【悲報?】ウチの鎮守府に三下なセントーが来たってよ【朗報?】 (嵐山之鬼子(KCA))
しおりを挟む

【Phase01.“She”is Centaur】

  雲一つない晴天の下、気持ちの良い微風に煽られながら、6“隻”からなる“艦隊”が、海上を航行していた。

 ──いや、果たしてそれを“艦隊”と呼んでよいものなのだろうか。

 なぜなら、背後に白い航跡を残して海の上を進むその(シルエット)達は、明らかに人型、それも年若い(あるいは年端もいかない)女性の姿をしていたからだ。

 少女の姿をしながら船、それも軍艦としての能力を併せ持った存在──艦娘。

 とある事情から前世紀末に登場し、現在は世界各国でその存在を受け入れられた彼女達が、ここにいるということは……。

 

 「偵察機より入電! 2時の方向に敵影4確認。駆逐イ級3、軽巡ホ級1っス!!」

 他の5人に護衛されるかのように囲まれて進むひとり──鮮やかな金髪をなびかせた少女が、“敵”の姿を補足したことを仲間、そして無線機越しに司令官に報告する。

 『了解。艦載機による先制攻撃の後、輪形陣を保ったまま接敵、交戦せよ』

 無線から聞こえて来た司令官の指示は、ごく常識的(まっとう)で手堅いものだった。

 「了解っス! じゃあ、センパイ方、オレっちからいかせてもらうっスよ」

 極上の美少女と言って良いルックスの割に、なんだか奇妙なしゃべり方をする“彼女”は、左手に持ったメカニカルな印象の弓を引き絞り、矢を放つ動作をする。

 不可視の矢が放たれた……と見えた次の瞬間、空中にミニチュアサイズの飛行機(正確には艦上攻撃機)が複数現れ、“敵”がいると思しき方向へ向かって飛び立っていった。

 数分後、先制攻撃は無事に成功し、敵深海棲艦のうち、駆逐イ級は3隻とも轟沈、残る軽巡ホ級も大破状態だ……との連絡が届いた。

 攻撃機は“妖精”と通称される小さな知的存在が搭乗して操縦しており、パイロット妖精からのテレパシーのようなものを発艦元の艦娘は受信できるのだ。

 「残るはホ級だけみたいっス。このまま突入……でいいんスかね?」

 「こらこら、そこは自信もって言い切りなさいよ。今はアンタが旗艦なんだから」

 微妙に疑問形になった金髪少女に対して、青紫色の髪をサイドポニーの形に結わえた年少の少女がツッコミを入れる。

 「ぅぅ~正直、オレっちに旗艦(リーダー)なんて向いてないんでヤンスよ……」

 「年長者のクセに情けないこと言わないの!」

 金髪少女の外見が17、8歳くらいなのに対して、紫髪の子は12、3歳。その他の4人も似たような年齢で、確かにこの中なら彼女がまとめ役になるのが自然に見えた──が、本人は自信なさそうだ。

 「ぷっぷくぷぅ~! だいじょーぶ、センちゃんはさっきもちゃんと旗艦やれてたから、がんばるぴょん!」

 4人のひとり、紺色のセーラー服を着た赤毛の艦娘が金髪さんを励ます。

 「わ、わかったっス。卯月センパイに、そう言ってもらえるなら勇気100倍っス!」

 見た目小学6年生くらいのチビっ子たちに叱られたり、力づけられたりする女子高生のお姉さんという構図は、いかがなものだろうか。

 とは言え、まがりなりにもここは“戦場”だ。悠長なおしゃべりをしている暇はない。

 「敵・軽巡艦の射程範囲に入るまであと5秒です。各自、臨戦態勢に入るべきだと、不知火は進言します」

 旗艦の子以外では一番年かさに見える、ピンク髪の少女が警告を発し、他の子たちの顔つきも緊張を取り戻す。

 弱音を漏らしていた金髪娘も、しゃんと背筋を伸ばし、ややぎこちないながらも左手の弓を構えた。

 「センパイがたと一緒なら、オレっちも頑張るっス!!」

 

 ──もっとも、残敵は大破状態のホ級が1隻なのに対して、こちらは無傷の艦娘が6人、しかもそれなりの練度に達した駆逐艦5に加えて、新米とは言えフル装備の軽空母がいるのだ。

 仮に相手がeliteクラスであっても、そうそう負けることはないだろう。

 実際、会敵後の戦闘は、紫髪娘・曙と赤毛娘・卯月の主砲の一斉射でアッサリとホ級が沈み、即座に終了となった。

 

 「敵・軽巡の撃沈を確認。セントーさん?」

 焦茶色の髪をポニーテイルに結ったおとなしそうな子──綾波から物問いだけな視線を向けられて、一瞬はてな顔になった金髪少女だったが、すぐに自らの旗艦としての役割を思い出す。

 

 「あ! も、申し訳ないっス。えーと……パイセン、無事に敵艦隊を撃破できたっスけど、どうしやしょう?」

 『まだ余力はありそうだが……ま、初実戦にしては上出来か。臨時第二船隊、帰投せよ! それから、せめて作戦中だけでも“提督”と呼ぶように』

 無線の向こうから聞こえてくる声は、呆れ半分苦笑半分といったところか。

 「あぁっ、申し訳ありやせん!」

 音声無線なので向こうから見えないとわかっているはずなのに、旗艦の子はペコペコ頭を下げている。

 

 臨時とは言え、いささか頼りない旗艦(リーダー)の姿に、曙と不知火は溜息を飲み込み、卯月と綾波は生温かい視線を送り、残るひとりは……。

 「…眠い。早く、帰りたい」

 相変わらずの初雪クォリティだった。

 

  * * * 

 

 “深海事変”が起こり、深海棲艦(それ)に対する最高のアンチユニットととしての艦娘が登場した直後、人間社会においては主にふたつの派閥が覇を競い合っていた。

 あえて平易な言い方をすると、ひとつは「艦娘は兵器だよ」派、もうひとつは「艦娘だって人間だもんげ」派、だ。

 このふたつは激しく対立し、血みどろの抗争を繰り広げる……ことは(少なくとも日本では)なく、それなりに互いを尊重しつつ、歩み寄りを模索していた。

 というのも、どちらの派閥も相手の言うことにも一理あることは認めており、それを踏まえたうえで、現実に即したのは自分達側の主張であると考えていたからだ。

 艦娘を完全に人間と同じ存在と認めることは難しいが、同時に単なる物品扱いすることも妥当ではない。多少なりとも道理のわかる人間なら、そこまでは誰でも思いつく話なのだ。

 

 そこで、日本政府が打ち出した施策は、「艦娘は人ではないが人に準じる存在で、戦時中は一部制限されるものの、基本的人権があることを認める」というものだった。

 そう、「人ではない者」に「人と同様の権利」を認めることを是としたのだ。

 八百万の神への信仰や付喪神という考え方が、未だ完全に廃れずに残っている日本という国だからこその結論かもしれない。

 結果的に言えば、政府のこの方針は、世論の大多数の賛成をもって受け入れられ、「海の妖しと戦う勇敢なる乙女と、それを全面的にバックアップする海軍」という形で、日本は“深海事変”に立ち向かうこととなる。

 後知恵の理屈になるが、他国と比べた限りでは、結局この形が軍人・艦娘両方の被害をもっとも少なくしつつ、人類側を勝利へと導く最適解だったのだろう。そのことは他国も理解し、多くの国もこの制度に倣うことで一定以上の戦果を得るようになっていく。

 

 ともあれ、2004年に世界規模で実施された第二次深海大戦──通称“大反攻”の結果、主要20ヵ国において「領海内の一定の安全が確保された」として、2005年初頭に戦時体制が解除された。

 もっともあくまで“一定の安全”であり、そらにそう断言できるのは前述の20ヵ国(いくつか怪しい国もあるが)だけなので、「世界的に平和が訪れた」とはとうてい言い難い状況なのだが。

 地球面積の7割を占める大海原のうち、どこの国にも属さない公海(排他的経済水域も含む)には、まだまだ深海棲艦の残党……というにはかなり大きな勢力が残っており、公海域のみならず各国領海にも「そんなの知らん」とばかりに散発的に侵入し、人類側の船舶や艦娘、時には沿岸に攻撃を仕掛けてくる。

 故に現在の(最盛時に比べるとおおよそ3分の1程度に人員削減された)艦娘&その提督たちの使命は、「1に沿岸、2に輸送航路、3・4がなくて5に領海内の安全と平和を守ること」だったりするのだ。

 

 “深海事変”中に比べれば格段に殉職率は減ったものの、それでも0ではなく、入渠すれば直るとはいえ負傷/損傷率も決して低くはない。

 さらに、提督や艦娘になれる人材そのものが希少で、給与その他でそれなりに好待遇を用意しているにも関わらず慢性的に人材不足に悩まされるのが、日本海軍の宿痾とも言えた。

 そして皮肉なことに、「全人口中の艦娘になれる人間の比率」がもっとも高いのも、また日本だったりするのだ(と言っても、10代前半~20代半ばの女性の1%あまりに過ぎないが)。

 

 ま、要するに、何が言いたいかと言えば、だ。

 「我々は、キミの着任を歓迎するってこった──たとえ、少々その素性が怪しくてもな」

 この舞鶴鎮守府で「提督」なんて因果な職業(しょうばい)やってる俺は、目の前の“コスプレまがいな武装(カッコ)した少女”に向かって、ニカッと笑って見せる。

 

 見事な金髪碧眼かつ「シ●イニング」シリーズあたりのファンタジーゲームに出てきそうな服装で、あまつさえ“笹の葉みたいな長い耳”をピコピコさせた、「おまえ、どっから見てもエルフだろ!?」というルックスの人間離れした美少女(ただし、手にした弓は妙にメカニカルだが)は、ちょっと戸惑ったような表情で、こう聞いてきた。

 

 「ぅえ!? い、いいんスか? そりゃ、オレっちとしては、放り出されても行き場がないんで、助かりやすが……」

 

 ──なまじ『ラブラ●ブ』の南こ●りっぽい可憐なスイートボイスだけに、三下めいたしゃべり方との違和感が激しいが、「事情を理解している身としては」、ここはスルーしてあげよう。

 

 「ああ、構わん。ようこそ、舞鶴鎮守府、そして我が上喜艦隊へ。ウチの艦隊に軽空母の着任は、まだふたり目だから、お世辞抜きで助かるよ」

 「! こ、こちらこそ、よろしくっス!!」

 

 俺が差し出した右手を恐る恐る握り、やがて安堵したのか一転明るい表情になって上下に激しくシェイクしてくる。

 右手の動きに伴って、その(ラノベというよりエロゲちっくに)豊かな胸の膨らみがぽよぽよと激しく揺れる様は、眼福と言えなくもないが、一応は上司になる身としては、その……反応に困る。

 

 「あー、コホン! その、“事情”は知ってるから無理ないとは思うが、“今のキミ”は女の子だから動作とか仕草は多少なりとも気にするようにな」

 「? よくわかんないけど、了解っス!」

 

 アカン。これ、全然わかってないヤツや。

 (ちょーっと早まったかなぁ。でも、せっかく巡り合えた“同郷人”を放り出して軍のモルモットにするのも気が引けるしなぁ)

 これから背負うことになるだろう気苦労を予想して心の中で溜息をつきつつ、俺は“彼女”──かつてイギリス海軍に存在した空母“セントー”の名前を冠した艦娘を部下たちに紹介するため、司令室を出た。

 もっとも、厳密にはこの子は「艦娘」じゃない。本来、ここ『艦隊これくしょん』の世界ではなく、別のゲーム『アズールレーン』の世界で“ロイヤル”と呼ばれる英国を模した陣営に生まれ落ちるはずの存在だったりするんだが。

 

 ああ、今の言い方で予想はつくかもしれないが、俺自身もある意味“同類”だ。俺、上喜 仁(かみき・じん)中佐もまた、“現実”から“艦これの世界”へとやって来た転生者(?)なのだ。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

【Phase02.I'm Your Admiral】

 ニッチな単語だが、一部サブカル業界に「あさおん」なる言葉がある。これは、「朝起きてみたら女になっていた」の略で、そこから始まる悲喜劇(もしくはエロい煩悩まみれなアレコレ)を描写することで一定の支持層を得ているネタだ。

 

 それになぞらえて言うなら、俺こと上喜仁《かみき・じん》の場合は「あさかん」──「朝起きたら、艦これ世界で提督になっていた」とでも表現すべきか。

 厳密に言うと、大学からの帰路、電車の中で座ってついウトウトした……かと思ったら、次に目が覚めた時は、舞鶴駅から鎮守府に向かうタクシーに乗っていて、運転手さんに「少佐さん、着きましたよ」と起こされたところだったんだが。

 

 普段はあまり動揺を表に出さない(出さないだけで、結構テンパったりはしてるんだが)ことに定評がある俺も、さすがに慌てたね。

 ただ、実際に目の前に海軍基地らしき建物があり、さらに遠目とは言え複数の女の子が“水上”をスケートのように“航行”しているのも見えたこと、そして自分自身もいつの間にか白い海軍第二種軍装らしき制服を着ていたことで、さすがにドッキリとかそういう類ではないことは理解できた。

 幸か不幸かネットでこういう「●●入り」と言われる、現実からフィクション世界へと転移(?)するタイプのSSも読んだことはあったので、(半信半疑ではあるが)自分もそのテのハプニングに巻き込まれたのでは……という想像もついた。

 

 (ここで変に騒ぎ立てても良いことないだろう。激流に身を任せてこそ浮かぶ瀬もあれとも言うし……ん? 何か違うけど、まぁいいや)

 そういう打算も働いたので、俺は何食わぬ顔をしてそのまま基地の中心部に足を運び、基地の総司令である乃木大将と着任の挨拶をした後、「新任提督の上喜少佐」としてこの横須賀鎮守府で提督稼業を始めることになった。

 俺みたいなイレギュラーが紛れ込んで大丈夫か、とも思ったんだが、手にした革の鞄には、ここに赴任しろという旨の辞令が入っていたし、総司令も先任にあたる4人の提督たちも、俺が新たな提督として着任することは当然のこととして理解しているようだった。

 

 実はそれから2年経った今でも、あの日いきなり「舞鎮に着任する提督・上喜少佐」という立場が突然この世界にポップしたのか、それとも同様の立場にいたはずの同姓同名の誰かさんに憑依したのか、判明していない。

 身長や顔立ちその他は、確かに俺自身のモノだと思うんだが、どちらかと言うとインドア派で、大学に入って以来はロクに運動なんてしてないはずの俺にしては、随分と体が鍛えられてるんだよなぁ。

 一応高校時代は弓道部だったけど、アレもあまり激しいスポーツじゃないし、そもそも体格や身体能力が恵まれてる方じゃなかったし。

 

 ともあれ、いきなり始まった艦これ世界ライフだったけど、総司令を始め良き先達に恵まれたのと、戦況が比較的落ち着いていたこともあって、軍事のぐの字もロクにしらないような俺でもなんとか無事に提督稼業を続けてこれた。

 配下の艦娘もそこそこ増えて、そろそろ20人に届くだろう。意外にも俺の提督としての適性は、それなりに高いモノらしい。

 ゲームとしての『艦これ』の知識があったこともあってか、新米提督にしては艦娘指揮や作戦に関してもそこそこの良好な結果を得ることができた。

 そのおかげで、つい先日、中佐に昇進させてもらえたのはうれしかったなぁ。いや、別に高い地位が欲しいわけじゃないけど、やっぱり頑張りを目に見える形で評価してもらえるのってモチベ上がるじゃん?

 

 そんな感じで浮かれていたせいだろうか──いつもなら即座に却下したであろう明石の提案に、うっかりGOサインを出してしまったのは……。

 

  * * * 

 

 「明石さ~ん! 久しぶりに建造したいんだけど、ドックの方、今空いてる?」

 舞鎮で未だ一番若手の提督である上喜中佐は、それだけに立場も一番低い──と、本人は思い込んでいる。

 実際のところは、引き分けや撤退はいくつかあったとは言え事実上ほぼ無敗で、配下の艦娘をひとりも轟沈させない賢明かつ慎重な采配から、将兵・艦娘を問わず彼は一目置かれているのだが。知らぬは本人ばかりなりというヤツだ。

 もっとも、上喜は結構調子に乗りやすい性格(タチ)なので、下手に高評価されてると伝えない方が本人のためかもしれないが……。

 

 「は、はい、上喜提督。幸い今日は他の建造の予定は入っていません、よ」

 工廠の主たる工作艦娘・明石が、ちょっとオドオドした雰囲気を漂わせているのは、別段、上喜が乱暴だとか日頃から無理難題をフッかけてるからというわけではない。

 同じ艦型の艦娘は、外見や言動・性格が似通ったものになるのが常だが、時折、その枠に収まらない“個性的”な艦娘も現れる。

 舞鎮(ここ)の工廠所属の明石は、気さくでフレンドリーな性格の大半の明石と異なり、少々内気で小動物ちっくな気性の持ち主なのだ。

 もっとも、ヒキ・コ、ニートス、パジャマーンの三邪神に魂を捧げていそうな某吹雪型3番艦と異なり、ちゃんと勤労意欲はあるし、明石共通の「機械弄りが好き」という性向はしっかり備えている。単に、ちょっとコミュニケーションが苦手なだけなのだ……たぶん。

 

 それはさておき、ここ舞鶴鎮守府の工廠には、艦娘用基本艤装を作成できる建造ドックが5基設置されており、理論上は同時に5隻分作ることが可能となっている。

 ただ、「建造ドックは同時に複数稼働させると、そこで働く妖精さんたちの調子(コンディション)が下がり、レアな艤装が出来づらくなる」という俗説も提督たちの間では半ば公然と囁かれており、5基同時に稼働していることは滅多にないのだが。

 

 そもそも、ゲームの『艦これ』とは異なり、この世界に於いて艦娘(より正確には艦娘用の基本艤装)を建造するというのは、何気に難度が高い。

 基本艤装の中核(コア)たる“開発資材”は、非売品──大本営からの功績依存の支給品だ。ゲームのようにポンポン手に入らず、かなり積極的に上からの委託任務を遂行している提督でも、年間に2、3個入手できればよいほうだろう。

 ゲームで言う“艦娘(この世界では基本艤装)ドロップ率”もシブいが、それでも10回の出撃で1個くらいは手に入るのだから、遥かにマシだろう。

 

 さらに言えば、仮に基本艤装を手に入れても、その時の艦娘志願者の中に適合する者がいなければ、実際に艦娘として着任するまで長い時間待たされたりもする。

 2018年現在、日本海軍に所属する提督資格者は127人(予備役は除く)。実際に鎮守府や泊地に着任して提督として艦娘を指揮しているのは、そのうちの7割にあたる85人。

 それに対して、現役の艦娘はおおよそ1000人前後。艦娘の“艦娘としての寿命”が10年程度であることを鑑みても随分と少ない数だが、それだけ艦娘というのは(一般的な華やかなイメージと異なり)志願者(なりて)が少ない仕事でもあるのだ。

 

 それだけに配下となる艦娘の確保にはどの提督も熱心であり、かつて──“大反攻”終結以前の激戦期ならともかく、現在の日本に於いては俗に言う「ブラック鎮守府」は皆無に等しい。

 公務員なので、給料自体は(軍人としての危険手当的な割り増しはあるが)極端に高価にできないため、職場や寮の環境その他の快適度を少しでも上げて、なり手を誘致しようとするからだ。

 

 そして、それだけ心を砕いても、望む艦娘が望むだけ部下()に入るとは限らないのが、提督稼業の世知辛いところだった。

 

 閑話休題。

 そんな状況下でも、若手ながら四大鎮守府のひとつ、舞鶴鎮守府に所属する上喜提督は、比較的恵まれた立場にある。

 あるのだが……この提督、もとが“別世界(げんじつ)”からの転生者であるためか、配下の艦娘が少なかった最初の頃はともかく、それなりの数と熟練度が揃った現在は、建造時に少なからぬ茶目気(あそびごころ)を出す悪癖があった。

 

 「久々に建造に手を出すわけだけど、今日はぜひ明石さんに空母(の基本艤装)を作り上げていただきたい!」

 現在、上喜提督指揮下の航空戦力は軽空母の鳳翔と正規空母の赤城の2名のみ。つい先日、水上機母艦の千歳が配下に加わったが、彼女が軽空母に改装されるまでは、まだ少し時間がかかるだろう。

 

 「い、いえ、その、“建造”するのはあくまで、工廠にいる妖精さんたちでして、わ、私はあくまで必要資材を渡して見守るだけなので……」

 そこまでは上喜も予想していた通りの明石の台詞だったが、意外にもその続きがあった。

 「……ですが、上喜提督、少し気になるモノがありまして」

 明石が背後の棚から取り出し、工作台の上に置いたのは、掌に乗るくらいの大きさの透明な水色の立方体だった。

 明石いわく、少なくとも彼女が入れた覚えがないのに、いつの間にか棚に入っていたらしい。

 

 「? なんだ、こりゃ」

 首を傾げて立方体を摘み上げ、間近で見つめる上喜だったが、なぜか“ソレ”に見覚えがある──ような気がした。

 (あれ、どこだっけかで目にしたような記憶があるんだが……)

 

 「その……不可解なんですけど、なぜかコレが「建造時に役立つものだ」という確信めいたモノが心の中に居座ってまして」

 万事控えめな此処の明石が、わざわざそう訴えかけてくるくらいだ。そうとう強く感じているのだろう。

 よく見れば、彼女の周囲にいる工廠の妖精さんたちも興味津々で、その水色の物体を注視している。

 

 彼女たちだけではなく、上喜提督自身も、なにがしかの因縁めいたモノをその立方体から感じ取っているのは事実だった。

 「よし、ヤっちゃっていいよ。俺が責任持つ。“開発資材の代りにソレを使って”1隻作っちゃえ」

 そう意識した瞬間、上喜の口から自然にその言葉がこぼれていた。

 

 それが、前代未聞のとんでもない事態を引き起こすとは、神ならぬその身では想像もできなかった……とは、のちの上喜提督の弁明(いいわけ)だが、彼の上司はともかく、同僚や部下の大半が「嘘っぽい」と疑いの目で見ている。

 戦時の指揮官としての上喜はともかく、平常時の彼は、よく言えば「好奇心旺盛でユーモア精神にあふれた」、言葉を飾らずに言うと「年齢の割に子供っぽく悪戯好きな」性格をしていたからだ。

 

 とは言え、実際にそのあとに起こる“事態”の内容を彼が把握していたら、さすがに自重していただろう──きっと、たぶん、おそらく、めいびー。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

【Phase03.Welcome to Our Fleet Base】

 「は、はいッ、では早速!」

 手際よく4種の資材を(若干ボーキサイト多めに)用意して、その立方体(キューブ)と共に建造ドックに放り込む明石。

 多少性格が違うとは言え、この明石もやはり工作艦のはしくれ。こういう実験めいた行為に好奇心が刺激されるのだろう。

 

 見た目は昔懐かしい蒸気機関車の火室そっくりな建造ドックの蓋が閉められ、その外側に妖精さんが群がって掌をかざしてなにやら“力”(魔力? 霊力?)を注ぎ込んでいる。

 

 「完成までの時間は──3時間か。飛鷹型だな。いいじゃないか!」

 建造ドックの側面のメーターに表示された6桁の数字を読み取り、上喜は目を輝かせた。

 

 飛鷹型は軽空母だが、飛行機搭載数が正規空母並に多く、その割に燃費がいいので、使い勝手の良い艦娘だ。

 一番艦(あね)の飛鷹はちょっと気が強めだが大和撫子な優等生、二番艦(いもうと)の隼鷹は多少(?)酒癖が悪いが基本的には陽気で気っぷのいい姐御肌と、性格的な面でも頼りにできる。

 二航戦や五航戦の正規空母たちに比べると、艤装への適合者も比較的多いので、あまり着任まで待たされないだろうというのも地味に嬉しいところだ。

 

 「えっと、高速建造材、使われます?」

 「うーん、そうだなぁ……よし、折角だし使おう!」

 そもそも滅多に建造しないので、高速建造材自体もてあまし気味なのだ。

 明石の質問にYESで答えてGOサインを出すと、心得たとばかりに工廠妖精さんのリーダーらしき1体がニヤリと笑ってサムズアップした。

 彼女(?)が「ポチッとな」と言わんばかりの大げさなアクションで、建造ドックの外側についているボタンを押すと、中から聞こえてくる何かを燃やすようなゴーゴーという音がひと際大きくなり、ほどなくひとりでに建造ドックの蓋が開いた。

 

 そこまでは、ある意味、“いつもの”建造風景だったのだが……。

 

 「ぅわちゃちゃちゃーーーーっ! 熱っ! てか、暗いし狭いし息苦しいッ! なんなんスか、いったい!?」

 蓋が開いた途端、中から女の子の声が聞こえてきたのだ。

 

 繰り返すが、この世界に於いて艦娘とは、適性のある人間が、艤装適合処置(しゅじゅつ)を受けた上で、基本艤装を装備することで後天的に“なる”ものだ。

 中には、数百万人にひとりくらいの確率で、その“処置”を受けなくても生まれつき艤装を纏って戦えるようになる稀有な素質を持った人もいるが、それだって本人とは別に「主機関と駆動機」からなる基本艤装を用意しないといけない事に変わりはない。

 当然、建造とはその基本艤装“だけ”を作り出すことを意味し、ゲームの『艦これ』の如く、艤装と艦娘がセットで生み出されたりはしないのだ。

 

 そう、そのはずなのに……。

 

 「ふぅ~、ヒデェめにあったっス」

 細長い金属製の建造ドックの中から、17、8歳くらいに見える少女がよろよろと這い出てくるのは、いささか衝撃的な光景だった。

 

  * * * 

 

 「あれ? ここはどこっスか? んんっ、それになんかオレっちの声も妙に甲高いような……って、え? お、オレっちの胸にオッパイが!?」

 そこまで聞いた瞬間、俺の脳裏に電流の如く天啓が奔り、気が付けば俺は“少女”をお姫様だっこの体勢で抱え上げて、工廠から一目散に逃げだしていた。

 

 「ぅわっ、な、何するんス! そもそも、アンタ、誰っスか?」

 抗議の声を聞き流しつつ、人気のない鎮守府の裏庭まで来たところで、“彼女”を地面に下ろす。

 

 「すまない。だが、これから話すことは、あまり他の人間に聞かれたくない内容なんで、少々手荒な真似をさせてもらった」

 素直に頭を下げて謝ったおかげか、どうやら“少女”も少しだけ落ち着いたようだ。

 「は、はぁ、そういうコトなら仕方ないっス。それで、何を話してくれるんスか?」

 

 「その前に自己紹介しておこう。俺の名前は上喜 仁。海軍に所属する中佐で、この舞鶴鎮守府で提督をやっている」

 「あぁ、確かに軍服着てるっスね……あれ? でも今の日本では海軍じゃなくて海上自衛隊って言うはずっスよ。それに舞鶴の鎮守府も戦後廃止されて倉庫とか博物館とかになってるはずじゃあ」

 「ほぅ、詳しいね」

 「去年、高校の修学旅行でちょうどあの辺を廻ったんスよ……って、まさか、オレっち、過去の鎮守府にタイムスリップしたんスか!? あ、もしかして、『君●名は』みたく、過去の女の子に憑依?」

 とっさにそういう発想が出てくるあたり、わりとサブカル関連の素養があるのかもしれない。

 

 「残念ながらハズレだ。ある意味、タイムスリップと同等のトンデモないハプニングが起こったのは確かだが」

 思わせぶりに言葉を切った俺の顔を見つめて、ゴクリと唾を飲み込む“少女”。

 「な、なんスか。聞かせて欲しいっス」

 「うむ。その前に聞くが、キミは艦これ──『艦隊これくしょん』というゲームを知ってるかい?」

 「えーと、プレイはしてないスけど、名前と概要くらいは。あと、夜中にテレビでやってたアニメは大体観たっスよ」

 ラッキーだ。それなら説明の何割かがスッ飛ばせる。

 

 「信じ難い話だということを百も承知の上で、単刀直入に言うとだ──ここはその『艦隊これくしょん』そっくりな世界なんだよ!」

 「な……なんだってーー!!(Ω ΩΩ」

 うん、打てば響くようなこの反応は、やはりアチラのヲタ文化(カル)を知ってる者ならではの反応だなー。

 

 「ま、M●Rネタはさておき、ガチで『艦これ』に近いってのは確かだからな。少なくとも、深海棲艦はいるし、それに対するための艦娘が鎮守府の元で組織化されている」

 それまでのフレンドリーな表情から、(意図的に)いくぶん真面目な顔になって“彼女”にそう告げると、少なくとも嘘や冗談は言っていないことは伝わったのか、相手の瞳に怯えの色が浮かんだ。

 

 「なんてこったい……深海棲艦つったら、アレっスよね。海から攻めて来る正体不明のヤバいヤツ」

 すごく抽象的だが、言わんとすることは、まぁわかる。

 「うわ~……マジか~」

 「うん。マジもマジ、大真剣(おおまじ)だ」

 俺の肯定の言葉を聞いて、“彼女”はガックリとうなだれる──のだが、もうひとつ落胆させるようなコトを言わんといかんのだよなぁ。

 

 「それで、だ。自分でも薄々気が付いてはいるみたいだが、キミの姿も、この世界に合わせて(?)変わってる」

 「あ~、そっスね。このパイオツとか、どう見たって作りモンじゃない天然モンっスもんね」

 自らの乳房を掌で持ちあげるようにモニュモニュと揉みなが、“彼女”は溜息をついた。

 「アレっスか。たぶん、今のオレっちって、艦娘の姿になってるんスよね」

 驚き過ぎて逆に冷静になったのか、「金髪で巨乳だから、もしかしてアニメで観た愛宕(パンパカ)さんかな」などと推測している“彼女”には悪いが、残念ながら愛宕じゃない。

 

 ──というか、俺の見立てが正しければ、そもそも“厳密に言えば「艦娘」ですらない”んだよ。

 

 先程の落ち込みから早くも回復して、その場でピョンピョン飛び跳ねながら「お~、巨乳のねーちゃんって、ホントにバインバインって感じで揺れるんスね」と、のんきなコトを抜かしている“彼女”(言動からしてたぶん中身は“彼”)に、俺は意を決して重大な“事実”を教えることにした。

 

 「外見と手にした機械弓(?)からの推測になるが──おそらく、キミの今の姿は軽空母娘のセントーだろう。イギリスが大戦終了直前に建造を開始し、実際に進水したのは戦後しばらく経ってからだった“セントー級航空母艦HMSセントー”がモチーフになってるはずだ」

 「あ、海外艦ってヤツっスね。『艦これ』やってるダチから、海外艦はかなりレア物だって聞いた記憶があるっスよ!」

 ちょっとうれしそうなのは「どうせなるなら、やっぱり十把ひとからげのコモンより、レアで強力な艦娘の方がいい」という心境なのだろう。

 

 「そうだな。確かに海外艦娘は他の国産艦娘と比べてどれも比較的入手難度が高い──が、それはさておき。

 キミは多分“セントー”ではあるのだろうが、同時におそらく“艦娘”ではない」

 「…………は?」

 落ち着きのない“彼女”の動きがピタリと止まった。

 

 「もったいぶっても仕方ないな。結論から言おう。

 その姿は、『艦これ』ではなく、同様の軍艦萌え擬人化ゲーム『アズールレーン』に登場する艦船少女(KAN-SEN)のひとりだと思う」



目次 感想へのリンク しおりを挟む




評価する
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10についてはそれぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に
評価する際のガイドライン
に違反していないか確認して下さい。