ドラえもんのび太の第四次聖杯戦争 (テキーラ11)
しおりを挟む

第1話「大英雄降臨」

のび太とドラえもんは自由研究の為、太古の地球へ訪れていた。

 

様々な恐竜を観察し、そろそろ帰ろうかという時、大規模な時間乱流が発生する。

 

木にしがみついて難を逃れようとしたが、それも叶わず、のび太とドラえもんは時間乱流に飲まれてしまった。

 

揉みくちゃにされ気絶する2人だったが、運が良いのか悪いのか、出口へと投げ出された。

 

「うーん....はっ!ドラえもん!ドラえもん!大丈夫!?」

 

「うー....はっ!のび太君!怪我とかはない!?」

 

2人は気が付けば、互いの身体を心配し始める。

 

「僕は大丈夫。のび太君の方は?」

 

「僕も怪我や痛いところはないよ。それにしても....ここは、どこだろう?」

 

のび太とドラえもんが周りを見渡すと、そこは光だけがあり、白くて何も無い、だだっ広い場所だった。

 

「分からない....空気は大丈夫そうだし、少し歩いてみようか。」

 

ドラえもんの提案で、一帯の散策が始まる。

 

「ドラえもん、こっちにはなんにも無かったよー!」

 

「のび太君!こっちの方に良くは分からないけど、出口らしきものがあるんだ!」

 

およそ1時間程散策した結果、ドラえもんが何かを見つけた様だ。

 

「ここなんだけど....誰かが呼んでる気がするんだ。」

 

「本当だ....誰かが、助けてって叫んでる気がする....!?ど、ドラえもん!誰か来た!」

 

のび太とドラえもんが話をしていると、のび太が周りを見渡しながらそう叫ぶ。

 

「え、誰もいないよ?どこにいるの?」

 

「僕にも分かんない!でも、いるんだよ!」

 

どうやら妖精すらも見る事の出来る優しさを持ったのび太は、何かを感じ取った様だ。

 

「わかった。のび太君を信じるよ。ちょっと待って....」

 

のび太の訴えにドラえもんは頷くと、四次元ポケットを探り出す。

 

「純真な目薬〜!!」

 

ドラえもんが高らかに取り出したのは、純真な目薬というひみつ道具だった。

 

この純真な目薬は、目に見えないものを見えるようにする効果がある。

 

2人が目薬をさすと、そこには漆黒の鎧に身を包んだ、190を超える大柄の男がいた。

 

漆黒の鎧に身を包み、髪は長く美男に相応しさを持つ整った顔だったが、思い詰めた様に立ち尽くしていた。

 

「王よ....何故私を罰して下さらなかったのか.......狂えるなら....一時でも、この感情を忘れられるなら....私は----」

 

「「.---じょう....すか....大丈夫(ですか)!?」」

 

男が光に向かい飛び込もうとした時、2人の声に気付き振り返る。

 

「え....君たちは....英霊....なのか.......?」

 

「英霊.......?ぼ、僕は野比のび太。こっちは....」

 

「僕、ドラえもんです。大丈夫ですか?すごく、思い詰めた顔をしてましたけど.......」

 

のび太達は、男の問いに疑問符を浮かべながらも自己紹介をする。

 

「あ、ああ....私は、ランスロットという。」

 

のび太達の自己紹介を受け、釈然としないながらも自己紹介を返すランスロット。

 

「君達はどうやってここへ.......?」

 

核心をつくようにそう問掛けるランスロット。

 

「実は....」

 

ランスロットの問いに、包み隠さず事の経緯を話すドラえもん。

 

「.............」

 

ランスロットはドラえもんの話を聞き、思考する。

 

(彼等の話が本当だとすれば、英霊では無いという事か.......私の姿が見えるのはともかくとして、彼等の姿が見えるのは、霊体ではないから.......と、すれば彼等の話は本当の事なのだろう.......)

 

ここまで考えれば、のび太達の目を見ながら口を開くランスロット。

 

「....君達は、元の世界に帰りたいか?何を経験したとしても、帰りたいか?」

 

ランスロットの真剣な様子に、ゴクリと生唾を飲み込むのび太達。

 

「..........帰りたい。ママやパパ、ジャイアンやしずかちゃんやスネ夫、学校の皆にも会いたい!僕は帰りたい!ドラえもんもそうでしょ?」

 

「うん!僕も帰りたい!ドラミやセワシ君も心配だ!」

 

ドラえもん達の言葉を聞いて、ランスロットは覚悟を決めたように頷いて語る。

 

「ならば、この召喚に応えると良い。おそらく....君達なら、大丈夫だと思う。」

 

ランスロットの騎士としての心根が、自分の欲望よりものび太とドラえもんの助けとなる事を選んだ。

 

「良いの?ランスロットさん、行きたかったんじゃないの?」

 

のび太はランスロットの目を見ながら、問いかける。

 

「....行きたくないと言えば、嘘になる....君達へ、この戦いの場を譲るのに抵抗がない訳では無い....だが、子供等の心からの願いを踏み躙ってまで我欲を通す等.......それはもう騎士では無い....そして、私は騎士でありたい。故に、君たちに譲ろう。」

 

ランスロットは悲痛な表情を隠し、悲しげな微笑みを浮かべる。

 

「ありがとう、でもランスロットさんすごく辛そう....僕達に助けられる事は無い?」

 

ランスロットの覚悟を感じ取ったのび太は、それでも食い下がるようにそう問いかけた。

 

ランスロットはのび太の言葉や表情に、かつての自分の主君を感じた。

 

のび太の優しさや人としての在り方が、かの騎士王と重なったのだ。

 

「.......では....もし、この先で、アーサー王と出会ったのなら....何故、私を罰してくれなかったのかを聞いて欲しい....」

 

ランスロットは一息置くと、のび太にそう伝える。

 

「....分かったよ。必ず、伝えるね。じゃあ、行ってくる。」

 

のび太はランスロットにそう言い残すと、ドラえもんを連れて光の中へと消えた。

 

時間は少し遡り、所変わって、間桐邸。

 

その瞳に、加虐性と憎悪、そして、狂気を宿した老人間桐臓硯は愉快そうに目の前の青年を見つめる。

 

「ギリギリ間に合ったではないか、聖杯に選ばれたという事は、貴様もそれなりの術師として認められたという事だ、ひとまずは褒めてつかわすぞ雁夜…じゃがな、無様な姿よのぉ。」

 

見つめられた青年、名を間桐雁夜。

 

半死半生といった具合で、右半身は爛れて、時折蠢く事で、体内に蟲が巣食っているのが分かる。

 

「くっ.......」

 

「ほれ、左足はまだ動くのか?ん?ふふふふ.......」

 

臓硯は嬲る様に、杖で、足を刺激する。

 

「がっ....!?ぬぅぅぅっ.......!」

 

それに合わせ、苦悶の表情を浮かべながら、臓硯を睨む雁夜。

 

「ふははははっ、怒るな怒るな、体内の刻印蟲を刺激すれば、蟲が貴様を食い潰してしまうぞ?まあそれでもワシの見立てでは、貴様の命は、もってあと一月ほどだろな?」

 

睨む雁夜を嘲笑いながら、心底楽しそうに言う臓硯。

 

「.........十分だ。」

 

臓硯の言葉に吐き捨てる様にそう返す雁夜。

 

「何じゃと?」

 

意外そうな顔で、聞き直す臓硯。

 

「それで十分だと言ったんだ。」

 

「ハハハッ、雁夜、一年耐えた褒美じゃ、貴様に相応しい聖遺物を見つけておいたわ…父の親切を、無にするでないぞ?」

 

雁夜の覚悟を秘めた目を見て、嘲り笑う様にそう話す臓硯。

 

それから、雁夜にサーヴァント召喚の呪文を書いた紙を渡すと、覚えてくるように言い伝え去る臓硯。

 

次の日になり、ろくに眠れない雁夜は、呪文を頭の中で反芻しながら廊下を歩いていると少女に出会う。

 

希望を取り上げられ絶望の闇に髪と瞳を染め上げられた、壊れかけの少女、名を間桐桜、遠坂家より間桐家に養子に出された少女だ。

 

「はぁ....はぁ....桜....ちゃん....」

 

息も絶え絶えに、誰から見ても明らかに長くないであろうその姿でありながら、それでもなお苦痛を押し殺して笑みを浮かべる雁夜。

 

「....!?....雁夜おじさん....」

 

桜は雁夜の姿を視認すると、あまり表情を変えないが、驚いている様子だ。

 

「やぁ....桜ちゃん....びっくりしたかい?」

 

「うん....お顔....」

 

怯えた様子だが、それでもなお、雁夜を心配する桜。

 

「あぁ、ちょっとね、また少しだけ、また体の中の蟲に負けちゃったみたいだ…ふふっ、おじさんはきっと、桜ちゃんほど我慢強くないんだね.....ははっ....」

 

桜に心配をかけまいと、笑みを浮かべながら顔を触り、自嘲する雁夜。

 

「雁夜おじさん....どんどん違う人になって行くみたい....」

 

「っ....!....そうかも....知れないね....」

 

桜の呟きに少し心が乱されるも、苦笑いを浮かべながら返す雁夜。

 

「今夜はね、私、蟲蔵へ行かなくて良いの....もっと大事な儀式があるからって御爺様が言ってた.......」

 

蟲蔵とはその名の通り、間桐家の飼育する魔蟲を保管している蔵である。

 

桜は、間桐家の養子になったその日から、毎晩の様に魔蟲にその純血を奪われ、犯され、嬲られてきた。

 

その為、桜の目には、もはや希望の光は見て取れず、絶望の闇に染められているようだった。

 

「あぁ、知ってる....だから今夜は、代わりにおじさんが地下に行くんだ。」

 

「雁夜おじさん、どっか行っちゃうの?」

 

雁夜の覚悟を持った佇まいに、何かを感じ取り、そう問いかける桜。

 

「....これからしばらく、おじさんは大事な仕事で忙しくなるんだ.......こんな風に桜ちゃんと話していられる時間も.......あまり無くなるかもしれない....」

 

「そう.......」

 

桜の問いに、心配をかけまいとそんな嘘を吐く雁夜に、短くそう返す桜。

 

「なぁ桜ちゃん、おじさんの仕事が終わったら、また皆で遊びに行かないか?お母さんやお姉ちゃんも連れて....」

 

「お母さんやお姉ちゃんは.......そんな風に呼べる人はいないの、居なかったんだって思いなさいって、そう御爺様が.......」

 

雁夜が桜を少しでも元気付ける様にと切り出せば、桜は諦めた様にそう告げる。

 

「.......そうか.......」

 

雁夜は桜の言葉と表情に、いたたまれず、膝立ちになり片腕で桜の身体を優しく抱き締める。

 

「....おじさん.......?」

 

抱き締められた桜は、少し不思議そうに問いかける。

 

「.... じゃあ、遠坂さん家の、葵さんと凛ちゃんを連れて、おじさんと桜ちゃんと4人で、どこか遠くへ行こう、また昔みたいに.......一緒に遊ぼう。」

 

「あの人たちと.......また会えるの?」

 

桜は雁夜の言葉に、少し驚きながらそう聞き返す。

 

「.... あぁ、きっと会える、それはおじさんが約束してあげる。」

 

雁夜は口から零れそうな希望を与える言葉を必死に噛み殺しそう告げる。

 

死ぬかもしれない、負けるかもしれない、そういった想いから桜に無責任な希望を与えるべきでないと判断したのだ。

 

「..........」

 

しかし、それ故か、桜の心にはさほどの感慨も生まれなかった。

 

「....じゃあ、おじさんはそろそろ行くね?」

 

「うん....バイバイ、雁夜おじさん.......」

 

「はぁ....はぁ....はぁ....」

 

「.......バイバイ....」

 

桜の下を後にする雁夜の背中にさよならを告げる桜。

 

息を切らし、引き摺るように歩く雁夜に、もう会えないとばかりに、消え入りそうな声でもう一度、別れの挨拶をする桜。

 

雁夜が蟲蔵に入ると、既に臓硯が中で待っていた。

 

「召喚の呪文は、覚えてきたであろうな?」

 

「あぁ。」

 

臓硯のそんな問いに、短く肯定する雁夜。

 

「良いじゃろう、だがその途中に、もう二節別の詠唱を差し挿んでもらう。」

 

「.......どういう事だ?」

 

雁夜は臓硯の言葉に、疑問符を浮かべて聞き返す。

 

「なに、単純な事じゃよ、雁夜、お主の魔術師としての格は、他のマスター共に比べれば些か以上に劣るのでな、サーヴァントの基礎能力にも影響しよう....ならばサーヴァントのクラスによる補正で、パラメーターそのものを底上げしてやらねばなるまいて.......雁夜よ、今回呼び出すサーヴァントには、狂化の属性を付加してもらうかの。」

 

臓硯の言葉は一応は、雁夜の身を案じる風ではあるが、浮かべている笑みが、その態度が、雁夜を苦しめる事を愉しんでいると語っている。

 

蟲蔵の中には、血で綴られた魔法陣が描かれていた。

 

そして真ん中には触媒として、湖の騎士(ランスロット)が使ったとされる楡の枝が供えられていた。

 

だが、奇跡かはたまた偶然か.......運ばれて来る途中か、保存されていた場所でかは分からないが、楡の枝にはどら焼きの食べカスが着いていた。

 

雁夜は覚悟を決めると、覚えてきたものに、臓硯から伝えられた詠唱を加えて、召喚の義に取り掛かる。

 

「素に銀と鉄。 礎に石と契約の大公。

 

降り立つ風には壁を。 四方の門は閉じ、王冠より出で、王国に至る三叉路は循環せよ

 

閉じよ。(みたせ)閉じよ。(みたせ)閉じよ。(みたせ)閉じよ。(みたせ)閉じよ。(みたせ)

繰り返すつどに五度。ただ、満たされる刻を破却する

 

――――告げる。

 

汝の身は我が下に、我が命運は汝の剣に。

 

聖杯の寄るべに従い、この意、この理に従うならば応えよ。

 

誓いを此処(ここ)に。

 

我は常世総ての善と成る者、 我は常世総ての悪を敷く者。

 

されど汝はその眼を混沌に曇らせ侍るべし。

汝、狂乱の檻に囚われし者。

我はその鎖を手繰る者――。

 

汝三大の言霊を纏う七天、

抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ―――!」

 

雁夜が詠唱を終えると同時に、魔法陣の中心から眩い光が辺りを包み込む。

 

風が吹きすさび、ホコリを巻き込み、煙となって雁夜達の視界を塞ぐ。

 

しばらくして、煙が晴れると、そこには少年と青色をした二足歩行の狸の様な何かが立っていた。

 

「こんにちは、僕ドラえもんです。」

 

「僕は野比のび太。貴方が僕のマスターなの?」

 

時空を超え、世界を超え、宇宙を超え、次元を超えて.......

 

奇跡かはたまた偶然なのか、それを知る由はないが.......

 

なんにしても、ここ、冬木の地に、1機と1人の大英雄が降り立ったのだ。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第2話「正しき目的、間違った手段」

ドラえもんとのび太の登場に唖然となる雁夜。

 

無論、彼等を知っているからでは無く、彼等の頼りない外見に落胆を通り越したからである。

 

「ふひゃひゃひゃひゃ!貴様、これ程までに才能がないか!サーヴァントを御しきれぬ以前に、まともなサーヴァントすら召喚出来んとはのう!....これでは、やはり此度の聖杯戦争は期待出来ぬな。残念じゃが、桜に期待せざるを得ないのう。」

 

臓硯は雁夜を一頻り嘲笑えば、そそくさと蟲蔵を後にする。

 

「待て!....うぐぅぅぅ!!」

 

出ていく臓硯を引き留めようとするも、刻印蟲による痛みで、血を吐き倒れてしまう。

 

「「大丈夫(ですか)!?」」

 

のび太とドラえもんはその衝撃的な光景にすぐさま駆け寄る。

 

「....クソ....でも....やるしか....え....!?」

 

雁夜は薄れ行く意識を何とか繋ぎ止め、ドラえもんのステータスを見て驚愕した。

 

 

筋力B 耐久A++ 敏捷A 魔力E 幸運C 宝具EXと、魔力以外のステータスがありえない程高水準なのだ。

 

理性を犠牲にしたバーサーカーなら、それも頷けるだろう。

 

しかし、ドラえもんのクラス名は.......『降臨者(フォーリナー)』だ。

 

「こ、これは....どういう事....なんだ....?」

 

雁夜は自分が幻覚でも見ているんじゃないかという疑念が浮かんでいた。

 

のび太の方のステータスを見てみる事にする。

 

筋力E 耐久E 俊敏E 魔力E 幸運EX 宝具???

 

幸運以外は最低ランクであり、宝具に至っては???で隠されている。

 

そこまで確認した所で、意識を保てずに、気絶してしまう。

 

「えっ!?死んじゃったのっ!?」

 

「....いや、まだ、生きているみたいだ....と、とりあえず....お医者さんカバン〜!!」

 

ドラえもんは4次元ポケットからお医者さんカバンを取り出し、雁夜を診察する。

 

「ど、どう....?」

 

「....すごく危険な状態だ。何か、蟲の様なものが体内にいて、それが原因で臓器が殆ど機能してないみたい....でも、大丈夫。お医者さんカバンなら治せるよ。」

 

お医者さんカバンから錠剤と、栄養ドリンクの様なものが出てくると、それを雁夜に飲ませる。

 

すると、雁夜の髪は艶やかな黒に戻り、肌も生気を帯びた元の色になり、顔やその他の壊死していた箇所も治り健康体へと戻った。

 

「う....俺は.......」

 

暫くすると、雁夜は目を覚ました。

 

「「良かった、気が付いた!」」

 

ドラえもんとのび太はその様子に安堵の声を漏らす。

 

「あれ....っ!?」

 

先程まで襲っていた激しい苦痛が嘘のように治まり、身体を触っている時に、動かなかったはずの左半身が動いている事に気付く。

 

「こ、これは....お前達がやってくれたのか....?」

 

ありえない出来事に、サーヴァントの宝具か何かだという結論に至り問い掛ける。

 

「うん、ドラえもんの秘密道具....じゃなくて、宝具の力だよ。お兄さんが無事で良かった。」

 

ドラえもんとのび太は、召喚される際に、ある程度の知識を獲ているので、のび太は宝具と言い直した。

 

「えっと....マスターさん、お名前は?」

 

雁夜がいきなり倒れてしまった故、出来なかった自己紹介を行う為名前を聞くドラえもん。

 

「あ、ああ....俺は間桐雁夜。」

 

ドラえもんの問い掛けに、素直に答える雁夜。

 

「雁夜お兄さんは、何を願って僕達を召喚したの?」

 

のび太は核心を突くように、雁夜の目を見つめて問い掛ける。

 

のび太は、雁夜の負の部分を無意識的に感じ取っていた。

 

「....あいつを.......遠坂時臣を殺す為だ。」

 

憎しみを浮かべた瞳で見つめ返し、そう答えた。

 

「待って、なんでその人を殺したいのさ?その人がそんな酷い事をしたの?」

 

のび太は雁夜から出た言葉に、問い詰めるようにそう問いかけた。

 

「ある女の子を助ける為だ。桜ちゃんって言うんだが....」

 

雁夜はドラえもんとのび太に、その考えに至るまでの経緯を話した。

 

「なるほど....だけど、その時臣って人を殺す必要ないじゃない。」

 

のび太は話を聞き終えると、雁夜を宥めるにそう話す。

 

「そうだよ今の話を聞く限り、桜ちゃんを虐めてるのは、その臓硯っていうおじいさんじゃないか。だったらそのおじいさんをやっつければいいでしょう?」

 

ドラえもんも、呆れたような表情を浮かべて自身の考えを語った。

 

「だ、だが....時臣は桜ちゃんだけじゃなくて、葵さんも不幸にしているし.......葵さん達を時臣の手から救わなければ.......」

 

「そりゃ、その葵さんっていう、桜ちゃんのお母さんも悲しいだろうけど.......でも、その時臣さんが死んじゃったら、もっと悲しくなるんじゃないの?」

 

雁夜の歯切れの悪い反論に、のび太はそれを切り捨てるように問い掛ける。

 

「というか、その時臣さんって桜ちゃんのお父さんは、桜ちゃんが臓硯にそんな目に合わされるって知ってたの?」

 

続け様に問い掛けをぶつけるドラえもん。

 

「それは.......いや、そうかもしれない....時臣も知らなかった可能性の方が高いだろう....だけど....でも....!」

 

「.......ねぇ....お兄さんは、葵さんっていう人をお嫁さんにしたいから、僕らを呼んだの?それとも、桜ちゃんを救いたいから僕らを呼んだの?」

 

矛盾点を指摘され、それでも食い下がろうとする雁夜に、のび太の問い掛けが突き刺さる。

 

「っ....!?.......俺は、桜ちゃんを救いたい。....それが俺の望みだ。何故だろうな.......俺の中でいつしか、下らないもんが支えになってたみたいだ......悪かった、そして、ありがとう。目を覚まさせてくれて。」

 

雁夜は刻印蟲に与えられる苦痛に晒され続ける中で、桜を救いたいという気持ちから

 

防衛本能の様に、時臣に対する憎しみや、葵への恋心が糧に変わっていた。

 

だが、その苦痛が取り除かれ、2人からの言葉もあり、その呪縛から解き放たれた雁夜は

 

本来の望みである、純粋に桜を救いたいという気持ちを取り戻したのだった。

 

「ううん、お兄さんがその気持ちを思い出したなら、僕はそれで十分だよ。」

 

のび太は嬉しそうに微笑みながら、雁夜にそう答える。

 

「ふん、お涙頂戴の下らん茶番じゃな。はて、雁夜.......お主、このわしに逆らうつもりじゃあるまいの....?」

 

その雰囲気をぶち壊す様に、狂気を纏って現れる臓硯。

 

「どうやったかは知らんが....刻印蟲は取り除かれた様じゃな。今なら、わしに攻撃出来るぞ?....桜がどうなってもいいならな。」

 

「くっ....!!」

 

臓硯は桜の髪を鷲掴みにして、無理矢理連れてきており、桜を人質にされ悔しそうに歯を噛み締める雁夜。

 

「確かに、多少良いサーヴァントを引き当てた様じゃが.......わしに歯向かうには、ちと覚悟が足らんようじゃな。....お主に出来るのは、わしの前に聖杯を持ってくる事だけだ。カッカッカッ!」

 

雁夜を嘲笑いながら、そう強気に発言する臓硯だが.......

 

「取り寄せバックと空気砲〜!....今だ!のび太くん!!」

 

「わかった!ドカンッ!!ドカンッ!!」

 

ドラえもんは取り寄せバックと空気砲を取り出し、空気砲をのび太に渡して、取り寄せバックから桜を出せば、のび太が間髪入れず空気砲で臓硯を攻撃する。

 

「ふん、お主らがどういう状況に置かれているか教えんとならんようじゃな?」

 

「うぐぅぅぅあぁぁぁぁっっ!?」

 

臓硯の身体に空気砲が炸裂するが、身体からは蟲が飛び散るだけで、さしてダメージは見受けられない。

 

そして、臓硯が発言すると、桜が胸を抑えながらのたうち回り、気絶する。

 

「やめろ臓硯っ!?....2人とも、攻撃をやめてくれ.......この爺は蟲に身体を置き換えているから、攻撃は無駄なんだ....」

 

臓硯に叫び、あまりの悔しさに、噛み締める口から、血を少し流しながら、2人を制止する雁夜。

 

「な、なんだって!?どうしよう、ドラえもん!?」

 

空気砲による攻撃をやめて、ドラえもんに縋るような目線を送るのび太。

 

「相手が蟲だって言うなら.... 狂音波発振式ネズミ・ゴキブリ・南京虫・家ダニ・白アリ・虫退治機〜!!」

 

ドラえもんがそう叫んで、道具を取り出し、スイッチを入れると、凄まじい音波が周囲を包む。

 

ドラえもん、のび太、雁夜は耳を塞ぎながらそれに耐えている。

 

「うぎゃぁぁぁぁああああ!?!?」

 

臓硯が凄まじい断末魔をあげたかと思えば、身体は姿形を保っていられなくなり、無数の蟲となりひっくり返った。

 

「臓硯が見当たらないぞ.......そうだ!間桐臓硯!」

 

音が止むと、ドラえもんは取り寄せバックを使って、間桐臓硯を取り出す。

 

「これが臓硯の正体だったのか.......」

 

「こんな、ちっぽけな蟲なんだね.......」

 

臓硯の真の姿を見たドラえもんとのび太はやるせない気持ちになった。

 

「な、何してるんだ!?早く殺さないと!」

 

臓硯が復活する前に、殺すべきだと叫ぶ雁夜。

 

「.......いや、止めよう。臓硯は悪い奴かも知れないけど.......ここで、殺したら、僕達も同じになっちゃう。」

 

「そうだよ、ドラえもんの言う通りだ。」

 

ドラえもんがそう言うと、のび太もそれに賛同する。

 

「だ、だが.......こいつはもう一度、同じ事を繰り返すかも知れない。」

 

「そうならないように、説得してみようよ!」

 

「まずは、タイムふろしきで、蟲になる前の姿に戻してみよう。そうすれば、話を聞いてくれるかもしれない。」

 

雁夜の言葉に、のび太がそう提案し、ドラえもんはそれに賛同する様に更なる提案をして、タイムふろしきで臓硯を蟲になる前へと戻す。

 

((わしはどうなったのだ.......身体の痛みが消えている....?))

 

魂を物質化し、身体を蟲へと変化させる前の姿を取り戻した臓硯はハッキリしない意識のままそんな事を考えていた。

 

「こ、これが臓硯の昔の姿っ!?」

 

雁夜は醜悪な蟲の臓硯とは似ても似つかない美青年姿の臓硯に驚きを隠せない様子だ。

 

「....うぅ....フハハハハ!甘いのぉ!!わしを殺せるチャンスだったと言うのに!!」

 

意識を覚醒させた臓硯は、雁夜達に対し、そう嘲笑いながら素早く桜を人質にして、魔術攻撃の構えを取る。

 

「ねぇ、何でそんなに人を苦しめようとするのさ!?どうして不老不死になりたいの!?人がそんなに嫌いなのっ!?」

 

のび太はそんな臓硯に、他者を慈しむが故の悲痛と悲哀の涙を流しながらそう問いかける。

 

「何故人を苦しめたいか!?何故不老不死を求めるか!?そんなもの.......?.......」

 

臓硯は、嘲笑いながら答えようとするも、言葉が喉につっかえ、のび太の問い掛けが心に引っかかり、思案する。

 

((....はて.......何故わしは不老不死を.......?たしか.......))

 

思案すれば、ゆっくりと掘り起こされるように、思い起こされる遠い昔の記憶。

 

マキリの血に限界を感じ、それでも抗い続ける事の決心を。

 

己の抗い続ける姿を見せつける事で、後世の者の心に訴え、人間をより良き種へと導くという理想を。

 

他者を本気で慈しむその正しき心根を。

 

((....そうか....全て思い出した.......!.......だと....したら.......ワシはっ.......ワシはなんて事を.......っ!?))

 

全て思い出した事で、次に襲うのは、今まで自身が犯してしまった罪への後悔と罪悪感と自己嫌悪だった。

 

「うぁぁぁぁあぁぁぁぁっ!!!わ、ワシは....!ふぐぅぅぅっ....!なんて....ことをっ....!!ひぐあぁぁぁあ゛ぁぁぁっ!!!」

 

臓硯は、慟哭し、哀哭し、咆哮し、悲鳴をあげた。

 

自身の目から、涙を流し、鼻水を垂らし、遂には血涙した。

 

抗い続ける事を決めた臓硯は、魂を物質化し身体を蟲へと変化させた。

 

全ては、人類の種としての進化により、この世の悪の根絶を願っての事だった。

 

その理想も、己の手では叶えられないと知りながら、それでも遺せるものはあると生き続けた。

 

しかし、身体を蟲に変化させた事が原因の苦痛により、徐々に臓硯は狂ってしまう。

 

気高き理想は過酷な現実に塗りつぶされた。

 

他者を慈しむ清らかな想いは、他者を呪う汚れた欲望に食い潰された。

 

いつしか臓硯は人に苦痛を与える愉悦を是とする妖怪へと成り下がってしまったのだ。

 

「うぐぅっ....!すまんっ....雁夜....桜....鶴野....子孫達....名もなき女達よ.......ひぐっ.......すまなかったっ.......!」

 

だが、そんな妖怪へと差し伸べられた手が、苦痛を浄化した。

 

純新無垢な少年の他者を本気で慈しむ涙が、汚れて腐った欲望を洗い流したのだ。

 

((臓硯も....ちっぽけな人間だったんだな.......))

 

雁夜は泣き果てる臓硯を見て、毒気を削がれていた。

 

「....なぁ、臓硯は暫くほっておいてやろう。それより、桜ちゃんを治療してやってくれないか?」

 

涙が枯れ果て、茫然自失な虚ろな目で虚空を見つめる臓硯を見遣り、次いで未だに気絶している桜を見遣れば、ドラえもん達に目を向けてそうお願いする。

 

「そうだね.......桜ちゃんは、お医者さんカバンじゃどうにも出来ないし、タイムふろしきを使おう。」

 

そう言うと、桜をタイムふろしきで包み込み、間桐家で臓硯に陵辱される前の姿に戻した。

 

「.......雁夜よ....すまなかった.......そんな事で償えるとは思わんが....死んで詫びようと思っておる.......」

 

未だに虚ろな目をする臓硯は、雁夜を見ながらそう話す。

 

「それは、贖罪のつもりか?.......あんたにはやる事があるはずだ。まずは、何故、桜がこの家に来る事になったのか....それを説明しろ。話はそれからだ。」

 

罪悪感から、死んで詫びようという臓硯にそう返す雁夜。

 

「わかった.......まずは.......」

 

雁夜の言葉に、今までの経緯を話し始める臓硯。

 

雁夜が出奔した事で、跡継ぎに困っていた間桐家。

 

その間桐家と盟約を交わしていて、姉妹が産まれた事により娘の師となる魔術師を探していた遠坂家。

 

桜は「架空元素・虚数」という極めて珍しい属性と類稀なる魔術の才能により魔術師の庇護が無ければ生きていけぬという事。

 

魔術を封じるにも大変な負荷が掛かり、現実的では無いという事。

 

自分の想像していた事とかなり違う話に戸惑いを隠せない雁夜。

 

そんな話をしていると、桜が目を覚ました様だ。

 

「う....私は.......」

 

桜の髪や瞳は、絶望を象った様なくらい紫から、艶を見せる暖かい黒へと戻っていた。

 

「桜ちゃんっ.....」

 

桜に駆け寄ろうとするが、相変わらずの怯えた無表情の桜に踏みとどまる雁夜。

 

タイムふろしきとて、辛い記憶や恐怖までリセット出来るわけではない。

 

桜の瞳や表情には、未だに絶望と恐怖が残っていた。

 

「お兄さん、ここから先は、お兄さんじゃなきゃ治せないよ?」

 

のび太は、桜の様子に踏みとどまる雁夜に、耳元でそう促す。

 

「っ!....桜ちゃん、ごめんな....おじさん、ちょっとビビってた。桜ちゃんが、悲しまないようにとか言い訳して、つまらない予防線を張ってた.......」

 

「おじさん.......?」

 

雁夜にいきなり抱き締められた桜は、状況がいまいち飲み込めず、疑問符を浮かべながら話を聞く。

 

「真っ先に言うべきだった....桜ちゃん....いや、桜!おじさんが必ず君を幸せにしてあげる!」

 

「本当....に.......?でも、お爺様が.......」

 

膝立ちで、桜の目を見つめながら話す雁夜に、それでもまだ恐怖が拭えていない桜。

 

「大丈夫。悪いおじさんは俺達が倒したから。だから、もう良いんだ。辛かったろう.......?苦しかったろう.......?もう、我慢しなくていいんだよ。泣きたければ泣けばいい。笑いたければ笑えばいい。おじさんが全部受け止めるから。おじさんが、君の父親になるから。」

 

再び桜を強く抱きしめ、涙を流しながら、そう強く伝える雁夜。

 

「ほ....んと....?おじ....さん....桜....本当に....我慢しなくて良いの....?」

 

「ああ....本当だ。桜、もう大丈夫だからっ!」

 

「ひぐっ....うわぁぁぁんっ!」

 

桜を抱きしめながら感極まり、涙を流しながらの雁夜の言葉に、桜はついに堰を切ったように泣きじゃくる。

 

優しさの涙に洗い流され絶望に塗り潰された瞳に、希望の光が灯された。

 

絶望に食い殺されていた感情は、優しさの温もりで蘇っていく。

 

蟲に陵辱され汚された肉体は純新無垢な処女のものへと戻った。

 

悪意と愉悦に狂わされた女の子はもう居ないのだ。

 

間桐桜は、その過酷な運命と悪辣な妖怪から解き放たれたのだった。




ドラえもんとのび太のステータスを載せようと思います。

【CLASS】降臨者(フォーリナー)
【マスター】間桐雁夜
【真名】ドラえもん
【性別】男性
【身長・体重】129.3cm・129.3kg
【属性】秩序・善
【ステータス】筋力B 耐久A++ 敏捷A+ 魔力E 幸運C 宝具EX

【クラス別スキル】

領域外からの降臨者:D
外なる宇宙、異世界からの降臨者。この世界を作った神よりもさらに格上の神に産み出された事による加護。この世界のあらゆる法則に縛られない。.......のだが、本人の心根により、かなり自制されている。

SFの体現者:EX
この世界を作った神よりもさらに格上の神により産み出された事による加護。EX相当の単独行動スキルが与えられるが、霊体化は出来ない。このランクであれば食事による魔力供給のみで現界し続ける事が可能。

【固有スキル】
心眼(真):C
 修行・鍛錬によって培った洞察力。
 窮地において自身の状況と敵の能力を冷静に把握し、その場で残された活路を導き出す“戦闘論理”
 逆転の可能性が数%でもあるのなら、その作戦を実行に移せるチャンスを手繰り寄せられる。

22世紀のロボット:A+
 対魔力A+以下の魔術は全てキャンセル。
 事実上、魔術ではフォーリナーに傷をつけられない。

【宝具】
遥か遠き未来の技術の結晶収められし宝物庫(四次元ポケット)
 ランク:EX 種別:対人宝具 レンジ:- 最大捕捉:-
 四次元空間に繋がっていてポケットの中にある秘密道具を自由に取り出せるようになる。
 秘密道具は全て宝具であり、魔力を一切消費しない。が、一部の宝具は無意識的に使えない。

【CLASS】降臨者(フォーリナー).
【マスター】間桐雁夜
【真名】野比のび太
【性別】男性
【属性】中立・善
【ステータス】筋力E 耐久E 敏捷E 魔力E 幸運EX 宝具???
【クラス別スキル】
領域外からの降臨者:-
外なる宇宙、異世界からの降臨者。この世界を作った神よりもさらに格上の神に産み出された事による加護。この世界のあらゆる法則に縛られない。.......のだが、本人の心根により、失われている。

怠け者の矜恃:A
フォーリナー自身の生き方が反映されたスキル。幸運と宝具以外の全てのランクが最底辺に落ち、魔術師でも倒せるくらいに弱体化するマイナススキル。EX相当の単独行動スキルが与えられるが、霊体化はできない。

【固有スキル】
直感:A
  戦闘時に常に自身にとって最適な展開を“感じ取る”能力。
  研ぎ澄まされた第六感はもはや未来予知に近い。視覚・聴覚に干渉する妨害を半減させる。
 
心眼(偽):A
 視覚妨害による補正への耐性。
 第六感、虫の報せとも言われる、天性の才能による危険予知である。

射撃:A+
あらゆる弾となる物を発射する武器を使いこなし、的となる物へ当てる能力。ランクA+ともなると、初めてその概念を知る射撃武器でも命中率80%以上を誇り、使い慣れた武器なら限りなく100%に近い確率で外さない。

カリスマ:D+
 軍団を指揮する天性の才能。団体戦闘において、自軍の能力を向上させる。
 軍団を指揮する、と言うよりは人望や性格によって発揮される天性の才能でもある。
 
【宝具】
『???』
ランク:???種別:対人宝具 レンジ:??? 最大補足:???
殆どが謎に包まれている宝具であり、分かっていることはこの宝具の存在をフォーリナーが打算などの邪な考えを少しでも抱いて使おうとしたら失われてしまうという事。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第3話「赦し、そして、継承」

今回は修行回で、あまり話は進んでいません、ごめんなさい。

でも、敵を消すのに手段を選ばない外道や、マジカル八極拳使いの人外が相手だと仕方なかったんです。


雁夜と桜は抱き合って、泣き続けた。

 

それは、悲痛からくる冷たい涙ではなく、喜びからくる暖かい涙だった。

 

暫くして落ち着くと、臓硯の方へと視線を送る。

 

「この人が本当に、お爺様.......?」

 

臓硯の今までと似ても似つかない姿に困惑を隠せない桜。

 

「ああ、そうだよ。今までの悪いお爺様はもういないんだ。」

 

桜の問に、そう説明する雁夜。

 

「ワシは....お前達に....とんでもない事をしてしまった.......やはり、ワシの命で償おうと思う.......そんな事で....償いきれるとは思えんが.......」

 

臓硯は床に手を付き、頭を下げ、桜と雁夜に贖罪する。

 

「....逃げ出した俺に決める権利は無いと思う。....桜はどう思うんだい?」

 

間桐家という辛い現実に背を向け、逃げ出すという罪を犯した自分には決められないと1番の被害者である桜を見る。

 

「桜は.......死んじゃうのは、謝る事じゃないと思う.....すっごく辛かったし、今でも怖いけど.......お爺様....桜は、赦してあげる。だから、ちゃんと生きて、いっぱい謝ろう?」

 

桜の姿を見て、雁夜はなんて強い子なんだと思った。

 

自分に害を及ぼした相手に怒り排除する事よりも、それを赦し受け入れる事の方が遥かに辛く難しい。

 

それを出来る桜は凄い子なんだと思った。

 

だが、それでも普通の子で、痛みも感じるし、辛い事も沢山ある。

 

だから、雁夜はこの子を必ず幸せにしてみせると、心の中で深く誓ったのだった。

 

「そうか....お前がそう言うのならば、そうしよう.......すまない....そして、ありがとうっ.......」

 

臓硯は桜の優しさに、強さに、また涙を流した。

 

暫くそんな時間が続き落ち着くと、桜も疲れただろうとベッドへ送ってやり、寝かせてから皆でリビングに集まる。

 

「さて....俺の望みは叶ったが....お前達はどうするんだ?」

 

雁夜はソファーに腰掛けながら、ドラえもんとのび太に問い掛ける。

 

「僕達は、元の世界に帰りたいけど.......でも、願い事を叶えるために争い合うなんて間違ってる。だから、この聖杯戦争を止めたい。」

 

「そうだね。僕ものび太君と同じ意見だよ。それに、何か他の方法も見つかるかもしれない。」

 

のび太とドラえもんは同意見であり、それを雁夜に伝えた。

 

「そうか.......なら、俺も協力するよ。マスターとして、戦いに参加する。」

 

雁夜は2人の話を聞き、目をつぶって少し考えると、決心した様にそう話す。

 

「え、でも、危険だよ?」

 

ドラえもんが、雁夜の決断にそう問い返す。

 

「そうかもしれない....だが、お前達は俺の望みを叶えてくれた。だから、今度は俺がお前達の力になりたい。」

 

雁夜やドラえもんの問い掛けに、決意の固さを示す様にそう答える。

 

「....いや、待つんじゃ。お主、刻印蟲も無くなり、魔術もろくに使えんではないか。刻印蟲の影響で、多少、お主の中の魔術回路が開いたにせよ、戦う術が殆ど無い。さすがに無謀と言わざるを得ん。」

 

臓硯は、雁夜を馬鹿にしたくて言っているわけでは無かった。

 

たしかに、雁夜は刻印蟲を埋め込まれた副次効果として、体内の魔術回路が開いてはいた。

 

しかし、それを扱いきる技術も無ければ、魔術回路の数も平均かそれ以下しかない。

 

故に、自分の身を守る術がほぼほぼ無いと言っても過言ではないのだ。

 

「だが、それでも俺はこいつらの力になれる事をしたい.......」

 

雁夜も臓硯が述べる事実は理解していたし、それは自分が1番わかっていたが、それでも何かしたかった。

 

「だがな.......もし、少しでもワシの魔術回路と知識を分け与える事が出来れば、話は別じゃったが.......」

 

臓硯も、雁夜の心意気は汲んでやりたかったが、無謀をさせる訳にもいかなかった。

 

「あのー....方法が無いわけじゃないよ。臓硯さんの力と知識を雁夜さんに渡す事は可能だよ。」

 

2人の議論に口を挟む様に、そう告げるドラえもん。

 

「「なに!?それは本当か!?」」

 

臓硯と雁夜は、口を揃えてドラえもんの言葉に食い付いた。

 

「うん。だけど.......知識は兎も角として、その魔術回路ってのは臓硯さんから無くなっちゃうよ?それでも良い?」

 

2人の視線を受けて、少し申し訳なさそうにそう答えるドラえもん。

 

「.......臓硯、どうする?」

 

自分に決定権は無いと、臓硯に話を振る雁夜。

 

「ワシは、別に構わん。もう未練は無いし、もしそんな事が出来るのなら、ワシの魔術回路を受け継いだ雁夜が間桐家の当主となり、桜を守っていく事も出来よう。」

 

臓硯はドラえもんの提案に頷き、その提案を快諾する。

 

「わかった。.......ムリヤリ借用書とメモリーディスク〜!!」

 

ドラえもんは、ムリヤリ借用書と書かれた借用書と、ディスクが入ったBDプレイヤーの様な物を取り出した。

 

「このメモリーディスクは、このディスクを頭に乗せる事で記憶をディスクに記録して、それをこのプレイヤーで再生したり、記憶を記録したディスクを別の人の頭に乗せて、その人の記録を与える事が出来るんだ。」

 

そう言って、メモリーディスクを雁夜に渡すと、雁夜はそれを頭に乗せる。

 

記録が終われば次に臓硯に手渡され、同じく頭に乗せた。

 

臓硯は出来うる限り、魔術に関する知識を思い起こし記録していく。

 

記録を終えると、また雁夜の頭の上に乗せて、ディスクの記録を頭に記憶させた。

 

「次に、このムリヤリ借用書は、この紙に借りたい人と借りたい相手と借りたいものと借りたい個数を書くことで、借りる事が出来るんだ。1枚につき4種類まで、借りる事が出来るよ。」

 

次に、ムリヤリ借用書を差し出し、道具の説明をするドラえもん。

 

「ワシの魔術回路の数は、80個じゃ。ついでに魔術刻印も持っていけ。」

 

雁夜は言われた通り、ムリヤリ借用書に書き込むとそれを臓硯に渡す。

 

すると、臓硯の身体から魔術回路と魔術刻印が消え、全て雁夜の身体に移った。

 

雁夜の魔術回路の数は20、そして新たに80もの魔術回路が移り、合計100の魔術回路と500年刻み続けた魔術の知識、そして魔術刻印を雁夜は手に入れた。

 

同時に、魔術回路と魔術刻印を失った事で、臓硯の姿が急に老けてしまう。

 

臓硯は魂の物質化をする前は、魔術による若さの維持をしていた。

 

しかし、魔術回路と魔術刻印を失った為に、魔術を行使できなくなり年相応の姿になったのだ。

 

老いた姿の臓硯は、蟲の頃の臓硯に似通ってこそいるが、そこに柔和さと、温和さを足したような外見になっていた。

 

「臓硯.......あんた.......」

 

雁夜は臓硯のそんな姿を見て、なんて言って良いのか分からず、言葉を詰まらせた。

 

「良いんじゃ。元々ワシは、とうの昔に死んでいる筈の身。それを500年以上生きてきたばかりか、余生を過ごす時間まで与えられたんじゃ。文句を言う筋合いは無い。」

 

臓硯は自身の変化を前に、その結果に不満はないとそう答えた。

 

「さて....魔術回路に魔術刻印に魔術の知識も貰った。後は、魔術を使いこなす特訓もしたい所だが、時間があまり無いな.......」

 

サーヴァントが揃った時点で、聖杯戦争は開始であるが故、具体的にいつかまでは分からないが、戦いの幕開けは近いと推測していた。

 

「すっごく大変かも知れないけど、それでも良いなら、そういうひみつ道具もあるにはあるよ。」

 

雁夜の呟きに、ドラえもんはそう前置きをしたうえで提案する。

 

「なに?俺は構わない。出してくれ。」

 

ドラえもんの出す、奇跡の連続とばかりの道具の数々に慣れたのか、さほど驚きもせず二つ返事をする雁夜。

 

「わかったよ。えっと.......エイコーノトビラ〜!!」

 

RPG等に出てくるお城の扉を一回り小さくした様な道具を出すドラえもん。

 

「目標を言って中に入れば、その目標を達成するまでは出られない扉だよ。中は異空間になっていて、外の世界とは時間の流れが違うから安心して。でも、すっごく大変だからね?」

 

ドラえもんは、雁夜に対して、キチンと道具の説明をする。

 

「わかった、ありがとう。じゃあ、行ってくる。『俺は短期間でもの凄く強い魔術師になる!』」

 

雁夜はそう宣言すると、扉の中へと入って行った。

 

中に入ると、人型のロボットがおり、竹刀を持って待ち構えていた。

 

ここから、間桐雁夜の壮絶な修行が開始されるのだった。

 

まずは、どういう原理かは分からないが、蟲蔵の蟲が全ており、それを操りきるための修行だ。

 

「何故、蟲のコスプレをしなきゃいけないんだっ!?....あぎゃぁぁぁ!?....わ、わかった、着るからっ!電気ショックをやめろっ!!」

 

来る日も来る日も蟲のコスプレをしながら、蟲に話しかけさせられる日々。

 

「臓硯との修行じゃ、蟲に魔力を送って、操るだけだったのに.......だが、あいつらや桜の為にも、やりきらねばっ!」

 

弱音を吐きながらも、何とか耐え続け、知識の助けもあり、蟲を十全に操れる様になった頃、新たな修行が始まる。

 

「....なるほど.......蟲達に魔力特性を付与して、戦闘に応用するのか.......」

 

間桐家の魔術というのは、1にも2にも、使い魔たる蟲を使役してそれを戦闘や様々な研究等に活かすという物。

 

それ故に、間桐の魔術自体には直接的な攻撃魔術が殆どないのだ。

 

そこで、使役している蟲に魔力や自身の血等を分け与える事で、用途に合わせた蟲を作り出し、使役する。

 

また、蟲に愛情を注ぎ、心を通わせる事で動き等が良くなるらしい。

 

「なかなか厳しい修行だが....なんとか出来そうだ....!」

 

つまり、先程の修行は蟲を操る為の基礎だが、この修行は自ら使役する蟲を創り出す修行だ。

 

 

様々な、試行錯誤を経て、形になり、ついには創り出すに至ったころ、漸く修行を終えられると思いきや.......

 

「ぐおぉぉぉっ!!?重っっ!!?なに!?この状態で肉弾戦の訓練だと!!??」

 

蟲使いの間桐の魔術師の不得手である、蟲を使わない魔術戦を克服させる為の修行の様だ。

 

攻撃する魔術を殆ど使えない為、やるならば、身体強化を施した上での肉体言語に頼る他ない。

 

そこで、必要な筋力と身体強化魔術の扱い、及び肉弾戦を想定した武術を教え込むようだ。

 

重力を10Gにしたうえで、基本的な攻撃を反復練習して行くことになる。

 

反復練習の方法は、防御の方法をある程度教えた所で、ひたすらに同じ流派の攻撃技を捌く事である。

 

「がはっっ!!??....ぐぐぅぅぅ....!!!ま、だ....ま、だぁぁぁ!!!!」

 

最初は、ひたすらにボコボコにされていた雁夜。

 

不屈の闘志で、何度も立ち上がり、少しずつ創意工夫を施しながら、徐々に被弾する数も減っていった。

 

やむ無く力尽き、気絶すれば、強制的に傷を治され、すぐ様修行を再開させられる。

 

気絶している間や、睡眠の間は身体強化が切れる為、重力を心臓の働きに影響が出でず身体を最低限動かす事のできる4Gに下げられた。

 

しかし、それ以外の時は10Gへと固定され、極限まで肉体と魔力を酷使する事になる。

 

すると、身体がそれにならされ、肉体は超回復し、魔力の回復も早くなっていく。

 

そうやって、過酷さを除けば、大変効率良く、武術に耐えられるだけの肉体と、武術を扱い切るための技術が身に付いていった。

 

「ふんっっ!!!はぁっっ!!!」

 

攻撃技を捌き続けた事により、効率的な防御と、効率的な攻撃を身に付け、肉弾戦において、ロボットと互角に渡り合う雁夜。

 

雁夜が身に付けるに至った武術は、古くは西暦1180年頃の日本にて、源平合戦の折に、生まれたとされる。

 

日本の諜報部隊として活躍していた忍び、つまり忍者が扱っていた武術で、それが未来世界で進化したものを雁夜は学んでる。

 

日本の古武術においては、戦国武術である為、鎧を着て刀や槍を持った相手にする為打撃が少なく投げや関節技が発達した。

 

しかし、忍者は諜報や暗殺を目的としている為、城などの室内で、武器の持ち込みも難しい為に打撃も発達していった。

 

その為、後世に起こる戦争に於いてもスパイとの相性が良く、その技術が使われ、進化していった。

 

さらに時代が進むとタイムマシンが開発され、正しい形で技が伝授された。

 

そして科学技術が発展し死なない場での技術の研鑽が出来るようになると、世界大会等も行われるようになった。

 

雁夜が身に付けたのは、その名を波式螺旋術といい、武田信玄に重用された透波や歩き巫女の間で培われた技術の流れを汲む流派だ。

 

構えは独特で、全身の筋肉を柔らかく脱力させ、肩甲骨を絶えず回し続け、手は波打つ様にリズムを刻む。

 

肩甲骨や股関節から拳や足先に力の波を起こし、それをロスする事なく相手に伝える事で破壊力を生む打撃。

 

螺旋を描いた動きで相手の攻撃を避け、流し、絡めとり、投げや関節に繋ぐ技術。

 

この2つが、基本であり、要の武術なのだ。

 

「....最終試験?....お前を倒せば、出れるのか。」

 

使い魔の扱い、魔術特性を付与した蟲を創り出し、そして武術の習得。

 

これらを経ての最終試験とは、これら全てを駆使して師範ロボを倒す事だった。

 

「ぐはあぁぁっっ!!?....これも、通じないか.......」

 

蟲をけしかけてもだめ、武術で倒そうとしても機械の超反応により遠距離からの雷撃等で近付けない。

 

師範代ロボを、観察し、戦術を練り、倒され、また練り直しを繰り返していく雁夜。

 

「ここをこうして.......いや....こうの方が.......」

 

そして、1つの魔術礼装とも呼べるものを創り出す事に成功する。

 

それは、大量の蟲を寄せ集めて作った、データを演算し数値を変換する生体コンピューターとも呼べるもの。

 

その名も、脳蟲群(モス・ラ・リーテ)、魔力パスを通じて送られたデータを元に変換して別の蟲に送る事も出来る。

 

「展開しろ!!防壁蟲っっ!!」

 

この防壁蟲は、脳蟲群(モス・ラ・リーテ)より送られたデータを元に攻撃を吸収する能力を持つ。

 

1匹1匹は小さく、吸収量も微々たるものだが、大量展開する事により攻撃を防ぐ事が出来る。

 

「密集しろ!!扮装蟲っっ!!」

 

雁夜は扮装蟲と呼ばれる蟲で自身の身体を覆い隠す事で、師範ロボの視界から消える。

 

この扮装蟲は脳蟲群(モス・ラ・リーテ)から送られたデータを元に体色を瞬時に変えることで景色と同化する能力を持つ。

 

こちらも大量に扱う事で、その力を発揮する。

 

これらを扱い切るための技術と貰い受けた魔術回路があってこそ初めて成り立つ戦術だ。

 

「せぇやぁぁっっ!!.......これで、修行は終わりか.......」

 

師範ロボに忍び寄り、渾身の武術を叩き込む事で、師範ロボを倒した雁夜。

 

5年にも及ぶ過酷な修行を経て、雁夜はその髪は真っ白に変化し、筋骨隆々の身体を手にした。

 

さらに、魔術を扱う技術、応用する戦術思考、敵を屠る為の武術を身に付けるに至った。

 

雁夜は漸く扉に手をかけ、外に出ることが叶う。

 

「....今は、夕方か.......待たせたな、ドラえもん、のび太。.......どのくらいの時間が経った?」

 

雁夜を出迎えたのは、まずは、差し込んで来る夕陽、そしてドラえもんとのび太だった。

 

「お疲れ様、ずいぶん逞しくなったねー!えっとね、お兄さんが中に入ってから、5日くらいかな。」

 

のび太は雁夜の変化に感嘆すると、雁夜の質問に答えた。

 

「そんなにというべきか、それほどというべきか、分からないが.......聖杯戦争になにか動きはあったか?」

 

のび太の答えに感慨深い表情でそう話すと、真剣な表情で次はそう問いかける。

 

「結論から言うとね.......サーヴァントを1人倒したよ。」

 

「はあぁぁぁぁぁっっ!?」

 

ドラえもんの衝撃的な発言に、雁夜の驚愕の声がコダマする。




雁夜おじさんの身体は、ビルダーみたいなゴリゴリのマッチョというよりは、格闘家の様な引き締まって無駄な筋肉が内容な身体に仕上がってます。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第4話「絶望破壊者(デストロイヤー)

今回、非常に長くなりましたが、キリのいい所まで書きたかったので御容赦ください。


時は少し遡り、雁夜がエイコーノトビラに入った次の日の朝。

 

「おはよう.......雁夜おじさんは.......?」

 

桜が目を擦りながらリビングに来て、ドラえもんに気が付くとそう質問する。

 

「おはよう、桜ちゃん。雁夜さんは今、魔術をちゃんと使う為の練習をしているんだ。」

 

ドラえもんは桜に気が付けば挨拶を返し、分かりやすくそう返した。

 

「....そうなんだ.......あ.......」

 

桜は、雁夜の事を聞いて、心配そうな表情を見せるが、くーっと可愛くお腹を鳴らしてしまう。

 

「ドラえも〜ん!お腹空いたー!....あ、桜ちゃん、おはよう!」

 

そこへ、のび太がお腹を擦りながら現れ、桜に気付くと挨拶をする。

 

「皆の者、おはよう。」

 

「っ.......お爺様.......」

 

さらに、臓硯が加わり朝の挨拶をするが、桜は臓硯の姿を見て、驚きと恐怖を覚える。

 

「昨日の夜、雁夜に魔術回路を全て渡しての。今は、こんな姿になってしまったが、桜をどうこうするつもりも無ければ、その力もない。安心して欲しい。」

 

臓硯は、必要以上に近付く事はせず、少し離れた位置で膝立ちになりそう諭す。

 

「うん......」

 

臓硯に対して、桜は短くそう頷けば、一応の納得はした様だ。

 

「さぁ、皆、ご飯にしようか。.......グルメテーブルかけ〜!!」

 

リビングに皆が集まった所で、四次元空間からグルメテーブル掛けを出す。

 

「のび太君は知ってると思うけど、食べたい物の名前を言えば、その料理がこのテーブルかけの上に出てくるよ。」

 

ドラえもんの説明に、皆がそれぞれ食べたい物の名前を口にする。

 

「納豆定食!」

 

のび太は、考えた末に、あまり重くない朝食らしい朝食を頼む。

 

「どら焼き!」

 

ドラえもんはやはりというか、自分の大好物であるどら焼きを注文する。

 

「ふむ.......食事を取るのはいつぶりか....そうじゃな.......ブルヌイとボルシチ。」

 

臓硯は長年蟲に身体を置き換えていた為、久しぶりの食事に選んだのは、慣れ親しんだロシア料理だった。

 

「えっと.......パンケーキ.......」

 

桜は何処か遠慮がちに、自分の好きな甘い物を頼む。

 

それぞれの注文に、グルメテーブルかけは即時にそれぞれの料理を生み出した。

 

「どれどれ....ほう.......!これは、美味い!」

 

魔術の名門、マキリの人間として生まれ、貴族の様な生活を送った臓硯も、今まで食べた中で1番美味しいと思える味だった。

 

「あむ.......美味しい.......すごく、美味しいよ....!」

 

桜は、蜂蜜たっぷりにバターを乗せたパンケーキを一口頬張ると、その美味しさに年相応の笑顔を見せた。

 

「「良かった.......!」」

 

そんな桜の笑顔を見て、ドラえもんとのび太は顔を見合わせ、嬉しそうに微笑んだ。

 

ドラえもん達がそんなふうに食事を取っていると、間桐家の表向きの当主である間桐鶴野が入ってきた。

 

「え.......どういう状況.......!?」

 

その微笑ましいと呼べる状況に、間桐臓硯の邪悪さを知る鶴野は、驚きのあまり混乱していた。

 

鶴野は雁夜が出奔した後、押し付けられる形で間桐家の表向きの当主にさせられた。

 

その後は、才能も無いので臓硯の助手や雑用をやらされ、三流魔術師の家系の保菌者(キャリアー)の女と出会う。

 

臓硯に対する反骨精神も持ち合わせず、かといって己を憐憫や欺瞞しきれない一般人だったが、彼女の事は心から愛していた。

 

それ故に、子供を産んで用済みの彼女が蟲蔵で苗床にされそうなのを必死で止める。

 

懇願し、蟲に嬲られるくらいならと彼女と子供を殺し自死する決意を表した。

 

当然、そんなものに心等動かされない臓硯だったが、彼にさほど関心もないので面倒だと懇願を受け入れた。

 

しかし、その代わりに、桜の蟲での陵辱を手伝わされ、桜を苦しめた蟲の調整等をさせられる。

 

臓硯の趣向もあり、直接蟲蔵に放り込まされたりもした。

 

家族に手を出されないためとはいえ、罪悪感をずっと抱いていたのだ。

 

それが聖杯戦争の準備等で家を少し離れ、戻ると状況が一変していたら誰でも驚く。

 

「おお、鶴野。....ふむ、そうだな.......何処から話せば良いのか.......まずは.......」

 

臓硯は鶴野の混乱を見て取ると、これまでの経緯を話し始める。

 

「そんな事が.......」

 

臓硯の説明に、一応は納得し、神妙な面持ちで桜の方に向き直る。

 

「桜....すまなかった!」

 

膝をつき、手を付き、頭を地面に擦り付けて桜に謝罪する鶴野。

 

その場は桜が赦す事で収まり、鶴野も加えた食事が終わる。

 

 

のび太はその後、桜と一緒に昼寝したりと、サーヴァントとしては不必要な睡眠を取るあたり彼らしい。

 

昼寝から起きたのび太は、ドラえもんと散策を兼ねて冬木市を散歩していた。

 

「誰か、今日、山内さん家の人を見た?」

 

ドラえもんとのび太が散歩をしていると、井戸端会議の内容が聞こえてくる。

 

「ねぇ、ドラえもん!嫌な予感がする!探してあげようよ!」

 

心眼(偽)のスキルが働いたのか、のび太は真剣な表情でドラえもんに訴える。

 

「そうだね。人探し機〜!!」

 

ドラえもんは、宝具(ひみつ道具)を出し、それは矢印のついたパソコンの様なもので、山岸家の人間を探し始める。

 

矢印の方向へと足早に向かうと、大きな一軒家を示し、矢印は止まった。

 

「ここみたいだね.......通り抜けフープ....!」

 

事態は一刻を争うと判断したドラえもんは通り抜けフープを使い中へ入る。

 

中へ入った途端に、濃厚な血の匂いを感じ、のび太達は気が遠くなりそうになる。

 

しかし、誰かの危機かもしれないという状況下での彼等の精神力には目を見張るものがあった。

 

潜り抜けてきた修羅場が、彼等に冷静な行動を可能にさせ、気配を消しながら進ませる。

 

最初に見つけたのは、乱雑に置かれた、男女の遺体と思しきもの。

 

しかし、辛うじて息はある様で、普通なら手遅れであるが、そこは宝具(ひみつ道具)である。

 

お医者さんカバンによる蘇生を行い、男女の命を救っていた。

 

その頃、少し離れた物置に使っていた地下室には、犯人と思しき青年とガムテープで縛られた少年がいた。

 

「悪魔って本当にいると思うかい?坊やぁ。」

 

血の魔法陣で儀式を終えると友達や近所の子にでも話し掛ける様に、気さくに話し掛ける青年。

 

一方。ドラえもんとのび太は次に女の子をみつけ、幸い息はあったので、治療を始める。

 

「新聞や雑誌だとさぁ、良く俺の事悪魔呼ばわりするんだよね....... いや、いいんだけどさ。べつにオレが悪魔でも。」

 

青年は自分語りを始め、前にもこういった事を行ったと仄めかす発言をする。

 

ドラえもん達は女の子が先程の両親より、明らかに重症であったために蘇生に手間取っていた。

 

「でもそれって、もしオレ以外に本物の悪魔がいたりしたら、ちょっとばかり相手に失礼な話だよね。『チワッス、雨生龍之介は悪魔であります!』なんて名乗っちゃっていいもんかどうか。」

 

青年は雨生龍之介というようで、親しい友人に話しかける様に、或は親戚の子にでも語りかける様な口調で続ける。

 

「それ考えたらさ、もう確かめるしか他にないと思ったワケよ。本物の悪魔がいるのかどうか。でも、ホラ、万が一本当に悪魔とか出てきちゃったらさ、何の準備もなくて茶飲み話だけ、ってのもマヌケな話じゃん?だからね、坊や…もし悪魔サンがお出ましになったら、ひとつ殺されてみてくれない?」

 

「んー!?んー!!」

 

しかし、龍之介は両親と姉に手をかけ、返り血塗れの姿でそれをするのは異常であり狂気そのものだ。

 

少年の目には涙が溢れながら、くぐもった悲鳴をあげる。

 

「あーっははははははは!!悪魔に殺されるってどんな感じなんだろうねっ!?....痛っ....なんだこれ....?」

 

龍之介の右手の甲に令呪が宿り、血で書いた召喚陣が光り、サーヴァントが現れる。

 

「問おう。我を呼び、我を求め、キャスターの座を依り代に現界せしめた召喚者、貴殿の名をここに問う。 其は、何者なるや?」

 

「えと、雨生龍之介っす。職業フリーター。趣味は人殺し全般。子供とか若い女とか好きです。最近は基本に戻って剃刀とかに凝ってます。」

 

「よろしい、契約は成立しました。貴殿の欲する聖杯は私も悲願とするところ.......かの楽園の釜は、必ずや我らの手にするところとなるでしょう。」

 

「せい....はい.......?」

 

キャスターのクラスのサーヴァントを召喚するも、微妙に話が噛み合っていない様子。

 

「まぁ、とりあえず....ご一献どうですか?....あれ、食べない?」

 

しかし、特に気にする様子もなく、龍之介はキャスターに少年を指さしながら、そう物騒な話をする。

 

「んー!!!んー!!!」

 

だが目の前の悪魔の様な風貌の男に差し出される少年は恐怖を感じながらも、ある種の希望を捨てずにいた。

 

少年は、特撮ヒーローが大好きで、憧れていて、少年にとって正義は絶対だった。

 

故に少年は自身が全幅の信頼を寄せ、幾多の危機を乗り越えた正義の味方を待っていた。

 

英雄(スーパーヒーロー)が来ると本気で信じていたのだ。

 

「なるほどなるほど。君は神か或は別のなにかか.......何れにしろ救世主を信じているんだね?」

 

その少年の目は、キャスターがこれまで手に掛けてきた、神を信ずる子供のものと同じだった。

 

キャスターはおもむろに、懐から本を取り出した。

 

「すげー!それ、人の皮でしょ?」

 

キャスターの取り出した本の表紙は龍之介の見立て通り人の皮膚により

作られていた。

 

「クトゥルフ・ムグルナフ.......」

 

興奮気味の龍之介をよそに、何やら呪文を唱えると、縛られた少年に近づく。

 

「んー!んー!」

 

キャスターに近付かれ、少年は声にならない声で叫んだ。

 

キャスターは少年に近付くと、口元のガムテープを剥がし優しい声で語りかける。

 

「さぁ、君の信じる救世主を呼んでいいんだよ?大きな声で助けを呼ぶといい。」

 

「ちょ.......」

 

「しー.......」

 

キャスターの不可解な行動に、龍之介が止めに入ろうとするも、キャスターがそれを制す。

 

少年の目の前には、先程の呪文で召喚された異形の化け物が近付いていた。

 

その化け物は、ヒトデとタコとイカを混ぜて、鋭い牙を生やした2mほどの体格をした、海魔と呼ばれるモノだ。

 

「さぁ、助けを呼ばないと、喰べられてしまうよ?大きな声で呼ぶんだ!」

 

キャスターは興奮した様子で少年に助けを呼ぶ様に訴えかける。

 

「助けてー!!!スーパーヒーローっっ!!!」

 

少年は、声の限りを尽くしてスーパーヒーローに届く様に助けてと叫ぶ。

 

しかし、数瞬してもなお助けなど来る気配は無かった。

 

特撮ヒーローなど、所詮は作り物であり紛い物だ。

 

少年は、邪悪な海魔の触手に絡め取られ、その肉を喰い千切らんとする口に近づいて行く。

 

少年はその瞬間、希望を打ち砕かれて、確かに絶望していた。

 

そんな姿を見ながら、キャスターはうっとりとした表情で龍之介に語りかける。

 

「恐怖というものには鮮度があります。怯えれば怯えるほどに、感情とは死んでいくものなのです。真の意味での恐怖とは、静的な状態ではなく変化の動態――希望が絶望へと切り替わる、その瞬間のことを言う。」

 

今まさに、少年の身体が、海魔に喰い千切られようとしていた。

 

龍之介はその様子に、目を輝かせながら、かぶりついて見ている。

 

しかし、少年は1つだけ、英雄(スーパーヒーロー)について忘れていた事があった。

 

英雄(スーパーヒーロー)は、いつでも、少し遅れて(ピンチの時に)現れるという事を。

 

「ドカーンっ!!!」

 

扉が開け放たれ、不可視のエネルギー弾が少年を喰らう寸前の海魔を粉砕する。

 

扉の向こうには、右手に空気砲を構えたのび太と、ドラえもんが立っていた。

 

ドラえもんとのび太は、少女から弟を助けて欲しいと、地下室に連れていかれたと聞いて飛んできたのだ。

 

「来てくれたんだ.......スーパー.......ヒーロー.......」

 

化け物の触手から解放された少年は、英雄(スーパーヒーロー)の登場に緊張の糸が切れたのか意識を手放した。

 

「我々の至福を邪魔するなどと....... 許さぬ……思い上がるなよ匹夫共めがァ!!」

 

せっかくの甘美な絶望と悲鳴の虐殺(シンフォニー)を邪魔されたキャスターは激昂する。

 

しかし、理性は残っているのか、何体もの海魔を召喚し少年とのび太達に襲いかからせる。

 

「ドカン!ドカン!ドカン!....キリがないよ、ドラえもん!」

 

繰り出される海魔を、空気砲にて的確に倒すも、増え続ける海魔に苦戦を強いられるのび太。

 

「どうすれば....そうか!あの本がこの怪物を生み出してるんだ!!....取り寄せバッグ〜!!!」

 

のび太と共に、海魔を倒しながら、しっかりと観察していたドラえもん。

 

キャスターの持つ本が宝具であると看破し、取り寄せバッグでその本を奪い取る。

 

「なっ!?私の螺湮城教本(プレラーティーズ・スペルブック)が!?」

 

キャスターの宝具である螺湮城教本(プレラーティーズ・スペルブック)を奪い取る。

 

ドラえもんの宝具(ひみつ道具)、取り寄せバッグで手から離れた状態の宝具は使用不能になる。

 

「宝具を奪ったくらいで、このジル・ド・レェを、甘く見ないで頂きたい。」

 

キャスターこと、ジル・ド・レェは激昂から一転して、冷静で冷酷な眼差しで話す。

 

魔道に堕ちようとも、救国の英雄であり、オルレアンを聖女と共に奪還した有能な元帥である。

 

自身の主要戦力である螺湮城教本(プレラーティーズ・スペルブック)を奪われ窮地に立たされてもそれは変わらない。

 

その様な窮地に立たされてこそ、冷静に戦局や戦力差を分析し、その本領が発揮される。

 

のび太が残りの海魔を掃討している僅かな間に作戦を実行していた。

 

龍之介が所持していたナイフと、その場にあったロープを組み合わせて仕掛けを作る。

 

少年の首にナイフが括り付けられたロープを巻き、それをジルの身体に括りつけていた。

 

「動くな。動けば即、この坊やの首からは鮮血が噴き出す事になりますよ?」

 

ジルがほんの少しロープを引くと、少年の首に巻かれたロープが絞まり、ナイフが首を少し傷つける。

 

「私を殺せば倒れる重みで、坊やは息絶えます。龍之介を殺せば、私が坊やを殺します。縄を切れば、龍之介が坊やを殺します。こちらの要求はそちらの宝具と私の宝具を投げ渡すこと.......さぁ、どうしますか?」

 

ジルはドラえもんとのび太が突入し、攻撃してきた時点で、少年を保護しようとしているのは分かった。

 

マスターの命令かサーヴァント自身の心情故かは分からないが少なくとも少年は人質になりうる。

 

もし、少年を切り捨てる判断をしたとしても、最初の様子から迷いが生じる可能性が高い。

 

故にその隙をついて、隠し持つ目潰しの魔道具を用いて宝具を奪い返し体制を立て直せばいいという所までジルは考えていた。

 

のび太とドラえもんは、少年を見捨てる事などとても出来ない。

 

だからドラえもんは、のび太と目線を交わし螺湮城教本(プレラーティーズ・スペルブック)をジルに投げる。

 

ジルの目が螺湮城教本(プレラーティーズ・スペルブック)に向いた瞬間の出来事だった。

 

のび太は空気砲で、瞬時に少年の首のロープとナイフの柄の部分を正確に撃ち抜き、少年を解放する。

 

ほぼ同時に、龍之介を出力を下げた空気砲で撃てば間髪入れずドラえもんは取り寄せバッグで少年を保護した。

 

のび太の神業とも言える射撃スキルと、ドラえもんとのび太の絆による離れ業だ。

 

しかし、螺湮城教本(プレラーティーズ・スペルブック)はジルの手に渡ってしまった。

 

取り寄せバッグによる奪取は1度行った以上、2度目はそう易々とはやらせてくれないだろう。

 

「これで、形勢はこちら側に有利になりましたね。ジャンヌとの再会は、誰にも邪魔させはしない!!」

 

「ちょっと待って!君の望みはそのジャンヌって人に会うことなの?」

 

ドラえもんは、静止を求めながら、ジルにそう問い掛ける。

 

「ええ、ですが聖女は陵辱され汚され、国は聖女を見殺しにし、神もまた、救うべき聖女を救わず、結局は魔女として焼き殺された!私は必ずやジャンヌを復活させる!.......さぁ、無駄話はこのへんでいいでしょう。」

 

ジルはそう言うと、再び海魔を召喚しようと螺湮城教本(プレラーティーズ・スペルブック)を開いた。

 

「僕なら、僕の宝具なら君をそのジャンヌと会わせてあげられる!」

 

ドラえもんはジルの話を聞き、その深い恨みと憎しみと悲しみを感じ取りそう申し出た。

 

「.......いま、なんと言いました....?」

 

ジルはドラえもんの言葉に、疑いを持ちながらも、一縷の望みが捨てきれず、耳を傾ける。

 

「あの人は居間ー!!!この、宝具は使用者の望んだ人と会う事が出来る宝具なんだ。君の言うジャンヌが、あのジャンヌ・ダルクなら、きっと会えるはずだよ。」

 

ドラえもんの出したあの人は居間は、遠くにいたり、居場所が分からない人と会う事の出来る道具だ。

 

流石に、死者には会う事は叶わないが、この世界の法則で英霊となっているならば可能と考えた。

 

そして、ジャンヌ・ダルクは、誰もが知る英雄であり、英霊となっている可能性が高い。

 

「.......いいでしょう。あなたの甘言に乗ります。この扉ををくぐれば良いのですね?ああ、かの聖女に、ジャンヌ・ダルクに会わせて下さい。」

 

「ちょっと旦那!?今はそれどころじゃ....がはっ!!?」

 

ドラえもんの言葉に乗り、襖に手を掛けるジルを止める龍之介。

 

しかし、ジャンヌの事しか頭にないジルは、龍之介を無言で、容赦なく振り払った。

 

普通なら尻もちを着く程度で済むが、筋力Dのサーヴァントによる振り払いは衝撃の桁がちがう。

 

龍之介は吹き飛ばされ、勢い良く戦いの余波で壊れた金属の棚に激突し、運悪く腹を割かれてしまう。

 

「....うわぁ....そっか.......気付かねぇよな.......自分の腸ん中に探し求めてたもんがあったんだ.......それに....して.......も....きれ....だなぁ.......」

 

龍之介は自身の腹部から飛び出す、臓物を見て、満足気に意識を失う。

 

ドラえもんとのび太は急ぎ駆け寄ると、お医者さんカバンで治療を始める。

 

そんな彼等を余所に、ジルは襖を開けて中に入ると、そこには心の底から焦がれていた聖女が座っていた。

 

「ジャン....ヌ.......?ジャンヌ!ジャンヌジャンヌジャンヌジャンヌジャンヌジャンヌジャンヌジャンヌジャンヌぅぅぅぅ!!!.......があぁっ!?」

 

「ジル....なのですか....?.......落ち着きなさい。」

 

愛しき乙女に、望み続けた聖女に、ジャンヌ・ダルクに、会えた歓びで狂喜乱舞するジル。

 

ジャンヌは久方振りに見るジルの変わり果てた姿に驚きながらも、冷静に目潰しを決めて諌める。

 

「これは、飛び出しがちな私の目玉を諌めてきたジャンヌの目潰し!....やはり、ジャンヌ、貴女に間違いないのですね.......」

 

目潰しをされた事により、飛び出していた眼球が戻り、ハンサムと呼べる顔に戻ったジル。

 

この目潰しをきっかけに、夢や幻ではないと実感が持て、気が付くと涙が溢れていた。

 

「ええ、安心してください。私は、ジャンヌ・ダルクです。.......ジル、私は、ここに召喚される時.......貴方に関する知識も得ました.......本当....なのですか.......?」

 

ジャンヌは、あの人は居間の効果により、サーヴァントとして召喚されていた。

 

その際に本来ならそんな必要もないのだが、スキルによる影響で、ハッキングに近い形で聖杯を通じて呼び出されたのだ。

 

だから、聖杯により、ジャンヌには現代や歴史の知識を与えられていた。

 

「.......ええ、本当の事です。貴女が殺され、絶望し憎悪し悲憤し慷慨しました.......ですが、誰に復讐すればいいのか、私はどうすれば良いのか分からず....ひたすらにただひたすらに神に祈りました.......そんな時でした....盟友プレラーティが言うのです。『神など本当に存在するのかい?僕の水晶で聖女の末路を見てみるといい....考えが変わるはずだからね。』と。....そして、私は見てしまった.......貴女が敵兵に犯され、拷問される姿を....!汚されていく姿を....!にも関わらず、貴女が敵兵への許しを神に祈る姿を.......!そんな貴女を、三日三晩見せられ続けた私は、復讐すべきは神なのだと理解した.......いや、神など存在しないと悟った!神は貴女という、最も救うに値すべき聖女を救わなかった!ならば私は神を糾弾し、冒涜し、背徳し、悪逆の限りをつくして、神の存在を否定するしかない!神などいない!その証拠に8年私は生かされ、処刑された理由も私の財を奪いたいという欲望が為!!神は私に罰等与えなかった!!!」

 

ジルは静かに語り出すと、徐々に激昴し、やがて慟哭にも近い吐露をした。

 

ジャンヌは口を挟まず、涙を流しながら、ジルの叫びを受け止め、口を開く。

 

「....私の所為で貴方を苦しませてしまったのですね.......ですが、ジル....勘違いをしてはいけません。神は....主は、私を見捨ててなどいませんよ。....... いや、そもそも主は誰一人として見捨てていらっしゃらない。ただ、何も出来ないだけです。祈ることも、供物を捧げることも、全ては己のためではなく主の為の行いです。主の嘆きを、主の悲しみを癒すために我々は祈るのです。それに、私は汚されて等いません.......元々この手は血に塗れていたのですから.......さらに言えば、例えこの身が陵辱され、拷問され、最期は焼かれ朽ちようとも.......我々の心は、我々が生きた証は、思い出は、我々だけのもの。その輝きだけは誰にも穢せはしません。」

 

ジャンヌは自身の偽ざる心の内をジルに語った。

 

「.......っ!?そうか.......そうでしたね.......貴女と共に戦えた栄誉は誰にも貶める事は出来はしない.......!貴女と共に過ごした輝かしき日々は、失われはしない.......!」

 

ジルはジャンヌの言葉に、彼女との輝かしき日々を思い出し、涙をながした。

 

「私の....なんと....なんと、愚かしい事か.......そんな事にも気づかず.......無垢なる者を殺した.......殺し続けてしまった.......主を、糾弾し、冒涜し、背徳し、悪逆の限りを尽くしてしまった.......なんと、罪深き存在か.......」

 

そして、自身の手で行った非道を、魔道に堕ちた自身を悔恨し、螺湮城教本(プレラーティーズ・スペルブック)を開いた。

 

「私は償わなければなりません.......許されはしなくとも、裁かれねばなりません.......少なくとも、あの無垢な子らと同じ末路を辿らねば、なりません.......ジャンヌ、ここから先はおぞましく、見るに堪えないものですから-----

 

-----海魔を召喚し、自らを餌にしようとするジルの頬に、ジャンヌの平手打ちが飛ぶ。

 

「ジル!お止めなさい!自分で自分を裁くなど.......それは、裁きでは無く自己満足です!!.......貴方の罪は貴方だけのもの。償えないとしても、その絶望はやはり貴方だけのもの。貴方は自己満足で償った気持ちにでもなるつもりですか!?私も貴方も罪人(つみびと)であり、犠牲となった者たちに償う方法など存在しない!」

 

ジャンヌはジルのやろとしていた事に涙を流しながら叱責した。

 

「その苦悩を、その絶望を抱え続けるしかない。神は全てを許すでしょうし、貴方が殺した子供たちは全てを許さないでしょう。その罪、その罪悪感、それは永遠に背負うべき罰です。.......それでも、裁かれねば前に進めないと言うのなら.......私が貴方を裁きます!.......そして、共に進みましょう、大丈夫です、肩は貸してあげます。」

 

ジャンヌは真剣な顔で自身の決意を告げると、悲しみと慈愛に満ちた微笑みを浮かべた。

 

「なりません!魔道に堕ちたのは、私だけだ!貴女まで道連れになる事は無いのです!!」

 

ジャンヌの決意とその後の微笑みを見て、自らも消滅しようとしているのを理解し、必死に懇願する。

 

「いいえ、私もまた、血に塗れた罪人なのです。ですから、貴方と同じ道を歩まなければなりません。....それに.......独りぼっちは寂しいでしょう.......良いですよ.......一緒にいてあげます.......」

 

ジルの懇願に、優しくそう答えると、ジャンヌは聖剣カトリーヌで自らの掌を切り裂き、祈りの言葉を捧げる。

 

「我が心は我が内側で熱し、思い続けるほどに燃ゆる

我が終わりは此処に。我が命数を此処に。我が命の儚さを此処に

我が生は無に等しく、影のように彷徨い歩く

我が弓は頼めず、我が剣もまた我を救えず

残された唯一の物を以て、彼の歩みを守らせ給え

主よ、この身を委ねます――― 紅蓮の聖女(ラピュセル)!!」

 

祈りの言葉が終わると、宝具を解放し生前自身を焼き殺した炎を具現化した。

 

「これからも共に歩んでいきましょう.......アーメン.......」

 

ジャンヌは宝具の炎に包まれながら、ジルに手を差し伸べる。

 

「ジャンヌ.......私は今とても幸福です.......神は確かにおわしました.......アーメン.......」

 

その手を取ったジルは、ジャンヌの宝具に灼かれながら、穏やかな笑顔を浮かべていた。

 

((ああ.......そうか.......私が悪逆の限りを尽くしたのは.......主を否定する為でなく.......こうして、彼女に裁かれたかったからか.......我ながらなんと、愚かな.......ですが....やはり、ジャンヌは聖女だった.......))

 

ジルはそう己の心の内で想いを馳せながら、ジャンヌと共に消失した。

 

その後、龍之介は命を助けられ、警察に突き出された。

 

普段の彼であれば、言い逃れをしておしまいだったかも知れないが、事前にウラオモテックスを貼られていた。

 

ウラオモテックスの効果は隠していた事柄や裏の顔を表に引き摺り出すというものだ。

 

これにより、警察で自供した事から、捜査が始まり、殺人罪で逮捕される事となった。

 

とある場所のとある実験場にて、少女と思しき人影が、興奮を隠しきれぬ様に独白をしていた。

 

「まさか私の親友が召喚されるなんてねー!ああもう!想定外想定外!完ッ全に想定外だよ!でも、こういう事があるから人生って止められないよね!楽しいよね!アハハハハハ!でも、わざわざ、魔道に堕としたのに、救われちゃうのはなんだかなー....でも、まぁ、いいや!傍観なんかやめて、介入だ〜!」



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第5話「バタフライエフェクト」

今回は各陣営の大まかな話です。ウェイバーはあまり変化がないので、省略しました。


バタフライエフェクトという言葉が存在する。

 

これは、蝶の羽ばたきという、遠く離れた場所での極々小さな出来事が竜巻の様な大きな事象を起こしうるという例えである。

 

遠く離れた異世界にて、ドラえもんとのび太が時空乱流に巻き込まれたこと。

 

運び屋が速度を優先したあまり、予定よりも早くランスロットを呼ぶ為の聖遺物を届けたが、洗浄不足によりどら焼きの食べカスが付いていたこと。

 

それらが、天文学的確率により結び付き、ドラえもんとのび太が召喚されたこと。

 

ドラえもんとのび太が召喚されたことにより、桜が苦痛から解放され、さらには臓硯や雁夜が救われたこと。

 

この様に、連鎖的に様々な偶然が重なり合い、奇跡とも呼べる結果を生み出す事がある。

 

そして、その様な事象はさらなる結果を生み出す事になる。

 

それは、龍之介がドラえもん達の接近により、本来より早い段階で令呪を宿し、ジルを召喚したこと。

 

それにより、図らずもジルが、ドラえもんに召喚されたジャンヌにより救われたこと。

 

さらに、それだけではなく、彼等のさらに預かり知らぬ場所、他のサーヴァント陣営でもそれは起きていた。

 

まずは、遠坂家、言峰綺礼の間で起きた結果を見ていこう。

 

「な、何!?それは本当か!?」

 

いつも、魔術師の名門である遠坂家の当主として家訓である「常に優雅たれ」という言葉を守り続けていた現当主、遠坂時臣も言峰綺礼の報告におどろいていた。

 

「間違いありません。エクストラクラスである、フォーリナーが召喚されました。それも、2体。さらには、キャスターの消失と、同時期に、あのプレラーティ家が動き出しました。」

 

エクストラクラスの召喚、さらには、名門の魔術師であるプレラーティ家の参戦、それらが時臣を動揺させた。

 

「此度の聖杯戦争....かなりのイレギュラーが起こっています。エクストラクラスの参戦....そして、キャスターの消失と、あの名門の参戦....どう見るべきでしょうか?」

 

綺礼は動揺する時臣に、指示を仰ぐべく、そう問いかける。

 

「.......エクストラクラスの参戦はこの際、問題は無い。何せ、こちらには最強の手駒がいるのだから。それよりも........今まで、表舞台には殆ど現れなかったプレラーティ家の参戦.......恐らくは、外部の者を雇ったが、目当ての英霊を呼べず、仕切り直して、自らが表舞台に出てきた....そんな所だろう。」

 

その動揺故か、はたまた、持ち前のうっかりか、キャスターの消失はその魔術師による何らかの戦略と勘違いしてしまう。

 

「綺礼、まずは、プレラーティ家の動向を探ってくれ。私も、出来る限りの情報を集めてみよう。此度の聖杯戦争、何としても勝たなければならない。まずは、情報を集め、それから最強の英霊を召喚し、優雅に勝ち抜く。」

 

「わかりました。」

 

 

それ故に、情報戦略として、サーヴァントの召喚を後回しにしてしまう。

 

「.......ところで、その資料、少しお借りしても....?」

 

綺礼は何か気付いた様に、時臣から資料を受け取る。

 

「衛宮切嗣....彼の経歴も気になるが.......間桐雁夜、間桐の家を出奔後、ルポライターとして、紛争地を転々としているが、出没する時期は、戦況が激化したころばかりだ.......まるで、死地へと赴く事に、何らかの強迫観念が有ったかのような、明らかに自滅的な行動原理.......これは、どういう事だ.......」

 

綺礼は、1人資料に目を通しながら呟く。

 

「この男に利己と言う思考は無い、彼の行動は、実務とリスクの釣り合いが完全に破綻している.......さらには、突然の間桐の家への帰還....そして間桐の家督を受け継いだ.......こいつが、ただ、間桐の家を嫌い出奔しただけの落伍者な訳が無い.......!」

 

「そして、キャスターの消失が、プレラーティ家の策略であるならば、些か登場が遅すぎる.......私の推測が正しいとすれば.......エクストラクラスを2体召喚し、キャスターを倒したのも、この男だ.......恐らく....彼は戦場で何かをみつけ、その時彼は答えを得たのだ、ならば問わねばなるまい、何を求めて戦い、その果てに.......何を得たのかを.......!」

 

綺礼は、間桐雁夜という男をそう分析し、1人決意を新たにする。

 

続いて、アインツベルン家及び、聖杯戦争の為に雇われた、衛宮切嗣の陣営を覗いてみよう。

 

アインツベルン家の居城である、アインツベルン城の礼拝堂にて。

 

「かねてより、コーンウォールで探索させていた聖遺物が、ようやく見つかった、それを媒介とすれば、剣の英霊としておよそ考えうる限り、最強のサーヴァントが召喚されよう…切嗣よ、そなたに対するアインツベルンの、これは最大の援助と、思うがよい。」

 

アインツベルン当主、ユーブスタクハイト・フォン・アインツベルン、通称アハト翁が男に告げる。

 

「痛み入ります、当主殿。」

 

答えるのは、アインツベルン家の悲願を達成する為に雇われた男、衛宮切嗣、またの名を魔術師殺し。

 

「今度ばかりは、ただの一人たりとも残すな、6のサーヴァントの全てを狩りつくし、必ずや第三魔法、ヘヴンズ・フィールを、成就せよ。」

 

「御意。」

 

悲願達成の為、激を飛ばすアハト翁に頭を垂れる切嗣、しかし、その目には悲しみと、ある種の決意が宿っていた。

 

ところ変わり、アインツベルン城、執務室。

 

先程の、魔術師殺し事切嗣と、彼の妻、アイリことアイリスフィール・フォン・アインツベルンがその場にいた。

 

届いたFAXの情報を見ながら、切嗣は口を開く。

 

「集めた情報を整理してみよう、アイリ…聖杯が選ぶ7人のマスターのうち、現在判明しているのは5人…遠坂時臣、遠坂家当主、火の属性で宝石魔術を扱う、手ごわい奴だ。ケイネス・エルメロイ・アーチボルト、風と水の二重属性を持ち、降霊術・召喚術・錬金術に通ずるエキスパート。言峰綺礼、聖堂教会からの派遣で、遠坂時臣に師事し、令呪を授かった事で師と決別.......この男は、様々なカテゴリーの魔術を習得し、あと一歩でゴミ同然と切り捨てている。教会の出世街道からも外れ、代行者だった時期もある.......この男からは何の情熱も感じられない......なのに、何を願う?....僕はこの男が恐ろしいんだ....だが、それ以上に、他の2人が.......」

 

「........切嗣....貴方の恐怖は私にも伝わってくるわ....でも、貴方の口ぶりだと、そんな言峰綺礼以上に.......恐ろしい相手がいるというの?」

 

アイリは、切嗣の言葉に、言峰綺礼のえも言われぬ危険性を感じ取ったからこそ、切嗣の言葉の続きに疑問を感じた。

 

「.......ああ、恐ろしい。1人目は、フランチェスカ・プレラーティ。15代も続く、プレラーティ家の現当主の女性.......だが、これは表向きの話だ。彼女....いや、彼....どう呼ぶべきか分からないが、このプレラーティは、肉体を乗り換えているという噂がある.......確証は得られないが.......もし、真実だとして....こいつは何故今頃になって、聖杯を欲する?しかも、令呪が宿ったというより、奪い取った形跡がある。警察の拘置所で爆発事故が起こり、容疑者の赤いタトゥーの入った腕が千切れ、その場から跡形もなく消え去った。プレラーティが冬木の地に入って直ぐにだ。....僕には、偶然とは思えなかった....そこで.......経歴を洗って行くと、不明な部分やちぐはぐな部分が多すぎる.......まるで、混沌.......狂気の体現者の様に僕は感じるんだ.......」

 

切嗣は弱音を吐くように身体を震わせながら、そう説明する。

 

アイリは、そんな切嗣の手を取りじっと見つめながら。

 

「貴方は、アインツベルンが用意した、最強の切り札。.......そして、私の最愛の人....きっと大丈夫。.......それで、最後の1人というのは?」

 

元気付けるように、優しくそう諭して、続いて問いかける。

 

「そうだね....ありがとう、アイリ。....続けるね。間桐雁夜、当主を継がなかった落後者を、強引にマスターに仕立て上げた.......最初はそう思っていたが、どうも違う様なんだ.......報告によると、この男は戻って来てから、正式に間桐の当主を継いでいる。そして、一瞬だが、間桐の結界が壊れ、中を覗く事に成功したらしいんだけど.......2体のサーヴァントを確認出来たそうだ。つまり、間桐雁夜は、間桐臓硯の切り札の可能性が出てきた.......そこで、もう一度経歴を洗い直してみたんだが.......」

 

切嗣はそこで言葉を切り、報告書をアイリに手渡す。

 

「間桐雁夜、間桐の家を出奔後、15歳でルポライターになる。そこから....数々の戦場をルポライターとして渡り歩く....!?....これって....!?」

 

アイリは報告書を読みながら、驚きの表情を浮かべる。

 

「彼は、幾多の戦場を渡り歩き、時には戦争孤児を助け出し、時には、彼の暴き出した真実が、和平交渉の間接的な要因となっている.......そう、彼は、僕とは違った方法で人々を救っている.......彼の経歴を見ているとね....僕は---」

 

「---大丈夫、切嗣。貴方は間違っていない。貴方の理想は、気高く、そして、尊いものよ.......だから、私は貴方の理想に賛同したの。大丈夫、大丈夫だから.......」

 

アイリは切嗣の言葉を遮り、抱きしめて、優しく諭す様に言葉を紡ぐ。

 

そのつぎに、ケイネス・エルメロイ・アーチボルトとその婚約者、ソラウ・ヌァザレ・ソフィアリの陣営を見てみよう。

 

「ウェイバーめ!!忌々しい!!まさか、この私の聖遺物を盗むとは!!!」

 

アーチボルト家9代目当主、ケイネスは怒りに打ち震えていた。

 

「新たに、聖遺物も手に入るのだし、新参の魔術師とも呼べない生徒がやったことでしょ?もう、忘れたら?」

 

婚約者である、ソラウは、どうでも良さげに、ケイネスを落ち着かせようとする。

 

「だからこそ、私は怒っているのだ!新参の赤子の如き学生が、妄想を膨らませるだけの学生が私の物を盗んだのだぞ!?例え、妄想としか呼べない論文とはいえ、出自を気にせず足掻く姿を私は評価していたのだ!!妄想を抱いた赤子で、凡愚な生徒とはいえ、流されるままに努力もしない虫けらよりは遥かに期待出来たんだ!!だからこそ、今の魔術教会での現実をぶつけ、発破をかけてやったというのに!!少し、背伸びが過ぎたようだな!!!ウェイバー・ベルベット!!!」

 

ケイネスは、期待を裏切られた事と、プライドを傷つけられた事に怒り狂っていた。

 

「はいはい、うるさいわよ。....だったら、天才の貴方が、再度教育すればいい事でしょ。.......それより、あの、プレラーティ家が参戦すると聞いたのだけれど?」

 

ソラウはケイネスを窘めるように、そう答えれば、次に問いかける。

 

「....そうだな、この私ともあろう者が、少し取り乱してしまった様だ。勿論、奴にはこの私の手で恐怖という名の教育を施そうではないか.......そう、あのプレラーティ家が参戦する。だが、天才の名を欲しいままにするこの私が全ての敵を薙ぎ払い、優勝する事で、このケイネスの名に、泊を付けようではないか。嬉しいだろう?ソラウ。」

 

ケイネスはそう締めくくると、ソラウにドヤ顔を見せつける。

 

「そうね....嬉しいわ、ケイネス.......」

 

ソラウは、ケイネスにそう言って微笑むが、それは上っ面だけのものだった。

 

別に、ケイネスを嫌っているわけでも無ければ、婚約に不満がある訳でもない。

 

と、言うよりも、彼女にとってはどうでもよかった。

 

両親からも、誰からも、愛されず、道具の様に扱われ育った彼女は情熱や何かを求めることも無く、流されるままに生きてきたからだ。

 

最後に、新たな参戦者、プレラーティ家を見てみよう。

 

フランチェスカ・プレラーティは、本来であれば、間桐臓硯の妨害により参戦するはずでは無かった。

 

しかし、ドラえもんとのび太の召喚により、狂った歯車が彼女を呼び寄せたのだ。

 

「銀とー鉄をー♪ひっとかけらー♪ぐっつぐつ煮るよー大番頭ー♪アーテー様のー素敵なレーシピー♪閉じよー♪閉じよー♪閉じー♪閉じー♪閉じよー♪閉じた傷口合ーわせーていーつつ♪私のかーらだーはあなたの下にー♪私のこーころーは……アハハ!面倒臭いから以下省略……ッと♪」

 

プレラーティは、雨生龍之介の令呪を腕ごと奪い自身に宿せば、自分の身体を触媒に、適当な呪文でサーヴァントを召喚する。

 

「えっと、君が僕のマスター?なんか、僕と似てない?」

 

「そりゃそうでしょ、私は君の未来の姿....つまり、同一人物だからね♪」

 

なんと、フランチェスカ・プレラーティが召喚したのは自分自身だった。

 

「嘘!?そんな事出来るんだ!?.......まぁ、いいや。僕の名前はフランソワ・プレラーティ!我がマスター、フランソ……おっと、今は女の子の体だから……フランチェスカ・プレラーティかな?まぁ、君の忠実な僕として、命がけで聖杯に導くと約束しよう!嘘だけどね!」

 

彼の名はフランソワ・プレラーティ、そう、ジル・ド・レェを魔道に落とした張本人だ。

 

「ところで、なんで僕は呼ばれたんだい?」

 

「実はね、ジルがキャスタークラスで召喚されてさ!」

 

「なんでさ!? ジルがキャスターって! ああ、僕のせいか! ハハハ!それで?」

 

「ところが、そのジルが救われちゃってね!面白そうだし、私も参戦する事にしたんだ!」

 

「そうなの!?....本当だ....僕の宝具に螺湮城教本(プレラーティーズ・スペルブック)戻ってる....なんか、残念だなぁ。せっかく、魔道に落としたのにさ。」

 

2人の間で、そんな外道な会話が繰り広げられていた。

 

この様に、各陣営は、ドラえもんとのび太の召喚により、少しづつ歯車が狂って、聖杯戦争の開始が遅れていった。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第6話「機械はバグによりエラーを起こす」

今回は、フラグを立てるための話なので、戦争開始は、次回からになります。


場面は再び戻り、間桐邸にて、ドラえもん達から事のあらましを聞いた雁夜。

 

「俺がいない間にそんな事が.......兄貴と桜は、もう行ったのか?」

 

「いや、いるぞ。久しぶりだなぁ、雁夜.......元気だったか....?」

 

雁夜がドラえもん達にそう問いかけると、後ろから鶴野が声を掛ける。

 

「ああ.......ぼちぼち、やってたよ.......」

 

少し、気まずそうに答えながら振り向く雁夜。

 

「....そうか、そりゃ.......良かったよっっ!!」

 

そして、振り向き様の雁夜の左頬に、鶴野の右フックが決まる。

 

「.......っ。兄貴.......」

 

雁夜は、鶴野に全て押し付けて、1人家を飛び出した罪悪感から、避ける事が出来なかった。

 

「.......雁夜、すごく、心配してたんだぞ!?めちゃくちゃ、大変だったんだぞ!?.......まぁ、お前が出てったお陰で、俺は愛するカミさんに出会えたし、息子も出来た。だから、感謝もしてる。これが、お前の代役を務めてきた俺の最後の仕事だ。....あー、これでスッキリした。.......さぁ、お前の番だ。臓硯にやらされたとはいえ、桜には、酷い事をした.......お前の好きにしてくれ。」

 

鶴野は雁夜を殴った後、心の内をさらけ出し、吹っ切れた様子で、目を瞑り、好きにしろという。

 

「ああ、分かってる。....ふんっっ!!!」

 

雁夜は鶴野の腹筋に、力任せに拳をぶち込んだ。

 

「がはっっ!!?おっほっ!!げっほっ!!....はぁ....はぁ....ごほっ.......おま....そこは....良いんだ、兄貴.......とか、そういう優しさは.......」

 

腹筋に守られて、さらには形も何も無い力任せの打撃とはいえ、パワーアップした雁夜の打撃にもんどり打ちながら、恨めしそうにする鶴野。

 

 

「ねぇよ、んなもん。俺の娘に手を出したんだ、それくらいで済んでありがたいと思え。」

 

そんな様子の鶴野に、雁夜は吐き捨てる様に言う。

 

そして、しばらくして、お互いの顔を見合わせる鶴野と雁夜。

 

「「ふふ.......はっはっはっ!」」

 

同時に笑い出す2人は、溝を越え、仲の良かった兄弟に戻り、しばらく笑いあった。

 

「.......兄貴、これからどうするんだ?」

 

鶴野に手を貸しながら、そんな事を問い掛ける雁夜。

 

「ああ、明日桜を連れて、飛行機に乗り、明後日の朝にはアメリカに避難させてる家族に合流しようと思ってる。」

 

雁夜の手を借りながら、立ち上がると、そう答える鶴野。

 

「そうか.......桜を頼む、兄貴。」

 

「あくまで、一時的にだからな。今回の聖杯戦争を生き残って、間桐家当主として、桜を育てるのは雁夜、お前以外に居ないんだからな。」

 

覚悟を持った目で鶴野を見つめ、そんな風に頼む雁夜に、鶴野はそう返す。

 

「....そうだな、当たり前だ。桜は俺の娘だからな。で、兄貴は俺が間桐を継いだ後はどうするんだ?」

 

雁夜は鶴野の言葉に、決意を新たに答えると今度はそう問掛ける。

 

「俺は、そのまま、アメリカに残る。やってみたいことがあってな.......俺にも野望の1つや2つあるんだ。」

 

鶴野はそう答えると、ニヤリと笑ってみせる。

 

「兄貴.......見ないうちに、随分、変わったな。」

 

10年以上ぶりに会った鶴野は、雁夜の中の鶴野の性格と、大分食い違っていたようだ。

 

「ふふ....どうだろうな.......だが、カミさんとの出会いが、俺を変えてくれたのかもな.......それより、お前の方も、大分頑張っていた様じゃないか。読んだぞ、お前に関する記事。なんでも、戦争孤児を救ったり、お前の記事のお陰で紛争が幾つも解決したそうじゃないか。」

 

照れくさそうに笑えば、そう答え、次に雁夜に関する話題を振る鶴野。

 

「いや、俺は何も大した事はしていないさ.......紛争地域に行ったのだって、もともとは金のためだし.......少年兵にされそうな子供を放っておけなかっただけだ....それに助け出したと言っても、荷物に紛れ込ませて、ボランティア団体に送り届けただけだしな。20人くらいしか助け出せなかった.......戦場には、そんな子供がその何十倍、何百倍もいるんだ.......俺はひと握りにも満たない数を助けたに過ぎない。....それに、あれらの記事は、俺の手柄じゃない.......俺なんかよりもっと凄いライターが、死に際に俺に託したもんだ。名前もそいつの名になるはずだったんだがな.......」

 

鶴野の言葉に、憂い混じりの顔で自嘲気味に答える雁夜。

 

「そうか....だが、お前は意味のある事をやったんだ。俺には到底出来ない事をな。俺は、兄貴としてお前を誇りに思うよ.......お前は英雄(ヒーロー)さ。」

 

鶴野はそんな雁夜を、褒め称える様に言った。

 

「いや、俺はそんな柄じゃない.......ただ、桜を守れればいい。それだけだ。」

 

鶴野の言葉に謙遜しながらも、何処か救われた様な顔を見せる雁夜。

 

「さて、しばしのお別れの前に、桜達とどっか出掛けてくる。そのくらいの時間はあるはずだしな。....兄貴、準備の方は任せた。」

 

「ああ、楽しんでくるといい。こっちは任せておけ。」

 

その会話を最後に、ドラえもん、のび太、桜を連れて出掛ける雁夜。

 

映画や買い物など、穏やかな時間を楽しんでいた。

 

だが、雁夜を除いた3人だけで買いたい物があるそうで、しばし別行動をする事になった。

 

雁夜は近場で、少し時間が潰せないかと店を探していると、ホテルに併設したスイーツ店を見つける。

 

冬木ハイアットホテル内に併設されたその店は、ケーキバイキングを売りにしているが、喫茶店としても営業しており、その店に入る雁夜。

 

だが、あいにく店は満席の様で、相席なら案内出来るかもしれないと店員に言われ、少し待つ事にする。

 

しばらくして、店員に案内された4人掛けの席では、女性客が1人、黙々とケーキを食べていた。

 

「すみません、相席、ありがとうございます。」

 

雁夜は女性客に会釈をし、お礼を言うと席に着く。

 

「....いえ、お構いなく.......」

 

雁夜をチラリと見ると、軽く会釈をし一言返せば、また黙々とケーキを食べていく。

 

女性客は深緑色の髪のショートヘアで、端正な顔立ちだが、仏頂面で化粧っ気はなく、黒を基調としたスーツ姿だ。

 

そんな女性客は、感情を表現するのが苦手というよりは、感情を押し殺した機械の様に見える。

 

そんな彼女が雁夜の目には、救われる前の桜と重なって見えた。

 

そして、愛していた女性、禅城.......もとい、遠坂葵。

 

雁夜は、背丈や髪の色など、何処か彼女と重なるものを感じてしまう。

 

「あの....!あ、いや.......えっと、もし良かったら、オススメとか教えて貰えませんか?」

 

それ故か、自分自身でも理解しないうちに、目の前の女性客に声を掛けていた。

 

そして、咄嗟にメニューを見て、そんなふうに問い掛ける。

 

「え.......そうですね.......これとか、美味しいですよ.......」

 

声を掛けられた女性客は、無表情ながら、困惑した様子で、しかし、メニューを指差し答えてくれた。

 

「.......ありがとうございます。すみません、このケーキのセットをコーヒーで。」

 

答えてくれた女性客にお礼を言うと、店員を呼んで注文する雁夜。

 

雁夜が女性客を観察した様に、女性客もまた、雁夜を観察する様に見ていた。

 

女性客の名前は久宇舞弥、今回の聖杯戦争に参加する衛宮切嗣の陣営のものだ。

 

舞弥と切嗣の関係は、仲間や相棒というよりは、部品やパーツと言った方が正しい。

 

舞弥自身、自我を持たず、道具として使われる事を望み、切嗣も舞弥を道具として使った。

 

舞弥は、戦争の絶えない貧国の出身で、そこでは少年兵として、また、性処理道具として過ごしてきた。

 

そんな舞弥の自己防衛方法は、鈍感に、そして無感になる事だけだった。

 

昼は、機械の様に感情を殺しながら敵兵を殺し、夜は人形の様に感情を封じながら男達に犯されるがまま。

 

最初から希望を捨て諦める事で、絶望も生まれなくなった。

 

感情を殺す事で、罪悪感や嫌悪感を抱く事も無くなった。

 

自らの記憶を消す事で、過去に苦しまなくなった。

 

自己を殺す事でしか、自己を保てなかった女、それが舞弥だ。

 

切嗣もそれは分かっており、自らのパーツとして使う以上、余計な希望や感情を与えると、却って苦しむ。

 

そう思い、舞弥には、敢えて人間性を殺したままの状態で居させた。

 

その事への罪悪感や己の無力さに苦しむ切嗣を知っているからこそ、舞弥も何も求めなかった。

 

そして、目の前の男、間桐雁夜。

 

舞弥はまだ情報を共有しておらず、間桐雁夜を知らないが、危険性と、既視感を感じていた。

 

常人を遥かに凌ぐ鍛えこまれた身体、幾千....いや、幾万の修羅場を潜り抜けて来たというのだろうか。

 

この男は、切嗣の纏っている、戦場の雰囲気と同じものを感じさせる。

 

にもかかわらず、こちらに向けられるあの目は、敵意でも、警戒心でも、ましてや好色によるものでもない。

 

悲哀と慈愛が混じりあっている.......と、言うのだろうか、切嗣が1番最初に自身に対して向けた表情に似ていると舞弥は思った。

 

それは、普段の完全なる殺人機械である切嗣とは、真逆の表情であり、感情だった。

 

そして、決して嫌な---そこまで、考えたところで、我に返る舞弥。

 

自分は機械であり、切嗣を構成するパーツの1つに過ぎない。

 

そう思い返し、何故、この様な下らない考えを持ったのだろうと、理解出来ずにいた。

 

否、希望は容易く絶望に変わる、世界とはそんな非情で無慈悲な場所だと知っている舞弥は、無意識に理解出来ないふりをしていた。

 

「あ、あの.......煙草を吸っても、大丈夫ですか?」

 

と、そんな思考にふけっている舞弥に、雁夜は再び声を掛けてきた。

 

「....どうぞ.......」

 

雁夜は、舞弥の答えを聞くと、懐から煙草を出し、口に咥え火をつけ、紫煙を燻らす。

 

雁夜が吸っているのは、切嗣と同じ銘柄の煙草だった。

 

煙草を吸いきると、腕時計を確認し、席を立つ雁夜。

 

「相席、ありがとうございました。俺は、そろそろ時間なので、失礼します。....その、またいつか.......いや、何言ってるんだろう.......とにかく、ありがとうございました。」

 

色々感情が混ざり合い、テンパった様子で、そう言い残すと、お辞儀をして、店を後にする雁夜。

 

「いえ.......」

 

そう短く、言葉を返し、去って行く雁夜の背中をただ見つめている舞弥。

 

切嗣に似ているようで、相反してもいるその不思議な人物に、舞弥の中で、エラーとしか呼べない関心が生まれていた。

 

しばらくして、切嗣からの連絡が入り2時間後に落ち合う予定になったので食べ放題を延長する舞弥。

 

気持ちを切り替えようと、また仏頂面でケーキを爆食いすれば、店員達の間で、都市伝説が生まれるが、それはまた別の話。

 

「待たせてしまったか?」

 

1時間後、冬木ハイアットホテルの駐車場にて、舞弥の乗る車に乗り込んでくる切嗣。

 

「いえ、こちらも先程到着したばかりです。機材は全て用意してあります。資料の方は?」

 

既に、資材搬入員の格好に着替えていた舞弥が、切嗣にそう問い掛ける。

 

「流石だな舞弥、これが資料だ。その内の1人、ケイネス・アーチボルト・エルメロイが、このホテルに宿泊する事がわかった。故に最悪の場合、ここを丸ごと爆破させる。」

 

切嗣は舞弥に資料を渡せば、同じく、作業員の格好に着替えながら、作戦を伝える。

 

「なるほど.......っ!?....こ、この、間桐雁夜という男.......」

 

資料を見ながら、間桐雁夜の資料を見つけ、普段無表情の舞弥ですら、驚きを隠せずにいた。

 

そして、現実の残酷さ、醜さ、非情さを再認識していた。

 

「.......どうした?何か問題か、知っている事でもあるのか?」

 

舞弥のタダならぬ様子に、切嗣は険しい表情で、舞弥に問い掛ける。

 

「.......およそ、2時間半前に、冬木ハイアットの喫茶店にて、間桐雁夜と接触しました.......」

 

「なにっ....!?.......状況を詳しく教えてくれるか。」

 

舞弥の予想外の答えに、驚きつつも、状況を聞き出す切嗣。

 

「.......なるほど.......君の存在がバレて、向こうから接触してきたのか.......?」

 

状況の説明を聞き、あらゆる可能性を思考する切嗣。

 

「その可能性は低いと思います。.......もし、そうだとするならば、あの状況下でも、私を暗殺するだけの技量を、間桐雁夜という男は持っています。」

 

切嗣のパーツとして、忠実に見たままの評価を話す舞弥。

 

「君が、それ程までの評価をするのか.......舞弥....僕は、今から、君にかなり危険な命令を下す.......」

 

切嗣はどこか悲しみを滲ませる、真剣な表情で舞弥を見つめ、そう語る。

 

「前にも言ったはずです。私に生命や感情など、とうにありません。貴方に拾われた道具に過ぎない。....であるならば、貴方が私をどう使い潰そうとも、私は構いません。」

 

切嗣を見つめ返しながら、切嗣の言葉にそう返す舞弥。

 

「そう....だったな.......舞弥、君の顔は奴に割れてしまった。.......だが、正体はバレていない可能性が高い.......だったら、それを逆手に取り、間桐雁夜に再接触し、出来る限りの情報を盗み出してくれ....もし、可能なら---」

 

「---分かっています。可能であれば、暗殺します。」

 

切嗣から言葉が紡がれる前に、舞弥はそう言い放つ。

 

切嗣の理想(ユメ)の為に、他人を殺す。

 

それは、舞弥にとって、当然とも言える行為であった。

 

故に、ただのエラーに過ぎない、胸を締め付ける痛みを無視する。

 

場所は移り変わって、間桐邸の玄関前。

 

ドラえもん、のび太、桜の3人と合流し、少ししてから帰宅すれば中に入る前に呼び止められた

 

「ほら、桜ちゃん。」

 

ドラえもんが、桜の背中を押すように、そう呼びかける。

 

「うん.......あのね.......これ、開けてみて.......」

 

ドラえもんの呼び掛けに頷けば、雁夜の前に歩み出て、包みを差し出す桜。

 

「くれるのかい、桜。.......これは.......」

 

桜から差し出された包みを雁夜が開けると、そこには御守りが入っていた。

 

「雁夜....おとう....さん.......まだ、上手く呼べないけど.......桜....ちゃんと、呼べる様になるから....だから....死なないでね.......?」

 

桜はどこかぎこちなく、恥ずかしそうに雁夜をお父さんと呼べば、自身の胸の内を語る。

 

「桜.......ありがとう....!お父さん、ちゃんと無事に生き残って、桜を幸せにしてやるからな....!」

 

雁夜は桜を抱きしめながら、嬉しさのあまり、涙を流していた。

 

そんな2人の光景を、少し涙を浮かべながら、微笑んで見届けるドラえもんとのび太。

 

空は、オレンジ色に輝き、日が沈み始め、間桐邸を照らしていた。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第7話「看破された、偽りの戦端」

夜になり、桜を寝かしつけた雁夜は、いつもの様にリビングにいた。

 

そこには、ドラえもん、のび太も同席していた。

 

「そろそろ、聖杯戦争が始まってしまうが.......俺達には、情報が少なすぎる.......どう、作戦を練ったものか.......」

 

雁夜は腕組みをしながら、悩んでいた。

 

桜の救済や、自身の修行に時間を使ってしまい、どの様な陣営がいるのか把握出来ていなかった。

 

「だったら、ちょうど良い宝具があるよ。自家用〜衛星〜!!」

 

ドラえもんは、雁夜の話を聞けば自家用衛星という宝具を取り出す。

 

その宝具は、1m程のロケットと発射台がセットになったものだった。

 

「これで、偵察衛星とエコー衛星を打ち上げて、特定の場所を監視したり、音を聞く事が出来るよ。1日しかもたないけど、建物から何から透視できるから、情報を盗み見たり盗聴も出来るよ。」

 

ドラえもんは、自家用衛星について雁夜に説明する。

 

「なるほど、それなら時臣の家を監視して、あいつが集めた情報を盗める。情報があれば、俺の蟲達を使って、監視を続ける事は可能だ。早速、打ち上げよう。」

 

雁夜の言葉を合図に宝具を打ちあげれば、モニター型の宝具を取り出すドラえもん。

 

「これで、大気圏外にある衛星から送られてくる映像と音声を聞くことが出来るんだ。その時臣さんの家の位置は分かる?」

 

モニター型の宝具の説明をし、次いで遠坂邸の場所を聞くドラえもん。

 

雁夜は遠坂邸の大体の場所を教え、みんなでモニター越しに、遠坂邸の内部を盗み見る。

 

書斎にある、聖杯戦争のマスターのものと思しき情報を手に入れれば、そこへ3種類の使い魔の蟲を放っていく雁夜。

 

まずはカイコガのオスをベースに作成した『追跡蟲』と呼ばれる使い魔を放つ。

 

カイコガのオスは、メスのフェロモンを数キロ先から感知することが知られている。

 

そして、そのカイコガのオスを元に創られた追跡蟲は、魔術師の発する魔力の匂いを感知することができ、見分ける事も容易い。

 

尻の糸で追跡蟲に引っ付き、『潜入蟲』と呼ばれるハエトリグモをベースに作成した使い魔も移動を開始している。

 

ハエトリグモは体長が6mm程しかないが、虫の中では視力が良く、0.3程の視力を有すると言われている。

 

その小ささと視力を活かし、対象の魔術師の家に潜入させるのに使う。

 

そして、後を追うように飛び立ったのは『監視蟲』と呼ばれるコシアキトンボをベースに作成された使い魔だ。

 

コシアキトンボは体長4、5cmの都会にもわりと生息ししているトンボで、1万個以上もの複眼の視野は約270度もある。

 

その視野の広さを活かし、監視をするのに使われる。

 

とはいえ、追跡蟲はともかく、潜入蟲も人間にしてみれば視力は悪いし、監視蟲に至っては0.03程度の視力しかない。

 

そこで、出てくるのが脳蟲群(モス・ラ・リーテ)による変換である。

 

監視蟲と潜入蟲から送られてくる視界データを変換し、鮮明化するのである。

 

この脳蟲群(モス・ラ・リーテ)の優れているところは、それらのデータを音声、電気、光等の信号に変換して送信する事も出来るのだ。

 

これにより、テレビやパソコンやスマートフォンといった電子機器でその映像を見る事が出来る。

 

これは、言い換えれば科学と魔術の融合とも言える。

 

魔術師の家系にありながら一般人の感性を持ち、蟲使いの術を会得している雁夜にしか出来ない芸当だ。

 

使い魔の蟲達の成果を待ちつつ、眠りについた雁夜。

 

翌日、桜と鶴野の見送りをし、鶴野は桜を連れてアメリカへと飛び立った。

 

鶴野は数年後ウォール街にて、財界の魔術師と呼ばれる様になるが、それは別の話だ。

 

使い魔の蟲達による、2日間の成果として6人のマスターの内、ケイネス、時臣、切嗣、綺礼の動向を把握出来るようになった。

 

ほぼ同時期に、切嗣、ケイネス、時臣の順に、サーヴァントを召喚する。

 

ケイネスのサーヴァントは槍を装備しており、切嗣のサーヴァントは剣を装備しているのが確認出来た。

 

さらに、見えた能力値とクラススキルから、ケイネスはランサーを、切嗣はセイバーを召喚したとわかった。

 

残念ながら、残る、プレラーティーともう1人のマスターは、情報の少なさから発見出来なかった。

 

「2人ばかり把握出来ていないが、まずまずと言った所か......ん?言峰綺礼が、時臣の屋敷に入って行くだと......協力関係にあるのか?」

 

使い魔の蟲達が収集した情報を見ながら、そう呟く雁夜。

 

所変わり遠坂邸にて、時臣と綺礼が言葉を交わしていた。

 

「綺礼、この屋敷に入る所は誰にも見られてないだろうね?」

 

「ご心配なく、可視・不可視を問わず、この屋敷を監視している使い魔や、魔道機の存在はありません、それは――」

 

時臣の問いかけに答えている綺礼の背後に、サーヴァントが現れ、割り込むように話す。

 

「一一それは私が保証します、いかなる小細工を弄そうとも間諜の英霊たるこのハサンめの目を誤魔化す事はかないません、マスターの身辺には現在いかなる追跡の気配もなし......どうか、ご安心いただけますよう......」

 

アサシンであるこのサーヴァントはそう話すが、実際は雁夜の蟲に見られている。

 

しかし、これはアサシンの落ち度というよりは、雁夜のずば抜けた蟲の行使の技術による所が大きい。

 

まず、雁夜の放った蟲は殆ど改造が施されておらず、元々の虫の特性を活かしている為、見分けが非常に付きにくい点。

 

そして、蟲との魔力パスは脳蟲群(モス・ラ・リーテ)へのデータ送信にのみ使われているため極、微量の魔力しか使っていない点が上げられる。

 

それ故に、アサシンといえども、使い魔だと看破出来ずにいた。

 

((塀の上のトンボは気にかかったが......魔力の痕跡も見られなかったし、考えすぎだな......))

 

しかし、監視蟲にはほんの少しだけでも疑念を抱いているあたり、流石と言える。

 

「まぁ、良いだろう。それより見てくれ。ふふふ......遥かな太古......この世で初めて脱皮した蛇の抜け殻の化石だよ、これを媒介にして、首尾よくあれを呼び出したなら......その時点で、我々の勝利は確定する......!」

 

時臣は興奮気味に、綺礼にそう語れば、召喚の義に移る。

 

眩い光が収まり、描かれた陣の中心に召喚されたサーヴァントを見て時臣は宣言する。

 

「勝ったぞ綺礼......この戦い......我々の勝利だ!」

 

所は再び戻り、間桐邸、書斎にて召喚の様子を見ていた雁夜が呟く。

 

「やはり、協力関係だな......そして、時臣のサーヴァントはアーチャー......言峰綺礼のサーヴァントはアサシンか......」

 

アーチャーよりもアサシンに注目する様に、見ている雁夜。

 

「......追跡蟲から送られてきたデータによれば、アサシンのものと同じ魔力が、他の場所でも同時に観測されている......アサシンは複数体に分身する宝具か能力を持っているようだな......」

 

雁夜は蟲達が集めた情報を元に、アサシンが複数体いる事を看破していた。

 

時間は進み、夜更けになると、遠坂邸裏手にある山道からアサシンと綺礼が、遠坂邸を眺めている。

 

「聖堂教会から、7体目のサーヴァント、ライダーが現界したとの連絡があった。」

 

綺礼が、手に入った情報をアサシンに話して聞かせる。

 

「最後のサーヴァントが召喚されましたか......では、いよいよ......」

 

「.そういう事だ。......早速だが、お前にはこれから、遠坂邸へ向かって貰おう。」

 

アサシンの言葉に、肯定の意を示し、命令を下す綺礼。

 

「と、申しますと......?」

 

綺礼の要領を得ない命令に、確認の問いかけをするアサシン。

 

「お前なら......あの遠坂邸の要塞の様な魔術結界も、恐るるに足りぬだろう。」

 

「ふふふ......宜しいのですか?遠坂時臣とは、同盟関係と聞いておりましたが。」

 

綺礼の命令の意図を理解すると、愉快そうにそう問いかけるアサシン。

 

「それは考慮しなくていい。例え、アーチャーと対決する羽目になろうとも......恐れる必要は無い。」

 

「3大騎士クラスのアーチャーを恐れる必要は無いと仰るとは......」

 

綺礼の返しに、また、愉快そうに答えるアサシン。

 

「......任せたぞ。速やかに遠坂時臣を......抹殺しろ。」

 

その言葉を合図に、アサシンは山道の崖から飛び降り、更に風を切り裂き、その周辺に生息するトンボを横目に、疾風の如く駆け抜ける。

 

勢いを増しながら、遠坂邸内に飛び込めば、小石を指で弾いて外側の結界に使用されている宝石を砕く。

 

そして、着地すれば慎重に先に進み、もう一度小石を弾けば内側にある結界を見極める。

 

そして、不規則に動き回る警報装置の様な結界を避けながら進む様はまさに美しい舞踏の様である。

 

さらに、小石を弾き、自らが入り込める隙間を開ければ、結界の中心部に到着する。

 

「他愛ない......」

 

アサシンに取っては、児戯にも等しい警備に思わずそんな事を呟く。

 

そして、結界を破壊する為に宝石に手を伸ばした瞬間、手の甲を上から降ってきた刃が貫く。

 

「ぐぁぁっ!?」

 

手を貫かれ突然の痛みに驚愕しながらも、刃の飛んできた方向に顔を向けるアサシン。

 

「地を這う虫けら風情が、誰の赦しを得て面をあげる?」

 

アサシンの視線の先には屋根に立ち、宝具であろう槍や剣を、文字通り雨の様に振らせてくるアーチャーがいた。

 

「あれを......恐れる必要は無い......だと!?」

 

自身に向かって降り注いでくる、一つ一つが必殺の威力を持つ刃の雨とアーチャーを見て、捨て駒にされたのだと悟る。

 

彼はアサシンのサーヴァントである百貌のハサンでありながら、別の名を持っていた。

 

百貌のハサンは多重人格者であり、彼等の持つ宝具は、その幾多の人格を個別のサーヴァントとする宝具である。

 

そして、彼の名は、基底のザイードと呼ばれ、取立てて得手の無い人格とされ、捨て駒にされるのも頷ける。

 

自身のすぐ側まで迫る死を前に、景色がスローモーションの様にゆっくりと見えるザイード。

 

そして、サーヴァントとはいえ元は人間だからか、生前の記憶から最近の記憶までの走馬灯が駆け巡る。

 

そして、その走馬灯が意外な結果をこのザイードに与える事となる。

 

命令とあらば、子供を殺す事さえ躊躇しない冷酷さを持つ彼だが、だからこそ悲願達成の為、他の人格の為に死すことを半分受け入れていた。

 

だが、駆け巡る走馬灯の中で、先日見たトンボと、先程すれ違ったトンボに違和感を覚える。

 

そして、ザイードの持つ直感Dのスキルが、その2つの出来事を結びつけ、ある結論に至る。

 

即ち、トンボは敵陣営の使い魔であり、綺礼と時臣の同盟関係が漏れている可能性が高いという事実だ。

 

その事実を感じ取った時、ザイードの身体は考えるよりも早く駆け出していた。

 

地を這うゴキブリの如く無様に身体を低く保ちながら、ジグザグに逃げていくザイード。

 

しかし、爆撃の如く降り注ぐ刃に、手足を持っていかれるザイード。

 

それでも、生にしがみつく様に、這いつくばりながら逃げる。

 

「ふははははは、まさに虫けらよな。虫けららしく地べたを這いつくばっているならば、生かしておいてやろう。」

 

アーチャーは高笑いしながら、ザイードを見逃す事にした様だ。

 

アーチャーの気まぐれにより、右足と左腕から先を失いながらも生き延びる事に成功したザイード。

 

そして、ザイードは痛みに耐えながら念話を通してその事実を他の人格に伝える。

 

この事は綺礼と時臣にすぐ様報告され、ザイードはアーチャーに狙われる事も無くなった。

 

雁夜以外の敵陣営には、立ち上がる土煙により、生き延びたのは見えずアサシンは消滅したと認識されていた。

 

雁夜だけは、アサシンが複数体いる事を看破しており、消滅してないのを知っているが、それでもザイードが生き延びた事は知らなかった。

 

夜が開ける頃に、綺礼と女性人格のアサシンが会話をしている。

 

「どうした、アサ子?少し、嬉しそうにも見えるが。」

 

「大した影響でないとはいえ、それでも損失は損失でございます。

 言ってみれば指の一本が欠け落ちるようなもの。死なぬに越したことはありませぬ。使い物にはなりませんがね。」

 

綺礼の問いに、そう答えるアサ子と呼ばれるアサシンの女性人格。

 

ザイードは回復に努めながら、走馬灯で見えた生前の記憶に対して思案していた。

 

((あれは、まだ若き日の私なのだろうか......?私は、自身の得手の無さに思い悩んでいたのか......?))

 

1人思い悩むザイードを置いてけぼりにしながら、聖杯戦争は進んでいく。

 

ともあれ、聖杯戦争の戦端は、偽りにより切られたのだった。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第8話「揃い踏みの夜」

最後のサーヴァントの召喚者である、ウェイバー・ベルベットは少し後悔していた。

 

何故ならば、召喚したライダーのクラスのサーヴァントは言うことを聞かないどころか、小突いてきたりするのだ。

 

「たわけ!!......坊主、貴様は何を見ていたのだ。アサシンが、死んだ?だから、どうした。余が戦うとすれば、生き残った方であろうが!そやつはどうやって、アサシンを倒したのだ?」

 

今もまた強烈なデコピンを受け吹き飛ばされれば、そんなふうに問い詰められる。

 

「いや......暗かったし、砂埃は舞っていたし、良く見えなかったけど......あ、剣を10本も20本も投げつける様な宝具は有り得たりするのか......?」

 

強烈なデコピンに目を白黒させながらも、何とか状況を思い出し話すウェイバー。

 

「ふむ......無数に分裂する剣......か。有りうるな、それは単一の宝具として定義しうる能力だ。」

 

((......でも....あれは分裂したと言うには、一つ一つの形が違いすぎるような......))

 

「まぁ、よい。敵の宝具等、相見えれば知れること。ふん!」

 

ライダーはそんな風に語れば、ウェイバーの背中を景気良く叩く。

 

叩かれたウェイバーは、目を白黒させながら前に倒れ込む。

 

「ゲホッ!?ゲホッ!?......そんなんで良いのかよ......?」

 

咳き込みながら涙目になりながら、消え入りそうな声で問いかける。

 

「よい!寧ろ、心が躍る!!食事にセックス!眠りに戦!!......何事につけても、存分に楽しみ抜く......!それが、人生の秘訣であろう......!ぬははは!ぬふふふ!」

 

ライダーはそう語り心底楽しそうに豪快に笑いながら立ち上がる。

 

「さぁ!ではそろそろ、外に楽しみを求めて見ようか。出陣だ坊主!支度せい!!」

 

立ち上がれば唐突にそんな事を言えば、ウェイバーを急かす。

 

「しゅ、出陣て......どこに......?」

 

あまりに唐突なライダーの提案に、困惑しながら問いかけるウェイバー。

 

「どこか適当に。そこら辺へ。」

 

「ふざけるなよー!」

 

ライダーのあまりにも適当な答えに、不満の声をあげるウェイバー。

 

「遠坂を見張っていたのは貴様だけではあるまい。......となれば、アサシンの死も知れ渡っていよう。ここからは、他の連中が一斉に動き出すぞ?」

 

ウェイバーの不満の声に反論する様にそう答え、ブラインドを指で開き、窓の外を覗く。

 

「そやつらを見つけた端から狩って行く。」

 

そして、獰猛な野獣の様な笑みを浮かべるライダー。

 

「見つけて、狩るって......そんな、簡単に...........」

 

ライダーの単純明快なその答えに、今度はウェイバーが反論しようとするが、ライダーが遮る。

 

「余は、ライダー!......こと、足に関しては他のサーヴァントより優位におるぞ。ふふんっ。」

 

自らの優位性をウェイバーに説き、見せてやろうと言わんばかりに室内で宝具を出そうとする。

 

「待て待て待て!?ここじゃ不味い!!家が吹っ飛ぶ!!!」

 

そんなライダーを必死に止めて、仕方なくライダーの出陣とやらに着いて行くウェイバー。

 

一方その頃、ケイネスのランサー陣営も動き出していた。

 

だが、マスターたるケイネスも、サーヴァントたるランサーも思い悩んでいた。

 

それは、信頼関係を上手く築けないという致命的な弱点の要因ともなっている。

 

他の陣営にも言えなくはないが、ライダー陣営はライダーがウェイバーを引っ張る事で解決している。

 

セイバー陣営も、マスターである切嗣との溝が深いが妻のアイリが緩衝材となる事で、アーチャー陣営はアーチャーに敬意を払う事でそれぞれ一応の解決はしている。

 

しかし、ランサー陣営のこの問題は一切の打開案も無く、放置されたままになっていた。

 

事の発端は、ランサーであるディルムッド・オディナを召喚した時に起きた。

 

まず1つ目の要因は、ディルムッド・オディナという英雄が、裏切りの伝承を持っていた事。

 

だが、これだけならば承知の上での召喚であるが故にそれ程問題にはならなかった。

 

しかし、残る2つの要因により信頼関係を築くこと無く崩壊していく。

 

次の2つ目の要因は、ランサーに聖杯への願いを聞いた際に、何も無いと答えた事にある。

 

この時のランサーの答えは間違いでは無かったが、端的で説明の欠けたこの答えにケイネスは疑惑を向ける結果となった。

 

そして、最後の3つ目の要因が1番の問題となる。

 

その3つ目の要因は、ランサーの顔に呪いとも呼べる黒子(チャーム)があり、婚約者のソラウがその呪いに掛かってしまった事だ。

 

それにより、ソラウはランサーに対して激しい恋心を抱いてしまう。

 

そんな3つの要因が重なり、ランサーの想いとは裏腹に、ケイネスはランサーを信頼出来なかった。

 

だが、これは何もランサーにだけ原因がある訳では無い。

 

何故なら、ソラウ程の魔術師であれば呪いに対して魔術的抵抗(レジスト)出来たはずだが、好奇心から行わなかった。

 

それは、彼女が恋心を抱く事も愛を感じる事もなく今日まで至っていたからだ。

 

要するに、ケイネスのソラウに対する想いが、ソラウ自身に伝わっていない事に原因があった。

 

だが、それでも何とか信頼して貰おうとランサーは頑張っていた。

 

敵サーヴァントを打ち倒せば信頼されるだろうと、魔力を垂れ流しながら誘い街を練り歩いた。

 

武技に秀でたランサーは、どんな敵が来ようとも何とかできるという自負があるのでそういった戦法に出たのだ。

 

そして夜も深けてきた頃、漸く最初の訪問者がコンテナの積まれた港に現れた。

 

「良くぞきた。......今日1日、この街を練り歩いたものの、どいつもこいつも穴熊を決め込むばかり......」

 

槍を肩にかけそう語り掛けながら、訪問者の前に姿を現すランサー。

 

「俺の誘いに応じた猛者は、お前だけだ。......その清澄な闘気......セイバーとお見受けするが、如何に?」

 

ランサーの誘いに乗った訪問者は、アイリを伴ったセイバーだった。

 

「如何にも。そういうお前は、ランサーに相違ないな?」

 

ランサーの問いに堂々たる雰囲気で答えるセイバー。

 

「ふっ、これより仕合うという相手と、尋常に名乗りを交わす事もままならぬとは......興の乗らぬ縛りがあったものだ......」

 

セイバーの問いに残念だと言わんばかりにそう答えるランサー。

 

アイリと一言、二言交わせば、自身の魔装に切り替えるセイバー。

 

互いに目の前の敵を見据えながら、得物を構えるランサーとセイバー。

 

だが、セイバーはランサーの端正な顔を見据えてある事に気付き呟いた。

 

魅了(チャーム)の魔術......?」

 

その呟きを聞いたランサーはヤレヤレといった表情で、自笑する様に語る。

 

「......悪いが、持って生まれた呪いの様なものでな......こればかりは如何んともし難い。......俺の出生か、もしくは女に生まれた自分を恨んでくれ。」

 

「その結構な面構えで、よもや私の剣が鈍るものと期待してはいるまいな?槍使い。」

 

ランサーの言葉に、いたって冷静な表情でそう淡々と返すセイバー。

 

「そうなっていたら、興醒めも甚だしいが......なるほど、セイバークラスの抗魔力は伊達ではないか......結構。この顔のせいで腰の抜けた女を斬るのでは俺の面目に関わる。最初の1人が骨のある奴で嬉しいぞ。」

 

「ほう?尋常な勝負を所望であったか。誇り高い英霊と相見えたのは、私にとっても幸いだ。」

 

ランサーはセイバーの言葉に、セイバーはランサーの言葉に共に嬉しそうに獰猛な笑みを浮かべる。

 

「それでは......いざ......!」

 

ランサーのこれより先は語るに及ばずといった言葉を皮切りに、両者は得物を握る手に力を込める。

 

先に動いたのはセイバーで先の先を取りに行き、受けるランサーは後の先を取りに行く。

 

お互いの得物がぶつかり合えば、その衝撃でアスファルトが抉れ吹き飛ぶ。

 

互いに相手の動きを見極めながら、高度な剣術と槍術の応酬を繰り広げる。

 

しかし、セイバーは一振の剣、ランサーは長槍と短槍の2本と互いに警戒する武器の数に差があった。

 

故にセイバーは攻め手に欠け、先ずはランサーが少し押していた。

 

「どうした、セイバー?攻めが甘いぞ!」

 

攻め手を増やし、セイバーを追い込んでいくランサー。

 

しかし、セイバーの持つ剣は透明で間合いが見えず、セイバー自身の技量も相まって先に傷を負ったのはランサーだった。

 

互いに互いの技量を認め合いながら、次なる一手を思案していた。

 

戦いの余波で、積み上げられていたコンテナは抉られ吹き飛んでいる。

 

その裏では、マスター同士の策謀が繰り広げられていた。

 

ケイネスは隠蔽魔術を使い身を隠し、戦闘を観察しながら戦場を支配する機会を伺っている。

 

切嗣はアイリをマスターと見せかけて舞弥と共にスナイパーライフルでマスターを狙う。

 

綺礼はアサシンを使い戦闘の行く末を監視し、時臣と策を練っている。

 

そして雁夜は蟲を使い、それらのマスターを同時に監視していた。

 

と、ここで戦闘に動きが見られた。

 

ケイネスがランサーに宝具の使用を許可したのだ。

 

ランサーの破魔の紅薔薇(ゲイ・ジャルグ)によりセイバーの魔装の鎧は意味を無くした。

 

破魔の紅薔薇(ゲイ・ジャルグ)の能力は、刃が触れた物の魔力的効果を打ち消すというもの。

 

つまり、魔術的な装備であるセイバーの鎧は、無いのと同義になったのだ。

 

そこで、セイバーは魔装の鎧を消し身体を軽くする事でスピードを上げその不利を覆そうとした。

 

だが、それはランサー相手にはただの失策であった。

 

それは、ランサーにはもう1つの宝具、必滅の黄薔薇(ゲイ・ボウ)があったからだ。

 

必滅の黄薔薇(ゲイ・ボウ)の能力はその刃で不治の傷を与えるというものだった。

 

鎧を消したセイバーの左腕を必滅の黄薔薇(ゲイ・ボウ)で傷付けた事により、片手の不利を強いられる。

 

その事でランサーの真名を看破するセイバー。

 

「セイバー、この次は取る!」

 

「それは、私に取られなければの話だぞ、ランサー!」

 

そして、再び向き合い打ち合おうとする両者に割って入る者が現れた。

 

「アララララララァァァイィィィ!!!」

 

その者とは、ウェイバーを伴い宝具に乗ったライダーだった。

 

「双方、剣を収めよ。王の前であるぞ!」

 

2人の顔を交互に見て、とりあえずは戦いが止まったのを確認して名乗りをあげるライダー。

 

「我が名は、征服王イスカンダル!此度の聖杯戦争では、ライダーのクラスを獲て現界した。」

 

誇らしげに、真名とクラスを名乗れば威風堂々とした笑みを浮かべるライダー。

 

そんなライダーに抗議するウェイバーはデコピンで黙らされる。

 

「うぬらとは、聖杯を求めて相争う巡り合わせだが......先ずは問うておく事がある!」

 

ウェイバーを黙らせれば、セイバーとランサーを見遣りそう宣言する。

 

「うぬら......1つ我が軍門に降り、聖杯を余に譲る気はないか!?さすれば余は貴様らを朋友として遇し、世界を征する快悦を共に分かち合う所存でおる!」

 

そして、ライダーから出た言葉はまさかの勧誘であった。

 

ランサーは呆れた様子で首を振りながらその勧誘を蹴った。

 

セイバーに至っては、戦いの邪魔をされ侮辱されたと怒っていた。

 

「んー......待遇は、応相談だがな......?」

 

「「くどいっっ!!」」

 

ライダーは諦めず金マークを作りながら問いかけるが、2人揃って一蹴する。

 

さらに、セイバーがアーサー王であると名乗りをあげ、断る理由を説明する。

 

その説明を聞いたライダーは、素直に少女の姿に驚いたが、セイバーは侮られたと感じ更に怒る。

 

と、そこへケイネスが拡声の魔術を持ってウェイバーに語り掛ける。

 

「やぁ、私の聖遺物を盗み出してくれたウェイバー・ベルベット君。君には、私自ら課外授業をしてあげようではないか。......そして、学ぶといい。魔術師同士の戦いにおける恐怖と苦痛を余す所なくね。光栄に思いたまえ。」

 

ケイネスの言葉に恐怖心から涙を浮かべて怯えるウェイバーの背中をさすり任せろと笑うライダー。

 

「おう!?魔術師よ!!察するに貴様はこの坊主に成り代わって、余のマスターになるハラだったらしいな。......だとしたら片腹痛いのう。余のマスター足るべき男は、余と共に戦場を馳せる勇者でなければならん!姿を現す度胸すら無い臆病者では、役者不足も甚だしいぞ!!はーっははははは!!」

 

ケイネスに対し、ライダーはウェイバーの方がよっぽど度胸があると笑い飛ばした。

 

「おい、こらぁ!!他にもおるだろうが!?闇に紛れて覗き見してる連中は!!」

 

そして辺りを見渡しながら、そう叫ぶライダー。

 

「どういう事だ、ライダー。」

 

セイバーの言葉に、親指を立て任せろと制止するライダー。

 

「セイバー、それにランサーよ。うぬらの真っ向切っての競い合い、真に見事であった!あれ程清澄な剣戟を響かせては、惹かれて出てきた英霊がよもや余1人という事はあるまいて。」

 

2人の戦いを賞賛しつつ、自らの意図を話すライダー。

 

「聖杯に招かれし英霊は、今此処に集うが良い!!尚も顔見せを怖じる様な臆病者は、征服王イスカンダルの侮蔑を免れぬものと知れぃ!!!」

 

集まって来てるであろう英霊達に向け、挑発しながら呼び掛けるライダー。

 

「ごめんなさい、2人の戦いがあまりに見事だったから、つい見とれちゃって......僕、ドラえもんです!」

 

「僕も右に同じだよ......僕は野比のび太!2人ともフォーリナーだよ!」

 

ライダーの呼び掛けに、近くで見ていたドラえもんとのび太が真っ先に出て名乗りをあげた。

 

(おれ)を差し置いて、王を名乗る不埒者が、一夜に二匹も湧くとはな。」

 

続いて、アーチャーが出てきた所で、今宵の役者は揃ったのだった。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第9話「戦いと思惑と勧誘と」

「難癖付けられたところでなぁ......イスカンダル足る余は、世に知れ渡る征服王に他ならぬのだが......」

 

アーチャーの無茶な物言いに、頬を掻きながら困り顔でそう返すライダー。

 

「たわけ。真の王たる英雄は天上天下、(おれ)唯一人。後は有象無象の雑種に過ぎん。」

 

ライダーの返しに、唯我独尊といった風情でそう答えるアーチャー。

 

「そこまで言うなら、まず名乗りをあげたらどうだ?貴様も王たる者ならば、まさか己の異名を憚りはすまい。」

 

アーチャーの答えを聞き、ならば名乗れとそう問いかけるライダー。

 

「問いを投げるか?雑種風情が。王たるこの(おれ)に向けて!我が拝謁の栄に浴してなお、この面貌を見知らぬと申すなら......そんな蒙昧は生かしておく価値すらない!!」

 

ライダーの問いかけに、傍若無人に怒りを露にし自身が立っている街灯を足踏みで壊す。

 

そして宝具を展開すれば、その背後には無数の剣や槍がその刃を覗かせる。

 

「ちょっと!顔を知らないってだけで怒るなんて横暴すぎるぞ!」

 

その様子を見ていたドラえもんが、抗議の声を上げる。

 

「そうだ、そうだ!時代が全然違うんだから、知らなくても仕方ないじゃないか!」

 

のび太もドラえもんに続き、アーチャーに対して不満の声を上げた。

 

「この王たる(おれ)に意見するとはな。獣とて許さぬぞ?青狸とメガネザルが。時代が違おうと、王たる(おれ)の面貌を知らぬは罪だ。」

 

アーチャーはドラえもん達の抗議に怒りの声を上げ、背後の刃を向けてくる。

 

「青狸じゃないぞ!!僕は猫型ロボットだ!!この、悪趣味金ピカ成金め!!」

 

青狸とバカにされた事で、さらに頭にきたのかそんな暴言を吐くドラえもん。

 

「ちょっと......ドラえもん、それは、言い過ぎじゃない......?あの人ものすごく怒ってるよ......?」

 

ドラえもんの言葉とアーチャーの様子に焦った顔をしながら、耳打ちするのび太。

 

「この(おれ)に対しての侮蔑......その罪の重さを知れ!!せめて、散り様で(おれ)を興じさせよ、青狸!!!」

 

アーチャーは宝具を発動し、槍や剣など様々な刃をミサイルの様な威力で、ガトリング砲の様に連射してくる。

 

「ひらりマント、ひらりマント、ひらりマント、ひらりマント、ひらりマントー!!」

 

ドラえもんは、自身の宝具である万物往なせし星守護の赤布(ひらりマント)を振り続ける。

 

すると、アーチャーの絨毯爆撃の様な猛攻を難なく斥ける。

 

それどころか、幾つかの剣や槍をアーチャーに弾き返し、街灯を破壊して地面に立たせたのだった。

 

「アーチャーの宝具、あれ程の威力か......!そして、それをマントで全て斥けるとは、なんという武技......フォーリナーはどれほどの武勇を持っているというのだ......!」

 

ランサーはアーチャーとドラえもんの戦いを見守りながら、驚愕の表情を浮かべていた。

 

「なんと素晴らしき強さか!余は何としても彼奴が欲しい!!」

 

ライダーも同じく驚いていたが、目を輝かせながらドラえもんを見据えていた。

 

「痴れ者が......!天に仰ぎ見るべきこの(おれ)を、同じ大地に立たせるかっっ!!?その不敬、万死に値する!!!そこな、青狸よ......!もはや肉片1つも残さぬぞ!!!!」

 

憤怒の表情を浮かべながら、先程の数十倍の宝具を展開するアーチャー。

 

「ギルガメッシュは本気です。さらに王の財宝(ゲート・オブ・バビロン)を解き放つ気でいます。」

 

「必殺宝具を繰り返し衆目に晒すとは、なんと軽率な...........」

 

「我が師よ、ご決断を。」

 

「令呪を持って奉る。英雄王よ、怒りを鎮め撤退を。」

 

そんなアーチャーを監視している綺礼の報告に、これ以上の情報漏洩を防ぐ為仕方なく令呪を使う時臣。

 

今にも、王の財宝(ゲート・オブ・バビロン)を放とうとしているアーチャーを令呪が邪魔する。

 

「貴様如きの諌言で、王たる(おれ)に引けと!?......大きく出たな、時臣......!」

 

虚空に向けて苦虫を噛み潰したように睨みつければ、そう苛立つアーチャー。

 

王の財宝(ゲート・オブ・バビロン)を解除し消し去るアーチャー。

 

「......命拾いしたな、青狸......雑種共!!次までに、有象無象を間引いておけ。(おれ)と間見えるのは、真の英雄のみで良い。」

 

アーチャーはそうとだけ吐き捨てると、虚空へと消えていく。

 

「ふーむ......どうやらアレのマスターは、アーチャー自身程剛毅な質では無かった様だな。」

 

アーチャーの事実上の撤退を見てそんなふうに分析するライダー。

 

「さて、そんな事より......フォーリナーよ---!?」

 

アーチャーが去り、雰囲気がほんの少しだけ緩んだのを見てライダーがドラえもん達を勧誘しようとするが、新たな乱入者が現れる。

 

現れた乱入者は、貌は無く頭部から牛の様な角を生やし、蝙蝠に似た翼を生やした黒い人型の怪物だった。

 

それは、夜鬼と呼ばれるクトゥルフ神話における怪物に酷似した姿をしていた。

 

夜鬼は黒い骨の様な物で造られた剣を持ち、他のサーヴァントを無視し真っ直ぐセイバーに斬り掛かる。

 

その様子を、数kmも先からほくそ笑みながら見ている2つの人影があった。

 

2つの人型の正体はフランチェスカとキャスターの陣営である。

 

「ねぇ、フランチェスカ?」

 

「なぁに?キャスター。」

 

この2人、同一人物である訳だが、ややこしくなるのでこういった呼び方をしている様だ。

 

「なぜだか分からないんだけど...........清廉潔白な純心な人って何故だか貶めたり、汚したりしたくなるよねー♪」

 

「分かる分かる♪最初はジルが呼ばれた聖杯戦争に興味が湧いて、介入したけど、セイバーは凄く素敵だよね。ジャンヌみたいに純白で、どす黒く染められたら、きっと凄く愉しいものが見れそうだよね♪」

 

2人は同一人物であるが故に、趣味も嗜好も全く同じな為に最悪な方向で意気投合していた。

 

そんな2人を他所にランサーとの戦いで片手を強いられているセイバーは苦戦を強いられていた。

 

それは夜鬼の戦闘力が予想以上に高く、黒き骨の剣も宝具に遜色の無い強度を誇っていたからだ。

 

この夜鬼はキャスターが 螺湮城教本(プレラーティーズ・スペルブック)の効果によりこちらに召喚した異界の怪物だった。

 

ジルが使っていた時は、ジル自身が魔術適正を持っておらず宝具任せだった為、海魔しか召喚出来なかった。

 

だが、元の持ち主であるフランソワ・プレラーティに戻った事で本来の使い方を可能にした。

 

螺湮城教本(プレラーティーズ・スペルブック)は本来、召喚術を使う為の魔導書では無い。

 

その本質は、たまたま繋がってしまった外宇宙とのトンネルを阻む門の役割を果たす魔導書なのだ。

 

外宇宙に充満する魔力を糧にその門を保つという仕掛けで、故に魔導書自体が魔力炉であり自己修復出来るのである。

 

そして、魔導書の呪文を読み解く事で意図的に門をほんの少しだけ開ける事で、外宇宙の怪物を召喚出来る。

 

だが、召喚しただけでは制御も使役もできないのでもう1つの宝具を使用する必要がある。

 

螺湮城教本(プレラーティーズ・スペルブック)が戻った事で、|螺湮城は存在せず、故に世の狂気に果ては無し《グランド・イリュージョン》は変質した。

 

それが、螺湮城を讃え、狂気は蹲い謳う(クトゥルフ・イリュージョン)であり、必要なもう1つの宝具だ。

 

螺湮城を讃え、狂気は蹲い謳う(クトゥルフ・イリュージョン)は自身の伝説、血統、幻術に外宇宙の魔力を加える事で昇華した宝具である。

 

世界のテクスチャを騙すだけでなく、外宇宙の存在すら騙し欺く大魔術であり、その効果により外宇宙の怪物を洗脳し使役を可能とした。

 

あくまでも、使役出来るのは下級の怪物のみであり、上位の存在には通用しない。

 

それでも、そんな下級の怪物ですらサーヴァントよりも性能だけで言えば格上であり、宝具こそないものの脅威足り得るのだ。

 

ちなみに、夜鬼をサーヴァントのステータスに当てはめれば、筋力A耐久A敏捷A魔力C幸運D宝具-となる。

 

そんなサーヴァントに極めて近い化け物を相手取り、セイバーは防戦に追い込まれていた。

 

すると、ランサーが横合いから夜鬼に斬り掛かり、夜鬼を後退させた。

 

「悪ふざけはその程度にして貰おうか。異形の戦士、そこのセイバーにはこの俺と先約があってな。......これ以上つまらんちゃちゃを入れる気なら、俺とて黙ってはおらんぞ。」

 

ランサーは夜鬼の戦いぶりから剣を扱うだけの知性を感じ取り、そう警告する。

 

「ランサー......」

 

セイバーはランサーを見遣り、敵ながらランサーの騎士道精神に感嘆を覚える。

 

「何をしているランサー、セイバーを倒すのなら今こそが好機であろう。」

 

だが、ケイネスは夜鬼をキャスター陣営の差し金だと考え、共闘してセイバーを消す方が良いと考えた。

 

「セイバーは!......このディルムッド・オディナが誇りを賭けて討ち果たします!!何となれば、そこな異形めも先に仕留めてご覧にいれましょう!!......故にどうか、我が主よ!!」

 

ランサーはケイネスに対して、2人を必ず仕留めるので卑劣なる手を使わせないでくれと懇願する。

 

「......令呪をもって命じる......」

 

「主よ......!?」

 

だが、ケイネスはランサーの懇願等聞き入れぬと令呪を使おうとし、ランサーは苦渋の表情を浮かべる。

 

ケイネスは手袋を外し、令呪を晒せば命令の先を続ける。

 

「その怪物を援護し......セイバーを殺せ。」

 

令呪の強制力により、ランサーはセイバーに斬り掛かるが屈辱と怒りに顔を歪めていた。

 

「セイバー......すまん......」

 

そしてランサーは夜鬼と並び立ちながら、セイバーに尋常な勝負が出来ないことを謝罪する。

 

その様子を見てランサーに令呪が使われたと悟ったセイバーは剣を構える手に力を込める。

 

「アイリスフィール、この場は私が食い止めます。その隙に、せめて貴女だけでも離脱して下さい、出来る限り遠くまで!」

 

決死の覚悟でアイリの壁役となり、なんとしてでも逃がそうとそう意見する。

 

そんなセイバーの言葉に無言で首を横に振るアイリ。

 

「アイリスフィール!どうか!!」

 

もはや一刻の猶予も無いと再度、強く訴えるセイバー。

 

「......大丈夫よ、セイバー!貴女のマスターを信じて!!」

 

そんなセイバーに対して、アイリは毅然とした態度でそう返す。

 

((切嗣がこの場に来ている?))

 

アイリの言葉と態度にそれを読み取り、切嗣に賭けるべきかと思案するセイバー。

 

((切嗣、貴方ならこの状況を勝機に変えるはず!))

 

アイリはただただ夫である切嗣を信じていた。

 

((今この場で、ランサーのマスターを殺れば......状況を打破出来る手段は他に無い......!))

 

切嗣は、サーモグラフィーを搭載した暗視スコープ付きのスナイパーライフルを構え冷静に戦術を練る。

 

「舞弥......僕のカウントに合わせてアサシンを攻撃しろ、制圧射撃だ......」

 

切嗣は無線で舞弥にそう指示を出し、引き金を絞る。

 

舞弥の方も切嗣の指示を聞き、迅速に行動しアサシンを不意打ち出来る場所で待機している。

 

「......6......5......4......3......2......1......!?」

 

カウント終了と同時に引き金を引こうとするが辺りに響く剣戟と雷の轟音にカウントを止め、状況を確認する。

 

今にもセイバーに斬り掛からんとするランサーと夜鬼の前に、ドラえもんとのび太が立ちはだかった。

 

両者の手には、ドラえもんの宝具である機械仕掛けの必勝の刀(名刀『電光丸』)が握られていた。

 

「うわぁぁぁぁっ!!」

 

「せいやぁぁぁぁっ!!」

 

この機械仕掛けの必勝の刀(名刀『電光丸』)は、使用者が刀を振るのではなく刀が使用者に振らせる。

 

故に、ステータスや技量に関係無く武勇を誇るサーヴァントや外宇宙の怪物相手にも打ち負けることは無い。

 

ドラえもんとのび太は機械仕掛けの必勝の刀(名刀『電光丸』)の導きのもと、夜鬼とランサーを後退させる。

 

「アァァララララララァァァイィィィィ!!!」

 

ライダーがそんな雄叫びと共に、ランサーと夜鬼に 神威の車輪(ゴルディアス・ホイール)という雷牛2頭の牽引する戦車(チャリオット)に乗り突っ込んだ。

 

ランサーはそれに気付き飛び退く事で避け、夜鬼はまともに轢かれ再び立ち上がろうとするも呼び戻される。

 

「ほう、中々どうして根性のある奴。」

 

ライダーはブレーキを掛け、止まりながら夜鬼の様子を見てそう呟く。

 

「......と、まぁ、こんな具合に異形の戦士にはご退場願った訳だが......ランサーのマスターよ!!何処から覗き見してるか知らんが......下衆な手口で騎士の戦いを汚すでない!!ランサーを退かせよ。なお、これ以上そいつに恥をかかすと言うのなら......余はセイバーに加勢する。」

 

ライダーは虚空を睨めつけながら、ケイネスに対してそう宣言する。

 

「「僕達も、セイバー(さん)に加勢するよ!!」」

 

ライダーが言いたい事を言ってくれたので、加勢する意思だけ表明するドラえもんとのび太。

 

「......4人掛りで貴様のサーヴァントを潰しに掛かるが......どうするね?」

 

ライダーはドラえもん達を見遣り、また視線を戻すとニヤリと笑って問いかける。

 

「くっ......撤退しろ、ランサー。今宵はここまでだ。」

 

ケイネスは苦虫を噛み潰したような顔になりながらも渋々、了承する。

 

「......感謝する、征服王。それに、お前達にも感謝する。のび太、ドラえもん。」

 

ランサーは、ライダーとドラえもんとのび太に感謝の言葉を述べる。

 

「なぁに、戦場の華は愛でる質でな。」

 

「気にしないで、僕は卑怯な事が許せなかっただけだから。」

 

「僕もドラえもんと同じだよ。それに、ランサーさんが辛そうな顔をしてたから。」

 

ランサーのお礼に、ライダーは爽快な笑みを浮かべ、ドラえもんは照れ笑いをし、のび太は優しく微笑んだ。

 

最後にランサーはセイバーにアイコンタクトを送り、セイバーも頷いてそれに答えれば、ランサーはその場を去った。

 

「さて......さっきは遮られてしまったが、のび太にドラえもんよ......」

 

ライダーの改まった真剣な態度に、ドラえもんとのび太は生唾を飲み込んだ。

 

「うぬらの武勇には誠に感服したぞ!アーチャーの猛攻に1歩も引かないあのマント捌き!ランサーと異形の戦士を相手どって勝るとも劣らない剣術!いやぁ、実に見事であった!どうだ、余の臣下に加わり、朋友として世界を征する快悦を共に分かち合わんか!?」

 

豪快な笑みを浮かべながらキラキラした目でドラえもんとのび太を褒め讃えながら、勧誘するライダー。

 

「あ、えーと......ど、どうしようドラえもん?」

 

ライダーの言葉に照れながらも、どうすべきか迷いドラえもんにふるのび太。

 

「うーん、あの、ライダーさん。僕達の願いは元の世界に帰りたいって事なんだ。......だから、ずっとはこっちに居れないし......ライダーさんの事も詳しく知らないし......とりあえず、友達という事でどうかな?」

 

元の世界への帰還が目的であり、家来になると命令を聞かなければならないという理由からそんなふうに答えるドラえもん。

 

「なるほど......つまり、余の臣下に加わるに値するか見極める為にも、同盟から始めたいというのだな?......あい、わかった!ならば、うぬらのマスターにも挨拶せんとな。よし、2人とも乗れ。」

 

ドラえもんの提案をそう解釈して、 神威の車輪(ゴルディアス・ホイール)に乗せるライダー。

 

「あ、そうだった。......セイバーよ、先ずはランサーめとの因縁を精算しておけ。その上で、貴様かランサーか、勝ち残って来た方と相手をしてやる。では、騎士王!しばしのお別れだ!次に会う時はまた存分に余の血を熱くしてもらおうか!」

 

ライダーはセイバーにそう別れの言葉を掛け、マスターであるウェイバーにも何か言わせようと振り向く。

 

「マスターさん!大丈夫!?」

 

「しっかりして!?おーい!!」

 

先程の 神威の車輪(ゴルディアス・ホイール)での突撃の恐怖に気絶してるウェイバーを心配するドラえもんとのび太。

 

そんな様子のウェイバーの襟首を片手で掴み、溜息を吐くライダー。

 

「......もうちょっとシャッキリせんかなぁ、こいつは?」

 

そして、セイバーの方を向き笑みを浮かべれば、セイバーも笑みを返す。

 

「さらば!!」

 

ウェイバーを適当に寝かせ、手網を握り雷鳴を轟かせれば、別れの言葉と共に空を翔けるライダー一行。

 

その全ての様子を数km先から眺めていたフランチェスカとキャスターは満面の笑みを浮かべてた。

 

「今回は性能テストも兼ねて、戦わせてみたけど上々だね。それにしても、どうやって可憐で清廉潔白な騎士王様を貶めようかフランチェスカ♪」

 

「まぁ、その辺は様子を見ながらじっくりと考えて愉しもうよ♪」

 

セイバーをどう汚しどう貶めようかと盛り上がる同一人物達。

 

物語はまだ始まったばかりであり、戦いもまた始まったばかりなのだ。




今回のフランソワ・プレラーティの宝具の設定を書いておきます。

ところどころ、オリジナル設定や独自解釈が含まれますのでご了承ください。

螺湮城教本(プレラーティーズ・スペルブック)
ランク:EX
種別:対理宝具
射程:9999
有効人数:-人
プレラーティが自ら調合した薬で理性を飛ばしながら魔術を行使した結果、天文学的な確率で『繋がってはいけない場所』と繋がってしまった為、魔術礼装であった白紙の経典にその理をイタリア語で記し、『繋がりそのもの』を封印した。
故に二度と再現はできず、唯一の繋がりを開けるのがこの魔導書。
以前は盟友である騎士に譲渡していたが、その騎士が完全に救われた事で、魂レベルでの放棄、すなわち返却が行われた事でプレラーティの手に戻った。
この魔導書は『繋がってはいけない場所』との『繋がりそのもの』を封印している、いわばトンネルの前に設置された門の様なもの。
その『繋がってはいけない場所』というのは、この宇宙のさらに外側にある『外宇宙』の事である。
そしてこの『外宇宙』には異邦の神々が存在しており、プレラーティが繋げてしまったトンネル自体は極小の状態である為、異邦の神々も気付かなかったが、放置してトンネルが広がってしまえば、異邦の神々がこちらに来れてしまう為にプレラーティは人類や宇宙の為にもこのトンネルを封印した。
そして、その『外宇宙』には地球上とは比較にならない程の魔力が存在していて、それを糧にしている為、この魔導書自体が魔力炉に成りえている。
膨大な魔力が充満した空間との繋がりを持っているという意味ではある種の聖杯とも言えなくもないが、言わずもがな危険度は桁違いである。
また、このトンネルの門をほんの少しだけ開けることで、『外宇宙』の魔力を引っ張ってきて利用する事も出来る。
さらに、異邦の神々の下僕の下僕の下僕程度の下級の存在であれば召喚する事も可能である。
とは言え、そんな下級の存在でもステータスだけ見ればバーサーカーや3大騎士クラスの力を持っている。
そして、制御も使役も何もかも度外視すれば、『外宇宙』の魔力を使いトンネルを広げる事で異邦の神々を召喚することも可能と言えば可能である。
呼び込まれた異邦の神々はこの宇宙の理を書き換える事も破壊する事も自在である。
故に、この魔導書は対理宝具と呼ばれ、その威力だけで言えば宇宙全てを破壊可能とも言える。
だが、プレラーティはそれを望んでいないし、それをしない。
また、『外宇宙』の資源を使いランクE〜Dクラスの宝具に匹敵する武器を作るという使い方も出来る。


螺湮城を讃え、狂気は蹲い謳う(クトゥルフ・イリュージョン)
ランク:EX
種別:対軍宝具
射程:1~80
有効人数:20
盟友にベルゼブブの姿を見せた、あるいはプレラーティ自身がベルゼブブの化身であるという伝説が、プレラーティが元来もつ幻術や血統と組み合わさりそこに『外宇宙』の魔力が組み合わさり昇華された宝具。
環境すら飛び越えて世界のテクスチャそのものを騙す大魔術であり、相手を固有結界の中に閉じ込めたと錯覚させる事すら可能。
さらには、『外宇宙』にいる異邦の神々の下僕の下僕の下僕の下級の存在であれば完全洗脳して使役も出来る。
言わば、サーヴァントを使役する為の令呪にも似た効果を異邦の存在に使う事ができる。
この性質上、上記の宝具と合わせて使えば、宝具を持たない高ステータスのサーヴァントもどきを最大20体までなら使役可能という事になる。
また、世界のテクスチャの方を騙せる性質上、周囲に満ちた魔力を消失させて対象を底なしの奈落に落下させることも出来る。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第10話「蟲使いVS君主(ロード)

ライダー達と合流し、お互いのマスターとの顔合わせをするドラえもん達。

 

方針としては、お互いに不戦を約束しとりあえずは干渉しないというものとなった。

 

そしてライダー陣営との顔合わせを終え、ドラえもん達は冬木ハイアットホテルへと赴いていた。

 

「本当にランサーさんのマスターの所に行くの?」

 

ドラえもんが雁夜を見据えながら、そう確認する。

 

「ああ。どうしても、気にかかる事があってな。」

 

この襲撃、もとい訪問は雁夜がドラえもんに提案した事だった。

 

「わかったよ。僕もケイネスには言いたい事があるんだ。」

 

のび太とドラえもんにとって、ケイネスの行いは許せるものでは無かった。

 

故にケイネスにいずれは一言文句を言うつもりであった為反対する理由も無かった。

 

「そうか、分かった。安全確認の為に俺の蟲達を先行させるぞ。」

 

そう言うと、蟲を放ち、ハイアットホテルを探索させる。

 

本来ならば、どこでもドアを使えば一瞬で行けるのだがスキルの影響で制限がかかっていた。

 

敵マスターへの接触は、相手の合意無しでは行えなかった。

 

そこで雁夜は探索蟲という、蜜蜂をベースとした蟲を放つ。

 

蜜蜂というのは非常に優れた嗅覚を持ち、またトンボほどではないが、5000の目を持ち優れた視野を持っている。

 

蜂という目立つ蟲の為潜入等には不向きだが、探索という分野においては非常に使い勝手が良かった。

 

予め潜入蟲が残していたフェロモンを辿り、比較的人目に付かないルートを通りつつ、探索していく。

 

「やはり、あったかっ......!」

 

雁夜は何かを見つけ、神妙な面持ちでそう言葉にする。

 

その頃、ランサー陣営はケイネスによるランサーへの叱責が行われていた。

 

「今宵は何故セイバーを仕留められなかった?......一度ならず、二度までも......更にこの私の令呪をそいだ上でもなお、だ。」

 

ケイネスのいびりにも取れる叱責に、沈黙したまま頭を垂れるランサー。

 

「......セイバーとの競い合いは、そんなにも楽しかったか?」

 

そんなランサーに、更に嫌味たっぷりにそう問いかけるケイネス。

 

「その様な事は...........騎士の誇りに賭けて、必ずや、あのセイバーの首はお約束致します。」

 

ケイネスの問いかけに、頭を垂れたままそう答える。

 

「改めて誓われるまでもない!!当然であろう!!貴様は私に聖杯を齎すと契約したのだ!!それを今更......たかだかセイバー1人に必勝を誓うだと!?一体何をはき違えている!!」

 

そんなランサーの態度が気に入らないのか、他のイライラ故か当たり散らす様に怒鳴るケイネス。

 

「はき違えているのは、貴方ではなくて?君主(ロード)エルメロイ。」

 

そんな明らかにランサーを庇う様に、割って入ったのはソラウだった。

 

「ソラウ......」

 

そんな様子のソラウに悲しそうに表情を曇らせるケイネス。

 

「ランサーは良くやったわ。間違いは貴方の状況判断じゃなくて?」

 

「セイバーは取り分け強力なサーヴァントだ......あの場で確実に倒せる好機を逃す訳には行かなかった......」

 

「治癒不可能な手傷を負わせたんだもの。捨て置いた所で何時でも倒せたでしょう。そこまでセイバーを危険視していたのなら、どうして貴方......セイバーのマスターを放って置いたの?」

 

ソラウの言葉に反論するケイネスだが、ソラウの指摘は止まらない。

 

「ただ隠れてみているだけで、情けないったらありゃしない。......ケイネス、貴方が他のマスターに対してどういうアドバンテージを持っているのか、理解してない訳じゃないでしょう?本来の契約システムに独自のアレンジを加えたサーヴァントとマスターの変則契約......貴方が令呪を宿し、私がもう1人のマスターとして魔力の供給をする......流石、降霊科随一の神童と呼ばれただけの事はあるわ。」

 

ソラウはケイネスを貶しつつ、嫌味ったらしく持ち上げ皮肉る。

 

「......っ......だが、序盤は慎重に......」

 

ケイネスはソラウの口撃に、精神的にダメージを受けている様子だ。

 

「あら、そう?なのに、ランサーだけに結果を急がせるわけ---」

 

「---そこまでにして頂きたい。......それより先は我が主への侮辱だ、騎士として見過ごせん。」

 

さらに追加の口撃を加えようとするソラウを割って入り制するランサー。

 

「いえ......そんなつもりじゃ......ごめんなさい、言いすぎたわ。」

 

ランサーの言葉を受けて、慌ててケイネスに謝罪するソラウ。

 

しかし、それはケイネスへの気遣いではなく、ランサーに嫌われたくないという恋心からだ。

 

ケイネスもそれを理解しており、元凶だと認識しているランサーの黒子(チャーム)を睨みつける。

 

と、そこへ火災報知器のベルがけたたましく鳴り響いた。

 

そしてそれと同時に部屋の電話も鳴り、ケイネスは受話器を取る。

 

「......ああ、わかった......下の階で火事だ、まぁ、間違いなく放火だろうな。」

 

ケイネスは受話器を置くと、ニヤリと笑いながら皆にそう伝える。

 

「放火?よりによって今夜......」

 

ケイネスの言葉に、疑問符を浮かべるソラウ。

 

「人払いの計らいだよ。」

 

「じゃあ......襲撃......?」

 

ソラウはケイネスの言葉を聞いて、驚いた様に声を漏らす。

 

「ふっ、セイバーのマスターは可能な限り早急に槍の呪いを解消したいだろうからな。」

 

不敵な笑みを浮かべながら、予想していた様子でそう答える。

 

「ランサー、下の階に降りて迎え撃て!......無碍に追い払ったりするなよ?」

 

「承知しました。」

 

ケイネスの指示に、手を胸に置き了解の意を示す。

 

「御客人には、ケイネス・エルメロイの魔術工房をとっくり堪能して貰おうではないか......フロア1つ借り切っての完璧な工房だ!結界24層......魔力炉3機......番犬代わりの悪霊、魍魎数十体......無数のトラップに廊下の1部は異界化させている空間もある......ふふははははは!お互い存分に秘術を尽くしての競い合いが出来ようというものだ。......私が情けないという指摘......すぐにでも撤回して貰うよ......?」

 

「ええ、期待してるわよ。」

 

誇らしげに自身の施した仕掛けを話すケイネスに、適当に相槌を打つソラウ。

 

ケイネス達がそんなやり取りをしている間に、外では避難活動が行われていた。

 

「アーチボルト様!ケイネス・エルメロイ・アーチボルト様!いらっしゃいませんか!?」

 

「はい、私です。ご心配なく、ケイネス・エルメロイ・アーチボルトは......妻のソラウ共々、避難しました。」

 

ホテルの職員がケイネスを探し呼んでいると、切嗣がそれに答えてケイネスを名乗る。

 

催眠術を使い、ホテルの職員に自分がケイネスであると信じさせたのだ。

 

「そうですか......はい、結構です。」

 

当然ホテルの職員は自分が催眠に掛かっているとも知らず、納得し避難誘導が終わったと上司に告げた。

 

それを見届けた切嗣は、舞弥に電話をかける。

 

「準備完了だ、そちらは?」

 

「異常なしです、何時でもどうぞ。」

 

スナイパーライフルを構え、スコープ越しにケイネスを監視していた舞弥が答える。

 

切嗣は通話を終了すると、人目のつかないところまで行き、煙草に火をつける。

 

それから携帯を取り出しある電話番号を打ち込み、最後に通話ボタンを押す。

 

それは、切嗣が予め仕掛けさせていた爆弾の起爆装置を起動させる為の番号だった。

 

しかし、数秒経っても爆弾が起爆する事は無かった。

 

「なんだとっ!?......仕掛けがケイネスにバレたのか!?」

 

爆弾が起爆しない事に焦りを隠せない切嗣。

 

時間は雁夜の探索蟲が、何かを発見した所まで遡る。

 

「やはり、爆弾があったか......こいつはC4だな......」

 

「「ば、爆弾っ!?それは大変だ!!」

 

雁夜の発言に飛び上がる、のび太とドラえもん。

 

「ああ、恐らくはこのビルごとケイネスを始末しようとしていたんだろう......十中八九、他にも爆弾は存在する。」

 

「そんな!?早く、何とかしないと!!」

 

さらに続けられる雁夜の言葉に、のび太が焦りながらそう返す。

 

「もちろんだ。だが、どうやってホテルに侵入するか......」

 

「それなら......オールマイティパス〜!!!」

 

ドラえもんの宝具である、『オールマイティパス』は見せた相手に催眠の様な効果を齎す。

 

その効果により、提示するだけで機密施設や有料施設、電車やタクシーに至るまで対価なしに使用出来るのだ。

 

ドラえもん達は早速中へ入ると、雁夜の探索蟲の先導のもと爆弾を捜索する。

 

「まずは、こいつだな。......当たり前といえば、当たり前だが、特に時限式でも、凝った細工もしていない。知らなければ、爆弾とも気付かれないだろうな。」

 

雁夜はそう言いながら、手早く爆弾の信管を抜いて無力化させていく。

 

「そんな簡単に、爆弾って解除出来るの?」

 

「ああ、本当は液体窒素とかで冷却してからが望ましいが、こいつはC4というプラスチック爆薬の一種で、信管さえ抜いてしまえば燃やしても発砲しても爆発しないんだ。前に取材で工兵と仲良くなって、教えて貰ったんだ。」

 

のび太の問いかけに、そんなふうに説明する雁夜。

 

「匂いは覚えさせた。見つける事は可能だが、信管を抜くだけとはいえ危ない作業だし、爆発する危険性が減るとはいえ危険物には変わりないし、処理をどうするか...........」

 

「それなら、器用手袋と四次元くずかご〜!!」

 

ドラえもんは器用手袋と四次元くずかごという宝具を取り出す。

 

器用手袋はどんな不器用な人でも上手に作業ができ、四次元くずかごは四次元空間に不要物を処理するためのくずかごだ。

 

ドラえもん達は、それぞれ探索蟲の案内のもと爆弾を見つけ処理していく。

 

「これで、全部のはずだ。次は...........」

 

「いよいよ、ケイネスだね。」

 

爆弾を全て処理した雁夜達は、ケイネスのもとへ向かう為進んで行く。

 

「ここからは、作戦通り、二手に別れよう。僕とのび太君はこのまま進む。雁夜さんは窓から出てタケコプターを使い、壁から通り抜けフープで中に入る。」

 

「ああ、ドラえもん、気を付けろよ!」

 

「雁夜さんも、気を付けてね。」

 

こんな会話を繰り広げ、二手に別れたドラえもん達。

 

ドラえもんとのび太がそのまま先に進むと、槍を肩に掛けながら扉に持たれかかるランサーがいた。

 

「これは、予想が外れたな......何故ここに?......と、聞くのは野暮か。」

 

「ふふ、期待してるわよ、ランサー。」

 

すぐ様戦闘体勢に入るランサーと、そんなランサーをうっとり見つめるソラウ。

 

「うん、君のマスターには言いたい事があってね。」

 

機械仕掛けの必勝の刀(名刀『電光丸』)を構えるドラえもんとのび太。

 

「2人掛りか......面白い。存分に楽しませて貰うぞ!フォーリナー!!」

 

ランサーは二槍を構え、後の先を取りに猛りつつも待ちを選択する。

 

「とりゃぁぁぁぁ!!」

 

まずは、のび太がランサーに一直線に踊りかかった。

 

機械仕掛けの必勝の刀(名刀『電光丸』)が最適な動きをのび太にさせ、斬り掛かる。

 

それを見事な槍捌きにて、片手で受け流し、更にはカウンターまで放つランサー。

 

のび太は動かされるままに、それをこれまた見事な刀捌きで受け止める。

 

と、そこへ、今度はドラえもんが突っ込んできた。

 

巧みに身体を動かし、避けつつ攻撃を返すランサー。

 

ドラえもんものび太同様に、動かされるままに槍を受け流した。

 

2人の猛攻に、1人で対応しながら、更には互角の戦いを繰り広げるランサー。

 

一方その頃、単独行動を取っていた雁夜は、ケイネスの仕掛けた罠を無視し窓から外に出る。

 

タケコプターを使い最上階まで行くと、通り抜けフープで中に突入する。

 

そして、予め潜入蟲を潜ませて中の様子を知っていた雁夜は、突入と同時に翅刃虫を放ち先制攻撃に移る。

 

「なにっ......!?」

 

ケイネスは予想だにしない雁夜の先制攻撃に驚愕する他無かった。

 

故に、数多く持って来た魔術礼装の殆どを使う事が出来なかった。

 

唯一反応したのはケイネスの魔術礼装である 月霊髄液(ヴォールメン・ハイドラグラム)だけだった。

 

月霊髄液(ヴォールメン・ハイドラグラム)は、水銀を魔術により

 

高速で圧縮、流動させる事で、防御にも攻撃にも破格の性能を見せ、更には自動索敵も可能とする傑作だ。

 

 

その強固な防壁に、翅刃虫は防がれ、更にはその後の攻撃により為す術なく落とされる。

 

更には、雁夜へ水銀の刃は襲いかかり、距離を取りながら辛くも避ける。

 

雁夜は時に攻撃の軌道を読み、時に防壁蟲を展開しながら、何とか防御しているが、近づく事すら出来ない。

 

「ようこそ、蟲使いよ。この、ケイネス・アーチボルト・エルメロイ直々にもてなそうじゃあないか!」

 

ケイネスは闘いの高揚感と、圧倒的な戦況から尊大な笑みを浮かべ言い放つ。

 

「ぐあっ.....!!.....くっ.....余所見していて良いのか.....?行け!弾丸蟲(バレット・ビー)!!」

 

雁夜は、ケイネスの 月霊髄液(ヴォールメン・ハイドラグラム)に脇腹を軽く切り裂かれながらも、そう言って笑う。

 

雁夜が放ったのは、弾丸蟲(バレット・ビー)と名付けた、秘蔵の戦闘特化型の使い魔である。

 

弾丸蟲(バレット・ビー)は魔術による強化、スズメバチをベースにトンボやゴキブリ等を掛け合わせ

 

更には、アルミや鋼を掛け合わせた合金でコーティングしたボディをもつ、まさに科学と魔術が融合した使い魔だ。

 

その速度は銃弾のそれに匹敵し、攻撃力自体は翅刃虫に劣るものの、人間の肉体を破壊するには十分過ぎる。

 

弾丸蟲(バレット・ビー)は水銀の盾を掻い潜り、ケイネスの肩を貫く。

 

「があぁっっ!?.....くっ.....なかなかの速度だ.....だが、こうすれば良いだけのこと!!」

 

月霊髄液(ヴォールメン・ハイドラグラム)の防御が間に合わないと見るや、自身を覆うように球体に展開するケイネス。

 

これでは、翅刃虫の攻撃ですら歯が立たなかった水銀の盾を前に為す術がない。

 

更に、魔術により雁夜を特定して、棘を生やした球体が襲いかかる。

 

このままでは、いずれは、肉塊にされ絶命するのは明らかな状況だ。

 

にも関わらず、雁夜はニヤリと不敵な笑みを浮かべていた。

 

「.....俺は肉弾戦か、使い魔による攻撃手段しかない.....だから、正面からじゃお前みたいな攻防一体の遠距離系の魔術師には及ばない.....だから、対策を練ってきた.....この瞬間を待っていたっ!行け!!吸魔蟲(ドレイン・モスキート)!!!」

 

雁夜は、吸魔蟲(ドレイン・モスキート)と呼ばれる蟲を大量展開する。

 

吸魔蟲(ドレイン・モスキート)は蚊をベースとした使い魔であり、脆弱な蟲だ。

 

だが、その能力は脳蟲群(モス・ラリーテ)と通信することにより、魔力を吸収し、変換して雁夜の魔力へと還元することが出来る。

 

1匹1匹の吸収率は微々たるものだが、 月霊髄液(ヴォールメン・ハイドラグラム)を覆い尽くす程の大量展開をもってすれば.......

 

「かっ.....!!?がぁぁぁぁっっ!!?」

 

ケイネス程の魔力も吸い尽くし、無力化する事が可能だ。

 

魔力不足により、ただの水銀に戻り床にしたたる月霊髄液(ヴォールメン・ハイドラグラム)

 

力なく倒れ伏すケイネスをもって、雁夜の勝ちが決した。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第11話「恋と愛、奉公と自己満足」

「.....何故.....殺さない.......?」

 

ケイネスは全身の脱力感と、遠のく意識を繋ぎ止めながら問いかける。

 

「俺達の目的は、対話と爆弾解除であって、殺しじゃないからな。」

 

雁夜の言葉に、目を見開いて驚くケイネス。

 

「対話.....?それに、私は助けられたというのか.....!?」

 

「別に、お前らを助ける為じゃない。関係ない一般人を巻き込みたく無かったし、ここのケーキバイキングはまた、来る予定だからな。」

 

これは余談であるが、ホテルの従業員の孫が遊びに来ており、あのまま爆発していたら犠牲になっていた。

 

「.....なるほど.....で.......?対話とは.......?下に付けとでも.....?」

 

雁夜の言葉に、魔術を秘匿すべきという観点から共感を得ながらも、馬鹿にするなという様子で笑みを浮かべる。

 

「生憎、あんたはあいつらに嫌われてるし、俺も個人的には好きじゃないから間に合ってるよ.....俺からはないが、あいつらから伝言だ.....あんた、なんでランサーにあんな扱いをする?」

 

雁夜もケイネスの言葉に、呆れ気味に笑みを浮かべながらそう質問する。

 

「.......扱いも何も、奴は使い魔だ.....使い魔を道具扱いするのは当然だろう.......?」

 

雁夜の問いに、言葉を一瞬詰まらせながらそう答えるケイネス。

 

「.....嘘だな。あんた程の魔術師だ.....傲慢になるのも分かるが、わざわざ関係を悪くする程馬鹿じゃあないだろう。俺の目から見ても、私怨が絡んでる様に見えるが?」

 

ケイネスの答えに、ジャーナリストとしての洞察力からそう切り返す。

 

「.........奴は.......奴は、私を裏切って婚約者であるソラウを奪おうとしているからだ.......」

 

ケイネスは言葉にしてから、何故、目の前の雁夜にそんな事を話したのかと驚く。

 

だが、天才魔術師として自負がある己を、最初は奇襲とはいえ、正面から倒してのけた相手への敬意があるからだと悟った。

 

「なるほど.....確かにランサーには、魅了(チャーム)のスキルがある様だな.....だが、あんたの婚約者なら抵抗(レジスト)出来ただろう?」

 

「.......何が言いたい.......?」

 

雁夜の言葉を受け、睨み殺しそうな目付きで、答えるケイネス。

 

「.....率直に聞く。あんた、その婚約者に愛を伝えたのか?」

 

「.......いや、言葉にはしていないが.........」

 

雁夜のあまりにも率直な言葉に、ケイネスは歯切れ悪くそう答える。

 

「なら、あんたの愛が婚約者には伝わってないんじゃないのか?.....俺にも昔、愛した人がいたよ.....だが、家庭環境を理由に、俺は身を引いた。そして、勝手にある男に譲った気になり、俺はその男を勝手に憎んだ。言葉にさえしてない感情論でな.....だから、あんたはその気持ちを口にして伝えるべきなんじゃないか?.....失敗した男からのお節介な助言だ。」

 

雁夜は自嘲しながら語り、ケイネスにそうアドバイスする。

 

「ふん.........」

 

ケイネスは短く鼻を鳴らすが、内心では色々思う所があった様だ。

 

場面は変わり、ドラえもんとのび太対ランサーの戦いはというと。

 

「すごい.....僕ら2人がかりなのに.....」

 

「感心してる場合じゃないよ!」

 

のび太の感心したような呟きに喝を入れるドラえもん。

 

2人がかりでありながら、ランサーが有利に戦いを運んでいた。

 

本来、機械仕掛けの必勝の刀(名刀『電光丸』)は相手に関係なく勝利出来るのだが、スキルの自制により性能が落ちている。

 

とはいえ、2人がかりの猛攻をものともせず、逆に押しているのはさすがはランサーだ。

 

「ふっ、セイバーに続いてこうも骨のある猛者と死合えて嬉しいぞ!」

 

「.....こんなに強いのに、なんでケイネスの言いなりなのさ!?」

 

あまりにも強いランサーに、のび太は思っていた言葉をぶつける。

 

「.....主であるのだから、命令を聞くのは当たり前だ!!」

 

応戦しながら、言葉に詰まった様に返すランサー。

 

「でも、信じ合ってる様には見えなかった!」

 

「それは.......俺が信ずるに値しないからだろう.....多分、この貌の呪いのせいだ.....」

 

ランサーはさらに、続くのび太の言葉に、応戦は完璧ながらも力なく返す。

 

「本当にそう?ランサーの気持ちは伝えたの?」

 

ランサーの返しに何かを感じ取り、核心をつくのび太。

 

「っ!!.....確かにそうだ.....俺は何も伝えてない.....望みも.....感情も.....」

 

のび太の言葉に気付かされたという表情を浮かべるランサー。

 

「貴様らを討ち取り、伝えるとしよう!!」

 

「あっ!?機械仕掛けの必勝の刀(名刀『電光丸』)が!?」

 

ランサーは迷いが吹っ切れ、攻撃のキレが増した様だ。

 

のび太の機械仕掛けの必勝の刀(名刀『電光丸』)がランサーに弾き飛ばされる。

 

「貰ったぞ、降臨者(フォーリナー)!!!」

 

「待て!ランサー!」

 

ランサーはそのままのび太を槍で貫こうとするが、ケイネスの言葉に槍を止める。

 

「どうしてですか、我が主。」

 

「それは、そやつらのマスターに借りが出来たからだ.....」

 

ランサーの言葉に、どこか清々しい様子で答えるケイネス。

 

「ドラえもん、のび太、お前らも矛を納めてくれ。話はついた。」

 

扉の奥から現れたのは、ケイネスに肩を貸しながら歩く雁夜だった。

 

「うん!分かった!」

 

ドラえもんは雁夜の言葉に機械仕掛けの必勝の刀(名刀『電光丸』)をしまう。

 

「借りはこれで無しで良いな、間桐雁夜よ。」

 

「ああ、こっちはマスターのそっちはサーヴァント2体の命を助けた。これで貸し借りなしだ。」

 

そう言葉を交わすと、雁夜達は万物の距離を無視する機械扉(どこでもドア)に消えていく。

 

その場に残ったケイネス達はしばしの沈黙の後、ケイネスがその沈黙を破る。

 

「ランサー、私とソラウだけにしてくれ。伝えなければならん事がある。」

 

「分かりました。ですが、その後にこのディルムッドにも時間をください。」

 

それだけ伝えると、霊体化して消えるランサー。

 

残されたのは、ケイネスとソラウの2人だけだった。

 

「私は別に話す事はないわよ、ケイネス。」

 

ケイネスに嫌味たっぷりな様子でそう切って捨てるソラウ。

 

「構わない。私が勝手に伝えると決めたのだから.....」

 

ソラウの様子にもめげずにそう話すと、大きく深呼吸をして真剣な眼差しで見つめるケイネス。

 

「.....私は、君が好きだソラウ。どうしようもなくどこまでも愛しているのだ。君の尊大な態度も、そう躾られたからだという事も、愛された事がないのも全て分かっているつもりだ。」

 

「...........」

 

ケイネスの言葉に、ソラウは思う所があるのか、静かに耳を傾ける。

 

「私は魔術の事しか知らない.....家柄が無ければ何も無いつまらない男だ.....だが、ソラウ。君を想う気持ちは世界中の誰よりも強いという自信はある!.....こんな、何も持っていない私だが.....それでも、傍に居たいと思うのは我儘だろうか.....?.....私と.....私と今一度、改めて私の妻になってくれまいか.....?」

 

あのプライドの高いケイネスが全てをかなぐり捨てて、惨めさなど微塵も気にせず放つ渾身の愛の言葉。

 

「ケイネス.........」

 

それは、ソラウにとって初めて向けられる剥き出しの愛に他ならなかった。

 

故にソラウは思い悩み、色々な考えが頭を巡る。

 

そして、結局はランサー()ケイネス()かの2択を迫られる。

 

身を焦がさんとする燃え盛る激情である本能の恋。

 

勢いはなくとも、優しく身を温める焚き火の様な温和な理性の愛。

 

本能対理性というのは幾重にも繰り広げられてきた人類の歴史である。

 

ならば、それらを天秤にかけたとて、誰が狡いと言えようか。

 

そして、答えが出たのかケイネスを見つめるソラウ。

 

「.......嫌よ。」

 

ソラウはそうキッパリと言い放つがそれは-----

 

「-----私の夫ともあろう貴方が、私の夫たるケイネス・エルメロイ・アーチボルトが、何も持っていないなんてありえない。私に全てを与えて頂戴。その代わり、私の持てる限りの全てを生涯、貴方に捧げると誓うわ。」

 

一方的に突き進むランサー()ではなく、共に歩み続けるケイネス()の勝利だった。

 

ここに来て漸く、ランサーの魅了黒子(チャーム)無効化(レジスト)されのだ。

 

「本当に私で.....いや、言うまい.......分かった。このケイネス・エルメロイ・アーチボルトの名にかけて、全てを君に与えると誓おう。」

 

こうして、ケイネスという1人の男は、ソラウという1人の女の愛を勝ち取ったのだった。

 

「次は、ランサーの番ね。私は少し席を外すわ。ニヤケ顔を見られるのは恥ずかしいもの.....」

 

そう言いながら、少し照れた様子でその場を後にするソラウ。

 

入れ違いで実体化し、ケイネスの前に跪くランサー。

 

「大切な時間を割いて頂き、有難く存じます。」

 

「前置きは良い、話したい事があるのだろう?」

 

ランサーの言葉に、真剣に話を聞く姿勢をみせるケイネス。

 

「はっ.....まずは、主に1つ嘘をついていたことをお詫び致します。私の望みは無いと言いましたが、実は1つあります。それは、我が身を委ねるに値する主に、この身を捧げ尽くし、忠誠を示したいと言う望みです。しかし、言わぬが華と勝手な自己満足により伝えなかった事をここに詫びさせて頂きたい.....!」

 

「なるほど.....つまりは、召喚の際に半分は貴様の願望はかなっていたわけか。」

 

ランサーの言葉に、疑念が1つ解消された様子のケイネス。

 

「あい、分かった。貴様の身をもって、その忠誠の強さを聖杯を手中に収めることでこの私に見せつけてみせよ!ランサー!!」

 

「有り難き幸せ!必ずや聖杯を手にして見せましょう!!」

 

ここに、愛は恋に勝ち、自己満足は真なる奉公へと変化したのだった。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第12話「参加の資格」

ランサー陣営との戦いの次の日の夜、ドラえもんとのび太と雁夜はライダー陣営と合流していた。

 

ライダーは聖杯の所有者を決めるだけならば戦う必要は無いと言い、聖杯問答なる酒宴を開く事にしたらしい。

 

そこで、一応は同盟関係にあるドラえもん達を拉致もとい誘いに来たのだった。

 

「くっ、なんて風圧だっ.....!」

 

「なんで、お前らは平気なんだよぉぉぉぉ!?」

 

雁夜はライダーの神威の車輪(ゴルディアス・ホイール)の風圧に必死に耐え

 

ウェイバーは必死にしがみつきながら、のび太とドラえもんが割と平気そうなのを不満に思って叫んだ。

 

「だって、タケコプターとかで慣れてるし、他にも、ねぇ?」

 

「うん、タイムマシンとかで時空乱流に巻き込まれたりとかもあったし.....」

 

ドラえもんとのび太はバツが悪そうに、ウェイバーの叫びに答える。

 

一行は、セイバー陣営の拠点に行き、誘いに行く事になったのだ。

 

「恐らく結界がある故、このまま突っ込むぞ?」

 

「ちょっと待った、それはセイバー達に迷惑がかかっちゃうよ。」

 

ライダーの言葉にドラえもんはそう止めにかかる。

 

「なに?じゃあどうやって行くんだ?歩いては行けまいよ。あまり近付き過ぎても、迎撃されるかも知れんしのう。」

 

ライダーは1度、神威の車輪(ゴルディアス・ホイール)を地上に降ろし止まると、ドラえもんに問う。

 

「良い宝具があるよ。障害無き異次元の車輪(四次元三輪車)〜!!.....この宝具は、四次元空間を通れるから、結界を気にせず進めるし、凄く早く進めるんだ!」

 

ライダーの問いに、ドラえもんは障害無き異次元の車輪《四次元三輪車》を人数分出すとそう説明する。

 

付け加えるならば、一漕ぎで100mは進み、視認される事も気付かれる事も無い。

 

そんな障害無き異次元の車輪(四次元三輪車)で走り出す一行。

 

「おー!こりゃ良い!余にはちと小さいが、素晴らしいのう!」

 

「.....でも、あの絵面は.....」

 

「ああ.....俺も人の事は言えんが.....」

 

はしゃぐライダーを見ながら、苦笑いと呆れ顔でそうヒソヒソと話す、ウェイバーと雁夜。

 

障害無き異次元の車輪(四次元三輪車)は、普通の三輪車の2倍くらいの大きさがある。

 

そのため、のび太やドラえもんにはちょうどいいが、ウェイバーや雁夜には小さい。

 

そして、2mを超える巨体を持つライダーには言わずもがなである。

 

なによりも、髭面の2m超えのマッチョなおっさんが三輪車に乗って、はしゃぐ様はあまりにもシュールだった。

 

そんなこんなで無事に、セイバー陣営の拠点の玄関前に着いた一行。

 

「よう!!セイバー!!」

 

「「こんばんは、お邪魔します。」」

 

「ライダーに、降臨者(フォーリナー)!?」

 

「何故!?結界には何も反応が無かったわ!?」

 

勢い良く扉を開け中に入って来たライダーと続く一行に、驚愕するセイバーとアイリ。

 

「城を構えていると聞いてきてみたが.........なんとも、湿気たところだのう。」

 

驚愕する2人を尻目に、周りを見渡しながらそんな事を言うライダー。

 

「ライダーそれにフォーリナー、貴様ら何をしに来た。」

 

「ん?見てわからんか、一献交わしに来たに決まっておろうが。」

 

「僕達は、ライダーに誘われて。」

 

セイバーの問いに答える、ライダーとドラえもん。

 

「ほれ!そんなとこに突っ立ってないで案内せい!どこか宴にあつらえ向きの庭園はないのか?この荒れ城の中は埃っぽくてかなわん!」

 

ライダーは呆然としてるセイバーに対して、続け様にそんなふうに促す。

 

セイバーとアイリは顔を見合わせると、とりあえずライダーと一行を庭園に案内する。

 

案内されたライダーは持って来たワインの酒樽を拳で割ると、杓子でグイッと煽る。

 

「.....聖杯は相応しき者の手に渡る運命にあるという。それを見定める儀式がこの冬木における闘争だと言うが.........何も見極めるだけならば、血を流すには及ばない。英霊同士、お互いの格に納得がいったなら.....それで、自ずと答えはでる。」

 

今回の訪問の趣旨を説明しながら、杓子で掬ったワインをセイバーに渡す。

 

受け取ったセイバーはワインを一気に飲み干し、感心したような笑みを浮かべるライダー。

 

「それで.....まずは、この場の英霊で格を競うわけかライダー、そしてフォーリナー。」

 

「その通り。お互いに王を名乗って譲らぬとあれば、捨て置けまい?いわばこれは、聖杯戦争ならぬ聖杯問答.....!誰がより、聖杯の王に相応しいか.........酒盃に問えば詳らかになるというものよ。」

 

「まぁ、僕らはお酒飲めないんだけどね。」

 

セイバーとライダーの会話に、そんなふうに話すのはぶどうジュースを飲むのび太だ。

 

「戯れはそこまでにしておけ、雑種。」

 

「アーチャー.....!何でここに!?」

 

突如として現れたアーチャーに、一悶着あったドラえもんは驚く。

 

「言っていなかったか.....いやぁな、街で此奴の姿を見掛けたので、誘うだけ誘っておいたのさ。遅かったではないか、金ピカ!」

 

ライダーは事の経緯を簡単に説明すると、アーチャーにそう声を掛ける。

 

「よもや、こんな鬱陶しい所を王の宴に選ぶとは.........(おれ)にわざわざ足を運ばせた非礼をどう詫びる?」

 

「まぁ、そういうでない。ほれ!駆けつけ一杯!」

 

相変わらずの様子のアーチャーにライダーはワインを手渡す。

 

「ふん、なんだこの安酒は.....!こんな物で本当に英雄の格をはかれるとでも、思ったか。」

 

「そうかぁ?この土地の市場で仕入れた中じゃ、こいつは中々の逸品だぞ?」

 

顔を顰めながら文句を言うアーチャーに、ライダーはそう返す。

 

「そう思うのは、本当の美酒(さけ)を知らぬからだ、雑種めが。」

 

アーチャーはそう言うと、虚空から見ただけで高価と分かる酒樽を出す。

 

「ほう!」

 

「見るがいい、そして思い知れ。これが王の美酒(さけ)というものだ.....!」

 

出てきた酒樽に目を輝かせるライダーにグラスを出しながらそう得意げに言い放つアーチャー。

 

ライダーはこれは重畳とグラスを受け取り、アーチャーのワインを注ぎアーチャーと、セイバーに回す。

 

「ぬほぉぉ!これは美味い!」

 

「.........っ!」

 

アーチャーのワインの美味しさに、ライダーとセイバーは驚く。

 

「酒も剣も、我が宝物庫には至高の財しかありえない。」

 

得意げにそう言いながら、アーチャー自身もワインを飲む。

 

「これで、王の格は決まった様なものであろう?」

 

ドヤ顔の笑みを浮かべながら、セイバーとライダーを見遣りドラえもんとのび太に目を移す。

 

「.....ところで、そこの青狸とメガネザルは何故いる?王ではなかろう?そこに目を瞑ったとして、セイバーは場所、(おれ)は酒、そしてライダーは人を集めた。貴様らはこの宴に何を差し出せる?無ければ消えろ。」

 

意地悪な笑みを浮かべてのび太とドラえもんにそう言い放つ。

 

「うーん.....そうだ、食べ物が欲しいでしょ?ちょっと待ってね.....至高の卓衣(グルメテーブルかけ)ー!!」

 

ドラえもんは少し悩むと、自身の宝具で注文した料理を何でも出せる至高の卓衣(グルメテーブルかけ)を取り出した。

 

「このテーブルかけに食べたい物を言うと何でも出せるんだ。例えば、どら焼きー!」

 

ドラえもんはそう言うと、どら焼きを出して実演してみせた。

 

それぞれ、言われた通りに注文すると、出てきた料理に感嘆する。

 

「凄く美味しい.....量はいくらでも出せるのか?」

 

「そんなにがっつかんでも良かろうに.....だが、確かに美味いなこりゃあ、1番の味だ!」

 

爆食いするセイバーに少し引きながらも、料理を堪能するライダー。

 

「ほう.....口にせずとも至高の逸品と分かる料理.....(おれ)のテーブルクロスよりも、上等の様だ。良かろう、参加を赦す。」

 

アーチャーの舌も認めた様で、ドラえもんは参加を許可された。

 

「....して、そちらのメガネザルは何を差し出す?」

 

「え?えっと.....んーと.....そ、そうだ!今からあやとりを見せます!まずは.....ギャラクシー!それから.....ビックバン!それに.....ダンシングフェアリー!」

 

アーチャーの言葉にのび太はしばらく悩んだ後、あやとりを取り出し常人ではまず不可能な華麗な技を見せる。

 

「たかが毛糸であの様な.....」

 

「ほほう!なかなかどうして!やりおるではないか!」

 

セイバーは不思議そうに、ライダーは手を叩きながら見入っている。

 

「ふはははは!児戯も鍛錬をすればここまで見られるようになるとはな!良かろう、赦す。」

 

アーチャーにも認められ、のび太も聖杯問答に参加する事になる。

 

「ふん、これならば、貴様らでも飲めるだろう。有難く思え。」

 

アーチャーは褒美とばかりに、アルコールの入っていないぶどう液をドラえもんとのび太に手渡す。

 

「こんなに美味しいぶどうジュースは初めてだ!!」

 

「うん!すっごく美味しい!」

 

ドラえもんとのび太はぶどう液に舌鼓を打ちながら、大いに喜んだ。

 

「.........!」

 

そんなやり取りの中、アイリはマスターであるウェイバーと雁夜を睨みつける。

 

ウェイバーは首をブンブンと横に振り、雁夜は会釈しながら苦笑いを浮かべる。

 

「さて、話の腰は折れてしまったが、貴様らがどれほどの大望を聖杯に託すのか.....それを聞かねば始まらん。まずは、貴様は何を望むのだ、アーチャー?」

 

「仕切るな、雑種。だいいち、聖杯を奪い合うという前提からして、理を外しているのだぞ?」

 

聖杯問答を進行するライダーに、そう返すアーチャー。

 

「.....そもそもにおいて、あれは(おれ)の所有物だ。世界の宝物は全て、その起源を我が蔵に遡る。」

 

「じゃあ貴様、聖杯を持っていた事があるのか?その正体も知っていると?」

 

アーチャーの言葉に、そう問いかけを投げるライダー。

 

「知らぬ。雑種の尺度で測るでない。(おれ)の財の総量は、とうに(おれ)の認識を超えている。だが、宝という時点で我が財である事は明白だ。.....それを持ち出そうなどと.....盗人猛々しいにも程があるぞ。」

 

アーチャーはライダーの問いに、当然とばかりにそう言い放つ。

 

「お前の言は、キャスターの世迷言と全く変わらない。錯乱したサーヴァントは、奴1人では無かったらしい。」

 

アーチャーの言葉を世迷言と切って捨てるセイバー。

 

「いやいや、どうだかな.....なんとなーく、この金ピカの真名に心当たりがあるぞ余は。」

 

なにか知っているのか、アーチャーをフォローする様にそう話すライダー。

 

「.....でもな、アーチャー。貴様、別段、聖杯が惜しいというわけでもないんだろう。」

 

「無論だ。だが、(おれ)の財を狙う賊には、然るべき裁きを下さねばならん。要は筋道の問題だ。」

 

アーチャーはライダーの言葉に、そう説明を返す。

 

「ふむ.....つまり、なんなんだアーチャー。そこにはどんな義がありどんな道理があると?」

 

「法だ。(おれ)が王として敷いた、(おれ)の法だ。お前が犯し、(おれ)が裁く、問答の余地などどこにも無い。」

 

「うむ.....そうなると.....後は剣を交えるのみ。」

 

アーチャーの語る言葉に、納得した上でそう返すライダー。

 

「征服王よ、お前は聖杯の所有権が他人にあると認めた上で、尚且つそれを力で奪うのか?そうまでして、聖杯に何を求める?」

 

「.....っ.........受肉だ.....」

 

ライダーはセイバーの問いかけに、恥ずかしそうにモジモジしながら答える。

 

「はぁぁぁ!?お前!!望みは世界征服だったとぅえぇぇ!!?」

 

ライダーの言葉に驚きながら走り寄り、うるさいとばかりにライダーにデコピンで吹き飛ばされるウェイバー。

 

「馬鹿者.....いくら魔力で現界してるとはいえ、所詮我らはサーヴァント.....余は転生したこの世界に、一個の命として根を下ろしたい。身体1つの我を張って、天と地に向かい合う.....!それが.....!征服という行いの全て.....!その様に開始し、推し進め.....成し遂げてこその我が覇道なのだ。」

 

イキイキとして、かつ真剣な表情を浮かべながら己の言葉を伝えるライダー。

 

「.....そんなものは、王の在り方ではない。」

 

静かにライダーの言葉を聞いていたセイバーは、そう異を唱える。

 

「ほう?ならば、貴様の懐の内.....聞かせてもらおうか。」

 

ライダーはセイバーの言葉に面白くなって来たとばかりにそう返した。

 

「私は.....我が故郷の救済を願う。万能の願望器をもってして.....ブリテンの滅びの運命を変える.....!」

 

セイバーは真剣な表情でそう答える。

 

「.....なぁ、セイバー.....貴様は運命を変えると言ったか?それは過去の歴史を覆すという事か?」

 

ライダーは少しバツが悪そうな、突拍子も無い様な事を聞いという表情で聞き返す。

 

「そうだ。例え、奇跡を持ってしても叶うぬ願いだろうと、聖杯が真に万能であるならばかならずや.....」

 

「ふっくっくっく.....」

 

「セイバー.....貴様よりにもよって、自らが刻んだ行いを否定すると言うのか?」

 

セイバーの言葉に、アーチャーは笑い、ライダーは訝しむ。

 

「そうとも!何故、訝る!?何故、笑う!?剣を預り、身命を捧げた故国が滅んだのだ.....それを悼むのがどうして可笑しい!?」

 

自分の言葉が理解出来ないというふうなアーチャーとライダーにそう問いを投げかける。

 

「おいおい、聞いたかライダー。この騎士王と名乗る小娘はよりにもよって、故国に身命を捧げたのだとさー、はっはっは」

 

セイバーの言葉に、堪えきれないとばかりに笑うアーチャー。

 

「笑われる筋合いがどこにある!?王たる者ならば、身を呈して治める国の繁栄を願うはず。」

 

セイバーは、2人の様子にふざけるなとばかりに、そう言い放つ。

 

「.....いいや、違う。王が捧げるのではない.....国が、民草が、その身命を王に捧げるのだ。断じてその逆ではない。」

 

セイバーの言葉に、真剣な眼差しでそう語るライダー。

 

「何を.....それは、暴君の治世ではないか.....!」

 

「然り。我らは暴君であるが故に英雄だ。だがな、セイバー.....自らの治世を、その結末を悔やむ王がいたとしたら.....それは、暗君だ.....!暴君より尚、始末が悪い.....!」

 

ライダーはセイバーの返しに、信念を持ってそう答える。

 

「イスカンダル、貴様とて世継ぎを葬られ、帝国が3つに引き裂かれ終ったはずだ。その結末に、貴様はなんの悔いも無いと言うのか.....!?」

 

「ない。.....余の決断、余に付き従う臣下達の生き様の果てに辿り着いた結末であるならば.........その滅びは必定だ。悼みもしよう、涙も流そう、だが、決して悔みはしない.....!」

 

更なるセイバーの言葉に、キッパリとそう言い放つライダー。

 

「そんな.........」

 

ライダーの言葉にセイバーは、信じられないとばかりにそう答える。

 

「まして、それを覆すなど!そんな愚行は、余と共に時代を築いた全ての人間に対する侮辱であるっ!」

 

「滅びの華を誉とするのは武人だけだ!力無き者を護らずしてどうする!?正しき統制、正しき治世、それこそが王の本懐だろ!」

 

セイバーとライダーの意見がぶつかり合う。

 

「で、王たる貴様は正しさの奴隷か?」

 

「それでいい。理想に殉じてこそ、王だ。」

 

今度はライダーの問いに、キッパリと言い切るセイバー。

 

「そんな生き方は、人ではない.........」

 

酒を飲みながら、憐れむように言うライダー。

 

「王として国を治めるのなら、人の生き方等望めない。征服王、たかだか我が身の可愛さのあまりに、聖杯を求めるという貴様には分かるまい。飽くなき欲望を満たす為だけに、覇王となった貴様にはっ!」

 

「無欲な王など飾り物にもおとるわいっ!!」

 

ライダーはセイバーのそんな言葉に、怒鳴りつける。

 

「セイバーよ、理想に殉じると貴様は言ったな?なるほど、往年の貴様は清廉にして潔白な聖者であった事だろう。さぞや、高貴で侵しがたい姿であった事だろう。.....だがな、殉教等という茨の道に一体誰が憧れる?焦がれる程の夢を見るっ.....!.....王とはな.....誰よりも強欲に、誰よりも傲笑し、誰よりも激怒する。清濁含めて、人の臨界を極めたる者。そうあるからこそ、臣下は王を羨望し、王に魅せられる。一人一人の民草の心に、我もまた王たらんと憧憬の火が点る。」

 

そして、ライダーの中の王という存在を語る。

 

「騎士道の誉たる王よ.....確かに貴様が掲げた正義と理想は、1度国を救い臣民を救済したやもしれん.....だがな.....ただ、救われただけの連中がどういう末路を辿ったか.........それを知らぬ貴様ではあるまい.....?」

 

「なんだと.....?」

 

ライダーの問いかけに、動揺した様に震えた声で問い返すセイバー。

 

「貴様は臣下を救うばかりで、導く事をしなかった。王の欲の形を示す事も無く、道を見失った臣下を捨て置き、唯一人で澄まし顔のまま、小綺麗な理想とやらを想い焦がれていただけよ。故に貴様は生粋の王では無い、己の為では無く人の為の王という偶像に縛られていただけの.....小娘に過ぎん。」

 

「わ、私は.........だ、だとしても.....!だからこそ.....!私は今一度故国を救いたいんだ!」

 

「だから!貴様には王の資格等ない!!」

 

ライダーの言葉にムキになって返すセイバーとそれにイライラするライダー。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第13話「聖杯論破」

「「ちょっと待った(てよ)!!」

 

そんな2人に割って入るドラえもんとのび太。

 

ドラえもんはセイバーの方に、のび太はライダーの方に歩み寄る。

 

「さっきから聞いてれば、ブリテンの滅びを救いたいって言ってるけど、君の国の人間が皆死んだわけじゃないよね?生き残って未来に紡がれた命はどうでも良いって言うの?」

 

様々な歴史を見てきた未来のロボットの立場からセイバーに物申すドラえもん。

 

「ずっと思ってたんだけど、ライダーが言ってるのって、弱い人は死ねって言ってるの?欲張りな人しか王様になれないの?」

 

人一倍弱く、人一倍優しい人間だからこそ、ライダーに問いかけるのび太。

 

まずは、ライダーとのび太の問答から見てみよう。

 

「ああそうとも。着いてこられないならば、死ぬしかない。それが、弱肉強食、自然界の変わらぬ掟である。だが、それだけでは国とは呼べん。だからこそ、王が民草を導いてやるのだ。それには王の欲の形を魅せねば、王の欲の形を示さねば導く事が出来んのだ。故に救うばかりでは、王道とは呼べん。」

 

「それは、ライダーの国の話でしょ。確かにライダーの国では、皆が食べる物もあって、お金も持ってて、生活とかにも困ってない人が殆どだったんだと思う。だから強い人ばっかりで、言う事聞いてくれる人もいなかった。そこでライダーが頑張ったんだよね?1番前に立って引っ張ったんだよね?」

 

のび太は聖杯を通って召喚された際に与えられた知識からそう話す。

 

ライダーであるイスカンダルが即位した時代のマケドニア王国は父ピリッポス2世の政策により強国となっていた。

 

ピリッポスの治世において、マケドニア王国は最初後進国であり弱国であったが変革していく。

 

人々の生活は山野に放牧する暮らしから、ポリスと呼ばれる都市にて安全に暮らすようになる。

 

軍事力も増大していき、強国と肩を並べるに至るが人の欲というのは増大していく。

 

欲が増していけば力を持て余し、力を持て余せば治安は悪くなる。

 

そんな状態で父ピリッポス2世が死に、イスカンダルへと王位が渡る。

 

こうなれば、国民を暴走させない為にはイスカンダル自身が先頭で導く他ない。

 

それをのび太は言っているのだった。

 

「でもさ、セイバーの国だと違うんじゃない?セイバーの国は、争いばっかり起きてて、食べる物も無くて、お金も無くて.....国の人は嫌になってたんじゃないかな?平和に暮らしたいって思ってたんじゃないかな?だとしたら目的地は決まってるじゃない。目的地が無ければ、ライダーみたいに道標にならなきゃだけど、セイバーの国では助けてくれる人が必要だったんだと思うよ。」

 

実際、セイバーの治めていたブリテンでは当初、内憂外患の時代であった。

 

国内で覇を称え、強き者が群雄割拠しており、その隙をついて外敵であるサクソン人等がブリテンに侵攻して来た。

 

民衆は度重なる争いや、大地の不作から疲弊しきり、救世主を求めていたのだ。

 

「なるほど.....民草が既に目的地を見定め、その道中を守護する者が必要だったわけか。だが、そんなものは1人では無理であろうよ。それを成し遂げるは、最早人間とは呼べん。」

 

のび太の語りに一応は頷くものの、そうイスカンダルは反論する。

 

「だからこそ、円卓の騎士がいたんでしょ。1人では無理でも皆で頑張れば出来るかもしれない。結局は、セイバーの国も無くなっちゃったけど、セイバーの生き方をおかしいって決めつけるのは違うと思う。だって、ライダーの言う王様が1つだけの正解なら、今頃世界中そうなってるはずでしょ?でも違う。なら、正解が他にもあるんだよ。」

 

「ふむ.....臣下と共に研鑽し守護していく.....正解が1つなら、余の治めた国の様な為政者ばかりになっているはず.....か。然り。確かにその通りであるな。余も少し頭でっかちになっておった様だ。ならば、セイバーとイスカンダルたる余は同格と認めよう。」

 

ライダーはのび太の言葉を真摯に受け止め、それを認めた。

 

弱者が強者を言い負かした瞬間であった。

 

次に、時はほんの少し巻戻り、ドラえもんとセイバーの問答に目を移そう。

 

「それは、どういう意味だ!?」

 

ドラえもんの言葉を、弱者を蔑ろにしているという意味で捉えたのか言葉を荒らげるセイバー。

 

「だってそうじゃないか。君がブリテンの滅びの歴史を変えるという事は、その後に生まれた人々が不幸になるかも知れないという事なんだよ?それって、生き残ったその後の人達はどうでも良いって言ってるのと同じ事じゃないか。」

 

「そ、そんな事は.....だが、例えそうだとしても.....!」

 

セイバーはドラえもんの言葉に、上手く返せず、まるで駄々っ子の様になる。

 

「ブリテンって国は、そこに住む人達は、君の統治下じゃなきゃ存在出来ないの?違うでしょ。確かに国の名前は変わるかもしれない、生粋のブリテン人は居なくなるのかも知れない、でもその血は、命は、未来に紡がれていくんだ。ブリテンが無かった事になる訳じゃない。」

 

「.........ならば.....私は.....私という王は必要無かったというのか.....それならばいっそ.....いっそ私でない王が治めていれば.........!」

 

セイバーは心の何処かで、自分は必要では無かったと考えていた。

 

それを使命という大義名分で、無理矢理押さえ込んでいたのだろう。

 

それを、ドラえもんの言葉に打ち砕かれ、卑屈になるセイバー。

 

「それも違う。君は怠けたの?手を抜いたの?そうじゃないから悔しいんでしょ、間違ってるって半分は分かっていても故国を救いたいって思ったんでしょ、だったら胸を張っていい。君は頑張ったんだ。そりゃ、国は滅んだよ?でも、君じゃなきゃ救えなかった命が沢山あった。君じゃなきゃ繋げなかった命があった。それなら胸を張って良いんだよ。」

 

「.........だが、私は.....臣下に、騎士達に恨まれているのではないだろうか.....だから裏切られたのではないだろうか.........」

 

セイバーはドラえもんの言葉に心動かされながらも、責任感の強さからそう自責の念を抱く。

 

「君に伝えたい事がある人を僕は知ってる。彼の名前はランスロット。僕の宝具で、彼に会って話をすればいいよ。待ち人来る異空への入口(あの人は居間)〜!!」

 

ドラえもんは召喚前の会話を伝え、待ち人来る異空への入口(あの人は居間)の使い方を説明する。

 

「あ、貴方は.....貴方は本当にサー・ランスロットなのか?」

 

「アーサー王.........?アーサー王なのですか.....?」

 

セイバーが襖を開けて中に入ると、中にはランスロットがいた。

 

ランスロットはセイバーを見るなり、涙を流しながら本当に本人なのか確かめる。

 

「なぁ、ランスロット卿.........私は間違っていなかっただろうか.....?王として相応しく無かったのではなかろうか.....?貴殿は私が王で本当に良かったのか.....?」

 

「何を言うのですか!私は、ランスロットは、貴女様の臣下であった事を誇りに思う!貴女でなければダメだったのです!!.....しかし.....だからこそ.....私は、貴方に罰して欲しかった.........貴女自身が人間であると知って欲しかった.....全てを貴女1人に背負わせる自分が許せなかった!もし.....もしも.....願いが1つ叶うのなら.........私を罰して頂きたい.........!!」

 

セイバーの言葉にランスロットはそう強く言葉にする。

 

そして、自責の念から涙を流し、慟哭にも似た苦悩を訴えた。

 

「.....そうですか.........サー・ランスロット .....剣を抜きなさい。剣を抜けっ!!」

 

ランスロットの叫びを受け、セイバーもまた涙を流しながら自らが先に剣を抜き、そう命令する。

 

その先のセイバーとランスロットには、言葉は必要無かった。

 

達人の、本物の騎士の剣のぶつかり合いは、千の言葉に勝る。

 

何度も何度も打ち合い、語っていた。

 

言葉に出来ぬ想いを、言葉に出来ぬ感情を、2人はぶつけ合っていた。

 

そして、遂にランスロットが切り伏せられる形で終了する。

 

「ランスロット卿!!」

 

倒れ伏すランスロットに駆け寄るセイバー。

 

「王よ.....ありがとう.....ございます.........どうか.....貴女様は自責なさらないで下さい.....私は.....救われた.........貴女はなにも.....悪く.....な.....い.........」

 

セイバーの腕の中で、ランスロットは光の粒子となり消えた。

 

それは、ランスロットが救われた瞬間でもあった。

 

セイバーもまた泣きながら、解放されていた。

 

「私は.....私は、間違っていなかった.....!私は、自分の意思で剣を抜いたのだ.....!ブリテンよ.....騎士達よ.....済まない.........そして、ありがとう.....!!」

 

誰の意思でもなく、自分の意思でブリテンを救おうとした。

 

ここで初めて、セイバーはブリテンの滅びという呪いと決別出来たのだった。

 

セイバーが戻ると、救われた顔をみて全てを察したアーチャー。

 

「ふっ.....ふはははは!くだらぬ茶番だ!ライダーも道化なんぞに言い負かされおって!ははははははは!.....貴様らはやはり王足る器など無いのだ。(おれ)1人が唯一の王のようだな!!」

 

「今の言葉、取り消してよ!」

 

嘲り笑うアーチャーに、のび太は毅然とした態度で詰め寄る。

 

「.....道化風情が王たる(おれ)に意見するのか?余程死にたいと見える。」

 

アーチャーはのび太の言葉に笑うのを止め、背後に王の財宝(ゲート・オブ・バビロン)を展開する。

 

「死にたくはないけど.....でも!茶番なんかじゃない!!アーチャーには、友達はいないの?」

 

怖くて震えながらも、真剣な眼差しで言葉をぶつけるのび太。

 

「.....盟友がいる。」

 

アーチャーはのび太の言葉に、友の存在を否定する事は出来ず正直に答える。

 

「だったら分かるでしょ?アーチャーはすごい王様なんだって、名前を知らなくてもなんとなく分かる、1人で何でも出来るのかも知れない、でも友達がいたんでしょ。友達が仲間がいるから、もっと頑張れる。他人の為にって思える。1+1が1より小さいとは僕は思わない。だって1人じゃないんだもん。」

 

そんなアーチャーにのび太は堂々とそう語った。

 

「くっくっく、ふははははははははははは!!!」

 

のび太の言葉を受け、傲笑するアーチャー。

 

だがそれは、嘲りなど一切含まない、気持ちのいい笑い声だ。

 

「よもや、この(おれ)が人の形を見誤ろうとは.....のび太、貴様は道化ではなく、本物の道化師だ。人に笑われるのではなく、人を笑わせているのだ。道化師を処すは、王の沽券に関わる.....人の不幸を取り除く為ならば命を張るその姿勢.....努努忘れるな。」

 

宝具を解除すると、再び笑い声をあげるアーチャー。

 

「良い、先程の言葉、貴様に免じて取り消してやる。今宵は無礼講だ、存分に飲め!」

 

そう宣言する、アーチャー。

 

しかし、そこへ、人影が皆を取り囲むように何十人と現れた。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第14話「統べし者」

「我らは分断された個、群にして個のサーヴァント。されど、個にして群の.....影.....!」

 

現れた何十体というサーヴァント達は、全員アサシンであった。

 

「.....この(おれ)の酒宴を汚そうとは.....!屠殺は免れんと思え!!雑種共!!」

 

「まぁ待て、アーチャー。宴の客を遇する度量でも王の器は問われるのだ。」

 

「ちっ.....良かろう、貴様の言葉に乗ってやろう。」

 

青筋を立て、今にも暴れそうなアーチャーを宥めるライダー。

 

アーチャーは一応はその言葉に、怒りを飲み込み事態を見守ることにする。

 

「さぁ、遠慮は要らぬ!共に語ろうというものはここに来て盃を取れ!この盃は、貴様等の血と共にある!!」

 

「「「「ふふふふふふ、ははははははは.....」」」」

 

ライダーは自身が持って来た方のワインを酌に掬い、掲げながらアサシン達に語りかける。

 

だが次の瞬間、アサシンの投げナイフにより酌のワインはぶちまけられる。

 

そして、アサシン達はワインを被ったライダーを嘲り笑うのだった。

 

「なるほど.....この酒は貴様等の血と言ったはず.....敢えてぶちまけたいと言うならば.........是非もない。」

 

静かな殺気と凄みを滲ませながら、鎧とマントを身に纏うライダー。

 

それと同時に、力の奔流と共に突風がライダーから吹き荒れる。

 

「セイバー、そしてアーチャーよ!貴様等ばかりに良いところを持っていかせん!今宵は余らの勇姿を見せつけてやらねばなるまいて!!」

 

ライダーがそう宣言すると、辺りが強い光に包まれていく。

 

だが、その光の中には雁夜の姿は無かった。

 

光が収束すると、辺り一面は砂漠のど真ん中と化していた。

 

「固有結界ですって.....!?そんな馬鹿な.....!!心象風景の具現化だなんて!?」

 

アイリは目を疑う光景に、心の底から驚愕していた。

 

「ふふん、ここはかつて我が軍勢が駆け抜けた大地。余と苦楽を共にした勇者達が、等しく心に焼き付けた景色だ!」

 

得意気に笑うライダーの言葉に応える様に、数万にも及ぶ軍勢が行進を始める。

 

「この世界、この景観を形に出来るのは、これが我ら全員の心象であるからさ!見よ我が無双の軍勢を!肉体は滅び、その魂は英霊として世界にめしあげられて、それでもなお余に忠義する伝説の勇者達!彼らとの絆こそ我が至宝!我が王道!!イスカンダルたる余が誇る最強宝具、王の軍勢(アイオニオン・ヘタイロイ)なりぃぃぃ!!!」

 

「「「「「うおぉぉぉぉぉぉ!!!」」」」」

 

ライダーの誇りを乗せた語りに応え、雄叫びをあげる軍勢。

 

一騎一騎がサーヴァント、つまり英霊なのである。

 

それは、ライダーの誇りでありライダーの宝でありライダーの王道そのものであった。

 

「久しいな、相棒!」

 

ライダーに嬉しそうに近寄る馬の名前はブケファラス。

 

ライダーが生前、騎乗していた名馬にして愛馬だ。

 

「.....さて、では始めるかアサシンよ!.....見ての通り、我らが具象化した戦場は平野。生憎だが数で勝るこちらに地の利はあるぞ!」

 

勇者を率いる覇王の余裕をみせるライダーの言葉。

 

アサシン達は、皆一様に絶望染め上げられていた。

 

勝てるはずがない、殺されるのを待つばかり、と。

 

「少し待って頂きたいっ!!!」

 

そんな真逆の雰囲気の両者に割って入る者が一体居た。

 

それは、アサシン達の中では最弱と蔑まれている、基底のザイードだった。

 

ザイードはライダーに向け、地面に頭を擦り付け土下座する。

 

「この期に及んで命乞いはしない!!助けてくれとは言わない!!だが、この場にて少し話す時間を貰えないだろうかっ!!!」

 

覚悟を決めた様子のザイードは、ライダーに語りかける。

 

「無論、聞き入れず蹂躙するのは自由だ!!だが!!少し時間を貰えるのならば!!暗殺者(アサシン)の矜恃を見せ付けると約束しようっ!!!」

 

その言葉には、信念が、勇気が、暗殺者(アサシン)としてのプライドが込められていた。

 

「いいだろうアサシン!暫し、時をくれてやろう!!」

 

だからこそ、ライダーはアサシンの申し出を受けたのだ。

 

「恩に切る!!.....さて、(同胞)よ。私は思い出した。弱い私の為に(お前達)が代わりに痛みを、苦悩を引き受けてくれていた事。弱い私で本当すまなかった!今度は、私の番だ!この苦痛は私1人が持っていく!」

 

「待て.....(お前)(我ら)全ての苦痛を背負うと言うのか.....?」

 

ザイードの決意の言葉に、他の人格を代表してアサ子と呼ばれるリーダー人格が問いかける。

 

アサシンは暗殺者(ハサン・サッバーハ)となる前はザイードという名の少年だった。

 

ザイードは誰よりも、暗殺教団を崇拝していた。

 

誰よりも、責任感が強く、誰よりも暗殺者足ろうとした。

 

しかし、悲しい事に同じ年頃に天才と呼ばれる少女がいた。

 

先代の教団の長(ハサン・サッバーハ)の奥義を全て会得したのだ。

 

自身を追い込み、研鑽し、誰よりも努力を惜しまなかった。

 

だが、少女は常に彼の先を行っている。

 

そんな少女(天才)と自身を比べてしまい、才の無い自分を責め続けて心は摩耗し続けていった。

 

苦悩しては努力し、自己嫌悪しては研鑽を続けた。

 

そして遂には精神は限界を迎え、崩壊しない為に新たな人格を作った。

 

少年は彼らを頼り、苦悩を、痛みを、自責の念を押し付けた。

 

何度も利用し功績をあげるが、その度に自我が薄らいでいった。

 

それが、百貌のハサンと呼ばれる暗殺者(アサシン)誕生の物語だ。

 

だが、ザイードは自分の弱さも、苦悩も、痛みも、全てを一身に背負う覚悟を決めた。

 

「そうだ!もう頼らない!痛みも苦悩も悲しみも!全て背負って自分の足で歩いていく!!」

 

「そうか.....(我ら)はもう必要無いのだな.....強くなったな.....(お前).....」

 

皆一様に感嘆の表情を浮かべ、一人また一人とザイードに吸収される様に消えていった。

 

そして遂に、弱き(ザイード)を受け入れて、真の暗殺者(ハサン・サッバーハ)となる。

 

「ありがとう、(同胞)よ.........さて、すまなかったな、征服王イスカンダル!!さぁ、暗殺者(ハサン・サッバーハ)の矜恃、しかと見せ付けよう!!」

 

「.....蹂躙せよぉぉぉぉ!!!」

 

アサシンの啖呵に、言葉はもはや不要と軍勢に号令を掛けるライダー。

 

迫り来る軍勢と共に吹き荒れるアサシンへの逆風。

 

((ここは暑いな.....汗が吹き出す.........我が故郷と同じ砂漠か.........さて、敵は万の勇者を率いる王.....そして、追討ちの様な逆風.........だが、それで良い!!それが良い!!相手に不足なしっ!!!))

 

アサシンは心の中でそう意気込むと、砂を手に取り、撒いた。

 

アサシンは弱さと苦悩と苦痛を受け入れ唯1人になる事で

妄想幻像(ザバーニーヤ)を失った。

 

だがそれは、弱体化したという訳では無かった。

 

そもそも、ザイードは才能無き者では断じて無い。

 

多重人格というのは、人格により得手不得手が存在したり、能力が違ったりする。

 

だが、1つの身体であることは変わりないので、その肉体の性能を超える事は出来ない。

 

つまり、32種にも及ぶ技能は、智慧は、全てザイード一人の才能なのである。

 

さらには、暗殺者(アサシン)としての考え方や教団への信仰心も随一であった。

 

故に、ザイードは初代を除き、暗殺者(アサシン)としての技量は歴代最高なのである。

 

そんなザイードが、唯一人の暗殺者(ハサン・サッバーハ)になる事で、別の宝具へと進化する。

 

それは、統率天使(マーリク)と名付けられた。

 

撒いた砂が逆風によりアサシンに降りかかり、汗によりアサシンの身体を砂が覆う。

 

王の軍勢(アイオニオン・ヘタイロイ)に向かって、最速で走り出すアサシン。

 

王の軍勢(アイオニオン・ヘタイロイ)は砂煙を上げながら迫り来る。

 

すると、砂煙に紛れて、アサシンの姿が忽然と消え去った。

 

専科百般(A+)は人格が統一された事により、専科百般(EX)に進化した。

 

そして、進化したスキルの化粧術により全身に迷彩を施したのだ。

 

さらに、統率天使(マーリク)を発動する事で気配遮断はEXレベルとなる。

 

それ故に、ライダー達はアサシンを見失ってしまったのだ。

 

「「「探せぇぇぇぇ!!!」」」

 

「「「消える筈はない!!!」」」

 

軍勢はアサシンを捜索し、警戒するが見つからない。

 

アサシンはすぐ側にいるというのに。

 

これは、暗殺者(アサシン)として最高峰の技量による絶技であった。

 

そしてアサシンは、最速で、最短距離を、その最高の技量でもって疾走る(はしる)

 

狙うはライダー、統率天使(マーリク)の能力により見定めた弱点(霊核)を見つめて。

 

((その命、貰った!!!))

 

刃を構え、霊核目掛けて刃を突き立てた。

 

だが、悲しきかな、ライダーの幸運スキルはA+でアサシンはE。

 

その差により、アサシンを探していたライダーは偶然目に入りそうな砂を払おうと腕を上げた所にアサシンの刃が突き刺さる。

 

攻撃を受けた事で反撃し、アサシンの心臓はライダーの剣に貫かれた。

 

「がはっ.....!!.....ふん.....運の良い.....奴め.........」

 

アサシンは死に行く身体で、それでもその顔は笑っていた。

 

「.....然り。暗殺者(アサシン)の矜恃しかと魅せて貰ったぞ!敵ながらに天晴れであった!!」

 

ライダーは素直にアサシンを認め、彼もまた笑った。

 

「ならば、良かった.........約束は守れたよう.....だ.....」

 

剣を引き抜かれ、地面に仰向けに倒れるアサシン。

 

((.....なんと、美しい青空だろうか.........ああ.....鐘の音が聞こえる.....初代にして最後の翁よ.........私は.....最期に.....暗殺者(ハサン・サッバーハ)の名に恥じぬ姿.....お見せ出来ましたか.........?))

 

こうして、アサシンは最期の時を迎え、光の粒子となり消えた。

 

「うぉぉぉぉぉぉぉ!!!」

 

ライダーが勝利の雄叫びをあげると、軍勢も続いて雄叫びをあげる。

 

そして暫くして、王の軍勢(アイオニオン・ヘタイロイ)は解除され元の場所に戻る。

 

「すまんが、傷の手当てをしたい。場所と道具を貸してもらえるか?」

 

と、そこへ、傷だらけの雁夜がさらに満身創痍の舞弥を抱き抱えて運んできた。

 

そう、ライダーとアサシンの闘いの裏で、また別の闘いが繰り広げられていたのだ。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第15話「武術VS戦闘術と共同戦線」

時はライダーが王の軍勢(アイオニオン・ヘタイロイ)を発動する少し前まで遡る。

 

最初にその異変に気が付いたのは、使い魔で見張らせていた舞弥だった。

 

「マダム.....侵入者です。私が様子を見てきます。」

 

舞弥はすぐに念話でアイリに知らせると、侵入者の確認に行く。

 

「.....悪い、少し見てくる。」

 

雁夜も少しして侵入者に気付き、その気配の薄さから実力が相当なものだと感じ、現場に向かう。

 

舞弥は侵入者を視認した瞬間に、持ってきていたキャリコM950と呼ばれるマシンガンを放つ。

 

いや、眼前の侵入者の危険度を察知した舞弥は放つしか無かった。

 

当然の如く、侵入者にその銃撃は効果が無かった。

 

効果が無いどころか、黒鍵と呼ばれる刃渡り80〜90cm程の十字架を模した剣を投擲して反撃してくる。

 

投擲された黒鍵を、舞弥は辛くも避けるが太ももに深々と切創を負う。

 

歯を食いしばり痛みに耐え、更なる銃撃を加える舞弥。

 

しかし、防弾加工を施された神父服と強化された肉体の前に弾かれ、接近を許してしまう。

 

「かはっ.....!?」

 

舞弥は近接となった瞬間に、キャリコM950を捨ててナイフに切り替えるも、手刀で弾かれ肘打ちを鳩尾に食らう。

 

さらに、追討ちとして踏み付けを入れる侵入者は、アサシンのマスターである言峰綺礼だった。

 

「女よ.....お前は役に立ちそうだ.....」

 

「.....く、殺せるものならやってみろ.....!!」

 

綺礼の言葉に口から血を流しながらも、なんとか反撃でナイフを綺礼の足の甲に突き刺そうとする舞弥。

 

「死なない程度には、手加減してやる。」

 

綺礼はそれをすんなり避け舞弥の脇腹を蹴り上げると、舞弥はその勢いで巨木に打ち付けられる。

 

今ので、舞弥の肋骨は3、4本は折れただろうか。

 

さらには後頭部を打ち付け、脳震盪により意識を保つのも危うい。

 

そこへ、拘束しようと近付いてくる綺礼。

 

絶対絶命という場面で、舞弥に優しくアーミーコートを掛け、綺礼に立ち塞がる人物が現れた。

 

「それ以上やるというのなら、俺が相手になろう。言峰綺礼。」

 

現れたのはパーカーを脱ぎ、隆々とし引き締まった筋肉をTシャツの下から浮き上がらせる雁夜だった。

 

雁夜は戦闘に耐えられるようにと、動きやすさからアーミーファッションをしていた。

 

「私が、会いたかったのは貴様だ。間桐雁夜.....!」

 

言葉は不要と、踊り掛かる綺礼は黒鍵で突きを放つ。

 

それを肩甲骨を動かし、その勢いのまま避け腕を取りに行く。

 

しかし、綺礼は取られる直前に腕を折り畳み、頂肘と呼ばれる八極拳での肘打ちを放つ。

 

二の打ち要らずと言われる八極拳において、この頂肘はまさに一撃必殺の威力がある。

 

だが、雁夜は波式螺旋術の独特な身体操作法による、肩甲骨と股関節の動きにより、左横から肘打ちを当てて右側に逃がす。

 

さらには、逃がしきれなかった力を利用し、手を顎下から首に回し地面に叩き付けにかかる。

 

綺礼はそれを瞬時に察知して、力の流れに逆らわず、逆上がりの要領で腹筋に力を入れ受け流す。

 

その過程で、綺礼の巨体は数メートル吹き飛ばされた。

 

「なんて威力だ.....」

 

雁夜は、綺礼の頂肘の威力に冷や汗をかいていた。

 

これまでの攻防で、最後まで威力が死ななかったのは、ひとえに綺礼の頂肘の威力が凄まじかったからなのだ。

 

「技のキレは、凄まじいの一言に尽きる.....」

 

綺礼もまた、雁夜の使う見たことも無い戦闘術の技量の高さに興奮を覚えていた。

 

距離が再び開いた事で、綺礼は黒鍵を取り出し構えを取る。

 

そして、雁夜も持ち手に輪っかのついた、半鎌状の刃物を構える。

 

カランビットナイフと呼ばれるこの刃物は、軍特殊部隊等で使用される事もあるナイフだ。

 

鎌の様に湾曲している事で直線のナイフより深い傷を与える事が出来る。

 

ちょうど猫の爪を思い浮かべて貰うとわかりやすいかも知れない。

 

突き刺してから切り裂くという効果を齎し、よりダメージとなるのだ。

 

投擲された黒鍵に、すぐに反応し弾き、避け、綺礼に肉薄する雁夜。

 

しかし、雁夜は距離を取りつつ、時に投擲し、時に斬り掛かる綺礼を前に傷が多くなっていく。

 

それでも、それらの猛攻を掻い潜り、雁夜もまた綺礼に浅くない切創を刻む。

 

だが、左手の突き刺しに反撃して、深々とカランビットナイフを刺した雁夜だが、ここで綺礼が筋肉を締め上げる。

 

すると、カランビットナイフが固定され、その隙を突き綺礼の寸勁が雁夜を襲う。

 

なんとか力を逃がすも、雁夜の肋にヒビが入り、激痛に顔を顰める雁夜。

 

負けじと、肩甲骨から発せられた力の波をそのまま綺礼の腹部に伝え、綺礼も吐血する。

 

「ごふっ.....!!.....はぁ.....はぁ.....」

 

「ぐがっ.....!!.....ふぅ.....ふぅ.....」

 

互いに、浅くない傷を負い、しかし、萎えない闘志。

 

と、そこで、ライダーとアサシンの闘いが終わった様だ。

 

アサシンが敗れたのを知ると、逃走をする綺礼。

 

雁夜は後を追うか迷うが、舞弥を見遣りそちらが優先だと考え、舞弥をお姫様抱っこで運んだ。

 

雁夜も舞弥も、ドラえもんの癒し極めし玩具(お医者さんカバン)ですっかり傷も癒える。

 

「私は.........?.....貴方が助けてくれたのですね.........」

 

目を覚ました舞弥は、雁夜を見据えながらそう呟く。

 

「まぁ、成り行きなんでな.........」

 

雁夜はセイバー陣営の監視をする中で、舞弥がセイバー陣営の仲間なのは知っていた。

 

だが、信じたくはないという思いもあったため、なんと返せばいいのか分からず、ぶっきらぼうに答えてしまう。

 

「私は.........セイバー陣営に雇われた傭兵です.........」

 

そんな雁夜の様子を見て、嘘をついてはいけないという

 

舞弥らしからぬ感情により、雁夜にそう伝えた。

 

「あー.....とりあえず、無事で良かった。他に痛むところはないか?」

 

「いえ、特には.....助けて頂きありがとうございます.....」

 

微妙な空気が雁夜と舞弥の間に流れる。

 

だが、そんな沈黙を破るように、禍々しい魔力の反応が現れる。

 

それは木々を破壊し、真っ直ぐセイバー陣営の城へと向かってくる。

 

巨大で、醜悪で、酷い臭いの、海魔と呼ばれるタコとヒトデを合成した化け物といった風体?

 

全長は推定200m、体重推定74万トン、こんな化け物が前進してくるのだ。

 

そして、その場の全員が海魔から発せられる敵意を感じ取っていた。

 

この海魔は当然と言えば当然だが、キャスター陣営の放ったものだ。

 

命令は至ってシンプル、敵を捕食しろ。

 

((舞弥、聞こえるか?))

 

((はい.....どうしました.....?))

 

舞弥の通信機に、切嗣からの連絡が入った。

 

((キャスター陣営が動いた。他の陣営と協力する様にアイリに伝えてくれ。))

 

((わかりました.....))

 

((それと、この機会に間桐雁夜に近づいてくれ。そして.........))

 

切嗣は、そんなふうに舞弥に命令をくだす。

 

((.....わかりました.........))

 

先を続けずとも分かる、その抹殺指令になんだか分からない痛みを感じる舞弥。

 

「マダム.....切嗣から.........」

 

先程の内容をアイリに耳打ちする舞弥。

 

「わかったわ。」

 

アイリが二つ返事で協力戦を申し出ようと動こうとした時だった。

 

「魔力を感知して来てみれば.....魔術の秘匿もなにもあったものじゃない。」

 

「ライダー、フォーリナー、セイバー、アーチャー、あれを打ち倒すという事で相違ないな?」

 

ランサー陣営が現れて、ランサーの口から共同戦線の申し出がなされた。

 

「もちろん僕達は構わないよ。」

 

ドラえもんがまず答える。

 

「余も同意であるぞ。」

 

ライダーがそれに続いた。

 

「私達の方から申し出ようとしていた所だ。」

 

セイバーもそう声をあげた。

 

「ふん、あの様な汚物に(おれ)の宝物をくれてやりたくはないが、仕方あるまい。少しくらいなら手を貸してやるとしよう。」

 

アーチャーも渋々だが合意した。

 

「だが、倒すにしても、あの巨体ではなぁ!」

 

ライダーは襲い来る海魔の触手を避けながらそう話す。

 

「知れたこと。核となる部分を一撃で破壊するか、一瞬で消し滅ぼすしかないであろうよ。」

 

アーチャーは王の財宝(ゲート・オブ・バビロン)から宝剣や宝槍を射出しながら答える。

 

「だが、私の宝具を使えたとして消し飛ばせるか.....」

 

セイバーの宝具である、約束された勝利の剣(エクスカリバー)の威力をよりも海魔の回復力の方が上回りそうだ。

 

「僕なら、核さえ一瞬でも見えれば、破壊する自信がある!」

 

のび太は、自信満々にそう答える。

 

「セイバー、一瞬でもやつの外皮を引きはがせるんだな?」

 

「その自信はある。」

 

セイバーが答えると同時に必滅の黄薔薇(ゲイ・ボウ)を折るランサー。

 

「かたじけない!」

 

セイバーは腱が切られていた方の手の感触を確かめながら礼を言う。

 

城を蒸発させし小銃(熱線銃)ー!!のび太君、これを使って!これは、一撃でビルを蒸発させる威力の銃だから、気を付けてね!」

 

「露払いは任せて貰おうか。」

 

「余はフォーリナーの足となろう。」

 

ライダーとランサーはそう申し出た。

 

「他の雑種の安全は(おれ)が保証しよう。」

 

アーチャーはマスター達の護衛に回るらしい。

 

「時を稼ぐ!」

 

ランサーは、触手を引き付けながら、次々にそれを切り裂き注意を引く。

 

「いいぞ、離れろ!約束された勝利の剣(エクスカリバー)!!!」

 

セイバーの宝具から、放たれた光が海魔を包み込む。

 

しかし、前半分が消し飛んだだけで、見る見るうちに再生していく。

 

「見えたか!?」

 

「うん!ここだぁー!!!」

 

だが、一瞬見えた核を寸分狂わぬ一条の光が撃ち抜いた。

 

のび太が城を蒸発させし小銃(熱線銃)を撃ち込んだのだ。

 

そして、自壊するように、海魔は消えてしまう。

 

共同戦線は成功を収めたのだった。

 

「.....これで、良かったのか?」

 

「うん♪上出来♪これで、君も仕事がしやすいでしょ?」

 

遠く離れた場所で、切嗣とフランチェスカが会話をしていた。

 

「何故、僕に力を貸す?」

 

「私はねー、理想に挑む愚かしい人間の姿が好きなの。つまり、君のファンって事♪ま、フォーリナーが気に食わないってのもあるしねー。」

 

そう、キャスター陣営とセイバー陣営は裏で繋がっていたのだった。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第16話「誇りと意地」

今回、短めです。


「俺と決着を付けないか、セイバー。」

 

それは、ランサーの唐突な一言から始まった。

 

「今なら、貴様は万全の状態。それを討ち取ってこそ、我が主への宝物となるのだ。」

 

ランサーは騎士として、誉ある戦いをしたかったのだ。

 

故に、セイバーの状態が万全の今が、決着を付ける好機だというわけである。

 

「マスター.....」

 

「私は構わないけど.........」

 

アイリに許可を得るように目配せするセイバー。

 

アイリ自身は構わなかったが、真のマスターである切嗣が邪魔しないか心配なのだ。

 

「水を差されたくないのであれば、余が見届け人となろう。」

 

2人の心配を半ば見抜いているのか、そんな提案をするライダー。

 

「互いに万全、場も用意してくれた。どうだ、セイバー.....これ以上の条件は無いと思うが?」

 

「ああ、決着を付けようランサー!」

 

ランサーの言葉に、力強くそう返すセイバー。

 

ライダーはそんな2人を満足気に見ると、王の軍勢(アイオニオン・ヘタイロイ)を展開する。

 

「はじめぃぃぃ!!!」

 

ライダーが高らかにそう叫ぶと、ランサーとセイバーが切り結ぶ。

 

「これは見ものだなぁライダー、それにフォーリナー共よ。」

 

「ああ!英雄同士の死合いとあらば見届けん訳にはいかん!!」

 

「どっちが勝つんだろう.....?」

 

「本当は止めたいけど.....決闘なら、仕方ないよね.........」

 

アーチャーの言葉に、三者三様の反応を返す。

 

ドラえもんは純粋に疑問を、のび太は争い事への心配を口にする。

 

ランサーはセイバーに約束された勝利の剣(エクスカリバー)を使わせまいと、距離を詰める。

 

迎撃で放たれたセイバーの斜め下からの切り上げを、バックステップで躱し鋭い突きを放つランサー。

 

ランサーの銃弾の様なスピードの突きを掻い潜ると、居合の様に斬り込む。

 

ギリギリでセイバーの剣を受け止めるが、大きく吹き飛ばされたランサー。

 

明らかに、セイバーの方が優勢であった。

 

それは、宝具の特性が知れている事と、ランサーの必滅の黄薔薇(ゲイ・ボウ)が破壊された事に起因する。

 

すると、明らかな劣勢の状態のランサーを援護にかかるケイネス。

 

「令呪をもって命じる!セイバーを亡きものにせよ!」

 

令呪の効果が、肉体を躍動させ一時的にではあるが、ランサーを強化した。

 

先程とは比べ物にならないスピードで襲いかかるランサー。

 

しかし、セイバーもその技量は負けていない。

 

令呪を使って、ようやっと互角に近い戦いが出来ているのだ。

 

しかも、ランサーはセイバーの宝具である約束された勝利の剣(エクスカリバー)をずっと警戒せねばならない。

 

この点で、どうしてもセイバーに半歩程劣ってしまうのだ。

 

何度も繰り返される攻防に、攻め立て続けなければならないランサー。

 

ランサーの猛攻を受け流しながら、息を整えられるセイバー。

 

この差により、ランサーに若干だが疲労の色が浮かび上がってくる。

 

「ランサー、貴様に全幅の信頼を置いてやる。」

 

「マスター.....?」

 

劣勢のランサーにケイネスはそう声を掛け、ランサーは疑問を返す。

 

だが、その隙を放って置くほど、セイバーは甘くは無かった。

 

約束された勝利の剣(エクスカリバー)!!」

 

隙を生じさせない為、威力を絞り放たれる勝利を約束された斬撃。

 

「重ねて令呪をもって命じる!セイバーを亡きものにせよ!!!」

 

重ねられた令呪が、その言葉に最大の誇りをもって答えようとするランサーに答えた。

 

本来ならばランサーのクラスでは使えない、 憤怒の波濤(モラ・ルタ) 激情の細波(ベガ・ルタ)がランサーの手に握られる。

 

激情の細波(ベガ・ルタ)の防御性能により、セイバーの一撃を耐え抜いた。

 

「我が主の命と我が誇りにかけて、貴様を討ち取ってみせる!!生死を分かつ境界線……見定める! はああああっ! ここだ!憤怒の波濤(モラ・ルタ)!!」

 

ランサーの超跳躍により、遥か上空から落下しながらの初撃必殺のランサーの誇りを乗せた攻撃。

 

「騎士王の意地にかけて貴様を退ける!!約束された勝利の剣(エクスカリバー)!!!」

 

迎え撃つは、セイバーの意地を乗せた勝利を約束された斬撃。

 

「ぐはっ!!!ま、だ.........ぐっ.........」

 

「どうやら、私の勝ちの様だな。」

 

決闘の行方は、セイバーの勝利に終わる。

 

ランサーの敗因は、令呪により使える様になったとはいえ、クラスに合わない宝具故に威力が殺されていた事だ。

 

何とか立ち上がろうにも言うことを聞かない、ランサーの身体。

 

そこへ、ケイネスが駆け寄ってきた。

 

「我が令呪を全て使ってなお、負けおって。」

 

ランサーにかけられる厳しい言葉とは裏腹に、怒りの感情は混じっていなかった。

 

「我が主.........申し訳ありません.........」

 

それに対して、本気で悔しがるランサー。

 

「だが貴様の忠義、しかとこの目に焼き付けたぞ。ランサー、大義であった。貴様の忠義には、我が最大の信頼と礼をもって答えよう、貴様を誇りに思うぞ、ディルムッド。」

 

「有り難きお言葉.........!.....セイバー.........俺にはこんなにも素晴らしき主がいるのだ.........!ああ.....世界はこんなにも美しく.....こんなにも幸福をもたらしてくれるのだな.........聖杯に祝福あれ.........その願望に幸福あれ.........いつか.........座に戻る事があれば.....このディルムッドの.........敬意を思い出してくれ.....セイバー.........主よ.........私は.....幸せ.........でし.....た.........」

 

ランサーは光に包まれ、笑みと感涙を流しながら、幸せそうに光の粒となり消えていった。

 

「ランサー、私は貴様に敬意を表し.....そして、この聖杯戦争を勝ち抜くと誓おう。」

 

こうして、意地と誇りの戦いは意地の勝利で終わった。

 

だが、誇りは敗れても、幸福であった。

 

それは、願望が叶えられたからである。

 

「さて、今宵はこの辺でお開きとしようか。」

 

ライダーが全てを見届けた後、王の軍勢(アイオニオン・ヘタイロイ)を解除し、そう話す。

 

「ふん、中々に良き物が見られた。我《おれ》も帰るとしようか。」

 

「ちょっと待って!」

 

帰ろうとするアーチャーをドラえもんが呼び止めた。

 

「ねぇ、アーチャー.....いや、ギルガメッシュ。君は1人きりなんでしょ?だったら、僕と友達になってよ。」

 

ドラえもんは人の為に作られた、心があるロボットだ。

 

それ故に一人きりのアーチャーに思う所があり、そう告げた。

 

「ふん、今宵は無礼講だが、少々不敬が過ぎるぞ。貴様の生き様はまさに奴隷、最下級の存在だ。そんな貴様が至高の存在の王であるこの(おれ)の友となる?侮辱であると知れ!今宵は赦すが、次は無い。」

 

アーチャーはドラえもんにそう吐き捨てて、消えていった。

 

「僕は諦めないよ.........」

 

アーチャーが消えた虚空を見つめながら、そう呟くドラえもん。

 

ケイネスは、その日のうちに聖堂教会に赴き、敗退の手続きと保護をソラウと共に受ける。

 

綺礼は傷を手当し終えてから、教会のキリスト像に祈りを捧げていた。

 

「綺礼、その傷は.....!?」

 

そこへ、父である言峰璃正が通りがかり心配そうに駆け寄る。

 

「父上.....私は敗退しました.........ですが.....負けたくないのです.........越えたい壁があるのです.........!」

 

綺礼に生まれて初めて越えたいという挑戦欲求が芽生えた。

 

その初めての感情は綺礼を悩ませ、璃正に胸の内を吐露させた。

 

「そうか.........」

 

璃正は初めて見る息子の姿に、そう呟くと無言で抱きしめた。

 

「父上.........私は.....私は.........!」

 

抱きしめる父の背中は偉大だった、それ故か綺礼は涙を流していた。

 

「大丈夫だ、綺礼.....!お前は必ず乗り越えられる!私の奥義を授けよう。」

 

この日、綺礼は更なる進化を遂げる事となる。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第23話「救いの無い結末」

綺礼が進化を遂げている頃、時臣の使い魔から雁夜宛の手紙が渡された。

 

「まったく.....果たし状なんて、時代がかった真似しやがって.....」

 

そう、時臣から来た手紙とは、雁夜との決着をつける為の果たし状だったのだ。

 

「にしても、流石に早く来すぎたかな.....」

 

雁夜は指定された場所へ、指定された時間より1時間も早く着いていた。

 

何本目か分からないタバコを踏み消した頃、時臣は悠然とした足取りで現れた。

 

「おや、待たせてしまったかな?」

 

「いや、時間ピッタリだよ。」

 

お互いに目を見据えながら、普通の会話とは裏腹に張り詰めた空気が場を支配する。

 

「と、決闘と洒落込む前に、お前とは少し話しておきたいことがあるんだ。」

 

が、そんな空気を和らげる様に両手をあげながらそう切り出す雁夜。

 

「.....まぁ、聞いてやっても良いだろう。遺言になるかも知れんからな。」

 

挑発する様な笑みを浮かべながら、そう返す時臣。

 

「そいつはどうも.....さて、時臣.....お前、どういうつもりで桜を間桐なんかに養子に出したんだ?」

 

真剣な表情を浮かべながら、時臣にそう問いかける雁夜。

 

「そんな事か。どういうつもりも何も、うちには双子の娘が生まれ、どちらも捨て置くには持った無い、とても優れた才能を持って生まれた........しかし、魔術とは一子相伝.....その中で吟味した結果、桜の属性は我が遠坂の魔術とは相性があまり良くないと結論を出したんだ。だが、並の魔術師の家柄では、意味が無い.....そこで、昔より親交のある間桐家へと養子に出す事にした。家柄も十分だし、何よりお前という落伍者が出て、臓硯氏も養子を欲しがっていたからな。」

 

時臣は雁夜の問いかけに、優雅さを見せながら、長々とそう答える。

 

「なるほど.....だが、お前、間桐の魔術がどの様に継承されるか知っているのか?それに、間桐に養子に出すという事は、将来的に凛と桜の姉妹で争わなければならなく可能性もあると思うが?」

 

雁夜は時臣の答えに、若干イラつきながらも、何とか冷静さを保ってさらに問いかける。

 

「さぁ?魔術とは秘匿すべきもの.....なれば、他家の魔術等知るはずもない。それに、私はこの聖杯戦争で勝利するつもりだからな。勝利したとなれば、魔術の根源を極める事になり、凛と桜が闘う理由も無くなる。まぁ、仮に私が負けて、凛と桜が闘う事になろうとも、それは魔術師としての宿命.....寧ろ喜ぶべき事ではないのかね?」

 

「そうか、分かったよ.....やっぱり、お前はろくでもない父親だって事がなぁ!!」

 

時臣の語る言葉を全て聞き終えると、雁夜は翅刃虫し繰り出して、時臣を攻撃する。

 

「話の途中に攻撃とは、品がない。魔術師とは常に余裕を持って優雅たれ、だ!!」

 

そんな雁夜に対してち時臣は宝珠の付いた杖を振りかざし、火の魔術を持って対抗する。

 

すると、防火仕様の翅刃虫の繋ぎ目に沿って燃やし、さらには、雁夜へと燃え広がる。

 

「はははは!そんなものか間桐雁夜!?この決闘私の勝.....っか.....!?」

 

勝ちを確信し高笑いを決める時臣は、突如として呼吸が出来なくなる。

 

自分の感知していない謎の存在により、サーヴァントを呼ぶ間もなく絞め落とされてしまう。

 

「悪いな、時臣。こいつは、正々堂々とした決闘なんかじゃない.....何でもありの戦争なんだよ。」

 

時臣を締め落としながらそう語っているのは、なんと、雁夜だったのだ。

 

実は、雁夜は先に到着した時に周りの遮蔽物や地形を確認した上で扮装蟲のデコイを作っていた。

 

後は、時臣が到着してから扮装蟲を通して会話し、バレない様にゆっくりと後ろに回り込んだのだった。

 

それから、雁夜は時臣を地下通路に連れ込むと、身動きが取れないように縛り付ける。

 

そして、詠唱やサーヴァントを呼ぶ事が出来ない様に、吸魔蟲(ドレイン・モスキート)を時臣に纏わせる。

 

「おい、起きろ、時臣、起きろ。」

 

「う.....ここは.....はっ.....!アー.....」

 

「止めておけ。俺の使い魔で今すぐ干からびさせて、殺す事も出来るんだぞ?魔力が無くなれば、念話も出来なくなる。まずは、俺の話を聞け。」

 

アーチャーを呼ぼうとする時臣を制して、そう脅しをかける雁夜。

 

「分かった.....」

 

「それでいい.....なにも殺そうって訳じゃない。お前、間桐の魔術に興味はないか?」

 

雁夜は少し怯えた様子で素直に従う時臣にそう話を持ちかける。

 

「なに.....?それはどういう意味かね?」

 

「なに.....今から、間桐の魔術の修行を体験させてやろうと思ってな。桜がどんな修行をしてるか、気になるだろう?」

 

怪訝そうに問いかける時臣に、嗜虐的な笑みを浮かべてそう返す雁夜。

 

「ふ、ふん.....良いだろう、間桐の修行とやら、体験させて貰おうじゃあないか。」

 

時臣はそんな雁夜の様子に、虚勢を張るようにそう答える。

 

雁夜はそれを聞くと時臣に向けて大量の淫蟲を解き放つ。

 

「ひぎゃぁぁぁ!?やめっ.....うぎゃぁぁぁぁああああ!?」

 

「俺は少し飯を食わせてもらう。」

 

時臣の悲鳴が響き渡る中、雁夜は少し席を外すと言って出ていく。

 

とはいえ、きちんと監視をしており、すぐ近くに待機しているだけだった。

 

10分程してから雁夜は戻ってきて、淫蟲を時臣から退けてやる。

 

「おぼろろろぉぉぉ!!.....ごほっ.....はぁ.....はぁ.....頼む.....桜を.....助けてくれ.........」

 

時臣は身体の穴という穴を淫蟲に出入りされ吐瀉物に塗れながらも、桜の事を気にかけ雁夜に懇願する。

 

「.....少しは思い知った様だな.....安心しろ、桜にはもうこんな事はしていない。父親として愛情をもってキチンと育てていくつもりだ。」

 

時臣はそれを聞くと、安心と極度のストレスからの解放で気絶してしまう。

 

「雁夜さん!?大変なんだ!!」

 

そこへドラえもんが、慌てた様子でどこでもドアから出てくる。

 

「どうした?何があった?」

 

「僕にもよく分からないけど、街が大変な事になってるんだ!!とりあえず、行こう!!」

 

ドラえもんと一緒に雁夜がどこでもドアで移動したその先は、まさに地獄だった。

 

黒い雨が降り注ぎ、溢れ出る泥のようなものに触れた人間は血を吹き出しながら死んでいく。

 

街は火の海になり、悲鳴や泣き声が辺りに響き渡る。

 

「なんだなんだ.....これは.....」

 

あまりの光景に雁夜は茫然自失となっていた。

 

「あれは.....キャスターか.....?」

 

そんな中で優雅に空中を歩くキャスター陣営を見つける雁夜。

 

「あはは♪すっごく楽しいねぇ♪君達も仲間に入ってきなよ♪」

 

フランチェスカがそう愉しそうに言うと、80体の夜鬼がドラえもんに襲いかかる。

 

「ぎゃあっ!?」

 

完全な不意打ちにドラえもんは為す術なく、夜鬼達に叩き伏せられる。

 

ドラえもんの頑丈さから、なんとか原型を保っているも80体の攻撃では反撃もままならない。

 

すぐ近くにはのび太もおり、糸を切られた操り人形の如く倒れ伏していた。

 

さらに、夜鬼の一体に雁夜も殴り飛ばされ、道端を転がっていく。

 

トラックに轢かれたかのような衝撃を受けては立ち上がる事も叶わない。

 

「ぐっ.........あ、あれは.....セイバーのマスター.....?」

 

雁夜の視線の先には、切嗣が倒れ伏していた。

 

切嗣の腕と足は、おかしな方向へと折れ曲がっており、骨折してるのが見て取れる。

 

「こんな.....はずじゃ.....!頼む.....!せめて.....殺してくれぇ.....!!」

 

切嗣は手足が折れてもなお死んでおらず、芋虫の様に這いながら血の涙を流して慟哭していた。

 

「お、おい.....舞弥さん.....!?.....どうして.........」

 

「いやぁぁぁ!!止めさせてぇぇぇぇ!!」

 

舞弥は魔術で操られているのか、泣き叫びながら切嗣の折れた手足を踏みにじり、周りの人間を撃ち殺していた。

 

「なっ!?馬鹿な!?桜っ!?」

 

舞弥を止めようと、無理矢理立ち上がり歩き出した雁夜は何かに躓いて転ぶ。

 

それは、内蔵をぶちまけ、海魔に貪り食われながらも生きている桜だった。

 

「おと.....さ.....たすけ.........」

 

すぐに、助けようと藻掻く雁夜だったが、別の海魔に足を貪られてしまう。

 

「ねぇ、今、どんな気持ち?♪どんな気持ち?♪わけわかんないだろうから説明してあげるね♪」

 

雁夜の前に、愉悦をしたためた笑みを浮かべながら、降り立つフランチェスカ。

 

「実はね、もう聖杯は満たされたんだよ♪最初のキャスターとアサシンとランサーとセイバーとライダーとフォーリナーが召喚した2体で7体♪.....だけど、聖杯はまともなものじゃなかったんだ♪簡単に言えば呪われてたの♪で、今はその呪いが解き放たれている状態♪」

 

そう、セイバーとライダーは既に倒されていたのだった。

 

ライダーは、フランチェと同盟を結んだ切嗣によりマスターを狙撃され現界出来なくなった。

 

セイバーは、切嗣を裏切ったフランチェスカとキャスターの召喚した80体の夜鬼に嬲り殺しにされた。

 

「まぁ、君が気になってるのはそんな事じゃないか♪.....君の娘さん.....桜ちゃんだっけ?そこに転がってる女の子♪.....私さ、魔法って大嫌いなんだ。人の限界を勝手に定義して、挑む事を許さないでそれを叶えちゃうでしょ?人の美しさは、そんな限界に挑む愚かさにあるのにさ.....だから、フォーリナーが大っ嫌い。フォーリナーが使ってる宝具って魔法じゃない。だから、それを召喚した貴方にも罪があるわけで.....だから.....拐って来ちゃった♪凄いでしょ♪その子、まだ死ねないんだよ♪苦しいねぇ♪辛いねぇ♪早く殺して欲しいよねぇ♪」

 

フランチェスカは高らかに笑いながらそう語る。

 

「あと、切嗣は勝手に聖杯を破壊しようとした罰を与えてるんだ♪あの顔笑えるでしょう♪」

 

さらに、切嗣を見遣ると、嗜虐的な笑みを浮かべて事の顛末を告げる。

 

「殺してやる.....!殺してやる!!殺してやる!!!」

 

雁夜はそう叫ぶも、海魔に貪り食われながら、フランチェスカに手が届かない。

 

「うわぁぁぁぉぁ!!!ふざけるな!!!ふざけるな馬鹿野郎!!!なんでこんな.....こんな事ってあるかよ!!?ちくしょう!!!くそっ!!!」

 

雁夜は慟哭しながら、貪り食われている足をカランビットナイフで切断する。

 

しかし、押さえつけられて身動きを封じられてしまう。

 

しだいに、出血量の多さから、意識も混濁していく。

 

((.....フォーリナー.....令呪をもって命じる.....頼む.....!こんなクソったれな結末を変えてくれ.....!重ねて令呪をもって命じる.....頼む.....!こんな地獄を変えてくれ.....!さらに、重ねて命じる.....頼む.....!どうか.....こんな.....運命ん.....かえ.....て.....く.....れ.....))

 

話す事もままならなくなった雁夜は、心の中でそう懇願した。

 

するとコーティングが剥がれて、回路もいくつか切断されていたドラえもんが立ち上がる。

 

意識があるのかないのかハッキリしない状態で、周りの夜鬼達を頭突きで吹き飛ばす。

 

そして、四次元ポケットからベルトを取り出すと、自身に巻き付けて起動させる。

 

「分かってるよ.....雁夜さん.....絶対にこんなfate(運命)変えてあげる.....!!」

 

そして、その瞬間、ドラえもんはこの世界から姿を消した。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第17話「変化の旅路」

ドラえもんは時空の中をたゆたっていた。

 

((おかしいな.....タイムベルトが上手く作動しない.....まだ本調子じゃないのかな.....それとも抑止力かな.....))

 

ドラえもんはそんな思考をしていると、時空の出口を見つけて、そこから出る事にする。

 

「ここは.....冬木市には間違いないだろうけど.....様子がちょっと変だな.....」

 

ドラえもんが降り立った場所は冬木市ではあったが、どうにも雰囲気が違っていた。

 

と、そこへ、新聞紙が風に乗ってドラえもんへとぶつかる。

 

「んー?あ、ここは大体10年くらい前の冬木市なんだ!だから.....」

 

ドラえもんは新聞紙から、現在の年代を調べていると誰かにぶつかってしまう。

 

「あ、ごめんなさい。」

 

「いえ、こちらこそごめんなさい.....あ、あの.....すみませんが、間桐邸って分かりますか?」

 

「それなら、ここを.........」

 

ドラえもんにぶつかって来たのは外国人っぽい少女で、その流れで間桐邸の道案内をした。

 

「ありがとうございましたぁ。」

 

「いいえー。.........あれ、教えて良かったのかな.....?まぁ、良いや、早く戻らないと!」

 

ドラえもんはそう言うと、また、時空の中へと入っていく。

 

少女はドラえもんに道を聞けたことにより、間桐邸へと到着する事が出来た。

 

彼女は間桐臓硯が開催した、鶴野の妻を見つけるためのパーティの参加者だった。

 

しかし、本来彼女は別のおじいさんに道を聞き間違った場所を教えられ、到着するはずがなかった。

 

だが、ドラえもんとぶつかった事により、鶴野と添い遂げる事となり、幸せな日々を送る事になったのだった。

 

「さて、ここは正解の出口かな.....?」

 

ドラえもんは、また時空の出口へと入ると周りを観察する。

 

「だめだ、今度は冬木市ですらないじゃないか。早く戻らないと.....」

 

「なんだ.....?狸か.....?そう言えば、たぬきうどんを久しく食べてないなぁ.....今日は洋食屋は止めて、うどん屋で飯を食うか.....」

 

いきなり現れて、いきなり消えるドラえもんを見て、そんなふうに昼食を変えたおじさんがいた。

 

彼は、実は有名な戦場カメラマンであり、その日の昼食をうどん屋に変えた事でたまたま雁夜と席を同じくする。

 

そこで、会話が生まれ、職を探していた雁夜に戦場カメラマンの仕事を教えるきっかけとなったのだった。

 

「また、出口を見つけたぞ。今度こそ、正解だといいなぁ。」

 

またもや、出口を発見して中に入るドラえもんだが、そこは殺風景な荒野だった。

 

「.....ここは、戦場かな.....?ん?あれは.....雁夜さん!.....あ.....多分ここは、違う時代だから会っちゃまずいよね。戻らないと.....」

 

ドラえもんは雁夜を見て声をあげるが、すぐに考え直してその場を後にする。

 

「.....おかしいな.....確かに俺を呼ぶ声が聞こえた気がしたんだが.....な、あんた大丈夫か!?.....だめだ、死んでる.....あれ.....これは.....!?」

 

ドラえもんの声を聞いてその場に来て、色々と見回す雁夜はある人物の死体をはっけんする。

 

その死体が大事そうに抱えている書類は、この戦場で紛争をしている国のものであった。

 

そして、それは紛争を一時的に止められるかも知れないスクープだったのだ。

 

「今度の出口こそ、正解でありますように!」

 

4つ目の出口を出ると、そこは正しく冬木市であった。

 

「これは、正解っぽいけど.....まず、のび太君を見つけないと.....あっそうだ!のび太君!聞こえる!?」

 

ドラえもんは念話の存在を思い出し、のび太に語りかける。

 

((わぁ!びっくりしたぁ.....聞こえるよ、ドラえもん。てどうしたの?))

 

((良かった、実はね.....今よりちょっと未来で大変な事になるんだ。街の人も皆死んじゃって、僕も君もキャスターにやられて、みんなみんな不幸になってしまうんだ。だから、それを変えに来たんだけど.....))

 

ドラえもんは、のび太に目的を手短に説明する。

 

((わわ、そりゃ大変だぁ!?どうしたらいいドラえもん!?))

 

((そうだなぁ.....僕も気絶しちゃってて、ちゃんと事態を把握出来てなかったけど.....キャスターが黒幕のはずだから、キャスターを探そう!まずは、合流しようか。))

 

ドラえもんとのび太はそんな会話をすると、どこでもドアで落ち合った。

 

「それで、ドラえもん。どうやって探すの?」

 

「えっとねー.....タイムテレビが使えたら良かったんだけど.....とりあえず、手当り次第探してみよう!ターケーコープター!!」

 

頭上に取り付けし飛翔の羽(タケコプター)を2つ取り出すと、2人で飛び始める。

 

しばらく、空からキャスター陣営の手がかりを探しているとのび太が何かを見つける。

 

「あれ、セイバーのマスターのアイリ何とかさんだよね?」

 

「アイリスフィールさんね.....それがどうしたの?」

 

「うん、そのアイリさん、なんか凄く具合が悪そうなんだよ。とりあえず行ってみようよ。それに、なんとなくキャスターにも繋がる気がする。」

 

のび太は直感:Aのスキルにより、何かを感じ取ったのかそうドラえもんに告げる。

 

「そうだね。分かった、行ってみよう。」

 

ドラえもんはとのび太は、アイリとセイバーが居る日本家屋に降り立つ。

 

「フォーリナー?何故ここへ!?」

 

「戦う気は無いよ!それより、アイリさん具合が悪そうじゃないか!?」

 

「そうそう!それが気になって降りてきたんだ!!」

 

ドラえもんとのび太はそうセイバーに告げれば、近付こうとする。

 

「いや、お前達が敵である以上、マスターには近付けられない!」

 

セイバーは剣を抜くと近付く2人にそう警告する。

 

「だったらせめて、そうなってる原因だけでも教えてよ!!」

 

のび太はそんなセイバーに、心底心配した様子でそう呼び掛ける。

 

「くっ.....!わ、分かった.....マスターは.....」

 

「セイバー.....!」

 

のび太の様子に心動かされ、原因を告げようとするセイバーをアイリが制する。

 

「私は.....はぁ.....はぁ.....大丈夫よ.....」

 

アイリは息も絶え絶えに、しかし、確かな信念を秘めた目でのび太を見つめる。

 

「嘘だ。そんなにも、辛そうじゃないか!何のためにそこまで頑張るの!?」

 

「.....切嗣の為よ。そして、イリヤの為。これ以上、言う事はないわ。」

 

「そう言う事さ♪彼女は夫と娘の為に頑張ってる♪それを邪魔するのは、野暮ってものじゃない?♪」

 

のび太とアイリの問答に割って入ったのは、フランチェスカだった。

 

「キャスター!見つけたぞ!」

 

「あれ?どうしたの?なんで私をそんなふうに見るの?」

 

ドラえもんのただならぬ様子に、フランチェスカは疑問を浮かべている。

 

「まぁいいや♪もう、聖杯は生まれかかってるし♪貰っていくよ♪」

 

「あがっ.....!?あ゛ぁぁぁぁ!!?」

 

フランチェスカがそう言うと、アイリの身体を突き破って黄金の杯が現れて、それを持ってフランチェスカは消えてしまう。

 

「アイリさん!?ドラえもん!!」

 

「うん!!お医者さんカバン〜!!!」

 

ドラえもんは万病治療せし児戯の箱(お医者さんカバン)を取り出すと、アイリの治療を開始する。

 

「これは、酷い状態だね。内臓の殆どがグチャグチャだよ。とりあえず、キャスターは諦めよう。アイリスフィールさんの方が優先だ。」

 

「うん、仕方ないよね。.....あれ、セイバー.....?どうしたの?」

 

ドラえもんとのび太がそんな会話をしていると、セイバーの様子がおかしくなる。

 

「馬鹿な!?切嗣!!貴方、正気か!?」

 

セイバーは必死の形相で首を振るが、身体は剣を構えていた。

 

「フォーリナー!!すまん!!許せとは言わない!!頼む!!!止めてくれ!!!」

 

「分かった.....のび太君、お医者さんカバンは使えるよね?僕はセイバーを止めなきゃならない。」

 

ドラえもんは状況を理解すると、アイリをのび太に託し、セイバーにタックルしてどこでもドアの向こうへと消えた。

 

「かたじけない.....!!フォーリナー.....!!」

 

「出来るだけ、時間を稼がないと.....」

 

ドラえもんは、 機械仕掛けの必勝の刀(名刀・電光丸)両手に装備すると、セイバーと向き合う。

 

そして、セイバーが令呪に耐えきれなくなると、ドラえもんに斬りかかった。

 

((なんて.....!!重い一撃なんだ.....!!))

 

ドラえもんは2本の電光丸でセイバーの一撃を防ぐと、そのまま鍔迫り合いが始まる。

 

火花を散らす程の激しい鍔迫り合いの中、今度はドラえもんが電光丸に動かされる。

 

巧みな体重移動でセイバーを往なすと、右の電光丸がセイバーに斬り掛かる。

 

それをセイバーは、小柄の部分で弾きドラえもんを蹴り飛ばす。

 

さらに、セイバーは鋭い突きを放つと、ドラえもんは上半身を反らして避けながら、2つの刃がセイバーを襲う。

 

セイバーは左手と右足でそれを止めると、逆手に持ったエクスカリバーにてドラえもんを突き刺しにかかる。

 

今度はドラえもんがエクスカリバーが届くのより速く、セイバーの胴体に頭突きを入れた。

 

「かはっ.....!」

 

セイバーは吹き飛ばされるが、瞬時にドラえもんに逆袈裟に斬りかかった。

 

ドラえもんはその一撃を電光丸2本で受け止めるが、勢いを殺せず吹き飛ばされてしまう。

 

再び両者が切り結ぶと、そこからは壮絶な打ち合いが始まった。

 

刹那でも気を抜けば、どちらか片方は両断されてしまうだろう。

 

しかし、両者共に一歩も引かず打ち合い続ける。

 

幾百、幾千の打ち合いの末、勝負は動き出した。

 

ドラえもんの電光丸の片方が電池切れを起こし、両断されてしまったのだ。

 

このあまりに激しい打ち合いは、電光丸に尋常ではない電力負担をかけていた。

 

そして、もう片方の電光丸も電池切れを起こしドラえもんは吹き飛ばされる。

 

そこへセイバーが斬り掛かり、もうダメかという時に割って入る者が現れた。

 

「フォーリナー、随分苦戦しとる様だのう?」

 

それは、神威の車輪(ゴルディアス・ホイール)に乗りウェイバーを伴ったライダーだった。

 

セイバーは吹き飛ばされるが、しっかりガードしており無傷であるのか立ち上がってくる。

 

「さぁ、共同戦線と.........」

 

「待て!!なんだ!?このバカでかい魔力は!?それに、上空のあれはいったい!?」

 

ライダーが言いかけると、ウェイバーが膨大な魔力を感じ取って叫んだ。

 

「多分、キャスターだ!!キャスターはこの街をめちゃくちゃにする気だ!!誰か、行かないと!!」

 

「あい、分かった。ここは余が引き受けよう。行け!!フォーリナー!!」

 

「ありがとう!!ライダー!!」

 

ドラえもんはライダーとそう言葉を交わすと、上空に現れたナニかの近付くにどこでもドアで向かう。

 

「さぁ、セイバーよ。余の軍勢と相対して貰うぞ?」

 

ライダーは王の軍勢(アイオニオン・ヘタイロイ)を発動した。



目次 感想へのリンク しおりを挟む




評価する
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10についてはそれぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に
評価する際のガイドライン
に違反していないか確認して下さい。