悪の幹部様は推しの雑魚ヒーローを特等席で応援したい! (月兎耳のべる)
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戦慄! 怪人『フロカビランラン』! 風呂場に忍ぶ白い影!

とある画像に触発されて書いたシリーズ第二弾。
頭空っぽにして楽しんでね。


 時は西暦2020年!

 

 世界経済は混迷の一途を迎え、世界人口の爆発的上昇、環境問題、紛争問題が声高に叫ばれる昨今! その行く末に絶望した人々が悪の道に染まる事は少なくはなかった!

 

 そして悪意という物は広がり、集まり、強くなり、更に拡散する傾向にある!

 連綿と続く悪意の形成によって拡大したそれは一大組織となり、人々はそんな平和を脅かす集団を『悪の軍団』と称して恐れ、(おのの)き、忌避した!

 

 『悪の軍団』は政府の手も警察の拘束も振り切り日常を侵食する!

 市民を守るべき存在がいるのに、その網をすり抜けてしまうのでは人々は昼も夜も安心して寝られない!

 嗚呼彼らの悪の手が伸びるのを待つばかりの日々を力なく過ごす他ないのか!

 

 否! ――答えは否である!

 

 この現状を良しとしない、熱い心を持った少数の人々は、平和を取り戻そうと『悪の軍団』に立ち向かうとその拳を掲げたのだ!

 

 ある人は持って生まれた特殊な才能を駆使し!

 ある人は未知なるエネルギー源を使って!

 ある人は最先端の科学技術の結晶を用いて!

 

 人々はそんな『悪の軍団』に立ち向かおうとする集団を『ヒーロー』と称して頼り、(すが)って、応援した!

 

 

 この物語は『悪の軍団』と『ヒーロー』達の因縁の戦いを、とある地方の小さな町、包丸(くるまる)町にスポットを絞ってお伝えするものである!

 

 

 

 § § §

 

 

 

「――キャアアアアアアッ!」

 

 

 閑静な住宅街に突如広がった、絹を切り裂くような声!

 平和な一家に訪れるはずの団らん、しかしそれは今日に限って迎える事は出来なかった!

 

「イヤアアアアッ! お風呂場がカビで真っ白になってしまってるわ、どうしてーッ!?」

 

「グケケケケーッ、ご苦労だったなぁ、貴様が風呂掃除を怠ったおかげでこのフロカビランラン様も大きく成長出来たぜぇ!」

 

 少しサボり気味の風呂掃除をしようとしていた専業主婦、佳代子は絶望した!

 自宅の風呂場に突如現れた、全身が白くふわふわの何かに包まれた謎の怪人がいきなりそんなことをのたまったのだ! これは堪った物ではない!

 

「これから街中の風呂カビを成長させて、街中の風呂嫌いを促進させてくれるわグケケケーッ! 玄関はどこだ奥さんンンッ!」

 

「いやあああぁっ! 突き当りを左ですぅぅっ!」

 

 風呂窓の狭さから窓から脱出することを諦めた怪人は、フローリングの床に白い足跡を残して比較的乱暴に扉を開けて家を飛び出す!

 そして隣の家の玄関にチャイムを押してから侵入すると、再び家から悲鳴があがった!

 この怪人の目的は先述した通り住民の風呂嫌いの促進! このまま奴をのさばらせていては包丸(くるまる)町は全員不潔という(そし)りを受けても仕方なくなるだろう!

 

 無秩序に暴れる怪人、響き渡る悲鳴の連鎖!

 力無き一般人では謎怪人相手に抵抗などできる筈もなく、このまま包丸町が『不潔』という二文字の汚名が刻印されてしまうのを、のうのうと眺めるしか無いのかと市民が絶望しかけた――その時だった!

 

「待てテメェコラァ!」

 

「ケケケーッ!?」

 

 突如黒い影が町中を駆けるフロカビランラン(長いので今後フロランと略す!)に飛びかかった!

 一般人か!? はたまた新たな怪人か!? いや違う!

 両腕の無骨な金属アーム! ホームセンターの安全靴に、膝パッド! ホームメイド感溢れる金属鎧に、灯油缶に穴が開いてるとしか見えないヘルメット!

 そんな不思議な出で立ちの謎の人物が奴に飛びかかったのだ!

 

「なんだぁ、貴様ァ! このフロラン様に歯向かおうと言うのかーッ!」

 

「うるせえ不潔カビ野郎が!! 夜中に近所迷惑なんだよ!!」

 

「グケーッ!? ケーッ!?」

 

 ありったけの強力粉末洗剤を怪人にぶちまけるその謎の人物!

 口調の悪さにあるまじき常識的な判断に、為すすべなく見守っていた一般市民が叫ぶ!

 

「あ、あのあんまりなコスプレ――!」

「お、お前――クソダサ仮面じゃねーか!」

「クソダサ仮面!」「ダサ仮面だ!」

 

「うるせーッ! クソダサ仮面って呼ぶな! 俺はヒーローガキーンだ!」

 

 この男、本名:清辻(きよつじ) 無郷(むごう)(35)は『ヒーローガキーン』であった!

 自作スーツを身にまとう彼は、普通の一般人に関わらず日夜包丸町で暴れまわる怪人相手に奔走する自警団だ!

 ヒーローを自称するだけあって正義の心は誰よりも強いが、その戦闘力は今ひとつ! 粘り強さだけが彼の武器だ!

 

「おいおい、歯向かうのやめといて下がっとけって! またやられるぞ!?」

「サンダーヘッドは今呼んどいたから怪我しない内に下がろうぜ!」

「もう良い年したおっさんだろ、見ていてハラハラするんだよお前!」

 

「いいからテメェらはさっさと逃げとけやコラァッ!?」

「グゲゲゲッ、ゲーッ!?」

 

 ばっさばっさと粉末洗剤を投げつけるガキーン!

 しかし用意した粉末洗剤の量はそこまで多くない、すぐに弾切れになってしまう!

 怪人フロランも最初は悶え苦しんでいたものの、全身粉まみれになりながらも身震いさせ、ガキーンを睨みつける!

 

「き、さ、まぁ――ッ!」

「ぐああぁっ!?」

 

「ほらぁ!」「言わんこっちゃない!」

「お、おいおい救急車救急車!」

 

 怪人の白い腕が薙ぎ払われたと思えば、ガキーンのその体が吹き飛ぶ!

 見た目は滑稽とは言えそこは怪人、常人には出せぬ腕力に塀に叩きつけられ苦悶の声をあげ! 地べたに倒れ込んでしまう!

 

「フンッ、ミネルヴァ様から聞いておったが……期待外れだな、この街のヒーローは大した事ないカビッ! さぁ次はどこの家の風呂場にするカビぃ……?」

 

「ひぃっ、に、逃げろ逃げろ!」

「う、うちは新築なんだ、まだローンもあるから勘弁してくれぇ!」

 

 高みの見物をしていた住民も、その呆気なさすぎるやられっぷりに逃げ惑う!

 あぁこれでは包丸町の平和はどうなってしまうのか! 危うし包丸町!

 

 しかし安心して欲しい!

 ヒーローを自称するガキーン、この程度で折れる弱い心を持っておらず、よろめきながら立ち上がるのだった!

 

「げほっ……お、おいおい、まだ俺は倒れてねえぜ――!」

 

「ンンー? 雑魚が何をほざくカビ、さっさと消えろカビ!」

 

 しかして怪人の忠告も耳に貸さずガッシャガッシャと金属音を立て、徐々に速度をあげて怪人に向かうガキーン!

 フロランはそんなガキーンを馬鹿にした目で見る。無策にしか思えない突撃。また腕の一振りで吹き飛ばせると思ったからだ!

 

「いや、あれは狙っていますね――」

 

 逃げ惑う住民の中、一人残っていた黒髪三編みメガネの少女が一人ごちる。

 ガキーンの不屈の闘志をその目に、そして構えた一眼レフデジタルカメラに収めようとその身を乗り出して光景を見守る!

 

 そう、ガキーンは彼女の言う通り狙っていた!

 

 奴の大ぶりの一撃、それに合わせてスライディング!

 金属の鎧を地面にギャリギャリと高鳴らせながらも、大股をくぐり抜ける!

 

「グケェッ!?」

 

「っしゃおらコラァ!」

 

「!? あ、あれはまさか……まさかついに決まるのですか!?」

 

 不意をつかれたフロラン、慌てて振り向こうとするが時既に遅し!

 ガキーンの両腕のアーム、その末端に不意に点灯したブースターの青白い光!

 嗚呼刮目(かつもく)せよ、これこそが――これこそがヒーローガキーンの必殺技!

 

「――グレートパンチッ!!」

 

「カビビビィィッ!?」

 

「ひ、ひャアアァァアッ、ききき決まったぁ――っ!? ロイヤルフレートブースタパーンチィッ!!」

 

 辺りにそこそこ重苦しい音が響き渡り、フロカビランランの体がくの字に折れ曲がった!

 

 推進剤を元に威力が跳ね上がった男の正拳突き、それが深々と怪人フロランの腹部に突き刺さり、そして本人の必殺技申告よりも、怪人の悲鳴よりも、そして衝撃音よりも何よりも、見守っていた少女が大きく叫んだ!

 

「く、苦節26回目の戦闘! 不発13回に空振り10回、自爆による自傷2回で産廃もかくやと思われたあの必殺技がついに、ついに決まったァッ、あー眼福っ、ロマン技が過ぎて狙う意味ないとずっと思ってたけどいざ決まると実際ショボい! 威力は地味にありそうだけど倒れてないけどっ、でもそのポーズ、アングル最高ッ、ガキーン様こっち向いてっ、こっち向いて下さい!」

 

 喜びの余りぴょんぴょんと飛び跳ねて悦に浸る少女は、合間合間に嬌声をあげながら連射モードで撮影を繰り返す。

 悶絶して膝をつく怪人も、実際に必殺技を放ったガキーンも困惑を隠せずにいた。

 

「じょ、嬢ちゃんいつも応援と、あと的確な評論ありがとう……ま、まだ怪人は倒せてないから早く逃げてくれ! な!? あと今の技グレートパンチだから……」

 

「あっ、ガキーン様こっち見たァッ、はぁんっ、き、決めポーズ、決めポーズしてください! いつものアレでいいですから!」

 

「え、こ、こうか?」

 

「うわあああああダサい、ダサ格好いいッ!! 最ッ高ッ、たまりませんっ!!」

 

「あ、はは、はははは……」

 

 両腕を斜めの角度にあげてYの字をポーズに取るガキーンを見て少女が絶叫をあげる。

 ガキーンは困りっぱなしの苦笑いしっぱなしだ。しかしながら、そんな一幕もすぐに終わりを迎えてしまう!

 

「い、いい、今のは痛かった……痛かったゾォォォッ!!」

 

「うっ、が、があぁあっ!!」

 

「あぁっ、ガキーン!?」

 

 やはり怪人、一般人が頑張った攻撃程度ではどうにもならないのだ!

 痛みに青筋を立てた怪人フロラン、ガキーンの首根っこを掴んで地面に放り投げ、そしてその腹を蹴り上げ始める! 男の苦鳴、少女の悲鳴が同時に湧き立つ!

 

「か、カビの癖になんで耐久性高いんだよっ、ぐほっ!」

 

「グケケケーッ、やかましいカビーッ! 貴様の攻撃が貧弱だったカビカビーッ、あと燃やされなくてホッとしてたカビーッ!」

 

「あっ!? そうかカビは火に弱い……ぐへっ!? ちょ、テメッ、待て今ブースターで燃やして……ッ!? ぐああっ!」

 

「あぁ頑張れ、頑張ってガキーン! 負けないで! 今日は勝てる! 今日は勝てるわきっと! そいつ弱いし!」

 

 足蹴にされ続けるガキーン、なんとか敵の攻撃を避けようと思うが重い鎧と蹴りの威力になすすべもない!

 黒髪の少女もカメラではなく、大きな横長の紙にカラフルに『ガキーンLOVE! 今日こそいけるぞ!』と書いた応援用の旗を掲げてぴょんこぴょんこと声援をあげる!

 少女の願いは通じるか! それともガキーンは精根尽き果ててしまうのか! この固唾を見守る展開どうなってしまうのか!

 

 

「はーはっはっは、今度はカビの怪人だって!? とうっ!?」

 

「グギャアァァッ!」

 

 紫電が走る一撃! この表現は全くの嘘ではない!

 辺りに雷が落ちた音が響いたと思えば、周りに小さな稲妻を残してガキーンを足蹴にしていた怪人フロランが吹き飛んだ!

 洗練されたデザイン、全身を纏うスレンダーな金属鎧に、ヘルメットの特徴的な稲妻のマーク。あれは、あの姿は!

 

「お、おぉぉ! サンダーヘッド! サンダーヘッドが来たぞ!」

「やったぁサンダーへッドだ!」「助かったぁ!」

 

「みんな、待たせて悪かったな! ライトニングヒーロー、サンダーヘッド推・参!」

 

 公認ヒーロー、サンダーヘッドだ!

 誰も知らないが、正体はIT財閥「カロウシー」の一人息子、「本郷(ほんごう) 雷都(らいと)(18)」!

 お調子者であるが彼もまた正義感の強い熱血漢! かつ戦闘の才能に優れており、カロウシーが秘密裏に作ったイナズマスーツを身にまとって戦う、現役最強ヒーローと名高い存在だ!

 

 サンダーヘッドの登場に隠れて見守っていた住民が一気に群がる!

 声高々と彼の登場に歓喜の雄叫びが響きわたり! サンダーヘッドも洗練されたポーズで返礼する!

 

「大丈夫かよヒーロー……えっと、ゴキンだっけ?」

 

「あ、悪……助かったぜサンダーヘッド。あとガキーンな」

 

「いやいや、これっきりにしてくれよなぁ本当……もうおっさんなんだから、怪我してもアホらしいだろ? 正義の心は分かるけど、あとは全部俺に任せろって、な?」

 

「……」

 

 倒れたガキーンを手を引っ張って起こすサンダーヘッド。

 忠告に呆れと疲れが見えるのは、もう何度となく繰り返された証か。

 

 彼はさっさと起こしたガキーンを押しやると、木にぶつかってよろめく怪人フロランに対峙する!

 

「それじゃ、さくっとそこの不潔怪人をやっつけてやるか、雷速で――なッ!」

 

「グギャッ、ギャァッ、グケケケーッ!? カビビーッ!?」

 

「うおーデター! 雷速拳と雷速蹴の連続技!」

「すげぇ、見えねえ! やっぱやべぇぜサンダーヘッド!」

「敵がピンボールみたいに、やってやれサンダーヘッド! いけえぇー!」

 

「……はぁ、もう来たの。空気読めない奴」

 

 ガキーンとやるよりも遥かに盛り上がる戦闘の場!

 やることのなくなったガキーンが地面に手をついて不測の事態に備えて周りに目を見晴らせる中、先程まで騒ぎまくっていた黒髪の少女は、冷めきった表情でカメラと応援幕をしまい込んで撤収の準備をしていた。

 

「ガキーン様、怪我は?」

 

「ん、あ、あぁ。大丈夫だこんな物、へっちゃらだ」

 

「……無理はしないで下さいね、って言っても貴方はやるんですもんね」

 

「あぁ。俺はヒーローだからな、まあこんな弱っちいけど困っている人が居る限りは」

 

「ふふっ、そう云う所、本当に尊敬してます。貴方がその心を持つ限り、私も応援し続けますからねっ」

 

「悪いなお嬢ちゃん、だが、戦闘現場はいつも危険だから、できるならもっと遠くから……って、また居ないよ。いつもあの子は帰る時が早いな」

 

 夜の激闘の傍ら、ガキーンが少女に語りかけた時にはその姿はなく。

 そして彼らのやり取りの裏で怪人フロランは撃退、爆発四散していた!

 ガキーンは称賛されるサンダーヘッドの様子をひとしきり眺めた後、一人自宅まで戻っていくのだった! ヒーローの戦いは、時に孤独なのだった!

 

 

 

 § § § 

 

 

「怪人フロカビランランがやられたか……」

 

「ふん、だから言ったのだ。あんな小物程度作っても意味がないと」

 

「前回は怪人チワワンだぞ、あれよりかはまだ強かっただろう」

 

「えぇいどっちも小物だ! いい加減、もっと強い怪人は作れないのか!」

 

 

 ――同日。某所、闇が広がるとある空間に様々な声が木霊する。

 ノイズのかかったような機械音声、ねっとりとした異質な声。地獄の底から聞こえる昏い声等。

 そう、彼らこそメチャバッド団、その幹部達である! 彼らは今日企んだばかりの侵略の失敗について喧々囂々(けんけんごうごう)と語り合っていた!

 

「包丸町のような小さな町程度、さっさと攻略できんとは、嘆かわしいぞ貴様ら!」

 

「言わせておけば、伯爵。それもこれも作戦指揮が悪いのでは?」

 

「然り。サンダーヘッドの秘密はまだ探れていないのか? これでは勝てる戦いも勝てないだろう」

 

「黙れ黙れ黙れ! 博士、大体貴様が中途半端な怪物しか作れないのが悪い!」

 

「何をおっしゃる! どの怪物もミネルヴァ様の命令の上で作った一品ですわい!」

 

「ふん。ミネルヴァ様の命令どおりに作れてないのでは。貴様の忠誠は足りないの一言だ」

 

「時代錯誤の騎士風情が――!」

 

 怪物達は殺気立ち、部屋の中の空気が歪む!

 常人なら数秒で失神するそんな環境の中、周りの声に相反する軽快な鼻歌が響き渡り続けていた。

 

「ふふふん、ふん、ふふん……♪」

 

 小柄な体格ながらも見損なわないスタイルの良さに、その美しいボディを包むビキニアーマー。

 目鼻整い、ツリ目がちでルビィを思わせる真紅の瞳、鈍色に光る八重歯に、頭部の特徴的な山羊角。艶やかな背中まで伸びる黒髪。

 持ち主は()()()()()()()髪の先端を指先で弄りながら凛とした美しい歌を零し、悦に浸っていた。

 

 そう、彼女こそ、彼ら恐ろしい怪物を束ねるミネルヴァであった。

 彼女は彼らのいさかいに興味がないのか、先程からずーっと宙を眺め、時々ふひっと笑いを浮かべていた。

 

 

「……ミネルヴァ様。ミネルヴァ様?」

 

「ふん、ふふん♪ ふーん……ふふふん……♪」

 

「ごほんっ! ごほん、ごほんっ! ミネルヴァ様ッ!」

 

「んふー、ふーん……♪ ……ん? 何? どしたの?」

 

 注目を集めたミネルヴァは再三の呼びかけでようやく反応する。

 怪人たちの視線が集まる中、その声色には何の特徴的な感情も持ち合わせはいなさそうだった。

 困惑する一行、その中で博士が代表で言葉を運ぶ。

 

「まずは、この度の失態誠に申し訳ありませんでした。つきましてはこの処罰如何様にも――」

 

「え? あー、なんだっけカビ怪人ね。うん、どんまい。次頑張ればいいよ」

 

「……」

 

 これだよ、と怪人たちの思いがその時だけ一致した。

 今まで順調に進んできたというのに、ここ包丸町という小さな町の攻略になった途端、冷酷、苛烈なミネルヴァ様の態度が大きく変わったのだ。

 

(失敗に寛容になったというか、攻略を諦めているというのか? いや、それにしても怪人はどんどん作れと言うからやる気がない訳ではないが――)

 

「じゃあ次どんな怪人にしよっか。カビが駄目なら次は……うーん、ガガンボ怪人とかどう? 脆そうだし」

 

「お、お待ち下さいミネルヴァ様! おかしいです!」

 

「何? 何がおかしいのよ」

 

「怪人を作れ、と言われればワシは喜んで作りますわい。しかしながらミネルヴァ様がお選びになる題材はその、最近どんどん、なんと言いますか、弱い因子を持つ物ばかりではありませんか!」

 

「それが?」

 

「そ、それが、ではありませんぞ! た、例えばカブトムシや、マグロ、果てはライオンも勿論、もっと強い怪物を作るのも容易ですわい、なのにどうして」

 

「はぁぁぁぁ……」

 

 博士と呼ばれた怪人に、ミネルヴァは分かりやすくため息をついた。それはそれは深いため息だった。

 

「わかってないなー博士。そんな強いの作ったら駄目だよ。風情がない、風情が。侘び寂びが」

 

「は、はぁ?」

 

「程々に楽しむんだよ。苦戦する程度でじわじわと。倒せるくらいの絶妙さでね。そうじゃないと見てて楽しくないんだよ、分かる?」

 

「……」

 

 博士も、そして他の怪物も黙り込む。

 倒せるくらいの絶妙さ? それは一体どうして侵略に関係する?

 享楽主義者のミネルヴァ様とは言え負けてばかりでは意味がないはずなのに――。

 

 そうした中、一人の含み笑いが部屋に響く。その発生源は騎士と呼ばれた怪人の物だった。

 

「ククク……いや、失礼した。誰も彼もがその真意に気付いてないのでね……皆はまだ気付かぬのか、ミネルヴァ様の策略が。これだから忠誠が足りんと言うのだ」

 

「なんだと……」

 

 その物言いに周りが殺気立つが、優位を得た騎士はとうとうと語る。

 

「ミネルヴァ様はこうおっしゃっておられる。つまりだ、油断させているのだよ、弱い怪人を頻繁に出撃させ、我々の実力を誤解させる。するとどうなる? 言わずもがな分かるだろう、奴らは我々を見くびる――そこに我ら珠玉の怪人を投入すれば、クク……!」

 

「お、おぉぉ……」

「そうか……そう云う事か……」

「なるほど、それならば確かに」

 

 周りの動揺と納得の声。

 博士も、周りの怪人も含め改めて尊敬の目がミネルヴァに突き刺さる。

 

「あーうん。まーそゆことかも。うん、まだまだだね君達」

 

 ミネルヴァはそんな視線を受けて、鷹揚(おうよう)に頷くと彼らもまた一斉に頭を下げるのだった。

 恐るべしミネルヴァ! 恐るべし悪の結社! 包丸町の危険は、まだ消え去ってはいないのだった!

 

 

(……あー今日のガキーン様マジ良かったわ。必殺技見れただけで本当最高。大分弱めの怪人作った筈だったけどやっぱまだ実力的には難しいかなー。でも割といい感じ、やっぱり今度は物理に弱いタイプの怪人にしよう。で知能レベル目一杯下げていってね。ガキーン様でも苦戦してなんとか勝てる相手を用意して、その勝利を特等席で写真目一杯撮ったろ。あー勝利に喜ぶ姿早くみたい、(たぎ)るわー。ガキーン様の怪我、来週になったら治ってるかな? 来週また怪人出させよ、うん。)

 

 

 危うし包丸町! 危うしガキーン!

 ミネルヴァの興味が尽きぬ限り、町に平和は訪れない!

 今後一体どうなってしまうのか! 次回を座して待て!

 

 




多分続く。


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恐怖! 怪人『ガガンガンボ』! お茶の間に響く不協和音!

 悪の秘密結社「メチャバッド団」は世界征服をたくらむ大軍団である!

 

 彼らはその技術力と環境への配慮たっぷりの残忍さで侵略を進めている!

 メチャバッド団日本支部も、南は四国、北は東北地方に細々と傘下企業を広めさせ、来るべく日本全土での一斉蜂起に備えて虎視眈々と爪を研いでいるのである! おぉ恐ろしい!

 

 そしてそんな彼らの侵略のやり口は所謂(いわゆる)マッチポンプと呼ばれる物であった!

 

 自ら生み出した怪人で街に騒ぎを起こさせ、生活に困窮するような打撃を与え、そしてダミーカンパニー(ドッバャチメ社㈱)からそのトラブルを解決する商品を売ることで市民への信頼を得るとともに、資金も獲得しているのだ。なんという悪か!

 

 今日も今日とて彼らは、ミネルヴァを筆頭とする幹部ら3人(伯爵、博士、騎士)で包丸町を手中に収めんと悪だくみするのであった!

 

 

 

 § § §

 

 

 

「――キャアアアアアアッ!」

 

 

 

 閑静な住宅街にまたも広がった、宵闇をつんざく金切り声!

 これから一家の団らんが始まろうとしていたというのに、それは悲しくも中断されてしまった!

 

「イヤアアアアッ! 家の電灯に足の長い巨大羽虫にコスプレした男がぁッ!」

 

「ガーッガッガッガ! 夏場に不用心にも網戸にもせず窓を開け放ちおってぇ! このガガンガンボ様の羽音を聞けェーッ!」

 

 夕飯の用意を面倒臭がって惣菜で済ませようとしていた専業主婦、佳代子は絶望した!

 自宅のリビングに突如現れた、長い羽、長い足をたくわえた見た目ガリッガリな貧弱怪人がいきなりそんなことをのたまったのだ! 家中に響き渡る振動音! これは溜まった物ではない!

 

「これから街中の家という家に侵入して、すやすや眠る家族共の安眠を妨げてくれるガガガガーッ! 玄関はどこだ奥さんンンンッ!」

 

「いやああああ生理的嫌悪感が凄いぃっ! 突き当りを左ですぅぅっ!」

 

 ぶら下がっていた電灯の熱さで火傷する寸前に手を離した巨大ガガンボ怪人は、フローリングの床を器用に6本の長い足で移動して、その力の無さから奥さんに扉を開けて貰って家を飛び出す!

 

 そして隣の家の玄関にチャイムを押してから侵入すると、再び家から悲鳴があがった!

 

 この怪人の目的は先述した通り街中の安眠の妨害! このまま奴をのさばらせていては包丸町は全員目の下にクマが出来て、不健康の誹りを受けても仕方なくなるだろう!

 

 無秩序に暴れる怪人、響き渡る悲鳴の連鎖!

 

 力無き一般人では謎怪人相手に抵抗などできる筈もなく、このまま包丸町が『眠らない町』というちょっと良さげなキャッチコピーがついてしまうのを、のうのうと眺めるしか無いのかと市民が絶望しかけた――その時だった!

 

 

「うるせえぇぇぇ――ッ!」

 

「ガガガーッ!?」

 

 突如黒い影が町中を駆けるガガンガンボ(長いのでガガンボと略す!)に飛びかかった!

 一般人か!? はたまた新たな怪人か!? いや違う!

 両腕の無骨な金属アーム! ホームセンターの安全靴に、膝パッド! なんだかベコベコになっている金属鎧に、灯油缶に穴が開いてるとしか見えないヘルメット!

 そんな不思議な出で立ちの謎の人物が奴に飛びかかったのだ!

 

「なんだぁ、貴様ァ! このガガンボ様に歯向かおうと言うのかーッ!」

 

「うるせえ羽虫野郎が!! 夜中に近所迷惑なんだよ!! くらぇコラァ!!」

 

「ガガーッ!? ガーッ!?」

 

 虎のマークの家庭用殺虫剤を両手に構えて怪人にぶちまけるその謎の人物!

 噴射範囲が非常に狭いため、密着して顔面発射する姿に、為すすべなく見守っていた一般市民が叫ぶ!

 

「あ、あの使い古したコスプレ――!」

「お、お前――クソダサ仮面じゃねーか!」

「クソダサ仮面!」「ダサ仮面だ!」

 

「うるせーッ! 何度言えば分かるッ! 俺はヒーローガキーンだ! 怪人退治の皆勤賞だぞこちとら!」

 

 言わずと知れたこの男、清辻無郷(35)は『ヒーローガキーン』であった!

 怪人が暴れる現場から徒歩3分のボロアパートに住む彼は、普通の一般人に関わらず日夜包丸町で暴れまわる怪人相手に奔走する自警団だ!

 ヒーローを自称しているだけあって正義の心は誰よりも強いが、3年間頑張ってファンレターは3つ程度! くじけない心が彼の武器だ!

 

「おいおい、殺虫剤を顔に噴霧は流石にエグいって!」

「サンダーヘッドは今呼んどいたから怪我しない内に下がろうぜ!」

「この前の戦闘のせいで鎧ボッコボコじゃねえか、直す金もなかったのかよ!」

 

「金に余裕があったらやっておくからいいから逃げろよお前らッ、くぅっ!?」

「ガーッ、ガッ、ガガガーッ!? き、きき貴様ーッ!」

 

 殺虫剤による攻撃に耐えかねた怪人ガガンボが大きく羽ばたけば、周りに驚くほどの突風が巻き起こり、見物客もガキーンも咄嗟に顔を腕で覆ってしまう。

 そして続けざまに奴の長い足が振るわれるも、ガキーンはかろうじてそれを金属の腕で防いでいた! 鈍い金属の衝突音! 見た目以上に脚攻撃に威力はありそうだ!

 

「きぃぃぃさぁぁぁまぁぁぁ、よくもやってくれたなぁ!」

 

「うるせえ、先に騒いだのはそっちだろうが! くらいやがれぇッ!」

 

 激昂する怪人に対し、やる気を振り絞ったガキーンは殺虫剤を捨てて殴りかかっていた!

 破れかぶれのテレフォンパンチではない、細くて脆そうな腹部を狙いすました速度の乗った正拳! これが当たればさしもの怪人も悶絶間違いないだろう!

 

「何!?」

 

「ガガガーッ! 甘いんだよォ!」

 

 しかし、彼の攻撃は空振りに終わった!

 狙いすました場所に怪人は既にいない! 

 一体どこに!? 動揺したガキーンに野次馬の声が届く!

 

「あぁ?!」「上だーっ!」

「クソダサ上だぞー!」

 

「なっ! ぐあぁぁっ!?」

 

 そう奴は背中の羽を羽ばたかせて宙空をホバリングしていたのだ!

 高度3m以上から彼を見下し、呆気に取られたガキーンに対して、その長い足を器用に駆使して鞭のように叩きつける!

 細いと言えど十分な太さがある硬質の腕! 不意を突かれたガキーンは鎧の上からでも確かな衝撃を受け、へたり込んでしまう!

 

 

「ガ、キガガ……痛ッ、フンッ、ミネルヴァ様から聞いておったが……期待外れだな、グスッ、この街のヒーローは大したこと無いガガッ! アガガ……さ、さぁ次はどこの家の寝室に忍びこむガガ……ッ?」

 

「……アイツ今の攻撃で3本くらい足が取れてるぞ!」

「何か泣きそうになってるし、向こうの方がダメージ食らってんじゃないのか?」

 

「ギガ、ガガガガーッ!! 足程度がなんぼのもんじゃガガーッ!」

 

「ひぃっ、に、逃げろ逃げろ!」

「う、うちは蚊取り線香の取り置きがないんだ! 虫嫌いの家内もいるから勘弁してくれぇ!」

 

 高みの見物をしていた住民も、そのやられっぷりに逃げ惑う!

 あぁこれでは包丸町の平和はどうなってしまうのか! 危うし包丸町!

 

 しかし安心して欲しい!

 ヒーローを自称するガキーン、この程度で折れる弱い心を持っておらず、よろめきながら立ち上がるのだった!

 

「お、おいおい、まだ俺は倒れてねえぜ――!」

 

「ンンー? 雑魚が何をほざくガガ、さっさと消えろガガン!」

 

 しかして怪人の忠告も耳に貸さずガリ、ガリと引きずるような金属音を立てつつにじり寄り、腰に腕を回してある道具に手をかけていた。

 怪人ガガンボはそんなガキーンに対し、空からでは何も出来ないだろうと高をくくる。地上から何が出来るというのだ、残りの脚で鎧ごとグシャグシャにしてやろうと思いつき、奴の顔が残忍な笑みを浮かべる!

 

「いや、威力は最大でも痣になる程度のダメージしか与えられないから――それにしてもアレは一体……!?」

 

 逃げ惑う住民の中、一人残っていた黒髪メガネの少女がごちる。

 ガキーンのまだ見ぬ動きに興奮を隠せず、構えた一眼レフデジタルカメラ越しに現場を見ている!

 

 そう、ガキーンは新しい武器を手にしていた!

 

 空中から襲いかかる、しなる三足! ソレに合わせてガキーンは背中のブツを投げつけていた!

 掌から離れた拳大の玉は瞬く間に広がったと思えば、怪人を覆う!

 

「ガガガーッ!?」

 

「ってりゃぁコラァ!」

 

「!? あ、あれはまさか……投げ網!? なるほど奴を動けなくして……それから!?」

 

 投網によって強制的に地面に落とされたガガンボ、慌てて網から脱出しようとするが時既に遅し! ガキーンは怪人に覆いかぶさってその片腕を後ろにねじり込み、金属の腕で首根っこを抑え始める!

 嗚呼刮目せよ、これこそが――これこそがヒーローガキーンの必殺技!

 

「――グレートロックッ!!」

 

「ギガガガーッ!?」

 

「ち、ちちちチキンウイングフェイスロックーッ!? あー地味ッ、技選択が滅茶苦茶地味ぃぃぃぃッ!!」

 

 プロレスと見紛う光景!

 無骨な金属アームが首根っこと、怪人のささくれだった節足を確かな怪力でねじりあげる!

 そして本人の必殺技申告よりも、怪人の悲鳴よりも、そして見目の地味さよりも何よりも見守っていた少女が叫んでいた!

 

「投網っていうコロッセオ時代から連綿と続く確かな戦法から一体どんなトドメが出るかと思ったらまさかの締め技! まさかの地味技選択ぅッ、本当ガキーン様の技選択ってどうなるか分からないから楽しいッ、っていうかおかしいっ!? いや、でも過去50回の戦闘の中で初めて見た絞め技ッ! これは歴史的瞬間なのではって気がしてきますっ、あっ、ガキーン様こっち向いてっ、こっち向いて下さいっ!」

 

 喜びの余りぴょんぴょんと飛び跳ねて悦に浸る少女は、合間合間に嬌声をあげながらズームモードで撮影を繰り返す。

 悶絶して地面をタップする怪人はともかく、実際に必殺技を放ったガキーンは困惑を隠せずにいた。

 

「じょ、嬢ちゃんいつも応援と、あと評論っていうか批判っていうか……その、ありがとう。ま、まだ怪人は倒せてないから逃げてくれ! な!? あと今の技グレートロックだから……」

 

「あぁっ、ガキーン様こっち見たァッ、はぁぁっ、ボロボロのプレートも様になってますっ! あっ、いつもの決め台詞、決め台詞お願いしますっ!」

 

「え、あ、えーっと……ごほん、き、『貴様のフニャフニャな悪事など、鉄拳粉砕だ!』」

 

「うわあああああダッサぁッ!! くふっ、ふぅぅぅ、キクっ、キクゥッ、ダサすぎてヤバイ!! 最ッ高ッ、喋る麻薬ですかガキーン様ああァッ!!」

 

「――あ、はは、はははは……だ、ダサかったのかこの台詞……」

 

 締め技をかけたまま、滅多に出番のない決め台詞を聞いて少女がその場で悶え転がる!

 ガキーンは困りっぱなしで若干涙目だ! しかしながらそんな一幕もすぐに終わりを迎えてしまう!

 

「あっ、そう言えばガキーン様、その怪人脚が非常に取れやすく出来てるからあんまり力かけると……」

 

「い、いい、今のは痛かった……痛かったゾォォォッ!!」

 

「うっ、が、があぁぁあっ!? な、なんだこの音はぁッ!!」

 

「言わんこっちゃない! あぁガキーン様……ってうるさっ!?」

 

 やはり怪人、プロレス技如きではどうにもならないのだ!

 ロックされた脚をパージした怪人ガガンボは大きく羽を動かしてガキーンの拘束を抜けると、目に見えない速度で羽を振動!

 辺り一帯に耳が壊れんばかりの異音が撒き散らされ、ガキーンも少女も同時に叫ぶ!

 

「そんな攻撃っ、あ、あるんだったら最初からそれ使えば良かっただろ!? ぐ、ぐあ、ああぁぁああーっ!!」

 

「あ゛!? うるさくて何言ってるか聞こえんガガガーッ!! あーうるさくて耳痛いガガガガガーッ!!!」

 

「うわーっ、マジでうるさいこの怪人ッ、不快ッ、博士何作ってんのマジで!?」

 

 撒き散らされる怪音波に翻弄され、あまりの音波にガキーンは平衡感覚を失い動けなくなってしまう!

 一帯の民家のガラス窓が音波でビリビリと振動の合唱を繰り返すほどの威力、間近で聞けば倒れてしまうのも訳がない!

 黒髪の少女も流石にカメラで眺めるのも忘れて両耳を抑え込んで、不快さに顔をしかめる始末だった!

 

「ガーッガッガッガ! ようやく動かなくなったガ! 前座以下の分際でこのガガンボ様をここまで怒らせるとは、コレは許さんガ! 貴様はこのガガンボストローで体の中スカスカにしてくれるガーッ!」

 

「ぐ……っ」

 

「は?」

 

 あぁ何という事か! 怪人ガガンボの口が鋭利な棘のような物へと変形したではないか!

 動けなくなったガキーンは耳が聞こえず、視界がぐらついているのかロクに動けない! 危うしガキーン!

 このまま怪人ガガンボの言う通り、志半ばで吸血され干物になってしまうのか! この固唾を見守る展開どうなってしまうのか!

 

「死ィね――!?」

 

 

 

 その時――不思議な事が起こった!

 

 

 

 怪人ガガンボが今まさに口のストローでガキーンを刺し貫こうとした瞬間、その動きが止まったのだ!

 いや、止まったというのは正確ではない! 奴は羽ばた気すらしていない状態で空中に固定されてしまっているのだ!

 

(が、ガガっ、こ、これは……!? からだ、ガガ――!)

 

「……あ、もしもし私だけど。博士いる? いるでしょ? 早く出て」

 

 その場に響くは残された少女の独り言のみ。

 淡々と告げられるその口調にはある一つの感情が含まれていた。

 

「え? 作戦室にいるから少しお待ちを? 待てないんだけど。じゃあいいよ伝えておいて――何で約束どおりに作らなかったのって」

 

 怒りである!

 

「飛行能力と脆い脚攻撃だけで良いって言ったじゃん、何音波攻撃って、何吸血攻撃って。ありえないんだけど!」

 

「ぎゃぴィ!?」

 

 片手を怪人ガガンボに向けて、もう片方の手でスマホを掲げ、少女は怒鳴る!

 どうしたという事か! 怒りに合わせて怪人の体が大きく軋んだ、それはあたかも巨大な拳に握られているような光景! あぁ彼女はただの通りすがりのファンの一人ではなかったというのか!

 

「百歩譲って音波攻撃はいいとして……吸血って何!? ガガンボが血を吸うわけないでしょ馬鹿なのアンタ!? ムカツク! 帰ったら覚えときなさいよ! 以上!」

 

「ぎゃあアガがガガガガーッ!?」

 

 そして少女の怒りが炸裂したと同時に、ガガンボの体が空中でありえない方向に折りたたまれてしまう!

 辺りに響く怪人の叫び声! しかし奴はもうどうすることも出来ず、泡を吹いて倒れてしまった! 哀れガガンボよ!

 

「しかもガキーン様を前座呼びとかマジありえないんだけど……はーぁ、萎え……あ。ガキーン様」

 

「う……ぁ……?」

 

 過剰な音波の影響でうまく聞こえず、意識が朦朧としているガキーンに、黒髪の少女が近づく。

 

「ごめんなさい、今回はこっちがミスしちゃったからこれで帰りますね。でもやっぱり格好良かったですよガキーン様」

 

「……ぁ……」

 

 返事もロクに出来ないガキーンをヘルメット越しに撫でた少女はそのまま路地裏に向かい、そして宵闇に溶け込んでしまうのだった。辺りに残されるは動けぬガキーンと、倒れた怪人のみ。奇妙過ぎる一景であった!

 

 

はーっはっはっは! 今度はガガンボの怪人だって!? ……あれ!?」

 

 

「ガギ……ギガァァ……!」

 

 

「お、おぉぉ! サンダーヘッド! サンダーヘッドが来たぞ!」

「やったぁサンダーへッドだ!」「助かった……あれ!? もう倒してる!? さすがサンダーヘッド!」

 

「え、ええー……何だコレ……。ま、まあいっかぁ! 解決ゥ!」

 

 そして10数秒遅れて登場したヒーロー、サンダーヘッドは倒れ込んだガキーンと、無残にも折りたたまれた怪人ガガンボの姿を見て大いに困惑するのだった!

 嗚呼あの謎に包まれた少女の正体とは一体誰だというのか!? ガキーンとの因縁とは!? 待て次回!

 

 

 

 § § § 

 

 

「博士。おしおき」

 

「み、ミネルヴァ様ッ、い、一体何が悪いと言うのですかッ! あの怪人は要望通り――」

 

「要望は満たしてるけど余計な物つけすぎ。言ったでしょ空飛んで脆い脚攻撃だけでいいって、音波攻撃と吸血攻撃なんて言語道断だっての」

 

「そ、そんな……! しかし少しでもサンダーヘッドを倒す確率を上げるためには……!」

 

 メチャバッド団日本支部、所謂お仕置き部屋という場所!

 ここでは拘束された日本支部の幹部、博士がモニターの前で椅子にくくりつけられていた!

 

「ふん。哀れな……」

 

「気遣いもロクに出来ないとは、滑稽が過ぎますねぇ……」

 

「きき、貴様らァァ……伯爵、騎士め、元はと言えば貴様らがいらぬ入れ知恵をしなければ……!」

 

「はいはい、もういい? さっさとおしおきするよ。『不条理映像耐久視聴二十四時(クソ映画リレー)』始まり始まりー」

 

「が、がああぁぁあミネルヴァ様っ、ま、まさかそんな!? や、やめてくだされ! やめてくだされぇ!」

 

 拘束された博士が暴れながらも懇願するが、許されない!

 動けぬ博士のモニタの前で始まるのは――映画であった! しかも特定魚類と特定軍と生ける屍という題材にこだわり、一定の低品質を維持して配給し続ける事で有名な配給会社の物である!

 理に適った論、筋道、効率、そして科学的な内容を極めて好み、不条理、ご都合主義、無駄を極めて嫌う博士にとって、これは耐え難い苦痛であった!

 

「い、いやじゃああもうサメが空を飛んでしかも集団で襲いかかったり、 陸上でサメが歩いたり、無意味に資料映像流したり、サメの頭が増えたり、幽霊になったりメカになったり、タコになったりする映画は勘弁してくだされぇ!」

 

「大丈夫、今日は地球に隕石が落ちる系のだから。2007年から毎年刻みで今年の分まで頑張って見ようね、明日学校には休みって言っておくよ」

 

 その日、その部屋からは高笑いの声と失笑と、博士の絶え間ない苦痛の悲鳴や、すすり泣く声が耐えることは決してなかった。

 メチャバッド団、恐ろしき秘密結社の鉄の結束は、上司からの拷問に等しいお仕置きが統率していると言っても過言ではなかった! 恐ろしやメチャバッド団! 次回を待て!

 




多分続く。


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驚愕! 幹部『ミネルヴァ』! ガキーンに迫る闇の魔の手!

初めて掲示板機能使ってみました。


 メチャバッド団日本支部を支えるメンバーは主に4人いる!

 

 軍団一の切れ物と噂される冷静さと戦闘力の持ち主!

 巧みなる戦略家、クルーニー伯爵!

 

 軍団一の知識量と自称している探求心と狂気の持ち主!

 THEマッドサイエンティスト、ツイングル博士!

 

 軍団一の戦闘力を誇示してやまない闘争心と忠誠心の持ち主!

 悪魔からの軍団長、オーディット騎士!

 

 そして、それらを束ねる――日本支部支部長ミネルヴァである!

 

 彼女は齢15という幼さで、一味も二味も癖がある彼らの上に立っている。

 彼女が凶悪すぎる彼らの上に立てる理由、それは勿論――ミネルヴァが軍団内でもっとも強いからだ。

 

 メチャバッド団に年功序列の考えなど全く無い、そこにあるのは完全実力主義の風潮のみ。ミネルヴァが無理難題を下に押し付ける事が出来るのもソレに起因する! より強く、より賢ければ何もかも許されるのだ!

 

 

「ミネルヴァ様、起きて下さい。ミネルヴァ様……あぁもう! また布団もかけずに寝ておられて!」

 

「いいやぁぁあぁ、まだねるぅうぅぅぅうぅ」

 

 ――そんなミネルヴァの朝は、地味に遅い。

 

 登校時刻ギリギリまで惰眠を貪る彼女は、家事を一挙に引き受けるクルーニー伯爵にいつも起こされる。

 メチャバッド団幹部と言えど、齢15の少女でもある彼女は平日は近くの高校に通い、帰宅後に侵略活動を行うという多忙な日々を送っているのだ、気付いた頃にはどっぷり夜型。朝起きることに苦痛を感じる体になっていた!

 

「ミネルヴァ様。つい先程、怪人『オリガミン』の生育が完了しました」

 

「ん、ご苦労さま博士。ちゃんと破れやすい和紙製にしたね?」

 

「ミネルヴァ様、この作戦企画書の承認を……」

 

「はいはい。後で見ておくからそこに資料置いといて伯爵」

 

「み、ミネルヴァ様申し訳ありません。この不覚、士道不覚悟として腹を切って謝罪を――」

 

「騎士、もしかして……また調度品壊したの!? もー! マンション内で剣振るうの禁止って言ったじゃない!」

 

 彼女の一日のスケジュールは多忙の一言である。 

 学校で出た宿題。包丸町のマンション内で同居している博士、伯爵、騎士長らとの折衝(せっしょう)。侵略管理の総括。どれをとっても気の抜けぬ大事な仕事である。

 しかしてそんなルーティーンの中で彼女が最も重要視しているのは彼女の趣味とも言える悪辣な物であった。それは――!

 

「うふふふ……」

 

 良い子は眠る23時! その日の作業をすべてやり終えたミネルヴァが自室に籠もり、残酷に笑う!

 薄暗く、質素な部屋の中で学習机に広げたノートパソコンを高速でタイピングした彼女は、ひとしきり入力を終えるとマウスをクリックする! 彼女は一体何をしているのか!?

 


【早いぜ早すぎるぜ】ご当地ヒーローについて語るスレ Part345【フラッシュマウンテン号】

 

 このスレは全国のご当地ヒーローについて語るスレです。

 ■sage推奨。書き込むときはメール欄に半角でsageと入れて下さい。

 ■次スレは>>970が立てて下さい。立てられない場合は誰かに頼みましょう。

 ■関係のない雑談はほどほどに

 ■荒らしはスルーしましょう。荒らしに構う人も荒らしです。

 

 

258:名無しのヒーローさん 2020/8/3 23:01:51 ID:MwxjVtxYO

 >>250

 いや、あれはダークアマゾネスの通常技だぞ? 必殺技はもっとエグいから

 

 

259:名無しのヒーローさん 2020/8/3 23:07:07 ID:BM2gzyVWo 

 やっぱり現行ヒーローの中で最弱はガキーンで確定!

 昨日見たガガンボ怪人相手に手は出てても足は出なかった!

 一般人に毛が生えた程度でしか活躍できないあの弱さはある意味伝説的。

 応援してる奴の気がしれないぜ本当。

 

 ちなみにこれ昨日の戦闘シーンハイライト

 hppts://i.hero.com/yPUS2Uu.jpg

 

 必殺技シーン

 hppts://i.hero.com/yD22MPa.jpg


 

 おぉ、何という事か!

 彼女はとある掲示板に書き込みをしていた! その内容は――ガキーンへの誹謗中傷!

 本人は至って真面目に活動しているというのに、その稚拙さを笑うとは何たる悪か!

 


261:名無しのヒーローさん 2020/8/3 23:11:51 ID:MwxjVtxYO

 また来たよ

 

 

262:名無しのヒーローさん 2020/8/3 23:12:38 ID:RzQbigkXI

 いつもお疲れ様です。ガキキチさん

 

 

263:名無しのヒーローさん 2020/8/3 23:16:05 ID:3nWKLWzUE

 最弱ヒーロー談義は最弱ヒーロースレで話せ

 ちなみに最弱は登場シーンで即入院送りになった骨弱ヒーローギックリンだから勘違いしないように。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― 

 

 スレ住民も慣れ親しんでいるのか若干辟易(へきえき)しながらも反応する!

 まさか彼らも、書き込んでいる存在がメチャバッド団の幹部であるとは思いもしないだろう!

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― 

289:名無しのヒーローさん 2020/8/3 23:39:06 ID:BM2gzyVWo

 それにしてもびっくりなのは奴の必殺技がチキンウイングフェイスロックだった事wwww

 投げ網使うヒーローってのも前代未聞だけど、まあそもそも空飛ぶ相手だったし効果的だから良いけど折角作った隙でどんな事するかと思ったら地味ーな絞め技だよ、おったまげたね本当。

 普通は光線銃なり何かド派手な必殺技するところあの技だぜ、いつの時代にタイムスリップしたかと思ったよ。金属鎧も連戦でボロッボロだし、どんどんみすぼらしくなってくのも草草の草。

 この前ヘルメットにつけてた角も折れてから直されてないし、お金持ってなさすぎでしょ本当。哀れガキーン、決め台詞も糞ダサすぎてある意味で永久保存版だったわコレ

 

 決め台詞

 hppts://i.hero.com/jDMoi98d.mp4

 

 

290:名無しのヒーローさん 2020/8/3 23:40:37 ID:rzB3MUkJq

 そう…

 

 

291:名無しのヒーローさん 2020/8/3 23:41:23 ID:EGniVEPoJ

 あいつガキーンの話になるといつも長文になるの気持ち悪いよな

 

 

292:名無しのヒーローさん 2020/8/3 23:41:59 ID:IfeO2Yj0K

 >>291

 よしなよ

 

294:名無しのヒーローさん 2020/8/3 23:42:24 ID:U3oFuqfiD

 >>291

 よしなよ

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― 

 

 そう、彼女の趣味は何を隠そう、メチャバッド団に立ち塞がる「ヒーローガキーン」であった!

 

 3年前の包丸町の初回侵略時に邂逅(かいこう)したガキーン。

 弱っちい癖にどこまでも泥臭く、それでいて諦めない彼に、ミネルヴァは興味を持った!

 

 元々興味がある物は壊れるまで弄繰り回す趣味のある彼女! 些細な切っ掛けでちょっかいを出したおもちゃが、決して壊れない面白い物であると気づいてしまえばもう大変だ!

 

 ミネルヴァは目の色を変えて彼をいじくり回した!

 

 時に強敵を与えてみたり!

 

『カーニッニッニッ、甲殻の里のカニンジャ様の忍術、見せてくれるカニニーッ! くらえ分身の術ゥゥーッ!』

『ただの反復横跳じゃねーか! 遅いし!』

 

 時に(から)め手で攻めて見たり!

 

『オーッホッホッホ! 行きなさい道行く窓際族よ。そこの趣味ヒーローの貞操を奪ってあげなさぁーい!』

『おほぉぉっ、君ィ、いい尻をしているねぇ!』『ウーッ、ハーッ!』

『やめろおぉぉぉぉぉ!! 正気に戻れテメェらああぁぁぁッ!?』

 

 時に精神的に追い詰めてみたり!

 

『……またすげぇ達筆の呪いの手紙が郵便ポストに……はぁ~……』

 

『清辻くぅン、君の元にまたお手紙が届いとるんだが……30年前別れた元カノだとかがこっぴどく振られたから一生恨んでやるとか書いてあるんだがね』

『……工場長、俺。その頃だと幼稚園にも入ってないなんですがそれは』

 

 好奇心故の容赦のない手練の数々! 常人ならば5度は心が折られているだろう、そんな嫌がらせの数々を前に、彼も少なからず負担を強いられた!

 

 しかし! 

 しかしそれらの逆境があったとしても!

 ガキーンは決して諦めなかった! 

 

 地味ーに体や心に傷をつけられたりしながらも、包丸町の平和が脅かされるたび誰よりも早く現場に到着し! そして決して諦めずにヒーローであり続けようとした!

 

『……何こいつ、超面白いんだけど!』

 

 だからこそミネルヴァは彼に首ったけになった!

 

 人一倍忍耐力と根性のある諦めないガキーンに対し、あれやこれやと悪戯を繰り返していく中で、ミネルヴァはいつの日か彼を好ましく思えていた!

 不器用すぎるほどの生き方、その根性、怪人と戦って善戦なんてした事もないけど、一生懸命粘り強く人の為にあろうとする心! さりとて学ばない訳ではなく、反省を活かして地味に実力をあげる健気さ! そして他のぽっと出ライバルに人気を取られ、称賛すらロクにされない不憫さ!

 

 その一挙一頭足が愚かしく、そして哀れで、健気すぎて――気が付けばファンになっていたのだった!

 

 故にミネルヴァの趣味はガキーンなのである!

 彼女の屈折した愛情で、今日も今日とて嫌がらせが続く!

 日課の掲示板へのネガティブキャンペーンもまた彼女のルーティーンワーク! ミネルヴァのほぼ毎日のロビー活動によって特定スレ住民も荒らしというより名物として見てる感が出ているが、ミネルヴァは全く気にしていないぞ! マイペースを地で行けるのは流石は幹部と言った所か!

 


315:名無しのヒーローさん 2020/8/3 23:49:48 ID:1AlYb4xfj

 >>259

 >>289

 初めて見たけどマジでこれ酷いな、昨今のヒーローはデザイナーも雇ってるってのに

 趣味でやってるのか? スポンサーなし?

 

319:名無しのヒーローさん 2020/8/3 23:54:24 ID:U3oFuqfiD

 >>315

 ないでしょ。ガキキチさん曰く、自作鎧直す金もないくらいだし

 

 

329:名無しのヒーローさん 2020/8/3 23:58:01 ID:1AlYb4xfj

 >>319

 草

 もうこいつヒーローとっととやめた方がいいんじゃない?

 

330:名無しのヒーローさん 2020/8/3 23:59:05 ID:U3oFuqfiD

 あっ

 

339:名無しのヒーローさん 2020/8/3 23:59:09 ID:IfeO2Yj0K

 あっ


 

「あ?」

 

 悦に浸っていたミネルヴァの顔が一瞬で修羅に変わった!

 そして部屋に響く怒涛のタイピング音! 瞬く間に繰り出されるは悪魔の返信!

 


341:名無しのヒーローさん 2020/8/4 00:00:00 ID:BM2gzyVWo

 >>329

 舐めた口聞いてんじゃねえぞボケが、ヒーローなんだから辞めるのは本人の意思次第だろうが

 辞めたらなんて気軽に言いやがって。ガキーンが倒れたら包丸町なんてあっという間に殲滅されてんぞ、奴が無駄でも必死に頑張ってんだからあの平和が出来てるんだわかってんのか。私は奴の活躍当初から見てきたけどホンットウに戦闘力はクソザコナメクジだけど唯一誰にも負けない諦めない心だけは無駄に持ってんだ、奴をまともに評価も出来ないカスは黙ってろよ。あと住所特定してやるから覚悟しとけ

 

 

342:名無しのヒーローさん 2020/8/4 00:02:24 ID:rzB3MUkJq

 あーぁ、やっちまったな


 

 ――ミネルヴァは他者のガキーンへの誹謗中傷を許さない!

 

 とっておきのお気に入りである彼を誹謗中傷していいのは自分だけ!

 猫のように興味がうつろいゆく、気まぐれな彼女が3年間以上固執している相手に対する想いは、世間一般的に言えば非常に重い! ドロッドロの独占欲が彼女の胸中を支配していたのだった!

 


350:名無しのヒーローさん 2020/8/4 00:10:58 ID:1AlYb4xfj

 すみません、よく見たら格好いいって思えてきました。

 必殺技もキメ台詞も最近にはない珍しさで、結構(おもむき)があっていいですね。

 

351:名無しのヒーローさん 2020/8/4 00:11:01 ID:BM2gzyVWo

 >>345

 あれのどこが格好いいんだよテメェの目はガラス玉か、格好良いと思ってんなら今すぐ外で真似してやってこいよ称賛なんてクソほど受けねえぞ馬鹿。大体からしてあんなボロッボロの格好とかセンスの欠片もねえだろダボが。

 まともな必殺技も持ってない、貧弱装備しかない、華もセンスもないないないのナイナイ尽くしだぞ分かってんのか。あとお前の住所特定出来たわ東京都丸大●区静●2-●●-●だろ。今度舐めた口聞いたら名前晒すわ 

 

353:名無しのヒーローさん 2020/8/4 00:11:24 ID:U3oFuqfiD

 うーん、この屈折っぷりよ。

 

354:名無しのヒーローさん 2020/8/4 00:11:50 ID:rzB3MUkJq

 この板に初めて来る奴の洗礼だからなガキキチさんは。褒めてもけなしても駄目なんだよ新人


 

 ――ミネルヴァは他者のガキーンへの鼓舞激励を許さない!

 

 とっておきのお気に入りである彼を応援していいのは自分だけ!

 容易く街を崩壊させる力を持ち、さりとて大学を飛び級出来る程度の知識量はあるのに、幼い子供さながらの純真さを持つ彼女! 唯我独尊が許されると勘違いした彼女のガキーンへの独占欲は止まる事はない!

 

 ガキーンを褒めていいのも、(けな)していいも自分だけ!

 ファンは私一人でいいという究極のわがまま!

 ミネルヴァはいわゆる深刻な"同担拒否勢*1"であるのだ!

 

「はーぁ、萎えた。もうガキーン様の戦闘シーンでも眺めて寝よ」

 

 心にのさばる鬱憤からか掲示板から離れたミネルヴァ。

 彼女は続けて秘蔵のコレクション動画をPC上で再生する。

 

 ここまで極めて重い想いをガキーンにぶつけているが、彼女の想いは幹部らには秘密である。

 自室にもポスターや写真を飾ることを諦め(本当はすごくやりたい)、こうして一人の時にノートパソコン上でひっそり眺める程度に楽しんでいるのだ!

 バラさないのは当然彼女の独占欲故の話! 幹部らが目にかけないように目を配らせてもいるのだ!

 

『貴様のフニャフニャな悪事など、鉄拳粉砕だ!』

 

「……っ、あー最高。溜まらないっ、いい。ガキーン様の声も絶妙に渋くないのがいい……!」

 

 ハイレゾヘッドフォンから聞こえるガキーンの息遣い、台詞を堪能するミネルヴァ。

 一日の終わりはやはりガキーンの声。コレクションとして集めたボイスや動画の容量はついに50TB(テラバイト)の大台を超えているが、まだ彼女の興味は尽きることはなかった!

 机に突っ伏しながら両耳から流れるボイスの数々を聞いて、吐息荒く何やら身悶える彼女は傍目から見れば危険の一言だ! これ以上は見せられないぞ!

 

 危うしガキーン! 危うし包丸町!

 ミネルヴァの悪の手は既に首筋まで回っているぞ! 果たしてガキーンの運命や如何に!

 待て! 次回!

 

 

「……あ、そう言えばこの前送ったスーパー筋肉増強剤とか、怪物因子とか、タラバ蟹の詰め合わせとか、超硬合金とか受け取ってくれたかなー。一応この前のお詫びなんだけど……彼、自給自足好んでるから、あんまり受け取ってくれないんだよね~」

 

 

 

*1
同じ推しを好む人と関わりたくないと考える人。またはその集団




まだ続くと思うよ


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燃焼! ヒーロー『ガキーン』! 過ぎ去りし過去の秘密!

なんだこのギャグのかけらもない話は。
無駄にシリアスになってすみません。


「おーしゃ、みんな今日の作業終わりだァ! 飲みいくぞ飲みィ!」

 

「お疲れさまっしたぁ!」

「っしゃしたぁ!」「しゃあっす!」「……っす」

 

 18時を超える頃、包丸町の町外れ、小さな板金工場に数人の声が響き渡る。

 まだまだ明るさの残る夏場の夕方、汚れ切ったツナギを来た労働者達がこぞって片付けを行う中、ある一人の男が作業を継続して行う姿が見えた。

 

「おぉーい清辻ぃ、終わりだぞ! 聞こえんかったかぁ!?」

 

「……すいません。キリが悪いんでもうちょっとだけ」

 

「お前、今日飲み会だって言ってたじゃねえか、今日も行かねえのかぁ!? うちは残業代出せねえっつってんだろ!」

 

「……っす。承知の上です。すいませんが皆で楽しんできてください」

 

「ったくよぉ、じゃあやってくんだったらタイムカード切ってからにしろい!」

 

「……っす」

 

 身長は190cmを超える大柄で無骨な男、彼こそがヒーローガキーンの正体、清辻無郷(35)であった。

 刈り上げの頭、鍛えられた生傷の絶えぬ肉体に、低い声、愛想の悪さ! 深夜に出くわしたら通報されてもおかしくないくらいには人相の悪い彼は、普段はこの場所でコツコツと働いていた!

 見目の悪さから他の作業員も遠目から眺める程度の距離を取っており、若干孤立気味ではある彼だが、幸いな事に一人でいることに慣れていた! それを悲しいと考えるかどうかはお任せしよう!

 

「まーた残ってるよ、よくやるよなぁ……」

 

「この仕事大好きなんかね、清辻さん」

 

「わっかんね、まああの人が飲み会こないのはちょっと助かるかも、なんつーか話かけ辛いのに無駄に威圧感強いしでさぁ」

 

「オイオイ聞こえちまうぞ? まあ気持ちわかるけど」

 

「……」

(ばっちり聞こえてるんだよ畜生……あと俺飲み会苦手なんだよ……!)

 

 彼の脳裏に会話のグループとグループの隙間でひたすら料理をつまみ、手持無沙汰に酒を煽り、意味なくおしぼりを弄ぶシーンが思い浮かんだ!

 持ち前の不愛想さと人見知り加減は容易にあのような地獄を生み出すこの世界を彼は若干呪っている! そんな消えない思い出(トラウマ)と作業場から聞こえる他人の声を吹き飛ばそうと、清辻は溶接機を景気よく駆動させ、プラズマ光を辺りにまき散らし始めるのだった!

 

 そうしてしばらくすれば。彼の溶接の音だけ残して、他の従業員は誰一人いなくなってしまう。

 もぬけの殻になった工場の中で清辻は周りを見て今いちど誰もいないか確認すると、隠しておいたある物を用意し始めた! それは!

 

「はぁ……相変わらずボロッボロだなコレも」

 

 ヒーローガキーンの鎧である!

 何を隠そう、彼の手製のヒーローフォームは主にこの工場で作っていたのだった!

 

 毎週一回、金曜あるいは木曜の夜に狙いすましたかのように襲ってくる怪物達から攻撃を守ってきた彼のユニフォームは、どこもかしこもボロボロ! 特に被弾の多い鎧はボッコボコのベッコベコのギッタンギッタンだ!

 

 まじまじと眺めたボロの鎧を手に、彼は余ったスクラップで補強・修理をしていく!

 凹みを叩いて直し、剥げた塗装を元通りにしていく!

 そして今までの戦闘から培った反省を綴ったノートを元に改善も施していく!

 

 決して豊かとは言えない暮らしの中で、ヒーロー活動にほとんどのお金を全ツッパする彼!

 如何に少ないお金で装備を整えるかというのは彼の命題でもあり、また趣味でもあった!

 

「……そろそろ上がるか」

 

 そして時刻が21時を回る頃、彼は修理した鎧を片手に家へと徒歩で帰宅する!

 

 帰路の途中でコンビニに寄って、いつものカップ麺(味噌味)を購入した彼が向かったその家は、築70年で自然に帰り掛けてる2階建てアパート! その名も『しなび荘』! 機嫌が悪いと鍵があっても中には入れてくれない(おもむき)のある扉をゆっくりと開けると、5帖一間の古風な畳の部屋がお出迎え!

 生活感が感じられるのは布団とダンベル程度のTVすらない殺風景な部屋で、清辻はようやく人心地ついたと言わんばかりにため息をつくのだった!

 

「はぁ~……」

 

 彼のため息の理由は一体何だろうか、疲れからだろうか!

 120円のカップラーメンにお湯を入れて待つ傍ら彼の視線は薄っぺらな壁に注がれ続ける!

 壁にあったのは色褪せたポスター、そこには一昔前の代表的なヒーローが力強い笑顔を見せつけており、清辻は対称的に力ない笑みを返していた!

 

「グラビィさん、俺って成長してるんですかね……」

 

 ついつい漏れ出た彼の独り言、グラビィとは一体誰のことなのか!? そして彼の台詞の意味は!?

 それを知るには彼の過去について話さざるを得ないだろう!

 

 ――ちなみに野郎の過去に興味なんてないという方は彼のラーメンが出来上がるシーンまで飛ばすことを推奨する!!

 

 

 

 § § §

 

 

 

 清辻無郷がヒーローを志した切っ掛けは、やはりヒーローであった。

 時は(さかのぼ)ること25年前、全日本を揺るがす極悪軍団、チョウアーク軍。彼らが地下帝国で増やしていたクローン羊人間が街を武力制圧しようとした時、全日本の様々なヒーロー達も闘志を燃やして抵抗を繰り返していた。

 

 その中で一際活躍していたヒーローというのが、重魔法戦士グラビィ。一時の不良ブームにおける番長のような衣装に、男らしい喋り方。しかして使う魔法も素手喧嘩(ステゴロ)も抜群に強く、何よりもぶっきらぼうだが心優しく、どんな災害が起ころうとも立ち所に人々を助け出した実績のある逸材であった。

 

 そして当時10歳の若かりし清辻は例に漏れず、生まれ育った包丸町でグラビィに助け出されていた。

 

『ぐ、グラビィ……? グラビィ来てくれたの……?』

 

『――へっ、泣いてんじゃねえよ坊主。よく頑張ったな』

 

『もう安心しろ。この俺様が来たんだ、後は俺が引き継ぐ。テメェに変わってアイツをぶっ飛ばしてやるよ!』

 

 その時の光景は今でも彼の心にありありと焼き付いている。

 ボロボロになりながらも力強い笑顔を見せ、そして華奢な背中に大きな闘志を燃やしたあの姿――清辻は、あの姿を見てグラビィのようになろうと思い至ったものだった。

 特殊な力なんてないが、この愛する包丸町を守れるようなご当地ヒーローになろうと、彼の人生を揺るがす目標を定めたのだ!

 

 

 しかし! 憧れを闘志に燃やしたのはいいが!

 包丸町はソレ以降、ぱったりと平和だった!

 

 

『来るなら来い! このヒーローガキーンが悪を倒してやる!』

 

『うるさいねえこの馬鹿息子! あんたまーた変なコスプレして、宿題はやったの!?』

 

 それから5年、15歳になった清辻は黙々と牙を研ぎ続けた!

 朝は早くにマラソン! 学校では空手部に精を出し、夜は手製のマスクを被って自警団まがいのパトロールの毎日!

 合間合間の筋トレも忘れず、彼は己の出番を信じて着々とヒーローデビューを待った!

 

 そんな彼のヒーローへの飽くなき熱い思いが悪を怯えさせたのだろうか! 包丸町は年中どこもかしこも何の騒ぎもなく平和であった!

 

『散々焦らしやがって。だがいいさ俺もまた力を蓄えてる……次相まみえた時が貴様らの最後だ……! あ、店長』

 

『あ、清辻君かい、悪いけど夜中人が足りなくてさぁ、ヘルプお願いしていいかい?』

 

 それから更に5年! 20歳になった清辻はそこそこに牙を研いでいた!

 朝は早くにマラソン! コンビニで仕出しを手伝い、夜は手製のユニフォームを纏って自警団まがいのパトロールの毎日!

 合間合間の筋トレは時々忘れそうになるが、彼は自らを律して己の武器を磨き続けた!

 

 しかし彼の武器が炸裂することを恐れていたというのか! 包丸町は年中通して平穏無事、彼のやる気は空回りし続けた!

 

『……また不採用通知が、くっ、こ、これで20件目だぞ……!』

 

『清辻君、君さぁ愛想が悪いよ愛想が。コンビニは接客業だよ? もっとぱっちり笑顔を決めてさぁ……』

 

 それから更に5年! 25歳になった清辻は牙を研ぐのを諦めていた!

 朝は早くからコンビニでバイト! 元同級生の近況報告(結婚しましたの手紙)にため息をつき、親からの「あんた就職は?」の言葉に心を(さいな)まされる毎日!

 合間合間の筋トレはおろそかになり、彼は気付けばヒーローの道は忘れ去ろうとしていた!

 

 そんな彼の選択を後押しするかのように、包丸町は間違っても悪事も起きることなく、ただただ平和であり続けた!

 

 

 しかし――! 

 

 

 彼が親からの「早く結婚しろ」という脅迫じみたプレッシャーに耐えきれなくなってきた32歳の春! 包丸町にとうとう! ようやく! 悪の秘密結社メチャバッド団が襲ってきたのだ!

 

 清辻は驚愕した!

 そして、今更ながら迷った!

 

 ようやくどうにかこうにかして就職出来た矢先、こんな田舎町に敵が襲いかかってくるなんて! それに俺はもうヒーローは諦めたはずだ、今更何が出来ると! 彼は自問し、葛藤をし続けた!

 

 だが!

 

『うわああぁぁあん、折角セットした髪の毛がぁぁっ!』

 

『ビャーッビャッビャッビャ! 貴様の髪の毛は静電気でサイヤ人状態ビャァア~~ッ!!』

 

 

『――くっそぉ!』

 

 通りから聞こえる誰かの泣き声に、気付けば無意識に動いていた!

 押し入れをひっくり返し、昔作った古びたマスク片手に家を飛び出し!

 そして、封じていたヒーローガキーンとしての初の一歩を歩みだしたのだった!

 

 

『待、待てっ、こ、この野郎! 俺が相手だコラァッ!』

 

『ビャリビャリビャリーッ!? 何だぁ貴様、雑魚はすっこんでろ!』

 

『ぐっ、俺は雑魚なんかじゃない、俺はヒーローで……はぐっ!?』

 

『ビャービャッビャッビャ! ヒーローだとォ!? こんな弱いヒーロー初めてみたビャリーッ!』

 

『がぁっ、がっ、がふっ!? い、いい、今のうちだお嬢ちゃん……いいから、は、早く逃げろ……っ!』

 

『へ、変なマスクのおじさんっ!』

 

 しかし、やはりと言うべきかいささか無謀が過ぎた!

 

 何処まで行っても清辻は一般人! トレーニングしてたのも過去で、ましてやヒーローとしての矜持(きょうじ)も過去の物など論外である!

 今までのイメージトレーニングも役に立たず、唯一出来た事は怪人にタックルして時間稼ぎ! サンドバッグのように虐げられ続ける彼だが、しかして胸の奥で燻り続けていた熱いヒーローの心は、今まさに激しく燃焼し――彼を決して諦めさせなかった!

 

『危ない所だったんだぞ、一般人は早く逃げるべきだったんだ! それを君は飛び出してあろう事か怪人に立ちふさがって――』

 

『へい……へい、ず、ずびばぜん……』

 

 ――最終的に怪人は5分後に到着した別のヒーローによって撃破され、清辻は気絶する直前で助け出された。

 その時には彼は全身ボロッボロ。そしてそんなボロボロの彼に待っていたのは称賛ではなく叱咤であった。これでは余りにも骨折り損のくたびれ儲けと言われてもおかしくはないだろう。

 

 だけど彼の心は満たされていた。

 自分が誰かを助けられたという事。そしてその女の子が遠巻きにこちらに頭を下げるのを見れた事が彼を非常に誇らしい気分にさせていた。

 

 傍目から見たらただの失敗体験ではあるかもしれない。

 しかし彼、清辻にとってはこの経験は何よりも得難い大きな成功体験だった!

 

『俺はっ、俺は……ヒーローになるぞぉッ!』

 

 全治一ヶ月の怪我を負った事なんてどうって事ない!

 特殊な能力がなくたって問題ない!

 ヒーローになるのに年齢なんて関係ない! 

 なりたい時がヒーローになる瞬間だ!

 

 ――と実家で親に正直に申告したかは謎だが、彼はヒーローになると同時に一人暮らしを始めることを決意! そして清辻無郷はこの時から本格的にヒーローガキーンとしての人生を歩み始めたのだった!

 

 

 § § §

 

 

「っとと、3分3分……っと」

 

 壁掛け時計をちらりと見て、慌てて清辻はカップ麺の蓋を開ける。

 ふわりと舞う味噌の匂いを肺いっぱいにしまい込み、割り箸で麺をすすり始める。

 

 ――ヒーローデビューをした日から瞬く間に3年が経っていた。

 

 メチャバッド団は未だに包丸町に周期的に襲いかかっており、彼もまた工場に通っては粘り強く怪人らと相手取る変わらぬ日常。

 もしも今、あれから何が変わったのか、という問いが彼に発せられたとしたら清辻はノータイムで答えるだろう。

 

『何も変わってない』、と。

 

 悪は蔓延(はびこり)り続け、自分は弱いまま。生傷は決して絶えることはなく。歳ももう四捨五入で40になる。

 彼の活躍の間、別のヒーローが3回世代交代する中、自分は目新しい成長も新衣装もなく、ロクな称賛の声なんて投げかけられもしなかった。代わりに増えたのは野次や自分を馬鹿にする声だけ。

 

「――――……」

 

 ぞぞぞぞ、と麺の湯気とすする音が部屋に広がる。

 外から聞こえる蛙と虫の大合唱が彼の虚しさを加速させる。

 

 彼の部屋には娯楽という娯楽がない。

 漫画も、TVも、PCも、そしてスマホすらも。(機械音痴であるのが一因だが)

 彼にとっての娯楽は筋トレであり、そしてヒーローだ。

 それ以外の道は選ぼうとはしなかったし、今になってはもうそれ以外を選ぶ事に抵抗があった。

 

 もうどうしようもなく、彼はヒーロー以外の道を選べなくなっていた。

 虚しく、寂しい、孤独なヒーローという道にどっぷり(はま)っていたのだった。

 

 そう、ヒーローというのは孤独だ。時にどうしようもない虚しさを覚える事もある。

 

 清辻はその虚しさから逃げることもなく、ただただ部屋いっぱいの虚無に抱きしめられながら、一人を過ごし続けていた――

 

「ん?」

 

 一人黙々とカップ麺を食べて、日課の筋トレでもするかと思っていた所。

 彼の家の扉を遠慮がちに叩くノックの音が響き渡った。

 

「夜分遅くにすみません、黒雨ですけど――」

 

「あっ、は、ハイっ」

 

 薄い扉、薄い壁。インターホンなんて不要なくらいには外からの音は丸聞こえだ。

 そんな扉の向こうら聞こえてくるのはうらやかな女性の声。

 清辻はその声を聞いた瞬間否応なく焦り、慌てて玄関に飛びついた! 清辻が焦るほどの女性とは一体――!?

 

「す、すみませんお待たせしました管理人さん」

 

「あらあら、そんな慌てなくても良かったのに。こっちが急に訪ねてきちゃったんだし」

 

 そう、その女性こそ――ここ、しなび荘の管理人、黒雨(くろさめ) 美知留(みちる)(40)であった!

 短く切り揃えた黒髪、目鼻際立ち、優しさを垣間見せる糸目に、目元のほくろはミステリアスかつ妖艶! そして男性視線で太ってはいないが肉付きが良いと評するであろう、釘付けになるボディ! 彼女は通行人が10人中9人は振り返るであろう美貌の持ち主であり、また一児の母で、未亡人でもあった!

 

「それで、今日はどうしたんですか?」

 

「あ、そうそう。コレね、清辻君にいつものお裾分け。肉じゃがよ、豪勢な物じゃなくて悪いけど……」

 

「……いつもいつもありがとうございます。悪いですね、何かいつも貰ってしまって」

 

「いいのよ、こっちもついつい作り過ぎちゃうから逆に食べて貰えて助かるくらいだもの! それにどうせ清辻君の事だし、またカップ麺なんでしょ?」

 

「……」

 

「何で分かるのって顔してるけど、もう匂いで分かるわよ。育ちざかりなんだからもっとまともな物食べないと駄目よ?」

 

「……もう自分35なんですが」

 

 「おばさんから見たら一緒よ一緒」とにこやかに笑う黒雨に、清辻は頭が上がらない!

 それも彼がこのアパートに越してきてくれた時から黒雨女子は彼にこれでもかと世話を焼いてきてくれるのだ、易易と挙げられる頭など彼には持ち合わせがある訳がないだろう!

 

 上がるわね、と勝手知ったる感じで家に上がる黒雨に慌てる清辻!

 清辻が袋に入れたガキーンのコスチュームがバレないか戦々恐々になる中、彼女は小さな冷蔵庫に持ってきた容器を詰めると、前に手渡したお裾分け容器を回収、ついでに皿洗いまでしてくれる万能サービスである! 清辻は申し訳なさのあまり五体投地したくなっていた!

 

「あぁ、それと……その、また変な荷物が清辻君宛に届いてたから捨てておいたわね」

 

「う。その、いつもすみません」

 

「いいのよ……全く、本当に執念深い人に目をつけられてしまった物ね……一応伝えておくけどまた文字がびっしり書かれた呪いの手紙みたいなのと、変なドリンクに、よくわからないお肉、あと何か知らないけど蟹に、何か大きな鉄板みたいなのだったわ」

 

「あはは、それがファンからの物だったら良かったんですがね……って鉄板ですか!? お、重くなかったですか? もし良かったら俺が捨てておいて」

 

「いいのいいの、おばさんこう見えて力持ちなんだから。ほらゆっくりしてなさい、生傷ぼうや君」

 

「……」

 

「何してるかはもう聞かないって言ったけど、せめて治療ぐらいはしなさいね、あざとか擦り傷とか、また増やしたでしょ」

 

 水場の音を立てながら、Tシャツとジーンズというラフな姿で食器洗いを続ける黒雨に、清辻は何も語ることができない。、

 もしかして、もしかすると彼女は自分の正体をを知っているのではと思えてしまったからだ! 

 決してジーンズ越しにも分かる大きくて柔らかそうなお尻に見とれている訳ではないと誤解なきように言っておこう!

 

「ふぅ……うん、洗うお皿も少ないから大した手間もかからなくて助かるわ、清辻君は」

 

「……いつもいつもすみません」

 

「謝ってばっかりね、別におばさん困らせるためにここに来たんじゃないんですけど?」

 

 手をタオルで拭いた彼女が、恐縮してばっかりの清辻の鼻先を指先で軽く小突く。

 清辻は彼の指摘につばを飲み込んで何も応えられなくなってしまう!

 清辻の人生に女っ気というのは全くなく、女性との交流も数えるほど! 故に彼がたじろぐのも致し方ないのだ!

 決してTシャツ越しにチラ見えする零れ落ちそうな程巨大な谷間に見とれている訳ではないと誤解なきように言っておこう!

 

「……い、いつもありがとうござい、ます」

 

「よろしい♪」

 

 満面の笑みを浮かべた黒雨は用は済んだと言わんばかりに玄関に向かい、清辻も後に続く。

 ヒーロー活動をしている中で、どんなに辛い出来事があっても彼がひとえにこの活動を続けられるのは、持ち前の精神力だけでなく彼女の支えもあっての事だろう。こういった無償の優しさを発揮して貰ったおかげで自分も無償で街の人の為に戦おうという気になるのだ。

 

「また惣菜とか余ったら持っていくし、何か食べたい物あったら遠慮なく言って頂戴ね」

 

「そんな、悪いですよ管理人さんっ」

 

「気にしないで受け取っておきなさい、清辻君見ててハラハラしちゃうんだから、傷も絶えないし、本当に」

 

「……す、すみません」

 

 黒雨が頬に手を組んで困った表情をすると、なされるがままの清辻はどうしたらいいか分からない!

 ご厚意は受けるべきだが、たくさん貰ってばかりいる。どうやって返したら……などと生真面目に考えていると、不意に彼女が静かに呟いた。

 

「……ねぇ、いつも言ってる事だけど……今君がしていることは、それは君じゃなきゃ本当に出来ない事?」

 

「……」

 

「清辻君が何をしてるかはしらないけど、そんなに怪我が絶えないのは心配で……時々、入院とかもするじゃない」

 

 清辻は答えられない。

 

「無理とか……してない? 苦しい思いとかしていないかしら? もしもしてるようだったら、辞めたってもいいのよ。おばさんは別に咎めたりしないし、誰にも文句を言わせないわ。出来ない事より、生きている事の方が偉いんだから」

 

 清辻は答えられない。

 だが、そういった思いを感じることは多々あった。

 

 痛いのは嫌いだし、ほとんど誰にも称賛すらされない現状は少し寂しく。不条理だと考えてしまう。このままいずれ大怪我をして死んでしまうのでは、なんて思った事も何度もあった。

 

「……管理人さんのおっしゃる通りです。確かに、これは俺じゃなくても出来る事です」

 

「だったら……」

 

 

 そう、ヒーローというのは孤独だ。時にどうしようもない虚しさを覚える事もある。

 

 

「でも――!」

 

 

 ――だが、だがそれでも。それでも!

 

 

「でも、これは俺が、俺が本当に心の底からやりたいと思う事なんです。だから、俺の心が諦めるまでは、絶対にやり遂げたいんです!」

 

 

 彼はヒーローという道を選んだ事を後悔してはいない!

 

 

 彼の内なる熱い心は年老いて尚、真っ赤に燃え続けている!

 誰かの助けを求める声に、昔も今も全力で応えたいと叫び続けているのだ!

 

 

 力強く宣言する清辻に、黒雨は真面目な顔でじーっと見つめ続け。

 ガラにもなく熱くなった清辻はその視線にようやくハッとなり、慌てて謝った。

 

「す、すいません叫んでしまって、せ、折角心配してくださったのに!」

 

「……いいえ。おばさんの要らぬおせっかいだったわね、ふふ……あら……?」

 

 するとふとした瞬間、外が騒がしくなった。

 立て続けに巻き起こるガラスの割れる音に甲高い悲鳴!

 今日はそう言えば週末に近い日だと思い至った瞬間、彼はハっとなり清辻のヒーローの心は救わねば、と大きく炎を燃やし始める!

 

「っ、す、すみません! 急用を思い出しました! お、俺も今から出かけます!」

 

「あらあら、大変ね。よければ手伝うわよ?」

 

「いえ、自分ひとりでやれますので……えっと、すみませんが俺はこれで!」

 

「え、あ――ちょっと清辻君! 鍵はっ!?」

 

「いつもの郵便受けに入れていただければいいので! すみません、行ってきます!」

 

「もう――えぇ行ってらっしゃい清辻君! また怪我しないようにね!」

 

 慌ただしくコスチュームの入った手荷物をひっさげて外に飛び出していった清辻に、黒雨は先程の真剣な表情から一転して朗らかな表情で送り出すのだった。

 

 

「……頑張れ清辻君。頑張れガキーン。おばさん応援してるからね」

 

 

 そして取り残された黒雨の言葉は、誰に届くことも無く蒸し暑い、夏の夜の空気に溶け込んでゆくのだった。

 

 頑張れヒーローガキーン! 負けるなヒーローガキーン!

 大勢がガキーンを認めずとも、ガキーンを認める存在は確かにそこに居るのだ!

 

 包丸町の恒久的な平和を守るため、今日も頑張るのだ!

 

 

 

 

 

「それにしても清辻君、いい加減あのポスターしまってくれないかしら……っ、あれ、お、おばさんの黒歴史なのに……! うぅぅき、キツイ…キツイわ本当……っ!」

 

 

 

 




次こそギャグに戻す。
明日は更新できないよ。


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激硬! 怪人『ゲキカラバリバリン』! ガキーン倒れる!?

遅くなっちゃった。
頑張って書くぞい書くぞい。


 サンダーヘッド――本名、本郷雷都は間もなく大学デビューを果たす多感な18歳である!

 身長は全国平均より5cm程高い中肉中背の彼は、恵まれた身体能力と高めのIQ、更に親の企業である「カロウシー」からのバックアップを受けて、包丸町のみならず、様々な町で活躍! 悪の軍団を退け続けている実績がある!

 

 頭部のイナズマのマークが示しているように、彼は電気の力を使って戦う!

 彼の一挙一投足は電流の一撃であり、また全身に自ら微量の電気を流す事でツボを活性! 常人では捉えられない速度を発揮して敵を翻弄(ほんろう)し、倒す!

 

 その速さ、その強さ――まさしく稲妻が如く!

 

 圧倒敵な強さの前に人々の信奉も厚く、地方紙も彼の活躍をこぞって取り沙汰すので日本全国に知名度もある!

 

 そんな彼の人気の一因は、強さだけではない。その華にもあるだろう!

 デザインのよいユニフォーム。一挙一投足の洗練さ! そしてそして――定期的に披露される「カロウシー」開発部が命と睡眠時間を削って作成した新商品!

 

 未知なる武器に人々は否応なく期待を寄せる!

 今までも結果としてその武器で相手を派手に倒してきたのだ!

 そんなの人気が出ない訳がないだろう! 個人で戦うガキーンは涙を流して羨むくらいだ!

 

 故に人々はサンダーヘッドに期待と安心を寄せる!

 怪人が現れても彼がいるなら平気だ――そう思わせるのはまさしく「ヒーロー」として求められるべき必須の素質! 彼はまさしくヒーローの役割を果たしていると言えるのだった!

 

 

 § § §

 

 

「――キャアアアアアアッ!」

 

 

 閑静な住宅街に突如広がった、絶望をありありと感じさせる叫び声!

 平和な一家で行われるであろうありふれた日常、それは容易く崩壊してしまった!

 

「イヤアアアアッ! 楽しみにしていたケーキが全部激辛堅焼きおせんべいになってるわぁーッ!? どうしてーッ!?」

 

「バーリバリバリバリッ、貴様らあんな甘ったるいものをばくばくと豚のように食いおってぇ! このゲキカラバリバリン様の硬くて辛いおせんべいを食べて発汗&顎を鍛えるがいいーッ!」

 

 炊事洗濯を終えて一休みをしようとした専業主婦、佳代子は絶望した!

 今日のおやつを食べようとした所、丸い煎餅の体に黒い手足が生えた謎の怪人がいきなりそんな事をのたまったのだ! これは堪った物ではない!

 

「これから町中の甘味という甘味を、激辛堅焼き煎餅にしてくれるわーッ、玄関はどこだ奥さんンンッ!」

 

「いひゃああああぁっ! つひははり(つきあたり)ひらりれふ(ひだりです)ぅぅっ!」

 

 口に咥えた堅焼き煎餅を涙を流しながら食べる佳代子は玄関扉に引っかかるゲキカラバリバリンを何とか押し出して脱出させると、怪人は器用にその丸い体で転がしながら街を疾走する!

 そして隣の家の玄関にチャイムを押してから侵入すると、再び家から悲鳴があがった!

 

 この怪人の目的は先述した通り住民の持つ甘味の撲滅! このまま奴をのさばらせていては包丸町は全員激辛好きという評判は逃れられないだろう!

 

 無秩序に暴れる怪人、響き渡る悲鳴の連鎖!

 一部の人々には好評だが、甘党や歯の弱い老人には余りにも辛い仕打ち!

 このまま辛さに悶え苦しみ、硬さに人々が顎をさする光景が包丸町全域に広がってしまうのか……と人々が絶望の淵から一気に叩き落されそうになった――その時だった!

 

「待ちやがれテ……!」

「ハーッハッハッハ! 今度はお煎餅の怪人だってぇ!?」

 

「バリバリバリーッ!?」

 

 突如現れた2つの黒い影が町中を駆けるゲキカラバリバリン(長いので今後ゲキバリと略す!)に飛びかかった!

 一般人か!? はたまた新たな怪人か!? いや違う!

 どちらも普通の人に比べれば余りにも特徴的なシルエットを持っているではないか!

 片やまるでショーに参加したは良いものの整備もメンテナンスもされずに長年放置されたようなコスチュームに際し、片や今まさに作られたばかりの美しくも洗練されたコスチューム! それらを(まと)った二人が同時に現れたのだ!

 

「なな、なんだぁ、貴様ァ! このゲキバリ様に歯向かおうと言うのかーッ!」

 

「応とも、なんだか辛そうな怪人よ! 市民の好みは人それぞれ、それを否応なく一つのものに押し付けようとする事など、許せるはずがないな!」

「え、あれ……な、何か来るの早くねえか……!? あ、えーっと、そ、そうだぞ! 好みは人それぞれで――」

 

「とぅっ!」

 

「バリババー!? アバーッ!?」

 

 目にも留まらぬ早業でゲキバリを吹き飛ばす人物と、まさかの予想外だと言わんばかりに狼狽する人物!

 相対的な二人の登場に、配布されていた激辛煎餅を涙を流しながら食べていた市民らが叫ぶ!

 

「はひっ、はひっ、あ、はのすがは(すがた)は――!」

 

「あ、あのひゅはは(すがた)――まひゃか……さんりゃーへっほ(サンダーヘッド)!」

 

さんりゃーへっほ(サンダーヘッド)!!」「さんりゃーへっほ(サンダーヘッド)らぁ!」

「ありがほうさんりゃーへっほ(サンダーヘッド)さんんんん!」

「たすかっはわ、もう(バリッ、ボリッ)歯が限界だったのッ!」

 

 

「サンダーヘッド推・参っ! みんな待たせて悪い、もう激辛せんべいに(むせ)び泣く必要はないぞ!」

 

「お、俺も来てるからな! ヒーローガキーンだ!」

 

 毎度お馴染みサンダーヘッドと、ヒーローガキーンだった!

 なんと包丸町ご当地ヒーローの二大巨頭が今まさに同時にその場に現れていたのだ!

 市民たちはサンダーヘッドに尊敬と信頼の眼差しを向け、彼に溢れんばかりの称賛を送る! ちなみにその背後で慌ててポーズを取るヒーローガキーンには視線も言葉すらも向けられてはいなかった! コレが知名度と人気の差という物か! 泣くなよガキーン!

 

「まさかお前がこんなに早く現場に来てるとはな……サンダーヘッド」

 

「あぁ。ここ最近の怪人の出現頻度と傾向、そして出現場所のデータから予測できるようになったんでね。で、バキンだっけ」

 

「ガキーンだ!」

 

「……まあ何でもいいや、下がってろよおっさん。今日はもう俺が来たんだからお前の出番は必要ないぞ!」

 

「ちょ、お、おいっ、俺だってヒーロー……」

 

「ば、バリッ、バリババーッ?!」

 

 ガキーンが言い返そうとするや否や、既にサンダーヘッドは敵怪人に踊りかかっていた!

 紫電を纏ったサンダーヘッドの攻撃は怪人ゲキビンに容易く当たる! 逃げようとしても逃げられず、反撃しようにも捉えられない、怪人とサンダーヘッドの実力の差には開きがありすぎた!

 

「おいおい、クソダサ仮面、言われた通り下がっとけって! またやられるぞ!?」

 

「そうだぞ、後はサンダーヘッドさんがやってくれるんだ。お前の出番なんて来るわけないだろ!」

 

「それよりもお前もこの煎餅食わねえか? 激辛だけど結構いけるぞ」

 

「バリボリ食いながら野次飛ばしてんじゃねー! っていうかお前らはさっさと逃げろよ! 危ないぞ!?」

 

 咀嚼(そしゃく)音の合唱を響かせる一般人に対して、正論過ぎる指摘に胸を傷ませながら最低限の義務は果たそうと観衆を逃がす働きかけをするヒーローガキーン!

 その間もサンダーヘッドと怪人の戦いは続いているが、もう怪人ゲキバリの体は度重なる攻撃でひび割れだらけ! 勝負はもう着いてると言っても過言ではない状態だった!

 

「へんっ、メチャバッド団だっけ? お前も含めあそこの所の怪人は全くもって大したことないな!」

 

「ば、バリリーッ、貴様ぁ、ただ速いだけで良い気になりおってぇぇぇッ! くらえっ、激・せんべい手裏剣ーッ!(注:攻撃に使ったおせんべいはこの後メチャバッド団が美味しく頂く予定です)

 

 戦い甲斐がないと挑発するサンダーヘッドに対し、ゲキバリは背中から取り出した円形せんべいをその手に持つと、まるで手裏剣じみた軌道でサンダーヘッドへと攻撃! 様々な軌道を描いたせんべいはそこそこに硬度がある! 当たれば割と痛い事には違いないだろう! ――しかし!

 

「遅いんだよッ!」

 

「バリィッ!?」

 

 せんべい手裏剣であってもサンダーヘッドを捉える事は出来ない!

 撃った時にはその場におらず、ただただ壁に叩きつけられたお煎餅が軽い音を響かせて割れていくのが続くのみ!

 

「激・センベイスロー!(注:攻撃に使ったおせんべいはこの後メチャバッド団が美味しく頂く予定です)

 

「はっ!」

 

「激・センベイフリスビー!(注:しつこいようですが攻撃に使ったおせんべいはこの後メチャバッド団が美味しく頂く予定です)

 

「ふんっ!」 

 

「うわっ、ちょっ……おいサンダーヘッド! もうちょっと考えて避けてくれっ、いたっ!? いてててっ!?」

 

 怪人ゲキバリの攻撃は乱射されるせんべい弾を市民から守ろうと、ヒーローガキーンが身を(てい)してダメージを受ける以外、全くの効果はなかった!

 

「アババババーッ! なぜだ、なぜ当たらないィィ――ッ!!」

 

「へへっ、遅すぎる遅すぎる! それに弱すぎだぜ怪人。それじゃそろそろ決めてやりますか!」

 

「おぉ、来るのか! サンダーヘッドシューター!(バリボリ)

「長い、長いぞあれは……サンダーヘッドシューターにしては長すぎる!(バリボリ)

「いやいやアレはいつもの違うぞ……多分、新兵器だ!(ボリバリバリ)

 

「い、いいからお前らはさっさと避難しろっての!? 巻き添え食らうかもだからっ……!」

 

 背中に取り付けられた身の丈以上に伸びる伸縮性の棒を、勢いよく取り外して構えるサンダーヘッド! 一本の白く細長い棒のように見えたそれは表面に幾何学模様が象られ、サンダーヘッドと同じく、いやそれ以上に稲妻を纏っている! 

 彼が卓越した棒捌きで回転させれば、電撃が周りに撒き散らされ、お煎餅の咀嚼音よりも遥かに強い電気の爆ぜる音が、辺りに響き渡った!

 

「さぁーて、これぞ新武器ライティングブレイカー! 粉々に砕かれる準備は出来たか!?」

 

「ひっ!? こ、このモース硬度4*1の体を持つこのゲキカラバリバリン様に、ソ、ソソソ、その程度の攻撃が通じるとでも!?」

 

「うおおおおおかっけぇ!!」

「新武器の中で一番格好いいかもしれねえ!」

「やっちまえーっ、サンダーヘッドー!」

 

「……」

 

 そんな観衆が見守る中、一人の少女が彼らに紛れて非常に不機嫌そうに動向を見守っていた!

 今まさに怪人が撃退されるという瞬間であるのになぜそのような顔をするのだろうか!?

 

「電光石火の一撃で、貴様の悪事は一刀両断だ! くらえっ! ゲキバリ! ライティング――!」

 

「うぇ、ひ、ば、バリバリバリバリーッ!?」

 

 夕方時の住宅街が、その瞬間だけ昼と見紛う明るさに包まれる!

 サンダーヘッドは声を置き去りにしてその体を加速! 塀に追い込まれる形で体を縮こまらせたゲキカラバリバリは自らの終止符を悟る――その、ハズだった!

 

 

「――はぶっ!?」

 

「おぉっ!?」

 

「えっ?」「は?」

「んんっ……?」

 

「バリィ……っ!?」

 

「……」

 

 ――その時、不思議な事が起こった!

 

 なんと攻撃をしようとしたサンダーヘッドが、その場で超高速で地面に転んでいたのだ!

 彼の片足だけが何故か()()()()()()()()()()()()()()()()()()()事から、謎の力で足を(すく)われた事は明白であった!

 

 

「すぅっ―――きゃああああっ、サンダーヘッドがやられてしまいましたっ、助けてガキーン様ぁぁあ!!

 

 そしていつものお下げ髪の黒髪少女が声高々に叫ぶ!

 この場に彼しか救えるものがいないと、助けを求めた!

 その両腕に掲げられていたのは毎度手作りの応援旗に『ガキーン様! GO FIGHT! 初勝利を飾れ!』と書いた物を壊れんばかりに振って、抑えきれない欲望を応援力に昇華させていた!

 

「……」

「お、おい大丈夫かお前!?」

 

「さ、サンダーヘッド冗談だろ……!?」

「あ、あいつがや、やられただと馬鹿な……!」

「力を隠していたのか……!?」

 

「な、何が起こってるっていうバリ……?」

 

 現状を正しく理解出来ていないのはその他大勢である!

 唯一名前を呼ばれたガキーンは倒れ込んだサンダーヘッドに駆け寄るが、うつ伏せで片足だけ挙げたポーズのままのサンダーヘッドからの返答はない! 気絶してしまっているのか!?

 

「ガキーン様頑張ってぇぇぇ! 今の攻撃はそこのせんべい怪人による物よきっと! あんな凶悪な攻撃、貴方以外に攻略できないわっ! ファイトっ、ファイトガキーン様ぁっ!」

 

「ば、バリバリィ!? このオレサマにはそんな隠れた能力が……!」

 

「お、お嬢ちゃん……! いや、そうだな。倒れたなら仕方ない、とりあえずみんな逃げるんだ!」

 

 少女の主張に怪人ゲキバリが驚愕に身を包み、ガキーンがやる気を(みなぎ)らせ、安心の拠り所を無くした人々が逃げ惑う!

 おぉ! 土壇場で覚醒した怪人、倒れ込んだ絶対正義の味方! これで包丸街の平和の行方はまたもわからなくなってしまった!

 

「う……うぅ……お、俺は一体……何が?」

 

「……」

 

「――あがっ!? ごっ、ぐ、ぐあぁぁっ!?」

 

 人知れず目を覚ましたサンダーヘッドだが、少女が指先を上下するたびに宙に浮かんだ彼の武器が執拗に体を打ち付け、彼の意識は更に深い深い闇に潜ってしまい、起き上がる事は叶わなかった!

 

「……なんて恐ろしい攻撃! サンダーヘッドをあそこまで足蹴にするなんて! ガキーン様負けないでーっ!」

 

「えっ、ちょっ、攻撃えぐっ、容赦ねぇ……も、もう完全にダウンしてるぞ! 頭はいい加減やめてやれよ怪人!?」

 

「ちょちょっ、ちょっと待つバリ! この力、俺も制御できんバリィッ!?」

 

 攻撃にしては残忍かつ執拗過ぎ、ガキーンと怪人が慌てふためくが、二人ともはっと目を合わせると再度距離を取り――そして戦闘が始まった!

 

「とりあえず喰らいやがれやぁぁぁーーッ!!」

 

「バリィッ! 覚醒したゲキバリ様に勝てると思ったか愚か者がぁッ!」

 

 サンダーヘッドよりも遥かに遅いスピードで飛びかかるガキーン!

 未知なる力を得たと考えて闘志を燃やす怪人ゲキバリ!

 

 一方的な試合展開から五分五分の展開……いや、怪人との自力の差から七分三分程度の形勢になり、途端にガキーンの鎧に新たな傷跡が刻まれていく!

 しかしガキーンも慣れた物! 肉を絶たれようとも骨を穿てばよい! カッチカチのお煎餅で体を叩かれ、うめき声を漏らそうとも三発に一発は確実に相手にダメージを与えていく! やるじゃないかガキーン!

 

「あっ、そう! そこですガキーン様っ! あっ、あぁっ! 踏ん張ってガキーン様それいい感じっ! そう、そこそこ! あーっ、煎餅この野郎アンタ飛び道具卑怯でしょ!? 正々堂々ガキーン様のフィールドで戦いなさいよ! ガキーン様そいつの背中っ! 背中の中心パンチしてパンチ! パンチしたら自動的にそいつの体が爆発四散するように作ったから! キックでもいいっ! パンチをっ、あっ、あ~~~避けてっ、避けっ! あっあっ、ああんっ!?」

 

 おさげ髪の少女は狂喜乱舞しながら思い切り声援を送る中! 二人の戦いはいよいよもって佳境を迎えつつあった!

 

「鬱陶しいバリーッ、貴様などサンダーヘッドの足元にも及ばぬわっ!」

 

「くっっ、たかが煎餅野郎が……!」

 

「その煎餅野郎にやられてるのは貴様だ、コスプレしただけで自分の実力を勘違いしたか? 怪人と人間には、明らかに強さに開きがあるのだーッ!! 喰らえ、激・センベイ手裏剣!(注:再三ですが攻撃に使ったおせんべいはこの後メチャバッド団が美味しく頂く予定です)

 

「ぐああああああぁ――ッ!!」

 

――だから飛び道具禁止つってんだろうがッ!!! あぁっ、ガキーン様ぁッ! 立って! 立って負けないでっ!」

 

 連射された堅焼きセンベイの嵐に、ついにガキーンが膝をついてしまう!

 少女の悲鳴と怪人の高笑いが同時に木霊するっ! 危うしガキーン! これは絶対絶命だ!

 

「ふんっ他愛もない……しかしサンダーヘッドがやられた今、この包丸町など攻略したも同然。ミネルヴァ様もお喜びになる事だろう……!」

 

「くっ……ま、まだ俺はやられては……!」

 

「馬鹿め、ヒーロー失格の貴様はもうおしまいバリッ、この俺の覚醒した技でトドメをさしてくれるわァッー!」

 

 よろよろと立ち上がるガキーンに下される非情なる宣言! 傍で動向を見守る少女の冷えた視線が怪人に注がれ続ける中、怪人ゲキバリが目の前の雑兵を吹き飛ばそうと強い思念で念じる――! 念じる! V8エンジンの如き唸り声を零しながら念じる――! しかし……!

 

「? ……へっ、き、効かないんだよ……そんな攻撃……!」

 

「な、何――どうなってるバリ!? 貴様、このゲキカラバリバリの攻撃が効かないというのか!」

 

 ――おぉ! 奇跡という物は常に挑戦する者に与えられるものなのか!

 

 凶悪過ぎるゲキカラバリバリから発せられた超能力を、しかし、ガキーンは耐えていた!

 ヨロイ部分が壊れて露出したあざだらけの腕を、痛みから引きずる足をそのままにじわり、じわりとゲキバリに迫っていく!

 さしもの光景にゲキバリは焦り、先程から一転して少女が目を輝かせる! 彼女の持つカメラもまた光を何度も瞬かせる!

 

「さぁ、どうした怪人……もう俺の間合いだ……ッ!!」

 

「バリバリバリバリーッ!! 貴様ァッ!」

 

「もう、遅いんだよっ!」

 

 片腕のアーマーの末尾からブースター音が響き渡る!

 弓のように引き絞った腕は、今まさに暴力の解放を求めて震えていた!

 

「あっ、きたっ、きたきたきたぁっ、何この激アツ展開っ、あっ、あっあーっ! (はかど)るっ! ガキーン様いって! お願いイって! やっちゃって! 私に見届けさせてっ! 貴方の勇姿っ、記念すべき勝利をっ! 訪れる平和を! 私に感じさせてっ!」

 

 黄昏時の住宅街っ、ヒーローと、怪人と、少女だけの空間で!

 その瞬間は――訪れたッ!

 

「貴様のフニャフニャな悪事など――鉄()()粉砕()()あああ!」 

 

「バ、バリリリーッ!!?」

 

「ひ、ひやぁぁぁロイヤルフレートブースタパン――あああああぁぁんっ、か、噛んでるぅぅッ!?」

 

 決め台詞の暴発! それはヒーローとしてあるまじき失態!

 しかして限界以上に痛めつけられたガキーンを責めるのは酷というものであろう!

 その代償のお陰か否か、ガキーンの必殺技は当たって、当たって……!

 

「しかも何で避けてるのよこのクソセンベイがああぁあああぁぁッ!! そこは当たる所だろうがあぁぁああぁぁあああぁッ!!」

 

「ひ、ひぃっ!? う、うるさいバリっ、この小娘がっ! この俺様の体はセンベイだぞ! 割れたらどうしてくれる!?」

 

 ――当たっていなかった!

 

 彼の全力を振り絞った大ぶりの一撃は、悲しいことに身を(かわ)した怪人ゲキバリに(かす)ることもなく! しかも外したガキーンは、ブーストの勢いに煽られて無様に倒れて込んでしまっていた!

 

「ふ、ふんっ……少しは焦ったが、所詮この程度というものよ! くくく、雑魚ヒーローめ、ここでこの俺様がそこの口うるさい小娘に激辛センベイを無理矢理食べさせるさまを見ておくがよい!」

 

「あ゛?」

 

「う、ぐ、よ、よせっ……っ! そ、その子に手を出すな……!」

 

 倒れて動けないガキーンを足蹴にする怪人ゲキバリの次なるターゲットは、最後まで残っていた黒髪の少女のみ! 持てる力を振り絞ってもその足すら振りほどく事すら出来ないガキーン! 少女はさしもの宣告に表情を変えてしまう!

 嗚呼駄目なのか! ここまでなのかガキーン! 包丸町はそして、応援に来ている少女は奴の毒牙にかかってしまうのか!

 

 

「バリバリバリ……ッ、さぁ少女よ、この硬くて辛いお煎餅を口いっぱいに頬張り……っ、はばびっ!?

 

「……」

 

 しかし、奴が少女に手を伸ばした瞬間! ゲキバリが突如すっとんきょうな声を出したかと思えば動きが止まってしまったではないか!

 少女が身動き一つしない中、ゲキバリは苦悶の声を小さく漏らしながらその体をバラバラと瓦解させていく! これは一体……お、おぉ、見よ! 怪人の背中に鉄パイプが突き刺さっているッ!

 

 その突き刺さった場所は他ならぬ、少女が先程宣告した通り奴の中心部、つまり弱点!

 少女は幸運な事に怪人の毒牙から身を守ることが出来たが……これは偶然なのだろうか!?

 

 

 そしてその場には倒れた二人のヒーローと大量の煎餅の残骸、少女のみ残された。

 ガキーンは健闘むなしく気絶しており、静かになったこの場所で、少女は無感動に崩壊した煎餅を見下ろしながら、携帯電話でどこかに連絡を取リ始める。

 

 

「あ、私だけど……うん、うんそうやられた。やっぱり駄目だった」

 

「え? あぁうん、いや。割と戦略はムカツクやつだったけど傾向は良い感じだったわ。博士、おしおきはしないであげる」

 

「ただし、警戒して。厄介なのがこの町に来てるかも」

 

 少女は残骸の中心に突き立つ鉄パイプをしげしげと眺めていた。

 怪人の背中を容易く突き破り、地面にまでめり込んだ鉄パイプ――これは超能力によるものではなく腕力による物であると少女は推察していた!

 

 一体、この攻撃は誰が行った物なのか!?

 少女の発言の真意とは一体?! 謎が謎を呼ぶ展開! 待て、次回!

 

 

 § § § 

 

 

「ミネルヴァ様……か、硬いです……硬いですぞコレ……」

 

「うるさいな、作ったのは博士なんだから文句言わず食ってよ」

 

「ふん。博士、やはり貴様は(バリッボリッ)軟弱物……ッ(バリッボリッ)、この程度のものも食べられないとは、忠誠が(バリッボリッ)ッ、く、辛」

 

「貴様らもの喋りながら食べるな! はしたないだろうが!」

 

 ――同日。某所、闇が広がるとある空間に様々な声が木霊する。

 ノイズのかかったような機械音声、ねっとりとした異質な声。地獄の底から聞こえる昏い声等。

 そう、毎度おなじみメチャバッド団、その幹部達である! 彼らは今日企んだばかりの侵略の失敗について、大量の激辛煎餅を囲んで語り合っていた!

 

「しかし……サンダーヘッド以外のヒーローの影、ですか……」

 

「うん。怪力系のね、誰か何か覚えある?」

 

「……ヒーッ、ヒーッ、か、からっ……! からいですぞっ、からいっ!」

 

「愚かな……辛い時はマヨネーズなりバターなりを口に含むと辛くなくなるのだ、そんな事も分からんのか」

 

「後で持ってきてやるからまずはお茶を飲め博士。……ふむ、この伯爵の知識では怪力系は兎に角数が多いため……」

 

「そうだよねぇ……」

 

 幹部の長たるミネルヴァがだるそうに頬杖をついて聞く中、幹部らが煎餅を頬張りながら意見を出し合う。

 しかしてその話し合いも特に強い成果は得られる気配はなさそうだった!

 

「ま、いいか。サンダーヘッドは大分痛めつけたしね」

 

「はぁ……はぁっ……いや、意外でありましたな。ワシの考えではあの怪人では倒せる見込みは全く……」

 

「なんだ、偶然の産物だったというのか? 折角貴様を見直しかけたというのに……やはり貴様の忠誠心は」

 

「やかましい騎士無勢が、貴様はさっさとノルマ分の煎餅を食べ続けておればよい!」

 

「……我は既に三個も食べた」

 

「ワシも三個は食べたわい!」

 

「はい二人は喧嘩やめなさーい、煎餅はたっくさんあるんだから仲良く食べなさい、ね?」

 

 二人の違うそうじゃないという顔をスルーしながらミネルヴァは思考にふける。

 

(サンダーヘッドの仲間のヒーローか? いや、奴は単独だって言ってたしなぁ……多分可能性があるとすれば「カロウシー」のサポート部隊の攻撃とか……でも鉄パイプだもんね。それも可能性低そう。だったら誰だ? 誰があんな攻撃をする? それも怪人の弱点を正確に貫けるほどの攻撃を?)

 

 悪の幹部ですら分からぬ謎の存在! その存在はこれからの侵略のネックになりそうだとミネルヴァは考える!

 しかして、困難はあればあるほど面白いと考えるミネルヴァの口元には、相反して獰猛な笑みを浮かべてしまうのだった!

 

 

「ミネルヴァ様、ちなみに貴方も食べて貰いますので悪しからずです。家中お煎餅だらけなのですから、一日ノルマ五個ですよ」

 

「……私辛いの嫌いだからみんなで食べていいよ」

 

「駄目です」

*1
物体の硬度を表す単位。モース硬度4はナイフで傷をつけられる程度の硬さ。あずきバーはモース硬度9



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強襲! 管理人『黒雨美智留』! 差し伸ばされる優しい手!

「……っす」

 

「あーおはようございまー……ヒッ!?」

 

「……っす」

 

「おーっす、おはよう……うわっ!? んだソレ!?」

 

「……っす」

 

「おう、清辻かぁ? お前そんなナリしていつも声が小さ……うおっ!?」

 

 早朝、清辻の通う板金工場にて!

 仕事の準備にかかろうとしている彼らが思わず声を詰まらせた!

 

 彼らの視線の先にいたのは毎度お馴染み、清辻無郷(35)! 確かに彼が強面であるのは間違いない筈だが、普段見慣れている従業員の彼らがどうしてそこまで極端に反応するというのだろうか!

 

「お、おいおい清辻お前……何があったんだよお前、えぇ……?」

 

「……階段から転びました」

 

 その答えは彼の姿にあった!

 松葉杖をつき! 片腕は包帯をぐるぐるに巻き! 顔には絆創膏が縦横無尽!

 まかり間違っても階段から転んだとは思えない有様!

 言うまでもないがこれは先日の怪人『ゲキカラバリバリ』との戦いの傷痕である!

 これには普段彼の顔に慣れた筈の従業員たちも戦慄(せんりつ)せざるを得ないだろう!

 

「お前よぉ……そんなんで仕事出来るのかよ、えぇ?」

 

「……っす。大丈夫っす」

 

「大丈夫って、びっこ引いといて仕事になると思ってんのか?」

 

「移動は問題ないっす。今日だけっすから……」

 

「今日だけってお前なぁ……あぁもう、お前、今日は帰れ」

 

「えっ? いや、待ってください工場長……!」

 

「待ても何もないんだよ、一日で済むってんなら一日休んでこいっての! もしものことがあったら困るだろ!?」

 

「……」

 

「お前が何も言わねえからこっちも黙ってるがよぉ、毎度毎度何かしら怪我してんじゃねえか! 何かヤバいことしてんじゃねえだろなぁ、えぇ!?」

 

「い、いいえ……」

 

 実はヒーローやってます――なんて事、言える訳もない!

 本人としてはヤバイ事ではないと否定したいところだが、世間一般的にヒーロー活動はヤバイ事である! 世間体を守るためにも、そして職を続けるためにも彼は嘘をついた!

 

「だったら今日ぐらい休めってんだ! 上司命令だ! 今日中に治してこい! いいな!?」

 

「……はい、すみません」

 

 繰り出される荒くも厳しい、そして無茶振りに近いお言葉――しかしてそれは当然と言えば当然かもしれない! こと仕事においては作業をするだけでは足りない、体調管理もまた仕事の内!

 諦めることを知らないガキーンは無茶してナンボ、無理してナンボな生き様! 弱さ故に生傷が耐えない彼にとって体調管理という言葉はあってないような物に等しいだろう!

 

「清辻さん、今日は一段とやべえな……あんな顔ボロボロって本当何したんだ」

 

「腕も足もボロッボロのボロだしなぁ……クマと戦ったとか?」

 

「クマは出ねえだろクマは……いいところ怪人じゃね」

 

 「はっはっは、まっさかー」なんて他の従業員のひそひそ声を耳にしながら清辻はたどたどしく帰路につく他なかった!

 

 太陽が登り切る前から地肌にじりじりとした熱を与え続ける朝の9時、子供達は既に登校済みで、普段以上に人気のなくなった小道をゆっくりと、確実に歩く清辻! 

 彼は考えていた! 急に訪れた休日、その使い道をどうしようかと真剣に考えていた!

 

「……急に休みになってもなぁ……っ」

 

 ――そう、やる事がないのである!

 

 娯楽が筋トレとヒーロー活動である清辻!

 そのどちらも体を資本とする物しかないが故に! 

 怪我をした今、やる事がないのである!

 

 本もテレビもインターネットもない、目指さぬ内に極貧生活の主になった清辻にとって本日の休みは「何もせず動くな」という命令に等しい!

 体を休ませるのは当然だが、かなり暇になりそうな予感を彼はしていた!

 せめて折角ぶっ壊れた鎧を直そうかと考えていたが、それすら出来ないとは……せめて無事な腕だけでも鍛えるべきか、なんて考え込んでいたが、非情にも工場と彼の家との距離は近場。

 思考もまとまらぬ内に彼の我が家である「しなび荘」に着いてしまう!

 

 しかして、いざ家の扉をくぐった彼!

 そんな彼はその扉の先に驚愕の展開が待ち受けているとは考えもしなかっただろう!

 

 

「あ……っ」

 

「え……? か、管理人さん……?」

 

 

 ――扉を開けた向こうは人妻だった!

 

 自他ともにおじさんだと言わしめる清辻より5つ年上なのに、歳を感じさせないその美貌! そしてTシャツにジーンズと色気から遠く離れたラフな格好でも思わず唾を飲み込みそうになるわがままボディの持ち主! 黒雨美智留(40)が何故か彼の家の中に鎮座しており! そして彼のTシャツとも思える服を鼻に当てていたのだ!

 

「――お、オホホホホホ……清辻君、は、早いのね……! お、おかえりなさいっ?」

 

「え、あれ……えぇっ、えっと何で……どうして管理人さんが俺の家に?」

 

 秒速でTシャツを背中に隠し、慌てふためく黒雨! 混乱の極みに追い込まれる清辻!

 二人の動揺合戦が今まさに始まろうとしていた!

 

「えっと、あれよ! あれ! 清辻君ほほ、ほら! 鍵かけてなかったからおばさんね!? 不用心だなって思って!」

 

「あっ、え、そそ、そうだったんですか!?」

 

 先手は黒雨!

 混乱収まらぬ相手に初手から畳み掛ける作戦である!

 

「そ、そそそうよそうよ! だからおばさん泥棒が入ってないか、こう! ね、管理人ですし確認しないとって思って! で、でも大丈夫そうだったわ、通帳の位置とか、服とか、コスチュームとか何一つ大事な物に変な痕跡とか全くなくて!」

 

「それは良かったです……す、すみません要らぬ心配を……っ? こ、コスチュームとかみたんですか!?」

 

「えっいや、いやいやいや見てない見てないわ何言ってんだコスチュームなんて一言も言ってないだろうがコラ?! こほん……す、スチーム! スチームを良い間違えただけっ!」

 

 しかして初手からぐだぐだのぐだである!

 何やら不穏な発言をボロボロと零す黒雨、大きな隙が生まれてしまうのでは!?

 

「!? す、スチーム窯、そ、そう言えば戸棚にしまっていたかもしれません……!」

 

 信じた! 清辻信じた! 何か口調が荒くなったり、微妙に苦しい言い訳だったりしても黒雨さんの言う事だし、と納得してしまった! これには黒雨も大安心、丸め込めて良かったなどと勝利を確信したが――

 

「あれ……何か部屋が……?」

 

 まだ勝負は終わっていなかった! 次手は無自覚だが清辻の番! 

 彼が黒雨の肩越しに見た部屋の中、なんだかいつも以上に綺麗で整頓されているのに気付く!

 清辻の反応を見て違和感を覚え、数瞬後に再び焦る黒雨! 彼女の反撃は如何に!?

 

「あ、ほら部屋はね! ほら私主婦じゃない!? 汚い物見ると掃除したくなるっていうか!」

 

「き、汚……っ」

 

「あっ違うの! 清辻君の部屋は汚くないっ、その風水が汚いって意味でね!? ほら鬼門の流れが淀んていて、風水的によくなくてついでにね!?」

 

 オホホホホ、と空笑いをあげて弁明を続ける黒雨! これには清辻も流石に不審な目を向けざるを得ず、とうとう答える術をなくした彼女は空笑いもほどほどに、はぁ、と大きく肩を落とすと、

 

「……ごめんなさい勝手に上がって」

 

「い、いえ……こちらこそ扉の鍵をかけ忘れるなんて、本当すいません。それも中まで掃除して頂いて感謝しかないです」

 

 素直に謝罪をするのであった。

 清辻、しかして鍵をかけ忘れたのはこちらのせいだしと深くは気にしていないのか。はたまた黒雨の珍しい姿が見れた事が嬉しいのか怒ってる様子もなかった! 純粋過ぎるぞ清辻!

 

「い、いいのよ。実は昨日の夜怪我した清辻君を見かけちゃって、それで心配になってね。その傷じゃ普通に暮らすのも大変でしょ?」

 

「え……あ」

 

 黒雨の清辻へ向ける目には確かな憂慮の表情があった。

 

 そうだ、俺は昨日も怪人に負けてしまった。誰かがあの怪人を倒してくれたから良いものも、本来ならサンダーヘッドが倒れたなら自分が最後の砦の筈だった……それなのに自分はサンダーヘッドが弱らせた怪人相手に最後の最後で負け、あまつさえ管理人さんに心配までかけて……! 

 情けなさに思わず手を握りしめ、脳内で自分を責めてしまう清辻。そんな自己評価の低い清辻に黒雨はというと、

 

「――もう! ほら暗くならないの! どんな理由かしらないけど怪我したのはしょうがないじゃないの、ほら入って入って!」

 

「お、うぉっ!?」

 

 他人の家だと言うのに彼女の方から清辻を家に引きずり込み、あれよあれよ彼をと畳の上に楽な格好で座らせるのであった!

 これから一体何が始まるのか、と体を硬くして待っている清辻に黒雨が持ってきたのは救急箱!

 

「やっぱり。包帯とかよれちゃってるじゃないの……ほら、脱ぎなさい」

 

「ぬ゛ぅぅっ!?」

 

 清辻! 本日二度目の衝撃に見舞われる!

 まさか……まさかまさか、女性の前で脱ぐなんてそんな事許されるのか!? いや許される訳がない! そんなピュアハート(どうてい)な清辻は両手どころか全身で反対であるとジェスチャーするが、黒雨は全く意に介さない!

 

「どうせ腕だけじゃなくてお腹や背中にも傷があるんでしょ、おばさんそういうの分かっちゃうんだからね」

 

「い、いえ怪我なら自分で治療出来ますので、そんな管理人さんのお手を(わずら)わせるまでも……っ」

 

「もうここまでお世話したら一緒よ一緒。ほら脱ぎなさいな……あ、片手(ふさ)がって脱ぎにくいわよね。ならばんざーいってしなさい」

 

「い、いやいやいや……本当大丈夫ですって悪いですって! それに管理人さんこそ家の家事があるんじゃ!?」

 

「大丈夫よ、娘は寮生活だからいないし。おばさん伊達に主婦とかやってないし私も昔よく怪我したから治療ぐらい手慣れてるから……ね、万歳して」

 

「じ、自分もよく怪我するんでこういうのは手慣れてますしっ、ちょ、管理人さっ、待っ力強っ!?」

 

「手慣れて、手慣れてるって……手慣れてるって言ってるだろバンザイしろコラァっ! 万歳ッ! バンザイッ!!!」

 

 これはひょっとして万歳じゃなくて――犯罪なのか!?

 

 二人の問答と抵抗の板挟みで、既に清辻のTシャツは千切れんばかりに伸びている!

 そんなお粗末な格闘の結末は、最終的に力負けした彼がねじ伏せられた状態で上半身裸にされてしまい、顔を手で覆って羞恥に耐えるという悲劇であった! おぉ清辻よ、立場が逆なのではないか!?

 

「ふぅっ、ふぅっ……へへっ、手こずらせやがって……! って」

 

「せ、せめて優しく……っ」

 

「……お、おほほほ。ごめんなさいね清辻君! おばさんちょっと調子に乗っちゃったかもっ!?」

 

 今までの事は忘れてね、と仕切り直しに座らせた清辻を、黒雨は救急キットを使って丁寧に治療していく。流石に言うだけあってその手際は確かな物。彼女は清辻の患部を余すこと無く消毒、包帯や絆創膏を貼っていく。

 清辻はその間に痛みに顔を(しか)めたり――する余裕もなく、ただただ顔を真っ赤にしてこの極楽とも地獄とも言える時間を耐えていた!

 

「やっぱり背中も酷いわね……当然といえば当然だけど打ち身が多いわ、骨が折れてないのは幸いそうだけど……ヒビとか入ってなかった?」

 

「はひ……っ!」

 

「普通なら入院してもおかしくない傷なんだから……今日の所はお風呂入っちゃ駄目よ? いい?」

 

「いひィ……っ!」

 

(め、滅茶苦茶いい匂いがする上に……柔らかい……っ!)

 

 清辻は人生のほとんど全てをヒーロー活動に注いでいるヒーロー馬鹿一代ではあるものの、人並みの欲が無い訳ではないし、むしろ女日照りである! 今の彼の鼓動は敵怪人と戦うよりも強く高鳴り、黒雨のキメ細やかで柔らかな手が体を這い回るたびに、言語化しづらい謎の吃音(きつおん)を口から漏らしてしまう始末!

 いっその事傷口を抉って痛みに悶えさせて欲しいと思ってしまうのは女々しい事なのだろうか! 自分の筋肉の筋に沿ってなぞったり、その硬さを確かめるような彼女の指先に、彼は鋼の精神を持って耐えねばならなかった!

 

「……うんうん」

 

「あっ、あっ、あのっ……管理人さんその」

 

「……はぁ……うん、いいわね……うん、いい……」

 

「あのっ、も、もう治療は終わって」

 

「うん……まだ終わってないから我慢して……」

 

「でも包帯も巻き終わっているようですし……」

 

「我慢よ、我慢……いいから我慢……」

 

「消毒も終」

 

「うるせえ我慢しろってんだ、今マッサージしてんだからさぁ……ッ」

 

「ひぃん」

 

 ――急に凄み出す彼女に、清辻はもう何も返すことが出来ない!

 自分にできることはただご厚意に甘え、ひたすら我慢することだけである!

 そう覚悟を決めた清辻であったが、突如その時間は終わりを迎える事になった!

 

 

「――きゃっ!?」

「――うわっ!?」

 

 

 アパート全体を揺るがすような巨大な音、そして振動!

 揺れとしては大したことがないが、その音の発生源は近い! そして他ならぬ発生源はこの部屋のすぐ扉の先であると推測出来ていた!

 

 清辻も黒雨も驚きに二人で顔を合わせ、そしてすぐに扉を開けて外を確認してみれば……。

 

 

「うわっ……これ、これってまさか」

 

「あぁぁ……例のアレみたいね……」

 

 

 家の扉を囲うように置かれていたのは、急にどこから現れたか大量の段ボール箱であった!

 ドッバャチメ社のロゴが書かれた家庭用ストーブが入りそうな程の大きさのダンボールが、少なく見積もって10箱以上積み重ねられており、丁度足元には便箋らしき何かが置かれていた!

 

 清辻は唾を飲み込み、恐る恐る足元のそれを拾い、中の手紙を開き――そして小さく悲鳴をあげた。

 手紙は可愛らしい子犬がデザインされているというのに、その犬すらも埋め尽くさん限りの小さな文字がびっしりと記されていたからだ。

 

『ヒーローガキーン様へ。夏の入道雲のように益々ご隆盛の事とお(よろこ)び申し上げます。いつも貴方の戦いをハラハラしながら応援させて頂いております。前回の戦いは誠に残念ながら後少しという所で負けてしまわれましたが、過去一番追い詰めた試合であると実感しております。その証拠として2019年2月21日の怪人『バリューパッカー』との戦いで初のお披露目となったロイヤルフレートブースターパンチ、今回の怪人『ゲキカラバリバリ』が煎餅の体であることを考慮すれば致命的な一撃になった筈の必殺技、そのタイミングが繰り出す事34回目にしてようやく戦いの流れの中で自然と出せていると客観的に見て感じているためです。ただしそれでも成長は微々たるもので、貴方には足りない物があります。それはスタミナ、耐久性、スピード、力、カリスマ、予測力、デザインセンスぐらいですね。特にデザインセンスはいつ見ても壊滅的です。コレは持って生まれた才能であるため仕方がない部分はあるかもしれませんが。さて、今回の戦いでは過去3番目に迫る程の傷を負ったかと思いますが大丈夫でしょうか。頭部を中心に前頭筋、口輪筋。後は腹横筋、腹直筋、外腹斜筋辺りに打撲痕が出来ているのではと推測しています。更に右第三肋骨~右第五肋骨は最悪罅が入っている可能性があり、足は恐らく捻挫しております。どの怪我も放置は良くないので違和感があれば同封したカプセルをお飲みすることを推奨致します。数時間で全ての傷が治ります。また、つまらない物ではありますが、もしかしたら食傷気味かもしれませんが『激辛堅焼きお煎餅』を用意させて頂きました。12箱はありますのでほぼ一年は食べられると存じ上げております。またそれ以外にも前述した試験医療用カプセルγ-46と、正体は開かせないですが和牛よりも美味しくて舌の上で蕩ける、とても体に良い培養肉。また差し出がましいですが壊れたガキーン様のスーツに使えそうなパーツとして、生体超合金ライディアップを僅かながら同封させて頂きました。ご笑納頂ければと思います。次回以降も変わらご活躍を期待しておりますのでよろしくお願いします。さて話は代わりますが丁度二時間ほど前、貴方の部屋の前をうろちょろしている不埒な輩が確認出来ました。どうやらこの荘の大家のようですが、その雌は合鍵で勝手に部屋に侵入したことからガキーン様に付き纏う害虫であると断定出来ます。お気をつけ下さい。ただご安心下さい。不詳この私めがついておりますのですぐにそのクソ虫も近日中に取り除いてさしあげます。ご朗報をお待ち下さい。P.S.いい加減その女に体を触らせるのを辞めてすぐに全身を消毒してください。これは貴方の為に言って――』

 

「清辻君、すぐに捨てちゃいましょう。それは受け取る必要はないわ」

 

「……あ、は、はい」

 

 文章は丁寧かつ達筆であるのに怨念が籠もっているのかと勘違いするほどの熱量に、逆に寒気を感じた清辻だったが、そんな手紙を横から取り上げた黒雨は遠慮なく破り捨て。彼女に主導される形で玄関前のそれらを粗大ごみに送り出すことを決定したのだった!

 

 

 

「じゃあ後は捨てておくから、清辻君は安静にしておくこと。良いわね?」

 

「すみません、ありがとうございます」

 

「あ、どうせ外に出るのも大変だろうから冷蔵庫には料理も詰めておいたから食べてね」

 

「は、はい、どうもです」

 

「洗濯物は一応洗ってないものとか全部干しておいたから」

 

「本当に頭が上がりません」

 

「掃除機かけたし、窓も拭いたし、後やってない物とかは」

 

「もう無いはずです! 大丈夫ですから! 本当にありがとうございますっ!!」

 

 何から何まで、どこまでも世話してくれた黒雨に清辻はヘッドバンキングの勢いで感謝を表し、彼女は最後まで名残惜しそうにしながらも彼の住処を後にしたのだった!

 

 ようやく静寂を取り戻した彼の家。

 一人残された彼は一息つけたと言わんばかりに溜息を吐いた。

 しかして視界に入るはいつも以上に清潔になった部屋に、漂う甘い柑橘類の香水と思われる残り香。

 今日はずっと黒雨さんの姿を思い浮かべて仕方ないのかもしれない、と彼はドギマギするのだった!

 

 

 

「はぁ、グラビィさん俺――何か駄目になりそうです……って、あれ。何でポスターが裏返しになってるんだ……?」

 

 

 

 




「……しかも何かTシャツが一枚足りないような……」


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良眠! 怪人『低反抗マクラン』! ガキーン深い眠りにつく!?(前編)

ランキング乗って嬉しい…嬉しい…
今後も頑張って書きますゆえ


 ピーン、ポーン♪

 

「はーい」

 

 閑静な住宅街、とある一軒家に響いたチャイムの音に住まう人妻、佳代子が声で応じた。

 そろそろ夕飯を迎えようとした矢先のインターホン、エプロンのままの彼女が玄関を開けて目にしたのは――、

 

「夜分遅くにすみませんスヤ~、メチャバッド団ですけれども~、いつもお世話になっておりますスヤァ~」

 

「あらあらメチャバッド団さん~、どうもこんばんわ~」

 

 縦にした巨大な枕を胴体とし、そこから黒い両手両足が伸びたぞんざいな体つきの怪人であった! 頭をぺこぺこと下げ、腰の低い挨拶をした彼に、佳代子もまた優しく応じる。

 

「すみませんねぇ奥さん、夕飯の準備中でしたかスヤ~? 今って大丈夫でしたでしょうかスヤァ~」

 

「えぇ、構いませんよ~。もうすぐ料理も出来上がるので、もし良かったら一緒にどうですか? 怪人……えっと」

 

「あ、私怪人『低反抗マクラン』と申しますスヤ。ありがたいお言葉ですが私、枕な物で飲食物はちょっと駄目で……」

 

「あらぁそうよね……私ったらごめんなさいね、さ。上がって上がって」

 

 和やかに応対を続けた彼女は、怪人マクランを警戒もなく家に上げ、お邪魔します、とこれまた丁寧なマクランは、片手にぶら下げていた手荷物を佳代子に渡した!

 

「いつもいつも本当にすみませんスヤ。これ、つまらない物ですが組織の方から……」

 

「あら~、まあまあまあまあ! 松坂牛の詰め合わせセット! いつもいつもありがとうございます~、私も家内も大好物ですわ~」

 

「いえいえ、毎度騒がせて頂いていますので。佳代子さんのお陰で私達もこの包丸町に驚異を知らしめる事ができるスヤぁ……」

 

「メチャバッド団さんも大変ねぇ毎週毎週。頑張っていらしているようですけれども……今度こそ征服出来るといいんですねぇ」

 

「ははは、こればっかりは簡単には行きそうにはないですが誠心誠意頑張らせて頂くスヤ~、あ、今日は寝室で大丈夫でしょうかスヤ?」

 

「えぇ、枕ですものね。勿論構いませんわ」

 

 誘導される形で寝室まで移動した佳代子と怪人マクラン。寝室についた二人は、お互いに目配せをしあい、片やマクランは準備運動とばかりに両手、両足を伸ばしてストレッチ。佳代子さんは「マ゛~、マ゛~、マ゛~」と喉を震わせ、発声練習をし――そして!

 

 

「――キャアアアアアアッ!」

 

 

 改めて閑静な住宅街に絹を切り裂くような声が突如広がった!

 平和な一家、その主婦の和やかな一時! それはまたしても消滅しまった!

 

「イヤアアアアッ! 枕の質感がいつもよりふわっふわになっているわーッ、どうしてーッ!?」

 

「スーヤスヤスヤスヤッ、今どきそば殻枕を使う時代遅れな人間めぇっ この低反抗マクラン様が頭がずっぽり埋まってしまうような低反発の材質に変えてくれるスヤッ!!」

 

 家事の合間合間に昼寝するのが大好きな専業主婦、佳代子は絶望した!

 自宅の寝室に侵入した、枕型の謎の怪人がいきなりそんなことをのたまったのだ! これは堪った物ではない!

 

「これから街中の枕をふっかふかにして、ぴったりフィットした枕から一生抜け出せなくしてくれるスヤヤヤーッ! 玄関はどこだ奥さんンンッ!」

 

「いやあああぁっ、あふぅ……突き当りを左ですぅぅ……」

 

 枕にすっぽりハマって気持ちよさそうに惰眠を貪り始めようとする佳代子を置いて、お邪魔しました、と礼も忘れず家を出ていく怪人『低反抗マクラン』!

 そして隣の家の玄関にチャイムを押してから侵入すると、再び家から悲鳴があがった!

 

 この怪人の目的は先述した通り住民の持つ枕の軟質化! このまま奴をのさばらせていては包丸町は全員ふわっふわの枕で眠りを強制され、硬い材質を好む住民はぐっすりと眠ることも出来ず、不眠に悩まされるだろう!

 

 無秩序に暴れる怪人、響き渡る悲鳴の連鎖!

 

 力無き一般人では謎怪人相手に抵抗などできる筈もなく、このまま包丸町が『ねむるまち』というキャッチフレーズの格好の例にされてしまうのを、のうのうと眺めるしか無いのかと市民が絶望しかけた――その時だった!

 

「っだオラァァァッ!」

 

「スヤヤヤァーッ!?」

 

 突如黒い影が町中を駆ける低反抗マクラン(長いので今後マクランと略す!)に飛びかかった!

 一般人か!? はたまた新たな怪人か!? いや違う!

 古びた軍手に、使い古したボロッボロの緑色のジャージズボン、同じく緑色のジャージの上着! ホームセンターの安全靴に膝パッド! 以前よりも灯油缶らしき形跡がなくなりつつある、ボロッボロのヘルメット!

 そんな不思議な出で立ちの謎の人物が奴に飛びかかったのだ!

 

「なんだぁ、貴様ァ! このマクラン様に歯向かおうと言うスヤーッ!」

 

「うるせえ枕野郎が!! よりによって睡眠の(かなめ)である枕を柔らかくするなんて……いや、それって実はいい事なのか!?」

 

 ノリで飛び蹴りを見舞ったその謎の人物! 口調の悪さにあるまじき常識的な思考に、為すすべなく見守っていた一般市民が叫ぶ!

 

「あのあんまりなコスプレは――!」

「お、お前――クソダサ仮面……なのか!? あの学芸会みたいなコスチュームはどうした!?」

「芋ジャーだ!」「芋ジャー仮面だ!」

 

「うるせーッ! 芋ジャーってよぶんじゃねえ、それならまだクソダサ仮面の方がマシだ! っていうか俺はヒーローガキーンだ!」

 

 そう毎度お馴染み。包丸町非公認ヒーロー、『ヒーローガキーン』である!

 前回の激しい戦いで自作スーツが破壊された彼は、急遽(きゅうきょ)町を襲いかかった怪人にいてもたってもいられず、ヘルメットだけ被って残りは高校から使い続けている芋ジャージに身を包んで飛び出してきたのだ! その心がけは立派だがいささか無謀が過ぎないか、ヒーローガキーンよ!?

 

「俺は低反発枕好きだから割と嬉しい感じだけどなぁ、買い替えずにすんでラッキーっていうか……」

 

「俺は硬いのが好きなんだ! あんな柔らかいのじゃ寝心地が悪いし、首が()っちまう!」

 

「っていうかあのクソダサジャージ、隣街の鳥頭高校のじゃね? お前、やっぱり地元民(ジモッティ)なんだな……」

 

地元民(ジモッティ)だよ、悪かったな! っていうかなんだか賛否両論だな……実はこいつ懲らしめなくてもいいんじゃ、フゴッ!?」

 

「スヤヤヤヤーッ!! ヤーッハ!」

 

 賛否分かれる怪人被害に首を傾げたガキーン! しかし突如振るわれた怪人マクランの不意打ち気味な『軟質右ストレート』が彼の顔を捉えた!

 『もふっ』と言ういつもの攻撃より遥かに柔らかな衝撃音しか出せないその一撃に、彼は思わず声を漏らしてしまう!

 

「う、おぉぉ……や、柔らけえ……なんだこの材質、しかもメッチャいい匂いが……! こ、これ柔軟剤を使って……!」

 

「スーヤッヤッヤッ、馬鹿めが、柔軟剤など一切使っておらぬスヤーッ! この低反抗マクラン様の体は従来の低反発枕の150%以上の衝撃吸収力と、爽やかなシトラスミントの香料が含まれている! また洗剤に●ールドを使うことによって柔軟剤を使わなくてもふわっふわな質感を再現! このまま貴様を安眠に導いてやるスヤーッ!」

 

「うおっ、おほ……おぉっ、おっ……! おぉっ……!? おーっ……?」

 

 もふっ、もふっ、もふんっ。

 ふわっ、ふわふわっ、ふわりっ。

 

 ぽふぽふもふもふとした間の抜けた音を響かせながら、怪人マクランの一撃一撃がガキーンに見舞われる!

 一発ごとの幸せの攻撃が衝撃的過ぎて、一発を許してしまえば勝手に体がリラックス! そこに次の攻撃が更に当たって追加のリラックス! 負の連鎖によりガキーンはろくにガードをすることも出来ていない! 

 あぁ、服越しとは言え異常なまでの柔らかさに否応なくリラックスしてしまうガキーン、これは、これはもしやピンチの光景なのか!?

 

「お、おいおいおい、クソダサ! 眠るんじゃねえ!」

 

「なんか羨ましいな……あんな立ったままでも眠れそうになるくらいなら俺も……」

 

「しっかりしろ! そば殻や、パイプ系、ビーズ枕の良さを忘れるな! あの硬質枕の良さを捨てるなんてとんでもねえだろ!?

 

「あ、あぁ、あぁぁぁ……っ」

 

「スーヤッヤッヤ、トドメだ……眠れ、眠るがいい……貴様も疲れているだろう、この『マクランホールド』で我が腕の中で熟睡するがよい……っ」

 

 怪人の見た目以上にしっかりして、かつ柔らかな腕。そして何もかもを受け止める枕の体がガキーンを包み込んで行く!

 恍惚の声をあげて抵抗の出来ないガキーン、このままでは怪人の言う通り、立ったまま腕の中で安らかな眠りについてしまうという稀有な光景が目撃されてしまう! 絵面的に怪しくないか!? ヤバイぞガキーン!

 

「フンッ、ミネルヴァ様から聞いておったが……期待外れだな、この街のヒーローはやっぱり大した事ないスヤッ! さぁ次はどいつを寝かしつけてやろうスヤァ……?」

 

「ひぃっ、に、逃げろ逃げろ!」

「そ、そういえばサンダーヘッドはどうした!? どうしたっていうんだ!?」

「駄目だ、サンダーヘッドは怪我して入院中だってニュースで言ってただろ!」

「も、もうおしまいだぁ!」

 

 高みの見物をしていた住民も大した活躍もなく眠りこけたガキーンより、頼みの綱であるサンダーヘッドが絶賛入院中である事を知って逃げ惑う!

 あぁこれでは包丸町を守れる存在が居なくなってしまったではないか! 危うし包丸町! 平和の行方はいずこへ!? 

 

 

 ――しかし安心して欲しい!

 ヒーローを自称するガキーン、この程度で折れる弱い心を持っていない!

 

「……すやすや」

 

「くっくっく……深い寝息まで立ておって、このままもっと眠れるように地面に布団をつけて寝かしつけてやるス」

 

――あごぼっ

 

「す、スヤァァーッ!? お、おい誰だ今石を投げたのはーっ!」

 

「ギャハハハ! 命中ー!」

「た、たっくんまずいって、怪人だよ?」

「大丈夫だってヒロキ、お前びびりだなぁ……別に怪人じゃなくてあのダサヒーローに当たったから平気平気!」

 

「ぐ、おぉ、おぉぉぉぉ~~~……っ!?」

 

 唐突に横合いから飛んできたのは小石! 近所の子供が好奇心全振りで投げたそれは怪人ではなくガキーンの頭部にクリーンヒット! 軽妙で小気味の良い金属音が反響し、寝こけていたガキーンが悶絶の声を上げ、眠りから覚めた!

 時に偶然すら味方につけるとは流石ヒーローといった事か! さぁ起き上がれガキーン、平和を取り戻す時間だぞ!

 

「な、なななんてガキだスヤ! 寝ている奴に小石を投げちゃいけないって学校で習わなかったスヤァ!?」

 

「はぁ? うっせバーカ! ヒーローなのに、ぷぷっ、勝手に寝ちまってるそいつを起こしただけだろーが!」

「たっくん、ガキーンだよガキーン。ヒーローガキーン」

 

「うわっ、また石を投げて……貴様の両親に怒って貰うスヤ……スヤヤヤッ!?」

 

「ぐ、おぉぉぉっ、すっ、すまない少年。君の言う通りだった! 戦闘中に寝てしまうなんて、不覚も不覚! 助かったよ!」

 

 怪人が気を取られている内に腕の中から暴れて脱出したガキーン! 投石のお陰で割といい感じにヘルメットが凹んで、頭部は二日酔いのように痛みを覚えているが、彼も大人だ! 怒りなんて覚える訳もない!

 

「ギャッハハハハッ、見ろよヒロキー! 頭凹んでるぜ頭っ、じゃがいもよりボッコボコ! 感謝しろよクソダサ仮面ー!」

「た、たっくんまずいよぉ……あのおじさんも少ない予算で頑張ってるんだからさぁ……」

 

「……た、助かったよ……そ、それよりも君達は早くここから逃げないと!」

 

「え、やだよそんなの。だって枕の怪人だろー、そんなの怖くなんかなんともねーもん。なーヒロキー」

「あ、う、うん……ま、枕だもんね、多分きっと眠くなるだけだし……」

 

「き、君達ねぇ……」

 

「大体ヒーローなんだからさっさと倒せよなーそんな奴ー、ほら早くしろよバーカ。たったかえっ、たったかえっ」

 

「あぁっ、はは、はははは――……っ!」

 

 そう、ガキーンは今年で36になる大人だ、怒りなんて覚える訳がない!

 手拍子と共に小学生年少の少年、タクヤが心底小馬鹿にした歌を歌っても、ただただ大きな心で許している! 流石ヒーローだぞ!

 

「ザーコザコザコ、ザーコザコザコ雑魚仮面~、雑魚怪人~♪ どっちも雑魚雑魚早くたおれろ~♪」

「た、たっくん、駄目だよぉ……たっくん……」

 

「むき、キキキキィッ……! おい貴様、共闘してあのガキに世間というものを見せてやるぞ!」

 

「気持ちはっ、気持ちは死ぬほど分かるがお前は、怪人! 俺はっ、ヒーローだっ、さぁやるぞっ! ――とぅァッ!」

 

 怒り心頭の二人、しかしどうしようもなくヒーローであるガキーンはもう彼らの事は忘れて戦う事にした! その方が精神衛生的には格段に良いからだ!

 まずは先手のガキーンハイキック! 空手を習っていた彼の蹴りは、そこそこに威力がある!

 しかし怪人マクランはガードすらしようとせずただ無防備に(たたず)むのみ。コイツ、なぜガードをしない!?

 

「スーヤッヤッヤッ! 効くわけがないスヤァ!」

 

「何ッ!?」

 

 ――それは奴が防御力に絶対の自信を持っているからである!

 奴の体にめり込んだ蹴りはしかし、怪人の顔色を変える事すら叶わない!

 

「このマクラン様の体は全て低反発、衝撃など全部吸収してくれる、最強のボディという事よッ」

 

「ぐっ、打撃対策ばっちしって事か……!」

 

 ただでさえ格闘中心スタイルのガキーン! コスチュームもない状態ではろくなダメージも与える事が出来ない! 彼は一方的な展開になることを予想してついに冷や汗を流してしまう! あぁ、一体どうすれば奴に有効打を与えられると言うのか!

 

 

「……うーん、ガキーン様のコスチューム直ってなかったかぁ……! レアな光景だけど、ちょっとこれはまずったかなぁ……」

 

 少し離れた場所、少年らとは別に戦いを見守る少女が一人ごちる!

 ガキーンの苦戦する様を三脚つきカメラで監視しながら、冷静に状況について述べている!

 

「流石に前回怪我したから弱めにしようとしたんだけど、まずったなぁ……ガキーン様相性悪悪じゃんね、んー。でも直近で出せる怪人であれ以下ってなるといないしなぁ……あーでも、いいね。アーマーつけてないから体のラインが良く見えるし、コレ結構いいのでは? あっ、背中からお尻のラインっ、()えるッ!! 芋ジャーは残念だけどいいっ! キレてるキレてるっ! とりあえず出させるだけ技出させてそれをパシャってから考えようかな――あっ、ガキーン様ファイトッ! 蹴り技が一番いいですよ蹴り技っ! 主に私の撮れ高目線で100点満点ですっ!」

 

 

 ボスっ、ぽふんっ、ボスッ、ぽふんっ、と全く迫力のない音が響き渡る中、いつもの黒髪お下げの少女の応援だけが町の一角に声高に響いた!

 あぁ彼女だけがこの場の味方! たとえ困難な状況であれ、応援する人がいるからこそ最後まで頑張ってきたのだ、負けるなガキーン、頑張れガキーン! 彼女の目は常にガキーンを見ているぞ!

 

 

「そこのねーちゃん、何してんだ?」

「た、たっくん人の事指差しちゃ駄目だよ……多分、あの人はガキーンさんのファンじゃないかな……」

「えぇーっ!? あのクソダサヒーローのファンなんて居たのーっ!? ばーっかみてぇ!」

 

 

「……あ゛?」

 

 ――いや、今しがた彼女の目が少年を捉えたぞ!

 無神経な少年の言葉に輝いた目を一気に暗闇にまで光度を変更させ、深海魚もかくやの濁った目で見つめ始める!

 

「あいつ、一度も怪人に勝った事ないだっせーヒーローなんだぜ、それに見た目もだせーし、弱いしー。サンダーヘッドみたいに武器もないしで駄目駄目じゃんかよー!」

 

「ぐぉっ、おぉっ、ぉうっ……うふぅっ!」

 

「な、何もしてないのに何で呻いてるスヤ!」

 

 急に横合いから飛んできた言葉のナイフに、攻撃された訳でもないのにガキーンが呻き声を上げる! それに気づかぬ少年タクヤは朗々と自分の話をし続ける!

 

「やっぱサンダーヘッドが最高なんだよなー! サンダーヘッドが入院なんて信じられねー、なんでこいつが入院しなくてサンダーヘッドがしてんだよぉー、やーい、雑魚ひーろーっ、つかコスプレやろー! さっさと負けちまえーっ!

 

 そんな彼の話の最中、黒髪おさげの少女がゆっくりと少年らに歩み寄る!

 その表情は勿論笑顔だ! まるで彼岸花を思わせるような心からの満開の笑み! 重力場を発してもおかしくない、尋常ではありえない程の強い想いを元に動く彼女が、ガキーンよりも何よりも少年らを優先しだすというのは奇跡に近く、片割れの少年ヒロキが、近づく少女を見て思わず小さく悲鳴をあげた! 彼女は一体何をするつもりなのか!?

 

――ころ

 

「す、すまないお嬢さん!! 唐突だがそこの少年達をどこか安全なところに保護してやってくれないか!?」

 

 指先を今まさに少年らに向けようとしていた少女の動きがピタリと止まった!

 そうしてギリギリと油をさしてない錆びた人形のようにゆっくりと振り向くと、怪人と取っ組み合いを続けるガキーンに向けてどこか悲しそうな表情を見せる!

 

「が、ガキーン様、もしかして……保護するというのはこのガキ共をですか……?」

 

「そうだ!」

 

「ど、どうしても、どど、どうしても保護しないと駄目ですかっ? く、くびっ、くびりころっ、ころころッ、だだ、だめですかぁっ?」

 

「ころころ……? そうだ、本来なら君も逃げなきゃいけないんだがね! 頼れるのが君しかいない!」

 

「い、いくらガキーン様でもっ、そのお願いはっ……!」

 

「俺の弱さのせいでこんな事になって申し訳ないが……お願いだっ、お嬢さん。君だけが頼りなんだ――!

 

「――はうっ!」

 

 最後の一言が決め手となったようだった!

 思わず胸を抑えてうずくまった少女! しばし耳に残った余韻を楽しみ、口の中で発言を反芻(はんすう)して楽しんだ彼女は、やがてすっくと立ち上がり、「へっ」「えっ?」二人の少年を器用に抱きかかえると!

 

「さぁ少年たちよ、お姉さんと一緒に安全な所まで行きましょうね~」

 

「お、おいこのやろ、何しやがんだ! 離せよ!」

「う、わわわ、早い! 早いよお姉さん!」

 

「ふふふ、言ったでしょ? ガキーン様の言う通りここは危ない所なんだから、ちゃんと親元まで送ってあげる♪ 早く戻りたいから秒で届けるわよっ♪」

 

 少年らの悲鳴を残して疾風の如く曲がり角へと消えていった!

 地に足がついてないような感じ、というより実際に地に足をつけずに移動していたような気がしたが、それは気の所為だろう!

 何はともあれ少女らが全員避難したのをを見てほっとするガキーン――しかし、安心するのはまだ早いぞ、何故ならまだ戦いは終わっていない!

 

「スーヤッヤッヤッ、戦闘中によそ見とは余裕スヤねーッ!?」

 

「うごっ!? や、やわらけぇ、くそぉっ」

 

 ついつい気をやってしまったガキーンの無防備な腹、頭、腕に瞬く間に右左右の軟質マクランコンビネーションが決まる!

 その一撃で体から力が抜けるのを感じ取り、まずいと思ったガキーンが慌てて距離を取ろうとするが――あぁなんという不運か! ガキーンの丁度足元には小石が!

 

「どわぁっ!?」

 

「スヤヤヤヤーッ、馬鹿めーっ、自分から地面に寝転がるとはっ、今だっマクランプレス~~~~~ッ!!!」

 

「ぐ、おぉ、おおおぉぉぉおおぉ~~~ッ!?」

 

 そして怪人マクランの全身ふっかふかボディが間髪入れずにガキーンの上に覆いかぶさった! 柔軟剤を使わずに再現した羽毛以上に柔らかく、突き立てのお餅のようにふんわりとした極上枕の質感にガキーンの全身から刻一刻と力が抜けてゆき、暴れようにもろくな力が入れられない!

 

「このマクランプレスで10秒眠らずに保った物はおらんスヤ~~~ッ、10~~9~~8~~7~~ッ」

 

「や、やめろーっ、()にたくない~っ! ()にたくない~っ!」

 

 絶対絶命のピンチに、ガキーンはとうとう悲鳴を上げてしまう!

 急速に失われてゆく力、増していく眠気! サンダーヘッドは来ることはなく、応援する者も居ない孤独な状態で、このままガキーンはすやすやと眠ってしまうのか!?

 

 危うしガキーン、危うし包丸町!

 過去最大のピンチ、一体どうなってしまうのか!? 次回を座して待て!

 

 

 



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良眠! 怪人『低反抗マクラン』! ガキーン深い眠りにつく!?(後編)

 前回までのあらすじ:
  強敵との戦いに明け暮れるガキーン。直前の戦闘によってアーマーすら用意出来ず、上下ジャージ姿で怪人『低反抗マクラン』との戦いに突入したが、やはり苦戦を強いられてしまう!

  守るべき市民たちを逃がす事に成功したものの、低反抗マクランのマクランプレスにより押し倒されてしまうガキーン! このままガキーンは抵抗むなしく眠ってしまうのか……!?


 

 

「このマクランプレスで10秒眠らずに保った物はおらんスヤ~~~ッ、10~~9~~8~~7~~ッ」

 

「や、やめろーっ、()にたくない~っ! ()にたくない~っ!」

 

 絶対絶命のピンチに、ガキーンはとうとう悲鳴を上げてしまう!

 急速に失われてゆく力、増していく眠気! サンダーヘッドは来ることはなく、応援する者も居ない孤独な状態!

 どんな苦境も根性で耐えてきたガキーン! しかし人の根源的欲求である睡眠に付け込まれれば、如何にガキーンと言えども抵抗は出来ない!

 

 進むカウントダウン、反抗していた手足は柔らかな布団に抑え込まれ、意思と共に声も弱まる! そして、そしてついに恐れていた事態が訪れてしまう――!

 

「3~~2~~1~~っ……0だァ……♪」

 

「ぐ、あっ、あっ……あ………………」

 

 布団からはみ出していたガキーンの手からこてん、と力が抜けてしまう! そして彼の口からは苦しみにもがく声が出る事もなく、代わりに出るのは健やかな寝息のみ! 

 おぉ、何ということだ……! ガキーンは、ガキーンはついに睡魔という魔物に負けてしまったのだ!

 

「……すやすや……」

 

「フンッ、雑魚の癖に粘ったスヤねぇ……だがこのマクラン様の秘奥義に耐えられる訳もないスヤ、残当って感じスヤねぇ」

 

 ヘルメット越しに聞こえた寝息を持ってようやくその体をガキーンからどけて立ち上がり、怪人は愚かにも眠ってしまった目下のヒーローを鼻で笑う!

 そして地べたで寝こけるガキーンの横で懐から飛び出した敷布団と掛け布団を展開すれば、ガキーンを布団に寝かしつけて満足そうに(うなず)いた! 

 なんと悪辣(あくらつ)な手口か! 路上で快眠を貪るガキーンを住民に見せつける事で、『ヒーローは無力! 次は貴様がこうなる番だ!』と知らしめるのだ、住民の恐怖心は否応なく上がるに違いない!

 

「さぁーて、今やサンダーヘッドもおらぬ事スヤ、今のうちにそば殻やパイプ枕を使う硬派ぶった住民共を、低反発の魅力にとりつかせてやるすやぁ……! スーヤスヤッスヤッスヤッ!」

 

 怪人は次なる獲物を探して街を闊歩(かっぽ)し始めようとしている!

 まずいぞガキーン! 今日も怪人を倒せずに市民を危険に晒してしまうのか!? しかし虚しくも響くは彼の安らかな寝息のみ、抵抗も反抗の意思もそこには感じられない!

 あぁ今日こそが包丸町最後の日という事か! もう絶望しかここには残されていないのだろうか!?

 

 

「スヤッスヤッ……へ?」

 

 ――突然、マクランの頭部すれすれを物凄い颶風(ぐふう)を伴って何かが通り過ぎ、そのまま地面に突き刺さった!

 疑問もそこそこに怪人がすぐ傍に突き刺さった物を確認すれば――それは、鉄パイプ! 配管用のパイプが、コンクリの地面に深々と突き刺さっているではないか!

 

「ちっ、外したかァ……」

 

「な、ななななっ、だ、誰だこんなことをしたのはーッ! 鉄パイプなんて投げて、当たったら死んでしまうスヤよーっ!?」

 

 突如、一角に聞こえ渡る女性のハスキーボイス!

 カラカラと、何かを引きずるような音を立てて、言葉の主はその場に現れる!

 振り返った怪人マクランが堪らず叫び、非難をしたその先に居たのは――!?

 

「あ゛? 怪人の癖に何ぬるい事言ってんだコラ。ヒーローと怪人つったら殺るか殺られるかだろうがよぉ……!」

 

「ひ、ヒーロー……!? き、貴様何者かァッ!?」

 

 サンダーヘッドなのか!? いや違う、この口調、姿、全くと言っていい程別人!

 

 片手にだらんとぶら下げたべこべこの金属バット!

 頭に被られた傷だらけの古びた学帽!

 ノースリーブの特徴的な黒の長めの学ラン(長ラン)を羽織り! 

 下は時代錯誤(はなは)だしい黒いだぼだぼのズボン(ボンタン)

 それらを包み込む体は高身長で、胸どころか腹までサラシに巻かれており、窮屈そうなサラシ越しでもそのバストが豊満であるのが見て取れた! 

 そして人を睨み殺せそうな程のガンを飛ばしてはいるものの、その顔は見る人全てが『若くはないが美人であるしぶっちゃけねんごろになりたい』と断定出来る程の美人である、黒の短髪の女性であった!

 

 その人物は、総じて一昔前のスケバンのような出で立ちと言えば分かりやすいか!

 しかし、しかしてそのコスチュームを包む体は非常に肉感的(グラマラス)! 人によっては『ヒューッ!』と口笛を吹いて(たた)えてもおかしくはないだろう!

 

「はっ、もう忘れた名だ。言う価値もねえ」

 

「価値がないかあるかはこのマクラン様が決める事スヤ!」

 

「勘違いすんじゃねえ、すぐに消えちまうお前なんかに教える意味がねえって言ってんだ――よッ!」

 

 学ランの女性は片手をポッケに、肩に金属バットを担いで大胆にも怪人マクランに間合いを詰めていく! そして見ため通りの乱雑さで右足に勢いを載せ、蹴りを叩き込もうとする!

 

 それを見たマクランは笑いを禁じ得ない! この物理特化の俺様に物理攻撃だと!? その傲慢さ、軽く受け止めてやると! 避けもせず体を張る!

 

「馬鹿め、貴様程度の攻撃――っお?」

 

――お、るるぁあッ!!

 

「お、おぉ、おおおぉぉぉお――――ッ!?」

 

 叩き込まれた蹴り! それがマクランの体に吸い込まれ、少なくない衝撃に周りに鈍くも重い音が響き渡る! その攻撃、やはり受け止められたかに見えた……しかし、実際は彼の低反発の体を持ってしても衝撃を逃しきる事は出来なかった! 怪人マクランは困惑を口から漏らしながら勢いよく吹き飛び、10m先の塀に体を叩きつけられる羽目になってしまう!

 

「っはァ! 貴様程度の攻撃が、なんだァ!? 次行くぞオラァッ!」

 

「ひっ、ちょ、ちょっと待つスヤ――スヤァッ!?」

 

 衝撃を逃しきれない程の一撃に慌てて体勢を立て直そうとするマクラン! しかし時既に遅し! いつの間にか間合いをつめていた謎の女性に首根っこを掴まれ、乱暴に押されたかと思えば直後に炸裂する右ストレート! 今度は反対側の塀まで吹き飛び、間の抜けた悲鳴が怪人の口から溢れてしまう!

 

「オラッ、バラバラになれコラァッ!」

 

「ひぎっ、ひっ!? ひぎっ、スヤ、スヤァアアァアーッ!?」

 

 殴る! 蹴る! 殴る! 蹴る!

 

 技術もクソもない、ただ乱暴な攻撃の数々! しかして尋常ではあり得ない程の膂力(りょりょく)が、打撃耐性のあるマクランに悲鳴をあげさせていた! 防御力が自慢の枕の体だからこそ今の所耐えているが、あまりの攻撃力についてこれないのか体の部分部分がほつれてきている! 

 このままでは本当に体がバラバラにされてしまうのではと危惧したマクラン! サンドバック状態から何とか脱しようと、小癪な技を披露し始める!

 

「枕でストレス発散をするんじゃないスヤァァッ!? 喰らえっ、必殺枕隠れの術ーッ!」

 

「んだァッ!?」

 

 おぉ! 怪人は腹部のほつれた部分を自ら引き裂いたかと思えば、自分の内臓とも言えるふわっふわの羽毛を、今まさに拳を振り上げた謎の女性にぶちまけたではないか!

 謎のスケバンもさしもの攻撃に一気に視界が奪われてしまい、振り上げた拳の狙いを間違い、塀に拳大の穴を開けてしまう結末に!

 

「ちィッ、舐めた真似しやがんじゃねえか!?」

 

「こ、こわっ!? なんだその威力、尋常じゃないスヤッ! ――しかし!」

 

 その威力と相手の迫力に身震いが止まらない怪人マクラン! しかしもうこの手しかないと覚悟を決めた怪人が次に取った行動――それは、スケバンに抱きつく事だった!

 

「はぁっ!?」

 

「く、くらえーっ、マクラン様のバックマクランプレスーッ!」

 

 一瞬の隙を突き、細い両腕でスケバンを羽交い締めにしたと思えば背面からその体を押し付け始める! 多少中身が出たとは言えその柔らかさは失われていない、彼女の背中に押し付けられた極上布団を思わせる柔らかさは間違いなくリラックスする効果を与えているようだ! 極悪な膂力を誇る彼女も少し眉根を和らげているぞ!

 

「こ、んのぉっ、離しやがれ、テメ、コラ……!」

 

「い、いやスヤ! 絶対に離すもんかスヤ……! 貴様こそさっさと眠ってしまえスヤーッ!」

 

 実は攻撃的手段を何一つ持たない怪人マクラン、実質コレがラストチャンス! 故に解けそうになるほど強いその腕力を必死に抑え込みながら体をぐいぐいと押し付けて相手にリラックス効果を与えてゆく!

 歪な羽交い締めによって彼女が胸を張るような格好になれば、サラシ越しでも弾けそうな2つの果実が今にも弾けそうに思えてしまう! おぉ、羞恥心も煽るとはやはり怪人! 許されるべき存在ではない!

 

 しかして怪人のリラックス効果、侮るべきものではなかった!

 与えられたリラックス効果は確実に女性の力を奪っており、あれほど解けそうな腕の力も今や十分に対抗出来るぐらいには弱まっている! そのため一転して女性は悔しげな声を漏らし始めたではないか!

 

「冗談見てえなっ、体してる雑魚の癖、にっ……! こ、このぉ……」

 

「く、ククク! 危ないところだったスヤァ、しかしその冗談みたいな敵に貴様は負けるスヤッ!」

 

 弱々しくなっていく抵抗! 彼女の吊り目がちの目も眉が落ちそうになっているのが見える! 怪人マクランは九死に一生を得、余裕が出て彼女を煽り始めた!

 

「さーぁそこの雑魚ヒーローと同じく眠ってしまうがいいスヤ! 散々痛めつけてくれた貴様に布団など用意してやらんスヤ! せいぜいあのヒーローと同じ布団に詰め込んでくれるーッ!?」

 

「まま、ママジかっ!? あ、いや、そんなの駄目に決まってんだろさっさと……くぅっ、マジでねむ……でもアイツと一緒になら……あふ……」

 

「スーヤッスヤッスヤッスヤッ、怪力馬鹿もこうなってしまえば簡単よぉ! さぁ遠慮せず眠れ……眠れ……」

 

「あ、あ……ぁ……クソ、出かける前にコーヒーとか飲んでおけば……」

 

 おぉ、折角明るくなった雲行きはまたも暗く!

 助太刀すらも意味をなさず、ガキーンともども仲良くお布団ですやすやしてしまうのか!

 

「……フンッ、やはり包丸町にろくなヒーローなどいないという事スヤ……ん?」

 

 ろくな抵抗もなくなった女性に対し、いまだ羽交い締めを続けるマクランがなにかに気付く。彼女の腹に巻かれたサラシ、それが解けそうになっている……! 暴れた事によりほつれてしまったのか、しゅるしゅると解けていくそれは、かなりキツク巻かれていたのか、抑え込んでいた物を見せ始めてしまう――それは!

 

「くっ、くく、スーヤッヤッヤッヤッ! なんだその()()()()()()はッ!?」

 

 ――女性への配慮を考え、言及は避けさせて頂く!

 しかしあえて一言言わせていただければ――それは少し()()()()()()

 サラシが腹まで巻かれていた理由を知ったマクランは、高らかに嘲笑を始める!

 

「人のことを冗談みたいな体と笑った癖して、貴様こそヒーローなのに冗談みたいな体してるすやっ! 人の事言えないスヤっ!」

 

「……」

 

「クク、ここまで痛めつけてくれた罰として貴様の腹が見えるようにわざとずらして布団を……え?」

 

 しかして勝利を確信し怪人マクランが羽交い締めをやめた直後、急遽力を取り戻したスケバンが目にも留まらぬスピードで彼の胸ぐらを掴んでいた!

 彼女はそして、ぼふんっ、とおでこを相手の顔に押し付け、自身の顔が間近で見えるように怪人を引寄せ始める!

 

――笑ったな?

 

「ひっ」

 

 ――震えている!

 

 怪人の言葉が、その手が、その体が恐怖によって!

 彼女の言葉が、その手が、その体が憤怒によって!

 

 一方は噴火しそうな程顔を赤らめ、一方は凍りつきそうな程顔を青ざめさせ、極限まで緊張を張り詰めさせ、やがて――

 

「……だ、大丈夫スヤっ。ぽっちゃりは別に悪じゃないすや。それを証拠にだ、男性はぽっちゃり体型の方が好きな人が多いスヤアアアァアアアアァアアアァアアああああぁぁア――ッ!!?

 

 ――その怪人の言葉を皮切りに、その緊張の糸は容易く切れてしまうのだった!

 

 言葉にするのも恐ろしい暴虐の嵐が怪人にだけ振る舞われる!

 叩かれ! (ねじ)られ! 抉られ! 引き裂かれ! 辺り一体に彼の内蔵(羽毛)が撒き散らされていく!

 あぁなんというショッキングな場か! あの平和な筈の道路が瞬く間に真っ白に染まっても――そして、その全身を白く染め上げても尚暴虐を止めない彼女の姿は、ヒーローとは到底思えない残虐性であったと言えよう!

 

 しかしてこれが女性の怒りという物! タブーに触れた存在への容赦や呵責など、そもそも存在していないも一緒! 諸兄らは切にこういった心無い発言は控えるよう心がけて頂きたい!

 

「ち、畜生ぉおぉぉぉっ、やっぱこんな格好しなきゃよかったぁぁぁぁぁ~~~~~~ッ!!」

 

 そして物言わぬ羽毛と布切れが撒き散らされた場所で、ようやく我に返った謎のスケバンは両手で真っ赤になった顔を覆い、羽毛と撒き散らしながらその場を後にするのだった!

 

 

「……すやす……ごほっ、ごふっ……も゛ほっ」

 

 こうして、包丸町にめでたく束の間の平和が訪れるのであった!

 

 ガキーンは何も知らずに顔中に浴びた羽毛を呼気で飛ばしながら寝こけるばかり!

 しかして彼の粘りが無ければ、もしかすれば平和は遠い道だったかもしれない! よく頑張ったぞガキーン! 今は眠るがいい!

 

 

 それにしてもガキーンのピンチに応じて現れた謎のスケバン! その腕力で怪人を引きちぎり、羞恥に悶えてその場を後にした彼女の正体は一体誰だったのだろうか!? そしてガキーンとの関係は一体!? 次回以降を乞うご期待あれ!

 

 

 

 




ミネルヴァ様「……ガキーン様が地べたで布団しいて寝てて、かつ顔中羽毛まみれになってる」(写真パシャー)


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衝撃! ミネルヴァの正体!? ネットに潜む悪意!

あー掲示板めんどい
遅くなってごめんなちぃ


【メチャバッド団】怪人に抵抗した非公認ヒーローが路上で寝こける 問われる非公認ヒーローの意義【非公認ヒーロー】

 

1:名無しのヒーローさん 2020/3/15 18:10:08 ID:cC4AXzAxX

 『怪人に抵抗した非公認ヒーロー、路上で寝こける 問われる非公認ヒーローの意義』

 

 3/14(土) 12:48配信 日本国ヒーローニュースより

 <hppt://www.heronewsjapan.jp/stories/local/2020/03/post-92744.php>

 

 <不可解な行動を取った非公認ヒーロー>

 先日13日、埼東県見送市包丸町にてメチャバッド団の怪人「低反抗マクラン」が民家に被害を与えた。

 怪人は市民らの家に侵入し、許可なく硬い質感の枕を低反発の枕に置き換える行為を繰り返していた所、通りかかった自らを「ヒーローガキーン」と名乗る非公認ヒーローの男性が自衛。

 戦闘に巻き込まれそうになって避難した市民が、戦闘現場に戻ってみたところ。引き裂かれた怪人の残骸と、路上で布団を敷いて眠りにつく男性の姿があったという。男性は市民に起こされた後、慌てて辺りから逃げ去った。地元市民らは「怪人相手に戦ってくれる事は素晴らしいが、地べたで寝るなんて常識じゃ考えられない」と呆れた声を挙げていた。

 

 ■毎週のように驚異に襲われる包丸町

 昨今の悪の軍団による日本国の被害は上昇の一途である。警察や公認ヒーロー達による日夜の活躍はそれらの被害を抑える事の一助になってはいるものの、残念ながら根本的な解決に至っていない。

 ここ埼東県見送市の小さな町、包丸町は特にメチャバッド団による被害が後をたたない。

 毎週末現れるメチャバッド団の怪人が市民らに何らかの被害を与えており、その怪人らは埼東県一帯で活躍している県公認ヒーロー「サンダーヘッド」が欠かさず撃退していた。しかし、先日メチャバッド団の怪人によって大怪我を負ったサンダーヘッドは、新たに現れた怪人「低反抗マクラン」の襲撃の場に居合わせる事が出来ず、町は一時無法状態に(おちい)っていた。

 そこに非公認ヒーローが通りかかり、怪人に飛びかかってコレを撃退しようと試みたそうだ。自衛する手段を持たぬ市民のために街の危機に立ち上がる事、それは褒められることなのだろう。しかして、それは黙認すべきものなのであろうか?

 

 ■非公認ヒーロー、その実態

 怪人「低反抗マクラン」に襲われた包丸町、その怪人に立ち向かったのは自らを「ヒーローガキーン」と称する男性であった。彼は公認ヒーローであるサンダーヘッドがいるにも関わらず毎週暴れ回る怪人に立ち向かい、そして撃退することも出来ずに退散を繰り返していたという。

 ヒーローとはそもそも、国が認め、公的に依頼を受けて活動する者の事を指す。

 現在国が認める公認ヒーローが2319人であり、非公認ヒーローの数は推定で5000人は居ると言われている。しかして、公認ヒーローが対怪人向けの専用武装を持ったり、特殊な訓練を受けたり、大企業や国からのバックアップを受けているのに対して、非公認ヒーローはそういった武装も後ろ盾もない存在。言ってしまえば一般市民に等しく、怪人に無力な存在が大半である。

 「ヒーローガキーン」と自称する男性も例に漏れず、自作の衣装を身に纏って怪人の襲撃に立ち向かった結果怪我を負う事も少なくなく、市民らも「見ていてハラハラするから辞めて欲しい」「衣装やセンスが言葉に出来ない程ダサイ」「息子が(その男性を)ひと目見て泣き出した」「悪の軍団に立ち向かう気持ちは素晴らしいが、気持ちだけではどうにもならない。早くこんな活動をやめるべきだ」との発言があった。

 また、非公認ヒーローと市民とのトラブルが近年増加傾向である事はご存知であろう。公認ヒーローは国から給料が出る公務員であるが、現在非公認ヒーローにそういった報酬制度は存在しない。故に、撃退した見返りを市民に求めたり、ヒーローであることを盾にして、自分が他市民より立場が上であるひけらかしたり、それに準ずる横暴な振る舞いをする非公認ヒーローの姿が散見されている。

 「ヒーローガキーン」と自称する男性も怪人「低反抗マクラン」との戦いでは何故か路上で布団を敷いて寝こけている姿が見受けられ、非公認ヒーローのモラルに疑惑の声は途切れる事なく上がり続けている。

  

 ■守ってくれる存在が居ない時、市民がすべき事とは

 結論から言えば、自衛よりもまずは家族と自身の安全を確保し、公認ヒーロー、あるいは警察に連絡をして対処を任せる事である。

 怪人の力は強力無比といってもよく、一般市民では太刀打ちできない。困った時は非公認ヒーローに任せるのではなく、はたまた自衛をするのでもなく、最寄りの警察、あるいは公認ヒーローに助けを求めることが肝要である。

 上記の事を踏まえ国民は今、非公認ヒーローはヒーローではなく一般市民。そう言う意識を持つ必要があるのではないだろうか。

 

 

2:名無しのヒーローさん 2020/3/15 18:11:43 ID:ieaSGrhws

 2get

 

 

3:名無しのヒーローさん 2020/3/15 18:12:44 ID:f+zeAKGHv

 まさかの俺の隣町がニュースに上がる日が来るとは…

 あそこの町確かに毎週怪人が襲ってくるんだよな、それにしては被害が全然ないそうだが

 

4:名無しのヒーローさん 2020/3/15 18:14:13 ID:h4UGzbnpb

 >>3

 サンダーヘッドがいるから大事になってないんだろな

 っつかサンダーヘッドもかなりの実力あったのにやられちまったんだよなー

 メチャバッド団やばくね? 他のヒーローの派遣しても倒せるのか

 

10:名無しのヒーローさん 2020/3/15 18:15:56 ID:DOzh6YjgV

 そもそも公認ヒーローが足りないから非公認ヒーローに頼らなきゃ駄目なんだろ定期

 神出鬼没の怪人相手に安全な場所なんてないだろksg

 

11:名無しのヒーローさん 2020/3/15 18:16:56 ID:kK7+j8bhl

 公認ヒーロー基本的来るの遅いしな。被害がしっかり出た後に来る事が多すぎる

 非公認も早い訳じゃないからぶっちゃけ運次第なのが辛すぎ

 

16:名無しのヒーローさん 2020/3/15 18:17:52 ID:NOWeUOqBY

 非公認ヒーローなぁ。確かに頼んでもないのに勝手にやってきて金せびってくる奴もいるらしいな。俺の友人もほぼ恐喝まがいに金要求されたって言ってた。

 

28:名無しのヒーローさん 2020/3/15 18:39:36 ID:lXThQNxfe

 非公認ヒーローが勘違いしてる一般市民に過ぎないのは同意。

 許可なく暴れたいだけの無法者だろあんな奴ら、ヤクザと一緒

 そもそも勝手に助けるのはいいけど報酬求めてやるのはヒーローじゃないだろ。論外

 

30:名無しのヒーローさん 2020/3/15 18:40:46 ID:8O3din2Vu

 >>28

 まさはるしたければヒーロー哲学スレ池

 


 

 某日某掲示板、とあるニューストピックに板住民らが思い思いの考えを文字として言い連ねている!

 ()しくも題材はガキーンを取り扱った物であり、内容は全くもって褒められた物ではないが、田舎の片隅で活躍するドのつくローカルヒーロー、「ガキーン」が全国区で周知された記念すべき第一報であった!

 


50:名無しのヒーローさん 2020/3/15 18:50:56 ID:70O8U+DcP

 このガキーンってのもヤバそうだな

 少なくとも戦闘後に怪人の残骸残した状態で路上で布団で寝るのは神経を疑う

 

52:名無しのヒーローさん 2020/3/15 18:55:33 ID:+9k5TB6DA

 時々こういう自己(けん)示欲の塊みたいな奴いるよな、俺はヒーローだーって勘違いして結果怪我するだけの馬鹿。まあ何とか撃退する事が出来たみたいだからいいけど、実力もないのに出しゃばる目立ちたがり屋は正直迷惑だし不要

 

53:名無しのヒーローさん 2020/3/15 18:58:58 ID:KOtwlkgw8

 >>52

 撃退したなんて一言も書いてないし、毎回負け続けって書いてあるんだからこいつが撃退したか怪しい。もしかしたら別のヒーローが助けた可能性が大

 

58:名無しのヒーローさん 2020/3/15 19:00:53 ID:+9k5TB6DA

 >>53

 それが事実だとしたら勝手に出てって他ヒーローにまかせて自分はその場で寝こけたって事になるぞ…どう考えても(クズ)じゃねーか、やっぱり非公認は駄目だな

 

60:名無しのヒーローさん 2020/3/15 19:03:29 ID:SCt60RGji

 >>58

 多分サンダーヘッドが抜け出してやってくれたんだろな。そうじゃなきゃ説明つかん

 

72:名無しのヒーローさん 2020/3/15 19:14:21 ID:8CvhyiBnH

 ちなこれがその時の画像。メチャシュールwwww

 hppts://i.hero.com/dXAWES2Uu.jpg

 

73:名無しのヒーローさん 2020/3/15 19:14:56 ID:kCOkW7itE

 >>72

 草

 

74:名無しのヒーローさん 2020/3/15 19:15:48 ID:CMA1MarD9

 >>72

 ヤバすぎて大草原

 

75:名無しのヒーローさん 2020/3/15 19:16:01 ID:uyvC3r/DN

 >>72

 草

 シュールすぎるだろ……マジで路上で布団広げて寝てる……

 

78:名無しのヒーローさん 2020/3/15 19:18:32 ID:ecOT8kbaj

 >>72

 中々味のあるいい衣装だな、コ●リで買ったんだろ!?

 

79:名無しのヒーローさん 2020/3/15 19:19:13 ID:pevL5VCZ9

  >>78

 ド●キです…

 

101:名無しのヒーローさん 2020/3/15 19:36:29 ID:2iXuwAZ8j

 >>72

 マジで衣装も手作り感強すぎるしボロボロ過ぎるな、どんだけ予算ないんだよ

 こんなのが毎回怪人に挑むんだったらそりゃ市民も不安になる訳だな

 あらためて非公認ヒーローの闇を見た気がするわ…

 

102:名無しのヒーローさん 2020/3/15 19:37:45 ID:M3+enHt5v

  >>72

   _____   (__()

  |  [ .   . ] |

  / \ [ △   ] |

 // \\   つ |

`//   \\  ヽ |

//    // (_)

\\   //___

 \\ //

  \ /

 

(id:r102e)

103:名無しのヒーローさん 2020/3/15 19:45:21 ID:e4AOLy5rb

 >>102

 まんま過ぎてお腹痛い

 


 

 あぁ、何という事か! やはりあの怪人の策略通りガキーンのみっともない姿が全国に晒されてしまったではないか!

 報酬などを求めず、ただただ市民のために頑張ってきたガキーンに何も知らないスレ住民らが騒ぎ立てるとは! あまりにも嘆かわしい事である! 

 しかしそれも無理もない事かもしれない! このようなシュールな場面など、どう考えてもネタにしか見えない! 娯楽に飢えた彼らにとってガキーンという存在は格好のおもちゃに等しかった!

 


151:名無しのヒーローさん 2020/3/15 20:11:27 ID:rpt5mg7cp

 ついに、ガキーンも全国デビューか……胸が熱くなるな

 

152:名無しのヒーローさん 2020/3/15 20:12:26 ID:JbTlmncZa

 有名な奴なのコイツ

 

155:名無しのヒーローさん 2020/3/15 20:14:12 ID:rpt5mg7cp

 >>152

 ドローカルだし全然。ただ一人熱心なファンがいて、それのお陰で一部で有名になったとも言える 

 

153:名無しのヒーローさん 2020/3/15 20:15:13 ID:ZylsfPYbp

 こんなのにもファンは居るのか…(戦慄)

 

156:名無しのヒーローさん 2020/3/15 20:20:13 ID:c/RADPSf9

 正直弱っちいだけでも迷惑なのに、衣装や見た目も凝れないくらいに酷いのは駄目だろ…ヘルメットボッコボコ過ぎるぞコレ。こんなのヒーローじゃなくてただのコスプレ野郎だろ

 

158:名無しのヒーローさん 2020/3/15 20:22:18 ID:PZ3RXlmIB

 非公認ヒーローの定義なんて自称してるかしてないかだからなぁ……

 

159:名無しのヒーローさん 2020/3/15 20:24:01 ID:TTuuxwpH8

 ここまでヤバイのだと黄色い救急車(イエローピーポー)に収容したほうがいいんじゃねえか?


 

 一部の情報だけで好き勝手に騒ぎ立てる住民ら! 事実も虚実もゴチャ混ぜに、その場のノリで作り上げたイメージは得てして暴走しやすい物である! 

 そういった作り上げられたイメージが良い方向に転がることは滅多になく、大抵は誰かしらが大きな迷惑を被ることが多い! それはインターネット、あるいは集団心理の闇と言うべきなのかもしれない!

 ここで(はや)される大量の罵詈(ばり)とも雑言(ぞうごん)とも言える心無い発言の数々、実際に目にしたら本人は間違いなく心にダメージを負うだろう! 幸か不幸か、ガキーンはスマホもPCもないのでこの場所に辿り着くことはないが!

 


200:名無しのヒーローさん 2020/3/15 20:49:43 ID:cklgzCkf1

 確かに非公認ヒーローに出来の悪い奴は多いし、ガキーンも衣装がダサイ、弱い、台詞運びが壊滅的、人を安心させる要素を持ってない、センスが絶望的にない、全体的に四角い、くさそう、とか色々問題は多いが、ガキーンが他のクソ非公認ヒーローと違って優れてるのは被害に誰よりも早く駆けつけて、どんな強敵相手でも市民のために戦う事だ。それにあいつは報酬なんて全く欲しがらない無欲な奴だぞ、凡百のクズヒーロー共と一緒にするんじゃねえよ。税金だけ奪いとるだけ奪って杓子定規みたいな対応しか出来ないヒーローよかこいつの方が百倍マシだって言うんだ、上辺だけで語ってんじゃねえぞゴミ共

 

201:名無しのヒーローさん 2020/3/15 20:50:34 ID:Q5TGRCX/6

 うわ、噂をすれば来たぞ

 

202:名無しのヒーローさん 2020/3/15 20:52:10 ID:sFGpXJW4z

 いつもお疲れ様ですガキキチさん


 

 そして彼の熱烈なファンであるミネルヴァ、彼女がガキーンの話題に飛びつかない訳はなく!

 補足したスレッドの流れを掴んだ彼女は瞬間、目にも止まらないタイピングで根拠もない発言に反論を連ねて書き込んでいた! 

 彼女の目は怒りに満ちみちている! 非公認ヒーローの是非などどうでもいいが、ガキーンの話題を彼女の許可もなくし始めたのは許せない! 今まさに怒りの雷を愚か共へ降らそうとしていた!

 


205:名無しのヒーローさん 2020/3/15 20:53:07 ID:+K2mz5LJo

 怪人に勝てないヒーローなんてそもそも価値がねえだろカス

 

206:名無しのヒーローさん 2020/3/15 20:54:53 ID:cklgzCkf1

 >>205

 カス以下のお前は黙ってろよ。アホが伝染る。

 強いだけがヒーローじゃねえだろうボケナスが、大事なのは誰かを救いたいっていう心を持って正しく行動する事だろうが。弱かろうが強いやつに立ち向かって人を助けようとする心こそ褒められはすれど咎められねえだろうが。大体肝心の公認ヒーローの到着が遅いからガキーンが出張ってんだぞ、分かってんのか? お前あんま舐めた口聞いてるとAm●zonの購入履歴晒すぞ

 

211:名無しのヒーローさん 2020/3/15 21:11:17 ID:+K2mz5LJo

 はー? ただの一般市民が怪人に立ち向かって怪我して二次被害発生させる方がよっぽど迷惑だろが。っつか役に立たない癖に自己満足みたいな行動されても堪ったもんじゃないっていう

 後何その煽り? もしかしてスーパーハカーでちゅか?(笑) やれるもんならやってみろよハゲ(笑)

 

212:名無しのヒーローさん 2020/3/15 21:13:20 ID:cklgzCkf1

 >>211

 OK。

 ・2020/02/29 11:10 ISDN:25561 5980円 マヨ中レーベル:『家庭教師マユミ先生の秘密授業① ~恋の因数分解、生徒との禁断の関係 2時間SP~』

 ・2020/03/01 12:55 ISDN:25562 5980円 マヨ中レーベル:『家庭教師マユミ先生の秘密授業② ~夢の平方根、混じり合う虚数と巨乳 2時間SP~』

 ・2020/03/02 11:05 ISDN:25563 5980円 マヨ中レーベル:『家庭教師マユミ先生の秘密授業③ ~あなたと私でピタゴラス 2時間SP~ 』

 ・2020/03/03 11:05 ISDN:25578 9999円 マヨ中レーベル:『家庭教師コトリ先生の秘密の放課後 ~宿直室、二人、桃鉄99年6時間SP~』

  

  もっとさかのぼってやろうか?

 

120:名無しのヒーローさん 2020/3/15 21:14:35 ID:+K2mz5LJo

 やめろ馬k

 おいやめろマジで

 

214:名無しのヒーローさん 2020/3/15 21:15:08 ID:4CaGRz+Bx

 こマ?

 

215:名無しのヒーローさん 2020/3/15 21:15:54 ID:ZQUlqgFZU

 もう顔中草まみれや

 家庭教師物好きすぎるだろ…

 

216:名無しのヒーローさん 2020/3/15 21:16:16 ID:A/riCaspt

 草

 ちなみに家庭教師コトリはマジで桃鉄99年延々とやってるだけだからエロくもなんともないぞ。


 

「全く、馬鹿ばかり……私に無断でガキーン様を(けな)すとか許せる訳ないでしょ」

 

 メチャバッド団の科学力を無駄に使ってスレ住民情報を収集、そして懲らしめていくミネルヴァ!

 しかして彼女の喧嘩腰の説得(?)に住民らも面白がって弄り回ってくるのでほぼほぼキリがない! が、世界一の重すぎる想いを持ったガキーンファンである彼女は彼らを丁寧に、さりとて決して容赦の欠片も持たずに一人ひとり追い詰めて黙らせていった!

 


532:名無しのヒーローさん 2020/3/15 23:04:15 ID:cklgzCkf1

 あーあ、どいつもこいつもやっぱり上っ面だけ。大体守られてる事を自覚しておきながら口だけは達者ってのが一番最悪なんだよクズ共が。建設的な意見も出さずにただマウント取りたいだけの暴言とか本当救いようがない、ガキーン以下。クゾ雑魚市民はヒーローの背中でも遠巻きに見ながらガタガタ震えてるのがお似合いなんだよww

 

533:名無しのヒーローさん 2020/3/15 23:05:37 ID:5SYeGMHcK

 うーんガキキチさんは相変わらず強いな

 

534:名無しのヒーローさん 2020/3/15 23:06:30 ID:vUU9DV12W

 ガキーンよりもガキキチさんの方が全国区に知れ渡りそう

 

535:名無しのヒーローさん 2020/3/15 23:08:18 ID:4iedW4Hyt

 信者やべぇな、気持ち悪いけどパワーあるわw


 

 「ふぅようやく大人しくなった」と言わんばかりに椅子でゆっくりと伸びをするミネルヴァ。

 このスレは鎮静出来たが、こういったニュースが広まった事は全くもって喜ばしくない。折角独占していたのにガキーンを話のネタにしたこの新聞社、許すわけにはいかない。後日どういった形で倒産にまで追い込んでやろうかと考えていた彼女は、ふと更新したスレに書かれた一文に目を奪われてしまう!

 


538:黒雨美智留 2020/3/15 23:11:34 ID:k7lElrzAA

 >>532さん

 あなたの発言はところどころ的を得ている物は多いけれども、ガキーンさんの事を悪く言う姿勢は良くないです。彼はあれでも毎日トレーニングとかしてるし、衣装やスーツも彼なりに考えて、生活費を削って作っています。それは趣味でもなんでもなく彼の生きがいで、彼は本当に市民を助けたいがために行動をしてるんです。それは応援こそすれども、悪く言うのは的外れだと思います。


 

「……は? え、何これ……えっ?」

 

 ミネルヴァ、まさかの絶句! どうしたというのだミネルヴァよ!

 いつもの調子で同担拒否勢の強さを見せつける筈の彼女のタイピングの手は、この何とも普通な発言を見て動かす事が出来なかった! 

 彼女は目をこれでもかと見開いて、何度も発言を見返し、そしてまさかと思いつつも別画面のPCに急いでタイピングして何事かを調べ始める! 一体何をしているというのか!?

 


540:名無しのヒーローさん 2020/3/15 23:12:19 ID:PvmoTnk4u

 急にコテハン野郎が

 

541:名無しのヒーローさん 2020/3/15 23:12:35 ID:7znkVcbjO

 ファン二人とかガキーン人気なんか?

 

542:名無しのヒーローさん 2020/3/15 23:13:54 ID:fNTuxcHAW

 おいおいコテハンする時はメール欄に「fusianaeye」って入れるのがルールだぞ

 

545:黒雨美智留(BigDope saitouken IP:213.168.774) 2020/3/15 23:15:25 ID:k7lElrzAA

 コテハンってのはよく分からないですけど、

 アドバイスありがとうございます。こうですか?

   

546:名無しのヒーローさん 2020/3/15 23:15:40 ID:xdRbIFMi/

 天然記念物かな?

 

547:名無しのヒーローさん 2020/3/15 23:16:51 ID:xyTJYb612

 香ばしすぎる、こいつガチかよ

 


 

 高速タイピングとハイスペックPCで秒で調べ物を終えたミネルヴァ! 珍しくも冷や汗をこれでもかと流した彼女は、超速でベッドに放り投げていたスマホを手に取ると、慌ててとある番号を呼び出していた!

 

『あら美智子、どうしたのこんな夜中に。珍しいわね』 

 

もしもしママ!? 今やってることをすぐにやめて! 今すぐ!

 

『えっ?』

 

 ――衝撃の事実!

 悪の軍団、メチャバッド団幹部ミネルヴァはなんと黒雨美智留の娘であった!

 ミネルヴァ――本名、黒雨美智子(15)は母、黒雨美智留(40)に内緒で悪の幹部をやってる、非行少女でもあったのだ! 表向きはさっぱりとした態度を取り続けるが、実際は母の事は大好き! 今は親元を離れて寮生活をしている……と思わせているぞ!

 

『今やってるのって……パソコンの事?』

 

『そう! それの事! 今すぐそんなサイトで書き込むのは辞めて! こんなのママが見る所じゃないから!』

 

『書き込みって、どうしてお母さんがそう云う事してるの分かるの? 美智子、アンタもしかしてまた能力使って変な事したり……』

 

『うっ、べ、別にしてないから! 別にしてないけど私もたまたま見かけちゃったの!』

 

『……そう。でも美智子、この人達みんな清、ガキーンさんの悪口ばっかりでお母さん曲がった事許せなくて……』

 

『許せない云々は気持ち分かるし、別に咎めないけど、私が言いたいのはそういうのじゃないの! 本名で書き込みするのをやめてって言いたいの! 今すぐやめて!!』

 

 そう、黒雨美智留(40)、実は彼女、ガキーンと同じくネット音痴であった!

 つい最近になって懸賞で当たったPCを元にインターネットを始めた矢先、彼女が偶然、なんとなしにガキーンの評判を調べてたどり着いたのがこのサイト! 応援しているヒーローを悪し様に笑う人らにどうしても一言言いたくて初めて書き込みをしてしまったのだ!

 

『どうしてなの? だって名前欄があるし……』

 

『ここは匿名掲示板なの! 確かに名前欄はあるけど、こういうどんな人が居るかも分からない場所では簡単に本名を晒しちゃダメなの! どんな目に合うか分からないわよ!?』

 

『でも皆さん親切そうよ、アドバイスもくれたし……』

 

『アドバイスじゃなくてただ遊ばれてんのよぉ!』

 

 ミネルヴァは叫び、嘆く! 中年のネットリテラシーへの意識の低さに思わず頭を抱えそうになる!

 世間もネットの世界も経験が物を言う! ろくな知識もなく突っ込んだ先に待ち受けるは破滅であることを分かっているのは悲しい事にミネルヴァだけだった! そんな彼女の叫びとは別に新たな燃料を投下されたスレ住民、喜んでそれに群がり初めていた!

 


550:名無しのヒーローさん 2020/3/15 23:18:49 ID:+ZQ3Qn32m

 それ本名なの? 可愛い名前してるね

 

571:名無しのヒーローさん 2020/3/15 23:19:42 ID:XGtlpSnm/

 どこ住み?

 

575:名無しのヒーローさん 2020/3/15 19:20:59 ID:JRegsupcT

 今度会わない? 一緒にお茶しようぜ


 

『あら、見てみて。お母さん今すごい注目されてる、可愛い名前だって。何だか恥ずかしいわ』

 

『私も同じくらい恥ずかしいわよ! ママ、いいから絶対これ以上返信しないでね!? 余計な事一言でも言ったらひどい目にあうかもだから本当!』

 

『でもあの悪口の人の反応が戻ってきたら返信しないと……』

 

『間違いなく返答しないからッ、しなくていいからッ!!!!』

 

『?』

 

 お願いだからもうコレ以上はやめてくれと、電話越しにシャウトするミネルヴァ……いや美智子! その焦り具合は幹部すらも目にかかれないぐらいのもの! ガキーンがやられそうになってもこんなに焦った顔はきっと見せないであろう!

 


585:黒雨美智留(BigDope saitouken IP:213.168.774)  2020/3/15 23:28:20 ID:k7lElrzAA

 娘がもう書き込みはやめてって言ってるから、これでやめておきます

 悪口を言った人の返信にはきっと答えられないと思いますが、

 彼はとてもいい人だし、傍で見ている限り彼は頼るべきヒーローだと思っています。

 その他の質問には答えられなくてごめんなさい。それでは。

 

586:名無しのヒーローさん 2020/3/15 23:29:45 ID:lBNIw8FW2

 ガキーンの知り合いかよ!?

 しかも子持ち人妻だったか、惜しいな

 

587:名無しのヒーローさん 2020/3/15 23:30:11 ID:WamCWQdSe

 実はガキーンの奥さんかも、夫婦揃って香ばしいな

 

588:名無しのヒーローさん 2020/3/15 23:31:31 ID:W9m0VbtUG

 娘さんのほうがはるかに常識あって草 

 

589:名無しのヒーローさん 2020/3/15 19:32:03 ID:hx833tnu3

 マジで今度会おうぜ、ご飯奢るよ。ガキーンについて語ろうぜ今日初めて知ったけど

 


 

『ンンンンッ、ネットリテラシィィィィィ――ッ!!!』

 

『もう、美智子うるさいわよ。ほらもうお母さんやめておいたから、これでいい?』

 

 ミネルヴァは悶絶した!

 致命的な発言と共に鮮烈なネットデビューを果たした母のリテラシーのなさに!

 これはもう組織の力を全力で使って火消しに走らねば不味いだろうと考えたミネルヴァ! まずは念入りにこのネット弱者に釘を刺さねばと心を落ち着かせ、いざ話しかけようとした途端。電話越しに戻ってきたのは弾んだ母の声であった!

 

『うふふ……それにしてもお母さん、ガキーンの奥さんに間違われちゃったわ。もう、そんな事ないのに……ちゃんと誤解といたほうが良かったかしらね』

 

『……は? ママ何言ってんのありえないから。あんな雑魚ヒーローとママが結婚とかないないありえません』

 

 つい条件反射で絶対零度の声を返したミネルヴァ。

 電話口にいる美智留はその声に沈黙、するどころかすぐに同じくらい冷えた声を投げ返し始める!

 

――はぁ? 別にいいだろうがガキーンは誠実なんだぞコラ、きっと美智子にも優しい理想の旦那になるわ舐めんな』

 

『妄想しすぎ、つか大体あれだけ私がガキーンに興味持つなっていってんのに何で約束破ってんのママ? 何? 実は私に喧嘩売ってんの?』

 

『あぁん? 私が何を見たって私の自由だろがガキが。大体お前の一方的な約束だっただろが。そんな約束聞ける訳ねえっつの』

 

『娘のワガママくらい聞けよ、大人気ねえな』

 

『ナマいってんじゃねえぞガキが、またおケツペンペンされてえのか? ――上等だ今すぐ家戻って来いやガキィッ!」

 

『おーこわ。大体いい年こいた大人が色気づいてんのがおかしいっての。ズベが、っていうか何? あの発言ガキーン様の正体についても知ってる訳? 何処まで近づいてる訳?」

 

『ンだとコラ……黙って聞いてりゃ……! って、ヤベ……しまった』

 

 白熱する舌戦! 一時は電話口からメキメキとなにかが歪む声が聞こえてきたが、突如投げかけられた質問に急に美智留の威勢が収まる!

 

『……ヤベって。本当は秘密にするつもりだったの? でも後先考えず書いちゃったの?』

 

『……』

 

『何黙ってんの。早く話して』

 

『……おほほほっ。お、お母さん明日早いから寝るわね?』

 

『ちょ、このクソバ』

 

 「マジでキリやがったアイツ!」と憤り、怒りのままスマホを壁に叩きつけて破壊するミネルヴァ!

 勿論ガキーンの徹底的なファンであるミネルヴァもまたガキーンの正体、私生活、行動その全ては把握済み! かねてから管理人という立場を使ってガキーンに近づいていた母に対し、愛情よりも深い怒りを抱いた彼女! 親子の激突の時は近いかもしれない!

 危うし黒雨美智子! そして頑張れ何か板挟みのガキーン! ネット上では既に子持ちである情報で定着し始めているぞ! 童貞なのにな!

 



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復讐! ヒーロー『ブラックサンダー』! 闇に落ちた光のヒーロー!(前編)

わふんわふん。


(!? この画像……そうか、そういう事だったのか!)

 

 某日某所! とあるマンションの一室にて!

 悪の軍団、メチャバッド団の幹部「クルーニー伯爵」はある事に気付いてしまった!

 

 いつものように朝に弱い敬愛すべきミネルヴァ、彼女を朝起こしにいった伯爵は見てしまった!

 PCに突っ伏して寝ていたミネルヴァ、そのPC画面上に映されたガキーンの盗撮画像の数々! それらを(しか)と両の目で目撃してしまったのだ!

 

「うぅぅん……ガキーン様……むにゃにゃ……」

 

 冷静沈着を地で行く伯爵! 数瞬の間たじろいでしまう!

 だがしかし軍団一のキレ者と呼ばれる彼女は、その聡明なる頭脳を持って一瞬で全てを理解をすると、何も見なかったと言わんばかりに彼女の部屋を後にした!

 

(ミネルヴァ様がまさかあのような者に入れ込んでいるとは……しかしそう考えると今までの行動も納得出来る。戦闘データ上にも必ずと言っていいほど乗るが、弱すぎて脅威対象外としてきた雑魚ヒーローが……なるほど、今までのヌルい怪人はそのために)

 

 とうとうバレてしまった……いや、バレていなかった事がおかしいと言うべきか!

 ミネルヴァが隠し通そうとしていた真の目的、いや真の趣味がついに身内に露見してしまった!

 奇しくもその相手がキレ者の伯爵であることは不幸と言わざるを得ないだろう! 彼女は3年間もの長きのヌルい侵攻は全てガキーンを相手取るためだったという事を悟ってしまう……という事は――

 

(ミネルヴァ様。もしや貴方は侵攻などどうでもいいのですか……?)

 

 ――そうような帰結に(おちい)ってしまうという事だ!

 

 ようするに私欲に走って目標を達成せず、ただガキーンにかまけて遊び呆けている……それがミネルヴァの行動だと写ってしまうのはどうしようもない事! 

 これではメチャバッド団の掲げる今期スローガン「焦らずコツコツ着実に! そこそこ迷惑じわじわ侵攻!」が果たせないどころか、今まで掲げてきた理念も目標にも貢献出来ていないという事だ!(尚前期スローガンは「短期勝利より長期的勝利! 市民と共に仲良く成長!」) 

 

 あぁ、伯爵の目に猜疑心(さいぎしん)が宿り始める!

 

(ミネルヴァ様――何故そのような事を……!)

 

 伯爵がこの世に生を受けて19年――思えば6歳の頃から悪の道に走り出したミネルヴァのお世話係であったクルーニー伯爵は、今までを振り返りながら、一路博士の元へ急ぐ。

 自由奔放(ほんぽう)、純粋無垢な彼女と心を打ち解け合い、共に悪の道を進もうと誓いあい、そして身の回りの生活を任せられるほどに信頼を勝ち得たというのに――なのに。なのに!

 

 

「ん。何じゃ伯爵。朝っぱらからしかめっ面をしおってからに……ミネルヴァ様はまだ起きられぬのか?」

 

 パジャマ姿に身を包んだ博士が歯ブラシ片手に眠たげに反応する中、伯爵はソレを見ても穏やかな気持はなれず。つい低い声で博士へと応対してしまう!

 

「じきに目が覚めるそうだ。それよりも博士、お前に頼みがある」

 

「……(やぶ)から棒に。一体何の頼みだというのだ? もう煎餅は食べんぞ」

 

「そんなくだらん話ではない。今日の侵攻についてだ」

 

「侵攻……? まさか、伯爵貴様。怪人を変えろと言うわけではなかろうな!? パズル怪人パズルンルン! 適度な硬度に適度な崩壊しやすさ! そして適度に小癪(こしゃく)な攻撃をして、かつ市民や住宅への損傷は皆無に等しいという世間様にもヒーローにも優しい怪人! あれはミネルヴァ様のあれやこれやと無茶振りに等しい提案を全て満たすように作った傑作ぞ!」

 

「……いや、そういう話でもない。ミネルヴァ様もしかし無理を言うものだな……」

 

「なんじゃ、だとしたら何だと言うのだ!」

 

「なあに簡単な話だ。今回の戦いにだな――」

 

 

 伯爵の話を聞いた博士の顔に驚愕(きょうがく)の表情が浮かぶ!

 あぁ一体彼女は何を企んでいるというのだろうか――! 

 

 

 

 § § §

 

 

 

「――キャアアアアアアッ!」

 

 

 毎度ご存知! 閑静な住宅街に広がった、お昼時のTVの声をかき消す悲痛な叫び声!

 せっかくの祝日、まさにこれからがピークだと言わんばかりの時間帯に、それは起こってしまった!

 

「イヤアアアアッ! ジグソーパズルの最後の1ピースがどうしても合わないわ、どうしてーッ!?」

 

「パーズパズパズパズーッ! 32ピースなんてぬるいジグソーパズルを楽しおってーッ! このパズルンルン様がいる限りぬるいパズルなど許すわけがなかろうパズーッ!」

 

 息子の散らかしたパズルを暇つぶしに楽しもうとしていた専業主婦、佳代子は絶望した!

 自宅のリビングに突如現れた、パズルブロックで出来た(いびつ)な体に、可動域の少ない両手両足を持った見た目の強度が全くない怪人がいきなりそんなことをのたまったのだ! 押し付けてもハマらないパズルの形にイライラしてしまう佳代子! これはあまりにも精神的によろしくない!

 

「これから街中の家という家に侵入して、簡単過ぎるパズルを駆逐してくれるパズズズーッ! 貴様は暇を潰したいならこの『青空(3千ピース)』を楽しんでおくパズーッ、さぁ玄関はどこだ奥さんンンンッ!」

 

「いやああああパズルの違いが全く分からないいぃっ! 突き当りを左ですぅぅっ!」

 

 佳代子に難解ジグソーパズルを渡して「まずは外枠から作るの定石だぞ、四隅を探すんだ奥さンンンン」「いやあああ!親切!」というやり取りをしたパズル怪人は、極端に少ない可動粋の手足を巧みに使って玄関を脱出! 一時は倒れそうになったりしたがえっちらおっちらと移動!

 

 そして隣の家の玄関にチャイムを押してから侵入すると、再び家から悲鳴があがった!

 この怪人の目的は先述した通り街中の簡単パズルの駆逐! このまま奴をのさばらせていては包丸町は全員高難易度パズルに悩まされ、精神的に余裕のない日々を送る事になるだろう!

 

 無秩序に暴れる怪人、響き渡る悲鳴の連鎖!

 

 力無き一般人では謎怪人相手に抵抗などできる筈もなく、このまま包丸町が『知育玩具に翻弄される町』という誰向けのアピールをしているのか分からない呼び名がつく事をのうのうと眺めるしか無いのかと市民が絶望しかけた――その時だった!

 

 

「何が知性だ――ッ!」

 

「パズズズーッ!?」

 

 突如黒い影が町中を駆けるパズルンルン(別に長くないので略さずに呼ぶ!)に飛びかかった!

 一般人か!? はたまた新たな怪人か!? いや違う!

 両腕の無骨な金属アーム! ホームセンターの安全靴に、膝パッド! 一新されたのか凹みが見当たらない金属アーマーに、まるで新品もかくやの光沢を持ったおニューの灯油缶ヘルメット! そんな不思議な出で立ちの謎の人物が奴に飛びかかったのだ!

 

「なんだぁ、貴様ァ! このパズルンルン様に歯向かおうと言うのかーッ! 挨拶代わりの知恵の輪をくらえーッ!」

 

「折角の休日昼から騒いでんじゃねえ、何が知恵の輪だ、フヌ゛ゥン゛ッ!」

 

「パズーッ!? 脳みそを使って解け脳みそをーッ!」

 

 渡されたリング状の知恵の輪を一息で引っ張って破壊する、知力の欠片もない振る舞い! 折角の知育玩具を破壊するある意味空気の読めない対応に、為すすべなく見守っていた一般市民が叫ぶ!

 

「あ、あのちょっとだけ見た目がよくなった姿は――!」

「お、お前――イモジャー仮面じゃねーか!」

「クソダサ仮面!」「知恵の輪マン!」

 

「いい加減何度言えば分かるッ! 俺はヒーローガキーンだ! あといつまでイモジャー引っ張ってやがんだコラァ!」

 

 言わずと知れたこの男、清辻無郷(35)は『ヒーローガキーン』であった!

 折角の祝日昼間、いつものように夕方頃の襲撃に備えていた彼はいささか慌てて飛んできたが、その戦意に陰りはない!

 おしゃかになったアーマーもようやく新調! ヘルメットの輝きが増しているのはまるで彼の自信とやる気の現れのようにも思えるぞ!

 

「お前、サンダーヘッドは復帰したって聞いてないのか? いい加減やめておけよなぁ…」

「おいおい、知恵の輪はそうやって解くもんじゃねえだろ! こうやってこう……あれ、難しいな」

「馬鹿。馬蹄型の奴なんて小学生の頃くさるほどやっただろうが……これはこう、こうしてだな……ん? 間違ったかな?」

「ママー、あの人。ニュースでやってた地面で寝てた……」

「しっ、見ちゃいけません。教育に悪いわ」

 

「え!? 俺ニュース出てたのか!? い、いや今はソレは置いておいてだな……簡単なパズルくらいやってもいいだろが!」

 

「パズパズパズーッ、愚問なり! 簡単過ぎるパズルなぞ人生の(うるお)いにすらならないパズーッ、難しいパズルを挑戦してこそ頭脳が活性! クリアしてこその達成感! 頭を甘やかすでないパズーッ! くらえーッ、この寄木細工*1のひみつ箱をーッ!」

 

「うわーっ、土産物でよくあるけど結局買わない奴! 土産物でよくあるけど結局買わない奴じゃねえか! ……いや、挑戦しねえよ!?」

 

 勝手過ぎる持論を展開した怪人パズルンルンがガキーンめがけて投げつけた立派なひみつ箱! 条件反射的に受け取った彼は一瞬その巧みな仕掛けに目を輝かせて挑戦しそうになるが、すぐに顔を振ってソレを投げ返す! 

 しかしまさか投げ返されると思わなかったパズルンルン、ソレを受け取れずに地面に箱が落ち、バラバラに壊れてしまう!

 

「あ、ヤベ……いや、でも戦闘中にそんなもの投げつけて寄越すから……」

 

「貴様……ッ、一度ならず二度までもパズルを拒否しよって……! 遊び心のない不人気ヒーロー無勢があぁぁぁッ!!」

 

「なっ、ぐ、アァァッ!?」

 

 パズル拒否をされたパズルンルン、パズルの顔で憤怒を表現すると唐突に怪人の体から飛翔する大量の物体!

 拳大のそれは何かと思えば――それはやたらと手触りのいい色々な形をした木片であった! それがガキーンめがけて発射されたのだ! 唐突過ぎて反応が遅れたガキーン、もろにパズルの弾丸をくらってしまう!

 

「やっぱりかよ、お前大丈夫か!? 一体何をくらって……!」

「こ、これってまさか……旅館によくおいてあるパズル*2か!?」

「本当だ、これは旅館によく置いてあるパズル*3じゃねえか!」

「懐かしいな! 俺、T文字が組めなくていつも頭悩ませてて……」

 

「クッソ、地味に痛い攻撃しやがってよ……っていうかお前らはさっさと逃げろ! のんきにパズルを解いてる暇は……!」

 

「パーズパズパズッ、隙ありパズッ!?」

 

 あぁ市民に気を取られてしまったガキーン! 間合いを詰めていたパズルンルンの姿に気がついていない!

 無防備なガキーンにめがけて振る舞われるは奴のブロックの腕! ギリギリになって気付いたがガキーンだが時既に遅し、勢いを殺すこと無く腕は頭部へと吸い込まれてゆく! そして――!

 

 響く軽質な金属音!

 四方八方に散らばる何か! 

 そして衝撃に揺らぐガキーン!

 

 さしもの一撃にガキーンも倒れ……いや、倒れてないぞ! 

 ダメージは受けているようだが周りに広がる何かを不審な目で見て、そして怪人へと振り返って更にその目を見開いたではないか!

 

「パズルンルンお前……その体っ」

 

「パーズパズパズ……ッ、何を驚いてるパズ?」

 

「お前、お前の腕っ、バラバラになってるじゃねーか!

 

 おぉ、なんと残酷な事か! パズルンルンがガキーンを殴ったその右腕が、無数の小さなパズルピースで出来ている体のせいかバラバラになっているではないか! しかも散らばったパズルは彼の体に戻る気配はなく、その体の中の空洞まで丸見えになっている!

 

「ふんッ、何をその程度のことで驚くパズ! 悪と正義の戦いである以上、傷を負う事など承知の上パズッ! 貴様もそうだろう!?」

 

「でもお前、その腕……! そんなダメージを受けてっ! も、戻らねえのか!?」

 

1つ1つ組み上げん限り戻らんパズ!

 

 力強く宣言するパズルンルンに何一つ後悔の色はなく! 不利になったというのに冷や汗を垂らしながら残った左腕で手招きをする始末!

 しかしてその腕すらもパズルで出来ている、今ガキーンが殴ってもしも左腕で受けたとしたら……間違いなく奴の腕はバラバラになってしまうではないか! 

 今まで相手をしてきた怪人一の(もろ)さと言ってもよい相手に躊躇(とまど)い、切なすぎる身体を持った悲しき怪人に同情の念を抱いた結果、ガキーンは攻撃に至れない! 至ることが出来ない!

 

「何を躊躇(ちゅうちょ)してるパズッ! 貴様もヒーローを自称しているのなら覚悟を決めるパズッ!!」

 

「ぐぅ……っ、いや物理攻撃じゃなくて遠距離攻撃をしかけるのはどうだ!? 何かこのままだとお前は無駄にやられて……」

 

「そっちがこないなら、こっちから行くパズゥゥゥッッ!!」

 

「うわ、馬鹿やめろっ! そんな不安定な足と腕を振り回して転んだらお前、お前の体は……命が惜しくないのかお前っ!?」

 

「パーズパズパズッ!! 怪人に生まれたこの生命、パっと咲かせて見せるのが怪人道よーッ!」

 

 それは半ば命を捨てたような特攻! ぶんぶんと片腕を振り回すパズルンルンに戸惑い、オロオロしてしまうガキーン! 何とか攻撃をやめようと腕を掴もうにも、掴んだ先で崩れる腕のパーツ! これでは止め終わる頃には無惨なパズルの山が出来ているだろう!

 

「やめろーッ、怪人ーッ、命は投げ捨てるもんじゃねーッ」

「パズルを……高難易度パズルを町中に広げる夢はどうするっていうんだよーッ!」

「ガキーン攻撃するなー負けろー! そいつの命を無駄にするのは俺が許さねえー!」

 

「お前らはどっちの味方だよ!?」

 

 刹那的な生き方を良しとする覚悟の決まりすぎた怪人の特攻に市民も声援を惜しまない!

 これにはガキーンも困惑を隠せず、攻撃どころか防戦すら出来てない状態! 危うしガキーン! 奴を攻撃すれば評判が更に下がるぞ!

 

 ――しかして奴の攻撃は長くは続かなかった!

 

「よせ、悪さしなければ命を捨てる真似なんて……!」

 

「パーズッズッズッズッ、防いでばっかりでいいパズ!? このままではパズルンルン様が勝利を……パズァッ!?

 

 突如としてパズルンルンの顔が無数のパズルの欠片となって崩壊したではないか!

 取っ組み合う二人、その片割れの急な崩壊! 唖然(あぜん)としたガキーンの目の前で倒れそうなパズルンルンの体は、紫電をまとった攻撃と共に瞬く間にバラバラになり、怪人は物言わぬパズルへと戻ってしまったのだった!

 

「ぱ、パズルンルン……だ、誰がこれを!?」

 

「――」

 

 振り返ったガキーンが見たのは……やはりお前かヒーローサンダーヘッド! 

 ――いや待て、少し違うぞ!? 

 あの特徴的な光沢イエローのボディが月のない夜を思わせる程黒く染まっているではないか! この姿は一体……!?

 

「お、お前……サンダーヘッドなのか? どうしてこんな事を!」

 

「――どうしてだと? そんなの相手が怪人だからに決まっている! 貴様こそ何故そこの怪人に手心を加えようとした!」

 

「あいつはほとんど無害な奴だった! 攻撃しても攻撃されてもボロボロになるような弱っちい奴だ! それなら倒す以外の道もあった筈だ!」

 

「倒す以外の道など――ある理由がないだろう! メチャバッド団の怪人というだけでこいつは粛清(しゅくせい)対象だ!」

 

 そこには今までのサンダーヘッドが見せていたおちゃらけたムードや明るさなどどこにも見当たらない! 仮面越しでも感じられそうな強い恨みを声に、そしてオーラに乗せるその姿は、正義と言うには歪で、また遠いように思えた!

 

「サンダーヘッド……?」

「さ、サンダーヘッドなのか……?」

「真っ黒になったサンダーヘッド? 姿形はそのものだが……あんな激しい事を言うなんて……」

 

「サンダーヘッド……? 違う、俺はもうその名は捨てた!」

 

 住民らの動揺も切り捨てて、その男は叫ぶ!

 黒一色のスーツに頭部に刻まれた黄の稲妻が、昼間なのにギラリと光る!

 

 

――俺の名はブラックサンダー! メチャバッド団を葬る、地獄からの使者だ!

 

 

 強い怒りと恨みを身に纏ったその姿に、その場の全員が顔に驚愕を刻みこんだ!

 ココアクッキーとプレーンビスケットをチョコレートでコーティングした製品と全く同じ名前をしたヒーローの登場に否応なく緊張感も高まる! あのサンダーヘッドに一体何があったというのだろうか!? そして伯爵のたくらみとは一体!? 後半を乞うご期待あれ!

*1
様々な種類の木材を組み合わせ、それぞれの色合いの違いを利用して模様を描く木工技術。日本においては神奈川県箱根の伝統工芸品として有名

*2
株式会社「D-1products」のパズル。正式名称はTパズル「The-T(ザ・ティー)」。4つの木片を組み合わせて指定の形を作り上げる知育玩具。

*3
筆者はT文字を組み上げるのに1時間以上かけて失敗して以降、手に取っていない。



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復讐! ヒーロー『ブラックサンダー』! 闇に落ちた光のヒーロー!(後編)

にゃんにゃん。
超難産でした。


【前回までのあらすじ】
 高難易度パズルを解くことを強要してくる怪人『パズルンルン』、その自身の体を省みぬ捨て身の攻撃に一時は追い込まれてしまうガキーン! しかしそこに別のヒーローが現れ、怪人は倒れる! そのヒーローはサンダーヘッドの姿をしながら自らを『ブラックサンダー』と名乗り……!?
 


 

俺の名はブラックサンダー! メチャバッド団を葬る、地獄からの使者だ!

 

 

 全身黒のスタイリッシュなスーツに、顔に刻まれたイエローの稲妻!

 まさしくブラックサンダーという呼び名に相応しいその威容と並々ならぬ激情の()もった物言いに、その場に居た一同は言葉を発する事すらできず。30円というお値段で親しまれたあの駄菓子を脳裏に浮かべながら、彼に一体何があったのかを不思議がった!

 

「……サンダーヘッド」

 

「おっさん、俺はブラックサンダーだと言っただろう!」

 

「あー、いや悪かった……ブラックサンダーか。お前、一体何があってそんな姿に……」

 

「ふん。何があっただと? ――悪の手先であるお前に、教える訳があるか!」

 

「な、なぁ!?」

 

 唐突なブラックサンダーの発現に、市民らも驚きを隠せなかった!

 ガキーンの徹底的な弱さは周知こそされているが、それと同じくらいひたむきな正義と人助けへの執着もまた知られている! そんな彼が一体どうして悪の手先になりえると言うのか!

 

「おかしいと奴とは思ってたんだ、いつもいつも怪人が現れると俺よりも早く駆けつけている事。そして弱っちくてダサい(くせ)に何度やめろと忠告しても活動をやめなかった事……! そう、全ては油断させ、俺の力を測るためだったんだろう!」

 

「オイオイ何でそうなるんだ! 早いのは偶然いつも俺の家の近くで分かりやすく悲鳴が聞こえるから駆けつけてるだけで……あとダサいは別に関係ないだろダサいは!」

 

「とぼけるな! お前が煎餅(せんべい)型の怪人が現れた時、怪人と結託して俺を地元ヒーローの座から引きずり降ろそうとしてたのは分かってたんだぞ! 自分が人気を取れないからって……恥を知れ!」

 

「はぁ!?」

 

 大げさな仕草でガキーンを指さすブラックサンダー!

 彼の指摘に市民のざわめきが増した!

 

「そもそもだ、あんな堅焼き煎餅野郎が俺をコテンパンに出来るか……? 否! 奴は事前の調査では超能力なんて持っていなかったし、奴の破片を調べても、うるち米と濃い口しょうゆの成分しか出ていない……つまり実際にそんな力は持っていないという事だ! じゃああの力を誰が持っていたか……!? お前だ! お前しかいない!」

 

「いやいやいやちょっと待て! そんな超能力持ってたらいつも苦戦なんてする訳ないだろ!?」

 

「その苦戦までもがお前の演出なんだろう! お前は虎視眈々(こしたんたん)と俺の弱みを探っていたんだ! そして、その絶好の日が煎餅野郎との戦闘だったという事! 俺の必殺技をあんなに完璧に潰せたのも、研究していたからだ!」

 

「お、おいおい、あのクソダサ仮面に限ってそんな事をするはずが……」

「いや……でもブラックサンダーの言うことだしなぁ……」

「超能力、本当に持っているってのか……?」

「サンダーへっ……ブラックサンダーの事なら信じるべきじゃ……?」

 

 市民もブラックサンダーの主張に流石に半信半疑!

 突拍子もない上に飛躍しすぎた理論故当然とも言うべきか、しかしながらサンダーヘッドのファン達は彼に肯定的! 他ならぬ彼ならウソを言う筈がない、そんな危険な考えが場を席巻(せっけん)し始めていた!

 

「そう考えればお前の不審な行動は全て説明がつく! 地べたに布団を強いて寝ていたり、怪人相手に消極的な態度をとったり……! あれは全て、お前がメチャバッド団と組んでいた故の行動! 分かるだろう諸君!?」

 

「確かにあいつは地べたで布団で寝ていたりと不審な行動を取っていた……つまり、どういう事なんだ!?」

「わからん……だが、ブラックサンダーが言うんだ、つまりそういう事なんだろう!」

「なるほど……ぜんぜんわからん」

「でもサンダーヘッ……ブラックサンダーが言うんだし、そうなのかも」

 

 何だか説得力に欠ける理論であるというのにげに恐ろしきは普段の信頼性という物か! だんだんと天秤はブラックサンダー側へと傾いてゆき、ガキーンを見る目に疑いが混じり始める! この場を正してくれるのはあのいつもの黒髪の少女しかいないが……今日に限って彼女は居ない! おぉ、彼女もまたガキーンの真実を知って嫌気がさしたと言うのか!?

 

「おいおいおい、みんな冷静になれ! ブラックサンダーお前もだ! 俺はメチャバッド団と組んだつもりもないし、お前の人気に嫉妬なんて……」

 

「お前の妨害によって俺は新聞の一面で取り沙汰されて非難されるわ、パパには叱られるわ、ママを泣かせてしまうわ……グランパは一度の失敗は何だと励ましてくれるし、グランマに至っては俺の名前を間違えるし、彼女には入院中に毎日ずっと『ザ~~ッコw慰めてあげよっか~w』って馬鹿にされたり(なぐさ)められたり……! ――俺の苦しみが分かるか、わからないだろうな貴様には!」

 

「聞けよ!?」

 

 恨みつらみをここぞとばかりに話すブラックサンダーに市民らは同情の目を乗せ、対するガキーンには敵意を乗せ始める……! 次第に明確になってきた構図にガキーンも無意識に冷や汗を流してしまう。今自分が発言しても確実に響きはしないかもだが、ここで逃げ出すのは悪手! なんとか弁明の機会を得なければ――と考えていた矢先の事だった!

 

「見ろ、やっぱりアイツは超能力を使っているぞ!?」

 

「え? ……うぇっ!? 何コレ!?」

 

 突如突風が起きたかと思えば、ガキーンの背後あたりに辺りに散らばった怪人『パズルンルン』の亡骸が浮かぶ! それはまさしくブラックサンダーの言うような超能力の再現か!? 

 市民のどよめきは今まさに一つの確信を得て、統率された怒りへと昇華していた!

 

「やはり、馬脚を表したな――ここで貴様は倒さねばならない!」

 

「いや、俺こんな力持ってないし! いや、特殊能力ないし持ってたらいいなーとは思ってたけどこんなタイミングで発現するわけないじゃん!? 超能力者じゃないよ俺は!」

 

「おい見てみろよ! パズルのパーツで空中に『TYOUNO RYOSYAKU』って表現してるぞ!」

「やっぱり超能力者……怪しいと思ってたんだ!」

「この知恵の輪野郎! 恥を知れ!」

 

「『ちょうの りょしゃく』になってるじゃねえか!」

 

 あぁどういう運命の悪戯か! ガキーンの背後で起こった謎現象がまさしく市民らに決定的なイメージを植え付けてしまう!

 市民らの反応は完全に悪感情へと代わり、その市民の声に応えたのか、気付けばブラックサンダーが飛びかかっていた!

 

(ブラック)! 稲妻蹴(サンダーシュート)!」

 

「どわっ!?」

 

 右足一閃! ガキーンはその鋭すぎる回し蹴りを間一髪で避けることが出来たが、その蹴りは背後のコンクリートブロックをいとも簡単に蹴り砕いていた! これは明らかなる本気の一撃! 

 ガキーンも普段鍛えているとは言え攻撃を受けたら大怪我必須! まずい、これはまずいぞ!

 市民らも唐突に始まった戦闘に歓声を送るだけで、誰もソレを止めようとはしていない! この場に、ガキーンの味方は――存在していなかった!

 

「避けるな! 正々堂々と戦え!」

 

「避けるな、って無茶言うな! おい、何度も言うようだが俺は能力者じゃないっての!」

 

「それじゃあ! 未だに残ってるあの文字はどう説明をするんだ!?」

 

「俺にもそんなの説明なんて……」

 

――説明なんてするまでもないだろう。ガキーンよ。もうバラしてもよいだろう

 

 そして幸か不幸か……事態は更に混沌への道に踏み込もうとしていた!

 

 市民らの興奮と、二人のヒーローの熱気にふさわしくない氷点下とも思える冷たい声! 決して大きな声ではないのに耳朶(じだ)に直接(ささや)かれたかのような感覚に全員が全員振り向いていた!

 

 それは闇を思わせる日傘を指した高貴な血筋の少女のように見えた!

 まさしく貴族然とした立ち振舞に、包丸町という片田舎に相応しくない漆黒かつフリルたっぷりのロゴスロリドレス! 背中に背負った紫のランドセル! 背丈は小学生としか思えない程小さいその少女は、背中まで伸ばした金髪と切れ長の目、真紅の瞳に、青のグロスはまるで人ならざる物であるかのように周りに思わせた!

 

「そんな迫真な顔をしてまでしらばっくれなくてもいいだろう? もうお前の勤めはほとんど終わったのだからな、ガキーンよ」

 

「い、いやマジで誰!? 俺にはキミのような知り合いは……」

 

「――ふん。誰だと思ったら……お前か伯爵、何しに来た!」

 

 見に覚えのないガキーンに対して、ブラックサンダーだけはその人物の正体を知っているようだったが……伯爵、伯爵と言ったぞ。この人物、まさか!

 

「そうとも、クルーニー伯爵だ。いやなに。大切な駒が窮地(きゅうち)に陥っていたのだ、助けに来るのも当然だろう?」

 

 そう、驚くことなかれ! 彼女こそがメチャバッド団幹部の一人! クルーニー伯爵当人であった!

 日傘を肩にかけ、瀟洒(しょうしゃ)に周りに向けて微笑んだ彼女は、その背丈から来る見た目の可愛さとは別種の妖艶さと、周りを震え上がらさせる冷たくも(くら)い何かを市民らは感じて仕方がなかった!

 

「わざわざ捨て駒だと言っていたコイツをか? 本音はただ部下がやられる所を見て悦に浸りたいだけだろう、悪趣味な奴め!」

 

「クク、そんな事はないぞ? 3年間もの間コキ使ってきた部下をどうして(ないがし)ろに出来ようか」

 

「ではお前がわざわざ俺の元に来て、こいつの正体を教えたのはどういうつもりだ!」

 

「なぁに、道化を超えた道化とも言える貴様が哀れに思えてなぁ……興が乗ってしまってついつい、な? それに貴様にはまだ()()()()()()()()()があるのだ、潰れてしまっては困るしなぁ……クックック。ブラックサンダーの姿も、中々似合っているぞ?」

 

「……ッ! くっ、いつもいつも意味深な事を言いやがって……! 褒め言葉だけは受け取っておこう!」

 

 唐突に始まる二人のみ知る世界! どうやらこの二人、中々付き合いは長いように見える! そして二人のやり取りから分かる正義と悪の構図に、市民らも唸り声をあげる!

 読者の諸君はもうお分かりかもしれないが、そう。これは伯爵のたくらみの1つ……! ブラックサンダーを闇落ちさせ、ガキーンを敵と思わせるという作戦! 

 入院中に色々な事情で弱らされたサンダーヘッドに対する伯爵の心理的作戦は見事に効を成し! そしてまんまとブラックサンダーは闇に一歩踏み入れてしまっていたのだった!

 

 ちなみに! 一人取り残されていたガキーンだけは未だに脳内で巻き起こる『?』の嵐の中であっぷあっぷと溺れそうになっていた! 無理もない!

 

「おぉっと、置いてけぼりにさせてしまったようだなガキーン……貴様への最期の命令を授けよう。貴様はこの場でブラックサンダーに――」

 

「え、えっと。マジで誰……? っていうかキミ小学生……? 危ないからこんな所に来ちゃ駄目だぞ」

 

「――打ち倒さ……れ?」

 

 しかして! 人一倍正義感が強いがあまりにも純すぎたガキーン! 唐突に現れた少女に的違いとも言える反応をしてしまう! 彼女がこれで明らかな怪物の姿をしていたら話は別だったかもしれないが、彼の判断では彼女は『ちょっと(こじ)らせたコスプレ好きの子供』! ようするに一般市民! そして一般市民は庇護(ひご)対象でしかなく! 敵対の気持ちも浮かびようがなかったのだ!

 

「――何を言い出したかと思えば……馬鹿者め、私の何処を見たら子供だと」

 

「背丈と、声色と、ちょっと舌足らずな所」

 

「……」

 

「あとその衣装と、ランドセルと……」

 

「……」

 

「え。ま、まあもしかしたら子供には見えるかもしれんな……」

 

「……」

 

「あ、あぁ威厳はあると思うぜ? 何か悪役っぽいオーラとか出てるし……ただ外観をパッと見ただけだと確かに……」

 

「……っ」

 

「……こっちを見るな伯爵! 俺からはノーコメントだ!」

 

 ついつい周りに視線を配らせてしまう伯爵! 

 しかして市民からもブラックサンダーからも思ったような反応は見られず、伯爵の白磁を思わせる顔に、さっと紅がさしていった!

 

「子供、ではない。私はこれでもだな、19――」

 

「親御さんはどこにいるんだい? とりあえず戦闘が終わるまで下がっておかないと」

 

「……ッ!」

 

「――あだっ!? パズルが何でっ、いたたたた!?」

 

 ――不思議な事も起こるものである! 今まで背後で自己主張の激しかったパズルが急遽(きゅうきょ)ガキーンを襲いかかったのだ! 一発一発の威力は全然大したことはないが、地味に広がる痛みにガキーンも頭を抱えて逃げ惑うしかない!

 

「伯爵もうやめろ! 貴様の口車に乗るのは(しゃく)に触るが……ソイツは俺が倒さないと気が済まない! あと身長の小ささなど気にするな!」

 

「別に、気にしてなどいない……!」

 

「この地球上に数十億を超える人間が居るんだ、身長の差など出て当然だ! 俺は少なくとも身長は気にはしないぞ!」

 

「そのような発現はな、お前のような高い身長の奴が言っても説得力など欠片もないんだ……!」

 

「あぁそうかもしれない、だが俺の恋人は……貴様と同じくらいの背丈の奴だが、こういった心無い発言にも努めて冷静になろうと常に振る舞っている!」

 

「っ、そんなの当たり前だ! 身長の差異と言うのはな、どうしようもなく致命的な物なんだ! そも人間というのは表面はよく出来ても無意識の内に見比べ! 区別する浅ましい動物だ! その無意識の攻撃に私が一体、どれほどの傷をつけられたと思って……!」

 

「……俺の恋人も同じ悩みを零していた。だがな、彼女は高潔だった。その無意識の攻撃をサラリと受け流せるし、傷を負ったとしても強がりで笑顔を見せる事の出来る、優しくて強い子さ」

 

「だが、その子も裏では傷だらけだ! 如何な高潔な人物とて、耐えられぬ日がいずれ来る!」

 

「そうだな。だからこそその傷を少しでも癒せる存在が必要だ。その恋人で言えば……俺だとかな! あぁそうさ人は無意識に傷をつけていく、たしかにそうだろう! だがな、人は助け合える! 傷ついた分、癒やすことは出来る筈だ!」

 

「道徳の教科書のような甘っちょろい事を! それが押し付けられた価値観であることに気付かない訳でもないだろうに!」

 

「だが事実だ! 有史以来連綿と続く人類の営み、それは互助によってこそ成り立っていた! 物理的にも、精神的にもだ!」

 

(うるさ)い! だいたいだな貴様は私がいつもどんな苦労をしてると……!」

 

 市民とガキーンを置いて再度始まる二人の世界! 身体的問題は根が深いのは確かだろうが、この話、戦闘中にする必要があるかどうかは疑問だ! 

 二人の話はやがて人類史の話から輪廻、そしてイデア論にまで発展、最終的には戦争、紛争、医療制度問題と言った時事問題から、栗まんじゅう問題*1への飛躍と着地点の見えない混沌(カオス)へと突入! かつ合間合間に挟まる感情的かつ個人的な主張の押し付けあいは第三者が口を挟む隙を与えられない始末! 放置されている間もパズルによるスリップダメージを受け続けるガキーンにとっては(たま)った物ではないだろう! その攻撃、何だか二人の話が終わらない限り終わらない気がするぞ!

 

「……まあ、何だ。こじれた話になってるっぽいし……」

「そうだな。帰るか……怪人は倒されている訳だしな」

「おーいガキーン、お前も悪さするんじゃないぞ。人気出ないには出ないなりの理由があるんだからさ」

 

「あで、あでででッ! あぁ畜生! 俺を置いて帰るなんて……いや、帰ってくれた方がいいんだけどさ! 大体お前らもいい加減にしとけよ、そう云う話は道の往来じゃなくて」

 

「――その論でいうと回転焼きの方が主流であると言っているように聞こえるじゃないか! 今川焼きが全国で一番通りの良い通称の筈だ!」

 

「通りが良い……今川焼きが、だと? ふん。回転焼きこそ形状をそのままに表した至高の名称。大判焼きもまあ認めなくはないが、製法を考えると回転焼きが一番しっくり来る」

 

「俺の彼女と同じ事をぬけぬけと……! いいか、今川焼きはそもそも森永製菓創業者が認めた名称だぞ。この事実は揺らがない!」

 

「たかが製菓会社の一言など関係ない。回転焼きだ。ミネルヴァ様もうちの婆様もそう言っている。これに異論など認めない」

 

「悪の軍団らしく了見の狭い事を……!」

 

「お前こそヒーローなら他人の意見を認める事ぐらいしてみせろ!」

 

「……うん。まあ、その」

 

 既にお互いにおでこ同士くっつけ合うほどの激論になっている二人に流石に入り込もうという気分は沸かず、疎外感をそのままにガキーンも市民らと同様に帰ることを決めたのだった。(尚ガキーンを攻撃し続けるパズルはその場を数m移動したら被害を受けることはなかった。どうやら指定した場所に局所的な嵐が起こっているような物だったらしい。)

 

 ガキーンは今日も無事、包丸町に平和が訪れた事をひと安心する!

 しかし帰路の間、ブラックサンダーの登場と、彼の逆恨みとも言える行動に一抹の不安を胸に抱くのであった! 

 じわじわと四面楚歌に陥りつつあるガキーン! 平和を誰よりも強く想う彼に救いはあるのか! 次回を座して待て!

 

 

 

 § § §

 

 

 

「ただいま帰りましたミネルヴァ様」

 

「あ、伯爵帰ってきた~、今日は丸一日代理管理して貰ってありがとね~、更に悪いんだけど……ご飯早速作って貰っていい?」

 

「えぇ勿論です。今日はかぼちゃのお味噌汁に川魚のホイル焼きですが、いいですね?」

 

「おぉ~いいねいいね、テンション上がる~。いやぁ鬼ババと久々に直で話してヘットへと……もうお腹ぺっこぺこだもん。ほんっと、あの鬼ババと来たら……」

 

「お母様にそのような口を利いては……ってミネルヴァ様。またそのような格好をして!」

 

 買い物袋をひっさげて帰宅した伯爵の元に、ミネルヴァがだるげな足取りで近寄る。

 その姿はTシャツに下着一枚と非常にだらしない姿! 仮にも悪の軍団の幹部がするべき姿ではない!

 

「えぇ~お硬いこと言わないでよ~、だって本当に疲れたんだもん~」

 

「駄目です! これを他の下っ端が見たりしては途端に威厳が保たれなくなるではありませんか! いつもの格好をせめてしてください!」

 

「や~~だ~~~ぁ! あの羊角のヘルメット重いし、ビキニアーマーなんて室内用じゃないじゃん! あの格好お腹冷やしちゃうよ!」

 

 よたよたと小さな体で両手の買い物袋を運ぼうとする伯爵に、ミネルヴァが片方の袋を受け取って一緒にリビングへと進む! その行動、そして雰囲気はまさしく慣れ親しんだ仲と言っても良く。二人が悪の軍団という組織上の繋がりだけではない事の証左となっていた!

 

「そんな事よりも伯爵、ガキー……ごほん、怪人はどうだった!?」

 

「……まあ、いつもどおりと言っても良いでしょうね。怪人は撃退され、今日も包丸町は平和そのもの」

 

「そっかぁ~……ちなみに、その怪人を倒したのは誰? 誰なのかな?」

 

「サンダーヘッドです。いや、今は名前を変えたんでしたか、ブラックサンダーと」

 

「ちっ。あーうん、そっか、今度こそいけると思ったんだけどなぁ。っていうかブラックサンダーって……もしかして例の?」

 

「えぇ。例の『ヒーロー籠絡(ろうらく)作戦』です。ようやく私のプランも実を結びましたよ……奴が完全に我々の駒になるのも時間の問題です」

 

「へぇ~……長かったけど、やったじゃん伯爵!」

 

 不穏なワードが飛び出したが、二人の表情は悪役らしくニンマリと満面の笑み!

 部下の作戦の成功に、自分の事のように喜ぶミネルヴァ! そんな彼女に同じく微笑みかけた伯爵。しかし次に彼女の口から飛び出したのは……衝撃の一言であった!

 

「つきましては、この計画の次なる段階に進みたいのですが。よろしいでしょうか?」

 

「次? もう次なんて考えてるんだ、へぇ~。さっすが伯爵だねぇ、うんうん。いいよいいよ。ちなみに何をするの?」

 

「えぇ次はですね。包丸町の攻略を一気に進めるために――ガキーンとか言うヒーローを抹殺したいと思っています」

 

 

「――――は?

 

 

 

 

 

 

*1
3分ごとに倍々ゲームで増えていく栗まんじゅうをどのようにして平和的に消費、あるいは消滅させるのかという問題。とても建設的な議論に見えて実際は時間の無駄である。



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