アズールレーン~彼女達に転生するとどうなる?~ (サモアの女神はサンディエゴ)
しおりを挟む

獣欲を抑えて過ごしたある日「赤城、これを………受け取ってくれないか?」(箱から指輪)

これは、とある彼女?の一幕である。


「………え?」

 

月間MVPの報奨にと貸し切りになっている綺麗な夜景の見えるロイヤルのVIP用に用意された部屋で唐突に渡された¨ソレ¨は白いテーブルクロスの引かれたテーブルの上で穏やかに灯る蝋燭の火に照らされて美しく輝いている。

 

驚きで固まり、渡された¨ソレ¨と顔を真っ赤にしながら真剣な眼差しでこちらを見つめる私の………私達をいつも勝利へと導いてくれる指揮官様がいた。

 

「赤城、君と出会ったあの日から………君の事が気になって………いや、正直に言おう。君に一目惚れだったんだ!!」

 

その声はMVP報奨での労いの意味を兼ねた豪華なディナーの準備や給仕をしていた歴戦のロイヤルのメイド隊達すら一瞬にして動きを止めてしまうような力強さを秘めたものであり、目にはまるで私を焦がしてしまうような熱い眼差しがこもっている。

 

指揮官様はもともとユニオン出身で世界を巻き込んだセイレーン大戦の余波によって身寄りを失くし、その後のアズールレーンとレッドアクシズ大戦での徴兵から若くして戦場へ送られた一般人。

 

そこで偶然触れる事となった我々KAN‐SENの基礎となるメンタルキューブに触れた事から指揮官としての適正が判明したことでそのまま当時建設して間もない新しい母港に配属されて戦いに身を投じる事となったのだ。

 

その右も左も分からぬままの戦いの最中に通称3-4と呼ばれる海域で私と加賀を拾う事となったのだが、それも偶然の出来事だったらしく、あの何があってもマイペースな初期艦のラフィーですら私達に出会った事を驚いていたのを今でも覚えている。

 

そんな形でこの艦隊に参加する事となってもう2年の月日が流れていたのだけれど、まさかこんな形で指揮官様に求められる事となるとは思いもしなかった。

 

「赤城、どうかこの指輪を受け取ってはくれないだろうか?俺は君を幸せにしたい………いや、一緒に幸せになろう!!」

 

胸に手を当てると高鳴るのが分かる。

頬が紅潮して熱くなっていくのも………

 

「………少し、考えさせてください。まだ頭の中が混乱してしまいまして」

 

しかし、指輪を受け取る事は出来ない。

何故なら………

 

 

 

 

私、元男ですから

 

 

 

 

 

目が覚めたら女性になり、しかもKAN-SENという人では無い存在。

混乱のまま海の上に立ち、何故か加賀と一緒にいたというのが私の最初の記憶なのだ。

この身体になる前はどこにでもいる三十路間近の冴えない看護師で、寝て起きたら身体が変わって海の上。

まるで訳が分からない状態だった私を拾って置いてくれた指揮官様には感謝しかない。

この身体の能力を駆使し、時に学ぶ事によって母港を盛り立てて指揮官様とは苦楽を共に過ごした掛け替えの無い存在である事は間違いないのだ。

別に指揮官様の事が好きじゃないのかと言われればそうではないし、どちらかといえば………

 

しかし、しかしである。

 

元男であったという心理的な要因に加えてこの身体にはある欠陥があった。

それはまず、話し方や仕草がこの身体本来の持ち主である赤城のようになる事。

これは普段の生活では困らないのだけれども………たまに駆逐艦の子達に悪の女幹部のように見えて泣かれるのが心に突き刺さる。

子供とのふれあいが父性というか母性を刺激して優しくしてあげたいのにこの雰囲気や仕草が邪魔をするのだ。

 

まぁ、これは私の中でまだ軽い方だろう。

もう一つの欠陥が一番危険なのだ。

もう一つの欠陥、それは………

 

 

 

指揮官様を見ると獣欲が高まって抑えきれなくなりそうになる事。

 

 

 

 

はっきり言って指揮官様と二人きりになろうものならそのまま貪りというか搾り取ってしまいそうになってしまう。

それを自覚してからというもの、獣欲が高まる前に指揮官様の前からそれとなく離れて訓練に励んだり、敵………セイレーンの傀儡艦隊や上位個体に単独で殴り込んで八つ当たり気味に一方的に撃滅したりしていた。

 

そんな努力を続けて大切な指揮官様にはそんな自分の醜い獣欲を見せないように頑張ってきたのに………

家族のように親しくなったあの方を、傷付けないように細心の注意払ってここまでやって来たのに………

 

 

 

 

ここでそれはありませんわ指揮官様ぁ………

 

 

 

 

胸の高まりから腹部へと響く心地良い疼き………

獣欲が高まり始めたのを感じたのに比例して焦りが出てくる。

無性に感じる羞恥心が思考を阻害して半ばパニック寸前まで追い詰めてくるのだ。

ここまで追い詰められたのはセイレーンの上位個体とその直属艦隊の大部隊に単騎で包囲されていた時ぐらいだろうか?

 

胸から溢れる甘い疼きとキュンキュンくる下腹部の鳴動に、このままロイヤルのメイド達に見られながらも致してしまっても良いのではと頭の中の赤城としての部分が訴えかけてくる。

それを必死に抑えていると

 

 

「………はぁ姉様、またヘタレているのか?」

 

 

いつの間にかワイングラスを手にこちらに来ていた加賀が呆れた様子で見ていた。

 

「指揮官、もっと押してしまえ。いや、押し倒しても構わんぞ?姉様はお前の事が好きで堪らないが、奥手過ぎてそれを伝えられんのだ」

 

「加賀!?」

 

薄く笑いながら………というよりも愉悦を含むような笑みを浮かべて指揮官様にそう言い放つ加賀に私は目を見開いて名前を呼ぶことしか出来ない。

 

「だいたい姉様は奥手過ぎるのだ。お前に会う前は必ず身嗜みを確認するのに10分は掛けるし、二人きりになるのが恥ずかしいからといって必ず私を側に置こうとする。寝る前だって手の平ぐらいのお前の写真を30分も眺めてお休みの挨拶をして眠るのだ………あまりの熱の上げっぷりにこちらが胸焼けしそうだ」

 

「な、あ………」

 

口角を上げながら指揮官様には隠していた私の習慣を赤裸々に暴露していく彼女に私の羞恥心がさらに高まって頭が破裂しそうだ。

 

「そら指揮官、姉様は陥落寸前だぞ?私とロイヤルの者は退室するから後は上手くやると良い」

 

カラカラと笑いながら加賀はそれだけ言うとロイヤルのメイド達と一緒に部屋から出て行った。

後に残るは獣欲と羞恥心で狂いかけの私と何がなんだか分からないと混乱の極みにある指揮官様の二人きり………

 

 

 

ああ、指揮官様と致したい………

 

 

 

「………城?赤城?どうしたんだボンヤリして?」

 

呆けながら獣欲に身を任せそうになっていると静かになった私を心配そうに見つめる指揮官様が肩を揺すっている。

その心配そうに覗き込んでくる御尊顔が私の理性を………

 

「指揮官様ぁ」

 

「あ、赤城?どうしたんだいったい?何故服を脱いで………」

 

ああ………愛しい、愛しい指揮官様ぁ………

 

「待て赤城!?俺の服に手を掛け………ズボンは待て!!」

 

この赤城、我慢しておりましたが………

 

「誰か!加賀!ロイヤルの誰かでも………う、うおぁぁぁぁぁぁ!!」

 

此度ばかりは我慢出来そうにもございませんわぁ♪

 

 

 

「愛しておりますわ♪指揮官様ぁ♪」

 

 

 

 

翌日、艶々とした赤城が右手の薬指に指輪を嵌めて指揮官にキスの嵐を見舞うのをケラケラと笑う加賀と冷たい眼差しで見つめる翔鶴が母港中に広めるのだった。




獣欲(赤城的本能)には勝てなかったよ………


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

ハムマン「素直って難しいのだ………」ションボリ


時として羞恥心や照れを隠す為の言葉が刃となって突き刺さる。
言われる方も、言う方も………


「ざ、雑魚どもめ!!」

 

半身になりながら右手を伸ばして真っ直ぐ指差し

 

「このハ、ハムマンが!!」

 

左足を一歩踏み出しながら左手で軽く胸を叩く

 

「やっつけてやるぅ!!」

 

そして最後に胸の前で握りこぶしを作って大きく叫ぶ。

 

 

 

「これ、すごく恥ずかしいのだ………」

 

 

 

頭の上にあるケモ耳を伏せて顔に上がってくる熱を感じながら指示通りのセリフとポージングをこなした私ことハムマンは窓際でニコニコと微笑みながらビデオカメラを回し続ける人物の方を見る。

 

「あら♪とっても可愛いわよハムマンちゃん♪」

 

頬に手を当てながらご機嫌そうに言うその人の名はヨークタウン姉さん。

もう何回ヨークタウン姉さんの指示に従って衣装を変えたりしながら恥ずかしいセリフとポーズをさせられたのかは数える気も起きない。

 

「次は………この衣装を着てやって貰おうかしら?」

 

「そ、それは!?」

 

視界に入るのは明らかに白色の布の生地が少なくて心なしか透けてるようにも見える水着っぽいナニか。

 

「どうしてこんな事になったのだ………」

 

窓の外をどこか現実逃避しながら眺めるハムマンの脳裏には数時間前の出来事が思い浮かんでいた………

 

 

 

「どこを見てるのよ!!この………変態!!」

 

 

 

思わず口から出た言葉に自分でも驚いたのが最初だった。

この世界にメンタルキューブという存在からシムス級駆逐艦ハムマンというケモ耳尻尾少女?に冴えない男から転生してからこの二年間、正直性能という面では海域の解放等に参加出来るほどの力は無く。

そんな不器用な存在でもあったにも関わらずに秘書艦から外さず、少なくは無いはずの改造用の資材まで用意して貰いずっと互いに支え合っていた好………じゃなかった大切な指揮官に対して言ってしまった一言が自分の胸に突き刺さってしまう。

 

「あ、えっと………ごめんなさい………」

 

すぐに謝るが胸の奥に突き刺さるナニかが、罪悪感や申し訳なさを助長して目に涙を集める。

 

「大丈夫だよハムマン、気にしてないさ。こっちこそ配慮が足りなくて申し訳ない」

 

そう笑いかけてくれる指揮官の言葉がさらに胸の傷を抉る。

 

 

 

きっかけは些細な事だった。

 

 

 

場所は執務室等がある中枢部から学園部分を結ぶ渡り廊下のような所でその日は雨が降っており、床が滑りやすくなっていた為に滑らないよう母港内では注意書きが張り出されていた。

ハムマンも気を付けていたのだけれど………指揮官の目の前で滑って転けてしまったのだ。

しかもお気に入りのピンクと白のストライプの入ったパンツを丸出しにして………

 

この身体に転生してからというもの、感性がこの身体の持ち主であるハムマンを基準とした女性のモノに置き換わっていくのを感じても、それでも問題は無いと考えて過ごしていたある日の事件。

頼れる男性で互いに支え合っていた心から信頼出来る指揮官に見られてしまった羞恥心から、思わず出てしまった罵倒は他のKAN-SENにも見られてしまい………

 

「「「「「……………ヒソヒソヒソ」」」」」

 

小さな声で話しているのが見えた。

こんなはずではなかったのに………

そんな後悔ばかりが頭の中をグルグルと巡って思考のループに陥っていると

 

 

 

「あら?ハムマンちゃんと指揮官じゃないの………これはどうしたのかしら?」

 

 

 

ニコニコしながらヨークタウン姉さんが現れて指揮官に事情を訪ね、なるほどと言いながらハムマンの手を引いて立ち上がらせると

 

「指揮官?ハムマンちゃんを少し借りて行くわね?」

 

やはり微笑んだままハムマンの手を引いてヨークタウン姉さんの自室まで連れていかれたのだった。

そして、なにやら多種多様な衣装を取り出すと親指を立てて

 

「ハムマンちゃん、特訓よ!!」

 

と言いながら羞恥心を煽るようなポーズをとらせたり、端から見ても布が少なかったりフリルまみれで装飾過多の恥ずかしい衣装を着せられる事となったのだ。

正直、ヨークタウン姉さんが何をしたいのかがよく分からない。

というか、そのヒモだけはご勘弁願いたい………

 

「ねぇハムマンちゃん?これは何の特訓だと思う?」

 

不意にヨークタウン姉さんがいつもの微笑んだ表情から真剣な表情に変えてこちらを見つめる。

でもその両手で広げるようにして持っているヒモのせいですごくシュールだ。

 

「え?これってヨークタウン姉さんの写真撮影会とかじゃないのだ?」

 

「まぁそれもあるけど………目的は違うわよ?」

 

一瞬だけ目を反らしながら、それでも真剣な表情を崩さないヨークタウン姉さんに思わず首を傾げる。

ヨークタウン姉さんの思惑が分からずに悩んでいると

 

「今日の事故、これってハムマンちゃんが不意討ちで恥ずかしい場面に合ったから起きてしまった事故なのよね?」

 

そう言いながらヒモを近づけてくる。

 

「た、確かに思い出してみればそうなんだけど………ヨ、ヨークタウン姉さんヒモはちょっと………」

 

ハムマンは近づいてくるヒモを両手で抑えながらあの事件を思い返す。

確かに大好き………じゃなくて信頼している指揮官の目の前で滑って下着を晒した事で羞恥心のあまりとっさに出てしまった暴言が原因で起きた事件だ。

 

「そうよ!だから恥ずかしい場面を作って慣れてしまえばあんな風な事故は起こらなくなるはずなの!!」

 

ついにヒモを押し付けながら耀くような笑顔でヨークタウン姉さんは言い切ってついでと言わんばかりにセリフとポージングのメモまで渡してきた。

 

そこまで良い笑顔で言い切られたら………ちょっと断れない。

それにこの部屋にはハムマンとヨークタウン姉さんしか居ないのだから絶好の特訓時間なのではないだろうか?

元をたどれば自分の羞恥心からの暴走で始まっているのだから、恥ずかしい思いをしながら特訓すれば指揮官にあんな暴言を吐かなくて済むかもしれない。

 

「分かったのだヨークタウン姉さん、着替えて来るから待ってて」

 

上手く丸め込まれたような気もしないではないが、ここはハムマンの事を思ってくれたヨークタウン姉さんの厚意に甘えよう。

 

「ああ、ハムマンちゃん。流石にハムマンちゃんも疲れただろうからお菓子と飲み物も取って来るわ。その衣装を着てするシーンは私が室内に入る所から始めるから準備も含めてまた10分してから来るわね?」

 

「はーい」

 

更衣しようと別の部屋に向かおうとするとヨークタウン姉さんがそう言うのでメモを読みながらそう返事を返した。

ヨークタウン姉さんの選ぶお菓子はどれも美味しくて食べ始めたら止まらないので自然と頬が弛んでしまう。

このヒモのシーンが終わったらヨークタウン姉さんにあ~んして食べさせて貰っていっぱい甘えるのだ。

 

だからこんなヒモはさっさと終わらせてしまおう。

 

萎えてしまいそうになる己の意思を奮い立たせるようにヨークタウン姉さんに甘えるその瞬間を想像するのだった。

 

 

 

~10分後~

 

 

 

ヒモを着て髪をツインテールに纏めて待っていると扉の開く音が聞こえる。

ここで勝負を仕掛ける。

少し卑怯かもしれないが、扉を開けるシーンからと言っていたから今終わらせてそのままおやつタイムに持っていこう。

そうしないと割りに合わないのだ!!

そう思いながら扉を開けたであろうヨークタウン姉さんに背を向けて

 

「いつもお疲れ様、ハムマンが労ってあけるのだ………うん?ちょっと!ハムマンを見ないでどこを見てるのよ!!」

 

一息に全部のセリフを言ってみたのだけれど、これは恥ずかしい。

まず、最初の労ってというセリフの所で髪を弄りながらゆっくり振り返り、ハムマンを見るように言う所で両手を握り締め、下に振り下ろし若干屈みながら上目遣いで口を尖らせる。

 

というかこのヒモのシーンを考えたの本当にヨークタウン姉さんなの!?

 

スッゴく恥ずかしいの………だ?

 

「えっと………ヨークタウンにあの後どうなったのか聞こうと思って来たんだが………」

 

「あっはははははははは!!ハムマン!?何その格好?それヒモじゃんヒモ!!」

 

そこに居たのは指揮官とシムスだった。

 

タイミングは最悪で全部見られた。

 

頭の中が真っ白で恥ずかしくて訳分からなくて動けなくて

 

 

 

「うう………ふぇぇぇぇぇぇん!!」

 

 

 

その場に座り込んでガチ泣きした。

 

「え!?ちょっ!?マジで泣いてる?どうしよ指揮官!?」

 

「ああ、ごめんハムマン!そういうつもりはなくて………どうすればいいんだこういう時には?」

 

慌てふためく二人の声が聞こえて困っているのが分かるのだけど、この溢れる涙が崩壊したダムのように流れ出すのが止まらない。

 

「し、指揮官!!ここは指揮官が漢を見せる時だよ!!」

 

「シムス?いったい何を?………うわっ!?」

 

不意に暖かいナニかに抱きつかれた。

 

 

 

指揮官だ。

 

 

 

信頼できる人、たぶんヨークタウン姉さんよりも………だから私も………

 

「う~………」

 

「は、ハムマン?」

 

困惑する指揮官をよそにギュッと抱きついてその胸で泣かせてもらう。

 

「じゃ、後は任せたよ指揮官!ヨークタウン姉さんにはワタシから言っとくからね~」

 

「待てシムス………っ!?」

 

その場から立ち去るシムスを指揮官が止めようとするけど、私から………ハムマンから離れないで!!

 

「ハムマン………分かったよ、大丈夫だぞ?俺はここにいるぞ?」

 

急に抱きつく力を強くして指揮官を驚かせたようなのだけれど、彼はフッと笑って頭を撫でてくれた。

それが嬉しくて、また泣いた。

 

泣いても泣いても涙が止まらなくて、泣き止んだのはそれから10分後のことだった。

 

「指揮官、ハムマンは………」

 

「ん?どうした?」

 

指揮官の胸の中で頭を撫でて貰いながら小さな声で話し掛けると、彼は覗き込むようにして微笑みながらこちらを見ている。

 

今しかない。

 

今なら、小さい声しか出なくても指揮官ならちゃんと聞いてくれるはず。

あの時の謝罪を、ハムマンの心からの謝罪を彼が聞いてくれる。

 

「あの「先に謝っとくよハムマン、デリカシーの無い事をしてしまって本当にすまなかった」」

 

彼に先を越された。

先程からの微笑みを消して真剣な表情になってこちらを見つめながら謝罪してきた彼に………ハムマンの目は釘付けになる。

 

「ハムマンが恥ずかしい思いをしたのに、ちゃんと謝れなくて傷付いたろ?本当にすまなかったよ。ヨークタウンに連れられていった君を見て、すぐに君が傷付いた事に気が付けなくて俺も後悔したよ」

 

撫でる手を止めずにそう謝罪する指揮官に嬉しさが溢れていく。

心が温かくなっていくのを感じながら

 

「ハムマンも………ハムマンもごめんなさいなのだ。いくら恥ずかしいからって、あんな事を言ってしまって本当にごめんなさいなのだ」

 

指揮官の目を見つめてしっかりと心からの謝罪を言えたのだった。

 

そして二人で互いに笑って…………

 

 

 

「あ~ハムマン?そろそろ俺………我慢できん!!」

 

「ふぇ!?」

 

 

 

指揮官にいきなり抱き締められた。

というか顔がすぐ横にあって良い香りがしてクラクラしそうに………じゃなくて顔が近い!!

 

「指揮官どうしたの?」

 

抱き締められ混乱しつつも指揮官に問い掛けると

 

「ハムマン、お前わざとなのか?いつもいつも俺にボティタッチするわ抱き着いてくるわ距離は近いわパンチラしそうな体勢にすぐなるし………何回勘違いしそうになったか………危機感無いのかよ!俺も男だぞ!?そして、今度はヒモビキニかよ!俺も2年耐えた!!耐えたけどこのヒモ!!これだけは理性が耐えられそうにない………」

 

一息に話す内容に理解が追い付かないけど、指揮官に関して分かった事がある。

ずっと性別転換型の転生という不思議な体験をしているせいで、ずっと距離感があやふやだった為に指揮官をヤキモキさせていたという事だ。

 

でも、それでもハムマンにその劣情をぶつけずに我慢に我慢を重ねた優しい人だという事も分かる。

それに今だって抱き締めてはいるものの、ハムマンの事を見ないように真っ直ぐ顔を向けたままで何かしようとしている訳ではない。

 

どうしよう、すごく………嬉しい。

 

「指揮官」

 

「分かってくれたかハムマン?」

 

ハムマンが指揮官の事を呼ぶと彼はようやくこっちを見てくれた。

そして、その真剣な表情に胸の暖かさが広がっていく。

だからハムマンは………

 

 

 

 

「指揮官にならいいのだ、我慢してた分も含めて全部あげるのだ」

 

「!?」

 

 

 

 

ごく自然に出た微笑みとともにそんな事を言ってしまった。

指揮官は当然固まっている。

でも、ここまで想われていたら………大切にされていたらこの人に全てをあげたくなってしまう。

この世界で一番信頼できる彼になら女性としての感性が固定されてしまった自分を預けてしまいたくなっている。

前世が男性だったとしても今は女性としてこの世界に生を受けたのだから別にこう考えても良いはずだ。

 

「指揮官、大好きなのだ」

 

「!?」

 

自分にできる最高の笑顔で指揮官に唇にキスをする。

指揮官は目を白黒させて驚いているが、ハムマンは気にしないし止める事もしない。

 

さぁ指揮官、全部受け止めて………?!

 

精一杯指揮官への思いを伝えて反応を待っていると彼の様子がおかしい。

プルプルと震えてハムマンを抱き締めている手が………お尻を鷲掴みしてきた!?

 

「言ったよなハムマン?俺は我慢できんと………」

 

「し、指揮官?」

 

指揮官の方を見ると目が血走って明らかに興奮状態だ。

呼吸もフーッフーッととても荒い。

 

これはやってしまったのでは?

 

そんなどこか現実離れした考えをしていると指揮官がハムマンを抱き抱えて、普段ヨークタウン姉さんが使っているベットを確認して

 

 

 

「もう辛抱堪らんぞ!い た だ き ま す!!」

 

 

 

そのセリフを聞いてからの記憶が無い。

気が付けばヨークタウン姉さんに頭を撫でられ、シムスにひたすら謝られながら自室のベットで横になっていた。

 

後から聞いた話だとハムマンは指揮官にいろんな所を貪られながら意識がほぼ飛んだ状態で彼に抱き着いていた所をあまりにも遅いので、様子を見に来たヨークタウン姉さんとシムスに発見されたそうだ。

指揮官いわく

 

「彼女は無自覚の誘い受けだった………とてもじゃないが自分では止められない誘惑がそこにはあったんだ………」

 

と海軍部からきた憲兵達に連れられながら語っていたらしい。

 

「大丈夫よハムマンちゃん、絶対に責任は取らせるからね」

 

何も考えが浮かばずにベット上から天井を見つめているとヨークタウン姉さんはどこか怖さを感じる笑顔を浮かべたまま頭を撫でながらそう言ってくる。

そして、責任と聞いたハムマンは

 

「………指輪と、先にプロポーズしてほしかったのだ」

 

ポツリと視線を海の見える窓に移しながら呟いたのだった。

 

 

 




言葉の掛け違いとは恐ろしいものですね?
皆様もお気を付けて下さい。

ちなみにこのts転生者ハムマンの性格がこうなったのはハムマンの持つ照れ隠しツンデレが徐々に浸透していったのと、愛や結婚までいった彼女のセリフを聞いてるとツンデレ式誘い受けっぽく感じてしまったからです。
後悔はしてないし、ハムマンがこんな感じなら私も止まれないかも?



止まるんじゃねぇぞ………




目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

さかなきゅん、どうしたの?私は大丈夫だよ?


閃光が煌めきを見せて私を照らす。

身体を照らす閃光が私を焼いていく。

痛くて痛くて堪らないけど。

この背にいるあの人だけには閃光が届かないように。

さかなきゅん、もう少し私に付き合ってくれるかな?



「ライプツィヒ、聞いてるか?」

 

はい指揮官さん、聞こえてますよ?

 

指揮官さんの語りかけるような声が私の耳に届いて返事をする。

ベットから起き上がって指揮官さんがいるであろう方向を向くと急に肩を掴まれて

 

「いや、そのままだ。寝たまま聞いていい」

 

ゆっくりと寝かせられて毛布をかけられる。

でもなんだか私だけが寝ているなんて申し訳ない気もするような………

そう思いながら毛布を握り締めると指揮官さんが優しく頭を撫でてくれた。

 

髪を指で梳かしていくようにゆっくりと撫でてくれるので、とても気持ち良くてつい笑みが溢れてしまう。

それを見られたのか指揮官さんが頬に手を当てながらさらに優しく撫でてきた。

とてもとてもとっても嬉しくなって頬に当てられた手を両手で被せるように当てると

 

「痛くないかライプツィヒ?」

 

不意に指揮官さんがそう聞いてきた。

私は何度も頷いて大丈夫である事を指揮官さんに伝えるとホッとしたようなニュアンスで

 

「そうか」

 

と言葉短く答える。

まったく、指揮官さんは心配性だなぁ。

そう思いながらもっと撫でて貰おうと頭を撫でている手に少しだけ押し付ける。

指揮官さんは黙って撫でてくれた。

 

「お前に会ってもう2年か………早いもんだな」

 

長い間撫で続けた指揮官さんがポツリと呟く。

しみじみと噛み締めるように呟く指揮官さんの声はそれっきりだった。

 

私も指揮官さんにならって2年前の事を思い出す。

 

あの頃は………少し、恥ずかしい思い出ばっかりだ。

今でこそ当たり前のように受け入れてはいるものの、メンタルキューブという摩訶不思議な立方体から建造という名の理解不能な技術によってKAN-SEN ライプツィヒという私は誕生した。

 

前世の陰キャで人見知りで若干上がり症だった男性時代の記憶を引き継ぎながらこの世界に産まれて、女性としての感性を植え付けられ混乱した状態のまま話しかけられるだけでもキョドってしまうようなコミュニケーション能力が底辺だった私。

 

それでも家族だと仲間だと戦友だと受け入れてくれた皆がいてくれたからこそ、2年間も一緒に戦い続けることができた。

世界を蝕むセイレーンという脅威に対抗して戦い占領された海域を解放しながら、戦局を優勢に持ち込めたほんの少しの休息。

 

誰もが一息の休みに心を落ち着けて戦いの事を忘れる一時を過ごしていたあの日………

セイレーンはそこを狙って私達の本拠地である母港に襲撃してきたのである。

 

必死に戦った。

 

さかなきゅんの砲身が真っ赤に染まりいくつかの砲が熱でネジ曲がりながらも無事な砲で撃ち続けなければならない程の大艦隊に、私達は疲弊しながらも励まし合いなんとか凌ぎ続けた………

 

………でも、想定外の出来事が起きてしまった。

 

なんとセイレーンの上位個体であるピュリファイアーが母港内に侵入して直接攻撃を仕掛けてきたのだ。

しかも通信回線がセイレーンの艦載機による先制爆撃で寸断した為に補給や防衛ラインの情報を直接聞きに来た指揮官さんと鉢合わせするタイミングの悪さ。

 

指揮官さんを見たピュリファイアーは驚きながらもサメに似た艤装の口のような主砲から光を溜めながら照準する。

 

主砲の壊れたさかなきゅんの修理の為に一度母港に戻って補給所への移動も兼ねて指揮官さんと一緒に歩いていた私は………指揮官さんの楯となる為に精一杯両手を広げて立ち塞がった。

 

さかなきゅんも指揮官さんを押し倒して覆い被さり、壊れた主砲を強制的に外す事でこちらに手を伸ばそうとしていた指揮官さんの手を完全に覆い隠す。

 

これで指揮官さんの安全は確保できた。

 

思い残す事もないかな?

 

こんな陰キャでコミュ症な自分を引き入れてくれた指揮官や皆には感謝しているし、こんな自分でも出来る事があるというのはとても嬉しかった。

 

上がり症で何を言ってるのか分かりにくいのに、一呼吸置いて落ち着くようにしてからゆっくりと話を聞いてくれる指揮官さんの優しさが嬉しかった。

 

失敗して落ち込んでいたら何も言わずに頭を撫でて励ましてくれる指揮官さん。

 

休日に一人部屋の中で閉じ籠ってた私をお茶会に誘ってくれた指揮官さん………

 

思い出す事は指揮官さんの事ばかりで思わず笑っちゃいそうになる。

 

ああ………メンヘラみたいで少し落ち込むけどこんな自分でも想う事があるんだなぁって考えてるとやっぱりここは絶対に引けない!!

 

だってこんなに大切な指揮官さんの為ならば、自分の命と引き替えても護ってみせる!!

 

私の代わりは………いっぱいいるし、私みたいな前世が男だった気持ち悪い存在が指揮官を想う事は迷惑だから………

 

 

 

せめて………こんな私でも………貴方を護る権利を下さい!!

 

 

 

 

真っ暗闇の世界で熱いのが終わる。

 

後ろで指揮官さんが何か言ってるけど………

 

もう聴こえないなぁ………

 

よく聴こえませんよ指揮官さん?

 

浮き上がる感覚………もしかして指揮官さんが私を抱えてる?

 

ダメですよ指揮官さん、いつも……カッコよく着こなしてる軍装………汚れちゃい…ますよ?

 

 

 

ああ………よく………分からない……けど………まもれたか…な?

 

 

 

指揮官さんを護れた安堵からそのまま意識を失ってしまって後から聞いた事だけど、補給の為に母港に戻っていた鉄血の皆が攻撃の光を見てすぐに駆けつけて来てくれたからピュリファイアーはすぐに逃げたみたい。

 

そして指揮官さんは倒れた私を抱き抱え、母港の誰もが見たことの無いような速度で明石ちゃんとヴェスタルさんの控える救護室まで駆け抜けたそう。

 

それから二人に私を預けると鉄血の皆を伴って前線の指揮に戻り、見事セイレーンの大艦隊を退けたとのこと。

 

あの時護れて本当に良かった。

 

私みたいな存在でも護れるモノがあって良かった………

 

でも………その代償はとても大きくて、私の身体は使い物にならなくなってしまったのだ。

 

明石ちゃんとヴェスタルさんが言うには外見こそ元に戻ったけれど視覚は完全に無くなり声も出せず、足は動くけど身体を支える程の力は出ない為に歩けないとのことだった。

 

………私、スクラップになっちゃった。

 

話を聞いて最初にそう思った、思ってしまった。

指揮官さんの指揮の下で戦えなくなっちゃった………

皆と一緒に海に出る事もできなくなっちゃった………

 

 

 

軍艦なのに戦えなくなっちゃった私の存在価値ってなんだろう?

 

 

 

一人でいる間ぐるぐるぐるぐるとそんな考えが頭の中を回り続けた。

それこそセイレーンの襲撃の後始末や報告書を纏め終わった指揮官さんが私の様子を見に来るまでの三日間、ずっと考えていた。

 

やっぱり、解体が一番良いよね?

 

戦えない上に満足に日常生活すらできない足手まといは母港にいちゃいけないんだよ。

皆に迷惑をかけちゃうようなダメダメなKAN-SENなんて解体するのが一番良いに決まってる………だから。

 

 

 

最期に指揮官さんに撫でて貰えて良かったなぁ………

 

 

 

私が楯になった事で損傷軽微なさかなきゅんなら私を乗せて解体してくれるドックまで運んでくれるはず。

だから、最期の指揮官とのふれあいを大切にしよう。

 

ね?さかなきゅん?明日はお願いね?

 

艤装でありながら生きているとも言えるさかなきゅんとの通信で明日の計画を伝えると………返事が返ってこない。

 

あれ?おかしいな?さかなきゅん?

 

通信は繋がっているはずなのにさかなきゅんからの返事がまったく返ってこないし、何度も繰り返し通信しているのに反応が無い。

いったいどうしたのだろうか?

さかなきゅんに何かあったのだろうか?

そんな不安が胸の中に湧いてきた頃にさかなきゅんから短い唸り声が通信で返事として返ってきた。

 

あ、さかなきゅん………ビックリしたよ!返事が無かったから何かあったかと思ったよもう!!

 

ようやく返事を返してくれたさかなきゅんに少し怒りつつもひと安心。

もう一度明日の計画をさかなきゅんに伝える。

 

だからねさかなきゅん?明日、ここに来て私を乗せて行ってくれないかな?お願い!!

 

するとまたさかなきゅんからの返事が返ってこない。

もしかして心配してるのかな?

でも戦えない軍艦はスクラップにしないと維持費なんか掛かるから結局迷惑をかける事になるから早めに行動しないと………よし!

 

私は努めて優しく伝わるようにさかなきゅんに通信を送る。

 

さかなきゅん?どうしたの?私は大丈夫だよ?

皆とは楽しく過ごさせてもらったし、指揮官さんには大切な思い出を貰えたからね?

だからもう、思い残す事は無いよ?

心配してくれてありがとうさかなきゅん。

 

これでさかなきゅんも返事をしてくれるかな?

そう思って指揮官さんの撫でてくれる手を堪能しようと意識を戻すと………指揮官さんの手が止まっている。

 

あれ?おかしいな?もっと撫でて貰おうと思ったのに………もう終わりかな?

あぁ、もう少ししっかりと覚えておきたかったのに………返事が遅いよさかなきゅん………

 

さかなきゅんに怒りつつも残念な気分で頬に当てられた指揮官さんの手から自分の手を離す。

これから指揮官さんはまた仕事に戻るのだろう。

忙しいのに心配かけてしまったのが本当に申し訳ない。

 

これでさようならですね指揮官さん………

 

名残惜しい気もするけれど明日に備えて休息を取るべきだろう。

この弱った身体で動くのは一苦労のはずだから今のうちに体力を温存しないと計画に支障をきたす可能性がある。

指揮官さんの手が私から離れるのを感じたらすぐに眠る事にしよう。

 

心穏やかに名残惜しい指揮官さんの手が離れるのを待っていると………いきなり背中に手を回されて抱き起こされた!?

そのまま力強く抱き絞められる。

 

はぇ!?指揮官さん?嬉しい………じゃなかったいったい何ですか?!

 

突然の抱擁に混乱していると指揮官さんの身体が震えているのに気が付く。

しかし、その状態でも片手で私を支えてもう片方の手で私の頭を撫でてくれた。

指揮官さんに抱き締められながら撫でてくれるなんて、幸福のハッピーセットがきているのに震えている原因が分からずに混乱が続いてしまう。

そしてされるがままにしていると

 

「………俺の前から居なくならないでくれライプツィヒ」

 

小さな声で私の耳元に呟くような感じで指揮官さんが話し、鼻を啜るような音も聞こえる。

 

もしかして指揮官さんが泣いてる?

 

自身で感じた事を予想してみたが、たぶん間違いない。

指揮官さんは今、泣いている。

嗚咽を含みながら私を抱き締めながら泣いているのだ。

その上で指揮官さんは口を開く。

驚愕の事実を私に教えてくれた。

 

「ライプツィヒ、お前は………大事な家族のさかなきゅんになんてお願いをしてるんだ?この三日間でさかなきゅんには、お前の考えた事や感じた事が伝わっていてな?今日の艤装整備をしていた夕張のパソコンにその全てが表示されていたんだ」

 

本当に驚いた。

さかなきゅんがそんな事をしていたなんて分からなかった。

慌てふためく私に指揮官さんは

 

「夕張が無理矢理したわけじゃないぞ?さかなきゅんは自分から全部表示してくれたんだ………そう、今もな」

 

そう言ってまた抱き締めた手の力を強くする。

その力強さは絶対に離さないという意思をありありと感じる事ができた。

そんな中で一つの疑問が浮かんだ。

 

………あれ?今もって指揮官さんが言ってたけど、もしかして指揮官さんの事を想ったメンヘラな部分とか恥ずかしい思い出の話も?

 

「現在進行形でさかなきゅんから俺の見ているタブレットの画面に送信してもらってるぞ」

 

思っている事に対しての返答がすぐ横にいる指揮官さんから返ってきた。

つまり指揮官さんには私の考えている事が分かっているということだ。

 

よし、自爆した恥だらけの私をすぐに解体してもらおう。

 

「待て待て待て!恥ずかしいのは分かるが早まるな!!」

 

指揮官さんの腕の中でジタバタと暴れてみるも弱った身体では抜け出す事は出来ずにただ疲れるだけ。

そうしてグッタリとした私を抱き締めたまま指揮官さんがまた頭を撫でてくれた。

そして指揮官さんはゆっくりと話し出す。

 

「聞いてくれライプツィヒ。お前がそんな風に俺の事を想ってくれたのは凄く嬉しかったんだぞ?………でもな」

 

不意に撫でるのを止めて私の頬に手を当てる。

そして額と額を付けながら一つ深呼吸をするのを感じた。

 

「そんなに想ってくれたお前が居なけりゃ俺は………俺の想いはどうすればいい?誰に俺も好きだって伝えりゃいいんだ?」

 

そう言ってまた指揮官さんは泣き出してしまった。

ぜんぜんそこまで考えが回ってなかった。

正直、私の想いが届くなんて考えてなかったし思いもしなかったのだ。

 

「お前の代わりが居る?そんなの何処に居るんだよ?俺の知ってるお前はここに………俺の目の前にいるお前しかいないんだぞ?そんな勝手に………勝手に消えようなんてするなよ!残される方はどうすればいいんだ!!」

 

本当に衝撃を受けると頭を殴られた気分になるとよく言われるけれど、自分がその体験をするとは思わなかった。

本当に重いハンマーのようなもので頭を殴り付けられたような衝撃が響いている。

指揮官さんの慟哭で目が覚めたような気分だ。

 

「解体なんてさせないぞ………ビスマルクやプリンツ達の鉄血の皆だけじゃない、他の陣営の皆だってお前がそんな風になるのを望んでない!仲間だって戦友だって、家族だって言える人が苦しんでるのに………助けないような連中じゃないんだよ!!今だって皆心配してるんだよ!!」

 

心がポカポカするような気がする。

何も見えないはずの両目から皆の顔が写るのだ。

家族だと言ってくれる鉄血の皆に仲間だと言ってくれるユニオンやロイヤルの皆、戦友だと言ってくれる重桜やヴィシアや東煌などの陣営の皆が浮かんでくる。

 

皆がいたから頑張って来れたのに、そんな皆を蔑ろにするような真似をなんでしようと思ってしまったのか………

 

自然と涙が溢れた。

 

何も見えなくてもすぐに浮かんでくる皆に、そして思い止まらせてくれた指揮官さんの優しさに覚悟を決めて消えようとして我慢した涙が止まらない。

 

「何が迷惑だ!大好きなお前が命に賭けて俺を助けてくれたんだぞ?そんなお前が消えるなんて間違ってる!!迷惑をかけてくれ!!家族だろうが!!」

 

互いに泣きながら、でも指揮官さんは私に熱い想いを言葉に乗せて伝えてくる。

そんな事を聞かされたら洪水のように流れて溢れる涙を止められない。

泣き続ける私を抱き締めながら指揮官さんは

 

「だから………だからなライプツィヒ?もっと俺に迷惑をかけて欲しいし、本当の家族として側に居て欲しいから………俺と結婚してください」

 

そう言って私の右手の薬指にナニかをスルリと嵌めた。

一瞬それがなんなのか理解出来ずに確認の為に左手で触ってみると硬い金属の輪っか………指輪だという事が分かった。

分かった瞬間に指揮官さんに向かって何度も頷いた。

 

すると指揮官さんは両頬に手を当てて私の顔を押さえるとゆっくりと情熱的なキスをしてくれたのだった。

 

互いに涙を流してボロボロなプロポーズだったけれども、私にとっては一生の思い出になる最高の瞬間となった。

これからとても大変な日常が待っているのだろう。

 

だけど………

 

私の思いに応えてくれて、嬉しいです……指揮官のためにも私、絶対倒れないように頑張ります……!

 

タブレットを見ているであろう指揮官さんにそれだけ言って笑顔で私の方からキスをするのでした。

 

 

 





自己犠牲もここまでくると暴走と変わらないものなのです。

残す方も辛く、残される方はもっと辛い………

試行錯誤しながらのライプツィヒでした。

鉄血軽巡3人衆の限界突破で入手可能となる彼女は最初に見たその儚さに、いつかこの立ち位置で書いてみたいと思っていた一人でした。

少しくどくなるような言い回しなどが難産でとても楽しい執筆でしたよ。

感想で出して欲しい娘のことを書かれていらっしゃいましたが、先に書きたい娘が何人か居ますので先にそちらを書いてからになるでしょう。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

指揮官、恋を知ることに罪は有りますか?


それは遅過ぎた自覚。

時期を逃したその瞬間に恋という名の戦争には敗北している。

でも、それが自分で分かるようになるのが大人になるって事なのかな?



私は失恋した。

 

気が付いた時には失恋していた。

 

ニートで自宅警備員だった穀潰しな男性の前世から巡洋戦艦 レパルスとして生まれてこの2年で前世と今世で初めて自覚した恋。

 

しかし、その恋は儚く散ってしまった。

 

前世とは違い仲間に囲まれて明るく活発になった自分が嬉しくて、ただ前を向き続けて走っていた結果………初めて自覚した恋を逃したのだ。

 

恋の相手はうちの母港の指揮官で、すでに恋人がいて婚約まで済ませていたのだから勝ち目が無さ過ぎる。

自分でも笑いが込み上げて来るほどに勝ち目が無いのだから始末におけない。

 

指揮官のその思い切りの良さと細やかな気配りの効く優しさと包み込むような器の大きさに2年間もかけて徐々に惹かれてしまい、いつも目で追ってるな~位にしか考えていなかったのが一番の敗因なんだろう。

 

だって………そんな事を学校じゃ教えてくれないし、家に引き籠ってた前世でもこんな感情を持った事が無いから分からないんだもん。

 

「あ~あ、なんで気が付いちゃったんだろ私」

 

茜色に染まり太陽が地平線に沈む空を見上げながら母港の埠頭に座って自嘲気味に呟く。

もうすぐ寮に戻って夕食の時間になるけれどもう少しだけここで空を眺めていたい。

 

「だいたい自覚したキッカケが結婚式を挙げるって報告を聞いてからとか救えないよね~………はぁ」

 

しかもこの身体になってからついついやってしまう即断即決の安請け合いで結婚式のスピーチまでする事になってしまっているのだ。

 

自分の心の整理すらついていないのにね。

 

それにこの恋には実らない事がその前に確定している。

 

 

 

何故ならうちの指揮官は………女性なのだ。

 

 

 

前世の性別からすればおかしくは無いのだろうけど、今世の身体………女性の身体に生まれて女性に恋をしたなんて周りが認めてはくれないだろう。

失敗しても次に活かせるフォローをしてくれるイケメンな対応力があって、頑張ろう相棒!………なんて笑顔で肩を叩きながら言われたら落ちるでしょ普通。

あれをおっぱいの付いたイケメンって言うのだろう。

 

世知辛い世の中になったもんだ。

 

まぁとにかく、自分のこの気持ちに決着を着けないとせっかくの指揮官の門出にケチがついてしまう。

そんなの指揮官の幸せを願う私は絶対に嫌だし、自分のせいでそうなるのはもっと嫌。

 

「頭では分かってるんだけどねぇ………」

 

足を腕で囲い膝を立ててその間に顔を入れて目を閉じる。

暗闇の中で少しずつ指揮官の幸せの為に諦めようと自分自身に声をかけているのだけれど頑固な私がそれを拒否するのだ。

 

やっぱりこんな気持ちじゃ指揮官の結婚式のスピーチは難しいから、ロイヤルが誇るメイド長に任せた方が良いんじゃないだろうか?

 

弱気になってしまった自分がそう囁く。

思わず頷きそうになるが、これは自分から引き受けた事だし指揮官も相棒なら任せられると笑顔で言ってくれた。

この信頼に答えなければ自分はいけないのだ。

 

指揮官が頼ってくれたのだから………

 

「………戦闘より難しいよこれ。狙って~ポンって感じで簡単にいかないかなぁ」

 

ゆっくり目を開けて戦いでつい言ってしまう口癖を挟んで軽く言ってみるけど、いつもならこれで決まるのにそんな様子は全くない。

 

自分には向いて無いのだろうか?

 

段々心が寂しくなって弱気が出てくる。

これじゃ前世の部屋から出られない弱々しい自分と一緒になっちゃう。

そんなのだけは絶対に嫌なんだけど………ってまた変な方に考えてが寄り道しちゃってる。

 

「はぁ………あれ?」

 

考えの袋小路に嵌まり続けているうちに太陽が完全に海の中へと沈んでしまっていた。

辺りは母港の明かりと空の星が煌めく夜の世界。

もう夕食は始まっているだろう。

 

「今日は晩御飯抜きかなぁ………」

 

自分で言った事に苦笑いを浮かべながら、また膝の間に顔を埋める。

今の弱々しい心には暗闇が心地良い。

 

「私もバカだなぁ………今さらこんな気持ちになるなんて」

 

どうすればいいか分からない。

自分の判断能力を越えているようにしか思えない難題に処理落ちしそうだった。

初めての感情を処理しきれずにウダウダしているのが性に合わないのだけれど、処理出来ないものは出来ないから困っているのであって………あぁ駄目だ駄目だ駄目だまた考えが脱線してる。

 

「うっがぁ~、頭が破裂しそうだよ………ほんっとに訳分かんないよ!」

 

頭痛までしそうなドツボな悩みっぷりに思わず顔を上げて空に叫んでみる。

まぁ、答えなんて出やしないんだけどね。

 

 

 

「ここにいましたかレパルス、探しましたよ?」

 

 

 

 

不意に聞こえた声に身体をビクリとさせてしまうが、聞いたことのある声だったので肩の力を抜く。

その人物はこちらに歩み寄り、私の後ろで立ち止まる。

 

「陛下が怒ってましたよ?夕食は母港にいる皆で食べるのが規則だと」

 

「分かってるよ姉さん」

 

チラリと顔だけ振り返ると私の姉であるレナウンが風で靡く髪を抑えながら困ったような表情でこちらを見ていた。

そして私の肩に手を置きながら

 

「だったら戻りましょうレパルス、今なら陛下も許してくれるはずですよ?」

 

笑顔でそう言ってくる。

何も知らないくせに………なんて八つ当たりめいた感情が湧くけれど、この姉は純粋に心配して来ているのだからその八つ当たりをぶつける訳にはいかない。

どうしたものかとまた頭を悩ませていると

 

「悩み事ですかレパルス?頼りになるかは分かりませんが、私にも相談してください。誰かに話すと楽になるとはよく言いますし、私は貴女の姉なのですから」

 

いつの間にか隣に座っていたレナウンがこちらを覗き込みながら訊ねてきた。

真面目な顔をして聞いてくる姉にそれも良いかなと思った私は恋を生まれて初めて経験してしかも失恋してしまった事を話してみた。

もちろん、その相手が指揮官である事を隠して。

 

するとレナウンは話を聞いてから少し空を見上げるとゆっくり話し始めた。

 

「レパルス、それは私には感じた事の無い経験ですね。本の中でしか書かれていない事に私からアドバイスするのは難しいでしょう」

 

最初の語り出しはなんとも不器用な実に私の姉らしい前置きだった。

思わず笑ってしまいそうになるのを堪えていると

 

「ですが私は貴女の感じた想いと経験は大切なモノだと感じました。それこそレパルス、貴女がこの世界に生まれ落ちて会得した最も人間らしい感情です」

 

私を見て………いや、私の眼を見ながらそう言いきった。

その表情は真剣で私の眼を見て離さない。

 

「物言わぬ鉄の船の記憶を持ってメンタルキューブから感情を得て生まれた私達KAN-SENが、人間のように恋をする。ましてや人間との正式な婚姻を結ぶのであれば倫理観や法律といったモノが障害となり、その道筋を進むのならば棘の道でしょう」

 

視線を外せぬままに語る姉の言葉に引き込まれていくのを感じる。

元の記憶からして鉄の船であった事、メンタルキューブという不思議な立方体から生まれた存在であるが故に人間とは違う存在である事。

恋をする上でその人との厚い壁のような種族としての壁を話す姉の言葉に心が閉じていくのを感じた。

 

恋をする以前の問題だった。

 

私達KAN-SENは人間とは違う存在だという事を失念していたのだ。

何を舞い上がっていたのだろうか?

恋をしたとして、その想いを伝える伝えないの前に種族からして違うという事を考えなくてはいけなかったのだ。

本当に何も知らないくせに恋なんてしてたんだなぁ………バカみたい。

無知過ぎた自分に恥ずかしさすら感じ始めた私はこちらを見つめる姉から眼を放す。

いや、羞恥心だけじゃない絶望感も入り交じった諦観の心からの現実逃避だった。

何もかもを諦めてしまいそうになったその時

 

 

 

「ですがレパルス………話は終わっていませんよ?」

 

 

 

レナウンは私の頭に手を置いてきた。

その行為に驚いて姉の方を見ると優しく微笑みながら頷いてくる。

私が見つめ直してしばらくするとまた空を見上げながら

 

「確かに棘の道かもしれません。ですが………感情を持つものなら、本当にそう思えたのならば棘の道であっても突き進めるはずです。貴女はどうですかレパルス?」

 

そう言って頭を撫でてくれた。

それはまるで諭すかのように未熟な心に成長を促すよう語りかけながら。

 

「今回の事は経験した事の無い事態に貴女は振り回されてしまい、気が付かずに終わってしまった………ですが、素敵で可愛い私の妹の事ですから恋が一度きりで終わるなんてあり得ません」

 

本当にそう思っているのだろうか?

いや、そう思っているからこそ確信を持って語りかけている姉に感じていた諦観が少しずつ消えていっている。

 

「サディアの方が言ってました、女性は恋をするほど美しくなれると。ならば私の妹はこの恋の分美しくなったのですから、その分強くもなれるはずなのです………ですから」

 

そこで言葉を切るとレナウンは私の頭を抱き締めて耳元で囁く。

 

「今は次の恋の為に泣いて全て吐き出しなさい。強くなって失恋した相手よりも、もっと魅力的な方と出会って今日の事を笑顔で語れる思い出とするために………その為ならばこれくらいしか出来ない不器用な私のこの胸を貸しましょう、大切な妹の為ならばいくらでも貸し出しましょう」

 

ジワリと目尻から涙が溢れる。

今まで失恋したと自覚しても出なかった涙が溢れてポロポロと落ちていく。

 

「ぅぐ……ふぇ…っぐ……」

 

「ここには貴女と私しかいません存分に泣きなさい。その涙が全てを洗い流して貴女を強くします………ですからこの哀しみを涙で流してしまいましょう」

 

嗚咽が姉の胸の中で響く。

ああ、私は今やっと自分が失恋した事をしっかりと理解したんだ。

だから涙が止まらないんだ。

 

抱き締めてくれる姉に背中を擦られながら私は泣き続けた。

延々と気が済むまで泣き続けて、目がウサギのように真っ赤になって涙が止まった頃には月が夜空の頂点を過ぎていた。

 

「ぐすっ、ありがと」

 

「どういたしまして」

 

ニッコリと微笑む姉に改めてお礼を言って立ち上がる。

そして空に浮かぶ月を見つめながら

 

「恋も戦争も手段を選ばない、今度は絶対に勝つよ!連戦即決が勝利の決め手なんだ!!」

 

力一杯右手を伸ばしてそう宣言するのだった。

 

 

 

後日談

 

 

 

そんな事があっても気が付けば月日は過ぎるもので、私は今とても幸せです。

今日、この日を迎えるにあたってあの日の姉の言葉に私は救われて強くなりました。

 

「レパルス時間よ?」

 

「了解姉さん、今日まで本当にありがと。………見ててね?私の晴れ舞台を」

 

純白のヴェールを被る私に始まる前から声を震わせて話し、目を赤くする姉に苦笑しつつ愛しいあの人の待つチャペルへと歩みを進める。

 

ここから始まる私の幸せ

 

あの時を笑顔で語れる思い出とする為に今、私は自分の恋を愛に変えて………

 

 

 

 

 

 





恋というものは自覚してからが本番ですが、その自覚が早くても時期を逃せば横から盗られるなんてしばしば………

作者はこの口で小学校からの幼なじみが結婚して式でスピーチしました(実話)

ただ自覚していたあの時の私には告白する勇気なんてどこにも無かったですねw←ヘタレ

漫画や映画の主人公やヒロインのように勇気を振り絞るなんて難しい事です。

皆さんはどうでしょうか?

話は変わりましてアニメのアズレン面白いですね。

個人的にはハムマンの扱いがなかなか………感想の方にもハムマンは弄られキャラだと言っている方が居ましたが作者と酒を酌み交わしながら談義したいものです。

あと唐突なジャベリンのおぱいプルンプルンに目が点になりましたw

まぁ本社の社長自らエロゲー認定してますから仕方ないですねw


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

指揮官、お腹触ってぇ………なんで触ってくれないんだよ?


今日も指揮官に触って貰えなかった。

この前もだ………前は普通に触って撫でてくれたのに。

MVPを取らなきゃダメなのかと思って頑張ってもダメ………

どうすりゃ指揮官がお腹撫でてくれるのかな?



「なぁ指揮官~、お腹撫でてくれよ~」

 

「いや………今は仕事中だから………な?」

 

執務室のソファーでゴロリと横になり、セーラー服っぽい丈の短い上着をヒラヒラさせながらお願いするけど指揮官はチラリと見てまた書類に向き直る。

 

「むぅー、前もそんな事言って全然触ってくれなかったじゃないか!」

 

そんな指揮官に頬を膨らませつつ抗議する私こと重桜駆逐艦 夕立を無視する指揮官。

前世は男でバリバリの運動部の体育会系だったので身体を動かす運動は好きだけど、この身体に転生してからは戦闘で敵(セイレーンの上位個体)をバタバタと薙ぎ倒す戦闘で快感を感じる戦闘狂になってしまった。

 

しかし、この身体に犬の特性が付与されたのかは知らないけど指揮官に褒められてナデナデされるととっても嬉しくなる。

だから褒められないと悲しくなり重桜由来の犬耳と尻尾で悲しみを表現しつつ指揮官の横にすり寄ると、書類を書きながら頭を撫でてくれて少しだけ気分が良くなるけど今日はこれで満足しない。

 

「わぅ………これでぇ…まんぞくなん…えへへ……しないんだからなぁ……」

 

「蕩け顔でそう言われてもなぁ………」

 

どこか飽きれ顔の指揮官にそう言われるし頭を撫でられてゾクゾクしてはいるけど、今日こそお腹を撫でてもらうんだ。

お腹を撫でて貰うとキュンってするし頭の中真っ白になるほど気持ちいいからやめられないし、何より満足感が段違いなのだから諦められない。

 

上着を捲って首の間に挟みつつ左手で指揮官の腕を握り、右手でお腹を撫でながら

 

「おねがいしきかぁん………おなかさわってくれよぉ~」

 

自分でも驚くほど甘ったるい声が出たが、これで撫でて貰えるんなら安いもんだ。

 

さぁ指揮官、夕立のお腹をナデナデするのだ!!

 

あれ?どうした指揮官!?自分を殴るなんていったいどうしたんだ?!

 

うわっ!?血が………誰か!明石ぃぃぃぃぃ!!指揮官を修理してぇぇぇぇぇ!!

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

「って事があってさ?また指揮官に撫でて貰えなかったんだ」

 

「あー、御愁傷様ね指揮官」

 

朝から指揮官が負傷した為に午前中の遠征や出撃が出来なくなり、暇になって食堂で酸素コーラを同じ重桜の駆逐艦 時雨に奢って貰い飲みながら話す。

時雨は何故か苦笑いを浮かべながら夕立の話を聞いているけど、なんで苦笑いしてんだろ?

 

「だいたい指揮官がいけないんだぞ?時雨も指揮官にナデナデされたら気持ちいいだろ?」

 

「確かにそのまま身を委ねそうなくらい気持ちいいけど………夕立はグイグイいき過ぎなんじゃないの?」

 

少し顔が赤くなりながら時雨も指揮官のナデナデの魅力について話すが、それよりグイグイいき過ぎってのが気になる。

別にそこまでグイグイいってる気はしないんだけどなぁ………

 

「夕立のおバカさんはがっつき過ぎだって言ってるの、貴女はそんなつもりじゃなくても端から見れば一目瞭然よ?」

 

思っている事が顔に出たのか時雨にさらに飽きられながらそう言われた。

 

「うーん、難しいなぁ………時雨だってこの前指揮官の上着に顔を埋めてプルプルして「わー!わー!わー!」わぅ?」

 

顔を真っ赤にした時雨に話を途中で遮られた。

なんか肩で息してるけど時雨も運動不足?

前に山城が体重計に乗ってハワハワ言ってたけど一緒に運動するといいかもね?

 

「なんで知ってるのかは聞かないけど………とにかく、夕立が指揮官に褒めて貰おうとし過ぎて指揮官が困ってるんじゃないの?」

 

「そうかな?………よし分かった!じゃあ今日は諦めて明日の朝にする!!」

 

「そうじゃないわよ!」

 

「わぅ?」

 

「あーもー!なんで分からないのよこのおバカ!!どうして私の姉妹艦なのにこうも違うのか………いい夕立!?」

 

それから時雨に散々怒られたけどなんで怒られたのか分からずにそのまま夕食の時間となった。

夕食のご飯はお肉たっぷりの鍋だったけど、怒った時雨にお肉を殆ど持っていかれてお野菜たっぷりのご飯でションボリだった。

 

 

 

「もっとお肉食べたかったなぁ………」

 

就寝時間前にお風呂に入り、体重計に乗って面白い顔をしていた愛宕の横で牛乳を飲んだ帰り道に夕食の事を思い出してポツリと呟く。

愛宕がお腹を触りつつお肉がどうのこうの言ってたせいで余計に思い出しちゃったよ。

なんか眉間にシワ寄せながら同じく体重計に乗ってハワハワ言ってた山城とサウナの方に行ってたけど何だろう?

 

「明日はいっぱいお肉食べれないかなぁ~………わぅ?」

 

明日のご飯でお肉料理が出る事を願っていたら窓の外から見える執務室の窓に明かりが灯っているのが見えた。

どうやら指揮官がまだ仕事をしているみたいだ。

 

「あれ?そういえばこの前ベルファストに晩御飯の後からまた仕事するのは止めるように言われてなかったっけ?」

 

うちの指揮官は優秀だけど、仕事を続けてやろうとするワーカーホリックとかいうのだから適度に仕事を休ませないとダメだってお医者さんのヴェスタルが言ってた気がする。

 

「今日の仕事は夕立が邪魔しちゃったから少し手伝って早めに休んで貰おう!」

 

そうと決まれば善は急げだ。

もしかしたら手伝ったご褒美にナデナデしてもらえるかもしれないしな。

ナデナデしてくれる事を想像してルンルン気分になりながら執務室へ向かう。

どうせ中で書類にサインしてるだろうしノックとかしなくても大丈夫だろう。

 

「指揮官~、仕事手伝いに来………わぅ?」

 

執務室には誰も居なかった。

でも執務室の真ん中には白い着物が飾ってあってそれが執務室の照明に照らされてとっても綺麗に見える。

そして、その着物の後ろにはいつも指揮官が仕事をしている机があってその上に小さな箱と書類が1枚だけ置いてあった。

 

「………わぅ、もしかして夕立は見ちゃいけないモノを見たのか?」

 

指揮官が留守の間に見てしまった事を少し後悔しつつ、でも綺麗な着物をもう少し見たいという好奇心で着物の近くに寄ってみると

 

「わぅ?この着物の襟に札が付いてる?」

 

どうやら誰の物か分かるように名札がわざわざ付けていたようだ。

その名前は………

 

 

 

『夕立用 白無垢』

 

 

 

「夕立のし、シロムク?」

 

もう一度夕立の名前が書かれた名札を見て気が付いた。

 

「これ、指揮官が準備してくれたプレゼントか?」

 

シロムクってのが何なのかは分からないけど、たぶんこれが正解だろう。

ならあの小さな箱はもう一つのプレゼントで書類は仕入れて来た明石か不知火辺りからの請求書だと予想する。

 

「なんだよ指揮官~、最近触ってくれなかったのはこのプレゼントをくれる為に焦らしてたんだなぁ~」

 

予想外のプレゼントに弛む頬を抑えることもせず、その場でモジモジしてしまう。

 

「あ、でもこれを片付けに帰ってくるかも………そうだ!良い事を思い付いたぞ!!」

 

着物を見ながら夕立の事を焦らしてくる指揮官にちょっとしたドッキリを思い付いた。

きっと指揮官は驚くはずだ。

ニヤニヤしながらその悪巧みを実行する。

指揮官の目が飛び出るほど驚かしてやろう。

 

 

 

 

廊下の方から足音が聞こえる。

この少し早歩きな歩き方は間違いなく指揮官だ。

KAN-SENとなってから付いたこの頭の犬耳はこういう時に良く役に立つ。

さぁ、早く扉を開けてビックリしろ!

ドアノブが回るのが見えた!

 

今だ!!

 

「どうだ指揮官!ほら!このシロムクって服は似合ってるか?赤くて白くて格好良いよな!あとさ、どうしてかわからないけど、これを着ているとなんだか指揮官がずっと側にいるような気がするんだ!」

 

前の初詣の時に適当に上から羽織っただけの着物を鳳翔に見られてから、着付けが自分一人で出来るようになるまで練習させられた甲斐があったぜ。

 

着崩れすることなくこのシロムクを着れて指揮官に見せれたから大満足だ。

それに指揮官はドアを閉めて夕立を見たまんま固まって動かないからドッキリ大成功だな。

でもあんまりにも固まったまま反応してくれないのはちょっと不安になる。

 

「指揮官~?どうしたんだ~?なんか反応してくれよ~」

 

ゆっくりと着崩れしないように指揮官の方へ近づくとハッとしたように指揮官が夕立に近いて来る。

お?これはナデナデしてくれるチャンスなのでは?

 

「指揮官、ナデナデしてくれるか?」

 

夕立はそう言って両手を広げて待っていると

 

「夕立!」

 

「わぅ!?」

 

指揮官が夕立を思いっきり抱き締めてきた。

ちょっと鼻息が荒くてくすぐったいけど指揮官の良い匂いをいっぱい吸えるから良いかな?

せっかくだし、胸に頬っぺたスリスリしちゃおう。

こんなに指揮官が夕立の事を求めてくるなんて嬉しくて尻尾のフリフリが止まらないぞ。

 

「えへへ~指揮官~」

 

「ゆ、夕立………好きだ」

 

「わぅ?」

 

「夕立が好きなんだ!!」

 

降って湧いた幸福に溺れかけていると指揮官が夕立に顔を合わせて真剣な表情で想いを伝えてきた。

最初は伝わらなかったけど、2回目でやっと伝わった。

伝わって理解して………

 

「わぅ!?わぅわぅわぅ!?」

 

「なんて言ってるか分かんないぞ夕立?」

 

犬語しか喋れないくらいビックリして指揮官がツッコミをいれる。

でも驚き過ぎてビックリしてそれ所じゃない!

指揮官が夕立の事を好きって言ったのだ!!

それって………夕立のお腹をナデナデしてくれるって事?

 

なら大歓迎だ。

指揮官が夕立の事を褒めてナデナデしてくれるんなら何でも良い。

というか夕立も指揮官が大好きだから返事を返そう。

 

「夕立も指揮官が大好きだぞ!!」

 

「夕立!ちゅっ」

 

「っ?!ちゅっ…じゅる……ちゅぅ………しきかん?」

 

返事を返した瞬間に指揮官が夕立に口づけをしてきた。

口づけをした瞬間になんか頭の中がパーンって弾けたような気持ち良さがあって、大好物なお肉を食べてるような幸福感があってもっと欲しくなって………口を開けたら舌を吸われて頭が真っ白で………

 

「夕立、俺と結婚してくれないか?」

 

だからだと思う。

机の上にあったあの箱から出てきた指輪を指揮官から右手の薬指に填めて貰っている時に聞いたその言葉を夕立は無意識に頷いたのだから………

 

 

 

「えへへ~指揮官~お腹を触ってぇ~」

 

「おいおい、まだ気が早いんじゃないか?」

 

あの日からすでに数ヶ月が過ぎようとしている。

指輪を貰ったあの日に初夜を迎えて戦闘よりも快感を感じる事を覚えてしまい、すっかり前世が男だった事とか敵を倒す事に快感を感じる戦闘狂から抜け出したんだけど………今度は指揮官が悲鳴をあげている。

 

あんな気持ちいい事を教えられたら毎晩して貰いたいけど、指揮官がもたないって言ってるから3日に一回とお預けをくらってしまった。

 

それに指揮官が夕立と結婚することになった際に母港で………主に空母組とかが夕立を襲おうとしてきたけど、時雨や綾波達がそれを完全に阻止してくれた。

まぁ、その対価に指揮官の着古した肌着なんかを要求されたけど………良いよね?

 

お預けをされてるけど、これだけは毎日ずっと続けてる。

それは………

 

「指揮官!大好きだぞ!ちゅっ」

 

「んぅ!?お前………いきなり過ぎるだろ?」

 

「夕立が幸せだから大丈夫!」

 

指揮官と口づけを交わし続ける事。

これだけは絶対にお預けさせないからな!!

 

 





天然無知系元気っ娘って良いですよね?

今回はTS要素少ないけど、元気っ娘な夕立が書けて満足ですよ。

しかも彼女勝手に行動するので最初のプロットから外れる外れる………

やはりお肉を食べている娘は違うなぁ………

ではまた次回もお楽しみに………


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

指揮官………ヒロイン?


指揮官が今日もまた拐われた。

たぶんまた重桜の空母がやったはず。

指揮官は絶対助ける。

でもちょっと眠いから一眠りしてから。



迫り来る艦載機を両手に持つ単装砲と装備している対空砲で薙ぎ払いながら接近する。

さすがに重桜の空母が放った艦載機は攻撃の手に隙が無いけど、撃墜しながら無理矢理押し通ると引き攣った顔を見せるあの空母達が見えた。

 

「そんなバカな!?加賀や大鳳に私を含めた重桜の正規空母クラスの攻撃を通って来るですって?!」

 

「ククク、グレイゴーストだけでなく駆逐艦にもこれ程の猛者が居るとは思わなかったぞ」

 

「笑っている場合ではありませんわ!せっかく指揮官様をこの重桜寮にお招き出来たのに………またあのユニオンの駆逐艦に取り返されてしまいますわ!!」

 

「ラフィー!ここだー!助けてくれ〜!!」

 

後ろ手に縛られた指揮官も発見。

ならもうあの空母達に容赦する必要は無い。

 

「リミッター解除、殲滅形態に移行」

 

「「「げ!?」」」

 

こうなったラフィーはもう止められない。

ソロモン海域で戦艦と正面から殴り合った火力をここで発揮する。

とりあえず、指揮官を拐った彼女達は暫く寝ててもらう事にしよう。

 

「ちょっ!攻撃が速過ぎて…ギャフン!」

 

「容赦無さ過ぎでは?って、こっちも!?うぁぁぁぁぁぁ!!」

 

「え?もう終わりな………きゃあぁぁぁぁぁ!」

 

装備している533mm五連装磁気魚雷T3から魚雷を空中にバラ撒いてスキルによる一斉射撃で誘爆とそのまま発砲を続ける攻撃が決まって空母達が吹き飛んだ。

これで指揮官を取り戻せる。

 

「指揮官、無事?」

 

「ありがとうラフィー………今回ばかりはダメかと思ったよ」

 

「前もそれ聞いた、今回も罠って気が付かない?」

 

「うぅ、面目ない………」

 

縛っている紐を解きながら、若干呆れつつもそう話す。

あの重桜の空母達が指揮官の初めてを奪うのにどんな策略を考えているかなんていつもの事なのに。

本当にこの指揮官はここら辺が抜けているというか………

 

「………早く帰る、ラフィー眠い」

 

「ああ、いつもありがとうラフィー。今日も執務室のソファーで休んでてくれ」

 

戦闘が終わって早くも睡魔が襲ってくる。

それを見た指揮官がラフィーの頭を撫でてそのまま背中に背負ってくれた。

この流れがいつもの日常生活の流れになるなんて誰が思っただろうか?

 

だいたい重桜の空母が指揮官を拉致してラフィーが救う朝から始まる日常なんてマンガやアニメの世界で充分だと思う。

でもそんな毎日が楽しくも感じている自分がいる。

 

まぁ、あの空母達は天敵達に囲まれて目を回しているのだけれど………

 

「ん、トドメ刺した?」

 

「え?ああ、天城とアルバコアがもう来てたのか………早いな」

 

とんでもない悲鳴が聞こえた気がするけどラフィーは聞いてない、うん、聞いてない。

 

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

 

「………ふかふか」

 

「やっぱりラフィーはそのソファーが好きだよな」

 

「至福のひととき………むにゃむにゃ」

 

「寝るのも早いなぁ」

 

執務室に戻って早速ソファーでお昼寝開始。

ソファーで瞼を閉じると指揮官の苦笑するような声が聞こえてきた。

でももう大丈夫、何かあればすぐに起きて戦闘態勢に入れるラフィーがいる間は拉致するような事はさせない。

………今度から同じ部屋で寝れば大丈夫かな?

 

「なんかラフィーが変な事考えてる気がする」

 

「………そんな事考えてない、考えてない」

 

「怪しいなぁ………」

 

薄目を開けてチラリと指揮官を確認してその感の良さをあの罠の回避に生かせないのか不思議に思う。

でもまた拐われたらラフィーがまた助ければ大丈夫だと思いうつ伏せになりながらカーテンの隙間から射し込む日光に背を向けた。

 

思えば随分遠くまで来たものだと感慨深い。

 

新設された母港に指揮官の適性はあるものの、争い事が苦手な性質で落ちこぼれという烙印を押された指揮官。

 

サボりや授業中の居眠りの常習犯で成績もそこまで高くなかった落ちこぼれのユニオンのベンソン級駆逐艦ラフィー。

 

この2人を厄介払いするように押し込めたこの母港で始まった艦隊運用は、手探り状態での暗雲ばかりが立ち込める舵取りだった。

しかし、落ちこぼれと言われたラフィーには1つ姉妹にも話していなかった秘密があった。

 

それは前世の記憶がある事。

 

一般社会に出ていた成人男性だった頃の記憶があり、この母港に着任してからその頃の記憶と現在の状況に身体が慣れ始めていた事がこの母港の発展のきっかけになっていったのだ。

それは社会人として働きながら趣味として行っていたスポーツがきっかけだった。

 

前世の記憶にある柔道というスポーツにラフィーはとても惹かれてそれを思い出すように身に付けていく。

そしてそこから鉄の船であった前世の記憶による動きの制限を払拭し、人体の動かし方や弱点となるような部分について学ぶ。

 

まさにそれは羽化するかの如く。

 

軍隊格闘術にも通じるそれは、人の体を持つKAN-SENにとっては新しく身に付けられる戦う術だった。

どこをどう動かせばどういった反応が起きて身体が着いてくるという単純ではあるものの、それを突き詰めていけば演習において砲撃や雷撃のタイミングを完璧に見切るといった近接戦闘での無双がラフィーの伝説の一部として語られるきっかけとなったのだ。

 

そして海域の解放での戦闘でもタイミングを見切る観察力はセイレーンの傀儡艦の砲撃や雷撃、果ては敵機の急降下爆撃においてもどこに落ちるのかまで正確に捉える事が出来るようになった。

恐らくラフィーにはそういった才能があったのかもしれない。

しかし、そこまでの才能をサボり魔のラフィーが伸ばせるのかといえば違うと言える。

 

争い事が苦手な指揮官がそういったラフィーの達成出来た事に一言ずつ

 

「凄いじゃないかラフィー!」

 

「こんな事も出来たのかい!?ビックリしたよ!!」

 

と笑顔で褒め続ける褒め殺しで伸ばし続けた結果とも言えた。

指揮官に認められて褒められて、自身の才能を限界を何度も越え続けたラフィーに1人で勝てる者は最早存在しなかったのである。

そんなこんなで指揮官に褒められ続けたラフィーは、改造によりラフィー改となって更に手が付けられなくなっていたある日の事。

 

指揮官がラフィーに指輪を送ってくれた。

 

普段は肉食系空母なんかに拉致されてラフィーに助けられてばかりの指揮官だけど、あの時ばかりは指輪の箱をこちらに差し出し片膝をついて頭を下げながら

 

 

 

「ラフィー、僕と………結婚して下さい」

 

 

 

ハッキリとした口調でプロポーズしてくれた。

 

皆の集まる食堂で。

 

いつも喧騒に包まれている食堂が一度時を停めたかに思える静寂の後

 

 

 

「うん、指揮官と結婚する」

 

 

 

即決でOKを返した。

だって欲しい所で褒め殺ししてくれていつも気に掛けてくれる優しさを、毎日のように年単位で浴び続けたら前世が男だろうが堕ちると思う。

というか結婚するのなら指揮官以外は考えられないし、考えたくない………うん、考えたくない。

 

そのまま食堂で幸せなキスをして終われば良かったのだけど、食堂で皆に見られながらってのがいけなかったらしくて全員に止められた。

 

「もっとロマンチックな所でしないの?」

 

「ここで言うのもロマンチックだと思う」

 

「うぅ、まあいいや、式はいつ挙げるのさ?結婚式は?」

 

「戦時中だから省略でいい」

 

「いやいやいやいや!!そんな事あってたまるかぁぁぁぁ!!」

 

主に意外と乙女思考なクリーブランドに。

 

その為、式の準備が出来るまで指輪は貰うけど一緒になれない状態が続いて重桜の空母達が指揮官を拐って邪魔してくる日々が………

 

「やっぱり邪魔するのは敵でいい?沈めた方が指揮官と一緒になれる?」

 

「今日は随分と過激だねラフィー」

 

なかなか終わらない式の準備と妨害する重桜の空母達に少しイラついたけど、薄目を開けて見えた指揮官が困った顔してるから止めておこう。

………うん、でも次の襲撃の時は手加減抜きで追撃もかけておこう。

 

「あー、ラフィー?」

 

「………んぅ?」

 

夕張の所で艤装の更なる強化をしようかと考えていると不意に指揮官が声をかけてきた。

寝ているソファーから顔を少し上げて指揮官の方を見るといつの間にか指揮官がラフィーの寝ているソファーまで来ている。

 

「ちょっと見て欲しいモノがあるから来て欲しいんだけどいいかな?」

 

「うん、いいよ」

 

その場で膝を着きながら指揮官が笑顔でラフィーに手を差し出していたのですぐに手を取って起き上がる。

こういう感じでラフィーを誘う時はだいたいサプライズを仕掛けている時のノリだ。

 

でも執務室の周りに潜んでいる気配があるから先にそっちを撒かないと………

 

「そっちは大丈夫だよ、今日は特別なんだ」

 

「………特別?」

 

「うん、そうなんだよラフィー」

 

艤装を呼び出そうとして指揮官がそれを微笑みながら止める。

特別な日とはいったいなんだろうか?

 

首を傾げながらその特別について考えていると指揮官がラフィーと手を繋いて………指と指を絡めて握る恋人握りで手を引いてくる。

 

「さぁ行こうラフィー」

 

「うん、行こ」

 

絡め合う指がなんだか気恥しい気持ちになるけれど、こんなに積極的な指揮官も初めてだし………悪くない。

サプライズがどんなモノかは分からないけど、頬にキスの1つでもするべきだろうか?

 

執務室から学園に向かいながら色んなKAN-SEN達に手を繋いで歩いているのを見られる。

微笑ましいモノを見たようにホッコリする人やキャーキャーと黄色い悲鳴をあげて騒ぐ人、ハンカチを引きちぎらんばかりに噛み締めて血涙を流す人など様々な反応が見えた。

そんな反応を見ているとなんだか指揮官と手を繋いで歩いている事に優越感が湧いてくるけど、それを表に出したりしない。

どうせなら指揮官と2人っきりの時にその話をしてイチャイチャするのが大人の対応というやつだと思う。

 

「着いたよラフィー」

 

「ここは………」

 

しばらく歩いていると指揮官が目的の場所に着いたと言ってきたので、後でイチャつく時に何をするのか考えていたのを止めて目的地を確認するとそこは………

 

 

 

「………教会?」

 

 

 

穢れを払うかのような純白の建物である教会だった。

指揮官はニコニコ笑顔のまま教会の扉を開くとステンドグラスに射し込む日光が照らし出す幻想的な空間が広がっている。

指揮官はそのまま手を引いて式でいう牧師が立っている場所までラフィーを連れて行くと

 

「ラフィー、あの日のやり直しをしよう」

 

そう言ってラフィーの前で片膝をついて右手をギュっと両手で握り締めてくる。

 

やり直し………そう聞いて思い出すあのプロポーズの日。

 

そう言えばあの日は最後まで出来なかった。

でもラフィーは考える。

そのままの焼き増しではなんだか勿体ないと。

 

 

 

「指揮官」

 

「なんだいラフィ…っんぅ!?」

 

 

 

膝まづいた指揮官の頬に手を当てて上を向かせてそのまま唇を奪う。

突然の事に目を白黒させている指揮官には悪いけど情熱的に、だけどしつこく舌を蛇のように絡ませながら味わっていく。

 

「これがラフィーの答え、あの日から変わらない」

 

「………うん、ありがとう」

 

射し込む日光で銀色に光って糸を引くのを見ながら指揮官にあの日に出来なかったキスを堪能した。

 

 

 

でも、まだまだ足りない。

 

 

 

「ラ、ラフィー?」

 

「全力でいく」

 

片膝をついて力が入りにくい指揮官をそのまま押し倒してもう一度キスを………ディープな方を互いの体液を交換しながら息が切れるまで深く行う。

 

そのまま指揮官のズボンのベルトを外して主砲とご対面。

 

 

 

「指揮官、ウサギは性欲が強いって知ってた?」

 

「それは………知らなかったよ」

 

 

 

その後の事は指揮官のサプライズに加担してたクリーブランドとその姉妹に見つかって乙女なクリーブランドが悲鳴をあげた事でお開きになったのである。

 

 

「子供は野球が出来るくらいに」

 

「身体が持たないよそれ………」

 

 

 

 

 





支えてくれる存在ってとても貴重で大切なものです。

こんなにも認めて褒めてくれる人なんて………いたらいいなぁ………

そして更新遅れました。

理由は今回のアズールレーンのアイドルイベント!!

そのガチャで起きた事件………それは………


ヒッパー沼と併せて赤城さん連発ドロップ(通称AKG52)


ヒッパー沼ってのはもうお分かりでしょうが、AKG52とは赤城さんがガチャする度に現れてその数52名となった事………

私の諭吉9人が戦死されるとても激しい戦いでした……

傷は深く致命傷で済みましたが更新が遅れました。

感想でR18もという声もありましたが、私の技術では濡れ場がなかなか難しいのです。

そこら辺はご了承ください。

それではまた次回でお会いしましょう。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

目のやり場に困る?別にいいじゃない、見せてるんだから


神様なんているか知らないけど

この身体にしてくれた事には感謝してるわ。

前世ではまったく気にもしなかったオシャレというものを楽しめるのだもの。

今がとても楽しいわ♪フフフ♪




「プ、プリンツ・オイゲン………」

 

「あら?何かしら指揮官?」

 

新しく買ったベルト付きサイドスリット入り茶色のニットワンピースとシックな黒のブーツを、見せびらかすようにして執務室の秘書艦用の席に座る私に目を抑えるようにする指揮官から名前を呼ばれる。

 

黒のニーソとガーターベルトを見せ付けるように足を組んで耳まで真っ赤な指揮官に身体ごと向き直ると、今度はプルプルと震えだした。

 

「どうしたのよ指揮官?私を呼んだだけならこの服の感想が欲しいわ………どうかしら?」

 

自身の豊満なバストやくびれたウエストのラインを強調するベルトを撫でながら指揮官にそう問いかけるが、指揮官は黙ったまま。

評価して貰えないとこれじゃ何の為にオシャレしているのか分からないわ。

 

「………だよ」

 

「あら?」

 

人差し指で自分の唇をなぞりながらどうしたものかと考えていると俯いたままの指揮官が何かボソリと呟いた。

よく聞き取れなかったので顔を近づけると

 

 

 

「目のやり場に困るんだよ!なんでそんなにエロい格好で執務してるんだよ!!」

 

 

 

必死な表情の指揮官が部屋中に響き渡るような大声でそう言ったのだった。

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

私こと鉄血の重巡洋艦、アドミラル・ヒッパー級の3番艦 プリンツ・オイゲンは転生者である。

 

正直マンガやアニメのような体験を自身がすることになるなんて思いもしなかった。

しかも前世は男性で仕事漬けなサラリーマンで、休日まで仕事の事を考えるような無趣味でつまらない灰色と言っても過言ではない人生を送っていた。

この身体に転生して口調や感性が女性のモノに変わっていて混乱しつつもしばらくは同じように仕事漬けの毎日を送っていたのだけれど………

 

正直、疲れたわ。

 

規律を重んじる鉄の船の記憶に仕事しかない前世の記憶。

新しく人生を歩む上で前と同じような道のりを歩くなんてつまらない。

もっと自分がやってこなかった事を楽しく出来るような人生を過ごしたい。

そう思った私は万年スーツ姿だった前世の自分がオシャレというものをしてこなかった事を思い出し、勇気を出して別陣営でありオシャレに関して詳しいというロイヤルのフッドに教えを乞うたのだった。

 

最初こそフッドに怪訝な目で見られて警戒されたものの、自分が思っている事を真摯に語るとあっさり笑顔で引き受けてくれたのだ。

 

「そういう事でしたら、私が貴女の女性的な美しさを引き立てるようなコーディネートや化粧の仕方などをお教え致しましょう」

 

「………なんだか雰囲気が怖いわよフッド?」

 

「いいえ、こんなに良い素材なのにオシャレの仕方すら分からないなんて鉄血の教育に関して怒ってなどいませんよ?」

 

「やっぱり怒ってるじゃない………」

 

若干暴走気味なフッドによるスパルタ教育的なオシャレの勉強が始まったのだけれど、仕事漬けで集中力に自信のあった私はメモを取りながら実践していく。

フッド曰くその様子はまるで砂漠に水を注ぎ続けるかのような知識の吸収力に驚き、凄まじい成長速度だったという。

 

秘書艦として執務をする片手間でオシャレの勉強も並行して行う生活は自分が生まれ変わったような気がしてとても楽しかった。

そんな毎日が続いたある日の事。

 

「私が教える事は無くなりました。後は貴女が実践して自分に磨きを掛けていく過程ですよ」

 

事実上の免許皆伝だった。

しかし、いきなりそう言われても誰かに評価して貰わなければその後の成長は難しいと考えた私は………

 

 

 

指揮官に自分の学んだオシャレというものを披露して評価してもらおうと考えついたのだった。

 

 

 

春には花柄の黒いワンピース×イエローニットカーディガンで明るい春らしい印象と白いパンプスを履いてワンポイントを決めるようなコーディネートしてみたり。

 

夏にはブラウンのロング丈チュールスカート×白の袖無しTシャツのようなシンプルな構成で涼しさを引き立てたコーディネートを中心にしてみたり。

 

秋にはベージュスカート×白シャツで清潔感のある仕立てであまり履かないストッキングで大人の雰囲気を出すコーディネートをしてみたりと。

 

もちろん出撃や演習が無い事務仕事の時だけと決めてやったのだけれど、指揮官はどこか落ち着かずに書類仕事中に何度かミスをするようになった。

そして、評価を貰えない私も自分のコーディネートが上手くいっているのか分からずに悩む事にも………

 

まぁ蓋を開けてみれば私が服装を変えてみただけで普段との違いでギャップ萌えを感じていた様なので作戦は概ね成功していると考えても良いだろう。

 

「だからって俺で試さないでくれ………」

 

「えぇ?別にいいじゃないの、私はオシャレに磨きが掛かって指揮官は眼福といった所でしょう?」

 

「こっちはドキドキし過ぎて心臓が口から出そうだよ!!普段から無自覚に色気を振りまいてる癖に………」

 

恨みがましい目でこちらを睨む指揮官だけど、その視線は私のニットワンピースにあるサイドスリットに注がれているので怖くとも何ともない。

しかし、数年間も共に傍で戦い続ける指揮官がこんな風になるのは少し予想外だった。

………でも少しからかうのが楽しくなってきた。

 

「なぁに指揮官?そんなに私に視線を送ると熱くなりそうだわ♪」

 

「うわっ!?服のベルトを緩めるな!!スリットを広げようとするな!!」

 

ワザと中が見えそうになるようにスリットを広げると指揮官は口ではそう言いながら視線が集中するのが分かる。

 

「フフッ♪このまま指揮官に中も見せちゃおうかしら?」

 

「ッ!?…ゴクリッ」

 

唇を舌で軽くなぞりながらそう言うと指揮官は大きく生唾を飲み込む音を立てた。

鼻息も粗くなっているし、凄く興奮状態なのだろう。

 

 

 

それじゃあ………トドメを刺しておきましょうか♪

 

 

 

「良いわよ?指揮官ならね?それに私だって幸せを感じてみたいもの」

 

「……いい…のか…?」

 

 

 

前世の自分が伴侶も得ず、子供を授からずに親不孝な事をしていた事を今この身体になってからも後悔していた私は………ここまで追い詰めた指揮官を最後の罠にかける。

それに異性に対して少々ヘタレではあるけれど指揮官の事は好きだし、最初期から居るのに他の娘達に盗られるのは嫌。

その前に自分で頂いて家族という幸せの形を描いてみたいのだ。

 

前々から指揮官からの好意的な雰囲気は感じているし、ここまでお膳立てすれば………

 

「プリンツ!!」

 

「あぁん♪そんなにがっつかないの♪私は逃げないわ♪」

 

ほら♪食い付いた♪

 

そして、釣り針に深く喰い込んで貰うわ………

 

 

 

「指揮官?結婚しましょう?」

 

 

 

この言葉に指揮官は何度も頷いて私の唇を激しく奪う。

そんな指揮官が愛おしく感じて両手で彼を抱き締めた。

 

 

 

次は………料理でも勉強して依存させちゃおうかしら?

 

 

 

 





依存させる系女子とかいかがでしょうか?

今回は文字数少ないですが、やってみたい事を詰め込めたので満足です。

アニメのプリンツ・オイゲンを見た時になんだこの色気マシマシな娘は………と驚愕しておりました。

アプリでもなかなかの色っぽさでしたが、動くとなおエロい!

そんなプリンツ・オイゲンは私の母港では最初の前衛SSRで今なお第1艦隊の最前列にいる程思い入れがあります。

皆さんにも思い入れのある娘は多いと思いますが、特にこの娘はという娘はいるでしょうか?

ではまた次の更新でお会いしましょう。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

如何なる時も優雅に………指揮官様?あの……それは………


いつ如何なる時も優雅たれ

栄えあるロイヤルネイビーの戦艦ならば必ず言われるこの言葉。

紅茶を嗜み、慌てず騒がず冷静に余裕をもって行動する。

それが私達の………私のモットーだった筈なのですが………




「………あの、指揮官様?」

 

「なんだフッド?何か問題か?」

 

「い、いえ………ですが……うぅ………」

 

「どうしたんだフッド、いつもの君らしくもない」

 

執務室のソファーにていつもの昼下がりのティータイムのはずなのに会話が続かない。

指揮官様も言葉に詰まる私を心配するように声をかけて下さるけれども………

 

 

 

「やはりおかしいですわ!何故私は指揮官様の膝の上で紅茶を頂いておりますの!?」

 

 

 

羞恥で顔から火が吹き出そうになりながら指揮官様にそう抗議する。

しかし、指揮官様は左手を私のお腹に回して抱き締めながら右手で紅茶を飲んでポツリと耳元で一言。

 

「フッドは良い香りがするなぁ」

 

「ッ!?そのような事をされると恥ずかしいですわ……」

 

非常に男性的なゾクゾクとするような低いバリトンボイスで囁かれるとどうしても腰砕けになってしまう。

自身の香りを直に嗅がれるという羞恥も合わさって今日はもう散々な日。

 

どうしてこうなってしまったのか………

 

羞恥のあまり彷徨う視線を右手に持ったままの紅茶を覗き込むように固定してそう思う。

 

あれは何がきっかけだったのか………

 

それはほんの30分ほど前の出来事の些細なことだったように思えた。

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

「指揮官様、こちらの書類の確認をお願い致します」

 

「ああ、ありがとうフッド。確認させてもらおうか」

 

昼食も終わり、午後の執務を始めてようやく確認作業を残すのみとなった昼下がりの時間。

時計を見ると午後の3時に差し掛かろうかという時間に、指揮官様と私ことロイヤルのアドミラル級巡洋戦艦フッドはゆったりと余裕を持って仕事を終わらせておりました。

 

書類の山を朝から崩しつつ、皆の割り振られた仕事や遠征と演習の組み合わせの発表などもこなしてようやく終わりの見えた仕事についつい気が抜けてしまいそうではある。

しかし私はロイヤルネイビーの栄光を背負う戦艦フッド、この程度の仕事で気を緩める訳にはいかないのです。

 

「そろそろベルファストがお茶を持ってきてくれる時間だな………フッドが一緒に執務をしてくれると仕事が捗るよ」

 

「いいえ、指揮官様の執務の効率が上がっている成長こそがこの結果を導いているのですよ」

 

「そうかな?フッドにそう太鼓判を押されるならそうかもな」

 

指揮官に微笑みながらそう言うと彼もまるで太陽のように明るい笑顔で答えてくれた。

黒髪に青い瞳を持つ男性らしいワイルドな顔立ちをした指揮官が笑う瞬間を見ながら、おそらくベルファストが見ると見惚れながらも仕事をするのだろうなと思わず苦笑する。

 

しかし、私にはそれは効かない。

 

何故なら私は………前世が男性だったから。

 

前世の成人男性としての記憶という特級の秘密を持っている私はこの世界に生まれた瞬間に、ロイヤルネイビーとしての自分自身を無理矢理植え付けられた。

前とは違う風習に習慣、男性と女性との感性のギャップに鉄の船の頃からもたらされる誇りと栄光。

 

全てが初めてであり既知であり、そして不安の塊だった。

 

こんな自分がロイヤルネイビーを代表する戦艦の1隻で良いのだろうか?

建造されてすぐにロイヤルの代表である陛下 クイーン・エリザベス様にロイヤルネイビーの栄光を他に示す存在となるように言われてしまったが為に降りられなくなってしまった重圧。

その全ての不安が私の肩に掛かる事で他者との関わりに1つ壁を取り、何に関しても思考と策略を廻らしながら話すといった三枚舌染みた事を毎日のように行っていました。

 

でも、それはこの指揮官様に出逢う前までの話。

 

新設された母港に新気鋭の指揮官、そのコネを作るために会話をすると一言。

 

 

 

「なぁフッド、なんでそんなに回りくどく話すんだ?もっと気軽に話さないか?仲間だろ?」

 

 

 

あっさりと懐に入られて手を差し出し笑いながらそう言われた。

その毒気を抜かれる行為に目を白黒させているといつの間にか私はこの指揮官所属の戦艦として母港に配属される事となったのです。

 

陛下からも

 

「そうね、その指揮官がロイヤルの利益になると言っているならフッドがそこにいるのは仕方ないわね」

 

と外堀まで埋めてきたのだ。

正直、何がなんなのかまるで分からないうちにトントン拍子に決まって反対意見を出そうとすると

 

「フッド、君があそこに居るとたぶん壊れる。無理し過ぎだよ………うちでその張り詰めたの緩めて過ごしなよ」

 

そう見透かされるように言われてどこかホッとした私はそれ以上何も言わなかった。

 

それから共に戦い、苦楽を分かち合うように過ごした数年間。

不安定としか言えなかった母港の運用は安定して拡張を続けられるようになり、数人しか居なかったKAN-SENは数百人に増えたアズールレーンを代表する母港となった今。

こうして安全な海を護る充実した毎日を優雅に行える事が何よりの達成感を感じさせている。

 

それもこれもあの時に指揮官様が私を引き留めてくれたおかげ。

 

でも少し困った事が………

 

「アフタヌーンティーでございますご主人様、フッド様。………今日も仲睦まじい御様子でこのベルファストも嬉しく感じます」

 

「そう見えるかな?フッド、ベルファストも嬉しい事を言ってくれるじゃないかい?」

 

「またそのような戯れ事を………」

 

ベルファストが微笑みながら流れるような手馴れた動作で紅茶を入れてからかってくる。

指揮官様も満更な様子ではなく、執務室には2つもソファーがあるのに私の隣に座って笑顔を見せた。

そんな2人に私はどうすれば良いのか分からずに眉を潜めてしまう。

 

ここ数ヶ月間、指揮官様からのアプローチが何度もあり周りもそれが当たり前のように見ているという事。

 

確かに指揮官様と一緒にこの母港を盛り上げていく上で長く側で過ごしていたのは私なのですが………戦線が落ち着いたこの時期を狙っていたのかのようにアプローチが続いているのです。

 

「今日もフッドはつれないなぁ………どう思うベルファスト?」

 

「そんな様子も含めてフッド様でありましょう。そこからはご主人様の言葉次第………準備が終わりましたのでこれで」

 

余計な一言を言って一礼し退出するベルファストに恨みがましい視線を送るも涼しげに躱されてしまって仕方なく紅茶を飲む。

入れたのがメイド長たるベルファストなので非の打ち所がまるで無い紅茶の味に思わずため息が出てしまった。

 

「フッドがため息なんて珍しいじゃないか」

 

「いったいどなた達のせいですかね」

 

からかうように言う指揮官に若干淑女的ではないが、皮肉を言うけれどもスルリと躱されてしまってまたため息が出る。

そんな私をニコニコしながら見ている指揮官はとても紳士とは言い難いですね。

 

「いや、すまないフッド。君が膨れる様子がとても可愛くてついついやり過ぎてしまったよ」

 

「かわっ!?ゴホン、レディに対して可愛いというのは失礼ですわよ指揮官様?」

 

「ああ、それは済まなかったよフッド………でも本当に可愛いと感じたんだよ許してくれ」

 

「もう、そうやってまた私をからかいになる」

 

歯の浮くような言葉を次々と出す指揮官様に聞いているこっちが恥ずかしくなる。

指揮官様はサディアの方ではないはずなのにどうしてこんなにも私を口説きにかかるのか………

 

だからだろうか?

 

「はぁ、指揮官様はいつもそうやって女性を口説かれるのですか?」

 

こんな不躾な事を聞いてしまったのは。

 

あまりにも失礼な事を言ってしまって後で後悔してしまう。

これでは指揮官様の気分も悪くなるし、何よりロイヤルの淑女としてとても相応しくない。

気まずい気持ちになりながら指揮官様の顔を窺うと先程と変わらずニコニコしたままでこちらを見ていた。

 

「あの………指揮官様?」

 

「うん?どうした?」

 

恐る恐る声をかけてみると返事は返してくれる。

怒ってはいないし、機嫌を損ねた訳でもないようで少しホッとした。

あまりの失言に動揺してしまう自分を落ち着ける為に紅茶を飲む事で仕切り直しを図る。

すると指揮官様が

 

「でもそうだなぁ………やっぱりそう見えるかな?俺はフッドだけにしかこんな事を言ってないんだけどね」

 

「ッ!?ケホッケホッ!」

 

いきなりの不意打ちでそんな事を言ってきた。

お陰様で飲んでいた紅茶を危うく吹き出しそうになってしまう。

ここでなんとか耐えれて本当に良かった。

淑女どころか女性として終わってしまうところでしたよ。

 

「大丈夫かフッド?」

 

「どなたのせいだと………」

 

心配そうにこちらを見る指揮官様に思わず当たりたくなるが、ここはグッと我慢する。

それよりも聞きたい事ができた。

 

「あの、私だけにこのような言葉を掛けているというのは本当にでしょうか?」

 

「そうだぞ?俺はフッド以外にこんな事言った事無いな」

 

これ程に多く集まったKAN-SEN達の中で私だけを口説いているなんて正直信じられない。

人数が多ければその分だけ多様化した美女・美少女達が集まるこの母港で指揮官様の感性に合う娘が居るだろうとは思っていましたが………それが私?

 

いやいやいやいや、そんなはずは無い。

 

指揮官様はよく駆逐艦の子達を膝に乗せて紅茶を飲む事があるので影でそういう趣味があるのでは?と噂になっているほどなのだから。

せっかくの機会なので聞いてみましょう。

ここまでくれば怖いものは無いですし、普段からからかわれている分のお返しとかは考えておりませんので。

 

「ならお聞きしますけれど、駆逐艦の子達をよく膝に乗せて紅茶を飲まれますが………そういう趣味がお有りなのでは?」

 

「ああ、あれか、言ってなかったかな?俺には4人の妹がいるんだけど、よく妹達の面倒を見ながら膝に乗せて紅茶を飲んでてな?なんだか駆逐艦の子達を見てたら無意識にそれをやってしまってなぁ」

 

普通に理由付きで返された。

このフッド、地位的によく嘘をつく人間等を見るのでだいたい嘘つく瞬間が分かるという特技があるのですが………指揮官様が嘘をついているようには見えません。

それどころか懐かしさを感じているようにも見受けられます。

 

つまりは駆逐艦の子達を妹のように見ているだけ?

 

アーク・ロイヤルのような異常性癖を拗らせている訳では無い?

 

疑いの眼差しで指揮官様を見つめると何を思ったのか指揮官様は

 

 

 

「もしかして………膝の上に乗ってみたかったのか?それなら言ってくれれば良かったのに」

 

「えっ?」

 

 

 

そう言って膝をポンポンと叩いて乗るように促してきた。

予想の範疇を越えてきた現状に思考がショートしそうになるけれど、少し考えてみる。

もし指揮官様にアーク・ロイヤルのような異常性癖が無いのであれば私を膝の上に乗せれば男性的な反応や口説く行為があるのでないかと。

 

そう、これは駆逐艦の子達を守る為の確認作業なのだ。

 

 

 

「………過去の自分を砲撃したいですわ」

 

 

 

本当に30分前の自分の選択をもう一度検討すれば良い程の後悔。

紅茶などすでに冷えてしまっているのにベルファストが来ない所をみるとたぶん余計なお節介を焼かれているのだろう。

 

「俺はこうしているだけで幸せなんだけどなぁ」

 

「ひゃんっ!?急に抱き寄せないでください………それでなくとも恥ずかしいのに………」

 

指揮官様の膝の上に座ること30分、もはや借りてきた猫のように縮こまる私を満足そうに抱き締めるこの方は本当に私を求めているように見える。

長く座っているので負担が無いか聞くと

 

「フッドがご飯食べてるか心配になるくらい軽いから大丈夫大丈夫、それにこの幸せを長く感じたいんだよ」

 

と満面の笑みで言い切られてしまうとこちらからは何も言えない。

というか普段見た事が無い程に指揮官様の笑顔がとても眩しいですわ………

 

「指揮官様………そろそろ降ろして頂けませんでしょうか?」

 

これだけ堪能されたのならもう降りても大丈夫なのではないのかという一縷の望みをかけて聞いてみると

 

「もう少しだけ………この幸福感をまだ味わっていたいんだ」

 

「うぅ……」

 

抱き締める力を少し強めて引き寄せながら耳元でそう言う指揮官様の男性らしい低い声にやはり腰が抜けそうになるほど力が抜ける。

このままでは夕食の時間まで膝の上に座り続ける事になりそうで、感じている羞恥心とよく分からない込み上げてくる"ナニか"に自分の理性が耐えられるのか不安になってきた。

 

特にこの"ナニか"は私のアイデンティティを揺るがしそうになるような気がして必死に抑えつけているものの、指揮官様の声を直に聞く度に理性の壁を勢いよく崩そうとしているのが苦しくて堪らない。

いったいこの感覚は何なのかが検討が付かずに必死に耐えていると………

 

指揮官様が急に両手で私を抱き締めて耳元でハッキリと

 

「フッド、好きだ」

 

愛を囁いてきた。

 

突然の告白に硬直していると指揮官様は更に言葉を続ける。

 

「初めて出会ったあの日に無理して話す君を見て助けたくなった。でも、ここで一緒に過ごしていると明るくなっていく君を見て………俺は君が好きになったんだ」

 

ゾクゾクと背筋が震える。

指揮官様の熱い思いが私の"ナニか"を震わせる。

 

「それなのに君はいつもつれなくて………俺はフッドの事が好きで好きで堪らないのに冗談だって思われて………」

 

気が付けばその男性的な大きな腕に身を任せて指揮官様の告白に耳を傾けている自分がいる。

 

「だから今ここでハッキリと言うよ」

 

早くその言葉を聞かせて欲しいと願う自分を止められない。

 

「フッド、俺は君が欲しい。君に俺の伴侶となって貰いたいんだ」

 

静かにしかし、伝わる熱はそのままに私の耳を焼くように入って心臓を大きく震わせる。

今の私の顔は誰にも見せられないだろう。

なぜなら伝わってきた熱ですでに侵されているからだ。

 

「フッド、今日ばかりは返事を聞くまで逃がさないよ?その為にベルファスト達にも協力して貰ってこの執務室の周囲には誰も来ないようにしてもらってるんだ………だから教えてくれ、俺の一世一代の告白の結果を」

 

暴走したかのように跳ねる心臓を抑えようとしても止まらずに指揮官様からは告白の答えを待たれる。

私はいったいどうしてしまったのでしょうか?

 

「わ、私…は……」

 

いつもならすぐに断っているはずの言葉が出てこない。

 

真剣に伝えられた言葉に震える心が抑えられない。

 

何故?

 

私は元々は男性で………でも今は彼の言う女性として生きている………

 

 

 

「………あ」

 

 

 

そこまで考えて急にストンと理解できた。

元々は男性であったけれども、今は女性としてすでに生きている………

それを………自分が女性として生きていこうと気が付かせてくれた魅力的な男性に自分がすでに堕ちていて、一生懸命に気が付かないフリをしていただけだったのだと。

 

「これは………淑女失格ですわね」

 

「フッド?」

 

不意に笑う私に心配そうな指揮官様の声が聞こえる。

 

そんなに心配そうな声を出さなくても大丈夫ですよ?

 

だって………

 

 

 

「ふふ、そんなに緊張したご様子ですとレディには心が伝わりませんよ指揮官様?………ですがあなた様の心ならちゃんと私に伝わりましたわ……フッドは、喜んでお受けいたします。」

 

 

 

心からの笑顔でそう答えるのは決まっていますもの。

 

 

 

 

 





フッドさんはチョロインっぽい気がしたのです。

そして何故か長くなりました………

フッドさんは意中の相手でも普段は飄々としてそうですが、真剣に想いを伝えるとオロオロしつつも受け入れそうな雰囲気がありますよね?

さて感想返し………

誤字報告ありがとうございました〜

なんで気が付かなかったんでしょうかね?

何度も見直してるはずなんですが………

長島さんはうちの第2艦隊の周回専用艦隊のレギュラーですよー

あの燃費と攻撃の回転率が良くてビーコン乗っけて良く金図やパーツ取りに出てます〜

………働き方改革を言われないよね?

それではまた次回に


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

指揮官よ、少し力を抜くのはどうか?


古き良き時代は過ぎ去りし日々の思い出。

これからは新しき風こそが時代を築くと想いを馳せる。

それでも古き時代の良き事を伝えていく事は大事なことだ。

古い時代を伝え聞くのだからといって今の貴方がそれを継ごうと慌てる必要は無い。

だからそんなに焦らなくてもいいよ?

古いだけの私でも、貴方を支えて導く事くらいはできるのだから




「あの、三笠さん?」

 

「む?どうした?」

 

窓の外にある紅葉を見ながら徳利に入った熱燗を指揮官と互いにお猪口で飲み交わす。

座敷にも見える和の調和が織り成す部屋で、何とも風情のある状況に水を刺すような声色でこちらに声を掛ける指揮官に少々不満気な声が出るのは仕方がない。

指揮官の方を見ながらお猪口のお酒を一息で飲むと

 

「これ………本当に良いんですかね?」

 

「何を気にしておる!これで良いのだよまったく……ほら、指揮官もグイッと」

 

「えぇ………まぁ1杯くらいなら………あ、美味しい」

 

不安げな指揮官に喝を入れる。

昼間から飲むお酒もまた美味である事を確認しながら指揮官に促すと一息で飲んでしまった。

なかなかの飲みっぷりに感心しつつ、空いたお猪口に更に酒を追加で入れるとカパカパと飲み始めたではないか。

 

「ふむ、指揮官は酒豪の気があるな?今日くらいは遠慮せずにドンドン飲むと良い」

 

「こうなりゃヤケだ!飲めるまで飲んでやる!!………本当にありがとうございます三笠さん。ささ、三笠さんももう一杯」

 

「ああ、頂こう」

 

指揮官もノッてきたところで互いに酌をしながらもう一杯。

とりあえず、指揮官が吹っ切れたようでなによりだ。

 

まさか指揮官が休みを取らず、連続で勤務を続けていたなんて………

 

指揮官に甘い赤城や大鳳では止められず、天城や神通が策を巡らしてもそれを乗り越えて仕事をするのは流石に呆れて何も言えなかった。

なので仕方なく実力行使で我が重桜が誇る専用の旅館をまるごと貸切にして指揮官をそこに連れてきたのだ。

 

「良い具合になってきたな………どれ、おつまみの1つ作ってやろう」

 

「え?三笠さんって料理出来たんですか!?」

 

「何故そんなに驚く事がある?料理なぞ出来なくては女子として恥ずかしいではないか」

 

「いや、料理は他の人に任せてるような勝手なイメージがあって………」

 

指揮官に失礼な事を言われてフンっと鼻を鳴らして厨房へ向かう。

だいたい何年前からこの世界に生まれ、船の時代も含めればどれ程の時を生きていたと思っているのか。

おつまみ1つとは言ったがそれ以上に作って指揮官の鼻を明かしてやろう。

 

そんな決意を胸に上着を脱いで割烹着を身に付けると三角巾で髪を覆って調理を開始するのだった。

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

我は敷島型弩級戦艦三笠である。

 

そして、男性だった記憶を持つ転生者でもある。

 

とは言うものの、女性としてこの世界に生まれての年数がすでに前世を越えてしまって自分が男性であった事を忘れてしまいそうになる。

第一次セイレーン大戦の頃に生まれた我は重桜の誇る弩級戦艦としてひたすら戦場を駆け抜けた。

 

自分の現状に理解し納得するより先に敵であるセイレーンを撃たねば人類は絶滅する。

そんな現実の中で戦い続けて姉妹の中でも特別強いわけではなかったものの、船としての経験が指揮を取れるだけの能力を与えてくれていたので自然と旗艦として最前線に立っていた。

 

 

 

「世界の興廃はこの一戦にあり!各員、一層奮励努力せよ!!」

 

 

 

セイレーンの本拠地であるといわれた場所に攻勢をかける時に集結した聯合艦隊における檄を飛ばす総旗艦としての有名だと言われるこの言葉。

度重なる激戦の中で聯合艦隊の旗艦に抜擢されて、最後になるかもしれない戦いにおいて相応しい言葉だったと自負している。

 

若気の至りというか男性的な部分が思わず口を滑らせたといっても過言では無い状況に自分は酔いしれており、また後に後悔をする結果を残すこととなった。

戦争は勝利で幕を閉じて晴れて我は英雄、軍神として重桜の地に凱旋する事となったのだが………

 

「や、大和撫子ぉ?我が…?」

 

前世の記憶のままの常識で表彰や晩餐会に出席しようとして、姉である敷島姉様を含む姉妹達に国を代表する弩級戦艦として大和撫子足るべしと教育(洗脳)される事に………

 

この世界は自分の記憶に当て嵌めてみればすぐ分かるようにセイレーン大戦は日露戦争と第一次世界大戦に当たるものであり、その時代の重桜………つまり日本は大正時代。

男尊女卑の考えがまだまだ続く夫を立てる良き妻こそが尊ばれる世の中であった。

 

「料理のさしすせそ?効率の良い掃除の仕方?殿方との関わり方に女性としての立ち振る舞い方ぁ?無理ですよ敷島姉さ………はい、やります……」

 

あの檄を言ったからこそ知名度が上がり様々な式典に呼ばれる事となるのは必至。

故に敷島姉様はどこに出しても恥ずかしくない淑女………大和撫子として終戦後に我を1から育て上げたのである。

まぁ、あのような檄を飛ばすのを見て無事に嫁入り出来るのか心配になったのも原因だとも言っていたのだけれども………

 

「おっと、考え過ぎて焦がすところであった」

 

簡単に作れるおつまみの牛肉の佃煮。

醤油、酒、みりんと砂糖で作った汁に切り落としの牛肉を汁が無くなるまで煮込んだ物に刻んだ生姜を乗せるだけの簡単なおつまみだ。

簡単であるが故に作り手の腕が出やすくもあるので指揮官が満足してくれる味になっているのか心配だが、熱燗を飲んでいるから少し濃い目の味が丁度良いだろう。

 

「これを先に持って行って繋ぎとして出しておれば本命のこちらを作るだけの時間ができるな」

 

すでに下拵えを終えたブリと大根。

こちらも醤油、みりん、酒、砂糖でできる簡単な料理だが、煮込む時間を長くして出来るだけ味を染み渡らせたい我としては少し時間を取りたい。

 

「さて、指揮官は出来上がっている頃合かな?」

 

器に牛肉の佃煮を盛り付け、それをお盆に乗せて指揮官の居る居室へと戻る。

 

「あ、みかささんだぁ〜」

 

「これは………少し予想外だったな」

 

転がる数本の徳利と酒瓶に顔を赤らめた指揮官が若干回らぬ舌で話すのを見て自身の失敗を悟る。

前から酒は好きだと聞いていたが、ここまで出来上がってしまう程に飲兵衛だったという事は知らなかった。

 

「まぁ良い、ほれ指揮官よ。酒に合うおつまみを拵えて来たぞ?酒の肴に食すと良い」

 

「ありがとうぉございますぅみかささん〜………あぁ、おいしいですよぉ〜」

 

「それは良かった。もう1品作ってくるのでしばしそれをアテに待っていると良い」

 

「はぁ〜い、まってますよぉ〜」

 

「………酔い潰れるのが先かもしれんな」

 

完全な酔っ払いと化してしまった指揮官に苦笑しつつ、初めて見る様子にここに連れてきて良かったと思う。

こんな指揮官を見たのは我が初めてだろう。

いつも気を張って艦隊指揮を行う彼にだってこういう時間があっても良いはずだ。

 

「ふふっ♪可愛い所もあるものだ」

 

腕によりをかけて作る料理を食べてくれるであろう瞬間に思いを馳せつつ、厨房へ戻る我だったのだけれども………

 

 

 

「………まぁ、こうなるな」

 

「すぅ〜………か〜………」

 

 

 

ブリ大根が出来上がった頃には完全に眠ってしまっていた。

それを見咎めるつもりは無い。

休みなく皆の為に苦心しながら艦隊指揮を行う指揮官の休日を誰が咎められるというのか。

 

「このままではいかんな………ふむ」

 

予想より早く指揮官が眠ってしまっていたので布団を敷く時間が無かった。

指揮官の頭を畳の上に置きっぱなしというのも寝違いをしてしまったりする原因にもなるので、そのままに出来ない。

 

「なら………し、しょうがないなぁ」

 

指揮官の近くに正座してその膝の上に彼の頭を乗せる。

枕が無ければ自分の膝を枕にしてしまえば良い。

代償としては少し照れくさい事だろうか?

 

「いつもお疲れ様。貴方のお陰で後輩達は皆いつも健やかで笑顔に満ちているよ」

 

意識の無い指揮官の頭を撫でながら素の自分に戻って話す。

自然と頬が綻ぶがいつも頑張っている彼があどけなく寝顔を私に晒している為に仕方がないし、この瞬間が堪らなく愛おしく思う。

 

全力で頑張っている指揮官や後輩達の姿を見て、時代が移っていく様を自身の目でしっかりと刻んでいく。

自分達の時代が終わり、新しい風が吹くこの瞬間に立ち合える私はなんと幸運なのだろうかと。

 

だから、生き急ぐように全力全開で日々を戦う彼にこう言いたい。

 

「焦らなくてもいいよ?貴方は本当に良く頑張ってる。だから今は古いだけの私に身を任せてお休みなさい」

 

男性らしい固い髪を撫でつけながら彼の寝顔をその目に焼き付ける。

休息を摂ることは明日への活力となる。

今日が終わればまた、彼は艦隊指揮に戻るのだろう。

 

ならばまた、私も彼が無茶をしないように支えるのみ。

 

自慢の後輩達はこの指揮官を止められない。

私はその役目を………指揮官に休息を取らせ日々の戦いに繋げる活力を補充する役割を担おう。

 

 

 

「ああ、この感情………貴方を愛おしく思っていますよ指揮官?」

 

 

 

もうすぐ夜の闇がやってくる。

 

 

 

………少しだけ、私にも役得を………指揮官を休ませる役割への報酬を貰おう。

 

 

 

全ては包み隠す夜の闇の中で………

 

 

 

 





という訳で三笠大先輩でした。

普段はカッコイイ大先輩、でも本当は大正ロマンで古風なお姉さん。

私はこんな三笠大先輩大好きです。

さて、更新が遅れて申し訳ありませんでした。

インフルと肺炎のコンビネーションで入院していたので更新遅れました。

皆も予防接種でこんなに酷くならない様に気を付けよう!!

さて感想返しです。

フッドさんが可愛いく見えた?

元々綺麗で可愛いですよー!!

そして流行れ!アズレンTSFの輪!!

何回も読んでくれてる人もありがとー!!

それじゃまた次回に!!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

指揮官君、貴方だけの特別授業よ?


戦いに必要な知識は教えられます。

でもこんな気持ちはよく分かりません。

指揮官、貴方はどうですか?

私のこの気持ちをどうか教えてください。




「あ、あの…指揮官君?」

 

「な、何?レンジャー?」

 

月明かりのみが照らす夜の教室で机の上で頬を赤く染めた指揮官君に押し倒される格好で彼の瞳を見つめる。

心臓の高鳴りが指揮官君に聞こえるのではないかとさらに心配になるけれど、それよりも互いの吐息が感じられるほど近い顔が私の心を掻き乱す。

 

「スゴく……ドキドキしてます」

 

「自分も…です、レンジャー………」

 

言葉が出なくなる。

でも気まずくなるような感じはしなくて、逆にもっと感じたいと思えるような………まるで言葉に出来ない。

 

こんなにも胸が苦しくて、切なくて………でももっと続いて欲しいと感じるこの時間。

指揮官君と共有できるこの時間がすごく嬉しくて。

 

 

 

「私を………貰って?」

 

「ッ!?レンジャー!!」

 

 

 

生徒と教師の関係ではなく、ただの男女として一つとなる。

これが許される事ではないのは分かっていても、心がそれを分かってくれない。

一夜だけの関係になるであろうこの瞬間を………ただ忘れないでいよう。

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

「今日で貴方との特別授業も終わりね?指揮官候補生君………いいえ、指揮官君?」

 

「本当に今までありがとうございましたレンジャー先生」

 

それはとても手のかかる指揮官候補生君との最後の日。

彼は今まで教えてきた候補生達の中でも成績は落ちこぼれ。

でも人一倍努力を重ねてきた頑張り屋さんだった。

 

周りの候補生からは心無い言葉で傷付けられる事が多かった彼は、1人で泣きながら私に教えを乞いに来ていたのを今でも思い出す。

 

「レンジャー先生………もっと教えて下さい!俺、アイツらに負けたくないです!!」

 

「分かったわ。なら………特別授業をしましょう」

 

「いい…んですか?」

 

「ええ、頑張り屋さんな君になら私も特別授業してあげるわ」

 

それは涙と鼻水でグチャグチャになった顔で私を見る彼が前世の自分と重なって見えたから出た言葉だった。

 

前世の自分は教師からは落ちこぼれと言われて、皆の居る教室の一番後ろに一つだけ置かれた机に座らされていたのを覚えている。

男ながらに体力テスト最下位の女子にも負ける程に運動もできず、勉強もできず、他の生徒からもバカにされる程の劣等生。

 

当時の私は落ちこぼれと言われても笑って誤魔化して、授業中もふざけて間違えて答えたりする事でその場凌ぎを続けていた。

 

それも受験生となるまでは。

 

絶対に合格は無いと言われた私は教師や皆を見返す為に必死に勉強した。

分からない所を諦められている教師に頼れない為、近所に住む昔家庭教師をしていたという駄菓子屋のおばさんに聞きながらの勉学を励んだ。

 

毎日のように勉学を教わりに通う駄菓子屋のおばさんに迷惑では無いのか聞いてみると

 

「こんなに必死な頑張り屋さんの為なら特別授業だってしてあげるよ」

 

と飴をくれながら笑顔で答えてくれた。

 

そして、そんな特別授業を受け続けた落ちこぼれと言われた私は………見事に志望校に合格を果たしたのだった。

 

そんな記憶があるからこそ、彼に肩入れしてしまった自分がいた。

あの時とは違い、自分には船としての経験が教師としての力を与えてくれていたので教える事には申し分ない。

あの時私を助けてくれた人が言ったように、頑張り屋さんの為なら特別授業でもなんでもしてあげて助けたいんだと。

 

「俺、頑張ります!絶対アイツらに負けません!絶対、絶対です!!」

 

「私も貴方を立派な指揮官となるように教導します。一緒に頑張りましょうね?」

 

「はい!」

 

そんな形で始まった特別授業。

休日でも彼は休まず授業を受け続けて私とワンツーマンで勉学に励む。

そんな彼に息抜きの為に授業が終わった後、私が計画したお出掛けプランに沿って一緒にお出掛けして楽しく過ごす。

 

息抜きは指揮官君だけでなく、私の事も含めての2人だけの秘密。

生徒と教師という関係を忘れて互いに日常を楽しむ夢のような時間。

それは辛い時もあったけれど、笑顔が絶えない充実した毎日に………いいえ、それ以上に幸福な毎日を謳歌し続ける事ができる夢のような時間だった。

そして、そんな毎日の中で最初は男友達として見ていたのに彼に惹かれていく自分がいて………

 

でも、そんな時間はあっという間に過ぎ去り………

 

指揮官候補生君が正式に任官する卒業という日を迎える事となった。

 

「レンジャー先生のお陰で指揮官として任官出来るようになりました。本当にありがとうございます」

 

「それもこれも貴方が努力をやめない頑張り屋さんだったからよ?本当に成長したわね………」

 

誰も居ない教室で指揮官としての軍装に身を包んで立派に成長した彼の右手には、配属先を報せる辞令を入れた封筒が握られている。

 

あの夢のような時間は終わったのだ。

 

これから彼は艦隊指揮を行う指揮官として赴任先の母港で腕を振るう事となる。

そして私はこの学園で新たな指揮官候補生達に授業を続ける毎日が始まるのだ。

 

だからだろうか?

 

 

 

「………今日の夜ここに来て?」

 

「レンジャー先生?」

 

 

 

こんな誘いをかけてしまったのは………

 

困惑する彼をそのままに私は教室を去る。

彼が来てくれるかなんて分からない。

返事すら聞かずに出て行った私には彼の顔なんて見れなかったから………

 

 

 

「レンジャー先生………え?」

 

「来て……くれたのね?」

 

 

 

月明かりだけが照らす誰も居ない教室の机に座って………いいえ、彼がいつも座っていた席の机に座って待っていると彼は来てくれた。

彼は私を見ると生唾を飲み込む。

それもそのはず、私はいつもキッチリと閉めている上着やシャツのボタンを外して自分の豊満と言わざるおえないバストが、ボタンを外した所からこぼれ落ちそうにしているのだから。

 

男性ばかりの寮生活をしていた彼にはとても刺激が強いはず。

その証拠に彼は頬を赤く染めて固まってしまっている様子が見て取れる。

 

「せ、先生…あの……」

 

「指揮官君……こっちに来てくれるかしら?」

 

目のやり場に困っている指揮官君をこちらに呼ぶ。

机の上に座っている状態で片膝を立てると丈の短いスカートの中が見えそうになるのを自覚する。

でも、それでいい。

彼の視線を少しでも釘付けにしてしまいたい。

これは私の一世一代の瞬間なのだから………

 

「先生これは……いったい………」

 

「お出掛けの時みたいに私を呼んでくれないかしら?」

 

「えっ…と……レ、レンジャー?」

 

「うんうん、ありがとう指揮官君」

 

目の前までやってきた彼にお出掛けの時に、生徒と教師の間柄を隠すなんて建前で名前を呼ばせていた私はここぞとばかりに彼に私の名前を呼んでもらう。

 

ここから始まってそのまま終わりを告げる恋を、彼に覚えていてもらおう。

 

前世も含めて初めての恋。

 

身を焦がしそうになる感情を抑えて今日まで導いてきた彼への想いを………

 

一途に努力を続けるカッコイイ頑張り屋さんに教師としての役目を果たした私の隠していた想いを聞いてもらいたい。

 

 

 

「あのね?指揮官君………」

 

「レンジャー!俺、貴女が好きだ!!」

 

「………え?」

 

 

 

そのはち切れんばかりの想いを伝えようとした瞬間に、逆に彼から告白された………告白されたの!?

 

「え?あの?………えぇ!?」

 

「ずっと………好きでした!落ちこぼれだった俺を見捨てずに助けてくれて………俺の事を思って色んな所に連れて行ってくれて……そんな優しい貴女が大好きです!!」

 

困惑する私にいっぱいいっぱいといった様子で想いを伝える彼は自身の胸に手を当てる

 

「これで会えなくなるから言わない方が良いと思ってました………でも、ここに呼ばれて……決心したんです。絶対にこの想いを伝えようと」

 

「…………」

 

熱い想いが伝わる。

その眼差しに籠る熱は私を燃やし尽くさんばかりの想いを秘めていた。

 

ゆっくりとこちらに近づく指揮官君に私も想いを伝えよう。

 

指揮官君に先を越されてしまったけれど、本当は私が先に言うはずだったのだから。

 

「私も………貴方が好きよ指揮官君?貴方がカッコイイ頑張り屋さんだって事をずっと見てきた私は………貴方が惹かれています。大好きです」

 

「レンジャー………うわぁっ!?」

 

「きゃぁ!?」

 

想いを伝えた瞬間にすぐ近くまで来ていた指揮官君が転けて私を押し倒す。

机を背に彼の顔がとても近くて頭がクラクラする。

 

でも、この時間を終わらせたくない。

 

そんな想いで彼の背に自分の両手を回してもっと引き寄せる。

 

あぁ………もっとこんな風に早くなれたら………

 

 

 

熱い想いに身を任せて彼に言おう。

 

 

 

一夜の想い出を下さいと………

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

あれから数年が過ぎた。

 

互いに一つとなって想いを確かめたその日の朝に、彼は赴任先へと旅立って行った。

 

その赴任先で数々の戦果を挙げて海域の解放を成し遂げた英雄として讃えられているそうだ。

私はあの日の想い出を胸に今も指揮官候補生達を導く授業をしている。

あの時の彼のような勤勉な頑張り屋さんは残念ながら現れなかったけれど、あの夢のような時間をくれた彼のような人は1人でいいと思う。

 

授業を終えて誰も居なくなった教室で片付けをしていると閉まっている扉を誰かがノックしてきた。

 

「あら?誰かしら………開いてますよ?どうぞ?」

 

ノックされた扉を見ながらそう言うとゆっくりと扉を開けて、少将の階級章に沢山の勲章を付けた軍装を着た彼が入って来た。

 

「え?………夢じゃ……」

 

「いや、夢じゃないですよレンジャー?」

 

もう逢えないものだと思っていた彼がこちらに近いて私を抱き寄せながら夢では無いと教えてくれる。

最後の会ったあの日から更に背が伸びて男性的になった彼に包まれるように抱き寄せられる私は思わず固まってしまう。

そんな私に苦笑しながら彼は一つの箱を取り出して中を私に見せながら

 

 

 

「俺と、結婚してくれませんか?」

 

 

 

プロポーズをしてくれた。

ずっと想い続けてきたこの数年間、どうやらそれは彼も同じだったようで………

溢れる涙を隠さずに私は彼に答える。

 

 

 

「うぅ……生徒からこんな貴重なものを送られて、しかも嬉しくなっちゃうなんて……私、教師失格です………でも、私は貴方だけの特別授業をします。これからずっと………貴方の傍で………」

 

 

 

それを聞いた彼は笑顔でよろしくお願いしますと言ってキスをしてくれた。

 

 

 

これから始まる特別授業。

 

 

 

2人だけの秘密の特別授業なのです。

 

 

 





という訳でレンジャー先生でした!!

乙女チックなレンジャー先生と生徒のラブストーリーなんていかがでしょうか?

砂糖を大量生産したくなるような甘さに出来なかったのが心残りですね………

それでは感想返しです。

健康を心配してくれてありがとうございます〜!!

インフルと肺炎を併発すると陸で溺れるって貴重な体験ができて苦しいですよ〜!!

それではまた次回に


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

その手で抱きしめられるのなら………


戦いの中でしか生きる意味を表せない。

この両手がそれを示している。

血に塗られたこの両手が暖かさを知ることは無い。

でも貴方はそんな私の両手に触れてくれる。

その暖かさは私には勿体ないのに………




「任務完了、帰還するよ」

 

「この程度、物足りないわね………あの下等生物にもっと戦闘任務を持ってくるように言わないと」

 

赤々と燃え上がるセイレーンの傀儡艦隊を背に母港を目指す私こと装甲巡洋艦アドミラル・グラーフ・シュペーとドイッチュラントお姉ちゃん。

セイレーンが近海に現れたから掃討するように言われて向かったけど、駆逐艦や巡洋艦しかいなかったので私達だけですぐに終わってしまった。

 

任務完了の報告をするZ23ことニーミと警戒体制を取ったままのシャルンホルストとグナイゼナウ達の活躍の機会はなくて、私達姉妹だけで終わるのはお姉ちゃんの言う通り少し歯応えが無さ過ぎる。

船の頃の大戦の記憶からすれば前哨戦にもならない模擬戦のような簡単さに少し不安を覚えた。

 

「……ペー、シュペー!!」

 

「ッ!?ごめんお姉ちゃん………ボーッとしてた」

 

「もしかして調子が悪いの?なんでもっと早くあの下等生物に言わないの!編成から外して休ませたのに………」

 

「大丈夫、そういう訳じゃないから。お姉ちゃんも心配し過ぎ」

 

少し考え込み過ぎてボーッとしていてお姉ちゃんに呼ばれた事すら気が付かなかった。

普段の高飛車な態度から一変して本当に心配そうな顔をするお姉ちゃんに少し苦笑する。

身内にはとても優しいお姉ちゃんは指揮官の事を下等生物とか言ってるけど、本当は照れ隠しでそう言ってるだけなのは鉄血の皆の公然の秘密。

 

「本当に大丈夫なのね?………帰ったらすぐにヴェスタルの所に行って診てもらいなさい」

 

「うん、分かった」

 

「絶対よ?」

 

「皆さん!報告を終わりましたので帰還しましょう!」

 

念を推してくる心配性なお姉ちゃんに頷きながら答えていると、報告が終わったらしいニーミがこちらに寄ってくるのが見えた。

 

心配性なお姉ちゃんから解放されてようやく帰れるとホッとしていた………

 

 

 

ニーミの後ろで沈みながらも主砲をこちらに回すセイレーンの巡洋艦が見えるまでは

 

 

 

「シュペー!?」

 

「シュペーさん!?何をっ?!」

 

「ゔぁ゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙!!」

 

見る者に威圧感を与える血を思わせる真っ赤で巨大な艤装の両腕でニーミを包み込んで覆い隠すと、その瞬間にセイレーンの砲撃が私の両手を吹き飛ばした。

あまりの激痛に獣みたいな叫び声が出るけど、我慢して艤装の主砲をセイレーンに向けて発砲する。

 

「……う……あぁ…」

 

「シュペーさん!!」

 

「シュペー!!」

 

砲撃が命中したセイレーンはそのまま大爆発を起こして轟沈。

その瞬間を確認すると我慢していた痛みがぶり返してきた。

心配する2人に声をかけられるけれど、それより自分の腕を確認したい。

 

うん、腕は付いている。

 

「大丈夫………艤装が壊れただけ………」

 

「そんな……でも血が!」

 

「痩せ我慢なんてしないのシュペー!血だらけじゃないの!!」

 

「2人とも落ち着け!大丈夫かシュペー?ほら、両手を出してくれ」

 

大騒ぎする2人を宥めながら応急処置装置を持っているシャルンホルストが私を治療してグナイゼナウが母港に連絡してる。

無線越しに慌てる指揮官と今日の秘書艦だったグラーフ・ツェッペリンの声が聞こえてきた。

それを何処か他人事のように感じてシャルンホルストの応急処置を受けていると

 

少し…眠く……なった………

 

「……これでよしっと、ん?おいシュペー?シュペー!?」

 

「シュペーさん!?」

 

「ダメよシュペー!起きなさい!!」

 

気が付くと皆が覗き込んでいるのが分かる。

お姉ちゃんとニーミが涙を流しながら私を揺すっている感じがするけど身体が動かない。

 

あぁ……またお姉……ちゃんに迷惑………かけた…な……

 

必死に揺り起こそうとするお姉ちゃん達を見たのを最後に私の意識は、ほの暗い闇へと沈んでいくのだった。

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

私ことアドミラル・グラーフ・シュペーは転生者である。

 

前世の成人男性だった記憶と鉄の船だった前世の入り交じった特殊な転生者。

とはいうものの、人間だった頃から自分の意見を積極的に出せるような質ではなく、吹けば飛ぶような流され続けてきた人生を歩む影の薄い存在。

 

そんな存在が濃い大戦時の記憶と経験に殆どすり潰されて出来た精神が今の私だった。

 

どうせ戦うのであれば信頼のおける指揮官の下で今度は自爆して果てるのでは無く、味方を庇って敵の砲弾の浴びて沈めれば良いなと何処と無く考えていた。

新たに手に入れた身体でお姉ちゃんと一緒に着任した母港は暖かさが滲み出るような血に塗られた兵器である私なんかには勿体ない場所。

 

「ようこそシュペー、君の着任を歓迎するよ」

 

そう指揮官に言われて差し出された手を私は見つめて、握れなかった。

あまりにも暖かい雰囲気を放つ指揮官の手を私の手で握ってしまったら汚れてしまうのではないか?

そんな考えで躊躇していると

 

「あ、ごめん。いきなり馴れ馴れし過ぎたかな?」

 

苦笑いしながら手を引いて頭を掻く指揮官。

そして違う、そうじゃないという声を出す前に新たな任務を持ってきたニーミと一緒にまた仕事に戻る指揮官を私はただ見送る事しか出来なかった。

 

私は………どうすれば良いのか分からない。

 

その後の母港での生活は私に度々混乱を与えた。

戦う為に生まれたのにまるで人間のように生活する皆を見て

 

どうして笑えるの?

 

人間みたいに行動してるの?

 

私達は………殺す為の道具なのに………

 

次から次へとそんな疑問が湧き上がる。

 

指揮官も

 

「おはようシュペー、朝ご飯一緒に食べないか?」

 

「お?シュペーじゃないか。お散歩か?俺もたまには運動しなきゃな」

 

「助けてくれシュペー!このままだとヒッパーとニーミに書類浸けの生活を送らされてしまうぅぅ!!」

 

ことある事に私に絡んできた。

 

まるで私が人間のように見えているみたいに。

 

本当によく分からない。

私は兵器………KAN-SENという名前の戦う為の道具なのに何故そんなに話しかけてくるのか?

お姉ちゃんもそんな毎日を楽しそうにしている。

私には真似出来ないよ。

 

「指揮官はどうして私に話しかけるの?私は兵器だから話す必要は無い筈だよ?」

 

そう聞いたのがつい昨日の事。

指揮官はとても困った顔をしていたけれど、答えようとした所でヒッパーに捕まって執務室に連行されて行った。

そして私は理解不能のまま今日を迎える事に………

 

 

 

「ん………ここは………」

 

「ッ!?気が付きましたかシュペーちゃん!?」

 

 

 

目に入る光が眩しくて思わず呻き声を上げてしまうと、すぐ近くで私を覗き込むようにして診ていたヴェスタルが声をかけてきた。

どうやらここは母港の医務室のようだ。

 

「良かったぁ………あれから1日ずっと眠っていたんですよ?」

 

「そうなんだ」

 

「どこか痛い所はありませんか?」

 

「特に無いよ、大丈夫」

 

ヴェスタルによる問診と傷付いて包帯でグルグル巻きの腕を触診しながらの診察を受けて外を見るともう真っ暗だ。

こんな時間まで迷惑をかけるなんて申し訳ない。

 

「大丈夫だから部屋に戻るね?」

 

「え?シュペーちゃん!?まだ怪我が治ってませんよ?!」

 

「このくらい大丈夫。私は兵器だから」

 

「あ、ちょっと!?もうっ!ちゃんと治ってから………」

 

引き止めようとするヴェスタルにそれだけ言って医務室を後にする。

ヴェスタルが怒っているようだけれど別に沈む訳では無いので、戦闘継続出来る限りはこの程度の傷は損傷の内に入らない。

そして非常灯だけが照らす廊下を歩いて鉄血寮へ向かっていると

 

「シュペー!なんでここに居るんだ!?」

 

「………指揮官」

 

曲がり角の先から指揮官が現れた。

急いでいたらしく息を切らしているのが分かる。

そんな指揮官を見ながら彼の息が整うのを待っていると

 

「執務が終わったから少し見て行こうと思ってたんだ。医務室に戻ろうシュペー?まだ怪我が治ってないよ」

 

心配した様子の指揮官にそう言われた。

でもその必要性を感じない。

兵器としての性能が下がった訳では無いし、両手を使えなくても主砲が撃てて航行出来れば軍艦としては充分であるはずだ。

 

「この程度損傷の内に入らないよ。自室で次の任務に備えるから」

 

「何を……言ってるんだシュペー?」

 

「アドミラル・グラーフ・シュペー、中破なるも戦闘継続可能。自室にて戦闘任務に向けて待機します」

 

それだけ言って指揮官の横を通り抜ける。

兵器は兵器らしく戦う事だけを考えれば良い。

私は兵器で鉄血が誇る装甲巡洋艦 アドミラル・グラーフ・シュペーなのだから。

指揮官の横を通り過ぎて曲がり角を過ぎようとした時

 

「………ちょっと待てよシュペー」

 

「っ!?」

 

今まで聞いた事が無いような指揮官の低い声が背後から聞こえた。

そのまま鉄血寮へ進めばいいのに足が止まってしまう。

そして、後ろから指揮官が歩いてくる靴音が聞こえた。

 

「シュペー、何故そんなに自分を大事にしない?」

 

歩む足音がとても緩やかで聞き方によればまるで処刑人が歩いてくるかのような錯覚すら感じる。

 

「ニーミとドイッチュラントが心配してたぞ?あんなに心配してくれる皆がいるのに………何故答えようとしてくれない?」

 

すぐ後ろに指揮官が分かる。

身長差で頭の上から声が聞こえた。

 

「お前が兵器?確かにそうだな。セイレーンと戦う為に生まれた存在だよ……でもよ………」

 

両肩を掴まれて強制的に振り返らされる。

振り返って見た指揮官は

 

 

 

「生きてるじゃないか!人間のように心があるじゃないか!なんでそんなに自分を傷つける!!」

 

 

 

悲しげに表情を歪ませて溢れる涙を拭こうともせずに私に話しかけてきた。

そんな指揮官に私は何も言えない。

 

だって………分からないから。

 

こんなに涙を流して悲しんでいる指揮官に何をしてあげればいいのか?

前世の記憶は両方とも役に立たない。

流される男の記憶に人との交流や繋がりなんて知識は無いし、船の記憶では規律による統制によって兵器として運用される事しか知らない。

 

「分からないんだよ」

 

「シュペー?」

 

「こういう時にどうして良いのか全く分からないんだよ指揮官」

 

「………」

 

ありのままを指揮官に伝える。

人として扱おうとする指揮官に自分はどう反応すれば良いのか分からない。

この心を持つものとしてどう反応すれば良いのか全く分からない事を伝える。

 

「指揮官が教えてよ!私にはこういう時どうして良いのか分からない………理解できない!私は兵器で軍艦だよ!人間みたいに振る舞うなんて良く分からない………戦う為に生まれた私は、私達にはこんなもの要らない筈なのに………」

 

「シュペー………そうだったのか………」

 

感情の暴発とも言うべき取り留めのない言葉の羅列。

それでも指揮官は私の言葉をしっかり聞いてくれている。

何故出たのか分からない涙と言いたくてもハッキリと言えないもどかしさが私の心を掻き乱して暗い影を落とす。

 

 

 

こんな事なら………こんなに悩むなら………

 

 

 

「こんなに苦しいなら………心なんてモノいらなかった………」

 

 

 

 

不意にそんな言葉が口から出た。

理解できない分からないものが自分を苦しめるのならそんなモノが無ければ………無ければこんなに苦しく無かったのに。

こぼれ続ける涙を止めることもできずに指揮官にそう訴える。

 

「そうか…シュペーは知らなかったのか……分からなかったから苦しんでたのか………」

 

指揮官は悲しげに歪めた顔のままこちらを見つめてゆっくりと肩に置いた手を外して………私の両手を握ってきた。

 

「指揮官?」

 

「俺は勘違いしてたよ、シュペーが皆と打ち解けないのはまだ信用が足りないんだって、そう思ってた。でも違った……シュペーは知らなかったんだな?仲間や家族と一緒に居て感じる感情の事を…」

 

握られている両手が指揮官の両手によって暖められていく。

優しく労わるように握られた両手は何故か安心感を感じている。

 

「俺が………いや、俺だけじゃなくて皆でシュペーに教えるよ。これは1人で悩む事じゃないんだよシュペー?俺達に頼ってくれないか?」

 

「………いいの?」

 

「ああ、任せてくれ!それに鉄血の皆がよく言うだろ?鉄血の皆は家族なんだって。家族は互いに良い事や悪い事を分かち合える、迷惑を掛け合えて助け合えるもんなんだってさ」

 

指揮官は私の目を見てハッキリと言ってくれる。

なら聞かせてもらいたい。

 

 

 

「なら………私は指揮官の家族で……いいの?」

 

「勿論だ!遠慮無く頼ってくれよ?他の皆と比べて頼りないかもしれないけどな?」

 

 

 

非常灯だけが照らす廊下の中で涙を流し続けて不格好だったけれど、そう言ってくれた時の指揮官の笑顔は私にとってまるで太陽のように感じた。

この太陽の傍にずっと一緒にいたい。

 

これが最初に私が感じた家族への最初のわがままだった。

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

「あー、シュペー?」

 

「どうしたの指揮官?」

 

あれから数ヶ月経ったある日の事。

私は指揮官と一緒に秘書艦として働いていた。

 

「秘書艦として一緒に仕事してるのは分かるけどな?」

 

「うん、私も頑張ってるよ」

 

「そうだな」

 

指揮官から皆に私の状態について説明があったり、それに伴いお姉ちゃんから号泣しながら謝られたり甘やかされたりと色々あったけど。

 

「なんでシュペーは俺の膝の上で仕事をしてるんだ?」

 

「ここが1番落ち着くんだよ。仕事の効率も指揮官と近い方が上がるよ?」

 

「まぁ確かにそうなんだが………」

 

私はあの日から指揮官に着いて周り人間らしい感情を学んでいる。

それは食事の時も眠る時にも………お風呂とトイレは流石にお姉ちゃんに止められたけど。

 

「俺が落ち着かないんだよなぁ………」

 

「大丈夫、今のところは書類のミスなんかしてないみたいだから」

 

「いや、そうじゃなくて………」

 

たった数ヶ月だけど、一つだけ分かった事がある。

 

それは………

 

 

 

「指揮官?私は指揮官の家族だからいつでも良いよ?私はいつでも指揮官にされても大丈夫だから」

 

「え?」

 

「本当の家族………子供が出来るんなら3人は欲しいな」

 

「いやちょっと!?」

 

 

 

指揮官と一緒に居られるのならばどこまでも着いて行けるって事を………

 

 

 

 





という訳でアドミラル・グラーフ・シュペーでした。

1人で思い悩む無知系無表情な娘ってコンセプトで書いてみました。

陥落したらデレしかないってお約束付きで………

シュペーちゃん可愛いですよね!

TEKKETU KAWIIなんてプラカード作って振っちゃうお姉ちゃんの気持ちが分かります。

今回は感想無いのでここまです!

ではまた次回に



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

指揮官………ご飯作ってみました!


隠し味なんて想いだけ。

願うのは美味しく食べてもらう事。

下手でも一生懸命頑張れば、きっと美味しく出来るはず。

真心を込めて貴方を想って作ります。

だから、忙しい貴方へと私から贈る精一杯の応援を受け取って下さい!!




「ええっと………このワカメってのを水に漬けると元の大きさに戻るから、その間に鰹節っていうこの木屑みたいなのと煮干しっていう小魚の干したのをネットに入れて沸騰した鍋に入れて出汁を取る……だよね?」

 

私ことJ級駆逐艦ジャベリンは鳳翔さん謹製のお手軽簡単レシピと書かれたノートを確認しながら前世と今世合わせて初のお料理をしてます。

 

それもこれも毎日のように仕事を頑張る指揮官の為に。

 

私の指揮官は重桜出身で額の黒い角がチャームポイントで背が高くて〜、カッコよくて〜、でもでも優しいイケメンさんです。

そんな指揮官は毎日毎日が大忙し。

私達がしっかりと戦っていけるように書類仕事から演習先の予約取り付けに、補給物資の発注とその護衛に関する航路の計画まで朝から晩までずっと働き詰め。

 

そんな指揮官にはジャベリンの作ったお料理で元気一杯になってもらいたい。

でも指揮官の好みが分からないので出身地の重桜のお料理を作ろうと思ってお料理に詳しそうな鳳翔さんにお願いしてみると

 

「そうですか、それはいい事です。少し待ってもらえませんか?………はい、これ。ここに書いてある通りに作れば絶対失敗しませんよ?」

 

「わぁ〜、ありがとうございます! 」

 

そう言って笑顔でこの簡単レシピを貸してくれたのだ。

感謝の気持ちを表すように何度も鳳翔さんに頭を下げて材料と道具のその日のうちに揃えて学園の調理室に向かった。

材料や調味料の分量なども人数分毎に細かく書かれていて間違いようがない素晴らしいレシピなんだけど………

 

「え〜と………あれ?今どこまで読んだんだっけ?」

 

初めての料理で緊張して読んでいた部分を忘れちゃった………

 

「も、もう一度最初から読めば大丈夫………大丈夫だから………」

 

レシピ本を手に取ってもう一度最初から読み直して手元の作業内容を確認すると、味噌汁の基礎になる出汁を作る工程である事をようやく思い出す。

 

「うう…まだ最初だよぉ………緊張し過ぎて手が震えてるよぉ」

 

私は生まれてからというか、転生という不思議な体験をした前世の男性の頃から料理をしたことが無い。

前世の頃からお調子者でムードメーカーと言われた私は仕事や遊びなど色んな事に楽しみながら挑戦してきた。

 

でも料理だけは学校で調理実習をする時に塩と砂糖を間違えるし、しょっぱいなら酸っぱくすれば良いと思って酢を入れて怒られた事もあって全くした事が無かったのだ。

料理が出来なくてもコンビニに行けばお弁当やパンが売っていたし、お惣菜もスーパーに並んでいる物を買えば事足りる生活。

 

飽食の時代とも呼ばれた前世ではそれが当たり前だと、何も考えずに生活していた自分がこの身体に転生してから初めて料理に挑戦する。

この身体になって感性が女性のものとして固定されてしまい、艦の記憶から料理に関する知識が増えていっても前世の記憶からなのか料理が上手くいくとは思えなかった。

緊張でガチガチになるのを自覚しつつ、それでも毎日私達を支え続けてくれる指揮官に自分の作った料理を食べてもらいたい。

 

「指揮官の為に諦めない………諦めたくない!」

 

指揮官は多忙過ぎて普段の生活で食事をエナジーバーやエナジードリンクだけで済ませる傾向がある。

メイド長のベルファストさんやお医者さんのヴェスタルさんが止めてもどこからか持ってきた携帯食料で乗り切って仕事を続行するのだ。

 

唯一仕事を止めて食べた物といえば鳳翔さんが出してくれた指揮官の故郷の味と言われる"味噌汁"だけ。

あの時だけは指揮官がいつも額に寄っている皺を解いて心から美味しそうに飲んでいたのをとても珍しくて今でも覚えているのだ。

 

いつも頑張って私達を支えてくれる指揮官にもう一度味わってもらって、感謝の気持ちを伝えたいから頑張れる。

 

「うぅ…出汁が取れたら煮干しなんかを出して豆腐を入れて少し煮るんだよね?」

 

自分でも分かるぎこちない手付きで出汁の素となった煮干しや鰹節の入った袋を鍋から取り出して、震える手で握った包丁で切った大きさのバラバラな豆腐を鍋に入れていく。

何度か指を切ってしまった痛みを堪えて指揮官の笑顔が見れる事を願って豆腐を切ったあの時間。

包丁を使う事に不安と恐怖を感じながら頑張ったのだ。

ここまで来れば後は少し沸騰させてワカメを入れるだけ。

 

「ワカメはすぐに大丈夫になるから、火を止めて味噌を溶いて………またもう少し煮込むんだよね?」

 

あと少しの苦労で完成する味噌汁を不安一杯に感じながらも精一杯の真心を込めて見つめ続ける。

ワカメを良い感じに見えるので火を止めて味噌をお玉に必要な分だけ掬って菜箸でゆっくりと少しづつ溶いてまた火を着けた。

 

「あとは沸騰するのを待つんだよね?良かったぁ〜………こんなに難しいなんて普段料理を作ってくれる人達に感謝だね」

 

最後の工程が終わってホッとした。

そして、鍋の蓋を閉めると沸騰が早くなるのを鳳翔さんから聞いていたので閉めて待っていると

 

 

 

鍋と蓋の間から白い泡が吹き出てきた!?

 

 

 

「え?ええ!?どうしよう?どうするの!?」

 

突然の出来事に頭の中がパニックになって吹き出る泡を前にただ慌てているだけで何も出来ない。

どうすればいいのか分からなくて思わず鍋を手に取ろうとして

 

 

 

「火を止めるんだ!!」

 

 

 

突然聞こえた指示に咄嗟に従ってコンロの火を止める。

すると今まで吹き上げていた白い泡が止まってそれまでの出来事が嘘のように何も起きなくなった。

 

「ふぅ、危なかったぁ………あれ?今の声って」

 

危機が去り一息ついてふと先程の声の持ち主に思い当たり、声の聞こえた調理室の入り口に目を向けるとそこには

 

 

 

私の尊敬する人、指揮官がそこに立っていた。

 

 

 

 

「無事かジャベリン?火傷はしてないな?」

 

「は、はい。大丈夫ですけど………」

 

どうして指揮官がここに?

その疑問を口にする前に指揮官が私の手を握って自身の目の前に持っていく。

 

「火傷は無いが、怪我をしているな………綺麗な手をこんなにして」

 

悲しそうに言う指揮官に私も悲しくなってくる。

指揮官をこんな気持ちにさせる為に頑張って料理を作った訳ではないのに………

 

「朝執務をしていたら鳳翔にここに来るように言われてな?来てみたらジャベリンが慌ててそのまま熱した鍋に触ろうとしているのを見て声をかけたんだ」

 

私の指のキズを優しくなぞりながら、そう言う指揮官に申し訳無さを感じてしまう。

心配をかけてしまった事に心が苦しくて、そのせいで声が出なくて………涙がゆっくりと溢れてくる。

 

 

「それで、ジャベリン?」

 

「はい……」

 

声をかけてくる指揮官に顔を合わせることが出来ずに下を向いていると肩に手を置かれて

 

「ジャベリンの作った味噌汁、俺に食べさせてくれるか?」

 

優しい口調でそう聞いてきた。

 

「え?で、でも上手く出来てないし、さっきので美味しくなくなったかもしれませんよ?」

 

明らかに失敗したと思われる味噌汁を指揮官にお出しするなんてとんでもない。

溢れる涙をそのままにそう言うと

 

「ははは、大丈夫だジャベリン。さっきのは吹き溢れただけで味には変わりはないぞ?それにせっかくジャベリンが心を込めて作ってくれたんだ、俺はそれが飲みたいんだよ」

 

優しい口調のまま、笑顔でそう答えてくれた。

それが嬉しくて、胸いっぱいで、言葉に出来ない何かが私の心を満たしてさっきとは違う涙がいっぱい溢れるのを感じる。

 

「はい、指揮官!私の作った味噌汁を召し上がって下さいね♪」

 

用意していた器に鍋の中で出来上がった味噌汁をお玉で掬い、零さないように注いで指揮官へとお箸と一緒に渡す。

それを指揮官は香りを嗅いでゆっくりと口に含んで味わうように食べていった。

 

そして器の中身を全て食べ終わると一言

 

 

 

「ありがとな、ジャベリン」

 

 

 

そう笑顔でお礼を言ってくれたのだった。

 

 

 

 

後日談

 

 

 

「はい指揮官!今日のお弁当です!」

 

「おう、いつもありがとなジャベリン」

 

あれから指揮官の為に何度も料理を作っていくうちにある程度、料理をする事が出来るようになった私は指揮官のお弁当を作るようになった。

指揮官曰く

 

「ユニオンやロイヤルの飯は美味い、けど胃腸が弱い俺には胃もたれしやすくてなぁ………」

 

との事なので簡単で胃に優しいサンドウィッチ等を作って渡すようにしたのだ。

すると指揮官は喜んで食べるようになり、食べてくれる事で私も嬉しくなる。

 

「これからもお前の飯を食べていきたい」

 

「ふぇ!?し、指揮官!?」

 

この言葉は作った初日に皆が集まる食堂でお弁当を渡した時に言われて一瞬だけ食堂が静まりかえった。

 

指揮官の後ろで控えていたベルファストさんなんて目を見開いたまま硬直して動かなくなってるし、同じく指揮官の近くでエナジーバーを食べようとしていたエンタープライズさんなんてテーブルにエナジーバーを落としてしまっている。

 

「ん?なんだかいやに静かだな?」

 

「えっと………これで失礼しますね指揮官!!」

 

「あ、待ってくれジャベリン!」

 

お弁当を渡して私は猛ダッシュで食堂を後にした。

 

だって………

 

「待ちなさいそこのロイヤルの駆逐艦!指揮官様に愛妻弁当なんて………羨ましいわ!」

 

「そうですわ!どうやって指揮官にお弁当を渡せるのか教えなさい!」

 

「そういうのは幼なじみの私の役目よ?なんで貴女が渡すのかしら?」

 

「ジャベリン様、不肖の身であるこのベルファストにその方法を伝授しては頂けませんでしょうか?」

 

「指揮官が他の娘にお弁当を貰ってる?許せない!!」

 

「ねぇ?お姉さんにもその方法を教えて貰えないかしら?」

 

後ろからそんな声がいっぱい聞こえてくる。

というかいつもの指揮官に好意を持ってる方々の怨嗟のような声ばかり。

 

「指揮官のおバカぁぁぁー!!」

 

その日は一日中は母港中を騒がせる鬼ごっこが起きてしまい、委託も演習も出来なくなってしまった為に指揮官に皆で怒られてジャベリン以外のお弁当を受け付けないとお達しを私を除いたKAN-SENは受けて落ち込んでしまったらしい。

 

ちなみに当事者である私は発端を作ってしまった指揮官に謝罪の意味を込めて膝枕して状態で頭を撫でて慰められるご褒美を貰った。

 

 

 

こ、こんな事で騙されませんよ!!

 

 

 

………ふにゃぁぁぁぁ………

 

 

 

 

 

 

 




いかがだったでしょうか?

指揮官の為に健気に頑張るジャベリンをお送りしました。

こんなに健気に頑張る子を見てたら応援したくなりませんか?

私は頭を撫でてあげたいです。

アクロさんとは違いますよ?

違いますからね?

今回の更新が遅れてしまいすみません。

リアルでの仕事等で執筆時間を取れずに長く時間がかかってしまいました。

ようやく落ち着いて来たのでまた再開したいと思います。

それではまた次回もよろしくお願いいたします。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

綾波は羨ましい…です。


最初の出会いは桜の花道の真ん中で

朗らかに微笑む貴方に、優しそうな雰囲気を感じ取り

一緒に戦う毎日の中で貴方に惹かれていく

でも貴方の瞳に綾波は映らない

それでも良いと思ってた

あの時のあの瞬間までは………


「あ、綾波?」

 

「綾波ちゃん?」

 

見てしまった。

 

ジャベリンと指揮官が学園の校舎裏で互いに顔を合わせていたのを見てしまった。

 

それを見た綾波は、胸が激しく痛んでその場から全速力で逃げ出した。

 

「指揮官………」

 

寮の部屋のベットで足を抱えるようにして座り込む。

胸が張り裂けそうで頭も真っ白でどうする事も出来ずにただ抱え込む。

 

この世界に綾波として生まれ落ちて数年、前世の記憶という不思議なモノを持って生きてきた中で受けた最大の衝撃。

前世の男性の記憶から戸惑いもあったけれども、女性としての感性を自分の中で育んで記憶と決別したばかりの自分にとって初めての体験。

 

恐らくこれが

 

「………失恋、なのです」

 

いつから惹かれていたのか分からない。

もしかしたら女性としての感性が育ち始めた頃から無意識に惹かれていたのかもしれない。

でも指揮官が選んだのは………ジャベリンだった。

 

「ジャベリンは友達なのです」

 

底抜けに明るくて可愛い女の子。

自分とは違って前世の記憶なんて混じり物のない純粋な女の子がジャベリンで、綾波にはそれが少し羨ましいと感じていた。

陣営の違う自分を最初に友達になりたいと言って手を差し伸べてくれた大切な友達。

本当なら諸手を挙げて祝福するのが普通なのだけれども、自分気持ちに整理が付かなくて祝えない。

 

「嫉妬なのです………みっとも……ないです」

 

引っ込み思案な前世の頃の男性の記憶なんて混じり物があるから、皆と少し距離を置いていた綾波の孤独な影をゆっくりと持ち前の明るさで照らしてくれた優しい友達。

そんな友達と好きな人が一緒になり、先を越されてしまった。

 

「どうすればいいのか……綾波には分からないです………」

 

悩み続けても解決しないその状況にもどかしさを感じつつ時間だけが過ぎていく。

結局悩みはそのままに、その日は部屋から出てこない事を心配してご飯を持ってきてくれた時雨や夕立に雪風の好意に甘えて一日中外に出なかった。

 

 

 

翌日

 

 

 

「今日はロイヤル艦隊との演習だ。各員しっかりと己の力を出し切るように」

 

演習海域で長門様が綾波達を見回すようにしてそう告げる。

綾波のどんよりと曇った気分とは裏腹に雲1つ無い蒼天の海原に集まった重桜艦隊。

主力として長門様、赤城さんに加賀さん。

前衛に綾波と愛宕さんに高雄さんという布陣だ。

 

「大丈夫か綾波?何か悩んでいるようだが…」

 

「お姉さんも心配してるのよ?」

 

高雄さんと愛宕さんがこちらを覗き込むようにして俯いていた綾波の心配をしてくる。

 

「ううん、なんでも無いのです」

 

これは綾波の問題。

今から始まる演習にそんな事で皆に迷惑をかけてはいけない。

心配している2人に見えるように首を振って剣を握る。

身の丈程ある大太刀を二振り、改となった綾波の主武装であるそれを片手に一振りずつ握った状態で演習開始の合図を待つ。

 

『演習開始まであと20・19・18……』

 

開始までのカウントダウンが始まって全身に力を込める。

今はただ一振の剣として目前の敵を倒す。

 

ただそれだけでいい。

 

 

 

 

「綾波」

 

「……赤城さん?」

 

 

 

 

不意に声をかけられて振り返ると赤城さんが真剣な表情でこちらを見ている。

何故声をかけられたのか分からずに首を傾げていると

 

「貴女、恋………してるのね」

 

「!?」

 

いきなり核心を突いてきた。

何も言えずにアタフタしていると赤城さんはゆっくりと近づいて綾波を抱き締める。

 

「可哀想な子ね。誰にも相談出来なかったのね?」

 

「赤城!もう演習は始まっているぞ!」

 

赤城さんにされるがままに抱き締められていると高雄さんの切羽詰まったような声が聞こえた。

 

だけど………

 

「うむ、赤城と綾波には時間が必要だな?ならば我らは時間を稼ごう」

 

「赤城姉様と綾波を護りながらの戦闘、出来ぬ訳ではあるまい?」

 

長門様と加賀さんがそう言って海原を走り始める。

それを見ていた愛宕さんも笑顔で

 

「可愛い妹分の為よ高雄ちゃん?精一杯暴れてあげましょう?」

 

腰に履いた刀を勢いよく抜刀して長門様達に続いて行った。

呆れたように首を振っていた高雄さんは

 

「はぁ………仕方ないな。だが、そういうのも悪くは……無いか」

 

獰猛な笑みを浮かべて愛宕さんと同じように刀を抜刀すると、いつの間にかこちらを偵察に来ていたソードフィッシュを対空射撃で撃ち落として吶喊を開始する。

 

「あとは任せたぞ!赤城!!」

 

「ええ、任せなさい」

 

綾波を抱き締める力を込めながら赤城さんが高雄さんに手を振りながら答えた。

そして、綾波の頭を撫でながらまた優しく抱き締める力を込めてくれる。

 

「綾波?」

 

「はい」

 

眠ってしまいそうにもなるその絶妙な力加減と暖かさに心地良さを感じつつ、抱き締めてくれている赤城さんを見ると優しく微笑んでいた。

 

「初めて恋をしてみてどうだったかしら?」

 

「えっと……」

 

「大丈夫よ?ここには私しかいないし今から聞くことは全部、私の胸の中に閉まっておくわ」

 

綾波は問いかけられた事にすぐに答えられなかったけれど、赤城さんは微笑んだままそう答えてくれる。

全部を言葉に出来るのかは難しかったけれど、赤城さんの包み込むような優しさにポツリポツリと話し始めた。

 

初めて恋をした事

 

その恋をした事を誰にも相談出来なかった事

 

つい昨日、その恋をした人と同じ人を大切な友達が好きになって先を越されてしまった事

 

伝える度に

 

「そうなのね」

 

「そう、苦しかったわね?」

 

と慈しむように撫でながら相槌を打つ赤城さんの聞き方にいつしか涙が溢れてきた。

そして、全てを話し終わった時に赤城さんは綾波の頬に手を添えて上を向かせる。

 

「綾波、貴女は私と同じね?」

 

「?どういう事ですか?」

 

微笑みながら赤城さんは答えた。

 

「私は指揮官様を愛してるわ。それこそこの世界を全て燃やし尽くしても足りないくらいにはね?でも、指揮官様の周りには私と同じようにあの方を想う人達が多くいるの」

 

しっかりと綾波の目を見ながら指揮官への愛を語る赤城さんの背にはまるで紅蓮の炎が吹き上がるのが幻視出来る程にその想いが見て取れた。

 

「でも、私の想いは誰にも止められない!!あの方を想う人達が居たとしても………それが私の愛よ綾波?貴女も先を越されたくらいでその恋を諦められるのかしら?大切に想うその心を止められるのかしら?」

 

熱い想いを語る赤城さんに当てられたかのように綾波の心が熱くなる。

 

そうだ。

 

綾波は指揮官が好き!

 

この想いだけは綾波だけのもの!!

 

ジャベリンに先を越された?

 

そんなの綾波の想いを諦める?

 

そんなの………そんなの………

 

 

 

「嫌なのです!!綾波は諦めたくないのです!!」

 

「ふふふ♪そうよ綾波、恋や愛は止められない………貴女も私と同じで燃え上がる炎で全てを燃やし尽くしても足りない程に想いを昂らせる」

 

綾波の心の内をさらけ出すと口角を吊り上げるように笑みを深める赤城さんが綾波を長門様達が吶喊した方角に振り向かせて

 

「さぁ行きなさい綾波。貴女の想いを邪魔するモノを踏み越えて………相手が先んじているとしても、それでも喰らいつくという宣戦布告をね?」

 

耳元でそう囁く。

綾波は全速力で飛び出した。

 

「後ろは気にしないでいいわ。その想いを………燃え尽きぬ想いの丈を叩きつけなさい!!」

 

赤城さんの艦載機が綾波の周りに着いてくる。

激戦区となった演習海域で突撃してくる綾波に気が付いたイラストリアスのソードフィッシュが攻撃しようと突っ込んで来るけれど、赤城さんの艦載機が迎撃して全て叩き落とす。

 

「綾波様が来ましたか…っく?!」

 

「お主の相手は拙者だ!!」

 

それにベルファストさんが気が付いて砲撃しようとするのを高雄さんが接近戦で刀を振り抜きながら追撃する事で抑え込む。

 

「行きなさい綾波ちゃん!ここはお姉さんが!!」

 

「ああ、誇らしいご主人様………どうかこの卑しきメイドに力を」

 

連続砲撃でシリアスを足止めし、刀で大剣に鍔迫り合いに興じながら大立ち回りをする愛宕さんがウィンクしながら綾波を送り出す。

 

「吹っ切れたか綾波………ならば余も全力を出すとしよう。余は長門……重桜の長門である!」

 

「はぁ!?ちょっと!!いきなり本気を出さないで………きゃぁぁぁぁぁぁぁあぁぁぁぁぁあぁぁぁあ!?」

 

長門様がクイーンエリザベスに何発もの光弾の雨を降らせながら41cm連装砲で砲撃してこちらに近づけさせないようにしてくれた。

 

「さぁ、見せてみろ!その上で喰ろうてやるぞ………ロイヤルの装甲空母の力をなぁ!」

 

「あら?なかなか激しいワルツを踊る方ですのね?では御1曲お付き合い致しますわ♪」

 

加賀の艦載機とイラストリアスの艦載機が激しいドッグファイトを繰り広げながら本人達も互いに回避行動を取りながら遠ざかっていく。

 

「行きなさい綾波!貴女の想いを………その想う炎を見せつけてやりなさい!!」

 

「一生懸命に走る駆逐艦の子は可愛いなぁ………っ!?敵機直上だと!?」

 

鼻からナニかを流していたアークロイヤルに爆撃機を次々と急降下させて注意を引いてくれる赤城さん。

 

ここまでお膳立てしてくれたみんなの為にも綾波は………伝えるのです。

 

 

 

「綾波ちゃん!!」

 

「ジャベリン!!」

 

 

 

向かい合うようにして槍を構えるジャベリンに綾波は両手にもつ大剣の柄を連結して構える。

 

接近しながら頭上で回転させて連結した大剣を振り下ろすとジャベリンはその持ち前のスピードでサイドステップを踏んで回避して逆に槍を突き込んできた。

それを連結を解除する事で軽くなり片手で振るえるようになった剣で掬い上げるようにして払い除ける。

 

払い除ける剣を死角にして左側の魚雷を発射するけれど、それは向こうも同じ様で右側の魚雷発射管から魚雷が滑り落ちるのが見えた。

互いにそれを確認してその場を離れると魚雷同士がぶつかり合ったのか大きな水柱を作り上げる。

 

そして互いに距離を取った相手に向かって主砲を構えた。

 

「綾波ちゃん、凄く強いね」

 

「ジャベリンの方こそ、攻撃が当たらないです」

 

互いに得物を構えたままの会話。

 

いつ再開してもおかしくはない状況の中で互いを見つめ合ったまま動かない。

 

「ジャベリン」

 

「何かな綾波ちゃん?」

 

ジャベリンに想いを伝える為に大きく息を吸う。

 

 

 

「綾波は指揮官が好きです!大好きです!!この想いは誰にも負けないのです!大切な友達のジャベリンにだって絶対………絶対負けないくらい大好きなのです!!」

 

 

 

それは海域全体に響き渡るような自分でも驚くくらい大きな声だった。

こんなに大きな声を出したのは初めてだったけれど、今まで感じていた胸の澱みが全部どこかへ吹き飛ぶような感じがした。

 

そんな清々しさを感じつつジャベリンを見ると

 

「へ?そ、そうなの?あれ?」

 

なんだか困惑した様子で首を傾げている。

 

………予想していた反応と違ってなんだか嫌な予感がした。

 

「………ジャベリン?」

 

「あ、いや、え〜とぉ………」

 

ジャベリンの言葉が続かない。

本当に嫌な予感がしてきた。

 

「あ、あのね綾波ちゃん?」

 

「?」

 

何となく気まずそうな雰囲気で、ジャベリンが頬を掻きながら綾波を呼ぶのを首を傾げながら聞いていると

 

 

 

「この前の事で勘違いしてるみたいなんだけどね?あれは指揮官から綾波ちゃんの好きな食べ物とか、どんな贈り物だったら喜んでくれるのかとか………指揮官からの内緒で聞かれてただけなんだよね」

 

 

 

 

………?

 

…………………!?

 

「え?ええぇぇえ!?」

 

理解するのにだいぶ時間が掛かってしまったけれど、これだけはハッキリと分かる。

 

「つ、つまり………綾波の勘違い?」

 

「う、うん」

 

どうしよう、凄く………気まずい………

 

「え〜とね、あの、あのね綾波ちゃん?」

 

「………なんですかジャベリン?」

 

真っ赤になり俯いているとあたふたしながらジャベリンが

 

 

 

「りょ、両想いだね綾波ちゃん!!」

 

 

 

トドメ刺してきた。

 

「………いっそ……殺せ…です」

 

「綾波ちゃん!?」

 

羞恥心のあまりその場に崩れ落ちてしまう綾波にジャベリンが慌てて駆け寄る。

 

 

 

結局その日は恥ずかし過ぎて動けず、ジャベリンから励まされながら海域から母港へ牽引される事となった。

 

しかも、あの告白が実は中継用の観測機から指揮官のいる執務室のスピーカーに繋がっていて丸聞こえだったというオチまで付いて…………

 

そのせいで綾波はしばらく部屋から出られなくて軽い引きこもりになってしまったのでした。

 

 

 

後日談

 

 

 

「綾波はやや波………ううん、ダメ波なのです………」

 

「大丈夫だよ綾波ちゃん、指揮官も待ってるよ?」

 

扉の前でモジモジする綾波をジャベリンが励ましてくれる。

でもこの扉の先で待っている指揮官に会うのがとても緊張して足が動かないのだ。

 

「ああもう!もう少しなのに………あ、そうだ」

 

「どうしたのですジャベリン?」

 

いつまでも動かない綾波を見て眉を顰めていたジャベリンが何かを思い付いたようで声をあげる。

 

「動けない綾波ちゃんの代わりに私が指揮官の所に行くね?」

 

そう言ってジャベリンが扉に手をかけた。

 

 

 

「それはダメなのです!!綾波の指揮官は渡さないのです!!」

 

 

 

綾波の指揮官は渡せない。

 

そう思い、ジャベリンを押し退けるように扉を開く。

 

「ふふ♪そうだよね♪ほら、扉を開けれたよ?」

 

ジャベリンは笑いながら扉を指差す。

 

大きく開け放たれた扉の向こうに眩い光を浴びて綺麗に写るステンドグラスと赤いカーペットの敷き詰められたチャペルがあり、その先に優しく微笑む指揮官の………綾波の大好きな指揮官がそこにはいた。

 

「ほら、行っておいでよ?指揮官が綾波ちゃんを待ってるよ?」

 

弾けるような温かな笑顔でそう言うジャベリンが綾波の背中を押す。

 

この日の為に着てきた綾波だけの白無垢の裾がふわりと揺れた。

 

「綾波ちゃんの晴れ姿を後ろから見てるから、いっぱい幸せになってきてね♪」

 

ジャベリンからの祝福の言葉に勇気を貰い、意を決して綾波は歩き出す。

 

高鳴り続ける胸を抑えながら1歩ずつ。

 

愛しい指揮官の待つその先へと………

 

 

 

「どんなことがあっても指揮官のもとに居るのです……だって、指揮官と一緒にずっと居たいですもの……」

 

 

 

辿り着いた指揮官に勇気を出してそう告げると頬に手を当てて、優しく触れるように………甘酸っぱいキスをしてくれました。

 

 

 

 





という訳で勘違いからの自爆する綾波でした。

一途でピュアな娘ってものなかなか良いですよね?

赤城さんの励ましはアニメや原作の仲間思いな部分を考えてライバルが増えるけど、深刻そうに悩んでいる子を見ていたら思わず手を差し伸べてしまうだろうという作者の妄想です。

さて、感想返し…………

ジャベ弁………アニメで出てましたけど、美味しそうなサンドウィッチでしたね。

私も食べるぅぅぅぅ!!

ポネキとアクロが出るのを待ってる。

ポネキは既にネタは浮かんでいます。

ポネキは大暴走しやすいので書きたい事から逸れ過ぎないように注意しなければ………

アクロさんは………すでに構想は完成しています。

あとは文字にするだけですね。

あと皆様に毎度申し訳ないのですが、TS要素薄くてすみません。

作者の執筆能力が低過ぎて男性から女性へと変わる感性の葛藤なんかを書きたいのですが、どうも上手く出来ません。

しかし、TS要素を外すと何故か出てくる登場キャラを虐めたくなる謎の衝動のせいで、シリアスと鬱要素を混ぜて×二乗した誰が救えるのこれ?が出来てしまうのです。→(1度サラトガとサンディエゴの執筆中にやらかしてデータ全消ししました)

本当に申し訳ありませんが、私の妄想の産物であるこの作品を生温かい目で見守り下さい。

それではまた次回



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

指揮官〜、一緒にインディちゃんを愛でませんか〜?


可愛い可愛いインディちゃんと素敵な母港デート♪

指揮官も一緒に行きましょう?

インディちゃんも可愛いし、指揮官も一緒でもっともっと楽しくなる。

だからね指揮官?

こんな毎日をいっぱいいっぱい過ごしましょう?




「インディちゃんインディちゃん♪」

 

「なに?お姉ちゃん」

 

「んふふふふぅ〜♪呼んでみただけ〜♪」

 

「そう」

 

澄み渡る青空の下、母港でインディちゃんと手を繋ぎながら歩く。

こんなに可愛いインディちゃんと歩けるなんて私はなんて幸せ者なんだろうか?

可愛い妹と一緒に歩けるだけで私のインディちゃん成分がどんどん満たされていく。

 

「お姉ちゃん」

 

「なになに?インディちゃん?」

 

インディちゃんが私を呼ぶ。

その可愛い声に満面の笑みを浮かべながら聞き返すと

 

「その………私も指揮官と………」

 

「指揮官と?」

 

どうにも歯切れの悪い感じ。

1度俯いて小さく右手で握りこぶしを作って覚悟を決めるインディちゃん(可愛い)が意を決して

 

 

 

「と、隣にいる指揮官と手を繋ぎた……ぃ」

 

 

 

最後はギリギリ聞こえるくらいの声だったけど、顔を真っ赤にしながら自分の気持ちをしっかり伝えてきた。

………何この可愛いインディちゃん?

カメラを持ってこなかったのが悔やまれる程に可愛い。

 

「どうしよう指揮官、私の妹が可愛い過ぎてやばいんですけど」

 

「それはいつもの事じゃないのか?」

 

反対側で私と手を繋いでいた……というか私が抱き着く様に左腕を絡めていた指揮官が苦笑しながら答えた。

そんな指揮官を見ながらその場で止まり、指揮官の右腕から自身の腕を解いてインディちゃんの腕を絡ませる。

 

インディちゃんの柔肌と私に似て大きく膨らむ素敵な双丘を指揮官に押し付けるようにワザと勢いを付けてくっ付けた。

 

「ぁ………ぇ………」

 

真っ赤になったまま恥ずかしがるインディちゃん。

言葉が出る様子もなく、しかし、自分の存在を指揮官にアピールするように頬を腕に擦り付けながら密着する面積を少し増やした。

 

「はぁ〜………私の妹が可愛い過ぎるぅ〜♪」

 

そんなインディちゃんの様子を緩み続ける頬を抑えること無く脳内のフィルムに念写した私は、指揮官の左側に回って身体ごと抱き着く様に腕に引っ付く。

 

「今の指揮官は私とインディちゃんで両手に華って所ですね?………はっ!?インディちゃんは華というよりか天使ですよね?」

 

「おいおい、お前も天使じゃないのか?俺からしたら2人とも天使なんだがな?」

 

「ぁぅ………不意打ち禁止ですよ!もー!」

 

顔に熱が籠り、思わず言葉に詰まってしまう。

指揮官の不意打ちにインディちゃんもますます真っ赤になったしまうのが見えた。

 

私の抗議に笑う指揮官の様子がとても愛おしく感じる。

 

いつからインディちゃん一筋だった私の中で、インディちゃんと同じくらい大好きで愛おしくなってしまったこの人は今日も私達姉妹を明るく照らしてくれる。

 

きっかけは多分あの時。

 

この世界に生まれて……というか転生して混乱しながらも、可愛い過ぎる妹のインディちゃんを愛で過ぎて鬱陶しがられた事で落ち込んでいた時だった。

 

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

 

 

「…………はぁ、インディちゃん」

 

夕暮れの母港を1人ため息を吐きながら歩く。

この世界にポートランド級重巡洋艦ポートランドとして転生した私は、前世には居なかった妹という存在に魅了されて暇さえあればインディちゃんに愛情たっぷりに接していた。

 

前世の一人っ子で三十路を過ぎるまで独り身を過ごした男性としての記憶を有して生まれた私は、自身の性別や感性の変化に戸惑いはしたものの………初めての妹という存在にその戸惑いはどこかに吹き飛んだ。

 

控え目な性格で小柄な褐色美少女インディちゃんを見て胸がときめいた。

そしてその可憐な唇から発せられた「お姉ちゃん」の一言に完全に堕ちた。

 

「うちの妹が可愛い過ぎて昇天しそうなんですけど!!」

 

初めて顔を合わせてその場でそう叫んだ私は絶対悪くない。

鼻から流れ出るモノをそのままにその場でトリップして初期艦だったラフィーちゃんをドン引きさせてしまったのは最早些細な出来事。

 

推していたアイドルが今目の前に居るような………ううん、それ以上の高揚感を私はあの瞬間感じたのだ。

 

今思い出せばそれは余りにもいき過ぎた行為だったのだろう。

毎日のようにインディちゃんに愛情たっぷりに接し続けた結果………言われたのだ。

 

 

 

 

「お姉ちゃん、うるさい」

 

 

 

睨み付けるようにこちらを見ながら静かに、でもハッキリと言われた言葉に動揺して何も言えなかった。

そしてインディちゃんは私を置いてその場を立ち去っていく。

謝ろうとする口は開いたり閉じたりするばかりで何も出てこなかった。

 

 

 

楽しい時間から一転して私は大好きな妹であるインディちゃんに嫌われてしまったのだ。

 

 

 

どの位の時間その場に立ち尽くしていたのかは分からない。

気が付けば夕陽が海に沈もうとしていた。

足取りは重く、あれだけ輝いて見えた日常が夕方で長く伸びる影のように暗く苦しさを感じて何もする気が起きない。

 

もうすぐ夕食の時間だというのにそのまま寮に戻ってベットの中で閉じこもりたい気分だった。

いや、インディちゃんと同室だからこのまま海に出て会わない方が良いのかもしれない。

 

そう思った私は沈み始めた夕陽を追うように港を目指して歩き出す。

 

燃料が尽きるまで海を進んだ後はどうしようか?

 

インディちゃんに嫌われた私は………このまま居ない方が良いんじゃないんだろうか?

 

グルグルと暗い考えが頭の中を回り続けて、ふと顔を上げるとすぐそこに埠頭の端に立っており海が見えた。

インディちゃんこそ至高であった私がそのインディちゃんに嫌われてしまったら……それこそ何も残らない。

 

 

 

だったら………

 

 

 

このまま海を漂うのも良いかもしれない。

 

 

 

「ポートランド!!」

 

「!?」

 

そのまま埠頭から飛び降りようとした瞬間に後ろから抱きしめられる。

驚いて首だけで振り返ると必死な表情をした指揮官が私を捕まえていた。

 

「探したんだぞポートランド………お前いったいどうしたんだ?」

 

「………」

 

抱きしめられたままの私を埠頭の端から引きずって海から遠ざける指揮官は訝しむような表情で私に問う。

 

だけど私は……声が出ない。

 

どうしてもインディちゃんに嫌われてしまったと、言葉として口にすることが出来なかった。

思い出すだけで気分が落ち込んでいくのが分かる。

そんな事を考えたからだろうか?

急に身体が冷えて震えだし、力が抜けていく。

そんな私の様子を見ていた指揮官がゆっくりと地面に座らせて一緒に横に座って肩を支えてくれた。

 

「普段明るいお前がそんな風になるなんて………いったい何があったんだ?」

 

心配そうな表情でこちらを覗き込む。

言いたくても声が出せずに言えない、ただ俯くだけの私に指揮官が更に心配そうに話しかける。

 

「インディの奴が心配してたぞ?お姉ちゃんがどこにも居ない、私のせいだって言いながら落ち込んでたんだからな?」

 

「インディちゃんが?」

 

指揮官からインディちゃんが私の事を心配していたと聞かされてようやく言葉が出た。

それを聞いた指揮官が笑顔で頷いて

 

「なんだ、インディとケンカしたのか?珍しいじゃないか、あいつはお前の事を心配してたんだ。姉妹仲が良くて良い事だよ」

 

頭を優しく撫でてくれた。

不意の出来事に混乱していたけれど、その撫でる手つきはとても優しくて心地良い。

 

「ケンカしたんなら仲直りしないとな?不安なら俺も一緒に謝りに行くぞ?大丈夫だって、インディも許してくれるさ」

 

指揮官は撫でる手を止めることなく優しく私を励ましてくれる。

それがとても嬉しくて、ありがたくて、涙が溢れて止まらなかった。

 

「………そっか、インディに嫌われるのが怖かったのか?お前インディの事が大好きだもんな。好きな人に嫌われるのは怖いよな?ここは俺しか居ないから好きなだけ泣けよ。泣いて落ち着いたらインディに謝りに行こう」

 

優しい指揮官に甘えて声もなく泣き続ける。

そんな私を元気付けるように指揮官は言葉をかけ、そして優しく撫でてくれた。

 

おかげで泣き止んだ時には夕陽は海に沈んで辺りは真っ暗。

指揮官が優し過ぎるのがいけないんだと責任転嫁しながら、インディちゃんの待つ寮へと指揮官と一緒に帰ったのだった。

 

そこでインディちゃんに一緒に謝りに行ってくれた指揮官と付き合ってると勘違いされるハプニングがあったり、遅いから指揮官に私とインディちゃんのお部屋に泊まった次の日の朝に寝ぼけた私とインディちゃんが指揮官と一緒に眠ってしまって私達を起こしに来たハムマンに見つかって母港を揺るがす大騒動になったのはまた別のお話。

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

 

「今日もいい天気ですね指揮官?本当に散歩日和に可愛いインディちゃんも一緒で最高です♪」

 

指揮官と組んだ腕をそのままに空を見上げる。

雲1つない青空がとても気持ちがいい。

 

「お姉ちゃん、あんまり無理しないでね?」

 

「そうだぞ?身体を大事にしないとな?」

 

そんな私を2人が心配そうに見つめる。

そんな2人の様子が面白くてつい笑いそうになるけれど、ここは可愛いインディちゃんと愛しい指揮官からの言うことに従っておく。

 

 

 

「そうだね、もう私だけの身体じゃないもんね」

 

 

 

そう言って膨らみ始めたお腹を優しく撫でる。

あれから私は指揮官に恋をして、愛に変わって、将来を誓い合った。

インディちゃんも私達の事を祝福してくれて、結婚式では皆に祝われる事に………

 

そして、私のお腹には指揮官と私の愛の結晶が育まれている。

 

「ねぇ、指揮官?私は今幸せです♪」

 

「俺もだよ」

 

「お姉ちゃんが幸せそうで私も嬉しい」

 

 

 

こんな毎日がいっぱい、もっとい〜〜〜っぱい続くと良いな♪

 

 

 

「あ、子供はインディちゃんみたいな子が10人………ううん、サッカーできるくらいは………」

 

「指揮官ファイト」

 

「………おう」

 

 

 

 

 





という訳でポネキでした。

ポネキはうちの妹インディちゃんは可愛い!!
ねぇねぇどうですか?可愛いでしょインディちゃん!!
と妹が可愛くて他の人に進めまくりでシスコンMAXなお姉ちゃんですが、姉であるからには妹に恥ずかしくないようにと努力する魅了的なお姉ちゃんです。

しかし、一方で指揮官LOVE勢でもあり、愛まで親密度を高めるとなんと子供が欲しいとまで………(インディちゃんみたいな子が10人しかも最低ですよ)

私の母港では初めての10連建造でインディちゃんが出たその次にポネキが来ました。

インディちゃん可愛ええなぁと思ったら、その次にシスコン来たんですけど ( º_º )
みたいな感じで戸惑いましたが、海域での火力や耐久性がレア度詐欺に匹敵するポネキにア然としていました。

今ではインディちゃんと一緒にユニオン艦隊で新海域に行く時は姉貴兄貴とポネキとインディちゃんが前衛で第二艦隊編成する程に頼っています。

さて感想返し

綾波はゼロ距離魚雷で敵を落とすのが印象的

綾波より先に赤城さんと結婚

演習で見る綾波に酸素魚雷ガン詰みじゃないかヒヤヒヤする事が多々あります。

赤城さんは正妻じゃないと………ほら貴方の後ろで………

今回はここまで、ではまた次回に


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

何度も、何度でもあなたを好きになる。


初めの終わりは絶望した。

2回目の終わりは後悔した。

3回目の終わりは苦悩した。

それから幾度となく終わりを見続けて………それでも希望を諦めきれない。

あなたと交わした約束が私に力をくれる。

必ずあの約束を果たして、もう一度あの笑顔を見れるまでは………私は諦めません。



「指揮官、今日の業務の時間は終わりましたよ?」

 

「ああ、ありがとうニーミ……この書類に目を通したら終わりにするよ」

 

夕日が沈みそうになる水平線を執務室の窓から視界の端で捉えつつ、手に持つ書類を見つめる指揮官の横顔を盗み見する。

こんな穏やかな時間を過ごせる今がとても愛おしくて、思わず頬が緩む。

そんな私に気が付いた指揮官が笑顔で

 

「男の横顔なんて見てて面白いものでもないだろニーミ?」

 

私にそう問いかける。

だから私は決まってこう言うのだ。

 

 

 

「私にはとても魅力的ですよ指揮官の横顔は」

 

 

 

すると指揮官は苦笑しつつ書類を片付けて立ち上がり、引き出しに鍵をする。

残した物が無いか確認した指揮官は私の方に歩み寄り手を差し出す。

 

「それじゃあ夕食に行こうか秘書艦殿?」

 

「はい、喜んで」

 

私は指揮官の手を握り執務室を後にする。

 

ああ………こんな日常が何時までも続けばいいのに。

 

そんな思いを胸に秘めつつ今ある幸せを噛み締めて食堂へと歩く私は過去を思い返す。

 

私こと鉄血駆逐艦 Z23は転生者である。

 

そして、逆行者でもある。

 

男性から女性へと性転換する不思議な転生をして訳も分からず混乱する私を助けてくれた指揮官。

そして、そんな私を支えてくれた家族ともいえる仲間達と共に戦場を駆け巡った。

 

 

 

しかし、それは敗北して滅亡する世界の終わりを少しだけ押し止めただけに過ぎなかった。

 

 

 

最初の犠牲者は鉄血の指導者としての顔を持つビスマルクだった。

次の戦場へと単独で移動中にセイレーンと呼ばれる正体不明の艦隊に飽和攻撃を受けて仄暗い海の底へと沈められたのだ。

指導者を失い精神的支柱を失った鉄血艦隊は脆く、駆逐艦や巡洋艦が次々に沈んでいき………最後に残ったのは私と指揮官だけだった。

 

「俺にもっと皆を引っ張れる力があればこんな事には………」

 

皆の居なくなった寮を涙ながらに見つつそう語る指揮官に何もしてあげられない自分がもどかしくて………次の日に執務室で拳銃自殺を図り、冷たくなった指揮官を見て私は絶望した。

 

 

 

しかし、気が付けば私は指揮官に助けられたあの日に戻っていた。

 

 

 

あれは、あの生々しい日々は夢だったのか?

そんな思いと共にもう一度繰り返す日常を送る私は同じような最後を迎えそうになった。

唯一変えられたのは皆が居なくなってしまった後の指揮官の自殺のみ。

ビスマルクが堕ちた後に夢ではないと確信して動き出すも時は既に遅く、守れたのは指揮官だけだった。

 

「こんな約立たずで味方を守れなかった俺なんて助けてどうするんだニーミ………」

 

涙ながらにそう語る指揮官を胸に優しく抱きしめながら後悔した。

こんな事になる前に動けば良かったと………

 

その後、程なくして私と指揮官は再侵攻してきたセイレーンの砲撃で吹き飛ばされた。

 

 

 

今度は………今度こそは全てを変えてみせる。

 

 

 

そんな思いを胸に最期の瞬間まで指揮官を抱きしめ続けて………

 

そして、またあの日に戻った。

 

今度こそはと挑む私に皆の視線は………懐疑的だった。

あの悲劇を繰り返さないようにと覚えている限りの事を伝えるが、信じてくれる人達は少なかった。

それどころか私が精神的に病んでいるのではと逆に心配されるほどに。

 

それも当然だろう。

自分が沈むなんていきなり言われても頭がおかしくなったと思われても仕方がない。

 

唯一信じてくれたのは指揮官だけだった。

 

私の意見を参考に作戦や編成を変えて対応し、被害を減らして逆に返り討ちにする程。

そして、そこから興味を持ってくれたビスマルクが私の話を聞いてくれて鉄血全体の為になると皆に話して説得してくれた。

 

これならば………皆を救える。

 

一筋の光明が見えた瞬間だった。

 

「ニーミ」

 

「なんですか指揮官?」

 

執務室で秘書艦として指揮官のサポートをしていると不意に名前を呼ばれる。

見ていた書類を置いて指揮官の方に顔を向けると

 

「ありがとう」

 

笑顔でそうお礼を言われた。

なんでお礼を言われたのか分からずに首を傾げていると

 

「ニーミは俺達が負けないように未来の事を伝えてくれただろ?皆に信じられなくてもそれでも助けようとしてくれた。そのお礼を言っておこうと思ってね 」

 

「私も無我夢中でしたから………」

 

理由を聞いて少し恥ずかしくなる。

いつも私を信頼してくれる指揮官からのお礼に胸が高鳴り熱くなった。

こんな経験は初めてで、視線が指揮官に合わせられずに周りをキョロキョロと落ち着かない。

 

「俺はニーミに感謝してるよ。未来の知識を伝えるだけじゃなくて、何かの役に立とうといつも色んな所から探してきた仕事を頑張ってこなしている頑張り屋なニーミが好きだ。」

 

「す、好きぃ!?」

 

顔が真っ赤に染まるのを自覚しながら指揮官を見ると穏やかな笑顔でこちらを見ていた。

 

「いつかさ、ニーミに受け取って貰いたい物があるんだ。」

 

「えっ?」

 

「必ず、必ず渡すからさ。待っていてくれないか?」

 

「は、はい!!」

 

指揮官からの贈り物。

渡してくれると言ってくれたその約束とあの優しい笑顔を胸に刻んで、もう一度この悲劇を終わらせる誓いと1つの願いをここに願う。

 

 

 

早くこの戦争を終わらせられますようにと………

 

 

 

しかし、私は失敗した。

セイレーンとの戦いに油断した訳でもなく、ましてや想定外の事態に遭遇した訳でもない。

 

 

 

ただ、鉄血以外の陣営がセイレーンに滅ぼされたのだ。

 

 

 

こうなれば残った陣営である鉄血に全ての力を向けたセイレーンによってすり潰されるのはさほど時間はかからなかった。

 

私は苦悩する。

 

この運命の袋小路に対抗するには自分達の陣営だけでは到底無理である事に。

 

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

 

あれからどれ程のやり直しをしてきたのだろうか?

何度も何度も失敗して最期を迎えて………

それでも諦めきれずに挑戦し続けて………

何度心を折られたことか………

 

 

 

でも、指揮官は何度でも私信じて支えてくれた。

 

 

 

それだけが私の希望だった。

それだけあれば私は戦えた。

それだけあれば私は挑み続けられた。

 

何度裏切られて対立して、戦う事になっても前を向いていられた。

 

1度どんな時でも信頼してくれる指揮官に

 

「こんな私をどうして信じてくれるんですか?」

 

と聞いたことがある。

すると指揮官は笑顔でこう答えた。

 

「一生懸命良い未来を作ろうとずっと頑張ってるニーミだから俺は信じられるんだよ」

 

私はその時の事をずっと忘れられない。

そして、こんな優しい指揮官の為にこんな運命なんか打ち破ってみせると新たに誓う。

 

 

 

「運命なんて………打ち破ってみせる!指揮官や皆がいればこんな悲劇を乗り越えられる!!」

 

 

 

そう、変えられない運命なんて無いのだから。

 

それに私はあの時の約束をまだ果たしていない。

指揮官からの贈り物。

それは何度も繰り返す逆行の中で変わらずある指揮官の信頼と共に必ず起きるイベント。

 

たぶん…"あれ"だと思うのだけど、この悲劇を打ち破るまでのお預けだ。

指揮官が待っていて欲しいと言ったあの日から続くこの胸の高鳴りは、いまだに私の頬を染めて気恥しさを感じさせる。

 

「きっと、これは………この想いは……」

 

トクントクンと高鳴る胸に秘めた想いを抑えつつ、未来を見つめる。

いつも支えてくれるあなたにいつの間にか惹かれて堕ちていた私の心を抑えてより良い先へ。

 

今度こそ………今度こそは掴んでみせる。

 

あの日から最も先に進んだ今日この日。

 

相容れずに何度もぶつかり合った各陣営が手を取り合い最高の状態で挑む最終決戦。

 

重桜の綾波やロイヤルのジャベリン、ユニオンのラフィーといった最高の親友を得て繋がった各陣営との絆が今ここに集いて運命を貫く力となる。

 

私は絶対に負けない!!

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

「ニーミ」

 

「なんですか指揮官?」

 

夕食後の就寝時間までの間に指揮官と共に学園の外で夜風に当たりながら歩いていると不意に名前を呼ばれる。

指揮官の方を見ると小さな箱を私に向かって差し出していた。

 

「これを、受け取って欲しいんだ」

 

指揮官からの贈り物は月明かりに照らされてとても幻想的に見える。

震える手でその黒い小さな箱を受け取って蓋を開くと綺麗な銀色のリングが顔を覗かせていた。

 

「私で……いいんですか?」

 

震える胸と声に自分が自分ではないような感覚に錯覚しながら指揮官に改めて問う。

指揮官は耳まで真っ赤になりながらゆっくりと頷く。

私が受け取った箱から指揮官がリングを取り出して私の右の薬指にそっと填めていった。

 

これは紛れもないエンゲージリング。

 

溢れる涙でボヤけるけれども、月明かりに照らされてキラリと輝くその銀色のリングは今まで見てきたどんな綺麗なモノよりも輝いて見えた。

 

 

 

「これからの事を考えてさ、今しか渡す機会はないって思ったんだ。だからニーミ……俺と、結婚して下さい」

 

 

 

片膝をついて私を見上げながらそう告白する指揮官。

呆然とする私は、無意識に何度も頷く。

最終決戦前に不謹慎ではあるものの、私はとてつもない幸福感に包まれていた。

 

「私……私は………指揮官の隣に居ていいんですね?」

 

「もちろんこれからも、この先も、ずっとニーミには隣にいて欲しい」

 

私の右手を優しく握って包み込む。

そんな指揮官の優しさが嬉しい。

私もそんな指揮官の手に手を重ねて自分に出来る精一杯の笑顔を浮かべた。

 

 

 

綺麗な月明かりに照らされて私と指揮官の距離は近くなり、そしてゼロとなる。

 

 

 

これから襲いかかる悲劇なんて全部怖くない。

 

 

 

運命なんて指揮官と一緒に打ち破ってみせるのだから!!

 

 

 

『あら?このデータは無いわね?なら記録しておきましょうか………ふふふ、これ以上は野暮な真似はしないわ。良いデータが取れたもの………戦いの世はいつも変わらない、でもたまにはこんなデータも悪くはないわ』

 

そこはこの世界を観測する場所。

 

空間に浮かぶモニターを見続けた生物と兵器が混ざったような多数の触手を持つ彼女はそっとモニターを消すのだった。

 

 

 

 





いかがだったでしょうか?

今回は諦めない真面目系なニーミでした。

もっと早く投稿するはず………7月1日に投稿予定だったのですが、コ〇ナの影響でリアルが忙しくて執筆時間の捻出が難しい状況でした。

ネタは上がっているのに1日200文字を打つのが限界で全く執筆出来ない日々もしばしば………

これからも遅筆になると思いますが、どうか御容赦を

さて感想返し………

零距離雷撃でぼっこんぼっこん敵を沈めるってのが綾波

確かに酸素魚雷ガン済み綾波はっぉぃ………

初撃で前衛の3/1削るのやめちくりーな私がいます。

最近は許不和なローンさんもいて盛り返せるのですが、初手からあれは辛いです。

さて今回はこのくらいで。

では次回もお楽しみに



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

駆逐艦の妹達よ!私が来た!!………えっ?閣下!?営倉行きですか?


駆逐艦………それは至高の存在。

私達主力艦を護り、時に敵艦へ勇気をもって吶喊する勇者達

そんな彼女達は尊く、そして愛おしい。

だからですね閣下?

その手の内線の受話器を降ろしてください。

また営倉に入るのは勘弁ですから




「この馬鹿者!!」

 

「申し訳ありません閣下」

 

アズールレーンを代表する母港の執務室にて、私は重桜に伝わる最上位の謝罪方法の"DOGEZA"をしている。

 

「まったく、騒ぎが起きているから何事かと思えばお前が原因だったとは………頭を上げろ。朝から私を疲れさせないでくれ」

 

「誠に申し訳御座いません閣下」

 

謝罪しながら顔を上げると白い軍装に身を包み、多くの勲章と中将の階級章を付けた我が母港が誇る最高の指揮官が椅子に座って執務用の机に肘をつき、心底疲れた表情を浮かべて私を見ていた。

 

「どうして貴様はいつもそうなのだ?戦場での冷静沈着ぶりはどうした?秘書艦としての有能さはどこに消えたのだ?まったく………お前に対する陳情は毎日積み上がるばかり………頭が痛いわ」

 

「本当に申し訳御座いません閣下」

 

ため息を吐く閣下にもう一度深々と頭を下げる。

陳情まで上がるとは私も少々やり過ぎた。

しかし、こればかりは仕方がない。

 

私ことアークロイヤル級空母 アークロイヤルは転生者である。

 

しかも前世は極度のロリコン(YESロリータNOタッチ紳士)であった。

 

そしてそこにこの身体の本来の持ち主であるアークロイヤルの本性とも言える駆逐艦スキーが、アクセルシンクロしてしまったのだから始末に負えない。

 

つまりロリっ子と駆逐艦がいると無意識に視線が固定されてハァハァしてGOタッチしてしまいそうになるのだ。

ロイヤルの代表であるクイーンエリザベス様にも反応するし、少しロリではないベンソンにも反応する私は興奮状態になりやすい。

そしてだいたいロイヤルメイド隊に閣下のいる執務室まで連行されるのがココ最近のルーチンと化してきている。

 

「抑え付けろとは言わん。ただ、もう少し我慢できんのか?」

 

「それは………私に死ねと閣下は仰るのですか?」

 

「そこまでか!?」

 

「はい!!」

 

「………始末に負えんな」

 

閣下は机に肘を着いたまま頭を抱えた。

だけどこればかりは仕方が無い。

 

 

 

"コレ"は私のアイデンティティなのだから!!

 

 

 

「聞こえとるわ!!」

 

「申し訳御座いませんでした!!」

 

どうやら心の声が溢れ出していたようだ。

閣下からの叱責に再び頭を下げるとまた閣下のため息が聞こえた。

 

「もういい、秘書艦業務に戻れアークロイヤル」

 

「了解致しました閣下」

 

閣下の言葉にDOGEZAを止めて閣下の横にある秘書艦用の机に向かい、椅子に座って山のように重なる書類の仕分けを始める。

それを確認した閣下は鍵付きの引き出しから書類を取り出して読み始めた。

真剣な表情で書類を確認していく閣下を横目でチラリと見ると、かなり集中しているのか私が見ている事に気が付いている様子はない。

 

特に意味の無いチラ見………いや、本当は意味がある。

 

 

 

主にその机の下に隠された閣下の足に。

 

 

 

閣下の左足は酷い火傷を負っており、満足に動かすことが出来ない。

それはまだ私がこの身体に慣れていない頃に発生した大規模戦闘の際、敵であるセイレーンの艦載機からの雷撃で危うく轟沈しそうになった瞬間に前線指揮をしていた閣下が、座乗していた前線指揮専用艦を割り込ませる事で護った時に負った怪我だ。

艦載機のバラクーダを必死に操作していた私やイラストリアスの死角を突いた雷撃は庇った指揮専用艦の艦橋を越える水柱を上げて可燃物に引火したのか一気に燃え上がった。

 

 

 

あの時を私は一生忘れる事が出来ないだろう。

 

 

 

誰の悲鳴だったか………おそらくイラストリアスの甲高い悲鳴で我に返り、操作していたバラクーダからの共有されていた視界に見えた敵艦に雷撃を成功させた後すぐに燃え上がる指揮艦の中に飛び込んだ。

 

そして紅蓮の炎が舐め回る艦橋へと燃える艦内を走って向かう。

そして着いた艦橋に入った瞬間、肉の焼ける臭いが鼻に着いた。

食用の牛や豚等の芳ばしく食欲をそそる匂いではなく、嗅ぐものに不快感を感じさせる臭いだ。

 

「閣下!」

 

「……作戦は、作戦はどう……なったのだ?」

 

「成功です閣下!!今は喋らないで!!饅頭達よ!メディキットは!?ストレッチャーも早く!!」

 

初めて見た光景だった。

左足を覆っていた白いズボンは焼け落ちて元の足の色が分からない程に赤色に満ちていた。

 

「ジャベリン!船体を出してくれ!!」

 

「は、はい!」

 

饅頭達が持ってきたストレッチャーに閣下を乗せて応急処置をしていくのを見ながら足の早い駆逐艦ジャベリンに指示を出す。

ロイヤルでも俊足である彼女ならいち早く母港に辿り着けるはずだ。

 

「イラストリアスは私と一緒に上空警戒の哨戒機を出した後、護衛機としてソードフィッシュでジャベリンのエスコートを!」

 

「了解しましたわ!」

 

「残りの者は周囲の警戒を!」

 

「「「了解!!」」」

 

残ったメンバーである巡洋艦のケントにロンドン、そして巡洋戦艦であるレナウンの声を了承の聞き、私は母港に控えているであろう陛下へと通信を送る。

 

「緊急連絡にて失礼致します陛下、指揮官が負傷されて重症です!至急応援の部隊に救護班を乗せて送って頂きたい!」

 

『な!?彼が負傷ですって!?貴女達が居ながらなんて事………いえ、至急応援の部隊を送るわ』

 

「今足の早いジャベリンに閣下を移しましたのでこちらの哨戒護衛機と共に送ります。誠に申し訳御座いませんでした陛下」

 

『分かったわ、報告は後で聞かせてもらうんだからね!!』

 

「はい、それでは失礼致します」

 

陛下へと通信を終えてジャベリンの方を見ると既に閣下を乗せて出発準備は整っていた。

 

「陛下に連絡して応援の部隊を送ってもらうようにしてもらった。ジャベリンよ、私とイラストリアスで護衛機を出す。母港まで駆けてくれ!!」

 

「了解です!ジャベリン行きます!」

 

私がジャベリンに声をかけるといつになく真剣な表情を浮かべた彼女が船体を走らせ始める。

 

「ソードフィッシュ隊、発艦を始めて!!」

 

「よし、こちらも行くぞ!ソードフィッシュ中隊、出撃!!」

 

それに合わせて私とイラストリアスはソードフィッシュを発艦させた。

速度が遅いと言われるソードフィッシュだが、哨戒や護衛機としての性能は素晴らしい性能を秘めた傑作機だ。

故に必ず閣下を応援の部隊と合流するまで護る事が出来るはずだろう。

 

しかし、最善を尽くしたはずの私には不安が残る。

 

だからだろうか?

 

「どうか………どうか閣下をお救い下さい………」

 

護衛機と共に疾走していくジャベリンを見ながら私はそう呟くのだった。

 

結果的に閣下は一命を取り留めた。

 

しかし、その代償に左足に重度の火傷を負った事による運動障害が発生して杖をついてゆっくり歩く事しか出来なくなってしまったのだ。

立つだけでも長くは立っていられず、式典等の長い時間を取られる場合は車椅子での参加をしなければならなかった。

 

「閣下……」

 

「おお、アークロイヤルか。見舞いに来てくれたのか?……どうしたそんな顔をして」

 

病室にて身体を起こして読書してリラックスしていた閣下に言葉が出ない。

元気そうにしているが、その毛布の下にある負傷した足から私の視線が外せなかった。

 

 

 

あの時、私が被雷していれば閣下は負傷などしなかったのに………

 

 

 

そんな思いが何度も頭の中で回り続ける。

私は人間ではないKAN-SENであり、少しくらい被弾や被雷した程度ではビクともしない軍艦なのだ。

 

それに閣下が座乗していた指揮専用艦は被弾せずに回避する事を念頭に置いた艦なので、あの被雷した瞬間に真っ二つに折れてそのまま沈没してもおかしくはなかった。

下手すれば被雷した瞬間に運悪く戦死されていたかもしれない。

 

「アークロイヤル」

 

「は、はい。何でしょうか閣下?」

 

そんな暗い考えから抜け出せなくなっていると不意に閣下から声をかけられた。

毛布に隠された負傷した足に固定されていた視線を閣下へと向けると

 

「あの時は済まなかった」

 

私に頭を下げていた。

 

「閣下!?」

 

突然の謝罪に慌てていると閣下は頭を上げて一呼吸置く。

 

「あの時は通信でお前達に魚雷の接近を伝えたかったんだが、若干の経験不足を指摘されていたものの作戦遂行要員として編成され、作戦遂行に全力をかけて集中していたお前達の意識を阻害されて攻勢に失敗する可能性が頭を過ぎった………お前達の事を信じて通信すれば良かったのにその事に時間を取られて回避不能な距離まで詰められてしまったのだ」

 

「閣下………」

 

右手で顔を覆いながらそう語る閣下の顔には苦悩が刻まれていた。

 

「何故お前達を信じてやれなかったのか………私の迷いがお前達を危険に晒したのだ。苦楽を共にしている部下を………戦友を………私は信じてやれないなんて………」

 

閣下の顔を覆っていた右手が震える。

 

「その結果がこのザマだ、お前達は悪くは無い。指揮官として失格な私が取れたまさに愚策としか言いようのない方法だ。作戦は成功したが、余計な被害を増やしてしまった………お前達には本当に迷惑をかけてしまったな……すまない」

 

閣下がもう一度頭を下げる。

そんな辛そうな閣下を見ていた私は………悔しさを感じた。

叩き上げの軍人であり、アズールレーンの発足当初から戦い続けて大佐まで上り詰めたかの御仁が私のような未熟者に頭を下げるこの光景を作ってしまった事がただただ悔しかった。

 

ロイヤルの代表者でもある陛下にも覚えが良く、信頼されている百戦錬磨の閣下にそんな悩みを抱かれるような実力の自分が悔しかった。

あの時のあの雷撃に気が付ける程の広い視野を持てる実力があれば、そしてその雷撃を回避出来るほどの操舵が出来ていれば………

 

 

 

「閣下は、悪くなどありません」

 

 

 

そんな想いからつい声に出してしまう。

握り締めた拳に力が入り過ぎて震える。

目頭が熱くなって伝い落ちそうになるのを必死に我慢した。

 

「あの時の閣下の考えは私が未熟であった為に起きてしまった事です。閣下のお目に叶うような実力者であればすぐにでもお声をかけて頂けた筈なのです………」

 

「………アークロイヤル」

 

恨むのはこのような状況を作り上げたセイレーン。

この身体に転生してから久しく感じていなかった男としての残滓とも言える激情が身体を駆け巡る。

 

 

 

ああ、セイレーンが憎い………

 

 

 

閣下をこのような身体にし、世界を破壊と混沌に満たす奴らがどうしても憎い!

そして、それ以上にそんな連中に良いようにしてやられる未熟者な自分が憎い!!

 

「………閣下」

 

「なんだ?」

 

私の雰囲気に驚きながらも閣下はしっかりと私を見てくれた。

そんな閣下に私は………その場で片膝をついて顔を上げる。

 

 

 

「閣下、私は貴方の御眼鏡に叶う実力者となります。その時は貴方と共に何処までもお供致しましょう。ヴァルハラへと旅立ちその果てまで何処までも付き従います」

 

 

 

右手を胸に当てて宣誓を行う。

憎しみの心を押し殺し、ただただこの方に全てを捧げるつもりで。

閣下は左足という代償に私を救ってくれたのだ。

ならば救われた私はこの方の足の代わりとなって働き、セイレーンなどという不貞の輩を撃滅するのが存在する証明となるはずだ。

 

 

 

「故にお待ちください。必ずや実力と経験を得て閣下の命を完遂する手足となりましょう。それまでしばしの間、お待たせする不義理をお許し下さい」

 

 

 

もし閣下が退役するのであればこの命果てるまでセイレーンと戦い続け、もし待ってくれるのなら………その時は閣下の下で持てる全てを捧げよう。

 

「アークロイヤル………」

 

「は!」

 

そんな私を見つめる閣下は少し迷っていたが、一呼吸置いて

 

「1年だ。1年間だけお前を待つ」

 

「ありがとうございます閣下」

 

そう告げたのだった。

 

 

 

それから1年間、私はありとあらゆる戦場を経験した。

 

ユニオンの質や物量にものを言わせた大規模航空戦闘に重桜の超攻撃的な航空戦術など様々なジャンルの戦術を知識として蓄え、それを元に自分に合った戦術を見つけていく。

それに合わせてセイレーンどもと常に最前線で戦う事での経験を積んでいった。

何度も危ない場面があったが、閣下との約束を護る為に何度も切り抜ける。

 

周りの仲間からは死に急いでいるように見られる事もあったが、それでも私は止まれない。

 

閣下との約束が私に力をくれたのだ。

 

 

 

だから…………私の糧となれ、セイレーン

 

 

 

貴様らをこの世界から排除して閣下が安らぎを覚えられる優しい世界へと変わる為にも、お前達が邪魔なのだ!!

 

 

 

1年後に閣下の下に戻った私は気が付けばユニオンの英雄とまで呼ばれる灰色の亡霊 グレイゴーストの異名を持つエンタープライズに並び称される存在となっていた。

 

閣下が新しく着任された母港に私は真っ先に志願し、1年ぶりの再会を果たした。

 

「アークロイヤル、閣下の隷下に再着任致します!」

 

「よく戻ったアークロイヤル、お前の活躍はよく聞いていたよ。私の下で今度はお前にあんな想いはさせん。この母港でもう一度再起するのだ」

 

「閣下の御心のままに」

 

母港の執務室にて再会した私は片膝をついて閣下とそう言葉を交わす。

互いに1年ぶりの再会を楽しむかのように。

 

 

 

そう、ここまでは良かったのだが………

 

 

 

「しゅきかん、新しい人来たの?」

 

 

 

不意に開いた執務室の扉から………天使が現れた。

 

それは幼等部にも上がって無さそうな幼い少女

 

黄色い帽子から重桜のものと思われる獣耳を出して可憐さを感じる茶色の髪の小さなポニーテールに空色の上着に白いラインの入ったプリーツスカート、そこから伸びる未熟ながらも健康的でキメ細やかで触れるとぷにぷにしてそうで柔らかそうな足にワンポイントで赤色のリボンを付けたハイソックスと小さな靴で全てを完璧に押さえているコーティネイト。

 

「睦月か?ちょうど良かった、新しくこの母港に配属されるアークロイヤルだ。お姉さんだと思って色々頼ると良い………なぁアークロイヤ……ル……?」

 

まるで孫に対するような好々爺とでも評すればいいような笑顔を浮かべていた閣下の顔が強ばる。

 

 

 

理由は簡単。

 

 

 

「く、駆逐艦の子だ………はぁ…はぁ……それによ、幼児だと?こんなに幼い可愛い子が居るなんて………」

 

 

 

絶賛大興奮中の私が視界に入ったからだ。

鼻から忠誠心を溢れさせて緩みに緩んだ顔を見れば誰だってこうするだろう。

 

 

 

「すまん、憲兵を頼む。ああ、不審者1名を早急に営倉に放り込んで欲しい」

 

 

 

いつの間にか内線の受話器を手にした閣下がそう話すとすぐさま現れた憲兵に両脇を抱えられる。

 

 

 

「閣下ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

 

 

こうして私は着任1日目を営倉の中で過ごすこととなったのだった。

 

 

 

思い出してみればなかなか酷い話だ。

 

閣下の足から視線を外して自身に与えられた仕事をこなして行く。

あの後も駆逐艦の妹達にロリっ娘に反応し続ける節操のない私に閣下は

 

「心配して損したわ」

 

とため息を吐きながらそう言ったのを覚えている。

しかし、その表情は少し安堵したような表情だった。

私が戦いだけに傾倒せずにいる事が閣下にとっては安心する要因だったのだろう。

確かに1つの事に集中し過ぎては他が疎かになってしまうのは悪いことだ。

 

私が閣下の命で全てのセイレーンを滅ぼすのは確定事項なのだけれども、その事だけに傾倒していては要らぬ心配を閣下にかけてしまう。

 

それだけは駄目だ。

 

一切の迷わせることなく閣下の指示を完遂する事

 

これが私の存在する意義だ。

 

要らぬ心配をさせずに私のアイデンティティをさらけ出して安心させる事で閣下が安らげる毎日を過ごす為には必須といえる。

現にこのような騒ぎを起こしている時の閣下は怒りながらも何処かこの日常を甘受しているように見えた。

 

なら私は閣下の為に道化を演じよう。

 

確かに私は駆逐艦の妹達やロリっ娘に興奮する質だ。

 

それを表に出す事で閣下が安心するのであれば、私は喜んでそれ全てを完璧に演じてみせよう。

 

彼女達を静かに見守るようなNOタッチでも良かったが、閣下の安寧には変えられない。

 

 

 

「憲兵か?アレがまたでな?頼んだぞ」

 

 

 

ふと閣下を見ると受話器を持って話している。

そして自分の手元を見ると見ていた書類がいつの間にか秘蔵の駆逐艦の妹達の隠し撮り水着写真にすり替わっていた。

 

どうやら考え込み過ぎて手元が狂ったようだ。

 

顔を上げると憲兵達がため息を吐きながら近寄ってきている。

 

「御迷惑をお掛け致します閣下」

 

「そう思うなら自重せんかこの

 

 

 

バッカモーン!!

 

 

 

その怒声は母港中に響き渡るような大きさだったという。

 

 

 

 





如何だったでしょうか?

公式認定ロリコン(駆逐艦なら何でもOK)残念有能なカッコイイ系女騎士お姉さんことアークロリコンではなくアークロイヤルでした。

属性多過ぎだよね(笑)

原作のイベントではシグニットの服が無くなった時にはすぐに被疑者として母港のみんなに疑われる程の筋金入りなのも凄かったし、アニメの母港で駆逐艦が映っている場所には必ずいるっていう居るだけで笑いを取れるのがまた(笑)

そんな彼女は戦闘の際にはとてもカッコイイってのがまたギャップがあって惚れてしまう人が結構いるとか………

今回のお話はアークロイヤルのネタが多過ぎて少し詰め込み過ぎたかなと思ったり………

時折暴走しそうになるアクロさんに悪戦苦闘しながら執筆致しました。

さて、感想返し

初期艦にいたりいなかったりするってのはそういう

そうですね、大陸版と日本版での違いって二ーミちゃんと綾波が居るか居ないかみたいですね。

もしかしたら二ーミちゃん視点の主人公ならこんな事があるかもと妄想してましたw

なんか空間あるからバットエンドかと思っけどハッピーエンドだったぜ。

私、バッドエンドよりもハッピーエンドが大好きです!!

その癖何故か主人公を虐めるのが好きなので暗いお話になりがちなのでこの小説だけはハッピーエンドを!!という事で。

あ、メリーバッドエンドはもっと好きですよ?

TS要素が少ない

………精進致しますorz

今回はこんな所で

ではまた次回お会い致しましょう。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

指揮官様ぁ、大鳳は貴方様をお慕い申しておりますわぁ………


目覚めて最初に見た貴方様は輝いて見えました。

まさに後光を背負うありがたい仏様のようでしたわ。

これ程に輝く貴方様を側で見続けると私の身を焦がしてしまいそうです。

ああ、指揮官様………こんなに胸を熱くする貴方様の側に居たいと想う大鳳をお許しくださいませ。



「なあ大鳳?」

 

「どうなさいましたか指揮官様?お飲み物が無くなりましたか?すぐにでも御用意させていただきますわ」

 

執務室にて指揮官様と執務中に不意に話しかけられた私こと大鳳型装甲空母 大鳳は秘書艦用の机から立ち上がり、お茶を入れようとすると

 

「いや、そうじゃないんだ」

 

「そうなのですか?」

 

それを指揮官様に止められました。

ならばどのような御用事で大鳳を呼ばれたのでしょうか?

 

「あのな大鳳?」

 

「はい、指揮官様」

 

指揮官様が真剣な表情で私を見つめています。

 

 

 

はっ!?これはもしかして愛の告白なのでは!?

 

 

 

胸が高鳴り頬が熱くなる。

この大鳳としてこの世界に生まれ落ちて早1年となりますが、前世の男性だった頃の感性など既に捨て去ってしまった私には指揮官様からの言葉が待ち遠しくて堪りませんわ。

早る心を抑えつつ指揮官様の言葉を聞き逃さないようにしっかりと耳を傾けて聞く体制を整える。

 

この身体に転生した当初は合法的に女性の裸体が見放題等と愚かな考えや劣情を持っておりましたが、指揮官様にお会いしましてからはその様な愚考はキレイさっぱり消えてしまいましたわ。

 

 

 

だって………一目惚れだったのですもの。

 

 

 

確かにおかしいと想いましたわ。

会ってすぐの殿方に恋慕するなど元男だった自身が、前世ならば同性であったにも関わらずに一目惚れなどする筈がなかったのに。

 

ユニオン出身で彫りが深く整いながらも貫禄を感じさせるその御尊顔にその口髭が似合う唇から聴こえる歴戦の戦士を思わせる低い男性らしい声。

身長も高く硬く引き締まった四肢を白い軍装に包んだその方はまさに漢すら惚れる漢というモノを体現したお方でした。

 

「君が大鳳か?」

 

「ひゃ、ひゃい」

 

「そんなに緊張することはない、これから共に戦う仲間なんだ。よろしく頼む」

 

「はぁい♪、指揮官様ぁ♪」

 

配属初日の挨拶でこの体たらく………正直に申しますとこのやり取りだけで1度下着を替えに自室に戻りましたわ。

自室に戻って相手は男性であると前世の私が騒いでおりましたが、脱いだ下着を見て前世の事など今の大鳳には濡れてしまった下着と共に男性としての劣情など全く必要ないと本能的に確信して捨てしまう事にしてしまいました。

この身が果てるまであの御方に全てを捧げ尽くしたいという感情が、大鳳の中から湧き出ております故に………

 

「あぁん♪なんて罪作りな御方なのでしょうか………」

 

下唇に人差し指を当てて自然と緩む頬をそのままに気だるげにゆっくりと息を吐く。

恐らくあの御方に恋慕する人達は大勢いるはず、ならば自身の価値を正しく知って指揮官様に尽くせばおのずと傍に居られるはず。

そこまで考えて改めて自身の身体を見ると、実に男性の心をくすぐる豊満な肢体を持っている事を再確認する。

 

「………指揮官様は大きい方がお好きなのかしら?」

 

身に纏う着物からも溢れんばかりの乳房に視線を向けつつ部屋にある姿見の前まで歩く。

自分の容姿は悪くないが、それだけでは指揮官様の傍に居られる程甘くはないのはこの母港を回って確認していた。

男としての感性が前面に出ていた時に何人もの美少女や美女がいた事を覚えているから。

 

多種多様な美に溢れたこの母港においてこの程度の価値はすぐに埋もれてしまう事は明らかである。

 

ならばどうすれば良いのか?

 

 

 

「………………あ、うふふふふふふふふ♪ありましたわありましたわありましたわ!!私だけの指揮官様に御満足頂ける事が♪」

 

 

 

大鳳の前世は男。

今となっては無価値同然の事なのですが、その記憶にある男性として女性にしてもらいたい事や魅力的に感じる仕草などを活用出来る。

この大鳳の容姿や豊満な肢体でそれをする事で指揮官様の心をくすぐることが出来るかもしれない。

 

「でもそれを面白く思わない方達も………根回しも重要ですわね」

 

幸いにも重桜の方はこの母港にそれほど参加しておりませんし、揃っている空母も二航戦しかいません。

策を練り、指揮官様の心を捉えてお傍に置いて頂く機会としては充分に時間はあるはず。

 

「まずは大鳳自身を磨いて指揮官様のお役に立つことから始めましょうか」

 

そうと決まれば二航戦の方々から訓練を付けてもらいましょう。

あわよくば説明であった秘書艦としての業務等も教授願えれば、より目標達成に近づけられる。

 

「始めなければならない事ばかり………ですがこれも指揮官様のお役に立つ為に………ふふ♪」

 

両頬に手を添えてその時を想像すると自然と笑みがこぼれる。

 

 

 

あぁ、指揮官様…………今貴方の大鳳が参りますわ

 

 

 

歩み出したした大鳳はもう止まりませんわ。

 

それがあの御方の為になることなのだから………

 

あの決意の日を思い出して指揮官様のお役に立つ為に学んできた事を思い出す。

 

二航戦の方々に重桜式の航空戦術を学び、原初の空母である鳳翔さんに女性としての立ち振る舞い方や料理といった花嫁修業を学ばせて頂きました。

 

ロイヤルのメイド長には給仕の心構えや鉄則に西洋のお菓子の作り方にお茶の淹れ方を伝授され、ユニオンの方々からは欧米の方のお肉を使った料理の種類やこちらで言うおふくろの味とも言われるチキンスープの、特に指揮官様が好むと言われる味の調理法を粘り強く教えを乞う事で教えて頂く事ができました。

 

そして、鉄血の方には女性としての魅力の出し方やそれが下品な形に見えないようにする事も学びました。

 

そして忘れてはならない根回しも、この機会に一気に行う事に………

 

指揮官様への思いを真摯に語り、己を高めている事を公言して同じ想いの方々に正面から指揮官様の心を捉えてみせると宣言したのです。

 

「そうか、なら私も負けられないな………誰が選ばれても恨みっこ無しだ」

 

「ふぅん、良いじゃない。まぁ、負ける気はさらさら無いわね」

 

「ご主人様の御心のままに………それがメイドとしての矜持でありますから………ですが手を抜く事はありませんので」

 

ユニオンのエンタープライズに鉄血のプリンツオイゲン、そしてロイヤルのベルファスト。

いずれも指揮官様に好意を抱くKAN-SEN達に正面から宣戦布告をする事で、他にも居るであろう隠れた好敵手達にも自分は卑怯な真似はせずに堂々と指揮官様の隣を勝ち取ると伝える役割を担ってもらう。

そうすれば指揮官の心を捉えることが出来た時に正々堂々と勝負した結果であるから、周りからの不和を減らす効果が得られるはず。

 

そうして根回しや自分磨きと指揮官様へのアプローチを続けてこうして秘書艦の座を掴み取ることが出来たのです!!

 

夏の祭りでは一緒に腕を組んで回っていたらアルバコアのサプライズを受けて着物の帯を解かれ、危うく公衆面前で全裸になりかけたり………

秋には紅葉狩りに2人で出かけた先で秋の風に吹かれて裾が捲りあがって臀部を指揮官様にお見せしてしまって恥ずかしい思いをしたりと散々でしたけれど……

それでも最近の事ですが執務中につまづいた大鳳を力強く抱き寄せてくれて赤面する指揮官様の御顔を見れてとても幸運で………大鳳は幸せでたまりませんわぁ………

 

いけませんいけません、今までの事を回想していたら指揮官様の赤面していた場面を思い出して意識を飛ばしてしまう所でした。

 

「大鳳」

 

「はい、指揮官様」

 

真剣な表情でこちらを見る指揮官様に自然と姿勢が整ってしまう。

そんな大鳳に指揮官様は1つの黒い小箱と書類を机の引き出しから取り出した。

 

「そ、それは………」

 

「これを司令部から取り寄せるのには苦労した、ユニオン出身の私が重桜のKAN-SENである君と関係を持とうとしているのだからな」

 

指揮官様は執務で使うペンで2つある空欄の1つに御自身の御名前を書かれて書類をこちらに向けてペンを差し出されました。

 

「大鳳、待たせたな」

 

「指揮官様………」

 

「私は君と結婚したいと思っている。周りになんと言われようとも大鳳を愛しているんだ………この指輪を、受け取って貰えないだろうか?」

 

夢にまで見た指輪が今目の前にある。

それだけでこの胸を大きくときめかせて下腹部がキュンキュンと甘過ぎる響きを全身に伝えて止まらない。

何度その瞬間を夢見た事か………

指揮官様が差し出してくださったペンを受け取り、指揮官様の御名前の書かれた欄の隣に大鳳の名前をゆっくりと丁寧に書き込んでいく。

 

「…………ありがとう大鳳」

 

「はぁい♪これで大鳳は本当の意味で指揮官様のモノですわ♪」

 

名前を書き終わると指揮官様が立ち上がり、大鳳の側まで来られて右手をそっと優しく持ち上げてくれた。

いよいよ指揮官様から指輪を填めて頂ける。

 

「愛しているよ大鳳」

 

「大鳳もですわ指揮官様………んぅ……はぅぁ……」

 

右手の薬指に指輪を填めた瞬間に指揮官様から大鳳の唇に触れ合うようなキスを頂きました。

はしたないのですが、それだけで大鳳はすでに軽く達してしまいました………

 

「あぁん……指揮官様………大鳳は切ないですわ……」

 

「んん?大鳳?」

 

指揮官様に撓垂れ掛かるように抱き着いて見上げながら、空いている自らの左手を指揮官様の右手に添える。

そしてその右手を大鳳の頬に当てると指揮官様は撫でて下さった。

 

「大鳳、もう一度だ」

 

「はぁい♪指揮官様♪」

 

頬に手を添えられたまま今度は互いの舌を絡めて唾液を交換し合うような濃密なキスをする。

互いの吐息がかかってしまう距離で交わす脳内が溶けてしまいそうな甘い甘いキス。

まるで全ての感覚が唇と口腔内に集中してしまったかのような快楽に下腹部の疼きは最高潮に達する。

 

「はぁ……はぁ……指揮官様ぁ」

 

「大鳳」

 

舌が離れて銀色の筋が細く伸びる。

もはや互いの事しか目に映らない状況で指揮官様が頬を撫でていた手を、大鳳の頭に伸ばして慈しむように優しく撫で………そして右手を大鳳の大きく開いている胸元を割って直に触ってきた。

直に触られる場所が熱を持ったかのように熱く、そして漣のような連続した快感を与えてくれる。

 

「今日はベルファスト達に全てを任せてきた。今日1日は誰もここには来ないんだ」

 

「指揮官様ぁ……」

 

指揮官様の愛撫に意識を取られながらも今仰られた事を理解した。

誰も邪魔が入らないこの執務室で2人っきり。

 

 

 

ならばもう決まっている。

 

 

 

「指揮官様ぁ……大鳳は貴方様のモノですわ………どうぞご賞味くださいませ♪」

 

 

 

「大鳳!!」

 

指揮官様は力強く大鳳を抱き締めて執務用の机に寝かせると着物の帯をスルリと解き放つ。

 

 

 

あぁ指揮官様ぁ♪

 

 

 

大鳳を貴方様の色に染めて下さいませ♪

 

 

 

その日は1日大鳳は指揮官様に愛されて鳴かされて、終わった頃には意識を飛ばしてしまっていましたわ♪

 

 

 

その後、母港に指揮官様と大鳳が結婚した事を発表すると遅れて着任してきた一航戦の赤い方が地団駄を踏んでいたのはまた別のお話ですわ。

 

 

 

 





という訳で大鳳のお話でした。

好きな人に尽くして他の人を排除する系なヤンデレの大鳳さんですが、少しメンタルが弱いのがギャップ萌えな私ですw

原作では指揮官に少し怖いかなと言われただけで一日中部屋に引き篭ってしまうメンタルの弱さに惹かれてしまいました。

でも指揮官の為ならばどんな努力も欠かさない部分も凄い魅力的な所でもありますね。

今回のお話は少し迷走しそうになりかけて何度か書き直しております。

ですが原作の大鳳さんらしくちょっとエッチぃ感じに後半持っていけたかなと思っております。

それではまた次回もお楽しみに

ではまた


目次 感想へのリンク しおりを挟む




評価する
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10についてはそれぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に
評価する際のガイドライン
に違反していないか確認して下さい。