勝手に人をヒロインにすんな! (茜 空)
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第1話:とある転生者の日常

スランプ中の息抜きに書いた作品です。
あ、スランプしてる執筆中作品はR18なのでご注意を。
TS、男の娘大好きなので勢いで書きました。反省はちょっとしてる。後悔はしていない。


 異世界転移、もしくは転生。

今、某小説投稿サイトから広がった波は、漫画、アニメにまで普及した。ヲタクならば誰もが知り、叶えたい願いの1つだと思う。

 そんなヲタの願いが望まないものに叶ってしまうっていうのも皮肉な話だ。俺はヲタだが、別に転移や転生なんて望んでない。言っちゃえば消費者側でよかったんだよ。ほら、小説だって読むと書くじゃ全然違うだろ?だから俺は読む側でいたかった。それなのに。

 

 仕事帰り、車を運転していると最近世を騒がす煽り運転ってやつに捕まった。そして簡単に事故って気づいたときには異世界転生コースに強制入会した後。今期は気になってたアニメの続編がいっぱいあっただけにマジで落ち込んだ。

 それならそれでこの世界で生きていくしかないからさっさと覚悟を決めて気持ちを切り替えようとする俺に悲劇はさらに降りかかる。

 まずここは異世界って言ってもちょっと昔のジャパーンとそう変わらない。けど決定的に違うことが一つ。なんとヒーローやヒロインが実在した。なんとかレンジャーや魔法少女とか片田舎のこの辺でもたまに見かけてテンション上がるけど、治安的に少し、いや、かーなーり問題あり。そして。

 

「怪人ロリコーン!その子を離せ!」

 

 俺がやたら巻き込まれ、攫われ体質だっていうこと。だから俺は読む側でいいんだって!巻き込まれるとかマジ勘弁してほしい。

 

 さらにおまけでもう一つ。

 

「ブヒヒーン!誰が離すか!俺はこの汚れを知らない乙女とケッコーンするんだ!」

「うるさい黙れぶっ殺すぞ!俺は男だ!」

「「「嘘つけ!!!」」」

 

 超絶美少女に生まれ変わったことだ。いや、生物学的には男なんだけど。いわゆる男の娘ってやつ。これだって世に欲しがるヲタは多かろうに。なんで望まない俺に属性付与しやがったのだろうか。くどいようだが俺は読む側でいたいんだよ。

 つかギャラリーや怪人はともかくヒーローからもツッコまれたぞ俺。制服だって男物なのにそんなに俺が男って信じられないか?今すぐここで脱いでやろうか。

 っていかん、このままじゃ遅刻しちゃうんですけど!?

 

「もう、なんでもいいから助けてー!」

「お、おう、なんかえらく肝の座った子だな?」

「ブヒン。まったく。だがそれもいい!」

「じゃあ気をとりなおして。怪人ロリコーン!その子を離せ!」

「ブヒヒーン!誰が離すか!俺はこの汚れを知らなブヒンっ!」

 

 そこからかーいってツッコミを入れようと思ったら怪人が吹っ飛んでった。おいおい、正義の味方が不意打ちはダメだろ?

 

「お、無事みてぇだな」

「あ、りゅーじ」

 

 とか思ってたら知り合いでした。

 こいつの名前は金剛竜司。この歳にしてすでに爽やか系イケメンで細マッチョ、さらに性格のいい兄貴肌。当然モテモテでファンクラブとかもあり、コミュ障な俺とも友人になってしまうコミュ力がバケモノクラスのリア充の中のリア充、影でこっそりとリア王と呼んでいる俺の親友。

 ああ、あとこいつ別にヒーローでもないのに生身で怪人しばけるくらい強い。見た目も合わせて完全に戦隊のレッドとか張ってそうだけど。このチーターめ!

 

「なんだ、誰かと思ったらウミかよ。まーた捕まってヒロインしてんの?」

「不可抗力だ!あとヒロインってゆーな!俺は男!」

「あっはっはっ。その姿で本気で男なんだもんなぁ。詐欺だ詐欺」

「うっさい!こっちだって好きでこの姿してんじゃない!」

 

 この見た目と体質のせいでどんだけこっちが迷惑してることか!

 

「あ、あのー」

「あ?なんだよ?」

 

 うおっ!?こいつ今さっきりゅーじに吹っ飛ばされた怪人じゃねーか!あの一撃喰らってピンピンしてるってさすがは怪人と言うべきか、かなり丈夫だな。つかそんなやりとりしたばっかなのに普通に会話してるっていうのも神経が太いというか無神経というか。

 

「この子、本当に男なの?」

「そうなんだよ。絶対に詐欺だろ?」

「だからさっきそう言ったじゃん!」

「「「えええええええええ!?」」」

 

 何でどいつもこいつも俺が言っても信じないのにりゅーじの言葉は信じるのか。解せぬ。

 

「あーもーそうやって驚かれるのにも慣れたわ。ていうかこれで晴れて男ってわかったんだから俺必要ないよね?もう行っていい?遅刻しちゃう」

「う、嘘だ!俺は騙されんぞ!さてはお前この子のこと助けるために嘘をついてるんだな?」

 

 あーもーしつこいなこいつも。俺は懐から生徒手帳を出し、証明書を突きつけてやった。

 

「明青中学三年、天地海(あまちうみ)!性別、男!」

「そ、そんなもの簡単に偽造できるっ!」

「俺がそんなの作って何の得があるんだよ?もういい加減現実を受け入れろ!」

「いーやーだーっ!やっと理想の嫁を見つけたと思ったのに!男の娘とか……いや、これはこれで有りか?」

「ねぇよ!!!」

 

 あまりのキモさに全力でツッコんだ。うあ、めっちゃトリハダたってる。

 

「おいヒーロー!俺は助かったんだから退治(しごと)しろ!」

 

 さっきから空気になってたヒーローに出番を要求するが、何故か膝をついて下を向いている。

 

「男かよ。せっかくかっこいいとこ見せてあわよくば仲良くなろうとか思ってたのに……理不尽すぎる!」

「いやそれ俺の台詞なんですけどぉ!?」

 

 役に立たねぇなこいつ!なんでこんなのがヒーローやってるんだよ。つかここにいるやつらは揃いも揃って馬鹿ばっかか!

 

「おいウミ、そろそろ時間がヤバいぞ。もうアレやっとけ」

「嫌だ!」

 

 りゅーじが俺のとっておきを要求する。確かにアレをやって危機を脱した事がある。けどアレは俺の精神ダメージが大きすぎる。

 

「お前の選択は尊重するけどその場合俺は行くぞ?」

「薄情者」

「薄情ってお前、もう卒業間近で俺三年間皆勤がかかってるんだが?それをフイにさせようとするお前の方がよっぽどひどいと思わねーか?」

「ぐっ、か、皆勤と友情とどっち取るんだよ!」

「わずかの精神ダメージと友情、どっち取る?」

「……」

 

 ダメだ。返す言葉がない。絶対したくない。心の底からやりたくない。でも遅刻常習犯(不可抗力)の俺はこれ以上の遅刻はまずいと釘を刺されている。くそ、覚悟を決めるか。

 俺は上着を脱いで胸のあたりで手を握り、転生して自由にできるようになった涙腺をちょっと緩めて涙目を作り、上目遣いで。

 

「お願い、誰か助けて!」

 

 以前、悪ふざけで鏡の前でやって思った以上の破壊力で自爆した俺のとっておきのアレ、悲劇のヒロインの真似。ちなみにモデルは魔法騎士を召喚した異世界のお姫サマ。

 するとギャラリーの中の男共が次々に俺の前に殺到。

 

「君は俺が守る!」

「ごめん、勝手に守らせて!」

「戦いは男の仕事!」

「決めたんだ!君を守るって!」

 

 やめろぉぉぉぉぉ!お前らそれ全部どっかの主人公がヒロインに向かって言うヤツだろぉ!?だから嫌だったのに。もうやめて!ただでさえヒロインやるのが嫌なのにそれを自ら演じるダメージ、さらにこの言葉責めで俺のライフポイントはもうゼロよ!

 しかも事態はそれで終わらない。

 

「ブヒンッ、な、なんだ貴様ら、殺されたくなかったらそこをどけブヒンッ、やっ、やめっ、痛っ!ちょ、お前ら寄ってたかって卑怯だろうが!」

「ヒャッハァ!悪党に人権なんてねぇーんだよ!」

「俺たちのハッピーエンド(ばらいろのみらい)のために死ねぇ!」

「攻撃こそ最大の防御!」

「汚物は消毒だぁー!」

 

 俺の前がいっぱいになると今度は怪人の方へ残った男共が殺到。数の暴力にモノを言わせたフルボッコである。いやヒャッハァに汚物は消毒て。お前どこの世紀末出身だよ。煽った俺が言うのもなんだけどヒデェ。もうどっちが悪いやつかわかったもんじゃない。

 

「どけモブ共!か弱い市民を守るのはヒーローの仕事、そしてかわいいヒロインの応援はヒーローの特権!つまりあの子を助けて感謝されるのは俺だぁ!」

 

 ぉおいヒーロー!欲望が駄々洩れってか建前すらもはや存在してないじゃねーか!?しかも俺を助けようとしてくれる善良(?)な人たちまで蹴散らすんじゃねぇ!つかお前最初からその勢いで助けてくれたら俺こんなことしなくてすんだんですけど!?

 

「おいコラ、あの子助けるのを放棄したカスが割り込んでくるんじゃねーよ!」

「は?放棄も放置もしてませんー!何勘違いしてんだモブが!モブはモブらしくヒーローの活躍とヒロインとのイチャコラを黙って指を咥えて眺めてればいいんだよ!散れ!散れ!」

「田舎落ちの底辺ヒーローがほざいてんじゃねぇぞザコ!」

 

 え?

 

「あ゛?やんのか?たかがモブ共が!」

 

 ちょっとちょっと!

 

「上等だよ!ゴミクズヒーローっていうかヒーローっていうのもおこがましい紛いモンが!一般市民ナメんな!」

「ちょっときつめのお灸据えてやるよ!泣いて謝る程度には後悔させてやる!」

 

 うああああ、泥沼化したああああ!?

 

「ちょっとりゅーじ!収拾つかなくなったじゃん!っていねぇ!?」

 

 あいつ逃げやがった!?

 あーもーどうすんのコレェ。このままこっそりフェードアウトしようもんなら後が絶対めんどくさくなる。もう帰りたい。帰って布団にくるまってアニメ見てたい。

 

「おっはよううみぃぃぃぃ!」

「うきゃああああああ!」

 

 軽く現実逃避してたらいきなり抱きしめられた。おかげで変な声が出た。

 

「いやー今日も超絶かわいいねぇ!ナデナデさせてー!」

「ちょ、ダメって言う前にもう撫でてるじゃん!ていうか離せめぐみん!女の子が軽々しく男に抱き着くなー!」

 

 まためんどくさいのが来た!

 彼女の名前は鳳穣恵(ほうじょうめぐみ)。いいとこのお嬢さんで町を歩けばナンパやスカウトホイホイと化す超がつく美少女。ちなみに名前は親がヲタだったらしく、某声優やアニメキャラ(某爆裂魔法少女は関係ないらしい)からとってつけられたと本人から聞いたことがある。まあキラキラネームよりはマシとはいえ、そんな理由で名前をつけられてよくここまで真っ直ぐ(?)育ったと思うけど、親の英才教育という名の布教、洗脳もあって本人も満更じゃないらしい。将来は声優になる!と明言してる。そして性格良し、コミュ力良しで趣味もあうことからコミュ障の俺の数少ない親友その2だったりする。

 そんな他から見ればご褒美という状況をなんで俺は楽しめないかって?単純に恥ずかしいのと、男扱いされてないからだ。そして何度も言うが相手は美少女だ。力任せに振りほどけないし、ふとした拍子に変なところを触ってしまい、状況を悪化させてしまう恐れがあるから強引に引きはがすこともできない。

 

「もー照れてる顔も最高だよ!」

「あのさ、話聞いてる?」

「ん?ちゃんと聞いてるよー。うみは男の娘だから抱き着いてもいいんだよ」

「なんなのその超絶理論!?あと男の娘言うな」

「かわいいは正義!そして何にも勝るんだよ!」

「力説された!?」

 

 いやまあ、かわいいは正義は認める。けど自分に適用されるとすっげぇ微妙な気持ちになる。

 

「ところでこれってどんな状況?」

 

 俺は離されないまま話が進められる。

 

「それ、普通は会って最初に出る疑問だよね?」

「うみ成分を補充するほうが重要だから」

「人をマイナスイオン扱いしないでほしいんだけど。ていうか優先順位がおかしい!」

「そう?まあそれは置いといて」

「置いとかないで欲しいんだけど」

「それで、なにがどうしてこうなってるの?タツノコ仕様で説明ぷりーず」

「女アニメ声の俺に無茶言うな!」

「じゃあなぜなにナデ○コのル○おねえさん風に」

「イ○スさんじゃないんだ!?」

「うみの声ならそっちのほうが似合うし」

「ぜってーやらない!」

「やってくれたら離してあげる」

「なぜなにナ○シコ~」

 

 これは決して権力に屈したわけじゃない。そう、おもしろそうだと思ったからだ。

 俺が今の惨状までの過程をルリ○リながらかいつまんで説明するとなぜかめぐみんは膝から崩れ落ちた。

 

「そんな……なんでそこに私はいなかったんだ!」

「いや、なんで当たり前にいるのが前提になってるの?」

「だって!うみのヒロインモードなんて超貴重じゃん!見たかったに決まってるじゃん!」

 

 めぐみん、お前もか。

 

「いや、どう考えても危険だし、対価に見合わないでしょ?」

「何言ってるの!私たち友達になって結構長いけど、うみのヒロインモードなんて片手で数えるくらいしか見たことないんだよ!?そんな価値ある状況を見逃すなんて。あ、りゅーじはあとでやつあたrげふんげふん。お仕置きしておかないと」

 

 確かにアレをやった回数は少ない。超絶嫌だから。けどアレにそんな価値あるかね?ってそれよりも。

 

「まあそれは置いといて」

「置いとかないよ。私も見たい。みーたーいー!」

「子供か!俺の話は容赦なく放置したくせに。ってそんなこと言ってる場合じゃないって。遅刻しちゃうよ。っていうかもう遅刻阻止限界点ギリギリなんだけど!」

「……これ収めて遅刻しなかったら、ヒロインモード、やってくれる?」

「っぐ、た、対価を要求するの?めぐみんも遅刻するよ?」

「私はそこまで切羽詰まってないし。最悪うみをおいていくって選択肢もあるんだよ?」

「と、友達を見捨てるの?」

「やだなぁ、見捨ててないじゃん。助ける代わりに、ちょ~っとお願いを聞いてくれたらなぁ、って言ってるだけだもん」

 

 くそう。日に二度もアレをやるのは嫌だ。けど、他に俺の助かる方法はない。

 

「……わかった。わーかーりーまーしーたー!やればいいんでしょやれば!」

「交渉成立~♪もし約束を破ったら……」

 

 とたんに、凄まじい圧力が辺りを支配した。

 

「はい!絶対に破りません!」

 

 すごいプレッシャー!

 おかしい。めぐみんは確かに身体能力高いけど、りゅーじみたく生身で怪人しばけるほどじゃないし、魔法少女や戦隊の隊員といったヒーロー、ヒロインでもないはずだ。どうやったらこんなプレッシャーが身につくんだよ。

 

「んんっ。みんな、聞こえる?」

 

 さすがめぐみん。声優を目指してるだけあって声量ハンパない。もはや混沌としてた状況が一瞬で止まった。すげぇ。

 

「少しでいいわ。あいつの足止めをして」

「え?少しなの?それじゃなんの解決にもならな」

「わたしたちはその隙に逃げる。みんなには、わたしたちが逃げきるまで時間を稼いでもらうわ」

「ええっ!?」

 

 これって暗に俺たちはみんなを見捨てていくって言ってるようなもんじゃん。さすがにみんな納得しな

 

「賢明だ。君たちが先に逃げてくれれば私たちも逃げられる」

 

 一般ピーポーの中から即そんな声が上がった。

 

 あるぇぇぇぇ?

 

 何でそんなあっさり受け入れられるん!?

 

「ところで、一つ確認してもいいかな?」

 

 他の所からも声が上がった。あれ?このやり取り、どっかで……

 

「……いいわ。なに?」

 

 それにめぐみんのこの声マネ、そしてこの台詞。まさか。

 

「ああ。時間を稼ぐのはいいが——別に、アレを倒してしまっても構わんのだろう?」

 

 やっぱりかぁぁぁぁぁぁ!!!

 

 盛大な死亡フラグなのに言ってみたい台詞の上位に上がる名言を大手を振って言える最高のタイミング。ましてやその台詞を言う相手が台詞を言ったヒロインに負けて劣らない美少女。そりゃみんな受け入れる訳だわ。

 

「みんな――ええ、遠慮はいらないわ。 がつんと痛い目にあわせてやって、みんな」

「そうか。ならば、期待に応えるとしよう」

「生意気な!全員まとめてバラバラにしてやる!」

 

 おいおい、怪人までその後に似たような台詞言い出したぞ?まさか元ネタ知ってんの?

 

「行くわよ、うみ!」

「え?うわっ!?」

 

 めぐみんに引っ張られながら走り出す俺。まさか台詞だけであの混沌を静めて離脱するとか。すげぇなめぐみん。

 

「止まるんじゃねぇぞ……」

「悪いな。ここから先は行き止まりだ」

 

 ちょーっ!?主人公台詞もダメージ大きいけど所々に死亡フラグぶっ込むのはマジでやめてくれない?これで死なれたら後味悪いなんてもんじゃないんだけど!?

 

「だいじょーぶ。数の暴力って実際は強力だもん。単騎で無双できるのはアニメやゲームの中だけだって」

 

 うわぁ、なんて身もふたもないことを。

 

「それに危なそうなら私だってけしかけたりなんてしないし。大丈夫だいじょーぶ。……多分」

「今信用できない語尾がつかなかった!?」

「そんなに心配ならうみが生存フラグ立てたら?」

「そ、そか。サラダ作ったり生きる約束したりすれば」

「うみ、それ全部死亡フラグ」

「あ」

 

 ヤバイヤバイヤバイ。俺かなり混乱してる!こんな状況で本当に学校に行っていいのか!?

 

「あ。うみ、安心して。特大のフラグキラーが現れたから」

「え?」

「今すれ違ったバイク、有名なヒーローだったから。ほら、あの仮面ラ」

「あー。じゃあ安心だ。よかったよかった」

「遮らないでよ……まあいいけど。それじゃ、時間もギリギリだし速度あげるよ」

「間に合ってくれよ!」

「うみ、それ間に合わないフラグ」

「そ、そんな事はない!……はず」

「そんな天然な所もかわいいよ」

「かわいい言うな!」

「はいはい」

 

 めぐみんのおかげで窮地を脱した俺はこの後、頑張って走ったかいがあってフラグを立てたにもかかわらず何とか時間は間に合った。けど走って息が上がったまま入った教室でエロいとか言われたり、約束のその日二度目のヒロインモードしたりと、フラグの回避は成功したのに俺の精神は重傷だった。

 今日はかなりハードな方だったけど、こんなんが割と日常茶飯事の出来事だって言えば、俺の苦労はわかってもらえると思う。

 

 ……泣いてもいいかな?

 




男の娘、TS、いいですよね?


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第2話:護られるヒロインと戦うヒロイン

「だーかーらー!俺は何も見てないって!」

「嘘つけぇ!俺とがっつり目があっただろうが!アレを見られたからには生かしておけん!死ねぇ!」

 

 知らんがな!

 

 今日も今日とてトラブルに巻き込まれる俺。今日は路地裏でごそごそしてたネズミの怪人と目があっただけでそれはもうしつこく追いかけられている。

 しかも使い魔か仲間か知らんが大量のネズミも一緒。戦闘員も一緒。こんなエレクトリックな参加型パレードマジ勘弁してください。

 とか考えてたら後ろから爆発音。今度は何!?

 

「大丈夫?怪我はない?」

「え?あ、はい、ありがとうございます」

 

 振り返ってみれば、そこにいたのは緑色でフリフリフワフワの少女。雑魚を蹴散らす似たようなコスチュームの黄色と青色の少女、そして怪人とタイマン張ってるピンクの少女。超有名ヒロインじゃん!めっちゃファンです!

 

「あとは私たちが引き受けます。あなたは早く逃げてください」

「ありがとうございます。あ、お役に立つかわかりませんが」

 

 俺はお礼も兼ねて追いかけられた理由と怪人たちの怪しい行動を全部チクってやった。これで何をしようとしてたかはわからないけど全部パーですね。ざまあ。

 

「なるほど。それであなたは追いかけられていたんですね。大丈夫、あとは私たちが何とかします。さあ早く逃げてください」

「ありがとうございます」

「こんないたいけな少女を追い回して口封じしようだなんて絶対に許せません!覚悟してください!」

「あ、俺男……」

 

 行っちゃった。

 

 ……訂正するタイミング完全に逃した。くそう。

 

「がんばれー!」

 

 でも応援した。何故か?ファンだからだ。

 

「任せといて!」

 

 ピンクが頼もしい笑顔で応えてくれた。

 

 

 

——————————————————

 

 

 

 

「それで今日はこんな時間にレアキャラが出現してるのか」

 

 というわけで今日は登校RTAしなくてすみ、途中でたまたま出会ったりゅーじと登校中である。

 

「あのさ、レアキャラ扱いやめてくれない?人を何だと思ってる?」

「ポケ○ン?」

「そうそう、ピッカァってちっがーう!」

「その割にクオリティ高ぇよ」

「ほ、褒められても嬉しくなんかねーぞ!このヤローが♪」

「嘘つけ」

 

 そんな雑談をしながら久しぶりの平和な登校時間を満喫していたが。

 

 パサっ

 

 事件は生徒玄関で起きた。

 

「……またか」

 

 りゅーじの靴入れから出てきたのは数枚の封筒、しかもどれも可愛らしい便箋。十中八九ラブレターで間違いない。

 

「リア充爆破しろ」

 

 軽く怨念を垂れ流しながら自分の靴入れをオープン。

 

 バサバサ

 

「……またか」

「いやあお前ほどリア充じゃないって」

「フザケンナ。お前の貰う可愛らしいラブレターと俺が受け取らされるちょっと怪しい手紙が一緒なわけないだろうが!」

 

 同じラブレターでも俺は男から。しかもシンプルなやつはまだいい。中には毛が入っていたり、りゅーじと仲のいい俺に嫉妬した女子からの不幸の手紙やカミソリレターなんかも少なくない。白いジャム瓶が入ってた時なんてマジでトラウマになった。

 

「それでもちゃんとした手紙には断りの返事するのは律儀だよな」

「お互い様だろうがそこはまあ人としてな」

 

 前提が間違っているとはいえ、ラブレターや告白ってのは勇気とかエネルギーとかをたくさん使う。だからその想いには真摯に応えるべきだと思うんだ。ちなみにりゅーじともう一人の友人はこの考えに賛同してくれた。

 

 パサっ

 

 噂をすれば、って訳じゃないけどタイミングよくもう一人のモテモテな友人登場。

 

「んー気持ちは嬉しいんだけど……」

 

 めぐみんは思わず苦笑いしていた。

 

「おっすめぐみ。おーおーそっちもすげぇな」

「あ、りゅーじおはよー。それと……うみおっはよー!」

「俺の挨拶だけテンションがおかしい!?」

 

 モテモテな友人が異性(オレ)に抱きつこうと突撃してくる件。だが甘い!

 

「りゅーじばりやー!」

 

 俺はりゅーじばりやーを展開した。

 

「「甘い!」」

「甘い?ふははは、我が策略に穴などない!」

 

 で、りゅーじ、何でばりやーのお前が屈んでってうっそ!?めぐみんそれを馬跳びで飛び越えてくるの!?

 

「ゲットだぜー!」

「バカなぁ!?」

 

 逃げる間もなくめぐみんにゲットされた。つか息ぴったりですね二人共。俺びっくりですチクショウ。

 

「うみやっぱり私と声優目指そう?今のル○ーシュの真似もすっごい似てたよ!」

「やだ!声優になるのがどれだけ大変かめぐみんから聞かされてるから知ってるし、才能ないし、俺みたいに中途半端な気持ちで目指すのは本気で目指してる人たちに失礼だ」

「じゃあ本気で目指そう?大丈夫、うみは才能あるし、きっと大変だけど楽しいから!」

「いーやーだ!俺は見る側でいいんだよ。アニメ見てこうやってりゅーじやめぐみんと面白かったなって話せればそれでいいんだよ」

「えーもったいなーい。そんなにいい声持ってるのに」

「そう、そんな容姿してるのにもったいないわ。だから私とアイドル目指しましょう!」

 

 うげ。この声は。

 

「あ、彩音おっはよー。でもざんねーん。うみは私が先に目をつけたから私と一緒に声優目指すって決まってるんだ」

 

 めぐみんが唐突に会話に加わってきた声の主から俺を隠すようにする。いや、目指さないって言ったじゃん?お願い、俺の話を聞いて。あと放して。平静装ってるけど内心かなりドキドキしてるから。なんか色々柔らかい。あっ、いい匂い……

 

「あら、めぐみさんももちろん一緒ですよ。三人でアイドルユニット結成しましょう。ああ、想像しただけで……」

「いやだから私は声優を目指すって、もしもーし?だめだ、完全にトリップしてる」

 

 うーん、アイドルを目指す子がしていい顔じゃないぞあれ。あれで目指せるのはエッチな女優さんじゃね?

 彼女は白鷺彩音。アイドル目指してるのにトリップ癖のある残念美少女。ことあるごとに俺とめぐみんをアイドルに誘ってくるが、アイドルなんて群雄割拠でこれまた難易度SSSクラスの職業を男の俺に目指せとか無謀にもほどがある。

 

「お前らいつまでやってんだよ。置いてくぞ」

「あ、まって、いまいくー」

 

 ようやく開放された俺はめぐみんとお互い落ちた手紙を集めてりゅーじの後を追った。

 

「はぁ。この手の手紙や告白、量増えたなぁ」

 

 思わずため息が出る。ちなみに初めてラブレターを貰ったのは小六、告白は中一の夏休み前日。そこから嫌がらせも含めて徐々に増えていき、今じゃ朝靴入れに手紙がない日はない。ちなみに女子からのラブレターは一度もない。というかめぐみん含めて女子に男に見られてない節がある。ちくしょう。

 

「モテモテだねーうみ」

「うわぁ微塵も嬉しくねぇ」

 

 男にモテてもなぁ。

 

「そりゃあお前、俺たち性欲も出てお付き合いもしたくなる年頃だろ?」

「理解はするけどさ、なおさら男の俺に告白しても意味ないじゃん?それにそういうのが増える理由にはならないだろ?」

「いやー見た目美少女の詐欺キャラだからなぁお前。知ってるか?お前とめぐみ、それに彩音の三人が何て呼ばれてるか」

「え?」

「明青中学の三大女神だってよ」

「はぁぁぁ!?」

 

 なんだそれ!?三年この学校に通ってて初耳なんですけど!?

 

「天真爛漫で純真な豊穣の女神のめぐみ、品行方正、それなのに天然で隙が多くてちょいエロ、なぜか嫌いになれない彩(いろどり)の女神彩音、最後に男口調が逆にイイ!キツい言葉の中に優しさが垣間見えるツンデレ、創造の女神ちゃん、ウミ」

「なんだそれ!?俺がいつデレたよ!?あとなんで俺だけちゃん付け!?」

 

 いかん、ツッコミどころが満載過ぎてどこからツッコんだらいいのかわからん!おいりゅーじ!笑い事じゃねぇぞ!?

 

「ちなみに女神ってのは名前から来てるみたいだぞ」

「いやそれは別にどうでもいい。ていうか聞いてない」

「うみ、人が嫌がること結構率先してやるじゃない。で、褒められたりお礼言われたりするといつも「う、嬉しくなんかねーぞ!コノヤローが♪」とか言ってるから」

「……あれが原因か」

 

 ただ好きなキャラの真似をしてただけなのにそんな事態を引き起こしていたとは。いや、照れ隠しは確かにあったけど。

 

「ちゃん付けは見たまんまだな」

「それはそれで凹む」

 

 後輩からなぜ「海ちゃん先輩」とか呼ばれてたか分かったよ。分かりたくなかったよ。

 

「え?本当に知らなかったの?」

「おう、こいつ、マジで知らなかったんだよ。ぷっ、くくく」

「笑うな!ちくしょー!」

 

 ん?待て待て。

 

「めぐみんは知ってたのか?」

「かなり有名な話みたいよ。ていうか下手すると他校の一部にも流れてるみたい」

「他校にまで!?」

 

 どうなってんだこの世界!?

 

「いやほら、うみや彩音もそうだけど私も目立つみたいだからさ」

「俺も目立ってるの!?」

「あれだけラブレターや告白されてるし今更でしょ?」

「いやいやいや!俺何にも知らないんだけど!?」

 

 一体俺の知らないところで何が起こってるんだ!?

 

「で、この学校に行きついて、噂を耳にすれば必然的に、ね」

 

 えええええ。俺いつの間にか有名人?ていうか。

 

「なんでめぐみんはそんなに平然としてられるの?」

「え?私別に他人の評価なんてあまり気にしないし」

 

 俺の友達が女子で男らしすぎる件。この年齢でそう思えるとかすごすぎるんだが。

 

「私はむしろ嬉しいわ。アイドル活動を始める前からこんなにファンがいてくれるんですもの」

 

 うおっ!?あややいつの間に復活してた?しかもしれっと会話に参加してくるとかなかなかのコミュ力。ってそうじゃねぇ!りゅーじもいつまで笑っていやがる!

 

「なんで……こんなことに……」

「ああ、そうそう、ラブレターや告白が増えた理由だけどな」

「や、やめろ……この流れでいくとロクな答えじゃない……」

「俺たち今年で中学卒業だろ?だから別の進路に行く連中や下級生がラストのワンチャンに賭けて当たって砕けにきてるんだよ」

「ないから!そんなチャンスはないから!」

「ま、その辺の苦労は俺たちも一緒だ。お互いがんばろうぜ」

「くっそ、このせいで受験失敗したら全員恨んでやるからな!」

「お前がそういう影響受けて失敗するタマかよ」

「あのなぁ。こういう時はもうちょっと優しい言葉とかかけるもんじゃないの?」

「大丈夫。受験失敗したって声優には関係ないから」

「アイドルにも関係ないですよ。妹系おバカアイドルっていうのも悪くないですね」

「うん。絶対に失敗しない」

 

 おかげで不退転の覚悟ができた。絶対に失敗するもんか!

 

 

 

 

 

——————————————————

 

 

 

 

 放課後。

 俺は一人で下校していた。いつもならりゅーじかめぐみんと一緒だけど、りゅーじは部活の助っ人、めぐみんは生徒会で二人ともどうしても抜けられなかったらしい。かくいう俺は帰宅部に加え、今日はジャ○プの発売日もあって二人を待たずに下校中だ。すまん二人とも。今週は気になる続きが多くて早く読みたかったんだ。

 

 パキン

 

 ……あれ?今何か割れるような音が。空耳?でも急になんか空気が変わったような。それにこの時間に車や人が全く通らないっておかしくない?

 とか考えてたら、何かが目の前を猛スピードで横切った。

 

 ばこぉぉぉぉぉぉん!!!

 

「うわぁっ!」

 

 爆音に驚き、すぐに色んな破片が飛んできたのをとっさに腕でガードする。

 幸い、殺傷能力の高いものは飛んでこなかったのでケガらしいケガはなかった。

 土煙?砂煙?が徐々に晴れて、飛んできたものを確認する。そこには今朝会ったヒロインズのピンクがボロボロで倒れていた。

 

「大丈夫ですか!?」

 

 俺は慌てて駆け寄って彼女を抱き起す。意識はあるようだけどぎりぎり保ってるって感じだ。

 

「に、逃げて……」

 

 こんな状態でも俺を逃がそうとしてくれるなんて本物のヒロインはやっぱり違う。でもこんな状態の女の子を見捨てるなんてできない。

 

「今すぐ病院に」

「ほう、俺の作った結界で、虫が入り込んだだけじゃなく動けるのか。貴様、ただの虫じゃないな」

 

 イケメンヴォイスが俺の言葉を遮った。振り返ればそこにはいかにも「俺はサイキョウだぁー!」と言わんばかりの悪の高幹部的な服装をしたイケメンヤローが仁王立ちで宙に浮いていた。

 

「まあいい。俺にかかれば多少毛の色の違う虫も他と大して変わらん」

 

 そういうと俺たちに向かって手をかざす。

 

「させない!」

 

 そのタイミングでイケメンヤローの横から黄色のヒロインがラ○ダーキックで飛んでくる。

 

「ふん。遅い」

 

 イケメンヤローは黄色の少女のキックをよけつつ足を掴み、回転しながら勢いをつけて飛んできた方向へ投げ返す。

 

「きゃあああ!!!」

 

 凄まじい勢いで飛んで行った黄色の少女は建物の谷間に消え、そこから土煙だか砂煙が上がる。

 

「まだよ!」

「くらいなさい!」

 

 イケメンヤローを挟む形で青色と緑色のヒロインが叫ぶ。青色の少女は弓矢を、緑色の少女は小さなつむじ風を発生させて挟み撃ちにする。

 

「同士討ちするがいい」

 

 イケメンヤローは高度を上げるだけで同士討ちになる。はずだった。

 

「私がみどりを」

「せいちゃんを」

「「ケガさせるような攻撃するわけないでしょ!!」」

 

 イケメンヤローの真下で矢と小さなつむじ風は衝突する。が、風が矢の方向を変え、速度を増し、風を纏う矢となってイケメンヤローへと飛んでいく。

 

「ふん。多少はマシな攻撃ができるようだな。だが」

 

 イケメンヤローはなんでもないことのように矢を掴んで見せた。

 

「そんな……」

「私たちの攻撃が、効かない……」

 

 二人に明らかな落胆の表情が浮かぶ。

 

「ふははは、四天王にまで上り詰めたこの俺がどれだけ幾多のヒーローやヒロインを葬ってきたと思っている?貴様らとは格が違う。ほら、返すぞ」

 

 イケメンヤローは掴んでいた矢を青色に向かって投げつける。

 

「い゛っ!?」

 

 ただ無造作に投げた矢は二人が仕掛けた攻撃の比じゃない速度で青色の少女を貫き、地面に縫い付ける。その後、青色の少女はぐったりとして動かなくなった。

 

「せいちゃん!」

 

 緑色の少女が慌てて青色の少女に駆け寄ろうとして

 

「ふははは、油断大敵だ」

 

 遮るように現れたイケメンヤローに回し蹴りを食らって吹き飛ばされた。

 

「さて、これでお前を守るヒロインはいなくなった。これから己の不運を嘆きながら死ぬがいい」

 

 イケメンヤローがわざとらしくゆっくりと俺に向かって歩いてくる。

 

「……なぁ、お前さ、女の子は大事に扱えって習わなかったか?」

「なんだ?命乞いか?自分は女だから大事に扱って見逃せと?笑わせてくれる。そんな言葉で俺がお前を見逃すと?」

「違ぇよ。俺は男だ。だからこれは今お前が暴力を振るった子たちに、だ」

「お前が男?気でも狂ったか?」

「質問に答えろよ?」

「はっ。いいだろう、冥土の土産に聞かせてやる。答えはNoだ。貴様は害虫のオスやメスをいちいち気にするのか?」

 

 ぶち。

 

「なるほど分かった。幸いテメェの張った結界のおかげで目撃者もいないようだし」

「何を言っている?」

 

 俺はポケットからスマホを取り出してアプリを起動、そこにある装備スロット1を選択してタップ。

 

「アプリキドウシマシタ。スロット1ノソウビヲロードシマス」

 

 某ボーカロイドの声がスマホから流れると、俺は黒い霧のようなものに包まれる。

 

「む、貴様、何をする気だ?」

 

 イケメンヤローは訝しみながらも、攻撃はしてこないらしい。変身中の攻撃をしないルールを守るとは律儀なことだ。

 

「ロードカンリョウシマシタ」

 

 声と共に黒い霧は晴れ、俺の格好は変わっていた。黒い色は変わらないが、髪は伸びてセミロングに、服は白と黒を基調として紫のポイント、そして……

 

 ミニスカートに黒タイツ。

 

 所々にリボンがあしらわれ、少しのフリルが下品過ぎない可愛さを演出する。その姿は何度でも繰り返す時を操る魔法少女のコスチュームに似ている。

 

 俺がさらにスマホをタップすると、何もない空中に突如可愛らしい魔法のステッキが現れる。

 俺はスマホをポケットにしまいながらそのステッキを掴み、イケメンヤローに突き付けた。

 

 

 

 

「さぁ、道徳の時間だぜ」

 

 

 

 

 



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第3話:自衛手段

「貴様、魔法少女だったのか」

「違ぇよ。俺は男。これはただの自衛手段だ」

 

 こんな世界で巻き込まれ、攫われ体質のある意味トラブルメーカーの俺だ。自衛手段を持っておかないと命がいくつあっても足りない。

 

「おかしなことを。その見た目と服装で誰が男だと信じる?」

「うっさい!気にしてるし、服もこれが今持ってる中で一番露出が少ないんだよ!」

 

 だからこの姿になるのは嫌だったんだ。

 今回は結界のおかげで人目がないからいいけど、ただでさえ護られる系のヒロイン扱いが酷いのにこんな姿見られたら間違いなく戦えるヒロイン扱いが加速する。そんなの俺の男としてのプライドが死ぬ。

 けど、降りかかる火の粉は払わないといけないし、女に暴力を振るって平気なヤローははっきり言って大っ嫌いだ。

 

「くくく、面白い女だな。気に入った。お前、今日から俺様の女にしてやる。光栄に思え。見た目の良さも俺様に相応しい」

「だが断る。ていうか超嫌」

 

 無論即答。何をトチ狂ったのか知らんが平気で女を殴る蹴るような奴の彼女とか無理無理。

 ていうかそれ以前にこいつも俺が男だって信じねーのかよ。まあこういうこと言い出す馬鹿は割と多いし心の底から嫌だったせいか、言葉もスムーズに出た。まさか幹部クラスに言われるのは正直予想してなかったけど。

 

「この俺様を拒否するか。ますます気に入った。ならば力づくで俺に服従を誓わせてやる」

「言ってろ。こっちはその態度が改まらない限りフルボッコの予定だから覚悟しろよ」

「覚悟をするのは貴様の方だ!」

 

 唐突にイケメンヤローが普通なら目に見えないような速度で俺との距離を詰める。そう、普通(・・)なら。

 

「マジカルフルスイング!」

 

 ごっすぅ!!!

 

 手ごたえあり!

 

 ただし、身体能力が向上している俺にはちゃんと見えていた。俺でなきゃ見逃しちゃうね。

 全力で振り抜いた魔法のステッキがイケメンヤローの顔面を捉え、鈍く、重い音を上げて、バトルアニメ張りに綺麗に吹っ飛んでいき。

 

 べしゃ。

 

 自ら作った結界に張り付いた。

 

「ナイスショット」

 

 もしゴルフだったら300ヤードは堅いな。ちょー気持ちいい。

 

「くっ、貴様ぁ、やってくれたなぁ!しかもわざと俺様の自慢の顔を!」

 

 おー、さすが四天王だっけ?丈夫い。顔はー……わざとじゃないよ?うん。決してイケメン滅ぶべし!とか思ってないから。

 

「しかしすっかり騙されたわ。見た目からして遠距離タイプかと思いきや近接戦タイプだったとは。だがそれがわかってしまえば対処も容易い」

「2倍」

 

 俺はイケメンヤローの台詞を聞き流しながら呟く。

 イケメンヤローはと言うと、周囲に無数の野球のボールサイズの黒い球体を出現させる。

 うーん、影響どころか気づいてすらいない模様。やっぱあれだけ強いと2倍なんて誤差なのか?

 

「さあ、この量の攻撃をどうする?避けてもいいが、そうするとお前の後ろで倒れている連中に当たるかもなぁ!」

 

 嬉しそうに説明ありがとう。大丈夫、避けないから。

 

「ほら、やめて欲しかったら言うべき言葉と態度があるだろう?」

 

 何を勘違いしてるのかドヤ顔決めたイケメンヤローが何かわめいている。

 

「いや別に?」

「もういい!貴様などいらん!そこの連中共々死んで塵になれ!」

 

 あ、キレた。なんていうか、こういう連中って沸点がクッソ低いな。

 イケメンヤローが合図をすると、黒い球体が一斉にこっちへ向かって飛んでくる。まあ無駄なんだけど。

 

「吸引」

 

 俺がそういうと、魔法のステッキの先にある紫色の宝玉が淡く輝いて、飛んでくる黒い球体を次々に吸い込む。ダイ○ンも真っ青の吸引力。合言葉を口にしてステッキを向けるだけの簡単なお仕事です。

 

「なんだと!?この俺様の攻撃を吸収しているだとぉ!?」

 

 イケメンヤローめっちゃ悔しそうです。ざまぁ。

 ついでだ、これも受け取っておけ。

 

「マジカルピッチャーライナー!」

 

 俺は最後の1球だけわざと魔法のステッキで打ち返してやった。

 

「へぶぁ」

 

 猛スピードでイケメンヤローを強襲した弾丸は見事顔面に直撃。うっは、痛そう。草生える。

 

「ぷっくす。へぶぁ、だって。自信満々の攻撃返されて自慢の顔強打した挙句にへぶぁ、だって。超かっこ悪ぅ」

 

 空中で顔面を抑えてぷるぷるしてたイケメンヤローが思いっきり殺意を込めた目で睨んでくる。

 

「くっ、くっくっくっ。そ、そんな挑発にのるか!馬鹿め!馬鹿め!!!」

 

 めっちゃ乗ってるし。むしろノリノリだし。煽り耐性かけらもないなー。

 

「この俺様を本気で怒らせたことを後悔しろ!」

 

 はい、自分激おこなの自白しましたー。やっぱ馬鹿だこいつ。

 とか思ってたらイケメンヤローが地面に降りて、影が増える。その影からイケメンヤローそっくりってかほぼ同じやつが出てきた。その数ざっと10人くらい。

 影分身とかどこの世界のニンジャだよ。

 

「「「楽に死ねると思うなよ」」」

 

 見事に声がハモる。こいつ合唱とかさせたらうまそうだな。ま、それは置いといて。

 

「5倍」

「「「ぐ、なんだ?」」」

 

 イケメン軍団が揃って膝をつく。

 今度はちゃんと反応した。というか効果も目に見えて出たな。しかも元が同じせいか、全員に付与されてるみたいだ。

 

「「「貴様ぁ、何をした!」」」

 

 俺が何かしたっていうのはわかってるらしい。ま、別に隠してる訳でもないし。

 

「世間的には言えばデバフってやつだ。今お前にかかってる重力を倍加させてんの」

「「「な!?」」」

 

 何か信じられないようなものを見る目で見られた。

 

「いやお前、相手の能力も分からずに突っ込んでくるとかどんだけ自信過剰なんだよ。まさかその辺無警戒っていうかそれ含めて簡単にねじ伏せられるとか思ってたわけ?」

 

 半分呆れながら言うと無言で睨みつけられた。どうやら図星だったらしい。

 

「「「舐めるなよ!この程度でっ!」」」

 

 うーん、5倍で動けるとか元気だな。とはいえ。

 

「くっ、なぜ当たらん!?」

「おのれちょこまかと!」

「体が思うように動かん!」

 

 そんな攻撃が当たる訳がない。スローすぎてあくびが出る。

 

「足元がお留守ですよ」

「ぬあっ!?」

 

 適当なやつに足を引っ掛けてやったら殆どのやつ巻き込んで盛大にこけた。草生える。

 

「「「おのれおのれおのれおのれぇぇぇぇ!」」」

 

 たこ足配線並みのこんがらがり状態で立ち上がれずに喚き散らすイケメンヤローさん。ウケる。

 

「10倍」

「「「ぐぅぅぅ!」」」

 

 思い切って一気に増やしたら潰れたカエルみたいになって分身が消えた。

 でもよかった、手加減(・・・)できて。いや、前に10倍使った時は怪人が耐えきれなくてミートソースみたいになったんだよね。で、軽くトラウマになってしばらく肉食えなかった。それ以来使ってなかったから心配だったけどよかったよかった。

 しかし普通の怪人程度ならミートソースになるような重力下でこれで済んでる辺り、さすが四天王は伊達じゃないなーとか思う。まあフラグ的にも実力的にも俺程度にこんな醜態晒してるんだから「ヤツは四天王の中でも最弱」なんだろうけど。

 

「この俺様をここまでコケにしやがって……ただで、すむと、思うなよ……」

 

 いや、その状態でよくそんな言葉が出るな。逆に感心するわ。どこぞの野菜の王子並にプライド高い。ま、プライドじゃこの状況は覆らないけど。

 俺は潰れながらも必死で顔をこっちに向けて睨む四天王のイケメンヤローの目の前でしゃがむ。

 

「はいはい、そんな姿で凄まれても全然怖くねーよ。お前は俺に手も足も出ずに負けたんだよ敗者。夢だと思うだろ?ところがどっこい……夢じゃありません……! 現実です……! これが現実…!」

 

 一回言ってみたかったんだよねこの台詞。こんなこと言えるタイミングなんて滅多にないから結構気持ちいい。ちょっとゾクゾクして癖になりそう。まあこれくらいの役得があってもいいよな。

 とまあ俺は悦に浸っているけどイケメンヤローの反応がイマイチ。

 

「どうした?あんまり反応しないけど悔しくねーの?俺みたいな弱そうなのにあっさり倒されたってのに。あん?いったいどこを見て……」

 

 こいつなら血管切れそうなくらいムカ着火ファイアーしそうなのにとか思って様子を見たら、いつのまにか視線は俺の顔から外れてもっと下……

 

「……黒」

 

 !!!????

 

 俺は慌てて立ち上がってスカートを抑える。こっ、この野郎……!!

 

「死ねぇ!!!」

「がっ!?」

 

 思わず全力で蹴り抜いた。

 

「あっ!?」

 

 やっちまった!

 

 気づいた時にはもう遅かった。

 俺の蹴りは見事に顔面を捉えて、10倍の重力がかかってるはずのイケメンヤローが石ころみたいに吹っ飛んで建物を貫通していった。

 やっべ、死んでないよな?……ああいや、別に死んでもいいのか?見た目人間みたいだったけど怪人だったんだろうし。

 

「助けてくれてありがとー!!!」

 

 どーん

 

「うわあああ!?」

 

 何事!?

 

「君のおかげで助かったよー。あ、私フェアリアルエレメンツのフェアリーピンク。よろしくね!」

 

 いや知ってる!ファンだから!いやそうじゃなくてなんで俺ファンのヒロインに抱きつかれてるの!?

 

「ピンク!彼女が困ってるだろう。誰彼構わず飛びつく癖は直せと何度……」

「んもう、せいちゃんは堅い!堅すぎるよー!」

「いやー初対面であれはキッツイと思うわー」

「むう、キーちゃんまで。だって仲良くなりたいんだもん」

「普通、そういうのは仲良くなってからでしょ?」

「ええー!?みどりちゃんまで!?」

 

 ええー!?ヒロイン戦隊のみなさん!?なんか全然元気そうなんですけど!?イケメンヤローにやられたんじゃ?

 

「ともかく一旦離れろ」

「ヤダ」

「……」

「……」

 

 うおおおお!?なんかピンクと青色の子の空気の温度が急激に下がってる気がするんだけど!?ちょっと、保護者(なかま)の方々、止めて下さい!

 

「二人ともようやるわ」

「飽きないねぇ二人とも」

 

 うおおおおい!和んどる場合か!恩人大絶賛ピンチ中なんですけど!?

 

「あ、パンツ覗き魔」

 

 その時、本当に偶然に、俺の強化された視界は生まれたての子鹿みたくプルプルしながら立ち上がろうとするイケメンヤローを捉えた。え?あの蹴りくらってまだ生きてるっていうか立てるの?

 

「パンツ覗き魔!?」

「変態ね」

「カスやな」

「殺しましょう」

 

 思わず思ったことが声に出たのをしっかりと聞かれて関心が全部そっちに移った。ていうかヘイトがすげぇ。

 

「女の敵、滅ぶべし!みんな、いくよ!」

「「「ええ!」」」

 

 みんなそれぞれに武器を掲げる。ピンクは剣、青色の子は弓、黄色の子は手甲、緑の子は銃。

 

「ほら、君も」

「え?俺も?」

「もちろん」

「うん」

「せや」

「おいで〜」

「あ、はい」

 

 俺は流されるままに合流して魔法のステッキを掲げる。

 

「「「レインボーサイクロン!!」」」

「ブフゥ!」

 

 その名前はダメじゃね!?たまたま被っただけかもしれないけどそれもう使われてるから!どっかのナルシーな魔闘家の必殺技だから!そもそもレインボーに黒は入らない!

 そんな俺の心のツッコミを無視して4人は光撃、じゃない、攻撃を撃ったあと。あーもう!どうにでもなれ!

 一歩遅れて俺も重力波、どっかの花の名前を冠した戦艦が撃つようなビームを放つ。

 俺たちが撃ったそれぞれ自分と同じ色をした光線は収束して束になって渦を巻きながらイケメンヤローに迫る。そして。

 

「うがああああああああああああああああ!!!!」

 

 叫び声と共に光の柱が上がる。その柱が粒子になって消えて晴れていくと同時に、張ってあった結界が音を立てて崩れていく。どうやら無事(?)にあのイケメンヤローを倒せたようだ。

 

 わああああああ

 

「へ?」

 

 嘘!?結界が消えた先に結構な人がいる!やっべぇ!俺って絶対バレたくないから結構外見変えてあるけど絶対とは言い切れない。だから人目も避けてたんだし。とにかく逃げ

 

「やったぁぁぁ!」

 

 どーん

 

 またピンクちゃんに捕まった!?

 

「私たちあの四天王の一体を倒したんだよ!正義殺しの異名を持つあのヨシオを倒したんだよ!?」

 

 名前が凡庸すぎて逆に新鮮だな!?異名に名前負けしすぎだろぉ!あれ?でも確か勇者にも凡庸な名前のやつがいたような……

 いや今それはどうでもいい。

 

「あのヨシオを倒したって!?フェアリアルエレメンツすげー!」

「あれ?一人多くないか?」

「か、可愛い」

「新メンバー?」

「5人目、だと?」

 

 おいいい!ギャラリーの方々が勘違いなさってるだろう!

 

「ちょ、ピンク離して!逃げれ、じゃない、みんなメンバーと勘違いしてるから!」

 

 思わず本音が出そうになったけど慌てて訂正する。

 

「いいじゃない。このまま私たちの仲間にならない?」

「ええなそれ」

「さんせーい」

「異議はない」

「ちょー!?」

 

 待て待て待て待て!

 

「なりません!俺、じゃなかった、私はヒロインなんて柄じゃない!」

「えー?似合ってるよ?」

「強いし」

「かわええしな」

「性格も良さそうだしね」

 

 あかん、全員勧誘モードや。

 フェアリアルエレメンツはすごく好きだけど別にメンバーになりたかったわけじゃない。ファン側でいいんだよ俺は。ヒロイン扱いされるなんて絶対に嫌だ。

 

「ごめんなさい、無理!絶対に無理!」

「えー?そんなに私たちのこと嫌い?」

「違っ」

「傷つくわぁ」

「ショックです」

「ダメだ、もう立ち直れないかもしれない」

「違います!違いますからね!?」

 

 素晴らしい連携だ。そこも好きな理由の一つなんだけどこのタイミングで見たくはなかったよチクショー!

 まずい、ただでさえ多くの人にこの姿見られてるから逃げたいのに、このままだと強引というか流れというか勢いで加入させられかねない。クーリングオフなんてないだろうし言質だけでも取られたら即アウトだ。

 

「俺っ子だと!?」

「しかもいじられキャラ!」

「途中参加でしかも色が黒!絶対強いやつやん!」

「かわいすぎ!あんな妹欲しい!」

「俺早速ファンになった!」

 

 いかん!外堀まで埋まり始めた!

 こうなったら仕方がない。

 

「影移動」

「えっ?わわわっ!?」

 

 俺はそのまま影に沈んでいき……

 

「ピンク、後ろ!」

「えっ?」

 

 ピンクちゃんの後ろ、正確には影から出る。

 

「逃がさないよ。みんな!」

「「「ええ!」」」

 

 その言葉をきっかけにかわいい女の子たちが一斉に俺を捕まえようと迫ってくる。言葉だけ聞けば夢のような状況なのに。だが俺はここで捕まるわけにはいかない!

 

「影分身の術!」

 

 ボフフフン

 

「「「えええええええ!?」」」

 

 実は俺も使えるのだ、影分身。術って言ったのは、まあ例のあのアニメの影響だけど。

 

 フェアリアルエレメンツの面々もギャラリーもずいぶん困惑したようだ。俺はこのチャンスを逃さない。

 

「「「戦術的撤退!」」」

 

 数十人に増えた俺は一斉に四方八方へと逃走を開始。

 

「え?え?どれが本物?」

「捕また!」

 

 ぼふん

 

「って消えた!?これ分身!?」

「厄介な」

「どないするんこれ?」

 

 場はどんどんカオスと化していく。

 よし、この混乱と分身に紛れて脱出……う…そ……

 

「りゅ!?」

 

 りゅーじぃぃぃぃぃぃぃ!?

 

 思わず声に出そうなのをなんとか止める。今、俺の目の前にいるのはイケメンの親友で見られたくないヤツトップ3の一人。

 バレませんよーに!バレませんよーに!!バレませんよーに!!!

 

「……可憐だ」

 

 ……ほわっつ?

 こいつ今なんつった?カレン?花蓮?狩れん?

 

「あ、あの、よ、よかったら俺と、少し、お話しません、か?」

「ごめんなさい」

 

 膝から崩れ落ちる親友。

 あ、ごめん。ついいつもの癖で。

 と、とりあえずバレてはないようだ。けどお前、いつもと様子が違いすぎない?

 

「あ、あそこ!動きの止まってるのがいる!」

「よっしゃ、任せとき!」

 

 やっべ、気づかれた!

 まあどうせこの姿で会うことももうないだろ。声でバレないようにモノマネレパートリーからかわいい声優さんの声をチョイスして。

 

「こんな状況だからまた今度会えたら、ね?」

 

 俺はりゅーじの横を走り抜けながら声をかけた。そしてスマホを取り出してタップすると、持っていた魔法のステッキが箒に変化。俺はそれに跨がると全力で空中へと舞い上がりその場を離脱した。

 

 

 

 翌日。

 

 俺の周りはある話題一色だった。

 珍しく平和だった登校中も休み時間も、耳に入ってくるのは黒い魔法少女の噂ばかり。ダメだ、完全にヒロイン認定された。

 

「ねーねー聞いた?新しいヒロインの話。ってどしたの、うみ?」

「めぐみん……いや、ちょっと軽く死にたくなって」

 

 お昼休み、めぐみんに声をかけられた。けど今の俺の精神は瀕死状態だ。理由は言わずもがな。もし俺のステータスとか見れるのならそのウインドウはきっとオレンジや赤色をしてるに違いない。

 

「何があったの?よかったら相談に乗るよ?」

「……ありがと。でも理由は言えない」

「そっか。まあ気が変わったらいつでも言ってね。私はうみの味方だよ」

「……うん」

 

 やばい。めぐみんの優しさがめっちゃ心に沁みる。今声優の勧誘されたらオッケーしちゃうかもしれない。

 

「なあウミ」

「ん?」

 

 この声、今度はりゅーじか。

 

「お前、噂になってる黒い魔法少女のことなんか知らないか?」

 

 りゅーじ、お前もか。いやでもなんかいつもと雰囲気が違う。

 

「知らない」

「……そか。なんか落ち込んでる時にすまなかったな。めぐみは?」

「え?噂程度のことくらいしか……」

「そうか……」

 

 それだけ言うと、りゅーじは俺たちから離れて別のやつに同じ質問を繰り返してた。

 

「あいつどうしたんだろ?」

 

 俺は思わず顔を上げてめぐみんと顔を合わせる。

 

「さぁ?もしかして惚れたとか?」

「まさか」

 

 ないない。あいつモテるけど特定の誰かが好きとか付き合ったとかそういう浮いた話がぜんぜんないからな。

 

「めぐみさん、うみちゃん、聞きました?」

 

 あやや、待て、まさかあややも……

 

「新しいヒロインの話ですよ」

 

 うわああああああああ!!!

 

 俺はとうとう我慢できなくなって立ち上がり、教室から飛び出して屋上にたどり着く。そこで溜まった鬱憤を晴らすべく、

 

「勝手に人をヒロインにすんなぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

 力いっぱい叫んだ。

 

 




ちなみにヒロインズが無事だった理由は癒しの魔法が使える緑ちゃんがみんなを回復させたから。

人物図鑑その1
名前:天地 海(あまち うみ)
性別:男
外見:見た目は美少女。妹系。身長148cm 体重43キロ 髪は黒色ですっきりショート、目は黒色で普通だけどよく怒っているのでつり目のイメージがある。アニメ声。
変身後は正体を隠すため髪がセミロングになる。
プロフィール
明青中学3年生の転生者。見た目と巻き込まれ、拐われ体質と相まってよくヒロイン扱いをされるが本人はコンプレックス。
性格は基本的に平和主義者で真面目。ただしその分人見知りで友達は少ない。
転生前も含めて中級のヲタ。そのためアニメのシーンの再現が好きでモノマネを得意としている。
明青中学の3大女神の1柱。
こんな世界で致命的な体質のため、身を守る手段を探した結果、変身できるアプリを見つけて危険な時に使用している。
実は変身中はTS化しているが本人は気づいていない。


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第3.5話:ヒロインアプリ

今回、ネタ満載です。
これ、衣装だけで本人出てないけどクロスオーバータグつけた方がいいのかな?


「あ、そういえば」

 

 あの戦いが終わって最初の週末。俺は心の傷を癒すために部屋に篭ってベッドでゴロゴロしてた。

 が、ふと思うことがあってスマホを手にし、「ヒロインアプリ」というアプリを起動。

 実はこれがあの戦いで使った俺の自衛手段。もうね。名前からしてこんなの使いたくないんだけど、背に腹はかえられない。俺の体質を考えれば「使わない」という選択肢はない。……ちくしょうめ。

 で、なんで今起動させたかというとこのアプリ、いったいどういう原理かはわからないが、俺が守られたり、逆に怪人を倒したり、まあいわゆるヒロインらしい行動をするとガチャを回せるポイントがもらえるのだ。そのガチャから出るアイテムを各スロットで装備して使うことができる。

 そして今回俺は、幹部で四天王、しかも正義殺しと肩書きマシマシの大物を倒した。となれば。

 

「おおおお、一気に11連が4回分も」

 

 嬉しさで思わず声が出た。

 今度こそ目立たない普通のやつをゲットしたい!……最悪、あの黒系魔法少女コスチュームが世間バレしたから新しく露出の少ない恥ずかしくないコスが出れば。……このガチャから出るコスってやたらと露出度の高いのや恥ずかしいのが多いんだよ。たまたまだと思いたいけど、なまじヲタだから俺は現実を知っている。アニメやゲームの女性装備は肌色の部分がそれはそれは多いのだ。それでも願わくば、露出の少ない恥ずかしくないコスを!

 

「ん?期間限定ガチャ?」

 

 ガチャの画面を開いたらいつもと雰囲気が違った。何やらイベント中らしい。そしてそこにあったのは期間限定、コスチュームの排出率アップガチャの文字。

 ……またえらくタイミングいいな。だがしかし、俺の頭の中で鶴瓶師匠が「やらないという手はないやろ」と不敵な笑みを浮かべた。そりゃそうだ。

 

 いくぜ。さあっ、漕ぎ出せ!……勝負の大海へっ!

 

 

☆★★★★ 布の服

☆☆☆★★ 触手鎧

☆☆☆☆★ とある学園都市の学校制服

☆★★★★ くまさんパンツ

☆☆★★★ 剣士(♀)の服

☆☆★★★ 革の鎧

☆☆☆☆★ くノ一の衣装

☆☆☆☆☆ スクール水着

☆★★★★ 麦わら帽子

☆☆☆☆★ 聖騎士の鎧

☆★★★★ コットンパンツ

 

 

 よっし!よっし!!ゴミも多いけど良さげなコスも出た!無駄にレア度が高いゴミもあるけども!

 まずは学園都市の制服!ってことはあの押しも押されもせぬあのヒロインのものに間違いない。ならばスカートでもショートパンツ履いてるから

 ……いや、ならなんでレア度最高じゃない?ていうかショートパンツが付いてない。嫌な予感が……

 

 とある学園都市の学校制服

 固有スキル:テレポート Lv4

 

 お前かぁ!

 怖ぇ、スキルが有能すぎるのに使うのを躊躇うくらい怖ぇ。下手すれば誰かをお姉様呼びしかねない。

 ……うん、保留!次ぃ!

 

 剣士の服

 服っていうかこれ、上半身裸で胸隠すのにベルト……こんな装備の剣士ダメだろ。次ぃ!

 

 くノ一の衣装

 固有スキル:不知火忍法

 

 某格闘ゲームのアレか……スキルは強力そうなんだけどなぁ……無理無理。こんなんただでさえ恥ずか死するし動いてたら色々見えちゃうわ。次ぃ!

 

 実はこれに一番期待している。

 

 聖騎士の鎧

 

 うん、見た目よし。

 ステータス補正。防御アップ特上がある代わりに命中率ダウン特上があるのか……うーん許容範囲か?ん?

 

 特殊効果:痛いのが気持ちよくなる。罵られることに快感を得る。

 

 ……ダメだこれ。まさかのドがつくほどのM属性の方のモチーフかよ。

 

 まだだ。まだ慌てる時間じゃない。まだあと3回回せる。

 

 頼んだぜ俺のリアルラック!

 

 

☆★★★★ 毛糸のパンツ

☆☆☆☆★ メロンパンのスーツ

☆☆☆★★ チャイナドレス

☆★★★★ トゥシューズ

☆☆☆☆★ 殺し屋の衣装

☆☆★★★ 胸パッド入りブラ

☆☆☆★★ ネズミのパーカーのパジャマ

☆☆☆☆★ テレポーターの魅惑のランジェリー

☆☆★★★ 清楚なワンピース

☆☆☆☆☆ バニースーツ

☆☆★★★ 女子レスラーのコスチューム

 

 

 ヴァカか!なんでこうネタ装備のレア度高ぇんだよ!ヴァカが!どうせ出るなら実用性の高いやつお願いします本当!

 あとテレポーターのランジェリー!さっきの制服と合わせて着けろと?あの短いスカートで?見えちゃうだろヴァカが!

 でも下着関係のステータス補正も馬鹿にできないんだよな。しかもこの組み合わせならほぼ間違いなくボーナス補正が入るだろうし。装備何もしないとノーパンになりやがるから何もなしよりはマシ……なのかなぁ。

 しかしこれ、ヒロインアプリとか言っときながら時折明らかにヒロインとかけ離れたものが出るな。まあメロンパンのスーツは認めよう。着る勇気はないけど。けど殺し屋の衣装はどう考えてもアウトだろ。ちょっと気になるから見るけど。有能なら着るけど。

 殺し屋の衣装はさすがに全身黒。けどこれまた露出が半端ない。普通もっと肌隠さない?

 

 固有スキル:トランス(変身)能力

 

 あー理解した。あの世界の殺し屋さんか。確かにヒロインのモチーフだ。露出も納得だ。けどこれもスキルが有能すぎるけど使えない。理由?

 

 特殊能力:ラッキースケベされやすくなる

 

 うん。絶対にない。倉庫番確定だな。

 

 ぬぅ、ここまでで結果が振るわない。ぶっちゃけ微妙……まずい、ただでさえコスが出てないのにピックアップばかりは引けない。普段の通常ガチャは幅が広いぶん、武器や変装用の髪型、アクセサリーにアビリティと欲しかったり必要なものも多いからこっちも引きたい。

 そうなるとピックアップはこれがラスト。

 けど。たとえどんなに不運、不幸、不ヅキに見舞われようと、オレは決して諦めない!捩じ伏せる!最悪の運命、境遇、ありとあらゆる障害……不平、不正、すべてを捩じ伏せ……オレは勝つ……!

 

「サービスサービスぅ」

 

 ふぇ?今のって……確定演出!?

 ふぉおおおおお!?カプセルが全部金色になってる!金なら星4、5確定!後は中身が伴えば!いや、出る。何となく予感がする。

 

 

☆☆☆☆★ てんとう虫スーツ

☆☆☆☆☆ 黒魔道少女のローブ

☆☆☆☆☆ あぶないみずぎ

☆☆☆☆☆ 格闘少女の衣装

☆☆☆☆★ 無差別格闘流の拳法着

☆☆☆☆★ 魔法少女の衣装

☆☆☆☆☆ 剣姫の鎧衣装

☆☆☆☆☆ ブルマ

☆☆☆☆☆ トゥーハンドの衣装

☆☆☆☆☆ 魔法騎士の鎧衣装

☆☆☆☆☆ ガーターベルト

 

 

 きた!ゴミやネタも混じってるけど有能そうなのがチラホラ。何より星5ならあの黒魔法少女の衣装がそうだったから、妙な特殊効果はないと信じたい。

 

 てんとう虫スーツは昔の女性改造人間のモチーフか。いやーこれはハズい。さっきのメロンパンといい勝負だな。パス。

 黒魔道少女のローブはカードゲームのキャラのモチーフか。いやこれ露出度高い。妙な特殊効果はないし素アビでLv高い黒魔法ついてるけどー……ちょっと、いや、かなり無理。

 あぶない水着は飛ばしてー、次は格闘少女の衣装か。随分と広いカテゴリーで来たけど誰かのモチーフ?……ああ、国民的RPGの中でも評価の高かったお胸のおっきな子のやつか。やっぱり露出が高いやつやん!ステータス補正も高いし固有スキルの格闘技もあるけどやっぱ露出が高すぎるやつは勘弁。

 で、格闘モチーフが続くな。無差別格闘流の拳法着。これはすぐにわかった。ステータス補正は近接戦闘向けでかなりいいし、やっぱり固有スキルで格闘技があり、専用の技も多い。何より露出という点ではこの上ない合格点。けどなぁ。

 

 特殊能力:お湯を被ると男に、水を被ると女になる。女の状態はお胸が大きくなる。

 

 見た目だけじゃなくて身体も女に、しかもお胸がおっきくなってしまう。もう言い逃れできないヒロイン爆誕だ。それだけは避けたい。

 まあそれでもここまできてようやく実用性のあるコスが出て一安心だ。運用に最新の注意が必要だけど。

 次の魔法少女の衣装はー……凶悪なマスコットキャラと契約しちゃった水色の子のやつか。

 パス!

 露出ってのもあるんだけど、これ使うと強制病み落ちルートに入りそうで怖い。

 次は剣姫か。ってことはダンジョンに挑んでる高Lv冒険者のやつだな。んースカートがめちゃくちゃ短い!これもうパンチラ覚悟がいる。これで黒系魔法少女のコス並みに長さがあればなぁ。って背中びんぼっちゃま状態かよ!んーパス!

 次、トゥーハンドの服。これ、モチーフになったキャラがかなりかっこいい。ちょい露出は多いけど。でも似たような格闘少女の衣装と違ってスカートじゃないし最悪男でもありな見た目にならないかな。固有スキルやアビリティはないけど、その分ステータス補正はかなり高くて中〜遠距離で戦えるスナイパータイプ。

 うん、これはギリギリありかも。ちょっと装備スロットも考えよう。

 で、実質これがラスト、魔法騎士の鎧衣装。見た目はただの制服に簡単な防具がついてるだけみたいなんだけど。ってあれ?まだ組み合わせもしてないのにボーナス補正が……高っ!?

 これ、今持ってるコスの中で補正ぶっちぎりのトップ性能だよ。何で……あ!これってもしかして異世界に召喚された伝説の魔法騎士?で、名前が一緒っていう事でボーナス補正がついてしかも高い?いやまさか……ありえないとは言い切れない辺りがなんとも言えない。

 ま、まあ補正があるのは悪いことどころか、ありがたいからいいか。他に水魔法のスキル補正もあるし、専用魔法もある。スカートとはいえ膝上くらいあるから許容範囲だし露出も高くない。いいね。次からこれ使おう。確かレイピアも前のガチャで出てたはずだ。

 

 いやー最後にちゃんと使えるコスが出てよかった。これで心置きなく通常ガチャ引けるよ。

 まだ軽い興奮が冷めないままガチャボタンをタップ

 

 プチュン

 

 は?画面が落ちた?

 

「おめでとう」

 

 え?

 

 真っ黒になった画面から、イイ声と共にデカデカと文字が表示され、そして。

 

☆☆★★★ エルフ耳

☆★★★★ イガグリ

☆☆☆★★ ストレートロングヘア(髪型)

☆☆☆★★ カチューシャ(武器)

☆☆★★★ マグログミ

☆☆☆★★ オッドアイ

☆☆★★★ 水魔法Lv3

☆★★★★ イカリング(アクセサリー)

☆☆★★★ パワーリスト

☆☆☆☆☆ エクスカリパー

 

 うぉぉぉぉい!?まさかこんなネタ装備におめでとうとか言ってないよな!?俺のドキドキを返せ!もしそうならこのガチャ運営してるやつはどんだけ性格悪い

 

☆☆☆☆☆☆ 天使の翼

 

 ……星、6、だとぉぉぉぉぉ!?

 

 うっそ!?星6なんてあんの?初めて見た!うぉぉ、ステータス補正軒並み上がってるし、全属性耐性とかもある。状態異常耐性も全部、しかもこっちは高Lvだ。ほぼほぼ無効化しそうな勢いあるし。さらに飛行アビリティつくしダメージ軽減バリアまでついてる。すげぇ、レアリティに申し分ない高性能アイテムっていうか、もうチートレベルだわ。

 ……ああ、めっちゃ浮かれてたけど、これコストもすげぇ。現時点じゃこれ単体でコストを全部喰う。実質使えない。そりゃこんな破格アイテムがなんの制限もなく簡単に使えるわけないよなぁ。

 いやでもやっぱ嬉しいわ。コストはこのアプリを使い続ければあげれるからいつかは使えるんだ。やる気も出るってもんだ。

 

 いやー最後の演出とアイテムにビビらされたし、ゴミも多かったけど総じて高レア度アイテムが多かったしかなり良かった。これで惨敗だったらさすがに凹んだわ。

 それにしたって確定演出がアレなのは運営があのアニメ好きだからだろうか?趣味に走りまくりだな。そのうちプラグスーツとか出てきそうでちょっと怖い。

 

 お?まだ引けるガチャがあるな。ポイントはほぼ使い切ってるのになんでだ?

 

 日常ヒロインポイント

 

 ……11連1回分あるな。戦うヒロインポイントとは別なのか。そりゃ貯まるよなぁこの体質じゃ。まあ落ち込んでても現実は変わらないし、とりあえず引いとくか。

 

 

☆☆☆☆★ メイド服

☆★★★★ ファミレスの制服(研修中)

☆☆☆★★ 有名ブランドのバック

☆☆☆☆★ 桃の姫のドレス

☆★★★★ ニーソックス

☆☆☆★★ お菓子作りの才Lv6

☆★★★★ 苺のヘアピン

☆★★★★ 洗顔クリーム

☆☆★★★ 裁縫Lv2

☆☆☆☆☆ 銀河の歌姫の衣装

☆★★★★ 回復促進Lv1

 

 

 ……なるほどね。こっちは日常的や守られるヒロイン寄りのスキルやアイテムが出るわけか。

 ん?ファミレスの制服、やけにレア度低いな。この手のアイテムならこのガチャなら星3以上は出そうなのに。しかも研修中って……

 

 特殊能力:ミスが増える。ほんの少しうざい印象を与える。偽名になる。

 

 何気にモチーフだコレ。誰のかもわかった。けどこの手のコスでしかもモチーフでこんなにレア度低いのは初めて見た。さすがというか予想通りというか、期待を裏切らないなーこいつ。

 

 ……じー。

 

 銀河の歌姫の衣装

 

 モチーフは……フロンティアの緑の方、しかも流星に跨るやつか。

 

 めっっちゃ好きなんだよな、このキャラと衣装と歌。

 

 ……。

 

「ロードカンリョウシマシタ」

 

 おおおおおお!似合う似合う!似合いまくってる。やばいやばい、超テンション上がるぅ!

 

 キラッ☆

 

 鏡の前で決めポーズ。

 

 ガチャ

 

「あにーあそべー」

「おにーあそぼー」

「……」

「……」

「……」

「っぎゃああああああああああ!!!」

 

 翔真!?翼!?見られたぁぁぁぁ!?

 

「うおおおおおおにー似合う!超似合ってるよおにー!いやおねー!おねー超かわいい!どうしたのそれ!?」

「あれはあにーあれはあにーあれはあにー、男で兄で可愛くて……」

 

 妹は速攻で俺に抱きつき、弟は壁に向かって呪文の如く何か呟き続けている。

 

「どうした我が子供たちよ!」

「あんなに大声出したら近所迷惑よ」

 

 げぇっ!?父さん母さん!?いたの!?

 

「あらあら、似合ってるわよ海。さすが母さんの娘ねぇ」

「海?お前その服どうしたんだ?買ったのか?大丈夫だ、父さんはどんなお前でも受け入れるぞ。けどそんなお金……はっ!?ま、まさかお前、え、え、え、援助交際なんてしてないだろうな!?」

 

 母さん、写真はやめろぉ!何ナチュラルにスマホ取り出して当然の如く写真撮りまくってんだよぉ!あとサラッと娘扱いしやがったな?聞き逃さなかったぞ!

 で、父さんは何盛大な勘違いしてるんだ!男の俺が援助交際できるかぁぁぁ!

 

「おねー!おねー!おねー柔らかい。おねーいい匂い。スーハースーハー」

「あにーはおねーで、可愛くて柔らかくていい匂いで」

「海、今から買い物行きましょ?服買ってあげるから。ね?」

「海ぃぃぃ、父さんは、父さんはぁぁぁぁ!」

 

 あーもーどうすんだよこの状況!

 

 結局この日は妹はやたらとひっつくし、弟はずっと何かを呟き、母さんには一日中買い物という名の着せ替え人形と化し、父さんは妙に俺に優しかった。

 さらに翌週。

 

「うみ、この格好は私と声優を志す覚悟を決めたと思っていいんだよね?ね!?」

「違います!ウミちゃんは私とアイドル目指すためにこの格好をしたんです!」

 

 見せられた二人のスマホには、キラッ☆をする俺の姿。何故その写真を持っている!?

 

「私はつばさちゃんから貰ったんだよ」

「私は翔真君からですね」

 

 あんの二人ぃぃぃぃぃ!

 

「「そんなことより!」」

「そんなこと!?」

 

 俺の扱い酷くね!?

 

「どっちなの!?」

「どっちなんですか!?」

「どっちでもないよ!」

 

 その後結局二人に声優とアイドルの良さを教えるという名目で拉致されてカラオケでデュエットで歌わされた。……楽しかったんだけどさ。

 




とりあえずこれで一旦区切りです。
スランプのリハビリでしたけどやりたい放題だったので結構楽しかったです。

予告
無事高校に受かった海。しかし彼女にたくさんの不幸が降りかかる!
「なんで制服が入れ変わってるんだよ!?」
制服が入れ替わっていて初日から女子の制服で登校、色々な誤解を招くことに。そしてさらに。
「あなたの正体、知ってるわよ」
入学早々に正体がバレてしまう海。
「俺の」「私の」「「歌を聴けぇ!」」
何故かめぐみんとライブをしたり。
「お前だけは絶対に許さない。例えどんな手を使っても、お前を倒す!」
ブチギレモードで禁断のコスへの変身をしたり。
「ちょーっ!?巨大化は卑怯だろ!?」
そしてとうとう現れる巨大な敵。
どうする海!そして海の高校生活は一体どうなってしまうのか!
次回、勝手に人をヒロインにすんな、新生活。
「オイコラ、ナチュラルに女扱いすんな!」

……やるかもしれない。


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第3.6話:黒色の魔法少女

掲示板回に初挑戦です。

で、なんか今週、気がついたら異様に評価が伸びてたんですが。ランキング入りもしてるし。何があった!?嬉しいけどさ。


 海が黒色の魔法少女としてデビューした日。とある掲示板のヒロインを応援するスレにて。

 

 

 

 

323.ヒロインのファン

お前らヒーロー速報見たか!?

 

 

324.ヒロインのファン

どうした急に。新しいヒロインでも誕生したか?

 

 

325.ヒロインのファン

肯定だ。しかもあのヨシオを倒してだ

 

 

326.ヒロインのファン

軍曹、嘘をつくにしてももう少しリアリティをだな

 

 

327.ヒロインのファン

嘘じゃねぇよ。いいから速報見てこい!

 

 

328.ヒロインのファン

マジだ!しかもフェアリアルエレメンツと共闘!?この子何者?

 

 

329.ヒロインのファン

だから、ニューヒロインだろ?

 

 

330.ヒロインのファン

黒色の魔法少女だろ?

 

 

331.ヒロインのファン

美少女だろ?

 

 

332.ヒロインのファン

こんな可愛いくて強い子が今までノーマーク?ありえないわ!

 

 

333.ヒロインのファン

いやいやいや、フェアリアルエレメンツの力が大きいんだって!あの子達ならきっとやってくれると思ってた!

 

 

334.ヒロインのファン

みんなもっとフェアリアルエレメンツを、ピンクちゃんを讃えようぜ!

 

 

335.ヒロインのファン

まあフェアリアルエレメンツの功績が大きいとしても、こんなに可愛い子が知られてないって事は博士の言う通りありえないよな。

 

 

336.ヒロインのファン

いや待て。そう考えるのは早計だ。確かどっかの地方に噂になってる魔法少女がいなかったか?

 

 

337.ヒロインのファン

知ってるのか雷電?

 

 

338.ヒロインのファン

うむ。とある田舎町で数人、すごい可愛い魔法少女に助けられたという証言があったはずだ。だが当時は該当するヒロインがいなかったことからデマ扱いされた。しかしそれを納得しない証言者達がそこら中でその話をばら撒いたから噂だけは残ったのだ。確かその魔法少女の特徴が、黒色の魔法少女だった筈だ。

 

 

339.ヒロインのファン

説明サンクス。じゃあ今回の魔法少女が件の魔法少女だったと?

 

 

340.ヒロインのファン

ま、可能性としてな

 

 

341.ヒロインのファン

あのさ、俺、その噂確かめようとして色々調べたことある

 

 

342.ヒロインのファン

ほほう。つづけたまへ

 

 

343.ヒロインファン

その町の周辺に妙な出来事が頻繁に目撃されてるんだよ。ジ○リから出てきたような少女が箒に跨って空を飛んでる姿とか、ミートソースと化した怪人の成れの果てとか、やたら頻繁に事件に巻き込まれる美少女とか

 

 

344.ヒロインのファン

どれもありふれた……とまではいかないけど、ヒーローやヒロインがいる昨今でそこまでおかしなことか?

 

 

345.ヒロインのファン

そこなんだよね。決定打に欠けるっていうか、噂の域を出ないというか。でもそれが頻繁に、しかも一部の地域に集中して起こっていたら?

 

 

346.ヒロインのファン

おお、確かに怪しいな。住みたいとは思わないけど

 

 

347.ヒロインのファン

だろ?ちなみに住めば都だ。いい場所だぞ

 

 

348.ヒロインのファン

まさかの住人かよwww道理で詳しいはずだ

 

 

349.ヒロインのファン

可愛いヒロインが誕生したと聞いて俺、参上!

 

 

350.ヒロインのファン

なんか増えた

 

 

351.ヒロインのファン

事が事だけにスレの加速がすげぇな

 

 

352.ヒロインのファン

タイムリーな情報を引っさげたワタシが来た!

 

 

353.ヒロインのファン

≫349 352 お前らヒロインのファンじゃなくてヒーローのファンだろ!

 

 

354.ヒロインのファン

細けぇこたぁどうでもいいんだよ!snsから拡散してきた会話は聞こえないけどほぼ全部の事情を撮影した動画だ

 

http:◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎

 

なんか色々ぶっ飛んだ子だったぞ。それと間違いなく新しいヒロインになる器の子だ。

 

 

355.ヒロインのファン

よくやった!

 

 

356.ヒロインのファン

大儀であった!

 

 

357.ヒロインのファン

なんだただの有能か

 

 

358.ヒロインのファン

太閤殿下が紛れてるぞwww

 

 

359.ヒロインのファン

俺、ちょっと見てくる

 

 

360.ヒロインのファン

俺も

 

 

361.ヒロインのファン

僕も

 

 

362.ヒロインのファン

ワシも

 

 

363.ヒロインのファン

そして誰もいなくなった

 

 

364.ヒロインのファン

いや、いるし

 

 

365.ヒロインのファン

ここにいるぞ!(横○三国志の馬岱)

 

 

366.ヒロインのファン

またわかりにくいネタをwww

 

 

367.ヒロインのファン

ちょっと疑問なんだけどさ、確か結界張られてたはずだろ?どうやって動画撮ったんだ?

 

 

368.ヒロインのファン

あー、その辺はヨシオの結界が特殊というか悪趣味というか

 

 

369.ヒロインのファン

どゆこと?

 

 

370.ヒロインのファン

説明しよう!

ヨシオはヒーローやヒロインと戦う際に邪魔が入らないように結界を張るのだ。しかし自分の強さを見せつけるために結界は中から外は見えないけど外から中は見えるマジックミラーになっているのだ!

 

 

371.ヒロインのファン

マジックミラーと聞いて

 

 

372.ヒロインのファン

変態は家へ帰れ!

 

 

373.ヒロインのファン

ゴーホーム!

 

 

374.ヒロインのファン

|お前らの家| λ............トボトボ

 

 

375.ヒロインのファン

こいつ、殺ル気だ!

 

 

376.ヒロインのファン

ピンポーン

 

 

377.ヒロインのファン

おや、誰か来たようだ

 

 

378.ヒロインのファン

待て開けるな!それは公明の罠だ!

 

 

379.ヒロインのファン

≫378 おま、どんだけ三国志大好きなんだよwww

 

 

380.ヒロインのファン

おお、ちょうど黒色の魔法少女ちゃんとヨシオが対峙したところからか

 

 

381.ヒロインのファン

ちょ、なんでピンクちゃんぼろぼろで倒れてんの!?

 

 

382.ヒロインのファン

そもそもの話、元はヨシオの結界にこの子が紛れ込んでただけって話みたいだぞ。ヒーロー速報でピンクちゃんがコメントしてた

 

 

383.ヒロインのファン

どんな不運だよそれ

 

 

384.ヒロインのファン

あの子の右手、色々な現象をキャンセルしてたりしないよな?

 

 

385.ヒロインのファン

他のエレメンツはどーした!?

 

 

386.ヒロインのファン

あの左端の建物の影から見える足、あれせいちゃんじゃない?

 

 

387.ヒロインのファン

画面手前右側にある瓦礫の山から覗く手は……もしかして……

 

 

388.ヒロインのファン

エレメンツぅぅぅぅぅ!

 

 

389.ヒロインのファン

うお!?なんか急にヨシオが消えたと思ったら吹っ飛んで結界と衝突してるんだけど!?

 

 

390.ヒロインのファン

あれ、超スローモーションで見ても分かりにくいんだけど、高速で距離を詰めたヨシオに魔法少女ちゃんがステッキフルスイングでぶっ飛ばしたらしい

 

 

391.ヒロインのファン

見かけによらず肉体派!?

 

 

392.ヒロインのファン

だが、それがいい

 

 

393.ヒロインのファン

ちゃんと迎撃したって事はあの動きが見えてた?スゲェ

 

 

394.ヒロインのファン

ヨシオが顔を抑えてるって事は顔面に命中したのか

 

 

395.ヒロインのファン

えげつねえwww

 

 

396.ヒロインのファン

よくやった!

 

 

397.ヒロインのファン

ざまあwww

 

 

398.ヒロインのファン

ヨシオオコwww

 

 

399.ヒロインのファン

ヨシオの反撃!うお、すげぇ数の闇の玉!

 

 

400.ヒロインのファン

400get!いやそれどことじゃない。魔法少女ちゃん、逃げてー!

 

 

401.ヒロインのファン

バカ、今逃げたらピンクちゃんが!

 

 

402.ヒロインのファン

いや、大丈夫だ。魔法のステッキが玉をどんどん吸収してる。

 

 

403.ヒロインのファン

驚きの吸引力!

 

 

404.ヒロインのファン

いや、驚くのはそこじゃない。どうなってんだアレ。闇属性吸収能力でもあるの?

 

 

405.ヒロインのファン

もしくは別の場所に転移させてるか、別空間に収納してるのか

 

 

406.ヒロインのファン

あ、ラスト一発だけ打ち返した

 

 

407.ヒロインのファン

しかもまた顔面かよ。こんなん草生えるに決まってるwww

 

 

408.ヒロインのファン

ヨシオ激おこwってヨシオが増殖した!?

 

 

409.ヒロインのファン

増殖てwでもまあ一匹見たら十匹はいると見ていいから

 

 

410.ヒロインのファン

Gか!まあ似たようなもんだけど

 

 

411.ヒロインのファン

ヒデェ。否定はできんがw

 

 

412.ヒロインのファン

笑ってるけどこれ実際かなりピンチじゃ?激おこ後に使う技って事は、奥の手か、よほど自信があるヤツだろ?

 

 

413.ヒロインのファン

魔法少女ちゃん逃げー……なくても平気そうだな

 

 

414.ヒロインのファン

あの数の攻撃を余裕でいなす魔法少女ちゃん。只者じゃあない!

 

 

415.ヒロインのファン

あ、ヨシオ大勢巻き込んで盛大にすっ転んだ。しかもその拍子に分身が消えるとかw

 

 

416.ヒロインのファン

自爆乙

 

 

417.ヒロインのファン

いや、あれ最初のやつの倒れ方が不自然じゃなかった?多分魔法少女ちゃんが足でも引っ掛けたんじゃない?

 

 

418,.ヒロインのファン

ヨシオなかなか立てませんw

いや、本気でなかなか立たないな。どうした?

 

 

419.ヒロインのファン

ク○ラと化したヨシオw

 

 

420.ヒロインのファン

魔法少女ちゃんがしゃがんだぞ。もしかしてヨシオに何かしてる?立てないって確信ないとあんなマネできないぞ?

 

 

421.ヒロインのファン

なあ、ヨシオのあの位置って……パンツが見えてね?

 

 

422.ヒロインのファン

ガタッ!?

 

 

423.ヒロインのファン

ガタッ!?

 

 

424.ヒロインのファン

ヨシオそこ代われ!

 

 

425.ヒロインのファン

あ、魔法少女ちゃん気づいたっぽい。スカート抑えて……おおぅ

 

 

426.ヒロインのファン

何あの蹴り。どんな威力してんだよ

 

 

427.ヒロインのファン

ヨシオが道端の石ころみたいに転がっていくwww

 

 

428.ヒロインのファン

やっぱり代わらなくていいわ。パンツの代償があの蹴りとか……ありか?

 

 

429.ヒロインのファン

勇者だな。俺なら絶対に有りだ!

 

 

430.ヒロインのファン

お前もか!ご褒美以外の何者でもねぇ

 

 

431.ヒロインのファン

ここは変態の巣窟かよ。俺は有り寄りの有りだ

 

 

432.ヒロインのファン

性癖発表もその辺にしとけ。そしてピンクちゃんがピンピンしてる件

 

 

433.ヒロインのファン

ピンクだけに?

 

 

434.ヒロインのファン

うっさいわw

他のメンバーも元気そうで安心した。でもなんで?

 

 

435.ヒロインのファン

さっきからみどりちゃんがかけまわって回復魔法かけてただろうが!何見てたんだ!

 

 

436.ヒロインのファン

件の魔法少女を見てたんだが?

つかみどりちゃんグッジョブ。影の功労賞をあげよう

 

 

437.ヒロインのファン

魔法少女ちゃんとピンクちゃんの距離近いな。知り合い?

 

 

438.ヒロインのファン

ではないみたい。あの子誰に対してもあんな感じだろ?

 

 

439.ヒロインのファン

確かに。何話してるんだろ?

 

 

440.ヒロインのファン

美少女達がじゃれあう姿……イイ!

 

 

441.ヒロインのファン

あんなバトルの後なだけに余計和むな

 

 

442.ヒロインのファン

?なんか一斉に同じ方を向いて……ヨシオ、生きてたんかワレェ

 

 

443.ヒロインのファン

なんかエレメンツ妙に殺気立ってない?さっきより

 

 

444.ヒロインのファン

不吉な予感

 

 

445.ヒロインのファン

そりゃそんな数字踏んでりゃな

 

 

446.ヒロインのファン

スルーされた(´・ω・`)

 

 

447.ヒロインのファン

とかやってたら魔法少女ちゃんが必殺技に組み込まれてるwww

 

 

448.ヒロインのファン

レインボーに黒は含まれないはずなのに違和感がないな。違和感仕事しろww

 

 

449.ヒロインのファン

勝ったな

 

 

450.ヒロインのファン

おお、結界が消えて……なんで魔法少女ちゃん慌ててんの?

 

 

451.ヒロインのファン

あ、またピンクちゃんに捕まった

 

 

452.ヒロインのファン

う、裏山

 

 

453.ヒロインのファン

あ、結界がなくなって声も入った

 

 

454.ヒロインのファン

うわ、めっちゃアニメ声。しかもかわいいし似合ってる

 

 

455.ヒロインのファン

さらにエレメンツに勧誘されてる。

 

 

456.ヒロインのファン

希少属性使い、俺っ子、いじられキャラ、これでエレメンツに加入したら5人目ポジションでしょ?何この子ヒロイン力たっけぇ

 

 

457.ヒロインのファン

魔法少女ちゃんが消えた!?

 

 

458.ヒロインのファン

魔法少女ちゃんが生えた!?

 

 

459.ヒロインのファン

魔法少女ちゃんが増えた!?

 

 

460.ヒロインのファン

何やってんのあの子www

 

 

461.ヒロインのファン

魔法少女ちゃんも使えるのアレ!?

 

 

462.ヒロインのファン

影分身の術っていうより、お色気ハーレムの術だよなアレ

 

 

463.ヒロインのファン

それなwww

 

 

464.ヒロインのファン

あの技?術?ならくらってもいいな。むしろ使ってください!

 

 

465.ヒロインのファン

いっせいにw

 

 

466.ヒロインのファン

逃げたwww

 

 

467.ヒロインのファン

あ、一体ピンクちゃんに捕まった

 

 

468.ヒロインのファン

ピンクちゃん行動力あるな!

 

 

469.ヒロインのファン

残念、ハズレだ

 

 

470.ヒロインのファン

お?一体だけ動き止まってるやついない?

 

 

471.ヒロインのファン

ほんとだ。バグ?それとも動作不良?それとも罠?それとも……

 

 

472.ヒロインのファン

動作不良てw

おっとぉ?きーちゃんがロックオンしましたぞ?

 

 

473.ヒロインのファン

あ、動き出した。ってうおおおおお、飛んだ!

 

 

474.ヒロインのファン

しかも箒だと!?魔法少女の鏡だな。

 

 

475.ヒロインのファン

おいおいおい、あれっている場所によっちゃパンツ見えないか?

 

 

476.ヒロインのファン

お前そういうのには速攻気づくな。どんだけパンツ見たいんだよ

 

 

477.ヒロインのファン

全力ですが何か?

最低だ、俺って。

だから他にパンツが映ってる動画ないか探してくる

 

 

478.ヒロインのファン

シ○ジ君で誤魔化そうとすんなw

さて、俺もちょっと用事で出かけないと

 

 

479.ヒロインのファン

拙者もちと用事が……

 

 

480.ヒロインのファン

ワシも

 

 

481.ヒロインのファン

変態だーーーーー!!!!

 

 

482.ヒロインのファン

このロリコンどもめ!

 

 




というわけで一旦区切ったにもかかわらず、新しいのを書いたのは一重に評価が超嬉しかったので。
第4話?知恵と愛と勇気とお金と権力と評価と閲覧数と感想とその時の気分次第ですね(小並感)


怪人図鑑その1
怪人ロリコーン
ユニコーンが二足歩行する怪人。ドラゴンなクエストの5に登場するジ○ミに角が生えたような見た目。
ロリコン。
ユニコーンらしく汚れを知らなさそうな女性を探して主人公を見つけて拉致。
しかし竜司に殴られ、民衆に袋にされ、最後は有名なヒーローのキックで消滅。イイところなしだった。


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第4話:波乱の新生活 登校編

前回後書きで、第4話?知恵と愛と勇気とお金と権力と評価と閲覧数と感想とその時の気分次第って書いたら評価と感想が増えてちょっと戸惑っています。いや、めちゃくちゃ嬉しいんだけどさ。
書いてみたけど第4話、望まれてたのかな(ドキドキ)
ちなみに3.5話の後書きで次回予告しましたけど……

制服が入れ替わっていて初日から女子の制服で登校←イマココ

全部消化するのに何話かかるんだコレ(´д`;)



「なんで制服が入れ替わってるんだよちくしょぉぉぉぉ!」

 

 高校生活初日、やり場のない怒りを吐き出すように叫びながらパンを咥えて家を飛び出す俺。理由は時間ギリギリまで葛藤したからだ。何にって?制服にだ。ちゃんと男子用の制服を頼んだはずなのに届いたのは女子用の制服。どうやら向こうが俺の姿を見て間違えたと思ったらしく、気を利かせて女子用の制服を送ってくれたらしい。親切心だろうが敢えて言わせて欲しい。余計な事を!

 こんな定番中の定番イベントをすっかり見落として当日まで確認せずにいたなんて何やってんだよ俺め!

 で、最終的に自業自得と考えてプライドや恥、事情その他諸々を飲み込んで少女マンガの王道「遅刻遅刻〜」と走る主人公という苦行をやっている。が!正直、恥ずかしさで死にたい。あ、涙でちょっと視界が滲む。

 

 ぐあっ!?

 

 痛ってぇ!急に飛び出してきた誰かにぶつかって倒れた。視界がボヤけてたせいか?

 

「いたたたた……」

 

 くそ、急いでる時に限ってなんでこんなってああ!俺の朝食がー……鳥の餌に……

 

「ごめっ、俺ちょっと急いでて。大丈夫か?」

 

 ぶつかった相手が先に立ち上がり、手を貸してくれた。ぶっちゃけこっちにも非はあるし、先に謝ってなお手を差し伸べられれば怒りなんておこるどころか少し申し訳なく思ってしまう。

 あ、イケメン(イラッ)

 

「あっ、いや、こっちも不注意だった。ごめん」

 

 顔見てちょっと、ほんのちょっとイラッとしたけどそんなのほんの一瞬だ。俺は自分が悪いと思えばちゃんと謝れる人間です。とか思いながら手を借りて立ち上がー……なぜ引っ張ってくれないのか?

 イケメンの視線を確認。俺の下半しっ!?

 

「うおおおおっ!?」

 

 しまった!今日の俺はスカートだった!

 慌ててスカートを抑えてパンツを隠す。

 見られた?見られた!?

 ただでさえ女装状態で悶絶するくらい恥ずかしいのに、そんな状態でパンツ見られるとかなんの罰ゲームだよこれぇ!

 あまりの恥ずかしさとショックで俺はイケメンを睨む事しか出来ない。

 

「あっ、ああああ、ごっ、ごめん!つっ、つい……」

 

 イケメンが慌ててdo ge za を敢行する。ごめんですんだら警察はいらないんだよ!

 

「……見た?」

「……チラッと、だけ」

「本当に?本当に、チラッと、だけ?」

「はい!本当です!」

「ちょ、声が大きい!」

 

 やめて!これ以上目立たせないで!俺を辱めないで!

 俺は慌ててイケメンの口を塞ぐ。

 チラッと?チラッとなら大丈夫か?一応パンツは男物だけどがっつり見られるよりはダメージが少ない……と思いたい!

 って時間!?

 俺はジャンプして立ち上がり、軽くジャンプを繰り返して身体の確認。……うん、特に痛む場所はないし、意識レベルも問題なし。

 

「ごめん、俺急いでるから!あと、とりあえずパンツのことはもういいから!」

 

 本当は良くない。けど思い出したり考えたりすると余計に恥ずかしい。ならもうこの場だけの話にして犬に噛まれたと思ってとっとと忘れるに限る!どうせこいつと会うことももうないだろ。

 

「あ、チラッととはいえその記憶だけはキッチリ消しとけよ!」

 

 って事で言うことだけ言って俺は駅に向かって走り出す。くそ、余計な時間を取られた!だが普段怪人に追いかけられたり、遅刻ギリギリで走って鍛えられた俺の足ならまだ電車に間に合うはずだ。どっかのバスケの先生も言ってた。「諦めたらそこで試合終了ですよ」って。

 

「うおおおお、アクセル全開!エンジンフルドライブ!」

 

 俺は自分が気合の入る台詞を口にしてさらに速度を上げた。

 

 

 

——————————————————

 

 

 

「はぁ、はぁ、はぁ、ど、どうにか間に合った……」

 

 なんとかダッシュでギリギリ間に合う電車に乗る事が出来た。

 ……駅のホームのアナウンスの「駆け込み乗車は大変危険ですので〜」っていうのが大変耳に痛かったが。

 まあ、何はともあれとりあえず一安心だ。俺はゆっくりと息を整えー……

 

 ゾクゾクゾクッ!

 

 俺の身体を嫌悪感が襲う。全身の毛が逆立ち、まさに鳥肌と化す。

 クソが!俺のSiriを撫で回してるヤツがいる!よりによって痴漢かよぉぉぉ!

 こんな顔で女子の制服なんて着てりゃそりゃあそんな可能性も考えた。けどまさか電車通学初日に、しかも犯罪行為である以上そうそう起こる事もないだろ?って思ってた痴漢をされるとかは流石に想定外です!

 後ろからハァハァ息がかかり、嫌悪感がますます強くなる。てか男のSiri撫で回して興奮とか何が楽しいのか。控えめに言ってhentaiさんですかね?俺にボォイズラヴ属性はないし、仮にあったとしてもこんなキモい展開は全力で遠慮願う。てか拒否る。

 とりあえず現在進行形で俺のSiriを無遠慮に撫で回す手を全力で引っ掻いてやる。

 が、止まらないっ!

 マジかよ!躊躇や痛みに驚く素ぶりすら感じなかったぞ!?

 今度は全力で抓る。そして捻る。

 またしても止まらない!それどころか指の動きがさらに激しく、卑猥になる!

 こいつ、人が下手に出てりゃつけ上がりやがってぇ!見てろ!

 ここで目立つのも嫌だがこのまま好き勝手されるのはもっと嫌だ!

 すぅーーーーーっ!

 

「こモガッ!?」

 

 嘘!?こいつ痴漢って叫んでやろうと思ったら声を出すタイミングで口を押さえられた!?

 

「残念だったなぁお嬢ちゃん」

 

 後ろからねちっこそうで気持ち悪い声が耳元で聞こえた。

 

「私はこの道数十年のベテランでね。君たちがどんな行動を取るか手に取るようにわかるんだよ。まあ私に狙われたのが運の尽きと思って諦めたまえ。大人しくしてればすぐに気持ちよくなる」

 

 フ・ザ・ケ・ン・ナ!!!

 誰が諦めるか!そもそもそんなベテランなら男と女の違いくらいちゃんと見分けろ!この能無しが!

 とか考えてたらこの野郎とうとうスカートの中にまで手を入れてきやがった。

 

 ぶち。

 

 こいつもう絶対許さねぇ。

 俺は痴漢の手を掴んでスカートへの侵入を防ぎながら空いた手でポケットからスマホを取り出してヒロインアプリ起動!んでもってスロットの装備変更……完了!

 

「スロット3ノソウビヲロードシマス……ロードカンリョウシマシタ」

 

 俺の格好が一瞬で変化する。これは固有スキルにテレポートを持つ、とある学園都市のお嬢様学校の制服。髪型含めて服と下着以外はデフォルトのままだし、これなら見た目の変化も少なくコスチュームチェンジによる余分な演出もないので誤魔化しもきくだろう。

 さあ、この俺を狙った事を後悔しやがれ!

 俺はスマホを操作して、ある道具を出現させ痴漢野郎の股間にテレポートさせた。

 

 バヂン!

 

「っぎゃあああああああああああああ!!!!!」

 

 どうだ、ネズミ捕りの威力は?

 ガチャ産のゴミアイテムだけどまさかこんなタイミングで役に立つとは思わなかった。

 さすがに今回は痛かったんだろう。口とSiriから手が離れる。そこですかさず俺はくるりと半回転。そこには股間からネズミ捕りを取ろうと必死なおっさんが一人。そうか、こいつが犯人か。

 俺はこんな冴えないおっさんの手で触られまくった挙句にスカートの中に手まで入れられたのか。

 俺はおっさんを見下ろしながらニッコリと笑う。それから足を軽く振り上げる。

 くらえ必殺ぅ!

 

「タ○ガーショットだああああ!!」

「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!」

 

 ようやくネズミ捕りを外したおっさんのボール二つに必殺シュートをお見舞いしてやった。まあ手でガードしてたようだし、大事には至ってないだろ。別に潰れててもむしろ世のためになっただろうし。

 俺は股間を押さえたまま丸くなってぷるぷるしてるおっさんに足を乗せ、ジェスチャーで立てた親指を容赦なく下ろす。そして。

 

「痴漢野郎、天誅ですの!」

 

 モチーフになったキャラの声を真似て高らかに声を上げた。

 ふう、少しスッキリした。

 

 パチパチパチパチパチパチ

 

「ふぇ?」

 

 気がつけば俺の周りには空間ができていて、周りからは拍手喝采。ここでやっと俺は我に返った。

 ヤッベ!怒りと本能に身を任せてやりすぎた!目立っちまったし逃げ場はないしここでテレポートなんて使おうもんなら絶対騒ぎになる。どうする俺!?

 とここで運良くタイミングよく電車のトビラが開いた。

 ラッキー!

 俺は逃げるように飛び出して駅のトイレの個室に逃げこ

 

「うわぁっ!?」

「ちょ、こっちは男子トイレですよ!?」

 

 ノォォォォォォ!?

 まさかの男子トイレに入れない!?この格好じゃ男って信じてもらえないだろうしどっかないか!どっか人気のない場所……

 

「うわっ!?」

「きゃあっ!?」

「うわっ、ごめんなさいっ!」

 

 ってそんな場所に限ってバカップルがイチャコラしてやがった。朝っぱらから盛ってんじゃねぇよちくしょー!

 こうなったらしのごの言ってられない。最終手段だ。

 

 ……うぅ、落ち着きたいのに全然落ち着かないし、ここに来るために俺の中で大切な何かを色々失った気がする……

 結論を言うと、結局俺は女子用トイレの個室に来た。来てしまった。

 あーもう今日は朝からイベント多すぎだろ。これから毎日こんな感じか?先が思いやられる。とりあえず今日はもうテレポート使って学校行こう。ここに長居はしたくないし、電車行っちゃったし。

 

 

 

——————————————————

 

 

 

「ぎゃあああああああああああああ!!!」

 

 なんでテレポート先が空中なんだよぉぉぉぉぉぉ!

 簡潔に言えば座標計算をミスった!そりゃああんな事があった後に落ち着けない状況が続き、最終的に行った場所も場所だ。計算ミスしたってなんら不思議はない。それもこれもみんなあの痴漢のせいだ!やっぱしっかり潰しておけば良かった!

 って今はそれどころじゃない!地面に人型のクレーターを作るだけですむ漫画やカートゥーン展開ならいいなあと軽く現実逃避。してる場合か!こんな高さから落ちりゃ普通は助からない!再テレポート……ダメだ、こんな状況で落ち着いて計算できるか!しかもこんな状態で使えば下手したら今より状況を悪化させかねない!それこそ*いしのなかにいる*が現実と化す。くそ、もっとこの服のアビリティ、使いこなす練習しておけばよかった!本来のキャラ、よくこんな状況で冷静に計算できるな。ちょい尊敬する。

 ……そうだアビリティ!さすがにセットを変える時間はない!なら!

 

「スロット1ノソウビヲロードシマス。……ロードカンリョウシマシタ」

 

 黒い霧のようなものが晴れ、俺はあの時の黒色の魔法少女に変身する。

 これで魔法の箒と重力を消すバフで!止まれぇぇぇぇぇぇ!!

 よし!だいぶ勢いが衰えた!これくらいのスピードなら多少ダメージは覚悟だけど死ぬ事はないって、うおおおおお!?進行上に人の姿!?どんだけタイミング悪いんだ!止まれ止まれ止まれぇぇぇぇぇ!くそ、完全に勢いは殺せない!じゃあ進路の変更……できたらこんなに慌ててない!ダメだぶつかる!

 

「ごめん、避けてぇぇぇぇぇ!」

「は?ぶわっ!?」

 

 俺は通行人Aをクッション代わりにする形で巻き込み転倒。……なんとか助かったけど、通行人Aに悪いことした。

 

「ごめん!大丈夫、だった……」

「ああ、大丈夫だウミ……じゃない……君は……」

 

 りゅーじぃ!?

 嘘だろ?落ちても助からないのはリアルなのにこういう展開だけは漫画やアニメと同じってどういうことだちくしょー!

 しかも何故か一度俺だとバレかけた!声か?展開か?とととととにかくまずい。どうにかして誤魔化さないと!

 

「ずっと、ずっと君を探してたんだ。あの時の約束、憶えてる?」

 

 ゆっくり、ゆっくりと俺に距離を詰めてくるりゅーじ。

 

「え、あ、うん、ちゃんと憶えてるけど」

 

 とりあえず声は変えて返事を返す。

 なんか今日のりゅーじ、ちょーっと、いや、かーなーり雰囲気が違う!なにこの異様なプレッシャー!?誤魔化すとかそれどころじゃない。いや、ちゃんと憶えてるよ!?だからにじり寄ってこないで!

 

「今度会ったら、お話しましょうって言うのでしょ?」

 

 俺はちょっとづつ後ずさりながら答える。

 

「で、でも今、ちょーっと急いでて、タイミング悪いかなぁ、なんて」

 

 ヒィ!?背中に壁が!もう逃げ場がないよぅ!

 

 ドン!

 

 ひいいいいい!?か、壁ドン!?

 こ、怖ぇぇぇぇ!世の女性たちよ、こんなののどこがいいんだ!?俺は今、違う意味でドキドキが止まらないんだが!?

 

「約束通り、君と話す時間を、俺に少しだけ君の時間をくれないか?」

 

 いーやぁぁぁぁぁ!誰か助けてぇぇぇぇ!

 

「てい!」

「うわっ!?」

 

 急に可愛い声と共に急にりゅーじが足から崩れた。しかも。

 

「お仕置きチョップ!」

 

 ズビシ!という音が聞こえてきそうなチョップが見事にりゅーじの頭に炸裂した。

 

「なにやってんのアンタ!こんな可愛い子追い詰めて!見なさい!怯えて泣きそうになってるじゃないの!」

 

 俺のピンチを助け、りゅーじに説教してくれているのは絶対的美少女にして俺の数少ない友人、めぐみんだった。

 

 救いの女神(めぐみん)降臨……!

 

「君、大丈夫だった?」

「は、はい、ありがとうございます。おかげさまで」

「それはよかった。ごめんね、怖い思いさせて。こいつ普段は絶対こんな事しないだけど……あれ?もしかして君、一時期話題になった黒色の魔法少女?」

「あ、はい。多分、ですけど」

 

 いや、自意識過剰じゃないけど多分俺のことだよな?他に思い当たる話はないし。

 

「わー有名人じゃん!んー確かに噂通りかわいいねぇ。……あれ?」

 

 何?うわああああ近い近い近いぃぃぃぃ!

 

「……うみ?」

 

 ドッキーン!!!

 

 りゅーじといいめぐみんといい直感(?)が鋭い!

 どどどどどどどうしよう?どうしよう!?

 

「あ、う、うみくんの知り合い、ですか?俺、じゃなくて私、従兄弟なんです」

 

 うああああ、我ながらなんて苦しい言い訳!

 そもそもよく思い返せば、めぐみんは俺のこの姿を見られたくない人物のトップ5に入る人間だった!

 

「あ、そーなの?どうりで似てるわけだー」

 

 ……信じて、もらえた?ふぅぅぅぅ。寿命が縮むと思った。なんとか首の皮一枚繋がった?

 

「ウミのやつ、魔法少女のこと知らないなんて言っておきながらがら……」

 

 ノォォォォォォ!?今度はりゅーじからヘイトが!

 

「あああああの、周りはもちろんだけど、うみくんや家族にも秘密にしてるから!」

「そ、そうか。じゃあウミは悪くないな、うん」

 

 はぁ。あかん、この会話すっげぇ心臓に悪い。早く会話を切り上げて二人から離れねば。もっとも学校(いきさき)は同じなんだけど。

 

「あ、あの、二人共時間大丈夫?今日入学式でしょ?お、私も学校に遅刻しそうだから急いでたんだけど」

「あ、そーだった!そろそろ急がないとまずいよりゅーじ」

「……入学式よりも、この子と話す時間の方が大事だ」

 

 うおおおおい!?お前本当にりゅーじか!?そんな事言うようなやつじゃなかっただろお前!?

 

「……恋は盲目ってやつ?別にいいけどさりゅーじ、その場合この子にも迷惑かかるってこと理解してる?下手したら今回限りで嫌われるよあんた?」

「……」

 

 おいおいおい、なんでこの世界と自分に絶望したような顔してんだよ!?

 こういった顔はこいつ以外には何度か見たことがある。告白を断った男子にたまにいた。だからこその確信。こいつ、魔法少女モードの俺に惚れやがった!なんでこうなるんだよ!?世界と自分に絶望したいのはこっちの方だぞちくしょー!!

 

「はぁ、もう、しょうがないなぁ。あのさ、君、今日入学式なら午後から時間空いてる?」

「へ?あ、はい」

「じゃあ今日の午後にどっかで会って喋らない?あれもこれももう全部午後に丸投げ!初日から遅刻はさすがに嫌でしょ?」

「まあ、それは」

「んじゃ決まり」

「待て。めぐみもくるのか?」

「当たり前でしょ?言い出したのは私だから最後まで責任持つわよ。それにアンタあの子が絡むとへっぽこどころか全力で空回りしそうだからブレーキ役が必要でしょ?」

 

 なんか俺の意思に関係なく物事がどんどん色々決まってってるんですが。

 止めるか?いや、こうなるとめぐみんは止まらないし、説得力あるし打開案も断りにくい。

 

「ちなみに君、高校どこ?私たちと一緒なら合流楽だけど違うなら会う場所と時間決めておかないと。あ、連絡先教えて」

 

 おおう、グイグイ来るなめぐみん!

 って連絡先!?まずいだろそれ!?今時スマホやケータイ持ってない人間なんてごく少数だろうし、ましてや学生なら持ってないなんてありえない。かといって俺の番号教えるわけにもいかないし……

 

「ご、ごめんなさい、今日、電話家に忘れてきちゃって。高校はー……えっと、崋山高校です」

 

 ……誤魔化すためとはいえ、今日はなんか嘘ついてばっかだな俺。それも友達に対してだから罪悪感もすごい。

 

「ありゃ、それは災難だったね。崋山高校かー。それなら駅の近くにあるス○バでどう?時間は午後2時くらいで」

「はい、大丈夫です」

「約束ね。んじゃ。ほら行くよりゅーじ」

「ああ。楽しみにしてる」

「は、はい」

 

 話がまとまったら二人は走って行ってしまった。

 俺も急がないといけないのに、しばらく呆然として動けなかった。

 え?この姿で会いたくないランキングのトップ5の2人と会うの?

 

 えらいことになった!

 

 




ヒロインテンプレカウンター
・パンを咥えて「遅刻遅刻〜」
・曲がり角でイケメンと衝突
・もちろんパンチラ
・痴漢被害
・痴漢撃退
・空から女の子が!
・主人公格にぶつかる
・ラッキースケベられ&パンチラ再び
・主人公格との再会
・壁ドンされる
・デート(?)の約束

……なんでこいつ女の子じゃないんだろ?解せぬ……

おまけ。
・海ちゃんのパンツは本人はメンズと思っているけど、実はレディースのボクサーパンツ。ほぼランジェリー。
・りゅーじとぶつかる時、当然りゅーじの顔がスカートに入る形で。

おまけその2 ショート劇場 かってにひろいんにすんな!
ちなみに本編には影響ないので興味ない方は飛ばしてオッケーです。

ある日の休み時間
「なあウミ、アニメや特撮とかのヒーローの登場時の決め台詞ってかっこいいと思わね?」
「お前の罪を数えろ!とか私がきた!とか?」
「そうそう。天が呼ぶ!地が呼ぶ!とか、世のため人のため、悪の野望を打ち砕くとかなー」
「微妙にチョイスが古い!あと天が呼ぶ!地が呼ぶ!の選択は非常に悪意を感じるんだが?」
「気のせいだ(ニヨニヨ)。もし自分ならなんて言うよ?」
「さあ、道徳の時間だぜ!」
「その道徳って絶対後ろに(物理)ってつくだろ?」
「バレた!(笑)そういうりゅーじは?」
「こんなところで朽ち果てる己の不運を呪うがいい!」
「それ絶対ヒーローの台詞じゃねぇ!」
「じゃあ、テメェら、俺の名前を言ってみろ!」
「完全に悪人の台詞じゃねぇか!」
「面白そうな話してるじゃない」
「めぐみん」
「私ならこうね。月に代わってお仕置きして極楽へいかせてあげるわ!」
「それ混ぜちゃダメなやつだ!」
「今の絶対わざとだろ?男子が数人顔を赤くしたり股間抑えてたりしてるぞ」
「真面目に考えて答えたの俺だけかよ(´・ω・`)」


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第5話:波乱の新生活 学校編

どうも、なかなか納得のいく内容に出来なくて更新滞ってます作者です。
今回ちょい短めで。
今世間が色々自粛モードで雰囲気も暗いですが、自分の作品を見て少しでも暇つぶしと楽しい時間を過ごしてもらえたら幸いです。
え?だったらもっと書く力つけて更新頻度上げていい作品作れって?それは他の作者さんと作品に期待してください(丸投げ)


「君かわうぃーね。海ちゃんだっけ?」

「今朝はほんっとーにごめん!てか同じ学校の同じクラスだったんだな。あのことは、その、ちゃんと記憶から、消す努力は、してるから、うん」

「顔ちっさ!足ほっそ!いいなぁ」

「髪もサラッサラだよ!どんなシャンプー使ってんの?」

「ちょ!?この子すっぴんでこれ!?う、羨ましい……」

「もしかしてモデルとかやってたり?」

「この後どっか遊びに行かない?友好を深めるためにさ」

「ねぇねぇ、フェアリアルエレメンツってどー思うー?」

「ああ、何という運命の巡り合わせ。こうして君とまた再会できるとは」

「あ、よかったら飴ちゃん食べる?」

「あーもーうるさーい!俺の事は放っておいてくれ!それと俺は男だ!」

「「「嘘つけ!!!」」」

 

 またこのパターンかよ。しかも多分だけどクラスのほぼ全員から突っ込まれたぞ。いや、そりゃまあこんな顔と制服(かっこう)じゃ説得力ないって自覚はあるけどさぁ……

 現在俺は美男美女に囲まれて質問責めにあっている。やめて、ただでさえ登校中のあれこれで頭パンク寸前なのに、コミュ障の俺にこの状況を楽しんだり対処したりできる戦闘(コミュ)力はないんだよ。初対面はただでさえ顔見知りで緊張するのに相手はそこそこの戦闘(コミュ)力とイケメンor美女美少女。これなんて楽園(ぢごく)

 俺は頭を抱えて机に突っ伏した。まだ1日の半分も終わってないのに俺のsan値を削るイベントが多すぎる件。

 

 誰か助けてください!

 

 あのあと。りゅーじとめぐみんが去って我に返った時にはちょっとしたギャラリーができていて、コミケの人気レイヤー状態と化していた。そこで俺は影分身と影移動というヒロインズから逃げた時と同じ手段(コンボ)で戦略的撤退。「ハーレムの術」っていう超気になるワードが聞こえた気がしたけど追求してる時間はなかった。

 そんでもってなんとか変身を解いてやっとの思いで学校に到着、教室を確認してみればりゅーじやめぐみん、あややとは別クラス。っていうか他の同中出身者含めて俺一人だけが孤立した悪意や陰謀を感じるクラス編成になっていてちょっと泣きそうになった。

 とりあえず絶望する時間も惜しんで教室まで急いで何とか時間に間に合ったんだけど、高校初日からギリギリに教室に入った俺は注目の的。しかも「かわいい」とか「めんこい」とか大変不本意な評価が聞こえてくる。いや、この辺はまだいい。許そう。問題は息を整えている俺を見て「エロい」だの「18禁」だの言ってるやつら。中には遠慮なしに俺をガン見する勇者(へんたい)もいた。お前らが欲情してる人物は男だからな?あとで正体知ったときに後悔してトラウマになればーかばーか!

 

 そんな心身ともに疲弊しまくりの俺にさらに追い打ちがかかる。

 

 入学式、俺は男子の列に何故か混じった女子状態で視線感じまくりの悪目立ちしまくり。しかもクラスメイトには先生が事情を説明してくれたにもかかわらずやっぱり信じてもらえない(なんとなくそんな気はしてた)。数人がずっとキョロキョロして落ち着きがなかったけどドッキリでもモニ○リングでもないから!

 

 そんな針のむしろ状態で式を終えて教室に戻って、ようやく一息つけると思ってたら一瞬で囲まれた。←イマココ

 おちおち落ち込んでる暇もないときた。

 確かに多少、ほんのちょっと、微かに、ビミョーに目立った自覚はあるけど、それでもこのクラスの顔面偏差値は異常と思えるくらい高い。だから別に俺に構う必要はないと思うんだよ。ただでさえ色々ありすぎて頭ん中整理したいし、知り合いのいない心細い絶望を乗り越えないといけない。何よりこの後に控えているりゅーじとめぐみんとの邂逅に備えて対策を練らないと、行き当たりばったりでいけばボロが出て詰む未来しか見えない。

 

「はい、皆さん席につい……」

 

 そこにようやく先生が到着。やっとこの状況から解放されると安堵のため息をしかけたところで。

 

 あれ?

 

 先生が言葉を最後まで言わなかった事に違和感を感じた。

 視線を向ければ先生の頭に何か乗っている。何だあれ?もしかして黒板消しトラップ?いや、リアルにこれやるやついるー?って思ってたからすごく新鮮な気分……

 

「ふふふふ……チュウッチュッチュ……チュァーッハッハッハッ!!」

 

 ぉぉぅ、先生が壊れた。黒板消しの粉がちょっと気持ちよくなったり幻覚の見えたりする粉だったんだろうか?

 

「待チュウに待った時がきた」

 

 急に顔を手で隠し、語り始めた先生。うわぁ、完全にキマってる。やっぱヤベェ粉だったか?

 

「多くの仲間たチュウの死が無駄でなかったことの証のために」

 

 仲間たち?死?何の話?

 

「裏ディ(自主規制)ニー再興のために!」

 

 おいやめろ!それはマジでシャレにならん!

 

「復チュウ成就のために!」

 

 復チュウ?あ、復讐か?ナニソレちょっとかわいい。って何で俺を睨むんですか先生?ちょ、目が血走って超怖いんですけど!?

 

「アマチュウミ!私は帰ってきた!!」

 

 最後の台詞とともに先生が人間離れしたスピードと跳躍でこっちに向かって跳んできた。

 え?アマチュウミって俺!?いや、こっちは身に覚えないんだけど!?

 

「みんな逃げて!」

 

 俺は開口一番そう叫ぶと、ちゃぶ台返しの要領で机を先生に向かって放り投げる。もちろんそんなので大したダメージは期待していない。だが目くらましにはなるはず。俺は机をひっくり返すと同時に横転しながら受け身を取りつつ前方へと転がる。この場合、左右や後ろに逃げるより相手の死角になるから次の一手が打ちやすいのだ。(注意、個人の感想です)

 俺はすぐさま起き上がり、逃げようと

 

 がし。

 

「チュウかまえたぞ」

 

 して捕まった。

 

 あるぇぇぇぇぇぇ!?

 

「あのー、俺、先生に何か恨みを買うようなことしましたっけ?」

 

 先生に猫のように首根っこを掴まれぶらんぶらんしながら俺は必死で記憶を探る。

 そもそもあの黒板消しトラップは俺じゃないし、仮にも先生なんて職業の人がまさかあれだけでここまでブチ切れるほど短気でもないだろ。それ以前は入学式の前に俺の事情説明してくれた時が初対面……のはずだ。まさか本当にヤベェ粉?

 

「この俺を忘れたとは言わせんぞ!」

 

 俺が首をひねっていると、先生はそのまま俺に顔を突きつける。

 んー申し訳ないけどやっぱり覚えがない。ん?頭の上の黒板消し、あんな動きをしたのに落ちてない?いや、黒板消しじゃない。ネズミだ。先生の頭にネズミがへばりついている。

 

「貴様のせいで計画は失敗、そして俺はエレメンチュウに敗北というくチュウ辱を味わったのだ!貴様が、貴様がチュウげ口さえしなければ計画が成功して敗北することはなかった!」

 

 チュウげ口?ああ、告げ口?それで計画は失敗?で、エレメンチュウに敗北。で、敵はネズミ……

 

「あー!」

「やっと思い出したようだな!」

 

 思い出せた!半年くらい前にネズミの怪人に追いかけられてフェアリアルエレメンツに助けてもらったっけ!え?あの時のネズミ?

 俺は先生の頭の上にひっついているネズミを思わず2度見。

 

「……縮んだ?だめだぞ、普チュウに洗濯しちゃあ」

「俺を縮む洗濯物と一緒にするなぁぁぁ!」

 

 まあそれは冗談として、そりゃあ気づくわけない。あれから結構な時間が経ってるし、そもそもサイズが以前と違いすぎる。むしろちゃんと正解にたどり着いた事を褒めてくれてもいいレベルだろ。一瞬取り巻きの生き残りの方かと思ったし。しかしなるほど、だから裏ディ(以下自粛)を名乗ってるわけか。

 

「あいつ生きていたのか!?」

「生命力ありすぎやろ」

「後手に回りましたね……」

「え?なになに?みんな何に気づいたの?」

 

 俺と怪人が軽い漫才トークを展開してると、他にクラスメイトから4人の声が上がった。どうもあのネズミの怪人と面識があるっぽい。……約1名怪しいのがいるけど。あの子だけ空気が違わない?

 

「妙な動きをするなよエレメンチュウ。俺がその気になればこいチュウの首なんぞすぐに飛ぶからな?」

 

 怖っ!そうならないように俺はいつでも変身できるようにスマホを隠し持つ。もちろんこいつは最終手段。死ぬのは嫌だけど、だからって言って正体明かすのもさっきの状況を考えれば絶対面倒なことになる。

 とりあえず魔法少女はマミるゲフんゲフん……首が飛ぶ可能性が残るから今のスロットのセットならテレポート能力のあるあの制服かな。

 

 ……ん?エレメンチュウ?

 

「くっ」

「こちらの正体はお見通しってわけやな」

「まずいわね」

「え?え?」

 

 ん?んん?あの喋り方、あの髪型、色、それに雰囲気……まさか?ほ、ほほほ本物のフェアリアルエレメンツぅ!?

 

 同い年だったの!?てかクラスメイトぉ!?なんていう奇跡、なんていう巡り合わせ。正直言って嬉しい。嬉しいんだが俺、大絶賛メンバー勧誘されてる真っ最中。嬉しいけど心の底から歓迎できねぇ。めちゃくちゃ複雑な心境だ。つかますます変身できない!

 

「えぇ!?あの時のネズミの怪人!?」

 

 ズコーッ!

 

 ピンクちゃん、状況が一歩遅い!人のこと言えた義理じゃないけど場の空気壊れる壊れる。

 

「海ちゃんを離せこのドブネズミ!」

「妙な菌が移るだろこの(ピー)野郎!」

「死ねぇ!」

「エンガチョ」

「誰か殺鼠剤持ってないか?」

 

 クラスメイトもある程度状況把握できたらしい。で、ピンクちゃんの空気ブレイカーによって溜まったヘイトがすごい勢いで向けられて罵詈雑言の嵐。言いたい放題だな。俺、現在進行形で人質なんだけど草生える。エンガチョて。いや待って。それ、大絶賛接触中の俺もエンガチョ!?ヤダー!

 

「ウルセェェェェェ!言いたい放題言いやがってクソガキ共!そんなにこいチュウを殺されたいか!」

 

 まあ当然ネズミ激おこですよ。口調もさっきより汚くなったし。むしろこっちが素だな。でもできればあまり煽らないで欲しい。最終手段の出番がきちゃう。

 とりあえずネズミの恫喝で一旦教室も静かになり、ピリッとした空気が戻ってくる。

 

「最初からそうやって大人しくしてろガキども!テメェらもタダじゃすまさねぇからな?」

 

 場は緊張感のある状態に戻ってもネズミの怒りは収まってない模様。怪人ってどうしてこう短気で煽り耐性が低いんだろうね。カルシウムが足りてないんじゃない?もしくは丈夫な骨格に全部持ってかれてるとか?そう考えると怪人に脳筋タイプが多いのも納得できる。

 

 しかしこれだけ騒いでも人が来ないっていうのはどういうことだ?

 

「チューッチュッチュウ。助けならこねぇぜ?この教しチュウはあの時チュウかう筈だった結界を張ったからなぁ?」

 

 俺が不思議に思った事を何故か読み取って親切に教えてくれるネズミ怪人。優しいね。あの時っていうのは俺が見てチクったアレのことか?そうか、アレは結界を張る装置か何かだったのか。

 

「あ、あれ?力が……」

「入らない……」

「くっ」

「なんやの、これ」

 

 そんなこと考えてたらエレメンツが不調を訴えだす。

 

「ようやく効果が出てきたようだな。冥土の土産に教えてやろう。この結界は周囲には侵入不可と認識阻害、そして中にいる人間は弱体化させる能力があるのだ!」

 

 気がつけばクラスメイトも彼女たちと同じようにみんな辛そうだったり膝をついたりしていた。俺?まあそれなりに辛いは辛いけど冥土の土産にテンプレ感を感じる程度には平気だったり。個人差があるのか?

 しかしなるほど、この結界を使っていればエレメンツに勝てたって言ってた理由はわかった。

 

 あれ?これかーなーりーヤバい?

 

 いよいよ最終手段の出番が現実味を帯びてきた?しかもこの結界の中でどれくらい能力が発揮できるのか未知数。持ってるコスの組み合わせ次第じゃ何とかできるかもしれないけど、こんな猫の子状態で新しいセットを考えてスロットを作るのは無理だ。

 

「さあ、楽しい楽しいショーの始まりだぁ!」

 

 ちょっとぉ!?高校生活入学初日から難易度高すぎなんですけどぉ!?

 

 

 




補足。
怪人が海の名前を知ってたりエレメンツの正体を知ってるのは、敗北してから配下や使い魔を使ってちゃんと情報収集してたから。なので今回の襲撃も計画的です。実は海の変身能力もバレてます。

ヒロインテンプレカウンター
・クラスメイト(イケメン、美女美少女)に囲まれる
・ぼーっと立っていればコミケの人気レイヤーばりのギャラリーと人垣ができる
・教室に入って話題を掻っ攫う。しかもかわいい扱い
・入学式で注目を浴びる
・怪人に捕まる。そして人質

今回も安定のヒロイン力。

怪人図鑑その2
怪人チュッパカブラット
通称ネズミ怪人。実は吸血ネズミでブルーチーズと美少女の体液、主に血が大好物の変態。ヒロインズを狙っていたのも例の結界で弱らせてあんなところやこんなところからいっぱいチューチューするためだった。このエロネズミめ!
裏ディ(自主規制)という組織のトップ。結局以前は海の告げ口によってヒロインズに敗北するも、力のほとんどを使って何とか逃げ延びた。今回ちっちゃくなっているのはそのため。
今日まで時間をかけて力を取り戻し、配下を増やして復讐の機会を伺っていた。
余談だが血を吸った分強くなる。セ○の生体エキス吸収と同じような能力。
他にはネズミなら問わず自分の配下にして、強化、使役できる能力と、弱い生き物もしくは弱った生き物なら脳に近い場所から脳をリンクさせ、乗っ取る能力がある。そのおかげで情報収集能力が高い。


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第6話:波乱の新生活 人質編

最近、ハーメルンに面白いts作品が多くて嬉しい今日この頃。
そういえばもうすぐ連休ですね。前回の前書きの気持ちと、今まで書けなかった分、書きたいし書こうって気持ちは強いんですが……
持ってくれよ、オラのモチベ!(笑)
4/18、14:30、 後書きにヒロインテンプレカウンターを追加しました。


「どうやらこの俺の出番のようだな!」

 

 ちょっとばかり自分の体質と人生の難易度に改めて軽く絶望してたらクラスメイトの中から声が上がった。今の状況が状況なだけに当然声の主に注目が集まる。もちろん俺も含めて。

 おお、クラスメイトのイケメン達の類に漏れず結構な美形。なんだか頼もし……あ、こいつ俺をガン見してた勇者(へんたい)じゃないか。前言撤回。不安しかねえ。

 

「おい、このモブ怪人!俺のヒロインからその下衆な手を離せ!」

「なんでチュウ貴さ」

「おいこら、俺は男。勝手に人のことをヒロインにすんな!あと俺はお前のもんじゃない!」

「おい、人ジチュウが何俺の台詞を遮」

「ふふ、何でそんな嘘をつくのか知らないが、俺の前では何も偽らない、本当の君でいいんだぜ?」

 

 自意識過剰のイケメンがキメ顔でウインク。確かに様にはなるんだが俺からしたらただただキモいだけ。なんか余計に気分が悪くなってきた。

 

「俺を無視すんじゃねーっ!」

 

 とかなんとか思ってたらネズミ怪人がまたキレた。こいつ本当にキレやすいな。今時の若者かよ。

 

「ふん。貴様のようなモブ怪人、この俺の敵じゃねーんだよ。気が変わらんうちにとっとと消えろ。ぶっとばされんうちにな」

 

 余裕を顔に出して笑いながら中指を立てる変態イケメン。おいおい、その台詞思いっきりフラグだろ?ヤムチャしやがって。

 

「ようしわかった。ならばまず貴様から血まチュウりにしてショーを盛り上げてやる!」

「やれやれ、せっかく生き延びるチャンスをやったのに自らドブに捨てるか。いいだろう。ならすぐにでもお前を倒して俺のヒロインを救出、感動と勝利を祝福するキスをもらうとしよう」

「いや、しねーよ!?」

 

 何ナチュラルに俺がキスする事を当然のように言ってんだこの変態!

 

「おい、聞いたか?」

「勝ったら海ちゃんの祝福のキスが貰えるって……」

「マジか!?」

「いや、だからしねーよ!?」

 

 こんな絶望に近い状況で集団の一部(主に男子)に微かな熱が篭る。いや、しないって言ってるじゃん!聞けよ!

 

「サイテー」

「リーダーのバカぁ!」

「このエロガッパどもめ!」

「もう、ほ、ほっぺにキス、くらいなら私がやってあげるのに」

「私達で、海ちゃんの唇を守らないと」

「あの子ならキスしてもらうのもアリかも」

 

 そしてその熱は女子にも伝播(?)して、クラスメイト達の姿に徐々に力が入っていくような気がする。……結構不穏だったり不純な声や雰囲気はあるんだけど。あと俺のキスは確定なのかよ。絶対にしないからな?女子にもしないからな?女子はむしろ恥ずかしさと緊張でできないと言った方が正しいか。今ヘタレと思ったやつ、正直に言いなさい。怒らないから。

 

「マキシマム・エヴォリューション!」

 

 クラスメイト達が妙な、本当に妙な盛り上がりを始めている間、こっちも状況が動き出していた。

 変態(イケメン)が声を上げると発光。その光が収まった先には……

 

 サンバイザーと妙なヘッドギアを装着した真の変態が爆誕していた。

 

 いやだって!あいつの格好ホットなリミットのレヴォリューションのアレだよ!?布面積が少なくなって強くなるのはヒロインの領分だろ!?男の肌色面積なんて誰も求めてないんだよ!

 だが俺、残念な事にこいつに見覚えがある。ていうかガッツリ会ったどころか会話もした。こんなインパクトのあるというかインパクトしかないやつ、そうそう忘れない。

 

 こいつ、いつぞやのロリコン怪人に襲われた時にまったく役に立たなかった屑ヒーローじゃねーか!

 

「さあ、この俺、エクセレヴィオントの華麗な活躍をとくとご覧あ…れ……?」

 

 変態(へんしん)した変態ヒーローは、ズビシ!と音が聞こえてきそうな勢いでネズミ怪人を指差して……そのまま膝をついた。

 

「何故だ?力が、入らない……?」

 

 今更!?

 

 バカかこいつは。怪人のメイドの土産を聞いてなかったのかこいつは。そういう能力(フィールド効果無効や弱体化無効)でも持ってなきゃ変身したって状況が変わるわけないだろーが!

 俺のこいつへの評価は最低値のストップ高が天井知らずでどんどん更新していく。

 

「……こいチュウ、一体何がしたかったんだ?」

「さあ……」

 

 怪人にすら呆れられてるじゃねーかこの役立たず。俺も思わず答えちゃったよ。あ、クラスメイトにもすっげー冷めた目で見られてる。特に女子。あれは本当に相当残念なものを見る目だ。多分俺も似たようなもんなんだろうけど。

 

 パキィィィィィィィィン!!!

 

 そんな教室の呆れの空気一色に突然、甲高く何かの割れるような音が響いた。

 

「な!?結界が破られただと!?」

 

 ネズミ怪人が驚愕の声を上げるけどそれ、言っちゃっていいの?

 

「身体が動く!」

「おい、安心するのはまだ早いぞ」

「怪人は健在、海ちゃんもまだヤツに捕まったままだ」

「でも一体誰が……」

 

 そんな状況で再び脚光を浴びて視線を独り占めにする変態ヒーロー。

 

「はっはぁ!この俺に恐れをなして結界を解いたか!」

 

 あ、絶対こいつは違う。

 

 多分クラス全員の、下手すりゃ怪人すら意見が一致して同じこと考えたんじゃないだろうか?

 そもそも恐れてるなら相手を弱らせる結界なんて絶対解除しないだろ?そんなこともわからないかなあのポンコツは。

 

「ったく、誰だこんな所によくわかんねぇ結界張ったの」

 

 不機嫌そうな声と共に誰かが近づいてくる気配。内容からして結界を解いてくれた者で間違いないと思う。んだけど……この声も聞いたことがある。でも、いや、まさか、ね。

 

 ガラッ

 

「「「な!?」」」

 

 教室の引き戸を開けて姿を表した人物にほぼ全員が驚いと思う。だって……

 

「「「ヨ、ヨシオぉぉぉぉぉぉ!?」」」

「あ!?ヨシオ“先生”だろうが!」

「「「はああああああああああ!?」」」

 

 やっぱり!ヨシオ生きてたの!?ていうか、先生!?は?え?なにそれ!?

 

 クラス中から驚きの声が聞こえた。そりゃそうだよ。悪の組織の幹部、しかも四天王までいって正義殺しなんて異名まで持ってたやつだ。しかも俺やエレメンツに退治されてたはずなのが生きてて自分たちを助けた上に先生ときた。俺だって色々と問いたい。問い詰めたい。小一時間問い詰めたい。

 ヨシオ、もとい、ヨシオ先生はすごくめんどくさそうに腕を組んでこっちを見て……あ、目があった。

 

「貴様……いや、君は……おい、そこのドブネズミ。俺様のヨメになにやってんだ?」

「おいコラ、お前こそなに勝手に人をヨメ扱いしてんだ!」

 

 なんか俺の姿を見て何か言いかけた途端、急に不機嫌になってめっちゃ濃厚な殺気を放ち始めた。とか思ってたら今度はこいつのヨメ宣言。寝言は寝て言え!

 それにしてもこいつ、なんか俺に対する態度が変わったな。貴様とか言ってたのが君とか言い出したし、俺様の女になれ!が俺様のヨメときた。……あれ?これって……もしかして俺、ガチで惚れられたり?

 

「キャーッ!ねえ聞いた今の!」

「聞いた!俺様のヨメだって!」

「きっと恋人のために悪の組織を裏切ったのよ!」

「そして怪人から恋人を救おうとする俺様系イケメン!」

「ステキ!」

「カッコイイ!」

「いいなぁ」

「そそ、そうね?(チラッチラッ」

 

 ちょー!?そこな女子たち?なんかめっちゃ盛り上がってるけど盛大に勘違いしてません?俺男なんだってば!そんな目でこっち見ないで!

 

「誰かと思えばどこぞの馬の骨ともわからないヒロインに敗北したヨシオ殿じゃあないか」

「そういう貴様は俺様がボコボコにしたフェアリアルエレメンツにあっさり負けて滅びたドブネズミの組織の元首領じゃねーか」

「それで今は負けた人間にこきチュかわれてるわけだ。さらに人間の、しかもオスに随分と入れ込んで落チュるところまで落チュたなぁヨシオせ・ん・せ・い?」

「勘違いもそこまでいけば滑稽だな。俺様はこき使われてるんじゃねぇ。自ら望んでこうしてんだよ。貴様のように無様に負けて逃げ出しもしなければ、地べたに這いつくばって復讐してやろうなんて往生際も格好も悪いことはしないんだよ俺様は」

「チュウッチュッチュッ」

「フハハハ」

「「ぶっ殺す!!」」

 

 そんな俺の心も知らず状況は俺を置いてどんどん進んでいく。頼むから置いていかないで!

 

「チュチュ。チュウよがるのもいいが、貴様の大事な大事なヨメのいのチュウはこの俺が握ってるんだぞ?貴様の言動一チュウでチュウいうっかり手が滑ッチュウこともあるかもなぁ?」

「調子に乗ってんじゃねぇぞドブネズミが。その子に傷一つでもつけたら死ぬ程度じゃ済まさねぇぞ?」

「だったら大人しく……」

「だから何勝手に人を……」

 

 とすっ

 

「あ痛」

 

 俺や怪人が言い返そうとしたら急に視界が下がってSiriに痛みが走る。どうも急に手を離されて尻餅ついたらしい。

 

「ッヂュウッ!?きっ、貴様ぁぁぁぁぁ!」

 

 ネズミ怪人の怨嗟の声に反射的に振り向けば、俺を捕まえてた先生は倒れていて、怪人本体が壁で蹲っていた。

 何があった!?

 

「馬鹿が。小さいから自分は狙われないと思って油断しただろ?甘ぇんだよ。こんなの俺様からすりゃ児戯に等しい。もっともクソ弱ぇドブネズミ程度こんな児戯で十分だがな」

 

 そう言うとヨシオ先生は親指でパチンコ玉を弾いてみせた。

 うおお、あれって漫画やアニメの強キャラがよくやるやつじゃん!

 

「「「カッコイイ」」」

 

 ……今、クラスの一部の女子の声と思ったことがリンクした。

 はっ!?べべべべ別にあれは憧れとか男が男に惚れるとか男と書いて漢って読むみたいな意味であって決してときめくとかそう言った意味じゃない!そう、これはきっと色々ありすぎて脳のキャパシティがオーバーしてショートして考える事を放棄した結果なんだ!あれ?って事はあれは本心?っちっがーう!絶対に違う!俺は女の子が好きな普通に健全な男子だ!決してメス堕ちとかしたりしない!

 

「ヨシオにしてはよくやった!あとはこの俺に任せおけ!」

 

 そんなタイミングでしゃしゃり出てきた屑ヒーロー。いや、なんでそんな上から目線ができるんだこいつ。まったく役に立ってないのに。しかもこんな敵が弱そうでさらに弱ってそうな状況で出てくるとかもういいところ持っていこうとしか見えないんだけど。

 けどこいつの頭の悪い行動のお陰でちょっと落ち着いた。今のうちに逃げとこ。

 

「調子に乗るな雑魚が!」

「ぐあっ!」

 

 あ、急にネズミ怪人がでかくなって屑ヒーローを殴り飛ばした。そりゃあ首領までつとめてた怪人が弱いわけないだろ。ほんと、何しに出てきたんだあいつ。

 

「チュッ!貴様のせいで計画が台無しだ!この落とし前はチュウけてもらうぞ!」

 

 ネズミ怪人がヨシオを睨んで凄む。

 

「ふははは。ドブネズミにしちゃ笑えるジョークだな。貴様程度が俺様相手にどう落とし前つけさせるんだよ?」

「チュウッチュッチュ。俺は前回の失敗から学んだ。失敗した時のための計画もチュあんと用意してあるんだよ!戦いとはチュウねに1手2手先の事を考え、手を用意しておくものだ!」

「ふん。ドブネズミが用意した計画などたかが知れてる。そんなもん

俺様が軽く叩き潰してやるよ」

「チュウよがってるのも今のうちだ!出てこい!我が下僕!眷属!配下たチュウよ!」

「げっ!?」

「うおっ!?」

「キャアアアア!!」

 

 煽るヨシオに乗る怪人。そして出るわ出るわネズミに本体に似たヤツに戦闘員らしき大量の量産型。それにスッゲー気持ち悪い虫の外見の怪人もチラホラと。

 

 キモいキモいキモいぃぃぃぃ!ヒィ!?寄るな触るな近づくなぁ!

 

「ほう?俺様の結界に反応しないってことは最初から辺りに潜ませてたか。で、貴様の計画とやらは数で押しつぶすってだけか?はっ。確かに悪くないが、こんなのもう計画でもなんでもないただの力押しっつーんだよ」

「フン。だが確実な手だ。貴様もこの数相手にどこまで持チュウかなぁ?」

 

 あー。確かに数の暴力って単純だけどそれだけ強力だ。前にめぐみんも「単騎で無双できるのはアニメやゲームの中だけ」って言ってたぐらいだし。だけど。

 

「ふははは。無駄無駄無駄ぁ!この俺様に数は意味ないんだよ」

 

 ヨシオの影が分裂し、その影から影が生え伸びてヨシオとそっくりになる。その数ざっと5、6体。

 そう、ヨシオと戦った俺はあいつが分身を使えるって知ってた。

 

「チュウッチュッチュ。俺がそれを知らないわけがないだろう。その分身、数はそう多く出せない上に増やした分だけチュカラを分散させるんだろう?」

「それでも貴様やそれより弱い連中の相手にゃ十分すぎてもったいないくらいだ」

「ククク、それに数はもっと増やせるんだが……必要ないだろうからな」

 

 増えたヨシオたちが代わる代わる喋る。なんかすっげーシュールな光景だな。

 

「ほう、甘く見られたもんだな。その言葉後悔すんなよ!」

 

 怪人のその言葉で、待機していた手下たちが一斉にヨシオに襲いかかっていく。

 そして何故か一部こっちにも向かって。

 

「チュウッチュッチュ。貴様は多少は耐えられるだろうが、貴様の大事な大事なヨメはどうだろうなぁ?さあどうする?助ける?見殺しにする?ああ、楽しいショーになりそうだ」

 

 完全にとばっちりなんですけどぉ!?

 

「ふははは。それこそ必要ないな」

 

 クソが!ヨシオ俺にヨメ宣言しておきながら完全に俺を助ける気ゼーローかよ!集団で同じ顔でニヨニヨすんな鬱陶しい!

 

 しょうがない。使いたくないけど命あっての物種だ。

 俺が覚悟を決めて最終手段のアプリを起動しようとした瞬間、俺の前に割り込んでくる人影が目に入った。

 




ちなみに怪人は海が変身しても自分には勝てないと思っている模様。もちろん思い上がり。
逆にヨシオは自分より強い海が負けると微塵にも思っていない。

ヒロインテンプレカウンター
・クソ雑魚変態ヒーローにヒロイン扱い
・祝福のキスフラグ
・かつての敵(しかも強キャライケメン)からヨメ宣言
・女子から憧れられる
・虫やネズミが苦手
・怪人からもヒロイン扱い

もうヒロイン以外の何者でもない(笑)

ヒーロー図鑑その1
エクセレヴィオント
図鑑トップバッターがこいつなのは大変遺憾なクソザコ変態ヒーロー。
作中の説明通り、サンバイザーがついた奇妙なヘッドギアにホットなリミットのレヴォリューションのような肌色の多い出で立ち。
変身前はイケメンなので黙っていればかなりモテるのに性格と会話で超がつくほどの残念イケメン。そのため彼女はできない。
ただしその見た目と変身能力のせいで色々勘違いし、自分のチヤホヤされたい欲望と彼女欲しさのためにヒーローをやっている。
海の言っていたロリコン怪人は怪人ロリコーンのこと(わかってると思うけど一応補足)
その時言われた田舎落ちは本当で超気にしているので一応タブー。実際、変身後でも生身のりゅーじより弱い。

 


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第7話:波乱の新生活 熱闘編

新話書いてたら長くなったので分割しました。なので今回は短めですが、明日も新話投稿しますよー。
5/6、後書きのヒーローヒロイン紹介のシュガースイートナイトメアに男の娘属性を追加しました。


「危ないっ!」

「へっ?ごふっ!?」

 

 俺の前に割り込んできた人影。結局それを確認する前に俺は急に横からきた衝撃に吹き飛ばされて転がる事になった。

 

「大丈夫か?」

「大丈夫じゃない!なんなんだ一体!?」

 

 文句を言いながら目を開くと、なぜか俺の目の前にクラスメイトのイケメン。いや近い近い。ってああ、俺はこのイケメンに抱き抱えられながら転がって助けてもらった訳か。けどそれでもあの不意打ち日○タックルはちょっと悪質な威力があった気がするぞ。とはいえ助けてくれたのに思いっきり文句言ってる俺ってちょっとカッコ悪い。思わず手で顔を隠してしまうくらいには。

 

「ごめん、助けてくれたのに文句言って……ってあれ?」

「いや、こっちこそごめん。慌てて飛んだから……っておぉ?」

 

 指の隙間からイケメンの顔を確認すると、どっかで見た事あるっていうか、会ったばかりというか……

 

「あ、今朝のパンツ覗き魔」

「ちょ、誤解をされる言い方はやめてくれ!!!」

 

 見覚えのある顔だった。

 

「すけべ!」

「あとでその話、しっかりと聞かせてもらうぞ!」

「事と次第によっちゃあ」

「月に変わってお仕置」

「ピンク、それ以上はアカン!」

 

 その言葉に即座に反応したのは、さっきまで俺がいたであろう辺りで怪人たちを返り討ちにしたフェアリアルエレメンツだった。多分襲われる寸前に割り込んできた人影は、彼女たちだったんだろう。ひゃっほぅ、本物のフェアリアルエレメンツだぁ♪

 勧誘の件はとりあえず俺が件の魔法少女ってバレなきゃいい……怪人の襲撃、俺の正体を知ってるヨシオ、この状況でどこまで隠しきれるんだろう俺。ちょっと不安要素が多すぎる。

 

「アレは事故だったんだって!」

「事故なら許されると思っているのか!」

「そうじゃないけど!」

「乙女のスカートの中の秘密は安くないで!」

「そういう問題じゃないよキーちゃん」

「エッチなのはいけないと思いま」

「うん、ピンクは少し黙ってようか」

 

 俺がフェアリアルエレメンツについて文字通り一喜一憂してると、そっちはそっちでぎゃいぎゃい騒がしく、空気もめちゃくちゃになってた。まあ燃料投下したの俺だけど。つかいい加減どいてくれないかなぁ?

 

「チュウッチュッチュ。油断大敵ってヤツだ!」

 

 怪人がこっちの状況を見ながら手で何か指示を出した。すると残ってた敵が四方八方から襲いかかってくる。

 くっ、戦闘はまだ終わったわけじゃないのに思わぬ出会いにちょっとそっちに意識を持って行き過ぎた。幸いスマホは落とさずに手で握ったままだけど、俺はまだ体制を立て直せてないし、こいつは邪魔だし、エレメンツの前で変身すればもう言い逃れはできない!

 ……はぁ、ここまでか。しょうがない、油断してたって事で自業自得と諦めるか。俺はスマホをタップ……

 

「「「変身(チェンジ)!」」」

「「「変身(リフレッシュ)!」」」

「エナジー解放!」

「「「顕現せよ!我が魂に眠りし力よ!」」」

「変身」

「武装許可降りました!」

「よし!」

「「ガードシステム起動!」」

「「「自然一体」」」

 

 しようとしたタイミングに、声とともにエレクトリックなパレードやプロジェクションマッピング顔負けの光やエフェクトが入り乱れた。

 急な出来事に脳が追いつかずにフリーズしてると、すぐにそれが収まり、襲ってきた敵が割って入ってきた人影によってあっさり吹き飛ばされた。

 

「は…はは……マジか……」

 

 俺に覆いかぶさってたイケメンがようやくどきながら呟くように座り込む。かくいう俺も今、自分の目にしてる光景が信じられなかった。

 

「なっ!?オーバーテイル!?」

「いや、え?フルーツバスケット!?」

「シュガースイートナイトメアだと!?」

「もしかして、特殊犯罪対策チームのイージス?」

「ライジングライダーにロストセイバーズに、うわぁ雪月花まで」

 

 ……うっそぉ……

 

 みんな超有名なヒーローやヒロインだった!

 今絶賛売り出し中のヒロインだったり、子供から大人まで知ってるヒーローだったり、警察キモ入りの注目組織だったり、普通ならテレビや運が良くても大都市なんかでしか見られない連中だぞ!?え?ドッキリ?モニタ○ング?いやでもみんなのあの反応、演技だったら賞をとれるぞ。って事は……偶然?嘘だろ!?

 

「っ!?上!!!」

 

 状況が状況だけに再び置いてかれてフリーズしてる俺に、ピンクちゃんの悲鳴にも似た声にハッとなる。反射的にそっちを向けば、ちょうど天井から数体のでっかい蜘蛛やムカデが降ってくるところだった。

 

「きゃぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

 思わず女子っぽい悲鳴をあげた俺は悪くない!けどただでさえ後手に回ったのに、嫌悪感と余分な行動で貴重な時間を使っちまった!変身間に合うか!?

 

「変身!」

 

 ……え?これ俺じゃない。まさか?このイケメンも!?

 

「トウッ!」

 

 期待を裏切らず、イケメンは変身して数体いた敵を漏らすことなく全て迎撃、吹き飛ばした。そのヒーローは……

 

「ストームライダー!?」

 

 なんと、以前ロリコン怪人から逃げた時にすれ違った超有名ヒーロー!

 何このヒーローヒロインのバーゲンセール!?……ちょっと待て。あの屑ヒーローに俺も含めてこのクラスって……全員ヒーローかヒロイン!?そんな偶然ある!?

 

「なん…だと……馬鹿な!何故こんなにヒーローやヒロインどもがあチュウまっている!?」

 

 あ、ちょっと普通じゃありえない状況で一時的とはいえ光の彼方でこいつの存在忘れてた。

 目に見えて狼狽してるネズミ怪人。そりゃあこんな状況想定してなかっただろうし、ここから逆転出来るような手なんてないだろ。それなんて無理ゲー?ちょっと可哀想になってきた。

 

「ククク、ここはな、何故かヒーローやヒロインどもが集まってくる裏じゃヒーロー学校なんて呼ばれる場所なんだよ」

 

 は!?嘘!?マジで!?俺初耳クなんですけど!?ってことは俺の正体もバレてる!?

 

「今年は特に大豊作のようだな。普通は2、3人から10人くらいらしいぞ」

「クックックッ、どんだけ凶運なんだよお前」

 

 ヨシオは襲ってくる敵を難なく倒しなが楽しそうに喋る。うん、俺も自分の立場を軽く現実逃避すればこの状況はすっげぇ楽しい。

 

「まだだ!こうなったら出し惜しみは無しだ!一気に畳み掛けろ!」

 

 諦めの悪いネズミ怪人がそう叫ぶと、教室の入り口から窓から、放送のスピーカーとかとにかく色んなところからすごい数のキショい生物がどんどん出てくる。

 

「お前ら、ここは俺様が作った丈夫で強力な結界が貼ってある。遠慮なく暴れて返り討ちにしてやれ」

 

 ヨシオのその言葉を聞いたヒーローヒロイン達は安堵とともに闘志をみなぎらせて……一部気絶してたり、ヒーローヒロインらしからぬ笑いを浮かべて敵へと突撃してしていった。

 

「よくも海ちゃんを人質にしたわね!」

「たっぷり後悔するがいい!」

「悪ぅい子はオシオキやでー!」

「私も今日は暴れますよー」

 

 ……エレメンツの方からちょっと不穏なオーラを感じる。あれはだいぶフラストレーション溜めてたな。俺は戦うカッコいいエレメンツ見られるからいいんだけど。

 

「うおおおお!美少女のキスぅぅぅぅ!」

「フッザケンナ!彼女のキスは俺のもんだ!」

「リーダー!不謹慎!そんなにキスして欲しければ、その、私が……」

「ちょっとマーメイド何言ってんの!勝手にリーダーにキスしたら許さないからね!」

 

 って今度はオーバーテイルから不穏な台詞が!

 

「コラぁ!俺は男って言ってるだろ!あとキスはあの変態が勝手に言った事だからな!しないからな!」

 

 って全然聞いてねぇ!

 

「みんな!海ちゃんの唇守るわよ!」

「うん!」

「当然!」

「こんなシチュエーション絶対認めない!」

「100歩譲ってもヨシオ先生くらいカッコイイとこ見せなきゃ!」

 

 フルーツバスケットまで!?

 

「いやだからしないって!勝手に話を進めないで!確定させないで!」

 

 ってこっちも聞いてねぇ!

 いや、こんな乱戦になったからそっちまで気が回らないか、声が届いてないのか?

 

「決してキスして欲しいわけじゃないが」

「か弱き女性を守らねば男の恥!」

「そして悪を切るのが我らの使命!」

「女性を人質にとるなど断じて許すまじ!」

「決してキスして欲しい!………わけじゃ、ないが!」

「おい最期の!揺らいでんじゃねぇよ!本当だな!本当だろうな!」

 

 ロストセイバーズは女性人気が高いけど硬派で有名だから大丈夫だと思ったのに!不安だ……

 

「人質を取るようなやつらに容赦はしない!」

「同感だ。だが一つ聞かせろ。貴様、あのパンツを覗いた子にキスして欲しくて張り切ってるのではないな?」

「だからあれは事故なの!それにそんなはずないだろ!俺もお前も大事なものを守るためにこの力を授かったんだろ?」

「だが、あわよくばモテたりしたいだろ?」

「そこは否定できない!お前はどうなんだよ?」

「ノーコメントだ」

「汚ねぇ!」

 

 ……なんか超有名ヒーローのそんなあられもないぶっちゃけトーク正直あまり聞きたくなかったよ!ライダーのイメージが少し崩れたよ!

 

「イージスシステムの試運転にはちょうどいい相手だな。悪いが踏み台にさせてもらうぞ!」

「ついでに美少女のキスもゲットね!三雲!」

「……関係ない。余分な事は考えずに戦闘に集中しろ」

「はーい」

「おい!今の間は何だ!やめろ不安になるだろう!?」

 

 だ、大丈夫だよな?警察ってお堅い職業の方が報酬とか求めないよな?そういう法律あるよな?

 

「フン。こんなの楽勝だな。とっとと終わらせるぞ。キスの権利は月にくれてやる」

「いらん。花のキスなら喜んで頂いてやるが?」

「だったら俺が貰う!」

「フッ。なら勝負だ!」

「いいぜ!乗った!」

「ちょっと!私の意見は!?」

 

 おっと、雪月花はツッコミ入れなくて済みそうだ。っていうかすっげぇ生暖かく見守りたい。

 

「うわぁ、なんて夢の共演。劇場版?劇場版なの!?って邪魔ぁ!ヒーローやヒロインの雄姿が見れないじゃん!あれ?僕今そんなヒーローと共演してるの?夢?夢じゃないよね?」

 

 俺の魔法少女コスに負けず劣らずのフリフリヒラヒラの服のボクっ子美少女がちょっとヤバい顔しながら妙なオーラを出しつつ敵をなぎ倒している。あれって確かシュガースイートナイトメア?でもその気持ちはちょっとわかる。実は俺もちょっとだけ一緒に戦ってみたい。少しならいいんじゃ?とか思う。そのちょっとのリスクを考えると無理だけど。やっぱり俺は見てる側でいたい。

 

 それにしてもこれだけのヒーローやヒロインがバトルを繰り広げると壮観だな。てか女性陣はよくあんなちょっと気持ち悪い生き物相手に戦えるよな。

 ……あれ?本体どこ行った?いない!?……逃げた?まずい、アレを逃すのは絶対ダメだ。

 必死で探していると、ヨシオ先生が入ってきた入り口からスルッと出て行く影を見た。多分あれだ!

 乱戦の隙間を縫って廊下に出た俺の目に映ったのは、小さくなって全力で逃げるネズミ怪人。逃すか!

 俺は周囲を確認。よし!目撃者はいない!俺は握っていたスマホを素早くタップ。

 

「ロードカンリョウシマシタ」

 

 闇の霧が晴れれば俺は黒色の魔法少女となる。

 その間にネズミ怪人との距離は随分離されて……ないな。なんか廊下の途中に見えない壁みたいなのがあって、そこで足止めされてる模様。あれってヨシオ先生の言ってた結界ってやつか?ってまずい、結界に穴を開けやがった!そこは腐っても元怪人の組織のトップか。けどここなら射程範囲だ。幸いネズミ怪人も作業に夢中なのかこっちの存在に気づいてない。

 俺は自分の影を伸ばしてネズミ怪人の影と接触、そのまま影の中に潜り込んだ。

 




ヒロインテンプレカウンター
・ヒーローに抱えられながら守ってもらう
・イケメンと再会。イケメンがヒーロー
・勝利のキスの話がまだ生きてる

 ……あれ?今回ちょっと少ない?どうした海!?


海のクラスのヒーロー、ヒロイン
・フェアリアルエレメンツ プ○キュア枠
・オーバーテイル  レンジャー枠
・フルーツバスケット  ド○ミ枠
・シュガースイートナイトメア オリジナル、男の娘、あえて言うなら魔法少女枠
・ロストセイバーズ 乙女ゲー枠
・ライジングライダー ライダー枠
・ストームライダー 同じくライダー枠
・エクセレヴィオント ネタ。あえて言うならラッキーマンのスーパースターマン枠
・特殊犯罪対策チーム イージス 宇宙刑事やメタルヒーロー枠
・雪月花 ラブコメ枠
・海 ヒロイン枠(笑)

詳細はまた別話で。


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第8話:波乱の新生活 決着編

「クソが!ヨシオはともかく何だあのヒーローやヒロインどもは!あんなイレギュラーさえなければうまくいってたのに!この俺の計画が台無じゃないか!」

 

 結界に穴を開けて逃げ出したネズミ怪人は、人気のない校舎裏までくると少し安心したのか、怒りを言葉にして吐き捨てた。

 

「覚えてやがれ。俺は今回のことでさらに学習した。チュウぎはもっと完璧な作戦と手駒で必ずお前らを殺してやる!いや、男は洗脳して下僕に、女は俺のエサだ!生きながら死ぬよりチュウらい思いをさせてやる!」

「させるわけないじゃん」

「ヂュっ!?」

 

 これ以上は聞くに耐えないので俺は影から姿を表す。

 ネズミ怪人は素早く俺と距離をとり、巨大化して威嚇してきた。

 

「……貴様、海!」

「あーやっぱり俺の正体もバレてたか」

 

 変身後の姿なのに俺ってわかってた言葉。エレメンツの身バレからして多分俺の正体もバレてると思ってたけど当たりだったらしい。当たって欲しくなかったなぁ。

 

「チュっ!チュウけられてたか。不覚」

 

 まあ俺の影に潜る能力や影移動はバレてるだろうけど、じゃあ対策ってなるとこれが結構難しい。しかも気づかれにくいときた。絶対敵に持って欲しくない能力だな。

 

「チュウッチュッチュ」

 

 なんかこっちを警戒、威嚇してたネズミ怪人が急に笑い出した。

 

「どうやら貴様一人のようだな!ならば恐るに足らん。貴様を殺すか服ヂュウさせられるのなら今日のところはよしとしよう。復チュウを一つ晴らせるのだからな。我が怨み、思い知るがいい!」

「ふふ、さっき俺に言った油断大敵って台詞、そっくりそのまま返してやるよ」

「何?ヂュッ!?身体が?!」

 

 ネズミ怪人が威嚇のポーズのまま、固まって動かない。まあ正確には動けない、だけど。せいぜい喋るのが精一杯だろう。もちろん俺の仕業。

 

「俺が影に潜る能力や影移動できるの知ってるんだったら、もっと影に気をつけなきゃ」

 

 俺はネズミ怪人の影に刺さったナイフを指差す。とは言ってもこのスキルが使えるようになったのって実はヨシオ戦の後だったりする。それまではコストが足らなくて2、3レベルの低い影スキルをセットしてたから。

 

「影縫いの術ってね。影を重ねて動けなくする影縛りなんてのもあるけど今はこっちの方が都合がいいんだよ」

「俺をどうする気だ?」

 

 流石頭の回転が早い。俺が何かしたいのに気づいたらしい。

 

「ちょっと実験をね。人には絶対見られたくないし、動く相手に当てる自信ないから」

「貴様、俺で新技でも試す気か?」

「んー遠からず近からず、かな。」

 

 確かに色んなコスの性能を試すいい機会かもとちょっと思ったのは内緒だ。

 そんな会話をしながら俺はスマホをいじってスロットを一つセットしていく。

 

「スロット4ノソウビヲロードシマス」

 

 セットが完了したスロットを早速ロードして衣装(コスチューム)チェンジ。すると俺は光の膜に包まれる。お、このコスは変身アクションありか。

 光の膜が霧散した後に佇む俺の姿は、クロスのついたカチューシャに、同じくクロスの矢じりのついた矢と弓、そして……濃いピンク色のレオタード。それは昔社会現象まで巻き起こしたチョコのオマケのシールのキャラクター、レア度星4つの十字○天使のコスチュームだ。何故か羽はついてなかったけど。

 

「む、貴様、その姿……」

「あー言わなくていい。感想は求めてないから。てか言えば殺す。俺だって恥ずかしいんだよ!」

 

 誰が好き好んでレオタードになるか!そしてそんな自分の姿なんて見たくないから絶対下は見ない。ともあれ。

 

「こんな生き恥長く晒すつもりはないからな。サクッといくぞ」

 

 俺は弓矢を構えて照準をネズミ怪人につけた。

 

「待て!話せばわかる!わかった、もう悪いことはしない!復讐もしない!だから見逃し」

「えい」

 

 シュパン

 トスっ

 

 ネズミ怪人が何か喚いてたけど、とっとと終わらせたい俺はそんな話聞き流しながら矢を放つ。矢は見事にネズミ怪人の眉間に命中。すると。

 

「ヂュアアアアアアアアアあああああああ!!!」

 

 ネズミ怪人が叫ぶと共に光に包まれた。

 

 げっ!?やばっ!叫ばれるのはちょっと考えてなかった!ヤバイよヤバイよ!絶対人が集まってくる!どうする!?どうしよう!?

 

「消えていく!怒りが!怨みが!悪意が!俺の根源さえ消えて…変わっていく……」

 

 ちょ!後半ちょっとすっげぇ怖いこと言ってるんだけど!軽くホラーっていうかサイコっていうか大丈夫かこれ!ヤベェ武器じゃないよな!?

 

 そんな俺の焦りをよそに、ネズミ怪人の発光が収まると、そこにはぬいぐるみのようなマスコット化したネズミらしきかわいい生き物が項垂れていた。

 

「……なんでボク、今まであんなひどいことや悪いことしてきたんだろう……」

「お前誰だよ!?」

 

 とりあえず全力でツッコミを入れた。

 

 いや、この弓矢の効果って悪人を良い子ちゃんにする能力だってのは知ってるんだ。これはそれ試すためだったんだから。けど姿形まで変える能力はなかったはずだし、元の姿を考えれば今の姿は完全に詐欺のレベルだ。ていうか本当に誰だよお前!

 

「何言ってるの?ボクは海ちゃんとずっと一緒にいたじゃないか」

「嘘つけ!姿も喋り方も変わってるというか変わりすぎだ!」

「嘘も何も、ボクをこの姿に変えたのは海ちゃんだよ?」

「……まじかー」

 

 ……まじかー

 

 やめろ、そんな目でこっち見んな!なんかちょっと罪悪感感じるから。動物虐待とか思っちゃうからマジで。

 

「やったね海ちゃぁぁぁぁん!!」

 

 どーん

 

「うわあああ!?」

 

 何事!?あ、いや、なんかこんなの前にもあった!

 

「ピ、ピンクちゃん!?」

 

 何故ここに!?いやそれよりも!

 

「なんで俺の正体知って!?」

「そんなの一部始終見てたからに決まってるだろう」

 

 げえっ!?ヨシオ先生!?それに他のエレメンツのメンバーまで!?

 

「ああ、心配すんな。ここにいるのは俺とエレメンツだけだし、結界も張ったからネズミ怪人の断末魔は外には聞こえてねーよ」

 

 いや断末魔て。でもそうか、外には漏れてないか。ネズミ怪人の変化っぷりで悲鳴のことちょっと忘れてた。そんなめっちゃヤバイ案件忘れるとか俺どうなんだって思うけど、ネズミ怪人の変化はそれだけ衝撃が大きかったんだよ。ヨシオ先生の話で思い出して一瞬血の気が引いたけどすごくホッとした。

 ……問題大有りだろ!?一部始終見てた?待て、待つんだ俺。まだ慌てる時間じゃない。焦って喋れば逆に墓穴を掘るかもしれない。

 

「あ、あのー、一部始終ってのは、どの辺りから?」

「んえ?魔法少女のコスチュームからその姿になるところからだよ」

 

 ……終わった。何もかも……

 

「うきゃあ!?」

 

 俺は膝から崩れ落ちて地面に手をついた。ピンクちゃんを巻き込んで。ん?待て?そっから見てても俺、魔法少女の姿だったはず。

 

「なんで黒色の魔法少女が俺だってバレてんの?」

「いや君、俺の目の前で変身しただろうが」

「いや、ヨシオは別として。ピンクちゃんの方が」

「私たちもあなたの正体、知ってるわよ」

 

 みどりちゃんから衝撃の一言が。

 

「なんで!?」

「いや、簡単な推理だろう?あの時ヨシオ先生の結界に閉じ込められたのは、私たちと巻き込まれたもう一人だけだ」

「その結界が晴れた時にいたのは姿は違うけどその子そっくりの魔法少女。あとは簡単に調べられたわ」

「海ちゃん有名人やから」

 

 えー……最初っからバレてたのかー……なんか今まで必死に正体隠してきたのが馬鹿みたいに思えてくる。

 

「で、我々は考えたわけだ」

「ウチらに勧誘するんやったら高校に入ってからやってな。おんなじ高校志望やったし」

「そうすれば逃げられないでしょう?」

 

 なんて悪魔的発想!心なしかセイさん、キーちゃん、みどりちゃんの笑顔が黒く見える。

 

「ちなみにアイデア出したのは私!」

 

 ピンクちゃん余計な事を!

 

「これから仲良くしようね♪」

「……ハイ……」

 

 ピンクちゃんの溢れんばかりの眩しい笑顔に俺がノーと言えるはずもなく……俺の頭の中では子牛が売られる音楽と情景が流れていた。

 

「それはそうとして、この子どうするの?」

 

 みどりちゃんがあの変わり果てたネズミ怪人を抱いて聞いてくる。かわいいもの好きなのかみどりちゃんはちょっと嬉しそうだ。

 ……元ネズミ怪人の方もみどりちゃんの豊満なお胸に包まれて嬉しそうだ。イヤラシイ顔しやがって!こいつ間違いなくあのネズミ怪人だ。このエロ怪人め!

 

「……みどり、そいつ、下ろした方がええで」

「?なんで?」

「な、なら次は私に抱かせてくれ!」

「……ハァ。これ、ウチが変なんかなぁ?」

「いや、キーちゃんの反応が正しいと俺は思うよ?」

「……ありがとな」

 

 セイさん、意外とかわいい物好きなんだな。とはいえ、キーちゃんのあんな邪悪でイヤラシイ生き物を2人に抱かせたくない気持ちはよくわかるよ俺。

 

「あのっ!ボク、みんなの仲間にしてください!今までのチュウみ滅ぼしをしたいんです!必ず役に立ちますから、どうかお願い!」

 

 俺たちの会話や視線が気になったのか、元ネズミ怪人はみどりちゃんに降ろされたらその場で土下座を始めた。器用な。

 

「おいおい、そんな勝手で都合のいいことが許される訳ねーだろ」

 

 今まで黙ってたヨシオ先生が、この時ばかりは会話に参加してきた。

 

「お前には聞ーてない。そもそもお前だってボクと似たようなもんだろう」

 

 確かに。どういった経緯でこのヨシオが先生やってるのか知らないけど、ヨシオだけ許されてこのネズミ怪人が許されないって道理はないよな。

 

「ハッ。俺にあれだけ言いやがったお前がどこまで本気なんだか」

「お前よりは役に立チュウ自信あるけど?」

「は?お前が俺より?なんの冗談だそれは?弱いくせに」

「ボクはお前みたいな脳筋じゃないからね」

「よくわかった。お前に謝る気や過ちを認めてやり直す気は絶対にねぇ!今すぐここで俺が退治してやる!」

「はいはい、そこまで。ここで争い始めるのはやめてくださいね」

 

 ヒートアップしていく2人を仲裁してくれるみどりちゃん、ナイス。

 

「それで、どうするんだ、海?」

「へ?俺?」

 

 セイさんの急なフリに思わず変な声が出た。

 

「それはそうだろう。この怪人をこの姿にしたのは海だ。ならば海が決めるべきだろう」

 

 うええええええええええ!?

 

「あ、私もそー思う」

「まあ、妥当やなぁ」

「そうですね」

 

 ピンクちゃん、キーちゃん、みどりちゃんも同意。

 

「チッ。仕方がない。海の決定なら従おう」

 

 ヨシオ先生も了承。俺、逃げ場なし。俺はただあの弓矢の効果を確かめたかっただけだったんだけど……

 

「うん。ボクも海ちゃんならどんな決定でも従う。こんな心を持てたのも海ちゃんのおかげだから。ボクはどんな結果になっても受け入れるし、恨まないよ」

 

 本当にお前誰だよ!!!

 

 復讐だとかなんとか言ってたのが嘘みたいだよ!さっきちょっと、いや、かなりエロいところまで見せてたのにそんなことなかったかのような潔さ。やめろ、そんな決意を込めた目でこっちを見るな!見た目と雰囲気と相まってもう助けるって選択肢しかないじゃん!これで助けないって選択したら俺、完全に悪者で、絶対後で後悔する。

 

「……じゃあ、保護観察処分で」

 

 とりあえず様子を見よう。正直、元ネズミ怪人のこの状態がいつまで続くのかわからない。効果の持続性は知っておきたいし、この状態で助けないっていうのは罪悪感あるけど、もし元に戻るようならその時に改めて退治すればいい。そこはこの姿にした俺の責任だろう。それにこの子がどう役に立つのかもちょっと興味ある。

 

「……!!ありがとう海ちゃん!ボク、がんばるよ!」

 

 ああ、とうとうマスコットキャラまで登場しやがった。ますます俺、ヒロインっぽくなってきてないか?もう引き返せないところまで来てる気がしてならないんだけど。

 

 




長くなった波乱の新生活編、残すは後1話です。次回、りゅーじとめぐみんとのお茶、最後にガチャのおまけ回で占める予定。

ヒロインテンプレカウンター
・マスコットキャラ加入

ますますヒロイン化が進む海。ヒロインにならない明日はどっちだ!?


おまけ ショート劇場 かってにひろいんにすんな!
ちなみに本編には影響ないので興味ない方は飛ばしてオッケーです。

名付け。
「やったねチューる!」
「もう名前つけたんかい!てかピンクがつけるんかい!」
「なんか猫のおやつの名前みたい」
「いやみどり、まんまや!てかその名前は流石に可哀想やわ!」
「クク、なんともお似合いな名前ではないか」
「流石にそれはやめたれや先生!」
「流石関西出身だけはあるなキー。ツッコミがよく似合う」
「あぁありがとうってセイ、全然褒められてる気ぃせえへんわー!」
「えー?じゃあチュウ兵」
「それもあかーん!」
「じゃあミッk」
「もっとあかーん!」
「じゃあ根津校」
「わざとか?わざとやろピンク?怒らんさかい言うてみい?」
「キ、キーちゃん?ちょっと怖いよ?その両手握りこぶしでグリグリするジェスチャーはやめよう?ねっ?」
「あの、ボク一応チュッパカブラットって名前があるんだけど」
「えーかわいくなーい!」
「ちょっと血生臭そうな名前ですね」
「却下だな」
「まあ、ボクも今考えるとなんであんな名前自分にチュウけたんだろうって思うけど……」
「じゃあキーちゃんはどんな名前がいいと思う?」
「ねづっt」
「芸人じゃん!ちなみにセイちゃんは?」
「スキャバ」
「それいちばんあかんやつ!絶対裏切るやつ!」
「むぅ。かわいいと思うのだが。みどりはどうだ?」
「蟬丸」
「渋い!」
「ここはやっぱり海に決めてもらうべきやろ」
「んーメッ○ルとかミ○プルとか」
「コッテコテやん!てかそれもアカンやつや!」
「案外ミーハーなのね」
「ちなみにヨシオ先生は?」
「あ?そんなんネズミでいいだろうが」
「あ、アカンわコレ」


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第9話:波乱の新生活 気の抜けない午後編

ほんとあれです。更新したい気持ちは強いんですよ。けどなかなかできない。うまく言葉にできないんですよね。まぁその力をつけるためにもこれ書いてるんですけど。待ってる人、なかなか更新できなくてごめんなさい。お待たせしました。


「はぁ、気が重い」

 

 俺は頼んだフラペチーノを口に含んで飲み込み、ため息を吐きながら独り呟く。待ち合わせ時間まであとちょっとか。

 入学式もその後のあれやこれも全部終わって今は午後、俺はりゅーじとめぐみんとの約束したお茶をするために、駅前のス○バで一足先に注文を済ませて待っていた。

 ちなみに髪型と服装はもちろんアプリで変更済み。さすがに崋山高校の制服はないので(それなのになぜこんな嘘をついてしまったのか、過去の自分に問いたい)、前にガチャで出た清楚なワンピースと、黒い魔法少女っていうのもバレないように髪はファッション誌とか参考にヘアピンを使って印象を変えている。ちなみに我ながらめちゃくちゃ似合っていて微妙な気分になった。女扱いされるのは嫌だけど、似合ってたり可愛かったりするのはぶっちゃけ嬉しいし楽しい。今ならオシャレを楽しむ女子の気持ちがすごくよく分かる。それも微妙な気持ちの一因だけど。

 あのあと。変異したネズミ怪人は当然俺が面倒みることになった。まあ自分の撒いた種だし、保護観察も経過観察も人には押し付けられないから妥当っちゃ妥当な話だから文句はない。不満ではあるけど。今はエレメンツに事情を話して預かってもらっている。きーちゃんがかなり嫌そうな顔してたけどせいちゃんとみどりちゃんが逆に喜んで預かってくれた。

 クラスの戦闘に関してはあのドリームチームが負けるはずもなく、数だけは多かったアレをフルボッコにして撃退したらしい。くっそう、超見たかった。その後クラスの交流を深めようって事でカラオケに誘われたけど、残念だけど俺はもう予定が入っていたので断腸の思いで断わらせてもらった。次回は是非参加したい。ていうかする。……次回があれば、だけどさ。

 あ、もちろんキスに関しては断固拒否。ってもそれで騒いでたのは事の発端にして元凶、そのうえ戦闘中に気絶してて全く役に立ってなかったクズヒーローだけだった。クラス中の女子から氷点下の眼差しで見られてたけど全く気付いてないし、高校生活初日からクラスメイトの評価の下落が止まらない。大丈夫かなこいつの高校生活。少しかわいそうに思わないでもないけど、まあ身から出たサビというか、自業自得だしな。同情はしない。……天罰ザマア(コッソリ)

 一応他にも数名口にしなくても残念そうにしてた男子と一部女子はいたけど、そっちは「まあそうだよねー」っていう空気出しまくってたのでそっとしておいた。

 

「へーい彼女1人?」

 

 そんな午前の反省とあんにゅいな気分に浸っていると、不意にかけられた声に思考が途切れた。ふと見上げればそれはそれはチャラそうで軽そうな男子が数人。

 

「へーいってお前いつの時代の人間だよ」

「平成に帰れバーカ。ギャハハ」

「いやいやそこは昭和でしょ?昭和」

「何お前こんなとこでナンパ?ってうわっ、めっちゃカワイイ!」

「ヤッベマジだ」

「何何?1人でお茶してたの?うっわそれ超寂しくね?俺たちチョー優しいから一緒にお茶してあげようぜ」

「お前それ超いいアイデアじゃん」

 

 うわぁ色んな意味で超お近づきになりたくない人種がグイグイくるよ。っていうか勝手に話進めんな!当然のように囲んでくるなぁ!

 

「あの、俺、じゃなかった、私、待ち合わせしてるんで困るんですが」

「えー?そんなの別に放っておけばいいじゃん」

「そーそー。もっと出会いを大切にしなきゃ」

「あ、もしかして待ち合わせでこれからくるのって友達?その子もかわいい?」

「そりゃ絶対かわいいっしょ」

「「だよなー」」

「じゃあ一緒にお茶すれば問題解決じゃん。あ、せっかくだしこままどっか遊びに行かね?」

「「「さんせーい」」」

「絶対に嫌ですけど?」

「ちょーノリ悪いってー」

「そこは一緒にさんせーいってとこじゃーん?」

 

 人の話全然聞きやしねぇ。っていうかめちゃくちゃなれなれしくてめちゃくちゃ鬱陶しい。ぶっちゃけウゼェ。

 

「えーっと、うみの従妹で、いいよね?友達連れてきたの?」

 

 いい加減ウンザリしていた所に待ち人来たる。といっても今俺の前にいるのはめぐみん一人だけ。ゆーじはどうした?

 

「うわ、女神だ!女神降臨!」

「マジでかわいい子来たよ!」

「二人そろってレベル高ぇ」

 

 ナンパ男どものテンションが上がってるようだけど、俺のテンションは更に急降下。結局こいつらに絡まれて打開策は練れなかった。せっかくの高校生活の初日なのにこのありさま。厄日かな?

 

「……友達に見える?」

「そーでーっす」

「俺たち今ここで友達になったんだよ」

「なー?」

 

 イライライラッ!!!

 

 ただでさえ嫌いな人種で、嫌いなナンパで、正体隠してこれから気の抜けないティータイムの始まりという苦行が待ち構えて軽く鬱ってるのに、さらに追い打ちをかけてくるかこの馬鹿どもは!

 

「……だよねー。ごめん」

 

 そんな俺の状況を見てめぐみんはちゃんと察して謝ってくれた。この辺さすがめぐみんだよなって思う。俺のほうが感情駄々洩れしてるだけなのかもしれないけど。

 

「あのさーあんたたち、ナンパをするなとは言わないけど、空気を読むスキルと引き際はちゃんとしといたほうがいいよ?」

「えー?なになに?説教?」

「超テンション下がるじゃん。やめようぜそういうのー」

「そんなことよりこれからどうすっか考えるほうが大事じゃん?」

「そっちこそ空気読めてなくね?超空気悪くなったじゃん」

「うーわーかわいい顔してるのに残念思考ちゃんかよー」

 

 ……うん。もう我慢の限界。こいつらぶん殴ろう。この先どうなるかなんて知ったことか!

 

「……おいお前ら、俺のツレと待ち人に何してんだ?」

 

 行動に移るべく立ち上がろうとしたまさにその瞬間、ナンパ男の頭に手が置かれた。で、聞こえてきたのは友人(りゅーじ)の声。ただし、俺でも多分そう聞いたことがない低ーいドスが効いたキレぎみの声。

 

「いだだだだだだだだだっ!?」

 

 りゅーじの手が頭に置かれたナンパ男が、悲鳴に近い声をあげながら痛みを訴える。その顔はめちゃめちゃ引きつっていて、置かれた手からはミシミシと音が聞こえてきそうなくらい力が入ってるように見える。あれは痛い。絶対に痛いやつだ。

 そのまま視線をりゅーじに向けてみれば、そこには一人の修羅がいた。え?りゅーじ?あれ、俺の友人?マジで?あんなにブチギレした顔初めて見るんだけど!?超怖いんだけど!?

 

「な、なんだテメェ!?」

「いきなりなにすんだコラぁ!」

「あ゛?」

「「「ヒッ!!!」」」

 

 当然ナンパ男たちも黙っていない。当然反論というか反撃というかくってかかっていくけど、りゅーじの声と睨みで怯えて押し黙った。すごいプレッシャー!!怪人だってこんな濃い殺気放つやついなかったぞ!?

 

「もう一回聞くぞ?お前ら、俺のツレと待ち人に何してんだ?」

「ナンパよナンパ。それも空気読まないある意味で最悪の部類のやつ」

 

 ナンパホイホイのめぐみんにそこまで言わせるんだあいつら。まあ確かに俺もよくナンパされるけど、今日の連中はかなりたちが悪かった。

 

「……ナンパ、だと?」

「あだだだだだだだだだだだだだだだだ!!!!!」

 

 あ、ナンパって聞いた途端にりゅーじの手の力が一段とこもった。いやまあ手加減はしてるんだろうけど、だんだん抑えがきかなくなってきてないか?

 

「よし、殺そう」

 

 さっきまでの修羅の形相が一転、今度は笑顔になってとんでもないことを言い出しやがった。けどプレッシャーは消えるどころかさらに重圧を増した!本気かりゅーじぃ!?

 

「うん、さすがに今回は弁護できないね」

 

 ちょー!?いつもやりすぎないように止めるストッパーのめぐみんがゴーサイン出しちゃだめだろ!?

 

「ストップ!ストーップ!!さすがにそれはやりすぎ……じゃないかもしれないけど、一旦抑えて!」

 

 さすがに殺人はシャレにならないので止めに入ろうとしたけど、俺も本音じゃ止めたくなかったんだろうな、やりすぎってところを否定できなかった。それでも止めようと思ったのは本当で、りゅーじを止めるために腕を掴む。っていうか抱き込む。これくらいしないとりゅーじは止まらない。

 

「----っっ!!!???」

 

 俺の思いが通じたのか、りゅーじはナンパ男の頭を開放した。よかった、犠牲者はゼロだ。

 

「うわぁぁぁぁぁぁ」

「お助けぇぇぇぇぇ」

「覚えてろよぉぉぉぉ」

 

 捕まっていた男も開放されたことで、ナンパ男たちはそれはそれは見事な捨て台詞を残して逃げていった。

 いや最後のやつぅぅぅ!お前アイアンクローと間近であのクソ濃厚な殺気にさらされてたやつだろ?それでよくあのセリフが出てきたな。けどやめておけ、次は絶対に殺されるぞ?

 

「もう無茶なナンパはしないようにねー?」

 

 めぐみんも逃げてくナンパ男たちに厳しい。まあ俺にしたってめぐみんにしたって聖人君子じゃないしな。むかつきもすればキレもする。

 

「それにしてもあいつら、一番迷惑かけた従妹ちゃんに救われたねぇ」

「はい?」

 

 なにそれ?確かに俺は止めようとりゅーじの腕にしがみついたけど、見逃したのはりゅーじだろ?ともかく思いとどまってくれて本当によかった。それに形はどうあれ、ナンパ男たちから助けてくれたことも感謝だ。

 

「りゅーじ、助けてくれてありがとう」

「ん?従妹ちゃんりゅーじの名前知ってるの?」

 

 ん?あ、やべっ、そういえば俺、魔法少女でりゅーじに会ってはいたけど、自己紹介や名前はまだ聞いてなかった!

 

「あ、え、ええっと、そう、うみくんから聞いてたんですよ」

「ふーん」

 

 やば、会ってこんな早々にボロが出るとか油断しすぎだろ俺ぇ!いや、油断はしてなかったんだ。隠し事は苦手なんだよ俺ぇ……

 

「で、従妹ちゃんはいつまでりゅーじにくっついてるの?」

「え?あ」

 

 そういや俺、りゅーじにくっついたままだった。

 

「ごめんりゅーじ。……りゅーじ?」

 

 なぜか微動だにしないりゅーじ。どした?

 

「脳が処理落ちしてるんじゃない?」

「ええ!?なんで!?」

「そりゃあ仮にも好きな女の子に抱き着かれたらねぇ。女の子が気軽にほいほい男に抱き着くもんじゃないよ?」

「え?あー」

 

 そういや今の俺って女の子の設定だっけ。そりゃあまずい。……男の俺に気軽に抱き着くめぐみんにだけはひっじょーに言われたくないけど。あと意中ってところ、めちゃくちゃ認めたくないんだけど。

 

「……どうしよう?」

「放っておけばそのうち復活するでしょ」

 

 そうなんだろうけどさぁ。

 

 

 

——————————————————

 

 

 

 

「……で、なんで俺……じゃなかった、私たち、ゲームセンターにいるわけ?」

「なんでって、そりゃあゲーセンで遊ぼうって話になったからでしょ?」

「嫌だったか?」

「別に、嫌じゃ、ないけど……」

 

 あのあと、幸いりゅーじはすぐに気が付いたので、お互いの自己紹介がてらに軽く駄弁った。ちなみに名前は偽名で文(ふみ)と名乗った。これくらい似てれば間違って返事しても誤魔化せるでしょ。りゅーじが生年月日や趣味や好みまでグイグイ聞いてくるのは非常に頭を使ったしヒヤヒヤしながら話をした。そんな俺を察してくれたのか、ただ単純に遊びたかっただけなのか、めぐみんがゲーセンで遊ぶ提案をしてくれたので思わずそれに乗っかったのは俺なんだけどさ。とにかく正体がばれないように今一度気合を入れてかからねば!

 

 レースゲーム

「みよ!この俺の華麗なドリフトを!」

「おーフミちゃん上手いねー」

「うん。上手(かわい)い」

「りゅーじ、心の声が漏れてる」

 

 クレーンゲーム

「うっそ!?めぐみんあれ一発でとれちゃうの!?」

「うん。受験勉強でしばらくぶりだけど腕はなまってないね」

「いいなぁ」

「……あげる」

「え?これとったの?いいのりゅーじ?」

「そのためにとった」

「甲斐甲斐しいねぇりゅーじ君は」

「うわ、ありがとー!」

「「……かわいい」」

 

 音ゲー

「やるねぇフミちゃん!いい音感してる!」

「そーいうめぐみんこそ!よくここまでパーフェクトでついてくるね!」

「音感には自信あるし、こういうゲーム好きだからね!でもこの先、この難曲の山場になるけどついてこれる?」

「そのセリフ、そっくりそのままお返しするよ!」

「言ったね?じゃあ勝負しよっ」

「受けて立つ!」

「うわ、何あの子たち」

「すっげぇ!」

「……うん。すっげぇかわいい」

 

 その後

「くっそー負けたー!」

「ふふん。音ゲーで私に勝とうなんて1万年と2千年早い。ってわけで勝者権限発動!以降はフミちゃんをふみっちと呼びます」

「まあそれくらいなら」

「また勝負しようねふみっちー」

「次は勝つから!」

「返り討ちじゃー」

 

 ってめちゃくちゃ楽しんでる場合か俺!最初の決意と気合はどこへ行った!?

 

「どしたのふみっち?急に頭を抱えて座り込んじゃって」

「すまん、これだけ引っ張りまわせばそりゃ疲れるよな。ちょっと休憩しよう」

「結構遊んだもんねぇ。え?嘘、もうこんな時間?」

 

 スマホで時間を見て驚いているめぐみんを見て俺ものぞき込んでみれば、時間は午後6時を過ぎた所だった。やっば、まだこの後エレメンツに預けてあるネズミ怪人回収しなきゃいけないのに!

 

「ごめん!俺、じゃなかった、私、そろそろ帰らないと!」

「いやりゅーじ、顔に出すぎ」

「……すまん」

「もー、もっと一緒にいたい気持ちわからないでもないけどさ。んじゃ、今日の締めと記念に最後にあれ、いっとこっか」

 

 そう言ってめぐみんが指を指したのはプリクラコーナーだった。

 

 

 

——————————————————

 

 

 

「うんうん。よくとれてるねぇ。画像を加工しなくてもこのかわいさ。ふみっち半端ないね」

「そのセリフ、そのままそっくりお返しするよ」

「あはは、ありがと。で、りゅーじ、いつまでそのプリクラ見つめてるの?」

「いいだろ別に」

 

 めぐみんの顔がニヤついてる。あれは確信犯だな。

 

「悪り、ちょっとトイレ」

 

 りゅーじは大事そうにプリクラをしまったあと、それだけ伝えて離れていった。

 

「プークスクス。プリクラ撮るだけなのにめっちゃ緊張してたからなぁりゅーじ」

「あ、やっぱり。それでめちゃくちゃ硬い表情してたんだ」

 

 普段見ない親友の姿に、悪いと思いつつもちょっと笑ってしまう。

 

「今日は楽しかったねーうみ(・・)?」

「うん。めっちゃ楽しかった」

「やっぱり。事情はちゃんと説明はしてもらえるんだよね?うみ?」

「へ?あっ!?」

 

 しまった!もう帰るだけだと思って気が抜けてた!やっちまったな俺ぇ!!

 

「ナ、ナンノコトデショウカー?ワタシノナマエハフミダヨ?」

「うーん、その反応だけでも十分な証拠になるんだけどね。私は今、ふみっち(・・・・)じゃなくてうみ(・・)って呼んで反応したでしょ?聞き間違いって言い訳は通じないよ?」

「……ハイ。オッシャルトオリデゴザイマス」

 

 あかん、言い逃れできへん。まさかこのために呼び方変えてた?だとしたら相当策士だぞ!おのれ孔明、じゃなかった、めぐみん!

 

「今日はもう遅いしりゅーじもいるから、んー次の休み、うみの家でいい?」

「ハイ。ダイジョウブデス」

「嘘はだめだからね。全部聞かせてね?」

「イエス。マイロード」

「んじゃ、そういうことで」

 

 はい。そういうことでめぐみんにバレました。次の日曜日に家に来ることになりました。全部喋ることになりました。

 

 

 

 なんて日だ!!!(心からの叫び)

 

 

 




というわけでめぐみんに正体バレました。当初こんなにばんばん正体ばれる予定じゃなかったんですけどねぇ。書き始めたら、海の隠し事の苦手なザルっぷりと周りの賢さでどんどんバレる。もっとしっかりしろ主人公!


ヒロインテンプレカウンター
・正体バレないように変装(しかもかわいい)
・ナンパされる
・ナンパから助けられる
・ナンパ男たちにやりすぎな制裁するのを止める
次点
・ゲームセンターではしゃぐ美少女

今回はナンパ絡みが多かったかな。


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第10話:友人、襲来

本当ならガチャ回のはずだったんですけど、主人公がめぐみんに身バレし(やがっ)たので一話追加です。
あ、私事ですけど、前回お気に入りや特に評価してくれた方、ありがとうございました。久々にランキング入りしてテンション上がりました。
もちろん今までにお気に入りしてくれた人、評価をくれた人、特にいつも感想をくれる方々にはめちゃくちゃ感謝してますし、それがモチベになって短編のつもりのこの話を続けられてます。




 日曜日。それは学校や会社がお休みになる一週間で一番素晴らしい一日。普段なら間違いなく遅くまで寝てる俺だが、今日は朝から台所でちょっと作業中だ。

 

「今日のおやつは何かなー♪」

 

 俺はスイートなソングを口ずさみながら甘い香りの漂う台所でさっきまで使っていた道具を洗っていた。

 

チーン

 

 お、ナイスタイミング。ちょうど洗い物が終わったところだ。

 俺は水道を止めて手早く手を拭くとオーブンをあける。するとオーブンから熱気と辺りに漂う甘い香りより強い匂いが台所を染めていく。んーいい匂い。

 

「うまくできたかな?」

 

 俺は焼きあがった色とりどりのクッキーから一つつまむと口へと放り込んだ。

 

サクッ。

 

 小気味いい音と触感を感じれば、それからすぐにやさしい甘さと小さな幸せが口いっぱいに広がった。

 

「うん、うまい。さすが俺」

 

 いやまぁ正確には以前ガチャから出たお菓子作りの才Lv6のおかげなんだけど。

 このスキル、これより下のLvがどんなもんか知らないけど、Lv6でそこらの下手な売り物よりよっぽどうまいお菓子を作れる。以前検証を兼ねて作ったカップケーキは家族やりゅーじ、めぐみんやあややに大絶賛だった。ちなみに余った分をクラスメイトに進呈したんだけど、何故か軽い修羅場と化した。たかがカップケーキ、されどカップケーキ、食べ物は馬鹿にできないと学んだ。

 で、なんで俺が今クッキーを焼いていたかというと、今日家にくるめぐみんのためだ。女子だけあって甘いものが好きで、その時のカップケーキも嬉しそうに食べてたのを覚えてる。だから今日作ったクッキーもきっと喜んでくれるだろう。今日の話が話なだけに、少しでもいい印象や雰囲気をつくっておくのは大事なことだ。この事前の根回しの大事さは転生前の社会人の時に学んだ。だから転生前も含めて初めて女子が、それも超絶美少女で友達のめぐみんが俺の部屋にくるっていう嬉しさもあって作ったということでは決してない。

 

 それにしてもほんとうまいな。もう一個食べよ……

 

「「じー」」

 

 いや、自分で「じー」って言うか我が弟と妹よ。いつから見てたか知らないけど甘い香りに誘われてきたな。

 

「かわいいあねーのクッキー……」

「かわいいおねーのクッキー……」

「こら、さらっと俺を姉扱いすんな」

 

 とうとう血を分けた兄弟にまで普通に女扱いされ始めたぞ俺。いやまぁ今日に関してはあまり強く反論できないので軽めに怒るに留めておく。理由?そりゃ今の俺の格好。スキルを使うにはガチャで出た衣装にスキルをセットして着替(へんしん)する必要がある。つまり今の俺は前回ガチャで出たメイド服(クラシックなのじゃなくて、メイド喫茶なんかで見るスカート短くて露出が少々多いやつ)着用でクッキーをつくっていたのだ。鏡を見て絶妙なかわいらしさを醸し出す自分の姿を見たらさすがに責めにくい。

 そんな二人の視線は俺の焼いたクッキーにくぎ付けだ。まあ俺含めてこの年頃って食欲旺盛だし、カップケーキの時もしっかりと食べて随分と気に入ってた様子だったから欲しがるだろうなぁっていうのは予想してた。だからちゃんと二人の分も計算して作ってある。

 

「ほら、翼、翔真、あーん」

 

 俺は焼きあがったクッキーの中から両手で一つづつつまみ、二人のほうに向かって突き出してやる。

 

「あーん」

「あ、あーん」

 

 翼は嬉しそうに、翔真は恥ずかしいのか、少し躊躇いながらも俺の手にあったクッキーに噛り付く。

 

「んんんんん♡♡♡」

「んっ、うまっ!」

「ふふふ、うまいだろう?」

 

 気分は料理アニメの主人公だ。最後のセリフはお粗末で決まり……あ、これはだめだ。逆にうまいもん食べたときに服を脱いだり吹き飛ばされたりされかねない。

 そんな俺の軽いトリップをよそに、翼は幸せそうに、翔真も顔を綻ばせてクッキーを味わっている。二人ともかわいいなぁ。翼は母さん似で正統派美少女、翔真は父さんに似てきてジャニーズ顔で、かなりイケメン。二人にはもう身長も抜かれたけど、大事でかわいい俺の下の双子に違いはない。兄は鼻が高いぞ。

 

「ほら、二人の分」

 

 そんな二人の顔を見てほっこりしながら俺は二人の分のクッキーをラッピングして渡してやる。

 

「ありがとー。おにー大好き」

「さ、さんきゅ。お、俺もあにーがその、嫌いじゃない、す、好き、だぞ」

 

 翼は俺に抱きつき、翔真は照れて顔を赤くして、顔を背けつつも嬉しいことを言ってくれる。

 

 うん。うちの下の双子が可愛すぎて尊すぎる件。もうこれだけでクッキー作ったかいがある。

 

「そういえばおねー、じゃなくておにー、なんでクッキーなんて作ってたの?」

 

 翔真が「いつ食べるか」と呟きながら難しい顔をしてクッキーとにらめっこしてるところ、翼は俺がクッキーを作ってたのが気になったらしい。

 

「ああ、今日友達がくるんだよ」

「「え?竜司センパイくるの!?」」

「いや、今日は違う。ってか友達がって言ってなんで即りゅーじにつながる?」

 

 しかも息ぴったりで。解せぬ。

 

「え?だって家に遊びに来たことがあるおにーの友達って竜司センパイしかいないし。ねー?」

「なぁ?」

「あのなぁ、俺にだって他に友達はいるっつーの」 

 

 た、確かに家に来たことある友達はりゅーじしかいないけど。結構よく遊びに来るけど!

 にしても二人とも嬉しそうじゃん?まあよく遊びに来るから仲良くなるのはわかるし、兄弟と友達が仲良くなってくれるのは嬉しいからいいんだけどさ。ちょっとだけ悔しいし寂しい。

 

「あ、もしかして高校でできた友達?」

「女の子だったりして」

 

 何故かこれからくる友達考察が始まる二人。そんな時。

 

ピンポーン

 

「お、来たかな?」

 

 我が家のインターホンが鳴った。とうとう約束の時がきたか。

 

「はーい」

 

 複雑な気持ちでインターホンにでれば、画面には私服姿のめぐみんが映っていた。おお、めちゃくちゃかわいい。

 

「やっほー。きたよー」

「あ、恵センパイ」

「っほっ、豊穣センパイ!?」

 

 そういや二人はめぐみんとどれくらいの知り合いなんだろ。少なくとも俺つながりで紹介とかはしてないけど、翼とめぐみんは連絡先の交換をするくらいには仲がいいっぽい。翔真はー、なんだか少し挙動不審だな。

 まあ今は自分のことでいっぱいいっぱいだし、あれこれ詮索するのも野暮ってもんか。

 

「今玄関行くから待ってて」

 

 さて、それじゃあ俺の部屋に友人を初ご招待するとしますか。

 

 

 

——————————————————

 

 

 

「ふーん。なるほどねー」

 

 着替(へんしん)したまま出迎えた玄関で「かわいいようみー!」と抱き着かれて翔真や翼を巻き込んでひと悶着あった後、一応普段からちゃんと綺麗にしてるけど、今日を迎えるにあたって念入りに掃除をしてある俺の部屋に案内。そこで座椅子に身を預けながらクッションを抱えて相槌をうつめぐみん。女の子のこういう姿ってかわいいとか思いつつもなんだか不思議な気分。「そういえば男の娘の部屋に入ったのって初めてかも」とか言われたときは色々とドキッとした。一瞬男の扱いしてもらえたって超喜んだぞ?俺の喜びを返せ。

 ちなみに弟妹二人には大事な話をするので覗いたり聞き耳立てたりしないように厳命してある。これ以上俺の秘密がバレてたまるか。こっそりとされる可能性も考えて入り口には簡素だけどテーブルでバリケード作っておいた。

 そんで、今は俺の部屋の住人になったネズミ怪人(名前はまだない)には喋らないように言って、口止め料にクッキーを進呈してある。一口食べた後に一心不乱に齧る姿がちょっとだけかわいいって思ってしまったのがちょっと悔しい。

 そして今しがた俺の体質に始まって自衛手段のヒロインアプリの入手、その後のあれやこれや秘密にしてた訳をだいたい話し終えたところだ。

 

「いや、体質のことは感じてたというかまあ分かってたけど、まさか自衛手段を手に入れててしかも結構な数の怪人を倒してるのはびっくりしたよー。まあ秘密にしてた理由もまあ分からなくはないけどさー」

 

 そこで一旦言葉を切ってクッキーを齧る。

 

「ん?美味しいねこれ」

 

 ちょーっとばかりしかめっ面だっためぐみんの顔が綻ぶ。よっし!クッキー作戦大成功!やっぱり事前の根回しは重要だな。

 

「やっぱり内緒にされてたことはショックだなー」

「うっ」

 

 とか思ったら急に泣きそうな顔をしてこっちを見る。うぅ、その変わり身の早さとその顔は卑怯だ。美少女にそんな顔されると罪悪感も倍に感じる。そりゃあ俺だって後ろめたさや正直に話したい気持ちはあったさ。でもそうは言ったって、こういう情報はどこから漏れるか分からないから友達や家族にだって知られたくない。ましてやヒロインになるなんて嫌なものは嫌だし、恥ずかしいものは恥ずかしいんだ。 

 

「でもうみがそのアプリを使って色んな姿を見せてくれたら許しちゃうかもなー」

「……それで許してくれる?」

 

 正直、抵抗はあるし、かーなーり嫌だ。だけどこれまで内緒にしてた罪悪感もあるし、これまた正直、もっと大変なことを脅迫(おねがい)されると思って覚悟してた。例えばめぐみんと一緒に声優を目指すとか。

 

「うみ、今私がもっと大変なお願いするって思ったでしょ?」

 

 ぎくっ

 

「お、思ってません」

「じゃあなんで顔を逸らすのかなぁ?」

 

 なぜバレたし。

 

「女の勘?」

 

 エスパーか何かかな。ってかなんか俺の考え筒抜けすぎない?もしかして実はめぐみんも正体隠してヒロインか何かやってたりしない?それも魔法少女やエスパー系のやつ。

 

「さっきも言ったけど、そりゃあ内緒にされてたのはちょっとショックだったけどさ。それでもうみの気持ちも分からないほど私は鈍感じゃないし、そんな浅い付き合いでも短い付き合いでもないでしょ?」

「めぐみん……」

「前にも言ったけど、私はうみの味方だからね。今度はちゃんと相談してよね」

「……ありがとう」

 

 めぐみんの優しさがめっちゃ染みます。バレちゃったけど、めぐみんにバレたのは結果的によかったんじゃないだろうか?

 

「まー湿っぽい話はここまでにしてー」

「うん」

「そのヒロインアプリっていうの見せてー」

「わかった」

 

 俺はこみあげてくる涙を見られないように顔を抑えながらヒロインアプリを開いたスマホをめぐみんに差し出した。

 

「わ、デザインかわいい。えっと、衣装ボックスにスロット、それにガチャ。うみの説明にあった通りだね。うわ、衣装結構ある。なるほど、確かに漫画やアニメでヒロインって呼ばれるキャラたちの衣装……ぶふっ、何、パンツまで出るのこれ?くくっ、しかも中にはスクール水着とかバニースーツとか……ぶはっ。ぶっ、ブルマって!いつの時代の衣装?」

 

 俺の中の熱とか感動とかが急激に冷めていく。

 

「しかもやたらと露出やフリフリが多い衣装ばっかり。うみ、苦労したんだね」

「そう思ってくれるんなら笑うの止めて」

 

 くっそ、だから話すのが嫌だったんだ!やっぱりバレなきゃよかった!

 

「ごめんごめん。でもさ、これ全部絶対うみに似合うよ?ガチャから出たとか思えないくらいナイスチョイス」

「それはそれで嫌だよ!」

 

 こういうのって見苦しいとか似合わないとかも嫌だけど、似合いすぎなのも結構辛いものがある。でも実際着て似合ってたり可愛かったりするとまんざらじゃない自分がいるんだよな。それが結構自己嫌悪だったり。

 

「ぜーたくだなーうみは。似合わないより絶対にいいのに」

「じゃあめぐみんが着ればいいじゃん」

「それは別にいいんだけど、私が使えるの?これ」

 

 ん?そういえばこれ、他人が使った場合どうなるんだろ?今まで秘密にしてたからそういう検証はしてないな。

 

「やってみてもらってもいい?スロットは5を使って」

「いいよー。あれ?これってあの時の?」

「そーだよ」

 

 スロット5はめぐみんとりゅーじと遊びに行った時のセットだ。

 

「じゃあ、えい」

「スロット5ノソウビヲロードシマス……ロードカンリョウシマシタ」

 

 ボン

 

 毎度おなじみのボーカロイド声が響いた途端、俺は一瞬煙に包まれた。それはすぐに晴れたんだけど、俺の格好がバニーさんになっていた。

 

「なるほど、やっぱり持ち主じゃないとダメなんだ」

「……他に言うことは?」

「……ごめんね?」

 

 かわいい素振りをしながら謝ってくれためぐみん。くそ、かわいいから許す!いや、本当は俺が頼んだことだから謝る必要もないわけで。

 

「で、なんでこれを選択したさ」

「一度着てみたくって」 

「まじか」

「そりゃあね。こんな衣装、絶対に自分で買うことないでしょ。だから着る機会なんてまずないと思ったから」

「あー」

 

 そう言われるとなんとなく納得してしまう。でもこれ、もし俺じゃなくてめぐみんに反映されてたら……

 

「もう、うみはそんな顔してえっちだなー」

「うぇ!?顔に出てた!?ごめんなさい!」

「いや、そういう意味じゃなくて……って許すから!さっきとの相殺でいいから土下座はやめて!」

 

 はい、がっつり想像しました。めちゃくちゃ似合ってました!妄想だけどエロかわいかったです!

 と、俺がひれ伏している間に服がさっきのメイド服に戻った。あ、アプリ終了はしてくれないのね。

 

「もう、あの格好のうみに土下座されたらちょっと開けちゃいけない扉をあけちゃうところだよ」

「なにそれ?」

「知りたい?」

「あ、やっぱりいいです」

 

 これ以上は踏み込んじゃいけないと俺の第六感が告げる。だから俺はこれ以上は追及しない。他はどうか知らないけど、俺は人間、ちょっと臆病なくらいでちょうどいいって思ってる。

 

「なんにしても、これで人には使えないってことが分かったのは収穫だなー」

 

 俺は無理やり話題を逸らすというか、脱線から戻すべく、強引かなぁと思いつつ元の話に戻す。

 

「ジョウケンヲクリアシマシタ。リンクキノウガカイホウサレマシタ」

「は?」

 

 けど突然、スマホから聞き逃せない声が響いた。で、画面を見つめてためぐみんが、急に自分のスマホを取り出して操作を始める。

 

「ちょ、めぐみん?何やってんの?」

 

 なんか嫌な予感がする。というか嫌な予感しかしない。

 

「んー?なんか画面にリンク先が表示されたからちょっとアクセスしてみようと思って」

「ちょー!?危ないって!なんでなんの躊躇いもなく行動に移してんの!?」

「大丈夫じゃない?私の勘は特に危機感を発してないし」

「直感的に行動したらだめだって!ストップ!ストーップ!」

 

 確かにめぐみんの直観ってめちゃくちゃ精度が高い。だからってそんな行動してたらいつか絶対痛い目を見る。ていうかまさに今そうなろうとしてる気がしてならない!

 

「アクセスヲカクニンシマシタ」

「リンクアプリ?っていうのがとれたよ」

「いや聞いて俺の話!ていうかもうダウンロードしちゃったの!?」

「でもこれ、アプリ開いても何も起こらないよ」

「アプリ起動しちゃったの!?!?」

 

 俺の友人の行動力が半端ない件。お願いだからもっと危機感を持って行動してほしい。

 

「あれ?うみ、これ……」

 

 そんな俺の心配をよそに、めぐみんは俺のスマホをこっちに向ける。

 

「え?ガチャ画面?」

 

 そこには、リンク開放記念星5確定ガチャの文字と共に、ガチャの画面が表示されていた。

 

 




実は今回でガチャまで行くつもりだったのがいけなかった件。というわけで今度こそ次回ガチャ回……できるかなぁ。

ヒロインテンプレカウンター
・休日にお菓子作り
・メイド服が似合う
・過去に家族や友達にお菓子を振舞っている
・クラスで手作りお菓子の取り合いの修羅場を作る
・下の双子にお菓子をねだられる
・下の弟妹大好き。下の双子も兄大好き
・あーん
・マスコットにクッキー進呈
・アプリの衣装が似合うのを認められる
・バニー装着
・女子にイケナイ妄想をさせる

今回は多かった。さすがのヒロイン力。……強引なのもあるかな?


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第11話:混ぜるな危険。直感型友人と謎のアプリ

本当は先週土曜日に更新する予定が、思った以上に文字数増えてずれ込んだため、平日のこんな時間に更新です。
で、もう一話できたので明日も更新予定です。もしずれても明後日までにはなんとか(笑)
あ、それと気が付いたらオリジナル月間ランキングにランクインしてました。ありがとうございます。


「めぐみん……」

「てへぺろ♡」

「てへぺろ♡じゃないっつーの!」

 

 あざとい。あざといけど……かわいいなくそう。めぐみんは自分が可愛いことを自覚してるから余計にたちが悪い。悔しいけど許しちゃう。

 

「反省はしている。後悔はしていない」

「全然反省の色が見えないんですけど!?」

 

 ダメじゃん!反省と自重は本気でお願いします!主に俺の心臓と精神にすごく悪い。

 

「まぁまぁ。おかげで星5確定……ってこれいいやつなんだよね?のガチャ一回できるんだし」

「やっぱ反省の色が見えない!」

 

 お願いしますほんと!土下座程度でよければ何度でもするから!

 

「まあそれは一旦置いといて」

「置いとかないで」

「もー!話が進まないよ!ちゃんと反省してるし謝るから。ね?」

「……はぁ、分かった。けどもう勝手なことしないでよ?このアプリ、仕方なく使ってるけど結局謎ばっかなんだから」

「はーい」

 

 そう、このアプリ、自衛手段として使ってはいるけど何も分かってないのが現状なのだ。そんな正直得体の知れないもん使ってるんだから、普段と違う状態だったらなおのとこ慎重に行動しないといけないのに。

 まだまだ怒り足りないし、正直めぐみんの反省は絶対に足りてないと思う。とはいえもう問題は起きて……訂正、起こしやがったので、この先のことを考えないと。

 

「で、このガチャってさ、やっぱりさっきのリンクアプリっていうのに関係してくるよね?」

「だろうな。それに関する何かが出る?まぁそこはガチャってみないとわかんないけど」

「どうするの?」

「どうするもこうするも、引くしかない、よな。画面このままってわけにもいかないし」

「だよね。じゃあ引くよ」

「ん」

 

 とりあえずこのままじゃアプリ使えないし、流石にガチャで何か起こるってこともないと思うし。

 俺の返事を聞いためぐみんがガチャを回すボタンをタップ。その画面を俺はめぐみんの横で見守る。 

 

「ん?カプセルが2つ出てきたよ?」

「ぉぉぅ、マジか」

 

 いきなりいつもと違う演出発生。基本このアプリのガチャは単発もしくは11連しかないし、少なくとも俺は見たことがない。そんな状況と少ない時間の中、俺の頭の中は今ある情報を整理していく。

 俺以外の人に初めて触らせたヒロインアプリ。それによって解放されたリンクアプリ。で、記念ガチャから出たきたカプセルは2つ。さっきの嫌な予感がどんどん確信になりつつあるのを感じる。

 

 

☆☆☆☆☆ 鬼っ娘メイド妹のメイド衣装フルセット

☆☆☆☆☆ 鬼っ娘メイド姉のメイド衣装フルセット

 

 

 がふっ(心の吐血)

 

「うみうみ!これって二人でなら使えるコスなんじゃない?私にも使えるってことじゃない?」

 

 うわぁ、めぐみんの目がキラッキラしてる。そりゃあこんな状況からこんな形でこんなコス出ればその意見に行くよな。俺だってそうだし。

 

 嫌な予感的中。

 

 いや、まだだ。これはただ偶然が重なっただけかもしれないじゃん。俺の中のどっかのバスケの選手も「まだあわてるような時間じゃない」と言ってくれていr……

 

「「リンクスタート。スロット1ノソウビヲロードシマス」」

「はい!?」

 

 俺が必死に心で可能性を否定してるところに、2つのスマホから無情で無機質な声が重なって聞こえてきた。その声に反応したときには俺を緩やかな風が体を包み、

 

「「ロードカンリョウシマシタ」」

 

 あっという間に風が晴れれば、目の前のめぐみんの姿が某異世界アニメの鬼っ娘メイドの青髪の格好へと変わっていた。

 

「うわ、うわぁクオリティ高い。かわいい!ね、うみ……うみ?」

「めーぐーみーんー?」

 

 あれだけ言ったのに!あれだけ言ったのに!!

 

「うみかわいいよー!いや姉様!姉様可愛すぎます!」

 

 やっぱり全然反省の色が見えないめぐみんが秒で俺に抱きつき……俺の怒りは光の彼方へ吹っ飛んだ。

 いやだって!めぐみんむっちゃかわいいんだよ!コスがめちゃくちゃ似合ってるんだよ!そんな格好で抱きつかれれば嬉し恥ずかしが天元突破するから!あ、女の子特有の甘い匂い……しかもこの衣装、露出というか肌色の部分も割と多いし、程よい大きさのお胸の絶妙な幸せ感触ががが。

 

「めぐみん離れて!色々とまずいから!ていうかいい加減俺に抱きつく癖をなんとかしてくれぇぇぇ!」

「私は一向にかまわん!」

「俺がかまうんだよ!てかなんでそんなところだけ男らしいんだよぉぉぉぉ!」

 

 どこの烈◯王だ!

 まずい、今の俺って確認してないけど、多分鬼っ娘メイド姉の格好になってるはずだ。こんな格好でおっ立てようものなら間違いなくそれは自他共に認める立派なHENTAIさんだ。そんなことになれば社会的にも精神的にも俺は死ぬ。てかまず切実にめぐみんにそんな俺を見られたくも知られたくもない!

 

「お願いします!なんでもしますから!」

「……それ、本当?」

「本当!」

「じゃあ勝手にアプリ起動したの許してくれる?」

「許す!許します!」

「許し、ます?」

「許させていただきます!」

 

 恥ずかしさと焦り、それに頭に昇る血のせいか、もう自分が何言ってるかもわからなくなってきた。

 

「あとこの格好で一緒に写真撮ってくれる?」

「撮ります!一緒に撮らせていただきます!」

「最後にもう一個、あとで私のわがまま、聞いてくれる?」

「聞きます!聞かせていただきます!」

「約束だよ。もし嘘だったら……」

 

 むぎゅう。

 

 そんな擬音が聞こえてきそうなくらいにお胸を押し付けられる。いーーーーーーやーーーーーー!嬉しいけど嬉しくない!これが世にいう当たってるんじゃんなくて当ててんのよ。ってやつか。とか言ってる場合じゃない!助けてま〇ろさん!エッチなのはいけないと思います!

 

「守ります!約束絶対に破りません!!」

「よろしい♪」

 

 そこでようやく俺はめぐみんから解放された。俺はそのまま崩れ落ち、スカートを抑えてそれとなく股間を確認。よかった、まだ立ってない。ていうかそれっぽい存在を確認できない気がするけど多分うまい具合に収まってるんだろう。それに安堵と少しの不安を抱えながら俺はそのままめぐみんを睨みつけた。

 

「……ごめん、ちょっとやりすぎた」

「そう思うんならすぐにやめてくれよ!」

 

 俺が抗議の声をあげると、めぐみんは少し気まずそうに目を逸らした。

 

「もう、うみこそ、その恰好と女の子座りで涙目上目遣いって反則だよ。本気で開けちゃいけない扉開けちゃうじゃん」

「え?何?」

「何でもないよ」

 

 めぐみんが何か言ったようだけどうまく聞こえなかった。ただすっごい不穏な気配を感じて、これは深入りしちゃいけないと俺の第六感が再び警鐘を鳴らす。ならばこれ以上はつっこまない。雉も鳴かずば撃たれまい、だ。

 

「んんっ。それじゃあ気を取り直していこう姉様。もう勝手なことしないから」

「姉様言うな。もう、最初からそうしてくれよ」

 

 そう言いながら俺はゆっくり立ち上がって数回深呼吸をする。とりあえずある程度心を落ち着かせてから再びめぐみんの横からスマホの画面を覗き込んだ。

 そこに表示されていたのは、リンクスロットという初めて見るスロットと二人分の装備欄、それにセットされている鬼っ娘メイドのメイド衣装フルセット。フルセットって言うだけあって髪型から足元まで全身のアイテムが揃っていた。そういえばフルセットなんていうのも初めて見たな。

 

「めぐみんめぐみん」

「……」

「?めぐみん?おーい」

「レ◯」

「は?」

「レ◯って呼んで」

 

 正直ちょっとめんどくさいって思ったのは秘密だ。けどすぐに意識を切り替える。めぐみんの思考を読む能力の異常な高さは身を知ってるからな。こんなこと考えてるのがバレたら今以上にめんどくさいことになりかねない。

 

「レ◯」

「はい姉様」

 

 嬉しそうに返事をするめぐみん。

 ……むぅ、さっきめんどくさいって思ってたのにもう悪くないって思う自分がいる。なんか俺も気分がのってきたぞ。

 

「このスロットの装備ってガチャから出たあの?」

「はい。ガチャ画面からホームに戻ったときにスロットのところにNEWって文字とこのリンクスロットっていうのがありました。そこをタップしたらこの画面になって、ガチャから出た衣装をセットしたら装備覧が全部埋まったんです」

「へぇ」

 

 喋り方まで変わってなりきってるめぐみんの説明を聞きながら俺もそれなりになりきりつつ情報を整理する。このリンクスロットっていうのは今まであった装備スロットとは別にあるってことか。それとフルセットはどこかにセットすれば全部に適用されると。

 

「装備の変更はできる?」

「やってみます。あ、この衣装、一つ外すと全部外れるみたいです」

 

 てことはこのフルセット衣装はセット固定でしか使えないってことか。微妙に不便だな。あ、でも固有アビリティはあるし装備アビリティ欄は空欄だからそこでの強化は可能だな。

 

「姉様姉様、メインのほうの衣装は今持ってるものから選べますけど、リンクのほうの装備が表示されません」

「あら本当ね」

 

 めぐみんがメインのほうの装備を変えるときに表示された衣装の一覧は、今確かに持ってるものが表示された。けどそっちを変更するとリンクのほうの衣装欄には何も表示されない。

 

「ということはこのリンクスロットって今回ガチャで出たコス限定ってことかしら?」

「それだと元々持っていた衣装が表示されるのは変ですよね?」

「そうね。ということは元々持ってるコスも今は持ってないだけでリンクできる衣装がある?」

「そうだと思います……これ、ちょっと検証してみた方がよくない?」

「めぐみん、キャラ崩れてる」

 

 しかもさっきの鬼っ娘衣装の時以上に目がキラッキラしてる。星とかビームとか出せそうな勢いで。あれは絶対自分が使えるコスの可能性を見つけてワクワクしてる顔だ。さっきの出来事が頭をよぎり、そこはかとなく不安が募る。

 

「ようはガチャでリンク出来そうな衣装を出すってこと?いやそんなピンポイントでリンクできるようなコス出るか?」

「やってみないとわかんないじゃん」

「まあそうなんだけどさ」

 

 確かに可能性が無いわけじゃないとは思う。けど確率はめちゃくちゃ低いと思うぞ?ただでさえガラクタも多いし、ましてやレア度が高くてコスや衣装限定、さらにリンクもできるものってなると、宝くじの当選や競馬の万馬券並に厳しいんじゃないか?知らんけど。

 とはいえ、あんな(わかりやすい)顔をしてる友人が次に口にする言葉は、安易に予想がついた。

 




ようやくガチャだーと思っただろ?作者もだ!
ってことで本格的なガチャは次回に持ち越しで。


ヒロインテンプレカウンター
・友人(美少女)とコスプレ
・女の子座りでスカートを握りしめながら涙目上目づかいで睨む
・その姿で女子に罪悪感を持たせる

ガチャ回なのにこのヒロイン力。



人物図鑑その2
名前:天地 翼(あまち つばさ)
性別:女
外見:美少女。母親似。正統派。身長156cm、体重(秘密だよ)。髪と目は海と同じく黒で、髪型はサラサラロング、長さは胸辺りまで。お胸はまだまだ成長段階だが、目を見張るものがある。
プロフィール
海とは2つ違いの妹。
クラスではクラス委員を引き受けたりと割としっかり者のイメージがあるが、家ではあまえんぼ。
家族大好きで、特に海が大好き。おにーと呼び慕っている。ちなみに海が可愛い恰好をしていると呼び方がおねーに変わる。かわいいもの好きのため、海が可愛い恰好をするのは大歓迎。
翔真と双子。二卵性双生児。一応翼の方が姉。よく翔真と行動を共にしている。弟の呼び方はしょーちゃん。
趣味は可愛いもの集めと、海のキラッ☆を見てから目覚めたカメラ。お年玉と貯めたお小遣いで一眼レフを購入。
甘いもの好き。
かなりモテる。海たち三大女神の卒業後、告白やラブレターが増えた。特に最近は、三大女神の海の妹ということで一部で天使と呼ばれている。


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第12話:めぐみんとガチャ

やっとここまでこれました。ガチャ回です。長かった……


「ねえうみ、私にガチャやらせて」

「やっぱそうくるよなぁ」

 

 正直ガチャはこれから戦力になる可能性がある衣装が出る結構重要なファクターだ。慎重にいきたいし、あまり人に任せたくないって気持ちが割と強い。んでも結局これって誰が引いても結果は変わ……るか。俺、リアルラック信望者だし。何よりこのままダメって言ったってめぐみんは納得しないだろうしなぁ。なら多少の妥協はしよう。

 

「ガチャって何回できそう?」

「ちょっと待ってね。えーっと、戦うヒロインポイントが11連4回と単発2回、日常ヒロインポイントが11連1回。それにNEWでダブルヒロインポイントっていうのがあるけどこれは0だね」

 

 うぇ、やっぱり新しいポイント増えてるよ。ぶっちゃけそんな予感はしてた。ダブルヒロインポイントなんて名前の通り二人でアプリ使ったときに貯まるポイントだろう。正直このアプリの扱いにめぐみんを巻き込みたくないんだけど、これまためぐみん納得しないだろうなぁ。ちなみに巻き込みたくない理由は危ないことに巻き込みたくないのと、何をしでかすか分からない不安の両方。俺の心の安寧のために諦めてくれないだろうか?

 っと、それは置いといて今はガチャだ。

 高校入学前にはガチャできるほどポイントはなかったはずだから、この数日でこれだけ貯まった計算になる。まあそこはそれだけ濃密な時間を過ごしたって自負はあるし、入学式におきたあれこやネズミ怪人の件を考えればこのガチャポイントは妥当な結果だな。

 

「なら戦うヒロインのガチャの11連をー」

 

 1回くらいならまあいいか。

 

「2回!」

「……まあ、いいだろ」

「やったぁ!」

 

 さすがめぐみん。こっちが妥協できるギリギリを攻めてくる。

 

「よーし絶対に着れるやつ引くぞー!うみの持ってる衣装から考えて一番欲しいのはフロンティアのピンクの方!あ、でもここで2着リンクできるのを引ければ新しいのもあり?」

「めぐみん、それ、フラグじゃない?絶対に物欲センサーに引っかかるやつだ」

「それ、早く言ってよー!なんてね。私、こういう引きはいいから」

「知ってる」

 

 だから危機感を持ってるんだよ。めぐみんはマジでリアルラック高いのだ。冗談抜きで激低い確率を引き当てかねない。ならばせめておとなしめの衣装を願う。

 

「じゃあ早速って、うみうみ。なんかイベントガチャにピックアップガチャってのがあるよ」

「何!?」

 

 ちょっ、タイミング良すぎやしませんかね!?ピックアップ次第ではめぐみんの勝率が……

 

「QBガチャだって」

「却下」

「え?中身見ないの?」

「見るまでもなく却下。その頭文字でろくなコスが出るとは思えない」

 

 察するにというかほぼ間違いなくセクシーとセクハラめいたあのアニメのだろ?衣装的にもアビリティ的にも、残りの可能性を考えたって絶対にない。絶対にありえない。契約を迫って魔法少女に仕立て上げるあの白い悪魔の頭文字ってのも不吉を上乗せさせるし。

 

「じゃあ普通のガチャ回すね」

「そうしてくれ」

 

 さて、それでも普通にリアルラックの高いめぐみんがガチャを引くんだ。何が起こってもおかしくな……

 

「えくすぷろーじょん!!」

「はい?」

「おー、声が出るんだねこれ」

「いや、初めて見る演出これ!」

 

 まさかあのアニメ以外の声の確定演出とかもあるのこれ!?

 

 

 

☆☆☆☆☆ 爆裂魔法少女のとんがり帽子

☆☆☆☆☆ 爆裂魔法少女の衣装

☆☆☆☆☆ 爆裂魔法少女の眼帯

☆☆☆☆☆ 爆裂魔法少女のマント

☆☆☆☆☆ 爆裂魔法少女のパンツ

☆☆☆☆☆ 爆裂魔法少女の杖

☆☆☆☆☆ 爆裂魔法少女のブラ

☆☆☆☆☆ 爆裂魔法少女のブーツ

☆☆☆☆☆ 爆裂魔法Lv9

☆☆☆☆☆ 紅魔族の瞳

☆☆☆☆☆ ちょむすけ

 

 

「ぶふっ。あはははははは。まさか私がこのキャラのコス引いちゃう!?」

「……なんつーミラクル……」

 

 いやまさか同じ名前の爆裂魔法少女の装備フルセットとかどういう引きしてるんだよ。さっきの声の演出はこれを暗示してたのか。

 いや、ちょむすけて!これガチャで出していいやつなの!?

 

「ねぇこれ、うみの持ってるあの聖騎士のコスとリンクできないかな?」

 

 まさかのちょむすけスルー!?え?ありなのこれ?俺、気にしすぎ?

 それにしてもさすがめぐみん、リンクの可能性の高い衣装をしっかり引きあてたよ。恐ろしい子!!

 

「やってみる価値ありやすぜ」

「それってなんか聞いたことあるような」

 

 嘘?これって某有名ロボットアニメの映画で脇役が主人公に言う本当に一瞬のシーンの話だぞ。ああでも何か別のアニメとかと間違えてる可能性も無きにしもあらずか。

 

 

「まあいいか。んーだめだね。あと二人リンクが必要ですって出る」

「……あと二人?」

「あと二人」

 

 ……それって、まだまだリンク先を増やせるってこと?三人四人のセットも用意されてるってこと?

 ふ…ふふ……なるべく秘密にしたいのに。自衛ができる程度でいいのに!なんでこういう真逆の余分な機能が追加されるかなぁマジで!

 

「よーし、次こそ!」

 

 とかやり場のない怒りを心でぶちまけてたら、めぐみんが2回目のガチャを回しそうなので慌てて画面に視線を戻す。

 

 

☆★★★★ のど飴

☆☆★★★ シュシュ

☆☆★★★ ミネラルウォーター

☆☆☆☆★ タイガーマスク

☆☆★★★ ピンクのルージュ

☆☆☆☆☆ 銀河の妖精のマイク

☆☆★★★ 包丁

☆☆☆★★ 六法全書

☆☆☆☆☆ 明青高校の制服(女子)

☆☆☆★★ 翼を授けるエナジードリンク

☆★★★★ 魔法防御Lv1

 

 

 何気に星5のアイテムが二つも出てるよ。しかも片方は……

 

「惜しい!欲しかったのはマイクじゃなくて衣装の方」

 

 そう、一番欲しいって言ってたコスは出なかったけど、それにかなり近いアイテムは出した。ほんとめぐみんのリアルラックはちょっとおかしい。

 

「にしてもほんとになんでもでるねこれ。うちの制服とかびっくりだよ。はいこれ」

「ありがと。まぁね。出たアイテムを実体化させない限りアイテムボックスに入れておけるから助かってるけど、これいちいち全部実体化してたら今頃俺の部屋は物で溢れてるよ」

 

 めぐみんからスマホを返してもらいながら出たアイテムをチェックしていく。ふむふむ、マスクとマイク、それに包丁と六法全書と制服は装備アイテム……六法全書って武器だっけ?確かに強そうだけど!

 ……まあいいか。魔法防御はアビリティ、エナジードリンクは特殊アイテムだな。本当に数分翼を授けて空が飛べるらしい。いやこれ、かなり有用なアイテムだよ。レアリティ低いとこからも有用なアイテムを引くとかめぐみんのリアルラックがどんどん羨ましくなる。

 この際、残りも全部引かせてみるとか?いや、自分の未来は自分で切り開く!俺のこの手真っ赤に燃えるぅ!勝利を掴めと轟き叫ぶぅ!いざ、11連!

 

 

☆★★★★ 紙おむつ

☆☆★★★ 馬面のマスク

☆★★★★ ビー玉

☆☆☆★★ 夜目Lv5

☆☆★★★ 異世界一般兵士(女性用)の衣装

☆☆★★★ 威圧Lv3

☆★★★★ 火魔法Lv1

☆☆☆☆☆ 恋柱の衣装

☆☆☆☆☆ 恋柱の日輪刀

☆☆☆☆☆ 恋柱の髪型

☆☆★★★ 恋の呼吸Lv4

 

 

「くそがぁぁぁぁぁぁ!!!」

「に゛ゃっ!?」

 

 俺は結果を見て速攻スマホを布団へ叩きつけた。めぐみんがかわいく驚くなんてレアな場面もあったけど俺の怒りはそれどころじゃない。一応壊れないように柔らかい場所を選んでる辺り、まだ多少冷静な部分も残ってはいるっぽいが。

 

「ど、どーしたの?いい結果じゃん。私なら嬉しいんだけど」

「どーしたもこーしたも、なんで恋柱なんだよ!しかもこれだけ揃って出るとか世界の意思というか悪意しか感じないわ!」

「なんで?いいじゃん恋柱」

「あれを着るの?俺が?無理。お胸はだけてるし、ミニスカートだし。蟲柱だったらめっちゃ喜んだのに」

 

 キャラは俺だって好きだよ。けどその恰好は無理。その点虫柱の衣装は露出も少ないし、見方によっては

 

「うみの見た目じゃ蟲柱でも女の子に見られるよきっと」

「ちくしょぉぉぉぉぉぉ!」

 

 友人がさりげなく毒を吐いて止めをさしてくる。別に一縷の望みにかけたっていいじゃないか。

 

「私は羨ましいんだけどなぁ。そうだ、せっかくなんだし狙ってみたら?蟲柱の衣装。もしかしたら恋柱の衣装とリンクできるかもしれないし」

 

 そうか、そういえばまだ戦うヒロインガチャは11連がもう1回分残ってるんだった。もしそっちで当たれば結果的にはいい。リンクもできればめぐみんが恋柱の衣装を……

 

「想像した?」

「うおっ!?」

 

 気が付くとめぐみんが俺の顔を覗き込んでいた。

 

「……はい」

 

 しまった。あれだけめぐみんの思考を読む能力を警戒してたはずなのに、ここにきてつい思いっきり想像した。してしまった。……俺も男だ。見たい。めちゃくちゃ見てみたい。

 

「じゃあがんばって引いてね♡」

 

 ……かつてこれほど衣装を渇望したことってあっただろうか?あ、いや、割とあるな。このアプリ、やたら恥ずかしいコス多いから。まぁ、ともかくいくぞ!

 

 

☆☆★★★ 毒耐性Lv3

☆☆☆☆★ 創造するヒーロー見習いのコスチューム

☆☆☆★★ 戦士のビキニアーマー

☆★★★★ 紙コップ

☆☆☆☆★ チェーンソー

☆★★★★ 超電磁砲のコイン

☆☆☆☆☆ 柔道寝技Lv9

☆☆★★★ 安全靴

☆★★★★ 石ころ

☆☆☆☆☆ フォックスナインテイルの衣装

☆☆☆☆★ 幻術Lv7

 

 

「ふぬぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

 俺は再びスマホを布団へ投げつけた。

 

「うーん、残念」

 

 めぐみんもそれを見届けながらも苦笑いしつつ、残念そうにしていた。

 いや、蟲柱コスが出なかったから怒ってるんじゃない。さすがにそんなに虫のいい話はないってわかってる。問題は今回出た衣装の方だ。創造するヒーロー見習いのコスチュームは露出が恋柱の衣装とそう変わらない。個性っていうかスキルは強力だけども。戦士のビキニアーマーは某RPGに出てくる戦士の衣装だけど、あれはもうなんで防具として成り立ってるのか謎ってくらい守ってる面積が少ない。

 で、一番問題なのはフォックスナインテイルの衣装だ。これ、もしかしなくてもオーバーテイルのコスチュームだろ。しかも今メンバーにいない、金色の衣装。これ完全に6人目の衣装じゃん!加入フラグじゃん!ただでさえフェアリアルエレメンツに狙われ(ゲフンゲフン)……勧誘されてるのに、余分な追加フラグぶっ込んでくるなよぉぉぉぉぉ!

 

「で、打ちひしがれてるところ悪いんだけど、日常ヒロインのガチャは引かないの?」

「……引く」

 

 めぐみんが俺が投げ捨てたスマホを拾って渡してくれる。

 まあ出ちゃったものはしょうがない。使わなきゃいいんだ。よし、ボックスの肥やしに決定。気持ちも切り替えて最後のガチャに臨もう。

 

「あれ?そもそもフロンティアのピンクの方の衣装ってこっちのガチャから出るんじゃない?」

「あ」

 

 そうか。そういえばそうだった。緑の方もこっちのガチャから衣装出たっけ。

 

「ねぇうみ?よかったら私が代わりに引いて」

「せいっ」

「あーーーーーーーーーー!!!」

 

 させねー!何かと言いくるめられる前に回せ!回せ!回せ!

 

 

☆☆☆☆☆ 崋山高校の制服(女子)

☆★★★★ 伊達メガネ

☆★★★★ そばかす

☆☆★★★ 掃除スキルLv3

☆☆☆☆★ セーラー服

☆☆★★★ フリルブラウス

☆★★★★ 粘着カーペットクリーナー

☆☆☆☆☆ 未亡人のPIYOPIYOエプロン

☆★★★★ テニスボール

☆☆★★★ 危険察知Lv4

☆☆☆☆☆ スケスケのネグリジェ

 

 

 うし、悪くない。悪くないどころかエプロンは転生前から大好きだったあの管理人さんのやつでマジ嬉しい。っていうか崋山高校の制服と伊達メガネ、それにそばかすはもっと早くに出てほしかった!これだけ揃えば変装レベルもあがるし、もしかしたらめぐみんにだってばれなかったかもしれない。

 

「うみひどい!なんで銀河の妖精の衣装出してくれないの!」

「なんて無茶ぶり!?」

 

 狙って出せたら苦労はしないんだって。

 

「私がガチャしてたらきっと出てたよ!」

「そんな馬鹿な!……って言い切れないけども!めぐみんの場合!」

 

 マジで当てかねないからたちが悪い。

 

「そもそもそういう約束だったろ。わがまま言うなよ」

「むぅー!!」

 

 頬を膨らませて怒ってるアピールのレ〇めぐみん、略してレムみん。なんつーかわいい怒り方するんだよ。なんかこんな姿見てると、俺は絶対めぐみんには勝てないだろうなって思う。

 

「じゃあさっき約束した私のわがまま、今聞いてよね」

「お、おう、ガチャで衣装出せとか無茶振りじゃなければ……」

「大丈夫。ちゃんと叶えられるわがままだから」

 

 怒った顔が一転、すごくいい笑顔で肩を叩かれた時、俺は背中に悪寒を感じた。

 

 

 

 

——————————————————

 

 

 

 夕方。

 

「やりました姉様!ガチャ2回回せます♪」

「そう、よかったわね」

 

 俺のスマホを見て喜ぶレムみんに対して、疲れで机に突っ伏してるのはラ〇の皮を被った俺。

 レムみんのわがままっていうのは、俺もめぐみんもこのラ〇レ〇の格好で一日過ごすこと。で、ダブルヒロインポイントを貯めてガチャのリベンジをしたかったらしい。目標は達成できたけど、何が彼女をそこまで駆り立てるのか。

 で、何で俺がこんなに疲弊してるかっていうと、この格好でお出かけして、それはもう俺の体質を遺憾なく発揮した結果だ。出たばっかりのダブルヒロインポイントのガチャがこんなに早くガチャれるのもそのせいだ。

 まあ何にしてもこれでレムみんの目的も達したわけだし、もう元の姿に戻っても……

 

「ふぇ?なんでうちにラ〇とレ〇がいるの?」

「翼がちょっと何言ってるのか分からない……マジか」

 

 あ、しまった。疲れのせいでそのまま部屋まで行かずに居間のテーブルに突っ伏してたんだった。そのせいで翼と翔真にこの姿を見られてしまった。でも疲れのせいか、あんまり恥ずかしいとか慌てたりとかする気力もわかない。

 

「姉様姉様、見つかってしまいました」

「レ〇レ〇、見つかってしまったわ」

 

 そしてレムみんがあまりに自然に手をつないでくるので、流れに任せてポーズをとりながらそんな言葉を返した。

 

「わぁ、かわいい」

「生ラ〇レ〇やばい」

 

 そんな俺とレムみんをみて翼は目を輝かせて、翔真は口を手で押さえながら少し震えていた。

 

「ん?あれ?」

 

 そんな中、翼が何かに気づいた様子で俺に近づいて抱き着く。

 

「ふんふんふん。この匂いは……おにー?」

 

 何故ばれたし。犬かお前は。

 

「え?嘘?あれあにーなの!?」

「間違いないよ!おにーだ。あ、違う。今は姉様!姉様ー」

 

 何故だろう。今一瞬うちのかわいい妹が、ジャッジメントですの。に見えた。

 

「レ〇、ちょっと助けて」

 

 カシャ

 

「……なんで写真を撮ってるのかしら?」

 

 妹のひっつきぶりに少し困ってレムみんに助けを求めようとしたら、何故かスマホで写真を撮られた。

 

「後で一緒に写真を撮ろうって言ったじゃありませんか」

 

 言った。確かに言ったけど。

 

「それ、今なの?」

「はい♪」

 

 うぁ、むっちゃいい笑顔。

 

「なになに?写真撮影おっけーなの!?ちょっと部屋に行ってカメラとってくる!」

 

 ちゃっかり話を聞いていた妹はカメラを取りに部屋に……スマホのカメラじゃないんだ。

 

「え?ラ〇があにーならレ〇は……豊穣センパイ?」

「はい。姉様、ばれちゃいました」

 

 翔真の問いに、いたずら成功って感じで笑うめぐみん。くそ、かわいいな

 

「あの、めちゃくちゃかわいくて、似合ってます」

「ありがとー」

 

 照れながらもそんなことをいう翔真。うん、こっちもかわいい。でもめぐみんはやめておけ。ライバルめちゃくちゃ多いぞ?って大丈夫か。そういう感じじゃないみたいだし。

 

「カメラ持ってきたー!」

 

 とかなんとかやってたら妹がカメラを持って戻ってきた。いや妹よ、なんだそのごっつい一眼レフは!そんなの持ってたの!?

 

「姉様、レムみセンパイ、さっきのポーズお願い!」

「おっけー。あ、つばさちゃん、私のもお願い。それとそのカメラで撮った写真は後で私にもちょーだい」

「任されましたー!写真はデータがいいです?現像した方です?」

「んーどっちも」

「了解しましたー」

 

 ……今更だけど、やっぱ写真ダメっていうのは……無理だろうなぁ。てか弟よ、お前もさりげなく撮るんかい。

 

 この後、めぐみんの帰る時間ぎりぎりまで撮影は続いた。

 

 ちなみに、ガチャの方は……

 

 

1回目

 

 

☆☆★★★ プチフレア

☆☆★★★ プチフレア

 

 

2回目

 

 

☆☆☆☆☆ 銀河の歌姫(最終決戦衣装)フルセット

☆☆☆☆☆ 銀河の妖精(最終決戦衣装)フルセット

 

 

「ぃやったぁーーーーー!!!」

「嘘だろ!?」

 

 しっかりと狙ったコスを引き当てていた。

 

 

 もしかしたら俺の運って、めぐみんに全部吸われてるんじゃないかなぁ!?

 

 




前回今回のリンクガチャ、何を出すかすごい迷いました。名前を出すとネタがなくなるので控えますが、候補は10超えてました。

補足。海がお出かけを了承したのは、諦めとコスのクオリティの高さで自分だとバレないと高をくくっているから。

次回、閑話やって一区切りかな。


ヒロインテンプレカウンター
・ガチャが出す衣装の偏り
・めぐみんとかわいいポーズ
・コスを着ての写真撮影

めぐみんも一緒に。



人物図鑑その3
名前:天地 翔真(あまち しょうま)
性別:男
外見:爽やか系イケメン。父親似。身長170cm、体重63キロ。髪と目は黒、髪型は普通。
プロフィール
海とは2つ違いの弟。翼と双子。二卵性双生児。翔真の方が弟。よく翼と一緒に行動している。翼は翼と呼んでいる。翼と一緒で家族大好きで特に海が好き。あにーと呼び慕っている。が、現在絶賛反抗期中。しかし元の性格が優しいので反抗も優しい。
海の可愛い恰好は認めつつも色々葛藤する思春期。
性格は見た目と本人がクールぶっているため、よく色々勘違いされる。真面目だけどちょっと抜けている。そこが天然でいいと女子達に評判がいい。
明青中学の現生徒会長。見た目と役職と性格でかなりモテる。が、付き合うなら誠実に付き合いたいと考えてるために今のところすべて断っている。
趣味はスポーツ全般。特にボールを使ったものが好き。家でやるゲームも好き。よく海や翼と乱闘するやつやレースゲーム、ボードゲームやスポーツゲームで盛り上がっている。


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第12.5話:とある少女と鬼のメイド姉妹

今回はとある少女の視点です。
12話で出かけた時の俺(うみ)の体質を遺憾なく発揮した結果の一端のお話です。


 なんでこんなことになっちゃったんだろう。今日は楽しい一日になるはずだったのに。

 

 一昨日金曜日、お父さんが日曜日に、私の誕生日のお祝いに遊園地に行こうって言ってくれた。あまりに嬉しくってお父さんに抱き着いちゃった。もう小学生にもなるのにちょっと恥ずかしい。でもお母さんも嬉しそうで、お母さんは土曜日に私にすごくかわいい服をプレゼントしてくれた。お母さんはかわいいって言ってくれたし、今朝お父さんも世界で一番かわいいって言ってくれた。ちょっと言いすぎだと思ったけど、すごく嬉しかった。

 

 でも、楽しかったのはそこまでだった。

 

 

 

「ヒャーッハッハッハッ。今回は大漁だぁ」

 

 私たちの乗っていたバスは犬のような怪人に襲われた。ものすごく怖くて大人の人も逆らえなかった。運転手さんも怪人が怖くて言われたままにバスを走らせている。助けも呼べない。怖い。怖くて怖くてしょうがない。もう小学生なのに泣きそうになっちゃう。

 

「どいつもこいつもうまそうで迷っちまうよぉ」

 

 犬の怪人は舌なめずりをしながら私たちを見回す。どうしよう、みんな食べられちゃう。お父さんも、お母さんも、私も。そんなのやだよ。

 

「ふぇ」

「大丈夫。大丈夫だから。きっとヒーローやヒロインが助けに来てくれる。それまで泣くの我慢できるよね?もう小学生だもんね」

 

 私が我慢できなくなって泣きそうになったらお母さんが私を抱きしめてくれた。でもお母さんも震えていた。お母さんだって怖いんだ。

 

「ぐすっ。うん。大丈夫、私、もう小学生だもん」

 

 そう、私は小学生だからもう泣かないんだ。それに泣いたら、お母さんだって怖いのに、私の心配までさせちゃう。

 

「お?ガキがいるじゃねぇか。ラッキー。よし決めた。一番はお前な」

「ひっ!?」

 

 せっかく泣くのを我慢したのに、犬の怪人が私の方を見てとんでもないことを言った。それにそのまま笑いながらこっちにくる。その時口から鋭い歯が見えて私はまた怖くて泣きそうになる。嫌だ、食べられたくない。こっちにこないで!

 

「む、娘には指一本触れさせん!」

 

 犬の怪人が目の前まで来たとき、急にお父さんが立ち上がって私とお母さんの前に出た。お父さん、危ないよ!

 

「ぁん?うっさい、邪魔だ」

「ぐはっ!?」

「お父さん!?」

「イヤァァァァァ!」

 

 お父さんが怪人に殴られた!お母さんが叫ぶ中、そのままお父さんはガラスを突き破ってバスの外に飛んでいった。お父さん!お父さんが死んじゃう!そんなの嫌だよ!

 

「やべ、ちょっとやりすぎた。ったく手加減めんどくせぇ!餌落としちまったじゃねぇか!ぁん?」

 

 私は必死にお父さんが飛ばされた窓の方を見る。そしたらそこには青い色の髪の黒い可愛い服を着たお姉ちゃんがお父さんを受け止めてくれてた。

 

「お父さん!」

「大丈夫です、お父さんは生きてます」

 

 お姉ちゃんが大きな声でそう言ってくれてちょっと安心した。でもバスから飛び出すくらい強く殴られたんだし、怪我してるかもしれない。

 

「ぉぃ、なんでバス止まってんだよ」

 

 犬の怪人がそう言って、気が付いた。あれ?いつの間にかバスが止まってる。

 

「おい運転手ぅ!よっぽどテメェから食われたいみたいだなぁ!」

「ひぃっ!?ち、違う、私のせいじゃない!アクセルはちゃんと踏んでるんだ!」

「つまんねぇ嘘ついてんじゃねぇよ!」

 

 犬の怪人は激おこでバスの前に歩いて行って、けど途中で止まった。

 

「ぁ?なんだあいつ……いや、そうか。あいつのせいか」

 

 私も気になって犬の怪人が見てた方を見たら、さっきのお姉ちゃんと似た同じ格好の髪の色がピンクのお姉ちゃんがこっちに向かって手を突き出してた。

 

「いい度胸してんじゃねぇか餌の癖してよぉ。覚悟はできてんだろうなぁ!」

 

 それだけ言うと犬の怪人は窓を割って飛び出していった。

 

「お姉ちゃん危ない!」

 

 思わず私はそう叫んだ。その時。とげとげの鉄のボールがすごい勢いで飛んできて、犬の怪人を吹き飛ばした。

 

「姉様に何をする気ですか、この駄犬!!」

 

 それを投げたのはさっきお父さんを助けてくれた青色のお姉ちゃん。すごい、男の大人の人でもかなわなかった犬の怪人をぶっ飛ばした!

 でも、犬の怪人も普通に起き上がった。嘘?あんなに吹っ飛んだのに全然平気そう。

 

「クソが……どいつもこいつも俺様の食事の邪魔しやがってよぉ。餌は餌らしく食われてりゃいいんだよ!」

 

 犬の怪人はすごく不機嫌そうだ。それを不安でドキドキしてみてたら、犬の怪人の姿が消えた。どこにいったの!?

 

「上!」

 

 バスの誰かがそう言ったのが聞こえて上を見る。そしたら犬の怪人が空高くにいた。

 

「なっ!?俺様のスピードが見えている!?馬鹿な!今のは本気も本気だぞ!」

「レ〇に何をする気だったの、この駄犬!」

 

 声を聞いてると、犬の怪人が青色のお姉ちゃんに襲い掛かって、それをピンクのお姉ちゃんが止めたのかな?

 

「まあいい、どうせマグレだ、地上に降りたら速攻食ってやるから覚悟しておけ」

「そう、残念ね」

「なんだ、抵抗した割には随分とあきらめがいいじゃねぇか」

「姉様が言った残念はあなたのことですよ、駄犬」

「んだと?」

 

 空から落ちてくる怪人にお姉ちゃんたちは全然怖がってない。どうしてだろうって思ってたら

 

「ストォォォォォム!ブレィィィィィィック!!!」

 

 どっかから声と一緒に何かが降って?飛んで?きて、怪人にぶつかった。

 

「ガァァァァァァァァl!?」

 

 何かは怪人を貫くと、地面に落下、怪人は叫んだ後に爆発した。やった、怪人倒したんだ!

 バスのみんなが喜ぶ中、地面に落ちた何かが立ち上がる。あれって、ストームライダーだ!さっきのはストームライダーの必殺技、ストームブレイクだったんだ!

 

「アナタァァァァ!」

 

 そんな中、お母さんが大声を上げながらバスから出ようとする。そうだ、お父さん!

 私もお母さんと一緒になってバスから飛び出し、お父さんを探す。いた。お父さん!

 私はお母さんと一緒にお父さんに駆け寄る。お父さんは何人かの人に囲まれた中で寝ていた。お父さんはボロボロで、傷だらけで、この人たちがやってくれたのか、ところどころに包帯が巻かれてた。私たちに気づいた人が話しかけてくる。

 

「大丈夫、お父さんは生きてます。それと、とりあえずの応急処置はしました。しかし怪我が酷いのと、今は気を失っています。救急車はもう呼んでますのですぐにくるでしょう。きっと大丈夫ですよ」

「はい、ありがとうございます」

「ありがとうございます」

 

 私はお母さんと一緒にお礼を言う。お父さんが生きててまた少し安心したけど、お父さんの姿を見てると、お父さんが可哀そうで、辛そうで、胸が苦しくなる。

 

「姉様……」

 

 ふと気が付くと、私の後ろにはさっき私たちを助けてくれた青とピンクのお姉ちゃんたちがいた。青色のお姉ちゃんは不安そうにピンクのお姉ちゃんを見つめ、ピンクのお姉ちゃんは、スマホをいじってる。

 

「レ〇、お姉ちゃんに任せなさい」

 

 ピンクのお姉ちゃんは優しそうに笑うと、お父さんに手を向ける。そして

 

「癒しの風」

 

 ピンクのお姉ちゃんがそう言うと、薄い緑色した風がお父さんを包んだ。そしたらお父さんの傷がどんどん治っていく。

 治っちゃった。お父さんの怪我、治っちゃった!

 

「さすが姉様です」

「当然よ。ってうわっ」

「お姉ちゃん、ありがとー!」

 

 私はすごく嬉しくて、ピンクのお姉ちゃんに抱き着いた。

 

「よかったわね、お父さんが無事で」

「うん!」

「でもね、怪我が治ったばかりだからお父さんに無理させちゃだめよ」

「うん!」

 

 ピンクのお姉ちゃんは優しい笑顔で私の頭を撫でてくれた。

 

「ありがとう、君たちのおかげで被害を抑えることができた」

「こちらこそ。怪人を退治してくれて感謝してるわ」

「はは、俺の力なんて必要なかったかもしれないが」

「そんなことありません。私たちじゃ決め手に欠けていましたから」

 

 そこにストームライダーがお姉ちゃんたちに話しかけにきた。

 

「怪人をやっつけてくれてありがとうストームライダー」

 

 私はお姉ちゃんに抱き着きながら、助けてくれたストームライダーにもお礼を言った。そしたらストームライダーはしゃがんで私を撫でてくれた。

 

「ごめんな、もうちょっと俺が早くこれてたら、お父さんも怪我しなくて済んだのに」

「ううん、こうやって私もお母さんも、みんな無事だったんだもん。それにお父さんの怪我も治してもらったから大丈夫だよ」

「そっか」

「うん」

 

 ストームライダーは私の返事を聞くと、バイクに乗って去っていった。

 

「姉様、私たちもそろそろ行きましょう」

「そうね」

 

 私がストームライダーと喋ってたら、お姉ちゃんたちの周りに人が集まってきてたくさん話しかけられてた。なんか新しいヒロインとしてのほうふ?とかお茶がどうのとかすぽんさー?がどうのとか。

 

「あっ、フェアリアルエレメンツ!」

「えっ?」

 

 ピンクのお姉ちゃんが声をあげて指を指した方を向いたけど、誰もいない。

 

「誰もいないよー?あれ?」

 

 顔を元にもどしたら、お姉ちゃんたちが急にいなくなっていた。で、そこにいた人たちが大騒ぎ。

 それからすぐに救急車が到着して、私たち家族は病院にいったんだけど、結局お姉ちゃんたちはみつからなかったんだって。

 お父さんは病院で目を覚まして、怪我が治ってたけど、念のために検査と、一日安静ってことで一日病院に泊まった。

 

 せっかくの誕生日のお祝いだったのに色々大変な一日だった。けど、お父さんが元気になったら遊園地には連れて行ってもらえたし、

 

「似合ってるわよ」

「うんうん。あの時のお姉さんたちみたいだ」

「ありがとー」

 

 あれからあのお姉ちゃんたちが着てた服を買ってもらって、髪も同じにしてもらった。私はもうあの二人が大好きで、大ファンだ。いつかあの二人みたいに強くなって仲間に入れてもらって、一緒に戦えたらいいなぁ。

 

 




以下、本編の補足
・犬の怪人:一応狼の怪人。
・バスが止まってる理由:止まってるんじゃなくて、海が風魔法でバスを浮かせていた。手をかざしていたのはそのため。
・いきなり怪人が空に舞い上がった理由:海が風魔法で気流を操ってカウンターで空に放り投げた。
・父親について:めぐみんに拾われたあとに野次馬に預けられる。野次馬が応急処置と救急車を呼んだ
・海の魔法:ラ〇は風魔法の使い手なのでコスに補正あり。プラスアビリティで強化されている。原作以上の強化と原作にない魔法を使ったのはそのため。
・癒しの風:緑色の魔法騎士の魔法。もちろんアビリティスロット装備の固有魔法。
・少女の買ってもらったあのお姉ちゃんたちが着てた服:当然あのメイド服。


ヒロインテンプレカウンター
・小学生の少女に憧れられる。



怪人図鑑その3
怪人人食い狼男
少女曰く犬の怪人。負け犬。狼という生い立ちに無駄に高いプライドを持ち、自尊心クッソ高い高慢怪人。そのため割と強いのに自身を作った組織に捨てられている。が、本人は一匹狼の自分から捨ててやったと言って譲らない。
人食いの名の通り人を食う。元々夜に人を襲って食っていたが、強くなって昼を克服。あるときバスを襲って味を占め、バスジャックをするようになる。で、今回ちょっとコンビニに出かけた海とめぐみんに見つかり、ストームライダーのライダー〇ックで爆散した。


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第12.6話:ユメセカイ

毎日暑い!そのせいか、いいアイデアが出ません(こじつけ)
今回はタイトル通り夢のお話です。なので多少ご都合主義な部分や強引な所もあると思いますが、しょうがないと思って寛大な心で許してください。だって夢のお話ですから。


「どしたの?人の顔じろじろ見て?」

 

 俺の目の前でタピオカミルクティーをちうちうとかわいい仕草で飲んでいた少女が、首をコテンと傾げながら俺に質問を投げかけてきた。

 

「いや、別に」

 

 かわいくて見とれてたのだが、そんなこと恥ずかしくて言えない。

 

「そ?」

 

 彼女は俺が見てたことよりも今は中に残るタピオカを飲むことのほうが大事らしい。再びストローをちうちうと吸う作業に戻る。いや、よく見れば顔が真っ赤だ。ただ恥ずかしかっただけなのかもしれない。そんな仕草もかわいくてすごくドキドキする。

 彼女の名前は天地文(ふみ)。親友の従妹で、俺の彼女。

 出会いはふとした瞬間、帰り道の交差点でーって何かの歌詞みたいだけど、本当の話。彼女がヒーローキラーとかヒロインキラーとか言われた悪の組織の幹部と戦ってた時だった。

 

 一目惚れだった。

 

 高校に入ってすぐに彼女と再会、それから一年、本当に色々あって二年になって告白、返事は随分待たされたけど夏祭り、真っ赤になって頷いてくれた。それから学園祭、クリスマス、バレンタインと甘い時を過ごしたのにも関わらず、彼女はピュアな反応を返してくれる。

 そんな彼女を再び見つめながら幸せに浸る。

 

 ガタッ!

 

 だが、そんな俺の小さな幸せは長くは続かず、彼女が突然立ち上がる。視線は窓の外、俺も彼女の視線を追ってみれば、怪人が人々を襲い、建物を破壊していた。

 

「行くのか?」

 

 正直、危ないことには首を突っ込んでほしくないのだが、正義感の強い彼女のことだ、放ってはおけないだろう。それに戦う彼女の可憐なところが見れるっていう相反した思いもある。

 

「うん。私の好きな言葉にね、君は、できるだけの力を持っているだろう?なら、できることをやれよ。っていうのがあるんだ。うみくんの見せてくれたアニメだったと思うんだけどね」

「あーあれか」

 

 俺も海の勧めで見たことがある。有名なロボットアニメで、俺も好きなやつだ。

 

「それに今は、その、守りたいものも、できたし……」

 

 徐々に小声になっていく台詞だが、俺は最後まで聞き逃さなかった。俺は彼女のあまりの可愛さに我慢ができなくなって人目もはばからず抱きしめる。

 

「ちょっ!?人が見てー……ないな。みんな逃げ始めてるわ」

 

 ふみが何か言ってるが、頭の中までは入ってこない。だって俺は、彼女が愛おしくてしかたがなかった。そして、それは同時に不安も募らせる。

 

「無茶はするな。危ないと思ったら絶対に逃げろ。いざとなったら俺が助けてやる」

「……うん。私だって死にたいわけじゃないし、りゅーくんを置いて死にたくないし。まだまだ、いっぱいしたいことあるしね。……その、エッチなこと、とか」

 

 ふみも俺を抱きしめ返してくる。そしてもちろん今回の言葉だって聞き逃していない。しかもこういう言葉だけは、しっかりと頭の中に入ってくる。もちろん最後に小声になった言葉も拾ってしまい、ドキドキがとまらなくなる。

 それからすぐに俺とふみはゆっくりと離れる。

 

「うし、やる気エネルギーチャージ120%完了!やっぱヒロインなら愛の力とかで戦って平和を守らなきゃね!」

 

 ふみはこぶしを握ってつきあげる。

 

「じゃあ、いってくるね。だいじょーぶ!ヨシオにだって勝った私がそう簡単にまけるわけないから!」

 

 そういって元気に店を飛び出していった。

 

 だが、今回の敵は、ヨシオよりも強く、強かで、汚い相手だった。

 

 

 

 変身したふみが膝をつく。ガードに特化したモードなのに、衣装はもうボロボロで、傷も多い。見るからに満身創痍だ。しかも最悪なのは、怪人は故意に衣装をボロボロにしている節がある。胸の辺りも腰の辺りも、激しく動けば色々と見えてしまいそうな状態だ。

 今回の敵は、大量の遠隔攻撃で民間人を無差別で狙ってきた。そこは俺が誘導してなんとか民間人を逃がしきることができたが、最後にヘマをした俺が敵の足止めに捕まり、俺に狙いを絞ってきたのだ。その攻撃から俺を守るために、ふみは自らを盾にして立ちふさがる。

 

「ふみ、もういい、俺は大丈夫だから!俺のことは放っておいて敵を倒せ!」

「りゅーくん、私こそ、だいじょうぶ、だから!こんな攻撃、全然へっちゃらだよ!っ、はぁ、はぁ」

 

 そんな姿でも俺に強がりを言うふみ。全然へっちゃらに見えないし、そんな姿を俺は見たくない。なにより、自分のミスでこうなったことに後悔と自責で心がつぶれそうになる

 

「お願いだふみ!戦ってくれ!俺のために傷つく姿をこれ以上みたくないんだ!」

「それは、私も一緒!私だって、はぁ、はぁ、好きな人が傷つく姿なんて、見たく、ないよ!」

 

 くそ、言われて気が付いた。もし俺が逆の立場になってもきっと同じことを思う。同じ行動をする。ならどうする?俺がふみの弱点になる、足をひっぱるなんて死んだほうがましだ。ふみのためなら、足の一本くらいくれてやる!俺はコンクリのようなもので固められた足を落ちてたガラス片で切り落とす……

 

「っ!?だめっ!」

 

 寸前でふみに止められた。ふみが敵に後ろをみせる(・・・・・・・・)形で。

 そしてそれは、戦いでは絶対に見せてはいけないこれほどにない隙だ。

 

「……あっ」

 

 そう思った瞬間、衝撃。気が付いたときは何かに覆いかぶさられて倒れていた。俺は焦る。

 

「ふみ!ふみ!!」

 

 ふみは無事なのか?不安で仕方がない。

 

「大丈夫!」

 

 返事はすぐに帰ってきた。声を聞いた瞬間、俺は一安心した。

 そして声と共に俺に覆いかぶさっていたものが離れていき……俺は固まった。

 

「りゅーくんだいじょうぶ!?」

 

 覆いかぶさっていたのはふみだったんだ。それは、いい。しかし、俺はある場所から目が離せない。

 

 ぷるるん。

 

 小さいながらも形のいい胸が、破れた衣装からこぼれ出ていた。

 

「りゅーくん!よかったぁ!」

 

 そしてふみは俺を抱きしめる。ふみはまだ気が付いていない。そして俺は柔らかい小さな二つのお山に包まれて思考がほぼ停止した。

 

「……りゅーくん?まさか、今の攻撃、私をすり抜けてりゅーくんにダメージが!?」

 

 ふみは俺の様子がおかしいことには気づいたが、まだ自信の変化には気が付かない。俺はここでようやく片手で目を隠し、もう片方の手でふみの胸を指さす。

 

「よかった、大丈夫そう。ん?なに指さして……っ!?」

 

 そこでようやく気づいてくれたらしい。悲鳴こそあげなかったが、必死に胸元を隠して真っ赤になって俯いた。

 

「あのー、戦闘中、なんですけど?」

「「あっ」」

 

 そんなタイミングで声をかけられることにびっくりして、そしてすぐに戦闘中なのを思い出して、慌てて立ち上がる。現状は、あれからかけつけてくれたであろうヒーローが数名、怪人と戦闘を繰り広げていた。

 

「大丈夫?まだ戦える?」

「うん、大丈夫!」

 

 声をかけてくれたヒロインに対して答えたふみは、まだ無事な通常の衣装へチェンジさせ、一緒に怪人へと突撃していき、数分後にはなんとか怪人を倒すことに成功した。

 

 

 翌日。

 

「ってことがあったんだよ」

「っふ、ふーん、そう」

 

 俺は昨日あった出来事を海に話しながら登校していた。なぜか俺の話を聞いている親友は、顔を真っ赤にしながら恥ずかしそうな、嬉しそうな複雑な顔をして聞いていた。

 

「とっ、ところでりゅーじ」

「なんだよ?」

「顔、めっちゃ緩んでるぞ」

「まじか!?」

 

 どうやら顔が緩んでたらしい。海のことをどうこう言えないな。

 

 

 

 

「……あれ?夜?」

 

 気が付くと、俺は仰向けになって、布団に入って天井を見上げていた。

 ……まさか、今の夢か?まさかの夢か!?

 俺はまだ軽く微睡んでいる頭で天井を見上げながら今見た夢を思い出す。思い……

 

 ぷるるん。

 

「ふぬあああああ!俺は彼女でなんつー夢を!」

 

 俺は布団を跳ねのけると電気をつけて腕立てを始めた。色々発散しないと、このままでは眠れない。それに、夢とはいえあまりにも不甲斐ない自分に腹が立って、もっと強くなりたいという思いが強く駆り立てる

 

 

 結局その日、俺は眠ることができずに朝までずっと筋トレをしていた。

 

 

 

 

 

 

 

——————————————————

 

 

 

 

 

 

 

「おお、待っておったぞ、勇者たちよ」

 

 目の前でいかにも偉そうなおっさんが、上から目線で語ってくる。

 私とりゅーじ、そしてうみの三人は自然と顔を見合わせる。

 

「なぁ、まさかとは思うが」

「どっきり……にしちゃ手が込みすぎよね?」

「まさか、またか、またなのか!?」

「「また?」」

「あ、いや、まさか、だよ」

 

 うみがちょっと挙動不審だけど仕方がないのかもしれない。だって。

 

「これって」

「「「異世界転移?」」」

 

 私たちの声が見事にハモった。

 そりゃあ最近漫画やアニメじゃ異世界転生や異世界転移っていうのは流行りだし、そんな話も数多くあるけどさ。まさか自分たちに起こるなんて想像……あーまあ多少は、してたかな。まあ私も?オタの端くれだから一度や二度くらい妄そ(げふんげふん

 ……想像はしたことがあるよ、うん。

 そしてそれは私に限った話じゃないのは、声がハモったことでお察しだね。りゅーじですら同じ回答だったんだし。

 

「おぬしらを呼びだしたのは他でもない、この世界の危機を救ってほしいからだ」

 

 と、偉そうなおっさんはこちらの事情をまったく無視して喋りだした。それこそテンプレと見た目で判断すればこの人はどっかの国の王様か皇帝っていったところかな。

 

「今この世界は、魔王と名乗るものによって侵略、国や人々が日々危険にさらされ、蹂躙されている。お前たちにはこの魔王を倒して世に平和を取り戻してほしいのだ」

 

 この手の話もテンプレだなぁとか思いつつ、ブラック企業も真っ青な提案を悪びれもなく押し付けてくる国のお偉いさんに本気かと問いたくなる。漫画やアニメ見てた時も思ったんだけど、素性のわからない子供に普通そういう役目押し付ける?そんなのを快諾するのは、一部のバカか異常者、もしくは選択肢に「はい」と「イエス」しかないゲームの主人公くらいだと思う。ということで。

 

「無茶言うな」

「え?嫌ですけど?」

「だが断る」

 

 当然私たちの回答は一致した。うーん、ただうみ辺りは「はい」って言うかもとは思ったんだけど。めんどくさがりでいつも「俺は見てる側でいたい!」って宣言してる割に正義感が強くてこういうの放っておけないタイプなんだよね、うみは。それにそういう力もあるし。

 

「なんだと!?」

「無礼な!」

 

 いや王様、なんでいい返事がもらえると思ったの?あと取り巻きよ、あんたたちのほうがよっぽど私たちに無礼だと思うよ?

 

「もうよい。ならば力ずくで従わせるだけだ」

「ものども!そこの不届きものどもを捉えよ!多少怪我をさせてもかまわん!」

 

 私たちが断ったとたんにこれって、王様も国もろくでもないパターンのやつじゃん。しかもその動きに淀みがない。これは最初から無理やり私たちに言うこと聞かせる気だったな。

 王様の指示ですぐに私たちを武装した人たちが取り囲む。

 

「へぇ。これがあんたたちの歓迎の仕方か」

「やっぱりな。異世界物の漫画にはこの手の話も多かったから警戒して正解だったよ」

「こんなんが権力者じゃこの国の行く末が見えてるね」

 

 りゅーじはちょいキレ気味で、うみは半目で、そして私はあきれたのが態度に出る。

 まあこんなことをされれば、私たちなら意地でも従わないよね。そういうの、大っ嫌いだから。とはいえ。

 

「で、強がったのはいいけどこのあとどうするの?」

「「あ」」

 

 二人の反応に思わず吹き出しそうになった。

 

「……何も考えてなかったのね?」

「強行突破!」

「反省はしている。後悔はしていない」

「もう、りゅーじはちょっと困るとすぐに力技で解決しようとするのは悪い癖だよ。あとうみ、それ絶対反省してないやつ」

 

 二人とも自由だなぁ。でもそんなところも好きなんだよね。

 それにしたってこの状況で強がれるっていうのもメンタル強いよね二人とも。まあ私も人のことは言えないんだけど。

 

「男はこちらに協力したくなるまで徹底的に心を折ってやれ。女どもは隷属の首輪をつけてワシの寝所へつれてこい。ワシ直々に協力したくなるまで調教してやろう」

 

 偉そうなおっさんがもう勝った気で舐めるようにこっちを見てニヤニヤしている。正直かなり気持ち悪い。いやーあれは無理。生理的にも受け付けない。

 

 ……ん?女ども?ぶふっ。

 

 うみまた間違えられてる。確かに初見でうみを男だって見抜くのは難しいけどさ。うみも気付いたんだろう。こっからじゃ顔は見えないけどぷるぷると震えている。

 

「俺は男だぁぁぁぁぁ!」

「ほう、そうであったか。だがそれだけ見目良ければ関係ない。むしろ楽しみが増えたわ」

 

 あ、うみが震え上がった。そういえば疑いもなく男って信じて、そのうえで、だがそれがいいってパターンは今まで見たことなかったなぁ。そっか、そういう人も世の中にはいるもんね。

 

「ざっけんな!死んでもごめんだ!俺はノーマルなんだよ!」

「クックックッ威勢がいいのう。その威勢のよさがどこまで続くか今から楽しみだ」

 

 おっさんがますます気持ち悪い笑みを深める。

 

「ニヨニヨすんな変態!」

 

 とうとううみが我慢できなくなったのか、うみがスマホを取り出した。いやそれ使えるの?

 

「ロードカンリョウシマシタ」

 

 あ、つかえるんだ。

 

 そんな私の心配は杞憂で終わり、うみが黒い霧に包まれて、あっというまに黒い魔法少女(・・・・・・)の姿に変わる。ってバカ!

 

「うみ!その姿はまずい!」

「あ」

 

 相当頭に血が上っていたんだろう。りゅーじがいるここでまさかの黒い魔法少女の衣装を選ぶなんて。

 

「……え?海?その恰好、ふみ、ちゃんのじゃ?え?」

 

 あーあー、りゅーじ、完全にパニクってるよ。それにうみもすっごくあたふたしてるし。頭に血が上ってたとはいえ、自業自得だよ。まあ私は楽しくなってきたけど。

 そうこうしてる間にも、こっちが不審な動きを見せたことで囲い込んでた武装勢力が襲ってくる。

 

「考え事の邪魔すんな!」

「ちょっと立て込んでんだよ!空気読め!」

「よいしょ、っと」

 

 りゅーじは拳で、うみは魔法のステッキ(物理)で、そして私は護身術で習った合気道で先陣を切ってきた連中を撃退した。これでも怪人の蔓延る世界で生きてきたからこれくらいはね。

 

「むぅ、さすがに一筋縄ではいかんか。誰でもよい、早くこやつらを捉えよ。捉えたものには褒美を出す」

 

 私たちの様子を見たおっさんの顔つきが変わった。腐っても王様、正直ちょっと予想外だけど、これくらいの即時判断はできるっぽい。

 そしてその言葉を聞いて、結構いい装備をした強そうなイケメン剣士と、いかにも魔法使いっぽい怪しげなおじいさんが前に出てきた。

 

「ふむ。こんなかわいらしいお嬢さん方を傷つけるのは忍びない。降伏してもらえないだろうか?」

「余分なことを言うな騎士団長!こいつらが無駄な抵抗をしてくれんと褒美がもらえんじゃろうが!異世界の人間、物、いったいどんな未知にあふれているのだろう。フヒヒ、知りたいのう。超知りたいのう」

 

 これはまた濃ゆいのが出てきた。でも騎士団長とか言われる人は見た目そこそこ強そうだし、その騎士団長と対等に話してるってことは、このおじいさんも普通より強い人なんだろう。うーん、ただでさえ数で不利で囲まれてるのに、さらにこんな人たちの相手とかますます状況が悪化してるなぁ。さすがにこのままじゃまずいよね。

 

「りゅーじ、うみ、その話は後にしよ?今はここから逃げないと」

「お、おう」

「そ、そうだな」

 

 うんうん。さすがに今の状況がまずいのは理解してくれてるね。君たちのような聞き分けのよくて勘のいい友人は大好きだよ。

 

「んじゃ、強行突破といきますか」

 

 りゅーじが首を左右に振ってコキコキ音をさせながら指を鳴らす。

 

「いつもなら、さぁ道徳の時間っていうところだけどな。さすがに我慢の限界だ。かかってくるんなら覚悟してこいよ」

 

 うみが魔法のステッキをくるくる回して突き付ける。

 

「がんばれ二人とも!」

 

 私は二人の影に隠れて応援だ。いやだって私戦闘要員じゃないし。二人みたいに強くないし。可愛い女の子は強い男の子に守ってもらわないとね。

 

「やれやれ、仕方がありません、ねっ」

「くはは、そうじゃ。そうでなきゃ面白くないわい」

「相手はたった三人だ、数で押しつぶせ!」

 

 濃ゆい二人を筆頭に、今度は全力の全員が一斉に襲い掛かってきた。

 

「怒りとかやらかした焦りとかバレる心配ないとかもう頭ン中ぐっちゃぐちゃだからもうやけだ!このさい盛大にやらかしてやるよ!」

 

 ……うみがなんだか不穏なことを言い出した。ちょっと待って、何をする気?

 私の不安をよそにうみがスマホを弄る。それから……

 

 うみの衣装が変わる。そして、叫んだ。

 

「Unlimited Bl〇de Works!」

 

 言葉と共に、襲い掛かってきた武装集団に降りかかる剣、剣、剣。ちなみにうみの衣装はプラズ〇イリヤのク〇エだった。

 

「まあ、ガチャ産の産廃バラまいてるだけだからどっちかって言ったらゲートオ〇バビロンなんだけど……」

 

 とまあそんなこと言ってるけども、威力はとんでもないことになっている。攻撃が終わってみれば、部屋のあちこちに剣が刺さって、敵の武装集団が壊滅状態になっていた。完全にオーバーキルだ。

 

「な、なんじゃ今のは……」

「馬鹿な、我が精鋭たちが、一瞬で」

 

 何とか生き残った濃ゆい人たちはこの光景に絶句。あ、範囲外にいたおっさん、チーンって言葉が聞こえてきそうなくらい見事に気絶してる。

 

「……や、やりすぎちゃった。てへぺろ(はぁと)」

「いや、てへぺろ(はぁと)じゃねえよ」

「その仕草はレアでかわいいけどねー」

「いやめぐみ、それであの惨状は許されんだろ」

「やられたらやり返す!倍返しだ!」

「倍率がおかしい!」

「まあとにかく、こんな状況になった以上、あまりここに長くいるのはまずいかなぁ」

「……ごめん」

「まあ気にすんなうみ。そもそも原因を作ったのは向こうだ。次からは気をつけろよ」

「うん」

「それより……うみ、さっきの魔法少女の格好の説明、しっかりしてもらおうか」

「戦術的撤退!」

「あ、逃げた」

「逃がすかぁ!」

「あ、ちょっと待ってよぉ」

 

 私はマッハでこの場から逃げ出したうみと、それを距離を離されずに追う人外クラスの友人の後を慌てて追いかけた。

 

 

 

 

「……ふぁ?」

 

 あれ?私は確か、うみやりゅーじと異世界に召喚されて……

 ふと周りを見渡せば、そこは見慣れた私の部屋。

 あ、もしかして、今のって夢?

 そっか、夢かぁ。

 でもなかなか面白い夢だったなぁ。そうだ、忘れないうちにメモしておこう。

 私は枕元にあるスマホをとり、メモにさっき見た夢の内容の憶えている限りを書き込んでいく。

 できたらぜひ、あの夢の続きをみたいなぁ。

 

 




次回も夢のお話の予定。


ヒロインテンプレカウンター
りゅーじの夢
・タピる。
・友人(恋人)に見とれられる。
・愛の力(笑)で戦う
・友人(恋人)の盾になる
・ラッキースケベられる
めぐみんの夢
・王様に女の子と間違えられる
・男でも、むしろそっちのほうがいいと言われる

夢の中でもうみはヒロイン(うみ)


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第12.7話:夢で逢えたら

どーも、いろいろ更新停滞中の作者です。
最近、やるぞーとか、書きたいって気持ちは強いんですが、いざ書き始めると萎えるというか、心が速攻折れるというか、そんな現象にとらわれています。
……はっ、これがコ○ナの影響か!?(超責任転嫁)
人の心はままならないですね。


「……知らない天井だ」

 

 寝起きでまだ意識がはっきりしない中でゆっくり開けた目に入ってきたのは知らない天井だった。いや、目を覚ました時にそういう状況だったら言っちゃうよね、オタだったらなおさら、無意識にでもさ。

 

「ようやくお目覚めかな?眠り姫」

「ぁん?」

 

 姫扱いされて一気に機嫌が悪くなったのを隠さずに声のした方を向けば、ヨシオ先生がそれはそれは悪の幹部です!というような鎧甲冑を纏ってこっちを見ていた。

 いや、なんでヨシオ先生がここにいる?そもそもここ家じゃないよな?どこだよここ。

 ここでようやく様子がおかしいと思った俺は、状況を把握するために辺りを見回す。

 悪の幹部スタイルのヨシオ先生、赤黒い脈打つ壁と床、それに覆われて囚われてる俺。

 

 ちょっと待て。なんぞこれ!?

 

 なんで俺肉壁に埋まってんの!?しかも自分の身体の見える範囲は肌を晒してる状態。ぅぉぉい!?もしかして俺こんな状況で真っ裸!?頼む、下半身はパンツだけでもいいから何か履いていてくれよ!

 

「クク、そんな顔が見れただけでもリスクを冒した甲斐があったというものだ」

 

 ヨシオ先生が意味ありげなことを言っている。え?ってことはこれ全部ヨシオ先生の仕業?

 

「どういうことだ?」

 

 これは明らかに敵対行為だ。一度は感じ的には助けてもらったし、曲がりなりにも学校で先生なんてやり始めたんだ、多少は信用してたのに。

 

「俺様はお前とこの世界を作り直す。常に争いの絶えない修羅と強者の世界を作るのだ」

「え?嫌ですけど?」

 

 なんかまたとんでもないこと言い始めたな。寝言は寝て言えよ。

 まあこいつ元々どっかバトルジャンキーっぽかったし、そういう野望を持っててもおかしくはないんだけどさ。俺は嫌だけど。

 

「お前に拒否権などあると思うか?諦めろ」

「嫌だって言ってるだろ。お前こそ諦めろよ。つかそもそも俺必要か?」

 

 俺なんて見た目女っぽいただの男だ。波乱体質や自衛手段はまあ別として。

 

「手段としては必要ない。が、俺様はお前が欲しい」

「は?はぁ!?」

 

 俺が欲しい?何言いだしたんだこいつ?頭おかしいんじゃないか?

 

「なんで!?」

「理由なんてない。欲しいと思った。だから手に入れた。もうお前は俺様のものだ」

「は、はぁ?誰がお前のもんだよ!意味不明なんですけどー!?」

 

 くっそ、シンプルだからこそ、その気持ちの強さもダイレクトに伝わってくる気がする!なんかドキドキしてる気がする!ってなに乙女心全開にしてんだ俺!男だろうが!

 

「クク、そんな気の強いところもいいな。まあ時間はたっぷりあるんだ。ゆっくりじっくり堕としてやるよ」

「ヒィ!?」

 

 アゴクイ!?近い!顔が近いよ!しかも無駄にイケメンがキメ顔するもんだから男の俺から見てもかっこいい!やばい、ドキドキが加速している。ってもう堕ち始めたのかよ俺!チョロインすぎだろ俺ぇ!(錯乱中)

 

「さあ、古い世界の終わりを共に見届けようではないか」

 

 そういってヨシオが手をかざすと、近未来なんかでありそうな色んな場所の映像が目の前いっぱいに広がる。その映像は、どこも戦闘が行われていて、何人も倒れていたり、建物が崩壊してたり、地形が変わり果てたりとどことなく戦闘の激しさを物語っていた。さながら映画の最終決戦や最終戦争のような光景だ。

 

「ひでぇ」

「何を言っている?皆が己の存在を賭して戦う姿、美しいではないか」

「ふざけんな!戦うことの全部を否定はしない。けどその世界を望まないものに自分の理想を押し付けんな!」

 

 その映像を見て俺は一気に冷静になった。そしてヨシオの、こいつの野望を拒絶する。

 

「もう遅い。作戦はもう最終フェイズを迎えている。今抗戦している連中が最後だ。これで残す人類の選別が終わる。弱者は消え、強者の時代が訪れるのだ」

 

 っくそ、俺はなんで捕まっちまってるんだ!何のための自衛手段だ!何のために手に入れた力だよ!自衛もそうだけど、俺が好きなもの、俺の大切なものを守るためじゃないのかよ!

 何とか脱出しようと体を動かそうとするが、肉壁も一緒に動いて剥がれる気配が全くない。

 

「くそっ、剥がれろ!はーがーれーろー!!!」

「無駄だ。外側からならともかく、内側からは絶対に剥がせん」

 

 絶対的な信頼があるんだろう、ヨシオは落ち着きながら映像のほうを見続ける。

 何か、何か脱出できる方法はないのか?

 

「みんな、大丈夫?」

 

 必死に足掻いてた俺の耳に、聞いたことのある声が入ってきた。この声は。

 

「正直きっついわ!」

「一体一体が強力なうえに、数も多すぎる!」

「もうきりがないよー!」

 

 フェアリアルエレメンツ!

 

 映像の中に、エレメンツがいた。みんなまだ無事だったんだ!でもその姿はボロボロで、状況の過酷さを伺わせる。

 

「みんながんばって!海ちゃんはこの先のあの巨人の中だよ!」

 

 ネズミ怪人!?一緒に行動してるの?っと、それもそうだけど、他にも気になるワードが入ってきた。今俺がいる場所って巨人の中なのか。

 ネズミ怪人の声でピンクちゃんの顔つきが変わった。

 

「行こう、みんな。うみちゃんが、私たちの仲間が待ってる」

「うん!」

「せやな」

「当然だ」

 

 それに触発された他のメンバーも顔つきが変わる。みんな、ヒロインなのに顔つきが男前すぎるよ。そんなこと言われたら。

 

 ぽろっ

 

 涙が我慢できなくなるじゃん。

 

 他の映像も見てみる。

 

「ヒーローに敗北はない!」

「守るんだ!例え、相打ちになったとしても!」

「世界も救って女の子も救う。そんな強欲さこそが、今時のヒーロー像だろ?」

「俺たちは」

「私たちは」

「「「悪を遮るこの世界の守護者だ!!!」」」

 

 どの映像もヒーローやヒロインたちが闘っていた。その姿に俺の胸も熱くなる。俺は見てる側でいたいのは今でも変わらない。けど、こんな姿を見せられて奮起しなきゃ、オタクも男も、ヒーローも失格だ!

 何か俺にできることはないか?

 

「む」

 

 足掻いてもがいて悪戦苦闘しながら必死に頭を回転させていると、不意にヨシオの表情が変わる。原因はヨシオが見ている映像か?あれ?それはさっきエレメンツを映してたやつじゃないか?

 

「海ぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃーーーー!!!!」

 

 なんか俺の名前を叫びながら高速で巨人に向かっていく光が見えた。まるで流星のようで、ちょっとだけ目を奪われる。

 ってこの声も聞き覚えがある。むしろなじみ深い。間違えようがない。

 

「りゅーじ!」

「チッ!手の空いてるヤツは今突っ込んできた命知らずの馬鹿に攻撃を集中しろ!ダークバリア展開!武装も解禁!あいつを近づけさせるな!」

 

 ヨシオが少し焦った様子で指示を出す。今までの余裕が嘘のようだ。なんだかりゅーじを近づけさせたくないような感じだ。

 

「うおおおおおおおお!!!」

 

 けどりゅーじは近づく敵を、弾を、ビームを弾き飛ばし、バリアも突き破ってきた。

 

「なんだと!?」

「マジか!?」

 

 俺もびっくりだけど、ヨシオも随分驚いている。さすがにあれは想定外だったらしい。そして、そのまま巨人にぶつかった。と、同時に

 

 ズドォォォォォォォォォオオン!!!

 

 激しい衝撃と爆音と共に、気色悪い壁に穴を開けて何かが突っ込んできた。これって……飛行機?

 その飛行機と思われる先端部分のコクピットらしい所が開くと

 

「海!」

「りゅーじ!」

 

 案の定、りゅーじが飛び出してきた。

 

 そのまま俺のほうへと走ってきて、俺に纏わりついている肉壁を剥がす。

 

 ってこんな悠長なことしてたらダメだろ!

 

 

「りゅーじ!俺のことはいいからヨシオを」

「あ?そいつなら壁に頭ぶつけて気絶してるぞ」

「は?」

 

 慌てながら助言する俺にりゅーじは意味不明なことを言う。あのヨシオがそんなあっさり気を失うはず……マジか、本当に頭ぶつけて気絶してるよ。なんというご都合主義。ていうかこいつ、めちゃくちゃ弱くなってないか?

 

「ああもう面倒だ!」

「え?ひゃあっ!?」

 

 俺にくっついてる肉壁を剥がしてたりゅーじが面倒とか言い出したと思ったら急に抱き着かれた。不意打ちすぎて変な声が出たぞ。

 

「何すんだこのやろぉぉぉぉぉ!?」

 

 文句を言おうとしたらそのまま肉壁から引っこ抜かれた。っていうかそれやりたいんだったら言えよ!そうしたらちゃんと事前に心構え作れたのに!おかげで変にドキドキしたじゃん!

 

「うし!んじゃさっさとに逃げるぞ」

 

 りゅーじは俺を引っこ抜くと、何事もないように地面に降ろして離してくれた。

 うう、りゅーじに悪気はないんだろうし、助けてくれた手前文句も言いにくい。でもこのままやられっぱなしなのも気に食わない。

 

 ならちょっとだけいたずらしてやる(ニチャア)

 

 俺は後ろを見せたりゅーじに抱き着いてやろうとして

 

「あ、あれ?」

 

 急に引っ張られた。

 あ、よく見たら手をつないで引っ張られてる!

 

「何してんだ、早くいくぞ」

「あ、うん」

 

 そのままなすがままに手を引っ張られる俺。うう、りゅーじと手をつなぐなんてあんまりしたことないせいか、妙に緊張するというか、ドキドキする。くっそ、結局全部やられっぱなしかよ俺。かっこ悪い。

 

「っくそ、俺様としたことが……あ」

「あ」

 

 なんとかドキドキを紛らわそうときょろきょろしてたら、ちょうど目を覚ましたヨシオと目が合った。

 

「くそ、逃さん!」

 

 ヨシオが立ち上がって追い掛けてこようとして

 

 ズドォォォォォォォォォオオン!!!

 

「うおっ!?」

「ぬぁっ!?」

「おっと」

 

 また衝撃。そして

 

「うみちゃあああああん!!」

「海ちゃん!」

「海!」

「ピンクちゃん!エレメンツのみんなも!」

 

 肉壁に穴が開いて、そこからエレメンツが飛び込んできた。

 

「よかった、無事だったんだね!」

「む、その男は」

「海は救出した!そんな身体で悪いが脱出の援護を頼む!」

 

 衣装もボロボロで、体中傷だらけのエレメンツ。それなのに俺の姿を見てみんな嬉しそうだ。そんな顔されるとまた目頭が熱くなってくるじゃん。でも、そんなエレメンツにきついお願いをするりゅーじ。ちょっと文句を言いたくもなるけど、全ての元凶の俺に文句を言う資格はない。せめて俺のスマホがあれば変身して少しでも助けになれるのに。

 

「おっけー!」

「任せておけ」

「海ちゃんの無事も確認できたし、あとはヨシオにきつーいお仕置きをしないとね」

「乙女を裏切った代償は安くないで?」

 

 ボロボロなのにりゅーじのお願いを聞き入れるエレメンツ。あんなに傷だらけなのに無茶しないで欲しいんだけど、むしろやる気に満ちている気がする。……いや、殺ル気?

 

「邪魔を、するなぁぁぁぁ!!」

「ぐっ」

「きゃあっ」

「あうっ」

「ああっ」

「みんな!」

 

 ヨシオの前に立ちはだかったエレメンツがヨシオから巻き起こる突風で吹き飛ばされた。ヨシオやっぱり強いじゃん!さっきのアレはなんだったんだ!

 

「だ、大丈夫」

「く、さすがに強い」

 

 吹き飛ばされたエレメンツが心配だったけど、なんとかみんなが立ち上がってホッと一息。

 そしてその間に俺とりゅーじは飛行機?のコクピットに乗り込むことができた。てかこれ二人乗りじゃん。

 

「伏せろ!」

 

 乗り込んですぐにりゅーじが叫ぶ。その声にエレメンツは即座に反応して身体を伏せた。と、ほぼ同時に前方に向けて機銃?が雨のように撃ちだされた。そしてヨシオを中心に爆煙があがり、辺りを包んでいく。すげ、なんだかハリウッド映画を生で見てるような気分だ。

 

「今だ、逃げるぞ」

 

 ある程度機銃?を撃ったあとに、それだけ叫ぶと飛行機が自身の向きと逆に急加速する。逆噴射でもついてるのか?なんて思ってたら、機体の下の方に足っぽい何かが見えた。まさかのヴァ〇キリー仕様かよ。俺のオタ魂が歓喜してるわ。もしかしてバト〇イド形態もあるのか?

 

「ついでだ、これも受け取るがいい」

「やられっぱなしは性に合わないしね」

「絶対零度……」

「「「プリズムブリザード!!」」」」

 

 そんなタイミングで、エレメンツの4人の声がハモりながら撃ちだされた攻撃は、氷や宝石のような何かが荒れ狂う風と共にさっきまで俺たちがいた空間を爆煙ごと蹂躙する。

 すっげぇ、めちゃくちゃ綺麗だけど殺傷能力高そうな攻撃。え?今の新技?

 足止めがうまくいったのか、ヨシオが追いかけてくる、ということはなく、外も来るときにすごそうだった弾幕や敵の姿もなく。俺たちはその場からどんどん離れて、やがて巨人の輪郭が見えるくらいまで離れる。

 

「うみっ!」

 

 そこまできて、不意に通信?なのか目の前にスクリーンが現れて、画面いっぱいにめぐみんの顔が映し出される。って、ちょ、近い近い!スクリーンって分かっててもめぐみんの美少女フェイスが近いのは緊張する!

 

「大丈夫だった?変なことされてない?」

「大丈夫、される前に救出されたっぽいから。心配かけてごめんな」

 

 曇っていためぐみんの顔が安堵の表情に変わる。今回はなんかたくさんの人に心配かけたなぁ。なんだか申し訳ない。

 

「うし、無事海も助けたことだし、最後の仕上げと行くか」

 

 俺がそんな感傷に浸っていると、りゅーじがそんなことを言い出した。そして「最後の手段」とか嫌な予感がバシバシするボタンを躊躇なく押した。

 

「ちょ、りゅーじ、今なんのボタン押した!?」

 

 そんな手段にろくなものはない!自爆か相打ち前提の攻撃か、とにかく何かしらのリスクを伴うこと前提だろそれ!

 

「まあ見てろ」

 

 なんでそんなに楽しそうなんだよりゅーじぃ!

 

 と、俺がテンパってると、飛行機?らしい乗り物がロボット形態になった。そしてどこからともなく飛んでくる物々しいライフル。「なんとかバズーカ」とか、「何とか粒子砲」とか名前の付きそうなえげつないのが。

 ロボットに変形した今乗ってる機体がそれをつかみ、ロボットに接続?ドッキング?させる。

 

 おお、いかにもロボットアニメとかのラストの決め技っぽい形態だ。

 

 よかった、自爆も相打ちもなかったよ。

 

「よし、海、めぐみ、頼んだぞ」

「はいよー」

「へ?」

 

 りゅーじがさも当然のように俺とめぐみんに頼む。めぐみんは理解してるようだけど、俺は何が何やらさっぱりなんだが?

 

「何言ってるの?歌うんだよ」

「はぁ!?」

 

 これまたさも当然のようにめぐみんがのたまう。いやいやいやいや。

 

「なんで!?」

「なんで?って、この攻撃、私たちの歌がエネルギーだよ?」

「まじか!?」

「まじまじ」

 

 どこのマク○スだよ!この変形メカといい、歌といい、どこのマ○ロスだよ!(大事なことなので二回言った)

 

「早くしないと、ヨシオが復活するぞ」

「うええええええ!?」

 

 どうする?ってどうするもこうするも歌うしかないんだけど!

 とか俺が動揺してたら、なぜか俺たちが脱出した穴がスクリーンに表示される。そこにはボロボロになりながらも生きているヨシオが必死にこっちに向かって手を伸ばしていた。

 まさかのエレメンツの置き土産の新技がめっちゃ効いてた!

 

「海……俺様は、お前が、お前が欲しいぃぃぃぃぃぃぃ!!」

「ヨシオ……」

 

 トゥンク

 

 ……なんだ?今の?まさか、俺がときめいた、今の、ヨシオの告白で?

 

 嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!???

 

「ヨシオ……」

「うみ、あんなこと言われたらやっぱり攻撃できないよね」

「俺、魂込めて歌う!」

「うわぁ、めっちゃ殺ル気だ。なんだか攻撃力が3倍になりそうな気がしてきた」

「それでこそ海だ!」

「どういう意味だそれ!」

 

 二人共俺にどんな印象持ってるのか後で小1時間問いただす!

 

「で、曲は何?」

「愛の弾丸」

「選曲に悪意を感じるんだが!?」

 

 確かこの曲、めっちゃハイスピード&ハイテンションで愛を語る曲だったはず。

 

「愛には愛で応えなきゃ」

「超嫌なんですけど!?」

「早くしろ!ヨシオが回復してくるぞ!」

 

 ちくしょう、めぐみん、後で憶えてろ!

 

 俺が文句言ってる間にももうイントロが流れ始めていた。

 

 俺は半ばやけくそでめぐみんとデュエットする。するとロボットの背中から光の翼が生え、どんどん光と大きさを増していく。

 歌はやけくそだけど、表現はかっこいいなちくしょー!

 

「海ぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃっ!!」

 

 ヨシオはまだ俺の名前を叫んでいた。なんだかこのまま消し飛ばすのは非常に心苦しい。

 曲はちょうど歌詞のない間奏の部分だ。

 

「ヨシオ、ごめん、俺はお前の想いには応えられない。けど、俺を欲しいって言ってくれたこと。忘れない。絶対に忘れないから」

 

 こんなところから言っても伝わらないだろう。だからこれはただの俺の自己満足だ。けど、言っておきたかった。口にしておきたかった。

 なぜか心が苦しい。目が熱い。ほほを何かが伝う。

 

「……そう、か。だが、お前の中に少しでもこの俺様が残るのなら、お前の心の一部を俺様が占領するのだ。悪くない」

 

 なぜかヨシオが辛そうに、それでも笑いながらそんなことを言っていた。

 

 ……あるぇぇぇぇぇぇぇ?!なんで言葉が届いてんのぉぉぉぉぉぉ!?

 

「ああ、言い忘れてたけど、今お前が発してる言葉は力にするために全部タダ漏れだから」

「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」

 

 それ、早く言ってよぉ!ってことはこれ、ほぼ世界中に今のやりとりが知れ渡ってるって事!?ナンテコッタイ!

 

「うみ、こっからクライマックスなんだから集中して!」

「無理!こんな状態で集中なんて絶対ムーリー!!」

「いや待てめぐみ、なんかめっちゃパワー上がってる」

 

 そんな俺にめぐみんがはっぱをかけてくるけど、それにりゅーじが待ったをかけた。

 へ?いや、なにそれ?

 

「んー?歌にいろんな感情が乗って、しかも爆発寸前ってこと?」

「真相はわかんないけど、な。海、そんな状態でもいいから歌え!」

「無茶いいなさる!」

「四の五の言ってないで歌えー!」

「鬼かお前ら!?」

「ほらほら、間奏終わるよ」

 

 ちくしょー!お前ら二人とも絶対にどっかの鬼に血を与えられてるだろう!?なんで太陽にあたって平気なんだよ!

 

 もうヤケもヤケで俺は続きを歌う。幸いなのか、最悪なのか、この曲はかなり歌いこんでいただけに、ヤケで歌ってもミスをしない俺。

 

「じゃあな、好敵手」

 

 りゅーじがいつの間にか現れてる銃のようなものに手をかけ、引き金を引いた。

 とたんに俺の視界は光で塗りつぶされて、何も見えなくなる。大きな爆破音が聞こえる中、「さらばだ、愛しき人よ」という満足そうな声をなぜか俺は聞き逃さなかった。

 そして、光が収まって俺の視力が回復して、目が見えてくると、目の前にあった巨人はきれいさっぱり消え失せていた。

 

「……終わった、な」

「ええ」

「うん」

 

 最後にあんな言葉を聞いたせいか、今の空気のせいか、なんだかしんみりした気持ちになる。

 

「あ、助けに来てくれてありがとな、りゅーじ」

 

 俺はそんな空気を変えようとりゅーじに助けてくれたお礼を言う。後で脱出の時にはぐれたエレメンツにもお礼を言わないとな。

 

「なに、俺にとって大事な人を助けるためだしな」

 

 そう言われると俺も嬉しくなる。大事な人、か。へへ。

 

「んじゃあお礼をしないとな」

「おう、盛大に期待して、る……」

 

 りゅーじがコクピットで振り返ってこっちを見たタイミングで、俺は顔をどんどん近づけていき……

 

 

 

 

 

 

 

 

「うぅおおおおっ!?!?!?」

 

 俺は布団を跳ねのけて起き上がる。

 今のは……夢?

 くっそ、なんつー夢見てんだよ俺!突っ込みどころしかないぞ。ていうかなんで夢の中までヒロインしてんだよ俺!しかも最後なんてりゅーじ相手にきっ、きっ、きっ、キスまでしようとするなんて!

 

「うがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

 俺は自己嫌悪でベッドの上を転がる。

 

「ひぃ!?」

 

 そして身体にべっとりと張り付く服に驚きと不快感で固まる。改めて胸元から服をのぞき込む。

 

「うぁー……寝汗すっげぇな」

 

 あんな夢を見たせいか、寝汗が半端なかった。正直気持ち悪い。

 まあ、どうせあんな夢みたらしばらく寝付けなさそうだし。

 

「ロードカンリョウシマシタ」

 

 俺はヒロインアプリで魔法少女に変身すると、箒に乗って深夜の空中散歩へとしゃれ込むことにした。

 

 

 




実はもう一本夢物で書きたい話があったんですが、思いのほか主人公の夢が長くなってしまったので、できませんでした。次にナンバリングの話をやって、そのあとの番外編でやれたらいいなぁ。
次回は「新歓とライブとキツネっ娘」の予定。まあこのサブタイで大体の内容は予想(看破)されそう(笑)



ヒロインテンプレカウンター
・肉壁に埋め込まれる
・囚われのお姫様状態
・裏切ったヨシオ(敵幹部)からの告白、俺のもの宣言
・からのアゴクイ
・歌姫ポジション
・助けたヒーロー(りゅーじ)にお礼のキス(未遂)

自分の夢すら海はヒロイン(うみ)


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