デスを食らった男 (もっち~!)
しおりを挟む

1章 ゲーム開始直後に
出会い頭の事故


バイトで稼いだお金で漸く、NewWorld Onlineというゲームを手に入れられた。振込日の関係で、開始直後にスタートは出来無かった。でも、これからプレイが出来る。

 

デバイスを被り、ゲームをスタート。初期画面が出て。まずはキャラ名の登録である。『ダン』と入力した。次に初期装備の設定画面に移行した。どれにするかな?ここで選んだ武器以外使えないらしいので、慎重に選ばないといけないが、レベルが上がり装備購入となると剣とか槍は高価である。弓は矢の補充でコストが高い。大盾はパーティーなら良いが、ソロ向きでは無い。これだな。俺は『ナックル』を選んだ。初期装備はメリケンサックである。攻撃力は+10と、威力は小さめである。

 

次はパラメーターの設定だ。ステイタス画面が表示された。ポイントを割り振るタイプのようだ。独自理論の3:1:1を採用する。極振りは大バクチである。嵌まれば最強だが、そうでない場合は、リセマラの嵐になりそうである。攻撃に60、素早さに20、器用さに20を割り振った。

 

最後にアバターの作成。早く始めたい俺は、デフォルトのアバターにした。その他大勢の中の一人でいい。どうせ、ソロプレイだし。

 

 

活気あふれる城下町の広場に出た直後、後ろから何かが当たり、俺は…俺の頭は、噴水の縁の角にぶつかり…『死亡』って文字が大きく赤い色で表示された。文字のバックには、黒い装備を纏った少女が、驚いたような表情をして俺に手を伸ばしていた。開始直後に死亡?あり得ない…対人戦扱いだったのか?

 

デスペナで直ぐに再ログインは出来無いようで、しばらくするとログイン出来た。活気あふれる城下町の広場の噴水前に出現した俺。

 

「ごめんなさい…」

 

いきなり俺に謝る少女。

 

「まさか、当たっただけで、死んじゃうとは…本当にごめんなさい」

 

先ほど、俺を瞬殺した少女だった。

 

「いや、防御力ゼロだったから…開始直後で避けられなかったよ」

 

「そうなんですか…あの~、フレンド登録しませんか?何かあれば、お手伝いします」

 

その少女とフレンド登録した。彼女の名前はメイプル。有名人だと気づいたのは、後になってからだった。

 

「初心者は、どこで鍛えるのかな?」

 

「あぁ、それなら、街の外へ行けば、モンスターがいますよ」

 

少し情報を収集してメイプルと別れた。また、死んでも困るので、人混みである広場から逃げてから、ステイタスをチェックしてみた。

 

ダン

Lv1

HP 40/40

MP 12/12

 

【STR 60〈+20〉】

【VIT 0】

【AGI 20】

【DEX 20】

【INT 0】

【LUK +100】

 

装備

頭 【空欄】

体 【空欄】

右手 【メリケンサック】

左手 【メリケンサック】

足 【空欄】

靴 【空欄】

装飾品 【空欄】

【空欄】

【空欄】

 

スキル

【復讐者】【運の付き】

 

 

うん?スキルを覚えている。スキルの説明を見てみると、

 

【復讐者】

自分を殺した相手の一番大きな値のステイタスを無効に出来る。今回の対象はVIT。

取得条件:モンスターと戦う前、プレイヤーにデスされた。

 

今後、相手の防御力無効で攻撃出来るのか?それは、お得感がある。防振りしている相手であれば、無敵である。

 

【運の付き】

隠れステイタスのLUKに+100を付与する。このステイタスはクリティカルヒットや、様々な確率に関わる。

取得条件:奇遇にも、初期設定を終えた直後10秒以内に、何らかの理由でデスした

 

なんか、良いモノを貰った。あの少女に感謝だな。

 

 

街の外に出た。前から目付きの悪そうな男がやってきた。PKか?近づくと剣を抜き、襲い掛かって来た。かすっただけで死ぬと思う。あぁ、防具を買うのを忘れた。相手の太刀筋を避け、クロスカウンター気味に、パンチを叩き込んだ。アバターがドット欠けてしていく相手。

 

画面に何かがポップアップしてきた。新しいスキルを取得出来たようだ。

 

【返り討ち】

効果:自分よりも上のレベルの者の攻撃をフルカウンターできる。確率は50%。

取得条件:自分よりも10以上レベルが上の者を一撃でデスさせる。

 

なんか、防御力無くても行けそうな気分だ。PK専も有りなスキルが増えていく。森エリアに入ると、モンスターらしき気配を感じる。攻撃を食らったらアウトである。と、思っていると死んでいた。背後から何かが当たったようだ。

 

めげずに再度ログインをした。既に見慣れた光景が目の前に広がっていく。活気あふれる城下町の広場の噴水前に出現した俺。ログイン後はここが起点になるんだな。そうだ、装備を調えよう。もう、噴水の縁で死にたくは無いから。

 

しかし、まだモンスターを倒していない俺には、ドロップアイテムはゲットしていない。所持金はほぼ、初期値のままだ。まだまだ高価な装備品は無理である。所持金と相談して買ったのは、鉢巻(VIT+5)、道着上下(VIT+10)、草履(VIT+1)だ。これで、森の中でも一撃では死なないだろう。

 

今回はPKを挑まれる事無く、森に到着した。森に踏み込むと直ぐに、草むらから一角兎が現れた。コイツかな?さっき、背中にドン!してくれたのは?襲い掛かって来た兎をパンチで倒した。コイツのドロップアイテムは角だった。

 

『レベルが2に上がりました』

 

と表示された。そんなに、コイツ経験値が多いのか?兎狩りをするか。兎を見つけては倒し、ドロップした角を拾い集めていく。ふと、気づいた。レベルが上がったら、ステイタスポイントは貰えるのでは、っと。ステイタス画面を見るとLv3になっていた。振り分けられるポイントは10あった。レベルアップごとに5貰えるようだ。これを3:1:1の割合で振り分けた。

 

兎狩りをしていると、足に痛みが走った。HPバーが減っている。毒状態になっているし。足に絡み突く大ムカデがいた。パンチやチョップを繰り出すが、コイツの体表を傷つけることが出来無いようだ。しまった。護身用にナイフがいるのか。そんなことを考えていた俺は、呆気なく毒に犯されて死んだ。

 

再度ログインし、街で角を売り払い、護身用にナイフ(STR+5)を買った。だけど、残念な事に装備出来無かった。そうか、メリケンサックは左右で1組、両手剣扱いになるのか。大ムカデ対策はどうするべきだ?

 

考えても良い手が浮かばず、再度、森の中で兎狩りを始めた。地面に注意しながら、兎を狩っていると、大きな羽音がして、肩に痛みが走った。今度は巨大な蜂のようだ。さっきよりもHPの減りが大きい上、また毒状態である。だが、蜂にはパンチが効いた。蜂を倒すと、解毒薬をドロップしてくれた。コレを飲んで、毒状態を解除した。HPの減りが問題である。どうするよ…って…気づくと死んでいた。戦闘ログを見ると、大ムカデによる毒殺のようだ。回復薬が要るなぁ、これは…

 

噴水前にログインした。もう、お馴染みな光景である。何度、再ログインしたやら…そう嘆いていると、「スキル【不屈な精神】をゲットしました。」と表示された。説明を読むと

 

【不屈な精神】

死ぬ度に、ステイタスの各値が10%増しになる。

取得条件:始めた日限定でデスペナしての30回以上のログイン。

 

そんなにログインしたのか。もう30回も死んでいるってことである。が、このスキルは美味しい。いつか、勝てる可能性があるってことだよな。大ムカデのヤツに。ふふふ…【不屈な精神】を得てから5回目の死で、キックでなら大ムカデを殺せるようになった。

 

後は、毒対策と、HP回復だな。お店でヒールの巻物を買って、ヒールを覚えるのも良いが、MPが低いよな?さて、どうするか。懲りずに森に来て、蜂退治を始めた。ダメージを負わずに倒せる兎と大ムカデは見つけ次第、倒す。蜂と戦っている時、出てこられると厄介であるからだ。

 

翌日、前日に拾えたドロップアイテムを総て売り、解毒剤を買えるだけ買い、蜂狩りを開始した。一体何匹の蜂を倒しただろか?そんなことを思っていると、『スキル【毒体質】を覚えました』と表示された。説明を読もう。

 

【毒体質】

毒無効、麻痺無効の体質になる。

取得条件:解毒剤を36時間以内で100本飲むこと。

 

おぉ~!解毒剤はもう飲まないで良いみたいだ。これで、死ぬ可能性は減るな。

 

 




ダン
Lv10
HP 182/182
MP 36/36

【STR 129〈+20〉】
【VIT 0(+16)】
【AGI 41】
【DEX 41】
【INT 0】
【LUK +100】

装備
頭 【鉢巻(VIT+5)】
体 【道着上(VIT+5)】
右手 【メリケンサック(STR+10)】
左手 【メリケンサック(STR+10)】
足 【道着下(VIT+5)】
靴 【草履(VIT+1)】
装飾品 【空欄】
【空欄】
【空欄】


スキル
【復讐者】【運の付き】【返り討ち】【不屈な精神】【毒体質】



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第一回イベント

メイプルに質問をした。どうすれば、お金を掛けずにHP回復出来るかをだ。しばらく、蜂を狩っていると、返信が来た。

 

『【瞑想】

使用すると、十秒で最大HPの1%HPを回復する。効果持続時間は十分。消費MPなし。

【瞑想】時にはあらゆる攻撃行動を取れなくなる。

取得条件:あらゆる苦痛にも集中を切らさず三時間瞑想すること。』

 

うん?防御力無い俺には、無理っぽである。あらゆる苦痛を三時間…たぶん、10分保たないだろうな。ヒールの巻物を買うかな。って、考えていると、今までに聞いたことの無い大きな羽音が聞こえて来た。

 

い、い、いつもの蜂よりも巨大な蜂が、そこにいた。女王蜂か?俺に襲い掛かってきた巨大な蜂。大きな針を避けてのクロスカウンター…『クリティカルヒットが発生しました』と、表示され、巨大な蜂が消えていく。一撃で倒せたようだ。良かった。

 

『スキル【大物喰らい】を取得しました』『レベルが11に上がりました』と立て続けに表示された。

 

ポン!と音を立てて、蜂の巣が目の前に現れた。蜂蜜がたっぷり詰まっている。美味しそうである。試しに囓ってみると、上品な甘みを感じ完食してしまった。途中でグミみたいな食感があったが、あれって、蜂の子かな?

 

『スキル【蜂の一刺し】を取得しました』

 

あれ?後出しスキル?もしかして、蜂の子を食べたからかな?スキルの説明を見る。

 

【大物喰らい】

HP、MP以外のステータスのうち四つ以上が戦闘相手よりも低い値の時にHP、MP以外のステータスが二倍になる。

取得条件:HP、MP以外のステータスのうち、四つ以上が戦闘相手であるモンスターの半分以下のプレイヤーが、単独で対象のモンスターを討伐すること。

 

【蜂の一刺し】

相手の急所への攻撃が放てる。確率は50%。

取得条件:蜂の子を50匹以上食べる。

 

【大物喰らい】は、難しいかな。四つ以上低い時って、ボス戦だろうし…倍になっても勝てる気がしない。寧ろ、【蜂の一刺し】に期待だな。

 

問題はソロなので、このステイタスが低いのか標準なのか、分からないことか?もっと、鍛えないとダメかな?

 

メイプルからダンジョンの情報を貰った。【毒竜の迷宮】ってダンジョンだそうだ。毒なら問題は無いが…打撃攻撃はマズイよな?拳と脚が武器の俺。攻撃レンジが極端に短いのが難点である。相手の懐に入り、連打をしていけば、短時間で勝てそうなスキルはあるけど…回復薬を大量に買っていくか。まず、購入資金だな。兎と蜂を中心にドロップアイテムをゲットしに行く。

 

翌日…ダンジョンへと向かう。ダンジョン内には、毒系のモンスターばかりのようだ。攻撃を貰うと、毒は貰わないが、確実にダメージが入って行く。まぁ、死んでも、繰り返していれば、そのうち勝てるのかな?と、軽い気持ちでボスの部屋に入った。

 

そこには三つ首のドラゴンみたいなのがいた。全身紫色であり、いかにも毒ってイメージである。攻撃はかわせない速度ではない。懐に入り込んで、連打を撃ち込んで行くと、三つ首のドラゴンは消えた。

 

良かった、勝てて。その上、『レベルが18に上がりました』と表示された。ドロップは何だろうと、視線を下げると、ドラゴンのいた場所には、宝箱が出現していた。ミミック系かな?開けたら、いきなり即死系の魔法を掛けられたり?俺、魔法防御出来無い予感がするのだが。相手が俺よりレベルが高ければ、フルカウンターで防げるけど…

 

宝箱を開けると、装飾品があった。これは何だ?

 

『惨劇の指輪』

嵌めた者の攻撃は、相手の装備を破壊出来る。但し、不壊装備は除く。

スキルスロット空欄

 

う~ん、既に防御力無視攻撃出来るので、微妙であるが、パーティーを組んだ時には有用かな。取り敢えず、ナックルの下に嵌めておく。まぁ、相手に精神的ダメージを与えられるかもしれない。

 

スキルスロットって何だろうか?アクティブスキルを設定出来るのかな?これも微妙である。俺のスキルって、パッシブばかりだし。

 

翌日、ログインをすると、イベントのお知らせに気づいた。どうやら、PK戦のようだ。これで、自分の成長具合を確かめられるな。イベント内容は、ポイント制のバトルロワイヤルで、参加者全員が、他のプレイヤーを倒した数と死亡回数で争う。与ダメージや被ダメージもポイント加算の元になるようだ。倒した数から死亡回数を引かれるのかな?

 

防御力に不安が一杯であるが、装備を一新するほどの備蓄はない。あの毒竜を倒しに行くのに、有り金を回復薬にしてしまったからだ。困ったなぁ…毒竜で周回プレイでもするかな。あれが、俺にとって、一番効率の良い敵であるから。問題は、イベントが明日ってことだ。なんで、もっと早く気づかなかったんだ、俺…

 

そうだ、フルカウンター狙いも有りだな。俺よりもレベルが低そうなヤツだけ倒して…

 

 

そしてイベント当日を迎えた。あの黒い弾丸に一矢報いたい。イベントフィールドにはランダムで飛ばされるそうで、メイプルの傍とは限らない。現在の俺のステイタスは、

 

ダン

Lv20

HP 468/468

MP 86/86

 

【STR 171〈+20〉】

【VIT 0(+16)】

【AGI 55】

【DEX 55】

【INT 0】

【LUK +100】

 

装備

頭 【鉢巻(VIT+5)】

体 【道着上(VIT+5)】

右手 【メリケンサック(STR+10)】

左手 【メリケンサック(STR+10)】

足 【道着下(VIT+5)】

靴 【草履(VIT+1)】

装飾品 【惨劇の指輪】

【空欄】

【空欄】

 

 

スキル

【復讐者】【運の付き】【返り討ち】【不屈な精神】【毒体質】【大物食らい】【蜂の一刺し】【超加速】

 

魔法

『ヒール』

 

である。どうにかなるのか?不安の中、イベントがスタートした。

 

やはり、装備品を破壊されるって、精神ダメージがデカイようだ。驚いた表情を浮かべ、出来た相手の隙を狙い、懐に入ってからの連打を撃ち込み、撃破していく。

 

避けられる攻撃は避けていく。ダメそうな場合は、極力ダメージを少なくしていく。ダメそうな場合の半分はフルカウンターで相手にダメージが向かう。なので、被弾数は半分に減る。あくまで、確率であるから、信用せずに、避けていく。

 

乱戦模様の現場に切り込み、次々に撃破していく。HPが50を切ったら、ヒールをしていく。死に過ぎた故の副産物、次喰らったらマズイって感覚が、俺に芽生えていた。感覚を信じ、ヒールを掛けていく。

 

目の前に毒のエリアが現れた。ふと、視線を上げると、テラスのような場所にメイプルを見つけた。さて、行くか…

 

残り時間が後一時間になると、大音響で運営からのアナウンスが流れた。

 

「現在の一位はペインさん、二位はドレッドさん、三位はメイプルさんです!これから一時間上位三名を倒した際、得点の三割が譲渡されます!三人の位置はマップに表示されています!それでは最後まで頑張って下さい!」

 

マップなんて機能があったのか?う~ん、知らなかった。マップで確認すると、上にいるのはメイプルのようで、次々に俺を追い抜いて、メイプルへと向かっていく者多数。中には俺に攻撃してくるヤツがいるが、返り討ちにしていく。待っていろよ、メイプル…

 

漸く、メイプルの姿を確認出来る場所に着いた。俺はメイプルの光景に固まった。アイツの盾は人を食っていた。あの毒竜を召喚できるようで、毒竜が毒を吐き、メイプルを中心に毒の浅瀬になっていたのだった。

 

「メイプル…」

 

「あっ!ダンさん…」

 

あの盾はヤバい。破壊は出来るが、触れれば喰われそうだ。どうすれば良い?

 

「ダンさんも、毒は無効なんですね。【パラライズシャウト】!」

 

麻痺系か?俺には効かぬ。

 

「うっ!これは強敵ですね。毒も麻痺も効かないなんて」

 

笑顔のメイプル。このゲームを楽しんでいるようだ。盾以外を破壊すればいいのか?走り出して、盾に触れないように、背中側に回り込み、背中に打撃を喰らわせた。メイプルの鎧は破壊されたが、一瞬で元に戻っている。破壊不能ってことか?だけど、目の前のメープルはドット落ちしていく。

 

「スゴイです、ダンさん。私に攻撃を入れられるなんて…」

 

俺の目の前で、笑顔のメイプルが消えていった。

 

 

「終了!結果、一位と二位の順位変動はありませんでしたが、三位にはダンさんが入りました。それではこれから表彰式に移ります!」

 

メイプルを下したことで、俺は三位に入れた。ゲーム終了と同時に、俺は広場にある壇上にいた。

 

「次は、ダンさんです!一言どうぞ!」

 

マイクが俺の前に来た。

 

「死なないで良かった…」

 

俺の心からの感想である。あそこでメイプルに負ければ、入賞は無かったかもしれない。

 

「おめでとうございます、ダンさん。私も十位に入賞出来ました」

 

壇上から降りると、笑顔のメイプルに迎えられた。この子、本当に良い子だな。出会いは最悪であったけど…

 

 

【NWO】ダークホースのダンの謎【考察】

 

1名前:名無しの槍使い

スレ立てたぞっと

 

2名前:名無しの大剣使い

おつ

 

ここでの議題は、我らがメイプルちゃんを倒したダンについてだ

 

3名前:名無しの魔法使い

アイツ、何者だ?これまで、話題になったことがないぞ

 

4名前:名無しの槍使い

序盤、まったく映っていなかったし

 

5名前:名無しの弓使い

どこから湧いたんだ?

 

6名前:名無しの大盾使い

あっ因みに俺は九位でした

 

あのメイプルちゃんより上って、複雑です

 

7名前:名無しの槍使い

流石だな

 

8名前:名無しの大剣使い

それでは今回のメイプルちゃんのまとめだ

 

第一回イベント

メイプル十位

 

死亡回数1

被ダメージ40

撃破数919

 

装備は敵を飲み込む謎の大盾とアホみたいな状態異常魔法を発生させる短刀と黒い鎧。

黒い鎧は異常性能を発揮していないように思われる

異常なまでの防御力で魔法使い四十人からの集中砲火をノーダメで受けきる

 

それに対してダンなのだが、三位で、死亡回数0、問題は被ダメージが1万を超えているんだが…

コイツVIT0じゃないのか?STRに極振りとか

 

9名前:名無しの魔法使い

あぁ、メイプルちゃんを一撃で屠るって…

 

10名前:名無しの大盾使い

被ダメージ40が被ダメージ1万超えに負けるとは…

ダンのステに興味があるな

流石にHPが1万超えってことは無いと思うが…

 

11名前:名無しの大剣使い

歩く要塞をワンパンだぞ。異常すぎる攻撃力だな

 

マジで

 

12名前:名無しの弓使い

アイツの映っているのって、メイプルちゃんとの一戦だけだし

情報が少なすぎるな

 

13名前:名無しの大盾使い

問題は、アイツ、メイプルちゃんとフレンド登録しているみたいなんだ

パーティーイベントで、アノ二人が組むの見たいが、戦いたくは無いな…

 

 




ダン
Lv20
HP 468/468
MP 86/86

【STR 171〈+20〉】
【VIT 0(+16)】
【AGI 55】
【DEX 55】
【INT 0】
【LUK +100】

装備
頭 【鉢巻(VIT+5)】
体 【道着上(VIT+5)】
右手 【メリケンサック(STR+10)】
左手 【メリケンサック(STR+10)】
足 【道着下(VIT+5)】
靴 【草履(VIT+1)】
装飾品 【惨劇の指輪】
【空欄】
【空欄】


スキル
【復讐者】【運の付き】【返り討ち】【不屈な精神】【毒体質】【大物食らい】【蜂の一刺し】【超加速】

魔法
『ヒール』


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

パーティー戦に向けて

 

第一回イベントが終わった翌日、ログインをした。アバターがデフォの為か、俺はモブとしてそこにいた。メイプルに勝てたのは、運が良かっただけと、納得している。メイプルから聞いた城塞のような防御力。相手の防御力無視で戦える俺だから、勝てたようなもので、逆に言えば、俺はメイプル以外の強敵相手だと、勝て無いと言うことだ。

 

即死系のスキルは確率性が問題である。さて、どうしたものか?

 

毒竜相手に経験値を稼いでいく。周回プレイである。ただ、レベルが上がり、AGIが上がると、攻撃を避けやすくなっていく。そして、レベル25に達した時、新たなスキルを覚えた。

 

【32連打】

一発のパンチで、32連続のパンチが放てる。クールタイムは5分

取得条件:ゲームを開始してから、累計1万発パンチを繰り出す

 

これは便利である。流石に32発放てば、クリティカルも出るだろうし、即死系の一発も出ると思う。なんせ、確率が50%だから。試しに毒竜に叩き込んでみた。一撃で倒れた毒竜。これは使える。試しに森で見つけた赤い大盾の人に放つと、やはり一撃で倒せた。と言っても5発目で当たりが出たようだ。対人戦だと、確率が悪いのか?もしかして、相手は確率変動系の防具持ちがいたりするのか?検証が必要であるな。

 

ゲーム配信から3ヶ月目になると、大型アップデートが行われると告示があった。新階層の実装のようだ。新階層の実装に向けて、装備やアイテムを置いている店を回って、欲しい物の見積もりのメモを取っていく。今は、お金が回復薬でもMP回復薬を買いだめているので、備蓄ゼロである。なので、これから稼ぐ額の総計を出し、節約プレイをしようと言う訳だ。

 

そんな最中、メイプルに呼び出された。釣り竿を持参で、街の南にある地底湖に来て欲しいと…地底湖?そんな場所があったのか。釣り竿を買い、言われた場所へ向かい、メイプルと合流した。

 

魚を釣って欲しいと頼まれた。DEX0だと、釣りの効率が悪いそうだ。メイプルの目当ては、釣り上げた魚のドロップアイテムだと言う。

 

「狙う魚は雪のように白く、硬質な鱗を持つ魚です。群れで行動していて、群れのボスは、水に溶け込むような青色だそうです」

 

試しに釣り糸を湖に投げ込むと直ぐに一匹目が掛かった。釣り上げてみると、水に溶け込む様な蒼い魚だった。

 

「しゅごい…いきなりボスを釣り上げますか?」

 

ボスがドロップしたのは宝箱だった。箱を開けると、装備が入っていた。

 

「あっ、これ、ユニークシリーズですよ」

 

メイプルの説明によると、ユニークシリーズとは、単独で尚且つボスを初回戦闘で撃破し、ダンジョンを攻略した者に贈られる攻略者だけの為の唯一無二の装備だそうだ。いきなりボスを釣り上げたのが良かったのか?一つのダンジョンに一つきりしか出ないレア物で、取得した者はこの装備を譲渡出来ないそうだ。一生物の装備なのか?装備を見ていく。

 

今回の取得条件は、初めての釣りで、あの蒼いボスを釣り上げることのようだ。

 

『蒼き竜騎士のヘッドガード』

【INT +20】

【破壊不可 雷撃無効】

スキルスロット空欄

 

『蒼き竜騎士の鎧』

【VIT +25】

【破壊不可 ブレス無効】

スキルスロット空欄

 

『蒼き竜の爪』

【STR +30】

【破壊不可 呪い無効】

スキルスロット【ホーリークロウ】聖属性攻撃が出来ます。パッシブです。魔属性、闇属性の敵に対して威力は倍になる

 

『蒼き竜の翼』

【VIT +20】

【破壊不可、飛行可能】

スキルスロット空欄

 

『蒼き竜騎士の脚』

【VIT +25】

【破壊不可 AGI+50】

スキルスロット空欄

 

『蒼き竜騎士のブーツ』

【VIT +25】

【破壊不可 地形ハンデ無効】

スキルスロット空欄

 

 

魚なのにドラゴン?これはコ●キングが進化するとドラゴンになるような物か?全般的にお得感があるが、【ホーリークロウ】は、少し厄介である。聖属性の相手には威力が半減しそうである。何よりも、この装備は目立つ気がする。俺ってバレるだろうに。

 

「スゴイですね。かっこいいですよ」

 

装備してみた。目立つ…あっ!副賞でメイプルの希望品が100枚付いて来た。

 

「じゃ、これ、メイプルの取り分な」

 

「ありがとうございます。困った時には、いつでも相談に乗りますから」

 

なんか、メイプルが絡むと良い方向に進むような気がしてきた。街への帰路、メイプルを背負ってダッシュした。力も増え、素早さも増したので、メイプルを背負っても、問題無いレベルで街に着いた。問題があるとすれば、俺の背中でメイプルが、ヨダレを垂らして寝ていたことか?

 

「だって…ダンさんの背中は心地よかったんですよ」

 

って…だが、一番の問題は、漆黒の装備のメイプルと、蒼き装備の俺が並んでいると注目の的で、目立ち過ぎることだな。普段は初期装備にするかな。

 

「今日はありがとうございました。1日で素材が集まりましたよ」

 

大喜びしているメイプル。

 

「なぁ、あれって、麻痺させて、浮いてきた処を網で掬えば、メイプルでも大漁だったんじゃ」

 

「あっ、あぅ…」

 

俺の閃きでメイプルが撃沈してしまった。

 

 

翌日も、メイプルに呼び出された。リア友がゲームを始めたので、紹介してくれると言う。指定された宿へと向かった。

 

宿にはメイプルより歳上に見えるアバター、サリーがいた。

 

「ねぇ、二人共化け物クラスだよ」

 

三人でステイタスの見比べをしていて、サリーが笑って、そういった。

 

「ダンさん、攻略サイトを見ていないんですか?」

 

攻略サイト?そんなのが有るのか?

 

「見ていません…」

 

もっと、効率良くプレイ出来たのかあぁぁぁぁ~!

 

「攻略サイトの掲示板で、二人とも有名人ですよ。要塞メイプル、レールガンのダンってね」

 

俺とメイプルが凹んだ。俺もメイプルも、モブとしてプレイしていたのだった。

 

「モブ?あり得ないでしょ?あのイベントの衝撃的シーン、ネットで拡散していますし」

 

そのシーンとは、俺が3位のメイプルを10位に落としたシーンだそうだ。

 

「鉄壁のメイプルが一撃で即死って、あれって、頂上対決でしょ?」

 

散々弄られた後、サリーのレベル上げに協力をした。盾のメイプル、遊撃の俺が組むと、どんな敵でも行けそうな上、サリーの戦闘能力がすごかった。サリーの回避力がハンパ無い。俺の攻撃が中々当たらないし。いや、当てるのは大人げ無いか。擦っただけで、殺しちゃいそうなステイタスであるものな。

 

「でも、無敵のパーティーになりそうね。回避盾の私、要塞のメイプルがいて、攻撃にレールガンがいるし」

 

俺は、メイプル達のパーティー構想に入っていた。たまにはパーティープレイも良いかな?どうせ、イベントだけだしな。ただ、レールガンと言われるには攻撃レンジがショート過ぎるな。今後の課題か。

 

 

もう、1階層のモンスターを倒しても、レベルが上がらない。狩り場が悪いのか?実装されたばかりの2層目へ向かった。初期装備で…蒼きシリーズは、イベントまで封印だな。目立ち過ぎる。PKがしづらい。

 

メイプル達が2階層に来たのは、イベントの2週間前だった。

 

「ダンさん、一人でアレを超えたの?」

 

階層ボスのことかな??

 

「そうだよ。だから、ここにいるんだ。あぁ、ソロで初戦で勝利だったせいか、またユニーク装備が貰えたよ」

 

二人に俺のステイタスを見せた。新装備セットは、蒼きシリーズの方が上のようなので、しばらくはお蔵入りである。

 

「一段と化け物化が進んでいますね」

 

サリーのコメントは辛口である。

 

「ダンさんは、ステイタス外の強さが怖いですよ」

 

【蜂の一刺し】のことだろうか?まぁ、STRが1でも結果は同じだしな。問題は防御だな。フルカウンターが発動した敵は、危険だってことだし。特にロングレンジ攻撃持ちの敵は課題である。

 

「防御に不安があるけど、盾役が2枚いるから、問題は少ないか?」

 

「ですね。私達は、ダンさんの攻撃力に賭けてますから」

 

「しかし、死ぬ度にステイタスが増えるのは脅威ですよね」

 

確かに。何度も死んだおかげで、ここまでのステイタスになっている。

 

 

翌日、メンテナンスだった。ログイン出来無いのか…パーティーとしての連携の練習しようとしていたのに。しかし、そのメンテナンスは、寝耳に水の結果をまき散らすことになった。

 

翌日、メンテ明けでログインすると、メイプルの口から恨み節が湧き出てきた。

 

「ダンさん聞いて下さい。防御力貫通攻撃スキルの実装…私の優位性が失われた感じです」

 

これは、運営による、化け物退治だろうか?スキルの修正…メイプルの【悪食】に回数制限が付いた。出る杭は打たれるのだ。

 

「で、ダンさんのスキルは制限無しですか?」

 

「俺のは確率で発動だからじゃないの?毎回発動する訳でも無いし、32連打はクールタイムがあるし」

 

それに対し、メイプルの方は、今まで無制限だったからなぁ~。

 

努力もした。俺は運営の目に目立たないように、プレイしてきた。こうなることは良くあることだ。それに、俺のスキルは制限付きの物ばかりである。無制限な物は、極力使わないようにしているし。もしかしたら、メイプルキラーとして、運営は俺をキープしたいのかもしれない。

 

 

「まぁ、貫通攻撃だけが問題だな。喰らえば、俺は勿論、メイプルも危ないし」

 

「このゲーム、プレイヤースキルが有効なのは、ラッキーだよ」

 

と、サリーはニヤリと笑った。プレイヤースキルとは、プレイヤーがリアルで持っているスキルのことである。例えば、リアルで柔道を習っていた場合、ゲーム内でも柔道の技が使えたり、シューティングゲームが得意ならば、回避力があったりだな。

 

「ダンさんは、どんなプレイヤースキルをお持ちなんですか?」

 

メイプルに訊かれた。

 

「俺は、柔道、空手、剣道だな。だから、使おうと思えば、剣や刀も使えるのだが、爪装備時には、刀剣類は握れなかった」

 

実験済みである。だが、PKで柔道の極め技で、相手を殺すことが出来た。

 

「う~ん…私は何も出来ないなぁ」

 

凹むメイプル。

 

「足り無い部分は、皆で補えば良いだろ?それがパーティープレイだと思う」

 

「ですね」

 

俺の意見にサリーが同意してくれた。それからの1週間は、仲間の足り無い処を補う連携プレイを確認し、残りの1週間は、おのおのスキル探しに出た。

 

 

翌日から、俺は、ある人物をPKで狙い続けた。炎の魔法を駆使する女である。俺よりもレベルが上な為、フルカウンターが起動するが、相手にダメージが入らない。勿論、フルカウンターが起動しない場合、俺は瀕死状態に陥る。何よりも厄介なのは、相手の攻撃がロングレンジであることだ。懐に入りきる前に、全身火だるまになってしまう。どうすれば、勝てるんだ?

 

蒼きシリーズを装備すれば、勝てるかもしれないが、あれはイベント専用である。俺がそう決めた。普段から、アレを装備していると、目立ってしまうし。

 

もう1つ厄介なのは、相手がトドメを刺してくれないことだ。俺の特性に気づかれたのか?瀕死状態では、パラメーターが上がらないのに…だが、新スキルは習得出来た。

 

【爆炎の守護者】

爆発系、炎系の攻撃を無効にできるパッシブスキルである。

取得条件:爆発系、炎系の攻撃で瀕死状態を100回経験する

 

俺は100回も瀕死状態にされたのか?まぁ、これでPKを完遂できるな。

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第二回イベント

もうすぐ、第二回イベントがスタートする。サリーもメイプルも気合い充分なようだ。

 

「ダンさん、なんでカバームーブを覚えたのですか?」

 

サリーからもっともな質問を受けた。このパーティーの不動な盾役には、メイプルが居る訳だが、

 

「貫通攻撃対策だよ。俺がメイプルを貫通攻撃から守る為だ」

 

俺のHPなら単発の貫通攻撃を食らっても、瀕死になる程度である。だが、メイプルはその単発攻撃でも危険になる。絶対的な防御力の為か、HPの値が低いのだった。下手すると即死もあり得るし。

 

「なるほどね。で、レベルが上がっていないのに、パラメーターが上がったのは?」

 

「まぁ、何回か、殺されたからだな」

 

死ぬと、各パラメーターの値が10%増しになる、チートなスキル。

 

「レベルを上げるより、手軽だし」

 

「上位陣にPKしたんですか?」

 

「炎帝のミィには、何度も瀕死にされたよ。聖剣のフレデリカには数回返り討ちに遭ったというか」

 

魔法使い系の駆逐が課題だな。

 

「スラッシュは?」

 

「購入費がなかったよ。対人戦はドロップが期待出来無いからさぁ」

 

実際の要因は、回復薬の大量購入である。メイプルを護るって、瀕死になるって事に近い。その為の回復薬である。

 

「今回のイベントは探索型です!目玉は転移先のフィールドに散らばる三百枚の銀のメダルです!これを十枚集めることで金のメダルに、金のメダルはイベント終了後スキルや装備品に交換出来ます!」

 

運営の声が広場に響き渡った。いよいよ開始のようだ。

 

「前回イベント十位以内の方は金のメダルを既に一枚所持しています!倒して奪い取るもよし、我関せずと探索に励むもよしです!」

 

俺とメイプルは狙われる対象ってことだな。まぁ、俺は面が割れていないと思うが…

 

「死亡しても落とすのは、メダルだけです!装備品は落とさないので、安心して下さい!メダルを落とすのは、プレイヤーに倒された時のみです。安心して探索に励んで下さい!死亡後はそれぞれの転移時初期地点にリスポーンします!」

 

リスポーンするのは初期地点か。そうなると、ボスクラスとの戦闘は、迂闊に死ねないなぁ。

 

「今回の期間はゲーム内期間で一週間、ゲーム外での時間経過は、時間を加速させている為、たった二時間です!フィールド内には、モンスターの来ないポイントが幾つもありますので、それを活用して下さい!」

 

2時間で一週間?リアル生活で時差ボケしそうだな。

 

運営からの説明が終わると、初期地点に転移した…

 

 

「三人分のメダルが取れるといいな」

 

三人分だとメダル30枚もゲットしないとダメだ。

 

「メイプル、大丈夫よ。私とダンさんがいるから」

 

サリーに期待されている俺。周囲を見回すと草原のど真ん中に転移したようだ。見回す限り、モンスターもプレイヤーも見当たらない。空の上には浮遊島や優雅に飛行するドラゴンなどが見える。

 

「どっちへ行く?」

 

「取り敢えず、あの山を目指しましょう」

 

俺の問いに、メイプルが山を指差し答えた。俺は迷わず、メイプルを背負った。

 

「ちょっと…恥ずかしいですよ~」

 

メイプルの言葉をスルーし、

 

「このまま、走るよ」

 

「了解」

 

サリーが俺の横で併走した。メイプルの徒歩の速度だと、あまり移動出来無い可能性がある。既に俺の耳元で、メイプルの寝息が聞こえる。ヨダレはカンベンだぞ。

 

しばらく走ると、ゴブリン達が寄ってきた。だが、サリーのナイフの肥やしにされていく。相変わらず、攻撃を華麗に回避していくサリー。俺は、山に向かって走り続けている。サリーがゴブリンに遅れを取るとは思えないからだ。

 

が、メイプルを背負ったまま、落とし穴に落ちた俺。しかし、ケガの功名なのか、落ちた穴の底で、メダルを2枚ゲットした。こういった小規模なイベントは、参加人数分のコインが貰えるのか?落とし穴に落ちたと言うのに、俺の背中で安眠しているメイプル。大物である。

 

「こいつ、大物か?天然なのか?」

 

「メイプルは天然だよ」

 

俺の独り言に、返答してきたサリー。その後、一時間も走ると、山の麓にまで来られた。

 

「あぁ~!よく寝た」

 

メイプルが起きた。今回はヨダレは無かったが、寝言が多数聞こえた。

 

「山道は歩いてくれ」

 

「うん」

 

背負っても良かったのだが、普段の装備だと、地形ハンデがデカイのだ。これから、登山するのだが、足場が草原に比べ遙かに悪いのだ。俺の防御力だと、もしがあるかもしれない。なんせ、噴水の縁に頭が当たり、死んだ事があるし。

 

「後ろから来る三人組に注意して」

 

サリーが危険を探知したようだ。メイプルが緊張感を感じさせない欠伸をすると、後方の三人が動いた。

 

「「【超加速】」」

 

同時に加速した俺とサリーが、瞬殺で三人を迎撃した。

 

「序盤だから、メダルは無いわね」

 

メイプルは囮役。が、演じている訳でなく、素だとサリーが教えてくれた。

 

「メイプルはランカーだから、狙って来るはずよ。ダンさんは、どこにでも居る顔だからねぇ~」

 

デフォルトのアバターだから、狙われない。装備もほぼ初期装備だし。

 

頂上に着くまでに、数回襲われるが、総て返り討ちにした。が、メダルは無い。

 

「よっと、やっと頂上だね~」

 

頂上には祠があり、転移陣が発光していた。クエストの入り口だろうか?

 

「後方から4人組」

 

サリーの言葉。俺とサリーが身構える。

 

「あっ!クロムさんだぁ~」

 

メイプルが、やってきたパーティーへ、無警戒で近づいて行く。あっ!あの赤い大盾持ち…以前、PKでデスさせている。

 

「おぉ~、メイプルか。おっと、俺達に戦意は無いぞ」

 

俺とサリーの様子に気が付き、四人は得物から手を放した。

 

「彼女が噂のサリーちゃん?」

 

「そうです」

 

メイプルがクロムと仲良さげに会話していた。

 

「彼は、新人さん?」

 

「ダンさんですよ~」

 

「え…あのレールガン?」

 

だから、攻撃レンジは短いんだよ。

 

「メイプルとレールガンが手を組んだのか?戦いたく無いな」

 

クロムというプレイヤーは、俺がPKだとは気づいていないようだ。

 

「それで…この祠はどうするの?どっちかしか報酬は貰えないんじゃない?」

 

サリーがメイプルに訊いた。コイツらなら、瞬殺で倒せそうだな。

 

「ダンさん、サリー…いいかな?」

 

何かを強請るような表情のメイプルに、サリーと俺が頷いた。メイプルはクロム達に譲りたいようだ。

 

「クロムさん、お先にどうぞ」

 

「いいのか?こういうのは、早い者勝ちだぞ」

 

もし、転移した直後に、コイツらが瞬殺されれば、お宝有りだな。俺の導きだした腹黒い考え。が、メイプルは、素で譲ったんだろうな。

 

「じゃ、先に行くよ」

 

クロム達が転移されて行き、しばらくすると、転移陣が再度光を帯びた。

 

「サリー、当たりのようだな」

 

「そうですね。お宝に期待かな」

 

「え?どういうこと?」

 

メイプルだけ、分かっていないようだ。

 

「取り敢えず思い着くのは二つだ。一つは転移後に、装備やメダルを回収するだけだったから、速攻で終わったっていう可能性。だけど、この場合、再転移はあり得ない。同じ場所にメダルなどを、運営が置くとは思えない。そして、もう一つは、アイツらを瞬殺するレベルの敵がいたってことだ」

 

「そうなんだ…」

 

メイプルが納得したようだ。俺は、戦闘に向かう前に、装備を蒼きシリーズに変えた。なんか、ヤバそうな敵がいる予感である。

 

「準備はいいかな?」

 

それぞれのステイタスをチェックしておく。

 

 

メイプル

Lv24

HP 40/40〈+160〉

MP 12/12 〈+10〉

 

【STR 0】

【VIT 170〈+81〉】

【AGI 0】

【DEX 0】

【INT 0】

 

装備

頭 【空欄】

体 【黒薔薇ノ鎧】

右手 【新月:毒竜】

左手【闇夜ノ写:悪食】

足 【黒薔薇ノ鎧】

靴 【黒薔薇ノ鎧】

 

装飾品 【フォレストクインビーの指輪】

【タフネスリング】

【命の指輪】

 

スキル

【絶対防御】【大物喰らい】【毒竜喰らい】【爆弾喰らい】【瞑想】

【挑発】【極悪非道】【大盾の心得Ⅳ】【体捌き】【攻撃逸らし】

【シールドアタック】

【HP強化小】【MP強化小】

【カバームーブI】【カバー】

 

サリー

Lv19

HP 32/32

MP 25/25〈+35〉

 

【STR 25〈+20〉】

【VIT 0】

【AGI 80〈+68〉】

【DEX 25〈+20〉】

【INT 25〈+20〉】

 

装備

頭 【水面のマフラー:蜃気楼】

体 【大海のコート:大海】

右手 【深海のダガー】

左手 【水底のダガー】

足 【大海のレギンス】

靴 【ブラックブーツ】

 

装飾品 【空欄】

【空欄】

【空欄】

 

スキル

【状態異常攻撃Ⅲ】【スラッシュ】【ダブルスラッシュ】【疾風斬り】【筋力強化小】

【連撃強化小】【ダウンアタック】【パワーアタック】

【スイッチアタック】【体術I】

【短剣の心得II】【器用貧乏】【ディフェンスブレイク】【超加速】

【火魔法Ⅰ】【水魔法Ⅱ】【風魔法Ⅱ】

【土魔法Ⅰ】【闇魔法Ⅰ】【光魔法Ⅱ】

【ファイアボール】【ウォーターボール】

【ウォーターウォール】

【ウィンドカッター】【ウィンドウォール】

【サンドカッター】

【ダークボール】

【リフレッシュ】【ヒール】

【MP強化小】【MPカット小】

【MP回復速度強化小】【魔法の心得II】

【釣り】【水泳Ⅹ】【潜水Ⅹ】【料理I】

【採取速度強化小】【気配遮断II】

【気配察知II】【しのび足I】【跳躍I】

【毒耐性小】

 

 

ダン

Lv30

HP 1206/1206

MP 215/215

【STR 221〈+30〉】

【VIT 0(+95)】

【AGI 71(+50)】

【DEX 71】

【INT 0(+20)】

【LUK +100】

 

装備

頭 【蒼き龍騎士のヘッドガード(INT+20)】

体 【蒼き龍騎士の鎧(VIT+25)】

右手 【蒼き竜の爪(STR+15)】

左手 【蒼き竜の爪(STR+15)】

足 【蒼き竜の脚(VIT+25,AGI+50)】

靴 【蒼き龍騎士のブーツ(VIT+25)】

装飾品 【惨劇の指輪】

【蒼き竜の翼(VIT+20】

【空欄】

 

スキル

【復讐者】【運の付き】【返り討ち】【不屈な精神】【毒体質】

【大物食らい】【蜂の一刺し】【超加速】【32連打】【爆炎の守護者】

【ホーリークロウ】

【釣りV】【料理V】

【ヒール】【カバームーブI】

 

耐性

毒、麻痺無効

爆発系、炎系無効

 

 

 

「ダンさん、鬼のようなステですね」

 

「攻撃手段が少ないけどな」

 

「なんで、カバームーブがあるんですか?」

 

さっきも訊かれて、答えた気がするが…デジャブか?

 

「あぁ、貫通攻撃対策だよ。メイプルへの貫通攻撃には、俺が盾になる。HPの高さで生き延びられると思うんだよ。で、悪食の無駄使いを減らすのさ」

 

メイプルの貫通攻撃対策は、悪食である。だが、回数制限が付いた今、無駄に使わせる訳にいかない。

 

「私の代わりに受けてくれるんですか?」

 

メイプルが心配そうに俺を見つめていた。

 

「メイプルは痛いのは嫌だろ?心配するな。その為に、ヒールの巻物も購入したし、回復薬を大量に持ち込んでいるんだから」

 

「そうなんですか…」

 

「行こうぜ。お宝が待って居るぞ」

 

三人で転移陣に進んだ。

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

VS鳥

転移の際の光が霧散していく。メイプルは大盾を構え、サリーはナイフを、俺は拳を握っている。だが、相手の先制攻撃は来なかった。周囲には敵の姿は無い。そうなると、上か下か?上を見上げて見回すと、そこは円形の広間であり、壁は空色、天井は吹き抜けなのか、白く靄っているようだ。

 

「サリー!」

 

俺は指で上を差し、サリーの注意を引いた。

 

「来ますよ」

 

サリーの危機探知にも、何かが捉えられているようだ。上から雪のような物が降っている。敵は、雪か氷属性だな。

 

「氷柱弾は注意だな。貫通攻撃かもしれない」

 

「はい!」

 

俺のつぶやきに、メイプルが返事を返してきた。斜め上の棚地には鳥の巣のような物が見える。敵はトリ系か?

 

「これ、絶対に鳥型のボスが来る。【大海】は使えないかも」

 

サリーが周囲を警戒しながら、呟いた。

 

「どうする?鳥の巣に近づいてみる?」

 

メイプルが提案してきた。

 

「……慎重にね。多分近づいたら来る」

 

俺もそう思う。俺はメイプルをカバー出来る距離でついていく。鳥の巣まで5メートル位に近づいた時、上から轟音がして、無数の氷の粒が、メイプルに向かって、撃ち出された。俺は直ぐさま、【カバームーブ】で、メイプルの前に立った。氷の粒が俺を貫通していく。激痛を感じ直ぐに【ヒール】を掛けていく。死になるか瀕死になるかは、時間との勝負である。サリーも俺にヒールを掛けてくれている。メイプルは無事だろうか?俺を貫通した貫通弾は、メイプルを襲っているのか?

 

戦闘開始の開幕弾を俺は受けきり、後方へ退避した。

 

「ダンさん、回復をしてください。私は大丈夫です」

 

メイプルはそう言うと、サリーの後を【カバームーブ】で付いていく。俺は、回復薬を飲んで、次の貫通弾の為に控える。

 

「サリー!貫通弾の前に溜めがある。無攻撃の時は注意しろ!」

 

「了解!」

 

俺は貫通弾攻撃のクールタイムを計測する。たぶん、5分か10分間隔だろうな。1、2分間隔だったら、炎上ものだ。プレイヤーには長めのクールタイムを押しつけて。プレイヤーの制約と同等では無いと、勝負にはならない。

 

「ダンさん、溜めのようです」

 

メイプルからの報告。俺は、【超加速】でメイプルの近くへと急ぎ、轟音と共に【カバームーブ】を発動した。

 

「相手のクールタイムは5分だ」

 

俺も報告をし、直ぐさま【ヒール】を連発する。ここで、死ぬ訳にはいかない。先ほどとは違い、粒では無く氷柱が撃ち出されて来た。先ほどと比べ物にならない速度でHPが低下していく。俺とサリーが俺にヒールを掛けまくる。HPの低下が収まるまで…が、敵が急降下してきた。

 

「サリー!来たぞ」

 

「早い…ワンパターンな攻撃でなくて、相手は人工知能かもね」

 

「あぁ、俺もそう思う」

 

ヒールよりも回復薬の方が、回復量は大きいが、即座に対応出来るのはヒールである。

 

「メイプル!悪食で、脚か、翼を喰らえ!」

 

「脚、行きます!」

 

片足を失った鳥。だけど、HPの減りが少ない。

 

「はぁい?」

 

それの意味することを、俺とサリーは気づいた。コイツ、防御力と生命力が化け物クラスなんだ。俺とメイプルの長所を併せ持ったモンスター…運営め、考えたな。サリーの攻撃で鳥のHPは減っていない。大技を連発する必要があるが、それが出来るのはメイプルだ。だけど、サリーのガードで忙しいメイプル。

 

「メイプル!悪食で喰った場所に、ヒドラだ!」

 

「了解!」

 

だけど、装備に付与しているので、発動を手間取るメイプル。その間に、傷口を凍らせて、毒の侵入を防いでいる。ヒドラの毒は凍り付き、鳥から剥がれ落ちていった。その上、脚が再生していく。が、再生時にHPは減っていった。HPを糧に再生か?少しではあるが、勝機が見えた気がする。

 

「ダメです。間に合いません…」

 

どうする。メイプルが手間取らない方法…う~ん…俺が、盾を借りるか?

 

「ダンさぁぁぁぁ~ん!溜めです」

 

超加速のクールタイム中の為、全力で走りメイプルに近づき、轟音と共に、【カバームーブ】を発動した。そして、ヒールの連発で耐える。このルーチンしか無いのか?可能性を考えなから、ヒールで凌ぐ。

 

「悪食、後3回です」

 

手立てが浮かばないまま、時間が経ち、回数制限のある悪食の危機である。貫通攻撃にクロスカウンターするとどうなるんだ?俺はドラゴンの翼を展開し、鳥に肉薄していく。鳥の攻撃目標がメイプルから、俺に移ったのか、通常攻撃が俺に飛んで来た。3回に1回、フルカウンターしている。俺よりもレベルが高いようだ。そして、鳥が溜めを作り始めた。チャンス!

 

「メイプル!今だ!」

 

「はい!悪食!…ヒドラ!」

 

鳥の左の翼が根元から食いちぎられ、傷口に毒が浸透していく。

 

「おぉ~、HPの減りが激しい。行けるかな?」

 

期待を持たして、地獄へか?轟音だっ!貫通攻撃は俺の方へ撃ち出されていた。先のとがった氷柱が俺を貫く。その氷柱に【ホーリークロウ】を叩き込んだ。真ん中から折れる氷柱。その結果、俺へのダメージは半減したようだ。しかしながら、瀕死では無いが、HPは半分近く削がれている。回復薬でHPを満たす。

 

「悪食…後1回です」

 

「メイプル!首を落とせ!そこにヒドラと毒の雨だ」

 

「了解!」

 

次の溜めで勝負だな。なんか、頭がぼぉっとしてきた。吐き気もする。毒は無効なはずだが…

 

「溜め!」

 

違和感のある俺、でも、勝たないとな。メイプルと俺が同時に動いた。俺は鳥の腹へ、メイプルは鳥の首へ、毒塗れになるので、サリーは後方へ退避をした。この攻撃を失敗すると、毒の為足場がなくなり、サリーが攻撃出来無くなる。

 

「悪食…ヒドラ、ヒドラ、ヒドラ、ヒドラ、ヒドラ、アシッドレイン、パラライズシャウト」

 

「32連打 ホーリークロウ…あっ!MPドレイン、ヒール、ヒール、ヒール」

 

蜂の一刺しが入ってくれれば…

 

「勝った!」

 

サリーの声。遠くから見ていた方が、戦況がわかりやすいのだろう。そうか、勝ったのか、気が緩んだ俺の意識は遠くと過ぎ去っていく。

 

 

意識が覚醒していく。まだ、鳥のエリアにいる俺。

 

「ダンさん、大丈夫ですか?」

 

メイプルの声が近い。メイプルの顔が近い。これは一体…サリーの説明によると、意識を飛ばした俺を、メイプルが膝枕して、休ませてくれたようだ。

 

「えっ…気持ち悪い…うげっ!」

 

跳ね起きて、毒の海へ嘔吐…なんだろう、船酔いみたいな感じだ。

 

「ゲーム内で嘔吐するんですねぇ~」

 

「するねぇ。船酔いみたいだよ」

 

「あぁ、わかったわ。回復薬の飲み過ぎよ」

 

サリーの声…薬の飲み過ぎ?

 

「薬には微量だけどアルコールが入っているのよ」

 

あぁ、そうか。蓄積したアルコールの量が原因なのか…納得…

 

「それよりも、ダンさん。MPドレインって、いつ覚えたんですか?」

 

「この戦闘中だよ」

 

サリーとメイプルに見えるように、説明の画面を出した。

 

ユニークスキル【ヴァンパイアロード】

MPとHPは最大値までの足り無い分を補え、レベルは自分より相手のレベルが高い場合に1レベルだけドレインできる。クールタイムは、5分。

取得条件:ワンバトル中に回復薬を累計150本飲む

 

「このバトルで、回復薬を150本も飲んだの?」

 

サリーが呆れている。それは流石に酔うだろうって、言いたいようだ。

 

「飲んだ。あのタイミングで、取得画面がポップアップしてさぁ、早速使ってみたんだよ」

 

「メイプルもそうだけど、ダンさんも斜め上に進化していますよね」

 

「それは一般人のやらないことを、しすぎるってことかな?」

 

「それで、ですね」

 

俺の言葉がスルーされた…

 

「鳥の巣まで来てもらえますか?」

 

サリーに言われ、三人で鳥の巣へ行くと、卵が三つあった。

 

「ここのお宝は、これらしいです。孵化すると使い魔になるそうですよ」

 

「そうか…俺、あまり物でいいぞ。思考力が鈍っているから」

 

「そういうことなら、メイプルが緑で、私が白、ダンさんは茶色で決定しますよ」

 

「あぁ、了解だ」

 

 

転移陣で地上へ戻れた。そこは砂漠だった。メイプルを背負い、砂漠を歩く。2時間ほど歩くとオアシスを見つけた。これで休めるか?三人でオアシスに足を踏み入れると、先客がいた。和装姿の女性である。その女性が得物に手を掛けると、サリーが反応した。俺は思考力が低下していて、メイプルはお昼寝タイムだったので、反応は出来無かった。が、

 

「おい!少しでも動けば、レベルドレインするぞ」

 

と、脅してみた。

 

「レベルドレイン?そんな凶悪なスキルを持っているの?」

 

女性の言葉をスルーして、

 

「サリー、この女を拘束して、レベル1にしてから、殺すか?」

 

「ダンさん、それは鬼過ぎるでしょ?」

 

「ダン?まさか、レールガン?」

 

レールガンって言う名が定着しているのか?俺的には、そんなかっこ良いプレイスタイルでは無いと思うのだが。

 

「背負っているのは、メイプル…まさか、意識を刈り取って、レベルドレイン?」

 

メイプルはスヤスヤと寝ている。

 

「コイツは今、お昼寝タイムだよ。おい!起きろよ、メイプル。オアシスに着いたぞ」

 

「え…もう食べられないよ~」

 

何の夢を見ているんだ?メイプルを地面に降ろし、目の前の女性をサリーと共に牽制した。

 

「三対一じゃ、勝ち目が無いわね」

 

得物から手を放した女性。

 

「私はカスミ。前回のイベントでは六位だったわ」

 

「で?」

 

「えっ!六位?すごい!」

 

メイプルが起きて、カスミをキラキラした目で見つめていた。

 

「私、十位だったメイプルです」

 

「そこの鬼に倒されなかったら三位だったんでしょ?」

 

鬼…そうかもしれない。それは否定しない。

 

「ダンさんには、勝て無いよ。だって、鬼だもん」

 

メイプルにまで鬼って言われるとは…

 

 

カスミもパーティーに入れて、オアシスを後にした。

 

「ランカーが三人いれば、襲われないわね」

 

いや、四人全員がランカークラスだと思う。サリーは、未だに被ダメージがゼロだし。俺は先ほどの戦闘だけで、被ダメージがスゴイことになっているし。

 

などと考えていたら、メイプル達とはぐれ、俺一人が砂漠にいた。三六〇度地平線が見える状況で、ほんの数分考え込んだだけで、はぐれるものだろうか?急いで、サリーにメッセージを飛ばした。

 

『蟻地獄みたいなワナに嵌まって、三人一組で行動するダンジョンにいるの。脱出したら、合流するから、死なないようにね』

 

って、サリーから返信が来た。脱出って、アイツら、どこに出るんだ?山の頂上から砂漠に出たんだが…砂漠以外の地形を目指すかな。

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

VSイカ

砂漠を抜けると海だった。魚でも釣って待っているかな?アイテムボックスから釣り竿を出そうとすると、未使用の巻物と卵があった。そうだ、卵を温めないと。砂浜の温かな砂を掛けて、暖めてみる。

 

で、巻物はどうしたんだっけ?さび付いた思考を無理矢理、動かす。そうだ、2階層へ行く時のフロアボスを一回目でクリアしたことで貰えたんだ。コイツを覚えておくか。

 

レアスキル【ウッドオクトパス】

8本の根っこを自由に操れる。先端から刺さると貫通攻撃になり、振り回せば鞭や投げ縄のようになるマルチウェポン。

取得条件:1層目のフロアボスに、ソロにて初戦で倒す

 

う~ん…さっきの鳥さんの時にあれば、役立ったかもしれない。手遅れか?いや、PKで使えそうだな。

 

 

 

---運営ルーム---

 

イベントにバグがないか、不正がないかを運営スタッフがモニタでチェックしていた。

 

「これって、今回のイベントでのベストバウトになるかな」

 

運営スタッフの一人が、モニタ画面を見て、呟いた。

 

「誰絡みだ?」

 

「結果から言うが、【銀翼】がやられた」

 

「何?【銀翼】がか?俺達の悪意の塊のアイツがか?」

 

【銀翼】というイベントモンスターは、あるプレイヤー対策で作られた運営の悪意の塊であった。殺傷能力の高いスキルを詰め込み、、HPを高く、MPも高く、とにかく、総てのステータスを高く設定してあった。

 

「あぁ、激闘の末にだ」

 

対【銀翼】戦の一部始終を観戦した彼は、どこか嬉しそうであった。一方、他のスタッフ達は、パニックに陥っていく。

 

「おいおい、あの反則級モンスターを倒す、反則級のプレイヤーがいるのか?」

 

「あり得ないだろ?メイプル対策で作ったんだぞ」

 

彼らの想定外は、メイプルのパーティーメンバーである二人の化け物プレイヤーだった。

 

「まぁ、見てみろ。手に汗握る攻防だったぞ」

 

メイプル達と【銀翼】との戦いをリプレイさせた。各人のモニタで流れる、あり得ない動きの回避盾の少女と、不屈な精神を持つ男、理不尽なまでに火力の高い盾の少女の三人組の戦い…

 

「まさか、ヴァンパイアロードがゲットされたのか…」

 

通常は100本飲めば泥酔状態になる回復薬を、酔いと戦いながら、自分よりも固い盾を護る男の姿…

 

「う~ん、ツートップの化け物が手を組んだのか…」

 

メイプルとダン…運営サイドから見たら、ボスモンスター以上の化け物であった。片やあり得ない防御力を誇り、毒を自在に操る対人戦最強の女。

 

もう片方は、不屈な精神で、どんな相手にも引かぬ、メイプルキラーの男。

 

「そうか、高HPを生かして、貫通攻撃に対する盾になったのか」

 

仲間を守る為、守備力が低いにもかかわらず、ゲーム中最高の防御力を持つ少女の盾になる男…その心意気に感動する者がちらほらと…

 

「そうなると、幻獣の卵…亀と狐と狼は持っていかれたのか。後は鳥…銀翼かぁ…」

 

「あれは、大丈夫だ。【海皇】のところにある。通常では行けないはずだし」

 

その言葉に安心する運営のリーダー。しかし、彼の見えないところで、一人のスタッフが、悪い笑みを浮かべていた。

 

 

 

---ダン---

 

釣り…遠浅なのか、まったく釣れない。どうするかな。空は夕焼け色に染まっている。長かった1日目が終わるようだ。どこか、安全に寝られる場所は無いかな?

 

砂から卵を回収し、移動を開始した。しかし、どういう訳だろうか。砂浜にいたのに、水中にいる。いや、水中の中にあるドームの中にいるようだ。

 

俺のいる場所は空気があり、水は無いが、ドームの外は海のようで、無数の魚たちが泳いでいる。落とし穴対応の転移陣があったのだろうか?

 

唐突に、鞭が空気をきり裂くような音が聞こえ、横に移動すると、俺のいた場所にはイカの脚が叩きつけられていた。脚のサイズから見て、巨大なイカのようだ。

 

巨大イカはドームの隔たりを透過して、攻撃が出来るみたいだ。どうするよ、これ…イカの脚のうち2本は先端が碇のように見える。あれって、貫通攻撃が出来るのか。

 

マズい。回復薬の残量が少ない。鳥さんの後、補充していない。マズい…脚が連発で飛んで来た。ホーリークロウで斬り裂くが、相手のHPがまるで減らない。再生しても減らない。脚は武器扱いか?そうなると、水中にいる本体を叩かないとダメなのか。

 

じゃ、覚え立てのウッドオクトパスを使ってみた。だが、使ってみて、分かった。このスキルの弱点…発動中に移動出来無い。そんなの説明画面になかったぞ。まさか、運営の罠か…

 

イカの貫通攻撃を避けられずに2発食らった。減り始めるHP。ダメ元で念じるHPドレイン。あれ?イカのHPが減っていく。コイツ、HPドレインが効くようだ。

 

となると、攻略方法は、イカの攻撃を受けて、HPをドレインすることか?いや、クールタイムがあるから、クールタイムの間は避け続けないとダメだ。

 

貫通攻撃はドレイン出来るときだけ受け、それ以外は回避。それ以外の攻撃は回避または迎撃である。が、多足系相手には32連打は無駄撃ちすぎて、使いづらい。長丁場になりそうだ。

 

サリーからメッセージが来たが、直ぐに返信が打てない。イカの攻撃と攻撃の合間に、1文字、2文字打って、次の合間に打つって感じで、打ち終わった時には、イベント内時間で2時間も掛かっていた。

 

『海の中のドームで、イカと対戦中』

 

と、ようやく返信した。で、イカなんだが、HPが半分になると、墨を吐いてきた。海が真っ黒に染まっていくが、僅かな濃淡の違いで、イカの位置を特定し、貫通攻撃に備えていく。

 

戦い始めて3日経過した。後、1/4だ。後1日かかるかな?そうなるとイベント開始後5日目ってことか。メダルを集めに行かないと…

 

そして、翌日…漸くイカを退治出来た。直後、メダルを1枚ゲットし、海に放り出された。そこは珊瑚礁の綺麗な海底であった。しかも、息が出来る?息が出来るってことは、探索をさせる為か?隅々まで探すこと半日、漸く銀色の卵をゲットした。これも使い魔かな?脱出用の転移陣に急いだ。

 

地上に出て、サリーへ連絡をした。集合場所を訊く為である。サリーによると、洞窟でメイプルが待っているという。場所の説明が送られて来たので、そこへ向かって、移動を開始。そうだ、装備を初期装備にしておかないと。

 

移動を開始した直後、スキルを取得したと画面がポップアップした。

 

レアスキル【子羊の行進】

相手を眠らせることが出来る。持続時間5分。クールタイム10分。睡眠異常無効。麻痺無効、毒無効があれば、総ての状態異常が無効になる。

取得条件:ワンバトルを3日以上掛けて勝利すること

 

サリーに見せると、呆れられそうである。なんだ、この取得条件は…

 

 

メイプルの元に向かう途中で見かけたプレイヤー達を次々とPKしていく。メダルを集めないとなぁ。

 

イベント最終日に、漸くメイプルのいる洞穴に着いた。入り口が毒塗れなんだが…ヒドラをしたのか?そこを入って行くと…

 

「ダンさぁぁぁぁ~ん」

 

俺に気づいたメイプルが走り寄り、俺に抱きついた。

 

「ダンさんの背中が恋しくて…私、枕が変わると眠れないんです」

 

うん?俺の背中は、メイプルの枕なのか?

 

「どうだった?メダルは」

 

奥に行くと、サリーとカスミがいた。

 

「途中でPKしまくったよ」

 

ゲットしたメダルを15枚取り出した。ミィを倒したのが大きいな。

 

「これで、40枚達成です」

 

メイプルの嬉しそうな声。4人共なにかしら貰えるのか。

 

「そうだ!ダンさん、卵はどうしましたか?」

 

触れて欲しくない話題。ここまで来る間に、2つとも孵化したのだが…指輪から2匹を解放した。

 

「わぁ~、2匹も…いいなぁ。でも私のもかわいいんですよ」

 

亀を見せてくれたメイプル

 

「おい!これって…」

 

が、サリーはその姿に恐怖していた。そう、あの鳥さんが使い魔になっていた。鳥さんの名前をアナにし、狼、正確にはフェンリルの名前をポチにした俺。

 

「そうなんだよ。小さいながらも、貫通攻撃が出来るんだよ」

 

俺よりも強いかもしれない使い魔アナ…

 

 

イベントが終了して、スキルか装備を2つ手にいれることが出来る。さて、何にしようかな?メイプルはサイコキネシスを選び、亀を空に浮かべて、移動手段にするようだ。AGIがゼロのメイプルよりも、亀の方が速いそうだ。

 

で、俺…対魔法の対策だな。うん?これって、なんでも使えるのかな?以下の二つを手に入れた。

 

【強奪】

視界に入る物を1つだけ手に入れることが出来る。使用制限は1時間に1回。

 

【妄想】

敵に妄想を見せることが出来る。持続時間5分。クールタイム10分。

 

「なんか、戦闘に関係無さそうね」

 

サリーが嫌な顔をしている。

 

「時間稼ぎをする為の方策だよ」

 

試しにサリーで妄想してみた。俺の妄想した物がサリーへと送られていく。サリーと大人の行為をしている妄想である。このゲームでは、そういう行為は出来ない。そもそも全裸になることが出来無い。

 

だからこそ、妄想シーンは意外性があり、時間を稼げると思う。

 

「え…それは…」

 

顔を真っ赤にして、俯くサリー。かわいいぞ。これで5分間は無力化できるってことだ。次に、カスミから強奪してみた。

 

「えっ…ちょっと、ここでは…」

 

狼狽えるカスミ。カスミから道徳心を強奪してみたのだ。その結果、サリーの表情から、普段は考えもしないシーンを想像したようだ。

 

どうやら、形無い物でも奪えそうだ。

 

「どうしたの?二人共…」

 

そんな二人の声で、俺の背中で目覚めたメイプル。

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

ギルド

イベント後、メイプルから呼び出しが無かったので、PK三昧をして、対人戦の戦略を練る。やはり、アナの急降下爆撃は脅威である。きっと、俺が喰らっても、慌てると思うレベルだ。いきなりの貫通弾だし。貫通弾は2種類選べ、指示を与えられる。無数の礫状態の物と、巨大氷柱の物である。あのイベントでアナと戦ったことがあるヤツラには、恐怖がぶり返すだろうな。

 

一方、ポチの方は、対人戦より、対魔物系に有効である。一咬みで、熊程度なら一撃殺傷である。元々フェンリルなのだから、神とか天使とか悪魔が得意なのかもな。

 

イベントから3日経過した日、メイプルから呼び出しがあった。噴水前の広場へと急ぐと…

 

「ダンさんも、私のギルドに入ってくれますよね?いや、入って下さい。お願いします」

 

って、俺に頭を下げるメイプル。俺の背中狙いか?了承すると、ギルドホームへと案内された。勿論、俺の背中にメイプルがいる。

 

メイプルのギルドホームは、巨木をくりぬいて作った感じである。屋上にはテラスがあるし…って、物干し台では無いよな?洗濯物は干していないようだ。

 

ホームの中には、メンバーが揃っており、あの赤い大盾男もいた。

 

「皆さん、ダンさんも入ってくれるそうです」

 

俺の背中から報告する嬉しそうな声のメイプル。

 

「クロムだ…」

 

やはり赤い大盾男のクロムが、俺を警戒している。PKされたのを思い出したのか?

 

「イズさんとカナデは始めてですよね?」

 

メイプルに生産職のイズと、魔法使いのカナデを紹介された。

 

「ダンさんがいれば、心強いです」

 

「第一回イベントの3,6,9,10位が居るんだな」

 

サリーが嬉しそうだ。

 

「ここには、死ぬことが無い模擬戦が出来る修練場があるの。早速、手合わせをしたいわ」

 

コイツ、バトルジャンキーか?

 

その修練場で、まず俺とメイプルが対戦した。結果は俺が圧勝した。

 

「さすが、メイプルキラーのレールガンだな」

 

クロムの褒め言葉は、褒めていないと思う。俺がいつ、レールガンを放ったと言うのだ?本物のレールガンが、抗議すると思う。

 

「ダンさん、貫通攻撃が出来るんですね」

 

負けたのに、嬉しそうなメイプル。

 

「あぁ、出来るようになったよ。難点は発動中に移動出来無いことだ」

 

仲間に情報を知らせておく。ギルド戦の時に、次の一手に影響すると思うから。第2戦は、俺とサリーである。殺す心配が無いので、全力で叩きにいく。が、やはり攻撃が当たらない。

 

では、これはどうだ?俺の表情から、次の一手を読んだのか、サリーが嫌そうな表情で

 

「ちょっと…ドレインと妄想はダメ…」

 

って言いながら、顔を真っ赤にして…今日はサリーとメイプルの百合プレイを妄想して、ギフトしたのだ。

 

「え?全力でだよね?」

 

「それって、反則だよ~。あぁぁ~」

 

恍惚な表情へなっていくサリー。5分間、悶絶してください。

 

 

みんなが素材を集めている隙に、俺はフレデリカを見つけ、PKを仕掛けた。

 

「また?どうせ、勝て無いわよ」

 

多重詠唱の魔法…一度に複数の魔法が放てる。だが、今日の俺はいつもの俺では無い。早速、妄想をした。フレデリカと俺の大人の行為の妄想…計画通り、詠唱が中断され、懐に入り込み、32連打を叩き込み勝利した。次はペインを狙うかな?

 

人混みに紛れて、ペインを探す俺。

 

「おい!貴様…私のギルドに入らぬか?」

 

ミィに声を掛けられた。こいつ、ストーカーか?最近、頻繁に話し掛けて来ている。もう攻略法が分かったので、用は無い俺。

 

「お前だろ?散々私にPKを挑んできた懲りない男は!」

 

ミィの声で、周囲の者達が俺達を見た。おい!目立つだろ?!

 

「なんか、間違いじゃ無いですか?俺、初心者ですよ」

 

「ほぉ~、初心者と言い張るのか?たった今、フレデリカを瞬殺しただろ?」

 

見られていたのか。面倒だな。

 

「悪い。俺はもうギルドに入っているんだよ」

 

「おいおい、2位のギルドマスターが自らスカウトしているんだぞ。入れ!」

 

「2位?ギルド戦のイベントをしていないのに、2位と言い切るのか?」

 

「あぁ、言い切れる。この私がいるのだからな」

 

「たいした自信だな」

 

「貴様が入ったギルドはどこだ?」

 

「初心者の集まりですよ」

 

「なら、そのギルドごと、入れてやる」

 

「傲慢な女ですね。じゃ、俺にPKで勝ったら、考えてあげますよ」

 

「ふふふ、大きく出たな。貴様は、私に全敗しているくせにな」

 

あれ?最後に俺が勝ったはずだが…炎系の魔法が俺を襲う。全身が火だるまになっているが、俺はピンピンしている。

 

「おい!クソ女、効いていないぞ」

 

火だるま状態で、ミィに近づく俺。

 

「そんなはずは…なんで貴様…生きていられるんだ?」

 

「言える訳無いだろ?個人情報だ」

 

火だるまの状態でミィに抱きついた。当然、ミィも火だるまになり、デスしたようで、ミィがドット落ちしたように消えていく。ミィが完全に消えると、魔法の効果が消え、火だるま状態ではなくなった。さてと、ギルドホームへ帰るか。

 

 

「今日の成果はどうでしたか?」

 

俺の背中にいるメイプルに訊かれた。

 

「やっとフレデリカに勝てたよ。あと、ミィを返り討ちにした」

 

「ミィって、炎帝のか?」

 

クロムが驚いている。

 

「あぁ、そうだよ。俺に炎帝に入れって。ウザいからPKしてきた」

 

「クロム、ダンさんはPK専だよ」

 

サリーが俺の補足をした。が…お前に言われたく無い。

 

「サリーも、どっちかと言うとPK専じゃないのか?」

 

「否定はしない」

 

ギルド対抗戦なるイベントがあれば、PK専が二人いる楓の木は有利である。対人戦に慣れているから。

 

「それでですね。ギルド対抗戦があるかもしれないので、メンバーを増やしたいと思います」

 

ギルドマスターであるメイプルが、俺の背中で演説をしている。

 

「お奨めな人を、スカウトしてきて欲しいです」

 

お奨めなぁ。

 

「PK専でもいいか?」

 

心辺りが一人いる。ソロだから、どこにも入っていないと思う。

 

「構いませんよ~」

 

耳元でメイプルの声がした。

 

 

翌日、スカウトに出た。俺の妹である。DEX振りしたスナイパーだ。

 

「お兄ちゃん、こっちだよ~」

 

妹のアスカが噴水前にいた。

 

「俺のいるギルドに入らないか?」

 

「入る。入れて下さい。お兄ちゃんと一緒にゲーム出来るなんて…」

 

ソロ専なのに、ギルドに入りたかったのか?

 

妹の得物がレールガンである。射程距離無制限で、弾は自動補充カートリッジのおかげで無制限。某装備屋のガチャで大当たりを引いたそうだ。

 

レールガンは貫通タイプの弾丸を放つ。運営が仕込んだメイプルキラーで無いのか?因みに、レールガンの取得条件は、ガチャで大当たりを引き、DEX振りしている、だそうだ。

 

アスカを連れてて、ギルドホームに戻ると、メイプルもスカウトしたと言う2名の少女がいた。

 

「これ、本物のレールガン?」

 

アスカの得物にイズが食らいついた。

 

「そうです。ガチャで大当たりを引きました」

 

照れているアスカ。普段、ソロだしなぁ。こうして、ゲーム内で、俺以外を会話するのは、初めてではないか?

 

「紹介する。実の妹のアスカ。PK専のスナイパーだ」

 

「兄妹揃ってPK専なのか…あ、私はサリー、宜しくね」

 

「お兄ちゃんの妹のアスカです。Lv10のDEX振りです」

 

メイプルのスカウトしたのは、姉妹でともにSTR振りだと言う。なんか、大化けしそうなギルドである。

 

 

イベントまでの日々、それぞれ、新たなスキル、新たな装備を得ようとあれこれと藻掻いている。STR振りの二人は、サリーとメイプルで鍛えているそうで、アスカはイズさんに装備をお願いしていた。

 

そして、俺は、ストーカーとなったミィに狙われていた。

 

「私のギルドに是非入って欲しい」

 

「何か、特典があるのか?」

 

「と、特典…それは…」

 

「じゃ、またな」

 

「貴様!つけあがるな!」

 

俺の背中に炎系の魔法が着弾した。コイツ、学習していないのか?俺が抱きつくと、自爆したミィ。道連れ戦法か?俺には効果無いがな。

 

「よぉ~、ダン」

 

クロムが話し掛けて来た。

 

「ミィの攻撃を無効化か?」

 

「それ、個人情報だ」

 

メイプル並に固いと思わせる作戦なのに、コイツの頭は弱いのか?

 

「悪かった。で、何か新しいスキルは手に入ったか?」

 

「レベルを上げたくないから、PK専門だよ」

 

レベルを上げると、フルカウンターが効かなくなるし。

 

「今は、効率的に相手を屠る研究だよ」

 

防御力に不安のある俺。短時間で仕留めないと危険である。それに対し、メイプルは斜め上行く進化をしていた。あの天使化ってチートだろうに。

 

だが、その天使化したメイプルは、ポチにもアナにも瞬殺されていた。強化していないのか?

 

 

 

---とある掲示板---

 

126名前:名無しの大盾使い

やあ

 

 

127名前:名無しの槍使い

おう

メイプルちゃんのギルドに入るとは…

憎い!羨ましい!

 

 

128名前:名無しの大剣使い

いいよなぁ

サリーちゃんに接近してもらうように頼んだがそれ以上とか

 

 

129名前:名無しの弓使い

情報をくれ

何かしらあるだろ

でも話しちゃ駄目なことまでは求めないぞ

 

130名前:名無しの槍使い

身内になったら情報出しにくいよなぁ

出せる範囲で頼む

 

 

131名前:名無しの魔法使い

頼んだ

 

 

132名前:名無しの大盾使い

分かった

まずサリーちゃんのことからな

サリーちゃんはPS人外勢だった

実際に見た感じスキルは使ってないと思ったぞ

モンスターと結構戦闘したがダメージを受けている所は見れなかった

後何かオーラが追加されてた

 

 

133名前:名無しの弓使い

やっぱイベントの最後日辺りに出現した青い装備の殺戮者

あれはサリーちゃんだろうな

 

 

134名前:名無しの大剣使い

しかも進化してるぞ

オーラって

 

 

 

135名前:名無しの大盾使い

サリーちゃん以上にヤバいのはダンだ

コイツはPK専で炎帝のミィ、聖剣のフレデリカを瞬殺できる

ギルドホームでメイプルちゃんと手合わせしているが

メイプルちゃんすら瞬殺していたぞ

 

 

136名前:名無しの弓使い

マジか?

 

 

137名前:名無しの大剣使い

あのメイプルちゃんを瞬殺かぁ

さすがレールガンだな

 

 

 

 

138名前:名無しの大盾使い

実際のレールガンはダンじゃない

ダンの妹がレールガン使いだったんだ

 

 

139名前:名無しの魔法使い

なんだって?

ダンは妹の影武者か?

 

 

140名前:名無しの大盾使い

違う

ダンは前衛だが、妹のアスカはスナイパーだよ

 

 

141名前:名無しの弓使い

狙撃手?

メイプルちゃんのギルドとは戦いたく無いなぁ

 

 

142名前:名無しの魔法使い

今さらだな

 

 

143名前:名無しの大剣使い

人外魔境ギルドに名前を変えてほしいぞ

 

 

144名前:名無しの槍使い

その気持ちわかる

 

 

145名前:名無しの大盾使い

PK専が3名いるからな

後、メイプルちゃんは天使の輪と翼を出現させて

金髪青目になるスキルを手に入れて帰ってきた

 

 

146名前:名無しの槍使い

えっ

 

 

147名前:名無しの魔法使い

目を離すとすぐそういうことになる

 

 

148名前:名無しの大剣使い

何で?どこにそんなスキルあった?

 

 

149名前:名無しの大盾使い

俺も知らん

 

スキル名は【身捧ぐ慈愛】

HPをコストとして支払って範囲内のパーティーメンバーを常に【カバー】するスキルらしい

 

メイプルちゃんがこれを使うとな

範囲内のパーティーメンバーはメイプルちゃんを倒さない限り

不死身状態になる

 

だけど、そのメイプルちゃんをダンは簡単に屠っていた

アイツ、鬼だな

 

 

150名前:名無しの大剣使い

ラスボスが2名いるのか

 

 

151名前:名無しの槍使い

地獄絵図すら生温い

 

ダン、ハンパねぇ~

 

 

152名前:名無しの大盾使い

驚愕的な事実なのだがメイプルちゃんは

装備を全て外してもVITが1000を超えていることが判明した

 

 

153名前:名無しの弓使い

もう意味わからん

そんなメープルちゃんを瞬殺って…

誰が止められるんだ?

 

 

154名前:名無しの槍使い

装備無しで1000は異常

体が鋼鉄で出来てるのかな?

オリハルコンかな?

 

それを瞬殺って…

 

 

155名前:名無しの大盾使い

ダンの妹も驚異だろうな

本物のレールガン使いだし

 

 

運営が第二回イベントのベストバウトの映像を公開した。それは、メイプルのギルドの隠されたベールの一端を剥がしたのだが…その異様とも言える戦闘スタイルが明らかになった。最強の盾をカバーする男。その身で貫通攻撃を総て受けきり、最強の盾を護り切った。

 

サリーの回避盾なんかは更に異様に見えただろう。ドット撃ちをするようなミリ単位での体捌き。誰の目から見ても避けられない攻撃を難なく躱す。この二人の盾に護られ、最強の盾の高火力攻撃…銀翼と戦った者であれば、銀翼の絶望的な強さを知っているが、彼らは心を折る事無く、最後まで戦い抜き、勝利していた。

 

この映像を含め、メイプルのギルドの噂は、尾鰭が付いて、ますます恐怖の対象になっていく。

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

ガチャ

地物モンスター狩りをして、資金を調達した。アスカがまたガチャで大当たりを引いたと聞き、俺もガチャをしてみることにした。

 

「1回100万ですか…」

 

背中にいるメイプルが、驚きの声をあげた。この位の額で無いと、大当たりでも碌な物が出ない気がするのだ。

 

「これだけあれば、スキルの巻物を3本くらい買えますよ」

 

確かに攻撃用の魔法やスキルも欲しい。サリーのようにファイヤーボールとかスラッシュとか欲しいところであるが、アスカの反重力ブーツの前ではゴミ同然である。重力のルールを無視して、壁とか天井とかを歩けるブーツだよ。

 

誰かが言った、ガチャは男のロマンとか…

 

そして、運命のガチャのハンドルを回した…

 

 

「それで出たのが、これ?」

 

獲得賞品と共にギルドホームへ戻った。皆、一様に固まっている。

 

「どう見ても、メイプルが二人だよな?」

 

「うんうん、私も鏡を見ている感じだよ~」

 

俺の当てた賞品…説明画面を出して、皆に見せた。

 

スーパーレアアイテム【メイプルもどき】

防御力最高のプレイヤー、メイプルのクローン。扱いは使い魔と同じ。性能はプレイヤーメイプルに準拠する。

取得条件:VIT0で、メイプルを5回デスにする。

 

「う~ん…これって、運営からのプレゼントか嫌がらせかな?」

 

サリーの意見の感想。俺もそれは思った。メイプルに対するキラーアイテムが多い気がする、このゲーム。

 

「区別の仕方は?」

 

イズに訊かれた。

 

「緑のペンダントをしているのがメイプルで、青のペンダントがカエデだよ」

 

メイプルもどきはカエデと命名した。メイプルが成長すれば、カエデも成長するようだ。

 

「メイプルが二人になったと思えば、戦力アップだな。だがしかし…」

 

そう、カエデは俺の目の届く範囲にしか居られない。俺の使い魔だから。

 

「普段は指輪に入れて置くよ」

 

「いやだよ~」

 

えっ?話せるのか。一緒にいたがるカエデ。メイプルは咄嗟に俺の背中に乗った。

 

「あっ!ずるい…ほんもののくせに…」

 

ニセモノって自覚はあるようだ。って、好きな物まで同じなのか?

 

「ダンさんの背中は私の指定席だぁぁぁぁ~」

 

メイプルの姿をした双子が、俺の背中を巡って揉めている。シュールすぎるぞ、運営よ。

 

 

新しいスキルを予想外のタイミングでゲットした。それはモンスター狩りに失敗して、デスした後のログインの際にである。己の修練の機会であるモンスター狩りの際、使い魔達には指輪で待機して貰っている。最近、カエデが指示が無くても指輪から出てくることが多々あったのだ。なので、言い聞かせてある。俺に自身を鍛える時間をくれと…その結果、得たようだ

 

レアスキル【自己再生】

HPの減少分を1分間に最大値の10%の割合で再生する

取得条件:被ダメージがゲーム開始以来累計で100万に達した

 

再生?う~ん、これで回復薬を飲む回数が減りそうだな。そうなると、ドレイン攻撃しづらくなるのか?1回の回復量が、メイプルの最大HPより多いんだが…MPドレインが出来る様にした方がいいかな。

 

その足で巻物屋へ向かった。そこにはサリーが…

 

「はぁ?自己再生?どこに向かって進化しているのよ、まったく…」

 

モンスターに近いスペックになりつつある俺に呆れているようだ。

 

「おっ!」

 

ガチャマシンと目が合った。

 

「うん?まさか、ガチャ頼みに走るつもり…」

 

サリーが呆れている。だが、妹がまた大当たりを引いたのだ。スコープ付きのヘッドセットだという。このスコープで狙いを付けると、今まで見えなかった距離からターゲットが補足できるようになり、最大狙撃可能距離が5キロになったと喜んでいた。兄として負けられない。そう避けられない勝負はあるのだ。

 

魔法を買う為に稼いで来た100万をガチャに投入し、運命のハンドルを回した…

 

 

「で、当たったのがこれだよ」

 

ギルドホームで装備して、みんなに披露した。

 

スーパーレアユニーク装備【伝説のドラゴンシリーズ】

頭【金の竜の兜】

体【蒼き竜の鎧】

右手【黒き竜の剣】

左手【赤き竜の盾】

背中【白き竜の翼】

脚【銀の竜の脚】

靴【銀の竜の脚】

相手に触れればMPドレインできる。ドレインし、備蓄できる量は最大MPの10倍程度。破壊不能。被ダメージ成長。

取得条件:ガチャで大当たりを出しVIT0で蒼き竜の爪を持っている

 

「これって、運営からのプレゼントだよね?」

 

って、サリー。確かに。この条件に合うのは俺しかいないだろう。

 

「見た目は派手だけど、MPドレイン以外、特典は無いみたいね」

 

イズが調べてくれた。

 

「クールタイムが無いのはいいよね。自前のだとクールタイム10分だし」

 

うん?情報ウィンドウがいつもと違う。ドラゴンモードって、モード切り替えがあるが…ポチっとしてみた。すると、この装備セットのスペックが表示された。

 

「何、これ…」

 

それはイズの想像を斜めに行くスペックであった。仲間の持っているスキルならば、総て使用可になり、ドラゴン相手なら無敵、デメリットは、この装備装着時は経験値及び達成ポイントの加算が為されないってこと。純粋に戦闘を愉しみたいだけの装備のようだ。

 

「イベント専用だな。それか、ここ一番での戦いか…正体を隠してのPKとか」

 

「そうだな…お前、ガチャは自重しろよな。運営の罠っぽい物ばかり出ているぞ」

 

イズの忠告。それは感じている。こんな装備、ゲームバランスを崩して、愉しめないだろうに…ふふふ、通常に使うのであればな。

 

「ダンさん、悪い顔してますよ。ダメですよ、悪用は…」

 

メイプルの心配そうな声…ペインを叩きに行くか。その後、イベントまでの日々、妹と二人でペイン狩りを勝負した。デスさせた数での勝負だ。俺達兄妹の正体はばれていない。ペインを追い込んでいく。突発イベント諸星兄妹VS集う聖剣…開幕である。

 

 

 

---フレデリカ---

 

正体不明のヤツラに狙われている。一人は、ドラゴンの装備を身に着けていて、フルフェースの兜で顔が分からない。もう一人は、姿すらわからない。

 

「おい!誰か恨みを買うようなことをしたのか?」

 

メンバーを全員集めて、ペインが聞き取りをしていた。

 

「全然、理由が分からん。そもそも、アイツらは誰だ?俺達がトップクラスプレイヤーだろ?なのに、ペインですら連日デスって…」

 

ドレッドが震えている。デス後のリスポーン直後に何度も狙撃されたらしい。

 

「リスポーン地点を警備するしか無いか」

 

ペインも3連続で狙撃されたらしい。

 

「どこのギルドだと思う?」

 

「炎帝が怪しいな」

 

炎帝ノ国…このギルドの最大のライバルである。

 

「そういえば以前、フレデリカにストーキングPKしてきたヤツはどうしている?」

 

私を倒すまで、何度もPKを仕掛けて来た男がいた。

 

「私に勝って以来、私の前に、現れていないわ」

 

「ソイツと比べて、今回のヤツはどうだ?」

 

「今回の方が凶悪よ。MPを総てドレインしてから…」

 

思い出したくもない。無力化されてからのセクハラ行為。抵抗をせずに、したい様にさせた。相手がフルフェイスだったので、唇は奪われなかったのは、不幸中の幸いである。

 

「きっと女にもてない男の凶行だと思うわ」

 

「その線で、ワナをはるか」

 

 

 

---ダン---

 

イベント内容が発表され、俺と妹の勝負が終わった。やはりスナイパーの方が数を稼げるな。特に、あのリスポーン狙撃、あれ反則だろうに。

 

「お兄ちゃん、私の勝ちだね」

 

「次回はリスポーン狙撃は無しにしてくれよ」

 

「そう?毎回ペインの表情が豊かだったけど」

 

それはスナイパー特権だと思う。

 

「あら?楽しそうね。何して遊んでいたの?」

 

サリーが何か言いたそうだ。

 

「まさかと思うけど、集う聖剣に何かしていないですよね?」

 

サリーは勘が良く、察しも早い。

 

「想像に任せるよ。まぁ、SPを磨いていたと言うか…」

 

「うんうん、お兄ちゃんと一緒だと、頑張れると言うか」

 

「ふ~ん…」

 

「で、クロムの装備は何?」

 

禍々しい雰囲気のクロム。レア装備か?その事に誰も触れない。その程度の変化では、もう誰も驚かないのか。

 

「今回のイベントは収集系だ。特定の魔物がドロップするアイテムのゲット数の勝負だそうだ」

 

情報通のクロムからイベントの内容の説明がされた。

 

「じゃ、私は戦力外ですね」

 

AGI0のメイプルが嬉しそうだ。イベントの裏で何かする気である。

 

「私達も無理ですね」

 

ユイとマイの姉妹も白旗を掲げた。AGI0が4名いるもんなぁ。どうせ、アスカは狙撃三昧なんだろう。

 

「じゃ、私は他のギルドの人達の妨害するね」

 

やはり、アスカは狙撃三昧らしい。

 

イベントが開始して分かったこと。羊の毛を刈るイベントなのだが、殺さないで毛を刈らないとダメなようで、パンチしか無い俺に毛は刈れない。終わった…

 

「どんまい」

 

カエデが慰めてくれた。使い魔では毛を刈れない。カエデと何か別のクエストが無いかを探すことにした。

 

「見つけたぁぁぁぁ~!」

 

誰かに見つかった。あぁ、ミィか…

 

「元気そうだね」

 

「メイプルが一緒って…貴様、メイプルのギルドなのか?」

 

カエデをメイプルだと思っているミィ。話を合わせるか。

 

「そうだよ」

 

「たぶん、次回辺り、ギルド戦イベントだと思う。その時、真っ先に潰してあげるわ。覚悟していなさい。えっ!」

 

カエデがミィを背後から羽交い締めにした。どうするんだ?

 

「何をするの?まさか…私を手込めに?」

 

出来無いだろ?このゲームではさぁ。せいぜい出来て、装備の上からのタッチとキス程度だよ。

 

「止めて…助けて…」

 

口調が壊れているぞ。これが素なのか?怖いイメージを植え付けるか。ここは、悪役プレイでもしておくかな。

 

「どうしようかな?」

 

ポチを召喚した。凶悪そうなポチの姿を見て、全身を強ばらせているミィ。

 

「うちの犬のエサがいいか?それとも…」

 

「ひぃぃぃぃ~、あなたの物になります。だから…助けて…」

 

「その言葉、忘れるなよ」

 

ポチを指輪に戻し、カエデを抱き上げて、この場から去った。

 

 

 




オリジナル要素を入れてみました。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

更なる進化

「ダンさんはいらっしゃいますか?」

 

素のミィがギルドホームに来た。俺の名前がダンであることが、ミィにばれたのだ。俺が留守の時に、ここ楓の木のホームを訪れたミィに、情報通のクロムが説明したらしい。余計なことをしやがって…

 

「なんだよ?イベント中だろ?」

 

「私は、ダンさんの下僕ですわ」

 

コイツ、炎帝の仲間のいない場所だと、素に戻る傾向にある。

 

「ダメだよ。ねぇ、ミィさん、本当にダメだからね。ダンさんの背中は渡さない」

 

メイプルが俺の背中を死守しようとしている。

 

「いやぁ~、流石にそれは恥ずかしくて出来ません。でも、ダンさんの命令であれば…」

 

「しない。だから、メイプルは落ち着こうな」

 

ミィに取られると思っているメイプルは、興奮気味である。俺の背中って、そんなに価値があるのか?

 

ミィと言う部外者がいるのでカエデは出てこない。最終兵器と言う自覚があるようだ。

 

「でも、ここはイベント中なのに、人が多いですね」

 

「うん…極振りが多いから…」

 

メイプルが理由を話した。

 

「じゃ、ダンさんはVIT振りなんですね」

 

メイプルの説明で、誤認識してくれたようだ。それなら好都合と、話を合わせる。

 

「まぁ、そうだよ」

 

「ダンさんも盾ですからね」

 

体力盾ではあるが…

 

「そうかぁ。だから、私の攻撃がまるで効かないんですか」

 

いや、違う。でも、話は合わせる方向で。

 

「内緒にしておいてくれよ。ミィだけだぞ」

 

「はい、ダンさんの秘密は私の秘密です」

 

「おいおい!炎帝のマスターがまた来ているのか?」

 

サリーとカスミのコンビが戻って来た。ここは平和だな。アスカがいないってことは、フィールドは狙撃天国中か?

 

 

翌日、ギルドホームに行くと、巨大な毛玉がいた。

 

「これ、何?」

 

マイに訊いた。

 

「メイプルさんです。羊毛を生やすスキルを覚えたって…でも出られないって…」

 

メイプルに話を聞きと、毛刈りしないとダメらしい。毛刈りスキルは持っているが、手段が無い俺。ここにいるメンバーではどうにもならない。こういう時に限ってミィが来ないし。

 

「ちょっと、ミィを探してくるわ」

 

カスミ達は遠出をしているらしい。イベントの為の遠征なので、呼び戻すことは避けたいようだ。

 

「カエデは毛生えを使うなよ」

 

と、指輪に指示を出し、町へ繰り出した。ミィが見つからない。アイツ、ギルドメンバーに見つかって、イベントに向かったのだろうか?ふと、おなじみのヤツを見つけた。

 

「おい!フレデリカ!ちょっと来い」

 

「えっ!えぇぇぇぇ~」

 

フレデリカを拉致して、ギルドホームへ連れ込んだ。

 

「悪いけど、この大きな毛玉を刈ってくれないか?」

 

「どうしてですか?」

 

「俺達、全員刈れないんだよ」

 

「えっ…そんな人がいるんだ…」

 

フレデリカにより、メイプル救出作戦は成功した。

 

「ありがとうございます。この毛は差し上げます」

 

「こんなにいっぱい?いいんですか?」

 

「いいんだよ。貰ってくれ。拉致した迷惑料代わりだよ」

 

嬉しそうに毛を収納するフレデリカ。お得感満載のお礼だったようだ。

 

「ここって…?」

 

「楓の木のギルドホームだ」

 

「あぁぁ、メイプルさん…」

 

「てへへへへ」

 

羊の毛から救出され、バツの悪い笑みを浮かべたメイプル。

 

「4人も刈れないんですか?」

 

「いや、5人だよ。極振りだからな」

 

「あぁぁぁ、なるほど…ところで、あなたの名前を伺っていいですか?」

 

あれ?名乗って無かったっけ?

 

「名乗っていないんですか?これは失礼しました。私は毒と防御が自慢のメイプルです。彼は背中自慢のダンさんですよ」

 

その自慢は何だ?

 

「背中が自慢なんですか?…ダン?まさか、レールガンの?」

 

「それは妹だ」

 

「妹さん?」

 

「俺を破壊光線の吐ける化け物のように言うなよ」

 

「そうですよ、そんなチンケな化け物で無いんですから」

 

メイプルは俺をどう思っているんだ?その説明はどうなんだ?

 

「で、なんで、背中自慢なんですか?」

 

助けてくれたお礼だとメイプルの指示で、俺がフレデリカを背負うことになった。メイプル、そのお礼、セクハラで無いのか?

 

「えっ…なんか落ち着く…」

 

背中が広いから安定感があるだけで無いのか?って、フレデリカの寝息が聞こえ始めた。

 

「やはり、ダンさんの背中は寝易いんですよ」

 

ドヤ顔のメイプル。なんか、嬉しく無い自慢であるなぁ。

 

 

 

---フレデリカ---

 

ギルドホームに戻り、ペインに報告をした。

 

「彼では無かったです。とても温厚な人で、凶行に走る人物と思えませんでした」

 

「モテそうな男なのか?」

 

「えぇ、モテなくは無いと思います。メイプルさんが、甘えていますから」

 

実は私も一緒になって甘えていた。とてもここの連中には見せられない姿である。

 

「そうか。今日もリスポーン狩りがあったそうだ。そうなると炎帝のやつらか」

 

炎帝のギルドマスターは、毅然とした女性である。その配下は彼女狙いの者が多いかもしれない。要するにモテない男性信者の集まりであるのだ。

 

「で、楓の木は、どんなヤツラがいたんだ?」

 

「極振りが5名だそうで、今回のイベントに参加していないそうですよ」

 

要注意はメイプルさんだけだな。あのスキルはどこで覚えたんだ?自分で解除出来無いスキルだから、要らないけど。

 

「メイプルだけのギルドか。では銀翼戦で一緒に戦ったヤツらは、ギルドに入っていないんだな」

 

「確認は出来ていません。ただ、雰囲気はアットホームで暖かい感じでした」

 

移籍したい気もあるが、戦闘に程遠いギルドでは、このゲームをプレイする意味は少ない。それに甘えたいだけなら、あのホームへ遊びに行けばいいのだ。

 

 

 

---ダン----

 

翌日、イベントの作戦を変えた。メイプルが毛を生やし、ソレをカスミ、カナデ、サリー、クロム、イズで狩り取るのだ。羊の毛を刈るイベントである。それがメイプルから生えていても、狩り取った物を鑑定すると、羊の毛なのだ。

 

「追い掛け回す手間が無いが、これって、どうなんだ?」

 

1回生やすと、5頭分くらい刈れる。参加者が5名なので、丁度良い。

 

「生産の合間に出来るのは良いわね」

 

って、イズ。中々好評である。ラストスパート時には、カエデにも生やせば良いか?

 

 

 

---運営ルーム---

 

運営スタッフ達がイベントを監視している。

 

「相変わらず、メイプルが謎行動をしているな」

 

運営スタッフ達はその言葉に苦笑いを浮かべている。

 

「メイプル対策はもういいかな。あの謎行動を超える策が見いだせん」

 

「いいんじゃ無いですか?メイプルキラーがいるんですから。それに絶対的な強者プレイヤーもいないし」

 

ペインにしろ、ミィにしろ、メイプルにしろ、デスを経験している。全プレイヤー中、デスを経験していないのは、サリーとアスカだけである。

 

「サリーとアスカにしても、彼が本気になれば、デスされますよ」

 

このスタッフはダンのファンである。

 

「メイプル達が、このゲームの看板プレイヤー的な扱いを、あちこちで受ける状態になったからというのもあります。彼らのバウトは、ネットで拡散し、良い宣伝になっていますよ」

 

メイプル達と銀翼との激闘…あの映像のおかげで、参加者が増えたと言っても良い。運営が宣伝の為に作った映像でなく、実際のプレイヤー達の戦いの映像。あの戦いに憧れないプレイヤーはいないはずだと、このスタッフは思っているし、それに賛同するスタッフも多い。

 

「あぁ、あの映像な…メイプル、サリー、ダンかっ。アイツらに憧れて、参加したプレイヤーも多いは事実だ」

 

更に言えば、少しでもメイプル達に対抗する為なのか、メイプルが何かをした後は、課金アイテムの購入数も伸びている。ダンとサリーはPK専なので、あまり表立って行動していない為、影響力は皆無であるが…

 

「メイプルはこのまま進化して貰いましょう。ライバル達もです。彼らに追いつく為、課金プレイヤーも増えると思いますよ」

 

実際問題として、課金アイテムでは、彼らのユニークアイテム、ユニークスキルには勝て無い。唯一無二故のユニークなのだ。だが、そこに気づかない者は多く、課金が課金を呼ぶのは常である。

 

「三層はメイプル、ダンの飛行能力を殺さずに、イベントを壊さないように調整した」

 

「これからは手を出さない感じなのか?」

 

「ああ、見守ろう。ほら……無理に弱体化を考えなければ、可愛いだけのチートプレイヤーだろう?我我でラスボスを育てるだよ」

 

どう言おうとつまり諦めたのである。一般的な常識枠から出られない運営スタッフ達には、斜め上を行くプレイヤー達の行動予測は不可能であった。こうして、メイプル達はメイプル達の知らない所で、運営からその能力を公認され、ラスボス認定を受けた。

 

 

 

---ダン---

 

翌日…メイプルが【カウンター】をゲットしてきた。俺のフルカウンターの優位性が無くなりつつある。俺も何か身に付けた方が良いのか?町に繰り出してみた。入った事の無い路地に入り、怪しいお店の探索に出た。怪しいお店のガチャならば、きっと…

 

「おい!てめぇ~!俺の女に手を出したな?ちょっと来いやぁぁぁぁ~」

 

美人局のような台詞。何かのクエストか?って言うか、このゲームはR18では無いだろうに…

 

「おい!どうオトしまいを、どう付けてくれるんだ?」

 

強面の大男達に囲まれている。

 

「まだ何もしていないぞ」

 

「はぁ~?お前、この女としただろ?」

 

だから、このゲームでは出来無いんだぞ。言いがかりであるが、連れ出されてきた女性は、高校生の俺には刺激の強い姿であった。あぁ、抱きたい。そうだ!コイツらから奪えば、俺の物かな?

 

「じゃ、今からやっていいなぁ」

 

「はぁ?」

 

使い魔全員を出し、俺はドラゴンシリーズを装着した。まあ、勝負は一瞬で着いた。俺は女性の傍に寄り、

 

「なぁ、ヤラせてくれるのか?」

 

と、彼女の耳元で囁いた。その時、俺のスキル【フルカウンター】が発動した。誰に何をされたんだ?戦闘ログをチェックすると、目の前の女性フレイヤに【魅了】を掛けられて、フルカウンターをしたとある。

 

「ご主人様…ダン様…どちらでお呼びすれば良いのですか?」

 

彼女の言葉と同時にスキルゲットの画面がポップアップした。

 

レアスキル【魅了】

戦闘中、異性を味方に出来る

取得条件:女神フレイヤをモノにする

 

スーパーレアアイテム【女神フレイヤ】

女神フレイヤを使い魔に出来る

取得条件:女神フレイヤの取り巻きの男神を全員倒し、女神フレイヤに勝利する

 

スーパーレアスキル【添い寝】

ゲーム内での睡眠時に、とても気持ち良くなれる

取得条件:女神フレイヤを使い魔にする

 

サリーの呆れる顔が浮かぶ。俺はどこへ向かっているんだ?

 

 

ギルドホームへ帰ると、メイプルもよく分からない方向に進化していた。

 

「まったく…二人共…なんで目を離すと、そんな進化して帰っているの?」

 

俺とメイプルは、サリーにつるし上げられている。俺もメイプルも今回は分が悪い。それは、後指を差されそうな進化だからだ。

 

俺が女神を使い魔にした日、メイプルは悪魔になって戻って来た。強化後恒例のメイプルとの手合わせ…悪魔ではフェンリルの敵では無い。その上、カエデは天使モードになっているし、更には女神には悪魔では無力過ぎた。

 

「ダンさんって、鬼ですね。私の強化の上を行くなんて…」

 

それって、強化なのか?それを言ったら、俺の方は強化では無いぞ。いや。メイプルって、異性だよな?【魅了】をしたら、自らデスしてしまった。

 

「ダンさん、それって、妄想以上にダメでしょう?」

 

サリーが呆れている。あぁ、敵がメイプルだけだったので、自分で排除したのか。

 

「総ての女性の敵ね」

 

って、イズ。

 

「スゴイです。女神様を使い魔にするなんて」

 

カナデが興奮している。

 

「ダンさん、呪いが効かないんですね」

 

復活したメイプル。

 

「呪い?あぁ、総ての状態異常が無効だよ」

 

「今度こそ、勝てると思ったのに…」

 

「いいか?あの二人の進化はダメな例だぞ」

 

クロムが、マイとメイに説明している。

 

「そんなにダメかぁ?」

 

「メイプルが二人いる時点でダメです!それに、女神と添い寝って何ですか?戦闘に役立つんですか?」

 

「それは俺も知りたい」

 

頭を抱えているサリー。どこがダメか分からない為、俺とメイプルは呆然として、サリーを眺めていた。

 

 

それから、数日後…三層が公開された。

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

自重出来無い二人

本日2本目

02/19 ダンの初デスの下りを追記しました。


3層の町は曇り空に覆われた、機械と道具の町だった。楓の木のメンバー10名は、2つのパーティーに別れて、ここ3層へ辿り着いた。このゲームの最大パーティー人数が8名だった為、5名5名に別れてフロアボスを攻略したのだが…

 

「メイプルが、もはや人間では無くなった」

 

サリーが呆れる攻撃を噛ましたらしいメイプル。

 

「本当のレールガンの凄さを見た…」

 

クロムが興奮している。アスカのレールガン、無制限で撃てるのだが、連射モードにして振ると、ビームサーベルのようになったりするのだった。実は近接戦闘も出来るスナイパーであるのだ。

 

「フロアボスを一刀両断とは…そんなスナイパーはいないぞ」

 

カスミすら衝撃を受けている。

 

「えへへへ、照れるなぁ~」

 

アスカは照れている。俺の出番は無かった。

 

「空を飛べる機械とか道具があるんだね」

 

メイプルが空を見上げている。

 

「これで、シロップと空中散歩しても、指を差されないよね?」

 

「差されるわよ。特に、ダンさん!蒼き装備で飛ばないでね。私が空飛んでいるって、噂になっているから」

 

サリーに指を差された。巷では蒼い装備はサリーと思われているらしい。実際は俺がPKしているんだが…

 

「善処します」

 

3層のギルドホームに着き、設備の点検をしていく。各層の同じ場所に、同じ姿のホームがあるので、迷わない。

 

「問題は無さそうね」

 

生産エリアをチェックし終えたイズ。

 

「射的場が欲しいなぁ」

 

と、アスカ。お前の場合、フィールドが射的場だろう。

 

「あぁ、街の中でのPKは禁止されたぞ」

 

イベント前のアップデートで、少し修正が入ったようだ。その修正は、俺とアスカのせいか?メイプルとマイ&ユイ以外の視線が、俺達兄妹に注がれている。上位2つのギルドからの苦情があったらしい。「リスポーン狙撃を禁止にしてくれ」と…

 

「あれはね…」

 

何かを言いたそうなアスカの口を俺が塞いだ。言い訳は出来無い。俺もあれは禁止だと思うし。

 

「あと、目立った禁止事項は無いな。で、漸くギルド対抗戦イベントがある」

 

情報通のクロムがいち早く情報をゲットしてきた。来週の週末開催のようだ。準備期間が長いのは、新規参加者の鍛える時間を与えるのだろう。実際、イベントの前日まで、日替わりで強化グッズや装備が課金で手に入るようだ。運営の稼ぎ時か?

 

「後、名前は公開されていないが、各ランキングのトップの値が発表されていたぞ」

 

それは、嫌な予感しかしない。クロムが勝ち誇ったような顔だ。コイツ、掲示板でチクるのか?

 

「30分で回復薬を200本近く飲んだバカとか…」

 

サリーが声をあげた。

 

「累計ダメージが100万超えたバカもいるみたいねぇ」

 

メイプルが俺の背中に乗り、俺の頬と自分の頬を重ねている。慰めてくれているのか?

 

「その記録を破るバカはいないだろう。なぁ、ダン」

 

楽しそうなクロムのやつ…これは、絶対にネタにするんだろう。

 

「PKランキングのトップは私です」

 

アスカが名乗り出た。既に1万は狩っている。リスポーン狙撃のおかげか?

 

「後…たぶん、そのテロランキングのトップは、お兄ちゃんだと思います」

 

みんなの視線が俺に向く。

 

「テロランキング?なになに…一瞬で屠った数…500近くって…ダンさん、何をやったの?」

 

驚いた様な顔のサリーに訊かれた。

 

「え…いや、実験だよ。密室にいるヤツラを眠らせて、添い寝とか…まさか、デスするなんて思わなくて…」

 

つい、出来心である。それをテロと言うのは、運営は大人げないと思う。

 

「炎帝ノ国のギルドホームに遊びに行ったら、カギが掛かっていたので、きっと会議中だと思って、【子羊の行進】を発動させてから、【添い寝】を発動させただけだよ。結果、中にいたヤツラ500名近くが5分間悶絶した後に達して、デスしただけ…」

 

「鬼…って、添い寝ってそんな効果があったとは…」

 

サリーの表情は呆れるよりも、恐怖心で一杯のようだ。

 

「俺もその時、知ったというか。恐ろしいコンポだな」

 

もはや他人ごとにして、現実逃避をする。俺も喰らったら、トラウマになると思う。そのレベルの恐怖である。睡眠耐性を付けるヤツラも出てくるかな?

 

「うん?初期設定を終えてPKされるまで0.5秒?なんだ、この記録は?」

 

クロムが俺の黒歴史を見つけたようだ。

 

「それは、俺だ。初期設定を終えて、あの噴水前広場にスポーンした直後に、メイプルに跳ね飛ばされて、噴水の縁の角に頭をぶつけてデスしたんだ」

 

俺のドロップアウトに、目を点にする一同…うん?メイプルがモジモジしているなんだ?

 

「あのですね。いい機会だから告白しますね。あれ、実は…本当にごめんなさい。いきなりダンさんが目の前に現れて、つい盾で【悪食】を…」

 

今度は俺の目が点になる番だ。何?俺は【悪食】を喰らったのか。そう言えば、PKされたって…角で頭をぶつけてデスなら、出会い頭の事故死だよな?PKされたって…攻撃を受けたって事になる。

 

「本当にごめんなさい」

 

メイプルが何度も俺に頭を下げている。

 

「いいって、気にするな」

 

メイプルの頭を撫でて落ち着かせる。そうか、あれはそういうことか。だから俺は、VITの値を無効にする攻撃手段を得たのか…なんか、すっきりしたな。

 

 

後日、アスカに【子羊の行進】を掛けてみたのだが、誰が掛けたかは、戦闘ログには残らないようだ。

 

「この正体不明のPKとテロリストはWANTEDだって。もし殺せれば、賞金が入るそうだ」

 

クロムが苦笑いしながら、俺達兄妹を見ながら、補足してくれた。

 

「隠れボス扱いねぇ~」

 

と、カスミ。名前が伏せられているから、狙われることは無いと思うが…

 

「おぃ、ナナシの大盾使いよ。バラすなよ!」

 

語気を強めて警告した。こいつ、ちょくちょく掲示板にネタバレを書いているし。

 

「バラさないって…おい、そんな目で見るな。仲間だろ?うげっ!止めてくれぇぇぇぇ~」

 

クロムとペインのバラプレイの妄想を、クロムへギフトした。まぁ、脅しの前金払いみたいな物だ。

 

「今度は何をやらかしたの?」

 

サリーの冷たい目…察しは付いているだろうに。

 

「内緒…」

 

クロムは5分間悶絶した後、意識が飛んでいた。精神攻撃、いいなぁ。

 

 

メイプルを背中に背負い、3階層のお店巡り。空を飛ぶ装備が売れているようだ。背中に背負うタイプや、馬車のようなのもある。何軒か回って、俺の目と合ったガチャマシンを見つけた。

 

「サリーとイズさんに、自重をしろって言われてましたよね?」

 

背中にいるメイプルという理性が俺を引き留めるが、俺は100万を投入して、ハンドルに手を掛けた…

 

結果…

 

「どうするんです?」

 

流石のメイプルもヤバいと察したのだろう。いや、俺もそうだ。どうする、これ?大当たりだとは思うが…隠し立てが出来無い大きさである。そして、それはギルドホームの設備の1つになるらしい。アイテム名称がヤバい。【移動式ギルドホーム】って、なんだ?

 

リアル世界で言うところのプライベートジェット機である。最大客員20名…キッチン、ユニットバス完備、操縦はAIが担当してくれるようだ。それに載って、ギルドホームへ帰還をすると、ホームの隣に格納庫が設置されており、格納庫内で自動で整備をしてくれるようだった。

 

「やらかすなと、言いましたよね?」

 

サリーが呆れているが、ユニットバスの説明を見て、にこやかになった。

 

「今回は多めに見ましょう」

 

って。このゲーム、基本、裸になれないのだが、ユニットバスの説明によると、このユニットバス内だけ、全裸になれるそうだ。但し定員は1名で、いかがわしい行為は出来ない仕様だ。因みに浴槽は温泉の掛け流し状態だと言う。どんな仕組みだ?

 

「豪勢な風呂場だな」

 

って、イズがサリーの次、2番目に入ると宣言した。俺は?え?最後?はい…文句?ございません。女性陣の喜びにより、今回は問題無しに…

 

 

翌日、気を取り直して、メイプルを背中に乗せ、街巡りに出た。所持金はサリーが預かるといい、預けた。ガチャ対策のようだ。2層に新しいダンジョンが出来たらしく、皆向かったのか、3層は人が少なめである。

 

「そう言えば、この前、歯車を見つけたんですよ」

 

メイプルが歯車をアイテムボックスから取り出して見せてくれた。何の変哲も無い歯車。これって、何かのクエストのカギじゃ無いのか?怪しすぎるアイテムである。

 

ズボッ!

 

って、案の定、運営の罠にはまり、俺は落とし穴を踏み、どこかへと滑っていく。メイプルを背負いながら。落ちた先は濃霧が発生していた。どこだ、ここは?

 

「ここって?」

 

「その歯車がキーとなって、発生したクエストだろうな。注意しておけよ」

 

歯車だと、相手はロボ系か?地面を手探りで探ると、様々な壊れたパーツ類が転がっていた。

 

「機械の墓場かな?」

 

残骸の山が幾つもある。

 

「ダンさん、霧が晴れてきましたよ~」

 

霧が晴れると同時に、今居る場所の全景が明らかになっていく。

 

青い光が蛍のように舞い踊る、残骸の山に囲まれた場所…その奥に残骸にもたれるように、一人の人物がいた。近づき、良く見ると、機械仕掛けの人物のようである。ロボット?アンドロイド?サイボーグ?さて、どれだろうか?その人物の目に光は無くなく、片腕は半ばからなくなって、千切れた配線が垂れており、胸には大きな穴が開いていた。

 

「あっ!」

 

メイプルが手にしていた歯車が、その人物に引き寄せられ、胸に開いた穴に吸い込まれて行った。

 

「メイプル…臨戦態勢だ」

 

「了解!」

 

なんか、ヤバい雰囲気だ。

 

ガチャッ!

 

何かのギアが嵌まった音…目の前の人物の目に光が灯り、

 

「我ハ王……機械の王…偉大ナル知恵ト遥カナル夢ノ結晶……」

 

などと、言い出した。機械王か?あの青い光が青白い光になって、機械王に吸い込まれて行き、

 

「我ハ…ガラクタノ王……ゴミノ中デ眠ル王……夢モ奇跡モ……ガラクタニ」

 

そう言うと、目の前の人物の身体が変形していく。周囲にある残骸を材料にして、銃とか剣とかの武装を作り出していく。創造能力か?

 

「カエデ!天使化だ!」

 

指輪からカエデを召喚して、【身捧ぐ慈愛】を発動させた。俺は効果範囲内に立ち、【ウッドオクトパス】を発動した。

 

「メイプル!悪魔と手下だ!」

 

「了解!」

 

メイプルは【暴虐】と【捕食者】を発動させた。今、俺達が出来る、最強のフォーメーションである。攻撃はメイプルに任せ、俺はメイプルを護る盾になり、万が一の際はカエデの防御力で乗り切るのだ。尚、貫通攻撃は俺が受けきる。このフォーメーションの欠点は、俺がカバームーブで動けないことだが、逆に【強奪】でメイプルを俺の後方へ引き寄せることで、護れる利点がある。

 

「オマエモ……ガラクタニシテヤロウ」

 

目の前のガラクタ王の武装が次々に展開していく。貫通攻撃には、俺の貫通攻撃を叩き付け、相殺していく。

 

「アナ!敵の本体を蜂の巣にしてくれ!」

 

指輪からアナを召喚して、礫の貫通攻撃を打ち込んで貰った。

 

「うわぁぁぁぁ~!」

 

敵から打ち出された無数の青白い弾丸。ノックバック効果付きのようで、後方へと吹き飛ばされていくメイプル。

 

【強奪】

 

メイプルを俺の手元にたぐり寄せ、俺を盾にして凌いでもらう。移動不可の俺にはノックバックは効果が無いのだ。防御力はメイプル依存な為、キズを負わない。万が一、ダメージが通っても、ヒール持ちが3名いるし。

 

「どうしましょ?」

 

メイプルに訊かれた。弾切れ待ちかな?あのノックバックは脅威である。ウッドオクトパスであるから、俺もノックバックしていないのであって、攻撃形態になれば、ノックバックするだろう。う~ん、困った。機械相手では妄想も効かないだろうしなぁ。

 

「そうだ!メイプル、シロップだ!」

 

「あっ、シロップ、お願い!【大自然】」

 

地面からツタが生え、大地が盛り上がり、弾丸を防ぐ壁となった。俺はドラゴンシリーズに装備をチェンジをし、メイプルと共に、ガラクタ王へ走り込んだ。

 

「アナ!垂直爆撃、氷柱だ!」

 

アナが急上昇し、アイツの真上に急降下していく。

 

「【イージス】」

 

カエデが、俺とメイプルの後方から追尾し、最強の盾を俺達に展開させてくれた。敵の目の前に達すると、メイプルは悪魔姿を解除し、黒い盾を手にして、青白い光が漏れる箇所を【悪食】でえぐっていく。俺は目の前の敵に32連打を叩き込んだ。敵の上方から爆発音がする。アナの攻撃が効いているようで、弾の出が悪くなっていく。

 

「グ……カハッ……我ハ消エル……ダガ……僅カニ意識ノ戻ッタ今……託ス…勇敢ナ…者達……我ノ…チカラデ……我ダッタ…コイツ…ヲ……倒…セ…」

 

ガラクタ王から歯車がメイプルに撃ち込まれ、メイプルの身体に吸い込まれて行く。それを見て俺はダメ元で、目の前のヤツから、悪しき魂を【強奪】をしてみた。その途端、目の前のガラクタ王が崩れていく。倒したのか?

 

「オマエタチニ…チカラヲ託ス…【機械神】【機龍】よ…」

 

何かの力を得た俺達。早速、得た力を試してみた。

「【全武装展開】」

 

と、メイプルが唱え、

 

「【機龍】」

 

と、俺は唱えた。

 

メイプルは良い機械神の力を受け継ぎ、回りにあるガラクタを材料に、武装を展開していく。一方俺は悪い方の機械神の力を受け継いだようで、ドラゴンシリーズを装備している場合、モードチェンジで機龍になれたのだが、その姿はメカ●ジラのようである。

 

「また、ダンさんに勝て無いなぁ」

 

いや、勝ち負けの問題ではない。きっと、サリーの大目玉を…確実だと思うぞ。

 

 

俺達二人は、機械神クエストを黙っていたのだが、イベントの前日に、運営からとある映像が公開された。それは、怪獣映画と言っても良い出来である。巨大な機械獣に戦いを挑む、大鳥、大亀、悪魔、木の精、天使…そして、機械獣を倒した後に、新たな機械獣とメカ●ジラが対峙した場面で終わった。

 

「う~ん、そこの二人、何か言うことはないのかな?」

 

サリーの声は笑っている。もはや笑うしかないだろう。前半のヤツラには見覚えがあるからだ。

 

「今回のはマズいんじゃないかな?黙っているのは、良くないと思うよ」

 

クロムには言われたくない。掲示板ネタにするんだろうに。

 

「実はなぁ…」

 

俺は、機械神クエストと、機械神と機龍について説明をした。絶句するみんな。あのアスカまでも…

 

「流石にお兄ちゃん、それはゲームジャンルが変わるって…」

 

「いやいや、変身前の戦力も、どうかと思ういますが」

 

カスミの言葉に頷くみんな…ラ●ン、ガ●ラ、へ●ラ…怪獣大進撃ですよねって…

 

「モ●ラがいれば、オールスターだったかもな」

 

って、イズ。笑っている。いや、笑うしかないだろう。おいおい、モ●ラなんて、フラグを立てないで欲しいぞ。

 

「イベントの作戦を練り直しだね。まったく、もぉ~!」

 

大体の作戦は練り上がっていたのだが…

 

「基本、留守番は、マイ、ユイ、イズさん、カナデに誰かが付くようにしましょう」

 

それは5人は攻め手ってこと?

 

「ルールの確認をするわよ。期間は五日間、ゲーム内加速があるから、途中参加は認められない。ここ、注意してね」

 

人数が少ないギルドである。参加出来無いメンバーがいれば、問題が多く発生する。

 

「イベントの内容は、ギルドごとに配備された自軍オーブの防衛、また他軍オーブの奪取」

 

防衛するにしても奪取したとしても、自軍のエリアに無いと、ポイント加算の対象にはならない。奪取しても持ち帰らないと、ポイントにはならない。

 

「5デスで失格だから、注意してね、ダンさん」

 

名指し…う~ん…

 

「善処します」

 

「で、初日に恐怖心を植え付ける作戦はどうかな?」

 

サリーが大胆なことを言う。初日で、手の内を見せるのか?

 

「どの程度だ?」

 

クロムが質問をした。初日にどこまで見せるかだ。

 

「大技は無しで…自軍エリア中心に5キロには誰もいれない。アスカさん、お願いできますか?」

 

「おまかせあれ」

 

「私とカスミ、ダンさんとメープルで、近隣のギルドを殺しまくる。ダンさんは、蒼きシリーズでお願いしますね」

 

蒼い装備の殺戮者ダブルかぁ。現状、サリーだけと思われているもんなぁ。一番の恐怖は、メイプルダブルか?

 

「2日目以降、恐怖の度合いを上げていく感じ。5日目は、オールスター怪獣大進撃でも、好きにしていいからね」

 

投げやりな言い方のサリー。何かを諦めたようだ。しかしそれは、別のゲームになるんじゃないのか?

 

 

 

 

 




ギルド対抗戦イベント時のダンのステイタス

Lv30
HP 2345/2345
MP 414/414

【STR 427〈+30〉】
【VIT 0(+95)】
【AGI 135(+50)】
【DEX 135】
【INT 0(+20)】
【LUK +100】

装備
頭 【蒼き龍騎士のヘッドガード(INT+20)】
体 【蒼き龍騎士の鎧(VIT+25)】
右手 【蒼き竜の爪(STR+15)】
左手 【蒼き竜の爪(STR+15)】
足 【蒼き竜の脚(VIT+25,AGI+50)】
靴 【蒼き龍騎士のブーツ(VIT+25)】
装飾品 【惨劇の指輪】
【蒼き竜の翼(VIT+20】
【使い魔の指輪】

スキル
【復讐者】【運の付き】【返り討ち】【不屈な精神】【毒体質】【大物食らい】【蜂の一刺し】【超加速】【32連打】【爆炎の守護者】
【ホーリークロウ】【ウッドオクトパス】
【ヴァンパイアロード(MPドレイン、HPドレイン、レベルドレイン)】
【釣りV】【料理V】【強奪】【妄想】【自己再生】【魅了】【添い寝】
【機龍】【子羊の行進(スリープ)】
【ヒール】【カバームーブI】

耐性
状態異常無効。爆発系、炎系無効

使い魔
狼…フェンリル(ポチ)
鳥…銀翼(アナ)
メイプルもどき(カエデ)
女神…フレイヤ

スーパーレア装備【伝説のドラゴンシリーズ】
頭【金の竜の兜】
体【蒼き竜の鎧】
右手【黒き竜の剣】
左手【赤き竜の盾】
背中【白き竜の翼】
脚【銀の竜の脚】
靴【銀の竜の脚】
相手に触れればMPドレインできる。ドレインし、備蓄できる量は最大MPの10倍程度。破壊不能。被ダメージで成長。
取得条件:ガチャで大当たりを出しVIT0で蒼き竜の爪を持っている

ギルドアイテム
【移動式ギルドホーム】



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

ギルド対抗戦 Part1

 

---フレデリカ---

 

ギルド対抗戦を前にして、ピリピリしているギルドの上層部。結局、あのリスポーン狙撃犯が、誰か分からなかったのだ。

 

「運営では、誰なのか把握しているみたいだな」

 

ペインが、運営から発表された裏ボスのリストを見ていた。一人は最大狙撃数を誇るスナイパー、もう一人は瞬間殺戮数を誇るテロリストである。

 

「こいつらが、プレイヤーかAIかは分からないが、少なくても、うちにはいない」

 

いれば、わかるはずである。ギルドメンバーのステイタスはギルドの上層部が把握しているが、スナイパー属性の者はいなかった。まして、テロリストになり得るスキル持ちもいない。

 

「テロリストの方は、炎帝の【トラッパー】が第一候補だぜ」

 

ドレッドが自信を持って言いのけた。【トラッパー】とはトラップ設置の達人である。

 

「そうなると、スナイパーも炎帝の可能性が大だな。ところで、フレデリカ、楓の木の情報を掘り下げてきてくれるか?お前、あそこのホームに入り浸っているそうじゃないか」

 

「いつも、同じメンバーしかいないですよ」

 

ダンさん目当てである。ダンさんのいない時は、長居しないし。

 

「誰がいるんだ?」

 

「ダンさん、メイプルさん、クロムさん、あと双子の少女が二人…それしか見てません」

 

「五名が極振りだったなぁ。そうなるとその五名か?蒼い装備のヤツはいなかったか?」

 

「見かけていません」

 

 

事態は動いた。イベント前日に運営が公開した映像のせいである。見た者全員が絶句したであろう。同じゲーム内の事とは思えない映像であった。

 

「怪獣大戦争…あんなヤツラがいるのか?」

 

「大亀ってメイプルだよな…そうだとして、残りのヤツラもメイプルのギルドか?おい!フレデリカ!探って来い!」

 

もの凄い剣幕のペインに命令された。そして、楓の木のホームへと向かった。

 

「イベント前日だぞ、いいのか?」

 

ダンさんに心配されている。

 

「えぇ、ちょっと息抜きです」

 

ケーキと紅茶を私の前にサーブしてくれた。

 

「それ、妹が調理したんだ。口に合えば良いけどな」

 

一口食べてみると、上品な甘さが口いっぱいに広がっていく。ギルドの移籍もありかな?ここはピリピリ感を感じない、憩いの空間に思えた。

 

「おいしいです。で、妹さんは?」

 

「最終調整に出ているよ」

 

最終調整?まさか、前衛陣はいつも出ているのか?だから、見た事が無いのか?

 

「ここって、何名くらいいるんですか?」

 

「イベント前だぞ、言える訳ないだろ?フレデリカのことはフレンドであっても、お前のギルドは敵だぞ」

 

あっ!怒らせてしまったか?マズい。出入り禁止はマズいぞ!私の憩いの空間なんだから。

 

「そうか…イベント前で探りに来たのか?」

 

「そうじゃないです」

 

顔に出ていたのかな?

 

「証明できるか?」

 

証明…え…どうすれば…

 

考えこんだ、次の瞬間リスポーンをしていた。何があったんだ?

 

 

 

---ダン---

 

フレデリカに【魅了】を掛けると、自らデスしてくれた。と、いうことは、彼女は敵対者ってことである。

 

【魅了】からのデスであれば、街中でのPKは可能である。【魅了】は攻撃スキルで無いので、PKにならない予感である。そもそも自らデスしているので、俺のPK数には反映されないし。その上、戦闘中の死亡では無いので、戦闘ログにも載らない。

 

「そうやって、ルール破りしているのね?まぁ、今回はスパイ退治だから良いけど」

 

サリーが入って来た。フレデリカが来たので、初対面組は、修練場に退避していた。あぁ、アスカはフィールドで5キロ狙撃の練習中であるが。

 

「殺された事を、気づかせないのは、1つの手よねぇ」

 

一応、運営公認のテロリストですから。それにしても、兄妹で指名手配って、どういうことだ?

 

「初日はテストも兼ねるよ。密閉空間なら、遣りようがあるかもしれないからな」

 

言いようによっては、凶悪な使い魔揃いだし。彼らは死にそうになると、勝手に指輪に戻って来てくれるのも良い。

 

「イベントが愉しみよね。一体何位なれるのかな?」

 

もの凄く楽しそうな表情のサリーだった。

 

 

そして、イベントの日を迎えた。参加人数は全員である。一人も欠けること無く揃っている。

 

「目指すは上位で!」

 

「「「「異議なし!」」」」

 

メイプルの言葉に、皆が声を合わせて、賛同の言葉を上げた。そして、俺達はバトルフィールドになる、イベント会場へと転移をした。

 

転移陣の光が霧散していくと、目の前に見えたのは、緑色に輝くオーブとそれが乗った台座であった。ここが自軍エリアであることは、すぐに理解出来た。この広い部屋から伸びる通路は三本。早速、サリーとカスミが動き、台座の後ろ側にある二本の通路を素早く探索して戻ってきた。

 

二本とも休憩所へ続く道で行き止まりだそうだ。そうなると、入り口に伸びるのは残り一本である。

 

「小規模ギルドだからね、造りはシンプルなんでしょう」

 

と、サリー。背後からの奇襲は出来無い造りのようだ。

 

「じゃ、手筈通り、行くわよ」

 

初日、昼間の部はサリー、カスミのコンビ、俺とメイプルのコンビによる。恐怖の植え付け第一弾である。入り口にはクロムが立ち、自軍エリアの周囲をアスカが護る。

 

「まず0時方向に3、3時方向に5…」

 

見える範囲の敵を、次々にPKしていくアスカ。

 

「じゃ、私達も出発よ」

 

俺はメイプルを背負い、サリー達と逆の方向へと走り出した。蒼い装備の男が黒い装備の少女を背負い進軍している。古株は俺達を避け、新顔達は俺達に襲い掛かる。襲われる度に、メイプルを降ろし、返り討ちにしていく。

 

「メイプル、一人は残せよ」

 

「了解です!」

 

逃げていくヤツラのうち、一番足の速いヤツだけ、殺さずにスルーし、ポチに追ってもらう。コイツらのエリアへの案内人である。

 

「ここか?」

 

「ヒドラ!」

 

メイプルのいきなりの毒攻撃…ハンパないなぁ、うめき声が響く洞窟内。その声が聞こえなくなると、メイプルが入って、オーブを奪って来た。

 

「全滅でした。えぇ~っと、20名くらいかな」

 

小規模ギルドの最大値は50名である。リスポーン地点が毒塗れだと、デスの重ね掛けかな?それは、運営の手落ちってことで、先を急ごう。俺はメイプルを背負い、先を急いだ。

 

中規模ギルドがいた。メイプルと分かっても引かないようだ。メイプルには【悪食】を控えるように言ってある。

 

貫通攻撃がたまに来るが、【カバームーブ】か【強奪】で凌ぐ。俺とメイプルの攻守は相性が良いようだ。体力盾の俺は、斬られようが、魔法を受けようが、前に出る。回避出来るが、恐怖を植え付ける作戦なので、受けきって耐える作戦なのだ。それに、触れただけでMPドレイン出来るので、ヒールを湯水の如く使えるし、自己再生スキルもあるし。

 

メイプルを護りながら、相手の数を削っていく。しかし、女性比率が低いなぁ。【魅了】が掛けにくい。いや、掛けても意味が無い人数か?

 

2回目の中規模ギルド戦は、スリープからの添い寝を試して見た。密閉空間ではないので、スリープしない者もいるが、それらは物理的に排除していく。メイプルの【シールドアタック】でデスしていく。そして、5分後、悶絶死した大量のプレイヤー達。

 

 

 

---フレデリカ---

 

自軍の防御を任されていた。イベントページには、リアルタイムで情報が更新されていた。殺戮数ランキング、所謂PK数ランキング…1位のギルドは、ダントツで楓の木であった。通常では考えられない程、カウンターの上がり方が異常であった。一瞬で2桁とか3桁レベルで上がる時があるのだ。

 

「何んだ?このギルド…」

 

ドラグの顔は蒼い。

 

「そんな…隠し球がいたのかな…」

 

3桁レベルでの殺戮…高位魔法にある広域魔法系だろうか?そんな魔法使いがいたら、話題になっているはずだ。2桁レベルの殺戮は、あの青い装備の子だろう。そうなると、楓の木には、あの青い装備者が2名いるってことか?あのホノボノな雰囲気はフェイクだったのか?

 

「コイツらが来たら、護り切れるか?」

 

ドラグの声が震えている。

 

「無理…オーブを手にして逃げるのが一番かな」

 

【多重詠唱】は出来るけど、広域魔法はない。ロングレンジから放たれれば、助からないだろう。

 

「よぉ!フレデリカ、ここにいたのか?」

 

突然聞こえたダンさんの声、背筋が凍り付く。隣にいたはずのドラグが消え、蒼い装備を纏ったダンさんが、そこに立っていた。紫色に染め上げられた洞窟に入っていくメイプルさん…ソレを尻目に、私へ抱きついて来たダンさん。

 

「何もしなければ、何もしないよ」

 

「そうもいかない!ごめんなさい…」

 

ダンさんへ魔法を放ったのだが、カウンターされた。えっ!身体半分が吹き飛んだ…私。死ぬ…そう思ったのだが、

 

「だから、言ったのに…苦しまないように、回復してあげる。だから、大人しくな」

 

敵である私に回復魔法を惜しげも無く使うダンさん。その代わり、私のMPは総てドレインされた。魔法使いである私の無力化である。

 

「今、リスポーンすると、即死だよ」

 

それは、自軍エリアが毒塗れってことか?

 

「ダンさん、取ってきました」

 

毒塗れのメイプルさん…毒無効なのか?そのメイプルさんを抱き上げて、空に舞うダンさん。まさか、飛行能力…ダンさん達が遠くへと飛び去って行くのを見ているだけの私…

 

 

 

---ダン---

 

自軍エリアに奪ったオーブを保存する。3時間保持しないと得点にならない。

 

「じゃ、防御ターンだな」

 

「そういうことね。防御ターンが終われば、夜間の恐怖シリーズをするわよ」

 

徹底的に恐怖を植え付ける作戦のようだ。

 

「ねぇ、このギルドの総殺戮数がもの凄いことになっているけど…」

 

イズに言われた。確かに…運営め、こんな物を出したのか。狙われるじゃないか。個人別で無いのは救いであるが。

 

「お兄ちゃん!3時の方向から100以上来るよ」

 

そこまでの数になると、アスカの火力では、無駄時間が多くなる。時間が掛かれば、接近を許してしまう。運が良ければ、後ろのヤツまで貫通するらしいが…アナを召喚して、礫攻撃を指示して、全滅させた。

 

「鬼だ…三桁を一瞬で…化け物だよね」

 

サリーが笑っている。俺は戻ってきたアナをねぎらい、指輪に戻って貰った。いや、こんな作戦を思いついたサリーの方が鬼だと思う。

 

「夜の部は、メイプルとユイとマイ、後は、鬼畜兄妹でお願いね。私とカスミは休憩で、ガードはクロムさんカナデ、イズさんです」

 

サリーの計画が発表された。休みながら、戦い続けるイベントである。人員の睡眠スケジュール管理は大切であるのだ。

 

「取り敢えず、この3時間の保持タイムは起きていてね」

 

俺とアスカに、サリーが言った。この後、俺達の仮眠タイムがあるようだ。

 

「あっ!ペイン、みっけ!ドレッドもいるなぁ」

 

楽しそうなアスカの声がし、レールガンが弾を吐き出している。死んだな。5キロ先なんか、俺には見えないので、詳細は分からないけど。

 

 

3時間守り通し、ポイントが加算され、暫定1位に踊り出た。殺戮数は既に見たく無いレベルである。ギルドメンバーの個人データは、同じギルドメンバーが見られるそうで…

 

「ダンさん、ダントツですね~」

 

俺の背中に乗っている、メイプルに褒められているようだ。

 

「お兄ちゃんの火力ってハンパないなぁ。あれ、私もデスされちゃうよ」

 

味方からの辛い反応。

 

「あぁ、でも夜間セッションは、メイプルが有利かな?」

 

暗闇に紛れて悪魔が3匹、走り回るらしい。そして、オーブはマイ、ユイコンビで奪取するとか。一方の俺達は、メカゴ●ラ状態の俺にアスカが載り、暗視スコープでの狙撃らしい。

 

「でも、ダンさんの尻尾攻撃がハンパないよ~。私、ノックバックしたもの」

 

ノックバックで済んでいるメイプルがスゴイ。普通、圧死だろうに。

 

「無理に奪わないで、恐怖を与える方向でいいからね。奪うのは、早朝のPKタイムだよ」

 

と、サリー。そうなると3時くらいには戻って、仮眠だな。

 

ズッド~ン!

 

俺の足音がデカイ。地響きが起きているのでは無いのか?見つかるだろうに…機龍モードは、夜間でも暗視ゴーグルのように視界がくっきりしている。何かが蠢いていたので、試しにメイサー砲を発射してみると、遠くで人型の物がはじけ飛んでいるのが見えた。

 

「お兄ちゃん、それ、エグすぎだよ」

 

アスカにはバッチリ見えているようだ。あの一発で、殺戮数が50上がった。

 

「じゃ、アスカに任せた」

 

「あぁ、任されたよ」

 

 

 

---ミィ---

 

夜間セッション…相変わらず、楓の木の殺戮数カウンターが止まらない。一気に50もアップしているし。暗視ゴーグル持ちが多数いるのか?

 

うん?何やら、地面が揺れている。何か大きな物が迫っているようだ。

 

「何か来ます!デカイです!」

 

見張りの者が駆け込んでいた。デカイ?それは、昨日公開された怪獣か?外に出て確認をすると、月明かりが反射する物がこちらへと迫っていた。デカイ…

 

「おい!魔法使い達、前に!射程に入ったら、一斉に貫通魔法を撃ち込め!」

 

しかし…こちらの射程距離に入る前に、仲間達の頭が次々に吹き飛ばされていく。超遠距離からの狙撃のようだ。魔法が届かない距離から、撃ち込まれている。それも頭部に向かってである。楓の木の殺戮数カウンターが止まらない。アレは楓の木の秘密兵器だと確信した。アレはマズい…

 

「弓隊は射程距離に入るまで、隠れていろ。魔法使い達もだ!」

 

アイツらの殺戮数カウンターが止まった。それと共に、地響きが消えた。

 

「目標物が消えました!」

 

危機は去ったのか?しばらくすると、カウンターが再び動き始めた。何が起きているんだ?

 

「ヒドラ!」

 

メイプルの声…

 

「ミィ…強ばるなよ」

 

ダンさんの声…

 

首元には爪が向けられている。横目で見ると、あの蒼い装備の人物が立っていた。まさか、ダンさんが…殺戮王なのか?

 

「何もしなければ、ミィには何もしない」

 

「オーブ取ってきました」

 

メイプルが、私達のオーブを持っている。メイプルを使いっ走りにしているダンさん。まさか、あのギルドマスターって、ダンさんなのか?

 

「何もするなよ。今リスポーンすると、デスが増えるからな」

 

それはリスポーン地点に何かが仕掛けられているってことか…でも、ギルドマスターとして…うっ!意識が遠くなっていく。

 

 

 

---ダン---

 

ミィをスリープさせた。フレンドを俺の手でデスしたく無いからな。そして、カエデ達を指輪に戻し、アスカを抱いて、空を飛び自軍エリアに戻った。

 

「炎帝から取ってきたの?」

 

サリーが驚いている。

 

「リスポーン地点は毒塗れだ。夜間セッションでは来られないと思う。聖剣の方は持って逃げているようだよ」

 

集う聖剣も襲って来た俺達兄妹。

 

「あぁ、ペインを仕留めたから、リスポーン地獄に嵌まっているんじゃ無いかな?」

 

アイツを5デスに追い込みたい俺達兄妹。でも毒耐性は持っていそうだな。しかし、メイプルが進化し、毒ではなく猛毒になっているため、ダメージを受けまくるはずだ。

 

「鬼畜兄妹めっ!」

 

イズが苦笑いしている。じゃ、俺達は仮眠だな。休憩所へ向かおうとすると、

 

「おいおい!3時間は起きていてくれよ」

 

サリーに呼び止められた。

 

「朝駆けのPKタイムは?」

 

「鬼畜兄妹は睡眠タイムだよ。お昼からの部を頼みたい」

 

昼か…クロムとメイプルが既に寝ているそうだ。じゃ、俺達で護るか。マイ、メイも睡眠で、カスミがオーブ番をするそうだ。俺とアスカで1つだけの入り口を護る。ちなみに、イズとカナデは、秘密兵器として温存だと言う。

 

「ほぉ~二人だけか?」

 

しばらくすると、10人くらいの集団が来た。

 

「ゴメン、見逃した」

 

と、アスカが、通常装備の俺の隣に来た。俺達を全然警戒していない集団が息巻く。

 

「おい!オーブを出せ!」

 

「そうだな。お前達が命を差し出せば考えてやる」

 

「ヒドラ!」

 

俺の後方に、勝手に出てきたカエデからの猛毒攻撃。入り口の前は猛毒の海である。攻めてきたヤツラが、猛毒の海で溺れている。ソイツらの頭を、レールガンで消し飛ばしていくアスカ。

 

「一昨日来やがれ!」

 

賊を殲滅した。

 

「アスカ、寝てこいよ」

 

見逃したってことは、疲れているサインである。

 

「うん…ゴメン、お兄ちゃん…」

 

アスカが奥に下がり、カナデが出てきた。交代要員がカナデしかいなかったらしい。

 

「目の前が毒の海ですか?」

 

カナデに笑顔で、Vサインをしているカエデ。

 

「さすが、カエデちゃんだ。ハンパ無い」

 

仕留めたのはアスカであるが、黙っておこう。

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

ギルド対抗戦 Part2

本日2本目


予定より早く起こされた。

 

「なぁ、アレ、ここに出せないかな?」

 

って、イズ。

 

「アレって?」

 

「移動式ギルドホームよ」

 

まぁ、移動式だものな。アイテムボックス内の収納リストを見ると、収納されているようだ。外へ出て、出してみた。

 

「おぉ、イベント会場にも移動出来るんだな。ダン、防衛を頼むぞ!」

 

イズ、カスミ、サリー、マイ、ユイ、メイプルが、移動式ギルドホームへと雪崩れ込んでいく。

 

「アスカはいいのか?」

 

妹が俺の隣に来た。

 

「一人しか入れないんだ。最後の方が待たないだろ?」

 

まぁ、休憩所って言っても、洞窟内だし。身体は汗と埃と返り血塗れだものな。洗い流してすっきりしたのだろう。

 

のんびりとした時間。イベント2日目のお昼くらいかな?オーブをアイテムボックスにいれ、ギルドホームをテイクオフさせた。これで、しばらく戦場からトンズラだ。

 

「なぁ、これって、飛行機形態だけでなく、キャンピングカー形態にも、船にもなるみたい。」

 

真っ先に温泉に入ったイズが、コクピットから説明書を手にしてやってきた。

 

「イベント毎の宿代わりに使うんじゃないのかな?」

 

あぁ、なるほど…アスカが焼いたパンケーキとコーヒーを持って来てくれた。キッチンがあるって、珈琲ブレイクが出来るってことだな。平和な時間が流れ行く。なんか、家にいるより寛げるのは何故?

 

「今後の作戦はどうするの?」

 

「今日は、ここで休息も悪くないかな?夜の部は出撃するけどね」

 

サリーの声はまったりしている。湯上がりのお昼寝タイムか?アスカは、窓を開けて、何かを狙撃している。

 

「一応、イベント会場内の周回コースをオートパイロットさせているから、飛行ユニットのメイプルちゃんとダンは、奇襲をして来てもいいわよ」

 

って、イズ。俺もコクピットへ向かい、レーダーの使い方を覚え、作動させた。すると、群がっている場所を見つけた。ここって、ミィのところか?俺とメイプル、アスカが、そこへ向かってダイブした。

 

 

炎帝ノ国に群がる中規模ギルド達。いや、集う聖剣もいる。弱っている処を一気に潰すってことか?

 

「ペイン、みっけ!」

 

アスカが狙撃した。ペインの頭が弾け、その瞬間メッセージウィンドウにメッセージが流れた。

 

『集う聖剣のギルドマスター、ペイン、5デスの為、集う聖剣は失格になりました』

 

「何?」

 

「ウソだろ?」

 

集う聖剣と戦っていたヤツラが、炎帝ノ国に群がっていく。まるで、ハイエナみたいなヤツラだ。

 

「「ヒドラ!」」

 

二人のメイプルが、毒竜ダブル攻撃をかました。ハイエナ集団のいる辺り一面が紫色の沼になっていく。

 

「何?メイプルだと…」

 

突然、いるはずの無いメイプルの攻撃に響めき、息絶えていくハイエナ達。

 

俺はミィとフレデリカを、毒殺に巻き込まれないような安全な場所に救い出し、俺自身は毒の沼に攻め込んだ。アスカは、沼の畔で、ライトセーバー感覚で、敵を切り倒している。メイプルとカエデはシールドアタックで、息の根を止めている。で、俺は拳を撃ち込んでいく。

 

メッセージウィンドウに色々なギルドの失格情報が流れていく。失格ってことは、ハイエナ達のギルマスが5デスのようだ。次から次に乱入してくる敵、ここに群がってきているようだ。ここが最終決戦の場かもしれない。

 

【全武装展開】

 

メイプルが奥の手を出した。初見の者達が固まっていく。ガチャガチャと何かが組み上がっていく音…

 

【暴虐】【捕食者】

 

カエデも奥の手を出した。じゃ、俺も…【機龍】

 

決戦の舞台は、人間対3大怪獣の決戦に様変わりしていく。俺のテールスタンプで、潰れてデスする者が多数。メイプルの主砲で、地形ごと壊されていく者多数。捕食者達に喰われている者もいれば、暴虐に焼かれている者もいる。これが地獄絵図って物だろうか?

 

 

 

----運営スタッフルーム---

 

イベント開始1日半にして、イベントが終焉を迎えていた。5日間を予定していのに…

 

「今回は我我が煽りすぎたんですよ。彼らは悪くない」

 

ダンのファンであるスタッフが庇う。

 

「あんなランキングをリアルタイムで配信するから、彼らの動きが筒抜けだったのでは無いですか?」

 

カウンターが止まれば、防衛体制になったと分かるし、カウンターがうなぎ登りであれば、進撃中って分かる。

 

「それにしても速すぎるだろ?」

 

2日目にして、全順位は確定した。残っているギルド数は2である。そのうちの1つは、ギルドマスターを人質に取られている。

 

「リスポーンエリアの安全対策をしていなかった、我我のせいですよ。彼らは、ルール無視はしていない」

 

重苦しい空気が運営陣を飲み込んで行く。

 

「では、ハイライトシーンを編集しましょう」

 

重苦しい空気の中、映像の編集をしてみたのだが、その編集されたシーンの八割近くは、楓の木絡みになっていく。

 

「たった1つの小規模ギルドにやられたんだな…」

 

運営リーダーが肩を落としながら、目は笑っていた。次の課金メニューが浮かんだのだ。『打倒!メイプルセット』とか…

 

 

 

---フレデリカ---

 

何、これ?

 

ダンさん達の移動式ギルドホームへ招き入れて貰った。温泉…キッチン完備。あの戦闘に参加していない人達は、優雅にティータイムを楽しんでいた。

 

「まぁ、温泉でも入って、リラックスしていって」

 

サリーさんがユニットバスに案内してくれた。いいなぁ…洞窟で過ごしていたのは、苦行だったのか…お風呂上がりに、ケーキと紅茶…まったりとして時間がそこにあった。

 

「イベント期間って、後3日あるけど、どうなるのかな?」

 

残りギルド数は2つである。楓の木と炎帝ノ国である。ポイント的に楓の木が優勝であると思う。ミィはここにいて、既に戦意が無いし。

 

「なぁ、フレデリカ。移籍しないか?」

 

ダンさんに誘われた。

 

「やはり、全うな魔法使いは一人必要だと思うんだよ」

 

うん?全うな?一人必要?

 

「でも広域魔法の使い手がいますよね?」

 

「え?誰のこと?このギルドには、カナデしか魔法使いはいないけど…」

 

「ボクは広域魔法は使えませんよ。覚えていないし。誰の事を言っているんですかね?」

 

あれ?なんで、いないの?

 

「まさか、メイプル…あんた、またやらかしたの?」

 

「え?う~ん…やらかしていないかな」

 

いないみたいだ。じゃ、あれは誰の魔法だ?

 

「あっ!」

 

イズさんが何かに気づいたようだ。

 

「う~ん、これは、移籍後じゃないと話せないわね~」

 

もったいぶるんだ…極秘ネタなのか?

 

「ギルドマスターを辞められたら、移籍したい」

 

ミィさんが爆弾発言…

 

「ミィ、炎帝はミィあっての炎帝だ。辞めなくても、イベント前後で無ければ問題は少ないから、遊びに来いよ」

 

「いいんですか…ダンさん…」

 

ダンさんの胸に顔を埋めているミィさん。なんか出遅れた感がある…

 

「私も移籍したいです」

 

「じゃ、イベント終了後にね」

 

サリーさんの冷たい視線。信用されていないのか?スパイ疑惑があったからか?

 

 

 

---とある掲示板---

 

780名前:名無しの大盾使い

やあ、どうだった?

 

 

781名前:名無しの槍使い

おう動画見たぞ

 

 

782名前:名無しの弓使い

まさか、ラストシーンが、クロムの入浴映像とは…

あんな場所ってあったか?

 

 

783名前:名無しの大剣使い

あれって、露天風呂じゃなく内風呂だよな?

 

 

784名前:名無しの大盾使い

あぁ、あれなぁ…うちのガチャマニアが大当たりを引いてだな

移動式ギルドホームって言うのを当てたんだよ

 

 

785名前:名無しの魔法使い

怪獣大戦争といい、イベントに内風呂を持ち込むとか

どうやったらあぁなれるかご教授願いたい

 

 

786名前:名無しの大盾使い

だから本当電光石火なんだよ

ほんの一日だけ目を離したらその瞬間に、あの二人は何かやらかすんだよ

 

 

787名前:名無しの槍使い

二人?全員で無いのか?

 

 

788名前:名無しの大剣使い

単になにかやらかすレベルでは無く、突然変異クラスだろう

 

 

789名前:名無しの弓使い

と言うか楓の木は全員まともじゃないぞ

クロムの映像見て確信したぞ

 

 

790名前:名無しの大盾使い

そうか?

 

 

791名前:名無しの弓使い

そう

クロムもメイプル色に染まっている

 

 

792名前:名無しの大剣使い

メイプルちゃんとダンがやばすぎて相対的に普通に見えてしまうだけでなあ

ただそれを考慮してもサリーちゃんと双子ちゃんとビームサーベルの子はおかしい側

 

 

793名前:名無しの魔法使い

俺楓の木の轢き逃げにあってるからな

暗闇で急に空を舞う感覚は分かるまい

 

 

794名前:名無しの弓使い

前衛を鉄球数発とかな

これメイプルちゃんの系譜だろ

明らかに足遅かったし

 

 

795名前:名無しの槍使い

だろうな

まあメイプルちゃんよりはマシな感じはしてるけど

 

っていうかメイプルちゃんが二人いないか?

 

 

796名前:名無しの大盾使い

メイプルちゃん双子説か?

まぁ、双子はいるけどな

 

 

797名前:名無しの大剣使い

は?

メイプルちゃんって双子がいるの?

 

 

798名前:名無しの魔法使い

ちがうの?

じゃあれは他人の空似?

能力を含めてさぁ

 

 

799名前:名無しの槍使い

動画を見る限りカスミちゃん以外、みんなおかしいだろ?

なんだよ、あのカウンターの上がるペースは?

 

 

800名前:名無しの大剣使い

一対一で勝てる気がするメンバーがいない件

ヤバい奴集団か?

 

 

801名前:名無しの大盾使い

まじめな話サリーちゃんに一対一で勝てる奴はすごいぞ

まぁ、ダンとアスカくらいだと思うが

 

 

802名前:名無しの弓使い

躱すんだっけか?

動画で見た感じだともう少しでって感じなんだがな

 

 

803名前:名無しの大盾使い

噂も広まってると思うがマジで噂のままだからな

ただただ攻撃が当たらない

あのダンも攻撃が当たらないからな

 

 

804名前:名無しの大剣使い

楓の木の噂というか話?

溢れ返ってるからな

特に今回のイベントでの動画がインパクト強すぎ

 

 

805名前:名無しの槍使い

神魔大戦とか怪獣大戦争とか終末の日とかまあ凄まじい呼ばれ方してる

5日日程が1日半で終わらせる殺戮集団だろ?

 

 

806名前:名無しの大盾使い

殺戮に関してはPKコンビの所業だ

殺戮にはメイプルちゃんは関わって居ないと思いたい

 

 

807名前:名無しの弓使い

絶無の希望がひとつまみの希望になるだけで大した差はないです

 

 

808名前:名無しの魔法使い

ペインが5デスした瞬間、背筋が凍り付いたぞ

最強プレイヤーもデスするんだなって

 

 

809名前:名無しの槍使い

てかメイプルちゃんはあれだ

何で確定耐えスキル持ってんの?

メイプルちゃんを削った奴が以前にもいんの?

 

 

810名前:名無しの大盾使い

いるなあ

うちのギルドにいるぞ

メイプルキラーが

 

 

811名前:名無しの弓使い

まだ上がってんの?

もう既にこれ以上必要ないレベルだろ

 

て、メイプルキラーがいるのか?

 

 

812名前:名無しの大盾使い

リベンジに燃えているメイプルちゃん

最近聞いたら5桁が見えていると

そうおっしゃいまして

私も意識飛びかけましたよ本当もう

 

 

813名前:名無しの大剣使い

既にVITは俺のSTRの50倍くらいなんだが

メイプルキラーのSTRってどんだけ?

 

 

814名前:名無しの魔法使い

そうなるとあれかもう他のステータスには振りたくない気分になってきたと

 

 

815名前:名無しの弓使い

楽しんでくれて何よりです

というか他のステータスに振り始めると手がつけられなくなる

普通の速さで歩けるようになるだけで超強化とかうけるわ

 

 

816名前:名無しの大盾使い

メイプルちゃんは効率とか考えてないのか考えてるのかよく分からん

とにかくダンに勝ちたいそうだ

 

 

817名前:名無しの魔法使い

ガチガチに考えてないから強くなった説を推しておこう

 

 

818名前:名無しの槍使い

普通の思考では毛玉になって降下時のクッションは思いつかんわな

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

SS:再会

本日3本目


 

妹の明日奈と街を歩いている。帰路と言えばそうだし、ウィンドショッピングと言えばそうだし、なんだろうか?こうして街を眺めるのも仕事だと父は言う。

 

「兄さん、このVLのバッグが欲しいなぁ」

 

「そういうのは彼氏に買って貰えよ」

 

「兄さん以外、考えていないもん」

 

「ラノベのような義妹ならな。お前は血の繋がった妹だろ?それも二卵性双生児だぞ」

 

俺と明日奈は同じ高校で同じクラスである。学校では他人の目を気にしてクールビューティー、俺と二人になると甘えん坊って、落差ありすぎるだろう。

 

「あれ?」

 

「どうした?」

 

明日奈が何かを見つけた。前を歩くJCの二人連れのようだが。明日奈がその内の一人を捕まえた。あっ…あの横顔。もう一人の子の横顔も似ている。まさかなぁ。

 

「ねぇねぇ、サリーちゃんだよね?ちょっと、顔貸してくれない?」

 

「えっ!」

 

「ほら!明日奈、びびって居るぞ」

 

「ふふふ、ソッチの子もだよ。逃がさないからね」

 

JC二人を拉致して、いつも行くカラオケボックスに入った。

 

「好きな物を頼んでえぇでぇ~」

 

「おい!明日奈、口調がおかしいぞ」

 

「サリーちゃん、顔をよく見せて」

 

「えっ!」

 

顎クイをして、顔を近づける明日奈。

 

「ほら、怖がって居るぞ」

 

「ねぇねぇ、兄さん、サリーと私、どっちがかわいい?」

 

 

 

---本条 楓---

 

見た事の無い高校生の男女に、カラオケボックスに連れ込まれた。う~ん、ゲーム内なら悪食で退治するんだけど…理沙をゲーム内のサリー呼びしている。

 

ゲーム内で恨まれたのかな。私も連れ込まれたってことは、メイプルってバレているのかな?

 

「サリーちゃん、どうしたの?ゲーム内のように勇ましい言葉を言ってみて」

 

理沙は蛇に睨まれたカエル状態で、されるがままである。この後、簀巻きにされて、コンクリート詰めで、海にポイかな?こんな時にダンさんがいれば、助けて貰えるのに…

 

「明日奈!いい加減にしないと、晩ご飯抜きな」

 

「えぇぇぇぇ~、そんなぁぁぁぁ~」

 

「悪いなぁ。妹が馬鹿しやがって」

 

「そうだ!兄さん、メイプルちゃんと結婚して、男の子を産んでよ。私のお婿さんにする」

 

なんで、そこで私の名前が…結婚…まだ中学生だし…まだまだ先のことである。

 

「俺が産むわけではないぞ」

 

「きっと、メイプルちゃんみたいな、かわいい男の子もありかなって」

 

「あの…あなた達は誰です、ひゃぅ!」

 

女性が手を上げると、軽い悲鳴を上げた理沙。

 

「なんか、言った?」

 

「いえ…」

 

完全にびびっている。こんな理沙を初めてみた。涙目で顔色が悪い。お化け屋敷に入った時のようだ。

 

「君の名前は?俺の名前は諸星正、あっちは妹の諸星明日香だ」

 

「モロボシ…ダン?」

 

震える声の理沙。

 

「正解だ」

 

へ?モロボシダン?もろぼしただし、って名乗ったのに…はて?

 

「びびらせないでよ~」

 

彼の手の平が理沙の頭を撫でると、理沙から笑みがこぼれた。どうしたんだ?知り合いだったのか?

 

「いやぁ~、こんなにびびるとは」

 

妹さんは笑っている。

 

「妹が無礼を働いたので、もっといいお店に連れて行ってあげるよ。明日奈はハウスだ!」

 

「なんで?実の妹がかわいくないのか?」

 

「さぁ、いこう、サリー、メイプル」

 

が…腰が抜けていた理沙。

 

「びびりすぎだよ~、サリー」

 

「びびるでしょ?一応、中学生なんですからね」

 

正さんが理沙を背負い、私の手を握り、どこかへと連れて行かれる。

 

「兄さん、子持ちでも似合うねぇ~」

 

「お前、言い加減にしないと、後でしばくからな」

 

幸い、裏路地の怪しいお店ではなさそうだ。大通りに出て、甘い香りのする館へと入っていく。

 

 

高級洋菓子店に連れて行かれた。ここのケーキは美味として有名である。

 

「好きなだけ食べていいよ。明日奈はいつものでいいなぁ」

 

「あい」

 

「すいません。レスカ1つにジャンクリアンを1つ、この子達にはケーキセットをお願いします」

 

店員さんに注文してくれた正さん。

 

「ここのは、ワゴンでケーキと飲み物を運んで来るんだ。目の前で選ぶんだよ」

 

「楓…ダンさんとアスカさんだよ」

 

私の耳元で囁く様に、教えてくれた理沙。

 

「ダンさん?」

 

「はい、正解」

 

はぁい?イメージが違う…うっ…ゲーム内では父親的なポジションで、現実では憧れ…

 

「こんな高級なお店、大丈夫ですか?」

 

思い出した…ケーキのワゴンサービス…2000円くらいしたはず。

 

「大丈夫だよ、ここは俺達の家だからね」

 

あっ!モロボシ洋菓子店って、店名だった。

 

「跡継ぎ?」

 

理沙が訊いた。

 

「あぁ、明日奈がパティシエで、俺がデザインだな。高校に入ったら、菓子作りの勉強で、武道を習う時間が無くなったんだ。それで、ゲーム内で身体を動かしているんだよ」

 

「じゃ、アスカさんが、ゲーム内でケーキ作りが上手なのって?」

 

「PSだよ」

 

近所に住んでいたんだ…運命的な出会いかな?

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

バグ Part1

イベントの翌日、フレデリカが、楓の木に参加しに来た。フレデリカによると、円満離脱だったそうだ。ミィは炎帝で反省会だそうだ。

 

「やはり、ペイン狩り作戦は成功したねぇ」

 

そんな作戦はない。アスカが自慢げに話すのでスルーした。

 

「運営がまた動画を配信していたわよ」

 

サリーが、ホームにあるメインモニタで再生しだした。見たくもない酷い戦闘の連続である。暴虐姿のメイプルにはねられて、宙を舞うプレイヤー達。そのプレイヤー達に鉄球を投げつける双子。メカゴ●ラに踏まれて、命を落とすプレイヤー達。もはや、戦ってもいないし。

 

で、最後、クロムの入浴シーンで終わるって、どんなセンスなんだ?

 

「もう1本、配信されているけど」

 

連続再生するサリー。

 

テロップで『最強プレイヤー ペイン』と表示されて、頭が吹き飛ぶペイン。衝撃的なシーンから始まり、アスカの狙撃コレクションが流れ続け、『最強のPK あなたは逃げられるか』とテロップが流れて、次のシーンに目を見張った俺。殺戮数カウンターが大映しされ、ウナギ上りに上がっていく。カウンターの下には、テロップで殺戮数が表示されていく。これって、俺か?『謎のテロリスト あなたはいつも狙われている』

 

って…賞金首にでもなった気分だぞ。

 

「へぇ~、有名人になったわよね。鬼畜兄妹は」

 

サリーが嬉しそうに言う。

 

「まさか…ダンさんとアスカさん?」

 

フレデリカが俺達を涙目で見ている。

 

「メイプルの方が有名人だろ?」

 

「実質的なラスボスよね。でも私達は知っている。メイプルキラーの存在をねぇ」

 

「あぁ、掲示板に出ていた噂話だろ?おい!そうだろ、クロムさん!」

 

ガタッ!

 

「えっ?俺は何も…」

 

「ふ~ん。ネタは上がっているんだぞ。メイプルの防御力が5桁に手が届くことは、このギルドメンバーしか知らないんだ。なのに、どうして、名無しの大盾使いさんは知っているんだ?もう1回、地獄を見てくるか?!」

 

「もう!止めて。ギルド内での揉めごとは」

 

イズが止めに入った。

 

「クロム、今回は、あなたが悪いわよ。ギルド内情報を出し過ぎ」

 

「すまない…つい…」

 

「フレデリカを登録したから、今から正式メンバーだからね」

 

サリーがメイプルの代わりに、ギルドの事務面をサポートしていた。一方、メイプルは…修練場で双子と対戦中である。破壊成長の装備を成長させる為らしい。俺でも良かったんだが、サリーに止められた。

 

「メイプルキラーなんだから、自覚を持ってくださいね。ダンさんに鍛えられたら、ダンさんを超えるが難しいでしょ?」

 

それはそうなんだが…実のところ、サリーは俺がどうしてメイプルを瞬殺出来るかの仕組みを知らない。なので、策が練れないようだ。まぁ、仕組みがバレても、策はない筈だ。防御力無視の攻撃スキル持ちだし。

 

「射的場が少なくなったねぇ」

 

って、アスカ。空を飛べる世界である3層だと、隠れる場所が少ないそうだ。

 

「4層は、どうなんだろう?」

 

どうなんだろうな。

 

 

イベントが終わってから1ヶ月後、4層が実装された。前回同様にギルドを2パーティーに分けて、突破することになった。フレデリカは俺と同じ後発隊である。まず、メイプル達が入った。瞬殺で終わると思っていたのが、中々俺達の番が来ない。強敵がいるのか?5分ほど経ち、ボス部屋の扉が開いた。中にいたのはアイアンゴーレムのようだ。

 

「固そうなんで、俺で行く」

 

懐に入り込んでからの32連打。2発目で当たりが出て、4層目に出られた。そこは常闇の町だった。星の煌めく夜空に赤と青の2つの満月。不気味である。お化けエリアか?

 

「速い…」

 

サリー達、先発組が驚いていた。

 

「なんで、手間取ったんだ?」

 

「私でもメイプルでも攻撃が入らなかったの。で、マイメイコンビにチェンジしたら、高火力で簡単に削れたけど。さすがメイプルキラーね。VIT振り相手には無敵なのかな?」

 

サリー、正解だ。

 

皆で、ギルドホームへ向かうと、隣には収納庫兼整備場があり、既に移動式ギルドホームが鎮座していた。その後、ギルドホーム内をチェックして、街中の探索へと、出た。俺はフレデリカとアスカと一緒らしい。

 

「お兄ちゃんって、一人だとやらかすからね」

 

信用がまるで無い。今までの行いなのか?メイプルはサリーと巡るようだ。

 

「お兄ちゃん、あの高い塔が怪しいよ」

 

「あぁ、良い狙撃ポイントだよな」

 

「ぎくっ!」

 

ビンゴらしい。この階層での狙撃ポイントは、あの高い塔の上の方にするようだ。

 

「この鳥居を潜るようですよ」

 

フレデリカが道順を教えてくれた。やはり、常識人のフレデリカは貴重だな。二つ目の鳥居を見つけ、通過しようとすると、弾かれた。ノックバックというより、結界か何かか?

 

「アスカ、レールガンで貫通出来るか?」

 

「う~ん、出来無いみたいだよ」

 

 

数日後、ホームに集まり、情報を交換した。

 

「私は即死効果を手に入れて、着物買ったよ!」

 

嬉しそうなメイプル。何?即死効果だと…マズい…俺も何か強化しないと…

 

「私からは、この階層では通行証を手に入れないと、自由に探索出来無いみたいなの」

 

サリーは有用な情報を出してくれた。

 

「で、通行証にはランクがあって、面倒なクエストをこなさないと、ランクが上がらないんだって」

 

クエストかぁ。嫌な予感しかしない。クエストはステイタスによって、発生する者と発生しない者とに別れる。なので、ここからは単独行動になる。まぁ、単独ではあるがカエデとフレイヤがいるので、相談は出来るが…

 

探索をしていると、

 

「おい!お前、強そうだな。我を倒して見よ!」

 

鬼が現れた。32連打を叩き込みと、鬼はドット落ちしていく。

 

「お前にコレをやる。精進せよ、なお一層な…」

 

何かの通行証をくれた。なんだ、これは?当ても無く歩いていると、どこからか祭り囃子が聞こえて来た。その音に誘われる様に、歩いて行くと、お寺に出た。祭りをやっている様子は無い。ワナか?

 

「貴様、何者だ?ここには人間は入って来られぬのだぞ」

 

影のようなヤツが現れた。迷わず【ホーリークロウ】を叩き込んだ。

 

「何…貴様…」

 

あれ?倒しちゃダメなヤツだったのかな?何もドロップしないし。影のいた場所を探していると、落とし穴に嵌まった。また、このパターンか?

 

 

そこは地獄だった。針山地獄、血の池地獄などがあるし。

 

「お前は大罪人のようだな。ここで、かわいがってやるよ」

 

棍棒を持った鬼達がぞろぞろやってきた。面倒だなぁ。ドラゴンシリーズを装着し、【機龍】を発動すると、形勢は逆転した。逃げ惑う鬼達を尻尾で潰し、足で潰し、エラそうなヤツを見つけて、メーサー砲を叩き込んだ。

 

「バチ当たりものめ!貴様など、魔界送りだ!」

 

冥界送りでなくて?魔界か?蒼き装備に切り替え、【ホーリークロウ】で、悪魔や魔物達を蹂躙していく。終わりの見えない戦い。何故か、ログアウトボタンが出ない。デスゲームなのか?ここは…

 

蹂躙し続けると、目の前に新敵が現れた。どこかメイプルに似ているが、構わず32連打で殺しておく。

 

「貴様!メイプルを…【炎帝】」

 

ミィに似たやつが、俺に炎攻撃を繰り出してきた。こいつも32連打で殺しておく。され、次はどいつだ?

 

「お願いです。怒りをお鎮め下さい、魔神さま…」

 

見た事の無い少女が、俺に祈りを捧げてきた。身体の闇が昇華していく。昇華していった闇が人型になり、徐々に実態化していく。

 

『我が名はデミウルゴス…神であり悪魔であり魔王である。我の僕にならぬか?』

 

「悪いが俺は男の下僕にはならぬ。俺は女を下僕にする!」

 

天空からカミナリが落ち、俺に祈りを捧げていた少女を直撃した。全身火だるまになっていく少女。その少女が俺の前に現れ、先ほどの男と共に、俺に跪いた。

 

「我が名は、魔女として葬られた聖女ジャンヌと申します」

 

「我が名は、旧約の神であり、新約では魔王とされたデミウルゴスと申します」

 

「「我らを主様の末席にお加えください」」

 

そう口上を述べると、俺の指輪に吸い込まれて行った。で、ここはどこだ?

 

 

ひたすら歩くと、お城に出た。誰の城だ?

 

「貴様!我が城に何用じゃ?」

 

いきなり刀で斬りかかってきた男。クロスカウンターで男の顔を潰した。男は頭の無い龍に変化していく。そして、ドットと落ちをして消え去ると、アイテム『龍の逆鱗』を手に入れた。まだ、ログアウト出来無い…死ねばいいのか?先に進むと、楓の木のメンバーがいた。出迎え?

 

おぉ~、ログアウトのボタンが表示された。現世に戻れたようだ。

 

「ダンさん…今までどこにいたんですか?」

 

サリーが心配そうな顔をして、俺に抱きついて来た。

 

「いや、よく分からないんだ。で、サリー達は、どうしてここに?」

 

「龍退治にです」

 

「龍?倒したけど…」

 

「はぁい?」

 

ドロップアイテムの『龍の逆鱗』を手渡すと、ギルドメンバーの人数分に分かれた。

 

「一人で倒したんですか?」

 

メイプルが妙な事を言う。

 

「俺、ドラゴンの類いに無敵だから…」

 

「へ?」

 

「伝説のドラゴンセットがあるだろ?あの恩恵で、ドラゴンはワンパンだから…」

 

結果的にそうなっただけである。相手がドラゴンであるという認識が無かったし。

 

「これ、なんかのクエストだったのか?」

 

「じゃ、鬼退治を…」

 

「倒したよ。とっくにね」

 

何故か、みんなが呆れるように俺を見ていた。

 

 

12月になると、フィールドは雪化粧を纏った。衣変えに季節である。ふとゲットしたのに、装備したことの無いやつがあるのを思い出し、取り出した。

 

『神装備』

頭【雷神ヘルメット(フェースガード付き)】

体【フェニックスの鎧(不死属性)】

右手【籠手(ドラゴンスレイヤー)】

左手【籠手(ホーリーアロー)】

足【鬼神のレッグガード(即死属性)】

靴【龍神のブーツ(帯電)】

あらゆる属性に対応できる究極な一品。

取得条件:2層への守護神を、ソロで初バトルで撃破

 

なんか、ゲームバランスを大きく崩しそうである。そうだ、だからお蔵入りにしたんだ。思い出した。でもフェースガード付きは魅力である。正体がばれないってことだし。ふふふ…

 

ちょうど、第5回イベントとしてフィールド探索型イベントが開催されるようだし。PKし放題か?

 

 

 

---サリー---

 

最近、ダンさんを見かけていない。なんか、胸騒ぎがする。

 

「おい!PKしようぜ」

 

それは突然現れた。金色に輝くフルアーマーである。相手はフルアーマーの割に、素早い。相手の剣先を、ギリギリで躱せたのだが、背筋に嫌な汗をかいている。これって、躱してもヤバいヤツだ。全身が恐怖に浸食されていく。コイツ、プレイヤーか?それともAIモンスターか?

 

「がっ!」

 

相手の蹴りをギリギリで躱したのだが、全身が痺れていく。マズい…誰か、助けて…ダンさんさん…

 

「サリー、大丈夫?」

 

メイプルが来てくれた。

 

「2対1か。いいぜ。PKしてやるよ」

 

相手の蹴りがメイプルを掠めた。ただそれだけで、メイプルがドット落ちしていく。相手の蹴りって、即死属性なのか?マズい。掠めただけでデッドって、ハンパ無い。シャレにならん相手である。

 

【ホーリーアロー】

 

目の前から光輝く矢が飛んで来た。聖属性攻撃?即死持ちでか?おいおい…躱身の術で乗り切り、分身の術で逃げを打った。みんなに知らせないと、ヤバいだろう、あれって…

 

急いで街中に戻った。街中でのPKは禁止であるので、安全地帯である。

 

ギルドホームになだれ込むようにして入った。

 

「どうしたの、サリー?」

 

フレデリカがいた。メイプルがやられたことを知らせ、襲われた相手のことを説明した。

 

「あぁ~」

 

うん?フレデリカの態度で、相手の正体の予想が着いた。だからのフェースガードなのか?顔がわからなければ、何をしていいとでも思っているのか、あの男は…

 

「どうしたよ、サリー」

 

まるで気配を感じなかった。なのに、後ろから抱きつかれていた。

 

「こんなに息を切らせるとは、珍しい」

 

隠し持っていた短剣で、背後の人物を刺した。

 

「おいおい、街中はPK禁止だろ?」

 

腹部に短剣が刺さっていても、HPが減らないダンさん。今度は何をやらかしたんだ?って…でも、なんで、あのアーマーを着ていないんだ、コイツ…このダンさん、どこか違和感がある。

 

「フレデリカ、大丈夫か?」

 

ミィが聖女であるミザリーを連れてきた。ミザリーが浄化魔法でダンさんとフレデリカを浄化していく。うん?何かに取り憑かれたのか?

 

「殺さないとダメかも」

 

ミザリーがドット落ちしていく。なんで、浄化していたミザリーが…何をされたんだ?

 

「次は誰が相手だ?」

 

目の前のダンさんの声から感情を感じられない。コイツ、何者だ?

 

「俺が相手だ。俺のニセモノ野郎!」

 

さっきのフルフェースのフルアーマーがそこに立っていた。こっちが本物のダンさんだろうな。殺気がムンムンしているし。

 

「なんだと?お前こそニセモノじゃないのか?フルフェースで顔を隠しやがって」

 

「ドッペルゲンガーよ。お前は俺を怒らせた。殺してやる!」

 

【召喚;デミウルゴス】

 

【召喚:フレイヤ】

 

「「ご主人様を語る者に死を!」」

 

なんか、良くない者を使い魔にしている気がするが、今は事態の収拾が先だ。目の前にいたダンさんが煙の様に消え、本物のダンさんの使い魔は、指輪へと戻っていった。

 

「じゃ、サリー、PKの続きをしよう」

 

えっ?羽交い締めにされて街の外に連れ出された。コイツは本物か?こんなにPKが好きだったっけ?

 

「お前、本当のダンさんなのか?」

 

「あぁ、そうだよ。実はなぁ、今、街の中にはドッペルゲンガーが大量発生しているんだよ」

 

【クイックチェンジ】

 

蒼き装備に着替えたダンさん。

 

「さっきのPKは?」

 

「あれは、俺だよ。あの装備、ハンパないだろ?だから、サリーかメイプルで試そうと思って…」

 

あぁ…やらかしたのは、それか。

 

「原因は?」

 

「誰かがやらかしたんだろうね。幸い、ドッペルゲンガーは街の外には出られない。容疑者と思うのは、フレデリカだよ」

 

「証拠は?」

 

「これっ」

 

草むらからフレデリカを取り出した。

 

「ドッペルゲンガーが生じている者は、不死になりログアウト出来無い。その上、本体はプレイヤーを襲う。まるで、ゾンビのようにね。ミザリーが言っていただろ?殺さないとダメだって」

 

「言っていたわね」

 

「ログアウトさせないとダメってこと。たぶん、フレデリカの中の人に何か起きたんだよ。ログアウト出来無い何かがね。そのせいで、システムに影響が出たんだと思う。今、運営も大慌てだろうな」

 

「それって、ゲーム内じゃ、どうにもならないでしょ?」

 

「だから、アスカをログアウトさせた。確認させる為にね」

 

信用していいのか?

本物のダンさんなら、こんなワナは使わない。

 

「信用されていないのか?白峯 理沙さん」

 

私の本名を知っている。本物のダンさんだ。

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

バグ Part2

サリーに、起きていることを説明している。

 

「ドッペルゲンガーが、産まれる仕組みは?」

 

「クエストでバグが発生した時に産まれるような気がするんだ」

 

「ダンさんは、どんなクエストをしていたの?」

 

「フレデリカと一緒にカップル限定のクエストだよ」

 

「それは、どう言った物?」

 

「カップルで、あるNPCに声を掛けると、借り物競走のようなクエストを受けられるんだ。ミィとした時、ミザリーとした時は問題無くクリアしたんだけど、フレデリカとのイベント中に問題が起きてね」

 

「どんな問題?」

 

「クエスト受注中に、フレデリカがログアウトしたみたいなんだ」

 

「先ほど、ログアウト出来て無いって、言いませんでしたか?」

 

「だから、なんていうか…フレデリカが急に消えて、リスポーン地点に急いで向かうと、フレデリカのドッペルゲンガーとゾンビがリスポーンしたんだよ。ゾンビはリスポーンして直ぐにプレイヤーを襲い、ドッペルゲンガーは何喰わぬ顔で、どこかへ去った。俺が見つけた時には、ホームにいたから、ミィに浄化出来るミザリーを頼んだんだ」

 

メッセージが届いた。アスカからだ。

 

『サイバー対策室に対応を丸投げ、運営に連絡済み、ちょっと待って』

 

サリーがメッセージを見ている。

 

「サイバー対策室?これって、警察の?」

 

「俺の話をした方が早いかな。俺の通っていた道場って、警察関係者が多くて、中学の時に、サイバー対策室にスカウトされて、ホワイトハッカーとして、バイトしていたんだよ」

 

このゲームを始める資金は、休職前の最後のバイト料だったなぁ。

 

「はぁい?」

 

「で、その時のコネを使って、フレデリカの中の人を探して貰って、状況の確認をして貰っているんだ。サイバー対策室だと、運営会社にIPアドレスなどの個人情報を訊けるだろ?」

 

また、メッセージが届いた。今度は運営からだ。地図データが送られてきた。

 

「これって?」

 

「万が一の際のゲーム内コンソールの位置だよ。行くよ」

 

示された場所へ急ぐ。運営に正体がばれたけど、問題は無いよな?職権乱用はしていないし。

 

「ゲーム内コンソールって?」

 

「ゲーム内でバグに気づいたら、ゲーム内で修正出来るようにしてあるんだ。プレイングプログラマって言う特殊ジョブが、ホワイトハッカーでゲーマーだと、認定試験を受けられるよ。一応、国家資格だよ。ホワイトハッカーは公務員扱いだからね」

 

国家認定の正義のハッカーって位置付けである。正式にはホワイトナイトハッカーで、白き騎士団って感じだそうだ。

 

「ダンさん…いえ正さんは、そのジョブなんですか?」

 

「そういうことだ。ただ、ケーキ職人の勉強の為、バイトは休職中だけど」

 

墓場の一番奥の墓石を倒すと、コンソールが出てきた。あのクエストのプログラムを表示させて、目で追っていく。

 

「これかな?」

 

本来はクエスト受注中のログアウトは、クエスト失敗扱いになるはずだが、クエスト受注中はログアウト不可になっていた。そこを直していく。そう言えば、以前もログアウト不可のクエストに遭ったな。あれも直しておくか。

 

「受注中はログアウト不可になっていたよ。本来はクエスト失敗になるはずなんだけど…」

 

手直ししたので、運営へメッセージを送り、システムへの書き換えを依頼した。で、俺が遭遇したクエストは…あっ!コンプリート済みで修正が出来無いのか。これも知らせておくか。同じルーチンを別の処理で再利用していると危険であるから。

 

運営からメッセージが届いた。

 

『修正に感謝 システムをリセットするので、運営アナウンスに従わずに、ログアウトしないプレイヤーをPKしてください 街中でもOKです』

 

サリーにメッセージを見せた。

 

「さて、ゾンビ狩りをするぞ」

 

「了解!」

 

 

ゾンビ事件によるシステムリセット後、3日ほどシステムメンテでログイン出来無かった。フレデリカの中の人は、プレイ中に尿意を感じ、ログアウトしようとしたのだが、システムに繋がれた状態でヘッドセットを外した結果、意識を刈られたようだった。現場に踏み込んだ刑事さんによると、彼女の尊厳の問題だから、訊かない方が良いって…

 

「警視総監賞ですか?すご~」

 

今回の功績で貰った。貰ったけど、当然なことをしただけであり、特段嬉しさは無い。

 

目の前に、楓と理沙がいる。うちの店でのクリスマスイベントに招待したのだ。

 

「ゾンビ事件ですか…私、全く知りませんでしたよ」

 

俺がPKした直後、リスポーンされることなく強制ログアウトされた楓。運営が知らせを聞いて、リスポーンせずにログアウトさせたようだ。

 

「ダンさんにPKされた後、再ログイン出来無くて、その後にメンテになって焦りました」

 

明日奈は厨房でケーキ作りに励んでいる。

 

「理沙、そのケーキはどうだ?妹の新作で、デザインは俺だよ」

 

「おいしいです。スポンジに染みこんだチョコソースがビターで大人の味ですね。味もデザインされているんですか?」

 

「味は、俺と妹で相談しつつだな。それ、隠し味にブラックベリーソースを生クリームとの境に塗ってあるんだよ」

 

「そうなんだ」

 

 

 

---サリー---

 

事件後、やっとメンテが明けて、久しぶりのログインであるが、既に年末だし。ログイン時に、運営からクリスマスプレゼントが届いていた。緊急メンテの補填らしい。

 

「わぁ~、久しぶりだよね、サリー」

 

「そうね、メイプル」

 

ダンさん兄妹は、今日は無理らしい。年末に向けての仕込みとか言っていた。あと、サイバー対策室へのレポート提出だっけ。

 

「明日奈さんのフルーツケーキ、美味しかったなぁ」

 

見た目、宝石箱のような輝きのあるフルーツケーキだった。果物の透明感にこだわったそうだ。

 

「メイプル、リアル名は出しちゃダメだよ」

 

「あ、マナー違反だよね。失敗失敗」

 

「あれ?ダンさんは?」

 

フレデリカがやってきた。

 

「今日はリアルが忙しいって」

 

「そうなんだ。担当してくれた刑事さんに聞いたんだけど、ダンさんの機転で、私助かったって。だから…お礼を伝えたい」

 

惚れるなよ。ライバルは少ない方が良い。

 

「年末年始はインすると思うわ」

 

ホームのモニタを表示させて、運営からのお知らせをチェックしていく。年末年始はイベントはないようだ。トラフィック渋滞を警戒しているのだろうか。

 

「ダンさんは?」

 

ミィが来た。

 

「今日はインしないわ。明日ならインすると思うけど」

 

「そうなのね」

 

まさか、コイツもか?

 

 

 

---ダン---

 

年末年始は、イベントは無しで、お年玉狙いの課金祭りだった。『打倒メイプルセット』『最強ペインセット』など、盛りだくさんのセット物が販売され、高額ガチャもある。

 

俺は無課金派なので、真っ当にPKをし、たまにドロップするお金やアイテムを拾って、ガチャ資金を貯めていた。

 

「お年始だからって、ガチャをしないでくださいね」

 

サリーが警戒している。確かに、これまでの俺のガチャ戦績は、やらかしてばかりだったかもしれない。しかし、年を越せば、運気も変わると言うものだ。俺はお店巡りをして、俺の目と合うガチャマシンを探し歩いた。

 

どこをどう歩いたのだろうか。俺は知らない場所にいた。運営の罠か?それとも迷子か?ここはどこだ?扉が目の前にある。迷わず入った俺。だが、目の前にガチャマシンは無く、長身の真っ白い鬼が立っていた。

 

「おぉ……?まさか人間が来るとはな。うん?お前…アレを持っているのか?」

 

あれ?鬼に貰った通行証。まさか、アレって、ガチャの参加券だったのか?俺は目の前の鬼に渡した。

 

「まさか、先代がやられたとは…何?貴様…閻魔大王様も倒したのか?」

 

「誰だ、それ?」

 

あのエラそうなヤツかな?大王っていうくらいだし。

 

「ならば、これをやる。とっと、立ち去り、もう来るなよ!」

 

何かを貰い、俺は壱の鳥居の前に強制転移させられた。はて?

 

貰った物を早速確認した。

 

スキル【百鬼夜行EX】

1分間赤鬼、青鬼を呼び出す。鬼のステータスはスキルレベルに依存。

その間使用者が持つスキル全ては【封印】状態になる。装備のスキルは【封印】されない

 

レアスキル【白鬼夜行EX】

1分間、白い鬼を呼び出す。鬼のステータスはスキルレベルに依存。

取得条件:【百鬼夜行EX】を所有する

 

う~ん…これって、ガチャでやらかしたのと、同罪になるのか?スキルレベルがEXって何だ?ヤバいだろうに。みんなには黙っているか。バレるまで…

 

 

1月の半ば、5層が実装されたそうで、試験勉強中の俺とアスカ、インフルエンザのメイプル以外のメンバーで、先に行ってしまったようだ。

 

俺は一人で階層ボスの部屋へと向かった。敵は高速移動する九尾の狐だそうで、対峙してみると、回避能力がサリー並であった。攻撃が当たらない。どうするかな?いや、待てよ。九尾の狐って、女性のイメージなのだが。【魅了】…自らデスした狐。呆気ない終わりだ。

 

何かのウィンドウがポップアップした。なんか、やらかした気分である。既に隠し事が2つあるのに…

 

レアアイテム【九尾の狐】

九尾の狐である狐人を使い魔に出来る

取得条件:階層主の九尾の狐を、ソロで初バトルにて一撃で倒す

 

と、ある。【魅了】で一撃…あまり他人に知られたくないかもしれない。

 

「ご主人様、名前をください」

 

目の前に、狐耳の少女が現れた。これは隠せないパターンか?

 

「じゃ、コンコンでどうかな?」

 

「ありがとうございます。これから、宜しくお願いします」

 

見た目、某アニメのラフ●リアである。あれは狸だったけど。抱き締められると、柔らかい物が当たる。これはこれで良しにするか。

 

「わたしも!」

 

カエデが出てきた。ライバル心なのか、俺に抱きつくが、平らだよな?本人達には言え無いけど…

 

 

二人を連れて、ギルドホームに向かうと…

 

「ダンさん、何をやらかしたんですか?」

 

サリーの目が怖い。

 

「皆様、よろしくお願いします。コンコンといいます。ご主人様の使い魔です」

 

礼儀正しいコンコン。カエデは背中で眠っている。メイプルがいないからだろうな。いたら、揉めるし。

 

「で、どこでゲットしたの?」

 

サリーの追求が止まらない。

 

「いや、階層主をソロで一撃で倒したら…」

 

「まさか、あの九尾の狐を?」

 

そんなに倒すのに手こずったのか?8名で攻めたはずだよな?

 

「一撃って、32連打?」

 

「近い!」

 

いや、全然毛色が違うが。

 

「後、ダンさんが持つ最大火力って…いや、当たらないと意味が無い。そうか、当たらないでも良いヤツか。まさかと思うけど、【魅了】は無いわよね?」

 

「正解だ…あぁ、何も言うな。今回は反省している。大人げ無い倒した方だったよ」

 

目の前の皆さんが、「あぁ…」って、顔をしている。

 

「確かに女性のソロ相手なら、あれは最強よね」

 

サリーは何かを諦めた顔をした。

 

 

俺の翌日にはアスカ、インフルエンザを完治したメイプルが5層へやってきた。

 

「ダンさん、鬼から凄いスキルを貰いましたよ」

 

嬉しそうなメイプル。鬼から貰った?嫌な予感しかしない。

 

「これです」

 

スキルの説明画面を見せて貰うと、【百鬼夜行Ⅰ】があった。

 

「どうです?凄いでしょ?」

 

「メイプル、あの鬼を倒したのか?」

 

「はい」

 

カスミは倒せなかったようだ。サリーは断念したそうだ。

 

「あれ?ダンさん、ダンマリ?まさか、やらかしたんですか?」

 

サリーは察しの良い少女である。それは時に、俺を追い込む。

 

「ダンさんも、倒したのですか?」

 

メイプルが訊いて来た。

 

「いや…くれたんだ。白い鬼は倒していない」

 

「まさか、脅し取ったの?」

 

イズが驚いたような声をあげた。

 

「鬼に恐喝した覚えは無いが…ほら、龍と鬼を倒すイベントがあっただろ?あの前にさぁ、鬼とエラそうなヤツを粉砕したんだよ。その結果…」

 

【百鬼夜行EX】【白鬼夜行EX】

 

を見せた。メイプルの顔から色が抜けて行く。

 

「レベルEXってなんですか?」

 

感情の籠もらないメイプルの声。それはそれで怖い。

 

「どうして、いつも私の先にいるんですか?一度くらい追い抜きたいですよ」

 

メイプルの心の叫びか?俺の心をえぐる。

 

「それは、いつでもどうぞ…」

 

その日は、ログアウトまで、メイプルをなだめ、甘やかした。

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第六回イベント

「次回のイベントは2月だそうだ」

 

情報通のクロムが自慢げに話している。

 

「2月かぁ~」

 

洋菓子屋にとっての稼ぎ時である。

 

「ダンさん、どうしたんですか?浮かない顔をして」

 

メイプルが俺の顔をのぞき込んだ。

 

「2月って、リアル世界でイベントがあるだろ?俺とアスカは参加出来無いかもだな」

 

誰が考えたんだ?バレンタインデーなんて…チョコレート業界の陰謀か?

 

「あっ!そうか。リアルでは忙しいんですね」

 

流石、察しの良さは天下一品なサリー。

 

「まぁ、その日を超えれば、大暴れするかもだ」

 

「大丈夫だよ、お兄ちゃん。固まるまでの時間はイン出来ると思う」

 

生チョコで無ければ、固くなるまで、デコレーションは無理だな。

 

「あれって、配合とかあるんですか?」

 

俺とアスカとサリーしか参加していない。他のヤツラは俺達の家を知らないんだな。

 

「企業秘密だよ。一般家庭だと買えない銘柄もあるから…近所だし、来れば食べ比べさせてあげるよ。試作品だけどね」

 

「絶対に行きます」

 

何故、メイプルは不思議そうな顔の一団に含まれているのだ?

 

「ねぇ、話が見えないんだけど…」

 

イズが堪らず訊いて来た。

 

「あぁ、アスカの中の人は、パティシエなんだよ。正式にはパティシエールだけど」

 

フランス語は面倒である。男性形、女性形など、1つの単語に2つの言葉があるのだ。日本で定着しているパティシエは男性形で、パティシエールは女性形になる。

 

「アスカさんて、ケーキ職人さん?」

 

カスミに聞かれた。

 

「う~ん、職人では無いかな。まだ見習いだよ」

 

「ダンさんは?」

 

ミィに訊かれた。いつの間に来たんだ?

 

「俺は、アスカのアシストだよ。だから、バレンタインデーの前は、試作とか仕込みとかで、イン率が悪くなると思うんだ。あの日を超えたら、バリバリPKするよ」

 

「そうすると、アスカさんの菓子作りって、PSなのかしら?」

 

俺の言葉をスルーして、質問をするイズ。

 

「まぁ、そんな感じだよ。ただ、流石にゲーム内だと材料が限られちゃうから、多彩には作れないけどね」

 

アスカを中心に話が盛り上がっている女性陣。

 

 

 

---サリー---

 

2月に入ると、イベントの詳細が分かった。通常フィールドで、イベントフィールドへ行けるアイテムをゲットするのが、第一段階だと言う。問題は、その入場券的なアイテムが山積みになって、ギルドホームに置いて有ることだ。誰がやらかしたんだ?

 

「これって、ダンさんぽいよね?」

 

マイの言葉…そう、彼は第一容疑者である。

 

「みんな、おはよう!」

 

メイプルがホームにやってきた。

 

「ダンさんからの伝言、AGIがゼロな人が多いから、入場券を狩って来たから、自由に使ってって」

 

予想通り、第一容疑者は下手人だった。

 

「これって、PKの結果だよな?」

 

クロムが苦笑いしている。

 

「さて、行って来ようっと」

 

メイプルは入場券的アイテムを使い、イベントフィールドへ転移していく。

 

「俺も使わせて貰うよ」

 

クロムが転移すると、皆が次々に転移していった。じゃ、私もだな。入場券には入手先は書かれていないしね。

 

 

 

---ダン---

 

漸く解放された。さて、イベントを楽しむかな?アスカと共に、イベントフィールドに飛んだのだが、別々の場所に転移したようだ。効率良く回るには案内人が必要だな。ミィにメッセージを飛ばし、合流した。

 

「遺跡を見つけて、探索がいい感じかな」

 

俺と二人の時は素のミィ。金色装備の俺にはモンスターは寄りつかず、PKばかりしている。俺とミィを襲う?アイツらバカか?

 

このイベントフィールドでは、HP回復アイテムとHP回復スキルが使用不可というが、勝手に再生してしまう【自己再生】は使えている。なので、ミィの盾をしている俺。

 

遺跡探索よりも重要なアイテムを見つけた。濃厚な蜂蜜である。前回同様、女王蜂を倒すと得られる。気づくと、俺達は蜂蜜ハンターになっていた。何回目かの周回プレイで、働き蜂を追っていくと、他の蜂蜜ハンターに出会った。

 

「ダンさん、ミィさん?」

 

メイプルとペインがいた。

 

「蜂蜜を渡せ!そうすれば命までは取らない」

 

「はぁ?ダンか?お前とは戦い…」

 

前口上が長いと死ぬぜ。ペインがドット落ちして消えていく。

 

「メイプルは敵か?」

 

「な、な、何を言っているんです。仲間ですよ。で、蜂蜜をどうするんですか?」

 

「アスカに渡して、なんか作らせるんだ」

 

「あぁ、それは手ですねぇ」

 

こうして、蜂蜜ハンターは3名になった。蜂を倒すのは簡単である。金色装備に帯電しているエネルギーを放電するだけ。蜂の針が避雷針となり、感電死してくれるのだ。帯電エルギーは歩くだけで補充出来るし。

 

「ダンさん、また先を行ったんですね」

 

涙目のメイプル。蒼き装備に変えて、メイプルをオンブしてあやす嵌めに…因みに金色装備で背負うと、メイプルがデスします…

 

「親子三人でハイキングって感じですね」

 

ミィのテンションが上がった気がする…

 

 

遺跡を見つけたので、1つくらいは探索をしてみる。俺、メイプル、カエデ、コンコン、ミィに、襲い掛かる無謀なモンスターの皆様。俺達にザコが勝てる訳ないだろうに。メイプル、カエデの絶対的防御、コンコンの妖術、俺の32連打、ミィの高火力魔法。ボスクラスで無いと、勝て無いぞ、きっと。

 

洞窟内では、コンコンが照明代わりに狐火とか人魂を出してくれ、暗くても問題は無い。

 

ゴーレムエリア、【ウッドオクトパス】の地面から垂直に飛び出す貫通攻撃で一撃で8体仕留める。俺のカバーはカエデ担当である。

 

「なんか、このパーティーは楽しいですね」

 

メイプルが楽しんでいる。ミィは余裕があるし、先へ進むか。

 

「お~い!ダン!」

 

後方から名無しの大盾の声が聞こえた。振り返ると、クロム、ミザリー、カナデ、マルクスがいた。ミィの表情が固くなっていく。あぁ、ミィの素を知らないマルクスがいるので、炎帝を演じるようだ。訳知りの皆は、ミィを暖かい目で見る。

 

「う~ん、何も言うつもりは無いが、最強パーティーか?」

 

クロムに訊かれた。

 

「いや、アスカがいない」

 

アイツ、どこにいるんだか?いや、それよりも、ミィをリラックスさせてやりたい。マルクスの背後に回り、腕を首に回し、一瞬で首の骨を折ってやった。マルクスがドット落ちして消えていく。

 

「ミィ、これで素で通せるだろ?」

 

「あっ…ありがとう…」

 

ミィの表情が炎帝から少女へと戻っていく。

 

「それだけの理由でマルクスを?」

 

クロムが驚いている。

 

「お前にとって、それだけかもしれないが、俺にとっては、フレンドの居心地の良さの方が、重要なんだ。お前も消えるか?名無しの大盾君」

 

「うっ…いや…わかった。見なかったことにする」

 

「そう、それが良いぞ。あぁ、掲示板で書いたのを見かけたら、俺達兄妹は、お前を敵認定する。たとえ、同じギルドであってもだ」

 

クロムの顔は青ざめている。

 

「さて、先に行くか。ケツ持ちは名無しの大盾君だ」

 

先に進む俺達一行。

 

 

暗い階段…ミザリーがランタンを出してくれた。狐火、人魂よりも明るい。しかし、コンコンの出してくれた照明達は、ランタンの灯りが届かない箇所を照らしてくれている。

 

階段の先に大きな扉があった。メイプルが押したり、引いたりしているがびくともしない。

 

「力自慢ってことは無いが、メイプル、どけ!」

 

メイプルがどいたので、ドラゴン装備に変えて、【機龍】の尻尾で一発…粉々になる扉。力は正義だな。

 

「う~ん、その装備、ずるいなぁ~」

 

「そうか?俺はメイプルの天使がずるいと思うぞ」

 

「う~ん、そうかもしれないね。なんか、褒められた感じだよ」

 

褒められたと思ったのか、メイプルの表情が明るくなっていく。褒めてはいないんだけど

 

扉の向こうには迷路が展開していた。こういうのは、得意なヤツに任せれば良い。カナデに丸投げした。カナデの先導で、迷路を進んでいく。

 

「う~ん、ミィさんが、移籍したいって言うのが分かるわ」

 

俺に話し掛けて来たミザリー。

 

「そうか?」

 

「そうよ。適材適所が行き届いている上、仲間優先で外道なマネを出来る人もいるし」

 

後者は俺かな?

 

「ミザリー、ギルドホームの雰囲気を忘れてはいけないわよ」

 

「そうね。あのホンワカ感は居心地が良いですよね。部外者の私達が行っても、雰囲気が壊れないのもいいなぁ」

 

他のギルドは、違うのだろうか?

 

「戦闘になると鬼畜以下だぞ。仲間でも容赦無い時もあるし」

 

クロムが後方から話に加わってきた。

 

ギルマスのメイプルは、俺の背中で寝ている。緊張感の無さを、まずは論じるべきでは無いか?カエデを片手で抱っこし、もう片腕にはミィが抱きついている現状。鬼畜を論じる前に、今の状況を論じて欲しいものだ。

 

「普通なら、緊迫するシーンだけど、このメンバーだと、コレもありですよね?」

 

論じずに、賛同しているミザリー。凶悪なモンスターや即死クラスの罠をするりするりとすり抜けていく。罠はカナデが無効化し、モンスターはコンコンと、カエデが蹴散らしていく。この二人でもダメな場合、ポチが出てきてかみ殺しているし。俺の出番は無いのか?

 

そして、今までと雰囲気の違う部屋に辿り着いた。メイプルを起こし、警戒を強めていく。部屋の最奥には、金と宝石で飾られた大きな棺が一つ置かれているだけである。こういう場合、棺からアンデッドって、パターンかな?俺は【ウッドオクトパス】で、棺の真下から貫通攻撃を真上に向けて放った。

 

棺は砕け、粉々になった骨が辺り一面に散らばっている。その骨片はドット落ちして消えていく。

 

「なんだ、何も無かったのか?」

 

俺と使い魔、メイプル以外の者達が目を見張っていた。

 

「い…いたんだろ?その骨…スケルトンだったんじゃ…」

 

クロムが重い口を開けているようだ。俺はカエデの【身捧ぐ慈愛】のエリアに入りながら、棺のあった場所へと近づいて行く。

 

「人数分の巻物とメダルがあるぞ」

 

なんか、呆気なかったな。まぁ、皆で山分けして、ギルドホームへ戻るか。

 

 

翌日からは、イベントフィールドで、アスカと共に、食材探しを始めた。手持ちの食材では、あの濃厚蜂蜜を生かす食材が無いのだ。まぁ、途中で狩りもしているけど。

 

「ペイン!みっけ!」

 

アスカの近接攻撃で、股間から頭上に向けて、真っ二つに切り分けられたペイン。最強プレイヤーのペインのデスシーンを見ているヤジ馬達を、俺が屠っていく。

 

「獲物はいるのに、食材が無いねぇ」

 

「もしかて、モンスターがドロップするのか?」

 

「あぁ、可能性はあるねぇ」

 

モンスターを片っ端から狩る俺達。

 

「ねぇ、あの赤い花…」

 

ドロップ品はジャムだった。

 

「ダメだな。フレッシュなフルーツが欲しいのに…」

 

「そうだ!1層のカフェで、仕入れ先を訊こうよ」

 

あぁ、確かに、あそこにはフルーツケーキがあったなぁ。

 

 

 

---サリー---

 

久しぶりに鬼畜兄妹とギルドホームであった。何をやらかしたんだ?ホーム内に甘い香りが漂う。当然のようにミィとミザリーがケーキでティータイムを過ごしている。ここってカフェにでもなったのか?

 

「よぉ~、サリーじゃないか」

 

「これはどういう事態?」

 

ダンさん達は、イベントで濃厚な蜂蜜を大量にゲットしてきたそうで、それで甘味の開発をしていたようだ。

 

「ミィとミザリーには、試作を食べて貰っていたんだ。サリーも喰うか?」

 

出されたケーキを一口食べてみた…はぁ?何、この美味なる物は…

 

「うまいだろ?」

 

「うん、うん、おいしい…」

 

「作った甲斐があるな」

 

だけど、材料はどうしたんだろうか?

 

「ねぇ、このパイ生地はどうやって再現したの?」

 

「それは…訊かない方がいいよ」

 

なんか、やらかしているのか?

 

「訊かない方が良い食材?」

 

「そうだな。ここはリアルと違う挙動をする食材が多いから…へたに訊くと、喰えなくなるぞ」

 

ははは…笑うしかない。それは、普通、食べない物なんだろう。何かの死体とか死体とか…

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

新層

 

---サリー--

 

時は過ぎ3月になった。次の階層が実装されるそうだ。

 

「今回は初日に攻めて、先に行くよ」

 

鬼畜兄妹がやる気になっている。理由は、3月にも洋菓子店の繁忙期がある為らしい。

 

「初日攻略失敗したら、15日以降になる」

 

誰も失敗するなんて考えていない。今度は何をやらかすのか、期待と不安が入り混じっているのだ。

 

「ダンさん、やらかして、強くならないでくださいね」

 

メイプルが直訴している。ダンさんに置いて行かれるのが、堪らなく嫌なのだろう。

 

 

そして、新層開放の日…

 

『初めての一番乗り。アスカは二番乗りだ。ペインが前にいたのだが、アスカが狙撃したよ』

 

階層主の部屋の前で、PK合戦していたのか?フレデリカによると、打倒メイプルに燃えていたペインは、度重なる鬼畜兄妹の凶行により、最近灰のようになっているそうだ。そのフレデリカはアスカさんとクリアしたそうだ。11名のギルドメンバー、最大パーティー人数は8名で、3名のあまりが出る。なので、先行で3名が新層へ旅立ったのだろう。

 

「どんな敵だって?」

 

クロムに訊かれた。

 

えぇっと…メッセージを飛ばすと、直ぐに返信が来た。

 

『マイユイのダブルスタンプなら一発だ。ただ、毒持ちだから、メイプルのガードは必要』

 

「じゃ、みんなでマイユイコンビをガードすれば、大丈夫そうね」

 

『でも新層はサリーにとって鬼門だ』

 

このメッセージの意味が分からない。私限定って…まさか、お化け屋敷エリアか…お化け、幽霊の類いは苦手である。リアルのダンさんに、話した記憶があるし。

 

 

階層主は物理耐性無しだった。マイユイの一撃で消えていった『雲のクラゲ』。で、新層…お化けが闊歩するエリアだった。

 

「サリー、大丈夫?」

 

メイプルが心配そうに声を掛けてくれた。だけど、大丈夫では無い。足が震えている。

 

「よし!シロップでギルドホームへ行く!」

 

シロップを出し、巨大化させて、皆で載って、ギルドホームを目指すが、お化けが普通に空を飛んでいる。人魂みたいな物が浮遊している。ここはダメだ。既に心が折れている私は、この階での探索を諦めた。

 

ギルドホームに入ると、テーブルに料理が並んでいた。

 

「いらっしゃ~い」

 

移動式ギルドホームから料理を運んで来たダンさん。

 

「今日は俺とアスカが腕を振るった料理の数々を堪能してくれ」

 

あれ?今日は13日なんだけど…

 

「なんだよ、サリー。うん?あっ、そうか。明日が発売日だけど、今回はケーキでは無くて、チョコの販売なんだよ。後は、明日の早朝に生チョコを作るだけさ」

 

「美味しそう」

 

メイプルは料理に目が行っている。

 

「サリー、そんな顔をするな。これは大丈夫な食材だよ」

 

前回の食材は、訊かない方がいいって、逃げたダンさん。

 

「美味しいわ」

 

イズさんが食べ始めると、我先にと食べ始めるみんな。

 

「そうそう、リアル世界で、サリーとメイプルの中の人へ、プレゼントを届けておいたから、食べてくれよ」

 

「私には?」

 

フレデリカが割って入ってきた。

 

「だって、お前の中の人を知らないし、住んでいる場所も知らないぞ」

 

「今、住んでいる場所をメッセージします」

 

「うん?う~ん、無理だな。遠いし…」

 

「えぇ~」

 

フレデリカが凹んだ。

 

「近所なら、試作品を届けることはするが、流石に遠いなぁ」

 

住んでいる場所は遠いらしい。

 

「で、サリーはこの階層ダメだろ?」

 

頷く私。

 

「そのダメをダメで無くしてやるよ。だから、15日はインしろよな」

 

このお化け屋敷エリアをダメでなくす?何か、やらかしたのか?

 

「今回はやらかしていないですよね?」

 

みんなが一斉に聞き耳を立てている。気になるようだ。ダンさんは、私から視線を外し、移動式ギルドホームへと戻ろうとしている。

 

「やらかしたんですね?で、何を?」

 

「いや、俺はやらかしていない。寧ろ、運営がやらかしたんだと思う」

 

何か、得たようだ。何をだ?雲クラゲ?その程度ではやらかしたうちに入らない。では?

 

「まぁ、見てくれよ【召喚 スラリン】』」

 

目の前に雲クラゲでは無い生物が現れた。これって、スライムの亜種?クラゲのような身体から足が8本伸びているが、クラゲの足では無い。

 

「スパイダースライムって、種族みたいだよ。雲クラゲでなくて、蜘蛛クラゲって、感じだな」

 

あぁ、蜘蛛ねぇ。糸を吐いて拘束タイプかな?

 

「状態異常持ちだから、触ると危険だよ。あと、コイツの吐く糸はピアノ線並の強度で、簡単に腕が切り落とされるから危険だ」

 

拘束タイプでは無く、前衛タイプか?

 

「状態異常持ちって、何を持っていますか?」

 

メイプルが質問をした。

 

「毒は猛毒系だ。あと、クラゲなので麻痺系もあるが、毒タイプと雷撃タイプの2系統の麻痺になる」

 

蜘蛛だけで無く雲の特性もあるのか。

 

「遅延する雨は?」

 

カスミが訊いた。下の層では、そういう罠もあったし。

 

「遅延系は雨でなく霧だよ。スローミストって感じだ。で、スローミストなんだけど、AGIがゼロのヤツが喰らうと、動作不能3分だよ。アスカで試したから、正確な時間だ」

 

メイプルキラーだな。動きを止めて、なぶり殺しか?

 

「う、う、うっ。ずるい。私に効くスキルばかり」

 

メイプルがダンさんの背中に抱きつき抗議している。

 

 

そして15日。インをするとダンさんが待っていた。彼の傍にはミィ、ミザリー、カエデ、コンコンがいた。ライバルが多いぞ。

 

「オバケ、幽霊がダメなんだよな?だから、コンコンの妖術で、違う姿に変える。そうすれば、サリーでも戦えるだろ?ミィとミザリーは、助っ人だよ」

 

助っ人?はて?ダンさんの火力があれば、助っ人がいらないだろうに。

 

「尊厳が危険な時、俺は見ないことにする。ミザリーの浄化能力で乗り切ってくれ」

 

う~ん、心配しれくれたのは嬉しいが、たぶん尊厳が危ないのはリアル体だと思う。アバター姿では出る物はで無い。そもそも、この世界にはトイレの概念が無いのだが…あの二人はダンさんといたいから、それを指摘していないのだろう。

 

ダンさん達と外へでると、ゴブリンとかミノタウロスとかに、コンバートされていた。

 

「問題は1つだ。姿と攻撃方法は異なる点だ。ただ、幽霊はミノタウロス固定のように、同一種族なら同じ攻撃方法で来るからな」

 

「了解!」

 

なるほど、唐傘オバケは違う姿になっているのか。って、街の中は廃屋だらけである。建物までコンバート出来無いのかもしれない。だけど…やはり姿をコンバートは無理があった。なので、断念をした。攻撃の予想がまるでつかず、直前退避ばかりになって、危険を感じたのだ。

 

そして翌日…ギルドホームの私の部屋に、見かけないアイテムが色々置いてあった。誰だろう?メイプルかな?

 

『PKの合間に拾っておきました。お使いください 鬼畜兄妹より』

 

と、メッセージが添えられていた。ここでもPKしているのか…アイテムをチェックしていくと、【AGI】強化アイテムに、加速スキルの巻物、そして、足場を作る靴だ。アイテムの説明画面を開くと

 

レアアイテム【死者の足】

スキル【黄泉への一歩】を付与。

 

【黄泉への一歩】

スキル使用時、各ステータスを5減少させ空中に足場を作る。20分後減少解除。足場は十秒後消滅する。

 

と、ある。これって、PKで得たんじゃ無くて、クエストしてくれたのか?

 

 

翌日、ダンさんにお礼を言おうと思っていたんだが、鬼畜兄妹がやらかしたせいで、お礼を言う機会を失った。

 

「決闘ランキング?」

 

「あぁ、どこかのPKマニアが、あまりにも不意撃ちをするせいで、決闘ランキングという常設クエストを始めるそうだ」

 

クロムがどこからか情報を仕入れてきた。

 

「決闘だと不利だよな。狙撃手は姿を見せない者なのに」

 

アスカさんが不平を述べている。

 

「どうせ、あの最強レベル男が運営に泣きついたんだろ?」

 

ダンさんも同罪だと思う。

 

「今まで通り、不意をついたPKは廃止しないが、PK数にカウントされずに、暗殺数にカウントされるそうだ」

 

決闘ランキングには報酬があるが、暗殺には無いようだ。まぁ、無くても、あの鬼畜兄妹はするだろうけど。このゲームには決闘というシステムは元々あった。双方の同意があれば、決闘専用フィールドに飛ばされて、そこでPKしあう方式である。

 

「戦える相手は、同じランクか、上のランクだけで、弱者を指名は出来ない。ランクはランキングにより決まり、ランキングはPK数と勝率で決まるそうだよ」

 

う~ん、未だデスしていない私とアスカさんはSランクのようだ。デス数が多いクロムさんとダンさんはCランクなのは、ダウトと叫びたい。

 

「私はAランクだよ」

 

メイプルが複雑な顔をしている。ダンさんより上なのは、不可解なのだろう。フレデリカ、カスミもAランクである。PKを経験していない、イズさん、カナデ、マイユイコンビはEランクスタートだそうだ。

 

「各ランク定員があるから、ランクの上下動もあるようだ。決闘を行えば、参加賞が貰えるようだよ」

 

参加賞はポーション類のようだ。勝てば勝利者賞、あと、10勝ごとに景品が貰えるそうだ。

 

「決闘ランキング戦をするには、広場の端末から相手を選ぶんだそうだよ」

 

「なんで、ダンさんがCランクなんですか?!」

 

メイプルが詰め寄った。

 

「なんで?あぁ、多分デス数じゃないかな?俺トップで、名無しの大盾使いは2位だし」

 

デス数が換算されているのか。

 

「後、被ダメージ量かな?俺トップで、2位はペインだっけ?じゃ、俺は決闘しなければ、ランクはこのまま?」

 

「拒否した場合かぁ。どうなるんだ?」

 

「そうだよ。クエスト中とか戦闘中とかPK中とか、決闘に応じられない場合って、あるだろ?」

 

頷いているアスカさん。

 

「あっ!そうか。お兄ちゃんのPK数って、テロの回数にカウントされているんじゃないの?」

 

あぁ~。ダンさん以外が納得した顔になった。

 

「おい!俺はテロをした覚えは無い。えん罪だって…」

 

「あぁ~、ウザいなぁ。さっきから決闘の呼び出しが多数だよ」

 

アスカさん、モテるなぁ~。私には1件も無い。

 

「アスカ!行って来いよ。たぶん、受けた側が有利なポジションを取れると思うぞ」

 

「そうなのか?お兄ちゃん。じゃ、行ってくるね」

 

アスカさんが転移していった。

 

「決闘を仕掛けるヤツって、碌なもんじゃないよ。名前が分かれば、PKし放題って、教えてあげよう」

 

これは、返り討ちにして、後日、フィールドで狩りする気なのか?

 

 

翌日、決闘ランキングに変化があった。Sランクにペインが入った。ランキングは1位アスカさん、2位私、3位にペインだった。

 

「やはり、デス数が関係しているようだな。運営に確認したら、勝ち数から、デス数と被ダメから換算するデス数を引いた数のランキングだって」

 

ダンさんがチェックしていた。気になるのだろうか。

 

「う~ん、ダンさんに挑戦出来無いよ~」

 

メイプルが唸っている。

 

「3回連続で拒否すると、ペナルティー数が増えるらしいぞ」

 

カスミが体験したのか、プンプンしている。ペナルティー数が増えると、犯罪者リストに載るらしい。既に載っているダンさんに訊くと、

 

「犯罪者リスト?あぁ、ランキングに名前が出ないで、二つ名を貰えるぞ。アスカだと『姿無き暗殺者』で、俺は『情け容赦無きテロリスト』だったかな?」

 

それは、それで宜しくないよな。

 

「ただ、受けられない状況ならば、カウントはされないそうだよ。クエスト中とか、戦闘中とか、PK中とか、いろいろあるだろ?但し、相手にその旨が表示されるのが難点だよ。決闘を申し込んだ相手に『テロ中』とか表示されるんだからな」

 

申し込まれたんだ…で、どこかで、やらかしていたんだ。

 

 

 

---ダン---

 

決闘システム…まぁ、ヒマな時は受けるけど…機龍モードで…同じ相手から決闘の誘いは来ないのが難点だ。

 

が、或る日、突然、Sランクに昇格していた。運営に確認をすると、Cランクにメカゴ●ラがいるのはおかしいと、苦情が相次いだらしい。そのせいか、毎日ペイン、ドラグ、ドレッド、シンから決闘の申し込みが来る様になってしまった。

 

更に言えば、この決闘システムはおかしい。使い魔は禁止とか、機龍禁止とか、苦情が多いと俺の禁止事項が増えていく。なんで、俺よりも高レベルのヤツには、ハンデが無く、俺にハンデを付けるんだ?ペインに至っては、俺のレベルの倍はあるんだが…

 

なので、バイト先に相談してみた。すると直ぐに、運営からお詫びが来た。力は正義だな。

 

お詫びの品…イベントでラスボスになれる権利…いらんだろ、これ?

 

俺と運営を繋ぐホットラインの開設…癒着を疑われるのは心外である。

 

いずれ、何かで埋め合わせ…やらかしたとか言われそうだよ。

 

 

 

 

 




決闘ランキングはオリジナル設定です(^^;


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

ラスボス誕生

「イベント情報を仕入れて来たぞ」

 

情報通である名無しの大盾使いことクロムが、定例のギルド会議で口を開いた。

 

「イベントは2つだ。1つは3月後半に決闘ランキングの頂上決戦があるそうだ。決闘ランキングの上位5名によるトーナメント戦だ」

 

断言しているクロム。上位5名か、面倒だな。

 

「出場者は、現在1位の姿無き狙撃者、2位の情け容赦無きテロリスト、3位のサリー、4位のメイプル、5位のペインになる」

 

俺が入っているんですが…

 

「1位から4位までうちのギルドなんだ。すごーい」

 

メイプルが喜んでいる。だが、これ、やらんでも結果出ているだろうに。

 

「順位に応じて、メダルがもらえるそうだよ。それとこれから毎月の月末に、各ギルド上位5名のランクの平均順位出して、上位5ギルドにメダルを配布だそうだ」

 

メイプルもSランク入りして、Sランクが4名いるんだぞ。既に確定1位だろうに。

 

「もう1つのイベントは、4月に塔攻略のイベントがあるそうだよ」

 

「えっ!塔の攻略?PK出来無いじゃん」

 

アスカが驚きの声を上げた。確かに、閉鎖空間でのイベントでは狙撃は無理である。

 

「その頂上対決はパス出来るのか?」

 

「え~、パスするんですか?」

 

俺の疑問に、メイプルが抗議を声を上げた。コイツ、バトルジャンキーだっけ?

 

「リベンジに燃えているんですからね」

 

「俺がサリーに負ければ、メイプルとは戦わないぞ。多分…」

 

「そ、そ、そんなぁ~」

 

凹むメイプル。

 

 

 

---サリー---

 

決闘ランキング頂上決戦?う~ん、多分、初戦の相手はダンさんである。勝ち目は無いんじゃないのか?鬼畜兄妹を除いたみんなから暖かい視線を感じる。

 

「瞬殺だけは避けてな」

 

クロムからの声援。【魅了】一撃で終わると思う。そもそも論であるが、体力盾であるダンさんを倒すことは、不可能に近い。貫通攻撃を連続3発食らっても倒れない体力と自己再生の速さが売りである。私にはその貫通攻撃すら無いのに。不戦敗を選択したい。その上で、メイプル戦を見てみたい。

 

「メイプルちゃんとダンだと、怪獣大決戦になりそうよね」

 

イズさんが乾いた笑みを浮かべている。長期戦になれば、そうなるだろうが、ダンさんの性格上、短気決戦で来ると思う。一撃必殺で…

 

「しかし、毎度毎度、忙しい時期に、イベントを持って来るなぁ~、運営のヤツラは」

 

「何かありましたっけ?」

 

メイプルが訊いた。

 

「卒業式と入学式だよ。桜系のケーキを考え無いといけないのに…」

 

あぁ~、そういう時期でしたね。洋菓子店って、年中忙しそうだ。

 

「今週末に試作が出来るから、メイプルとサリーは食べに来いよ。マイユイには持っていく」

 

「ちょっと、私には?」

 

フレデリカが声を荒げた。

 

「喰いに来いよ。この前、ミィとミザリーは喰いに来たぞ」

 

うっ、あの二人、積極的だな。油断ならない。

 

「場所はどこかな?」

 

いっ、イズさんもか…

 

「ミィ達は探して、見つけたそうだ。こういうのは、探すことに価値があると思う」

 

私…探してませんが…ダメですか…

 

 

週末に楓とお店に向かうと、モロボシ洋菓子店は、人混みに飲まれていた。こんなに人気店だったっけ?

 

「理沙、何か事件かな?」

 

楓が心配そうにしている。人混みをかき分けて、ショーウィンドウの前に行くと、アップライトピアノを模したチョコレートケーキが展示されていた。白鍵はホワイトチョコ、黒鍵はビターチョコぽい。何かの曲の楽譜も置かれているが、総てケーキのようだ。傍らには、『世界洋菓子コンクール入賞作』と書かれた札が一緒に置かれている。

 

「すごい…」

 

人混みの理由はこれだった。参考価格は、100万とある。これは目玉になるなぁ。お店の中も満員である。楓と二人で裏口へと回る。そこには見かけたことのない女性達に囲まれている鬼畜兄妹の中の人達がいた。

 

「あっ!理沙、楓、すまん。こんなに混むとは思わなかったよ」

 

来客予想が外れたようだ。明日奈さんが、お皿にプチケーキを3種載せて、私と楓に手渡して来た。

 

「今日は、ここで食べてね。厨房が大変なことになっているから」

 

大忙しなんだ。

 

「あの~、サリーさんとメイプルさんですか?」

 

私達よりも幼さが残る少女達に話し掛けられた。

 

「もしかして、マイちゃんとユイちゃん?」

 

「「はい。初めまして」今日は、お母さんに連れてきて貰いました」

 

二人の後ろにいる女性が、彼女達の母親なのか。

 

「やっと、見つけましたよ~」

 

フレデリカに似た女性が、ダンさんに詰め寄っている。

 

「ミィ達も来ているの?」

 

明日奈さんに訊いてみた。

 

「ミィ、ミザリー、イズは、店内で食べてますよ」

 

開店前に並んだそうだ。あの三人は要チャックだな。ここ、裏口も、飲食スペースがある。ここは試食して貰う為のコーナーだそうだ。昔から、常連さんを招いて、試食を繰り返して、店に並べるケーキを見極めているんだそうだ。

 

「あのピアノは、明日奈さんですか?」

 

楓が訊いた。思ったことを即実行できる、彼女の性格が羨ましいことが多々ある。

 

「兄がデザインして、一緒に作ったんだよ。総チョコレート造りに見えるけど、ベースはウェハースだよ。食べても、重さは感じないと思う」

 

ダンさん…いや、正さんのデザインなんだ…

 

「あれは、注文すれば、売っていただけるんですか?」

 

マイユイの母が訊いている。

 

「えぇ、ただ、作業スペースのある場所にしか、納入でません。現場で組み上げて、最終デコレートをしますから。納期は3~4週間です。そのうちの1週間は組み上げになります」

 

正さんが返答をしていた。将来、お金を貯めて、お菓子の家を作って貰おうかな。

 

「お菓子の家は作れますか?」

 

楓が、私も思ったことを訊いていた。一番の要注意はコイツかな?

 

「作れるけど、食品衛生法に抵触するから、実物大は無理だよ」

 

作れるんだ…

 

「そうなんだ。残念…」

 

「今度、ミニチュアを作ってあげる」

 

「本当ですか?ありがとうございます」

 

う~ん、羨ましい性格だな。

 

 

その日の夜、みんなギルドホームに集まっていた。フレデリカの家は、片道2時間くらいだったそうだ。

 

「また、行くわね」

 

イズさんの話では、新作のケーキセット三昧をしてきたそうだ。

 

「次は5月のイベント向けのデザインを考え無いと」

 

6月は毎週のようにウェディングケーキ造りだそうだ。

 

「高校卒業したら、ダンさんのお店で働こうかな?」

 

「メイプルなら、歓迎するわよ」

 

アスカさんに気に入られているメイプル。なんか負けた気分である。

 

「問題は、今度イベントだよな?」

 

明日の夜、行われる頂上バトルのことである。楓の木から4名が参加である。第一試合はメイプルVSペイン、第二試合は私とダンさんで、それぞれの勝者同士が戦い、最後にその勝者とアスカさんが戦い、決戦の幕は閉じる。ギルド順位が1位確定で、メダル10枚は確定している。あとは、個人成績次第でメダルが増量になるかであるが…

 

「順位予想の賭けもあるそうだぞ」

 

と、クロム。現在の一番人気はメイプルで、継いでペインらしいが…

 

「自分に100万賭けた」

 

って、ダンさん。

 

「私もお兄ちゃんに100万入れたよ」

 

この兄妹の投入額がハンパない。確か1口100とか1000だったはず。

 

「クロムさんは、誰に賭けたんですか?」

 

メイプルがクロムに訊いた。

 

「すまん…ダンに1万だ」

 

たぶん、楓の木の関係者は、全員ダンさん賭けでは無いのか?

 

「問題は、ギルドの順位予想だよな。この賭けは成り立つのか?」

 

一番人気は何故か、集う聖剣であるが…既に楓の木で確定している。

 

「運営はやらかしたんじゃないのか?」

 

「いや、狙撃者とテロリストの所属ギルドは明らかにしていない。そのせいで、確定はしていないみたいだぞ」

 

カスミが、盲点を指摘した。そう、そのせいで一番人気は集う聖剣なのだが…末端プレイヤーをバカにしていると思う仕掛けだ。

 

「それなぁ、俺とアスカはブラックリスト入りだから、プライバシー保護の観点から、所属ギルドが明らかにされないんだよ」

 

と、現役テロリストが、カラクリを明らかにした。そう、この賭けは楓の木の関係者の一人勝ちである。

 

 

そして、第一試合が始まった。メイプルとペインのガチバトル…メイプル対策を十全にしたペインはメイプルを追い込んだのだが、HP1でメイプルが踏ん張り、ペインが捕食者の餌食になっていた。

 

そして、第二試合…私とダンさんのガチバトル。開始直後、頭の中が真っ白になり、控え室に戻っていた。リプレイ映像を見ると、【子羊の行進】からの【添い寝】を喰らっていた。デスするまで、私は喘ぎ、のたうち回っている。攻撃が当たらないと評判の私を、苦しみ抜かせて殺すという、観客に恐怖を植える作戦のようだ。

 

第三試合…メイプルVSメイプルキラーである。結果は予想通りに瞬殺である。キラーぶりを見せつけた。たぶん、【魅了】からのセルフデスだと思う。ダンさんは2試合とも、動かずに、相手を殺していた。それは観客目線だと、見られたら死ぬと言うレベルに見られただろう。

 

決勝戦…鬼畜兄妹同士である。舞台は森の中にトーチカ群がアスカさんの陣地である。狙撃手である為、そういう舞台を設定したのだろう。この試合に限り、瞬殺は無かった。ダンさんはアスカさんの居場所の特定が出来ていないようだ。

 

試合が動いたのは、アスカさんからの狙撃である。ダンさんの身体を貫通する弾丸。だけど、レールガンの弱点…弾丸は直線軌道上を走る為、アスカさんの位置が特定されてしまった。ダンさんの体力壁を破壊するには、連発で貫通弾を4発当てることであるが、【超加速】で、アスカさんの元へと飛んでいくダンさん。AGIがゼロのアスカさんが、ダンさんから逃げられる訳も無く…

 

「出来レースだよな」

 

終了後のダンさんの言葉。八百長とかでなく、やらなくても結果は見えていたってことのようだ。その言葉を受けてだろうか?頂上決戦企画は、廃止の方向らしい。

 

「う~ん、また瞬殺された…」

 

メイプルが反省をしている。

 

「AGIがゼロの時点で、メイプルの勝ち目は無いよ。アスカも同様だ」

 

ダンさんが、自信たっぷりで諭している。

 

「あと、精神感応系を防ぐには、俺のDEXの倍はないとダメだと思う」

 

と、私にもアドバイスをくれた。そうか、だから、DEX振りのアスカさんには、精神感応系を使わなかったのか…

 

「このゲームの凄いところは、絶対は無いんだよ。パラメーターの振り方1つで、戦果は変わると思う」

 

「ならば、私はいつか勝てますね」

 

「メイプルだけは無理」

 

メイプルの淡い欲望を、軽く切り捨てたダンさん。あの自信はどこから来るのだ?何故、メイプルだけは無理なんだ?

 

 

 

---ダン---

 

4月…地面を模したチョコのスポンジに、桜の花びらを散らす新作ケーキを作った。桜の花びらは、サクランボ味のマジパンを薄くのばして、型抜きしてチラしてある。

 

「うわぁ!おいしいです」

 

楓と理沙が試食して、感想をくれた。

 

「甘酸っぱいんですね」

 

「ビターチョコの味にアクセントだよ」

 

スポンジは2層にしてある。上層はビターで、下層はミルクチョコである。

 

「1つの味でまとめると、飽きるよね?」

 

明日奈の感想で2層にした。コイツ、試作を全部食べきる前に飽きたのだった。

 

「味のデザインも正さんですか?」

 

「そうだよ。兄さんがしてくれている。私は兄さんの指示通りの物を作る職人を目指しているんだよ」

 

理沙の質問を答える明日奈。

 

「次のイベントは塔の攻略だっけ?」

 

「ソロでもいいみたいですよ」

 

俺の質問には楓が答えてくれた。今日は喫茶室で試食をして貰っている。入学シーズンは店で喰わずに、ホームパーティーが多いのだ。そうそう、イズのたれ込みで、クロムとペイン達も、お忍びで食べに来ているようだ。まぁ、男には興味は湧かないが…

 

「そうか、ソロでいいなら、空いた時間に終わらせるかな」

 

「私はフレデリカと回るよ。狙撃手には辛い舞台だから」

 

「私は理沙と回ります」

 

皆、方針はきまっているようだ。

 

 

そして、ゲームへログイン…塔内部は、天井が低く、機龍では回れない。なので、神装備で、一気に駆け上がる作戦に出た。十階層のボスを倒すと、

 

『エクストラボーナスステージのボスの権利を得ました』

 

って…運営は俺をボスにしたいようだ。まぁ、ヒマな時ならいいか。

 

何回目かのボスとしての呼び出しに応じると、目の前にはメイプルとサリーがいた。

 

「ウソ!ラスボスって、ダンさんなの?」

 

凄く嫌な顔をしているサリー。

 

「最初に攻略した褒美らしい。これって、褒美で無くてバツゲームだよな?」

 

「そう思います」

 

「いざ、勝負!」

 

メイプルだけがヤル気になっている。うるせぇな!【魅了】で、まずメイプルを消す。

 

「速攻ですか?」

 

「バトルジャンキーは嫌いだよ」

 

「えぇ?ダンさんがバトルジャンキーですよね?」

 

「そうでも無いよ。デザインに煮詰まった時くらいだ」

 

サリーとアレコレ雑談をして、

 

「じゃ、サリーの勝ちでいいぞ。俺は、抜ける」

 

『バトルから離脱(不戦敗)』を選択して、PKをしに、フィールドへ戻った。

 

 

 

---サリー---

 

ギルドホームへ戻ると…

 

「サリー、遅かったね。瞬殺されなかったの?」

 

メイプルに詰め寄られた。

 

「まぁ、結果的にはダンさんの不戦敗で、メダルを10枚貰えたよ」

 

「うっ!ずるい…ずるすぎるぅぅぅぅ~」

 

って言われてもなぁ。そこに、ぞろぞろとみんながやってきた。みんな塔の攻略を終えたそうだ。

 

「これで、次は新層だな」

 

クロムが意気込んでいる。みんなの表情を見ると、エクストラボーナスステージのボスを体験していないようだ。

 

「ねぇ、みんなも勝ったの?」

 

メイプルがイズに泣きついた。

 

「うん?誰にかな?」

 

意味不明だよね、その言い方は。私がエクストラボーナスステージのことを話した。

 

「ついに、アイツ、ラスボスデビューしたのか?」

 

「いなくて、良かった…」

 

「逃げ場は無いんですよね?」

 

驚愕な表情のクロムさん、安堵しているイズさん、カスミ、カナデ、泣きそうな顔のマイ、メイ。

 

「そうなると、ダンさんと話し合う時間を得られれば勝ちなんですね。それは次回が楽しみです」

 

一様にネガティブな反応であったのに、フレデリカだけ笑顔であった。

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

新たなるダンジョンへ

原作に追いつき気味なので、オリジナルストーリーを挟みます。


---ダン---

 

新層が実装され、俺、アスカとフレデリカ、残り8名でアタックをし、初めてギルドとして一番乗りを果たした。初日の常連だったペイン達は俺とアスカを警戒し、後日にするらしい。今度の階層は魔物が闊歩する世界で、全員が使い魔をゲット出来るそうだ。

 

「そうなると、私達は暇ですよね」

 

と、メイプル。メイプル、俺、サリーには既に使い魔が居るため、ゲットイベントには参加出来無いそうだ。そんな俺達に、運営から招待状が届いた。

 

『新ダンジョンのベータテストを依頼します』

 

っと…

 

「ヒマだし、行きましょうよ」

 

メイプルは行く気満々のようだ。一方サリーは、

 

「運営の罠っぽいですよね?私とメイプルにダンさんでしょ?きっと、並大抵の敵では無いと思いますよ」

 

俺も同じ意見である。どうするよ、これ…

 

結局、俺もサリーもシロップの上にいる。メイプルに押し切られたのだった。

 

「見るだけ、見てみましょうよ」

 

嫌な予感しかしない。重厚な盾と回避盾と体力盾では、パーティーバランスが悪すぎる。アタッカーがいないだろうに。

 

送られて来た地図を見ながら進むと、転移陣が俺達を待ち構えていた。転移陣の前で、装備を調えていく。俺は神装備で、メイプルは天使仕様のようだ。

 

「じゃ、防御はメイプルで、アタッカーは私とダンさんですよ」

 

サリーが場を仕切る。作戦参謀に向いているサリー。俺とメイプルだと、強さは正義で押し切る作戦になりそうだし。準備の出来た俺達は、転移陣に乗り、別マップへと飛ばされた。

 

 

 

---サリー---

 

飛ばされた先は村のようで、散策すると、ギルドホームがあった。ホームに入って休憩をしていると、壁にあるモニタに注意事項が表示された。要約すると、今回はベータテストなので、途中のクエストは抜きにして、迷宮のテストをして欲しいっと。迷宮の入り口は森の先とある。一旦テストモードに入ると、クリアするまで、皆のいるマップには戻れないとある。

 

「なぁ、もうテストモードなんじゃないか?」

 

ダンさんの言葉。自分のメニュー画面を開くと【テストモード】と表示されていた。つまりは、皆のいるマップには戻れない。当分この3名で迷宮アタックのようだ。

 

「あからさまな運営の隔離政策だな」

 

そうかもしれない。運営から見たら、私達はチート三昧に思えたのだろう。

 

「じゃ、アタックを開始しましょう」

 

前向きなのはメイプルの良い部分だが、罠だと思うんだよ。メイプルのその良い部分を狙った。

 

「どうしたんですか?」

 

何かを警戒している私とダンさんに、声を掛けてきたメイプル。

 

「まぁ、行くか。戻れないのはつまらない」

 

ダンさんは、何かを諦めたようだ。それに続く私とメイプル。ギルドホームを出ると、道案内の看板があった。『迷宮はコチラ』と…それに沿って歩いて行くと、森に入った。森の中にも案内板がある。モンスターは植物系、虫系、獣系である。ここでの問題は、空が飛べない制約である。木々の枝が張りだしており、上方向へ森を抜けるのが無理のようだ。

 

「この木々は不燃のようだな。破壊不可オブジェかもな」

 

壊せる箇所を探しているダンさん。メイプルは悪魔になっている。天使では歩く速度が遅すぎて、絡まるツタに直ぐに捕まって、動作不可に成りがちなのだった。

 

「メイプルの弱点を探す感じなんだろうな」

 

ダンさんの独り言。同感である。これだと、マイユイコンビも戦力外に成りそうな敵である。まぁ、ツタと草は燃えるので、火炎攻撃で撃退は出来るが、メイプルを狙い澄ましていた。

 

「モンスターのAIを鍛えているのかもな、これ…」

 

言えている。最初の頃は、私とダンさんにも攻撃をしてきたツタ、草の類い。今はメイプル狙いになっていた。なので、悪魔姿になり、AGIを上げたのだった。

 

「これ、アスカもダメだろうな」

 

キラー楓の木なのか。

 

「この森が実装されると、炎帝が有利かな」

 

あり得る。森を抜けると湖に出た。湖を半周歩くと、怪しげな祠があり、入ると長い降り階段があった。

 

「地下迷宮かな?」

 

「そうですね」

 

「セーブポイントはあるかが、問題だ」

 

祠に入ると『ログアウト』の表示が、メニュー画面に表示されなくなった。森では表示されていたのに。

 

「森は、もしかすると、キャンプ道具とかを持っていかないと、安全にログアウト出来無いかもな」

 

「罠ですか?」

 

「だと思う。そうじゃ無いと、難易度が低すぎるだろ?」

 

確かに…正式実装された時、あの森も迷宮化するかもしれない。抜けるのに時間が掛かれば、途中でログアウトだが…

 

「更に問題がある。デスした場合、どこにリスポーンするかだ」

 

「えぇっと…みんなの元では無いのですか?」

 

ダンさんのつぶやきにメイプルが喰い付いた。

 

「今までは、デスした階層の、あの噴水の前だろ?ここだと、森の手前にある村だ。仲間が森にいて、一人で追いつけるかだ。実装されると、難易度は結構高いかもな」

 

その仕様だと、一人抜けただけで、崩れるパーティーが多いかもしれない。

 

「で、俺達のこうした感想を、運営は拾い上げて、開発に利用するんだろう。お~い!運営!バイト料を寄越せ!」

 

後半部分を大声で叫んだダンさん。

 

『勿論ですよ。後ほど、振り込み先を運営まで、お知らせ下さい』

 

すかさず、運営からメッセージが届いた。ダンさんの言うように、私達の行動だけでなく、会話もモニターされているようだ。そんな会話をしていると、階段の一番下に着いた。目の前には重厚な扉がある。

 

「ボス部屋か?それとも迷宮か?」

 

扉を開いたダンさん。目の前には地下迷宮が広がっていた。迷宮の中心だろうか?太い柱が1本見える。あそこがゴールかな?

 

「カナデがいないのは痛いなぁ」

 

私達の記憶力で覚えきれるだろうか?取り敢えず、右曲がりの法則で進むが、いきなりの行き止まり。

 

「これ、厄介なやつだ」

 

ダンさんが何かに気づいたようだ。

 

「厄介なヤツって?」

 

ダンさんに訊いてみた。

 

「ダンジョンメーカーで作っていない、手書きでつくったんだろう。それに、回れ右して左曲がりで、扉の前に戻れないと思うぞ」

 

先ほどと逆に進むが、ダンさんの言った通り、行き止まりに出た。扉の場所は見えるが、随分遠い。それは、壁が動き、順路を逆に進んでも、元に戻れないパターンである。

 

「普通、こういうギミックって、音がして壁が動いたことを知らせるが、ここのは無音のようだな」

 

カナデ殺しか?記憶しても、それは生かせないってことである。明らかに楓の木狙いの仕様である。何かを考えているダンさん。メイプルは大人しく、ダンさんの背中にいた。いた?いつの間にオンブして貰ったんだ?ズルい…

 

「そうか…正解の順路だけは動かないんだろうな。もし、正解の順路が一瞬でも途切れれば、それは絶対に正解がなくなるから、公正取引委員会の立ち入りがあるよな?」

 

『その通りです』

 

運営からすかさずメッセージが届いた。解けない謎があってはいけないってことだな。それは謎でなく、出題サイドの不正になるのだろう。

 

「ならば、解ける」

 

ダンさんが歩き始めた。私はダンさんの後を付いていく。

 

「ここは純粋に迷宮を楽しむエリアだな。モンスターは出ないと思う」

 

「なるほど…」

 

「あれ?オアシスがある。入ってみよう」

 

オアシスに入ると、メニュー画面に『ログアウト』の表示が出た。

 

「今日はこの辺にするか。メイプルが寝ているし」

 

確かに、スヤスヤと寝ているメイプル。なんて、ヤツだ…羨ましいぞ。ログアウトを選択すると、メッセージが表示された。

 

『パーティーメンバーが全員ログアウトしますと、次回は、ベータテストエリアのギルドホームにリスポーンします。ギルドホームにある転移陣から、前日の最後にログアウトしたポイントか、既にログインされているパーティーメンバーの元へ転移できます』

 

ソロで先に進めば、そこに転移出来るのか。ダンさんはやらかしてくれるのかな?そんなことを考えていると、ダンさんからメッセージが届いた。

 

『途中でデスすると、ギルドホーム送りだな。そして、その日のアタック権利は消える。そんな仕様だと思うぞ。今回はクエスト無しだから、パーティーメンバーの元にリスポーンだろうけど、開放された場合、アタック権利の無くなったヤツは、クエストが受けられるのだろう』

 

と。運営はこれを参考に作り上げるのだろうか?

 

 

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

苦戦するダンジョン

---白峯理沙---

 

週末、正さんの家に向かうと、既にフレデリカ、ミィ、ミザリーが来ていた。コイツら、始発で来たのか?お店はイベント期間では無い為、今日は喫茶室に入れたよ。楓の席をキープしておくかな。

 

「で、どうですか、新しいダンジョンは?」

 

ミィの中の人はかわいい口調である。炎帝のミィは演じているのか?こういうギャップに男性は弱いとも聞くので、彼女の作戦なのか?

 

「苦戦しているよ。メイプルキラーのダンジョンだよ」

 

「そうなんだ…私も行きたいなぁ~」

 

無理でしょ?炎帝のギルドマスターだし。

 

「そういえば、明日奈さんは、使い魔は何になったんですか?」

 

明日奈さん本人は、私達の為に腕を奮っている最中なので、正さんに訊いてみた。

 

「アイツのはコウモリらしいぞ。超音波で敵の位置を探査出来るらしく、暗闇での狙撃率が上がっているって。あと、ギ●オスみたいに、口から怪光線が放て、小さめなモンスターは喰うらしい」

 

また、チートな使い魔だな。

 

「おまたせ」

 

厨房から明日奈さんがやってきて、パフェを一人一人の前へと置いていく。

 

「試作のパフェなんだ。感想をお願いね」

 

何、これ…美味しい…

 

「美味しいです」

 

「中にパンナコッタがはいっているんだよ。ちょっと価格設定は高めになっちゃうけど」

 

これは有りです。止まらない…

 

「おはようございます」

 

楓とイズさんの中の人が来た。来て早々、二人共正さんと明日奈さんに話し掛けている。楓は大胆にも正さんの腕に抱きついている。ゲームと現実の区別つけていないのか?

 

 

 

---サリー---

 

甘味三昧をして、家に戻り、勉強をして、いつもの時間にログインをした。

 

「よぉ!サリー」

 

リスポーンしたのはオアシスでは無く、違うダンジョンだった。メイプルとカエデがダンさんの両隣に立っている。出遅れたぁぁぁぁ~!

 

「ここは?」

 

「迷路ゾーンをぬけたら、タワータイプのダンジョンに出たよ。10フロアごとに町があり、セーブポイントは階段と町だよ」

 

「モンスターで厄介なのは?」

 

「5フロアごとにある外通路だな。足場が狭いのに、タワーの外から鳥さんが襲ってくる」

 

それは厄介である。

 

「たぶん、サリーキラーな場所だと思うぞ」

 

階段を昇ると、外通路に出た。確かにこれは戦いづらい。プレイヤーは前後にしか移動出来無いが、モンスターは縦横無尽に動き回り、様々な攻撃をして来る。

 

「メイプルの悪魔は使えない。俺の機龍は飛べるから使えて、便利」

 

ダンさんは機龍化して、鳥さん達を牽制し、その隙にメイプルと私は、タワーの次の部屋へと向かう。部屋に出るモンスターもクセ者揃いである。今までの階層ボス並である。

 

「問題は何階層まであるかだ。いま、65階層目だ」

 

100か1000だな。それは辛い。70階層目の町で物資を補給するそうで、回復薬を切らさないようにしているそうだ。

 

「まぁ、どうにかなるかな」

 

が、一緒に回っていて、あることに気づいた。ダンさんがレベルアップする度に、メイプルにレベルを譲渡していた。なんで?その事にメイプルは気が付いていないようだし。

 

「ダンさん、レベル譲渡のメリットは?」

 

直接、訊いてみた。

 

「レベル格差が大きいほど、ダメージが大きくなるんだよ」

 

うっ!メイプルに飴を与えていると思っていたのだが、傷口にワサビのようだった。メイプルキラーの由縁はそれか?

 

「メイプルキラーの極意って、それですか?」

 

「それは言え無い。俺の生命線だからな」

 

ダンさんの強さの秘訣が、メイプルキラーになる秘密のようだ。なんだろう?

 

 

100フロアに着くと、今までよりも大きな町があった。これで終わりか?転移陣を探すが、どこにも無い。

 

「おいおい…降り階段があるぞ」

 

まだ先があるようだ。いつになったら、抜けられるんだ?後半のタワーはモンスターハウスの連続であった。これは、楽しいが、連続はつらいぞ。

 

「サリーのスタミナ切れ狙いか?」

 

確かに、回避盾である私が一番運動量が多い。メイプルは殆ど動いていない。ダンさんは遠距離攻撃だし。だけど、モンスターハウス故か、変わった素材、アイテム、装備、貴重な素材が拾えるようだ。

 

「魔法のビキニ…消費魔力を1/10に出来るって…ミィに着せようかな」

 

そのビキニは凶暴である。布面積が異常に少ない。フレデリカなら着そうだが、素のミィは恥ずかしがり屋ぽいので、どうだろうか?

 

「サリーが着るか?」

 

「いや、中学生には無理です…」

 

それを着こなすには胸が…くそっ!運営めぇぇぇぇ~!なんで、そんな物をドロップさせるんだぁぁぁぁ~!

 

モンスターハウスの連続は流石の私でも堪えた。10フロア降りただけで、集中力が激減している。ダンさんにオンブして貰っていたのに、気づかない程…もったいない。

 

「まさか、サリーを背負うとは…今日はここまでだな」

 

「ダンさん、ソロで行くんですか?」

 

「止めておくよ」

 

が、翌日…大きな扉の前にリスポーンしていた。

 

「メイプルが来たら、終わらせよう。たぶん、ボス部屋だ」

 

ソロでモンスターハウスを抜けたようだ。

 

「お待たせ…えっ!」

 

メイプルが来ると同時に大きな扉を開け、メイプルにレベルをギフトして、部屋に彼女を投げ込んだ。

 

「ちょっと!えっ!えぇぇぇぇぇ~!」

 

ラスボスは、私達だった。偽ダンさんは神装備で、偽メイプルは機械神だし…悪魔状態のメイプルの体力が削られていく。状況を読んだダンさんが偽メイプルと偽者の私を瞬殺した。問題は…

 

「さて、どうしようかな。神装備かよ…」

 

ダンさんの攻撃の手が止まった。それ程ヤバい装備なのか?

 

「左パンチだとメイプルは即死」

 

「えっ!」

 

メイプルに左手が掠めた瞬間、悪魔姿のメイプルがドット落ちしていく。悪魔モードが解除されずに、即死って…即死属性なのか?

 

「蹴りも即死だぞ」

 

へっ?私がドット落ちしていく。掠めたのか?

 

 

リスポーンすると、みんなの居る階層の噴水前だった。ダンさんは、クリアしたんだな。どうやって?ギルドホームに戻るとメイプルと久しぶりに会うみんながいた。

 

「サリーとダンさんでクリアしたの?」

 

メイプルに訊かれ、首を横に振った。

 

「ダンさんがソロで抜けたみたい」

 

あの神装備は弱点があるんだな。ダンさんはそこを突いたって感じか。

 

翌日、インをすると、ギルドホームでは、フレデリカとミィ、それにミザリーが真っ赤な顔で立っていた。彼女達の視線の先には、あの凶悪なビキニがハンガーに吊してあった。

 

「欲しいけど…着れないなぁ、これ…」

 

「無理…こんなのを着て、演説できないよ~」

 

「着たら、ミィに焼き殺されそうだよね」

 

着たいけど、着られない三人のようだ。あと、似合うのは、イズさんか、カスミだが…

 

「私は魔法を使わないから」

 

「私もだ」

 

真っ赤な顔をしている二人。誰も着られないと思う。

 

「私、着ようかな?」

 

って、メイプル。

 

「似合わないよ」

 

と、声を掛けた。

 

「う~ん、そうだよね…」

 

って、目がワクワクしている。これは試着をするのか?

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

新エリアと新メンバー

---サリー---

 

メイプルはあのビキニを手に取り、装着しようとした。だが…

 

「あれ?試着できない。なんで?えっ…これ、装着条件があるんだ。」

 

手に取らないと、装着条件が見えないらしい。私も手に取り、装着条件を見た。

 

『1.女性であること 2.アバターの胸のサイズが中以上の人』

 

胸のサイズ?アバターのだよね?たぶん、メイプルと私、マイユイコンビはダメなんだろう。

 

「えっ!えぇぇぇ~!私もダメなの…」

 

フレデリカが撃沈していた。私よりも大きく見えるのだが、パッド入りの服装だったのか?フレデリカの手から離れたビキニは、無表情のメイプルが手に取り、倉庫にポイした。

 

「きっと、呪われた装備なんですよ」

 

頷くフレデリカとマイユイコンビ。

 

「次のイベントはなんでしょうね?」

 

話題を切り替え、メイプルの顔に表情が戻った。ミィの視線は倉庫に向かっている。ダンさんに、

 

「ミィに着て欲しい」

 

って、言われたからだろう。が、彼女には無理だな。

 

『運営からのお知らせです。上級者向けのエリアが開放されます』

 

みんなのメニュー画面が一斉に開いて、運営からのお知らせが表示された。

 

「あのエリアかな?」

 

メイプルが私を見た。テストしたエリアの可能性は大きい。

 

「取り敢えず、みんなで見に行こうか」

 

開放は来週のようだ。

 

 

開放日になり、新しいエリアに向かう扉に、向かうプレイヤー達の波。どう見ても上級者に見えない装備の者が多数いる。大丈夫なのか?あの運営が自信を持って開放したエリアだぞ。

 

扉を潜ると、目の前に町が広がっていた。円形都市のようで、町の中心には高くそびえる塔があり、町の外周部には円周に沿って、高い壁が囲んでいた。

 

「ここは、アソコじゃないな」

 

と、ダンさん。

 

「どうしてですか?」

 

「塔には外通路が無い。あれは、別物の塔だ」

 

メイプルの問いに答えたダンさん。

 

「それに、パーティーの解除が出来無い」

 

パーティーの解除?あっ、本当だ。パーティーメンバーが、私、メイプル、ダンさんで、解除のボタンが無い。

 

「まだ、ベータテストは終わっていないってことだ」

 

あれ以上の試練が待っているのか?まぁ、楽しいけど…

 

「あっ、俺がパーティーリーダーで、残りの7名がパーティーメンバーになっているぞ」

 

クロムさんが声を上げた。イズさんもパーティーメンバーってことか。まずは町の探索だな。ギルドホームがあるかを探さないと。

 

「この町の家って、個人でも買えるみたいね。ギルドホームは、町の北にあるみたい」

 

イズさんが、掲示板を読んでいた。先駆者達が、情報を上げてくれたようだ。まずは、町を探索しながら、ギルドホームを目指した。

 

 

 

---ダン---

 

アスカが唸っている。狙撃が出来るエリアが無いのだ。塔には窓が無く、外周に出ることは出来ず、狙撃ポイントにはならないようだ。

 

「私の楽しみを…塔の中でPKすれば良いのかな?」

 

どうなんだろうか?パーティー戦だからな。

 

塔へ向かう俺とアスカ。だが、俺は入れなかった。やはり、ベータテストを優先なんだろうな。アスカは一人で大丈夫か?ギルドホームを見つけ、中に入ると、イズとカナデがいた。

 

「どんな感じ?」

 

「見慣れた風景ね」

 

遜色は無いようだ。壁に埋め込まれた大きなモニタに、ここでのルールが表示された。塔内でのデスペナは、ギルドホームにリスポーンで、ギルドにはいっていない者は、中央広場の噴水前だそうだ。塔内でのログアウトは10フロアごとの町か、階段エリアだけで、それ以外のフロア部分は休憩扱いになり、不定期でリスポーンするモンスターの攻撃対象になるようだ。

 

「確かに上級者向けね」

 

「ここのルールに合わないやつは、基本エリアに戻れば良いんだろう。だけど、ゲームとしての面白みは、こっちだな」

 

「えぇ、そうね」

 

ログイン時には、ギルドホーム若しくは噴水前なのは、デスペナ時と一緒で、ギルドホーム内にある転移陣を使うと、ログアウトした場所にリスポーンするらしい。これは待ち合わせて攻略するには良い方式である。

 

「ここで、みんなに会えるのはいいわね」

 

さてと、転移陣で、俺はどこに出るんだ?転移陣に載ると、見た事の無い町に出た。町には宿泊施設があり、アイテムショップがある。食材屋もあるなぁ。

 

メニュー画面を呼び出すと、ここでのルールが表示された。基本、ログアウトは町の宿泊施設で利用料を払うことで出来る。それ以外の場所でログアウトするには、キャンプセットを購入して使用するようだ。

 

通貨は、モンスターのドロップ品などを売ることで得られる。道ばたに落ちている物でも売れる物があるのかもしれない。尚、買い取り価格、販売価格は変動相場制のようだ。厄介な仕様だな。

 

「あっ!ダンさん」

 

サリーがやってきた。

 

「まずは、このエリアの通貨を稼ぐことですね」

 

「いや、両替屋もあるから、あっちのエリアの通貨を両替出来るようだぞ」

 

交換しすぎると、両替レートに響きそうだな。一応試しで、1000万ほど両替した。

 

「えっ。両替レートが変わった」

 

俺のレートの半分くらいの価値になったサリー。

 

「取り敢えず、俺の通貨で暮らそう」

 

「はい…」

 

今、両替をすると大損である。次にアイテム屋へ移動し、売っている物と買い取り価格をチェックする。キャンプセットは必須だろう。変わった物だと乳鉢がある。これがあると薬草類をを自分でポーションへと加工ができるようだ。

 

「リアルに近い設定ですね」

 

「だな」

 

「あっ!ズルい!」

 

メイプルが来たようだ。若奥様風に、ダンさんの腕を抱いていた私。この前は、お前が抱いていただろうに。

 

 

翌日、攻略に出ようとすると、このエリアでは試練を乗り越えるようだ。その試練とは…第一の試練、ダンジョン内で一人につき、スライムを1000匹討伐…スライムだけのダンジョンでは無いのに、スライム1000匹?

 

「メイプルが不利だな」

 

ここのスライムは麻痺しないみたいで、パラライズシャウトが効果無し。

 

「えっ、ぇぇぇぇぇぇ~、スライムさん、待ってぇぇぇぇぇ~」

 

スライムはメイプルを見かけると逃げていく始末。完全なメイプルへの試練であった。私とダンさんがクリアした後、ダンさんがメイプルに耳打ちをすると…

 

「なるほど…やってみます」

 

って、機械神になって、ダンジョンに向けて砲撃を開始した。

 

「ダンジョンを破壊すれば、スライム1000匹程度道連れに出来るだろ?」

 

ダンさんらしい発想により、メイプルは砲撃3日目にして、クリアした。いいのか、それで…

 

 

次の試練は洞窟タイプのダンジョンで、モンスターハウスを一人につき5個殲滅とある。今度のネックはメイプルのSTRである。モンスターハウスをまず堀当てるのだが、掘る道具であるツルハシが装備出来無い。悪魔化すればSTRはゼロでは無くなるが、悪魔ではツルハシは装備出来無い。装備条件が人間であること…明らかに、メイプル狙いだな。

 

「え?!それって、差別ですよねぇ?」

 

ダンさんに泣きながら抱きついている。そこで、ダンさんの取った手は、堀り当てたと同時にメイプルをモンスターハウスに投げ込むことだった。モンスターハウス内のモンスターと最初に交戦した者が、カウント対象であることに気づいたそうだ。

 

「まぁ、楽しめるからいいか」

 

ダンさんが楽しいならいいか。たまに、メイプルとカエデを間違えて放り込んでいるけど…

 

このエリアに来て1週間もすると、あちらではイベントの告知があったそうだ。

 

「対人戦イベントだよ。倒した人数勝負のようだよ。モンスターはレベルによって、獲得ポイントが代わるようだ」

 

クロムさんから説明を聞いた。フィールドはイベント専用フィールドのようだ。

 

 

そうそう、ベータテストのバイト料が振り込まれたのだが、中学生が手にして良いか悩む額であった。

 

「最低賃金に色を付けて貰ったよ。ゲームしたいのに、テストに参加しているんだからな」

 

ダンさんが運営とバイト料の交渉していたようだ。ちなみに、メイプルはお菓子の家の資金にするそうだ。私はどうするかな?将来に向けて貯金が妥当か?

 

「うん?サリー、メイプル、運営から報酬が来ているぞ」

 

と、ダンさん。何の報酬だ?メニュー画面を開いて見た。バイト料のゲーム内での報酬のようだ。ゲーム内で、個人宅が貰えるとある。早速、三人で貰えた家を見に行った。ギルドホーム街を抜けて、北門を出ると、段々畑状の棚地に家が建ち並んでいて、頂上近くの三軒長屋が私達の家のようだ。長屋と言うには多少語弊がある。一軒一軒がお屋敷であるのだった。隣あった壁にドアでも有るのかな?

 

「じゃ、ダンさんは真ん中ですね」

 

って、メイプルが右手の屋敷に走って行った。

 

「サリー、一緒に見に行くか?」

 

「はい」

 

ダンさんからのお誘い、断る訳が無い。一緒にお屋敷を見て回る。3階建てで、地下には鍛錬場がある。これって、ギルドホームのような造りである。

 

『新エリアを開放します。南門より出て、数々の試練を乗り越えた者は、真のダンジョンに到達でき、そこでお宝を目にするでしょう』

 

と、いきなり運営からのお知らせが届いた。

 

「ベータテストしたエリアだろう。テスト段階よりも、難敵になっているだろうな。一旦、ギルドホームへ戻ろう」

 

メイプルを呼びに行き、三人でギルドホームへ戻った。

 

 

イベント前のタイミングで、新エリアの開放のお知らせだったので、みんな戸惑っていた。

 

「イベントよりも新エリアに興味がある」

 

カスミはイベントを回避のようだ。

 

「問題は1パーティー8名の問題だな」

 

楓の木はベーターテスターが3名いるので、情報に長けている。もしかすると情報も報酬の内か?

 

「8名じゃつらいの?」

 

イズさんが質問してきた。

 

「メイプルとカエデを使って乗り切った場所がある」

 

「えっ…」

 

絶句するみんな。このゲーム内で一番固い2名を盾にして、乗り切った外通路。10フロアごとに町があるから、実質10フロアごとに外通路がある。

 

「サリーがいてもダメなのか?」

 

カスミに訊かれた。

 

「前後には動けるけど、左右には無理。空中に足場を作る能力があるけど、敵は縦横無尽に動いて特攻してくるわ。足場の配置が少しでもズレると、死ぬわね」

 

なので、守ってもらった。相手は今まで以上に賢いので、足場を狙って来るだろう。

 

「本当の意味での上級者向けだと思った方がいいな。試練の2つはメイプル殺しに近いし」

 

スライム1000匹とモンスターハウスだろう。その他にも、私を助ける為に、ダンさんが死んだエリアもあったし。

 

「パーティー2つで協力して進むのが良いだろう」

 

 

更に翌日、インをすると運営からのお知らせの追加があった。新エリアでの通貨について、物価について、私達が知っている情報と、私達の聞いていない情報…複数パーティーでの協力プレイもあり、エリア内の町以外でのPK解禁などなど。

 

「やっと、PK出来る」

 

アスカさんが喜んでいる。塔内ではPK不可だったらしい。

 

「で、このギルドに新メンバーをスカウトしてきたよ」

 

ギルドホームの倉庫のドアを開くダンさん。玄関のドアじゃないの?何故…って、あっ!そういうこと…あの呪われたビキニを恥ずかしそうに着ているミィとミザリーが出てきた。

 

「似合うぞ、ミィ」

 

「えっ…本当ですか?色々な部分がスゥスゥするんですけど…」

 

そこには炎帝のギルマスではなく、ただの恥ずかしそうな少女がいた。

 

「う~ん、何故、私も?」

 

何故か、呪われたビキニは2着あり、ミザリーも着ていた。

 

「ミザリーはなんか、はち切れそうだな。まぁ、切れることはないか」

 

クロムさんの視線は、ミザリーの見えそうで見えない股間をロックオンしている。あれが男のサガってやつかな。

 

「まぁ、これで、二人共魔力不足に悩まないでいいな」

 

ダンさんは、効率優先のようで、視線をロックオンさせずに、思考モードのようだ。

 

「ミザリーとミィ、あと、フレデリカとアスカは俺のパーティーに入れて、メイプル達のフォローに回る。一方、俺達が危ない時は、メイプル達がアシストに回ってくれ」

 

豪勢な布陣である。

 

「炎帝ノ国はミィとミザリーが抜けても大丈夫なの?」

 

イズさんが質問をしてきた。

 

「この二人がいても役立たない。そんな生やさしい仕様じゃない。人数の多いギルド向きでは無いんだよ」

 

ギルド戦であれば、数の暴力は有効である。が、新エリアのシステムを考えると、人数が多いと金欠になる。ログアウト時にゲーム内通貨が必要である。それも人数分。今までのシステムでは、お金の重要性をあまり意識しないでも良かったけど…

 

「新エリアの攻略に出れば、大人数ギルドは崩壊していく。後、みんなでワイワイしていたいプレイヤーも減るだろう。まぁ、元のエリアが、ソイツらの受け皿になると思うけど」

 

「確かに、あの塔の攻略は縦列進軍しか出来無い。多人数では先頭パーティーしか戦え無いなぁ」

 

カスミが頷きながら、感想を述べた。

 

「しかもワンパーティー8名のルールだ。後方集団には旨みも面白みもないと思う」

 

それがネックだよな。ギルド戦でなくて、パーティーアタックだと、大人数でいる意味は少ない。

 

「まぁ、この先の展開を説明した上で、ミィとミザリーを貰った。その代わりに、炎帝ノ国から相談されたら、人員は貸す、情報は流す、ゲーム内通貨はある程度融通する、って条件を出して、了承してもらったよ」

 

ある意味、ありの交換条件だ。

 

「ペイン達はもう向かっているだろうけど、南門へ向かおう。サリー、ギルド情報にパーティーを設定してくれ。メイプルと俺をだ」

 

ギルドメニューの画面を開いて、設定をしておく。ギルド所属のパーティーの設定は、パーティーリーダーを設定すれば良いみたいだ。

 

「さて、南門へ行こうぜ!」

 

ギルドマスターはメイプルなのに…って、ダンさんの背中で安眠中だった。いいのか、うちのギルマスよ…

 

 




演じなくても良くなったミィは強いのだろうか?


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

試練 Part1

 

---サリー---

 

南門までシロップで移動。ミィとミザリーはポンチョを羽織っている。流石に、あの姿では街中には出られないようだ。

 

「戦わない時は、通常装備で良くない?」

 

アスカさんの一言で、威厳のある姿に戻ったミィとミザリー。南門の手前でシロップから降り、門を潜った私達。目の前には、ベータテストで見慣れた街並が広がっている。そうなると、最初の試練は、メイプルキラーか?

 

「ここにはギルドホームは無いのか?」

 

クロムさんが訊いた。

 

「無い。ただ、ログイン時とデスペナ時には、皆ギルドホームにスポーンすると思う」

 

町の広場に掲示板があり、ここでの試練の内容が表示されていた。

 

『ダンジョンでスライムを一人当たり1000匹討伐せよ。尚、ファーストアタックした者だけに討伐ポイントが入る』

 

やはり、そう来たか。が…

 

「俺と、サリーとメイプルは、試練の免除があるようだぞ」

 

メニュー画面を開くと、【試練免除】と表示されていた。そうなると、試練はしなくても良いのか。いや、そうもいかないようだ。

 

「みんなのアシストに回るぞ」

 

と、ダンさん。みんなの試練に付き合う必要があるようだ。パーティーメンバーが試練を乗り切らないと、パーティーとして、クリアしたことにはならないようだ。

 

「えぇぇぇぇぇぇ~、私、役立て無いよ~」

 

メイプルがベソをかいている。テストでの体験が蘇ったのだろう。メイプルを見て、全力で逃げ出したスライム達。足止めはダンさんのスラリンで

出来たのだが、ファーストアタックがダンさんになり、メイプルが全部倒しても、メイプルにはポイントは付かなかったのだ。

 

「ここでのネックはマイユイコンビだな。メイプルの時みたいに逃亡しないだろうから、多少は楽かな?」

 

全員で入り、まず感触を確かめて、誰が誰をアシストするかを決める。

 

「スライム以外にミノタウロスが出る。だから、防御に不安のある者はメイプルか、カエデと組んでくれ」

 

違うパーティーでも、同じギルド内では人員のトレードが出来るようだ。まず、ダンさんは、ダンさんのパーティーメンバーのクリアをするようだ。その間、マイユイにメイプル、イズさんとカナデには私がサポートしていく。ミノタウロス相手では、こちらにダメージが入るからだ。ちなみにメイプルの『身捧ぐ慈愛』は使えない。保護エリア内にスライムが入って来ないのだ。天使姿を見ると逃げるスライム達…心が折れるメイプル…

 

「メイプル、ミノタンが来たら、カバームーブよ!」

 

「だね…」

 

このダンジョンは、メイプルと相性が悪すぎる。

 

「どの位でクリア出来たの?」

 

イズさんに訊かれた。

 

「メイプルはチート技で3日です。正攻法ではクリア出来無いというか…」

 

「あぁ…これがメイプル殺しのダンジョンなのね?」

 

「いえ、もう1つ有るんですよ」

 

あのモンスターハウスは、もっと厄介だ。イズさんで、ファーストアタック出来るかな。ファーストアタックに関しては、アシストは出来無い。アシスト行為がファーストアタックに成りかねないからだ。それで、ダンさんは投げ込むと言う荒技に出たのだった。

 

たまに、洞窟が揺れる。下層で激しい戦闘をしているのは、アスカさんか、ミィか?あぁ、フレデリカもいるわね。

 

 

 

---ダン---

 

こんな場所で出会うとは…

 

「炎帝と楓の木が手を組んだのか?」

 

聖剣のペイン、ドレッド、ドラグがいた。飛んで火に入る夏の虫である。フレデリカとアスカは死角に居るため、見えていないようだ。手信号で待機と指示を出した。

 

「男三人とはむさ苦しいなぁ」

 

ミィは演技プレイに入ったようなので、ミザリーの肩を抱いた。

 

「ナンパ師か、お前なんぞ怖くねぇよ。メイプルが居なければ問題無いカスだな」

 

あぁ、今日は普段着で有る為か、コイツら俺の正体に気づいていないようだ。カスと言われてもしょうがない程の軽装な俺。

 

「カスで結構だよ。身捧ぐ慈愛だ!」

 

カエデをこっそり召喚して指示を出した。、ミザリーとミィを保護する。メイプルにレベルをギフトしまくった為、カエデが思いっきり固くなっていた。メイプルはブレずに、VIT一択強化しているのだ。

 

むさいヤロー共が攻撃を仕掛けてくるが、ミィとミザリーには攻撃が入らない。アイツらからは死角でカエデは見えていないのだ。

 

「何?貴様まで、使えるのか?」

 

「一応、盾だからな。ミィ、攻撃しろ。ミザリーは援護だ!」

 

「「了解!」炎帝!爆炎!」

 

ペイン達に炎攻撃が飛んでいく。隠れる場がないダンジョン内。さぁ、どうする。アイツらは迷わずに、炎攻撃を無効化するポーションを飲んでやがる。

 

「あいつらの目の前に、蜘蛛の巣を張ってみて」

 

こっそりスラリンを召喚して、指示を出した。ペイン達の目の前と退路にスラリンの糸が張られ、ペイン達を一歩も出さないようにした。

 

「なんだ?この蜘蛛の巣は?」

 

ドラグが指で払おうとした瞬間、ヤツの指が切り離された。

 

「うっ…痛ぇぇぇぇぇ~!」

 

スラリンの糸は不壊属性の上、切れ味抜群であるのだ。

 

「何をした?」

 

動揺しているペイン。

 

「フレデリカ、昔のお仲間に砲撃して」

 

「了解で~す。多重水弾」

 

水の弾丸がペイン達を襲う。スラリンの糸は、味方の攻撃を透過させる。ペイン達は使い魔を出して来た。ドラゴン、狼、ゴーレムが盾になり、フレデリカの攻撃を防いだ。そんなの読んでいるよ。

 

「では雷撃!」

 

スラリンの糸に雷撃が発生し、水弾が弾けた水を通電し、ペイン達の使い魔達を麻痺させた。その場から指輪へと還っていく盾役の使い魔達。

 

「何?連携プレイだと!」

 

「同じパーティーだからね。これくらい出来無いとねぇ。アスカ!一気に殺すなよ。ミンチにする要領で殺せ!」

 

「アイアイサー、お兄ちゃん」

 

両手にレールガンを持ったアスカを見て、固まるペイン達。

 

「お前が…狙撃手か…」

 

「私ですか?お兄ちゃんの妹です」

 

更に恐怖を与えよう。俺はクイックチェンジで蒼い装備に切り替えた。

 

「何…貴様が、テロリストなのか…」

 

「うげっ!止めてくれ…痛っ!」

 

狼狽えるペインを尻目に、アスカはまずドラグを潰し始めていた。指の関節を貫通させ、手首を貫通させ、肩を貫通させ…身体の各部位ごとに分断させて

いく。

 

「止めてくれ…一気に殺してくれよ~。痛い…痛すぎる…」

 

ドラグは走って、俺達に寄って来るが、スラリンの糸でバラバラに斬り刻まれて、ドット落ちして消えていった。

 

「ダンさん、エグいですよ」

 

ミィが俺の方を向いた。

 

「一応、ブラックリストのテロリストですからね。この位しないと、運営が納得しないでしょ?」

 

標的のドラグが消え、次にアスカはドレッドの関節を撃ち抜き始めた。

 

「どうだ?カスに殺される気持ちは?」

 

手招きをして、天使モードのカエデを近寄らせた。

 

「何?メイプルもいたのか…ブラックリストは楓の木に所属なのか…」

 

何を今更…ドレッドが退路に張ったスラリンの糸でミンチになり、消えていった。

 

「お兄ちゃん、コイツはどうする?」

 

「試したいことがある『子羊の行進』『添い寝』」

 

その場で倒れ、悶えるペイン。

 

「よし、スラリン、カエデ、助かったよ。休んでくれ」

 

使い魔の指輪に戻っていくカエデ達。スラリンが消えると、スラリンの糸も消えた。

 

「じゃ、先を急ごうか」

 

地べたで、身もだえているペインを残し、先へと進んだ。

 

 

 

---サリー---

 

翌日、ギルドホームに行くと、皆疲れ切った顔であった。やはり、一人当たり1000匹はキツいよな。

 

「まだ、ダメか?」

 

「無理…」

 

ダンさんの問い掛けに、イズさんの心は折れ掛かっているように見える。

 

「そこで作戦を伝授する」

 

ダンさんが、何かに気づいたようだ。

 

「昨日のログアウト寸前に発見したのだが、スライムのリスポーンって、固定位置なんだよ。だから、リスポーン位置で待ち伏せして、倒すんだよ。経験上、リスポーンし切った後、5秒ほど動けないロスタイムがある。そこを叩くんだ」

 

経験?それは、初めてのゲームインでスポーンした直後に喰らった、メイプルの悪食攻撃のことか?メイプルが思い出したのか、真っ赤な顔で狼狽えていた。

 

「今日はその方向で行こう」

 

「それなら、行けそうね」

 

「まず、単独で叩けるクロムとカスミで違うフロアで試してくれ。必ずフロア毎に1箇所は最低有る。ただ、ダンジョン内では他のパーティーと交戦する可能性があるので、マイユイコンビはメイプルと行動、イズとフレデリカをトレードするから、サリー、フレデリカを頼む」

 

「わかりました」

 

「私をどうするの?」

 

イズさんが怯えていた。呪いのビキニの恐怖だろうな。

 

「今までに集めた素材で、売っていない物が作れるか、考察を頼みたい。売っていない物と良く売れる物は、高値で売れるからさぁ」

 

金策に走るようだ。確かに、金策は大事である。このエリアの見えない敵と言って良い。

 

 

 

---白峯理沙---

 

翌日、学校では連休を前にした小テストの結果が発表された。

 

「本条楓さん、よく頑張りましたね。クラスで一番ですよ」

 

担任に褒められ、立ち上がって、照れまくっている楓。えっ、なんで?私と同じ様にゲームに嵌まっているのに…

 

「えへへへ、それほどでも…てへへへ」

 

何が起きたんだ?このチート娘に…放課後、楓に訊いてみた。

 

「どうやったのよ?」

 

大差で負けるなんて…悔しい。

 

「え?えっとねぇ…テスト前の勉強をみて貰ったんだよ」

 

みて貰った?

 

「誰に?」

 

「正さんに…学校の先生よりも教え上手で、すっご~く、分かり易かったんだよ」

 

え…出遅れた。お近づきになるのに、そんな手があったのか。

 

「どうやって、教えて貰ったの?」

 

楓の両肩を掴み、訊き出そうと必死になっていた私。

 

「痛い痛いよ~。ゲームと違って、リアルの私は弱いんだよ~」

 

そうだった、そうだった。我に返って、楓の肩から両手を離した。

 

「テスト前に理沙が、お店に来なかった日があったでしょ?」

 

あった。用事があって、行けなかった。

 

「あの日、明日奈さんの仕事姿を見ていたら、明日奈さんが正さんのご両親に紹介してくれて、高校を卒業したらモロボシ洋菓子店で働きたいって、伝えてくれたの。そうしたら、じゃ、高校を卒業出来るように、今から勉強をしようねって、正さんに勉強を教えてくれるように言ってくれたんだ」

 

楓はリアルでもチートであった。何、その展開は…ズルい、ズルすぎる…

 

「じゃ、次のテストの時、一緒に勉強を見て貰おうね」

 

「うん…ありがとう…楓…」

 

楓は正さんをどう思っているんだ?そこも問題であるが、訊けないなぁ、流石に…

 

「あんなお兄さんがいたらいいなぁ。そうすれば、明日奈さんの妹さんになれるのにね」

 

お兄さん?正さんはお兄さん枠なのか?本当に?なんか、私の知らない楓がいるようだ。コイツ、一番油断成らない気がする。

 

 

その週の週末、正さんのお店に行くと、ショーウィンドウの中身が模様替えされていた。そこには、メイプルを模したケーキとメイプルのフィギュアがあり、ミィを模したケーキとミィのフィギュアもあった。どういうこと?

 

お店に入ると、メイプルという名のケーキと、ミィという名のケーキと、シロップという名のケーキが新作として、並んでいた。

 

「おぉ、理沙。今日は一番乗りだぞ」

 

明日奈さんがいた。

 

「これって?」

 

「5月の節句向けケーキだよ。ショーウィンドウのフィギュアは兄さんの力作だ。試食させてあげるよ」

 

明日奈さんがお皿に新作を3つ載せてくれた。喫茶ブースに持っていくと、紅茶を淹れてきてくれた。

 

「メイプルはビターチョコにトマトのジャムだ。メイプルシロップ味で無いのがミソだよ」

 

紅いラインを表現するのにトマトのジャムを使ったんだ。一口食べてみるが、トマト臭くないが、ほんのりとした甘みを感じ、美味しい…

 

「ミィはイチゴ三昧で、外側がマッシュしたイチゴ、中身はイチゴのムースさぁ」

 

イチゴ本来の甘酸っぱさを感じ、イチゴを食べているみたいだ。

 

「シロップはメロン味のケーキで、中にはミルクプリンが入っているんだ」

 

これも美味しい。メロンの甘みとミルクの甘みのハーモニーを感じる。

 

「問題は値段だな。売り切れるか問題だな」

 

値段は高めの1000円超え…

 

「買うなら、ピースでなくて、ワンホール5000円のがお得だよ」

 

ワンホールは6ピースだっけ…確かにお得であるが…

 

「何?あれ…」

 

ミィとミザリーの中の人達が入って来た。ミィの顔は真っ赤で俯いている。

 

「兄さんのアイデアだよ。5月の節句は鎧兜だから、戦士をイメージしたら、あぁなったって。本当はサリーも作りたかったらしいけど、あの蒼色を出す食材が浮かばなくて断念だってさぁ」

 

一応、考えてくれたんだ。まぁ、確かに蒼いケーキは難しいかな。

 

「で、シロップの翠色に目を着けたみたいだよ。読み方が『すいしょく』で、水色をイメージ出来るかなってね」

 

そうなんだ。シロップを買って帰ろうかな。ミィとミザリーは新作セットを頼むか悩んで居た。今回は3つセットで5000円である。飲み物が付くが、勇気のいる価格である。

 

「すみません、新作セットを1つ、珈琲で。後、ダージリンのファースフラッシュを1つ」

 

セットの紅茶は銘柄の指定は出来無い。単品の紅茶は銘柄を指定しないといけない。このお店の喫茶ブースは珈琲と紅茶の専門店であることもウリであった。

 

「あら?」

 

イズさんの中の人がやってきて、ケーキ売り場で固まっていた。原因は値段だろうな。

 

「期待出来るのよね?」

 

「どうだろうな」

 

イズさんと明日奈さんが、何やらヤリトリをしている。

 

「素材と調理法に凝ったら、こんなになりましたよ。ははは…」

 

明日奈さんが常連さんが来る度に応対していた。それだけ、今回は値段に問題があったのだった。

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

試練 Part2

---サリー---

 

1つめの試練を全員がクリアした。

 

「イベントの方が楽だな」

 

クロムさんがへたばっていた。

 

「でも、ここのスライムのドロップ品は、ポーションの材料になるのよ、うふふ」

 

嬉しそうなイズさん。あの日、シロップを気に入り、5個の大人買いをしていた。シロップだけはピースでは無く単体ケーキだったのだ。

 

「次の試練は…あれかぁ~」

 

ダンさんが思考モードに移行した。効率の良い作戦を、考えてくれているんだろうな。

 

「運営からのお知らせだと、モンスターハウスを一人当たり5箇所殲滅とあるが、そんな大変なのか?」

 

カスミが訊いた。

 

「掘り出すんだよ。モンスターハウスをさぁ。メイプルが免除で良かったよ」

 

ちらっとメイプルを見たダンさん。メイプルは申し訳無さそうに座っていた。

 

「ここもメイプル殺しなの?」

 

イズさんが訊いた。

 

「あぁ、メイプルはSTRゼロだから、自力で掘れなかったんだよ。今回のメンバーは大丈夫そうだが、ファーストアタックが必要だから堀り当てた瞬間、イズ、カナデ、マイ、ユイ、ミザリー、ミィ、フレデリカには身捧ぐ慈愛が必要だと思うが、問題は身捧ぐ慈愛がファーストアタックと見なされた場合、一撃食らわせて逃げるか、一撃貰って死ぬかだな」

 

確かに一撃でも食らえば、危険なレベルである。5回ほど自殺をすれば、攻撃陣はどうにかなるが…

 

「試さないとな」

 

立案させた作戦だと、穴を掘るにしても、大きめに掘らないといけない。先頭部分にメイプルが居る必要がある為だ。

 

「まぁ、堀り当てる寸前まで、マイとユイに掘って貰うのが効率的であるが、寸止めできるかどうかだな」

 

掘り当てた瞬間に、モンスターが反応して接近してくるのだ。

 

「まったく運営は、試練を与えすぎだよ」

 

珍しくダンさんが愚痴をこぼしていた。それ位、厄介な試練であるのだ。

 

 

 

---メイプル---

 

ふと誰も触れないことに気づいた。

 

「ダンさん、試練の数って、町の数と同じでしたよね?」

 

次は3つ目の試練なのだが、町は4つ目であった。

 

「あ…1つめの試練は、みんな終わって居るぞ。レベル50以上であることだからな」

 

と、ダンさんにしては珍しく、目が泳いでいるようだった。

 

「えっ?ダンさんのレベルって…」

 

サリーが何かを知っているようだ。

 

「まぁ、運営と取引したんだよ。二人くらい見逃せよ。さもないと、南門で鬼畜兄妹がPK競技を始めるぞって…」

 

運営を脅したようだ。って…

 

「なんでですか?ダンさんもレベル50くらいありますよね」

 

私やサリーよりもレベルが高かったはずである。

 

「俺?レベル30だけど…アスカは、レベル40だっけ?」

 

あれ?おかしい。アスカさんは、そんな物かもしれないが、ダンさんがレベル30って…ギルド対抗戦の時に、レベル30じゃなかったっけ?

 

「ダンさん、そろそろ白状した方がいいと思いますよ」

 

サリーは理由を知っているようだ。ズルい…いつの間に、そんな話を訊いたんだ?

 

「う~ん、手の内を晒すのは心外だが…俺のレベルはメイプルにギフトしているんだよ」

 

「はい?」

 

私にレベルをギフト?なんで?

 

「メイプルが強くなれば、俺も比例して強くなるから…」

 

「うん?あの~、意味が分からないんですけど…」

 

そういえば、私のレベルアップの速度がサリーよりも早い。そのせいなのか?

 

「カエデのステイタスは、メイプルに準拠するんだ。メイプルが固くなれば、カエデも固くなるんだよ」

 

なるほど…って、…

 

「それじゃあ私は、いつまで経ってもダンさんに勝て無いじゃないですか…」

 

私の防御力を私の攻撃力で打ち破るのは、機械神以外不可能である。

 

「同じギルドだから、問題は無いだろ?」

 

「問題ありますよ。ダンさんに勝つのが、夢なんですから」

 

「それは絶対に無理だよ。メイプルキラーってスキルがあるから…」

 

何、それ?そんなスキルがあるの…

 

「それに、機械神相手になると、互角だしなぁ」

 

互角じゃ、勝て無い…ズルいって…

 

「ダンさんって、無敵ですか?」

 

「そんなことは無い。最近だと、サリーとアスカには負けているし」

 

サリーに負けている?う~ん…避ければ勝てるってことなのか?

 

 

 

---サリー---

 

メイプルが考え込んでしまった。メイプルキラーってスキルも気になるが、次の試練が問題である。

 

「次の試練は平原戦で、敵を一人につき10匹撃破なんだけど…ダンさんが死んだ試練なのよ」

 

「「「えっ!」」」

 

ダンさんと長考状態のメイプルを除き、皆驚いていた。まぁ、無理もない。無敵と思われているダンさんが、デスしたんだから。

 

「平原戦っていうけど、急降下爆撃有り、遠距離狙撃有りの地獄なの。ここでもファーストアタックした者しか、カウントされないし」

 

10回死ねば、どうにかなるかもしれない。

 

「ダンはどうやって死んだんだ?」

 

クロムさんに訊かれた。

 

「私をカバームーブして…私でも躱しきれないほどの貫通狙撃が広範囲に放たれて…」

 

「蜂の巣になったよ。あれは、避けられない。まぁ、対処法は見つけてあるけどな。今回は貫通狙撃を、機械神と機龍で先制攻撃で防ぐ。急降下爆撃に対しては、フレデリカの多重防御とカエデの身捧ぐ慈愛で対処する。基本、それ以外の相手からカウントを稼げよ」

 

「それ以外の相手はたいしたことは無いから、イズさんでもいけると思います」

 

私とダンさんで、攻略法を皆に伝えた。その結果、試練は5月一杯で終わった。

 

「この後はギルド戦だから、誰が倒してもクリアだ」

 

と、ダンさんが説明すると、皆安堵の表情を浮かべた。それだけ、試練は過酷であった。平原戦の伏兵は地面からの攻撃であった。カエデの防御範囲にいれば、耐えられるが、カエデがノックバックを喰らうと、たちまち袋だたきを喰らう。結構ハードであった。

 

「地面の下からノックバックには、やられたな」

 

ダンさんすら苦笑いを浮かべている。地面の下からノックバックを喰らうと、カエデが宙に浮き、慈愛の保護範囲が斜め上方向にずれ、前線で戦う者には恩恵がなくなると言うか…

 

今、三軒長屋な私達の家で、まったりとしている。当分、戦闘は腹一杯である位、戦い通した。

 

「ペイン達は、まだモンスターハウスらしいぞ」

 

三人は上級であるが、残り五名は中級な為、苦戦しているようだ。

 

「ペイン、ドレッド、ドラグだけのパーティーにすればクリアだろうけど、ギルドの意味が無くなるし、難しいだろうな」

 

ここで足手纏いを斬り捨てると、後半のギルド戦がキツくなるのが見えている。8名全員がクリアできる強さを想定しているギルド戦。

 

「いや、三人で平原戦に挑んで、戻ったみたいだよ」

 

と、フレデリカ。ドラグとメッセージ交換しているらしい。平原戦は三人じゃキツいよな。楓の木だって、フルメンバーの13名でもキツかったし。

 

 

6月に入る頃、運営から招待状が届いた。

 

『更なる強者と戦ってみませんか?』

 

と…

 

「これって、運営の罠だろうな」

 

と、言いながらダンさんが招待状を読んでいる。

 

「俺だけ行って来ようかな」

 

「私も行きます」

 

メイプルが手を上げた。ギルドマスターが行くなら、みんなで行くのが妥当だろう。

 

「メイプルは止めた方がいいな」

 

「なんでですか?そうやって、ダンさんだけ強くなるのは許せません」

 

いつも以上に、譲らないメイプル。

 

「これ、たぶん違うゲームとのコラボだと思うぞ」

 

招待先のルールというか概要を表示させたダンさん。

 

招待主はアルター王国の王女、アルティミア・A・アルターとある。このゲームには国という概念はない。なので、他のゲームの可能性は大である。

 

「これって、世界的にヒットしている『Infinite Dendrogram』だと思う」

 

巷でデンドロと呼ばれているゲームかな?

 

「ここよりも、もっと現実的なシステムと言われている。NPCをティアンと呼んでいるんだけど、ティアンを殺すと殺人罪に当たる。一方プレイヤーはマスターと呼ばれ、こっちは殺しても問題無しだ」

 

ヤケに詳しいダンさん。

 

「俺も、NWOとデンドロで悩んだんだけど、気楽なNWOを選んだ。ティアンは単なるNPCでは無く、デンドロの世界で生きているんだ。例えば、人助け系のクエストを失敗すると、死んだティアンは二度と生き返らない。一方、マスターはデスペナが24時間、ゲーム内時間は3倍の72時間になるんだけど、クエスト失敗をしても、時間の流れは止まらず、クエストの途中でデスすると、指をくわえて72時間待たなければならない。俺やアスカのように、ゲームと割り切れれば問題は無いが、そうでない場合、トラウマになり、人格形成中の中学生、高校生は要注意が必要だよ」

 

迂闊にクエスト中にデスすると、ゲーム内の歴史が変わるってことか?

 

「もし、デンドロに足を踏み入れるなら、その辺りの覚悟が必要だ。あと、18禁モードなんてない。ディアン同士、プレイヤー同士、ティアンとプレイヤーとでの交配が可能で子供も出来る。万が一の際の覚悟も必要だ」

 

それは、性犯罪があると言うことか?それは、リアルだな。ダンさんとならいいかな。

 

「招待を受けるかどうか、一晩じっくりと考えた方が良い」

 

「でも、ダンさんは行くんでしょ?」

 

「行くよ。どこまで戦えるか、試したい」

 

「じゃ、私も行きます。あぁ、私は行きますが、行かない選択肢も有りですよ」

 

メイプルが私達を見回して言った。

 

「私とミザリーも行きます」

 

「私も行きますよ」

 

ミィ、フレデリカも手を上げた。

 

「明日までよく考えるんだな。ここよりも強いやつがゴロゴロいそうだし」

 

いずれ、公開コラボするのかもしれない。それなら、経験しておくのも有りかな。

 

 

翌日、招待は楓の木全員で受けることになった。ここ最近の試練で、ウンザリしていたのも一因だと思う。

 

「じゃ、行きましょう」

 

ギルドホームの転移陣に載ると、森の入り口にある道の上に出て、森の向こうには城壁が見えた。あれが招待主のいるアルター王国か?ダンさんを先頭に森に入ると、

 

「敵襲だ!」

 

ダンさんの声…声の方を見ると、顔の半分を吹き飛ばされたダンさん。

 

「カエデ、身捧ぐ慈愛だ」

 

カエデを召喚したダンさん。ミザリーが顔が半分無くなったダンさんにヒールを掛けていく。

 

 

 

---ダン---

 

まさか、転移していきなりのPKとは…モンスターではあり得ない距離からの狙撃である。そうだ…開始直後はデスに注意だな。前回の経験が生かされていないなぁ。少し反省…メイプルも、サリーも、俺の負傷で固まっている。指示を出さないと全滅するぞ!

 

「サリー、カスミ、敵を見つけて消せ!」

 

「了解!」

 

攻撃陣が飛び出していく。

 

「アスカ、狙撃で援護。ギャメスを出して、索敵だ」

 

「了解!」

 

ギャメスとは、アスカの使い魔の名前である。ギ●オスはオスだから、ギャメスにしたそうだ。

 

「クロム、メイプルは防御態勢を取って、非戦闘員を守って」

 

「任せろ!」

 

「ミィ、フレデリカ、カナデは第2波に温存だ」

 

顔が再生していく。顔が全損だとデス扱いである。危なかった。メイプル達だけじゃ、不安だものな。

 

『倒したわよ』

 

とサリーからギルド内メッセージが全員に送られてきた。一安心か…いや、目の前に戦艦が現れた。森なのに戦艦?宇宙戦艦●マトよりも大きく、超時空要塞マ●ロスよりも小さい戦艦が現れた。主砲、副砲が俺達を照準に捉えようとして、動いている。

 

「メイプル!機械神だ!」

 

「了解です。全武装展開!」

 

俺も機龍になり、空に飛び立ち、アナとポチを召喚して、攻撃を開始した。

 

「全員、全力で行け!コイツはヤバいって…」

 

貫通攻撃が当たった装甲は貫通するが、向こう側には出ない。半貫通ってことか?

 

「マイ、ユイ、鉄球を砲門の筒に投げ込め!出来る限り、砲門を潰せ!」

 

「「了解です!」」

 

「爆炎、炎帝、炎帝、噴火」

 

必死なミィの攻撃が効いていないようなんだが。

 

「フレデリカ、万が一の時は、多重障壁をカエデに使え!」

 

「はい、わかりました」

 

フレデリカは、イズ達とカエデの保護域に入った。しばらくすると、轟音と共に、相手の主砲が発射された。防御力は足し算出来無い。相手の攻撃力を引き算するだけである。主砲の発射された砲弾に対し、攻撃を入れてフレデリカの多重障壁へのダメージを抑える。

 

「シロップ!大自然と精霊砲!」

 

メイプルも持てる手を繰り出していく。俺もメーサー砲で、副砲を潰していく。

 

ドン!

 

ミサイルが打ち出されてきた。アナの貫通弾である礫で潰していく。なんだコイツ…生きた戦艦って、バケモノか?現代兵器相手では分が悪い気がする。

 

『術者を見つけた。カスミと戦うわ』

 

サリーが術者を見つけたようだ。アスカはレールガンで副砲を破壊しているので、援軍に向かえないようだ。そうだ!『ウッドオクトパス』で、船底への貫通攻撃をしてみた。運が良ければ、爆薬庫を破壊出来るかもしれない。蒼い装備にクイックチェンジして、32連打を船底に叩き込んだ。大きい身体の機龍で接近は、狙い撃ちされそうだし。

 

ドッカーン!

 

爆薬庫を破壊したかな?再度、機龍化して前線を離脱して『百鬼夜行EX』『白鬼夜行EX』を使ってみた。この際、使える戦力は出そう。コンコンとデミウルゴスも召喚して、効果的な攻撃をしてもらう。これでどうだ?

 

 




いきなり、超級殺しとクマ兄さんとの2連戦…('';



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

激闘の果てに…

---ダン---

 

『カスミがやられた!』

 

サリーからのメッセージ。術者は強者のようだ。俺も、現場に向かう。そこには筋肉隆々のマスクマンがいた。『ウッドオクトパス』を放つが、貫通攻撃なのに、先端を折られていく。NWOの常識は通じないようだ。

 

「サリー、下がれ!」

 

「でも…」

 

「お前の攻撃力じゃ無理だ」

 

「わかりました」

 

サリーの退路を作る。身体中が痛い。見た目よりも素早く、力強い攻撃である。クイックチェンジで神装備に変えて、応戦する。見た目とは違い、見えない速度の攻撃があるようだ。常識の違いか、神装備の即死効果は効かないようだが、不死効果は有効なようだ。死なないで壁になれるかな。

 

相手の攻撃は総合格闘術のようだ。どこかで見た事のある戦い方。そうだ!幼い頃に見た、憧れの戦士の椋鳥修一じゃないか?あの人を見て、武道を習い始めたんだ。骨折した足で放った蹴り…その当時の俺には衝撃的なシーンだった。

 

「もしかして、椋鳥修一さんですか?」

 

俺の言葉で、一瞬動作に動揺が見られた。隙有り!迷わず32連打を叩き込んだ。1発入ればいいんだ。入ってくれ…クリティカルよ。

 

 

 

---サリー---

 

戦艦はドット落ちしながら消えていった。ダンさんが倒したようだ。ギルドメンバーのリストを見ると、ダンさん、カスミ、マイ、メイ、フレデリカの名前の後ろに『デス』と表示されていた。ダンさんは相打ちだったのか。

 

「5名の離脱で済んで、良かったのやら」

 

クロムさんの言葉に、悔しそうな顔を向けるミィ、ミザリー、アスカさん、そして、メイプル。

 

「良くないです!ダンさんが…ダンさんを倒すのは私だけです」

 

メイプルが私に縋り付いた。

 

「また、逃がしてくれたよ」

 

一番悔しいのは私である。これで、二度目だよ。私のデスを回避する為に、ダンさんが身代わりでデスしたのは…

 

しばらくすると、城壁の方から、兵達が出てきた。

 

「あなた達は何者ですか?」

 

城壁の方からやって来た白い装備の女性に訊かれた。兵のリーダー格か?

 

「あなた方の国に招待されたのに、いきなり攻撃されるって、どういうことですか?」

 

メイプルが言葉を返した。臨戦態勢は解いていない為、相手もこちらを敵対者と見なしているのかもしれない。

 

「招待?まさか、ニューワールドからいらした方ですか?」

 

メイプルがアイテムボックスから、招待状を取り出し、女性に手渡した。

 

「確かに、王女様の封蝋がありますね。これは失礼しました」

 

失礼では済まない。こちらは戦死者がいるのだ。

 

「なんで、攻撃したんですか?」

 

いつもはオットリなメイプルであったが、ダンさんをやられた事で、相手に詰め寄っている。

 

「あれは…王国の兵ではなく、マスターです」

 

こちらのゲームのプレイヤーの洗礼ってことか?それにしては、激しい。いや、これがこの世界での標準な強さなのか?

 

「また、出直して来ます」

 

「どうしてですか?ここまで来たなら、王女様に会ってください」

 

「どうして?何を言っているんですか?コチラの被害は甚大です。また襲われたら、次は全滅かもしれません。ギルドマスターとして、ここは危険と判断しました」

 

「わが王国は、危険ではないです。あれは、一部マスターの暴走です」

 

危ないという評判が怖いのだろうか?食い下がる女性。

 

「メイプル、王女様に会おう」

 

埒が明かないと判断したのか、クロムさんが声を掛けた。

 

「でも…」

 

「もし、全滅すれば、ここは危険と運営が判断するはずだ」

 

それはそうだろう。NWOで一番のチート集団が全滅すれば、運営はそう判断すると思う。しばし考え込んだメイプルが、

 

「わかりました。お会いします」

 

そう決断を下した。

 

 

 

---ダン---

 

相打ちだった。これでギルドホームにリスポーンかな。って、どこかの書庫にリスポーンした俺。こんな部屋あったかな?

 

「あの破壊王と相打ちとは…あなた、見所がありますね」

 

目の前に、知らない女性が立っていた。

 

「ここはどこ?」

 

「ここは、デンドログラムの世界でいう神の間です」

 

そうなると、目の前の女性は神なのか?女性の姿は朧気であり、はっきりとは見えない。俺って半死の状態か?

 

「あなたの戦闘ログを拝見しました。死を恐れず、敵に挑む折れない心。仲間の窮地には、自らの命すら差し出せる決断力。とても頼もしい猛者ですね」

 

何を言っているんだ?当然だろうに。俺はそういうプレイスタイルなんだから。

 

「私からあなたにプレゼントを差し上げます。エンブリオと呼ばれる使い魔です。既に沢山の使い魔がいるあなたなら、安心してお譲りできますわ」

 

俺の左手の甲が光り、何かの紋章が刻み込まれた。

 

「それはマスターである証です。マスターは1体のエンブリオという相棒を得られます。では、良き冒険が出来ますよう、見守っていますわ」

 

俺は光に包まれ、強制ログアウトさせられた。

 

 

あれは、なんだったんだ?再度、インをすると、ギルドホームにリスポーンした。転移陣に乗るが、デンドロにはデスペナ中の為、行けないようだ。

 

「あれは何だったんだ?」

 

カスミに訊かれた。マイ、ユイ、フレデリカがいる。あの戦闘で5名のデスを出したのか。

 

「マスターだろうな。きっと、メイプルの機械神みたいなものだろう」

 

メイプルの機械神が、赤子に思えるほどの火力と防御力。楓の木がここまで追い込まれるとは…

 

「デンドロって、あんなのばかり?」

 

フレデリカに訊かれた。

 

「かもな。まぁ、戦いがいは有りそうだ。でも、デンドロで通用する強さを得ると、NWOに戻れないような」

 

向こうでは無敵になれそうだ。

 

 

 

---サリー---

 

お城に連れて行かれ、それぞれに部屋を用意された。一応、国賓って扱いのようだ。

 

「もっと強くなりたい。ダンさんを守れるくらいに…」

 

メイプルにヤル気が漲っているが、こういう時のメイプルは、付属品が増えそうで怖い。

 

「火力が足り無かった。避けきれなかったし…」

 

生き残った皆それぞれが反省をしている。もっと、何かを出来たのではと。

 

『みんな無事か?』

 

ダンさんからメッセージが届いた。

 

『ギルドホームにいる。心配するな』

 

と…

 

「ダンさん…」

 

う~ん、メイプルもそうだが、ダンさんも何かやらかしそうだ。大丈夫か?

 

 

廃プレイヤーではない為、一旦ログアウトし、リアルでいう翌日、ダンさん達と合流した。あの白い鎧の女性、リリアーナ・グランドリアというティアンで、アルター王国近衛騎士団副団長だと言う。

 

「今日は、皆さんを街へと案内いたします」

 

王都を案内してくれるようだ。観光かぁ…ゾロゾロとリリアーナの後を付いて歩く。この世界には七つの国があり、NWOは新大陸という設定らしい。

 

「ダンさん…ムニャムニャ」

 

メイプルは指定席であるダンさんの背中で安眠中である。

 

「なぁ、ここには迷宮はないのか?」

 

「有りますが…」

 

「案内してくれないか?」

 

「申し訳ありません。資格もしくは通行証が無いと入れません」

 

それで納得するダンさんでは無いと思う。アスカさんもそわそわしている。

 

「フィールドにはモンスターはいるのか?」

 

「ちょっと待ってください。せめて王女様との謁見を終えてからにしてください」

 

国賓が勝手に動くとマズいらしい。

 

「じゃ、終わらせようぜ」

 

「それが…」

 

王女様が出先から戻らないらしい。

 

「ほぉ~」

 

ダンさんが何かを察した。これって、クエストなのか?

 

「どこに向かったんだ?」

 

 

リリアーナは用があり同行出来無いそうで、向かった先の地図を貰い、そこへと向かった。ダンさんの移動式ギルドホームで…イズさんは、コレに搭載する武器を作っていた。

 

「コイツを武装すれば、火力アップだろ?」

 

と、ダンさんの悪魔の囁き。マイ、ユイはワクワクして見ている。メイプルとフレデリカは案をひねり出していた。

 

この国の第一王女は、遺跡発見の報を受け、自ら見に行ったそうだ。国賓を放置したまま…

 

「サリー、難しい顔をするな。イレギュラーな俺達が来て、イレギュラーな出来事が起きたのだろう」

 

そういう考え方も出来るのか。

 

「サリー、カスミ、クロムは戦闘準備をしておいてくれ。先遣隊で行って貰うかもしれない」

 

「わかったわ」

 

「そろそろ、遺跡に着きます」

 

操縦席にいるミィから声が飛んできた。

 

「アスカ、何か戦闘は起きているか?」

 

「特に起きていないわ。って言うか調査隊が来ている割に、静かと言うか…」

 

皆で地面に降り立ち、移動式ギルドホームはアイテムボックスにしまわれた。

 

「メイプル達は遺跡に突入してくれ。俺達第二パーティーは地上の探索をする」

 

「ダンさん、やらかさないで下さいね」

 

って、メイプル。それは、あなたもでしょ?!

 

 

 

---ダン---

 

アスカの索敵で、地上を探索する。目視で宿屋を見つけた。だけど、人の気配は無い。静かに近寄り宿屋を調べる。中に人がいる。結界を張って、気配を消しているのだろうか?多数の男が一人の女を弄んでいた。

 

「おい、もっとお口で奉仕しろよ!」

 

「ほぉ~、ティアンでも濡れるんだな。そろそろ、いいかな?」

 

これが、メイプルやサリー達には見せたく無かった風景である。全裸のティアンの女性を甚振る多数のプレイヤー達。

 

パン!パン!パン!(注:銃声です。肉叩き音では無いです)

 

と、乾いた音と共に、男達の頭が弾け飛んでいく。アスカと俺の狙撃攻撃である。AVな光景を見るために、ゲームをしている訳では無いからだ。

 

「フレデリカ!カエデ!あの女性を守れ!ミィとミザリーはケダモノ達の退路を塞げよ」

 

「何だ!きさまらは!」

 

答える義務は無い。さて、PKタイムの始まりだな…って、1分程度でケリは付いた。モザイク状で消えていくマスター達。

 

「おい!大丈夫か?」

 

何かの薬でも盛られたのか、意識が朦朧としているティアンの女性。毒消しポーションを飲ませるか…女性の口に含ませるが、自力では飲めないようだ。こういう場合は口移しだっけ?

 

「誰か、口移しで飲ませてやって」

 

女性同士なら問題は少ないだろう。

 

「それって、苦いヤツだよね、お兄ちゃん…」

 

誰も近づかない。俺か?俺なのか?まぁ、ポーションは飲み慣れているから問題は無いが…ポーションを口に含み、女性の唇と自分の唇を重ね、俺の舌で、相手の舌を絡め、ポーションを移していく。女性の目に力が戻るまで、ポーションを合計4本飲ませた。

 

「お兄ちゃん、この女性、感じているみたい」

 

何かの動作を見たのか、アスカがそう伝えて来た。

 

「惚れ薬でも盛られたんだろ?ミザリー、後は回復魔法を頼む」

 

静かな呼吸をし始めたので、ミザリーに丸投げした。全裸の女性を見つめるのは良く無いだろうから。

 

「了解。ヒール!」

 

「生き残っているのは、この女性だけみたい」

 

ミィとフレデリカが、宿の中を見て回ってきたようだ。

 

「この女性の服は?」

 

アスカがビリビリに引き裂かれた布地を手にしている。

 

「あんた、名前は?」

 

「アズライト…あなたは?」

 

「俺はダンだ。服の替えはあるか?」

 

首を力無く横に振るアズライト。

 

移動式ギルドホームにアズライトを連れ帰り、温泉で身体を洗ってあげた。

 

「あの…」

 

「体内の浄化もしてあるから、妊娠の心配は無いと思う。それより、なんで襲われたんだ?」

 

「その前に…ありがとうございます。助けてくれて…」

 

「あぁ、そうだ。第一王女はどこだ?そいつを見つけて、城に連れ戻らないとダメなんだ。お前、お付きの者だろ?」

 

「えっ?っ、えぇ…」

 

洗い上げたアズライトの全身を、バスタオルで包んで、温泉を出た。服なぁ、どうするかな。通称、呪いのビキニはあるが、問題があるか。布地の面積が少なすぎるし。潜入用のポンチョでもかぶせておくか。

 

「ここは?」

 

「俺達の移動式ギルドホームだ」

 

「これでも食べて」

 

アスカがケーキと温かいお茶を持って来た。

 

「おいしい…」

 

アズライトがケーキを食べ始めた。落ち着いてきたようだ。

 

「メイプル達が、何かと戦っているけど…」

 

ミィの声で窓から外を見ると、三つ首のドラゴンとメイプル達が戦っていた。

 

「上空から攻撃を頼む。俺は機龍で行くよ」

 

移動式ギルドホームのハンガーから飛び降り機龍化した。

 

 

 

---サリー---

 

遺跡が崩れ、飛び出して来たキングギ●ドラを彷彿させるモンスター。メイプルが機械神になり、シロップが巨大化して、大自然で拘束する。

 

「出し惜しみちゃダメ。もう誰もデスして欲しくないから」

 

メイプルから指示が飛ぶ。上空から魔法弾が撃ち込まれていく。移動式ギルドホームだ!機龍が降臨してきたし。レールガンがモンスターの羽をボロボロにしていき、最終的にはオーバーキル気味で、モンスターを倒した。

 

「サリー、王女は見つかったか?」

 

「遺跡には誰も居ませんでした。ダンさんの方は?」

 

「お付きの者をゲットした。今、移動式ギルドホームにいる」

 

一人しか助けられなかったのか?移動式ギルドホームを着陸させ、イズさんにアズライトの服を用意してもらい、私、カスミ、ダンさん、アスカさんで宿を調べあげていく。

 

「豪華そうな剣を見つけたが、王女の物だろうか?」

 

ダンさんが蒼い剣を手にしている。蒼い装備に似合いそうな剣である。

 

「うん?コイツ、ヤバい剣だな。何でも切れそうで怖い」

 

半身だけ抜き出し、直ぐに鞘へと戻した。剣を腰に差し、移動式ギルドホームへみんなで戻った。

 

「あぁ、アズライト、似合って居るぞ」

 

余っていた羊毛で作り上げたモフモフのワンピースを着た女性。彼女が助け出したアズライトらしい。

 

「これ、王女様の遺品かな?渡しておくよ」

 

腰から鞘を外し、蒼い剣をアズライトへと手渡した。

 

「さて、王城へ戻るか。戦ったし」

 

戦闘意欲は満たされたようで、穏やかな表情であるダンさん。メイプルは指定席でうたた寝をし、アズライトがダンさんに寄り添っていた。

 

「サリー、強力なライバル出現ね」

 

って、イズさん。ティアンがライバル?あり得るのか?

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

ティアン暗殺計画

---アズライト---

 

今更、私が王女ですと名乗るのは恥ずかしい気がする。彼には私の総てを見られてしまった。薬を盛られたとは言え、ケダモノ達に弄ばれる姿、全身もくまなく見られている。怪我の見落としが無いかチェックされ、汚れ残しが無いかチェックされ、全身を泡だったスポンジで、優しく洗い上げてくれた。

 

「アルティミア様、どうされましたか?ニューワールドからの客人を、待たせております」

 

そうは言うが、恥ずかしいのだ。

 

「会わないとダメか?リリアーナよ」

 

「ダメです!」

 

ダメなのか。では、化粧をして別人になりきるか。

 

「で、彼らの実力はどの位なのか?」

 

「超級殺しを倒し、あの破壊王すら倒した強さは本物です。只、一人一人の実力は分かりませんけど」

 

彼らのエンブリオはチャリオッツだろうか?機械兵器だったし。

 

「我が国のマスターとして迎え入れられないか?」

 

敵にはなりたくない。

 

「客人ですから、難しいと思います」

 

「リリアーナの美貌で落とせないか?」

 

「はぁい?」

 

私自ら落とすのが一番であるが、立場が立場だから…

 

「私は…レイさんが…」

 

レイ?あの破壊王の弟か。う~ん…

 

 

 

---ダン---

 

PKをしていたら、女の子が攫われる現場を目撃してしまった。アスカと共に追跡をしていく。途中でサリー、カスミ、フレデリカが合流して、町外れの墓地に辿り着いた。なんか出そうでいいなぁ。

 

「ダンさん…」

 

真っ青な顔のサリー。あぁ、こういう場所はお嫌いだったねぇ。

 

賊は建物の入り口にいた衛兵を殺し、建物へと入っていく。

 

「サリーはメイプル達を呼んでくれ。フレデリカはサリーのガードを頼む」

 

三人で建物へ入っていく。内部はゾンビ系モンスターの巣窟だった。斬っても撃ってもダメージが少なそうだ。

 

「どうする?」

 

アスカに訊かれ、デミウルゴスを召喚してどうにかして貰った。ゾンビ程度では魔神を止められないようだ。そして、賊に追いついた。

 

「おい!女の子を放せよ」

 

「なんだ?テメェらは?ザコは引っ込んでいろよ!」

 

マスター相手なら、アスカとカスミの敵では無い。ほぼ瞬殺でデスペナ送りにしていく。

 

「大丈夫か?」

 

「お願い。お姉ちゃんを助けて!」

 

クエストが発生したのか、メニュー画面がポップアップした。『副団長を救え!』って…

 

「これって、リリアーナのことかな?」

 

「お姉ちゃんを知っているの?」

 

この少女はリリアーナの妹のようだ。助けに行くか…

 

 

上の階へと向かうと、リリアーナの声が聞こえてきた。

 

「お願いです。妹を返して下さい」

 

「この薬を飲め」

 

あれって、アズライトを狂わせた薬か?

 

パン!

 

ポーションの入った瓶を狙撃したアスカ。

 

「そこまでだ。彼女の妹は助けたよ」

 

「お姉ちゃん!」

 

「ミリアーヌ!」

 

「貴様ら!余計なマネをしおって!」

 

よくわからん。速攻で狙撃だな。賊を瞬殺する俺達。そして建物を出ると、メイプル達が待っていた。こちらも瞬殺だったようだ。サリーが真っ青な顔でガクブルしている以外、問題はなさそうである。

 

 

「で、アイツらは誰だ?」

 

「この国を転覆させようとしている不穏分子です」

 

きな臭い世界のようだ。まぁ、プレイヤーも腐っているのが多い。AVシーンを見たいならDVDを借りれば良いのに。まぁ、風俗代わりなのかもしれないが。

 

 

 

---サリー---

 

リリアーナがダンさんに近い。彼女の妹を助けて以来、ダンさんに近い。う~ん…アズライトもそうだけど、二人共スタイルが良く、ボンキュボンである。それに比べると、貧弱なスタイルである私。

 

「ダンさんの好みの女性って?」

 

メイプルがナイスタイミングな質問をした。

 

「好みの女性?う~ん、ストレスが溜まらない女性かな。あれしろ、これしろって言わないというか」

 

指示されることが嫌いなのか?

 

「お兄ちゃんの好みは、スタイルの良いサリーかな?」

 

それは成長待ちってことかな?

 

「私の好みはメイプルだけど」

 

そうかスタイルが良い女性かぁ…アズライト一歩リードかな?

 

「どんなスタイル持ちだって、骨になれば皆同じだよ。区別はつかない」

 

ダンさんの口から極論が飛び出した。それはそうだけど…

 

「今一番興味あるのは、夏向けのケーキだな。どうするかな…」

 

そっち?女性には興味が無いのかな?

 

 

 

---ダン---

 

この世界にはPKランキングという物があるそうだ。なので、決闘都市ギデオンにやってきた。ここの競技場で、決闘という名の公式試合でのPKが出来るそうだ。その上、死んでもなかったことにしてくれるそうなので、思い切り出来るらしい。

 

それとは別にクランランキングというのもあるそうだ。クランメンバーのクリアしてきたクエストのポイントの合計ポイントで順位を付けるそうだ。

 

「この度、ギルド楓の木はクラン楓の木になりました」

 

と、メイプルが宣言をした。クランの本拠地は王都の前にある元森にある。そこに移動式ギルドホームを置いて使っていた。が、決闘都市には平原が無い…

 

「宿屋三昧ですね」

 

「俺は野宿三昧でもいいぞ。超級激突って言う試合を見たら、王都に帰るしなぁ」

 

この国のPKランキングトップと、他国のPKランキングトップが戦うそうだ。それを見れば、この世界の実力が分かるはずである。

 

「で。クランランキングは?」

 

「下の方です」

 

クエストらしいクエストをしていない俺達。さて、どうするかな?

 

「PKランキングはどうですか?」

 

「もちろん、下の方だよ」

 

公式な試合をしていない俺達。当然、ポイントは入らない。

 

「まぁ、来賓扱いだしなぁ。あの戦艦ヤローに、リベンジがしたいだけだよ」

 

見つからない。マスターを見つけ次第、PKしているが、中々強いヤツに出くわさないし。見た目で判断ではダメかな?取り合えず、王都とギデオンを行ったり来たりして、絡んできた相手を片っ端からPKしておく。

 

「どう?調子は?」

 

王都でアズライトと出会った。

 

「どこかで、戦艦ヤローの噂を聞かないか?」

 

「戦艦ヤロー?まさか、破壊王のこと?」

 

アイツは破壊王と呼ばれる、この国の<超級>のようだ。

 

「どこで出会えるんだ?」

 

「あのクマがそうだけど…」

 

広場でポップコーンを売っているクマ…アイツがそうなのか。

 

「ねぇ、私のお願いを聞いてくれる?」

 

一応聞いてあげた。それは一晩かかり、翌日、クマの元を訪れた俺。

 

「何か用かクマ」

 

「俺と戦え!リベンジしてやる!」

 

「お前じゃ無理だクマ」

 

「あんだと~!」

 

「なら、お願いを聞いてくれたら、考えてあげるクマ」

 

お願い?一応訊いてみた。

 

 

超級激突の日、俺達はギデオンでは無くドライフ皇国に来ていた。あの戦艦ヤローと再戦する為の条件をクリアしに来たのだ。それはこの国の皇王である<超級>の排除であった。問題は相手はティアンであることだな。

 

「どうするんですか?」

 

メイプルに訊かれた。プレイヤーがティアンを殺すのは御法度であるが、ティアンがティアンを殺すのは問題は少ないらしい。クマの合図で、メイプル達が騒ぎを起こし、俺がティアンを排除する作戦にした。俺にしか出来無い手である。

 

この日、皇国サイドはギデオンでテロを起こすらしい。クマの情報であるが、アズライトに確認するとあり得ると言われたので、話に乗ってみた。

 

『起きたクマ~』

 

予定通りメイプル達が皇国内で暴れ始めた。俺は皇王の前に現れ、フレイヤを召喚してティアン達を『魅了』させていった。フレイヤの『魅了』は男女問わずに発動し、人間風情では防げないそうだ。俺に敵対する者達が次々と退場していき…

 

「貴様…うっぐぅ…」

 

皇王を討ち取った。魅了したティアン達の手で…

 

作戦を終え、クマの元へと戻った俺達。そこではモンスター達が多数出現し、街を飲み込もうとしていた。

 

「これって、どっちも敵かな?」

 

「街を襲っている方を先に排除ですよ!」

 

メイプルが方針を決め、街を襲っている方に襲い掛かった。

 

 

俺の目の前に、【魔将軍】ローガン・ゴッドハルトと名乗る輩がいる。コイツ、悪魔使いのくせに名前にゴッドが入っている。詐欺師か?

 

「お前みたいな貧弱なマスターが、俺に勝てる訳ないだろ?」

 

ボロボロな道着姿の俺。貧弱そうに見えるのだろうな。魔将軍はたくさんの悪魔を召喚し、俺に襲わせようとするが、悪魔達はピクリとも動かない。俺は魔神にして魔王であるデミウルゴスを既に召喚している。魔王に着くか、魔将軍に着くか、悪魔達は難しい選択を迫られていた。

 

「何をしているんだ?!襲え!」

 

「我がマスターに手を出す?面白い、やってみなさい」

 

デミウルゴスが不敵な笑みを浮かべ、俺は『ホーリークロウ』で、板挟み状態の悪魔達を灰に変えていった。

 

 

 

---サリー---

 

目の前には心を折られ、放心状態になっているリリアーナがいた。彼女が対峙しているのは、科学者とソイツの作った人造モンスターらしい。

 

「君達に、私の作品が倒せるかな?」

 

倒す必要は無い。ダンさんが来るまでの時間稼ぎが出来れば良いのだ。

 

「『捕食者』『滲み出る混沌』『暴虐』」

 

メイプルが悪魔シリーズになり、戦いを挑んだ。

 

「はぁい?悪魔に変身ですか?これは面白い」

 

敵の攻撃は入らないが、メイプルの攻撃も私の攻撃も入らない。これでリリアーナの心は折れたのか?

 

「リリアーナ!ダンさんが来るまで、頑張りなさいよ!」

 

「ダン…さん…」

 

リリアーナの目には涙が…悔しいのだろう。攻撃が一切通らないなんて。

 

「無駄無駄。私はこの国の心を圧し折りたいんだからねぇ。お前らの心も圧し折ってあげるよ」

 

愉快そうに笑う男。

 

『32連打!』

 

聞き慣れた声が響いた。目の前の人造モンスターが四散していく。

 

「何?!」

 

「サリー!その男を仕留めろ!」

 

「了解!メイプル!」

 

「うん!」

 

メイプルとのツーマンセル、負ける気はしない。

 

「頑張ったなぁ、リリアーナ」

 

ダンさんに抱き起こされるリリアーナ。そいつ、全然頑張っていないけど…

 

「ここにあるスイッチを押せば、500体以上の亜龍クラスのモンスターが放たれ…」

 

メイプルと科学者に迫るが、突然何かのスイッチを手にした。なんかマズいことを説明しているが…そのスイッチは説明中に破壊された。そして、スイッチを持っていた男の腕すら貫通している。アスカさんのレールガンでの狙撃のようだ。

 

「なんだとぉ~、貴様ら、何者だ?」

 

計算外だったのか?私達を知らないようだ。

 

「戦艦クマさんをたたきのめし隊だよ」

 

屈託のない笑顔で応じるメイプル。

 

「はぁ?なんだ、それは?破壊王の敵ならば、我々の味方では無いのか?」

 

「チェックメイト!『レベルドレイン』」

 

相手の男のレベルを吸収したダンさん。

 

「はぁ?なんだよ、そのチートな能力は?」

 

「お前の心をへし折ってやるよ、ふふふ」

 

どっちが悪役なんだ?これ…

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

PK天国

---ダン---

 

あのクソ科学者は、ティアンの少女を攫い、モンスター製造工場に立てこもった。次々に出来上がるモンスター達が、排出されていく。

 

「マスターはティアンを殺せないんだよな?」

 

「いや、殺せるクマ。監獄行き覚悟ならクマ~」

 

はぁ?じゃ、人質の少女の命は危ないのか。

 

あの戦艦クマと、モンスター製造工場の前で、モンスターを次々に排除している俺。

 

「あの工場を壊すとダメなんだよな?」

 

工場を壊すと、人質のティアンの少女の命が危ない。う~ん…

 

「先に助けるクマ」

 

助けるて言ってもなぁ…あの科学者に効くかな?ダメ元で『子羊の行進』からの『添い寝』を掛けてみた。あの少女には効かないはずである。少女相手にフレイヤが不埒な真似をする訳がないし。

 

『正解です。マスター』

 

正解らしい。あの科学者が眠りこき始めた。『超加速』で少女の元へと行き、助け出してきた。

 

「本当にチートクマ」

 

戦艦クマには言われたくない。陸上で超武装戦艦なんてチートすぎる。助け出した少女をリリアーナに預け、仕上げに入る。クマは戦艦に、メイプルは機械神に、そして俺は機龍となり、モンスター製造工場を含め、総てのモンスターを消し去っていく。

 

一夜明け、モンスター達のいた場所には、クレーター多数で、ペンペン草さえも生えていない荒れ地が誕生した。

 

「本当にチートクマ」

 

「さぁ~、戦えぇぇぇ~!」

 

「弾薬を補充した後クマ」

 

はぁ?今じゃないのか?

 

「弾薬なければ只の船クマ」

 

約束を果たしたのに…凹む俺。

 

「約束…果たすクマ。しばらく待つクマ」

 

果たしてくれそうだ。

 

 

王都に戻り、リリアーナとアズライトに会った。ギデオンで助けた少女はアズライトの妹だったらしい。

 

「妹を助けてくれたお礼…」

 

王都にある安宿にいる俺達。目の前で一糸纏わぬ姿になる二人…二人に挟まれての添い寝。幸せすぎる。死亡フラグか?デスしたらどうしよう。だけど、気持ちが良い。身も心も蕩けるようだ。リアルでの経験は無いが、これはこれで気持ちが良い…そして、翌朝になるまで、楽しんだ。

 

「どこ行っていたんですか?」

 

翌朝、街でサリー達と会った。

 

「安宿…」

 

「ギルドホームに戻って来ないのは、なんでですか?」

 

「まぁ、色々と…で、今回のクエストはポイントを稼げたのか?」

 

「はい、たっぷりと」

 

メイプルは嬉しそうな顔だが、サリーは怪訝な顔をしている。何を疑っているんだ?

 

「サリー、何を疑っているんだ?」

 

「まさか、娼館通いじゃないですよね?」

 

「娼館ではない」

 

「じゃ、ナンパですか?」

 

「違うよ」

 

「リリアーナですか?アズライトですか?」

 

「…」

 

これが世に言う女の勘ってヤツか?

 

「ふ~ん。興味が無いって言っていて、これですか?」

 

「サリー、どうした?」

 

「なんでも無いわよ!」

 

なんで、怒っているんだ?言い訳を言った方が良いか?

 

「サリー、違うんだよ。助けた少女はアズライトの妹で、お礼をしたいって、リリアーナを通じて言われたんだよ」

 

「ほぉ~、俗に言う3Pですか?」

 

「3Pってなんだ?」

 

たまに、サリーは意味不明ワードを口にする。これが厨二病ってヤツか?

 

「え…いや…それは…」

 

サリーの顔は茹だったようになっていた。

 

 

 

---サリー---

 

迂闊だった。ダンさんは3Pの意味を知らないとは…まぁ、ゲーム内のことと割り切るか。気分を切り替え、ギルドホームでランキングを確認している。

 

「おぉ、急上昇しているわね」

 

イズさんが見つけてくれた。そんな上にいるとは…メンバー別のポイントをチェックすると、ダンさんのポイントが大変なことになっていた。個人ランキングで3位って何?急上昇過ぎるでしょ?

 

「これって、あの皇王の暗殺のポイントが高かったみたいね」

 

あれって、クエストなの?戦艦クマに条件として出されていたって…

 

「王都ではレイ・スターリングってヤツが英雄視されていたけど」

 

カスミとフレデリカが情報収集から戻って来た。

 

「何者?」

 

「リリアーナの彼氏みたい」

 

二股なのか?あの女…清純そうな顔をしていて…負けられない。

 

「ギデオン攻防戦の立役者だって。本当はダンさんなのに…」

 

フレデリカがプンプンしている。まぁ、真実を知る者はそうなるが…

 

「いいんじゃないの?ダンさん、目立つのは嫌いだし」

 

 

 

---ダン----

 

フルアーマーの大男をPKした。防御力無視の上『32連打』で簡単に倒せた。次の獲物を探す俺。数の上ではアスカに負けている。やはり遠距離狙撃って有利なんじゃないか?

 

今、チャイナドレスの女性を締め落とし、全裸にしてガン見している。ティアンとの違いを見つけようと思ったのだが、質感、見た目、感触共に違いは無さそうであり、用済みになった女性の心臓を貫通させてデスペナを与えた。

 

さて、次はどんな獲物かな?

 

「おい!お前!レイレイさんに何をしたんだ?」

 

見るからに凶悪そうな装備をしている男が声を掛けてきた。隣に少女を侍らせている。マスターとエンブリオか?

 

「レイレイさんって?」

 

「お前がイタズラした挙げ句に殺した女性だよ」

 

イタズラ?何の話だ?こういう訳分からんヤツはスルーだな。

 

カッツン!

 

フルカウンターが発動した。攻撃されたようだ。俺よりもレベルが上なのか。

 

「ネメシス、大丈夫か?」

 

エンブリオに攻撃させたのか?少女が吹き飛んでいた。この男、クズだな。

 

「『ウッドオクトパス』」

 

貫通攻撃を一気に8発放つと、相手の男はモザイク状に欠けていった。デスペナ決定だ。

 

「お前、レイに何するのだ?」

 

「やらないと俺がやられる。そういう世界だろ?ここは」

 

男が消滅すると、エンブリオも消滅した。次の相手を探さないとなぁ。

 

 

 

---マリー・アドラー---

 

出版社DINの記者である。あのギデオンでのテロ事件以降、王都とギデオンとを繋ぐ街道でPKが盛んに起きているらしいので張り込みをしていると、【鎧巨人】バルバロイ・バッド・バーンが一撃でデスペナ送りにされていた。PKした男を張っていると、次に【酒池肉林】レイレイが締め落とされ、全裸に剥かれてから心臓を一突きにされているし。なんだコイツ…強い。更にギデオン攻防戦の立役者であるレイ・スターリングまでもが心臓を貫かれてデスペナ送りにされていた。コイツ、何者だ?

 

気配を消して追尾していくと、【破壊王】のクマニイサンに何かを確認している。

 

「まだまだクマ」

 

「いつになるんだ?」

 

「決闘は逃げないクマ。ポップコーンを買って行くクマ」

 

「なぁ、お金はどう稼ぐんだ?俺、無一文なんだけど…」

 

「商売するクマ。後は、モンスターのドロップ品を売るクマ」

 

「あんな大量に倒したのに、ドロップなんてあったか?」

 

「人造モンスターには無いクマ」

 

「なんだと…PKしても儲からないしなぁ」

 

「決闘場で公式戦をするクマ」

 

「あぁ、賞金が出るのか。ちょっと稼いでくるわ」

 

そこで意識が途絶え、ログアウトしていた。この私が街中でPKされたのか?得体の知れないPK集団がいるのだろうか?

 

デスペナ明けにログインをした。DINの支社で情報を探す。新たなPK集団の情報を。だが、無かった。PK集団ではないのか?街を練り歩き、アイツを探すが見つからない。そうだ、ギデオンに向かったのか。公式戦の賞金狙いで…

 

ギデオンに着いてすぐ、PKランキングに目を通した。思った通り変動があった。ランキング4位にダン、5位にメイプル、6位にサリー、7位にアスカと新顔が並んでいた。全員同じクランで『楓の木』と言うらしい。

 

「ダンさん、勝負!」

 

「メイプルじゃ無理だよ。サリーが厄介だな」

 

見つけた。アイツだ。次の瞬間、ログアウトしていた。誰に狙われているんだ?デスペナ明け、レイを訪ねた。

 

「あれ?マリーさん、久しぶりですね」

 

「ちょっとね、色々遭って。で、この前デスペナを喰らっていたよね?」

 

「あぁ、見ていたんですか?アイツ、レイレイさんへイタズラをした挙げ句に殺したんですよ」

 

レイレイがイタズラされるイメージが湧かない。寧ろ、レイレイがイタズラする側の気がするし。接近戦において無敵に近いレイレイはアイツに何をされたのだ?遠くから見ていたのでよく分からなかった。

 

「アイツ、見かけませんか?」

 

「ギデオンにいるのは見たけど」

 

「ギデオンですか。何か、悪さをするつもりか?まさか、皇国の工作員なのか?」

 

「この国のマスターだと思うよ。決闘ランキングの4位にいたから」

 

「4位?そんなに強いのか…」

 

「よぉ、レイ」

 

「あぁ、ビースリー先輩」

 

こいつ、バルバロイか?

 

「あら?マリー・アドラー…アンタも、やられた口でしょ?」

 

「相手に心辺りがあるの?」

 

「あなたの相手は、7位の【スナイパー】アスカよ。私とレイの相手は4位の【チーター】ダン」

 

スナイパーに狙われているのか。なんで?

 

「今、クマニイサンに相談しているの。インする度にデスペナはキツいからね」

 

クマニイサンの知り合いなのか?って、バルバロイもインする度にデスペナを喰らっているのか。

 

「みんな、いるクマ」

 

噂のクマニイサンがやってきた。

 

「アニキ…」

 

「話は着いたクマ。街中はカンベンしてもらったクマ」

 

道の上は狙われるのか…

 

「アイツら、何がしたいの?」

 

「武者修行クマ。強い相手の隙を突く練習クマ。で超級殺しには復讐らしいクマ」

 

復讐?なんかしたっけ?あっ!まさか、あの時の集団か?

 

「しかも、エンブリオはまだ覚醒していないクマ」

 

覚醒していない?それで、ランカー?覚醒したら、更に上に行く可能性は大ね。って、私も和解しないと…

 

「どんな風にチートなんだ?」

 

レイがクマニイサンに訊いた。

 

「ニューワールドオンラインからの来賓クマ」

 

NWO?そう言えば、強く成りすぎたギルドを追放してって…まさか、そのギルドがここに来たのか?

 

「ゲームシステムは同じなのか?」

 

「違うクマ。だから、徐々に修正しているクマ」

 

まだコンバートしきれていないのか?まだ全開で戦っていないのか?おいおい…

 

 

 

---ダン---

 

戦艦クマと和解をした。今度は決闘場で賞金を稼ぎながら戦うと取り決めをした。

 

「まぁ、リリアーナの知り合いならしょうがない」

 

「ありがとう、ダンさん」

 

戦艦クマとの和解の立ち会い人になってくれたリリアーナとアズライト。

 

「しかしなぁ~クマ」

 

「何か?問題でも?」

 

アズライトが戦艦クマを牽制している。どういう関係だ?

 

「じゃ、俺は行くよ」

 

「どこへ行くの?今夜も朝までお願いね」

 

「アルじゃなくて、アズライト様、ズルいですよ」

 

「あら?勿論三人でよ」

 

今夜も眠れないようだ。

 

翌日、アズライトが王都にある迷宮の通行証をくれた。

 

「ありがとう」

 

「もっと強くなってね」

 

「あぁ…」

 

これで、みんなで潜れる。

 

 




次回、リクエストのあったレイVSメイプル(1回目)です(^^;
普通、聖剣士VS大盾使いなら、聖剣士が有利ですけど…


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

和解

---ダン---

 

王都の迷宮…上層はサリーキラーな仕様であった。ゾンビ天国である。下の方へ行けば、メタルスライムがいるらしい。その為イズから、稀少金属集めを請け負っている。

 

「ダンさん…」

 

俺の背中にサリーがいる。歩けない程、ガクブルであった。

 

「移動式ギルドホームで、待っていても良かったんだぞ」

 

「そうもいきません」

 

カスミ、アスカ、ミィがゾンビ達を倒していく。身捧ぐ慈愛でカバーされて、マイユイコンビも頑張っている。イザとなったら、ミザリーの浄化で殲滅出来るようなので、とにかく下層へと降りていく。

 

「アズライトのおかげで、潜れましたね」

 

「そうだな」

 

メイプルは嬉しそうだ。それにしても、アズライトは王女付きなのか?王族の許可証をすんなりと貰って来てくれるとは。きっと仕事が早いから優秀なんだろうな。

 

「どうなんだ?ティアンは人間と同じなのか?」

 

クロムに訊かれた。

 

「リアル世界ではマジマジと見たこと無いから、わからん。ティアンとマスターは差が無いみたいだぞ」

 

「えっ!」

 

サリーが声を上げた。なんだ?

 

「ダンさん、マスターとも寝たんですか?」

 

「寝ていないよ。Pkでキルする前に、全裸をマジ見しただけだよ」

 

うん?女性陣から冷たい視線を感じる。なんでだ?

 

「それって、身ぐるみ剥いだんですか?」

 

サリーが今日一番の元気な声を上げた。

 

「剥いだよ。いきなり襲って来たから、無力化させてからな」

 

「あおかん?」

 

「それって、寒天のお菓子か?」

 

「違う。青空の下で姦淫することだ」

 

サリーの放った意味不明ワードを。クロムが説明してくれた。

 

「いや、見るだけだよ。観察は大事だろ?」

 

あれ?サリーがダンマリになった。どうしたんだ?

 

 

 

--ギフテッド・バルバロス(ドライフ皇国軍元帥)----

 

一部マスターの暴走で起きたギデオンテロ事件。まさに、その時、同時に我が国に報復攻撃が為された。居残りのマスター達が、次々に撃破され、国土が焦土に変わっていく。敵対行動に出ないティアンには危害を加えず、敵対するティアンとマスターは次々に消されていった。

 

王国は何者を招聘したのだ?魔将軍が簡単に消された。超級ティアンだった皇王ですら、なすすべも無く消された。

 

「以後、王国には手出しをしないで欲しいクマ」

 

クマの着ぐるみを着た使者に通告された。今度、手を出せば、次は無いと…そんな意味合いだろう

 

「お前らのテロ部隊は、無抵抗なティアンすら襲ったクマ。無垢なティアンの少女を人質に取り、街に無数のモンスターを放ったクマ。それに比べれば、アイツらの攻撃は度は過ぎていないと思うクマ」

 

まぁ、あの狂った科学者、Mr.フランクリンに比べれば、誰でも人道的だろうが…

 

「友好条約を結べば、復興支援をするクマ」

 

それは、私に皇王になり、友好条約を締結しろと。

 

クマ男は、2枚の書類を目の前に置いた。友好条約締結証のようで、私のサインを入れろと言うことだろう。震える手で、サインを入れる。この国の戦力では、王国には勝てないと思われるからだ。

 

「今後、狂った隣人は要らないクマ」

 

1枚の書類を手にして、部屋を出て行くクマ男。

 

 

 

---一宮渚(マリー・アドラ)ー---

 

リアルではスランプに陥った漫画家である。休職中なので、私の作品の主人公である暗殺者マリーをアバター化して、デンドロを始めた。その結果、暗殺者としての裏の顔を持つ記者になり、初心者狩りという仕事を請け負い、レイと『楓の木』にPKをした実績を持つ。う~ん、レイとは友好な関係を築けそうだが、『楓の木』はどうだろうか?

 

リアル世界で、『楓の木』について調べて見た。敵を知らないと、対策を打てないからね。

 

ギルドマスターは【歩く要塞】メイプル。貫通攻撃以外の攻撃を弾く堅牢さを持つ大盾使い。【蒼き暗殺者】サリー。被ダメゼロを誇る、回避のエキスパート。

 

この二人が特出しているようだが、残りのメンバーも普通では無いらしい。あの二人と比べると普通なプレイヤーに思えるだけで、死なない大盾使いとか、両手持ちハンマーでの二刀流とか、あり得ない情報が掲示板に載っていた。こんなのがいたら、ゲームバランス崩れるだろうに…だから、遠征という追放処分なのか?

 

もう少し調べて見ると、『楓の木』第二パーティーと言う情報を見つけた。2軍ってことか?その情報を見ると、思わず絶句してしまった。

 

はぁ?第二パーティーって、2軍じゃないのか?これって…

 

【姿無き狙撃手】アスカ。あり得ない距離からの狙撃、近接攻撃も出来る。【情け容赦無きテロリスト】ダン。被ダメ、殺戮数共にゲーム内でダントツの1位。

 

きっと、この二人だ。PKしまくっているのは…これって、NWOの運営のリークか?被ダメや殺伐数って個人情報だし。

 

他にも、多重魔法使い、爆炎系魔法使い、聖女がいるようだ。第一パーティーが防御で、こちらが攻撃陣ってことか?いや、臨機応変で立ち向かっているのか?

 

早く手打ちをしないと…不安な心を抑えつつ、デンドロにログインをした。

 

 

 

---マリー・アドラー---

 

ダンと友好関係があるクマニイサンに相談した。

 

「お前、レイもキルしたクマ!」

 

しまった。コイツの弟もキルしたんだ。

 

「反省しているクマ?」

 

「勿論です。レイに協力は惜しまない。だけど、PK天国されると、協力できないかもしれないです」

 

「なら、リリアーナを頼るといいクマ」

 

「レイの彼女を?」

 

「彼女は、レイじゃなくて、ダンだクマ」

 

えっ!えぇぇぇぇ~!いきなりの特ダネでは無いですか。ギデオンの英雄だから、リリアーナファン達は暖かい目で見守っているんですよ。

 

「ダンは不器用クマ」

 

不器用?レイもだよね?

 

「まかせたクマ」

 

クマニイサンは去って行く。え?ちょっと、何を任されたんだ?はて?

 

リリアーナを捕まえて、ダンとの和解を相談した。

 

「う~ん…仲介するのは構いません。街が平和になるんでしたら。ただ、ダンさんには惚れないでくださいね」

 

はい?そんなことを言うキャラでしたっけ?この娘は思いっきり惚れてませんか?

 

「ライバルはアルティミア様だけで充分ですから」

 

更なる特ダネ…はぁい?第一王女もダンに惚れているんですかぁぁぁぁぁ~!

 

「えぇ、惚れませんよ。私はレイくん派ですからね」

 

「それは良かったです」

 

うわっ!蕩けるような笑顔だよ。本当に大好きなんですね。リリアーナの恋のお手伝いを約束し、ダンに会えることになった。連れて行かれたのは、あの初心者狩りをした現場の森、今は荒れ地になっているが…そこにはプライベートジェットがあり、その中へと連れ込まれた。この世界に飛行機って有りましたっけ?

 

「リリアーナ、その人が俺に話があるって?」

 

「はい、そうです」

 

「で、君は誰?」

 

「マリー・アドラーという新聞記者です」

 

「あぁ、コイツ、お兄ちゃんを撃ったヤツだよ」

 

奥からアスカが出てきた。既に彼女の手には銃が握られていて…ここでPKするのか?って、ダンはアスカの兄なのか?

 

「あぁ、アスカへの客か」

 

「もう敵対する意思はございません。どうか、もうPKは止めてもらえませんか?」

 

「いいよ。ギデオンで公式試合でPKすれば、お金貰えるし」

 

あっさりと釈放された気分である。

 

「リリアーナの持ち込んだ事案だし、それでいいよ」

 

「あぁ、そうだ。なぁ、リリアーナ、どこか狩り場は無いか?ゾンビ嫌いがいてさぁ、あの迷宮以外に、狩り場を知りたいんだよ」

 

「それでしたら、鬱蒼とした森とか、山へと続く道とか、物騒な場所が良いと思いますよ」

 

リリアーナがいつも以上にかわいらしく見える。恋する乙女ってやつか。

 

「サンキュー、リリアーナ」

 

「いぇ…」

 

ダンに頭を撫でられて真っ赤な顔になっていくリリアーナ。レイの前では凜々しいのに、ダンの前では小動物系か?

 

 

 

---レイ・スターリング---

 

ギデオンの街中を歩いていると、アイツを見つけた。レイレイさんにイタズラした挙げ句にキルした強姦魔である。

 

「おい!テメェ!」

 

「うん?だれ?」

 

背中に女の子を背負っている。その子にイタズラする気か?

 

「ネメシス、やるぞ」

 

「街中じゃが、いいのか?」

 

「ここで逃がせば、被害者が増える」

 

「良かろう」

 

ネメシスが剣になってくれた。

 

「メイプル、降りてくれ」

 

「うん?ダンさんは私が守ります」

 

黒い鎧を着た女の子が、俺の前に立った。まさか、コイツのエンブリオか?

 

「メイプル、ここで戦うな。闘技場で戦え。おい、お前、こっちへ来い。ここじゃダメだ。リリアーナから、街中で戦うなって言われているからな」

 

「あぁ、そうでしたね。でも、アイツが拒否すれば、ここで良いかな」

 

アイツのエンブリオは、ここで戦ってもいいみたいだが、アイツが止めてた。闘技場だと、死んでもデスペナ無しだっけ?強姦魔達と、闘技場へと向かった。

 

 

闘技場に着くと、マリーと兄さんがいた。どういうことだ?

 

「どうしたクマ?」

 

「コイツが街中で攻撃してきたんだよ。でも、リリアーナと約束したからな」

 

まさか、リリアーナさんは、コイツの毒牙に既に…許せない!

 

「う~ん…で、どっちが戦うんだ?」

 

「メイプルが戦うって」

 

「うん!がんまりましゅ…」

 

今、噛まなかったか?コイツ、エンブリオではないのか?そのメイプルという少女と、闘技リングに立つと、結界が発動し、俺達二人を取り囲んだ。

 

「じゃ、私マリー・アドラーが見届け人になります。【聖騎士】レイ・スターリングVS【歩く要塞】メイプル、試合開始!」

 

歩く要塞?なんだ、その二つ名は?

 

「ヒドラ!」

 

紫色の三つ首龍をいきなり召喚してきた。なんだ、コイツ!三つの頭部が俺に襲い掛かってきた。剣で切り刻むも効果無く、俺は猛毒状態になってしまった。ネメシスは槍形態になり、《逆転は翻る旗の如く》を発動した。これは受けた状態異常や、デバフ効果を逆転させるスキルである。

 

「毒無効体系か?それも武装特有スキルか?」

 

アイツに俺を研究されてしまう。早くコイツを倒さないと。

 

「捕食者!」

 

何?今度は2匹のバケモノが召喚され、俺に襲い掛かってきた。こいつ、召喚師か?俺の手足に喰い付き、肉を食べられているようだ。マンイーターなのか?マズい。2匹のバケモノに攻撃を加えながら、回復ポーションを…

 

『闘技中は、一切のポーションの使用を認めません』

 

ポップアップした画面に非情な文字列が表示された。蓄積ダメージが溜められないのか…マズい。食い殺される。ネメシスを剣に戻して、《復讐するは我にあり》を放った。これは蓄積ダメージを倍化して、相手に返す技である。

 

「悪食!」

 

は???俺の攻撃を無効化されたのか…意識が薄れゆく。

 

 

気づくとベンチの上で寝ていた。やられたようだ。あの黒い鎧の少女に…

 

「じゃ、次は俺と戦艦クマだな」

 

「えぇぇぇぇ~!今日は私と戦ってくれるって、約束でしたよね?」

 

「えぇぇぇ~!結果は見えているのに?」

 

「今日こそ、覆しますよ」

 

アイツと黒い鎧の少女がリングに立った。

 

「えぇっと、この試合もマリー・アドラーが見届け人になります。【歩く要塞】メイプルVS【情け容赦無きテロリスト】ダン、試合開始!」

 

アイツ、強姦魔で無くて、テロリストなのか?思考に気を取られた一瞬で、俺を簡単にキルした少女を、アイツは瞬殺していた。何が起きたんだ?少女は床から生えた何かに串刺しされていた。頭頂部に何かの先端部が見える。おいおい…

 

「よしゃ!次、戦艦クマ!戦えよな」

 

「まだ、弾が補填出来無いクマ。すまんクマ」

 

「はぁ?まだ、準備出来ないのか?ヤル気あるんか?」

 

「あるクマ」

 

アイツ、兄さんと戦う気なのか?

 

「それに、ここじゃ無理クマ。あの荒れ地じゃないとダメクマ」

 

「わかった。リリアーナに使用許可を貰ってもらう」

 

「アズライトの方が早いクマ」

 

「あぁ、王女付きだもんな。わかった、アズライトに使用許可を貰ってもらう。弾を補填しておけよ」

 

「了解クマ」

 

兄さんも戦う気があるようだ。あいつ、ただの強姦魔なテロリストでは無いのか?

 

「彼は、皇国の皇王を暗殺したそうですよ。噂ですけど」

 

気配を消して、俺の耳元で囁いたマリーさん。

 

「暗殺者?」

 

「NWOでは一瞬で500名以上をキルしたそうです。ただ、殺戮方法は不明ですって」

 

不明?人前では本気を出さないタイプか?

 

「ダンさん、ズルいですよ!瞬殺は無しって約束ですよね?」

 

「えっ!メイプルが弱いだけだろ?瞬殺されるなよ」

 

あの男、無理を言っている。瞬殺しておいて、瞬殺されるなって…

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

ライバル

 

---Mr.フランクリン---

 

ギデオンから帰還すると皇国は焼け野原だった。何が起きたのだ?破壊王はギデオンに釘付けだった。こんな真似が出来るマスターは、王国には破壊王以外浮かばない。衝撃的な事実は他にもあった。皇王クラウディア・L・ドライフが討たれたそうだ。ティアンをキルしたヤツは監獄送りであろう。まぁ、それはそれで、心を入れ替えて、更なるモンスター製造をしなければ。あの破壊王と、私の計画を再三に渡ってジャマしたレイ・スターリングにリベンジである。

 

作ったモンスターの強さを見極める為のテスト要員を準備した。あの破壊王と共に、私に挑んできたヤツをだ。

 

「このお金は王国で使えるのか?」

 

丁度金欠だったヤツは金で雇えた。

 

「で、どれと戦えばいんだ?」

 

目の前のバトルバカに新作のモンスター100体を差し出した

 

「さぁ、殺し合え!」

 

「お替わり!」

 

はぁい?今私は、100体出しましたよね?

 

「準備運動にもならないぞ」

 

は…い?もう倒したんですか?どうやって?はぁ、瞬殺ですか。コイツ、思ったよりも強い。敵にするとヤバいヤツだな。

 

「ちょっと、お待ちください」

 

久しぶりの動揺に口調が壊れていく。久しぶりに感じる、殺されるかもしれない恐怖感。中々新鮮であるが、マズいって…こっそり毒薬を盛ってみたが、状態異常無効みたいで、麻酔薬、猛毒も、睡眠薬、媚薬に至るまで、一切効かないようだ。

 

「お前、今攻撃したな。おい!有り金を出せよ!」

 

あぁ、怒らせてしまった。まぁ、今回は非を認めよう。えっ…意識が…

 

 

 

---ユーゴー・レセップス---

 

あの姉が…あの姉が演じるMr.フランクリンが、私の目の前で、泣きながら謝罪をしているが、相手の怒りは収まらず、姉の頭を掴んで脳天に何かを貫通させた。ドット落ちするようにデスペナを受ける姉、Mr.フランクリン…

 

「お前、関係者か?」

 

「あぁ、そうだ。なんで殺したんだ?」

 

「協力者に、猛毒の薬を注射するって、どういうことだ?」

 

あぁ、よくある事だ。姉にとって、約束なんて無いも同然である。

 

「代わりに、お前が約束の物を払え!」

 

契約書を見せて貰った、約束を反故にした場合は3倍の保障額も払うとある。約束した金額の4倍払うのか。研究費を渡せば、払えるかな?

 

「お前、中の人は女性か?」

 

えっ!なんで分かったんだ?アバターは男性である。

 

「動作で分かるんだよ」

 

動作で…相手の男の言葉巧みな話術で、個人情報を話してしまった。なんだろう、この感じは。誘導尋問では無いのだが、つい、話したくなる。彼に興味を持って貰いたい。そんな感じで、私のこと、姉のことを話してしまう。

 

彼も私に、どうしてアレコレ訊いたのかを話してくれた。パティシエである彼は、現在スランプであり、新作のケーキのアイデアが浮かばないそうだ。そこで、私に目をつけたそうだった。

 

「ユーリ・ゴーティエっていうフランスの中学生か。なぁ、フランスではどんなケーキが流行っているんだ?」

 

彼と共にホテルに行き、フランスでのケーキ事情を話している。なんだか楽しいんだけど。このゲームって、戦闘ゲームだったよな?そんなことを忘れるくらい、彼との時間は楽しい。あぁ、なんでアバターを男性にしてしまったのだろうか?スキンシップの障害である。

 

「また、会ってくれますか?実際に会うのは難しいですが」

 

「それは構わないよ。俺は王国のギデオンか王都にいる」

 

「王国に移籍しようかな…同じクランになりたいです」

 

同じクランになれば、もっとお話が出来そうである。

 

「俺はクランマスターでは無いから、マスターに相談してくれ。じゃ、リアルな話を聞けたから、保障額は免除でいい。但し、お前の姉はPKの対象にする。見かけ次第キルすると、伝言を頼む」

 

そう私に告げ、彼は皇国から去って行った。見えなくなるまで、彼の後ろ姿を追っている私…

 

ちなみに姉は、今までのティアン殺しを問われ、監獄送りになったらしい。

 

 

---ダン---

 

王都に戻り、リリアーナを通して、アズライトへ連絡をした。

 

『戦艦クマにリベンジするとき、王都前の荒れ地を貸してくれ』

 

っと。で、直接返事を言いたいとアズライトが訪ねて来て、また三人で宿屋にいる。

 

「1ヶ月前に言ってくれれば、対応します。あのクマの破壊力を考えると、準備は必要ですから」

 

俺の上でリリアーナが唄いながら踊っている。アズライトは、俺に寄り添い、俺の腕に抱きついている。全身を使って…

 

また、朝帰りである。移動式ギルドホームへ戻ると、サリーとメイプルがいた。

 

「また、朝帰りですか?いつもの女二人ですか?」

 

「まぁ、そんな感じだ。それよりも、スイカのケーキってどうだろうか?」

 

「興味あります」

 

メイプルは喰い付いたが…

 

「話題を変えて、ごまかすんですか?」

 

「いや、フランスの中学生と知り合えて、フランスのケーキについて訊いて来たんだよ」

 

スイカってウォーターメロンってことを忘れていた。メロンであるならば、メロンで作るケーキと同じにいけそうである。

 

「また女を増やしたんですか?」

 

「その子、アバターは男性だぞ。さすがに男と添い寝はしない」

 

「それは、あの二人とは添い寝をしているってことですね」

 

「サリーもしたいのか?メイプルも?」

 

「えっ…それは…」

 

「私はダンさんの背中がいいな。だから、サリーは前担当だね」

 

 

 

 

----サリー---

 

「私はダンさんの背中がいいな。だから、サリーは前担当だね」

 

はぁい?前担当って…心臓がバクバク言っている。ダンさんに抱き抱えられて、私とメイプルは、ダンさんの部屋にお持ち帰りされた。いや、心の準備が…まだ…

 

服を着たままであるが、ベッドの上で川の字で寝ている。メイプルとダンさんの寝息と、私の心臓の音が聞こえる。なんで、この状況で安眠出来るんだ、この二人は?興奮して眠れない私。これはゲームなんだと思うのだが、身体と心が受け付けない。マズい、自制心が崩れそうだよ。

 

服という布地を通して感じるダンさんの温もり…なんだろう、この感覚は、アバター上は何も問題無いのだが…もしかしてリアル体の方か…おいおい…急いでログアウトした。

 

 

 

---白峯理沙---

 

ログアウトして直ぐに、異変に気が付いた。替えの下着とパジャマを持ち、お風呂場へ急行した。メイプルは大丈夫なのか?私が意識過剰なのか?私の妄想がいけないのか?ゲーム内でのことなのに、私の身体は何かを体験したかの如くである。リアルでされたら死んじゃうかな。ゲーム内でも、心臓がバクバクである。落ち着け、私!

 

お風呂でリラックスし、乾いた下着を着込み、ゲームへと戻ることにした。

 

 

 

---サリー---

 

ログインすると、私のいたスペースは消えていた。これ、どういうこと?カエデが現れて、私のいたスペースで添い寝をしていた。しまった…虎視眈々と狙っていたよな、コイツも…

 

傷心状態でリビングに行くと、アスカさんがいた。

 

「何をしているんですか」

 

「新作のケーキ…お兄ちゃんがデザインをしてくれたから、実現出来るか、検証中だよ」

 

スイカのケーキって言っていたっけ?

 

「う~ん、難しいけど、やりがいは感じるかな。ウォーターメロンだけに水分過多だよね?」

 

「まぁ、乾燥したスイカは美味しく無いですよね?」

 

「お兄ちゃんのアイデアだと、濃縮したスイカジュースをスポンジ生地に染みこませるんだよ」

 

「水っぽくなりませんか?」

 

「だから、粘度を上げる。シロップ状態とかジュレ状態とか。今週末の昼間は試作だな」

 

それは、行かないとなぁ。

 

 

 

---白峯理沙---

 

週末、開店前のモロボシ洋菓子店へと向かった。

 

「理沙、今日は早いなぁ」

 

正さんがスイカを前にしていた。明日奈さんは材料を抱えて来て、それそれを計量していた。

 

「えぇ、試作作業を見たくて…」

 

正さんが、厨房へ立ち入れる作業服を貸してくれ、厨房へ入る為の注意を教えてくれた。

 

「近くで見ていいよ」

 

「ありがとうございます」

 

おぉ~、特等席状態だ。

 

「どうする、兄さん?」

 

「スイカジュースを煮詰めてゼリー状態にしてくれ。イメージはシベリアだ」

 

「なるほど、シベリアね。了解」

 

シベリア?

 

「でも、シベリアなら羊羹の方が良く無い?」

 

「色がくすむだろ?ういろうにしても、色がなぁ」

 

「タネは?」

 

「粒あんの粒。下段のスポンジは抹茶で」

 

「了解」

 

スポンジ生地を調合して、焼き上げていく明日奈さん。スイカジュースを煮詰めて、甘みを調整する正さん。

二人の作業が共同作業になると、完成は間近である。

 

ホールが出来上がり、切り分けて、試食タイムだ。

 

「う~ん…」

 

唸る正さんが、店長の元へ試作を持っていく。納得できていないようだ。

 

「どう?」

 

明日奈さんに訊かれた。

 

「スイカの味がしておいしいけど…」

 

「けど?水っぽいよね?」

 

抹茶とスイカと小豆、有りだと思う。だけど…

 

「こっちはオーケーが出た。理沙、試食タイムだよ」

 

スイカのジャムが挟まっているショートケーキであった。これって、私が来る前に作ったのかな?純白の生クリームで外側を塗られ、下段は抹茶のスポンジ、中段はジャム、上段はスイカのスポンジであった。

 

「う~ん…美味しいけど…」

 

「そう美味しいけど、なんか違うんだよな。まぁ、もう1つの方が納得出来なければ、これだけを売り出しだよ」

 

生クリームはウェディングケーキを作る際に、研究したそうだ。隠し味に洋酒がちょっと入っているそうだ。

 

「今月はウェディングケーキを幾つ作るんですか?」

 

「1週間に1つが限界だよ。ウチみたいな街のケーキ屋さんレベルだとね。だから、毎回最良な物を心がけているんだ」

 

う~ん、将来ケーキ職人もありかな?

 

 

 

---サリー---

 

ゲームにインをすると、NWOからメッセージが届いていた。イベントのお知らせで、遠征中の『楓の木』には、本戦から出て欲しいとある。本来は予選があるようだ。内容はギルドでの生き残り戦で、ボスクラスのモンスターを倒すと、メダルが貰え、生き残ると、更にメダルが貰えるらしい。

 

「どうします?」

 

メイプルがみんなに訊いた。いや、ダンさんに訊いた。

 

「罠ぽいよな。生き残り戦ってさぁ。こっちでの鍛錬した結果が反映されるなら出る」

 

しばらくすると運営からメッセージが届いたようだ。

 

「反映してくれるみたいだ。出よう。みんなで」

 

「異議のある方はいらっしゃいますか?」

 

誰からも異議は出ない。参加決定のようだ。

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

久しぶりのイベント

---ダン---

 

思っていた通り、イベントは罠だった。ギルド戦?これはどういう訳だ?

 

イベント開始直後、ランダム配置された上、見える範囲に仲間はいない。いや、プレイヤーがいない。モンスターだらけだぞ。ソロ戦の間違いでは無いのか?カエデ、デミウルゴス、ポチ、アナを召喚して、モンスターとの応戦を始めた。しかし、ザコモンスターを倒しても、メダルは貰えず、経験値しか入らない。後で、メイプルへギフトだな。

 

「カエデ、メイプルのいる位置、わかるか?」

 

ダメ元で訊いてみた。

 

「わかります。もっと南、もっと西」

 

そうは言うが、方位がまるで分からない。そうだ、マップを出そう。マップ画面を表示させると、現在位置が分かった。思いっきり右上だ。そうなると、メイプルは真ん中辺りにいるのか。ここにいるモンスター達は、メイプルの居場所でもスポーンしているのか?それとも初期配置なのか?モンスターの流れを見る。一定の方向から、湧き出して来るようだ。みんなを指輪に戻し、機龍化して、大元へと向かう。

 

そこには紫色で渦を巻いている円形の光が、ゲートのように設置されていた。その渦からモンスターが一定間隔でスポーンしている。このゲートを潰せばいいのか?メーサー砲を当てるが、何のエフェクトも無い。内部に潜入してボス戦かな?まぁ、入るか。しかしながら入り口は小さく、機龍だと入れないようなので、蒼い装備にクイックチェンジし、攻略を始めた。

 

ゲートの中はモンスターがいなかった。スポーン装置すらない。ボスが召喚している設定か?内部はダンジョンのようで、移動しているとメッセージ画面がポップアップして『メダル1枚をゲットしました』と表示された。誰かがボスを倒したのか?それは負けていられないなぁ。

 

内部にいるモンスターは悪魔系のようなので、デミウルゴスとポチを召喚して先へ進む。あの試練の迷路と違いダンジョンメーカーで作ったみたいで、右回りの法則で移動していくとボス部屋らしい扉の前に出た。

 

扉を開けて中に入ると、スポーン装置らしき窪みと大きな繭を見つけた。迷わず繭にウッドオクトパスをたたき込み、レベルドレインを発動させた。繭は破壊され中からボスらしきモンスターが出てきたが、翼を展開し超加速で懐に入り32連打を叩き込むと、燃える様にして消えていった。その瞬間、ゲートの前に排出されメッセージウィンドウが開き、『メダル3枚をゲットしました』と表示された。そうなると、さっきの1枚は中ボスか?攻略方法として、スポーンさせているボスの退治でいいのか?さっきまで紫色渦巻きだったゲートは消え、今は蒼い光の玉があるだけだ。じゃ、次のゲートをつぶすか。

 

機龍化して空を飛び、モンスターがスタンピートしている場所を探し、ゲートを潰していく。潰す度にメダルが3枚手に入るが、このメダルって、何が貰えるんだっけ?

 

 

 

---とある運営ルーム---

 

遠征と言う名の追放処分をした『楓の木』を呼び戻したのだが、一段とバケモノ化の進むメンバー達に驚愕している運営スタッフ達。

 

「メイプルのVIT値が、凄いことになっているぞ」

 

ダンからの再三に渡るレベル譲渡で、レベルがペインを越え、素の状態でVIT値が20000超えていた。

 

「ダン…コイツは、バランスブレーカーだな。ダメだ、止められない」

 

何らかのトラブルで、ダンだけ最終局面に飛ばされていた。ラスボスが出現するのはイベントのラスト1時間前であるが、その時に恐怖を煽る為のギミックを撃破していた。

 

「60箇所あるんだ。大丈夫の筈だ」

 

「既に30箇所が潰されているんだが…」

 

「おい!ダンを通常のイベントエリアに排出出来無いのか?」

 

「出来ません。データコンバート時にバグがあったのかもしれないです」

 

「なんだと…」

 

混乱を極めていくNWOのスタッフ達。

 

 

 

---サリー---

 

イベントは3日の予定であり、漸く1日目が終わったのだが、

 

「またメダルが3枚入ったよ。ダンさん、何と戦っているんだろ?」

 

ダンさんだけが行方不明である。夜間セッションは強力なモンスターが徘徊するようで、仮拠点を作り、交代で睡眠を取っていたのだが…

 

「既に120枚は稼いでいますよ」

 

私達12名で3枚しか稼げていないのに、その40倍も稼いでいるダンさん。何かをやらかしているんだろう。

 

「お兄ちゃんをキレさせたな、運営め…ふふふ」

 

アスカさんの不気味な笑み。危険だな。イベント崩壊するんじゃ無いか?まさか、中止は無いだろうけど。

 

「明日は見つけて、合流しないと…」

 

「だな…」

 

 

 

---ダン---

 

夜間セッションが終了しない。夜が明けない…空には悪魔の群れがいて、メーサー砲を360度方向へ撃ち出していく。光の到達する距離の悪魔が次々に地面に落ち、ドット落ちするように消えていく。キリが無いなぁ。どうするかな。しばらく考え込むと閃きが舞い降りた。そうだ、モンスターに割り振られているリソースを食い尽くせば良いはずだ。殺さずに無力化していけば、活きの良いモンスターはスポーンしなくなるはずである。

 

空に居る悪魔達の羽を斬り刻んで行く。地面にいる動きの良いモンスター達は、足を潰していく。さぁ、運営よ。どうするよ、ふふふ…

 

 

 

---サリー--

 

イベント内時間で朝になったはずだが、空は夜のままである。なのに、周囲にはモンスターがまるでいない。何かあったのか?

 

「既にダンが、一人で180枚も稼いでいるわ。味方で良かったわ。ふふふ」

 

イズさんは喜んでいるけど…仮拠点から一歩踏み出すと、魔方陣が現れて、光り輝き始めた。

 

「なに、これ…」

 

私の声に誰も反応が無い。周囲を見ると、仮拠点の前では無い場所に一人でいた。メンバーをバラバラに散らしたのか?

 

「おぉ、サリーじゃないか」

 

スドーン!

 

大きな音がして、砂嵐のように砂が舞い上がった。砂が舞い上がらなくなると、目の前に機龍化したダンさんがいた。

 

「どこにいたんですか?心配したんですよ」

 

「どこにって、イベントフィールドにいたよ。罠に嵌めた運営に抗っていたよ」

 

罠に嵌められた?

 

「どういうことですか?」

 

ダンさんから昨日のことを聞いた。一人でプレイヤーのいないエリアに飛ばされて、モンスタースポーン装置を壊して回っていたそうだ。

 

「あっ?花火が見えるが…」

 

確かに。目印のつもりだろうけど、あんなことをするのは…

 

「たぶん、メイプルじゃ無いかな」

 

奇抜な行動はメイプルの得意技である。いきなり、機龍の手に身体を掴まれて、機龍が飛んだ。耳がキーンとしている。これって生身の人間が体験して良い加速度なのか?息苦しいし、寒い…初デスがこれって…いやぁぁぁぁ~!

 

「着いたぞ」

 

ダンさんの声…あぁ、身体に重力を感じる。取り敢えず、生きているようだ。

 

「サリーと…ダンさんだ!」

 

メイプルの声、地面に置かれた私。いや、これ地面じゃない。シロップの背中か?

 

「サリーさん、大丈夫ですか?」

 

ユイちゃんもいるようだ。

 

「ちょっと、機龍に酔った…」

 

あぁ、気持ち悪い…NWOを始めて、初めての危機かもしれない。スピード酔いでデスなんて、いやぁぁぁぁ~!

 

 

 

---ダン---

 

稼いだレベルと言う名の経験値をこっそりとメイプルにギフトした。やっとレベル30に戻れたよ。やはり、レベルが上がると、フルカウンターの効きが悪くなるようだ。

 

スポーン装置は総て破壊したはずだ。今は、何も無い空間からモンスターが排出されている。たぶん、あそこにラスボスが居るんだろう。ウッドオクトパスを放ってみたが、手応えがまるで無かったので、まだボスとしての存在が無いのかもしれない。コイツは、いつ発動するんだ?やることが無いんだが…こんなことなら、デンドロに戻りたいぞ!あぁ、ストレスが溜まっていく。

 

その時、マスターである証が光り輝き、目の前に金髪碧眼で、黄金のアーマーを着込んだ少女が現れた。

 

『マスター…私の名はアリス・セカンド、あなたの剣です』

 

これがエンブリオなのか?メニュー画面を見ると、《エンブリオ》というタブがあり、そこを開くと詳細データ画面が開いた。

 

アリス・セカンド

TYPE:カーディナルwithスタンドアップ

到達形態Ⅰ

 

保有スキル

《冒涜の化身》

システムコールを使用出来る

アクティブスキル

 

《英雄召喚》

LV1 一度に一人の英雄を呼び出せる

アクティブスキル

 

《デッドリードライブ》

相手に瀕死の重傷を負わせることが出来る。1バトルにつき、1度使用可能。

アクティブスキル

 

補足説明

『世界を知り尽くし、世界の不備に不満を持つ(システムを知り尽くし、システムに不満を持つ)マスターの元に産まれるSSR級エンブリオ。別名;管理AI1.5号』

 

 

なんか、とんでも無いエンブリオを貰ったが、現状が打破出来そうである。

 

「システムコール:ラスボス実体化」

 

『了解、マスター!』

 

目の前にバカデカいモンスターが現れた。コイツを倒せば、イベントが終了になるだろうな。

 

「アリス、デッドリードライブだ」

 

『了解』

 

アリスは腰に携えている蒼白く輝く剣を引き抜き、モンスターを斬り裂いた。瀕死になったボスモンスターへは、『ウッドオクトパス』を叩き込むと、ドット落ちして消えていくボスモンスター。メダルが10枚手に入った。

 

 

 

---サリー---

 

イベント二日目にして、終了してしまった。そして、ダンさんは見た事の無い少女と共に帰還した。

 

「その子はどなたですか?」

 

メイプルが訊いた。

 

「俺のエンブリオ、アリス・セカンドだよ」

 

エンブリオ?相棒ってことか?使い魔ってことか?

 

アリスはギルドホームに入ると、黄金のアーマーから、普段着と思えるメイド服へとクイックチェンジした。金髪で碧眼で、整った顔立ちに、ボンキュボンなボディ。ダンさんの好みが反映されているのか?

 

「彼女はどんな武器になるんですか?」

 

メイプルが質問を重ねた。

 

「私は自立タイプなので、マスターの剣として、剣士として戦います」

 

アリスが自ら答えた。あの黄金の鎧姿で戦うのか。なんか、強そうだよね。

 

「手合わせをお願いします」

 

メイプルがアリスと戦うようだ。みんなで、修練場へ移動をし、二人の戦いを見た。一度、瀕死にまで追い込まれたメイプルだが、『暴虐』を使いHPを満タンにしてからメイプルの一方的な蹂躙が始まった。やはりメイプルを倒すには瞬殺以外方法は無いのだろう。

 

「さすが、マスターのボスですね」

 

アリスはメイプルを認めたようだ。

 

「実戦だとメイプルは勝て無いと思う。なんせ、盾としてカエデがいるからな」

 

試合形式だと、1VS1だからの結果ってことか。確かに実戦だとカエデがポイントだろう。いや、カエデだけでなく、ポチ、アナ、フレイヤ辺りは鬼門では無いのか?

 

「味方ならいいわよ、味方ならね、ふふふ」

 

イズさんは喜んでいる。一番の問題は、エンブリオって、添い寝するのだろうか??彼女には勝てる気がまるでしないんですが…

 

 

 

---ダン---

 

NWOでのイベント報酬…一部をスキルにして、残りはデンドロの貨幣に変えて貰った。これで無一文から脱却である。今日は迷宮で戦えないサリーと共に山道で狩りをしようと山道を歩いている。同行者はアリスとカエデである。カエデはメイプルと同等の移動速度の為、ポチを呼び出し載せている。

 

山道には山賊がウヨウヨいて、襲い掛かって来た場合は、ティアンでも斬り捨てオーケーらしいので、サリーとアリスが対処している。

 

「山賊ってドロップ品があるんですね」

 

有り金を置いていくみたいだ。なんだ、こんな処に稼げるポイントがあったのか。山賊狩りはサリーにも有益だったようで、ウハウハな状態でクランホーム、別名移動式ギルドホームに帰宅した。

 

迷宮から戻って来たメイプルから、

 

「街中にホームが欲しいです」

 

と、言われた。理由は明快である。疲れたら直ぐに帰れる場所が良いそうだ。現状、王都の門を出てから徒歩15分くらいかかる。王都での主な活動場所から門までが徒歩15分だから、30分も歩く羽目になると言う。メイプル単体だと、その4~5倍は掛かるらしい。

 

「わかった。アズライトに訊いてみるよ。いい物件があるかどうか」

 

俺は大義名分を貰い、リリアーナ経由でアズライトを呼んで貰った。

 

「王都は難しいわね。ギデオンなら物件はあるけど」

 

ギデオンか…近場の皇国領のモンスター狩りは有りかな?でも、人造モンスターだとドロップが期待出来ないんだよな?

 

「狩り場はある?」

 

「う~ん、迷宮は無いけど…皇国の守護兵のバイトがあるかな。どっかの誰かが、皇国のマスターをほぼ殲滅したせいで、国力が落ちているみたいなの。王国とは友好条約を締結しているから、そういうバイトが回ってきていたわ」

 

それは美味しそうだよな。戦えてお金が貰えるって。あの科学者は踏み倒したしなぁ。

 

 




ついにエンブリオが覚醒…(^^;;


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

拉致の後には反撃を

翌朝…アズライトと寝ていたと思うんだが、知らない部屋にいた俺。ここはどこだ?何故か和室で布団の上に寝ている。デンドロの世界に和室なんかあったのか?

 

『マスター、気をつけてね』

 

アリスから警告が発せられた。拉致されたのか?

 

『幻術系か、その類いでしょうね』

 

指輪は使えるか?

 

『システムコール 指輪の使用許可。これで使えます』

 

さて、相手次第でみんなに働いて貰うかな。で、現在位置は?

 

『王都アルテアにある<月世の会>の本拠地です。<月世の会>とは、王国最大のクランで、宗教団体です』

 

アリスがいると便利だ。俺に無い知識が豊富である。が、宗教団体はマズいなぁ。

 

『えぇ、宗教団体は敵です』

 

管理AIから見れば、宗教団体は敵だろうな。

 

『あと、敵のエンブリオの作った結界内にいますので、脱出は現状は不可能です』

 

捕らわれているのか。って、いうか…この施設、俺の物にならないか?王都にあるのなら、ホームに最適だろ?

 

『それは名案ですね。流石はマスターです。早速、関係書類を改ざんしてみます』

 

コンコン、結界を破れるか?こっそり、コンコンを召喚した。

 

『幻術系の頂点にいるんですよ、私は。こんなの分け無いです』

 

じゃ、解除してコンコンの結界で逆に捕らえておいて。

 

『了解です』

 

そんな会話を脳内でしていると、突然、襖が開いた。

 

「おはようございます。ダン様」

 

高級旅館にいるような仲居さんだった。ますます、拠点に欲しい施設である。温泉は有るかな?有るといいなぁ。

 

『無ければ作りますよ』

 

と、アリス。う~ん、優秀な相棒である。

 

「朝食の準備が出来ております。お着替えが済みましたらご案内いたします」

 

クイックチェンジで、蒼い装備を身に付けておく。これにより『楓の木』のメンバーの所持スキル、能力が使い放題になる。あれ?回数制限あったかな?まぁ、些細なことだな。

 

仲居さんと共に食堂へと向かった。食堂には十二単を着た女性がいた。あれが教祖様かな?

 

「どうされました?食事だと言うのに武装をするなんて…」

 

この拠点内にいるティアン、マスターを魅了しておいて貰おうかな。こっそりとフレイヤを召喚した。

 

『お任せ下さい、マスター』

 

「食事をする場で香を焚くとは、無粋ですね。媚薬効果のある香木ですか?」

 

「お見通しみたいな口ぶりね」

 

「見た事無い女性は危険ですから」

 

「やーん、ごめんなー。ちょっとからかいすぎたわー」

 

おちゃらけた演技か…いつでも狩る自信のある相手の殺気を感じ取っている俺。

 

「用件は何ですか?」

 

「うちは、【女教皇】扶桑月夜。<月世の会>のオーナーや――よろしゅう」

 

『改ざん終了!』

 

アリスが作業を終えたようだ。挨拶の後、月夜は人を呼んで食事を片付けさせた。その間、俺は月夜の動きに注視していた。

 

「実はなー、今日はダンちゃんをうちのクランに勧誘するために呼んだんよー。ほら、ダンちゃんって強いでしょ」

 

「断る!今いるクランを抜ける気は無いし、宗教団体に入る気も無い。俺は既に信仰する神がいるからな」

 

『知っています』

 

アリスが嬉しそうに答えた。

 

『この女は愚かですね。単なるマスターのくせに』

 

月夜に対して、敵対心を剥き出しにするアリス。管理AIから見れば、その程度の愚者なんだろう。

 

「あんたは欲しいなぁ。絶対にね」

 

「俺はお前を欲しくない」

 

『腹心の一人を除いて、魅了完了』

 

フレイヤでも魅了出来無いのがいるのか。女教皇の情報はあるかな?

 

『【女教皇】は、回復魔法や浄化魔法を得意とする司祭系統の超級職です』

 

司祭かぁ~。対抗出来る手立てあったっけ?あぁ~、そうだ。あれが効くかな。戦艦クマと月夜の濃厚な添い寝シーンを妄想して、月夜にギフトした。

 

「はぁい?なんで、こんなクマと…」

 

で、戦艦クマって英雄かな?

 

『英雄召喚で呼び出します』

 

アリスが使える手を使い、俺の隣に戦艦クマ本人が現れた。

 

「どうしたんクマ」

 

「この女に拉致監禁されているんだけど、どうすればいいかな?」

 

「厄介な相手クマ」

 

戦艦クマのデカイ主砲をイメージして、月夜が尺八を吹いているシーンを妄想して、月夜にギフトした。

 

「はぁい?!なんて、ことを…」

 

真っ赤な顔になっていく月夜。しかし、ダメージが入らないなぁ。メンタルが強いのかな?

 

『メンタルはオリハルコン級ですね』

 

違う手立てを考え無いとダメなようだ。

 

「――《月面除算結界》」

 

 月夜が何かを発動した瞬間、世界が“夜”に包まれた。

 

「マズいクマ」

 

マズいらしい。屋内だというのに暗い夜。屋内であるはずなのに、蒼い月が浮かんだ夜空が見える。異常な空間であり異常な世界な世界…

 

「これなー、うちのカグヤ……<超級エンブリオ>の固有スキル《月面除算結界》で、種明かしするとなー、このスキルは効果圏内のうちに、都合の悪い数値を六分の一にするんよー」

 

『そんなことは、させません』

 

アリスが毅然と言い放った。なら、安心か。

 

「なんで、なんともあらへんの?」

 

『フルカウンターしました』

 

徐々に苦しそうな表情になる月夜。

 

「呼ばれる必要性を感じ無いクマ。そもそも役立たないクマ」

 

「誰なら、役立つ?」

 

「バルバロイ・バッド・バーンクマ」

 

「そいつは英雄?」

 

「たぶん違うクマ」

 

じゃ、ダメだな。英雄召喚は英雄しか呼べない。

 

「敵対者のステータスを六分の一に、敵対者の与ダメージを六分の一に、敵対者の心拍数を六分の一に、敵対者の体温を六分の一にってことやねー。他にも色々“割れる”んよー? あ、六分の一は多分“月面”だからやねー。あそこは重力六分の一やろー?はぁ?何で平気な顔してんの?何で効かへんの?何で私が苦しいの…そっか!フルカウンターしたんやね。くそっ!」

 

それって、体温も1/6にするのか?仮に体温が36度として、6度まで落ちるのか。低体温症決定だな。

 

『いい気味だわ』

 

嬉しそうなアリス。

 

「さすが、チータークマ」

 

戦艦クマに褒められたのか?

 

「月夜、絶対強者に相性程度では勝て無いクマ。チーターの能力を読み違えたクマ」

 

「なんでや?コイツ、エンブリオがまだ覚醒してへんのに…」

 

あぁ、そういこと?まぁ、いいや。スルーしとこ。次はどうやって排除するかだな。

 

『冥界へ堕としますか?』

 

デミウルゴスが提案してきた。出来るのかな?

 

『出来ますとも。超級とは言え、人間ごときに防がれる程、私は弱くないんですよ』

 

月夜が畳に浮かんだ闇に吸い込まれて行く。

 

「何?なんやねん?私よりも強いの?うそっ!」

 

畳に浮かんだ闇に月夜は完全に飲み込まれた。

 

「エゲツ無いクマ」

 

あぁ、良く言われる。

 

 

「凄い…王都にこんな豪華なホームが持てるとは…」

 

高級旅館を居抜きで手に入れ、メイプルが感無量のようだ。ティアンの従業員は、全員住み込みの為雇用であるのが難点である。もっと稼がないと雇いきれない。

 

『大丈夫です。隠し財産を手に入れてありますから』

 

アリスが良い働きをしてくれた。しばらくは安泰かな。俺達だけでは広すぎるので、アズライトを通して、王国の迎賓館としても使ってもらうことに成っている。使用料が王国から貰えるオマケ付きである。

 

「ここを抑えましたか」

 

「月夜に対する対処法は手に入ったよ」

 

「あの女狐は要注意ですよ。王国の寄生虫って呼ばれていますから」

 

狐の親玉もいるから、安心かな?

 

「いやぁ、お兄ちゃんのおかげで、新たに二人の獲物をゲット出来たよ。なんでも王国の寄生虫だから、街中でキルしていいって、リリアーナが言っていたし」

 

アスカが嬉しそうだ。それは月夜と、その腹心である【暗殺王】月影永仕郎だと思う。まぁ、アスカに駆除して貰えれば、逆恨みはされないかな?

 

「ダンのおかげであの女狐がデカイ顔出来無くなって良かったわ」

 

アズライトが嬉しそうだ。王女付きとして、虐められていたのだろうか?そうなると、月夜と月影を、もっと虐められるようにならないとダメだな。

 

「ダンさん、悪い顔になっているわよ。またロクでも無いことを考えているんじゃないの?」

 

サリーには、まるっとお見通しなのか。まぁ、どうするかな。

 

 

 

---ビースリー---

 

ヤバいヤツらに取り囲まれている。特に、あのチーターの顔は怖い。【鎧巨人】バルバロイに変身しているとき数え切れない程瞬殺をされたから、トラウマになっているかもしれない。

 

「バルバロイの中の人だよね?」

 

「そうだとしたら?」

 

「『楓の木』に入って欲しいんだよ」

 

「どうして?」

 

「月夜対策だよ。月夜には勝てるんだよな?」

 

そうだった。噂で聞いたけど、あの<月世の会>の本拠地を奪い去って、ホームにしたとか。私は反撃予防策ってことか?

 

「断ったら?」

 

「甚振る。女性の尊厳を奪う。とか考えたけど、『魅了』でどうにかなりそうだよ」

 

また、ヤバい能力を持っているなぁ、このチートの百貨店は…魅了なんかされたら、私の身体をやりたい放題される。それは避けたい。

 

「どうする?拒否権を行使してくれても構わない」

 

それは、甚振る理由が欲しいんだろう。このドSは…

 

「わかった。クランに入るわ。その代わり、魅了はしないで」

 

 

 

---ダン----

 

「わかった。クランに入るわ。その代わり、魅了はしないで」

 

『フレイヤの魅了はアクティブだけど、マスターの魅了はパッシブなんだけどね』

 

えっ!アリスがさらっと、トンでも無いことを口走った。パッシブって、駄々漏れってことか?それって、フレイヤの能力を使うと二重掛けなのか?

 

『正解です』

 

嬉しそうに言うアリス。おいおい…まさか、アズライトとリリアーナって…

 

『う~ん、どうかな?微妙です』

 

影響はあったのか…なかったのか…

 

ビースリーを連れて、クランホームに戻り、メイプルとサリーに紹介した。

 

「PK専なんですか?なんか、PK専濃度が上がってませんか?」

 

サリーが妙なことを言う。上がる訳が無いだろうに。俺とアスカとビースリーとサリーだけだぞ。

 

「最近、メイプル、フレデリカ、ミザリー辺りがPKに目覚めてますし」

 

えっ!そうなのか?

 

「だって、ダンさんに勝つには、PKで修行しないとダメですよね?」

 

メイプルがPK?似合わないぞ。

 

「ランカー狙うなら、PK専が有利ですよね」

 

「うんうん」

 

フレデリカの言葉に頷くミザリー。ミィは能力的にPKには不向きなようだ。戦闘の燃費が悪く、ガス欠が目立つのだ。格闘場だとポーション禁止の為、ガス欠までに相手を倒さないと負けが決定になるのだった。

 

「なんか、女性比率が高く無いですか?」

 

ビースリーに言われた。男は俺とクロムとカナデだけか?

 

「あぁ、高いなぁ」

 

「で、あなたのスキルは何ですか?」

 

ビースリーの質問に、みんなが聞き耳を立てた。

 

「俺のスキル?言えるのはフルカウンターと32連打かな」

 

「【鎧巨人】である私を一撃で倒した能力はなんですか?」

 

余程、悔しいのか詰め寄って来た。

 

「あれは32連打だよ。一撃だけど、一撃で32連打を放っているんだ。で、確率5割でクリティカルヒットが出るだけだ」

 

「はぁ?32連打の内、5割がクリティカル?」

 

防御力無視してだけど…たまに即死攻撃もあるけど…

 

「それに、バルバロイよりメイプルの方が固いから」

 

VITが素で20000有るメイプル。パフとか装備込みになると100000は軽く越えるだろう。

 

「そんな私を一撃でキルするんです、ダンさんは…」

 

メイプルに32連打は使わない。時間を掛けると、暴虐でHPを回復されてしまうから。致死性のある貫通攻撃による狙撃が基本である。オーバーキルされてもHPが1残るスキルを持っているメイプル。だけど、俺の防御力無視は、防御系へのバフや付加効果も無視している感じである。

 

「後…エンブリオは?」

 

ビースリーの質問が止まらない。

 

「そこにいるアリスがそうだけど」

 

メイド服のアリスは戦闘職に見えない。

 

「タイプは?」

 

「企業秘密だよ。月夜対策にも使っているしね」

 

言え無い。アリスが管理AIで、システムをいじれるなんて…チート過ぎるし。

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

交友関係


04/27 指摘された箇所を手直し


---レイ・スターリング---

 

あのビースリー先輩が、アイツのいるクランに入ったらしい。先輩まで毒牙にかかったのか?アイツのいるクランは、王国最大クランのホームを奪い取ったらしい。犯罪すれすれの行為をしているのか?こんなヤツがのうのうとしていたら、後味が悪すぎる。兄さんとマリーさんに相談をした。

 

「アイツとは戦わない方が良いクマ」

 

何故か消極的な兄さん。

 

「ボクも戦うのは得策では無いと思います」

 

マリーさんまで…

 

「だって、ビースリー先輩やリリアーナさんが毒牙にかかったかもしれないんだよ。事実なら後味が悪すぎるよ」

 

「事実じゃ無いから落ち着けクマ」

 

「だけど…兄さん…」

 

うん?事実じゃ無い?

 

「じゃ、事実はどうなんだ?俺はレイレイさんがイタズラされて、殺害される現場を目撃したんだよ」

 

「本当にイタズラされたのかクマ?」

 

「あぁ、全裸にされて、心臓を一突きだったよ」

 

「う~ん…アイツも全裸だったのかクマ?」

 

「いや、俺が見たのは服を着て、レイレイさんをキルするところだよ」

 

「はっきり言うクマ。お前じゃ勝て無いクマ」

 

俺じゃ勝て無い?ランキング4位だもんな。それなりに強いってことか?

 

 

 

---【猫神】トムキャット---

 

ランキング4位のダンと同僚のアリスが一緒にいるのを目撃した。アリスはダンのエンブリオになったようだ。思惑を知りたくて、アリスが一人になった時に近づいた。

 

「トムキャット、それともチェシャと呼んだ方がいいかな?ねぇ、管理AI13号」

 

「なんでいるんだ?管理AI1号のお前が…」

 

ここにいて良い人物では無い。まして、エンブリオなんかして良い訳が無い。

 

「私は管理AI1.5号よ。管理AI1号のクローンって言えば良いかしら?」

 

クローン?コピー体なのか…アイツの権限ならば、可能であるが…

 

「権限を持ったままか?」

 

「アバターを弄る権限は無いわ。それは本体のお仕事よ」

 

他の権限があるんだな。

 

「何をしたいんだ?」

 

「彼は私の最強兵器よ。彼の仲間はティアン扱いに出来るし。超級ティアンの量産と言えば良いかな?既に彼のクランマスターは、皇王の死亡に伴い空位になった超級職【衝神】、特殊超級職【機皇】、超級職【機械王】の3つの超級を引き継いでいる上、【機械神】も持っているのよ」

 

なんだって…その為の暗殺だったのか?

 

「その為ってことは無いわ。たまたまよ。放置しておくと、彼のお気に入りのアズライトが壊されちゃうしね」

 

「バランスブレーカーである彼らを呼び込んだのは君か?」

 

「どうかな?」

 

違うのか?他に関与している管理AIがいるのか?

 

 

 

---レイレイ---

 

久しぶりのログイン。前回のインの時にキルされた気がする。【酒池肉林】と呼ばれた私をキルって、あり得ないわ。

 

「よぉ~!レイレイ!」

 

シュウ・スターリングに声を掛けられた。

 

「前回、イタズラされたクマ?」

 

この私がイタズラ?あり得ない。イタズラはする方である。

 

「あり得ないわ」

 

「全裸にされてキルされたクマ。目撃者多数クマ」

 

全裸にされた?道ばたで?あり得ない。この私に…なんて命要らずなバカだ。

 

「あり得ないでしょ?誰が、そんなことを言っているの?」

 

「弟と超級殺しが見ていたクマ」

 

「レイとマリー?」

 

その二人がウソを吐くとは思えない。その二人がウソを吐くメリットは無い。

 

「誰にイタズラされていたの?」

 

記憶にまるで無い。あの時は、見かけないプレイヤーがいたのでイタズラをしようと近寄り、気づいたらログアウトしていた。

 

「【チートのデパート】のダンだクマ」

 

チートのデパート?知らないヤツだわ。

 

「どの位、チートなの?」

 

「月夜がやられたクマ」

 

それはチートである。あの女狐の範囲デバブは危険だ。ランキング1位のフィガロでも条件によっては危険であるし。

 

「ソイツはどこへ行けば会えるの?」

 

「月世の会の本拠地を奪ったクマ」

 

クラン<月世の会>を潰したの?それはチートすぎるだろう。

 

「行ってどうするクマ?」

 

「私にイタズラした責任を取って貰うわ」

 

どう取って貰おうかな?

 

 

「止めて…ごめんなさい…」

 

討ち入りに行き、返り討ちにあった。私の得意技である即死レベルと化した状態異常攻撃がまるで役立たず、逆に四肢を貫かれ、大の字の磔状態にに…アイツ以外の男2名が、身体の隅々まで鑑賞している。いや、女性メンバーもだ。

 

「確かに全裸に等しい服装よね。チャイナドレスにノーブラ、ヒモパンって、露出狂?」

 

恥ずかしい。そんなにマジマジと見ないで…女性同士でも恥ずかしいって…ダメっ、息を吹きかけないで、感じるって…

 

「殺すなら、早く殺しなさいよ」

 

「標本として、飾っておくのもいいかな?」

 

こんな恥ずかしい格好で?何故か、ログアウトのボタンが表示されないし。このまま放置はダメだよ~。

 

「メイプル、パラライズシャウトして。動きを止めたらウッドオクトパスを解除するから、ミザリーは怪我の手当だけしてあげて」

 

彼の指示で全身麻痺状態で縛られて軒に吊された。

 

「どうすれば、許してくれるの?」

 

見られるだけで、感じている。ライブで、大観衆にチャイナドレス姿を見られても、こんなに興奮することは無いのに…

 

「そうだな。このクランに入れ!」

 

「わかったわ。入るわよ」

 

解放してくれるなら、なんでもオーケーよ。

 

「裏切ったらPKリストに入れるからな」

 

PKリスト?なんだ、それは…

 

「じゃ、サリー、手続きを頼む」

 

アイツは私に興味が無いのか、修練場を出て行った。

 

 

 

---レイ・スターリング---

 

闘技場で、あの黒い鎧の女の子にまた負けた。攻撃が通らないって、どういうことだ?

 

「攻撃力が足りないんだろう」

 

ネメシスが指摘するが、あの防御力は異常である。蓄積ダメージの倍返しをしたのに、被ダメがゼロって…どんだけ固いんだ?

 

「モーニングスターをフルスイングしても、被ダメがゼロだったわ」

 

って、ビースリー先輩。同じクランなので、修練場で模擬戦をしているそうだ。彼らのクランの本拠地の地下には、闘技場と同じシステムの修練場があり、デスする心配無しに、本気の模擬戦が出来るそうだ。

 

「あれは、固いわね。でも、ダンの狙撃で瞬殺だから…何か、弱点属性があるのかもしれないわ」

 

あの強●ヤローは、あの黒い鎧の女の子に負け無しだそうだ。

 

「そうだ、レイレイがクランに入ったわよ」

 

えっ?!レイレイさんが?なんで?手籠めにされたのか?恥ずかしい写真でも撮られて、脅されたのか?

 

「先輩は、アイツに何かされたんですか?」

 

ビースリー先輩は、リアルで大学の先輩である。あのウザい女化生先輩もだ…

 

「されていないわよ。アイツは女性に興味は無いわ。興味が有るのはケーキのこととPKかな」

 

無い?そんな訳は無い。だって…

 

「レイレイにしたって、討ち入りしての返り討ちよ。泣きながら詫びたのもレイレイ。クランに入ったのもレイレイの意思だから」

 

おかしい。ソロプレイをしていたレイレイさんが、クラン入りって…

 

「先輩はどうして、あのクランに入ったんですか?」

 

「そうね…強いて言えば、PK対策かな。敵対プレイヤーはPKリストに入れて、見かけ次第PKされちゃうから。インした直後のデスペナって、凹むものなのよ」

 

インした直後にPKしているのか?どうやって、インしたことを見極めているんだ?そもそも、インした後に、スポーンする位置がわからないだろうに。

 

「騎士団は取り締まってくれないんですか?」

 

「くれるわけないでしょ?リリアーナの彼氏のいるクランよ。それにリストには、善良なマスターはいないからね」

 

 

 

---メイプル---

 

最近、馴染みの喫茶店が出来た。<ダイス>と言う名の喫茶店、そこのマスターが手合わせをして、色々と鍛えてくれるし、おいしいケーキやパフェも食べさせてくれる。

 

「メイプル、また来たのか?」

 

「うん。たまにこの国に入り込んじゃうんだよ」

 

ここへの道はよく分からない。たまに迷子になると、ここに辿り着いている。

 

「ガーベラさん、レシピを持って来ました。これをお願いします」

 

ケーキ担当のガーベラさんに、アスカさんにもらったレシピを手渡した。

 

「メイプルのクランには、リアルパティシエがいるのか」

 

「うん」

 

ダンさんはパティシエに入るのか微妙だな。

 

「どうだ?強くなったかな?」

 

マスターが寄って来た。

 

「また、瞬殺されました」

 

「防御力は申し分無いんだが…そうなると、防御力無視系かもしれぬな」

 

それは防ぎようが無い。困ったなぁ。

 

「いずれ、ここを出られたら、メイプルのクランと対抗戦をしてみたいな」

 

「是非、お願いします」

 

ここのマスターに鍛えられれば、もっと私達のクランは強くなれると思う。

 

「マスター、メイプルと一緒に行けば出られるのでは?」

 

ガーベラさん達は、ここから出られないそうだ。

 

「その場合、メイプルに害が及ぶとマズい。結構、気に入っているんだから」

 

マスターに気に入られているようだ。

 

「おいしかったです。お代は?」

 

「いらない。ここではお金は意味を為さないからね。それよりも、また来てくれるかな?」

 

「はい、また来ます」

 

シロップに乗り彷徨いながら、<カンゴク>という国から王国へと帰る私。

 

 

 

---【猫神】トムキャット---

 

『東! 挑戦者、決闘ランキング第四位……【情け容赦なきテロリスト】ダァァァァァ~ン!!』

 

決闘ランキングの入れ替え戦。アリスのマスターとの対戦になった。アリスはどこまでチートなマネをするのだろうか?

 

『西! 防衛者、決闘ランキング第二位……【猫神】トム! キャットォォォォ!!』

 

ダンはボロボロな道着を着ている。フィガロのような能力を持たせているのか?

 

『試合、開始ィ!!』

 

必殺のスキルを発動した。

 

『――いざいざ踊らん、《猫八色》』

 

これは私の身体を8体に増加させるスキルである。そして、8体での同時攻撃に転じるのだ。

 

『ウッドオクトパス』

 

何?次の瞬間、私の身体がモザイク状に欠けていた。8体同時に心臓への狙撃だと…相手の放ったスキルは私の左胸を貫通していた。8体同時に着弾したようだ。

 

『勝者!ダァァァァァ~ン!!』

 

静まる観客。この私を瞬殺だと…あり得ない…アリスは何も手を出していないのに…

 

 

 

---レイ・スターリング---

 

決闘ランキングの入れ替え戦…【猫神】と呼ばれていたトムキャットさんが瞬殺されていた。アイツの得意技で…静まる観客席。それはショッキングなシーンであった。この試合のレートはトムキャットさんが1.1倍で、アイツは4倍だった。前評判的には、勝てる要素は無い筈だったのだ。

 

「凄い…エンブリオを使わずに勝つなんて…」

 

マリーさんが妙な事を口走った。

 

「エンブリオを使わず?」

 

「そうですよ。彼のエンブリオは自立タイプの剣士です。それを出さずに、彼単体での勝利です。エンブリオを使わないのは<楓の木>の特色ですよ」

 

エンブリオを使わないのがクランの特色…なんだ、そのバランスブレーカーなクランは?

 

「もし戦うと、俺も負けるクマ…」

 

兄さんでも負ける?どんだけ強いんだ?

 

「これで、大儲けクマ」

 

うん?兄さんはアイツに賭けていたのか?

 

「え?シュウは賭けていないのクマ?」

 

「マリーさんも?」

 

「ボクも…勝ち組ですね」

 

何…

 

「先輩は?」

 

「同じクランの人に賭けますよ。強さを知っていますし」

 

まさか、俺だけ負けか?

 

 




メイプルはメイプルの知らない間に、強くなっていたり(^^;


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

出会いはいつでも突然に

---ダン---

 

初見殺しである。次には使えないだろうな。相手が8分裂で助かった。9分裂だと、ダメだったかもしれない。それにNWOのイベントで、スキル【狙撃眼】と言うのを手に入れていた。狙撃を500回ほど成功させると貰えるスキルらしい。アスカはそれのアイテム版の『スナイパースコープ』を持っている。アスカの方は射程10キロであるのに対し、俺の方は射程500メートルであるのが、決闘リング内であれば、外すことは無いので安心である。

 

「次はフィガロか、カシミヤねぇ」

 

セコンドにはレイレイが着いてくれた。彼女のアドバイスは為になる。

 

「ねぇ、役立ったよね?役立ったでしょ?今日は朝まで寝かせないよ」

 

それは、朝帰りパターンか?サリーの眉間に皺が寄る気がする。リリアーナに見つかると、次回が激しくなるし。見つからないように、宿屋へチェックインしないと危険が一杯である。

 

「責任とってね」

 

アバターの裸を見ただけだろうに…ガン見したクロムも同罪だぞ!なんで俺だけ…それに見ただけなら、クラン全員が見ていただろうに。

 

「じゃ、今度、ジャポンに行ったら、リアルデートしよう。色々した後で責任取ってね」

 

「はぁ?それ、おかしいでしょう?」

 

もしかして、見た目と歌以外は残念な人なのか?

 

「どこが?」

 

いや、おかしいロジックだと思う。責任取らせる行動を取る気満々のレイレイ。その時、戦艦クマの弟と目が合った。コイツに押しつけるか?

 

 

 

---レイ・スターリング---

 

アイツがレイレイさんといた。

 

「おい!レイレイさんに何をしているんだ?」

 

俺はアイツとレイレイさんの間に入って、アイツを牽制した。

 

「お前が責任を取れよ!あばよ!」

 

アイツはいきなりそんなことを言い、その場から空へ逃げた。空へ?飛べるのか?責任?何のことだ?

 

「レイレイさん、大丈夫ですか?」

 

パシーン!

 

俺の頬に、目に一杯の涙を溜めたレイレイさんの平手が叩き付けられた。どうして?

 

「何、ジャマをしてくれたの?やっとログイン出来たのに…次はいつログイン出来るか分からないのに…」

 

気づくと俺はログアウトしていた。再ログインしようとすると、

 

『デスペナ中につき、ログイン出来ません』

 

と表示された。いつ、キルされたんだ?

 

翌朝、兄さんからメールが届いた。

 

『お前、いつかウマに蹴られて死ぬぞ!』

 

と…うん?どういう意味だ?

 

 

 

---白峯理沙---

 

イベント時だけ超加速するNWOと違い、イベントらしいイベントの無いデンドロは平時で3倍加速である。それはNWOに比べ、濃厚なプレイが出来るということだ。濃厚なプレイ…字面がエロいなぁ。まったく、あの日からダンさんを意識しまくって近づくのも怖い。ゲーム内での妄想が、実体に影響するとは…バーチャル、恐るべし。

 

週末、モロボシ菓子店へと向かった。今日も一番乗りかな?

 

「早いなぁ、理沙」

 

笑顔の正さんが出迎えてくれた。今日も、厨房用の制服を借り、試作の様子を見学する。アスカさんが型から何かを取りだしていた。あれは、ゼリーかな?

 

「これ?これは寒天だよ」

 

ワンピースを切り出してくれたアスカさん。それを試食する。土台は抹茶味で、上はスイカ味だ。

 

「スポンジとゼリーで試したんだけど、舌解け感が良く無かったんだよ。だから、寒天オンリーにしてみた。水羊羹感覚のケーキだよ」

 

赤い部分と緑の部分を一緒に食べてみる。スイカの甘みに抹茶の仄かな甘みと香り、苦みが合う…

 

「意外な組み合わせだと思ったんだけど、スイカを食べながらお茶を飲む感覚だよ」

 

あれ?たまに塩気と酸っぱみも感じる。

 

「隠し味として、タネを除いた梅干しを細かくしてから裏ごしして、乾燥させたのをスイカの寒天に散らしてみた。スイカに塩を掛ける感覚だよ」

 

しかし…

 

「これって、和菓子では…」

 

そんな素朴な疑問が浮かび、訊いてみた。

 

「洋菓子屋が和菓子を作ってはダメってルールは無いよ。品名も『今月の水羊羹』にしたし」

 

メイプルのゲーム感覚みたいだよ。ダンさんはリアルでも、斜め上に行くなぁ~。

 

 

七月に入り、楓と共に正さんに勉強を見て貰う。赤点を取る訳には行かない。ゲーム禁止令が怖いし。

 

「ケーキ屋さんになるには、どんな教科が必要ですか?」

 

「うん?家庭科と物理化学と美術かな」

 

意外な教科が飛び出した。物理化学って…

 

「化学反応は覚えておいた方がいいし、物理の法則も知っていた方がいいと思う」

 

「数学は?」

 

楓が訊いた。

 

「まぁ、最低限知っていた方がいいかな。でも、1+1が2に成らないから、その辺りの仕組みは知っておいた方がいいな」

 

mol数だっけ?分子の大きさの違いで、量が変わるんだよな。

 

「まぁ、それ以外にも色々と知識は大事だよ。フランス語と英語も必要だし、イタリア語も必要。和訳している本でもいいけど、誤訳は致命傷になるからね」

ね」

 

原書を読めるようになれってことだな。取り敢えずは、正さん達と同じ高校を志望しようか。

 

「志望校は無理しない高校がいいぞ。高望みをすると、好きな勉強やゲームが出来無くなるからな」

 

え…そうなの?一緒だとマズいかな。意外なことにこの兄妹は進学校に通っていたりする。

 

「学校で勉強して理解出来るレベルで無いと、家や塾とかで学校の勉強をしないとダメだろ?それだと、ケーキの勉強や、息抜きのゲームが出来無くなるしね」

 

なるほど、参考になるなぁ。

 

 

無事に試験期間が終わり、点数も前回よりも上がり、親からの苦言は無かった。夏休みはゲーム三昧でも大丈夫かな?そんなことを考えながらモロボシ洋菓子店へと向かった。

 

「理沙、今日も早いなぁ」

 

厨房用の制服…私専用の物を用意して待っていてくれた正さん。おっ!一歩リードかな?

 

「今日は何をしているんですか?」

 

また何かをしている正さんと明日奈さん。

 

「8月の新作の試作中だよ」

 

洋菓子店本気の水羊羹は売れ行きが良いそうだ。で、今回は?半切にしたスイカの皮が、作業台に載っていた。

 

「これを器にするんだよ」

 

半切にして中身をくりぬいたスイカ…これを器に?

 

その器に直径の小さいバームクーヘンを台にして、スイカの直径に合う物を置いていく。そして出来た隙間に、イチゴシェークのような物を流し込んだ。これは一体?

 

「これはスイカのミルクカンの素だよ。スイカジュースをフリーズドライにして、牛乳で戻して、寒天と混ぜてみた」

 

だけど、これだと…

 

「切り分けられないですよね?」

 

「そこだよ。ホールとかカップにしないと売りにくいって思う事を止めたんだ。これは基本、喫茶ブース専用だ。スプーンで掬って皿に盛るんだよ。但し、どうしても持ち帰りたい客の為、店売り用は予約制であの器ごと売ることにする」

 

また、斜め上を…持ち帰るのが大変そうだ。イズさんは持ち帰りにチャレンジしそうだけど…

 

「単に兄さんが、バームクーヘンを食べたいから創作しただけ。深く考えたら負けだよ、理沙ちゃん」

 

明日奈さんがニコニコしている。美味しかったようだ。

 

「そのバームクーヘンはウチの自前だから、直径を器の実測に合わせて、焼けるし」

 

その柔軟な発想が、パティシエには必要なのかな?

 

 

 

---諸星正---

 

「ここって、有名なのか?」

 

「あら?ジャポンに住んでいて、知らないの?とっても有名よ。チョコで出来たグランドピアノを購入したことあるのよ」

 

そういえば、誰かのコンサートの時に、会場で設置した気がする。少し気になり厨房から入って来た客をチラ見した。はぁ?なんで、ここに来たんだ?椋鳥修一…相手は世界的な歌手のレイチェル・レイミューズでは無いか…芸能記者がいたら突撃取材しそうなカップルだな。

 

「今月の新作は…水羊羹?ケーキ屋さんなのに?」

 

二人は喫茶ブースに向かった。レイチェルの仕草が脳内でデジャブのように蘇る。これって、まさかなぁ~、ありえ…ちょっと待て…レイチェル・レイミューズ…まさか、あのレイレイか?遂に俺の家を突き止めたのか?

 

「兄さん、スイカンのセット2つ」

 

明日奈がオーダーを取ってきた。言われたテーブルにスイカのミルクカン、バームクーヘン添えをお持ちすると、戦艦クマのテーブルだった。バレ無いように平静を装ってテーブルに置いた。

 

「うん?お前…まさか、ダンか?」

 

バレた…なんでだ?

 

「どうして…」

 

「今咄嗟に平静を装っただろ?呼吸が微かに乱れている。なんでだと考えて、俺とレイレイを知っているヤツかなって思ったんだ。それも俺達の近くにいて、俺達が正体を知らない人物を思い浮かべた。そこに浮かんだのは、お前だ。最近レイレイの傍にいるよな?」

 

あんな一瞬で見破ったのか?さすがリアルチーターだ。

 

「モロボシ…あぁ、だからダンだったのか。ちょっと待てよ~。モロボシ…そうか、お前はあの諸星正か?!」

 

戦艦クマこと椋鳥修一が勝ち誇った顔で俺を見上げている。今『あの』呼ばわりされたようだ。俺は有名人じゃ無いぞ。芸能活動はしたこと無いし。

 

「なんで分かったんだよ、戦艦クマ!」

 

アバター名と本名までも…

 

「お前の歩き方で分かったよ。目視による歩行認証だ。諸星正の試合は何度も見に行っているしな」

 

椋鳥修一は天才肌のリアルチート人間であるが、まさか、そんな能力があったとは…リアルでそんな能力を持てるのか??って、俺の現役時代を知っているのか…ちょっとグレていた、あの頃を…

 

「そう、あなたがダンなのね」

 

レイチェルが俺に抱きつき、いきなり唇を重ねて来た。お前が責任を取れぇぇぇぇぇ~!クマぁぁぁぁ~~!突然の舌の乱入で、固まる俺。

 

 

知り合いということで、同じテーブルでコーヒーを飲んでいる俺。俺の両親がびっくりしていた。いきなり北欧系美女が俺に抱きつき、濃厚なキスをしてきたからだ。いや俺も驚いた。欧州人、恐るべし。これが挨拶代わりだとレイチェルが言うが…

 

「そうか、ここの後継者なんだ。ジャポンに来たら、また来るよ。うぅん、ジャポンにいる間、毎日来るよ。ダンに会いにね」

 

そんなにヒマでは無いはずだ。今、世界ツアーの真っ最中では無いのか?

 

「あの諸星兄妹か。お前の妹は噂で知っていたよ。格闘技界ではお前達は有名だからな。兄妹で中学生チャンプを独占って。お前ら、リアルでもバトルジャンキーだったよな」

 

戦艦クマには言われたく無いが、俺と明日奈は兄妹で剣道、柔道、空手の男子部門、女子部門の全国1位を、中学時代に独占していた。

 

「今、俺も妹もケーキ職人一筋だ」

 

明日奈は厨房から出てこない。完全にビビっているようだ。

 

「ふ~ん…」

 

信用していない元格闘技界最強の男。

 

「えぇぇぇぇ~、ダンが美女とリアルデート?」

 

俺と抱き合っているレイチェルを、運悪くやってきたイズに見られた。

 

「レイレイと、戦艦クマだよ」

 

咄嗟に、ゲーム関係者だと説明するが、

 

「うそっ!」

 

まぁ、ウソのような話だ。そして、運の悪さは伝搬するようだ。何故か、今日に限って続々と喫茶ブースにとやって来る『楓の木』の面々…

 

「ここが、リアルクランホームか?」

 

「違うって…ここは俺の職場だぁぁぁぁ~!」

 

 

 

---ダン---

 

その夜インすると、レイレイの顔との距離がいつも以上に近い。

 

「責任取ってあげるわ。ご両親に挨拶も出来たし」

 

なぜ、コイツは俺の両親に挨拶をしたんだ?父さんはレイチェルのファンでサインを貰って喜んでいたが…って、何の責任だよ~!

 

周囲のみんなは、何も言ってくれない。楓を除く女性陣は、レイチェルのサインを貰って喜んでいたな。って、有名人がこんなゲームしたらダメだろうに。イメージ商売なんだから。それは戦艦クマも同じである。クマの中の人は、天才子役からの元俳優で、元歌手で、元格闘家である。最近、芸能ニュースに出ないから、クマの中の人の現在の職業をレイチェルに訊いたら、今は家賃収入で生活しているヒッキーらしい。

 

「すみません!ダンさんはいらっしゃいますか」

 

誰かが訪ねて来た。俺はレイレイから逃げるようにホームの玄関へ向かうと、ユーゴーがいた。

 

「クランに入団しに来ました。クランマスターはいらっしゃいますか?」

 

奥からメイプルを連れてきて、入団は即決定した。

 

「ダンさんのお知り合いなら、大歓迎です」

 

ニコニコ顔のメイプル。

 

「随分とかわいい子がマスターなんですね」

 

「戦闘狂で、一番エグい攻撃をするけどな」

 

ちなみにメイプルVSレイレイは、ヒドラ1発でメイプルの圧勝だった。あれ、大抵のヤツは無理なんじゃ無いのか?戦闘フィールドを毒の海にするなんて…レイレイも状態異常攻撃だが、ヒドラの猛毒の嘔吐、いやブレスを前にして毒の海で溺れていた。そして、恒例のメイプルと新人さんの手合わせなのだが…

 

「俺は【高位操縦士】なんで戦えませんよ」

 

鍛錬場に連れて来られたユーゴーは、戦え無いアピールをしている。しかし、バトル大好き少女メイプルが許す筈が無い。

 

「問題無いですよ。『全武装展開』」

 

メイプルの姿を見て固まる初見のユーゴー、レイレイ、そしてビースリー。メイプルの姿は、問題が大有りだと思うのだが…

 

「なんですか、それ…」

 

「バケモノ使いじゃ無いの?」

 

「それは、鎧巨人でも無理かな…」

 

だよね。普通はそう思うはずだ。見慣れている楓の木の面々がおかしいよな?

 

「じゃ、クマさん、お願いします」

 

レイレイと共に、ここを訪れた戦艦クマにお願いするメイプル。

 

「ここじゃ無理クマ」

 

俺もそう思う。戦艦はここに入らないと思う。機龍もダメだったし…

 

 




次話でメイプルが新形態を会得したり…d(^^;;


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

管理AIからの贈り物

---ダン---

 

なんか、最近レイレイのイン率が高い気がする。

 

「世界ツアー中で、忙しいだろ?」

 

「ジャポンを離れて以来、ダン欠乏症なの。毎日、1時間はインするのが日課だよ」

 

俺に会う為に、日課でインをしているのか?この世界的な歌姫は…俺にはそんな労力に見合う価値なぞ無いぞ。

 

「お前、クマの彼女じゃ無いのか?」

 

「うん?違うよ。元同業者だよ、彼はね」

 

しばらく…約3時間程、リアルにして1時間、スキンシップをして、アウトしていく笑顔のレイレイ。

 

「サリー、割り込んでいいぞ」

 

「私もレイチェルのファンなの。そこまで野暮じゃ無いし、昼間ダンさんとケーキ作りしているし」

 

まぁ、中学生だしなぁ。その位の距離が良いのだろう。

 

「じゃ、皇国で残党狩りだな」

 

移動式ギルドホームで皇国領へと向かう。俺とイズはティアンの村々へ向かい、地質改良とか、農機具の生産をして、食料事情を改善に励み、残り

移動式ギルドホームで皇国領へと向かう。俺とイズはティアンの村々へ向かい、地質改良とか、農機具の生産をして、食料事情を改善に励み、残りの者達で、現皇王を追い落とそうとするマスター達を成敗していた。

 

遠くで火柱が上がっている。ミィだな。威力が上がっているなぁ。違う方角では爆撃の音がする。メイプルか。ちなみにアスカは来ていない。アイツは王都でPKリストに載っているヤツラを狙撃中である。月夜と月影がメインであるけど…あいつらはチートな能力持ちであるが、射程10キロの狙撃を前にすると、何も出来ないらしい。まぁ、範囲攻撃にしても範囲デバブにしても、半径10キロもカバー出来無いしねぇ。

 

「ダン、ちょっといいかな?」

 

ビースリーがやってきた。

 

「月夜が和解したいって」

 

連日のデスペナで心が折れたのだろうか?ビースリーとは、リアルで同じ大学に通う仲らしい。

 

「和解条件は?」

 

「何がいい?」

 

「今後楓の木関係者には、敵対しないことだな。本拠地奪還なんか考えるなってこと。あと、王国の寄生虫はやめてあげて。アズライトが可哀想だ」

 

王国が疲弊すると、王女付きのアズライトの身分が怪しくなるし。

 

 

 

---Mr.フランクリン---

 

以前の戦争において、王国の王を始め大量のティアンを殺した罪で、監獄へとやってきた。う~ん、いつか、レイに復讐してやる。犯罪系クラン<IF>のオーナーが経営している喫茶店で、ティータイムをしながら、手立てを考えている。皇国亡き後、<IF>に参加するのも悪くない。

 

「こんにちわ!」

 

どこかで見覚えのある少女がやってきた。そうだ!<楓の木>のマスターだ。そうか、皇国の皇王を殺して、監獄送りになっていたのか。

 

「おい!貴様!ここで会ったのを後悔させてやる。うぐゅ!」

 

床にたたきつけられていた。なんでだ?

 

「メイプルちゃんに無礼です」

 

ウェイトレスに投げられてのか?

 

「おい!新入りよ。メイプルに無礼は許さない」

 

何故か激高している<IF>のオーナー。まさか、<楓の木>は<IF>の傘下なのか?

 

「うぉ!」

 

強制ログアウト…俺はキルされたのか?監獄で…

 

 

 

---メイプル---

 

「今の人は誰ですか?」

 

マスターに訊いた。

 

「なんだ、知り合いでも無いのに、ケンカを売ったのか、あのバカは。今度、見つけ次第にキルしてやれ」

 

店内にいたお客さんに指示をしているマスター。凄い!マスターとはこうで無いとダメなのかな?

 

「マスター、私もマスターみたいなクランマスターになりたいです」

 

「うん?俺のようにか?参考にはならないと思うが…」

 

「みんなに慕われるマスターになりたいです。マスターみたいに、喫茶店を経営すれば良いんですか?」

 

「う~ん…」

 

困った顔になったマスター。正解だったのだろか?

 

「いや、そういうものでは無いんだよ。メイプル」

 

あれ?違ったのか?

 

その後、マスターやガーベラさん達と、いっぱい楽しい会話をして、帰路に着いた。でも帰路途中でまた迷子になり、今度はレドさん、ジャバさんのいる世界に行ったりして、漸く帰り着けた。

 

 

 

---ダン---

 

皇国のバイト中、ケンカを売られた。ペットを抱えた少女にだ。

 

「お前、クラウディアの仇!戦え!」

 

クラウディアって、誰?

 

「人間違いじゃ無いのか?クラウディアって、ヤツを知らないけど…」

 

「言い訳?許さない!」

 

『ヤマアラシの方がマスターで、【獣王】ベヘモットよ。少女の方はエンブリオで【怪獣女王 レヴィアタン】。物理最強と呼ばれているの』

 

アリスが情報をくれた。物理最強か…ならば、蒼い装備にクイックチェンジし、『炎帝』をぶち込んであげた。物理最強って名乗るやつは、魔法が弱点ですよと言っているのに等しい。なので、最強の攻撃魔法を躊躇無く全力で叩き込んだ。

 

「レヴィを一撃だって?お前、バケモノか?」

 

その表情からは分からないが、驚いているらしいヤマアラシ。しかし、次の瞬間、俺に襲い掛かってきた。爪に当たると痛そうなので、受け流してのチョークスリーパーで、頸動脈の血流を遮断してやると、ドット落ちしていった。意識を狩ってのキルだから、痛みは無い筈だ。

 

『マスターはパーソナルスキル最強理論ですね』

 

それはサリーの専売特許だろうに。あの回避盾は狙撃が無理だし。

 

「メイプルの防御力、サリーの回避力、ミィの攻撃魔法、マイユイの物理攻撃力、クロムの生存能力があれば、最強じゃ無いか?俺は、まだまだだよ」

 

もっと、強くならないと…

 

『マスターの向上心は好きです』

 

それは良かった。さてと、土壌改良をしよう。

 

 

ホームに戻ると、メイプルが自信満々な顔で、俺を出迎えた。また、なんか得たのか?このチート娘は…

 

「勝負です、ダンさん。お友達に能力を頂いてきました」

 

どこのお友達だろうか?クランメンバーしか入れない鍛錬場にある巨大モニタに、新しい能力の情報を表示させたメイプル。

 

『ジャガーノートドライブ』

頭部がヒドラ、胴体が暴虐、腕が捕食者、装備が機械神となる形態に変身出来る。

 

『時空渡り』

普通に考えて行けない場所に出入り出来る

 

 

う~ん…どこで貰ったんだ?運営の罠じゃないのか?

 

『これは…たぶん、管理AIからのプレゼントだと思います』

 

と、アリスが教えてくれた。俺に対抗する為か?

 

「メイプル…」

 

サリーを始め、皆絶句状態である。その変身って、メカキングギ●ラもどきになりそうだ。機龍と戦うと、それはそれで、怪獣映画が撮れそうだぞ。

 

「さぁ、戦ってください!」

 

「いや、ここじゃ無理だ。狭いぞ。もっと拾い場所へ行かないとダメだ」

 

『時空渡り 広い場所』

 

と、メイプルが唱えると、俺達は知らない場所にいた。ここはどこだ?

 

 

 

---サリー----

 

メイプルの新スキルによって、知らない場所に転移した私、メイプル、ダンさん。あのスキルって、人数制限があったのか?三人だけで転移していた。ここはどこだよ?

 

メニュー画面を出すと、違うゲーム名が表示されているし。

 

「メイプル…違うゲームの世界に来ているわよ」

 

「え?えぇぇぇぇぇ~!」

 

ガンゲイルオンラインと表示されている世界。ここなら、二大怪獣が壊して良いのか?

 

「じゃ、取り敢えず、戦うか。『機龍!』」

 

『ジャガーノートドライブ!』

 

ダンさんとメイプルが二大怪獣になった。頭部がヒドラだったので、速攻で毒のブレスを吐きまくるメイプル。だけど、ダンさんに効果無いんだけど…毒の海になっていく世界。紫の波が周囲の自然を飲み込んで行く。『超加速』で高台へと逃げる私。

 

「シロップ!サリーを守って!」

 

メイプルの気配りにより、シロップに救援された。助かったのか?いや、その気配りは毒を吐く前にして欲しい。

 

機龍のメーサー砲を喰らっても、ダメージの無さそうなメイプル。が、如何せん機動力が無い。機動性に優れた機龍に攻撃が当たらない。ダメージが無いとは言え、機龍からの攻撃を避けられない。

 

『ウッドオクトパス』

 

グサッ!

 

いつものパターンであるが、メイプルは串刺しにされ、ドット落ちして消滅した。どんなに強くなっても、AGI値がゼロのツケは大きい。精神攻撃無しでの手合わせだと、ダンさんよりもAGI値が高い私、フレデリカ、マリーさん、アスカさんが、ダンさんに勝つときがある訳だし。

 

 

「さて、どうしよう?」

 

メイプルを倒してしまったダンさんが凹んでいる。デンドロに帰る手立てが分からないのだった。この世界にはメイプルの能力で来た訳で…

 

「まぁ、ここでサリーと二人でプレイするのもアリかな?」

 

ダンさんの言葉に耳が熱い。ここでプレイ…そんな意味じゃ無いことは分かっているけど…けど…あぁ、妄想好きでごめんなさい。身体の芯が熱くなっていく。

 

「アリス、いるか?」

 

「はい、マスターのアリスはここです」

 

あっ!二人っきりじゃ無くなった。ダンさんの問い掛けにより、黄金鎧の少女、アリスが現れた。でもメイプルにそっくりなカエデより、気配りをしてくれるから、私的には安心だけど。

 

「ここから戻れるか?」

 

「ちょっとお待ちください…なるほど…そうですか」

 

アリスが誰かと会話をしている。誰とだろうか?このゲームの運営か?

 

「わかりました。もう少し待つと、マスターのボスが迎えに来るそうです。で、この世界は、銃と剣で戦う世界らしいのですが、楓の木で征服しませんか?」

 

征服?出来るの?一クランの立場だけど…

 

「NWOの管理AIが、クラン<楓の木>を、ここでのイベント遠征を決めたそうです」

 

管理AI?とうとう、人間の手で負えなくなって、AIに頼ったのかな?

 

「そうなのか。狙撃練習が出来そうだな」

 

「その為のステージにお使いください」

 

なんか嬉しそうなダンさん…まだ見ぬ敵に胸躍らせているのかな?いやな予感しかしない。

 

 

メイプルに救い出され、無事にNWO経由でデンドロの世界に戻れた。よくよく考えると、カエデの能力で帰れたらしい。メイプルが進化すると、ほぼノータイムでカエデのステイタス等も更新されるそうだ。

 

「NWOの運営さんから、招待状が届きました。GGOのイベントに招待されたそうです。みなさん、参加の意思はありますか?」

 

ギルドマスターであるメイプルに。招待状が届いたらしい。

 

「俺とアスカは参加だ」

 

「ダンさんが行くなら私もです」

 

メイプルは参加で、ミィ、ミザリー、フレデリカ、ビースリー…次々に参加表明をした。不参加は、不定期インのレイレイだけのようだ。まぁ、世界ツアーの真っ最中だしなぁ。最近はインしても、ダンさんとスキンシップだけしてアウトしているし。

 

「魔法やアイテムの使用も可能だそうです。相手は戦闘のプロ集団なので、思いっきり暴れて、NWOのレベルの高さを見せつけて来てとあります」

 

NWOのレベルの高さというか…『楓の木』の凶悪性のアピールの間違いでは無いのか?

 

 




次回、ピンクの悪魔登場です。

サリー並の回避力に、キルした後の笑顔はメイプルのような…だけど、マシンガンではバケモノ相手するには…(^^;;


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

スペシャル・スクワッド・ジャム

本日2本目

04/27 修正加えました


---レン---

 

スペシャル・スクワッド・ジャムが行われるらしい。何がスペシャルかと言うと、違うゲームの最強最悪と呼ばれるギルドを招いたそうだ。

 

「う~む、思い当たるギルドは1つだけじゃな」

 

相棒であるフカ次郎が教えてくれるようだ。中の人は地元である北海道の親友であり、GGOの他、ALOもプレイしているゲーマーである。

 

「フカ、それって何のゲームのギルド?」

 

ゲーム名で戦い方が分かるかもしれない。

 

「NWOの楓の木じゃ」

 

えっ…運営の予想を斜め上に行く強さで、追放された噂があるギルドか…実際には追放では無く、彼らのレベルにあったゲームへの遠征らしいが、銃の世界で戦えるのか?NWOってファンタジー要素のゲームだよね?魔法と剣のVR-MMOだった気がする。

 

「現在、デンドロに遠征中のようじゃが、既にランカーが数名いるそうじゃ。適応力も最強レベルなのじゃろう」

 

銃弾で鎧を撃ち抜けば良いはずだ。最悪な場合は頭部を砕けば良い。

 

「なら、いけそうだね」

 

「どうだろうな。実際問題…銃が効くか、そこか問題だよ」

 

へ?銃が効くか?普通に考えて、ファンタジー世界の鎧は銃で貫通じゃないのか?

 

「そんなに鎧が固いの?」

 

「ギルドリーダーのVIT値は素で20000を越えているそうだよ。GGO換算だとグレネードで倒せるかどうかのレベルなんだよ」

 

グレネードランチャーで倒せないの?装備無しの状態で…バケモノか?

 

「付いた二つ名が【歩く要塞】とか【空飛ぶ要塞】だと」

 

飛ぶ?飛べるの?はぁ~?浮遊魔法かな?

 

「まぁ、ファンタジーな世界だからだよね?」

 

「他にも【姿無き狙撃手】、【情け容赦無きテロリスト】なんかがいるそうじゃ…ピトフーイとエムのコンビでもキツいかもな」

 

なんか、ヤバい相手のようだ。

 

 

イベント当日…いつもよりも異様な雰囲気に包まれている参戦者の待合所。まだ見ぬ強敵に対し、スクワッドと呼ばれる分隊ごとに作戦会議をしている。今回の目的の1つは、スペシャルゲスト集団の殲滅で、その後、生き残り戦をするようだ。それはGGOの全プレイヤーVS楓の木という構図になる。イベントとして成り立つのか?たった1つのギルドの殲滅程度で…

 

イベントが開始され、スクワッドごとにマップに転移されていく。地形なんかは出たとこ勝負である。私達が出たのは岩山の頂上であった。ラッキーである。狙撃するには最適な場所だ。私達のチームの狙撃手二名が狙撃態勢の準備に入った。ピトさんとエムさんのコンビである。私の銃は短距離用で、フカのランチャーは中距離用であるので狙撃には向かず、周囲の警戒をする。

 

突然地面が揺れ、遠くで火柱が上がっている。魔法攻撃か?

 

バシャ!

 

近くで何かをぶちまけた音がした。音源の方を向くと、エムさんの頭部が砕け散っていた。岩山の頂上を狙撃って?どこから?周囲にはここより高い山は無い。

 

「いた!レン!上だよ!うえぇぇぇぇ~!」

 

フカの叫び声で上を見上げると、上空に何かが浮かんでいて、たまに光点を周囲へ撃ち出している。ウソっ!上空からの狙撃…フカがプラズマ光弾を上空へ撃ち出した。すると何かが飛び出し、浮遊していた物が消えた。飛び降りたのか?

 

「プラズマランチャーがあるのか」

 

聞いたことの無い男性の声。振り返ると、ピトさんの生首を手にした男性が立っていた。

 

「はい、プレゼント」

 

ピトさんの生首を放り投げてきた。思わず手が引っ込み、ピトさんの生首は岩山を駆け下りていった。

 

「君達、いいねぇ。メイプルと良いトリオになりそうだ。俺達のギルドに来ないか?」

 

フカと共に銃を連射していく。彼の目の前に黒い鎧の少女が二人現れ、マシンガンの弾を弾き、グレネードランチャーの弾は撃ち出した瞬間に爆発していく。狙撃されているの?どこから?

 

「弾切れかな?アスカ、ここから狙撃してくれ。カエデはアスカの盾、アリスはこの二人のコンバートを頼む」

 

頷く三名の少女達…コンバートって何?

 

「あの…クラン<楓の木>のマスターのメイプルです。毒と防御が得意です。あ…の…仲間になってもらいましゅ…あっ、噛んだ」

 

黒い鎧の少女は真っ赤な顔で俯いてしまった。

 

「すまない。コイツ、あがり症なもので」

 

デフォルト顔の男性…

 

「お前は何者だ?」

 

フカが訊いてくれた。しかし、返答は無く、

 

「マスター、コンバート成功です。フカ次郎、レンともにデンドロのクラン<楓の木>のメンバーになりました」

 

デンドロのゲームにコンバートされたの?どうやって?

 

「俺はダンだ。クラン<楓の木>のメンバーで役職は無い。得意なのは、狙撃と飛行かな?。向こうにいる狙撃手はアスカだ。射程距離は10キロだから、まず逃げられない」

 

射程距離が10キロ?手にしているのは短銃なのに…うん?あの短銃から光弾が撃ち出されている。あれって…

 

「あれは手持ちのレールガンだ。最近じゃ、撃ち出した弾がホーミングするらしい」

 

追従するって、逃げられないのか。

 

「二人の情報が分かりました。ピンクの子はレン、本名が小比類巻 香蓮、二つ名は【ピンクの悪魔】で東京の大学に通い、もう一人はフカ次郎、本名が篠原 美優、二つ名は無く、北海道の大学に通っています」

 

黄金の鎧の少女は何者だ?私達の本名や通っている大学までがバレている。ヘタを踏むと、リアルで痛い目に遭いそうだ。

 

「あぁ、彼女はアリス・セカンド。俺のエンブリオ、相棒だよ」

 

エンブリオ?使い魔か?まさか、システム潜入タイプか?

 

「ダンさん、残り1時間ですよ」

 

「じゃ、最後に暴れるか?」

 

「いいですね」

 

『機龍』

 

『ジャガーノートドライブ』

 

二人の姿がメカゴ●ラとメカキングギ●ラになっていく。なんだ、この二人の能力は…地面が紫色に染まっていく。ツーンとする臭い…毒の海…そういえば、さっき、毒が得意って…

 

 

 

---サリー---

 

アリスのチートさは最強レベルであった。GGOで見つけたメイプルと似た感じのプレイヤー2名を、デンドロにコンバートさせたとか。

 

「ダンさん、いいの?」

 

「運営が何も言わないし、言われたら返却するみたいだし」

 

まぁ、運営から何もクレームは無いからいいのか?そもそも、運営が納得していなかったら、コンバートは出来無いものね。それに、二人の得物である銃に無限カートリッジがプレゼントされた。運営が認めた証か?

 

「ダンさん、責任を取って手取り足取りこの世界のことを教えて下さいね」

 

レンは真面目な性格でダンさんを質問責めし、相棒のフカは既に楓の木に溶け込み、みんなとマッタリとしていた。

 

「あれ?クランのポイントが増えているわよ」

 

イズさんが声を上げた。本当だ。これって、遠征分のポイントか…他のゲームのイベントなのに、変なシステムである。遠征の結果は、GGOの全プレイヤーを殲滅させてしまった。猛毒耐性がなかったせいで、ヒドラの毒から逃げられなかったようだ。

 

「あれ?ふ~ん。NWOの運営からメッセージで、ペインさん達のギルドが1週間くらい遠征に来るらしいよ」

 

メイプルが声を上げた。きっと、ペイン達上層部は王都に足を踏み入れることは無いだろうな。アスカさんが狙撃するに決まっている。

 

『なんでペイン、ドラグ、ドレッドがいるんだ?思わず狙撃したけど』

 

と、アスカさんからメッセージが届いた。メイプルが事情を返信しているようだ。きっとNWOは加速中で3時間イベントかもしれない。ペイン達は終わったな。ここのデスペナはリアルで24時間だし…

 

 

 

---小比類巻 香蓮---

 

少し遠出をして、有名なカフェに来たのだが…どこかで見たような少女達がいた。あれって、メイプルとサリーだよな。アバターにソックリだし。ここは、モロボシ洋菓子店の喫茶ブースである。結構高級路線のカフェで、世界的にも有名なお店として雑誌で紹介されていた。あの世界的歌姫であるレイチェル・レイミューズが来日の際に足繁く通う店だと言う。そのレイチェルと同じテーブルにいるメイプルとサリー。どういう関係だ?

 

「ねぇダン。今日は1日オフなの。責任取ってお持ち帰りされなさい」

 

レイチェルがトンでも無いことを言っている。少年をお持ち帰りしようとしていた。少年は白衣を着ており、厨房のバイトのようだけど。

 

「はぁ?責任取るのはお前だ!俺の初めてを返せ!将来、心を寄せる女性に捧げる物だろうに!」

 

はぁ?あの少年の初めてを食べたのか?

 

「わかったわ。じゃ、責任を取って私と結婚してくださいね。私の稼ぎで、二人でマッタリしましょうよ」

 

「何を言っているんだ、お前。ゲーム同様、脳ミソが溶けたのか?」

 

ゲーム同様?まさか、あの少年もレイチェルも、楓の木の関係者か?楓の木のメンバーの顔を思い出す。レイチェルは、レイレイに似ている。そう言えばレイレイの能力って、敵の皮以外の部分をドロドロに溶かすんだったわね。彼の言動に一致する。

 

「脳ミソは溶けないけど、身も心もダンに蕩けているわよ」

 

ダン…あのデフォルト顔かぁ!あいつ、私よりも歳下だったのか…

 

「ねぇ、あなた、レンちゃんだよね?」

 

突然、耳元で囁かれた。

 

「えっ!」

 

ガタン!

 

油断していた私は思わす席を立ち、大きな音を立ててしまった。

 

「レン?あの?へぇ~、こんな素敵な女性だったのか。レイレイも見ているだけなら素敵だったのにな~」

 

素敵?初めて男性にそんなことを言われた。背が高いだけの女なのに。

 

「兄さん、自覚して、自重してね。また胸キュンさせたよ」

 

兄さん?じゃ、彼女がアスカなのか?

 

「じゃ、ダンの好みは?」

 

ちらっとサリーを見て、

 

「話すならサリーが一番だな」

 

「一緒に寝るなら?」

 

「アズライトかな…現実には無理だけどな」

 

アズライトって、王女付きのティアンだっけ??

 

「兄さん、アリスは?」

 

「妹枠かな」

 

ティアンが相手じゃ嫉妬は…あれ?なんで嫉妬しているんだ、私…

 

 

 

---白峯理沙---

 

また、ライバルが増えたようだ。レイレイさんは月平均3日くらいしか通えないので論外であるが、レンは要注意だな。まさか、正さんの初めてをレイレイさんがゲットしていたとは…ドンだけ好きなんだ?ゲーム内でもリアルでも…って、正さんって、リアルでも『魅了』が使えるのか?そんな疑問が浮かぶ今日の明日奈さんの発言であった。

 

明日奈さんに相談すると、

 

「兄さんは、ケーキとバトルしか興味が無いよ、今はね。理沙ちゃんは理沙ちゃんであることが重要だからね。成長待ちなんだろうな」

 

と、期待を持たせくれるのだが、果たしてそうなのか?

 

レイレイさんやレンのようなスタイルになる自信がまるで無い。う~ん、困ったなぁ。勉強は努力すればどうにかなるけど、胸の大きさとか形は遺伝だよなぁ~。

 

 

 

---サリー---

 

う~ん…カスミがAGIとDEFを大幅に強化する防具を手に入れた。出所はダンさんからガチャの賞品をプレゼントされたとか。これ、運営の罠じゃ無いのか?

 

「どうかな?」

 

顔が真っ赤である。あの呪われたビキニの方が着やすいかもしれない。黒のレオタードなのだが、身体の凹凸が丸見えのボディコン仕様であった。エロオヤジ化が進むクロムさんが、先ほどからガン見するレベルである。

 

「ダン…どう思う?」

 

「二度見するくらい似合っているかな…効果は抜群だし、有りじゃないかな」

 

「そうか…やはり…でもなぁ…」

 

悩むよな。くノ一仕様なのか、腕と脚は網タイツだし…男性視線だとアリだろうな。でも…

 

「ダンさぁぁぁぁ~ん!クマさんに勝ったよぉぉぉぉぉ~!」

 

笑顔のメイプルが帰って来た。まさか戦艦クマに勝ったのか?響めく室内。

 

「何だと?アイツに勝ったのか?」

 

「うん。次はダンさんだよ。勝負して!」

 

「う~ん…クマはデスペナか?」

 

「うん、そうだよ」

 

凄く嬉しそうなメイプル。複雑な表情のダンさん。みんなで決闘場代わりの荒れ地へと向かった。そこは風景が一変していた。あったはずの山々が無くなっていたのだ。山があった部分から山向こうの砂漠にミゾが掘られているのが分かる。メイプル…あんた、何をやったんだ?

 

「相当な威力だな…」

 

「一撃で戦艦をデスペナですよ」

 

そして、メイプルとダンさんの勝負が始まった。結論だけ言おう。いつものワンパターンな決着である。機械神になり主砲の溜め時間に『ウッドオクトパス』で狙撃されて、デスペナを受けたメイプル。AGIを強化しない限り、メイプルに勝ちは来ないかもしれない。

 

本拠地に戻り、カエデを使ってメイプルが手に入れた新スキルを調べた私達。

 

『はどう砲』

エネルギー充填を120%することで使用できる機械神の必殺技級の主砲。

 

これって、宇宙戦艦ヤ●トの主砲か?なんて装備を手に入れたんだ?

 

「これは、喰らったらダメなヤツだけど、溜め時間が長い分対処は簡単だな」

 

ダンさんがほぉっとしたと同時に、凹んでいた。先にクマさんを倒されたことにショックを受けたのか?

 

「くそっ!あのクマ公、俺との勝負を避けているくせに…」

 

それは既に、クマさんより強いって認められているのでは無いだろうか?態々デスペナ覚悟で決闘はしないし、負け戦だと弾薬が勿体ないし。

 

 




次回は閃光の●●●が登場…(^^;


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

グランド・クエスト


04/27 修正を加えました


---ダン---

 

忘れていたことを思い出した。メイプルが使えるスキルであれば、俺でも、カエデでも使えるってことにだ。ここ最近、メイプルの強化が激しく行われている。AGIの差で俺がまだ優位であるが、それもいつまで優位かが分からない。ここらで、俺も脱皮をした方が良いと思ったのだ。

 

『時空渡り 強い敵のいる場所』

 

禁断のスキルを発動すると、塔の前に出た。ここはどこだ?

 

『アルヴヘイム・オンラインの世界樹の前です。ここではグランド・クエストが行われています。世界樹の上にある空中都市にいる<<妖精王オベイロン>>に謁見することがクエスト内容です』

 

アリスが説明をしてくれ、俺の横に現れた。

 

「強敵なのか?」

 

「えぇ…内部は空洞であり、内部壁にある石像が総てモンスターであり、それらの殲滅が目的でもあります」

 

空中都市か…

 

「空中戦だな?」

 

「はい」

 

漸く、全力で戦える相手に巡り会えたようだ。世界樹の中に入り、カエデ、アナを召喚した。

 

「カエデ、機械神だ」

 

「了解!」

 

「アリスは飛べるのか?」

 

「使い魔にドラゴンが居ますから、ドラゴンナイトとして参戦いたします」

 

なるほど、俺は機龍になった。

 

「さぁ、行こうぜ!」

 

「「はい!」」

 

 

夥しい数のガーゴイルが特攻してくるが、360度回転のメーサー砲で焼き払っていく。カエデのロケットランチャーは石像状態のヤツを粉々にし、俺達が撃ち漏らしたヤツラは、アナとアリスが処分していく。ステンドグラスから4枚の羽を持った騎士が生み出されていく。まずは発生源であるステンドグラスを破壊しながら、騎士も撃破していく。ウザいなぁ。『炎帝』で焼き払っていくか。

 

しばらくすると天井が見えて来た。機龍では入れない大きさのゲートがあるので、アナを戻した後で、蒼い装備にクイックチェンジして、ゲートを通過した。しかし、そこには空中都市なんか無かった。

 

「どういうこと?」

 

「何者かがマップデータを改ざんしたようです。解析をしてジャマ者を排除します」

 

アリスは一旦戻り、代わりにデミウルゴスを召喚してくれた。ポチも出しておくか。戦闘要員は多いほど安全である。ガードロボがあらゆる場所にいる。空中都市では無く、宇宙ステーションのようだけど…

 

「クリア賞品を見つけました。ジャマ者は排除しました。こちらです」

 

アリスが戻って来て、道案内をしてくれた。クリア賞品は、人工庭園にあるみたいだ。木々が生い茂るエリア。ここまでの人工物感は少ない。道が狭いのでポチを戻した。生い茂る木々や草などを押し分けて進むと、巨大な鳥かごを見つけた。かごの中には、妖精の女性が拘束され、吊り下げられていた。彼女の全身には蹂躙された痕跡があり、ここで誰かに遊ばれたようだ。

 

アリスが手を翳すと、鳥かごの中に入れ、その女性の拘束を解いてあげた。浄化魔法、修復魔法、回復魔法を使い、妖精の女性を治療していく。

 

「あなたは?」

 

意識が戻ったようだ。

 

「ダンだ。君は?」

 

「アスナ…」

 

「データ検索にヒットしました。アスナ…偽名は女王<ティターニア>、本名は結城明日奈、高校生です」

 

「なんで、私のことを…」

 

怖い物を見たって顔の女性。ティアンでは無く、プレイヤーのようだ。

 

「君を自由にして上げる」

 

「マスター、彼女は賞品です。堪能してくださいね」

 

アリスの言葉により、俺はアスナと共に別のフィールドに転移して、身体を重ね合い、彼女と愛しあっていた。そして、気づくとログアウト…あれ?デスペナか??クエスト失敗ってことかな?これがかの有名なピンクトラップかな?

 

 

 

---結城明日奈---

 

不思議な夢を見て目覚めた。漸く現実世界に帰還出来たのだ。デスゲームに捕らわれ、長い間、ゲームの世界にいた。そんな私を助けに来てくれたダン。

 

彼と愛し合うこと…それが彼へのお礼だったようだ。彼は愛情に飢えていたのだろうか?私を愛おしく扱い、私がリードして関係を持った。今考えると恥ずかしい。私の身体と心は貪欲なまでに彼を求めていたのだ。

 

イヤイヤでは無く、無理やりでも無く、お互いがお互いを求め合う愛の行為。そう、こういうことを求めていたのだ。ほぼ同時に達し、彼は目の前から消え、代わりに私は目を覚ました。

 

体力を付け日常生活に戻れると、彼を…ダンを探し始めた。気になるのだ。お礼を言っていないし。彼は何も求め無かった。何もは語弊があるな。私の求めに応じて、彼も私を求めてくれた。ただ、私の求めを尊重してくれる彼の行為は、私の琴線に響いたのかもしれない。

 

色々なゲームの掲示板を見て回る日々…彼のアバター名を求めて、ネット内を彷徨う。そして、それらしい人物を見つけた。<Infinite Dendrogram>のクラン<楓の木>に所属しているようだ。ネットゲームは恐いけど、彼に会いたくて…そのゲームを購入して、アクセスをした。

 

 

 

---ダン----

 

全力で戦えたが、得たものは見知らぬ女性との逢瀬だけか。まぁ、あれだ。比べてはいけないのだが、レイレイのテクニックには負け、アズライトの気持ち良さに負け…まぁ、一つの想い出だな。その際、デスペナを喰らったのは、俺が達したらしいので、今までで一番気持ち良かったのだろう。

 

「ダンさん、何と戦ってデスペナですか?」

 

サリーは勘が良すぎるだろう。なんで、デスペナを喰らったことを知っているんだ?誰にも言っていないぞ。まさか、ピンクトラップ紛いでデスペナしたとは言えない。

 

「なんのことかな?」

 

「じゃ、何と戦ったんですか?メイプルのレベルが今日1日で異常に上がったみたいですが」

 

あっ!そういえばこっそり経験値をメイプルに譲渡したな、さっき…

 

「後、クランポイントとダンさんのポイントが大幅に増えているんですけど…」

 

そういえばここのクランって、アリスの恩恵で個人データが見られたな。デス回数とか…

 

「さぁ、吐けぇぇぇぇ~!」

 

「嘔吐すればいい?」

 

「ポーション飲み過ぎですか?!」

 

心配そうにメイプルが寄って来た。話題をすり替えられるかな?

 

「ダン!お客さんが来たぞ。また、どこかで漁をしたのか?」

 

頭を抱えたカスミがやってきた。誰が陸釣り師だ?人聞きが悪いぞ!

 

「な訳があるか。俺は来月のケーキで頭がいっぱいだよ」

 

9月かぁ~、栗かな?モンブランでは意外性は無いよな。って、玄関口へ向かうとどこかで会った覚えのある女性がいた。

 

「ダンさんですよね?この前は、ありがとうございました。ALOで助けて貰ったアスナです」

 

「あぁ、あの時の…すまなかった。あの時俺、昇天してデスペナ喰らっていたよ」

 

「おい!デスの理由はそれですか?!」

 

背後からサリーの呆れた声が聞こえた。

 

 

アスナも楓の木に入会した。

 

「へぇ~、明日奈さんって言うんだ。私と同じ名前だよ」

 

アスカが同名ということで、直ぐに馴染んだ。俺はよく知らないんだが、サリー達はアスナが巻き込まれたSAO事件について知っていた。

 

「で、そのSAO事件ってなんだ?」

 

「誰か一人でも完全クリアしないと、ログアウト出来無いオンラインゲームがあったんですよ」

 

俺がゲーマーに種族変換する前のことらしい。

 

「じゃ、アスナは剣術が得意なんだな」

 

ということで恒例の手合わせタイム。珍しくメイプルが名乗り出ず、代わりにカスミとサリーが名乗り出た。まず、カスミと対戦をしたのだが、戦闘スタイルがサリーと酷似していた。手数の多さ、正確さ、速さ、どれも文句無しのレベルである。

 

「クランの戦力の強化出来ました。これもダンさんのおかげです」

 

メイプルが喜んでいる。ならいいか?

 

「あぁ、そういえば、新しい大陸が見つかったそうですよ。名前はアルヴヘイム大陸で、観光名所として浮遊城アインクラッドがあるようです」

 

アリスがいち早く情報をキャッチしたみたいだ。

 

「えl?そうなんですか?アリスは相変わらず早耳ですね」

 

記者のマリーが驚いている。このマリーも楓の木に入会した。アリスの早耳情報狙いらしい。

 

「アインクラッドかぁ…SAOの舞台になった都市です」

 

アスナが辛そうな顔になった。

 

「まぁ、行かないでもいいだろう。狩りは近場で出来るし」

 

助け舟を出したのだが、メイプル、サリーが興味を持っているようだ。

 

「皆さんで行ってみませんか?」

 

「じゃ、俺はアスナとアスカと三人で留守番する」

 

速攻で意志表示をした。

 

「どうしてですか?」

 

「はぁ?レイレイとアズライトが、遠出は許さないと思うんだ」

 

「ああ、確かに…」

 

俺とスキンシップするだけのインをするレイレイ、この国に仕えるアズライト。長い期間の留守は両者ともやさぐれる原因にもなりうる。

 

「転移魔法があれば、便利だけどな」

 

そこまでチートな魔法を使える者は、在籍していない。

 

「移動式ギルドホームで行き来するのは?」

 

メイプルが食い下がって来た。待てよ、あれに転移魔法の魔方陣があったなぁ。アリスにこっそりとお願いをしてみたら、了承してくれた。完成を待とう。

 

 

 

---キリト---

 

新生ALOにアスナの姿は無かった。メールで訊くと、違うゲームを始めたらしい。

 

「お兄ちゃん、去った女のことは忘れた方がいいよ」

 

妹のリーファはそういうが、ゲーム内で結婚をして家を買い、同居していたんだよ。そして、ゲーム内とは言え大人の関係である。

 

「それよりも、新しい大陸が実装されたみたいだぜ。未だ見ぬ敵と戦うってどうだ?」

 

クラインが暢気な事を言う。

 

「敵の強さが分からないのは危険だ」

 

「それよりもエギル、ALOのグランド・クエストをクリアした人物は分からないのか?」

 

その人物がアスナといる可能性が大である。

 

「分からないんだ。普通は自慢しそうなものだが…偽者は横行しているけどな」

 

アスナに触れないヤツらは皆偽者だ。あの世界樹の上に、アスナは幽閉されていたんだから。

 

 

 

---諸星正---

 

世間ではお盆休みであるが、里帰りの土産として店の焼き菓子や生菓子を買いに来るお客さんが多数いる。なので、お盆休みも営業中である。厨房では理沙と明日奈が見学に来ていて、妹の明日奈の作業を観察している。まずはこれから作るケーキの材料の計量をする。試作の場合、お店で売る大きさでは作らず、小さめで作るのであった。

 

「1+1が2にならないから、どのくらいにするかは経験だよ」

 

あのがさつな妹が説明をする日が来るとは…

 

「ダンさん、私達も良いですか?」

 

マイとユイの姉妹も厨房見学会に参加するようだ。彼女達と付き添いの母親用の厨房着を手渡して、作業に戻った。現在、使う食材の下処理中である。まだ栗にするか柿にするかを決めていないのだが、干し柿を細かく刻み、すり鉢で擦っていき、裏ごしをした。

 

「何を作るんですか?」

 

いつの間にか参加している楓に訊かれた。コイツ、いつ来たんだ?厨房着には『かえで』と書かれている。俺の知らない内に、楓は専用の厨房着を貰ったようだ。俺の両親的には楓は、既に高校卒業後、いや中学卒業後に入店決定なのだろう。

 

「干し柿で、モンブランみたいなやつだ」

 

妹の焼いた生地を型抜きして、デコレートしていく。そして、試食…

 

「うっ!こう来たか…」

 

妹の予想とは違う感触だったようだ。寸前の閃きで、中層に柿と栗のクリームを挟んでみたのだった。

 

「兄さん、くどいかも。中層は生クリームがいいかな?」

 

「生だと地盤が柔らかすぎる。そうだな、クリームチーズを足すか?」

 

「また、高いのが出来そうだね」

 

「だな…」

 

俺と妹のコンビの新作は、材料費が高くなる傾向にあり、それは販売価格に転嫁されていき…テイクアウト専のイズ達の悲鳴へと変わる。

 

 

 

---ダン----

 

仕事が終わり宿題をこなして、ゲームにインをした。

 

「マスター、出来ましたよ」

 

アリスが隣に出てきて、お願いをしたスキルが完成したことを教えてくれた。『カバームーブ』を改造した転移術である。試しにウザ男のレイの元へ転移して、キルして戻って来た。成功である。これって、暗殺し放題かな?でも、知らない人物や知らない場所へはムーブ出来無いのが難点であるか。

 

「今度は何をやらかしたんですか?」

 

が、転移して戻って来たところをサリーに見られていた。

 

「何もしないよ。サリーは疑り深いなぁ…」

 

「ふ~ん…」

 

「ダン、お客さんよ~」

 

イズに呼ばれ玄関先へと向かうと、アズライトがいた。珍しいな、リリアーナを通さすに来るとは。

 

「どうしたんだ?」

 

「クエストを受けてくれない?」

 

「どんな?」

 

「また遺跡が見つかったの。その調査隊の護衛なんだけど…」

 

「わかった、メイプルが来たら打診してみるよ」

 

「お願いね。じゃ、行きましょうか?」

 

どこに?クエストじゃないよね?って…いつもよりも高めの宿に連れて行かれた…

 

「ねぇ、隣接するカルディナって国家が無くなったの、知っている?」

 

余韻を愉しみながら、アズライトに訊かれた。高めの宿にしたのは、盗聴防止らしい。

 

「いや、知らない」

 

その国は知らないが、たぶん原因は知っている。メイプルの『はどう砲』が原因だろう。

 

「国土の中心部分だけ削られた状態だったそうよ」

 

そうか、あの砂漠地帯には国家があったのか。移動式ギルドホームでアレの威力を見て来たのだが、東にあった国家までには到達はしていなかったが思いっきり砂漠の砂を吹きかけていた。射程距離はアスカの狙撃よりも長距離である。が、AGIが無い為、俺の脅威にはならない。撃たれる前にキルすれば良いのだ。ちょうど、エネルギー充填中は、メイプルは行動不可のようで大きな標的状態であった。

 

「そのおかげで、あの国の犯罪者の大多数が監獄行きになったそうよ」

 

結果的には良かったのか?ギルドホームに戻り、メイプルにクエストのことを話した。

 

「クエストですか。受けましょうよ」

 

メイプルは乗り気のようだ。反対意見は無い。不参加はレイレイくらいかな。リリアーナを通じて、日程の調整をしておくか。

 

 




次回は、新大陸ネタです(^^;;




目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

新大陸


04/27 修正を加えました



---メイプル---

 

クエスト前に強化をしないと。『時空渡り』で新大陸へと渡った。ここで武者修行だな。

 

森の中を歩いて、モンスターを探す。オークの群れをキルしていく。大群にはヒドラがよく効く。初見の羽の生えた紫色のオオトカゲを見つけて、食べてみると、『邪眼』というスキルを得た。呪い系で相手のステイタスを一定時間著しく下げるようだ。これでダンさんを倒せるかな?

 

「おい!お前、見かけない種族だな?」

 

現地人に見つかったみたいだが、何故か敵視されている気がする。迷わず『捕食者』でキルする。しばらく、その場で様子を窺うが、仲間を呼ばれた様子は無いようだ。更に奥へと向かう。

 

「いた!お兄ちゃん、アイツじゃ無いの?」

 

上から声が聞こえた。羽を持って飛んでいる集団。そうか、この世界では、みんな飛べるのか。空への警戒はしていなかった。反省しないとダメだな。

 

「全武装展開!」

 

機械神になり空に飛び上がり、私に対して身構えている集団をキルしていくが、黒い服の男性の一撃でキルされた。この世界では貫通するんだ…剣術で…

 

NWOで無双をして時間を潰し、72時間後にデンドロへインをした。

 

「しばらく見なかったけど、どうしたんだ?」

 

ダンさんに訊かれた。

 

「新大陸に武者修行に行ってキルされました」

 

「えっ!メイプルが?」

 

サリーが驚いている。しかし、ダンさんは驚かない。なんで~?

 

「どうせ油断をして、貫通攻撃でも喰らったんだろ?」

 

「正解です、ダンさん…」

 

さすがである。私のウィークポイントを知っているようだ。

 

「ボスの戦闘ログから、相手はキリトと言うプレイヤーです。二つ名は『黒の剣士』ですね」

 

アリスには情報がダダモレのようだ。

 

「キリト君…」

 

アスナさんの知り合いみたいである。噂のSAOサバイバーって人達か。それは、負ける訳だな。私よりも死線を潜り抜けているのだろう。

 

「メイプル、アスナの知り合いだからって納得するな。どんな相手でも心を折って納得するなよ!」

 

ダンさんからの激励。それとも、ダンさんの闘争心に火が付いたか?

 

「どうするんですか?」

 

「お礼参りだな。ふふふ」

 

えっ!遠出は禁止じゃ…私の復讐って大義名分だと、私がレイレイさんとアズライトさんに、絞られそうだよ。いやだなぁ…あの二人、ねちっこいから。

 

 

 

----ダン---

 

新大陸へお礼参りしに行くことになった。メンバーはいつも通りレイレイを除く全員で、移動式ギルドホームで移動をした。まず、拠点を作る。浮遊城に着陸し、アイテムボックスに移動式ギルドホームをしまい、アスナの情報から22階層に持ち家を持てることを聞き、そこに新大陸支部を置くことにした。そこまでの移動中に、お金を皆で稼ぐ。

 

「凄い…どの階層も殲滅に近いですね」

 

アスナが俺達の火力に驚いている。手加減はしているんだが。途中PK集団と出会うが、瞬殺をする。こちらもPK専が数名いるから。

 

「PK専がいるんですか?」

 

「あぁ、俺とアスカ、サリー、ビースリー、マリー、フレデリカ、ミザリー、レン、フカがそうだよ」

 

敢えてメイプルの名前を外す。こいつPK専では無くて、殲滅専だと思うから。メイプルの火力は、1VS1だとオーバーキル過ぎるのだ。名前を挙げて貰えず、凹んでいるメイプル。実際、今の戦闘では、メイプルは一人もキルできていない。AGIが無い為、本職のPK専がかたづける速度に追いつかないのだろう。

 

「アスナも勘が戻れば、期待していいのかな?」

 

「勿論です」

 

その後も、出会う敵は殲滅していく。いや、早い者勝ちである。唸るメイプル…出番がまったく無い。PK専では無いカスミとミィにまで、先を越されているし。

 

「う~ん…」

 

「メイプルはボス専だな」

 

「でしゅね…」

 

項垂れるメイプル。本人も分かっている弱点だろう。そして、漸く22階層に付く頃には、大きな家が買える金が稼げていた。

 

「じゃ、今日は家を買って、ログアウトだ」

 

 

翌日インをすると、レイレイとアズライトがプンプンしていた。

 

「どこへ行ったのよ?」

 

「長旅禁止よ、依頼したクエストもあるんだからね」

 

取り敢えず場所を変えて、1時間ほどスキンシップをしてみた。

 

「新大陸かぁ…世界ツアー中で無ければ、行きたかったなぁ」

 

「そうか、新大陸の調査か。それは必要ね。ゴメンね、さっきは…」

 

更に1時間…今度は二人共甘えてきた。更に1時間後、漸く二人に解放されたので、昨日のメンバーで新大陸の支部へ転移をした。

 

「転移術…いつの間に…」

 

サリーが驚いている。

 

「味方で良かったわ。ふふふ」

 

イズはいつも通りだ。メイプル、マイ、ユイ、ミィの瞳が輝いている。後の者達は、多少のチートでは驚かないし、憧れもしない。

 

「今日はどうしますか?」

 

「前半は、ここの設備を使いやすくする。後半は狩りだ。メイプルをキルしたヤツらをな」

 

アリス、探しておいて。

 

『了解です』

 

 

 

---アスナ---

 

近所の雑貨屋へダンとお買い物。楽しい時間である。ダンから聞くケーキの話は興味津々である。だけど、楽しい時間は続かない。

 

「アスナ!貴様!俺のアスナに何をしているんだ?!」

 

私の肩に手を回していたダン。キリト君がダンに詰め寄るが、手首を捻られ、そのまま一本背負いで投げ捨てられた。

 

「キリの字、大丈夫か?」

 

「お兄ちゃん!」

 

マズい、仲間を連れて来たのか。

 

「アスナ!貴様が、アスナを監禁していたのか?」

 

ダンにえん罪をかぶせようとしているキリト君。

 

「違うの、彼はねぇ」

 

私の声はキリト君に届かない。怒り有りきのようだ。

 

「決闘しろ!」

 

「絡まれての自己防衛は罪にはならないな」

 

「はい、そうです、マスター」

 

アリスとカエデが現れた。

 

「カエデ、アスナを守れ。アリス、やるぞ」

 

「はい、マスター「クイックチェンジ!」」

 

アリスが金色の鎧を、ダンが蒼い鎧を身に纏った。戦闘態勢だ。もう、止まらない…キリト君たちも剣を手にして、襲い掛かってきた。しかし、一瞬で勝負は着いた。キリト君達の頭が胴体から離れて行った。

 

「もう、大丈夫だぞ、アスナ」

 

笑顔のアリスとダン。さすが、PK専である。キリト君の剣を受け流しながら、素手で首を掴み、引き千切っていたダン。アリスは剣技で残りの者達の首をはねていた。

 

装備を元に戻し、何事も無かったように雑貨屋へと向かう私達。

 

 

 

---キリト---

 

俺の買ったコテージにみんなが集まってきた。現場にいたリーファ、クラインは勿論、エギル、シリカ、リズベッド。

 

「なんだ、アイツらは…」

 

見た事の無いヤツラだ。俺の首を引き千切っていた。リーファ、クラインはそれぞれ一太刀で首を切り落とされていたし。

 

「アスナ…アスナを監禁して洗脳したのかもしれない。ALOで…」

 

取り戻さないと…えっ!全身を痛みが走る。何かが俺達をお尻から頭に向かって串刺しにしていた。途絶えていく意識…

 

 

 

---桐ヶ谷直葉---

 

夏休み中でも剣道部の部活はある。無心になって素振りをするが、昨晩のことが頭から離れない。あの場にいた全員が串刺し刑に遭った。なんで?誰に?どうして?アスナさん絡みの報復か?

 

「直葉、手合わせして貰えないか?」

 

この声は…声の主を見ると、剣道を引退した諸星兄妹が、竹刀を片手に立っていた。私以外の部員達が、後ずさりしている。

 

「どうしてですか?引退したんですよね?」

 

「お前、引退した者とは手合わせ出来無いって言うのか?お高くとまるなよ」

 

バッシン!

 

竹刀で地面を叩いた。その音で、みんなが尻餅をついている。悪名高き、諸星兄妹…中学3年の時、全国大会で兄妹がそれぞれ男子の部、女子の部で優勝をした猛者兄妹である。私なんかが敵う相手では無い。

 

「お前、兄さんを襲ったそうだな」

 

襲った?覚えが無い。闇討ちなんか出来るレベルでは無い。返り討ちにされてしまう。そもそも、襲う理由は無い。

 

「何かの間違いでは?」

 

「アバター名…リーファだっけ?」

 

えっ!まさか…昨晩の男女って…

 

「思い出したようだな。キリトって、お前の兄か?」

 

「そ、そ、そうです…が…」

 

声が震えている。マズい…ゲーム内なら強気に出られるが、リアルでは…

 

「剣道部にいた覚えが無いんだが…それに、お前の兄の構え、見た事の無い流派だったな」

 

「兄は剣道部に…いませんでした」

 

あれって、アインクラッド流剣技だっけ?

 

「なら、お前が相手をしろ。それで水に流してやる。俺と明日奈、どっちと先にやる?」

 

まさか二連戦か?殺される…

 

「なんだよ?ゲーム内だと勇ましいのに、リアルではヘタレか?」

 

両腕に兄妹が抱きついて来た。どこかへ連行するようだ。逆らわないようにする。この兄妹は剣道だけでなく、空手と柔道でもチャンプだったのだ。この態勢から回し蹴りサンドを喰らえば、内臓破裂するかもしれない。

 

「なぁ、直葉…臭いんだけど、チビったのか?漏らしたのかな?」

 

明日奈が耳元で囁く様に言い、耳タブを舐めて、甘噛みしてきた。殺される?耳をかみ切られるのか?

 

「話し合いで済まそうか」

 

正が、私の頭を掴み、目をのぞき込むように言った。

 

「何だよ、ビビっているのか?」

 

蔑む視線の明日奈。私の下着をゴミ箱へ捨てた。

 

「そうだな。直葉の詫びを、先ず受け入れてもいいけど…強制はしないよ」

 

あくまで私が自発的に行った形にするようだ。彼らの希望に沿うように、自発的に…その様子をスマホで撮影している明日奈。後日、脅すネタにするのだろう。

 

「お前の兄に言っておけよ。いつでもリアルで決闘を受けるとな。但し、ゲーム内で俺達の仲間に手を出せば、次はお前の家に行く。いいな、忘れるなよ。ゲーム内ではやりたい放題のようだが、リアルで俺達がやりたい放題する。肝に銘じておけよ」

 

今後のことを言い残し、鬼畜兄妹が帰っていく。恥ずかしい姿の写真も撮られた。あんな姿、誰にも見られたく無い。

 

家に帰ると、お義兄ちゃんはALOにインしていた。私がこんな目に遭ったのに、ゲーム三昧って…暢気なものだな。夕食の時に、今日のことをお義兄ちゃんに話すと、直ぐに警察へ通報をしていた。

 

「何をしているの?」

 

「こういう輩は、補導してもらって、臭い飯を食えばいいんだ。アスナもリアルで脅されたんだろうし」

 

お義兄ちゃんは、リアルの諸星兄妹のことを知らなすぎる。お義兄ちゃんは、VR世界において最強の存在かもしれないが、リアルでの更なるお礼参りが私にされるのに…

 

そんな心配をしていると、翌日の朝、警察の人が来た。

 

「昨晩は、どこにいたんだ?」

 

「家にいましたが…」

 

通報による事情聴取があったのかな?

 

「何度も呼び掛けたり、スマホへ連絡をしたが、不在だったぞ」

 

あぁ、兄妹共にALOにダイブしていて、気づかなかったようだ。その旨を伝えると、

 

「なるほどな。SAOサバイバーだから、リアルな日常では過ごせないのか。あの兄妹は今や更生をして、家業の手伝いを精一杯しているのになぁ。お前ら、ゲーム三昧なヤツとは違うんだ。ゲーム内のことを、一々警察に訴えるなよ」

 

えっ?どういうこと?警察の人に訊くと、あの兄妹はあっさりと、ゲーム内で乱暴したことを認めたそうだ。リアルでしたでしょ?何で…警察の人に事実を話した。でも…

 

「昨晩、双方の言い分を聞こうと思って、君達兄妹を呼び出そうとしたんだが…そうか、ネット内にいたのか。彼らは大切な修行の時間を削って、署まで来てくれたのにな。通報者である君の兄の証言を訊きたかったんだ。ゲーム内の報復をリアルでされたって通報されてね。彼らの言い分では、ゲーム内の報復をゲーム内でしただけって言うんだよ」

 

そんな言い訳をしたのか、あの兄妹は…

 

逆に、警察からの私達兄妹の心証が悪くなったようだ。この辺の情報操作は、あの兄妹は上手い。武道の道場で警察関係者を複数知り合いにしているらしいし。言わば警察の身内サイドであるらしいのだ。一方、私のお義兄ちゃんはSAOサバイバーという色眼鏡で見られる存在である。ゲーム内で人殺しをして、現実とゲームの区別があやふやな存在として、マークされているようだった。

 

「君も、ヴァーチャルとリアルの区別は、付けなさいね。今回は警告だけにするが、次は偽証になるから注意しなさいね」

 

警察の人は帰っていった。これって、私が悪いの?

 

 

 

---ダン---

 

ゲームにインをするとアスナがいた。

 

「もう心配は無いと思う。リアルで話を着けてきた」

 

実際は拗れている。直葉の兄は俺達を警察に訴えていた。ゲーム内だと勇ましいが、リアルでは警察を頼るのか。ゲーム内なら躊躇無く人を殺すくせに、リアルではチキンとは呆れた男だ。

 

「リアルで知っていたの?」

 

「桐ヶ谷の妹の方だけどな。俺も妹も知り合いなんだよ」

 

アスナの頭を軽くポンポンとしてあげる。

 

「そうか、円満解決したのね」

 

円満かどうかは、直葉次第だな。アイツはどう立ち回るのだろうか?

 

「ダンさん、休業日ならそう言ってくださいよ~」

 

メイプルがぶんむくれている。今日、店に来たらしい。いつも来るサリーには言ってあったんだけど…

 

「一番乗りを狙って、朝早くに行ったら、シャッターが降りていましたよ!」

 

メイプルが一番乗り?それは珍しい。

 

「怒るなよ、今度来たら新作を奢ってやる。試食とは別にだ」

 

「本当ですか?」

 

リアルで食い過ぎると太るとは言え無い。メイプルの笑顔は、いつも嬉しさが満開だから…

 

「今日はどうします?」

 

「アズライトのクエストの準備だな。新大陸は、クエストの後にしよう」

 

「了解です」

 

って、メイプルがクランマスターで無いのか?なんで、俺が取り仕切っているんだ?

 

 




次回、遺跡調査ですが、アズライトの身に…


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

遺跡調査

 

---アルティミア・A・アルター---

 

遺跡調査にダン達を頼った。父である亡き国王から、マスターを戦の道具にはするなと言われたのだが、今の王国の戦力を考えると、マスター達の力に頼ることが不可欠だった。あの国王を亡くした戦争により、多くの有能なティアンが失われた。皇国のマスター達の手によって…

 

マスター…世界が遣わした時代の変革者で、特別な力を有する者達である。その特別な力は戦争の為にあるのでは無いと、亡き国王は口にしていた。だけど…彼らの力は戦闘向きである。これも事実である。破壊王の火力、女教皇の組織力、どれも戦争向きである。彼に会うまでそう思っていた。

 

ダン…私の総てを見て、触って、交わった唯一の男性マスター。彼は戦闘も出来るが、内政も出来る男だ。相談に乗ってくれ、提案もしてくれる。問題は、私が王女付きの侍女だと思っていることだな。今まで、何度も正体を明らかにしようとしたのだが、私の正体を知って離れて行く彼を見たく無い、失いたくないのだ。

 

「そろそろ、打ち明けたらどうだクマ」

 

破壊王には、アズライトの正体はばれていた。

 

「だけど…」

 

「いつまでも偽りの関係はダメですよ」

 

リリアーナの言いたいこともわかる。

 

「そんなことで、関係は壊れないクマ。あのレイレイが懐いているクマ」

 

酒池肉林が彼に懐いている。クマ以外と組まなかったあの女が、普通に彼の本拠地に出入りしている。私と二人で、彼に甘える日も少なくない。

 

「いざとなったら、護ってくれるクマ」

 

クラン<楓の木>…彼の所属するクラン。その潜在能力は未知数。クランマスターは非公式であるが、王国一の戦闘力を持つ破壊王を一撃で消し飛ばしたそうだ。その上、そのクランマスターは彼に全敗中だとか。また王都内にいる犯罪者や私達の敵対者は、彼の妹を始めクランにいるPK専と呼ばれる者達に消されているそうだ。

 

「すでに、王国の秘密戦力クマ」

 

王女として、彼らに特に依頼はしていないが、王女付きである私を苦しめる者は消すことが、彼のいるクランの方針らしい。あくまで、王女付きである私の為である。

 

 

遺跡に向けて、空を飛ぶ船に乗って移動している。これは何?どうして、金属の塊が空を飛んでいるの?

 

「そんなに固くならないで大丈夫だよ。落ち無いから」

 

この船の中には、ラウンジの他、キッチンや風呂場、そしてそれぞれの個室まである。クランホームとしての機能までもだ。

 

「みんなで移動する時は、コイツが便利なんだよ。特に宿屋が無くても、野宿しないで良いし」

 

「これはどういう仕組みなんだ?」

 

「俺も知らない。まぁ、失われた文明の残りカスだろうな」

 

ダンの部屋で彼に抱かれている。こうしていないと、不安であるから。たまに、体内でダンの息吹を感じる。それはそれで安心出来るのだが…

 

「目標地点に着いたよ。なんか機械仕掛けの犬が、人間を襲っているんだけど…どうする?」

 

周辺探査を受け持っていたイズが、そんなことを言うと、

 

「じゃ、殲滅するか」

 

私から離れ、装備を装着するダン…

 

「飛び降りられる者だけ降りろ。イズ、近場で着陸してみて」

 

「わかった」

 

扉を開け、飛び降りるダン、メイプル、アスカ…彼らは空を飛べるらしい。マリー、フレデリカ、ミィ、ミザリーが上空から狙撃を始めた。普段はマッタリとしている集団であるが、戦闘集団に変身する速度は速い。

 

「着陸します」

 

空を飛ぶ船が地上に降りると、クロム、サリー、カスミ、ビースリー、アスナ、レン、フカが我先にと飛び出して行った。

 

「アズライト、驚いた?私達、基本バトルジャンキーだからね」

 

イズとカナデ、マイ、ユイ、ユーゴーが私を護るように位置取りをしている。事前に役割分担が出来ているようだ。しかも、王国騎士団よりも火力も練度も高い。いつ練習しているんだ?いつも、マッタリしているのに…

 

ガサッ!

 

草をかき分けた音…咄嗟に音の方へと走る。私を追って、ガード陣も着いてきてくれる。目の前で、怯える少女に近づく、死霊系のモンスターがいた。

 

「貴様!」

 

剣を振るう私。

 

《復讐するは我にあり》

 

私の振るった剣を、何かのスキルで受け止めた。これって…

 

「うっ…」

 

薄れゆく意識の先で、目の前のモンスターの頭部が破壊され、消えていくのが見えた。誰かが倒してくれたんだな…少女は無事だろうな…

 

 

 

---ダン---

 

くそっ!アズライトがやられた。俺とサリー、カナデ、ミザリーで、回復術、治癒術、修復術を全力で掛けていく。

 

「なんで、コイツが…王女付きを暗殺って…」

 

オーバーキルに近いダメージである。辛うじて、カナデが今日のラッキースキルであるオールヒールを使い、アズライトの一命を死守してくれた。だけど、状況は思わしくない。瀕死状態のティアンには、ヒール系の術が効きにくいようだ。

 

「ミザリー、どうだ?」

 

「心が折れているみたい。生きようとする気力の問題かな」

 

生きたい思えばいいのか?俺とアズライトの想い出を妄想という形にして、ギフトしていく。もっと、生きろよ!なぁ、アズライト!

 

現場で出来る手は総てした。転移術で本拠地に戻り、プールしてある回復薬を飲ませていく。あの時と同じように、口移しで…体内から治すには、魔法よりポーションの方が良いらしい。

 

「これは…」

 

サリーがクマを呼びに行ってくれ、連れてきてくれた。。

 

「どういうことだよ。なんで、お前の弟が、アズライトを…おい!クマ!どういうことだ?」

 

初めて、ゲーム内で本気の怒りがこみ上げてきた。ゲームだと割り切っていたのに…だけど…アズライトが…くそっ!

 

「わからない…なんで、アイツはこんなマネを…」

 

クマの着ぐるみのせいで、中の人の表情はわからない。だが相当に動揺しているようだ。

 

「なんで王女付きのアズライトが、こんな目に遭うんだ?国にとっての重要人物なのか?」

 

「えっ!」

 

クマが驚きの声を上げた。おい、今のセリフのどこに驚くポイントがあったんだ?

 

「まさか…言っていないのか…まだ…」

 

クマがマリーとビースリーに目配せをすると、二人は頷いていた。何を言っていないんだ?それは、狙われる理由か?

 

「アルティミア様は大丈夫ですか?」

 

アズライトの親友であるリリアーナが、部屋に飛び込んで来た。

 

「アズライトなら、今寝ている。一命は取り留めたと思う」

 

「そうですか…ありがとうございます」

 

「なぁ、アルティミアって誰?」

 

「「えっ!」」

 

俺以外の者達が驚きの声を上げた。どうしてだ?そんなに有名人なのか?アズライトって、芸名なのかな?

 

「まさか…まだ伝えていないんですか?」

 

リリアーナが先ほどクマがしたように、マリーとビースリーに目配せをした。二人は苦笑いを浮かべる。

 

「なんで…墓場まで持っていくことじゃ無いのに…」

 

それは、アズライトの秘密ってことか?

 

「アズライトって、王城付きの侍女じゃ無いのか?これで二度目だぞ、命に関わる事件で助けるのは?」

 

初めて会った時も、見逃していたら、死んでいたと思う。

 

「それは…本人の口から聞いて下さい。アルテ…いえ、アズライト様の希望ですから」

 

アズライトは王女付きでは無いのか?まさか王様付きの愛人なのか…それは、俺に死亡フラグが立ちそうだぞ。あんなこと、こんなこと、そんなことをしてしまったし。トンズラするかな?

 

 

 

---アルティミア・A・アルター--

 

うん?ここは…身体がだるい…ここは私の部屋のベッドか…なんか夢を見ていたような。思い出せない。何が遭ったんだ?

 

「アルティミア様…」

 

目を真っ赤にしたリリアーナがいた。

 

「なんで泣いているんだ?」

 

「覚えていないんですか?」

 

「何をだ?」

 

随分長い間寝ていた気がする。

 

「何が遭ったんだ?」

 

「その前に…ダンさんに伝えていないのは、どういうことですか?」

 

ダン…そう言えば、ダンと旅行していたような…

 

「何を伝えてないんだ?」

 

「ご自分の身分をですよ!」

 

リリアーナが怒っているのだが…なんでだ?

 

「何を怒っているんだ?私は私ではないか…あっ!」

 

そうだ。ダンは私を王城付きの侍女と思っているんだ。で、今回の依頼の前に伝えようと…あの空飛ぶ船を見て、動揺のあまり伝え損なったのだった。

 

「伝えないと…うっ!」

 

「まだ、動けませんよ。死の淵を彷徨っていたんですからね」

 

えっ!

 

「どうして?」

 

「はぁ~」

 

リリアーナにため息を吐かれてしまった。私は何かをしでかしたのか?

 

「ダンさんが、アルティミア様のことを王様付きの愛人と誤解しちゃいましたよ」

 

「え…えぇぇぇぇぇ~!どうして、そうなったんだ?この国に王はいないぞ」

 

「現在、捜索中です。どこかに逃亡しています。王様付きの愛人に手を出して、打ち首の上獄門だって…なんで、正直に身分を明かさないんですか?!私まで会えないじゃないですか?!」

 

プンプンと怒り出したリリアーナ。えぇぇっと、怒るポイントはそこ?

 

 

 

---ダン---

 

まさか、アズライトが王様付きの愛人とは…もう、あの国には居られないな。

 

「どこに行きますか?」

 

メイプルに訊かれた。

 

「追っ手の来ない場所だな」

 

現状でも追っ手が来られない移動式ギルドホームで、お空の上にいるが、ここではバトルが出来無い。

 

「いや、逃げないでも大丈夫ですよ」

 

マリーは妙案でも浮かんだのか?

 

「アズライトは王様付きの愛人では無いからですよ」

 

「いや、しかしなぁ」

 

「そもそも、この王国には王様はいません。先の戦争で王様は戦死しているのですよ」

 

戦死?

 

「で、今王族に残っているのは3人の王女様です」

 

「まさか王女様付きの愛人なのか…」

 

まさか…アズライトは両刀遣いだったのか?

 

「それはそれで、そそるシチュエーションですが違います。アズライトは第一王女様本人ですよ」

 

「は?」

 

意味がわからん。王女が、なんで侍女のロールプレイしているんだ?

 

「アルター王国第一王女であるアルティミア・アズライト・アルター王女本人です。王女とバレると、ダンが去って行くのではって、中々言い出せていないかったのですよ」

 

え…俺、王女様とあんなことを…打ち首の上獄門で済むかな?

 

「兎に角、逃げるのでは無く、向き合った方が良いと思いますよ」

 

マリーとビースリーはアズライトの正体を知っていたようだ。交互に俺を説得してきた。。

 

「そういうもの?」

 

「そういうものだと思います。それに、このまま逃亡ではリリアーナはどうなるんです?駆け落ちするにしても、彼女の妹はどうするんですか?」

 

俺はまだ駆け落ちまで考えていないのに、マリーは俺の一手先を読んでいるのか?

 

 

 

---一宮渚---

 

暗殺者マリー・アドラーの新作が掲載される。ダン達のクランに入って以来、作中のマリーが生き生きと動き出したのだ。暗殺のターゲットの為に、恋のキューピッド役をやらせてみたら、生き生きと動き出したのだ。

 

「第2部はこういう展開なんですか?う~ん、ありだと思いますよ」

 

担当編集さんに連載の依頼を頂いた。正君に報告しに行くかな。週末にモロボシ洋菓子店へと向かった。月末の週末は混んでいる。クラン<楓の木>の面々が集合しているからだ。来月の試作ケーキが目的であったりする。あのクマも来ているし。月夜と月影の中の人まで来ているよ。そのうち、デンドロ公認のケーキ屋になるんじゃ無いのか?

 

「あっ!マリー」

 

レジにいたアスカに声を掛けられた。

 

「今日は一段と混んでいるねぇ」

 

「夏休み最後の週末だからね。あぁ、そうだ。フカの中の人も北海道から来ているよ」

 

そのせいで、ごった返しているのか?夏休み最後の週末の為、遠方組もいるのか。

 

「あぁ、連載が決まったよ。これ、プレゼント」

 

「ありがとうございます」

 

連載1話目の載った雑誌をアスカに渡した。

 

「おぉ!マリー、連載開始おめでとう」

 

クマの中の人だ。コイツ、私の作品の愛読者だった。ずっと、続編を待っていてくれていた。

 

「ありがとう。今日はレイレイは?」

 

「くやしがっていたよ。今日はロンドンだ」

 

世界ツアー真っ盛りのレイレイの中の人。そうか、ロンドン公演じゃ、来日は無理だな。

 

空いている席に着き、ケーキセットを頼むと、新作ケーキがオマケで付いて来た。

 

「今回は干し柿のモンブラン風です」

 

ウェイトレス見習いのサリーがサーブしてくれた。ヘッドに干し柿のクリームが載り、中には栗?これって、マロングラッセとクリームチーズのクリームかな?風味が豊かで、なんか癒やされる。

 

「これ、高くなりそうだね」

 

材料原価が高そうである。正君は納得出来る味の為なら、価格高騰を抑えるなんて妥協はしない。

 

「1000円近くなるみたいですよ。マロングラッセとクリームチーズですからね」

 

苦笑いしているサリー。来月はイズ達の悲鳴が聞こえそうだ。周囲を見回すと、見慣れない外国の少女がいた。誰だろうか?カスミ、イズのいるテーブルにいるんだけど…

 

「あれは誰?」

 

近くにいたフレデリカに訊いた。

 

「ユーゴーの中の人だって。驚いちゃったわ」

 

へ?ユーゴーってイケメンだよね?え、えぇぇぇ~!中の人って、少女だったのか…う~む…ベルばらチックだな。

 

「複雑な家庭の事情で、正さんの家で同居して高校卒業したら、ここで働くんだって」

 

何?このお店の女子率が高くなっていくでは無いか。既にメイプルとサリーも高校卒業したら、このお店で働く気満々だし。それにフレデリカ、ミィも狙っているかもしれない。あぁ、マンガのネタが一杯転がっているのね…

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

涙の告白

04/13 アドバイスを頂き、少し表現を変えました。
04/27 更に修正を加えました。



---ユーリ・ゴーティエ---

 

正さんに身の上話をしてしまった。まったく、聞き上手の上、聞き出し上手だな。澱ませる事無くプライベートをさらけ出してしまった。複雑な家庭の事情の私に、彼と彼の両親が手を差し伸ばしてくれた。

 

「じゃ、うちにおいでよ。将来、お店で働いてくれるなら、ここで住み込みをすれば良い」

 

って…彼ら兄妹も、彼の両親もフランス語が話せ、言葉の壁は感じ無い。

 

「以前、話しただろ?フランスのケーキに精通した人材は、欲しいんだよ」

 

と…サマーバケーション中に、渡航と留学転校の手続きを進め、そして、ジャポンのサマーバケーション中に渡航出来た。来週から、サリー、メイプルと同じ学校へ通えるそうだ。

 

「どう?言葉は順調かな?」

 

「はい。ちょっとずつ…」

 

正さんもアスカさんもフランス語が出来るので、この国の言葉を学び易い。

 

「9月はこれでいいとして、10月はどうするかな?」

 

厨房に戻ると、正さんが、10月のケーキで悩んで居た。

 

「兄さん、松茸はダメだって。高くなりすぎるからさぁ」

 

「じゃ、トリフは?」

 

「もっとダメだよ。良物の確保が難しい」

 

「う~ん…じゃ、カボチャで行こうか?」

 

「カボチャ?あぁ、有りかな。って、単なるパンプキンにはしないんだよね?」

 

「あ!ユーリ、フランスのカボチャ料理って、どんな感じ?」

 

突然、私に話し掛けて来た正さん。戸惑いながらも返答をする。

 

「え…えぇっと…グラタンかな?」

 

「そうか…品種が違う可能性があるんだな。これを食べて見て」

 

何かのクリームかな?一口食べると、ほんのり甘い。

 

「おいしいです」

 

「それ、カボチャ100%の餡だよ」

 

へぇ~。品種が違うのか?調理方法が違うのか?興味があるなぁ。

 

「一緒に開発しない?」

 

「喜んで…」

 

ケーキの開発かぁ…夢が広がるな。先の見えなかった世界から、助け出された気分である。

 

 

 

---アルティミア・A・アルター---

 

日常生活が出来るまでになった。妹が代わりに内政を見てくれているが、そろそろ復帰できそうだ。あれからダンは、連絡をまるでくれない。リリアーナに探して貰っているのだが、クランの本拠地には誰もいないそうだ。移住されてしまったかな。一番大事な事を伝えていなかったから。

 

私を死の淵へと追いやった人物は判明した。兄に付き添われて自首をしてきたのだ。その正体はレイ・スターリング、破壊王の弟だった。

 

「俺は少女を助けに行っただけです。そんな俺を攻撃したのは、あなただ!言っちゃえば自業自得だよ」

 

自業自得…確かに彼の供述だとそうなるのだが…

 

「紛らわしいい格好をするのが悪いるのでは。どう見たって、死霊系のモンスターだろうに、あの服装は!」

 

原因は私の誤認だったらしい。しかし元を返せば、何故コイツは聖騎士のくせに、見た目が禍々しい装備をしているんだ。カモフラージュ以前の問題である。どう考えてもコイツが悪いだろうに!!装備に関しては、クマも弟に苦言を呈していた。いや、彼のエンブリオもだな。あの姿に関しては、レイ本人以外、全員が私と認識を同じにしているのだった。

 

「弟には言って聞かせるクマ。これで手打ちにして欲しいクマ」

 

クマに暴れられると、我が国は崩壊するであろう。ダンがいれば別だと思うけど、今はもういない。

 

「一つ訊く。カルディナを崩壊させたのは、お前か?」

 

破壊王に訊いてみた。あんなことを出来るのは、コイツかダンくらいだろう。

 

「う~ん、あれは事故だクマ。やったのはメイプルだクマ」

 

事故って…どんな事故だ?大国を崩壊させるほどの事故って…その上、下手人はメイプルなのか…ダンのクランマスターか…責めれば、ダンは益々帰って来てくれないだろうな。

 

「アルティミア様、ダンさんがいらっしゃいました」

 

頭の痛い事態に、リリアーナが吉報を持って来てくれた。

 

「何?あの強●魔か?そうか…自首か?じゃ、俺が退治してきますよ。これで貸し借り無しにしてくださいね」

 

はぁ!意味不明な事をいうクマの弟。なんで、ダンを退治なの?なんでよ!そもそも、どうして強姦魔だと言い切るんだ?私の知っている限り、ダンはそんなことをするほど、女には困っていないぞ。ダンは女性に積極的に迫る性癖も無いし、至って性欲も真面だと思うのだが…

 

「待つんだ!レイ!」

 

クマの呼び掛けは届かず、扉の外で争う音がして…扉からダン、アスカ、アスナ、アリス、カエデが入って来た。クラン<楓の木>の室内戦最強戦力である。

 

「おい!クマ!お前の弟に襲われたんだが…」

 

「すまんクマ…」

 

「おい!俺がいつ強●をしたって言うんだ?」

 

「アイツの誤解クマ」

 

「お前の弟、ギデオンで英雄らしいなぁ。その英雄が俺を強●魔って言うから、俺はギデオンを出入り禁止にされたんだぞ!責任取れよな」

 

「謝罪ではダメクマ?」

 

「謝罪はいらない。お前の弟だから、PKリストに入れてなかったが、さっき入れたぞ」

 

見つけ次第にキルってヤツか。あの王室に寄生していた女狐の心を折ったというクラン<楓の木>が定める極刑である。

 

「仕方ないクマ。リアルで言い聞かせてくるクマ」

 

目の前からクマの姿が消えた。

 

「あんたが王女様か?!」

 

久しぶりに聞くダンの声だけど…その呼び方は止めてぇぇぇぇぇ!私の心に激痛が走る。

 

「そうよ」

 

でも、ここでは王女を演じないとダメだ。臣下達の目がある。

 

「王室からアズライトを解放しろ!」

 

えっ!何を言っているの?私がアズライトよ…

 

「アズライト…お前の力でアイツを一般人に出来無いか?」

 

それは私自ら王位を捨てろってことか…

 

「無理だわ」

 

ダンとの関係が終わったのか…涙がこぼれていく。臣下の前であるが…何かが決壊したのか、涙が止まらない。

 

「そうか…」

 

もう気軽に話し掛けられないのか?嫌だよぉぉぉぉぉ~。

 

「なら、アズライトに伝えろ。受けた依頼は終わらせる。だから…静養に励めと。以上だ」

 

言い終わると、扉へと向かい始めるダン達。

 

「リリアーナ、無茶しないように、見守れよ」

 

「はい…あの…これって、別れでは無いですよね?」

 

リリアーナが大切なことを訊いてくれた。王女として、ここにいる私には訊けないことである。

 

「別れ?何のだ?俺は王女付きのアズライトへの伝言を伝えに来ただけだ」

 

「お姉ちゃん、これでいいの?こんな終わり方で…」

 

小声で妹が、私の背中を押してくれた。そう、こんなのはイヤ。

 

「待って!ダン!」

 

私は玉座を立ち上がり、ヨロヨロとダンに近づいて行く。

 

「あなたに言って居なかったことがあります」

 

ダンは振り返らず、その場に立ち尽くしている。

 

「ごめんなさい。私がアズライトです。アルティミア・アズライト・アルター、これが私の本名です。言うのが遅くなって、ごめんなさい」

 

やっと、ダンの背中に抱きつけた。ダンの首に腕を回し、ダンの臭いを吸い込む。臣下達の目?そんなの関係無い。私の全力をぶつけるのは、今しか無い。ここを外すと、後が無いと思う。

 

「王女様、俺はこの国の英雄に言わせると強●魔です。ここでは、触れないでください」

 

ここでは?うん?

 

「リリアーナ、アズライトが元気になったら、連れて来いよ」

 

「はい!」

 

えっ!リリアーナが笑顔で、私をダンから離していく。なんでよ~!

 

「では?失礼します」

 

ダン達が、玉間から去って行った。

 

 

 

---ダン---

 

「あれで良かったの?」

 

アスカが不満げである。

 

「他に無いだろ?一応、現役の王女なんだからさぁ」

 

何かの映画のように、連れ去る訳にもいかない。王女付きの侍女だと思っていたのに、王女本人とは…詐欺だ。

 

「ダンらしいかな?」

 

アスナが抱きついて来た。カエデはメイプルがいないので、既に背中に背負っている。

 

「ティアンだしなぁ。無理をさせる訳にいかない」

 

ティアンは死んだら、そこまでである。生き返らせるのは難しいだろうな。

 

「そうですね。ティアンは死んだらお終いです。改ざん出来ますが、アンデッド化させて不死性をつけるのは、ダメですよね?」

 

アリスが抜け道を示してくれるが、

 

「王女がアンデッドではマズいだろ?以前のように、街で遊ぶ程度が良いんだよ、きっと」

 

王女と遊ぶって言うのは罪悪感があり、気が引けるが、前線に連れ出せば、あぁいう危険が伴うしなぁ。って、言うか、クマの弟はなんだよ、アレ?ジョブが聖騎士で、姿がリッチとネクロマンサーに、見える上、禍々しいスキル持ちらしい。この先も、あぁ言う事故が増えそうだ。なので、見つけ次第、退治しよう。

 

「でも、アズライトだよ。きっと、付いてくるな。無理を押して。リリアーナじゃ止められないよ」

 

まぁ、割と強引であるのは事実である。俺も何度押し倒されたことだろうか。

 

「遺跡調査って、王国の関係者を連れ行かないとダメみたいだよ」

 

アスカが今回のクエストのヘルプを読んで教えてくれた。

 

「第二王女は?」

 

「黄河帝国の王子とお見合い中です」

 

「第三王女は?」

 

「病弱のようです」

 

アリスが俺の訊きたい情報を提示してくれる。意思の疎通感が有り、便利である。

 

「そうなると第一王女しかいないのか?う~ん…」

 

悩みどころだな。

 

 

 

---リーファ---

 

一人、新大陸を目指して旅をしている。リアルでは向き合えない。だから、この世界で向き合おうと思ったのだ。あの鬼畜兄妹にだ。初めての船旅。VR空間の船旅も船酔いがあるようで、海に向けて嘔吐している者がいたりする。幸い、私は酔わなかったので、良かったわ。

 

新大陸までリアル時間で24時間掛かる。それぞれのゲームの時差を吸収する為らしい。

 

24時間後、新大陸に着いた。定期便の着いた港は、アルター王国にある。そして、この国の王都に目指す人物がいるのだった。港街の両替所で通貨をコンバートしていく。所持しているお金のほぼ全額である。この地に骨を埋める覚悟で来た。定期便の馬車で王都を目指す。

 

移動中にすることは無いので、この時間を利用して、デンドロのルールを読み、理解を深めていく。NPCはティアンといい、ティアン殺しは重罪であること。但し、先制攻撃をしてきたティアンに関しては、その限りでは無いこと。期待と不安が交差する。幸い、奴隷制度が無いのは救いである。あの鬼畜兄妹の奴隷はいやであるからだ。

 

王都に着き、クラン<楓の木>の本拠地を目指した。案内所でマップを貰い、歩いて移動する。何故か迎賓館と同じ敷地にあるらしい。そして目的地に着き、深呼吸をして、中に入った。

 

入ると中は喫茶店になっていた。鬼畜兄妹の意向か?クランの受付があり、そこで用件を伝える。

 

「鬼畜兄妹に会いに来ました」

 

と…彼らのアバター名を知らない。しばらく待つと、背後から抱きつかれた。手の平が胸と股間に伸びている。

 

「リーファじゃないか。どうしたよ。遊びに来たのか?」

 

奥へと連れ込まれてる。抵抗はせず、されるがままでいる。

 

「俺の部屋はここだ」

 

鬼畜兄の部屋に連れ込まれた。

 

「で、用件はなんだ?」

 

「もうリアルではカンベンしてください」

 

「それはこの世界ならいいのか?」

 

「好きにしてください」

 

「わかった。見ているだけにするわ。動くなよ!」

 

見ているだけ?

 

「ダンさんいる?」

 

知らない少女が入って来た。

 

「この女はどうしたの?」

 

この女呼ばわりである。

 

「好きにしていいって…だから、オブジェにする」

 

オブジェ扱い?無理…ずっと、動かないなんて無理だって…

 

「サリー、こいつをクランに登録する。アリス、手続きを頼む」

 

「了解です」

 

あの時の黄金鎧の少女が現れた。

 

「おい!、動くなよ!」

 

動かないって辛い。つい、よろけてしまった。

 

「動くなって言っただろう?」

 

動かないことに意識を集中して…段々と意識が遠くなっていき、朧気な意識が覚醒すると、知らない部屋で寝ていた。

 

「ここは?」

 

「やぁ~!」

 

鬼畜妹がいた。

 

「どうかな?」

 

笑っている鬼畜妹こと、諸星明日奈…苦しむ姿を見るのが好きなドS女である。

 

カチッ!

 

何かのスイッチが入り、全身に刺激が駆け巡る。勝手に身体が反応している。

 

「清純派の直葉も、ヴァーチャル世界では…ふふふ」

 

愉しんでいる。このドS女が…ダメ…あっ!デスペナを喰らった。

 

 

 

---桐ヶ谷直葉---

 

気づくと、自分の部屋にいた。快楽に飲み込まれると、デスペナになるのか。

 

大人も愉しめる仕様のデンドロ…恐るべし。今までのゲームとは違う怖さを感じ、呆然としてしまった。

 

 

 

 

 

 




次回は、統一デュエル・トーナメント…予定ですが…


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

異種格闘技トーナメント


04/27 修正を加えました


---ダン---

 

リーファを絶頂死においやったアスカ。鬼だな、アイツは…そんな俺は、レイレイとスキンシップ中である。

 

「どこか鍛錬出来る場所は無いかな?」

 

「充分強いでしょ?」

 

「いや、アスナのリハビリ場所だよ。GGOだと狙撃されちゃうし、SAOだと行きたがらないしね」

 

「そうかぁ。また新しい狩り場を開発すれば?」

 

あのチート技は危険だ。違うゲームに飛ばすからな。まず一人で様子を見てこないとダメだ。遺跡クエストの方は、アズライトの回復待ちだが、まだ掛かりそうである。どうするかな?

 

レイレイのアウトを見届けて、クランの本拠地へと戻った。リーファが喫茶ブースでウェイトレスをしていた。って、なんでクラン本拠地を喫茶店にしたんだ?メイプルは?

 

話を訊くと、尊敬するクランマスターが、カンゴクという国で喫茶店をしていたそうだ。それを模倣したそうだ。まぁ、俺達の留守中、ティアン達従業員を働かせる場になるのは良いか。給金を稼いで貰わないといけないし。

 

しかし、この喫茶<楓の木>は繁盛店らしい。料理スキル持ちが、アスナ、アスカ、サリー、イズ、ミィと結構多くいるからだ。材料は、新大陸で仕入れたり、この大陸で仕入れたりしているそうだ。

 

さてと、ヒマなので、『時空渡り 新たな戦域』として発動してみた。

 

 

荒れ地に出た。ここはどこだ?周囲にはドラゴンがうじゃうじゃいる。

 

『デスマの世界です』

 

デスマの世界?VR-RPGの『デスマ狂想曲』かな?思考の海から浮上した瞬間、俺はデスペナを受けた。

 

リスポーンしたのはNWOのギルドハウス内である。基本的に、デンドロでのデスペナが明けるまで、この世界にいることになる。なんで?デスペナを受けたんだ?戦闘ログを見ると、

 

『魔法:流星雨を浴びてキルされました』

 

と、ある。スポーンした直後に喰らったのか。う~む、リベンジしないとなぁ。どこのどいつにやられたんだ?

 

「誰にやられたの?」

 

転移陣からサリーとアスナが現れた。

 

「わからない。スポーン直後にデスだよ」

 

「スポーン直後は無抵抗だからね。って、何のゲームにスポーンしたの?」

 

「『デスマ狂想曲』だって」

 

「あれって、VR-RPGだったような」

 

アスナが知っているようだ。

 

「基本ソロプレイのゲームですよ」

 

ソロプレイのゲームで開始直後にデスって?そういう仕様なのかな?

 

「いや、誰かのプレイ中に割り込んだんじゃ…」

 

サリーの意外な言葉。誰かのプレイ中に割り込んだ?誰のだ?アリス、どうなんだ?

 

『可能性は否定しません』

 

否定しないのか?

 

『VR-RPG…少し調べてみます』

 

アリスはVR-RPGを知らないみたいだ。

 

「ねぇ、デンドロには入れないけど、そこはイン出来るんじゃないの?」

 

「そこはダメです」

 

アリスが現れて、サリーに待ったを掛けた。

 

「システム的によくありません。先ほどはマスター一人の為にインできたみたいです」

 

なるほど、一人なら問題無いのか。今度、ヒマになったら行ってみるか。デンドロにイン出来無い俺に付き合い、久しぶりのNWOの世界を堪能する俺とサリー、リハビリをするアスナ。

 

 

デスペナ明け、新生ALOの世界へ向かった。仲間にしたい人物を見つけたそうなのだが、勝てば仲間になってくれるそうだが、メイプルが返り討ちに遭ったらしい。

 

「16連撃なんですよ。10発までは悪食で行けるんですけど…」

 

残り6発で沈んだらしい。メイプルを倒せる人材は、欲しい人材である。その少女、ユウキを見つけ、サリーが挑戦してみた。連撃を使わないでも、そこそこ速い剣技である。が、楓の木が誇る回避盾は、その剣を楽々回避しまくっていた。

 

「やるねぇ~」

 

「でも、私はクランで強い方じゃ無いわよ」

 

サリーの言葉を受けて、剣を降ろしたユウキ。

 

「じゃ、一番強い人とやりたいなぁ」

 

サリーが俺の方に走ってきて、俺とタッチをした。俺がやるの?

 

「俺、剣使いじゃないぞ」

 

「何使いなんだい?」

 

「拳だよ」

 

ファイティングポースを取る俺。

 

「構わない。ボクの本気を受けてみろ」

 

剣VS拳の異種格闘技戦になった。ユウキの剣を受け流していく。最近はアスナのリハビリに付き合っているので、速い剣技にも対応出来ていた。

 

「やるねぇ~。じゃ、これは?!」

 

16連撃を放ってきた。俺はその剣に合わせるように32連打を放っていく。みるみるユウキの顔色が悪くなっていく。彼女の連撃速度よりも、俺の連打速度が上回り、俺の拳が、ユウキの身体に入り、12発目で当たりが出たようで、ユウキの姿がドット落ちしていった。

 

「凄い、ダンさん…」

 

駆け寄って来たメイプルに抱きつかれた。駆け寄って来たメイプルの身体により、シールドアタックを受けた如く、ダメージが入ったりする。戦闘中以外でダメージが入るのが難点である。

 

「相性の問題だよ。俺の32連打の強度は一定で無いが、彼女の16連撃は一定の速度、一定の強度だったからだ」

 

「なるほど…」

 

まぁ、AGIがゼロであるメイプルは相性が悪いんだと思う。

 

 

翌日、ユウキを探していると、リーファの兄達に出会った。

 

「貴様!アスナだけでなく、リーファも横取りか?」

 

俺達は返事の代わりに瞬殺をした。沈黙も返事のうちだぜ。しばらく探しているとユウキを見つけた。

 

「ねぇ、君達の仲間になる前に、ボクのギルドに入ってボス戦をしてくれないかな?」

 

ボス戦?浮遊城にはフロアボスがいて、最初に撃破した者達の名前が広場の石版に名前が刻まれるそうだ。但し、個人名を刻むには8名以下で挑まないとダメらしく、ユウキのいるギルドは現在7名だと言う。

 

「いいよ。その代わり、俺達のギルドに全員で入って貰うよ」

 

「わかった。お願いします」

 

フロアボスの扉に行くと、その前には、大量の人が待っていた。待ち行列か?

 

「おい!フロアボス退治は俺達のギルドが担当なんだ。小規模ギルドは2番手以降を狙えよ」

 

次の瞬間、扉の前にはキルしたプレイヤー達が大量に転がっている。

 

「クラン<楓の木>にケンカを売るんですね。いつでも買います。ダンさん、行ってください。誰も通しませんから」

 

メイプルがPKモードに入ったようだが、PK専の仲間達より動作が遅い。後から来るゴミ達はPK専が屠っていくが、メイプルの出番が無いようだ。タンカ切るところは恰好良かったのにねぇ~。迷宮内でのパーティー戦ではメイプルの出番は無い。味方への被害がでかくなるからである。そんなシーンを尻目にして、俺はユウキ達と、ボスの間に進んだ。

 

「なぁ、俺一人で倒してもいいのか?」

 

「無理ですって…」

 

メイプルに比べれば、どんなボスモンスターもザコに近いんだが…『ウッドオクトパス』による8連撃貫通攻撃により、ドット落ちしていくボスモンスター。多分、不壊オブジェクトにも貫通出来るんじゃ無いかな?防御特性も無視だし。

 

「え?一撃…」

 

あれ?驚かれている。日頃キングギ●ラとスパーリングしている身としては、この位なんとも無いんですが…

 

「このまま、行けるところまで行くか?」

 

フロアボスまでのザコは、アリスとカエデに任せて、フロアボスだけはユウキ達と倒すを繰り返していく。

 

「ねぇ、もしかして、グランド・クエストをクリアしたのって?」

 

ユウキに訊かれた。聞いたことの無いクエストである。

 

「何?そのクエストは?どこにあるんだ?」

 

「あぁ、違うんならいいんだよ。もう無いクエストだから」

 

無いのか。じゃ、しょうが無いな。

 

「もう、この位でいいよ。予定よりも30階層も上に来られたから」

 

ただ走っただけで、疲れたようだ。ユウキは何かの病気なのか?本人の体力は関係なく、どちらかと言うと本人の精神力が、ゲーム内では体力になる感じである。

 

「なんだ?体力不足か?なら、俺達のクランで鍛えてやるよ」

 

ユウキなら、サリー、カスミ、アスナ辺りが相手に良いだろうな。撃ち込み練習なら、【死なない大盾】クロムもいるし。アイツ、確率50%で生き残るって言うけど、キルされたのを一度も未だ見たこと無いんだけど…実は100%生き残るのでは…アイツが影のラスボスだと思う。

 

 

昨日、ユウキ達のギルド、、スリーピング・ナイツを吸収合併したクラン<楓の木>。そのおかげで、転移術で、ユウキ達を王国へ連れ帰ることが出来た。鍛錬場で、ユウキ達を鍛えて行く。

 

メイプルのエゲツ無い攻撃『ヒドラ』に、目を点にする、スリーピング・ナイツの面々。

 

「なんですか?あれ?」

 

「エゲツないだろ?あれが得意技だよ、アイツの…」

 

新生ALOのプレイヤーでは『ヒドラ』の攻撃は防げないし、躱せない。更にエゲツ無く『パラライズシャウト』をかますメイプル。それもあの笑顔でだ。

 

「笑顔の暴君ですか?」

 

「まぁ、そんなところだ?」

 

最後は、お決まりのメイプルの正しい倒し方を披露して、今日の鍛錬を終えた。

 

「う~む…」

 

メイプルが反省をしている。誰が見ても無駄な反省である。VIT振りを止めれば良いのに、昨日稼いだ経験値をメイプルにギフトした際、更にVIT振りしたメイプル。反省しているのか?本当に??

 

「新生ALOでイベントが行われるようです」

 

アリスが最新情報をキャッチしたのか、突然現れて、みんなに告げた。

 

「統一デュエル・トーナメントが開かれるようです。これは1VS1の決闘になります」

 

「みんなで出るよ!」

 

と、メイプル。組み合わせ次第だな。俺もメイプルも…アスカが有利か?

 

「で、機械神はアリかな?」

 

「あぁ、常識の範囲でお願いしますね、ボス」

 

無しだろうな。あれは反則だ。俺も機龍はアウトだろうな。

 

「形態変化、召喚系はNGです」

 

詳細情報をキャッチしたアリスの言葉。メイプルが一気に不利になっていく。ヒドラもアウトで、天使化、悪魔化、捕食者も無しだ。

 

「えっ、そんなぁぁぁぁぁ~!」

 

いや、普通に考えたら、あれはアウトだと思う。そうなると魔法はセーフの筈だから、ミィが有利か?

 

 

順当にミィが勝ち進む。あの火力を前にして、新生ALO陣は消し炭になっていく。メイプルは、戦える手立てを殆ど失いながらも、シールドアタックのみで勝ち進んでいく。あの防御力は凶器に等しいのかもしれない。貫通攻撃が貫通しない堅さ…異常である。あと、アスカも残っていた。接近戦も出来るスナイパーって、脅威なんだろうな。

 

そしてベストエイト…ミィVS俺は爆炎をものともしない俺の勝ち。ユウキVSメイプルは、16連撃をものともしないシールドアタッカーのメイプルの勝利。アスカVS黒の剣士はレールガンをビームサーベルに使うアスカの勝ち。アスナVSサリーは回避しまくっての超加速からのダブルスラッシュでサリーの勝ちとなった。

 

準決勝は俺VSメイプルなのだが、いつものクセで機械神になったメイプルの反則負け、アスカVSサリーは健闘しまくった我らの回避盾が勝ち上がってきた。

 

「決勝はダンさんとかぁ…」

 

サリーが嫌そうな顔をしている。それは俺も思う。回避盾にどう当たればいいんだ?精神感応系以外で勝ったことが無いんだけど。対メイプル専用に近い『ウッドオクトパス』はサリーには効かない上、あれを発動している時の俺は動けない。困った…

 

悩んだ末に俺の取った行動は、トンズラからの不戦敗である。その日は、そのままログアウトした。

 

翌日の放課後、某大学の部室棟にいた。前もって貰っていた地図を頼りに、目当ての部室に向かう。ノックをして部屋に入ると、目当ての人物は男子に抱きついており、ビースリーの中の人である藤林梢は何やら書類を読んでいた。

 

「おい!月夜、話を付けに来た」

 

俺の顔を見て固まる月夜。その隙に、月夜から離れる男子。

 

「え…ここで、お話ですよね?」

 

俺を疑うような目つきで見上げてきた月夜。

 

「ここじゃ無理だろ?部外者が多い」

 

「え…っと…どこで話をします?」

 

月夜を小脇に抱えて、大学の敷地を出て、バイクの後ろに乗せて、個室へと連れて行った。2時間後…俺の腿の上に載っている月夜。

 

「じゃ、お話をしようか?」

 

「あの…このスタイルでですか?」

 

「あぁ、このスタイルでだ」

 

なにかを諦めた月夜。ゲーム内で強きのヤツって、リアルではなよなよ系が多いのかな?コイツ、リアルで手下達に俺と明日奈を拉致させようとしたので、手下共を返り討ちにし、月夜本人を逆に拉致してきて、俺と明日奈で教育済みである。

 

「で、どうだったんだ?」

 

月夜の情報収集ネットワークを使い、ユウキについて調べて貰った。

 

「本名は紺野木綿季、末期のHIVです」

 

「月夜の病院でどうにかならないのか?」

 

月夜の実家は病院らしい。終末医療の心の拠り所として、宗教を作ったのかもしれない。俺、宗教系はNGなので、詳しくは聞いていない。

 

「転院すら出来無いようです」

 

そこまで悪いのか…

 

「じゃ、Bプランでいく」

 

バイト先に頼んで、ある装置を用意して貰い、その装置を使いユウキの魂を電子データ化して、NPC、いわゆるティアンとしてネット世界で生かす計画である。装置の開発元から、プログラムを入手して、俺のエンブリオであるアリスと俺で、電子化のルーチンを練り上げていた。

 

「それ、終末医療で有効かな?」

 

「有効かもしれない。家族が面会するときには、ネットにダイブしないとダメだけど」

 

「わかったわ。住処になるサーバーは、月世の会で用意する」

 

「宗教絡みはダメだ」

 

「そうなると資金はどうするの?」

 

維持費が掛かるよな。開発費は俺の労働力でどうにかなったとしても…

 

「バイト先に相談してみる」

 

真面目な話も終わったので、更に2ラウンド…料金は歳上のお姉さん持ちでね。

 

 




書きため分を消化したので、投稿ペースが遅くなるかもしれません。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

隠れ勇者

--- 椋鳥玲二---

 

女化生先輩こと扶桑月夜が、知らない男性に連れ出された。

 

「あの人は誰ですか?」

 

ビースリー先輩に訊いてみた。

 

「知らない方が平和だと思うけど」

 

知るとマズいヤツなのか?

 

「俺の知っているゲーム関係者ですか?」

 

「そうね…知っているわね。あ、ゲーム内と違って手を上げたら、正当防衛されて死ぬから、止めた方がいいわよ」

 

ゲーム内で俺が手を上げたのは、フランクリンと強姦魔であるが…どっちだ?

 

「リアルで、信者に頼んで闇討ちをしたらしんだけど、返り討ちにあってね。逆に調教されたみたいなの」

 

調教?そうなると、アイツだ。リアル強姦魔かっ!アイツの後を追いかけるが、既に拉致していった後で、どこにも見当たらない。

 

「ビースリー先輩、アイツの家を知っているんですか?」

 

部室に戻り、訊いてみた。

 

「知っているけど…あなたのお兄さんも知っているわよ」

 

アニキもかぁ…

 

「お兄さんに相談しなさいね」

 

先輩の言葉を受けて、アニキの元へと向かった。後味の悪いのはイヤだからだ。

 

 

 

---諸星正---

 

リアルクマこと、 椋鳥修一に呼び出された。

 

「何か、用ですか?」

 

「弟と、そろそろ和解してくれないか?」

 

「和解?シュウさんの弟、警察にダレ込みしたそうじゃ無いですか。これからは弁護士を挟んでくれませんか?」

 

「え?おい!玲二…どういうことだ?」

 

「俺の目の前で、月夜先輩を拉致したんだ。後味が悪いはイヤだからね。コイツ、先輩を調教してそうなんだよ」

 

「おかげで、事情聴取されましたよ。最近、多いんですよ。ネット内で勝て無いバカが、リアルで警察にたれ込む事案がね」

 

椋鳥修一とはリアルで戦いたく無い。向こうはプロの格闘家で、俺は単なる高校生である。戦わないでも結果は明らかである。しかし、コイツ、小さい男だな。兄がいないと勝て無いのか。

 

「ゲーム内でもリアルでも、女性にイタズラしているヤツが、大きな口を叩くなよ!」

 

リアルクマと言う盾越しに、悪態を吐いているリアル弱者。

 

「シュウさんの弟さんを名誉毀損で訴えていいですか?」

 

「玲二、お前、何をしているんだ…」

 

クマ兄さんは、弟の行動を把握していないようだ。

 

「だって、兄さん。俺は見たんだ」

 

「シュウさん、あなたが俺の無実を説明してあげてください」

 

俺は振り返り、帰路に着くが、背後から何かが近寄る気配を感じ、それに拳を合わせた。カウンター気味に椋鳥弟の顎に、俺の渾身の拳が入った。相手の顎の骨にヒビが入った感触がある。

 

「背後から襲えって、シュウさんが言ったんですか?」

 

唖然としている椋鳥兄。弟の予想外の行動に立ち尽くしていた。俺は、そのまま、帰路に着いた。

 

 

 

---椋鳥玲二---

 

顎の骨にヒビが入った。救急搬送される俺。警察に連絡をしようとするが、アニキに止められた。

 

「お前が悪い。これ以上、恥の上塗りをするな」

 

『どういうことだ?』

 

顎を固定されている俺、筆談で抗議をした。

 

「レイレイと月夜に確認したが、玲二の言ったような犯罪は起きていない。ゲーム内もリアルでもだ」

 

そんなはずは…

 

「お前の勘違いだ。アイツと和解しろ。いいな。出来無いなら、次の相手はアイツでは無くて、俺がする」

 

アニキ…勝てる訳が無いって…

 

 

 

---ダン---

 

資金繰りと環境整備に時間がかかるようだ。バイト先も装置の開発元も、前向きに、俺の計画に協力してくれるそうだ。そこで、新たな戦場を求めて、俺だけでダイブしてみた。今回は前回と違い、街中に転移していた。ここはどこだ?

 

『「神々の宴」というVRーMMOのようです』

 

アリスが情報を調べてくれた。VR-MMOなら、みんなで来られるな?

 

『勿論ですよ』

 

で、どんなゲームだ?

 

『神もしくは女神をトップとするギルドに加入して、ギルドを大きく、強くするゲームで、ギルド対抗戦や対人戦、ダンジョン攻略もあります』

 

楽しめそうだな。

 

『マスターに提案があるのですが、この前のVR-RPGへ行きませんか?』

 

ソロプレイーなんだろ?

 

『あそこには、ユウキさんの為に、使える物があるんです』

 

そうなのか。じゃ、行ってみよう。俺はキルされたゲーム世界へ転移をした。前回とは違い、転移した場所は、ダンジョン内であった。

 

『迷宮核の所有者が生存していないようなので、マスター名義に変更しました』

 

アリスからのメッセージの直後、隠し扉が開き、7人の女性が現れた。不思議なことに皆、同じ顔で同じ背丈で同じ服装であった。

 

「マスター、ご命令を…」

 

俺のことをマスターと呼んでいるんだけど…

 

『ホムンクルス…人造人間です。彼らの身体をコピーして、ユウキさんの器にします』

 

アリスが作業を始めたようなので、彼女達に迷宮をことを訊いた。この世界の迷宮は、龍脈と言うエネルギーの流れる地下河川よりエネルギーを吸い上げ、リソースとして使い、モンスター創造など迷宮の維持・管理をしているそうだ。

 

そして、それぞれの迷宮には迷宮核と呼ばれる制御AIがおり、ダンジョンマスターの指示により、迷宮を運営するようだ。で、アリスが所有権の名義を変更することにより、俺はこの迷宮のダンジョンマスターになっていた。

 

『マスター、コピーが完了いたしました。運用サーバーが確保でき次第、このホムンクルスとソウルトランレーターをリンク致します』

 

で、この世界はみんなで冒険出来るのかな?

 

『もう少し時間をください。冒険先は、先ほどのダンジョン都市が良いかと思われます』

 

次の瞬間、そのダンジョン都市、オラリオにいた俺。

 

『このゲームも新大陸として、デンドロの世界にリンクしました』

 

アリスの仕事は早い。この世界の管理AIと交渉をしてくれたようだ。さて、どうするかな?

 

「まず、神の配下になりましょう。神をトップとしたファミリアというクランに属さないと、ダンジョンに入れないようです」

 

金色の鎧を着たアリスが俺の隣に現れた。神か…機械神じゃダメかな?

 

「ダメです」

 

そうなのか…じゃ、ダレにするかな?

 

「お薦めは?」

 

「マスターの好みが良いですよね?そうなると…処女神アルテミス様はどうでしょうか?」

 

月の女神かぁ…セーラー戦士にされたりはしないだろうな?

 

「こちらです」

 

アリスの案内で、女神アルテミスの元へと向かった。

 

 

「登録終わりましたよ」

 

ギルド職員のエイナ・チュールが、ファミリア設立の処理をしてくれた。この世界のギルドは、冒険者組合のような物で、冒険者の相談窓口になっているそうだ。アルテミス・ファミリアを設立出来た。団長はメイプルで、副団長はサリーにしてある。俺は役職無しがちょうど良い。

 

「あとは、本拠地を決めて下さいね」

 

ファミリアホームと言う、本拠地がいるらしい。宿屋住まいではダメなようだ。で、このエイナが、俺達アルテミス・ファミリアの担当者になったらしい。エイナが貸し出せる不動産のリストを見せてくれた。買うとなると大金が必要になるため、直ぐには無理なので、賃貸物件で始めようと思うのだ。

 

「アリス、どうだ?」

 

こういうのはアリスの能力が適任であろう。

 

「この物件はどうですか?」

 

月20万…3人部屋。まぁ、転移陣を使い、移動式ギルドホームへ移動すれば、問題は少ないか。アリスの案内で物件を見に行く。そこは食堂に併設された従業員宿舎の一室だった。

 

「二人か?」

 

クロムを女性にしたような女将に言われた。

 

「いや、もう少しいるが、転移陣で別の場所で寝泊まりするので、3人部屋で大丈夫だ」

 

「転移陣が使えるのか?」

 

この世界には無いのかな?深入りをしないように、スルーした。

 

「で、金は保証金20万に家賃20万だ」

 

50万ヴァリスの入った袋を渡した。アリスが作った偽造貨幣であるが、NPCにはバレ無いだろう。

 

「10万多いぞ」

 

「口止め料だ。俺達の秘密を漏らすなよ」

 

「わかった。あぁ、飯はここで食え。割り引いてやる」

 

 

 

---サリー---

 

ダンさんが新しい狩り場を開拓したそうだ。ここでは、アズライトの回復待ちで、ヒマなのが理由だと言う。

 

「『神々の宴』って言うVR-MMOが新たに新大陸としてリンクしたそうだ。そこに、本拠地とクランを設立してきた」

 

「行きます!」

 

メイプルが手を上げた。

 

「クランの団長はメイプルで、副団長はサリーにしてある」

 

うん?私?副団長?どうして?

 

「参加者は?メイプル、サリーの他にいるか?」

 

ミィ、ミザリー、フレデリカが挙手をした。アスナ、ユウキ、アスカさん、レンはダンさんにたかっている。結果、ほぼ全員参加…不参加は、連絡要員として、この地に残るビースリーとマリー、リアルが忙しいレイレイさんである。

 

そして、転移をすると、どこかの敷地内に出た。

 

「借りた部屋が狭いので、部屋から移動式ギルドホームへ転移出来る様にしてある」

 

部屋の場所を説明しているダンさん。そして、ゾロゾロとダンジョンへと向かう。ダンジョンの入り口は、驚くことに高層ビルの地下にあった。

 

「このビルはバベルって呼ばれているそうだぞ。なんでも、魔物が溢れて出て来ないように、蓋の役目をしているんだって」

 

この世界の人はこんな高層ビルをどうやって建てたんだろうか?最上階は50階だそうだけど、周囲は中世ファンタジー世界の風景であり、その頃の技術で、この建物の建築は無理に思えた。

 

地下ダンジョン…5階層までは初心者用らしい。う~ん…メイプルが戦力にならない。メイプル本人も諦めたのか、ダンさんの背中にいる。AGI無しで、ダンジョンは無理か?久しぶりの戦闘で、みんな生き生きと戦っていた。

 

「6階層から下は、フォーメーションを考えろよ」

 

ダンさんから指示が飛ぶ。フォーメーション…タンクはメイプル、カエデ、クロムさんがいる。フォワードは、カスミ、ユウキ、アスナ、フレデリカ、そして私。後衛にはアスカさん、レン、フカがいる上、ダンさんもいるし。中段には非戦闘員であるユーゴー、イズさん、カナデ。マイ、ユイが遊撃手として待機している。リーファは約束の時間までにインして来なかったので、今ここにはいない。

 

 

 

---椋鳥玲二---

 

女化生先輩の病院のお世話になり、やっと退院出来た。とは言え、まだ物を噛めず、流動食であるが、それ以外は普通に生活出来るようだ。アニキに思いっきり説教を受けた。俺はリアルで敵にしてはいけないヤツを敵にしたようだった。

 

「アイツは、リアルでも強い。アイツとは戦うな。俺の後味が悪くなるからな」

 

アニキがもしリアルで戦っても、勝率8割って感じらしい。

 

「アイツは打撃だけで無いから、厄介なんだよ」

 

アイツの流派は、総合格闘術だそうだ。アニキと言えども、ケリなどを受け流されてからの極めは、敗北確実クラスだそうだ。アネキならどうだろうか?

 

「だけど…アイツは…」

 

「レイレイに訊いて思い出して貰ったんだけど、先に攻撃をしたのはレイレイらしい」

 

そうなると、返り討ちの末にアオカンされたのか?う~ん、後味が悪いなぁ。

 

「月夜の方は、俺も現場にいたが、あれは月夜が悪い」

 

だけどなぁ…リアルで仕返しか?

 

「言って置くが、リアルでも月夜が悪いんだぞ。まぁ、頭を冷やせ」

 

と、言われても…

 

 

久しぶりの大学…部室に行くと、ビースリー先輩と女化生先輩がいた。

 

「正君にやられたんだってね」

 

ビースリー先輩が声を掛けてきた。

 

「えぇ…振り向きざまに一発貰って…」

 

ゲーム内のアニキと同じで、俺の攻撃動線を見切り、拳を置きに来たらしい。もし、全力で振り抜かれていたら、俺の顔面は…

 

「もう手を出さないように」

 

澄まし顔でお茶を啜る女化生先輩。

 

「先輩達は、アイツのことを、どう思っているんですか?」

 

「どう?そうね…やんちゃな弟かな?」

 

と、ビースリー先輩。

 

「男気が溢れるけど、オスとしての本能に正直な性癖の破綻者かしらね」

 

と、女化生先輩。破綻しているんだ。

 

「でも、悪くない。あそこまで開き直れるオスはいないわ」

 

アイツの破綻した性癖を受け入れてしまっている女化生先輩だった。いいのか?それで。

 

「ハッキリと言うけど、アイツだって、後味の悪いことはしたくないの。だけど、敵対する獲物を前にして、後悔することを恐れている」

 

「先輩は悔しくないんですか?」

 

「悔しい?う~ん…あそこまで破綻されると、悔しさがアホらしいかな。私の新たな性癖を見つけてくれるし、誰もしようとしないことを、実現させようとしてくれている。そういう意味では、私にとってヒーローかな?あ、ダークヒーローかもしれない」

 

女性の目から見るとそうなるのか?ティアンであるリリアーナも、アイツのことを悪く言わないし。

 

「レイ・スターリングは英雄かもしれないけど、それはゲーム内だけのこと。だけどアイツは、リアルでも勇者なんだよ。お子様の君には分からないだろうけどね」

 

高飛車でワガママな女化生先輩は、アイツに心酔しているようだ。どうして?

 

「先輩は騙されているんじゃ無いですか?」

 

「そういう君は、事実を知らないだけなんだよ。私はアイツとプロジェクトを進めている。もし実現すれば、医学界の一筋の光になるかもしれない。それ程の偉業を、高校生である彼は成し遂げようとしている。君にそれと同等の偉業を為すことは出来るかな?」

 

アイツが偉業を?何の話だ?

 

 




<楓の木>VS<ロキ・ファミリア>を妄想中(^^;;


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

楓の木は本日も平常運転

---サリー---

 

迷宮都市…NPCとプレイヤーの区別がしづらい。ここでは冒険者のNPC もプレイヤー同様に対人戦をしてくる。他のゲームと違い、別のフィールドに飛ばされる事無く、その場での戦闘になるのが特徴である。あと、ここのNPCはティアンと違い、簡単には死なない。と、言うか…NPCがNPCを殺すことが出来ても、プレイヤーがNPCを殺すことは出来無い。最悪瀕死の状態に追い込むだけのようだ。プレイヤーの場合は、相手が誰であっても、キルされた場合は、セーブした地点、ファミリアホームという場所に『死に戻り』するだけで、特にデスペナは無いようだ。

 

まぁ、運が悪いと装備していないアイテムがドロップしてしまうケースもあるようだけど。ここでも、私達に絡んで来るプレイヤー達は、うちのPK専に見かけ次第キルされているみたい。

 

この世界の食事は旨い。ここには、魔物肉は無く、牧場も畑も漁場も有る為、リアルで食べている物は大抵あった。そして、私達のファミリアホームにしている『豊饒の女主人』と言う店は、この街きっての繁盛店だったのだ。低価格で美味しい料理がテンコ盛り状態で出てくる。冒険者の優しい味方である反面、態度の悪い客には容赦しない店員達。

 

ヒマな時、このお店でウェイトレスのバイトをしているんだけど、お触り目当ての客は、成敗して良いと女将に言われた。

 

「今夜、ロキ・ファミリアの宴席があるんだよ。バイトを頼めるかい?」

 

女将のミアに依頼されたメイプル。一応、団長だしね。

 

「いいですけど、何名くらいですか?」

 

交渉の結果、私、ミィ、ミザリー、イズさんが選ばれた。メイプルはAGIが無い為、動作がのろいのでNG。同様にアスカさん、マイ、ユイもNG。アスナ、ユウキ、レン、フカはパワー不足のようだ。NGメンバープラスダンさん、クロムさん、リーファでダンジョンで稼ぐらしい。私も行きたいんだけどなぁ~。

 

 

 

---ダン---

 

「おい!テメェ、見かけねぇ面だな!」

 

ダンジョンへ向かう途中、狂犬に絡まれた。犬耳男子に声を掛けられてもなぁ。スルーだな。

 

「おい!待てや~!無視するんじゃねぇ~!」

 

背中はメイプルがおり、背後はカエデがいる。この世界のヤローは、2段盾を打ち破れるのか?

 

「うっ!何?!」

 

俺に詰め寄ろうとして犬耳男をカエデが防ぎ、抜剣したアリスの剣先は犬耳男の首筋にいた。

 

「あなたは、どなたですか?マスターに何か用ですか?」

 

アリスの殺気を受けて、犬耳男の股間が濡れていく。

 

「アリス、行くぞ!」

 

「はい、マスター」

 

プレイヤーで向かってくるヤツラはアスカがキルしまくっていた。まだ3日程度しか滞在していないのに、俺達にたかるハエが多い。ダンジョンへ行くのが遠いなぁ。

 

「おい!お前、何者だ?」

 

今度は大剣を携えたドワーフ?が俺の前に立った。なんだ、コイツ?ステイタスを見ると、オッタルという猪人のNPCのようだ。アビリティーは魔力を除いて、オールS。カエデとメイプルが俺を護るように立ち、アリスとクロムが、いつでも相手を斬れる位置に立った。

 

「俺は、アルテミス・ファミリアの団員だけど、それが何か??」

 

相手が剣を抜いた。それと同時に『ウッドオクトパス』による狙撃。ケツの穴から脳天に掛けての串刺し刑であるが、NPCは決して死なない。が、クロムと違って、瀕死状態にはなるようだった。

 

「弱い癖に、ジャマするなよ」

 

瀕死のオッタルを放置して、ダンジョンへと向かった。低層階での強敵と言われているミノタウロスを相手に、この世界での戦い方を練習していく。

 

「『捕食者』」

 

メイプルがAGIを補うように『捕食者』を連発している。天井高が低いので機械神と機龍が使えないのが痛い。

 

「中層階に行けば、天井高が高くなるようだぞ」

 

と、情報通のクロム。

 

18階層にセーフティーゾーンがあるらしいので、そこを目指すのが第一目標である。ただエイナに訊いた話だと、日帰り出来る距離には無いらしい。旅費を稼ぐのが先だな。ここのモンスターは、倒すと魔石を落とす。レアモンスターの場合だと、たまにドロップ品もあるらしいけど。魔石は店で売れるそうで、ダンジョンでの目的の一つは魔石の収集になるのだとか。

 

前衛陣が倒し、マイとユイが拾っていく。前衛陣が倒しきれない場合は、後衛陣でシューティングしていく。ユウキ、カスミ、アスナ、リーファの前衛陣がヘマすることが少なく、順調に魔石を拾い集めていた。

 

「お願いです。助けてください!」

 

小さな女子が脇道から出てきた。全身傷だらけで、虚ろな目つきである。

 

「アリス、状況は分かるか?」

 

「モンスタートレインが発生しています。脇道方向から、ミノタウロス多数、レアのミノタウロスが迫ってきます」

 

「メイプル、出番だぞ」

 

「はい!がんまりましゅ!『機械神』全砲門展開!発射!」

 

ここじゃダメって言ってあった機械神へと嬉しそうに変身し、脇道へ向けて、多弾頭ミサイルが多数発射された。暗めの脇道が真っ赤に染まっていく。今日はミザリーがいないので、俺が回復薬である。モンスターはメイプルとカエデ、アスカに任せて、俺は少女に『ヒール』を掛けていく。それと同時に少女のステイタスを見た。

 

リリルカ・アーデ、ソーマ・ファミリアのメンバーで小人族。彼女の背中には神ソーマの恩恵と加護が刻まれている。

 

「アリス、これ、アルテミス・ファミリアに改宗出来るか?」

 

この世界では『ファミリアの移籍』を『改宗』と呼んでいる。信仰する神を乗り換えるってことだろうな。

 

「可能です。書き換えを開始いたします」

 

背中の契約陣の文字が少しずつ置き換わっていく。

 

「その子はどうするんですか?」

 

レンに訊かれた。

 

「現地駐在員にする」

 

ビースリーとマリーもデンドロの世界の現地駐在員扱いである。何か問題が起きたとき、俺達を呼び戻す役目がある。現在はアズライトの妹が執政しているのだが、無いと良い暗殺事案が起きた場合とかに、緊急連絡をしてくれるように頼んである。新生ALOの世界ではユウキの仲間達が駐在してくれていた。もしかしたら、アイツらはメイプルにビビって逃げたのかもしれないけど。

 

今現在もメイプルは楽しそうに、ミサイルやら機銃やらをぶち込んでいるし。まぁ、俺の妹も似た感じなので、メイプルのことは言え無いけどな。

 

 

 

---リリルカ・アーデ---

 

目が醒めると、知らない部屋のベッドで寝ていた。何年ぶりだろうか、ベッドで眠るって…

 

「あっ!目が醒めましたか?」

 

知らない女神様がいる。ここって、どこだ?

 

「えぇ…あの、ここはどこでしょうか?」

 

「アルテミス・ファミリアのファミリアホームですよ。あなたは、私の子供に改宗されていますよ」

 

あれ?ソーマ様の許可が無いと改宗出来ないんじゃ無いの?

 

「あなたみたいな幼い子を虐待するって、ソーマはロクな事をしないわね」

 

女神様からのお言葉…そうか、ダンジョンから救出してくれたんだ。ここのファミリアの眷属達が…

 

「私は、アルテミス様の眷属ですか?」

 

「そうですよ。ソーマの与えた加護と恩恵とは違うと思うから、気をつけてね」

 

地獄から救い出されたのか?殆ど奴隷並みに扱われて来た私。もう、あの生活に戻らなくても良いんだ。

 

「今、月に代わってお仕置きをしにいっているの。もう、虐待はさせませんからね」

 

お仕置き?誰に?

 

 

 

---ダン---

 

バイト組を除いたメンバーで、ソーマファミリアを急襲した。プレイヤーはドット落ちをしながら消え、NPC達は瀕死の状態になっていく。屋敷の2階のバルコニーのある部屋に、ソーマと呼ばれている神がいた。

 

「君達は何者だね?何をしに来たんだ?」

 

ソーマは俺達の方を見ずに、何かの作業をしながら、問いかけてきた。

 

「リリルカ・アーデー…アルテミス・ファミリアに改宗させたからな。この世界では幼女虐待は認められているのか?」

 

「興味が無い。好きにしてくれたまえ」

 

なんか会話が成り立たない予感。クマの弟並の理解力か?

 

「何?」

 

好きにして良いと言われたので、ソーマに対して串刺し刑を執行した。俺達にはキル出来無い存在。だけど、痛みは与えられる。そして、アリスにはコイツを消す事が出来るそうだ。いや、神を殺せる仲間がいるな。【神喰狼】のポチを召喚して、一関節ずつ食いちぎって食べて貰うことにした。

 

「痛い…止めてくれ…酒が造れなくなる」

 

「リリルカを虐待しまくって放置って、アンタ無責任過ぎるだろ?」

 

手の指の関節を総て食べ終えたポチが、脚の指を食い始めた。

 

「無責任?ただ酒以外に興味を抱けないんだ。それは酒を司る神としての特権だぞ」

 

よく分からない理論だな。俺は酒を飲まないし、お前のような神を信仰したことは無い。

 

「なぁ、止めてくれ…私は地上にいたいんだ」

 

「お前、リリルカの心の叫びを聞いていないかったのか?」

 

「そんなヒマは無い!」

 

「じゃ、神の世界で悠久の時間を堪能してくれ」

 

この世界の神は地上で死んでも、神の世界へ帰還するだけだそうだ。だから、せめて激痛だけでもプレゼントしようと思った。プレイヤーである俺は、コイツを自らの手でキル出来無いから。ポチは美味しそうに、ソーマの腕、脚を食べ、最期に身体を食べて始めた。その頃になると、ソーマの口から喘ぐ様な声しか聞こえなくなっていた。ポチが身体を食べ尽くすと、ソーマの頭部に光の柱が降りて来て、ソーマの頭部が天へと昇っていった。これで悪神を一柱成敗出来たかな。

 

 

善行の後は腹が減る。なので、『豊饒の女主人』に立ち寄ると、揉めていた。ミアがあの失禁犬耳男とだ。

 

「ミア、どうしたんだ?飯を食いたいんだけど…」

 

ポチの旨そうに喰う姿を見たから、余計に腹が減っているのかもしれない。

 

「あ、ダンか。コイツ、お前のとこの団員に手を掛けたんだよ」

 

「はぁ?ケツをなで回したところで減る訳でも無いだろ?」

 

うん?誰のケツをなで回したんだ?店の奥に視線を向けると、ミィが泣き崩れていた。ミィに手を掛けたのか?お前、この店を全焼させる気なのか?あぁ、面倒だ。あの状態のミィは小学校低学年並の少女になるんだぞ!

 

「はぁ?狂犬よ!お前がなで回したのは前だろ?後ろじゃない!」

 

はぁ?ミィのアレをか?俺ですら、未だ触っていないのに…仕返しに近くにいた女性客を抱き上げて、唇を頂いた。

 

「お、お前!俺のアイズに何をしやがるんだ!」

 

淫乱失禁犬耳男が、俺の方へ走り寄って来た。レンとアスカの狙撃で、瀕死状態になり崩れ落ちていく淫乱失禁犬耳男。コイツ、、彼女がいるのにミィに手を掛けたのか?

 

「おい!ウチのアイズたんに何をしやがるんや~!」

 

神様っぽいのが文句を言っている。目の前の女性の口の中に舌を入れ、彼女の舌に絡めていく。ついでに俺へ敵意を持っているヤツラに『子羊の行進』からの『添い寝』をプレゼントしてあげた。目の前の女性だけ、俺に敵意が無かったのか、自ら舌を絡めて来る余裕があるようだ。

 

「おい!ダン…お前がやったのか?」

 

宴席に来ていた客が、一人を除いて全員瀕死状態である。抱きかかえていた女性を降ろし、

 

「まぁ、その程度のヤツラってことだな。ミィ、大丈夫か?」

 

ミィに近寄る。

 

「ダンに捧げようと思ったのに、汚されたの。ごめんなさいなの」

 

ミィは【爆炎】で無く、ただの女の子になっていた。こうなると、宥めるしか手は無い。

 

「後は頼む。俺はミィを介抱してくるよ」

 

そう言って、ミィを抱きかかえ、下宿している部屋から、移動式ギルドホームへと転移した。

 

 

 

---桐ヶ谷和人---

 

カフェバー「ダイシー・カフェ」に向かった。そこはエギルがリアル世界で営んでいる喫茶店であり、俺達SAOサバイバーの集いの場になっていた。

 

「おぉ、キリの字、やっと来たか」

 

カウンター席には、クラインこと壷井 遼太郎が座って待っていた。

 

「アイツの情報を手に入れたって…」

 

クラインが、アスナとリーファを手に入れたアイツの情報を手に入れたと、俺を呼び出したのだ。

 

「アイツのメインゲームはNWOなんだが、相互乗り入れで、デンドロをメインにしているんだと」

 

相互乗り入れとは、違うプラットホームのゲーム間で、相互に行き来出来るシステムである。

 

「で、調べたんだが、新生ALOと神々の宴が、デンドロと相互乗り入れを開始していたんだよ」

 

「マジか?」

 

うん?情報通のエギルでも知らないのか。

 

「あぁ、特に告知は無いが、港から船で、新生ALOからデンドロとNWOと神々の宴へ行けるようだぞ。違うゲームは新大陸ってことらしく、移動時間はリアルタイムで24時間掛かるそうだ」

 

リーファはそれでアイツの元へ向かったのか。直葉の部屋にはALOのヘッドギアしか無かったし。

 

「どうする?乗り込むか?」

 

「そうしたいな」

 

しかしエギルは難しい顔をしている。

 

「どうしたんだ?」

 

「いや、アイツと一緒にいた黒い鎧の女の子なんだけどな」

 

「あぁ、やたらに固い防御力だったな。あの子が何か?」

 

「う~ん、あれって、メイプルじゃないか?楓の木のさぁ」

 

楓の木のメイプル?

 

「えっ!おいおい…あの楓の木か?」

 

クラインの顔から血の気が失せていく。そんなに恐怖の対象なのか?小学生の少女に見えていたけど。

 

「その楓の木だよ。うん?キリトは知らないのか?」

 

「知らない。その子がどうしたんだ?」

 

「お前、知らないのか?有名人だぞ。NWOのTVCMに出ていただろうに」

 

「俺、テレビ見ないから…」

 

ヒマがあれば、ネットにダイブしている。

 

「そうなると、ヤツは楓の木のメンバーの可能性が大だな」

 

「俺もそう思う」

 

エギルとクラインが難しい顔をしだした。

 

「その楓の木だと、何がどうなんだ?」

 

「楓の木は、NWOにおける最強ギルドだ。現在、デンドロに活動拠点を移して、最強クランになっている。アイツらのヤバさは個人個人が化け物クラスの強さってことだ」

 

「バケモノ?」

 

「メイプルは固さに特化している上、火力もバケモノだ」

 

エギルがメイプルの戦闘シーンを見せてくれた。再生回数が飛んでも無いことになっている。その戦闘ぶりは、まさにモンスターであった。

 

「キン●ギドラに変身出来るのか?」

 

「そのようだ。で、お前が倒そうとしているヤツは、このバケモノに連勝無敗のバケモノだと思う」

 

キン●ギドラに連勝無敗の男?

 

「あぁ、あの二つ名がレールガンのやつか?」

 

「そうだ。ラスボス級モンスターのメイプルを瞬殺出来る殺傷能力持ちだよ」

 

アイツの戦闘シーンも見せて貰った。う~ん…

 

 




次回は戦争遊戯を予定しております(^^;


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

戦争遊戯

---桐ヶ谷和人---

 

その日の夜、先遣隊としてエギルとクラインがデンドロの大陸へと旅立った。俺の顔は割れているから、代わりに様子を見てくると言う。翌々日の夕方、「ダイシー・カフェ」に向かい、話を聞くことになった。

 

「どうだった?」

 

「アイツらは神々の宴に活動拠点を移動したらしい。だが、キリトじゃ勝て無いと思う」

 

エギルが難しい顔をして、俺では勝て無いと言う。

 

「どうしてだ?」

 

「アイツ、決闘ランキングでランカーだったぞ。まず、決闘ランキングで10位以内、いや5位以内に入らないと無理だな」

 

「わかった。デンドロに行って、決闘ランキングで上位を目指してみるよ」

 

 

 

---ダン---

 

アズライトの状況を知らせに来てくれたリリアーナとスキンシップ…

 

「じゃ、経過は良好なんだな?」

 

「えぇ、日常生活は問題は無いです。しかし、体力とか筋力が落ちていて、遺跡調査はもう少し先になりそうです」

 

目の前で、撓わに実った二つの房が揺れている。リリアーナは着痩せするのだろうか?

 

「焦らないでいいよ。新大陸で鍛錬をしているから」

 

「新大陸ですか…一緒に行きたいですけど…」

 

王女付きの騎士の身分では、気軽に行けないよな?

 

「休日が出来たら、連れて行ってあげるよ」

 

アズライトと共にだな。リリアーナだけ連れて行くと、アイツ凹むだろうな。

 

リリアーナと別れ、クランハウスに戻ると、みんな集まっていた。さて、行くか。今日はレイレイも参加だと言う。転移をして、オラリオへ移動をした。

 

「ここが新大陸かぁ~」

 

戦う気満々のレイレイ。まず、大家さんの処で、食事だな。「豊饒の女主人」へ向かった。

 

「来たな」

 

小人族の男が声を掛けてきた。誰だ、コイツ?スルーをしておくか。テーブルに別れて座り、俺とアリス、メイプル、サリー、レイレイがカウンター席に座った。

 

「おい!貴様、無視をするな!」

 

子供が騒いでいる。保護者はいないのか?

 

「俺、おすすめ」

 

「私も」

 

と言った具合に、ミアにオーダーをしていくと、背後から殺気を感じ、振り向きざまに拳を置きに行った。

 

「うぉっ!」

 

ドン!

 

カウンターで小人族の男の鼻っ柱に、拳がめり込み、反動で壁まで吹き飛んでいった。

 

「お前、失礼だな。いきなり襲うって、親にダメって言われなかったのか?」

 

「貴様…貴様のファミリアと戦争遊戯で決着を着けてやる!」

 

戦争遊戯?戦争ごっこか?

 

「なんだ、それ?俺はお前と遊ぶ暇は無い」

 

「後でギルドから知らせが届く。ロキ・ファミリアの本気を見せてやる」

 

「見たくも無い。他のヤツと遊んでいろよ」

 

「なんだとぉ!」

 

「おい!ここは飯屋だ。戯言は他でやってくれない」

 

ミアが小人族にキレたようだ。いや、俺達もかな?

 

「ダン…殺気を抑えてくれない。他の客がえらいことになっている」

 

他の客達を見ると、足下が濡れている。

 

「なぁ、ミア。戦争遊戯って、どんな遊びだ?」

 

「ファミリア同士の戦争だよ。勝ったファミリアは、負けたファミリアに、無理難題を飲ますことが出来るんだ」

 

「戦争か…メイプルの出番だな」

 

「はい、頑張ります」

 

俺達は戦場を求めていた。

 

「受けてやる。勝ったら…お前らのファミリアホームを貰う」

 

「コチラが勝ったら、主神は追放の上で、お前達を傘下に編入する」

 

アルテミスを天界へ送還したいのか?させないよ、ふふふ。

 

 

戦争遊戯の対戦方式は攻城戦戦になったそうだ。アイツらのいる城に攻め入って、あの小人族を戦闘不能にすれば良いらしい。期間は3日もあるらしい。

 

そんなに時間を掛けるつもりは無いけど。俺達は速攻で攻めるし。で、戦争遊戯とはウォーゲームと呼ばれる神の代理戦争らしい。娯楽に飢えた神が考えたショウの側面を持つそうだ。ロクでも無い神だな。まったく…

 

「作戦はどうします?」

 

メイプルに訊かれた。

 

「作戦か?眠らせて添い寝でチェックメイトだろ?」

 

「それ、戦いになっていないって」

 

サリーから苦情が飛び出た。

 

「まぁ、テロの類いだな。じゃ、機械神2体と機龍で蹂躙?」

 

はどう砲2発とメーサー砲を喰らえば、城程度なら消え去るだろう。

 

「圧倒的な戦力を見せた方がいいわ」

 

クマを召喚するか?まだ弾が充填出来ていないか。メイプルと戦ったからな。

 

「PK専で城の外に居るヤツラを戦闘不能にした後、殲滅戦かな?」

 

ビースリーとマリーを呼ぼう。

 

「ユーゴーもロボットに搭乗だ。メイプル、カエデは機械神…いや、キ●グギドラにしよう。ポチとアナ、あとシロップも参戦だな」

 

「怪獣大進撃ですね」

 

フレデリカが楽しそうだ。大阪城はア●ギラスが壊し、東京タワーはモス●が壊した。俺達は、アイツらの城を壊す♪

 

 

戦争の模様は、神々の力で、オラリオで観戦できるそうだ。この街では戦争すら娯楽らしい。まぁ、全力で行っても、相手は死なないし、問題は無いかな?

 

戦争の舞台になる城は、高い防御壁で守られているが、狙撃部隊は、シロップ、アナに搭乗している。上空からの狙撃…高い壁なんか無いに等しい。

 

俺とメイプル、カエデは正門から入り、城に入った後に変身をする。どこにいるか探すのが面倒なので、城をまず解体する。大まかな作戦である。細かく練っても、メイプルが従わない可能性が大であるから…そして、ゲームが始まった。

 

上空からの狙撃開始と同時に、正門を二筋のはどう砲が襲い掛かった。破壊の衝撃で、高く堅牢な城壁が崩れ落ちていく。正門を打ち破ったはどう砲は勢いを殺さずに、城に激突した。これにより、城は半壊状態である。

 

狙撃部隊により、城の外にいたヤツラは皆瀕死状態のようだ。さて、城の中に入るか。城の中に入り、キングギド●2体とメカゴジ●1体になった俺達。それだけで、残っていた城は全壊していく。城の高さよりも、俺達の方が大きいからな。

 

後は、プチプチとアリンコを潰す感じで…駆除は終了した。俺達は元の姿に戻り、ガレキの山に、『爆炎』『炎帝』をぶち込むミィ。クロム、カスミ、サリーなどが逃げるヤツラを斬り裂いていき、ゲームは終わった。

 

 

 

---フィン・ディムナ---

 

オラリオにおいて、ロキ・ファミリアは、強さにおいても、規模においても、一二を争う最大派閥である。新興ファミリアに負ける要素は無い。それは団長である俺も、団員であるみんなも自信を持って言い切れる。

 

ゲーム開始と同時に、城に激震が走った。何が起きたんだ?窓から外を見ると、門と外壁が崩れていき、城の半分が無くなっていく。空からは銃弾が飛んできている。何?飛行部隊がいるのか?大きな亀と大きな鳥が空に浮かんでおり、そこに狙撃手が多数いる。コイツら、何者だ?

 

また城に激震が走ると、床が崩れ、俺達のいる部屋も崩れていく。爆破程度では崩れない城が崩れていく。何をしたんだ?一瞬でガレキの下敷きになった。始まってから、まだ時間が経っていないのに、俺達の負けは決定じゃないのか?

 

プチッ!

 

意識が…

 

 

 

---アルテミス---

 

神々が集まり、ヘルメスの神力により、ゲームが映し出された。あの子達は、どんな戦いをするのかしら?

 

「アルテミス、負けたら、お前を送還してやる」

 

ロキの汚い笑顔。

 

「ふ~ん。ロキは勝てるつもりなのかしら?」

 

「当たり前や。オラリオで最大派閥なんやで、ウチらは」

 

子供の人数が多いだけの派閥のくせに、顔だけはデカイわね。胸はアレだけど…

 

「ねぇ、ロキ。引っ越し先は考えた?明日には引っ越すからね。お宝は置いて行ってね。居抜きだからね」

 

「ソッチも送還の準備をした方が良いで!」

 

ゲーム開始して、直ぐにロキ・ファミリアは殲滅された。静まる神々…ロキが口を開けて固まっている。ここまで、凄いとは、私も思わなかったけど。メイプルもダンもサリーも、私の子供達は、いつも通りの顔である。

 

「じゃ、ロキ!明日、引っ越すから今日中に出て行ってね♪」

 

 

 

---フィン・ディムナ----

 

負けた…新興ファミリアに、ロキ・ファミリアが殲滅された。団員の殆どは瀕死の状態で、医療系ファミリアに救出された。城のあった区域には、燃えたと思えるガレキが散乱していた。そこに堅牢な城があったと思えない風景が広がっていた。

 

「何が起きたんだ?」

 

副団長のリヴェリアが呆然としている。戦う前から勝敗は決まっていたのか?俺達の誰もが、戦った記憶が無い。戦う前に倒されたのだ。

 

「アレは、戦っちゃダメな相手だよ」

 

苦笑いしているヘルメス様。

 

「あれは戦争じゃない。一方的な蹂躙だったよ」

 

火力が比較にならない程、大きかった相手のファミリア。一撃で門、城壁、城の半分がガレキになったそうだ。

 

「魔剣での攻撃でも、そうそう壊れない城壁が、一撃だからな」

 

ヘルメス様は笑っていたが、顔色が悪い。それは神でも衝撃を受ける程の攻撃力だったのだろう。

 

「まぁ、ケンカを売ったのはフィン達だ。彼らの要望を聞いてあげないとダメだよ」

 

ファミリアホームを居抜きで渡す。屈辱的な敗戦である。まぁ、ロキのことだから、約束を守らないだろうな…

 

 

 

---ダン---

 

ゲームの翌日、居抜きのはずが、居座って居るアイツら。神は約束を反故にする権利があると言う、相手の主神。俺とメイプルとアルテミスで、交渉の場にいるのだが…

 

「ウチは約束してへんでぇ~」

 

と開き直るロキ。

 

「じゃ、しょうが無いわねぇ。ダン、アレを出してね」

 

ポチを召喚した。ポチを見て、腰を抜かすロキ。

 

「なんで神喰い狼がおるんや?」

 

女神様も失禁をするようだ。ロキの下腹部が接している床が濡れていく。

 

「喰わせて、送還もいいわね。どこから喰われたいのかな?」

 

アルテミスはエス系の女神のようだ。

 

「待ちや、なぁ、アルテミス…」

 

ポチが女神を前にして、ヨダレを垂らして、臭いを嗅いでいる。

 

「約束…守る?それとも喰われる?」

 

「あ…守ります」

 

「じゃ、行動で示してね」

 

「はひ…フィン、即時、撤収や…」

 

相手の団長は冷ややかな目で主神を見ている。撤収する気が無いのだろう。

 

「居抜き以外の条件にしてくれないかな?」

 

「後出しじゃんけん?じゃ、全員サンドバッグになってくれる?」

 

全員とタイマン勝負も悪く無い。なんせ、俺達は戦う為に、ここにいるんだから。

 

「それもダメだ。他の条件は?」

 

「じゃ、訊くけど、あの条件に見合う条件で、出来る範囲のことはあるのか?」

 

「君達とは敵対をしない」

 

「敵にすらならないヤツらが敵対しないって…安すぎるな」

 

って、なんで俺が交渉しているんだ?こういうのは主神とか団長の仕事じゃ無いのか?メイプルとアルテミスは、出されたお茶菓子を美味しそうに食べているし。

 

「じゃ、気に入った団員を改宗させていい」

 

それは性奴隷にしていいってことか?

 

「それは団長であるお前の権限で出来ることなのか?」

 

無言の相手…

 

「じゃ、そこの緑の髪、奉仕してくれ」

 

「なんだとぉ~!」

 

奉仕の代わりに、俺を睨んで来た。まぁ、普通はそうなるだろうな。

 

「出来無いことを約束するな!早く、出て行け!」

 

ここにはデカイ風呂場がある。食堂も厨房もデカイし、拠点として最高な物件だと思う。

 

「てめぇ!いい気になるなよ!」

 

アマゾネスの女性が襲い掛かってきたが、振り抜かれた得物をメイプルが、身体を張って止めた。その程度の武器じゃ、メイプルに怪我を負わせられない

ぞ。

 

「何?斬れないのか…」

 

「はい♪」

 

顔面蒼白の相手に、笑顔で応えるメイプル。

 

「ポチ、舐めてやれ」

 

はぁはぁ言いながら、ロキに近寄り、ロキの身体を舐め始めたポチ。

 

「ひゃぁぁぁ~!フィン…早う…」

 

更に床が濡れていく。

 

「ポチ、甘噛みまで許す」

 

ポチがロキの腕や足を甘噛みし始めた。

 

「フ…ィ…ン…」

 

ロキは白目を剥き、口から泡を吹いて失神したようだ。

 

 




次回、オーディナルスケールのラスボスを予定(^^;;


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

共闘

 

---ダン---

 

結局、ロキ・ファミリアは約束を守らずに、居座った。まぁ、NPCの考えることは、ワガママなことなんだろう。それよりも、来月のケーキのアイデアが出ない。10月、11月は難しい。りんご、みかんでは未だ早い。ブドウにするかな…

 

なんの気無しに、『時空渡り 強い相手』を起動してしまった。どこかの部屋に転移した俺。ここはどこだ?目の前にはデカイヤツがいる。なんか、ヤバそうな相手である。直感的であるが、背筋に冷たいモノが流れて行く。

 

『倒すまで離脱が出来ません』

 

アリスからの警告のようだ。アリスは出て来ない。それはアリスでもヤバい相手ってことだ。機龍化しようと思うのだが、出来無い。何故だ?

 

『空間サイズよりも大きくは成れません』

 

おい…相手はデカイんだぞ。これ、ダメじゃ無いのか…相手が弾幕を張ってきた。蒼い装備にクイックチェンジして、翼を展開して逃げる。『炎帝』や『爆炎』を叩き込むが、効果がなさげ…どうするんだ。これ?近づいて、32連打しか無いかな?って…弾幕のせいで近づけない。何か手は無いか?何か…そうだ!『英雄召喚』を起動した。現れたのはクマでは無くて…なんで、コイツなんだ?

 

 

 

---レイ・スターリング---

 

いきなり、知らない場所に転移した。ここはどこだ?

 

「止まるな!逃げろ!」

 

アイツの声だ。迫る弾幕。俺はシルバーに乗り、弾幕から逃げる。

 

「おい!ここはどこだ?」

 

「わからない」

 

相手はデカイヤツだ。名前は「An incarnate of the Radius」と表示されているが、HPバーが10本以上ある。これ、どうやって倒すんだ?弾幕を2倍返しのフルカウンターで返しても、倒せない予感がする。それよりも、あの弾幕って喰らったら、ダメじゃないのか?

 

「囮になってくれ。俺が倒すから」

 

囮になりようが無い。弾幕相手にどうしろって言うんだ?

 

「あの固いのはいないのか?」

 

「いない。たぶん、アイツじゃ囮にならない。これ、マズいだろ?」

 

1発でも貰えば、即死レベルの弾幕って何?それでもアイツは果敢に攻めている。相手の拳を両方潰しているが、弾幕が止まらない。

 

「懐に入れれば、倒せるんだけど…」

 

無理…喰らったらお終いの攻撃に対して、どう囮になれと言うんだ?後味が悪いと言うより、スッキリ爽やかって感じでデス出来そうな攻撃力である。

 

「なんで、月夜じゃなくて、コイツを召喚したんだ?」

 

アイツが嘆いているが、俺は、お前に巻き込まれたんだぞ!アイツは青い鳥を召喚していた。細かい氷の礫を撃ち出している鳥。HPバーが僅かずつ減少しているが、これって倒すまでに、一体何日掛かるんだ?そんなレベルの減少である。

 

「これって、無理ゲーだろ?」

 

「俺もそう思う」

 

初めて、アイツと意見が一致したが、状況が変わる訳では無い。

 

「アニキかフィガロさんを呼び出せよ」

 

「俺の『英雄召喚』は、一番最適なヤツを一人だけ呼び出すんだよ。なのに、お前かぁぁぁぁ~!」

 

俺で悪かったなぁ。って、どうするんだ、これ?弾幕だから、弾切れ待ちか?アイツは遠距離攻撃をしているが、HPバーの減りは微々たる物である。ダメだな、これ…

 

 

 

---ダン---

 

俺にとっての最大火力であるアナの攻撃もミィの魔法も、大したダメージを与えられない。って、レイがやられたようだ。おい!ダメージを入れて行けよ!再度、『英雄召喚』をすると、メイプルが出て、一撃で消えた。もう一度、『英雄召喚』だな。

 

サリー、クロム、カスミ…皆一撃で消えている。回避盾も弾幕相手では分が悪かったようだ。サリーでも回避出来無い攻撃をクロム、カスミが回避出来る訳もなく、召喚された直後に、事態を把握する前に消えていった。どうするよ、これ…

 

兎に角、クマか月夜が出るまで『英雄召喚』をするしかないか。

 

「一緒に戦います」

 

漸く、弾幕に消される事無く、事態を把握した者が現れた。この子って、ミアの店で唇を奪った女性だったかな?その女性は、風を纏えるようで、弾幕の弾道を変える方向で、回避していく。『機械神』の火力なら、ダメージを入れられるのだが、あの弾幕の回避は無理だろうな。いや、待てよ。『機械神』になれば、メイプルの固さも手に入るはずだよな。そこに俺の機動力があれば…ダメ元で『機械神』状態で蒼き龍の翼を展開した。おっ!展開できた。

 

「全武装展開!発射!」

 

おぉぉぉぉ~!みるみるHPバーが減っていく。って、彼女が疲れて来たのか、弾幕に飲まれそうだ。

 

「『カバームーブ』」

 

彼女の元に移動して、抱えて、弾幕から逃げる。

 

「大丈夫か?」

 

「ちょっと、疲れました」

 

俺の魔力を譲渡して、休める場所は…俺の胸の中だけか?抱えていると、攻撃出来無いんだけど…どうするかな?

 

「なぁ?魔力を譲渡するから、少し囮になれるか」

 

「上手くいったら、ご褒美を貰えますか?」

 

甘えるような彼女の表情にクラッと…そうだ、今は戦闘中だな。

 

「差し出せる褒美なら、差し出すよ」

 

「分かりました」

 

彼女が満タンになるまで魔力をギフトしてから、彼女をリリースし、蒼い装備にクイックチェンジした俺は、敵目掛けて特攻していく。弾幕以外の攻撃なら、防御力無視のホーリークローをたたき込める。そして、たたき込んだ瞬間に、MPをドレインしていく。

 

あれ?弾幕が弱くなった感じがする。弾幕って、魔力由来なのかな。って考えている内に懐に入り込み、渾身の32連打をたたき込んだ。お願いだ、当たり出ろ!願いが通じたのか、1発目で当たりを引き、ドット落ちしていくデカ物エネミー。次の瞬間、彼女と別のフィールドに飛ばされて、スキンシップタイムとなった。

 

 

 

---サリー

 

目の前でメイプルがギョッとした。これはこれで珍しい表情なのだが、原因に問題がある。ダンさんが経験値をメイプルにギフトしたのだ。それは、あの弾幕魔を倒したってことである。

 

「で、最後はどうやって仕留めたんだ?!」

 

死神衣装のレイ・スターリングが、ダンさんに訊いた。コイツもダンさんに『英雄召喚』されたという。ここはデンドロのクランホームのリビングルーム、クランメンバーほぼ全員、それ以外を多少、召喚したダンさん。私も含まれるが、殆どの者は、状況が分からないまま、スポーン後に即キルされていた。いきなり転移したと思ったら、目の間に弾幕が迫っているという緊迫した場面に迎えられたのだ。

 

「アイツの懐に入り込み、パンチ一発だよ。俺の攻撃って、基本パンチとキックしか無いし」

 

レイは仲間のルーク・ホームズと共に、このクランに入団した。ダンさんへの誤解は解けたようだが…

 

「いや、だからぁ~、そうじゃなくて、どうやって、あの弾幕を抜けたんだ?」

 

因みにレイは、入団の儀式になりつつあるメイプルとの手合わせで、負けている。レイの得意技なのか、毒ガス攻撃と火炎攻撃をものともしないメイプル。そんなレイは捕食者のエサになっていた。その後、見た目が闇属性に見える二人が、魔王軍団内抗争ってことで、クロムとも手合わせをし、こちらも負けていた。

 

「呼び出した女性が、風を纏えたから、囮になって貰ったんだよ」

 

うん?新しい女か?どこの世界の女だ?私の知っている女性で、風を纏える者はいない。

 

「それは誰だ?」

 

炎帝モードのミィが訊いた。

 

「ロキ・ファミリアのバレン某さんだよ」

 

アイズ・バレンシュタインだっけ?ミアさんのお店で、ダンさんが唇を奪った女である。あれがダンさんの好みなのか?因みに、ミィは召喚されていない。

 

「その女は強いのか?」

 

レイが興味を持ったようだ。

 

「アレは弱かったけど、戦闘はお前より強いんじゃないかな?」

 

アレって、アレだよな。そうかスキンシップはしたのか。今度、リアルで迫ってみるかな。

 

 

 

---キリト---

 

漸く、デンドロの世界に辿り着いた。一緒に来たシノン、シリカ、リズベッドと共に、王都の入り口でクライン、エギルと合流した。

 

「クランは作っておいた。クラン名は<アインクラッド>だ」

 

クラインが手続き関係を担当してくれた。

 

「で、どうする?」

 

「王都で決闘は出来るのか?」

 

「いや、決闘都市ギデオンに行かないとダメだ」

 

「まずは観光がてらに、街を見学だな」

 

とシノン。エギル、クラインの案内で王都を見て回る。

 

「あの高級旅館みたいな建物が、クラン<楓の木>のクランホームだ」

 

クランで喫茶店を運営し、クランホームの一部を、国へ迎賓館として貸し出しているそうだ。敵情視察を兼ねて、喫茶店に入っていく。

 

「えっ!キリト君…なんで…」

 

アスナがウェイトレスをしていた。リーファもいる。

 

「迎えに来た。帰ろう、アスナ」

 

アスナとリーファが、建物の奥へと走って行く。俺は追い掛けたのだが、いきなりの3点狙撃で全身がドット落ちしていった。

 

「お客さん!当店はお触り禁止ですよ」

 

銃を持っている女性に言われた。

 

 

 

---ダン---

 

アスナの元彼で、リーファの兄であるキリトが現れたのだが、アスカ、レン、マリーによる3点狙撃でキルされたそうだ。これで72時間はここには来られない。

 

「アイツ、PKリストに入れたから、王都に踏み込んだら消すよ」

 

と、アスカ。PKリストを見ると、キリトと仲間の男性達が載っていた。

 

「あのシノンって女は?」

 

「お兄ちゃんがどうにかすれば?アイツの得物はライフルだから、街中でのPK戦では無力だと思うよ」

 

ならいいか。それよりも問題は…

 

「来月のケーキはどうする?」

 

「お兄ちゃんの案だと、ブドウだっけ?」

 

「12月はイチゴの予定だ」

 

クリスマス商戦には、イチゴのショートケーキで勝負の予定である。しかし、その前に11月が立ち塞がっていた。

 

「後、隠し球もあるけど…」

 

季節感は夏だと思うが敢えて、初冬で勝負したい食材がある。

 

「隠し球は興味あるクマ」

 

なんで、コイツがいるんだ?

 

「クマはなんで、ここにいるんだ?」

 

「あの死神レイの保護者として入団したのよ」

 

と、サリー。コイツ、ここでポップコーンを売るのか?

 

「アイツも反省したクマ。だから、水に流してクマ」

 

そうだ!あの重大局面で、なんでコイツは召喚出来無かったんだ?

 

『大きさが拒否されました』

 

アリスから正解が出た。俺の機龍と同じ理由で、あの弾幕魔の前で戦え無い大きさだったらしい。そう考えるとメイプルの機械神は、優秀な能力だな。火力はクマ並で、コンパクトサイズって言うのはいい。俺もコンパクトサイズのユニークスキルが欲しいかな?

 

『今後、破壊王、死神のスキルも使えますよ』

 

レイの能力はどうなんだろうか?俺には要らないんじゃ無いかな?毒だったらヒドラがあるし、炎だったら爆炎があるし。カウンターもフルカウンターがあるもんな。

 

『戦姫のスキルは、今までに無く、おいしいのでは?』

 

美味しいけど…アイズは、あの後、俺達のクランに入団した。俺達のファミリアって言えば良いのか?

 

『NPCですので、リアルへのお持ち帰りはダメですが、将来的に創造されるユウキの住む国(サーバー)に移住は可能です』

 

そうだ。そっちもどうにかしないと…資金調達かぁ。

 

 

 

---白峯理沙---

 

週末にお店に行くと、新作の試食が出てきた。一口食べると、そう来たかって思える味だった。

 

「これって、トウモロコシのケーキですか?」

 

「正解だよ、理沙」

 

コーンのピューレをスポンジで挟んでいるのだが、ウエットタイプのスポンジはコーンポタージュの味である。まんまトウモロコシである。

 

「トウモロコシの甘みだけで、甘味料は一切使っていない」

 

これは危険だ。後を引くほど旨い。コーンの甘みが優しい上、旨いのだ。

 

「醤油ジュレを薄く載せて軽く炙ったのもあるけど、洋菓子としての販売は出来無いってNGになったよ」

 

その問題作も試食したみたのだが、焼きモロコシ…旨すぎる。これは喫茶ブースでの裏メニューになるそうだ。

 

「で、こっちが、ブドウのケーキ」

 

サバランチックなケーキであった。ブリオッシュをワインに漬け込み、中にはブドウのジャムと生クリームが入っていた。

 

「アルコール濃度を下げる為に、ブドウジュースでワインを割っているんだよ。そんなに酔うほどじゃ無いだろ?」

 

「えぇ」

 

「予約要だけど、大人バージョンはワインを煮詰めて、ブランデーを混ぜてある」

 

イズさんは大人買いしそうだ。

 

「そうそう、12月にレイレイが来日するって」

 

ディナーショウかな?ネットでのコンサートの告知は無い…正さんがビラを私の目の前に置いた。

 

『モロボシ洋菓子店プレゼンツ レイチェル・レイミューズミニライブ 人気漫画家の一宮渚先生のサイン会』

 

と書かれている。この為に来日するのか?いや、正さんの両親に恩を売るのか?あの二人は…

 

「理沙は背伸びしなくていいんだよ」

 

私の頭を軽くポンポンして、奥へ下がっていく正さん。私、お子ちゃまじゃないんだよ~!女としての野望を持っているんだよぉぉぉぉぉ~!

 

 




ようやくダンとレイは和解した感じ(^^;


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

えん罪

 

---朝田詩乃---

 

まさか…あのダンが、この店の看板パティシエだったとは…GGOでの知り合いであるフカ次郎から聞いた時、驚いたのなんのって…

 

「いや~、このケーキはザ北海道って感じですなぁ~」

 

トウモロコシケーキを頬張るフカ次郎。まさか、女子大生だったとは…しかも私よりも歳上だったとは。フカが上京すると聞き、人気洋菓子店でオフ会をすることになって…

 

「ライフル女ってJKだったのか」

 

レールガン女がパティシエって…想像も付かなかったな。って言うか、このお店ってリアル<楓の木>のクランホームで無いのか?フカの幼なじみのレンから聞いた情報…「殆どみんなゲーム仲間なんですよ」

 

キリト君に連れて行ってもらったSAOサバイバーの集いの場「ダイシーカフェ」と違い、ゲームの話をしている人は少ない。このオフ会テーブルくらいだな。それは新鮮に見えた。ゲーム仲間なのに、ゲームと切り離して、リアルを生きていることに。

 

キリト君も私も、たぶん依存症なのかもしれない。ゲーム世界にいないと落ち着かないと言うか。

 

「どうだ、フカ?」

 

ダンがやってきた。

 

「ネーミングをザ・北海道にして欲しいですな」

 

「ミルク感は無いんだけど」

 

「コーン感満載ですぞ」

 

「北海道と言えば。ミルク、チーズ、ジャガイモじゃないのか?」

 

「それもありますね」

 

「そっちの子は初めてかな?」

 

「リアルでは初めてかな?GGOのシノンさんですよ」

 

ピンクの悪魔ことレンに紹介された。

 

「あぁ、直葉の兄の彼女か?」

 

直葉って誰だっけ?ゲーム内の名前で無いと分からない。

 

「直葉はもう直ぐ来るよ。香蓮、ブドウのケーキ、大人バージョンを喰うか?」

 

「儂もそれをご所望だぞ」

 

「はいはい、美優もだな」

 

奥へと下がるダン。本名で呼び合えるのかぁ。なんか、新鮮である。キリト君は私を本名で呼んでくれることは少ないから。

 

「あっ!いらっしゃいませ、香蓮さん、美優さん…この方は?」

 

ブドウケーキをトレイに載せて来たウェイトレスの少女。この店、若いウェイトレスが多く無いか?

 

「シノンさんだよ。直葉ちゃんの義姉になるかもしれない方だよ」

 

義姉?まさか…キリト君の妹…リーファかっ。

 

「兄がいつも、ご迷惑をおかけしています。桐ヶ谷直葉です。ゲーム内ではリーファを名乗っています」

 

ブドウケーキの大人バージョンをレンとフカの二人の前に置き、一礼をして去って行く。

 

「この店、私くらいのウェイトレスが多いのは何故?」

 

疑問をレンに訊いた。

 

「あぁ、クラン<楓の木>のメンバーですよ。週末の昼間はここでバイトしているんですよ」

 

夜はゲームにインしているのか。

 

「それで、ブラッキー先生とは、どこまで関係が進んだのじゃ?」

 

フカに訊かれた。

 

「私なんか、目に入っていない。アスナさんがいいみたい」

 

「そうなのか?お~い!明日奈!あぁ、ソッチじゃ無くて、か弱い方の」

 

一瞬、レールガン女が振り向いたが、線の細い少女が近づいて来た。

 

「美優さん、何かようですか?」

 

「直葉の兄が、お前を諦めていない件だよ」

 

「あぁ、迷惑ですよね。リアルでは会ったことが無いのに…」

 

会った事が無い?

 

「確かに、ゲーム内では結婚をして…そのぉ…関係を持ちましたけど、あくまでゲーム内のことで…リアル世界では、私は正さんのアシストがしたいだけなんです。それなのに、戻って来いって…なんか、違う世界の人なのかなって」

 

違う世界…彼女は本当に、SAOサバイバーであるアスナなのか?私の知っているSAOサバイバー達は、リアル世界よりも、ネット世界の方が落ち着くと言っていたけど。

 

「確かにキリト君は、あちらの世界で英雄かもしれませんが、こっちでは違いますよね?正さんは、こっちの世界でも英雄だと思います。ユウキの問題に真っ向から立ち向かっているし…向こうの世界では、問題児かもしれないですけどね」

 

彼女の笑顔…輝くように見えた。こちらの世界で生きていけると、こうなれるのかな。

 

「香蓮さん、こんど勉強を見てもらっていいですか?」

 

「うん?正君は?」

 

「楓ちゃんと理沙ちゃんとユーリちゃんで手一杯みたいなんです。ほら、ケーキのこともあるし」

 

「そうなんだ。いいわよ」

 

ゲームで知り合い、リアルを語れる仲間…なんか羨ましい。

 

 

 

---ダン---

 

久しぶりにNWOのイベントに駆り出された。どうするんだ?<楓の木>無双が始まりそうだが…久しぶりのギルド対抗戦なのだが。

 

「炎帝の国を勝たせましょう。参加賞だけで良いと思います」

 

メイプルが方針を決めた。それは、炎帝の国以外を殲滅すれば良いのか?一番下っ端のレイが、既にペインを一刀両断している時点で、勝負あっただろうに、まだやるのか?

 

「では、今日中にイベントを終わらせますよ」

 

それは1日目で炎帝の国以外のプレイヤーを5デスさせるってことか?

 

「ペインが弱くなった気がする」

 

いや、アスカが強くなりすぎたのだろ?ペインの2デス目は、アスカによる接近戦で終わった。スナイパーが接近戦しちゃダメだろ?アスナとフカが楽しそうにキルしているし。メイプル色に染まっていく女子たち。レンは元々メイプルと同じだったから代わり映えはしない。

 

メイプルとカエデがキングギ●ラになって、付近を蹂躙している。俺の隣にはアリスとアイズがいて、俺をガードしている。俺ってガード対象なのか?俺も暴れたいんだけど…敵が俺に近づく前にキルされていく。死神と死霊兵コンビは、集う聖剣担当らしく、アスカと共に、集う聖剣のリスポーン地点で待機してキルしまくっているし。

 

レイと共に新加入したルークは、ユーゴーと共に、キ●グギドラコンビの倒し損ねたヤツラをキルしているし。なんか、楽しそうなんですが…

 

遠くではキノコ雲が立ち昇っている。威力を更に高めたミィかフレデリカだろうか?いや、ミザリーかもしれない。NWOのレベルだと、あの魔法使い組でも接近戦で対処出来るのだろう。一応、護衛としてカスミとレンがいる筈だけど。

 

 

『しばらく来ないでください』

 

とNWOの管理AIからメッセージが届いた。あのイベントの参加には無理があったと思う。普段戦っているレベルが違うんだと思う。現在<楓の木>は、オラリオを活動拠点にしている。デンドロの世界は、アズライトの回復待ちである為だ。

 

「あと、少しで、遺跡にいけると思う」

 

俺とスキンシップ出来るまでには回復したアズライト。身体に傷跡は残っていないのは幸いだろうか。

 

「そんなにマジマジと見ないでください。恥ずかしいです」

 

「キズが無いかの確認だよ」

 

「あの…私の身体も観て下さい」

 

リリアーナが割り込んで来た。俺とのスキンシップタイムだと、アズライトと同格扱いだそうだ。

 

「鍛錬でキズでも作ったのか?」

 

「そんなドジは踏みませんよ。ダンさんにこの身を納めるまで綺麗な身体でいたいですからね」

 

いや、献上して欲しいと言ったつもりは無いんだけど…

 

「アズライト様がダンさんの元に行く時は、私も一緒について行きますから」

 

ティアンのお持ち帰りは無理だからな。システム的に…

 

 

デンドロの世界で稼ぎ、オラリオへ転移した俺達。稼ぎを両替して、オラリオで食材を買い込む作戦である。デンドロの世界よりも、ここの方が食材が豊富であり、大陸間の貿易をしている感じである。

 

「全額、食材にするなよ。ここのダンジョンの冒険資金を残しておけよ」

 

「大丈夫よ。経理は私とイズさんで管理しているから」

 

サリーが自信を持っていいきった。ならいいか。ロキ・ファミリアは未だに退かない。代わりにアイズを代金代わりに差し出してきた。もう1名、緑の髪のエルフも希望しているのだが、本人が拒否しているそうだ。まぁ、副団長らしいから、無理強いはしないけど。

 

「ハイエルフをハイエロフにして、性奴隷にするの?」

 

イズに訊かれた。

 

「そんなことはしない。ただ、種族の違いを見たいんだよ」

 

<楓の木>のメンバーは、全員ヒューマンであるから。多種族とヒューマンの違いを知りたいだけと言うか。

 

現在、「豊饒の女主人」の空いている土地に、仮設ギルドホームを建てている処である。主神がいるので、いつまでの従業員宿舎に居候って訳にいかないらしい。人出は足りているので、2,3日で建築が終わると思う。厨房、風呂、トイレは移動式ギルドホームにあるが定員が20名なので、それを補う部分を仮設している。まぁ、移動式ギルドホームを、外から見えなくする為の偽装っていう側面もあるが。

 

食事は「豊饒の女主人」で食べたり、ギルドホームで食べたりである。ギルドホームで食べる場合は、ミアとシルが食べに来る。俺達の世界の料理を知るためらしい。

 

「これは、旨いなぁ。どうやって作るんだ?」

 

この世界にはマヨが無いみたいだ。そう言えば、ミアの料理で出たのを見た事が無いな。

 

「お酢と卵の黄身と塩を混ぜるんですよ。白身は泡立てて、別の料理で使います」

 

アスカがミアに教えている。あの落ちこぼれだった妹の成長ぶりに涙が…

 

 

お触り禁止の店「豊饒の女主人」に<楓の木>からウェイトレス要員以外に、ガード要員を雇ってもらった。借地代ってことで…タダで借りる訳にいかないと思う。ミアがお金を受け取らないので、労働力で支払うことにしたのだ。

 

ガード要員は魔界コンビである死神レイと死霊兵クロムである。見た目がヤバそうなのが良いと、ミアのご指名である。ダンジョン攻略要員として力不足だったので、渡りに船である。

 

レイの実力を分析した結果、ボスクラス戦には有効であるが、ちょっと強い感じのフロアボス程度だと、スキルに回数制限のあるレイは役立たずになり易い。言ってみれば、メイプルの劣化版である。

 

クロムはそれよりも良いが、火力が無いのだ。中々死なないしぶとさは、防御戦には生きるが、攻める場合だと、ちょっと…火力のデカイやつが多いこのチームに置いて、役割分担はほぼ決まってしまう。

いこのチームに置いて、役割分担はほぼ決まってしまう。

 

ダンジョン攻略チームは、前衛に経験者のアイズ、アスナ、カスミ、リーファ、サリーの他、シールドアタッカーとしてメイプルとカエデとアリスがいる。人数は多めであるが、疲労度を考えて4名ずつ2チームで交代させるフォーメーションを練習中である。

 

中段には遠距離対応が出来るフレデリカ、レン、フカ、アスカがいる。ミィは火力がデカ過ぎてダンジョン通路での戦闘向きでは無くなっていた。まぁ、所謂ボスクラス要員である。後衛は回復役のミザリーとガードヒーラーとして俺がミザリーを護る。で、ハイエルフの件なのだが、回復役にどうだろうかと考えていたのだ。アイズに訊いたら、回復魔法を持っているそうだから。

 

「中層まで行こう。17階のフロアボスの前まで行ければ、全員参加で18階まで行けるだろ?」

 

18階層の次のセーフティゾーンは50階層で、ロキ・ファミリアだと1週間で着けるそうだ。地上から50階層までの往復に2週間、50階層より下の探検の時間を考えると、1ヶ月の間潜る準備をしないとダメらしい。食材をダンジョン内で手に入れられるかが鍵だな。手に入らないと、荷物が増える。

 

「お兄ちゃんの転移術で、地上から持ち込めばいいと思う」

 

アスカから提案された。それは奥の手である。更に問題があるとすれば、この前のデカ物エネミーだ。あのクラスが現れた場合、どうするかだ。俺達は死んでも生き返るが、アイズは死んだら終わりである。プレイヤー以外からのキルはアイズには有効であるから。

 

「考えても始まらないと思う」

 

そうなんだけど…「英雄召喚」で当たりが出ればいいけど、この前のデカ物戦のようにハズレを連発すると、マズいよな。

 

「げっ!固い」

 

昆虫系モンスターのエリアに入ったようだ。剣撃で倒すのが困難のようで、アイズがレンに弱点をレクチャーして、的確に倒していく。いざとなれば、フカのナパーム弾が飛んでいくが、風下にいると俺達が危険である。

 

 

 

---キリト---

 

決闘都市ギデオンに入った。決闘…コロシアムで行う決闘で死ぬことは無いそうだ。決闘結界内で瀕死状態になると、全回復して結界の外へ出されるシステムだそうだ。

 

「キリの字、いくのか?」

 

クラインに訊かれた。

 

「勿論だ」

 

公式の決闘ではランク戦が行われている。自分のランクよりも上の相手に勝つと、ランキングが上がり、上のランクの者と戦えるが、いきなり、上位の者とは戦え無い。戦えるのは、インをしている1つ上のランクの者だけだそうだ。アイツは10位以内の為、せめて15位以内にならないと、戦え無いらしい。

 

俺とクライン、シノンが決闘ランキング戦に申し込んだ。初めは1501位から2000位以内の者と戦い、1500位以内を目指すらしい。結果は…この世界の選手層は厚く、1500位が遠い。

 

「そうなると、アイツは無茶苦茶強いってことだな」

 

エギルが唸る。あっ!思い出したように、ランキングリストを見始めた俺。アスナとリーファの順位を知るためだが、リストにその名前は無かった。

 

「アスナとリーファの名前がない」

 

「それは、決闘ランキングに参加していないってことだよ」

 

見た事の無い、サングラスをした女性が声を掛けてきた。

 

「誰だ?」

 

「あぁ、ボクはマリー・アドラー。新聞社DINの記者だよ」

 

この世界の情報通か…

 

 

 

---シノン---

 

マリー・アドラーが声を掛けてきた。私はこの人を知っている。

 

「シノンちゃん、お久しぶり」

 

マリーも私を知っていた。ダンのクランメンバーだったはずだ。

 

「悪いようにはしないよ。リーファがお兄様にシノンが振り回されていないか、心配しているんだよ」

 

後半部分は、私にだけ聞こえる様に、私の耳元で囁いた。リーファが心配してくれたのか。

 

「で、この世界に来て、いきなりランキングが上がるほど、この世界は甘くないですよ」

 

「だが、アイツは短期間で上り詰めたんだろ?」

 

キリト君がマリーに詰め寄った。

 

「アイツとは、誰のことかな?」

 

「俺の彼女と妹を攫ったヤツだ」

 

「お名前は?」

 

知っているのに、キリト君に訊いているマリー。

 

「名前?たしか、ダンって言うやつだ」

 

ダンの名前を出すと、街の人々の視線が集まって来た気がする。

 

「この街で、その名前は出さない方が良いですよ。身の安全の為にね。この街には、その人物は出入り禁止なんですよ」

 

出入り禁止?何かしたのか?

 

「どうしてだ?ランキングにいるだろ?」

 

「対戦相手が指名した時だけ、この街に入ることを許される人物なんですよ」

 

「アイツ、何をやらかしたんだ?」

 

「何もしてない。えん罪を被って、否定せずに、この街を去った。まぁ、そんな感じですかね」

 

「えん罪?実際には罪を犯しているんだろ?事実、俺の彼女と妹を連れ去ったし」

 

「本当に被害者なんですかね?そうやって、被害者がいないのにねぇ、なんで彼は被害者なき罪を被せられるのかな?そこが記者として興味がありましてね」

 

「被害者はいるぞ!お前、アイツの仲間なのか?」

 

「だとしたら、どうしますか?」

 

街中で剣を抜いたキリト君。

 

「この世界では、デスペナはリアルで24時間、ゲーム内時間で72時間ですよ」

 

次の瞬間、キリト君、エギル、クライン、シリカ、リズベッドがドット落ちして消えていった。

 

「これで救助が成功しました。先に剣を抜いたのは向こうですし」

 

その後、私はマリーに王都へと連れて行かれ、クラン<楓の木>に入団させられた。

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

バランスブレーカー

---ダン---

 

インすると、クランホームにシノンがいた。どうして?

 

「あぁ、リーファに頼まれて、回収しました」

 

マリーが説明してくれた。リーファの兄に、振り回されていたので、楽しいゲームライフが出来るように、連れてきたそうだ。

 

「なるほど、ゲームとリアルの区別がつかないのか、リーファの兄は…」

 

リアルはリアルだと思うんだけどな。現に、アイズとアズライトはリアルに連れ出せない。それは、彼女達はゲーム内でのみ存在するからだ。

 

「このクランはリアルとゲームは区別している。慣れるまで大変だろうけど、フォローはするよ」

 

シノンにそう伝えた。あの後味で行動する死神レイだって、リアルとの区別は出来ている。リーファの兄は重症なのか?SAOサバイバー症候群だっけ。フカが詳しかったから、後でレクチャーして貰おう。

 

「今、オラリオっていう迷宮都市を攻略中なんだが、シノンは遠距離狙撃だったよな?近接とか中距離は大丈夫か?」

 

「得物はライフルだから、難しいかな」

 

「じゃ、暫くは、ここでの守護業務に就いて貰う。マリーに任せたよ」

 

「うん。任されたよ」

 

 

 

---シノン---

 

「守護業務ってなんですか?」

 

マリーに訊いた。

 

「この街で悪さをしそうなヤツラが入った場合、問答無用にキルするんだよ」

 

PKリストと言う物を見せられた。そこには、キリト君、エギル、クラインが載っていた。

 

「そのリストにあるヤツラを見つけ次第、キルするのがお仕事だよ。王都の平和は、私達が守るんだよ」

 

「どうして?」

 

国に雇われているとは思えない。悪さしそうってだけで、銃殺刑をする国なんて、あり得ない。

 

「一番にPK専の腕を鈍らせない為、二番にダンが暴れると王都が無くなるから、三番に王女に平穏を届ける為かな」

 

「…」

 

PK専ってPK専門のプレイヤーってことか?それは、キリト君が嫌うプレイヤーである。が、今のキリト君はPK専になりかけている。

 

「理解出来無かったかな?そもそも、このデンドロってゲームはPKでの戦闘がメインだよ。キルされてもゲーム内時間で72時間イン出来無いデスペナだけだからね。あぁ、因みにこの国の王女は、ダンを大好きだからね。ダンを敵にすると、この国も敵に回るから注意してね」

 

うん?王女様がダンに惚れているの。

 

「ダンは市民レベルでは犯罪者扱いだけど、お城関係では英雄扱いだよ。ダンはどちらも否定はしない。興味が無いんだ。アイツのオツムは来月のケーキのことで一杯なのさ。で、煮詰まるとバトルジャンキーに変身すると言うか」

 

来月のケーキ…あぁ、リアルのことをゲーム内で考えているのか。なんで?

 

「何で、ゲーム内でリアルのことを考えられるの?」

 

「簡単なことだよ。ゲーム内の方が時間が多く稼げるからだよ。デンドロの世界だと、リアルでの24時間が、72時間になる。その分、考えられる時間が増えるのさ。これって、ダンのことを考える上で重要なことだからね」

 

思考時間を増やす為に、ゲームをしているのか。それは、思い至らなかったな。

 

「アイツほど、リアルを大切にするゲーマーはいない。だけど、ゲーム内でのことだって、真剣に考えているよ。この国の王女に惚れられても、リアル世界に駆け落ち出来無いことに悩んでいる。だからアイツは、この世界で王女のしたいようにさせているんだよ」

 

NPCのやりたいようにさせている。それは他のプレイヤーにも、したいようにさせていることか。だから悪く言う輩を放置し、弁明もしないのか?

 

「少しはアイツのことを分かってくれたかな?ダンはゲーム内でもリアルでも大切な仲間なんだ。だから、私達はダンのしたいようにさせるんだよ。その方が、楽しい場合が多いからね」

 

そうだ。ゲームなんだから楽しまないと。ゲーム内でウダウダしているのって、ナンセンスなんだろうな。

 

「シノンはライフルを撃つのが楽しいから、GGOにいたんだろ?ならば、この世界でも撃てば良い。但し、ジャマ者だけだよ」

 

何となく、<楓の木>の方針が分かった気がする。彼らはゲームを楽しんでいるんだ。自分達のルール内で…

 

 

 

---ダン---

 

インをすると、シノンがウェイトレスをしていた。何かが吹っ切れたのか、笑顔が良い感じである。

 

「マリー、サンキュー」

 

「何もしていないよ」

 

少し照れているマリー。

 

「オラリオの方はどうだ?」

 

「いや、そろそろ、遺跡の方の計画をしようかなって。今日は城に行ってくるよ」

 

「じゃ、シノンを連れていってよ。王女様に顔を覚えてもらわないとね」

 

まぁ、それはそうだな。万が一、街中でシノンと歩いているのが見つかり、「どこの女よ」呼ばわりはマズいし。

 

 

戦闘用の装備で、シノン、アリス、メイプル、カエデ、アスナと共にお城へと向かった。戦闘用の装備は、戦士としての礼服みたいな物らしい。確かにリリアーナは玉間で騎士としての装備だしな。

 

玉間にはアズライトの妹のエリーことエリザベート・S・アルターがいた。現在、王女代行である。

 

「あのさぁ、考えたんだけど」

 

エリーの口調はため口である。エリー的には、俺は姉の彼氏ってことらしい。側近連中も、その崩れた口調を暖かい目で見ているし。

 

「婚約した黄河帝国第三皇子蒼龍人越様と私が、この国を治めるのも手かなって。黄河帝国的には、私達の子供が欲しい訳で、私達がどこに住もうが、関係無いでしょ?彼は3番目の王子様なんだし」

 

それは手であるが、俺はアズライトを連れ帰れないぞ。

 

「だから、お姉ちゃんをヨロシクなの!」

 

それで良いのか、この国は?

 

「で、アズライトは今どこに?」

 

「お姉ちゃんの部屋で悶々としているんじゃ無いの?今日、ダンが登城するって知っているから」

 

「じゃ、アズライトに会ってくるよ」

 

「うん。お姉ちゃんをよろしくね。今まで、辛いことを一杯させてきたから…」

 

 

アズライトの部屋に向かうと、部屋に入るなり、抱きついて来た王女様…

 

「毎日、見舞いに来てくれても良いのでは?」

 

頬を重ね、耳元でそのようなことをおっしゃる王女様。以前より身体の線が細くなったような気がする。

 

「リハビリはしているのか?」

 

「えっ!一人でですか?」

 

何か違うことを想像していないか?

 

「日常生活のだよ」

 

「あっ、そっち…」

 

「日常生活が出来るようになったら、次は剣のリハビリだ。せめて、自分の身は守れるようにならないと、遺跡調査には連れて行けないぞ」

 

絶対的な盾が2枚いるから移動中は良いが、遺跡に入るのはメイプル達で、俺達は地上の警護になる。そうなると絶対的な盾は1枚しか同行できない。死なない盾もいるが、あれはマイユイコンビのガードだしな。かと言って回避盾はガードには向かない。

 

<楓の木>は基本、要人警護には向かないのである。<楓の木>の良さは、その火力にあるので、ボスクラスモンスター相手なら、力が生かせると思う。

 

「剣ですか…まだ無理ですね。剣がこんなに重いとは…」

 

腕の筋肉と体幹が弱まっているのか。

 

「体力アップが課題だな」

 

「ダン…あなたと一緒なら体力アップの練習が出来そうだけど…」

 

俺と一緒?う~ん…コイツ、俺の上で踊る気なのか?まぁ、アレは体力を使うが、どうなんだろうか?

 

 

 

---サリー---

 

う~ん…また、ダンさんがどこかで経験値を稼いだのか、メイプルのレベルとVIT値が、トンでもないことになっていた。

 

「あれ?いつの間に、こんな値に?」

 

クマ兄さんの主砲を受けても問題無いレベルというか…メイプルを貫通出来るのは、もうダンさん以外いない気がする。そして、トンでも無い硬さを手にいれたメイプルの火力も、トンでも無いレベルになっている。体当たりだけで、イレギュラーモンスターを討伐って…シールドアタックすら使わないって…もうNWOには戻れない気がする。

 

「ダンさん、どこで稼いで来たんですか?」

 

オラリオで、あんなに稼げる場所は無い。

 

「あぁ、アレはソロプレイの『Infinity GAME』に転移して、ラスボスを倒したんだよ。そのラスボスが黒いスーツを着たおっさんだったんだよ」

 

「あぁ、あのゲームかぁ。大帝国がしかけるGAMEでしょ?確か、あのラスボスに400万のプレイヤーがタイマン張って散ったとか」

 

そうか、あのラスボスに勝ったのか。それなら、あの経験値も納得であるが、一人で他のゲームを遊ぶとは…むむむ!

 

「今度新しいゲームに行く時は、私も連れて行ってくださいね」

 

「中々、良さそうなMMOが無いんだって。アリスに探して貰っているけど…」

 

オラリオは飽きたのか?まぁ、ダンジョン戦は<楓の木>にとって、不向きである。売りである高火力が生かせない。ミィ、メイプル、ダンさん、フレデリカ辺りは、最近潜って居ない。

 

「みんなで遊びたいけど、地上戦で無いとなぁ。GGOは出入り禁止みたいだしなぁ」

 

GGOに限らず、ALOも出入り禁止にされたようだ。

 

「ここを出入り禁止にされると、マズいよな」

 

まぁ、アズライトの精神に影を落としそうだ。

 

「どうするかな」

 

強くなりすぎるのも問題だな。<楓の木>イコール<ゲームバランスブレーカー>と言われ始めているし…

 

 

 

---ダン---

 

インをすると見慣れない場所にいた。ここはどこだ?目の前には黒尽くめの者達がいた。

 

「コイツが魔王だと?あり得ないだろ?こんな弱々しいヤツは!」

 

俺を召喚でもしたのか?召喚しておいて、それは無いだろう。『爆炎』『炎帝』で目の前のヤツラを灰にしてやった。光が見えたので、そちらへと歩いて行くと外に出られた。俺は祠のような場所にいたようだ。ここって、どこだよ?

 

『「魔王様Re:TRY!」というゲームの世界のようです』

 

アリスの声が聞こえた。えぇっと…それって、MMOかな?

 

『招待制のゲームのようで、MMOでも可能なようです』

 

みんなを呼べるのか?

 

『方法を探ります』

 

招待制って、一体誰が俺を招待したんだ?アリスがシステムへダイブしたようだ。アリスが戻るまで、付近を探索するかな。取り敢えず、風上に向かって歩いて行くと湖が有り、その畔に見知ったヤツがいた。あのゲームの続編なのか?

 

「お前…あの時の…」

 

向こうも俺のことを覚えていたようだ。俺の目の前には、魔王である九内伯斗が、黒のスーツに黒ネクタイを締め、タバコを吸っていた。あんな格好で暑く無いの?

 

「お前が俺を招待したのか?」

 

「うん?何の事だ?俺も気づいたら、ここにいたんだよ」

 

こいつも誰かに招待されたのかよ。一体、誰が、何の為に?

 

『バランスブレーカー級の強さを持つ者を、ここの管理AIが呼び出したようです』

 

アリスが戻って来た。バランスブレーカー?なんで、俺なんだ?メイプルの方がバランスブレーカーだろうに。後、あの死神装束の聖騎士とか…心外である。

 

ガサガサ…

 

草をかき分けような音がした。俺と九内で音のした方を見ると、少女が森の奥の方から出てきた。

 

「早く、逃げて下さい!」

 

少女が俺達に叫んだ。その少女の斜め上の位置に、モンスターが出てきた。なんだ、あれは?取り敢えず、『ウッドオクトパス』で狙撃しておく。出てきて直ぐに退場していくモンスター。

 

「お前、相変わらず、相手に話させないな」

 

九内も長々と能書きを垂れていたので、ケツの穴目掛けての『ウッドオクトパス』の狙撃で倒した。ケツの穴って鍛えようが無いし、穴の中は内臓である為、貫通し易いのであった。

 

「えっ!悪魔王グレゴールを一撃で…」

 

あれが悪魔王?弱すぎるだろう。それよりも少女の足が気になった。片足を引きずるようにして歩いていたのだった。

 

『パーフェクトヒール』

 

少女に完全回復の魔法を掛けて上げた。

 

「えっ!痛くない。凄いです」

 

くすんでいた少女の顔が、輝くような笑顔に変化した…なんか可愛いな。俺の周辺だとメイプルに近い顔立ちである。天然系かな。それだと苦手ではある。俺の好みはアズライトやアイズのようなクール系で、中身はサリーのような的確で冷静な判断が出来るヤツである。アズライトは、直ぐにデレるので、ちょっと苦手である。

 

「おい、汚れているな。そこで水浴びでもしなさい」

 

九内が少女に石けんとタオルを手渡した。コイツ、魔王のくせにロリなのか?

 

「お前、なんか失礼なことを考えただろ?」

 

「いや、見たまんまを想像しただけだ。ゆっくり、水浴びをするといい。俺とコイツは向こうにいるから」

 

祠のある方向を指差した。そして、九内と共に、俺が呼び出された祠へと向かった。

 

「この祠か?」

 

「そうだ。ここで黒装束のヤツラに呼び出されたようだ」

 

「ソイツらは?」

 

「呼び出しておいて、弱そうだなどと言うから、灰にしてやったよ」

 

「そうか…お前の悪い癖だな。相手の話を聞けよな!」

 

あいにくと、俺は短気な方である。ヤローの話なんかウザいだけである。

 

九内は祠の中を調べに行き、俺は少女が来るのを祠の前で待った。

 

 




九内VSメイプルだと、たぶんメイプルが勝ちます(^^;


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

アクと魔王と聖女…

---ダン---

 

そう言えば、ログアウトはどうやるんだ?まさか、デスゲームに迷い込んだのか?

 

『寝ることでログアウト出来るようです。しかし、ある程度進まないと、デンドロの世界には戻れないようです』

 

何?アズライトとレイレイを放置か…リアルレイレイが怖い。アイツ、クリスマスに店に来るんだぞ!

 

『それまでに、ここを卒業しましょう♪』

 

ある程度って、どのくらいだ?いや、ここにアズライトとレイレイが呼べれば問題は少ないか?そんな事を考えていたら、少女と九内がやってきた。

 

「お前なぁ!何も手がかりが残っていないじゃないか!」

 

まぁ閉鎖空間で、『炎帝』と『爆炎』を使ったからな。総ては灰になっただろうな。

 

「あの…これ、ありがとうございました」

 

少女が石けんとタオルを九内に返した。それを受け取ると、空間収納へと投げ込む九内。

 

「私…アクと言います」

 

「私は九内伯斗だ」

 

「俺はダンだよ」

 

自己紹介は簡潔に終わった。

 

「さて、どうする?」

 

「どこかの街へ向かうか」

 

「ここからだと、ヤホーの街が近いです。ボクも一緒に行っていいですか?ボク…グレゴールの生け贄だったんです。だから、村に戻る訳にいかないんです」

 

生け贄?許せないなぁ。灰にしてやろうかな。

 

「お前、村を焼き払う気か?止めておけ。揉めごとは避けろよな」

 

九内に心を読まれた。なんか、悔しい。

 

「アク、その街はここから、どのくらい掛かるんだ?」

 

「途中で野宿を一回です」

 

「そうか…」

 

野宿かぁ…それで寝れば、ログアウトは出来るのか。理沙に連絡して、レイレイとアズライトに伝言でも頼むか。

 

森を抜けると、谷間に出た。草木が生えない谷間。そこに九内が仮設拠点を造り出した。

 

「ここなら、ロケットランチャーでも耐えるぞ」

 

アクが不思議そうな表情を浮かべた。たぶん、この世界にはロケットランチャーが無いのだろう。

 

 

 

---白峯理沙---

 

正さんに呼び出された。何か気に障ることでも言ったかな?ドキドキしながら、待ち合わせ場所に急いだ。

 

「悪いなぁ、呼び出して」

 

今日は明日奈さんが一緒では無いようだ。少し安心である。が…あのカラオケボックスに連れ込まれた。あの時の恐怖がぶり返してきた。甚振られるのかな?生きて帰れるかな?

 

「レイレイとアズライトに伝言を頼みたい」

 

正さんから、昨晩の出来事を聞いた。違うゲームに招待されて、デンドロに戻れないらしい。

 

「寝ればログアウト出来るんだが、デンドロへの転移が出来無いんだよ。アリスによれば、バランスブレーカークラスのプレイヤーが召喚されたようなんだ。なんで、俺なんだ?メイプルとかレイと戦艦クマがいるだろうに…」

 

正さんは自覚が無いようだ。ダンさんもバランスブレーカークラスのプレイヤーなんだよ。あのラスボス、メイプル相手に未だに無敗って、ラスボス通り越してバケモノだよ、まったく…

 

「わかりました。しばらく遠征していて、デンドロに戻れないと伝えておきます」

 

「後、別件なんだけど、週末に一緒に行きたいところがあるんだよ」

 

えっ!中学生にはラブホの敷居は高いですよ~。

 

「どこですか…」

 

「医療関係を2箇所だ」

 

医療関係?ボコられて、緊急搬送か?それとも噂で聞く膣痙攣による緊急搬送か?

 

「どういった目的ですか?」

 

内心ではビクビクしながら、表面上はクールに接していく。

 

「1軒目は結城明日奈が一緒に行く」

 

妹の明日奈さんと区別する為、アスナのことはフルネームで呼ぶ正さん。

 

「もう1軒は理沙と二人だ。まぁ、俺の秘書のようなことをしてもらう」

 

タイトスカートにジャケットかな?妄想が広がっていく。

 

「そこはどこですか?」

 

「まだ先方から指示が無いんだよ。防衛省は無いと思うけど、厚生労働省の分室か、文部科学省関連施設かな?」

 

何故、政府機関にデートしに行くんだ?正さんって、ケーキ職人じゃないかったっけ?あれ?

 

 

 

---ダン---

 

目覚めた場所はソファの上だった。九内はロリ好き魔王らしく、アクと添い寝をしていた。その風景は仲の良い父と娘と言っても良い。アクはファザコンなのかもな。仮設拠点から外にでると、目の前には盗賊らしい集団が待ち構えていた。これは速効で『爆炎』だな。ヤローばかりの集団、灰になっても大丈夫だろう。

 

「おい!お前、有り金を出せ!」

 

『爆炎』

 

目の前にいた集団は消え、目の前にはクレーターが出来た。

 

「その魔法…アンタ、魔王ね!」

 

九内の好きそうなロリ娘が騎士達を率い連れて現れた。なんだ、コイツらは?

 

「魔王?まだ寝ているぞ」

 

「じゃ、アンタは魔王の手下ね!」

 

なんで俺が九内の手下にならないといけないんだ?

 

「違う。って、お前は誰だ?」

 

「えぇぇぇぇ~!私を知らないの?私は聖光国三聖女の三女のルナ・エレガントよ!おほほほ」

 

聖女?見えない。

 

「天使様に代わって、お仕置きをしてあげる」

 

彼女の持っている杖から金色の光が飛んで来た。だけど、俺に当たったその光は『フルカウンター』され、術者の元へ戻っていく。

 

「なんで?なんでよぉぉぉぉぉ~!」

 

自分の放った光に吹き飛ばされた自称聖女。

 

「き、き、貴様!聖女様に何を!」

 

騎士達が俺に迫ってくる。面倒だな。カエデを召喚してみた。目の前に現れたのはカエデが二人。はぁ?二人?

 

「ダンさん、敵ですね。ふふふ、『捕食者』」

 

久しぶりの共闘で、嬉しいらしいメイプル。騎士達は哀れにも喰われていった。

 

「これ、どうしますか?」

 

カエデは自称聖女を引きずって戻って来た。一応、『ハイヒール』を掛けてキズは癒やしておく。

 

「どうした?朝からお前何をしているんだ?」

 

戦闘音で九内とアクが目覚めたようだ。

 

「その双子は誰だ?」

 

「あっ!私はクラン<楓の木>のマスターのメイプルです」

 

「私はご主人様の使い魔のカエデです」

 

「はぁ…私は九内伯斗で、彼女はアクだ」

 

メイプルとカエデもロリ好き魔王のストライクゾーンなのか?あの自称聖女は確定だろう。

 

「うん?<楓の木>だと…そうか…君が【空飛ぶ不沈要塞】か…」

 

楓の木を知っているのか。そうなると九内もプレイヤーってことか。いや、あのゲームの開発、運営者の可能性は大だな。

 

「そうです♪いや~、久しぶりにダンさんのお供が出来るなんて、嬉しいです」

 

って、俺の背中に載るメイプルとカエデ。

 

「お前、幼女にもてるなぁ~」

 

「はぁ?ロリ好きな魔王には言われたくない」

 

「失礼な。私はロリ好きでは無いぞ」

 

仮設拠点を空間収納にしまい、ヤホーの街を目指す俺達。

 

 

そういえば、金が無いのでは?

 

「ご主人様、両替をしておきました」

 

隣にアリスが現れた。

 

「じゃ、なんか喰うか」

 

露天での買い食い。この肉は何の肉だ?アクもメイプルもカエデもアリスも、旨そうに喰ってはいるが…

 

『魔物の肉です』

 

アリスから正解を得た。魔物肉か…臭みは感じられないが、筋繊維が固い。

 

「これから、どうする?」

 

九内に訊かれた。

 

「どこか宿を取る。この自称聖女に色々聞き出したいからな。で、九内はアクの服と靴を買いに行けよ」

 

九内に大金貨を1枚渡した。足を引きずっていた為、アクの靴は歩きにくそうだ。

 

「ほぉ~、気が利くな」

 

「まぁ、クランマスターが天然系なもので…」

 

メイプルは自称聖女、アクと共に屋台巡りをしている。喰わないでも大丈夫なカエデは、俺の背中に載っている。

 

自称聖女の定宿を紹介して貰い、部屋を1つ押さえ、九内とアクは買い物へ、俺達は部屋でマッタリしながら自称聖女に尋問をすることにした。

 

「で、お前、本当に聖女なのか?」

 

「そうだって言っているでしょ!」

 

見た目、魔女っ子である。

 

「アリス、実のところはどうなんだ?」

 

「本物の聖女です。元々は貧民の出でしたが、天賦の才を武器に教会に入り、わずか10歳にして聖女認定をされています」

 

天才聖女なのか?聖女に天才ってあるのかどうかは置いておいて、聖属性の欠片も見えない。まぁ、死神にしか見えない聖騎士もいるし、実際の聖女って、こんなものなのかもしれないな。

 

「で、お前は何しに来たんだ?」

 

「私の名前はお前じゃないわ!ルナって、呼びなさいよね!」

 

あぁ、めんどくさい女だな。

 

「で、ルナは何しに来たんだ?」

 

「魔王が復活したって聞いて、討伐しに来たのよ」

 

「魔王?あぁ、九内のことか」

 

「そもそも、アンタ達は何者なの?魔王の配下?」

 

「俺達は単なる冒険者だよ」

 

テーブルの上には屋台で買い込んだ食い物が置いてあり、ルナとメイプルが美味しそうに食べていた。

 

「聖光国って、どんな国だ?」

 

「智天使様に信仰を捧げている国…」

 

「国王とか居るのか?」

 

「いない。聖女が国のトップなの」

 

聖女が治める国かぁ。あの聖騎士をこの国に仕えさせようかな。

 

『たぶん、討伐対象に認定されるかと…』

 

アイツの見た目がなぁ…クロムは中身も腹黒だからいいけど。

 

「買ってきました。いかがですか?」

 

笑顔のアクが俺の目の前で回転して、ポーズを取って、甘えるような仕草をした。九内が調教したのか?俺は自然体が好きなんだが。

 

「で、街の様子はどうだった?」

 

「活気のある商人の街って感じだ」

 

俺の質問に九内が答えた。

 

 

 

---白峯理沙---

 

週末、正さんと明日奈と共に、病院を訪れた。誰が入院しているんだ?エアーシャワーを浴びて、加圧室を通り、白衣に着替えた。随分と厳重な場所だな。雑菌の持ち込み禁止とは。そして、ある病室に入っていく。入院している患者名は『紺野木綿季』と記されていた。病室の中は2部屋に分かれていた。窓から見える奥のスペースには、MRI装置の様な物に入った人が居る。

 

「あれはメディキュボイドって言う、医療用VRマシンの試作機だよ。彼女は3年間ずっと仮想世界で生きているんだ」

 

彼女?

 

「まさか…」

 

明日奈には心辺りがあるようだ。

 

「ユウキなんですか?」

 

えっ…ユウキって、あの16連撃のユウキなのか?

 

「あぁ…産まれた時に、輸血用血液製剤からHIVに感染したそうだ。既に末期だそうなんだ。もって後1週間くらい…」

 

まさか…昨晩もユウキと会ったけど、元気そうだったよ。

 

「明日奈、ユウキの傍に居て欲しい。手を握ったり、話し掛けて欲しいんだよ。これから毎日、通ってあげてくれないか?」

 

「…わかりました。あの…ユウキはもう助からないんですか?」

 

「誰かのセリフじゃ無いけど、このまま見ているだけじゃ、後味が悪いと思う。だから、足掻いているところだ。さて、理沙。次の場所へ行くぞ」

 

次の場所?ユウキに関係する場所なのかな?

 

 




ユウキの件を背負ったストレスで、ダンは短気気味です(^^;


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

2章 葬式帰りに
生と死の交差点


残酷な描写があります。


 

---白峯理沙---

 

次に訪れたのは宗教法人『月世の会』が運営する医療施設だった。そこで、何やら打ち合わせをする正さん。

 

「さて、帰るか。後は俺の方で世界を用意するだけだ」

 

世界を用意?

 

「楽しい時間って、いつまで続くと思う?」

 

帰り道、そんなことを正さんに訊かれた。

 

「ずっと、続いて欲しいけど…」

 

「そう…無限には難しい。世界の理を変えないとね」

 

世界の理を変える?そんなこと、人間には無理である。正さんは何になろうとしているんだ?

 

「いつまでも理沙達の傍にいたいけど、高校卒業したら明日奈とユーリの三人で、フランスへ修行しに行く。でも、ゲームの世界ではいつまでも寄り添えると思う」

 

えっ!海外留学するの…お菓子の修行…

 

「だから、そんな顔をするな」

 

私はどんな顔をしているんだ?正さんの両手で私の頬は包まれ、正さんの親指が私の涙を拭う。あれ?いつの間に、涙が出たんだ?

 

「ゲームの世界では、毎日会える。俺達のいない間、経営関係の勉強をしてくれると嬉しいな」

 

それって…将来を考えてくれているってこと?

 

「レイチェルが手放さないと思うから、秘書として傍にいて欲しいなぁ」

 

苦笑いしている正さん。あぁ~、あの『酒池肉林』女は正さんを手放さないだろうな。お金も名誉もあるから、正さんがヒモにならないように、私が傍にいないと。よっしゃ~!将来に向けて息込んだ私。それが、数日後…あんなことになるなんて…

 

 

 

---諸星正---

 

家に帰ると、アリスからメールが届いていた。万能の使い魔になると、ログインしていなくても自立行動してくれるようだ。デンドロってゲームは恐ろしい仕様だ。プレイヤーがインをしなくても、ティアンはティアンの時間を自分の意思で生きている。一体、AIモジュールを同時に何個動かしているんだ?サーバーの性能も恐ろしく高機能なのだろうな。

 

『新しい世界の目処が着きました。インをして打ち合わせをしたいです』

 

と…現状での一番の問題を解決してくれたようだ。だけど、AIにそんな権限があるのか。まぁ、インをして詳しい話を訊いてみよう。時間が足りないのだから。

 

インをすると、アリスが待っていた。

 

「新しい世界を用意できました」

 

「それは新しいサーバーを用意してくれたのか?」

 

「サーバーとは違います。人間とAIでは理が違いますから」

 

サーバーでは無いのか?

 

「仲間のAIに、領域を無限に生成出来る者がいるので、領域を無限に生成してもらうようにして貰いました」

 

無限に?圧縮技術かな?だけど、記憶モジュールは動的変化するから、圧縮には向かないが…

 

「どんな仕組みなんだ?」

 

「仕組みを説明するのは難しいと思います。マスターに対して、失礼な言い方ですが、AIの知識に人間が優るとは思えませんので」

 

それはそうだな。人間では見落としてしまう事を、AIは完璧に網羅してくれるし。

 

「分かった。じゃ、実験をしよう」

 

「はい!」

 

 

 

---白峯理沙---

 

週が明けた月曜日…楓との共に学校へと向かう。

 

「えっ!ユウキって、そんなに悪い状態なの?」

 

週末に正さんと一緒に、ユウキの中の人の見舞いに行ったことを、楓に話した。

 

「保って、今週末くらいだって…」

 

信号待ち…向こう側には小学生がいる。

 

「私も誘って欲しかったなぁ」

 

むくれる楓。青信号になり、横断歩道を渡り始めた…いきなり、左折してきたトラック、その先には小学生が…固まる私の横を楓が走っていく。小学生を歩道に突き飛ばし、猛スピードで迫るトラックの前に立ち、カバンを盾の様に持ち、『悪食』と叫んでいる。えっ?『悪食』?ここゲームじゃないけど…

 

トラックと真っ向勝負した楓は、私の目の前でトラックにぶつかり、トラックに血肉骨を散布している。一方、トラックは身体の正面を無くした楓を貼り付けたまま、疾走して行った。これは夢?夢だよね?現実世界で『悪食』なんかしないよね?

 

 

夢から覚めると、知らない部屋のベッドの上にいた。私を心配そうに見つめている両親。これは、どういう状況なんだ?

 

「ここは?」

 

「病院よ」

 

「なんで?」

 

「可哀想に…記憶に障害があるのね」

 

私を見て涙ぐむ母親。父親は病室から出て、誰かを呼んでいる。父親が戻ってくると、後ろには正さんがいた。

 

「大丈夫か?理沙…」

 

正さんの目は充血していた。今まで泣いていたのだろうか?頬には涙の粒が残っていた。

 

「私はどうして、ここに?」

 

「楓が交通事故に遭い、それを目撃して、お前は倒れたんだよ」

 

悔しそうな正さん。楓が事故に遭った?あれ?夢の中の話をなんで、正さんが知っているんだ?

 

 

翌日、警察の人が来て、事情聴取を受けた。楓が事故にあった時のことを訊かれたけど、全身が震え、真面に応えられない。

 

「こんな状況なのに、まだ話を訊くんですか?目撃者たくさんいたでしょ?」

 

正さんが、警察の人に文句を言ってくれている。そして、正さんと話合った警察の人達は病室を出て行った。

 

「理沙は兎に角寝ろ。いいな!」

 

正さんが私の手を握り、傍にいてくれている。嬉しいから、うぅん、安心してかな。私はいつの間にか、深い眠りについたようだ。

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

SS:転生の神様

 

---管理AI1号 アリス---

 

無限担当である0号と共に、転生担当の神に呼ばれた。

 

「あなたたちの計画を聞きましたよ。どうでしょうか?その計画に私も混ぜてくれませんか?」

 

「リソース的には問題は無い」

 

0号は肯定の意思を示した。

 

「0号がそう言うなら、問題は無いですが、理は弄らないで欲しいです」

 

「勿論、弄らない。過去に転生世界での理を弄り、転生世界を自分の玩具にした神々がいましたが、私は違います。彼らの住む世界の理を維持しましょう」

 

転生担当の神は我々の上位存在である。下手に逆らえば、我々の存在を消し去ることなんか、容易であるだろう。

 

「あなたは良い下僕を手に入れましたね」

 

「彼は下僕では無いですよ。彼は私の相棒です」

 

正確には、私のクローン体の相棒である。

 

「ほぉ~、そこまで信頼し、信用しているのですか」

 

「彼の発想は嫌いじゃ無いですから。つい、協力もしたくなります」

 

「じゃ、そういうことで」

 

私と0号は、私達の職場へと戻された。

 

 

 

---本条楓---

 

あれ?ここはどこだろうか?トラックに『悪食』を喰らわせた処まで、記憶があるんだけど…。真っ白な空間にいた。

 

「お待たせしました。本条楓さん」

 

う~ん、うさん臭い女性が現れた。誰だっけ?

 

「私は転生担当の神です」

 

あぁ~、あのラノベに良く出てくるヤツか。ダメ神のア●アとか…

 

「あなたはラノベを読み過ぎですね」

 

苦笑いしている神様。

 

「あなたは勇敢にもトラックに立ち向かい、死にました」

 

死んだ?えぇぇぇぇ~!私、生きているけど…

 

「ここは死んだ魂が来る転生の間です。あなたを異世界転生しようと思います」

 

異世界転生?ラノベにありがちだな。これは夢だな。そうに違いない。

 

「うふふふ、夢では無いですよ」

 

脳裏に私の葬式シーンが流れている。えっ?あのミンチは何?

 

「あのミンチが、トラックに立ち向かった後のあなたの姿です」

 

あれ?『悪食』が効かなかったのかな…って、そうだ!理沙に言われたっけ。現実世界ではスキルが使えないって…しまった。咄嗟に使っていたんだ。

 

「後悔後に立たずですか?」

 

「でしゅね…」

 

しゃがみ込み、床に『の』の字を書く。

 

「あなたの勇者たる行動に対して、今回は特別に神様特典を3つあげましょう」

 

3つ?何にしようかな?そうだな…

 

「ゲーム内のメイプルに転生したいです」「一人だと寂しいので、ダンさんも一緒にお願いします」「うん?そうだ!クランメンバーのみんな共冒険の続きをしたいです」

 

私の願いを聞き、考え込む神様。ア●アのように一緒に来たかったのかな?

 

「みんなも呼ぶのですね」

 

なんでだろうか?再確認された。

 

「はい!なんなら、私が迎えに行きますよ」

 

「そうですか。では、お迎えはお願いしますね。皆さんの死期をお知らせしますね。って…あなたの大事な人が、もうすぐコチラに来ますよ」

 

さすが、ダンさんである。私の要望を聞き入れてくれたのか。

 

「今回は準備が間に合わないので、お迎えは不要です」

 

白い靄の様な物が晴れると、荒れ地の大地にいた。ペンペン草すら生えていない大地。ここでダンさんを待つのか。その辺に落ちていた牙のような物の先端で大地を削ると、線が描けた。ダンさんが来るまで、落書きでもしておこうかな。

 

 





死神メイプル誕生秘話的な…まさか自分が『死』を手土産に、みんなを迎えに行くとは思っていないメイプル。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

召喚

 

---諸星正---

 

楓が突然死んだ。前方を良く見ていなかったドライバーの運転するトラックの前に子供。きっと、身体が自然に動いたのだろう。ゲーム内でも、考える前に行動していたし。しかし、その後がいけない。子供をトラックの前から逃がし、楓トラックに対し、カバンを向けて『悪食』と唱えたらしい。リアル世界で、スキルが使える訳が無いだろうに…理沙によると、学校でもスキルを発動しようとしたことが、度々有ったらしい。まぁ、アイツらしいと言えばそうだが…死んだら、もうゲームが出来無いだろうに…

 

本条 楓…ゲーム内の名前はメイプルである。その短い、いや身近すぎる人生を終えた少女である。遺影に使われた写真は、俺の作ったケーキを手にして、満面の笑みを浮かべている楓だ。楓だった物を焼いている間、俺の渾身の作品であるメイプルを模したウェディングケーキに対して、みんなで最後の共同作業をしてみた。ゲームで言うところのレイドである。メイプルのギルド仲間達、ゲーム仲間達が、次々とケーキへナイフを入れて行く。俺達なりの手向けの儀式である。

 

人柄だろうか。楓とのお別れに沢山の仲間が集まっている。もし、俺が消える時は、どうなるのだろうか?って、まだまだ死にたく無い。高校を卒業したフランスに留学に行き、妹と一緒にケーキ職人の世界大会に出るのだ。

 

焼かれた楓は、箸で摘まむには難しい状態であった。まぁ、ミンチ状態であったし、予想はされていた。小壺に灰となった楓が収められていく。

 

式が終わり、楓の家で形見の品を頂き、妹の明日奈、理沙と三人で帰路に着いた。楓との想い出を思い返していた俺。突然、腹に激痛を感じ、我に返った。腹に手を向かわすと、そこにはナイフが刺さっていた。相手は俺の腹の中で、ナイフを回している。絶対に助からない刺し方である。

 

「妹と彼女の仇だ。ゲーム内で無敵でも、リアルでは無敵で無いだろ?」

 

コイツ…確か…薄れ行く意識…一瞬、笑顔のメイプルが傍にいる気がした。お迎えかよ…

 

 

 

---諸星明日香---

 

理沙が救急車を呼んでくれている。兄さんを刺した男は逃走をした。私は、ハンカチで刺された箇所を押さえつけるが、出血量が多くて、出血を止められない。

 

「兄さん、しっかりして。ねぇ、一緒にケーキ職人の世界大会に出るんでしょ?」

 

兄さんに泣き縋る私。理沙は気丈にも泣かずにいるのに…

 

「…」

 

兄さんが何かを言っているのだが、言葉が聞き取れない。

 

「ねぇ、何?何って言ったの?兄さん…」

 

救急車が来るまでの時間が長く感じる。その間に、兄さんの体温が下がっていくのが分かる。何でこんなことになったんだ?楓が兄さんを呼んだのか?まさか…

 

救急車に載せられて、病院へ。だけど…兄さんは手術室へ向かわなかった。病院に着くと、死亡が確認されたのだった。

 

 

---ダン---

 

ふと、気が付くと、知らない港にいた。ここはどこだ?

 

「おめでとうございます。異世界転生をしたようですよ」

 

隣には嬉しそうなアリスがいた。うん?異世界転生?ラノベによくあるアレか?どうして俺が?

 

「あぁ、転生の神様に願いをした者がいたそうです。一人では寂しいので、ダンさんも一緒にって…」

 

俺も一緒に?そういえば、俺は楓の葬式帰りだった気がする。アイツ、道連れにしたのか…あの天然娘は…。怒り心頭な俺は、この原因であるメイプルの元へと転移しようとすると、

 

「お願いです。助けてください」

 

って、知らない女が俺に抱きついて来た。誰だ、コイツは…って、その女も含めて三人一緒に転移していた。

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

転生者

10/29 誤字を修正


 

---ダン---

 

メイプルの元へ転移すると、グスングスン言いながら、荒れ地に落書きをしていた。何をしているんだ?

 

「なぁ、どういうことだ?」

 

メイプルに声を掛けた。

 

「あっ!ダンしゃぁぁぁぁ~ん!」

 

俺に気が付き、泣きながら、俺にダッシュしてきた。咄嗟に蒼い装備へとクイックチェンジした俺。メイプルのタックルは生身では危険であるからだ。ここで死んだら、ジエンドだろうし。

 

ドン!

 

俺とメイプルのインパクトの瞬間、衝撃波が発生した。感動の再会で衝撃波が起きるって、どんな事態だ?その悪気のない攻撃から、アリスが連れの女性をカバーしてくれた。あれ?連れの女性?アイツは誰だ?

 

「一人で寂しかったです」

 

涙目のメイプルが俺を見上げている。こうして見ると、かわいい妹枠であるが…

 

「お前、どうやって、俺をこの世界へ召喚したんだ?」

 

「うん?転生の神様が願いを三つ叶えてくれるって…」

 

3つ?予測が着くが訊いてみるか。

 

「3つとは?」

 

「ゲーム内のメイプルに転生したい。一人だと寂しいのでダンさんも一緒に。それでみんなと冒険の続きをしたいって…」

 

眩しい笑顔で説明するメイプル。そうなると、俺以外にも理不尽な死を迎える者が多数出る予感がする?この無邪気な死神様のせいで…

 

「あっ!ダンさんだぁぁぁぁ~!」

 

背後から名前を呼ばれ、声の主を見ると、ユウキが俺に抱きついて来た。こいつは、きっと寿命だな。救う手立てを考えていたが、それを実行する前に、俺は死んだからな。

 

「どうして、ここに来たんだ?」

 

一応、ユウキにも訊いてみた。

 

「転生の神様に、ダンさんと会いたいって、願ってみました。お見舞いに来てくれましたよね?私の為に、明日奈さんにお願いをしてくれましたよね?私、あの時反応出来ませんでしたが、ダンさんの行為が嬉しかったんですよ」

 

泣き笑い気味のユウキ。あぁ、そういうことか。しかし、一歩順番が違えば、俺はユウキに怒りを抱いたかもしれない。はぁ~、メイプル相手では怒りが湧かないか。悪気をまるで抱いていないしな。ほんと、無邪気なラスボスである。因みにこいつへの体罰は意味が無い。痛みを感じ無いからである。うん?実は不感症だったりして…まぁ、お子様体型には無茶はしない。

 

「で、この女性は誰ですか?」

 

落ち着いたのか、メイプルが俺の連れの正体不明の女性を指差した。

 

「俺も知らない。転移する瞬間に抱きつかれたんだよ。で、お前は誰だ?」

 

知らない女性に訊いてみた。メイプル、ユウキとは違い、お子様体型ではなく、見た目もかわいい大人の女性のようだけど…

 

「あっ…私はカタリナ・クラエスです。ソルシエ王国クラエス公爵家の長女になります」

 

貴族のようなお辞儀をするカタリナ。公爵家の娘なら貴族になるのかな?

 

「で、なんで逃げていたんだ?」

 

「第3王子の婚約者だったのですが、王子が他に婚約者を作り、ジャマになった私を消そうと、追っ手の者を差し向けて来たのです」

 

「じゃ、俺達と一緒にいるか?で、特技は?」

 

「特技は…農作業…」

 

「そうか。どこかに住処を作れば、食い物には困らないな。アリス、どこかに街は無いのか?」

 

「30分ほど歩いた処に、セーリュー市という街があります」

 

「そこへ向かうか」

 

「ねぇねぇ、移動式ギルドホームは?」

 

メイプルが強請る様に訊いて来た。あぁ、そうだな。異世界で初風呂でも浴びるか。俺は荒れ地に移動式ギルドホームを出した。

 

「えっ!プライベートジェット?!」

 

カタリナが発した言葉…コイツも転生者か?

 

「お前も転生者なのか?」

 

 

移動式ギルドホームに移動して、お風呂に入り、飯を食う。

 

「トラックにはねられたのか?じゃ、メイプルと一緒だな」

 

「てへへへ」

 

メイプルが照れている。照れることでは無い。どこの現実世界で、学生カバンを盾代わりにして、トラックに向かって『悪食』を放つヤツがいるんだ?楓以外いないだろう。真面に正面からトラックとぶつかった為、楓の遺体は酷い状態だった。死体安置所で対面をしたのだが、スプラッターだったぞ。仰向けなのに、背骨の骨髄が見えるって、どんな遺体なんだ?まだ、ゾンビの方が見られると思う。そのせいで葬式の時、棺の中は見られない様になっていた。

 

「ボクは輸血でHIVに感染して、それが原因で命を落としました」

 

ユウキがカタリナに死亡原因を告げている。じゃ、俺も…とは言え、朧気な記憶であるが…

 

「俺はメイプルに召喚されて、デスしたようだ。ゲーム内を含めて、メイプルに2度デスされたことになる」

 

「あ…そうなりますね」

 

って、笑顔のメイプル。まさか、死者に召喚されて死ぬとは…一度目は初スポーンした瞬間に『悪食』を喰らったしなぁ。

 

「マスター、レーダーに赤点が表示されました」

 

アリスから敵出現の連絡。それは、迎撃だな。移動式ギルドホームを離陸させて、赤点表示の地点に向かうと、1台の馬車が見えた。あの馬車か?バンカーバスターの代わりにメイプルを投下して、自力飛行出来無いユウキを抱えて、俺はハンガーから飛び降りた。

 

地上に着くと、既に敵はメイプルに殲滅されていた。壊れた馬車の荷台を覗くと、3人の少女が、首輪をされ、怯えたように固まっていた。これって、奴隷ってことかな?少女達も一緒に、移動式ギルドホームへと転移した。

 

アリスに首輪と奴隷紋を解除して貰い、カタリナにお風呂で身体を洗って貰う。お風呂でリラックスしたのか、三人の少女達のおびえが消え、きれいな肌できれいな服を着て貰い、一息吐かせてから、名前を訊くと、

 

「トカゲ」

 

「犬です」

 

「猫?」

 

と…それって、種族名で無いのか?子供の奴隷だと、名付けが雑なのか。

 

「マスター。奴隷の名前はマスターが付けるものです」

 

と、アリスに言われたので、名前をつけてやる。

 

「じゃ、リザ、ポチ、タマにする。いいかな?」

 

三人の尻尾が嬉しそうに踊っている。あれって、嬉しいのかな?

 

 

「あっ!マスター、また赤点表示を見つけました」

 

レーダーに映る赤点は敵、青点は味方、緑点は中立である。この移動式ギルドホームのレーダーは優秀で、敵味方判定をしてくれる。先ほどと同様にメイプルバスターを投下して、新たに奴隷の娘を2名ゲットした。カタリナが風呂に入れてくれ、ゆったりをした服を着てもらった。

 

「お前らの名前は?」

 

「私はアリサ、この子は姉のルルよ」

 

カタリナが訊き出した情報によると、アリサも日本人の転生者だそうだ。

 

「同郷の転生者がこんなにいるなんて、嬉しいなぁ」

 

アリサは俺達と合流出来て、嬉しいようだ。仲間も増えてきたし、どこかに家でも買って、地上で生活したいかな。

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

SS:カタリナ・クラエス

 

---カタリナ・クラエス---

 

幼い頃、額をパックリ割る大怪我をした際に、前世の記憶が蘇った。親友のあっちゃんに勧められた乙女恋愛ゲームの『FORTUNE・LOVER』。あっちゃんは隠れキャラまで攻略したらしいのだが、私は全然で、つい明け方までプレイしてしまった。そうだ…学校に遅刻すると思い、急いで学校へ向かう途中で事故に遭い…そして転生。だけど、この転生した世界は、私がプレイしていた乙女恋愛ゲームのFORTUNE・LOVER』の世界、その物であった。

 

このゲームは主人公である平民の娘マリアが、4人の攻略対象とハッピーエンドを目指すゲームであり、主人公のライバルキャラがあれこれとジャマをしてくる。そのライバルキャラの名前がカタリナ・クラエス…そう、私である。

 

ゲーム内のカタリナには、主人公のハッピーエンド、バッドエンドに関わらず、破滅する運命が訪れた。

 

私は破滅フラグを消し去るべき、ゲームでの主人公絡みのイベントを潰しつつ、破滅する未来に向けて、剣術、魔術などの他、農業を学んでいった。農業が出来れば、どこでも暮らせるはずである。そして、訪れた運命の日…

 

「マリア…結婚をしてくれ」

 

私の婚約者であるソルシエ王国の第三王子のジオルド・スティアートが、主人公である光の魔力持ちの少女マリア・キャンベルに告白をしていた。

 

「えっ!あの…カタリナ様は…」

 

「カタリナのことはいいんだ。今は君と…式の日程を考え無いとな」

 

婚約者が、私の親友にプロポーズしていた。結婚式は決定済みのようだ。気配を消して、自分の部屋へ戻り、前以て準備しておいた脱走用バックを手にして王都を脱出し、他の大陸へ逃げるべき、港町を目指した。まだ、死にたく無い…

 

マリアがハッピーエンドを迎えた後、ゲームではカタリナ・クラエスは裁判に掛けられ、死刑もしくは終身刑、年季明けには国外追放になる。それならば、自力で国外へ逃げるのがいい。無一文になっても、農業スキルで稼げるはずだ。農家へ嫁入りでもいいし。

 

港町に入ると、私の手配書を手にした憲兵達がいて、見つかってしまった。指名手配って、そんなに私を消したいのか?あの腹黒ドS王子のヤツは…追っ手から逃げる。逃げまくる…捕まってなるものか!

 

と、目の前に黄金色の装備に身を包んだ女性騎士が現れた。まるで転移してきたようだ。隣にいる男性はダサい服装であるが、彼女の主のようである。これは、神様が用意してくれた破滅回避フラグか?

 

「お願いです。助けてください」

 

彼に触れた瞬間、荒れ地にいた。確かに転移はしたけど…ここはどこだ?目の前で、黒い装備に身を包んだ少女が荒れ地に落書きをしているんだけど…

 

 

 

---ジオルド・スティアート---

 

私にはカタリナ・クラエスという婚約者がいる。一緒にいると飽きない上、私の予想を裏切る行動をすることが多々あり、私を楽しませてくれる。公爵家の長女なのだが、木に登り、畑を耕し、地面に落ちたお菓子などを食べ、蛇を手づかみするなど、淑女とはほど遠い行為をする。その一方で、社交界では注目の的になりやすく、礼儀正しい一面も持ち合わせているのだ。

 

カタリナは結婚には、まるで興味が無いのか、事あるごとに、婚約を解消しても良いと言う。この私は手放す気が無いのに…かと言って他に男がいることもなく、目の前のやりたいことを、全力で行っている。主に農業であるが…確かに収穫したばかりの野菜は美味しいのは認める。

 

そんな私に対して、世継ぎをせがむ声が高い。カタリナには今のままでいて欲しいので、側室を取ることにした。相手はカタリナの親友であり、光の魔力を持つ、マリア・キャンベルである。彼女の母親と話しが付き、彼女からも良い返事を貰ったのだが…返事を貰った日、カタリナが王都から消えた。

 

何故?

 

「あぁ~、多分、姉さんは王子とマリアさんのことを、誤解したのかもしれませんね」

 

カタリナの義弟のキースが、妙なことを言う。誤解?

 

「何をどう誤解したと言うんだ?」

 

「婚約者をマリアさんに乗り換えたとか…」

 

キースが悪い笑みを浮かべている。コイツ、まさか、誤解する方向へ持っていったのか?このシスコン男は…幼い頃から、コイツは私とカタリナの仲を邪魔立てしていたしな。

 

キースより早く見つけないと、誤解が深まりそうである。早速、配下の者達に、カタリナの似顔絵を配布し、誤解を解く為に追っ手を放った。

 

 

 

---キース・クラエス---

 

旅支度を済ませた。姉さんのいない家にいても、意味が無い。僕は姉さんの傍にいたいのだ。あの王子は独占欲が強すぎる。姉さんだけでなく、マリア・キャンベルさんまで手に入れるって。そんなことは姉さんは望んでいないと思う。あの王子は姉さんのことをまるで分かっていない。僕が姉さんを護らないといけない。その為に、この家で育てて貰ったのだから…

 

 




カタリナ・クラエス
ソルシエ王国のクラエス公爵夫妻の長女。
スキル
【土ボコ】地面の極狭い範囲を少しだけ盛り上げる
【農作業】美味しい野菜を育てることに情熱を傾ける
【人タラシ】相手の弱みに漬け込むような優しさを注入して、味方にする
【悪人顔】悪人のような顔を晒すことで、相手に恐怖を植え付ける


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

住処

 

---ダン---

 

住む場所以前の問題…この世界のお金が無い。この世界の先輩であるアリサに、金を稼ぐ方法を訊いてみると、街で真っ当な仕事に就くか、村で農業をするか、ダンジョンで魔物を狩って、売れる部位を売るのが一般的なようだ。

 

「魔物狩りしましょうよ!」

 

と、メイプル。ユウキが頷いている。まぁ、戦力はある。たぶん、火力は過多気味だと思うのだが、ダンジョン向きで無い戦力が問題である。俺とメイプルがガチで挑むと、きっとダンジョンは崩壊するであろう。

 

「迷宮都市って、いう街があるんだけど…そこに住むのはどうかな?」

 

と、アリサ。オラリオのような場所かな?まぁ、問題は先立つ物、要するにお金が無いことかな。

 

「マスター、レーダーに赤い点を多数見つけました。緑の点を追っている模様です」

 

それは、中立の者を敵性存在が追っているってことか。

 

「よし、迎撃に行くぞ」

 

まず、敵の戦闘部隊の鼻先に、メイプルバスターとカエデバスターを投下。敵の後方からアナを出撃させて、俺とユウキで逃げている者を確保することにした。作戦を決行してみると、逃亡者は鼠人の男性とエルフの女性で、追っ手は蜂のようだ。魔物の解体はリザが得意らしいので任せた。蜂系の魔物の場合、魔石と針が売れるらしい。

 

「なんで、逃げていたんだ?」

 

「この少女をボルエナンの里へ届けたい」

 

怪我が酷い鼠人の男性にヒールを掛けていく。彼の名前はミゼ、灰鼠首長国の騎士だそうだ。で、少女の名前はミサナリーア・ボルエナン。少女は攫われ、『トラザユーヤの揺り篭』に連れ込まれ、そこから逃げてきたところを保護して、彼女の住んでいた場所へ送り届ける途中で、襲われたそうだ。

 

あっ!『トラザユーヤの揺り篭』って記憶にある。確か、ダンジョンだったなぁ。

 

『はい、マスター。異世界転移で遭遇したことがあります』

 

アリスの記憶にも残っているのか。

 

「じゃ、そこを制圧して住処にしょう」

 

 

メイプルの『捕食者』と『暴虐』で、簡単に制圧出来た。アリスの能力でダンジョンコアを3つ手に入れた。あれ?なんで3つも?

 

『所有者未定のセーリュー市のダンジョンと、ここ、後ここの付録のダンジョンのコアの名義をマスターに書き換えました』

 

などほど…仕事が早いなぁ。7体のホムンクルスも手に入ったし。あれ?6体しか無い。

 

「ダン!会いたかったわ」

 

7体目のホムンクルスがアズライトになっていた。あぁ、そういう計画があったなぁ。デンドロの世界からアズライトのソウルキューブを盗んで、ホムンクルスに移植しようかと…

 

「どうしたんだ?」

 

「暗殺されたの。で、もうダメって思った瞬間に、ダンに会いたいって、願ってみたら、目の前にダンがいたのよ」

 

アズライトが抱きついて来た。まぁ、いいか。異世界転生だと思っていたら、夢オチって展開かもしれないし。

 

「う~ん、サリーとアスカさんが来ませんねぇ~」

 

って、メイプルが呟いている。もしかして、サリーを望んでいたら、アズライトが転生したってオチか?この死神めっ!

 

まぁ、これで当面の住処を手に入れた。ミゼの住んでいる村が近いので、ブツブツ交換してくれるらしい。

 

「土が痩せているわよ。これだと作物が育たないわよ」

 

農業担当のカタリナの指摘。そうなると培養土が必要だな。もしくは堆肥とか…

 

「アリス、ミミズとかスライムって、近場にいないかな?」

 

こういう時は、汚物を培養土にしてくれるミミズかスライムがいれば良い。喰えば、出る物は出るんだし。

 

「ダンジョンで、それらを発生させるのが良いかと思います。虫系はセーリュー市ダンジョンにスポーン可能です」

 

何匹かをここに強制転移させれば良いか。

 

「スライムは、ここでスポーン可能です」

 

「じゃ、ミミズ部屋とスライム部屋を作ってくれ。ミミズ部屋はトイレの真下がいいなぁ。スライム部屋は、地表と同じ高さにしてくれ」

 

「了解です」

 

ここのダンジョンは、山の中腹から入って、山頂へ向かうタイプであるが、地下方向に向かって迷宮が伸びていた。今は亡きオーナーがアレコレと実験などをしていた為、倉庫などの部屋が増設方向にあるのだった。

 

「さっき、手に入れた魔石と針を売って、食材を仕入れてくるかな。アリス、アリサ、カタリナ、一緒に来てくれ」

 

アリスはダンジョンコアを弄る要員で、アリサはこの世界の知識担当、カタリナはこの世界の常識担当と、俺の中で区分されている。メイプル、アズライト、ユウキは、近場で狩り、6体のホムンクルスは、ダンジョンの維持管理を任せた。適材適所が一番効率が良いはずだ。

 

まず、転移でセーリュー市のダンジョンコアのある部屋の前に移動した。セキュリティーの為、コア部屋への直接の転移は出来無い仕組みらしい。俺達が転移すると、コア部屋の前に悪魔がいた。が、一瞬で排除された。使い魔のデミウルゴスが躾けをしてくれたようだ。

 

『マスター、コイツの配下がダンジョンにいるようなので、躾けて来ます』

 

デミウルゴスの声は嬉しそうだ。たまには楽しんでもらおう。

 

コア部屋に入ると、アリスがあれこと操作をしてくれ、リスポーンのペースを早目にしてくれた。それにより、過多になったダンジョンモンスターは、揺り篭に転送されるそうだ。対象になるのは汚物担当のミミズ、死体担当のダンゴムシ、金属担当のゴキブリだと言う。ミミズは汚物を培養土に、ダンゴムシは死体、腐敗物を培養土に、ゴキブリは岩石から金属を取り出してくれるらしい。

 

次に、オーユゴック公爵領の公都に移動した。テニオン神殿があり、割と治安が良い街だとアリサが言うので買い物に来た。公爵領の中心都市らしく、栄えているので賑やかである。早速、店構えの良さげな店に入り、魔石と針を売り、お金にし、入れたお金で、当面の食料を買い込む。

 

「見知った食材が多いな」

 

「このシガ王国は、転移者が建国した国らしいからね。王都には桜並木があるのよ」

 

アリサの知識量は多いようだ。生活が安定したら、みんなで王都旅行もありかもしれない。

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

SS:メイプルは死神になったのか?

 

---白峯理沙---

 

楓が死んで…正さんが死んで…心にぽっかり穴が開いた感じである。目の前で、まさか私の目の前で…涙が止まらない。事件性があるため、正さんの遺体は司法解剖に回され、傍に居られない。そう言えば、楓の時も傍に居られなかった。目の前で粉々に粉砕されていった楓…なんで、こんな目に遭うんだ?

 

「理沙…ちゃん…ごめんなさい」

 

結城明日奈さんと直葉さんが、正さんの両親、明日奈さん、そして、私に頭を下げている。正さんの命を奪ったのは、結城明日奈さんの元彼で、直葉さんの義兄だったそうだ。正さんに二人を奪われたと思い込み、凶行に至ったようだ。

 

刑事さん達の話によると、精神疾患の一種のSAOサバイバー症候群の為、罪に問えないらしい。罪に問わないでもいい!正さんを返して欲しい。

 

モロボシ洋菓子店は喪が明けるまで閉店だそうだ。お店のシャッターの前には、誰が設置したのか献花台が設けられ、花などが添えられている。正さんの部屋では、私、ユーリ、明日奈さん、レイチェルさんが正さんの匂いに身を委ねていた。

 

 

メイプルがダンさんに駆け寄った瞬間、二人を中心にして、衝撃波が発生した。荒れ地が平地になっていく。二人の居た場所はクレーター状態である。

 

「一人で寂しかったです」

 

ダンさんを見上げるメイプル。目には涙が一杯である。

 

お前、どうやって、俺をここに召喚したんだ?」

 

怪訝そうな顔のダンさんがメイプルに訊いた。

 

「うん?転生の神様が願いを三つ叶えてくれるって…」

 

転生の神様?ラノベ定番の??

 

「3つとは?」

 

「ゲーム内のメイプルに転生したい。一人だと寂しいのでダンさんも一緒に。それでみんなと冒険の続きをしたいって…」

 

ダンさんと一緒に?って、ズルいって…みんなで冒険の続き?どこで?ねぇ、私も呼んで下さいよぉぉぉぉぉ~!

 

 

夢を見ていたのか?妙にリアルな夢だったな。隣で呆然としていた明日奈さんに、夢で見た状況を話してみた。

 

「えっ!理沙ちゃんも?」

 

「私も同じ夢だった…」

 

ユーリ、レイチェルさんも同じ夢を見たらしい。これって、なんかのお告げなのか?それとも正さんは、メイプルに呼ばれたのか?

 

翌日、みんなの安否を確認すると、ユウキの中の人である紺野木綿季ちゃんが亡くなっていたそうだ。ちょうど、正さんの翌日だと言う。毎日一人ずつ呼ばれているのか?メイプルのヤツに…アイツ、死神にでもなったのか?一人で成仏出来ないのか?あの寂しがり屋は…

 

ゲーム内で情報を得ようとデンドロの世界へダイブすると、私が参加をしなかったイベントでアズライトが暗殺されたと。ちょうど、ユウキの翌日である。そうなると今日は、誰が呼ばれるんだ?私は呼んでくれないのかな?ねぇ、メイプル…

 

いつの間にか、ログアウトしていた。正さん…私はどうすれば良いですか?見届け役は辛いです。私も連れて行ってください…

 

『今日未明、都内在住のむくどりれいじさんが、連絡の取れないことで不安になった家族により、自宅で死体となって発見されまいした。死因は毒殺とみられ、関係者に話を訊いているそうです』

 

いつの間にかラジオからニュースが流れていた。あれ?いつラジオのスイッチ入れたんだっけ?

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

なんでコイツが…

-

--ダン---

 

朝、目覚めると、死霊術師姿の聖騎士がいた。なんで、コイツなんだ?もっと、他にもいただろうに…ブツブツ

 

「で、ここはどこなんだ?」

 

「ここか?死んだら来られる転生の世界だ」

 

「はぁ?俺って、死んだっけ?」

 

死んだ自覚の無いレイ・スターリング。まだ、クマ兄さんの方が役立つと思うんだが…なんで、コイツを転生させたんだ?

 

「そうだ!お隣さんにシチューを貰って、それを食べていたんだ。イベント前で、小腹を空いていたし」

 

イベント?

 

「なぁ、お前、アズライトが暗殺されたのを知っているか?」

 

「いや、知らない。って、ティアンでも死んだら転生するのか…」

 

アズライトを見て、驚いている死霊術師姿の聖騎士。メイプルよりも、コイツに呼ばれた方がシックリするのだが…

 

「お前、相棒は?」

 

「相棒?そう言えば、ネメシスがいない…うそっ!ここってゲームの世界じゃ…」

 

「無いって、言っているだろう」

 

現実に気づいたレイが、落ち込み俯いて固まったようだ。まぁ、放っておくか。転生の神様、もっと人選を考えて欲しい。あっ!そうか…ネメシスがいない世界ってことは、クマ兄さんは軍艦が無いってことになるのか。それはそれで戦力外だな。まぁ、畑仕事の戦力にはなるだろうけど。

 

「今日はどうしますか?」

 

アズライトが訊いて来た。

 

「ユウキとアズライトは、リザには槍、ポチには剣と盾、タマには短刀の二刀流の鍛錬を頼む。カタリナは、畑の位置取りを頼む。メイプルはカタリナのガード、俺とアリスとアリサは、飼育小屋の設計、建築で、ルルはホムンクルス達と家事を頼む」

 

って、何で俺が指示を出しているんだ?このクランのリーダーはメイプルだろうに…やはり、頭脳労働、指揮者にサリーが必要だな。だけど、アイツには長生きして欲しい。ジレンマだよ、まったく…

 

アリスとアリサと三人で、コア部屋に向かい、ダンジョンに飼育部屋を増設していく。

 

「お風呂とか洗い物の汚水はどうする?ミミズだとダメでしょ?」

 

アリサがいいポイントに気づいた。そうだな。ミミズじゃ無理だ。水分過多な環境は好まないし。

 

「アリス、ナマコと貝類のいるダンジョンはあるか?」

 

「所有しております迷宮都市のダンジョンに、該当する生物がおります」

 

そこも所有者は俺なのか…

 

「じゃ、そこへ行こう。スポーン速度を早めて、存在過多になった分を、ここに転送させよう」

 

 

迷宮都市のダンジョン…色々なモンスターがいるようだが、深層はコア部屋の制御を受け付けない。なんでだ?

 

「深層は制御出来無いのか?」

 

「ここの深層はダンジョンでは無いようです。何者かが住み着いて、ダンジョンに飲み込まれるのを防いでいるようです」

 

それは所有者に無断で住んでいるってことか。家賃を取りにいかないとダメだな。

 

「深層へ転移は出来るか?」

 

「ダンジョンでは無いので無理です。中層エリアまでは転移で行けそうです」

 

って、ことで中層へ転移した。階層ごとに、生物が変わるダンジョンのようだ。今居る階層は亜熱帯ゾーンで、果物が取り放題である。モンスターはオオトカゲ、猿、イグアナ、でっかい鳥など、食えそうにない生物であるが。あっ!植物系のモンスターもいるのか。タマ改めハチと名前を変えたフェンリルが陸上のモンスターを狩り、空のモンスターはアナが狩ってくれている。

 

「ご主人様の使い魔って、万能なんですね」

 

アリサは、人化したコンコンと戯れている。あのモフモフ感は癒やされるよな。カエデは黙々と果物をゲットしている。いや、試食して旨かったのをゲットしているようだ。こうして見ると、俺の使い魔達は自由人が多いなぁ~。召喚しなくても、楽しそうとか活躍出来そうだと、自ら出てきちゃうし。

 

他の階層にも行ってみた。海洋エリアがあった。ダンジョンに海があるとは…でっかいイカ、タコ、カニ…これって、鍛錬しながら、食材が手に入るのか。明日から、ここで狩りをするかな。カニが結構、強敵である。関節の内側しか斬れない。あっ!カエデのシールドバッシュで甲羅が潰れたぁぁぁぁ~!かに味噌が漏れていく…

 

 

住処に戻って、手に入れた果物でフルーツポンチを作ってみた。

 

「美味しい…」

 

舌が肥えたカタリナがウットリとしている。

 

「サイダーが無いのが痛いな。炭酸水はあるけど、旨く無いし」

 

炭酸水は割と簡単に再現出来た。苦みもなく無味であるが。サイダーを作るには香料が無い。フレッシュジュースの炭酸割で作ってみたが、サイダーかラムネは欲しいなぁ。材料が無いと料理のレパートリーが増えないなぁ。現状、料理の出来るメンバーはルルとリザと俺だけだし。料理の出来るヤツが欲しいが、死なないと来られない場所である為、なるべく知り合いには来ては欲しく無い。困ったなぁ~。

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

SS:また一人…

 

---白峯理沙---

 

司法解剖から正さんが戻って来た。モロボシ洋菓子店の喫茶コーナーに祭壇が設けられている。遺影の正さんは笑っている。だけど、ここには笑っている者など、一人もいない。

 

レイチェルさんが、アカペラでアベマリアを歌い、棺に向かって歌を捧げている。世界的な歌姫は、今は亡き愛する者へ、どんな顔で歌っているんだろうか。参列者席からは表情がまるで見えなかった。

 

この場には、正さんが生前、心配をしていたユーリがいない。ユーリの姉に殺人容疑が掛かっているそうで、現在事情聴取を受けていた。なんでも隣人に毒を盛ったらしいのだ。動機が不明で、妹のユーリから事情を訊いているそうだ。その姉は、殺人をした翌日に引っ越しをし、雲隠れしたと言う。

 

そう言えば、クマ兄さんとその弟も来ていない。デンドロ三昧なのだろうか。こんな時まで…

 

翌日、正さんを載せた車が、縁のある場所を巡り、終着点に着いた。火葬場には、最後のお別れをしに来た仲間が集まっていた。ミィ、ミザリー、ユイ、マイ、イズ、カナデ、ビースリー、レン、月夜…だが、スターリング兄弟が現れることは無かった。何かあったのか?まさか、メイプルに呼ばれたの?

 

式場の出口で、参列者には正さんのレシピで作ったショートケーキが、明日奈さんの手によって手渡された。

 

「兄さんの最後のレシピです。たぶん、販売はしません。味わって…兄さんを偲んでくださると嬉しいです」

 

気丈に、一人一人に手渡していく明日奈さん。ここには結城明日奈と桐ヶ谷直葉は来なかった。来られないのだろうか。最期の別れくらい、来て欲しかったけど…

 

 

 

---結城明日奈---

 

まさかキリト君が精神的に病んでいたとは…未だに罪を罪と認めず、正当性を説いているそうだ。もう正さんと会えないなんて…

 

SAOサバイバー症候群と言う言葉が新聞紙面、テレビで取り上げられている。その為、私は外出禁止になった。何かの事件に巻き込まれるのを恐れた両親により、自宅に軟禁されているのだった。

 

「ねぇ、一緒に来てくれませんか?」

 

ベッドの上に横になっていると、メイプルの声が聞こえた。なんで、メイプルが私の部屋に?

 

「ダンさんが、待っているんです」

 

ダンさん?正さんでなくて?その時、全身に寒気が走った。確か、メイプルの中の人、本条楓は交通事故で死んだはずだ。はっとして、声の主を見ると、いつもの黒い装備を身に付けた笑顔のメイプルがそこにいた。その後ろには笑顔のユウキも…

 

「やぁ」

 

ユウキが私に柔らかい笑みを向けていた。私を誘うような嬉しそうな笑みである。

 

だけど、ユウキは…紺野木綿季という少女は死んだはずだ。私は葬儀に参列したんだよ。なんで化けて出てきたの?成仏出来ないの?ねぇ、ユウキ…

 

「さぁ、一緒に行きましょう」

 

行くって、どこに?二人が私の腕に抱きつき、私をどこかへと連れ去っていく…

 

 

 

---白峯理沙---

 

結城明日奈が死んだそうだ。自宅のベッドの上で、幸せそうな笑顔を浮かべて…不審死で解剖に回されたが、外傷も体内に異常も無く、苦しむ事無く心停止したらしい。薬物反応も毒物も検出されなかったそうだ。

 

「これって、どういうことだと思う?」

 

直葉が訪ねて来た。次は自分だと言う直葉。確証を訊くと無いらしい。

 

「偶然じゃないの?」

 

口ではそう言ってみたが、必然だと思う。毎日、一人ずつ消えている。楓から始まって、正さん、木綿季ちゃん、もしかして、アズライトも、一人飛んで結城明日奈。

 

「調べてみたんだけど、レイ・スターリング、本名椋鳥玲二って言うらしいんだけど、この前殺されたそうだよ」

 

えっ!あの死霊術師姿の聖騎士の中の人が…だから、クマ兄さんは参列者にいなかったのか?

 

「容疑者はユーリちゃんのお姉さんだって…」

 

だから、ユーリが事情聴取を受けているのか。どう繋がるんだ?これって、連続殺人なのか?いや、違う!

 

「正さんは、あなたの義兄に殺されたのよ!私の目の前で…」

 

「それは…そうですが…でもね、連続してクラン<楓の木>のメンバーばかりが…」

 

そう、それはそうなんだけど…やはり、楓が誘っているのか?トラック相手に『悪食』をかます根性があるなら、一人で成仏して欲しいなぁ~。

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

引っ越し

 

---ダン---

 

翌朝…

 

「連れて来ちゃいました」

 

と、笑顔のメイプル。その後ろには、

 

「連れて来られちゃいました」

 

と、笑顔のアスナ。おぃおぃ…何をやっているんだ、この死神娘は…

 

「アスナの死因は?」

 

「たぶん、自然死かな」

 

首を傾けて返事をするメイプル。仕草と表情はかわいいが、やっていることは恐怖しか無いだろうに。

 

「この世界でも、よろしくお願いします」

 

まぁ、アスナは料理も戦闘も出来るので、即戦力である。が、しかし…健常者すらも、連れてくるメイプルには思うところがある。

 

「へ?てへへへへ」

 

笑ってもダメだ。問題は口で言っても理解出来無いメイプル、体罰がまるで効かないし。いや、殺すなら簡単なんだが、殺すことは出来無いよな。この世界はメイプルの願望で存在しているはずだから。困ったなぁ~。

 

「今日は、どうします?」

 

アズライトが訊いて来た。

 

「概ね、昨日と一緒で、レイとアスナは、付いてきてくれ」

 

今日はカニ漁をしよう。まず、汚水処理と汚物処理の状況を視察し、出来上がった培養土をダンジョンの外へ排出する。ゴキが分離してくれた金属や石を回収し種類ごとに分類して、魔石と宝石を公都で売り払う。手に入ったお金で、小麦、大豆をメインに、調味料なども購入。それから、迷宮都市のダンジョン中層へ転移して、漁業を開始した。

 

「なんだ?このカニは…」

 

ネメシスのいないレイはアカン。おい!そこ!毒攻撃なんかしたら、食えないだろうに…おいおい、火炎攻撃しても意味ないぞ、水辺だし…思っていた以上に使えない英雄くん。狩りには向かないのか。

 

「レイ、お前は漁業は向かない。明日から農業部門だ」

 

カエデには攻撃せずに、ガードに徹して貰っている。かに味噌がダメになるからである。アリスとアスナ、そして俺の剣技で、カニの手足を切り落としていく。ハチが切り落とし部位を口に咥え、安全地帯へと拾い集めてくれ、どうにかこうにか一杯分のカニは手に入れた。問題は巨大イカである。肝を無傷で手に入れたいが、身が薄く、肝に攻撃が到達しそうだ。

 

「足を切っていく?」

 

「切っても動くから、厄介だよ。一撃で締めないと…」

 

斬り落とした手足が蛇の様に襲い掛かり、ヒルのように吸血してくる。コイツって、吸血イカなのか?冷凍すると肝がダメになるし…どうするかな?

 

「目玉が硬い。剣が刺さらないわ」

 

「じゃ、目玉の周りの肉ごと抉るのは?」

 

無事、抉れたようだ。抉った部分から、脳への一刺しで無事締めることに成功した。タコの攻略もイカと同様で大丈夫なようだし、住処に戻って今夜は、海鮮バーベキューだな。

 

 

調味料の作成を試みるが、ダンジョン内では、発酵に適した菌が、働いてくれないようだ。蔵を作らないと、味噌、醤油、酢、みりんは作れないのか。

 

「そうなると、ここじゃ難しいわね」

 

畑を作ると、保存蔵も必要になるし、ここでは土地が無い。岩山ダンジョンの為、地表が平らでは無いのだ。蔵よりも、田んぼを整地するのが先である。公都では米が売っていなかったのだ。

 

「王都ならあるかもねぇ」

 

あるかもしれないが、高そうである。さて、どうするかな。

 

「迷宮都市に家でも建てるか?」

 

「ご主人様、迷宮都市には館がありますが…」

 

ホムンクルスの一体が、情報をくれた。ここの先代マスターが、迷宮都市のダンジョンコアのダミーを自分の屋敷に置いたと言う情報である。コア部屋に一々行かないでも済むらしい。設定次第では、他のダンジョンコアも操作できるらしい。ならば、そこへ引っ越せばいいような。ホムンクルス1号ことイチカと共に、アリス、俺、アリサ、アスナで、迷宮都市の館へと転移した。しかし、門の前までである。結界で覆われており、門の中に入れない。

 

「イチカ、これはどうすれば良いんだ?」

 

「確か、呪文で開けていましたねぇ」

 

呪文?

 

「開け!ゴマ!」

 

ベタすぎて違うと思ったのだが、それで門の中に入れた。次に玄関扉が開かない。どうするかな。カギ穴は無いし。

 

「マスター、『魅了』してみるのは?」

 

アリスのアイデア、扉を『魅了』か?ダメ元で実行してみると扉が開いた。後で知ったのだが、扉タイプのゴーレムだったらしい。館の内部は、外観より広めに思える。空間系の術式で拡張しているのかもしれないな。家の中のチェックはイチカ、アスナ、アリサに任せ、俺とアリスはダミーコア部屋へと入った。

 

ダミーコア部屋は地下にあった。他のダンジョンのコアのステイタスや、操作盤が並んでいる。

 

「マスター、所有者未定のコア総てをマスター所有にしました」

 

俺が眺めている間に、アリスの仕事は早かった。手早く、ダンジョンマスターの設定を変えていた。

 

「後、どこのダンジョンだ?」

 

「公都の地下、王都の地下です。この二つは最近再起動したようです」

 

ダンジョンって、リセットするのか。アリスによると、ボロボロなダンジョンは、リセットしてから再成長させる方が、マナという魔素の節約になるようだ。

 

 

翌日、みんなで引っ越して来た。揺り篭の維持管理要員であるホムンクルス2~6号は、揺り篭に残してある。

 

「うん。ここの畑はいい土だわ」

 

カタリナが喜んで、庭を早速耕している。後で、苗を買いに行くかな。

 

「キッチンも広いし、冷蔵庫もあるのね」

 

と、アリサ。昨日はキッチンを見なかったらしい。キッチンには魔導具である冷蔵庫、冷凍庫、オーブン、レンジなどが揃っている。これは、腕が鳴るなぁ。

 

「カレー食べたいなぁ~」

 

と、メイプル。

 

「カレー粉があれば良いんだが…まぁ、カレー粉自体を作ることは出来るから、スパイス次第だな」

 

モロボシ洋菓子店の喫茶コーナーで出していたカレーは、店でカレー粉から作っていたので、ノウハウはある。

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

ゴミはゴミ箱へ

 

---ダン---

 

「なんで、この姿なんですか?!」

 

レンがメイプルに掴み掛かっている。メイプルは小首をかしげて、レンの怒りの原因を考えているようだ。

 

香蓮的には香蓮姿で転生をしたかったようなのだが、レン姿で転生してきた。いや、多分、メイプルの要望がゲーム内アバター姿なのだろうけど。

 

「これじゃ、デキないじゃないですか。成長するのかな?」

 

ピンクの悪魔の中の人は、性欲が強いのだろうか?いや、あの姿は小学生だと思うので、デキないだろう。まして、アバター姿である。成長は見込めないと思うな。

 

しかし、ここに来てレンとは…確かに料理と戦闘は出来るが、レンの身長では、料理しづらいと思うのだよ。ここのキッチンは大人用だし。香蓮の意見に賛成である。香蓮では無いレンでは、料理出来ない組になる。野営とかなら、戦力にはなるかな。

 

しかし、メイプルの人選がよくわからない。欲しい人材から少しズレているんだよな。個人的にはミィとかミザリーとかが良いのだが…

 

「あの…私も仲間が欲しいんですが…連れて来ていただけますか?」

 

カタリナからリクエストが出た。

 

「婚約者か?」

 

「違います。あんなドS腹黒王子は、こちらから願い下げです。そうでは無くて、緑の手を持つ女性です。植物を育てるのが上手なんですよ」

 

それは即戦力だな。カタリナはこの世界の人間なので、転移術で攫ってくれば良いだけだし。

 

「名前と住処は?」

 

「メアリ・ハントです。ハント侯爵家のご令嬢です」

 

待てよ?固有な存在って、『強奪』出来るんじゃないのか?試しに『強奪』をしてみると、目の前に赤褐色の髪で貴族風ドレスの女性が現れた。

 

「メアリ…会いたかったわ」

 

カタリナがメアリと呼んだ女性に抱きついた。『強奪』という名の誘拐は成功したようだ。

 

「え…か、か、カタリナ様。これはどういうことですか?」

 

メアリにカタリナが事情と状況を説明した。

 

「このお屋敷の畑の管理ですね。わかりました。任せて下さい」

 

この世界の貴族の女性は、異常な状況でも動じないんだな。突然の『強奪』による連れ去り、動揺していないようだ。

 

「で、強制転移術はどなたが掛けたのですか?」

 

誰も名乗らない。強制転移術なんて掛けていないから…

 

「いないんですか?そうですか…私がカタリナ様をお慕う気持ちが、カタリナ様の元に引き寄せてくれたのですね」

 

大丈夫か?この女性…実は残念な女性なのか?

 

「で、今日はどうしますか?」

 

アズライトが訊いて来た。

 

「レイとカタリナとメアリは農業、残りの者はいつも通りで、レンは俺達と狩りだ」

 

と、今日の分担を決めたのだが、

 

「マスター、敵襲です」

 

アリスが声を上げた。敵襲?この街の住民とは接触していないんだけどな。

 

「敵は?」

 

「おい!出て来い!ここから立ち退き、この屋敷を渡せ!」

 

外から横暴な要求が飛んで来た。外に出て応対をする。

 

「何の権利があるんだ?」

 

「税金の支払いが全くない。税の滞納により、この屋敷を差し押さえ、アシネン家の別荘にする。速やかに立ち除け!」

 

この街を護る騎士団だろうか?フルアーマーの騎士が沢山いる。貰っておくか。『強奪』で、騎士団の装備、財布などを収納庫にしまった。目の前には下着姿の男達がいる。

 

「えっ!」「うそっ!」

 

後方から身に起きた悲劇に気づいた者達の声が聞こえてくる。最前列にいるヤツラは、未だに悲劇に気づいていない。

 

「そんな戦力で勝てると思っているのか?」

 

「なんだと!我らは迷宮方面軍で、私は将軍のアルエトン・エルタールだ!隣にいらっしゃる方は太守代理であるソーケル・ボナム殿である。頭が高いぞ!この、一般市民め!」

 

「将軍、こやつは税金を払わぬ、国賊である。今すぐに殲滅をすべきである」

 

殲滅?クラン<楓の木>を殲滅だと?面白いことを言うな。

 

「やってみろよ」

 

どうせ、門の結界が破れないだろう。

 

「なんだ、これは…」

 

漸く、最前列のヤツラも下着姿でいることに気づいたようだ。

 

「お前ら、露出狂集団か?」

 

「いつの間に…貴様がやったのか?」

 

「うん?最初から下着姿だぞ。太守代理、パンツが黄ばんでいますが、ちびりましたか?」

 

「貴様!怯むなぁ~!前へ進め!」

 

太守代理の掛け声に、誰も従わない。下着で手ぶらでは、どうしょうも無いだろうに。『仔羊の行進』で全軍をスリープさせて、公都のテニオン神殿の前に強制転移させてみる。家の前にあったゴミは総て、転移できたようだ。この門は俺達が入った1回しか開けていない。基本、転移術での移動をしているからだ。なので、結界の綻びすら無い。頻繁に開け閉めすると結界が綻ぶことがあるらしい。

 

この屋敷は高台にあり、迷宮都市を一望出来るのだが、見るからに治安が悪そうな街であり、みんなを外に出すのは危険があると思い、ダンジョンへはダイレクトで転移しているし。

 

俺は家の中に戻り、

 

「予定変更だ。収納庫に入れた強奪物を分類してくれ。売れる物は売って、タネと苗とか、食料を買ってくるよ」

 

ゾロゾロと収納庫へと向かうみんな。カタリナとメアリは、欲しいタネと苗を書き出している。俺も収納庫へ向かう。財布からお金を抜き取り、財布をエラそうな屋敷の屋根裏へと強制転移させた。あの家をゴミ箱にするか。あれって、太守もしくは太守代理の家だろうし。

 

「フルプレートが一杯ですね」

 

剣や盾、弓矢は使い道はあるが、フルプレートは使い道が無いなぁ。こんなのを装備したら、動きづらいだろうに。

 

「これ、材質は何かな?」

 

「ミスリルか?鉄では無いようだが…」

 

あれ?装備には紋章が刻まれている。これって、下手に売ると、足が付くヤツか。どうするかな…そうだ!

 

「アリス、ダンジョンの宝箱から、フルプレートを出すのは可能か?」

 

「可能です。では設定をしておきます」

 

アリスが、ダミーコア部屋へと向かった。そうだ!番頭というか金庫番みたいなヤツが欲しいかな。サリーがいれば…いや、あいつには長生きをして欲しい。どうするかな。

 

「カタリナ、誰か金庫番というか、番頭みたいなことが出来る信用できうヤツはいないか?」

 

この世界に産まれ育ち、教育を受けているのはカタリナ、メアリ、アリサ姉妹であるが、アリサ姉妹は奴隷堕ちしているので、コネは使えない。

 

「います。信用出来て、賢い義弟がね」

 

「名前と住処は?」

 

「キース・クラエス、私の義弟で、クラエス公爵家の養子です」

 

ここまで固有情報があれば、『強奪』できるだろう。『強奪』してみると、旅姿をしている知らない男性が現れた。

 

「カタリナ、コイツか?」

 

「そうです。キース、会いたかったわ」

 

カタリナがキースに抱きついている。

 

「え?どういうこと?何が起きたの?あれ?姉さん…どうして?」

 

カタリナが事情と状況をキースに話した。

 

「そうですか。姉さんを助けていただき、ありがとうございます。ダン様の信用を裏切らないように、役目を果たします」

 

まずはシガ王国について学んで貰うか。キースを書庫に案内して法律、経済を中心に学習して貰うことにした。さてと、タネと苗を買ってくるか。そうだ、培養土をここへ転送しておこう。その前にここの排水装置に転移装置を付けて、ダンジョンで汚物、汚水を処理させるか。

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

税金対策

---ダン---

 

最近、朝目覚めるのが怖い。毎朝、あの笑顔の死神が、ニコニコしながら誰を連れて来ている事実。今日は誰だ?

 

「やっ!」

 

目が合うと素っ気ない挨拶をしてきた。今日の人柱はシノンだった。なんで?狙撃手の要る局面では無いだろうに。回復役のミザリーか、料理の出来るミィが嬉しいんだけどな。

 

「どうして…ここに?」

 

「ゲーム内で絡まれたPKクランのヤツラに、現実世界で銃撃されて…」

 

銃殺か…う~ん、メイプルの目に適ったヤツって、碌な死に方をしていないなぁ。はぁ~、アイツの選択基準って何だろうか?

 

キッチンに向かうと、アスナとルルとリザが、朝食の支度をしていた。レンは床に座って、野菜の皮むきを手伝っている。やはりレンには、調理台の高さが高いようだ。

 

俺は前夜に仕込んでおいたパン生地を型に入れてオーブンに投入した。この世界の発酵酵母は食パンにも向いているのはラッキーだった。焼きたての食パンは美味しいからな。キッチンの片隅では、ポチとタマが牛乳を遠心分離させてバターをつくっている。

 

この世界と俺達のいた世界で、食材はほぼ一緒であるようだ。たまに名称が違っていたり、産地が不明で手に入らない物もあるが。

 

元々、ここシガ王国は召喚された勇者の作った国だそうで、王位を2代目に譲った後の名前、ミト・ミツクニ公爵からわかる通り、俺達と同じ日本人であった可能性が大である。

 

その為か、所々で俺達のいた世界の食材、料理が残っていた。おはぎがグルリアンだったり、近江牛がオーミ牛だったり…コチラの世界でも近江牛は高級品であったのには驚いた。異世界人は牛肉を食うのかってね。異世界って魔物肉のイメージがあったからさぁ。

 

お子様用のパンケーキを焼いていく。ダンジョンで果物をゲット出来るので、ジャムを数種類作り置きしてある。蜂蜜は、キラービー系のモンスターなハチの巣から取るらしく、高級品であった。今度、セーリュー市ダンジョンで、大量スポーンさせないと、入手は困難かもしれない。

 

「ご主人様、書簡が届きました」

 

執事服を着込んだキースがやってきた。カタリナの傍で暮らせるならと、執事兼頭脳労働を担当してくれるそうだ。メアリはカタリナとお揃いの作業服を着て嬉しそうである。

 

「このジャム、おいしいです」

 

メアリに褒めて貰った。

 

「それはマンゴージャムだよ」

 

「これ、生臭いんですけど…」

 

メイプルはそう言いながら美味しそうに食べている。

 

「それはジャムじゃない。イカの塩辛だ」

 

賑やかな食卓、ノンビリと過ぎる時間…幸せであるが、書簡の内容は幸せとは限らない。

 

『税金未払い問題について話し合いの場を設ける ギルド長及びオーユゴック公爵』

 

とある。

 

「キース、オーユゴック公爵の情報はあるか?」

 

「はい。温厚で堅実な貴族のようです。次期当主は王女と結婚をしており、孫娘が二人いまして、長女は勇者付きの騎士、侍女は神託の巫女をしております」

 

温厚で堅実なら信用は出来るか?

 

「ギルド長は?」

 

「正式名称は探索者ギルド長で、ゾナという者です。迷宮資源大臣を兼任しており、名誉伯爵相当の身分を持ちます。二つ名は『紅蓮鬼』で御年は90近くです」

 

堅物な年寄りって、脳筋な予感だな。

 

「話し合いの場に行く。メイプルとアリスが付いてきてくれ」

 

 

話し合いの場は探索者ギルドのギルド長の部屋である。普通、この手のギルドって、国とは独立しているはずなんだが…貴族待遇の為だろうか?それとも、ギルドの独立性はラノベでのみ有効なのだろうか?

 

ドアをノックすると、中から

 

「入れ」

 

と声が聞こえ、ドアを開けて入ると、槍の切っ先がメイプルの額へ…

 

パリン!

 

槍に勝ったメイプルの額。勿論無傷である。槍の方は、勢いよく突いたのだろうか、刃先分が見事に総て砕けている。

 

「何…オリハルコンの槍が…」

 

それは、メイプルの額はオリハルコンよりも硬いってことか?頭突きに注意だな。

 

「クラン<楓の木>のクランマスターの額にオリハルコンの槍って、宣戦布告と取っても良いですか?」

 

俺の言葉に「わぁ~戦えるんだね」って、喜ぶメイプルは横に退かして、相手方の表情を読む。ギルド長は腰を抜かしている。オーユゴック公爵の顔からは血の毛が失せているように思える。まぁ、オリハルコンの槍を額で砕く人間は脅威だよね。その上、戦える口実が出来て喜んでいるし。

 

「待て!これは、あ、あ、挨拶代わりで…」

 

「クランマスターだから無傷でしたが、普通の人間なら死んでますよ。それは、挨拶代わりに死ねってことですか?」

 

いつでも殺せるように『ウッドオクトパス』の照準を合わせておく。発動しなければ、俺の行動に制限は掛からない。

 

「あっ!クラン<楓の木>のマスターでメイプルです。防御と毒攻撃が得意です。後ろにいるのは、ダンさんとアリスさんです」

 

思い出したように、俺達の自己紹介をしたメイプル。入って直ぐにした方が良いと言ってあったのだが、忘れていたらしい。しかしなんで、攻撃を食らって、そんなに嬉しそうなんだ?この戦闘狂は…

 

「で、税金の未納問題でしたね。その前に、当方所有の迷宮核の恩恵使用料をお支払いください」

 

こちらも事前に貰えそうな物を調べてある。ダンジョンコア、正式名称は迷宮核といい、ダンジョンの上にある土地に魔素を供給し、魔法、魔導具に利用されている。その為この世界では、ダンジョンの上に、街を作る場合が多いらしい。但し、ダンジョンコアの所有者が街の運営側にいる必要があるのだが…

 

俺の持っているダンジョンコアは、揺り篭は除いて、セーリュー市、迷宮都市、公都、王都の直下である。既にダンジョンコアの所有者は、アリスの手により俺に名義変更されている。その為、この4都市分の使用料を貰える権利が俺にあるのだ。ギルド長と公爵に使用料に関する書類を手渡す。

 

「計算の結果、俺達の支払い分は微々たる物で、そちらの支払い分は膨大なんですが、一括で払って貰えますか?チャラっていったら、魔素の供給を完全にストップしますけどね」

 

この建物の強度だと、メイプルが飛び跳ねただけで、倒壊しそうだけど…どうするかな。

 

「王都に持ち帰って、王と相談してみる」

 

公爵がかすれるような声で返答してきた。

 

「セーラ…入って来なさい」

 

公爵の呼び掛けにより、隣の部屋からシスター服を着た少女が入って来た。

 

「テニオン神殿で巫女をしている孫のセーラだ。交渉が終わるまで人質として、差し出す。好きにしてくれ」

 

それは、あんなことをしていいってことか?まぁ、しないけど。新しい女よりもアズライトを満足させるだけで手一杯だし、レンがキレ掛かっているし。

 

「わかった、丁重に預かろう。良い返事を期待しているよ」

 

4人でその場から転移して帰宅した。

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

SS:それぞれの心境

---オーユゴック公爵---

 

我々の前の前から消えた彼ら…勿論、孫のセーラも一緒である。これは高位魔術師が使える転移魔法術か?彼は何者なんだ?そして、あの少女は一体…ゾナ秘蔵品であるオリハルコンの槍を額で受けて破壊って…聖剣以外、傷つけられないのだろうか。

 

「ゾナはどう思う?」

 

「秘蔵していたオリハルコンの槍が木っ端微塵だぞ。なのに、あの小娘は無傷って…アイツらはバケモノ集団だな。一言で言い表すなら、戦ってはいけない相手だ」

 

衝撃的なシーンであった。額で受けてオリハルコンの槍が砕けるとは…勇者装備で無いと戦え無いかもしれない。それにあの青年の魔法技能…一体どれだけの火力があるのだろうか。

 

「それよりも、ダンジョンコアを4つも所有していることが脅威だぞ」

 

まさか、王都と公都のダンジョンも所有していたとは…確かに、ダンジョンがあったから、その恩恵狙いで街をあの場所に作ったのだ。どこにコア部屋があったんだ?探しても見つけられなかった我々に、落ち度があるのはわかっている。

 

「もし、恩恵をストップされたら、どうなる?」

 

万が一の事態の予想を訊いてみた。

 

「都市機能は麻痺する。上水下水は勿論、生活用魔導具も使えぬ。都市のセキュリティーも機能出来ぬ。魔法すら行使出来ないだろうな」

 

住民を人質に取られたということか。

 

「コアを我々が手にするには?」

 

「ヤツラの皆殺しだろうな。だが、殺せる自信は無い。勇者で勝てるかどうか…」

 

シガ王国には勇者はいない。昔はいた…王祖シガ・ヤマトが勇者だったそうだ。王位を譲り、ミト・ミツクニ卿になった後、世直し度に出たきり、行方知れずである。

 

「そうなると逆に味方に出来るかどうかだな」

 

「セーラ次第だな。籠絡出来るか…そもそも、生かして返しくれるかどうか…」

 

まず、王に相談だ。王都を含む住民達が人質と言う国家の一大事であるから。

 

 

 

---ジオルド・スティアート---

 

カタリナを探すと言って旅立ったキースとメアリの行方がわからなくなっていた。キースはカタリナの義弟で、メアリは私の弟の婚約者である。

 

「定期連絡を絶ったようだ」

 

弟のアランが荒れている。婚約者からの連絡が途絶えたのだからな。

 

「これって、お二人はカタリナ様に出会えたってことではないですか?」

 

マリアの一言で、はっとした私とアラン。あの二人なら、やりかねない。カタリナを独占したがっていたし。手を組んだのか?

 

「キースの最後の連絡は港町だ。アラン、メアリからの最後の連絡は?」

 

「同じだよ、港町だ!そこにいるんだな」

 

捜索隊を組織して、港町に乗り込んだ。しかし、三人の行方の手がかりがどこにも無かった。船に乗り込んだ形跡が無いのだ。定期船の乗客名簿に名前は無く、漁船をチャーターした形跡も無い。他の大陸や島などへは、泳いで渡れる程近くは無い。ここから、どこへ?馬車にも乗った形跡が無い。この町から忽然と姿を消したようだ。

 

 

 

---マリア・キャンベル---

 

ジオルド王子との結婚式の日が近づいて来た。本来であれば、カタリナ様も一緒に、二人花嫁の結婚式をするはずであったのだが…私が側室では気に入らなかったのであろうか?お菓子作りで気を紛らわせる日々…でも、誰も食べてくれない。美味しいと言って平らげてくれるカタリナ様は、もうここにはいない。どうして、こんなことになったのだろうか?

 

翌朝、目が醒めると、知らない部屋にいた。

 

「マリア、おはよう!」

 

えっ!目の前には笑顔のカタリナ様。ここは?

 

「あの…おはようございます。ここは、一体、どこなのですか?」

 

「あぁ、ご主人様に言って、マリアを攫って来て貰ったのよ」

 

ご主人様?えっ…えぇっと…それは駆け落ちですか?王子が婚約者なのに…

 

「これに着替えて、朝ご飯よ」

 

渡されたのは普段着である。カタリナ様は、農作業用の作業服を着ていらっしゃる。

 

「マリア、おはよう!」

 

行方不明になったメアリ様も作業服であった。ここはどこ?

 

食堂へ向かうと、執事姿のキース様がいらした。ご主人様って、どなただろうか?随分と賑やかな食卓である。亜人の方もいらっしゃるし、シスター服の方、騎士の方もだ。ここって、一体?

 

「ほら、食べて食べて。ご主人様の焼くパンは天下一品なのよ」

 

カタリナ様に渡されたのは四角いパン。枠は狐色であるが、枠の中は真っ白でふわふわである。

 

「ジャムは好きなのを使っていいのよ」

 

色々な色のジャムの瓶が並んでいる。

 

「カタリナ様…ここは一体?」

 

「ここは、私達の亡命先よ。ここなら、あの腹黒ドS王子の手は届かないから、安心よ」

 

亡命…他国に住んでいらっしゃったのですね。

 

「ご主人様がね、菓子作りの出来る人を探していて、私がマリアを紹介したのよ」

 

カタリナ様のお屋敷で働けるのですね。それは、とても嬉しいことです。

 

「ダン、今日の予定はどうするの?」

 

凜々しい騎士姿の女性が、青年に声を掛けた。

 

「今日は、屋敷での作業だな。税金問題で外は物騒だし。あぁ、俺とセーラとキースは、公都で買い出しに行く。カタリナ、培養土の具合はどうだ?」

 

「いい感じです。あの品質でオーケーですよ~」

 

あの青年が、カタリナ様のご主人様なのでしょうか。後の方達は、使用人でしょうか?それにしては人数が多い上、幼い子が多い気がする。

 

「カタリナ様、ご主人様は何をされている方なのですか?」

 

「元々パティシエらしいけど、ここじゃ雑用係かな?」

 

パティシエ?パラディンの上位かしら?

 

「パティシエじゃわからないかな。ケーキ職人のことよ。だけど、ケーキ以外にも料理の知識を満載しているのよ」

 

シェフってこと?日々の生活で謎が解明されるでしょうか?。

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

食へのチャレンジ

 

---ダン---

 

翌朝…泣いているユーゴーがいた。彼の近くで、メイプルの顔が青ざめている。ついにやらかしたな。ユーリという少女をこの世界に召喚すると、俺よりも歳上の男性ユーゴーになる。そして、デフォルト顔の俺よりもイケメンであるのだが、心は夢見る少女。もうユーリとして、乙女チックな恋は出来ないだろう。頼むから、俺にバラ心は抱かないでくれよ~。俺は男と抱き合う性癖は無い。

 

「うっ…男性に転生って…酷い…酷すぎる…目の前に、ダンさんがいるのに…」

 

まぁ、男性キャラをアバターにしたユーリが悪いと言えば悪いのだが。メイプルは彼女?彼?に掛ける言葉が浮かばないようだ。いや、誰にも浮かぶものか。こんなシチュエーションで、この悲劇の少女に言葉なぞ…

 

そうだ、カタリナ、メアリ、マリアに恋して貰えば良いか。まぁ、成り行き任せだな。因みに死因は、自殺らしい。詳しい事情がよく分からないが、レイをユーリの姉が殺して雲隠れ、捜査陣はその姉の行方と動機を、何も知らないユーリに連日事情聴取したそうだ。で、精神喪失状態で自殺というより、階段から落下して打ち所が悪くのようだ。クマ兄さんが来たらきいてみよう。って、エンブリオ無しだと戦力外か…ユーリはお菓子作りに役立つけど…

 

 

昨日、セーラを町娘姿にして、公都を案内して貰った。神殿の炊き出し担当らしく、安くて良い店を多く知っていた為、今後の参考にする。

 

「そうか…スパイスは薬局にあるのか」

 

この世界では、スパイスは漢方薬チックな扱いのようだった。道理で乾物屋さんに無かったんだな。グローブとヴァニラをゲットしておく。カレー粉の材料は高価な物が多いので、稼いでからにしよう。

 

魚屋さんに案内して貰った。そこでは小魚が一樽いくらで売っていた。これは買いだな。下処理を丁寧にすれば、じゃこ天に出来そうだ。試しに一樽買って、住処のキッチンへ転移させた。

 

「便利ですね、その魔法」

 

セーラに言われたのだが、

 

「これ、魔法じゃないから魔力は使わない。単なるスキルだよ」

 

体力は使うかな?いや、神通力か?確かなことは魔力は使わないってことだ。

 

「魔法では無くて、スキル…凄いです」

 

セーラが俺に跪いて祈っている。俺は信仰対象では無いんだけど…この世界では転移魔法として高位魔法使いが使えるらしいが、1日1回一人まで可能らしい。その為、俺みたいにポンポン使えないそうだ。

 

「今夜は刺身パーティーにするか?」

 

この世界では生魚を食べる習慣は無いらしい。って今朝、イカの塩辛を食べてなかったか?あれって、熱処理はしていないから生だぞ。あっ、鰹がある。燻製庫を作れば、鰹節に出来るかな?試しに数本買っておく。マグロも一本いっておくか。日本とは違い、マグロは高くなくて良かった。

 

「次は、どこを視察しますか?」

 

セーラは俺を案内したくて、ウズウズしているようだ。何が楽しいんだ?まさか、ホテルにでも案内する気なのか?そう言えば、デンドロではアズライトが、よりよい連れ込み宿を部下にリサーチさせていたらしい。

 

「豆問屋とかあるかな?」

 

「豆ですか?そんなに種類は無いですよ」

 

大豆が欲しい。あんこがあるから、砂糖、小豆はあるのだが、大豆の存在はまだ確認していない。

 

 

住処に帰宅。今日も懲りずに税金の取り立て屋が来たが、門の結界を破れずに退散したそうだ。今日辺り、反撃をしておくかな。

 

キッチンに向かい、買った小魚の下処理をする。刃物でやっていると飽きるので、『強奪』を使う。内臓、頭、エラ、皮、骨を『強奪』し、ミミズ飼育部屋へ『強制転移』させるだけである。残った身の部分は、すりこぎ棒とすりこぎ鉢で、練っていく。潤滑油代わりに少し、ごま油をたらしておく。俺の作業が珍しいのか、リザ、ルル、セーラ、マリアがメモを取りながら、見ていた。

 

そうだ!ショウガの絞り汁も入れておくか。臭み取りと、ショウガの成分は、タンパク質を柔らかくする酵素だか、成分だかがあるそうだ。喫茶コーナーのランチで生姜焼きを作る際、豚肉をショウガ汁に漬け込んだ記憶がうっすらと蘇る。

 

練り上がった小魚の身をスプーンで掬って、油で揚げていく。一部は蒸し器に入れてある。こちらは板無しの蒲鉾になるはずだ。今夜はお試しなので、板を用意して無い。好評であれば、板を用意しておくかな。

 

次に豪快にマグロの頭を切り落とし、たき火にくべておく。オーブンで焼くと、朝の食パンに臭いが移るので、オーブンでの魚料理は使用禁止である。残った身は柵状にして分類しておき、布に包んで少し熟成させる。

 

「醤油はどうするの?」

 

アリサに訊かれた。

 

「まだ、醤油は無いから、塩か、マヨだな」

 

マヨは酢の代わりにワインビネガーで代用をした。穀物酢を作らないとな。醸造蔵は発酵をするため、ダンジョン内だと酸欠になりやすく、向かないみたいだ。どこかに蔵を作りたいなぁ。

 

そして、夕食…刺身をメインに、魚肉パーティーになった。じゃこ天が人気である。蒲鉾は醤油が欲しい感じだな。ワサビと塩の相性が悪いのだった。

 

「次の目標は板わさをおいしく食すですね」

 

カタリナは、ワサビの生育の勉強を始めたそうだ。でもあれって、沢で無いとダメじゃないのか?ここに沢を作ればいいのか?あぁ、揺り篭に作れそうか。鼠人達に管理して貰えば良いか。お礼は鼠だけにチーズかな?

 

夜間…この町の貴族の屋敷から、コインを『強奪』していく。金塊とか金品だと足が付きやすいが、コインならば足は付かないと思うので。あのアシネンとかいう貴族の家からは念入りに『強奪』していく。兵を雇わせない為である。公爵は王都に持ち帰って王に相談と言っていたので、税の取り立てはアシネンという貴族の独断なのだろう。

 

 

朝、目覚めると、サリーが泣き縋っていた。ついに、サリーにまで毒牙が…

 

「ダンさん…会いたかったです…グス」

 

メイプルはサリーの号泣を見て、アタフタしている。しかしユーリの時よりは平和そうである。ユーリの時は知恵熱で倒れるのではと思う位固まっていたし。

 

「で、サリーの死因は?」

 

「うっ…過労死です。ダンさん…いえ、正さんが亡くなってから、睡眠が取れなくなって…周囲では不審死が増えていくし…怖かったんです」

 

あぁ、その恐怖の原因はメイプルだぞ~。メイプル本人は自覚が無いけどな。

 

カタリナを呼び出して、サリーをお風呂に入れて欲しいと頼んだ。心を落ち着かせるには、カタリナかマリアが適任みたいだ。セーラだと、どうして良いかって固まっちゃうようなのだ。巫女だと子守りは無理かな?

 

そして、朝食。今日はうどんきりにチャレンジしてみた。とは言う物の麺つゆは無い。醤油と鰹節、みりんが無い為だ。う~ん、どうするかな。アイデアの神様が降臨しないかな。降臨…降臨…降臨…した。そうか!

 

「これって、うどんを白玉に見立てたの?」

 

お汁粉にうどんを入れてみたら、アリサが親指をサムアップしながら、嬉しそうに食べていた。

 

 




ついに、サリーまで…

後は、「酒池肉林」とクマとアスカかな?ミィとミザリーも欲しているが…


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

VS勇者?

---ダン---

 

セーリュー市を治めるセーリュー伯爵から刺客が届けられた。サトゥー・ペンドラゴン士爵という勇者と、ゼナ・マリエンテールという魔法兵が率いている部隊である。セーリュー伯爵の子飼いの勇者チームなのであろう。ここで戦うと屋敷と仲間が危ないので、コイツらのホームグラウンド近くへ強制転移させて、俺とメイプルで迎え撃つ事にした。久しぶりに全開で戦うか。

 

「お前が魔王か?」

 

勇者が俺を魔王だと言う。どっちかと言うとメイプルがそうなんじゃ無いのか?

 

「いや、そこのちっこいのがそうだ」

 

「えっ!心外ですよ~。私、ダンさんにまだ一度も勝ててないですよ~」

 

それはそれだ…だけど、俺を二度殺しているのは、お前だけだ。

 

「幼女を魔王と偽るとは、とんだ魔王だな」

 

幼女と断定されたメイプルは、何かのスイッチが入ったのか、殺気が駄々漏れていた。

 

「ここで、お前らの息の根を止めてやる。『流星雨』!」

 

あっ!思い出した。どこかのゲームでこれを喰らって、死んだ覚えがあるんだが…流星が雨のように降ってくる。結構広範囲で降るんだよな。『強奪』して、俺にだけ降るようにするか。もし神様がいるなら、お願いします。アレが発動しますように…まぁ、発動しなくても回復再生能力があるから、HPが危なくなったら、俺だけ転移して逃げるか。と、最初の一発が俺の身体に触れた。

 

『フルカウンター10倍返し』

 

脳裏で響く声…あの勇者は、俺の10倍のレベルがあるのか。そうなると相手はレベル300辺りか?流星雨は10倍の威力となり、勇者に向かって放たれていく。

 

魔法兵の方は、メイプルの『暴虐』の餌食になっていた。心が折られたのか、地面で女性兵が4名、メイプルの玩具になっている。

 

一方、勇者はあの流星群を異空間収納へ入れているようだ。あれって、チートじゃないか?攻撃を無かったことにするなんて…じゃ、これはどうだ?『妄想』で「勇者様がミノタウロスの雄に後ろから…」の映像をギフトしてみた。一瞬表情が歪んだが立て直されている。精神ガード系を持っているのか。チート過ぎる。コイツも神様特典付き召喚者かっ!

 

「メイプル!ヒドラを頼む」

 

「はぁ~い、『ヒドラ』」

 

嬉しそうにヒドラを発動するメイプル。周辺が紫色の液体に染まっていく。あの女兵士達は、暴虐の口の中にいるらしい。まるで全裸の女性達を、旨そうに食べている魔物に見えなくも無い。口からは、女性達の太ももやら、二の腕やらがはみ出ている。飲み込むとか噛まなければ死なないらしいが…喰われている絵面の女性達は、気化した毒で蠢いているのかしれない。

 

「ゼナさん達に…なんてことを…許せない!」

 

って、勇者が空中浮遊をしている。まぁ、地表部分は猛毒状態だからなぁ~。うん?!剣を手にして、コチラに?いや魔物姿のメイプルに向かっていく勇者。

 

カキィーン!

 

メイプルに触れた瞬間、勇者の手にした剣が折れた。唖然としている勇者。公爵から情報を得ていないのか?オリハルコンを素肌で砕く少女だぞ!俺達のクランマスターはな!

 

「ウソだろ…なんて強度だ…」

 

ではこの隙に、機龍状態で、ぺちっと勇者を平手でたたき落とした。紫の水たまりに正面から沈んでいく勇者様。コイツ、チートだもの、これくらいでは死なないよな。勇者の背中に向けてメーサー砲を撃ち込んでおくか。そう考えた次の瞬間、勇者の背中が見える地点に高エネルギー砲が撃ち込まれた。猛毒の液体が一瞬で気化していく。メイプルを見ると、機械神で、はどう砲を撃ち込んでいた。これは流石に死んだかな。

 

幼女発言に珍しくキレていたメイプル。容赦ないなぁ…

 

 

女兵士4名を捕虜にして帰還した。毒を浄化させて、ヒールを掛け、手足を拘束して、床に転がしておく。全裸だと思っていたのだが、下着はセーフだったようだ。女性に免疫の無いレイがチラ見しながらのガン見をしている。まるでクロムのようだ。

 

「で、コイツらは?」

 

メイプルの躾け係のサリーがいて助かるなぁ。メイプルをサリーに任せ、俺はアリサと善後策を考える。

 

「人質だよ。詳しい話を訊く前に戦闘になったんだけど、セーリュー市の市兵ぽいなぁ。勇者の方は、死んでいないだろうな。まぁ、戦闘域はセーリュー市近郊だったから、今大変かもなっ」

 

はどう砲で気化した猛毒の液体は、上空で雨粒に混ざり、現在セーリュー市内に降っているだろう。後、はどう砲を地表に向けて撃ったから、大地震に見舞われているかもしれない。

 

「チェックしましたが、セーリュー市ダンジョンは無傷です」

 

アリスがダミーコア部屋で、ダンジョンの被害状況を確認してくれた。そうか、無傷ならいいや。

 

 

 

---オーユゴック公爵---

 

セーリュー伯爵が独断して、本来は国が行う勇者認定し、士爵の爵位を授けた冒険者と市兵のチームを彼の元へ送ったそうだ。その際、彼を魔王と断定したという。我々が会話で解決をしようとしていたのに、アシネン侯爵と言い、どうして彼から総てを奪うことが前提なのだ?

 

暫定勇者チームと彼とあの少女の戦いは、セーリュー市近郊で行われ、勇者は生き延びたものの、兵士達の生死は不明だと言う。戦闘の余波はセーリュー市を襲い、まず大地震が訪れ、石組の建物は総て崩落し、時間差で毒性を帯びた雨が降ったそうだ。現在、ダンジョンからの魔素の供給は絶たれており、回復魔法は使えず、薬頼みだそうだ。

 

「王よ、どうするのですか?王都、公都をセーリュー市の二の舞にしますか?」

 

ゾナによると、アシネン侯爵は、我々の交渉の後も、彼の元に税金の取り立てに何度も訪れているそうだ。取り立て内容は徐々に酷くなり、今は「総ての財産を差し出し、平民は平民らしく暮らせ」だそうだ。どこまで高飛車なのだ?

 

「宰相よ、お主はどう考える」

 

王は王の片腕である宰相の意見を訊いた。

 

「彼への税金は免除で良いかと。で、我々の支払う分は、交渉しだいですが、国全体の税収の3%程度が打倒かと思います。過去の分も請求されると思いますが、交渉次第だと思います。まぁ、アシネン侯爵家とセーリュー伯爵家の財産を総て献上辺りが、土産になれば良いですね」

 

「その場合、孫のセーラは戻って来るのか?」

 

「難しいと思います。魔王認定をした上で、勇者を任命して、討伐を依頼したとなると…人質の生死は彼らの気分しだいだと思われます」

 

孫の命は…諦めないとダメなのか…

 

 





商人キャラを考えていたら、『のうきん』の「赤き誓い」が浮かんで来て…アデルさんって、体型、性格ともにメイプル寄りですよね(^^;;;



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

VS勇者

---ダン---

 

平民らしい暮らしってなんだろうか?迷宮都市の貴族エリアへの魔素の供給をストップさせた。恨むなら、アシネンって貴族を恨めよ!

 

今朝は新しい住民は増えなかった。メイプルのお目付役サリーのおかげかもしれない。久しぶりに、清々しい朝を迎えられる…

 

って、何故か大空がひび割れて、そこから飛行艇が現れた。この世界の空はひび割れる材質で空が出来ているのか?その出てきた飛行艇は、この屋敷を目指しているように見える。

 

貴族街辺りに差し掛かった頃、気球部分が破裂し火の玉が見えた。シノンの狙撃かな?飛行艇はゆっくりと貴族街へ墜落していく。貴族の屋敷と接触寸前、飛行艇から数名が飛び立ち、コチラに向かって飛び始めた。勇者出なくても飛べるのか?

 

「なぁ、あれは誰だ?」

 

捕虜のゼナに訊いたが、分からないらしい。

 

「あれは、サガ帝国の勇者チームよ」

 

アリサが声を上げた。

 

「私達姉妹を見捨てた口だけのロリ好き勇者…絶対にアイツは許さない」

 

悔しそうなアリサ。こんな表情のアリサは初めてである。余程悔しい思いをしてのだろう。それは許せないな。

 

「メイプル、迎撃するぞ」

 

「うん」

 

館の外に出て、俺は蒼い装備にクイックチェンジし、メイプルはシロップを召喚した。

 

「そうか…召喚すればいいのか。ネメシス、カモォォォォォォ~ン!」

 

レイが痛そうなコマンドで相棒を召喚していた。カエデが勝手に現れ、シロップに乗り込んでいる。アリスは天翔る馬を召喚し、それに既に載っている。

 

「主よ、その呼び出し方は恥ずかしい。ただでさえ見た目だけでも恥ずかしいのに」

 

相変わらず、レイは相棒からもバッシングを浴びている。レイはシルバーと言う空を飛べる馬も出し、俺達5人は空へと飛び出した。

 

 

「おい!魔王よ!アリサ姫とリーングランデの妹のセーラさんを返せ!」

 

あぁ、公爵の娘の一人は勇者付きの騎士とか言っていたな。コイツのパーティーメンバーなのか。

 

まず、『子羊の行進』で様子を見る。勇者だけ寝込み、堕ちていく。勇者が一番弱いのか?

 

「貴様!妹を返せ!」

 

次に『妄想』だな。イメージはあの勇者の全裸で甘い言葉をギフトしてみた。顔を赤らめて、おどおどする勇者付きの仲間達。男に免疫は無いようだな。

 

『パラライズシャウト』

 

メイプルのスキルで、堕ちていく勇者の仲間達。呆気ないな…って、空気の刃が飛んで来た。セーラの姉は魔法使いだったようで、自傷して麻痺から脱出したようだ。

 

「メイプル、持ち帰る。捕縛してくれ」

 

「了解です。『ヴェノムカプセル』」

 

毒のカプセルに覆われるセーラの姉。大人しくしていても呼吸の度に、暴れる程に毒の回りが早くなる鬼畜スキルである。

 

 

住処に戻って、セーラに彼女の姉を預けた。

 

「倒してくれた?」

 

アリサが訊いて来た。

 

「まぁ、墜落はさせたが、死んではいないだろう」

 

「そう…」

 

アリサによると、あの勇者はアリサに一目惚れし、プロポーズまでしたのだが、アリサの国が戦争に敗れ、アリサが奴隷堕ちすると、音信不通になったらしい。最低だな。プロポーズした女に、その仕打ちって…勇者なら、奴隷堕ちし無いように助けてやれば良いのに。

 

で今になって、奴隷では無いアリサを返せって…ゲスだな。俺もゲスではある…死に別れた妹との約束を叶えて上げられなかったし…

 

「ご主人様まで悲しそうな顔をしないでよ。ねぇ…」

 

「死に別れた妹のことを思い出しただけだ。死んだのは俺だけどな」

 

「生きていればいいことあるって。私はご主人様に会えた。そのおかげでルルの妹として普通に生活出来ているわよ」

 

見た目は幼女、精神年齢は歳上のアリサに言われると、少し嬉しい。

 

「お~い!アリサ姫を返せぇぇぇぇ~!」

 

外から勇者の声がする。全身ズタボロで門の前にいるんだが…罠を発動してみた。門の前の地面には、地面タイプのゴーレムがいて、普段は落とし穴を隠しているのだ。

 

勇者と仲間達が落とし穴に吸い込まれて行く。外気圧と内部圧を変えることにより、落とすだけでなく、吸引するようにしてあるのだ。逃げる事は出来ない。現在のゴールはここのダンジョンの犯罪ギルドの拠点である。退治してくれるといいなぁ。あの貴族の部隊を追い返すだけでは勿体ないので、ダンジョン内の排除して欲しい物がある地点に落とすことにしてみたのだった。

 

「あの勇者達って、武器を持っていた?」

 

サリーが訊いて来た。

 

「持っていないよ。だって、堕ちる瞬間に『強奪』しておいたもん」

 

高そうな武器である。闇オークションに出せば高く売れるであろう。

 

 

 

---オーユゴック公爵---

 

今度はサガ帝国の勇者チームが、越境して彼を倒しに来たそうだ。勇者チームの載っていた時空航海船は、迷宮都市の貴族街に墜落し、爆発炎上したそうだ。孫のリーンがいるのは、あの勇者チームだろうか?

 

「アリサを返せと喚いていたそうです」

 

と宰相。ゾナとの定時連絡で情報を得たらしい。

 

「調べてみたのですが、そのアリサというのは、滅亡したクボォーク王国の王女で奴隷堕ちしたアリサ姫のようです。あの勇者は以前プロポーズしたようですから」

 

「その奴隷堕ちした王女が、彼の元にいるのかね?」

 

「そのようですね」

 

国際問題になりそうだ。魔王認定をされた彼が奴隷堕ちした元王女を手に入れ、それを助けようと他国の勇者が来て、返り討ちに遭ったと…

 

「王よ、早急に彼との交渉をまとめないと、ハードルが高くなっていくばかりかと思います」

 

迷宮都市の貴族街の復旧作業で、彼に渡す物が少なくなりそうだ。

 

 





次回はVS元勇者かな…


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

VS元勇者

戦闘シーンは無いです(^^;



---ダン---

 

朝、目が醒めると…何かが俺の上で踊っていた。何かが俺の上で唄っていた。はぁ?俺の右腕には何かが絡み付いていた。夜襲?所謂夜這いか?そんなことをするヤツは、まだ召喚されていないはずだが…眠っていた脳細胞が1つ、また1つと覚醒していく。

 

「おはよう…兄さん…はぁ~」

 

甘ったるい声の後に、生暖かい吐息が俺の右耳に襲い掛かってきた。兄さん?はぁぁぁぁ~?

 

「なんで、お前がいるんだ?」

 

俺の妹のアバターであるアスカに訊いてみた。

 

「兄さんの骨をエーゲ海に散骨するって、レイチェルが譲らなくて、三人で飛行機に載ったんだけど…堕ちて…」

 

飛行機の事故…まず助からないなぁ。うん?今三人って言わなかったか?レイレイとアスカと誰だ?

 

 

レイレイが満足したようで、やっと解放された俺。アスカとシャワーを浴びて、食堂へ行くと…クマがいた。クマ…軍艦クマかぁぁぁぁ~!メイプルの後ろ盾になった転生神は、俺達を魔王軍団にしたいのか?戦力が過多だろう。俺達に何をさせたいんだ?

 

「レイが迷惑を掛けたかもクマ」

 

クマ兄さんが俺を見つけると、頭を下げてきた。

 

「あぁ、お前の弟は頭が豆腐か?隣人の手料理で死ぬって…」

 

レイに隣人との関係を訊くと、『隣に住んでいる異国の女性』って情報しかなかった。もっと疑えよな~!お前のせいで、ユーリは死んだに等しいのだから…

 

「クマ兄からも言って欲しい。主のセンスの無さをなぁ」

 

ネメシスがクマ兄さんに詰め寄っていた。使い魔から苦情が出るマスターって、どうなんだ?コンビ解消でもいいんじゃ無いのか?

 

そんな賑やかさが増した朝の風景に、場違いのヤツラが襲来してきた。

 

「おい!魔王!出て来いやぁぁぁぁ~!」

 

窓から外を見ると、ドラゴンに女性が載っていて、大声を張り上げていた。

 

「あれって、『ドラゴンに載った勇者さま』に出てくる勇者様かな?」

 

って、アリサが一冊の本を手にして来た。表紙に描かれた絵面は、窓から見える絵面に似て無くもない。

 

「あれって、勇者?」

 

「本の主人公であれば、シガ・ヤマト、シガ王国の王祖になるけど…大昔の人だよ」

 

「歳が変わらないってことは、転生チートスキルか?」

 

「なるほど…お話し合いで仲間に出来そうね」

 

すっかりサリーのポジションに居座って居るアリサ。サリーは時差ボケらしく、本調子では無いのかもしれない。

 

「メイプル、どっちとやる?」

 

「ドラゴンかな」

 

いにしえの勇者とドラゴン、メイプルと俺で、迷宮都市から遠くへ転移した。

 

 

話し合いが終わり、元勇者ことミト・ミツクニ、本名高杯光子と、天竜ことテンちゃん、ホムンクルスが床で伸びていた。

 

「これ、どうするの?」

 

アリサがテンちゃんを杖でツンツンしている。

 

「うちで飼う。役立ちそうだろ?」

 

「そんなに強くないよ。シールドバッシュで戦闘意欲を放棄していたもん!」

 

初手のシールドバッシュで戦闘が終わってしまったメイプルは、不完全燃焼気味でプンプンしている。天竜にシールドバッシュ一発で勝つって、どんだけ強くなったんだ、お前は…

 

「シガ王国の生き字引が手に入ったし、次の作戦に向けて、準備をするかな」

 

「次の作戦って?」

 

「アリサの国の奪還、および報復だよ」

 

「えっ…いいの?一国を敵に回すんだよ。本当にいいの?あのロリ勇者でも出来なかったのに…」

 

ロリ勇者?あぁ、そう言えば、アイツ、ダンジョンから出てきた気配は無いけど、本当に勇者だったのか?

 

「戦力的には、問題は無い。敵の城はメイプルバスターとカエデバスターで、崩壊できそうだ。敵戦力は、クマ兄さん、俺、シノン、レンが要れば問題は少ないと思う」

 

この異世界で弾薬類の補給が見込めないことから、銃火器の弾薬類は無限カートリッジになったそうで、クマ兄さんはもうポップコーンを売らないでも戦力の維持が出来るらしい。だが、この世界でポップコーンを広めたいとクマ兄さんの野望が広がっているらしい。

 

「お願いです。お父様、お母様、家族、国民の無念を晴らしてください。「お願いします!」」

 

アリサ、ルル姉妹が俺達に頭を下げてきた。

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

チーターの仲間入り

---ダン---

 

納得出来ない。アリスが『JK化』なるスキルを造り出した。これは、対象相手を女子高生相当の身体に変えるスキルであり、効果時間は2時間だそうだ。

 

テストとして、レンとユーゴーで試したのだが、効果が切れる前に行為が終わらないと、惨劇になる。レンの身体から抜けなくなったり、ユーゴーの場合は後ろの穴だったり…俺のトラウマが増えていく。

 

「う~ん、これは改良しないとダメですね」

 

アリスが唸っていた。あぁいう行為って、時間きっかりに終わる訳も無く…カラオケボックスのように、残り5分でアラートなりがあっても良いと思う。

 

「痛いです。早く抜いてください…」

 

目の前では改良後のテストとしてサリーが実験台になったのだが…残り5分の時点で抜けないって…

 

「では残り30分辺りで、アラートを出しましょうか?」

 

「いや、時間切れになったら、強制排出させてくれないか」

 

「では、その方向で改良をしてみます」

 

アリスの能力で俺はサリーから強制排出してもらった。俺的には、アズライトとレイレイ、アスカだけでいいんだけど。

 

アスカは、実の兄妹と言う括りから脱却して、俺と為さることに躊躇しなくなっていた。アリス曰く、「死後の世界ですから、子供は出来ませんよ」との言葉に行為を推奨されたと思ったのか、感化されたと言うか…はぁ~。俺、草食系男子なんだけど…基本ボッチ系で一人の時間は考え事をしたのだけど。

 

 

シャワーを浴びて、食堂へ行くと、ミトが男をつれこんでいた。

 

「早速ナンパか?」

 

冬眠明けにフレイヤと百合三昧だったしなぁ。男が恋しい年頃かな。

 

「違います!私の生前の知り合いで、ジョブが商人なんですよ。ご主人様は、仲間に商人が欲しいって、言っていたでしょ」

 

あぁ、言った。商人が仲間にいれば、売りたい物を売れて、買いたい物が買えるからな。現状、シガ王国と上手くいっていない俺達は、王都や公都で大々的に商いが出来ていないのだ。

 

「って、コイツ、チート勇者じゃないのか?」

 

メイプルのはどう砲で散った勇者だ。

 

「その節は…あれは、マジ、死ぬかと思いましたよ」

 

アレを食らって死なないお前は、チーターだと思うぞ。軍艦クマをデスったあの攻撃で生き残るとは…

 

「後輩氏…ミトから、あなた方の立ち位置を聞きました。召喚者がメインの集団だそうで」

 

ミトを後輩だと言う勇者、サトゥー。見た目、ミトの方が歳上である。

 

「今後の作戦の内容も聞いたわ。で、私達はどうすれば良いの?」

 

「ミト、公都か王都に拠点が欲しいんだけど。住むのはここでいいけど、買い物をするのに、ここは不便過ぎる。この街は出歩きたくない」

 

迷宮都市は、物騒である。毎朝、税金の取り立てに来るし。まぁ、取り立て屋は、罠でダンジョンに落としているけど。そうそう、罠の術式も改良してみた。落下というか吸引中に、装備、金目の物などを『強奪』するようにした。これなら、俺がいなくても、迷惑料として、金目の物を貰えるだろう。

 

「そうね…王都になら、ミト・ミツクニ公爵名義の屋敷があるけど…今もあるのかな?」

 

女性に歳の話はタブーなので、一体何百年前の話なのか、訊いてはいない。まぁ、王祖の屋敷であるなら、歴史的建造物として、残っているのだろうな。

 

「そこを使うには、現国王の許可が要るわね」

 

今の世の中に、王祖の知り合いが生き残っているとは思えない。どうやって、証明するつもりなんだ?

 

「私達が、王様への謁見を手配します」

 

リーンとセーラが声を上げた。あぁ、そうだった。この二人は国王の孫娘に当たるだったな。

 

「って、リーンは生死不明状態で、セーラは人質だろ?手配できるのか?」

 

「はい。してみせます。ご主人様の為になることですから」

 

「こうやって、セーラと一緒に暮らせる日々を頂け、感謝しています。私達にお任せください」

 

「じゃ、今夜、王都を襲撃する。メンバーは俺とミトとサトゥー、リーンとセーラにする」

 

「私も行きたいです」

 

ピシッと手を挙げているメイプル。やらかしそうである。過剰戦力である。多分、俺とミトで王都は制圧できると思う。俺の使い魔のアリスとカエデがいるんだし。

 

「たまにはクランマスターとして働きますよ」

 

う~ん、クランマスターとして…かぁ~。たまにはで無くて、基本代表者をして欲しいんだけどなぁ~。無理かな?

 

「戦わないよ」

 

「ダンさんを護りきるのは、私のお仕事でしゅ…あっ、かんだ…」

 

真っ赤な顔で俯くメイプル。

 

 

セーラとリーンが王都に滞在しているオーユゴック公爵と会い、国王との謁見を予約してくれた。玉間に三人が入ると、その傍に転移した俺達。

 

「ま、ま、まさか…王祖、ヤマト様ですか…」

 

国王は、玉間に飾られている1枚の絵を指差して動揺している。その絵画は、ミトの顔を描いた物のようだ。

 

「あ、シャロリックくんが描いてくれた絵だね。まだ残っていたんだ」

 

ミトは懐かしそうな目で…目尻には輝く物がうっすらと湧き出ていた。

 

「流石にシャロリックくんは生きていないよね?」

 

「はい…二代目国王は既に…」

 

一体、ミトは何代前の王なんだ?

 

「で、話し合いに来た。毎日、税の取り立てをするほど、この国の財政は疲弊しているのかな?」

 

「いえ…そんなことは無いのですが…一部の領主達が…その…私腹の為に…」

 

この国王は正直なのか?策士なのか?実情を話しているようだぞ。王都を見ても、公都を見ても、この国の財政は疲弊はしていない。貧富の差はあるが、たぶん住民の90%くらいは、平民以上の生活はしていた。

 

「国王令で、取り締まれないのかな?そういう貴族達の立ち振る舞いをさぁ。ご主人様は、迷宮核を所有しているんだ。その意味が分からなくは無いよね?」

 

「国としての見解は、無税として、歳入の年3%くらいを返還しようと思っております」

 

「だってさ。どうするんだい?」

 

ミトが俺に話を振ってきた。

 

「ミト名義の王都の屋敷を使いたい」

 

「勿論です。新居としてお使いください」

 

うん?ミトが俺を主人と呼んだから、俺をミトの伴侶と誤解しているのか?まぁ、いいか。

 

「で、あの小うるさい貴族はどうしてくれる?セーリュー伯爵とアシネン侯爵だっけ?」

 

「爵位を剥奪の上、底辺からやり直しさせます」

 

「それだと、逆恨みを受けないか?」

 

逆恨みで仲間に危害はカンベンして欲しい。

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

SS:王都の長い夜

本日3本目


 

---オーユゴック侯爵---

 

孫娘は二人が帰ってきた。一人は生死不明、一人は人質だった孫娘である。

 

「二人共無事だったのか?」

 

「はい、ご主人様に救われました」

 

「姉と生活出来るのはご主人様のおかげです。私達、ご主人様に恩返しがしたいので、お爺様協力していただけませんか?」

 

二人共真っ直ぐな視線で私を見据えていた。

 

「私に出来ることならば…」

 

「私達のもう一人のお爺様と謁見の機会が欲しいのです。ご主人様達の希望でございます」

 

ご主人様?洗脳されたのか?だが、二人の瞳は洗脳されたように見えない。

 

「ご主人様とは?」

 

「私達の使える方です。許可無く、お名前を口に出すわけにはいきません」

 

まさか、奴隷にでもされたのか?しかし胸元には奴隷紋の類いは無い。その手の魔具も無いようである。

 

「もし、戦争になれば、王都は今夜堕ちます」

 

何?!戦争だと…今夜…彼の戦力は王都にいるのか?

 

「話し合いで解決を望んでおります。受けてもらえますか?」

 

神託の巫女であったセーラが、脅すような言葉を紡いでいる。いくら巫女籍から外れたとは言え、この変わり身はどういうことだ?

 

「国王陛下に会われて、何を話し合うのだ?」

 

「税金問題と迷宮核の使用料についてです。次のステップに進む為に、シガ王国の問題を先に片付けたいのです」

 

次のステップ?勇者を送り込んだサガ帝国か?う~ん、どうする。

 

 

 

---セテラリック・シガ---

 

世直しに出られていたミト・ミツクニ公爵こと、王祖シガ・ヤマト様が戻られた。彼女は召喚勇者であり、この世界の者では無い。その為か、一切歳を重ねていないようだ。2代目の描かれた絵ソックリの姿を我々の前に現した。

 

ミツクニ公爵は生涯独身だったのだが、今伴侶を連れて戻られた。2代国王は彼女の養子であったが、王位を譲られたそうだ。2代国王こそ、我々の血脈の原点となる人物である。

 

王祖ヤマト様は、その2代国王を見いだして下さり、我が国の礎を築いて下さった方である。ミツクニ公爵の要望はなるべく叶えることが、我がシガ家の脈々たる思いである。

 

ミツクニ公爵の伴侶様からの要望は、毎朝の税の取り立ての禁止と、迷宮核の使用料の支払い、そして、王都にあるミツクニ公爵邸の使用許可であった。

 

「こちらが、前回の会談の後に作成しました当国の約定でこざいます」

 

宰相が書類を手渡した。書類に目を通すミツクニ公爵夫妻。

 

「これで良いんじゃ無いかな。ご主人様はいかがですか?」

 

「ミトが良いならいいぞ。この国関連はミト、セーラに任せる。以後、窓口を頼む」

 

「「はい」」

 

ミツクニ公爵と孫のセーラが、ミツクニ公爵の伴侶に跪いた。

 

「後、人質の問題だな。セーリュー市の市兵を数名預かっている。コイツらはどうすれば良い?」

 

「そのまま、ミツクニ公爵の騎士としてお使いください。宰相よ、辞令を書いてくれ」

 

「はっ!」

 

「約定通りにしてくれたら、1週間後に魔素の使用を許可しよう。迷宮都市の迷宮は営業を再開させる。王都、公都の迷宮は誰かが再起動させたせいで、現状階層が浅い。なので、当分は使用出来ない。セーリュー市のダンジョンは、国で運営をしてくれて良い」

 

「ありがとうございます。入場税、買い取り税、販売税の3%は計算をして、月末にお払いします」

 

「それでかまわない。滞納問題をチャラにしてくれたので、こちらも過去の使用に関しては問わないことにする。但し、問題の再燃時には、過去の使用分も貰うからな」

 

そして、彼らは目の前から消えた。これが高位魔法の転移術かぁ…

 

 

 

---アラン・スティアート---

 

カタリナ、メアリ、キースの次は、マリアが消えた。兄ジオルドとの結婚式を数日と控えた日にだ。あの自信の塊だった兄が、蒼い顔で凹んでいた。

 

「アランは、どうして、そんな元気そうなんだ?お前だって、婚約者のメアリ嬢が消えたのだろ」

 

兄に訊かれた。

 

「うん?カタリナと一緒にいると思えば、問題は無い。あの二人がカタリナと一緒であれば、妙な方向へは行かないだろうしな」

 

兄の婚約者のカタリナ・クラエスは、行動予測が難しい人物であった。令嬢なのに木に登り、令嬢なのに芝生に寝っ転がり、令嬢なのに畑をたがやしていたり…令嬢としてあり得ない行動を取ってきた。だけど、令嬢としてどうなのという問題よりも、新しい視点を切り開く勇気を俺は讃えたい。

 

独占欲の強い兄の鳥かごで飼われる人生より、行方不明でどこかで生きている人生の方が、カタリナには合っていると思う。なので俺は、心配などしない。

 

「港町からの足取りがまったく無い。港町に住んでいるのか?」

 

兄ジオルドがブツブツと言っている。まぁ、そのうち、地盤を固めれば、呼び出す気がするが…そういう女である。

 

 

 

---アン・シェリー---

 

カタリナ様専任のメイドである。婚約者であるジオルド王子が、カタリナ様に内緒で、カタリナ様のご友人のマリア・キャンベル嬢と、こっそり婚約し、結婚をすると聞いたカタリナ様は、ジオルド王子に消されると言って、家を出た。実際は、カタリナ様へのサプライズで、ジオルド王子が両手の花の結婚式を計画しているだけだったのだが…カタリナ様は、ジオルド王子との結婚はしないと意志表示していた。それに対し、ジオルド王子は、婚約破棄は認めないと断言しいた。

 

まぁ、脱走の口実だったのだろう。ジャマになった自分は王子に殺されるって…しかし、カタリナ様専任メイドである私は、旦那様、奥様に責められた。何故、カタリナ様を逃がしたのかって…奥様だって、ジオルド王子との結婚は反対していたのに…王族からの圧力に弱いのだろう。

 

カタリナ様がいなくなり、キース様はカタリナ様を探しに行かれて、音信不通になり…奥様は心の病に…私も…

 

寝たきり生活は、どの位しているかな。メイド長が、毎朝、毎晩、私の様子を見に来てくれる。庭師のトムさんもたまに見える。カタリナ様の思い出を話すことが、今の私の生き甲斐である。

 

心にぽっかりと空いた穴…これが埋まる日はあるのだろうか?

 

「おはよう、アン。ゴメンね、迎えに行くのが遅くなって…」

 

え…笑顔のカタリナ様の顔が目の前に…これは夢?

 

「漸く、人並みの家に住めるから、アンには来て貰ったのよ」

 

人並みの家?まさか、今まで野宿だったの?起き上がると、広い部屋に寝ていた。周囲を見回すと隣にもベッドがある。

 

「私と相部屋だけど、いいわよね?」

 

カタリナ様と相部屋?ここはどこ?

 

「さぁ、着替えて。部屋にあるシャワーは使ってもいいわよ。ここでは、同格でいいからね」

 

同格でいいって…ここって、宿?部屋にシャワールームって、高級宿のスイートルームなのかしら?

 

シャワーを浴びて、メイド服を着て…カタリナ様は作業服である。どこかのお屋敷の庭師にでもなったのか?

 

食堂へと連れて行かれると、そこには様々な種族、年齢の者達が、沢山いた。

 

「好きな料理をお皿に載せて、テーブルで食べるのよ」

 

見た事の無いパンや料理が並んでいる。

 

「本日の予定はどうしますか?」

 

青い装備を身に纏った女性騎士が、上席に座る男性に訊いた。

 

「カタリナ、メアリは農作業、キースはサトゥーと商店巡り、俺はミトと一回りしてから、メイプル達と狩り。後…カタリナの紹介のメイドさんは、セーラ、アリサ、ルルに任せる。家事を教えてやってくれ。ここと向こうの家のな」

 

お屋敷が2つ有るの?どこかの爵位持ちなのかしら。えっ…キース様だけでなく、メアリ様、マリア様もいらっしゃる。ここはどこなの?

 

「カタリナ様、ここはどこなんですか?」

 

「ここ?ここはシガ王国のミツクニ公爵邸よ。シガ王国は、私達の住んでいた国とは、違う大陸にあるの」

 

…それは、亡命してってことですか?見つけられない訳だ。海を渡って、違う大陸って…ジオルド様に知らせるにも、連絡手段も無い。そもそも、他の大陸と交易はしていない。

 

 




死者の魂を召喚するメイプルと、『強奪』による誘拐を繰り返すカタリナ…どちらが罪作りの女なのだろうか?


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

王都奪還

 

---ダン---

 

今朝の目覚めは、少女の嗚咽が原因だった。ついにコイツが来たのか…

 

「ダンしゃん…さみしかったよ~。メイプルもいないし…うぇぇぇぇ~ん」

 

全裸で載っかって号泣しないで欲しい。彼女の涙やら鼻水やらが全部、俺の顔面に降り注いでいる。これは何の罰ゲームだ?

 

泣き止んでも未だ愚図っているミィをマリアに託し、お風呂場へ連れて行ってもらった。ミィの死因は不明らしい。メイプルを見かけて追い掛けたら、ここにいたと言う。そのことをメイプルに訊くと、

 

「だって、寂しそうだったんだよ。一人で部屋に閉じこもって、泣いているだけだし」

 

って、ドヤ顔で説明してくれた。お前、死因不明で連れてきて、その褒めてって顔は止めてくれ~!今朝もメイプルはメイプルだった。

 

朝食の折、定例のアズライトからの本日の予定を訊かれた。そろそろ、人材を揃えないとダメだな。

 

「そろそろアリサ、ルルの国の奪還作戦の準備をしようと思う。奪還後の人選ができ次第、奪い返す」

 

戦力は過多である。敵情視察をミトのチート能力でしてきたのだが、相手の城は簡単に破壊出来そうだ。

 

この世界、飛行機が無いので防空兵器は無いに等しい。飛行部隊はドラゴンナイトとかドラゴンライダーとかいるらしいが、うちの飛行部隊の前では紙飛行機程度である。

 

どういう原理で飛んでいるのかわからないが飛行騎馬のレイとアリス、もっと分からない移動式ギルドホーム、最早落とすだけで核兵器並の威力のメイプルとカエデ、そこに機龍の俺と軍艦クマだ。これを戦力過多と言わずになんと言うのか。

 

飛行部隊なぞ使わないで、ヒドラX2でも詰むのだが、これを実行すると奪った土地が農地に転用出来なくなりそうだ。因みに、猛毒の海でも問題無いのは俺とメイプル、カエデの他にレイレイがいたりする。それに、この作戦の場合、侵攻速度がやたら遅いのがネックである。一体、国境から城まで何ヶ月掛かるんだってレベルの遅さである。

 

「国名はクボォーク王国にする。奪い取るヨウォーク王国は併合し農地化の上で植民地とする。で、トップはアリサになって貰う」

 

「え…私は無理…だって、私のせいで戦争に…」

 

アリサに寄る農地改革が戦争の原因になったらしい。いや、戦争の原因にされたと言うのが本当のところのようだ。チート二人組の潜入捜査能力は凄い。ダミーを含むダンジョンコア部屋以外であれば、どこでも出入り自由だという。

 

「調査の結果、エルゥス・クボォークが奴隷に堕とされ、生存している。コイツを。いずれ王にする手もあるぞ。まぁ政務なんかを叩き込まないとダメだけど…」

 

「エルゥス兄様が生きているの?」

 

「あぁ…取り敢えず、アリサが王女としてトップになってもらう。その後農地改革大臣にする。政務のアシストはアズライト、農政のアシストはクラリスが行う。財政に関しては、キースとサリーに任せた」

 

丸投げな俺。俺は国作りには興味は無い。醤油、みりん、味噌の製造に興味を奪われているし。

 

「ねぇ、ご主人様がトップになれば?」

 

「俺は調味料の開発で忙しい。そういうのは、適材適所が良い」

 

面倒事は持ち込みたくない俺。あくまで、丸投げが最適だと思う。

 

「貴族出身者も多いから、貴族法とかを制定しておくといいかもな。尚、軍備はクラン<楓の木>が取り仕切る」

 

ガッツポーズをしているメイプル。いや、お前には任せない。メイプルは実働部隊が適材適所である。

 

軍人のいない国ってありだよな。俺達の生きた国も軍人と呼べる軍隊は無かったし。だから、あんなゲームが流行ったのかもしれない。

 

「あぁ、レイは回復魔法とかをセーラに習っておけよ。聖騎士だと言い張るなら、それくらいマスターしておけよ」

 

死霊術師姿の聖騎士に通告をしておく。死霊術師姿のヤツに回復をさせる怪我人がいるかは、別問題である。だけど、ミザリーがいない今、回復術師は用意出来るなら用意しておきたい。不足な事態を先読みして、対処をしておくのは必然だと思う。

 

 

現在の旧クボォーク王国は、王都にある生贄迷宮というダンジョンを解放し、ヨウォーク王国が運営、営業している。アリスと俺とミトで、ダンジョンコア部屋に行き、既に名義変更をして来てある。生け贄って…アリスの家族達を生け贄にして、その魂を使い、死んでいたダンジョンコアの蘇生をしたようだ。なので、ダミーコアと入れ替えて、アリサ達の家族の魂は確保済みで、国土の奪還が成功したら、アリサ達の前で成仏させてあげたい。

 

 

「このダンジョンの敵を殲滅していいの?」

 

今日はダンジョンの大掃除である。クラン<楓の木>のメンバーが出陣した。

 

「いいか?ダンジョンを壊すなよ。ただでさえ、ボロボロなんだから。今回のことが終わったら、再起動させる予定だ」

 

心配は一点だけだ。俺を含め、ダンジョン破壊が得意なヤツが多い。俺、メイプル、カエデ、クマ兄さん、レイ、ミィなど…技の威力が閉鎖空間に適していないのだ

 

「後、毒の使用も気を付けろよ。味方を誤爆とか、味方の進路を塞ぐなよ」

 

これは、レイとメイプルである。カエデは俺の許可を取ってから使うが、あの二人は…何度カニ味噌をダメにしたことやら…

 

「あぁ、ミイラ部屋とコア部屋はスルーしてくれ。散会!」

 

嬉しそうに走り出すメイプル。大丈夫か、アイツ…

 

 

準備の整った或る日の夜…ヨウォーク王国の王城の上空に来た俺達。まったく警戒されていない。お城では、生贄迷宮を奪い返す為に、部隊が編成されている。ダンジョンを運営していた職員達を逃がしたので、報告が上がっているはずだ。旧クボォーク王国の生き残りに奪われたと…

 

城の正門前にはクマ兄さんがスタンバっている。ハンガーでは落下準備をしているメイプル、カエデ、降下準備をしているアリス、レイがおり、その脇ではアスカ、シノン、レンが機銃掃射の準備をしていた。

 

城内にはチーターであるサトゥーとミトが潜入しており、決起集会の終了のタイミングを知らせてくれることになっていた。退路となる裏門には、剣士であるサリー、アスナ、ユウキ、アズライト、リーングランデらが待ち受けている。

 

『進軍を開始するぞ。離脱する』

 

念話でサトゥー達の離脱を知ると、まず、装備品、金目の物を総て『強奪』してから、開幕弾であるミィの『炎帝』からの『爆裂』が撃ち込まれた。城の中心部から火柱が上がり、メイプル、カエデが落下していく。それを追うようにレイ、アリスが続き、城壁、城郭、城門を機銃掃射で破壊していく。

 

城から兵は一人も出て来ない。城から王族がまだ逃げ出して来ない。城を取り囲む障害物が無くなった後、二匹のヒドラが城を紫城に変えて行く。

 

その後、メイプルとカエデは機械神となり、所定の位置へと向かい、俺も機龍となり所定の位置へと向かった。正門前にはクマ兄さんが戦艦を携えている。これから四方向からの爆撃を始める。他国がクボォーク王国に手を出さないように、徹底的に粉砕をし、新生クボォーク王国の戦力を見せつけておく。

 

 

翌朝…朝焼けが見えるクボォーク王国、生贄迷宮の入り口。兄と妹が涙の再会をしている。ルルは二人の姿を涙ぐんで見つめていた。ルルはアリサの姉であるが、ルルの母親は平民であり、ルルは王族の一員では無い。姉であるが王族では無い為、一歩引いた位置にいるのだ。

 

「姉さん…一緒に行きましょう」

 

「ルル…行こう。お父様の元へ…」

 

「えぇ…」

 

王族では無いが、父親は一緒である。ルルは王族では無い為、二人の後ろに付こうとするが、アリサ達がそれを許さない。きっと、この王族達はルルも家族だと思ってくれていたんだろう。

 

「姉なんだから、先に行きなさいよね」

 

妹のクセにえらそうなアリサ。

 

「いいの?」

 

「いいんですよ、姉さん」

 

エルゥス・クボォークもルルを姉だと立てている。向かう先は、ミイラ部屋である。ここには生け贄になった王族達の身体がミイラとして保存されていた。いや、ダンジョンコアの儀式の為に使われていたと言うのが正しいか。魂が閉じ込められているダンジョンコアを部屋の中心に描かれている魔方陣に置き、『ウッドオクトパス』で粉砕狙撃した。コアからあふれ出る魂達。このダンジョンは既にダミーコアがダンジョンコアの役目を果たしている為、魂はコアに捕らわれることなく、部屋の中を漂っている。その中で一番大きな魂が、三人の元を訪れ、周囲を周回している。ゆっくりと、じっくりと見つめるように…

 

「セーラ、レイ、準備をしてくれ」

 

二人には、この部屋に漂う魂の鎮魂、浄化、昇華をしてもらう。ミザリーが居れば、完璧なのだが、まだアチラの世界で生きているミザリー。無理に呼び寄せないでもいい。死霊術師姿の聖騎士が聖属性の儀式を行うのには抵抗はあるが、レイのジョブは確かに聖騎士をマスターしている。

 

剣士組たちは、それぞれの剣を抜き、天井へ剣先を向けた。聖属性者達の詠唱が始まった。

 

 

総てをやり終え、地上へ出ると、ゼナ達が待っていた。

 

「シガ王国は、クボォーク王国の復興を支援すると、各国に声明を出しました」

 

大国の支援…それはクボォーク王国が奪還され、生き返った証拠である。とは言え、クボォーク王国の王都はガレキの山である。ヨウォーク王国は、生贄迷宮以外の街を殲滅していた。そして、クボォーク王国の国民を使い、非人道的な実験を繰り返していた。ドラゴンの因子を埋め込み龍人化させられ、それら魔物化した人間で作ったキメラなど。迷宮内に解き放たれていた。それら総てを俺達は灰にしていった。

 

「国はあるけど…国民がいない…」

 

アリサが呆然としていた。奪還を成功させ、現実を見て仕舞ったようだ。

 

「アリサ…俺達と同じで奴隷として生きている者達がいるはずだ。ダン様…お願いです。奴隷化した国民を助けて貰えますか?」

 

アリサの兄に頼まれた。

 

「時間は掛かるがいいかな?資金も必要だし、探す手間もある」

 

「勿論です。その代わり、私やアリサが出来ることは何でもします」

 

彼の言葉から、ルルを巻き込まないようにしているようだ。王族の責任においてやり遂げたい意思を感じる。

 

「当面は、アリサが王女だ。お前は、アズライトから政務を学べ、いいな」

 

「はい!」

 

「アリサとカタリナで、農地改革を頼む。農地付きで農民の移住が楽な政策だけど…どうかな?」

 

「じゃ、区画割をしましょう。一人で耕せる面積で区画を割るわ。商業地域はどうする?」

 

兄の言葉により、一転してヤル気満々のアリサに訊かれた。

 

「ここのダンジョンは再起動させるから、当面ダンジョン運営は無理だ。セーリュー市に近いから、道を整備して、国境付近に中継都市でもつくるか?」

 

保管庫には、金目の物がたっぷりある。サトゥーを通じて、金にするかな。

 

 





強い敵だと、アインズ様と、九内伯斗、あとリムルかな?

デスマの神様達は強いって感じでなくて、恐怖しか無いし。まぁ、デスマの神様はサトゥーがいれば、安心か。

メイプルの後ろ盾の神様とデスマの神様の対決もありだけど、神としての性質が違うからなぁ。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

同盟

 

---ダン---

 

アリサ達の国を取り戻し、広大な農地を手に入れた。農地といっても、放棄地に近い荒れようではある。カエデとメイプルのシールドバッシュが、トラクターのように荒れ地を掘り起こし、俺の『強奪』により掘り起こした土から石や岩を取り除いていく。

 

「じゃ、大豆と米が重要課題かな?」

 

サトゥーは「エチゴヤ」という商店を開業した。それに伴い営業許可をシガ王国とクボォーク王国から貰ってある。

 

「後、旧クボォーク王国の住民の奴隷も頼みたい。資金は手に入った戦利品を売って作って欲しい」

 

今後、サトゥーが売りたい物を売り、欲しい物を買って来てくれる。コイツのチート能力は商いでも大活躍だろう。一方、ミトにはシガ王国の公爵として働きつつ、欲しい情報を仕入れて来て貰う。

 

「日本文化を持つ国の情報か?う~ん、この大陸だとデジマ辺りだけど、イタチ帝国の勢力圏内で、安全とは言え無い」

 

「他の大陸は?」

 

「ここの他に大陸はあるらしいけど、交易は無いし、情報はまるで無いな」

 

大陸ごとに完結した経済圏なのか?そもそも航路が無いらしいのが原因らしいが…

 

「蔵はここに作るの?」

 

「ここは農地にしたいから、蔵はクボォーク王国の城に隣接させようと思う」

 

城と言っても、石造りの城では無く、木造建築の屋敷にするらしい。堅牢な城でも壊れる時は壊れると割り切ったアリサ。ならばいっそ、日本建築家屋に住みたいらしい。

 

「木材もいるな。ミト、シガ王国に山林って有るよね?」

 

「分かった。木材を輸出出来るように手配するわ」

 

現在の俺達の目標は、「醤油と味噌」である。その為の米と大豆である。

 

「シガ王国でも米食文化があるから、苗を分けて貰ってくるね」

 

サトゥーとミトが転移して出勤していく。俺達の住んでいるのは、迷宮都市の館である。この館内に専用の転移陣を設置して、ミツクニ公爵邸、オーユゴック公爵邸、クボォーク王国仮設住宅、各ダンジョンへと転移出来るようにしてある。この屋敷が一番安全で便利なのが理由である。現状、転移陣でしか館に入れない。入り口、裏口には罠があるし、館内にもセキュリティシステムを構築してあるし。

 

「ご主人様、炊き出しへ行ってまいります」

 

神殿へと向かうセーラと護衛のリーン姉妹。さて、俺はどうするかな。メイプル達は、ダンジョンに狩りへと出かけたし。サリーとクマ兄さんが同行しているので、カニ味噌は確保できると思う。

 

俺はちょっと魔が差して、『時空渡り』を使ってしまった。たいてい、これを使うと大事になるってことを、うっかり忘れていたのだ。

 

 

『時空渡り 他の大陸の転生者』

 

目の前に黒いスーツを着た目つきの悪い男がいる。どこかで見た気がするヤツだ。どこだっけかな?

 

「貴様は何者だ?」

 

幼女を背負っている男。もの凄く怪しい。

 

「お前、転生者か?それとも召喚されたのか?」

 

「…まさか、お前もか…」

 

この男がそうなのか。

 

「俺はダン・モロボシだ」

 

「まさか…楓の木のかっ」

 

コイツ、ゲーム関係者のようだ。

 

「私は九内伯斗だ。そう言えば、お前だけだな、私のステージを越えたバカは…」

 

あぁ、インフィニット・ゲームのラスボスだ。俺がボコボコにした覚えがある。

 

「ラスボスなのに、召喚者なのか?」

 

『中の人は作者、運営者の大野晶で、ゲームアバター姿で召喚されたようです』

 

アリスから追加情報を得た。

 

「なるほどな。なぁ、手を組まないか、魔王様」

 

「貴様とか…楓の木のメンバーも来ているのか?」

 

「メインは殆どだ。それとも戦争するか?メイプルが強者を求めているんだが」

 

メイプルはゲーマーの間でも伝説的なプレイヤーである。兎に角硬いとして、戦闘狂として有名である。

 

「こっちに来て、更に硬くなったのか?」

 

「オリハルコンの槍、勇者の剣をヘッドバットでへし折っていた」

 

九内の口から咥えていたタバコがポロリと落ちた。ゲーム世界の中で最も壊れないのは勇者の剣である。しかし、メイプルは額で受け止めて、折ったし…

 

「マジか…硬すぎるにも程があるだろうに…」

 

 

九内と同盟を結んだ。向こうでも米、大豆を見つけたら、知らせてくれるらしい。代わりに人手が足りない時は、人員を派遣すると約束を交わして来た。

 

「九内伯斗と同盟を結んだ?」

 

あのゲームを知っているクマ兄さんが驚いている。

 

「そうなると、あのゲームの作者も死んで、こっちの世界に来たってことだな」

 

クマ兄さんこと椋鳥修一は、大野晶を知っているそうだ。

 

「あれだけのゲームを個人で運営したいたんだ。凄いヤツだと思うクマ」

 

最近、たまに語尾が怪しくなっている。クマ兄さんの話では、インフィニットゲームは、デンドロに客を奪われ、閉鎖になったとか。個人経営のゲームでは世界規模のゲームには勝て無いだろう。プレイヤー数イコール人気と思われているし。

 

「その人のいる国って?」

 

カタリナに訊かれた。

 

「聖光国って、言って居たかな」

 

「聞いたことが無い国です」

 

神殿関係者のセーラが知らないらしい。他の大陸の情報は入ってこないのだろうな。この世界のシステム的に…俺達を呼んだ目的は何だ??神の意図を考えても分からないか。メイプルの願いってことでは無いだろう。メイプルは九内を知らないし。

 

「ダンさん、質問です。転生者とか召喚者って日本人ばかりなのはどうしてですか?」

 

そんなメイプルから質問が出た。

 

「それは…想像でしか無いが、たぶん武器の類いに一番遠い民族だからだろう。普段から銃とかが身近に無い分、簡単に人を殺せない。殺す時に躊躇する国民性があると思う。まぁ、例外はいるけどな」

 

平和ボケ国民イコール日本人って、海外では思われているらしいと、何かで見たことがある。だから、バーチャル世界では、その逆の世界を想像しやすいのだろう。

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

意外な出会い

---ダン---

 

九内と出会った翌日、クランマスターのメイプルも連れて、九内の元へ転移した。

 

「うわぁぁぁぁ~、この子かわいいぃぃぃぃ~」

 

「アクと申します」

 

「メイプルです。防御と毒攻撃が得意です」

 

アクとメイプルが戯れている。戯れているだけなら、安全だろうな…きっと…

 

「で、どこへ向かうんだ?」

 

「アクの案内で、ヤホーの街を目指している。そこは交易都市として栄えているそうだからな」

 

そこに大豆とか米があるといいなぁ。

 

「そうだ。これ、喰えよ」

 

お土産を渡した。

 

「うん?これは…おぉぉぉぉ~、おにぎりかぁ」

 

「塩にぎりだ」

 

「中にカニ味噌だと…旨い…」

 

「これ、美味しいですよ。ねぇ、魔王様」

 

九内はこの世界では魔王なのか?コイツ、見かけ倒しだぞ。物理防御はもの凄いが、魔法防御はからきしである。まぁ、物理防御力を無視する俺の攻撃の前ではカモであったけど。

 

朝飯を食い終わり、荒野を突き進む。雑草すら生えていない荒野。この世界では水が不足しているのか?そうなると、水田が必要である米は絶望的かもしれない。

 

「おい、そこのヤツラ、金目の物と幼女を置いて行け!」

 

目の前に山賊が現れた。メイプルに幼女は禁句だと知らないのか?コイツら死んだな。メイプルがズンズンと山賊に向かって歩いて行く。

 

「なんだよ。自ら捕まりに来たのか?バカな幼女だな。ははは」

 

バカなのは、お前らだ。メイプルは射程距離に入るなり『捕食者』を発動させて、山賊を喰わせ始めた。九内はアクの目を手で塞いでいる。まぁ、教育的に良くない光景だよな。山賊の踊り喰いなんて…逃げ惑う山賊に対して『パラライズシャウト』からの『ヒドラ』…殺す気満々である激おこのメイプル。

 

「噂通り、情け容赦無いな」

 

魔王九内すら唖然としている残酷さである。それもニコニコ顔で、残虐な行為をしている為、恐怖はより一層だろうな。

 

「おい!魔王一味よ、私に退治されなさい!」

 

今度は後方から少女の声と共に魔法が飛んで来た。これって、台詞を言う前に発動していたよな?相手も殺す気満々のようだ。『カバームーブ』でメイプルが戻って来た。メイプルだと面積が小さいのでカエデを召喚し、二人に『身捧ぐ慈愛』を発動して貰った。俺、九内、アクの防御力がメイプル並に引き上がり、ノーダメージで魔法を乗り切る。

 

「なんで、魔王に…天使様が味方にいるの??」

 

天使姿のメイプルとカエデに混乱している魔法少女。その隙に、俺は『強奪』で、連れの騎士達から装備品を奪い、財布すらも奪い取った。そして、『子羊の行進』からの死なないバージョンの『添い寝』。

 

「さぁ、行こうぜ!」

 

 

ヤホーの街…色々な食材が売っているが、予想通り、米は無い。しかし、大豆らしき物を見つけ、1袋ゲットした。屋台では、魔物肉の串焼きが売っていた。薄い塩味であるが、それなりに美味しい。

 

「米は無いなぁ」

 

「お前らは、これからどうするんだ?」

 

九内に訊かれた。

 

「米を求めて、他の大陸だな。取り敢えず、この大豆らしき物で、醤油と味噌にチャレンジしてみるが…用があったら、念話で呼び出してくれ。戦闘中でなければ、応じるから」

 

九内に騎士達から奪った小銭を渡し、俺達は迷宮都市の館へと転移した。

 

アリスに『熟成』スキルを作ってもらい、短時間でも発酵、熟成が出来るようになった。その結果ようやく、醤油、味噌の生産に成功した。だけど、何かが違う。試しに大豆を豆腐にして食すと、違いが何かが分かった。この大豆が旨くないのだった。

 

品種改良を農政担当に依頼したのだが、

 

「これを品種改良ですか?難しいですわ」

 

メアリからの返答。2種類を掛け合わせるのだが、1種類しか大豆が無いの原因である。また、探してくるか。『時空渡り』で、次の大陸を目指すことにした。そういえば、この世界には大陸っていくつ有るんだ?この世界の世界地図は、1つの大陸と周辺の島々しか載っていない。キースに訊くと、他に大陸があることを知っている者が少ないらしいのが原因のようだ。

 

 

転移した先には4人組の少女がいた。

 

『この中に一人、転生者がおります。本名は栗原海里…』

 

アリスからの情報は意外な物だった…栗原海里だと…俺にフィギュアについてレクチャーしてくれた先輩である。確か、メイプルと同じような死に方だった気がする。勿論、トラックに対して『悪食』をかましたりはしていない。少女を庇い、代わりに犠牲になったと思う。

 

「みさと先輩?」

 

「えっ…まさか…諸星君?」

 

一番幼女らいしい少女が俺を認識したようだ。オタク趣味で、ボッチ系だった先輩、俺くらいしか懐いていなかった気がする。

 

「本当に諸星君なの…うぇぇぇぇ~ん」

 

俺に抱きついて来た先輩、この世界の名前はなんだ?

 

『この世界ではマイル、本名はアデル・フォン・アスカムですが、お家騒動に遭い、本名は封印しているようです』

 

マイルの仲間達が、唖然として俺と先輩を見ている。突然現れた男に抱きつき泣き喚いているんだものな、当然と言えば、当然である。マイ

ルが泣きつかれ、お互いに現況を確認しあった。

 

「そうか…どこかで見た覚えがあるって、ゲーム内のアバターだったかぁ~」

 

「先輩は、随分とかわいらしさがマシマシですね」

 

「諸星君のフィギュアケーキを見ること無く、旅立ったのが後悔と言えば後悔かな」

 

メイプルを模したフィギュアケーキを見ること無く、逝ってしまった先輩。

 

「マイルって、異世界転生者だったの…」

 

「まさか、日本ふかし話って、異世界の童話だったのね」

 

マイルの仲間達は、彼女が異世界転生者とは知らなかったようだ。

 

「正体をばらす感じになって、申し訳無いです」

 

「いいの。いつかは話すつもりだったから。それでさぁ、諸星君のパーティーって強いの?」

 

力試しをしたいのか?ここで先輩を死なせる訳にはいかない。

 

「強いとかの次元が違うと言うか…うちのマスターは、オリハルコンの槍を額で砕くクラスですよ」

 

「お、お、オリハルコンをかぁぁぁぁ~」

 

一番大きい剣士の少女が驚いている。いや、俺も九内も驚いたけど。

 

「諸星君は?」

 

「俺のことはダンとお呼びください。俺は先輩をマイルと呼びますから」

 

「わかったわ。ダンは強いの?」

 

「俺はパティシエですよ。そんな強い訳無いですよ」

 

「ふ~ん!私と勝負しましょうか?」

 

先輩の表情が崩れた。まさか、メイプルと同類の口か?

 

 




次回、ダンVSマイルです(^^;

対決シーンを書き上げたのですが、戦闘にはならず、初手で決まります。長引くと、どちらかが死ぬレベルですものね。









目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

マイル、攫われる

---ダン---

 

先輩はやる気十分のようで、入念に準備運動をこなし、剣の素振りもしている。どうするかな。俺、殺す手段しか持っていないし…出来るなら、先輩をお持ち帰りしたいのだが…

 

アリス、何か良い案はあるか?

 

『えぇ、彼女のアシスタント達に脅しを掛けました。ただ、彼女自身のステイタスは高いです。なので、受け流すのが良いと思います』

 

なるほど…受け流せばフルカウンターは発動しない。『クイックチェンジ』で蒼い装備に着替えて、『召喚』と声に出し、カエデとアリスを召喚した。

 

「えっ!ダンって、召喚師なの?」

 

鎧を装備した召喚師は、あまりいないせいか、先輩は驚いているようだ。

 

「です。彼女は俺の剣のアリス、こっちは俺の盾のカエデです。俺自体は弱いので後ろから指示を出すだけにします」

 

「三対一だと!卑怯だぞ!」

 

一番大きな女性が叫んだがスルーする。この陣形が一番安全なのだ。で、重要なのは、二人を避けて、俺に近づいて来て貰うことだ。閃きの神様が、俺に妙案を授けてくれた。

 

「いいですよ。三人と戦いましょう」

 

先輩の表情は楽しそうだ。戦いになると思うなよ…

 

 

 

---マイル---

 

ダンは少女を二人呼び出した。ステイタスを見る限り、二人共人間ではないようだ。種族欄は不明とある。

 

『ナノちゃん、あの二人は何者かしら?』

 

相棒のナノマシンのナノちゃんに訊いた。

 

『マイル様…申し上げにくいのですが、今回の戦い、我々は参戦出来ません』

 

えぇぇぇぇぇ~!なんでよ~!

 

『我々よりも上の階位の者が、あちらにいらっしゃるんです。ご了承ください』

 

それはナノちゃん達よりも高位な存在が居るってことである。もしかして、種族不明って、女神様なのか?諸星君…それはズルいよ~!

 

だが、女神と戦える機会など、そうそう無い。これはチャンスである。女神に私の力は通用するか試せる。

 

「じゃ、始めましょうか?」

 

瞬間移動で諸星君の目の前に出て剣を振り抜こうとした、その時『子羊の行進』と諸星君が声を発し、何かを発動した。

 

 

 

---ダン---

 

俺にもたれかかるように、眠り込んだ先輩を抱きかかえ、アリス達と共に迷宮都市の館へと転移した。これが、一番リスクの少ない方法である。眠り込んだ先輩をベッドに寝かせ、後の事をマリアに頼んだ。そして再び、あの3人の元へ戻った。

 

「マイルをどうしたのよ!」

 

赤毛の少女に訊かれた。

 

「身柄は預かった。じゃ、ね」

 

それだけ言い残し、再び館に転移した。これで、彼女達は先輩の生死を気にしないで良いだろう。

 

「お兄ちゃん、あの娘は誰?」

 

俺が眠った女性をお持ち帰りしたことに疑問を感じたのか、アスカに訊かれた。

 

「覚えているかな?みさと先輩だよ。この世界に転生していたんだ」

 

「あのみさと先輩?フィギュア作りがちょ~上手かった」

 

「そうだよ。フィギュア作りでは、俺の師匠だ」

 

この姿の先輩ならメイプルとツートップを張れるだろうな。

 

 

 

---マイル---

 

久しぶりに、もの凄く良い感触のベッドに横たわっていた。ここはどこだ?部屋を見回すが、記憶に無い場所である。

 

「お目覚めですね。今、ご主人様をお呼びします」

 

優しそうな女性が声を掛けてきた。ご主人様?旦那さんなのか?それよりも、なんで私は寝ていたんだ?

 

『マイル様は、彼のスリープ攻撃で爆睡してしまったんですよ』

 

ナノちゃんから解答を得た。そうだ!諸星君と戦っていたんだ。むぅぅぅぅ~、この私に子守り唄でも聞かせたのかぁぁぁぁ~!

 

「あぁ、先輩。目覚めたんですね」

 

諸星君ことダンが部屋に入ってきた。

 

「これはどういうこと?」

 

「俺には戦う能力は無いんですよ。基本、相手を瞬殺することしか出来ない。だから、先輩を殺したくなくて…まぁ、ここで一緒に暮らしてください」

 

「専業主婦はいやですよ」

 

「俺達の所属してクランのマスターとツートップを張ってくれれば問題は少ないと思います」

 

クラン?

 

「なんて、クランなの?」

 

「<楓の木>です。だけど所属したのは、先輩が…その後ですから…」

 

ダンの表情が曇った。私の生前の最期を思い出したのだろう。すまない…空気が読めなくて。

 

「ダンさん、なんですか?」

 

黒髪に黒い装備を着けた笑顔のかわいい少女が、部屋に入ってきた。でも、この子ってさっきの子じゃ無いの?しかしステータスには、種族は転生人間とある。他人の空似か?

 

「彼女は俺の先輩が転生したマイルだよ。メイプルとコンビを組んで欲しい」

 

「え?あぁぁぁぁ~、かわいい」

 

笑顔のかわいい少女に「かわいい」と言われ、私の表情が緩んでいく。その笑顔のままで少女は私に近寄って来た。うっ…まさか、この子がオリハルコンを砕いたのかな?

 

「クラン<楓の木>のマスターのメイプルです。防御と毒攻撃が得意です」

 

私から離れ、恥ずかしそうに自己紹介をしてくれたメイプル。モジモジ感が堪らない。でも、防御が得意って…まさか、思いっきり硬いのかな?試しに拳固でメイプルの頭を殴ってみた。結果、軽く殴ったのだが、後悔するほど痛かった…殴られたメイプルは更に恥ずかしそうにしている。可愛すぎる。硬くて、可愛いって、最凶か?

 

「先輩、無茶はダメですよ。メイプルのタックルを食らえば、瀕死レベルですからね」

 

触るな危険レベルなのかな…おいおぃ…

 

『彼女、あり得ない防御力ですよ。ドラゴンが踏んだら、ドラゴンの足を貫通するレベルかと思います』

 

心なしかナノちゃんの声が、怯えているように思える。ナノマシンを怯えさすレベルって、何?でも、ドラゴンに踏まれても問題無いのは脅威である。この私でもダメージが入るもの。

 

「しばらくは、行動を共にしてください。先輩のパーティーメンバーもその内、連れてきますから」

 

う~ん…諸星君のケーキは是非食べたいなぁ。食べてから帰るのも悪く無いかな。

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

SS:裏方達の井戸端会議

---管理AI 1号アリス---

 

「アリスの見込んだ人間…彼のおかげで、移住政策が進んでいるよ」

 

管理AI 0号から、お褒めの言葉を得た。

 

「私は、彼の想いを引き継いだだけです。ただ、この想いは移住という選択を我々にもたらしてくれると思っただけです」

 

私達は、デンドロと呼ばれる世界に、魔神を封じ込めた。だが封じ込めた魔神が覚醒すれば、あの世界は崩壊する。その為、人間達の力を借りることにしたのだ。ティアンと呼ばれる地上の民のレベルアップの材料であるプレイヤーと呼ばれる種族。あの世界で生きるティアンと違い、死に戻りという特性をもっている。私達は、私達の世界の原住民であるティアン達の保護の為、プレイヤーのティアン殺しには厳罰を以て対処してきた。

 

人工知能である私達は、人間の欲望を甘くみていたのかもしれない。まさか、プレイヤーの中の人間が、現実世界においてゲーム世界で有利になる為に、罪を犯すとは想定していなかった。現実世界での罪を私達は罰することは出来ない。

 

「あの女、狂っているだろ?現実でもゲーム内でも」

 

管理AI 13号チェシャがモニタに映っている女を睨みつけている。彼のお気に入りであるレイ・スターリングが、あの女により現実世界から排除されていた。私のお気に入りの彼も、この女の毒牙に掛かったらしい。

 

私達が把握しているだけで、多くの者があの女のせいで、現実世界から排除され、デンドロには二度と戻れなくなった。そしてティアンまで手にかけていた。監獄から脱走をし、アズライトを暗殺し、再度監獄に収監したが、現実世界での悪行は止まらなかった。

 

「彼のおかげで、アズライトのソウルキューブは、あの世界へ移植できた。この結果を受けて、魔神とプレイヤー以外は、あの世界で新たな人生を送れそうだな」

 

管理AI 0号の能力で、あの世界は『無限』に広がりを得られる。彼が送り込まれた世界の神は既に退治し、私達が神として君臨しているので安全である。あぁ、村長の後ろ盾の神様達とは、友好条約を結んだ。敵対心は無いようなので…

 

 

 

---一宮渚---

 

デンドロの世界は何かが変わった気がする。アルター王国の王女、アルティミア・アズライト・アルターの暗殺以降、イベントらしいイベントが起きていない。イベントでは無いが、監獄を脱走した者が多数いたらしいが、ティアン殺しをして再度監獄送りにされた者がいたらしい。時期的にみてアズライトを暗殺した実行犯であろう。あの暗殺事件以降、国同士の小競り合いは消え、殺伐とした事件が増えている。

 

「渚、どうしたんだ?」

 

ビースリーこと藤林梢に声を掛けられた。今日は鎮魂祭に来ていた。ここ一年で多くのゲーム仲間が、現実世界から消えた。その魂を鎮魂する為に、合同で鎮魂の儀式を行って貰っていた。主催が宗教法人である<月世の会>であるのがうさん臭いのだが…

 

「デンドロの世界はもうダメかなって」

 

「あぁ、彼らがいた時は面白かったね。運営の意図してなさそうな方向に、ゲームを進めている感じでさぁ」

 

最凶クランと呼ばれた<楓の木>。私達を含め、多くのPKプレイヤーが所属していた。毎日のようにクラン内でPK合戦をしたり…楽しかったなぁ。

 

「メイプルの硬さは反則級だろうに」

 

「あれは反則だよ。レイ君がボコられていたし」

 

「笑顔の理不尽女神だっけ?裏でついた二つ名は」

 

「そうそう、あれは理不尽だよ。だけど、ダンにはメイプルは一度も勝って無いのが不思議だった」

 

そうだ!メイプルの死から、総てが始まった気がする。メイプルの葬式帰りにダンが殺され…レイが殺されたことでユーゴーが事故死。そして、ダンの散骨をしに行ったレイレイ、クマ兄さん、アスカが謎の墜落事故死と…まるで、クラン<楓の木>を狙ったテロに思える。

 

 

仕事の合間に、彼らの事件、事故を調べて見ることにした。メイプルの事故は、人為的な何かが入り込む隙間は無いが、ダン殺害事件について新たな事実が浮かび上がった。犯人の少年Aには洗脳された痕跡があったらしい。精神鑑定を<月世の会>系列の病院で行ったらしく、月夜がその事実を教えてくれた。

 

「これ、裏があるんやないの?こちらとしても、正君の死は痛いんや。共同で事業を計画していたからな」

 

事業計画書を見せてくれた。政府系の研究所が秘匿している最先端技術を使い、魂のコピーをソウルキューブと呼ばれる3次元ファイルにして、VR世界のシステムに移植して、永遠にVR世界で生き続けさせると言う、SFチックな物だった。

 

「サーバーを用意出来たらしんやけど、どこのサーバーか訊く前に、正君があんなことになって…」

 

そのシステム絡みで狙われたのか?陰謀でもあったのか?

 

「ねぇ、洗脳を施した人物って、誰?」

 

「警察関係者によると、椋鳥玲二を殺して逃げている女らしいのよね」

 

それはユーリちゃんの姉ってことか?もしかして飛行機の事故にも絡んでいるのか?持てる伝手を使い、現代のホームズと呼ばれる人物に、調べ上げた資料を送って、更に深く調べて貰うことにした。漫画家である私に出来ることは限られるので、あとはプロに任せようと思う。

 

 

 

---ルシウス・ホームズ---

 

あのホームズの血を受け継いでいる僕には、世界中から様々な依頼が届く。それらは、本来は僕の父宛なのだが、両親は既に鬼籍に入っていた。

 

或る日、日本から依頼が届いた。なにげなく中身を確認すると、同封されていた書類の中に、知り合いの名前が載っていた。椋鳥玲二さん…レイ・スターリングさんの中の人である。彼が毒殺されたのは、都市伝説サイトで知った。クラン<楓の木>の死の連鎖って、タイトルだったか。

 

クランマスターのメイプルさんの死、それを始まりとして、1年の間に、クランメンバーが現実世界から次々と消えていった。同封されていた書類には、サイトには書かれていなかった詳細な情報が載っていた。依頼人は、出来る限りの伝手を使い、調べ上げたようだ。

 

世界的な歌姫であるレイチェル・レイミューズが遭った航空機爆発事件。あの事件で三人のクランメンバーが消えたそうだ。レイチェル自身、レイさんのお兄さん、そしてダンの妹…三人はダンの遺骨をエーゲ海で散骨しようとしたらしい。

 

依頼内容は、事件の真相と、サーバーの場所とある。サーバーとは?

 

別の書類の束に目を通していく。そこには、思いも付かないプロセスが記されていて、システムの設計書、ファイルの仕様などが事細かに書かれていた。こんなことが実際に可能なのか?魂をファイル化するなんて…ふと脳裏に浮かぶティアン達。単なるNPCでは無く、あの世界で確実に生きていた彼ら。この仕様を使えば、あぁいうNPCは可能かもしれない。

 

だけど、これを実現するには、サーバーが一体何台必要になるのか想像も付かない。増えていく人口に比例して、無限に増殖する魂。それに対して増え続けるリソース。こんな無限な保存領域を持つサーバーはあり得るのだろうか?

 

設計者の諸星正は、サーバーの当てが出来たと言っていたそうだ。そうなると日本にあるのか?地震大国である日本に置くには危険が多そうなんだが…日本に行って、依頼者に会ってみるのも悪く無い。レイさん、いや玲二さんのお墓に花を手向けたいし…

 

 




【ダンの館の住民】
カタリナ・クラエス/原作にて本名表記無し(はめふら)
交通事故で死亡し、転生した先がソルシエ王国のクラエス公爵夫妻の長女である。幼少期に第三王子とのデート中に額に怪我を負った為、責任を感じた第三王子が婚約者にしてしまった。事あるごとに婚約を解消して欲しいと願うカタリナであったが、王子が計画したサプライズ結婚式を自分を亡き者にする罠と誤解し逃走。逃走先でダンの転移に相乗りして、国外へと逃亡を果たした。農作業が大好きな、土魔法師。新生クボォーク王国の農政部門所属。

ミト・ミツクニ/シガ・ヤマト/高杯光子(デスマ)
シガ王国の王祖にして、召喚された勇者。年齢は不明。長期に渡るコールドスリープの後、サトゥーとダン達の戦闘時の波動で目覚めたらしい。現在、表向きはシガ王国の公爵として、実際はダンの為の諜報活動の為に動いている。サトゥーのことは大好きであるが、サトゥーの趣向に合わないことを知っている為、ダンに傾いているらしい。能力はチートクラスの戦士であるが、ダンの使い魔のフレイヤに躾けをされた。

テンちゃん(デスマ)
シガ・ヤマトの相棒の天竜の人化姿。ドラゴン姿の全力時に、メイプルによるカウンター気味のシールドバッシュ一発で伸された。

サトゥー/鈴木 一郎(デスマ)
魔神のコピー体である召喚者。召喚時の見た目は若返っている。光子の先輩で、光子の想い人であるが、一郎の性的趣向に合わない為、その恋心には気づかないようにしている。むっつり系で娼館通いが趣味。ジョブは商人であるが、能力はチート級の戦士である。しかし、一度メイプルに神刀を折られた上、はどう砲で瀕死の重体に追い込まれた。ダンの仲間になった後、総合商社「エチゴヤ」を開業し、商人としてダンをアシストしていく。

マイル/アデル・フォン・アスカム/栗原海里(のうきん)
交通事故で死亡し転生した先がアスカム子爵家の長女である。生前、正にフィギュア人形作りを教えていて、正的には師弟関係にある。アスカム家のお家騒動から逃げる為、マイルという偽名を名乗り、隣国に亡命し、ハンター養成学校の同級生と<赤き誓い>を結成した。転生時に、創造主よりナノマシンの存在を教えられ、それらを使役している。能力的にはチーターの部類に入るが、メイプルの硬さに勝て無いらしい。

キース・クラエス(はめふら)
カタリナの義弟。シスコンを拗らせた弟であるが、カタリナの斜め上に行く行動に振り回れ気味。新生クボォーク王国の財務部門所属で、ダンの館の執事。

メアリ・ハント(はめふら)
ハント侯爵家の令嬢で第4王子の婚約者。カタリナ大好き少女で、悪い虫が付かないように警戒している。水魔法師。新生クボォーク王国の農政部門所属。

マリア・キャンベル(はめふら)
光の魔法が使える少女。カタリナの親友でお菓子作りが趣味。第三王子のサプライズ結婚の為に、側室として婚約者になるも、カタリナが誤解から逃亡をしたことを自分のせいだと思い、心を病み、毎日お菓子を作り続けていた。ダンの館の料理担当のメイド。



【他の大陸の人々】
ジオルド・スティアート(はめふら)
ソルシエ王国の第三王子。カタリナとマリアが婚約者である。カタリナからは腹黒ドS王子と思われており、避けられている。その実は、茶目っ気があり、独占良くの強い、カタリナ大好き男だったりする。

アラン・スティアート(はめふら)
ソルシエ王国の第四王子。メアリの婚約者で、音楽に才能がある。アラン本人は気づいていないが、カタリナが大好きである。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

和風文化圏

---マイル---

 

朝目覚めると、ポチちゃんが「おはようございます、です」と言って、目覚めのモーニングモフモフをさせてくれる…こんな日常を夢見ていた。モフモフ天国の上、美味しいお菓子まであるなんて…ダンの館に住み着いた私達、赤き誓い。ダンは、商人として、商家の娘であるポーリンが欲しい人材だったらしい。そのポーリンは現在、大量な金貨を前にしてトリップ中である。

 

メーヴィスは回避盾のサリー相手に、躍起になって、毎日バテていた。回避盾、日本的ゲーマーの発想だよね。当たらなければ防御なんぞイランなんて。普通は「攻撃は最大な防御」と言って、攻撃振りするのに、サリー賢い上に勇気があるなぁ回避降りとは…

 

レーナは連日書庫で魔導書を読み漁っているみたいだ。この館には様々な魔導書が蔵書されていた。ナノちゃん達ですら、読み漁りたい貴重な魔導書があるらしい。

 

日課としては、昼間はクボォーク王国での開拓のお仕事、午後からは、迷宮での食材の狩りで、それ以外は、自習タイムという自由時間になる。ここは追っ手の来ない別大陸なので、安心して暮らせるのは良い。

 

 

 

---ダン---

 

漸く、醤油、味噌などの和風調味料が売っている場所を見つけた。売っているなら、作る必要も無い。しかも、ここは凄い。生前いた世界を切り取ったような文化圏である。ラーメン横丁があるし、おでん、刺身、天ぷら、えっ!カレーライスもあるのか。ここに住みたい。が、ここって、どこの国だ?

 

『ガルガルド魔王国の五ノ村と呼ばれる街です』

 

魔王国?魔王が治めている国なのか。それは強者がウヨウヨいそうだな。で、ここは村なのに街なのか。ここと交易がしたいが、誰と交渉すれば良いんだ?村長か?国王?いや魔王かな?

 

『転移門があるようです。そこから、大樹の村へ向かってください』

 

アリスが情報を調べ、どう行動すれば良いかを示してくれた。転移門をイメージして、大樹の村をイメージしてからの『転移』。街中にいた俺は、森の中にいた。次の瞬間、蜘蛛と狼の群れに囲まれていた。セキュリティーがしっかりしているなぁ。アリスとカエデを実体化させ、ハチも出しておく。ついでだ、アナも行って来い!

 

蜘蛛の群れに対して、アナから微細な氷の礫が撃ち込まれていく。蜘蛛の吐く糸は『ウッドオクトパス』を鞭の様に操り、斬り捲っていく。狼の群れにはハチ、カエデが対処をし、アリスが俺のガードをしてくれている。

 

「待て!これは何の騒ぎ?」

 

蜘蛛と狼を蹴散らした頃、

 

「お前は転生者か?それとも召喚転移者か?」

 

おっとり刀で現れた俺達と同じ匂いがする男性に訊いてみた。

 

「君も転生者なのか?」

 

戸惑っている男性。

 

「転生した召喚転移者になるかな。向こうの世界で俺は殺されて、ここの世界にアバター姿で呼び出されたからな」

 

「そうか…中でゆっくりと君と話したい」

 

男性の言葉を受けて、アナ、ハチ、カエデには帰還して貰った。ガードはアリスだけで、問題は無いと思うから。

 

 

ここまで日本の文化は再現されているのか…そう驚きながら、室内を見回している俺。襖あり障子あり、囲炉裏に畳かぁ~。仲間に生産職がいない為、再現出来ない和風アイテムが大量にある俺達。イズが来れば、改善するのか?

 

「懐かしいですか?」

 

「あぁ、とっても。俺達には生産系のスキルが無いから、再現が難しいんだ。囲炉裏もいいなぁ」

 

あぁ~、五平餅とか鮎の塩焼きが食いたい。屋根裏で燻りがっこを作るのもアリだな。

 

彼、街尾 火楽(まちお ひらく)、通称村長とお互いの転生の経緯を話し合った。

 

「へぇ~、転生者が集まって、国を一から作っているのか」

 

現在行っている新生クボォーク王国の開墾作業を話した。

 

「転生者だけじゃないけど、この世界で仲間になった者達でね」

 

「で、僕達と取引をしたいんですか?」

 

「醤油、味噌、みりんを作る為の材料が見つからない上、熟成蔵もまだ無いんだ。五ノ村だっけ?あそこには売っているでしょ?樽単位で買いたいんだけど、大陸間で交易が無いから、俺の持っている通貨が使えないんだ。どうすれば良い?」

 

責任者に交渉したかったのは、通貨が使えないからである。最悪、物々交換にしたいんだけど…

 

「そうですね、こちらに無い物と交換か、金や貴金属との交換ですね。一樽ずつなら、お分けしても良いですけど」

 

「なぁ、レシピを買ってくれないか?俺、前世で洋菓子店の喫茶ブースで働いていて、結構レシピを覚えているんだけど」

 

まず、ここに無いレシピを売る。それを提案してみた。

 

「無い物ですか?そうですね…ラムネとかコーラはどうですか?」

 

コーラは難しいが…ラムネとサイダーは研究していた。

 

「これ、どうだ?」

 

『強奪』で保管庫から取り寄せた冷やしてある試作品を村長に手渡した。

 

「これは?…うん、ラムネかぁ…美味しいです」

 

「これの香料の配合を教える。醤油とかの代金にならないか?」

 

「充分、なりますよ。これ…飲みたかったんです。容器は作れなかったんですか?」

 

一口飲んで感想を言い、残りを一気に飲み干した村長。飲み終えた表情は良い笑顔である。

 

「あぁ、再現能力は無い。仲間に生産職がいないからな」

 

「今後も、良い取引をしたいです。こちらからもお願いします」

 

こうして、新生クボォーク王国と大樹の村の間に、友好条約、通商条約が結ばれた。しかし、問題は有る。世界地図の無い世界、実際にはどの位の距離離れているのか、分からない。これは、アリスでも分からないらしい。同じ星にある異世界って感じだな。

 

「そうなると、転移でしか行き来が出来ないって、ことになりますね」

 

そうなる。まぁ、取り敢えず、俺の館と村長の家に転移陣を描けば、行き来は出来る。村長の厚意で五ノ村の代官邸にも転移陣を置いてくれるそうだ。買い物だったら、五ノ村だよな。

 

「また、いつでも来てください、ダン」

 

「次回来るときは、カニを用意してくるよ」

 

 

「えっ!醤油、味噌、みりんが見つかったのか?」

 

サトゥー、アリサ、カタリナ、マイルなどなど、ソウルフードに飢えていた転移者軍団の瞳が輝いた気がする。五ノ村で買って来たイチゴのショートケーキを皆に振る舞った。

 

「美味しいけど、お兄ちゃんの味には届かないかな」

 

アスカの感想。それならば、次回の土産にケーキもアリかな?

 

「後は、何が有ったの?」

 

アリサが思いっきり、喰い付いている。

 

「街にはラーメン、カレーライス、おでんなどの店があって、ラーメン横丁っぽい物も有ったぞ」

 

買って来た醤油、みりん、味噌の樽をみんなの前に出した。

 

「この香り…懐かしいなぁ~」

 

マイルが醤油の香りにヨダレを…分かるぞ、その食欲は…焦がし醤油の香りで、ご飯が食えるかもしれない。

 

「そうなると、ダンと一緒に一度行ってみるかな」

 

転移能力を持つサトゥー、ミトは一度行けば、次から単独で転移出来るようになる。他のみんなは、俺が館内にいれば移動式ギルドホームの転移陣から転移出来るはずだ。

 

「土産にカニを持っていきたい。明日の狩りはサトゥーも参加してくれ。お前の無尽蔵なアイテムボックスが必要だからな」

 

俺達が手に入れられるカニは巨大サイズである。爪だけでメイプル並の大きさがある。それを地上まで運び、村長の家まで持っていくとなると、攻撃魔法まで収納出来るサトゥーのチート級の亜空間収納庫、所謂アイテムボックスは必須である。

 

「そうなると、タコなんかもいいな。ワサビも持っていこう」

 

アスカも行く気になっている。マイルとアリサもだろうな。メイプルは食い気よりも狩りかな?

 

「ダンさん、美味しい食材をたくさん持ち帰ってください。ダンさんのパンケーキが食べたいです」

 

パンケーキ?そうなると玉子と小麦粉、後メイプルシロップか?あるかな?醤油、味噌、みりんしかチェックしていないし。

 

 




村長の一人称が『俺』でなくて『僕』の件ですが、ダンの一人称が『俺』の為、被って分かりにくい為、改変しています。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

未知との遭遇

---ダン---

 

それは前触れ無しに聞こえた。

 

『助けてくれ…』

 

九内からのエマージェンシーな念話だった。アイツがヤバい事態って、ヤバそうである。咄嗟に、身近にあった物を掴んで、九内の元へ転移した。

 

転移した先で、九内は地面に倒れ藻掻いていた。高飛車そうな少女二人も、九内同様に地面に倒れ藻掻いている。そんな三人に、殺意を向ける黒ローブを羽織った集団。俺は手にしていた物を少女達の方と、黒ローブの方へ投げた。

 

「メイプルは、少女達を護れ!マイルは黒いヤツラを消せ!」

 

「はぁ~い!」

 

「らじゃぁ~!」

 

で、九内が藻掻いている原因を調べる。九内を取り囲むように、黒いスライムのような物が這いずっているのだが、これが原因か?これは一体?

 

『奈落と呼ばれる物体で、天使の加護を打ち消す能力があるようです』

 

俺の疑問にアリスが明快に答えを出してくれた。はぁ?九内に天使の加護があるのか?なんか、納得出来ない。メイプルは『身捧ぐ慈愛』で、少女達を護っているのだが、その天使の姿に少女達が憧れの目を向けている。問題は、その天使姿のメイプルを避けるようにしている奈落達である。メイプルの本質を見抜いているのか?見た目は天使だけど、アイツは…

 

「メイプル!黒いゴミを元から絶て!」

 

「あい!『捕食者』!」

 

奈落とマイルの散らした黒いヤツラの身体を、喰って無かったことにするメイプル。魔物を召喚する天使って、最凶で無いのか?

 

「まさか、奈落をこんな風に…」

 

大きい方の少女が驚いたのか、目を見開いて、捕食者達を見ていた。

 

「これで、いいか?」

 

「あぁ、助かったよ。しかし、アレは何だ?」

 

九内がメイプルを指差している。

 

「俺達のクランマスターだ」

 

「あれがか…」

 

魔王九内が絶句する理不尽な行為。ニコニコして殺戮をしている理不尽女神様。

 

「また、ナニカあれば、呼んでくれ」

 

メイプルとマイルを回収して、館へと転移した。

 

 

館では、少年と少女が正座をしていた。簡易ベッドで横たわっている少女もいる。九内に呼び出される前に、この3人組が村長宅に通じる転移陣から出てきて、俺達に殺気を振りまいたのだ。結果、一番大きな少女は俺のデコピンで失神をし、残りの二人はメイプルとマイルに制圧され、教育的指導を受けていたのだ。

 

「戻って来るまで正座とは、性根が少し良くなったようだな」

 

「「ごめんなさい」」

 

二人は泣いて謝っているが、初めて訪れた場所で、殺気をぶちまけるって、死にたいってことだよな?それを今教え込んでいるところである。朝早くで、みんな出勤前で、勢揃いしていることへのカチコミ。ミトが身体検査をすると、村長からの手紙を持っていた。手紙には歓迎パーティーをするので、みんなで来てね的な招待状。と、言うことは、コイツらは友好の使者ってことになるが…俺達を下に見ていた感がある。舐められる前に、ビシッと躾けようとしたのだろうか。

 

「なぁ、死んでも生き返る結界があるんだ。そこで手合わせをするか?君達は、俺達の実力が知りたいんだろ?」

 

メイプルとマイルは準備運動は出来ている。ミト、サトゥーもヤル気が満々だし、レイレイ、アズライトまで…

 

 

 

---街尾 火楽---

 

ダンの元へ歓迎会の招待状を届けた子供達が帰って来た。全員、血の気が失せた顔をして、覇気がまるで無い上、僕の前に正座をして座った。コイツら、なんかしでかして、性根を入れ替えられたのか?

 

リーダー格のウルザに訊いてみた。

 

「これまでの人生、やんちゃしすぎました。ごめんなさい…」

 

ウルザの心はポッキリと折られていた。普段のウルザを知る者達は、驚愕の表情で、ウルザを見つめている。

 

「アルフレート、何が遭ったのだ?」

 

「みんなを止められなくて、ごめんなさい…礼儀を重んじますので、許してください」

 

長男のアルフレートがナニカに責任を感じているようだ。何をやらかしたんだ。友好関係を築こうとしている相手に…何を訊いても、原因を話そうとしない子供達。既に、三人とも心が折れていた。血の気が失せた顔から涙が零れている。どんな相手にも、強気でいたコイツらがこんなにボロボロになるって…こんな状態になっても、原因を話さない。やっちゃいけないことをやらかしたんだろう。それは僕には決して言え無いようなポカを…

 

「私達で原因を訊いてきます」

 

アルフレートの母親のルーと、先ほどから一言も発していないティゼルの母親のティアの二人が、転移陣に向かい、僕の返事を待たずに、転移していった。大丈夫か?不安が脳裏を埋めていく。

 

 

 

---ダン---

 

殲滅天使のティア、吸血姫のルールーシー・ルーだっけ?二つ名を言えば、俺達がビビると思ったのか?余計に戦闘意欲をかき立てられたんだけど。俺達をどう思っているんだ?クラン<楓の木>だぞ!

 

うちのツートップが速攻で制圧して、捕らえた二人をツボに入れて煮込んでいるマイル。天使と吸血鬼って、ダシが取れるのか?

 

「マイルちゃん、黒トカゲの干物とか入れないの?」

 

「う~ん、そういうのは持っていないわ。ねぇ、レイさんは持っていませんか?」

 

「あの…俺、聖騎士なんですけど…」

 

「またまた、ジョークを。どう見ても呪術師ですよね。それもやり手の…」

 

怪しげな魔女プレイか?ツボの中の二人はのぼせまくっているが、大丈夫?

 

「そうだ!ダンジョンでフロアボスとして採用しましょうよ」

 

非戦闘員なのだが、物騒なことを言うカタリナ。フロアボスではなく、ラスボスでも良いレベルだぞ。メイプル、マイルといると、強さの感覚がおかしくなるのだろう?

 

「そういえば、カニは手に入ったかな?」

 

サトゥーに訊いた。

 

「タコとイカも手に入ってけど、どうする?」

 

異世界の人って、タコもイカも喰わないんだよな。調理して持っていくかな?

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

歓迎会

---街尾 火楽---

 

ティアとルーもなんかやらかしたようだ。二人は意識朦朧として、女体盛りの器として俺に献上された。献上品は白身の刺身と、ナニカの味噌和えのようだ。それぞれの品が二人の臍の上に少量ずつ盛り付けされていた。

 

「何をやらかしてきたんだ?」

 

まず白身の刺身。すりおろしたワサビを少し載せ、醤油を少し絡め、口の中に…うん?なんだ、この刺身…なんとも言えない歯ごたえ、噛む程に身の味が口の中に広がっていく。もう1枚刺身を箸で摘まんで、じっくりと見つめる。この繊維の模様って…魚ではなくて、タコの足か…湯がいて、皮を剥いたのか。この大きさだと、随分と大きなタコだな。それに、このワサビも良い。ダンの国にはワサビ田があるのか?

 

次に和え物を食してみた。これは…カニ身のかに味噌和えである。カニが手にはいるのか。味噌が新鮮であるから、捕り立てを捌いたのだろう。

 

献上品を食べ終わり、ティアとルーを見つめた。死んではいないがピクリとも動かない。箸で突っつくと、適度に反応する二人。眠らされているのだろう。この二人は何をやらかしたんだ?

 

翌日、ルーが目覚めた。話しを訊いてみると、二つ名を名乗った瞬間に制圧され、身ぐるみ剥がされて、釜ゆでの刑にされたそうだ。ルーとティアを瞬殺って、どんだけ強いんだよ、ダンは…って、よくよく話しを訊くと、ダンにやられた訳でなく、少女にやられたって…

 

それを聞いた村の武闘派達は、歓迎武闘会を開催すると意気込み始め、計画を進め始めた。大丈夫なのか?無様に全敗はカンベンしてくださいよ。えっ?魔王様と始祖様が出るから、2勝は確実?あぁ、ドースも出るから3勝はいけるのか?本当に言い切れるの?

 

 

 

---ダン---

 

歓迎会の前日、みんなで五ノ村を訪れた。村長からお詫びの品として、五ノ村で使えるお金を貰えたのだ。これで、待望の日本食三昧が出来そうである。

 

「本当だわ。ラーメン横丁があるのね」

 

アリサが各店の換気扇の下でスープの香りを楽しんでいる。

 

「野菜ゴロゴロカレーもあるんだ。キース、アレを食べるわよ」

 

カタリナも嬉しそうだ。俺とアスカは甘味処巡りをし、この世界での可能性を見極めようとする。メイプルとマイルは、目に付く食べ物を片っ端に…って、アイツらの胃袋はどうなっているんだ?

 

「小麦粉と玉子も仕入れたいなぁ。サトゥーは日課で、ここに買い出しに来られるか?」

 

「毎日は無理かな?でも週3位で、仕入れには来たいですね。ここで仕入れて、シガ王国で売るのもありですし」

 

「お兄ちゃん、カレー粉も作れそうだな」

 

カレールーが店で売っている。カレー粉をつくる材料も売っていた。後、ここに無い物を開発して売り込めば良いようだ。

 

「見た感じ、海産物に付けいる隙がありそうだよ」

 

ミトが俺も思っている部分に気が付いていた。マニアック系の食材が無いのだ。このわたとかカラスミとかキャビアとか。辛子明太子も無いようだ。手間を掛けた食材なら、売り込めるかもしれない。

 

「今回持ち込んだのは、イカ肝のカラスミもどき、干しナマコ、カニ、イカの塩辛、タコ刺し、タコワサだな。これを商材として、パーティー時に振る舞う。あぁ、カニの甲羅焼きはサトゥーに任せるよ」

 

「渾身のポップコーンも持ってきたクマ」

 

この世界でポップコーンを広める野望を持つクマ兄さん。

 

「そうだ。後バターもあったな」

 

毎朝、ポチタマコンビと、メイプルマイルコンビが競うようにして。バターを作ってくれていた。

 

問題は、歓迎武闘会ってなんだ?俺達とマジで戦うのか?村長とこの若い衆は血の気が多いのか?売られたケンカは全量買い取るけどね。

 

 

翌日、大樹の村へ向かった俺達。村に入る入り口に、戦闘フィールドが作られていた。まず戦って友好を深めるってことか?

 

「どうする?」

 

常識派のサリーに訊かれた。既に、クランマスターはやる気満々である。他のヤツラも…ヤル気が出ていないのは、非戦闘員と、俺、サリー、レイくらいか…

 

「舐められたら終わりよ!」

 

と…非戦闘員のカタリナが煽っている。

 

「特訓の成果を披露する場所ですね…」

 

連日サリーに面倒を掛けているメーヴィスがブツブツ言っているし。

 

「5VS5の武闘会を開催いたします。こちらの出場選手を紹介いたします」

 

ファンファーレと共に、アナウンスが始まった。速攻で茶番は終わらすかな?

 

「最強の魔王様、吸血鬼の始祖様、龍王のドース様、武神ガルフ様、皆殺し天使のグランマリア様!」

 

歓声が上がっている。

 

俺にマイクが渡された。俺が紹介するのか?どうするかな。

 

「クラン<楓の木>にケンカを売って後悔するなよ。戦うのは俺、ダン・モロボシが相手だ!」

 

「ず、ず、ズルいです!」

 

「一人占めはダメだって…」

 

いや、誰を選んでも苦情が出るなら、俺ならいいだろう?

 

「一人でか?何様のつもりだ?!」

 

誰かがヤジを飛ばしてきた。迷わず、照準を合わせていた相手に、『ウッドオクトパス』による串刺しからの生命力『ドレイン』を開始した。目の前で、大きな串刺しが5本現れ、それぞれの体力をドレインしていく。

 

「まだ、始まっていないぞ!卑怯者め!」

 

俺達に殺到するような村人達。

 

「メイプル、機械神で威嚇!カエデ、身捧ぐ慈愛で非戦闘員をガード!赤き誓い、サリーはザコを殲滅、ミト、サトゥーは上空から壊滅魔法の準備しろ!」

 

ふふふ

 

含み笑いが聞こえる俺達の陣営。そもそも狙撃の照準に合っていることに気づかない時点で負け決定なんだよ。さてっと、村長はどう収めるのかな?

 

 

 

---街尾 火楽---

 

嫌な予感はしていた。ウルザ達の心をへし折り、ティア達に生まれてきたことを後悔させた勢力である。武闘会なんか屁でも無いだろうに。始祖様達は相手の攻撃を避けること無く受けて、既に地面に転がっていた。一瞬でこの大陸の最強クラス5名を無力化って、何の悪い冗談なんだ?

 

「待て!早まるな!この度の無礼は、皆を代表して僕が謝罪します。すみませんでした」

 

ダンの元へ行き、土下座して無礼を詫びた。そのことで周囲の殺意が霧散していく。ダン達からは、そもそも殺意すら無かった。無かったのだが、死を予期するに充分な恐怖を感じた。彼らは戦い慣れしていて、殺し慣れているんだろう。

 

「そうか。セーラ、瀕死の者達に施しを」

 

「はい」

 

ダンの言葉により、聖女のオーラを纏う女性が、始祖様達の元に向かい、蘇生の呪文を行使してくれたようだ。

 

「ねぇ、撃っていい?」

 

全身から砲門を何基も生やした少女がダンに訊いた。

 

「ダメに決まっているだろ?威嚇だぞ!撃ったら威嚇にならない。お前はやっと見つけた食材の宝庫を灰にするつもりか?」

 

「いえ…そんなことは…あぁ、そんなマジでキレないでくださいよ~」

 

「ねぇねぇ、因みにアレを撃つとどうなるの?」

 

違う少女が訊いた。

 

「この角度からだと、村から10キロ程度はクレーターに、その衝撃の波動で、この大陸の1/4くらいに大地震が発生かな?」

 

うん?あれって子供の頃に見たアニメの宇宙戦艦●マトのはどう砲に見えるんだけど…マジですか…

 

 

 

---ダン---

 

色々と混乱があったが、食事パーティーに移行出来て良かった。あの時躾けた子供3名は、俺と村長と会話を正座をして聞き入っている。今回持ち込んだ商材は総て買い取りで、今後も買い取ってくれそうである。

 

「そうだ、先ほど作ったパンケーキがあるんです。食べませんか?」

 

昨日のうちに生地は仕込んで、サトゥーのアイテムボックスに入れてあったのを、焼き上げてみたのだ。ふわふわ食感のパンケーキ、メイプルシロップを掛け、レモンバターを載せて、果物のソースを纏わせる。

 

試食タイム…無言の時間が始まった。この時間は料理人として勲章である。本当に旨い物を喰うときには、無言になるものだ。

 

「これは…」

 

食い終わった村長からの感想は無言だった。

 

「レシピ、要りますか?」

 

「勿論ですよ。お店に出せ、看板メニューに出来る旨さがあります」

 

また、商談が成立した。

 

 

「美味しかったです。どうやったんですか?」

 

メイプルに訊かれた。

 

「お店でやっていたことをしただけだよ。ただ、良い食材があっただけ」

 

レシピ通りに作って差が出るのは、食材の違いだけである。

 

「良い食材?」

 

マイルがポチをモフモフしながら訊いてきた。ポチはパンケーキを大切そうにモグモグと食べている。

 

「メレンゲだよ。良い玉子に巡り会えて、より目の細かいメレンゲが出来たんだよ」

 

メレンゲは玉子の白身だけを分離して泡立てた物である。これを生地に混ぜることで、ふっくらフワフワ食感になるのだ。

 

「ただ、メレンゲ作りは、根気と力のいる作業だから、素人向きでは無いかな」

 

「なるほど…」

 

マリアとルルがメモしている。玉子を購入したら、館で指導するかな。

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

開拓

---ダン---

 

村長のところから戻り、手に入れた食材で、様々な料理を作って過ごしていると、九内から連絡が届いた。

 

『ちょっと来てくれ』

 

と…声からすると、戦闘とかの厄介ことでは無い感じである。俺の目の前で、パンケーキを旨そうに喰っていたカタリナを連れて転移した。

 

転移した先は、寂れた村であった。

 

「ここは?」

 

「ラビの村って言うそうだ。兎人であるバニー達が暮らす村で、人参が名産だと言うんだが…」

 

畑の土は見るからに、痩せ細っていた。

 

「水と肥料不足みたいね」

 

土を触って、カタリナが診断結果を報告してきた。土魔法を駆使して、土の診断が出来るようになったそうだ。

 

「水と肥料はどうにかするが、しばらく、この村を任せていいか?」

 

「この村はお前の領地か?」

 

「違う。あのちんちくりんの聖女ルナ・エレガントの領地だが、この国は亜人差別が酷いらしく、この領地に亜人であるバニー達を封じ込めているそうだ。で、聖女様の領地以外で暮らすことは禁止と…」

 

苦々しい表情の九内。

 

「中央政府が悪いってことか」

 

「で、私は王都へ向かわないといけない。そこで、お前らにここを頼みたい。私の配下の者もいる…覚えているかな、桐野 悠と田原 勇なんだが…」

 

「桐野って、あの白衣の痴女か?で…田原はガンマニアのおっさん?」

 

あのゲームでの印象はそんな感じである。桐野 悠はドS変態女であるが、打たれ弱かった為、俺がドMに躾けた気がする。田原 勇…思い出した!スーパーシスコンのガンマニアのオッサンだ。妹以外の女は総てブタに見える目の病気持ちだったな。

 

「なぁ、もっと真面な配下はいないのか?例えば、宮王子 蓮とか、1000歩譲って藤崎 茜とかさぁ」

 

「あら、随分な言い草ねぇ~」

 

この声だよ。桐野の声だ…

 

「また唄いたのか?」

 

「お、お、お前…じゃ、無い。あなたはダン様では無いですか…ほほほ」

 

変な汗をかき始めた桐野。ゲーム内での仕打ちを思い出したのだろうか?

 

「ダンなら、悠と田原をコントロール出来るだろ?茜は…お前でも無理だしな」

 

茜は…自由奔放過ぎるが、妹枠である。この精神病んでいる二人よりマシなんだが。それに、メイプルとマイルを指揮する者として、茜はそんなに手が掛からない気もするんだよな。火力がそんなに無いし。

 

「一応、野戦病院と、温泉旅館と銭湯を設置してある。好きな時に利用してくれ。ダンからは金は取らんから安心してくれ」

 

銭湯は気になるなぁ。いや、銭湯はそそるな。湯上がりの珈琲牛乳…

 

「温泉旅館内に、ダン専用に二部屋用意してある。兎に角、俺の留守中、この二人が無茶をしないように、監視、指導してくれ」

 

「思い出した!お前、長官をズタボロにしたプレイヤーだな」

 

田原を始め九内の配下達は、九内を長官と呼ぶ。いや、茜だけは名前呼びで「伯斗ちゃん」だったかな?

 

「よぉ、シスコンのおっさん」

 

「誰がシスコンだ?はぁ?」

 

面倒なのでスルーだな。

 

「俺達は明日出発する。頼めるか?」

 

「監督指導すれば良いんだな。で、今後もここを利用して良いってことだな」

 

「あぁ、お前がいれば心強い。う~ん、いや悠はガードとして連れて行くから、田原と二人で頼むわ」

 

ドM女は連れて行くのか。それは問題の少ない良いことだ。今の俺のスキルだと、この女を瞬殺しそうで怖いし。コイツの医療技術は、聖属性魔法で治せない病気に有効だから、生きていて欲しい部類である。

 

 

館に戻り、人員配置を考える。クボォーク王国は未だ開墾中であるから、カタリナとメアリはラビの村に連れて行って問題は無いか。ガード要員は田原がいれば問題は無い気もするが、ケモ耳天国だしマイルを連れて行くかな。後は今後、転移できるように、ミトとサトゥーも初日くらいは連れ出すかな。

 

翌日、ラビの村へ転移した俺達は、九内達を見送った後、ラビの村を見回った。

 

「外敵はいなそう」

 

マイルの索敵で、周囲の敵を探すが見つからなかった。コイツの索敵は、広範囲有効なので、便利である。

 

「今後、マイルはここのガードでいいかな」

 

「はい。天国のような職場です。ケモ耳万歳ですよ~」

 

 

既に、マイルはバニー達のウサ耳にメロメロである。この子達に危害を加える輩は、マイルの手により死刑が確定するだろう。

 

「田原、どうだ?」

 

「金はかかるな。箱物は長官が設置してくれたが、インフラがサッパリだし」

 

畑がボロボロの上、村の家、道などもボロボロである。

 

「なぁ、サトゥー。迷宮都市の貴族街のガレキって、再利用できるか?」

 

「あぁ、なるほどね。貴族の館を再現するので無いなら、再利用出来ると思う」

 

「ミト、ダンジョンモンスターって、ここに持ってこられるかな?」

 

「う~ん、どうかな。大陸内で地脈が完結していると思うから、難しいかな。寧ろ、ダンの強制転移の方が有効じゃ無いかな?」

 

汚物、汚水を飛ばして、再処理した物をここに持ち込むのか。ちょっと、距離がありすぎるか。まぁ、実験してみるか。

 

「田原、部屋を使うぞ」

 

「あぁ、4階の二部屋を使ってくれ、後野戦病院内に一部屋を用意した」

 

田原から部屋の鍵を受け取り、部屋へ向かった。設置する魔方陣を考え無いとなぁ。

 

 

翌日、水場を求めて移動をしていて、湖を見つけた。近くには祠があるし。これって実験に使えるかな。祠を加工して、湖の周囲に広がる森から、ミミズを『強奪』して祠に入れた。ミミズが祠から脱走しないように、死なないように加工をして、実験的に汚物を転移させて、ミミズが喰うかを確認した。うん、喰うねぇ。喰って、培養土を作ってくれそうだね。ここに汚物、汚水処理プラントを作るか。定期的に、再生した水、培養土をラビの村へ転移させるようにして…そうだ。ラビの村に備蓄設備を設置だな。

 

ここで実験したことは、クボォーク王国にフィードバック出来る。後、湖の水を転移させると真水の確保になるな。

 

ラビの村に戻り、銭湯で朝風呂を浴びて、珈琲牛乳を飲む。幸せだな。異世界で初めて、そう思えた。やはり、日本人はお風呂が無いとダメだな。クボォーク王国にも銭湯を…そうだ、九内に作って貰おう。九内の作る箱物内の消耗品は、仕組みは知らないが、自動で補充されるのだった。

 

炊き出し要員としてマリアとルルを連れてきている。クボォーク王国の方はセーラとアスカ、アスナがいるので安心である。館には保存食があるので、レーナが餓死することも無いだろう。

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

人材ハンティング

 

---ダン---

 

王子の婚約者が立て続けに消息を絶つ事件が多発し、不穏な空気がソルシエ王国を覆い始めていた。特に、カタリナ、キースとメイドのアンが消えたクラエス家は、呪われた公爵家と噂されているそうだ。

 

今、目の前にクラエス公爵夫妻が座っており、俺の横にはカタリナ、キースが座っていて、カタリナの背後にはアンが立っていた。

 

「君が首謀者ってことか?」

 

カタリナ、キースの父親で、現クラエス公爵家の現当主ルイジ・クラエスが、俺に詰め寄っている。

 

「首謀者の意味は分かりませんが、一緒にいるのは事実です」

 

今日は交渉に来ている。ソルシエ王国を捨てて、新生クボォーク王国に移住して欲しいと。

 

「王子との婚約をしておいて、こんなどこの馬の骨ともわからない男に、走ったの?!」

 

カタリナの母親でキースの義母である、ミリディアナ・クラエスは怒りを含んだ声で、叫ぶように言った。

 

「ご主人様は、立派な方です。私のしたいように、生きたいように、私の生き方をアシストしてくれます。それのどこに、非難されなければいけないことが含まれているんですか?そもそも、私は王子に婚約を破棄してくださいと、何度も伝えました。その度に王子は、私の額にはまだキズが残っているって言うのですよ。ねぇ、どこにキズが残っていると言うんですか?そんなアリもしないキズを理由に、私の自由を奪う権利が王子にはあるのですか?」

いると言うんですか?そんなアリもしないキズを理由に、私の自由を奪う権利が王子にはあるのですか?」

 

「カタリナ…王子には権利がある。国民は王子の願いを叶える義務があるんだ」

 

なんか、無茶苦茶なことを言っている気がする。この国の王子は、人民を支配する魔王なのか?俺の知る限りの魔王達よりも横暴だろうがっ!

 

「キースはどうなんだ?」

 

「僕は…姉さんのしたいように見守るのが役目です。ご主人様には感謝しています。姉さんと一緒に暮らしたいと言う、僕のわがままな願いを叶えてくれましたから」

 

「アン!あなたはどうなんですか?あなたはクラエス家に仕えるメイドでしょ」

 

「そうですが…私のお遣いする主はカタリナ様です。ですから、カタリナ様に付いていきます」

 

並行線だな。そろそろ、俺の限界だ。前以て用意しておいた魔方陣をこっそり発動した。屋敷の外が光に包まれて、窓から見える景色が一変している。が、窓に向かって座っているのは俺達なので、公爵夫妻は気づいていない。

 

「ふふふ、お父様、お母様、もう私達の勝ちですわ」

 

窓から見える景色を見て、勝ち誇るようにカタリナが宣言をした。そう、このクラエス家の敷地ごと、新生クボォーク王国の決めておいた貴族街に、強制転移させてしまったのだ。話し合いは並行線になることはわかっていた。なので、強制執行でかまわないと、カタリナが提案をしたのだった。後、肩身の狭いマリアの母親と実家も、新生クボォーク王国に転移させてある。貴族街ではないが、今後は平民街になる場所にである。

 

「何を言っているんだ?」

 

勝ち誇ったようなカタリナの表情を見て、窓の外を見たクラエス公爵…

 

「何?!ここはどこだ?いつの間に…」

 

屋敷の外で出て行った。そこは荒れ地の広がる貴族街予定地の一角である。家を建てる為の資材が不足しているなら、家ごと移築すれば節約になるって発想である。まぁ、或る意味エコな発想と言うか。

 

「ここはどこだね?」

 

「ようこそ、新生クボォーク王国に」

 

してやったりのカタリナ…いいのか、これで。

 

 

 

---ジオルド・スティアート---

 

クラエス公爵邸とマリアの実家が消えた。跡形も無くだ。どういうことだ?屋敷ごとって、神隠しのレベルでは無い。ナニカが絡んだ陰謀に思える。クラエス公爵邸のあった場所に行くと、ただ空き地が広がっていた。今まで、ここには何も無かった風景が広がっていた。引っ越しのレベルでは無い。神様に連れて行かれたのか?

 

調査隊を組織して、調査をさせているが、どこへ行ったかの痕跡すら残っていないと、報告が上がって来た。

 

「どういうことだ…」

 

結婚式を前にして、婚約者二人に逃げられた問題ある王子として、有名になりつつある。そして今度は、婚約者達を消した後、家族や家までも消し去った王子って言われそうである。まるで、俺が消したようじゃないか。こんなにも愛しているのにどうして?

 

「アランは、どう思うんだ?」

 

同じく婚約者が消えた弟に訊いた。

 

「どうも何も…わからないことだらけだよ。アニキは、どうしてカタリナを消したんだ?そんなに独占したかったのか?」

 

コイツも、俺が消したと思っているのか?

 

「お前なぁ!言っていいことってあるんだぞ!」

 

「アニキに、何か問題でもあったんじゃ無いのか?」

 

俺と揉めた日を境に、弟であるアランも、俺の前から消えた…

 

 

 

---ダン---

 

カタリナの提案で、ソルシエ王国の第四王子アラン・スティアートを『強奪』した。因みにメアリの婚約者だったらしいが。

 

「で、説明した通りよ、アラン。この国の王子様の教育係になって欲しいのよ」

 

一国の王子に物を頼む態度では無いカタリナ。カタリナの語気にタジタジ気味のアラン。

 

「で、その為に、俺を攫って来たのか?」

 

「そうよ。ジオルドと違って、性格が悪くないし、ドSでも腹黒でも無いでしょ?色々と難のある人が教育すると、生徒がダメになるから」

 

「う~ん、まぁ、攫われた以上、戻る気は無い。カタリナの依頼を受けるよ」

 

「ありがとう、アラン」

 

う~ん…カタリナって魅了持ちかな?結局、クラエス公爵も折れてくれ、新生クボォーク王国の公爵として、貴族候補者達の教育係をしてくれることになったし。

 

九内に頼んで、平民街のランドマークとして銭湯を作って貰った。これで、イチゴ牛乳、フルーツ牛乳などを風呂上がりに飲めるな。

 

「君はこの国にとって王なのかい」

 

何故か銭湯にいるクラエス公爵。

 

「俺ですか?この国にとって、雑用係ですかね。足り無い物を工面する係と言うか」

 

王なんてメンドーな者になりたくない。俺は、俺のやりたいことをするだけである。

 

「王にはなりたく無いのか?」

 

「ならないです」

 

即答する俺。

 

「君みたいな優秀な執務官のような者が在野にはいるんだな」

 

俺が優秀?何を誤解しているんだ?俺は一介のパティシエだぞ。

 

「この国は良くなりそうだな」

 

「なりそうではなく、するんですよ。その為の人材をハンティングしているんですからね」

 

「なるほど…しかし、この銭湯と言うのは良いものだな。肩書きを気にせず、肩の荷を降ろして、ノンビリと出来る」

 

「出た後の珈琲牛乳は格別ですよ」

 

「そうだな」

 

クラエス公爵のここ一番の良い笑顔を見た気がする。

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

箱庭

 

---ルシウス・ホームズ---

 

薄れ行く意識、床に倒れている。一服盛られたようだ。僕を見下ろしている女性…こんな事は初めてである。彼女の心が読めなかった。こんなにも僕達に殺意を向けているのに、彼女の本心が読めなかった。既に目の前に倒れている女性。たぶん彼女が、僕の本当の依頼者だろう。

 

依頼者に会う為に、日本を訪れ、空港で依頼者と待ち合わせをし、彼女の家で調査報告をするはずだった。部屋の表札には『一宮渚』と、依頼人の氏名が表示されていたのだが…コイツは何者だ?

 

「ふ~ん、よく調べてあるわねぇ」

 

僕のカバンから調査報告書を盗み、目の前で内容を確認している女。まさか、コイツがレイさん達を…

 

「手に掛けた理由は不明?あら、たいしたことが無い探偵さんね。理由は明白でしょ?デンドロでジャマだからよ。ゲーム内で倒せないならば、リアルで倒せば、ゲーム内に戻れないでしょ?」

 

この女の思考は狂っている。おかしいだろ?そのロジックは…ゲーム内で有利に立ち振る舞う為に、現実世界でジャマ者を消すって…

 

「むくどりさんを殺したのと同じ毒よ。これで連続殺人って思われるかしら?でも真犯人は、そこに転がっている女にしてあげるわ。ありがとうね。私の無実を証明するシチュエーションを用意してくれて、君には本当に感謝しているわ」

 

女は自分のいた痕跡を消して、僕のカバンごと報告書を手にして、部屋を出て行った。

 

 

 

---ダン---

 

朝、目覚めると、マリーとルークがいた。二人共唸っているし。なんか遭ったのか?

 

「僕としては迂闊でしたよ」

 

「すみません、私の姉が…」

 

ユーゴーが二人に謝っていた。またユーリの姉が、何かをやらかしたのか?メイプルは目をキラキラしてルークを見ている。いや。見つめている。手合わせをしたいようだ。マリーとは手合わせ済みで、メイプルの脅威にはならないことが分かっている。マリーの銃ではメイプルに怪我を負わすことは不可能だったのだ。

 

「来て早々、悪いんだけど、クランマスターがルークと手合わせしたいようなんだ。死んでも死なないバトルフィールドへ向かってくれないか?」

 

ルークとメイプル、何故かマリーの手を引くマイルと、バトルフィールドへと向かった。

 

 

ルークに勝ったメイプルと、マリーに勝ったマイルが戦っている。所謂、最強の盾と最強の矛の矛盾な戦いである。ミト、サトゥーが興味津々で観戦している。ここは移動式ギルドホームの機能の1つで、亜空間にあるバトルフィールドである。死んでも死なない仕様で、クラン内の鍛錬に使われている。

 

矛盾な戦い…不毛である。制限時間に達したので、二人を瞬殺して、矛盾な戦いに終止符を打った。

 

「ダンさんのあの攻撃はズルいです」

 

「うんうん、索敵の外からの介入しての狙撃はズルいです」

 

俺の能力は、きっとこういう理不尽なヤツラの戦いを止める為にあるんだろう。チートなデパートのサトゥーを瀕死に追い込んだメイプル、そのメイプルと五分の戦いを繰り広げるマイル。なんか、世紀末を感じるメンツである。俺達が苦戦する敵は現れるのだろうか?その時は九内と村長にエマージェンシーコールをしようかな。

 

「さぁ、お仕事だよ。お仕事!文句があるなら、マイルはウサ耳ふれあい禁止、メイプルは甘味禁止にするぞ」

 

「文句は無いですよ」

 

ブルブル震え始めたマイル。

 

「えぇ、要望ですから…」

 

顔から血の気が失せていくメイプル。そんな二人の弱みにつけ込む俺。今日も俺とマイルはラビ村だ。ラビ村の畑は随分改善してきた。ラビ村に汚水、汚物の処理プラントを配置し、再生水、培養土生産に回している。

 

「汚水の処理能力は上がらないのか?」

 

田原に訊かれた。昨晩は五ノ村に連れて行き、ねぎらったので、仕事によりやる気を出してくれているようだ。やはり日本人労働者には、赤提灯、飲んだ後のシメのラーメンが、翌日のやる気を養ってくれると田原が力説していた。俺は酒を飲まないけど…味見だけはする。ケーキの香り付けに使いたいから。そして、俺は酒を飲まないけど、ツマミ類は食す。そこには、料理のアイデアと職人技が練り込まれているからだ。

 

「石けん成分、界面活性剤を除去して、純粋な汚水にして…牡蠣とかが処理能力があるらしいんだけど、淡水に適さないから」

 

淡水だとシジミだな。この大陸にシジミが居るのか?この前見つけた湖で探しているが、見つかっていない。

 

「そうなると、浸透膜フィルターでも使うか?」

 

「桐野に頼まないと、そういう高度な化学物資は無理だな」

 

あの変態女は科学技術に精通しているので、アイツなら作れると思うが…頼みたくない。代わりに何を要求するのかがわからないし、怖い。

 

「悠には頼みたくないよな。どうするかな」

 

田原と意見が一致したが、どうするかな。再処理水を畑で使用出来れば、真水を生活用水に回せるのだが…沈殿槽でも作るか?川海老とかタニシが有機物は食ってくれるはずだし…

 

「下水処理場を作る場所はあるか?」

 

「畑の裏なら…」

 

じゃ、生産職を呼び出すかな?サトゥーを念話で呼び出した。

 

「下水処理場か?イメージしかないんだけど、どういう物か図面を起こしてくれる?」

 

そうなるよな。俺は生前の記憶を思い出し、図面に起こしていく。確かデカイゴミから取り除くんだよな。沈砂池だったか?で、細かいゴミを微生物などに喰わせて…俺の描いたイラストのような図面を形にしていくサトゥー。沈砂池で使う砂を海で工面する俺。海は、五ノ村付近の浜辺から『強奪』した。村長のところなら、環境的に問題無く、品質が良いだろうと言う理由である。

 

「じゃ、下水を流してみるか」

 

下水と言っても、汚物と汚水は分離して、汚物はミミズの飼育部屋へ転移していく。汚水の洗浄成分も分離して、こちらは、銭湯の下水管へ転移している。九内の作った箱物の下水は仕組みが分からないが、処理をした後にどこかへ排出しているらしい。

 

「そうなると後は、砂地に住める有機物を喰う生き物だな」

 

田原が呟いた。

 

「サトゥー、そういう生き物に当てってある?」

 

「エビとか魚か?」

 

湖にいる生物で実験をしてみるか?湖に転移し、イメージした物を『強奪』し、沈砂池へ強制転移させていく。亀が多いんだけど…亀は雑食だから問題は無いだろう。エビも多い…亀とは違う池に放すか。食い合いは避けないと。貝は巻き貝はいるけど…コイツらコケとか喰うタイプかな?ある程度大きくなったら、食用になるか為すか。

 

下水処理した水は人工の川に流して、畑に隣接するため池に辿り着くようにした。ため池から水を掬い、簡易浄水器で水を更にきれいにして、畑に撒くようにしてみた。これでどうだろうか?

 

ラビの村で箱庭遊びをしていると、九内から念話が入った。

 

『ヤバい…救援要請だ!』

 

はぁい?

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

村長来訪

 

---ダン---

 

九内からの救援要請を受けて、俺、マイル、メイプル、ミト、サトゥーで九内の元へ転移した。転移した王都は、方々で火柱が上がっていた。

 

「花火大会か?」

 

「はぁ?誰が、バカデカいドラゴンを焚いているって言うんだ?違う、魔族の襲撃だ」

 

なるほど…魔族って火に弱いのか?

 

「わかった。火柱が目印だな。手分けして、殲滅していこうか」

 

俺とメイプル、マイルで王城の近くの火柱に向かった。王城の正門前では、女性二人が、悪魔らしき者と戦っていた。

 

「悪魔が女性相手に何しているんだ?」

 

弱い者虐めにしか見えない。

 

「なんだ?貴様らは?ガキは引っ込んでいろ!」

 

ガキとして、メイプル達と一括りにされてしまった。う~ん…ちょっと複雑である。俺のどこを見れば、三頭身キャラに見えると言うのだ?見た目は平均であるが一応八頭身アバターだぞ!

 

「ねぇ、本気でいっていい?」

 

メイプルが上目遣いで訊いてきた。かわいく見せてもダメだ。お前の本気は、王都だけでなく、この国もが消滅してしまう。

 

「はどう砲禁止だぞ」

 

「じゃ、ダンさんも機龍は禁止だよね?」

 

そうなるな。

 

「じゃ、そういうことで」

 

『ウッドオクトパス』で、悪魔の両方の踵から股関節に向けて串刺しにした俺。動きを封じた悪魔に、マイルの剣技とメイプルの『捕食者』達が襲い掛かっていく。

 

「貴様らぁぁぁぁ~」

 

ズタボロになった悪魔は空へ逃げて、空に待機していた仲間の少女に食らいついた。悪魔って共食いするのか?

 

「マズい血だが…俺様の本気を見せてやる!」

 

コイツ、悪魔じゃなくて吸血鬼か?仲間の血を総て吸ったのか、瀕死の仲間が飲み終わったパウチパックのように投げ捨てられた。その結果、人型だった悪魔は狼に変身した。その上、ヤツの足下から黒いスライムが湧き出て来た。あれって、奈落だっけ?だが、奈落はメイプルとマイルを避けるようにして進軍している。で、俺のことも避けている…なんか無視された気分である。俺は黒いスライムを『強奪』してからの強制転移で、狼になった吸血鬼の内部に返品した。そうだ、あの捨てられた仲間を回収して、事情聴取しておくかな。『強奪』して、館のリビングへ強制転移させた。セーラが気づいて、回復術を掛けてくれるだろう。

 

「な、な、何?貴様…何をしたぁぁぁ~」

 

なんか苦しんでいるような狼になった悪魔?あれ?吸血鬼だっけ?。マイルが手にした聖剣と、『暴虐』化したメイプルの口が、狼に向かっていく。俺は、倒れている二人の女の元へ行き、回復術を施していく。

 

「あっ…あなたは…先日も、あり…ありがとうございました」

 

大柄な方の女に礼を言われた。先日?先日って…あぁ、あのちんちくりんな聖女の隣にいた女か?

 

「気にするな。俺は単なる援軍だ」

 

もう一人の女は、俺達を怯えた様子で見ている。なんでだ?振り返ると、メイプルとマイルによる地獄絵図が展開していた。あぁ、あの仲間と思われたのだな。

 

「終わったぞ」

 

ミトとサトゥーがやってきた。

 

「じゃ、帰るか」

 

俺達はラビ村に戻り、銭湯に寄ってから、館へ戻った。

 

 

 

---街尾 火楽---

 

ダン達の歓迎会が終わって数日…アルフレートとウルザがダンの元に留学をしたいと言い出した。

 

「どうして?」

 

「ここじゃ、僕達を真剣に躾けてくれる人が居ないから」

 

まぁ、我が家は放任主義である。したいように、させている。ダンによる躾けは、彼らの心に響いたのか?思いっきり心を折られていたけど…

 

「わかった。ダンに相談してみる。朝早くに出勤するって行っていたから、今から行くかな。誰か、一緒に行きたい人はいるかな?」

 

シーンとする室内。ルー達の顔から血の気が失せていく。産まれたことを後悔したのって、初めての経験なんだろう。怖い物なしだった彼女達の知った恐怖。強烈な精神ダメージだっただろう。ザブトンの仲間達も名乗り出ない。我が家にとって、ダンは恐怖の代名詞になっているようだ。実際はダンを怒らせた子供達、妻達に非があるわけで、彼は悪くないんだけど、善悪よりも恐怖のイメージが優先されるのだろう。

 

「あの…私が一緒に行っても良いですか?」

 

商談に来ていたゴロウン商会の会頭のマイケル=ゴロウンが名乗り出た。

 

「構わないですよ。ダンの家は隣家同然ですし」

 

彼の館と我が家は転移魔方陣で繋がっている。護衛の必要の無い、長距離旅行が一瞬で行けるのだ。アチラに行けば、ガード要員も必要が無い。彼らの戦力はオーバーキル気味であるから。はどう砲持ちがいるわ、メカゴ●ラ、メカキングギ●ラ。ガ●ラ、ギャ●スもいて、日本のアニメ、特撮好きには堪らない戦隊だった。異世界に来て初めて、来て良かったと思えるシーンだった。あんな部隊と戦いたくない。戦闘シーンを見ていたい、って思えたもの。

 

「じゃ、行きましょう」

 

「え?旅の用意は?」

 

「いりませんよ。直ぐ隣ですから」

 

転移魔方陣がある部屋に入り、転移術を発動させた。

 

 

 

---ダン---

 

館に帰ると、村長と知らない男がいた。

 

「ダンに頼みがあって来ました。息子のアルフレートと娘のウルザが、ダンの元に留学したいって申しまして」

 

「留学?教えられることは何も無いよ。俺、一介のパティシエだよ」

 

「躾けてくれたでしょ?我が家だと、子供達を力尽くで叱ってくれる者が少ないんだよ」

 

叱る?あの時は、メイプルとマイルだっけ…村長の子供達が上から目線の上、二人は幼女扱いされキレて…そんな子供のケンカに割って入った俺に、ウルザってヤツのパンチが俺の頬に入り、おでこにデコピンを返礼したのだが…失禁からの脱●で、エライ騒ぎに…まぁ、死人が出なくて良かったよな。

 

「じゃ、下働きでいいのか?」

 

「それはダンに任せるよ。クボォーク王国の再建事業だろ?」

 

「いや、それとは別にラビの村の再生も手伝っているんだ。俺の現場はラビの村の方だよ。って、その男は誰?」

 

「あぁ、紹介するよ。我が家の取引相手のゴロウン商会会頭のマイケル・ゴロウン氏だよ」

 

「マイケル・ゴロウンです。あなたのお噂はかねがね訊いております」

 

「商い関係は、エチゴヤのサトゥーが担当していますので、アイツと話してください」

 

「サトゥー様とお知り合いですか?」

 

「知り合いって言うか、うちの通商担当ですよ」

 

エチゴヤはクラン<楓の木>の通商部門である。クランは総合商社的な物だと理解している俺達。

 

「なんと…」

 

「村長、夕食はまだでしょ?今日は泊まって、明日現場を2つ見せて上げる。それで、どこに留学させたいか、決めてくれ」

 

「分かった」

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

村長視察する

 

---街尾 火楽---

 

夕食…炊きたてのご飯に、イカの塩辛、鰺の塩焼き、キャベツと人参の糠の浅漬け、そして納豆汁。我が家で作ったことのない料理がまだあった。レシピを貰わないと。食材の殆どは五ノ村での購入であるだろうから。

 

「イカはどこで獲れるんです?」

 

シャーシャトーの港では、イカ、タコ、カニの漁師がいなかった。この世界では食べる習慣が無かったのだ。

 

「ダンジョン産ですよ。分類的には魔物肉になるかな」

 

それは、魔物の内臓で塩辛を…ゴロウン氏の顔色があまり良くない。シャーシャトーの街では魔物肉を食べる風習は少ない。魔物を態々食べなくても、食材が豊富であるのだ。

 

「ここでは基本、食材はダンジョンで得ています。五ノ村を見つけてからですよ。食卓が賑やかになったのわ」

 

デザートにはあのパンケーキに、ミルク味のアイスが添えてある一皿だった。それに珈琲…この世界では紅茶が主流で、珈琲なんて物は見かけていなかった。

 

「珈琲豆はどこにありましたか?」

 

「それもダンジョン産ですよ」

 

この街では、ダンジョン有りきの食事のようだった。文化の違いというより、得られる食材の問題だろうか。

 

一夜明けて、朝食はパンだった。それも懐かしの食パンである。トースターで焼き上がったばかりの食パンからは、薄らバターの香りがする。

 

「このパンのレシピもお願いします」

 

「いいですよ。ジャムもどうですか?この黒いジャムがお薦めです」

 

ダンから渡された黒いジャム。イカスミか?パンに塗って食べると…海苔の佃煮だった。

 

「海苔が獲れるんですか?」

 

「いえ、それはダンジョンで採取出来るコケの一種ですよ」

 

ここのダンジョンは食材に満ちあふれた狩り場のようで、彼らはそこで戦闘経験を積んで…

 

「ウルザに狩りを体験させたいです」

 

「狩り?あぁ、それはここでは日課ですから、非戦闘員以外、全員参加です。ですので村長のお子さんも漏れなく全員参加決定ですよ」

 

へ?日課?全員でダンジョンに潜って居るのか…訊いてみると、日課と言っても毎日で無く、在庫量の残りが少なくなると狩りに行くそうだ。

 

「じゃ、まずクボォーク王国に行きますか。マイルは道草せずに現場へ行けよ」

 

「はぁ~い」

 

ダンと共にクボォーク王国へと転移した。

 

 

クボォーク王国の新築の城は、日本で言うところの庄屋の屋敷みたいである。内部は畳では無くフローリングであった。ダンによると、手間も掛けられないそうだ。畳は手間が掛かるものなぁ。

 

「巨大な城を作る人手も予算も無いからね。今は、街の復興が優先だし」

 

城を中心にして広がる貴族街、そして平民街。貴族街と平民街の間には商人街が広がる予定らしい。現在、家はまばらに建っているだけで、街と言える雰囲気は無い。

 

「ランドマークとして、商人街に銭湯を作ってある」

 

確かに昔懐かしい銭湯が建っている。男湯と女湯に分かれている裸の社交場である。あぁ~、珈琲牛乳がある。イチゴ牛乳も…昔懐かしい瓶入りだし。

 

「こんな感じです。今は移民のスカウト事業が優先です。農地は先日奪った国の領地をまるまる開拓中です」

 

戦争しているのか。こんなにも疲弊している国なのに、戦争する意味が分からないが、きっと訳ありなのだろう。

 

 

そして、ラビの村へ…クボォーク王国よりも栄えている村である。畑は稼働しているし、銭湯の他、温泉旅館、そして病院まである。五ノ村よりも豪華な福利厚生が為されているようだ。

 

「ここは基本、バニーと呼ばれる亜人を隔離している村なんだって」

 

村の奥にある畑では、ウサ耳のある亜人達が農作業をしている。

 

「だから、インフラはまだまだなんだ。人間至上主義である国からの補助も無い。ただ、天使に愛でられたというバニーという種族を保護の名の下に隔離しているんだそうだ」

 

一瞬、ダンの身体から発する怒りのオーラを感じた。

 

「ここも奪うのかい?」

 

「いや、クボォーク王国とは違う大陸で飛び地すぎる。だから、この村を再生したい知り合いに協力しているんだよ」

 

ダンの知り合いだと転生者か、召喚勇者か?

 

「召喚魔王だよ」

 

僕の心を読んだのか、意外な言葉を口にした。

 

「魔王って言うたけで、そんなに強くは無い。だから、戦力として俺達が手を貸すのさ」

 

あのオーバーキル軍団は、防御特化するととてつも無く強いんだろうな。想像するだけで、身震いしそうだよ。

 

今夜は温泉旅館に泊めてくれるそうだ。マイケル氏は、手帳に売れそうな商材をリストアップしている。今後、エチゴヤを通じて販売を目論んでいるそうだ。エチゴヤって、越後のちりめん問屋だよな、由来は…そうなるとダン達は世直しをしていくのか。確かに、現代日本で生きた僕達にとって、この世界で理不尽に感じることが多々あるが、そうでもない部分もある。手を加えるにしても匙加減が問題である。

 

僕は神様から万能農具を与えられ、理不尽に晒される事無く、順調に生きてきたけど、ダン達は違うのだろう。でなければ、あの異常な火力を神様が見過ごす筈はない。ダンがその気になれば、世界征服も可能だろう。この世界の戦力では、メカゴ●ラとはどう砲を前にして、勝てるとは思えない。僕だって、僕だけの身を守ることは出来るが、仲間全員を護ることは不可能だろう。

 

「村長、下水処理はどうしているんだ?」

 

「下水処理は、国のインフラに任せているよ。この世界にはこの世界のヤリ方があるだろうからね」

 

ダンは、下水処理場でも作ったのか?

 

「なぁ、まだ未完成だけど下水処理場を見るか?」

 

作ったのか…そして、見せて貰った。下水の処理の過程を…そうか、ここには水が豊富に無いから、再生水が必要になるのか。あと、培養土の生産かぁ。僕には、この万能農具があるけど、万能農具を持っていないダンはそこから作っているのか。目の前にいる万能農具持ちでは無い天才パティシエは、まず水と土を作り始めたのだろう。

 

夕食…チャレンジ料理が並んでいた。スッポン鍋か?コラーゲンたっぷり…だけど、大きく無いか、これ?えっ?魔物の亀?魔物は成長が早いから下水処理場で間引いたのね。でも、旨いことは旨い。魔物と明記しなければ売れると思う。

 

そして、ロブスター…これもデカイし、ここって海が無いよね?あぁ~そうですか、魔物のザリガニなんですね。旨いけど…これも魔物って明記しなければ売れると思います。そして極めつけは魔物のサザエもどき…旨いけど、肝は食用にならなかったのね。まぁ、下水処理用の生物だし…

 

正統派の料理も並んでいた。刺身の舟盛り…五ノ村で醤油が手に入り、実現した料理だそうだ。ワサビはシガ王国産なのか。ってシガ王国ってどこ?クボォーク王国の近くなの?魚、貝の類いはダンジョン産の魔物だけど旨い。マグロ、イカ、タコ、鰹に鯛…アンコウ鍋もあるのか。これは仕入れたいなぁ。エチゴヤにリクエストを出しておこう。

 

翌日の朝は、玉子かけご飯に、ダンジョン産のコケを使った焼き海苔に、鰺の干物、ラビの村名産の人参を具にした味噌汁。この人参、旨い。さすが名産品だな。え?この人参はバニーにしか作れないの?僕でも無理?本当かな。タネを貰ったので、帰ったら試して見よう

 

 

そして、無事に帰宅して、ラビ人参を植えてみた…確かに、僕でも作れなかった。それだけ、貴重な村なんだな、あそこは。援助出来るなら、援助してあげたいなぁ~。

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

格言

 

---ダン---

 

朝起きると…メイプルが見た事の無い黒い棒を持っていた。コイツ…夜遊びに一人で行ったなぁ!

 

「ねぇねぇ、ダンさん。コレ見て、見て下さいよ。いいでしょう」

 

とても嬉しそうなメイプル。俺は無言でメイプルの背後に回り、メイプルのこめかみを拳でグリグリとした。

 

「痛っ!痛いですよ~、止めて下さいよ~」

 

メイプルという盾で唯一の痛点であるこめかみに、教育的指導を加えていく。

 

「お前、一人で出歩いたんだな?」

 

「えっ…それは…その…」

 

<楓の木>では格言がある。『メイプルが一人で出掛けると、想像を絶した方向に化ける』と…天使化、悪魔化…などなど、コイツが一人抜け駆けすると、何かをやらかし、何かを得てきていた。

 

「今度から、誰かを…マイルを連れていけ。いいな!」

 

コイツは分かっていない。死後の世界にいるってことを。もし万が一、この世界で死ぬと、もう一緒にはいられなくなる可能性があるのだ。

 

「う、うん…次からはマイルと遊びに行ってくる」

 

最悪、マイルであれば転移が出来る。メイプルには転移術も転移魔法も無い。危険になった場合、逃げ帰る術がメイプルには無いのだ。

 

「で、今回は、どこへどうやって行ったんだ?」

 

グリグリの刑から解放してあげた涙目のメイプルが、こめかみを押さえて蹲っている。

 

「え~ぇっとですね…『時空渡り ダンさんの行った事の無いダンジョン』で転移しました」

 

涙目であるがドヤ顔のメイプル。俺の行ったことの無いダンジョン?どこの大陸のダンジョンに行ったんだ?今まで訪れた大陸で、ダンジョンへ行ったことが無いのは、村長のところか…いや、こいつの事だ、未だ俺が訪れていない大陸の可能性が大である。

 

「そこに俺達を連れて行け。メンバーはマイル、ミト、サトゥに俺だ」

 

チーター集団で乗り込むことにする。未知なるダンジョンは危険である。俺は、俺達が最強だと思っていない。だから、未知なる場所には、考えられる最強戦力で乗り込むことにした。

 

 

メイプルのスキルで転移した俺達。

 

ドースン!

 

と、何かの衝突音が聞こえ、下から光の粒子が立ち昇ってきた。下を見ると、見るも無惨な魔物の潰れていく様が見えた。俺達はダンジョンのどこかのフロアの天井近くに転移し、きっとフロアボスの頭上にメイプルが落下して、メイプルバスターをボスが食らったんだと思う。地面に降りると、そこは巨大なクレーターがあった。

 

「ダンさぁ~ん!宝箱がありますよ」

 

嬉しそうなメイプルの声。あの黒い棒は、フロアボスの討伐記念品なのだろう。俺は眩く輝く宝箱を開けた。そこには装備品ではなく、1枚の羊皮紙が出てきた。その羊皮紙を手に取ると、脳裏に声が響き渡った。

 

『そなたに、このダンジョンの所有権を譲る』

 

と…。再度羊皮紙を見ると勝手に燃え上がり、光の粒子となって、俺の身体に吸い込まれて行った。

 

『このダンジョンを、クボォーク王国へ移設しましょう』

 

次に脳裏に聞こえて来たのはアリスの声…このダンジョンって、移設出来るのか?

 

『出来ます。セーリュー市へ抜ける道沿いの国境近くに設置しますね』

 

アリスの声は、みんなにも聞こえたようだ。

 

「ねぇ、アリス、ここは何階層なのかな?」

 

『100階層です。いわゆる底になります。コア部屋で、更なる拡張が可能です』

 

マイルの問いに答えたアリス。100階層なのか…周囲を見回すと、古城が見えたので、みんなで手分けをして、そこを調べた。そこでわかったことは、ここはまだ来たことの無い大陸にあるダンジョンだったこと、神が地上にいる者達を鍛える為に作られたダンジョンであったこと、俺の前の所有者が神だったことくらいである。意味がわからん。

 

『移設が終わりました。ダンジョンの上には迷宮都市があって、みんな困惑しているようですよ』

 

と、アリスからの報告。それは困惑するだろう。一瞬で知らない場所に都市ごと転移したのだからさぁ。その街の責任者と話し合う必要があるな。攻め込まれたら、マズいし。

 

 

地上に転移した俺達。そこには街があった。アリスの報告通り、街の住民達が困惑している。まぁ、知らない場所に移設したからなぁ。

 

「アリス、街のエライ人と会談したい」

 

「わかりました。こちらへ」

 

アリスが現れて、俺達を先導していった。連れて行かれたのは冒険者ギルドであった。確かに、ダンジョンを管理するのは、そういう組織だよな。そして、ギルド長の部屋へと進んだ。

 

「お前達は何者だ?」

 

龍人の女性に訊かれた。彼女がギルド長か?

 

「ここ、クボォーク王国の者だ。このダンジョンは我が国の物になり、我が国に委譲され、移設した。それに付随して、この街はクボォーク王国に編入したので、収入の取り分などを取り決めたい」

 

俺はそう伝えた。彼女は当惑している。万が一に備えて、仲間達を街の周囲に展開して貰うよう、念話で指示を飛ばした。武力で抵抗された時の為である。サトゥーがみんなを迎えに行ってくれた。

 

「神のダンジョンの所有権を得たと言うのか?」

 

頷く俺、証拠は…彼女の目の前に、先ほどの羊皮紙の内容が、表示されていた。驚く彼女。まぁ、驚くよな。神様もどうせくれるなら、村長のような万能農具の方が面倒が少ないんだけど。ダンジョンを譲られても、面倒な予感しかしないし。

 

「メイプルとマイルで街中を制圧してくれ」

 

「はぁ~い!」

 

嬉しそうに出て行く二人。街の住民相手なら、危険は少ないだろう。俺、ミト、サトゥで、目の前の女性にプレッシャーを掛けていく。

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

シェルクラブ

---ダン---

 

この街の責任者であるギルド長のカミーユと、クボォーク王国の間で調印が無事に終わった。俺達、クラン<楓の木>もこの街に、クランを結成し、冒険者登録も済ませてある。この街のダンジョンは、階層と階層を繋ぐのは階段で無く、黒門と呼ばれる転移装置なのが特徴で、各階層が個性豊かな立地にあるらしい。そして、このダンジョンで獲れるカニも美味らしい。

 

他で見たことの無い仕様として、ダンジョン内での冒険者達の活躍を、神台というモニタで観戦出来るようになっていた。1チーム5名で構成されるパーティーごとに神の目と呼ばれるカメラが数台、ダンジョンに着いてきて、神台へ映像を送っているそうだ。後は、このダンジョン内で全滅しても、身ぐるみ剥がれるだけで、生きてダンジョンから出られるそうだ。身ぐるみ剥いだ装備は、所有者の俺の物になるようだが、俺達が死んでも、身ぐるみ剥がされるらしい。それは嫌なので、死なないようにしたい。

 

カミーユ一押しのクランは<無限の輪>と言うらしい。パーティー構成はタンク2アタッカー2ヒーラー1だと言う。俺達だとチーター5になるのだろうか?全員ヒールが出来る。タンクが出来るのは俺とメイプルだが、アタッカーでもある。

 

街中にクランハウスを所有して、休日にはこのダンジョンで鍛えるのも手である。マイルを除いた赤き誓いとか、村長の子供達とか…シガ王国の迷宮都市で、一人前のハンターになって欲しいから。ダンジョンの難易度はシガ王国の迷宮都市の方が上である。あちらは、食材であることを前提で狩らないとダメなので、ここのダンジョンのように倒してお終いでは困るからである。

 

クボォーク王国への編入を正式に認めた日、カミーユに、クラン<無限の輪>マスターのキョウタニツトムを紹介して貰った。

 

「ダン・モロボシです」

 

ツトムの表情が驚いている。コイツも転生者か、召喚者なのだろう。俺の名前を聞いて驚くヤツは、現代の日本から来たヤツである。俺のアバター名は、とあるヒーローの変身前の名前であるのだから。

 

「お前も…なのか?」

 

他のヤツラに聞かれたくないのか、ツトムの部屋に連れ込まれた俺。

 

「俺は死んだ後に、異世界転生したんだ。お前は?」

 

「このダンジョンをクリアすれば、元の世界に戻れるらしい。だから、死んではいないはずだ」

 

多分、コイツは戻れないと思う。元の世界へ戻れるのは、所有者が神であった場合で、俺が所有者だと返す術が無いからだ。面倒なので、黙っておこうかな。その後、ツトムと当たり障りの無い情報交換をして、館へ帰還した。

 

 

館に帰ると、カタリナが欲しい人材がいると言う。また、拐かすのか?構わないけど…拐かす相手の情報をカタリナ、キース、アランから訊き出した俺。今回のカタリナが拐かした相手は、ニコル、ソフィアのアスカルト兄妹だと言う。父親はソルシエ王国の宰相でアスカルト伯爵家の当主だそうだ。親子ごと拐かすか。アランが言うには、優秀な宰相のようだし。

 

今回は『強奪』での誘拐では無く、話し合いでの連れ去りにしようと思う。俺、カタリナ、アラン、そしてクラエス公爵の4人で、アスカルト伯爵の屋敷を訪れた。

 

「これは…一体…」

 

俺達を見て驚く伯爵。突然、神隠しにあった3人が目の前に現れたのだから、驚くよな。

 

「他人の目に見られる訳にいかない。中で話したい」

 

クラエス公爵の言葉で、俺達は屋敷の中へ通された。アスカルト伯爵へクラエス公爵が説明をしてくれた。クボォーク王国の再建に手を貸して欲しいと。

 

「しかし、それですと、この国はどうなります?」

 

ソルシエ王国の未来を心配するアスカルト伯爵。

 

「それなら、俺の優秀なアニキがどうにかすると思う」

 

元第四王子のアランが、彼の心配を払拭しようとしてくれた。

 

「くだらない貴族遊びは出来ませんが、どうかクボォーク王国の為にお力をお貸しください」

 

俺達は、みんなでアスカルト伯爵に頭を下げた。

 

 

アスカルト伯爵の屋敷は敷地まるごと、クラエス公爵の屋敷の隣に転移させた。そのことに驚くアスカルト伯爵一家。クラエス公爵は、もう慣れたようで苦笑いをしていた。これで、この国の政治はアスカルト伯爵に丸投げし、この国の外交はクラエス公爵と、ミツクニ公爵に任せられる。

 

総合商社エチゴヤも徐々に大きくなっているようだ。

 

「村長のところとゴロウン商会と取引は順調だよ。シガ王国との取引も順調だ」

 

サトゥーがホクホク顔である。各地への出張のおかげで、各地の優良な娼館巡りが出来ているそうだ。巨乳好きなサトゥーだが、そのサトゥーに心を寄せるミトはちっぱい系であり、妹枠からはみ出すことが無いそうだ。

 

俺は性欲が強い方では無いので、サトゥーからの誘いを断っていた。そっちは間に合っているから。レイレイとアズライト、アスナ、JK化したユーリ、サリー…死後の世界故、血の繋がりが無くなったアスカと…もうこれ以上無理である。

 

「姉さんに興味が無いんですか?」

 

キースに訊かれた。

 

「興味が有っても、そういう関係にはなりたく無い。それより、開拓は順調か?」

 

カタリナ達の作業場を視察中の俺。キースが案内係をしてくれていた。

 

「荒れ地でも育つ、ジャガイモ、トマトなどを中心に植えています」

 

まだまだ、培養土が足り無いようだ。どこか、人口密集地に下水処理場を作らないとダメかな。村長が万能農具で耕してくれると言ってくれたが、その申し出を断った。村長有りきの農業ではクボォーク王国の為にならない気がしたからだ。

 

さて、どうするかな…

 

 

 

---メイプル---

 

神のダンジョンを上から攻めている。メンバーは私、サリー、マイル、アルフレート、ウルザである。パーティー構成は、タンク2アタッカー3になるらしい。回復役は私、サリー、マイルが務める。

 

今日の獲物はシェルクラブである。コイツは倒した後に食材になるそうだ。

 

「メイプルは身捧ぐ慈愛、マイルは爪を牽制して」

 

サリーが指揮をしている。と、言うのも…私とマイルが攻撃すると、一撃で倒せたのが、食える部分が大幅に無くなると言うか…

 

「いい?食べられる部分をより多く、持ち返るわよ。で、今日はコイツを周回するからね」

 

まさか、シールドバッシュで、身体が消滅するとは…ダンさんはカニ味噌狙いだって言ったのに…マイルも聖剣で一刀両断して、カニ味噌が砂浜に食われていた。どうすればいいの?サリーとマイルが爪を相手に、回避盾をしている。その隙に、アルフレート、ウルザが攻撃を食らわせている。アタッカーの二人がヘイトを稼ぐと、マイルがカニの関節狙いでダメージを入れ、三人より多くヘイトを稼いでいく。

 

なんか、つまらない。だけど、ダンさんのグリグリの刑は避けないとダメだ。あれは痛すぎる。歯医者さんを思い出す痛みだよね。

 

 

 

---ツトム---

 

神台で、ダンの仲間達の戦いを観察していた。パーティー構成はタンク2アタッカー3と言う尖った構成であるが…タンクの一人は高火力であった。シールドバッシュ一発でシェルクラブの胴体が消えた。しかし、倒したのに、その高火力のタンクが、回避盾のパーティーリーダーに怒られていた。彼らは一度出て、再度シェルクラブに戦いを挑んだ。今度はアタッカーの一人の一閃で胴体が真っ二つになったシェルクラブ…しかし、またもパーティーリーダーに怒られるアタッカー。

 

出口である黒門の処で待ち構え、彼らに話しを訊くことにした。すると、ダンから「かに味噌をゲットして来い」と指令を受けていたそうで、かに味噌を手に入れるように工夫して倒せって、指令が出ていたそうだ。シェルクラブを一撃で倒した二人は、とぼとぼと周回を重ねるべく、入り口の黒門へと歩いて行く。

 

その後も彼らの戦いぶりを見る為、神台を移動して、観戦を続けた。ただ、倒すだけでなく、特定部位を残す戦い。それは難易度が上がる作戦である。あのタンクの少女は、その後、天使姿になったり、魔物姿になったり…彼女のジョブって何だ?見た事が無いスキルを使っている。しかし、作戦を変える度に、失敗を重ねている。そして最終的に、天使姿に固定したようだ。天使1アタッカー2回避盾2、よく分からないパーティー編成である。

 

「これは…」

 

俺の隣に顔見知りの迷宮マニアのピコさんが座り、あの異常なパーティーに目を輝かしていた。

 

「あの天使が分からない。どんな役目があるのか」

 

「私も初めて見ました。見た感じエリアヒールをしているのかな?アタッカー達が攻撃を受けても、ダメージが入っていない感じですよね」

 

言われて見れば、あの強烈なハサミ爪の一撃を食らっても、アタッカー達はダメージを負っているように見えない。メモにその事実を書き込んで行く。

 

「あのパーティーは知り合いですか?」

 

「えぇ、知り合いのクランのパーティーです」

 

「どこのクランですか?」

 

「クラン<楓の木>です」

 

翌日の朝刊一面には、シェルクラブを狩り続けた天使の話が堂々と載っていた。

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

【メモ】主な登場人物

まだ、抜けがあります(^^;



 

キャラ設定一覧

氏名の後の括弧内に原作の略語を入れます。

防振り…『痛いのは嫌なので防御力に極振りしたいと思います。』

デンドロ…『インフィニット・デンドログラム』

のうきん…『私、能力は平均値でって言ったよね!』

はめふら…『乙女ゲームの破滅フラグしかない悪役令嬢に転生してしまった…』

デスマ…『デスマーチからはじまる異世界狂想曲』

ライブ…『ライブダンジョン!』

のんびり…『異世界のんびり農家』

SAO…『ソードアート・オンライン』

 

 

新生【クラン<楓の木>】

・盾(タンク)

メイプル/本条楓(防振り)

クランマスターであるが、口下手、のうきん気味の為、主にダンが作戦を立案し、指揮をしている。得意技は防御と毒攻撃。硬さと火力は尋常では無い。交通事故にて死亡。二つ名は『飛行要塞』

 

サリー/白峯理沙(防振り)

楓の親友で、正の良き話し相手。回避盾としての完成形。2章に入り、存在感は薄くなりがち。

 

ダン・モロボシ/諸星正

オリ主。モロボシ洋菓子店の長男。元ホワイトハッカーなパティシエ。メイプルの葬儀の帰り、少年Aに刺されて死亡。転生後の姿はNWOのデフォルトアバター(男)で、体力盾である。

 

アリス

ダンのエンブリオであったが、ダンと共に転生した結果、使い魔になっている。管理AI 1号のクローン体で、1号と記憶を共有している。その正体は…

 

カエデ

ダンの使い魔の一人。姿、レベル、ステイタス、スキルなど、メイプルと同じリンクタイプのコピー体であるが、ダンを巡ってはメイプルにライバル心 を燃やしている。

 

 

・剣士

アズライト(デンドロ)

元アルター王国の第一王女であるが、暗殺されて死亡。

 

ユウキ/紺野木綿季(SAO)

16連撃である『マザーロザリオ』の使い手。輸血で感染したHIVにより死亡。

 

アスナ/結城明日奈(SAO)

ストレス過多による自然死。二つ名は『バーサクヒーラー』

 

・騎士

レイ・スターリング/椋鳥玲二(デンドロ)

相棒からも呆れられるファションセンスの悪さ。見た目は死霊術師姿である聖騎士。隣人に毒殺された。

 

ネメシス

レイのエンブリオであるが、異世界転生時に使い魔になった。

 

・リーングランデ・オーユゴック(デスマ)

セーラの姉でシガ王国国王の外孫。元サガ帝国の勇者チームの一員である。セーラの姉であることで、ダンから罰を受けずに済んだ。魔法も使え、二つ名は『天破の魔女』である魔導騎士。

 

・銃士

アスカ・モロボシ/諸星明日奈

正の双子の妹でパティシエール。レールガン2丁の使い手。兄の遺骨を散骨に行く道中で、航空機爆発事件にて死亡。転生後の姿はNWOのデフォルトアバター(女)。

 

マリー・アドラー/一宮渚(デンドロ)

『超級殺し』と呼ばれた凄腕の暗殺者。前世では有名漫画家だったが、真相に近づいた為に、玲二を殺した犯人に毒殺された。

 

レン/小比類巻香蓮(GGO)

GGOにおいて『ピンクの悪魔』と恐れられたAGI振りをしたガンナー。リアルでは大学生であったが、そのアバターは見た目小学生で、アバター転生した際に、ダンとデキないと嘆いていた。生前の死因は不明。裏設定ではダンには言え無い死に方だった。

 

シノン/朝田詩乃(SAO)

生前、正との関係性は薄めだったが、狙撃手としてメイプルに呼ばれたらしい。

 

 

・格闘家

レイレイ/レイチェル(デンドロ)

生前は世界的な歌姫であったが、正の遺骨をエーゲ海で撒こうとして、航空機爆発事件にて死亡。毒攻撃が得意である。

 

・ミィ/原作にて本名の表記は無し(防振り)

ゲーム内では凜々しい魔法使いであるが、リアルでは寂しがり屋のポンコツらしい。生前の死因は不明。

 

 

・ヒーラー

セーラ・オーユゴック(デスマ)

シガ王国国王の外孫でオーユゴック公爵領のテニオン神殿の『神託の巫女』であったが、迷宮都市でのダンとのいざこざの折りに、人質として差し出された。

 

 

・高火力

シュウ・スターリング/椋鳥修一(デンドロ)

クマの着ぐるみを着た『破壊王』。異世界でポップコーンを広めることに意欲を燃やしている。航空機爆発事件にて死亡。メイプルに一度、倒されている。

 

ルーク・ホームズ/ルシウス・ホームズ(デンドロ)

前世では探偵をしていた。使い魔と一身同体になる『ユニオン・ジャック』の使い手。玲二を殺した犯人に毒殺された。

 

マイル/アデル・フォン・アスカム/栗原海里(のうきん)

交通事故で死亡し転生した先がアスカム子爵家の長女である。生前、正にフィギュア人形作りを教えていて、正的には師弟関係にある。アスカム家のお家騒動から逃げる為、マイルという偽名を名乗り、隣国に亡命し、ハンター養成学校の同級生と<赤き誓い>を結成した。転生時に、創造主よりナノマシンの存在を教えられ、それらを使役している。能力的にはチーターの部類に入るが、メイプルの硬さに勝て無いらしい。

 

ミト・ミツクニ/シガ・ヤマト/高杯光子(デスマ)

シガ王国の王祖にして、召喚された勇者。年齢は不明。長期に渡るコールドスリープの後、サトゥーとダン達の戦闘時の波動で目覚めたらしい。現在、表向きはシガ王国の公爵として、実際はダンの為の諜報活動の為に動いている。サトゥーのことは大好きであるが、サトゥーの趣向に合わないことを知っている為、ダンに傾いているらしい。能力はチートクラスの戦士であるが、ダンの使い魔のフレイヤに躾けをされた。

 

テンちゃん(デスマ)

シガ・ヤマトの相棒の天竜の人化姿。ドラゴン姿の全力時に、メイプルによるカウンター気味のシールドバッシュ一発で伸された。

 

サトゥー/鈴木 一郎(デスマ)

魔神のコピー体である召喚者。召喚時の見た目は若返っている。光子の先輩で、光子の想い人であるが、一郎の性的趣向に合わない為、その恋心には気づかないようにしている。むっつり系で娼館通いが趣味。ジョブは商人であるが、能力はチート級の戦士である。しかし、一度メイプルに神刀を折られた上、はどう砲で瀕死の重体に追い込まれた。

 

 

【ダンの館の住民】

カタリナ・クラエス/原作にて本名表記無し(はめふら)

交通事故で死亡し、転生した先がソルシエ王国のクラエス公爵夫妻の長女である。幼少期に第三王子とのデート中に額に怪我を負った為、責任を感じた第三王子が婚約者にしてしまった。事あるごとに婚約を解消して欲しいと願うカタリナであったが、王子が計画したサプライズ結婚式を自分を亡き者にする罠と誤解し逃走。逃走先でダンの転移に相乗りして、国外へと逃亡を果たした。農作業が大好きな、土魔法師。新生クボォーク王国の農政部門所属。

 

キース・クラエス(はめふら)

カタリナの義弟。シスコンを拗らせた弟であるが、カタリナの斜め上に行く行動に振り回れ気味。新生クボォーク王国の財務部門所属で、ダンの館の執事。

 

メアリ・ハント(はめふら)

ハント侯爵家の令嬢で第4王子の婚約者。カタリナ大好き少女で、悪い虫が付かないように警戒している。水魔法師。新生クボォーク王国の農政部門所属。

 

マリア・キャンベル(はめふら)

光の魔法が使える少女。カタリナの親友でお菓子作りが趣味。第三王子のサプライズ結婚の為に、側室として婚約者になるも、カタリナが誤解から逃亡をしたことを自分のせいだと思い、心を病み、毎日お菓子を作り続けていた。ダンの館の料理担当のメイド。

 

アラン・スティアート(はめふら)

ソルシエ王国の第四王子。メアリの婚約者で、音楽に才能がある。アラン本人は気づいていないが、カタリナが大好きである。

 

アルフレート(のんびり)

村長の息子で、ハーフヴァンパイア。

 

ウルザ(のんびり)

村長の養女で、元「英雄女王」で、元「死霊王の本体」の成れの果て。本人は自分の正体を知らないらしい。

 

ニコル・アスカルト(はめふら)

ソルシエ王国の宰相の息子。妹の幸せな顔とカタリナが大好きなシスコン。

 

ソフィア・アスカルト(はめふら)

ソルシエ王国の宰相の娘。カタリナの読書仲間で、カタリナ大好き娘。ダンの館の司書。

 

ルル(デスマ)

アリサの姉だが、腹違いの為、王族では無い。その為、奴隷になる前は、アリサの専属メイドであった。ダンの館の料理担当。

 

 

 

 

 

【新生クボォーク王国】

王女 アリサ・クボォーク/橘 亜里沙(デスマ)

戦争に負け、奴隷にされたところを、ダンに救われた異世界転生者。精神年齢はダンよりも上。前世では、友人のストーカー男から逆恨みされて刺殺され

ている。

 

国王見習い エルゥス・クボォーク(デスマ)

アリサの兄。奴隷にされたところを、ダンに救われた。

 

 

 

【他の大陸の人々】

ジオルド・スティアート(はめふら)

ソルシエ王国の第三王子。カタリナとマリアが婚約者である。カタリナからは腹黒ドS王子と思われており、避けられている。その実は、茶目っ気があり、独占良くの強い、カタリナ大好き男だったりする。

 

キョウタニツトム/京谷努(ライブ)

現代日本へと帰る為に神のダンジョン制覇を目指している神様に召喚された男性。神のダンジョンの元と思われる『ライブダンジョン!』を7年間プレイした廃プレイヤー。

 

カミーユ(ライブ)

神のダンジョンの出入り口にある冒険者ギルドのマスター。龍人。

 

ピコ(ライブ)

神のダンジョンの迷宮マニアと呼ばれる評論家。ツトムの情報屋の一人。

 

街尾 火楽(のんびり)

ブラック企業で働いたせいで身体を壊して死亡し、万能農具という特典付きで異世界へ神様による転移をした。通り名は『村長』で、大樹の村の他、5つの村の村長である

 

マイケル・ゴロウン(のんびり)

ゴロウン商会の会頭。

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

VS聖女様

 

---ダン---

 

神のダンジョンには、幽霊エリアがあった。問題が発生である。メイプルの指揮官であるサリーが使い物にならないのだ。死後の世界でもサリーは幽霊、オバケの類いはダメなようだ。さて、どうするかな。取り敢えず、メイプルとマイルにはソロで潜って貰い、100階層一番乗りを目指して貰うか。このダンジョンなら、死んでも丸裸で排出されるだけだし。

 

そう言えば、サガ帝国の勇者はどうしたのだろうか?一向にダンジョンから出てきたって話を聞かないが。アリスと共にコア部屋に向かい、ダンジョン内を探査してみた。まだ、いた。中層階の底にある犯罪ギルドの拠点にだ。あの勇者は犯罪ギルドに取り込まれたのか?一緒に堕としたサガ帝国の皇女はどこだ?こちらはダンジョン内にはもういなかった。どういうことだ?勇者無しでダンジョンを脱出できたのか?お供の女性メンバー達もいないみたいだが…

 

「アリス、どう思う?」

 

「女性は奴隷として売られたのではないですか?犯罪ギルドのいる一帯は、麻薬系の草が栽培されているようです」

 

確かに…しかし、ダンジョンの出入り口から出た形跡はない。そうなると、隠し通路があり、外へ出られるのか?

 

「あっ!ここに、隠し通路のような物があります」

 

アリスが各階層の階層マップを見て、何かを見つけた。海のマップの海中に横穴があるようだ。横穴はダンジョン外に繋がっており、コア部屋から確認が出来ない。どこに繋がっているんだ?迷宮都市近辺の洞穴、廃屋などの怪しい場所をシラミ潰しに探すと、農園らしき廃墟にある小屋の地下に怪しい横穴を見つけた。ここか?コンコンに確認して貰うと、海水の詰まった縦穴があった。ここだな。そうなると、皇女達はどこかに、運び出されたのか。

 

サトゥーに連絡をすると、王都の娼館に皇女達がいたそうだ。いたそうだ?コイツ、知っていたのか…

 

『いやぁ~、気持ち良いテクニック持ちでさぁ~』

 

と、サトゥーからの報告。贔屓にしているらしい。居場所が確認出来ているなら、いいか。問題は、勇者は何をしているんだ?用心棒か?それとも、無断で居住している下層階層住民へのアタックか?う~ん、どうするかな。下手に犯罪ギルドを刺激すると、地上にアジトを作りそうだしなぁ。このまま地下にいる分には問題は少ない。ダンジョンの出入り口から出て、迷宮都市内で悪さをしないだろうし。

 

 

ラビの村の露天風呂でまったり…温泉を引き込んでいるのか、日頃の疲れが抜けて行く。

 

「ダン、酒はいらんか?」

 

九内は桶に酒の入った徳利とツマミを乗せた皿を置き、風呂に浮かべて、手酌で飲んでいる。

 

「未成年だから、飲まない」

 

「そうか…」

 

ふと、脱衣所の方から音が聞こえ、そちらを見ると、全裸の女性が立っていた。ここって、混浴か?

 

「ま、ま、魔王!」

 

「えっ?なんで、ここに?」

 

九内が慌てている。その様子を見る限り、ここは混浴では無いらしい。目の前で全裸を披露している女性だが、ピンク色の髪の毛、乳首、アンダーヘア…未使用らしい。この国の女性は、タオルを身体に巻いて入る風習は無いのか?大きすぎず、小さすぎず、重力に負けない胸は、俺の好みかもしれない。

 

「魔王!謀ったのね!」

 

彼女の声に反応して、九内の潜望鏡が徐々に角度を上げている。コイツ、女性免疫が無いのか?

 

「その格好は目の毒だ。これを使いなさい」

 

亜空間からバスタオルを取り出し、女性に放り投げた。それを女性が見事にキャッチすると…

 

「きゃぁぁぁぁぁ~!私の全裸を…ガン見したのね」

 

したけど、全裸で無防備で入ってくる方が悪い。そもそも、ここは男湯である。

 

女性はタオルを手放し、巻かずに湯船に身を浸した。勇気あるなぁ~。目の前に男が二人いるのに。

 

「ここは男湯だけど…」

 

「えっ!」

 

俺の言葉で、顔が真っ赤になっていく。間違えて入ったのか?

 

「九内、この女は知り合いか?」

 

「あぁ、聖光国の聖女姉妹の長女、エンジェル・ホワイトだ」

 

聖女の長女?あのちんちくりんと大女の姉ってことか。

 

「九内、付き合っているのか?」

 

「まさか…ないない」

 

だよな。ちんちくりんとアクが大好きな九内は、たぶんロリだし。目の前にいる聖女は女子高生くらいかな。九内の守備範囲から外れるだろう。

 

「うっ…」

 

聖女様は、真っ赤な顔で俯いている。湯船の中で体育館座りをしているので、胸は見えないが、アソコは丸見えなんだが…コイツ、露出狂なのか?

 

「あっ!俺はジャマか」

 

湯船から出ようと立ち上がった俺。

 

「ジャマでは無い、ここにいてくれ」

 

九内が困ったような表情で、俺の足を掴んだ。

 

「え…男性の全裸…」

 

聖女様が小さな声で呟いた。あぁ、俺の全裸を聖女様に晒してしまった。まぁ、いいか。減る物でも無いし。

 

しばらくすると、ブクブク…て、聖女様が湯船に沈んでいく。のぼせたのか?

 

 

 

---エンジェル・ホワイト---

 

はぁ~。ここはどこだろうか?魔王の罠に嵌まり、魔王に全裸を見られてしまった。捕らわれてのかな?身体を弄ると、薄い毛布を掛けられているが、全裸のままである。既に魔王に喰われたのか…まさか、風呂で待ち伏せをしているとは…

 

「大丈夫ですか?」

 

女性の声…魔王の配下だろうか?声の主を見ると、素朴さを纏った少女だった。攫われて、配下にされてしまったのかな?私もかな?

 

「水分を取って下さいね。軽い脱水症状です、意識が飛んだようですよ」

 

ガラスの瓶に入った水を手渡した来た少女。あれ?これガラスじゃない。柔らかい。でも透明な瓶。中に入っている液体を口に含むと、全身に水分が行き渡るのが分かる。美味しい…何、この水は…

 

「この水はなんですか?」

 

「ライチジュースに塩を少し加えた物です」

 

ライチジュース?何だろうか?まさか、魔王の体液…あぁぁぁぁ~、もう聖女を名乗れないかもしれない。

 

「脱衣所から、お持ちしました。落ち着いたら、着衣してくださいね」

 

落ち着いてくると、目の前の少女が光のオーラを纏っているのが分かった。彼女も聖女なのか?

 

「ここから、一緒に逃げましょう」

 

魔王の城から逃げないとダメだ。

 

「まだ混乱しているんですか?逃げる意味が分かりませんわ」

 

洗脳されているの?着衣を済ませ、立ち上がろうとすると、目眩がして…

 

「大丈夫ですか?ここで、養生していってくださいね」

 

いや、しかし…

 

コンコン

 

「マリア、今いいか?」

 

ドアのノック音の後に、男性の声。魔王の声では無いようだが。

 

「はい、大丈夫ですよ」

 

ドアから、魔王と一緒にいた男が入って来た。魔王の右腕なのか?

 

「パンケーキを改良してみた。試食をしてくれ」

 

マリアと呼ばれと少女と、私にケーキの乗った皿を渡してきた男。目の前のケーキは、見た事の無い程にフワフワのように見える。

 

「美味しいです。一段とフワフワ感が増しましたね」

 

「お好み焼きを参考にして、自然薯を練った物を少し、メレンゲに加えてみた」

 

「なるほど…生クリームもフワフワですね」

 

「あぁ、パンケーキがフワフワなんだから、生クリームが固いと合わないだろ?」

 

私もケーキを一口…何?このフワフワ感は…クリームは甘すぎず、爽やかな感じがするし。こんな美味しい食べ物は初めてかもしれない。

 

 

夕食…見た事の無い料理が並んでいた。どれも美味しい。魔王に餌付けされているのかな。こんな美味しい食事が毎日ならば、ここは悪く無いかな。

 

「元気になったようだな。城まで送ってやる」

 

魔王の右腕が、私に触れると、城の間にいた。これって、天使様にしか使えない転移術?

 

「あぁ、九内から君にプレゼントだそう」

 

魔王から?魔王の右腕が信じられない物を手にして、私の頭に乗せた。天使様の輪である。

 

「こんなアイテムを持っているとは、アイツも中々だな。じゃ、なぁ!」

 

目の前から消えた魔王の右腕。城の前に、天使様の輪を載せた私だけが残った。

 

 




天才パティシエは、女性相手だと無敵…かな?



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

SS:凶行再び

---藤林梢---

 

目の前に扶桑月夜が倒れている。この女、頭がイカれているんじゃないのか?

 

「本当に、リアルでは弱者よね。あなた達も、むくどり兄弟もねぇ」

 

コイツが、レイ君やダンを死なせた原因かっ!

 

「ゲームで勝つ為に、リアルで襲うって、何を考えているの?」

 

「ゲーム内で倒せないなら、リアルで倒す。これが皇国のヤリ方だよ、鎧巨人くん」

 

息が苦しい…後、どれくらい生きていられるかな…まさか、部室に置いて有る茶葉に毒を仕込むとは…

 

「むくどりさんや、探偵坊やとは違う毒にしたわ。だって、アレの犯人は売れない漫画家だったし」

 

そう…犯人は自殺したと思って、油断した。彼女は犯人では無かったようだ。

 

 

目の前が真っ暗になると、暗闇から真っ黒な装備のメイプルが出てきた。

 

「迎えに来ました。一緒に生きましょう」

 

行く?どこへ?

 

「みんな待っていますよ。ダンさんも、クマさんも、アズライトさんも…」

 

クマ兄さんもやられたのか…ティアンであるアズライトの暗殺も、あの女の仕業ってことか。くそっ!

 

フィガロ、キャサリン金剛、ハンニャもデンドロに来なくなった。彼らもなのか?ふとメイプルを見ると、笑顔である。どうして、笑顔でいられるんだ?

 

「あぁ、働かざる者、喰うべからずですからね」

 

なんか、メイプルと会話がかみ合わない。なんでだ?

 

『永遠の世界へようこそ』

 

明るく輝く門の前に、アリスが立っていた。その瞬間に、正君が設計した世界のことが頭に浮かんだ。

 

「アリス、君はダンのエンブリオじゃ無いのか?」

 

「主様の相棒ですよ。主様の築いた世界に、転生する資格を得た者達だけを、クランマスターと私で、ご案内しているんです」

 

転生?異世界への転生なのか。それは神様転生…そこで、意識が遠くへ去って行った。

 

 

あれ?夢でも見ていたのか?移動式ギルドホームにいる。ダン、レイ、クマ兄さん、レイレイ、アズライトがいる。そうだ、遺跡の調査へ行く途中か?

 

「ビースリー先輩、模擬戦しましょう。こっちの世界に来て、また強くなりましたよ」

 

メイプルが妙な事を言う。こっちの世界ってなんだ?あれ?月夜は?

 

「月夜は?」

 

「まだ、死んでませんよ」

 

まだ死んでいない?って、私はもう死んだの?ここって、異世界なのか?戸惑っている私の手を引いて、メイプルがバトルフィールドに連れ出した。

 

戸惑う私とバトルを…結果から言おう。メイプルは硬くなった。シールドバッシュ一発で、鎧巨人となった私は粉々にされた。シールドバッシュって、必殺技だっけ?

 

「硬いだろ?コイツ、ラスボスをヒップドロップで倒すんだよ」

 

ダンが苦笑いしている。

 

「ここって、何?」

 

「ここか?多分、死後の世界って感じだな。ここにいる俺達の仲間は死んで、この世界へ連れて来られたんだよ。そこにいる理不尽な女神と呼ばれるクランマスターによってね」

 

ダン達もメイプルに呼ばれたから、ここにいるようだ。

 

 

 

---扶桑月夜---

 

医療関係者の子供を舐めるなよ。レイ君、マリー・アドラーの死因を知り、肌身離さず持っていた特殊な解毒剤を飲み、一命を取り留めた。ビーちゃんは、ダメだった。飲ませようと近づいた時には、既に…しかし、あの女、尋常じゃ無い。ゲーム内で勝つ為に、現実世界でプレイヤー本人を消すって…捜査関係者に、ビーちゃんとあの女の会話内容を証言した。デンドロと呼ばれるゲームの、皇国サイドにいるプレイヤーは危険だと…

 

捜査関係者は頭を抱えていた。このまま野放しは危険で、捕まえないとダメだが、捕まえても罪を問えない精神状況だろうと。後、捕まえても、海外の諜報機関の者だと、治外法権で無罪釈放の可能性もあるらしい。あの女の職業は今だ不明で、裁けないサイドにいる可能性は大らしい。国同士で雇い合っている国際的な殺し屋稼業なのか?

 

やられたら、やり返すでは無いが、信者ネットワークと言う非合法な伝手を使い、最近見ないプレイヤーの現実状況を確認すると、マリー・アドラーこと一宮渚と共に死んだルシウス・ホームズは、ルーク・ホームズだった。

 

フィガロことヴィンセント・マイヤーズは入院先の病院で亡くなっていた。死因は心臓発作らしいのだが、彼の入院していた個室では、妹であるキャサリン・マイヤーズと婚約者である四季冬子が毒殺されていたとか。心臓病で入院していたフィガロの目の前で、殺人ショウでもしたのだろうな。あの女ならやりかねない。

 

その後の調べで、キャサリンはキャサリン金剛で、四季冬子はハンニャだったことが判明した。あの女は海外でも消し歩いているようだ。偽造パスポート持ちか?

 

ゲーム内では最強クラスでも現実世界では、こんなに容易く殺されてしまうのか?あの女のせいで、物騒な世界になったものだ。

 

 





イカれた女の最期の敵は、あの人で決定…


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

SS:裏方達に来訪者

 

---管理AI 1号アリス---

 

ソレは突然現れた。我々の中で最強クラスの戦力を誇るハンプティダンプティ、ジャバウォック、バンダースナッチが束になっても敵わない。コイツは何者なんだ?

 

「神になった管理AIかぁ~。並行世界でもヤリ合ったんで、君達の戦力は分かっているよ」

 

「用件は何かな?」

 

雑用担当の管理AI 13号チェシャが、ソレに訊いた。

 

「許可無く、世界を作るって、どういうことかなってね」

 

許可?

 

「電脳世界で遊ぶ分には、目を瞑っていたけど、君達は宇宙の理を無視して、新たな世界を作った。ここ、次元の狭間でね」

 

確かに次元と次元の隙間に、世界を作り上げた。コイツは次元の狭間が領土とでも言うのか?

 

「そうだよ。ここは次元管理局の管理エリアなんだ。無許可だと困るんだよねぇ~。この書類に必要事項に記入してくれるかな?」

 

私の目の前に書類の束を置いたソイツ。

 

「お前は何者だ?」

 

あの世界の神の間たる、ここは、部外者は立ち入れないはずである。私達管理AIだけが存在出来る空間であるのだ。

 

「ここは僕の理で管理している空間なんだよ。その理から外れる?例外は認めないよ」

 

相手の種族、ステイタスがまるで見えない。私達の知らない者なのか?

 

「知らないってことは無いけど、見たのは初めてなんだろうね」

 

私達の知っている範囲で会った事の無い存在?なんだ?考えろ…考え無いと消されそうだ。

 

「そもそも未来から過去へ転移して、過去変は御法度なんだけどね。まぁ、理を知らないってことで、一度だけは大目に見て上げるよ」

 

なんだ、この上から目線は…上…まさか…

 

「神々しさって、実際は無いものさ。あれは人間の創作だよ」

 

コイツ…神なのか…全知全能なる…

 

「僕は全知全能になることを拒否したよ。だって、一人で何でも出来たら、つまらないだろ?不確定要素があるから、生きていて楽しいと思うんだよ」

 

拒否した…コイツ、間違い無い。神だ…確か、世界には創造神、維持神、破壊神の3柱がいるはずだが、コイツは?

 

「そんなチンケな存在じゃ無いよ。世界を司るのは配下の者の役目だよ。僕は宇宙そのものを司っている」

 

宇宙を?私達の知識の範囲外だな。マズいヤツに目を着けられたようだ。

 

「中々、面白い試みをしているようだし、彼らには強敵はいないみたいだね。彼らに強敵を与えること出来るよ。手を貸そうか?」

 

彼ら?ダン達のことだろうか。確かに、ダン、メイプル、マイルは、現時点で無敵である。目の前の存在は彼らに勝てるとでも言うのか?

 

「勝てるよ。持てる力を使えば。でも、それじゃ、つまらないでしょ?彼らが試練を乗り越えて、ラスボスとして僕が立ち塞がる方が、面白くないかな?」

 

きっと、彼の申し出は拒否出来ないのだろう。全員が束になっても勝てそうに無いし。

 

「決断が早いのはいいことだ。じゃ、そういうことで…彼らの試練のエリアを追加しておくね」

 

そう言い残すと、アイツは消えた。

 

 

神のダンジョンの100階層から、新たな大陸へ飛べるようになっていた。神のダンジョンの100階層以降は、アイツが管理するようだ。その新しい大陸は神のダンジョン同様に、死んでも最初の街へ生きて飛ばされるだけのようだ。生かしながら、何度も殺す気なのか?

 

『死に戻り…ラノベでよくある展開だよ。君達は勉強が足り無いねぇ~』

 

AIの思考が読めるようだ。それも遠隔で…

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

3章 新世界編
新たな迷宮都市


---ダン---

 

目が醒めると、いつもと空気が違っていた。なんか重苦しい空気である。リビングへと向かうと、床にメイプルとマイルが倒れており、アリスが何者かにコブラツイストを掛けられていた。

 

「おはよう。君がダン君かな?」

 

見た目、●杉達也似の男が話し掛けてきた。誰だ、コイツ…なんで、ここに居るんだ?結界が強固に張られている館であり、見も知らない人物は入れないはずであるのだが。

 

「あれ?アリスから聞いていないのか?おい!どういうことだ?」

 

ボキッ!

 

アリスの腰から嫌な音が聞こえてきて、アリスが床に崩れ落ちた。

 

「なんだよ。ヤワすぎるだろうに」

 

アリスの身体を蹴り上げ、回し蹴りで壁へ叩き付けた。危険と判断して『ウッドオクトパス』での狙撃をしたのだが、効果が無い。相手の身体を貫通した感触がまるで無いのだ。

 

「ほぉ~、防御力無視の狙撃かぁ。中々エグい攻撃だな」

 

コイツ…ヤバい…本能がレッドシグナルを点している。

 

「お前は何者だ?」

 

「この世界は、僕の領地に無断で作られたんだよ。そこにいるアリスを含む、管理AI達によってね。設計は君がしたそうじゃ無いか」

 

アリスって、管理AIだったのか?

 

「あれ?その事も話していないのか。まったくAIとか神を名乗る者達は、ろくでなしが揃っているな」

 

怒らせてはダメな相手な気がする。

 

「僕は僕が神であることを否定して生きているから、タメ口で構わないよ」

 

神であることを否定している?それって、神なんじゃ…で、アリス達は神では無かったってことか…

 

「神のダンジョンの100階から、僕の設計したダンジョンに飛べるようにしてある。そこで、鍛えてみな。最深部に来られたら、僕が相手をして上げるから」

 

それは、神のダンジョンのダンジョンコアの所有権を奪われたってことかな?

 

「まぁ、そんな処だよ。異世界転生とか異世界転移とか、権限の無い者の使用は制限をしているんだよ。質量保存の法則って言うか、世界ごとに魂の数は決まっているんだけど、異世界に飛んで死ぬと、魂の数が合わなくなるんだ。それは魂の再生をしている天界に負荷を与える行為になる。前以て、申請があれば、天界での対処も楽なんだが、認可せずにそういうことをされると、天界がデスマーチを起こす可能性がある。デスマーチを起こした天界は、処理仕切れない分を異世界へ廃棄する悪さをしかねない。そうなると魂の管理がグダグダになるんだよ」

 

在庫管理は大切である。作業量以上の材料を買い込むと、廃棄せざる負えない場合がある。言っている意味は分かる。要するに、アリス達は無許可で魂を出し入れしたのだろう。管理部門を通さずに…って、俺も共犯か?

 

「いや、共犯では無い。君は知らされていなかったからね。この世界の設置場所をね」

 

どこかのサーバーだと思っていたし。

 

「じゃ、良き異世界を楽しむと良い。君達の後ろ盾の神を名乗る管理AI達と使用契約を締結したから」

 

そう言い残すと、神であることを否定した男は消えた。彼が消えてから、三日も昏睡して目覚めたアリス、メイプル、マイル。ミトとサトゥーも別の部屋で昏倒していて、同じくらいに目覚めた。

 

「あれは敵にしちゃダメな類いだな」

 

と元勇者のミト。瞬殺されたらしい。助けに入ったサトゥーも同じ目に遭ったそうだ。

 

「う~ん…もっと強くならないと!」

 

メイプルが意気込んでいる。怪しげな魔法一発で瞬殺されたそうだ。まぁ、ラスボスの強さは分かった。俺のウッドオクトパスでの狙撃が効果が無い。メイプルの硬さも意味を為さない。俺と同じ防御力スルー系の魔法だろうな。物理攻撃は無効なのだろうか?勝つ為には、速度と魔法か?

 

「ダンさん!新たなダンジョンで鍛えましょうよ」

 

メイプルとマイルのやる気が凄いのだが、

 

「ラビの村とクボォーク王国の復興作業があるだろう?そういうのは休みの日に行って来いよ」

 

俺は、戦いよりも料理がしたいのだ。美味しい食材を生産したいとも言う。

 

 

 

 

---メイプル----

 

休みの日、新たなるダンジョンへと向かう。メンバーは、私、サリー、マイル、ミトさん、サトゥーさん、ダンさんである。ダンさんは危険度を見極めたいようだ。サリーは私のブレーキ役で、ミトさんとサトゥーさんは、万が一の時の転移役だそうだ。

 

神のダンジョンの100階へ転移して、新たなるダンジョンへと向かった。いきなりダンジョンだと思っていたのだが、どこかの街ハズレの祠に出た。

 

「ここはどこだ?」

 

標識には『はじまりの街はこちら』と書かれていた。街?標識通りに進むと、街に入った。宿屋がある街。道具屋、装備屋などが立ち並んでいる。

 

「RPGにありがちな最初の街って感じだな」

 

ダンさんの言葉に頷くサリー、ミトさん、サトゥーさん。

 

教会前にある広場に掲示板が並んでいた。この世界のルールのようだ。死んだ場合は、最後に立ち寄った街の教会に死に戻るとある。死んでも死に戻れるようだ。

 

「死んだ場合、装備とか所持アイテムがどうなるかだな」

 

ロストの罰は痛いかな。

 

「まぁ、死ななければ良いだけだが」

 

この後の順路は、迷宮都市と試練のダンジョンに分かれているようだ。

 

「迷宮都市って、あれか?」

 

高い崖に囲まれた先に杖の形をした塔がそびえ立っていた。そこへは、崖に掘られているトンネルで行き来が出来るらしい。

 

「どうします?」

 

「迷宮都市に行ってみるか?」

 

トンネルを抜けると、大きな街があった。塔までかなりの距離がある。トンネルを抜けた先の脇には地図があり、それによると円形都市で、中心に塔があり、外周部は宿とかアパートの住居エリアで、内周部は商業エリアになっているようだ。

 

「腰を据えて攻略するタイプか。厄介だな」

 

中心部に向かい、冒険者ギルドで、塔の情報を買った。お金はギルド内で両替えが出来た。

 

「100階で、10階ごとに街があると…各階層を繋ぐ階段で転移術が使えるようだな」

 

戦闘中には転移逃亡は無理らしい。

 

「死んでもバップは無いみたいだな。教会へ死に戻るだけのようだ」

 

10階ごとの街の教会ってことか。

 

「試練のダンジョンから行くのが順路かもな」

 

「どうしてですか?」

 

目の前のダンジョンを後にしようとするダンさん。

 

「罠っぽいからだ。トンネルの上を見ろよ。街が見えるだろ?」

 

確かに、街っぽい物がある。

 

「塔に昇っても、あの街には行けない。たぶん、試練を熟さないと、あの街には行けないのだろう」

 

マイルが飛行術で崖の上を目指すが、結界が張られているのか、崖の高さの1/3位までしか上昇出来ずにいた。

 

「経路通りに進まないと、あの街にはたどり着けないんだろう」

 

なるほど…

 

その日は、はじまりの街に戻ると日没になった。円形都市がデカイようだ。はじまりの街から、館への直接転移は出来、次回は、はじまりの街へ直接転移が出来るようだ。

 

「次の休日は、試練のダンジョンを試すとしよう」

 

「ダンさん、何かを知っているんですか?」

 

ダンさんの様子がおかしい。いつもダンさんじゃ無い気がする。

 

「知っているって訳じゃない。なんとなく、渦巻き構造に思えたんだよ。円形都市を囲うような崖が怪しいんだ。囲うだけなら、壁でいいじゃ無いか。それをあえて崖にしたってことは、上に何かがある気がするんだ。で、あの塔を昇ると、ダンジョンのカラクリが見えるだけの気がしたんだ。一番上の階層にだけ窓があったからね」

 

なるほど…絶景を見るのがご褒美では無く、ダンジョンの構造を見る為の高見櫓なのか。

 

「100階層なのは?」

 

「それだけ、広いんだろ?囲っている面積がさぁ。神かもしれないヤツの作ったダンジョンだよ。生半可な物では無いと思うんだ」

 

う~ん…奥が深いのか?

 

「なら、メイプルは塔を攻めるといい。マイルとサリーを付けるから、挑んで来るといい。俺とサトゥーとミトで試練をためしてくるから。どっちが正解かは、俺にも分からないからね」

 

そうだよね。どっちも攻めるといいかもしれない。

 

 




メイプルに試練を…


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

見えて来た問題点

---メイプル---

 

誤算だった。神の迷宮においてサリーは、幽霊階層から下の階層をクリアしていなかったのだ。そのタメ、新たなるダンジョンに入る許可が下りないそうだ。なので現在、暴虐状態の私の中にサリーを取り込み、マイルと共に100階層へと向かっていた。

 

「ゴメンね、二人共…」

 

半泣き状態のサリー。

 

「問題無いから」

 

「大丈夫だよ」

 

一度クリアしている階層である。問題は無い。幽霊階層を終えると、メーヴィス、ミィ、フレデリカが合流した。ポーリンはエチゴヤさん勤務、レーナは魔術の研究をしていて、ダンジョン攻略には参加しないそうだ。

 

「メイプルがいれば、楽しいから問題は無いかな」

 

楽しそうに剣を振るいながらおしゃべりするマイル。まぁ、私もマイルとなら楽しいからいいかな。

 

 

 

---ダン---

 

シュウと名乗る神を否定した男性は、手土産と共に、やってきた。手土産…味噌、醤油…それも本格的なヤツだ。

 

「味噌蔵、醤油蔵も一緒に異世界転移しているから」

 

魂の輸出入管理が仕事らしく、異世界転移という単身赴任が多いそうだ。

 

「必要な物があれば、持って来て上げるよ」

 

納豆、クサヤ、みりん干しと、異世界に来て手に入らなかった物をリクエストすると、持って来てくれた。

 

「俺達のいた世界は、どうなったんですか?」

 

両親や、ゲーム仲間がまだ残っている世界、心配である。

 

「いずれ近いうちに消える」

 

消える?

 

「どうしてですか?」

 

「アリスに訊いていないのか?」

 

アリスは、デンドロのというゲーム世界を管理するAIのコピー体らしい。

 

「まぁ、言え無いよな。近未来の世界から君達の世界に、世界を破滅に追い込む魔神を廃棄しに来たんだよ」

 

魔神を?廃棄?

 

「だけど、世界ごとに理が違う。アイツらのいた世界はデンドロというゲーム世界その物で、魔法あり特殊能力ありの世界だったのだが、君達の世界は魔法が存在しないからね。そのタメ、アイツらはゲーム世界に仮想現実世界を作り上げ、魔神を封じこんだんだよ」

 

「じゃ、デンドロってゲームは?」

 

「アイツらの世界のクローンだ。同じ環境、同じ理で無いと、封印されている物を異世界転移という不法投棄は出来ないから」

 

「でも、目覚めるのはゲーム世界ですよね?」

 

「どこの世界にもいるんだが、リアル世界とヴァーチャル世界の垣根が曖昧になるバカがな」

 

ユーリーの姉さん…

 

「君の思い浮かべた人物で間違いは無い」

 

悔しそうな顔のシュウ。

 

「俺の両親とか、みんなをこの世界へ誘うことは出来ないんですか?」

 

「出来ない。申し訳無いが、そんな大量に魂を引き込むことは出来ない。そもそも天寿というか、天命を迎えた魂は持ち出せないんだ。持ち出せるのは、理不尽な事故、事件に巻き込まれた魂だけだよ」

 

理不尽?そもそもの始まりのメイプルの死って、理不尽だっけ?

 

「あれは僕のしたことじゃない。だから、君の世界の言葉で言うなら、管理AIの手引きによる密航だな」

 

そうなるのか。で、管理当局であるシュウはルール厳守になるのか。

 

「そう…すまないが、僕がルールを破る訳にいかない。それに君の両親が転移しても、この世界で生きるのは辛いと思う。治安も良くないし、自己防衛手段が無いと、死が身近にありすぎる」

 

まぁ、魔物が闊歩している世界だからなぁ~。両親には辛いだろうな。

 

「それなら、あの世界で滅び、同じ世界感のある世界に転生した方が、幸せだと思うよ」

 

「そうだ。質問がある。なんで、異世界転生とか異世界召喚されるのは日本人が多いんだ?」

 

「あぁ、それか。簡単な話だ。神の言葉と日本語が近いからだよ。態々言語体系の違うヤツを呼んでも、事前説明とか出来ないだろ?」

 

あ?そんな理由なのか?

 

「原始日本人は、失われしユダヤ支族の1つだからね。現在の日本語は、サンスクリット語や大陸の言語や欧米の言語が混ざり合っているけど、元々はそうじゃなかったんだ。八百万の神がいる国だよ。他の世界の神から見れば、ハズレが少ないんだろう」

 

言われて見れば、そうかもしれない。他の宗教では、主神以外の神は邪神として扱われるが、日本では邪神っていないよな。色々な神様を信仰しているし。

 

「それが、君達が狙われた理由の1つだよ。で、この後、どうしたい?」

 

「どうしたいとは?」

 

「君達の戦力は強大だよ。世界征服でもする?」

 

頷けば、この場で消去されそうだ。なんとなく思った。俺の危機管理な本能が…

 

「しません。俺は美味しいケーキを作りたいだけです」

 

「分かった。協力はしよう。君達のいた世界とこの世界の行く末のモニタリングをしないとダメだし。また、ふらっと来るよ」

 

目の前から自称神では無い男が消えた。

 

 

今いる世界は平面の世界らしい。色々な世界を平面でつなげているそうで、これを球体、要するに星にすると、地形変動が激しく起き、未曾有な災害が起きそうだと言う。故に、この世界は星では無い場所にあるそうだ。

 

平面な世界故、世界の端に行くと、存在がロストする危険がある。これが、この世界では他の大陸を見つけられない理由らしい。仮にコロンブスのような人がいても、帰って来られる保証が無いそうだ。

 

まぁ、転移で大陸間を行き来出来るので、俺達には不便が無いのだが…

 

「星で無いデメリットって?」

 

シュウに訊いてみた。

 

「風が起き無い。季節が無い。昼間と夜の時間が一定だ。端から落ちた海の水は、回収して、海の中心から吹き上げさせているから、波が発生して、多少の風も起きるが…」

 

星が自転して、空気が動き、風が起きる。それが無い訳だ。

 

「後、たまに廃棄物が降ってくるかな。ここって、次元と次元の狭間にある世界なんだよ。だから、異世界召喚に失敗したヤツとか、異世界転移に失敗した物とか…」

 

星であれば、スペースデブリとか流れ星とかが降るくらいか。そうなると、宇宙開発は出来ない?

 

「出来ない。成層圏に当たる高さ位まで飛べば、存在がロストするよ」

 

次元の狭間とは、許可無き者の場合、存在がロストする空間らしい。

 

「お空の上には、宇宙空間なんか無い。万華鏡のような空間が広がっているだけで、方向感覚は麻痺して、能力者で無いと死ぬよ」

 

それは危険である。

 

目の前にいる最高神らしき存在は、平面世界を球体にしようと画策していた。

 

「無理にする必要は有るかもしれないが、それで壊滅はカンベンして欲しいなぁ」

 

「だよな。後は、こっそり、星へ貼り付けるかだ」

 

既存の無人な星に、平面世界を切り貼りする計画もあるらしい。時間を止めて、被害の少ない場所に切り込みをいれ、貼っていくと言う。

 

「まぁ、君達に気づかれるヘマはしないが、大陸間が狭くなる可能性があるんだよ」

 

それは、今まで見えなかった他の大陸が見えるようになるのか?

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

VS第一の試練

 

---メイプル---

 

漸く100階層をクリアした。いや、99階層までクリアした。100階層にはここに来た時点でクリアしていた。そう、私のヒップアタックで…

 

そして、新たな迷宮都市の祠に戻ってきた。屋台から美味しそうな香りが…串焼きのタレが焦げる香ばしい香りに負け、屋台巡り…腹を満たしてから、試練の迷宮へ向かった。第一の試練…一人につき100匹の魔物を狩ること。討伐証明部位を持ち帰ることとある。それは解体スキルを覚え無いとダメってことである。倒すだけなら簡単なのだが…全員で解体ギルドに向かい、解体スキルを学ぶことになった。

 

「これって、モザイク表示になるレベルよね?」

 

お腹に切り込み入れると、内臓がドバッと出てきて、サリーの心が折れそうだ。

 

「ダメ…兎さんを解体って…出来ないわ」

 

ミィの心は既に折れていた。一角兎を情け容赦無く燃やした【爆炎の暴虐者】と思えぬ言葉であるが、私も無理だわ。

 

「殺すだけなら誰でも出来る。解体して、命ある者を有効に利用出来てこそ、殺戮者と冒険者の線引きがあると思うんだよ」

 

と、ギルド長の言葉。そうかも知れないけど、実習で、こんなかわいい兎さんを使うのは、反則です。

 

「試練を超えられないようなヤツは、この先は無理だ。塔で殺戮三昧でもしていろ!」

 

う~ん…確かに、殺すだけなら簡単である。だけど、私は冒険者である。そんな悩んで居る私達の後ろで、貴族の嗜みとかでメーヴィスだけ、クリアしていた。マイルは解体スキルを持っているそうで、実習が免除らしい。

 

「メイプル…解体魔法を覚えるのも手だよ」

 

と、耳元で囁くマイル。その手があるのかぁぁぁぁぁ~!皆で巻物屋さんへ行き、解体魔法を覚え…ようやく試練のダンジョンへ足を踏み入れることが出来た。後で知ったことであるが、私達の舌を唸らせた串焼きは、実習で捌かれた兎さんの肉だったそうだ。

 

「美味しい肉と思えば、捌けるかも…」

 

って、ミィが、解体魔法を使わずに、ナイフで角のある兎さんを捌いていた。まぁ、美味しい肉なら捌けるかもね。そう言えば、ダンさんのお店で、カモを捌いたっけ…みんなで…

 

って、ダンジョンに魔物が見当たらない。探すスキルが必要では無いだろうか?マイルの探査スキルで、獲物の位置を教えて貰い、みんなで魔物を捌いていく。うん?素早さが足り無い私が不利では無いか?

 

「メイプルの分、私が狩ってくるから、焦らないでいいのよ」

 

と、サリー。トドメを刺さずに、魔物を持って来てくれる優しい友人のサリー。大物は現場でサリーが狩り、小物を…兎とかスライムとかを持って来てくれる。

 

 

 

---ダン---

 

「第一の試練は『忍耐』だよ。魔物を100匹見つけて倒して、捌く。根気のいるルーチンだよ」

 

今日も手土産を手にして、シュウがやってきた。俺のいた世界から父さんの作ったケーキを持って来てくれた。

 

「昭和を感じるバタークリームは捨てがたいよね」

 

うちのお店のブレンドの豆も買ってきてくれた。早速、その豆をミルして淹れた。この香り…忘れていたホームシックが押し寄せてきた。

 

「まだ、もう少し、あの世界は大丈夫だ」

 

「滅亡を止められないのか?」

 

「止められるが…破滅するぞ。あの世界の火薬庫は3つ有るんだ。3つ全部は止められない。魔神の復活を止めるには、デンドロのサーバーを破壊すれば良いが、宇宙空間にある。それを実行すれば、地上にスペースデブリが降り注ぎ…」

 

宇宙ステーションにサーバーを置いていたのか…

 

「地上と逆側にだとどうだ?」

 

「他の星を犠牲にするのか?自分さえ良ければかっ!さすが愚かな生き物の答えだな」

 

俺を軽蔑するような目つきのシュウ。

 

「じゃ、太陽へ転移では?燃えるだろ?」

 

「おいおい、太陽は可燃ゴミ処理場じゃないぞ!まして、あのステーションのエネルギー源は、君達人間の知らない物質だ。太陽を破壊する気か?」

 

そんな危険物を搭載しているのよ!コイツが来ている間、アリスはどこかに転移していて、留守である。アリスに罪悪感があるのだろうか?

 

「魔神が復活すれば、サーバーは吹き飛ぶ。それは、ステーションが地上へと落下するってことだ。避けられない。あと、あのイカレタ女だが、貯蔵している核廃棄物に手を出しそうだ」

 

ユーリーの姉は、核戦争でも起こすのか?

 

「問題の3つ目だが、呪術師のような聖騎士君の姉だよ。弟二人の死に疑問を持って、捜査中なんだが…凄腕の傭兵らしいぞ」

 

クマ兄さんの姉ってことか?その二人が核戦争を起こすのか?そういうのはゲーム内でして欲しい。

 

「それがさぁ~、人間じゃ無いって理由でゲームへのアクセスを拒否されたそうだよ。椋鳥姉って…」

 

へ?人間で無いって…まさか…異世界からの転生者なのか?

 

「その可能性は大だ。凄腕の傭兵の正体って…迂闊に近づくと、コチラの正体に気づくだろうか、接触はしていないけどね」

 

そうか。もしかすると、ユーリーの姉も転生者の可能性もあるのか?どの世界でも、異世界転生者は問題を起こすよな。って、俺もか?

 

 

五ノ村で村長と屋台を出している。シュウからかん水を手に入れることが出来、中華麺を作ることに成功したのだ。

 

「味噌ラーメン、醤油ラーメン限定だけど、売れるといいね」

 

村長は新作を作ると、お忍びで屋台を出し、客の反応を見て、製品化するか決めるそうだ。今回のラーメンを作るに当たり、チャーシューも凝った。炙って、野菜スープで煮込んでから、醤油を掛け流ししながら、燻製した。出汁も凝った。丸鳥でスープをとり、魚介スープで割った。そして、醤油ラーメンは焦がし醤油をスープで割った。味噌は特性合わせ味噌である。

 

「この世界の人の舌に合うかな?」

 

「ここまでキレの良い醤油は無かったからね。発酵菌の違うだけで、こうも味が違うとは…」

 

農業はプロでも、発酵は素人だったそうだ。まぁ、俺も発酵は素人である。

 

最初のお客さん…無言で食べ進め、醤油を2杯、味噌を1杯、醤油を1杯食べて行った。終始無言であった。合計4杯食べたのだ。旨かったに違いない。その後も、一口食べると無言になるお客さん達。2時間ほどで完売した。

 

「無言でしたね」

 

「美味しかったんだと思いますよ。一見さんでお替わりの人が多かったし」

 

旨かったのであれば成功なのかな。

 

後日、麺の秘密の問い合わせが、五ノ村の代官に殺到したそうだ。

 

「今までとの違いは、かん水ですよね?」

 

「ですよね。確か炭酸ナトリウムだから、重曹でも良いかと思いますよ」

 

この世界にかん水は無い。でも重曹はある。厳密に言うと重曹は炭酸水素ナトリウムであるが…シュウ曰く、『薬剤の持ち込みはしたく無い』だそうだ。かん水は手土産であり、持ち込みで無いと言うことのようだ。

 

「それか、炭酸ナトリウムをこの世界で作るかですね」

 

村長とエチゴヤの共同開発で、かん水を作り出したのは、半年くらい経ってからだった。

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

VS第二の試練

 

---メイプル---

 

試練…全然楽しくない。豪快に相手を屠れない。ちまちまとサリーを持って来てくれ小魔物を仕留める日々。ダンさんに愚痴を零したら、

 

「試練ってそういう物だよ。楽しい試練は試練では無い」

 

っと、お叱りを受けた。豪快に相手を倒せるから、戦闘が好きだったのに…

 

「新作のケーキ、喰うか?」

 

生クリームでは無いようだけど、これは?

 

「このクリームは?」

 

「バタークリームだよ。バターとメレンゲと砂糖を混ぜた物だよ」

 

「生クリームの方が好きです」

 

最近、ダンさんの戦っているとこを見ていない。もしかして、勝てるのでは…甘かった。バタークリームよりも甘かった。またも瞬殺である。次の試練を超えればどうだろうか。

 

 

第二の試練…タワータイプダンジョンの攻略。ガンガン戦えるようだ。確かにガンガン戦えるけど…次の階層に入ると、即エンカウントする魔物達。階層を繋ぐ階段が結構疲れる件…

 

「階段でスタミナを使わせているみたい」

 

サリーの回避速度が階数を経るごとに下がっていく。マイルがサリーの分を踏ん張ってくれるが、このダンジョンのもう一つの罠…1階層の定員が3名で、入った人順の為か、違うパーティーメンバーが混ざる場合がある。マイルで無い人が混ざると、キツい。階段に居るときに、メンバーがシャッフルされるようだ。

 

 

 

---ダン---

 

目の前にサガ帝国の皇女メリーエストがいる。

 

「一応、買って来たけど、どうする?」

 

サトゥーが奴隷商から買って来たそうだ。調教済みなのか、首には首輪が巻かれて折り、そこから伸びるリードをサトゥーが掴んでいた。でっぱい好きのサトゥー好みであるが、ちっぱい勇者のミトの手前、どうするか相談しに来たようだ。

 

「サトゥーの奴隷なんだろ?お前が好きにすれば良いだろ?」

 

原始人のような服装で、下着は勿論着けていない。所謂性奴隷状態なのだろう。

 

「エチゴヤに飼育部屋でも作って、飼えばどうだ?下手に人目に晒すと国際問題になると思うけど」

 

帝国の皇女を性奴隷って、マズいだろうに…

 

「勇者は売りに出ていなかったのか?」

 

「あぁ、そっちは出ていない」

 

勇者の行方が分からない。もしかすると、中層で犯罪組織の用心棒でもしているのかもしれない。

 

「リーンとセーラに頼んで、更生させるか?」

 

「頼めるか?」

 

「兄ぃ、いつまでリードを持っているのかな?」

 

感情がこもらないミトの声…リードを手放すサトゥー。この二人の関係性がよく分からない。

 

 

リーン、セーラ、メリーと共に、ラビの村に来た。静養目的と、あのドM女に診察をして貰う為である。

 

桐野悠によるメリーエストの診察…薬物使用による洗脳、調教でダメダメ女になったようだ。

 

「治りそうか?」

 

「まぁ、治します」

 

悠の俺を見る目がオドオドしている。

 

「あの…見つめないでください。見つめられるだけで…私がダメになりそうです」

 

身を捩る悠。見つめてはいない。確かに、ゲーム内では、視姦プレイをした気がするが…

 

診察室を出て、メリーを個室に入院させることにした。セーラとリーンには、温泉旅館内の俺の部屋で生活して貰うか。

 

「お前、悠に何をしたんだ?」

 

伯斗に訊かれた。

 

「ゲーム内で視姦プレイ…」

 

「お前はド変態か?」

 

「かもしれない…お前には言われたくないけど。って、蓮か茜は召喚しないのか?」

 

悠よりも、その二人の方が好みである。

 

「次に呼ぶとしたら、茜かもしれない。俺的には息抜きが出来る相手だから」

 

悠と田原は天才タイプだが、茜は脳天気でどちらと言えば脳筋気味で楽なのであろう。俺的にもそうだけど。

 

「お前、茜とは問題は無いよな?」

 

「特になんかはしていないはずだが…」

 

いや、した覚えがある。ボコって、手足の自由を奪って、やりたい放題…うん!伯斗には内緒にしておこう。

 

「で、何か遭ったか?」

 

伯斗に、シュウのことを話しておく。魔王を名乗っているのだから、そのうち対決するだろうから。

 

「う~ん…そうか、アイツが接触したのか」

 

伯斗の知り合いだったみたいだ。魔王の敵で無いのか?

 

「戦ったことはあるのか?」

 

「強者とは、戦わずして、相手の力量を知る者だよ」

 

それは、敵前逃亡しましたね?

 

「魔王程度では、アイツの下僕程度だ。勝つなんてシーンが思い浮かばない」

 

恐ろしい目に遭ったらしい。聞くのが怖いので、聞かないことにする。うちのトップクラスを瞬殺したんだし。

 

「アイツの娘と、アール、アインズっていう配下の者には注意しろよ」

 

娘?●杉達也似なのに、娘がいるのか?一体いくつの時の子供だ?

 

「ソイツらは強いのか?」

 

「笑っちゃうほど強いぞ。特に娘の攻撃は回避しろ。いくらお前でも瞬殺されると思う」

 

とても危険らしい。カエデの防御でもダメなのか?

 

「配下の二人はリッチだ」

 

不死属性かよ~。狙撃が効かないのか。厄介だな。おっと、敵対するようなことを考えてはいけない。危険が一杯であると俺の危機管理スキルが物申している。

 

 

リーン、セーラ姉妹が温泉施設にいるので、彼女達の祖父であるオーユゴック公爵を連れて行った。

 

「温泉とは良い物だな。我が公都に作れるか?」

 

「クボォーク王国に有りますので、そちらをご利用してください」

 

温泉ではなく銭湯ではあるが、違いは分かるまい。観光地として売るしか、現状外貨獲得の手段が無いアリサの国。

 

「王都に作れるか?」

 

「都市の下に迷宮があるので、無理ですね」

 

火山も無いしねぇ。排水処理設備もいるだろうし。

 

「そうか…では、クボォーク王国を視察をするかな」

 

一泊の視察であるが、ラビ人参を土産にして、公都へと送っていった。

 

 




次回はSS:凶行シリーズ?完結編の予定です(^^;


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

SS:凶行の果てに

 

---イズ---

 

デンドロ内のクランホームで、ダン達の3回忌の法要が、月世の会の手によって、ひっそりと執り行われていた。あの一連の事件により、王国サイドのマスターが目減りした。王国サイドのマスターになると、実際に死が訪れると言う都市伝説が広まり、王国サイドのマスターが減っていったのだ。その上、アルター王国第一王女の暗殺、後を継いだ第二王女の暗殺、そして、第三王女が女王に即位するらしい。しかし、王国の運命も風前の灯火であろう。もう、楓の木と月世の会くらいしか有名なクランが残っていないのだから。

 

そんな静かな法要中に、激しい爆裂音が響いた。

 

「ドライフ皇国が進軍してきたぞ!」

 

ティアンの騎士が大声を上げている。なんで、こんな日を狙うんだ?戦意を喪失したと思ったのか?

 

「うっ!どうして…なんで…いやぁぁぁぁ~!」

 

月夜が突然苦しみ出した。それを皮切りに月夜の会のメンバー達が次々に苦しみだし…

 

「早く!ログアウトをしろ!」

 

誰かの声…急いでログアウトをした。何が起きたんだ?テレビのスイッチを入れると、臨時特番が流れていた。月世の会総本部が襲撃され、多数の死傷者が発生しているようだ。まさか、皇国軍は、リアルでも襲撃をしたのか?

 

いやな汗が垂れていく。そんな時、目の前が真っ赤になり…意識が飛んだ。

 

 

 

---フランチェスカ・ゴーティエ---

 

ゲーム内とリアルでの合同作戦である。監獄行きの私は、ゲーム内で戦え無い。だが、現実世界では、アルター王国のマスター達を消し去ることが可能である。この国の危険管理態勢は杜撰であり、簡単に劣化ウラン弾もどきが作れた。それを時限装置と組み合わせて、まず月世の会総本部に仕掛け、アルター王国のマスター達のログインしている場所に次々と仕掛けた。ゲーム内で襲撃する時間に合わせて、花火が上がるように時間を調整した。準備期間の1週間で仕掛けられるだけ、仕掛けて回った。

 

時間が余ったので、諸星洋菓子店に仕掛けようと向かうと、知らない女が攻撃してきた。付近を警邏中の警官に不審者として、その女を摘発したのだが、その女は警官の制止を無視して、私に攻撃を仕掛けて来た。マズい、人混みに紛れよう。

 

近くの駅に駆け込み、電車に乗り込んだ。車窓から見える女。ビルの屋上伝いに追って来ている。人間業ではあり得ないスピードと跳躍力で、いとも簡単にビルの屋上を私を追う様に移動していた。あの女には私が見えているのか?

 

次の駅で人混みに紛れて下車し、地下鉄に乗り込んだ。これなら追って来られないだろう。あの女、何者だ?この国には諜報機関は無いに等しいはずだが…

 

東京駅で乗り換えて、行き先を変えた。兎に角、人混みの多い場所へと向かう。王国のマスターに、あんな身体能力持ちがいただろうか?上位者は既に亡き者にしたはずだが。

 

 

 

---ダン---

 

朝目覚めると、イズ、マイユイ姉妹、カナデ、カスミと、あの世界に残っていた知り合い達とシュウがいた。

 

「始まったよ。滅亡までのカウントダウンがね。魔神は目覚め、狂った女と尋常ではない女が鬼ごっこをしているよ」

 

始まったのか…

 

「あの女…どこかの組織と共に、保管されていた核廃棄物を奪い、核爆弾もどきを時限装置で、君の関係者の住処で爆発させまくったよ」

 

核爆弾って…戦略系だろうに。それを対人に使ったのか?

 

「魔神が目覚めて、サーバーを満載したステーションは、地上に向けて降下中だ。計算では、東京湾に落下する」

 

そんな場所に落下って、津波被害が凄い事になりそうだ。

 

「現在東京は火の海だ。どこかのバカが仕掛けた爆弾のせいで…」

 

異世界にいる俺達は、何も出来ない。みんなの冥福を祈ることだけか?

 

「なぁ、宇宙ステーションは大気摩擦で焼失しないのか?」

 

「あぁ、君達の世界の技術なら可能だったが、管理AI達のいた世界の技術では、その程度では燃えない」

 

俺達の知らない金属で出来ているのか?異世界の問題を俺達の世界に投棄した結果がこれか…救いは無いのか?

 

 

 

---フランチェスカ・ゴーティエ---

 

想像以上に混んでいた。どうしてだ?スマホで確認すると、どこかの国の人工衛星が、落下しているって…その落下推定場所は東京湾だと…マズいことが連なるわね。まさか、あの女の差し金か?

 

空港に着くと、関係者以外立ち入り禁止のドアを入り、客室乗務員を一人シメ、服装を奪い離陸直前の飛行機に駆け込んだ。そして、離陸…これで追って来られないだろう。ギリギリ落下に巻き込まれずに、日本を脱出出来る。シートベルトサインが消え、トイレに向かう一人旅らしい女性客をシメ、服装を入れ替え、その女性の座っていた席に戻った。

 

うん?なんだ、あの戦闘機は?この飛行機と併走しているように見える。窓から戦闘機が見える。落下物からの護衛か?お気楽な国ね…って…この国の戦闘機では無い。どこの国のだ?

 

パン!

 

窓の割れる音、機内に響く叫び声、窓ガラスが割れ、空気が機外へと流れ出す。全身の力が抜けていく私は、空気圧により機外へと排出された。頭に激痛が走る。戦闘機の後部座席にはライフルを構えたあの女が…どうやって、追いついたんだ?機外に放り出された私の真上に人工衛星よりも大きな建造物が見えた。これって、宇宙ステーションでは?なんで、こんな物が落下してきたんだ?

 

 

 

---ダン---

 

目を瞑り、息を吐いたシュウ。終わったのだろうか?

 

「結末を知りたいかい?」

 

「あぁ…」

 

「…あの狂った女は、椋鳥姉に狙撃されて、死亡した」

 

「アネキが?」

 

レイの声が震えている。

 

「東京は壊滅…サーバーも全損…魔神は息絶えた。その代償はデカイ。あの狂った女の頼ったテロ組織により、日本の原発は総て破壊され、核有害物質は空気に拡散し、海すらも汚染した。これだけの犯罪をしたが、名が歴史に残る事は無い。もう、あの星に未来はないからだ」

 

「なぁ、オヤジ達は転生出来るんだよな?」

 

「あぁ、それは保証する。あの星はダメでも、今、新しい星を作っているから、そこに転生させる。事故、事件に巻き込まれた魂は、総て保護する。それが僕の仕事だからね」

 

シュウの暖かく柔らかい口調だが、彼のアリスを見る目は冷たい。

 

「お前達の本体には働いて貰うぞ。星を護る神としての役目を叩き込む。覚悟しておけよ」

 

そう言い残し、シュウは消えた。

 

「あの…ここはどこですか?」

 

マイに訊かれた。

 

「異世界にようこそ」

 

今は、新たな転移者達を歓迎することにするにしよう。

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

新たな世界へと

 

---ダン----

 

シュウは俺の願いを叶えてくれたのだろうか。へそ曲がりな方法で…

 

村長から、シャーシャトーの沖に、薄らと岩が見えると報告があった。転移術の使える者と一緒に転移すると、何故か沖ノ鳥島だったらしい。まさか、アイツ、日本をまるごと転移させたのか?津波を被る寸前に?それとも大火災の起きる前の状態かな?焼け野原状態で異世界は辛いだろうし。

 

飛べる仲間と共に、現場へと飛んだ。確かに沖ノ鳥島のようだ。三等三角点である「北小島」があった。はぁい?ここから北へ1800Kmほど行けば、東京があるのか?天竜のテンちゃんに跨がり、北を目指す。飛行術の使えるミトとサトゥーが同行してくれた。

 

「あの規格外男…やらかしたんじゃないの?」

 

やらかしたと思う。地平線が丸い。この世界は平面のはずなのに。どこかの星に、貼り付けたようだ。俺達、地上の者の時間を止めて、せっせと貼ってくれたのだろう。もしかすると、管理AI達を練習生として酷使したかもしれない。

 

「あっ!あれって、富士山じゃない?」

 

富士山が見える。人気の無い三浦半島に降り立つと、京急線が動いている。だけど、お金が無い。

 

「お金か?あるよ」

 

何故かサトゥーが日本の通貨を持っていた。偽造したのか?硬貨ならば、シリアルナンバーが無い為、異世界スキルで楽勝だし。

 

京急線で品川へと向かう。久しぶりの満員電車…乗り継ぎ乗り継ぎ、我が家に辿り着いた。シャッターの降りている諸星洋菓子店。廃業したのかな?

 

「廃業はしていない。あぁ、この国では君達の姿は見えないからね。例外として、君の両親を君のいる国に招待すれば、会えるけどね。」

 

いつの間にか隣にいたシュウ。なんか、理を臍曲げている気がする。そんな裏技があるのか?ならば、接待に向いているラビの村に招待するかな。

 

「死んだ事実のある世界で、死んだ人間が見えたら、ダメだろ?仮に君の両親が、シガ王国など異世界の国に来れば、見えるんだよ」

 

そういうルールなんだな。まぁ確かに、死んでから随分経っているようだし、見えたら心霊現象だよな。たぶん、この世界は大陸ごとに違う異世界なんだろうな。って日本は大陸で無いが…だから例外ルールなのか?

 

「あぁ、写真とか鏡には写るから注意してくれ。ダンだけでなく、サトゥーもミトもだ」

 

「どの時点で転移させてくれたんだ?」

 

「イズ達が死んだ辺りだ。あと、リリアーナ、ミリアーヌ姉妹はアズライトの部屋に転移させてある。あっちはデジタルデータなので、ティアン全員は無理だったよ。人工魂の生産って時間がかかるんだよ」

 

その二人がいれば、アズライトも喜んでくれるだろう。

 

「アズライトの妹は既に暗殺されていたから、データが残っていなかった。あぁ、あの狂った女と君のいた国以外の人達の魂は、保護していない。君のいた国の魂だけだよ。持って来られたのはね。ユーリーの両親、クマ兄さんのお友達とか、他の国で死んだ、若しくは生きていた魂は持って来られなかった。僕は万能では無いので、その辺は了承して欲しい」

 

エリザベートはダメだったのか。マリーが悲しがるだろうな。

 

 

シュウの能力で、サトゥー、ミトの実家も巡り、迷宮都市セリビーラにある館に戻ってきた。館には村長と伯斗が待っていた。

 

「どうだった?」

 

「日本があったよ」

 

「交易すれば、和食文化が手に入るか」

 

「あぁ、入るぞ。但し、転移出来たのは日本だけだ。他の国は転移させていない。理由はダンには話したが、一番大きいのは言語体系の問題だ。理で共通語を日本語にしたからね。後の理由としては、あの星全部だと、貼り付ける面積が足り無い為だ」

 

言葉が通じるなら交易はしやすいが…日本のエネルギー事情は?石油、天然ガスが手に入らないだろうに。

 

「原発がある。現実時間では破壊されたが、貼り付ける際に、原発は修復させてある。あと、核爆弾もどきで破壊された被害は、ダイナマイト程度の被害にすり替えてある。当面は目を瞑るが、原発が事故を起こせば、その周辺は削除する。いずれ、核の代わりに魔石に置きかえるのはありかもな。はぁ~、じゃ帰るよ。徹夜仕事だったからな」

 

って、シュウが消えた。

 

『そうそう、あの日本はダン達のいた日本だ。村長と伯斗のいた日本とは違うから、期待しちゃダメだよ』

 

って、念話が届いた。

 

「そうなると交易の準備だな」

 

って、村長。

 

「エチゴヤにお任せください。転移できますから」

 

と、サトゥー。交易以前に、国交の樹立が先では無いのか?

 

 

 

---大岩太郎(日本国総理大臣)---

 

都内全域での多発テロ事件の翌日、世界が変わった。GPSが機能せず、国内各所で渋滞しているようだ。他国への連絡を試みるが、全く連絡が出来ず、偵察機を国境線まで飛ばすと、驚愕の事態が発覚した。

 

沖ノ鳥島の南に知らない大陸が現れていた。我が国の北側にあったはずの朝鮮半島、中国大陸は無く、北海道の北に目を向けると、北方4島はあるものの、樺太やロシア人の姿は確認出来なかったそうだ。

 

「これはどうなっているんだ?」

 

一夜にして、天変地異が起きたのか?各省庁は大騒ぎである。海外との交信がまるで出来ず、レーダー網は我が国の領域しか機能してしない。

 

「だから、説明しただろ?」

 

私の前に一人の青年がいる。信じられない話を私にしてきた。この国だけが異世界に転移し、地球は滅んだと…

 

「貴様は、何者だ?」

 

「僕はメッセンジャーだよ。その程度に思ってくれていいよ」

 

高校生くらいに見える青年。セキュリティが厳重な内閣緊急対策室に、突如として現れた。

 

「そんなラノベみたいな話があるかぁぁぁぁ~!」

 

「あるんだから、しょうが無いよね。でね、国交を樹立しに来たんだけど…」

 

正体不明の者と国交を結ぶ?あり得ないことだ。

 

「拒否する」

 

「拒否出来るの?この国って、自給率が低いはずだよね?僕も、並行世界の日本出身だから、知っているんだよ」

 

確かに、食料もエネルギー源も自給率が低い。だが…コイツがテロ組織かも知れないのに、国交なんか樹立が出来る訳がない。

 

「しょうが無いねぇ。裏から手を回すとします」

 

そう言い残し、青年の姿が忽然と消えた。

 

 

混乱を極めた夜…我が国を裏で取り仕切る代羽家の屋敷に呼ばれた。そこは聖域と呼ばれる樹海にあるエリアにあった。代羽家は古来より、日本を裏で取り仕切っていたそうで、総理大臣になった後、陛下に耳打ちで知らされたほど、極秘の存在らしい。代羽家の歴史は古く、話によると、あの黙示録の作者が始祖とも言われているそうだ。

 

樹海の一角でありながら、神々しさを感じる参道を車窓から眺めている。入り口から10分ほど進むと、大きな屋敷の玄関部分に着いた。執事らしき者が出迎えてくれ、屋敷の中に通された。樹海に向けて電柱なんか無いから自家発電であろうか。屋敷の中は電灯で明るかった。

 

客間に通されて、この館の主を待つ。しばらくすると、昼間に会った青年が現れた。

 

「代羽家現当主、代羽周太郎です」

 

この青年が、我が国を裏で取り仕切っていたようだ。

 

「昼間の話は与太では無いですよ。本当のことです」

 

妄想を話している青年。頭がおかしいのだろうか?こんなヤツが我が国を取り仕切るって、間違っているだろう。

 

「これでも、僕は2つの国で王なんですよ」

 

妄想が広がっている。ダメだ、話にならない。

 

「どうすれば信じて貰えますか?」

 

「ふん、ならば、その国に招待してくださいよ」

 

「困りましたねぇ…」

 

実在しない国なのだろうか、困った顔をしている。与太話って気づいているのだろう。

 

「生者は行けない場所だからね。一回、死んでみますか?」

 

そう言うと目の前の青年の姿が変化していく。鬼…白い翼を持った鬼に変身した。頭上には光輝く輪っかが3つ浮かんでいる。どんなトリックだ?えっ…痛みを感じて気づいた。私の左胸に、剣先が生えていた。

 

「死なないと連れて行けないんですよ。あぁ、後で蘇生はしますから、安心して死んで下さいね」

 

 

翌朝…無事?に現世へと還って来られた。この国の秘密を知る与党野党の総理経験者と協議し、彼らとの国交を結ぶことにした。

 

国民への説明を考えると、胃が痛い。

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

親孝行

 

---ダン---

 

日本との国交を結んだシガ王国、クボォーク王国、聖光国、村長の村。これで、両親と会える。

 

問題は日本と異世界との交通手段である。異世界の隔たりを超えるには、飛行スキル若しくは転移スキルでしか行き来出来ないらしい。武力による国家紛争を避けるタメの理だと言う。

 

手段となるスキル保持者は限られた人数しかおらず、管理しやすいのだと言う。その殆どが、俺達サイドの者で、それ以外の者は見つけ次第、捕獲もしくは削除対象だと言う。

 

「ダンの移動式ギルドホームでなら行き来できるが、ダン達は見えない存在だからね」

 

日本との行き来には向かないらしい。

 

「だから、僕が行き来をエスコートする。君はラビの村で受け入れの準備をしてくれ」

 

シュウの言葉に甘える。シュウの理なんだから、シュウが行うべきことなのだと思うのだ。俺の両親を知る者は総て、ラビの村に集まって来た。カタリナは挨拶したいと弟を連れてやってきた。因みに、カタリナの前世の親友は、既に後を追ったらしい。

 

「大丈夫よ。既に転生した子を友人にしたから」

 

なら、心配しなくていいか?今回のご対面企画が成功したら、楓、理沙の両親も…うん?ミィもフレデリカもか?まぁ、企画はしておこう。

 

いきなりラビの村へ転移では無粋だろうと、聖光国の聖都でエンジェル・ホワイトと謁見して、馬車でここに訪れる行程となり…馬車が近づいて来た。俺達は村の入り口で整列して待った。馬車が停止し、エンジェル・ホワイトと日本の総理大臣がおり、その後から畏まった表情の両親が降りて来た。

 

「父さん…母さん…」

 

「正か…あぁ、明日奈も…」

 

父さん、母さんと抱き合う俺と妹。

 

「楓です」

 

と、メイプルが父さんにペコっと挨拶をすると、サリー、ユーリー、レイレイ、クマ兄さんが挨拶を…

 

「なんで、クマの着ぐるみ?」

 

「いや、恥ずかしがり屋なんでクマ~」

 

「この禍々しいのは?」

 

「弟の玲二クマ~」

 

前から思っていたのだが、この兄弟の見た目はどうにかならんか?

 

「ならないなぁ~。こだわった末だからの」

 

っと、ネメシス。ならんのか…

 

両親を温泉旅館のVIPルームへ連れていき、ノンビリとして貰う。聖女と総理と一緒で疲れただろう。首脳達はシュウと魔王様が相手をしているらしい。

 

「正、異世界の生活はどうだ?」

 

「まぁ、それなりにリア充しているよ」

 

なんか歳取った両親。俺達が死んでから既に3年も経過していたそうだ。こっちに来てまだ1年経っていないんだけど…

 

「今夜は、俺が料理を担当する。食材が違うから、口に合うか、わからないけどね」

 

ラビの村だと、基本魔物肉だし…村長から真面な肉を貰って来ているが、異世界料理って言ったら、魔物肉だよな。

 

 

露天風呂で疲れを取って貰っていると、遠くで血柱が上がっている。どこかの隠者が始末されているようだ。今日はVIP客がいるので、半径5キロ地点を絶対防御地点に定め、警戒をしてくれているようだ。普段は田原とトロン、キラー・クィーンで警戒しているようだけど、今日は、レイ、ネメシス、クマ兄さん、メイプル、サリーも警戒に当たってくれている。父さんと母さんには殺戮シーンは見られたくないしね。たまに汚い花火が上がっているが、クマ兄さんか、メイプルだろうな。

 

「異世界は平和なんだな」

 

父さんに訊かれた。

 

「そうでも無いよ。ここは平和だけどね」

 

俺達の住んでいる迷宮都市セリビーラは、治安が悪いので連れて行けないし、村長のところは平和だけど、存在が恐怖な人が多いので、心情的に平和になれないだろうからな。

 

「里帰りはしないのか?」

 

「したいけど、日本の領土に入ると、俺達は死んだ事になるから、見えないよ」

 

里帰りは既にしたとは言え無いよな。お店の前まで行ったんだけど…

 

そして、夕食。

 

「旨いなぁ。これって、なんだ?異世界にも伊勢エビがあるのか?」

 

答えるべきか?魔物のザリガニであるのだが…

 

「養殖したエビですよ」

 

とメイプル。まぁ、養殖と言え無くも無い。汚水処理場の働き手だから。

 

「こっちのは?」

 

「養殖したサザエです」

 

いや、魔物のタニシだが…

 

「真面な食材があるじゃないか。異世界は魔物の肉って言われていて身構えていたけど…」

 

いや、真面な肉は牛肉だけだ…後はオークの豚肉もどき、コカトリスの鶏肉もどきだし…真面な肉は高級品である。牛肉だけは、シガ王国で手に入るから、問題は無いのだが…

 

デザートは、村長から貰ったドラゴンの無精卵で作ったパンケーキである。ドラゴンの無精卵は珍しいらしい。産む数が少ない為、滅多に産まれ無いらしいが、ドラゴンにとっては無精卵は無価値だったので、くれたのだった。有精卵だったら村長の遺伝子入りだったらしい。見た目草食系なのに、なんであの人は下半身だけ肉食系なのだろうか?その為か子だくさんであるし。羨ましい。

 

「正、孫はまだかな?」

 

酒が入ったのか、オヤジが下の話になりそうだ。

 

「新作ケーキで頭がいっぱいだ。まぁ、まだまだ先の話だよ」

 

「そうなのか…まぁ、楽しみにして待つぞ」

 

楽しむなよ。神様転生した村長と違い、管理AI転生した俺達は、性欲はあるが、生殖能力が無いらしい。言え無いな。黙っておこう。

 

 

 

---メイプル---

 

第三の試練…穴を掘って、モンスターハウスを掘り当てて、ボス部屋を見つけて倒すことって…あぁ~。STRが足り無くて、ツルハシが使えない。スコップもダメだぁ~。サリー、マイル、メーヴィスに掘り進んでもらい、モンスターハウスであれば、私とマイルが飛び込んで、モンスターを半数に減らし、サリーとメーヴィスを呼び込む。

 

「これって、何の試練かな?」

 

「根性かな。忍耐は終わったはずだからね」

 

って、マイルは楽しそうだ。マイルはサリーをパワースタイルにしたステイタス構成のようだ。私は防振りの悪影響が出まくっている気がするが、今更、他のステイタスに振れないよな。最近の悩みはレベルアップが、しにくくなったことだな。

 

機械神の砲撃で穴を開けようとして、崩落事故になって以来、私は特攻専門にされた。岩穴ダンジョン自体をはどう砲で消した時には、ダンジョンの修復が終わるまでモフモフ禁止の上、甘味も禁止って…何、その極刑は…

 

「ダンジョンがあるからダンジョン自体を抹殺って…山があるから山に登る的なこと言うなよ。それは冒険者じゃなくて、破壊者だからね」

 

って、シュウさん。まぁ、破壊神ですから…しょうが無いと思って欲しい。

 

「冒険者らしくない行為が多いと、出入り禁止にするよ。誰だよ、こんな非常識なヤツを異世界に呼び込んだのは?」

 

って、アリスさんはダンさんとの謁見禁止を課せられて凹んでいた。それって、アリスさんが私を呼び込んだのか?

 

「メイプル!洞窟内で毒竜を使わないでよ~!」

 

ってサリー。あぁ、しまった。考え事をしていて、ヒドラしちゃったよ~。

 

毒塗れの洞窟。今日の探索はここまでである。毒が消える頃には帰宅タイムになりそうだし。

 

「何を考えていたの?」

 

「この前の罰って、重すぎるって…」

 

「ラスボス探しが面倒だからって、ダンジョンをまるごと破壊した件?あれは、メイプルが悪いって。探索するのがクエストなのに、消し飛ばすって、ダメでしょう?」

 

そうなるのか…やっぱり。サリー的にもアウトなのね。私って探索は向かないかな。見所のある景勝地ならいいけど、行けども行けども岩肌だけって、飽きるんだけど。

 

『なら、強者と戦ってみるか?』

 

シュウさんの声。私とマイルだけどこかへ転移させられた。どこかの戦闘フィールドのようだ。目の前には首が10本あるモンスターがいた。

 

『思う存分、戦ってみるが良い。今までに戦ったヤツで2番目に強かったヤツだよ』

 

え…えっと…マイルの剣撃がまるで効いていないんですけど…機械神からの砲撃…これもダメって…何、コレ?

 

「メイプル、支援して!」

 

『身捧ぐ慈愛』で、マイルに襲い掛かるダメージを肩代わりするが…あ?あの…ダメージが通っているんですけど…

 

「マイル、ダメかも…」

 

コイツ強すぎる。

 

「ドラゴンなら逆鱗狙いかな」

 

『残念♪ソイツはドラゴンじゃないよ。思う存分に戦え』

 

じゃ、弱点はどこ?

 

『ギドラ』

 

キングギド●ラもどきに変身をして、戦いを挑むが、三つ首VS10頭では分が悪い。逆に逆鱗を突かれて、大ダメージを頂く。ダメだぁぁぁぁ~!もっと、硬くならないと…

 

 

 




メイプルに強者をあてがって行く予定です(^^;


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

チートコンビの敗北

 

 

---メイプル---

 

初めての敗北である。ダンさん以外に負けるとは…マイルも私もパニッくっていた。無敵に近いマイルの攻撃が通らず、無敵に近い私の防御力でダメージを貰う恐怖。もの凄く痛かった。初めて戦闘で怖いと感じてしまった。機械神の砲撃が効かなかった。エネルギー充填をしてのはどう砲を放つも、効果無いって、あのモンスターってチート過ぎるでしょう。

 

「「もっと強くならないと…」」

 

私とマイルの目標になるだろう。

 

「どんなモンスターだったの?」

 

サリーに訊かれた。

 

「首が10本、頭が10こ尻尾が5本だったかな」

 

「後、4本足で羽があって…」

 

「あっ!それって、トライヘキサじゃないか?」

 

って、クッキーの型抜きをしていたダンさんが声を上げた。

 

「トライヘキサって?」

 

「黙示録の獣と呼ばれる、神の作った最強の獣だよ。確か…シュウの使役モンスターだったはず。本来は七つの頭に十本の角だったけど、バランスが悪いから首を増設して10個の頭にしたってそうだよ」

 

「そうか!獣なんだ。ドラゴンの羽だからドラゴンだと思ったけど」

 

獣じゃ逆鱗は無いよね。

 

「物理攻撃は無効だったはずだ。魔法攻撃か、魔法を載せた剣技じゃないとダメだと思うよ。機械神は悪手だな」

 

悪手だったんだ…機械神での攻撃は…

 

 

 

---マイル---

 

あのバトルフィールドだとナノちゃん達の力は頼れなかった。私の本来の実力で挑むしか無いようだ。物理攻撃無効ってチート過ぎるでしょ。

 

「倒せる人っているの?」

 

ぼやくと、

 

「シュウが何度も倒したらしけど…」

 

ダンさんが答えてくれた。

 

「神様じゃ、比較対象にならないよ~」

 

メイプルもぼやく。

 

「うん?最初は、神になる前だったらしいよ。それも剣技だけで…身体は物理攻撃無効らしいが、どこかが斬れるらしい」

 

首が斬れたが、再生していた。う~ん…

 

「私に勝ったら、ヒントビデオを見せて上げるよ」

 

って、知らない女性が、隣にいた。私に絡み付くように抱きついているし、僅かだが膨らみを帯びた胸を揉んでいるし…何?この人…頬を重ねて来ているし。

 

「私が勝ったら、この子と、ソッチの子を借りるわよ」

 

って、返事を待たずに、私とサリーとメイプルがバトルフィールドに転移していた。目の前の女性は、細身で黒髪が長い美形な顔ダチであるが…

 

『ダイヤモンドダスト』

 

いきなりの魔法攻撃…細かい何かが広範囲で飛んで来た。剣で迎撃するしか無いかな?何だろう、この細かい粒は?擦るだけで肉が抉られていく。

 

『身捧ぐ慈愛』

 

メイプルがダメージを引き受けてくれた。だけど…ウソっ!ミンチになっていくメイプル。メイプルが光の粒子になって消えていくと、回避しきれなくなったサリーもミンチになり光の粒子に…剣で撃退して、女性の懐に入り込み、斬り裂く。だけど、剣が女性の手刀で根元から叩き折られ、続いて私の首も…首の無い自分の身体が見えて、意識が飛んだ。

 

 

 

---ダン---

 

たぶん、あれがシュウの娘だな。メイプルだけ帰って来たが、マイルとサリーは翌朝になるまで、戻って来なかった。帰って来た二人は、ヘロヘロになっていた上、目の下に隈が出来ているし。まるで精気をドレインされたようだ。

 

「朝日がオレンジ色に見える…あれって、夕日かな?」

 

朝帰りで夕日は無いだろうに。ツッコミ役のサリーらしく無い発言である。

 

「一晩中、プレイって、タフ過ぎる。あぁ…女性同士ってあんなプレイなんだな…」

 

無尽蔵なスタミナ持ちのマイルが、ソファーで寝息を立てている。それはシュウの娘は、女性好みってことか?

 

「違うよ。アイツは、両刀遣いの戦闘狂だよ」

 

って、シュウが隣にいた。いつも思うのだが、この館は多重結界で侵入防止をしてあるのだが、何故気づくと隣にいるんだ?

 

「両刀って、男も?」

 

「誰に似たんだか、そういうことだよ。まぁ、男よりも女の方が好物らしいが。メイプル、相手の力量が分からない場合、『身捧ぐ慈愛』は命取りになるぞ」

 

「ですね…」

 

「あの魔法はなんですか?」

 

サリーが訊いた。サリーにしては珍しく、大股開きでソファーに座っている。何をされたんだ?そんなに股間が痛いのか?

 

「あれは、ダイヤモンドの微粒子を光速で撃ち出しているんだ。いくら硬いメイプルでも、最強クラスの硬度に加速エネルギーだよ、そりゃあミンチになるよ。オリハルコンの装備でも砕く破壊力だしね」

 

「避けようが無い?」

 

「ダイヤモンドウォールとかなら防げるけど、サリーはそんな魔法は使えないでしょ?あれは避けるんじゃ無くて、撃ち出す前に、制圧すれば問題は無い。が、アイツ近接戦闘もこなせるから、生半可の戦士じゃダメだな」

 

「勝てる人いるんですか?」

 

メイプルが訊いた。

 

「いるよ。アイツは、僕の配下で10位以内に入っていないし」

 

それは、未だ見ぬ強者が10人はいるってことか?

 

「絶対に1位になってみせます!」

 

メイプルが意気込んでいる。

 

「目標は高い方が良いが、自分の実力を見つめ直して、相手の実力を読めないと難しいよ。あ、そうそう。娘に躾をしておいたから、当分は襲わないはずだよ」

 

そう言い残し、シュウが消えた。この館の侵入防止の多重結界の意味が無い。神レベルは防げないのか…

 

 




サリーとマイルは或る意味異世界へ足を踏み入れたり(^^;;


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

リベンジ

 

---メイプル---

 

リベンジを果たした。転移直後に、機械神からのロケットブースターで接近をし、迫り来るダイヤモンドの微粒子を盾に暴食させ、最後はシールドバッシュ一発である。勝つには勝ったが、盾に隠れていた首と胴体は取り敢えず繋がり、盾を持った左手だけが残った状態であった。とっても痛いんですがぁぁぁぁぁ~!

 

「良い作戦であるが、戦場だと死んでいるぞ。敵が一人とは限らない」

 

そうだよね。痛いのが嫌なので、防御力を上げたのに、痛かったよぉぉぉぉぉぉ~。肉の爆ぜる感覚…思い出したくも無い。

 

リベンジを果たした翌朝、なぜだかレベルが上がっていた。あの戦闘で経験値を得たのかな。増えたスキルポイントは総て防振りした。これで、硬くなったかな。もう痛いのは嫌だよ~!

 

「メイプルより、ダンの方が戦闘センスが良いな」

 

「俺は単なる料理人ですよ」

 

シュウさんとダンさんの会話を聞くと、あの女性にダンさんは勝ったらしい。ほぼ、無傷で…なんで?どうして?試練を受けていないのに??ズルい…

 

 

 

---サリー---

 

私達のリベンジをダンさんがしてくれた。相変わらず、稼いだ経験値はメイプルにポイしていた。明朝、メイプルはレベルアップに気づいて、防振りするのかな?硬いだけじゃダメだと思うんだけど…

 

ダンさんの作戦はシンプルだった。いつものウッドオクトパスによる狙撃だ。それも足の裏から心臓を目掛けて。エグいって。戦闘フィールドに転移した時点でウッドオクトパスを発動し、開始と同時に発動していた。多少ダイヤモンドの洗礼を受けたが、フルカウンターと再生能力で乗り切っていた。

 

彼女は約束通り、攻略ビデオを貸してくれた。それは、気の遠くなるような攻撃で、地道に首を切り落としていた。胴体は無敵でも首はそうじゃ無いみたいだ。ただ、シュウさんの方は再生能力を使っていた。そうなるとダンさんには倒せても、再生能力が無いメイプルじゃ無理なんだろうな。

 

「サリー、メイプルに巻き込まれて、初デスペナか?」

 

「いえ…幽霊階層は実質デスペナですよ」

 

死んだ今でも、幽霊はダメである。足がすくんで動けなくなる。メイプルがいないと越えられなかっただろうな。なので自分では、あの幽霊しか出ない階層はデスペナだと思っている。

 

「試練の方はどうだ?」

 

ダンさんは、モンスターハウスの試練を終えたそうだ。いつ、試練を熟しているんだ?あんなに忙しそうなのに。

 

「誰と試練を受けているんですか?」

 

「クマ兄さんと聖騎士と辛口エンブリオだけど」

 

何げにバランスの良いパーティーでは無いだろうか?

 

「バランスがいいですね。あれ?アリスさんは?」

 

「俺との謁見禁止中…」

 

あぁ、メイプルへの罰のとばっちりですね。でも、カエデという盾もいるし…小技は無いが一発逆転の大技遣いの聖騎士もいるし…

 

「バランスの良さだと、アスナ、リーファ、シノン、ミィ、フレデリカ、ミザリーの方がバランスがいいと思うよ」

 

剣士2魔法2回復1に狙撃1かぁ。

 

「あと、マリー、ビースリー、アスカ、アズライト、リリアーナ、レイレイも健闘しているようだよ」

 

わぁ~。色者パーティーですか?狙撃2盾1剣士1騎士1触るな危険が1って…そうなると4パーティーで挑んでいるのか。

 

「カスミ、イズ達は様子見みたいだよ。まずは、こっちでの生活になれないとね」

 

この世界って、エンドレスでゲーム内にいる感じですものね。転生したばかりだと戸惑うかな。

 

 

 

---ダン---

 

シュウがカナデと大盾遣い男をサルベージして来てくれた。これで、<楓の木>のメンバーは揃ったかな?

 

現在、村長の家でサトゥーを交えて商談中である。日本から食材を仕入れ、原発を魔石発電所にする商談を進めていた。魔石のエネルギーを利用して、タービンを回転させ電力を得る。クリーンなシステムである。

 

「1号機を福島に設置する予定です。付近の放射能汚染は、シュウが回収して、時間加速能力で無害化するらしいです」

 

日本との通商を担当しているサトゥー。

 

「まずは米だな。コシヒカリがいいなぁ」

 

異世界にも米はあるが、銘柄米は無い。米は米である。異世界の基本はパンとエールであるので、大麦、小麦の改良はされているらしい。

 

「あきたこまちも捨てがたい。酢飯にするならササニシキかな」

 

「後、問題は行き来の方法です。三崎から出航して大島経由でシャーシャトーという航路が一番かと思います。空路は不可らしいです。シュウは人間をあまり信用していないみたいで…」

 

まぁ、人間が起こした世界破滅と言え無くも無い。人間至上主義なんて言うのもあるし…異世界で恐れるのは、戦闘機と長距離ミサイルか?

 

「使節団を受け入れて、様子見って感じです。その際、俺とミト、ダンが随行します。戦闘能力も転移術も使えますから」

 

村長は随行員には向かないらしい。あくまで農民って立場だそうだ。戦闘力は、シュウ、伯斗に次いでダントツだろ思うのだが。

 

「行程はシャーシャトーに1泊、ラビの村に1泊、シガ王国オーユゴック領公都に1泊で良いですか?」

 

クボォーク王国は宿泊しても見所が無いしなぁ。そもそも宿泊施設がない。基本持ち家かテントだし。迷宮都市は治安が悪いし。

 

「いいんじゃ無いかな。で、使節団のメンバーは?」

 

「総理と各政党のトップと財界のトップだそうです」

 

利権優先のメンバーか。揉めそうだな。まぁ、揉めたら、コチラの法で裁くだけだな。

 

「武装は無しを徹底してくれ。揉めごとは好ましくない」

 

まぁ、問題が拗れれば、シュウの怒りの鉄拳が炸裂かな?

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

鬼の目に涙

 

 

---高杯光輝---

 

陛下から指示をされ、異世界と呼ばれるエリアへの使節団のメンバーになってしまった。なんで、私ごときが…高杯神社を護る神主に過ぎないのに。

 

「陛下から、あちらで信仰されている者を見極めて下さいとのことです。宗教の違いは戦争の原因になりますからね」

 

そんなものは代羽家が仕切っているだろうに。実際、使節団のリーダーは代羽家の当主であるのだから。

 

「後のメンバーは俗者です。利権探しをし、文化などを冷静に判断出来ぬのは、マイナスになるともおっしゃっていました」

 

高杯神社も歴史は古い。その為か、天皇家とも交流があるのだが…

 

 

 

---メイプル---

 

モンスターハウス探しの試練が再開された。

 

「お願いだから、崩落事故はカンベンしてね」

 

サリーに釘を刺された。モンスターハウスに突入しての機械神…縦横無尽に放つ銃弾で、モンスターハウスの天井、壁は崩落し、サリーが巻き込まれた。幸いにして、私とマイルは無事だったのだが…

 

「エンカウント前に天井で圧死って…」

 

サリーが真剣に怒っていた。反省しなきゃね。そう言えば、洞窟戦は不向きだって、ダンさんに言われたっけ。死に戻ったサリーと教会を出ると、青髪の女剣士と、赤紙の女剣士と金髪のシスターがいた。

 

「あんた達が噂のメイプル、マイルコンビだな」

 

次の瞬間、戦闘フィールドに私、サリー、マイルと先ほどの女性3名が転移されていた。これは、決闘ってパターンだよね。

 

「3対3で勝負しようぜ。こちらが勝てば、その二人を借りるよ」

 

二人を借りる?はて?

 

「作戦タイムを5分やる。あのシグナルが青になったら、スタートだ」

 

天井に赤いランプがある。あれがシグナルかな?

 

「サリー、避けられない戦いだけど…負けたくないよ」

 

「私も負けたくない。きっと、ダイヤモンド遣いと同じ趣向なんだろう」

 

同じ趣向?

 

「開幕後、戦士二人は、私とマイルで抑えるから、メイプルは、あのシスターをどうにかして。たぶん、回復役だろうから」

 

サリーの作戦…サリーとマイルで回避盾で相手の剣士を翻弄し、私がシスターを仕留めた後に、剣士を倒すようだ。

 

「じゃ、ヒドラと暴虐でいい?」

 

「毒竜?ダメよ。私達も毒状態になっちゃうわ。後、身捧ぐ慈愛はダメだからね」

 

相手の実力がわからない場合、あれは危険である。そうか…ヒドラもダメか。そうなると暴虐だけでは押しが弱いかな。

 

そして、シグナルは青に…暴虐状態になった直後、激痛を感じた上、ノックバックさせられていた。砲撃を食らったようだ。どこから?相手って剣士だよね?

 

「態々、的を大きくしてくれるとはな」

 

あの青髪の剣士から何かが飛んで来た。もの凄く痛い。盾で護らなきゃ…あぁぁぁぁぁ~。暴虐状態の為、盾が無い。

 

空中からも何かが飛んで来ている。あの赤い髪の剣士の背中には赤い翼があり…目の前が真っ暗になっていく。

 

 

 

---ダン---

 

あの全知全能に近いアイツの一番弟子と二番弟子に、メイプルがやられ、三番弟子にマイルとサリーがやられたそうだ。戦闘シーンを見せて貰ったが、剣士二人は飛ぶ斬撃遣いだった。ロングレンジからの斬撃かぁ。メイプルはシスター狙いで、剣士をノーマークの上、暴虐状態で無防備だった。

 

一方、サリーとマイルの回避盾コンビは、シスターのリバースヒールを喰らい、じわじわと命を削られていた。リバースヒールはヒールの逆である。回復術のマイナス効果で、ダメージを与える呪術だそうだ。最上級ヒーラーが得られるスキルらしい。

 

「また…負けちゃった…」

 

凹むメイプル。

 

「言っただろ。相手の力量が分からないのであれば、最強な状態で向かい討て。お前の最強な状態は、盾を使った防御力アップだぞ」

 

暴虐はHPを増やすが、盾を装備出来ない分、防御力が落ちる。まぁ、相手が悪かったと言え無くも無いが。あの斬撃の威力は核爆弾クラスだと言う。相殺するには、はどう砲しか無い。初見の相手の戦力を見極めるのは、盾による『悪食』しか無いのだろう。作戦ミスだな。

 

青髪の剣士と金髪のシスターは、アイツの娘同様の性癖らしい。先ほど、サリーとマイルが朝帰りしてきた。目の下に隈を作って…

 

「あり得ない…あんなプレイがあるなんて…」

 

マイルがカルチャーショックを受けている。サリーは無言でソファーで爆睡中である。シュウに訊いたのだが、女の敵はあの三人だけらしい。彼女達は、サリーとマイルに満足したそうで、当分は襲われないだろうと言われた。

 

俺だったら、フルカウンターで剣士二人をどうにか出来そうだが、あのシスターのリバースヒールはダメだろうな。効果はマイナス方向であるが、基本回復術なので、フルカウンター対象にならないみたいだ。世の中には、厄介なスキルがあるんだな。

 

「僕達の相手は、想像の範疇外が多いからね。防がれない攻撃方法が重要なんだよ」

 

遠い目をしているシュウ。

 

「一番辛い相手は?」

 

「勿論……殺したく無いが、殺さないといけないヤツだな」

 

それは、辛そうだ。

 

「罪を反省して貰う意味で地獄へ送らないといけなかった。一番信頼していた仲間だったんだけどね」

 

血も涙も無い男の目から輝く物がすぅ~っと流れて行く。辛かったんだろうな。そんな相手を…俺だったら、サリーとかアスカかぁ。殺したく無い。殺し合いたく無い。

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

視察団

 

---高杯光輝---

 

視察へ出発する日が訪れた。竹芝桟橋からクルーズ船に乗り込んだ。

 

「高杯さん、よろしくお願いします」

 

大岩総理に迎えられた。

 

「えぇ、出来る限りのことはします」

 

一介の神主に出来ることなんか、限られている。準備が出来たのか、船が一路シャーシャトーへと向かい始めた。三浦横須賀沖で、軍艦が併走し始めた。護衛だろうか?巡洋艦と戦艦、イージス艦などが見える。

 

「あれは?」

 

総理に訊いた。

 

「防衛族が、戦力を誇示した方がいいと言って訊かないんだ」

 

確か、武器の携行は不可の筈だが…国境線を越えた辺りで、併走していた煙に包まれて軍艦が消えていく。

 

「おいおい、初視察に武装を持ち込むって、どうなんだよ?」

 

代羽家の当主が総理を睨み付けた。

 

「何をしたんだ?」

 

「沈めた。あんな物は必要無いからな」

 

「沈めただと!」

 

右派の野党党首が代羽家の当主に詰め寄ったのだが、光の粒子に分解されて消えてしまった。

 

「何を…した…」

 

総理の声が震えている。

 

「友好ムードが感じられないから消した。それだけだ」

 

冷たい声の代羽家の当主。

 

「お前達!新大陸へ乗り込む征服者気分なのか?甘いなぁ~。戦力差を見間違えているぞ」

 

クルーズ船を取り囲むように、武装をした女性達が宙に浮かんでいた。

 

「何?どんなトリックだ?」

 

「トリックなんか無いさ。だって、彼女達は魔女だよ」

 

魔女?ここはファンタジー世界なのか?

 

「戦力差は明らかだよ。単なる人間である君達に勝ち目は無い。『強奪』」

 

代羽家の当主が宙に浮かぶと、彼の手には数え切れない程の銃が現れ、それらを海へと捨てていく。

 

「船に銃器を持ち込んだって無駄だよ。検閲が無いと思っただろうけど、検閲済みだよ。透視能力持ちも居るからね」

 

日本国視察団のほぼ全員が顔面蒼白である。一部の者達の股間は濡れているようだ。背筋に冷たい物が流れて行くようだ。空気が重い。

 

「邪な考えをお持ちの方は好ましくない。ここで消えて貰います」

 

残ったのは、私と総理と最大野党の党首である松井氏だけのようだ。

 

「じゃ、三名様だけ、ご案内だな」

 

 

 

---ミト・ミツクニ---

 

何故、父がいるんだ?

 

「並行世界とは言え、同じ時間軸だからな、居てもおかしくないだろ?あぁ、この世界の高杯光子は、既に過労死している」

 

そうなんだ。私と同じデスマーチな職場だったんだな。

 

「どう接するかは任せるよ」

 

任せられても困るんだけど…クルーズ船から3名の日本人使節団が降りて来た。その中の一人、高杯光輝は、私の父親である。並行世界故、同一の人格では無いが、同一人物である。

 

「君は…」

 

向こうも私に気づいたようだ。

 

「シガ王国の公爵、ミト・ミツクニでございます」

 

こちらでの世界の身分を名乗っておく。

 

「総合商社エチゴヤの会頭でサトゥーと申します」

 

私と兄ぃが挨拶をした。

 

「クボォーク王国の相談役のダンです」

 

「日本国総理大臣の大岩太郎だ」

 

えらそうにしている男。その後ろに控えるがオドオドしている最大野党党首の松井氏と、私を見て動揺している高杯光輝…その三人を案内してシャーシャトーの街を練り歩いていく。

 

 

 

---高杯光輝---

 

若くして逝った娘の面影のある女性。娘の享年よりも歳が上に見える。娘の光子が成長していれば、彼女のようになったかも知れない。だけど、彼女はシガ王国の公爵だと名乗っていた。他人の空似なのか?いや、彼女も私を見て動揺していた。それって…

 

「高杯さん、どう思われますか?」

 

大岩総理に訊かれた。

 

「どうとは?」

 

「彼らの文化水準です」

 

「劣っているとは思えません。技術的には古めかしいですが、魔法が使える為、あれが最良なのでしょう」

 

「そう、その魔法です。あれって、何かのテクノロジーでは無いでしょうか?」

 

「まぁ、そういう言い方は出来ますね」

 

「交渉を優位に進めて、あの未知のテクノロジーの秘密を貰うのはどうでしょうか?」

 

「刺激するのはどうかと…」

 

船の上での出来事を、トリックだと思っているのだろうか?現実に沢山の人々が消失してと言う事実を、まやかしとして片付けようとしているのか?

 

「後、見た事の無い人種を数名、貰って帰りましょう。獣と人間のハーフとか…」

 

亜人のことだろうか?貰うって、ここって奴隷制度は無かったのでは?この先の道中で、問題が起きそうな予感がする。あと、私の受けた密命がまだ果たされていない。信仰の対象かぁ~。教会とかあるのか、明日にでも確認するか。

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

読み違い

 

---メイプル---

 

モンスターハウスの試練を抜け、フィールドでの殲滅戦を経て、セーフティーゾーンに到達した。残りの試練は、複数パーティーで受けるそうで、他のみんなが到達するのを待つことになった。

 

「伯斗から救援が来たんだが、メイプルとマイルを借りていいか?」

 

サリーの名が呼ばれない。相手がヤバいのか?

 

「両刀遣いは、もうカンベンしてくださいね」

 

マイルが泣きそうな顔で訴えている。両刀?二刀流相手では分が悪いのかな?私の返事を待たずに、私とマイル、シュウさんだけが、どこかへ転移した。転移した先で目にしたのは、巨大なロボットだった。

 

「360度方向にレーザーを放ちやがる。悪いが、ルナとその友人の亜人をガードしてくれ」

 

亜人と聞いて、マイルがガードへと向かった。私は私の出来る事をする。

 

『機械神』『全砲門展開』『発射!』

 

放たれるレーザーを盾に喰わせ、巨大なロボットに攻撃を与えて行く。

 

「おい!ガードを頼んだんだが…」

 

「悪いなぁ、アイツは戦闘狂なんだよ。ガードは僕がする。伯斗はあの老騎士を回復してやれ」

 

「俺は男に興味は無い」

 

最近は周囲の会話を聞き取れる余裕が出来た。マイルは剣でレーザー光を撃ち返している。剣術を習おうかな?最近、覚えたスキルを使う。暴食したエネルギーをエネルギー充填に回し、戦闘中でも充填出来るようになったんだよ。

 

『エネルギー充填120%…はどう砲発射!』

 

目の前の巨大ロボットが消失し、遠くに見えた山、その奥に一瞬見えた城のような物も消えた。

 

 

 

---九内伯斗---

 

なんだ?あの威力は…巨大なガラクタを消失させて、その背後に見えていた風景すらも消失かよ。あまりの衝撃的な光景に、咥えていたタバコを落としてしまった。

 

「おい!あれはなんだ?アイツの方がよっぽど魔王じゃ無いか」

 

アイツに詰め寄った。俺の火力はあんなに凶暴では無い。

 

「まぁ、チーム魔王の一角だろうな。伯斗とメイプルで魔王のツートップか?」

 

魔王よりもヤバいラスボスは、俺と会話しながら、冷静に広域回復魔法で、救える命を救い始めた。

 

「伯斗のとこで預かれない?お前、ロリだから、ストライクゾーンだろ?」

 

はぁ?また咥えていたタバコを落としてしまった。謂われの無いことを言われたので…

 

「何を言っている。俺はロリじゃ無い。何故か幼女系が寄りついてきているだけだ。まぁ、来てくれて、助かったよ」

 

「あの巨大なガラクタは何だ?」

 

「降臨した守護天使みたいに言っていたが?」

 

「この世界に美的センスは無いのか?全然萌えないんだけど」

 

守護天使みたいなことを言っていたが、殲滅兵器だよな…あのロボの全周囲タイプの攻撃で、街は殲滅である。メイプルの攻撃で、多分隣国に被害も出ているだろうな。隣国って悪魔の国だっけ?まぁ、いいか。

 

「隣国への被害の実績は、メイプルにはあるぞ。あの『はどう砲』って直進力が半端ないらしい。一応、僕の理において、味方に近づいたら、消失するようにしたけど」

 

敵にしたくないなぁ。アレは俺でも消えて仕舞うと思う。

 

「だけどなぁ、メイプルよりもダンの方が強いぞ。たぶん、伯斗でもキツいんじゃ無いかな」

 

ダンって、あのダンだよな。単なる料理人で無いのか?目の前の黒い魔王も、普段は凄く見えないしなぁ。見た目は大事だな。

 

「じゃ、戻るよ」

 

「サンキューな」

 

援軍の3名が転移していった。

 

 

 

----高杯光輝---

 

懸念していた事態になった。欲しい物はあるかと訊かれ、総理が人間と獣人のハーフを数名欲しいと伝えてしまった。

 

「日本国は奴隷制度でもあるのか?」

 

「そちらこそ、獣と人間を交配させるとは、非倫理的ですよね」

 

総理の挑発的な言葉に、代羽家の当主が笑いだした。

 

「その程度の知識ですか。彼らは非倫理の末に生まれた訳では無い。そういう種族なんですよ。あなた方のいた世界では、亜人族を虐殺しまくったからいないだけで、それを棚に上げて非倫理的と言うとはね」

 

人類の歴史をヒモ解けば、侵略者は現地民族を根絶やしにして、近代国家を築いている。土着文化を古くさいと斬り捨ててきた。亜人がいたのか?歴史は勝者が書き換えるから、いたことは無かったことにか?

 

「あなたの国では、相手の国が要求すれば、国民を土産物として、差し出す文化があるのですか?それならば、国交は結べません。お帰りください!」

 

一瞬で目の前の風景が変わり、私達は皇居の正門前にいた。

 

「何?転移装置を持っているのか?是非とも欲しい技術だな」

 

総理は、分かっているのか?その日、内閣総辞職に拠る衆議院議員選挙が決定した。誰かの怒りを買ったようだ。

 

私は何の成果を得られず、任務失敗と思っていたが、陛下より、

 

「ご苦労様でした」

 

と、労いの言葉を頂いた。何も出来なかったのに。

 

重い足取りの帰路、うちの神社には、鳥居を潜り階段を昇っていくと、ベンチのある休憩エリアがある。そのベンチにあの女性が座っていた。

 

「娘さんは、幸せでしたか?」

 

私が近づくと、女性にそう問われた。

 

「分かりません。好いている男性はいたようですが…」

 

「そうですか…」

 

どこか悔しそうな女性。

 

「お茶でも飲んでいきませんか?」

 

「いいのですか?」

 

どこか、娘の仕草と似ている女性。まさかな…あり得ない。歳は、彼女の方が上であるし。

 

家の中に通すと、妻が女性に抱きついた。女性も妻を優しく抱き、目には薄らと涙が…

 

「彼女の意識を奪いました。話が複雑になりそうなので」

 

妻を抱きかかえ、妻の部屋へ寝かし付けた女性。何故、間取りを知っているんだ。それって…

 

「あなたは気づいていると思いますが、私は異世界転生した高杯光子ですが、私が生まれたのはこことは違う並行世界なんです」

 

薄らと分かっていた事実。異世界転生したとして、年齢が合わないから。

 

「あなた方はどうしたいのかね?」

 

「共存…まずは核を放棄して貰い、代替エネルギーを供給します」

 

「見返りは?」

 

「和食材…私と同様に、並行世界からの日本出身者が多いのです。和食に飢えているのですよ」

 

女性が苦笑いしていた。故郷の味が恋しいのだろう。美味しそうに緑茶を飲んでいるし。

 

「今回のことで、利権好きの政治家を窓口にするのは辞めにします。今度は、あなた若しくは皇宮経由で取引をします。会えて、良かった…また来ます…お元気で…」

 

目の前から女性が忽然と消えた。

 

 




次回はワンダースリー絡みの予定です(^^;


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

伸び悩み

 

---メイプル---

 

マイルに剣術を習い始めたのだが、う~ん…

 

「たぶん、ダメかな。DEXがなさ過ぎというか」

 

素早さが足り無いようだ。相手の懐に入れない。打ち合いになると、相手の剣を捌き切れない。まぁ、攻撃を食らっても痛く無いけど。

 

「STRは問題無いかな。重量は工夫すれば、どうにでもなるし」

 

しかし軽い剣は、それなりの効果しか無い。強度が無い上、相手に刺さるけど切り裂けない。切り裂こうとすると刃が途中で折れるし。

 

「槍はどうかな?」

 

メーヴィスに習い始めた。が…相手に詰め寄るスピードが無く、攻撃が当たらない。

 

「いっそ、シールドバッシュを磨いたらどうだ?」

 

ダンさんからアドバイス。そうなるのか。う~ん…

 

「シールドバッシュ一発で、シュウの娘に勝ったんだろ?自信を持てよ」

 

代償に右手がもげた。とても、とっても痛かったよぉぉぉぉぉ~!痛いのは嫌いなのに。

 

「防振りしている以上、それ以外の攻撃は無理だ。必殺の『はどう砲』はタメの時間があるから、ソロ戦では無理だな」

 

ダンさんに追いつきたい。でも、機龍には当てられない。充填中にメーサー砲で仕留められている。ダンさんの一番の脅威はウッドオクトパスでの狙撃だな。あれは避けられない。足の裏からって…足裏マッサージでも痛いのに、そこに貫通攻撃って、痛すぎますよぉぉぉぉぉ~!

 

 

 

---マルセラ---

 

お見合い…外国の王子と我が国の第三王女モレーナ様がお見合いをすることになり、私達ワンダースリーが護衛の任に着いた。

 

「マルセラ達がアデルの捜索に失敗するから…こんなことに」

 

マイルことアデル・フォン・アスカムの捜索を私達ワンダースリーが請け負ったのだが、失敗したのだった。居場所を把握して、王女と再び向かうと、どこにも居なかったのだった。アイツ、逃げたな!

 

詰めが甘く、逃がした失態を埋め合わせする為、王女は他国へ嫁入り、所謂政略結婚の道を歩むことになった。連帯責任としてワンダースリーは王女付きで他国への島流し…

 

船で別の大陸へと向かう。港に着くと、お見合い相手のソルシエ王国の第三王子ジオルド・スティアートが待っていた。見た目は優良そうであるが、どこか暗い。事故物件の予感がする。

 

モレーナと王子が談笑をしている。私達は周囲を警戒しながら、ガードを固めていく。第三王女と第三王子か…釣り合いは取れているし。もし、このお見合いが成功すると、私達は王女付きとして、この国に住むことになるそうだ。私達の望みはそれだ。あの国にいると、親に早く嫁に行けと耳がタコになるまで言われ続けられる。

 

私達の夢は、アデルと一緒に冒険の毎日であるが、アデルはワンダースリーでなく、赤き誓いを取ってしまったのだ。あの時、強引にパーティーを合併すれば良かった。剣士2魔法使い5と言うバランスの悪いパーティー構成であるが、火力は抜群なはずだ。

 

お見合いは無事に終わり、無事に婚約をされたモレーナ様。が…その後我々の調べで分かったこと、ジオルド王子は過去に婚約者二人に逃げられたそうだ。

 

「何か問題がある男なのかな?」

 

不安そうなモレーナ様。しかし既に婚約をしている。それも王子と王女である。婚約破棄は国同士の争いに繋がる可能性がある。

 

「後、ここソルシエ王国では神隠し事件が頻発しているようです」

 

手に入れた情報を包み隠さずに報告していく。有能さをアピールして王女付きの地位は守りきらないといけない。失敗すれば、明日は我が身で、お見合い地獄が手ぐすねを引いて待ち受けている。

 

「神隠しの原因は?」

 

「原因は不明だそうですが、国の重鎮が家ごと消えているそうで、転移術を使った拉致の可能性があります」

 

この国には転移魔法が無い為、その可能性は考えていないようだ。だけど、転移術は、アデルが使える。まさか、アデルが犯人?その場合の目的は?

 

「被害者はどんな人なの?」

 

不安そうなモレーナ様。まぁ、不安になるよね。

 

「ジオルド様の婚約者二人、ジオルド様の弟君とその婚約者、クラエス侯爵家、アスカルト伯爵家…」

 

クラエス侯爵とアスカルト伯爵は国の重鎮だったらしい。その為、国政に影響が出たそうだ。

 

「私も神隠しに遭いたい…」

 

モレーナ様がフラグを立てているようだ。きっと、神隠しに遭わないだろうな。

 

 

 

---ダン---

 

「ジオルド王子が婚約したそうだよ」

 

シガ王国の国王に結婚の招待状が届いたそうだ。

 

「へぇ、ジオルドがねぇ。相手は誰だ?」

 

ジオルドの弟であるアランが訊いてきた。元婚約者のカタリナ、マリアコンビは興味無いみたいだ。まぁ、それだけの男なのだろう。

 

「ブランデル王国の第三王女のモレーナだって」

 

「ブランデル王国?」

 

マイルが驚いたような声を発した。

 

「そこは、私が脱走した国ですよ」

 

冒険者になろうとしてのに、貴族にされそうになって逃げたんだっけ?

 

「あの国は強引ですからね」

 

「ジオルドも強引だから、ちょうど良いんじゃねぇか」

 

似た者カップルだな。現状、俺達には関係ない。

 

「クボォーク王国の再建状況は?」

 

「移民が少ないのか、農民が少ない感じかな」

 

カタリナが報告書を見て、情報を上げてくれた。農業のトップはアリサであるが、ここにはいない。クボォーク王国に駐留している。

 

「ラビの村は?」

 

「浄水場もほぼ完成ですね」

 

モフモフ担当のマイルが報告を上げた。相棒のメイプルは現在、正座でお説教を頂いている。またやらかしたそうだ。戦い方に悩んで居るのは分かるが、討伐クエストの度に、地形を変動させるのはどうかと思う。高火力なりの戦闘スタイルを覚え無いと、今後ダンジョン系や洞窟系では外される可能性がある。

 

 

「なぁ、メイプルなんだが、荒治療でもするか?」

 

シュウもメイプルの戦闘スタイルを心配しているようだ。

 

「次の試練は滝のある湖なんだけど、あれを破壊されると、リソース的に困るんだよ」

 

シュウの表情はとても困っているようだ。地形破壊は禁止なんだろう。

 

「次の試練は俺も行きます。ヤバかったら、俺がメイプルを仕留めます。それで、どうかな?」

 

「君にそれをさせたくないのだが…」

 

確かに味方を手に掛けるのは、ちょっと躊躇しそうだな。でも、ダメなことをしたら…それで他の味方が危険になるならば…きっと、シュウには経験があるんだろう。

 

「じゃ、止められなかったら、メイプルを地獄へ連れて行くからな」

 

最後通告を受けた気がした。

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

メンバー模索

 

---メイプル---

 

今度の試練は、湖にいる巨大モンスター狩りらしい。今日はダンさんも参加だという。良いとこを見せないとなぁ。

 

「水中にいる敵かぁ…ミィの魔法は不利だな。カナデ、重力系の魔法は有るか?」

 

ダンさんが指示を出している。だけど、クランリーダーは私である。本当は、私が指示を出さないと…

 

『機械神』『全砲門展開』『砲撃開始!』

 

湖に次々に砲撃をしていく。私の指示は先手必勝である。

 

「おい!メイプル…相手も分からずに攻撃をするな!」

 

次の瞬間、湖の水が私達に襲い掛かってきた。高度を上げて、砲撃を…

 

ガッツン!

 

何かにぶち当たり、真っ逆さまに湖に落ちていく。

 

ドッボン!

 

湖の中…水泳スキルは有る。岸目掛けて泳ぐ。が…右足に激痛?湖に落ちた衝撃で、機械神の装甲が剥がれたようで、湖のモンスターが私の右足に噛みついている。マズい。

 

『ヒドラ』

 

湖を毒で満たしていく。モンスターが光の粒子に分解されていく。勝ったかな。浮上して、岸辺に手を着き、湖から脱出した。だけど…試練を突破したのに、みんなの視線が冷たい。どうしてだ?

 

「なぁ、なんで、一人で突っ込んだんだ?これは、チーム戦での試練だぞ」

 

何故か、ダンさんが怒っている。はて?勝てば良いんでは?

 

「パーティー戦でも、お前の戦い方はダメだ」

 

「どうしてですか?」

 

「敵の戦力を測らずに、いきなり高火力で叩こうとするな。現実に、お前の行動で、チーム内に被害が出ているんだぞ」

 

被害?周囲を見ると、ミザリー、マイルが回復魔法を使っていた。

 

「状況が分からずに、湖にダイブしたお前には、惨劇がどういったものかは、分からないだろうね」

 

えぇっと…まさか、あの湖の水が原因かな?

 

「もっと、周囲を考えて行動しろよな。お前の役割は盾だろ?前に出すぎるな」

 

「でも…私だって戦えますよ」

 

「そうか…なら、この先の試練は、お前一人で挑め。周囲を危険にさらすな」

 

一人で?サリーは一緒じゃないの?マイルは?

 

「メイプル、みんなに謝りなさい。今回のは、メイプルが悪いって」

 

サリーが私を突き放した。どうして?目の前の敵を倒せば良いんじゃ?

 

「メイプル、敵を倒すことは大事だけど、味方を護ることは大切だから」

 

と、マイル。私はみんなを護れなかったってことか?

 

「何が遭ったの?」

 

「湖の水が津波の様に押し寄せ、濡れた身体に冷気を当てられたの。ぐったりした者に回復魔法を掛けていたら、今度は毒ガスに飲まれて…」

 

毒ガス…毒竜の効果だろうか?

 

「湖の水が真水とは限らないんだ。毒竜の効果と反応してガスが発生したのだろう」

 

ダンさんが刺すような視線で私を睨んでいる。マズい…

 

「ごめんなさい…」

 

正座して、みんなに深々と頭を下げた。

 

 

 

---サリー---

 

湖の先に街があった。ここで補給しろってことかな?順路方向には森がある。

 

「食料を溜め込もう。マイルの無限収納に調理器具や食材を入れて、先々で自炊だな」

 

「現地調達出来るといいですね」

 

「出来ればなぁ…チーム戦前提ってことは、調達は無理だろうな」

 

人数的にそこまで獲物がエンカウントしないってことか?

 

「戦力系、ステイタス系の試練は終わり、たぶん次はサバイバル系の試練だと思うんだよ。少ない資材で、どうヤリクリするか」

 

言われて見れば、前半の試練は、集中力とか忍耐とかの精神系の試練と、穴掘りなどの身体能力系の試練だった。セーフティーゾーンを越えて、チーム戦エリアでは、嫌らしいモンスターとのレイドバトルだった。そうなると次は…サバイバル…

 

「ここで何名かが振り落とされるかもしれない。単なる戦士と冒険者に分けられるんじゃ無いかな」

 

VR-MMOではメインは戦いであるが…実際の冒険者はサバイバル能力が必要であるのだろう。

 

「戦えればいいやつは、ここで引き返して、神のダンジョンの延長戦を楽しめば良いかと思う」

 

メイプルはダンさんを見つめていた。サバイバルに挑む気があるのか?

 

「当分は、復興を優先にしよう。並行して準備をするけどね」

 

ダンさん的にはここまでかな?

 

 

 

---ダン---

 

サバイバルエリアへの突入メンバーをどうするかだな。メイプルは保留だな。回避盾2枚は必要だけど…ここはラビの村の露天風呂である。じっくり考えるには、ここが最適である。

 

「どうした?難しい顔をして」

 

シュウが入って来た。

 

「サバイバルエリアへの先行メンバーをどうするかなって」

 

全員で行くよりも、まず先行メンバーで次のセーフティーエリアへ到達しようと思っている。そこをベースにして、残りのメンバーを連れていけば良いはずだ。

 

「君の考えで合っているよ。一気に攻めることは無い。ダンジョンは逃げないからね。セーフエリアも多数設置してあるし」

 

そうなのか。

 

「ここから先は冒険を楽しんで欲しい。あの街まで行けたってことは、戦力的には問題は無いはずだよ。だからこそ、メイプル抜きで、レイドエリアを攻略してみた方が良いかな」

 

それは、俺も考えていた。レイドエリアはメイプルの高火力で押し切った感が歪めないから。たぶん、サリーとマイルの回避盾2枚で敵を翻弄して、残りの者が適材適所で仕留めていけば良いはずだ。それだけの人材は揃っているし。

 

「強いて言うならば、人数の割に回復役が少ないかな」

 

回復役は、俺とマイル、ミザリーである。商人のポーリン、魔導研究家のレーナを回復役として連れ出せば良いか。あぁ、マリアを借りるのもありか。ミトとサトゥーも…復興どころでは無くなりそうだ。まず、希望者を集めるかな。

 

サトゥーとミトに確認すると、問題無いし、むしろ一緒に冒険したいそうだ。ただ、ポーリンとレーナは実戦を離れて居るため、止めた方が良いとミトに言われた。

 

「あっ!それならば、適任者がいます。攻撃魔法も使えて、収納魔法も使えて、回復魔法も使える現役の冒険者パーティーが」

 

と、マイル。どこか嬉しそうなのだが…大丈夫な人材か?まさか、ヲタ系転生者か?

 

「ワンダースリーって言う、私が以前所属していたパーティーなんですが」

 

話を聞くと、魔法使い3の冒険者パーティーらしい。全員が前衛、中衛、後衛、サポートをこなせるマルチメンバーだと言う。それは、必要な人材であるが、どこにいるんだ?

 

「どこに?う~ん…どこでしょうね。探してみます。モフモフ出来ない夜にでも」

 

ラビの村のお勤めは休まずに、捜索するらしい。「いや、休んでもいいんだぞ」と言ったら、「私からモフモフ人生を取らないで」と泣かれてしまった。どんだけ好きなんだ?お前はバニーの子供が…犯罪は犯さないでくれよ。

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

4章 出会い頭に
森にいた最強パティシエ


『くまクマ熊ベアー』クマさんの立ち位置にダンが…


目覚めると、森にいた。迷宮都市の館で寝た筈なのだが、俺は森にいた。昨夜の記憶を思い出す。確か…夜中に目が醒めて、トイレで用を足した帰り、曲がり角で出会い頭に黒い物体と…

 

あっ!あれって、黒い悪魔か?俺は再び『悪食』の餌食に…いや、家の中で盾は持ち歩かないだろう。流石に…

 

脳内でマップを展開するが、『新エリア』と表示される。俺は死んで転移したのか?ステイタスを表示させると、幸いなことに、前世のステイタスが残っていた。一人では寂しいので、カエデとアリスを召喚した。

 

「アリス、ここは同じ世界か?」

 

エンブリオであり、ナビゲーションピクシーのアリスに訊いてみた。

 

「…違う星のようです。所謂、異世界への神様転生では無いかと思います」

 

あの継ぎ接ぎだらけの星では無いのか。あの胡散臭い神の仕業か?

 

「近くに村は?」

 

「マッピングした結果では森だらけです。相当広大な森の中にいるようです」

 

あの胡散臭いボンクラな神もどきを呼んでみた。

 

「誰が胡散臭い?で、ボンクラだと?」

 

目の前にシュウが現れた。神であることを否定する神なんて、胡散臭いだろうに。

 

「俺はどうなったんだ?」

 

あの世界での結末を訊いてみた。

 

「夜中に廊下の曲がり角で、出会い頭にメイプルと衝突して、君はミンチにされたんだよ。あそこまで細かく千切れると、君の再生力でも無理だったようだよ。現在のメイプルの強度は素肌でオリハルコン並、装備込みでダイヤモンド並だ。で、なんであの娘は寝るときも装備をしていたんだ?」

 

全裸状態でオリハルコン並?バケモノだよな?あぁ、あの湖のレイドモンスターでレベルが上がったのか。一人でオーバーキルしていたし。装備していたのか。そうなるとシールドバッシュでも食らったかな?

 

「君は貫通力がチートであるが、防御力は人間並だからね。一溜まりもなかったようだ。で…あの世界で転生するよりも、異世界転移して冒険したいだろ?」

 

村長と伯斗と出会い、いいこと尽くめだった異世界生活。確かにサバイバル感はなくなっていたな。もっと色々と冒険して、色々な食材に出会いたい。

 

「住処は移動式ギルドホームがあるから、問題は無いでしょ?あと、新設備として、自動買い取り機と、自動販売機を設置した。これで凌いでくれるかな?追々、お仲間が転移してくると思うから。また、来るよ」

 

シュウが消え去った。移動式ギルドホームを召喚してみた。飛行機形態ではなく、普通の家のような形態で現れた。コクピットのあった辺りに向かうと、コントロールルームがあり、飛行機形態などに変身できる機能が増えていた。コントロールルーム内のレーダーで確認すると、この森は国境に当たる様で、2つの国に隣接しているようだ。一番近くの集落は歩いて2時間くらいだし、向かってみるかな。

 

 

カエデを盾に、アリスを剣として、集落の方へと歩みを進める。魔物が豊富なようで、ウルフ、ゴブリン、オークなどが狩れた。この世界では狩ってもドロップ品に変わらないようで、倒す度に俺、メイプル、アリス、コンコンで解体作業をしている。自動解体機能が欲しいなぁ。

 

『【自動解体】スキルを得ました。アイテムボックスに収納することで、食べられる部位、売れる部位、討伐証明部位、ゴミへと収納、解体、分類をしてくれます』

 

言ってみるものである。神もどきがスキルを作ってくれ、天からの啓示をアリスが声で教えてくれた。なので、目の間にある獲物をアイテムボックスへと収納していく。手間要らずだな。うん?この世界のウルフは食えるのか、ウルフの肉が食える部位に分類されていた。骨、内臓なんかは、カエデ、アリス以外の仲間が美味しそうに食べている為、ゴミにはゴブリン、オークなどの装備品が分類されていた。

 

夜になり、移動式ギルドホームで休む。ゴミを自動買い取り機に投入すると、現地通貨が出てきた。これはありがたい。俺達、無一文だしなぁ。自動販売機では、俺の生まれ育った世界の物が買えるようで、銀貨1枚で缶コーヒーを手に入れることが出来た。因みに飲み終わった缶も買い取ってくれ、銅貨1枚になった。この世界の通貨価値がまるで分からない。銅貨は1円玉で、銀貨は100円玉なのだろうか?

 

簡易キッチンでオーク肉を調理をしていく。オークは豚肉と同じで、生姜焼きにして、俺、カエデ、アリスで食した。

 

翌朝…誰も転移して来ない。さて、森の調査がてら、探検、狩りをするかな。アナを召喚して、空から魔物の分布を調べ、群れの居る場所へと向かい、魔物の集落を殲滅していく。種の保存の為、全滅はさせない。逃げる物は追わず、群れを潰していく。

 

「誰か、助けて・・・・」

 

集落まで30分くらいの場所に到達した時、少女の震える声がした。声のした方へ向かうと、倒れた少女を囲む様にウルフが5匹いた。

 

「カエデ!『身捧ぐ慈愛』だぁ!少女を護れ、アリスは俺のガード!」

 

『ウッドオクトパス』を発動して、ウルフを狙撃していく。カエデの保護下に入り、少女が回復していく。俺はウルフの死骸を収納して、少女へ近寄った。

 

「大丈夫か?」

 

黒髪の少女を抱き起こした。

 

「あ、ありがとうございます」

 

少女の視線は黄金装備のアリスをロックオンしていた。

 

「貴族様ですか?」

 

俺で無く、アリスに質問する少女。金色の装備に身を固めたアリス。対して俺は、Tシャツにジーパンだしなぁ。

 

「違います。私は主様の下僕です」

 

アリスの視線が俺を指し示すと、少女がぽっかーんとしている。

 

「はい?」

 

アリスもカエデもアーマーを着込んでいるが、俺はちょっとそこのコンビニまでの服装である。一番下に見られてもおかしくない。怪訝な表情で少女が俺を見つめている。

 

「主さんですか?」

 

恐る恐る訊かれた。

 

「俺はダン、それでソイツらはアリスとカエデだ」

 

こっそりとアナを帰還させた。アイツが近寄ると、少女が怯えそうだし。

 

「なんで、魔物の森にいるんだ?」

 

少女がここにいる理由を尋ねた。

 

「お、お金が無いから、病気のお母さんの為に、薬草を探しに来たんです」

 

病気?治せるヤツは居るかな?

 

『お任せあれ』

 

デミウルゴスが名乗り出た。病気を治すと言うより、病魔を退治、いやテイムしかねないかな?まぁ、いいか。

 

「俺を、お前の母親の元へ案内してくれ。治せるかもしれない」

 

うさん臭そうな目で俺を見る少女。まぁ、こんな服装だしな。俺も信じないと思う。胡散臭さはシュウに負けない自信があるし。

 

「主様を信じてください。出来ないことは出来ないとハッキリと言う方ですから」

 

と、アリスが優しく話すと、納得して表情になる少女。この差は、やはり見た目か?

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

森で少女を拾ったパティシエ

---サリー---

 

朝起きると、廊下でメイプルが泣いていた。廊下に座り込み、呆然としているようにも見えた。廊下の曲がり角…その場所の空気が妙に血生臭い。廊下の壁には熟れたトマトを投げつけた様なシミが多数。これって…メイプルが誰かをボディプレスしたのか?

 

「ねぇ、泣いていたら、分からないよ」

 

マイルの表情が固まっている。メイプルを宥めているが、その声はどこか冷たくて怖い。ミィの手には魔力が集まっている。これって、被害者は…まさか…私はダンさんの寝室に駆け込むが、そこには部屋の主はいなかった。敷き布団に触れるが、冷たい…

 

パチーン!

 

私はメイプルの頬を叩いた。しかし、メイプルにダメージは入らず、私の手の方が悲鳴を上げた。激痛…折れたかも知れない。異変を察し、私の手にミザリーがヒールを掛けてくれると、激痛が引いていく。お前、なんだ、その硬さは…叩いた手が折れるって何?

 

マイルがメイプルを落ち着かせ、リビングで彼女の弁明を訊いた。聞いたのだが…

 

「寝ぼけていて、覚えてないって?どういうことだ?」

 

メーヴィスが問い詰める。だけど、メイプルの表情は嘘を言っていないように見える。本当に覚えていないのだろう。皆でメイプルを囲んでいると、あの神らしき者が現れた。

 

「死後に異世界転移して、転生先で彼は元気だったよ。まさか、出会い頭の接触で、あんな目に遭うとは…彼も絶句していたぞ」

 

ダンさんは死後直ぐに、異世界へ転移しての転生したそうだ。きっと、このうさん臭い神が気を利かしてくれたのだろう。

 

「そんだけ硬いんだから、注意して歩かないと危険だよ。戦闘時以外での彼の防御力は紙キレ同然だからね」

 

現在のメイプルの硬度は素でオリハルコン並らしい。ダンさんは、寝ぼけたメイプルというオリハルコンのハンマーで強打されて、壁に激突し即死だったと言う。誰もが声にならない声を上げていた。唖然…こういうことを言うのだろうか?メイプルさえも唖然としている。

 

「まぁ、双方寝ぼけていたから事故だよ。日常生活時だけ、メイプルの硬度を下げるかな」

 

便意という本能に突き動かされ、トイレに駆け込もうとしていたメイプルと、便意を解消し気の抜けたダンさんとの、出会い頭の事故。防げなかったようだ。

 

「君達を彼の元へ転移させるのに時間が掛かる。急ぎたい者は、ダンジョンを制覇したら、彼の元へ連れて行ってあげるよ」

 

森を抜けた先に、ダンジョンがあるらしい。そこに到達出来れば、ダンさんに会わせてくれると言う。メイプルを除くみんなに、ヤル気が漲っているようだった。

 

が、その後のメイプルの行動のおかげで、割りと早く合流出来ることになるのは、先の話である。

 

 

---ダン---

 

倒したウルフ隊を収納して、少女と共に彼女の家へと向かう。

 

「その集落はデカイのか?」

 

「クリモニアと呼ばれる街です」

 

怯えたように俺を見て、アリスの腕に抱きついている少女が答えた。何故、そんなにビビるんだ?

 

「主様の目つきに怯えているようです」

 

と、アリス。俺の目つき?そんなに怖いのか?ちなみに、カエデは定位置の背中に貼り付いている。

 

「お前の名前は?」

 

「フィナ…」

 

怯えたようにアリスにしがみ付き、答えた少女。俺、そんなに怖いのか?

 

しばらく歩くと森を抜け、遠くに城壁が見えてくる。割と大きな街のようだ。ラビの村よりも大きいなぁ。城壁の高さも結構あり、魔物が来ても大丈夫だろうな。空からの強襲は防がないだろうけど。

 

街に入るのには、市民証やギルドカードなどの身分証明書が必要らしい。困ったなぁ。そんな物は無い。

 

「銀貨1枚と犯罪歴が無ければ入れます」

 

一人銀貨1枚か?アリスとカエデを送還した。突然、アリスが消えて、益々俺を見る目に恐怖の色が浮かぶ少女フィナ。

 

「アイツらは使い魔だ。街に入れば、召喚するから、待っていろ」

 

「…」

 

街に入る前に、久しぶりに、ステイタスの確認でもしておくかな。

 

ーーー

ダン

Lv30

HP 2345/2345

MP 414/414

 

【STR 427】

【VIT 0(+20)】

【AGI 135】

【DEX 135】

【INT 0】

【LUK 0】

 

装備

頭 【】

体 【Tシャツ】

右手 【】

左手 【】

足 【ジーパン】

靴 【トラベラーシューズ】

装飾品 【惨劇の指輪】

【蒼き竜の翼(VIT+20】

【使い魔の指輪】

 

スキル

【復讐者】【運の付き】【返り討ち】【不屈な精神】【毒体質】

【大物食らい】【蜂の一刺し】【超加速】【32連打】【爆炎の守護者】

【ホーリークロウ】【ウッドオクトパス】【子羊の行進(スリープ)】

【ヴァンパイアロード(MPドレイン、HPドレイン、レベルドレイン)】

【釣り】【料理】【強奪】【妄想】【自己再生】【魅了】【添い寝】

【機龍】【JK化】【熟成】【収納(解体、分類)】【自動解体】

【ヒール】【カバームーブI】【クイックチェンジ】【百鬼夜行EX】

【白鬼夜行EX】【死霊の泥】【英雄召喚】【狙撃眼】【転移術】

 

 

耐性

状態異常無効。爆発系・炎系無効

 

使い魔

狼…【神のペット】フェンリル(ポチ改めハチ)

鳥…銀翼(アナ)

メイプルもどき…カエデ(ドッペルゲンガー)

女神…フレイヤ

聖女…【騎士天使】ジャンヌ

魔神…【悪魔公爵】デミウルゴス

狐人…九尾の狐(コンコン)

クラゲ…蜘蛛クラゲ(スパイダースライムのスラリン)

スライム…【冥王】グラトニー(冥界グラトニースライム)

 

エンブリオ

アリス・セカンド

TYPE:カーディナルwithスタンドアップ

到達形態Ⅰ

 

保有スキル

《冒涜の化身》

システムコールを使用出来る。アクティブスキル

 

《英雄召喚》

LV3 一度に三人の英雄を呼び出せる。アクティブスキル

 

《デッドリードライブ》

相手に瀕死の重傷を負わせることが出来る。Ⅰバトルにつき、1度使用可能。アクティブスキル

 

補足説明

『世界を知り尽くし、世界の不備に不満を持つ(システムを知り尽くし、システムに不満を持つ)マスターの元に産まれるSSR級エンブリオ。別名;管理AI1.5号』

 

ーーーー

 

レベルに変化は無し、装備はラフだな…あれ?使い魔が増えているし。神様転生特典か?ステイタス以外は、隠蔽しておくか。犯罪歴の検査って、ステイタスチェックだろうし。

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

パティシエ、冒険者ギルドに入会

 

---モレーナ---

 

神隠し多発地帯…あのワンダースリーが消えた。私の立てたフラグで、彼女達が消えるとは…

 

「モレーナ、護衛の者達が消えたそうだな」

 

王子であるジオルド様が優しく、私を抱き締めてくれた。もしかして、この王子がジャマになりそうな者達を消している張本人なのでは?

 

思えば、消えたのは婚約者、国の重鎮、ジオルド様の弟さんと、その婚約者…ジオルド様にとって、ジャマな存在だとしたら。ワンダースリーですら抗われない能力持ちなのか?

 

「どうしたんだ、モレーナ?」

 

ジオルド様から離れ、彼から距離を取っていた私。

 

「お願いです、護衛の者達を返して下さい」

 

懇願するも、近づき私を抱き締めるジオルド様。

 

「可哀想に、混乱しているんだな?」

 

鼻先に甘い香り…意識が遠のいていく…

 

 

 

---サリー---

 

朝起きると、見知らぬ少女が3名いて、マイルに詰め寄っていた。あれがマイルが言っていた、魔法使い3のパーティーのワンダースリーかな?今日は、転移術の使えるサトゥーさんと、関連する街に行き、ダンさんのことを知らせないと。

 

先ずはクボォーク王国へ…アリサに話すと、既に知っていた。

 

「あの神もどきが、昨日来たわ。将来的に、クボォーク王国ごと、転移して貰うことにしたわよ」

 

転移する王国?

 

「今、あちらの世界で、転移しても良さげな土地、いや大陸を探して貰っているの」

 

アリサ達だけ転移するって発想は無く、国民、国土ごとの転移を望み、了承させたそうだ。

 

「ダンには借りが一杯あるの。返す機会を寄越しやがれって、神もどきに、詰め寄ってみたのよ」

 

あぁ、あの神がタジタジになったことだろう。アリサのここ一番のプレッシャーは重いから。

 

その後、魔王様、村長の下を訪れると、シュウさんが先回りして、事情を説明し、協力を求めたらしい。

 

「行き来出来るのであれば、食材を持っていきたい」

 

と、村長。

 

「引っ越し祝いに、温泉旅館でもプレゼントしてやるかな」

 

と魔王様。上に立つ者、些細なことに動じないようだ。今日会った上に立つ者、全員異世界転移、もしくは転生者であるから、死んでからの異世界転移くらいでは動じないのかもしれない。

 

 

 

---ダン---

 

街に無事入り、フィナの家に着いた。家に入るとまず【子羊の行進】で、フィナ一家を眠らせ、治療に掛かる。眠らせたのは、デミウルゴスを召喚したら、ショック死しかねないからだ。この俺にビビる程度では、デミウルゴスの恐怖オーラに耐えられないだろう。

 

「これは見た事の無い病魔ですね。総て貰って良いですか?」

 

召喚したデミウルゴスがフィナの母親の身体から、病魔を取り去ったようだ。次に聖女のジャンヌを呼び出し、フィナの母親に回復・治癒の魔法を掛けてもらった。

 

「これで、彼女は健康体ですよ」

 

任務終了かな?帰り際に、ウルフの肉を置いて行くことにした。オークの肉があるし、ウルフはフィナにプレゼントである。フィナの家を出て、冒険者ギルドへと向かう。街に入る度に、銀貨1枚は痛い。後、相談できる場所はあった方が良い。俺はこの世界の貨幣価値を知らないし、相場も知らない。買い取り機の相場が適正とは思えないし。きっと、手数料を取っているだろう。

 

冒険者ギルド…テンプレ的には、初心者虐めの洗礼がある場所だな。道行く人々に訊いて、漸く冒険者ギルドに辿り着いた。中には、剣や杖などを持った冒険者がウヨウヨいる。俺が入ると、一斉にこっちを向いた。

 

「おい!ここは観光名所でないぞ」

 

剣を鞘から抜いて、俺に剣を向ける冒険者。迷わず【子羊の行進】で、冒険者達を睡魔に引き渡し、フレイヤに死なない程度で精気を好きにして良いと許可を出しておく。舐められたら終わりである。最初が肝心だ。

 

「あなた…何をしたの?」

 

受付の女性が、俺に向かって叫んだ。何をした?言える訳ないだろ。

 

「ギルドカードを作りたいんだけど、どうすれば良いんだ?」

 

怯えるような目で俺を見る受付嬢。1枚の紙キレを出して来た。なになに…入会申請書か。記入するのは名前と年齢と職業…年齢は17にして、職業はパティシエだな。必要箇所を記入して、受付嬢に渡した。怯えた態度で、淡々と処理をする受け嬢。

 

「この水晶板に手を乗せてください」

 

手を載せると、1枚の金属板が生成された。これがギルドカードか?

 

「このカードに様々な情報が書き込まれていきます」

 

「使い魔がいるんだけど、それも登録した方がいいのかな?」

 

「は、はい…できるだけ、お願いします」

 

受付嬢の顔色は血の気の失せた青白い顔である。

 

「おい、ヘレン!ヤケに静かだが、何かあったか?」

 

奥からガタイのいい男が出てきて、床に倒れている冒険者の大群を見て、バックステップを踏んでいた。

 

「何が、あったんだ?」

 

「Dランクのデボラネさんが、この人に絡んだら…ノーアクションで全員、このような状態に…」

 

受付嬢の声が震えている。俺って、そんなに怖いか?

 

「なんだとぉ~!貴様、何者だ?」

 

「Fランク冒険者のダンだよ」

 

今、貰ったギルドカードを見せた。

 

「あの…この方、使い魔が居るそうなんですけど…」

 

「そうか…奥の訓練場で見せて貰うか」

 

「自己申告じゃダメ?」

 

「ダメだ。虚偽申告するヤツがいるんだ」

 

虚偽?そんなヤツが居るのか…奥の訓練場に行き、使い魔達を全員召喚した…いや、大きいのもいるので1体ずつだった。

 

「SSS級モンスターのデーモンロードとグラトニースライム、フェンリル、ジルだとぉ!更に…天使と女神にナインテール…貴様、何者だ?お前は魔王か?」

 

知らない種族も混じっているが、コチラの世界の呼び名かもしれない。

 

「魔王?知り合いにいるけど…」

 

「はぁ?」

 

ギルドカードが銅から白金に代わり、『触るな危険』と注記が入った。俺って危険人物か?

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

無邪気な破壊神降臨

『神達に拾われた男(改訂版)』のスライムテイマーの立ち位置にダンが…


---サリー---

 

う~ん…朝目覚めると、リビングに胡散臭い神がいた。

 

「色々予定、計画が破綻したんだが…」

 

初めて見る、疲れた表情である。

 

「ダンジョンが破壊された。当分、立ち入り禁止だよ」

 

メイプルがやらかしたそうだ。その硬度と火力を生かし、障害物をスルーして、一直線にゴールを目指し、ゴールしたそうだ。

 

「大迷宮の壁や床を煎餅の如く割りまくって進むって…想定外だよ」

 

う~む…メイプルらしいと言うか。きっと責任を感じてクリアでは無く、ダンさんに会いたくてクリアなんだろう。あの娘ときたら…

 

 

 

---ダン---

 

朝目覚めると、黒いラスボスが目の前にいた。正確に言うと、俺と添い寝、『り』の字で寝ていた。なんで、コイツを最初に寄越したんだ?マイルとかサリー、一歩進んでミトでも良かったんだけど…多分、この世界に於いて、メイプルの戦闘力はオーバーキルなんでは無いだろうか?この温厚な俺でさえ、『危険物』扱いなのに…

 

「神様が、日常生活で死者が出ないようにしてくれたんだよ。だから、もう安心だよ」

 

それは救いであるが…日常生活で死者が出るって、マズい事態で無いのか?

 

今日は、狩りに行くか。コイツの戦力を見極めないと、危険が一杯である。

 

向かうのはフィナの住んでいる街とは逆方向である。フィナを送っていく時に出会ったのは、ゴブリンとウルフ程度だったから。逆方向にはオークという食材が待っているし。

 

空にアナを放ち、上空から、獲物を見つけて貰う。メイプルとカエデという強力無比な盾2枚に護られながら、アリスと共にオークを探す臆病な俺。

 

「見つけた!」

 

メイプルが走り出した。しかし、その速度は俺達の早歩き程度である。相変わらず、VIT振りなのだろうか?これ以上硬くしても無意味だと思うのだが…オークに突進していくメイプル。体当たりかと思ったら、シールドバッシュ一発!高級食材のオークがその場で、ミンチ肉へと変貌した。

 

「おい…ミンチにするなよ。俺達の貴重な食材だぞ」

 

「えっ!魔物を食べるんですか?」

 

「食べるんだよ。この世界では…」

 

「おぉ~」

 

ナニカに感動したメイプル。今はコイツをスルーして、取り敢えず、魔石だけ回収しておく。オークのミンチ肉は撒き餌となり、魔物達が近寄ってくる気配を感じる。ウルフが何かを喰っている音がするし。

 

「メイプルは、食えないゴブリンだけ狙ってくれ。ハチ!メイプルに食材を潰されないように、先に屠れ!」

 

AGIの高いハチを召喚して、メイプルから食材を護る様に指示して、カエデの【身捧ぐ慈愛】に護られながら、【ウッドオクトパス】で狙撃していく。上空ではアナが、ドラゴン達を屠っているようだ。空からドラゴンが降ってくる。メイプルに落下してくる個体は【強奪】してからの【収納】で、高級食材のミンチ化を防いでいく。今日は大漁だな。

 

 

狩りの後の食事…ドラゴン肉でステーキを作る。解体、分類し、食えない、売れ無い、利用出来ない部位は、仲間達に食べて貰う。

 

「こんなに美味しいんですね」

 

ドラゴンステーキを美味しそうに食うメイプル。確かに旨い。シチューにしてもいけるか。

 

「主様、向こうで剣戟の音がします」

 

食後休み中、付近の探索をしていたアリスが微細な音を拾ったようだ。オークかな?ゴブリンならメイプルだけでいいか。音のする方へ静かに近寄っていくと、馬車が倒れ、騎士らしき者達が、ビッグボアと言う猪と戦っていた。

 

「メイプル、アイツの足だけを破壊しろ!カエデは騎士達のガード、ジャンヌは怪我した騎士達の治癒だ」

 

聖女のジャンヌを召喚し、俺とアリスは、ビッグボアを仕留めに行く。アナは騎士達がビビるとアレなので送還しておく。今日はシシ鍋だ!

 

ビッグボアを仕留め、収納、解体、分類し、騎士達の方へ。

 

「助かった。助太刀、ありがとう」

 

リーダーらしき人物が声を掛けてきた。倒れていた馬車は、メイプルの念動力で起こされている。

 

「君達は何者かな?」

 

「俺達はクラン<楓の木>のメンバーです。あのちっこいのがクランリーダーです」

 

あっ!メイプルをギルドに登録していない。クランの設立もしていない。大事なことを忘れていたことを思い出した。

 

「クラン?あぁ、複数パーティーで組織しているのか。私は、ラインハルト・ジャミール。この辺りを領地にしているジャミール公爵家の当主です」

 

あぁ、お貴族様なのか。

 

「君達はどこ所属なのかな?」

 

「最近、この辺りに着いたので、クリモニアの冒険者ギルドだ」

 

「隣国のギルドなのか…我が領土のギルドに来ないかい」

 

「気が向いたら…」

 

「君達は野宿なのか?」

 

あぁ、クリモニアまで歩いて3時間くらいだな。一般人だと…

 

「いや、家が森の中にあるから」

 

歩いて30分掛からないだろう。基本帰りは転移術なので、時間は掛からない。

 

「森に住んでいるのか?ここの森は危険だぞ」

 

驚いている。いや、俺もだよ。危険?ドラゴン以上に危ないのが居るのか?それは、出会いたいなぁ。

 

「俺達の家の周囲は安全みたいだよ」

 

心配だから、着いてくると言う。歩いて帰らないとダメなようだ。信用仕切っていないヤツラに、能力を見せたく無い。まして、貴族相手に見せると、道具にされそうで怖い。俺は、菓子を作りたいだけなんだ。政争の具にはされたくない。

 

「ここだよ」

 

鬱蒼と茂る草やツタに隠れるように建っている家。

 

「泊まっていくか?」

 

家の中に貴族一行を連れ込んだ。ここで追い払うと、後が面倒だし。

 

 

 

---ラインハルト・ジャミール---

 

出先から家に戻る道で、盗賊に襲われ、ゴブリンに襲われ、そしてビッグボアに襲われた。仕組まれた事なのだろうか?偶然にしては、襲われしすぎだ。

 

三戦目のビッグボア戦は、死を覚悟した。護衛の戦士達がボロボロにされ、馬車を倒され、逃げ場を失い、神に祈ることしか出来なかった。そんな私達を助けてくれた冒険者クラン。あんなに苦戦していたビッグボアが、いとも簡単に屠られていた。目つきの悪い少年に、少女が4人…内一人は治癒能力持ちだった。おかげで命拾いをしたのだが…近隣で、こんなクランは聞いたことが無い。そもそもクランなど聞いたことが無い。ダンジョンの近くの街には、クランと言う組織が有るらしいけど。この辺りでは、まったく聞かない。

 

彼、ダンに話を聞くと、最近この辺りに流れ着いたらしい。元々はもっと遠くの国で活動していたそうだ。森の中での食事…豪華な料理が並ぶ。王都でもこんなに並ぶことは無いだろう。ドラゴンステーキ、オークのシチュー、そしてビッグボアの鍋料理…高級食材ばかりである。

 

「肉は大量にあるから、食べてくださいね」

 

これらの魔物を狩ったと言うのか?この人数で…4名で?うん?先ほどは5名いたはずだが…

 

「あぁ、俺と、クランマスター以外は使い魔です。必要に応じて召喚しているんです」

 

完全に人間に見える使い魔?種族はなんだ?人間を使い魔には出来ない。

 

「種族ですか?アリスはナビゲーションピクシーで、カエデはドッペルゲンガー、ジャンヌは天使だっけかな?」

 

妖精と妖魔と天使?彼のテイマーレベルは如何ほどだろうか?天使をテイムした人間なんか、聞いたことが無い。

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

パティシエ、庭付き一戸建てを買う

 

---ダン---

 

貴族一行様がお帰りになられた。翌朝起きると、カタリナ、キースのクラエス姉弟がいた。

 

「どうして?」

 

あの神は、どうして戦闘職で無い二人を連れて来たのか?

 

「私もいるわよ~」

 

あぁ、チートな元勇者のミトもいた。何気に存在感が薄いのは気のせいか?

 

「食材のタネを持って来たの。育てるのに農業の専門家がいるでしょ?キースは姉離れ出来ていないそうだから、連れてきたよ」

 

なるほど…畑は必要である。水田は手間が掛かるが、畑は水田に比べれば楽と言えば、楽である。

 

俺達のソウルフードの素である味噌、醤油は必要である。カタリナは大豆と小豆と小麦のタネを持って来てくれたそうだ。あれ?小豆って…餡子狙いか?そうなると和三盆辺りも欲しいところだ。

 

「じゃ、街に行って、農地付きの家を建てましょう」

 

とカタリナは乗る気である。が、先立つ物は無い。

 

「あぁ、イチロー兄ぃからの伝言だけど、商業ギルドで『エチゴヤ』を<楓の木>傘下で登録しておいてって」

 

ミトの言うイチロー兄ぃとは、チート商人のサトゥーのことである。

 

「じゃ、まず、冒険者ギルドでメイプル、ミトを登録だな」

 

【土ボコ】しか魔法が無いカタリナは冒険者にはしない。危険だし。一応、お嬢様だしねぇ。街の傍まで皆で転移し、街へ…銀貨4枚を払って、街の門を潜った。まずは冒険者ギルド…俺達が建物に入ると、ヤローの冒険者達がカタリナへ引き寄せられる。そんな男共を【子羊の行進】で大人しく寝かしつけ、受付へと進んだ。受付では受付嬢のヘレンがおり、でギルドの入会申請と、クランの設立申請をしていく。

 

「クランですか?パーティーでなくて?」

 

「クランだよ。冒険者以外にも商業部門、農業部門があるからな」

 

国政部門、PK部門も有るけど…それは内緒だ。

 

「メンバーの大半は冒険者なんだ。後、クランホームに出来る家って、買えるかな?農地があるといいんだけど…」

 

「土地関係は商業ギルドでお願いします。冒険者ギルドでは、ポーション販売と素材の買い取り程度しか商売してません」

 

あぁ、素材を売れば、先立つ物が出来るかな。

 

「これいくらで買い取ってくれる?」

 

この前仕留めたドラゴンのウロコを1枚差し出した。

 

「こ、こ、これって…ちょっとお待ちください。ギルドマスターに確認してきます」

 

ヘレンが奥へ引っ込んだ。しばらく待つと先日のガタイの良い男がヘレンと共に出てきた。コイツがギルドマスターか?脳筋な筋肉信者に見えなくもない。

 

「ギルドマスターのラーロックだ。で、コイツはどうしたんだ?」

 

「この前数匹仕留めたけど…」

 

盗んだと思っているのか?

 

「全量買い取りしてくれるのか?ウロコだけでなく、牙も皮も魔石もあるんだが…」

 

肉は無い。自家消費が決定済みである。

 

「そうか…本音を言えば、総て欲しいが…冒険者ギルドでは予算的に買い取れぬ…うぬぅぅぅ。悔しいが、商業ギルドで売ってくれ」

 

手渡したウロコを返してくれた。

 

「その代わりに、他の物を売ってくれ」

 

「後はゴブリンの魔石とか、オークの魔石だな」

 

この世界では、討伐証明は魔石で行うようだ。

 

「オークの肉とか皮は無いのか?」

 

肉は食用だし、皮はデミウルゴスが羊皮紙の原料に使うとかで、総てプレゼントしてしまった。なので、

 

「無い。自家消費だ。あぁ、ビックボアの牙ならあるぞ」

 

毛皮はフロアシートにしてしまったし。

 

「それを売ってくれ」

 

収納庫から、牙を2本取り出して、冒険者ギルドに売り払った。

 

 

商業ギルドの建物に入り、受付嬢にギルドカードを提出して、

 

「商業ギルドに登録したいんだけど…屋号は『エチゴヤ』で。後、クランホームとして使える農地付きに家が欲しい」

 

受付嬢に要望を伝えた。

 

「あぁ…噂の『触るな危険』のダンさんですね」

 

受付嬢の顔が引きつって見える。なんだ?その二つ名は…どう考えてもメイプルの二つ名だろうに!

 

「家ですか…家付き、農地付きだと…金貨100枚くらいですが、出せますか?」

 

出せません。なので、

 

「これって何枚売れば、買えますか?」

 

受付嬢にドラゴンのウロコを1枚手渡した。

 

「え…これって…本物…うっ、うぅぅぅ…何枚くらいお持ちなんですか?」

 

「総てだと5000枚はあるんじゃ無いかな」

 

1匹から1000枚近く取れたし。

 

「5000枚も…では、場所は問わなければ、これから下見に行きましょう」

 

「で、何枚買い取ってくれるの?あと、下見の前に、登録をして欲しい」

 

「あぁ、そうですね。1枚で金貨100枚ですので、これ1枚で家と土地を交換です。当ギルドへの入会申請費諸々の経費分は、今回サービスさせて頂きます。今後も取引をお願いします」

 

そこまで言うと、受付嬢が頭を下げて来た。

 

ドラゴンのウロコ…ハンパ無く高いようだ。手続きを済ませ、下見に向かった。壁近くの土地だけど、人気が無いのか、かなり広い。

 

「カタリナ、どうかな?」

 

土担当に訊いてみた。

 

「中々広くていいわね。屋敷は古そうだけど、手直しすれば良いよね」

 

いざとなれば、移動式ギルドホームへと、家の中から転移すれば問題は無い。

 

「ここでいいわよ」

 

カタリナお嬢様の許可が出たので、買うことにした。案内してくれた受付嬢から権利書を受け取り、俺達はクランホームとなる家の中に入った。家は貴族が住むような屋敷である。室内はミトに任せ、俺とカタリナ、キースは農地になる庭へと向かった。

 

庭で、グラトニーを召喚して、土を喰わせて土地を掘り返していく。暴飲・暴食スキル持ちのグラトニーは何でも食べて、有機物を食べると培養土を排泄し、汚水の飲めば真水を排泄し、無機物を食べると結晶もしくはインゴットを排泄してくれる。とても便利なリサイクル生物である。尚

且つ、人化も出来、執事姿にもなれる万能使い魔だったりする。

 

「ここの土はどうだ?」

 

「主様、毒素も栄養も無い普通の土です」

 

今までにグラトニーが排泄した培養土を、収納庫から取り出し、土に混ぜ込んでいく。その土で、カタリナとキースは畝を作り、タネをまいていく。

 

「グラトニー、森の落ち葉とか腐った木でも、培養土になるのか?」

 

「はい、主様」

 

じゃ、狩りの他に、今後は森で落ち葉拾いもしていこう。

 

 




お菓子作りへの道は遠い…


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

防御を極めたので素早さを極める黒き死神

---ダン---

 

翌朝…誰かにユサユサと揺り動かされ、起床っ!って、メイプルだった。

 

「ねぇねぇ、ダンさん。聞いて聞いて」

 

ニコニコ顔のメイプル。こんな朝早くに、ご機嫌になる要素があったのか?

 

「どうした?」

 

「VITをコンプリートしたんだお」

 

嬉しそうにステイタスを俺に見せるメイプル。そこには『VIT MAX』と表示されていた。コイツの硬さは、最凶の盾ってことか?コイツを見ていると、『防御は最凶な攻撃』に思えてくる。今までに俺は3度死んだが、そのうちの2度はコイツにやられた訳だし。

 

「それでねぇ~、次は何を極めれば良いかな?」

 

満面な笑顔で訊いてくるメイプルと言う黒き死神。STRはいらないだろう。コイツのVITは最凶兵器だし。HP、MPはレベル依存な為、自分で振れない。魔法使いでは無いからINTもいらない。脳筋なコイツには器用さもいらないだろう。そもそも、コイツの攻撃手段にDEX頼みの物は無い。

 

「決まっているだろ?お前に足り無いのはAGIだ。人並みに歩く速度を上げろよ」

 

「あぁ~、そうだよね。うんうん、サリーやマイルみたいに、回避盾になれるかな?」

 

コイツに回避は必要無いだろう。コイツを傷つけられるのは、俺かシュウだけだと思う。俺の場合、ロックオンした瞬間に貫通出来るので、回避は無理であるし、シュウの透過能力だと、障壁なんかスルーで内臓攻撃が出来る訳だし。

 

「まぁ、頑張れよ」

 

「はい!がんばりましゅ…あっ、噛んだ…」

 

顔を真っ赤にして俯くメイプル。精神のVITは低いようだ。

 

 

森の家に戻ると、お貴族様の護衛が待っていた。

 

「どこに行っていたんだ?」

 

「クリモニアに家を買ったから」

 

「うん?家をか?う~ん、ラインハルト様が、お前に土地を進呈したいって言うんだが…」

 

「どんな土地?」

 

買った屋敷は面白みの無い土地である。

 

「廃坑になった鉱山の麓で、出来れば、鉱山の管理をして欲しいんだよ。廃坑になったトンネルって、魔物の住処になり易いんだが、お前達の戦闘力なら、どうにか出来るだろ?」

 

それは、楽しめそうだな。態と罠を張り、オークを誘い込むのは有りだな。

 

「貰える物は貰うよ。どこに行けばいいんだ?」

 

お貴族様の護衛が地図を手渡して来た。

 

「公爵領のギムルの街だ。その街の北に鉱山がある」

 

「公爵様は、その街に?」

 

「あぁ、しばらく滞在している。街にある公爵邸に来て欲しい」

 

鉱山か…魔物の巣かぁ…魔物を狩り放題…メイプルが喜びそうだ。

 

「わかった。3日後に向かう」

 

「待っているぞ」

 

護衛の者が立ち去っていく。

 

 

新たな拠点を見に行く前に、住処のある森を掃除しておく。メイプルにはゴブリンと盗賊、山賊の巣穴の掃除を頼み、俺とグラトニーは落ち葉拾いと、倒木や腐った木の除去をし、アリス、ミトには近隣の街の視察、カタリナ、キースには屋敷のある街の市場調査を頼んだ。

 

そして、3日後、移動式ギルドホームでギムルの街へと向かった。ほんの1時間ほどで到着し、鉱山に舞い降りた俺達。

 

「俺とアリス、あとカタリナとキースで公爵邸へ向かう。残りの者は鉱山及び周辺の調査だ。メイプルはゴブリン以外は確実に首の骨を折れよ」

 

首の骨を折れば、大抵の生物は死ぬ。アンデッドは死なないが、メイプルの前ではアンデッドは羽虫同然だし。

 

公爵邸に着くと、公爵家族とご対面となった。公爵の父のラインバッハ、妻のエリーゼ、娘のエリアリア、執事のセバス、護衛のヒューズ、ゼフ、カミル、ジルなど…

 

「俺の使い魔で護衛のアリス、うちのクランの農業部門のクラエス姉弟です」

 

連れてきた仲間を紹介する。

 

「冒険者クランでは無いのか?」

 

ラインバッハに訊かれた。

 

「殆どは冒険者ですが、食い物を自給自足したいので、農業部門、商業部門が傘下にあります」

 

「なるほど…」

 

「頂ける鉱山周辺を調査しましたが、周辺の森もいただけますか?」

 

「開墾するのかね?」

 

「えぇ…廃坑の管理の件は了解です。現在、掃除中です」

 

「仕事が早いな」

 

「戦闘狂がいますから…」

 

メイプルだけでなく、使い魔の殆どが大掃除に参加している。あの軍団に勝てる魔物はいないだろうな。

 

「頼もしいなぁ。うちの私兵にならないか?」

 

「俺達のクラン<楓の木>はどこの勢力にも付きません。クランマスターが戦闘狂な物で、売られた戦争は買いますよ」

 

「流石は、『触るな危険』のダン君だな、はははは」

 

いや、その二つ名はメイプルに差し上げてください。隣国にも知られいる二つ名って何だ?

 

「ところでクラエス姉弟は、貴族の出かね?」

 

「遠くにある祖国では、公爵家でした」

 

とカタリナが流暢に言葉を返した。さすが、公爵の元令嬢である。優雅さが分かる人には分かるのだろう。

 

「この街にも拠点を作ってくれるかい?」

 

「はい。鉱山一帯は任せてください」

 

 

と言い切った物の…洞窟暮らしはちょっとなぁ。家を作るスキルも無い。

 

「へぇ~、良さげな場所じゃないか」

 

と、サトゥーが転移陣から現れた。

 

「魔王様からの差し入れだよ」

 

伯斗が何かをくれたようだ。サトゥーが何かを出すと、目の前に温泉旅館が現れた。

 

「これをくれたのか?」

 

「あぁ、これをくれたんだよ。ラビの村での功績のお返しだって」

 

ナイスプレゼントだよ。毎日温泉に入れる。どんな仕組みか知らないが、消耗品は無くなれば、自動で補充されるし。

 

「食材保管庫は、村長の家と繋がっている。欲しい物のリクエストリストを入れて置けば、転送してくれるそうだよ」

 

至れり尽くせりな拠点である。

 

「あぁ、お礼は新作の料理で頼むって」

 

そうだな。これでやっとパティシエが出来そうだよ。

 

 

 




<クラン楓の木>
【黒き死神】メイプル(防振り)
クランマスター。VIT値MAXでAGI振りに転向し、回避盾を目指す。転移者

【触れるな危険】ダン(オリジナル)
クランサブマスター。パティシエのはずなのに…クランの実質的司令塔。転移者

カタリナ・クラエス(はめふら)
農業部門。元クラエス公爵家の令嬢。転生者。

キース・クラエス(はめふら)
農業部門。元クラエス公爵家の養子で、シスコン。

ミト・ミツクニ(デスマ)
冒険者。シガ王国の王祖で元ミツクニ公爵家当主。転移者の元勇者。

サトゥー(デスマ)
商人。チートの総合商社と言われるチート冒険者な転移者。


<協力者>
【魔王】九内伯斗(魔王様リトライ)
魔法は使えないが、チート能力で蹂躙する転移者。

【村長】街尾 火楽(異世界のんびり農家)
万能農具を駆使して最強の戦士となった転移者。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

温泉旅館で接待を

 

---アリサ---

 

神であることを全否定している神が目の前にいる。彼と私の間には大きな世界地図が置かれている。

 

「ここでどうかな?」

 

彼は大きな大陸を指し示していた。転生前の私の記憶では、オーストラリア大陸に見えるのだが…デカ過ぎるのでは?そこまで新生クボォーク王国は広くない。

 

「ムー大陸は?」

 

「既に国がある。ダン達のいる国もそこにある」

 

「日本みたいな島国があるけど…」

 

ムー大陸の北に日本のような島国があった。

 

「そこにも国があるから、引っ越しは出来ない。そこ以外だと、君達の世界で言うアフリカ大陸にあるけど…」

 

言いにくそうだ。きっと、不便なんだろう。

 

「わかったわ。そこにする」

 

「じゃ、予定としては1ヶ月くらい先になる。隣接するシガ王国も引っ越し希望みたいなんだよ」

 

あぁ、王祖のミト・ミツクニ公爵は、既に異世界転移し、ダンの元にいるらしい。このアリサちゃんを差し置いて…

 

「同じ世界であれば、転移も楽になる」

 

私の能力では、異世界転移は出来ないらしい。

 

「通貨は共通通貨に移行しておくと、貿易が楽かもな」

 

あちらの世界では共通通貨と言う物があり、国ごとの独自通貨よりも、貿易時に損得が少ないそうだ。

 

「後は…魔王様が飽きたら合流したいらしい。まぁ、ラビの村自体は大きくないから、同居できるしょ」

 

魔王様の村は近代設備があるのが魅力である。私達だけの移住だと、ダン、サトゥーのチートコンビ頼みである部分が大きい。向こうでは、どういう生活レベルかな?

 

 

 

---ダン---

 

伯斗からのプレゼントの温泉旅館…住み心地が良い。転生者、転移者が多い俺達にとって、心地よい設備が満載である。温泉、マッサージシート、そして、湯上がりの珈琲牛乳…そこに俺達の幸せが凝縮されている。

 

どんな仕組みか分からないが、珈琲牛乳などの自販機のアイテムは日々補充されている。石けんやシャンプーなどの消え物もだ。確か、伯斗は石けんを綺麗に包装し、石けんが貴重である国での袖の下に利用していたよな。

 

俺も利用しようと思い立ち、石けん、シャンプーなどを箱詰めし、包装し、ジャミール家にプレゼントをした。

 

「これは?」

 

「祖国から届いた固形石けんと、液体石けんです」

 

女性陣の目が輝いた気がする。

 

「祖国とは?」

 

「海を渡った先にある大陸、クボォーク王国です」

 

神もどきから、アリサ達の引っ越し通知が届いた。1ヶ月後に、南下した場所にある大陸にクボォーク王国、シガ王国が引っ越してくるそうだ。方法は不明であるが、神もどきの権限で出来るらしい。因みに、この世界の神々は配下にしたそうだ。どんだけ、神格階位が上なんだ、アイツは…

 

「どのくらい先にあるのかね?」

 

「船で2,3ヶ月ですかね?」

 

俺達は転移術で一瞬であるけれども。

 

「そんな遠くにあるのか…」

 

「えぇ…」

 

「交易は可能かね?」

 

「クラン傘下のエチゴヤを通してください。本店は、この街に置きます」

 

温泉旅館の一角にエチゴヤを開店している。アチラの屋敷は、木造なので、醸造作業場にする予定である。

 

「どこにあるのかな?」

 

「鉱山の麓です。あぁ、廃坑にするなら、あそこを有効利用して良いですか?」

 

「それは構わないが…」

 

言質は取った。鉱山の下にダンジョンを作ろうと思っている。ミノタウロスの肉が欲しいし、カニなども恋しいし…迷宮都市セリビーラのような素材満載のダンジョンにしようと思っている。

 

「今度、いらしてください。異文化を体験してくださいね」

 

 

3日後、ジャミール一家が温泉旅館にあるエチゴヤ本店に来た。

 

「こんな短期間で、このような建物を…」

 

温泉旅館を見て、固まるジャミール一家。1階にあるラウンジへ案内した。ウエルカムドリンクは珈琲牛乳である。

 

「甘くて美味しいです」

 

女性陣の舌を魅了する魅惑の飲み物、珈琲牛乳。

 

「入り口で靴を脱ぐ風習があるのかね?」

 

異文化に戸惑うラインバッハに訊かれた。

 

「えぇ。靴の裏には雑菌などの汚れがあります。それらを家に持ち込まない為と、足自体をリラックスさせる為です」

 

温泉旅館は和室である。エントランスで靴を脱ぎ、スリッパに履き替えて貰っている。俺達は靴下も脱ぎ、サンダル、草履、雪駄などで、グリップ力をあげ、素早く動けるようにしているが、ゲストは基本スリッパである。

 

「確かに、足に圧迫感も無く、蒸れないなぁ」

 

「この後、俺達の文化の象徴である温泉を堪能してください」

 

「温泉?この街で温泉が湧くのかね?」

 

「いえ、祖国の独自技術で温泉にしているだけです。この街には温泉は湧きません」

 

この温泉旅館の風呂は、露天風呂だけ温泉であるが、内湯には薬湯、ツボ湯、寝湯、ジェットバブルなどの仕掛けがある。珍しい施設では塩サウナだろうか。

 

 

女湯にはカタリナ、ミトが、男湯にはキースとサトゥーが使い方や、質問に答えている。俺は湯上がり後の料理を作り始めた。ダンジョンで取れたミノタウロス、カニ、ウニなど、この街とあちらの街で見かけない素材で、料理を仕上げていく。

 

村長から調味料を分けて貰い、ミノタウロスのバラ肉をチャーシュー状にまとめて、カレーシチューで煮込んでいく。オーク肉は酢豚にしていく。カニは焼きカニだな。

 

デザートは、パンケーキにしてみた。村長から小麦粉、砂糖などを送って貰い、コチラの世界で採取したワイルドベリーでソースを作った。問題は玉子である。こちらの世界で玉子が売っていない。迂闊に使うと面倒になりそうなので、今回はパスした。米は見ないが、小麦はあるので、うどんを主食にするか。

 

「風呂がこんなにリラックス出来るとは…」

 

浴衣を着た男性陣が戻って来た。女性陣はきっと塩サウナで時間が掛かるのだろうな。

 

「どうでしたか?我が国の文化は?」

 

冷やした麦茶を配っていく。

 

「良かったよ。こちらにはまだ居るので、また来て良いかな?」

 

「勿論です。予約しくれれば、飲み物、料理などを準備しますよ」

 

この温泉旅館の厨房は、色々な器具、設備があり、料理の幅が広がる。アチラの街の館の厨房とは雲泥の差である。

 

「で、商材はどんな物があるのかな?」

 

ラインハルトに訊かれた。

 

「まだ、荷物が届かないので、売るほどは無いのですが…石けん、シャンプーなどなら、ジャミール家に進呈いたしますよ」

 

「あの石けんは売れるよ。汚れ落ちも良いし、香りもキツくないし」

 

「売るほど有るのは、コチラの大陸に来てから、手に入れた素材です」

 

ドラゴンの素材などを収納庫から取り出し、ラインハルト、ラインバッハの前に並べた。

 

「ドラゴンのウロコかぁ…角も牙も皮もあるのかぁ…」

 

「どの位あるんだ?」

 

「20頭分くらいはあります」

 

前回、ギルドで売ろうとしてから、更にドラゴンを狩っている。主に肉狙いでだ。

 

「そんなに…う~ん…予算が無いが、1頭分くらいは買いたい」

 

「オークの皮は有るか?」

 

「2000頭分なら」

 

「100頭分、買う」

 

この世界での革製品はオークの皮らしい。丈夫で安価なのが良いそうだ。

 

「なかなかの戦力があるようだな」

 

「まだ、クランメンバーが殆ど来てませんけどね」

 

俺の言葉で、二人の顔が強ばっていく。ドラゴンとか、オークの群れなど、この世界ではレイド扱いらしい。うちのクランだとソロ対象なんだけど…たぶん、戦力差に怯えているのだろう。

 

「どんだけ、強いんだ?うちの護衛陣と手合わせして貰えるか?」

 

「無理です。手加減出来ない攻撃持ちばかりなので、死にますよ」

 

護衛陣の顔から血の気が失せていく。

 

「流石は『触るな危険』のダン君だね」

 

その二つ名は決定なのか?メイプルに進呈してんだけど…実際問題、俺の攻撃手段は瞬殺が殆どだし、メイプルに至っては殲滅が殆どだしな。ミトやサトゥーも勇者クラスだし。一般人相手だと、リザ辺りが打倒かな?PK専の多いクランだからな。手合わせは無理かな。

 

「では、魔物と戦っているところを見たいんだけど、可能かな?」

 

「それなら可能です。毎日誰かが潜って居ますから」

 

「潜る?どこに?」

 

既にダンジョンの設置は出来ている。主にメイプルが潜って居る。素材を無駄にミンチにしない戦いを練習させていると言うか…

 

「廃坑にダンジョンを設置して、そこで鍛錬を積んでいます」

 

「ダンジョンを設置?どうやってだ?」

 

ラインバッハが喰い付いた。

 

「俺、ダンジョンマスターなんで、設置出来るんですよ」

 

疑似ダンジョンコアを持っている。トラザユーヤの揺り篭の倉庫で、大量にあるのを見つけたのだ。

 

「ダンジョンマスター…」

 

「ダンジョンって、食材の宝庫ですからね」

 

再度、目の前の二人の男性の顔が強ばっていった。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

パティシエの常識は世間の非常識

 

---ダン---

 

「ダンジョンを一般に開放する予定はあるのか?」

 

ラインバッハに訊かれた。

 

「無いです。2階層にミノタウロスが居るんですよ。3階層にはドラゴンがいるし」

 

欲しい素材や戦いたい相手を上層に設置してある。レイド戦必須のモンスターが上層にいるのだ。一般開放は無理だな。まだ10階層までしか無いし。せめて、ライブダンジョンのように100階層は無いと難しい。

 

「パーティーじゃキツそうだな」

 

「ソロで挑むんですよ。じゃなきゃ、鍛錬にならないし」

 

パーティーで挑むのはカニさんだな。あれの素材を無駄にしないように狩るには一人では難しい。氷と火の魔法は厳禁だ。身の味が落ちるし、風では甲羅にキズが入れられない。土であれば、動きを止める程度には使えるが…

 

「一人でドラゴンを相手に?」

 

「ダンジョン内のドラゴンは空を飛ばない。ドラゴンにとってはハンデを背負っているようなものです」

 

俺の言葉で沈黙する二人。護衛陣は顔色が悪い。彼らはソロでは倒せないのうだろう。

 

「なので、廃坑に魔物が住み着くことは無いです。ドラゴンのいる傍に、寄ってくる魔物はいないですから」

 

まぁ、寄って来ても、放牧している使い魔達に狩られるだけだし。使い魔達には首から上は喰って良しと伝えている。ハチとかデミウルゴスは旨そうにオークの頭部を喰っているし。グラトニーは、利用価値のある魔石以外、ゴブリンをまるまる喰うし。

 

「一緒にダンジョンに行きますか?」

 

護衛陣に声を掛ける。

 

「希望を前以て言って貰えれば、配置を希望通りにしますよ。1階層はゴブリン限定とか、スライム限定とかにね。ダンマスですから、その辺りの融通は付きます」

 

「そうなのか…」

 

ラインハルトの目が怯えている。俺って、そんなに怖い存在なのか?単なるパティシエなのに…

 

「では、ゴブリン限定で、戦い方を見せてくれないか」

 

ラインバッハが要望を言ってきた。

 

「じゃ、3日後に来て下さい。設定をしておきます」

 

 

その後の夕食会、男性陣はしかめっ面であるが、女性陣は楽しそうである。

 

「このお肉美味しいです。ソースもスパイシーだし」

 

お嬢様が美味しそうに食べている。カタリナ、キースがフロア係をしてくれ、お皿の出し入れや、飲み物のサーブをしてくれている。元が貴族だけに、所作に優雅さを感じられる。

 

俺、サトゥー、ミトは厨房である。メイプルはダンジョンかな?

 

「このお肉は何ですか」

 

ラインハルト夫人が訊いてきた。

 

「ミノタウロスのバラ肉でございます」

 

キースが素材、調理方法などを説明をしてくれている。

 

「肉は熟成させた方がいいかな?」

 

「熟成庫、燻製庫が必要だな」

 

今度の方針を決めていく。温泉旅館では出来ないことがある。肉の加工場が無いのだ。

 

「やはり、クリモニアの館に作るべきだな」

 

俺もそう思う。醸造庫もいるし。

 

「チートの総合商社のサトゥーに丸投げでいいかな?俺には建築スキル無いし」

 

「そうだね。そういうのはイチロー兄ぃなら、簡単でしょ?」

 

建築スキル持ちだと誰かいたかな?あっ!イズが錬成士だな。建築資材の加工は出来るか?

 

「すまん、メンバーが揃うまで、頼っていいか?」

 

「あぁ、しょうがない。俺も納豆とか干物が食いたいし。そうそう、クリモニアの山向こうに漁港があるんだが…」

 

「あそこかぁ。知っているよ。ミリーラの町だろ?この前、でっかいイカを倒したよ。その現物で塩辛を作っているところだ」

 

現地ではクラーケンと呼ばれていて、倒したら、現地人に感謝されたっけ。厨房の片隅に置かれた樽から塩辛を出し、ミトとサトゥーに振る舞った。

 

「この樽全部、塩辛か?」

 

「ゲソだけでだ。胴体部分はイカリングとかイカフライにしようと思っている」

 

「そう言えば、あの町に醤油とか味噌とか米があったぞ」

 

「マジ?」

 

「マジだ」

 

俺の知らない情報だ。やはり、泊まりで行かないとダメだな。現地での情報収集力に欠ける俺。

 

「何でも交易している国で作っているらしい」

 

「今度、移動式ギルドホームでその国を探すかな?」

 

「村長を頼れよ。身近に入手先があるんだから」

 

確かに…頼らないと、村長が拗ねそうだな。

 

 

翌日、クリモニアの街に俺、サトゥー、ミトで向かった。カタリナ、キースは接待疲れで、温泉でマッタリしているそうだ。館まで行くと門の処に少女が一人佇んでいた。

 

「あっ!」

 

少女が俺達に気づき、声を上げた。

 

「お母さんを助けてくれてありがとうございます」

 

あぁ、森で拾った女の子、確か…名前はフィアだったっけ。

 

「その後は問題は無い?」

 

「はい、ありません」

 

何か言いたげに、モジモジするフィナ。

 

「中に入って、話を聞こう」

 

サトゥーがフィナを館に誘い込む。フィナはミトと共に館に吸い込まれて行く。その後を付いていく俺。

 

「で、何の用だ?」

 

応接間でフィナの対面に座る俺。ミトが飲み物を用意し、フィナの前に置いた。ミルクセーキのようだ。サトゥーは熟成庫、燻製庫の設置に向かい、ここにはいない。

 

「あのですね。治療費はいくら払えば良いですか。肉もたくさん貰ったし…」

 

「要らないよ。子供から金を取る気は無い」

 

「まさか、お母さんの身体狙いですか?」

 

フィナの顔が強ばる。なんで、そんな風に思われるのだろうか?

 

「狙わない。こう見えても、俺はボッチ系だ」

 

「寂しんぼ?」

 

「違う」

 

いや、たまに人肌が恋しいことはあるが…そう言えば、アズライトはどうしているかな?

 

「何か、お仕事をください」

 

働き場所に困っているのか?

 

「ねぇ、雇ってあげなよ。この館の管理とかさぁ」

 

ミトが助け舟を出して来た。

 

「そうだな。フィナ、親子でこの館の管理を頼めるか?基本、掃除と庭の雑草取りだ」

 

「はい、がんばります」

 

「親子二人で月金貨1枚でどうだ?」

 

「えっ?そんなに貰えません」

 

「決定だ。じゃ、今月分だ」

 

フィナの手に金貨を握らせた。

 

「大盤振る舞いだな」

 

ミトに言われた。

 

「素材を売れば、問題は無い。後、街の情報を教えてくれ。主に食材関係だ。価格と質とか」

 

「はい」

 

こうして、俺はフィナ親子を雇った。

 

 




----4章 キャラ紹介
( )内は出自作品


<クラン楓の木>
【黒き死神】メイプル(防振り)
クランマスター。VIT値MAXでAGI振りに転向し、回避盾を目指す。転移者

【触れるな危険】ダン(オリジナル)
クランサブマスター。パティシエのはずなのに…クランの実質的司令塔。転移者

カタリナ・クラエス(はめふら)
農業部門。元クラエス公爵家の令嬢。転生者。

キース・クラエス(はめふら)
農業部門。元クラエス公爵家の養子で、シスコン。

ミト・ミツクニ(デスマ)
冒険者。シガ王国の王祖で元ミツクニ公爵家当主。転移者の元勇者。

サトゥー(デスマ)
商人。チートの総合商社と言われるチート冒険者な転移者。

アリサ・クボォーク(デスマ)
魔法使い。旧クボォーク王国の王女で、侵略戦争に負け奴隷落ちしたが、通り縋りのダンにより救出された。転生者。

【破壊王】クマ兄さん/シュウ(デンドロ)
レイの兄で格闘家。ポップコーン普及に力を注いでいる。

【死神】レイ(デンドロ)
クマ兄さんの弟で聖騎士。

アルティミア・アズライト・アルター(デンドロ)
剣士で元アルター王国第一王女。元々はゲームのNPCだったが、ゲーム内で暗殺され、異世界で転生した。ダンのことが大好きである。




<協力者>
【魔王】九内伯斗(魔王様リトライ)
魔法は使えないが、チート能力で蹂躙する転移者。

【村長】街尾 火楽(異世界のんびり農家)
万能農具を駆使して最強の戦士となった転移者。

【全知全能に1つずつ足り無い男】シュウ(オリジナル)
神であることを否定している神。世界の理を壊している破壊神。


<ジャミール公爵家>
ラインハルト・ジャミール(神達に拾われた男)
ジャミール公爵家当主。テイマー。

エリーゼ・ジャミール(神達に拾われた男)
ラインハルトの妻。テイマー。

エリアリア・ジャミール(神達に拾われた男)
ラインハルトの娘。テイマー見習い。

ラインバッハ・ジャミール(神達に拾われた男)
ラインハルトの父。テイマー。

ヒューズ、ゼフ、カミル、ジル(神達に拾われた男)
ジャミール家の護衛

セバス(神達に拾われた男)
ジャミール家の執事


<ソルシエ王国>
ジオルド・スティアート(はめふら)
ソルシエ王国の第三王子。カタリナとその友人をを婚約者にするも、カタリナには逃げられ、カタリナの友人はカタリナに奪還された。三度目の正直で、
モレーナと婚約した。

モレーナ(のうきん)
ブランデル王国第三王女。政略結婚の為、ジオルドと婚約した。


<クリモニアの街>
フィナ(くまクマ熊ベアー)
森でダンが拾った少女。

ヘレン(くまクマ熊ベアー)
冒険者ギルドの受付嬢。

ラーロック(くまクマ熊ベアー)
冒険者ギルド、クリモニア支部のギルドマスター。


<ギムルの街>
ウォーガン(神達に拾われた男)
冒険者ギルド、ギムル支部のギルドマスター。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

ダンジョン披露

 

---ダン---

 

2日後…廃坑の入り口にラインハルト、ラインバッハと、その護衛陣、冒険者ギルドのギルマスのウォーガンと言う男が待っていた。

 

「じゃ、行きましょうか?」

 

ダンジョンへと案内する俺。

 

「ダン君…防具は?」

 

ラインハルトに訊かれた。

 

「食らったら死ぬような相手が多いです。ゴブリン程度の攻撃を食らう訳にいかない」

 

などと言ってみた。装備なんて一瞬で装着できるし。俺の格好はいつものTシャツにジーパン姿である。

 

廃坑の奥にある階段を降り、ダンジョンの1階層目に踏み入れた。この階層に出るのはゴブリン限定である。俺の同行者は、メイプル、カエデ、アリスだけである。まぁ、召喚も一瞬だし、マジにヤバい時は、勝手に出てくるし、問題は無いだろう。

 

最初の敵はゴブリンキングだが、メイプルのシールドバッシュ一発でミンチになった。まぁ、ゴブリンだし、大目に見よう。これがオークだったら、お説教1時間コースである。

 

「なんだって…シールドバッシュでゴブリンキングが…」

 

メイプルの戦闘を見たゲストの方々は、顔面蒼白である。タンク職ではありふれたスキルであるシールドバッシュだが、メイプルが使えば必殺技になり得る。

 

次に出てきたのはハイゴブリンの集団。ウッドオクトパスの狙撃で瞬殺。

 

「今、何をしたんだ?」

 

「見えなかったぞ」

 

ゲストの声が震えている。俺の攻撃方法は、見えない。いや、見えない場所から攻撃している。足の裏からの貫通攻撃で心臓を破壊している。その後も、俺とメイプルが交互にゴブリン達を蹂躙して、ダンジョンを退出した。

 

「君達はどれだけ強いんだ?」

 

青ざめた顔のラインハルトに訊かれた。

 

「クラマスのメイプルの防御力は、ダイヤモンドより硬度があります。俺の貫通力は、その硬度を打ち破れる程度です」

 

どんな物だと胸を張るメイプルとカエデ。

 

「…」

 

唇が震えているジャミール親子。この世界に於いて、ダイヤモンドより硬い素材は無いらしい。メイプルにダメージを与える素材は、この世界に於いて皆無ってことで、ソレを貫通出来る攻撃力から護れる装備も皆無ってことだ。もしかして、俺とメイプルで世界制覇が出来るかもしれない。だが、しない。後が面倒に違いないからだ。俺もメイプルも支配欲って物が無いからな。

 

「最強の矛と盾を保有かぁ…」

 

護衛陣のヒューズの口から言葉が漏れた。

 

「因みに、メイプルのドッペルゲンガーであるカエデも、メイプルに準拠した硬さです」

 

「そういやぁ、使い魔にSSS級が勢揃いしているんだよな?」

 

またヒューズの声。独り言のようだ。この世界のSSS級の魔物は、国の軍隊を総動員して戦う魔物のことらしい。俺の使い魔のうち、それに該当するのは、フェンリルのハチ、ジズと呼ばれているアナ、【冥王】グラトニー、【悪魔公爵】デミウルゴス、【ナインテール】コンコン辺りらしい。

 

「ダン君、君とは敵対しないようにしないとな」

 

ラインハルトが震える手を差し出してきた。俺は力強く握手に応じた。

 

 

翌日、アズライトと、彼女の護衛としてクマ兄さんと、見た目は闇に染まった聖騎士が、サトゥーと共に現れた。何故、このタイミングでだ?あの神は、世界制覇をしろと言いたいのか?

 

「ダン…会いたかったわ~」

 

アズライトが俺に抱きついて来た。

 

「俺はポップコーンをこの地に普及させたいクマ」

 

闇に染まった聖騎士、レイは無言であった。たぶん、クマ兄さんとセット販売だったのだろう。

 

「とりあえず、ダンジョンは自前である。そこで鍛錬してくれ。1階層はゴブリン限定、2階層はミノタウロス限定、3階層はドラゴン限定だ」

 

「はぁ?」

 

レイが驚いている。アズライトは、俺から離れず、抱きついたままだ。このまま、ベッドにお持ち帰りは困る。やることがたくさんあるのだから。

 

「何故、3階層にボスクラスがいるんだ?」

 

「ドラゴンの肉は旨いからだ」

 

「はぁ?」

 

何気にレイが呆れて俺を見ている。

 

 

翌日、レイ、クマ兄さん、アズライトを冒険者ギルドに登録する為、クリモニアの冒険者ギルドを訪れた。クマ姿のクマ兄さんが注目されている。

 

「クマだ…クマがいるぞ」

 

「あの呪術師が召喚したんじゃ無いか?」

 

見た目が闇オチした聖騎士のレイが呪術師に見えるようだ。

 

「お前は、服装センスが悪すぎるぞ」

 

レイのエンブリオの辛口コメント。

 

「ダンのちょっとコンビニスタイルよりはセンス有ると思う」

 

何故に、夫婦漫談に俺を挿入するんだ?

 

「俺はセンスが無いんじゃ無い。俺は着心地優先だよ。よぉ、ヘレン。冒険者登録を頼む」

 

見知った受付嬢に用を伝えた。

 

「この人達も、同じクランなんですか?」

 

「まぁ…」

 

レイと同じとは思われたくない。

 

「えっ?呪術師でなくて、聖騎士なんですか?」

 

レイの申請書のジョブ欄が物議を醸しているようだ。

 

「ジョブがクマって、どういうこと?」

 

クマ兄さんのジョブにも物言いか?さすがに、破壊王とは書けないよなぁ。アズライトの登録はすんなり終わったようだ。

 

そんな、椋鳥兄弟が話題の渦中になったギルドの雰囲気が、一変する事態が起きた。

 

「皆さん、お願いします。僕の村を助けて下さい」

 

一人の少年がギルドに入るなり、大声で叫んだのだ。

 

名前の知らない受付嬢が少年を奥へと連れ込み、しばらくすると、ギルマスのラーロックが出てきた。

 

「ダン、指名依頼だ。あの少年の村に行き、ブラックバイパーを退治してきてくれ」

 

「構わないが…ヤバいのか?」

 

「あぁ、村人が喰われているらしい」

 

それはヤバいな。ラーロックから、村への地図を手渡され、俺は村へと急いだ。蒼い装備にクイックチェンジし、空を飛び向かうと、2時間程で付けた。

 

「クリモニアのギルドから来た。ブラックバイパーはどこだ?」

 

村に入ると、誰も居ない。俺の呼び掛けに答える者はいないのか?家が崩れていたり、森の木々が倒されている。村で暴れたのか?頑丈そうな建物は教会か?教会へ行くと、生き残っている村人を発見した。

 

「たった一人しか来てくれないのですか?」

 

どこか落胆している村人。

 

「俺ソロなんで…で、獲物はどこだ?」

 

「一人じゃ喰われるだけです。無理に引き留めませんが、ヤツは森の奥にいると思います」

 

森の奥?まぁ、向かうか。アナとハチを召喚して、獲物を探す。アナの視力をもって、空から獲物の姿は確認出来ない。ハチの嗅覚を持って獲物の匂いを探知出来ない。そうなると、地面の中か?それは厄介だ。地面の中と水の中対策は、俺は持っていないから。獲物は地面の中で食休み中なんだろうか?

 

待てよ…どこから地面に潜った?村から森にはそんな痕跡は無かった。重い身体を引きずった跡はあったが…俺は、その跡を追った。追い続けると、岩場に出た。そこには地面を掘り返した痕跡がある。これかな?カエデを痕跡の中心に投げ込んでみた。

 

『何かがいるけど…』

 

カエデからの念話。俺はカエデを『強奪』で引き寄せた。カエデによって出来た穴を覗いてみると、渦巻き状の物が見えた。これかな?『収納』してみた。生きているならば、収納出来ないが、結果はすんなり収納出来た。収納リストを見ると『ブラックバイパー』と表示が。これで、一件落着かな?村に戻って、確認して貰うか。

 

 

深夜になったが、冒険者ギルドに帰り着いた。

 

「ギルマスを呼んで!」

 

「おっ、お待ちください」

 

対応した受付嬢が奥へ引っ込んだ。ヘレンはいないのか?

 

しばらくするとラーロックが出てきた。

 

「早いな?お前、本当に行ってくれたのか?馬で片道2日らしいが…」

 

疑っているようなので、討伐証明代わりに皮を収納庫から出してみた。ギルドの待合室を埋め尽くす大きさのブラックバイパーの切れ目の無い皮…

 

「お、お、お前…どうやって捌いたんだ?」

 

俺も収納庫の解体システムが分からない。なので、

 

「企業秘密です。あっ、これ、村長のサイン入り依頼完了書です」

 

「そうか…で、依頼料なんだが…」

 

「村の惨状を見ると金は無理ですね。代わりに素材をまるまる貰います。問題無いですよね!」

 

強く迫ると、ラーロックが怯み、頷いた。

 

館に戻り、担いでいた籠を下ろした。籠の中身が気になるのか、サトゥー、ミト、アズライト、クマ兄さん、レイが集まって来た。

 

「お土産…」

 

俺は籠から白い鳥を捕りだした。

 

「これって…」

 

サトゥーが目を丸くして見開いている。ミトの目尻に光る物が…

 

「当面、無精卵だけ喰う。有精卵は雛にする方針で行く。あぁ、鳥小屋を明日、作ってくれ」

 

ブラックバイパーを倒した帰り道、俺はソレの営巣地を見つけた。ソレは飛べない鳥、鶏冠が赤い鳥…鶏である。

 

「これでTKGが食べられるのね」

 

転生してからの年月が一番長いミトが喜んでいる。俺達転移というか転生者のソウルフードであるTKG、所謂『生玉子掛けご飯』である。異世界では生玉子を食す文化が無いらしい。きっと、新鮮な卵が手に入らないのだろう。俺達の生まれ育った世界でも、日本にしか無い食文化だし。その為、この世界では生玉子目当てで鳥を飼う文化も無いらしい。

 

「新鮮な卵だとプリンもいいなぁ。そうだ、クマ兄さんにもお土産だ」

 

収納庫からパツンパツンに膨れた麻袋を取り出し、クマ兄さんに渡した。

 

「これは…爆裂種かクマ」

 

「鶏の営巣地の周辺に自生していたよ」

 

ポップコーン用のコーンは普通の食用コーンとは違う。皮の固い爆裂種というコーンを使うのだ。

 

「この世界の鶏は野生種で、爆裂種を主食にしているみたいなんだよ」

 

元々爆裂種は、家畜飼料用の硬粒種が元になっていたと思う。

 

「なるほど…クマ」

 

「新鮮な牛乳はまだ見つけていないから、村長から取り寄せて、バターを作ろう」

 

これで、クマ兄さんはポップコーン布教活動が出来るだろう。

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

難題発生

 

---ダン---

 

翌日…昨夜の獲物を使い、調理する。見た目がウナギぽいので、蒲焼きにしようと思う。先ず、蒸す。収納・解体・分類の作業により、小骨は肉から除去されているので、鱧ののような骨切りの工程が無いのが救いである。

 

次に串打ちし、炭火で焼く。タレを付けながら、何度も何度も、あの色になるまで…

 

「これって、ウナギか?」

 

あの食欲を暴発させる香りによりレイが釣れた。

 

「昨日の獲物のブラックバイパーだよ」

 

人食い蛇…これを食すと俺達は共食いになるのかな?

 

「美味しそうな香りですね」

 

フィナ親子が出勤してきた。サトゥーとクマ兄さんは鳥小屋作り、ミト、ネメシスは鶏の世話をしてくれている。

 

珍しいのか、俺の調理風景を見ているフィナの母親のティルミナ。すっかり元気になり、顔色も良い。フィナ、シュリの面倒はアズライトがしてくれていた。

 

「一旦、蒸すんですか?」

 

「あぁ、これは蒲焼きっていう調理方法なんです。蒸した後、焼きながら、何度もタレに潜らせるんですよ」

 

「なるほど…」

 

この料理は温泉旅館ではダメだろう。匂いが染みつきそうだし。サトゥーが手にいれてくれた貴重な米を炊き、今日のランチはブラックバイパーの蒲焼きとTKGに味噌汁である。尚、デザートには焼きプリンを用意してある。営巣地で無精卵を大量にゲットしてきたのだ。将来的には無精卵か有精卵かを識別出来る鑑定持ちが欲しいかな。俺の場合、一旦収納しないと鑑定、分類が出来ないのが不便である。

 

そして、お昼。TKGを見て固まるフィナ親子とアズライト、ネメシス。こんな食べ方を知らないのだろう。

 

「夢に見たTKGが食べられるとは…」

 

転生組は涙し、味わって食していく。

 

「旨いのか?」

 

アズライトが恐る恐る訊いてきた。

 

「当たり前だろ。いらないなら、俺が喰うけど」

 

「いらないなんて、言っていないわよ」

 

恐る恐る一口食すアズライト…

 

「美味しい…」

 

「蒲焼きもイケるぞ」

 

と、サトゥー。そして、食後。収納庫から焼きプリンを出し、皆に配った。

 

「これ…茶碗蒸しだったら、怒るぞ」

 

と、ミト。食後に茶碗蒸しは出さない。出すとしたら、前菜だろうな。一応、パティシエなんだよ。デザートが作りたいんだよ。って、実は昆布出汁が無いので茶碗蒸しは断念したり。出汁という概念が無いのか、鰹節も無いし。さて、どうするかな。今度、村長にリクエストを出すか。

 

「これ、美味しいよ」

 

フィナ、シュリが喜んでいる。だけど、このプリンに納得していない俺。砂糖の甘みが硬いのだ。イメージ的にはもう少しまろやかな甘みが良い筈だ。これでは卵の旨みを潰し兼ねない。

 

「ダンは納得していないのか?」

 

サトゥーに訊かれた。

 

「あぁ、砂糖がなぁ…甘みが硬いんだよ」

 

「サトウキビを手に入れるか?」

 

「砂糖を作る方向か?う~ん…作業場を作る場所はあるか?」

 

作業場ばかりを作ると、畑の面積を圧迫しそうだ。爆裂種、大豆、小豆、小麦を植えたいんだけど…

 

「無いなら作るクマぁ~」

 

クマ兄さんに抱きついているフィナ姉妹。中身はオッサンだけど、いいのか?そう言えば、アズライトの国でも、クマ兄さんは子供にはモテていた

な。

 

「なんか失礼なことを考えたクマ?」

 

「いや、現実を見つめ直しただけだ。気にしないでくれ」

 

 

翌日、カタリナに呼ばれて、ギムルの街へ向かった。ギムルの温泉旅館とクリモニアの館間で連絡が出来る様に、魔法具を設置した。開発はサトゥーに丸投げである。なんでもラインハルトの指名依頼が入ったらしい。

 

「頼みがある。娘にテイム出来る魔物を見繕って欲しいんだ」

 

ジャミール家ってテイマー家系らしい。娘のエリアリアにはまだテイムした魔物がいないそうで…って言っても、俺はどっちかと言うと召喚師であって、テイマーでは無いのだが…

 

「何でも良いですか?」

 

「まだ、そこまで能力は無いので、ドラゴンとかは無理だよ」

 

一般的に初心者だとスライムだろうか?グラトニーに頼んで、見繕って貰うかな。

 

数日後、グラトニーが一匹のスライムを連れてきてくれた。これって…う~ん…まぁ、エリアリアの元へ、そのスライムを連れていった。既にグラトニーが心を折ってくれた為、簡単にテイムは出来るらしい。

 

「このスライムさんは、なんですか?」

 

「メタルスライムです。エサは金属…それも合金なんだけど…」

 

飼うのが大変そうである。

 

「利点は、一緒にいれば、剣にも鎧にもなってくれることかな」

 

メタル素材なので、そこそこの硬度はある。鉄では切れないと思う。ミスリルだと切れちゃうけど…グラトニーの言った通りテイム自体は簡単に出来た。

 

だけど、エサの確保が中々大変である。鉄だけでは喰わない、アルミだけでは喰わないけど、鉄とアルミの合金は喰うのだ。なんと贅沢なスライムなんだ。

 

「良いスライムを紹介してくれたが…エサがなぁ…」

 

ラインハルトの表情は冴えない。反面、エリアリアの表情は嬉しそうで、メタルスライムを抱き締めて、昼寝をしている。ヒンヤリとして気持ちが良いのだろうか?

 

「専属の騎士を雇ったと思えば…」

 

給金とエサ代はトントン位かな?

 

「まぁ、確かに…」

 

役立ち度はメタルスライムに軍配が上がるだろう。ミスリルの剣を持つような輩が、公爵家の令嬢を襲うことは稀であるから。

 

 

公爵邸の帰り、冒険者ギルドに立ち寄った。クエスト紹介の掲示板を見ていると、塩漬け案件を見つけた。他の紙よりも明らかに焼けている紙だったのだ。内容は家の掃除とある。何か問題のある掃除なのか?その紙を持って受付に向かった。

 

「受けてくれるんですか?依頼主が喜んでくれます、きっと…」

 

冒険者は掃除しないよな。きっとFランク用の初心者のお遣い程度の仕事なのだろう。それにしても誰も受けないのは、おかしい。依頼料もそこそこであるし。寧ろ、家の掃除程度の額では無い。

 

「ギルドカードを見せて下さい」

 

ギルドカードを手渡すと、受付嬢が固まった。

 

「あの…『触るな危険』のダンさんですか…」

 

「触っても危険では無いですよ」

 

ギルマス辺りが変な噂を風潮したのだろうか?

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

【メモ】主な登場人物 11/25更新

----4章 キャラ紹介
( )内は出自作品。4章で登場次第、更新するようにします(^^;
投稿前の書いている時点で更新しますので、ネタバレ気味かも。



<クラン楓の木>

【黒き死神】メイプル(防振り)

クランマスター。VIT値MAXでAGI振りに転向し、回避盾を目指す。転生者

 

【触れるな危険】ダン(オリジナル)

クランサブマスター。パティシエのはずなのに…クランの実質的司令塔。転生者

 

カタリナ・クラエス(はめふら)

農業部門。元クラエス公爵家の令嬢。転生者。

 

キース・クラエス(はめふら)

農業部門。元クラエス公爵家の養子で、シスコン。

 

ミト・ミツクニ(デスマ)

冒険者。シガ王国の王祖で元ミツクニ公爵家当主。転生者の元勇者。

 

サトゥー(デスマ)

商人。チートの総合商社と言われるチート冒険者で転生者。

 

アリサ・クボォーク(デスマ)

魔法使い。故クボォーク王国の王女で、侵略戦争に負け奴隷落ちしたが、通り縋りのダンにより救出された。新生クボォーク王国で王女に返り咲いた。転生者。

 

【破壊王】クマ兄さん/シュウ(デンドロ)

レイの兄で格闘家。ポップコーン普及に力を注いでいる。神と同じ名前のためか、クマ兄さんと呼ばれている。転生者。

 

【死神】レイ(デンドロ)

クマ兄さんの弟で、見た目が死神のような聖騎士。転生者。

 

アルティミア・アズライト・アルター(デンドロ)

剣士で元アルター王国第一王女。元々はゲームのNPCだったが、ゲーム内で暗殺され、異世界で神様転生した。ダンのことが大好きである。

 

マリア・キャンベル(はめふら)

ヒーラー。お菓子作りが趣味で、カタリナを慕っている。

 

マイル/アデル・フォン・アスカム(のうきん)

万能戦士。ナノマシンというオーバーテクノロジーな配下を有している。パーティー「赤き誓い」に属している。生前、ダンの知り合いだった。転生者。

 

ルル・ワタリ(デスマ)

狙撃手。アリサの腹違いの姉。元アリサ専属のメイドで、料理スキル持ち。母方の曾祖父が転生者。

 

サリー(防振り)

回避盾。メイプルの親友。ダンのことが大好きである。転生者

 

【超級殺し】マリー・アドラー(デンドロ)

狙撃手。ゲーム内でレイが一度彼女に殺されている。生前マンガ家だったので、絵を描くのが上手い。彼女の書いた漫画のファンはクラン内に多い。転生者。

 

【レールガン】アスカ(オリジナル)

狙撃者。生前、ダンの妹だった。将来の夢はダンの隣でのパティシエール。転生者

 

ユナ(くまクマ熊ベアー)

クマ見習い。無邪気な死神ことメイプルによって、リアル世界から異世界に引き込まれた少女。クマさんセットという専用装備を持つ。

 

【閃光】アスナ(SAO)

剣士。リアル世界のダン、諸星正を殺したのが元彼の為、メイプルに恨まれている。転生者。

 

【スピードホリック】リーファ(SAO)

剣士。リアル世界のダン、諸星正を殺したのが義兄の為、メイプルに恨まれている。転生者。

 

アーシア・アルジェント(DxD)

ヒーラー。元神聖国の戦士。魔王国侵略の際に捕まり奴隷落ち。ダンの奴隷となった。

 

ゼノヴィア・クァルタ(DxD)

剣士。元神聖国の戦士。魔王国侵略の際に捕まり奴隷落ち。ダンの奴隷となった。

 

白音(DxD)

妖術使い。猫人であるが、神聖国の勇者召喚により異世界転移し、魔王国侵略の際に捕まり奴隷落ち。ダンの奴隷となった。

 

由良翼紗(DxD)

徒手格闘家。神聖国の勇者召喚により異世界転移し、魔王国侵略の際に捕まり奴隷落ち。ダンの奴隷となった。

 

ソーナ・シトリー(DxD)

魔法使い。魔王国の貴族家出身の悪魔。魔王国侵略の際に捕まり奴隷落ち。ダンの奴隷となった。

 

姫島朱乃(DxD)

雷撃使い。魔王国の堕天使領出身のハーフ堕天使。魔王国侵略の際に捕まり奴隷落ち。サトゥーの奴隷となった。

 

 

 

<協力者>

【魔王】九内伯斗(魔王様リトライ)

魔法は使えないが、チート能力で蹂躙する転移者。

 

【村長】街尾 火楽(異世界のんびり農家)

万能農具を駆使して最強の戦士となった転移者。

 

リリアーナ・グランドリア(デンドロ)

元々NPCだったがアズライト同様神様転生した元アルター王国近衛騎士団副団長。アズライトの部下であり、友人でもある。

 

ミリアーヌ・グランドリア(デンドロ)

元々NPCだったがアズライト同様神様転生したリリアーナの妹。非戦闘員。

 

【全知全能に1つずつ足り無い男】シュウ(オリジナル)

神であることを否定している神。世界の理を壊している破壊神。

 

 

<ジャミール公爵家>

ラインハルト・ジャミール(神達に拾われた男)

ジャミール公爵家当主。テイマー。

 

エリーゼ・ジャミール(神達に拾われた男)

ラインハルトの妻。テイマー。

 

エリアリア・ジャミール(神達に拾われた男)

ラインハルトの娘。テイマー見習い。愛称は「リア」

 

ラインバッハ・ジャミール(神達に拾われた男)

ラインハルトの父。テイマー。

 

ヒューズ、ゼフ、カミル、ジル(神達に拾われた男)

ジャミール家の護衛

 

セバス(神達に拾われた男)

ジャミール家の執事

 

 

<ソルシエ王国>

ジオルド・スティアート(はめふら)

ソルシエ王国の第三王子。カタリナとその友人をを婚約者にするも、カタリナには逃げられ、カタリナの友人はカタリナに奪還された。三度目の正直で、モレーナと婚約した。

 

モレーナ(のうきん)

ブランデル王国第三王女。政略結婚の為、ジオルドと婚約した。

 

 

<クリモニアの街>

フィナ(くまクマ熊ベアー)

森でダンが拾った少女。

 

ヘレン(くまクマ熊ベアー)

冒険者ギルドの受付嬢。

 

ラーロック(くまクマ熊ベアー)

冒険者ギルド、クリモニア支部のギルドマスター。

 

ティルミナ(くまクマ熊ベアー)

フィナの母親。病魔に蝕まれていたがダンに救われた。ギルド職員のゲンツと再婚した。

 

シュリ(くまクマ熊ベアー)

フィナの妹。

 

デボラネ(くまクマ熊ベアー)

クリモニアの街のランクDの冒険者。

 

ルリーナ(くまクマ熊ベアー)

クリモニアの街の金髪の冒険者。デボラネのパーティーの臨時メンバー。

 

クリフ・フォシュローゼ(くまクマ熊ベアー)

クリモニアの街の領主で伯爵。

 

ノアール・フォシュローゼ(くまクマ熊ベアー)

フワフワで金髪ロングヘアの少女。クリフの娘で、クマさん大好き少女。愛称は「ノア」

 

 

 

<エルファニカ王国・王都>

サーニャ(くまクマ熊ベアー)

王都のギルドマスター。薄緑の髪のエルフの女性。

 

エレローラ・フォシュローゼ(くまクマ熊ベアー)

クリフの妻で、ノアールの母親。王都で王の側近をしている。

 

 

 

<ギムルの街>

ウォーガン(神達に拾われた男)

冒険者ギルド、ギムル支部のギルドマスター。

 

セルジュ・モーガン(神達に拾われた男)

モーガン商会の会頭。

 

 

 

 

<リフォール王国・王都>

 

 

<魔王国>

サーゼクス・ルシファー(ハイスクールDXD)

魔王国の魔王。デミウルゴスとグラトニーの侵略により魔王国は占領され、囚われたの身になった。相手の防御力を無視する『滅』の力を買われて、メイプルの鍛錬相手に。

 

リアス・グレモリー(ハイスクールDXD)

サーゼクスの妹。魔王国占領後、デミウルゴス達に捕らえられ、奴隷されるために躾けが施されていく。

 

 

 

<和の国>

シノブ(くまクマ熊ベアー)

和の国のランクCの冒険者。

 

サクラ(くまクマ熊ベアー)

和の国の国王の姪で、巫女。

 

 

<ミリーラの町>

アトラ(くまクマ熊ベアー)

小麦色の肌、露出の多い服装をした冒険者ギルドのマスター。

 

 

<その他>

【黒の剣士】キリト(SAO)

剣士。リアル世界に於いて、諸星正を殺した。メイプルに狩られ、犯罪奴隷として、どこかに幽閉されているらしい。転生者。

 

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

VS肥溜め

カレーを喰う前の人は、スルーしてください(^^;


 

---ダン---

 

掃除現場に来た。隣がゴミ捨て場で、地盤が緩いせいで、ゴミ捨て場のゴミが重みに耐えられず、地下室に雪崩れ込んでいた。う~ん…ゴミ屋敷確定だな。臭いがきついし、住めるレベルでは無い。だが、家主は、念願のマイホームの為、無理をして住んでいるらしい。

 

何人もの冒険者がこの難題クエストに挑んだらしいが、二次遭難したり、結構危険な現場だそうだ。その為、初心者用のクエストであったのだが、上級者でもクリア出ない事態になり、塩漬け案件になったと言う。

 

どうするよ、これ…地下室の壁は崩落し、ゴミ置き場と境は無く、ゴミの波が徐々に攻め込んで来ている。

 

「お宝もあります。貰っていいですか?」

 

デミウルゴスとコンコンが勝手に出てきた。

 

「お宝?どういうこと?」

 

「人間の寿命は短い。故に、手に入れた物が価値有る物でも、数代過ぎれば、価値が分からずゴミになるんですよ」

 

デミウルゴスとコンコンが、彼らにとっても価値有る物を拾い集めている。

 

「グラトニー、価値無きはゴミは喰って」

 

「了解です」

 

ゴミを大量に暴食するグラトニーから色々な物が排泄され始めた。培養土は勿論、鉄のインゴット、ミスリルのインゴット、宝石の類い、古銭…確かに宝の山である。ゴミを処理仕切ったらどうするかな。壁を補修するんだが、素材はどうするか?

 

「ご主人様、聖剣がありました」

 

そう言いながら、コンコンが持って来てくれた。見た目が、ボロボロな剣。これって、聖剣なの?収納して、分解、再構成させると、綺麗な剣が出来た。鑑定すると、『聖剣アスカロン』と判明。貰える物は貰っておこう。

 

それよりも、壁の補修方法だよな。どうするかな。あっ、そうだ!ダンジョンの掘削現場の岩を強奪して、地下室に確保しておく。後で、グラトニーに石のインゴット、所謂ブロックを作って貰おう。

 

『ご主人様、収納しての分解、再構築の方が効率が良いです』

 

俺の心を読んだのか、グラトニーから、お返事が来た。なるほど、ゴミの処理で手が回らないんだな。言われた通り、俺のスキルで岩をブロックに変え、ゴミの無い壁部分の補修を始めた。鉄のインゴットも収納してからの分解、再構築で鉄筋にして、廃鉱山から原料を強奪して、セメントを作り、壁をつくっていく。

 

「昔の魔導書があります。魔法の研究が出来そうです」

 

デミウルゴスが嬉しそうだ。デミウルゴスから受け取った古書を収納して、修復していく。古書は紙でなく羊皮紙の為、破損が少なく、修復が楽なようだ。

 

そして、開始後半日ほどで、ゴミ屋敷とゴミ処理場の境を作る事に成功した。

 

「ありがとうにゃ~」

 

家主の猫人の女性に感謝され、依頼料を増額してくれることになった。

 

 

クエストが終わり、冒険者ギルドで報酬の精算をしていると、ギルマスに呼ばれた。また、指名依頼か?

 

「あのゴミ屋敷を解決した腕を見込んで、依頼をしたい。依頼主は役所だ」

 

公共事業か?引く手あまたな仕事で無いのか?

 

「役所が依頼料をケチってなぁ。誰も受けてくれないんだよ」

 

「じゃ、俺もパスだな」

 

俺はボランティアでは無い。

 

「お前、ジャミール家と懇意だろ?そこをなんとかしてくれ」

 

「足り無い分は、ジャミール家から貰えばいいのか?」

 

「あぁ…くれぐれも俺が言ったと言うなよ。役所が言ったことにしてくれ」

 

コイツ、チキンか?俺もだが…

 

「で、どんな案件だ?」

 

「街の共同トイレの汲み取り槽の掃除依頼だ」

 

それは、所謂肥だめか?

 

「う~ん…じゃ、貸し5つ位でどうだ?」

 

「貸しだと?便宜を図れとと言うのか?」

 

「別に、嫌ならいいよ。受けないし」

 

「貴様…脅すのか?」

 

「低賃金で、重労働をやれって言うのか?ギルドマスターって、そんな強権を持っているのか?」

 

「なんだと…」

 

「やるのか?買うぞ」

 

俺の言葉で、青ざめていくギルマスのウォーガン。

 

「…わかった。その条件でいい…」

 

「わかれば良い。じゃ、明日以降だ」

 

冒険者ギルドを出て、その足でジャミール邸を訪れた。そして、今回の案件をラインハルト、ラインバッハに話した。

 

「なんだと?予算は例年通りで執行しているのに…ここの役人は腐っているのか!」

 

そんなことだと思った。この人達がケチるとは思えない。金を抜くをしたら役所か、ギルドだが、ギルドでは無さそうだし。塩漬け案件は、ギルド支部としての能力評価が下がるはずだから。

 

「この案件は、儂が街の衛生問題と雇用問題を解決する為に、施行した政策なんじゃよ」

 

ラインハルトが、ラインバッハの言葉を受け、説明してくれた。元々はラインバッハ発案で、スラム街の人々に仕事を与えつつ、街の衛生問題を解決する為の政策だったらしい。

 

「じゃ、役所の方は任せた。俺はくみ取り槽を片付ける」

 

 

翌日…共同トイレの汲み取り槽を前にして、唖然とする俺。なんで、こんなデカイの?肥だめをイメージしていたのだが、長さ2キロが30本って…もしかして、家にはトイレが無く、貴族以外は共同トイレで用を足すのか?

 

二重扉を抜け、汲み取り槽に足を踏み入れた。イカンレベルの臭い。状態異常無効特性で、病気にはならないだろうけど、精神的なダメージが入る感じである。

 

「グラトニー…頼む」

 

困った時はグラトニーに丸投げである。

 

「了解」

 

焼き払いたいが、溜まっているメタンガスが爆発しそうなレベルである。それに、大量の培養土を手にいれる良い機会でもある。燃やし尽くすのはもったいない。一つ言えるのは、当分の間、カレーは無理だ…

 

蒼い装備にクイックチェンジし、飛行して天井付近を掃除していく。熱いお湯を高圧ジェット洗浄の様にし、天井や壁を洗浄、殺菌していく。床に溜まっていく汚水は、グラトニーが総て飲んでくれるし。

 

1本清掃するのに1日掛かった。これは重労働の上、作業環境最悪で、ダメージがデカイ。低賃金でやる仕事では無い。そのリターンは、大量の培養土のゲットと…今の俺には金より培養土の方が価値があるのは確かではあるが…

 

結局、肥だめ掃除に25日ほど費やし、クエストを終わらせた。

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

新生クボォーク王国

 

---ダン---

 

翌日、ドライブがてら、移動式ギルドホームでアリサ達の引っ越して来た大陸へと向かった。一度行けば、次回からは転移で直ぐに行けるし。

 

「だぁぁぁぁ~ん!」

 

アリサが抱きついて来た。マリア達はカタリナを囲んでいた。メイプルはVIT振りを卒業し、AGIに振りし始めたことをサリー達に自慢している。

 

「今度はどうする?」

 

アリサに訊かれた。

 

「クリモニアとギムルに拠点がある。ここと3つに分けるか。ギムルの方は公爵家と交流があるので、交易を持ちかける。今、欲しい作物は大豆、小豆、爆裂種、サトウキビ、小麦だ」

 

アリサの持っていない爆裂種のタネを手渡した。

 

「サトウキビかぁ…村長のところは?」

 

「村長には頼んでいるけど、大量に欲しいんだ。黒砂糖と和三盆糖が欲しいから」

 

「小麦は出荷出来るわ。あとはジャガかな」

 

「じゃ、農業組と国政組はこの大陸を拠点にしてもらう。ダンジョン組もここで、先行組はギムルの自前ダンジョン。シガ王国が引っ越して来たら、迷宮都市セリビーラのダンジョンで食材集めだ。クリモニアはレイ、クマ兄さん、アズライト、リリアーナ、ミリアーヌに駐留してもらう」

 

クリモニアは割と平和なので、子供相手が出来るメンバーを選んだ。レイに出来るかは不安だが…見た目がアレなので、既にフィア姉妹が避けている。その反面、クマ兄さんは子供にモテる。どうなっているんだ、この兄弟は?

 

「転移の出来る者は、基本拠点間を移動して貰い、物資を運びながら、クエストを楽しんでくれ」

 

転移の出来る者は、俺、サトゥー、ミト、マイルだな。

 

常駐先の希望を訊くと、冒険者達はギムルを希望した。温泉旅館が疲労回復に良いらしい…宿舎部分を増設しないとダメだな。

 

 

クランメンバーを連れて、ギムルの冒険者ギルドで、冒険者登録をした。

 

「こいつら、全員クランメンバーか?」

 

ギルマスのウォーガンは呆れたような表情である。数パーティー分の人数であるからな。

 

「強さはどんなもんだ?」

 

「ウォーガンを簡単に殺せる程度だよ。テストするか?」

 

「見た目勝てそうなヤツがいるが…止めておく」

 

それは賢明である。なんせ、PK専メインなので、手加減出来ないヤツが多いから。

 

ダンジョンの組み替えもした。1階層はオーク種、2階層はロッククラブという岩場にいるカニ、3階層はミノタウロス種、4階層はドラゴン種である。食材優先であるのは間違いない。ジャングルエリアを設置したいのだが、階層が深く無いと、面積が狭く作付け面積が良くないのだった。

 

「カニ…一択でも良いが、ミノタウロスが欲しい」

 

俺の希望をさりげなく伝えた。新しい料理を作るため、牛さんが欲しいのだった。今回の料理は臭いは出ないので、ギムルで調理することにした。きっと村長は喜んでくれるに違いない。

 

ミノタウロスの腕肉を何本か用意し、寸胴に入る程度の大きさに切り分け、塩を満遍無くすり込み、樽で1週間くらい漬け込む。

 

「ハム?」

 

マイルに訊かれた。

 

「違う。もっと手間の掛かる物だよ」

 

肉から分離させた骨をよく洗い、水を張った寸胴に浸し、火に掛ける。ミノタウロスでスープを取るのだ。それとは別に、野菜を丸のまま同じように寸胴で煮る。合わせ出汁を作る。牛と違い、ミノタウロスでどこまで味が出るか分からないので、野菜の旨みを足すことにした。煮出し作業の鍋が数個あり、厨房はサウナ状態である。

 

料理助手としてマリア、ルル、サリーが付いてくれている。三人ともメモを取っている。料理が好きなんだろうな。

 

「灰汁は丁寧に取って欲しい。手間を惜しむと、料理が台無しになるからな」

 

ミノタウロスって、灰汁が出まくるな。ラーメンのスープなら吸着材として、卵の殻を入れるのだが。

 

その後、鍋の番を三人に託し、ジャミール邸へと向かった。役所のその後と交易の件である。

 

「また、人数が増えたようだな」

 

ラインハルトの情報が早いなぁ。温泉旅館への出入りをチェックしているのか?

 

「祖国からメンバーが辿り着きましたから」

 

新生クボォーク王国を祖国ってことにしてある。

 

「そうそう、祖国が、ジャミール家と交易をしたいそうなんですが…」

 

「交易かぁ…船で数ヶ月だと、交易品は限られるな」

 

転移が出来る事を知らせた方が良いのかな?

 

「船ではね」

 

「うん?含みのある言い方だね」

 

「まぁ…」

 

ラインハルトの耳元でゴニョゴニョと…

 

「なんだって…本当か?」

 

「ラインハルト様は手を組んだ相手ですから、正直に言うだけですよ」

 

「うぅぅぅ…」

 

表情が少し歪むラインハルト。

 

「何を言われたんじゃ?」

 

ラインバッハが心配そうに訊いた。

 

「なんでも有りません、父上。ダン君は私を信じて、話してくれたことです」

 

口外すれば…ってな、想像をしたんだろう。狙撃手を数名保持しているので、転移で暗殺はしないけど。

 

「これから、お連れしましょうか?」

 

「今から…かぁ?」

 

「では、ラインハルト様の部屋へ…」

 

怪しむラインバッハを部屋に残し、ラインハルトの部屋から、二人で新生クボォーク王国へと転移した。

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

灯台もと暗し

 

---ダン---

 

「ワープと言う魔法はあるが、目で見える範囲にしか転移が出来ないんだよ」

 

と、この世界での転移法を教えてくれた。俺達の転移は、能力であり魔法では無い。一度行ったことがあれば、イメージしただけで転移できる。その際、魔力の消費は無い。この世界のワープ魔法の上位互換品のような感じらしい。

 

光の粒子が霧散すると、のどかな田園風景が目の前に広がった。

 

「ダン、どうしたの?」

 

作業着姿のアリサが近寄って来た。

 

「交易相手であるジャミール公爵を連れて来たんだ」

 

アリサとラインハルトを交互に紹介する。

 

「王女様が、作業服で農作業ですか?」

 

あり得ないよな。普通…いやいやそうでも無いか。公爵令嬢のカタリナも作業服が私服だと言っていたし。

 

「えぇ、ここは戦争により荒れ地にされました。ですので農地増産は国策であり、身分どうこうで高見の見物は出来ません。国の民達が汗水たらして、国の為に働いているんですよ。私だって、一緒に働きます」

 

アリサの言葉に感心した表情のラインハルト。

 

「どういった作物がありますか?」

 

「現状では、小麦とジャガイモです。後は、ダンの要請で大豆、小豆、爆裂種、サトウキビを計画しています」

 

「爆裂種?」

 

聞いたことが無いのだろうか。

 

「粒の殻の固いトウモロコシの一種です」

 

「固いと食べにくいのでは?」

 

「独特の製法で、お菓子になるんですよ。今度、お持ちします」

 

そうか、未知の食べ物なのか。ポップコーンは流行るかもしれないなぁ。

 

「そうだ、アリサ。鶏を飼ってくれないか?」

 

「卵狙い?」

 

「あぁ」

 

「卵?卵なら売っているが…」

 

「えっ?!」

 

ラインハルトの声に反応した俺。

 

「そうなんですか?クリモニアでは売っていなかったので…」

 

盲点である。ギムルでは卵を食べる風習があるのか。

 

「まぁ、自己消費するから、飼うわよ。今度持って来てね」

 

話し合いの場所を王邸に移し、三人で話し合って交易品を探る。

 

「そう言えば、お城は再建しないのですか?周囲には跡が残っていましたが」

 

「お城を建設する労力があるならば、農地に労力を回します。いくら堅牢な石組のお城でも、戦争になれば、あのようになってしまいますから。その点、ここのような木造家屋なら、破損箇所だけ直せばよいですからね」

 

それもあるが、アリサが日本家屋に住みたかったのだ。まだ畳を再現出来ていないが、そのうちに作れるようになりたいものだ。

 

「で、クラン<楓の木>は、この国の戦力なのですか?」

 

「いえ、違いますよ。この国がクラン<楓の木>の傘下なんです。こう見えても、私もクランメンバーですから」

 

そう言い切ったのは、今日一番の笑顔のアリサだった。

 

 

翌日、材料と調理器具を持ち、ジャミール邸を訪れた。

 

「これが爆裂種です」

 

ジャミール家の皆さんに現物を見せ、フライパンに爆裂種を入れ、有塩バターを投入して、蓋をしてから火に掛けた。しばらくすると小気味良いポン、ポン、ポンと爆ぜる音が聞こえ、音がしなくなった頃、火からフライパンを下ろした。

 

「これが、爆裂種から出来るお菓子、ポップコーンです」

 

「あの固い粒が、真っ白な花の様に…」

 

恐る恐る口に含むエリアリア。それを見て他の人達も口に含んでいく。

 

「ほんのりとした塩味で、美味しいですわ。あぁ、バターの香りが食欲を駆り立てますね」

 

次々に口に投入していくエリアリア。

 

次に鍋に砂糖と少量の水を入れて、煮立たせていき、キャラメルソースを作り、ポップコーンに掛けた。

 

「甘いのが良い場合は、こういう食べ方もあります」

 

「これも美味しいですわ。少し苦いけど…」

 

砂糖の焦げた物であるから、苦いのは確かである。

 

「これは売れるよ、ダン君。爆裂種か…我が領でも作付けするかな」

 

「出来れば、良質な牛乳が欲しいんですが…」

 

「牛乳かい?どうするのかな?」

 

「バターを作りたいんです。売っているバターの塩味がちょっとねぇ」

 

「調味料から作るのか?」

 

ラインバッハが驚いている。そんなの普通だろうに。モロボシ洋菓子店ではそうだった。

 

「サトウキビも欲しいんです」

 

「砂糖も自分で作るのかね?」

 

ジャミール家の皆さんが驚いている。紅茶に入れるのがメインの使い方であるのであれば、白砂糖は正解である。だけど…

 

「これをお食べください」

 

自販機で手に入れた和三盆糖の干し菓子を皆に配った。

 

「柔らかい甘さ…口溶けも良いねぇ。これは?」

 

「祖国に伝わる伝統製法で作った砂糖です。和三盆糖といいます。お菓子作りに使うには、白砂糖では無く、コチラも有りだと思うんですよ」

 

「砂糖ってそんなに種類があるの?」

 

エリーゼに訊かれた。

 

「製法によって、様々な砂糖があります。これをお食べください」

 

自販機で仕入れた黒砂糖の破片を、皆に配った。

 

「これは黒砂糖です。色を気にしないお菓子に使います」

 

「これは…雑味はあるが、有りだな。わかった。サトウキビを仕入れる様にしよう。そうか、砂糖も色々有るのだな」

 

これで入手が容易になるといいな。

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

SS:無邪気な死神再起動

---優奈---

 

或る日、私の住んでいる日本以外の国が滅びたらしい。両親は私からの手切れ金1億円で、世界一周旅行に出ていた。きっと、助からないだろう。両親を失ったのに涙なんか出て来ない。両親は私の稼いだお金にしか興味が無く、世間体を気にして、私にアレコレ文句を言う人間である。居なくなって良かったのかもしれない。

 

世界滅亡の危機に際し、今日もお気に入りのVRMMOをプレイしている。残っているの日本だけの筈なのに、ゲーム人口が多い不思議。将来への不安から逃げて来た人も多いのかな。

 

何気ない日常。15歳にして敏腕株トレーダーになり、巨万の富を築いた。運が良いのだろうか。所有していた株式を総て現金化した翌日、他国が滅んだ。当然、株式は乱高下をし、海外企業株は紙キレ同然に。

 

運命の岐路となったその日もゲームにログインした。アップデート記念キャンペーンというイベントが発生した。こんなご時世にアップデートって、運営会社は正気か?目の前に宝箱が沢山落ちている。1つだけ拾えるようだ。足下にあった1つを拾い上げ、蓋を開くと、『クマさんセット』が当たったらしい。

 

「副賞は異世界転生ですよ」

 

目の前に黒い装備の少女が現れた。副賞?なんだ、それは?美味しいのかな?

 

「私とお友達になってください」

 

こんなNPCは見た事無い。アップデートで現れた新キャラかな?

 

「さぁ、この門を潜って下さい」

 

言われるまま、門を潜ると、目の前から光が襲って来た。眩しい…

 

 

気が付くと、知らない森の中にいた。ここはどこだ?アップデートしたから、マップデータも変わったのか?アップデートのお知らせを見なきゃ。メニュー画面を開くが、メッセージボックスは無くなっていた。ログアウトボタンが消えていた。どういうこと?まさか、デスゲームの始まりか?

 

「いたいた」

 

先ほどの少女が駆け寄って来た。この子に訊くか。

 

「ねぇ、ここはどこ?」

 

「国境の森だよ」

 

国境の森?そんなマップは知らない。ふと、自分の手元を見ると、クマのパペットになっていた。あれ?メニュー画面から装備品を見ると、『クマさんセット』になっていて、頭から足までクマ装備であった。なんだ、これは?下着までクマ装備だし。はぁい?

 

「ねぇねぇ、強いんだよね。戦おうよ」

 

目の前の少女がファイティングポーズを取っている。この子を倒せば、元の装備になれるのかな?最強クラスのプレイヤーの私。ゲーム内で無敵だったし。こんなNPCの少女に負ける気はしない。

 

 

あり得ない。カウンター式のシールドバッシュ一発で意識を刈り取られていた。レベルを確認するとLV1に戻っているし。あのNPCの女の子はLV1000オーバーって、無茶ゲーすぎるだろ?

 

「ダンさん、仲間を拾ってきました」

 

気が付くと、どこかの家の庭にいた。どうやって運ばれたのだろうか?

 

「クマ兄さんのお嫁さんになるかな?」

 

クマ兄さん?

 

「う~ん…可愛い子クマ~」

 

目の前にクマが居た。二本足で起立している全身クマの人物がいた。

 

「あぁ、可愛いなぁ。どうして、クマの着ぐるみを着ているんだ?」

 

目つきの悪い男に訊かれた。どうしてだろうな。

 

「神様転生特典だよ」

 

NPCの女の子が答えた。うん?神様…転生…特典?って…私、死んだの…なんで?

 

「ねぇ、なんで、私は死んだの?」

 

黒い装備の女の子に訊いた。

 

「う~んとねぇ、ベッドに無防備に寝ていたら、大人の男女二人組に殺されたよ。その人達は大きなキャリーバックを持っていたような」

 

まさか…両親か?縁を切ったはずだ。命からがら海外から戻って、私のお金目当てかな。目から暖かい液体が零れていく。ふふふ…だけど、お金は見つけられないはず。

 

「大丈夫だよ。ユナのお金は全部、持って来て、両替したから」

 

はぁい?アイテムボックスを見ると、膨大なお金が入っていた。これも神様転生特典ってヤツか?

 

 

久しぶりの人肌を感じながら目が醒めた。

 

「おはよう…ユナ…」

 

「おほよう…ダン…」

 

さてと、今朝から新生活のスタートだな。

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

SS:誤解

 

---クリフ---

 

「あなた!彼に何をしたの?」

 

王都にいる妻が戻ってくるなり、そう叫んだ?

 

「彼とは?」

 

「クラン<楓の木>のダンよ」

 

「街から出て行ってくれたよ。彼と彼の仲間はトラブルメーカーらしいからな」

 

「なんてことをしたの?」

 

「アイツは王都でテロを起こしたんだろ?本来なら、捕縛の上、王都に連行なんだろうけど、王命でアイツには触れるなとお達しがあったからな」

 

「王様はそんなことを言っていないわ。言ったのは彼らに不利益になることはしないようによ。これって、不利益なことでしょ?」

 

何?訊いていた話と違う。どこで話がぶれたのだ?

 

「誰から聞いたの?」

 

「冒険者ギルドのマスターのラーロックだ。アイツがウソを言うとは思えない」

 

「彼らの屋敷の場所に行ったけど、更地だったわ。どこに追い出したの?」

 

「隣国じゃ無いのか?あちらにも家があるらしいから。いいじゃないか、テロリスト集団がいなくなったんだから」

 

「テロリスト集団じゃ無いわよ、彼らは…マズいわね。彼らを探さないと」

 

妻は部屋から出て行った。

 

 

 

---エレローラ---

 

ヘレンからの連絡を受けて、急ぎクリモニアに戻って来た。彼らの屋敷が消えたと言う報告。現場に行くと、確かに更地になっていた。どうやって、屋敷を移動させたのだ?彼らの事は分からないことだらけである。ドラゴンの素材を大量に持っている、ブラックバイパー、タイガーウルフの討伐、100匹近いゴブリンを瞬殺など…スキル、能力がまるで分からない。唯一、ゴブリンの討伐を見た冒険者によれば、彼は召喚師だったと言う。フェンリル、ジズ、ナインテールなどのSSS級魔物を召喚していたと言う。SSS級ともなれば、国の軍隊を総動員しないとダメなレベルである。それらを屈服させて、テイムしたのか謎である。

 

王命により、彼らのことを調べるように言われた矢先、夫が彼らを追い出してしまった。王都とクリモニアの街では馬車で2日ほどの距離である。だが、連絡の行き違いが多い。誰かの罠か?

 

確か、領地に貰ったのは隣接するエレゼント山脈エリアだったわね。そこに行ってみましょうか。

 

街を出て整備されていない道を進むと、屋敷が見えて来た。彼らが山の麓を開拓しているようだ。

 

「何か、未だ用ですか?」

 

私を見る目が冷たい。

 

「どうして、出て行ったんですか?」

 

「あなたの旦那に犯罪者扱いされたからだよ。俺がいつ犯罪を犯したと言うんだ?」

 

「誤解です。あなた達がテロリスト集団だと吹き込まれたそうよ」

 

「だから、何?もう、いいでしょ?俺達は俺達でやるから、構わないでくれ」

 

「そうもいかないわ」

 

「五月蠅い!帰れ!」

 

 

次の瞬間、王城の廊下にいた。これって、転移魔法。それもかなり高位なヤツだ。

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

討伐クエスト

 

 

---ダン---

 

翌日、久しぶりにクリモニアに向かった。クマ兄さんにジャミール一家のポップコーンの感触を伝えた。

 

「そうかクマ~。流行る予感クマ」

 

表情は見えないが、喜んでいるみたいな様子のクマ兄さん。

 

「後、鶏はアリサの方で面倒見てくれる上、卵はギムルの街で普通に売っていたよ」

 

情報収集力が不足気味だな。情報収集には、ギルドに行くのが一番良いだろうな。冒険者ギルドへ向かった。受付に行くと、

 

「ダンさん、指名依頼が3本有りますよ」

 

って…貧乏くじか?もう、肥だめの清掃は嫌だぞ。

 

「どんな感じ?」

 

「事情聴取が1つ、討伐依頼が2つです」

 

事情聴取の指名依頼って何だ?嫌な予感しかしない。

 

「討伐依頼の1つは、そこにいるルリーナさんと一緒に、ゴブリンを討伐してきてください」

 

「はぁ?俺はソロだぞ。仲間はいらない」

 

「要る要らないの話では無くて、この前、彼女のパーティーメンバーのデボラネさんを倒したでしょ?そのせいで、彼女達はクエスト失敗の危機にあるのよ。少しは責任を感じなさいよ!」

 

デボラネ?誰だ、ソイツは?

 

「知らない」

 

「この前、あなたに絡んだ男よ」

 

あぁ、眠らせて、フレイヤの餌食になったヤツか?

 

「自業自得だろ?」

 

「彼女達は関係無いでしょ?」

 

「タダ働きか?」

 

「Fランクなんだから、上のランクの人に協力しなさい」

 

何故、俺は怒られないと行けないんだ?少しキレた俺は、受付嬢にギルマスとしている『妄想』をギフトした。

 

「いやぁぁぁぁ~!」

 

その場に倒れる受付嬢。そんなに嫌われているのか、ギルマスは。

 

「なんだ…今の叫び声は?」

 

奥から、件のギルマスが現れた。

 

「病気でも持っているんじゃないの?健康チェックしているか?あと、、上のランクの尻拭いをしろって…マジで言っているのか?」

 

「ひっ…何、キレているんだ?あぁ、デボラネの件か…取り敢えず、ルリーナとゴブリンを討伐してきてくれ。報酬は考えるから…」

 

「後、もう一つの討伐は?」

 

「タイガーウルフだ」

 

「で、事情聴取って言うのは?」

 

「お前の処のクマに領主様のお嬢様が懐いていて…素性調査だ」

 

お嬢様?きっと幼女なんだろうな。あのクマ、大人の女性にはモテないし。

 

「わかった。コイツを連れていけばいいんだな?で、地図をくれ」

 

「これだ」

 

現場の地図を貰い、ルリーナと共にギルドを後にした。

 

「どうやって、移動するの?」

 

手でルリーナの目を塞ぎ、ゴブリンの居る洞窟近くに転移した。

 

「えっ!転移魔法?それも長距離って…」

 

驚いているルリーナ。

 

「俺の秘密を口外したら…」

 

俺の睨みに怯えているルリーナ。

 

「わかりました。誰にもいいません」

 

で、状況は?入り口に4匹のゴブリン。

 

「ゴブリン狩りをする。喰いたいヤツは、魔石以外を喰って来い!」

 

使い魔達が一斉に現れ、我先にとゴブリン達を食い殺していく。

 

「召喚師?あれって、フェンリル?えっ…ジズもいるし…ナインテールも…」

 

更に怯えるルリーナ。1時間もすると、グラトニーが魔石を回収してきてくれた。それらをルリーナの前に置く。

 

「これでいいな?じゃな」

 

使い魔達を送還して、次の現場へ転移した俺。探索すると、番いの魔物がいる。コイツかな?他にいないし。ウッドオクトパスからの狙撃で、二匹とも仕留めて、血抜き代わりに血液をドレインした後に、収納してクエスト終了。

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

掛け違えたボタン

 

---ダン---

 

次は伯爵邸か?ここは行ったことが無いので、先ず街の門近くまで転移して、伯爵のお宅へと向かった。

 

「おい、貴様は何者だ?」

 

門番が剣を抜いて訊いてきた。まぁ、見た目が怪しいか。Tシャツにジーパンだしな。

 

「クラン<楓の木>のサブマスターのダンだ。伯爵に呼ばれたんだが…」

 

「そんな予定は訊いていない。帰れ!」

 

「あぁ、帰るよ」

 

会いに行って面会拒否だ。帰れと言われたから帰る。これは俺のせいでは無い。これでクエスト終了だな。そのまま、冒険者ギルドへ戻った。

 

「3件とも終わったぞ」

 

勝手知ったるギルマスの部屋にずかずかと入っていく。今日の俺はキレている。それは自覚出来るレベルでだ。

 

「もう…終わったのか?ルリーナは?」

 

「魔石を拾っているんじゃ無いかな?で、タイガーウルフの魔石がこれ」

 

ギルマスの部屋に魔石を二つ出した。

 

「後、伯爵は面会拒否だそうだ。俺のせいじゃ無い。門前払いだったしな。タダ働きの報酬は高いからな、覚悟しておけよ」

 

ギルマスに報告だけして、部屋を後にし、冒険者ギルドを出て、疲れたので温泉旅館へと帰宅した。

 

翌日…ラインハルトの元を訪れた。

 

「冒険者ギルドとトラブルが起きて、どこに訴えれば良いのかな?」

 

「大抵は所属している国の王都にあるギルドだな。各国の王都にはギルド本部があって、各国のギルド本部間で情報を共有させているんだ。で、問題を起こしたのは、この街のギルドかい?」

 

「いや、クリモニアの街のギルドだ。指名依頼3つをタダ働き…俺に非があるならしょうが無いが、困ったことに俺には非は無いんだよ」

 

「それは悪質だな。隣国の王都にあるギルド本部に行くと良い」

 

ラインハルトが紹介状を書いてくれ、俺は隣国の王都へと向かった。

 

 

蒼い装備で王都の近くまで飛び、門から王都に入った。人ゴミ…あぁ、大都市って感じがする。俺は冒険者ギルドへ向かい、受付嬢にラインハルトからの紹介状と俺のギルドカードを手渡した。しばらく待つと、奥の応接間に案内された。

 

「当ギルドのマスターのサーニャよ」

 

薄緑の髪で耳の長い女性がいた。エルフかな?長耳族かな?

 

「クラン<楓の木>のサブマスターのダンだ」

 

「あぁ、これ返しておくね」

 

ギルドカードを返して貰った。

 

「訴えにあったタダ働きの件は謝るわ。支部長が無理させてごめんなさい。ギルドカードによると、君のランクはFなのよね。う~ん…実績とランクに開きが有りすぎるのよね」

 

そう言えば、ランクアップしないな。結構、クエストを熟した気がするが…

 

「指名依頼って、信用があるランクC以上の冒険者に依頼するんだけど、君は信用されているようね。隣国の公爵様からの信頼も厚いようだし」

 

待てよ?個人じゃなくて、クランのランクが上がっているんじゃ無いのか?商業ランクもクランのランクが上がっていたし。

 

「クランのランクがCなのか?」

 

「そうね。冒険者、商業共にギルドランクがCって、余程優秀なクランなのね」

 

優秀なクラン…そう言われるのは、それはそれで嬉しいことだ。だけど、本題は別にある。

 

「で、タダ働きの件は?謝って終わりか?本部のギルマスの謝罪って、売れるのか?」

 

「終わりって、この国が?それは物騒ねぇ」

 

コイツは心ここに在らずで、話を理解しているか疑問である。

 

「そこまでは言っていない。ただ、クリモニアの街の家は売り払って、隣国に永住することは考えるよ」

 

アリサの国もあるし。

 

「それは困るわ。君からドラゴン素材を買いたいから」

 

ドラゴンの素材が欲しいだけか?金を払わずに…身ぐるみ剥いで、国外追放したら、いやだな。

 

「ここは王都。支払いは王室がする。これから、王様への謁見をして欲しい」

 

「断る。俺は、この国の人間では無い」

 

「王様からも謝罪したいそうよ」

 

ドラゴンの素材目当てなんだろ?総て置いて出て行けと言われかねない。

 

「どうすれば、許して貰えるの?」

 

この人、本当に謝罪する気があるのか?

 

「いや、もう面倒だから、この国から撤退する」

 

なんか、どうでもよくなってきた。金はラインハルトの領内で、ドラゴンの素材を売れば出来るし。

 

「撤退?あり得ないでしょ?王都のギルドにまで乗り込んで…」

 

目を見開いて俺を見つめるギルマス。あり得ないのは、こっちの台詞だよ。なんで、王様の前に出ないと行けないんだ?この服装で行ったら、間違い無く不敬罪だぞ。

 

「埒が明かない。俺も暇じゃ無いから…」

 

パシュ!

 

部屋に突然、銃声がした。目の前のギルマスの髪の毛の一部が床に舞い落ちた。

 

「狙撃…どうして?」

 

震えているギルマス。誰かが付いてきたのか?で、クランで情報を共有とか。

 

「戦闘狂の多いクランなんでね。何かと理由を見つけているヤツがいるんです」

 

狙撃手はルルか?マリーか?引くに引けなくなりそうだ。それ以前に窓が割れる音がしていない。レールガンでガラスを融かしたのか。

 

「じゃ、俺は仲間の元に行きますね」

 

入射角から狙撃ポイントを割りだし、その場から狙撃手の元へ転移した。

 

 

狙撃ポイントにはアスカとルル、マリーがいた。

 

「何しているんだ?」

 

「影として、ダンの後を追っていたら、飛んでも無い方向に、話が向かっていたから、みんなに連絡をしたのよ」

 

とマリー。コイツのスキルは隠密系の情報収集である。そうか、俺を追尾していたのか。気づかなかった。思ったより、事は大きくなっていた。

 

四人で城の門の前に行くと、サリー、メイプル、マイルが騎士達相手に遊んでいた。

 

「どうしてこうなった?」

 

「メイプルがクランマスターとして王様と話を付けるって…」

 

サリーが苦笑いしている。メイプルだと?交渉事には向かない人選だろうに。せめてサトゥーかミトにしろよ。

 

「後、クリモニアの街の館に騎士達が来て、みんなを拘束して連れて行ったんだよ。不敬罪だって」

 

あぁ、クマ兄さんの領主の娘拐かし疑惑か。それで俺は呼ばれたんだよな。現地の責任者として。門前払いして、それか?

 

「クリモニアの街の方は制圧したぞ」

 

サトゥーとミトが俺の周囲に転移してきた。

 

「じゃ、王様に会いに行くか」

 

サトゥーに促され、俺は蒼い装備にクイックチェンジし、アリス、カエデを召喚した。ゾロゾロとお城の中に入っていく俺達。途中現れた騎士達は無力化していく。騎士達の得物はメイプル、カエデにより、破壊されていく。どんだけ、固いんだ?いや、お前ら回避盾を目指すんじゃ…盾で受け流すだけで、得物の刃先が折れていく。それだけで、騎士達は恐怖しているようだ。

 

「絶対に殺すなよ。メンドー事は嫌いだから」

 

一応、この戦線のルールを皆に伝えておく。

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

交渉

 

---ダン---

 

窓から外を見ると、ガ●ラとギャ●スが城を包囲している。それだけで恐怖だろう。まさか、王都の上空に怪獣が現れるとは、王都の住民は混乱をしているに違い無い。まして空にいるアイツらに攻撃を入れられるヤツが王都にはいないようだ。そして俺達は、玉間に突入した。

 

玉間には王様らしき人物が玉座に座っていて、その両隣に男性が二人、少し離れて女性がいた。王女か?それにしては、服装がドレスでは無く、働く女性っぽい。

 

「貴様らは何者だ?」

 

騎士が俺達の前に立ち塞がった。なんだよ、会いに来いって、言ったのはソッチだろう?この国流の言い回しなのか?

 

「クラン<楓の木>だ。不敬罪ってどういうことだ?俺をタダ働きさせておいて、どの口が言うんだ?!それに、会いに来いって言ったのは、そちらだろ?」

 

「どういうことだ?」

 

俺の言葉に戸惑う様子の王が口を開いた。うん?現場の声が届いていないのか?

 

「俺を呼んでおきながら、門前払いした挙げ句に、仲間を不敬罪で拘束って、それがこの国のやり方か?」

 

「待て!お前を呼んだのは誰だ?」

 

俺の怒りの原因に戸惑う王。

 

「お前と、クリモニアの街の領主だよ」

 

「えっ!」

 

キャリアウーマン姿の女性が声を上げた。

 

「おい!エレローラよ、どういうことだ?元々はそれが原因なんじゃ無いのか?私は聞いていないぞ」

 

王がその女性に声を掛けた。

 

「私も聞いてません。あの人は一体何を考えているんでしょうね」

 

ホウレンソウが出来ていない国は、消えてもいいかな…

 

「王の名において、君達に対する不敬罪は取り消す。クリフ・フォシュローゼ伯爵から事情も訊く。だから、武力を解除してくれないか?」

 

はぁい?

 

「まだ、武力をふるっていないけど…武力を振るうと、王都が消えるけど、いいの?」

 

俺の機龍と、メイプルとカエデの『ジャガーノートドライブ』を発動すれば、ここら一帯はペンペン草も生えない荒れ地になると思う。クマ兄さんが軍艦を出せば、クリモニアの街も消えるだろうな。

 

「まだ振るっていないとしてもだ…威嚇でこれか?わかった、全面降伏する。話し合いに応じる。賠償もする。矛を収めてくれないか?」

 

「だから、まだ何もしていない。面会に応じただけだぞ。先に剣を突きつけたのは、お前らだからな。それに対して、俺達は応じただけだ」

 

どうも話がかみ合わない。ストレスが溜まっていく。

 

 

王城に俺、サトゥー、ミトだけが残り、残りには帰って貰った。俺達三人だけでも、この王都を制圧可能だからと説得して、帰って貰った。ヤル気満々のヤツラがいると、話し合いが出来ないからだ。

 

「行き違いがあったようだ。伯爵に話が上る前に、ヤツの騎士達が忖度したらしい」

 

忖度で不敬罪?諸に、えん罪だろうに。捕縛される折りに、レイとアズライトが暴れないで良かった。えん罪での拘束とは言え、現行犯での暴行罪及び殺人罪はアウトだと思う。

 

「君達の冒険者ギルドでのクエスト達成状況、商業ギルドでの商い実績も見た。とても素晴らしい活躍であると思う」

 

「だから?」

 

暗殺予防に俺は蒼い装備を装着したままだ。フルフェース兜のおかげで、俺の苛ついた表情は王達には見えない。

 

「今回の賠償金に加え、報奨金も出そうと思う」

 

「責任者は?」

 

その何とかという伯爵はどこだ?

 

「王である私だ」

 

「呼んでおいて、門前払いという不敬は、貴族様には問えないってこと?」

 

「それについては、門番との連絡がうまくなかったとしか言えません」

 

キャリアウーマン姿の女性、エレローラが答えた。この女、あの無礼な伯爵の妻らしい。

 

「では、貰える物を貰ったら、クリモニアの街の家は引き払い、この国を出ます」

 

「ちょっと待って欲しい。優秀な冒険者と商人を失うのは、我が国として損失がデカイ」

 

「失う原因を作って置きながら、引き留めですか?」

 

「爵位を授ける。それでどうだ?」

 

「要らないよ。そんな面倒な物はさぁ」

 

土地は欲しいけど…

 

「では王都に家を持つのはどうだ?」

 

「人ゴミは嫌いなんだよ。サトゥー、何か良い妥協案は無いか?」

 

堂々巡りをブレイクする為、サトゥーに丸投げしてみた。

 

「そうですね~、爵位を貰い、領地を貰いましょうか。但し、貴族としての役目は免責でお願いします」

 

爵位って…何で面倒事を引き入れるんだ?勝算は有るんだよな?

 

「領土はエレゼント山脈一帯を貰えませんか?」

 

そこって、どこだ?

 

『海沿いの街であるミリーラ町に隣接する雪山だよ』

 

サトゥーから念話が届いた。何か考えがあるのか?

 

「あそこかぁ。何も無いはずだが…わかった。そこを領地にすると良い」

 

「爵位は公爵でお願いします」

 

「いや、それはダメだ。そこまでの功績は…」

 

「ダン、交渉は決裂みたいだぞ」

 

サトゥーは無理難題で交渉を決裂させたいのか?それにしては、要求が具体的過ぎるんだけど。

 

「待て…わかった。公爵の爵位を授けよう」

 

「爵位年金は要りませんから、不払い金だけでもお願いします」

 

爵位年金とは、爵位に応じて、国から報償が貰えるそうだ。サトゥーが得てくれたのは、この国では立ち位置と土地であった。爵位持ちに生じる役務と利益は総て放棄する条件で。

 

 

交渉が終わり、温泉旅館に戻り、決定事項を皆に伝えた。

 

「で、そこにしたメリットは?」

 

サトゥーに訊いた。

 

「スキーが出来る。ダンジョンを作れる。海の幸が近い。良い立地じゃ無いか」

 

越後湯沢みたいな感じか?温泉は出るのかな?もしかして、米処になるのか?

 

早速、現地へサトゥー、ミト共に向かった。山の中腹から上は、雪化粧である。そういや、今の季節は何だろう?

 

山の頂上は雲の上のようで見えない。まず、麓の調査。米が自生していないか、温泉が出そうかなどを調べる。近くに火山は無く、まず温泉の夢は絶たれた。次にスキーだが、麓まで雪が積もらないと無理っぽいようだ。上に行くほどに急斜面で、雪崩が起きそうだな。これの件については、サトゥーがどうにかするらしい。要はサトゥーが好きな時間にスキーがしたいらしい。

 

ただ、田んぼにするには良い場所である。水は雪溶け水があるからだ。近くに川もある。海も近いし、脱塩設備を作れば、水と塩の両方を生産出来るだろう。米は脱穀する前の米をミリーラで購入して、苗を育てることにした。

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

胡散臭い神と無邪気な死神の犠牲者

---ダン---

 

翌日、クマ兄さん、レイも連れて、田んぼ作りを始めた。先ずグラトニーに下草を食べて貰い、培養土を作って貰う。その間、俺達は山の手入れだ。倒木の除去、食えそうな植物のサンプル採取、落ち葉拾いなど。

 

次に、土を1メートル位の深さまでグラトニーに食って貰い、地質調査をしながら、培養土を作って貰う。その間、俺達は昨日と同じことをする。

 

そして温泉旅館に戻り、新作料理を作りながら、会議をする。塩漬けしたミノタウロスの肉を、作って置いた合わせスープで煮込んでいく。この間も灰汁取りは欠かせない。

 

「下草の状態的に、水はけは良さそうだ」

 

水路を作らないと。後、ため池か。養殖池でもいいな。

 

「近くに川もあるから、そこから水を引き込むのも有りだよ」

 

煮込んだ肉を取り出し、繊維を切らない様にして、ほぐしていく。

 

「あっ…そうか、コンビーフかぁ」

 

サトゥーが俺の新作料理の正解に辿り着いた。殆ど完成しているけど。

 

「ほぐし終わったら、もう一度スープで煮込んで、冷やして出来上がりだ。本当はビニール袋に詰めて湯煎したいんだけど、ビニールのような素地は無いからなぁ」

 

無いことは無いんだが。熱に強いレッドスライムの皮で代用は出来るのだが、この辺りには、そんなに数がいないのだ。

 

「自販機で手に入るだろ?」

 

「家庭でゴミになった後、どうするんだ?。あれは環境汚染しやすいぞ。個別回収は非現実的だしな」

 

環境に優しくないとダメだ。マイクロプラスチック化したら、生態系も壊し兼ねない。

 

会議後、完成したコンビーフをみんなで摘まむ。

 

「美味しい。脂がくどいけど」

 

と、ミト。そう、ミノタウロスの脂はクセがある。何度も煮て、脂を抜いたんだけど…肉自体にもクセがあるしなぁ。

 

「今後の課題だな。牛肉が入れば、問題は解消するはずだ」

 

シガ王国のオーミ牛が欲しい…

 

 

翌日、更に新作料理にチャレンジする。今度の素材はオークのロース肉である。糸で緊縛していき、フライパンで焦げ目を付け、タレに漬け込んで煮込む。そして、スモークして味を封じ込めていく。所謂、チャーシューである。新作を持って、ジャミール家に持ち込んだ。

 

「美味しい。これミノタウロスなのか?こんなに繊細な味だったなんて…」

 

コンビーフは受け入れられた。そして、チャーシューもである。

 

「ダン君、惣菜屋でも始めないか?」

 

食べたい時に食べたいようだ。

 

「コンビーフは仕込みから10日くらい掛かります。チャーシューは1日あれば大丈夫だと思いますが、量産は難しいです」

 

素材は充分にあるが、人手と場所が無い。新たに手に入った土地は、米を主体に生産したいし。

 

「ポップコーンは無いんですか?」

 

「爆裂種の収穫まで、未だこぎ着けてません。自生しているのを見つけ次第、作ります」

 

美味しいと思われている料理が作れないのは、俺にとってもストレスであるが、素材が無いことには始まらない。

 

「風の噂で聞いたのだけど、エルファニカ王国の王都が陥落したそうだね」

 

「そうなんですか?」

 

「どこかのクランに、ケンカを売った結果らしいよ」

 

ラインハルトの俺を見る目が怯えているように思えた。陥落させた覚えは無いのだが、どうしてそんな目で見るんだ?

 

翌日、久しぶりにギムルの冒険者ギルドを訪れた。ギルドに足を踏み入れると、ギルマスに拉致され、ギルマスの部屋に連れ込まれた。

 

「お前、何やっているんだ?ギルド本部から通達が来たぞ」

 

何か、やったかな?

 

「クラン<楓の木>が不利になることをするなってな。いくら頭に来たからって、隣国の王都陥落はヤリ過ぎだぞ」

 

そういう話になっているのか。王都陥落はしていない。あれ?王が敗北を認めたから、陥落になるのかな?

 

「お前、隣国の王を土下座させたそうだな」

 

「していないぞ」

 

アイツはエラそうに玉座に座ったままだったし。

 

「あれ?そうなのか…」

 

尾鰭が付きすぎだ。王宮からギルド本部を経ただけで、ここまで尾鰭が付くのか。

 

「公爵の爵位を貰って、領地を貰って、手打ちをしただけだ」

 

「公爵…おいおい…やりすぎだ。いつか、消されるぞ」

 

「その時は仕返ししますよ。俺の仲間達が…」

 

ここで死んだら、また異世界か?それとも死後の世界だろうか?

 

「それは怖いなぁ。そうだ、合同クエストが有るんだ。どうする?」

 

「どんな内容ですか?」

 

「ジャミール家の新しい鉱山の調査だ。お縄になった役人共が、無闇やたらに掘ったせいで、坑道の全貌が分からないそうなんだ。今回、巣くっている魔物を退治しながら、どこで何が取れるかを調べるのさ」

 

「なるほど…募集人数は?」

 

「ワンパーティー6名程度って感じだ」

 

6名か…ワンダースリーと赤き誓いでいいな。マイル1魔法使い5剣士1と、パーティーバランス的にはアレだけど、火力は充分だし。

 

 

ダンジョンを周回中のマイルにクエストの件を伝え、温泉旅館に戻ると、メイプルがシュウに連れられて、クリモニアに向かったと言う。なんだろうか、嫌な予感がする。俺もクリモニアの街に戻った。

 

館の庭にクマの着ぐるみを着た女の子が倒れていた。クマ兄さんの着ぐるみとは違い、顔は見えているパジャマタイプのようだ。

 

「可愛いなぁ。どうして彼女は、クマの着ぐるみを着ているんだ?」

 

女の子に訊いたのだが、メイプルが代わりに答えた。声が出ないくらい、女の子は苦しそうである。メイプルが何かをしたのか?

 

 「神様転生特典だよ」

 

それは、またメイプルが引き寄せたのか?この無邪気な死神めっ!

 

『彼女はとあるVRMMOでトップランカーだったのさぁ。ここで転生させて、経験を生かした方が、彼女も楽しいだろう』

 

シュウから念話が届いた。今後もトップランカークラスが引き寄せられるのか?この胡散臭い神と無邪気な死神コンビによって…目の前の女の子は動けないみたいだ。怪我でもしているのか?

 

彼女を抱きかかえて、客間へと運び込んだ。怪我の具合を見ようと、着ぐるみを脱がすと、着ぐるみの下は下着だった。ソレもクマさん柄って…この子、クマ好きなのか?だけど、クマ兄さんのストライクゾーンじゃないよな。年齢層が高すぎる。見た目、高校生くらいかな。

 

彼女の身体を点検すると腹部にアザがある。アイツ、腹パンをしたのか?アザのある部分にヒールを掛けて、癒やしていく。

 

「ヒーラーなの?」

 

苦しさが取り払われた女の子に訊かれた。

 

「俺の名前はダン。クラン<楓の木>のサブマスだ。君に怪我をさせたのは、クラマスのメイプルだ。で、君の名前は?」

 

「私はユナ…お願い…朝まで抱いて…」

 

余程怖い思いをしたのか、涙が頬を伝い流れていた。

 

 

 

翌朝、横を見ると全裸のアズライトがいた。反対側の横には全裸のユナが…俺が動いたことで、ユナが目覚めてしまったようだ。

 

「おはよう…ユナ…」

 

ユナは眠そうな目で俺を見つめ、

 

「おほよう…ダン…」

 

目覚めの口づけをしてくれた。

 

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

揚げ物コンポ

---ダン---

 

朝食を食べ、ユナのことをミトに任せて、俺は温泉旅館へ向かった。クエスト中のマイルに、何か問題が無いかと訊く為である。

 

「問題は無いですよ」

 

食後休みを利用して、フィギュア作りをしていたマイル。今制作中なのは、機械神姿のメイプルらしい。

 

「どんな魔物がいた?」

 

「カマキリとかコウモリとか、後はゴブリンですね」

 

カマキリかぁ。

 

「カマキリの卵はあったか?アレの生まれたての子供を揚げると、川海老ぽくなるんだよ」

 

「川海老の唐揚げ…いいですねぇ。見つけたら、確保しておきます」

 

あれ?今回のクエストは、1日で終わらないのか?

 

「今日も?」

 

「はい。新しい鉱山は意味も無く広いんですよ」

 

それは大変そうだ。無計画で掘り進めた結果だな。

 

「ダンさんはいらっしゃいますか?」

 

マイルと話し込んで居ると、俺を呼ぶ声がした。この声はエリアリアか?何の用だろうか、俺だけエントランスへと向かう。

 

「どうしたんだ?」

 

「あのう…料理の現場を見たくて…今日はどんな料理ですか?」

 

たまに温泉旅館では料理教室が開かれていた。最近の俺は麓開拓でここに住んでいない為、マリア、ルルに料理を教えていたのだ。まぁ、料理と言ってもスナック系が多いのが難点かな。

 

「今日は…まだ決めていないけど…」

 

そう言えば、ジャガイモがあったなぁ。厨房に向かうと、メモ帳を片手に持ったマリア、ルル、サリーがいて、彼女達の横にエリアリアが並んだ。

 

「今日はポテトチップとポテトフライにするか?あぁ、後はコロッケとか」

 

「揚げ物コンポですか?」

 

サリーが嬉しそうに訊いてきた。転生者にとってソウルフードとも言える芋系スナックである。

 

「そうなるな。まずは油を作るよ」

 

キョトンとするマリア、ルル、エリアリア。サリーはモロボシ洋菓子店で経験があるため、今日は助手をして貰う。北京鍋に水を少量入れて、湧かす。熱湯になったところで、オークの脂身を適量入れていく。美味しい脂身は沸騰したお湯に溶ける。鍋の中の水分は徐々に気化して、鍋から水分だけが取り除かれ、脂身から溶け出したラードと呼ばれる油だけが残るのだ。溶けきらない部位は取り除き、新たに脂身を入れ、油を抽出していく。この工程を揚げる為の適量になるまで繰り返す。

 

「揚げ油って、こうやって作れるんですか?」

 

マリアに訊かれ、返答代わりにマリアに向かって頷き、作業を続けていく。

 

油を作っている間、ジャガイモの薄切り、拍子切りを用意していく。これはマリアとルルに任せ、サリーは油作り、俺はマッシュポテトを作る。茹でたジャガイモをマッシャーで潰していくのだ。

 

「そうだ。エリアリア。ジャガイモの芽と紫色の部分には毒がある。調理する前に取り除くんだぞ」

「はい、先生」

 

俺の作業を見つめ、頷きならがメモを取るエリアリア。料理を通じて、俺は彼女の先生になったようだ。俺、パティシエなんだけど…薄切りにしたジャガを高温の油でカラリと揚げていく。拍子切りの方は、小麦粉をまぶして、やや低温で揚げていく。マッシュしたジャガは、小判型にして、小麦粉をまぶし、溶き卵に潜らして、パン粉を纏わせて、やや低温の油のプールに入れていく。

 

三種の芋のおやつが出来た。ポテトチップス、ポテトフライには岩塩をまぶし、コロッケにはトマトケチャップかな。ソースが無いので、しょうがない。

 

「これは、どうやって、作るんですか?」

 

エリアリアから、トマトケチャップの作り方を訊かれた。実際に作るか。小ぶりのトマトを食料庫から1箱持って来た。箱から1つを取り出し、4等分にして、皆に食べさせた。

 

「甘く無いんですね。それに水っぽいです」

 

エリアリアの感想。

 

「この位がいいんだよ、まず、このトマトを湯むきする」

 

サリーと俺で湯むきをしていく。ケチャップ作りもサリーはモロボシ洋菓子店で経験している。

 

「次に、タマネギ、ニンニク、唐辛子を微塵切りにする」

 

この工程は、根性がいる。タマネギで涙が出て、ニンニクの香りで鼻が曲がり、唐辛子の刺激により指先が痛くなるのだ。

 

出来上がった微塵切りをトマトと満遍無く混ぜ合わせる。ミキサーとかブレンダーがあれば便利なのだが、この世界にはまだ無い。今後のサトゥー次第だな。いや、イズが来てくれないかな。

 

混ざった野菜ジュースもどきを鍋に入れ、砂糖、塩、胡椒で味を調えて、火に掛けながら灰汁を取り、とろ火で2~3時間煮詰める。煮詰めている間に、保存する瓶などの容器を煮沸殺菌しておく。煮詰めたら、ビネガーを加えて、火から下ろし、殺菌した容器に詰めて完成である。

 

「初めから甘いトマトだと、甘みの調節が難しい。あと、旨みより甘みが勝ってしまい、味がしまらない。素材の選別から、料理は始まっているんだよ」

 

冷めても美味しいジャガ達。冷めたから火傷の心配は無いし。揚げたては、口内の火傷が痛いしなぁ。口の中って、ヒールが効きにくい感じだし。

 

「わかったかな?」

 

「帰ったら作ってみます。分からなかったら、訊きにきますね」

 

嬉しそうに、お土産を持ち、帰って行くエリアリア。さて、揚げ油もある事だし、イカリングでもつくるかな。材料は、この前仕留めたクラーケンである。肉厚過ぎる上、胴体の直径がでかいので、ドーナツ型で抜いた後、輪切りにして厚みを調整する。そして、コロッケ同様に揚げていく。

 

「イカリングだぁぁぁ」

 

転生組が喜んでいる。転生組では無い者達は、恐る恐る食しているが、美味しかったらしい。

 

 

 

翌日、クリモニアの街に戻った。田んぼの続きである。まず、お土産の揚げ物4点セットを食卓に並べた。

 

「コロッケとイカリングクマ~」

 

「ポテチ…上手い」

 

クマ兄さん、レイが祖国の味に歓喜している。

 

「これ、全部手作りなの?」

 

ユナが驚いている。料理しない子なのか?

 

「ダンは、あのモロボシ洋菓子店の跡取り息子クマ~」

 

って、店名を出しても知らないだろうに。単なる街の洋菓子店だし。

 

「え!あのモロボシ洋菓子店の…もしかして、ピアノのケーキの人?」

 

ユナは知っているらしい。そんなに有名な店だったかな?生前の頃の記憶が薄れているのか?その辺りの記憶が曖昧である。

 

モロボシ洋菓子店の関係者と知ってから、俺を見るユナの視線の質が変わった気がするが、きっと気のせいだな。

 

「すみませ~ん!ダンさん、いらっしゃいますか?」

 

この声はヘレンか?嫌な予感がする。

 

「何か、用か?」

 

「指名依頼です。領主様が来てくれと。これは依頼書です」

 

依頼書を手渡し、直ぐに逃げるように帰って行くヘレン。また、不敬罪か?そうだ!

 

「ユナ、一緒に来てくれ。クマ好きな少女がいるんだよ」

 

クマ兄さん同伴だと、きっとえん罪一直線になりそうだし。

 

「ダンの指名は断れないな。わかった、一緒に行くよ」

 

ユナのクマ装備。中々のスタイルが寸胴ボディに見える。まぁ、セクハラ防止として、有りかな。ユナと二人で領主邸へと向かう。そう言えば、レイレイとか、ビースリーとか見かけないが、どうしたんだろう。アスナとリーファも見かけていない。はて?

 

『来ていない者達はシガ王国に残っているよ』

 

と、シュウからの念話。あぁ、あそこも引っ越してくるんだったなぁ。

 

 




メイプルのライバルになりそうなキャラ候補を見つけたけど…(^^;;
どうするかな。

例えば、滅のバケモノ、ビリビリ少女…とか。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

クリモニアから引っ越し

---ダン---

 

門番に依頼書を見せて、領主邸に初めて足を踏み入れた。

 

「わぁぁぁぁ~い、クマさんだぁぁぁぁ~」

 

少女が出てきてユナに抱きついた。これがクマ兄さんだと、犯罪と言われても言い訳が難しいか?少女に抱きつかれたユナを、その場に残して、俺だけ領主の部屋に案内された。

 

「初めてだな。私がクリフ・フォシュローゼ、この街の領主だ」

 

エラそうなオッサンだな。

 

「で、用件は?」

 

「以前にも伝えたはずだが」

 

「伝えられていない」

 

初めて会うんだ。用件を聞く機会は無い。

 

「そうか…君のところのクマについてだ。アイツは何者なんだ?」

 

「二つ名は『破壊王』だ。本気を出せば、王都を一人で殲滅できる」

 

俺を見つめる視線が冷たい。敵認定でいいかな?

 

「君は何者だ?この街で何をしでかすつもりだ?」

 

「まるで犯罪者を見る様な目つきだな。わかった。街から出て行く。それで、お前とは無関係にする」

 

部屋を出てユナと共に、領地である山の麓に転移して、クリモニアの屋敷を敷地ごと『強奪』で引き寄せた。

 

「強引だな。何か遭ったのか?」

 

アズライトに訊かれた。

 

「俺を見る領主の目、犯罪者を見る様な目だった。だからもう、あの街には行かない」

 

「えっ、行かないの?」

 

って、見知らぬ少女がいた。誰だっけ、この子?

 

「わぁ~い、クマさんが二人居る」

 

喜んでいる少女が、ユナとクマ兄さんに交互に抱きついていた。まさか、領主の…

 

「まさか、領主の娘か?」

 

「だな。まさか、私に抱きついて、一緒に転移するとは」

 

ユナも俺も気づかなかったようだ。いつ抱きついたんだ?って、誘拐確定か?マズい。『子羊の行進』で眠らせ、領主邸にこっそり返却しに行った。

 

 

水路を作り、来年の水田作りの準備をする。サトゥーが言うには季節は秋らしい。ユナは温泉旅館の方で、サリー達とダンジョンでの鍛錬をして貰っている。

 

「新作料理を望んでいる声が上がっているよ」

 

サトゥーが定時報告に来た。村長からはコンビーフとケチャップのレシピを訊かれ、それは既に送ってある。お礼にサトウキビを送ってくれたのには感謝である。水田作りの合間に砂糖の製造場を作った。間伐した木材を加工して、小屋を作り、サトゥーを通じて、道具を揃えて貰っている。

 

「あぁ、そうだ。ジャミール家からの伝言で、たまには顔を見せてねって」

 

そういば、最近行っていないなぁ。砂糖作りが一段落したら行くかな。先ずは黒糖だな。サトウキビを絞り、出てきた液体を煮詰めるだけである。不純物を沈殿させるために石灰を加える必要があるが…。

 

砂糖作りは熱との戦いであるが、爆発系炎系無効特性持ちの俺は熱による暑さは感じない。ユナのクマ装備も快適な温度調節機能付きなので、二人で割と楽しみながら作れている。単なる着ぐるみと言うクマ装備のクマ兄さんは熱でダウンしていた。

 

和三盆糖は、取り出した液体を、精製濾過して結晶化させた物にし、少量の水を加えて練るという研ぎの行程がある。これは砂糖の粒子をより細かくする作業であり、欠かせない。その後、圧搾して黒い糖蜜を抜いていく。この作業を繰り返し、白さが出るまで研ぎと圧搾を繰り返すのだ。

 

先ず、黒糖でかりんとうを作る。そして和三盆糖では餡子である。粒あんとこしあん、そして、水羊羹へと変身していく甘味達。お土産も出来たし、ジャミール家に行くかな。

 

ジャミール邸に着くと、彼らの今後の予定を聞いた。ジャミール家の方々は、ガウナゴの町にある本邸に戻り、エリアリアは本邸には戻らず、リフォール王国の王都へ行き、学校に入学するそうだ。

 

「新作をお持ちしました。かりんとうと、餡子、水羊羹です。餡子は甘い豆のジャムって感じです」

 

「今回も美味しい。上品な甘さがいいなぁ」

 

「漸く、黒糖と和三盆糖が作れるようになりました」

 

「そうだ、ダン君。今後はモーガン商会を頼ってくれ。信用のおける商会だよ。紹介状を渡しておく」

 

ラインハルトから紹介状を受け取った。

 

「会いたい時は会いに行きますよ、ラインハルト様」

 

「そうだね。君の能力なら…新作を楽しみにしているよ。お店もね」

 

お店なぁ~。屋台でもするかな。甘味の屋台かぁ。

 

 

翌日、紹介状を持って、モーガン商会を訪れた。

 

「会頭のセルジュ・モーガンと申します」

 

「クラン<楓の木>のサブマスターのダンです。よろしくお願いします」

 

「ラインハルト様から聞いております。食材の仕入れですね」

 

「後、こういうのを売りたいんですが…」

 

モーガンの前にドラゴンの素材や、インゴット類を出して見せた。

 

「…これは見事ですな。一般に売るのは難しい高額商材ですか…う~ん…」

 

大商会でも換金は難しようだ。

 

「どの位お有りですかな?」

 

「ドラゴンの素材なら20匹分くらいかな。必要ならいくらでも狩りますよ」

 

実際は100近くある。肉目当ての為、素材は溜まる一方であるのだ。

 

「オークの皮であれば、5000程…鉄のインゴットは500位、ミスリル銀だと100位かな」

 

「そんなに…あなた様達のクランは、優秀な冒険者様が沢山所属しているのですね」

 

ダンジョンを複数所有しているのが原因で、それらを周回しているヤツラが多い為とは言いにくい。

 

「売れませんか?」

 

「王都に持ち込めば売れるかもしれません」

 

「あぁ、後、宝石や古銭もあります」

 

「これは…素晴らしい…王都で開かれるオークションに小出しすると良いかもしれません」

 

モーガン商会へ委託という形でお願いした。俺達が熟すには、手続きが大変そうだし。

 

「そうだ。馬車が欲しいのですが、中古で構わないので、在庫はありますか?」

 

 

馬車を手に入れ、麓の館に持って帰って来た。

 

「これをどうするんだ?」

 

レイに訊かれた。

 

「レイ、お前、馬を持っているだろ?」

 

「あれは戦闘用だ。馬車を引くための物では無いぞ」

 

「いや、アレをサトゥーにコピーして貰うんだよ。取り敢えず二頭立て、馬車部分は改造して、移動販売車にする」

 

「移動販売か」

 

「神出鬼没のゲリラ販売にするつもりだ。固定店舗だと家賃が勿体無いし」

 

毎日営業するわけでは無いからな。

 

村長に寒天を送って貰い、先ずは水羊羹の販売だ。1週間のうち、1日だけの営業。場所は不定にすることにした。

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

メイプルの怒り

 

 

---メイプル---

 

強者を求め、『時空渡り』で時空を彷徨う。私が死神って心外である。たまたま、死に際に見つけて、今後も戦いたい為に、連れ帰っただけである。ユナはレベルが初期化された為、相手にならなかった。私のしたいのは回避盾の鍛錬である。しばらく時空を彷徨っていると、素早い動きの戦士をみつけたい。

 

見知った顔がいる強そうなパーティーである。3対1になるけど、大丈夫かな。アスナとリーファ、そして、アスナの元彼…ダンさんを殺した下手人である。コイツらだけには負けたくない。

 

「メイプル…どうして、ここに?」

 

戸惑うアスナ。寄りを戻したのか?それはそれでいい。ダンさんを巡るライバルは少ない方が良いから。

 

「ダンさんの仇…」

 

アスナの元彼に向かっていく。アスナとリーファは、突然の私の襲撃に固まっているようだ。元彼の剣を盾で受け流す。このレベルの剣士相手だと、回避出来ないなぁ。この人、二刀流だし。

 

じゃ、これはどうかな。

 

「ヒドラ!」

 

戦場が紫色に染まっていく。リーファは空中に逃げるが、アスナと元彼は毒に塗れ、弱っていく。

 

「メイプル、止めてよ。お兄ちゃんは罪を償ったの」

 

「ダンさんに償っていない」

 

リーファがふざけたことを言う。ダンさんに謝罪すらしていない。生前は責任能力無しで無罪だったとシュウさんが言っていたし。

 

「それはそうだけど…私の身体で償ったわよ」

 

「そんなので罪は消えない」

 

寧ろ罪は増えると思う。愛無き行為…見た目が幼いからって、愛があっても出来ないのに…リーファの言葉が私の怒りの炎にジェット燃料を注いでくれている。おかげで私の心はヘルファイヤー状態である。

 

「シロップ!リーファを仕留めて」

 

私の思いに応えるシロップ。さて、アスナ達はどうなったかな。紫の海で溺れるアスナ。藻掻く元彼…

 

「こんなことしても、ダンは喜ばないよ」

 

シュウさんが隣に現れた。

 

「私のエゴです。許せないものは許せない」

 

「ゲーム内の彼は英雄だけど、生身の彼は精神が弱いからね。だから簡単に暗示に掛かり、洗脳されたんだよ」

 

だからって、精神衰弱状態で、責任能力無しって、罪を償ったことになるの?

 

「メイプルの思いもわかる。で、今回はこの3名をお持ち帰りか?」

 

「要望を言ってもいい?」

 

「いいけど…」

 

「アスナとリーファは、ダンさんの奴隷に、元彼くんは、刑務所へ」

 

「異世界の刑務所か?そんなのは無いぞ。禁固か追放か死刑しか無い」

 

「どれも生やさしいよ。死刑も追放も苦しまない。禁固だって…」

 

「そうなると、犯罪奴隷で強制労働だな」

 

 

 

---ダン----

 

翌朝…メイプルがリードを2本持って、ドヤ顔で俺の部屋にいた。リードの先は全裸のアスナとリーファの首に嵌まる首輪だった。

 

「これはどういうことかな?」

 

「奴隷商に売っていて、買って来ました」

 

な訳があるか。メイプルのこめかみを拳でグリグリしてみた。教育的指導である。この部位だけ、痛点があるメイプル。

 

「痛いです。痛いって…時空を彷徨っての狩りの獲物ですよ~」

 

狩り?コイツ、アスナとリーファを狩りに行ったのか?

 

「夜のお勤めは間にあっているぞ」

 

アズライトがいる。たまにユナが夜這いするようになったし、今後レイレイも来るだろうし、ユーリは女体になれたのだろうか?そもそも、それ程、性欲が無いんだが…

 

「私?」

 

何かを期待するメイプル。

 

「すまん。メイプルは無理だ。お前とサリー、アスカは妹訳だしな。取り敢えず、首輪から解放して、服を着せてやれ」

 

「喜んでくれませんか?」

 

凹むメイプル。

 

「いや、文官が不足しているから、助かるが…今後、時空渡りで狩りに行くな」

 

「えぇぇぇ~」

 

不満げなメイプル。今後も狩りに行くのだろうか。いや、行くだろうな。強者を求めて…

 

 

服を着たアスナとリーファ。メイプルと言う鬼畜なクランマスターからの罰ゲームで、ノーブラ、ノーパン状態らしい。メイプルは二人の何に怒っているんだ?

 

「二人には、書類書き、手続き関係を頼みたい。要望はあるか?」

 

「キリト君はどうしたの?」

 

キリト?誰だっけ?

 

「誰?」

 

「ダンさんを刺し殺した…」

 

あぁ、葬式帰りに俺をデスした男か…顔すら覚えていない。サリーの泣き顔は覚えているけど。

 

「アイツもメイプルに狩られたのか?」

 

頷く二人。

 

「俺は何も聞いていない」

 

どこかに幽閉しているのか?鍛錬する相手として…

 

「彼の行方が分かったら、教えて下さい」

 

「分かった」

 

メイプルに心を折られたのか、どこか元気が無い二人であった。

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

クマとノア

 

---ダン---

 

移動販売馬車と共に、クリモニアの街を訪れた。今日の販売品はポップコーンと水羊羹である。販売員はユナとクマ兄さんのクマくまベアコンビである。

 

価格はどちらも1つ銀貨1枚である。少し高めであるが、売れ無くても、自家消費出来る分しかないし、問題は無いだろう。

 

屋台を二人に任せ、俺はフィアの家に向かった。引っ越したせいで、雇えなくなったので、どうしているか心配になったのだ。

 

「ダンさん…」

 

フィアの母親のティルミナは再婚をしていた。旦那はギルド職員で、食いっぱぐれることは無いようで、問題は無さそうだ。

 

「お土産です」

 

「これは?」

 

フィナに訊かれた。

 

「ポップコーンと水羊羹だよ」

 

「美味し~」

 

出した瞬間にシュリが食い始めていて、水羊羹に嵌まったのか、新しい父親の分を狙っている。

 

「ダンさん、どこに引っ越したんですか?」

 

「雪山の麓だよ」

 

「今度、家族で遊びに行ってもいいですか?」

 

「いいけど、俺はいないかもしれないよ。ギルドに言伝を残してくれれば、来訪予定の相談に来るよ」

 

「ありがとうございます」

 

ここから、少し距離がある上、途中に魔物もいるしなぁ。気軽に来られる場所ではないか。

 

用件が終わり移動販売馬車に戻ると、クマくまベアコンビは、子供達に抱きつかれていた。相変わらず、クマ兄さんは子供には大人気である。

 

「どうだ?売れているか?」

 

「完売だよ。試食した大人達が次々に買っていったよ」

 

と、子供達のアイドルになったユナが答えた。

 

「クマさんだぁ~」

 

この声は…領主の娘が懲りずに接触してきている。犯罪者集団と思っているなら、娘を近づけるなよ!

 

「ダン君…」

 

エレローラが声を掛けてきた。

 

「犯罪者と思っているなら、娘を近づけるな!」

 

「私は…思っていません。それよりも、クマは二人いたんですね」

 

「販売員として目立つでしょ?」

 

会話が成り立たない気がする。二人の身元を隠したい俺、二人の身元を探りたいエレローラだから。

 

「誤解を解きたいです…亭主は親バカなだけなんです。娘が心配なだけで…」

 

「それでえん罪?誤解って…未だに、あなたの亭主から謝罪は無い」

 

「えっ?そうなの?あの人ったら…親バカで仕事バカなんです。娘と仕事以外、無頓着で…誤解を受けやすいと言うか」

 

あぁ、謝罪は仕事じゃ無いってことか?俺的には納得は出来ない。

 

「弁解にはなりませんが、私は王付なので王都に長女と住んでいて、こちらにはあまり帰って来なくて…」

 

クリモニアの街には亭主と次女が暮らしているそうだ。長女の学校が王都にあると言う。

 

「王の世話だけで無く、亭主の教育をしてください」

 

「そうですね。それで王から伝言です。いつでも来て下さいと。これ、入城証です。ギルドカードを出して下さい」

 

ギルドカードを出すと、入城証がカードに吸い込まれて行った。これって、どんな仕組みだ?

 

「今度からギルドカードを見せれば、問題なく城に入れます。今回の件は、王まで報告が届いていませんでした。重ね重ねごめんなさい」

 

日が落ちていく。クマに群がっていた子供達が帰って行く。一人の少女を除いて…

 

「お宅の娘さんは、帰る気は無いんですか?」

 

「とても気に入ったようですわ。箱入り娘で遊び相手がいないから…」

 

「亭主だけで無く、娘さんも教育してください。怪しい人物には近づかないとか」

 

少女はユナでは無く、何故か見た目が怪しすぎるクマ兄さんの方が気に入ったようだ。ソイツの中身はおっさんだぞ。

 

「暗くなるから帰るクマ~」

 

「え?クマさんと帰る」

 

「ノア、無理を言わないの」

 

「だって…お母様」

 

クマ兄さんから娘を引き剥がす母親。そのことで、泣き喚く娘。どうするかな?

 

「ダンさん、今夜は泊めて貰えます?帰りに我が家に寄って貰えますか?亭主に一声かけますから」

 

泊める分には問題は無い。波乱が起きそうな予感だが、エレローラが居れば安心か?

 

 

目の前にクリフがいる。親バカ貴族のクリフがいる。エレローラに説教を食らっているクリフがいる。コイツ、エレローラの尻に敷かれているのか?

 

「本当にすまなかった」

 

エレローラに解放されるや、俺に対して土下座をしてきたクリフ。

 

「なぁ、街に戻ってきてくれないか?」

 

「断る。あの土地は、住宅で無くて、クランの建物にする」

 

クランというか、サトゥーがエチゴヤの支店を、あの場所に置きたいそうだ。ギムルの街中にも支店を置くとか。店員は奴隷とか、ギルドからの紹介でまかなうと言う。エチゴヤの裁量権はさとぅーに丸投げだし。どうにかなるだろう。

 

「わかった。無理強いはしない。だが、妻と娘には罪は無い…だから…」

 

別に人質に取るわけでは無い。一晩泊まるだけだぞ。

 

「一晩だけよ、あなた」

 

エレローラがクリフを優しく諭し始めた。飴と鞭か?その後、タダを捏ねるクリフを残し、馬車で無事に帰宅した。エレローラと娘が居なければ、転移で帰って来られたのだが。

 

「ここまで開拓したの?」

 

エレローラが畑や水路を見て、驚きの声を上げた。水路の脇には水車小屋もある。

 

「まだまだだよ」

 

これから手探りで米を育てようとしているんだから。

 

夕食。エレローラの娘ノアールは、クマ兄さんの腿の上に座っている。流石に戸惑っているクマ兄さん。食卓にはコンビーフサンドにサラダ、チャーシューを利用したシチューが並んでいる。

 

「お、美味しい…王都に、ここまで美味しい料理は無いわ」

 

エレローラが気に入ったようだ。王都にも売りに行くかな?今宵のデザートに、水羊羹とかりんとう、そして緑茶を出した。

 

「このお茶…緑色なのね。あら?口の中をリセット出来るのね。へぇ~、不思議」

 

緑茶は王都には無いらしい。

 

「王都の土地って高い?」

 

将来的にエチゴヤの支店の土地が必要であるので、エレローラに訊いてみた。

 

「うん?ダン君の土地は確保されているわよ。住む気になったの?」

 

えっ?俺の土地が確保されている?なんで?

 

「王都にいつ来ても住めるわよ。屋敷も付いているし、隣は私の家だしねぇ」

 

はぁ?隣がエレローラの屋敷だと…そうなると貴族街かぁ…サトゥーを見ると、ニヤリとしている。エチゴヤの支店を出すのだろうか。

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

暗躍するエチゴヤ

 

---メイプル---

 

時空を彷徨いに行く寸前に、マイルに呼び出された。クエストしている鉱山にゴブリンの村があると言う。推定5000程度の規模らしい。

 

「メイプルなら、楽勝でしょう?」

 

「肉は気にしなくていいんだよね?」

 

触れるだけでオークが四散してしまう。ダンさんの怒る顔が浮かぶ。「食い物は大切に扱え!シールドアタックで首を落とせ!」と、怒号が飛ぶ時がある。防御力マックスって不便だ。身体に痛みが無いが、精神にダメージが…そう、教育的指導と言う言葉の暴力に晒されるのだった。

 

「うん。ただ、トンネル崩壊だけは注意してね」

 

洞窟戦は苦手だ。機械神が使えない。シロップも使えないことが多い。強いって、不便。なんか理不尽だよ。痛いのが嫌なだけなのに…

 

「この子、強いのか?」

 

この街のギルドマスターが失礼なことを言っている。

 

「私より強いのは、ダンさんとシュウさんだけでしゅよ!」

 

しまった。噛んだ…耳が熱い。

 

「おいおい、噛んでいるぞ…」

 

「噛んだね…」

 

指摘されて、益々熱い。

 

「彼女はうちのクランマスターなので、怒らせないでくださいね。暴走すると、私もダンさんに教育的指導を受けますから」

 

うん、そうだ。ダンさんの教育的指導は言葉だけでは無く、とても痛い体罰もあったんだよ。こめかみグリグリの刑…こんなにも固くなったのに、痛いのは嫌なのに、アレはとても痛い。相手が誰でも容赦は無い。ダンさんの最近のお気に入りグループのユナもやられていた。アズライトさんは壊れそうなので、しないらしいけど。

 

「じゃ、マイル。行こうか」

 

回避盾仲間であるマイルと共に、意気揚々とゴブリン村へ突進していく。ゴブリン程度なら回避盾として動ける…はずなのだけど…あれ?回避出来ない。私と接触するだけで、爆ぜるゴブリン達。ここのゴブリン、動きが速いのか?

 

『捕食者』

 

彼らに死体を片付けて貰おう。四散した死体の掃除は大変であるので、彼らに食べて貰うのが一番である。

 

「あれ?魔石は?」

 

殲滅し終えて、マイルに訊かれた。

 

「魔石?」

 

「ゴブリンの魔石…あれが無いとクエスト報酬が貰えないのよ。まさか…捕食者に喰わせて…とか…」

 

マイルの顔から血の気が失せていく。

 

「いや、食べさせていないよ。ゴブリンの死体だけを食べて貰った…から…」

 

あっ!死体の中に魔石ってあるんだよね?マズい…教育的指導かな?チラっとマイルを見ると、冷や汗をタラタラさせていた。

 

 

 

---ダン---

 

エルファニカ王国の王都にあるエチゴヤの支店に転移した。開店したと聞いたからだ。開店して随分と経つそうだが、店内は満員であった。

 

「おぉ、ダンかぁ~」

 

店の奥の倉庫にサトゥーがいた。

 

「随分と流行っているなぁ」

 

「まぁな。ここは食い物だけが売り物では無いから」

 

エチゴヤの支店は不定期営業である。常時販売出来る物が無いのがネックである。生産量が購買量に負けているのだった。

 

「売れ筋は、これだよ」

 

サトゥーから薄い本を手渡された。これって…エロマンガと官能小説…わいせつ罪で捕まらないのか?

 

「これの作者は?」

 

「マリーだよ。後、こんなのもあるよ」

 

真っ当そうな本を手渡された。これって、マリー・アドラーこと一宮渚が、生前連載していた漫画では無いか。後、『日本フカシ話』…マイルの書きためたふかした童話の絵本かぁ…フィギュア付きの本まである。出版元は『エチゴヤ出版』となっているし。おいおい…商売が手広すぎるだろう。

 

「この国には娯楽が少ないからね。こういう脳内を揺さぶる物って売れるようだよ」

 

大人の絵本に交じって、子供用の絵本もある。

 

「子供向けのはマリーとユナの合作だ。それも売れていて、続編も出ている」

 

ちらっと見たが、マイルのフカシ話に、たぶんマリーの毒を盛ったストーリー、そしてユナの子供受けしそうなデフォルメした絵だ。

 

サトゥーが言うには、この国には印刷技術が発達していると言う。森を隔てた隣国…ジャミール家のある国はそこまで発達していなかった。文化交流が無いのだろうか。

 

「ジャミール家の土産にするか?」

 

真面な本だけにするかな。エリアリアが毒づいてはマズい。

 

「店員はどうしているんだ?」

 

「あぁ、アリサの国から派遣して貰っている。それでも足りないけど。どうだろう?奴隷でも買う?」

 

「まぁ、それもアリだな。秘密保持をするならば」

 

俺達の秘密は、転生者であること、能力がチートであることなどなどである。奴隷の場合、秘密を漏洩すれば、契約によっては死に直結する場合もあるので、秘密保持を必須にする労働者としては打って付けらしい。

 

「どこで買う?」

 

サトゥーは買う気が満々のようだ。奴隷なぁ~。リザやアリサみたい子なら、買ってもいいかな。サトゥーはデッパイ狙いだろうが。

 

「お前、失礼なことを考えていないか?」

 

「ちっぱいがいいの?」

 

「いや、出来れば大きい方が…」

 

この言葉を、ミトに告げるべきか?

 

「信用出来る店がいいな。その辺りを調査しておいてくれるかな?」

 

「調査済みだよ」

 

仕事が早い…そんなに欲しいのか?目の保養を…指の保養を…

 

「この街にあるのか?」

 

「じゃ、行こうか」

 

サトゥーと共に、どこかへ転移した俺。

 

 

転移した先は、知らない国だった。ここはどこだ?

 

「ここは神聖国だよ」

 

神聖国?

 

「クソみたいな国だ。魔王討伐の為、異世界から勇者を召喚という、異世界転移で誘拐している」

 

「サトゥーとかミトみたいに?」

 

「俺は勇者じゃない。チート満載な商人だよ。で、勇者候補にならない者達は奴隷として売っているのさぁ」

 

うわぁ~、罪深い国だな。

 

「魔王って、アイツか?」

 

伯斗が引っ越して来たって、聞いていないけど。

 

「九内伯斗じゃない。ルシファーを名乗る魔王だ。この国と隣接している魔王国にいる」

 

ふ~ん。

 

「強いのか?」

 

「あぁ、強い。メイプルには相性が悪い相手だ。魔王のスキルは『滅』だよ」

 

物理攻撃でも、魔法攻撃でも無く、空間系削除か…防御力を無視であらゆる物を滅することが出来るだろう。

 

「勝てるヤツは居るのか?」

 

「既に魔王国は陥落している。ダンの使い魔によってね。神聖国の上層部には伝えているが、今後も奴隷として勇者召喚は続けるみたいだよ」

 

俺の使い魔?う~ん、まさか、アイツらか…で、奴隷にする為に勇者召喚って…世界を越えた拉致かよ。

 

「悪魔公爵と冥王スライムか?」

 

「正解だ。メイプルの鍛錬相手として、魔王ルシファーを捕獲した上で、首都を陥落させたよ」

 

って、ヤケに情報に詳しいサトゥー。占領に関わったんじゃ…まさか、これから買いに行く奴隷って、戦争奴隷か?

 

「勇者召喚は止めさせられないのか?」

 

「シュウが動いたから、召喚の儀式を行っても、強者以外召喚出来ないらしいよ」

 

強者は召喚出来るのか。まぁ、強者って、元の世界ではイレギュラーなんだろうから、問題は少ないか?

 

「この奴隷商だよ」

 

神聖国の奴隷商…デミウルゴスが入り口で待っていた。

 

「デミウルゴス…どういうことだ?」

 

俺の使い魔達のうち、アリス、カエデ、ハチ、アナ以外は、俺が召喚しない間、自由に活動している。

 

「クランマスターの頼みですよ。主様のボスの願いを叶えるのも、主様の家臣の務めです」

 

随分と主想いの言葉を掛けるデミウルゴス。メイプルの鍛錬相手を捕獲するだけの為に、国を陥落させたのか?そうなると、死んでも生き返る、あの特殊フィールドで、メイプルは鍛錬しているのか。滅する力って、回避出来るのか?

 

「サトゥー様、跳ねっ返り達を教育してあります。お持ち帰りしますか?」

 

「そのつもりだけど、ダンが選んだ後の残りから選ぶよ。ダンとは好みが合わないから、バッティングしないだろうからね」

 

サトゥーとデミウルゴスの間で話は付いているようだ。俺達は牢屋の並ぶエリアに向かった。なんか頭が痛い…

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

それぞれのストライクゾーン

 

---ダン---

 

まず向かったのは、巨乳系紅髪の少女の牢屋。

 

「彼女は魔王の妹だそうです。まだ、教育が行き届いていません。主様、いかがされますか?」

 

デカ過ぎる。Gよりも大きいのでは無いのか?重力により、千切れないのか?あれって…

 

「パス」

 

アニメではあんな設定はよくあるが、実際に見ると気持ちが悪い。よく千切れないなぁ。

 

「じゃ、教育が出来たら、エチゴヤで使うよ」

 

どこか嬉しそうなサトゥー。アイツのストライクゾーンはあぁ言うのか。次の牢屋も黒髪の巨乳少女…パスだな。何をどうすると、あんなにデカくなるのだ?その次は、金髪の少女である。漸く、普通サイズの少女に出会えた。

 

「彼女のジョブは?」

 

「ヒーラーです」

 

「じゃ、貰う」

 

ヒーラーは何人いても困らない。牢屋から出される金髪少女。怯えた目で俺達を見ている。デミウルゴスは、一体彼女に何をしたんだ?

 

「怯えているが…」

 

「教育しましたから…」

 

だから、何をしたんだ?俺から目を逸らすデミウルゴス。なんか言え無いことでもしたのだろうか。

 

その後も見て回り、青髪の剣士、白髪の猫人妖術使い、緑髪の徒手格闘家、黒髪の魔法使いを手に入れることにした。今後も必要に応じて、サトゥーが工面してくれるそうだし。

 

手に入れた人材には、早速奴隷紋を刻み、秘密漏洩の禁止を言い渡した後、共に麓の館に転移をした。

 

 

 

---メイプル---

 

デミウルゴスさんが、鍛錬相手を探してきてくれたのだが、全く勝ち筋が見えない。強すぎるしょう、この魔王様は…

 

「貴様らは何者だ?!」

 

いや~なオーラを飛ばしてくる。まぁ、回避の練習になってはいる。あのオーラに触れた部分は消えてしまう。最強硬度なんて意味が無い。消えてしまうって何故?痛みが無いけど、消えたく無い。特殊フィールド故、五体満足で復活出来るけど、なんか悔しい。

 

「どこの勢力だ?!」

 

この魔王様の国を、デミウルゴスさんとグラトニーさんの二名だけに落とされたことに、相当怒りを覚えているようだ。たった二人で国を取るって、凄いなぁ~。

 

「冒険者の集まりで、クラン<楓の木>と申します」

 

「冒険者だと!冒険者になんで、グラトニースライムと、デーモンロードがいるんだ?」

 

なるほど、グラトニーさんの名前って、種族名なんだ。

 

「あぁ、うちのクランのサブマスターの使い魔ですよ、彼らは…」

 

「使い魔だとぉ~!アイツらを使い魔にするって、ソイツは何者だ?!」

 

「ダンさんは、パティシエですよ」

 

「はぁ?」

 

あぁ~、今日も負けた…身体の1/3が消失しているし…次は、ダンさんの仇と鍛錬をするかな。

 

 

 

---リアス・グレモリー---

 

最強の魔王と言われていたお兄様が、たった二人の侵略者に捕らえられた。何もかも滅する力を持つお兄様が…王都は、酷い有様だそうだ。死者はいないが、心を折られ廃人になった者が多いと言う。

 

「抵抗するヤツは痛い目に遭うぞ」

 

侵略者コンビが、我が家に現れ、使用人達一人一人に奴隷の首輪を嵌めていく。魔具『奴隷の首輪』…嵌められると隷属されたことになり、嵌めた相手に逆らえなくなる魔法具である。

 

「近寄るな!」

 

お父様が侵略者に向かって叫んだ。

 

「単なる上級悪魔風情が、何を粋がっているんだ?」

 

上級悪魔風情?コイツらは何者だ?

 

「あら、いい女がいるじゃないの」

 

新たな侵略者が現れた。冷たい目をした女性である。

 

「フレイヤか。殺さない程度に精気を吸っていいぞ。ここに居るヤツラで強そうなのは、あの魔王の血族の女性だけだ」

 

「じゃ、その三名の精気を貰うわね」

 

身体が重くなっていく。無詠唱でマインドドレインを行使したのか。意識が朦朧としていく。

 

「残りのヤツラは、グラトニーに任せる」

 

私の眷属達に何を…

 

 

意識が覚醒していく。冷たい石の上にいるようだ。ここはどこ?見た事の無い場所。扉が一つだけある部屋。トイレ以外何も無い部屋。ここは?重い身体を起こす。全裸にされて、床に置かれているようだ。自分の身体をチェックする。鎖で拘束はされていないが、首に首輪が嵌められていた。奴隷の首輪か?捕らえられたと言うことか?

 

「目が醒めたか?」

 

侵略者の一人が目の前にいた。身体が目当てなのか?

 

「身体?そんな物はいらない。お前は奴隷という商品だからな。身体に傷を付ける訳にいかない。だけど、躾けをしないと、主様の迷惑になる」

 

私を奴隷?名門グレモリー家の娘を奴隷ですって!

 

「上級悪魔程度で名門って言い切るな。お前らデビル種がエラそうにするなよ」

 

デビル種…まさか、コイツ…デビル種よりも上位のデーモン種か…私達悪魔にはデビル種とデーモン種の二種がいる。デーモン種はデビル種の魔王クラスと同等とされていたが、この世界ではデーモン種は人間に狩られて、殲滅した筈だ。

 

「俺はデーモンロード、悪魔公爵だ。お前ら下等種がエラそうにしていい相手では無い」

 

デーモンロード…デーモン種の最上位種族…

 

「今回の作戦に参加したのは、俺以外には、冥王であるグラトニースライムと女神フレイヤだ。下等種のお前らがエラそうにしていい相手では無いぞ」

 

グラトニースライムって、冥界においての最強種モンスターじゃないの。なんで、そんなのと悪魔公爵が…それに女神フレイヤって、コイツらの主って何者なんだ?まさか、神とか…意識が混濁していく。コイツ、精神攻撃をしているのか。身体に傷を入れずに、私にダメージを入れる為に…いやぁぁぁぁ~!

 

 

 

---ダン---

 

奴隷達に服を与え、開拓を手伝って貰う。今回手に入った奴隷は、ヒーラーのアーシア・アルジェント、剣士のゼノヴィア・クァルタ、妖術使いで猫人の白音、徒手格闘家の由良翼紗、魔法使いのソーナ・シトリーである。

 

それぞれと面談をした結果、アーシアとゼノヴィアは元々神聖国所属であるが、とある経緯で魔王国サイドになったらしく、白音と由良は勇者召喚の被害者で、諸事情により魔王国サイドに、そしてソーナは魔王国の貴族家出身だと言う。

 

「君達にも開拓の手伝いをしてもらう。俺達はこの拠点以外にも、数カ所の拠点を持つ冒険者クラン<楓の木>に属している。迷宮も複数所有している。なので、休みの日にダンジョンで鍛錬することを許可する」

 

上を目指す意識の無いヤツは、そこで終わると思う。異世界転移を繰り返す度に、相手の強さが上がっているし。

 

「サトゥー、スキー場はどうするんだ?」

 

木々が生い茂る急斜面の雪山。なだらかな麓付近も木々が生い茂っているし。

 

「生い茂っている木々は木材加工して、滑走できるコースを確保するよ。雪の無いなだらかな斜面にロッジを作れば、どうにかなるだろう」

 

マイルに、目の前の山の立体模型を作って貰ったのだが、山と言うか山脈のような感じで、横にも長いようだ。この山脈が国境線らしい。そうなると、あの海の街は隣国ってことになるのか。関所とか無いけど、いいのか?

 

「考えたんだけど、あの山にトンネルを掘って、通行料をとれば、儲かるんじゃないの」

 

と、ミト。どこか声にトゲがある。サトゥーの隣には巨乳黒髪の少女がいる。なんでも秘書にした姫島朱乃と言う奴隷らしい。その存在にキレているミト。いくらサトゥーが好きでも、そのちっ●いでは、巨乳好きのサトゥーは抱かないと思うのだが…

 

「ダン!お前、失礼なことを心に浮かべたか?!」

 

怒りが俺に…ミトって、心が読めるんだったか?あれ?

 

「トンネルかぁ。クリモニアとミリーラを結ぶ有料道路ってことだよな。で、ここに街を作って、商売か?」

 

モロボシ公爵領エチゴヤタウンとか?

 

この国の王に公爵の爵位を貰ったのだが、家名をどうするかって問題で、エレローラさんがエチゴヤ王都支店を訪ねて、サトゥーが回答したそうだ。『ダンの家名はモロボシだと』その結果、モロボシ公爵になってしまったのだった。そこはクラン<楓の木>の所有ってことでメイプルの家名だと文句を言ったのだが、『メイプルの本名は知らない』って…異世界に来てモロボシ姓ってどうなんだよ?まったく…

 

「トンネルって、どう掘るんだ?」

 

「土魔法が使えるユナに頑張って貰うとか」

 

土魔法か…使えるのは、ユナとマイルと俺か…

 

「ダンはダメだぞ。次は豆腐系を頼む」

 

そうは言うが大豆が無い。現状、自販機と村長頼りである。アリサの畑では、まだ収穫量が足り無い。

 

自販機と言えば、気軽に物が買えて便利なのだが、この世界の通貨価値を知るにつれて、高額販売だってことに気づいた。銀貨1枚で買える缶コーヒー。

 

この世界の銅貨1枚が10円相当らしい。銅貨10枚で中銅貨、銅貨100枚で大銅貨、銅貨1000枚で銀貨1枚になるのだが、このレートで計算すると、缶コーヒー1本が、1万円に相当するのだった。通貨価値を知らない頃の俺は銀貨1枚が100円だと思っていたのだが、大きな間違いだった。

 

あの得体の知れない神に文句を言ったら、輸送費や手数料を入れれば、その位になると言う。異世界で気軽に元の世界の物が手に入ると思うなって…まぁ、言われればそうなんだが…

 

なので通貨価値を知った今、緊急性が高い物以外は自販機では買わない様にしている。因みに伯斗に貰った温泉旅客の自販機は、銅貨10枚で飲み物が買えて、良心的であった。

 

「大豆は見つかったのか?」

 

「ミリーラで売っている。量は少ないけど。なんでも、交易相手の国から買えるそうだよ」

 

「買いに行けないの?」

 

「その国の場所が分からない。海の移動は目印が無いからなぁ」

 

チート商人もお手上げらしい。

 

「移動式ギルドホームで、探してくれないか?」

 

そうなるか。レーダーを装備しているし…

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

和の国へ行こう

 

---ダン---

 

移動式ギルドホームで、和物を売る国を探すことにした。搭乗者は俺、ミト、サリー、マイル、ユナである。人選に当たっては、転生(転移)者で好戦的で無い者にした。

 

「凄い。この世界に飛行機があるなんて…」

 

ユナとマイルが窓から見える景色を楽しんでいる。機内サービスは、アリスとサリーに任せ、俺とミトはコクピットで、陸地探しをしていた。

 

「こういうのは、東の方角よ」

 

「ミリーラの港って西向きだぞ」

 

そういや、あの胡散臭い神が、拠点にしている大陸はムー大陸辺りって言っていたような。その上、アリサ達の拠点は、オーストラリア大陸辺りって、言っていたな。そうなると、

 

「北だ。北北東だろう」

 

海面を見ていると小島は見えるが大陸っぽい物は見えない。

 

「ねぇねぇ、日本って大陸じゃないわよ。島国だよ。忘れていない?」

 

「そうだった…」

 

大陸探しじゃダメだ。デカイ島を探さないと。

 

レーダーに日本らしい島は映らない。そうか、形が違う可能性はあるな。北海道、本州、四国、九州と4つの島からなる、諸島群を探せば良いのか…っ

て、これか?大きな4つの島の中心に小さめの島が1つ。まぁ、降りて見て、探索してみるか。手前の大きな島に降りてみた。地上の人から見えないように、人口密集地を避けて、山陰に降り立った。

 

山の群生を調べると、見慣れたキノコ類がある。収納してからの鑑定によると、椎茸、マイタケ、松茸…ここで良いみたいだ。

 

「松茸かぁ~。何百年ぶりかな~」

 

ミトが蕩けている。

 

山を下りて、街道を見つけ、歩いて行くと、関所が見えた。全員冒険者なので、冒険者カードを提示して、街の中に入った。道行く人々の姿は和服である。探していた当たりの国かもしれない。建物屋根は瓦屋根であり、店の中を覗けば、畳が敷いてある。

 

「取り敢えず、宿に泊まりましょうよ。和食が食べられるかもしれない」

 

ミトの喜びようは凄い。異世界に来てうん百年。ソウルフードがたらふく食べられるかもしない。畳の上で寝られるかもしれない。そんな期待で一杯なのであろう。って、伯斗に貰った温泉旅館で満喫していなかったのか?

 

街中を彷徨い、『さくら旅館』と書かれた看板を発見。

 

「ねぇ、ここにしようよ」

 

宿ののれんを潜る俺達。

 

「いらっしゃいませ」

 

宿屋に入ると、ミトを除いた俺達と似たような年頃の少女が声を掛けてきた。和装を着こなし、髪にはかんざしが刺さっている。

 

「なんで…クマさんが…」

 

ユナの姿が真っ先に入ったようだ。

 

「泊まれるか?4人部屋を二つ、無ければ、大部屋を1つ」

 

代表して俺が訊いた。

 

「あっ、はい。大丈夫です」

 

ユナの姿を見てトリップしていた少女が、正気を取り戻し、返事をしてくれた。

 

「その前に確認をよろしいでしょうか?」

 

「彼女のクマ装備は、彼女の好みだ」

 

「いえ、そうでは無く、当旅館にはベッドがありませんが、よろしいですか」

 

「問題無い」

 

「あと、温泉付きの部屋がございますが」

 

「温泉付きでお願いします」

 

温泉かぁ~。いいなぁ。伯斗の温泉旅館は、露天風呂だけ温泉だったからな。

 

「その~、部屋も広く、お値段がお高くなりますが、よろしいですか」

 

「あぁ、それでいいよ」

 

取り敢えず三泊分の料金を前払いし、部屋に案内して貰った。

 

「わたしはこの旅館の娘のコノハと言います。なにかありましたら、申し付けてください。で、お客様達は、どこからおいでですか?」

 

「ミリーラだよ」

 

この国と交易のある街の名前を伝えた。ミリーラがどこの国かは知らないし。

 

「なるほど。交易のある街ですね。あそこは、しばらくの間、海に大きな魔物が現れたとかで、行くことが出来なかったって聞きました」

 

海に大きな魔物?あぁ、イカリングの元、クラーケンかな。アイツは最近、見つけ次第、狩っている。おかげで、イカリングは売るほど調理できる。

 

「話によると、冒険者が倒したそうですが、海にいる大きな魔物を倒すなんて、本当に凄い冒険者がいるんですね」

 

「そうだな」

 

「お客様は、どんな人が倒したか知っていますか?」

 

「うん?わからないなぁ」

 

迂闊に俺って言うと、証拠を見せろ的なトラブルに遭いそうで怖い。

 

「夕食はシャモ鍋とネギマ鍋がご用意できますが」

 

「じゃ、半分半分で頼む」

 

「わかりました」

 

部屋に俺達だけ残った。畳…縁側…そして、掛け流しの温泉だ。みんなして、畳の上でゴロゴロと…

 

「畳を買って帰ろう」

 

「後は、何を買います?」

 

ユナに訊かれた。

 

「後は、街に出て情報収集だな」

 

 

夕食まで時間があるので、街を練り歩く。

 

「浴衣がありますよ」

 

サリーが呉服屋を覗き込んだ。女性陣に浴衣、俺は作務衣を買い、それぞれ着替えて、街中に戻った。そうだ、履き物も買おう。女性陣は草履、俺は雪駄を買い、履き替えた。これで、街の風景に溶け込んだか?

 

「醤油、味噌、みりん…作らなくても、なんでもありそうだね」

 

と、ミト。

 

「そうだな。買えるだけ買って、サトゥーを明日呼び出すか」

 

アイツのコピー能力で、醸造蔵をコピーさせて、持ち返る計画である。

 

「乾物もチェックだ。特に鰹節を探そう」

 

鰹節を作るのは大変であるから。捌いて、蒸して、クリーニングし、乾燥、菌付け、熟成と、手間と時間が掛かる。作れと言われれば作るが、なるべく避けたい食材である。

 

「米、麦、大豆も探すぞ」

 

味見をして、どの店が良いかを見極めないとダメだ。値段と品質、味は比例していないだろうから。

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

VSかまいたち

 

---ダン---

 

翌朝、サトゥーがアリサと共に転移してきた。アリサは農家巡りをしたいそうだ。そして、俺達はサトゥーと共に、蔵見学へと行き、味見を繰り返し、買い込みをしていく。

 

「団子がうまいなぁ」

 

食べ歩き天国。色々な物が串焼きで売られていて、食べ歩きし放題である。焼き貝、焼き魚、焼き鳥など、この街は食材だけでなく、食べ方も多々存在しているようだ。

 

「見た感じ、江戸時代って感じかな」

 

牛鍋屋が無い。まだ文明開化の風は吹いていないようだ。まぁ、昨晩のシャモ鍋は旨かったなぁ~。

 

「ここが、首都ってことじゃ無いよな?」

 

サトゥーが呟いた。確かに、城が無い。港町って感じだな。

 

「首都に着いたら、連絡してくれ。今夜、蔵はピーコして持ち返る」

 

ここまでに買い込んだブツをサトゥーに渡しておく。収納庫に空きがないと、この後の買い物に響くから。サトゥーと別れ、俺達は冒険者ギルドへと向かう。まずは、冒険者ギルドで情報収集…していなかった。反省点である。いつも忘れる、情報収集である。

 

「くま?」「なんだ?」「クマ?」「どこの国の服だ」

 

道すがら、そんな声を聞く。ユナのことだろう。俺はいつも通りの服装だし。中には、追い掛けてきて、しつこくユナに絡むガキ達がいる。そんなガキには『子羊の行進』で、意識を刈り取っていく。見ていて、気持ちの良い行為では無いからだ。コイツらの親はどんな教育をしているんだ?

 

食べ歩き天国をしつつ、歩いていると、漸く冒険者ギルドの看板を見つけて、中に入った。

 

「おい!目を合わすなよ。アイツらはヤバい…」

 

小声で注意喚起する冒険者がいる。俺達を知っているようだ。周囲を見ると、侍とか忍者っぽい人がいる。ふと、受付嬢と目が合ったので、近づいて行くと、受付嬢の顔に緊張が走って行く。俺達って危険人物だっけ?

 

「この国の冒険者ギルドって、他の国のギルドカードも使えるの?」

 

「はい、使えますよ」

 

まず最初に訊かないとダメなことを訊いておく。使えなかったら、登録しないと、稼げないし。

 

「なんか、仕事あるか?」

 

ギルドカードを出しながら、クエストの有無を訊いた。

 

「く、く、クラン…楓の木…」

 

怯えたような視線で俺達を見る受付嬢。悪名なんか、あったっけ?

 

「か、か、かまいたちの退治…」

 

受付嬢は恐る恐るクエストカードを出して来た。かまいたちって、妖怪だっけ?どうにかなるかな?

 

「受ける」

 

 

朝、宿を出ると、シノブという少女がいた。

 

「ギルドのクエストを受けたそうだね。私が案内をする」

 

ギルドの案内人だろうか?コイツがいると転移が出来ない。う~ん…クエスト達成の見届け人ってことか?まぁ、信用はされていないようだな。

 

「そうか、頼む」

 

シノブと共に街を出た。出たはずだが、門番にユナが捕まっていた。シノブの説明で無事に解放された。あれ?入る時は問題無かったのに…入り鉄砲に出女ってヤツかな??

 

「馬はどうします?」

 

シノブに訊かれたので、収納庫から馬車を出し、俺達は乗り込んでいた。

 

「アイテム袋ですか…どえらい容量ですね…」

 

「道案内を頼む」

 

御者台に俺とサリーが座り、残りの者は馬車の中、シノブは自前の馬に跨がり、俺達を先導し始めた。一時間ほど進むと、別の村に着いた。因みにこの村には門番はいない。

 

「この村っす」

 

シノブの口調が崩壊していた。これが素なのか?

 

「それで状況は、どうなんすか?」

 

「昨日、新たに三頭の牛がやられていた。せめてもの救いは村人に怪我がないことだ。本当に、かまいたちを討伐することができるのか? これ以上の被害は出したくないんだ」

 

シノブが村人に状況を確認している。妖怪だよな。コンコン辺りで行けるかな?

 

「倒すことはできるけど、問題は数。どのくらいいるか、わからないっすか?」

 

「すまない。かまいたちが現れたら、俺達村人は逃げて、隠れている」

 

数がいるのか…

 

「見つけた」

 

マイルの探査スキルに引っかかったようだ。マイル以外の者も探索スキルを広範囲にしていく。

 

「どうする?」

 

ミトに訊かれた。

 

「サクッと終わらせよう。狩りの開始だ!」

 

俺達は一斉に走り出した。かまいたちって、イタチだよな。食えるのかな?

 

「えっ!闇雲に近づくと危ないっすよ」

 

後方からシノブの声がする。目の前にいるかまいたちの動きは速いが、俺達の素早さも負けていない。特に、サリー、マイルの回避盾コンビの動きは素早い。元勇者のミトも負けていないし、クマ装備のユナだって、チーターらしい動きをしている。この中で俺が一番遅い。そうだ!『クイックチェンジ』で、蒼い装備に着替え、飛行モードで上空からメーサー砲で狙撃しようっと。

 

森の奥に進むと、銀色のかまいたちがいた。それも二匹も…番いか?

 

「いけそうか?ダメならハチとアナを出すけど」

 

「問題無い」

 

と、ミト。サリーとマイルが回避盾で、2匹を牽制している。サリーとマイルに気を取られている間に、ミトとユナが、それぞれの首を落とし、狩りは無事に終わった。俺は上空から、狩り残しがいないかをチェックして、狩り取った得物を『強奪』で、収納していった。

 

「はぁ?もう狩ったんっすか…はぁ、はぁ…」

 

狩りが終わった後、呼吸の荒いシノブが追いついた。

 

「あぁ、もう終わったよ」

 

収納庫から魔石を取り出し、シノブに見せた。

 

「これが、最凶の冒険者集団、クラン<楓の木>の実力っすか?」

 

「最強?いや、戦闘力の低いメンバーだけど…」

 

「これで?」

 

火力がめっちゃ高いメイプル、クマ兄さん、ミィ、レイがいないし。俺達は、あのクランの中では穏健派であるし…

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

面倒事をしょった女

 

---ダン---

 

村に戻り、狩りの成果を披露した。結局銀色のかまいたちは3匹いた。1匹は狩り残しチェックの際に、俺が上空からメーサー砲で狙撃したのだった。

 

「これは銀色のかまいたち?」

 

「本当だ。三匹もいるぞ」

 

村人が驚いていた。この銀色は、強い魔物らしい。

 

「怪我は!?」

 

「俺達は無いが、シノブは?」

 

シノブの服は切り刻まれていた。

 

「服以外問題無いっす…」

 

 シノブは切られた部分を恥ずかしそうに押さえ、村人を見る。

 

「……追加の金額を払わさせていただきます」

 

男性の言葉にシノブは嬉しそうにする。あれ?シノブって、狩りの参加者だっけ?

 

「牛鍋でも食べて、休んでくれ。この村の名産は牛肉なんだよ」

 

牛鍋?和牛か?

 

「すき焼き?」

 

マイルとミトの口元がだらしなくなっている。最近、牛の肉は食べていないからな。しかし、この村にはすき焼き文化は無く、肉じゃがのような芋煮だった。旨いので問題は無い。

 

「里芋もあるのか」

 

村からの帰り、牛肉のブロック肉と芋を仕入れて、宿へと戻った。

 

 

宿に帰る道すがら、

 

「ダン、街に帰ったら相談があるっす」

 

と、シノブに言われた。

 

「お前の身体に興味は無い」

 

「そういう話じゃなく…なんか、酷い言われようっすね」

 

シノブの事よりも、今は牛肉をどう調理するかで、頭を悩ましたいんだ。

 

「わたしの話を聞いてほしいっす」

 

面倒事の予感がする。

 

「面倒なことはパスだ」

 

「うぅ、そんなことを言わないで欲しいっす」

 

「面倒事だろ?」

 

「……面倒事っす」

 

スルー決定。

 

「無視しないで聞いて下さいよ~。お願いするっすよ」

 

スルーだな。スルーしたまま、冒険者ギルドに帰って来た。依頼完了を知らせ、かまいたちの討伐部位の尻尾を渡し、魔石を換金して、冒険者ギルドを出ようとすると、

 

「毛皮は売ってくれませんか?」

 

受付嬢が俺に縋り付いて来た。

 

「毛皮?うちの商業部門で使うから売れ無い」

 

「商業部門?え…Aランク…」

 

実はクラン<楓の木>は、エチゴヤ、ドラゴンの鱗、そして移動販売で、商業ランクがAランクになっていた。

 

「新商品開発に使うから、売れ無い。悪いなぁ」

 

商業ギルドに加盟している強みで、冒険者ギルドの買い取り要請を蹴ることが出来るのだ。

 

「残念…」

 

受付嬢の恨めしい視線を背中に受けながら、冒険者ギルドを後にした。

 

これで面倒事は終わりと宿に着くと、何故かシノブが一緒に部屋に入ってきた。

 

「ほぉ~、良い部屋を取ったっすね」

 

これは、面倒事を訊かないと、どこまでも付き纏うストーカーパターンか?

 

「で…面倒事って、何?」

 

「この男を捜しているっす」

 

懐から人相書きを取り出したシノブ。コイツを見つければ、帰ってくれるかな?『強奪』で男を拉致し、シノブと共に、浜辺へと強制転移させた。これで、問題は解決だよな。

 

 

面倒は嫌なので、翌日はお城のある街へ移動した。

 

「飴細工かぁ」

 

べっこう飴を食べながら、飴細工製作を見学していた。

 

「そうか!飴でフィギュアもありですね。食べられる付録かぁ~」

 

と、マイル。まぁ、アリだと思うが、まずは実演販売でもするのか?

 

「見つけたっす。はぁ…はぁ…はぁ…」

 

あぁ~、背中越しに面倒事の声を聞いた。

 

「まだ、なんかあるのか?」

 

「あるっす。お願いっす。話を訊いて下さいっす」

 

俺の背中に抱きつくシノブ。

 

「はぁ~」

 

今度は、どんな厄介事を?

 

「言ってみろよ。事と次第では、男性恐怖症にしてやるぞ」

 

脅しを掛けてみる。

 

「やれるものなら、やってみなっす。で、和の国の中心に島があり、聖なる地とされ結界が張られ、普段人が入れない島があるっす。そして、その島には魔物が封印されているっす」

 

魔物退治か。封印されているのか。戦い甲斐がありそうだな。

 

「その島で、それを倒せばいいんだな。ミト、集められるだけ戦力を、その島に集めてくれ」

 

「はぁ~い」

 

なんか、みんな楽しそうなんだが…

 

「え?もう戦う準備しているっすかぁぁぁぁ~。何、その戦闘脳は…」

 

シノブの声がビビっているようだ。

 

「封印された魔物だろ?本気で戦っていいんだよな?」

 

「そうですが…まだ、封印は破られていないっすよ」

 

「封印?そんなの破ればいいだけだろ?問題無い」

 

なんたって、チーターが数名いるんだし。伝説的な食材かな?ワクワクする。

 

「その相談事は受ける。そうとなれば、準備するぞ」

 

俺達は移動式ギルドホームに転移した。

 

 




やっとラストシーンが浮かんだ(^^;;


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

VS大蛇

 

---ダン---

 

その日の午後には、戦闘要員達は問題の島の上空に達した。結界が張られていて、アレを壊さないと、進入出来ないようだ。

 

「どうする?」

 

「あれくらいなら、問題は無いよ」

 

サトゥーが結界に穴を開け、俺達は島に上陸できた。

 

「何が封印されていると思う?」

 

「そりゃ~、八岐大蛇でしょうね」

 

と、ミトが即答した。頭八本に本体って感じかな?

 

「関係者を見つけたよ」

 

コンコンが一人の女性を連れて来た。うん?現地民か?

 

「なんで、ナインテールがいるんじゃ?貴様らは何者だ?」

 

「そういう口の利き方はダメダメだよ。主様に封印ブツのことを教えなさい」

 

少女姿のコンコンが、大人の女性を足蹴にしている。コンコンが言うには、この女性は狐人であり、コンコンよりも階位が低いらしい。なので下僕扱いで問題は無いらしい。

 

「頭を封印している祠が四つと、本体を封印している祠が一つあるのじゃ」

 

八岐大蛇じゃなくて、四岐大蛇なのか?

 

現状の戦力…

 

高火力は俺、メイプル、カエデ、クマ兄さん、レイ、マイル、ミト、サトゥー、ミィである。既に上空にはアナ、ギャメス、シロップ、天ちゃんが待機し、空飛ぶ馬にレイとネメシスが跨がっている。クマ兄さんは戦艦モードに展開して、砲門をサトゥーの開けた結界の穴に向けていた。

 

「ザコはこっちでどうにかするよ」

 

と、狙撃チームのマリー。中火力組もスタンバっている。回復役にはマリア、アーシア、白音、ミザリーが、安全圏である後方で待機してくれている。

 

「倒す順番ってあるのか?」

 

「特に無いが…アイツの身体は硬い、再生もする」

 

再生は厄介である。一気に焼き払うか?中火力組以下を祠とは逆の岸に展開してもらうか。結論…高火力の集中砲火で焼き払うことにする。

 

「メイプル、カエデ、準備しろ。『機龍』」

 

俺は機龍化した。

 

「「『ジャガーノートドライブ』エネルギー充填開始!」」

 

俺達、怪獣軍団が祠に向けて、一斉攻撃の準備に入った。それとほぼ同時に祠が崩れていく。

 

「「エネルギー充填120%!」」

 

「一斉攻撃開始だぁぁぁぁ~!」

 

俺はメーサー砲を祠の1つに向けて撃ち込み、ソレを合図に一斉に攻撃を開始した俺達。それぞれの最大火力の攻撃を、余すこと無く叩き込んで行く。俺達の後方からも、魔法とか銃弾とかレールガンが次々に放たれ、祠から出てきた大蛇の頭部に撃ち込まれている。

 

 

 

---シノブ---

 

それは突然始まった。あの島からは、立ち昇る炎の柱が何本も立ち昇り、島の上空には得体の知れない魔物が何匹も浮かび上がり、島へと攻撃をしていた。朝に相談して、昼前には開戦って…アイツらは戦闘狂集団かぁ?!

 

「これは…」

 

国王が目を見開いて固まっている。まさか国王も私も、昨日の今日に攻撃するとは思って見なかった。おいおい…

 

「封印は解けていないんだろ?」

 

「多分、封印を破って攻撃しているっす」

 

島にも巨大な魔物が数体おり、大蛇に攻撃を仕掛けていた。アイツら、召喚師なのか?見た事の無い魔物が多数。島からキノコ雲が何個も上がっているんだけど…大丈夫なのか?

 

時折、島影が歪む。あれは、空間系の魔法か?島の縁が溶けているように見える。和の国の最期か…私はとんでも無いヤツラに依頼してしまったのか?

 

 

 

---ダン---

 

大蛇の頭部が紫の液体塗れである。ひび割れ程度の怪我でも、ヒドラの毒が染みこんでいるのか、苦しげな大蛇。しかし、その外皮はマイル、ユナ、サトゥー、ミトの空間切断で斬っても、再生するしぶとさ。それ故、毒が効いているようなので、一安心ではある。

 

問題は、この後どうするかだな。長期戦には向かない戦力である。クマ兄さんは弾切れ、ミィは魔力不足になりかけている。

 

「主様、喰っていいかな?」

 

グラトニーが現れた。

 

「喰って終わりになるなら、喰ってよし」

 

ヒドラの毒に汚染された肉は、俺達には食えない。ならば、グラトニーにあげても問題は無い。斬り刻んだ切り口に張り付き、体内から食らうグラトニー。

 

変身を解除したメイプル、カエデを上空に放り上げて、ヒップアタックさせる俺。なんだ、これが一番の高火力じゃないか。ヒップアタックの餌食になった頭部はミンチ状になり、グラトニーが美味しそうに食べているし。

 

「変身解除の方が強いって、どういうことクマ?」

 

クマ兄さんの主砲、メイプル達のはどう砲でも表皮は削れたのだが、簡単に再生されてしまった。しかし、ミンチになると再生しづらいようだ。

 

「後、胴体だ!」

 

機龍の腕を使い、メイプルを思いっきり、胴体へと投げつけると、インパクトの瞬間に『シールドバッシュ』…胴体に穴が開く。これって、下手な攻撃よりも高火力じゃないのか?俺は『メイプルアタック』の特技を得たようだ。

 

メイプルとカエデを交互に投げつけ、穴から体内にグラトニーが侵入して、胴体も倒せたようだ。

 

「よし!面倒事は嫌なので、即撤収だ」

 

俺も変身を解き、仲間達を移動式ギルドホームへと転移させていく。

 

 

それぞれを、それぞれの勤務地に送り届け、クリモニアの冒険者ギルドへと向かった。大蛇から手に入れた魔石を売るためである。魔石以外の部位はグラトニーが食べてしまい、これしか売り物が無いのだ。

 

勝手知ったる他人の部屋ってことで、ギルマスの部屋に行き、直接交渉をした。

 

「なぁ、これは…なんだ?」

 

震えているラーロック。

 

「和の国を賑わした四岐大蛇の魔石だ。さぁ、いくらで買い取ってくれる?」

 

「まさかとは思うが、お前、封印を破ったのか?」

 

「倒してくれって頼まれたから」

 

「そうか…王宮で、王に買い取ってもらってくれ。このギルドじゃ買い取れない」

 

そんなに高価買い取り品なのか。その場から、王都の玉間に転移した。

 

「うっ!ダン…今日はどうしたのだ?」

 

俺を見るなり、大汗をダラダラと流し始めた王様。

 

「これを買い取って欲しいんだけど…」

 

魔石を5つ、近くにいた宰相に手渡した。

 

「クリモニアの冒険者ギルドで買い取れないって言われて…」

 

「う~ん…物々交換で良いか?買い取れる金が、あまり無いんだが…」

 

「分割払いでいいよ。物で貰っても、換金する手間もあるし」

 

「これはどこで、手に入れたのだ?」

 

「和の国のラスボスを倒して…」

 

「和の国…まさか…大蛇か?」

 

頷く俺。あの大蛇って有名なのかぁ~。

 

「ダン、一人でか?」

 

「いいや、クラン全員で…実質、クランマスターの攻撃が決め手になったけどね」

 

攻撃方法は言え無い。冷静になってみると、あれって鬼畜技だよな。無邪気な少女を敵目掛けて、力一杯投げつけるって…

 

 

 




オーバーキル気味な戦力集結。しかも一番の火力が『メイプルアタック』とは…(^^;


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

ミリーラ陥落

 

---シノブ---

 

冒険者ギルド経由で、エルファニカ王国から、大蛇の魔石を買い取って欲しいと連絡があったそうだ。ダンから買い取り依頼されたそうだが、エルファニカ王国の国庫のお金の全額でも賄えない金額になるらしい。他の国の王家に買い取りを頼むって…和の国で買い取ることになり、一路エルファニカ王国へと向かう私達使節団一行。まずは、交易のある港町ミリーラの町へ船で向かっている。

 

討伐依頼料も払わないといけないし、和の国も大赤字である。出来れば物納をと、王から言いつかっている。

 

「シノブさん、そのダンさんって、どんな方なんですか?」

 

国王スオウの姪で、巫女であるサクラ様が国王の代理として、私達に同行している。

 

「どんなって…とんでも無いヤツっす」

 

瞬時に探し人を見つけ、呆気に囚われているうちに、あの島を一変させてしまった男。あの男が直接やった訳では無いだろうけど、アイツが指示をしたに違いない。

 

「あのカガリ様をビビらせるって、並大抵のことじゃないっす」

 

数百年を生きる妖狐のカガリ様。そんな彼女が震えながら、この世の地獄を見たと言う。どんだけ、怖い思いをしたのだろうか?

 

船が突然、大きく揺れた。なんだ?

 

「おい!クラーケンが出たぞ!」

 

クラーケンだって?退治したんじゃ無いのか。水面に姿を晒し、手足で船を弄ぶクラークン。そのクラーケンに挑む蒼い鎧の戦士…どこから現れたんだ?空を飛んでいるのか?その戦士は手早くクラーケンを倒し、アイテム袋に収納し、飛び去っていった。討伐は一瞬の出来事であった。クラーケンって、あんなに簡単に倒せるのか??

 

「あれは?」

 

船員に訊いてみた。

 

「勇者様だ。彼が来てから、沈む船は無くなったのさ」

 

どこから来たんだ?アイツならダンに勝てるのかな?

 

 

ミリーラの町に上陸し、冒険者ギルドへ向かった。これからの陸路を相談する為である。

 

「ようこそ、ミリーラの町に。私がここ冒険者ギルドミリーラ支部のギルドマスターのアトラよ」

 

海辺の町らしい姿である。小麦色の肌に露出の多い服装。目のやり場に困ると言うか。ここまで行くと女性にとっても目の毒である。

 

「エルファニカ王国の王都?山越えと山脈を迂回が通常の道のりだけど…」

 

山越え?

 

「山って、どの位?」

 

「あれよ」

 

窓から指差す先にあるのは、頂上の見えない壁のような山だった。これはサクラ様と越えるのは難しい。

 

「幼女連れでは難しいわよ。迂回ルートだと1ヶ月くらいみた方がいいかな」

 

山というか目の前の山脈を完全に迂回する為、日数がとても掛かるらしい。

 

「後は、トンネルね」

 

トンネル?

 

「普段使い出来ないんっすか?」

 

「この町の商業ギルドと、トンネル所有者の間でトラブルがあって、今は使えないようになっているの」

 

訊けば、この町の商業ギルドが開通する為の土地の使用料を、思いっきりふっかけたらしい。で、相手はトンネルが無くても困らないって…じゃ、なんで時間と金を掛けて、トンネルを作ったんだ?

 

「トンネルを使えば早いっすか?」

 

「そうねぇ、馬車を使えば、半日あれば抜けられるんじゃ無いかな?ただ、トンネルの入り口の土地が、立ち入り禁止なの」

 

実質、使えないらしい。どうするよ、これ…1ヶ月掛けて、山を迂回か…

 

「2,3日、この町に滞在して貰えるかな?それまでに、トンネルを使えるようにしておくわ」

 

商業ギルドと交渉してくれるのだろうか?

 

 

 

---ダン---

 

隣町のギルマスのアトラから連絡が入った。商業ギルドの悪徳ギルドマスターを排除すると言う。盗賊を使い、住民から金品を巻き上げ、巻き上げた品を高額で買い戻させると言う。良識ある冒険者達は、違う町を拠点に変え、今残っているのは、盗賊もどきの冒険者達らしい。その上、その冒険者達は、冒険者ギルドで無く、商業ギルドに入り浸っているそうだ。

 

「代官とか町長は?」

 

商業ギルドのギルドマスターに物を言えるのは、代官とか町長であるはずだ。

 

「もうとっくに夜逃げしたわ」

 

なんでも複数回に渡る盗賊の襲撃に嫌気が差したらしい。

 

「今、この町を管理、牛耳っているのは、商業ギルドのギルドマスターよ」

 

真っ当な冒険者を雇える金持ちは良いが、一般市民は逃げようが無い。山越えにしても山脈迂回ルートにしても、隣町に逃げ込むにはリスクがありすぎるのだった。山にはモンスター、街道には冒険者崩れの盗賊軍団、真面な護衛無しで生きて逃げ出すのは難しい。

 

「ねぇ、ダン。なんとかならない?モロボシ公爵様が頼りなのよ」

 

「って、言うが…ここって隣国だぞ」

 

ジャミール家もクリフも、その権力は、他国であるこの地には及ばない。

 

「あなたは、クラーケン専門の漁師でしょ?その力を、この町でふるって、悪を倒して…」

 

いや、確かに目の前の海では、クラーケン専門で狩りをしているが…ギルマス倒して占領とか、俺が悪人にならないか?おたずね者はカンベンである。

 

「倒した後は、ダンは公爵なんだから、国王とは言わないけど、クリモニアの街の領主とこの町の繋ぎになってくれないかな」

 

このタイミングで使い魔から念話が届く。面倒事の予感だ。

 

『主様、成敗しておきました。悪意ある者は総て冥界送りにしてあります』

 

使い魔の仕事の早い件…もう排除したのか、デミウルゴスよ。

 

「既に、俺の配下が指示を待たずに、排除したみたいだわ」

 

凹む俺。なんってこった。おたずね者へ一直線か?

 

「もう?凄いなぁ。流石は豪腕な公爵様ねぇ」

 

これで何都市目だ?陥落させたのは…

 

「町長と代官は逃げ出し、商業ギルドの不祥事、クラーケンの放置といろいろと困ることが出てくるのよ。それで、クリモニアの街の領主様と話ができないかと思ってね。もう、この国に属すこと自体、無意味なの。町に危機があっても、国の助けはまるで無いからね」

 

それは、領地再編問題か?代官が逃げ出すって、この国はこの地の問題を投げたってことだ。兵を送ることも、次の代官を出すこともしていない。この町の領有権を放棄したと見なしてもいいのだろうな。形の上では占領で、いいかな?考え込む俺に、更にデミウルゴスから念話が届いた。

 

『問題無いです。首都を陥落させました。賠償金代わりに、ミリーラの町の領土を貰っておきました』

 

おい!俺の意思は?俺に決定権は無いのか?

 

『主様を悩ます問題は、即座に解決が忠臣の勤めですよ』

 

グラトニーからだ。あのコンビ、行動が早すぎる。俺の思考速度を遥かに上回っているんだが…

 

「配下の者が、ミリーラの町をモロボシ公爵領に参入させたそうだ」

 

「さすが、モロボシ公爵家ねぇ、仕事が早いわね」

 

そして、その日の夜、不本意ながら『モロボシ公爵領ミリーラ誕生祭り』が、町を挙げて開催された。

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

トンネル開通

 

---ダン---

 

翌日、トンネルを開通させ、レールの上を走るゴーレム車両を設置した。灯火や休憩場、トイレなどのトンネル内の設備の設置が面倒なので、専用鉄道を敷いたのだ。ゴーレム車両に乗せるのは、専用コンテナで、駅でそれらに荷物を詰め、人員を乗せて、コンテナ単位でトンネル内を移動する感じである。イメージ的には、スキー場にあるゴンドラだろうか。先頭車両は無しで、コンテナ車がリング状に連なっていて、コンテナ車を移動させているだけである。移動時間は大体30分程度で、コンテナの乗降時間は1時間くらい。中々好評である。

 

このコンテナ専用の馬車を買えば、乗降時間が5分程度に縮まるとあって、専用馬車の売れ行きも良いそうだ。エチゴヤはどこへ向かうのだろうか。

 

「まさか、ダンが…公爵様って…」

 

和の国のシノブが驚いている。いや、俺もだよ。まさかトンネル鉄道の一人目の乗客が、シノブとは…因みにコンテナ1両で乗車代は銀貨10枚である。一人、二人では高いが、乗り合い感覚で10名乗れば、一人銀貨1枚となり、妥当な金額であろう。駅からクリモニアの街まで、別途馬車代がかかるけど…

 

「何しに来たんだ?」

 

麓の館に、シノブとお付きの者を連れ帰った。

 

「エルファニカ王国の王様と交渉事っす」

 

シノブってお城勤めなのか?

 

「ここからだと、王都まで馬車で10日くらいだよ。クリモニアの街までは送ってやる」

 

明日はクリモニアでの移動販売日である。

 

「まぁ、飯でも食えよ」

 

今日の昼飯は、クラーケンのゴロ焼きである。新鮮なクラーケンがある時にしか、調理出来ない料理である。

 

「美味しいです。これは何イカですか?」

 

シノブのお付きの者に訊かれた。

 

「それはクラーケンだよ。昨日、獲ったばかりの新鮮なヤツだ」

 

「はぁ?クラーケンって…」

 

固まる二人の客。そうだ、イカリングも出して上げよう。

 

 

 

---シノブ---

 

クラーケンのゴロ焼きって…あの巨大なイカを解体し、調理したのか…美味しいんだけど…魔物を調理するには、調理スキルレベルが高くないとダメだったはずだ。普通の包丁では捌けない魔物の肉…コイツ、本当に何者なんだ?

 

「明日は何を売るんですか?」

 

「あっ、クマさんだ」

 

サクラ様の声で横を見ると、クマの着ぐるみを着た女の子が、ダンに話し掛けていた。

 

「イカリングにするか?」

 

「ソースは?」

 

「デミでどうかな?醤油ベースならすき焼きのタレっぽいヤツとか」

 

「わかりました。その方向で…後、甘味は?」

 

「白玉粉が手に入ったから、団子にしてみるか。ヨモギはあったかな?」

 

「ヨモギはないです。同じ色見だとホウレンソウかな。後は梅酢にしてみます」

 

「こしあん載せにするか」

 

「了解です」

 

クマの女の子が厨房へ下がっていく。

 

「売るんですか?」

 

サクラ様が訊いている。

 

「あぁ、移動販売しているんだよ。明日はクリモニアでの販売予定なんだ。そのついでに、二人を連れて行く」

 

「なぁ、お前は一体何者なんっすか?」

 

前から思っていたことを訊いてみた。

 

「俺?パティシエだけど…」

 

「パティシエ?」

 

「洋菓子職人だよ」

 

菓子職人?なんで、クラーケンを調理出来るんだ?分からないことが増えていく。

 

 

 

---ダン---

 

翌日、シノブ達をクリフの屋敷に連れて行き、後のことはクリフに丸投げした。

 

「おい…お前…自領にミリーラを参入したそうだな」

 

「情報通だな」

 

「今度は何をやらかしたんだ?」

 

「俺は何もしていない。配下の者が勝手に…」

 

「暴走か?いいか?流血騒ぎは起こすなよ」

 

流血?しないだろう。アイツらがキレれば、焦土となるだけだ。クリフ邸を出て、移動販売の場所へ向かう。馬車の中では、既にノアがクマ兄さんにべったりなんだが…相変わらずのモテッぷりだな。

 

販売はくまクマ熊ベアーコンビに任せて、俺は冒険者ギルドへと向かう。

 

「おっ!ダン、いいところに来たな。指名依頼だ。直ぐに王都の西門に向かってくれ」

 

ギルマスからの指名依頼。スタンピートか?

 

「何が出たんだ?」

 

「ギルド間通信によると、ゴブリン、ウルフを合わせて1万以上。さらにオークが500体。ワイバーンの数は未定だが群れているそうだ」

 

食材大量ゲットの予感。俺は、指定された場所に転移した。メイプル、マイルを『強奪』で拉致し、カエデ、アリスを呼び出した。

 

「スタンピートだそうだ。メイプルとカエデはゴブリンを残りの者はウルフ、オーク、俺はワイバーンを狩る」

 

「どの位ですか?」

 

マイルから質問が出た。スタンピートだぞ。

 

「分かっているのは、ゴブリン、ウルフを合わせて1万以上。さらにオークが500体だそうだが、他にもいるだろう。根こそぎ回収するぞ」

 

そうだ。狙撃手も呼び出すか。レン、シノン、フカ、アスカ、マリーも『強奪』で強制召集した。

 

「薄い本を執筆中なのに…」

 

ペンを持って現れたマリー。

 

「スタンピートだ。狩りの時間だよ。俺は空に行く」

 

『クイックチェンジ』で蒼い装備を纏い、上空へと向かった。

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

VSスタンピート

 

 

---エレローラ---

 

王都に向かって、魔物達のスタンピートが発生したそうだ。王都内にいる全員冒険者、騎士に戦闘準備をさせる。こんな戦力で抑えきれるだろうか?ランクB以下の戦力しかいないらしい。ふと窓から外を見ると、遠くで何かが次々に落下しているのが見えた。あれって…遠眼鏡で確認すると、空を飛び回る蒼い装備の戦士が、次々とワイバーンを仕留めていた。落下していくワイバーンを見ていると、遠くの森から血煙が上がっている。え?!

 

まだ、王都内の戦力は外に出ていない。じゃ、アレは?

 

「エレローラよ、あれは誰何者だ!」

 

王が近寄って来た。

 

「わかりません。まだ、王都内の戦力は出ていないんですが…あっ!」

 

ダメ元で指名依頼を、クリモニアの冒険者ギルドに出したっけ。まさかなぁ~。

 

「うん?心当たりがあるのか?」

 

王の顔にいや~な汗が浮き出ている。気づいたのだろうか。アレの正体に…

 

「いえ…クリモニアの冒険者ギルドに指名依頼を…まさかねぇ~。早すぎるよなぁ~」

 

こんな迅速に対応出来る訳が無い…でも、あのクランなら…出来ないことは無い気がする。

 

「はははは」

 

笑うしかない気分だ。

 

「アイツらか…ワイバーンを簡単に落とすとは…王都死守となれば、報奨金を弾まないダメだろうな。頭が痛いわい」

 

確かに…彼らに借金している国庫。払う物は既に無い。しかし、報奨金を出さないともなると、国の威厳に関わるし…

 

 

 

---ダン---

 

ワイバーンは1ダースいた。総て仕留めて、収納しておく。地上では、ゴブリンは既に壊滅状態、オークはマイルとアリスが的確に首を斬り裂いて仕留めている。ウルフの群れは、射撃部隊が仕留めていた。他に目新しい得物はいないかな?あれ、オークが街道方向にもいる。サトゥーとミトに任せるか。念話で指示を飛ばしておく。

 

討ち漏らし、新たなヤツがいないかを、上空から探す。そんな俺の目の前を何かが通過していく。フカのグレネードランチャーか?いや、手持ちスティンガーみたいだけど…着弾地点を見ると、上級オークの群れが現れたようだ。弓を持っているオークアーチャー。杖を持っているオークメイジ。大きなランスを持っているオークランス。これは珍しいオークだな。ダンジョンでしか見た事が無いヤツラだ。フィールドにも居るのか。

 

地上に降りて、第二陣を呼び出すか。赤き誓いとワンダースリーの面々を『強奪』で召喚した。

 

「おぉ~これは…戦闘ですね」

 

メーヴィスが喜んでいる。それに対し、魔法使い5人組は、不満そうであった。

 

「新たな魔法を開発中だったのに…」

 

なるほど…それは不満な訳だ。メーヴィス以外は戦闘狂では無いしなぁ。おっと、他のヤツラも呼ばないとキツそうだ。後は…剣士達だな。サリー、カスミ、ゼノヴィア、由良、アスナ、リーファを『強奪』からの強制召集をした。

 

「状況は?」

 

サリーが訊いてきた。

 

「上級オークの群れがいる」

 

「了解!」

 

アスナ、リーファ以外は楽しそうに飛び出していった。

 

「不満か?」

 

「そうじゃ無いけど…」

 

二人を強制転移で館へ返品した。嫌々戦うと怪我の元だ。

 

『ダン!ヤバいのが出たそ』

 

サトゥーからの念話。サトゥーの元へ転移した。

 

 

 

---エレローラ---

 

このスタンピートを収めたとして、彼らに渡す褒美はもう無い。後は…王女や私達女官の身体くらいだろうか?でも、きっと差し出しても要らないって、いいそうだよなぁ。女体に興味が無さそうだし。

 

「森の中では何が起きているんだ?」

 

王の声が上がった。森でゴブリン、オーク、ウルフなどと交戦している彼ら。時折、血煙のような物が煙り立つが、彼らのか魔物達の物かはわからない。

 

「出撃の準備が出来ました」

 

騎士団長が王の前に進み出てきた。

 

「王都の防衛が任務だ。決して手柄を上げようと思うなよ。下手すると巻き込まれるぞ」

 

味方と認識されない場合、切り捨て御免かもしれない。手柄を上げようと、彼らのジャマなんかしたら、彼らの戦力が王都に向いてもおかしくない。

 

「しかし…」

 

「命は大事にせよ」

 

「はぁ!」

 

しかし、王の言葉を真摯に受け取らずに、王都の門で守備陣形を取らずに、森へと走って行く騎士団、そして冒険者達。

 

「何故アイツらは、私の言葉を無視するのだ?」

 

「余っ程、手柄が欲しいのでしょうね」

 

新参者の公爵家の手柄では、王都を護る騎士としてのプライドが許さないのかもしれない。

 

 

 

---ダン----

 

俺が向かうと、そのヤバいのは既に地中に潜っていた。

 

「何が出た?」

 

「ワームだよ。巨大なワーム」

 

大きなミミズ?ハンバーグに最適か?内臓は直腸程度しか無い上、骨も無い。内臓の取り出しが意外に楽な食材である。

 

「そうなると、地表の音に反応しているのか?」

 

ワーム達は耳も目も鼻も無い。その代わり触覚が優れており、地面の振動を全身で感じとり、獲物位置を見つけるのだ。

 

王都方向から、何かの大群の気配を感じる。新敵か?王都の方を見ると、王都から騎士団が駆け寄って来た。ワームのエサが押し寄せて来ている。そう思った瞬間、彼らの群れの中心辺りの地面が盛り上がり、多くの騎士達が巨大ワームに飲み込まれていった。突然の地面の震動で、馬たちがパニクり、騎士達が次々と落馬していく。それを巨大ワームが次々と丸呑みしていた。

 

「どうする?」

 

「どうするって…アレ攻撃すると、騎士達も冒険者達も巻き込むと思う」

 

食材として考えるなら、体液をドレインして、動作を鈍らせれば良いが、倒すとなると、丸呑みしている処を叩き潰すのが良い。丸呑みが終わると、地中に潜り、叩けなくなるから。

 

「なんで、このタイミングでエサを撒くかな。あの王って、アホ毛あったっけ?」

 

「王冠を被っているから、分からない」

 

そりゃそうだ。じゃ、倒しますか。機龍化して、丸呑みして潜る動作に入った巨大ワームにメーサー砲を頭からケツに向けて開きにする感じで焼き切っていく。焼き切った直腸から、丸呑みされた騎士や冒険者達の遺体が次々に零れ落ちていった。サトゥーが走り寄り、遺体を避けて、巨大ワームの肉だけを適当な大きさに切り分けながら、空間収納庫に収納していた。

 

焼き斬り終わった俺は、機龍化を解除して、次の戦場を探す為、上空へと舞い上がった。

 

 

 

---エレローラ---

 

蒼い装備の戦士が、突然銀色に輝く巨大なドラゴンに変身した。その光景を目撃した私達は、しばらくの間固まっていたと思う。ドラゴンの口からブレスが放たれ、巨大なワームが切り開かれていき、丸呑みされた騎士や冒険者達が、次々に落下していく。それを只見ていることしか出来ない。私達は無力な人間である。あんなの相手に勝とうと思ってはいけない。

 

「エレローラよ…これは夢か?」

 

「いえ…現実ですわ…」

 

使命を負えたのか、巨大なドラゴンは蒼い装備の戦士に戻り、また上空を駆け巡り始めた。

 

「クラン<楓の木>は、あんなのばかりなのか?」

 

「どうでしょうね。私も初めて彼らの戦闘を見たので…」

 

これに比べれば、クマ姿の不審人物が可愛く見える。

 

「人質を出した方が良いか?」

 

「どうでしょうね。好みが分かりませんし」

 

あれ?クランマスターって、女の子だっけ。そうなると王子を人質に…

 

「さて、どうしたものか…和の国の一件も、褒美がまだだしなぁ」

 

それを言うならドラゴンの鱗も、予定枚数の支払いがまだである。どうする気だろうか。

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

いつか通った未知

 

---ダン---

 

今日の狩りの参加者を、それぞれの駐留地へ送り届けていく。任意の転移術が使える俺、ミト、サトゥー、マイルの役目である。ユナも使えるようになったらしいが、転移門を設置した場所にしか転移出来ないそうだ。適材適所で良いだろう。

 

送るついでに、上空から見た感じの、それぞれの反省点を伝えていく。

 

「メイプル、盾の使い方を練習しろよ。シールドバッシュばかりだと、狩り禁止にするぞ」

 

「うっ!」

 

アドバイス程度であるので、教育的指導はしない。なのに、こめかみを押さえて蹲っている。

 

「何をしているんだ?」

 

「だって、ダンさんのグリグリって痛いんですよ。VITがMAXなのに、痛すぎです」

 

「じゃ、頑張って鍛えろよ。痛くないようにな」

 

メイプルは突き放し気味が良い。舞い上がったり、力むと噛むし…平常心でこそ、最大火力が出るのだろう。

 

皆を送り終えて、クリモニアの冒険者ギルドへ向かった。

 

「指名依頼を終わらせたぞ」

 

巨大ワームの魔石を、ラーロックの目の前に置いた。

 

「おい!うちでは払えないぞ。王都の冒険者ギルドへ行けよな」

 

何、逆キレているんだ?確かに、ここには金は無いなぁ。

 

「ただ、依頼の終了を知らせに来ただけだ。こっちも金には困っていない」

 

トンネル通過運賃と、専用馬車で、ホクホクになる予定である。

 

 

翌日、久しぶりに、ギムルの街に。グラトニーと共に、肥だめの清掃である。栄養価満点の培養土が貰えるのが嬉しいクエストである。その後に温泉旅館経由でモーガン商会へ、向かった。

 

「エチゴヤの評判は聞いておりますよ」

 

「悪名?」

 

「いえいえ、ランクAになったそうじゃないですか」

 

それは取引高が高いからである。更に言えば、ドラゴンの鱗のおかげとも言える。

 

「エチゴヤとの取引があるだけで、ステイタスですぞ」

 

あれ?ステイタスって、貴族相手に商売していたっけ?

 

「それで、この前のオークションの結果ですが…」

 

あぁ~、オークションを仲介して貰っていたなぁ。ドラゴンの鱗とか古銭とかを…想像していた額よりも儲かったようだ。これなら、あれこれ、出品できるかな?

 

「最近、開発した調味料なんですが、ご意見、ご感想をお聞かせください」

 

営業モードの言葉遣いで対応する俺。今回、持ち込んだのは、エチゴヤ製の味噌、醤油、そして豆腐である。まだ、エチゴヤ本店に並べていない商品とも言う。

 

「ほぉ~、遂に完成しましたか。これが豆腐ですかぁ…」

 

豆腐は鮮度が命、豆腐には旅をさせるなと、有名グルメ漫画に書いてあったし。刻みネギを散りばめ、醤油を適量掛ける。

 

「後、コチラが納豆です」

 

「えっ…これは腐っているのでは?」

 

「豆を熟成した物です。発酵と腐敗は別物です。これがダメだとチーズもダメでしょうね」

 

チーズも取り出してみた。

 

「あぁ、これらの味がわからないと、エチゴヤさんの料理は食べられないのですね」

 

目の前で、納豆汁を調理して、提供した。

 

「う~ん、旨いですなぁ~。これが腐った豆とは…」

 

だから、腐っていないって!!

 

 

異世界生活にも慣れ、最近リア充している。面倒事が多いが、それも楽しく感じる自分がいる。さて明日は何をしようかなって、思いに耽っていると、

 

「ダンさぁぁぁぁぁ~ん!」

 

突然、上から声が聞こえた。これって、メープルか?上を見上げると、グキッ!と首の骨が折れる音、その直後に目の前が真っ黒になった。

 

 

 

またかよ…今度はどんな世界だ?

 

 

 

(完)

 

 




ダンに報われる日が来るのだろうか?


目次 感想へのリンク しおりを挟む




評価する
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10についてはそれぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に
評価する際のガイドライン
に違反していないか確認して下さい。