体育座りして、効果があるかも分からないが身体をなるべく小さくして少しでも瘴気の発生を抑えようと試みるも、依然としてガスは濃いままだ。

どうすれば…どうすればとウルルが途方に暮れていたその時、けたたましい音を立てながら教室の扉がくの字にへし曲がり、勢いよく向かいの壁に叩きつけられた。

 

「へぁっ!?」

 

突然のことに唖然とするウルルの目の前に飛び込んできたのはそう…

 

「……なんか昔聞いた曲の歌詞思い出したわ。鉄パイプ持ってねえし割ってたの窓だけど。」

 

訳のわかんないこと言ってる、なんだこの女。

 

「み、ミカドちゃん!?あっ…だめ…見ないで…」

 

瘴気をかき分けずんずんと近寄ってくくる帝。

せめて顔だけでも見られないようにと小さい手で必死に隠すウルルの手を掴みあげ、机に座らせる。

目線が同じになった所で帝は真っ直ぐにウルルの目を見据えた。

 

自分を睨み付ける母の面影が帝と重なって思わず目を逸らしたくなる。

しかし彼女は…微笑んでいた。

 

「友達付き合いって、私も正直よく分かんなくてさ。

ウルルが自分のことどう思ってんのか知らないけど、私はアンタが醜いだなんて一度も思ったことないよ。」

 

ぎゅっと力強く、コブだらけのウルルの手を握りしめる。コブが潰れてガスが吹き出てもお構い無しに、ミカドはずっとその手を握り続けた。

 

「寧ろ凄いよ、ウルルはこの個性をずっと1人で押さえ込んでて。

誰にも相談できなくて、一人ぼっちで抱え込んでたんだな。」

 

 

でももう大丈夫、私が来たから

 

 

「ぁ…」

 

ずっとずっと聞きたかったその言葉。

ずっと一人で抱え込んで、ずっと一人で苦しんで、一人ぼっちの破柘榴羽瑠々。

環境に押しつぶされて誰かに助けを求める声すら出せなかった少女の手を握ってくれたヒーロー。

 

「ううぅ…うええええぇぇぇ…」

 

我慢出来なくなったウルルは帝の胸に泣きついて、触れた傍から瘴気で制服が染まっていくのも気にせずに彼女は優しく少女の頭を撫でる。

 

泣いて、泣いて、泣いた。

ずっと欲しかった暖かさを手放さないように、震える手で抱き着いて胸に顔を埋めながら。

それから暫く、やっと泣き終えて胸から顔を離したウルルは嗚咽混じりに顔を上げる。顔の斑点は熱で既に引いていたが泣きじゃくってぐしゃぐしゃだ。

帝は変わらずにやけ面で、ポケットから手鏡を取り出して微笑んだ。

 

「ウルルの泣き顔笑えるゾ?」

 

「あはは、台無しだよ…

ごめんね、これから凄い迷惑掛けるから。」

 

「だな、んでもってどうしてこうなったか教えてくれない?」

 

ウルルの説明する事の経緯を聞き、はあ…と溜息を吐く帝の視線の先にあるのは倒れ伏した10人もの男たちだ。

 

「もはや呆れ通り越して笑えてくるわ、馬鹿共め。とりあえずコイツらを運びだそう、生きてるのか知らないけど。」

 

「生きてるよ!?…多分…息はしてたから。」

 

その姿は緑色の斑点が身体中に浮き上がり、所々コケを生やして泡を吹いている。目もイッちゃってるしどう見ても重症だ。

そんな彼らを運び出し、帝は部屋の真ん中で天井に向かっておもむろに炎を吹き始めた。

 

「えっちょっ…」

 

「まー安心しろって、ウルルが昔教えてくれたじゃん。私の瘴気は乾燥と火に弱いって。」

 

旧校舎故に警報装置も無い。みるみるうちに炎は教室中を覆い、炎に包まれた瘴気は目に見えて無くなっていく。窓や壁のの苔も枯れるように変色していき、パリパリと剥がれ落ちて灰になり消えていった。次第にウルルの身体のコブも剥がれ落ち、斑点も引いていく。

教室の一面を覆うほどの炎が燃え上がっているというのにウルルはさほどの熱を感じないのに疑問を憶えた。

 

「私の個性、炎と熱の操作なんだ。

今は部屋をガンガン燃やして乾燥させてるけど私が制御してるから必要以上に燃え移る事はないし、熱操作で温度も上げてない。

上げられるって事は下げられるって事だからね。」

 

室温は現在35℃、少し暑いが教室中が燃え盛る目の前の光景に比べればかなり低い。

そのまま全ての瘴気を排除して、水道の水を使って消火した。元通り…とはいかないまでも瘴気が外まで溢れ出すという最悪の事態だけは免れたので御の字だろう。

 

ぐぅーッと帝から腹の虫が鳴って、誤魔化すように彼女は笑った。

 

「そういや昼まだ食べてなかったわ…

お、ウルルの弁当あるじゃん。」

 

「あ…それは…瘴気でぐちゃぐちゃになっちゃったからもう食べられなくて…」

 

「ふーん…おにぎりは大丈夫そうだよ?」

 

「でももう汚いよ、お腹壊すかも…」

 

「焼けば大丈夫っしょ。」

 

そう言って掴んだおにぎりを左手の炎で炙り、即席の焼きおにぎりを作った帝はウルルの目の前で頬張った。

何度か咀嚼し、不意に食べる口を止め神妙な面持ちでウルルに向かって呟いた。

 

「………甘ぁい。」

 

「え''っ…」

 

恐る恐るウルルも一口食べてその甘ったるさを味わって、暫く見つめ合ったあと可笑しくなって2人揃って笑い合う。

 

 

 

この後保健室まで瘴気に当てられた生徒達を運び出しひと段落ついたと思ったのもつかの間、その日の放課後に2人は校長室に呼び出された。

被害がほとんど無いとはいえ教室を1つ燃やしたのだ、重かれ軽かれ何らかの処分は免れないだろうとウルルは覚悟していたのだが、帝と校長の口から出た会話に驚愕する事になる。

 

 

 

 

そして翌日、急遽行われた全校集会。

全生徒を体育館に集め…といっても来ている生徒などほんの一部で、不良以外の根は真面目な者や単に物珍しさでやって来た者、様々だった。

ガラガラの体育館の壇上に登ったのは、気崩しもせず制服を着こなす凛々しい姿の帝。彼女はマイクを握りしめ静かに宣言する。

 

『今日から餓鬼道中学校の生徒会長に就任しました、1年3組の龍征帝です。

この度校長先生直々の指名を貰ってこの職に就くことになりました、これからは主に餓鬼道の風紀改善の為に尽力していくつもりですのでどうぞ宜しく。』

 

普段使わない敬語のうえ、しかめっ面で喋る帝の左肩には筆文字で『会長』と書かれた深紅の腕章が安全ピンで制服に縫い付けられていた。

ざわめく体育館内にもかまわず帝は言葉を紡ぐ。

 

『つきましてはこの後私の独断と偏見で生徒会執行部を設立します。役職は私の他に副会長、会計、書記、それと別途に風紀委員。

割り当ては私が勝手に決めるからそのつもりで、それと生徒達は学年問わず模範的な学生としての行動をこれから心掛けるように。必要であればこちらで指導します。

それと個性を鍛錬できる場を設けて…』

 

「オイオイオイちょっと待て!

なんだよ生徒会って。勝手なモン作ってんじゃねえ、オレたちにはオレたちの派閥があンだよ!

従ってられるかそんなモン!」

 

「そうだそうだ、綺麗事に付き合ってられっか!」

 

帝の説明を遮るように一部の男子生徒から罵声が浴びせられる。周りの生徒達も声に出して賛同しないまでもその発言には納得していた。

誰もが恐れる餓鬼道中学校、教師ですら匙を投げる凶悪な個性を行使する不良達の集まり、そんな連中に規則を促した所で帰ってくるのは罵声と拳のみ。

 

「綺麗事、ね…」

 

そんな声を受け、帝は暫く黙った後鼻をならして

 

とびっきりの侮蔑を込めて嗤った

 

『……うるせぇんだよクソガキども』

 

ドスの効いた声に全学年が静まり返る。

さっきまで罵倒に加わっていた3年生もその笑顔に軒並み言葉を失い、学生らしからぬ威圧感にカタカタと歯を鳴らし怯えるものまで出る始末。

まるで竜の唸り声のような…今まで聞いたこともない腹の底まで響く静かな怒声に体育館に居る全員が震え上がった。

 

『従わないなら従わないで結構、授業をきちんと受けない生徒、喧嘩ばかり起こす者には学年問わず何度でも〝指導〟してやる。

派閥争いだかなんだか知らんが下らない遊びを続けてる三年棟の馬鹿共にも伝えとけ、これ以上おままごと続けるなら私が直接教育しに行ってやる。個性使おうが罠張ろうがどうしようと私に勝てない事を脳の奥まで刻み込んでやるからな。』

 

おそらく偵察にやって来たであろう三年生の派閥の下っ端らしい生徒達に言い放つ。

その宣言を嗤う者はこの場に一人もいない、目が本気だった。今の彼女にはやると言ったら必ずやる凄みがあるッ…

 

『…もちろん校内で喧嘩、個性を使うのは論外。指導対象になるけど、ちゃんと個性を使っても問題ない場を設けるつもりです。

つきましては週に二回、特別教師を招いて個性始動の特別授業を行うよう学校側からプロヒーロー事務所に提案しています。

自分達に何ができるか、何をしたいか、どんな大人になりたいか、選択肢を増やしてあげる。喧嘩する暇も無いくらい貴方達は忙しくなる、私も相談に乗るから一緒に変わっていきましょう。』

 

この学校と一緒に

 

 

そう言い残して帝は壇上を降り、体育館を後にする。

未だにザワつく生徒たちを眺めながら、黙って宣言を聞いていたウルルは体育館を飛び出して帝に駆け寄った。

 

「これからどうするの?」

 

「まずは一年生のゴタゴタを全部片付ける、緋銀の奴はまぁ…協力してくれるならラッキーだし駄目なら物理的に理解(わか)らせるか。役職持ちにする気だし。

それと、はいウルル。これ。」

 

差し出した帝の手にあったのは『書記』の書かれた腕章。

 

「わ、私!?無理だよそんな役職…」

 

「大丈夫、ウルルならできるよ。

それに飴と鞭が必要なんだ、()()()()()()()()()()()()()ウルルの個性なら私がいくら暴れても人的被害は最小限で済むしぃ?」

 

「その為には個性制御頑張らないとだけど…

分かりました。1年1組破柘榴羽瑠々、餓鬼道中学校生徒会『書記』引き受けます!」

 

「これから一緒に頑張ろっか、頼むぜ親友。」

 

「うんっ!

…いくら治せるからって暴れ過ぎないようにね?」

 

「HAHAHA、了承しかねる。

いい加減上級生が鬱陶しかったんだ…!」

 

かつてないはど獰猛な笑みを浮かべる帝の表情に呆れ溜め息を吐きながら、ウルルはこの時初めて心から笑えた気がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それからミカドちゃんは1日で一年生の派閥をまとめあげ、3日で二年生に点在してた派閥を全部叩き潰し、週が終わる頃には三年生の全派閥をたった一人で制圧していた。この激動の1週間は未だに餓鬼道で「血の七日間」として今も語り継がれている。

どんな感じだったかって?書記の私と新しく風紀委員長として加わった緋銀さんがドン引きするくらい凄惨な殲滅風景だったと伝えておこう。二年棟と三年棟を一部屋一部屋丁寧に片っ端から制圧していく光景は惨劇の一言だった。まさか人の関節があんな方向に曲がるなんて…私が治せるからって無茶し過ぎだよ。「あの子と同学年で本当に良かったわ…」って緋銀さん真顔で吐露しちゃってた。

個性を使った奇襲、罠、人質作戦で抵抗する生徒達も何人かいたけれど、ミカドちゃんの宣言通り圧倒的な暴力の前に先輩達は己の無力を身体に理解(わか)らせられ為す術なく沈んでいった。今までが適当にあしらってただけで、本気でその気になったミカドちゃんには誰も勝つことなんて出来なかったんだ。文字通り龍の逆鱗に触れた先輩方が憐れでならない。

 

一週間後、生徒会監修のもと初めてプロヒーローを呼んで行われた個性指導の授業で校内は大いに盛り上がりを見せて、次の開催を熱望する声が止まなかった。

特別教師として招かれたプロヒーロー、ベストジーニストさんもやりがいを感じてくれたらしく継続的に餓鬼道に来て下さるそう。有難い限りだ。

 

ミカドちゃん曰く、彼らに必要なのは暴れられる場所ではなく個性を活かせる環境を整えること。溜まっていた鬱憤を喧嘩じゃなくて公式の授業で発散させてしまえばストレスも無くなると。

 

でもその為に生徒会の全権限を賭けてミカドちゃん対他の生徒でデスマッチさせるとか聞いてないんだけど!?いや卒業するまでミカドちゃん負け無しだったから良いんだけど!次の会長が不憫でならないよ!

 

そんな突拍子もない行事ばかりを繰り返していくうちに生徒達も少しずつ変わっていって、半年経った頃には校内での喧嘩騒ぎはめっきり無くなっていた。

 

それから学外まで広がった悪評を払拭するために四苦八苦してみたり、進学や就職が決定した先輩達の卒業パーティーを学校を挙げて企画したり、新しい一年生を盛大に迎え入れたり、卒業までの三年間で様々な事をやって生徒会の皆と過ごした。

「任期中に体育祭と文化祭を復活させられなかった」ってミカドちゃんは悔やんでたけど、私は十分だと思う。彼女の想いは先生や後輩たちに脈々と受け継がれているし、新会長の天ちゃんは貴女の事が大好きだから…

 

 

学校を変えた餓鬼道の生徒会長、誰よりも生徒の心に寄り添って、誰よりも生徒の為に拳を振るった無敗の『女帝』。

終わっていた筈の私達はそんな彼女に変えられたんだ。

 

 

 

 

 

だから、私は…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

時は戻り、保須市某所

 

 

「…………ぅあ?」

 

まだ頭が揺れていて気持ちが悪い、一体何が怒ったんだっけ?

…そうだ、婦長様と一緒に『やすらぎ荘』へやって来て、いつもみたいに公演をして、せっかちな婦長様はミルコさんを探す為に外へ飛び出して行って…私が子供達の面倒を…面倒…を……

 

「はっ!?どういうこと…これ…」

 

ごうごうと燃え上がる炎があちこちに広がって、人の悲鳴と物が壊れる音とがひっきりなしに響いてくる。ビル全体がミシミシと音を立てていて今にも崩れてしまいそう。

 

そうだ、私…そろそろ帰る時間だって支度をしていた時に突然ビルが揺れて…

というかこれって…火事…

 

「だれか!だれか助けてくれぇ〜!」

 

何処かの部屋から人の声がする、恐る恐る声の方へ向かってみると、脚を瓦礫に挟まれて動けなくなった会社員らしい男の人が頭から血を流しながら呻いていた。

 

「君ィ、ちょうど良かった!助けてくれ!」

 

「え…あ…」

 

しどろもどろになりながらも転がっていた鉄パイプを瓦礫の隙間に挟み込んで上手いことテコの原理で浮かせた瓦礫の隙間から必死の形相でおじさんは抜け出した。

 

「ひぃっ…ひぃっ…なんでワシがこんな目に…」

 

「あの…何があったんですか?」

 

「知らんよ!帰ろうとしたら何かが突っ込んできたみたいにビルが揺れてワシは気絶しとった。そんで気付いたら脚を瓦礫の下敷きにされ…

くそっ…こんな事なら上の階でのんびりしておれば良かった…ッ痛ぅ…」

 

ブツブツと文句を言ってるおじさんは脚を痛めているようで、歩けずにいる。

 

「脚、診せて下さい。応急処置位ならできます。」

 

「本当かね…?そうかキミは今日来ると聞いとった看護婦か!スマンが頼めるか?」

 

「は、はい!」

 

無断で個性を使うか一瞬迷ったんだけど、『生命を護る為なら手段を選ぶな』という婦長様の言葉を思い出し、規則違反がなんだと自分を奮い立たせて私は個性使うことに決めた。

 

見た目からして軽い捻挫だから固定できるような物が有れば…それと布と水を持ってこないと…

 

幸い傍にあった冷蔵庫にミネラルウォーターのペットボトルがあったので拝借して、手早く応急処置を済ませる。

紫色に変色した患部に個性を発動させて、緑色の苔に覆われた脚の上から包帯を巻き水を掛けて個性を維持させた。

 

「その…なんだねそれは、普通の治療とは違うようだが…」

 

「私の個性です。

ざっくり説明するとこの苔が自然治癒力を高めて捻挫くらいなら治してくれます、湿布だと思って下さい。水を定期的にかけてあげれば個性が活性化して痛みも和らぐはずなので持っていて。

ほんとは火傷や裂傷なんかの傷に直に当てた方が効くんですけど捻挫なので今はこれくらいしか…応急処置なので早く病院で診て貰わないと。」

 

「…本当だ、歩いても痛くない。」

 

あの日気付いた私の個性の本当の能力。きっかけは瘴気で失神させた男の子達を病院に搬送した時だった。

彼らは十代の若者ながら喫煙による重度の肺炎を負っていて、肺がボロボロだったらしい。なのにあの後いざレントゲンを撮ってみると壊れかけの肺は私の瘴気に覆われていて、お医者様の話によると信じ難い事に肺が再生しつつあるのだとか。

豚を使った再生医療は有名だけど、私の瘴気はそれと近い性質を持つらしい。

自然治癒力を高めて再生を促進させる超回復能力、それが私の個性には備わっていた。

見た目が悪くて生き物に今まで相手に使った事がなかったんだけど、まさかこんな力があったなんて…兎に角私は驚いてミカドちゃんと話し合った結果、個性を制御する為に特訓をすることに決めた。

いわゆる個性伸ばしと言うやつだ、自分の個性を理解して情報を精査した結果、瘴気は傷口に直接当てて治癒するだけでなく、口から吸引すれば感覚を鈍らせてちょっとした麻酔代わりになったり、骨折など傷口が見えない負傷でも皮膚越しに当てていれば湿布代わりになり治療しつつ痛みも和らぐなど、どんどん判明してく。

それもこれも分かったきっかけは『血の七日間』の間にミカドちゃんが〝教育〟した人たちを片っ端から治療したからなんだけど…

 

とにかく私の個性はただ気持ち悪いだけじゃない、人を助けられる。あのリカバリーガールと同じで稀有な回復個性だ。

あの人のは回復するのに被験者本人の体力を必要とするけど私の瘴気は水さえあれば成長し続けられる。その点では負担が少ないかな。但し即効性は低いし見た目は身体に苔が生えてるから人によっては受け付けない、なので処置した後は包帯で隠す。

 

「あまり激しく動くと流石に痛いので何か支え棒になるものを探しますね。

…これくらいしか役にたてなくてごめんなさい。」

 

「いや有難い、適切な処置だよ。

まだ学生なのにこの対応は素晴らしい、自信を持ちなさいよ君ィ!」

 

褒めてもらえた。

その辺にあったモップを持ってきておじさんはそれを支えにして立ち上がり、付近を調べに行くそうだ。それに私もついて行く。

 

そこから一番窓に近い部屋に移動して、建物内に残った人たちを探し出し一箇所に集めた。

どうやら私が最初に治した彼はこのビルのオーナーだったらしい。

 

次々と運ばれてくる怪我した人達、オーナーの人が探し出してくれた救急箱の中身は少ないけどこの中で医療知識を持ってるのは私だけだ。

もうやるしかない。

 

「皆なるべく姿勢を低く!カーテンは全部剥がして窓から捨てて!」

 

「お子さんはこっちに固まりなさいよ!ハンカチで口を抑えて煙を吸わんようにな!」

 

「怪我した人はこっちに、私が診ますから!」

 

緊急事態だというのにオーナーさんを始め多くの人達が助け合って、必死に火から逃げる。

気付けば私達の居る子供用に作られた大きめのプレイルームには30人近くの逃げ遅れた人達が集まっていた。

その半分は怪我人で、下手に動かせない位の重傷者が5人ほど、幸い死者は今のところ見つかっていないけど今も下の階は燃え続けてるし煙も酷い。現状は最悪の一途を辿っている。

そんな中、サイン色紙の様なものを抱えた女の子がこっちに近寄ってきて不安げな表情で私に話しかけてきた。

 

「おばあちゃん助かるの?だいじょうぶ?」

 

「だいじょうぶだよ、きっとヒーローが助けに来てくれるからね。」

 

頭を撫でながら彼女のおばあちゃんの容態を確認する。軽い捻挫と火傷だけど煙を吸いすぎてる、それにお年寄りだから体力が心配だ。あまり動かさない方がいい。

 

 

 

 

 

「それで助けはいつになったら来るんだ!?

このままじゃみんな焼け死んじまうぞ!」

 

「落ち着けって!窓の外見たろ?下でレスキュー隊とヒーローが集まってるんだからもうすぐ助けに来てくれるさ!」

 

この部屋に固まってから40分くらい経過したかな?あらかた怪我人の治療も終えて、必要な水も与えたから治療に使ってる瘴気は暫く大丈夫だろう。そんな中、いつまで経っても来ない救助隊に業を煮やした人達が騒ぎ出していた。

 

「落ち着きなさいよ君ィ。子供達も見てるんだ、大人がみっともなく騒ぐんじゃない。」

 

「でもねえオーナー、こんなにも経ってるのに未だに来れないなんておかしいでしょうが。

高い税金払ってんのに肝心な時に来てくれないんじゃ困るんだよ。」

 

「そうそう、ヒーローなんだから俺達を助けるのが義務だろうが!早く来いよ!」

 

一人、二人と不満が溢れて次第に空気が重苦しくなっていく。

緊急時にはその人間の本質が出るって言うし文句を言いたい気持ちは分かるけど、今はそんなこと言って現実逃避してる場合じゃ無いでしょうに。

誰かのせいにして楽になるなんて甘い事考えない。

それにヒーローだって人間なんだ。

 

必要とされて必ずやってくるなんて都合のいい事あるわけない

 

「おねーちゃん…」

 

「だいじょうぶだいじょうぶ、必ず助かるからね。」

 

大人の汚い所を見せて不安にさせてしまった女の子を気休めでも安心させようとしてそう言って、頭を撫でる為に姿勢を変えた拍子に急に身体から力が抜けて私はその場に倒れ込んだ。

 

あ、やば…個性使い過ぎかもしれない…それに熱がすごいや…乾燥してるし……

 

「おねーちゃん!?」

 

「あぅ…ごめん、ちょっと疲れちゃった…

横になれば直ぐ治るから…」

 

「オイ大変だ!誰かこっちに来て手伝ってくれ!」

 

言い争いの中響く大きな叫び声、男の人たちが何人かそれに呼応して暫くすると、全身ボロボロでぐったりとした女の人が運び出されて来て寝かされた。

チラッと見ただけでも半身に重度の火傷、左脚と右腕があらぬ方向にねじ曲がって骨折、オマケに煙の吸いすぎで呼吸困難、脈拍もかなり弱ってる…これまずい、今すぐにでも集中治療室に入らないと命に関わるレベルの大怪我だ。

重い体を引き摺って彼女の前までたどり着いた私は個性を使おうとして、瘴気がこれ以上出ない事に気が付いた。

 

「なん…で…個性が……許容限界…?」

 

「おい君大丈夫か!?だいぶやつれてるし顔色も酷いもんだぞ!」

 

「私は大丈夫…です…でもこの人、このままじゃ命が危ない…だから何とかしなきゃ……ッ!」

 

もう一度瘴気を出そうと試みるも一向に出る気配がない。

そうだ、乾燥だ。それに業火の中気温も高すぎて瘴気が生まれたそばから焼失してる。時間が経って温度が上がったから…サイアク…

 

「どうしたんだね!?さっきまでみたいに治療はできないのか?」

 

「気温が高すぎて個性が使えないみたいです…普通の応急処置しか…」

 

「くっ…包帯も消毒液ももう使い切ってるぞ!?」

 

「ウソ、そんな…」

 

あと一人、あと一人なのに…

 

「…ぁ…ぁぁ…」

 

「無理に喋らないで!

大丈夫です、絶対助けますから!だから諦めないで…!」

 

「………ひゅー…ひゅー…」

 

折れてない方の手を握りしめて懸命に語りかける。

私と目が合って、こくりと頷く仕草を見せた彼女の瞳は必死に訴えてた。「死にたくない」って。

 

「手に届く命は死んでも助けるのが…看護婦の勤めですよね…婦長様ッ。」

 

呼吸が浅くなる女性の口を私の口で塞いで肺に直接瘴気を流し込む。苦痛で歪んでいた女の人の表情がとろんと虚ろになって、呼吸も落ち着いて来た、これで少しの間は瘴気が煙を濾過して空気を吸えるようになるし痛みは和らぐハズ…でも傷口と骨折は今の環境じゃどうしようも無い。せめて気温が下がってくれれば…

個性の使いすぎで身体が上手く動かない、そばにいた女の子にもたれかかって、何とか意識を保ってた。

オーナーさんが私に向かって何か言ってるけど上手く聞き取れない。

個性も使えない、医療キットも尽きた、この人の命は風前の灯だ。

 

不意にあの人の姿が脳裏に過ぎる

 

なあんだ、私も結局都合のいい事考えちゃうな

 

土壇場で助けが来るだなんて思っちゃう

 

私を助けてくれた人…私にとって大切な人…

 

 

「………ミカド…ちゃん…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『おう、お待たせウルル。』

 

 

ガラリとベランダの大窓が音を立てて開いて、皆がそっちに注目した。

スピーカーで拡張された声の主、霞んだ視界の先に居たのは…

 

 

 

 

『もう大丈夫、私達が来た…!!』

 

 

 

やっぱり貴女は私のヒーローだ




1話丸々オリキャラの過去とかマジ?

時系列的には3日目の脳無による保須市襲撃と同タイミングで起きたビル火災、脳無襲撃、ヒーロー殺し、突然のビル火災…何も起きないはずがなく…



★オリキャラ解説★

破柘榴羽瑠々(はざくろうるる)
誕生日:6月22日
年齢:16歳
身長:145cm
所属:士傑高校一年七組看護科、出席番号13番
職場体験派遣先:保須中央病院
担当看護婦:天使白衣(あまつかしらぬの)(元プロヒーロー『フローレンス』)
個性:〝瘴気〟→〝瘴気活性〟
回復効果のある微生物を含んだガスを体内で生成し放出する個性、制御しないと湿気と水分でどこまでも成長する。
傷口に付着させる事で自然治癒力を高めて早期回復を促したり、骨折などでも皮膚越しに当てていれば痛みを軽減させる。
既に治っている傷跡は治療することはできないが、切断された指に瘴気を付着させてくっつければ接合され元通りにする事が出来る為、再生医療に活用できないか一部の医師達から注目され協議が続けられている。
見た目は毒々しい鈍色のガス、固形化させると緑色の苔に変色するので見栄えは頗る悪いがリカバリーガールに匹敵する程の稀有な回復個性だ。


元ネタは皆様ご存知屍套龍ヴァルハザク、誕生日は歴戦王実装日、何がどうしてロリキャラになったんだ…例の如く画像を一覧に置いとくので見たい人だけ見てね。
因みに彼女と帝の会話で出てきた緋銀さん、天ちゃん、臨華ちゃんもちゃんと設定があって外見も某キャストで作ってある模様。今後出てくるかは不明、あんまり端役増やしても…ねえ?
いまさら?うるせぇんだよ
3人の本名は

緋銀 司(あかがね つかさ)

天廊 凍皇梨(てんろう こおり)

不羅姫 臨華(ふらき りんか)

全員モンスから生まれたオリキャラ、個性もそのモンス由来、名前だけでどのモンスか分かった人は感想欄で僕と握手!


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32 私の職場体験記vol.4

正直オリジナルだらけの職場体験もうええやろって、読者は思ってると思う。
作者もそう思う。この話はここでおしまいだな!

因み前回の端役3人は上から

・ハルドメルグ…『司銀龍』『緋銀の翼(仙異種の異名)』

・ドゥレムディラ…『天廊の番人』『凍皇龍(大陸版表記)』

・臨界ブラキ…名前のまんま

答えてくれる人思ったよりが多くて、感想稼ぎしてるみたいで申し訳なくなった。すまん。







「どうしてですか行かせて下さい!

俺の風なら人一人くらいは背負って下まで運べる、龍征さんの翼竜だって避難が遅れた人を運ぶのに最適じゃないっスか!」

 

「落ち着きなよレップウ。」

 

保須市市街地のビル火災。

燃え盛るビルの下で救急隊と怪我人が右往左往する火事現場でレップウは声を荒らげてた。

 

「ダメだ、初日とは状況が違う。

高所火災の救助活動は君達の想像の何倍も難しい作業なんだ、梯子車が到着するまで君達は交通整理を続けていてくれ。」

 

返事は固いがバックドラフトの言うことはもっともだ。むしろ初日に私があれだけ働けたのが特例で、本当なら職場体験で学生は交通整理が関の山。

でも梯子車が到着するまであとどれくらいかかる?火事が起きてから私達が到着するまでもう40分近く経ってる、そこから更に塞がってる瓦礫を取り除くのにどれくらいの時間を掛けなきゃいけないの?

その間も中の人達は閉じ込められたままだ。翼竜達から見えた中には寝たきりの重傷者も混じってた、煙と高温で危険な状態は続いてる。時間との勝負なんだ。

それに…

 

「…バックドラフト。」

 

「なんだいグァンゾルム。」

 

「職場体験生である私達を危険な目に会わせたくないのは分かります、万が一私達が怪我したら監督者として責任を取らないといけないしそれ以上に今後の貴方のヒーロー活動に迷惑がかかる。」

 

「…それだけじゃないよグァンゾルム。

守れなかった時、君たちには社会的な責任よりも重くのしかかるモノがある。無念、後悔、懺悔…

目には決してした見えないが一生付いて回る〝重り〟だ、当然オレだって背負ってるさ。

学生の君たちがそれを知るにはまだ早い、今は…」

 

「…私の友達があの中に居ます。」

 

「!?」

 

「あの子は臆病で、ずっと一人で危険な個性を抱えてた。でも吹っ切れて今じゃ希少な回復個性持ちで看護婦の卵なんですよ。」

 

「ッ!龍征さんまさか…」

 

「そうだよレップウ。

突然変異の個性を嫌って、自暴自棄にまでなってた子が、自分の個性を人を助けるために使いたいって笑顔で言ってたんです。凄いでしょ?

たくさん勉強してたくさん練習して、得た知識と個性であの子…中に居る負傷者の手当てをしてました。必ず助けが来るって信じて消えそうな命を繋げようとしてた。

危険な現場だって事は百も承知です。貴方が責任と感情で板挟みになってる事も、それ以上に私達の身を案じてくれている事も。

でも今は…私達にしかできない仕事がある。

中の人達が助かる可能性は少ない、けど私とレップウならその確率を少しでも上げることができる。私が動けば助かるかもしれない命が目の前にあるのに黙って交通整理だなんて悠長な事できない!」

 

だからお願いします、私とレップウを救助に行かせて下さい!

 

そう言って頭を下げる私を見たレップウも後を追うように90度頭を下げた。ヨシ地面まで下がりきってないな、偉いぞ!

 

バックドラフトは暫く唸った後、諦めたように頷いておもむろにマスクを外し素顔を晒した。

 

「…命を助ける為に使える者は全て使う、それがオレのモットーだった。

でも時には救えない命もあった。オレはオールマイトじゃない、取り零す度に『あの時ああしておけば、こう判断すれば救えた命があったのに』と後になって死ぬ程後悔するんだ。

君たちにはそんな失敗をして欲しくない…!」

 

すぅーっと思い切り息を吸い、騒がしい火事場でも通るくらいの大声で彼は私達に叫ぶ。

 

「プロヒーロー『バックドラフト』の名において、『グァンゾルム』及び『レップウ』の個性使用による救助活動を許可する!

悔しいがこの現状、オレや個性の縛られたレスキュー隊じゃ手詰まりだ。タイムリミットは刻一刻と迫ってる。だから君たちの力を貸してくれ、命を繋げてくれ…頼む!」

 

そう宣言して頭を下げるバックドラフト。

私が返事を返す前に横から爆風が渦巻いて彼に負けない勢いでレップウが吼える。

 

「了解ッス!!自分と龍征さんに任せて下さい!!」

 

「ありがとうございますバックドラフト。

…レップウ落ち着け落ち着け、風を抑えろ鎮まりたまえ。」

 

「ハッ!?すいませんでしたァッ!!」

 

ガンッとまーた頭を地面にぶつけやがったコイツ、救助する前に負傷するなよ馬鹿野郎。

 

プロヒーローによるお墨付きも頂いたところで早速乗り込もうとしたレップウを襟首掴んで引き留めて作戦会議だ。手早く済ませよう。

 

先ずは私、やることは勿論翼竜を使って13階から要救助者を降ろす。担架を使って2匹掛かりでなら重傷者も運び出せる、そういう想定で何度か訓練もさせてるから大丈夫。

レップウには風で救助者を抱えて飛んで貰おう、往復する事になるが本人が「全然問題ないっス!訓練でもっと重い物を運んでましたから!」って言ってたので彼の言を信じよう。それから換気の為に風を起こしてもらわないと。

 

…それともう1つ、不安なのが出火原因が不明なところ。

先に着いたレスキュー隊の人によると12階のサーバールームから突然火が出たらしい、精密機械で熱の篭ったサーバーが火を吹いた可能性も考えられるけど、警報装置が作動した時にはもう火が階層全体に回った後だったそうだ。そんな早く火の手が回るものか?複数のサーバーが同時に爆破でもされないとこうはならないハズ。

それとも外から何かされた…?

 

まあそっちは今考えても仕方ない、救助者が待ってるからレップウ連れてさっさと上まで…と思っていたら不意に女の人から声を掛けられた。

ウルルを担当している看護婦の天使(あまつか)さんだ、彼女は私に大きな銀色のアタッシュケースを手渡してきた。

 

「先程のお話、聞かせて頂きました。

大変残念ですが私は救急隊の陣頭指揮を執らねばならないので突入に参加できません、ですのでこれを破柘榴研修生に渡して頂けますか?」

 

「これは…」

 

「彼女に必要な物が全て入っています。

それから彼女に伝言を、『全てを救え』と。」

 

「研修生にメチャクチャ言いますね…」

 

「できない者には言いません。

破柘榴研修生の個性なら可能であると断言できる。なによりあの子は意志が強い、きっと良い看護婦になるでしょう。天使白衣…救命ヒーローフローレンスが保証致します。」

 

「…絶対助けますから。」

 

「ええ、必ず。」

 

アタッシュケースを受け取って一礼し、現場指揮に戻る天使さんを見送り私はレップウに合図を送る。

バックドラフトとレスキュー隊の皆が見守る中翼竜に掴まり、レップウは風を纏って空へと飛んだ。

 

 

 

 

 

 

 

……あの人、陣頭指揮執ってなかったらガチで私達と13階まで付いてくるつもりだったな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆side 蒼井華

 

 

「〜〜♪〜♪」

 

鼻歌を歌いながら上機嫌で信号を渡り、ステップなんかしちゃったりして。

そうっ、今日はバイトが珍しく休みなのだ!

いつもは学校の後に必ず動物園に閉園まで勤務してその後の片付けなんかも全部押し付けられ帰ったら夜8時過ぎ…なんてのもザラだったけど、今日は椎名園長の気まぐれで休園日。

なので私はこうして放課後の一人スイーツ巡りに勤しんでいるわけよ!

 

「本日最後のオヤツは〜まんぷく亭の『ミッチリ生チョコたい焼き』!たい焼きの中にとろける生チョコを仕込んだ数量限定の一品、買えてよかったあ〜!」

 

あのバイトはキツいけどお金だけはたくさん貰える、だから一人暮らしの私でもこんな贅沢する余裕があるんですよ!あの営業状態でなんであんなに羽振りが良いのは知らないけど貰えるものは貰っておくのが私の主義なのだ!

たい焼きの詰まった袋を大事に大事に抱き締めて、スーパーまでの道のりを歩き続ける。さっきまでウッキウキで家路に着こうとしてたのに急に電話でミルコさんにニンジン買って来いってパシられたからね、悲しいね。

 

「この辺だと何処が安いのかな〜…あいたっ!?」

 

キョロキョロと周りを見回しながら歩いてると横向いた瞬間に前方不注意で誰かにぶつかってしまったららしい。

あわわどうしよ、ぶつかった感じすっごい筋肉質だったしとりあえず謝らないと…

 

「あっあっあっ…すいません余所見して……て?」

 

顔を上げるとそこには『脳』があった。

凄い大きいお人にぶつかってしまった私…いやグッッッロ!何この人!?

いや待て落ち着け蒼井華、このご時世だ人を見た目で判断するな。異形型の個性持ちならこんな人その辺にゴロゴロいるはずだろ…流石に脳と下顎しかないレベルで顔の造形を端折ってる人は初めてだけど、個性社会じゃ当たり前。差別ダメゼッタイ!

あくまで平常心を装うのよ私、たい焼きも待ってる、優雅に謝罪を入れてこの場を去るのだ!

 

「すすすすすいません余所見してましたどどどどうか命だけわわわわわわわ…」

 

ごめん、やっぱつれぇわ…怖すぎるよこの人…こっち向いたはいいけどなんも喋ってくれないし…そもそもその口喋れる構造なのかわかんないし…帰りてぇ〜…

 

おやぁ…??(唐突なジョン・〇ビラ)

 

何故拳を振り上げるのですか?

 

何故ここからでも聞こえるほどの音を立てて腕を振り絞るのですか?

 

何故そのまま拳を私の方へ振り下ろそうとなさっているので危なあああああいッ!?!?

 

自慢の脚力と日頃の業務で園長に鍛えられた動体視力を遺憾無く発揮して咄嗟にその場から飛び退いた。

ズドンって大きな音がしてさっきまで私のいた場所に彼の拳が突き刺さりクレーターが出来てる。

 

えっ…ちょ…そんなに怒ります?なんか癪に障る事でもしました?もしかして私がぶつかった所デリケートゾーンだったのかもしれん、異形型なら何処にどんな部位あるのか分からないし、そうだったらホントにごめんなさいたい焼きあげるから許してくださ「カロロロロロロ…」んんんんんんコミュニケーション取れない感じのヒトなのかなあ〜分かりますよぉ私も『蒼井さんあの逢魔ヶ刻動物園でバイトしてるの?』『お化け屋敷みたいで怖いよねあの動物園』『園長が非合法な個性実験繰り返してて、動物が人に化けて夜な夜な山から降りてくるらしいぜ』『ええ、怖…』なんて噂を立てられてクラスじゃ浮いてますからっていうかこの人多分ヴィランなんじゃないかなって思うんですよね、雰囲気も顔も怖いもん。やっぱ人は見た目が9割ですよ内面なんて知るか。

 

2発目の拳が来ると身構えた瞬間にヴィランが横に吹っ飛んでった。代わりに現れたのはヒーロースーツ着た小さいおじいちゃん。

 

「スマン来るのが遅うなった、危なかったな嬢ちゃん。奴ぁ俺が相手するからはよ避難せい。」

 

「あ、ありがとうございます…そうさせていただきます!」

 

足裏からジェット噴射で飛んでるおじいちゃんは私に避難を促したあとさっき蹴飛ばした下顎さんに向かって飛んでった。

もしかしなくてもやっぱりあの人…人?はヴィランらしい、続々とヒーローがやって来て、壁壊すくらいの勢いでぶつかったのに平然と起き上がった下顎さんとドンパチし始めた。

 

一目散に逃げ出す私。こちとら普通科育ちの一般人、逃げ足だけは自信があるんですよ!ドジらなければね!

 

猛ダッシュで角を曲がって一息、辺りを見回す。どうやらあの下顎さん以外にもヴィランが出没しているようで街のあちこちから煙が上がってる。

ちくしょう最悪だ、こんなときどうすれば…ああそうだ!いるじゃんこーゆー時頼りになる人が!

 

 

 

 

 

 

 

『…もしもしミルコさん?

いや開口一番ニンジンじゃないんですよ、保須にヴィラン来てますよヴィラン!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『もう大丈夫、私達が来た…!』

 

 

なーんて張り切って飛び込んで来たはいいものの、そこらかしこが燃えてるし怪我人多数でヤバいしオマケに我が親友は死にかけではないですか。もしかしなくてもこの熱さの中この人数みんな治そうとしたな?そりゃぶっ倒れる。

でもあの子にはもうひと頑張りしてもらわないと。

 

「という訳で元気になぁれ〜。」

 

おもむろに持ってきたペットボトルの水をウルルの頭にばっしゃばしゃふりかける。隣のオッサンがすげえ顔しながら私を見てるんだけどどした?ぽんぽんぺいん?

 

「ななな何をしとるんだね君ィ!?この子気絶しとるんだぞ!」

 

「いやこれ立派な治療ですから。

こうなったこの子は水かけときゃ復活します。」

 

「いや枯れかけの花に水をやる感覚でそんな事されてもね!?そんなことして元気になるわけ…」

 

「ぅ…ミカドちゃん、もうちょっとちょうだい…」

 

「キャアアアアシャベッタアアアアアッ!?」

 

芸人ばりのリアクションで私を楽しませるオッサンをよそに2本目のボトルを開けてウルルにぶっかける、これでもう大丈夫だ。

 

「おはよう親友、私が来た!」

 

「相変わらずオールマイトの声マネ上手いね!?」

 

あの緑谷ですら騙せるクオリティだからな!

すっかり元気になったウルルに状況を説明してもらい、天使さんより託されたアタッシュケースを渡す。中には医療品がギッチリ詰まってた。彼女には残りの重傷者を手当してもらって私とレップウで避難を進める事に。

 

「バックドラフト事務所の者です、これから皆さんを地上までお連れします!

順番は重傷者、子供、怪我人、健常者の順で降ろします。絶対に全員助けますから皆さん落ち着いて行動して下さい!」

 

そしてもうドア付近まで迫ってる炎に私の炎を吐きつけて、混ぜる。

 

「オイ何やってんだアンタ!?」

 

「この火事に私の炎を混ぜました、ちょっと苦労しますが個性で少しは温度を下げられます…レップウ向こうの窓開けて、風を送って煙をそっちに流す。打ち合わせ通りに!」

 

「了解ッス!」

 

吹き荒れるレップウの風が煙の流れを変え、人のいない窓の方へ向かっていく。本当に優秀なんだなあの子、さっきパッと説明しただけなのに繊細な操作を簡単に…爆豪と同じタイプの天才型なんだろうか。

 

「流れは変えました!

自分は先にお子さんを1人づつ運ぶッスよ!」

 

子供はレップウに任せよう。

私は集中して部屋の炎を外へ逃がし室内の温度を下げる、温度調節は結構な集中力が必要なので他のことは全部翼竜任せだ。体感できるくらい室温も下がったし、重傷者から運び出していこう。

 

「バックドラフト、これからレップウが子供達を抱えて降下、私は翼竜で重傷者を搬送しますので受け取りの準備をお願いします。」

 

『了解、下階の火はオレが何とかするから手早くやろう。』

 

予め渡された無線でバックドラフトとやりとりし、先ずはそこで寝てる彼を手伝って貰いながら担架に乗せ、ハーネスやらで身体を固定し持ち手 を翼竜2匹の両爪で掴ませる。これで空飛ぶ担架の完成だ。極力揺れの少ないように息を合わせてガトーとガナッシュが飛び立っていく。

 

「ミカドちゃんこの人を次にお願い!

婦長様。今降ろした方は成人男性、左腕骨折、胸部に火傷、肋骨にヒビが入ってます。トリアージ赤、火傷と骨折は私の個性で応急処置を施しました、意識有り、個性麻酔で多少受け答えが難しいと思いますが対応お願いします!」

 

『分かりました、受け取り次第こちらで処置します。個性麻酔の効果はどれくらい持ちますか?』

 

「3〜40分程度で効果が切れます。それから…」

 

ウルルの方も無線で天使さんと受け答えしながら治療の手は止めてない。

さっきウルルがヤバい状態って言ってた人だ、手も足も片方ずつ折れてるしチラっと見えるお腹が赤通り越して真っ黒、跡が残らなきゃいいけど…

 

「ウルル、気温大丈夫!?ダメならもっと下げる!」

 

「大丈夫、個性使えるようになった!

骨折は添え木で固定すれば何とか下までもつ…呼吸器ももう問題ない…あとは焼けたお腹に跡が残らないようにありったけ瘴気を……」

 

治療に勤しむウルルは真剣そのものだ、邪魔にならないようにしよう。

それにこっちも結構いっぱいいっぱいだったりする、部屋内の温度調節が結構ツラい。

自分で出した炎なら負担も少ないんだけど今回のは火元が大規模過ぎるし混ぜただけだ、自分でも分かるくらいみるみる手の水分なくなってってきっと明日は多分地獄を見るぞ私。後でウルルに治して貰えないかなー…

 

 

 

 

 

 

 

 

「子供は皆降ろしたッスよ!」

 

「おっけーこっちも重傷者は全員降ろした!

バックドラフト、これから健常者を順番に降ろします。翼竜一匹につき1人ずつでペース上げていきますよ!」

 

『ああ頼む!

それと急いでくれ、さっきから消防隊と消火活動を続けてるんだが中々火が大人しくならない。無事なのはもうそこのフロアだけだ、最悪建物全焼も有り得るぞ!君たちの身の安全も最優先にな!』

 

「分かりました。

レップウ、残ってるのあと何人!?」

 

「16人ッス!男性12、女性が4、いずれも大した怪我無し!」

 

「火がどんどん強くなってる!今は私が抑えてるけどこりゃ気ぃ抜いたらフロアごとドカンだ!」

 

具体的にいうと体育祭で私がやったみたいな局所爆破がこのフロア全体で起こる。うん、普通の人は死ぬね!

っていうかさっきからずっと両手が焼けるように痛いんですが、手袋の下がどうなってるか想像したくない。

つーかこれマズイ。どんどん火の勢いが増してて、それを無理やり個性で押さえつけてるもんだから溜まった熱が暴走するのも時間の問題だ。唯一熱を逃がしてる向こうの窓が枠ごと真っ赤に染まって溶けてんだもん!

 

 

 

……

 

 

翼竜達を使って四苦八苦しながらも今のところ救助の方は順調に進んでる。

 

よしあと6人!翼竜達が帰ってきたらこれで最後の往復だ!

残ってんのはウルルと、自分はビルの責任者だから最後まで残るのが仕事だと頑として譲らずに残り続けたこのビルのオーナーさん。それからこのビルにある彼の会社の部下の人達が4人、いずれも軽傷で済んでてよかった。

 

「あの…ちょっといいかね?」

 

「ッなんですか!?」

 

「いやね。ワシの個性『鑑定眼』っていうんだけど、物の寿命が見えるんだ。

それでね、さっきからあっちに扉あるじゃない?瓦礫で塞がってる、12階へ降りられる唯一の出入口。あれね…」

 

ものすごい勢いで扉の寿命が減ってるんだが。

 

「はぁ…?」

 

彼の言葉に首を傾げる私、ウルルもなんのこっちゃと頭にはてなマークを浮かべてる。

 

「普通はね、物の寿命なんてものはゆっくりゆっくり過ぎていくものなの。

それこそ建築物なんて数十年単位でしか壊れない、なのにあの扉だけさっきから寿命の減り幅が馬鹿みたいに大きいんだよ。

ワシの経験上、可能性は2つあってね。

ひとつは火事の炎で焼かれて扉の寿命がジリジリ減らされているか、もうひとつは…誰かがあの扉を向こう側から壊す勢いで叩いてるかなんだが、どうすればいいと思うかね?」

 

叩いてる?扉を…?ッじゃあ向こうにもまだ人が?いや…

 

「…火事が起こったのって大体一時間前ですよね?」

 

「だね。」

 

「この下の階って…」

 

「サーバールーム、基本的にいつも無人だしメンテナンスで人が入る予定は来週だね。」

 

「たしか火元もサーバールームで…」

 

バゴンッ!

 

急に飛び出したそんな擬音にウルルが小さい悲鳴を上げて怯えてる、音のした方は私たちがちょうど話してた12階に繋がる瓦礫で塞がって歪んだ扉。

 

バゴンッ!!

 

聞き間違いじゃない2回目の音に全員が扉を凝視した。たまたま崩れた瓦礫が衝突した音じゃない、明らかに扉を叩いてる音。バックドラフトさんに確認を取ったけれど救助隊は皆11階より下に撤収したと言っていた。じゃあ一体何がこんな音を立てている?

 

直後、歪んだ扉が瓦礫を吹き飛ばしながら弾け飛んで向こう側から背の高い見覚えのあるシルエットがのっそりと現れた。

羽根の生えた脳ミソ男…こいつ見た事ある!

 

「ぎゃあああああああああッ!?」

 

いの一番にオーナーさんが悲鳴を上げて、ウルルを連れて外に1番近いベランダの方へ下がった。

 

「要救助者…じゃないよね流石に。」

 

思い出すのはUSJ、あの手だらけの変態ヴィランが連れてた黒い奴を思い出す。あのオールマイトをあわや殺害手前にまで追い込んだ、個性が複数ある黒いヴィラン。目の前で業火に揺られながらこちらを凝視する異形はあの時のやつとよく似てた。

 

「…ッ!!」

 

一瞬だった、あの異形が開いた口から伸びた舌っぽいのが高速で伸びてって、ウルルの頭を貫こうとしたのを咄嗟に掴む。

触った感じマジで舌だ、ばっちい。ミルコの蹴りより遅かったのが幸い。

 

「龍征さん!?なんだアレ…」

 

「知らん。

けど私が雄英入ったばっかの頃、こいつの親戚みたいなのに会ったことある。」

 

「それってニュースにもなってた雄英襲撃…『ヴィラン連合』っつー連中の事ッスか!?

つかそれって…」

 

「狙いは分からないしコイツが人間なのかすら不明だけど…ねッ!」

 

思いっきり掴んだ舌を引っ張って引き寄せて、間抜け面して飛んできた奴の顔面に思っくそ拳を食らわしてやった。温度調節のやり過ぎでひび割れた手が染みて痛い、くっそ辛い。

 

「要救助者じゃない、コイツはヴィランだ!」

 

「ッッ!!バックドラフトさん!

救助中にヴィランの襲撃を受けました!数は1、龍征さん曰くヴィラン連合の関係者らしいッス!」

 

『何ィ!?

クソッ戦闘は回避出来そうか?』

 

「焼け落ちる寸前のフロアで背中に要救助者が残ってるのにどうやって戦闘回避すりゃ良いんですかね…」

 

『だよなあ…』

 

「しかも相手はなんか…人間なのかも不明です。

雄英襲撃の時も言われた命令に反応するだけのロボットみたいな奴でした。」

 

説得なんて無理だろうなあ。正直喋れるかどうかも怪しいし、まず見た目が最悪なのよ。手の妖怪、センス悪いんじゃない?

 

レップウに救助者運ばせる?人数が多すぎて時間が掛かる。

 

翼竜は?今降ろしたばかりでまだ地上だ、呼び戻す時間が足りない。

 

最適解は…此処で私がこの野郎を食い止めるしかない!

 

翼のヴィラン…たしかあの変態は『脳無』って言ってたっけ?は獣声を上げながらまたこっちを貫こうと舌を伸ばしてきた。

何度やっても同じよ…ッッ!?

 

「ッッッ!?痛っっっったッ!」

 

「ミカドちゃんッ!?」

 

掴んだ舌から何コレ、棘!?

突然生えた無数のトゲが私の掌を貫いた。個性使って傷だらけなのにその上から棘に抉られて左手から血がドバドバ溢れ出す。こんな痛いの久しぶりだわ!

飛行能力に棘を生やす個性…そういやあの時の筋肉脳無も複数持ちだったな!?

 

「個性複数持ち…ますます無視出来なくなったじゃん…」

 

「凄い血が出てるよ!直ぐ治すから…!」

 

というか血がヤバい、集中力切れると温度が…

 

ウルルが心配して駆け寄ろうとした時、部屋の熱気が一気に上がってくの感じて慌ててもう1回炎を火事に混ぜ込んで無理やり温度を下げる。

下げるというよりはもはや抑え込んでるイメージだけど…操作の規模が広すぎて少しでもコントロールを失ったら熱波がこっちまで押し寄せてくるぞ。

 

両手が燃えるように熱い、棘に貫かれた左手は血が出たそばから熱で蒸発して鉄臭いし尋常じゃない激痛に正直泣きそう。でもここで止めたら溜まった熱が暴発して部屋が吹き飛ぶ、そうなったら残った人達も、レップウだって無事じゃ済まない。ウルルが繋いだ時間も命も全部無駄になる、それだけは絶対ダメだ…!

 

 

人を助けるのがヒーローの仕事だから…

壊すことしかできない個性でも救える命があるのなら…

 

 

 

 

『帝、助けてくれてありがとう。』

 

 

 

 

 

そう笑ってくれた才サマの()()()()()()()()

 

 

 

 

 

「ッ龍征さん!」

 

「なにレップウ…うわっ!?」

 

突然風が吹き荒れて、レップウが前に出る。押し止められているのか翼をはためかせもがく脳無を睨みつけながら彼は大きな声で叫んでた。

 

「もうこのフロア、持たないんスよね!?」

 

「…ギリギリまで抑えるつもりだけど。」

 

「じゃあ俺がアイツを連れて行きます、龍征さんは救助に専念してください!

…さっきチラッと光ってるのが見えたんス、ヴィランはきっと()ならどうにかできる。俺は嫌いですけど!」

 

見えた…?レップウの嫌いな?まさかッ!

 

「けどこれ以上此処で戦って、あまつさえあの男が何も知らずに来ちまったら大変な事になる!」

 

確かにこのフロアの事情を知らない彼が来たらそれだけで温度の臨界点だ、もう私じゃ抑えきれない。そうなったら大爆発が待っている。

 

「でもッ…」

 

「昨日話してくれたッスよね。

『意地張ってたら肝心な時に大事なものまで見えなくなる』って。

確かに俺…あの男の事嫌いで嫌いで堪らねえッスけど、ガキの頃のトラウマ引き摺って肝心な時に選択ミスるのだけはやっちゃならねえって事くらい理解るッスよ!」

 

「おいレップウ!!」

 

脳無に向かって吶喊し強引にその腕を掴むと風が吹き荒れて、体格差をものともせずにレップウは脳無を連れてベランダから外へ飛び出した。

 

「龍征さん、後頼むッス!絶対全員助けてください!」

 

それだけ言って爆風と共にどんどん遠くへ飛んでいくレップウ。

彼の風操作の効力が消えて、行き場を失った熱がどんどん溜まっていくのが感覚で分かる。私が抑え込むのも限界だ。

一瞬考えて、もうこうするしかないと判断した私は痛む手を握りしめながらウルル達に振り返った。

 

「皆さん、今すぐここから脱出します。

私の言う事をよく聞いて、焦らず実行してください。」

 

 

 

大丈夫、絶対全員助けますから

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆夜嵐side◆

 

 

 

 

 

 

 

 

俺って奴は昔から恐れを知らないタチだった

 

 

 

カッコイイもの、アツいもの、熱狂させてくれるもの、なんでもお気に入りにしてしまう性分だった。

そんな俺が『ヒーロー』と呼ばれる人達に憧れるようになったのは必然だ。

 

ヒーローという存在は俺にとって熱さだ。

アツい心が人に希望とか感動を与える、伝える!目の前のピンチに全霊を掛けて挑むその闘志と勇気が俺を虜にした。

 

俺はヒーローが大好きだ!

 

 

たった一人を除いて

 

 

 

『俺の邪魔をするな』

 

 

そう言って俺の手を跳ね除けた男の目にはただただ冷たい怒りしか伝わって来なかったのだから。

 

 

 

 

 

 

『お、龍征さん!奇遇ッスね!』

 

『…んぁ?お〜夜嵐くんも風呂上がりぃ〜…?』

 

職場体験2日目の夜、初日の激動とはうって変わって穏やかな一日を終えた俺はホテルに戻りひとっ風呂浴びてロビーでくつろごうと向かったら、そこにはロビーに備え付けのマッサージチェアに揺られる龍征さんの姿があった。

 

龍征さんはスゲーアツい人だ!

初日の翼竜を使った避難誘導やサポートの腕は見事の一言に尽きる、的確な翼竜達への指示と判断力の高さ、とても学生とは思えねえ!それだけのものを持っていても決して威張らず、謙虚な姿勢、その行動の内側にはアツいレスキュー魂が宿ってる!俺には分かる!

そして俺がくだらない意地で諦めた雄英高校の生徒さんだ。

 

『マッサージチェアッスか、良いッスね!

ここのホテル旅館並みの施設揃ってますもんね、公共風呂は温泉だって言ってましたし。』

 

『近くに源泉あるらしいよ〜、都心からちょっと離れた場所だしそういうのウリで客集めてんのかもね〜…

夜嵐君も使ってみなよ〜…』

 

『隣失礼しまっス!』

 

だらけきった表情の彼女に促されて俺も隣の奴に座らせてもらう、百円玉を投入して10分動く旅館とかによくあるタイプだ。

 

おぉ〜…こりゃ中々…

 

『ああ''ぁ〜良いッスねぇ〜疲れも吹き飛ぶぅ〜。』

 

『でっしょ〜?』

 

消防署の皆さんとの訓練は楽しいが中々にハードだ。レスキュー活動には全身の筋肉を使わないといけないからな、俺もヘトヘトだった。

ても偶然とはいえ雄英高校の人とこうして一緒に学べるなんて滅多とない事だ。

憧れの雄英高校、士傑とは違う自由な校風で一体どんな授業をしてるんだろう。推薦の案内をしてくれたプレゼントマイクも然り、雄英の教師陣は大多数がプロヒーローだと聞いた。

 

テレビ越しに見た雄英体育祭では胸踊るような激闘の数々に時間も忘れて熱狂した。地雷を逆手にとった大逆転劇に騎馬戦の番狂わせ、トーナメントじゃ爆破対無重力の頭脳戦や炎と氷の大激突、そんで最後の黒いドラゴン!あんなアツい戦いに俺も混ざっていたかった!

 

龍征さんから教えてもらった雄英の日常は毎日がアツいイベント目白押しでとても楽しそうだ。

 

『…雄英入れば良かったな。』

 

『ん〜?』

 

『ああいや、スンマセン。思わず口から漏れちまって…気にしないで下さいッス!』

 

『そういや電車で言ってたね、雄英受けたのに事情があって辞めたって。

夜嵐君、風操作なんて強固性持ちなのになんかあったの?嫌なら答えなくていいけど。』

 

不思議そうに聞いてくる龍征さんに言葉が見つからず暫く俺は黙ってしまった。

 

憧れの雄英高校、推薦入試まで受けてあの3キロマラソンで1位合格したのに蹴ったのには理由がある。

あのエンデヴァーの息子、轟焦凍が一緒に受験をしていたからだ。

 

ヒーロー大好きな俺だけどエンデヴァーだけは受け付けない、あの男の目はヒーローじゃなかった。サインを断られたのは些細な問題、あの遥か遠くを見据えて睨みつけるような目付き、全身燃え上がってるのに絶対零度の心であしらう冷たい態度は俺の憧れたヒーロー像とは全く正反対のものだったから。

こんなものはただの俺の好き嫌いの問題、ワガママだ。けどそれくらい当時の俺にはショックな出来事だった。

大好きだったヒーローのイメージが音を立てて崩れていく気がして、俺はエンデヴァーを嫌悪した。

 

けど入試の時、息子の方は違うんじゃないかと信じて歩み寄ってみたんだ。

試験結果は僅差で俺の勝ち、けど轟も個性を存分に使ってお互いにいい勝負が出来たと思う。

 

精一杯の笑顔でお互いの健闘を讃えようとして…拒絶された。

 

『俺の邪魔をするな』

 

その目はまさに父親(エンデヴァー)と同じもの。

そんな彼に心底失望して、同じ学校に通うことすら嫌になった俺は志望校を士傑に変えた。

西と東に離れた高校なら出会うことがあったとしても仮免試験くらいだろうと、もう関わる事もないだろうと高を括って。

勿論士傑も大好きだ、世話焼いてくれる先輩達や傷を治してくれる看護科の生徒さん達には頭が上がらない。俺は此処で最高のヒーローになる為にどんな努力でもする覚悟がある!けど一時の感情で憧れを閉ざしてしまったことに後悔の念を抱いてた。

 

『そっか轟が…』

 

『スイマセン、こんな事龍征さんに言っても仕方ねえのに…気分、悪くしちゃいましたよね。』

 

『いや夜嵐君の言う通りだと思うよ。

少なくとも入学したての頃の轟はそんな感じだったし、少なくとも周りなんて見てなかったと思う。私宣戦布告されたし。』

 

どうやら轟は入学してからも色々とやらかしていたらしい。

個父親と個性が似ているというだけで龍征さんを目の敵にしたり、オールマイトに目を掛けられているという生徒に宣戦布告していたり、特に体育祭の間はクラスの雰囲気を壊すことばかりやっていたそうだ。

 

でもそんな出来事を話す龍征さんは轟に対する皮肉はあっても心まで嫌悪していないように見えた。

 

『夜嵐君は体育祭見てたんでしょ?

私と轟の戦い見てなんて思った?』

 

『そりゃ、お互い全力で望んだ掛け値なしのアツい試合だったッス!2人の熱気は画面越しでも伝わってきました!』

 

『でしょ。

私も轟も全力で、他の事全部忘れて勝つことだけを考えてた。

恨みつらみで動いてる奴があんな顔できないよね。

夜嵐君は知らないだろうけど、轟ん家も色々と問題抱えてるみたいよ?

エンデヴァーの息子っていう“枷”で余裕がなくなって、本当の自分を見失ってたっていうか…恋人殺されて暗黒面に堕ちたルー〇・スカイ〇ォーカーみたいな感じで。』

 

『それだとあと5シーズンくらい闇堕ちしたまんまじゃないっスか…』

 

終盤ギリギリまで改心できないな、それ。

何故例えがSWなのか疑問は尽きないが、とにかく俺が抱えている轟のイメージと雄英に入学した後の轟は違うらしい。他にも結構なド天然で色々抜けてることや、今では自分と向き合って龍征さんから炎の制御を教わりながら遅れを取り戻そうと努力していると言っていた。

しかしそれでも俺は彼への…あの親子への嫌悪感をぬぐい去る事はできなかった。

そんな俺の表情(カオ)を見て察したのか、止まったマッサージチェアから降りて伸びをする龍征さんは笑ってこう言った。

 

『別に夜嵐君の好きにすればいいけどさ、私達ヒーロー目指してんだよ?

ヒーローになったらきっと嫌いな奴だって助けなきゃいけない日が来るかもしれないし、その時私情や私怨で判断鈍るの嫌じゃん。

意地張ってたら肝心な時に大事なものまで見えなくなるよ。』

 

 

夜嵐君がエンデヴァーを赦せる日が来るといいね

 

 

そのまま部屋へ去っていく彼女を俺はただただ見つめていた。

 

赦す…?俺がエンデヴァーを?

 

モヤモヤした気持ちのまま床に着き、迎えた3日目の夕方。突然発生したビル火災に乗り込んでった俺達を待っていたのはヴィランの襲撃だった。

 

 

 

 

 

脳ミソ剥き出しの見たことも無い異形のヴィラン、龍征さん曰く前にニュースになってた雄英襲撃の一味と一緒に居た奴とそっくりらしい。

当初の計画では龍征さんが部屋内の熱を操って無理矢理温度を下げ、俺が風の流れを変えて龍征さんが抑えきれない熱を煙と一緒に外へ逃がす。そうする事で時間を稼いでフロアの避難を完了させる手筈だった。

 

そこに予想外のヴィランが現れて、更に外には遠くの方で赤く輝く星のような点がポツンと見える。

龍征さんは言っていた、熱を操って無理矢理温度を抑えてるって。

なら常時燃えている彼が何も知らずにやって来て、この部屋の温度をこれ以上上げてしまったらどうなる?

…例え気づかずやってしまってもそれはヒーローの過失、バッシングは免れない。

そんな悲惨な結果になる未来を考えて、俺は一瞬心の隅っこでエンデヴァーに『ざまあみろ』なんて考えてしまった。

 

何考えてんだ俺は

 

最低だ、情けない、こんなのヒーローじゃない

 

俺が目指してるのはアツいヒーローだ!あの男とは違う、笑顔で誰かを助けられる、そんなヒーローになるのが夢だ!

 

 

なりたい自分を思い描け!

 

 

咄嗟にヴィランと共にビルから飛び出した。

龍征さんなら大丈夫だ、きっと上手く残りの人達を救助できる。今の最善は一刻も早くヴィランを救助者から遠ざけること!

 

そんで暴れるヴィランを無理矢理引っ張りながら飛んで、飛んで、火災現場から少し離れた川に俺達は辿り着いた。どうやらこの川からもホースを繋いでビルの消火の為に水を引っ張ってるらしく、近くには消防隊員らしき人達と野次馬が疎らに居た。

 

道はダメだ、なら川の中…ッ!

 

風圧全開で川の水ごと巻き上げながら浅瀬に着地して、真上にヴィランを飛ばそうと試みる。

 

俺が彼なら…高威力故に二次災害の出やすい個性を持ってるならヴィランを人気のない、尚且つ周辺に燃えるものがないような所へ誘導するハズだ。そう、例えば上空とか。

 

「あぁぁがああぁれええぇぇッッ!!」

 

だからコイツをもっともっと上へ!

上空に巻き上げたいってのに…ッ!

 

「ナンっで上がらねえんだよ!」

 

なんか急に滅茶苦茶重くなったんスけど!?

そういう“個性”もあるのか!龍征さんの言ってたとおり個性複数持ち…厄介過ぎるッ!

 

「…ッッ痛''ぁ!!」

 

急に腹部へ激痛が走り腹の周りが熱くなる。

腹に奴の舌が突き刺さってた。

全然見えなかった…!龍征さんあの速度を難なく掴み取ってたのか!?やっぱスゲェやあの人!

 

って感心してる場合じゃねえ!

 

巻き上がるのは水ばかりで肝心のヴィランは一向に吹き飛ばない、こちとら奥歯砕ける程力んで風起こして、周りは巻き上げられた水で猛烈な竜巻が起こってるってのに。

穿たれた腹からどんどん血が流れていくのがわかる、さっきまで嫌ってほど熱かったのに段々身体冷たくなってきた。

 

まだだ、風を絶やすな

 

なりてえ自分(ヒーロー)があるんなら

 

やるしかねぇだろおッ!!

 

訓練で培ったモン全部使え!風でコイツを巻き上げろ!もっと上へ…更に…向こうへッ!

 

「プルスぅぅぅぅウルトラあァァァァァッッ!!!!」

 

これが俺の…最大瞬間風速だアアアアアアッ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やるじゃねえか竜巻小僧。」

 

ふと上からそんな声が聞こえて

 

「よく1人で押しとどめた、生意気だ!」

 

降ってきた彼女の放った蹴り上げで鈍い音と一緒にヴィランがくの字に折れ曲がり、その勢いのまま俺の風で巻き上がる

 

「オラッ!仕事だぁNo.2!!」

 

月明かりをバックに、バランスを失い天高く蹴りあげられたヴィランに向かって

 

 

「赫灼熱拳…」

 

 

 

 

ジェットバーンッ!!!!

 

 

 

 

 

赤い流星が夜空を割いて、はるか上空でいっそう眩しく輝くのが見えた。

 

嫌いだろうがなんだろうが、俺の原点はなにも変わっちゃいない。困った時に現れる、弱きを助け悪を挫く、太陽みたいに皆を照らせる…

 

ヒーローってやっぱスゲェや…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

心のモヤモヤは少しだけ晴れた気がした

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「悪ぃ遅くなった、ハナから連絡もらって脱兎で来たんだが…ってオイ気絶してんなよ!

つか腹の傷やべぇ!」

 

「ミルコか、貴様が来るなど珍しい。竜巻を見て急遽此方に飛んできたんだがアレは一体…」

 

「呑気に言ってる場合じゃねえんだよエンデヴァー!

早よコイツ連れてけ!重症患者!」

 

「何ィ!?凄い出血じゃないか!

しかも学生か!?どうしてこうなった!」

 

「知らねーよ、でも多分コイツはお前が来ること見越して人気のないトコへヴィラン誘導して、上空にトばそうとしたんだ。感謝しとけ感謝。」

 

「そうか、俺にそのような配慮など不要だが。

……よくやってくれたな。」

 

「もしかしてコイツアンタのファンなんじゃね?」

 

「ッ俺にそんな軟弱な者などいらん!」

 

「はいはいツンデレツンデレ。」

 

「ツンデレではないッ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ほほほ本当にやるのかね!?信じて良いんだね!?」

 

「翼竜達じゃ間に合わないしこのフロアの熱も限界です、全員が助かる可能性があるのはもうこれしか方法がありません。」

 

「私はミカドちゃんを信じます…!」

 

 

燃え尽きる寸前のビル13階、少しでも火から逃れようと狭いベランダいっぱいに集まったウルル達は少しでもスペースを空けようととベランダの縁(へり)に立つ帝に眼差しを向けている。

 

下ではまだ懸命な消火活動が繰り広げられているがもうこのビルは限界だ、いつ焼け落ちても不思議ではない。

 

彼女が提唱した全員を助ける方法に避難者達には大きな動揺が走っていた。

 

「確かに俺達の個性を使えば出来んことじゃないが…」

 

「無理に決まってる!今からでも遅くないから梯子車が来るまで中で待てばいい!」

 

「残念ですがもうこれ以上熱を抑えきれません。」

 

そう言って帝は先程脳無に貫かれた左手の手袋を外し皆へ見せつける。

手首から向こうが焦げたかのように黒ずんで、ミイラのように骨と皮だけになっていた。そのうえ棘に貫かれた傷跡が幾つも残り、指に至ってはなぜ繋がっているのか不思議なほど抉られた箇所もある。

生々しい傷跡に一同が声を失う中、帝は事実を淡々と述べていく。

 

「私の個性による熱操作は掌の水分を消耗します。

大規模な火災の熱をこのフロアから外へ逃がして、無理矢理温度を下げていたんです。

でもご覧の通りそろそろ限界っぽくて、さっきまで死ぬほど痛かったのに今じゃ逆になんにも感じなくなっちゃったんですよね。」

 

乾いた笑いを浮かべる帝にウルルは涙ぐみながらその手を診察し、もう殆ど帝の左手は“死んでいる”と悟った。普通ならば切除しなければいけないレベルまで壊死し、放っておけば帝本人もタダでは済まない。

 

「これ以上の時間稼ぎは望めません。だから…」

 

「なんだよ…なんでそこまでできるんだよ…アンタまだ学生でヒーローの卵なんだろ?

大人に任せてればこんな酷い事にはならなかったんじゃないのか?」

 

「…私にしかできない事があったから。

私にしか助けられない命があるから、私は此処に居ます。学生とか卵とか関係ないんですよ。

 

できるならやる

 

リスクや責任なんて覚悟の上で助けに来ました。

オールマイトみたいに笑顔で余裕綽々に助けられたらいいんですけど、実際そうもいかないですね。」

 

自嘲気味に帝は笑顔を見せる。

翼竜による搬送も、熱を抑える時間稼ぎも個性を使える帝にしかできない事だ。それがなければとっくの昔にここに居た人達は煙と炎で凄惨な結末を迎えていたに違いない。

大人じゃないといけないとか、ヒーローじゃないといけないとか、命の掛かった現場で悠長な事を言っていられない。使えるものは全部使って助ける。そう思っているからこそ、その覚悟が彼女達にあると判断したからこそリスクを承知の上でバックドラフトは帝達を送り出した。

 

 

 

「…もう、いいんじゃないかね。」

 

「オーナー…」

 

「この大火の中、学生がボロボロになるまで命張って我々を助けてくれたんだ。

大人のワシらが信じてやらんでどうするよ。

安心したまえ、無事助かったら医療費は全額我が社の負担にしておくからねェ!」

 

「いや…それフラグって言うんスよ社長…」

 

「え''っ…わ、ワシは皆を勇気づける為に明るい話題を提供し場を和ませようとだね…」

 

 

どうやらさっきまで張り詰めていた雰囲気は消えたようだ。やがて文句は聞こえなくなり、無事全員が脱出を承諾してくれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

◆ウルルside

 

 

 

 

 

 

 

『言われた通り撤収作業は完了、着地スペースは確保したぞグァンゾルム。

本当にやるんだな…?』

 

「はい、こうするしか他に助ける方法はありません。」

 

『分かった、責任は全部俺が取る。

君にしかできないやり方で彼等を救ってくれ!』

 

「了解ですバックドラフト。

皆、準備はいい?」

 

「…うん。」

 

ミカドちゃんの言葉に私は頷く、他の皆さんも声には出さないがそれぞれ覚悟を決めてくれた。

 

長い腕をもつ個性の男の人に他全員で捕まって、しがみつく。空中に放り出されたらなるべく全員固まっていないとミカドちゃんが()()()()()()()()()()

 

「私が先に飛ぶから合図で皆さんも飛んで下さい。私が個性を解除すれば後ろが吹き飛びます。

破片が飛び散るから絶対に振り向かないで。」

 

 

 

じゃあ…いきます!

 

 

 

そう伝えたミカドちゃんがベランダの縁から外に向かって仰向けに倒れ込む。当然そのまま重力に従って13階から真っ逆さまだ。

 

「いくぞ皆…!」

 

「はいッ!」

 

間髪入れずに私達もひとかたまりになってベランダから飛び降りてミカドちゃんに続く。次いで背中から爆音が轟いて、猛烈な熱波が首筋を焼いた。

もし死んじゃったら13階から集団飛び降り自殺(フリーフォール)、なんて記事で新聞に載りそうだなってチラっと考えちゃった…

 

ミカドちゃんが私達に伝えたのは全員で此処から飛び降りて、彼女がそれを受け止める。そんなシンプルな救助方法だった。

どうやって受け止めるのか私には分からない、受け止められて助かるのかも分からない。けどこのままここに居ても煙と炎に巻かれるのを待つだけだ。可能性があるなら私はミカドちゃんに命を預ける。

 

 

離れないよう腕を必死に掴んで落ちながら恐怖で霞む視界の先で、私達より前を落下するミカドちゃんは笑ってた。生徒会長やってたときも慣れない笑顔を無理矢理(こしら)えて、作り笑いが超ニガテだって言ってたあのミカドちゃんが。私達をすこしでも安心させる為ににこにこと笑いながら口パクで『だいじょうぶ』ってはげましてくれてる。それがなんだかとても心強くて、離れないように掴む腕に力を込める。

 

落ちていく彼女の身体が歪にどんどん膨らんでいくのが分かる、黒い脚、大きな翼、人の形を失っていくミカドちゃん。

 

次いで街中に響き渡るほどの音量で響くジェットエンジンのような大咆哮。

その大きなお腹に全員が無事着地して、大きな衝撃と爆音が耳をつんざいた。

バウンドしないように大きな翼を反らせて私たちを抱くように覆い、それでも何人かは翼の付け根までゴロゴロと転がり落ちる。

 

ミカドちゃんは巨龍に変身して、空中で私たちを包み込み、受け止めたまま地面に落ちてクッション代わりになってくれたんだ。

 

おかげで皆ちゃんと生きてる、助かった!

 

 

 

■■■■■■■…

 

 

唸るミカドちゃんの双眸はちょっと怖いけど、私たちを心配してくれているようだった。

見た目とは裏腹に結構お腹柔らかいんだね…

 

「た、助かった…のか?俺たち…」

 

誰かがそう言ったのを皮切りに次々と皆が騒ぎ出す。

 

「は…はははは!助かった…!

13階から飛び降りて助かっちまったよ俺たち!スゲェ!」

 

「…ッは!!皆無事かね!?怪我人はいるか?早めに教えなさいよ君達ィ!

ていうかこのドラゴン何!?まさかあの子か…?」

 

 

地面に衝突して、コンクリを抉って出来たクレーターの真ん中に佇む仰向けの巨龍。そのお腹の上で私達は命が助かった事を喜びあう。

閉じていた翼が開かれて、遠巻きに駆け寄ってくるレスキュー隊の人達がなにか叫んでるのが見える。なんて言って…

 

 

 

『逃げろォーーッ!!』

 

 

 

ぇ…?

 

 

 

 

 

 

バキバキバキッ

 

 

 

 

 

 

金属の軋み擦れる音が上から鳴り響く、一番最初にソレを見つけたオーナーさんが天を指さしながら絶叫するのと寝そべってるミカドちゃんのお腹が暖かくなっていくのは同時だった。

 

「うッ上!上エエエエエッ!!!!」

 

遅れて空を見上げれば、私たちの真上に落ちてくる鉄の塊、このビルの屋上に設置された巨大看板が音を立てながら私たちを推し潰そうと迫ってきてた。

 

 

 

■■■■■■■ッッ!!

 

 

 

誰もが最悪の結末を予想したその直後に放たれたのは、みんなの悲鳴を纏めて掻き消して余りある巨龍の咆哮と空まで一直線に伸びる深紅の炎。

 

仰向けのままのミカドちゃんの口から突如として吐かれた紅炎はあっという間に看板を呑み込んで跡形も残さず蒸散させる。あのエンデヴァーすらここまでの規模で炎を出す事は不可能であろう膨大な熱量とその圧倒的な迫力、この世のものとは思えない光景に誰もが言葉を失い、レスキュー隊の人達や集まって来た野次馬までただその場に突っ立って唖然と空を見上げることしかできなかった。

 

 

鉄の塊を焼き尽くした炎の柱が天に登っていく

 

その光景は街中から見えるほど大きく高く、やがてミカドちゃんが口を閉じるのと同時に夜空に吸い込まれるように消えてった。

 

針を落としても聞こえそうな静寂のあと、腰を抜かしていたオーナーさんがぽつりと呟いた。

 

「助かっ…た…?」

 

少し遅れて、野次馬から歓声が上がって、我に返ったレスキュー隊の人達が駆け寄ってくるのが見える。

あの場に残っていた私を含む6人の被災者の人達は煙を少し吸ってしまったくらい、軽傷だ。オーナーさんだけ捻挫しているけど応急処置が効いてピンピンしてるし命に別状はない。

他の重傷者達もミカドちゃんが搬送してくれたおかげで迅速に病院に送られ、今頃治療を受けている頃だろう。

 

駆け寄ってきた婦長様から私の迅速な応急処置で重傷者はいれど死者は出なかったと伝えられ一安心。

 

「婦長様、私…」

 

「ええ、貴女が救った命です。

…よく頑張りましたね、胸を張りなさい。」

 

いつもの厳格な婦長様から初めて褒められて、嬉しいやら恥ずかしいやら思わず背筋が伸びる。

 

「それと、彼女にも感謝を述べないといけないのですが。」

 

婦長様が見据えるのは絶対絶命の私たちを救ってくれた巨龍(ミカドちゃん)だ。

助かった人達が次々とレスキュー隊に連れていかれる中、巨龍の身体がしゅるしゅると縮み始め、気づいたら私は人の姿に戻ったミカドちゃんの上に馬乗りになっていた。

 

 

 

……()()()

 

 

 

 

へぁっ!?!?

 

 

 

 

「なんで裸なのミカドちゃん!?!?」

 

「ッ…()ぁ…皆無事?」

 

「全然無事じゃないよっ!主に服が!」

 

「コスくらい仕立て直して貰えばなんとでもなるっしょ〜。それより一緒に落ちた人達は…」

 

レスキュー隊と一緒に元気に歩き回る彼等を見てミカドちゃんも安心したのかホッと胸を撫で下ろしてた。いや私は全然撫で下ろせないんだけどね!?

まさか全裸になってるとは思ってなかったのか婦長様も流石に驚いて急いで隠せるものがないか周りを見回し始めた。

私が馬乗りになって前隠してないとミカドちゃんの大事な所が衆目に…!

 

「おーい君達ィ!」

 

ひぃっ!?おおおオーナーさん!さっき救護車の方へ行ったんじゃなかったのぉ!?

まずいまずい、オーナーさんこっち来る!ミカドちゃんが裸なのバレたら…

 

「いやぁさっきの救出劇は見事だった!

まさかあんな方法で全員助かるなんてワシh「滅菌ッ!!」ッッおんぎゃああああ目がああああああああッ!?!?」

 

こっちに駆け寄って来たと思ったら突然悶え苦しむオーナーさん。

ふ、婦長様…流石に眼球へ直に消毒液は不味いのでは…

 

「乙女の尊厳が踏み躙られるよりマシでしょう。

大丈夫死ぬ程染みるだけです、死にはしません。後遺症が残っても私が治します。」

 

「でもこれ死ぬより辛いような…」

 

「おおおおおあああぁぁ……」

 

目元を抑えてアスファルトを転げ回るオーナーさん、彼一応捻挫してるんだけどな…

ていうか懐から消毒液取り出して的確に彼の目を狙って噴射したの?スナイパーなの?

こわっ!私の上司こわっ!

それから翼竜達がどこからかバスタオルを持ってきてくれて、婦長様は私達を空いている救護車両へ案内してくれた。

オーナーさん?まだ通りでのたうち回ってます、とりあえず目が見えるようになるまで待ってから婦長様が事情を説明してくれるらしい。

 

「此処なら治療に専念できるでしょう。

破柘榴研修生、まだ貴女には救うべき人が残っている。」

 

「…はい!」

 

そう、まだ一人患者は残ってる

 

「ミカドちゃん、絶対元通りにしてみせるからね。」

 

個性の使い過ぎで干からびたミカドちゃんの手、特に左手はヴィランの攻撃を受けてなんで動かせるのかも分からないくらいにボロボロだ。

 

「でもまだ火は出て…」

 

「貴女の活躍で建物内の負傷者は全員無事に避難したとレスキュー隊から確認が取れました。火の始末と現場の収拾は我々大人に任せておきなさい、バックドラフトへの説明は私がしておきましょう。

今は一刻も早くその手を治療されなさい。」

 

「けど…」

 

「貴女はよく頑張った。

肺が焼けようと脚が折れようと、生きていれば必ずやり直せる。災害時において命を繋ぐことこそヒーローの最も重要な責務です。

ありがとう、貴女のおかげで皆が助かった。

後は私達に任せなさい。」

 

そう、私達は助けられた。

絶望的な状況下で1人の死者も出さずに、13階から無事に全員脱出した。これがどれくらい難しい事で困難な事か、多分あの場に居た人達にしか分からないだろうけど。

それも全部ミカドちゃんのおかげ、夜嵐君のおかげなんだ。

婦長様の言葉に張り詰めていた緊張が解けたのか、

大きくため息を吐いて頷くミカドちゃん。

 

「…よかったぁ。」

 

飛び降りる前に予め脱いでいたのか、ミカドちゃんの翼竜が持ってきたコスチュームの上着を羽織って、裸ジャケットという罪深い格好をしながら救護車両へこっそり乗り込む私達。念の為婦長様も同伴してくれたのでなんとか2人で隠せただろうきっと。

 

婦長様は事後処理の為直ぐ出ていって、車両には私とミカドちゃんだけが残された。

 

「じっとしててねミカドちゃん、絶対治してみせるから。」

 

「頼むわ。

ッあ''ぁ〜〜しんどかったぁ…」

 

私に左手を預けたままぐでっと治療用のベッドにもたれ掛かる彼女を見て、昔を思い出しちゃった。

そう言えば、長いこと一緒にいたけどミカドちゃんを治療するのは初めてだなぁ…

左手の傷(もう傷で済ませていいレベルの怪我じゃないし、切断レベルの重症なんだけど)は見る限り裂傷、火傷、その上からヴィランによる刺傷でなんで動いてるかも分からない状態だ。でも感覚は残ってて、ミカドちゃんは触られると分かるみたい。

 

「途中までクソ痛かったんだけど、なんか吹っ切れた。」

 

「そんなのんびり言えるような状態じゃないハズなんだけど…

本当に痛くないの?。」

 

「無いね。」

 

神経が全部焼け切れたらそりゃ痛みなんて感じなくなるだろうけど、ミカドちゃんの左手はまだ動いてる。

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

不思議に思っていたそんな時、ミカドちゃんの上着の内ポケットが震えているのを感じて中を探ってみる。

 

「スマホ、鳴ってるみたいだよ?」

 

「マジ?代わりに操作してくんない?

私手ぇこんなんだからさ。」

 

言われるがままパスワードを入力してホーム画面に映った通知にはポツンと数字だけが記されていた。差出人はオールマイトのアイコンの『緑谷』という人からだ。

 

「数字だけ…?なんだろうこれ。」

 

「差出人は?」

 

「緑谷って人から。はい。」

 

画面とにらめっこしながらうーむと唸るミカドちゃん。

 

「アイツが?この数字、なんかの番号かな。」

 

「うーんなんだろね。

車のナンバー…?にしては多いし、暗証番号ってわけでもなさそう。あとは…住所とか?」

 

「住所か…

調べてくんない?アイツ、おふざけやイタズラでグループトークにこんなこと書くような奴じゃないし、一応ね。」

 

「わかった、ちょっとまってね…」

 

私としては早く手の治療をしたいんだけど、仕方ない。ネットに数字を打ち込んで調べてみたら出てきたのはフリーダイヤルが引っ掛かった会社の名前とか、あとは保須の住所だった。

Gugle(ググレ)マップで検索すると、出てきた地図は人気のない倉庫街みたい。

 

「保須市の住所かな…此処からちょっと離れた倉庫街。」

 

「保須の住所ねぇ、うーん…」

 

しばらく考えたあと、ミカドちゃんは翼竜を一匹その場所へ向かわせる事にした。本当は全匹事後処理のお手伝いにまわす予定だったんだけど念の為だそう。

 

「一応ね、保須には今コワーイ殺人鬼が出没してるから。」

 

「『ヒーロー殺し』って人だね、ニュースで何度か見たよ。」

 

「ヒーローを意図的に襲ってるのはなんか理由ありきなんだろうけど、殺すのはねえ…ちょっとないわ。」

 

へらへら言ってるけどミカドちゃんの目は笑ってなかった。生徒会長時代、殺人を仄めかすような事を言ってくる相手に対してミカドちゃんよくこんな目をしてた。「安っぽい殺意とかカロリーハーフのマヨネーズみたいなもの」ってよく分からない例え方してたけど、本当に気に入らないんだろう。

 

…そんなことより!ミカドちゃん下着!

流石に上着一枚で救護車に乗ってるのはダメだよ!ていうかなんで上も下も丸見えのまま胡座かいてるの!?こっちが恥ずかしいからせめて隠してよ!治療の続きは下着を履いてから!

 

どうにかして調達してくるから待っててね!

 

「カギは内側から閉めて、私か婦長様が来るまで絶っっっ対開けちゃダメだからね!」

 

「う〜い。」

 

このまま見つかったら変な勘違いされちゃうよ!

 

「あ、そうだミカドちゃん。言ってなかった。」

 

「んー?」

 

「助けてくれてありがとう!」

 

「…ん。」

 

 

3年前も今も

 

貴女にしかできないことで私を救ってくれたように

 

私にしかできないことで

 

今度は私がミカドちゃんを助ける番だ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ここで私達の闘いは終わり

 

でもこの大火災の裏側で、別の大きな事件が起こってるなんてこの時の私は思ってもみなかった。

 

 








次回やっと、やっっっと原作と絡みます(絡むとは言ってない)

え?何コレ、職場体験編描き始めてから終盤まで何年経ってんだよゴミ野郎がよ。漫画なら一巻ちょいで終わる話をいつまで伸ばしてんだクズめ(隙自虐)





☆端役紹介のコーナー☆

オーナーさん
小太りでおヒゲの素敵な気のいいおっちゃん、ビルのオーナー名乗るくらいには金持ち。人柄良く部下からも慕われている。なお外見イメージが似ているだけで某新所長ではない、いいね?
個性:『鑑定眼』
物の寿命が分かる物体版死神の眼、こっそり仕事に活かして蛍光灯の寿命とかいち早く気付いて交換してくれる。良い人か。

取り巻きの部下達
ガヤ、作者の些末な設定の犠牲者。腕関節2本ある個性の人はどっかで出てきたなードコダロウナー…
また掲示板回出来たら色々弄りたい。

天使白衣
ウルルちゃんの職場体験先の担当看護婦、神野区中央病院勤務のおねいさん。
鉄面被で厳格、患者の命を救う事に常に全力な医療従事者の鏡みたいな人。
過去にヒーローとして活動していたがヒーローと医療業界のギャップに苦しみ数年で引退、今は看護婦一本で食ってる。個性医療に感心が高く命を救うためならばリカバリーガールのような回復個性を持つ者にはヒーローでなくとも別の資格を発行する事で個性の使用を認可するように公演を通して国へ働きかけている。それが身を結んでか近々個性使用の資格取得条件が見直される法案が議会で可決されたのだとか。
という端役の話。




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33 私の職場体験記vol.5

あけましておめでとうございます


世界情勢の関係で仕事が1週間近く休みになって明日の生活にも困るようになった人生敗北者です

職場体験終わるよお〜やっと終わるよお〜(あと1話書く)


 

保須市郊外にひっそりと佇む倉庫街。

長期保存可能な木材や鋼材等を海外に輸出する際、一時的に保管する為造られたこの近辺は普段から人通りの少なく、来るとしても業者関係者のみで一般人は滅多と近寄らない。

昼間なら遠くから聞こえる環境音と時折走るトラックの排気音をBGMにツナギ姿の作業員たちが偶に右往左往する程度のこの近辺も、夜となれば針を落としても聞こえそうなほど静まりかえっている。

だが今夜は少し気色が違うようだった。

 

街の一角、倉庫と倉庫の間、車3台分ほどの幅しかない通路の片隅で時折爆ぜる炎と氷、そして剣戟の音。

 

 

「くっそ…ッ!!

なんであの速度の炎を避けられんだよ!」

 

「轟くん!」

 

 

 

 

 

 

『ステイン』

 

 

 

 

そんな名のヴィランがいる。

本名、赤黒血染。ヒーローの夢に憧れ、ヒーローの現実を突き付けられ絶望し、足掻いた。昨今増え続けるヒーロー達を〝拝金主義の偽物〟と蔑如(べつじょ)し、粛清と称してヒーローを対象に殺傷を行う悪鬼。

 

結果、現在まで起こした殺傷事件は40件、内17名のヒーローを殺害し世間を恐怖に陥れた彼は畏怖混じりにこう呼ばれるようになった。

 

〝ヒーロー殺し〟と

 

「ハァ…お前も、良い。生かす価値が有る…

良い仲間を持ったじゃないかインゲニム。」

 

轟の放つ氷と炎を躱し、中々自身のテリトリーまで縮められない距離に焦れながらも彼はその異様なまでの執着で戦い続けていた。

途中で乱入してきた子供二人は、良い。

だがその後ろに庇われている偽物(ネイティブ)と自分に復讐する為現れたヒーロー志望の学生は必ず殺す。前者は拝金主義の贋作、後者は己の力を〝復讐〟などという私情で使う論外故に。

 

もっとも、復讐される原因を作ったのは他でもないステイン本人なのだが歪んだ思想に取り憑かれた彼の頭はそんな事欠片も思っていないだろう。

 

「SMAAAASH!!」

 

氷と炎を掻い潜り、目的達成まであとわずかと言ったところで、先程個性で〝止めて〟いた子供が復活してしまう。身体強化で速度の増した蹴りを避ける都合上また大きくターゲットから離されてしまった。

 

「なんか動けるようになった!」

 

「なんだ、案外大した事ねえ個性だな。」

 

そこから緑色のコスチュームを着た緑谷は素早く状況を分析しステインの個性発動条件を割り出す、「血液型で効果時間が変わる」と自らネタバレしたにも関わらず彼の口元には笑みが張り付いていた。

 

「やはり、お前達は良い…だが後ろはダメだ。

必ず殺す。」

 

「二人は殺らせねえよ…!」

 

「轟君、コンビネーションでいこう。

ヒーロー殺しのタイムリミットは2人に掛けた個性が解けるまでだ、それまで僕達が…」

 

「ああ、時間を……ッ!?!?」

 

殺気が吹き出す、途端に雰囲気の変わったステインが猛烈なスピードで攻め立ててくる。

炎と近接は避けられ、氷は作ったそばからバラバラにカットされ、今までとは明らかに様相の違うヒーロー殺しの動きに轟は戦慄した。

素早い動きに翻弄され、緑谷が再び血を舐められそうになった刹那、夜空を裂き飛来した何かに突き立てたナイフが弾き飛ばされる。

 

『何コレ、どういうことよ。』

 

羽ばたき、首元のスピーカーから流れる声を聞き轟は少し安堵した。3人目の助っ人だ。

 

(いや3匹目か…)

 

駆け付けてきたのはA組の頼れる女番長、龍征帝が侍らせる翼竜だった。

 

「悪い龍征、助かった。」

 

「その声…龍征さん!?」

 

『グループトークに妙な数字だけ残されてたから気になって色々調べたのよ、そんで此処の住所がヒットしたからね。来たわ。

翼竜だけで悪いね、本体(わたし)はちょっと今両手塞がってんだ。物理的に。』

 

「「物理的に…?」」

 

『ああもうミカドちゃんあんまり指動かしちゃ駄目だってば!傷が開いちゃう!』

 

『待ってウルル今通話中!大事な場面だから!』

 

『うるさいよ!

暴れるんだったら金具と石膏で両手ガチガチに固めて完治するまで無理矢理固定しちゃうんだからね!』

 

『ヤダこの子治療中だと人が変わるわ、誰に似たのよ。

つかそれやられるとマジで学校行けなくなるからオネーサン許して!』

 

オープンチャンネルなのか、スピーカー越しに聞こえてくる帝の声とは別に幼い少女の声も聞こえてきて二人はますます混乱してくる。向こうはどうなってるんだ?

 

『そんでま、お前よ飯田ァ…』

 

一通り騒いだ後、落ち着いたのか轟の肩に留まった翼竜がくるりと首をもたげ、ステインの個性で未だに動けないコスチューム姿の飯田を睨みつけた。

 

『出発前にそれとなく忠告したよね?あの後緑谷とお茶子も心配してくれてたよね?

どうしてそんな所でブッザマーに這いつくばってんのかなこの直情クソザコナメクジ委員長は。』

 

「………」

 

「り、龍征さん今はそんな場合じゃないよ!」

 

『まァいいや。轟、緑谷、さっさと表の通りに出るよっと!』

 

ナイフが三本、音もなく飛来するのを翼竜が吐いた火炎で溶かし撃ち落とす。

 

「…チッ」

 

『手癖が悪いんだよ、平たい顔の不潔男。

あの手の妖怪の時といい犯罪者って皆こうなの?』

 

「ぶふッ!?平たい顔…ッ」

 

ツボにハマったのか思わず轟が吹き出しそうになったのに対してステインは黙ったまま、見慣れない翼竜と声の向こうにいる人物を見据えていた。

 

『ごめんもしかしてコンプレックスだった?』

 

「…貴様は何者だ。」

 

『オイオイオイ無視だよ無視。

通りすがりの同級生よ、覚えておけ。

ヒーロー襲って自己満浸ってるとこ悪いんだけどね、ウチら職場体験中の学生で、そっちに転がってるのクラスメイトだからさあ、おうち帰して下さらない?』

 

「ハァ…自己満足ではない、〝使命〟だ。」

 

『アッハイ使命使命、で?逃がしてくれんの?』

 

「それは、無理だ。

俺にはそこの偽物共を殺す義務がある。」

 

『偽物?もしかしてそこで転がってるヒーローとウチのポンコツ委員長の事?』

 

どんどん飯田の呼び方酷くなってない?と緑谷と轟は顔を見合わせた、対して飯田は俯いたまま帝にボロクソ言われてる。

実際のところ、飯田が独断専行していなければこうして同級生が3人も駆けつける事もなかった訳で。結果的にヒーロー1人の命が永らえているがステインの思う通り飯田は兄の仇を取る為に接触してきたので助けにきた訳でもない。判断の浅はかさが胸に重くのしかかり、後悔となって飯田を蝕んでいた。

ついでに言葉の棘がとてもつらい。

 

『……あー待って、察した。

飯田がアンタにちょっかい掛けたのね?そんで2人が駆け付けてあの数字か。

どうしよう完全に飯田の自業自得なんだけど、今すぐ通話切ってもいい?まだ今日のぶんの無料10連回せて無いのよね、私無課金でタマモ〇ロス引く義務あるからさ。』

 

「不味い龍征の興味がどんどん削がれてる、ウ〇娘以下になっちまった。」

 

「お願い龍征さん見捨てないで!?僕ら地味に命の危機だから!なんでもしますからぁ!」

 

冷静に分析する轟。なんか焦った緑谷がとんでもない事を口走ったが、そんな彼等を冷めた目で見つめるステインはスピーカー越しの彼女の力を測りかねていた。

 

(調子の良いことばかり言っているが、こいつは面倒な類だ。口調で分かる、怒っているな。

友人を傷つけられた事に対する憤りか、はたまた…)

 

「ホラそもそも飯田君が乱入したおかげでネイティブさんは無事な訳だし結果的に命を助けられたんだから飯田君に非は無いはずだよ(ここまで一息)、ね?轟君!?」

 

「ああ、飯田が割って入ってなかったらその人は間に合わなかった。」

 

『え〜ほんとにござるか〜?』

 

「マジだよ!俺アイツに殺される一歩手前だった!」

 

うつ伏せになったまま未だに動けないヒーロー、ネイティブもなんか色々察したのか弁明し、スピーカー越しに聞こえるクソデカため息と一緒になんとか帝を留めておく事に成功。

 

『まあ、融通の効かない…タケコプター見て「アレは構造的に首がもげるだけ空は飛べない!」って素で言っちゃうような頭ヴィブラニウム委員長だけど見殺しにするのもアレだし。しょうがないにゃあ。』

 

(最近の子供夢がねぇな!?)

 

(思った事あるけど黙ってるからセーフ…だよね?)

 

(くっ…昔兄さんに相談したッ!)

 

(飯田、あの顔は言ったことあるんだな。)

 

 

『…それと、1つ聞きたかったんだけどさ。

ヒーロー殺し、アンタなんで人殺しなんてやってんの。』

 

「ハァ…英雄(ヒーロー)を歪める偽物共を正す為だ。」

 

『偽物ねぇ…それちゃんと区別できてんの?』

 

「………」

 

ステインは押し黙る。

これまでヒーローを斬ってきたのはエンタメ化の進んだヒーロー社会を是正する為、その為なら有象無象の偽物など何人斬っても構わない。自分がヒーローを殺す脅威となる事で彼等の意識を引き締め、世間に「英雄の本来在るべき姿」を知らしめる。

 

そうなるまでステインは殺しを止めない。

 

少しの沈黙の後、帝は鼻を鳴らして彼を嗤う。

 

『アンタが襲ったインゲニウムはね、ヴィランを捕らえるのは勿論だけどレスキュー活動にも積極的に参加してきたヒーローだった。

〝インゲニウムは何処へでも駆けつける〟ってキャッチフレーズでね。今まで数え切れない人を助けて来たんだよ。

チャートに載る程目立つような活躍は無かったけど彼の担当する地域は確実に犯罪件数が減ってて、皆に愛されるヒーローだった、よね緑谷?』

 

「…ッうん!

インゲニウムは多くのサイドキックを抱えてて、ノリは軽いけれど決して高慢にならない。皆を笑顔にできるヒーローだ!」

 

体育祭の日、緑谷のノートを借りていた帝。

その中にはインゲニウムの記載も載っていた、流石にサイドキック一人一人の特徴と個性や独立する時期まで予想して書き連ねてるのには若干引いたが、それを通して知ったインゲニウムの功績は目立つものはない。

オールマイトのような華々しい活躍はないが、エンデヴァーのような悪目立ちもない、親より代々受け継がれ、地域に根ざし手に届く範囲を懸命に護るよう最善を尽くす、そんなヒーロー。

 

ステインが彼を斬ったのは自分の存在を喧伝する為だ、だから再起不能になるまで切り伏せ生かしておいた。赤黒血染(ステイン)という恐怖を世間に知らしめたいが故に。

インゲニウムは悪くなかった、だが自分を倒せるほど強くなかったのだ。弱い者は強い者に淘汰される、ステインの中ではごく自然な事だ。

 

『ねぇ教えてよヒーロー殺し。アンタが〝本物〟と〝偽物〟を本当に区別できてるなら、なんでインゲニウムを斬ったの?

金貰ってるのが気にいらなかった?いやいや、オールマイトだってプロ野球選手の年俸レベルに高い給料貰ってるよね。

勤務態度が許せなかった?ンなこと言ったらエンデヴァーなんて子供が泣くほど態度悪いよね。

なんでだろうねぇなんでだろうねぇー?』

 

静かにつらつらと並べ立てる帝、しかしこの場の誰もが言葉の内に秘められた彼女の苛立ちを感じ取れた。

 

「………」

 

『理由も矜持も殺しちゃったら唯の言い訳、歯止めが効かなくなったんなら無理矢理にでも止めてやるのがウチら(ヒーロー)の仕事ってね。

まー貴重な職場体験を邪魔してくれちゃったツケは払ってもらうし、とりまさぁ…』

 

犯罪者はとっとと豚箱ぶち込まれて一生臭い飯でも食ってろ

 

スピーカーの向こうできっと中指立てながらそう吐き捨てる帝にステインはニィ…と不気味な笑みを浮かべ、得物を抜き構える。

 

(…〝止める〟か。

ブレない心、強さに裏打ちされた余裕…こいつも良い。直接相見えないのが残念だ。)

 

「ハァ…思い出した、確かに(インゲニウム)は悪くなかった。だが致命的に実力が足りていない。

真の英雄が産まれるにはこの世界は腐り過ぎている。それを俺が、ステインが正す。

奴は俺の存在を世に知らしめる為、生かした。ハァ…それだけの事。」

 

現状(いま)を壊し在るべき平和の姿を作り出す

 

全ては正しき社会の為に

 

 

 

「貴様は…この期に及んで…ッ!!」

 

再び激昂しそうになる飯田を宥める緑谷をよそに轟の肩に止まった翼竜は諦めたように大袈裟なため息と共に翼を広げ、臨戦態勢を取る。

 

『緑谷、近接任せた。轟と私でサポートすっから。

超絶面倒だけど、この手のバカは殴り倒して気絶させるまで止まんないっしょ。』

 

「分かっ…たッ!!」

 

緑谷の全身に赤い稲妻が走る、今まで一箇所のみに集中させていた力を全身に満遍なく回す事で会得した彼の新たな技だ。これをもう少し早く習得出来ていれば先の体育祭の結果も奮っただろう。

 

『おいクソザコメガネ、まだ動けないの?』

 

「ぐっ…龍征君、僕は…」

 

『言い訳は結構、後でしこたま反省して貰うから楽しみにしとけー?

……でもこれだけは言わせて。

 

ッんン…

 

ざぁ〜こざぁ〜こ

無様に床舐めて恥ずかしくないのぉ?なっさけなぁ〜い

や〜いクソザコぉ〜メガネが本体〜

 

 

 

「 雑 魚 じゃ な い が !? 」

 

 

 

飯田はキレた

 

 

『よっし、言いたいこと言ったし元気出していこう。ウン。』

 

「待って?飯田くんへの煽り文句必要だった???」

 

『必要な犠牲だった。』

 

「助けてあげよう!?犠牲にしないで!!」

 

「メガネが…?まさかッ」

 

「轟くんも『やっぱりそうだったのか』って顔しながら納得しないで!?銀〇の読み過ぎだよ!」

 

 

コントやってる3人を見ながら、未だにステインの個性で身体の動かないネイティブは「これが若さかぁ…」と小さくぼやいた。

 

『あと先に謝っとく、本体で来れなくてゴメン。

あんだけ言ってなんけど翼竜じゃ陽動くらいにしかならないからね。』

 

「来てくれるだけでありがてえよ。

3人で飯田とネイティブさん守るぞ…!」

 

「うんッ!!」 『おうよ』

 

 

 

 

 

 

 

◆飯田side

 

 

殺してやる

 

奴を見つけて必ず、兄さんの仇を取る。

その為に保須(ココ)を選んだ。

パトロールから数日、突然のヴィラン襲来に慌てふためく街の隅で奴の姿を見つけた時、気付けば追い掛けていた。

“怒りで視界が真っ赤に染まる”と、よくドラマや漫画でそう表現されるが、本当にそうなるものなのだと自分でも感心している。

視界に映るのは殺したいほど憎い相手だけ、周囲のことなど見えていない。だから僕は襲われているヒーローの事などお構い無しに奴に挑み掛かり、このザマだ。

 

『轟、合わせるよ。』

 

「ああ、行け緑谷!」

 

「了解ッ!!」

 

轟君と龍征君の炎の合間を縫うように進み、緑谷君が奴に挑みかかる。

2人は炎を上手くコントロールし緑谷君への直撃を避けながら、的確に奴への妨害をこなしていた。思い返せば2人は職場体験前、放課後は共に個性トレーニングに励んでいたという。

緑谷君から迸った赤い稲妻が彼の身体を駆け巡った途端、動きが変わる。体育祭の時のように自ら腕を破壊する程の超パワーはなりを潜め、義縦横無尽に奴を翻弄していた。恐らく職場体験で何かを掴んだのだろう。

 

それに比べて僕はなんだ?

 

兄さんが入院してからというもの、奴への感情ばかりが募りトレーニングもろくに身が入らなかった。そのうえ職場体験でも奴を追うために1人単独行動をし、引率のマニュアルさんに迷惑を掛けてしまった。

思い起こせば今までの全てが後悔となって重くのしかかる。

 

「止めてくれ…」

 

何をしているんだ僕は。

周りも見ずに大人に迷惑を掛けて、挙句友人にその尻拭いをさせている。

 

「やめてくれよ……ッ」

 

復讐も遂げられず、無様に這いつくばって僕は…

 

「止めて欲しけりゃ立て!!」

 

炎で奴を牽制し続ける轟君が叫ぶ。肩から飛び出した翼竜が飛び回りながら火炎を撒き散らし、堪らずヒーロー殺しは飛び退いた。

 

「飯田、駅で別れる前にお前と話しとけば良かった。せっかく龍征が機会を作ってくれたのによ、無駄にしちまったんだ。

復讐で動く奴の顔はよく知ってるから、そんな人間の視野がどんだけ狭くなるかも分かる。けどよ…」

 

「轟君…」

 

「今はッ!」

 

 

なりてえもんちゃんと見ろ!!

 

 

 

なりたかった…もの…?

 

 

 

 

“ヒーローになった理由?モテたい”

 

僕の憧れた兄さん

 

“天哉は俺より才能もあるんだから、立派なヒーローになれるさ。その堅物さえどうにかなればなぁ”

 

僕の憧れたヒーロー

 

“天哉に憧れられるって事は俺、案外スゴいヒーローなのかもな”

 

インゲニウムの原点(オリジン)、は…

 

 

 

 

 

にい…さん…ッッ!!

 

 

 

 

本当に、今まで何をやっていたんだ

 

未熟者め…未熟者めッ!!

 

自分の事しか考えない、周りなんて見ようともしない

 

入試(あの時)から何も変わっちゃいないじゃないか!

 

こんな無様を晒しておいて、兄さん(インゲニウム)の名を継ぐつもりか!

 

そんな覚悟で彼らの隣に立つつもりか!

 

「…シィッ!!」

 

「あっ…」

 

『やばっ、轟そっち行った!』

 

奴が緑谷君と龍征君の妨害を掻い潜り、轟君の張った氷の壁をバラバラに切り砕く。慌てて振り向く轟君の姿がまるでスローモーションのように僕の目に写った。

感覚で分かる、その距離は致命的だ。

 

 

助けなければ

 

 

奴の個性で自由が効かなかったハズの身体に血が巡る、脚のエンジンが思う通り唸りを上げるのが分かる。代々我が家に受け継がれる個性(ちから)は誰の為に在るのか、漸く思い出した。

 

 

 

“インゲニウムは何処へだって駆けつける”

 

 

 

ッ今、轟君を()()()のは!僕だけだ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「レシプロ…バーストッ!!」

 

 

轟へ伸びる凶刃は(すんで)のところで唸りを上げる脚に弾かれ、根元から折れ散った。

その速さ、まさに流星の如く。インゲニウムは何処へでも駆けつけて仲間のピンチを救うのだ。

 

「飯田くん!」

 

「……チッ、効果切れか。」

 

ヒーロー殺しは軽い舌打ちをした後、飯田の蹴りを一発防いで更に炎と氷に遮られ、壁を蹴り再び遠のいていく。

また1人自由に動けるヒーローが増えた、ここまで劣勢であっても彼の心に撤退の二文字は無い。全てはこの間違った社会を正すため、煮えたぎる執念と偽物への粛清に拘る執着が故に。

 

「轟君、緑谷君、龍征君。巻き込んでしまって本当にすまない…

奴の言う通り僕は偽物だ、私欲を優先した。」

 

『……』

 

「ッまたそんな事…」

 

「僕にヒーローを名乗る資格なんてない…けれど!それでもッ!

僕は折れる訳にはいかない…俺が折れれば“インゲニウム”は死んでしまう!」

 

絞り出すように吐露する飯田に3人は笑みを浮かべる。対照的に、ヒーロー殺しはそれすらも論外だと吐き捨てた。

 

「感化され取り繕おうと無駄だ、人間の本質はそう易々と変わらない。

お前は私怨を優先させる、英雄を歪ませる社会の癌だ。ハァ…誰かが正さねばならないんだ。」

 

飯田の決死の覚悟すら“癌”と決めつけ、偽物と貶めるヒーローに表情を歪ませる緑谷と轟だったが、帝だけは彼の言葉に思わず笑みを零す。勿論、この頭の固い不潔男(ヒーロー殺し)を嘲っての事だが。

 

『あはははっ、アイツも飯田と同じくらい頭ン中ヴィブラニウム詰まってるみたいね。

…こりゃー重症だわ。』

 

「時代錯誤の原理主義、今どき流行らねえよ。」

 

『だねえ、いいんちょのアレ見て“取り繕ってる”なんて言うようじゃ見る目無いわぁ。

人は変わるよ、ヒーロー殺し。アンタは途中で諦めて放り投げただけ、血を流さなきゃ変わらないなんて思った時点で負けてんのよ。

ウケる、アンタの創る“正しい社会”って奴は結局、気に入らない奴殺しまくった山の上に建つ理想郷(ユートピア)ってわけ?』

 

「ハァ…粛清は過程に過ぎない。

それが、正しき社会の礎になるならば。」

 

『ハッ!そーんな歪みきって穴だらけの基礎の上にゃ豚小屋だって建たないわ。殺傷、銃刀法違反の上に建築法違反、更に前科増えましたねぇコレは!』

 

「ッ下らん問答はもういい…!!」

 

『轟ィ!!』

 

「ああッ!!」

 

翼竜の口から放たれた炎に轟の炎が重なり、生まれた炎の竜巻が飛び出そうとしたヒーロー殺しの周囲を覆い尽くし視界を遮った。体育祭で帝がやって見せた繊細な炎の操作、これも放課後毎日特訓した轟の努力の賜物である。

 

「凄い、捕らえた!」

 

「いやまだだ、奴は直ぐに出てくるぞ!」

 

「だな…」

 

『ぐっじょーぶ、じゃ手短に作戦会議済ませよう。

私が隙を作るから飯田と緑谷でトドメて、轟はその援護、ハイ決定!』

 

「「「いや雑ゥ!?」」」

 

全員で総ツッコミである

 

「待ってくれ龍征君まるで意味が分からんぞ!?」

 

『だーから私が隙作ったげるから緑谷と新〇が殴るなり蹴るなりしてヒーロー殺し殺しすればいいんでしょーが、単純明快。』

 

「誰が〇八だ!

僕が言うのもアレだがしれっと殺しちゃ駄目だろう!」

 

「やっぱメガネか…ッ」

 

「違うが!?轟君!?!?」

 

戦慄の表情を浮かべる轟に思わず飯田も肩を掴んで声を荒らげる、そんな彼を見て緑谷は思わず笑みが零れてしまった。

 

「よかった、いつもの飯田くんだ…」

 

「緑谷君……

もしかして君まで僕の事をメガネが本体だとッ?」

 

「違うよ!?!?!?

龍征さんも、隙を作るって言ってもどうやって…」

 

「確かに、ヒーロー殺しの腕は相当だぞ。」

 

『まあ任せろって。3人こそ騙されないようにね、気を引けるのは一瞬だけ。

それ逃すと多分あの男ブチ切れるから、1回でキメるのよ。』

 

「「「…??」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ハァ…ッ!」

 

炎の竜巻を掻き切るように、渦からステインが飛び出してくる。業火に身体が焼かれ、皮膚が焦げてもお構い無しにその狂った双眸は迷いなく偽物(飯田)へと向けられていた。

 

『ホラ行くぞ乾〇治、今まで寝てたぶん働け働け。』

 

「飯田だ!君もうメガネなら何でもいいと思ってるだろ!!」

 

『お前が雄英の柱になれ。」

 

「それ言ってたの手〇じゃなかったか?」

 

「今指摘すべきはそこじゃないよ轟くん!?」

 

わちゃわちゃ言いながらもステインに立ち向かう緑谷と飯田、その後ろに轟が控え後方支援の構えだ。変わったところと言えば先程まで轟に付いていた翼竜が会話の後すぐ建物の隙間に消えていったところか。

恐らく背後からの奇襲を狙っての事だろう、確かに速さは中々のものだが反応できない程でもない。死角から襲ってきても斬り伏せれば済む話、それよりも先にステインには飯田が目に移って仕方ない。

 

(前に出たなら好都合、次は仕留める…!)

 

かくもおぞましい殺人鬼の視線を一身に浴びながらも飯田は負けじと果敢にステインを睨みつけた。

 

ナイフの投擲を初めとした小道具による牽制やステイン本人の斬術は決して達人のそれとは程遠い、しかし彼の呪いにも似た執念とそれに伴う鬼気迫るような動きは例え3人がかりとて決して油断の許すほど生易しいものではなかった。

一歩、また一歩と襲撃回数を重ねる毎にどんどん刃は飯田に届きつつある。

 

「シィッ!」

 

「ぐっぁ…!!」

 

「下がれ緑谷!

クソッ…こっちは3人がかりだってのに捉えきれねえッ」

 

深くはいかずとも緑谷の脚を裂き、その刃の矛先は真っ直ぐに飯田へ向けられていた。

挙動の度、怖気の走るような感覚が飯田に迫り来る。流れるような短刀の投擲をかろうじて反応し叩き落とせば、目の前まで迫る悪鬼の姿。

すかさず轟の炎が間に挟まるように遮るが、それにも構わずステインは火中を強引に突破し飯田へと刃を振りかぶった。

 

「なっ!?」

 

「お構い無しかよ…ッ!」

 

「飯田くん!?」

 

不意を突かれ、振りかぶったサバイバルナイフが飯田の左腕に突き刺さる。コスチュームを貫き骨まで届く激痛に表情を歪ませながら咄嗟にステインの腹を蹴り飛ばす事で距離を取ろうとするが、体勢を立て直すのは飯田の方が遅かった。

 

「ぐっ…ぁッ!?」

 

「ハァ…じゃあな…

正しき社会への…供物…ッ」

 

…いつもの彼なら個性で相手の自由を奪い、確実に粛清を実行しただろう。

敵は多く多勢に無勢、ネイティブの拘束時間もあとわずか。はやる彼は今すぐ飯田一人だけでも始末したい。

焦れに焦れた目標達成を目の前にして、決して表情には出さなかったがステインは柄にもなく油断してしまっていた。

 

腕のナイフを抜き放ち、返す刀でその首を掻き切ろうとした刹那。

 

 

 

 

『もう大丈夫、私が来たァ!!』

 

 

 

「ッッ!?!?!?」

 

振り上げた手を止め思わず固まるステイン。

 

ずっと待っていた、“彼”が現れるのを

 

ずっと待っていた、“彼”に裁かれるのを

 

舞台の上で踊る演者のような、仮初の平和に浸かるヒーローもどき共とは違う救世(ホンモノ)の英雄。

奴が遂に現れた、自分を倒す為に現れた!

その時だけは飯田の事すら忘れ、背後に響く声を頼りに英雄(オールマイト)の姿を目に焼き付けようと振り向いた。

そこには…

 

 

 

 

『な〜んちゃって』

 

 

 

「してやったり」そんな声音で嗤う1匹の翼竜が羽ばたいていた。

 

 

「………ハァ?」

 

 

初めに驚き、やがて気づく。謀られたと。

脳が現実を理解してふつふつと激しい怒りが込み上げてくる。

よりにもよってステイン(じぶん)の前でオールマイトの声を騙った女に、そして偽物の声にまんまと引っかかってしまった自分に。

喉の奥から振り絞るように、思わず怒りを叫んだ。

 

「貴様…貴様ァ…!!俺の前でオールマイトを騙るかッ!!」

 

『そうだよ☆(限りなくオールマイトに似せた声マネ)』

 

「キッ…サマアアアアアアッッッ!!!!!」

 

ステインはキレた。いつも静かに執念を燃やし、粛々と殺人を繰り返してきたシリアルキラー、ヒーロー殺しステイン。内に秘めるマグマのごとき激情と妄執を分厚い氷の鉄面皮に隠すヴィラン。

 

彼の異常なまでの執念の裏には現代ヒーロー社会に対する実体験を伴う嫌悪や失望が潜んでいる、しかしそれ以上にステインを動かし続ける動機は彼の信奉する真の英雄“オールマイト”の存在あってこそ。

 

“ヒーローとは見返りを求めてはならず、自己犠牲の果てに得られる称号でなければならない“

 

いわばヒーローとは究極の奉仕であり、報酬や名声が目当てで人助けを行う者はみな私欲欲に塗れた偽物である。それがステインの提言した、決して覆ることのない結論であった。

そんな彼にとってオールマイトは神にも等しい存在である、当然陰口など以ての外。自分が正しいと信じるものを騙ったり、貶めたりする者は誰だって許さないだろう。彼も当然そうだ。

 

子供のごっこ遊びならともかく、オールマイトを騙るなど言語道断、万死に値する。

 

そこに帝のコレである、無駄に完成度の高いオールマイトの声真似はステインの琴線に大きく触れた。

その結果、体育祭の地雷原(怒りのアフガン)なんてメじゃない特級の地雷を帝は笑顔で踏み抜いて、それはもう清々しいほどにブチ切れた。

 

 

 

 

「レシプロ・エクステンドォッ!!」

 

 

それ故に、隙が生まれる。

声に気付くがもう遅い、それを見逃すはずもなく、飯田の叫びと共に背中に強い衝撃が走る。

文字通りエンジン全開、飯田渾身のドロップキックがステインの背中を直撃した。堪らず空中に投げ出され飯田を睨みつける。

 

「デトロイト・スマアアアッシュ!!」

 

「ごっ…!?」

 

短刀を投擲しようと構えた直後に食らう、続けざまに重い一撃。別方向から壁を蹴り飛び上がった緑谷の拳が顎にクリーンヒットする。

脳を揺さぶられ、意識を飛ばしそうになるのを必死で堪えながらステインは執念で飯田に向かって残った刃を全て放った。

 

「させねえよッ!!」

 

しかし轟の氷壁がそれを阻む。手札を全て潰されたステインにトドメとばかりに上空から熱波が襲う。

翼竜による火炎放射、本来なら鉄すら溶かす温度をマイルドに絞った(帝曰く「マンガみたいに頭がアフロに焦げる程度の出力」)炎の束がステインを呑み込んで、今度こそ彼は意識を手放したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「……仕留めた?」

 

翼竜から伝わってくる皆の動き。

短刀は轟が処理してくれた、私の作った隙を利用して緑谷と飯田も上手く合わせて連携ができた。ヒーロー殺し、炎を浴びて気絶し地面に落下してら。顔面からイったよ、痛そう(こなみ)

 

轟の氷でキャッチされ、ぐったりとしてるヒーロー殺しが動く気配はない。

 

『というか龍征君、オールマイトの声真似上手すぎないか?一瞬僕も本物が来たのかと勘違いしたぞ…』

 

『僕も学校で一回騙されたんだ。龍征さんのオールマイトボイス、めっちゃクオリティ高いんだよ…』

 

『何処でそんな技術会得したんだ?』

 

「宴会芸よ。」

 

『『『宴会芸…』』』

 

我ながら多芸ね、私。

あの小汚い平面顔、オールマイトの真似したら絶対過剰反応すると思ったもん。ネトゲのオフ会で披露したらめっちゃ褒められた宴会芸、中学の頃から毎日お風呂で練習してて良かった!

 

「うーん、こんなもんかな。

処置終わったよミカドちゃん、頼まれた通り消毒と私の個性使って軽く包帯巻いただけだけど。」

 

「さんきゅーウルル、こっちも終わったみたい。

轟、ヒーロー殺しは?」

 

『息はある、どうやら気絶したみてえだ。』

 

「一応拘束しといた方が良いかもね、その辺に都合のいいモノ落ちてないかな。」

 

『この辺倉庫街だからな、使い古しのロープとかあればいいが…』

 

そう言った轟が緑谷達と辺りを物色し始める。

 

いやーこっちもヒヤヒヤだった、翼竜の遠隔指示って結構神経すり減るのよね。救護車両の中で動けないから集中できたよ。他の3匹も後始末終わってバックドラフトから解放されたみたいだし、こっちもそろそろカタが付く。

そう言えば夜嵐くん姿見えないんだけど…あ、エンデヴァーが背負って飛んで来た。ミルコさんも居る。

夜嵐君腹んとこコスチュームが血で染まってるじゃんやっべ。

いや彼が咄嗟にヴィラン連れ出してくれないと本当に全部手遅れになる所だったし、感謝してもしきれないよ。

 

「ウルル、天使さんが探してるよ。

さっきエンデヴァーが重症の夜嵐君連れて来たみたいだし、彼の治療かも。」

 

「え!?夜嵐くんが!?

そっかあの時脳みその人と飛び出した後…分かった、行ってくるね。

古い包帯も一緒に捨ててこないと…」

 

私の手、大天使ウルルの適切な処置もあって今でこそこの状態だけどステインと会敵した辺りから焼け焦げた手の下から思い出したみたいに出血しちゃったのよね。突発だったからウルルも焦って何度も血を拭いてもらって辺りには私の血が付いた止血用のガーゼや包帯が転がってる。でも全く痛くなかったんだよなあ…

 

なんか私、どんどん人間離れが加速してね?

 

ウルルがゴミを纏めて出ていって、車両内は再び私1人になる。

轟達の方は倉庫脇のゴミ箱から拘束用にロープを見繕って、ヒーロー殺しをぐるぐる巻きにしたようだ。轟が簀巻きにされた彼を引き摺って、動けるようになったネイティブさんが脚を切られた緑谷を背負い表の道まで歩いてく。

 

『…轟君、緑谷君、そして龍征君。

本当にすまなかったッ!

奴を前にして感情に囚われ、原点を見失ってしまっていた、情けない…』

 

謝る飯田、そんな事ないと言う緑谷だけど金輪際こんな暴走は勘弁して欲しい。飯田は死ぬ所だった訳だし、飛び込んでった緑谷と轟もタダじゃ帰れなかった可能性だってある。幸運にも全員生き残れたのはヒーロー殺しが飯田にしか殺意を示さなかったからだ。ほか二人と私の翼竜は意図して“生かされてた”、要は舐めプである。爆豪がキレっぞ爆豪が。

 

『もう終わった事だ、気にすんな。』

 

「相澤センセに知れたら捕縛布宙吊り説教3時間コースは堅いんじゃね?」

 

『ぐぬッ!?ば、罰は甘んじて受け入れるとも!この失態、もはや委員長の座を辞する事もやむを得な「いやそれは止めて、お前がナンバーワンだ」否定が早いな!?』

 

お前という名のスケープゴートが無くなったら私が再び委員長やらされる可能性が出てくるやろがい!

 

そんな事話しながら路地を抜け大通りに出ると駆けつけてきたらしいヒーロー数人と小柄なおじいちゃんがこちらに気づいて駆け寄ってきた。

どうやらおじいちゃんもヒーローで緑谷の職場体験先らしい、問答無用で顔面を蹴られるレベルで凄い怒られてる。その他の人達、この辺にまで来たのは轟がエンデヴァーを通じて要請した救援部隊だそうだ。残念ながら来た頃には事件は既に終わった後だったが。

…この人達が戦闘に間に合ったとしても大して役に立たなかっただろうなあ。不用意にヒーロー殺しの的を増やすだけかも。じゃあむしろナイスタイミング?

 

 

 

ーー焦凍君、エンデヴァーからの使いで応援に来たんだが…ヒーロー殺し!?なんで!?

 

ーーそれに君達凄い怪我だ!早く手当を!

 

ーーつか、ヒーロー殺しってこんな髪型だっけ…?

 

ーーどうしてアフロなんだ…

 

 

 

彼等は捕らえられたヒーロー殺し(爆発アフロエディション)に驚いて、警察と連絡を取り始める。

 

「じゃ、こっちはこれにて一件落着ってコトねね。ゴクローさん、翼竜を戻すよ。」

 

『ああ、助かったよ龍征。ありがとな。』

 

『龍征さん本当にありがとう!

翼竜の助けが無いと僕達もっと重症だったかもしれないし…』

 

『ありがとう、本当に…ッ!』

 

「あいあい、飯田は後で私ら3人に食事奢りな。

それで貸し借りなしって事で。」

 

心配しなくとも高級店で奢れってワケじゃない、私はサ〇ゼで喜ぶ女。

美味しいじゃん、安くてコスパも良いし。ボロネーゼとミラノ風ドリアだけで5杯はイけるね。

 

『ッッ!ああ、喜んで!』

 

もう飯田の憑き物は落ちたらしい、でも3人ともあの怪我だと最悪入院かなあ。どっちにしろ職場体験は続けられないかも。使命(笑)で未来ある学生の職場体験を潰すとかやっぱヒーロー殺し絶許だわ、もっと髪の毛チリチリに焼いてやればよかった。

 

…まあ、彼の言い分を全否定する事はできない。

現代ヒーローはショウビズ性が強いのは確かだし、名声やお金儲けの為にヒーローを目指す人も少なくないからだ。

助けた結果お金を得るのとお金を得るために助けるじゃ結構意味合いが違ってくるもんね。ヒーローの括りは公務員という役所に続く社会的に安定した地位もそれに拍車を掛けてるんだろう。

餓鬼道なんかはモロにそうだ、不良の吹き溜まりという“腫れ物“に望んで手を出そうとするヒーローは少ない、ていうかロクにいない。

同じように餓鬼道の子達も知ってるんだ、求めたって都合よく助けなんて来ない事を。上っ面だけ救った気になって自分達をダシに人気稼ぎする連中が一定数いることを。

そういう境遇の子が集まる学校なんだから。

 

実際私の中学時代、新しく授業に取り入れる個性指導のヒーロー派遣を学校から依頼した時も近所のヒーロー達にそれはもうバッシバシ断られた。酷い人は通知も無視だ。まあわざわざ餓鬼道という爆弾の中で個性指導がしたいなんて人なんてよっぽど正義感の強い人じゃないと無理だし、生半可な実力じゃ生徒からも舐められる。快く引き受けてくれたジーニスト先生には本当に頭が上がらない。ダメもとで直談判して正解だった。

 

まあそれは置いといて、色々あったが今度こそ一件落着だろう。

火事の事後処理もあるかもだけど私はもう休んでろって言われたし、翼竜が帰ってくるまでア〇レンの周回でも…あ、ダメじゃん両手塞がってるじゃん。つら…

タッチペン持ってこなかった事が悔やまれる、お金渡すから後でウルルに買ってきて貰おうかな…

 

ん?エンデヴァーがブラウニーを捕まえて話しかけてる、なんか私を探しているらしい。

後ろにいたミルコさんは突然現れた鬼気迫る表情の天使さんに背後ろから羽交い締めにされもがいてる、そう言えば健康診断がどうのって言ってたっけ。

あれ、急にミルコさん大人しく…今首筋に注射器刺さなかった?しかもミルコさんですら反応できない速度で?

次の瞬間には天使さんが白目剥いてぐったりしてるミルコさんを引き摺って闇に溶けるように救急車へと消えていってしまった、看護婦怖い。

 

ブラウニーのマイクにチャンネルを切り替えてエンデヴァーと話した感じ、2人きりで私に話があるんだそう。救護車両の場所を教えておいた。

 

外もだいぶ落ち着いてきたみたいで、もう火は完全に消化が終わってる。負傷者の確認や被害状況を消防隊や警察、ヒーロー達が纏めている最中だ。バックドラフトもそっちへ行った。

念の為翼竜共には引き続き付近の哨戒をさせておく、異常があればバックドラフトと連絡を取り合いましょうかね。

 

「ん?」

 

ドンドンと救護車両の扉が叩かれる、エンデヴァーが来たみたい。

 

なんにも考えずに扉を開けて応対した。

 

「はーい。」

 

「龍征君、先の救助活動見事だっ……何故下着姿なんだ。」

 

破れたからですが?

え?隠せ?ああハイハイ、バスタオルで隠しますよっと。

 

「改めて龍征君、見事だった。

すまない、本来なら俺が即座に駆け付けるべき案件だ。懸命な判断でヴィランを誘導したもう1人の職場体験生の彼にも礼を伝えておいてくれ。」

 

エンデヴァーに素直なお礼を言われた、なんか以外だ。超失礼だけどエンデヴァーってこういう事面と向かって言わない人だと思ってた。だって世間はストイックだとかオブラート包んで言ってるけど轟の話や普段の勤務態度も相まってヒーローとしての能力以外は全体的にイメージが悪い、けどその辺はちゃんと大人なんだ。決めつけ良くない。

 

「気にしないで下さい、私達は出来ることを精一杯やっただけですから。」

 

「そうか…

それはそうとして、先程の火柱は君が起こしたのか?」

 

火柱?ああ看板燃やす為に竜化して吐いたやつね。そう、私です。

肯定するとエンデヴァーはフム…と納得したように頷いて再び私に向き直る。何か思うところあったんだろうか?

もしかして自分と個性被ってるの気にしてる?いや〜なんだかんだ言って、日本中の個性持ちの中でも炎熱系最強はエンデヴァーでしょ、タメ張れるの流刃〇火か松岡〇造くらいなんじゃね?

なんて馬鹿な事考えてる間にもエンデヴァーは話を続け、私の個性を大仰に褒めちぎったあと「これからも焦凍を支えてやって欲しい」って締めくくって行ってしまった。社交辞令的なアレかと思って肯定しちゃったけどなんか言い方に含みがなかったか?何故轟?ま、いっか。

 

被害報告に戻ったエンデヴァーを見送って、私は再び一人になる。個性フル稼働したり竜化したりで今日は疲れちゃった、後始末してる大人たちには悪いけどちょっとだけ寝かせてもらおう。帰る頃になったら誰かが起こしてくれるでしょ。

 

おやすみぃ…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

轟炎司ことフレイムヒーロー“エンデヴァー”。

強力な個性“ヘルフレイム”を駆使しヴィランを焼き尽くすバトルヒーローにしてヒーロービルボードチャートNo.2という不動の地位を我がものにしている彼は先程まで一人の少女と向き合っていた。

 

名は龍征帝。自らの息子にして最高傑作、轟焦凍の所属するクラスの同級生だ。

初めて目にしたのは体育祭での一幕、警備も兼ねて息子の活躍を見てやろうと巡回していた所に観客の1人から通報され、駆けつけた先で遭遇したのがきっかけだ。

 

黄金を思わせる輝くような金髪にルビーのような赤い瞳、気だるげな表情ながらも落ち着いた様子で決してこちらに礼を欠かぬよう気を使う女性であった。体操服が不釣り合いなほど整った身体つきはついこの間まで中学生だったとは思えない。

大人びた少女、それが帝に対するエンデヴァーの第一印象だった。

 

(子供じみた意地を張る焦凍とは正反対の子だったな)

 

自然と笑みが零れる。

驚かされたのは体育祭で見せた卓越した炎の操作、炎だけでなくそれに付随する熱まで操るほど精密な個性制御は同じ炎熱系で彼の事務所に所属するサイドキック達も舌を巻くだろう。実際エンデヴァーですら試合中に息子のこと以外で感嘆の声を漏らす程だった。

加えて巨龍に変身する能力、どうやら炎を吐くのは巨龍化の個性の副産物のようなもでこちらが本命らしい。ビル火災の際に街の中心から立ち上った炎の柱は竜化した彼女が放ったものだそうだ。

同系統の個性を持っているからこそわかる事だが、“ヘルフレイム”を持つ自分でさえあの熱量を即座に出すのは難しい。『溜め』無しで金属製の巨大看板を跡形もなく蒸散させる火焔を放った巨龍の姿を上空から目撃した時彼は確信を得た。

 

 

彼女こそ相応しい

 

 

日本中、いや世界中を探しても類を見ない恵まれた個性、それを的確にコントロールする技術、そして本人の精神性、全てをもって他の者とは一線を画す選ばれた子供。彼女も他とは違う“特別”なのだ。

 

(オールマイト(あの男)のような…か)

 

そんな子が息子と同じ学年で、同じクラスなのはすこぶるラッキーだ。クラスメイト同士親交も深めやすいだろう。

しかも彼女はヒーローコスチュームの発注でエンデヴァーとも親交の深い巨大企業、印照重工の縁者だと体育祭の後調査した結果明らかになっている。なら()()()も容易い。

 

全ては息子が至高のヒーローに至らんが為

 

焦凍という最高のヒーローにはそれにふさわしい最高の伴侶が必要である。

思い立ったら即行動、道すがらエンデヴァーはケータイを取り出しある番号へ連絡を取り始めた。

 

轟炎司は愛する息子の未来のため、歪んだ愛情を注ぐ。

ただ、彼の選択でこの先の未来がどうなろうとも、ただでさえ地に落ちた自分への息子の評価が更に下がるのは疑うべくもないだろう。

 

 

 

彼が誤ちに気付き、蓋をしてきた過去と直面するまでそう遠くない

 

 

 

 

 

 

 

「えーっと、ゴミ捨て場はこの辺って聞いたんだけど…」

 

どこかなー

 

帝と分かれ、救護車両を出たウルルはゴミ袋を担いで集積所を目指していた。

近場に居たオーナーに場所を聞き、辿り着いた建物の一角。街頭も無く奥が見えないほど暗い細道の入口に設置された大型のダストボックス。火事によって集まったパトカーや救急車のランプの点滅が無ければ真っ暗で何も見えない。

 

「あったあった…ぁ痛っ!?」

 

足元不注意。今までの疲れもあってウルルは足がもつれ、思いきりつんのめって前のめりに倒れてしまう。同時に担いでいたゴミ袋から中身がぶちまけられた。後から結べばいいやと横着して口を縛らず持ってきたツケを払ってしまった…

 

「あわわわ…」

 

「大丈夫ですかあ?」

 

慌てて袋の中を拾い集めるウルルに声がかかる、顔を上げるとそこには学生服の少女が立っていた。奥の暗がりから出てきた彼女は頬のそばかすが印象的な金髪の女の子だ。

彼女は親切にも零れたゴミを拾うのを手伝ってくれた。

 

本当は他人の血が付着したガーゼを素手で触るのは医療関係者的にあまりよろしくないのだが、ここは誰も見ていない路地裏だ。咎める婦長もいない。

 

「すみません手伝って貰っちゃって…」

 

「いいんですよぉこれくらい。

こっちこそ、アリガトねぇ。」

 

「?どういたしまして?」

 

なんで逆にお礼を言われたのかは分からないが取り敢えず受け取っておく事にする。

嘗て帝と共に数多の不良達と向き合い、激動の中学生時代を過ごしてきたウルルにとって多少の会話の齟齬など気にするうちにも入らない。なんだかんだ彼女は社交性も高いしメンタルは鋼鉄なのだ。

学生らしからぬミステリアスな雰囲気の子だなぁと、その時のウルルは呑気に考えていた。

 

「とっても良いニオイがしたのです。

…気にしないでください、独り言ですから。」

 

「はぁ…」

 

「でも貴女も小さくてカアイイねぇ、えへへ…」

 

くねくねと身を(よじ)りながら顔を赤くする女の子。そんな様子を不思議に思いながら眺めていると、ふと自分の脛に痛みを感じた、転んだ時に擦り剥いたのだと気付く。

「患者の傷は己の傷、己の傷は看護婦の恥」と、天使婦長より叩き込まれているウルルはすぐさま自分の個性で蓋をして腰のポーチから取り出した包帯で素早く治療を施した。

 

それを見ていた女の子、なんか露骨に残念そうな表情になる。

 

「えっと…どうかしました?」

 

「うぅん、なんでもないのです。

…もったいない

 

「?」

 

最後の方は上手く聞き取れなかった、聞き直そうとして口を開きかけたその時

 

「おーい看護婦くん、ゴミ捨て場にたどり着けたかね!婦長さんが呼んでいたぞ!」

 

男の人が自分を呼ぶ声がしてウルルは一瞬振り帰り、また視線を戻すと女の子はいつの間にか居なくなっていた。残ったのはウルルだけ。

声の主はオーナーだった、辿り着けたか心配して様子を見に来てくれたのだろう。彼が駆け寄って来た時には件の女の子の姿はどこにもなかった。

 

「?どうした、キョトンとして。」

 

「いえ、さっきまで女の子が…あれぇ?」

 

困惑するウルル、まるで狐につままれたようだ。

この後何事もなく彼女はオーナーに連れられて天使婦長の下まで戻り、軽傷者の治療や警察からの事情聴取の対応などで忙しくなる。そんな中、ウルルはゴミ捨て場の一幕での疑問など記憶の片隅に追いやっていた。

 

大規模火災の発生、謎のヴィラン襲撃、その裏で行われたヒーロー殺しの大捕物。

激動だった職場体験3日目の夜は一旦幕を閉じる。

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

それは本当に偶然でした

 

ほんの気まぐれ、ただの酔狂

 

血の匂いが沢山する方へ私は出向いて、たどり着いたのが保須(ここ)だっただけ

 

なにやら表が騒がしいですが気にする事はありません

 

でもどうやらお祭りも終わったようで、もう帰ろうかと思っていたその時

 

知らないニオイを嗅ぎました

 

つん、と鼻腔を擽るような刺激臭

 

それでいて、脳の奥までとろけるような甘い香り

 

あのちっちゃな子、カアイかったなあ…次会う時はお友達になりたいな

 

でもそれよりも気になったのは…

 

ふふっ♪

 

手に握るソレ、拾ってる時にくすねた血の着いたガーゼ

 

誰のものかは分かりません、ちっちゃな子の血じゃないのは確か

 

ガーゼの血は乾いて吸えません、でもそれでいて尚その存在感から分かるのです

 

この血は“フツー”じゃない

 

もちろん、この血の持ち主も

 

一目惚れならぬ一嗅ぎ惚れ…なんか馬鹿みたいな言い回しですがまあいいでしょう

 

どんな人なんでしょう?きっと素敵な人ですよね?

 

もし見つけたら

 

チウチウしたいなあ♡なんて思うのでした

 

 

 





4ヶ月ぶりの更新だァ!

あと病院のエピローグと締めくくり書くぞォ!

当SSには恋愛要素はございません、匂わせぶりな文面ですが作者に甘酸っぱい恋物語とか無理なので。そもそも本人にそんな経験が無クソァ!(スマホを床に叩き付ける)ウチの主人公と原作キャラのカップリングとか、ないわぁ。
できても恋愛みたいなギャグもどきしか書けん。
あ、でもひなちゃんと心操は末永く爆発しろ?


★原作との相違点★
・緑谷が攫われていない(羽ヴィランはビル火災で夜嵐君に連れ出されエンデヴァーに燃やされたため)
・ステインの「来てみろ偽物共」のくだりカット(羽ヴィラン襲撃が無くなったため)
・代わりに帝の巨龍化映像がネットに拡散(著作権ガン無視で晒す現代人の悪い癖)
・エンデヴァーの親馬鹿が加速(焦凍君の好感度ストップ安)
・ やったねトガちゃん!チウチウしたい人が増えたよ!

因みに動画は取られていなかったが原作通りトガ荼毘その他はヴィラン連合へ合流する予定、ただしステインの動画無しなので動機が薄い模様

爆豪とジーニストの餓鬼道訪問書きてえ…でもさっさと話進めんとまた失踪しそう…寄り道ばっかしてんなこのSS


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34 私の職場体験記vol.6





連休終わるまでに1話投稿する目標達成!じゃあ失踪するね!






 

 

 

「……なんだよ、つまらない。」

 

ボソッとそんな事を呟く

 

せっかく先輩の邪魔をしてやろうと放った脳無達は全部ヒーロー達によって拘束、もしくは行動不能に追いやられてた。

 

「死柄木弔、何か思うところでも?」

 

隣の黒霧がなんか言ってる。が、想像以上につまらない結末だったので返事をする気力もない。これでコイツが“脚”じゃなかったらこの場で塵に変えてやってるところだ。

 

もう此処で得られるものは何も無い、この一件で俺は何か収穫を得られただろうか。

脳無は全滅、頼れる先輩(笑)は御用になった、あの化け物の姿をもう一度見れたのは僥倖だが…

 

帰ったら先生に相談してみるか。

 

『ヒーロー殺しは君の役に立つ。結果がどうあれ、結末は必ず見届けるんだよ弔。

君はまだまだ成長途中なのだから。』

 

出発前、先生に言われた事をふと思い出す。

またもやヒーローがヴィランを華麗に退治して、悪の根は潰えた!万々歳!今回のもそう、テレビで腐るほど繰り返されてきたエンディングだ。

善が悪を駆逐すればそれで全て解決されると連中は信じ込んでる。

 

…イライラするなァ

 

双眼鏡を握る手に思わず力が籠り、やがて粉々になって朽ちた。勿体ね、高い奴だったのに。

 

「帰ろ。」

 

言われた通り結末は見届けた、もう用は無い。

沸き立つイライラで首が痒くなってきたし、もう帰る。

 

「…満足いく結果は得られましたか?」

 

「ばァか、そりゃ明日次第だ。」

 

 

バイバイ先輩、草の根活動ご苦労さま

 

 

 

 

 

 

 

ヴィラン襲撃とビル火災発生、そしてヒーロー殺し逮捕で大騒ぎになった翌日、保須総合病院にて。

 

ビル火災から一夜明け、職場体験4日目。

昨夜救急車でウルルから手当を受けていた私はその日のうちに病院に連行され(怪我が怪我だったので抵抗はしなかった私、賢い子)、検査入院という形で此処に居る。夜嵐君も脳ミソ野郎に腹を抉られて重症だったので入院だ、残念ながら退院は職場体験が終わったあとになるそうで。

 

気になるバックドラフトの反応だけど

「個性を使って無茶をしろといったのは俺だから責任は取らせてもらう。入院費やその後のケアは任せてくれ。」

と仰っていて、バックアップに全力を尽くしてくれるのだそう。お金の工面して貰えるのは有難い。

切迫した現場だったとはいえ、学生を危険な場所へ送ってしまった事を何度も謝られたけれどそれ以上に被災者を全員助けた事を褒めてもらった。

ウルルや天使婦長に聞くところによると、私達が助けた13階の人達は重傷、軽傷問わず被害が多々あれど全員命に別状はないらしい。重傷だった人達もウルルの個性と医者の皆さんの懸命な処置によって快気へと向かっており、後遺症も残らないそうだ。夜嵐君の起こした風で煙を吸っていた時間が少なかったのと、翼竜による運搬でいち早く炎から逃れる事ができたのが生死を分けたんだと語られた。

 

「いつ死者が出てもおかしくなかった、それ程切迫した現場だったんだ。けれど君達の活躍のおかげで死者は0、あの状況なら〝奇跡〟と言っても過言じゃない。

消防士として、命を預かる者として、改めて君達にお礼を言わせて欲しい。

ありがとう、二人のおかげで皆が助かった。」

 

職場体験は中止にすると両校に連絡は付けておくから、退院できたら残りの期間はゆっくり休んでくれ。

 

私の病室に果物の盛り合わせをカゴに詰めて持ってきた私服姿のバックドラフトはそう言って仕事へ戻って行った。

私達のやった事は間違いじゃなかった、それを認められてちょっと嬉しくなってみたり。

 

「凄いことしちゃったねミカドちゃん。

学生が救助活動なんて、新聞に載っちゃうよ。」

 

「あんまり目立ちたくないんだけどねぇ…」

 

既にネットには私が竜化して看板を焼き尽くす映像が流されているらしい、一応未成年という事で名前の公表は伏せられてるけど体育祭で同じ巨竜が出ちゃってるワケだからみんな私がやったって察してるだろう。

テレビや新聞は…あの界隈の人達がプライバシーとか肖像権を尊重してくれるって信じてる。私未成年だし流石にね?インタビューとかも迫られなかったし大丈夫だよね。

 

因みにウルルは今、私の専属看護婦さんだ。

何故かと言うと私の手、度重なる個性の酷使と脳ミソ野郎との戦闘が祟ってそれはもう酷い有り様で壊死寸前だったのだけど、一夜明けたら完治してた。

…自分でも何言ってるのか分かんないんだけど、完治した。いくらウルルの個性使って治癒力を促進させていたとはいえ、一晩で壊死寸前の手が元通りに治るなんて聞いたことが無い。ウルルの個性が凄いのか私の回復力が異常なのか、これもう分かんねえである。

むしろ本当に重症だったのかお医者様に疑われまくった結果、現状把握と経過観察も兼ねて私の友人で親しみやすい彼女が監視役として抜擢されたらしい。

 

それから私の担当だったお医者様が身体を詳しく調べたいと血液検査を所望したのだけど、ウチの規律に従って上申したらまさかの印照家から“待った”が掛かった。まさか本家から直々にストップがかかるとは思ってなかったからビックリしちゃった。

私は印照家の所有物である、ヒーローを目指してからというもの才サマの付き人を離れ比較的自由にやらせてもらっているが、印照家が龍征帝の大元の保護者であり所有者でもある。

本家がノーといえばノー、主人の命令は絶対なのだ。だから血液検査は断らせてもらった。

 

 

 

それにしても…

 

「流石にこの量は病み上がりじゃ食べきれないよね…」

 

「だねえ、バックドラフトは私を死神だと勘違いしておられる?」

 

「リュー〇でもこの量は食べないよ。」

 

机に残された大量の林檎の山をみやる。

山盛りだ、此処は青森県か。

ちょっと考えた結果、別の病棟に居る夜嵐君に分けてやることにした。切り分けられるようナイフ一式をウルルに持ってきてもらい、いざレッツゴー。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「という訳でね、心優しいこの私がお見舞いに来てあげたわけよ。頭を垂れて感涙にむせべ。」

 

「「どういうわけで!?」」 「よう、龍征。」

 

おい、病室では静かにしろ愚民共。

ところ変わって此処は夜嵐君が居るはずの病室、1人だけかと思ったら飯田、緑谷、轟の3人も同室だった。本格的な検査はまだらしい、同年代だからって理由で同じ病室へ分けられたみたい。

 

「あの、院内ではお静かに…」

 

「「す、すいません…」」

 

案の定窘められる飯田と緑谷、昨日の夜からツッコミが絶好調だな。

そういえばウルルは3人と初対面だった、簡単に顔合わせも済ませておこう。

 

「こちら、マイベストフレンド。

ほらウルル。」

 

「うん。初めまして雄英高校の皆さん。

職場体験で当院に勤務している見習い看護師の士傑高校1年、破柘榴です。皆さんの容態を確認しに参りました。」

 

「士傑高校…!看護婦見習いって事は看護科…!?

みみみみ緑谷いいい出久です…」

 

「轟だ、よろしく。」

 

「雄英高校1年A組委員長の飯田天哉だ。先程は騒いでしまい申し訳ない…」

 

「はい、よろしくお願いしますね。」

 

入院患者の無体にも関わらず天使の如く微笑むウルルの社交性は53万なので女慣れしてなくてキョドる緑谷でも安心!

それからウルルは慣れた手つきで3人の容態を診察し、手元のカルテに記入していく、特に酷かったのはヒーロー殺しのナイフが骨まで届いた飯田だけどウルル曰く保須病院の医療技術と自分の個性があるから後遺症もなく完治出来るそうだ。今後のヒーロー活動に支障はないらしい、良かったねえ。

 

 

「リンゴ剥いてやろう、1人1個食べれるよね?」

 

「悪ぃ龍征、ありがとな。」

 

「すまない、有難く頂こう。」

 

もう物を持っても痛まないので慣れた手つきでリンゴの皮をぱぱっと剥いていく。サービスしてウサギさんの形にしてやろう、壊理ちゃんが喜ぶんだこれ。

 

「ウサギの形か、器用だな。」

 

「他にもバリエーションあるぞ、犬とか猫とかカエルとかモビルスーツとか。」

 

「そ、そんなカットできるんだ…モビルスーツ!?」

 

「連邦と公国の2パターンとり揃えております。」

 

(((気になる…!)))

 

切るのに3倍時間かかるけどね。

 

 

 

 

 

 

 

「……………」

 

 

あとさ、此処に来た本命なんだけどさ…

 

「夜嵐君、いつまで無言でこっち見てんのさ。」

 

「…!」

 

病室の一角、カーテンで区切られたベッドからいかにも話に混ざりたそうに顔だけ覗かす彼に言ってみる。

顔がね、うるさいのよ。主張が激しいの、一言も喋ってないのにね。

 

 

「初めまして雄英の皆さん!

龍征さんと一緒に職場体験やらせてもらってた士傑高校ヒーロー科、夜嵐イナサです!どうぞ宜しくお願いします!」

 

「夜嵐君院内ではお静かに…」

 

「ハッ!?すいません破柘榴さん!」

 

「結局声が大きい…」

 

おもむろにベッドの上で土下座を敢行する彼に悪気は一切ないのだ。

 

「ああ、よろしく夜嵐君!

龍征君、士傑高校の方と共に職場体験をしていたんだな。」

 

「体験先被ったって事か、そういや出発前に相澤先生話してたな。」

 

「士傑高校といえば雄英に並ぶヒーロー育成校だよ!多くの優秀な看護婦を排出してる看護科も有名だけど士傑高校ヒーロー科は『東の雄英、西の士傑』と評されるほどなんだ!そんな人と同室だったなんて…凄いや!」

 

「ウス!恐縮っス!

皆さんの事は存じてます、活躍は体育祭でバッチリ見てました!

熱い試合ばかりで俺ェ…今思い出しても興奮冷めやらぬッスよ!」

 

そう興奮しながら話す夜嵐君は順番に緑谷、飯田と眺めて最後に轟へ顔を向けようとして…おもむろに()()()()()()()()()()()

 

…いやなんでさ

 

「「!?!?!?」」

 

「?」

 

「へぁっ!?」

 

「ちょっ…」

 

騒然とする病室、夜嵐君から流れる鼻血。

突然の暴挙に緑谷飯田は絶句して轟は何が起きたのか分からずポカンとしてるしウルルは顔が真っ青だ。

おおかた、因縁のある轟と顔を合わせるのに抵抗があったんだろう。そんで自分に喝を入れたっぽいけど、加減をしなさいよ加減を。

当人は清々しい笑顔を轟へ向けている、事情を知らない人が見たら自傷で喜ぶサイコパスだ。隣の飯田が挙動不審でいつも以上にロボットみたいになっとるぞ。

 

「い、一体どうしたんだ夜嵐君!何故急に自傷行為を…」

 

「気にしないで欲しいッス!」

 

「いやこれ気にしないでは無理があるが!?」

 

「すげぇ血が出てるぞ。」

 

「いやホント大丈夫なんで!

…これは俺なりの“ケジメ”ですから、これから最高のヒーローになる為に必要な事なんス。」

 

その眼差しはまっすぐで、彼の言葉に嘘偽りないと断言できるだろう。隣で俯いたウルルがなんかブツブツ言ってるけど気にしない気にしない。

 

「こ、これが士傑流…ッ!」

 

「いや多分コイツだけよ、正気に戻れ緑谷。

とりあえず夜嵐君も食べなよリンゴ、切ってあげるから。」

 

「頂きます!腹減って仕方なかったんスよ。」

 

 

 

 

 

 

「ちょっと待って夜嵐君。」

 

 

 

 

やけに平坦なトーンで、リンゴに手を伸ばす夜嵐君に待ったが掛かった。ウルルだ。

 

…ひぃっ!?

 

彼女から唯ならぬ黒い気配を感じる!?

 

「なんで、重症の身で、わざわざ、新しい傷を、作ったの、かな?」

 

そこには笑顔のウルルがいた。

ニッコリと微笑みながらやさしく夜嵐君に語りかけてくる、白衣の天使。

そう、まるで天使。

微笑んだまま表情筋が一切動いてないのと、背後から漂うドス黒いオーラと、ジョジ〇よろしく「ゴゴゴゴ…!」と文字が浮かび上がって来そうなほどの気迫がなければ、天使。

 

「あっ、いやだからコレは俺自身のケジメとし「それ、今する必要、あるの?」あっあっあっ…あのですね破柘榴さん、その…怒ってます?」

 

「オコッテルワケ ナイヨ ?

でもどうしてわざわざ入院中に新しい傷を作ったのか、知りたいなあ。

詳しく、説明してください。私は今冷静さを欠こうとしています。」

 

いかんウルルが看護婦から婚約者攫われたプロゴルファーに転職してしまいそうだ。

状況に着いていけない雄英男子どもは役に立たねえので今にも刺身包丁突きつけてきそうな表情のウルルを落ち着かせ、宥めてあげる。

この子普段は優しいんだけど、スイッチ入ると止まらないのよね。看護科入って更に拍車が掛かったのかなあ。

 

 

 

 

 

 

「おう、起きとるか有精卵ども。」

 

荒ぶるウルルをなんとかおさめ、皆で切り分けたリンゴを齧っていた時、病室をノックする音がして入ってきたのはヒーローコスチュームを来た2人の男性だった。片方はおじいちゃんで、もう片方は若い男の人。おじいちゃんは確か緑谷の職場体験先だっけ?そしたらもう1人は「マニュアルさん…」と飯田が呟いたのが聞こえたので察した、飯田の職場体験先のヒーローか。

その2人に招かれ奥から現れたのは、スーツ着て二足歩行する犬?

 

「保須警察署所長、面構犬嗣さんだ。」

 

めっちゃ偉い人だった。おじいちゃんは3人に色々お小言言いたいらしいが、それより先に面構署長のお話があるそうな。

曰く、今までヒーローがヴィランを捕らえるために個性使用を許されてきたのは先人の積み上げてきた信用と、ルールに則って活躍してきたヒーローに対する市民からの信頼の賜物である。

だから結果はどうであれ、監督者の許可無しに個性を使ってヒーロー殺しを傷付けた緑谷、飯田、轟の3名には法律に則って厳正な処分が下されなければならない、と。

…あれ?私は?もしかしてあの場に居た数に入ってない?翼竜だからセーフなのか?

 

「飯田が割って入らなきゃヒーロー殺しはネイティブさんを殺してた、緑谷が来なきゃ2人は助からなかった。規則守って見殺しにしろって?」

 

「結果オーライであれば規則などウヤムヤでいいと?」

 

「…ッ人を助けるのがヒーローの仕事だろ。」

 

反論する轟に冷静に諭す署長さん、お2人ともバチバチである。

まあ、緑谷が間に合わなくてネイティブさんと飯田が殺されてた可能性はあった。対峙した人間しか分からないだろうけどヒーロー殺しは近年稀にみるヤバいヴィランだ。雄英襲撃の時の手のオバケとは比べ物にならない殺意、簡単に人を殺す躊躇いの無さは才サマの付き人してた時頃に出会ったどの連中よりも危険な感じ。そんな奴を前にして許可がどうとか悠長な事言ってる暇なんてなかったんだよ。でも「しょうがない」で済まされるほどヒーローの仕事は甘いもんじゃない。

 

…ああいう奴には変にカリスマあって、本人も知らない所でシンパが生まれちゃってたりするんだろうなあ。餓鬼道の上級生にもそういう奴結構居たし。

けど、今回のはいち学校の騒動じゃなく、警察や他人の命まで巻き込んだ大事件だ。だからこそ気持ちや規則が枷になってお互いぶつかり合ってしまう事もある。面構署長は警官なんだから尚のこと、規則を守らなきゃいけない立場にある訳だし違反者である私たちに強く当たるのも仕方の無い事だ。

 

……このまま私の翼竜が居たことはウヤムヤになってますように。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なんだ、随分と騒がしいじゃないか。此処は病院だよ?」

 

「ッ!?貴様は…!」

 

「?」

 

署長と轟は互いに睨み合い膠着状態。ピリピリと張り詰めた雰囲気の中、署長が口を開こうとしたその時。戸を引く音がして、聞き慣れない声が二人の間に割って入った。

白髪混じりの茶髪をオールバックで纏めた、濃紺色のスーツを着こなす初老の男性。ポマードでも塗ってんのか甘い匂いがする。面構署長は酷く驚いた様子だったけど、警察関係者かな?

いや、どっかで見たことあるんだけど…

 

「やあ龍征君、暫くぶりだね。」

 

おじさんは私と目が合って気さくに話しかけて来たんだけど、いまいちピンとこない。するとキキキッと小動物の鳴き声がして男性の肩から1匹の小猿が顔を出した。

あっ、思い出した!初日に電車で話した猿のおじさんじゃん!

 

「えっと、電車で会ったおさるの…」

 

「そうそう私!いや覚えてもらえて光栄だよ。

私の娘なんて最近は3日家を空けるだけで他人扱いされるからねェ、思春期なのかな…」

 

しょぼんと哀愁漂うおじさん、娘さんはもっとパパにやさしくしてあげてもろて…

 

突然現れた緊張感の無いおじさんのフランクな態度にすっかり毒気を抜かれる轟、対して渋い顔をしながらさっきより顔付きが険しくなったのは面構署長だ。

 

「猿渡、貴様何の用だ。ヒーロー殺しは我々が逮捕した、今更公安の出てくる枠は無いだろう。」

 

「捕まえたのはそこの学生達だろう、子供の手柄を奪うなんてとんだ駄犬だ。そんなだからお前達は『受け取り係』なんて揶揄される。」

 

「貴様ッ…!」

 

険しい顔で今にも食っかかりそうな署長を涼しい顔であしらって、煽る猿渡さん。めっちゃ仲悪そう。

 

「犬猿の仲ってヤツ?」

 

「誰が上手いこと言えと…」

 

なんて呟いたのがウルルに聞こえたようで呆れられたよ、なんでさ。

どうやら猿渡さんはヒーロー公安委員会の偉い人らしい…偉い人だったの!?

 

 

「そこの駄犬は置いといて…

諸君、見事な活躍だった。ビル火災救助にヒーロー殺し捕縛、5人とも素晴らしい大立ち回りを披露してくれたね!

看護婦の君も、見習いの身でありながら適切な処置のおかげで多くの人が救われたと君の担当婦長が絶賛していたよ。」

 

手放しに褒め称える猿渡さんの横で面構署長は苦い顔。彼、褒めて伸ばすスタイルらしい。

 

「ただまぁ、これからも自分をヒーローだと通したいならもう少し規則や法律について勤勉になっておく事だ。こちらとしても、若気の至りで処理するのにも限度があるからねぇ。」

 

茶目っ気たっぷりにウインクする彼に私達は苦笑いしてお茶を濁す。猿渡さんから察するに、彼が裏で色々と動いてくれたおかげで轟達は個性不正使用の罪に問われることは無いようだ。エンデヴァーを初めとする他の担当ヒーロー達も猿渡さんの口添えでお咎めなしらしい。

でもメディアへの発表は大人の面子的に控えておきたいようで、ヒーロー殺しの火傷跡から捕物の功労者をエンデヴァーにでっちあげ、私達が捕まえた事を無かったことにして欲しいんだとお願いされた。

 

「このまま発表すればメディアは嬉々として君達を取り上げるだろう。若きヒーロー候補生の大活躍、勿論それは喜ばしいことなんだが、公衆の面前に晒されるということは相応のリスクを背負わなければならなくなるという事だ。」

 

ぶっちゃけると過去にヴィラン退治をしてメディアに取り上げられたヒーロー候補生が住所を特定されヴィランに襲撃を受けた、という実例があったらしい。捕まったヴィランの仲間が報復の為に学校帰りだったその生徒を襲ったそうだ。

それを加味し、今回の事件を大人の力で握り潰しに来たんだって。

ヒーロー殺しの一件は規模が他とは比べ物にならない大事件。当然周囲の人に与える影響も大きく、そんな人物が学生に捕らえられたとなれば体育祭以降ただでさえ報道が加熱した各種マスコミは根掘り葉掘り私達を調べあげるだろう。校門前で出待ちとかまだ優しいほうで、酷い時は自宅の場所まで特定されるらしい。そんなのを公共の電波に晒せば間違いなく野次馬が生まれ、その中には私達の事を良く思わない人物も居て…と、そうなったら警察やヒーロー公安委員会でも守りきれない。いつぞやの襲撃もあったからね。

だから私達が学生の間、または自衛が確立できると判断されるようになるまでマスコミへの公表は控えたいのだとか。

 

流石にプライバシー無視は駄目だろ、と心の中でツッこむが餓鬼道にもマスコミが原因で寮生活せざるを得ない奴らが居たんだった。

入寮理由は胸糞悪くなるからあんまり思い出したくないけど。

 

「若きヒーローの卵を大人の汚い事情に巻き込んでしまうのは避けたいんだが、これも未来ある君達の身の安全を守る為だ。

このとおり、どうか納得して欲しい。」

 

肩に乗る猿共々頭を下げられ、衆目に晒される事で生じる危険性を諭されてしまえば私達も首を縦に振るしかない。

問題はそんな実例、過去に一度もニュースにすら取り上げられなかったって事なんだけど…

 

「情けない話、夢を見せるのが今のヒーロー公安委員会(われわれ)の仕事だからね…」

 

含みのある台詞が聞こえたのを私は口には出さず、そっと胸の中に飲み込んだ。

 

「今回の事件、真実が公にされる事はない。

知るのはごく一部の者のみになるだろう、その行動は正しくなかったが、殺人鬼に立ち向かう君達は誰よりもヒーローだった。

ありがとう、平和を守る者の端くれとして、せめて最大限の感謝を送らせてくれ。」

 

綺麗なお辞儀とともに彼はそう述べる。

 

「ほら犬、お前も頭くらい下げたらどうだ。

ヒーロー殺しが捕まって一番助かってるのは警察だろう。」

 

「分かっている…!

私だって今回の事件、若き功労者達にケチを付けるような真似はしたくはない。

轟君、貶めるような言い方で済まなかった。

そしてありがとう。至らぬ我々に代わって殺人犯を捕えてくれた事、本当に感謝する。」

 

ヒーロー公安委員会と保須警察署長から頭を下げられて緑谷は謙遜し飯田は慌てて顔を上げるように促して、轟は相変わらず無表情だけどまんざらでもなさそうだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「今回のことはオフレコで頼むよ、勿論彼らの担当ヒーローの皆様がたもね。」とウインクしながら締めくくり、猿渡は事件の辻褄合わせの為にエンデヴァーの所へ向かうと言ってとグラントリノとマニュアルを連れて病室から出て行った。面構署長もまた、事件の事後処理の為に退室。部屋には学生6人が残される。

 

「なんというか、掴みどころのない方だったな。猿渡という人は…」

 

「でも良かったじゃないっスか。公安と警察の両方から褒められるなんてアツい展開、そうそう体験できるもんじゃないですよ!」

 

「まー面構署長も本当に規則違反でとっちめるつもりはなかったんだろうけどね、職業柄高圧的になるんでしょ。雄英生だってだけまだマシよ。」

 

「あぁー、餓鬼道生ってだけで急に横柄になる警察の人結構いるもんね。」

 

「あるあるよね。」

 

「「ねー。」」

 

((((それはあるあるなのか…?))))

 

お互い納得するように頷く帝とウルル、餓鬼道の実態を知らない男性陣は頭に〝?〟を浮かべていた。

 

「にしても、轟があんなに熱くなるなんてね。署長の胸ぐら掴む勢いだったじゃん。」

 

「ぐっ…それは…悪い、反省する。」

 

「反省する事ないっス!

俺、アンタの中に眠るアツいヒーロー魂を確かに感じた!

正直な所、今まで勘違いしてた。エンデヴァーの息子で、推薦の時の反応だけ見て色眼鏡で判断してたんだ。

けど署長に迫ってる姿見て…自分じゃない誰かの為に怒れる、ヒーロー目指すアツい奴だって気が付けた!」

 

「お、おう…推薦?」

 

「そっからかァ!やっぱ覚えられてねェっスよねー俺、病室一緒になった時から薄々思ってたんスよ!」

 

一応、夜嵐からすれば因縁のある事件だったのだが、当の轟は身に覚えがない。体育祭で吹っ切れる前、打倒父親を掲げ他の全てをどうでもいいと切り捨てていた頃の出来事だったからだ。文字通り眼中に無く、周りなんてひとつも見えていなかった。

そんな轟を夜嵐は呵呵大笑にし、自分が雄英の推薦入試を受験していた事を明かす。これには飯田と緑谷も驚きを隠せない。

 

「轟、ちゃんと夜嵐君の話聞くのよ。

これも過去の清算だと思ってね。」

 

「…!そういう事か。

なら今度はちゃんと前、見ねえとな…」

 

雄英の推薦入試と聞いて食い付いた緑谷と飯田を相手に語り続ける夜嵐を眺めながら決心するように轟は頷き、3人の話に混ざっていく。

 

本来ならばエンデヴァーの遺恨は夜嵐の心に深く残り続け、後に轟共々最悪のタイミングで溢れ出てしまっていただろう。しかし職場体験を通じて僅かな間でもヒーローとしてのエンデヴァーを垣間見た。そして勝手に敬遠していた相手の〝今〟を知る事ができた。そんな幸運が重なって、夜嵐はこうして同じ病室で笑いあえている。

 

推薦入試の内容を雄弁に語る夜嵐、聞き入る飯田、当時を思い出したのか若干顔を紅くする轟、どっからか取り出したメモ片手に物凄い速さでペンを走らせる緑谷。

そんな男連中を眺めながら、帝とウルルは残ったリンゴを話の肴にと切り分けるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「昨晩発生した西東京・保須市での事件、知っているだろう?」

 

「…」

 

「人は大きな事件に目を奪われる、しかしこういう時こそヒーローは冷静にいなければならない。

混沌(ケイオス)は時に人を惑わし根底に眠る暴虐性を引きずり出そうとするものだ。」

 

 

人も疎らな片田舎の街中を飛ぶように走るスーパーカー。流線型の車体の中でハンドルを握るのは今をときめくNo.4ヒーロー、デニムヒーロー〝ベストジーニスト〟だ。

 

「この辺りは元々とても治安が悪くてね、近隣住民は皆逃げるように引越してしまって今では2ブロック先まで殆ど無人街が広がっている。」

 

助手席に座るコスチューム姿の爆豪は何の気なしに流れていく景色を眺めてみる。

古めかしくボロボロに朽ちた看板、手入れの行き届いていない庭先、落書きだらけで荒れ果てた商店街。生活感のない街並みはまるで人だけごっそりと抜け落ちたまま何年も時間だけが過ぎたかのようだった。

更に奥へと抜けると今度は崩れた建物が目立つ。クレーターのように窪んだ地面が幾つも見え、焦げ跡や瓦礫もあちこちに転がる。コンクリートで舗装された道路には幸いにも落ちていないようだが、戦争の跡かと見まごう程の荒廃した光景が広がっていた。

 

「全て個性によって生み出された破壊痕だ。

彼女曰く生徒同士の個性を使った乱闘が過去に50回以上起きていたらしい。」

 

「ケーサツはどうしたんだよ、職場放棄か?」

 

「ここから1番近い交番は隣町だよ、ヒーローもこの辺りはパトロールの対象ルートから意図的に外している。唯一通っているのは学校前に停車する装甲バスだけだ。」

 

「マジの無法地帯じゃねえか…」

 

「そう、ここは無法デニム。

守るべき市民も賞賛する人々もこの辺りには居ない。この時世だ、真に残念ながら見返りもなしにみすみす危険を犯すヒーローはいないだろう。」

 

(無法デニム…?)

 

車両は更に奥へと進む、やがて小高い山中をくり抜いた場所に白塗りの大きな建物が見えた。

『まるで要塞じゃねえか』と反射的に爆豪が思ったのも無理はない。窓には鉄格子、山から見下ろすような立地には威圧感しか感じない。渡り廊下で繋がった木造校舎が見えてなければ収容施設か、はたまた監獄か、少なくとも学校の体(てい)は成していなかった。

そんな、学び舎と呼ぶには少々重苦しすぎる雰囲気の漂う校舎へとベストジーニストは車を走らせる。

 

「ところで爆豪君、君は餓鬼道と聞いて何を思い浮かべる?」

 

「アァ?ンだ突拍子もねぇ…」

 

「いいから、答えなさい。」

 

しばし、物思いに耽ける。

餓鬼道という学校について、爆豪もテレビや噂で度々聞きかじったことはある。

曰く、毎日のように暴力事件を起こす不良達の溜まり場だとか。

曰く、止めようとしたヒーローが大怪我を負い、あまりの非行ぶりに警察も手をつけられないのだとか。

曰く、テレビで取り上げられるような大物(ネームド)ヴィランの殆どはこの学校出身で、「ヴィラン養成学校」なる蔑称が影で囁かれているのだとか。

 

「暴力事件、喧嘩、犯罪者予備軍の巣窟、不良の吐き溜め。その学校名聞いてマイナスイメージ持たねえ奴ァ居ねェだろ。」

 

「…そうだね。」

 

爆豪の回答に少しの沈黙の後、彼は肯定する。

校舎横の真新しい駐車場へと車を停め、ここからは徒歩だ。少し坂道を歩くがこんなもの爆豪にとっては苦ではない。

上り際、振り返ったベストジーニストは爆豪へこんな言葉を投げかけた。

 

 

「爆豪君。

これから君が真のヒーローを志すのなら、この学校から目を離さない事だ。個性社会のあり方とこの学校の〝今〟を君の目で見て、考えろ。」

 

「……」

 

「目を離すな」、そう言うベストジーニストからは強い意志を感じる。

龍征帝が一度統治して大人しくなったとはいえ、()()()()()()()()()()()()()()()()、なんて言われるまでもない。相手は並のヒーローすら匙を投げるような問題児の集まりであるがそれがどうした。

爆豪勝己が餓鬼道へ来た理由はただ1つ、体育祭で決着の付かなかった龍征帝への意趣返しの為だ。彼女が嘗て統一したという不良校、その全貌をこの目で確かめて、さらに上を行く。正直ベストジーニストの事務所を選んだ理由は上位ランカーの仕事見たさが半分で、もう半分の目的はこの学校に赴くことだった。

 

体育祭決勝戦、帝が龍に姿を変える寸前に交わした会話を思い出す。

『他の奴全部蹴落として、誰もいない空っぽの玉座でふんぞり返っても虚しいだけ』

この言葉がずっと爆豪の胸に残っていた。

 

(お前が見た景色、この目で確かめてやるよ龍征…!)

 

あの女の余裕が気に入らない、何より勝てなかった自分が気に入らない。

勝てないヒーローはヒーロー足りえない、自らの信念をうたがわずがむしゃらに突き進む爆豪がベストジーニストの言葉の本当の意味を理解する日は来るのだろうか…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おはようございます、袴田先生。」

 

ひゅう、と

 

5月の終わりにしては妙に冷たい風が頬を撫でた。

鈴の鳴るような、澄きとおった声に2人は脚を止める。

声の主は校舎前に立っている女生徒だった。

 

「そちらは事前にお聞きしていた雄英高校ヒーロー科の爆豪勝己先輩ですねぇ?

初めまして。

理事長より案内を仰せつかりました、天廊凍皇梨(てんろうこおり)と申します。」

 

 

以後、お見知り置きを

 

 

 

 

 

 

にこり、と柔和な笑みを浮かべる彼女の左腕には赤地に黒の筆文字で〝会長〟の二文字が刻まれた腕章が光っていた。

 





今更ながら劇場版ヒロアカワールドヒーローズを見た。
そこはかとなくMARVELみのある演出やアクションがとても良き、ストレンジMoM見た後だと余計そう思う。
劇場版三部作はいつか本作でも書きたいっスねぇ(遠い目)


次の話は爆豪編にするか、職場体験の後日談済ませて閑話挟むか思案中。
アンケの結果見る限りオリキャラに寛容な読者様多くて安心したけど話の本筋にどこまで絡ませて許されるのか分かんぬえから扱いが難しい。
どっちにしろ更新は亀の如く遅いぞ!この話はここでおしまいだな!


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35 大事件のそのあとに



エスピナス復活ッ!!エスピナス復活ッ!!


F産、私の好きな言葉です








 

 

「当校は超常黎明期、個性研究を目的として建設された施設をそのまま流用、一部改築して建てられております。

あちらに見えます木造校舎は後から増築したもので、理科室や家庭科室などの多目的教室が設置されていますね。

…ちょうど今二年生が技術の授業の最中みたいです。」

 

先頭を歩く生徒会長、天廊に案内されながら白塗りの校舎の中を進む爆豪とベストジーニスト。

ツアーガイド顔負けの流暢な喋りと共に説明してくれる彼女の視線の先には、左腕がチェーンソーに変異している筋骨隆々の教師らしき人物が雄叫びと共に丸太を切り刻み、独創的な彫像を象る。彫刻刀や(きり)を持った生徒がそれを真似するように各々の手元にある小さな木を刻んでいく。おそらくは技術の授業なんだろうと爆豪は辛うじて理解できた。

 

「あちら、学年ごとに建屋が分かれておりまして手前から一年棟、二年棟、三年棟になります。

どの棟も元々あった研究室の壁を抜き、窓を無理やり開けて作られたものなので少々歪な印象を受けると思いますが、きちんと建築法にのっとった施工をしておりますのでご安心を。

これから向かうのは本館、職員室や理事長室のある棟ですね。」

 

「いつもスキニージーンズのようにタイトな案内をありがとう凍皇梨君。

最近はヴィランの動きが活発でね、ゴタついてて挨拶にも来れなかった。すまない、帝君に君たちを託された身でありながら…」

 

「いえいえそんな!

お忙しい中来て頂いているのですから袴田先生はお気になさらないで下さい。

先輩から受け継いだものは本来なら我々現生徒会が行うべき行事ですから。」

 

「…ふっ、おろしたてのジーンズのように清々しいその心意気、君を後継に選んだ帝君の判断は間違っていなかったようだね。

彼女は任期中いつも君の事を気にかけていたよ。」

 

「先輩が、ですか…?

やだそんな…私の事を…愛してるだなんて♡」

 

「うむ、いつも通り飛躍したね。今日も元気そうでなによりだ。」

 

「…」

 

並走するベストジーニストと談笑を交え、時折頬を赤らめながら廊下を進む天廊の後ろ姿を眺めながら爆豪は思う。

 

 

(背ぇ高ェ!)

 

 

天廊凍皇梨と名乗るこの生徒、ホントに中学生か!?と疑いたくなるような身長だった。

爆豪の身長は172cm、A組女子でも高身長層は八百万が173cmで最高でも178cmの帝がいるくらいだ。

それを差し置いても彼女の身長は目算180cm以上はある、隣の高身長(多分首が長いだけ)のベストジーニストと比べても遜色ない程背が高い。加えて出るところは出てるモデル体型、美少女というより美人という言葉が似合う女性であった。

深い青紫の長いポニーテールにライトパープルの瞳、端正な顔つきとは裏腹に穏やかな口調と落ち着いた雰囲気は先代会長の龍征とはまた違ったカリスマを醸し出している。

しかしそれらをふまえても、爆豪は出会っ時から感じる違和感を拭えない。

 

(なんてモン引っ提げてんだこの女…)

 

天廊の腰のホルスターにはその長い足の先まで届く刀がぶら下がっている。

刀身を覆う鞘、柄から見える目釘の模様、黒塗りながらしっかりとした存在感を放つ鍔部分もバッチリ見えていて、ただの玩具や模造刀と思うには気合いが入り過ぎていた。

 

心の中でツッコミ入れまくりである。

アニメやマンガじゃあるまいし、いくら不良校とはいえいち中学生で真剣を引っさげ彷徨いている奴が居てたまるものか。

しかしベストジーニストがなんの反応も示さないところを見るにこれが彼女のスタンダードなのだろう、爆豪は現実を受け止めきれない。

 

「本物じゃねえよな…」

 

ぼそりとそんな事を呟いてしまった爆豪に気付いた天廊は振り返り、穏やかな表情のままにこりと微笑む。

 

…だけだった

 

 

「せめて否定しろや!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

私立餓鬼道中学校。

世間から不良の溜まり場、世紀末中学校と揶揄される国内有数の不良校である。

恐怖と暴力が支配する魔境。その実態は謎に包まれており、悪い噂ばかりが世を渡っていた。

 

爆豪も当然、碌でもない連中の溜まり場だと認識している。自分は絡まれた事はなかったが、中学校時代に何度も同級生がカツアゲされただの喫煙姿が目撃されているだのといった話を小耳に挟んでいた。

しかしそれも1年生の前半まで、夏頃には喧嘩騒ぎもカツアゲも殆ど噂が立たなくなりそれからめっきり餓鬼道の悪評を聞くことは無くなった。

 

その理由を爆豪が知ったのは最近の事、どうやら同じクラスの女子が餓鬼道出身で生徒会長だったらしい。最初は半信半疑だったが、自身が無様を晒した戦闘訓練の日、轟の氷と互角に立ち回る姿を見て『只者ではない』と悟る。

その悔しさをバネにし迎えた体育祭決勝戦、彼女の〝全力〟に爆豪はまるで歯が立たなかった。

 

あの圧倒的な巨躯から繰り出される気迫に膝を突かぬように自分を奮い立たせるので精一杯だった。あの巨龍を前にした時の、生物としての桁の違いを見せつけられるような絶望感は今思い出しても身が凍る。

結果として巨龍は脚を踏み外しリングアウト、呆気なく爆豪の勝利となったのだが、「全力の相手を完膚なきまでに叩き潰す」覚悟で望んだ彼は不完全燃焼のまま表彰台に立たされる(張り付けられる)事になる。

このままでは納得がいかない、誰より負けん気の強い爆豪は悶々とした気分のまま職場体験を迎えようとしていたそんなある日の休憩時間、姦しくお喋りに興じる女子達から偶然にもこんな会話が聞き取れた。

 

 

 

『ねぇ〜帝っち、結局職場体験先どうしたの?』

 

『メチャクチャ指名来てたもんね、羨ましーなーコノコノ〜!』

 

『多けりゃいいってもんじゃないでしょ。

私はアレよ…バックドラフトの所に決めた。』

 

『けろっ?意外ね、帝ちゃんならもっと上位のヒーローからの指名が沢山あるのに。』

 

『たしかに、帝の体験候補、ビルボードチャートの上位勢殆どから指名来てたじゃん。それ蹴ってローカルヒーローのトコ行くの?』

 

『エンデヴァー事務所は第二候補に選んだよ、後の上位陣は戦闘ばっかでレスキュー要素無いだろうしパスパ〜ス。

ジーニスト〝先生〟のとこも考えたけど中学生の頃散々世話になってるからもういいかなって。』

 

『先生?』

 

『昔ね、色々とご厄介になってたのさ。

…臨時教諭として餓鬼道に出講して貰ってたの、授業の監督役としてね。』

 

『なにそれ初耳!No.4ヒーローが餓鬼道中学校の教師やってたってこと!?

そんなんテレビでも全然言っとらんかった!』

 

『目立たないように隠してたんじゃね?県内最悪の不良校に超有名ヒーローが出入りしてると見栄え悪いし。』

 

『はぇー。』

 

『あの人には週に2、3回生徒の個性指導に協力して貰ってたんだ。その為にわざわざアポ取って事務所まで行って事情説明して、了承してもらったの。』

 

『個性指導…普通の中学校のカリキュラムではそのような授業ありませんわよね?どうして餓鬼道で?』

 

『ウチの生徒はね、本人の性格がアレなのが殆どだけどそれ以上に難儀な個性持ちが多いんだよ。

異形型なんて序の口で、突然変異で威力が高過ぎて加減が利かなかったり、発動条件が分からないまま勝手に暴発して周りを傷付けたりする奴が結構居んの。そんな子供を荒れた環境で放っとくから〝ヴィラン養成所〟なんて不名誉なアダ名で呼ばれる。

だから理事長と掛け合ってヒーロー監視の下で個性指導の授業を設けることにしたんだよ。で、必死に教師探し回った結果ベストジーニストが引き受けてくれたってワケ。

いやーあの人の個性多人数制圧するのに超便利だからいちいち馬鹿共の顔面凹ます手間が省けてラクだったわ〜。』

 

『『『へコます…』』』

 

『個性は千差万別だものね、危ない個性を正しく使えるようになればそれだけで周囲の評価はぐっと変わると思うわ。』

 

『そういえば中学の時、一度も個性関係の授業ってなかったかも。

学校では個性使っちゃダメー!ってずっと言われてて、それが当たり前だと思っとった。』

 

『世の中が「ヒーローは個性使ってOK、それ以外はダメ!」みたいな風潮だからね、基本的に個性はないものとして過ごさなきゃならんし。それっぽい法律は無いけど学校側も日常生活に個性を意識させたくないんじゃないかな。

身体の一部なんだから使えて当たり前、なーんて言われてるけど〝普通〟も〝当たり前〟も、餓鬼道じゃ通用しないから。

分かんないなら教えてやるしかなくない?』

 

『まぁ…!とても立派なお考えですわ帝さん。』

 

『さすが餓鬼道生徒会長!』

 

『さすガキ…!』

 

『その略し方は悪意あるなぁ!?』

 

 

 

どうやらベストジーニストは餓鬼道中学校へ定期的に来訪しているらしい、元々声を掛けられたヒーローの中では一番チャートの順位が高かった事務所だったためなし崩し的にそこに行こうかと考えていた爆豪だったが、その話を小耳に挟んでから迷いなく第1志望に彼の事務所を記載した。

全ては己が目指す〝必ず勝つヒーロー〟になる為に。

 

(って来たはいいものの…)

 

ぐるりと校舎を見回してみる。

研究所を改築して作られた校舎は外から見た限り要塞のようだったが、内側から眺めると天廊の言う通り、多少歪であるが普通の学校のような作りをしている。

 

(もっと落書きやら吸い殻やらで荒れ果ててるモンだと思ってたぜ。)

 

不良校と言う割にはそこまで荒れていない。

壁も床も掃除が行き届いており、吸い殻が転がるなどの非行の跡も無かった。

天廊の話すところによると帝の就任後に建物の洗浄と美化清掃を重点的に行い、定期的な掃除を義務付けていて今も伝統的に続けているらしい。学校外部の更地になった土地も嘗て壊した瓦礫を放課後などの空いた時間を利用して生徒たちが撤去している途中なのだそう。

 

 

(龍征(クソ痴女)に全員牙抜かれちまったか…?

腑抜け共に勝ってもなんの意味もねぇ、アイツより上に行くにはもっと…)

 

 

 

 

「理事長へご挨拶を終えたらいつも通り生徒会室で授業の打ち合わせを行います、本年度の生徒会メンバーの紹介もそこでさせていただきますね。

でも驚きました、袴田先生が職場体験生の方を此処へ連れてこられるなんて。」

 

「ああ、彼にも是非この学校を肌で感じて欲しいと思っていてね。

勿論〝指導〟にも参加してもらうつもりだ。」

 

「まあ!そうなんですか?

でも大丈夫でしょうか、先生のサイドキックの方ですらあの子達の相手は難しいと仰られていたのに…」

 

「体育祭の彼の活躍を見ただろう?

爆豪君なら寧ろ彼等と好相性かもしれない、本人の意識も高いからね。無様を晒す、なんて事もないだろう。」

 

「確かに帝先輩と互角に立ち回れたのでしたら…

でも長い間先生がお出でになれませんでしたし、いつもより溜まってますよ?」

 

「それも考慮し、問題無いと判断した。」

 

「あぁ?本人差し置いて何の話してんだコラ。」

 

相変わらずの喧嘩口調で爆豪が問うと振り返った天廊は少し困ったような表情で爆豪へ向けて微笑む。

 

 

「爆豪先輩、死なないでくださいね?」

 

 

さも当たり前のようにそう言う彼女の瞳に妙な寒気を感じた爆豪であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『デクくん昨日は大丈夫やったん?

突然一括送信で送ってくるからびっくりしたんよ。』

 

「う、うん。もう平気だよ…

心配してくれてありがとう麗日さん。」

 

『そっかぁ…良かった!

何かあったんじゃないかって心配してたの。』

 

「後でグループトークの方で謝りを入れておかないとだね…」

 

『せやね、それが皆も安心すると思う。そんでね…

っはーい今行きまーす!

ごめんデクくん、ガンヘッドさんに呼ばれてとるから切らな。じゃーね!』

 

「うん。う、麗日さんも職場体験頑張って…」

 

『んッ!!頑張る!プルスウルトラー!』

 

 

そう告げて通話が切れる。

件の事件の後、緑谷が咄嗟にクラスのグループトークに送ってしまったヒーロー殺しの位置座標、傍から見ればなんの事やら分からない数字の羅列を見たクラスメイト達にひょっとすると事件に巻き込まれたのでは無いかと心配され、翌日に電話を掛けてきた麗日との通話を終えた緑谷はまだ熱の篭もるスマホを膝に置き、静かに呟いた。

 

 

「女子との通話って…スゴい…ッ!声ちか…」

 

 

うーんこの陰キャ(クソナード)

 

 

「緑谷、震えてるけどどうした?」

 

「あっ!?いやなんでも!」

 

産まれてこのかた、母親以外の女性と電話などした事の無かった緑谷出久16歳。最高のヒーローを志し、邁進する彼は痛みに対する耐性はあれど女性への耐性は皆無だった模様。

案の定その挙動不審隣ぶりを轟に心配された。

 

「それより飯田くん遅いね、破柘榴さんに呼ばれて出て行ってから随分経つのに…」

 

「腕、結構深いところまで刺されてたからな。

個性で治療できるとは言ってたが、後遺症とか残らねえといいが。」

 

俯きながら物憂げに「また手か…」と呟く轟。

 

見習い看護婦、破柘榴による事前の診察で治療に問題はないと言われていた飯田の傷だったが、その後に1人だけ呼び出され病室を出ていった事を考えるとやはり心配だ。つい悪い予想が頭をよぎってしまう。

 

因みに帝は既に此処には居ない。持参していた林檎を切り終えた後、眠くなったのか欠伸しながら自分の病室へ帰っていった。まだ緑谷の皿に残る某連邦型モ〇ルスーツを象った林檎は彼女の作った最後の作品である。緑谷曰く「完成度高すぎて食べるの躊躇うんだけど…」との事。その隣で夜嵐は某公国型機体にカットされた林檎を「うまい!うまい!」と頭からかっ食らっていたが。

そんな夜嵐も今は自身のベッドで横になり(いびき)を掻いている。先程まで緑谷と興奮しながら推しのヒーローについて語り合い、過去にオールマイトの解決した〝ビネガースーサイド事件〟について傍にいた轟が聞き取れない程の速度で各々の感想を述べていたのだが、喋り疲れたのか眠ってしまった。

 

(緑谷の高速語りに付いていける奴初めて見たな…)

 

体育祭以降、漫画の貸し借りなどで緑谷と話す機会が多くなった轟だがそれでも重度のヒーローオタクである彼に〝スイッチ〟が入った時、始まる高速詠唱についていけないことがある。それに初見で対応してみせる夜嵐に心の内で感心していた。

 

(俺の勉強不足だ。

今まで背けてきた分は大きい、これから気付いていかねえと。)

 

いや、別にオタク特有の高速詠唱は勉強しなくていいと思うぞ轟君

 

 

 

 

 

 

それから暫くして、ガラリと病室のドアを開け病人服姿の飯田が顔を出す。何やら神妙な顔付きで思わず二人にも緊張が走った。

 

「お、おかえり飯田くん。

随分かかったみたいだけどどうし…ッ!?!?」

 

無言で自分のベッドに腰掛け、俯く飯田。

よく見れば肩は小刻みに震え鼻をすする音が緑谷の耳に届く、その様子を見て緑谷は先程まで考えていた〝最悪の場合〟を想像してしまう。

飯田の傷は傍から見ても重傷だ。あの戦いの中、生かされた2人と違い飯田はヒーロー殺しの執念を一身に受け続け深い傷を負わされた。それが今後のヒーロー活動に影響する程のものだったなら…

夢半ばにしてヒーローへの道を閉ざされる悲劇に緑谷はどんな言葉を掛けていいか分からない。

 

「飯田、何かあったか?

言いづらいなら言わなくてもいいが…」

 

「ああ、違うんだ轟君。

別に悲しいとかでは断じてないんだッ…ただ…

嬉しくて…ッ!!」

 

((嬉しい…?))

 

 

 

時は少し遡る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

破柘榴に呼び出された飯田は彼女の後を付いて行き、たどり着いたのは見覚えのある病室。掛札には「飯田天晴」とある。

 

「ここは…兄さんの病室じゃないか?」

 

飯田の兄、天晴はヒーロー殺し襲撃で負傷した後地方の病院へ搬送されたのだがあまりにも重傷だった為、より医療機器の整った保須の大病院へと移送されたのだ。その事は天哉も家族から聞かされていた。

 

「はい、中へどうぞ。

婦長様からお二人に話があるそうです、病院の方からご両親にも連絡して頂いてますが弟さんには先に聞かせておくべきだって婦長様が。」

 

「てっきりぼ…俺の腕の事で呼び出されたのかと思っていたが、兄さんの事だったとは。」

 

「飯田さんの腕は問題無く完治できますよ?

傷を負ってから時間も経っていませんし、私の個性もありますから。」

 

「そうか…ありがとう破柘榴君。」

 

微笑むウルルに自嘲気味な笑みを返しながら飯田は思う。

この傷は言わば己の未熟が招いた結果だ、だからできるなら戒めの為に残しておくべきだと考えていた。

しかし彼女、ウルルの笑顔に気圧され言い出せずじまいだった。そもそもさっき自分自身を殴り付けて自傷した夜嵐にあれほど怒っていた彼女だ、身勝手な理由で傷を残しておきたいなど言った日にはどんな説教を受けるか分からない。

 

(説教だけで済むかも不明瞭な所が余計に怖いッ!!)

 

 

 

扉を開ける。

 

目の前にはあの事件以来変わり果てた兄と、椅子に腰掛ける看護師の姿。

その痛々しい姿に思わず今でも目を背けたくなってしまう。兄、天晴の身体に巻き付いたいくつものチューブは入院当初より数が減ってはいるものの、依然として予断を許さぬ状態だ。飯田が最後に聞いた限りでは再び歩けるようになるにはリハビリに多大な時間を要する、仮に歩けるようになったとしてもヒーロー活動を続けるのは不可能だろうと、そう宣告された。

 

「おう、天哉。」

 

いつもの軽いノリで話しかける天晴だったが、その笑顔は無理くり作ったものだと弟である自分にはひと目でわかる。件の負傷で誰よりショックを受けているのは他でもない天晴本人なのだ、それを押して弟を心配させまいと気丈に振る舞う彼に喉で引っかかっていた言葉を漸く搾り出した。

 

「……久しぶり、兄さん。」

 

 

 

「飯田天晴さんの御兄弟の方ですね?保須中央病院勤務の天使と申します。

どうぞ此方へお座り下さい、破柘榴研修生は私の隣へ。」

 

立ち上がった婦長の座っていた椅子に座るよう促され、大人しく従う。

待ち人が揃った所で、咳払いとともに婦長はつらつらと述べ始めた。

 

「まず、現在の飯田天晴さんの負傷について確認致します。

まずは左脚、大振りの刃物による深い刺傷3箇所、ふくらはぎから太腿にかけて大規模な裂傷。

右腕個性結合部に殴打による破損及び骨折、左手首を刃物が貫通、その他全身に細かい切り傷が多数。

そして一番重症なのが、背部の脊髄損傷。間違いありませんね?」

 

「違いありません。」

 

「そしてヒーローとしての復帰は絶望的、と。」

 

「……はい。」

 

重苦しい雰囲気が室内を包む。

暫く婦長がペンを走らせる音だけが響き、顔を上げた彼女はまっすぐに天晴の目を見つめながら言い放った。

 

「飯田天晴さん、我々から提案があります。

…もし、成功すれば貴方の傷は後遺症も残らず完治しヒーロー活動に復帰できるようになるでしょう。」

 

「「ッ!?!?」」

 

二人の顔が驚愕に染まる。

天晴の傷はこの病院の医師たちでさえ完治は不可能と断言した程の重傷だ、それを看護婦が覆すなど俄には信じ難い。

 

「ッ気休めではないんですね?」

 

「勿論、看護婦としての誇りにかけて嘘は言いません。

ただ、前例の無い治療方法になります。100%成功するとは断言できません。」

 

「それはどのような…?」

 

「〝個性〟を用いた集中治療。

破柘榴研修生の個性を使って損傷した脊椎を修復、再生させ損傷前まで復元させる試みです。」

 

 

士傑高校1年看護科、破柘榴羽瑠々

個性『瘴気活性』

湿気で成長する微生物を含んだガスを体内で生成し放出できる個性。生み出される微生物には細胞の成長を活性化させ修復を促す未知の成分が含まれている。

それを用いて、天使婦長は天晴の傷を治療すると申し出た。

 

「…そんな事が?」

 

「破柘榴研修生の個性は治癒に近しいですが根本の部分にあるのは〝修復〟と〝再生〟。こと人体に対して彼女の能力は無限の可能性を秘めています。

過去、彼女は喫煙によって劣化した生徒の肺を修復し健康体まで戻した記録も残していますし。」

 

人間は細胞レベルで自身の形を記憶している。爪や髪が伸びるのも、細胞が元の形を覚えていて、戻ろうとしているからだ。

ウルルの個性はその作用を促進させ、本来傷ついてしまったら決して戻ることのない人間の臓器すら修復してしまった。

それを天晴にも施して、傷付いた脊椎の神経を修復しようというのだ。

 

「兄さんの身体でも同じ事ができるというのですか!?」

 

思わず椅子から立ち上がり、ウルルを凝視する。

ウルルも突然自分の個性を使うと言われて驚いたらしく小さい声で「へぁっ!?」って聞こえた。

 

 

「彼女は学生であり個性を自由に使える身ではありません、手続き等に少し時間を要しますが強引にでもこじつけましょう。

破柘榴研修生、どうかしら?」

 

「えっと、できない事は…ないと思います。

傷を負ってから時間が経ちすぎていたり、臓器そのものを摘出してしまっていたら戻せませんけど、損傷部位が完全に塞がっていないならそこから個性を触れさせて、修復すれば…」

 

で、でも!と逡巡するウルル。

 

「臓器の修復…ただでさえデリケートな脊髄の神経を修復するとなると患者さんの負担も大きいですし、もし失敗してしまったら神経同士がぐちゃぐちゃに繋がってしまうかも…そうなったらヒーロー活動どころか日常生活にも支障が出てしまいます!

だから、これは治療というより人体実験に近いような…」

 

ウルルは過去に多くの患者をその個性を使い治療した。帝の学校統治に伴う被害者(チンピラ)達を手当り次第にだ。擦り傷、切り傷、打撲骨折その他諸々の患者を片っ端から個性を使って治療して、その経験に基づいて今の彼女はそれぞれの傷に対して適切な分量の個性を生成し、行使している。(なお肺の修復は過去に起こした暴走の結果なのでカウントしないものとする)

 

しかし今回、脊髄の復元は全くの未知であり、ウルルもやったことが無い。ならば過去に医学界で起きた似たような事例を探してそこから治療法を模索すれば良い、と言いたいところだがそもそも個性治療そのものが業界に浸透しておらず、医療データも極わずか…いや皆無と言ってもいい。

超常以前より人の営みと共に積み上げられてきた医療技術であるが個性という不確定要素が関係者の頭を悩ませ、『日常生活に個性を用いない』国の方針も相まってなかなかデータも思うように集まらないのだ。

 

つまり完全に手探りの状態で天晴の治療を行わければならない。前例のない処置がどれほど危険な賭けであるか、発案者の婦長が一番分かっているはずだ。

 

「確かにこの治療には前例がありません、“賭け”と言われるのも仕方がないでしょう。

しかし今、破柘榴研修生の在籍するこの時しか提案できません。

僅かでも治療の(すべ)があるのなら、私は貴方に伝えます。」

 

 

可能性は、希望はまだ残っていると

 

 

そこまで伝え、天使婦長は言葉を切った。

 

病室に沈黙が訪れる。

誰も喋らない、いや喋る事ができない。天晴の怪我の重さ、かかるリスクとリターン、〝人体実験〟と称されるほど前例の無い試み。しかし成功すれば全快するという希望をぶら下げられ、飯田兄弟の心情は推し量るに難いだろう。

本来なら家族全員を交えたうえで話し合い、決定すべき事柄である。そのために予め病院側から飯田家の両親へ声掛けも行った、彼等には考える時間が必要だ。

 

 

 

 

「やってくれ。」

 

「兄さん!?!?」

 

天晴の決断は早かった。

 

「元々歩けなくなる覚悟だったんだ、希望が見えたなら俺はそれに縋りたい。」

 

「ッだが!失敗するかもしれないんだろう!?

個性という不確定な要素を使い、前例の無い治療方法だと!危険すぎる…ッ僕は反対だ!」

 

「…聞け、天哉。

俺はヒーロー殺しに負けて、一度心が折れた。

直に対面して分かったんだ。ニュースで報道されているより奴の意思は本物で、情けない事にその殺意と執念に俺は脚が竦んだよ。サイドキック達を逃がすので精一杯だった。そんで、結果はこのザマだ。

…奴の言い分が僅かでも正しいって、一瞬でも考えた。

自分は偽物かもしれない。

たとえ身体が治ったとしてももう二度とヒーローには戻れない、そう思っちまった。

だからお前にこの名(インゲニウム)を託した。」

 

「兄さん…」

 

「けど天哉がヒーロー殺しと交戦したって聞いた時、自分が許せなくなったよ。

お前の事だ、俺のせいで変に気負って奴に挑んだんだろ?俺が名を託したから、諦めちまったから、天哉が代わりに抱えるハメになった。」

 

「……ッ!!」

 

「図星か、お前らしい。

…俺はもう諦めない。弟に余計なモン背負わせといて、自分勝手に終わりを決めるなんてみっともない真似できねえよ。

僅かだろうが希望があるならそこから必ず這い上がる、これは一家の矜恃だとかそんなもんじゃねえ。

俺の、飯田天晴の〝覚悟〟だ。

困ってる人がいる限り、〝インゲニウム〟はどこだろうと駆けつける。そこに真偽なんて要らないんだよ。

丁度いい所に困ってる天哉が居るからな!俺が駆け付けてやらねえと!」

 

それに、だ。

 

「弟心配させて兄貴の俺がいつまでも寝てちゃカッコつかねえだろが!

待ってろ天哉。こんな怪我さっさと治療して、復帰したら真っ先にインゲニウムは返してもらうからな!」

 

そう笑う天晴に、天哉は過去の面影を見る。

幼い頃見た、救助の現場で泣く子供の手を引いて一緒に母親を探していた兄。凶悪なヴィランに仲間と共に立ち向かい、激闘の末チームワークで勝利した兄。いつも明るく家族を照らし、常に至らぬ自分の先を走り続ける、飯田天哉が憧れた兄の姿を。

 

 

(ああ、帰って来たんだな…飯田天晴(インゲニウム)が)

 

 

それは入院してから一度も見せなかった、天晴の心からの笑顔だった。

 

「ッああ…!待ってるよ…兄さんッ…!」

 

「バッカお前そこは『この名を取り返したけりゃ俺を倒してみろ!』って言う場面だろ、せっかくインゲニウムの名前継いだんだから!」

 

「まるでヴィランみたいな台詞!!

兄さんの中で僕のイメージはどうなってるんだ!?」

 

 

ついいつも学校でやってるノリでツッコミを入れてしまう天哉だが、声は心做しか嬉しそうである。

その後、合流した両親と共に婦長が再度説明を行い、治療を受けることが正式に決まった天晴。傷の進行や状態の確認など万全の対策を講じるために検査を行うとして彼はウルルと共に連れて行かれ、天哉は緑谷達の下へと戻るのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そんな事が…」

 

「万全の状態を期すそうで、本格的な治療は明日からだそうだ。破柘榴君の都合もあるからな。」

 

「あの士傑生の個性、すげぇな。

壊れた神経まで治せちまうのか。」

 

「うん、凄い個性だよ。

リカバリーガールはあくまでも治癒力を高める個性なのに彼女の個性は失った細胞まで修復可能なんてしかもリカバリーガールは本人の体力を引き換えにするのに対して破柘榴さんは時間が掛かる代わりに水だけで治療可能この時点で即効性はないもののほぼ制限なしに対象を回復できるから2人の個性で差別化も出来ているし単純に癒し手が増えるということはそれだけ助けられる数も2倍だヒーロー業界いやもはやこれは医療業界の革新に繋がるんじゃないかな!」

 

「緑谷、息吸え。ノンブレスは酸欠になる。」

 

「ん''ッ!…ごめん、つい…」

 

興奮する緑谷の背中をさする轟の対応も慣れたものだ。

この後飯田の傷を憂いた轟が呟いた一言に2人が大爆笑し、寝ていた夜嵐を起こしてしまうのだがそれは割愛しておこう。

 

 

 

これにて、卵たちの職場体験は一件落着。

 

 

 

 

しかし、全てが丸く納まった訳では無い。

彼らの入院中、ヒーロー殺しステインの逮捕は瞬く間に世間に広がり、彼の主張、思想があらゆるメディアで垂れ流される事になる。

彼に感化されてしまう人間も現れるだろう。

抑圧された超常世界、今まで分散していた悪意はひとつの意志に集まることでその脅威は何倍にも膨れ上がる。

裏社会では密かに、だが確実に彼との繋がりが示唆された〝敵連合〟の存在が広がりつつあった。

 

 

この騒動、この流れを死柄木は予測しての事だったのか、それとも…

 

 

 

 

 

 

 

 

と こ ろ で

 

我らが主人公、龍征帝はというと

 

「ふわぁ〜…

昼間っから学校サボって貪る惰眠最高ぉ〜♡」

 

病室でお日様の光を浴びながらだらしない格好で怠惰を満喫しておりましたとさ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

とぅるるるるるるっ

 

とぅるるるるるるっ

 

 

「ハイ…おおホークス君!

久しぶりじゃあないか、調子はどうだい。聞いたよ君のところも職場体験生、取ったんだろう?

その若さでもう後進の育成を始めたなんて流石『速すぎる男』…何?手短に?ああそう。」

 

時刻は夕暮れ時の保須某所、道路脇を歩く男はスマホ片手に笑っていた。

逆ポケットにしまわれていた装置を慣れた手つきで起動させ電波の暗号化を行う。これは世に広まっていない、ヒーロー公安委員会のエージェントのみに配布されている特殊アイテムだ。

 

「接触したよ。

拝借したスマホも予想通り、トラッキング機能が…いやトラッキングどころの話じゃないな。

ありゃ位置情報から心拍数まで持ち主の全てを監視、記録する為のスパイ装置だ。その昔、()()()()も捜査に使ってた。安心と安全の公安産だねえ…」

 

自嘲気味に肩を竦めるも、電話の向こうには伝わらないだろうに。彼の肩の上では猿のエイプリルが()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()を夕日に照らしながら弄んでいた。職場体験初日、電車の中で帝の鞄に潜り込んだエイプリルがこっそりすり替えた物だ。今彼女の手元にあるのは男の用意した普通のスマートフォンである。

猿の頭を撫でながら彼は言葉を続ける。

 

「もちろん、無力化したよ。お上への言い訳はこちらで適当に考えておくさ。

…そうだねえ、この手の機械を扱える権限のある者は公安内でも限られている。幾人か見当は付くが…まあ問い詰めてものらりくらり躱されるだけだし、決定的な証拠が出るまではなんともね。」

 

『……、……。』

 

「ハッハッハ、手厳しい。

しかしそれに関してはお互い様だろう?同じ穴の狢なんだ、仲良くしようじゃないか。

…信用できない?よく言われるよ!

まァなんだね、私の話に乗った時点で君の負けさ。精々最後まで一緒に踊りきって貰うよ。」

 

目標に向かって最速、最短は君の本懐だろう?

 

 

通話が切れたのか耳元からスマホを離しポケットに戻すと、男はエイプリルを呼び寄せた。弄んでいたスマートフォンを取り上げて一瞥した後、橋の手摺から滑らせるように眼下の川へ静かに落とす。

 

とぷん、と

 

重力に従って落下する鉄の塊はあっという間に川に沈み、薄暗い夕暮れ時も相まって見えなくなるのにさほど時間は掛からなかった。

 

それを確認した男は猿を方に乗せて歩き出す。

 

「臭い物には蓋を、疑わしきは罰せ。

連中、オールマイトにおんぶにだっこで慣れ過ぎだ。まったく、正義の味方が聞いて呆れるよ。

委員長にしても、どうもレディの一件で過敏になり過ぎてるな。」

 

 

あの娘に裏稼業は似合わんよ

 

 

 

笑顔を張り付けたまま、男は吐き捨てるように呟いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……ドクター

 

………ドクター?

 

ドクター

 

『…ほああああいっ!?

なんじゃ先生、ワシに何か用かの。』

 

「さっきからずぅっと呼んでたんだが、返事が無くて心配したんだ。

僕が呼んでも応えないなんて随分集中していたんだね。珍しいじゃないか。」

 

『あー…それはの。

ちと面白い動画を見つけたんじゃよ。先生も…ああいやスマン。

音だけでも聞いておくか?こればかりは先生も()()()じゃろて。』

 

 

 

 

あの日、オールマイトによって全てを失い、この身体になってからもう5年、個性で補いつつも未だに聴覚以外は不自由なままだ。その聴覚ですら骨伝導を個性で拡張したもので、完全ではない。まったく不自由な身体だよ。

ドクターにその映像とやらを転送してもらう。聞こえてくるのは何が燃える音、人間の悲鳴や消防士らしき男たちの怒号…恐らく火事なんだろう。

大して珍しくもないと思ったが、ドクターが魅入る程の何がこの音声の先にあるらしい。

 

次の瞬間、大砲が着弾したかのような轟音に続いてそれを掻き消すように轟く爆発音。

いや違う、これはなんだ?

咆哮のようでもあった、しかし地球上に存在するどの生物もこんな声は発せない。次点で候補として上げられるのは声帯を強化された何らかの個性保有者か、過去に声を爆弾のように炸裂させる個性持ちには会ったことがある。

しかしここまで…この身を芯から打ち震わせるような咆哮を発する個性持ちは嘗ていただろうか。

 

『聞こえたか先生。

此奴(こやつ)は…フフッ、〝龍〟じゃよ。』

 

「ほぉう?」

 

『是非実験用にサンプルが欲しいもんじゃ。

直感じゃがな、あの龍は世界をひっくり返す特大の厄ネタじゃぞぉ。

これは〝起源論〟の方も漁った方がいいかのう。楽しくなってきたわい!』

 

ドクターは随分楽しそうだ。

個性研究において僕が一目置く程の君が言うならそうなんだろうねえ、この目で見えないのが残念だ。早く治してくれよ。

 

『〝超再生〟を手に入れるのがあと5年早ければのぉ…治ってからでは意味の無い期待外れの個性だった。』

 

ま、仕方ないか。

 

 

しかし、龍ねぇ…

 

随分と面白そうじゃないか、弔の駒になりそうなら少し調べてみるのもまた一興…『おい、先生。』

 

ドクターと話しているのとはまた別のモニターから声が響く、そろそろ帰ってくる頃だと思っていたよ。

 

「やあ弔、ちゃんと見届けたかい?ヒーロー殺しは無事役目を果たしてくれた。後は君がどう利用するかだ。」

 

『そんな事は今いいんだよ、今は。

それより調べてくれ、雄英に居た赤目で金髪の女の事。』

 

なんだい、藪から棒に。

もしかして弔、その娘に気があるのかい?

良いよ良いよ、今度異性を堕とす調教のイロハを教えてあげよう。僕も若い時はそりゃもうブイブイいわしたもんさ。いや今も現役のつもりだけどね?

反抗的だった女を心身ともに屈服させ物欲しそうな目付きで僕の靴を舐める無様な姿を晒しているのを眺めるのは癖になる、得難い幸福さ。

 

『ちげーよ気持ち悪い、先生の昔話なんて興味無い。』

 

……しょぼん。

 

『龍になれるんだよ、そいつ。

脳無に殴られても平気な顔して起き上がって、容赦なく腕を掻っ切るようなバケモンだ。そんな奴がヒーロー目指してますなんておかしな話だろ?』

 

ふむ、君も〝龍〟に興味があるのか。

 

なら本格的に調べさせようか。

 

 

 

 

 

 

すべては君の為に、ね。




特に意味もない本作キャラ解説

緑谷出久
フルカウル習得、原作と変わらず。
女子に耐性のないクソナード。

轟焦凍
闇ろき君を無事卒業、帝の指導で炎の扱いが原作より上手くなった。
夜嵐の事は言われるまでマジで忘れてた模様

飯田天哉
心のしこりもなくなり、兄復活の可能性に歓喜する。インゲニウムの名はどうしようか本気で考えてる

飯田天晴
インゲニウム復活ッ!!インゲニウム復活ッ!!

破柘榴卯瑠々
モンハンの能力を持ってきたハズなのに気付いたら傷付いた神経すら修復するリカバリーガールの上位互換になってしまった。ち、ちゃんとナーフ(摘出した臓器は治せないし時間が経ちすぎてすでに治った傷は治せない)はしてるから…

主人公
お昼寝だいしゅき!隙あらば怠惰を貪る社会不適合者の素質がある


ベスジニ先生
餓鬼道に通ってるおかげで爆豪への態度が軟化、矯正方針も取り敢えず拘束してジーパン履かすのではなく同伴させ自分から「ヒーローとは何か?」に気付いてもらう方向にシフト。

爆発三太郎
まだ帝の事が気に入らない、本人と決着が付かなかったので同じ条件で不良共をのせば何か変わると思っている。まだ〝勝つ〟概念しか存在していない。
帝がやった個性の授業ってどんな事するんだろうね?(すっとぼけ)


ヒント:大連続狩猟



これで職場体験終わり!閉廷解散!やっと期末試験編Deathゾ


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