【悲報?】ウチの鎮守府に三下なセントーが来たってよ【朗報?】 (嵐山之鬼子(KCA))
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【Phase01.“She”is Centaur】

  雲一つない晴天の下、気持ちの良い微風に煽られながら、6“隻”からなる“艦隊”が、海上を航行していた。

 ──いや、果たしてそれを“艦隊”と呼んでよいものなのだろうか。

 なぜなら、背後に白い航跡を残して海の上を進むその(シルエット)達は、明らかに人型、それも年若い(あるいは年端もいかない)女性の姿をしていたからだ。

 少女の姿をしながら船、それも軍艦としての能力を併せ持った存在──艦娘。

 とある事情から前世紀末に登場し、現在は世界各国でその存在を受け入れられた彼女達が、ここにいるということは……。

 

 「偵察機より入電! 2時の方向に敵影4確認。駆逐イ級3、軽巡ホ級1っス!!」

 他の5人に護衛されるかのように囲まれて進むひとり──鮮やかな金髪をなびかせた少女が、“敵”の姿を補足したことを仲間、そして無線機越しに司令官に報告する。

 『了解。艦載機による先制攻撃の後、輪形陣を保ったまま接敵、交戦せよ』

 無線から聞こえて来た司令官の指示は、ごく常識的(まっとう)で手堅いものだった。

 「了解っス! じゃあ、センパイ方、オレっちからいかせてもらうっスよ」

 極上の美少女と言って良いルックスの割に、なんだか奇妙なしゃべり方をする“彼女”は、左手に持ったメカニカルな印象の弓を引き絞り、矢を放つ動作をする。

 不可視の矢が放たれた……と見えた次の瞬間、空中にミニチュアサイズの飛行機(正確には艦上攻撃機)が複数現れ、“敵”がいると思しき方向へ向かって飛び立っていった。

 数分後、先制攻撃は無事に成功し、敵深海棲艦のうち、駆逐イ級は3隻とも轟沈、残る軽巡ホ級も大破状態だ……との連絡が届いた。

 攻撃機は“妖精”と通称される小さな知的存在が搭乗して操縦しており、パイロット妖精からのテレパシーのようなものを発艦元の艦娘は受信できるのだ。

 「残るはホ級だけみたいっス。このまま突入……でいいんスかね?」

 「こらこら、そこは自信もって言い切りなさいよ。今はアンタが旗艦なんだから」

 微妙に疑問形になった金髪少女に対して、青紫色の髪をサイドポニーの形に結わえた年少の少女がツッコミを入れる。

 「ぅぅ~正直、オレっちに旗艦(リーダー)なんて向いてないんでヤンスよ……」

 「年長者のクセに情けないこと言わないの!」

 金髪少女の外見が17、8歳くらいなのに対して、紫髪の子は12、3歳。その他の4人も似たような年齢で、確かにこの中なら彼女がまとめ役になるのが自然に見えた──が、本人は自信なさそうだ。

 「ぷっぷくぷぅ~! だいじょーぶ、センちゃんはさっきもちゃんと旗艦やれてたから、がんばるぴょん!」

 4人のひとり、紺色のセーラー服を着た赤毛の艦娘が金髪さんを励ます。

 「わ、わかったっス。卯月センパイに、そう言ってもらえるなら勇気100倍っス!」

 見た目小学6年生くらいのチビっ子たちに叱られたり、力づけられたりする女子高生のお姉さんという構図は、いかがなものだろうか。

 とは言え、まがりなりにもここは“戦場”だ。悠長なおしゃべりをしている暇はない。

 「敵・軽巡艦の射程範囲に入るまであと5秒です。各自、臨戦態勢に入るべきだと、不知火は進言します」

 旗艦の子以外では一番年かさに見える、ピンク髪の少女が警告を発し、他の子たちの顔つきも緊張を取り戻す。

 弱音を漏らしていた金髪娘も、しゃんと背筋を伸ばし、ややぎこちないながらも左手の弓を構えた。

 「センパイがたと一緒なら、オレっちも頑張るっス!!」

 

 ──もっとも、残敵は大破状態のホ級が1隻なのに対して、こちらは無傷の艦娘が6人、しかもそれなりの練度に達した駆逐艦5に加えて、新米とは言えフル装備の軽空母がいるのだ。

 仮に相手がeliteクラスであっても、そうそう負けることはないだろう。

 実際、会敵後の戦闘は、紫髪娘・曙と赤毛娘・卯月の主砲の一斉射でアッサリとホ級が沈み、即座に終了となった。

 

 「敵・軽巡の撃沈を確認。セントーさん?」

 焦茶色の髪をポニーテイルに結ったおとなしそうな子──綾波から物問いだけな視線を向けられて、一瞬はてな顔になった金髪少女だったが、すぐに自らの旗艦としての役割を思い出す。

 

 「あ! も、申し訳ないっス。えーと……パイセン、無事に敵艦隊を撃破できたっスけど、どうしやしょう?」

 『まだ余力はありそうだが……ま、初実戦にしては上出来か。臨時第二船隊、帰投せよ! それから、せめて作戦中だけでも“提督”と呼ぶように』

 無線の向こうから聞こえてくる声は、呆れ半分苦笑半分といったところか。

 「あぁっ、申し訳ありやせん!」

 音声無線なので向こうから見えないとわかっているはずなのに、旗艦の子はペコペコ頭を下げている。

 

 臨時とは言え、いささか頼りない旗艦(リーダー)の姿に、曙と不知火は溜息を飲み込み、卯月と綾波は生温かい視線を送り、残るひとりは……。

 「…眠い。早く、帰りたい」

 相変わらずの初雪クォリティだった。

 

  * * * 

 

 “深海事変”が起こり、深海棲艦(それ)に対する最高のアンチユニットととしての艦娘が登場した直後、人間社会においては主にふたつの派閥が覇を競い合っていた。

 あえて平易な言い方をすると、ひとつは「艦娘は兵器だよ」派、もうひとつは「艦娘だって人間だもんげ」派、だ。

 このふたつは激しく対立し、血みどろの抗争を繰り広げる……ことは(少なくとも日本では)なく、それなりに互いを尊重しつつ、歩み寄りを模索していた。

 というのも、どちらの派閥も相手の言うことにも一理あることは認めており、それを踏まえたうえで、現実に即したのは自分達側の主張であると考えていたからだ。

 艦娘を完全に人間と同じ存在と認めることは難しいが、同時に単なる物品扱いすることも妥当ではない。多少なりとも道理のわかる人間なら、そこまでは誰でも思いつく話なのだ。

 

 そこで、日本政府が打ち出した施策は、「艦娘は人ではないが人に準じる存在で、戦時中は一部制限されるものの、基本的人権があることを認める」というものだった。

 そう、「人ではない者」に「人と同様の権利」を認めることを是としたのだ。

 八百万の神への信仰や付喪神という考え方が、未だ完全に廃れずに残っている日本という国だからこその結論かもしれない。

 結果的に言えば、政府のこの方針は、世論の大多数の賛成をもって受け入れられ、「海の妖しと戦う勇敢なる乙女と、それを全面的にバックアップする海軍」という形で、日本は“深海事変”に立ち向かうこととなる。

 後知恵の理屈になるが、他国と比べた限りでは、結局この形が軍人・艦娘両方の被害をもっとも少なくしつつ、人類側を勝利へと導く最適解だったのだろう。そのことは他国も理解し、多くの国もこの制度に倣うことで一定以上の戦果を得るようになっていく。

 

 ともあれ、2004年に世界規模で実施された第二次深海大戦──通称“大反攻”の結果、主要20ヵ国において「領海内の一定の安全が確保された」として、2005年初頭に戦時体制が解除された。

 もっともあくまで“一定の安全”であり、そらにそう断言できるのは前述の20ヵ国(いくつか怪しい国もあるが)だけなので、「世界的に平和が訪れた」とはとうてい言い難い状況なのだが。

 地球面積の7割を占める大海原のうち、どこの国にも属さない公海(排他的経済水域も含む)には、まだまだ深海棲艦の残党……というにはかなり大きな勢力が残っており、公海域のみならず各国領海にも「そんなの知らん」とばかりに散発的に侵入し、人類側の船舶や艦娘、時には沿岸に攻撃を仕掛けてくる。

 故に現在の(最盛時に比べるとおおよそ3分の1程度に人員削減された)艦娘&その提督たちの使命は、「1に沿岸、2に輸送航路、3・4がなくて5に領海内の安全と平和を守ること」だったりするのだ。

 

 “深海事変”中に比べれば格段に殉職率は減ったものの、それでも0ではなく、入渠すれば直るとはいえ負傷/損傷率も決して低くはない。

 さらに、提督や艦娘になれる人材そのものが希少で、給与その他でそれなりに好待遇を用意しているにも関わらず慢性的に人材不足に悩まされるのが、日本海軍の宿痾とも言えた。

 そして皮肉なことに、「全人口中の艦娘になれる人間の比率」がもっとも高いのも、また日本だったりするのだ(と言っても、10代前半~20代半ばの女性の1%あまりに過ぎないが)。

 

 ま、要するに、何が言いたいかと言えば、だ。

 「我々は、キミの着任を歓迎するってこった──たとえ、少々その素性が怪しくてもな」

 この舞鶴鎮守府で「提督」なんて因果な職業(しょうばい)やってる俺は、目の前の“コスプレまがいな武装(カッコ)した少女”に向かって、ニカッと笑って見せる。

 

 見事な金髪碧眼かつ「シ●イニング」シリーズあたりのファンタジーゲームに出てきそうな服装で、あまつさえ“笹の葉みたいな長い耳”をピコピコさせた、「おまえ、どっから見てもエルフだろ!?」というルックスの人間離れした美少女(ただし、手にした弓は妙にメカニカルだが)は、ちょっと戸惑ったような表情で、こう聞いてきた。

 

 「ぅえ!? い、いいんスか? そりゃ、オレっちとしては、放り出されても行き場がないんで、助かりやすが……」

 

 ──なまじ『ラブラ●ブ』の南こ●りっぽい可憐なスイートボイスだけに、三下めいたしゃべり方との違和感が激しいが、「事情を理解している身としては」、ここはスルーしてあげよう。

 

 「ああ、構わん。ようこそ、舞鶴鎮守府、そして我が上喜艦隊へ。ウチの艦隊に軽空母の着任は、まだふたり目だから、お世辞抜きで助かるよ」

 「! こ、こちらこそ、よろしくっス!!」

 

 俺が差し出した右手を恐る恐る握り、やがて安堵したのか一転明るい表情になって上下に激しくシェイクしてくる。

 右手の動きに伴って、その(ラノベというよりエロゲちっくに)豊かな胸の膨らみがぽよぽよと激しく揺れる様は、眼福と言えなくもないが、一応は上司になる身としては、その……反応に困る。

 

 「あー、コホン! その、“事情”は知ってるから無理ないとは思うが、“今のキミ”は女の子だから動作とか仕草は多少なりとも気にするようにな」

 「? よくわかんないけど、了解っス!」

 

 アカン。これ、全然わかってないヤツや。

 (ちょーっと早まったかなぁ。でも、せっかく巡り合えた“同郷人”を放り出して軍のモルモットにするのも気が引けるしなぁ)

 これから背負うことになるだろう気苦労を予想して心の中で溜息をつきつつ、俺は“彼女”──かつてイギリス海軍に存在した空母“セントー”の名前を冠した艦娘を部下たちに紹介するため、司令室を出た。

 もっとも、厳密にはこの子は「艦娘」じゃない。本来、ここ『艦隊これくしょん』の世界ではなく、別のゲーム『アズールレーン』の世界で“ロイヤル”と呼ばれる英国を模した陣営に生まれ落ちるはずの存在だったりするんだが。

 

 ああ、今の言い方で予想はつくかもしれないが、俺自身もある意味“同類”だ。俺、上喜 仁(かみき・じん)中佐もまた、“現実”から“艦これの世界”へとやって来た転生者(?)なのだ。



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【Phase02.I'm Your Admiral】

 ニッチな単語だが、一部サブカル業界に「あさおん」なる言葉がある。これは、「朝起きてみたら女になっていた」の略で、そこから始まる悲喜劇(もしくはエロい煩悩まみれなアレコレ)を描写することで一定の支持層を得ているネタだ。

 

 それになぞらえて言うなら、俺こと上喜仁《かみき・じん》の場合は「あさかん」──「朝起きたら、艦これ世界で提督になっていた」とでも表現すべきか。

 厳密に言うと、大学からの帰路、電車の中で座ってついウトウトした……かと思ったら、次に目が覚めた時は、舞鶴駅から鎮守府に向かうタクシーに乗っていて、運転手さんに「少佐さん、着きましたよ」と起こされたところだったんだが。

 

 普段はあまり動揺を表に出さない(出さないだけで、結構テンパったりはしてるんだが)ことに定評がある俺も、さすがに慌てたね。

 ただ、実際に目の前に海軍基地らしき建物があり、さらに遠目とは言え複数の女の子が“水上”をスケートのように“航行”しているのも見えたこと、そして自分自身もいつの間にか白い海軍第二種軍装らしき制服を着ていたことで、さすがにドッキリとかそういう類ではないことは理解できた。

 幸か不幸かネットでこういう「●●入り」と言われる、現実からフィクション世界へと転移(?)するタイプのSSも読んだことはあったので、(半信半疑ではあるが)自分もそのテのハプニングに巻き込まれたのでは……という想像もついた。

 

 (ここで変に騒ぎ立てても良いことないだろう。激流に身を任せてこそ浮かぶ瀬もあれとも言うし……ん? 何か違うけど、まぁいいや)

 そういう打算も働いたので、俺は何食わぬ顔をしてそのまま基地の中心部に足を運び、基地の総司令である乃木大将と着任の挨拶をした後、「新任提督の上喜少佐」としてこの横須賀鎮守府で提督稼業を始めることになった。

 俺みたいなイレギュラーが紛れ込んで大丈夫か、とも思ったんだが、手にした革の鞄には、ここに赴任しろという旨の辞令が入っていたし、総司令も先任にあたる4人の提督たちも、俺が新たな提督として着任することは当然のこととして理解しているようだった。

 

 実はそれから2年経った今でも、あの日いきなり「舞鎮に着任する提督・上喜少佐」という立場が突然この世界にポップしたのか、それとも同様の立場にいたはずの同姓同名の誰かさんに憑依したのか、判明していない。

 身長や顔立ちその他は、確かに俺自身のモノだと思うんだが、どちらかと言うとインドア派で、大学に入って以来はロクに運動なんてしてないはずの俺にしては、随分と体が鍛えられてるんだよなぁ。

 一応高校時代は弓道部だったけど、アレもあまり激しいスポーツじゃないし、そもそも体格や身体能力が恵まれてる方じゃなかったし。

 

 ともあれ、いきなり始まった艦これ世界ライフだったけど、総司令を始め良き先達に恵まれたのと、戦況が比較的落ち着いていたこともあって、軍事のぐの字もロクにしらないような俺でもなんとか無事に提督稼業を続けてこれた。

 配下の艦娘もそこそこ増えて、そろそろ20人に届くだろう。意外にも俺の提督としての適性は、それなりに高いモノらしい。

 ゲームとしての『艦これ』の知識があったこともあってか、新米提督にしては艦娘指揮や作戦に関してもそこそこの良好な結果を得ることができた。

 そのおかげで、つい先日、中佐に昇進させてもらえたのはうれしかったなぁ。いや、別に高い地位が欲しいわけじゃないけど、やっぱり頑張りを目に見える形で評価してもらえるのってモチベ上がるじゃん?

 

 そんな感じで浮かれていたせいだろうか──いつもなら即座に却下したであろう明石の提案に、うっかりGOサインを出してしまったのは……。

 

  * * * 

 

 「明石さ~ん! 久しぶりに建造したいんだけど、ドックの方、今空いてる?」

 舞鎮で未だ一番若手の提督である上喜中佐は、それだけに立場も一番低い──と、本人は思い込んでいる。

 実際のところは、引き分けや撤退はいくつかあったとは言え事実上ほぼ無敗で、配下の艦娘をひとりも轟沈させない賢明かつ慎重な采配から、将兵・艦娘を問わず彼は一目置かれているのだが。知らぬは本人ばかりなりというヤツだ。

 もっとも、上喜は結構調子に乗りやすい性格(タチ)なので、下手に高評価されてると伝えない方が本人のためかもしれないが……。

 

 「は、はい、上喜提督。幸い今日は他の建造の予定は入っていません、よ」

 工廠の主たる工作艦娘・明石が、ちょっとオドオドした雰囲気を漂わせているのは、別段、上喜が乱暴だとか日頃から無理難題をフッかけてるからというわけではない。

 同じ艦型の艦娘は、外見や言動・性格が似通ったものになるのが常だが、時折、その枠に収まらない“個性的”な艦娘も現れる。

 舞鎮(ここ)の工廠所属の明石は、気さくでフレンドリーな性格の大半の明石と異なり、少々内気で小動物ちっくな気性の持ち主なのだ。

 もっとも、ヒキ・コ、ニートス、パジャマーンの三邪神に魂を捧げていそうな某吹雪型3番艦と異なり、ちゃんと勤労意欲はあるし、明石共通の「機械弄りが好き」という性向はしっかり備えている。単に、ちょっとコミュニケーションが苦手なだけなのだ……たぶん。

 

 それはさておき、ここ舞鶴鎮守府の工廠には、艦娘用基本艤装を作成できる建造ドックが5基設置されており、理論上は同時に5隻分作ることが可能となっている。

 ただ、「建造ドックは同時に複数稼働させると、そこで働く妖精さんたちの調子(コンディション)が下がり、レアな艤装が出来づらくなる」という俗説も提督たちの間では半ば公然と囁かれており、5基同時に稼働していることは滅多にないのだが。

 

 そもそも、ゲームの『艦これ』とは異なり、この世界に於いて艦娘(より正確には艦娘用の基本艤装)を建造するというのは、何気に難度が高い。

 基本艤装の中核(コア)たる“開発資材”は、非売品──大本営からの功績依存の支給品だ。ゲームのようにポンポン手に入らず、かなり積極的に上からの委託任務を遂行している提督でも、年間に2、3個入手できればよいほうだろう。

 ゲームで言う“艦娘(この世界では基本艤装)ドロップ率”もシブいが、それでも10回の出撃で1個くらいは手に入るのだから、遥かにマシだろう。

 

 さらに言えば、仮に基本艤装を手に入れても、その時の艦娘志願者の中に適合する者がいなければ、実際に艦娘として着任するまで長い時間待たされたりもする。

 2018年現在、日本海軍に所属する提督資格者は127人(予備役は除く)。実際に鎮守府や泊地に着任して提督として艦娘を指揮しているのは、そのうちの7割にあたる85人。

 それに対して、現役の艦娘はおおよそ1000人前後。艦娘の“艦娘としての寿命”が10年程度であることを鑑みても随分と少ない数だが、それだけ艦娘というのは(一般的な華やかなイメージと異なり)志願者(なりて)が少ない仕事でもあるのだ。

 

 それだけに配下となる艦娘の確保にはどの提督も熱心であり、かつて──“大反攻”終結以前の激戦期ならともかく、現在の日本に於いては俗に言う「ブラック鎮守府」は皆無に等しい。

 公務員なので、給料自体は(軍人としての危険手当的な割り増しはあるが)極端に高価にできないため、職場や寮の環境その他の快適度を少しでも上げて、なり手を誘致しようとするからだ。

 

 そして、それだけ心を砕いても、望む艦娘が望むだけ部下()に入るとは限らないのが、提督稼業の世知辛いところだった。

 

 閑話休題。

 そんな状況下でも、若手ながら四大鎮守府のひとつ、舞鶴鎮守府に所属する上喜提督は、比較的恵まれた立場にある。

 あるのだが……この提督、もとが“別世界(げんじつ)”からの転生者であるためか、配下の艦娘が少なかった最初の頃はともかく、それなりの数と熟練度が揃った現在は、建造時に少なからぬ茶目気(あそびごころ)を出す悪癖があった。

 

 「久々に建造に手を出すわけだけど、今日はぜひ明石さんに空母(の基本艤装)を作り上げていただきたい!」

 現在、上喜提督指揮下の航空戦力は軽空母の鳳翔と正規空母の赤城の2名のみ。つい先日、水上機母艦の千歳が配下に加わったが、彼女が軽空母に改装されるまでは、まだ少し時間がかかるだろう。

 

 「い、いえ、その、“建造”するのはあくまで、工廠にいる妖精さんたちでして、わ、私はあくまで必要資材を渡して見守るだけなので……」

 そこまでは上喜も予想していた通りの明石の台詞だったが、意外にもその続きがあった。

 「……ですが、上喜提督、少し気になるモノがありまして」

 明石が背後の棚から取り出し、工作台の上に置いたのは、掌に乗るくらいの大きさの透明な水色の立方体だった。

 明石いわく、少なくとも彼女が入れた覚えがないのに、いつの間にか棚に入っていたらしい。

 

 「? なんだ、こりゃ」

 首を傾げて立方体を摘み上げ、間近で見つめる上喜だったが、なぜか“ソレ”に見覚えがある──ような気がした。

 (あれ、どこだっけかで目にしたような記憶があるんだが……)

 

 「その……不可解なんですけど、なぜかコレが「建造時に役立つものだ」という確信めいたモノが心の中に居座ってまして」

 万事控えめな此処の明石が、わざわざそう訴えかけてくるくらいだ。そうとう強く感じているのだろう。

 よく見れば、彼女の周囲にいる工廠の妖精さんたちも興味津々で、その水色の物体を注視している。

 

 彼女たちだけではなく、上喜提督自身も、なにがしかの因縁めいたモノをその立方体から感じ取っているのは事実だった。

 「よし、ヤっちゃっていいよ。俺が責任持つ。“開発資材の代りにソレを使って”1隻作っちゃえ」

 そう意識した瞬間、上喜の口から自然にその言葉がこぼれていた。

 

 それが、前代未聞のとんでもない事態を引き起こすとは、神ならぬその身では想像もできなかった……とは、のちの上喜提督の弁明(いいわけ)だが、彼の上司はともかく、同僚や部下の大半が「嘘っぽい」と疑いの目で見ている。

 戦時の指揮官としての上喜はともかく、平常時の彼は、よく言えば「好奇心旺盛でユーモア精神にあふれた」、言葉を飾らずに言うと「年齢の割に子供っぽく悪戯好きな」性格をしていたからだ。

 

 とは言え、実際にそのあとに起こる“事態”の内容を彼が把握していたら、さすがに自重していただろう──きっと、たぶん、おそらく、めいびー。



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【Phase03.Welcome to Our Fleet Base】

 「は、はいッ、では早速!」

 手際よく4種の資材を(若干ボーキサイト多めに)用意して、その立方体(キューブ)と共に建造ドックに放り込む明石。

 多少性格が違うとは言え、この明石もやはり工作艦のはしくれ。こういう実験めいた行為に好奇心が刺激されるのだろう。

 

 見た目は昔懐かしい蒸気機関車の火室そっくりな建造ドックの蓋が閉められ、その外側に妖精さんが群がって掌をかざしてなにやら“力”(魔力? 霊力?)を注ぎ込んでいる。

 

 「完成までの時間は──3時間か。飛鷹型だな。いいじゃないか!」

 建造ドックの側面のメーターに表示された6桁の数字を読み取り、上喜は目を輝かせた。

 

 飛鷹型は軽空母だが、飛行機搭載数が正規空母並に多く、その割に燃費がいいので、使い勝手の良い艦娘だ。

 一番艦(あね)の飛鷹はちょっと気が強めだが大和撫子な優等生、二番艦(いもうと)の隼鷹は多少(?)酒癖が悪いが基本的には陽気で気っぷのいい姐御肌と、性格的な面でも頼りにできる。

 二航戦や五航戦の正規空母たちに比べると、艤装への適合者も比較的多いので、あまり着任まで待たされないだろうというのも地味に嬉しいところだ。

 

 「えっと、高速建造材、使われます?」

 「うーん、そうだなぁ……よし、折角だし使おう!」

 そもそも滅多に建造しないので、高速建造材自体もてあまし気味なのだ。

 明石の質問にYESで答えてGOサインを出すと、心得たとばかりに工廠妖精さんのリーダーらしき1体がニヤリと笑ってサムズアップした。

 彼女(?)が「ポチッとな」と言わんばかりの大げさなアクションで、建造ドックの外側についているボタンを押すと、中から聞こえてくる何かを燃やすようなゴーゴーという音がひと際大きくなり、ほどなくひとりでに建造ドックの蓋が開いた。

 

 そこまでは、ある意味、“いつもの”建造風景だったのだが……。

 

 「ぅわちゃちゃちゃーーーーっ! 熱っ! てか、暗いし狭いし息苦しいッ! なんなんスか、いったい!?」

 蓋が開いた途端、中から女の子の声が聞こえてきたのだ。

 

 繰り返すが、この世界に於いて艦娘とは、適性のある人間が、艤装適合処置(しゅじゅつ)を受けた上で、基本艤装を装備することで後天的に“なる”ものだ。

 中には、数百万人にひとりくらいの確率で、その“処置”を受けなくても生まれつき艤装を纏って戦えるようになる稀有な素質を持った人もいるが、それだって本人とは別に「主機関と駆動機」からなる基本艤装を用意しないといけない事に変わりはない。

 当然、建造とはその基本艤装“だけ”を作り出すことを意味し、ゲームの『艦これ』の如く、艤装と艦娘がセットで生み出されたりはしないのだ。

 

 そう、そのはずなのに……。

 

 「ふぅ~、ヒデェめにあったっス」

 細長い金属製の建造ドックの中から、17、8歳くらいに見える少女がよろよろと這い出てくるのは、いささか衝撃的な光景だった。

 

  * * * 

 

 「あれ? ここはどこっスか? んんっ、それになんかオレっちの声も妙に甲高いような……って、え? お、オレっちの胸にオッパイが!?」

 そこまで聞いた瞬間、俺の脳裏に電流の如く天啓が奔り、気が付けば俺は“少女”をお姫様だっこの体勢で抱え上げて、工廠から一目散に逃げだしていた。

 

 「ぅわっ、な、何するんス! そもそも、アンタ、誰っスか?」

 抗議の声を聞き流しつつ、人気のない鎮守府の裏庭まで来たところで、“彼女”を地面に下ろす。

 

 「すまない。だが、これから話すことは、あまり他の人間に聞かれたくない内容なんで、少々手荒な真似をさせてもらった」

 素直に頭を下げて謝ったおかげか、どうやら“少女”も少しだけ落ち着いたようだ。

 「は、はぁ、そういうコトなら仕方ないっス。それで、何を話してくれるんスか?」

 

 「その前に自己紹介しておこう。俺の名前は上喜 仁。海軍に所属する中佐で、この舞鶴鎮守府で提督をやっている」

 「あぁ、確かに軍服着てるっスね……あれ? でも今の日本では海軍じゃなくて海上自衛隊って言うはずっスよ。それに舞鶴の鎮守府も戦後廃止されて倉庫とか博物館とかになってるはずじゃあ」

 「ほぅ、詳しいね」

 「去年、高校の修学旅行でちょうどあの辺を廻ったんスよ……って、まさか、オレっち、過去の鎮守府にタイムスリップしたんスか!? あ、もしかして、『君●名は』みたく、過去の女の子に憑依?」

 とっさにそういう発想が出てくるあたり、わりとサブカル関連の素養があるのかもしれない。

 

 「残念ながらハズレだ。ある意味、タイムスリップと同等のトンデモないハプニングが起こったのは確かだが」

 思わせぶりに言葉を切った俺の顔を見つめて、ゴクリと唾を飲み込む“少女”。

 「な、なんスか。聞かせて欲しいっス」

 「うむ。その前に聞くが、キミは艦これ──『艦隊これくしょん』というゲームを知ってるかい?」

 「えーと、プレイはしてないスけど、名前と概要くらいは。あと、夜中にテレビでやってたアニメは大体観たっスよ」

 ラッキーだ。それなら説明の何割かがスッ飛ばせる。

 

 「信じ難い話だということを百も承知の上で、単刀直入に言うとだ──ここはその『艦隊これくしょん』そっくりな世界なんだよ!」

 「な……なんだってーー!!(Ω ΩΩ」

 うん、打てば響くようなこの反応は、やはりアチラのヲタ文化(カル)を知ってる者ならではの反応だなー。

 

 「ま、M●Rネタはさておき、ガチで『艦これ』に近いってのは確かだからな。少なくとも、深海棲艦はいるし、それに対するための艦娘が鎮守府の元で組織化されている」

 それまでのフレンドリーな表情から、(意図的に)いくぶん真面目な顔になって“彼女”にそう告げると、少なくとも嘘や冗談は言っていないことは伝わったのか、相手の瞳に怯えの色が浮かんだ。

 

 「なんてこったい……深海棲艦つったら、アレっスよね。海から攻めて来る正体不明のヤバいヤツ」

 すごく抽象的だが、言わんとすることは、まぁわかる。

 「うわ~……マジか~」

 「うん。マジもマジ、大真剣(おおまじ)だ」

 俺の肯定の言葉を聞いて、“彼女”はガックリとうなだれる──のだが、もうひとつ落胆させるようなコトを言わんといかんのだよなぁ。

 

 「それで、だ。自分でも薄々気が付いてはいるみたいだが、キミの姿も、この世界に合わせて(?)変わってる」

 「あ~、そっスね。このパイオツとか、どう見たって作りモンじゃない天然モンっスもんね」

 自らの乳房を掌で持ちあげるようにモニュモニュと揉みなが、“彼女”は溜息をついた。

 「アレっスか。たぶん、今のオレっちって、艦娘の姿になってるんスよね」

 驚き過ぎて逆に冷静になったのか、「金髪で巨乳だから、もしかしてアニメで観た愛宕(パンパカ)さんかな」などと推測している“彼女”には悪いが、残念ながら愛宕じゃない。

 

 ──というか、俺の見立てが正しければ、そもそも“厳密に言えば「艦娘」ですらない”んだよ。

 

 先程の落ち込みから早くも回復して、その場でピョンピョン飛び跳ねながら「お~、巨乳のねーちゃんって、ホントにバインバインって感じで揺れるんスね」と、のんきなコトを抜かしている“彼女”(言動からしてたぶん中身は“彼”)に、俺は意を決して重大な“事実”を教えることにした。

 

 「外見と手にした機械弓(?)からの推測になるが──おそらく、キミの今の姿は軽空母娘のセントーだろう。イギリスが大戦終了直前に建造を開始し、実際に進水したのは戦後しばらく経ってからだった“セントー級航空母艦HMSセントー”がモチーフになってるはずだ」

 「あ、海外艦ってヤツっスね。『艦これ』やってるダチから、海外艦はかなりレア物だって聞いた記憶があるっスよ!」

 ちょっとうれしそうなのは「どうせなるなら、やっぱり十把ひとからげのコモンより、レアで強力な艦娘の方がいい」という心境なのだろう。

 

 「そうだな。確かに海外艦娘は他の国産艦娘と比べてどれも比較的入手難度が高い──が、それはさておき。

 キミは多分“セントー”ではあるのだろうが、同時におそらく“艦娘”ではない」

 「…………は?」

 落ち着きのない“彼女”の動きがピタリと止まった。

 

 「もったいぶっても仕方ないな。結論から言おう。

 その姿は、『艦これ』ではなく、同様の軍艦萌え擬人化ゲーム『アズールレーン』に登場する艦船少女(KAN-SEN)のひとりだと思う」



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【Phase04.It's a Wonderful World!】

今後しばらくは週一投下予定です


 「あ、アズールレーン!? まさか……いや、そんなバカな!」

 俺の言葉に、一気に表情を険しくして考え込む様子のセントー(偽)。

 

 「何か知ってるのか、雷電?」

 「うむ…………さっぱりわからんスけど、とりあえずソレっぽい演技してみました」

 某不〇家のペ〇ちゃんの如き表情でテヘッと舌を出したコイツの頭に、思わ俺が両拳でウメボシグリグリの刑を加えたとしても、誰が責められようか、いや、責められまい(反語)。

 

 「まーじーめーにやれ! まったく、ホントに心当たりとかはないのか?」

 「い、痛いイタイ! そ、そんなコト言われましても……スマホのゲームランキングでよく見かけたことがあるくらいっスね。例のダチに聞いたら艦これのパクリゲーだって言ってましたけど」

 「パクリは言い過ぎだな。たくさん出た『艦これ』フォロワーのひとつであることは否定できんが」

 

 あえてたとえるとすれば、『モ〇ハン』に対する『ゴ〇ドイーター』か『討〇伝』、くらいの立ち位置だろうか。

 そもそも、『艦これ』がシミュレーションなのに対して、『アズレン』はアクション、いやシューティングの亜種だしな。

 

 「ま、その辺のゲーマー的こだわりはひとまずおくとして。お前さんに関して問題点がふたつある」

 顔つきを真面目なものに戻して、俺はコイツに言い聞かせるべく、あえてもったいをつけて、そう告げる。

 「え!? な、何かマズいんスか、オレっち?」

 案の定、相手は心配げに食いついてきた。

 

 「うむ。まずひとつは、お前さんが、英国軍艦セントーを擬人化した存在だってことだ。現在、俺の知る限りでは、セントーの“艦娘”は存在しない。これは、この世界の海軍だけじゃなくゲームの方の『艦これ』も含めての話だ」

 「ほぅほぅ、そいじゃ、オレっちが世界で最初のセントーなんスね!」

 なんで嬉しそうなんだよ。いや、“世界初”って言葉で、なんとなくテンションが上がる気持ちはわからなくもないが。

 

 「まぁ、そういうことになるな。だが、海軍に所属する者としては、ファーストボーン──これは「原型艦から初めて顕現した艦娘」を指す言葉なんだが、そのFB艦娘が現れたということを大本営(ほんぶ)に報告しないワケにはいかないんだ」

 「はぁ……」

 あ、コイツ、「それのどこが問題なんだろ」ってのんきな顔してやがるな。

 

 「今まで未成艦だった艦娘が顕現(あらわ)れたとなると、当然、お前さんも、色々検査を受けてもらう必要がある」

 「! あ、あの~、それって、モルモットとか言うんじゃ……」

 お、ここまで言えば流石に多少の危機感は抱いたみたいだな。

 「安心しろ。10数年前の黎明期ならいざ知らず、今の日本では艦娘にも人権は(一部を除いて)認められてるから、そうそう無体なことはされんし、できん」

 それでも、数日間は明石の工廠にカンヅメで、身体の隅から隅まで検査されることになるとは思うけどな。

 

 「ま、ソレについては、それほど心配する必要はない。どの道、ファーストボーンなんだから、他と比べておかしいとかはわからんし、舞鎮(ここ)での検査結果なら、多少の誤魔化しは効く。

 それよりもヤバいのは……お前さんが「艤装と一緒にそれをまとった艦娘(にんげん)ごと建造された」ことだ」

 「?」

 よくわかっていないようなので、この世界において艦娘とは適合処置(しゅじゅつ)を受けた人間が、艤装を装備することでなるものだ、ということを説明してやる。

 

 「えっと……つまり、フツーはケンゾーしてもギソー“だけ”しか作れないんスか?」

 「そういうことだ。現実世界(いせかい)の記憶があることを除いても、如何に自分が規格外な存在なのかは理解できるよな?」

 FB艦がどうとかよりも、コッチの方が100倍ヤバい。

 仮にコイツが年間艤装発見数がもっとも多い吹雪型だったとしても、慢性的艦娘不足に悩む大本営に、艤装と艦娘が一緒に建造されたなんて事実(コト)が知られたら、それこそ実験動物(モルモット)扱い不可避だ。

 そういうことを懇切丁寧に説明すると、セントー(偽)のヤツ、涙目になってガクガク震えだした。どうやら、自分に関わる事態の深刻さを理解したみたいだな。

 

 「お、オレっちはいったいどうなるんでヤンスか!?」

 こ、こら! 半ベソ上目遣いで俺の胸にすがりついてくるな。その服装(下乳が見えるファンタジー風衣装)と巨乳(推定Fカップ)のおかげで、煩悩刺激度がハンパじゃないんだから。

 中身が現実(ちきゅう)出身の男だとわかってなければ、危うく“萌え”ちまうところだったぞ。

 

 「安心しろ。乗りかかった船だし、同郷人のよしみもあるからな。カバー設定を考えて誤魔化してやろう」

 とは言え、現代日本(ちなみに“西暦2018年”だ)で、法的にいないはずの人間を真っ当に“存在”させるのは、本来ならかなり難度が高いミッションなんだが……艦娘だからこそできる“裏技”もある。

 

 「いいか、お前さんの設定はこうだ」

 

・今朝、鎮守府近くの浜辺に、弓のようなモノと一緒に、女の子が流れついていた

・調べてみると、その弓や女の子の履いていた靴はは艦娘用の艤装らしいと判明

・目を覚ました女の子は記憶の大半を失っていたが、自分のことを「セントー級航空母艦HMSセントー」だと主張

・実際、その子に弓を持たせると同調を開始し、艦娘としての能力があることがわかった

 

 「俺は「以上から推察して、おそらく少女は天然艦娘としての素質があり、浜辺に流れ着いた艤装を発見、接触した際に覚醒したのだろう」……と、いう報告書を本部(うえ)にあげることにする」

 天然艦娘が偶然艤装に触れて覚醒する可能性はあるし、その際に容姿が変わったり記憶が曖昧になったりする例も、過去にいくつか見受けられるからな。

 

 「……ありがたい話っスが、わざわざおエラいさんにウソついてまで、オレっちをかくまってもらって、いいんんスか?」

 と、神妙な顔つきでセントー(偽)が聞いてきたんで、俺は“深海事変”云々の説明をして、当方(こちら)としても配下に置いて戦力化したいという思惑を正直に話したワケだ。

 

  * * * 

 

 握手をして協力関係を結ぶことをお互い了解した後、セントー(偽)は上喜提督に連れられて、彼の執務室へと足を運ぶことになった。

 

 「この無茶な偽装設定(カバーストーリー)を押し通すためには、俺達以外にも共犯者(きょうりょくしゃ)必要()る」

 道すがら、上喜提督はセントー(偽)に説明する。

 「ひとりは明石だが、あの子はコミュしょ…もとい、おとなしくて無口だから、無闇に言いふらしたりはしないはずだ。無論、あとで口止めはしとくが、それよりも、もうひとりの方が問題だな」

 

 (さて、ここで筆頭秘書艦殿の協力を得られないと、セントーの件を上に誤魔化すのは難しいだろうなぁ。はてさてどうしたもんかね)

 

 そんなことを考えながら上喜が執務室の扉を開けると、室内には銀髪を緑のリボンでポニーテイルにまとめた、セーラー服姿の少女が彼を待ち受けていた。

 「あ、提督! おはようございまーす! 朝からどこに出かけてたんですか? あ、もしかして久しぶりの建造、もうヤっちゃったんですか!? うーん、残念。わたしも立ち合いたかったのに」

 元気に朝の挨拶をする外見年齢17、8歳のその少女こそが、上喜の鎮守府(ぶたい)の筆頭秘書艦を務める軽巡洋艦娘・夕張その人だった。



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【Phase05.“Melon-chan”is so Cute!】

タイトルの割に、めろ…夕張の出番があまり多くない罠。


 お待たせ! この()こそ夕張型軽巡1番艦・夕張。通称めろん。

 兵装実験軽巡としての能力(うで)は天下一品!

 紙装甲? 貧乳? だから何。

 

──ガスッ!

 「なに、地の文(ナレーション)他人(ひと)の欠点を特攻〇郎Aチーム風にディスってんですか!」

 「ぴ、PC用のマウスを投げつけるのは止めてくれ」

 自分が(肉体的に)痛いのに加えて、マウスが壊れたら金銭(ふところ)的にも地道に痛い。

 

 「……ぅわぁ~」

 あ、セントー(偽)がちょっとヒイてる。

 俺達──提督である俺と秘書艦ズたちの間では、これくらいは「いつもの(コミュ)」程度のノリなんだが、初めて見たら確かに「なんという凶暴で暴力的な対応(ツッコミ)なんだ!!」と感じるかもしれんなぁ。

 

 「あ、あら、他にもどなたかいらしたんですか?」

 セントーの呟き声で、夕張もどうやらドアから入ったばかりの俺の後ろにいるコイツの存在に気付いたようだ。声色がよそゆきのモノに切り替わっている。

 

 「おぅ、改めておはよう、夕張。コイツはウチの新たに加わる軽空母のセントーだ。

 セントー、この子は軽巡洋艦娘の夕張で、俺の第一秘書艦を務めてくれている」

 もはや遅きに失した感はあるが、とりあえずは当初の予定通り当たり障りのない紹介をしてみる。

 

 「えっ……もしかして他の鎮守府からの転任ですか? 先週の秘書艦担当だったザミちゃんからは、何も申し送り受けてないんですけど」

 ま、普通はそう思うわな。

 

 再三繰り返すが、各地の鎮守府の工廠では、基本艤装“しか”作れない。

 大本営に登録されている艦娘志願者名簿の中に、その艤装に適合する者がいた場合、すぐさまその艤装とのマッチングが行われて、新たな艦娘が誕生するわけだ。

 逆に名簿に適合する候補者がいなければ、次に見つかるまで順番待ちとなる。

 建造なり拾得(ドロップ)なりで基本艤装を手に入れてから、実際の艦娘が着任するまで通常1、2週間、運が良い場合でも最短3日はかかるのが普通だ。

 

 「あー、そのセントーだが、な。実は、ついさっき建造(つく)った」

 「…………は?」

 「だから、工廠で建造したら、基本艤装一式と一緒に艦娘本体も湧いてでたんだよ」

 

 そんな「可哀想に。とうとうこの提督、暑さで脳をやられたのね」的な目で見るなって。逆の立場だったら、俺も同じようなことを考えたろうから、気持ちはわからなくもないが。

 

 万能伝達言語「カクカクシカジカ」では伝わりそうになかったので、夕張と傍らのセントーのふたりを執務机横の応接セットに座らせ、工廠での出来事を明石とのやりとりも含めて懇切丁寧に説明する。

 流石に、俺(と偽セントーの中の人)が“現実”世界の出身()で、このセントー(?)が『艦これ』じゃなく『アズレン』のセントーであることは伏せたが、コイツが“別の世界”から異世界転生的に現れたらしいことまでは、包み隠さず話した。

 

 本来ならいくら夕張がヲタク気質だからって、素直に信じてもらえるような話じゃないんだが、(多少コミュ力が低いことを除けば)真面目で職務熱心な明石が証人だと告げると、半信半疑よりはやや“信”多めくらいまでには信じてもらえたようだ。

 

  * * * 

 

 「──と、まぁ、そんな経緯で、コイツをかくまってやりたいと思うワケよ」

 「「艤装だけじゃなくて“人”ごと艦娘が建造された」なんてトンデモ話については、未だ完全に信じたわけじゃありませんけど、提督の意図はおおよそわかりました。

 でも……」

 セントー(偽)の“危険な立場”に一定の理解は示したものの、その対策案については露骨にシブい顔をする夕張。

 上喜提督の筆頭秘書艦として、彼に危ない橋を渡って欲しくないのだろう。

 

 (夕張のこういうYES-MANじゃない部分は買ってるんだが、今みたいな状況だと、ちょいと厄介だな)

 腹心(ひしょ)の心遣いには感謝する上喜提督だが、他方その頭の中では如何にして夕張を自分の“偽装計画(わるだくみ)”に引きずり込もうかと算段している。

 

 夕張は、彼が初めて(その基本艤装を)建造した巡洋艦であり、運よくすぐになり手が見つかったため、彼の配下ではかなりの古株と言える。

 着任してほどなく、その高い事務処理能力を買われて秘書艦に任命され、以来、出撃時以外は上喜のそばで秘書兼副官としての諸々の役割を担ってきた、彼の右腕とも言える存在だ。

 提督(じょうし)艦娘(ぶか)という関係ではあるが、普段は気のおけない関係を築いているのだが、それでも上喜の(軍事的のみならず権力闘争的な意味でも)身の安全には、少なからず慎重になりがちだった。

 ──そこに“私情”が混じっているか否かについては、ここでは伏せよう。

 

 「俺の身を案じてくれるのは有り難いが、曲がりなりにも俺は“提督”だ。

 『至誠に(もと)()かりしか』──ここで、俺が建造(うみだ)したコイツを見捨てることは、俺自身の良心に鑑みて、五省の一番最初の条件に引っかかると思うんだよなぁ。

 なにより、そんなシャバい真似は……」

 「カッコ悪いからイヤだ、ですか?」

 上喜提督の言葉を夕張が先回りする。

 

 「よ~く、わかってんじゃな~い、めろんちゅわーーん」

 某怪盗三世の下手な物まねみたいなトボけた口調で肯定しつつ、彼はニヤリと笑った。

 「めろん、言うなし! ……こほん。仕方ありません。それでは、大本営に提出する報告書と記録(データ)については、お任せください」

 ほんの一瞬、素の表情を見せたものの、ここにセントー(偽)がいるせいか、すぐに咳払いして、夕張は「デキる女秘書」っぽいペルソナを被り直す。

 

 「うん、超助かる。基本的には、「浜辺で流れ着いた艤装にうっかり触れて覚醒しちゃった元一般人?の天然艦娘」ってことにしといて」

 海岸に艦娘用艤装が流れ着くことも、素質のある娘が艤装に触れて不用意に艦娘に覚醒を果たすことも、ごくごく低い確率ながら、あり得ないワケではない(実際、どちらも前例がある)。

 が、その両方となると、はたして可能性は“0.(ゼロコンマ)”以下に0が5つ6つ並ぶくらい希少な可能性なのではないだろうか。

 

 「喜べ、元少年(セントー)(おまえ)の望みはようやく叶う」

 話においてけぼりになっていたセントー(偽)に向かって、ニヤリと“いい笑顔”を浮かべた上喜は、両手を広げた大仰な仕草をしつつ芝居がかった低音(ジョージボイス)でそう告げる。

 「ありがとうございま…す? いや、“ようやく”ってほど待たされた記憶はないんスが……。そもそもオレっちの望みってなんなんスか? 別にどこぞのブラウニー少年みたく正義の味方になりたいとか思ってないんスけど!?」

 混乱しつつ反撃(ツッコミ)も忘れないあたり、この子が上喜の鎮守府(いちみ)に馴染むのは、割と早いかもしれない。

 

 「ハッハッハ、様式美(おやくそく)ってヤツだ。それに、「実験材料(モルモット)なんかにならず、平穏無事に生きていきたい」というのが、お前さんの願いじゃないのかな?」

 「それは──うん、是が非でもお願いしたい案件っスね」

 なにせ、“彼女(かれ)”の場合、海軍中佐として確たる身分保障のある上喜提督と違って、身の拠り所が皆無なのだ。

 

 「マジ頼んますよ~。実験体07号だとか20号だとかナンバリングされて研究所とかに閉じ込められるのは、勘弁してほしいっス」

 「大丈夫だ。問題ない」

 「それ、絶対アカンやつぅ~!!」

 打てば響くようなやりとりをしているふたりを、夕張は若干うらやましそうな目で見ている。

 (むしろ、私の方こそセントーちゃんに「そんな装備で大丈夫か?」って言いたいのよねぇ。なに? ゴツい“弓”自体が主機関(ほんたい)って……)

 

 実際、セントーの本来の“出身”たるゲーム『アズールレーン』に於いても彼女の艤装はかなり異色だ。

 『アズレン』の空母娘たちも、多くが『艦これ』同様にエンジンを積んだ主機関と飛行甲板を装備している。なかには主機関が見当たらない、もしくはすごく小さい()もいるが、それでも飛行甲板と思しき装備は、正規空母・軽空母問わず持っているのが普通だ。

 セントー同様に弓で艦載機を射出するタイプのKAN-SEN「ワスプ」なども、主機関と飛行甲板はしっかり備わっている。

 

 その特殊な出自(第二次大戦が終わってしばらくしてから進水式を迎えた)もあいまって、そもそもセントー自体、ある意味、ワンオフなKAN-SENだと言えるかもしれない。

 

 (まぁ、そういう面も含めて、ある意味、同じくワンオフな夕張と仲良くやってくれるといいんだが……)

 とりとめもない雑談をセントーと交わしながら、上喜はそんなことを考えていたりするのだった。




次回はセントーくんちゃんの鎮守府内引き回し兼、他の艦娘(メンバー)の紹介回になる予定。


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【commentary.『風強く波高し』シリーズにおける特殊な設定】

 本作を含めた「風強波高」シリーズ全体に共通する設定の解説です。
 『艦娘ぐらし、始めました』の方に置いてあるものより、幾らかバージョンアップしてあります。
 「こまけぇーこたぁいーんだよ!」という人は回避推奨。



(0)基本設定

 

◆発端と最初期の状況

 1990年頃までは、現実の地球とほぼ変わらず。

 しかし、90年代初頭から、世界各地の海で、「謎の船影」が確認され始める。

 そして、1999年夏、未確認遊泳物体による大侵攻が開始され、地球上の海路の90%以上と空路の70%近くが、未確認遊泳物体──「深海棲艦」と命名された勢力の手に落ちる。

 海路は言わずもがな、空路も基本的には空母タイプ深海棲艦の艦載機?によって押さえられているが、艦載機の数が少ないため目の届かないところにいくらかは細々と生き残っていると言うほうがよい状態。それも海から遠い陸地の上の限られたもののみで、洋上はほぼ完全に深海棲艦の勢力下にある。

 深海棲艦は陸上活動できないのか、内陸部に直接攻めてくることはほとんどなかったが、各国の航空戦力は前述の艦載機によって'99~'00年の「第一次深海大戦」(別名:大侵攻)の際に、ほぼ壊滅させられている。さらに、内陸部でもカスピ海、死海、アラール海などの大型塩湖には、深海棲艦の出現が確認されている。

 

 以上のような経緯から、陸路で移動可能なユーラシア大陸-アフリカ大陸、南北アメリカ大陸以外の土地の交流は、2000年代初頭の時点では、ほぼ途絶えている。また、アラスカ-ロシア、日本-樺太-ロシアは、かろうじて(艦娘の護衛艦隊をつけることで)流通経路が確保されている。

 

◆深海棲艦について

 作品中でも触れているが、“純粋に物理的な攻撃では撃破することが困難”な存在。

 実際、大侵攻時には、先進国御自慢の超長射程ミサイルや秘蔵の大出力レーザー砲などは、驚くくらいに役に立たなかった。むしろ、至近距離まで接近して放たれた戦闘機のバルカン等の方が、多少なりとも傷をつけただけマシなほど。また、破れかぶれで全速力で体当たり特攻したとある駆逐艦は、それだけで軽巡洋艦サイズの深海棲艦に中破ダメージを与えた。

 

 以上のことから、各国軍部の技術陣は「深海棲艦には“意思なき攻撃”は無意味」と認識、有効な兵器の開発を試行錯誤した結果、さまざまな事情から深海棲艦へのアンチユニットである有意識艦「艦娘」が生まれたと言われている。

 

 ※実は、この説は正確には間違い。各国がこの結論に達する前に、少なくとも日本には「最初の六人」(後述)が出現しているため。ただし、各国が艦娘を受け入れる素地となったことは確か。

 

◆本シリーズにおける(日本での)艦娘

 

・日本に於いて、公式文書などで正式には「有意識艦」と呼ばれる

 

・当初(2000年代前半)は、法律上、艦娘は他の艦船同様「物」扱いだった。ただし、多くの現場では人間と同じように扱われており、「国を守ってくれる勇敢なる乙女をモノ扱いすること」に対する批判も強かったため、2000年代後半には法整備が進み、日本国民に準じる権利を有するようになる(ただし、現役時は、その権利の一部は制限されている)。

 

・艦娘の“本体”ともいえる船魂は、本来霊的存在だが、建造時に召喚され、一度実体を得て以降は、轟沈する(=「死ぬ」)まで現世に留まる(※これは第三世代型以降の艦娘であっても同様)。また、実体化後は食欲、睡眠欲なども通常の人間に近い生理を有する(ただし、常人に比べるとある程度の制御は可能)。

 

・当初、有意識艦を保有しているのは、日本のみだったが、2001年半ばの段階で、ドイツ、アメリカ、イギリスの3ヵ国も艦娘の建造(かいはつ)に成功、さらに翌々年には、ロシア、中国、フランス、イタリアの4ヵ国にも艦娘が顕現するようになった。大半の艦娘が出そろったとみられる2015年時点で、これら8ヵ国の中でも、日本とアメリカ、イギリスが他の国を質、量ともに圧している。

 

(1)本シリーズの2003年以降の日本の軍制

 

・自衛隊は日本防衛軍に名称変更&組織改造されており、陸・海・空軍に分かれている。ただし、戦前と異なりシビリアンコントロールは効いている(制度上の軍のTOPである防衛大臣は総理大臣の下位に位置する)。

 

・日本防衛軍のなかで、陸・海・空軍部の各総司令部が“大本営”と通称されている。

 

・戦後50年以上も平和(深海棲艦が出現したのは1999年)だった国柄故か、軍人に志願する人は未だ多くないため、志願者なら15歳(中卒)以上35歳以下なら、よほどのことがない限り(兵卒として)即採用される。

 

・士官学校は18歳(高卒)で入学、2年間で卒業となっている(卒業段階で准尉、正式任官後、少尉になる)。ただし、有意識艦指揮者(艦娘の“提督”)の素質を認められたものはこの限りでなく、最年少15歳・最短3ヵ月(普通は半年)で促成士官教育を叩き込まれることになる(例外的に士官学校入学後に資質が判明した場合は、通常のカリキュラムで学ぶことも可能)。また、“提督”は任官時に自動的に少佐となる。

 ※なお、大反攻後終結は、素質者も提督となることは義務ではなくなった。

 

・小学校卒業段階で中高教育に6年制の防衛軍付属幼年学校(全寮制で学費免除)を選ぶことも可能。幼年学校在籍者は、士官学校生同様、一種の予備役扱い(とは言え、現場投入された例は現状ほぼ皆無)で、18歳の卒業時に自動的に下士官(伍長)として任官できる。

 15歳で入隊して3年後に伍長になるというのは、かなり難しいので、本気で軍人になる気があるなら幼年学校に入学した方がお得ではある(事情が許すなら、ではあるが)。また、優秀な成績(学年TOP5程度)で卒業した者は、士官学校への推薦枠も得られるので、その意味でも職業軍人になる気があるなら、腹をくくって幼年学校に入る方がお得(しかし、そこまで優遇しても、幼年学校の入試倍率は1.2倍程度という……まぁ、軍人の殉職率が自衛隊などとは段違いなので仕方ない部分もあるのだが)。

 ちなみに、士官学校は東西2ヵ所、幼年学校は全国に8ヵ所存在する。

 

・艦娘の身分については時間とともに大きく変化した。当初は書類上「人の形をした兵器」扱いであったが、現場でそのように扱われることは稀であった。第二世代型艦娘の登場以降は準軍人、さらに第三世代型の登場以後は、戦艦娘・正規空母娘は少尉待遇、軽空母娘・重巡洋艦娘は曹長待遇、それ以外の艦娘は伍長もしくは軍曹待遇となり、基本給与もそれに準じている(戦功次第で昇進することも可能)。

 

 

(2)艦娘の登場と変遷

 

・作中でも断片的に語られているが、1999年夏の「第一次深海大戦」の直前に、日本に6人の艦娘と名乗る女性たちが現れ、政府にコンタクトをとったのが、公的な記録に残る「世界で初めての艦娘の登場」である。

 

・この「最初の六人(オリジナルシックス)」については、純粋に霊的な存在が現世に具現化したもので、半ば精霊(英霊?)じみた存在であり、零世代とも言われ、第一世代以降の艦娘とは一線を画する能力を持つ。

 ※オリジナルシックス

 ・駆逐艦 雪風

 ・軽巡洋艦 北上

 ・重巡洋艦 妙高

 ・潜水艦 伊401

 ・戦艦 長門

 ・空母 鳳翔

 

・「最初の六人」の力は強大ではあったが、いかんせんこの6人だけでは広大な海をカバーしきれない。そのため、言葉は悪いが彼女たちの“量産型”として生み出されたのが、第一世代型の艦娘達である。特殊な“器”を用意し、艦娘の船魂を召喚&“器”に憑依定着させることで、より多くの艦娘を確保することに成功した。その技術は世界各国に拡散され、ようやく深海棲艦に対する反撃ののろしが世界中で上がることになる。ただし、その“器”の材料は若い女性の水死(以下、検閲削除)。

 

・人道的な観点と、純粋に“器”の“素材”の数の確保が難しいことから、第二世代型艦娘の開発がなされた。これは、艦娘と相性が良いと判断された若い女性を薬で仮死状態にして、フルオロカーボン液の一種で満たされた水槽に沈めたうえで、艦娘の船魂を召喚&憑依させることで、艦娘を生み出す仕組み。ただし、これには被験者の人格や記憶の大半(7割~9割以上)が失われるという欠点(つまりほぼ別人となってしまう)があったため、志願する側には多大な覚悟が要求された。

 

・第一世代から第二世代の初期には、船魂(こころ)が憑依した人型とは別に、船魂が乗って操り、深海棲艦と戦火を交えるための船体(からだ)(≒実物大の軍艦)が用意され、心と体の2組で一体の艦娘を構成していた。

 しかし、船体が損傷した際の修理回復には莫大な時間と物資が必要とされる。反面、船魂(艦娘)が直接攻撃を叩き込めば、深海棲艦を沈めることも十分可能だという研究結果が発表され、試験的に船魂のみで構成された艦隊によって実施された作戦が良好な結果を得たため、以降はよほど特別な例を除いて大きな船体は作られなくなる。

 

・第二世代の欠点を克服すべく考案されたのが第三世代型の艦娘。最先端科学と密かに継承されてきた陰陽術、双方の知識と技術を結集して作られた「霊的な疑似ナノマシン」を対象に注入することで、基本艤装を装備して水上を自力航行し、深海棲艦と戦う能力を付加する。

 第一・第二世代で行われた船魂の召喚は、ナノマシン注入後に、被験者が自ら(無意識に)行うこととなる。船魂と本人の霊魂が併存しているため、元の人格・記憶も比較的残りやすいが、それでも幾らかは艦娘としてのパーソナリティに浸食される。また、「艦娘になれる」資質そのものは第二世代と大差なく希少で、十代から二十代の日本人女性100人につき、ひとりかふたり程度()。

 

 ※正確な統計ではないが、十代から二十代での艦娘適格者は、イギリスとドイツは150~200人にひとり程度、アメリカその他では300~400人にひとり程度と見られている。また、他の国が自国所属だった軍艦の艦娘にしかなれないのに対して、日本では稀にだが他国の軍艦の船魂を受け継ぐ艦娘が誕生することもある。

 

・第一~第三までの艦娘の共通要素としては以下の通り。

 

 1)各人に対応した「基本艤装」と呼ばれるモノを装備し、起動することで、水上航行その他の艦娘としての能力を発揮できる。

 なお、各鎮守府等での「建造」とはこの基本艤装を作ることを指す

 

 2)老化//成長が本来の10分の1(第一世代は20分の1)以下に抑制されている。

  また、艦娘である限り月経は訪れない。故に男性と性交しても妊娠はしない。

 

 3)体力、筋力、耐久力などの身体的機能は、艤装を外している時でも、日本代表に選ばれるアスリート並みに強化されている。基本艤装を装着・起動している際は、さらにそれが高まる。

 

 4)入渠施設を使用することで驚異的な速さで負傷が回復する。高速修復材を併用すれば、さらにそれが速まる。ただし、日常的な負傷はともかく、深海棲艦の攻撃で受けた傷は自然治癒しない(これは深海棲艦の攻撃はある種の呪詛を帯びているため)。

 

・第二世代型以降の艦娘は、基本艤装を「解体」し、接続を“切る”ことで任意に「引退」が可能。また、艦娘として「現役」でいられるのは長くても10年程度(個人差あり)で、限界を迎えると基本艤装との同調率が下がっていくため、どの道引退せざるを得なくなる。

 引退後は、ほぼ普通の人間と変わらないが、女性としては身体能力が高めで、実年齢より若く見られることがほとんど。また、艦娘になる際に容姿が変化した場合、引退しても元には戻らない(男性が艦娘化した場合、女性のまま)。

 

・第一世代型は同様の形での引退はできないが、2015年末時点で生き残っている第一世代型は僅か10数人のみ。このうち大半は大本営の勧告に従って前線を離れ(制度的な)引退をしているが、3人だけはいまなお「現役」である。

 

 ※ちなみに、「実体化した英霊」とも言える零世代(オリジナルシックス)には、上記の共通要素の大半が当て嵌まらない。



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【Phase06.Here Comes NEW……】

相変わらず短めですが、6話投下。ついでに新キャラもふたり登場です。


 「ご主人様、はよ~~ん☆ なになに? 漣になんか御用ですかぁ?」

 セントーと夕張の面通しが、そこそこ穏当に終わった(そして夕張(ひしょ)を無事悪だくみに引き込んだ)ところで、俺はもうひとりの秘書であり、ダベり仲間でもある艦娘を、執務室へと呼び出していた。

 

 綾波型9番艦・漣。外見年齢は13,4歳で、小豆色に近いピンクブロンドの髪をツーサイドアップにした陽気でおしゃべりな駆逐艦娘だ。

 『艦隊これくしょん』における5人の初期艦のひとりで、彼女を選んだ“提督”も多いことだろう。ゲームとは少し異なる形だが、俺が舞鎮に来て最初に着任したのもこの漣で、当初は俺と漣、そして最初の建造艦娘である綾波&初雪(夕張は“巡洋艦として初”だ)の4人で、鎮守府稼業を1から始めたものだ。

 そして、その性格は……。

 

 「お、よく来てくれたな、漣。今日から、この軽空母・セントーがウチの鎮守府に着任することになったんだが、じつは少々ワケありでな。カクカクシカジカ……」

 「まるまるうまうま……と。ほほ~、ソイツはまたグゥレイト! な話ですにゃー」

 何気に万能伝達言語(かくかくしかじか)が通じている(そしてソレをさも当然の如く受け入れている)のを見てわかる通り、ノリが良く、ネットネタを好み、オタク文化にも理解のある、俺にとって(ある意味、夕張以上に)非常に息が合う()だった。

 「最初期艦は伊達じゃない! のですよー」

 とは言え、時々俺の内心(じのぶん)を読むのはやめていただきたい。

 

 「え……ザミちゃん、アレでわかったの?」

 驚く夕張にきょとんした顔で漣が首を傾げる。

 「? そっちのセントーさんは、建造によって、艤装だけでなく艦娘ごと現れたイレギュラーな存在で、提督(ごしゅじんさま)としてはなんとか、ソレを大本営(うえ)に誤魔化したいんですよね?」

 うん、だいたいあってる。

 「ぐぬぬ……筆頭秘書艦の名にかけて、ザミちゃんに負けるわけにはいかないわね!」

 夕張も変な対抗心燃やさなくていいから。俺限定の“さとり”になっても別にいいことなんてないだろうが。

 

 「すげぇ……漣センパイ、ぱネェ」

 セントー(偽)も驚愕しているな。実は、正直、俺もアレで通じるとは……。

 「「カクカクシカジカ」に対する返事って「まるまるうまうま」っていうんスね。オレっち初めて聞いたっス」

 そっちかい!? コイツもだいぶ天然(ポンコツ)だな。

 まぁ、上喜部隊(ウチ)でやってくぶんには、その方が馴染みやすいかもしれんが。

 

 「あーまー、そんなワケなんで、漣にはセントーの奴を連れてこの鎮守府を案内してやってほしいんだが、頼めるか?」

 「どのみちヒマしてたんで、うけたまわりぃー、ですぞ☆」

 ニコニコと邪気の無い笑顔で漣が請け負うが、その調子の良さゆえに、俺としては、(こやつ)新人(セントー)にいらんこと吹き込まないか一抹の不安はぬぐえない。やっぱ俺自身が案内&解説した方がいいんだろうか。

 

 とは言え、今日は別に休日でもなんでもない平日で、そこそこ程度の規模のウチの部隊だって、毎日それなりの事務仕事(さぎょう)は発生する。

 優秀なる秘書艦殿(ゆうばり)に丸投げする──というのも、一瞬考えないではなかったが、さすがにソレはダメ提督過ぎると思い直す。

 

 「ではでは、ご主人様、逝ってきまーす!」

 「いってら~、一通り回ったら此処に帰って来てくれよー」

 多少の厄介事(こと)許容範囲内被害(コラテラルダメージ)か、と自分に言い聞かせ、執務室のドアから消えていく(テンションの高い)漣と、彼女に引っ張られてあわあわしているセントー(偽)を見送ったのだった。

 

  * * * 

 

 一見したところ、「能天気で何も考えてように見えるほど軽い今どきの女子中学生」めいた漣だが、これでも上喜提督の現・次席秘書艦であり、筆頭たる夕張が実戦や演習で出かけている際は、その代理を担っている。

 最古株である初期艦娘なこともあいまって、上喜配下の艦娘では、この舞鶴鎮守府のことを一番よく知ってる人材だと言ってもよいだろう。

 

 出撃ドックや訓練所、入渠施設、艤装保管庫などといった、“艦娘(ぐんじん)”としての戦闘(しごと)に直接関わる場所を手際よく案内した後、今度は“女子(ひと)”として舞鎮(ここ)で暮らしていくために必要な施設へとセントーを連れて行く。

 

 給糧艦娘・間宮が取り仕切る艦娘用の大食堂、酒保代わりのコンビニ、“お艦”こと鳳翔が営む軽食&立ち飲みの店、そして……。

 

 「それでね、ここが平時入渠施設──ま、平たく言うと普段入るためのお風呂だよん」

 「へっ? いや、入渠ドックは、さっき見せてもらったっスよね?」

 不思議そうな顔になったセントーに、漣は苦笑する。

 「あっちは戦闘でダメージを受けた時用の、いわば医療施設だかんね。味も素っ気もなかったっしょ? その点、こっちは……ホラ!」

 脱衣場と思しき場所を越えて、浴室本体に通じる扉を開け放つ漣。

 彼女についておっかなびっくり足を踏み入れたセントーは、中を見回して目を輝かせた。

 

 入渠ドックの方は、床はタイル貼り、浴槽もセラミック製かつ家庭用風呂同様に人ひとりが入れる程度の長方形の簡素な造りだった。

 対して、こちらはおそらく10数人が余裕で同時に入れそうな広さで、床には大きめの平石を並べ、浴槽は木製(おそらく檜造り)だ。銭湯を通り越して温泉に来たようなゴージャス感がある。

 

 「コレは、なかなかイイ感じっスねぇ」

 「でしょでしょ? ちなみにココ、朝5時から夜中の12時までが営業時間だから、その点だけは注意した方がいいよー」

 「漣もネットの動画観るのにムチューで夜何度か入り逃したし」……と顔をしかめるサブカル好きな次席秘書艦。

 「あ、この基地にもネット回線きてるんスか?」

 「うん。と言っても無線じゃなくて有線オンリーだし、上に申請しないといけないから、ちょっとメンドイけどねー」

 などとふたりが話していたところに、浴室の隅から声がかけられた。

 

 「おや、漣はともかくそっちは見かけない顔だな。新人か?」

 湯煙の向こうにいたのは、黒に近い茶色の髪をショートボブにした、凛々しい顔立ちの長身の女性──伊勢型戦艦2番艦の日向だ。

 今日は出撃・演習共に予定が入っていない休養日のため、朝風呂とシャレ込んだのだろう。

 

 「ですです☆ あ、こちらはセントーさん。今日からウチに加わることになる軽空母だそうですよー」

 漣にとっては同僚で、戦艦とは言え着任順序的には“後輩”に当たるうえ、つきあいも長いので気楽に受け答えしつつ、セントーを肘でつついてさりげなく挨拶するよう促したのだが……。

 

 「────ブハッ!!」

 突如として、セントーが鼻血を噴き出してブッ倒れたため、ふたりは大いに慌てることになる。

 

 参考までに伝えておくと、日向はその時、浴槽に浸かっていたため、当然タオル1枚も身に着けておらず、やや筋肉質な傾向はあるものの、(駆逐艦勢や一部巡洋艦娘だちが羨むのに十分な)豊満な乳房その他が正面からは丸見えだったことを付け加えておこう。

 



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[お詫びとオマケ]

 「しばらく週一投下します」とか言っておいて恐縮なのですがプライベート(というか仕事)関連でかなりストレスが溜まっており、「あかるくゆかいな艦これ話」が現状書ける気がしません。半月なり1ヵ月なりして精神的に落ち着いてから再開したいと思います。
 以下は、この連載を始める前に作ったプロット段階での人物設定です。私の場合、事前にこういうのを作っても、書いていくうちに色々変化する(ひどい場合は出番がキャンセルされモブ化もありうる)ため、今後の物語で必ずしも反映されるとは限りませんが、あくまで「初期設定」として参考までに。


『三下セントー』キャラクター紹介

 

☆上喜 仁(かみき・じん) 23歳/♂

 舞鶴鎮守府所属の海軍中佐/提督。現実世界からの転移者にして元艦これプレイヤー。

 いわゆる“あさかん(朝、目が覚めたら艦これ世界に来ていた)”組で、しかも状況は「提督に任命されて着任する直前だった」というラッキーガイ。以来、2年あまり、艦これの知識と気さくで柔軟(いい加減とも言う)な性格を武器に、提督稼業に励んできた。本人的には、「どうせDランレベルの大学生だったし、親方日の丸に就職できたんだから良しとしよう」と開き直っており、それなりの成果を上げている(ので、最近中佐に昇進した)。

 ディープではないがそこそこオタクだったため、こちらの世界の日本ではサブカルの発達具合がやや乏しいのが悩みの種。特に2000年以降の作品は非常に少ない(逆に1999年までは現実とほぼ共通)。その意味で、自分と同様2018年あたりまでの作品や流行の知識も多少あるセント―(偽)とウマが合い、勤務時間外ではよく雑談(ばかばなし)している。

 ルックスは平凡、頭の回転も運動能力も並、生まれも中流……と平均値を地でいく凡人だが、逆に目立った弱点もない。性格も陽キャラというほどイケてないが、陰キャというほど地味でもない。強いて言うならやや努力家だが、同時に熱血キャラではない(むしろ本来はかったるい系)ので、他人に努力を強要したりはしない。その割に努力するのは、自分が凡人だと知ってるからで、怠けるとすぐ人並以下になると思ってるから、渋々(いやいや)やってる。

 

 

★セントー(偽) ?歳(外見は17,8歳)/♀?

 上喜の鎮守府で“建造”された軽空母娘。ただし、本来は「艦これ」ではなく「アズレン」にいたはずのキャラ。しかも、外見(+声)や能力はセントーだが、中身(というか人格?)は、仁と同じ2018年末の日本から来た男子高校生だったりする。

 割とミーハーで、オタクと言うほどではないが一応「艦これ」のアニメは見ていた(ただし、アズールレーンの知識はほぼ皆無)。その性格は、一言で言えば「三下後輩系チャラ男」。多少は不良ぶったりはしてみるものの、根が小市民かつ善人なので、どうしてもお人好し感と小物臭がにじみ出てしまう。躁鬱ではないが、割とアップダウンの激しいタチで、艦これ世界に来れたと知って喜び、女になってしまったことで落ち込み、「でも(自分の)おっぱいとか揉み放題じゃね?」とニマニマする。ある意味、健全な17歳男子のメンタリティ。

 この世界に来た“先輩”である仁を「提督先輩(パイセン)」としてリスペクトして、三下ムーブする。他の艦娘(潜水艦や駆逐艦含む)にも「(艦娘の)先輩」としてセンパイ呼び&丁寧語で話すので、ある意味で原作(アズレン)再現。後に実質的秘書艦3号となる。

 元の世界では横暴な姉によく無理難題をフッかけられていたため、年長の女性に対してあまり夢を見ないが、鎮守府に来てからは「ココの艦娘(ヒト)はいい人ばっかりっスね~」と驚嘆。性別の問題を除くと、彼女(?)も「元の世界よりコッチの方が居心地がいい」派で、あまり帰りたいとは思っていない様子。

 両親が共働きかつ例の姉にこき使われていた経緯があって、元男子高校生にしては割と家事が得意。特に料理のレパートリーは、少なくとも3食×1週間普通に回せるくらいあり、時々、間宮や鳳翔から店の手伝いを依頼されるレベル。某番長に匹敵するコミュ強者で、誰とでも割とすぐ仲良くなれるタイプ(落ち着きがない・軽薄だと嫌われることもあるが)。

 

 

・夕張

 仁の筆頭秘書艦。本作に於いては、腐女子でこそないものの、割と気合の入ったアニオタ+ゲーオタ+ロボオタで、感性的に仁と相性が良い。フィクションだけでなく、工作艦娘・明石の助手を務められるくらいのメカオタ(実技)でもある。

 陽性かつさばさばした性格で、仁とは性別を越えた悪友的関係を築いている(が、内心は多少乙女な面も無いではない)。オタトークで漣とも仲が良く、新人のセントーも「イケるクチ」とわかって嬉しい反面、仁に対するアドバンテージが相対的に減ってるような気もして複雑。

 (主にオタク的な)男子力が高い反面、一般的女子力は低めで、「カップ麺と冷食以外だとまともに作れるのはカレーくらい」、「部屋は半汚部屋」、「私服はほぼTシャツ&ジーンズかツナギ」と、ダメ人間の半歩手前くらいの立ち位置。

 ただし、艦娘としての戦闘力や戦術センスは、(本人の努力の甲斐もあって)軽巡としてはかなり高く、戦艦や空母勢からも一目置かれている。

 

・漣

 仁の次席秘書艦。元の「艦これ」に比較的近いキャラで、かなりフランクかつちょいオタ(プラス悪戯小悪魔)。仁をご主人様呼びする割に、あまり敬っているようには見えず、むしろ「憎めないが少々頼りない兄貴分」くらいに見ているフシがある。とは言え、他人が仁をけなすとムッとして即反論するくらい親愛の情は持っている。

 浅く広くのライトオタだが、強いて言うならネット(掲示板)厨。最近は動画投稿サイトにもハマっている。趣味の関係で夕張、のちにセントーとも仲が良く、休日など一緒に行動している様子がよく見られる。

 戦力的には駆逐艦娘としては平均よりやや上程度。ただし、思い切りがよく、しばしば大胆な戦法をとって仁や僚艦を冷や冷やさせる。

 女子力面では「平均的な女子中学生」レベル。仁・夕張・セントー以外だと、漫画繋がりで秋雲先生、「踊ってみた」協力者として舞風と特に仲良し。と言うか、仁や夕張が微妙にオタク系コミュ障(がんばって直そうとはしているが)なのに対し、セントー同様、誰とでも気楽につきあえるタイプで顔が広い。

 

・大淀

 常識人枠その1(委員長系)。大淀は、“任務娘”としてはともかく艤装を得て本格参戦するようになると、お堅そうな印象の割に融通の利く性格をしているのだが、この鎮守府では提督と秘書艦1号・2号が悪ノリするタイプなので、意図的に「叱り役」を引き受けている(アズレンのロンドンに近い立ち位置)。

 純粋な戦力面では軽巡としては平均レベルだが、指揮能力はかなり高い。

 

・榛名

 常識人枠その2(不憫系)。本来は長姉と並んで提督LOVE勢の筆頭に挙げられるべきなのだろうが、この鎮守府には提督の仁を筆頭にツッコミに回らざるを得ない人間が揃っている。「榛名は……大丈夫じゃありません!」

 鎮守府に最初に着任した戦艦で、戦力的にも要のひとり。撃てば確殺、守れば鉄壁、指揮する姿は(敵の血で)真紅の花……と賞賛(?)される。おもに第二艦隊旗艦を務める。

 

・赤城

 のんびりマイペース空母。パッと見は「おっとりゆるふわお姉さん」なのだが、注意しないと「朝起きて朝メシ食って出撃して昼メシ食って昼寝して出撃して晩メシ食って出撃して入渠して寝る」というどこぞの空の魔王を彷彿とさせる生活を続けており、二重の意味(ガチ修羅的にもコスパ的にも)で戦慄することになる。決して戦闘狂ではない(はずな)のだが、生真面目かつ無趣味なので、結果こうなった(なってしまった)人。低女子力組のひとり。

 

・鳳翔

 仁の鎮守府(ぶたい)に着任した最初の軽空母にして「お艦」。着任当初はともかく最近はあまり実戦に出ないが、待機中の艦娘の教導を行ったり、夕方から深夜は軽食&立ち飲み酒場を営業してたりする。

 基本的には温厚で優しく母性的な女性だが、(人として)「やってはいけないこと」をした相手に対しては鬼のように厳しい(これは艦娘のみならず軍人・民間人に対しても同様)。実は、(予備役だが)海軍大佐の階級も持っている(つまり、艦娘になる前は現役軍人だった)。そのため実年齢は禁則事項。

 もっとも、その怖さを差し引いても、鎮守府所属のほぼ全員から慕われている人格者で、様々な情報にも通じており、仁やセントーの裏事情についても察している様子。

 

・間宮

 海軍みんなのアイドルたる給糧艦娘で、艦娘食堂「間宮」の炊事長。配下に地元の民間人から雇用した炊事担当が2人いるが、それでも食事時の厨房は大わらわなので、常にお手伝い人員を欲している(報酬は現物支給:間宮羊羹など)。

 じつは赤城同様の仕事人間(艦娘?)で、休みになると途端に何をすればいいかわからなくなる、ちょいポンコツなお方(もっとも、女子力を投げ捨ててる赤城や夕張と異なり、一人前の社会人女性として恥ずかしくないだけの身だしなみや常識は保っている)。

 

・曙

 漣のルームメイト。提督をクソ呼ばわりすることで有名な曙だが、この子の場合、着任当初に仁と漣が懇切丁寧に(主に論戦で)心を折ったので、そこまで口は悪くない。仁との関係も(少なくとも勤務・任務中は)「友好的中立」といった印象(逆に言うと、2年近く経ってるのに他人行儀とも言う)。釣りが趣味で、プライベートで釣りに行く時や人に釣りを指南するときは、普段と別人のように上機嫌で人当たりも良くなる。

 

・日向

 鎮守府に二番目に着任した戦艦にして安定の瑞雲マスター。とは言え、瑞雲対する愛情が溢れている事を除けば、比較的常識人で、泰然自若としたその雰囲気に相談を持ちかける者も多い。同じ常識枠でも怒りんぼの大淀、テンパり気味の榛名と異なり、「まぁ、それもよかろう」と悠然と構えている(我関せずとも言う)ので大物感があるせいか。

 

・明石

 小動物系メカフェチ娘。大多数の工作艦娘・明石が、提督にも艦娘にも比較的友好的なのに反し、かなりのおどおど系コミュ障。ただし、日常的な業務内容についてはテンプレ的に対応するので、大きな支障はない

 。夕張はメカニックの弟子に当たるので、割と親密(その影響でロボ・SFアニメは観るようになった)。大淀も昔から事情を知っている旧友なので、普通に話せる。それ以外で、比較的マシなのは仁&漣(夕張つながり)、初雪(インドア派仲間)くらい。

 ただし、その技術力(というかトンデモ改造力)は、他鎮守府の明石と比べても(良くも悪くも)卓越している。セントーが建造されたのも、元は資材の代りに正体不明の物体(キューブ)を実験的に使用したため。

 

・その他の上喜艦隊の艦娘たち

 水上機母艦の千歳、重巡洋艦の最上、利根、高雄、軽巡洋艦の木曽、川内、鬼怒、駆逐艦の如月、卯月、初雪、綾波、春雨、不知火、舞風、秋雲、島風、潜水艦の伊168、伊8、伊19、海外艦としてはグラーフ・ツェペリン、U-511、ゴトランド。ちなみに、グラーフ以外の海外艦と19、春雨は、セントーよりあとに配属される(にも関わらず、センパイ呼びする)。

 

・舞鶴鎮守府の現状

 上喜提督以外に、初老の基地総司令と4人の提督(全員、仁より年上)がいる。

 東京に近く最大規模を誇り、お堅い横須賀。「黒鷹」をはじめバリバリの武闘派揃いの佐世保、初心者や訳あり・傷あり艦娘が多く、比較的のんびりしている呉……という風に、各地の鎮守府には個性があるが、それで言うと舞鎮は「フリーダム」。反骨とまでは言わないが、ひと筋縄でいかないクセモノが(提督・艦娘ともに)揃っている。

 




※phase07投下後は、本項は削除する予定です。


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【Extra-1.Summer Dream】

※関東在住者限定の時季ネタ、かつ番外編なのをよいことにメタな会話が飛び交いますが、ご寛恕ください。



 「サービスが足りないですよ~!」

 それは、いきなり提督執務室に飛び込んで来た、上喜鎮守府次席秘書艦こと漣のそんなひと言から始まった。

 

 その言葉を聞いた俺達──俺こと上喜仁中佐と筆頭秘書艦の夕張、そして雑多な理由から“秘書艦代理補佐見習い”という謎の役職(めいもく)で、この執務室(へや)にいるセントー(偽)の反応は……。

 

 「やっぱこういう場合は、古式ゆかしく「てぇへんだてぇへんだ、ご隠居!」って叫びながら入って来てほしいな」

 「いや、その場合は、パイセンより基地総司令の猪熊中将とかの方が御隠居役は適任じゃないスかね?」

 俺のダメ出し(?)に対して、異議ありと正論(?)をブツけてくるセントー。

 

 「確かに、上喜提督じゃ渋みが足りませんね。もうちょいわかりやすく「お兄さま、あなたは堕落しました」とか?」

 「R・高峰秀子?」「カルメン故郷に帰る」

 すかさず、90年代少年マンガのネタを突っ込んでくるあたり、やるな夕張!

 ……それに的確に反応できる俺達(オレラ)も俺達だが。

 

 「──というワケで、ワンモアプリーズ」

 向き直って漣にテイクツーを要請する。

 

 「え~~、仕方ないなぁ。──てててて、提督! ししし深海棲艦が!」

 なんだかんだでノリのいい漣は、一度執務室から出て、再度飛び込んでくるトコロから始める……って、オイ!

 「まさか、深海棲艦が鎮守府に直接攻めてきたのかよ?」

 テレビアニメ版9話みたいに!?

 「15年ぶりっスね」

 「ああ、間違いない……棲姫よ」

 待てや、コラ、本当だったらネタに走っていい事態(こと)じゃねーぞ!

 

 「いえ、そういう危険(こと)は別にないですよ~」ゴチンッ!

 しれっと言い放つ漣の頭にゲンコツを落とす。

 「はぅン、ひどいですよ、ご主人様。いくらメイドに折檻がお約束とはいえ」

 「るさい。人騒がせな」

 涙目で見上げる漣がちょっと可愛いと思ってしまったことは心の棚の奥深くにしまっておこう。

 

 「で、結局、何が言いたかったんだ?」

 なんか執務を続ける雰囲気じゃなくなったんで、執務机横の応接セットに4人で座って雑談を始める。ま、ちょうど一服入れようと思ってたトコロだしな。

 「それです! せっかくの美味しい(きせつ)だってゆーのに、プールネタや水着ネタのひとつもやらずに終わるのはもったいなさ過ぎでしょー!」

 (コイツ)……今回が番外編だからって思いっきりメタなネタをブッ込んできやがったな。

 

 「夏って言っても、もう9月よ? そりゃ、まだまたぜ残暑は厳しいけど……」

 「お盆過ぎてるから海水浴は不可っスね。まぁ、プールなら開いてるトコもあると思うっスけど」

 夕張とセントーが至極常識的なツッコミを入れるが、当の漣は「()だやだ、プール行きたい! 水着でサービスシーン入れたいんだーい」とダダっ子モードに突入している。

 「て言うか、そもそも艦娘達(おまえら)って、わざわざプールに行きたいのか? 常日頃から海で軍務(しごと)してるのに」

 そりゃ、まぁ、泳ぐのと“水上スケート”してるのでは、大分勝手は違うんだろうが、「水辺なんか仕事だけでもう沢山!」ってなっても不思議はないと思うんだが。

 

 「甘いですよ、提督(ごしゅじんさま)、プールは別腹です!」

 理解不能なコトを、さも世界の真理のように声高に主張されても、その……なんというか困る。

 「そ、そういうモンか」

 「そーゆー、モノなのです」

 いったい何がソコまでこやつを駆り立てるのか、と不思議に思いつつも、ちょっとだけ考えてみる。

 

 (思えば、この夏は筆頭秘書艦(ゆうばり)次席秘書艦(さざなみ)を、実務と事務の両面でずいぶん酷使しちまったからなー。秘書艦見習(セントー)も、名目だけでなく書類仕事を実際に手伝ってもらうことになったし)

 

 「いいだろう。この週末は自由参加のリクリエーションってことで、近くのプールを半日程借り切って、希望者を連れて行ってやる」

 「やたっ! よっ、ご主人様、太っ腹!」

 何か思いついたらしい上喜の言葉に、発案者の漣が目を輝かせる。

 

 「はぁ~、まったく仕方ないですね、提督もザミちゃんも♪」

 両手を頭の左右に掲げて、やれやれという風に首を振る夕張だったが、弾む語尾や隠しきれない口元の笑みから、彼女も内心ではこの突発イベントを歓迎していることは傍目にも丸わかりだ。

 「あ、せっかくだから水着を買いに行かないといけませんね! 提督、今日は早上がりさせてもらってもいいですか?」

 いや、珍しくこんなことを言い出すあたり、実は夕張が一番楽しみにしているのかもしれない。

 

 とは言え、そのことをわざわざ指摘するほど俺も他のふたりも野暮じゃない。もっとも、あとで聞くと、漣は一瞬からかおうかとも思ったらしいが、それで夕張がヘソを曲げて「じゃあ、いかない」とでも言いだすと面倒なのでスルーすることにしたんだとか。

 

 「うーん……今月はお小遣いがちょっとピンチだから、漣はパス1で~す。去年のだけど、まだほとんど着てない水着持ってるしー」

 ちなみに、漣が言ってるのは、ゲームで俗に「夏服七駆」と言われている第七駆逐隊の艦娘たちが夏に着用している私服(?)の事だろう。

 艦娘たちには時々、この種の“制服以外の衣装”が支給されることがある──その大半が『艦これ』のゲームと連動してるっぽいことを俺は知っているが、その理由までは不明だ。

 (軍上層部(おえらいさん)の趣味とかだったらアレだなぁ)

 ま、目の保養になるから、提督側としてはなんらデメリットはないんだが。

 

 「ああ、そう言えば、ザミちゃんやボノちゃんは去年、大本営から支給されてたわね。じゃあ、センちゃん、ふたりで駅前のデパートにでも行こっか?」

 「えーーと……申し訳ないっス、夕張(バリ)センパイ。オレっちも、水着は一応持ってるんで……」

 セントー(偽)いわく、建造時に本人といっしょに建造ドックから出て来た金属製のスーツケース(?)に、服とか身の周り品だとかが色々入ってたんだとか。

 

 (そういや、『アズレン』でのセントーは、実装直後に水着の着せ替えが来てたっけか。有名原画家のキャラデザだから優遇されてたのかねぇ)

 

 「そ、そうなの。古参のザミちゃんだけじゃなくて、新米のセンちゃんにも衣装が……ふ、ふふふ……」

 あ、いかん。夕張が自虐(めんどくさい)モードに入った。

 「そうよね。どうせ私は昔っからいる割に公式水着ひとつない艦娘(おんな)よ」

 筆頭秘書艦殿が扶桑山城(ふこうしまい)並みにヤサグレておられる。

 「水着はおろか、浴衣も晴れ着もクリスマス衣装も支給されないし」

 どうやら地味に気にしていたらしい。

 

 (ん~、艦娘としての夕張は(実物の実験軽巡・夕張と比べれば)割と性能的には恵まれてると思うんだがなー)

 

 ゲームとリンクしているという俺の予想が正しいなら、もう少し待てば三越コラボでのお洒落な私服が届くはずだけど、さすがに今、根拠が俺の脳内にしかないソレを引き合いに出すのははばかられる。

 第一、その予想が間違っていたら、期待させたぶん余計な落胆を与えることになるだろうし。

 

 結局、その場は何とか夕張をなだめすかし、漣とセントー以外で気配りの上手そうな駆逐艦娘を何人かフォローにつけてデパートに送り出す……くらいしか、俺に打てる手はなかった。

 

 * * * 

 

 さて、そんなこんなで、時季的にちょっと遅い「プールでの水遊び」へと繰り出すことになった上喜提督と愉快な艦娘(なかま)たち。

 

 「うーむ、来る前は、わざわざプールを借りなくてもいいかと思ったが、こうして眼前にして見ると貸し切りにして正解だな」

 思い思いの水着に着替えてプールサイドにたむろしている10数人の艦娘たちの姿を眺めながら、機嫌良さそうに口元を緩めて上喜はつぶやく。

 

 たとえば、わざわざデパートでおニューの水着を購入した夕張の場合、緑と白のギンガムチェックのビキニを選んだようだ。

 普段はメロンと呼ぶとと怒るクセに、衣服や小物にはメロンをイメージさせる代物を選ぶことが多い夕張。某タイガー教師の如く、彼女にとってメロンは「憎みつつ愛している」ものなのかもしれない。

 水着単体だと露出度はかなり高めだが、ライトグレーのパーカーに袖を通し、白いパレオを腰に巻くことで、いくぶん肌色比率を抑えているのは、彼女の恥じらいの表れだろう。

 

 初期艦にして次席秘書艦(えせメイド)たる漣は、前述の如く“七駆夏服”バージョンの水着だ。水色を基調に白と薄紫で彩られたセパレートで、ボトムには紺色のミニスカートも履き、私服の白いパーカーを羽織っている。明るく元気(ハイテンションとも言う)な漣にはよく似合っているが、本人は内心「ウケ狙いで伊号(せんすいかん)たちからスク水を借りてくるべきだったかな~」と考えていたりする。

 

 そのほかにも、大淀や榛名に間宮といったどちらかという控えめであまり鎮守府から離れることのない艦娘たちも、各自なかなかお洒落な水着に身を包んでこの場に集っている。

 一匹オオカミ気質で知られる曙(まぁ、上喜(ココ)の部隊の曙は割合フランクだが)まで来ているあたり、やはり艦娘たちも夏らしい息抜き(レクリエーション)がしたかったのかもしれない。

 

 (おもに交渉面で)そこそこ苦労した企画に、部下たちが多数参加してくれたのは、上喜も提督(じょうし)として嬉しいのだが……。

 「目の保養を通り越して目の毒だな。うーむ、けしからん」

 そう言いつつも、目を逸らさずに艦娘たちの水着姿を凝視(がんみ)しているのだから、その真意は推して知るべし。

 

 「あぁ~いいっスねぇ~」

 上喜のすぐそばで「うんうん」と頷いているセントー(偽)だが、その本人も白の、しかもかなり際どい(下乳丸見えの)セパレート水着姿なので、上喜としては微妙に落ち着かない気分だった──もっとも、視線自体はユサユサ揺れるその“南半球”に釘付けなのだが。

 

 「て・い・と・く♪ ドコ見てるんですか?」

 彼がチラ見している視線の先を察知した夕張が、叱咤半分からかい半分といった雰囲気で、上司を咎めた。

 

 「バッカ、おめー、コイツの場合、普段から割と露出度の高い格好だろうが。だから水着になっても肌色面積あんまし変わらんなぁ──とか考えてただけだって」

 「嘘つけ、絶対見てたゾ」

 弁解する上喜を、なぜか某語録風の台詞で漣が糾弾する(というかおちょくりたいだけだろう)。

 

 「まー、そーゆーご主人様の言い訳は置いといて」

 ……と、何か箱みたいなものを脇にどける仕草をする漣。

 「ちょっと失敗だったんじゃないですかねぇ、この企画」

 「やれやれだぜ」と言わんばかりに肩をすくめる漣の指摘に、周囲の艦娘たちもどこか賛成ムードだ。

 

 「むぅ……やはり、豪華ホテルのプールとかじゃないとダメか?」

 ちなみに此処、実は鎮守府近くの中学校のプールだったりする。プールサイドはシンプルな灰色の耐水タイルを敷き詰めただけで、プール自体も25メートル四方の長方形で、波だの水流だの滑り台だのといった仕掛(ギミック)とは無縁の単なる水溜まりだ。

 

 「いや、それもありますけど、それ以上に──その、寒いんですよ、提督!」

 そう、ここにいる艦娘の大半が、水着の上にパーカーなりTシャツなりを着ているのは、気温がそこまで高くないからだ。

 

 「今週の頭までは、まだだいぶ残暑がきびしかったんだがなぁ」

 上喜の言う通りで、漣が執務室に飛び込んで来た日は、確かに日中の気温が30度を超えていたし、水遊びするのにちょうどいい気候だったのだが。

 

 「いやー、まさかたった5日間でこんなに気温が下がるとは思わなかったっスね!」

 それでも25度、つまり初夏ぐらいの温度ではあるのだが、日差しが真夏ほど強烈でないことに加えて、人間の体はたかだか5度下がったくらいでも涼しいを通り越して肌寒いと感じてしまうものなのだ。

 

 府の教育委員会と交渉までしてプールを借りた上喜提督だったが、心なしか肌寒さに震えているような艦娘(ぶか)たちの姿を見ては、この企画を断念せざるを得なかった。

 

 「仕方ない。せめて弁当だけでも食って帰るか」

 プールサイドにレジャーシートを広げて座り、わざわざ間宮に作ってもらったお重入り弁当を、やけ食い気味にパクつき始める提督&艦娘たち。

 

 ──こうして、上喜提督監修の「ドキッ! もう9月だけどプールだ水遊びだ! ポロリも……あるといいなぁ」企画(イベント)は、ふたを開けるとわざわざ近所の中学校までピクニック(?)に来ただけという散々な結果に終わったのだった。

 

 「うーん、オレっちはそれほど寒くなかったんで、泳いでみたかったんスけどねぇ」

 なお、水着と普段の格好との差異が少ないせいかケロッした顔のセントーが、帰り際にちょっぴり未練がましい視線をプールに向けていたりしたのだが、まぁ、それもまた「青春の一頁」というヤツだろう(適当)。

 



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