IS・LoB-Da:Re~パイロットの兄、メカニックの弟~ (仮面肆)
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プロローグ
「……………」
時刻は満月が昇る深夜。自然豊かな場所のとある屋敷で、その命の灯火は尽きようとしていた。
「……いい、人生だった」
そう呟き、書斎の椅子にかけてはゆらゆらと揺らしている高齢の老人は、昔のアルバムを見ては過去を振り返る。
若い頃、拐われた弟を救う為に力を求め、亡くなった科学者の祖父が製作したマシンで強大な敵組織と戦った。始めは自分だけで成そうとしたが、次第に敵は強くなり困難を窮めた。だが後に、自分の
そして最終決戦にて敵首領を撃ち破り、操られ敵となっていた弟を救いだし、長い戦いが終わった。
それからしばらくして、祖父の墓に吉報を持参した男は後に旅をした。お供と共に各地を飛び渡り、世界を渡り歩いた。その最中に弟は結婚をしたそうで、結婚式の際にはマシンで登場しては弟を盛大に驚かせた。
それから時間は過ぎていった。男は結婚のように自身の幸せを求めなかった。祖父の言葉を守るように、仲間と共に街を、この星を多くの脅威から守り、いつしか仲間たちと共に、人々から〈
それでも男は幸せだった。
様々な脅威に立ち続けても、その隣には仲間がいる。一匹狼だった頃と違い、よく笑顔をみせた。戦場から去れば、弟や祖父の弟子の博士などが会いに来ては談笑した。それは男にとって未知であったが、その心地よさに安心を感じ、これを守る為に、また脅威へと立ち向かうのだった。
それから今に至るまで、長い時間を過ごした。
マシンのパイロットの後釜は、仲間たちの息子や孫が引き継いだ。お供も野生に帰った。祖父の弟子も孫に見届けられ、幸せそうに逝った。その中には仲間たちも……。
「こんな俺でも、いい人生を歩んだものだな……」
その呟きと共に老人の視界が霞んでいき、記憶が所々甦る。走馬灯であった。
『あいつの事は……お前たちには関係ない。口出しするな』
『俺たち仲間じゃないか!仲間の事は心配だよ』
誰にでも優しかった、あまちゃんな白い
『アイツらはいいヤツらだ。だからこそ、俺の戦いに巻き込む訳にはいかない』
『それでわざと喧嘩を!?』
男にとても贔屓をしては、とても慕っていた赤い少女。
『貴様、自爆する気か!?』
『……一緒に会いに逝こう、じいさんに』
『ちょっと待ったぁぁぁ!!』
『そんなんアカンで!』
『そんな事じゃ解決しないですぅ!』
『どけぇ!お前たちも巻き添えを喰う!』
街を壊滅に追い込む、操られた弟と心中する決死の覚悟での戦闘の最中、
『馬鹿、何をする気だ!?』
『このマシンだけでも、使えないようにするんだ!』
──弟の敵マシンにしがみつき、その脅威のパワーで破壊した。その結果、一騎討ちの形で弟と勝負しては勝ち、正気に戻せた。
『兄さーん!』
最終決戦が終わり、再会に涙する仲間と男。
それから色んな場面が頭に浮かび、消えていく。そして老人は手を伸ばして呟く。
「……じいさん。俺も逝くよ……」
そう言って、老人の手は力を失うように落ちてしまった。
これが、今まで人々の為に守り続けた老人の最後だった。
そして──
『ふざけた事を……俺は強くなりたいのだ!強くなるには実戦を積むに限る!戦争は俺にとって都合がいいのさ!』
『都合がいいなんて……その戦争の結末は、太陽系消滅なんだぞ!』
白と黒のマシンがぶつかり合い──
『ちぃっ、トラブったか!』
『危ない!』
『っ!?貴様、何故敵に情けをかける』
『戦う為が目的じゃないからさ。俺は早く戦争を終わらせたいだけなんだ』
『……………』
──笑顔で答えた、あまちゃんな顔のヤツ。
遠い過去、そのような会話をした気がする。
これが老人が思い出した最後の記憶。どこか
「兄さぁぁぁん!起きろぉぉぉ!」
「うぉっ!?」
ガタン!!
青年の大声に驚き、旅客機のファーストクラスの座席から落ちてしまった。
「いったたた……ん?到着したか」
そう言いながら、打った所を擦りながら兄さんと呼ばれた青年は窓を確認した。
今、ファーストクラスの空間には二人しかいないが、その容姿はとても似ていた。黒い髪と瞳、一見すれば日本人に見えなくもないが、彼らの血縁は日系であるので日本人ではなかった。
そんな二人だが、一ヶ所だけ似ていないところがある。
「兄さん大丈夫?」
「あぁ、大丈夫だ。それより起こしてくれてありがとな」
兄の目付きは釣り上がっては、どこか凛とした佇まいをしており、弟の目付きは兄より下がって、どこか優しい雰囲気を出していた。
「兄さん、ついたね日本に!」
「そうだな。到着時刻は正確なんだが、空港を今から出発しても始業式には間に合わんだろうな」
「その辺りは政府が連絡したみたいだから大丈夫。だけど専用機の発送が遅れそうで、十日はかかるんだってさ。あ~、しばらく整備出来ないから暇だよ、僕。兄さんと違って、
「専用機の整備が出来ないのなら、学園の所持する訓練機の整備でもすればいいだろ。今来た政府の連絡メールに、専用機の元となった同世代の機体があるらしい。学園との交渉結果、専用機が届くまで所持する権限を取得したとあるから、しばらくはその整備を頼むぜ。俺の知ってるなかで、お前の開発の腕はじいさんと同等だと思っている。俺よりスゴいメカニックだぞ、絶対に」
「そ、そうかな。いやー、照れるよ兄さん」
そんな会話をしながら、兄弟は旅客機から出ていった。日本の春の日射しと肌寒い風に迎えられながら、兄弟は日本の地へと立った。
「さて、行こうかジャック。最初の男子
「うん、クロム兄さん!」
これは、新たな地である日本にたどり着いた兄弟……クロムとジャックのボルン兄弟が学ぶ場所……IS学園での物語が始まろうとしていた。
「ところで兄さん」
「何だジャック?」
「兄さんが寝てる最中、目尻から涙が流れてたんだけど、何か夢でも見てたの?」
「……前世の記憶」
「えー、何それ?」
尚、兄は前世持ちである。
クロム・ボルン=くろボン
題名見て察してくれた人、おそらく20代後半と30代が多いのでは?
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1:転生者!黒い戦士
「ねぇ、アレって……」
「え!?始業式に見ないと思ったら……」
「織斑先生についてってる二人って、例の……!」
「どうしてこの神聖な学園に男なんて……!」
困惑、驚愕、好奇に侮辱、そして敵意。様々な感情が籠った視線が、廊下を歩く俺たちに向けられる。
「に、兄さん。ちょっと注目されすぎ……だよね?」
「気にするなジャック。今朝の騒動と、あの時の
「それを言えるのは兄さんくらいだよ……」
苦笑するジャックをよそに、俺は視線に気にせず、前方へ歩く担任の後をついて行く。まぁ──
ギロリ
「ヒェッ」
「ピッ」
ちょいと
(けど、前世の戦場に比べれば、生ぬるい視線だな……)
そう内心で思い、俺とジャックは担任の後を追った。
突然だが、俺……クロム・ボルンには前世の記憶と言うものがある。
ギリシャ出身の俺はそこに住み、両親と弟の四人家族で暮らしていた。二卵性双生児の最初に産まれた俺が長男となり、次に産まれたのがジャックと、俺の両親から聞いた。だけどそれだけでは俺が前世を思い出す切っ掛けにはならなかった。
切っ掛けとなったのは、祖父の研究所。実父である祖父の影響で育った親父は生粋の開発者となり、祖父の助手の一人として今でも働いている。そんな若い頃、当時軍の開発課で働いている時に軍人のお袋と出会い交際。結婚しては俺たち兄弟が産まれたんだ。
……話が逸れたな。前世の記憶が戻った切っ掛けなんだが、当時の祖父が研究・開発していた物が、回路の不具合が生じて爆発したんだ。その際、俺とジャックも祖父の研究物に興味があって、時々親父に連れてってもらったんだが、俺はその爆発事故に巻き込まれた。
幸い爆発も大規模なものじゃなかったが、その衝撃で飛んで来た工具が俺に直撃。意識不明となったんだが……それが切っ掛けとなった。
(思い……出した!俺の前世の名は、くろボン。ブルーソアラー太陽系、地球で生きていた……
当時五歳の俺、意識から目覚めては前世を思い出したが、無論多大な記憶情報により頭がキャパオーバーでごちゃごちゃしていた。前世と違う肉体の影響もあったが、その辺りの価値観は追々慣れさせるしかないだろう。
「……どうして俺が、別世界の地球で生きてるんだ?」
夜、個室の病室で私物のパソコンを動かしながら呟く。怪我はたいしたこと無いが、前世を思い出しては頭がキャパオーバーで意識を失い、心配した家族が検査入院も兼ねて数日の入院となった。その分、入院期間中お袋が有休を使って毎日会いに来てくれるから寂しくはなかった。尚その間、親父は祖父の研究仕事で稼ぎ、弟は幼稚園に通っているが、夕方頃は家族全員で面会してくれる。
「人目を気にしないで調べれるから親に感謝だな。軍人と技術者だからなのか、収入がスゴい桁だ」
そんな家庭の収入事情を呟き、調査を再開する。午前中だとお袋がいるから迂闊に調べられないし、夕方には親父とジャックがやって来る。消灯時間から調べるにも、肉体と精神年齢の大きな差のせいか、子供の体ではすぐに疲れてしまい、眠るのも早くなる。
つまり、調査時間が少ないから一気に調べることが出来ん。入院期間ももうすぐ終わるし、残りは自宅で調べないと……。
(だが、ほとんどの調査は終わるか)
まずは歴史や文明を学んだ。それらは前世と全く違うのは当たり前で仕方なく、調べるのもすぐに終わった。
だが宇宙関係の資料では、地球や火星といった前世にも同じ名称の惑星があったんだが、ほとんどの惑星が生物の住める星ではない所ばかりだ。挙げ句にブルーソアラー太陽系といった名称も無い。
次は生態系。分かっていたが、ビーダロンが存在しなかった。
この辺りは俺の前世であるビーダマンの存在すらなく、恐らくビーダマンと人間ではビーダマがあるか無いかだけで、生態系としては全く同じなんだろう。そうなると、ビーダロンもビーダマが無いだけの生物だから、特に違いが──
(……全然違うよな)
──天地の差で違っていた。
一部のビーダロンはビーダマンと意志疎通できたりして、良きパートナーとして共に生きている。そして今の生き物と意志疎通はほとんど不可能だ。余程、学習能力が高くなければ難しいだろう。
そして最後に調べた科学技術。車や飛行機といった大まかな乗り物は前世にも似た物があった。だが、決定的に違っていた技術があった。
それは兵器などの軍事技術。この技術力だけが、前世と今の差で大きく離れていた。
当時の軍事兵器の戦車や戦闘機は前世と変わらない。だが、前世でのそれら兵器は主力ではなく、ビーダマンが乗り込んで操縦する『ビーダアーマー』が主力だった。
無論ビーダアーマーが初めから主力になった訳ではない。ダークビーダ一族との戦いが終わるも、新たな敵勢力が地球を侵略・破壊などの理由で、地球やビーダシティを何度も脅かしてきた。その結果、ビーダシティ以外の首都や国家が手を繋ぎ、軍事機関を通してビーダアーマーを配備した。それは『
「……ふぅ。今日はこれくらいでいいか」
前世を懐かしみながら調べたが、そろそろ眠気で意識が朦朧としてきた。精神が前世の知識を身に付けた結果、頭の知識に肉体が追いつけない。入院が終えたら、お袋に遊びと称した訓練をたまにしてもらおう。
そう考えながら、俺は眠りに入った。
(あれからの
それから入院生活が終わり、多くの知識を身に付けた俺は鍛えた。ジャックとキャッチボールをしたり、お袋の職場に連れられては訓練を観察したり、とにかく小さいながらも遊びを通して体を鍛えた。
そんな充実した生活。生前叶うことの無かった家族団欒な中、全世界で信じられない事件が起こった──
「お前たち、着いたぞ」
──っと、どうやら教室に到着したようだ。授業開始のチャイムと同時に多くの女子生徒が自分の教室に戻る中、担任である
「今から2時限目になる。最初にお前たちの自己紹介から始めるから、私が呼ぶまでお前たちは廊下で待ってもらう」
「「分かりました、織斑先生」」
「……」
ジャックと言葉が重なり、一瞬だが織斑先生はきょとんとしたが、すぐに表情を戻して教室に入っていった。
「そ、それじゃあボルンくんたち、待っててくださいね」
山田先生も織斑先生の後を追いかけ、廊下には俺とジャックだけになった。
「どんな人たちがいるんだろね、兄さん」
「有力な新入生のリストは知っているが、どのクラスなのかは分からん。だが、確実に第一の男子
「へぇ。兄さんが言うならそうだろうけど、その理由は織斑先生?」
「血縁者だからだろうが、それは些事なことだ。一つのクラスに保護観察対象を押し込めて、監視の人手を少なくしてる。何かしら起こっても対象出来るように、学園でも最強の人物を使って、な……」
「あー、ブリュンヒルデだもんね。先生って母さんと面識あるんだっけ?」
「さあな」
『お前たち、入ってこい』
どうやら呼ばれたようだ。それじゃあ、挨拶を始めようとしよう。
◆
(あー、2時間目始まったよ……)
俺……
本来なら俺は私立
何故かIS学園と同じ試験会場。その試験会場にあったIS……正式名称『インフィニット・ストラトス』を、本来女性にしか動かせなかったソレを起動してしまった。男の俺が、だ。
その結果、試験会場に居合わせたIS学園の教師や政府の役員に発覚。当時、世界中に俺の存在が知られては自宅にマスコミだの各国大使だの怪しい研究員までやって来た。あー、おかげで俺の生活滅茶苦茶だよ。
そして現在、俺はIS学園に入学させられている。
入学式が終わって即授業。担任が千冬姉で驚いては
まあ、同じクラスにいた幼馴染の
「お前たち、すでに授業は始まった。さっさと自分の席に着け」
そんな言葉と共に千冬姉がやって来て、続いて副担任の山田先生も教室に入ってきた。どうやら廊下の女子は、千冬姉に反応したんだろう。
そんな中、千冬姉が教壇前に立って発言した。
「授業を始める前に連絡がある。先程、このクラスに所属する生徒が到着した」
ざわ……
ざわ……
千冬姉の一言はクラスをざわつかせた。確かに教室の後ろの席が何席か空いてたけど、まさかこのクラスにまだ生徒が入るなんて思わなかった。
「諸事情で入学式には間に合わなかったようなので、先に彼らの自己紹介をさせる。お前たち、入ってこい」
(ん?彼ら?千冬姉、
それってつまり、女子ではない。
確かに入学式には見かけなかった。俺がISを動かしたことで全世界政府が行った、男性IS適合者一斉調査で見つかった、一人の男子が……。
「失礼します」
「失礼しまーす」
千冬姉に呼ばれて教室に現れた瞬間、教室のざわめきが消えたのも納得した。俺も含めて驚いてる。
だってそうだろ。まさか二人も男子が現れるなんて思いもよらないさ。
その中の一人は、恐らく教室にいる全員は知ってるだろう。調査で見つかった俺以外の男性適合者。ニュースの生放送で記者会見が行われて、俺以上に見事な対応をしていたのが今でも忘れられない。
そして雰囲気が、凛として刀のような鋭い雰囲気が、どことなく千冬姉に似ているから印象に残っていた。
「初めまして。今日から皆と勉学を共にするクロム・ボルンだ。ジャック共々、よろしく頼む」
必要なだけの挨拶だった。だがその佇まいと合わさって似合っていた。俺の時は挨拶も満足にできないのかって千冬姉に辛辣な扱いだったが、雰囲気だけでこうも違うなんて……。
(それじゃあ、もう一人は誰だ?)
そう考えては初めて見かける男子を見ると、容姿はクロムとほとんど同じだった。唯一違っているのは、クロムの目が鋭く凛とした佇まいに対して、優しい目でほわほわした雰囲気が特徴的だった。
「えーっと、皆さん初めまして。クロム兄さんの双子の弟、ジャック・ボルンです。IS適合は無いんだけど、家族の心遣いと政府の計らいで、この学園にやって来ることが出来ました。将来は技術課志望。好きなものは甘いモノ。みんなよろしくね♪」
そして挨拶もクロムと正反対だ。愛嬌と言うか、とても親しみやすい挨拶で、自分のことを知ってほしいとアピールしていた。
「お、男……?」
誰かが呟いた。
「きゃ……」
「「?」」
『きゃあああああーー!!』
ソニックウェーブと言うやつか。クラスの中心を起点に歓喜の叫びが伝播する……って、ホントにうるせぇ!?
「男子!しかも二人で双子!」
「カッコいいとかわいい!同じ顔だけど、凛々しさと癒し系の別ジャンル!嫌いじゃないわ!」
「それがうちのクラスになんて!もしかして、今年の運使い切っちゃった!?でも構わない!」
「この学園に入学できたのもお母さんのおかげ!ありがと~~!!」
初日なのに元気だな、うちのクラスの女子一同。千冬姉が担任と知った時と同じような興奮だぞこれ。
パンッ!!
だけど、その騒動は直ぐに静まりかえった。歓喜の叫びをも凌ぐ打撃音に、俺も含むクラス一同の視線が探し当てた。
「……盛大な声援は感謝するが、今は授業中だ。静かに、な」
その正体はクロムだった。両手を合わせていたクロムは周りを見てから感謝と注意を促すと、何人か女子が顔を赤くしていた。
それにしても、たった一回の拍手で全員の意識を向けさせるなんて凄いな。もしかして、これがカリスマってものか?
「やっと静かになったか……。ではボルンたちの席は一番後ろだ。席に着いたら授業を開始する」
「……」
そして千冬姉に言われたクロムたちが移動を始めた一瞬だけ、クロムの視線が俺に向いてはすぐに視線を外した。
(何だったんだ、今の……?)
そう思いながら、授業が始まるのだった。
・『
ダークビーダ一族襲来以降、数ヶ月の平和期間と言う名の小休止を挟んでは立て続けに起きた、宇宙~時空規模に及ぶ事件の総称。終息するのに約6年4ヶ月は経過した。
以下、大まかな事件の名称と内容である。
巨大な宇宙船とその下に侵略した星々の欠片を繋げた要塞基地をも支配する、虹の宮殿の支配者との壮絶な戦い『レインボーウォーズ』。
伝説の時空の騎士たちを洗脳した、全宇宙征服を企む秘密結社との宇宙を守るための戦い『宇宙創世戦記』。
別宇宙から現れた執事と共に、惑星侵略を開始する帝国から逃れた王女を救うため時空を股にかけた冒険『王女救出冒険譚』。
尚、レインボーウォーズが特に期間が長かったとか。
※元ネタはニンテンドー64ソフトです。今でも初代爆ボンの難易度はヤヴァイ。
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2:会する代表候補生①
2時間目の授業が終わり、俺……クロムとジャックの周りと言うか、クラスが騒がしかった。
「アタシ、
「
「あたしは
とにかくクラスの女子たちが男子三人に積極的に話しかけてくる。
廊下にいる他のクラスや上級生は羨ましそうに見ているが、どこか悔しさも見てとれる。恐らく最初の休み時間、織斑一夏と話せなかった事に何か切っ掛けがあったから、次から話しかけていこうと思ったんだろう。
しかし、俺とジャックの登場でクラスの密度が上がった。その結果、タイミングを逃してしまったと……。
(やれやれ。会話が切っ掛けで多くのコンタクトが取れるのが良いが、多過ぎだろ……)
内心呆れるが、ソレを表情に出さない。前世でも何かとインタビューや会見も経験したから、多くの質問を返していく。
「ボルンくんの誕生日と星座は?」
「3月7日の魚座。ジャックも同じだ」
「ご趣味はありますか?」
「スポーツを一通り」
「スリーサイズ教えて!」
「言ってどうする?」
「クロムくん。クロぽんってよんでいい~?」
「不快でないから別に良い」
「二人の制服のデザイン、織斑くんのと少し違うね。どうして?」
「俺は動きやすさ。ジャックは整備のしやすさで決めている」
「好きなタイプはありますか!」
「黙秘権を行使する」
「「「の、罵ってください」」」
「……………(冷たく蔑んだ視線)」
「「「あぁ^~!!」」」
……しかしなんだ。俺に話しかける女子が意外と癖があるな。特に最後、今何て言った?罵れって、
「に、睨みつけだけで、この威力……」
「千冬お姉さまと雰囲気が似てたからふざけて頼んでみたのに……」
「良いですわぁ~!」
「あー、ちょっとごめん。少し退いてくれるか?」
ん?女子が引いていくと、その間を通っては現れた。
『
「よっ、俺は織斑一夏。よろしくな」
礼儀正しく手を出してきた。なら礼には礼を、俺は席を立っては織斑の手を握った。
「あぁ。改めて、クロム・ボルンだ。よろしく、織斑一夏。……おーい、ジャック!お前も挨拶しな」
俺はジャックの方へと振り向くが、どうやら女子と話していた途中のようだ。しかし「ごめんね」と一言謝罪して、ジャックはやって来た。
「ごめん兄さん、話が弾んじゃってね」
「親交を築くのは良いことだ。ほら、こっちにも築いときな」
「わかってるよ。ニュースで知ったよ、織斑一夏くん。初めまして、クロム兄さんの双子の弟、ジャック・ボルンです。ジャックって呼んでいいよ」
「俺もクロムで良い」
「ありがとな二人とも。俺も一夏でいいぜ」
ジャックも織斑……いや、一夏と挨拶しては握手を交わすと、男子三人で会話を始めた。
「いやー助かった。クラスに男って俺だけだと思ったから、同じクラスに男が来て良かったぜ」
「そうだな。学園の配慮が行き届いてるのは、ありがたい」
「だねー。もしも兄さんと別クラスだったら、休み時間毎に足を運ばないといけないし。そこは楽だね」
「……それにしても、クロムとジャックは雰囲気が違うな。双子って言ったから同じだと思ったけど」
「「それは偏見じゃない?」」
「おぉ、息ぴったし」
「俺はお袋似。ジャックは親父似。表面は確かに似てるとよく言われたが、内面は違う」
「そうだね。兄さんは母さんの血が濃いのか、運動神経抜群だよ。運動会でも好成績だったし、羨ましい」
「お前は親父や爺さんの血が濃いだろ。それにテストの成績は俺より上だ。そこは俺が羨ましいさ」
「……んー、やっぱり似てるな。さすが双子」
「「ありがとう」」
「一夏も織斑先生に似てるね」
「お、俺が千冬姉に?いや全然似てないって」
「似てたぞ。特に俺とジャックがハモった時にキョトンとした顔がな」
話しながらで分かったが、やはり一夏は同年代の同性と話すと雰囲気が軽くなるのを感じた。まあ、初日から女子の中に男子が一人の状況だったから無理ないか。
「先程の授業で指摘されてたが、あの参考書を捨てたのか?」
「うぐっ」
「さすがに捨てるのはねぇ……。よかったら僕が教えようか?」
「俺も手元に参考書はある。今日だけ貸すから授業中でも読んどけ」
「まじか!それは助かる。ありがとうな、クロム、ジャック。あ、でもクロムは大丈夫なのか?」
「覚えてるから気にするな。まずは自分が叩かれないように頑張りな」
「あ、アザーっす、クロムさん!」
「ちょっと、よろしくて?」
そんな話が弾んでいく中、一人の女子が俺たちに近づいていた。
「へ?」
「まあ!なんですの、そのお返事。わたくしに話しかけられるだけでも光栄なのですから、それ相応の態度というものがあるんではないかしら?」
一夏はすっとんきょうな声を出したが、女子は気に入らないようでわざとらしく声をあげていた。
「……悪いな。俺、君が誰か知らないし」
そんな態度で接してるからか、一夏は表情になるべく出さないようだが声色に若干不機嫌が混ざっているな。
まあ、ISが出てから
「兄さん、彼女ってもしかしてイギリスの……」
話を戻すが、俺とジャックはその女子を知っていた。無論、自己紹介時にクラスには俺たちはいないから、政府が送った有望株な生徒のリストで知っていた。
「あぁ……その
「……最後のは何か引っ掛かりますが、そちらの方たちは優秀ですわね。さすが『
若干引きつるも、俺たちに微笑むオルコット。まぁ、それはおいといて。
「ほぉ。爺さんのことを知っているのは嬉しいな」
「もちろんです。ギリシャ出身且つボルンと名乗られる方だと、欧州が誇るジーニアン・ボルン氏と関係が無いなどあり得ませんわ」
ジーニアン・ボルン。
ギリシャが誇る世界的に有名な科学者であり、軍事・医療・生活等々……多くの人々の手助けとなる発明を行い多大な特許権を所持している、俺の父方の爺さんだ。
「ジーニアン・ボルン!?それって、第一世代ISで初めて量産型を開発したギリシャの科学者だよね!」
「学園のパンフレットにも名前が掲載してたわ。多額の設立費用を出してるスポンサーの一人だとか……」
「ほぇ~。クロぽんとジャッくんのおじいさん、凄いな~」
相川、谷本、布仏を皮切りに教室が騒ぎ始めたが……それにしても布仏、『ジャッくん』ってジャックのことか?言い方は特に変ではないから俺は別に構わんが、肝心のジャック自身はどうなんだ?
「兄さんと同じ、のほほんさんにつけて貰ったんだ」
許可済みだった。
「それにしても凄すぎよね。このクラス有名になっちゃってるんじゃないの?」
「千冬お姉さまの
「このクラスに入れたことに、圧倒的感謝ッッッ!!」
(濃いなーこのクラス。個性的すぎて)
この休み時間だけでクラス女子が持つパワーを感じる俺だった。内心呆れるが表情に出さないようにしてると、オルコットが一夏を指差していた。
「ボルンさんたちはともかく、あなたISについて何も知らないくせに、よくこの学園に入れましたわね。ニュースでも、男で初めてISを操縦できると聞いてましたのに、期待ハズレですわね」
「俺に何か期待されても困るんだが」
「まあでも?わたくしは優秀ですから、あなたのような人間でも優しくしてあげますわよ。何てったってエリート。ボルンさんも仰る通り、唯一教官を倒したエリート中のエリートですから」
キーンコーンカーンコーン
オルコットが話し終えると、次の授業が始まるチャイムが鳴った。
「それでは、次の授業でも恥をかかないことですわね。では後程……」
そう言って、オルコットを皮切りに女子たちも自分の席に戻って行った。
「お疲れさま、一夏」
「授業が始まるから、戻っていた方が良いぞ」
「あぁ。ありがとな、参考書。今日だけしばらく借りるわ」
一夏も前にある席に戻ると、俺もジャックも自分の席に戻った。隣同士だからそこまで離れていないがな。
(『それにしても、一夏は災難だったね、兄さん』)
(『今時の女性の典型だしな。ジャックも気をつけろよ。このクラスはともかく、一部の女子はオルコットみたいなのがいるからな』)
俺たち兄弟の
(『でもリストによると、一夏も教官倒してるらしいよ。何で言わなかったんだろ?』)
(『言ったら言ったでオルコットがうるさくなるだろう。ちょうど授業だったから言う余裕もなかったかもしれないが、な。それに今回のような特殊ケースなら、入試の合否関係なく入学確定だろうしよ』)
(『なるほど。兄さんは入試しなかったしね』)
「では授業を始める」
それから織斑先生の声に反応した俺たちは会話を止め、授業を始めるのだった。
後のことだが、一夏は俺が貸した参考書を読みながらだが授業に難なくついていけたようで、織斑先生の出席簿も来なかった。
オルコットも授業が終わるたびに一夏や俺たちに近付こうとするも、今まで見ていただけの他のクラスの女子が周りを囲って話しかけてきたので、近付ける状況ではなかったようだ。
しかし、ホームルームが始まっては少しいざこざが発生するのを、今の俺は知らなかった。
「ではホームルームを始めますね。ですがその前に、織斑先生からお知らせがあります」
本日最後の授業が終わり、ホームルームが始まった。教壇に立っていた山田先生だったが、織斑先生が入れ替わり発言する。
「再来週行われるクラス対抗戦に出る代表者を決めないといけないな。代表者をしたい者、自薦他薦は問わんぞ」
クラス代表者か。簡単に言えばクラス長。クラスの雑務やら出席やらしないといけないから面倒くさそうだが、対抗戦に出れるのは良い。戦闘データを取れる機会が多いしな。
「はい。織斑くんを推薦します!」
「私もそれが良いと思いますー」
「お、俺!?」
「席に着け、織斑」
立ち上がった一夏が驚いてる。まさか自分が推薦されるとは思ってなかったのか?
その考えは甘いな。俺とお前はIS適合者。云わば珍しい分類だ。奇異な意味でも、何とかしてくれると思われているしな。
でもまぁ、手助けはしてやるか。俺は手を上げた。
「どうした、ボルン兄」
「クロムで結構です。俺が立候補して良いですか、織斑先生」
「兄さんクラス代表になるの?なら僕も兄さんを推薦します!中学でも経験あったしね、クラス長」
「「「「「おぉー!」」」」」
「ねぇねぇ。ジャッくんはしないの~?」
「ただのクラス長なら出来そうだけど、ISに乗れないから無理だよ。対抗戦とかだとなおさら、ね」
ジャックの発言も効いたのか、一夏に向けられた視線が俺に変わった。先程の無責任且つ勝手な期待を込めた眼差しから、自信を確信した勇敢な者を期待する眼差しとなった。これで一夏が諦めれば、俺がクラス代表になれるだろう。
「では候補者は織斑一夏にクロム・ボルン。他には──」
バンッ!
「待ってください!納得がいきませんわ!」
しかし、机を叩いて立ち上がったオルコットが待ったをかけた。
「そのような選出は認められません!男がクラス代表だなんて、いい恥さらしですわ!わたくしに……このセシリア・オルコットにそのような屈辱を味わえと仰るのですか!?」
「先生が自薦他薦問わないて言ってたよ?」
「弟さんは黙ってください!」
「あっはい」
ジャックの呟きに過剰反応したオルコットは止まらない。
「実力から行けば、わたくしがクラス代表になるのは必然。それ物珍しいからという理由で極東の猿にされては困ります!わたくしはこのような島国までIS技術の修練に来ているのであって、サーカスをする気は毛頭ございませんわ!」
(さすがに言い過ぎだぞ、オルコット)
「いいですか!?クラス代表は実力トップがなるべき、そしてそれはわたくしですわ!大体、文化としても後進的な国で暮らさなくてはいけないこと自体、わたくしにとって──」
ガタッ
「イギリスだって大してお国自慢無いだろ。世界一不味い料理で何年覇者だよ」
「なっ……!?あ、あなたねぇ!わたくしの祖国を侮辱しますの!?」
「「あーあぁ……」」
「どうする兄さん?」
「……止めるしかないだろ」
とうとう一夏も頭にきたようだ。立ち上がってオルコットに文句と言うか何と言うか、余計なことを言ったようだ。その結果、オルコットの顔が真っ赤になって怒りを示している。
俺とジャックは諦めたように言うが、これ以上はいろいろとまずい。だから──
パンッパンッパンッ!!
全ての視線をこちらに向けるように、俺は大きめの拍手をした。
「喧嘩するなら廊下でやっとけ。ホームルームだからってまだ学業の時間だぞ」
「だけどクロム!」
「ですがボルンさん!」
ギロリ
「「っ!」」
横暴だが、今は反論は許さん。
「オルコット。同じ欧州出身だから言っておく。一夏の発言が侮辱だと言い張るのなら、オルコットのは侮辱に入らないのか?」
「う、それは……」
「それによ……日本人を極東の猿と表現したが、ISも元はその極東の猿が作ったものだ。それに──」
そう言って織斑先生に視線を向け、俺は続ける。
「そこに立つ
「そ、それとこれとは別ですわ!!」
「……ふぅ……」
(『兄さん怒ってる?』)
(『怒ってない。ただムカついてる』)
前世でも、国や各惑星の国家問題にも顔を出してきた。オルコットのような人種もいたが、これで国家代表として勤まるのかね?
「オルコット。お前はイギリスの代表候補生であり、イギリスの名を背負っているのだろう?だったら、その国の代表のお前が、日本を一方的に貶したと理解できてるのか?」
「っ!?」
「その発言は、イギリスが日本を貶めてるのとなんら変わりないんだぞ」
その事実に気付いたようで、オルコットは顔を青くする。俺としてはもう少し言ってやりたいが、ホームルームも限られてるから、オルコットにはこれで終わりにしよう。
「一夏、お前もだ。代表候補生でないにしろ、同じ欧州として侮辱は見過ごせないぞ」
「うっ……悪かった」
「俺に謝るな。オルコットに謝っとけ」
「……………」
苦虫を潰したような顔をする一夏。相当苦手意識を持ってしまったようだな。
「と、とりあえず、話を進めましょう。候補者は三人……それでいいですか?」
教室の重たい空気を打開しようとしたのか、山田先生が場を仕切り始めた。さて、どうやって決めようか……。
「手頃よく、ジャンケンかくじ引きで決めたらいいんじゃないの?」
ジャックは提案を出すが、織斑先生が発言した。楽しそうに笑顔で。
「実力が認められたらいいのだろう?戦ってみたらどうだ?」
「戦い……つまりISでの模擬戦ですか?」
ジャックの問いに無言で肯定する織斑先生。まぁ、あの表情をしたら断固として反対させられないだろう。
「……いいでしょう!言われっぱなしというのも癪です。決闘ですわ!」
「おう、いいぜ。四の五の言うより分かりやすい」
「言っておきますけど、わざと負けたりしたらわたくしの小間使い……いえ、奴隷にしますわよ」
「侮るなよ。真剣勝負で手を抜くほど腐っちゃいない」
「そう?何にせよちょうどいいですわ。イギリス代表候補生のこのわたくし、セシリア・オルコットの実力を示すまたとない機会ですわね!」
先程までの重い空気はどこにやら。一夏とオルコットはにらみ合いながらも、模擬戦の提案を受け入れた。
「兄さん模擬戦だよ。データが取れるチャンスだね」
「一夏は分からんが、オルコットは確実に専用機だ。データと
「オッケー。それに今日の放課後から
なるべく目立たないように、俺とジャックは話していると、織斑先生が口を開く。
「それでは勝負は次の日曜。時間は午前中に行うので、織斑、オルコット、ボルンはそれぞれ用意をするように。以上、解散」
こうして、俺とジャックの一日目の授業が終わったのであった。
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3:会する代表候補生②
「それでは、資材はコチラで全てとなります」
「ありがとうございます」
……私は研究員の女性にお礼を言うが、女性は申し訳なさそうに訊いてきた。
「しかし、本当によろしいのですか?こう言っては何ですが、我が技研が責任を持って製作いたしますが……」
「結構です。そちらは政府の指示で男子専用ISを作らなければならないのでしょう?なら、私のより優先されるはずです」
……それに、これで姉さんに近付けるかもしれない。
「……分かりました。もしも不明な点があれば連絡をください。それでは……」
……そんな私の思いに気づいてない女性は頭を下げて、開発室から出ていった。
「……ふぅ」
IS学園が誇る開発棟。普段は整備科の生徒しか自由に入れないけど、専用機持ちなら自由に、他の人なら申請して許可を貰えば入れる学園でも重要度の高い施設。
そこの整備室の一室で私……
日本の代表候補生となった私が操縦するISだったが、男性適合者が発覚したせいで人員が回された結果、私のIS開発が先送り。なら、私の手で作り上げないと、
(……それに、姉さんだってISを作り上げたんだ)
これは小さな対抗心。
物心ついた頃には自分と姉さんとの差を自覚していた。両親に期待されて、姉さんと比較されて、そのたびに心が鬱屈していくのを感じていた。
だから打鉄弐式を完成させれば、姉さんに追い付けると信じたい。自信を持ちたい。私は一人でも大丈夫って思いたい。
バシュッ──
ガラガラガラ──
「……?」
自動ドアが開いた音に、カートの音?研究員の人が何か持ってきたのかな?
そう思って私は振り向くと、ソレは現れた。
「……ふわぁ……!」
ソレはまさにレア物だった。恐らく整備科でないとなかなかお目にかからない物だった。
灰色の装甲を持った
(第一世代初の量産機……アーク・ファイター!)
多分、いや絶対に今の私の目は輝いてるんだろうなぁ……。まるで好きなアニメの声優さんを見て喜ぶファンのような心境だ。
『アーク・ファイター』。
第一回モンド・グロッソで好成績を残した雛型が正式量産されたと、資料で見たことがある。システム・各機構の簡略化などコストダウンをしたけど、今までより操作性がアップした万能に近いISと、当時は言われていたみたい。
だけど第二世代が主流となり、世代交代で次々と退役していったらしいけど、まさかIS学園で見られるなんて……!
「あれ、誰かいた?」
「っ!?」
突然のことだった。誰かの声が聞こえて私は驚くと、カートを押す人物と目が合った。
私より頭一つは高い黒髪の男の子。服装は学園の制服に似た柄の作業着のようで、銀色のアタッシュケースを持っていた。
そんな男の子を、私は知っている。少し前にテレビの記者会見で見た、織斑一夏の後に発覚した男性適合者。
「……あなたは、クロム・ボルン……くん?」
「ん?違うよ。それは兄さんさ」
「え」
「初めまして。僕はジャック・ボルン。兄さんとは双子の兄弟さ」
そう言って、私に人懐っこい笑顔を向けた。
この出会いが、私とジャックの馴れ初めでした。
◆
「ここが学園の開発棟か」
放課後。俺とジャックは早速総合事務受付へ向かい、IS委員会に発行させた開発棟の使用許可書と紐付き許可証、学園に保管されてる『アーク』*1の鍵を受け取り、開発棟の下見を兼ねて『アーク』の調整を行おうとして足を運ぼうとした。
だがその直後に政府からの連絡がきた。内容は、滞在する筈のホテルから学園の寮へと場所が変わった……というものだった。
そして同時に山田先生がやって来ては寮部屋の鍵を受け取ると、ジャックを先に開発棟へ向かわせて、俺は荷物の受け取りに向かった。その後、寮部屋に荷物を置いてから開発棟へ向かって漸く到着したという訳だ。おかげで三十分以上は遅れてしまったが……。
「距離は本校舎からそこまで離れてないが、やっぱり広いな」
入口の案内板を見てから目的地へと向かっている。入学式の理由もあるのか、生徒も教師も誰も見かけていない。もし普段の時期なら、専用機を持つ生徒か、整備科の生徒を見かけることもあるだろう。
「おっと、ここだな」
首に紐かけた許可証と扉に描かれた番号が一致している。ここにジャックがいるはずだ。三十分遅れてしまったから、機体の状態チェックは済んでるだろう。
バシュッ
「おーいジャック、待たせ──」
「なるほど、日本じゃ朝に放送してるんだね」
「うん。私もその時は普段より早起きしないといけない」
「──ん?」
扉が開いてはジャックに声をかけたが、聞こえてきたのは返事じゃなく、楽しそうに男女が談笑している姿を目にした。
ジャックが楽しそうに話すのは珍しくない。俺よりコミュニケーション能力は高いから、性別関係なく大体の人と親交を持てる。
(あのメガネ少女、有望株リストに載ってたな。確か、日本の代表候補生で、更識簪だったか)
そういえば、現役のロシア代表と同じ名字だな。そんなことを思っているが、ジャックと更識の会話は続く。
「でも、私はあの展開はツラいと思う。いくら仲間のためでも、自分を犠牲にしてまで前に進むのは悲しいよ」
「それほど強大な敵だもんね、あの第8話。それで主人公も喪失感で仲間に八つ当たりしたりで壁にぶち当たって、挫折した。その結果があの姫様との出会いだったけど」
「谷底に捨てられた世間知らずのお姫様。ふわっとした天然だったけど、とても芯が強いよね」
「そうそう!特に敵幹部が拠点を襲撃してきた時に言ったセリフは心にきたね。それが主人公の心に変化をもたらしたのは明確だった。向こうでも放送された第11話は、僕も含めて多くのファンに人気だったよ」
「私もその話は好き!第10話で主人公が語ったアニキさんの印象と思いが、その話じゃあ主人公が助けたってアニキさんが言ってたよね。アニキさんはスゴいって主人公は言ってたけど、アニキさんは主人公がスゴいって!」
「そんな諦めない主人公が姫様を助けた後の戦いは燃えたねー!初めての挿入歌をバックに合体。その後の主人公の前口上は泣きそうになったよホント」
……IS関係の話をしてると思って少し黙って聞いてたが違うな。内容を聞くかぎり、ジャックと更識が話してるのは、どうやらジャックが見ている日本のアニメの話のようだ。
ああ見えて、ジャックは日本で言うオタクだ。特に日本のロボットアニメが好きで、通販でよく『ダンプラ』*2をポチっては専用ブースと機材で本格的に作るのを知っている。親父が好きだしな、その影響だろう。ちなみに俺はそれなりに好きだが、深いほどじゃない。
「……そろそろ話していいか、ジャック」
「っ!」
「あれ、兄さん。遅かったね」
「荷物が多かったからな。……それにしても楽しそうだったな」
声をかけたが、どうやら更識は驚きのあまり固まっている。次第に顔が赤くなっているが、放っておいて大丈夫だろう。
「兄さん、彼女は更識簪。ここで知り合ったんだけど、彼女も同士なんだ!」
「あー、何かアニメ話で盛り上がってたな。──初めまして、更識簪さん。俺はクロム・ボルン。ジャックと仲良くして、ありがとうな」
「……あっ、はい。どうも」
固まっていた更識が反応するが、まだ顔が赤いままだ。まあアニメのような趣味を知られたら、羞恥心が勝ることもあるしな。
とりあえず、俺も準備をしてはジャックに聞こう。
「それでジャック。学園のアークはどうだった?」
「結果は問題無し。よく整備科の授業で使われてる分、いろいろ弄っては戻してと繰り返されてたけど、先輩たちの腕も良いみたいだから、修繕は今日で済みそうだね。ただ兄さんに合わせるとなると、ブースターの出力調整、反応速度対応、各センサーを後日改修しないとかな?」
「クラス代表戦までには?」
「改修で三日。兄さんが操縦しながらの微調整で一日だよ。間に合わせる」
「心強いな」
ジャックの持つパソコンからのデータを見ては感心する。
「……………」
ふと、俺は更識の視線に気付くと顔を向けた。
「何だ?」
「……ボルンさんは」
「クロムでいい」
「……クロムさんは、ISを作れるんですか?」
「整備程度なら出来るが、製作となると出来ないな。そこらの分類はジャックが詳しいが……何かあるのか?」
「い、いえ……」
「そんなに畏まらなくてもいい。同じ一年同士、仲良くしてくれ」
「……………」
そう言ったが、更識の表情は浮かないようだ。先程の視線は何か、羨ましそうな感情が込もっていたが……。
「……あの、それじゃあ私は帰ります」
「え、もう?」
「……うん。今日は使用場所の下見と準備だけだったから」
「そっか。僕と兄さんはアークの修繕が済んだら寮に戻るよ」
「また寮か、学園で会おう。更識」
「またね簪。アニメで面白いのあれば教えてね」
「……うん」
そう言って更識は開発室を後にして、俺たちは黙々とアークの修繕を行うのであった。
尚、戻ってきた頃には一夏が寮の廊下で正座をさせられていた。頭のコブと何か関係があるのか、俺には分からない。
◆
「~~~~!!」
学園の学生寮。二人部屋の片方のベットで、私は羞恥で真っ赤な顔を枕に埋もれさせて隠していた。
同室の本音がシャワーでいないからまし。もし初対面なら、こんな奇行見せられない。
別にアニメの話だったら恥ずかしくない。同じアニメ好きと話してる時でも恥ずかしくないはず。
(でも、見られたのは恥ずかしい!?)
ジャックと話してる時は、何だか心地良かったんだけど、その、クロム……さんが話しかけた際、何だか年上のような落ち着いた雰囲気があったから、逆に恥ずかしくなっちゃって……。
「……どうしよう」
小さな呟き。使用許可も貰ってあるし、今さら場所を変更したいなんて言えないし……。
(でも、一人でもやらないと……)
姉さんに到底追い付けない。その事を思い出して、私は仰向けになって天井を見つめる。
「ボルン兄弟、か……」
そう呟くけど、顔を思い浮かべたのはジャックの顔だけだった。
「また、話せるかな……?」
暫くは開発室にいるらしいから、話せる機会は十分にありそうだ。次会った時のために、何かアニメの話題を作っておこうかな?
「かんちゃーん。あがったから交代だよー」
「……もうすぐ行く」
本音の言葉に気付き、私もシャワーの準備をした。
原作で簪とのほほんさんは同じ部屋だったか忘れたけど同じ部屋にしました。
※一部の情報が公開されました
正式名称:アーク・ファイター type-E
ギリシャ製作の第一世代初量産型として開発されたIS。雛型として作成されたISよりコストダウンさせては操縦性を簡易的にし、誰でもそつなく扱えるように設計された。type-Eとはeasyの略称。
尚、学園にあるモノは整備科の授業で使う資料であり、スポンサーであったジーニアン・ボルンの贈呈品でもある。
モデル:名称はノルアーク帝国とボンバーファイターから。全体像は「ボンバーファイター」をリアル等身にして「30MM アルト」の装甲をくっつけたモノをイメージ。ビー玉発射機構は無しです。
リアル等身版のイラストは画像検索すれば見つかりますので、それ参考にしてください。
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4:篠ノ之
ppppp……!!
ガチャン!!
「……………あさ、か」
「おはよう、兄さん。はいこれ目覚めの一杯」
「……………」
──ゴクリ
「……おはよう、ジャック。今朝のコーヒーは美味いな。日本のどこ産地だ?」
「まだ寝ぼけてるの?ただのインスタントだよ」
苦笑して答えるジャック。毎朝の日課であるコーヒーをベットで飲んで、頭もスッキリしてきた。俺はアラームが鳴れば起きれるが、直ぐに目覚めることが出来ないからコーヒーに頼っている。家なら自分で淹れて飲むが、寮生活だから俺より早いジャックに次いでに淹れて貰っている。
昨日からIS学園の寮生活が始まった。
修繕作業が終わってからは、学生寮の部屋に戻ってシャワーを浴び、寮の食堂で夕食を取った。その時は深く考えなかったが、料理の種類が豊富だった。生徒の国籍は様々だから、食堂の料理も似合った物を選べられるように配慮した結果だろう。
その後は部屋でくつろぎながら、アークの改修案をジャックと共に話し合った。実家兼研究所に置いてある訓練用アークをベースに改修すれば問題無いが、今回のクラス代表決定戦は異なる二人との連戦になる。各案を出していれば、ジャックもいろいろ考えて腕を振るってくれるだろう。
そして話し合いの結果、オルコット戦用、一夏戦用との改修案と武装選出をすることに、最終調整を決定戦前日に合わせようと暫定して終了。その日の長旅もあって早めに就寝し、今の時間に起床した。
(時間は……7時20分頃か。時差ボケの心配はなさそうか)
目覚まし時計を見て、俺の体内時計は正確なままだと確信した。それじゃあ、身支度していかないと。
「兄さんは食堂の朝ごはんどうするの?」
「普段、家で食ってるモノでいいだろ。しっかり食べとかないと頭が働かん。食後にギリシャヨーグルトのフレークがあれば尚良いがな」
「せっかく日本に来たから、僕は和食の朝食にしてみようかな?昨日の晩ごはんのサバミソ定食は美味しかったし、期待できそう」
「……美味かったのは認めるぞ。だけどナットウは癖が強すぎだ。毎回食べたいモノじゃないぞ」
「僕は美味しいと思うよ?一口二口と食べ進めてたら、意外と癖になる味だったし」
そんな会話をしながらだったが、俺たちは同時に身支度を終わらせ、食堂へと向かうのだった。
「……昨日みたいにラフな格好の女子っていないよね?」
「……思い出させるなジャック。あれは俺も恥ずかしかったから」
例え前世を思い出しても、肉体は年相応なんだよ。
「ん?おー、クロムにジャック。おはよう」
「一夏か。おはよう」
「やあ、一夏。おはよう」
学生寮の食堂。俺とジャックがテーブル席で朝食を取っていると、一夏が声をかけてきた。手には朝食のトレーを持っているようで、一夏は今から食事のようだ。
因みに俺の朝食はトースト二枚に目玉焼き、ウインナー、サラダ、コーヒーのモーニングセット。〆のデザートとしてギリシャヨーグルトにフレークと数種のドライフルーツを混ぜたモノだ。特にデザートのヨーグルトが置いてあったのは重畳だ。フレークとフルーツの種類を変えれば何通りも試せる。因みにジャックは朝に言った通り、和食セットを頼んでいる。
「一夏も朝飯か。相席出来るぞ」
「サンキュー。食堂までの道のり、いろんな女子に話しかけられたからな。同じ男子がいるだけで安心するぜ」
「朝からお疲れ。ん?僕と同じメニューだね、ソレ。このシャケ美味しいよ」
「お、そうなのか。そいつは楽しみだな」
一夏が空いた席に着く。ジャックの向かい側だ。
「……………」
そんな中、一夏と一緒にいた女子がトレーを持って立ち、こちらを見つめていた。
長い髪をリボンで結んだポニーテール女子。不機嫌そうな目付きで近寄り難い印象だが、俺が感じる雰囲気には不機嫌さがない。生まれつきか?
「箒。クロムたちが良いって言ってくれたんだ。早く座ろうぜ」
「……分かっている」
そう言って彼女は俺の向かい側に座った。
「ねえ一夏。彼女って一夏と知り合いかい?」
「ああ、幼馴染の
「……篠ノ之箒だ」
一夏の紹介に彼女……篠ノ之が俺たちに頭を下げる。
……篠ノ之だって?
「へぇ、幼馴染かー。僕はジャック・ボルン。よろしくね篠ノ之さん」
(『兄さん。篠ノ之さんってもしかして』)
「昨日も紹介したが、クロム・ボルンだ。ジャック共々よろしく」
(『間違いない。
会話と共に短めの
篠ノ之と訊けば、殆どの者から有名な人物だ。何せ、ISを開発した人物の名字がソレだからだ。
その人物とは
その後、日本政府は篠ノ之博士の血縁者を監視、聴取。重要人物保護プログラムにより多くの引っ越しを繰り返し、家族も離れ離れで暮らすはめになった……と、俺の家で長いこと贔屓している探偵の資料から。
その資料に、目の前の篠ノ之が載っていた。入学の理由までは資料に載って無く、何故この学園に入学したのだろうか……。
(妹と接触する確率が高いから、動向を注視しろとIS委員会は騒いではいたな。別にしないし、むしろ普通に接した方が篠ノ之も安堵するだろ)
確かにISを開発した篠ノ之博士はスゴいだろう。だが家族を無下にした結果が、被害者である血縁者の幸せを奪っている。俺の爺さんとはえらい違いだ。
「よろしく頼む、ボルン」
「クロムでいい。名字だと分かりにくいだろう」
「僕もジャックでいいよ。よろしく箒さん」
「そ、そうか……。なら、改めてよろしく頼む、クロム、ジャック」
俺たちの挨拶に篠ノ之が返事をした。つい先程の一夏とのやり取りで近寄り難い印象だと思ったが、その微笑みは意外とかわいいじゃないか。
それから暫く、俺たちは朝食を取りながら会話を弾ませた。時々、噂の男性
「ごちそうさま……。それじゃあ一夏、箒、また教室で会おう」
「そんじゃねー」
結果として、篠ノ之を名前で呼ぶくらいの距離が得られた。
「ああ、後でな!」
「また、な……」
そして俺とジャックは朝食を終わらせては一夏たちと別れて、本日の授業の準備をするために部屋へ戻るのだった。
◆
「──という訳で、ISは宇宙での作業を想定して作られているので、
本日の授業二時限目。副担任の山田先生が立体映像を用いた授業を聞きながら、私……篠ノ之箒は今朝の食堂でのことを思い出していた。
(ボルン兄弟、か……)
一夏に遅れて、IS適合を持つことが発覚した兄のクロム。そして特別枠で入学を果たした弟のジャック。
異性の存在ではあったが、彼らと初めて話しては打ち解けるのが早い気がした。多分だが、兄弟のコミュニケーション能力が高いのだろう。昨日も彼らの周りの女子は仲良くなれていたようだった。
『ほお、箒はケンドーの優勝者か。スゴいじゃないか』
『ねえ、箒さんの好きな和菓子ってある?食堂で和菓子が売ってあるらしいから、参考にしたいんだよ』
私も、まあ名前を許すほど仲良くなれたようだ。
だけど、私がボルン兄弟を見て感じたのは──
(仲が良かったな……)
──小さな嫉妬だった。
私にも家族はいる。だけど姉さんの開発したISが、私を……家族を引き裂いた結果、私が中学の頃には一人で暮らしていた。
そして頻繁に現れる政府の人間やIS委員会の役員による尋問。心が荒んでいくのを感じた。剣道も相手を八つ当たりにすることが多くなっていた。
だから、こんなことになった原因のISが嫌いだった。
でも、ニュースで一夏が初めてISを動かした男だと発覚した時、私の中の何かが薄れては決断した。
一夏に会いたい。その思いが強くて、元々入学予定した高校をIS学園に変更した。手続きは政府が行ったようだったが、その頃にクロムが第二の男性IS適合者とニュースで騒がれていた。
その時は一夏のことで頭が一杯で、そこまで詳しく見ていなかった。姉さんがISを発表する前から、様々な分野の発明をした天才科学者の孫と、ニュースや特番で知ったくらいだ。
そして昨日のボルンたちの行動で、何か既視感を感じた。小学生の頃、一夏と千冬さんのような、姉弟の繋がり。
(飢えているのだろうか?)
家族愛に……。兄弟愛に……。
キーンコーンカーンコーン
「あ」
授業が終わってしまった。まあ、内容は中学で習った復習みたいであったし、そこそこ理解すればいいか。
一夏と出会えて、さらに同じ部屋で暮らしているんだ。ISよりも一夏との生活が優先だ。うむ。
しかし、後に一夏が専用機を持つことになるのを、今の私は知らなかった。これではISをもう少し学ばないといけないではないか……。
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5:クラス代表決定戦準備期間①
「授業を始める。この時間は空中におけるISの基本制動だ。教科書の──」
3時限目。織斑先生が教壇で説明を行っているが、この辺りも実家で習ったことのある内容だ。隣のジャックに視線を向けると、ジャックはジャックで立体映像へと視線を向けては勉強している。
しかし何気にIS学園の黒板って高性能だな。チョークによる筆記はもちろん、立体映像を目の前で映し出せるんだしよ。
「……あぁ、連絡事項があったな」
そんな中、何かに気付いたのか織斑先生の視線が向けられた。正確には一夏に向けられていた。
「織斑、お前のISだが準備まで時間がかかる。予備機が無いので、学園で専用機を用意するそうだ。だから少し待て」
「へ?専用機?」
「えっ、一夏に専用機!」
「ほぉ、一夏に専用機か……」
織斑先生の言葉に一夏は分かっていないように、ジャックは目が輝きながら驚き、俺は政府の対応に納得するように発した。
「一年のこの時期に専用機!?」
「つまりそれって、政府からの支援が出てるってことで……」
「いいな~。私も早く専用機欲しいなぁ……」
俺たちを皮切りに教室中がざわめくと、分かっていたのか織斑先生は呆れるようにため息しては視線を向けて……って、何故こっちに向けてるんだ?
「説明しろ、ジャック・ボルン」
「え、僕ですか?」
「お前の反応がでかかったからな」
「あっはい。そう言うことなら……」
それでいいのか?
まあ、ジャックが納得してるなら良いが……。
「それじゃあ説明を始めます。詳しい内容を知りたい人は教科書を読んでね。
……ISが発表されて10年、現在稼働している機体数は全世界で467機あります。退役した世代の機体も入れると約600以上あると言われてますが、ISの中心たるコアが
ならコアを自ら開発すればいい?コアの作成技術は一切開示されてないから作れないし、僕を含む現在の開発者では不可能な技術力の塊です。若しくは開発出来たけど秘密、開示しない……と、国家の外交問題に関わるんじゃないかとは僕の妄想。
だったらコアの作成を依頼すればよかろう?残念ながら、今ある全てのコアを作った博士は現在消息を掴めず連絡不可能。それ以前に一定数のコアを作ることを博士が拒否しているので依頼も無意味なんだ。
その結果、各国家・企業・機関・組織はIS委員会が割り振ったコアを使っていかないといけません。因みにコアの割り振る基準としては、国家予算・人材・戦績等々、それらを基に委員会が決定してるらしいよ。
つまり、専用機は国家あるいは企業に所属する人しか与えられません。一夏と兄さんの場合は男性適合者で事例が全然無いから、データ収集を目的として専用機を用意してるんだ。
……こんなもので良いですか?」
「ふむ。少し余計な情報もあったが、良いだろう。理解できたか?」
「えっと、なんとなく……」
まだ理解していないようだが、一夏は頷いた。
「えっ!クロムくんも専用機持ってるの!?」
って、女子の一人がジャックの内容に反応した。つまり、まだ騒がしくなる予感がするぞ。
「とすると、このクラスだけでも専用機持ちが三人もいるのね!」
「すごいねクロぽん!」
「ねえ、クロムくんの専用機って分類は何?射撃型?格闘型?それとも強襲型?」
「……あー、そんなに騒がしくすると」
「……………!!」
カン!カン!カン!
「きゃっ!」
「あうっ!」
「ふぎゃっ!」
一瞬だった。何か一夏が騒がしい女子に注意した瞬間、甲高い音と共に女子が短い悲鳴をあげていた。
(見えて、しまったな……)
高い動体視力の俺は見えた。織斑先生が右腕を振って、握っていたチョークを投擲して正確に額を狙ってやがった。
しかも
ってか、どれだけチョークを持ってんだ!?
「今は授業中だと忘れているようだな、お前たち。次ふざけたことをすれば──」
バアンッ!!
「──
(先生、完全に脅しにきてるな……)
「異論は無いな……。では、授業を再開する」
そして出席簿をバシバシ手で叩きながら言ったのが項を奏したようで、昼休みまでの授業は全員なるべく静かにすごしたのだった。尚、数名が織斑先生の行為を受けたくて羨ましそうに見つめていたのを、俺は見ていない。見てないったら見てない。
◆
キーンコーンカーンコーン
「んーっ。やっと昼かぁ……」
昼休みのチャイムが始まって、俺……織斑一夏は体を解きほぐすように腕を伸ばした。授業で疲れたのもあるが、休み時間毎に話しかけてくる女子の対応が最も疲れた。授業内容は全然だったが、参考書を見ながら聞いてた分、昨日よりはまだましな方だと思うんだけど……。
「……やっと話せますわね」
げ。
休み時間中は他の女子が来てたからよかったけど、このタイミングで来るのか。
「なんですの。その「げ。苦手な人が来た」って言いたげな表情は」
「い、いや。そんなこと無いぞ、オルコット」
図星だ。初日の
ってか、俺そんな顔に出してたっけ?
「まあ良いですわ。そんな事よりも、わたくし安心しましたわ。まさか訓練機で対戦しようとは思っていなかったしょうけど」
腰に手を当てて言うオルコット。どうでもいいけど好きだねそのポーズ。モデルでもやってたのか?
「まあ?一応勝負は見えていますけど?さすがにフェアではありませんものね」
「なんで?」
「あら、ご存じないのね。それは──」
「オルコットが専用機持ちだからだ、一夏」
オルコットの言葉を遮り、クロムがジャックを連れて近付いてきた。
「コアを使用したISは全世界で467機。量産型と違って専用機に選ばれるのは、エリートの証の一種だろう」
「あら、さすがボルンさん。そちらと違ってよく理解されてますわ。そう!このセシリア・オルコットこそ、専用機に選ばれたエリート中のエリートなのですわ!」
クロムの言葉にオルコットが上機嫌にまくし立ててきた。
「無論、代表候補生だから専用機を持つとは限らないよ。専用機は実験・試作機の意味合いが濃くて、
「……………」
そんな中、ジャックが補足するように説明したら、見る見るオルコットの機嫌が下がってきていた。
「た、確かに弟さんの言葉にも一理ありますわ。ですがソレはソレ、コレはコレ。長時間専用機を持つわたくしと
「水を差すようで悪いが、俺は今回専用機を使わないぞ」
「「え?」」
俺はクロムの言葉に疑問を抱き、オルコットは理解出来ないような声を発していた。
でも前の授業で、ジャックが専用機をクロムも持ってるって言ってたぞ。
「専用機は持ってるんだがな。だけど専用機専用の
「なるほどなー」
「一夏、理解してる?」
なんとなく。
「……ん、んんっ!では、やはりこの試合はエースであるわたくしの圧勝ですわね。ISを全く理解しない
胸に手を当てて言い切るオルコット。その自信満々な言葉と小馬鹿にする視線に、俺はムカついてしまう。
「……一つ忠告しておこう、オルコット」
ふと、クロムが口を開いた。気のせいか雰囲気が変わったような……真剣な話をしている千冬姉みたいになって、俺の肌が感じてる。
「エースを名乗るのは別に構わん。実際首席入学だし、専用機を持っているからな。だが──」
ギンッ
「あまり
「「っ!?」」
一言で例えるなら……プレッシャー。
言葉でどう表していいか分からないが、俺と同い年の男子が、どうやってそんな凄みを出すことが出来るんだ?
オルコットを含む近くにいた女子も、クロムの雰囲気に飲まれそうになったのか、若干涙目で怯んでるぞ。
「──ようするに、だ。あんまり馬鹿にしてたら足元をすくわれるぞ。訓練機相手でも油断しないことだな」
そんな思いの中、クロムの雰囲気が戻ったのか声色が朝に聞いた時のものだった。今のはオルコットに対しての戒めだったのだろうか、俺には分からなかった。
「ふ、ふんっ!ま、まあ、どちらにしても、クラス代表にふさわしいのはわたくしですわ。そのことをお忘れなく!」
そう言ってオルコットはきれいに回れ右、来た時と違ってそそくさと教室から立ち去っていった。
「それで一夏、昼飯にでも行くか?」
「お、おう……」
「怖がらせてごめんね。兄さん、たまに怒ることあるから」
「怒ってはいない。ただオルコットには男だけで見下すようなことをしないようにだな……」
「はいはい、とりあえず今は昼御飯食べに行こうよ。一夏は誰か誘う人いる?」
「へ?あー、だったら……」
「……………」
何やら箒が仲間に入りたそうに見つめてるな。よし。
「箒、飯食いに行こうぜ」
「う、うむ。そうだな……」
やっぱり誘うべきは幼馴染だな。すごく喜んでるようだ。
「はいはいっ!」
「私も行っていいですか!」
「お弁当作ってきてるけどついてきます!」
おお、予想外の所で他の女子たちも立候補したな。まあ、箒も友人を作る切っ掛けが……。
「……………」
あれ?箒の機嫌が一気に下落したぞ。何故?
それから俺と箒、クロムとジャックは学食へやって来た。寮の食堂とは規模が違うなと思いつつ、食券をおばちゃんに渡しては鯖の塩焼き定食を受け取った。
因みに他の女子なんだが、箒のぐぬぬとした顔に睨まれたのかキャンセルが入った。
「クロぽんとジャッくんは何するー?わたしはねー、今日はきつねうどんだよー」
「ウドン?あぁ、日本のパスタか。それじゃあ僕も同じものにしようかな。兄さんは何する?」
「このカツ丼にしよう」
ただ一人……えーっと、のほほんさん(仮)だけがついてきた。まあ、俺の誘いより、クロムたちの誘いにのったようだけど。
それから俺たち五人は空いてたテーブルについて食事を取った。会話を交えての会話だから普段より美味く感じると思っていると、クロムが口を開いた。
「代表決定戦まで今日を除けば5日後だが、一夏は何か対策を考えているのか?」
「た、対策?」
「あれだけ見栄を張ったんだ。なるべく試合にしないと、織斑先生の顔に泥を塗ることになるぞ」
「……そもそもくだらない挑発に乗るからだ、馬鹿者め」
味噌汁に口を付けながら呆れる箒。それを言ったらおしまいじゃないか。いやそうなんだけどさ。
「それじゃあ、僕が教えようか?ISのこと」
そんな中、手を差し伸べてくれたのはジャックだった。
「いいのか?」
「もちろんオッケーだよ。開発者志す者、学ぶだけじゃなく教える事も大事だしね」
それは心強い。さっきの授業の説明も任されてたし、これは期待出来るな。やっぱり同性の友人が出来てよかったぜ。
「あ、でも今日からしばらくは出来ないなぁ。兄さんが代表決定戦で使う訓練機を調整しないとだから、教えるにしても遅い時間になるよ?」
「え。そうなのか?」
それだと躊躇してしまう。授業後に機体の整備とか、体力的に疲労が貯まってそうだよな。
「ねえ。君たちって噂の男の子でしょ?」
そんな中、俺たちのテーブルへといきなり隣から女子に話しかけられた。リボンの色を見たら赤色で、どうやら3年生の先輩のようだ。
「はあ、たぶん」
「たぶんじゃないぞ一夏」
クロムに突っ込まれるも、名も無き先輩は話し続ける。
「代表候補生の子と勝負するって聞いたけど、ほんと?」
「はい、そうですけど」
「でも君、素人だよね?ISの稼働時間はいくつくらい?」
「えーっと、20分くらいだと思いますけど」
「それじゃあ無理よ。ISって稼働時間がものをいうの。代表候補生だったら尚更ね。軽く300時間はやってるわよ?」
(うーん、ピンとこないな……)
そう思っていると、クロムが言った。
「そこの先輩の言う通りだぞ、一夏。授業でもやったが、操縦時間に比例してISも
「つまり、練習は裏切らないというわけか」
なら納得だ。
「でさ、私がISについて教えてあげよっか?」
言いながら身を寄せてくる先輩。ちょっと恥ずかしいが、その申し出はありがたい。ジャックの疲労の心配をしないで済むし、先輩なら色々な知識を教えてくれそうだ。
「はい、ぜ──」
「結構です。私が教えることになってますので」
是非に、と言おうとした言葉を、箒に遮られた。
あれ?箒に教えてもらうとか言ってないと思うんだが。
「あなたも一年でしょ?私の方が上手く教えられると思うなぁ。それにあなた、ISでの模擬戦の経験はあるの?」
「……………ありません」
「それでどうやって、私より上手に教えるつもりなのかしら?」
「……………」
一触即発な空気。だけど破ったのは箒だった。
「……私は、篠ノ之束の妹ですから」
言いたくなさそうに、それでもこれだけは譲れないとばかりに言った。
「篠ノ之って……………ええ!?」
「「「「「ええー!?」」」」」
先輩も含む学食にいたクラスメートたちも驚いた。そりゃあ、ISを開発した人の妹が目の前にいればなぁ。
「な、ならあなたはどうかしら!」
すると、先輩はクロムに声をかけたが、クロムは食べ終えた器を置いて言った。
「ありがたいお話ですが、今回の試合は自分の実力で挑んでいきたいので、またの機会にします。まあ、箒の言葉を借りるなら、自分はパールティの息子ですから」
「パールティ?」
クロムの言葉に出た人物……パールティ。
クロムの言葉を理解するなら、つまり……親。ISで繋げるなら、クロムとジャックの母親なのか?
「ぱぱ、パールティ!?」
って、先輩がさっきの箒の言葉より驚いてるぞ。そんなにすごい人なのか?
「パールティ・ボルン!初代モンド・グロッソの格闘部門の上位入賞者!」
「あの千冬姉様を唯一敗北させた、唯一の第一世代IS
「え、千冬姉を!?」
あの最強と言われた千冬姉を負かす存在がいたなんて、まじかよ!たしかに凄い人だ。
「それと爺さんはジーニアンです」
「ぶぇふぉ」
追い討ちをかけるようにクロムが言うと、先輩も頭の整理が追い付かないのか吹き出した。ちょっと品が無い気がするが、無理もないよなぁ。
「ですので、結構です」
「そ、そう。それなら仕方ないわね。試合、がんばってね……」
そう言って親切な先輩は軽く引いた感じで行ってしまった。
しかし気持ちは分かる。束さんも凄いのに、天才科学者の祖父、千冬姉をも倒す母親の血筋を持っているクロムとジャック。普通ならたじろいでしまうよな。
「へぇー!箒ちゃんも有名な人と繋がってたんだ、スッゴーい!」
「え、いや、その……」
そう思っていると、箒がのほほんさん(仮)に押されてる。まあ、雰囲気がのんびりしてるというか、詮索を感じないから戸惑ってるんだろうな。まさかクラスの中で箒をたじろがせる人物がいたとは……。
「なんだ?」
視線に気付いたのか、箒が聞いてくる。
「えーっと、教えてくれるのか?」
「そう言ってる」
「それじゃあ、僕も日が合えば教えてあげるね。それまで箒ちゃん、頑張ってね」
「あ、ああ。任されよう」
そんなわけで、俺はクラス代表決定戦まで箒とジャックに教わるのだった。
「では一夏。今日の放課後、訓練棟の道場に来い」
訓練棟とは、ISの操縦に必要な筋肉や体力を作るために設立された施設だ。訓練以外にも、運動部が使う場所として解放されている。学園に配布された生徒手帳から一文を抜粋。
「一度、腕が鈍ってないか見てやる」
「いや、俺はISのことで──」
「見てやる」
「……分かったよ」
まったく、なんて強情な幼馴染なんだ。
「訓練棟へ行くのか。俺も同行する」
「クロム院」
「……なんだ今の?」
「あ、いや、気にしないでくれ」
どうやらギャグが通じなかったようだが、急遽クロムも参戦するのであった。
訓練棟は本作品の捏造設定です。原作には無かったはず。
尚、クロムの声はアニメ基準ですので、クロム=関さんです。無論、ジャックは神奈さんです。
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