広瀬康穂が四部で頑張る話 (ジョジョラー)
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Crazy Noisy Bizarre Town
空条承太郎! 東方仗助に会う その①








康穂ちゃんは康一くんが公式で157センチとの事なので、153〜155センチくらいを想定して考えています!
でも、おそらく漫画にしたら鈴美さんより顔半分低いくらいに描かれそう。
見た目はまんま8部の康穂ちゃんを小さく、幼くした感じです。


 

 

 

 

 

 

 

 

 1999年も──春を迎えた。

 

 私の名前は──(まー……覚えてもらう必要はないですけど)広瀬康穂 15さい……(そして隣にいるのは双子の兄康一)

 私たちの場合は……受験の合格とこれから通う新しい学校への期待と不安で頭がいっぱいの3ヶ月だった。

 ……2人の奇妙な男に出会うまでは……

 

 

 

 

 

 

ドシィン──

 

 

「うわっ!」 バラバラバラ……

「康ちゃん!」

 

 

 今日は新入生として高校初めての登校日。入学式もオリエンテーションも特に問題なく無事に終えることができ、その帰りの出来事だった。康穂のドジな双子の兄は、よそ見をしていて、誰かとぶつかってしまったらしい。康一はぶつかった衝撃で派手に尻もちをつき、カバンの中身をぶちまけた。

 

 

 ところが……

 

 

(えっ!?)

 

 その時、康穂は見たのだ。

 康一の地面にぶちまけたはずのカバンの中身が、どこからか出てきた青い腕によりきれいに元に戻され、再び康一の手に戻されるところを。おまけにすっ転んでいた康一はきちんと自分の足で立っている。

 

「あれぇ〜……? おかしいな……今ぶつかってころんだと思ったのに……? カバンの中身もブチまけたと思ったのに……???」

 

 康一には見えておらず、また訳が分かっていない様子でキョロキョロしていたが、康穂は口をあんぐりあけて動くことができずにいた。

 

(い、いったい……何が起きたの!? さっきの青い腕は……??)

「よそ見しててすまなかったな……この町の地図を見ていたんでな」

 

 男が深みのある声で謝罪をした。康一と康穂は双子なだけあって、全く同じタイミングで声の主を見た。

 

(お、おっき〜〜っ190以上はありそう……)

 

 男は190以上はありそうな巨体の持ち主で、おまけに彫りが深く精悍な顔立ちをしており、威圧感があった。康穂は男がぶつかってしまったことをキチンと片割れに謝ったにも関わらず、小さな体をさらにちぢこませた。男は萎縮した様子の2人を気に留めることなく尋ねた。

 

 

「ひとつ尋ねたいんだが……この町で<東方>という姓の家を知らないか? この家をたずねてこの町に来た……」

 

「「東方……?」」

 

 ここでもまた、康一と康穂は同時に答える。示し合わせたのかと疑われるほどに咄嗟に出てくる言葉はいつも同じなのだ。

 

 

「え〜……ちょっと知りません……。町の人口が5万3千人もいますから……」

「なるほど……。ならば、住所ではどうかな? <定禅寺1の6>」

 

 

 男は茶色い革の手帳を取り出してページをめくりながららさらに続けた。

 

 

(空条 承太郎……?)

 

 

 康穂は反射的に手帳の表紙に記された男の名らしき文字を読んだが、男が口にした住所に聞き覚えがあったため、直ぐに思考をそちらに持っていかれる。

 

 

「定禅寺なら、あそこから3番のバスに乗れば行けます。この時間タクシーはあまり来ませんよ」

 

 康穂はこの強面の男から早く解放されたいのと、先程の奇妙な青い腕を見てしまったこの場から早く立ち去りたいという気持ちから、すぐに男の質問に答えた。幽霊の類はあまり得意ではない。

 

 

 そう──ひとり目はこの男だった。

 空条 承太郎……あとで知ったところによると、年齢は28、職業は海洋冒険家。学界では、クジラだかサメだかの生態調査で有名な人らしい。この人に私は最初は恐怖を感じたが、接するうちに徐々になくなっていった。ワイルドな風貌はしているが、知性と物静かな態度があった。

 

 しかし、私がさらに恐怖を感じたのは、この人が訪ねてきたというもうひとりの男……<東方>という男だった。

 

 

「こらっ一年坊ッ! あいさつせんかいッ!」

「「さっ……さよならですッ! 先輩ッ!」」

 

 

 康一と康穂はガラの悪い上級生達に目を付けられないように、精一杯ペコペコと頭を下げあいさつをする。あまり褒められたことではないが、気が弱いところまでもそっくりなのだった。

 

 

「よしッ! いい声だッ!」

 

 

 不良たちは双子の挨拶の声量に満足したようで、ゾロゾロと連れ立って、最後に男をジロリと睨みつけてから去っていく。

 

 

「大丈夫ですよ……あの人たちは5番のバスで違う方向へいっちゃいますから」

 

 康一は男のコートを少しひっぱり、安心させるように言った。康穂にはこの男が先程の不良たちに怖気付くようなタマには見えなかったが、双子の兄のこの優しいところは小さい頃から好きだったので少し穏やかな気持ちになることが出来た。芯が通っていてなんだかんだで頼りになる男なのだ。

 

 

「何しとんじゃッ! なんのつもりだきさまッ!」

 

 

 突如聞こえてきた大声に動じることなくバスの時刻を時計で確認する男とは違い、気の小さい双子は何事かと声のした方をうかがう。何やら先程の不良たちが、噴水の近くでしゃがみこんでいる男を囲んでいるようだ。いまさっき自分たちに絡んでいったばかりだというのに……彼らは呆れてしまうほどに誰かに突っかかっていかないと息もできないらしい。

 

 

「なにってその……この池のカメが冬眠からさめたみたいなんで見てたんです。カメってちょっとニガテなもんでさわるのも恐ろしいもんで……その、恐さ克服しようかなァ〜〜と思って」

「……なこたァ聞いてんじゃあねーッ 立てッ! ボケッ!」

 

 

 不良たちにそう言われて、しゃがみこんでいた男はユラりと立ち上がる。しゃがんでいるうちはあまり分からなかったが、ガタイもよく長身で、今どきにしては珍しい髪型をしていた。一昔前の不良が好んでしていた髪型だ。

 

 

「ほほォ〜〜、一年坊にしてはタッパあるっちゃ〜〜っ」

「おいスッタコ! 誰の許可もらってそんなカッコウしとるの? 中坊ん時はツッパってたのかもしんねーが!」

「うちに来たらわしらにあいさつがいるんじゃあッ!」

 

 

 不良のひとりが、先程苦手だと言っていたカメをリーゼントの男に近づけながら詰め寄る。

 

「ちょっ、ちょっと、爬虫類ってやつはニガテで、こ……こわいです〜〜」

 

 どうやら見た目の割に本当にカメが怖いようで、リーゼントの男は眉尻を下げて少し後ずさっていた。人は見かけによらないとはこのことか、と内心少しだけ面白く感じていたが、短気な不良のせいで状況はすぐに変わる。

 

 

「ウダラ 何ニヤついてんがァーッ」

 

 

 パァン! と音がして、思わず康穂は身をすくめた。隣の康一が少し心配そうにこちらを伺っているのを感じる。不良のひとりがリーゼントの男の頬を張ったのだ。

 しかしこれまた意外なことに、リーゼントの男は殴られたことに怒ることはせず、すぐに頭を下げて不良に謝った。

 

 

「ゴメンなさい、知りませんでした先輩!」

「知りませんでしたといって最後に見かけたのが病院だったってヤツぁ何人もいるぜ……てめーもこのカメのように……」

 

 

 不良は思い切りカメを持った手を振りかぶり……

 

 

「してやろうかッ コラ──ッ!!」

 

 

ドギャアッ!! 

 

 

 思いっきり近くの柱に投げつけた。

 カメは甲羅が割れて出血し、ヒクヒクと力なく動いている。康穂はかめが可哀想で見ていられなくなって、顔を手で覆った。

 

 

「さ……さいてェー」

 

 康一の声に心の中で同意した。動物の命を粗末にして、不快な気分にならない人はそうそう居ないだろう。周りにいた生徒たちも視線を下に向けてそそくさと帰っていく。

 

 

「ケッ! 心がけ良くせーよー、今日のところはカンベンしてやる」

「その学ランと、ボンタンを脱いで置いていきな。それと銭もだな。献上しててってもらおうか」

「はい! すみませんでした!」

 

 

 リーゼントの男は再びおじぎをして、謝った。ずっと黙って見ていた男が、ここで口を開く。

 

「自業自得ってヤツだ。目つけられるのがいやならあんなカッコウするなってことだ……。逆にムカつくのはカメをあんな風にされて怒らねぇあいつの方だ」

 

 男は少し眉間に皺を寄せて言った。動物の命を大切にする主義のようだが、元々が強面なので、なかなか迫力のある表情だ。失礼ながら、康穂はこの男に人を殺したことがあると言われても驚きはしないだろうと思った。

 

 

「おい! 腰抜け! きさまの名前を聞いとくか!」

「はい。1年B組、東方……仗助です」

 

 

 ピクッ

 

 康穂の前に立っていた男が反応を示した。康一と康穂も、今聞いたリーゼントの男の名前に反応を示す。

 

 

「「えっ?」」

「なにィ……東方 仗助……!」

 

 

 男は振り返り、東方仗助と名乗ったリーゼントの男の方を向いた。

 

 

「仗助……? ケッ! これからテメーを仗助(じょうじょ)! ジョジョって呼んでやるぜ!」

「はあ……どうもありがとうございます」

 

 

 東方仗助は興味なさげに不良たちに礼を告げる。気持ちがこもっていないのは誰の目から見ても明らかである。しかし不良たちは気づかずに相変わらず仗助に絡み続けていた。

 

 

「コラッ! さっさと脱がんかいッ! バスがきちょったろがッ! チンたらしてっとそのアトムみてーな頭もカリあげっど!」

 

 

 自分の乗るバスが来てしまい焦った不良が怒鳴りつけた瞬間、東方仗助の制服を脱ぐ手がピタリと止まった。

 

 

「おい……先輩。あんた……今、おれのこの頭のことなんつった!」

「え?」

 

 

 何やら雰囲気が変わり、東方の体がユラりと揺れた瞬間──

 

 

(!!? ──また腕! 今度はピンク……!?)

 

 

 東方の背後から今度はピンク色の腕が現れ、不良の顔面を殴り飛ばしたのだッ! 

 

 

バチィィイイイン

 

 

 

「ボゲェ──ッ! うわーッ、(ハガ)がッ! ハガがッ!」

 

 不良は鼻血を辺りに撒き散らしながら、殴られた衝撃で無惨にもぶっ飛ばされた。

 

 

「おれの頭にケチつけてムカつかせたヤツぁ何もんだろう──と許さねぇ! このヘアースタイルがサザエさんみてぇーだとォ?」

「え! そ……そんなこと誰もいってね……「確かに聞いたぞコラ──ッ! 

 

 

 東方は不良の言葉を遮り、後頭部を踏みつけた。どうやら髪型の話は彼にとって地雷だったらしく、不幸にもそれを踏んでしまった不良はみじめに地面を舐めさせられることとなった。

 

 

「ひぇぇぇぇぇ」

 

 

 他の不良たちはその光景を見て恐れをなして逃げていく。

 

 

(今の腕! 東方仗助という男の背後からあらわれたように見えたッ! もしかしたらさっきの青い腕は……)

 

 

 康穂は東方の方に睨みをきかせている男をじっと見ていたが、片割れの「あっ!」という声につられて東方仗助の方へ視線を戻す。東方は先程苦手だと言っていたカメを持ち上げた。……墓でも掘ってやるのだろうか? しかし虫の息だったはずのカメはノロノロと動き出し、彼はそれをチャプンッと水音を立ててもとの場所に戻してやっていた。

 

 

「? あ……あれ? お……おかしいぞ。カメの……カメの傷が治っているぞ。甲羅がイタイタしく割れていたのに」

 

 康一が言うように、先程まで弱々しかったカメが元気に水の中を泳いでいた。

 

 

(もう……何が何だか、ワケが分からないわッ! どうしてこんな……)

 

「なっ」

 

 先程東方にやられた不良が、急に顔を上げた。なにやら自分の顔をぺたぺたと不思議そうに触っている。

 

「なんだぁ〜〜っ、今殴られた顔のキズがどんどん治っていくッ」

「鼻がさけて血がドボドボ出てたのにもう治っちまったぞッ」

「で……でもなんか、変な感じに治ってないか……? 前の顔となんか違うぞ」

 

 不良の顔は、傷が治ったはいいがブタのような、以前よりも不細工な形になってしまっていた。

 

(か……かわいそうかも……)

 

 

 康穂が心の中で同情していると、いつの間にか東方が未だに騒いでいる不良たちに詰め寄っていた。

 

「てめーのおかげで触りたくもねーのに……カメに触っちまったぜ……そっちの方はどうしてくれるんだ? ァ?」

「「「うわぁぁぁ────!」」」

 

 

 不良たちは情けない悲鳴を上げながら逃げていく。殴られた不良は、最後まで自分の顔がどうなっているのかわかっていない様子だった。きっと帰って鏡を見たら絶望することだろう。

 

 

「やれやれ……こいつが……」

 

 

 男は仗助の方を鋭い目で見ながら言った。

 

 

「こいつがおれの探していた……()()()の身内だとは!!」

 

 

(ぜ……ぜんぜん分からない……いったい、何が起きてるの……??)

 

 

 康穂は男の声に反応してこちらに視線をよこしたリーゼントの男、東方仗助を見つめながらこれから起こる出来事に不安を抱き、べソをかきそうになった。

 

 

(……理解できないことが起こってるわ。誰か説明してくれないかなぁ……)

 

 





感想、評価、誤字脱字の報告、なんでもいいので感想を書いてくださると嬉しいです!
私のガソリンなので・・・


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空条承太郎! 東方仗助に会う その②


康穂ちゃん全然喋らん!!
でも、この場面は康一くんも全然喋らないので、これでいい・・・はず


 

 

 

 

 本来ならば、私たちの役目はここまでで終わりだった……この空条承太郎という人に道を聞かれて教えただけなのだから……

 しかし、私たちは2人から目が離せなかった。あとあとまでこの2人に関わり合うことになるのだ……

 なぜなら──この町の恐怖を背負う2人なのだから……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 依然、男と東方仗助の睨み合いは続いている。

 いつの間にか4人の周りには人影はなく、巨体の男ふたりが睨み合う中、体も気も弱そうな双子が2人を交互に見比べ冷や汗をかいているという奇妙な状況が出来上がっていた。

 

 

 

 ── バシャッ

 

 

「おおあっ! びっくりしたァ──!」

 

 

 突然の出来事に、康穂も康一も、目を丸くした。張り詰めた空気はどこかへ消えていき、なんだか気が抜けた。先程まで鋭い視線をこちらに向けていた東方が、後ろの噴水から元気に出てきたカメが立てた水音にびっくりして叫んだのだった。見た目に反して意外とビビリな男である。とても髪型のことを悪く言われてキレて、不良をボコボコにした人物と同一人物だとは思えない。

 

 

「なんだ……また池の亀か……」

 

 まだ心臓がドキドキしているようで、胸を押さえてのっそりと動くカメを見て呟いた。

 

 

「東方仗助、1983年生まれ。母の名は朋子。母親はその時21さい、東京の大学へ通っていた」

 

 突然、男が東方仗助のプロフィールを喋り始めた。なぜそんなことまで知っているのか……康穂はこの目の前のガタイのいい男が、急に不審者のように思えてきた。

 

「生まれた時よりこの町に住んでいる……。1987年、つまり4さいの時、原因不明の発熱により50日間生死の境をさまよった経験あり。父親の名前は──……

 

 

 男は被っている帽子のつばをもち、深く被り直して重苦しいため息をひとつついた。

 

 

「ジョセフ・ジョースター」

 

 

 男がそう言うと、東方は少し目を見開いた。

 先程のように鋭い視線では無くなったが、伺うように男をじっと見ている。

 

「ジョセフ・ジョースターは79さい、まだ元気だが遺産を分配する時のために調査をしたら、なんと君という息子が日本にいることがわかった。じじい自身も知らなかったことだ……。あのクソジジイ……てめーが65さいの時浮気してできた息子をここに今……見つけたぜ。おっと、口が悪かったな……。俺の名は空条承太郎。奇妙だが、血縁上はお前の甥ってやつになるのかな」

「甥……? はあ……どうも」

 

 

(え〜と……、何だか、この話通りすがりの私たちが聞いちゃっても大丈夫なのかな……)

 

 浮気だとか、隠し子だとか、あまり人様の深い事情をきくのははばかられる。気まずくなって康一の方を見ると、彼もこちらを見ており表情から同じことを考えているのだと一目で分かった。

 

 

(でも、今このタイミングでこの場を離れるっていうのもおかしいし……。もう〜〜、なんでこんなことに巻き込まれちゃったの……)

 

 

「……というわけで、君にはいずれじじいの財産の3分の1が行くことになるな。そのことをおれが代わりに伝えに来た。じじいの浮気ってやつがバレてジョースター家は大騒ぎさ……」

「えっ!」

 

 

 東方仗助が驚いたように声を上げた。承太郎は少し口角を上げて東方に告げる。

 

 

「大騒ぎ……なんですか?」

「ああ……おばあちゃんのスージーQが結婚45年目にして怒りの頂点ってやつだぜ」

「すっ……」

 

(す……?)

 

「すみませんです──ッ、おれのせいでお騒がせしてッ!」

 

 

 いきなり東方が大声で謝り頭を下げたものだから、驚かされた康穂は再び片割れと顔を見合わせることになった。今の会話の中で、東方仗助が謝るべきところはひとつもない。

 

 

「おい……、ちょっと待ちな。何をいきなり謝るんだ?」

 

 承太郎も双子と同じく東方の言動に驚かされたようで、初めて彼が困惑している姿を見ることとなった。

 

「いえ……えと……、やっぱり家族がトラブル起こすのはまずいですよ。俺の母は真剣に恋しておれを産んだと言っています。おれもそれで納得しています。おれたちに気を使わなくていいって父さんですか……えーっと、ジョースターさんにいってください。以上です」

 

 康穂は自分なりの言葉で説明する仗助の姿をじっと見つめた。言葉遣いも礼儀正しいし、何より誠実な態度できちんと頭を下げて謝っている。

 

(なんだか、見た目は不良っぽいけどなんというか……人間がよくできた人なのかも……)

 

 

 康穂の中でこの目の前の東方仗助という男の見方が変わった。

 

 

「あっ、仗助くんだわ♥」

「仗助くーんっ!」

 

 

(な、何……?)

 

 

 康穂が勝手に仗助のことを見直していると、彼の後ろから4人の女の子が仗助に手を振りながら小走りで近づいてきた。

 

 

「仗助くん、一緒に帰ろ〜!」

「元気ぃ〜??」

「今日も髪型カッコイイわよーっ! ♥」

 

 一瞬にして女性の人口が増え、黄色い声が誰も喋らない空間で響き渡る。

 

 

(すごく人気者なのね……)

 

 

 今までは彼に対する恐怖心の方が勝っていて気が付かなかったが、よく見ると整った顔立ちをしている。女の子たちが夢中になるのも分かるというところだ。中学生の頃もさぞ人気があったことだろう。

 

「おい……仗助。こいつらおっぱらえよ。くだらねー髪の毛の話なんてあとでしな」

 

 承太郎は仗助の周りにいる女の子たちを指さして言い放った。話の腰をおられたので、少しイラついている様だ。

 

 

「はっ!」

 

 最初は承太郎に邪険にされたことに不満を言っていた女の子たちが、急に黙った。

 

 

「こ、こいつ……。い、今ヤバいことを……」

 

 一人の女の子が呟く。

 

「てめー……おれの髪がどーしたとコラッ!! 

 

 

 仗助の空気がガラッと変わった。先程まで無害で穏やかそうな雰囲気だったのに、今では承太郎を睨みつけ、殺してやると言わんばかりの殺気を放っている。

 

 

「ヤバいよ……あいつ……」

「仗助は髪型をバカにされんのが1番嫌いなんだからねーッ!」

「やれーっ!」

 

「ツッ、ツッパリをやった時と同じだ!」

 

 

 康一が焦った声を出した。

 

「こっ、康ちゃん……どうしよう、なんだか大変なことに……」

 

 康穂は康一の腕を引く。

 

「康穂……、大丈夫だよ。怖かったら、ぼ、ぼくの後ろに隠れてて……」

 

 康一だって怖いハズなのに、康穂を庇おうとしてくれている。やはり気が弱いとは言っても、康穂の兄であり、1人の男なのだ。

 

 

「おい、待ちな仗助、何もてめーをけなした訳じゃあ……」

 

危ないッ!! 

 

 

 康穂は思わず叫んだ。先程の不良の顔を殴った強靭な筋肉を持つピンク色の腕が承太郎に迫るのが見えたのだ。

 しかし──バシィッという鋭い音と共に殴られたのは仗助の方だった。

 

 

「康穂……? いきなり叫んでどうしたの?? よく今のパンチが見えたね。空条さん、ボクシングでもやってたのかな……? 仗助くんが殴られたようだけど、ぼく、全然見えなかった」

 

 康一に囁かれ、康穂は恐怖心に襲われた。

 

(やっぱり、私にしか見えてない……!! 私、おかしくなっちゃったの??)

 

 

「どららあああ〜〜〜っ!!」

 

 

 見えてはいけないものが見えてしまったのではないか、と不安になっていた康穂だったが仗助の叫び声が聞こえハッとして2人の方を見ると、ちょうど仗助の背後から飛び出したピンク色の人間のようなものが承太郎にものすごい速さの拳を叩き込もうとしているところだった。すると今度は承太郎の方から青い人間のようなものが現れ、パンチをガードする構えをとった。

 しかし、ピンク色の方が腕のガードをはじき飛ばした!! 

 

 

「なにッ! こ……このパワーは……ッ! スタープラチナのうでのガードを弾き飛ばすほどかッ」

「ケッ! ボディからアゴにかけてががら空きになったぜェ──ッ!」

 

 青の方の無防備になったボディに、ピンク色の拳が迫る──

 

 

 

どららあああ──ッ!! 

 

 

「きゃあっ!!」

 

 

 康穂は手で顔を覆ってしゃがみ込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──「あ……い、いつの間に背後に……。見えなかった……」

 

 

 待っていた衝撃音は聞こえてこず、康一の呟く声がきこえ、恐る恐る顔を上げる。いつの間にか承太郎は仗助の後ろに立っており、彼の帽子は無残にも切り裂かれたようになっていた。

 

(えっ……?)

 

 しかし、何故か承太郎の帽子は段々と直っていき元の形とは程遠い、奇妙な形になっていた。訳が分からないうちに訳が分からないことが起きるので、康穂の頭の中はもうパニックだ。

 

 

バガァ!! 

 

 

 今度は承太郎が、自身の拳で仗助の顔に強烈な一撃を叩き込む。人間の顔からはしてはいけない音がして、周りの女の子たちは仗助が殴られたことに騒ぎ立てた。

 

 

やかましいッ! おれは女が騒ぐとムカつくんだッ」

 

 

 自分に言われた訳ではないのに、反射的に体が痙攣した。女の子たちも承太郎の迫力に押されたのか、急に大人しくなる。

 

 

「ほれ、仗助。お前に会いに来たのは2つ理由がある……1つはお前がジョースターの人間だということ。そしてもうひとつは……」

 

 承太郎は懐から取り出した1枚の写真を仗助の顔の前に持ってくる。仗助の目の前に差し出された写真にはなにか奇妙な顔のようなものが写っている。

 

「この写真だ……じじいの()()()()が念写したお前の学校の写真だ

 

 

 ──この町にはなにかがひそんでいる。何か……ヤバい危機がおめーの周りに迫ってるぜ」

 

 

 

 

 



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空条承太郎! 東方仗助に会う その③




今までで1番ヒロインっぽい気がする第3話スタート!


 

 

 

 

「こいつが……おれの町に……?」

 

 

 仗助は承太郎に渡された写真を見て呟き、承太郎はそんな仗助に更に複数の写真を手渡した。どの写真にも同じ凶悪な顔つきの男が写っており、康穂には間違ってもそれが善いものだとは到底思えなかった。

 承太郎は未だに写真をじっと見ている仗助に対し続ける。

 

「じじいは息子のお前を念写しようとしたらこいつが写った。偶然か……なぜこいつが写ったのかは分からない。とにかくてめーには関係ねーことだが一応写真を見せた。用心しろってことだ」

 

 そして、今度はこちらを見て続けた。

 

「ところで康一くん。康一くんにはなんの事だかわからんだろうが……先程から思っていたことが、君は我々のスタンドが見えていたな?」

「は、はい……」

 

 

 康穂は自分の心臓がとんでもない速さで泊を打つのを感じた。承太郎がこちらをじっと見ている気配を感じるが、そちらを見る勇気は持ち合わせていない。

 先程見たものが疲れによる幻覚ではないということが承太郎の言葉で確定し、本当に見間違いだったのかもと少し期待した心はダメージを受けていた。

 

「ちょっと待ってください! 見えるって一体……? スタンドって……」

「スタンドとは、精神のエネルギーが具現化したものだ。人型のものや、なにかほかの物体の形をしているものもあり能力も様々だが……共通して言えることは、スタンドはスタンド使いにしか見えないということだ」

「えっ、それじゃあ……」

 

 康一は康穂の方を見た。仗助も少し驚いた様子だ。先程までは気にも留めていなかった女が、自分と同類だったことに驚いた様子だ。

 

「ああ。彼女はスタンド使い、ということになるな」

 

 スタンド使い。康穂はこちらを見て目を丸くする康一の表情を見て、自分は彼とは違う人種になってしまったんだと悲しく思った。生まれた時からずっと一緒で頼りにしてきた康一、平凡だが争いとは遠いところにある平和な場所から、自分だけが遠ざかってしまったのではないかと錯覚した。

 康穂が不安になって俯いていると、自分より遥かに高いところにある承太郎の口から言葉が発せられる。

 

「だが、君は自分がスタンド使いだという自覚は無いようだし、おれと仗助の戦いを見てあれほど恐怖していたのにスタンドも出てこない。何かしらの能力を持ってはいるようだが、今のところはただ本当に見えているだけ……のようだな」

 

 

 彼は写真を懐にしまいながら仗助、康一、そして康穂という順番で視線を配り、続けた。

 

「とにかく、こいつを見かけることがあったら決して近づくな……危険なやつだ、警察に行っても無駄だ。おれはこいつを見つけるまでこの町のホテルに泊まることにするぜ」

 

 

 承太郎はそう言って踵を返しこの場を去ろうとするが、その説明だけでは満足しない仗助に呼び止められる。

 

「ちょいと待ちな。この男はいったい……?」

「明日また会おう。仗助! てめーの能力はすげえ危険だ……。無闇矢鱈とカッとなって使うんじゃあねーぜ、いいな。そして君はなにか体に異変でも起きたりしたら直ぐに仗助に相談しろ。おれも協力する」

 

 

 承太郎はそう言い残すと、今度こそ去っていった。

 

(相談するっていったって……)

 

 

 康穂は仗助の方をチラッと見てみる。

 すると向こうもちょうどこちらを見ていたようで、慌てて視線を逸らした。

 

 

(まだ一言も喋ったこともないんですけど〜〜〜っ)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「押すな! にいちゃんッ! 人の足ふんでんじゃあねーよボゲェッ!」

「はあ……すみません」

 

 

 

 

 ──現在、康穂は康一と仗助と共に帰り道を歩いていた。

 承太郎が去った後何となく気まずい空気になりかけたが、そこで康一の空気を読む能力が発揮された。

 

 

「ぼくも……ぼくもまだ頭が混乱しているけど、康穂はそのスタンド使いってやつだってことなんだよね?」

「そうみたい……。でも、なんでだろう? 今まではこんなことなかったのに……」

「承太郎さんが持ってたあの写真のヤツに、なんか関係があんのかもしんねーな……」

 

 ここで仗助が初めて口を開いた。

 

 

「とにかく、ただならぬことが起きてるって感じだぜ。あの人も言ってたが、なにかヘンだと思ったらおれに言えってことらしいから、その……」

「あ、ありがとう」

 

 

 仗助も康穂が自分のことを怖がっているのは感じていたので、あまりはっきりと自分に相談しろとは言えなかった。あまりビクビクされるとこちらも気を使う。

 

 

「とにかく、早く家に帰った方が良いかも。あの写真の男にできるだけ会わないようにするには、その方が良さそうだし……」

 

 

 康一の言葉に仗助もそれはそうか、と返し、またまた康一の提案でせっかくだからとこのまま3人一緒に帰路に着くこととなった。優しくて気遣いのできる康一の事だ、康穂が少しでも仗助に相談しやすい様にという気遣いも含まれているのだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

「おい、押すな!」

「危険だから下がって下がって!! 

 

「2人とも! これじゃあ通れないなぁ、なんの騒ぎだろ?」

 

 

 康一は人混みにもみくちゃにされながら声を張り上げる。

 康穂は小柄なので人の波にもまれていたが、ふらついた所をすかさずがっしりとした仗助の腕に支えられ助かった。一瞬承太郎に殴りかかった彼の鬼気迫る表情が思い返されたが、助けて貰ったので素直に礼を言う。

 

 

「ありがとう」

「おう……」

 

 

 仗助は後頭部をかきながら視線を逸らした。こうして優しくされると自分が彼にまだ少し恐怖心を抱いていることに罪悪感を覚えるが、康穂にはどうしようもないのだった。

 ひとまず状況を把握するために辺りの会話に聞き耳を立てたところ、どうやらコンビニ強盗が店員の女性を人質にとり立てこもっているということらしい。

 

 

「みろッ! 出てきたぞッ!」

 

 

 警察官の叫び声に懸命に背伸びをして前方をうかがうと、ちょうど女性の首にナイフをつきつけた男がコンビニから出てきたところだった。女性は涙を流しており、男は警官の説得に応じることなく辺りに怒鳴り散らす。

 

 

「あ……あの女の人からぼく買い物したことがある」

「ありゃやばい目してるゼ……逆上したら絶対やるって目だな」

 

 

 康一と仗助の会話を耳にしながら、康穂は目の前の状況を固唾を飲んで見守っていた。男は唾を撒き散らしながら怒鳴り続けている。ああいう追い詰められた人間は、何をしでかすか分からないから怖いのだ。

 

 

「車にのんだからよ、てめーらさがってろッ!」

 

「ヒイイッ! や、やばいよ仗助くん! さがってさがって!」

「あ、ああ。そうだな。こえ〜〜〜っ」

 

 

 3人は男が乗ろうとしている車の近くに来てしまっていたので、急いで後ろにさがろうとした時のことだった。

 

 

「そこの()()()()()()ガキィ! 車から離れろって言ってるだろッ殺すぞボゲェッ!」

 

 

 男が持っているナイフで仗助の方を示しながらそう言ったのだ! 

 

 

「あっ」

「も、もしかして……ヤな予感……」

 

 

 康一と康穂が恐る恐る仗助を見上げると……

 

 

「アァ?」

 

 

(キャーッ! も、もうダメだわ!)

 

「仗助くんッ!」

「や、やばい、出たァ〜〜〜ッ! こんな時、こんな状況で……承太郎さんがカッとするなとあれほど言ったのにッ!」

 

 

 2人が止める間もなく、仗助は下がるどころかずんずんと男の方へ歩いていく。警官たちが仗助に止まれと叫んでいるが、彼が止まる気配はない。

 

 

「なんだてめーは──ッ! 近づくな──ッ」

 

「ヒィぃぃぃぃ────ッ」

 

 

 興奮した男が叫ぶが、仗助は全く動じない。

 

 

「チクショーッ! 頭きたッこの女にナイフぶち込むことに決めたぜッ!!」

 

「そうかい……」

 

 

 ──ボッ

 

 

 

「キャーッ!」

「ああっ!」

 

 

 康穂は叫び声をあげ康一にしがみつく。

 なんと仗助のスタンドが人質の女性ごと犯人の腹を突き破ったのだ。

 目の前で起こった目眩がするほどのショッキングな出来事に、帰る時この道を選んでしまったことを深く後悔した。

 

 

「頭にきただと? そいつはおれのセリフだッ!」

 

 

 仗助のスタンドが拳を引き抜き、仗助は人質の女性を自分の方に引き寄せた。不思議なことに、風穴があいていたはずの女性の腹はどこも傷ついてはおらず、本人も理解出来ぬ様子であるべきものがない腹をぺたぺた触っている。そして犯人の男の腹は、男が持っていたナイフの形に皮膚が盛り上がっていた。

 

 

「うああああああ! アッ、アッ、アッ、アーミーナイフがはっ、腹の中にぃ──ッ!! な、なんでェ──!!?」

「外科医に取り出して貰うんだな。刑務所病院で」

 

 

 仗助がそう言い放つと、突然男の様子が変わる。目を見開いてうめき、口からはなにか目のついた腕のようなものがとびだし不気味な声をあげながら何かが吐き出された。

 なんとそれは倒れた犯人の男の体の上に乗り、しゃべりはじめたのだ。

 

 

「こんな所に! オレの他にスタンド使いがいるとは……! この男にとりついて気分よく強盗をしてたのに……よくも! 邪魔してくれたな!」

「こいつ、あの写真のッ!」

 

 

 それは、先ほど承太郎が見せてくれた写真に写っていた凶悪な顔をした男のスタンドだった。スタンドは素早い動きで道路の排水口の中に潜り込み、目だけを覗かせて言った。

 

「これからはおめーを見てることにするぜ。おれは何時だってどこからかおめーを見てるからな。……ククク、良いな!」

 

 そう不気味に言い残し、スタンドは消えていった。

 

 

 

 

 

 ──最後に康穂の方を見た気がしたが、それは気の所為だと思いたい。警官に取り押さえられる仗助の声を聞きながら、そんなことを思っていた。

 

 

 

 





感想書いてくださると嬉しいです。
なにかおかしな文章があったらぜひ教えてください!


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東方仗助! アンジェロに会う その①




短めです。












 

 

 

 

 

 

 

「……ですからね」

 

 

 仗助は、自慢の髪を整えながら、受話器に向かって喋っていた。昨日康一と康穂との3人で帰っている最中に遭遇した奇妙な出来事について、承太郎に報告しているのだ。

 

(昨日っていやあ……)

 

 仗助は昨日自分に怯えていた小柄な同い年の少女のことを思い出した。あの人混みの中もみくちゃにされてふらついた彼女を支えた時、彼女は今までとは違い怯えることなく真っ直ぐに自分の目を見てありがとうと告げた。その時はスカして素っ気なく返してしまったが、なんだか今まで自分に懐かなかった子犬が懐いた時のようで嬉しかったのだ。

 全く関係の無いことを考えていた仗助だったが、承太郎の自分を呼ぶ声に意識を呼び戻される。

 

「ああ、すみません。そのスタンドはその男に取り憑いてたっつーか、ただ体の中に入ってただけでオレに攻撃はしてこなかったスよ」

「そうか。近くにアンジェロはいたか?」

 

 仗助には聞き覚えのない名前だったので聞き返すと、承太郎はアンジェロが昨日見せた写真の男のことだと告げた。仗助が特に見なかったと言うと、承太郎は仗助に忠告する。

 

「いいか……そのスタンドは、力《パワー》は弱いやつだが、遠隔操作ができる……何らかの方法で人間の体内に入ってくるタイプだ。これからお前の家に行く。おれが行くまでいっさいの物を食ったり飲んだりするなよ。水道の水はもちろん、シャワーにも便所にもいくな。いいな!」

 

 仗助は鏡に向き合いイマイチ決まらない髪に四苦八苦していたが、承太郎がうちに来ると聞いて思わず声を上げた。

 

「えっ、これから来るんですか? 実はまだおふくろにあんたのこと話してないんですよ。……うちのおふくろ、気が強い女なんだけど、ジョセフ・ジョースターのことまだ愛してるみたいで……思い出すと泣くんですよ。承太郎さんの顔、1発で孫だってバレますぜ」

「……」

「仗助……この写真、どうしたの? さっき会った牛乳屋さんじゃない。知り合いなの?」

 

 電話の最中だというのに……仗助が母親の声に振り返ると、母はテーブルのうえにおかれたアンジェロの写真を見ながら、カフェオレを飲んでいた。本人は気づいていないようだが、赤い口紅が塗られたくちびるのなかに、昨日のスタンドがモゾモゾと潜り込んでいく。

 

「おい、仗助! どうかしたか?」

「やばい……おそかった。今、コーヒーからおふくろの口の中にヤツが入っていくのが見えた……」

 

 仗助は電話を切らずに受話器を置き、近くにあった空のビンを手に取って母親の方へ歩を進めた。電話口から自分を呼ぶ声がするが、今はそれどころでは無い。

 

「仗助、あんたもカフェオレ飲む?」

「ン……そうだな。砂糖も入れてくんない……」

「砂糖ね」

 

 母親が後ろを向き自分の分のコーヒーの準備を始めたタイミングを見計らって自身のスタンド……クレイジーダイヤモンドのビンを持った方の腕で母親の腹に──風穴をあけた。自分の母親を傷つけるのはなかなか精神にこたえるものがあったが、これも母を守るため。母親の腹を突き抜けた拳でビンをにぎり砕き、引き抜くとき母の腹を治すと同時に粉々になったビンも修復した。母親は一瞬動きを止めたが、いきなり自分の腹に穴があくなどありえないと思ったのか再び仗助の方を見て何事もなかったかのように話しかける。

 

「砂糖だっけ?」

「ああ、砂糖入れてくれ。……もしもし、承太郎さん? スタンド捕まえたんですけどォ……どうしますか? こいつを」

 

 ビンの中には、持ち主と同じく凶悪な顔をしたアンジェロのスタンドが閉じ込められていた。

 

 

 

 

 

 

 

 ────────────────────

 

 

 

 

 

 

(やっばーいっ! 遅刻するぅ〜〜!)

 

 康穂は朝の通学路を1人走っていた。

 今日の朝も双子の兄である康一といつものように時間に余裕を持って家を出たはずだったが、忘れ物をしたことに気が付き1度家に戻ったのだ。気がつくタイミングが学校を目の前に()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()中を確認した時だったのは運が悪かった。お世辞にも速いとはいえない速度でだが、懸命に走る。視界の端では木の周りに人が数十人集まって騒いでいるのが見えたが、それどころでは無いので気にもとめずに通り過ぎようとしたのだが──

 誰かの足が見えたと思った瞬間、康穂はカバンの中身をぶちまけ、地面に転ばされてしまっていた。

 

「いたた……、もうッ! 誰なの……あれ?」

 

 文句を言いながら辺りを見回す。……誰もいなかった。

 

 

 

 ──おい、こりゃ……えらく残酷だな……。

 ──またか、最近こうやって不審死を遂げる人が多いんだよ……

 

 

 

「……死?」

 

 さっきまでは必死で走っていて気が付かなかった、木の周りに集まっている人たちの会話が耳に入ってくる。不審死、残酷、などなにやら物騒な単語が聞こえてくるし、よく見ると警察官も来ているのが分かった。

 

(なんだろう…………ていうか、遅刻しそうなんだった〜っ!)

 

 気にはなるが、いまは野次馬精神を働かせている場合では無いのだ。急いでカバンの中身をしまい立ち上がると、見知った人物が道路脇に停めた車の窓からこの騒ぎを眺めているのが目に留まった。

 

「あれは……承太郎さん……?」

 

 向こうもこちらに気が付いたようで、車から降りてこちらに向かって歩いてきた。

 

「君か……。何かあったのか? なにやら騒いでいるようだが」

「私にもよく分からないんですけど、人が死んでいるようで……」

「……そうか」

 

 承太郎は鋭い目付きで人溜まりをみつめ、そして次に康穂に視線を移し言った。

 

「ところで、君のその足はどうした?」

「あし?」

 

 承太郎に言われて自分の足を見てみると、先ほど転んだ時に擦りむいたのか両膝が真っ赤で血が滲み、なかなか悲惨な状態になっている。もしかしたら、跡が残ってしまうかもしれない。

 

「な、なんだか自覚したら急にイタくなってきたような……」

「おれはこれからちと野暮用で仗助の家に行くところなんだが、乗っていくか? ……たしか仗助の家はこの道をいってきみの学校へ向かう途中にあったはずだ。自分から言っておいてなんだが、俺も急いでるんでな。早めに決めてくれると助かる」

「えと、じゃあ……お願いします」

 

 承太郎と車内で2人きりという状況がとんでもなく気まずいということはわかりきっていたが、思ったより痛む膝と遅刻をしたくないという気持ちが打ち勝った。

 車内に乗り、シートベルトを付けると承太郎がアクセルを踏み、車が緩やかに動き出す。何となく後ろを振り返ると、木の周りに集まっている人々の姿が見え、妙な胸騒ぎを感じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 











承太郎さんに昨日知り合ったばかりの女子高生を車に乗せるという不審者ムーブをさせてしまい申し訳ありませんでした。
・・・彼は親切心から言っています。話の都合上こうなってしまっただけなんです・・・。


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東方仗助! アンジェロに会う その②


今回も短いです。


 

 

 

 

 

「男の名前は片桐安十郎(あんじゅうろう)、新聞ではアンジェロとあだ名される日本犯罪史上最低の胸くそ悪くなる犯罪者だ。この杜王町で生まれ、IQは160。12さいのとき早くも強盗と強姦罪で施設送りになり、その後日本全国を転々とし刑務所を出たり入ったり。あらゆる犯罪を繰り返し、34歳までで合計20年。その青春のほとんどが刑務所の中だ。やつの最後の犯罪は便所のネズミもゲロを吐くようなドス黒い気分になるようなもので、判決は死刑。そして去年10月に執行されたが、やつは20分間ロープにぶらさがっていたのに生きていた。死刑は延期され、その翌週脱走した。やつは……死刑の時なんらかの原因でスタンド使いになったと見ている。……なぜかは分からんが」

 

 

 承太郎が運転しながら喋った内容に康穂はゾッとした。思ったよりも承太郎が話をしてくれたので気まずさはなかったが、まさか自分が昨日見たスタンドの持ち主がそこまで危険な男だったとは……想像の遥かに上をいっていた。

 

 

「だが、先ほど仗助の母親に取り憑こうとしていた所をあいつが捕まえた。俺が今からあいつの家に行くのはそういうわけだ」

「そうですか……しれじゃあ、ひとまず安心ですね」

「どうだかな」

 

 

 経験豊富な承太郎は、ここで決して油断してはいけないことを知っていた。いくら仗助のスタンドが強力でアンジェロのスタンドにパワーが無いとはいえ、能力を駆使すれば力の差など簡単に覆される。

 

 

「悪いが、送ってやれるのは仗助の家までだ」

「はい。それで大丈夫です」

 

 

 

 

 

 

 

 

 ────────────────────

 

 

 

 

 

チュドォオオオォーン! 

 

 

 爆発音がして、操作していたキャラクターが死んだ。

 仗助は承太郎が来るまでの間テレビゲームで暇を潰していた。テーブルの上を見ると、何かの液体が入ったビンが置かれており、仗助はそれを手に取り思いっきり振り回す。

 

 

「おーい、バックれてんじゃあないっスよ! もしもぉ〜〜し!」

「グバァ──────────ッ!」

「よしよし、ちゃんといたのね」

 

 中に入っていた液体がスタンドの形になりビンの中から仗助に向かって禍々しい叫び声をあげた。

 

 

 

 

 

 ──その頃、仗助の家の近くに潜んでいたアンジェロは、歯ぎしりをしてイラつきを隠せずにいた。せっかくあの仗助の美人な母親の体の中にうまく入り込むことに成功したのにあっさりと捕まり、その上高校生になったばかりのガキに舐められたままでいるのは我慢ならない。しかも仗助をブッ殺すためにはまずあのビンの中から逃げ出さなくてはならないが、その方法が思いつかない。頭を掻きむしりたい衝動にかられていると、初老の男性が自転車をおりそれを仗助の家のガレージに入れるのが目に入った。警察官の格好をしている。

 

(あの野郎はッ)

 

 腰をさすりながら欠伸をし玄関の扉を開ける男の姿を睨みながら、アンジェロは拳を血が滲むほど強く握りしめた。呑気な男を睨みつけ、ふつふつと怒りを沸き立たせる。

 

(あのおまわりィィィィ、よ────く知ってるぜッ! 東方……そういやあ同じ姓だ……この町でまだおまわりやってたとはなぁ〜〜!!)

 

 アンジェロが12歳の時に初めて捕まり、そして施設送りになった時アンジェロを捕まえたのが東方巡査、東方仗助の祖父にあたる東方良平だったのだ。

 

(懐かしいぜぇ、おめーのことは何から何まで知ってるからよォ……てめーは夜勤明けに必ずッブランデーを1杯やんのが楽しみだったよなぁ〜〜)

 

 

 アンジェロはニヤリと笑った。彼の優秀な頭脳は、ビンの中から抜け出す方法を思いついたのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ────────────────────

 

 

 

「ありがとうございました」

「ああ……」

 

 康穂は車から降りて承太郎にお辞儀をした。そしてチラリと仗助の家の方を見る。おしゃれできれいで大きくて、なんとなしに仗助に似合っているという感想を抱いた。

 ここからなら余裕で学校に間に合うのでゆっくりと歩き出した時、後ろからガチャりと音がして振り返る。

 

「お前……」

「おっ、おはよう、仗助くん」

「おう」

 

 窓から顔だけを覗かせた仗助と目が合ってしまったので、康穂は少し緊張しながらもあいさつをした。悪い人では無いのは重々承知だが、怖いものは怖いのだ。

 

「仗助、ビンを持って車に乗れ。人気のない所へ行こう」

 

 送ってもらって時間に余裕もあったので最後にもう一声かけていこうと思った矢先、ビンを持ちに家の中に引っ込んだ仗助の叫び声が聞こえ康穂は何事かと目を見張った。

 

「……! すまない、なにかアクシデントが起きたようだ。急いで家の中に入れ!! 俺と仗助の近くにいる方が安全だ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「きゃっ」

 

 康穂は思わず尻もちを着いた。承太郎と共に仗助の家にお邪魔させてもらうと、床で耳と目と口から血を流した初老の男性が倒れていた。

 アンジェロが擬態した姿をブランデーと間違えて、ビンの栓を開けてしまったのだ。その男性の前に仗助かしゃがみ、焦ったようにまくし立てる。

 

「ビンの蓋をうちのじいちゃんが開けちまった。しかし心配ないぜ、ちょっとしたキズだ。こんなキズくらい、俺のスタンドなら簡単に……」

 

 仗助のスタンドが現れ男性に手をかざすと傷がみるみるうちに治っていく。しかし、完全に傷が塞がっても男性が目を覚ますことはなかった。仗助は祖父の服の襟をつかみ揺すりながら話しかける。

 

「そんなハズは……目を覚ますはずだ……おれのスタンドは傷を治せる、子供の頃から何度もやってる……じいちゃんのこのキズは完全に治ったはずだ。……コラ、じいちゃんふざけると怒るよ! 夜勤明けなんでマジに寝ちまったのか!」

「仗助……」

「キズは完璧にッ……」

 

 なおも祖父の力の抜けた体を揺すり続ける仗助に、承太郎はいった。

 

「人間は何かを破壊して生きていると言ってもいい生き物だ。その中でお前の能力はこの世のどんなことよりも優しい。だが、生命が終わったものはもう戻らない……どんなスタンドだろうとな」

「…………この人は、35年間この町のおまわりをしてきた。出世はしなかったけど、毎日この町を守るのがこの人の仕事だった……」

「やつは何人も殺している。死体が見つかっていない町の人間も何人かいるはずだ……やつの殺人に理由はない。……趣味だからだ。これからもきっと殺すだろう……まずお前とここにいる俺たちふたりを殺してからだろうがな」

 

 たった今聞き捨てならない言葉が聞こえた気がしたが、きっと気の所為だと康穂は思うことにした。

 仗助はしばらくの間しゃがんだまま俯いていたが、やがて膝の上で拳を握りゆっくりとたちあがる。

 

「おれがこの町とおふくろを守りますよ……この人の代わりに、どんなことが起ころうと……」

 

 

 康穂は目の前の男の顔が、打ちのめされた表情から頼もしい戦う男の顔に変わるのをその目で見た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





感想を書いてくださると嬉しいです!やる気がみなぎります


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東方仗助! アンジェロに会う その③



仗助とちょっと打ち解けます。そして、今までで1番口数が多い康穂ちゃん。ヒロインなのに空気すぎて心配・・・









 

 

 

 

 

 ──葬式も終わって、クローゼットの中には警官の制服が掛かっている。その奥には、初老の男が<これがワシの趣味さッ! 悪いか>というようなくつや靴下やシャツやズボンがキチッと畳まれて収納されている。

 

 ……しかし、いずれどこかへ処分されてしまうだろう。この人の娘が思い出があるから捨てたくないと思いながらも、誰ももうこれらを着ないのだから……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「カンか瓶詰めの飲料水と食べ物以外は、やばいから口にするな。……アンジェロをぶっ倒すまでな」

 

 

 承太郎はペットボトルのミネラルウォーターの蓋を開け、人数分をコップに注ぎ同じテーブルを囲む康穂と仗助に配った。

 仗助の祖父、東方良平がアンジェロに殺されて葬式を済ませ、2日間の間康穂は仗助、承太郎と共に仗助の家に閉じこもっていた。仗助の母朋子はしばらくの間別の場所に避難させられており、スタンド使い3人はこの家に残ってアンジェロを倒すまで籠城することになったのだ。アンジェロは執念深く、康穂たち3人を殺すまで決して諦めないだろう。

 康穂も最初は常にビクビクしていたが、あまりにも何も起きないので学校や家にどう言い訳わしようかと考えていた。承太郎がスピードワゴン財団の力を駆使して何とかしてくれるとのことだったが、康穂本人への追求からは逃れられないだろう。そもそも、なぜ自分が朋子と同じく避難させられるのではなくアンジェロを倒すためのメンバーに選ばれたのか疑問だった。承太郎いわく、ピンチな場面でこそ眠っているスタンド能力が目覚めることが多いのだということらしいが、そもそも生きるか死ぬかと言う場面に晒された場合非力な自分は圧倒的に死ぬ確率のほうが高いので、あまり期待しないでいただきたい。

 康穂がぼーっとそんなことを考えていると、隣に座っていた仗助から髪が逆立つ程の殺気を感じ、ハッとする。まさに、怒髪天を衝くといった様子だ。

 

「……別にキレちゃあいませんよ、チコッと頭に血がのぼっただけです……冷静ですよ、全然ね」

「……冷静、ね。ま、おめーん家の家具だからおめーが何に当たり散らそうがおれの知ったこっちゃあねーがな」

 

 辺りには仗助の抑えきれぬ怒りの生贄になった家具たちが無惨な姿で転がっている。祖父を殺されて辛いだろうに、悲しむ暇もなく未だ姿をみせない仇と戦わなければならない。しかも丸々2日も膠着状態が続き、フラストレーションが溜まるのは当然の事だった。

 

「ところで、お前のその唇の傷は……先日、おれが殴った時のキズだな」

 

 承太郎が仗助の顔を指さしながら言う。承太郎が顔にお見舞したあのパンチはかなり強烈なものだったので仗助の唇はぱっくり割れてしまい、数日たった今でも傷が残っている。

 

「お前のスタンドは、自分のケガは治せないのか?」

 

 確かにその通りだ。仗助の能力は壊れたものを直したり傷ついた生き物を治すことができるのだから、自分の傷がそのままだということは、そういうわけなんだろう。

 

「自分のスタンドで自分のキズは治せない。もしやつがお前の体に侵入しちまって体内から食い破られたらどうする?」

「……死ぬでしょうね。侵入されたらおれの負けです」

 

 部屋に重苦しい沈黙が流れる。もし康穂か承太郎がケガをした時仗助が近くにいたら助かるが、仗助本人は体内に入られた瞬間に終わり。状況は仗助が圧倒的に不利だ。

 

「スタンドを捕まえるしかやつを倒す道はねえようだな。水のような体で殴っても無駄、本体はどこか分からねえやつとなると捕まえるしか方法はない。……1度逃げられたことでかなりやばい状況になっているがな」

 

 康穂は自分の肩を抱きしめる。初めて人が死ぬのを目の前で見た。この体験はかなりのトラウマになっており、またすぐ近くで人が死ぬかもしれない、又は自分が死ぬかもしれない。あんな経験をするのはもうコリゴリだった。

 

 

 ──そんな康穂を仗助は横目で見ており、巻き込んだことを深く後悔していた。どう考えても戦えるようには見えないし、承太郎が言うようにピンチになったらスタンド能力が覚醒するどころか気絶してしまいそうなくらい弱々しく見える。

 

(どうすっかな……)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──片桐安十郎ことアンジェロは、双眼鏡で仗助の家の様子を覗きながら食事を取っている真っ最中だった。

 

(空き瓶がいっぱいあるなぁ……俺のスタンドを再びビンの中に閉じ込めようってのかよ……仗助、おめーの能力をよ〜く知ったからにはもうおれを閉じ込めるなんてことは2度とさせねーぜッ! ……必ずてめーの口の中に入ってやる……明日か明後日かあるいは一週間後か……のんびりとチャンスが来るのを待ってやるぜぇ〜〜ッ! 今親戚の家に泊まっている美人の母親を楽しむのはその後だ……ククククク……)

 

 アンジェロはニタニタとゲスな笑みを浮かべ、時が来るのを焦ることなく待っていた。()()が来たら自分の勝ちだ。心の中で勝利を確信し、再びハンバーガーにかじりつくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

<3日後>

 

 

 

 あれからまた3日も膠着状態が続いている。仗助が当たり散らせるような家具ももう無くなって、不機嫌に頬杖をついて貧乏揺すりをしている仗助になにか話しかけようと努力はした康穂だったが、いざ口を開こうとすると彼の不機嫌な様子に萎縮してしまうのだった。

 

「あのさ……」

「はっ、はい!」

 

 康穂は急に仗助の方から話しかけてきたので驚いて飛び上がった。

 

「お前さ、やっぱり今からでも帰った方がいいんじゃあねーか?」

「えっ?」

 

 意外な発言に目を丸くする康穂に構うことなく、仗助は続ける。

 

「いやよ、元はと言えばお前はただ居合わせちまっただけだし、ヤツの1番の狙いはおれだ。それに承太郎さんはああいってたが、ピンチになったところでおめーがスタンド能力を覚醒させるかどーかなんてわかんねーだろ?」

 

 少し不器用だが仗助の優しさが伝わり、康穂は思わず笑顔になった。今度は仗助の方が驚かされる。

 

「わたし、確かに最初は怖くて仕方なかった……ていうか、今も怖いけど。それでも、ここで過ごすうちに自分もなにか役に立てたらって思ったの。足手まといになっちゃうかもしれないけど、自分の力が役に立つのなら、役に立ちたい。それにあいつを放っておいたら町のみんな、家族や友達が危険に晒されるかもしれない。だから、その、お手伝い出来たらって思ってるん……です、けど……」

 

 康穂は自分がまくし立てている間に仗助が何も喋らないので不安になり、声が尻すぼみに小さくなっていった。

 

(お前なんていない方がいいって思われたかも……)

 

 少し視線を上げて仗助の方をうかがうと、予想に反して彼は少し口元に笑みをうかべていた。

 

「そうかよ……。ま、いざとなったらおめーを差し出して逃げるかな」

「ちょ、ちょっと! 笑えないよッ」

 

 少しだが仗助と打ち解けた気がして、康穂はこんな状況にも関わらず嬉しい気持ちになった。

 ──しかし、楽しい時間はそう長くは続かない。

 

「いたっ」

 

 急に何かに髪の毛を引っ張られ後ろを振り返るが、誰もいない。

 

「大丈夫か?」

「うん、平気」

「…………待て、なにか聞こえねーか……?」

 

 先程までは仗助と会話に華を咲かせていて気が付かなかったが、なにやらキッチンの方から物音がする。承太郎はさっき家の周りを調べに行ったばかりなので、彼の仕業では無い。

 

「……様子を見に行った方が良さそうだな。俺の傍から離れるなよ」

「うん……」

 

 緊張が走る。そろりそろりと仗助の後ろに続いてキッチンの中を覗くと……

 

「こ、これはッ」

 

 キッチンでは大量の鍋やヤカンが火にかけられており、沸騰して大量の湯気が部屋に充満していた。

 

「仗助!」

 

 このタイミングで、外を見に行っていた承太郎が戻ってきた。彼の顔には小さな手形のような形の傷がついており、そこから出血している。

 

「いつの間にか湯を沸かしたやつがいますよ……水道の蛇口も捻られている……」

「アンジェロのスタンドが家の中に入った……外は雨だ。雨の中を自由に動ける。やつはお前が水を飲むのを待っていたのではない……()()()()()()()のだッ!」

 

 窓の外はどしゃ降りで、アンジェロにとっては格好の狩場となっていたのだ。この家のどこかにアンジェロがいる。役に立ちたいとはいえ怖いものは怖いので、康穂の小さな体は震え上がった。

 

 

ガッ

 

「きゃッ、何!?」

 

 恐怖で感覚が敏感になっていた康穂は、突然何かに頭を掴まれて向きを変えられて思わず声を上げた。()()()に首の向きを固定され動かせなくなり、視界には仗助しか写っていない。

 ──しかし、そのおかげで仗助の後ろの蒸気が形を変え、不振な動きをしているのに気づくことが出来た。

 

「仗助くんッうしろ!!」

 

 蒸気の形をしたアンジェロのスタンドが仗助の口の中に入り込む直前、仗助は康穂の声に反応し、自身のスタンドを繰り出す。

 

 

 

「どららららららあぁ────!!」

 

 アンジェロのスタンドにものすごい速さのパンチのラッシュを叩き込み同じ方法でビンの中にとじこようとしたが、スタンドは変幻自在に形を変え空気中に散らばり、仗助の攻撃をいとも容易く回避した。

 

「……グレートですよ、こいつはァ。ビンに捕まえることができねぇ……!」

「2人とも、湯気に近づくなよ。吸い込んだらやばい、この台所から出るんだ」

 

 ──ポタポタ…………

 

「こ、ここから出ても、どうやら無駄みたいですね……」

 

 康穂の声に男ふたりは反応する。

 

「これは……」

「雨漏りだ……アンジェロのやつ、すでに屋根に何ヶ所も穴を開けてるんでしょうよ! ……ということは2階は当然、他の部屋にいってもやばいということ……こいつは追い詰められたようですねぇ。グレートですよこれはぁ……」

 

 アンジェロはこの格好の機会を逃すつもりは毛頭なく、事前に相当策を高じてきたらしい。自身のスタンド能力を存分に発揮出来る狩場をすでに整えていたのだ。

 3人はキッチンの湯気から逃れるために急いで廊下へ脱出したが、アンジェロはどこまでも用意周到な男だった。廊下もどういう訳か、すでに蒸気で視界が曇るような状態にされている。

 

「!! ふろ場だ! すでに風呂をも煮立ててやがる……ッこれでこの廊下も進むことはできない! 侮っていた……結構頭のキレるやつだぜ、あの野郎はッ」

「…………フフッ……フフフフフ……」

 

 まさに八方塞がり、前にも後ろにも進めない絶体絶命のピンチであったが、あろうことか仗助は不敵に笑う。

 

「なにがおかしい? 追い詰められちまったんだぜ!」

「……しかしですね、承太郎さん! じいちゃんの仇がこんな側まで近づいてきてくれてんでスよ。グレートですよ、こいつはァ〜〜〜ッ!」

 

 

 仗助は拳で音を鳴らし、ようやくやってきた仇をぶちのめそうと意気込むのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 







感想、評価つけてくれると嬉しいです!
よろしくお願いしますううぅぅ〜〜‪( ;ᯅ; )‬


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東方仗助! アンジェロに会う その④






気がついたら、評価バーに色がついていました!
評価してくださった方々、そして感想を書いてくださった皆さん、本当にありがとうございます!
前回までの話を読み返したら酷すぎたので大幅に修正を加えました。もしよろしかったら、また読んでみてくださると嬉しいです!




 

 

(さぁ〜〜て)

 

 アンジェロは木の上から双眼鏡を使い仗助の家の中を覗きながらほくそ笑んでいた。

 

(追い詰めたぜ、仕上げにかかるか……クククククックケカカカ……)

 

 仗助の口の中に入り込み、内側からグチャグチャのミンチにしてやる場面を想像しながら不気味な笑い声をあげるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──シュー シュー

 ──ポタポタ……

 

 

 至る所から湯気が立ち上り、そして雨漏りがしている。どこを見渡しても逃げ場はなく、康穂は天井から落ちてくる水滴を必死で避けることに集中していた。

 

「くっ……パワーのないスタンドだから甘く見てたが……とんでもねーぜッ! 水の中にまじる

 能力というのがこれ程恐ろしく狡猾に迫ってくるとは……ッ」

 

 承太郎は歯ぎしりをした。仗助と承太郎のスタンドは単純なパワーでならアンジェロのスタンドより遥かに強いが、IQ160を誇るアンジェロの優秀な頭脳はそれを知っており能力を最大限に活かして確実に康穂たち3人を追い詰める。

 

「やつは何がなんでもおれたちの口の中に入り込む気だ……さて仗助、お前ならこの状況をどう切抜ける?」

「……切抜ける?」

 

 仗助は水滴に夢中で蒸気が迫っているのに気づかない康穂を自分の方に引き寄せながらいった。

 

「切り抜けるってのはちょいと違いますね。…………()()()()()()()!!」

 

 仗助はクレイジーダイヤモンドを繰り出し、強烈なパンチで壁に穴をあけた。

 

「早くこっち来なよ。……壁が戻るぜ」

 

 3人が穴の向こうにくぐり抜けると、クレイジーダイヤモンドの能力で壁が修復された。これで蒸気はこちら側には入ってこない。

 

「とりあえず、これで──」

 

 仗助が壁を直し終え振り返ると──

 

「……! 加湿器ッ」

 

 アンジェロが事前に用意していたのだろう。この場を凌いだと思っていたが、この部屋ではすでに加湿器が稼働しており水蒸気がモロに仗助にかかっていた。

 

「仗助ッ!」

 

 すでに仗助の唇の中に体を半分ほど入り込ませたアンジェロのスタンドが勝利を確信して叫ぶ。

 

「勝ったッ! 予想通りだ、壁をぶち破ってこの部屋に来ると思ってたぜッ! ギャハハハァ──!! 予想したことがその通りハマると、幸せが込み上げてくるよなぁ〜笑いが込み上げてくるよなぁ〜! ケケケケケケッ!!」

「しまったッ」

「う、うぐぅ……うぐおぁ……おああああぁっ!」

「「仗助(くん)ッ!」」

 

 仗助が喉を抑えて苦しみだす。仗助のスタンドでは自分自身のキズは治せないので、体の中に入り込まれたら一巻の終わりなのだ。

 

「うぐぅっ……アンジェロの今言ったことは……間違ってるぜ、承太郎さん、康穂……」

「仗助くん……?」

()()()()()()()()()()()()()()()()……笑いなんて全然込み上げてこねーよ、このアンジェロに対してはねぇ!!」

「「!!?」」

 

 次の瞬間、仗助の口の中から何かが飛び出し、ビチャッと床に吐き出された。

 

「ブギャ────ッ!」

 

 床に落ちたのはよくあるピンク色のゴム手袋で口が縛られており、中ではうねうねとなにかが暴れ回り、叫んでいた。

 

「ハァーッ、ハァ──ッ……捕まえたぜ。ちとばっちいけどすみませんス。ゴム手袋をズタズタにして飲み込んどいたんですよ……体の中に入ってこられた時の事を予想してね」

 

 仗助が能力で手袋を直し体の外にスタンドを吐き出したのだと知り、康穂はほっとため息をついた。こわばっていた体からいくらか力が抜ける。仗助も自分の弱点を理解しており、きちんと対策をうっていたのだ。

 そして、仗助はスタンドの腕で手袋を掴むと自分で窓を開け、思いっきり振った。

 

「 うぎゃぁぁぁぁああああ!」

 

 近くの木から叫び声をあげ、ひとりの男が地面に落ちるのが見えた。

 スタンドを攻撃すれば本体にもダメージがあるので、アンジェロは平衡感覚を失い、地面に墜落したのだ。一時はどうなることかと思ったが、これで状況はだいぶこちら側が有利だ。

 

 

 

 

 

 

 

「ハァーッ、ハァ──ッ……しっ、しまったァ……」

 

 泥水の中で拳を握る。まさかバカな不良が自分の行動を予測して対策しているとは……敵は思ったよりも考えるタイプらしかった。屈辱を噛み締めるアンジェロの視界に、3人分の靴が割り込んできた。

 

「ゲェッ!」

 

 見上げると怒り心頭といった様子のガタイのいい男が2人、そして少し後ろには怯えた小柄な少女が立っている。

 

「テメーが……」

「アンジェロか……」

 

「ちっ、ちくしょぉ〜〜〜ッ!」

 

 いくら自分にとっては好都合な雨が土砂降りでも、スタンドが捕らえられていてはアンジェロに勝ち目はない。惨めなのはお構い無しに、泥をはねながらしっぽを巻いて逃げ出す。

 

 ──しかし、それを許す仗助では無い。

 手にした手袋を振り回すと、アンジェロは再び泥水の中で転ばされた。

 

「ヒィぃぃぃぃ!」

 

 地面を這い蹲る自分に迫る男たちに震え上がりながらも、アンジェロは何とか助かろうと喋り倒す。誇りだとかそんなものは持ち合わせておらず、ただ自分が助かるためならどんなに惨めでも、みっともなくても構わない。

 

「まさかおめーら、これからこの俺を殺すんじゃあねーだろうな!? そりゃあ確かにおれは呪われた罪人だ! 脱獄した死刑囚だ! しかし日本の法律がおれを死刑に決めたからと言っておめーらに俺を裁く権利はねーぜッ! もしおれを殺せば、おめーも俺と同じ呪われた魂になるぜェ!! それ……」

 

 そこまで言ったところでクレイジーダイヤモンドの拳が振るわれ、後ろにあった岩ごとアンジェロの片腕を殴り飛ばした。アンジェロがどんな御託を並べようとも、祖父を殺された仗助の怒りは収まらない。

 

「ブギャァアアアァアァッ!!」

「人を気安く指さしてがなりたてんじゃあねーぜ」

「いっ、いっ、岩と……()()()()()()()()()()()()()()()ぅうううえぅぅぅうぅッ」

 

 仗助は同時に破壊したアンジェロの腕と後ろの岩を瞬時に治し、一体化させたのだ。もう二度とナイフを握ることはできないだろう。

 

「誰ももうおめーを死刑にはしないぜ……おれもこの承太郎さんも康穂も、日本の法律ももうおめーを死刑にはしない。刑務所に入ることもない」

「仗助……あとは任せるぜ」

「…………い、いったい……っ、何をする気だァアアアァアァ! テメーらはあぁ!! 

 

 眼前の仗助のただならぬ気配に、アンジェロは我慢できず恐怖の叫び声を上げた。康穂は黙って息を飲み、決して目をそらすことなく日本犯罪史上最低最悪の犯罪者の末路を見守っていた。

 

「永遠に供養しろ! アンジェロ! おれのじいちゃんも含めて……てめーが殺した人間のなッ!! 

「あああああああああぁぁああぁあ!!」

 

 

 

ドゴォオオオオォン

 

 

 

 

 凄まじい音を鳴り響かせ、クレイジーダイヤモンドが後ろの岩ごと砕きながらアンジェロに拳のラッシュを叩き込んだ。アンジェロの体は岩と一体化してしまい、岩から顔だけが浮き出して悲鳴をあげているというなんとも不気味な光景だ。

 

 

「ひ、ひぃえ……うぁぁぁっ」

 

 

 

 

 

 ──杜王町 名所その① 『アンジェロ岩 』

 行き方:杜王町定禅寺通りバス停下車③番バス 徒歩1分

 アンジェロ岩は道標として、また恋人たちの約束の場所として不気味な外見とは裏腹に町民に親しまれている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 アンジェロが完全に戦闘不能になった所で承太郎が口を開いた。まだこの下衆な男には聞かなければならないことがあるのだ。

 

「ところでアンジェロ! 喋れるうちに聞いておくが……なぜてめーは刑務所の中で急にスタンド使いになれたんだ? その謎は放っておけねぇんでな……」

 

 

 

 

 

 

 







感想、評価をぜひぜひお願いします!
コロナのせいで暇なのでたくさん時間がありますが、やはり書いていただけると捗ります。


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東方仗助! アンジェロに会う その⑤

アンケートの結果、今のところ本編を進めて欲しいという方が多かったので、こちらを投稿しました。
お気に入りにしてくれる方、評価をつけてくれる方、そして感想や助言をくださる方が、ほんの少しづつではありますが増え続けていて嬉しい限りです!

これからも頑張るので、引き続きアンケートへのご協力をよろしくお願いします。



 

 

 

 

 

 

 

「聞いておこうか、どうしてお前が刑務所の中で突然スタンド能力に目覚めたのかを……もしかしたら、君がなぜスタンド使いになったのかも分かるかもしれない」

「!」

 

 承太郎はアンジェロに厳しい視線を向けながら問い、次に少しばかり視線をやわらげて康穂の方を向いた。

 自分がなぜスタンド使いになったのか……それをこの男が知っているんだとしたら、ぜひ知っておきたい。このスタンド能力とかいうものがなければこんなに寿命が縮むような体験をしなくて済んだのだ、せめて巻き込まれた正当な理由がないとやっていられない。

 

「さあ、アンジェロ。刑務所の中で何があった? ……さっさと話してもらおうか」

「ぐっ、ぐががががががァ〜〜、話してやるぜッちきしょう〜〜! あの()()()()()の話をなァ! どうせ()()()がおめーらをぶっ殺してくれんだからよ──!」

「学生服の男? ……何者だ、そいつは?」

 

 刑務所の中で学生服の男……普通だったらありえない状況だ。しかも、このどうしようもない根っからの悪人であるアンジェロが()()()とまで呼んで、敬意を払っているような発言をしたのだ。何やら怪しい感じがして、康穂はもしかしたらこのままその学生服の男とまで関わることになるんじゃあないか……とまで考えて途方に暮れた。アンジェロを倒してもその裏側に黒幕がいるのなら、このままの流れで自分が駆り出されることもありえる。

 話を聞くのが怖くなってきて冷や汗をかいている康穂のことなど構うはずもなく、身動きができないアンジェロはもはややけくそになって話し始めた。

 

「ギヒ! あれは去年……つまり1998年、死刑執行の半月ほど前の夜だったぜ……」

 

 

 

 

 ☆

 

 

 

 

 とある日の夜、アンジェロは独房の天井のスミばかりをボケーッと眺めていた。ゴキブリやなんやら、汚らしいものがカサカサと這う音以外は何も聞こえない、静かな夜だ。他の死刑囚のようにいつやってくるか分からない死に精神がおかしくなるようなことも無く、隣の房の男が隠し持っているエロ本のえぐいピンナップをどうやってブン取ろうか──などということを考えていた。

 自分がどれくらいの時間そうやって過ごしていたのかは分からなかったが、突然、アンジェロは誰かがじっと自分を見ている気配を感じ取った。どこかからクソッタレの看守がこちらを見張っているのか──そう思ったが、今まででこんな真夜中に看守がアンジェロの様子を見に来ることはなかったし、見に来たとしてもこんなにまとわりつくような気配はしないだろう。

 ベットに体を横たえていたアンジェロだったが、何か奇妙な感じがして立ち上がった。なんだか自分が値踏みされているような、そんな錯覚に陥ったのだ。

 

(なんだ……誰が見てやがんだちきしょうッ! 気味の悪い視線で見やがって……まるで養豚場でどれくらい肉がついたか見定められる出荷前の豚みてぇな気分になってきたじゃあねぇか)

 

 辺りを見渡すが特に異変はない。気のせいと言い切るには引っかかるものがあったが、幽霊の類は信じないアンジェロはさっさと寝てしまおうと再びベッドに向き合った。

 

 

 ──男がいた。

 ベッドの上に土足で腰掛けて、まるでこの場にいるのが当たり前とでもいうような落ち着き払った態度でくつろいでいる。アンジェロは思わず大声をあげそうになったが、すんでのところでこらえることが出来た。この男が何者なのかは知らないが、誰であろうと自分がビビったと思われるのは気に入らない。……それがたとえ幽霊だったとしてもだ。

 

「てめー、いつからいたんだ?! そしてどこから入ったッ」

 

 アンジェロは内心冷や汗をかきながらも看守が来ない程度の声で男に詰め寄った。幽霊は信じていないが、そうでなければこんな芸当は出来ない。

 ……学生服を着た男だ。だが顔は暗くてよく確認できず、ガキとは言いきれない。若いようでもあるし、年寄りのようにも見える。

 男はアンジェロの問いに答えることはせず、ふと何かを取り出した──()()()だ。とんでもなく古くて、何百年もたっているという感じの……

 アンジェロがそこまで考えていると、なんと男が自分に向かってその弓と矢を引き始めたではないか! 

 さすがのアンジェロもこれにはたまったもんではなく、ビビらないようにと虚勢を張るのも忘れて叫び声を上げた。

 

「なっ、なりしやがるん──」

 

ドスンッ

 

 

 

 そこまで言ったところで男が慣れた手つきで矢を放った。最後まで言い切らないうちに、静かな夜の独房にアンジェロの口の中を貫通した矢が壁に突き刺さる音が響き渡る。アンジェロの口内を貫通した矢は一瞬電撃のような眩い光を放ち、そしてそれが収まる頃にはアンジェロはひとつの疑問を抱いた。

 

(…………なぜ、おれは死んでいない? ……こ、こんなに血が出ているし、激痛が走っているというのに……脳みそをぶち破られているのに?)

 

 男は手をさ迷わせ何が起きたか理解できないアンジェロに対して、初めて口を開いた。

 

()()()()()な……おめでとう。お前には()()がある、素質が無いものは死んでいた……この()()()()に貫かれて生きていたということは、お前はある才能を身につけたということだ。……それはかつて()()()という男がスタンドと呼んでいた才能だ」

 

 男はアンジェロがなにかの才能を身につけたと言った。にわかには信じられない話だ……だが、それがなんになる? その話が本当だったとしても自分はもうすぐ死刑を執行される罪人あり、今だって牢屋に入れられて身動きが取れないというのに……

 

「スタンドは精神の才能だ。その才能が今……お前の精神から引き出されたのだよ。凶悪な犯罪者ほどこの才能が引き出される可能性が強いから君を選んだ」

 

 そう言って男はアンジェロの口の中を貫通して壁に刺さった矢を容赦なく引き抜いた。かなり勢いが良かったので頭を持っていかれそうになったが、ここは根性で耐える。

 

「これで君は死刑にはされない……ここを脱獄もできる。脱獄したら好きなことをしろ──金儲け、遊び、人殺し、精神の赴くまま、君の好きなことをね」

「な、何故だ!? 何者だ? おめーはッ」

「……気にするな。わたしも君の仲間だよ。きみのような才能をもつ仲間が欲しいだけさ」

 

 なぜ鍵が開いているのか分からないが、男は悠然と独房の扉を開け出ていく直前にこちらを向いて言った。

 

「そうそう……君の故郷は()()()だったね……わたしもその町にいる。わたしに会いたくなったら来なさい。あの町はまったく素敵な町だ……」

 

 今度こそ男はアンジェロの元をあとにし、静かな夜に金属の軋む音を立てながら独房の扉が閉ざされた。

 

 

 

 

 

 ☆

 

 

 

 

 

 ──「おれのスタンドのルーツはこれが全てさ。その男が何者で、おれを仲間にして何をしようとしているのかは知らねえ。ま……どうだっていいのさ。楽しけりゃあ仲間になるつもりでいたがね」

 

 康穂は自分の心臓が早鐘を打っているのが分かった。アンジェロの話を聞く限り、この男がこの町で犯した殺人などの凶悪犯罪は全てその学生服の男が原因だ。そいつがアンジェロに能力を与え、この町で好きにしろなどと無責任なことを言ったせいで──

 心が熱くなる。康穂は気は弱いし怖がりだが、やる時はやる性だし正義感は強い。その学生服の男がしたことは、決して許してはいけない事だ。

 

「こいつの話は……」

「そう! くだらねえホラ話だ、信用なんかするやつはいねえスよね?」

 

 仗助は同意を求めるように承太郎と康穂を見たが、康穂はこのアンジェロの話が真実だと分かっていた。なぜなら、自分も矢に貫かれたからだ。

 

「私は本当だと思うな。あまりにも非現実的だから夢なのかと思っていたけど……私も部屋の窓から矢で射られました……起きたらなんともなかったから、てっきり夢だとばかり」

「おれも信用する」

「え〜〜〜〜〜〜っ?」

 

 仗助はまだ信じられないようだが、承太郎はさらに続けた。

 

「こいつは()()()という名前を言った……10年前に実在した男の名だ。1988年、ディオという男がなぜ突然スタンドを身につけたのか疑問だったが、こいつが今喋った内容に答えがあるようだ……新しい敵かもしれん! そいつの持つ弓と矢が……」

 

 承太郎と仗助の会話を聞いている中、康穂はまただれかに肩を叩かれるのを感じた。……そして案の定、そちらを見ても誰もいない。

 

(まただ……何かが私に知らせようとしている……? 不気味な現象だけど、嫌な感じでは無い、むしろ安心感さえ感じるわ)

 

 康穂はこの数日間で自分の背後に何かが潜んでいることに気がついた。そしてその感覚が段々と強く、ハッキリと感じるようになってきている。今肩を叩かれた時も、以前と違って細かく手の指の形を感じられるようになっていたのだ。

 

「……! あれはッ」

 

 導かれるままに振り返った先で目に飛び込んできたピンク色に目掛けて、康穂はなりふり構わず駆け出した。

 先ほど手袋に閉じ込めて無力化したはずのアンジェロのスタンドが手袋ごと這って移動し、近くを歩いていた小学生くらいの男の子に迫っていたのだ! 

 

「おい、康穂!?」

「! どうした!」

 

 後ろから仗助と承太郎の呼ぶ声がするが、振り返っている暇はない。あのゲスな犯罪者が、またしても罪の無い命を手に掛けようとするのを黙って見ていられる性格ではないのだ。

 康穂は制服が雨でぬかるんだ地面で汚れることもかまわず、全身を使ってピンク色のゴム手袋を押さえつけた。

 

「ッ!」

 

 アンジェロのスタンドが暴れ回るのを抑えるため、地面にむき出しの肘や膝が擦り付けられて細かい傷から血が滲む。いくらアンジェロのスタンドにパワーが無いからと言って、非力な康穂が抑え続けることはかなり厳しい。

 異変を感じた2人が康穂のもとに駆けつけようとすると、アンジェロは仗助だけを呼び止め、怒鳴りつけた。

 

「ちくしょぉおおおー!! あのガキ人質にしてこっから抜け出そうとしたのにあのアマァアアアァッ! 仗助! おれをここから出せッ()()()()()()()ガキャああああぁああああああああああああぁぁぁ!!」

 

 アンジェロは取り乱しており、仗助に1番言ってはいけない言葉を口にしてしまった。適当な男に取り付いてコンビニ強盗をしていた所を邪魔された際の、あの仗助の火山が噴火するような激しい怒りを目にしていたというのに……

 

 ──切れてはいけない何かが切れる音がした。

 

 

「ドララララララァァア────ッ!!」

 

 

 

 

 クレイジーダイヤモンドが光速の拳を叩き込む。

 アンジェロは惨めな細い断末魔をあげながら、今度こそ喋れなくなるほどに岩と一体化させられてしまったのだった。そして、それと同時に康穂の体の下で暴れ回っていた手袋も大人しくなった。きっとあのままただの岩として散歩中の犬の小便をかけられたり、幸せそうな人達が待ち合わせをするのを目の前で見ながらほぼ永遠の時を過ごすのだろう。たとえアンジェロほどの最悪な人間だとしても、同情を禁じ得ない末路だ。

 

「凄まじいスピードだ……しかしやれやれ、ついていけないのはこのスタンドのスピードだけではなく……あいつの性格のようだぜ」

 

 承太郎が呟く声を聴きながら、康穂は立ち上がった。

 いつの間にか雨がやみ、雲の隙間から晴れ間が覗いている。

 

(勝ったんだ……正義が、仗助くんの正義の心が、アンジェロという邪悪な存在に打ち勝った……)

 

「おい、康穂! お前よくアンジェロのスタンドに気がついたな。視野が広いんだな〜、お手柄だぜッ」

 

 案外近くから聞こえた仗助の声に、もう怯えることは無くなったが驚かされた。自分がぼんやりと空を見つめて黄昏ている間に、彼はこちらに近づいてきていたらしい。

 

「うん……ありがとう」

 

 共にピンチを乗り越えると、一気に距離が縮まるものだ。

 ──気さくに笑いかけてくる仗助の眩しい笑顔に、康穂は自分の顔が熱くなるのを感じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




・・・匂わせ始めました。
遠隔講義始まったので更新頻度落ちます!


よろしければ、感想や評価をよろしくお願いします


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虹村兄弟 その①






結構間が空いてしまいました・・・
この話で原作第29巻の内容が終わりになります。番外編として出していた話は、なんで番外編にしたのってくらい普通に本編の内容だったので下げました。その時がきたらまた投稿します。



 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──私たちの町<杜王町>は、S市のベッドタウンとして1980年前半から急速に発展した町だ。しかし歴史は古く、縄文時代の住居跡があり侍の時代には別荘や武道の訓練場のあった土地だ……

 町の花はフクジュソウ、特産品は牛たんのみそづけ

 1994年の国勢調査によると町の人口は58,713人だが、杜王の町には不気味な数字がある。──1999年、つまり今年に入って行方不明者が81人もいるのだ。うち45人が少年少女だ……家出もいるとしても、日本の同等の町の平均に比べ7〜8倍という数だ。

 

 しかし、私達の町……杜王町のこの異常な数字に今のところ特別な関心をはらう者は誰もいない。──2人の男を除いて。

 

 

 

 

 

 ☆

 

 

 

 

 

 ある日の学校の帰り道、康穂はいつものように康一、そして数日前のアンジェロの一件で仲良くなった仗助と3人で歩いていた。

 康一も最初は急に仲良くなった康穂と仗助のことを不思議がってはいたが、自分も双子の妹をきっかけに同じクラスのかっこいい男の子と仲良くなれたので特に悪いこととは思わず、それからはこの3人で帰路につくことが増えたのだ。はじめは仗助のファンの女子生徒から睨まれるかと心配に思ったが、意外なことに康一の双子の妹だということが知れていたためにただのおまけということで特に何かされることはなかった。双子は珍しいから噂になりやすく、そのおかげで(実際は逆なのだが)康一と家が同じだから着いていっているだけだと勝手に勘違いしてくれたようだ。こういう時には便利である。

 

「よっ、アンジェロ」

「……? よ、アンジェロ」

 

 仗助は先日自分が再起不能にした日本犯罪史上最悪の犯罪者、アンジェロの成れの果ての岩に陽気に挨拶をした。康一には心配をかけたくなかったのでアンジェロとの戦いのことは話しておらず、何となく仗助の真似をしただけのようだが、康穂には到底そんなことは出来ずそそくさと前を通り過ぎた。仗助ほど肝が座っている訳ではないのだ。あの殺人鬼と相対した恐怖は、一生忘れられないだろう。

 

「ところでさあ、あの承太郎さんはどーしたの?」

「ああ、あの人はまだ……杜王グランドホテルに泊まってるぜ。なんでも、まだこの町について調べることがあるそーだぜ。……おれはよく知らねーんだけどよ」

「「ふ〜〜ん」」

 

 聞いたのは康一だが、康穂も一緒に返事をした。あの後承太郎は康穂と仗助に、『また何か妙なことがあれば連絡してくれ 』とだけ伝え、帰ってしまったのだ。その時はどうやって伝えればいいんだと2人で顔を見合わせたものだが、どうやらその後仗助に自分の居場所を教えていたらしい。アンジェロを倒したと言ってもまだ学生服の男の件が解決していないので、近くにあの頼れる男がいると知っただけで少しは安心できるというものだ。……もっとも、もう巻き込まれるのは御免だが。

 

「──ねえ、康穂、仗助くん。確かこの家って3、4年ずーっと空き家だよね……?」

 

 そんなこんなで世間話をしながら歩いていたのだが、突然康一が立ち止まり、仗助の家の近くのボロボロの洋館に差し掛かったところでそう言った。

 康穂と仗助は康一が指さす家の方を見たが、壁にはコケがビッシリ生えているし、立入禁止の看板がそこら中にあり、窓は木の板が釘で打たれている。こんな状態では人が踏み入っただけで腐った木が崩れ、崩壊してしまうだろう。人が住んでいるとは到底思えない。

 

「ああ……こう荒れてちゃあ売れるわけねーぜ。ぶっ壊して建て直さなきゃあな」

「いや、誰か住んでるよ。引っ越してきたんじゃないかなぁ、今、窓のところにローソク持った人がいたんだよ……」

 

 康一が指さした窓を見るが、人影なんてどこにもなかった。相変わらずボロボロの窓枠に釘で乱雑に板が打ち付けられているのが見えるだけである。

 

「え〜? 見間違いじゃないの? 康ちゃんたまに早とちりするじゃない」

「そうだぜ……それに、おれんちあそこだろ? 引っ越したって言うならすぐ分かるぜ。それに浮浪者対策で不動産屋がしょっちゅう見回ってんのよ」

 

 仗助も康穂に同調して、自分の家を指さしながら言った。アンジェロとの決戦の場でもあった東方家はすぐそこで、この家から見える範囲にある。そこに住んでいる張本人の仗助がそういうのなら間違いないだろう。康穂はシーンと静まり返った家の玄関をもう一度よく見てみた。

 

「ほら、南京錠もかかってるわ。自分の家の玄関に南京錠なんか普通はかけないでしょ?」

「おかしいなぁ……ひょっとしてぼく、幽霊でも見たのかな……」

 

 康一はそう言って錆びた入口の門に頭だけを突っ込んで中を見回した。人が住んでいる訳では無いのだから特に気にすることではないが、もし住人が見たら完全に不審者だ。

 

「お、おい、変なこと言うなよ……幽霊は怖いぜ! おれんちの前だしよォ……」

「へぇ、仗助くん、幽霊怖いんだ」

「なんだよ! 幽霊は怖いんだぜ、お前だって怖いだろ?」

「そりゃあ怖いけど……だって、もっと怖い目にあってるじゃない」

 

 仗助が幽霊を怖いと言ったのはかなり意外だった。康穂は年上の不良にコンビニ強盗、はたまた殺人鬼相手に堂々と立ち向かう仗助の姿を知っているので、幽霊が怖いとは…………でも、よく考えると初めて出会った時は亀を怖がっていたようだし、変なところで度胸のない性格なのかもしれない──そう思うとクスッと笑いが込み上げてきた。

 

「おい、何笑ってんだよ?」

「だって……不良と殺人鬼は怖くないのに亀と幽霊が怖いなんて……」

「笑うなよなァ、お前だって怖がりじゃあねーかよ」

 

 仗助は康穂に笑われてくちびるを尖らせて拗ねたが、面白いものは面白いのだ。ごめんごめんと笑いながら謝ると、しょーがねぇなと言って一緒に笑ってくれる。最初は怖がっていた康穂だったが、気さくな仗助のおかげでこんなに軽口をたたけるまでには仲良くなっていた。まさか自分と不良と仲良くなる日が来るとは思ってもみなかった──

 いまだに家の中を不躾に覗いている康一をよそに2人で談笑していた訳だが、和やかな雰囲気は康一の潰れたような悲鳴で霧散することとなった。

 

 

「ぐぇっ……ウゲ──ッ!」

 

 

 

 重く錆びた金属の板が勢いよくしまり、響くようなけたたましい音をたてた。急な事に驚き、完全に門から目を離していた2人がそちらを見ると──

 

「……ッ!」

「康ちゃん!!?」

 

 なんと、康一が分厚く重い鉄の門に首を挟まれ、こちらから見える首から下の部分が苦しそうにジタバタと暴れているのが見えた。先程幽霊の話をしていたので、まさか──と思ったが、どうやら門がひとりでに閉じた訳ではないらしい。

 

「人の家を……覗いてんじゃあねーぜ、ガキャァ!」

 

 改造された学生服を着た男が、鉄の門を足で押さえつけ、康一の首を圧迫していたのだ。ポケットに手を突っ込んだガラの悪い男で、容赦なく康一を痛めつけている。

 康穂は双子の兄にこのような仕打ちをされて怒りを感じてはいたが、それよりも恐怖心が勝っていてただただ震え、立ちすくむことしか出来ない。

 しかし、亀と幽霊は怖いが不良には少しも臆さない男、東方仗助は友人が目の前で痛めつけられて黙っていられるような性格ではなかった。グリグリと足で門を押す男に、堂々とした態度と低い声で威圧する。

 

「おい、いきなり何してんだてめーッ! イカレてんのか……? 放しなよ」

「……」

 

 男は仗助に答えることなく、依然2人の睨み合いは続く。そしてしばらくすると、男は康一の首への圧迫を少しも弛めることなく喋りだした。

 

「この家はおれのおやじが買った家だ……妙な詮索はするんじゃあねーぜ、二度とな……」

「ンなことは聞いてねぇっスよ、てめーに放せと言ってるだけだ……早く放さねーと怒るぜ」

 

 男は仗助がそう言ってもなお力をゆるめることは無かった。それどころか足に込める力はだんだん強くなってきている。この体格のいい男なこのようなことをされてどれぐらい息が続くのか、それどころか首の骨が折れてしまうのではないか……最初はもがいていた康一の動きもだんだん弱々しくなっているような気がして、背中を嫌な汗が伝った。康一が死ぬような事になったら──

 

「おいおい……()()()はねーだろう? ひとん家の前で、それも初対面の人間に対してよう! 口の利き方知ってんのか?」

「……てめーの口をきけなくする方法なら知ってんスけどねぇ──ッ」

 

 どれだけ言っても聞かない男ににイラつき、会話がヒートアップしてきてまさに一触即発……という所で、ヒュンッと何かが空を切る音が聞こえた。そして──

 

 

ドスッ

 

「ぐえっ」

 

 門に挟まれたままだった康一の首元に、矢が突き刺さっていた。

 

「なにィ──────ッ! 康一!?」

「きゃあああああああ!」

 

 驚愕と恐怖で叫び声を上げる2人をよそに、男はボロボロの我が家を見上げ呟いた。先程は誰もいなかったはずの窓際に弓を持った男の影が見える。康一が見間違えたわけでも、幽霊でもなく、実体を持った本物の人間の男がそこにはいた。

 

「兄貴……!?」

「なぜ矢で射抜いたのか聞きたいのか? ……そっちのヤツが東方仗助と広瀬康穂だからだ。アンジェロを倒したやつだということは、おれ達にとってもかなり邪魔なスタンド使いだ……」

「ほへ〜〜っ、こいつらが東方仗助に広瀬康穂〜?」

 

 男は『兄貴』の言葉を聞くとニヤニヤしてこちらを見た。

 しかし康穂は構うことなく、男が門から足を離したのを見てすぐさま地面に横たわる康一の元へ駆け寄った。途中男の横を通ることになったが、特に邪魔されることも無くすんなりと近づくことに成功した。どうやら康穂のことはあまり危険視していないようで、少しもこちらに注意を払うことなく仗助の方を向いている。

 

()()()()使()()だと……!? てめーらスタンド使いなのか……?」

「億泰よ! 東方仗助を消せッ!」

 

 康穂が康一の頬に手をやっても、康一はまったく反応を示すことなくぐったりとしており、白目をむいて痙攣している。そして少し身じろいで、勢いよく口から血を吐き出した。

 涙と恐怖からの吐き気で康一の傍にうずくまって嗚咽を漏らすことしか出来ない……

 

「うっ……康ちゃん……ッ」

「血を吐いたか……こりゃあダメだな。死ぬな……ひょっとしたらこいつもスタンド使いになって利用できると思ったが……」

「ど、どけっ! まだ、今なら……おれが傷を治せる!」

 

 仗助がクレイジーダイヤモンドの能力で康一を治そうとこちらに近づいて来ようとするが、兄に命じられた億泰がすんなりとそれを許してくれるハズはない。

 

「ダメだ! 東方仗助、お前はこの虹村億泰のザ・ハンドが消す!」

 

 億泰の背後から人型のスタンドが現れ、仗助に攻撃を加えようとした。

 ──だが、場数を踏んだ数が多いのは、仗助の方だ。

 億泰のスタンドが仗助に襲いかかるよりも早く、仗助のクレイジーダイヤモンドが億泰のスタンドの顔を力強く殴りつけた。

 

「ドラァッ!」

 

 スタンドが受けたダメージは直接本体にも影響する。億泰は口内を切ったのか少し血を吐いたが、直ぐに仗助に向き直ってニヤリと笑った。

 

「どかねぇと、マジに顔を歪めてやるぜ……」

「ほう〜、なかなか素早いじゃん……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





読んでいただいてありがとうございました!
感想、評価をよろしくお願いします!!これからも頻度は落ちますが絶対にエタりたくないので間があこうがなんだろうが完結させたいと思っております。


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虹村兄弟 その②




キング・クリムゾンしました。
レポートが終わらないのにジョジョを見てしまい、大変なことになっております・・・。




 

 

 

 ──「おい、仗助、答えてもらうぜ! 俺は敵だ! なんで傷を治した……?」

 

 億泰の全てを削りる右手をもつ恐ろしいスタンド、ザ・バンドに苦しめられた仗助だったが、本体である億泰の頭の弱さを利用して自滅に追い込むことに成功した。

 これでようやく康一の治療を出来る──と思ったが、康一は既に兄貴に引きずられ屋敷の中に連れ去られ、血の跡が残るのみだった。

 慌てて後を追った仗助と康穂だったが、追いかけてきた億泰が兄の謎のスタンド能力によって攻撃を受け倒れたので、治療をするためにも3人で一旦屋敷の外まで避難したのだ。

 億泰はなぜ敵である仗助がわざわざ怪我をしてまで自分を助けたのか理解出来ず、仗助に怒鳴りつけたのだった。

 

「……深い理由なんてねーよ。なにも死ぬこたあねー……さっきはそう思っただけだよ……」

「……っ」

「おれは今から康一を助けに行く……康穂、お前はここで待っててくれ。危ないからな……」

 

 しつこくわけを問う億泰に、仗助はそう言って壁を伝い警戒しながら屋敷の中に忍び込んで行った。後に残されたのは、呆然とした様子の億泰と、康穂のみ。

 

「……」

 

 当然会話はない……と思って黙っていたが、意外にも億泰は康穂に話しかけてきた。

 

「おい……なぜあいつはおれを助けた時にうけた自分の傷を治さねえんだ……? おれを治した時みてーに治せばいいのによ……」

「それは、仗助くんのスタンドは自分の傷は治せないから。あと、死んだ人間を生き返らせる事も出来ないの……」

 

 康穂の言葉を聞いて、億泰は俯いた。何やら迷っているようで、冷や汗をかいて体を揺らしているが、どこに行こうか、どう行動しようか考えあぐねている様子だ。

 

「仗助くんが気になる……? 敵なのに助けて貰って、借りを作ったから」

「……」

 

 億泰はなにも答えなかったが、仗助に助けられた事を気にしているのは誰の目から見ても明らかだった。だが、彼は仗助への恩と兄のとの間で板挟みになってどうすればいいのか分からなくなってしまったのだ。仗助は兄に役たたずと言われ攻撃された自分を治療してくれたが、一方で兄を裏切るようなことは出来ない──

 康穂はそんな億泰に、臆すことなく言葉を続けた。

 

「あの、私なんかが言えたことじゃないけど……自分の心に従ってみたらいいんじゃないかな。今見た限りだと、お兄さんに言われたことをしているだけで、自分がやりたいことをしてた訳じゃないよね? そうじゃなくて、今自分がどうしたいか、その心に従うままに動くの……」

「……」

 

 またしても億泰は答えなかった。──だが、康穂の言葉を聞いて目の色が変わった。ここ数日で何度か見た、何かを決意した、覚悟を決めた男の目だ。億泰は屋敷に向かって力強く歩を進める途中、立ち止まって少しこちらを向いた。

 

「……ありがとよ」

「ううん……さ、行こう!」

 

 康穂も億泰を追い越して屋敷の中に入って行こうとしたのだが、何故か焦った様子の億泰に肩を掴まれて止められた。急な事だったので体がガクンと揺れ、危うく転びそうになる。

 何故止められたのか分からなかったので億泰の方を向くと、彼は早口に喋り出す。

 

「おい、ちょっと待て! お前はここに残るんじゃあねーのかよ、さっき仗助に言われてただろ」

「敵なのに心配してくれるの? ……私も、心に従って動いてるだけだよ。康ちゃんが、家族が危ない目にあってるのにさっきはなにも出来なかったから……だから、せめて役に立てるように行くの。もちろん怖いけど、私だって一応スタンド使いだもの、何か役に立つかもしれないでしょ」

「……そーかよ、言っとくがおれはお前を助けねーぞ。借りを返しに行くのはあいつだけだ」

 

 億泰はそれ以上は何も言ってこなかった。

 

「ほら、じゃあ今度こそ行こうよ」

 

 

 

 

 ☆

 

 

 

 

 仗助は男を追って慎重に扉を開けた。古くなって金具が錆びたドアは軋むような音を立てながらゆっくりと開く。できるだけ顔を出さないように気をつけながら中を除くと、床に血を流しながら倒れる康一の姿を確認することが出来た。

 

(くっそ〜〜、完全にワナだぜ……こいつは康一に近づいたらどっかから攻撃してくる気だ……しかし)

 

 まだスタンドの正体は明らかになっていないが、攻撃されてみて殺傷能力が高いものだということは分かっている。だが、早く治療しないと康一は助からない──

 

「ワナだと知ってても行くしかねー! 康一にはもう1秒たりとも時間がないッ!!」

 

 そう言って飛び出そうとした時の事だった。

 

「!!」

 

 気配を感じて振り返ると、なんと先程治療して外に置いてきた億泰が、空間を削り取る右手を振りかぶっていたのだ! 

 

「億泰、貴様っ」

「仗助ぇ〜〜〜ッ!」

 

 

ガオンッ! 

 

 

 ──億泰は仗助ではなく、仗助と康一の間の空間を削り取った。

 当然無くなった分の空間がくっついて元に戻り、康一の体が仗助の目の前にワープする。

 訳が分からない仗助に、億泰は気まずそうに背中を向け、少しだけ仗助の方を向いて言った。

 

()()()に言われたようによォ〜、心の中に従ったまでだ……1回だけだ、1回だけ借りを返すッ! あとは何もしねぇ……兄貴も手伝わねえ! おめーにも何もしない、これで終わりだ」

「……グレートだぜ、億泰!」

 

 どうやら康穂が何か言ってくれたようで、億泰は仗助に1度だけ借りを返して康一をこちらに引き寄せてくれた。仗助はクレイジーダイヤモンドで素早く康一を治療する。

 

「……ハッ」

「よお、グレートに危なかったな康一……気がついてくれて嬉しいぜ──」

「良かったぁ、康ちゃん! 死んじゃうかと思った……」

「ああ、ほんとだぜ…………って、おいっ!! お前なんでここにいるんだよ!」

 

 康一が気がついたことで気付くのが遅れたが、外で待っていろと言ったはずの康穂が、何故か涙を浮かべながら康一の手を両手で包み込んでいるではないか! 

 

「だって、心配で……それに、私だってスタンド使いなんだから、少しは役に立てるかもしれないでしょ!」

「……まあ、来ちまったもんはしょうがねーな、役に立つか立たないかは置いておいてよぉ〜」

「ちょっと、2人ともどういうこと……? ぼく、どうしてこんな所に?」

 

 起きたばかりで混乱しているだろうが、今は康穂と言い合っている場合でも、康一に1から説明している場合でもない。とにかく、一刻も早くここを離れて承太郎に学生服の男を見つけたことを知らせなければならないのだ。

 

「やばい状況ってことは変わってねぇぜ、康一……とにかく、早くこの家から出ねぇとまずい」

 

 だが、億泰の兄貴が無事に帰してくれるはずはない。

 

 

 パタ……パタパタパタパタ…………

 

 

「「!」」

 

「やばい、暗くてよく見えねえが、何かがいるぜ……天井の闇に紛れて移動してる! ──康一はよくわかんねえだろうが、とにかく2人とも俺のそばに寄れ!」

 

 仗助は康穂と康一を背中にかばい部屋の隅まで移動しながら、懐からライターを取り出して火をつけた。オレンジ色の光で照らされて、天井の梁を移動する小さな人影が見える。

 

「仗助くん、あれは……小さい人……?」

「ああ、すばしっこいようだが、力が弱そうなチビだぜ……この戦い、あいつがもう一度こちらに姿を見せたら終わりだぜ」

 

 小人が顔をのぞかせたのを見計らって、仗助はクレイジーダイヤモンドを繰り出した。クレイジーダイヤモンドのパワーを知っている康穂も、仗助本人も勝利を確信した。

 ──だが、そんなに簡単にはいかない。

 

 ガシャン! ガシャン! ガシャン! ……

 

「え!?」

「なんだ!? たくさんいるぞ……! それにその服装は……」

 

 小人は一体だけではなかった。天井の梁を数え切れないほど大勢の、軍服を着てこちらに銃を構えた小人が埋め尽くしている。

 

「ま、まずいわ! 仗助くん、逃げないと──」

 

 康穂が言い終わらないうちに、小人たちは一斉に仗助が持つライターに向かって引き金を引いた。

 

「……ッ! や、やべえ! 康穂、康一! 部屋の奥へ行け!!」

 

 仗助の手から血が吹き出し、辺りに飛び散る。2人をかばいながらもクレイジーダイヤモンドが素早い動きで小人を2、3体殴りつけたが、それだけではダメージにはならないようだ。数が多い分、ダメージも分散されてしまうらしい。

 

「億泰のやつが余計なことをして康一とかいうガキを助けたからほんの少し作戦が狂った……しかし! この館からは決して出さん! 規律正しい我がスタンド、極悪中隊(バッド・カンパニー) のこの戦場からはなあ〜〜」

 

 小人が隊列を組んで3人に迫ってくる……

 本物の軍隊のように1人が声を掛けると、それを受けて他の小人達も3人に向けて銃を構えた。沢山の銃口がこちらを向いている──

 

「撃てぇ────────!」

 

 合図を受けて、一斉に射撃が始まった。

 3人は急いで隣の部屋に移り、ドアを閉める。無数の穴が空いて向こうの部屋の明かりが漏れてはいるが、何とか逃げ延びた──と思ったが、その部屋では既にヘリコプターが待ち構えており3人を包囲していた。

 

「……グレート、ヘリコプターまでいんのかよ……」

「こ、こっちには戦車もいるよ!」

 

 康一が指さした先には、本物の軍が使っている戦車を、そのまま小さくしたような物が少なくとも10は確認できた。

 それらが一斉に攻撃を仕掛けてくるが、仗助のクレイジーダイヤモンドは全て防ぎ切るだけのパワーがある。康一が知らせてくれたおかげもあって、何とか凌ぐことに成功した。

喜ぶべきことなのだが、康穂には1つ引っかかることがある。

 

「──ねぇ、康ちゃん、今戦車って言ったの?」

 

 そう、おかしいのだ。康一はスタンド使いではないから、戦車が襲ってきているのが見えるはずはないのに……

 

「お前、見えるのか? 康一、まさか……お前スタンド使いになったのか!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




感想、評価をよろしくお願いします!
特に感想を頂けるとやる気がムンムン湧いてきます。


時系列がおかしい事に気が付き、ストック分を大幅に書き直し中。
次回更新は未定です。


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虹村兄弟 その③





第11話、ようやく直し終わりました。
このあとも更新ペースは落ちると思いますが、見に来てくださると嬉しいです。

7月にジョジョ関連でなにか発表があるみたいなんですが、6部アニメ化だったら熱いですよね〜
期待しすぎると違った時に受けるショックも大きいので、あまり期待せずに待っておこう・・・とはいいつつも、期待せずにはいられません。
・・・徐倫の声は沢城さんでお願いいたします。




 

 

 

 

 

 

 

「康一、お前見えてんだな? この戦車やヘリや兵隊どもが!」

「う、うん。なんだか訳が分からないけど、ハッキリ見えてるよ……」

 

 康穂も仗助もこれには驚いた……どうやらら矢に選ばれずスタンドを身につけられずに死んでいくはずだった康一は仗助に治療して貰ったおかげで生き延び、更にはスタンド能力まで身につけたようだ。

 それが幸福なのか不幸なのかはさておき、康穂にとって康一が自分と同じスタンド使いになってくれたのは嬉しいことだ。双子の兄と共通したものを持っているというのは安心できる。

 

「ほう! ()()()()()? そのチビ……」

「……! てめぇ!」

 

 声のした方を見ると、億泰の兄が壁にもたれ掛かりながら、余裕そうにこちらを伺っている。仗助はすかさず近くの飛び出していた釘を抜いてクレイジーダイヤモンドで飛ばしたが、兵隊たちが射撃で軌道を曲げたので届くことはなかった。兵隊はキチッと隊列を組んでおり、男の周りの守りを完璧に固めている。これでは男に近付けもしないし、先程のように何かを飛ばしても直ぐに撃ち落とされるだろう。

 

「フフ……お前の攻撃はこのおれの極悪中隊によってこちらに届くことはない……ほ〜〜〜ら、我が軍隊の美しい幾何学模様が出来ているだろう〜〜?」

「キチョーメンな野郎っスねェ〜」

「ふふ、まあ、そんなことはどうでもいい……おれが出てきたのは小僧! お前を見るためだ!」

 

 男は康一を指さして言った。

 本人も驚いているようだが、どうやらこの男は予想を超えてスタンドの素質があった康一の能力に興味があるようだ。

 

「もしかするとおれが探し求めている能力かもしれんからなぁ〜、もしその能力なら生かしておいてやるッ!」

「さ、探している能力って……?」

「お前は黙っていろ、広瀬康穂! お前の能力は使えねえんだから、お前と仗助を殺すことは変わらない……少し長く生き延びていることに感謝しろ!」

「……ご、ごめんなさい」

「おい、謝ることねーぜ……」

 

 康穂が質問したことが癇に障ったらしく、怒鳴られてしまい体を縮こませる。覚悟を決めてこの場に来た訳だが、自分をすぐにでも殺せる相手を怒らせるのは得策ではない。

 男は康一に早くスタンドを出せと急かすが、康一はスタンド使いになってからまだ数分しか経っていないのでどうやったらスタンドを出せるのかなど分からない。そして痺れを切らした男は、仗助にスタンドの出し方を教えるように命令した。

 

「おめーを懲らしめてやれるスタンドだったらいいよなぁ〜……」

 

 仗助は言われたとおり、康一の耳元でスタンドの出し方を説明した。

 

「いいか、簡単だぜ康一。自分の身を守ろうとするか、あいつに対して懲らしめてやるって気持ちになりゃあいいんだよ。そうすりゃあとは本能だぜ! お前独自のスタンドが出るはずだ」

「そ、そんなぁ〜そんなこと急に言われたって訳がわかんないよ──ッ」

「康ちゃん、落ち着いて……」

 

 仗助は康一にできるだけ分かりやすく説明してくれたが、まだ混乱状態にある康一には難しいことだ。懲らしめてやるという気持ちより、恐怖心の方が勝っている。

 

「分からんだと……? じゃあ、きっかけを与えてやるよ!」

 

 ──男が叫ぶと、急に康一の頬から血が吹き出した。

 康一は痛みで悲鳴をあげ、康穂の方に倒れ込んで来た。気づかないうちに兵隊の1人が康一の肩によじ登っていたらしい。

 

「ひ、ヒィぃぃぃぃぃぃぃぃッ!」

 

 

 康一が叫ぶと、急に康一の体から大きな卵のような物が飛び出した! 

 卵はそのまま床に落ちてしばらく転がった後、動かなくなった。突然飛び出した卵を包囲するように兵隊が銃を向けて警戒しているが、特になにも起こらない。

 

「おい、康一……動かしてみろよ! いったいどんな能力なんだ……?」

「能力って……動かないよ! これで終わりだよ……期待してもらって悪いんだけど」

「えぇっ! これで終わり?? 何かないの……?」

 

 康穂も人のことを言える立場ではないが、こんなにハッキリと姿が見えたのに何も無いなんてことは無いはずだ。……たぶん。

 

「もういいッ知りたいことはこれで十分! 全隊戦闘態勢ッ! 

 

 男の合図で、兵隊たちは引き金に指をかけ一斉に銃口をこちらに向ける。

 

「攻撃開始ィ────!!」

 

 銃弾の嵐から康穂と康一を逃がすため、仗助が卵を蹴り飛ばし、康穂の腰を掴んで卵と同じ方へ投げた。

 自身はクレイジーダイヤモンドで辛うじて致命傷は免れたようだが、そこら中から出血した痛々しい姿の仗助を見て、康穂は胸が痛んだ。役に立とうと思ったのに、今のところただのお荷物でしかない……

 

「や、康穂……」

 

 なにかしなければと心の中でぐるぐると考えていると、隣の康一が話しかけてきた。

 

「あいつ、背中を見せて隙だらけだ……ぼく、もう一度スタンドの卵を出して、体当たりするようにぶつけてみるよ!」

 

 康一は恐怖心からかブルブル震えているが、それでも勇気を出してあの男に立ち向かおうとしているのだ。そんな兄の勇敢な姿を見せられて、康穂の胸にも少しだが闘志の炎が宿る。

 

「わ、私も行くわ……ッスタンドは出せないから、何とか自分の体で……」

「おい」

 

 男が急に振り返ったので、康穂の覚悟はグラッと大きく傾いてしまった。

 自分を簡単に殺せる相手が、こちらに注意を向けたのだ。こちらを意識していないという唯一のアドバンテージは消えた。情けないが、2人して床にへたり込む。

 

「小僧、お前の能力は使えるからな……今のうちに妹との最後の時間を過ごしておくんだな……」

 

 

 

 

 

 

 ☆

 

 

 

 

 

 

「お前の負けだァ────! 東方仗助! 全隊射撃用意──! 

 

 仗助は、自分の周りを取り囲む兵隊、ヘリや戦車を冷静に見つめていた。

 そして撃たれて出血している腕と足を引きずり、あぐらを組んで床に座り直した。敵は仗助が諦めて命乞いをしようとしていると勘違いしているようだが、そうでは無い。()()()()()()()()()()()のだ。

 

「ふん……撃てェぇぇぇぇ──────!! 

「「仗助くん!」」

 

 数多の銃弾が仗助に向かって迫ってくるが、仗助は微動だにせず静かに告げた。

 

「おれの作戦はよ〜、()()()()()()()んだよ」

「あっ! あれはッ」

 

 康穂と康一の位置からも、仗助に発射して撃ち落とされたはずのミサイルが数個男に迫っているのが見えた。

 

「そ、そうかッ、仗助くんの能力で直したからミサイルが元の場所に戻って……」

 

ドグォォオァオ────ン!! 

 

 

 ──ミサイルは、男の顔面に直撃して爆発した。

 

「フー……かなり、グレートに危ないヤツだったぜ。しかし忘れたのかい? おれのクレイジーダイヤモンドは破壊したものを治せるっつーのを……忘れっぽいならメモっときなよ、几帳面によォ〜〜」

 

 

 

 

 

 

 ☆

 

 

 

 

 

 

おあぁぁぁぁァァァあ……

 

 肉の芽が暴走し、緑色でボコボコとした体になってしまった虹村兄弟の父親が家族の写真を見て涙を流しながら泣き叫ぶ声だけが、このボロボロの屋敷に響いていた。

 記憶をなくしずっと意味の無い行為を続けているだけかと思われた男は、ずっと家族の写真を求めていたのだ。今は息子達のことが分からなくても、たしかに彼の心の底には思い出が残っていた。

 

「……父親を殺すんじゃなくて、()()スタンド使いを探すってんならよォ〜、手伝ってもいいぜ」

 

 康穂が見る限り、仗助の言葉に形兆は少し動揺したように見えた。彼も億泰と同じように、仗助の器の大きさに心を動かされているのだろう。先程まで自分を殺そうとしていたというのに手伝うとまで言ってのける東方仗助の優しさは、敵であろうと惹き付けられる不思議な力を持っていた。

 

「だからさ、その弓と矢はブチ折るからよ……こっちに渡せよ」

 

 康穂と康一は、この状況を固唾を飲んで見守っていた。

 もしかしたら──このまま平和的に協力関係を結び、事件が解決するかもしれない。形兆は動かないが、表情には確かな迷いを感じ取ることが出来た。さらにその会話にずっと口を閉ざしていた億泰も加わり、形兆を説得にかかる。今までは兄の言うことを守っていた彼だったが、今は自分の意思で兄に異議を申し立てているのだ。

 

「兄貴、もう辞めようぜ……もしかしたら、親父を治せるかもしれねえしよ……」

「何掴んでんだよ億泰! おれはもう後戻りできねぇんだよ……スタンド能力があるやつを見つけるために、もう何人も殺しちまってるんだからなぁ〜ッ」

 

(やっぱりダメなのかしら……)

 

 このまま形兆を説得出来ればそれが1番いい解決法のだが、彼は既にそう簡単には引き下がれない領域にまで足を突っ込んでしまっていたようだ。諦めて別の方法を探すしかないのか──

 

「……ッ!!?」

 

 兄弟のやり取りを緊張した面持ちで眺めながらこれからのことに考えを張り巡らせていた矢先のことだった。

 視界の端に、何かピンク色のものが映ったのだ──それは人間の腕の形をしており、どういう訳か康穂の腕から分離しているように見える。地図のような模様のピンク色の腕が、確かに康穂の体から出ているのだ。そしてその腕はひとりでに動き、人差し指で真上を指さした。

 

「ねえ! 上に誰かいるわッ!!」

 

 康穂は異常を知らせるため、声を張り上げた。

 人差し指の示す先には光が差し込む天窓があり、逆光で顔はよく見えなかったが、確かにそこから誰かが覗いているのが見えたのだ。

 気づいてすぐに声をあげたのだが康穂以外の3人は突然のことに頭が追いつかなかったようで、反応が遅れた。……ほんの1、2秒の遅れだったが、その差は戦いの場では命に関わることになる。

 

 

 

バチバチバチバチバチバチ……ッ

 

 

「……!! コンセントから何か出てくるッ」

 

 康穂の両目は、コンセントから溢れた電流が何かの形を作っていく様子をしっかりと映していた。それは仗助と康一、形兆も同じようで、突然の出来事に誰もが地面に足を縫い付けられたかのように動けなかった。

 ──そして、それに唯一気がついていないのは億泰だけだった。

 

「億泰くん、危ないッ!! 後ろに何かいるわ! 逃げてッ」

 

 億泰は康穂の声にようやく気づいたようだが、もう遅かった。電流を帯びた何かは、既に億泰を掴む寸前だ。そして億泰の周りに、彼を助けることのできる距離の人間はいなかった。

 

(間に合わない──)

 

 絶望仕掛けたその時、何か緑色のものが億泰と敵との間に飛び込んだのだ! 

 

 

「ギャァアアァアァァァッ」

 

「お、親父──ッ!!」

 

 飛び込んでいった何かは、虹村兄弟の父親だった。鎖で繋がれていたはずなのに、それを引きちぎって息子の為に身を投げ出したのだ。

 敵は無慈悲に緑色の身体を拳で貫き、さらに素早い動きで混乱の中地面に落ちていた弓と矢を拾った。

 

「ちっ、仕留め損なったか……虹村形兆! あんたがスタンド使いにしたこのおれのレッド・ホット・チリ・ペッパー、こんなに成長するとは思わなかっただろう? せいぜい利用させて貰うぜ〜〜〜ッ」

 

 そう言い残すと、スタンドは弓と矢、それから虹村兄弟の父親を掴んだまま、止めるまもなくコンセントの中に引っ込んでいく。コンセント付近は何も無かったかのような状態だが、肉の焼けた匂いだけが確かに残っていた。

 

「な、なんなんだよ今のはッ!」

「親父が連れていかれちまったッ! 弓と矢もだ! 兄貴、今のやつ心当たりねーのかよ!!?」

「……あいつは確かにおれに矢で射抜かれたと言ったが、おれはあいつを知らん……生き残った中にあんな能力のやつはいなかった! 死んだと思っていたやつが実は生き残っていたのかもしれん……」

「とにかく、後を追っかけねえとマズいっスよ! 康穂、この窓の外にいたんだったな!」

 

 仗助は康穂が指さした天窓に周りの家具を使って上手く飛び移り、窓を割って外に出ていった。億泰と形兆もすぐに後を追っていったが、康穂と康一は背が低いので同じようにはいかない。慌ててその辺の箱を引っ張ってきて、ようやく外に出ることが出来た。

 

「……!」

「こんな……むごいことを……」

 

 ──外に出てから初めて目にしたものは、電線に引っかかった緑色の焦げた肉片だった。

 それは、自分の欲望のためにあんなに無惨に人を殺すことができる人物が、新たな敵として立ち塞がったという絶望的な事実を突きつけられたのだということを意味する。そして彼らの父親が、もう二度と……人間の姿には戻れないということも。

 

「なあ、兄貴……親父はよ、おれ達のこと殴ったりしたけどよ、おれ達のこと忘れちまってたけどよ……でも最後にッ! 最後におれ達の親父はよ〜、おれ達のことかばってくれたよなぁ〜!?」

「…………ああ。おれ達の親父は、確かにおれ達をかばった」

 

 涙を流す億泰に、しばらく間を開けて形兆が答えた。

 康穂の位置からは彼の表情を見ることが出来なかったが、その声は確かに震えていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





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ウイングス




遅くなりました!
最近はレポートが多くて・・・(言い訳 その①)そして、バイトの事も色々考えてるので・・・(言い訳 その②)

それはさておき、私が放置している間にお気に入り登録が50を超えていました!
嬉しい・・・ありがとうございます(*´ω`*)

今回のお話はちょっと早足になってしまった感が否めないですが、一応頑張りました。オリジナル要素が出てくると難しいですね・・・




 

 

 

 

「康穂! ぼく今日は新しいマウンテンバイクで登校するから、先に行くね」

「うん、また後でね」

 

 ある日の朝の事だ。

 康一はこの前買ったばかりのマウンテンバイクに乗るのが楽しみなようで、朝も早いというのに声を弾ませていつもより早く家を出ていった。あんなにウキウキしているのだから、さぞ乗り心地が良いのだろう。

 

(そんなに乗り心地がいいのかな〜? 今度私も乗せてもらっちゃお)

 

 康穂はカバンに母親が作ってくれた弁当を詰め込み、いつもの時間に家を出た。

 

 

 

 

 

 ☆

 

 

 

 

 

「……ッ! あれは……?」

 

 天気も良く気持ちのいい朝なので気分よく歩いていたのだが、視界の端に写った赤色に足を止める。道路に何か赤色のものが広がっており、その中心に何か小さなモノがあるように見える。目を凝らしてよく見ると、何が落ちているのか確認することが出来た。

 ──スズメだ。道路の真ん中に、スズメが落ちているのだ。辺りには羽が散らばっており、地面に血溜まりが出来るほどの出血をしているという痛々しい姿のスズメが……

 康穂は小走りで近づいていって、そっと様子を伺った。翼の部分に穴が空いてしまっており、飛べなくなって地面に倒れて動けなくなっているようだ。そっとくちばしの先を指で触ってみるが、か細い声で弱々しく鳴くだけで、ピクリとも動かない。このまま放っておけば、きっと……いや、確実に死んでしまうろう。

 

「仗助くんのところに連れて行けば助かるかも……ちょっと待っててね、できるだけ優しく運ぶから!」

 

 康穂は制服のポケットからハンカチを取り出し、それにそっとスズメを包み込んだ。そしてそれを手のひらに乗せて振動に気をつけながら、できる限りの早足で仗助の元へ急ぐのだった。

 

 

 

 

 

 ☆

 

 

 

 

 

「あっ、ちょうどいいところに! お──い! 仗助くん! 康ちゃんに億泰くんも! ……みんな揃ってどうしたのかな……?」

 

 康穂がようやく仗助を見つけた頃には、スズメはかなり弱って来ていた。

 手のひらの中で確実に冷たくなっていく様子に相当焦ったが、なんとかスズメが息絶える前に仗助を見つけることが出来た──のはいいのだが……

 

(なんだか、ガラのわるそうな人だなぁ〜……康ちゃんって、絡まれやすいのよね。仗助くんと億泰くんが見かけて助けてくれてるところなのかしら?)

 

 康穂は知らない男に睨みを聞かせている仗助と億泰の様子に近づくのを躊躇ったが、そんなことよりもスズメの命の方が大切だ──意を決して近づこうとした時、ちょうどいいタイミングで男がしっぽを巻いて逃げていった。これで安心して近づけるというものだ。

 

「みんなおはよう! 仗助くん、ちょっといい? 急いでるの!」

 

 康穂が3人に駆け寄りながら挨拶をすると、仗助も億泰も手を上げて「よう」と返事を返す。先ほどの男に対する態度とは違い親しげにしてくれるのを見て、急いでいるのにも関わらず嬉しくなった。

 

「ああ。いいぜ、どうしたんだよ? そんなに急いでよォ」

「この子、道端に倒れてて……治してあげてくれないかな? もう虫の息なの……」

「うお、ひでぇー怪我だな……もちろんいいぜ。──クレイジー・ダイヤモンド!」

 

 仗助は康穂の手のひらの中身を見て、直ぐにスタンドを使いスズメを治療する。

 康穂は自分の手のひらに暖かい光を感じながら、スズメの姿をじっと見つめた。

 

「チュンチュン!」

「……! やったぁ! 治ったわ、ありがとう、仗助くん!」

「おう! 良かったな」

「康穂は優しいね。スズメも元気になって良かったよ」

「なんかよォ〜、そいつ、スッゲー康穂に懐いてねぇか〜?」

 

 億泰の言う通り、スズメは元気になって嬉しそうに康穂の手のひらから飛び立って顔の周りを飛び回っている。

 

「おいおい、こいつオスかぁ? 確かに見つけたのは康穂だし、元気になったのはメデタシメデタシだがよォ、元気にしたのはこの仗助くんっスよ?」

「チュンチュン!!」

 

 仗助が少しむくれていると、スズメは康穂の肩から仗助のリーゼントの上に飛び移った。大事なリーゼントの上に乗られてキレるのではないかと一瞬ヒヤッとしたが、当の本人は機嫌よく笑っているのでほっとする。

 

「んだよ、ご機嫌取りかー? そんなことしても……」

「「「ぷッ」」」

「なっ! てめーら、何笑ってんだよ?」

「だって、仗助くん完全にそのスズメにいいように扱われてるから……」

「うるせ〜ぞ康一! 皆して笑うなぁッ」

 

 そう、仗助は口では絆されないと言いつつも、完全にスズメのご機嫌取りに乗せられ、普段は凛々しく引き締まった顔を緩めているのだ。

 仗助が声を荒らげると、スズメが用は済んだとばかりに再び康穂の肩に戻ってくるものだから、さらに3人の笑いを誘う結果となった。

 

(──癒される〜……)

 

 そして、康穂は密かに仗助の笑顔に心をときめかせたのだった。

 

 

 

 

 

 ☆

 

 

 

 

 

「チュンチュン!」

「ねえ、あなた……いつまで着いてくるの……?」

 

 放課後になっても、スズメは康穂のそばを離れることはなかった。億泰の言うようにすごく懐かれてしまったようで、迷惑でこそないが、ずっとそばにいると気になるというものだ。

 

「お母さんのところに帰らなくていいの?」

「ヂュンッ!!」

「うわっ、つっつかないでよ〜」

 

 康穂がスズメの頭を撫でると、痛くはないが制服の上からでも嘴を感じるくらいの力で肩をつつかれる。康穂が子供扱いしたことが気に入らなかったようだ。ということは、このスズメはもう大人なのだろう。

 

「ごめんね、人間から見たらスズメって大人になっても可愛らしいから、子供か大人か見分けがつかないのよ。家族が心配してるかと思ったのだけど、大丈夫なら良かったわ」

「チュンっ!」

 

 康穂がそう言えば、スズメは「それでいいんだよ、それで」と言わんばかりに康穂の頬に擦り寄った。

 初めこそ近くにいると気になるとは思ったが、自分が慣れればいい話かもしれない……。朝はスズメに絆される仗助のことを笑いはしたが、人のことを言えた立場ではなくなってしまった。

 

「ずっと私に着いてくるつもり?」

「チュン!」

「……そっかァ。じゃあ、名前つけていい?」

「チュンチュン!」

 

 スズメは嬉しそうに康穂の周りを飛び回る。

 ここまで喜んでくれるとは思わなかったが、喜んでくれると嬉しいものだ。……しかし、喜ばれれば喜ばれるほどプレッシャーは重くのしかかってくる。

 

「う、ウーン……そうだなぁ。──チュンチュン鳴くから、チュンチュンってのはどぉーお? そのまんますぎる気もするけど……」

「チュン! チュンチュンッ」

 

 自分でもあまり褒められたネーミングセンスではなかったが、スズメはそれで満足らしい。先程よりも激しく羽をバタつかせながら、康穂の周りを飛び回って喜んでいた。

 

「じゃあ、あなたの名前は、これからチュンチュンね!」

「チュンッ」

 

 

 

 

 

 ☆

 

 

 

 

 

 興奮して飛び回るチュンチュンを落ち着かせながら歩いていると、家に着いたのは普段よりも20分ほど遅くなった。しかしまだ心配されるような時間帯では無いので、特に問題は無い。

 

「ただいま〜、ちょっとおそく……」

「──もう生きていられないッ!!」

「……!? お、お母さん!?」

 

 玄関のドアをあけ一息着いたところで返ってきたのは、いつものおかえりの声ではなく物騒な言葉だった。

 聞こえたのはリビングの方からで、康穂はカバンを放り投げてドタドタと廊下を走る。チュンチュンも康穂の後を追って、廊下を飛んだ。

 

「どうし──」

「信じて!!」

 

 リビングのドアを開けると、ドアのすぐ近くに姉が倒れていた。

 それだけでなく、何故か腹から血を流している今朝見かけた男、それにナイフを自分の首に向けている母親──そして、康一はなにか……恐らく自身のスタンドで、母親に何かをぶつけたのだ。

 

「これは一体……」

「そうよ……康一は優しい子ですもの。こんなことをする子じゃあないわ……」

「やったぁ!」

 

 康穂が帰ってきた瞬間にこんなカオスな状況になっていたので、全ては把握出来ない。……だが、康一が喜んでいることから、今は悪い状況ではないのだろう。

 よく分からないが、母親の胸にあった錠のようなものが消えた。そして康一はそれに喜んでおり、逆に男は狼狽えている。この光景を見れば、男が母と姉に危害を加えようとし、康一がそれを自身のスタンドで撃破したのは明白だった。

 

「じょぉぉぉぉだんなんですよぉぉ〜〜! 康ちゃあぁあぁあ〜ん!」

「お姉ちゃんの錠も外せ!」

「もうとっくに外してますッ大切な美貌に間違いがあってはいけませんからね〜〜全て冗談! ねっ、ねっ?」

 

 康穂は姉が起き上がるのを助けてやりながら、情けなく康一の足にすがりつく男を呆然として見ているしかなかった。どうやら、母と姉を人質にとって康一を脅していたようだ。下衆な男である。

 

「チュンチュン!」

「えっ、ちょっと……」

 

 その時だった。

 康穂少し目を離した隙に、どういうわけか……さっきまで康穂の肩に大人しく乗っていたチュンチュンが、勢いよく飛び立ち、男のほうに向かっていったのだ。

 そして──

 

「チュンッ!」

「ぎゃあああああああああ、いっ、痛てぇ! なんだこりゃあ〜!?」

「なっ」

 

 ──なんと、チュンチュンが勢いよく羽ばたくと無数の羽が飛んでいき、男の背中に突き刺さったではないか! 

 これには康穂も康一も驚かされた。

 

「や、康穂……そのスズメ!」

「スタンド使い……だったみたいね」

「な、何でもしますからぁ! そこのお嬢さんも! あんたのペットでしょ? もうこれ以上攻撃しないように言って下さいッ」

 

(別にペットって訳じゃあ……)

 

 男は、羽が刺さった痛みと恐怖で涙を流しながら、康一の足元に這いつくばっている。どこまでも情けない様子だった。

 

「えっ、何でもするって?」

「はっはい〜〜康一どのっそして、そこのお嬢! なんでもします! 舎弟になりますッ」

「よし……」

 

 康一は、男の肩にポンっと手を乗せ、耳元で囁いた。

 

「それじゃあ明日までにキッチリ50万もってこい」

「えっ」

「──うふふ、ジョーダン! ほんのジョーダンだって! うふふ……」

 

(じょ、冗談に……き、聞こえなかった……)

 

 康穂はチュンチュンの頭を撫でて褒めながら、床に手を付き冷や汗を流す男をほんの少しだけ可哀想に思うのだった。

 

 

 

 

 

 ☆

 

 

 

 

 

 ──翌日

 

「いったい? どーなってんだ、こいつはよォ──ッ」

「? ウギギギギ?」

「康一どの! お嬢! 学校までカバン持たせていただきます!」

「ねぇ、やめてくれよ〜っ本当に持つ気?」

「私、恥ずかしい……」

「もちろんです! いよっ、おふたりさん、決まってますよ! もちろん、スズメ殿も!」

 

 昨日康一の金を抜き取って言った男が、今日になって康一、そして何故か全く関わりのなかったはずの康穂にまでペコペコと舎弟のように頭を下げているのだ。しかも、何故か康穂の方に乗ったているスズメにまで同じようにペコペコするものだから、尚更意味が分からない。

 当然、仗助も億泰も、この状況に理解が追いつかなかった。

 

「? なあ、億泰〜、これってどーいう……」

「おれに聞くなぁ〜! おれ頭悪いんだからよ〜っ」

 

 

 

チャンチャン♪ 

 

 

 

 

 







感想、評価をよろしくお願いします!!

しばらく更新が止まると思います。
理由は色々ありますが、自分の文章力のなさと計画性のなさを見直す必要があるので・・・と言ったところです。

できるだけ早く復活しようとは思っています。












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