ナザリックの潜伏者 (塩梅少年)
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1ー1 フランケンシュタインの怪物

 YGGDRASIL(ユグドラシル)

 

 かつて爆発的な人気を誇った一つのDMMO-RPGの最終日、そのゲームのギルドの一つ、アインズ・ウール・ゴウンに所属していたプレイヤー“ガーネット”はヘルヘイムの世界で、彼らが所持する拠点、ナザリック地下大墳墓へと急いでいた。

 ナザリックの入り口までの道中、グランベラ沼地の島の一つには、ここまでで見たものと同じであろう花火がぎっしりと引き詰められているのが見てとれる。

 ガーネットは転移の指輪リング・オブ・アインズ・ウール・ゴウンの転移先一覧から第九階層の欄を選び転移する。

 そのまま円卓(ラウンドテーブル)に向けて歩みを進めるガーネットの姿は“フランケンシュタインの怪物”と呼ばれるホムンクルスの上位種であり、巨大な体躯と醜悪な顔が特徴の異形種であった。

 

 数時間前にユグドラシルにログインしたガーネットは、かつてのギルド長である“モモンガ”と幾何か話した後、一人お祭り騒ぎのユグドラシルの世界を散策していたのである。

 しかし、もうそろそろサーバーが落ちる時間だと気づいたガーネットは、「他にも来るかもしれないメンバーがいるかもしれないので私はナザリックにいます」と言ったギルド長の言葉を思い出し、せっかくだからまだいるモモンガさんと一緒に最後の瞬間を楽しもうと再びナザリックに戻ってきたのだ。先ほど見えた入り口付近の花火もモモンガさんが用意したのかもしれない。

 

 そんなガーネットの職業構成だが、戦闘に特化していない隠密に特化した構成になっており、そんな彼の視界の片隅に浮かぶ地図にはこの先の円卓(ラウンドテーブル)に2人のメンバーがいることを示していた。騒音を表す波紋が二つ広がっているのが見えるのでモモンガさん以外にも誰かが来て、何かを話しているのだろう。

 

 魔法職なら組み合わせや戦術で、戦士なら現実世界の運動神経がプレイヤーの実力に大きく影響するが、自分のような戦闘を視野に入れていない盗賊系の忍者職のプレイヤースキルは、変動する様々な情報をどこまで把握し、避けることができるかによって決まる。悪く言えばごちゃごちゃした表やグラフに波紋などが示された画面を読み解く理解力が求められる。周囲の気配やターゲティングの方向や、温度変化に音や空気の変動、魔力の波動に空間のゆがみなどが画面に細かく表示されており、それらを同時に理解して動かすのが盗賊の動かし方であった。

 

 

(……誰が来てるんだろう? 懐かしい顔に会えるかもな)

 

 

 ユグドラシルをやらなくなってからおよそ二年。このゲームに飽きて疎遠になっていた自分だが、彼らと顔を合わせ遊んだのは楽しい思い出であった。合わせる顔は化け物の顔であるのだが。そんなかつての思い出を振り返り、やや駆け足で円卓(ラウンドテーブル)へと向かっていく。

 しかし、ガーネットが部屋にたどり着く前に反応のうちの一つが消えてしまった。どうやら会う前にどちらかがログアウトしてしまったらしい。

 ガーネットは梯子を外された気分になり自然と足取りも遅くなる。笑い話として受け止めようとして、そのまま円卓(ラウンドテーブル)の扉に手をかけようとする。しかし――

 

 

「――ふざけるな!」

 

 

 その手は思わぬ怒号によって止められることになった。反射的に周囲から隠れようとして、かつてユグドラシルで行っていた隠密系のスキルをすべて解放させるショートカットを押し周囲と同化する。

 

 

「ここは皆で作り上げたナザリック地下大墳墓だろ! なんで皆そんなに簡単に棄てることが出来る!」

 

 

 壁越しでも聞こえるその声にガーネットは身を竦ませる。常時発動型特殊技術(パッシブスキル)である<聞き耳>や〈収音〉により、その後の呟くような声になったモモンガさんの声も続けて耳に入ってきた。

 

 

「……いや、違うか。簡単に棄てたんじゃないよな。現実と空想。どちらかを取るかという選択肢を突きつけられただけだよな。仕方ないことだし、誰も裏切ってなんかいない。皆も苦渋の選択だったんだよな……」

 

 

 空中で止まった腕を下げ、そのまま扉の横で壁に寄りかかるように座り込んだ。ガーネットは穏やかな目覚めに泥水を顔にかけられた気分だった。なぜならガーネットは今でも他のゲームを、かつてのユグドラシルと同じように遊んでいるのだから。

 ユグドラシルを簡単に棄てたし、現実と比べたわけでもなく、苦渋の選択でもなかった。ただやりたいことをやり終えたから、飽きた空想から次の空想に移っただけ。間違っているとは思っていないし“裏切った”なんて微塵も思っていない。

 確かにユグドラシルというゲームは楽しかった、しかしただそれだけで特別視するものではなかった。なぜなら他にも楽しいゲームはいっぱいあるのだから。

 

 しかしギルド長のモモンガさんの立場になって考えれば彼の気持ちも()()()できるし、酷な話とも感じる。なぜならこのナザリック地下大墳墓は41人の多大な時間と労力と、そして、リアルの少なくない金も掛けて作りあげたものだからだ。

 俺達――モモンガさん以外のギルドメンバーからしたら自分の使った時間とお金である。ゆえにそれに対して満足も納得も後悔もしてゲームを辞めることができた。

 

 しかしそれをギルド長として任された側からしたらどうなのだろうか? けして仲の悪くない友人と少なくない金や時間をかけて作った集大成。

 人は自分一人のものは捨てることも終わらせることも決断できるだろう。だけど自分以外が関わったものを気軽に捨てることも終わらせることもできないのではないだろうか。

 いつか誰かがモモンガさんを悪い意味でギルド長に向いていると言っていたが、悪い意味でもギルド長に向いてなかったのかもしれない。

 

 モモンガさんがユグドラシルを大事に思っていたのは知っていた。それを知ってなお、自分を含めてなんとなく籍を残していた三人とモモンガさんを除けば四一人中三七人が、彼らなりに何らかの終わりを作ってこのゲームをやめたのだ。

 自分を含めて皆、モモンガさんも何かしらの終わりを作るんだろうと考えて、だから誰も何も言わなかった。なぜならそれはモモンガさんが決める問題だし、自分達には何の責任もないのだから。

 ――しかし友人として彼を思うのならば何かしてあげるべきだったんじゃないかとも思ってしまう。

 

 そんなことを考えていると円卓(ラウンドテーブル)の扉が開き、ギルド武器を持ったモモンガさんが歩いて行く。扉のすぐ横に座っていた自分には気づいた様子もなかった。今の自分は索敵系スキルで看破するか、攻撃を当てるかしないと見つからないのだから当たり前ではあるのだが。

 

 その後ろ姿を追いかけることも声をかけることもせずに、ただ見送る。

 ここ(ナザリック地下大墳墓)を楽しかった思い出(過去)として見ているだけの男が、ここ(ナザリック地下大墳墓)大切な場所(まだあるもの)として見ている男に言えることなどないのだから。

 

 そう思い一人床に座り込み、なんとなく終わりの時を待つ。贖罪するつもりなんてないし、悪いとは思っても悪いことをしたなんて思っていない。この嫌な気分のまま逃げるようにログアウトしたら、楽しかった思い出まで否定される気がしたから。だから帰ったらモモンガさんにお疲れ様のメールでも送ろうと考えてガーネットは座り続けるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(モモンガさんには悪い事したかもしれないけど、ナザリックではやりたいことやって、楽しかったよな。今やってる戦車げーも極めつつあるし、今度は内政ゲームでも始めたいな……でもマスターバッジまだ全部揃ってないんだよなぁ……ん?)

 

 

 これといってやることもなくかつてのナザリックを振り返って座っていると、いつもごちゃごちゃしていた大小さまざまな地図やグラフが画面から消えたことに気づく。こんなに綺麗な画面になったのはユグドラシルを始めたころ(レベル1)以来かもしれない。

 サービス終了の瞬間を見るのは初めてだったがこういう感じに終わるんだなと思っていると、世界が――変わった。

 

 それはまるで背中に目ができたかのような万能感。皮膚がすべて耳に変わってしまったかのように周囲の静かな音が全身に突き刺さってくる。今までなかった器官が全身に生えたかのような違いに倒れるかと考えるが、決して倒れない身体。足が八本に増えた人間が、足を動かすことができてもどの足から動かせばいいかわからないように、いま身体を正しく動かせているのかがわからない。

 

 そんな気分が良いのか悪いのかわからないような身体を動かして、ガーネットは少しでも気分が良くなる場所を求めて歩く。

 

 そうしてアインズ・ウール・ゴウンが一人、フランケンシュタインの怪物ガーネットは()()()()()()()()()()()それぞれのギルドメンバーに割り当てられている自分の部屋へと向かって行くのだった。

 




ガーネット 異形種
創造主のいない創造物
属性――中立――[カルマ値:-50]

種族レベル
ホムンクルス――――――――――――10lv
改造人間―――――――――――――― 5lv
フランケンシュタインの怪物――――― 5lv

職業レベル
シーフ―――――――――――――――15lv
ハイシーフ―――――――――――――10lv
アンチトラッパー―――――――――― 5lv
ランナー―――――――――――――― 3lv
ダイバー―――――――――――――― 3lv
ストーカー――――――――――――― 5lv
アサシン―――――――――――――― 5lv
幻術士――――――――――――――― 5lv
ニンジャ――――――――――――――10lv
カゲツカイ――――――――――――― 3lv
口寄せ師―――――――――――――― 5lv
カシンコジ―――――――――――――10lv
マスターニンジャ―――――――――― 1lv



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1ー2 第9階層の守護者たち

前回のあらすじ

モモンガ「ふざけんなっ!」
ガーネット「!?」


 ユグドラシル終了間近に謎の体調不良を受けたガーネットは、人生で味わったことのないぐらいふかふかなベッドで横になりながら何度も何度も強制ログアウトを試みる。GMコールなども試してみるが、運営にはどうしてもつながらずにうなだれるしかない結果になった。

 

 そもそもゲーム終了間際までGMコールが機能しているのかという疑問もありユグドラシルサービス終了による強制排出をおとなしく待つことにしたのだが、明らかに終了予定時刻を数十分を過ぎてもログアウトされる様子はなかった。

 

 ガーネットが自分の太い腕を握れば薄い皮膚を透ける血管が波打つのがわかり、腕に力を込めれば筋肉が収縮する。目を凝らせば空間に色がついてるのがわかり、それが魔力や温度、空気の揺れを表しているのがなんとなくわかる。

 これらが先ほどまで見えていたグラフや図形が視覚化したものに感じる。

 

 

「……そういえば、モモンガさんはどうなった?」

 

 

 もとより身体はどこも悪くなってはいなかったのだが身体の変化への戸惑いも落ち着いてきたガーネットは、何が起きているかわからないが自分が何かとてつもない出来事に巻き込まれてるのか、そしてそれは自分一人だけなのか? とようやく思い至った。

 

 ギルド武器を持ってどこかに向かっていったのを見たのが最後であったが、もしかしたらモモンガさんも同じようにこの現象に巻き込まれているのかもしれない。そう考えたガーネットは自らの指輪の効果を発動させるのだった。

 

 

 

 ◆

 

 

 いくつもの階層を転移してようやくモモンガさんを見つけた場所は第六階層にある円形闘技場(コロッセウム)であった。ここまで来る途中いくつかの配置されていたモンスターなどを見かけたが、彼らを中心に不定形の薄いドーム状のようなものが見え、濃く見えるのが彼らの意識している範囲、知覚可能領域のようなものだというのが感覚的にわかった。

 見つけたモモンガさんの前にはいくつかのNPCが並んでおり、その中でもドームが一際大きいのが闇妖精(ダークエルフ)のぶくぶく茶釜さんが作ったNPCであった。NPCのドームのギリギリの範囲まで、それに触れないように気を付けながら近づく。

 

 格子戸越しに再びモモンガさんのほうを見る。その前にはナザリック地下大墳墓を守るために配置されたNPC達が、まるで隊列を組むようにモモンガさんに対して頭を下げていた。モモンガさんがNPCを集めて何かしてるのだろうか、一体何をしているのだろうとスキルによって音を拾って聞いてみる。

 

 

 

 

 

 モモンガさんがNPCたちの名前を呼び、NPCがそれに応えて喋りだす。

 

──―「美の結晶。まさにこの世界で最も美しいお方であります。その白きお体と比べれば、宝石すらも見劣りしてしまいます」

 

──―「守護者各員ヨリモ強者デアリ、マサニナザリック地下大墳墓ノ絶対ナル支配者ニ相応シキ方カト」

 

──―「慈悲深く、深い配慮に優れたお方です」

 

──―「す、凄く優しい方だと思います」

 

──―「賢明な判断力と、瞬時に実行される行動力も有された方。まさに端倪すべからざる、という言葉が相応しきお方です」

 

──―「至高の方々の総括に就任されていた方。そして最後まで私達を見放さず残っていただけた慈悲深き方です」

 

──―「至高の方々の最高責任者であり、私どもの最高の主人であります。そして私の愛しいお方です」

 

「……なるほど。各員の考えは十分に理解した。それでは私の仲間達が担当していた執務の一部まで、お前達を信頼し委ねる。今後とも忠義に励め」

 

 

 そう言い残し転移したモモンガさんを呆然と見送り、ガーネットは目の前で起こった出来事にめまいを覚えた。

 NPCたちが意志をもってしゃべることに驚けばいいのか、モモンガさんへの高評価に驚けばいいのか。そういやそんな名前だったなと懐かしめばいいのか、なんか支配者みたいに振る舞うモモンガさんにドン引けばいいのか。端倪すべからざるとはどういう意味なのか、愛しい方とは何なのか。

 

 

(……なんだこれ? いや、そもそもモモンガさんはこれを見てなぜ動揺していないんだ? もしかして何か知っているのか?)

 

 

 自分なんて、自身への変化からついさっきまでグロッキーな状態になっていたのに、なぜあのような対応ができるのか。そして一番意味がわからないのがモモンガさんの彼らに対する態度だ。驚くならわかる。ビビるならわかる。会話するのもわかる。しかし当たり前のように上位者として彼らに振る舞うのはわけがわからない。

 

 

(──―知っていたから? こうなることを予め知っていた?)

 

 

 NPCが意志をもってしゃべり、アバターが現実味のある身体へと変化する。顔を触れば表情は動き、頰をつねれば痛い。理解はしたくいが、いま自分はゲームの世界に取り込まれたのだろうか。もしくはゲームが現実になったのか。

 

 昔なら、そんなことなど気にせずに消えたモモンガさんに相談をしに再び探しに行ったかもしれない。しかし、数刻前に聞いたモモンガさんの声が心に疑念を生んでしまう。

 

 それはモモンガさんがこの事態を知っていたのなら、この現象はモモンガさんが起こしたことなのではないかという荒唐無稽な妄想だ。自分はここ数年ユグドラシルにログインしなかった。その間にモモンガさんが何かしてナザリックという仮想世界を現実と相違ない世界に作り替える仕掛けを行ったのかもしれない。

 どれだけの技術があればできるんだという荒唐無稽な妄想だが、この奇天烈な現実が起こった説明としては、一番現実味のあるものに感じた。いや、現実味のない答えでしかこの事態を納得できないからかもしれない。

 

 だがしかし、いま自分が考えるべきことはこの事態の原因よりもほかにある。それはこれからどうするべきかということである。

 

(もし、万が一、モモンガさんがこの事態を引き起こした、もしくは関わっているのだとしたらこのまま隠れたほうがいいのかもしれない。幸い、俺はナザリックの防衛システムを手掛けたうちの一人だから、どこにどんなギミックがあってどんな防衛をしているかは基本わかっている。仲間を含めて情報を偽証するスキルだってあるのだから、スキルをうまく使って隠れたら基本見つかることはないし……)

 

 それに、会社に出勤してこないことから数日後には国の公的機関から救助がくるかもしれない。あまり期待はできないし、そのころには身体が餓死している可能性が高いのだが。

 

 

「〈鏡の波紋〉〈気配殺し〉〈回響の界廊〉〈影呑〉〈八面氷〉」

 

 周囲に攻撃を伝導させて受け流す鏡の結界を張り、己の生命反応・熱反応を消すスキルを使用し、自らが出した音を離れた場所へと反響させて小さくする。影が己を包み込んで、自らを見えなくする薄い氷の結界を張り巡らせる。

 ガーネットは寝て覚めたら現実に戻っているんじゃないか、そんな淡い幻想を抱きながら自分の部屋へと戻るのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◆

 

 

 このまま瞬時に自分の部屋へと戻れればいいのだがそうもいかない。転移の指輪には少ないが直接転移できない場所があり、玉座の間などには転移できなく、ギルドメンバーの部屋にも直接転移はできない。なので第9階層に転移してから扉を開いて入らないとダメなのだ。

 ギルドの自室は使用者以外誰も入らない安全な場所ではあるが、()()()()()()()()()()拠点として使うには地味に使いにくい場所でもあったのだ。

 

 そんなガーネットが第9階層の入り口へと転移して最初に見たものは武装して構えているメイド達であった。目の前には今にも拳を撃ち込みそうな気迫の首なし騎士(デュラハン)が、その横には聖印を象った武器を構える人狼(ワーウフル)が、真ん中には虫を装備した蜘蛛人(アラクノイド)が、後ろには銀の外殻で覆われた杖を構える二重の影(ドッペルゲンガー)と、かつて作成した白色の魔銃を構えた自動人形(オートマン)がいた。

 

 

「「──ぁ」」

 

 

 これから隠れようと意気揚々と転移した先に完全武装で構えている殺気こもったメイド達がいたのだ。意図せずかすかな悲鳴が漏れたのは仕方ないことだろう。彼女らの名前は戦闘メイドプレアデス、先ほどの階層守護者たちよりもガーネットにとっては馴染み深いNPC達である。

 

 かすかな悲鳴が溢れたのを後悔する間もなく、人狼(ワーウルフ)のルプスレギナ ・ベータが容赦のない振り下ろしをしたのを皮切りに、それに感化されたのか首なし騎士(デュラハン)のユリ・アルファが怒涛のラッシュを何もない空間に繰り出す。それを見た二重の影(ドッペルゲンガー)蜘蛛人(アラクノイド)は一歩離れて周囲を警戒する。

 

 ──もしも、音の出所を誤魔化すスキルを使っていなければ、攻撃が当たり隠密が解除されていただろう。容赦のない攻撃が終わり安堵するが、これから謎の音の発生源の捜索が始まるのか、戦うことになったら戦闘を考えてない自分の職業構成でどこまでやれるのか、そんな恐怖を感じながら気配を殺したまま棒立ちすること数分──

 

 結局何もないと判断したのか、プレアデス達はそれぞれ武器を下ろし、一息ついて話し始める。

 

 

「何もいない……わよね?」

 

「なーんか聞こえた気がしたんすけどねー、匂いもしないっす」

 

「蟲からは熱源反応なしぃ」

 

「侵入者用のアラートも鳴っていないし、上から報告もきていない。シズは何か感じた?」

 

「……私は、何も聞こえなかった。モモンガ様からの勅命だからって、気を張りすぎ」

 

 

 ナザリックの防衛システムを考慮した自身の隠蔽はどうやら成功しているようで、彼女らには姿も気配も見えていないらしい。そしてどうやら今からの徹底的な捜索や範囲攻撃は行われないと知り、もう安全だと知った安堵感と、今更ながらNPCが喋り動くさまを見て少しの満足感と達成感が胸に宿る。

 

 今度はしっかりと口元を手で抑え、プレアデスの横をゆっくりと通っていく。ニンジャマスターの職業を持っているので、扉を開けずとも入ることができるから部屋に入る姿を見られる心配もない。

 

 隠密能力に全振りしたこのステータスを看破できる感知能力を持つNPCはここにはいない。だから、片目の少女と目が合ったのはきっと気のせいなのだろう。




ナザリック外の探索に出たのは漫画版だとセバスとナーベラルらしいですけど、ソリュシャンにしました
最初直そうと思ったんですけど、ソリュシャンなら徹底的に捜索して見つかりそうなのでやめました

スキルはかなり捏造です。なんとなくで理解してもらえれば幸い…と思ってたけど、説明文増やしました(6月16日)
モモンガさんの魔法で完全不可知可とかありますけど、便利すぎるのでピンポイントでメタられたり逆に対策されるんじゃないかなと思ったので、ナザリックが対策できてない穴を突いた隠蔽スキルを使用したイメージです




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1ー3 ナザリック地下大墳墓

前回のあらすじ

守護者「モモンガ様ー!」
モモンガ「こいつらまじか」
ガーネット「あいつらまじか」
シズ「なにもきこえない」


 ガーネットがナザリック地下大墳墓第九階層の自室に引きこもってから既に幾日か経過した。ちなみに、用もないのだから誰も来るわけがないと考えて引き篭もった自分の部屋という名の要塞(幻想)は、ここに来てから初日に破壊(ぶち殺)された。

 

 ナザリック引きこもり生活初日。空中からアイテムを取り出せるということに気づきガーネットがイベントリの中の整理をしていると、複数のメイドのNPC達が突然部屋に襲来し嵐のように掃除をして去っていったのだった。

 突然のメイドの襲来に、隠れてるのがバレたのかと心臓が爆音を上げたガーネットだったが、どうやらほかの部屋も同じように毎日掃除しているらしく、日に二度は掃除をしにやってくる。

 幸い彼女らメイドの殆どが1レベルしかなく、ガーネットの隠密を看破するほどの感知能力も幻術を解く能力も持っていなかったが、もしこれが転移初日に見た守護者アウラなどだったら確実にばれていたことだろう。

 部屋に来たメイド達は床から天井、そこ掃除する必要なくない? というような場所まで掃除をする。しかし、ガーネットがこの部屋で生活する限り汗や老廃物は必ず出てきてしまう。それ以来食事をするとこや寝る場所などに幻術をかけて綺麗なままと偽らざるを得なくなり無駄にMPを消費する羽目になっており、現状を維持するだけだった幻術が細かい箇所までも自分の想像通りに創造できることに気づけた。

 

 またゲームの世界でも腹は減るらしく、ガーネットは飲食必須のアバターを使うプレイヤーにはご用達のアイテム【木のみ(N(ノーマル))】をポリポリと食べて過ごしている。何のバフも特殊効果もない空腹というバッドステータスを解消するためだけのアイテムだが、単純に圧迫せず多く持てるのでユグドラシルでは人気の食材だった。しかし流石に飽きてきて、そろそろバフつきの食事を食べてみたいという欲求に駆られるが万が一戦闘になった時に必要なので我慢している。そうしてぱさぱさした木のみばっかり食べていると、気兼ねなく食べていた現実(リアル)の液状食糧の喉越しが恋しくなってくる。

 

 引きこもり生活二日目。意を決してメイド達が出入りする時にこっそり部屋から抜け出し散策してみるとナザリックの警備が変化しているのがわかった。どうやらモモンガさんがナザリックの防衛配置の転換をしたらしいので、それを把握するための調査をして一日が終わった。

 

 引きこもり生活三日目。現実世界からの助けはなく、冷静に考えれば現実世界の自分はそろそろ餓死しているのではないだろうかと考えてしまう。もしくは自らにそれほどの価値があるとは思えないが、何らかの装置で延命措置が行われているかもしれない。

 せめて、モモンガさんと二人きりの状態を作り、直接話を聞ければいいのだがモモンガさんの部屋の前には蟲の門番が陣取っており、常に複数の護衛を引き連れている。感知能力の高いものも多く、容易に近づくことができないのでもう暫く様子を見ようと思う。

 

 

 

 

 

 

 

 ◆

 

 

 ユグドラシルというゲームで謎の異変に巻き込まれてからついに一週間が経ったが未だにガーネットがナザリック地下大墳墓に潜んでいることはバレていなかった。木のみだけの食事や今自分にできることの確認という単調な日々だったが、今日はナザリックに何かがあったのか複数の高レベルのモンスターが動き回り朝から廊下の気配が慌ただしい。

 

 

(……かなり多くのNPCやモンスターが動いてるし、今日は一対一で誰かと接触できるんじゃないか?)

 

 

 この異常な出来事から一週間が過ぎ、現実の自分の体の生き死にがもう絶望的なんじゃないかと考え始めたガーネットは、モモンガさんがこの異変の首謀者だろうと、そして首謀者じゃなかろうともさすがに話し合いにいくべきなのだろうと考えていた。

 前者なら現実世界の身体を助けてもらえるように命乞いを、後者なら異変に巻き込まれた友人として解決の相談に。

 

 しかしモモンガさんと二人きりで話すのは物理的に難しく、向こう側に敵意があった場合即人生がGAME OVERになる。故にモモンガさんと話す前にNPCと接触し話を通しておきたかった。

 〈伝言〉等の情報系巻物を使って連絡をすることを考えたが、却下する。もし、万が一モモンガさんやNPCがこちらに敵意を持っていた場合、見えないところで指示を出されたら罠にハメられるかもしれない。戦闘に振ってない構成で後手に回ることは避けたいので、できれば直接会ってから真偽を見極めたい。

 

 部屋にやってきては生き生きと掃除をするNPC達には自我意思というものが見え、一つの生命体として動いているのが見て取れる。モモンガさんに盲目的に従っているのならばこのナザリックに対して勝ち目はないし逃げることすら難しい。だが、NPCに自分の意思というものがあるのなら、味方もしくは中立の立場として接してくれるかもしれない。

 

 あれからモモンガさんの部屋を訪れる者を観察し続けた結果、初日の第6階層に集まっていた階層守護者たちが現状の幹部のような立場で動いてるのがわかった。また、モモンガさんと違って必ずしも護衛のようなものがついているわけではないので、このゴタゴタの間に一対一で話すことも可能なのではないだろうか。

 

 その場合、誰に話しかけるのが適切だろうか、第一の条件として万が一の時に逃げることのできる相手だろう。

 まず論外なのは闇妖精(ダークエルフ)の二人である。アウラは索敵能力から、マーレはえげつない範囲攻撃から戦闘になった時に無傷で逃げ切るのは難しい。

 次に候補から外すのはペロロンチーノさんが作ったシャルティアだ。たしかNPCでも珍しいガチビルドだったし、初日の様子から話が通じるかわからない懸念もある。

 その次に候補から外れるのはコキュートスとアルベドだ。コキュートスの冷気には耐性が高いし、アルベドは防御重視なので逃げることはそう難しくないだろう。だが彼らの武器は剣やバルディッシュであり、現実となったゲームの世界であれらと敵対し鋭利な武器で襲い掛かられるなど考えただけで身震いがする。

 

 よって狙うのはデミウルゴスだ。戦闘能力も低いし、段階的に変身するのでその隙に逃げやすい。主な戦闘スタイルも殺傷能力が高いものじゃなかった覚えがある。

 

 そう考えてデミウルゴスを探しに盗賊のスキル〈開透〉を使って扉を開けずに部屋を出る。暫く散策していると朝と比べて落ち着いているが、ナザリック全体の戦力が大きく移動してるのがわかった。

 

 感知能力の高い獣系モンスターの多い第六階層をなるべく避け──ようやくデミウルゴスを発見できたのは第五階層であった。フランケンシュタインの怪物という種族はエリアペナルティ無効という種族的特殊能力を持っているので、冷気ペナルティを与える第五階層の吹雪や冷気は苦にはならない。

 

 デミウルゴスがいたのは第五階層の、タブラさんなどの性格の悪い、いや、人の嫌なことを考えるのが得意な面々が集まって作った氷結牢獄への道であり、ニューロニストやニグレドなどの精神的に見た目のよくない存在が多く作られた場所だった。ナザリックの中間地点として外部の様子を見たりするなど、1500人が攻めて来た時には前線作戦会議室のような扱いだった記憶がある。

 鼻歌でも歌いそうに歩くデミウルゴスの数歩後ろをついていき、ストーカーのスキル〈不報侵入〉によって同時に部屋に入りこむ。感じる気配からすると中には低レベルの存在しかいないので危険はないだろう。

 

 暗視などの種族的能力を持たず、今は隠密系スキルに多くリソースを割いているためにそのようなスキルや魔法も使っていないので視覚的には薄暗い。しかし、色の付いていない様子が頭に流れ込み思わず目を見開いた。目が慣れるにつれて着色されるかのように部屋の()が見えてくる。

 

 腕を引っ張られ鋭い木馬で股からじわじわと裂かれている人間。拷問の悪魔(トーチャー)によって身体を抑えられながら四肢を捻切られてる人間。体中から血を噴き出して動かない人間。まるで綺麗な標本のように骨から内蔵から脳みそまで身体を文字通りバラバラに腑分けされた人間だったものたち。そのような非日常が綺麗に並んでいた。

 

 ゆっくりと横目で近くのデミウルゴスを見るといい笑みを浮かべて気さくに目の前の化け物に話している。話しかけた相手は、たしかここに配置されていた拷問官の設定だったNPCだ。

 

 

「やぁ、ニューロニスト。モモンガ様の慈悲を拒んだという哀れな愚物達の様子はどうだい?」

 

「あらん、ようこそいらっしゃいませ、デミウルゴス様。魔法的な手段での情報収集が悪手と分かったので、いまわ肉体的な方法でお話ししてるところですわん」

 

 

 口から伸びた細長い管を人間の頭から離したニューロニストは朗らかに返答する。そのリアルな、どこまでも現実な赤い光景をただ黙って見ているしかなかった。目の前からは猿轡をされながらも、救いを求めてもがく声が耳に入る。

 

 

「それは素晴らしい。我らが敬愛なる()()()()()()()()()しっかりと仕事を果たしてくれたまえ。そうそう、死体はモモンガ様が引き続き実験に使うそうなので他の死体と混ざらないように気をつけてくれ」

 

 

(……こいつらは何を言っているんだ? 

 

 この人間たちはなんだ? 

 

 なんでゲームに人間がいるんだ? ナザリック外のNPCか? 

 

 それならお前らと同じ意思のある存在じゃないのか? 

 

 それとも本物の人間なのか? ゲームの世界に? 俺と同じプレイヤー? 

 

 こいつらはなんだ? モモンガさんは何をしてるんだ?)

 

 

 ニューロニストが再び管を人間の男に伸ばし、男の身体が大きく痙攣する。そしてのけぞった男の目と視線が合った気がし、そこにリアルの自分の姿を重ねて幻視する。

 ガーネットは当初の目的も忘れて、静かに、そして逃げるように去っていった。

 

 

 

 ◆

 

 

 9階層の自室に戻って体に空気が触れないように布団に包まってどれだけの時間が過ぎたのだろう。空気に触れていると先程の生暖かいような、冷やりとした空気を思い出してしまう。

 この部屋の扉が開けられて化け物たちが雪崩れ込み捕らえられる想像をするたびにガーネットからは冷や汗があふれ出した。

 

 

(……殺される。ここに居続けたら確実に殺される)

 

 

 ガーネットは自室に戻り先ほど見た光景を思い出していた。何度思い出してもあの悲痛な表情をする人間がただのゲームのデータだとはとても思えなかったからだ。例えデータだとしても、データが現実化した今では、目の前で見てしまったらもう笑えない。

 そしてガーネットにはアレが他人事だとは思えなかった。もし見つかった時に自分がああされないという保証はどこにもないのだから。

 

 

(……逃げないと。ここに居続けたら命がない。アレを見て平然としていられる精神は、俺には、ない)

 

 

 この一週間、モモンガさんがこの出来事の首謀者だと本気で思っていたわけではなかった。モモンガさんが首謀者ならまだ、この事態に説明ができて安心できて理屈がつけられるからそう考えていたのだ。だから、半ば安全だと思ってナザリックに居続けた。

 しかし先ほどの写真NPC達は全てモモンガさんの為にやっているような口ぶりであり、つまりはモモンガさんの指示でやっているのだろう。そう考えるとすぐ近くの部屋にこの一週間居た人物が酷く恐ろしく感じる。当たり前に話せていた友人の顔がひどく恐ろしい化け物として思い出される。もはや首謀者だろうが首謀者じゃなかろうが関係なく、ただ、怖い。

 

 持てるだけのバレない範囲で荷物を回収して早くここから逃げだすべきだと理性が訴えているが、逃げ出すための勇気が湧かずガーネットが自室に戻ってからずっと布団に包まっていたのだった。

 

 そうしていると突然、廊下から多くの強い気配がやってくるのを感じる。片手で数えられる数はすぐに超えてぞろぞろと規律正しくやってくるその気配は、すぐに高レベルの化け物の集団となっていた。

 ガーネットは先ほどまでとは違い俊敏に布団から飛び出しベッドの下に潜り込み、彼らがこの部屋に入ってきたとしても少しでもバレないようにと願って声を抑える。

 しかしそんなガーネットの行動とは裏腹に、突如第九階層にやったきた彼らはそのまま第十階層へと進んでいく。その百を超える大名行列のような集団は瞬く間に消えていった。

 

 足音も気配もしなくなると、飛び跳ねるようにガーネットはベッドの下から這い出てくる。机やクローゼットに入れっぱなしだったアイテムを手当たり次第に回収し、取りこぼしがないか確認する。少なくとも今持てるアイテムは全て持ったようだ。

 

 高レベルのNPCやモンスターが第十階層にいったということは上の階層に強者が少なくなったということ。それは今が脱出のまたとない機会であり、侵入の警備が薄くなることはなくとも内部の警戒網はかなり薄くなっている筈である。

 

 一体自分は何から身を隠すのか、そもそも何かと敵対しているのか、何一つわからないままガーネットは走り出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

「なんっだよこれ……」

 

 

 ナザリックの外の光景を見てガーネットは憎らしげに呟いた。なぜならナザリック地下大墳墓を抜けた先に感じるのは輝く夜空と草原であったからだ。

 ユグドラシルの頃にあったナザリック周辺の薄い霧も、ツヴェークも、毒の沼地も見当たらない。ナザリック内でNPCが人間を痛めつけていたのを見た時は全く意味がわからなかったが、なんとなく理解できた。

 

 ガーネットはゲームの世界に閉じ込められたのだと思っていた。もしくはゲームが現実になったのだと。だが目の前に広がる光景は草原でありユグドラシルのナザリックの前にはそんなものはない。輝く星が散らばる純粋な夜空の光が、遠くからくる緑の匂いが否応なく認識を改めさせる。

 

 ここは数字で構成されたユグドラシル(ゲーム)ではない。荒廃した現実(リアル)でもない。全く異なる別の世界(異世界)であった。




原作の「フランケンシュタインの怪物」というお話

醜い怪物を作り出したフランケンシュタイン博士は、自ら創造した怪物を拒絶し、怪物は出会う人間全てから迫害されました。
その後、旅路の末に怪物はフランケンシュタイン博士の親族を殺してしまいます。
怪物はフランケンシュタイン博士に対して、創造主として己を幸福にする責任があるとし、寂しくならないよう同族を作るように頼みこみ人間に危害を加えないことを約束します。
博士は怪物の言うことに納得し怪物の同族を作り始めるのですが、人間に害を及ぼす怪物を増やすことは、人間への義務としてあってはならないとして約束を反故にしました。
結果、怪物は憎悪に心を染め、博士の家族を殺します。復讐を誓った博士は怪物を追い北極まで追いかけて命をと落としました。


まぁ何が言いたかったのかというと、この怪物はもともとは綺麗な優しさに憧れる普通の心を持っていたのですが、周囲から迫害されることによって復讐するしかできることがなかった感じで、最後まで正しくあろうとはしていました。
まぁ読んだ感想としては別に悪ではないよなぁと思ったので「フランケンシュタインの怪物」のアバターのオリジナル設定はカルマ値-50(中立)で、種族的特性として人間種に攻撃されるとカルマ値が一時的に悪に傾くかんじです。原作でも人助けとか結構してるし。なのでカルマ値によるコンボや攻撃には使いづらいイメージ。あ、タイトル変更しました(小声)



感想、評価、共に励みになります。誤字脱字報告あれば直します。
読んでくれてありがとう!


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2ー1 モンスター・ミーツ・ヒューマン

前回?のあらすじ

しかしまわりこまれてしまった!



 ナザリック近くの草原を抜けた先にある森をガーネットは歩く。地図もなくあてもない道中だが、太陽が昇り始める場所が東だとすると恐らく西に向かって歩いているだろう、ということはわかっていた。その道中は既に日が落ちて、周囲は月明かりと星明かりのみとなっていた。

 ガーネットの持つ指輪を切り替えれば睡眠は不要になるかもしれないが、そのアイテムが本当に効くのかは不明である。睡眠が必要ないと思って起き続けたら、ある日突然コロッと死んでしまうかもしれない。

 

 そう思ったガーネットは睡眠をとるためにクナイで3mほどの穴を掘って、夜はそこで寝ることにした。アイテム等で簡易的なシェルターなどは出すことが出来るが、ナザリックの目につくようなことは極力避けたい。クナイはもともと土を掘るのも()しく()()が語源と言われてるからなのか、このクナイの質がいいからなのか、3mほどの大きな穴を大した時間もかけずに掘って寝ることができていた。

 湿った土が身体に着き、体温を奪われそうだが、不思議なことに体温が変わる気配はなく、この真夜中でも問題なく寝れそうである。

 

 月明りしかない森で一人地面に横になると、森の不気味な静寂が襲ってきて不安になる。こうなると()()()()()()()()()のが今更悔やまれるが、ナザリックからの索敵魔法をごまかす能力を与えていないので仕方がなかった。

 

 森に入ってからのガーネットは、ユグドラシルでゴブリンやオーガと言われるモンスターや大きな蜘蛛のようなモンスター、5mはある大蛇などを見かけたが、隠密を使って彼らに近付けば、顔の前で手を振っても気付かれる様子はなかった。索敵や看破能力を見る限り、ガーネットの持つレベルを判定する()()()()()()()というアイテムはおおよそ正しく作動しているのだろう。

 そのようなどう贔屓目に見ても、現実(リアル)ではありえないモンスターが闊歩しているが、ここは本当にユグドラシルではないのだろうか? という疑問が浮かぶ。というのはヘルヘイムやニヴルヘイム、ムスペルヘイムなどの異形種に有利な世界以外にも6つの世界がユグドラシルには存在していた。それらのどこかに移動して且つ現実化した可能性もまだ、ある。

 できれば知的生命体で、周囲の地理や地名を把握してる人間に話をしたいが、ガーネットには()()()()()が存在していた。しかし、実際に行動しなくてはわからないのも確かである。

 

(まぁなるようになる、……かな?)

 

 ナザリックで捕まっていた騎士達は人間だった。つまり少なくとも国か、人間のいる集落のようなものがあるのは間違いないだろう。

 

 

 

 

 

 ……ガーネットはいつの間にか寝てしまっていたようで、森が騒めき始めて目が覚める。嫌な夢でも見たのか寝汗が酷かったので無限の水差し(ピッチャー・オブ・エンドレス・ウォーター)で身体を洗い、木の実を頬張る。ナザリックを出てからひたすら真っ直ぐと歩いていたが、そろそろ森を抜けたいと思っていた。山を降りるには川に沿って歩けばいいという話を昔聞いたことはあるが、森の場合もそういう定石があるのだろうかと疑問が浮かぶ。

 そのまま暫く当てもなく森をまっすぐに進んでいると、森が終わり再び草原が見えてくる。その数百m先には木の塀で囲まれた村のようなものと、村の周りには畑のようなものが見え、中からはいくつかの生体反応を感じる。

 軽く身なりを整えて、振り子の羅針盤を持って村の周辺をぐるりと一周するが、羅針盤は灰色を指しておりレベル5以上の存在もアイテムも存在しないことがわかった。また、徐々に隠密のスキルを解除して近づいてみるがこちらに向かってくる存在もいない。

 

 敵意のないことを示すために()()()をしまい隠蔽のスキルを解除して畑仕事をしている男へと向かう。顔がはっきり見える距離まで近づいたところで、男もこちらに気づいたようで顔を上げた。

 

 

「すみません、私は道に迷ってしまってこの辺りの地名を知りたいのです。教えてくれませんか?」

 

 

 なるべく敵意を持たれないように男に話しかけるが、男はこちらを見るなり石像のように固まり動きを止める。嫌な予感が当たってしまったのだろうか、と思いながら短くない時間が過ぎ、ようやく男が口を開いた。

 

 

「ぁ

 

「……ぁ?」

 

 

 男が一文字だけ発して止まり、そもそも言葉が通じるのかどうかという疑問が今更ながら思い当たる。異世界で日本語が通じるとは限らずこちらの言葉が通じなかった可能性もあり、男はこちらが何と言ったか分からなかったのかもしれない。ガーネットは身振り手振りを交えて再び伝えようと一歩前に出る。

 

 

「ぁぁぁぁぁぁァァァァァァァアアアアアアアアアアアアアアアア化け物だあああアァアアアアアアアアアアアアアアアッ!!?!!!? 

 

 

 突如、男が悲鳴のような声を出して村に響き渡る。男は後ろに倒れた状態のまま小便を漏らし、手足を器用に使って蜘蛛のように畑から村へと後ずさりながら逃げていった。

 

 一方、ガーネットは頭を抱えて叫びたい気分であった。いや実際に頭を抱えてうずくまった。

 

 文字通り設定だけだったNPCが設定通りに生きて動いている。ならば自分も設定通りになっていない保証がどこにあるだろうか。

 

 フランケンシュタインの怪物──それは()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()である。

 

 男の怒号を聞いて村からこちらを覗いた子供たちが悲鳴を上げ、一人の女が泡を吹いて気絶した。

 静かで平和的な村は一転し、阿鼻叫喚の様相と化し、突如地獄の悪魔に襲われたかのような事態へと変わっていくのだった。

 

 

「早くあの冒険者達を呼べ!」

「あのー」

「早馬を出すんだ!」

「その前に女子供を避難させろ!」

「せめて村の名前だけでも──」

「汚らわしい化け物め! 何を企んでいる!」

「急いで槍をもってこい! 門扉を閉めろ!」

「あ、はい、すみません」

 

 

 鐘が何度も鳴らされて村中に響き渡り、村からは煙が昇る。勇気のある子供からは石が投げられ大人からは矢が放たれる。幸い目視で避けれる速さで威力も大したことなかったが、気持ち的に避ける気持ちになれずに石が当たる。石が当たった箇所は何ともなかったが、心が痛い。

 ガーネットは消していたスキルを再び使い、隠密活動を再開させた。

 

「消えたぞ! 魔法詠唱者(マジックキャスター)だ!」

「なんだと! ならばあれが暗闇の邪蛇か!」

「俺ら人間を舐めるなよ! 刺し違えてでも子供達は守る!」

 

 何やら盛り上がり始めた村人達に背を向けてガーネットは森へと帰る。この世界には人間しかいないのだろうか、日本語が通じることがせめてもの救いか。そんなことを考えながらガーネットは森へと戻って行くのだった。

 

 

 ◆

 

 

「口寄せの術!」

 

 

 ガーネットは森に入ってすぐの場所で待っている間、一人でナザリックでは確認ができなかったことを一つ一つ確認していた。ナザリックで確認できたことは主に二つ。幻術がユグドラシルの頃よりも応用が効くようになったことと、グラフや表を見なくても感覚でどれぐらい隠れられているか、見られているかがわかるようになったことだった。図面やグラフで画面が覆われていたユグドラシルと比べると、非常に動きやすくなったという感覚がある。

 ガーネットは戦闘を捨てたことを補助する為にとっている職業レベルがあり、それがテイマーの上級職の口寄せ師である。口寄せ師はニンジャの職業を取っていないと得ることができず、テイマーの職業を取っていないと口寄せする忍獣との契約イベントをこなすことができないという職業であった。ガーネットは職業構成を特化させるために目的の忍獣との契約イベントを終えた後にわざとPKされることでテイマーの職業レベルをなくして、再び口寄せ師の職を得ている。

()()()()()()()()()()()()()()()蛇を無視しながら試すこと早数十分。なんとなくできると理解はしているのだが、なぜかどうしても上手くいく気配がない。

 

 口寄せ師は1lvにつき一つの忍獣と契約できて、イベントで手に入るlv50以下の忍獣は一度に多く口寄せできるが、lv50以上の忍獣は一度に一体しか召喚できないが希少な能力を持っており自分でテイムしないといけない。

 

 ガーネットが使える忍獣は5種類おり、そのうちの3種類がイベントで手に入れた低レベルの忍獣である。

 LV10の財宝探知をする八咫烏

 LV10の敵感知を目的とした三眼鴉

 LV28の色に沿った属性攻撃をし、標的に当たると自爆する五色蛙

 忍獣はレベルが低いほど少ないMPで多く口寄せできるのが特徴で、これらの大抵は敵への目眩しやターゲティング晒しに使われる。

 

 残りの2種類は実際にテイムして捕まえて厳選に厳選を重ねた高レア忍獣である。

 LV85の火・毒への完全耐性を持った回復役の瓢箪蝦蟇

 LV90の、青生生魂(ヒヒイロカネ)を食って生きたという設定の超レア壁役の、忍獣青生生魂マンダ(ヒヒイロカネマンダ)だ。

 

 口寄せする忍獣の最もいいところは、イベントで手に入れた忍獣であれば一度に口寄せできる上限が多いことと、普通のテイマーで手に入れた獣と違い、例えモンスターがやられたとしても異空に帰るだけですぐに再召喚できることで、MPが続くかぎり召喚することができることである。広範囲攻撃には弱いが、一対一の遭遇戦や逃走の際に目くらましとして非常に役に立つのだ。

 

 今回召喚しようと試みている忍獣は、LV85の瓢箪蝦蟇。5mほどの巨大な黄色い蛙で、口の中に入って移動することで召喚主を回復することができる忍獣である。これが使えるか使えないかでこれからの行動に大きく違いが出る実験だったが、なぜか上手くいく気配がない。

 

 

「なんでだ? ユグドラシルではこう、地面についた手から赤い紋様が現れてそこから出てくる感じだったけど……、ん? 赤色?」

 

 

 もしやと思い、昔聞いた漫画をまねて指を少しだけ噛み切ろうとするが思ったよりも歯がたたず、仕方なくクナイで掌を少しだけ切って血で馴染ませる。そして血で濡れた手を地面に当てて再び叫ぶ。

 

 

「〈口寄せの術〉!」

 

 

 今度は血が何かしらの紋様を描き始める。その血の紋様が異空との鍵であることが理解でき、鍵を開ける感覚が脳裏をよぎる。そこから大きく煙が現れ視界が高くなる。足元から出てきたのは5mほどの巨大な黄色い蛙、瓢箪蝦蟇だった。視界の隅では先程から見ていた変な蛇人が驚いているのが見て取れる。そしてこの蛙との間に、何故か言うことを聞いてくれるという不思議な繋がりを感じた。

 血を流した手を見た蛙がベロを伸ばし、傷ついた掌を舐める。すると、先程まで切れていた傷はすっかりと塞がり生暖かい粘液を残して治っていた。

 

 

(これ、毎回手から血を流さないといけないのか、普通に痛いしちょっと面倒くさいぞ……お、やっときたか?)

 

 

 そうして実験の成功に満足していると、森の入り口から10人ほどの人間の集団がやってくるのがわかる。さらにこの森から少し離れた所には一人の男が身を隠している。

 村で化け物扱いされてから、あえてここから遠く離れなかったのは理由があった。それは、村人達のレベルが低いこの世界に実力のある警察機構のような存在、もしくは武力組織、又は兵器などがあるのかどうかを知りたかったからだ。

 それに実力者ならば話をすることはできるのか、顔さえ見られなかったら話は通じるのか、幻術の自分の姿ならば話すことはできるのか。知りたいことや試したいことはまだまだある。

 

 そもそもガーネットにはナザリックを出てからの目的は二つあった。

 一つは興味本位による探し物を、そしてもう一つが、ナザリックに対抗できる組織や集団、国を見つけて味方になってもらうことだ。

 人を殺すだけでなく当然のようにバラバラにして実験に使うことを許容するモモンガさんと話すには、何かしらの後ろ盾か組織、又は贈り物でもないと心もとない。

 ちなみに一番いいのが自分と同じようなユグドラシルプレイヤーを味方にすることだ。ユグドラシルプレイヤーならフランケンシュタインの怪物ということにも引かれずに味方になれるだろう。

 

 瓢箪蝦蟇とフランケンシュタインの怪物、どちらの方が恐れられるのかは分からないが、一応蛙を隠しておきたいと思う。

 そんなこちらの意図を察したのか、体から酸のようなものを出してずぶずぶと蛙は地面に沈んでいき器用に体を土で隠し始める。

 

 

「〈半身隠し〉〈覗き見〉〈遠吠え〉〈回響の界廊〉〈闇眩まし〉〈我慢〉〈多重残像〉」

 

 

 身体の右半身が透明になり、ガーネットの眼が遠くの景色まで透けて見えるようになる。遠い距離を無視して話しかけれるスキルを使用し、音の出所を誤魔化し、どこからか現れた闇が身体を覆っていく。2回まで攻撃を受けても隠密が解除されないスキルを使用して、魔法で自身の幻影を作り出す。そのまま自分の幻術を引き連れて森にやってきた人間たちの元へと向かうのだった。

 

 

 

 

 

 10人からなる人間の動きを木の上から見てみると、統制のとれた動きで全員が何かしらの武装をしていた。

 羅針盤が示す色は緑色か黄緑色で、およそ10lv〜20lvぐらいの強さだと分かる。

 武器を持っただけのlv1の集団というわけではないことへの安心感があるが、銃や兵器などではなく剣や弓を使っていることへの僅かな失望感が勝る。

 レベルの低さ的に、ここは俗に言うRPGなどの〈はじまりの町〉のような場所なのだろうか? また彼らが辺り一帯の実力者なのだろうか。知りたいことは多々あるがとりあえず彼らに対して声をかける。

 

 

「あー、私は少し先の村に行って追われた者です! 少し聞きたいことがあります! 皆さんは私を討伐しに来たのでしょうか?!」

 

 

 まず知りたいことはフランケンシュタインの怪物の声だけで恐れられるのか、そもそも会話できるのか、である。先ほどの村では考えなしに話しかけて没交渉になってしまったが、姿さえ見せなければ交渉できれば今後取れる手段も増えるだろう。突然聞こえてきた声に驚いたのか集団の動きが止まり一斉に武器を構え警戒するかのように陣形を変え出した。

 

 

「…そうだ! 我々は貴様が何者か調べに来た冒険者だ! 貴様は何者だ!」

 

「私はただ道に迷った者です! この辺りの地理を教えてくれないでしょうか!」

 

「姿も見せない者に答えることなど何もない! 敵意がないことを示したいのならばその姿を見せろ!」

 

「……わかりました! 今からそちらに行きますが、私に敵意はありません! なので皆さんも攻撃してこないでください!」

 

「いいだろう! 出てこい!」

 

 

 リーダーらしき者が後ろの仲間のほうをチラと見て後ろの人間が弓矢を構える。攻撃の意志は消えていないが、どうやら姿を見せなければ発狂はされないし会話もできるのがわかったので次の確認へと移る。

 魔法で作った自らの幻影を彼らの元へと歩かせ、自分は森の外で草原に身を伏せている男のもとへと駆けていく。この後ろに一人だけ隠れている男が万が一の時に逃げる役目なのだろう。

 伏せている男の背後に立ち、幻術の自分を10人の冒険者とやらの前へと動かしてどうなるのか観察する。

 

 

「ッ、お、お前みたいな化け物を信じられるか阿呆が!! <武技 兜斬り>!」

 

「〈武技 突貫〉ッ!」

 

「〈植物の絡みつき(トワイン・プラント)〉!」

 

「〈魔法の矢(マジックアロー)〉!」

 

 

 

 ……どうやら幻術の姿で話しかけても敵対されるようで、姿を見せた瞬間に聞いたことのある魔法や知らない攻撃が繰り出されるのが聞こえる。しかし彼らの剣は手応えもなくすり抜け、矢は後ろに刺さり、樹木同士が絡み合っていた。

 

 幻術に向かって攻撃されたのを確認して草原に隠れてた男を平手で叩く。地面に顔を叩きつけられて鼻血が出ているが上手い具合に気絶してくれたようだ。

 戦闘能力に優れてないと言っても、ガーネットは前衛職の忍者である。純粋な戦士で考えたらLV60ぐらいの力はあるし、防御力だってLV50ぐらいはある。速さだけなら純粋な戦士職でも上位に食い込むし、あの防御ガン無視した忍者、弐式炎雷さんと同じくらいはあるのでレベル20以下しかいない人間に負ける理由がない。だから顔を地面にぶつけるほど叩いたのは力加減に慣れてないだけで、決して人間からの反応にイラついていたわけではないだろう。そういうことにしておこう。

 

 

(このアバターの外装、嫌いじゃなかったんだけどなぁ。設定で醜いとされてるからってここまで嫌わなくても……。しょうがないと分かってても、少し腹立つな。あー、もー、先行き不安だなー)

 

 

 そんな暗雲とした気持ちを胸に、鼻血を出して倒れた男を肩に抱えて、幻影と戦っている男たちの元へと急ぐのだった。

 




忍獣。オリジナル設定。ナルトの口寄せみたいなイメージでお願いします。1日の限度回数がないのが強み。以下書けなかった妄想という名の説明

八咫烏。より課金してるプレイヤーへと突っ込むので無課金同盟殺しと呼ばれる。運営からの課金しろというメッセージ
青生生魂マンダ。ヒヒイロカネが取れる鉱床に稀に出現するが、他のプレイヤーとの取り合いが原因でテイムするのが難しい。その巨体によって遠くからも他のプレイヤーチームに見つかり、高い耐久力によって契約するのに時間がかかる。他所にテイムされるなら殺してしまえ思考になってテイム前に殺されるのが常。もしテイムするなら鉱床全体を占拠しなくてはいけない

振り子の羅針盤 モンスターやプレイヤー、アイテムの相場レベルを20段階で測定。



あ、前回?のあらすじの「?」は誤字じゃないです。つまりはそういうことです
感想、評価、共に励みになります。誤字脱字報告あれば直します。
読んでくれてありがとう!


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2ー2 城塞都市の観光

前回のあらすじ

村人&冒険者「人類を舐めるなよ、化け物が!」
ガーネット(イラっ)
【ー50 (中立) → ー100(中立〜悪)】


 ガーネットは森司祭の男が伸ばしただろうツルを使って冒険者達の手足を縛り、荷物を漁る。盗賊のスキルでも隠れた魔法的収納スペースを探すが魔法的収納空間を持つのは一人しかおらず、ユグドラシルプレイヤーのような収納は持っていないようだった。

 彼らのポケットや収納にあったのは主に簡易食材や武器、青い液体を入れたポーションのような容器や、武器を手入れする道具ばかりで、ガーネットが求めてる地図のようなものはなかったし、本や手記といったものも特に見つからなかった。

 先程この冒険者たちが使った魔法といい、ユグドラシルによく似たモンスターがいることといい。ユグドラシルと何かしらの関わりがある世界なのは間違いはないようだが、しかし確実に何か違う世界とも感じる。

 

 そして今回わかったことは、人間に対してフランケンシュタインの怪物の顔は完全な敵対対象であるということだった。兜などで隠せればいいのだが、フランケンシュタインの怪物というアバターは顔を隠すことができず、兜や面などの装備をできないデメリットがある。それに先ほど幻術で自分を作った時に顔を変更することもできなかった。

 

 装備箇所が少ないことから属性に対して完全耐性を作ることはむずかしい種族だったが、主なメリットとして隠密上昇や基本物理攻撃優遇や明確な弱点がないこと、攻撃への電撃系の付属効果や人間種にたいしての与ダメ・被ダメ2割増がある。もしもフランケンシュタインの怪物で戦闘職でガチビルドを組むならば狂戦士のような短期決戦型モンクが定石だろう。

 

 そうやって何かないかと冒険者の持ち物を探し続けていると先程からこちらを見ていた蛇のような化け物が、背後で冒険者の武器を拾って縛った男に振り下ろそうとしている。不可視化を使い、こちらが背を向けてるから見えてないと思っているのだろうが、〈空間把握〉のパッシブスキルで最初からガーネットには見えていた。ので、刃を振り下ろされる直前でその手首を掴む。

 

 

「なッ! お主ワシが見えていたのか!?」

 

「遠巻きに眺めてるだけだったから無視していたけど、お前、喋れたのか? ……いや、そもそもお前は俺の顔は怖がらないのか?」

 

「……儂はお主と敵対する気はないよ、ただそこで転がってる人間たちに生きて帰られたら困るだけじゃ。お主は亜人の一種じゃろう? 確かにお主のその速さは凄まじいが、まぁ、顔は普通なんじゃないか?」

 

 

 そう言って手に握っていた武器を落として抵抗のなさを示される。服も着ずに森にいたからただのナーガのモンスターだと思っていたが、会話できる知的生物だったとは。しかもこちらの顔を見ても恐れたり攻撃しようとしない。つまりはこの世界で出会った初めての貴重な情報源である。だがその前に聞くことがあった。

 

 

「なぁ、なんでお前はこいつらを殺そうとするんだ? 殺したほうがあとあと厄介になるんじゃないか?」

 

「ふん、お主はこの人間たちを無傷で返そうとしておるんじゃろ? 手加減して拘束してることから見て取れる。だがの、このまま生きて帰せばお主を討伐しようと人間どもがやってくる。しかしお主はこの森の住人でもないし、たまたま、今ここにいるだけなんじゃろ? お主を倒そうと人間が更に徒党を組んでこの森にやってこられたら儂が仲間を率いて倒さなければいけなくなるんじゃよ。単純に人間は食いたいしの」

 

「……お前はこの森に住んでるのか、いや、この森の奥にナーガの国でもあるのか? お前はその国の警備隊だったりするのか?」

 

「儂はこの森の西部分を支配してるリュラリュース・スペニア・アイ・インダルンじゃ。儂は人間と違って徒党を組まないと生きていけないほど貧弱ではないから国なんかもっておらんよ。国なんてものは集団に属さないと生きていけない生き物がつくるものじゃと思うからな。……まぁこの森が儂の国とも言えるが」

 

 

 どうやらこのナーガは人間を然程の脅威と思っていないらしい。チラリと羅針盤に目を向けると色は黄色を指していてlv30前後あるらしいので、この倒れている人間たちがこの辺りの強者だと仮定するならば虚勢ではないだろう。lv30近く程度で森の支配者を名乗れるのはさすが始まりの村(仮)周辺といったところだろうか。

 未だこの世界がどんな仕組みかわからないし、このナーガに迷惑をかけたくはない。だからと言って人間たちを食糧として渡すほど人間の冒険者に迷惑をかけたいわけでもなかった。

 

 

「……で、主は何者じゃ? まるでそこに何もないかのような存在感のなさで強さはわからぬが、速さは一級品じゃ。できればわしとしては殺り合いたくはないんじゃがな」

 

「俺は……なんなんだろうな。まぁ、帰る場所のない怪物、といったところだな。ところでお前はこの辺りの地理とか知ってるか?」

 

「……儂が知ってるのはこの森の支配図ぐらい、じゃな。お主は周辺の国を知りたいのじゃろうが、生憎儂は森から出ないからの」

 

(情報は得られそうにないな。……どうするかな。俺のせいでこの人たちが殺されたくはないし、でもこのまま返したらこのナーガに迷惑がかかる。問題は何だ? 俺の情報か? 俺を見たこの人間たちの記憶をどうにか出来たらいいんだけど、……ん? 記憶?)

 

 

 剣呑な空気を出すナーガから手を離してイベントリーに手を突っ込み、目的のものを探す。昔モモンガさんから貰った巻物(スクロール)にそんな名前の魔法がいくつかあった気がしたからだ。盗賊は巻物(スクロール)に対して職業を騙すスキルを持っているので、魔法職のプレイヤーから余った巻物(スクロール)を貰うことが多かった。そんなことを思い出しながら目的のものを見つけ掴み出す。

 

 取り出したのは〈記憶操作(コントロール・アムネジア)〉の巻物(スクロール)である。それは過去行ったログを書き換える魔法であり、情報戦で相手に虚偽の情報をつかませるための魔法であった。

 この異世界で役に立ちそうにない魔法であるが、ユグドラシルでは予め決めていた外装を展開したり何も変化を起こさないという幻術が、この世界に来てから細かいところまで自分で想像した通りの幻術になったりしている。もしこの魔法も名前のような効果に変化しているのだとしたらやってみる価値はあるかもしれない。それにこういう機会でないと異世界でゲームのログを書き換える魔法なんて使おうとしないだろう。

 

 

「〈記憶操作(コントロール・アムネジア)〉」

 

 

 巻物(スクロール)を使い、冒険者に魔法をかける。感覚から記憶の消去や改竄ができそうだという感触を覚える。MPがかなり使われるが、これならいけそうだと思い記憶の改竄の内容について考える。単純に自分がここにいるという情報が漏れることが問題なのだ。ならばどう操作するべきか。

 

 

「なぁこの世か……森に人喰い鬼(オーガ)とかっているのか?」

 

「普通におるが、それを聞いてどうするつもりじゃ?」

 

「これからこの冒険者達の記憶を書き換える。俺の姿を特殊なオーガにして、戦ってギリギリ勝った。みたいに変えるからこいつらから手を引いてくれないか?」

 

 

 ナーガが一瞬狂人を見るような目でこちらを見る。しかし、後ろの方──瓢箪蝦蟇を口寄せした方をチラと振り返り、答えた。

 

 

「それだと死体の問題がでるぞ。人間の冒険者は倒したモンスターの一部を持ち帰るらしいからな」

 

「……そうか。あー、なら空を飛んでて人喰い鬼(オーガ)を食べるヤバいモンスターっているか? 災害に例えられるモンスターや勝てっこないようなモンスターとか」

 

オーガ(人喰い鬼)に勝つモンスターはいるが、空飛ぶ種族となると、そりゃ(ドラゴン)ぐらいじゃないか? 儂も人生で空を飛んでいるのを幾度か見たぐらいしかないがな」

 

「だったら、彼らは特殊なオーガと戦って敗北。しかし突然上空から来た(ドラゴン)が傷ついた人喰い鬼(オーガ)を丸呑みして去っていく。後ろに控えていた冒険者が仲間の冒険者を助けに来てそれを目撃する。──って筋書きならどうだ? 戦闘の衝撃で戦っていた冒険者のその間の記憶が消えたことにして、助けに来た冒険者だけ記憶を上書きすればいい」

 

「……証拠は残らんし、お主という怪物がいたという情報も意味がなくなる、か。まぁ色々と粗はあるがそれでいいじゃろう」

 

 

 そう言ってナーガは冒険者たちから完全に離れる。一応信用してくれたみたいなので早速魔法を使ってみるがMPがガンガン削られていくのがわかる。全員に〈記憶操作(コントロール・アムネジア)〉で記憶を操作し終わる頃にはMPが全て無くなってしまった。しかし時間がかかったことで、偽の戦闘の時間経過的にちょうどいい感じになったかもしれない。

 

 アイテムで眠らせた冒険者たちに、死なないように程よくダメージを与え、周りの木々を殴って武器を痛める。ポーションみたいなアイテムを持っていたしある程度攻撃しても大丈夫だろう。そんな隠蔽工作をしていると黙ってこちらを見ていたナーガが問いかけてきた。

 

 

「お主はこれからどうするんじゃ? まさかこの森に住むつもりじゃないだろうの?」

 

 

 そう言われて改めて考える。ここはゲームでいえば始まりの町のような場所、と思われる。森に住むモンスターのレベルも弱く、村人も弱い。

 人の多い、実力の高いものが集まる場所に行きたくてもこの辺りの地理がわからない。このナーガも森のことしか知らないらしいし。そう考えていたガーネットはふと、目の前の冒険者たちの存在を思い出した。

 

 

「とりあえずこの冒険者たちにこっそりついていくかな、あとのことはそれから考えるとするよ」

 

 

 彼らが傷を治すにしろ帰るにしろ、拠点に行くならば人や情報も多くなるだろう。そこに行けばこの辺りの地図や地理がわかるはずだ。

 とりあえずの計画を立てたガーネットは冒険者たちが目を覚ます前に、彼らの()()()()()()()()()()

 

 

 

 ★

 

 記憶を操作した冒険者たちを並べて、彼らが起きるのを待つこと数刻。ようやく起きた冒険者は、少しの間ぼーっとしたかと思うととんでもないことがあったかのように叫び出した。その叫び声に反応して周りに傷だらけで倒れていた仲間たちも次々と意識を取り戻し始める。

『仕事で訪ねていた村人の異常なほどの願いにより、村人の言う森に逃げた化け物の姿を確認して即撤退するはずの仲間たちがなかなか戻らず、様子を見に来た彼は、倒れてる仲間に人喰い鬼(オーガ)が襲いかかる様を目撃する。しかし上空から来た巨大な(ドラゴン)によって人喰い鬼(オーガ)が食べられ、(ドラゴン)の羽ばたきで吹き飛ばされて気を失った──』という記憶に変えさせて貰った。ちなみに人喰い鬼(オーガ)(ドラゴン)外装(ビジュアル)はユグドラシルのイベントキャラを参考にしている。

 他の10人の倒れてる冒険者たちは、そんな熱く語る彼をポカンとした顔で眺めている。彼らにはその間の記憶を全部消させて貰ったのだから、そんな反応になるのも当然だろう。

 

 その後、落ち着きを取り戻した少年と村人の協力によって村へ運ばれ治療が始まった。彼らの持ち物の中には色が違うがポーションっぽい液体がいくつかあったので容赦なく痛めつけたが、何故か彼らは村に置いていたのだろう薬草を塗り包帯を巻いて治療をしていた。あれはポーションではなかったのか、それともこの世界の住人はポーションでは治りにくいのか。どうせポーションを使うだろうと思いHPを満遍なく減らした(全身くまなく叩きまくった)ガーネットには罪悪感が募っていく。

 

 改めて村の中に入ったガーネットは、一人の冒険者の()()()ぬるりと抜け出した。ユグドラシルでのニンジャのスキルは()と根深い関連性があり、ガーネットは仲間の影に潜んでの奇襲や建物の陰に隠れてやり過ごすなどに使っていた。ユグドラシル(ゲーム)では単純に影の部分に触れ、そこに入れる空間を作り出す感覚だったのだが、この世界での触れた影の中は、泥のような、空気のような、そんな不思議な空間であった。

 

 先程は見そびれた村で、この世界の住民はどのような生活をしているのか覗いていくと、建物や家財道具から見るに電気製品などはないのがわかる。それに一見何に使うかわからないものもあるが、魔法的な道具も少ないようだった。そしてどうやらこの村は布製品を作っているようで、どの家にも裁縫道具や糸があり、服が纏めて収納されている倉庫もあった。中世のような世界に思えるが、冒険者の中には魔法を使っていた者もいたので簡単に決めつけるのは早計かもしれない。

 

 その晩、村では凶悪な化け物が死んだことを祝う宴が開かれ、猪を二頭ほど捌いて焼いた肉がメインに置かれて酒が振舞われていた。村の茂みでは男女が繋がり、冒険者たちには子供達が群がる。そんな彼らの楽しそうな笑顔を見るとガーネットも笑顔になるようであった──これが自分が死んだ祝いでさえなければ、の話だが。

 ガーネットは焼けた肉の匂いに誘われて、冒険者に出されている分厚い肉を一枚つまむ。噛みしめるごとに肉汁があふれ、肉の持つ熱が身体を熱くする。ここ最近木の実だけの生活だったのでこの嚙み応えは素直に美味しいし自然の荒廃した現実(リアル)を考えれば高い食事になるのだろう。しかし味付けの問題だろうか、ガーネットはなにか別のものを食べたい衝動に狩られる。例えば食材をどろどろに混ぜてゼリー状に冷やした飲み物のようなものが。ガーネットはこれほど自分は液状食糧が好きだったのだろうかと首を傾げた。

 

 翌日、治療も終えて村を出発する冒険者達の馬の影に入り込み村を出る。下の影から彼らの話を聞いていると、どうやら彼らは冒険者組合とやらに所属しているモンスターの難度とやらを調べたり依頼を尋ねる役員のようなものらしい。どうやって報告するか、組合長に真面目にいうべきか否かを話し合っていた。

 彼らが所属する組織は〈えらんてる〉という場所にある冒険者組合らしく、トップの人間はアインザックというらしい。彼らがこの辺りの治安警備隊のようなものだろうか。

 

 野宿を繰り返し村を転々とすること数日。ガーネットは彼らの会話からこの世界の常識を学ぼうとしていた。途中、村で食べた猪を自分でも捕まえたいと思い抜け出して()()()()()()()()()()()()、モンスターや魔法がある以外は見た目通りの世界なのかもしれない。

 

 そうして数日かけて馬が進み、ようやく目的地である彼らの拠点エ・ランテルへとやってきたのだった。そこは高い城壁に囲まれた都市で、言うならば城塞とでも呼べる都市であった。

 今まで見てきた村のように、木の壁や土の塀で作られた都市だったらどうしようかと考えていたが、これならばこの国の実力も期待できるかもしれない。

 

 影に潜ませてもらっている冒険者たちは門の横手の検問所に入るようで列に並び始める。さすがに都市の検問所となれば、熱感知や魔力感知、隠密を看破する罠などが多数仕掛けられているだろう。ガーネットもある程度の罠ならば解除できるが、解除することが罠という二段構えの罠とかになると異世界の知識がない今は難しい可能性が出てくる。それに周囲にはここまで付いてきた冒険者達の他にも、いくつもの商人のような人たちが並んでいる。もしここで見つかれば、フランケンシュタインの怪物のデメリットによってかなり大きな騒ぎになるだろう。

 

 

(この都市の権力者や上位者と交渉するためにわざと見つかるとしても、せめて人目のある場所じゃない方がいいよな。ここまで連れてきた冒険者達に迷惑はかけたくないし)

 

 

 見つかる覚悟と、見つかったらどう交渉するかを決めたガーネットは影から抜け出てランナーという職業のスキル〈壁走り〉を使い城壁塔の壁を登る。壁自体にギミックが仕込まれてることを警戒して忍者の〈水面走り〉を併用して壁に触れないように駆け上がった。

 そのまま頂上まで一気に駆け上がったガーネットは迎撃射撃や死角からの襲来に備えて()()()を取り出しいつでも防げるように構える。人の少ない所ならば騒ぎも最小限に収まるだろうと考えて頂上まで登ったのだが、いくら待ってもそこには外を眺める見張りの兵士らしき人物が横手でぼんやりと外を眺めているだけで、こちらを迎撃しようという攻撃も侵入者への迎撃も来なかった。

 

 緊張しながらもその場に座り込み、()()()をしまいイベントリから木の実を取り出して頬張る。バフ効果の可能性のある食事という行為が邪魔されないことから、人間の都市に侵入したことも誰にもばれてはいないようだった。気づかれていないということに安堵すると同時にガーネットは不安になる。

 

 ユグドラシルと似た魔法の世界で初見の街に侵入してもバレる気配がないのだ。ユグドラシルの都市拠点ではあらゆる対策を講じて侵入を防いでくる。だからギルド拠点や都市などを、隠密系特化だとしても初見で一人で攻略できるなどほぼないだろう。基本は情報の読み合いと騙し合い、トライアンドエラーの繰り返しであった。

 ここまで無警戒だと一つの懸念が生じてしまう。それは『この世界に強者はいないのかもしれない』という懸念だ。もしかしたら索敵が得意な強者がいなかったり、魔法はあっても防壁や罠などの発展がない世界なのかもしれない。もしくは気づいていて放置をしている可能性もあるが、この世界の人間のフランケンシュタインの怪物への反応を見る限り、見つかり次第すぐに攻撃を仕掛けてきそうではある。もしくは人間ではない存在がこの国を支配しているのか、それともこの国や強者にとってこの都市はさほど重要ではないのか。

 

 ガーネットは思考を止め一息つき、下に広がる都市を眺める。そこには三重の壁に囲まれた都市があり圧巻と言える景色が広がっていた。風が運んでくる新鮮な空気が全身に当たって気持ちよく、空を見上げれば遮るものもは一切ない。リアル(現実)では到底体験できない景色に一瞬心奪われるが、そのままガーネットは頰を叩き、気持ちを切り替える。

 

 この都市に強者がいなくとも、この国のトップや首都にはいるかもしれない。それに知りたいことや補給したいものは山ほどあるのだ。

 都市ならば現実(リアル)の駅前にあるような周辺の地図があるかもしれないし、店で地図を売っているのかもしれない。それさえあればこれからどこに向かえばいいのか、この世界がどのような世界なのか、少なからず見えてくるだろう。

 

 それにこの都市に来る途中影に潜んだ冒険者たちがゴブリンを倒していたが、ユグドラシルのようにデータクリスタルやお金をドロップすることはなく、そのモンスターは現実に生きている存在だった。データクリスタルが手に入らないならば武器の作り方もユグドラシルとは根本から違うことになるだろう。

 

 ガーネットがよく使う()()()は種類によっては数千本は持っているし種類も豊富だが、ガーネットにとっての()()()は消耗品である。

 投げて一定期間後に発光したり、黒い煙幕を撒き散らしたり、電撃で足止めしたりと、基本的に逃走を補助するための使い捨てで投げるのがほとんどであり、ガーネットが本来戦闘に使うメイン武器は別にある。

 このような消耗品の補充がこの世界の都市でできるのかも確かめなくてはならない。

 

 これからやるべきことを考え、思考を整理したガーネットは半ば観光気分でワクワクした気持ちを胸に、壁城の上から飛び降りるのだった。

 

 




やばいモンスターが村を次々襲って助けを求める間も無く滅び続けたら、それだけで国がお終いになっちゃうよねっていう。
冒険者組合って依頼待ちだけじゃなくて村への聞き込みや調査もしてるのかなと思いこうしました。
なので最初に出会った冒険者たちは難度やモンスターを調べるための実力者たちってイメージです
戦う気はさらさらなくて、なんか村人にすげえ頼まれたからモンスターの姿確認して逃げる予定だったけど、ガーネットの醜い顔みて本能で倒さなきゃ!って挑んだ感じですね
最初はクラルグラとか天狼とか虹とか出そうと思ってたけど、容姿の描写探すのめんどくさくなってモブキャラにしたとかじゃないと願いたい

物語に関わる変更点といったら前話のあとがきの〈振り子の羅針盤〉の設定付け足したぐらい?一話のあとがきの職業構成付け足したけど、本編には特に関わり合いはないです


前書いた時も思ったけど、会話相手いないと寂しい!全部独り言だから地の文多くなっちゃうのキツイ!
感想、評価、共に励みになります。誤字脱字報告あれば直します。
読んでくれてありがとう!


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2ー3 謎の男onハムスター

前回のあらすじ

ガーネット(なんで裸…?)
シャーリュース(…なんか見下されてる気がする)


 ガーネットは人混みの真ん中を、誰にぶつかることも見つかることもなくスルスルと歩いていく。

 この〈えらんてる〉という都市は三重の壁に囲まれており中心に倉庫が集まり、一番外側が兵士の詰め寄り所のような場所で、その間に人が住む家が集まる都市であった。

 店の看板を見るに、この世界の文字は日本語や英語といった現実(リアル)の文字ではなかったが文字解読のアイテムを使って読むことはできた。

 街の構図や周辺の地理を知ろうと探すも、街の地図などは見当たらず、ようやく見つけた本屋らしき店を覗いてみても地図が載ってる本はなかった。

 

 本屋には魔法の本や経済の本などもあったが、主に多いのは宗教の本であり、四大神という宗教がこの世界のメジャーな宗教らしい。天使という言葉が使われているのを見ると、現実の宗教とも関係があるのだろうか。宗教が誕生してから数百年しか経っていないようで、現実と比べて文明が進んでないように見えるのも単純に歴史が少ないからかもしれない。

 このまま本屋の本を全て読破していきたかったが、他にも覗きたい場所もあったのでまた後日来ることにする。

 盗賊のスキルによってこっそり本を持ち出すことはできるだろうが、代わりに置いていく金もない。周囲のやり取りを見る限り買い物に使われる硬貨は銅貨や銀貨といったお金がほとんどで、ユグドラシル金貨は使用されていないようだった。

 

 

(せめて金が使えたらなぁ、気にせず欲しいもの買えるんだけど……)

 

 

 本屋で物色してようやく気付いたことであったが、ガーネットはこの異世界で使える金も換金する手段もなく、例え金があっても話せないから買う事すらできなかったのだ。

 金のない観光が空しいものになるのは自然の摂理であったが、いつか買い物をする手段を得た時のために気になったほんのタイトルをメモしていく。

 

 また、道で売買してる異世界の住人の会話を盗み見ていると、口が妙な動きをしており実際話している内容と口の動きが違うことに気づく。この世界の言語がなぜか日本語に聞こえているのか、それとも全く未知の喋り方で日本語を喋っている可能性もまだあるが、彼らには彼らの言葉があるのだろう。

 

 また〈振り子の羅針盤〉の針が揺れる先を見ると、冒険者たちと呼ばれる人たちを幾人か見つける。指針が強く反応する場所に向かうと似たような武装をしている人間が多く集まっているお店があり、いくつかの皮鎧や剣に盾、杖にナイフに一点モノとして全身鎧が並んである。しかし忍者が使うような()()()は置いていなかった。

 確かに彼らの多くは戦士や魔法詠唱者、弓使いなどが多い印象を受け、忍者はいそうにない。もしかしたらそのような人たちはオーダーメイドや個人で取引しているのかもしれない。ゲームと違って需要と供給の関係が成り立たなくては商売にならないのだから、使い手が少ない武器を店頭に並べないのだろう。まぁ剣も投げれないことはないしガーネットにも使えないことはないのだが。質的にガーネットが扱う武器はないとして、店を出る。

 

 期待してたほどいい物が見つからなかったガーネットだったが、この街でまだ期待してる見たいものは二つある。それは巻物(スクロール)と料理であった。

 盗賊職のスキルで巻物(スクロール)を騙すスキルを持っているので持っていて損はない。ユグドラシルが疎遠になってきた頃に、他の人も良く使う<伝言>などの汎用性の高い巻物は宝物殿に押し込んでしまった。なのでガーネットの手持ちには隠密系以外の役立つ巻物があまりない。なのでユグドラシルと似たようなアイテムがあり、もし使えるのなら見てみたいと考えて探していると、魔術師組合とかいう高級そうな店でケース棚に入れられ売られていた。製品の説明を受ける客の横で一緒に聞いていたが、隠密系で使えそうなやつは特にないし、振り子の羅針盤の反応を見る限り第四位階以上の巻物も店の中にはないらしい。巻物(スクロール)は骨董品や歴史的価値のある魔法を保存するために使われているのかもしれない。

 なぜなら取引には今まで見たことのない金貨のようなものを使っており、街での商売と巻物の取り扱い方を比べて高級品という印象を受けたからだ。

 

 

(……いや、表に出ている魔法はフェイクで、国の上層部とかが情報を止めているんじゃないのか?)

 

 

 ゲームを基準に考えると低位の魔法が多いのは馬鹿みたいである。しかし現実的に考えたらどうだろうか。

 高位の巻物を間違って外で使ったら嵐を呼び、大地は穿ち、山は割れる。町で間違えて使ったら家が吹き飛ばされて道も壊されるだろう。データでできたユグドラシルではないのだからそんな危険なものを流通させようとするなどあり得ないと言える。それに店員の説明の際に、生活魔法という言葉を使っていた。

 つまりは一般に出回っている巻物は生活魔法という区分で、それ以外の価値ある魔法は国の中枢に隠している可能性もあるのだ。

 

 その生活魔法で括られた巻物は、ユグドラシルでは見たことのないもので、生活に役に立ちそうな魔法も収められている。

 例えば温泉(ホット・スプリング)、これは温水を出す魔法らしく、この前お腹を壊してしまった時に冷たい水しか飲めるものがなかったガーネットにとってはかなり買いたいと思うものだった。金はないし、あってもこの顔では買うことはできないのだが。

 

 

 そうやってある程度の都市のめぼしい店を覗き終わったガーネットは、人が行き来する残りの時間を大きな食堂で過ごしていた。

 観光の結論から言うと、ガーネットが()()()()()()を売ってる店はなかったし、地図も見つからなかった。そんなガーネットが食堂に来た理由は、食事をする為ではなく観るためである。

 

 この都市にくるまでの冒険者の影に潜んでる時、ガーネットは野営中に影から抜け出して野生の猪を狩って料理をしたことがあった。村でつまんだ猪の肉をまた食べてみようと探し、勢いのまま狩ってみたまではよかったのだが、そこからが大変だった。

 現実(リアル)でも猪を捌いた経験などあるはずがなく、とりあえず血を抜いて解体すればいいのだろうと刺しまくり、なんとなくで洗ってから炎属性の刀に載せて焼いて食ったのだ。しかし、捌き方に問題があったのか非常に臭い肉となってしまい、頑張って食ってみたが腹を下すことになってしまった。

 動物の捌き方や保存方法など、技術どころか知識もない。誰かに教えを請いたいと思うが教えてくれる人間がいるとも思えない。

 まともな料理を食いたいのならバフ付きの食事がイベントリにあるのだからそれを食えばいいのだが、また手に入るかわからない以前に、ガーネットは食いたいと思えない理由があったのだ。

 なぜならユグドラシルをまともに遊んだのは数年前のことであり、つまりこのイベントリに入っている料理は全て数年前のものである。ユグドラシルの頃は、いつ作ったものだとしてもゲームなので気にせず食べれた。しかし、設定が現実になった今賞味期限がどうなってるかわからないものを食う気にはならなかったのだ。

 

 つまりガーネットはこの世界で生きる為に、新しい食材の調達方法を確保する必要があった。フランケンシュタインの顔を恐れない亜人などを雇って料理や保存の指導を受けるのが最善かもしれない。

 この間出会ったナーガのシャースリャーを訪ねて森に行ってみるのもいいかもしれないなと思いながら、青果店を眺めていたガーネットは香ばしい匂いに誘われてこの食堂に辿り着いたのだった。

 

 そんなガーネットは今、食堂の厨房の天井に張り付きこの世界の調理の仕方を学んでいる。食堂に入ったガーネットは、教えを請うよりも実際にこっそり見て学んだ方が早いと気づき、こうして厨房に潜入して料理の光景を眺めているのである。

 

 そこで見る食材は元の世界で見たことのないものも多く、特に野菜は名称すらよくわからない。食器を洗う音が鳴り響き食材を切る音が鳴り止まない中、ガーネットは彼らの一挙手一投足を記録していった。

 

 やがて夜も更けて客が帰り始め、メモ書きで埋めた手帳を満足気にしまいながらシェフ達も帰り始めたし自分も都市外のどこかに穴でも掘って寝ようかと考える。

 しかし、比較的若い人間達が明日使う準備を始めているのか食材を並び始め、どうやら明日の準備の為に下拵えをするらしい。

 明日もまた見学にこようか、そんなことを考えてガーネットが裏口から外に出るとそこには氷水に漬けられた大きな猪が入っている樽が外の小屋に運ばれていくのが見え、若い料理人の一人がナイフを持って入っていく。どうやらこれから解体を始めるようだ。

 ガーネットは仕舞ったメモ帳を再び取り出して小屋へと向かうのだった。

 

 

 

 ◆

 

 朝になり慌ただしく活気が溢れはじめ、朝日を浴びながらガーネットは体のこりをほぐしていた。ゲームのキャラクターの体になりニンジャの職になっても一日中天井に張り付くのは肉体を酷使するらしく小気味よい音が鳴り響く。

 どうやらここの食堂は商人から買い取った食材だけじゃなく冒険者が狩ってきた予定のない食材が回ってくる度にここで解体して提供しているらしく、冒険者組合と繋がっていることでこの食堂は大きくなったようだ。

 まさか一日徹夜して彼らの解体作業を見ることになるとは思わなかったが、知識として学ぶことは多かった。そしてどうやらこの前自我流で適当に解体した肉が不味かったのは、冷却作業をしていなかったからだろうと考察できるほどガーネットは学習できていた。これは何時間も何度も彼らの解体や会話を見て考察した結果である。

 猪だけでなく、蛇や鹿に似た動物を捌く手順もメモに残したのでこれからの旅路に非常に役に立つことだろう。 ガーネットは肩を回し眠気を振り払いながら一仕事終えた気分で小屋を離れた。

 

 

 これから先どうするのか、無限の水差し(ピッチャー・オブ・エンドレス・ウォーター)で出した水を飲みながら、道行く商人たちの邪魔にならないように腰かけてガーネットは考える。

 強い勢力のある組織と話しをして味方につけるためにこの都市まで来たのだがそのような存在がいるようには感じなかった。振り子の羅針盤だけでなくスキルも使って()()()()()()()()レベルを調べてみたが、人間もアイテムも高いもので25lvもなく基本的に10lv相当もない存在がほとんどであった。

 国の上層部、王様や行政のトップ、もしくは軍組織のトップにまで近づけばガーネットが満足できる強さをもつ存在は現れるのだろうか。この都市の冒険者組合長のアインザックとやらに話をして上層部に繋がるという案も悪くはないが、顔も見せないまま話を聞いてもらえるかも疑問である。説得を続けているうちにナザリックに見つかったり騒ぎになる可能性もあり、この都市に来るために記憶操作(コントロール・アムネジア)巻物(スクロール)を使い切ったのは今更ながら勿体ないことだったと痛感する。

 

 

(やっぱ行くとしたらこの国の首都かな? 首都に行けばこの国の強さの上限がわかってこの世界の強さもある程度わかるだろうし。でもどうやって行くかなんだよなぁ、そもそも場所がわからないし)

 

 

 この都市は割と大きな都市らしく、<聞き耳>で話を盗み聞く限りここを起点にさまざまな場所へと行く交易都市らしい。なのできっとこの国の首都にも交易は繋がっているだろうが、どの商人の馬車がいつどこに行くのかはわからない。都合よくわざわざこの国の首都に行くと宣言していく親切なゲームキャラクターのような存在もいなかった。それにここは複数の国の中心らしくて聞いた名前がここの国の都市なのかも判別できない。人がごった返すこの中から真っ直ぐに王都へと向かう人を探すのは至難の技だろう。そんなことを考えていると少し離れた場所から怒鳴り声が聞こえる。

 

 

この馬鹿野郎! さっさと冒険者組合に至急の護衛依頼出してこい! 言われたこともできないで商人名乗ってんじゃねぇぞ若造が! 

 

 

 どうやら若手の商人が冒険者組合に依頼を出し忘れて怒られたらしい。モンスター退治だけでなく護衛なども冒険者はやるんだなぁ、と呑気に考えていると、一つ思いつくことがあった。

 

 

(……護衛依頼? 商人が仕事として冒険者組合に頼むのなら、書類があるんじゃないか? その中から首都に行く依頼を探し出してそれを受ける冒険者の影に入ればそれだけで到着するんじゃないか?)

 

 

 そう考えたガーネットは眠気を押し殺しながら、先程走り出した若手の商人を追って冒険者組合へと向かって行くのだった。

 

 

 

 ◆

 

 冒険者組合に到着して辺りを見渡していると、ここの職員だろう人が羊皮紙をボードに張っている。この中から仕事を見て選ぶシステムなのだろうか、文字読解のアイテムを使い羊皮紙を読み始める。

 薬草採取やモンスター退治などがあり、知らない街までの護衛依頼もある。その中から根気よく目的の依頼を探していると“王都 リ・エスティ―ゼ”までの護衛依頼をようやく発見した。この羊皮紙をとる冒険者についていけばいいだろう、思惑が当たったガーネットはそう考えて天井に張り付いて待つ。

 やがて幾人もの冒険者たちが依頼書を持っていき減っていくがなかなか目をつけている依頼を取る冒険者は現れない。日も暮れ始め夜になった頃、ようやく王都と書かれた依頼書を取り受付へと持っていこうとする男が現れ、人の視線が交差しない瞬間を見極めその男の影めがけて飛び込むように入り込む。この男の影を今日の寝床にしようかと考えてガーネットは影の中で寝る準備を始めた。

 

 この男の影に潜んでいればいずれ王都へ辿り着くだろう。そんな呑気なことを考えていると男が冒険者組合の扉を開けて外に出ると同時に、片手に持っていた〈振り子の羅針盤〉の針が一気に動き始める。

 

 

(──────っ!)

 

 

 ガーネットはすぐに振り子の羅針盤を()()()()()、索敵スキルを使いたい欲求を押し殺して余剰分の隠密スキルをフル作動させた。

 ガーネットは〈振り子の羅針盤〉が反応した影の外へと目を向ける。そこには漆黒の全身鎧(フルプレート)に二本のグレートソードを背負った巨大なハムスターに乗った謎の男がいるのであった。

 




大学で習ったことなんですが、出版の歴史は宗教系が最初に来て、教養などはあとかららしいなので、オバロの世界の本屋とかにある刷られてる本は大抵宗教系なのかなっていう
魔法とか物語系は手書きのものが多くて少なそうだね的に思いました。
でも現実と違って魔法あるので、手書きで写した本だけじゃなく、魔法で写したりできそうなので冒険譚とかも割とある気がしますね
ガーネットは四大神がプレイヤーだとかは思ってません。教義とか信仰の違いとか、魔法との関連性とかの本をパラパラ読んでへーこんな信仰してるのねーとか思っただけです

時間経ってカルマ値が0に戻ったので、万引きとかは基本的にしないです。前回はカルマ-100のままなら少ない肉を盗ったと同じように金だけ置いて万引きしてたかもしれないです



次回から原作絡むぞー。さて、物語に関係ないチームを生かすか見殺すか悩み中。
ハムスターに乗った漆黒の鎧は誰なんだ…?答えは原作2巻で!
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2-4 アンデッド召喚の儀式

前回のあらすじ

謎の男「私が来た!」
壊された羅針盤「解せぬ」


 〈振り子の羅針盤〉、これはユグドラシルにおいて近くのモンスターやプレイヤー、周囲のアイテムに反応し相当レベルを測定するアイテムであった。

 自身の魔力反応や姿などをアイテムやスキルで隠すプレイヤーは多々いたが、自身が装備するアイテム全てにわざわざ隠蔽データクリスタルや魔法を使うプレイヤーは珍しい。

 なぜならユグドラシルではほぼ全てのプレイヤーが80lv相当以上のアイテムを持っているし、特定のアイテムを遠くから探知する場合は自身への防御系スキルや魔法で妨害でき、近くから測定されるならそのまま反撃すればいいからだ。

 アイテムのレベルを測定される意味はほとんどなく、遠くから索敵・感知系のアイテムを普通に使われれば防御魔法やカウンタースキルを使えばいいと考えるプレイヤーは多い。

 

 そこでガーネットが探索でよく使っていた手の一つに、〈振り子の羅針盤〉が近づいてきた存在のレベルを測定し大きく針が動き終える前に壊し、針の初動の速度でレベルを判断することだった。スキルを使わず、測定し終わる前にアイテムを壊すことによって相手のカウンタースキルに感知されず、こちらは何かが近付いてきたという情報を得るのだ。

 ガーネットは振り子の羅針盤が反応した男たちの方を見る。

 

 

(……何だ? この鎧の男が乗ってる……ハムスター? ジャイアント・ハムスター? ハムスターに騎乗するのがこの世界の一般常識なのか?)

 

 

 一瞬何を見ているのかわからずに放心したガーネットは、この光景がこの世界の常識なのかと思い影から周囲を見渡す。しかし、周囲の住民も遠巻きに囲んでひそひそと囁いているので、目の前の光景はこの世界でも可笑しい光景なのだろう。

 大剣を背負った鎧の男がつぶらな瞳の可愛い巨大なハムスターに騎乗している。中身が屈強なオッさんでも、誰もが振り向く美男子でも、全身を覆う黒い鎧では非常にアンバランスな組み合わせだろう。中身が超絶美少女だとしたら、合わなくはないかもしれないが。

 

 

(鎧の人がどういう成り行きでああなったかは知らないけど、可哀想に。いい大人があんな公開恥辱プレイされてたら恥ずかしさで肩身狭いだろうな。周りも立派な魔獣だとか、なんて力強くも恐ろしいとか褒め称えてるし。……えっ? 立派?)

 

 

 ガーネットは聞き間違いかと思い、周囲から聞こえる声をスキルで集める。ハムスターを見る周囲のざわめきからは、“素晴らしい偉業”やら、“英知溢れる瞳”やら“森の賢王”やら、“立派な魔獣”とかいう黄色い感嘆しか聞こえなかった。

 

 

(……俺のセンスがずれてるのか? 改めてそう見ると確かに立派な魔獣に見え……ない、な。うん、どう見てもでかいだけのハムスターだ。えー、いや、えー。…………まぁ、いいや、なんでも。とりあえず羅針盤は何に反応したか、だな)

 

 

 これ以上考えても仕方がないと思考を切り替えたガーネットは、ハムスターの男の周りの、遠巻きに見ている人たちではない数人の武装した人間たちを見る。彼らの荷馬車からはガーネットが都市の一部で嗅いだ薬草の匂いを感じて思わず顔をしかめた。

 針の動いた速さから鑑みるに、彼らの誰か、もしくは彼らの持つアイテムが最低でもlv50相当以上であることは間違いないだろう。それはこの世界に来てから見たレベルとは格の違う存在である。〈ストーカー〉の職には個々のレベルを判別するスキルもあるが、何者か分からないままスキルを使って反撃に合うのは避けたい。

 

 この世界の強者か、それともナザリックの手の者か、もしくは同じユグドラシルプレイヤーか。ガーネットはナザリックでかつて配置したNPCを思い返すが、あのような鎧は見た覚えがない。しいて思うなら赤い布がたっち・みーさんを連想させるアイテムだなと思うぐらいだろう。

 

 そうやって誰がこの世界の強者かを影の中から考察していたが、ハムスターの影から現れた女性によって答えを得る。服装が知っているものと違ったので一瞬わからなかったが、後ろから現れた女性の名はナーベラル・ガンマ。ナザリック地下大墳墓の第九階層を守るよう設定されたNPCで、戦闘メイドプレアデスの一人である。ならば羅針盤はナーべラルに反応したのだろうか。ナザリックのNPCだと気づいたガーネットは警戒心を格段に上げる。

 このハムスターに騎乗した鎧の男もナザリックのNPCだろうか。ナーベラル・ガンマ、あれはレベル60程度の魔法詠唱者だっはずだ。バランスを考えるとレベル50以上はある前衛職だろうか、鎧の男は新しく召喚した傭兵モンスターの可能性もあるかもしれない。ガーネットはその正体を探ろうと僅かな情報も落とさないように彼らの話に注意を向ける。

 

 

 

 ──―「取り敢えずは街に着きましたし、これで依頼は完了ですね」

 

 ──―「はい、おっしゃるとおり、これで依頼完了ですね。それで……規定の報酬はすでに用意してありますが……森でお約束した追加報酬をお渡ししたいので、このままお店の方まで来ていただけますか?」

 

 

 彼らは冒険者と、その依頼主なのだろうか? 彼らの立ち位置を見るとナーべラルと謎の男は仲間のような印象を受ける。男はナザリックから冒険者になるためにこの街に来たのだろうか、それとも鎧の男は現地の協力者か。ならば一体何者なのだろうか──―? そう思考を重ねていたたガーネットだったが答えはすぐ知ることになった。

 

 

 ──―「それではモモン氏はこれから組合の方であるな!」

 

 

(ももんし? ──―ももん氏──―ももん、氏──―モモン!?)

 

 

 モモンと聞いて思い浮かべる名前は一つはしかない。

 

 

(え? あれってモモンガさん? なんでハムスターに乗ってるのあの人……。うわー、街中で大の大人が恥ずかしくないのかな。モモンガって名前だしもともとああいう(メルヘンチックな)趣味だったっけ? 昔、異形種動物園とか言ってたし。いやいや。え、でも、マジで? )

 

 モモンと聞いて鎧の男がモモンガと結びつき混乱するガーネットだったが、他の可能性もあることに気づく。もしかしたらナザリックのNPCや召喚モンスターがモモンガさんの名前を一部借りてるだけかもしれないのだ。それならばまだモモンガさんの名誉は守られる。

 それにあれがモモンガさんだとしたら、モモンガから“ガ”の文字を抜いてモモンと名乗る意味が分からない。偽名として“モモン”と名乗っているとしても、ユグドラシルプレイヤーなら有名なDQNギルド長の名前を知らないはずもないので、ぶっちゃけ一文字違うだけで変わらない。もし近くでアインズ・ウール・ゴウンの名前が出たり、現地人とは違う強さを見せたりしたらモモンガとの繋がりを考えないプレイヤーはいないぐらいだ。それともそれを敢えて狙っているのだろうか? そう思ったガーネットは彼らの会話を引き続き盗み聞く。

 

 

 

 ──―「申し訳ないですが明日再び組合の方に……時間に初めてお会いしたときと同じくらいに来ていただけますか?」

 

 ──―「了解しました」

 

 

(はい。モモンガさん確定。完全にモモンガさんの声じゃん……。なんなのモモンって……、いや名前としては悪くないよ? でもなんでモモン? 偽名か? それ偽名の意味あるのか? この世界に対して偽名使う意味ってあるのか? あるとしたら俺みたいなプレイヤー相手だろうけど……、これが名前隠すための偽名だとしたらバレバレだよな。……相変わらず名前に関してはどっかずれてる人のような……。それともやっぱり改名に気づく人間を見極めている?)

 

 

 ガーネットが大きなハムスターに乗った社会人が街を練り歩くという残念な図を頭に描いている間に、彼らは依頼主の店まで行くメンバーと、魔獣の登録をするメンバーに分かれていくらしい。頭上の王都への護衛依頼を受ける冒険者を見逃さないようにロックをつけて、影から抜け出したガーネットは人込みに紛れるようにそこから離れるのだった。

 

 

 

 

 

 

 ◆

 

 

 この都市の二つ目の壁を乗り越えたガーネットは音も姿もなく、壁内のかなりを占める広めの墓地に降り立った。

 

 

(姿隠して来てるってことは、情報収集なんだろうけど……。いーなぁ死の支配者(オーバーロード)。そりゃ顔隠せないデメリットなければ鎧着ただけで人間の振りできるもんな。中は魔法で幻術も作れるだろうし)

 

 

 ガーネットは探索役のくせにまともに情報収集ができない己とモモンガさん──―モモンを比較して嘆く。冒険者として、一人の人間として活動できるのなら、わからないことは誰かに聞けばいいし道を尋ねても教えてくれるだろう。目的の場所に行くだけであれこれ思考を巡らせなきゃいけない己の現状と比べると悲しくなる。

 モモンガさん自ら情報収集に来たのだろうが、NPCのナーべラル・ガンマがいる時点で他にも来ている可能性は高い。すでにこの都市はナザリックに囲まれてる前提で動くべきだろう。

 しかし同時に、この世界が()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()ので、いきなりこの都市を襲うなどはしないとも考える。なぜなら俺の知っているモモンガさんは、いやアインズ・ウール・ゴウンのメンバーの一部を除いたほとんどが情報収集してからの奇襲という戦い方を得意としてきたし、モモンガさんの戦闘スタイルもそのような構成だった。

 

 向こうもこの世界の情報が集まらないうちは派手に動かないだろうから、すぐにこの都市から脱兎のごとく逃げ出す必要性はないだろう。むしろモモンガさんがこの都市に入って慌てて逃げていくものがいないかを監視する者がいてもおかしくはない。というか、ユグドラシルでアインズ・ウール・ゴウンをPKしようと集まる者を炙り出す際の監視をガーネットもよくやっていた。

 しかしモモンガさん(魔法詠唱者)は今鎧を着ている。つまり今は使える魔法が少なく、もし敵対したとしても逃げるだけならばこちらに一手分があるのも確かであろう。

 

 そこでガーネットが考えたことは、モモンガさんが冒険者として動いている今夜のうちにこっそりこの都市から脱出し、道の途中で先ほどロックした冒険者が来るまで待って影に入り、王都へと向かうことだった。

 冒険者の影に潜んで何食わぬ顔で都市から抜け出せればいいのだが、ナザリックが検問所に監視の目を光らせている可能性を考えるとそれは難しい。影に潜むスキルは、主に敵をやり過ごしたり仲間の影に潜んで奇襲をかけるためのものであり、隠密に関していえば万全とは言い難い。

 

 そこでガーネットが考えたこの都市から抜け出す方法は単純な話で、地下を掘って進むというものだった。真下に300mほど掘り進み、そこから慎重に森に入るまで突き進み、再び300m上に掘って浮上する。そんなめんどくさい、いわばバカみたいな方法まで対策するのは全盛期のナザリックならいざ知らず、モモンガさんしかプレイヤーがいない今はできないだろう。

 そういった理由から、ガーネットは地面を掘っても問題がなさそうな、この都市の外周部の四分の一を占める巨大な墓地へと来たのだった。

 墓地なんかに特に見るものもないだろうとガーネットは一瞥するだけだったが、事前に下見をしておけば良かったと後悔する。索敵・感知系スキルを一部解放し、新しい<振り子の羅針盤>をイベントリから取り出す。

 するとガーネットはこの墓地の地下から多くの反応に気が付いた。何か多くの存在がこの広い墓地に集まっているのだ。

 

 

「<サイバーフォース> <インフォーメションサイコバリアー> <背徳> <五分の魂> <魔素収集> <魔眼・透視> <熱感知> <生命感知> <重層看破> 」

 

 ガーネットはホムンクルスに関連する数値を上昇させるスキルを使い、周囲に対情報系の電撃系のカウンタースキルを発動させる。自身の防御ステータスを減らすことで索敵魔法の成功率を上げ、自身の生命反応を小さくし分散させる。辺りの魔力の流れを掴み、ニンジャの魔眼を発動させて熱と生命反応を探し、地下深くまで見通せるように魔眼にスキルを重ね掛けする。

 

 改造系のスキルで自身を防御し、改めて地面に向けて感知・索敵スキルを使う。そこには150を超えるアンデッド、それに竜の形をした非生命体のなにか、そして幾人かの人間がいる空間に、ここから離れた霊廟から入れる構造があることがわかる。魔力の名残から何かしらの儀式をしているようだった。

 

 

(これはアンデッド……だな。モモンガさんの<アンデッド創造>でできたアンデッドか? いや、でもこんな低レベル作っても意味はないよな。もしかしてこの都市の防衛設備の一つか何かか? どうする? この都市を攻撃するためのナザリックの準備とかだったとしたら低レベルしかいないうちに確認したほうがいいのか?)

 

 

 ガーネットはこのアンデッド達がナザリックのか、都市の防衛力か黙考し、とりあえずアンデッドが何者か確認するだけにしようと考える。無害ならばとりあえず地下に大きな空間があるんだし、そこから穴を掘ってショートカットすればいいかと考えて霊廟へと向かうのだった。

 

 

 

 

 

 

 ◆

 

 

 霊廟へとたどり着いたガーネットは石扉をすり抜けて中に入る。ガーネットの目には一つの彫刻が緑に淀んでいるように見え、恐らくそれが中に続くためのギミックだったのだろう。しかし低レベルの仕掛けであり、シーフ、ハイシーフ、アンチトラッパーの職を得ているガーネットにとっては短時間で再び使用できる低スキルで素通りできるレベルの仕掛けであった。

 仕掛けを無視して中に入ったガーネットは低レベルのゾンビの集団と、呪文のようなものを熱心に確認しあうフードを被った男たち、そして土の中で動かない骨の竜(スケリトル・ドラゴン)の存在を確認する。

 

 暫く辺りを確認したガーネットは、どうやらこの人たちはアンデッドを管理する国のお役人さんのようなもので、ここは陰ながら都市を守る防衛施設なのだろうと判断する。彼らの顔は上の都市の住民と似たような、つまり普通の人間でありナザリックとは無関係だということがわかったからだ。この世界のアンデッドがどういう存在か分からないが、この都市の防衛力の一つとして彼らが管理しているのだろう。

 夜遅くまで働く彼らに心の中で敬意を送ったガーネットは、彼らの邪魔にならないよう隅まで移動してクナイで片手から血を流し〈口寄せ〉をする。

 

 

「〈口寄せの術〉」

 

 

 そう呟いたガーネットは血の紋様が異空の鍵を開くイメージを脳裏に浮かび、目の前に2mほどの蛙が現れる。今回口寄せした忍獣は、lv28の五色蛙といい色は黄色で属性は雷と酸の忍獣である。人間達にバレないように蛙に幻術をかけ、イベントリから神器級武器の“雷雲の竜刀・黒”を取り出して蛙を中心に丸い切り込みを作り、蛙はこちらの意図を察して酸を出して地面を溶かしていく。

 

 

 地面を溶かし始めて一時間経っただろうか、ガーネット達の穴はすでに200mほどの垂直の穴までなっていた。酸で溶けてビチャビチャの泥になったものはフランケンシュタインの怪物のスキル<感電>で焦がして固め、ガーネットの持つ〝かわきのつぼ〟というアイテムで吸いあげていく。出入り口はナザリックで部屋にかけた幻術と同じものをかけることで、依然何も変わっていないかのようにごまかしている。

 そのまま蛙と場所を変えながら、二徹の恐怖に怯えつつ穴を溶かして進めるガーネット達だったが、上に新たな生命反応が増えたことに気が付き、蛙を踏み台にして100mを超える高さを飛び越えて穴の入り口へと戻る。そこにはゾンビのような男と、猫のようなマントをした女、それに抱えられた目を怪我した少年が入ってきていた。穴から頭を出して<振り子の羅針盤>の振り方からして40lv前後という値が出ておりガーネットは驚く。この二人はこの都市の実力者か、都市防衛の責任者か何かだろうか。そんな彼らを出迎えて役人たちが騒ぎ始める。

 

 

「カジット様! お待ちしてました!」

 

「我々、いつでも死の祭典の準備はできております!」

 

「ふん、バカのせいで時間はない。さっさと始めるぞ、急げ!」

 

「ただいまー。いやー待たせちゃってごめんねー。途中から楽しくなっちゃってさー。めんごめんごー。じゃ、あとこれよろしくねー」

 

 

 そう言って女は少年を男たちに渡し、再び地下から出ていった。その少年の目は切り裂かれており、動く素振りも見せない。

 治療でも始めるのか、そう考えていたガーネットの前で男たちが少年の服を脱がしはじめ、やけに透けた服へと着替えさせる。最後に頭に蜘蛛の巣に似たサークレットを慎重に被せ、その瞬間、ぼーっと立っていた少年は一つの道具になったかのようにまっすぐと立った気がした。

 

 

(…………な、なんだ、こいつら? この国の役人とかじゃなかったのか? いい歳した男たちが少年を脱がせて代わりに透けた服を着させるって、ペロロンチーノさんでもそんなゲームは……やってそうだけど、リアルでやっちゃダメだろ。え? マジで何してんのこいつら? ……ん? てゆーかこの少年どっかで見た気が……)

 

 

 男たちは少年を霊廟の方へと連れて行き、ガーネットもそのあとを追いていく。

 彼らが何をしてるのか気になるのもあったが、この少年に見覚えがあることが引っ掛かっていた。

 

 そして少年を霊廟の中心に置き、アンデッドのような男とやけに緊張した顔つきの部下らしき男たちが囲み始め、手をかざして少年に魔力を送り魔法を唱え始める。

 

 

「「「<不死の軍勢(アンデス・アーミー)>」」」

 

 

 その瞬間魔法陣が浮かびあがり、その外、つまり霊廟の外の地面が一斉に盛り上がり始めるのを感じる。それと同時にガーネットはこの少年をどこで見たかをようやく思い出した。そしてそれが指し示す意味に気づいたガーネットは、この世界に来て()()()()()から学び、口を塞いでから心の中で叫ぶ。そんな怪物の心中を知らないアンデッド顔の男も歪な球を掲げて叫ぶ。

 

 

 

(おまッ──、この人間ッ、モモンガさんの関係者(依頼人)じゃねえかッ! モモンガさん来ちゃうだろ、マジ巫山戯んなこのハゲッ!)

 

「ふははははは! 素晴らしい、素晴らしい力だ! さぁ! エ・ランテルを死の都市に変えてやろうではないか!」




ガーネットは〈振り子の羅針盤〉をあと50個ぐらい持ってます。
捨てられない症候群じゃなくて、消耗品としてたくさん持ってる感じですね
イメージ的にはパイレーツオブカリビアンのジャックが持ってるコンパスみたいなイメージです
ちなみに反応してたのは、モモンガさんが装備してた聖遺物級のアイテムと死の宝珠です
そして今まで後書きとか、文中で何度か説明しましたけど、このアイテムに出番はもうないかなー、あと一回ぐらい出るかもぐらい?

五色蛙 lv28 色に沿った属性を持ち、接触ダメージがある。目標に向かって自爆する。倒されても爆発する。
イメージ的に赤色は 火 土、青色は 水 氷、黄色は 雷 酸、黒色は 闇 毒、白色は 聖 光 属性って感じですね

真面目な公務員達から、変態集団、そして目の前で化け物(モモンガ)を呼ぶ儀式を始めた(巻き込み)自殺志願者に、ズーラーノーンの好感度が乱高下した回でした。

来週は更新ありません。蓄えはあるけど、先の展開でどっちにするか悩んでるので変えるべきか変えないべきかまだ決めかねてるので

感想、評価、共に励みになります。誤字脱字報告あれば直します。
読んでくれてありがとう


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2ー5 見えない者 見られる者 見つかる者

前回のあらすじ

カジット「ンフィーレアに叡者の額冠贄を装備して効果発動!墓地から可能な限りアンデッドを特殊召喚する!」
モモンガ「呼んだ?」
ガーネット「ちょっと待って」


 次から次へとアンデッドが湧き続け、霊廟の周囲は完全にアンデッドで囲まれたことがわかる。骸骨やゾンビだけでなく死者が折り重なって新たにアンデッドが生まれ、それに反応するかのように亡者が墓地から蘇り、辺りは地獄の様相と化していた。

 ガーネットの敵になりうるレベルのアンデッドはいないが、その数は増え続けて総数は1000を超えるだろう。

 

 

(モモンガさんは冒険者として活動してるんだろ? そしてこの少年はその依頼主。…………え? つまりモモンガさんここに来ちゃうじゃん。え? 来ちゃうの? マジで?)

 

 

 モモンガさんがモモンという冒険者としてこの都市で活動しているのならば、依頼人が犯罪集団に攫われたら助けに来る可能性は高いだろう。

 つまり悠長にここで穴を掘って都市から出る計画は破棄するしかなく、フランケンシュタインの怪物となったこの身体でもここまで掘り続けるのは地味に大変だったが、ここは放棄せざるを得ないだろう。

 しかしモモンガさんの関係者が誘拐されたことは、一つの事柄を指し示している。

 

 

(──依頼人が誘拐されたということはナザリックの手はこの都市に入り込んでないのか? なら慌てる必要もない?)

 

 

 そもそも都市を掘って脱出するという案は、この都市がナザリックによって完全に包囲されてる可能性があってのものだった。しかし、依頼人が拐われることを防げなかったということは、ナザリックの手がこの都市に充分にいないことの証明ではないだろうか? 

 それを踏まえてガーネットは目下の現状を考える。

 

 

(──どうするか、だな。多分彼らはテロリストみたいな反社会的存在なんかだろうけど……、今すぐ解決しなくちゃならならいほど緊急性は高くないのか? 俺が解決しちゃったら()()()がここにいたって証明するようなものだし、どうせモモンガさんが助けにくるだろうから放って逃げてもいいか? ……いや、あとで俺が今ここにいたのがバレた時のことを考えたら、助けたほうがいいか?)

 

 

 この問題に手を出すべきか否か。目の前の少年のことを案じれば助けたほうがいいとも思うが、モモンガさんが助けに来るのならその必要もないと考える自分もいる。しかし、あとでこの人間を助けなかったとモモンガさんにバレた場合のことを考えると助けるべきかもしれない。

 ガーネットは霊廟の天井からハゲ頭の男の背後へと音もなく降り立つ。後ろに目をやれば猫っぽい女が器用にシュティレットを振り回しながら、退屈そうにアンデッドが都市へと進むのを見ておりこちらに気づく様子もない。

 ガーネットの持つ羅針盤は男の持つ歪な球に強く反応してlv40相当のアイテムということを示している。つまりこれより強く反応していないアンデッド顔の男や猫っぽい女はlv40以下なのだろう。ここまで近づいても反応しないことから感知系スキルを極めてるわけでもないだろう。

 改めて観察すると女からは真新しい血の匂いを嗅げるので、彼らがキナ臭い連中なのは間違いないようだ。

 ハゲ頭の男越しに問題の少年を観察する。どんな仕組みの魔法なのかはわからないが、この少年がアンデッドを湧き出している魔法の鍵なのだろう。ならばこの少年を拐ってしまえば事態は解決するはずだ。

 

 

「〈天長地久(ティェン・チャン・デ・ジウ)〉」

 

 

 〈天長地久〉、これは魔法をかけた空間を幻影として維持し続ける幻術である。

 それはガーネットがナザリックでメイド達の掃除を乗り切り、穴掘りを誤魔化すのに使った魔法であった。本来の用途は宝箱のアイテムを盗る前や罠が作動している空間に使うことでその状況を幻術として保存し、あとから来たプレイヤーを騙してPKなどをするための幻術魔法である。

 少年を中心に幻術をかけて空間の景色をそのまま上書きする。一見変化のないように見えるが、ガーネットには幻影が実体に重なっているのがわかる。幻術の設定時間は30分ほどで大丈夫だろう。

 幻術をかけた空間に魔力系の攻撃で切り裂けばそれだけで解除される只の第六位階魔法だがこの世界では充分であろう。

 

 そのまま少年に自分の隠密性を同期させて担ぐ。少年を持ち上げると目の前には微動だにしない幻術の少年が残る。そのまま少年を肩に担いで静かに霊廟から外を出ようとし、ふと後ろを振り返ると犯罪者らが何もいない幻影に対して未だ儀式を続けているのが見える。

 

 

(──はぁ)

 

 

 何も気づいていない彼らを見て、ガーネットはこの世界に来てから感じる遣る瀬の無い罪悪感からため息を吐き、この世界に来てから出会った存在を思い返す。

 森を出た先の村人、ナーガのシャースリュー、エ・ランテルの冒険者達、そして謎の犯罪者集団。

 この世界では、ナーガや人喰い鬼(オーガ)、ゴブリンなど、現実では存在しないモンスターがいて最初は気にならなかったが、ガーネットのフランケンシュタインの怪物のステータスと比べると力の差がありすぎることには気づき始めていた。

 そしてこの世界に来た時は訳も分からず、考えないようにしてきたが、()()()()()()()()()()()()()()()()、という素朴な疑問が湧いてしまう。

 偶然ゲームのアバターの姿のまま異世界に来るなど、あり得るのだろうか? もし何かしらの意図や原因があるのなら、それは自分やモモンガさんに何をさせたいのだろうか? 

 

 

(俺は、なんでこの世界にいるんだ? 俺は……本当に俺なのか?)

 

 

 彼ら(犯罪者)がやっていることはこの世界の基準で考えると凄いことなのだろう。もしかしたら準備のかかる、人生を費やした計画だったかもしれない。

 しかしそんな彼らの邪魔をしたガーネットの力には積み上げた努力や経験があるわけではない。ただ気づいたらゲームのアバターでこの世界に来てしまっただけで、積み上げたレベル構成も数年前に何の危険も犯さずに生活の合間に遊んで出来上がっただけのことである。

 例え彼らが犯罪者や悪人だとしても、誰かの目的を踏み躙り邪魔をしたかったわけではない。他者を踏みにじる存在を嫌悪したとしても、誰かの邪魔をしたかったわけじゃない筈だ。そしてこんなことを気軽にやれてしまう自分が恐ろしく感じてしまう。自分が異世界から来た人間だと思い込んでいる化け物だった方が納得できるだろう。

 

 そんな答えの出ない思考を、辺りからアンデッドが湧き出てるのを感知して止める。どうやらこの少年を移動させても未だこの魔法は止まらないらしい。

 あの場所から少年を動かして犯罪者達から離せば全て丸く収まると考えていたがそうもいかないらしく、騒がれるのを恐れて少年の口を抑えて抱えていたのだが意識もなく抵抗する素振りすらない。

 あのテロリスト集団たちが魔法の発生源でないのならば彼が目を覚まさない原因もこの頭につけている装飾品が原因だろう。その効果を知るためにガーネットはイベントリから鑑定アイテムをとりだすのだった。

 

 

 

 ◆

 

 

 鑑定アイテムによると、少年が頭につけているこの装備は適合した人間が装備することで自我を失う代わりに本人が使えない魔法を使う存在へと変質させる呪いのアイテムらしい。アイテムの相当レベルを考えると振り子の羅針盤に最も強く反応しそうなものだったが、反応しないということはユグドラシルとは違う法則のアイテムなのかもしれない。

 

 このアイテムの厄介なところは、無理に装備を外してしまうと装着者が発狂するらしいことだ。〈魔眼・魔力〉を発動させてサークレットをつけた少年を見ると、少年の頭に魔力の糸が絡みついているのがわかる。土に根をはる植物の根のように絡みつき、植物を引っこ抜けば土も連なり崩れるように、人間の精神をも崩壊させるのだろう。

 無事にこの少年を助けるには、このサークレットを()()()()しなければならない。幸い、職業構成的にガーネットが使える解決策もある。

 

 

(盗むか)

 

 

 この装備を外す、つまりは正規のやり方で取り外そうとすれば、魔力の糸が引っ張られて人間の方も傷ついてしまう。ならば正規じゃない方法でこのアイテムを()()()()、魔力の糸を引っ張らずに奪ってしまえばいい。この少年のレベル的にも反撃系のパッシブスキルを持っていることもないだろう。

 

 

「〈蜘蛛腕〉〈多腕の手探り〉〈愚者の盗み〉〈静奪〉」

 

 

 スキルを使ったガーネットの背後の空間から4本の黒い靄のような腕が現れて、少年の身体めがけて振るわれる。

 盗みの回数権を増やして、相手の装備品を盗むスキルを使い、ステータスを下げる代わりに成功率を上げて、相手のヘイトを買わないように所有権を奪う。これが100レベルプレイヤー相手なら確実にかなりのリスクがある悪手だが、レベル差的にそういうことは起こらなかったらしい。

 

 少年の体を通り過ぎた黒い手の一つにはサークレットが握られており、他の手には透明な衣服が握られている。

 真夜中の墓地で一糸纏わない哀れな姿になってしまったが、少年の様子に変化はないようだった。魔眼で見ると少年の頭には魔力の糸のようなものが変わらず漂っているようだが変化はない。この世界の法則がどんなものかは分からないが、時間経過で自然に消えることを祈るしかないだろう。

 

 イベントリの危険物の欄にサークレットを入れたガーネットは、ぶら下がる少年の一物を一瞥し、なんとも言えない気持ちで真っ裸になった少年に透明な服を着せ始めるのだった。

 

 

 

 

 ◆

 

 

「あれ……、僕は」

 

 

 少年が意識を取り戻し、辺りを見ようと身体を動かそうとするのを肩を抑えて止める。なぜなら少年が座っているのはこの墓地にある一本の大きな木の枝の上で、少し身体を動かせばそのまま落ちてしまうからだ。

 

 少年の目は傷つけられており、周囲の様子は伺えない。少年には見えないだろうが木の下を見ればアンデッドがひしめき合っており、鬱陶しく思ったガーネットが一時的に避難させるために木の上へと登ってきたのだった。

 しかし、ガーネットにとって少年が見ることができない現状は喜ばしいことだった。当たり前の話だが、《目の見えない人間にはガーネットの顔を見ることはできないからだ》》。

 

 

「おー、目を覚ましたか。いやーなかなか目覚めないから死ぬんじゃないかって心配してたよ。復活魔法がどうなるかわからないこの世界で無闇に使うわけにもいかないしさ」

 

「え、えっと、復活魔法は王都に使い手がいるらしいですよ。あれ? 何も見えないんですけど明かりとかありますか? えっと、あなたは誰ですか?」

 

「色々テンパるのはわかるが、とりあえず見えないのは目を怪我してるからだから無理に開けようとするなよ。え、ていうか復活魔法あんの? 凄えな、さすがファンタジーの世界……。ま、ひとまず俺は君が変な儀式に使われてたから助けただけだから安心しろ。君に危害を加える気は無いからさ」

 

「あ、衛士の方でしたか。えっと家に帰ったら女の人がいて、……そうだ! その人に一緒にいた冒険者の方も殺されてしまって……。と、とりあえず今はどういう状況でここはどこなんでしょうか?」

 

「君を犯罪者達から助けたけど、そいつらが君を使ってアンデッド召喚する儀式をやってたみたいでな。一時的に今は木の上で避難してるってわけだ。あー、それと俺は衛士じゃないよ」

 

「え、えっと。じゃぁ、冒険者の方ですか?」

 

「いや冒険者でもないんたが……、まぁただの通りすがりだな。俺にとって迷惑だったから助けただけだからな、勘違いするなよ。…なんかツンデレみたいで気持ち悪いな」

 

「通りすがりって……、普通通りすがりで助ける人なんていませんよ。貴方みたいないい人に出会えてよかったです。助けてくれてありがとうございます。」

 

「こっちの都合で手を出しただけだからな。善人じゃないぞ。そういうのはどっかのヒーローオタクやインテリヤクザがやりそうなことだからな。……あー。ところで、個人的に質問したいことがあるんけどちょっといいか?」

 

「え、ええ。僕の答えられることでいいのなら。なんですか?」

 

「この辺りに花火を作ってたり売ってるとこってあるか? もしくは火薬とか」

 

 

 ガーネットは()()()と言われて話を変える。なぜならガーネットは現実世界で()()()側の人間であり、現状に納得した側の人間だからだ。決して誰かを助けたいとか現状を変えようと決意し悩む強い人間ではない。()()()()()()()()()()()()()()だけの人間だった。今回も簡単に助けられたから助けただけで、そこには強い覚悟も信念もなかった。もしそんな立派な人間だったなら、既にナザリックから人間を助けていただろう。

 ガーネットは話の矛先を変えるついでにこの都市で探して見つからなかったものを聞く。もしこの世界に存在しなければ、一から作る必要が出てくるかもしれないからだ。

 

 

「ハナ火に……火の薬ですか? 名前的に炎系の魔法ですかね。第一位階の〈火花(スパーク)〉や第ニ位階の〈炎の投げ槍(ファイア・ジャベリン)〉が〈火球(ファイアーボール)〉を使う魔法詠唱者(マジックキャスター)に繋がる魔法なのは知ってますが……、炎系の巻物(スクロール)が売ってるお店を知りたいってことですか? それとも耐火系の薬ですか?」

 

「いや、知らないならいいんだ。手に入ればいいなーって考えてたぐらいだからさ。じゃあ……て、もう来ちゃったか」

 

 

 他にも聞きたいことは多々あったが、そろそろここを離れなければならないようだ。ガーネットの瞳には墓地の入り口で大剣を振るいアンデッドを吹き飛ばす鎧が映る。

 

 

「もうすぐ君の知り合いが解決するだろうからその人に保護してもらえ。ま、それまで寝てな」

 

 

 そう言って睡眠を付加されている()()()で少年の腕に傷をつける。睡眠の状態異常に抵抗(レジスト)できなかったようで、少年は声を上げることもできずに眠ってしまった。ガーネットは少年を縄で木に硬く縛り付けたのを確認して、そこから離れるのだった。

 

 

 

 ◆

 

 ──―「ナーベラル・ガンマ! ナザリックが威を示せ!」

 

 片手で振るった剣でアンデッドを吹き飛ばし、モモンガさんが叫ぶ。ガーネットが眺める先では、大量に犇くアンデッド達と、犯罪者達、そしてモモンガさん達の三つ巴の乱戦が行われていた。

 ハゲ頭の犯罪者が骨の竜(スケリトル・ドラゴン)に乗りナーベラルと空中戦をし、猫のように器用にアンデッドの頭を砕き空中を跳び回る女がモモンガさんと戦っている。

 群がるアンデッドごと吹き飛ばすモモンガさんとアンデッドを相手取るモモンガさんの隙を突いてくる猫目の女、そして第六位階魔法以下の魔法が効かない骨の竜(スケリトル・ドラゴン)と低位階魔法しか使わないナーベラル達は拮抗した戦いを繰り広げていたが、どうやらこの激闘(茶番)も終わりらしい。人間の振りをした彼らが、フルネームを言いナザリックの名を叫んだということは、そういうことだろう。

 

 大剣を地面に刺しアンデッドに群がられるモモンガさんに向かって疾風の如く女が走ってくる。振り回したモーニングスターで群がるアンデッドを吹き飛ばし、空いた手でスティレットをヘルムへと突き刺すとモモンガさんの鎧が内側から爆発した。モモンガさんが女の腰に腕を回し逃れられないようにするのも構わず続いた女の第二撃により閃光が走るが、そんなことには何の意味もない。

 なぜなら彼ら(この世界の住民)俺ら(プレイヤー)には埋めようのない実力差(ステータス差)があるからだ。よって彼女らの死闘にも語るべき価値はない。

 

 未だ生きている鎧の男に驚き、モモンガさんの拘束から逃れようと女は抵抗をし、殴り、暴れ、頭突きをし、噛み付くがどれも意味はなく逆に女の体が傷つく結果となっている。その間に吹き飛ばされた隙間を埋めようとアンデッドが集まり、身動きのとれない(獲物)へと群がり始める。その意味を知ってる女が唯一動かせる腕でアンデッドの顔を殴るが、アンデッドは止まらない。女の足に噛みつき、掴み、ちぎり、絡まり、髪を引っ張る。モモンガさんも悪臭漂うアンデッドに群がられても気にせずにしていたと思っていたら、モモンガさんが魔法の兜を消し始めた。

 鎧の正体を知った女が怨嗟の混じった声をあげ、それに反応するかのようにアンデッドが更に集まってくる。ガーネットはナザリックで見た人間を思い返して目を背けたくなるが、逸らさない。小さな断末魔が聞こえなくなる頃に、ようやくモモンガさんが群がるアンデッドを吹き飛ばした。その腕に残った女の身体は四肢と呼べる物がなく、下半身は殆ど残らない無惨な亡骸であった。

 

 ガーネットが眩い光を視界で捉えてその先を見ると、黒焦げになって存在が消えていく骨の竜(スケリトル・ドラゴン)とそれに乗っていたハゲ頭だった男も地上へと落ちているのが見える。空中にはメイド姿のナーベラルがおり、おそらくは第6位階以上の魔法を使ったのだろう。

 地上へと落ちた男にアンデッド達が群がり食われていく。途中でアンデッドを吹き飛ばしたモモンガさんと違って、アレでは死体すら残らないだろう。

 

 

(……いや、情報の隠匿を考えると死体は残らない方がいいのか?)

 

 

 先ほど助けた少年が言っていたが、この世界にも復活魔法はあるらしい。それはつまり、死すらもこの世界では状態異常の一種でしかない可能性があるのではないだろうか? 

 モモンガさんは鎧の中の正体を女に明かしていたが、モモンガさんはこの世界にも復活魔法があることを知っているのだろうか? もし知らずにいた場合、取り調べとして復活でもしたらナザリックの情報が世に出てしまうのだろうか? 身元を隠して情報を集めているモモンガさんだが、その正体が世に出た時にどういう対応をするのだろうか? かつてのモモンガさんとは違う思考をしている可能性を考えると、恐ろしい未来図が浮かび上がる。

 

 

(……あの死体、回収した方がいいか?)

 

 

 ガーネットはふと、思う。探索役のくせにこの都市に来てから遅々としか進まない己の情報収集と冒険者として動けるモモンガさんの差。人間とまともに話せないフランケンシュタインの怪物の姿で一人で動くのは限界がある。それならばあの死んだ女を復活させて顔さえ見せなければ交渉次第で雇うことはできないだろうか、と。

 あの女はlv100のモモンガさんを直に見てその強さも知っている。少なくともモモンガさんのことを知っているということ自体が、彼女に対しての脅迫、もとい交渉材料になりえるだろう。それに復活させてくれた存在は無碍にもできないだろう。……手持ちのアイテムで復活させることが成功したら、の話ではあるのだが。

 

 

「……利用できるかもしれないな」

 

 

 そう呟いて、ガーネットはモモンガさんが抱える死体を追いかけるのだった。

 

 

 

 

 

 ◆

 

 

 アインズは冒険者組合に用意された宿屋の一室で、冒険者であるモモンの姿ではなく魔法詠唱者のアインズの姿で椅子に座っていた。

 アインズがエ・ランテルで起こったアンデッド事件を解決して暫くしたあと街を救った英雄として冒険者組合で迎えられ、事件の調査に協力していたのだが予想以上に長引いてしまった。というのも事件の当事者で被害者であるンフィーレアはすでに誰かに助けられた後だったらしく、一人木の上で縛られ眠っているところを冒険者組合によって発見されたのだった。

 

 誰が木に縛ったのかも、犯罪者集団がどうやって大規模な儀式を行ったのかもわからずに取り調べが長引き、アインズ自身もンフィーレアを助けた何者かについて情報が欲しいという理由で調査に協力していたのだったが、突如森側から爆発のような音が鳴り響いたことでエ・ランテルの事件はただの陽動作戦であり、本命の事件があるのではないか?と思われた。市民の間にも不安が広がり、戦力として期待されるモモンも冒険者組合に頼まれて待機としてここに留まっていたのだった。

 

 

(ンフィーレアを助けた存在……何者だ? プレイヤーか? もしプレイヤーなら俺に気づかれずンフィーレアを助けることも容易だろうし……。くそッ、この世界の実力を知って己を過信していたか。できれば友好的なプレイヤーであってほしいんだが)

 

 

 あの場にアインズですら気づかなかった存在がいたということは、冒険者モモンとナーベの正体を見られた可能性があるということだ。そしてアインズに気づかれず、この世界では強者であるクレマンティーヌやカジットからンフィーレアを助けられる強者というのはプレイヤーの可能性を非常に高く示している。

 こちらの正体を知られ、向こうの正体を知らないのは既に先手を取られているようなものである。なるべく早く敵意がないことを示して接触することが理想だろう。

 このままナザリックへと逃げ帰ることも考えたが、拠点を相手に知られるリスクも考え、また、部屋で待っていたら向こうからくる可能性もあるのではないかと考えて、戦闘の可能性も否定できないことからオーバーロードの姿に戻って、扉に目を向けて座っているのだった。

 

 そうやって来るかもわからない来客をアインズが待っていると、外に見張りとして配置した死霊(レイス)が扉を擦り抜けて入ってくる。その死霊(レイス)によると、どうやらナザリックの手の者がやってきたらしい。アンデッド反応からアインズにはそれが誰であるかも想定がつく。

 

 

「入れ」

 

 

 アインズの声に反応して扉の隙間から霧が入り人へと形作っていく。ナーベラルが前に出ようとするのをアインズが片手を挙げて制し、そこに現れたのはミストフォームという肉体を霧へと変える特殊技術(スキル)を使った第一〜第三階層守護者のシャルティア・ブラッドフォールンだった。片膝をついたシャルティアが部屋から漏れない程度の声で叫ぶ。

 

 

「アインズ様、至急のご報告がございます!」

 

 

 アインズはシャルティアの喋る言葉が普段の──ペロロンチーノさんが設定した言葉遣いではないことに気づき、シャルティアか来た理由が非常に緊急な事態であることを悟り、無い喉を鳴らす。

 

 

(シャルティアには武技の調査を命じていた筈だったな……、何があった? 組織のトップとしてナザリックで指示を出す自信ないから冒険者として来てたのに、どうしてこっち来ちゃうんだ……? アルベドからも報告はきてないし。まさかンフィーレアを助けたかもしれないプレイヤー関連か? 果たして部下に見放されない程度の指示が俺に出来るのだろうか……? いや、ナザリックには今俺しかいないんだ、頑張れ、俺!)

 

 

「……どうした、シャルティア。たしかお前には武技の調査を命じていた筈だが。なんだ、厄介事か?」

 

「はっ! 至高の41人が一人、ガーネット様を見つけました」

 

「…………はぁ!?」




だいぶ遅くなりました、すみません!まさか一ヶ月近く投稿できないとはなぁ…
来週投稿できるのかなー、せめてテスト期間終わったら楽になるけど…

結構誤字修正などで度々追加してる部分があるのですが、早く見てくれる人に申し訳ないなと思ったので、大きな修正?追加文を0話として纏めて投稿しときます。
あとからこの文章入れたほうがいいなとか思って変えても、最初に読んでくれた人はそんなこと知らないし、大して変わってもないのにわざわざ読み返すものを勧めるのもなぁ…みたいな


因みにサブタイトルの「見えない者・見られる者・見つかる者」は
見えない=本物のンフィーレアが見えないカジット、見られる=クレマンティーヌと戦う姿をガーネットに見られてるモモンガ、見つかる=シャルティアに見つかるガーネット、と同時に
見えない=目が見えない、見られる=裸見られる、見つかる=冒険者組合に見つかる、ということで全てンフィーレアのことも指してる感じです

アインズvsズーラーノンが乱戦になったのは、ガーネットがンフィーレアを攫った?からです
多分ンフィーレアが放つ魔法に修正を加えることで、都市へと誘導して霊廟近くにアンデッドが寄らないようにしてたけど、そのンフィーレアがいないとこで修正魔法使っても意味なかったよみたいな。気楽に眺めてたらアンデッドに囲まれたのでクレマンティーヌがカジっちゃんにブチギレティーヌしてます。

そんなクレマンさんですが、原作よりも悲惨な死に方をしたのは気のせいです。因みにクレマンは周りのアンデッドから逃げるためにこの男も拘束外すだろうなと思ってたら、鎧の中身もアンデッドでした☆って心境です。可哀想ですね

ちなみに叡者の額冠が前回から羅針盤に反応しなかったのは、私が完全に考えてなかったからです。これをこじつける理由を考えるのに一週間近く伸びました。

このオリ主のガーネットは異世界転生でよくある、「転生チート!ラッキー」と起こった現実を受け入れる系や、「俺はどうしても帰らないといけないんだ!」って思う系じゃなくて、「なんで俺ここに来ちゃったの?え、ちょっと待ってなんで?知らないのは怖いんだけど」って考えこむタイプです
まぁアレです、最終回に向けての伏線作り始めとこうみたいな、これで全体の半分いかないぐらいかなー

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読んでくれてありがとう


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