東方白望記 (ジシェ)
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プロローグ ~転生~

ということで始めた話ですが……こっちで先に謝ります。向こう(異世界生活)の方の更新遅くてすみません。もう先は決まってるからもう少しお待ちを。他作品の話題はこれぐらいでとりあえず本文の方どうぞ!


俺何してたっけ?つかここは何処だ?確か……ああ俺車に轢かれたんだっけ。何も見えないな。何も聞こえない。死ぬのってこんな感じなんだなあ。もっと人生楽しみゃよかった。

______

 

「ん?あれ?俺生きてんの?」

 

確かに車に轢かれて死んだと思うんだけどなぁ。つかここ何処?

 

「やっと気が付いた。早く起きないから私が眠くなっちゃった。」

「うおゎ!びっくりしたぁ!」

 

え?何この子供。何で急に顔の前に出てくんの?俺が女苦手なの知っててやってる?子供でも無理だよ?

 

「きゃ!…もうこっちがびっくりよ!急に大声上げないでくれる!?」

 

逆切れされた。これは理不尽じゃないか?怒ってもいいか?

 

「はあ…とにかく!説明するから一回座って!」

 

説明?ああ何で生きてるのかとか?なら座るか。

 

「私は天使なの。ここは冥界の一つで、貴方が生きてる理由は魂だけでここに留まっているから。」

 

やけに早口の説明口調で早々と説明を終わらしていく。

 

いきなり自分のことを天使だと言ったこの幼女へ、どこが?という言葉が出かけたが、何とか飲み込んだ。殴られた。

 

「待って!何で殴るの!?俺なんも言ってないよ!?」

「これでも私は天使よ!?心を読むぐらい出来るわよ!」

 

なるほど。この幼女にはそんなことが出来るのか。待って待って殴らないで!心が読めるならやめて!

 

「それぐらい声に出しなさいよ!」

 

そんなやり取りを何度かして、ようやっと平静を取り戻してくれた。天使短気過ぎじゃね?

 

「ぜぇーーはぁー……何でこんなに疲れなきゃいけないのよ……」

「はぁーーはぁー……お前のせいだろ……」

「ふぅー……とにかく説明するわよ。……えっと…どこまで言ったっけ?」

 

一呼吸置いて目の前の天使は説明を始めた。

 

「そうそう…こほん。貴方は転生者に選ばれました!」

 

転生?え、何俺生き返れんの?なら出来れば静かに暮らしたいな。

 

「まあ神の気まぐれって奴よ。神様が面白いことないかなぁって言って丁度死んだのが貴方ってだけだから。あ言っとくけど元の世界に転生するのは出来ないから。死亡判定でたのに生き返る不思議な現象が起きちゃうしね。それと幾つか条件はあるからね?」

 

えー元の世界に帰れないの?つか神様そんな理由で人生き返らせんなよ。両親と姉さんにさよならぐらいしたかったなぁ。迷惑しか掛けなかったしゲームばっかやってたドラ息子だったし、こんな早く死ぬとか凄え親不孝者。…まいっか。どうせ帰れないなら転生先で楽しもう。

 

「そうそう人生楽しむのが一番よ?」

 

人間じゃない奴が何言ってやがる。あ、すみません。殴るのは勘弁してください結構痛いんです。

 

「それで条件なんだけどね?転生できる世界が一つだけなのよ。」

 

……は?転生できる世界が一つ?選べないの?え、最悪なんだけど。これで女だらけの世界だったら俺泣くよ?男だらけでも泣くけど。

 

「仕方ないじゃない。異物受け入れてくれるまともなとこここだけなんだから。」

 

え、なに俺異物扱い?俺受け入れてもらえないから一ヶ所しかないの?なんか酷くね?そもそも青信号で車に轢かれたんだよ?俺何も悪くないよね?それに俺結構成績よかったしバイトもしてたんだよ?何か悪いことした?

 

「うん、それは運がなかっただけだから。大丈夫きっと転生後はもっといい暮らし出来るわよ、うん。」

「ん?つかまともなとこってどうゆうこと?他でもいいんじゃ……」

「いいの?人間いなかったり動物と人の立場逆転したりしてるけど……」

「(少し涙流しながら)まともでお願いします。それで俺赤ん坊から始めんの?記憶なくして?」

「ううん貴方のまま行ってもらうわ。姿はね。ただ記憶はなくなるけど。」

「え、俺記憶なくして親無し宿無し金無し三点セットの放浪生活しなきゃいけないの?」

「うん。」

 

なんかさらっと絶望的なこと言ったんだけど。つか知識もないや四点セットだ。…死ぬより辛くね?

 

「そんなことないわよ。その代わり貴方の望む設定で転生させてあげるから。」

「俺の望む?能力とかもらえたりすんの?」

「貴方が望むならそれぐらいしてあげるわよ?」

 

冗談混じりに言ったのに出来ちゃうの?これが転生の特典ってやつ?こ〇すばよりも良くね?……あ、特に欲しい能力も設定もなかったわ。

 

「貴方って今にしては珍しいほど欲がないのねぇ。一つぐらいないの?」

「いやぁ生まれてこの方願いとか何もなかったんだよな~」

「なら今の状態で記憶なくしてどっかの村にほっぽり出すけどそれでいい?」

「う~ん一つだけ聞きたいんだけど……」

「何?」

「どう頑張っても記憶って残せないの?もしくは記憶を取り戻すとかさ。」

「残すことはどう頑張っても無理ね。転生時に未練残るとなにかと面倒だし。後から取り戻すならやる方法はあるわ。」

「マジで?」

「うん。自分で記憶なくした後の自分に課題を出すの。クリアしたら記憶が戻ってくっていう風にすれば出来るわよ。まあ歳の数だけやってもらうけどね。ああ、あと不死にでもなって死ぬ度に記憶戻るようにでもしたら?それでも出来るわよ?他にぱっと思いつくのは……」

「なるほど。でもどんな世界かも分からないのに課題を出せって言われてもなぁ。後死にたくない。」

「ふふ、貴方東方projectって知ってる?」

「?ああ。」

「その世界よ。」

「………は?」

 

せっかくいい奴なんじゃないかと思い始めてたのに急降下したわ。女嫌い知っててそれは酷いわ。可愛いとは思うけど女性ばっかはきついよ?

 

「そんな露骨に嫌そうな顔しないでよ。安心して。幻想郷出来る前の時代に送ってあげるから。」

「あーまあそれな……ん?ちょっと待て。幻想郷出来る前の世界なんて俺みたいなにわかが知るわけないだろ。課題なんて出せないじゃん。」

「あの世界貴方の世界の昔話から出てるキャラばっかりだし、昔話で出来そうなことを課題にすれば?」

「昔話………そういや萃香って酒呑童子なんだっけ。あれ?茨木だっけ?まあいいや。じゃあそれで作ってみるわ。昔話は結構詳しいからな。」

 

日本昔話とか暇なとき見てた人種だからな。

 

「古い趣味ね。じゃはい紙とペン。これに書いて。十八個。他に希望は?」

「サンキュ。そうだなぁ……じゃあ二つ、出来ないならいい。」

「何?」

「あの世界なら戦えた方がいいし、霊力とか魔力とか使えるようにしてくんね?能力はいいから。出来れば人より多いくらい。あんま強くなくていい。それと……不老不死にして。」

「……欲はないとか言ってなかった?それに死にたくないとか。死ぬ場合何回も死ぬわよ?霊力とか使えても、さっきの言い方だと安全は保証出来ないし。永遠に生きても、望みがなかったら、目的もなにもないなら、ただ退屈なだけよ?」

「望みがないから生きたいんだよ。永遠でも時間を過ごして、俺の生きたいように生きてみたい。死ぬのは嫌だけど、それならずっと生きるのも悪くないんじゃないか?」

「…………変なの。」

「うるせ書き終わったぞ。」

「見せて。……うん、これなら文句ないわ。でも昔話に関係するもの以外もあるみたいだけど……まあいいか。早速準備に入るけど………貴方の準備はいい?」

「いつでもいいよ。」

「じゃ最後に転生後の名前を作って。」

「あーやっぱ必要なんだな。」

 

なんか無難なのしか思いつかないな。なんか面白いのがいいな。……

 

「……決めた!俺の名前は……」

______

 

「じゃあまたいつか。幻想郷で楽しい暮らしを出来ることを願ってるわ。」

「サンキュ。せいぜい楽しく生きさせてもらうよ。」

 

目の前が真っ白に……死ぬ時とは逆なんだな。記憶なくなってもどうか楽しめますように。

 

――――――

 

「……女嫌いなのも忘れるなら幻想郷でも関係ないよね……?……初回から女性関係って大丈夫かなぁ……」

 

私はとても不安でした。

 




長いのは多分今回だけ。平均は1000~1500くらいの文字数にしたい。とゆことでまた。


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一話 ~スポーン地点は人の家~

サブタイ通りです。主人公放浪はかわいそうだしね!


「がっ!」

 

いきなり落下して頭ぶつけた。痛い。何なのいきなり?……ん?あれ?俺って誰だっけ?頭ぶつけた時に記憶失ったの?やべえ、これからどうしよ。家にも帰れねえ。……あれ?本当に何も思い出せない。でも家とか人とか基本知識は残ってるな。意味が分からない。

 

『そのことは私が説明するわ。』

 

……なにこれ?頭に直接響いてくる感じに聞こえる。まあそんなことどうでもいい。説明してくれるならしてもらおうじゃないか。

 

『じゃあたしの役目は終わったから、課題頑張りなさいね~。クリアする度に書かれた紙が右ポッケに出現すると思うからなくさないようにね~」

 

一通り過去の自分が頼んだことを説明された。見せられたの方が近いかもしれない。それで重要なことは教えてくれないから少し酷い。とりあえず………

 

「まずここ何処だよ?」

 

何も俺の居るところについて説明してくれなかった。しかもどう見ても人の家。不法侵入で捕まったらどうしてくれんだよ!

 

「あ、貴方………誰?」

 

入り口には一人の少女が立っていた。最悪のタイミングだった。

 

転生は感謝するけどこれは酷い。神様貴方は僕が嫌いですか?…天使か。…いつか殴る。とにかくなんとか誤魔化そう。

 

「えーと……気が付いたらここに居たってゆうか記憶がないってゆうか……」

 

こんなに俺は口下手だったのか。逃げるか?

 

「あの、顔、大丈夫ですか?」

「顔?」

 

触ってみると手に血が付いた。

あー鼻血か。つか顔も痛い。何で気付かなかったんだ。

 

「気付いてなかったんですか!?そんなに血が出てるのに!?待っててください!すぐに布持ってきますから!」

「いや、いいよ。治り早いからどうせすぐ治るし。」

「そ、そうですか?でも血も拭かなきゃ駄目ですし………」

「そんなの服少し破って使うからいいよ。」

 

そう言って服の下の方に手を掛けた。簡単に割けてく。割ききった布で手を拭き、そのまま鼻に布を当てる。

 

こんな小さくても使い道は結構あるんだよなぁこうゆうの。

 

「あとここ君の家?ごめん勝手に上がり込んで。すぐに出てくから。」

 

出ていこうと少女(多分あまり俺と歳は変わらない)のいる方へ移動する。

 

「あ、あの!よかったら少しお話しませんか?」

「え?でも迷惑じゃ……」

「……私の眼、左右で色が違うんです。それを気味悪がって誰も話してくれないんです……だから、少しでも、誰とでもいいからお話したいんです。駄目……ですか?」

 

自分より少し小さいほどだったから上目遣いみたいになった。黒と黄、綺麗な色のオッドアイ。茶色がかった黒髪で片眼を隠しており、普通に可愛かった。髪が長いから、見え方によっては変わるんだな。まあ好きになったかと言われればまだ何も知らないから別にだが。

 

「別にいいよ、それぐらい。勝手に上がり込んだんだし、お詫びに何でも言って。出来る限りのことはするから。」

「あ、ありがとうございます!」

「名前は?」

「月雲 夜《つぐも よる》です。」

「俺は筑城 望《つゆき のぞむ》。よろしくな。」

「はい!」

 

転生して初めての友人だ。でも俺は不老不死。いつか別れは来るだろう。ならせめて、それまでの間だけでも、この孤独な少女を支えてあげよう。

 

________

 

「ここのこと、分かりましたか?」

 

今の今まで説明を受けてた。この村に関して教えてくれないか?って言ったのは俺だ。しかし話始めると夜は口を止めず、既に一時間を経過している。これは流石に度が過ぎてないか?つかただの説明をこんだけ長々と話せるって一種の才能だろこれ。とにかくそろそろ疲れた。もう分かったとしか答えられない。

 

「じ、実際に後で見に行ってくるから、説明はもう平気だよ。ありがとう。」

「あ、いえ、聞いてくれて、ありがとうございます!」

「敬語は…いい。なんか硬い感じって合わないんだよな。だからさ。」

「は……うん。」

「よし。そういえば今何時?」

「あ……もう夜……」

 

マジかー。いやそもそも俺何時ぐらいからここに居たんだ?話始めてからは一時間ぐらいだと思うけどなぁ。

 

「じゃ俺はもう行くわ。村長に話でもすりゃ空き家ぐらい貸してくれんだろ。」

「泊まらないの?」

「え、泊めてくれんの?」

 

マジかーそりゃ驚き過ぎて反応もワンパターンになるって。え本当に泊めてくれんの?行き場ないから凄ぇ助かるんだけど。なんで小首傾げて泊まらないのか聞くの?俺が泊まる気満々みたいじゃん。泊まるのが当然みたいじゃん。

 

「もっと話したいの。説明しかしてないし、嫌わない人初めてだから……」

「オッドアイが嫌われるか。生まれつきの体質で嫌われること程酷い話はないな。綺麗だし、俺なんか見惚れたぞ?」

「え……っーーー!」

 

顔赤くして俯いた。本心言っただけなんだけどなぁ。実際綺麗な色してるし。まあ泊めてもらえるなら助かるし、今日は泊めてもらおう。

 

「じゃ今日は泊めてもらうわ。俺の事情は何にも話してないしな。」

「う、うん!じゃ、じゃあご飯作ってくるね!」

 

?何であんな焦ってんだ?まいっか。そういや課題ってなんだ?確か右のポケットに……これか?

 

[永琳の試薬を飲め]

 

なにこれ?永琳って誰?試薬って何?実験台になれっていうこと?失敗作なら死ぬの?……あ、俺不老不死だった。………マジかぁ。最初の課題からハードすぎね?前の俺は何を考えてたんだ。とにかくポケットに入れて持っとくか。記憶取り戻すのに必須だからな。つか課題なんで紙に書いておくんだよ。天使なら頭に響かせるぐらいしろよ。会話はそうしたくせに。

 

その夜はこの街のことを聞いていたら、眠らずに朝を迎えた。

 

 

 

―――――

~望を引き留めたあたり~

―――――

 

「あ、あの!よかったら少しお話しませんか?」

 

(ああーーー!やっちゃったーー!初対面の人引き留めちゃったーー!どうしよどうしよーー!……でもなんで止めたんだろう……?と、とにかく何か話題――)

 

私は無意識に引き留めてしまった少年に、自分のコンプレックスを暴露した。激しく後悔したが、彼は気味悪くないのだろうか?この色違いの眼を綺麗とまで言った。不思議だったが、私は彼をもっと知りたいと思った。

 




主人公は過去のトラウマが記憶ないながらに残ってます。基本フラグとかは信じないので天然ジゴロ&女性不信です。トラウマは後の方で書きます。


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二話 ~村長は大体いい人~

「ふわ~あ。」

 

 

 

昨日寝れなかった分超眠い。でも信頼に足る人が一人でも出来てよかった。今日は村長んとこ行こう。何年かはのんびりしよう。死別は一応辛いし、夜が結婚でもしたら村出るか。よし。そうと決まりゃ早く家見つけねえとな。

 

 

 

「望さん、起きた?」

 

「夜、丁度いいとこに。村長の家まで連れてってくんね?家探そうと思って。」

 

「あ、そうよね……うん、行こう。ついてきて。」

 

 

 

……なんか笑顔なんだけど。そんな俺居なくなんの嬉しい?泣くよ?

 

________

 

 

 

『おい見ろよ。あいつあの色違いと一緒にいるぜ?』

 

『マジか信じらんね。よく一緒に居ようと思うな。』

 

『あんな気味の悪い女とよくいるぜ。』

 

 

 

……夜の悪口が絶えない。見る限り(極一部だけど)そこそこ化学は発展しているから、虹彩異色症くらい知ってそうだけどなぁ。医学も発展してるだろ。あれ?でもオッドアイって片青眼とも言われてるよな?夜の眼って何で黒と黄なんだ?……何かあったのかな。怪我とかで色変わることもあるそうだし。……俺が知らないだけか……

 

 

 

「ここが村長の家よ。」

 

「ここかぁ。空き家とかまずあるかな。」

 

「きっとあると思う。あれば貸してくらいはしてくれると思う。村長夫妻はいい人だし、私を嫌わないからね。でも……あまり人と話すのは慣れてないし、いても役に立たないから、私は買い物でもしてるね。」

 

「ん、分かった。家の場所決まったら伝え行くから買い物終わったら家居て。」

 

「うん。」

 

 

 

さてさて村長ってのはどんな人なんかね?

 

 

 

________

 

 

 

えっとインターホンどこ?あ、あった。

 

 

 

「すみませーん。誰か居ますかー?」

 

 

 

あ、この挨拶まずいか?でも居るかは確認しなきゃだし……「はーい。」あこれ居ますね。

 

 

 

返事を返した声は女性のもの。夜より上、多分二、三十代?

 

 

 

「どなたでしょうか?」

 

 

 

出てきたのは二十代ぐらいの女性だった。どう考えたってこの人は村長の妻という歳には若すぎる。

 

 

 

「村長に少し頼み事があって来たんですけど、村長は居ますか?」

 

「ええ。どうぞ。」

 

「ありがとうございます。」

 

 

 

________

 

 

 

先ほどの女性に案内してもらって村長の部屋まで来た。さっきの女性は従者だったらしく、案内が終わったらすぐに去って行ってしまった。どうやら別の人が来客は伝えていたようだ。

 

 

 

「入っていいですよ。」

 

 

 

いや来てること知ってても扉の前にいることなんて分かんねえだろ。何者だよ村長。

 

 

 

「すいません。入ります。」

 

 

 

________

 

 

 

この人が村長らしい。歳は多分六十ぐらい。体格がいいとか頭よさそうとかそんなことはない。ごく平凡な老人だ。

 

 

 

「ようこそ。貴方は旅人ですか?」

 

「少し違います。多分格好でそう思ったと思うんですけど、少し事情があって……」

 

「その事情とは?」

 

「……理由などは省きますが、俺は記憶をなくしてるんです。それで、しばらくこの村に置いてほしいんです。」

 

「……記憶喪失、ですか?それは難儀な……」

 

「はい。その理由は話せませんが、戻す方法は分かってるんです。ですが、住居がないし行く当てもなくて……頼み事というのは空き家を貸してほしいんです。」

 

「……やはりそうですか。少し外れたところに一軒だけあります。案内は従者に任せますので、そこを自由にお使いください。」

 

「……え?そんな二つ返事で了承してもらっていいんですか?」

 

「構いませんよ。人というのは持ちつ持たれつ。困ったことがあれば何でも言ってください。ただ……こちらからも一つ、頼んでもよろしいでしょうか。」

 

「頼み?」

 

「はい。近頃妖怪たちの動きが活発になっているんです。村を襲いに来る者もいて……」

 

「その退治ですか?」

 

「はい。」

 

 

 

妖怪の退治なんて俺出来るのか?でも確かあの天使とか言う奴の説明だと霊力と魔力使えるんだっけ?上手く使えば戦えるんじゃないか?俺。・・・何で能力はないんだろ。

 

 

 

「もちろんその実力がないと断ってもらっても構いません。それでも住まいは保証しますので。」

 

「…少し、時間をくれますか?記憶がない分、自分がどの程度、何が出来るのか何も分からないんです。」

 

「ええ。ご自由に。ですがもし妖怪たちを仕留めてくれたのなら、それなりの報酬はお与えします。」

 

 

 

……妖怪、か。行くか。どうせ死なないならいくらでも挑んでやる。報酬もあった方が生活が楽になるしな。少し力の使い方勉強するか。

 

 

 

「ありがとうございます。期限などは?」

 

「いつでも。お好きになさって下さい。それと……ため口で構いませんよ。敬語は慣れてなさそうですからね。」

 

「!……ありがとう。」

 

 

 

________

 

 

 

「到着しました。この家屋はご自由にお使いください。」

 

「ありがとう。」

 

 

 

与えられた家屋に到着した。お礼を言ったら従者の人は帰っていった。家はそこまで大きいわけでもなく、ぼろぼろなこともない。ごく一般的な家屋だった。

 

 

 

少し家の整理したら夜のとこに行こう。あ、でも遠いな。まあ問題ないか。

 

 

―――――

~望退出後村長視点~

―――――

 

 

(記憶喪失……となると人かすらも分かりませんね…危害を加えないならよいのですが…)

 

「……ふふ…あの少年には危害を加えるなどという考えすらなさそうですな…誰か、永琳殿に彼のことを伝えてきて下さい。」

 

「私が向かいます。しかし…何故嬉しそうなのですか?」

 

「…老人には老人の勘というものがあります。私には、あの少年が今を変えてくれる大きな要因になりうると思うのですよ。」

 

「そう…ですか…では、行ってまいります。」

 

「ええ。お気をつけて。」

 




村長は丁寧語です。永琳さんいる時点で気付いてると思いますが、ある神の村です。一応名前は伏せで。


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三話 ~妖怪退治は苦労の末に~

まだ戦いはないことだけ明言しときます。


「夜~いるか~?」

 

俺は今、夜の家の前にいた。報告に来たのだが、やはり遠い。

 

つかこの距離は狙ったとしか思えないんだけど。ここわりと広いから確実に一キロぐらい歩いてるからね。つか夜全然出てこないんだけど。

 

「よ~る~?いないのか~?」

 

もっかい呼んでみよう。うん?何で出てこないの?扉……開いてる。

 

「夜~入るぞ~」

 

よし入ろう。無断で女の子の部屋に入るのはどうかと思うが、出ない夜が悪い。これで家に居なくてもあけっぱで出かけた方が悪い。

 

そう思い中に入ってみると、そこには試験管を持った夜がいた。

 

「何してるんだ?」

 

ぶつぶつ言ってる夜の後ろから声をかける。

 

「ひゃあ!?」

 

随分と女の子らしい声を上げた。

 

「の、望さん!?いつから居たの!?」

「ついさっき。何してんの?」

「あ、えっと……」

「薬?どっか悪いのか?」

 

普通に心配で聞いてみたけど、何か焦ってんなぁ。

 

「えっと………その………話さなきゃ……駄目?」

「……話したくないならいい、けど…病気なら言ってくれよ?」

「……うん。」

「……そうだ!家見つかったんだよ。結構外れの方なんだけどな?」

「そうなの?よかったぁ……」

「連れて行きたいんだけど……ただ、少し問題がな……」

 

今まで村長と話していた内容を伝えた。

 

「妖怪の、退治……?」

「何で疑問形?」

「だって……危険でしょ?」

「ん、そりゃな。妖怪と戦うのに危険がないわけないだろ。」

「……………」

 

え、なに?俺なんか悪いことした?なんか黙り込んじゃったんだけど。妖怪と戦うのってまずいの?

 

「ねえ、無事で帰ってきてくれる?」

「……心配してくれるの?」

「だって……もし望さんがいなくなっちゃったら……」

「!………ふふ。」

「な、何で笑うんですか!うう……」

「……俺は居なくならないよ。いつか、夜が人と一緒にいられるまで。」

「!ありがとう……」

 

守りたい、この笑顔。聞き覚えあるな。このフレーズ。記憶ないのに。つか暗にいつか去るって言ってたな…今気付いたけど。

________

 

「じゃ、明日また来るよ。すぐに出てくけどね。」

「うん。またね。」

 

夜の家を出て、自分の家へ帰る。もうすでに七時だ。

 

「飯は……いいか。とっとと寝よ。」

 

________

 

「ふわ~あ。」

 

なんだろ。昨日寝れなかった。なのに眠くもないし寝た気もしない。もしかしたら寝なくても平気なのかも。まあ不老不死だしありえない話じゃないか。………あれ?俺一昨日は眠くなかったっけ?疲労度の問題かな。

 

________

 

「よお夜。おはよ。」

「おはよう、望さん。でもこんな早い時間に来て平気?眠くない?」

「いや~体質か習慣か。なんでか眠くなくてさ。起きてるか不安だったけど、来るの早すぎた?」

「ううん。早く会えるなら、嬉しい。」

「それならよかった。」

 

それからしばらく世間話をした。

 

「じゃ、俺はそろそろ行くな。」

「…うん。気を付けてね。」

 

________

 

「さて。道が分からん。俺はそんな方向音痴じゃないんだけどなぁ。ちょっと道聞くか。すみませーん。」

 

適当な人に道聞いて早く行こう。行って帰って来よう。

 

「ん?どした坊主?」

「すみません。道を教えてほしいんですけど……」

「道?どこ行きたいんだ?」

「ここの外なんですけど……」

「外?妖怪居るのによく行こうと思うな。外行ったってなんもねえぞ?」

「えっと、ちょっと用事が。」

「ん、まあ聞くだけ無駄だし分かった。こっちだ。」

「ありがとうございます。」

 

________

 

「着いたぞ~。」

 

目の前には門があった。普通の村にありそうな形の門だ。周りには柱があり、高台みたいになっている。

 

「ここが入り口ですか?」

「ああ。横の柱は妖怪が来た時に警戒を呼び掛けるためのもので、いつも誰かが見張ってる。」

 

え、つか門なんてあんの?夜が言うには他の村なんてないんでしょ?妖怪どんだけ警戒してんの?ここが端なら周りスカスカじゃん。本当に警戒してんの?

 

どうやらこの街は、四方にある門で居住区を囲って、周辺の森林や洞窟やらと区切られてるらしい。かといって居住区が壁に囲われてるわけでもなく、どこからでも入れそうだ。

 

「でも入り口がこんなならどこからでも入れるんじゃ……」

「知らないのか?門以外は結界が張ってあって入れないんだよ。ツクヨミ様がくださった恩恵だな。」

 

なるほどチート能力者ですか。その能力教えてくださいよ。

 

「しかしお前、本当に不思議な奴だなぁ。今度会ったらゆっくり話そうぜ。色々教えてやるよ。じゃあな。」

「ありがとうございました。……さて、行きますか。」

 

________

 

門を出て十分。未だに妖怪との遭遇はなし。人との邂逅もなし。平和な時間が続いていた。

 

「妖怪なんていなくないか?」

 

自然とそんな声が出た。妖怪は現れない。

 

フラグとか頼っても出ないよなぁ。妖怪退治に出たのに妖怪出ないんじゃ話にならねえなぁ。帰ろっかなぁ。

 

「あそうだ!なら魔力操れるか試してみるか!そもそも使えなきゃ戦えねえしな!」

 

何で力の使い方も分からないのに探してたんだ。そうと決まりゃ早速………どうすりゃいいんだ?

あれ待って。そういえば能力持ってないなら碌にイメージも出来ねえじゃん。何出来るんだ?俺。

 

「……確か街には結界が張ってあるんだっけか。結界ってパクれないかな。いや出来る!こういうのはイメージが大切なんだ。結界張ってみよう!」

 

全力で力を手に込めて壁みたいになるのをイメージした。瞬間、俺を中心に辺りの木が消し飛んだ。

 

―――――

夜と望の世間話中

―――――

 

「そういえば俺、さん付けて呼ぶ必要ないぞ?」

「あ……ごめんなさい……人との距離感が分からなくて……無意識で…」

「……とりあえずさん付け禁止な。」

「え……」

「この呼びあいだと、仲悪そうだろ?」

「………うん…」

 

夜は望を望と呼ぶようになった。

 




『仲よきことは美しきかな』ってデジモンの国語の授業で言ってたの思い出した。夜にはヒロイン属性を……多分付けないですね。場合によっては……まぁご想像にお任せします。


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四話 ~彼女(天使)はきっとやり過ぎた~

一話から書き方変わってるの書いてる今気付いた。ということでここで謝っときます急に変えてごめんなさい。
あと今回長くてごめんなさい。


何故だ……何故こうなった…?自分の周りに壁造ろうとしたのに何で消し飛んだ…?

 

「おかしいなー?こういうのってイメージが大切なんだろ?前世の俺の考えでは。……とりあえず何度かやってみるか!」

 

同じことをした。爆発した。またやった。地面が爆発した。さらにやった。倒れた。

 

「………俺何やってんだ。夜にでも聞けばいいじゃん。……帰ろ。」

_____

 

「夜~?ちょっと聞きたいことあんだけどー」

 

足音がした。程なくして夜が戸を開けた。

 

「望?妖怪を探しに行ったんじゃ……?」

「全然見つからなかったから霊力使う練習してたんだよ。でもやり方なんて何も知らないし…能力があるわけでもないからとっかかりもないし…そういうの知ってそうな知り合いいない?」

「霊力の使い方?それなら永琳先生に聞けばいいかも……」

「永琳?」

「うん。ツクヨミ様の次にこの街の権力を持ってる人。能力も持ってるし、そうゆうこと聞くなら頼っていいと思う。」

「永琳……課題の内容のと同じ…それにツクヨミか…」

「?どうしたの?」

「ああいや、何でもない。どこいる?」

「案内するよ。行こ。」

「おお、サンキューじゃあ頼む。」

 

―――――――

 

家を出て二十分くらい、相変わらずひそひそと夜の悪口ばかり。誰も近づこうともしない。普段は話の長い夜が静かで、かなり気まずい。

 

(どうしたもんか……そういえば……)

 

俺は気になっていたことを聞いてみた。

 

「なあ夜?永琳って人がここの権力者の二番手ってことは、村長はどうなんだ?トップはツクヨミ…様なんだろ?」

「………この村の村長で間違いはないよ。皆の信頼も厚いし、私もいい人だと思う。でも『権力』でいうならちょっと違う。」

「?」

「村長はすっごい優しいから、残酷なこととか非道なことって何も出来ないの。」

「あーなるほど。切り捨てる判断も出来ない奴に、トップは張れないってことか。」

「うん……」

 

多少分かるけど人気で決めるのも別におかしくはないだろうに。………?俺前に似たようなこと考えて……その内思い出すか。

 

「もうすぐ着くけど…ありがとう。」

「?なんで感謝するんだ?」

「外であんまり話して、親しいとか思われたくなかったの。思われたら……望も酷いこと言われる…」

「だから話しかけなかったことに感謝したの?馬鹿にされるくらい別にいいけど…」

「私がよくない!私を見てくれる人を、馬鹿にされたくないよ……」

「……そっか。」

 

正直俺にはよくわからない。近しい人も、守りたい人もいない俺には、そんな気持ちはわからない。

そうこうしていると、すぐ目前まで迫っていた扉から、白衣の女性が顔を出した。

 

「人の家の前で、何言い合ってるの?夜。」

「永琳先生…!?」

「いや…悪い。」

「はぁ…とにかく入りなさい。」

『はい』

 

_____

 

昼飯を食って街の外に出た。永琳はよく外に出るようで、門番?から止められることもなく外に出られた。妖怪は平気なのだろうか。

 

「まずはどれくらいのことが出来るか知りたいから、霊力を解放してくれる?」

「ああ。解放だけでいいんだよな?」

「ええ。」

「では失礼して。」

 

意外とイメージすれば簡単に抑えることは出来たし、抑えがなくなることをイメージすれば出来るか?

 

「っ!?待って!力抑えて!」

「へ?何で……」

「いいから!」

「は、はい。」

 

力が抑えられることをイメージした。すると力が抑えられる感覚がくる。

 

「何よその馬鹿げた霊力は………?」

「え?そんな多いの?自分じゃそんなに分かんないけどなぁ。」

「普通なら死んでもおかしくないわよ………」

「ほんとですね………」

(…もしかしてまずい?)

 

やっぱり自分じゃ分かんねえ。なんか永琳も夜も驚いてるし。そんな凄いのかなぁ?

 

「ねえ、前周辺を消したときは何をイメージしたの?」

「ん?結界張るのを出来るかなーって思って壁を作るイメージした。」

「護る筈のもので、逆に消したっていうの……?」

「うん。」

「………ねえ、見せてくれる?」

「別にいいけど、離れたほうがいいぞ。」

「分かってるわよ。夜も少し離れて。」

「は、はい。」

 

二人が離れたことを確認して、前と同じように壁を創ることをイメージした。当然のように辺りを消した。範囲は変わらず、周りの木を完全に消滅した。

 

『……………………』

「……あれ?二人ともどした?」

「……今の、本気?」

「へ?いや…」

「……まず抑え方とイメージの仕方から教えるわ。」

「え、ああ。分かった。」

________

 

「もっと強くイメージして。形を抽象的にじゃなくて正確に形を創るの。自分の創造じゃなくて、自分の知ってるものを創る気でイメージするの。」

「それが出来ねえんだよ!なんで壁作んのこんな難いんだよぉ!?」

「えっと……壁じゃなくて、もっと簡単なものにしてみたら?」

「夜の言う通り壁以外の物にした方がいいかもね。霊弾をまずはやってみましょう。」

「霊弾?」

「霊力を球体にしたものよ。ほら、こういうの。」

 

そう言って永琳は、掌から透明な球体を出した。

なるほど。試しにやってみるか。えーとボールでいいかな?

 

「…出来ちゃった。」

「…出来たわね。」

「…出来ましたね。」

「………試しに多く造ってみて。」

「どんぐらい?」

「じゃあ造れるだけ。」

 

じゃあ周りに大量に浮かべてみるか。出来るだけ………

 

「こんぐらいか?」

「多すぎる……」

「これで本気じゃないなんて……」

「……飛ばしてみて。」

「ああ。」

 

軽く木に向かって飛ばしてみた。当たった木が倒れた。正確には当たった場所が消えてその上から倒木した。

 

「ほんとに能力使ってないの……?」

「だって能力ないし。」

「それだけの威力の霊弾、しかもそれほどの数の弾幕を張れるのなら妖怪なんて相手じゃないわよ。」

「うん…永琳先生がそう言うのなら、もう練習の必要もないと思う。」

「…………」

________

 

そのあとすることもなくなって街に戻ってきた。帰ってきてからも二人は呆けてた。

 

『……………』

「なあ、ほんとに必要ないのか?」

『……………』

「なあってば!」

「………必要ないわよ。明日にでも妖怪退治に行ってみたら?多分さっきの木とほとんど変わらないわよ?」

「そ、そうか……」

 

なんでこんな無気力なわけ?怖いよ!

 

「………じゃあね、夜。」

「はい……望もじゃあね…」

「お、おう。」

 

二人が言うなら行ってみるか。殺されても生き返るし。……死にたくないなぁ。

________

 

「さてどうするか。腹は減ってないし寝るには早いし、二人は無気力に帰ってっちゃったし。やーることねー」

 

家に帰るか?でも帰っても何もないし。やっぱりやることないな。…よしやっぱ復習しよう。

外から帰ってきたばかりなのにまた外に行くのも面倒なので、家に帰ってイメージトレーニングをすることにした。

________

 

イメージトレーニングっつても弾幕の操作ぐらいしか出来ないよな。じゃ密度とか意識してやってみるか。後は数を増やそう。……あれでも多い方何だっけ。ま妖怪が何匹(体?)いるかも分らんし、多い分には問題はない…よな?

 

―――――

天使サイド

―――――

 

私はずっと…ではないけれど彼を見ていた。

それほど秀でたところも無ければ、人並み以下のこともあまり無く、ただ不幸に見舞われただけのただの少年に、何故かは分からないが惹かれた。

だから少しだけ手助けをした。

いや、少しだけだと思っていた。

私には、その者の過去を見ることも記憶を見ることも出来ない。

だから少しだと思ってこの力を与えた。

能力とは違い、ただ霊力の量をあることから換算し、変換する力。

彼の霊力量は、それに比例した量になった。

 

「過去にどれだけの善行をしてんのよ…」

 

今彼を尊敬している人(向こうの世界での生前も含めて)の人数によって霊力を増やす力。

ゲームで言えばパッシブスキルのようなもの。

そしてこれが少しだと思ったのは、不死である彼なら、これから増えると思っていたからだ。

というのに、既に彼の霊力は、三桁のレベルまでなっている。

つまり彼を今尊敬している人は、少なくとも百を超す。

 

「何をすればたかが十六の少年がここまで善行積めるのよ…いい子過ぎるじゃない…」

 

ここにきて私は気付いたのだ。

 

「やり過ぎた…」

 

しかし私のせいではないのではないかと思うことにした。

 




この力を能力として出しても良かった。まあ能力っぽくないし天使管理だから八百長出来ないし難しい。という理由で却下。でも幽香さんにはまだ勝てない。霊力多いだけで弱いからね!まぁ生暖かい目で彼と僕を見て下さい。今回本当長いですねごめんなさい。


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五話 ~秘密は存外ばれやすい~

あれから何日か経った。

具体的には十一日間。

霊弾の数を増やし、自由に操作出来るよう訓練し、霊弾以外にも形作ることが出来るようになった。

周囲に展開は出来ないが一点に集中、または一方向に意識を向けるのは出来る。

つまり最初、向いていないことに必死になっていたのだ。

 

「ふぅ…今日はこれくらいか…」

 

今俺は霊弾の数を増やしていた。

作り続け、弾けたり消えないよう集中して、二人に見せた時からおおよそ六百増え、計千百の霊弾を二十分継続していた。

 

「これだけあれば重量で潰せるよな?」

 

そう俺は思った。

 

―――――

 

能力の訓練を終わらせ、永琳(呼び捨てを許された)のところに来ていた。

この十日間夜達と普通に過ごしていて、課題を忘れていた。

達成の…記憶のためにここへ来た。

ちなみに能力を見せた後、夜と永琳の様子からそっとしておこうと思い、結局三日間会えず寂しかった。

 

「それで、私の試薬の実験台になってくれるのは本当?下手したら死ぬけれど。」

「いやめっちゃ怖いです。ただまぁ……必要なんですよ。」

「そう。なら、これを飲んで貰うわ。」

「これは?」

「聞かずに飲みなさい。効果を知っても、飲むことは変わらないんだから。」

「確かにそうだけど……まぁいいや。」

 

飲んだ。まずい。体の感覚がおかしい。

 

「どう?」

「…体の内側で何か…?」

「そう…やっぱり貴方は…」

「?」

「…貴方は、死なないのね。」

「!?」

 

どういうことだ?誰にも話してない、どころか俺自信死なないかまだ知らない。

 

「なんで…」

「その薬は、触れてから一分で、触れた場所から体が壊死するものよ。」

「な…!?殺す気か!?」

「死なないでしょ?あれを触れるどころか飲んで、それでも平気でいる。」

「……」

「私も偶然気付いたけど、周囲を消滅するあの霊力。周りだけでなく、体の一部すら消えていた。」

「!そんなはず…!気付かないわけ…」

「あれは成功してたのよ。貴方の体を守るのではなく、消滅することで守っていたのよ。」

「消滅することで……?」

「今の貴方に、痛覚はない。いえ、もしかしたら触覚が…能力で消えていた体の痛みがないのが証拠よ。それに今も…」

「!そうだ!体は…」

「守ると考えた場所、あの場合は体を守ることを考えた場所が、服の上からでも分かるように消滅した。不死だと考えたのはさっき、貴方の消滅した部位をふと見たとき、治っていた。不死と確信したのは、その薬を『飲んで』無事だったから。」

「まさかこの薬…」

「即死級の毒よ。実験はしていないから、本当はどうかは分からないけど、少なくとも、平気でいられるものではないわ。」

「そ、そんなものを……」

「悪いとは思うわ。だけど…私が研究しているのは、人々をどんな病からも救えるもの。それなら薬でなくても構わない。その完成形のようなものが、今目の前にいる。調べずにはいられなかった。」

「……それで、どうするんだ?それを知って、俺を解剖でもするのか?兵器の実験台にでも?それとも、殺す方法でも調べるか?」

「……どうもしないわ。私は自分でそこまでたどり着く。答えをすぐに知ったとしても、私には意味がない。誰にも話しもしないし脅す材料にするつもりもない。」

「……そうか…」

 

永琳のことは信用している。

たった数日でも、夜や永琳と過ごして危険に思ったことはない。

俺は信じてもいいのか迷ったが、今までの恩も返せてないのに、仇で返すのもおかしな話しだ。

 

「分かった。信じるよ。俺はこのことを知られていないし、永琳も知らない。」

「望……ありがとう、信じてくれて…」

「…じゃあ俺はもういくよ。」

「ええ、いってらっしゃい。」

「…最後に一つ、何で教えなかった?」

「夜の見る前で言うべきでもなかったでしょう?」

「…治すこと考えなかったのかよ…」

「痛みを感じてないように見えたから、大丈夫だと思って…」

(俺じゃなきゃ死んでるな…)

 

こんなに簡単にばれる秘密とは思ってなかった。

天使とやらを殴りたい、と考えながら、俺は研究室を後にした。

 

―――――

 

「しかし…あいつ(天使)の言う通りなら記憶が戻るはずじゃないのか…?」

 

即時でなくとも、五分十分程で戻るだろうに、一時間経っても戻らない。

代わりに何か起きてないかとも思うが何もない。

テレパシーみたいなのも来ないし、ポケットには新しい課題も来ない。

次の目的が何もなくなってしまった。

 

「…とりあえず妖怪探すか。」

 

―――――

一時間後

―――――

 

何もいない。

 

―――――

更に一時間後

―――――

 

兎が一匹。

 

―――――

またまた一時間後

―――――

 

重大なことに気付いた。

 

「わざわざ探すこともないんじゃ…」

 

村長の頼みは、『人を襲う妖怪』の退治。

わざわざ探さなくとも、向こうから来るのを待てばいい。

というか逆に妖怪が来る口実を作ってしまう可能性もある。

 

「見つける前に気付いてよかったかもな。」

 

俺は帰ることにした。

 

―――――

 

結局家に帰り、少し霊力の確認をし、眠ることにした。

明日は妖怪について番の人にでも聞きに行こう。

夜や永琳にも伝えて、村長に一応確認に行こう。

そう考えながら、俺は意識を失った。

 

「……!うぐ…ぅ…あぁぁ…!ぐぅ…!」

 

『これが記憶を戻すトリガーとも知らずに』

 




永琳頭いいのはまぁ当然ですね。不死の薬を禁忌と考えてない時の永琳と考えて、万病に効く薬を目指す永琳ということにしました。意味がないのは調べても無意味と悟ったからというのと、望に多大な迷惑をかけることによる報復を恐れて。そんなことしないと分かってても万が一を考える天才さんです。(この作の設定)
長くてすみません。


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六話 ~記憶の夢を彼は見る~

ここはどこだろう。

家で寝たはずの俺は、形容し難い空間の中に浮いていた。

違う。

意識から外れた場所にいる。

ここは知っている。

そう思う。

 

―――――

 

「隣のクラスの――がまた問題起こしたらしいぜ。」

「まじかwあいつもこりないな。」

「本当なー」

 

(そうだ……あの時俺は…あいつと帰るところだった…でも…)

 

そう考えた俺の眼前には、青の信号を談笑しながら渡る二人を眺めていた。

その結末は知っている。

記憶通り、一台の車は信号を無視して突っ込んでくる。

そして二人を轢く…ことはなかった。

片方はもう一人を突飛ばし、目を閉じた。

その片方は…俺だ。

 

(俺は轢かれた…でもあいつは…)

 

「は……?お…い…?嘘…だろ…?」

 

彼は膝から崩れ落ちた。

友人が轢かれ、瀕死の重体となったことに対し、涙を流し叫び始める。

 

「おい…!起きろよ…!ゲームするんじゃなかったのかよ……!皆と遊ぶ約束だって…しただろ……!学校だって…まだ………なんで…どうして……」

 

周りの人は電話を取り出す。

その間も、彼は俺を抱えて泣き続けた。

泣き続ける彼に、俺は遺言を残した。

俺の最後の記憶。

最後の言葉。

 

「姉さんに……謝っといて…くれるか…」

「…!しっかりしろ!死ぬな!んなの自分で言え!もうすぐ救急車が……!」

「約束…守れ…なくて……」

 

そこで俺は死んだ。

完全に意識を失い、何も見えず、聞こえず、ただ泣く親友を救えたことだけが、残り続けた。

俺という存在は、こうして幕を閉じた。

だからだろう。

映像のように流れるこの光景は、その場で消えていった。

姉に何を約束したのかも、親友がそれからどうしたのかも分からず、記憶の再生は終了した。

 

―――――

 

「こうやって死んだのか……」

 

最後の少し、ほんの少しだが、いい記憶を思い出せたと思った。

親友を救うことが出来た。

それがとても嬉しかった。

これしか思い出せなくとも、そこに後悔はない。

俺はたった一人の家の布団で、嗚咽にも似た笑い声を上げた。

悲しみと喜び、その二つが混ざったような声を出しながら、俺は一人、笑い続けた。

 

―――――

 

「……寝れなかった。」

 

一晩中笑い続けていたわけではないが、記憶のことを考えると、上手く眠れなかった。

姉さんのことが気になったし、何故最後の記憶を思い出したのかも分からない。

何にしろ寝れなかった。

これだけが事実だ。

 

「…そういや…」

 

ふと課題のことを思い出し、ポケットを漁る。

すると、以前捨てたはずの課題の紙が、ポケットから出てきた。

どうやら次の課題のようだ。

時系列順に課題は設定されているらしいから、近い内に終わらせられるものなのだろう。

そう思い紙を開く。

 

[依姫と豊姫の武器を持て]

 

「……は?」

 

知らない名前が出た。

俺が来てから今まで聞いたこともない。

課題自体は武器を持つだけの簡単なものだが、知らない人物の武器を探すなど不可能だ。

 

「……永琳なら知ってるかな…」

 

本日の予定は捜索に決定。

 

―――――

 

「豊姫?」

「そう。何か知らないか?」

「………偶然だとは思うけど……最近生まれたばかりの赤子の名前よ。」

「赤子…?」

「ええ。」

「…とりあえずありがとう。」

「その子がどうかしたの?」

「いや……悪い…話せそうにない。」

「そう……ならいいわ。話したくなってからでいい。」

「本当悪いな。」

 

―――――

 

生まれたばかりの赤子が持つ武器を持つ。

わけが分からない。

 

(そもそも名前からして女の子が、武器なんて扱うことあるのか?)

 

ありえなくもない。

だけど比較的低い確率だろう。

ただ分かることは、おそらくだが課題は未来のことも含まれる。

今回は何十年も先のことだろう。

時系列順とは言っていたが、それが絶対とも限らない。

何年掛かるかも分からなければ、もう出来ないこともあるかもしれない。

簡単な課題でも達成不可能になったら…

 

(俺の記憶は戻らない……!)

 

こうして様々考察を重ね、最終的に俺が出した結論は、目先の課題をとりあえず達成すること。

それで不可能なものが出るのなら、またあの天使が来るだろう。

そうならないことを祈りながら、今日も散策を始めた。

 



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七話 ~少年は今後を考える~

二つ目の課題が表れてから、一週間程が経過した。

実際に二人のところまで行き、親も見てはみたが、武器というのに関係のあることがない。

親は確かに防衛隊(に近いもの)の者ではあるが、危険を知る親が、自分の子供…しかも女の子を戦闘に出すだろうか?

課題を考えたのが俺である以上、将来的には確実なことなのだろう。

本当にそうか?

課題と天使の話しから推察するに、この世界の未来を、過去の俺が知っているのは確実だろう。

記憶で聞いた会話で、ゲームというものが言われていたが、思い出せる限りでは、物語を自分で進めるものに思える。

ゲームに関する記憶、いや一つ目の記憶に関することはなんとなく分かるが、だからこそいくつかの仮説が新たに表れる。

ここは物語の世界、もしくは…ゲームにおける主人公が、自分になった世界なのでは?

その場合、主人公と別の行動を俺がとったら?

物語に関することを無視してしまったら?

もし過去の俺が知るこの世界の未来を、俺が変えてしまったら?

確実とは言えない。

課題を作ったのを自分と決定しても、信じることは出来ない。

 

「早々に詰まったか…?」

 

その可能性を、頭から排除するには、根拠が少な過ぎた。

 

―――――

 

俺は課題は一旦保留(多分十年くらい)し、目下別の目標を立てることにした。

つまりここに来たときから頼まれていた妖怪退治。

まぁそれすら迷っているけど。

というのも、妖怪が危害を加える様子を見たことがない。

それに見たことがないから姿も分からない。

 

(もし妖怪が良い奴だったら、俺は戦えるのか?)

 

実際に襲われたときでも、守るためにしか戦えない。

殺すことなんて、俺には出来ない。

育った環境が違うと、考え方は変わる。

この街の考えは、環境は、俺とは違う。

妖怪と実際に対峙すれば……

 

と考えていると、けたたましい鐘の音がした。

 

『東門襲撃!繰り返す!東門襲撃!』

 

ここから程近い門が襲撃されたらしい。

この鐘は、危険を伝える音であり、防衛隊は門前へ、民間人は避難することの合図である。

つまり今俺がやることは決まった。

 

「行くか。」

 

俺は音のした方へ走った。

 

―――――

 

着いた頃には始まっており、そこには…凄惨な光景が広がっていた。

人妖違わず血を流し、人は肉を抉られて、妖怪は体を貫かれ、尚倒れない両陣営。

初めての戦場に俺が感じるのは、恐怖と後悔だった。

何故来てしまった。

自分も同じように死ぬのか?

 

(あれが…妖怪…)

 

だが止まれない。

止まっちゃいけない。

これもこの世界で生きる限り、必要なことなんだ。

俺は思い切り手を握りしめ、弾幕を撃った。

人を避けるよう上手く制御し、妖怪を殺さないよう加減して、後方からの支援に徹した。

それが功をそうしたのか、妖怪は撤退し始めた。

殺さないよう加減したのは、いつでも殺せるという脅しでやっていた。

実際自分が他者を殺すのは難しいが、それを奴らは知らない。

個人の性格など分かるはずがない。

だからこそ致命傷すら避けて、『支援』に徹した。

同じ手が何度も通じはしないだろう。

俺は勝利を喜び合う人達を見ていた。

怪我人に目を向け、治るよう祈り、家へ帰った。

その後永琳が帰る時間を見て、永琳の元へ向かった。

この頼みが出来る者が、彼女一人だから。

 

―――――

 

「永琳いるか?いるなら開けてくれ。」

 

戸をノックし、声をかけた。

程なくして、永琳が姿を表す。

 

「今日はどうしたの?」

「いきなりで悪いが、頼みがある。」

「頼み?」

「………俺を…殺してくれ。」

「……………え?」

「自分が死ぬ恐怖…死ぬことに対する覚悟…それをどうにかしたい!」

「自害すればいいじゃないの。」

「自分じゃ確実には死ねない。」

「………まったく。それなら何度か殺してあげるわ。」

「え?」

「毒殺刺殺溶解爆殺…他にもあるけどどう死にたい?」

「え?待っえ?」

「ついでに実験台にさせてもらうわ。今回怪我した人の中には、今じゃ治しきれない人もいるからね。」

「………」

 

永琳のマッドさが如実に表れた日だった。

 

 



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八話 ~何でも屋開業~

望のしゃべり方少し違和感あるけど気にしないで下さい。


妖怪との戦闘から半年、街は平和そのものだった。

新しく妖怪が襲ってくることもなく、街から少し歩いた程度で見つけることさえなく、もはや妖怪なんていないのではと思う程平凡な毎日。

そしてそんな平凡な毎日を送る俺の生活もまた平凡。

夜や永琳と話したり、街の色んなところで手伝いをしたり、これといった変化はない。

 

「…だから暇なんだけどな…」

「どうしたの?」

「別に…なんかやることなくて暇だと思って。」

「なら実験台にでもなる?」

「永琳先生…」

「お前の実験台なんてなったらどれだけ命があっても足りないわ。」

「不死身の力の見せ所ね?」

「足りないっつってんだろ。」

 

こんな会話をしては帰り、街で手伝いをしてまた帰る。

帰って寝て、起きたら出掛けて、やることないからまた帰宅。

課題のことなんてさっぱり進まず、見に行った二人はまだ生後半年。

進むことも出来ず、止まり続ける人生。

いつ動くか分からないこの生活が……まさか十年続くとは…

 

―――――

 

十年…十年も経った。

変わったことは街の防衛隊から軍に格が上がったことぐらい。

いや結構な変化とは思うがよく考えてほしい。

それしか変わってない。

元々施設や区分けはあったことを考えると名前だけではないだろうか。

科学は発達した、医学も発達した、学校は俺の知るようなもの…ではないかもしれない。

具体的には授業がやばい。

普通の座学と…能力と戦闘訓練がある。

現代なら色々おかしい。

これらを纏めると…結構変化してたな。

むしろ十年でこれはすごいのでは。

しかしどれだけ街が『都市』に変化しても、俺のやることは変わってない。

手伝いに臨時講師が追加されただけだ。

何か…そろそろ手に職付けないとまずいかもしれない。

 

―――――

 

逆に就職しない方がいいって言われた。

どこにでも行く何でも屋として既に名前が通ってた。

本人そんな気なかったのにいつの間にか就職してた。

じゃあ何でも屋として開業しよう。

と思い、夕方の広場に行き、掲示板に書きこんだ。

 

[何でも屋開業:依頼は家のポストへ。本人への直接の依頼はご遠慮下さい。また継続して続けるようなものもご遠慮下さい。 筑城 望]

 

これで依頼が来たら仕事になる。

なければないでいいや。

 

―――――

 

そう思っていた時期が自分にもありました。

朝起きたら五十七件もの依頼が入っていた。

雑用込みとはいえなんでここまで頼られているのか?

安易に仕事を手伝い過ぎていたのだろう。

全部見るのも大変だ。

 

―――――

 

「望くん、ありがとうねぇ。」

「いえ、荷物運びですし…それぐらいは…」

「年をとると物を持つのも辛くてねぇ。」

「また何かあったら呼んで下さい。」

「そうするよぉ。いくらかしら?」

「荷運びですし、五百円くらいでいいですよ。」

「あらいいのかい?結構歩いたと思うけど…年よりも気遣って歩いてたから大変だったろう?」

「いいんです。お金に困ってるわけでもないし。」

「そうかい。それじゃあこれ。」

「ありがとうございます。」

「こちらこそ、どうもねぇ。」

 

……代金考えてなかった。

ちなみに今のおばあちゃんの依頼は引っ越しの荷運び。

距離1km離れた息子夫婦の家まで。

これベースだと狂う気がする。

…永琳に相談しよう。

 

―――――

 

何でも屋はかなり順調だ。

ここ一月、特に問題もなく、値段管理も永琳がしてくれ、意味もなく稼いだ。

これからもこうやって過ごす…そう…思っていた。

依頼の一つに、『月読』と書いてあった。

月読…月読命(ツクヨミノミコト)は、この都市のトップだというのは聞いている。

今までかなりの時間があったのに一度も会ったことはない。

それがいきなり依頼をしてきた。

恐る恐る俺は依頼書を読み始めた。

略すと、軍に能力の持ち主や霊力の強い者のみで構成した隊を創る、暇なときでいいので講師をしろ。

務まるものでもないと思われる。

まあ何でも屋だから受けるのだが。

依頼者には詳細を聞くために会いに行く。

つまり月読と会わざるをえない。

 

「………断りたい…」

 

月に向かって呟いた。

 



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九話 ~訓練生の先生~

俺は今、依頼の確認のために軍本部の建物内最奥、月読の指令室に来ていた。

依頼自体は言葉にするなら簡単だ。

しかし実際はどうだ。

霊力の強い者ならともかく、能力持ちに教えることなど分からない。

なにせ俺に能力はない。

この十年の間、襲ってきた妖怪をどう対処してきたか。

霊弾による威嚇、実際に当てる脅し、そして…素手による軽い地割れ。

この十年で修行を続けた結果、霊力を身に纏う技法を習得した。

他にもいくらか習得したが、妖怪の雑兵相手なら問題ない。

とにかく、それらのある種能力とまで言える霊力の暴力的破壊力がある以上、妖怪に苦戦することはない。

能力など必要なかったのだ。

指導係として入ったところで、能力者組に教えることは出来ない。

月読が何を考えているのか、或いは月読という『神』は、俺の転生を知っているのではないか。

様々考えることはあるが、能力にも興味はある。

仕事の内容があまりにもやばいものでなければ、受けようと思う。

 

「月読……様、筑城望、到着しました。」

 

俺は一応上司(なのか微妙なところだが)に声をかけるので、敬語に様呼び、自分が想像する形で軍の挨拶をした。

 

「うむ。入れ。」

「…失礼します。」

 

思いの外若い声の上、女性の声というのに少し驚いた。

 

「主が何でも屋じゃな?知っての通り儂は月読じゃ。以後よろしく頼む。」

「……はい。それで早速依頼についての話しを…」

 

椅子を回し、顔を見せた彼女は、口調は老人のようだが、俺と同い年(17程)に見える少女だった。

思わずまた止まったが、すぐに切り替えた。

 

「うむ。依頼についてじゃが、書いてある通り、その隊の指導を頼みたい。ノルマは少なくとも週三の指導ならびに戦力としての格上げ。報酬は仕事が上手く出来ているとこちらが判断した時に。人数は八人じゃ。」

「以外と少ないですね。」

「特殊な者を集めた隊なら当然じゃろ。」

「能力持ちは?」

「六人。詳細は本人達に確認をしてくれ。」

「今は軍本部(ここ)に?」

「彼らの隊の待機部屋にいる。指導の場所は主にそこと、訓練場を使ってもらう。」

「…待機部屋を教えて下さい。それでもう十分です。」

「他にもあるのではないか?突然軍に勧誘されたようなものじゃぞ?」

「指導の時間も自由、何でも屋の別の仕事を続けてもいいなら、特に問題ないですよ。」

「そうか…」

「…最後に確認が…敬語をやめてもよいですか?」

「…ふっ、やはり敬語は不慣れか。よい。こちらから敬語を禁止しよう。」

「ありがと。とりあえず問題があれば後で直接言いに来るから、説明はこれくらいでいい。」

「ではいつ指導を行うか、予定と合わせて隊の者と打ち合わせてくるとよい。連絡はしておく。」

「分かった。なら早速行くとしよう。」

 

俺は月読から本部内の簡易地図を貰い、その隊の下へ向かった。

 

―――――

 

一言で言うなら、戦うべきではない者達だった。

パット見でも分かる、この者達が戦うべきか否か。

何せその子供達は、大人二人と遊んでいたのだから。

そう、子供なのだ。

八人中六人は子供なのだ。

少女四人、少年二人、男性一人、女性一人。

この中で一般的に戦力になるのは、男性一人だけだ。

その男性でさえ年は若く見えない。

子供は十歳程度、女性だけは二十歳程に見えるが、この八人が戦闘に向かないのは、誰が見ても明らかだ。

 

「あ…皆、先生が来たよ。」

「……気付いてくれたようで何よりだ。」

「す、すみません!皆、挨拶!」

 

女性が子供達に促すその様は、それこそ先生のようだ。

 

「は、はじめまして!綿月依姫です!」

「姉の豊姫です。」

「…?依…豊…?」

「……?あの…何か…?」

「ああいや何でもない。他も自己紹介続けてくれ。」

葉山 竜胆(はやま りんどう)です。能力は植物を操る能力です。」

「あ…能力も言った方がよかったですか?」

「後の確認もするし、今じゃなくてもいい。」

「じゃあ名前だけ言うね!僕は小枝洲 柚季(さえしま ゆき)!よろしくね!先生!」

「俺は芦野 濫汰(あしの らんた)だ…です。よろしく頼む…みます。」

「濫汰君が敬語出来て安心したよ~。僕は空陽 湊華(からひの そうか)です。お願いします。」

「次は私ですね。私は双葉 廻(ふだば めぐり)。能力はありません。」

「最後は僕ですね。僕は散痲 木暮(さんば こぐれ)です。よろしくお願いします。」

「よろしくな。俺は筑城望。月読の依頼で教える…みたいなことになったが、正直能力者に何を教えればいいか分からん。とりあえずこれから訓練場に向かい、個々人見ていこうと思うから、準備してくれ。」

「はい!」

 

元気よく返事をした依姫は、先程まで遊んでいたであろうボードゲームを片付け(子供全員)、目の前に集まった。

女性を先頭に、子供を挟んで男性が後ろに。

陣形でも組んでるかのようだった。

 

「じゃあとりあえず行くか。」

『はい!』

 

子供の元気な声を聞き、道中能力の詳細を聞きながら、訓練場へと向かった。

 




一気にオリキャラが六人出て考えるの辛いです。どうかオリキャラのキャラ性が途中で変わってても見て見ぬふりをして下さい。


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十話 ~訓練場は名ばかりの~

課題って投げたくなりません?まあそういうことです。


「なるほどな…大体は把握した。しかも見せてもらうのも難しいか…」

「ここには訓練用の人形くらいしか置いてませんから…追々見せていきます。」

「ああ…能力が分かろうが何を教えればいいか分からんし、暇なときに使ってみせてくれれば構わない。」

「じゃあこれからどうするのですか?」

「そうだなぁ……」

「あ!じゃあじゃあ、先生の戦い方見せて!」

「俺も気になる……!」

「そうだね…僕も気になります。」

「…まあ実力も知らずに初対面で戦闘訓練なんざ信用出来ないしな…分かった。」

「では訓練用の自律人形を用意しますね。」

「自律人形?」

「はい。子供には危険だからと、僕達二人だけに使用の許可が出されている特訓相手です。」

「月読様の神力を、技術者が総出で開発したものに保管。それを注入することにより動く人形です。」

「となると…破壊や消滅しても、ただ注入した神力が消滅するだけか。便利だな…!」

「私達も自由に使いたいです…」

「依姫。危険だから駄目というのは大人、保護者からしたら当然のことよ。」

「神力が暴走して最初に被害を被るのはその場の奴だからな。子供が下手に力を加えて神力が散るようなことがあれば、無事には済まないだろうな。」

「暴走はしないと思いますが、訓練用なので攻撃もしてきます。むしろそちらの方が危険かもしれませんね。」

「攻撃も出来るのか?思ったより便利な…まあとにかく始めるか。一つ聞くけど…」

「はい?」

「本気でいいんだな?」

「…はい。」

 

―――――

木暮視点

―――――

 

僕には信じられなかった。

突然月読様から指導者を頼まれた彼を。

自分よりも若く、それこそ子供のように見える彼から、何を学べというのか。

武勲を挙げたことは聞いていた。

妖怪を追い返しているのも彼だ。

しかし尚信用出来なかった。

実際にこの目で見るまでは、指導者として認められない。

そう…思っていたんだ。

 

「凄い……!」

 

誰が放った一言かは分からない。

誰かがそう言った。

この光景を見れば分かる。

こんなの、人間には不可能だ。

この人形には、段階的に力を上げるシステムが組まれている。

実力を見るために僕が設定したのは、一番上の段階だ。

それを彼は、素手で殴り壊した。

一番上の段階までくると、神力を込めたパンチや、高速の弾幕を撃ってくる。

俗に言う達人と言える程の動きもしてくる。

そのため強化ガラスで観察出来るよう、壁を作る程だ。

それを彼は、首を傾けたり、蹴り弾いたり、弾幕で相殺したり、一度たりともダメージを受けてない。

攻撃をいなしながら、鉄程の硬度の人形を殴り砕いていた。

腕力も、動体視力も、霊力の強さも、何においても別格だ。

僕は、彼の持つ力を認めざるを得なかった。

 

―――――

望視点

―――――

 

俺は人形を全て壊し、ガラス越しの彼らに向き直った。

 

「…どうだ?これくらいでいいか?」

「十分です。凄まじかったです。こんな人に師事させていただけるとは…」

「言う程か…?技みたいのは使ってないが…」

「これより上が!?」

「勢い凄いなぁ…先生、能力はないらしいですけど、似たことは出来るんじゃなかったですか?」

「危険だから駄目だ。強化ガラスも消えるし、制御も効かないからな…」

「そこまで強力なのですか。」

「まあな。それで木暮、お前ずっと値踏みするように見てたろ?どうだった?」

「…敵いませんね。まさか気付かれていたとは…僕は認めますよ。」

「なんとなくだけどな。それじゃ何から教えるかな…じゃあまず手に霊力を込めるコツから教えるか。」

「はい!」

 

張り切った依姫の元気な返事から、まさかの訓練場での座学が始まった。

 

―――――

 

「ああー逆に俺が疲れたー!」

「どうだったの?」

 

永琳は聞いてくる。

隣にいた夜も気になっているようだ。

 

「いや…依姫の力の使い方が酷い!」

「え…そんなに?」

「二時間かけて霊力がそもそも操れなかった!手に纏うだけで一日終わるしどれだけ教えても全く分かってないし、とにかく辛い!」

「た、大変ね…」

「まあ大変だよ…でもなんだかな…子供ってのはこれぐらい手のかかる方がいいんだろうな。」

「え、何ロリコン?」

「違う。単純に、依姫が普通で他が優秀だと思っただけだ。」

「…そうかもね。」

 

とにかく疲れた俺は、帰った直後に爆睡した。

次の日には何でも屋の依頼が殺到して、更に疲労が貯まったのは言うまでもない。




課題辛いよ~~!……apexに逃げよう。


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十一話 ~少年少女は何を目指す?~

初顔合わせから一月、彼らの実力はかなりの成長を見せた。

妖怪相手にも引けをとらない。

なんなら一般の部隊と比べかなりの差があるほどだ。

そんな彼らに今何をしているか。

能力の特訓、上手い使い方、霊力の操作、基礎体力向上、それら一月でさせたこととは違う全く別のこと。

『組み手』だ。

何故組み手なのか、疑問に思うのは当然だろう。

何故ならやることがないからだ。

先程の話しからして、色々教えたのは分かるだろう。

だが彼らは優秀、それも過ぎる程に。

たった一月で、教えられることが底をついた。

そもそも教師をしたことがないというのに指導者まがいのことをすることが間違いだったのだろうか。

もはや俺を倒せるようになるまで組み手を行うことしか思いつかない。

 

「はっ!」

 

彼女は剣を横薙ぎに振るった。

その剣は霊力を纏っており、通常当たらない距離を埋めるようにその身を伸ばしていた。

刀身を把握されても無意味なよう、振るう度に刀身を変えることを教えたことで、その攻撃の範囲は不規則だった。

それをかれこれ五分程いなし続け、そろそろ終わりにするということで……

 

「遅い。」

「!?」

 

それをかわしながら懐に潜り、手の爪先を喉に当てた。

 

「まだ霊力の放出に隙がある。懐に潜られたら刀身を消す。振る一瞬のみ刀身を伸ばす。まだまだ改善する点は多いな?」

「……参りました…」

 

この組み手をしていたのは依姫である。

彼女はこと霊力の扱いにおいて周りよりも多少時間がかかったとはいえ、扱えるようになれば誰よりも上手く使えるスロースターターだった。

そして剣の才能。

こと剣においては群を抜いて強い。

ただ欠点が一つ。

彼女の能力、『神霊の依代となる』という能力は、現状使用は不可能なこと。

月読の話しでは器が足りないとのことだが、二十歳も過ぎない子供が、神降ろしをするのは無茶なのは当然だ。

故に今の彼女は能力が使えない。

変わりに剣と霊力纏いの二つの技量は底が知れない。

 

「先生!早過ぎて見えないです!」

「そりゃ速度的に当然だろ。目もまだまだ慣らさなきゃな。次は目でも鍛えるか。」

「どうやってやるんですか?」

「…俺が適当に文字の書いたプレート持って走り回る。読み続ければ慣れんだろ。」

「無茶苦茶ですよ……」

「それ先生の方が大変じゃ…」

 

トレーニングメニューの見直しは必要だなと考えながら、結局考えているのは何でも屋の仕事だった。

つまり上の空なのだ、半分は真面目だが。

それなら当然こういうこともある。

 

「やー!」

「がっ!?」

 

背後から思いきり殴られた。

いや、殴られたように感じたのは霊弾だった。

 

「奇襲はやめろ!柚季!」

 

彼女も依姫と同じく…ではないが、能力がない。

しかし霊力の量だけなら目を見張るものがある。

ただ彼女にも問題があった。

剣も槍もただ霊力を纏うことすら出来ないのだ。

その上武器の才能もなく、多過ぎる霊力は細かな操作を受け付けない。

そんな彼女が唯一得意とすること、それは霊力の放出。

塊を放つだけの簡単で単純な攻撃。

だがその破壊力は過去訓練場の壁を破壊する程だった。

ただその放出が止めどなく放てるとはいえ、近接での戦闘を主とする組み手では相性が悪い。

……まあ弾幕の撃ち合いに落ち着くのだ、結局は。

霊力量は転生者の特典なのかやたら多い。

そのため彼女との撃ち合いは最終的に俺が勝つ。

この二人でなんとなく分かることだろう。

彼ら全員に能力的問題ありだ。

故に訓練の内容は個々に変わる。

最終目標は俺を倒すこと。

これが一月経って変わった訓練内容だった。

 

―――――

 

「つか何でお前がいる?まだ一時間あるぞ?」

 

訓練内容は変わるが結局は組み手。

時間を分けて一人ずつ行うことにしている。

休憩と指導をするのに人数が多いと後半の方は暇なのが出るからだ。

それでも一人は少ないって?…俺も休む。

 

「いや~せんせーを月読様が呼んでたから伝えに来たの。なんだか急いでたよ?」

「ん…?そうか…面倒事な気がするから行きたくないな~でも行かなきゃそれもそれで面倒だよなぁ~」

「行った方がいいと思いますよ。」

「給料なくなっちゃう?」

「別に金目当ての仕事じゃないんだが…まあいいや。」

 

俺は出口に歩いていく。

 

「そんじゃ何の用か知らんが行ってくる。三十分して戻らなかったら今日はこっから自習でな~」

「行ってらっしゃ~い。」

「お疲れ様です!」

 

―――――

 

「月読ー何の用だー?」

 

間延びした言い方で月読に問いかける。

部屋で仕事をしている月読は、すぐにこちらを見てはっとした。

尚、何かの報告と指示待ちしている兵隊達は少し驚いた顔でこちらを見ている。

 

「おお!来たか!?すまない!お主の力を貸してくれ!」

「何でそんな焦って……」

「妖怪の大群が攻めてきた!」

「……は?」

 

続いてほしい時間程、短く終わってしまうものだ。

 



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十二話 ~覚悟は死ぬ時だけじゃない~

前回のあらすじ。
指導→休憩→指導を繰り返していたら一月。
同じく指導をしていたら月読に呼ばれる。
まさかの妖怪侵攻。

望「ということで前回のあらすじを適当に…これいるか?」
夜「メタいから疑問に思わない方がいいかも…」
永琳「作者の自己満足で書いたんだからどっちでもいいでしょう。」
望「そうだな。そもそも書いたっつってるしな。」
作者「望以外の出番そろそろ減るんで喋らせとこうかと思いまして……」
夜・永『え?』
作者「えーと…さよなら!」
三人『………(゜ロ゜)』


妖怪が攻めてきた。

あまりの出来事に驚いてしまった。

妖怪の侵攻という何年もなかったことが今、起こってしまった。

妖怪の大規模な侵攻は、今まで一切なかった。

それこそ俺が来る前から、せいぜいが十人程度で制圧出来る程度が最高だったらしい。

 

「待て…何で今なんだ?侵攻する機会なんていくらでも…それに戦力が増えた今だと妖怪の方が被害が出るかもしれないだろ?今する意味なんて…」

「妖怪達の筆頭になっているのは…鬼じゃ。」

「鬼…?それが何の…」

「鬼は戦が好きなんじゃよ。それこそ、偶然見かけた同種も、それと戦っていた人間も、皆殺しにする程にの。」

「!」

「鬼は希少じゃ。そうぽんぽん生まれるものでもない。しかし過去の目撃情報では、命からがら生き延びた者がこう語る程じゃ。」

 

月読は一呼吸おいて口を開いた。

 

「『妖怪達の王』」

 

―――――

 

「………」

 

『お主は戦える準備をしておいてくれ。過去の妖怪とは違う。殺す覚悟をするのじゃ。』

『……』

『……民とともに逃げることも出来る。人間でなくとも、生物を殺すのは躊躇いが出るものよ。元々この国の者でないお主に頼むこと自体間違いなのじゃ。それでも…儂らには余裕がない。無能なトップですまない。』

『……』

 

「……くっ!」

 

俺は壁を思いきり叩いた。

ある程度強固な造りであるその壁は地面にクレーターを作るほどの殴打でもびくともしない。

しかし俺がそれ程の力で殴った時点で、その心境は分かるだろう。

 

(殺す?俺が?生物を?無理だ…そんな簡単じゃない!)

 

『殺す覚悟』。

それは記憶を失っているとはいえ、平和な日本で生きたただの高校生には、あまりにも難しい。

虫や動物の死に会うことは確かにある。

しかし人間が死ぬところは?

人間程の大きさの生物が死ぬところは?

それ専門にでもならなければ、生物の死などそうは見ない。

まして鬼は姿形は人そのもの。

違うのは角の有無程度。

『殺す』という一言は、それだけで人を蝕む。

今の望は、どうにもならない葛藤を続けていた。

 

―――――

 

「……儂はなんて無力なのじゃ…」

 

若い者に戦いを頼み、自らが戦う気もない。

いや、戦えない。

神として儂の力は強い。

伊達に三神などと呼ばれはしない。

故に、こと戦闘を行うことは禁止されている。

神が人間を導くことは許されても、人間に力を貸すことは禁じられている。

せいぜいが人の少し上程度の力が限界。

その程度では、結界を張ることだけで精一杯。

どれだけ民を思おうと、その禁忌に抗う術はない。

戦いを嫌う望に、殺しの覚悟など、本当はさせたくない。

 

「……父様よ…儂は何故かくも無力なのじゃろうか…」

 

神であるが故に戦いに参加出来ない月読は、それこそ神頼みをすることしか出来なかった。

 

(望の選択がどちらでもいい。あの者に戦いを強いることなど出来ん…だがもし戦うのなら…)

「父様よ…せめて…守ってくれ…」

 

―――――

 

望を呼んでから三時間、月読の執務室は月読を含めた六人のトップ達の会議が行われていた。

 

「月読様!兵は保って二時間です!それまでになんとか対策を……!」

「……もう手段はない。計画を早める。」

『!』

「まさか…月への……!?」

「無謀です!まだ何年も先の計画…この場にいる者を除けば、永琳様しか知らないような計画ですよ!?」

「行く方法も確立されない今、それは自殺にも等しい!今行うのはあまりにも無謀過ぎます!」

「確立は出来ておる。豊姫の能力『空間を繋げる』あの能力は、月へ繋げるのも不可能ではない。」

「しかしそれでも…未熟な子供にそれだけの力は使えないでしょう!?」

「儂の力を使う。能力などの制限があろうと、もとより備わった神力の使用に制限はない。制御も力も、全て儂が担えば、民が逃げる時間は使えよう。」

「確かにそれなら……」

「………そのための時間はどう稼ぐおつもりか?」

『!』

「よもや全ての民が逃げる間、妖怪どもが待つなどと思いはしていませんな?」

「…それにこの都市の兵器や研究を放置していいとは思いません。例えその方法で月へ行こうと、これはどうにも……」

「なら一人で妖怪を抑えて、核でも持って自爆させればいい。」

『!』

 

その場にいないはずの者の声がした。

扉に佇むその者は、普通なら出来ないであろうことを、さも当然のことかのように言って退ける。

そこにいたのは紛れもない、望だった。

 




他小説でのストーリーだとロケット乗って月行く途中爆破とかが多いと思う…まあ自分が読んでた奴だけなのかな?まあそう思うので変化をつけたかったのでこうなりました。さて、次回から永琳や夜、ついでと言ってはなんですが訓練生達も出番一旦お預けです。月行くまでの期間が短いと思うのは望視点なのにその話しが望にいかなかったからです。元々ありました。他小説との違いが気になる人は申し訳ありませんがこのまま進行させて頂きます。自分の癖みたいなのですが長文失礼しました。


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十三話 ~少年は戦場を駆ける~

テスト、課題に追われ投稿は遅くなり早半月。マジでごめんなさい!こっちだけじゃないけどもう少し投稿早くします。


「望…」

「俺の言ってることに間違いはないだろ?」

「…一人で妖怪を抑え、あまつさえ自爆の覚悟を持つ者など…この都市には…」

「俺がやる。」

『!』

 

実際不可能ではないだろう。

遠くからちまちま弾幕を張るのではないのだ。

殴り殺すのなら、今までしてきた加減をする必要がなくなる。

あの消滅も、巻き込む味方がいなければ使い放題。

更に自分は不老不死。

自爆覚悟など難しくない。

永琳以外知らないとは言え、元々余所者の俺を心配する奴など…精々夜くらいだろう。

 

(……なんか自分で悲しくなってきた。やめよう。)

「それで、無理だと思うか?」

「……確かに君は強い。この都市で右に出る者はいない。しかし君は若いのだ。命を簡単に投げ出すことは…」

「誰かがやらなきゃ、救える命も救えなくなる。それに…俺程あんたらにとって、都合のいい奴がいるか?」

「っ……!都合の良し悪しなどでは……」

「もうよい。」

『……』

「望よ、殺す覚悟を決めることを迫ったのは儂じゃ。場は戦場、当然死ぬ覚悟もの。望、今一度聞こう。全てにおいて、覚悟は出来たのか。」

 

月読のその問いに、俺は口角を上げて答えた。

 

「もちろんだ。」

「そうか……」

 

その答えに満足したのか、月読も少し笑いながら命じた。

 

「この都市の民として、民が為に尽力せよ。我が最初で最後の命令、友として答えよ。」

 

俺は軍の敬礼をしながら答えた。

 

「この都市の…民の…友のため誓う。そして、最高の活躍をさせてくれることに、感謝する。」

(月読様が友だとは…)

(それほどにこの者に信頼を…)

 

俺の覚悟を認めた権力者達は、それ以上何も言わず、部屋を出た。

俺も堅苦しい敬礼を解き、口調も砕いた。

 

「てなわけでさ…夜のこと、永琳によろしくって伝えてくれ。」

「うむ。分かっておる……などと言うと思ったか!」

「はぁ!?さっき友とか言った奴の最後の頼みも聞けねぇのかよ!?器小せぇぞ!」

「お主が不死という情報、儂が持たんと思ったか。」

「……仮にも神だしな…知っててもおかしくないか…」

「何を言いたいか分かるな?」

「生きて自分で言えってか?無茶苦茶言うなよ。生き残っても月に行くのなんて何年かかるか分かんねぇぞ?都市も爆破、とっかかりなし、それでどうやって?」

「何年でも待とう。お主を待つのは、なにも夜だけではない。都市の世話になった者ら、訓練生達、そして何より…この儂じゃ。」

「……分かったよ。いつか帰れるなら、その時は……」

「友として、盃でも交わすかのぅ。」

 

覚悟は決まった。

準備も終わった。

約束も終わった。

 

「後は一人で勝てるかだな……大きく出たけど勝てっかなーって、時間稼げばそれで勝ちか。まあ後は神頼みだな。…俺を生き返らせたんだ。元々殺したのもあんただけど…勝つこと願ってくれるくらい、いいだろ……?」

 

戦いに赴く道程で、俺は祈った。

もう出会うことなどなかろう天使と、顔も知らぬ神に向かって、最後に神頼み。

これで本当に整った。

 

「さて……始めようか!」

 

俺は戦場を駆け出した。

 

 




準備回みたいなのだし短くても許して……つか打ちきり漫画の最終回みたいになったな…打ちきりとか作者次第だけど。まあこれからも続くし、むしろこっからなので、気楽に~♪あ、『生活記』の方もよろしくね~


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十四話 ~始まりの戦~

夜、永琳が次に出るのはいつなのか…それまで読んでもらえることを祈ります!


俺は走った。

ひたすらに走り続けた。

今まで見たことのある妖怪。

初めて戦う敵。

戦っていた兵士達。

俺が走っているのは…死屍累々の戦場だ。

 

「……俺が本気になると…ここまで出来てしまうのか……?」

 

倒れた兵士も妖怪も皆例外なく息絶え、屍の山を築く程に、大量の死体が落ちていた。

戦いに参加した時、今までは遠くからちまちま狙うか、近くで脅しのような力を見せつけるだけだった。

そして今は、それを妖怪達にぶつけていた。

俺は恐怖した。

自分自身に。

兵士の死体は妖怪によるものだ。

けっして俺がやったわけではない。

しかし妖怪の死体は…俺が作った。

三十分、たったそれだけの時間で、数え切れない程の妖怪を殺した。

それ以外に方法がないからと、躊躇もなく。

俺が恐怖したのは、今の自分だ。

肉を抉る感触。

飛び散る血飛沫。

死を恐れる悲鳴。

それに動揺することもなく、平気で行う俺自身。

軟弱と思われるかもしれない。

しかし怖かった。

とても…怖かったんだ。

 

―――――

 

「母様!一刻もせぬ内に、先陣の者達は全滅!一人の人間が、減速せずに突破してきます!」

「……そうかい。なら、そろそろかねぇ?」

私はニヤリと笑みを浮かべた。

 

―――――

 

殺して殺してまた走る。

もはや俺は殺戮者だった。

誰も止められない災害。

妖怪からすればそれほどだろう。

それなのに疲労がない。

傷を受けることもなく、死体の山は増えていく。

引いてくれれば終わりなのに。

人間も妖怪も戦わなければいいのに。

そう思いながらもまた殺す。

それなのに、心は動かない。

これほど殺しているのに、何も感じない。

最初は何か思ったはず。

それなのに……

 

「なんだ、もう壊れてるじゃないかい。」

「………誰だ。」

「鬼さ。今回のことを始めた種族さ。人間の都市を奪うことは考えてなかったけどね。」

「…ならなんで攻めてきた。そちらから大勢で攻めてこなければ、お互い被害はなかったはずだ。」

「何故?…そうだねぇ…人間は鳥を狩って喰う。それと何が違う?」

「…………ははっ…そうか…端っから生物として違ったんだな……」

(そうか…だから殺すことに……)

 

日本で暮らす友人が見れば確実に悪役と思われる笑いをこぼしながら、俺はそいつに向き直った。

 

「……もう都市に人間はいない。お前らはどうするつもりだ?」

「これだけの被害を被って、収穫なしは笑えないね。」

「くくっ…そうだな。だがお前達に人間を収穫することはもはや不可能。そして…都市の技術を手に入れることも、もはや不可能だ。」

「やっぱりあんた捨て駒かい。一人でここまで出来る奴も少ないからねぇ。一人より多数を選んだわけだ。」

「…都市はもうすぐ消滅する。人類が産み出した最強の兵器、核によってな。」

「消滅ねぇ…その核ってのがどういうのかは知らんけど、その言い方だと都市全体、果てはあんた自身も巻き込む程のものなんだろうねぇ。」

「お前らに出来ることは、二つ。一つは間に合うか分からんが俺を倒して核を止めること。そしてもう一つは、このまま尻尾巻いて逃げ出すことだ。」

「そうかい。なら私の選択は合ってたわけだ。」

「選択?俺にばれずに都市に向かったとかか?無理だな。俺の索敵は都市まで届く。」

「違うさ。…既に私以外誰もいないのさ。この戦場は、私とあんたの二人だけ。」

「……鬼ってのは酒と戦いが好きだったな。」

「ああそうさ。最後に熱い戦いをしたかった。あんたが攻めて来てることを聞いて、ここが最後と思ったのさ。」

「そうか…最後か。そうだな。残念ながら心中してやることは出来ないが……」

「間際の望みは叶えてくれるんだねぇ。」

 

望みを探して生きる。

天使にそう言い転生した。

そんな俺には、こいつの言葉は重かった。

 

「良い顔になったね。倒しがいがあるってもんだよ!」

「これも望みの形か…」

「私は鬼子母神!全ての妖怪の頂点に君臨する者!生涯最後の戦いだ!存分に楽しませてもらうよ!」

「俺は筑城望だ!俺も楽しませてもらおう!」

 

互いに駆け出した。

 

―――――

 

接近と同時に互いが放った拳は、地面を抉る程の衝撃を放ちながら衝突した。

続けざま蹴りや殴打、双方接近戦主体が故に、その光景は喧嘩のようだった。

ただし威力が化け物なため、一帯は更地へと変貌しつつあったが……

双方避けることはしない。

相手の拳を、蹴りを、全て受け止め合っていた。

軽く人間の体を貫く手刀、妖怪を粉砕する殴打、地割れを起こす程の踏み込み、岩をも粉々にする蹴り。

それほどの威力の攻撃を、互いに避けることはない。

腹に決まろうと、心臓を穿とうと、骨が砕けようと、顔が歪もうと、受け続ける。

そうでなければ意味がない。

本気の戦いで、鬼が痛みを恐れるなど許されない。

望も付き合っただけではない。

覚悟を持った相手に対し、自分が恐れるのは情けない。

鬼と人間の代表、その戦いは、死に対する痛みをもって初めて完成する。

もはやそれは、プライドを賭けた戦い。

それが、鬼子母神の最後だった。

 

「はぁ……はぁ…やっぱいい奴だよあんた…付き合ってくれてさぁ…」

「はは…そうかもな…」

(死ぬ時は友達を庇い、今は都市を守って…)

「じゃなきゃこんなとこにいねぇよ。」

「……そうかい。」

 

笑みをこぼした鬼子母神は、回復が追いついていない腕を上げ、拳を構えた。

 

「もうこっちは瀕死さ。腕見りゃ分かるだろ?もう治らない。ここまでやられたのは初めてだ。だからこそ…あんたにだけは、私の最初で最後の本気を見せたい!鬼の中でも長にのみ伝わる奥義…『三歩必殺』…見せてやろう!」

「…そっちが奥義とやらを使うのに、こっちは受けるだけ…そんなのつまんねぇよな!?こっちもやってやるよ…全力でな!」

 

互いに構え、顔を見る。

どちらの顔も、笑っていた。

それが鬼子母神の最後の顔になった。

 

「『三歩必殺』……!」

 

一歩、踏み込み力を溜める。

二歩、拳に力を集約し振り上げる。

そして三歩、全てを放ち爆発させる。

それに相対したのは望我流の技。

奥義と呼ぶのも微妙、されどその破壊力は絶大。

奇しくも同じく溜めて放つ簡素なもの。

名を…

 

「『剛力打破』!」

 

力任せに腕を振るい、全力の殴打を見舞いする。

ただそれだけ。

しかしそれが凶悪な威力を持つ。

天使の条件により圧倒的なまでの霊力。

それを多量に溜めたものを、一瞬の内に解き放つ。

その威力は、『三歩必殺』でさえも、軽く凌駕してしまう程だった。

 

―――――

 

「……ははっ…最後に勝てない奴に会うなんてね…ここまでされちゃ降参だよ…」

 

倒れた彼女の腕は…いや、もはや半身すらもない。

生きているのは妖怪だから。

たったそれだけ。

再生する回復力もなく、体の半分は消滅。

それでも彼女は笑った。

悔いのない生きざまだったと。

 

「あんたは不死なんだろ?私は死ぬけどあんたは生きる。完敗だねぇ。戦士としても、生物としても。」

「いや…俺はさ…笑って死ぬなんて出来ねぇよ。死ぬのは怖い。今も思う。不死でも死んだことないんだよ。まださ。これから一度死ぬのかと思うと、すげぇ怖い。」

「はっ!まだまだ子供だね…死ぬのが怖いのは当たり前だ。でもねぇ悔いのない死に際なら、最後に出るのは笑みだけさ。笑って死ねりゃ勝ち組だよ。幸せだった証拠だ。だから私も、幸せだった…」

「そうか……」

 

二人には分からないが、起爆装置は起動済み。

後数分もすれば、ここら一帯の何もかもを飲みこんで消滅する。

だが二人はそれを知ってか知らずか、互いに最後の言葉を綴った。

 

「お前が次生まれ変わるなら……」

「私が生まれるまであんたが生きていたら……」

 

『次は友達(ダチ)になりたいな(ねぇ)。』

 

互いに笑ってそう言った。

次の瞬間、眩い光が辺りを覆った。

その光は、周り全てを飲みこみながら、笑顔の二人をも飲みこんだ。

収まる頃には付近には何も残っておらず、二人の人影も、当然のごとく無くなっていた。

 

 




3000文字越えたの初めてだ!生活記でも2000が限界だったのに!まああっちは原作の区切りで切ってるから仕方ないか…でもなんか嬉しい!とりあえず都市編終了ー!編分けしてないけどね?編分けは次の回からしようと思うので次回も試読?お願いします!編分けしてなかったのは忘れてただけです!ごめんなさい!


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十五話 ~新たな出会い~

『生活記』の更新は読みながらだから時間かかるのに対し、思い付きだから早いこっち。勢い大事ですね。


ここはどこだろう。

何故だか見覚えがある。

いつだったかも分からない。

…ああそうか…ここは…

 

「死後の…世界か。」

 

―――――

 

俺は一人、真っ白な空間を漂っていた。

天も地もない。

前後左右も分からない。

ただその場所は、死んだ時に見た場所と近かった。

 

(前は天使が…)

「はい、いますよ?」

「!?」

 

声も出せない驚きとはこういうことを言うのか。

いやそうじゃない。

 

「何でいるのかですか?」

「……そうだよ。」

「冥界の管理者は死神とでも思いました?私達天使は死者の前には必ず来ますよ?」

「いやそういうことじゃ……待ってお前誰?」

「?誰って…天使を見たことあるんですか?そういえばさっきも天使が来るみたいなこと…」

 

俺はよく見もしないでそいつと話していた。

故に、以前話した天使と違うことに気付けなかった。

いや姿ではなく口調、あの天使に敬語は話せない。

 

「……ああ!もしかして転生者の方ですか?なるほど…」

「…何で分からないんだ?」

「いえ忘れてただけです。というより来ること予測してませんでした。」

「?普通は予測出来るのか?」

「はい。ただ不死まで手に入れた転生者が来ることは予測出来ませんでした。」

「……ということは、俺は完全に死んだってことか?」

「そうですね…ここに来たということはそういうことでしょう。不死の方は来られない場所ですから。」

 

俺は衝撃を受けた。

つまりあの天使は不死にしたという嘘を、笑いながら俺に話していたということだ。

 

(………?あれ?じゃ永琳の薬で死ななかったのは?それ以前に体消えてたよな?あれ?あれぇ?)

「どうかなさいました?」

「い、いや…不死の奴がここに来る可能性って、あるのか?死なないんだろ?」

「前例はないですね。貴方が初めてです。」

「…………」

 

俺は呆気に取られた。

不死は来れないこの場所に、俺は平気で立ってる。

そも死んだならここに来るが、死なないはず。

この天使が不死を知っているなら、前の天使の話しに嘘はないはず。

つまり死後の世界に、死なないはずの人間が入りこむ分けの分からないことが起きている。

 

「どういうことだ?」

「こちらが聞きたいですね。」

「…………」

「…………」

 

二人とも沈黙してしまった。

当然のことだろう。

お互い分けの分からない状況で、理解出来ていないのだから。

 

「どういう……」

『私が説明するわ!』

 

何故だか聞き覚えのある声が、空間に反響した。

 

「いや~教えてなかったことがあってね~いつか会えると思ってたからいいかなって……」

「……最初の天使はお前か。」

「そだよ~そこのは後輩ってとこかな?」

「えっと…説明願えますか?一人の空間に二人の天使はあり得ないはずですが…」

「うん!あり得ない!だって必要ないもの!」

「…なあ、そもそもここは本当に冥界なのか?その割に重力もある気が…」

「うん、だって違うもん。」

『え?』

 

冥界じゃない。

それが確実になったようなものだ。

でもそうなると天使の存在が分からない。

 

「ここは貴方の能力によって産み出された世界。能力はいらないって言ってたけど、一応ね?」

「ちょっと待て。能力で産み出したとしても、そしたらお前らは俺の妄想か?或いは天使とのコネクトが出来る能力なのか?」

「どっちでもないわ。私達は本物だし、ましてや連絡出来るってんなら説明するわよ。」

「じゃあ……」

「貴方の能力ね…実を言うとこんな早く使えるものじゃないのよ。本当なら幻想郷が出来る頃…早くてもその数年前程だと思ってたのよ。」

「……それで、能力ってのはなんなんだよ?」

 

気になった能力を問うと、天使は即答した。

 

「『白を操る程度の能力』」

「白を操る?なんだそれ。」

「文字通り白いものを操る…わけではないのですよね?」

「うん。それも出来るよ?でも意味合いとしては…そうだなぁ…空間そのものを操作する感じ?」

「……?どういうことだ?」

 

もう一人の天使も一緒になって首を傾げている。

 

「あー説明難しいのよ。んー例えば自分がいる空間を、一枚の紙とする。その紙をどうするかは、自分次第でしょ?つまり簡単に言えば…想像次第で何でも出来る能力?」

「……はあ?」

「そ、そんな能力を人間一人に与えたのですか!?」

「怒んないでよ…これは望が想定外過ぎるのと、神様からの謝罪の意思、あと…望の人柄の良さが原因よ。」

「じゃあ全部の原因は神様か。」

「そうね~」

「まさか…この世界も…」

「望が瀕死になったことで、偶然発動した能力が創った世界…起点になる紙の部分ね。」

「となるとなんでここにお前らがいるんだ?」

「ああ、その子は担当だから、元々ここに送られる予定だったのよ。能力が使えるようになったら能力の調整と、望が壊れないよう制御、あとは悪事を働くことのないよう監視の役割を持ってるわ。」

「待って下さい!それならなんで私に伝えられなかったんですか!?そんなの嫌です!帰りたいです!」

「でしょ?だから伝えなかったのよ。神命令でも嫌。無理矢理連れてくのも難しい。じゃ言わずに働かせよう。ということよ。」

「貴方がやればいいじゃないですかぁ!」

「無理。監視とかそもそも私が信用されてないもの。自分勝手に使うとかサボるとか思われてる。制御なんて小難しいこと私は苦手だしね。」

「なんで平然としてるんですかぁ!自分勝手過ぎます!」

 

俺は蚊帳の外で、敬語の方がまくし立てているのを、ただ黙って聞いている。

なんか制御とか監視とか、結構重要なことを本人の前で言っている。

これで大丈夫なのだろうか。

 

「―――はぁ…分かりました。仕事として与えられた以上文句は言いません。」

「言ってたじゃん。」

「私暴力は好きじゃないんですよねぇ……」

「拳を構えた人の言葉かなぁ!?」

「それで?終わりか?」

「ああ忘れてた。今の会話聞いてたよね?そゆことだから旅にこの子も付いてくから。よろしく。」

「まぁいいです。現世を自由に歩く許可をもらったようなものですから。」

「あれ?無理なの?私勝手に行くけど?」

「…なんで貴方は平気なのでしょう…」

「キャリアかな。」

「…まあとにかよろしくお願いします。」

「じゃあとよろしく~」

「え!?待って下さい!まだ聞きたいことが…!」

 

言うや否や、不真面目天使はどこかへと飛んで行った。

一体どこへ行ったのか、既に影も形もない。

 

「現世にはどう戻れば…」

「あ」

 

俺は完全に忘れていた。

説明が出来る天使がいなくなった以上、自力で出なければならない。

真っ白な空間に、天使と人間が立ち尽くした。

 

 




能力説明はその内人物紹介の時に。もしかしたら次回紹介の回になるかもしれまん。いつでもノープランです。この展開も前日の思い付きです。


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十六話 ~贈り物~

今回自分で書いててどうしようってなった。


さて…前回何があったのか、簡潔に説明していこう。

 

・鬼子母神との戦い決着

・都市ごと消滅

・よく分からん空間に避難

・天使との生活決定

・そのまま閉じ込められる。

 

こんなところだろう。

 

「とりあえずどうにかしろ。」

「謝ってるじゃんさ~一日だけだし許してよ。」

「天使にも物理って聞くんだよなぁ…」

「あ待って本当にごめんなさい。殴らないで。」

 

わざとらしく謝り倒す真正のクズに対し、もう一人の天使が冷ややかな視線を送っている。

ちなみに一日閉じ込められるだけでどうしてここまで怒るのかというと、ここは隔離空間のようなものではあるが、通常の空間と時間の流れは同じ。

なら余計問題ないと思うかもしれないが、それが問題だ。

実は、都市には月読から残された物が一つだけある。

俺の霊力で開く地下室。

しかし何日も放置すれば、最悪開かなくなるかもしれない。

月読は、俺がすぐに蘇ると思っていた。

故に、それを絶対に俺が手に入れると思い置いていった。

それを見つけることも出来ないなど、何を言われても仕方ない。

だから急がなければならない。

それが閉じ込められた挙げ句に謝罪もない。

 

「いやごめんって。そんな事情知らないわよ。でもとりあえず、とっとと出ましょう。」

「出方を教えろっての。」

「どうせあんた以外には通れないわよ。能力で具現化すれば、出来ないこともないけど…」

「俺専用の通路ってとこか?余計教えろや。」

「分かってるって~まあまずは……」

 

―――――

 

外に出た。

もうそれしか言えない程放心していた。

能力を操って、外に出たまではよかった。

しかし眼前に広がる光景は、森だった。

核で消滅…地面には草花もないはずなのにある。

更に見ると、生物が走り回ったりしている。

そして都市の残骸のようなもの、何かが砕けた破片のような物。

都市があった場所にいるはずなのに、そこは森。

 

「……天使…聞こえてんだろうな…」

『聞こえてますよ~何言うか予想してたし、反応見たいから待ってた。』

「これ…何年経ってんだ?」

『……軽く四千年程?』

「分かったとりあえず説明求む…」

『まあ端的に言うとまあ…人間の限界?不死だからって簡単に復活するわけじゃないのよ。首切るとか心臓刺すとかのレベルなら簡単に蘇れるけどね…消し飛んだらそりゃ時間はかかるわよ。』

「…かかり過ぎだろ。」

『まあそうね。仮にも天使だから、不死は他にも見たことあるけど…ここまでかかったのは初めて見たわ。初めてだし、精々数年早くて一時間とかだと思ってたけど…千越えてるとはね…』

「………」

 

色々謎があるとはいえ、とにかく蘇った俺は、もはや役立たずの天使を無視して月読の残したものを探した。

まあ簡単に見つけることが出来た。

霊力を薄く円のように広げることで、感知のようなことが出来る。

ものの数分で見つけることが出来た。

 

「これか?」

 

見つかったことにとりあえず安堵した。

開放も問題なく出来た。

地面に扉があり、その表面は金属で出来ている。

地下シェルターのようになっているようだ。

まあ開けたら人一人入る程度の部屋。

何を残したかはすぐに見えた。

 

 

「……扇子?それと…刀?」

 

組み合わせの意味が分からない。

扇子が開いて丁寧に置かれ、刀掛けに一刀の刀が掛けられていた。

 

「何だこれ?」

 

意味が分からないものではあったが、月読のことだと思い、手紙でもないかと探った。

結論無かった。

一切なにもなくというわけではない。

風化した紙切れ一枚。

つまりは時間切れ。

 

「…………どうしてくれんだクソ天使…」

 

何かも分からない扇子と刀を手に入れた。

 




時間経過の説明は多分少し先にします。主はいつでめノープランです。


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十七話 ~諏訪来訪~

何も分からない扇子と刀を持った俺は、行く当てもなく都市跡の森をさ迷っていた。

まず必要になるのは拠点。

食料や安全の確保は最悪どうとでもなる。

しかし延々歩き回るわけにもいかない。

一先ず留まれる場所が必要だ。

とはいえ建築経験は皆無。

資材を集めるにも道具はない。

いっそ天使のいる空間で過ごせないのか。

 

「そういえば刀…あるよな…」

 

怪力で振れば木々を倒すのは可能なのでは?

月読が残したものがやわとも思えない。

まあ木を確保したところで建築技術なしで家が出来るとも考えられない。

四千年程の時間が経ったなら人間が新たに生まれていてもおかしくはないだろう。

拠点を自力で作るのを諦め、人のいるところを探し旅を始めた。

 

―――――

 

結論、人のいる場所は見つけた。

しかも村ではなく国だ。

四千あれば国も出来るのか。

人間の成長は恐ろしい。

まあ当然、何もなく入れるわけもなかった。

 

「この非常時に旅人か。」

「非常時?」

「近隣国である大和が全ての国を統合しようとしていることは知っているだろう?此度の標的はこの国だ。旅人が入ることは構わないが、最悪戦争も考えられる。被害が怖ければ帰ることを勧める。」

 

勿論そんなこと知りません。

しかしスパイとかの可能性は考えないのかな。

 

「まあいいよ。最悪自力でどうにかするさ。」

「…そうか…なら止めはしない。しかし何があろうと自己責任で頼むぞ。」

「あ、ついでに宿かなんかの場所教えてくんない?」

「………」

 

―――――

 

まあ何もなかったんだが。

入国(?)には特に問題なく、今は教えられた宿に向かって歩き回っていた。

広くて迷った。

こう迷っていると、自分が方向音痴なのだということが分かる。

考えると知っている場所以外基本案内がいたし、案内いないときもまともに目的地に着いた記憶がない。

 

「宿…どこだ…?」

「宿をお探しかい?」

 

背後から声がした…気がした。

しかし背後には誰もい…いた。

背丈は子供、この時代の日本に似つかわしくない金髪、よく分からない背後のオーラ……?

 

「え…?…?」

「どうかした?」

 

間違いなく背後に何か見える。

 

「あー…いや…金髪が珍しくてな…」

「!…な、何で…?」

「は?」

「認識阻害の術をかけてるのに…」

 

認識阻害となると、恐らく金髪ではなく黒髪にでも見えるのだろう。

わざわざそんなものをかける意味があるとすれば…

 

「君…人間?」

「そう言うお前は…?」

『……』

 

なんだか変な空気が流れた。

片や自らの変装を見破られ。

片やそこから予測して。

互いに普通ではないことを悟った。

 

「……大和からの密偵?なら容赦なく倒すけど?」

「いや別にそういうのじゃないんだが…」

「じゃあ何?妖怪?それに類す化生の者?」

「あー……なんて言うかな…どっちかと言うと…仙人とか?」

 

不死を明かすわけにもいかないとなれば、不老の理由付けでは仙人辺りが妥当だろう。

全くの嘘というわけでもあるまい。

 

「そんな感情豊かな仙人いてたまるか。しかも刀携え扇子を腰に挟み…ますます分かんないよ。」

 

まさかの即ばれ。

つか刀とか関係ないだろ。

 

「いや嘘ではない…と思う…よ?うん。」

「………」

 

やばい信じてない。

心なしか疑念の目が強くなってる気がする。

幼女に睨まれて興奮する変態じゃないんです俺。

そうこう悩んでいると、突然彼女は笑いだした。

 

「…ぷ、あははは!」

 

ここは往来の、ど真ん中とは言わないまでも、そこそこ人の目がある場だ。

そこで彼女は周りを気にせず大笑い。

どうしたのだろうか。

 

「どうした!?」

「いやー…なんかおかしくなってね。だって何考えてるか分かりやすいんだもん。顔がコロコロ変わってまるで百面相さ。」

「えー…そんなにかー…?」

「まあこんなのが密偵とかないね!妖怪なら分かるし。」

 

じゃあなんで妖怪か疑った。

とにかく誤解が解けたようで、すぐそこにあった団子屋で少し話すことにした。

 

―――――

 

「お金ないのに宿行こうとしてたの?」

「……忘れてたんだよ。」

 

考えると金なんて一切持っていなかった。

なんなら都市で使っていた金もない。

まさに無一文、ということが、団子屋前で発覚した。

というより思い出した。

 

「おかしな人間だなぁ。いいや、面白いし、家来る?」

「いいのか?」

 

こちらとしては有難い。

最悪雨風凌げる場所があればいいだけだし。

 

「別に構わないよ。香苗は分かんないけど。」

「香苗?巫女か?それとも世話係か?」

「なに世話係って…巫女だよ。私が神様なのもう気付いてるでしょ?」

「まあな。」

「ふっふっふ…崇めてくれてもいいのだよ?」

 

ない胸反ってふんぞり返ってもな。

つかあの天使と違って心読めないのか。

これが神とか月読知ってる俺じゃなきゃ想像も出来んだろ。

人間は神をやたら神聖視するからな。

あれ知ってるとそんなの無理。

 

「既に国創るくらい崇められてんだろ。」

「むぅ…まいっかー私守矢諏訪子。この諏訪の神様だよ。」

「俺は筑城望。…特に紹介することないな。」

「そか。しかし少し嬉しいかなー香苗以外に神として認識してくれる人がいたの。」

「そうかい。」

 

二人して団子を頬張った。

端から見れば幼女に団子驕らせるクズか俺は。

 

―――――

 

「ただいま~」

「神なのに軽いな…邪魔するぞー」

「おかえりなさ……?」

 

神だから住まいは神社なのだろう。

まあ神社は隣で今いるのは普通の一軒家だが。

戸を開くと、緑髪の女性が諏訪子を出迎えに来た。

諏訪子が人を連れて来るのがよほど珍しいか、それとも初めてなのかとても驚いている。

 

「諏訪子様…諏訪子様が…」

「か、香苗…?」

「諏訪子様がお客様を連れて来たー!」

 

ハイテンションで騒ぎ始めた。

そのテンションは俺でさえ引いてしまう程だった。

スカートで跳びはね、長い髪は飛び上がり、わんぱく少年のようなはしゃぎよう。

諏訪子がやるなら似合うのだが、彼女がやると目のやりどころに困る。

 

「……なんか失礼な気配感じたんだけど?」

「……何のことかな?」

 

心読めなくても分かるのか。

いや、俺が分かりやすいだけなのか。

 

「いや~今夜はお赤飯でも炊きますか!?」

「そ、そこまですることないよ…?」

「これが素なのか…」

 

―――――

 

「取り乱して…失礼しました。私は諏訪子様を祀る神社の巫女、東風谷香苗です。」

「俺は筑城望だ。まあ…わけあって旅してる旅人…でいいのか?」

「何で自分で疑問に思ってるの…」

「よろしくお願いします。」

「こっちこそよろしく。」

 

普通の自己紹介。

考えると紹介すること俺ない。

 

(何か考えるべきか…)

(『別にいいと思うけどねぇ。』)

「!?」

「ど、どうかしましたか!?」

「い、いや…何でもない。」

 

天使の声が聞こえた。

間違いなくあの役立たず天使の声だ。

 

(『誰が役立たずか!』)

(『本当のことでしょうに…』)

(何で話せるんだ?そもそも何でお前もいる?)

(『暇だから。』)

(『…私には分かりませんが…元々話すことは出来るみたいですよ。心を読むのと同じことをしているので、残念ながら私には望さんが何を言っているかも分かりませんが…』)

(『本来この子はこの空間に住んでるから、通信みたいなこと出来るんだけどね、まだ無理なのよ。あんたが能力使いこなせてないから。』)

(『使いこなせていれば、こちらから話すことも、望さんから話すことも出来ます。私にはどうにも出来ません。望さん次第です。』)

(なら何でお前は出来るんだよ…)

(『与えたのは私なのよ?そもそも能力の調整とかしたの私だし、これぐらい出来るに決まってるじゃない。まあ心読んでるだけでそっちの声は聞こえてないけど。』)

(……)

 

―――――

香苗視点

―――――

 

望さんはいきなり何かに驚いた顔をして、すぐさま顔を反らした。

何があったのだろうか。

彼は未だに百面相をしている。

正直面白い。

顔がコロコロ変わるのは見ていて面白い。

何を考えているかはさすがに分からないが、いつまで待てばよいのだろう。

さすがに待てなくなったのか、諏訪子様が呼びかける。

 

「ああ…悪い。ちょっと色々あって…」

「大丈夫?」

 

色々とは何があったのだろうか。

そもそも私達と対面している中で何があるというのか。

私の中に生まれた認識は、とても変わった人だ。

 

―――――

視点戻し

―――――

 

(『とにかく、私がいる時は仲介役にはなるけど、早く能力試しなさい。多分すぐに出来るから。』)

(分かったよ。明日にでもやるよ。)

(『あら優しいことで……この子のこと考えるなんてお人好しね~♪』)

(うるさい。)

 

何もないとこで一人とか寂しそうだと思った。

それを読み取ったこいつの態度はとてもうざい。

 

(『ま、そーゆーわけだから、とっととしなさい。』)

(明日やるっつの。)

「私は夕食を作ってきますね。」

「赤飯はいらないからね。」

「冗談ですよ。」

「あ、俺もなんか手伝おう……」

「いえ、二人でお待ち下さい。」

 

本当は四人だけど。

その後夕食を食べながら、泊まることを説明した。

快く承諾してくれ、部屋に案内された。

その夜は静かで、月が輝いて見えた。

永琳達は元気だろうかと考えながら、俺は眠りについた。

その夜、頭痛に悩まされ、俺は記憶を取り戻した。

二つ目の課題は、いつの間にかクリアしていたらしい。

さぁ、次は一体、何を思い出すのだろうか……

 



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十八話 ~大和殴り込み~

国譲りちゃんと読んでないからよく知らないんですよね。まあ軽く確認はしましたけど。まあどうでもいいですよね…自分以外には…


(ここは……学校…か…?)

 

「ぶっちゃけあんな美人が姉とかさ…凄ぇ恵まれてると思うよ?」

 

(あれは…俺?)

 

「でも女が怖いの姉のせいなんだろ?」

「いやそうなんだけどさぁー…」

 

(姉…確かにいた…気がする。)

 

「二次元だとさ、姉にいじめとかパシりとかに使われた弟が、姉以外の女に怯える、とかあるけど…」

「違うんだろ?話さねぇから知らねぇんだよ。」

 

(あの二人…名前が思い出せないけど…確か学校の友達…)

 

「いい加減教えてくれよー!気になるんだよー!」

「分かったよ…二人は口が硬いの知ってるし、もう二年の付き合いだもんな…」

「お!とうとう教えてくれる時が…」

 

(そういえば何か教えた気が…姉…?)

 

「今思えば、子供の幻覚にも思えるようなことなんだ…姉さんには、二つ人格があった。」

「人格が二つ?二重人格ってやつ?」

「違う。片方は普通なんだ。でも、もう片方はどこかおかしい。体に鱗が浮いたり、言葉が変になったり、俺のことも、分からないんだ。」

 

(…………)

 

「そんなん子供の白昼夢だろ。」

「なんかの病気ってこともあるかもしれないしさ。」

「でもそんなのが夜になったら俺を食いに来るんだぞ?子供には怖いさ。トラウマもんだよ。」

「あんな美人が夜に来るとか最高じゃねぇか!」

「大人しく食われろこのリア充。」

「お前らなぁ…」

 

その後三人は、普通に話したり、トランプをやったりと、休み時間をだらだら過ごしていた。

この記憶から一つだけ、何となく関連して思い出したことがある。

 

(姉さんのもう一つの人格は、ずっと何かを言い続けてた。間違いない。)

 

その疑問は残り続けた。

次に目を覚ます時まで、ずっと考える程に……

 

―――――

 

「――む?望?起きろー」

「ん…ううん…」

「何か悪い夢でも見たのかー?」

「う……」

 

俺は上体を起こし、周りを見た。

重さを感じると思ったら、諏訪子が俺の腹の上にいた。

どうやら朝飯で呼びに来たらしい。

 

「全部食べちゃうぞー!」

「ちょ、待て!香苗の飯上手いんだよ!」

 

走って食卓へ向かう諏訪子を追い、俺も向かう。

何を思い出したのか、少し薄れていた。

というより記憶を取り戻したのを忘れてしまった。

 

―――――

 

「そういえばこんなことしてる暇あんのか?」

「何で~?」

「大和の目標次はここなんだろ?」

「ありゃ、知ってたんだ。でも…正直諦めもついてるよ。」

 

大和の目的である全国統合。

ここが取り込まれれば、諏訪子の信仰が無くなる。

妖怪は人間の恐れから存在するように、神も人間の信仰から存在する。

信仰が無くなれば、神といえど消滅する。

故に諦めることとは、死を受け入れたも同然。

 

「死ぬのに諦めんのかよ。」

「香苗には悪いけどね…私にはどうにもならないのさ…相手は圧倒的力を持つ神々…有名処じゃ須佐之男命(スサノオノミコト)とかね。」

「……勝てないのか?」

「戦いで無理矢理奪われる可能性もあるけど…確実に負ける。相手にもならない。」

「抵抗の余地なしか…」

「そういうこと。精々残り少ない余生を味わうとするよ。」

「………」

 

話していると、食器を片付けていた香苗が戻って来た。

 

「お二人共、今日は何かすることありますか?」

「?ないけど…何で?」

「……実はさっきの話を聞いていて…」

「!香苗!?」

「諏訪子様は私が子供の頃から一緒でした。だから私を悲しませないように、こんな手紙を…いえ、遺書を書いていたんですよね…?」

 

彼女は懐から一枚の紙を取り出した。

そしてそれを読み上げた。

 

『旅に出る。きっといつか戻るよ。香苗の先祖に会いにね。香苗と会えるのも最後になるかもしれなくて悲しいけど、元気に過ごしてね。今までありがとう。さよなら。』

 

「……あはは、見つけてたのかぁ…」

「はい…」

「……はぁ…」

 

俺は一つため息をついて、一つだけ、諏訪子に確認を取った。

 

「諏訪子。月読…月読命(ツクヨミノミコト)って、大和だとどれぐらいだ?」

「月読?…よくは分からないけど、初めに国を創ったのは月読だから…一番上でなくとも、上から三人には入ると思うよ?実力も実績も、他者を導く能力も、どの神より一歩先を行ってるよ。」

「そうか…ならどうにかなるな。」

 

俺は確信した。

俺ならどうとでもなることを。

都市にいる時、月読と組み手を行うことはしばしばあった。

最初こそ負け続けていたが、後々負けることがない程に、俺と月読には差が出来ていた。

何より、今の諏訪子の反応から推測するに、月読は大和にいる。

俺に免じてこの国を標的にしないことを期待することも出来る。

俺が戦えば、この国を諏訪として存続させることも出来よう。

 

「善は急げ、だな。」

「大和に殴り込みにでも行く気かい?」

「だったら?」

「駄目です!危険です!心を読む神様だっています!諏訪子様との関係を読まれたら、きっと……!」

「……平気だよ。俺はただ……」

「ただ…?」

「昔の友達に会いに行くだけだ。」

 

―――――

 

「いやしかしこんなとこ連れて来られるとは…」

 

周りを見れば石の壁。

前方を見れば柱。

まあ簡単に檻と呼ぼうか。

まさか来国だけでスパイと疑われるとは。

そして疑いだけで檻に入れられるとは。

中々どうして警戒が強い。

 

『(まあ明らか怪しいからね。)』

(能力練してから来るべきだったか…)

 

天使と短い会話(?)をして、とりあえず脱獄をした。

二時間かけて。

破壊、ないし消滅とか、音でばれる。

そこで能力を使った。

初めて意図的に使うから上手くは使えなかったが、柱を消して脱走、檻を戻す、という動作はなんの苦労もなく出来た。

檻の柱がかなり歪なのは気にしてはいけない。

脱獄に成功した俺は、いつかやったように、霊力を薄く広げ、神の力、即ち神力を探った。

強い奴、月読クラスなら気付くだろうが、なるべく巨大な気配を探した。

一際大きいのを見つけた。

俺はその神力の元へと走りだした。

 

―――――

 

「先の霊力…貴方のものですか…」

「お前がここのトップか?」

「そのようなものですが…そういう貴方は人の子のようですね。人の子にして神力を見分けるなど、不可能…とまでは言いませんが、相当な鍛練が必要でしょう。」

「あー…まあ…」

 

この国のトップであろう女性を発見した。

俺のやったことが高度なことなのだろう。

見た目が若いから違和感を拭えていない。

しかも俺は普段力を表に出さない。

つまり彼女は、あまり力は感じないのに、高度な技術を持った怪しい人物と、俺を認定している。

 

「若くしてそれ程の技量、人の子としては素晴らしいものですね。」

「そりゃどーも。そろそろ本題に入っていいか?」

「これほど無理矢理会いに来ておいて、今更何を遠慮しますか?」

 

実をいうと、ここは公共の場ではない。

どう見たって月読のいたような専用の場所。

許可がなければ秘書さえ入ることを許されない場所だ。

どうやって来たか?

能力で一時間程かけて外から穴を開けた。

勿論修繕済みだ。

俺ではなくこの女性によってだが。

基本何でも出来るこの能力はやはりチートだろう。

結局使い手によるのは変わりないか。

 

「まあ本題に入ろう?…大和は諏訪から手を引け。」

「……それは余りに一方的、こちらには何の得もありませんね。統合の話を知っているでしょう?諏訪のみ逃す道理などないと思いますが?」

「…こっちとしても一日とはいえ、一緒に過ごした奴が消えるのは嫌なんだよ。」

「そうですか。しかし手を引くなどあり得ません。」

「そうか…なら一つ、そちらに得があることを教えよう。」

「得?この話において何が……」

「月読命…こいつはお前と並ぶ神というのは間違いないな?」

「そうですね。ただの実力という点においてはあまり変わりないでしょう。それが何か?」

「確信したよ。…俺なら一人で滅ぼせるってな。」

「!?」

 

俺は再び確信した。

この国に神が何柱いようと、トップがいなくなれば全国統合は進まない。

例え俺が死ぬことや、幽閉などになろうと、こいつを道ずれにすることは出来る。

つまり大和にとっての得とは…

 

 

「俺と戦わなくて済むことだ。」

「……貴方と戦ったところで、こちらの勝利は確実では?貴方からは、強力な気配を感じない。交渉にもなりえません。」

「そうか?少なくともお前には勝てるぞ?…月読と同等のお前なら…」

「先ほどもそうですが、月読に対し、貴方のそれはまるで友人。力を比べるも彼女基準。貴方は、月読の何ですか?」

 

俺は自信満々に言い放つ。

 

「かなり昔からの…友達だ。」

 

彼女の衝撃を受けた顔、俺は数年は忘れないだろう。

 

 




注意:この作品は主人公無双ではありません。というか弱点多過ぎて東方キャラでも対策ある人めっちゃいる。まあ弱点はその内分かりますよ多分…


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十九話 ~八百長仕掛けの準備期間~

閑話のようなのに問題起こさないでほしいかなぁ。
……話考えてるの自分でしたね。


「友人…ですって…?」

「ああ。」

「貴方が…貴方ごときが…彼女の友人だと…?」

「……ん?」

 

何だか異様に怒ってる。

怒髪天をリアルに見ることなどそうなかろう。

諏訪子とはまた違うベクトルのオーラが出ている。

 

(おやぁ…?)

「許さない…許されない…彼女の友は…数千年も前に消えた…たった一人!それを語る貴様など、今すぐにでも殺してくれる!」

「え…あれ…?」

 

何となく怒りの理由が分かった。

恐らく彼女は、月読と仲よし。

もしくは尊敬の対象。

なんにせよ相当心酔しているのは間違いない。

姉なのか妹なのか知らんが相当想っている。

つまりこれは、友と語る不届き者への誅罰か。

…納得いかない本物だから。

 

「ちょ待って!語ってない!本物本物!月読に会えば分かるから…!」

「問答無用!」

 

そう言って彼女は抜刀する。

どこにもなかったはずの場所から。

 

「!?」

「避けますか…しかし…逃がしません!」

 

間髪入れずに二撃、三撃と刀を振るう。

刀の心得があるのは当然とばかりに、その動きは洗練されていた。

しかしどうにも謎なのは、この刀。

一体どこから出したのだろうか。

その上炎を纏っている。

 

「ちょこまかと…鬱陶しい!」

 

直後、刀は破裂いや、炸裂した。

その破片のような小さな炎により、俺の肌が少し焦げる。

俺はすぐに距離をとり、ここまでの謎を紐解き始めた。

しかしそう上手く時間が取れるわけでもなく、彼女は切りかかって来る。

時に刀を振るい、時に刀を炸裂させ、また時には炎を弾幕にして飛ばしてくる。

遠近完璧な布陣。

近づくことさえ難しい。

それがただの人間なら。

 

「な!?」

「いい加減終わらせようぜ!?」

 

俺は炎の弾幕を受けながら、燃えた刀身を掴みながら、彼女の方へと歩を進める。

遂に目の前までたどり着き、俺は拳を振り抜いた。

腹にやったため、彼女は吐きそうになるような苦悶の顔をし、同時に何故という表情でこちらを見た。

考えると目の前の人間が攻撃受けながら殴りにくるとか恐怖だね。

不死なのだから我慢すればどれだけ体にケガがあろうと問題ない。

永琳や夜なら怒るだろう。

神というのは絶対の存在である。

故に月読含め、数いる神々は痛み苦しみを知らない。

だから知らないのだ。

我慢という行動を。

だからこそ、不意を突いて攻撃が出来る。

 

(滅茶苦茶痛いけどな。)

「パターン少ねぇんだよ神さんよぉ!?」

 

距離が空き、攻撃を再開した彼女に向かい、ほぼ変わりない動きで避け、再び腹部を穿つ。

美人の顔面殴る程鬼畜じゃないのでね。(腹パン)

 

「うぐ…げほ…」

「……」

 

正直やり過ぎた。

いや正当防衛と言えなくもない…いや、不法侵入に暴行、器物破損…こっちが悪か。

まあいきなり襲ってきたのは向こうだし…

 

「……色々すまん。」

「……は?」

「いや話したかっただけなんだよ…だからとりあえず話聞いて欲しいんだけど…」

「……聞きましょう。私に打ち勝つ力を持ちながら、月読の友人と言う貴方は本物なのかもしれませんから…」

「つか月読から聞いてないの?不死の話…」

 

かなり疑問だった。

知っているなら何故疑うのか。

語る意味などないのではないか。

 

「聞いていますよ…しかし…」

 

言いづらそうに彼女は言う。

 

『四千年も姿が無ければ、死んだと思うのが普通でしょう。』

 

―――――

 

「……」

「…私が言うのも変ですが…大丈夫ですか?」

 

話を聞いてくれることになった俺は、客人として改めて招かれた。

しかし四千年という年月に、俺は衝撃を受けていた。

事前に聞いていたとはいえ、やはり確定してしまうことには動揺を隠せない。

知り合いは死に、何もかもが違う時代に、取り残された事実に。

まあそんなに動揺はないが。

ちょっとの悪戯心で彼女…天照(アマテラス)で遊んでいるだけだ。

 

「いや悪い…正直言って別に平気ではあるんだよ。元々分かってたし、不死の時点で色々な人を見送るってさ。」

「私をからかっていたのですか?」

 

少し怒った表情で、彼女は俺を睨む。

 

「四千年もの間、姿はおろか、気配すら確認出来なかった理由…教えて頂けますか?」

「あー…実は俺にもよく分からん。」

 

俺はこれまであったことを、天使のことや転生のことを伏せて説明した。

まあ簡単に纏めると…

・時間経過理由は知らない

・復活後すぐに諏訪へと(偶然)向かった

この程度。

これを道程も加えて説明したのみ。

 

「時間経過の理由は全く予想が出来ません。しかし諏訪の吸収についてのことで少し譲歩の余地はあります。」

「と言うと?」

「私は…仮にも諏訪の使者である貴方に、あっさりと侵入を許し、迎撃を行い、挙げ句正面からの戦いにて敗北を喫しました。」

「つまりは国として負けたから条件を呑むと?」

「端的に言えばそうなります。しかしそれではこの国の神々を納得させるのも難しいでしょう。脳まで筋肉で出来た頭の足りない神もいますし…」

 

一体誰のことだろうか。

ともかく嬉しい誤算があったものだ。

諏訪を取り込むのをやめさせるのはあと一手で済みそうだ。

神を納得させ、尚且つ民衆の混乱も抑えられ、諏訪を守る方法…

 

「諏訪子とお前が一騎討ちでもすりゃいいんじゃね?」

 

それで諏訪子が勝てば納得するだろう。

吸収に失敗しても、予想外に諏訪の神は手強かったで話は終わる。

国を守ったことで諏訪子の信仰も深まるだろう。

そうなれば統合に失敗はするものの、どうにかなることだろう。

俺が戦っては意味がない。

要因を余所者としてしまえば、諏訪の力ではない。

故に諏訪子に頑張ってもらうしかない。

八百長なら負けはないのだから、何を頑張るのかは俺も知らん。

しかしそんな提案も、天照には拒否されてしまう。

 

「恐らく納得、という点において、私では役不足でしょう。私の力は、戦神にはどうしても劣る。納得させるなら、他の者に任せなければ…」

「八百長話せば?」

「軟弱とかで癇癪起こされても困ります。下手に説明して、国を乗っ取るような欲を出し、暴れられても尚困ります。」

「そんな個性的面子なのか。神ってのは。」

 

新事実だ。

教科書にでも載せとこえう。(載せない)

 

「実際に諏訪子に全力で勝ってもらうのが手っ取り早いか…因みに勝ち目は?」

「……皆無とまでは言いませんが、限りなく不可能に近いかと…」

「知ってた。」

(『負けても平気でしょ。』)

 

突然の天使の声に、俺は天照が見てるのを忘れて驚いた。

 

「ど、どうかなさいましたか!?」

「い、いや何でもない。」

 

俺は天照にばれないよう、平静を保った。

実はあまり天使についてばれてはいけないらしい。

天照や月読と、こいつら天使やその上の神達は、根本から違うらしい。

天使であるこいつらでさえ、立場上は天照達より上、世界でさえ自由に行き来できる存在。

簡単に言うなら、天照達はゲームの世界の神。

天使達は製作者、のようなもの。

ばれることは単純に、その存在を認識させてはいけないということになる。

もし認識してしまえば、数多くの問題が起こるだろう。

なので平静を装う必要があるのだ。

説明されなければゲロってただろう。

 

(それで何で負けて平気なんだ?)

(『諏訪子が抑えになる厄介な神がいるのよ。あんた以外民衆ですら知ってるミシャグジってのがね。諏訪子以外には抑えられないってことは、民衆は祟りを恐れて信仰は諏訪子へ…ストッパーは、大事ってことよ。』)

(なるほど…まさか祟り神…なのかは知らんが役に立ってくれるとは…)

(『そうゆうことだから、あんたはそれを指摘すりゃいいのよ。まあ神が人間に拒否られるとか考えてないでしょうね。統合の目的は信仰集めだし、大和の神にも信仰が行くようあんたや諏訪子が上手く誘導すれば、大和側でも損はないでしょ。』)

 

つまり勝てば今まで通りの諏訪に。

負けても信仰は変わらず、対象が増えるだけに留められる。

得もないが損もない。

諏訪の方でも得は大和との正面切っての戦争にならないことぐらいだが、平和的に終えることが出来る。

問題は予測が外れて、ミシャグジの力が民衆を動かす程脅威ではない可能性。

まあそれは天照に聞けばこの場で分かる。

ということで…

 

「一つ聞いていいか?」

「……こちらも聞いてよろしいですか?」

「ああ悪い。さっきまでちょっと考え事しててな。それについては特に話すことはない。」

「それならいいですが…」

「それで俺が聞きたいのは、ミシャグジのことだ。」

「ミシャグジですか?」

「諏訪子が抑えるその神について、どの程度厄介なのかを知りたい。」

「……!なるほど…そういうことですか…」

 

彼女も理解したようだ。

流石に頭が切れる。

俺は説明を受けるまで気付かない程度だが。

彼女は大体は理解しているようで、しかも前向きに検討してくれている。

 

「その手なら、最悪こちらが勝ってしまったとしても、貴方との密約が可能となりますね。」

「ああ。だからミシャグジがどの程度か知りたいんだが…お前が可能ってんなら平気なんだろ?」

「ええ。ミシャグジは厄介な神。律する諏訪子に信仰が向くのも当然のこと。」

「なら、とりあえず話は纏まったな。」

「では、対戦の取り決めを行い、各々伝えに行きましょう。」

 

それから三十分程話合い、日程、ルール、場所が決まった。

一週間後、諏訪、大和間の平野にて、不殺絶対の真剣勝負。

不殺は俺提案。

諏訪子がこれで死んだら元も子もない。

戦力を減らすのは大和も望まない。

しかし死ななければどんなことでも許される本気の戦い。

その日までに、諏訪子を説得するのが俺は一番面倒だと思った。

 

 

 




三千文字越えると途端に読み返すの面倒になる。話分かってるのに誤字の確認作業の文字数増えるとか結構辛い…考えるの楽しいから書いた後の方が億劫なんですね。愚痴ってすみません。


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二十話 ~平野の決闘(戦闘前)~

時系列に違和感感じるとか思うことこれからあるかもしれないけど、まとめてるサイトで見てるだけなのでわ違和感あったら『ああそうゆう風にするんだ』くらいに思って下さい。


「…ちょっと待って。」

「ん?どした?」

「大和と戦うって、そんな簡単に約束を取り付けられるはずない!」

「出来たものは出来たんだよ。説明続けるぞ~」

 

今俺は、諏訪子に大和との決闘の説明をしている。

俺が大和で暴れたことも、八百長のことも話すことはない。

これは俺と、天照のみの密約。

諏訪子に話すのは、大和との決闘、その場、ルールについての上辺のこと。

あとは任せるようにという説得を……一時間した。

正直億劫…というより面倒くさい。

何故か知らないが諏訪子は俺を信用してくれてる。

だから簡単に説得出来る…と思っていた。

説明後、反対意見をよく思いつくなという数言い連ね、どう任せるのか具体的にとか勝ち目があるのかとか。

とにかく諏訪子は決闘に関して本当に否定的だ。

恐らく天照も他の神に対して上手くかわしながら説明しているのだろう。

裏方はいつも苦労する。

 

「とにかくだ!もし負けても、なんとか勝っても、この国に危険はないし、諏訪子も無事でいられる!それだけ分かってくれ。」

「むー…」

「勿論勝って条件良くもしたいから、少し鍛錬はしてもらうけどさ…」

「どう鍛錬するのさ?」

「……神力での殴打とか?」

「それだけでよく妖怪避けて旅出来るね…」

「…それが強いんだよ。」

 

国のため、民衆のため、鍛錬をするだけなら、諏訪子はとても積極的だ。

勝てば今のまま平和に、負けても信仰は変わらない。

しかしそれは俺の予測、賭けも入っている。

もしミシャグジが民衆に認識されてなかったら。

脅威に見られてなかったら。

対処の方法を、諏訪子以外に持ってたら。

結局は予測に過ぎない。

勝って確実な平和を得てもらうため、諏訪子には強くなってもらいたい。

その方法は、やはり思いつかないのだった。

 

―――――

 

一週間の間にあったことを教えよう。

鍛錬の方法は至極単純な組み手。

諏訪子の能力は坤の創造…つまりは大地に関する能力。

それを活かす使い方を模索した。

組み手中に能力の使い方がいくつか見つかった分、鍛錬前と後では天と地程の差があるだろう

その他にも俺のやり方と同じだが、神力殴りや弾幕の特殊な操作、身体強化のやり方。

過去習得した俺の物理戦闘術を教えた。

ちなみに特殊な操作というのは、打ち出す時に反転、急加速、回転など軌道を読みずらく、威力を上げる方法のことだ。

一つ一つ神経を張らなきゃ、いけないため、一週間に出来た数は二十。

やはり難しいらしい。

ちなみに一年で俺が出来た数は、千三百二十二。

単純計算で二十掛ける四掛ける十二、九百六十となる。

この差はセンスの問題だろう。

それが出来れば大抵の相手には勝てるのだが、もはや無い物ねだり。

気にしない方がいい。

そして何故一週間のダイジェストを行っているのかと言うと、既に平野に赴いているからだ。

 

「待ってたよ!さぁて…闘ろうか!」

 

鬼と同じ空気を感じ何者かに出迎えられた。

 

―――――

 

「私は八坂神奈子。今回の決闘に選ばれた者だよ。」

「神奈子…て…」

「神奈子は風雨の神霊。実力だけなら、私より遥かに上の存在です。」

「………おい。」

「……」

 

目を逸らすんじゃない。

天使と同じ感じのする神に対して、とてつもなく冷ややかな視線を突き刺す。

こっちが勝った方が条件がかなりよくなる。

国として負けたなら、こちらが勝ちやすい相手を選択する。

それが当然だろう。

あろうことか自分より遥かに強い奴を連れて来た。

決闘形式であるため他の神が観戦に来ている。

八百長も無理。

負けても問題ないとはいえ、修行の意味がなくなるかもしれない、勝ち目的に。

 

「こっちはそっちの能力も詳細まで知ってるし、どうせなら平等に闘いたいからね。こっちも色々教えてあげるよ。」

 

彼女の背後に、注連縄に加え、柱が現れる。

一体どこから出したのだろうか。

その説明もすぐにされることになった。

 

「この御柱は戦闘にも使うからね。神力で現界するんだよ。いやーあんた分かりやすいね~」

「…よく言われるけどさ…そんなに?」

「そんなに。」

「うん分かりやすいよね。」

「……」

 

心外だ。

心読まれなくてもそれだと、隠し事とか出来ない。

後で天使にも聞いてみよう、性格いいほうの。

呑気にそう考えていると、背後から衝撃が走った。

 

「い!?」

「……心配したぞ…天照から聞いて…涙する程に…!」

「あー……悪い。」

「許さん…!」

 

薄く腫れた目元。

涙を流したというのは本当だろう。

考えると月読は、他者の気配を感じるような力の使い方が出来た。

俺が教わったのもこいつからだ。

聞けば何年も、何ヵ月も、何日も、気配がなかったらしい。

まるで世界から居なくなったかのように。

まるで力を失った…つまり不死ではなくなったかのように。

ただの一度たりとも、存在を感じなかったらしい。

 

「……悪かったよ。俺にもよく分からないんだよ。だから説明は上手く出来ないけど…分かってることは話すからさ。」

「…絶対じゃぞ。なれば今は……」

 

言葉を区切り、諏訪子と神奈子を見る。

 

「あちらに集中するか。」

 

―――――

 

「さて、私の能力だけど…乾を創造する、と言えば分かるかな?」

「乾?」

「簡単に言うと、天の操作とか、天に関することを行う能力じゃ。」

「…諏訪子と正反対じゃねえか。」

 

俺は天照を見る。

もはや視線が泳ぐどころかバタフライかましてやがる。

殴っていいかな。

 

「あんたとは相性的にこっちが有利かもね。」

「確かに地に関する攻撃…俺と模索したもののいくらかは、空には対応してないな。でも…」

「その分対策は考えてるよ。」

 

諏訪子には、空に対して有効な攻撃方も手札にある。

相性問題は実際何も問題はない。

ただ最悪まずいことが一つ。

勝ち目が比較的…どころか零に等しくなる程にきついことがある。

諏訪子には教えている。

それに気付いているかどうかは知らないが、神奈子に気付かれたら、その時点で負けが確定する。

一週間では対策しきれなかった。

気付かれない、もしくは出来ないことを祈るばかりだ。

 




切り方ミスってるかな?今更か。感想評価とか、気が向いたらお願いしますね~…あんまりこうゆうの言いたくないのでこの一回だけにします。でも悪い評価でもいいから感想とか気になりますよね…こうゆうの。本当気が向いたらでいいのでおかしなところとか誤字とか教えてもらえると有難いです。


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二十一話 ~スローライフ(ニート)~

一週間空いた…すみません。


どうやら最初はお互い様子見らしい。

弾幕を撃ち合う簡素な戦い。

能力の使用もなければ、俺や過去戦った妖怪や鬼子母神のように殴り合うでもない。

まあ勿論弾幕の撃ち合いだけあって二人は飛び回ってはいる…結構早い。

 

(これじゃ埒が明かないな…)

 

若干退屈になってきたところで、二人に動きがあった。

正確には諏訪子が、弾幕の撃ち方を変え始めた。

ただ撃ち出すのではなく、遠近法を利用した別タイミングの弾幕。

当然前のを避けた神奈子の腕に、もう一つの弾幕がかする。

 

「今…」

「考え事してる余裕ないよ!」

 

今度は弾幕の回転を利用した貫通力高めの弾幕。

当たらなければどうということもないが、かするだけで抉れる威力はある。

回転による遠心力、伴う風、一つ一つが銃弾のようなものへと早変わり。

勿論俺が教えた。

 

「神奈子には効かんな。」

「…まあそうだよなぁ…」

 

そもそも格が違うのだ。

神の力は信仰、つまりは信者の数と、その信仰心の強さ。

その点において、二人はかなりの差が生まれる。

数においても、両国の人口総数から考えても明らかに少ない。

そして諏訪の信仰の大半は、ミシャグジによる恐怖心から成る。

信仰が強いというには無茶だろう。

言ってしまえば恐怖政治だ。

力の差は歴然。

 

「でもな…諦めるには早い。」

 

「そこだぁ!」

「!かっ…!」

 

地に関するあらゆるものを操る能力。

なら勿論、弾幕のような使用も不可能ではない。

砲台の形状、弾は鋭く針のように、撃ち出す速度は可能な限り最速。

つまりは弾幕の物理特化型上位互換。

それ程の高威力のものを、弾幕と同レベルの数。

更に不意撃ち、当然避ける暇はない。

その弾は、手や足を掠りながら、腹部の端を撃ち抜いた。

 

「―やってくれるね…!」

「これくらいじゃ死なないでしょ?」

 

諏訪子からすれば精一杯の虚勢。

体中血塗れでも、尚余裕はあり続ける。

 

「あ…」

「?どうした?」

「いや…諏訪子の負けだ…」

「む?何故分かる?」

(そうだった…あいつ戦闘経験皆無だった…)

 

諏訪子の戦闘経験は皆無。

対して相手は神同士の争いを生き抜く猛者。

諏訪子をベースに考えるなら、俺の考えに間違いはない。

だが相手からすれば、天を操る自分が、地を操る相手に勝つための必勝法がないわけがない。

 

「諏訪子!早く決着つけろ!」

 

「うん?何てー!?」

「もう遅いよ。」

 

声と同時に雨が降る。

それはもう親の仇のように豪雨が。

 

「わっ!?何!?」

「地の操作は大変だね…水の浸透だけで使えなくなるんだから。ほら、撃ってみなよ。さっきの奴。」

「?別にそれぐらい……あれ?」

 

今は目も開けられない程の豪雨。

俺は訓練のおかげで問題なく見えるが、月読や他は目も開いてない。

諏訪子も恐らく完璧には見えないだろう。

地面の操作が上手くいかない。

 

「あれ?上手く操作が…」

「隙ありだよ。」

「っ!……?」

 

きつい一撃が飛んでくると思った諏訪子は、思わず目を閉じる。

しかししばらく経っても衝撃が来ないことに疑問を持ち、目を開いた。

もう勝負はついていた。

 

「悪い諏訪子…負け確だ。」

「…はぇ?」

 

気乗の抜けた声で返事をした諏訪子は、意味が分からないと俺を見る。

 

「試しに地面から棒状に土を取ってみろ。」

「?まあそれくらい…」

 

言いながら造ろうとするが、すぐに崩れて落ちてゆく。

それに戸惑い、疑問を感じる諏訪子は、何で何でと聞き続ける。

 

「お前の能力で出来てるのは、浅い土の寄せ集めだ。水が浸透した土は、泥みたいにぐずぐずになる。」

「まあ土を大量に使ってでもなきゃ、普通みたいには出来ないってことだよ。」

「えっと…?」

「簡単に言うとな…土しか操作出来ないお前が、泥を初めて操作しようとしたってことだ。」

「…土と泥の違いがあんまり…」

「…重量で考えるか…土と泥、どっちが重い?」

「そりゃ泥だけど…」

「土と同じ感覚で使えると思うか?」

「……無理。」

 

試しながら言う。

雨により水分を含む土は、重量が倍以上になる。

そして土程、形状を自由に出来る程、泥は勝手がよくない。

諏訪子がやろうとしたのは、自由に形を変える土と、同じ形を泥で造るということ。

当然崩れる。

泥団子を土では造れないというのと同じこと。

地を操る能力である以上、訓練次第では出来るかもしれない。

しかし今はまだ、それほどの技量は、諏訪子にはない。

 

「それじゃあさ…泥で何か出来たら、攻撃とか出来るかな?」

「…しばらく練習しなきゃな。」

「とりあえずそちらの負けですね。」

「正直卑怯くさいけどねぇ…勝負は勝負だし…ただの弾幕の張り合いなら、負けたかもしれないしね。」

「教えなかった俺が悪い。」

 

非があるなら全面的に俺だろう。

こんなこと基礎なのだから。

ないと思って教えなかったのが間違いだった。

 

「とりあえず…終わり…でいいか…」

「何か疲れとるの?」

「ああ…これから説教でな…なぁ?」

 

天照を見る。

今にも逃げようとしているが逃げたら後が怖いと理解しているがやっぱり逃げいや…とかなりの迷いが見てとれる。

勿論逃がす気はない。

 

―――――

 

決闘から一週間が経った。

諏訪子の信仰も変わらなければ、大和に呑まれることもない。

変わらぬ平和。

一番の功労者はミシャグジだ。

あれから一切信仰がないことに気付いた神奈子が突撃してきたのは一昨日。

信仰の誘導の形式として、神の一柱として諏訪に神奈子の名が刻まれたのが昨日。

信仰の流れは、上手く誘導することが出来た。

諏訪の神として神奈子を立てることにより、諏訪子、神奈子の共同経営(?)にすることで、信仰は分割出来た。

民への説明は必要ない。

ただ一人、香苗さえ知っていれば問題ない。

 

「荒事が片付くと暇だな…」

「そうだねぇ…」

「お二人とも…凄く残念に見えます…」

 

絶賛ニート中の俺達を見て、香苗が呆れた顔で見る。

仕方がないだろう。

暇なものは暇なのだ。

今くらいこの平和な日常を享受しても許されるだろう。

諏訪子からしたら消滅の恐怖が消えたのだから。

俺は、今日も今日とて縁側で団子を頬張る。

ここしばらくの行動半分が団子かもしれない。

そるから更に一週間、俺は駄目人間ライフを過ごすのだった。

 




タイトルは最後だけ。ちなみに主人公の好物(もはや主食)は団子です。最悪食べなくても死なないし…


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二十二話 ~再開業!何でも屋~

遅いことに謝罪を。


「……(ぽけー)」

「…なんか凄く暇そう…」

 

事実やることがない。

縁側で団子食いながらぼーっとする日々。

暇過ぎて死にそうとはこのことだ。

これではいけない。

永琳や夜に久々会って駄目人間の評価を受けるのは望まぬところ。

となればやる…いや出来ることは…

 

―――――

 

「てことで何でも屋開業だ。」

『……』

 

四人が集まった居間で、俺はそう言った。

全員『は?』という顔になっている。

しかし俺のやってたことといえばこれ。

仕事として日々の暇の解消にもなった何でも屋。

後半はあの隊の訓練が主ではあったが、暇なときは何でも屋として別のことを行っていた。

考えると二ヶ月程度の生活で充実していたのは、何でも屋のおかげだった。

短い間で色々あったなぁと感慨に耽っていると、「別にやらなくてもいいんじゃ?」と諏訪子が言う。

 

「そんなことでもやってないと暇で死ぬ。」

「なら私達が何でもするよ?ほら、美少女も美女もいるよ?」

「だ、駄目ですよ!そんな簡単に体を許すのは…」

「冗談だよ。」

「本気でも却下だ。そもそも好きでやろうとしてることだからな。」

 

何でも屋はそもそもやらなくても生活は出来た。

つまり、生活のための金策というわけでは別になかったのだ。

続けてたのはただの暇潰しと、体裁を保つためだ。

ニートはちょっとな…

 

「しかしそれに私達の体が負けたのは納得いかないねぇ。」

「本当にねぇ。香苗のこの豊満な胸を揉みしだきたいとは思わないの?」

「お二方とも本気で怒りますよ…?」

 

二人が香苗をからかって遊ぶ。

勿論本気ではない。

ただ、二人の言うことは世間一般では当然のことだろう。

三人全員種類は違えど美しいと言える容姿。

むしろ一つ屋根の下で、一切手を出さない男は、枯れてる部類だろう。

 

(しかし悲しいかな…不死の体に欲ってないんだ…)

 

不老不死となったことにより、人間の三大欲求全てが、かなり希薄になった。

確かに団子は食べるし、眠りもする。

しかしそれらは、それぞれの欲求に従ったものではなく、娯楽…つまりは子供が遊ぶのと同じこと。

食べるのは上手いから、腹が減ったわけではない。

眠るのは好きだから、眠いわけでもない。

なら性欲は。

もはや認識も出来ない。

妖怪が人間を食らうのが本能であることに近く、俺は自由に生きるという本能で生きている。

枯れているのもあながち間違いない。

 

「とりあえず何でも屋はやる!絶対!」

「やるって言ってもさ…何から始めるのさ?」

「口伝でしょうか…?」

「もしくは適当に軽い手伝いみたいなの色んなとこでやるとかな。まあ基本その辺で十分だろ。」

 

都市でもスタートはそんなものだった。

徐々に紙に纏めてくれたりしてきたのだ。

 

「んじゃ少し回ってくる。」

「私も行こっか?」

「好きに歩きたいからいいよ。土産は団子な。」

「団子以外の選択肢は?」

「ない。」

 

―――――

 

「色々あるなぁ~」

 

町に繰り出し早二時間。

特に忙しそうな店もなく、食べ歩きのような状態。

やはり人伝いに宣伝でもしてもらわなければ難しい。

残念だが今日中にどうなることでもなさそうだ。

そういえばこの町には…というかこの時代には妖怪被害とかないのだろうか。

妖怪退治(追い払うだけ)なら自信はある。

一度帰って諏訪子にでも聞いてみよう。

 

―――――

 

めっちゃあった。

子供が行方不明、店が荒らされる、夜に悪戯をするのもいるらしい。

神奈子の話では大和には妖怪被害はないらしい。

まあ神の数の差だろう。

つまり妖怪に関することで、仕事が殺到した。

凄いね神の口伝って。

雑用と妖怪関連と…恋愛相談…みたいな色々計百近くの依頼が届いた。

つかこの時代に紙ってあるんだ。

 

「どれやるの?」

「確認で今日は終わり。」

「まあ暇潰しにはなってるよねぇ。」

「全部やるんですか…?」

「あー…恋愛相談とかきっかけ作りとかさ…自分で頑張ろーよ…」

「子供の遊び相手…諏訪子合ってるんじゃないかい?」

「それ見た目でしょ?確かに子供の相手は得意だし好きだけど…」

「あ、これ香苗宛の恋文だ。」

「なっ!なんてものを紛れさせているんですか!」

「この中だとやっぱり妖怪退治かねぇ。」

 

その後も一時間程見分していき、明日行う仕事を纏めた。

ちなみに、香苗宛の恋文の数は百中十二だった。

 

―――――

 

「兄ちゃんこれそっち運んでくれ。」

「あいよ。」

 

俺は今、飯屋の荷物運びを行っていた。

というか品の補充だ。

いつも補充に来てくれてた人がぎっくり腰らしい。

急ぎの仕事だし早々に引き受けた。

諏訪子達も普段行くらしいから、休みになると困る。

俺はそこが終わった後、次の依頼に向かった。

 

―――――

 

「いらっしゃいませ~」

 

団子屋の接客、子供の遊び相手、病気の子の話相手、湖での魚釣りなどなど。

危険があったのは魚釣りくらいなものだ。

妖怪退治を受けるのもいいのだが、ガチめに殺れって書いたものばかりだった。

話せば分かる奴もいると思うが…

とにかく一日で消化出来たのは計八つ。

まずまずな稼ぎだ。

 

―――――

 

「それで?依頼書に自分達の願望も混ぜたと?」

『……』

 

実は神二人(柱?)が依頼書を混ぜていた。

神奈子は手合わせ、諏訪子は特訓。

それならやることは決まりだ。

 

「神奈子の依頼と諏訪子の依頼…一片に片付ける。」

「一片に?」

「まあ特訓なんて継続だし、終わりはしないけどな…神奈子の手合わせを諏訪子も一緒にやる。つまり諏訪子の依頼に神奈子の依頼を組み込むってことだ。」

「まあ戦ってれば強くなれるしねぇ。」

「そんな簡単に出来るのはごく一部だろうな。」

「そうかい?」

「……早速明日やるぞ。」

 

気の抜けた返事をした二人は、土産の団子を頬張るのであった。

 

 




次回!諏訪子&神奈子vs望!デュエルスタンバイ!


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二十三話 ~メッセージ~

毎度同じみ遅延謝罪。久しぶりですごめんなさい。


「さて、どうゆう形式でやるかな…」

「この中だと一番弱いし、私は二人の手合わせをまず見てるよ。」

「まあ見て覚えることもあるし、まずはそうするか。」

「じゃ諏訪子合図頼む。神奈子もいいな?」

「いつでも。」

 

そういい構える神奈子の姿は本気だった。

何に本気かなど決まっている。

俺を殺すことにだ。

とゆうか目が狩人の目だ。

まるで獲物を見定めて噛み殺そうとする獣の目だ。

元の世界でもこんな好戦的だったのだろうか。

人気なくなりそうだ。

見てくれはいいから人気はあるだろうな。

 

「それじゃ…始め!」

 

と同時に一歩踏み込む。

たった一歩、神奈子の目の前へ。

 

「!(速…!)」

「ふっ!」

「ぐっ!」

 

神奈子の腹部へ全力で拳を放つ。

それを神奈子は両手をクロスさせて防ぐ。

辛うじて防いだその両手は、骨が折れていた。

 

「ぐ…重いね…一発防いだだけでこれかい…」

「あれ…結構軽いと思ったけど…」

 

加減はしていない。

しかし本気でもない。

妖怪の…鬼子母神との殴り合いの半分程度の力。

その程度で神の体を壊せるのか。

 

「…あんた…なんか凄い常識外れなこと考えてるね…地面割る程なら私の体は耐えられないよ。」

「まじで?」

 

目の前の神は無理と断言している。

戦神より体が硬い鬼子母神は妖怪の枠を越えていたのではないか。

 

「これは…手合わせにもならないね…降参だよ降参。」

「むぅ…あ、それなら弾幕の撃ち合いとかは?」

「その弾、最弱でも家の壁貫通するね…霊力込め過ぎ。本当…なんか…規格外ってあんたみたいなことを言うんだろうね…」

 

誉められてるのか貶されてるのか微妙に分からない。

しかし加減が上手く出来ていないとなると、修行する必要があるのは俺かもしれない。

 

「じゃあ諏訪子の方に移るか…」

「……え?早くない?」

 

諏訪子は少し離れたところにいたため、会話は聞いていなかったようだ。

俺達が止まっているから、どうしたのかと思って来たらしい。

つまり諏訪子には、パンチ一発で戦いが停止した風にしか見えてなかった。

 

「んーまいっか。それじゃお願い!」

 

―――――

 

「あーうー」

 

色々やった。

修行にしては地味なことを色々。

例えば泥を使って柵を作るとか(秒で崩れた)、俺が踏みつけている地面を操作するとか(微動だにしなかった)、地面の内部だけ操作するとか(以外と出来た)。

出来れば戦術の幅がかなり広がることを色々。

今は力の使い過ぎで倒れただけだ。

 

「頭痛い~体怠い~」

「なんか風邪っぽいな。」

「力使えば当然だろうね。おまけに能力上、複雑な思考をしてるんだし、慣れないことの疲労も半端じゃないよ。」

 

霊力が多いため枯渇したことがないため、俺にはその感覚は分からない。

しかし過去教え子達はなったことがある。

寝込む程の風邪と同格らしい。

 

「無理はしない方がいいな。これぐらいにしとこう。」

「うぅ…少し寝たいよ~…」

「膝枕でもしてやろうかい?」

「香苗にしてもらう~」

 

疲れると甘えん坊の子供みたいになる。

見た目相応だ。

本人に言ったらキレるだろうが。

二人の依頼は一日じゃどうにもならないため終了。

その日の午後は他の依頼をして過ごした。

ちなみに二人の依頼報酬は俺の依頼の手伝い。

主に急ぎで手の回らない数の時。

二人目当てで依頼をする者もいる。

次からは厳選しよう。

 

―――――

 

「……ん?」

 

依頼を選んでいると、特異な依頼を一つ見つけた。

自らを妖怪と名乗り、依頼の内容は自分の場所に来ること。

場所の指定はない。

時間の指定はない。

ただ一つ、自分を見つけてみろ。

不可能過ぎるし面倒過ぎるし、どうすればいいか悩む。

結局判断を仰ぎに、神々の元へ行くのだ。

 

―――――

 

「罠でしょどう考えたって。」

「これは……」

「お粗末な罠だねぇ…」

「まあそうだよな。」

 

満場一致で罠と断言。

場所の指定がなくても見つけることは出来る。

ただ妖力を辿ればいい。

それぐらい向こうも分かっている。

そのためにこれが罠だと思うのだ。

 

「面白そうとか思ったでしょ?」

「……別に。」

「…まあ気になるなら調べるのもいいかもね。」

「…勝手にやっとくよ。」

「くれぐれも死にはしないでよね。…心配だから…」

「分かってるよ。」

 

俺は諏訪子の頭を軽く叩き、依頼を片付ける。

どのみちこれに触れるのは一週間程は開く。

何者がは知らないが、もし罠なら、パンチ一発は確定だ。

そんな風に考えながら、今日も今日とて依頼をこなす。

これが今の日常だ。

 

 




神奈子ファンには悪いけど、自分はそこまで好きなキャラじゃないです。山の住人なら秋姉妹が自分は好きですね。結局自分は紅魔勢が一番好きです特に咲夜。推しを早く出したいと思いながら編集してます出るのいつか分からんけど。


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二十四話 ~叶わぬ願いと足掻く者~

時間はあったんですよ、ここ十日間は。ただバイト新しく始めたらモチベ維持が出来なくて、書く気分なれなかったんです。これは本当に自分のせいなので…ごめんなさい。次はもう少し早くします…


鬱蒼と茂った森の中、俺は示された道を歩いていた。

手紙から十日、重い腰を上げ向かうことにした。

眼前にはただただ木が生い茂っており、景色は変わらず森の中。

手紙の主も現れなければ、一人で来たために退屈。

森には小動物も妖怪もいない。

絶対(・・)におかしい。

なにせ空から見た範囲以上に俺は歩いているのだ。

更には範囲はあまり広くしていないが、探知用の霊力を広げている。

それを感じると、妖力は明らかにループしている。

同じような気配が複数箇所にある。

 

「この森…終わりないな。」

 

ならどうすればいいか。

決まっている。

 

「罠って分かったし…とっとと帰るか!」

 

地面へと拳を振り抜いた。

衝撃で木々が揺れる。

空間が歪もうが、破壊すれば関係ない。

十日の間に新しく考案した能力の使い方。

空間を操作する動作の終了、つまり消滅。

それを拳に纏って放つ衝撃波。

絵を描いた紙を白紙に戻すようなものだ。

出来ることは限られるが、指定したものを消滅させる衝撃波を放つことも出来る。

今回の指定は歪み。

本来の空間を歪めている能力そのもの。

ちなみに非常にコスパが悪いためあまり使いたくない。

 

「ん…抜けられたな。」

 

辿っていた妖力が一つの線になった。

犯人の居場所を見つけた。

あとは殴るだけだ。

 

―――――

 

まさかの森を抜け、更に二十分歩き続けている。

何もない平野を歩き続けているのだ。

探知しつつのためにダッシュも出来ない。

 

(面倒な……)

 

まだ歩かせる気かと少しイラついていたら、明らかに終わりのようなものが見えた。

戸…それも単体で。

 

「何だこれ?」

 

どうするか考えたが、開ける以外に選択肢はない。

鬼が出るか蛇が出るか…

戸を開けたその先には…

 

「ようこそいらっしゃいました。」

 

犯人が出迎えに来ていた。

 

―――――

 

「あの手紙なんなのか聞きたいから、親とっとと出してもらえるかな?」

 

少しイラついた口調で、目の前の少女に言う。

紫を基調としたスカート、色の綺麗な金髪は肩より下に垂れていて、身長は俺より三十㎝以上は小さい(百二十㎝程)。

まるで外国の子供だ。

そんな子供が、あんな手紙を出すとは思えない。

そう思って親を出すよう言ったが、自分が犯人だとこいつは言う。

 

「…まあ妖怪の年齢は見た目通りではないか…」

「まあまだ私は百年も生きていない若輩ですが。」

「……」

 

さすがに殴る気にならない。

児童虐待の趣味はない。

いや児童ではないのだが…見た目の問題だ。

まあ年齢だけ言うなら俺の十分の一も生きていないか。

 

「それで?何でここに呼んだ?」

「私の目的を手伝ってほしいのです。」

「目的?お前妖怪だろ?…人間抹殺とか…大和の乗っ取りとかか?」

「妖怪が全て人間を嫌うとは思わないでほしいですね。」

 

確かに鬼子母神は強ければ何でもいい感じだった。

………妖怪の中で知ってるのこいつだけだな。

 

「いまいち納得してませんね。」

「そりゃ妖怪に襲われることしかなかったんだから、当たり前だろ?」

「それもそうですね。では、目的を明確にしておきましょう。私の目的は…いえ…目標は、人間と妖怪の共存です。」

「……無理だな。」

「そこまで頭から否定しなくてもいいじゃないですか。…私だって、無理だと思います。でも…」

「……無理…かもしれないけど、絶対じゃない。」

「…はい。私は、諦めたくない…!」

「何があったか知らないけど、方法はないこともない。」

 

例えば交渉―俺の能力で別世界を創ることで、共存を考える妖怪、人間だけを強制的に隔離する。

例えば支配―実力を見せつけることで、力による支配をする。

例えば……殺戮。

方法はいくらかあるが、どれも無茶なものだ。

だからこそ、ないこともない(・・・・・・)

 

「厳しいことになるのは覚悟の上だな?」

「当然です。」

 

鋭い顔つきで、きっぱりと肯定する彼女は、本気で共存を目指しているようだ。

 

「……そうか…」

「答えをお聞かせ願えますか?」

「…分かった。出来ることがあれば、いくらかは手伝うよ。」

「本当ですか!?」

 

彼女はとても嬉しそうに叫んだ。

理解者などいなかったのだろう。

とても荒唐無稽な話だ。

叶えることの不可能な夢。

しかし実現させようと足掻く哀れな少女。

周りからはどう呼ばれたのだろうか。

裏切り者、愚か者、どれだけ揶揄されてきたのだろう。

 

(せめて俺だけでも…味方であろう…)

 

共にいることを誓いながら、叶わなかったことがあった。

なら今回は叶えてやる。

こんな夢でなければ思わなかっただろう。

たとえ不可能でも、諦めないこの少女に再び誓おう。

俺の願い…『望み』を見つけるなら、他人の願いから叶えた方が見つかるかもしれない。

俺はまだ、自分のしたいことも分からないままだった。

 




この幼女は誰か皆分かるよね?いつ生まれたか特に分からなかったから諏訪位にしました。まだ幻想郷は出来ない…咲夜さんも出ない…(泣)


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二十五話 ~自由な永遠~

あー遅れてしまった…まだモチベが戻らない…本当にごめんなさいだけど次も更新が…頑張ります。書き始めると早いんだけどなぁ…


「協力してほしいことは正直に言えばいくらでもありますが…まずはどう共存するか、その方法を見つける必要がります。」

「その目処も立ってないとは言わないだろうな…?」

「……能力を利用するきとは考えています。私の能力なら、可能ではあります。しかし問題もあります。」

「可能?」

「はい。」

 

(可能…一番の可能性なら俺と同じ創造か…それとも断絶か…契約、空間支配、交渉術とかか?)

 

共存というなら精神支配の能力は許されないだろう。

その点契約なら人を襲わないということも、交渉術なら強制力はない代わりに精神の支配にはならない。

軽い洗脳の可能性はあるものの、本人の意思に任せて勧誘が出来る。

空間支配、断絶なら、その場に認識出来ない空間を創り出すことも出来る。

俺と同じ創造なら、者の勧誘はあるものの、場の問題はないに等しい。

 

「能力は教えてくれないのか?」

「残念だけどまだ信頼は出来ない。貴方が洗脳系の能力を持たないとも限らないですもの。」

「……そうだな。」

 

お互い信頼はないようだ。

こっちはともかく…信頼してないなら何故頼る。

 

「何でも屋でしょう?貴方は。」

「……」

 

心を読まれるのは俺の能力なのか。

初対面でも分かるのはもはや能力並みだろ。

……諏訪子とか香苗にも初対面で読まれてた。

 

「そ、それで何すりゃいいんだ?」

「とりあえずですが…神々との敵対は絶対に避けなければなりません。私と協力関係にあることを伝えてもらえますか?それからは追って連絡します。」

「分かった。今はそれだけか?」

「いえ、能力上共存を望む方がいなければなりません。私に協力してくれる方の勧誘をしてくださると助かります。」

「勧誘か…神連中は駄目なのか?」

「私が目指すのは人妖の共存。ですがそれが最終目標ではありません。私が目指す先は、全ての生きる者達が、共に暮らせる理想郷。」

「うわー…」

「何が言いたいか分かる分ムカつきますね。」

「悪い悪い。」

 

それこそ神の所業だろう。

この世界に存在する神のではない。

この世界を創った神のだ。

以前この世界の神…月読らをゲームの神と例えた。

天使らは製作者、ならば天使(製作者)に送り込まれた俺はさしずめ、プレイヤーというところだろう。

この妖怪は、天使の側へ近付いている。

自らの生きる世界、そこに済む人々(NPC)を、プレイヤーへと変えようとしている。

創作の存在が、現実の存在へと成り上がろうとしている。

だからこそ、俺は協力を拒まない。

プレイヤーがNPCと世界を越えるなんて…

 

(面白いじゃないか…!)

 

無理難題は確実に出来ないことではない。

これを達しようとする俺の考えも、望みの形なのかもしれない。

 

―――――

 

「てことだからさ…」

「私らは無理だね。」

「私も…急に言われても…」

「私はいいよ~望もいるんでしょ?」

「さあな。少なくとももっと先だな。俺はまだ旅がしたい。」

「そっか…」

 

諏訪子はいいらしいが、他の二人は難しそうだ。

なんなら全員まだあの妖怪を信頼出来てない。

香苗は分からないが、神奈子は他の神との交流もある。妖怪と協力関係などは処刑でもおかしくない。

本来諏訪子も駄目なはずだが…

 

「…?」

「……」

 

この顔は…まるで無邪気な子供が無意識に悪事を働いて、あまつさえ『何かした?』と問いてくるような顔だ。

つまり頭空っぽとゆう意味だが。

おそらく諏訪子の頭の中では国民もろとも妖怪に協力する、ということだと思っているなだろう。

香苗が無理というのは逆に、自分と神二人だけが乗るというのが駄目なのだろう。

共通でその妖怪に敵対心はない、というのがせめてもの救いだ。

 

「分かった。近々旅に出るつもりだし、他を勧誘しよう。」

「え…」

「旅…?」

「うん?まあまだ先ではあるけど…旅はする気だったぞ?勧誘にも時間は掛かるだろうし…百…もしかしたら千年以上旅を続けると思うぞ?」

(課題のこともあるしな…)

「そ、それなら…!まだ行かないよね!?」

「近々って言ってもまだ十数年先の話しだって。」

よかった…

 

俺もこいつらとまだまだ騒ぎたい。

十数年もあれば大体何でも出来るだろう。

香苗のことも気になる。

香苗を失った後の諏訪子も…

二人が正常に生きていけるよう、見守る必要(まあ結局は自己満足でしかないが)がある。

 

「俺には目的があるんだ。絶対に達成しなきゃいけないことが…場合によっちゃあの妖怪の計画以上に難しい…実態も、達成感もないような曖昧な…」

「だから旅を…?」

「ああ。だからこそ…俺は自由でなきゃいけない。自由ってのが旅ってのは…ちょっと安直かもな…」

「そうさね。安直だ。」

「でも、いいと思います。」

「何もなければ付いてきたいな~…まあ無理だけどね。」

 

旅が自由の表れなら、立ち寄る国も旅の醍醐味。

自由でいたいなら、好きに生きるが人生だ。

ただひたすらに好きに生きる。

望みを見つけるために。

なら今は、ここに留まるのが俺の自由だ。

 




課題について触れてない理由なんですが、忘れてた…わけではなく、ちゃんと考えてます。というか触れるタイミングなかったので…予想してみて下さい。


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二十六話 ~出会いと別れ~

今回飛ばしました。だって東方要素しばらく皆無とか話進まんのですよ。まあ今回は閑話みたいなもので…


あれから十年の月日が経った。

香苗はあれからとある青年を連れて来て、二年の交際の末結婚した。

それが六年前になる。

子供はいないが、既に妊娠八ヶ月を過ぎた。

じきに次代の守矢の巫女が生まれることだろう(女の子なら)。

青年はとても性格がいい。

神に対する礼儀正しさもあり、香苗の胸を見て興奮することもない。

諏訪子に対して恐怖心もなく、何より香苗以外の女性に目を向けることもない。

蓄えもあるし、この時代には少ないとはいえ酒や娯楽に傾倒し過ぎることもない。

そして清潔感もあり、まさに理想の男性像だろう。

男の俺から見ても希少に思える。

彼になら任せられる。

神共々そう思った。

 

―――――

 

「お願いします!」

「……」

 

彼が目の前でしていること、地面に膝を付き、蹲る形で頭を下げる。

世間一般で言うところの…所謂土下座だ。

何をそう必死に頼んでいるか。

『強くなりたいから稽古を衝けてほしい』だそうだ。

 

「死にたいの?止めないけど。」

「へ?いや死にたくはないですけど…」

「ちなみに霊力の操作は?能力はある?武器とか持ったことは?」

「………ありません。」

「だろ?その素人同然…いや素人以下で俺の特訓なんてしたら、一瞬で死ぬぞ?だから悪いけど…そこにいる注連縄から教わってくれ。」

 

(秘技丸投げ。これで殺さずに済みそうだ。

)

「面倒になったねあんた…」

「いや娘みたいに可愛がった香苗の婿殿を殺すわけにもいかんだろ…」

「本当に死ぬんですか…?」

 

諦め切れずに聞いてくる彼に断言する。

 

「死ぬ。間違いなく。まあ口頭であれこれ言う程度なら出来るが…やっぱり実戦も必要だからな…」

「……妖怪と戦うのは…」

「監督役は神奈子になるがそれでもいいか?」

「あたしかい?構わないけど…あんたは?」

「そうだな…色々作ってるよ。」

「ああ…」

 

能力の操作を十年あって学んでいないわけがない。

勿論色々出来るようになった。

例えば創造…あらゆる物を作ることが出来る。

例えば消滅…あらゆる物を消し去ることが出来る。

これだけでも十分過ぎるが、空間の創造まで出来るから万能だ。

ただし当然制限はある。

戦闘中に創造するのは正直不可能であり、相手を消滅するのも正直不可能だ。

消滅はその空間毎消す。

つまり場所を指定するのだ。

しかもかなり時間がかかる。

創造も同じく時間がかかる。

流石に戦闘中にそんな時間はないのだ。

解決する方法もあるにはあるしもう出来るが、あまり実用性はない。

触れた空間だけ能力を使うことだからだ。

つまり触れれば消滅出来る。

強いと思うが実際は無理だ。

弾幕が一番の攻撃方法だからまず近付けないし、諏訪子なんか戦闘開始と同時に土壁を造るようになったからより接近出来なくなった。

結局戦闘は今まで通りだ。

逸れたがとりあえず能力でトレーニンググッズでも作るという話だ。

 

「ということだから神奈子任せた。」

「まあいいけどね…」

「よ、よろしくお願いします!」

 

…彼は更に徳を積むつもりのようだ。

終生後は更に幸せでいてほしい。

 

―――――

 

さて、ここまで香苗やその彼のことにしか触れなかったが、それ以外はないのかと思うことだろう。

大和は、月読等月関連は、課題は、当然何もないわけではない。

まず大和だが…諏訪を除き大国の統一、つまり全国統一は失敗に終わった。

中途妖怪との激しい戦闘の末、主力が数名命を落とした。

更には妖怪により滅ぼされた国もあり、統一などとてもじゃないが不可能だ。

当然各国に現存する神々の抵抗も凄まじい。

結局大和は、一大国として普通に栄えている。

次に月だが、俺が月へ行く方法はなかった。

ロケットなど存在しない時代、能力もそういったものはない。

俺の能力も移動は出来ない。

最後に課題のことだが…

 

『神子の目的の達成』

 

…神子って何、もしくは誰。

少なくともここ二ヵ国にはいない。

年代的に生まれてないのか、もしくは既に死んでいるのか。

目的とは、居所は、容姿は、名前は、何も情報なく探せるわけがない。

ということで未達成、どころか進展なしだ。

天使達も教えないとのことだ。

そうそう、天使との連絡は簡単に取れるようになった。

真面目…ではないが、まともな方との会話が可能になった。

十年あればこれ程変わる。

それ当然のことなのだろう。

 

―――――

 

更に二十年の月日が経った。

香苗の子もそろそろ成人、香苗も既に四十を過ぎた。

見た目が変わらない自分を見る度に、違うことを実感する。

いずれ死んでいく。

だが俺に死はない。

神でさえある死という概念は、俺にはない。

どんどんと死んでいく。

やがて香苗が老人になってからは、昔を思い出し続けていた。

可愛らしい香苗似の孫を見ながらも、思うことは楽しかったという感情。

楽しかった思い出、それを語りながら、香苗は…命を引き取った。

 

「…おやすみ。香苗…」

「………」

 

涙する人々。

思い出に浸る神々。

その中で俺は、冥福を祈っていた。

徳を積んできた彼女が、幸せであれるように。

 

「誓いは…果たしたぜ…」

 

俺はひとり呟いた。

 




次は時系列的におおよそ百年後なので尸解仙まで飛び…ません!まあ既に察してると思いますがもう望は旅に出ます。なので次は旅の一幕です。尸解仙で誰か分かるのかな…


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二十七話 ~百鬼夜行の主達~

なんか一月更新みたいになってる…モチベは回復したけど時間なかったんですよね…まあ時間あるとき書きます。


諏訪の知り合いに挨拶をして、百年ぶり程に旅に出た。

結果今どこにいるのか。

自分でも分からない。

適当に歩き周り、時に妖怪の相手をし、たまに熊やら猪を食い、渡り歩いて早数年。

 

「ここはどこだ…?」

 

森の中を数日間さ迷っていた。

そもそも方向音痴が旅をするのがおかしいのだ。

東西南北も分からない俺が、森を抜けるなど最早不可能。

途中の村も案内はなく、目的地など考えてない。

尸解仙の情報は皆無。

本当にうんざりする森の中。

 

「木登っても何も見えねぇ…」

 

見渡す限り森。

定期的に生物がいないか気配を探っているが、少しの気配もない。

 

「……ん?」

 

そう思っていたが、複数の気配がある。

勿論感じるのは妖力…妖怪だ。

普通の人間が森にいるわけもない。

 

「…ちょっと小突けば道吐くか…?」

 

俺は迷い過ぎて少し荒んでいた。

 

―――――

 

「あ?」

 

妖怪の群れは、互いに殴り合っていた。

十数人入り交じった大乱闘。

一体何をしているのだろうか。

 

『らあっ!』

『くたばれぇ!』

 

様々な怒号が飛び交う。

 

「マジで何してんだ?」

「あんた…人間かい?」

 

妖怪の一人が話しかけてきた。

頭から生えた一本の角、この容姿だけで、その妖怪が『鬼』だと分かる。

 

「お前がリーダーか?」

「りー…だあー…?よく分からないけど人間がここに何の用だい。」

「いや…ただ迷っただけなんだが…」

「…あたしらの長に感謝するんだね。母様は人間と戦うことを望まなかった。見逃してやるから行きな。」

「…傲慢だな。」

「…何だって?」

「人間が妖怪より弱い生き物とでも思ってるなら、改めるといい。早死にするぞ?」

 

もっとも、俺の知る妖怪は人間を対等に見た末に相討ったが。

傲慢は身を滅ぼす。

これは大和が当てはまる。

見下していた相手に敗北し、相手にもしなかった神に願った。

 

「なら試すかい?」

 

体中からかかる圧力。

流石鬼の威圧は並じゃない。

しかし…

 

「その程度なら能力はいらないな。」

 

その言葉に怒りを覚えたのか、全力で殴りかかってくる。

受け止めた俺の足場は、クレーターになっていた。

 

「…受け止めた…?」

『姐さんの拳を止めた…?』

『嘘だろ…?』

「次はこっちの番か…」

 

拳を振り上げる。

体制を整えずに放つ拳に力など入らない。

しかし、振り抜いた拳は、いとも容易く鬼の体を吹き飛ばす。

 

「!?かはっ…」

「軽いはずなんだがなぁ…加減効かなくなってきてるな…」

 

旅中もある程度修練を続けていたら更に強くなっていた。

能力はあまり変化はないが、腕力や脚力、およそ身体能力と呼べるものは年々成長している。

鬼といえど母神レベルでなければ相手にならない。

 

「ぐ…(力が入らない…)」

「まだやるか?別に殺すつもりはない。森を抜ける道を教えてくれればすぐに去るよ。」

『勇義から離れろ!』

「!?」

 

とっさに背後へ飛び退いた。

勇義と呼ばれた鬼の前には、小さい体躯の、二本の角を生やした鬼がいた。

 

「……小鬼?」

「誰が小鬼だ!あんたより遥かに年上だ!」

「年上って…お前五千歳には見えないけど…」

「五千…?人間がそんなに生きられるわけないだろ!それより…よくも祭りを邪魔してくれたな!?」

「祭り?」

「その上勇義をここまで…鬼は喧嘩は好きさ…だけど不意を突いていたぶるのは違う!地獄を見せてやる…!」

(…なんかデジャブ…)

 

具体的に言えば天照も似たようなことが…

 

「萃香…違…」

『死ねぇ!人間!』

 

か細い声で反対しようとする勇義に気付かず、少し巨大化した鬼はその拳を振り下ろす。

重量分、当然威力は増す。

結果…先の倍近いクレーターが出来上がった。

 

「それでも弱いな。」

「は!?」

 

鬼の体を片手で投げ飛ばす。

すると同程度のクレーターが出来上がる。

さっきより更に加減して、叩き付けるときに少し浮かせた。

 

「話しを聞け!」

「………」

「俺は森を抜けたいだけだ。忠告を聞かずに襲ってきた鬼のことなんか知るかよ。まだやるなら…」

『!?』

 

少し威圧をする。

 

「加減しねぇぞ!」

 

その場の全員が恐怖した。

全身が震えて、身動ぎ一つ取れない状態。

この程度なのかと、自分でも驚きを隠せない。

この妖怪達は、弱過ぎる。

 

「…それで…道教えてもらえるか?」

「(コクコク)」

 

二本角の鬼は、首を縦に振り応える。

やっと森を抜けられることに安堵したと同時に、若干罪悪感を感じた。

理由はともあれ勇義という鬼を殴り飛ばしたのは俺だ。

 

「…確か鬼は酒が好物だったな…」

「?」

 

能力で空間を固定、停止することで、少しの物質を持ち歩けるようにした。

そして村や町で色々買って入れといた。

常に能力を使っているが、不思議と披露はない。

天使が管理してくれているのだろう。

おかげでこういう時に役に立つのだ。

 

「ほれ。」

「…!こ、これは…?」

「迷惑料と案内代だ。そこのと二人で飲むといい。」

「あ、ありがとう…」

 

恐怖が大きい。

まあ知ったことじゃない。

どうせ森を抜けるまでの付き合いだ。

俺達は…二本角の鬼と俺の二人は、他を置いて森の外へ向かった。

 



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二十八話 ~すれ違い~

風邪引いた…辛い…


「……」

「……」

 

ふたりの間に会話はない。

歩く足音がその静かな空間に木霊する。

片や恐怖から言葉を発せず。

片や最近会話自体しなかった人見知り(?)。

会話があるはずもなく、森の出口に一直線。

 

「…ほら、ここが出口。ここから真っ直ぐ行けば人の村が見える…はず…です。」

「おう…」

 

それ以上の会話なく、二人は別れた。

もし鬼子母神の子らだと望が気付けば。

もし鬼達が、望を仇だと気付けたなら。

別れることはなかっただろう。

鬼と…妖怪と人の共存が、出来たのかもしれない。

しかしそれは、可能性の話しに過ぎなかったのだった。

 

―――――

 

鬼と別れた俺は、言われた通り真っ直ぐ進んでいた。

平野を既に十日程。

嘘吐いたのかとイラつき始めた頃、ようやく人工物を見つけた。

 

「お、やっと見えた…」

 

およそ十キロくらいの距離に、塀のようなもの。

ゆっくり行っても三十分くらいで済むだろう(望に限り)。

ということで…

 

「ふっ!」

 

超加速した。

単に歩くのが面倒になった。

というより団子が食べたくなった。

と言うのも、村々を旅する度に、絶対に買うのが団子だ。

保存している団子もそろそろ切れる。

つまりこれは…獲物を見つけた鳥の行動だ。

まあ歩きで三十分なら、走ればいくつか。

およそ二分で到着した。

当然門衛に止められたが。

 

「な、何者だ!?妖怪か!?」

「人間だ…ん?どうなんだろ…」

「……はぁ…それで…何なんだ君は?」

 

旅人だと簡潔に答え、村(町?)に入れないか聞いた。

門衛は通ることを許可してくれた。

町に入り、門衛から少し説明を受けた。

どうやら門を通ると妖怪だけを弾くようになっているらしい。

月の都では門以外だったものだ。

 

(となると…ここにも神が?)

 

自然な疑問だろう。

妖怪を弾く結界を、一介の人間が出来るものでもない。

 

「なぁ…ここってなんか…こう…特別?いや…不思議な力持った奴とか…いるのか?」

「不思議な…ああ、町の結界は旅の者が施して行った物だ。あの方を探していたのか?残念だがもう…」

「いや、そうじゃないんだが…」

 

どうやらそういうわけでもなさそうだ。

ならばいつも通りしばらく住み着いて…

 

「しかし不思議な力というだけならば…聖徳太子なるお方が住んでいるぞ。」

「……聖徳太子?」

「ああ。一度に複数人の言葉を聞き取れる方だ。他にも我々では理解出来ない知識の数々、どのような問題も解決してしまう高い叡智、まさしく神の子と呼ばれるお方だ。」

「余程心酔してるな…」

 

しかしそういった者がいるかつ広い町、神子のことについても聞けるかもしれない。

 

「日中ならいつでも相談が出来る。一度行ってみたらどうだ。

「……場所教えてくれ。」

「ああ。」

 

―――――

 

それからというもの、町の散策と団子買いだめ、聖徳太子についての聴取、色々行った。

結果というもの、聖徳太子に対する人々の信頼、その程度を知ることが出来た。

所謂崇拝、あるいは魅了、恐らく聖徳太子という人物は、人心掌握に長けている。

勿論悪事を働いているわけでもなく、妖怪との戦闘には前線に出、貧しい者には財を与える。

まさしく聖人君子足る人物らしい。

 

「なんか怖いな…この町。」

 

何故そう思うのかは何となくだが、もし聖徳太子がいなくなったらどうするのか。

この町の不安要素は、万能なだけに、一人だけで回るこの政治。

俺は、相談に託つけて、聖徳太子への進言に向かった。

ただのおっさんに優しくする?

聖徳太子は…まだ二十歳過ぎの女性らしい。

男ならともかく、女となれば心配になるのも仕方ない。

せめて頼れる部下の一人もいなければ、ここは終わる。

 

(まあ裏からの依頼だがな!)

 

団子の買いすぎで金欠の俺は、結局は金で動くのだった。

 

*望は何でも屋です

 

 




しかし本当に一月投稿みたいになって申し訳ない!早く…します…(何度目だっけ…)


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二十九話 ~心理戦~

速い…速いぞ…!更新が速いぞ…!


早速聖徳太子の相談を行っているお堂へ来た。

そこには目を疑う光景が広がっていた。

とてつもない人の数、それこそ町のほとんどの人が来てると思う程の…おそらく百はくだらない。

 

「こんなん一日で終わるのかよ…」

 

そう思ったのも束の間、ものの一時間程度で、およそ五百近くの人間がその場を去った。

どうやら複数の人の声を聞く、というのも間違いないらしい。

しかし…神童と呼ばれる者であっても、人間の能力の限界は越えられないはず。

二つ以上の事柄、所謂『マルチタスク』と呼ばれる或いは能力と呼べることが出来る脳を持つ人もいる。

しかしそれは、実は『二つ以上』ではなく、『二つまで』のもの。

それ以上は脳自体に危険を及ぼす可能性があるのだ。

短時間だとして、よくて三つ、無理して四つ、そして聖徳太子なる人物は…少なくて十。

つまり彼女は、能力を用いてこれを行っているか、もしくは…人間ではないか。

 

「…ふむ…」

 

人でなければ、仙人として何百年か統治も出来るだろう。

しかし能力なら、失う損失は大きい。

 

「はぁ…面倒くさ…」

 

本人に聞く以外方法がないから、圧倒的面倒くささに悩まされる。

 

「答えてくれるか…?」

 

答えてくれることを切に願う。

 

―――――

 

『―――ま―な――ください!』

『太子様!是非私を門戸に…!』

『儂の腰は治るかいのう…』

 

等々、くだらないことや聞き取れないような声で様々喚く。

失礼とは思うが、正直半分近くは来る意味もないのでは。

近付くにつれ聞こえる言葉に、俺はどうしてもそう思う。

自分の番になり、何言おうと考えた俺は、ふと気になったことを軽く聞く。

 

『――!』

『――!』

「……聖徳太子は本当に馬小屋で生まれたのー?」

 

少し意地悪に、小さい声で言った。

俺は右端におり、回答は左端から行われる。

順に答えていく聖徳太子は、そのまま俺の問いに答える。

…思いがけない答えを。

 

「……その問いに答えるには、まず私の門戸になっていただきたいね。」

 

こんな簡単な問いで?

さっき門戸にしてくれとか言ってる奴、なんかすまん。

そう思いながら俺は応えた。

 

「断る。」

「……そうか。…そうだな…少し二人で話しがしたい。君、彼を屋敷に案内してくれ。私の屋敷に招待しよう。それならいいかい?」

「…分かった。話しくらいなら付き合おう。」

「感謝するよ。」

 

しかし初対面の俺が、いきなり屋敷に行くというのはどういうことなのだろうか。

 

―――――

 

「貴方が大使様のご招待を受けた方で相違ありませんか?」

「……ああ、うん、そう。」

 

団子食べてて忘れてた。

だって一時間経ってるし。

 

「ご案内します。こちらへ。」

 

言われるままに着いて行く。

途中にある家は歴史の教科書にいくらでも載ってそうな昔の家屋。

そして聖徳太子の屋敷も…これまた教科書に載ってそうな大きい屋敷。

 

「――」

『――どうぞ。』

 

門番さんに通してもらえた。

通されたのは畳の一室。

聖徳太子は…まさかの正座で待っていた。

お供は屈強な男一人。

 

「やあやあ待っていたよ。」

「…随分軽い…」

「向こうでは、少し気取った方が様になるからね。こっちが本来の私さ。さて…早速だが本題に入ろう。」

「何で呼んだ?初対面で何話すんだよ。」

「なに簡単なことさ。君だけ、とても異質な気配を感じた。」

 

直後に武器を構えた男が、俺に刃を向ける。

 

「可能性はいくつかある。仙人の類や、私のように特別な何か、もしくは…化生の者。」

「……何怪しんでるか何となく分かるけど…どれに近いかなら俺は…仙人かね?」

「仙人には、仙術なる異能があると聞く。見せていただけるかな?」

「…無意味もいいとこだな。妖怪も能力なんざ使える。それに妖怪は、そいつ一人じゃどうにもならない。」

「…これでもこの町の中では一番の兵だが…足りないと思うのだね?」

「そいつが十人いれば、一体程度なら狩れるんじゃないか?」

「……そうか。」

「それと、こっちも聞きたいことがある。」

「…ふっ…君に敵意がないことは分かった。聞きたいことがあるなら何でも言おう。」

「なら……お前の目的は?」

 

その一言で、聖徳太子は鳩が豆鉄砲食らったような顔になる。

記憶のための課題、もう直球に聞くしかない。

 

「…目的…とは?」

「悪いな。気になったもんで。」

「……すまない。君は席を外してくれるかい?」

「…分かりました。」

 

男が部屋から出ていく。

見送るやいなや、俺を問い詰める。

 

「目的の概要は?私が何をしようとしていると?民をも利用して、のしあがろうとしているとでも?一体、何を知っている?」

「…解脱。」

「…?」

「まだこの言葉は知らないのか…なら、輪廻からの脱却。」

「…!?」

「そうだな…輪廻から外れ、神の下へ向かう…ってとこか…いや、もしくは不老不死にでもなろうと?」

「……驚い…たね…何でも知っているようだ。」

 

本当に驚いたように、彼女は俺から身を引く。

どうやら当たりのようだ。

歴史の聖徳太子は、解脱の本を書いたという記述が確かあったはず。

その内容は読んだことないから知らんが、少なくとも聖徳太子が輪廻について調べた証拠ではある。

輪廻から外れ、救われること。

つまり生まれ変わることがなくなる。

何故望んだ?

生まれ変わることのない魂は一体どうなる?

ましてこの時代の人間が魂などという抽象的なものを信じるか?

違う。

死んだ後ではない。

生きている間を考えているんだ。

 

(さて…記憶のために協力してもらおうかね?)

 

 




………
???『御臨終です。w』


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三十話 ~未来の約束~

………眠い


「不老不死なんてロクなもんじゃない。永遠に生きて、他者を見送り、感情さえ薄れるその体に、一体何の意味がある?」

「…私は別に不死を望むわけではないよ。ただ人の生死を…自らが望むことが出来ない不自由さが、ただただ気に食わないだけさ。」

「何故人は死ぬのか。『死』を運命付けられているのか。それが許せないと?」

「或いはそうかもしれない。その疑問を解くために、時間を欲しているに過ぎない。『死』という苦しみからの解放を望むが故に、『生』という苦しみを感受している。それが私の生き様だ。」

 

彼女はただ死にたくないという安易な考えではなく、別の目的を持って不老不死を望んでいた。

俺はどう答えるべきだろうか。

彼女の望む不老不死は、既に目の前にいるというのに。

 

「……ずっと苦しいのって…辛くないか?」

「…そうだね。でも…そこに救いがあるのなら、苦しみもまた美談になろう。」

「そうか。」

 

俺は俺の疑問も大体解消したところで退散しようとしたのだが、太子に呼び止められた。

 

「時に一つ、気になったことがあるのだが…」

「ん、何だ?」

「どうして君からは欲が聞こえない?」

 

欲を聞く。

恐らくそれが彼女の能力。

複数の声を聞き取る聴覚?

違う。

平たく言ってしまえば、読心術が能力なのだろう。

他者の声、態度から心を読み、望む回答を行う。

まあ複数の声を聞くというのも、やはり能力の一つ…いや一部なのだろう。

 

「欲ね……ないよ、そんなの。」

「む?そんなはずはないだろう?人は欲深い生き物だ。何も望まず、得る物もなく、なあなあと生きるなど、傀儡と大差ない。君は…君からは、何の目的や野心も読めなければ、眠気や空腹といった浅い感情さえ読めない。君は人間ではないのか?」

「…人間…ね。」

 

不老不死は人間なのだろうか。

この体になってから…いや年を経る毎に、感情が薄れている。

それは確かだ。

しかしそれでも、団子を食べたい、などの簡単なことは考える。

何故感情が読めないか。

仮説があるとするならば…

 

「いや能力が効いてないだけじゃね?」

 

正直そう思った。

確かに感情は薄いが、人並みの欲求はある。

でなければ団子の爆食いなどしない。

 

「もしかしたら…霊力に差があると読めないのかもな。」

「…霊力?」

「いや、何でもない。まあ気にするな。さて…そろそろ帰るかな。」

「もう帰られるので?」

「ああ…そうだ!なぁお前神子って知らないか?」

 

そもそもの目的を忘れて帰るところだった。

ギリギリ聞くに至ったが、彼女の口からは以外な答えが返ってきた。

 

「…それが名であるなら…私のことだろう。名前は教えてなかったね。私は豊聡耳神子。君の探している神子というのは 、恐らく私のことだろう。無論違う可能性もあるが…」

「…まじか…」

 

思わぬ収穫とはまさにこのこと。

となれば目的の達成…不老不死?

 

(無理じゃね?)

 

はっきり思う、無理だろうと。

そもそも不老不死の存在など自分しか知らない上、俺は転生したのだ。

なら一回死ねばなれる…わけもない。

第一これは特典のようなもの。

自殺したって得られるものでもない。

 

「……」

「どうされた?」

「…いや…」

 

やはり無理だろう。

達成不可能だ。

俺は若干諦めていたが、これを設定した天使なら何か知らないかと問いかけてみた。

 

(なあ、どうすればいいんだこれ?不老不死とか絶望的だろ。俺は何考えてたんだ?)

『ああー…実際無理じゃないんだけど…不老不死に近い存在に彼女がなるのは、もっとずっと先ね…このまま課題進まないのもまずいし…課題の順を変えようかしら?』

(出来んのか?そんなこと…)

『誰が課題を選んだと思ってるの?書いたのは貴方だけど時系列にしたのは私よ?それがミスってたなら簡単に直せるわ。』

(……)

 

わりと何でも出来る存在が身近にいるものだ。

一応この世界の神相当なだけある。

 

(まあ改変は任せる。課題の紙もくれよ?)

『はいはい、分かった分かった。任せなさい。』

 

「…悪いな。ちょっと考え事してた。聞きたいこともとりあえず終わったし…そろそろ行くよ。」

「そうか…一つ、君にも伝えておこう。」

「あ?何を?」

「……私は近々いなくなるだろう。青娥という者から、道教という不老不死を研究する教えを聞いたのだ。」

「…別に消える理由にはならないんじゃ…」

「既に体が崩壊を始めているとしても、か?」

「…は?」

 

俺はすぐに肌の露出している部分を見渡すが、そんな様子はない。

となると内臓や脈がおかしいのか。

 

「すぐに消えるわけではないさ。しかし…私は不死を求め過ぎた。そのあまりに、様々なものを取り込み過ぎたのだ。」

「…死ぬのか?」

「…ふっ…私が死を嫌うのは今日分かったはずだ。…死ぬ気はない。それに青娥殿より延命の術も聞いている。私は尸解仙となろう。」

「尸解仙?」

「まあ簡単に仙人とでも考えるといい。細かい説明は意味を成さない。死ぬのではなく眠るのだ。いずれ私を求む者らが現れるまで…」

「……まあ好きにしろよ。俺にはそんな関係ないし。でも…いつかまた会えるだろうな。」

 

約束された再会。

課題を後回しに出来るなら、再び会うことは確実。

これは絶対の事柄なのだ。

だからこう言う。

 

「またな。」

「ああ。またいつの日か…」

 

俺は翌日、早々に旅に出た。

用が済んだのもあるが、神子と話す楽しみを先の方へとっておく。

嗤い歩く俺は、また一つやることを作るのだった。

 




夜書くと変なこと書いてる気になる…不安になるの…分かる人いるよね?


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三十一話 ~長旅(世界旅行)~

上手く時間潰すために最初から考えてた話しに出来た~
代わりに望を苦しめた~…いや本当…辛そうですね…


これだから旅は嫌なのだ。

分かりやすく歩道でも作ってくれ。

そんな感情を抱きながら、今度は山で迷子になる。

下ればいいだけ?

残念ここは山脈です。

下れど登れど飛べども歩けども人っ子一人、妖怪一体いやしない。

わりと既に一月程迷ってる。

 

「はぁ…せめて動物いないのかよ…生物いないのおかしいだろ…山だぞここ…」

 

愚痴りながら足は止めない。

不老不死でもなければいつ死ぬかも分からない絶望的状況。

欠片もないサバイバル知識。

人工物の見当たらないこの山々。

飛んでも出口の見えない広い山脈。

下手したら外国の広い山脈にいるのかもしれない。

国を出てから早五年旅をしているからおかしなことはない。

海を越えた覚えはないが…昔は島々が繋がってたらしいし…まだ繋がりがあるかもしれないだろう。

 

「まあまだ楽しいけど。」

 

一月も迷子になっている俺は…以外にも楽しめていた。

 

―――――

 

…サバイバルも何年もやると飽きるんだよ。

三年もいればそりゃ飽きるよ。

しかも信じられないことに生物は一切いなかった。

生態系的にあり得るのだろうか?

 

「ああ…流石に寂しい…誰かいないのかよー!」

 

叫び虚しく、静寂の中木霊した。

必要とはいえサバイバルも楽ではない。

ちなみに何故必要なのか、それは課題が関係している。

 

『蓬莱の薬の破棄』

 

…どうにも聞き覚えのある名前だ。

月の都の地上時代、永琳が研究していた薬。

そしてもう一枚のこの紙。

 

『詫びヒント:課題はおよそ五十年後』

 

これが必要の理由だ。

蓬莱の薬のために五十年も待機しなければならない。

そのための娯楽代わりのサバイバル。

結構後悔している。

そろそろ人のいる場所を探しに行くべきだろう。

ということで…

 

―――――

 

三日飛んで山脈を抜けた。

そこに広がるは何もない平野。

山より見晴らしはいいが、山よりサバイバルに味気ない空間。

 

「……辛い。」

 

とてもシンプルに辛い。

 

―――――

 

およそ一週間飛び回った、人の気配はない。

一月飛び回った、人の気配はない。

一年飛び回った、海に出た。

海沿いに一週間飛んだ、孤島だった。

 

「一年で島同士の距離が…」

 

陸沿いに歩いて来た場所だから孤島ではなかったはず。

それがいつの間にか孤島になっていた。

蓬莱の薬がある場所…現れる場所は、間違いなく日本国内。

しかしどちらが日本か分からない。

 

「あ゛あ゛ー…」

 

空腹、渇き、寂しさ、辛い…

 

「なんて言ってても仕方ないか…どうせ死なないし。」

 

度重なる絶望感によって、変な風に達観していた。

 

―――――

 

海を越えた。(一月ぶっ通し飛行)

舗装された道を見つけた。

喜んだのも束の間、家は石で出来てた。

人を見つけた。

服は葉っぱだった。

 

「言葉通じねぇ…」

 

話した、言葉分からない。

 

ここまでで確信した。

ここは日本ではない。

 

―――――

 

ショボくれながらも、その国(島?)で暮らすかと諦めかけていたが、蓬莱の薬のある村や国を探すのに一年。

少なくとも日本の島内にいなければ探す目処すら立たない。

せめて言葉も通じなければ暮らすのも苦労する。

結局また海を越え、飛び続けるしかないのだった。

 

やっとの思いで日本語の言葉を聞く頃には、十年の月日が経っていたとか…

合計二十年の旅の末、定住場所を一つ決める俺であった。

 

 




東方キャラ一人出ます。これは元々の予定通りです。ノープランでもいくつかは考えているんです。適当とか言わないで下さいよ。


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三十二話 ~護り神~

wiki参照情報結構使った~


「………?……んん!?」

 

疲弊しきった状態で、俺は村を見つけた。

正直予想外な位置…森の中にあった。

 

「やっと人のいる…」

「…ん?き、君!どうした!?何故そんなにぼろぼろなんだ!待ってろ!すぐに治療を…」

「あ、大丈夫。傷とかはないから。」

「……本当か?」

 

こんな森の中、突然現れた男を妖怪と疑わないのか?

そう思いながら、招かれるならと村に入る。

別段変わったところもなく、村にしては大きいくらい。

 

「服なら俺の古いのになるが、お前に合うやつもあるだろう。本当に怪我はないんだな?」

「ないって…(あ、敬語忘れてた…)…ないです。」

「ならいいが…あと今更遅いぞ。」

「…おう。」

 

しかし特に何かある村でもなく、特別な人物がいるでもない。

門番の男と話す内、その村に滞在することを決めた。

聞けばこの森には妖怪はいないらしい。

この村の変わった所はそこだろう。

村の守り神たる存在がいるようだ。

誰も見たことはないが、村の伝説によれば…

牛や山羊のような姿をしており、曖昧な容姿。

人四人分程の巨駆に複数生えた角。

自然の具現のような翡翠の瞳を複数。

それら特徴を持つ獣。

百年近くの時を護り続けてきた…護り神だ。

 

「あのお方のおかげで、俺達は平和に過ごせる。旅人には分からんだろうが…あのお方を馬鹿にするのは、この村の皆が許さん。この村に留まるなら…それだけは覚えておけよ。」

「……おう。」

 

盲信宗教は敵に回すと一番面倒くさい。

 

―――――

 

「~~♪」

 

人との会話がこんなに楽しいこと初めて知った。

失って知ることもあるというが、やはり得て知ることの方が多い。

 

「お、さっきぶりだな。」

「おー…門は?」

「当然交代制だ。」

 

それから門番の人と他愛もない話をしながら、食事処で夕食にした。

そこそこ獣はいるそうで、飯は肉だ。

何故妖怪がいないのかは…よく分からない。

神に類する者なら、妖怪だけ避ける方法があるが、実際どうなのだろうか。

 

「?」

「――――……?ああ、すまない。食事前には祈りをするのは癖でな。旅人には分からんだろうが…狩りが出来るのもあのお方のおかげだからな。」

「ほー俺には無理だな。」

 

神と喧嘩するし脅すし教えるし。

多分上位の奴らと関わり深いからな。

食事を終える頃にはすっかり日も落ちていて、人通りも減っていた。

 

「色々ありがとな。おかげで宿も取れたし、飯にもありつけた。」

「いんだよ。持ちつ持たれつだろ?次はお前が何かしてくれよ。」

「ああ。」

 

久しぶりの会話は楽しく、飯は旨く、布団で寝るのは暖かかった。

ゆっくり休み、翌日。

平和は短いと言うが…一日で終わるとは…

 

『おい!早く消せ!』

『馬鹿!溢すな!』

 

一軒焼けた。

それはもう凄い勢いで。

よりによって俺が村に来た直後に。

村人の目線は俺に注がれる。

それはそうだ。

俺が来たのは昨日、そして焼けたのは今朝。

 

「お前が…お前が…やったのか…?」

「門番さん…」

「何故だ…何の恨みがあって…」

 

完全に犯人扱いだ。

しかし村人全員がここまで焦るとは…特別な家だったのか?

その問いはすぐに解消された。

 

「ああ…白澤様がお怒りになる…」

(ああ…昨日言ってた奴関連のものが…)

 

気付いた時には、狼のような遠吠えが辺りに響いた。

家の壁が焼け落ち、中が見えるようになる。

食料や獣の骨、姿を型どった像。

勿論それも焼けていく。

 

『ウォオオオォーーン!』

「おお…白澤様…どうかお鎮まり下され…」

 

…確かに遠吠えは大きいが…怒りの感情は見られないような…

 

『……やはり…我が主が参ったか…』

「白澤様…?一体…」

『そこにおられる腰に扇を携えたお方よ…私は貴方に従います…』

「……あ俺か。どうゆうことだ?」

『天照様、及び月読様より、各地に霊獣が配置されているのです。貴方との連絡係として、共に行くために。』

「あいつら…それなら人間の方がよかろうに…」

『あの方々も貴方がいなくなることが不安なのでしょう。我々はあの方々に作られし存在。どのような雑事も、従うのみ。』

「じゃとりあえずまず一つ。あの家焼いた奴は誰だ?」

『私です。私を繋いでいるあの家が残っていると、私は自由に行動出来ません。』

「おう…」

「お、お待ち下さい!白澤様!どうか我らを見捨てないで下さい!白澤様がおられなければ、この村は…」

 

そう叫び歩いて来たのは、青く長髪の若い女性。

見捨てないよう願っているが、白澤は俺に従うと頑として動かない。

 

「…お前は俺に付いて来るつもりなのか?」

『霊獣は総じて、創造者、並び契約者との念話を可能とします。私が貴方に付いて行けば、天照様方に、貴方の生存を伝えることが出来る。なので付き従うことをお許し下さい。』

「むぅ…しかし村を見捨てるのは…」

『…では…お主に私の力を与えよう。その力を用いて、村を護るがよい。』

「え!?」

 

そう言い白澤は体から光を放ち、その女性を光に包んだ。

 

「!?」

『少し動くな。そうすれば、お主に私の力を与えることが出来る。』

「人間に与えて大丈夫なのか…?それ…」

『…種族が少し変わろう。半分は霊獣に…』

「は!?それまずいだろ!」

 

種族が違うことは、人間の畏怖や敵意の対象に成りかねない。

例え半分でも、人間からの虐待もあり得る。

しかし女性は構わないようだった。

 

「村を護るためなら…構いません!」

『そうか。ならば私の代わり、精々頑張るといい。お主からは…心良い気配を感じるのでな。期待している。』

 

親が子を見るように、白澤は彼女に優しい眼差しをむけた。

その日、そこに一人の守り神が生まれた。

鬼の角のような二本の角、それ以外はあまり変わりないが、人ではないと断言出来る者に。

後にその者は百年に渡り村の守り神となることを、その場にいる者は、当然知る由もなかった。

 




誰か分かりますね?白澤(ハクタク)ですからね?


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三十三話 ~人化~

白澤と共に旅に出て一週間。

相当環境が潤ったと言えるだろう。

旅は道連れ。

一人旅より二人旅だ。(匹だけど)

これでさ迷うこともなくなる…最悪さ迷うことになっても精神的に楽!

 

「とはいえ目的もないからな…」

「簡単なことでは駄目なのですか?例えば…食の探求や妖怪との戦闘など。」

「……駄目だ団子しか思い付かねぇ。別に戦うの好きじゃないし。」

 

これから三十年近く過ごせる暇潰しが何もない。

二人になっても白澤に人間の感覚は分からない。

…人間の感覚?

 

「ああ!どうせなら白澤を人間にしてみよう!」

「それが目的であれば、難しい話しではありませんが…」

「へ?」

「霊獣は人との交流も珍しくないのです。私のように人間の村の守り神になる者もいれば、人の姿で人の輪に入る方もおります。」

「……なれんの?」

「お望みとあらば。」

 

なら最初からそうしてほしかった感は否めない。

正直戦闘覚悟してたし。

ただ…

 

「こういうのってさ…人になったら服無いとか定番だよな?俺服は持ってないんだけど…」

「そうですね。一度着てしまえば生成可能ですが、構造も知らず作るのは危ういかと。ずり落ちます。」

「…なら次の村か町で買おう。人の方が旅しやすい。」

「御心のままに。」

(…俺…人間だよな…?)

 

神が遣わした獣に崇められる。

しかも神には行動筒抜け。

というか俺のプライバシーどうなってるんだ。

少なくとも四人には監視されてるようなものじゃないか。

 

『そんな見てないわよ?ねぇ?』

『えと…少し…』

(うん見てるな。)

 

天使はやることないだろうし特に見てる。

天使1はその内殴る。

 

「…目的思い付かない。」

「…さしあたっては、国を巡るのでよいのでは?国によって物産も違いますし、課題に重要な方と会える可能性も少なからず…」

「それ目的か?結局旅するって言ってるみたいなものだろ。」

「必ず目的がなければ旅をしてはいけないなど、ないのですから…気ままに歩くのもよいものでしょう。」

 

言わないけどもう飽きている。

一体何年旅してると思っているのか。

百年くらいだな。

 

「…お、そうこうしてる内に村見えたぞ~。」

「そこそこ大きいですね。とりあえずあそこで服を調達して、私も人の姿で入りましょうか。」

「そうしよう。その姿だと何言われるか…追い出されても文句言えない…」

 

白澤を村の近くのちょっと死角になるくらいの位置に置き、俺は村の門に向かった。

いつも通り…というか当然のごとく、門番さんには呼び止められた。

ただ、別に怪しんでの拘束とかではなく、どちらかと謂うと旅の話しを聞きたいようだ。

俺は急がないと白澤に悪いと思い、服屋だけ場所を聞いて、話しはまた今度と言って逃げた。

 

―――――

 

「そういえば服のセンスなんてないな…」

 

まず雄か雌かも分からないし。

でもこの世界の服って着物だから、そこまで迷うことはないだろう。

 

(適当に買お…)

 

―――――

 

緑主体の黒と白の線が入った着物。

この世界にもペアルックってあるんだね。

男性用と女性用でセットがあった。

どうせなら両方買うことにし、以外に高い代金払って村を出た。

 

―――――

 

見つけた白澤は狩りでもしてたのか…死屍累々の獣の山。

村行くまでに仕舞わなければ…

 

「…いくつか食った?」

「はい。」

「…あんま変なの食うなよ?」

「霊獣には害はありませんよ。」

「そりゃそうか…とりあえず服買って来たし、人になってくれないか?俺は少し離れてるから。ちなみにお前雄?雌?」

「性別はありませんね。どちらかと言えば、お創りになられた天照様が女性なので、女性寄り…つまりは雌でしょう。」

「ならこっちだな。…どうせならこっちは俺が着るか…」

「何か違いが?」

「男性用と女性用のペアルッ…て分からんか。あー…まあお揃いのやつってとこ。」

「おお…!主従が分かりやすいですね。」

「いやどっちかって言うと…まいっか。とりあえず人になってそれ着てくれ。それなら村行ける。」

 

―――――

 

「用意出来ました。」

「おー…!?」

 

人になった白澤は、あの時力を与えた女性と似た姿をしていた。

髪は白く、角はない。

隠してくれているのだろう。

ただ問題は、着物を少し着崩していることだ。

 

「ちゃんと着ろ!」

「む?これでは違うのですか?」

「たく……」

 

流石に着物の着方を知っている俺は、指示を出しながら紐もちゃんと結ばせた。

 

「…これでよし。」

「中々きついものですね…」

「やっと村戻れるよ…さて!行くか!」

「はっ!」

 

白澤を村に連れて行くまで、合計で十時間程かかった。

 




白澤の人の姿は、まあ『メイドラゴン』みたいな設定でこの姿になりました。『メイドラゴン』面白いよ。説明面倒いから省く!


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三十四話 ~口は災いの元~

…お久しぶりです。もはや言い訳はしません。新しく買った三、四年前発売のデジモンゲームにガチめに嵌まってサボってました!しかも三作分クリアしてもまだやってます…このように自分ゲーム好きなのでサボりもまたあるかもしれません。ごめんなさい。


「お、望今日は団子食ってないのか?」

「もう食ってぶらぶらしてたとこ。」

 

彼はこの村の門衛であり、最初に俺に声をかけた人物である。

来てから既に半年程経つが、最も交流があったのは彼だろう。

 

「白亜はどうした?」

 

白亜というのは白鐸のことだ。

というのも妖怪退治をする旅人もいるようで…白鐸は既に討伐対象らしい。

…あいつ妖怪じゃないよなぁ?

まあそれにそもそも人の名前っぽくないし。

ちなみに原因は白鐸の狩り現場をみられたことだ。

も一つおまけに門衛の片思い相手でもある。

正体知ったらどうなるだろうか。

一応後悔する程度のことは言ったから、何があろうと自己責任で頼みたい。

 

「白亜は今頃酒でも飲んでるんじゃないか?あいつ常に腹ペコだし。上手い物ならがっつくし。」

「そ、そうか…」

 

白鐸はとにかく食べる。

それこそ俺の五倍くらいは。

元々供え物で人間の料理の味を知って、軽く中毒になっているのだろう。

彼女は今日も貪り続ける。

団子だけなら俺の方が多いが。

 

「な、なぁ!白亜に飯でもどうかってさ…俺言ってたって伝えてくれないか?」

「えー…自分で行けよ。」

「いや、その…な?」

「…分かった。でも次からは自分で誘え。」

「あ、ありがとう!」

 

二人の仲を取り持つのは難しい。

いや訂正面倒くさいだけだ。

大体半年で飯にすら誘えないのはどうなのだ。

 

―――――

 

更に半年の時間が経った。

白鐸と門衛の仲は少し…そう少しだけ進んだ。

お茶友くらいには進んだ。

日常的に二人から聞かされると二人の交流のほとんどが聞ける。

前の記憶の時友達がリア充爆発しろとか言っていたが、俺はどちらかと言えば応援する派だ。

人口減るのは望まない。

人の不幸は水の味、人の幸福は…砂糖水辺りかな。

つまり興味ないだけだけど。(応援してない)

 

「この一年で思ったことがある…」

「?また暇とか言うのですか?先日も同じことを…」

「違う…わないけど、それじゃない。一年の間神連中やら…実は少し交流ある妖怪からの連絡もない。」

「そうですか…別に問題ないのでは?」

「そう思うか?一年連絡なしとか…月読に次会ったら串刺しじゃないか?もう片方は単に気になる。」

「月読様もそこまで過激ではないでしょう…おそらく。」

「まあ一番は暇なんだけどさ…今ならちょっとした町の危機とか歓迎するぐらい…」

 

フラグは立ったようだ。

その言葉を言い切る前に、鐘のような音が辺りに響き渡る。

危険信号…つまり門衛では戦力が足りないような場合の鐘だ。

 

「……あんなこと言ったからかな…」

「…では、責任を取ってきて下さいね。」

 

俺はため息を吐きながら、音の方へ向かった。

 

―――――

 

『槍構え!絶対に通すな!』

『はっ!』

『――!』

 

「すげぇ…」

 

いつも妖怪が攻めてくる時は決まって数体。

それが群れ…凡そ百近くの群れで来たのだ。

まさに町の危機そのもの…俺のせいじゃないようん。

 

「加勢した方がよろしいのでは?」

「対処出来なそうならするかな…この町に俺らが留まるわけでもないし。いなくなった後考えるとな…」

「…そうですね。」

 

見るところ槍も出来ているようだし、妖怪と争うには十分な装備があるようだった。

相手に能力持ちや痛みをものともしない変異種がいない限り…

 

「あっ」

「どうしました?」

「……また余計なフラグ立てたわ…」

「…?」

 

口は災いの元とは言ったものだ。

 

「あれは…」

「能力持ちだな…矢が全部地面に落ちてる。周りも沈んでるし、重力辺りじゃないか?」

「どうしますか?」

「どうって…なぁ?」

 

久々に…暴れよう。

争いの中心に、俺は飛び出した。

 



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三十五話 ~村の守護者~

俺が降り立った直後、全員が手を止め視線を送る。

何者かが中心に急に現れれば、誰でもこうゆう反応を示すだろう。

まあそれも数秒。

人間側はこの一年俺が妖怪と何度も戦っていたことを知っている。

俺が援軍として来てくれたことを察してすぐに退いてくれた。

妖怪はその様子を見て少し退いていたが、所詮一人と、能力持ちが前に出た。

見た目は人の上半身、蜘蛛の下半身を持つ妖怪。

能力は…

 

「やっぱり重力か。」

 

俺の周りだけが重くなる。

まるで巨大な岩を持つような重さ。

 

「ま慣れてるけど。」

 

修行で慣れている。

あまり嘗めないでほしいな、俺の修行。

 

『…頭が高い!』

「…!重っ…」

 

しかし多少重くなっても程度が低い。

すぐさま踏み込み、懐に入る。

殺さない程度加減をしながら、腹に一撃を加え…ようとした。

 

「!?」

 

体を腕が貫通したのだ。

それも肉や骨ではなく、土のようなものを。

 

「あいつ…体が土だ。」

人形神(ひんながみ)ですね。土で造られた人形…ではあなたが黒幕ではないのですね。」

「いつの間に…で?人形神って何?」

「願いを込めて造る人形から生まれる…つくもがみのようなものですね。材料は墓の土。動く理由は亡霊、悪霊の類だとか…」

「なるほど…」

『お喋りはそこまでです。死になさい!』

 

待ってたというよりは力を溜めていた人形神は、これまでとは別格の重力を下に向けた。

白亜は立つのも耐えられずに倒れ伏す。

 

「残念だけどまだ軽いな~」

『な!?』

 

繰り返そう。

俺の修行を甘く嘗めないでほしい。

 

「それに亡霊なら加減はいらないな!」

 

能力『消滅』

存在する空間ごと消し去れば、どんな体でも関係ない。

あいつは慢心からか一歩も動いていない。

座標ごと指定するから多少時間はかかったが、これで終わりだ。

 

「さて…と。」

『ひっ!』

 

首を九十度曲げるように残党を見る。

逃げなければ殺す。

挑めば殺す。

そういった殺意を妖怪に向ける。

残党は全員逃げだし、その場には(白亜除き)人のみとなった。

 

『うおおぉぉ!』

 

自警団の雄叫びが響く。

それからは口々に俺に感謝して行き、何人か奢ることを約束してくれた。(よし!)

 

「…やはり敵いませんね。私では物理的に破壊することしか出来ませんでしたから。」

「能力でもなきゃ無理だよ。燃やしても効かなかっただろうしな。」

「しかし黒幕はどこにいるのか…聞く前に倒してしまいましたね。」

「いいよ。まだここに留まるし、気長に探す。」

「…それなら墓でも見張りますか?それなら、少なくとも人形神は現れません。」

「そうだな。そうしよう。」

 

それからの村防衛の話しを、自警団の何人かと話し合った。

結果…墓守を立て、しばらく俺が戦闘指南をすることになった。

 

―――――

 

指南始めて約三月。

村での俺の立場がよく分からなくなった。

と言っても呼び方は二つ、『仙人様』か『隊長』の二択。

時たま『狩人』とか言われる。

白亜は基本(ねえ)さんになってる。

何とも言えない呼び方に、不安はそこまでなかった。

俺も白亜も思いの外呼ばれ慣れていたのだ。

それから…人形神の制作者が分かった。

人形神は墓地の土から造られる…つまりは造り手が人間である必要はない。

案の定、造ったのは攻めて来た妖怪の一体だ。

訓練した墓守が捕縛を達成した。

人間の子供のような背丈と人型、違うのは角ぐらい。

そう…黒幕は鬼の子供だった。

 

―――――

 

「お前…なんでこんなとこにいるんだ?」

「………」

「…恐らくは迫害では?鬼という種族は、元々が人である場合も多く見られるらしいですよ。どう成っているかは知りませんが…」

「……」

「主様?」

「……お前さ…鬼子母神か、もしくは近い奴らに鬼にされたか?」

「!?……人間が…母様を軽々しく…」

「やっぱりな。あいつはやるよ。大方、ずたぼろで倒れたところを、鬼にしてもらって生き延びたってとこだな。あいつは人が好き…いや、嫌いじゃないからな。」

「会ったことが?」

「…俺が初めて負けて、初めて勝った相手だよ。簡素な殴り会いでも、頭使うよりよっぽど楽しかった…」

「……母様…」

「…行く場所ないなら、一緒に来いよ。人襲わなきゃ安全は約束してやる。どうする?」

「…………」

 

―――――

 

その鬼の子供は、二十年前の鬼の祭(?)の時から、俺をずっと追ってたらしい。

鬼になったのもどうやらその辺り。

鬼の大半に嫌われながらも、鬼の四天王である萃香に育てられていた。

それが祭の時、俺が秒殺していったのだ。

あれが四天王だということは勿論今知った。

その後修行のためあまり構ってもらえなくなり、遂には嫌っていた鬼に殺さないかわりにと追い出された。

そうなったのを俺のせいと考え、人の村に向かったらしい。

ただ俺があまりに方向音痴であらぬ方向へ向かっていたため、その日まで全く出会わなかった。

やっと見つけたが、俺には敵わないことが分かっていたから、人の時に知った願いを叶えるという術に頼った。

結果は見ての通り。

これが今回の騒動の原因だった。

ちなみに鬼子母神のことはほぼ毎日聞いてたらしい。

正直やったのあいつだと思ってた。

 

「ふーん…悪いの俺だな。」

 

と冷静に思ったのだった。

 

―――――

 

「望兄ぃ!お団子食べよ!」

「分かった分かった。引っ張んな。」

 

一月後、予想以上になつかれた。

 




この子は萃香としか聞いてません。呼び方は萃姉ぇ。
名前は元々なく、人の時から迫害を受けていました。
望が付けてあげた名前は『夢花(ゆめか)』です。
名前の由来は望=夢、(萃)香といえば花です。
これでも適当じゃなくて真面目ですよ?名付けは毎回意味のある名前にしてるんですよ?他のキャラの由来もその内書きます十人くらい。


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三十六話 ~夢のまにまに~

小タイトル分かりずらいだろうから補足です。
夢(花)のまにまに→夢花の思った(好きな)通りに
という意味です。


「望兄ぃ!見て見てー!」

「おおー…一月で随分成長したな~。」

 

夢花が見てほしいかったのは自身の腕力。

見せる方法は、まあ…

 

「降ろしてくれ望!」

「あいつも辛いだろうなぁ…」

 

門衛を持ちあげていた。

ついでにその同僚も。

成人男性二人を軽々と抱えて笑っていた。

 

「夢花?あんまり軽率に男に近づくなよ?俺や門衛なら構わないけど、襲われることもあるからな?」

「ん~…しょっと…大丈夫だよ!だって私鬼だもん♪」

「いや…そうゆう変態は無駄に知恵が回ってな…薬嗅がされたり飲み物に媚薬混ぜたりヤバイのが多いんだ。」

「びやく?へんたい?」

 

まあこの時代にはまだ効果の薄いものしか出回ってない。

そもそも変態の概念もなければ、人が少ないこの村で、村八分になるような真似する馬鹿はいないだろう。

それでも見てて気分がいいわけでもないから忠告するのだ。

 

「とにかく気を付けて行動しろ。危ないことはするなよ?」

「はーい!」

 

元気のよい返事をしながら、村の子供衆に混ざりに行く。

ちゃんと見ててくれる人が必ずいるから、安心して子供は遊び回れる。

夢花が怪我させないように、そして子供だけで村の外に行かないように監視している人がいる。

日替わりで必ず一人は見ている。

だから俺も安心出来る。

 

「……そろそろか…」

 

次の目的地が決まった時だった。

 

―――――

 

「え…?」

 

疑問は当然。

今俺が言ったのは、鬼の…同じ種族の森…山?に帰りたいか。

やっと村に慣れて来たというのに、何故今なのか。

追い出された場所に戻りたいはずがないのに。

 

「…本当は、もっと早く聞きたかったんだ。」

「……」

「でも、俺も一度、昔馴染みの所に行かなければ…多分後悔する…だからこの村からしばらく離れる。その間に、お前がまた追い出されたら、もう居場所なんてなくなる。」

「……私…邪魔…?」

 

泣きそうな声でそう言う。

そもそも何故一度帰るのか。

それは数日前のこと…

 

―――――

 

「!?これは…紫の?」

「久しぶりね。」

「そうだな。十年くらいか?……背伸びた?」

「ん~どうだったかしらね?背は伸びたけれど…」

「まあいいや。それより何の用だ?」

「貴方、鬼と関わりがあるでしょう?」

「……何で知ってる。」

「多少覗くわよ。それで一つ話すことがあるわ。」

「早く言え。」

「ええ。鬼の集落が神々と争いを始めているわよ?」

「……はぁ!?」

 

いくら鬼でも、神相手では敗北濃厚だろう。

夢花にとって唯一と言っていいほど世話になった萃香。

知り合い程度でも数瞬良くしてくれた鬼達。

そしてなにより…鬼子母神が護った命。

 

「…流石に…放っとけないよなぁ…」

「貴方ならそうでしょうね。私にとっても、理想実現の前にこうゆうことされるのは困るのよ…特別に移動させてあげる。準備が出来たら言って。」

「便利な能力持ってんな~。」

「そうね。」

 

―――――

 

ということで戦いを止めるのに向かわなければならない。

ここでこう思ったのではないか。

『特別に移動させてあげる。』

そう紫は言ったのだ。

なら村から離れる必要ないではないか。

すぐに戻れるのではないか。

残念だが帰りは徒歩…飛行だ。

紫の能力、本体のスペックが並みの妖怪程度。

つまり妖力が少ないのだ。

そして身体スペックも低いせいで、鬼という上位の妖怪と、神々の戦争に、近づけても十キロは離れる。

要は環境と比べて弱過ぎるということだ。

更に別件に能力を継続して使っている(詳しくは知らない)らしく余計能力が使えない。

結局止めたとして帰る頃にはガス欠、紫は能力が使えなくなるのだ。

 

「安心しな。夢花が邪魔なわけないだろ?妹のように可愛いお前と、簡単に離れることなんて出来ないよ。」

「ほんと…?」

「ああ。でも鬼達が気になるだろう?萃香とやらもいるんだし…」

「……」

「だから聞いただけだよ。お前が邪魔なんて…まして追い出すなんてするわけないだろ?」

「…………気に…なります…萃姉ぇや勇姉ぇにも、会いたい…」

「だろ?」

「でも…望兄ぃともいたいよぉ……」

「夢花…」

 

『話はまとまったようね。』

『!』

 

突然聞こえる女性の声。

そんな神出鬼没な奴は間違いなく…

 

「紫か。」

「四日ぶりね。向こうはまだやってるわよ?流石妖怪の主とも呼べる奴らと、神々の戦いね。名付けるなら…『神妖大戦』…てところかしら?」

「…まじの戦争なら、早く止めないと…か…」

「全くね。そういえば、何でその子を連れて行くことにしたの?」

「ん?いや単にお前が連れてく以外に連れてく方法ないからな。こうゆう時でもなきゃお前と連絡付かんし、今じゃなきゃ…最悪…会えなくなるかもしれないだろ?」

「……そうね。」

 

紫に驚いた夢花があたふたと慌てている間に、俺と紫の話しもまとまった。

 

「さてと…それじゃぁ…行きますか!」

「ええ。」

『え?』

「二名様ご案内~♪」

 

次会ったら殴るそう決めながら落下していく俺と夢花だった。

 




今回白亜が出なかった?既に神妖大戦行ったんですよ。だから次回は白亜側ストーリーで。
そういえばクリスマスでしたね。ap◯xやってたら過ぎてましたw


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三十七話 ~神と妖怪と人間~

あけおめ!そしてことよろ!…やっぱ真面目に言います。明けましておめでとうございます!今年もよろしくお願いします!


「これは…」

 

私は紫様の話しを聞き、主の命を受けこの地へ来た。

そこにあった光景は悲惨なもの。

血に塗れた神妖、重なる屍の山。

これほどの被害が出ているというのに、何故戦を止めないのか。

 

「……しかし…何かおかしいですね…」

 

私の知る限り、神側から鬼に戦を仕掛けることなどありはしないだろう。

しかし鬼も、元より戦力に差があり、尚且つ主に打ちのめされた四天王の不参加。

勝ち目のない戦を発起させるわけもない。

とはいえ操られているわけでもなさそうだ。

他者の操作であそこまでの繊細な動きは不可能。

 

「お互いに事情があるとしか…」

 

天照様からの連絡が途絶えていることも気になる。

このような戦を、紫様から知るのが一番速いなどあり得ない。

 

「天照様…月読様…どうかご無事で…!」

 

この戦に割って入れる程、私は強くない。

祈ることしか出来ないことに、私は不甲斐ない思いだ。

 

―――――

 

「チィ…夢花!」

「望兄ぃ!」

 

思いの外長い空間。

その出口に到達する前に、俺は夢花を抱き抱えた。

 

「…とっ…」

「着いたの?」

「主様!お待ちしておりました!」

「紫の奴…お前を座標扱いしたな…?」

「それよりも…私の見た限りの報告を…――」

 

―――――

 

「うーん…よく分かんねぇ…俺も同感だしな…」

「あの…どこを見ても萃姉ぇも勇姉ぇもいないの…」

「そうか…実は月読や天照も見当たらないんだ。」

「私達の知る方々は…恐らくですが、誰も参加していないのでしょう。」

「となると…いくつか可能性が見えるな。」

 

下級に位置する連中の反乱。

お互いに絶対に勝たなければならない事情。

…鬼の四天王や、神々のまとめ役達の弔い合戦。

他にもあるだろうが、このようなことがなければ戦争なんて起きないだろう。

 

「……待てよ…?」

「!主…様……」

「どうした?」

「天照様との…契約が……」

「!?」

 

(…嘘…だろ…?何で…?そんな…それじゃあ…!)

 

「…天照様との契約が切れるのは…天照様が私を解放した時と…亡くなった時だけ…です…」

「…すぐに…あいつらのところへ…紫!」

「…ええ。」

 

―――――

 

「月読!諏訪子!天照は!?」

「望!?何故…」

「今はそれより天照だ!あいつはどこだ!?」

「……そうか…お主…天照はこっちじゃ。今は床に伏せっておる。」

「……何があった?」

 

天照の元へ向かうまでに、俺達は話を聞くことにした。

あまり長くない道程で、月読が端的に説明していく。

 

「…単純なことよ…妖怪による暗殺じゃ。未遂だがの。神と言えど、急所はある。首を切られれば即死。心臓を穿てば瀕死。毒を飲めば衰弱。人と変わらぬ。」

「天照……」

「ここじゃ。…望よ。どうか…助けてくれ。永琳の居らぬ今、お主以外に救えるものは…いや…可能性のあるものはいなかろう。」

「…外の戦争は、お前が首謀者か?」

「……」

 

月読は首を振る。

つまりこの戦争に、月読や諏訪子、神奈子達は関与していない。

 

「とにかく天照を見てくれ。話しは後にしよう。」

「…ああ。」

 

―――――

 

「天照の暗殺に来たのは、小型の人形神じゃ。」

「人形…神…?」

「それって…私が造った…」

「いや…夢花は俺達の近くにずっといた。妖怪が制作法を知ってるとも思えない。まさか…」

「その通り。真の敵は…『人間』じゃ。」

「人間が…」

「天照の胸から腹にかけて、大きく切り傷がある。確認してみよ。」

「いや、大体判ったからいい。小型の人形神の形態変化、一部の巨大化による串刺しってところか?」

「早くて助かるの。しかし足りん。現れたのは血の人形神じゃ。ただの傷なら、時間が経てば再生する。しかしその血は、妖怪の血じゃ。神にとっては毒の塊。どうにかそれさえ取り除けば…天照は生きる。」

「……妖力…か…やってみよう…!」

 

座標の指定、消滅する物の指定、白のキャンバスに描くのは…内臓。

存在の一部を…一つを消滅するなどまだ試していない。

それをやるには、まだ技術が足りない。

ならば、全てを消して再生する。

失敗すれば死、成功しても…しばらく安静だろう。

 

「…死ぬよりゃましだと思えよ…!」

 

『消滅』指定:切り傷の範囲全て

『創造』指定:消滅した箇所全て

 

―――――

 

戦争の始まりは天照の仮死。

毒によって倒れた天照の弔い合戦に他ならない。

天照が起きれば、戦争は終わる。

問題は…やったのが人間ということ。

 

「心当たりはないのか?」

「なくもない。妖怪を信仰する変わり者も…多くはないが少なからずおる。特定するだけ無駄じゃな。」

「だからと言って放置するわけには…」

「無駄じゃ。人間が一番欲深い。此度のことも、妖怪を信仰する余りの凶行か…はたまた神を蹴落とすという思想か…いずれにしろ永遠の問題じゃよ。今は戦争を止めることを考えてくれ。」

「天照が起きるまでの時間稼ぎか?」

「いかにも。妖怪側も、我々が攻撃を止めれば止まるだろうて。消耗は避けたいはずじゃ。」

「……主様よ。夢花の親…萃香殿の力を借りれば、妖怪を止めることも出来るのでは?」

「…そうだな。神側は天照が、妖怪側は鬼の四天王が、それぞれ止める。なら俺は交渉に行ってこよう。」

「待て!夢花や萃香とは何者じゃ?鬼のしたっぱなのか?」

「あー…お前らが煩いと思って連れてこなかったんだよ。今は紫と待ってる。鬼の子供だよ。萃香は四天王。」

「なんと!やはりお主は数奇な運命を持っておる…なら望。全てお主に任せる。三度我らを救ってくれ。」

「任された!なに…鬼子母神と戦うよりゃましだ。」

「頼んだぞ…」

 

 




白亜視点短かった~。人形神のことで少し補足。墓の土から造られる人形なので、土に毒を混ぜる製法も存在します。他を混ぜても造るのは難しくないでしょう。


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三十八話 ~戦場で鬼は嗤う~

ダンカグのトランスダンスとうさていが実装当初からエキスパフルコン取れない…他全部出来たのに…どうクリアすんの…?


戦争の渦中に飛び込むことなく、少しの間空から眺めていた俺と白亜。

どちらからも攻撃を受けることなく見ていることが出来たが、状況は芳しくなかった。

既に双方大量の死者が出ており、止めたところで溝の深い出来事になってしまうだろう。

 

「これじゃ紫の願いは…」

「……主様。とりあえず手っ取り早く辺りを吹き飛ばして、私達に注目を集めませんか?」

「そうだな……白亜、炎を放てるか?」

「はい?しかし主様の殴打で地を殴る方が、威力も見た目も派手では…」

「俺の能力は想像力が大事だからな。お前の放つ炎を、着弾と同時に爆発させる。そっちのが派手だろ?撃つ必要はないが…想像しやすいんだよ。」

「……では。」

 

白亜が掲げた両の手から、恐らく白亜にとっての限界ギリギリの火球が造られる。

俺の能力の必要がない可能性を作ってくれたのだろう。

その分本人凄い必死だけど。

余談だが白亜の能力は『炎』ではなく『浄化』だ。

天照達の霊獣の能力は全て浄化であり、発動の見た目が違うだけらしい。

 

「…これで大丈夫ですか?」

「…俺の必要なさそうだなぁー…」

 

近くにいた奴らの…百人近く焼けてる。

まああの程度で死ぬのは人間だけだから問題ないと思うが。

とにかくそれだけで注目は集められ、俺の能力を使う必要はなかった。

 

「ふぅ…妖怪も神も全員…戦闘を止めろー!」

「演説は苦手ですか…」

「煩い…神共!お前らの上役、天照は無事だ!全員矛を納めろ!」

 

神連中はそれが本当かどうか信じられない様子で、訝しげにこちらを見ている。

むしろ妖怪がそれを聞いてざわめき始めた。

 

「妖怪側も矛を納めろ!戦争はこれで終いだ!もし続けるというのなら…鬼子母神でさえ勝つことの出来なかった、俺が相手になってやる!」

 

それを聞いて更にざわめく妖怪側。

神側の中に俺を知る者がいたのが決め手となった。

神側は撤退を始め、妖怪側もこの言葉を信じたようだ。

 

『人間ごときに母様が負けるものか!』

『母様が死んだのは神のせいだ!』

『卑怯な人間共め!母様と堂々と戦わずに殺しやがって!』

『皆殺しだ!絶対逃がさねぇ!』

 

それでも撤退をしない妖怪がちらほら…いや半分程。

 

「警告はしたぞ…!」

「殺さないで下さいね。」

 

浮力を無くして落下する俺。

勢い任せに地面を殴り、白亜の炎以上の威力で辺りを吹き飛ばした。

俺達がやるのはあくまで時間稼ぎ。

妖怪が撤退してくれれば、このまま全部終わりだったのだが…

ここに俺達が来たと同時に、萃香のところに夢花と紫を行かせたのだ。

説得が成功すれば、鬼のトップに逆らう妖怪はいないだろう。

神はもう戦う理由がない。

それに考えてみれば紫も神妖の共存は可能とは思っていないだろう。

最初に言ったのも妖怪と人の共存だから。

 

「……それじゃ駄目か…」

 

あいつが人と妖怪の共存を目指すなら、俺はそれを手助けする。

でも…俺が協力するのに、敵対勢力がいるなど…

 

「そんな世界じゃ意味ねぇな!」

 

妖怪が犇めく戦場の中、薙ぎ倒しながら嗤う。

その思想を嘲笑するかのように嗤い続ける。

嗤いながら蹂躙する俺の姿を、離れた神達はこう言った。

 

《嗤い鬼》と。

 

妖怪が神を憎むなら、その矛先を俺に向ける。

神からは畏怖の対象として。

妖怪には恐怖の対象として。

『俺』という存在を作る。

 

「くくっ…」

「主様…?」

「白亜。ここから俺がすること…許してくれ?」

「何…を!?」

「悪いな…」

 

俺の手は、白亜の腹を貫いた。

妖怪からは大量の仲間を奪った化け物として覚えさせる。

神には戦いとなると敵味方関係なく無差別に殺そうとする殺戮者と思わさせる。

そのために、死なないながらに犠牲になってもらう。

 

「白亜…じゃあな…」

 

嗤いながらに妖怪を蹂躙する俺は、どれだけ恐ろしく見えたろうか。

すぐ横にいた臣下を瀕死にした俺の行動は、どれだけ混乱を招いたろうか。

 

「これでとどめだ!」

 

俺は火球を爆発させる。

先の白亜のように。

しかしそれが、神達も巻き込むように。

何よりその威力を、まともに当たれば死ぬかもしれない程にして。

遠くて分からないが、神も相当混乱している。

 

「夢花…勝手に悪いな…お別れだ…」

 

このやり方で得るものは、神の畏怖と妖怪の恐怖。

妖怪は俺を恐れ、神達に戦いを仕掛けることはなくなる。

神は妖怪との戦いで俺を使う危険性を恐れ、大規模な戦争は行わない。

それに天照達が俺の考えに至らないわけもない。

もはや神妖の戦争は起こりえないだろう。

妖怪は仲間意識が薄い。

神は死ぬと天に還るとされている。

つまり今回の戦争は、大きな亀裂になりえない。

戦争の可能性を潰せば、今回の出来事は風化する。

しかも味方は両方のトップ。

その二方が繋がる以上、神妖の共存は現実味を帯びる。

元凶の人間は月読が対処済み。

鬼子母神のお陰で妖怪の上の方の存在である鬼達は人を喰わない。

神、人、妖怪、その共存に可能性が出来たのだ。

確実ではなくとも、もはや俺の協力は必要ない。

ただ一つ悔やまれるのは…そこに俺がいないことだ。

今回のことで俺が失うのは、仲間の信頼、俺を含む共存の道、そして…守ると誓った約束。

 

「ははははは!!」

 

俺は嗤う。

嗤い続ける。

その場を壊して嗤い続ける。

 




望にそろそろ旅させる。思いつきだから確実なことは言えないんですけど…もしかしたら幻想郷に望が行くの、まじで遅くなりそうです。下手したら諏訪子達と同時期かな?


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三十九話 ~妖怪の怒り~

風邪で寝込んだり積みゲーやったりポケモン図鑑完成させたり、遅れましたごめんなさい。アプデいつ来るかな~?


「……」

 

私は伊吹萃香…鬼だ。

立場はそこそこ高いくらいのもの。

しかし…私は弱い。

強くなったと勘違いしていただけの、井の中の蛙に過ぎなかった。

強大過ぎる存在に、ただの気迫で恐怖した。

強くならなければならない。

仲間を護るために。

鬼の頂点の一人として、もう敗けないように。

 

「……」

「へぇ…貴女が萃香ね…」

「!?」

 

私は咄嗟に飛び退いた。

今は少し考え事をして休んでいたため、油断もあっただろうが…いきなり真横に現れるなど部活では。

そう驚いていると、飛び込んでくる影が一つ。

 

「萃姉ぇ!」

「おおぅ!?…?えっと…?」

「…成長してて分からないのね。その子は凡そ二十年前、望が貴女達を蹂躙した日辺りから消えた鬼の子よ。」

「!それじゃあ…!」

「ただいま!」

「……」

「ふゃ!」

「おかえり…!ずっと心配してたんだ…!」

「……うん…」

「(…まるで本当の親と子ね…)」

 

私とこの子は、見られてることも気にせず、お互いに泣きながら抱き合った。

 

―――――

 

「そういえば貴女…何でこの子に名前を付けなかったの?」

「?ああ…あの時の人間が付けてくれたんだったね……あの子は人間の頃のことで、いくつか問題があったんだよ。」

「問題?」

「人間の時から、あの子に名前は無かったんだよ。だから…自分の名前を知らないどころか、名前の概念も知らなかった。」

「どう呼んでたのよ?」

「…色々。とにかく、呼ぶのに不便なこともなかったし、なあなあとしてる内にいなくなってね…凄く心配してたんだよ。」

「……その姿で親っぽいのちょっと面白いわね…」

「…それで、何でここに?再会のためってんじゃないんだろ?」

「そうね…本題に入りましょうか…」

 

―――――

 

「なるほどね…鬼の縄張りで下級妖怪共が好き放題ねぇ?」

「下手したら全滅しかねないし、少し事情があってね。出来れば止めてほしいのだけれど…」

「当然。私や勇義がいない中、そんな勝手は許さないよ。神さえいなきゃ問題ない。」

「そっちはどうにかするわ。」

「なら任せるよ。行こうか。」

 

下級の妖怪がどうなろうと別に構わない。

しかしそれなら何故ここまで積極的に止めようとしているのか。

一重にあの人間のためだ。

怒りの矛先が私達に来たら、躊躇いの欠片もなかったら、鬼が束になって勝てないんだ。

妖怪の絶滅は免れない。

つまり私に、選択肢はなかった。

 

(まぁ……)

「~~♪」

「…ふふっ…」

(この子の悲しむ顔は見たくないからね…)

 

あの時の人間…望が助けてくれた。

ならこれは、鬼の恩返しと言ったところか。

 

(勇義も連れて来ればよかったかな?)

 

―――――

 

「これは…!?」

「酷い有り様だねー…」

 

眼前に広がるは、死屍累々の妖怪達。

中には死んでいる者もいるようだ。

 

「…望…?」

「あ?紫か…その二本角の鬼が萃香か…」

「望兄ぃ…?あれ…?」

「………夢花。」

「?」

「お別れだ。」

「え…?」

「紫。お前の理想のために、俺は神妖(お前達)の敵になった。」

「私のせいで…?…望…それじゃあ…貴方は…」

「お前のせいじゃないさ。時間があれば争いはなくなったかもしれないんだ。ただ俺は、早くお前の世界を創りたかった。」

「神も妖怪も人間も、争うことのない世界…そのために、妖怪を殺したんだねぇ…?」

「ああ。…恨むか?そりゃそうか。鬼子母神のおかげで…いや、俺のせいで人間を喰わなかったお前達を、嘲笑うかのように殺したんだ。」

「そうだね…夢花、紫。離れてな。」

「萃姉ぇ…?」

「一発殴らせろ。それでいい。」

「分かった。能力も防御もしない。」

「ちょっと!?鬼の拳を生身で受けたら…!」

「覚悟の上だ。」

「…四天王奥義…『三歩壊廃』!」

 

鬼子母神にも届きうる一撃。

間違いなく死ぬことだろう。

 

「安いもんだ。」

 

辺りに衝撃が轟く。

土煙が晴れる頃には、望の体は…人の体を成していなかった。

 

 




望死ぬの何気二回目?


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四十話 ~冥府の門と統べる者~

ワクチン三回目打って来ます…凄く怖い…二回目丸一日動けなくなったし…うう…


以前は死んだ気分ではなかった。

天使の世界で口論してたら戻っていたから。

しかし今は、このまま死んでしまうのではないかと不安になる程真逆だ。

誰もいない。

音もない。

真っ暗で、感覚もない。

五感の機能が停止している。

これが死ぬということか。

俺は目を閉じた。

それすらも分からない空間だったがおそらく。

 

「……あれ?」

 

いつまで経っても景色が変わらない。

天使達との繋がりも断たれている。

復活に時間がかかるのか、はたまた本当に死んだのか。

このままでは流石に耐えられない。

 

『確かに人間には耐え難いですね。』

「!」

 

人の声。

こんな場所で?

 

『以外ですか?貴方のいるこの空間は黄泉へ続く入り口…管理者の一人いないはずがないでしょう。』

「…お前ら神やら天使やらは…人の心ぽんぽん読みやがって…まいいや。んでここ何処?あんた誰?」

『話が早くて助かりますね。ここは…そうですね…生と死の狭間というものですかね…ここから少し移動すれば、少し禍々しい扉が現れます。その先は冥府…所謂あの世です。』

「…俺不死にしてって言ったよな?」

『ええ。ですので貴方がここに来るはずがないのですが…私が貴方に興味があるのです。』

 

…あれこれそのまま死ぬ?

だとしたら中途半端に、しかもこっちに落ち度のない理不尽の殺害なんだけど…

 

『事情は聞いています…災難ですね。』

「それは煽りか?」

『哀れみです。』

 

やっぱり煽ってる。

 

『……貴方は死にません。私が許すまでは、死ぬことはあり得ないのです。』

「…あんたは冥府の神とかか?」

『はい。貴方の中にいる天使達の上司というところです。死を司る神…それが私です。貴方の不老不死も私のものなのですよ。』

「へぇ~…それで?興味があるから俺は帰れないと?まだ十年程時間潰すとはいえ、こんなところで十年も過ごす程忍耐力強くないぞ?」

『ご安心を。すぐに帰します。疑問は消えました。』

「興味失せたってこと?」

『いえ…興味はあります。そもそも神のミスで死ぬ人間など、そうあるものでもありません。ああ…もう一つ疑問に思ったことがありました。』

「何だ。まだ帰れないのか。」

『お付き合い感謝します。ところで聞いていますか?貴方の力が何故強いのか。』

「?天使の設定だろ?」

『前世で貴方を慕っている人達の数、そして今世で貴方を想っている人の数に比例して、貴方の力は強くなる。私の疑問はそれです。』

「…前世で何したか知らないけど、俺にとっては喜ぶことだな。今世では心当たりが多いけど…」

『貴方は何故人を助けるのですか?これを聞いて、人の心を利用するようなことをしますか?その力で…神へ昇る気はありますか?』

「………人を助ける理由…逆にさ…何で助けないんだ?」

『…ふふっ…本当に聖人のような心…不幸はその心のせいですね。』

「…俺は聖人じゃない。妖怪殺して何も思ってないくらいだ。助けるのだって、自分が見えないから…自分が分からないから、他人を知ろうとしてるに過ぎない。」

『その行動は、貴方を幸福にしてくれる。しかし、その度に貴方を苦しめる。後悔はないのですね?』

「ない。あと何だったか…利用?ないな。そんな器用じゃない。それと…神なんて、俺は興味がない。」

『…貴方は…つくづく私を愉しませてくれる…そんな貴方に二つ。お詫びとお礼です。』

「詫びは分かるけど…礼?」

『ええ…まず一つ。次の課題まで時間を進めましょう。時の神に話は通します。場所は蓬莱の薬のある場所。即ち、後の『かぐや姫』の昔話の舞台へ。』

「……まじ?めっちゃありがたい。」

『ふふっ…二つめは…冥界の管理者、その権限を一部解放します。』

「…え?…え?」

『…驚きは分かりますが…少し面白い行動はやめて下さい。私に付き合って下さった。お礼です。とは言え出来ることは限られます。それに…いつの日か、必要に駆られる時が来るかもしれません。』

「どうゆう…?」

『さて…そろそろ帰します。詳細は天使に。説明はしました。ああ…あとあの天使のことですが…どちらも悪い子ではないのです。あまり攻めてやらないで下さいね。』

「それについては安心しろ。殴るのは一人だ。」

『…では…これからの貴方の人生が、どうか幸福に満ちるよう、陰ながら祈っております。』

「色々ありがとな。」

 

暗い世界が晴れる。

まるで夜明けのように、目の前に光が満ちていく。

気が付いた時には、俺は平野に転がっていた。

 




セリフだらけでしょ?神とか天使だとこれが一番楽なんよ心読めるから。


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四十一話 ~目的地へ一直線~

やっとダンカグexpert全クリした…いや投稿しない理由はワクチンと成人したからなんだけど…サボりじゃないよ?よしんばサボりだとしても三日だけ…はい。


冥界の神様の話じゃここはかぐや姫の舞台。

眼前に見える都がその場だろう。

はてさてここで別の問題が発覚する。

 

「…血まみれだぁ…」

 

服は戦闘の後のままだった。

さすがにこれで都に近付こうものなら、問答無用で攻撃か、はたまた医者に連れてかれるか。

何にしろまずい。

替えの服などないし、血だけを消す器用さは俺にはない。

 

「……忍び込むか。」

 

割りと最終手段だが、もうこれしかないだろう。

入るなら夜がいい。

つまりは夜まで…暇だ…

 

―――――

 

夜だ。

待ち望んでいた夜だ。

さあ行こう。

 

「……見張りいないな…」

 

都は外周に囲いをされていて、入り口以外から入る場合、音もなく入るのは難しい。

まぁ…飛べれば別だが。

 

「…と。入れたな。…てか入っても意味なくね?」

 

そういえばかぐや姫に会わなければならないのだ。

こそこそして蓬莱の薬が現れるまで都に隠れるなどめんど…不可能だろう。

 

「服屋でパクるか。」

 

勿論金は置く。

すぐにバレるだろうから別の服屋で別の服を買う。

それなら問題もないだろう。

 

「そんなこと許されないわよ?」

「!?」

 

背後を取られ…微妙に遠いな。

てか適当に飛んで入ったからよく見てなかった。

割りとでかい屋敷の敷地だった。

大体壁に面している場所には建物があるが、中でも大きい方かもしれない。

貴族の屋敷に侵入とか…逃げるか。

 

「その服…誰か殺してきたのかしら?」

「…いや…うん…?うーん…?殺したっちゃ殺したか…?」

「随分と曖昧ね。」

「何せ大分前だしな…人間は殺してないぞ?」

「……そう。服、あげるわ。男物もいくつかならあるから。」

「おおー…凄ぇ助かる。ありがとう。」

「いいわ。でも…代わりに…また来てくれるかしら?」

「?まあいいけど…」

「暇過ぎて死にそうなのよ。貴方みたいなお客さんの方が、表の求婚ばかりしてくる貴族連中よりも歓迎するわ。」

「求婚?」

「ええ。上っ面の顔しか知らない連中の、意味もない博付けよ…私は…もっと自由でいたいのに…」

「……そうか。」

「…私は蓬莱山 輝夜。よろしくね。」

「…かぐや?」

「?ええ。」

「…かぐや姫?」

「ええ。」

「……目的地に瞬で付いたわ。」

「?」

「……なあ…輝夜。」

「いきなり名前…何かしら?」

「蓬莱の薬を譲ってくれ。」

「……は?」

 

―――――

 

ど直球の質問は、ノーの言葉で返された。

流石に不老不死の妙薬を無償で渡す程、無用心ではないらしい。

これはどうするか…

 

「ギャルゲーで言う好感度上げでもすれば貰えるか?」

 

惚れられてもくれないだろうな。

そもそもギャルゲーなんてやったことないからそんな選択肢分からないし。

月の話は…駄目だ。

いくら月の姫と言っても、生まれは地球だ…ったと思う。

そもそも蓬莱の薬を本当に持っているのか?

 

「……交換条件とか出来ないかな…」

 

何かと交換するとかならあるいは…

 

―――――

 

「本当に来てくれたのね。」

「まあまだ俺は無職だしな。こっちもこっちで暇なんだよ。」

「暇潰しに私の所へ来る人は貴方以外にいないわね。」

「かもな…蓬莱の薬は…譲ってもらえないか…?」

「…何度言われても、それだけは駄目よ。譲る人は、もう決めてるの。例え同じ罪を背負っても…」

(罪?)

 

生まれてこの方屋敷暮らしの彼女に罪などあるのだろうか。

そもそもあの薬は永琳の作ったものだろう?

彼女が持っているのはあり得るのか?

考えられるのは、輝夜が元々月で暮らしていて、何らかの理由でここに来たか。

 

(その場合…罪ってのは…蓬莱の薬を飲んだのか?)

 

揺さぶってみよう。

 

「故郷へ帰りたいか?」

「……いきなり何かしら?故郷はここよ。私は、おじいさんとおばあちゃんに育てられたのよ?」

「…そうか。…じゃあ別の質問でもしようか…薬は未来でも犯罪だぞ?」

「……!……そうね。気を付けるわ。」

 

明らかな反応しながら惚けやがった。

もう確定だろこれ。

やはり世界が違えばストーリーも違うようだ。

恐らくこの世界のかぐや姫は、月で普通に暮らしていたのだ。

竹から生まれたというのも何かの能力か。

それとも科学か。

蓬莱の薬が禁忌扱いであり、飲んだかぐや姫が追放されたか。

それからは物語同様、この都で暮らしている。

 

(でも俺の課題は全て東方というものを元にしている…輝夜は幻想郷で暮らしているんだ…)

 

この先は物語と違い、月への帰還はないのだろう。

なら…それを手伝う代わりなら、蓬莱の薬を得ることが出来るかもしれない。

なら今はその話を出すべきじゃない。

その時になってから、断る選択肢を与えない。

 

「悪いな。もう蓬莱の薬は聞かないよ。」

「…そう。」

「そうだな…これでも旅は長くしてきたし…旅の話でもしてやるよ…」

「へぇ…若いのに、そんなに物語があるのかしら?」

「まあ精々楽しめよ。これでも結構物語はあるんだぞ?年もお前より上だしな。」

 

不老不死だから年取らないけど。

しかもすっ飛ばすことが多いからそれでも五十年くらいだけど。

考えると色々あったな。

…これからも自重は出来そうにない。

 

『―――♪』

『――!』

 

 



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四十二話 ~人と妖怪の溝~

自分はビールは嫌いみたいです。


今夜も輝夜の元へ。

日が沈む頃には宿を出る。

 

「よっと…お邪魔しまーす!?」

「貴様が侵入者か。」

 

通い始めて一週間、いきなり槍を突き付けられました。

 

「貴様のような下民が、ただで輝夜様と会うなどと…許されざる大罪!」

「……輝夜さーん?」

「黙れ!輝夜様の名を気安く口にするな!」

「……」

 

後ろにいる輝夜は目を逸らしている。

罰が悪そうに冷や汗をかいている。

恐らくいつかのタイミングで目撃されたのだろう。

周りには警戒していのだが…

 

「……それで?俺どうなんの?」

「…ほう?潔いのは感心するな。そうだな…私も鬼ではない。子供を裁くのは気分の良いものではない。」

「……」

 

見た目は子供だよなー確かに。

まあ…鬼ではないって大体何か条件出す前だよな。

 

「しかし仏でもないのでな。輝夜様への求婚者達それぞれの受けた難題以上のことを成し遂げてもらう。」

「難題?」

「あ、あの…今回は私に免じて…」

「なりません。例え子供でも、男が輝夜様と逢瀬を重ねるなど、あってはならないのです。」

「でも貴方の条件は…」

「…貴様に課す難題は、『北の花畑から花を摘む』ことだ。」

「……花畑?」

 

なんとも拍子抜けする内容。

難題という割りにはお花摘み。

そんなもの、距離によっては一時間もあれば十分帰れる。

まあそんな簡単ではないだろう。

道中厄介な妖怪がいるか、はたまた主でもいるのか。

 

「…っ!」

「輝夜様。貴女はそれ程大切なお方なのです。」

「だからって…あの妖怪の花畑なんて…死を宣告しているようなものじゃない!」

 

主が正解のようだ。

恐らくこの都の人間がどれだけ挑んでも敵わない化け物なのだろう。

常人にとっての死刑宣告。

難題以上の難題…正しく無理難題というやつだ。

しかし…

 

「分かった。」

「え!?」

「…そうか。」

 

今輝夜との関係が切れるのはまずい。

恐らく輝夜が薬を渡す相手はおじいさんだ。

渡した直後に飲まれればもう取り返しが付かない。

飲まずとも、欲に溺れた何者かに、おじいさんが殺されることはほぼ確実だ。

輝夜から直接貰えなければ、俺の記憶を取り戻すのに、永琳の協力が必要になる。

その頼みの綱も遥か空の上。

選択肢はない。

 

(まあどんな妖怪であろうと、あいつ程強くはないだろう…)

 

「待って!」

「ん?」

「……花だけは…傷付けちゃ駄目…あの妖怪を…怒らせないで…!」

「……ありがと。」

 

有難い助言だ。

 

―――――

 

件の花畑に到着した。

特に道中襲われるでもなく、人とすれ違うでもなく、ただ歩いていたら到着した。

都から多少離れ、平原にぽつんと一つだけある花畑は、ある種異様な光景だろう。

 

「さてと…話して分かる相手なら…」

「あら?また懲りずに人間が来たわね…」

「……」

 

はい対話は無理そうです。

花畑の主は人間が嫌いなようだ。

片手に人間の生首を掴み、もう片手は優雅に傘を指している。

 

「……とりあえず無理だと思うんだけどさ…一輪でいいから花くれない?」

「許すと思う?」

(ですよねー)

 

まだ即攻撃してこないだけマシではあるが…殺気が恐ろしい。

あの生首は何をしたのか。

どうしようと考えていたら、過去最高数の弾幕が辺りを覆う。

本当に隙間もない程に。

 

「戦うしかないか…」

 

とは言え所詮弾幕は弾幕。

どれだけ食らおうと問題はない。

まあ痛いから能力で消すけど。

 

「……へぇ…これを耐えたのは貴方が初めてよ。」

「そりゃどうも。じゃもう終わりに…」

 

言い切る前にその妖怪は俺に襲い掛かる。

勢い良く傘を振り下ろされ、続け様蹴りが来る。

傘は掴み、蹴りは足を上げて受け、どの攻撃も大したダメージにはならない。

 

(確かに威力はあるが…)

 

受け切った上で、腹に掌底を放つ。

やはり避けることも受けることも出来ずに、妖怪…幽香はそれをまともに受ける。

 

「かは…!」

 

続けて攻撃は出来たが…俺は攻撃を止めた。

 

「……何故…止めたの…」

「お前を倒しても意味がない。それに、花が欲しいって言ってるのはこっち。つまり非は俺にある。」

「……人間(盗人)の癖に…今更遅いのよ!」

「…人間が何したかなんて知らないし興味もないけどさ…人間も妖怪も変わらないぞ?良い奴悪い奴なんて…種族じゃ分からない。」

「人間は嘘つきよ…!少なくとも、妖怪は人間程の邪心は持たない!醜い人間の分際で、私の楽園を穢すな!」

 

相当に人間を嫌っている。

過去裏切られたのか、はたまたなぶられたのか。

 

「まあさして興味もないさ。俺も悪と呼べるくらいには殺したしな。お前の言う通り人間は醜いよ。でも…それがなんだ?」

「何…!?」

「お前は人間を殺さないのか?お前は人間から何も奪ってないと言えるか?先にお前が人間に何かをしたとは思わなかったか?」

「何が言いたいのよ…!?」

「醜いのは人間だけじゃないってことさ。でも…どれだけ醜くても…生きようとする志は、穢しちゃいけない。お前の花畑と同じ物が、人間にもあるんだよ。」

「……」

「恨み続けるのも疲れるだけだぜ?」

「……もういいわ…一輪よ。」

「ん?」

「一輪だけ。その向日葵を持っていきなさい。今なら許すわ。けれど…もう私の前に現れないで。」

「…分かった。ありがとな。」

 

出来るだけ丁寧に手折り、その場を後にした。

 

 




幽香の時系列ワカンネ。他小説でここで出てるの見たことあるからここで出します。ちなみに公式で人間との関係極悪になってるらしいですね。割りと初めて知りました。にわかですみません。


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四十三話 ~認められぬ会談~

遅くてすみません。バイト固まってて…エルデンリングも買ったせいで時間なくて…サボりっちゃサボりなんですけど…どうかお許しをー…


花畑から帰った俺は、輝夜の屋敷前に…正面から堂々とやって来た。

 

「何者だ?」

 

武器を構えて防がれました。

あいつ門衛じゃないのか。

 

「難題達成してきたから来たんだけど…」

「……その花は…?」

「あー…裏からの侵入者の話って聞いてない?」

「…侵入者…?…!まさか…!?」

 

一応話は通っていたようだ。

門衛は慌てて門をくぐり屋敷に入る。

 

「さて…」

 

待つ道理はない。

戻るのを待たずに、俺はいつもの方から輝夜の元へ向かった。

 

―――――

 

「……」

「よっ。」

「!?」

 

突然声をかけたせいで、叫びこそしなかったものの凄い驚きようだった。

 

「あ、貴方…!?」

「静かに。」

「まさか…課題を無視して…?」

「あほかちゃんとあるわ。」

 

向日葵片手に畳に座る。

 

「どうやって持って来たのよ?」

「幽香…妖怪倒して代わりに貰った。」

「……貴方そんなに強かったの?」

「あれだけ話して…全部妄想だと思ってたのか?」

 

月や神のことは話してはないが、それでも妖怪との戦いはいくらか話した。

それでも疑われるのは、やはり外見の問題だろう。

 

「…本当に…あの妖怪を…?」

「まあ最初びびったけどさ…あいつ、生首持っての初対面だったからな…でもまあ…話せば分かる奴だったよ。」

「…そんなはずは…いえ…貴方が戦意を削ぐほど強かったのね。」

「まあな…それであいつはどうした?」

「部屋の外で待機しているはずだけど…」

「やっと見つけたぞぉ!」

「ほら…」

 

叫びながら襖を勢いよく開ける。

多分門まで向かったらいないから怒ったんだろうな。

 

「貴様…本当に花を持って来たようだな…」

「これだろ?」

 

向日葵を放り投げて見せる。

ある程度歩いたおかげで知ったが、この辺にはないのだ。

これを見せるだけで花畑に行ったのは証明出来る

 

「……確かに…本物だ。」

「だろ?何も結婚させろってんじゃないしさ。会うくらい許して…」

「ならん!」

「……は?」

「藤原!貴方…!」

「姫様、ご理解願います。例えば彼がこれを盗み出したなら?危険になるのはこの都…ひいては姫様なのです。例え倒したと言ったとして、それが真と言えるかは定かではありません。最悪報復もあり得ます。」

「それでも…約束を違えることに恥はないのですか!」

「感情で貴女を護ることは出来ないのです。」

「………」

 

置いてきぼりだ。

正直あのサイコパスがここに来るとも思えないし。

何度来ようが負けないし。

 

「……なら…望。」

「ん?」

「貴方にはまた面倒をかけるけど…藤原を連れて、また花畑に向かってくれるかしら?」

「完全に危険を無くせってことか?」

「そうよ。それなら貴方を拒む理由なんてなくなるわ。そうでしょう藤原?」

「……いいでしょう…」

「!」

「ただし条件がある。戦闘は許可しない。例えこの身朽ちようと、あの妖怪の手によって、都が崩壊するのは認めない。」

「分かったよ…」

 

いくつも条件を出されて正直面倒だ。

これはあれだ…ネトゲのサブクエストだ。

 

「なら早く準備してくれ。戦闘はなくても、道中妖怪に襲われないとも限らんし、そもそも人の足で一時間はかかるだろ?」

「言われずとも……」

 

藤原は奥に引っ込んだ。

とりあえずこれが終われば輝夜とのつながりも途切れず済みそうだ。

 




フラグ立て完了しました。


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四十四話 ~執着と約束~

エルデンリングが楽しくって編集してない。もはや言い訳もありません。確かにバイト時間増やしたけど暇な時間ずっとエルデかapex…ゲームは嵌まると怖い。読者の皆も気を付けて!


藤原を門前で待って数分…刀を腰に携え、まるで侍のような様相で戻って来た。

 

「準備完了?」

「無論!」

「何でそんな力んで…まいいか。とっとと行こう。」

 

正直こいつの相手するのは面倒くさい。

しかも行くのは幽香の元。

口煩い姑と、狂暴な妖怪に挟まれる苦労は…二度と味わいたくない経験だろう。

それが分かっているのに行かなければならないなど、もはや拷問だ。

 

(そういえば顔見せんなって言われてたよな…)

 

ただ煩いだけで済めばいいのだが…

 

―――――

 

「……」

「いつ見ても凄ぇな…」

「…そうだな…」

 

今にも泣きそうな顔をして、藤原は花畑を見ている。

気付いた俺は、呆けている彼に声をかけた。

 

「どうした?」

「…いや。それより…件の妖怪は…」

『また人間?』

 

丁度良く幽香が姿を見せた。

というより、恐らく花畑全体を常に見ているのだろう。

 

「さっきぶりだな。」

「…他の人間まで連れて…そんなに私の恨みを買いたいの?」

「恨み買いたい奴なんていねぇよ。実は少し話があって来たんだ。」

「話?」

「ああ。はっきりしておかなきゃいけなくてな…」

 

都への攻撃、侵略、あらゆることを行わない。

俺が取り付けなきゃいけない約束だ。

これまでの輝夜との会話などは話さないが、その約束をしてもらいたいと話した。

 

「駄目か…?」

「…一つ、条件を呑むのなら、それを約束してもいい。」

「その条件って…」

「私は貴方に敗けたことが許せない。だから…いずれ、私とまた戦いなさい。」

 

彼女は敗北を知らなかった。

だから初めての敗北が、酷く悔しかったのだろう。

許せないのも、きっと敗けたことが悔しいから許せないわけではなく、俺に情けを掛けられる程、自分が弱いのが許せないのだろう。

ならこれぐらいの条件、呑まない選択肢はない。

 

「分かった。」

「二度と会わないことはあり得ないわよ。」

「は?」

「会わなければ約束も何もないもの。だから…絶対に逃がさないために、ある妖怪を頼った。」

 

まあ確かにあまり戦いたくはないけど…

 

「別に逃げる気はないぞ?」

「分かってる。貴方が逃げる理由はない…」

「…頼ったってのは?今いるのか?」

「いつでもいるわよ。あの能力から逃れることなんてそれこそ不可能よ。」

「ふーん…会うのは駄目なのか…」

「本人たっての希望でね。」

 

そういうの大体知り合いだろ。

そう思うと心当たりが一人だけあることに気付いた。

多分あいつだ。

 

(わざわざ言わんけど。)

 

「とりあえずそれならもう交渉成立でいいな?」

「ええ。」

「…そうだ。もし約束破ったらここの花畑更地になるからそのつもりでな。」

「……当然よ。」

 

こういうのを決めなければ藤原は納得しなかろう。輝夜でさえこいつが花を荒らされるのが一番怒ることを知っているのだ。

これなら殺すことなく納得させられるだろう。

 

―――――

 

「―――てことで問題ないか藤原?」

「……よかろう。妖怪に対しての損害が花畑程度なのは気に食わんが…」

「許せよ…あいつにとっては命みたいなもんなんだから…」

「よかろうと言っただろう?……此度のこと、気に食わぬ点がまだありはする。が、姫様に会うことは許可しよう。」

「おう。」

「ただし…」

 

まだ条件あるのか。

こいつ相当面倒いぞ。

てかここまでやって何があるって…輝夜と会うだけなんだよな。

 

「二人のみでの対話は禁止する。とは言え個人的会話はあるだろう。見張りは外にのみ配置する。」

「…まあいいよ。」

 

輝夜とのつながり。

幽香との対話の成功。

月への手掛かり。

この国に来てから問題はあれど悪くない生活が出来ている。

このままいけば、課題もどうにかなるだろう。

 

 



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四十五話 ~再挑戦~

エルデンリング二周した~…もう気分投稿って開き直ろうかな…


幽香と戦い早数日…街に来て一月も経たなかった。

月からの迎えが来た。

 

「どー見ても滅ぼすつもりだな…」

 

大量の銃を構えた兵士。

何らかの能力であろう入り口。

無限に湧く軍勢。

極め付けはオーラを纏う依…ひ…め…?

 

「ヤバいのいるじゃん!?」

 

能力は神降ろし。

しかも見たことないから分からないが、今のあの状態こそ能力使用中だろう。

神はいくらか分体を作れる(月読談)らしいが…その分体を降ろす能力らしい。

そして分体はそのまま神の力を使うことが出来る、弱体化などもない。

つまり依姫は、神そのものを使う能力を持つ…人間が敵う相手なはずがない。

 

「…早々に出ないと全員死ぬな…」

 

仕方があるまい。

教え子に差を見せつけてやろう。

 

―――――

 

どうやら月側も交渉の頭はあったようで、輝夜を渡せばすぐに帰ると言う。

もし匿うなら滅ぶ…選択肢はない。

しかし町の者や帝、当の本人もその要求をこ断った。

それほど輝夜が大事なのだろう。

中には下心丸出しな奴もいるが、大半は輝夜の意思を尊重したのだろう。

攻撃が開始される。

地上の人間の攻撃など槍や剣…しかも木、良くて鉄、銃の相手ではない。

 

「そろそろ行くか…」

 

傍観は終わりだ。

 

―――――

 

「かーぐや♪」

「!?て…望…?」

 

凄い引いてる。

多分人間が死ぬの楽しんでると思われてるな…

 

「誤解してるみたいだけど助ける気で来たんだよ。」

「…本当に?」

「うん。ただし助けるのは町の人だけ…死人には悪いけど、今から助けられるだけは助ける。輝夜には一つ条件がある。」

「……蓬莱の薬ね?」

「ああ。」

「……何度言われても駄目。渡す位なら…私は月に…」

「話してなかったけどさ、俺も不老不死なんだよ。」

「…は?」

「だから飲まない。俺の目的は薬の破棄。」

「何の意味が…」

「俺には必要。それで?月から護る代わりに薬くれる?」

「……都の人を護るのなら…渡すわ…!」

 

輝夜自身今までの町への恩は覚えているらしい。

後の面倒は…

 

(戦いがきつそうだ…)

 

月の武力、数、依姫の存在、一人で相手はきつい。

 

(まずは数を減らすか…)

 

白を操る能力は便利だ。

何せこの状況でさえ、ただ包みこむだけでいいのだから。

町への攻撃は銃撃、つまりは遠距離。

月側を包めば、下への被害はあり得ない。

 

「空間でさえ操る能力なめんなよ…!」

 

めちゃくちゃ疲れる。

出来ればやりたくない。

でもこうすれば、俺もやりたい放題だ。

味方への被害は気にならない。

とは言え戦うつもりもないがな!

 

「戦わずに勝ってやる…」

 

―――――

 

慌てふためく月の民。

そこに俺が来たら問答無用で攻撃だろう。

 

「さて…ふぅー……依姫ぇ!!」

『!?』

「……先…生…?」

 

覚えていた。

何年…千年以上の月日を越えての再会…それでも尚記憶にあった。

見た目は変わらないから俺だとすぐに分かったのだろう。

 

(お互い様か…)

 

「久しぶりだな依姫。やっと神を降ろせたのか?」

「何で…どうしてこんな…」

「こっちにも事情があってな。町を…輝夜を連れて行かせるわけには行かないんだ。もし偽物を疑うなら…久しぶりに相手してやる。」

「…皆、武器を降ろせ。」

 

その命令に、周りは動揺の声を上げる。

一部は俺の存在を知っているのかすぐに武器を降ろす。

片や大半の兵士は、俺に銃を向け続ける。

 

「降ろさない者、またこれからの私の行動に、異を唱える者、邪魔をする者は…月に戻り次第罰を与える。」

 

罰が余程怖いのか、全員銃を降ろす。

 

「久しぶりですね…この感覚…」

「そうだな…」

 

周りを威圧するために、かなりの殺気を辺りに放つ。

依姫が久しぶりというのは、これを受けたことがあるからだ。

あの時は全力だと失神していた。

 

「成長は見られるな?」

「当たり前です。先生…行きます!」

「来い!」

 

 

 



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四十六話 ~教師と生徒~

暑くてもくっついてくる猫に抱き付きながら編集してます~熱中症には気を付けてね~


戦うつもりはなかった。

しかし当の本人はやるつもりで、しかもかなりの成長を見せてくれた。

それを見たいと思わない師がいるだろうか。

 

(本気でやるつもりはないがな…)

 

依姫は火を纏った剣を横に薙ぐ。

俺はそれを素手でいなす。

なんてことはない剣士と拳の戦いだ。

その中でおかしいことは二つ。

周りには見えない速度でその動作を不規則に繰り返していること。

そしてもう一方は、神の火でさえ焼けることのない俺の体。

 

「……」

「ん?」

 

効果が薄いと判断した依姫は、その能力を以て他の神を降ろした。

 

「おお…もはや天災だなありゃ…」

 

炎のみならず雷を纏う刀身は、その姿を竜頭と変え襲いかかる。

嵐のように荒れる周囲を巻き込む一撃、並みの者なら即死級の技だ。

 

「はあぁぁ!」

 

気合いを込めた一撃、それが俺に届くことはなかった。

 

「……悪いな。」

 

俺の能力は創ることも、『消す』ことも出来る。

どれだけ強い能力であろうと、形あるものの消滅は難しくない。

なすすべなく消えるのが落ちだ。

そしてその力を使った依姫に、一瞬でも隙がないはずがないく、また俺が見逃すはずもない。

瞬間的に依姫の懐に入り、強烈な蹴りを繰り出す。

 

「あ」

 

完全にやり過ぎた。

依姫の攻撃、月の民の銃撃、それら全てを防ぐ俺の能力で囲われたこの空間。

正確には全て消しているため崩壊しないが、もし消せない『者』がぶつかったら。

ましてやそれが高速で激突したら。

 

『うわぁぁぁ!?』

『何なんだよー!?』

 

「……」

 

空間を突き破って、高速で吹き飛ぶのは当然だろう。

角度的に蹴り落とす形だったために、都にクレーターを作る結果になった。

幸い真下に人はいなかったが、衝撃で飛ばされた人が怒るのも無理はない。

 

「…お前ら。」

『ひ!?』

「大将連れて帰れ。納得いかない奴はかかってこい。当然…命懸けでな。」

 

殺気を放ちながら月の民に言った。

脅しは完璧だっただろう。

月のリーダー二人の片割れを倒したのだから。

それで俺が消耗したと思って挑むなら叩きのめす。

実際消耗はした…うん割りと四割位は…

とにもかくにも尻尾を巻いてという言葉が似合う敗走っぷりを見せてくれた。

 

(耐久も必要だなあれ…)

 

次は紫の結界でも教えてもらおう。

 

―――――

 

月の民は帰った。

都の被害も幾つかの民家と、数十人の命…相手が相手なだけに、かなり抑えられた方だろう。

 

「しかしまあ…俺も薄情だよなー…」

 

人の命が失われたことに対して、それほど何も思わない。

例えばこれから修復が始まるこの都でさえ、無償で手伝うつもりすら起きない。

世が世ならこうなっていたというのがよく分かる。

 

「その薄情さにさえ、救われた人がいるのよ。」

「……永琳…」

「久しぶりね…望。」

「……」

 

俺からすれば数十年。

永琳からすれば数千年。

やっと会えたというのに。何も言葉が出ない。

 

「……」

「…何でも屋は辞めたのかしら?町の修復作業、手伝わないの?」

「…生憎とここでは開業してなくてな。お前こそ、輝夜を連れ戻しに来たんだろ?行かないのか?」

「生憎と仕事じゃないのよ。」

『…ふふ…』

 

自然と笑みが溢れた。

何年も会っていなかったとはいえ、以前は夜と三人でいつまでも話していたのだ。

 

「少し話すか。」

「ええ。」

 

その時間は、とても長く感じた。

 

―――――

 

どうやら永琳と輝夜は月での関わりがあったようだ。

故に永琳は、月が輝夜を連れ戻そうとする中、たった一人それを阻止しようとしていた。

そのために蓬莱の薬を飲んでまでだ。

 

「それじゃお前も追放か!?」

「違うわ。私の場合追放ではなく、住民としての権利の削除…つまりは月に住めなくなっただけよ。」

「追放じゃね?」

「姫様…輝夜様の場合月への侵入でさえ不許可。私は住むのは無理でも、滞在や出入りは自由。」

「何だ。そこまでの罰ではないんだな…」

「そうね。まあそういうことだから、私は姫様と一緒に身を隠すわ。」

「…そうか…」

 

輝夜の居場所が割れていると、いつまた連れ戻しに来るか分からない。

月の技術は地上より遥かに上。

俺が輝夜の護衛モドキをしていないのにすぐ気付くだろう。

永琳がいれば、無理に挑む者もいないだろう。

 

「あ、そうだ。紫って妖怪に会ってくれないか?」

「妖怪に?」

「ああ。そいつが今、『人間と妖怪の共存』を掲げて孤軍奮闘してるところなんだよ。」

「…共存…」

「月読や天照も協力しててな…お前らも行ってやってくれ。今あいつらがどこいるかは知らないけど…神出鬼没の紫なら、その内会えるだろ。」

「そう…分かったわ。紫という妖怪については覚えておくことにしましょう。」

「ああ。」

 

きっとこいつらなら、あいつの力になってくれるはずだ。

あいつの世界に俺はいない。

なら、陰ながらでも協力しよう。

俺が出来る唯一のことは、その理想に邁進する仲間の勧誘だけなのだから。

 

「それじゃ、輝夜のとこ行ったら俺はまた旅出るかな…」

「…しばらく一緒に……いえ、何でもないわ。」

「…ああ。」

 

それでいい。

一緒に歩んじゃいけない。

でも望むなら…また笑い合える日を…

 

 




なんか打ちきりの最終回みたい…まだ序盤(?)だけど。幻想郷前か後か終わりは予想してないけど、全然終わらないです。最終回じゃないですよ?


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四十七話 ~蓬莱の薬~

一回消えて焦った…本当は一昨日更新するつもりだったんですけどね。消えて萎えて寝て諦めたんですよね。翌日夜に自動保存思い出して書こうと思ったら眠過ぎて寝たっていうね…はぁ…


「本当に行くの?」

「ああ。元々蓬莱の薬が目当てだったからな。」

「…私達のことはどうでもいいっての?あんなに話し合った仲なのに…」

「言い方よ…どうでもよかったら守ったりしねぇよ。でもな、半分は惰性で仕事をこなしてたようなもんだ。例え千年来の友人や絶世の美女と一緒でも、同じ場所に留まるわけにもいかないんだ。」

「…蓬莱の薬が関係するのね?」

「…間接的には。」

「そう…」

 

それからも軽く会話をし、報酬の蓬莱の薬を受け取った。

彼女は育ての親の夫婦に死んでほしくないがために、蓬莱の薬を渡すつもりだった。

しかしそれを二人は拒んだ。

結果、いらなくなった蓬莱の薬を俺は受け取れた。

まあ永琳と通信を取っていた彼女は、蓬莱の薬をいくらでも貰うことは出来たのだが。

とにかく一つ進んだ。

次に向かって歩き始める時だ。

 

「それじゃあな。」

「ええ。」

「またいつか。」

「…あ、そうだ。永琳、一つ頼みがある。」

「頼み?地上で私が出来ることなんてないわよ?」

「うーん…紫なら月にも行けるだろうから、本当は紫に頼みたいんだが…この刀と扇子、依姫と豊姫のものでな。月読から預かってたんだ。」

「……何でさっき渡さなかったのよ…」

「忘れてた。」

「……一応預かっておくわ。」

「頼む。それじゃ…今度こそ…」

「ええ。」

 

そのやり取りを最後に、二人とこの都に別れを告げた。

一期一会とはまさにこのこと。

これが俺の人生だ。

 

―――――

 

「さて…これどう捨てよう?」

 

手に出したるは蓬莱の薬。

破棄の方法に少し悩んでいた。

その辺に放れば何が使うか分からない。

消滅は破棄に当てはまるか微妙。

決められた捨て場所もないから結構悩む。

正直そんな定義なんて知ったこっちゃないが、要は俺の手元から失うことが判定だろう。

となればまずは安全の確保。

記憶を取り戻す時に俺は気を失う。

妖怪も人間もいない場所でなければ、襲われる可能性は十分ある。

 

「山にでも行くか…」

 

都で休むことは出来ない。

救ったのも俺なら、壊したのも俺のようなものだ。

寝てる間に刺される可能性は大いにある。

人間は面倒くさい。

 

―――――

 

火山に来た。

というか意図せず山登ってたら頂上に火口があった。

こんな場所誰も来ないだろう。

そう思っていたのだが…

念のため警戒していたらかなりの数の人が来た。

しかも見るからにかなり高そうな服を着ている。

つまりはお偉いさんって奴だ。

何しにこんな所まで?

 

―――――

 

仰々しく運ばれる小さな箱。

その護衛にやたらと多い人。

上から眺めているが、あれを火口にでも捨てるのか、それともここでしか出来ない儀式か何かか。

とにかく安全とも言えなそうだ。

移動するしかない。

が…何かが起こりそうな気がしてもう少し眺めることにした。

その人々から少し離れた後方、人影が一つ。

 

「子供…?」

 

明らかに小さい人影。

山を昇る大人達と離れ、必死に登る子供の姿。

 

「……」

 

その顔をよくよく見てみると…藤原の顔によく似ていた。

 

「…藤原…?」

 

火口に近づに連れ、子供と大人達の距離は縮まって行く。

山道は子供には辛いかもしれないが、体が軽い分慣れるのは早い。

まして大人達の速度は変わらないのだ。

藤原を追って娘が付いて来た?

違う。

俺はあることに気付いた。

都を守ってから…輝夜達と別れる時から…藤原を一度でも見たか?

 

『んー!』

『がっ…何だこの餓鬼…!?』

 

その子供は、箱に向かっていきなり飛びかかった。

不意のことに反応し切れず、箱はいとも容易く子供に奪われる。

 

『…この…!待てこの餓鬼!』

 

子供の首元を掴む。

握力が強かったのか、子供の走る勢いに耐久が負け、その服はその場所から破れだ。

瞬間反動で前方に滑った子供は、その場から山を転がり落ちた。

幸いなのは道を転がり落ちたことだが…子供が転がって無事な道ではないだろう。

流石の薄情な俺でも、見てみぬ振りが出来る状況ではない。

 

―――――

 

「………」

「…生きてるか?」

「……ぅ…ぁ…」

 

俺の能力は治すことは出来ない。

創り出し、消し去るのみ。

体を作ったところで、少しの不足があれば瓦解する。

人体とは、それほどまでに複雑だ。

助ける方法は一つ。

蓬莱の薬のみ。

 

「……何であんなことしたんだ?山なんて来なければ、こんな目に会わなくて済んだのに…」

 

俺が早く動けば、こんな目に会わなくて済んだのに。

 

「町にいれば、関わらなくて済んだのに。」

 

関わらなければ、知らないで済んだのに。

 

「…生きたいか?」

 

生きてくれ。

 

「……い…き………る……」

 

その言葉を聞いてからは早かった。

彼女の持つ箱の中身は蓬莱の薬。

それをその口から飲ませる。

無理矢理にでも飲み込ませ、吐き出すことも許さない。

冥界の神が俺に力を与えたのはこのためだったのだ。

 




東方の妹紅の設定過去とかないんよね。主人公と一番絡み安いです。ただこの先は他小説と似るかもしれないけどお許し下さい。個人的にこの展開は一番予想通りだけど一番好きなんです。


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四十八話 ~悪鬼と旅人~

罪を犯した。

月でさえ禁じられた最悪の罪を。

しかし罪はそれだけではない。

数々の人の人生を狂わせ、一人の少女の肉親さえ奪ってしまった。

狂わせた人の中には、彼女と同じ境遇の者も少なくないだろう。

救う力を持ちながら、計算と怠慢で死を眺め、罪に見向きもしない。

 

「ならこいつだけでも世話するか…」

 

償いには程遠かろうと、救いを求める手を払い除ける程に人間性は失わない。

手を伸ばす者がいるなら、手を掴む者がいてもいいだろう。

 

―――――

 

(しかし償う気にはならないんだよなー…)

 

あれだけのことがあり、責任の一端は自分にあるくせして、俺に罪の意識は欠片もなかった。

人間性を失いきるつもりはないが、無意識に失いつつあるのは自覚出来る。

少女を助けたのさえ、その一線を作るための打算に過ぎないのかもしれない。

世界が変わり、歳をとり、そんな考えを持つ自分に嫌気が差す。

 

「…不思議なもんだな…」

 

平和な日本でただの学生をしていた過去。

人の生き死にを嘲て打算的に生きる現在。

自分の生き様を漫画や小説で読むのなら、過去と今でどれ程感情の差があるだろう。

それほどまでに、『俺』という存在は変わっている。

 

「姉も似たようなもんだったんかね…?」

 

―――――

 

「ん…」

「お、起きた。」

「ここ…?」

「……うん。意識もはっきりしてるし…言葉も問題なさそうだな…体に痛みや違和感は?」

「え…えっと……大丈夫…です…」

「そうか。良かった…ていうのも違うか…」

 

治ったとはいえ人生が狂ったことに変わりはない。

これからの目処も立っていない。

子供一人面倒見るくらいなら問題なくても、彼女は藤原の娘(おそらく)だ。

恨みや復讐心をむけられてたらどうにもならない。

しかも体は半ば強制的に不老不死に。

 

「………」

「あの……」

「……色々あるんだが…まず自分の状況が分かるか?」

「…確か…大人の人に飛びかかって…山から…転がり…落ちて………」

「なんとなく分かるみたいだな。」

「……何で…私…無事で…!」

 

静かに涙を溢す。

一体何で涙を流したのか。

不老不死に。されたから?

死ぬことが出来なかったから?

生きたことに喜んで?

 

「お前…藤原の娘か?」

「…」

 

泣きながら頷く。

 

「藤原は?」

「……」

 

沈黙…答えは死か、あるいは行方不明か。

とにかくこの子に身寄りはない。

 

「……もう分かるだろうが…お前は不老不死になった。何をしようと死ぬことはない。」

「……やっぱり…あれは…」

「藤原の娘なら知ってるか。知らなくても無理ないんだけどな…」

「…私は…かぐやが許せない!」

「!?」

「あいつの我儘で…あいつがいるせいで…友達も…お父様も…全部…!」

「……」

「だから…お父様から教えてもらった薬で…あいつを殺すために…!」

「それであんな無茶をねぇ…」

「おかしいですか!?私が大好きな人達を…全部…!全部!」

「望んだのは輝夜だけじゃないがな。」

「!」

「町民が、帝が、藤原が、誰もが望み、命を差し出した。お前がそう言うのは…それこそ我儘だ。」

「…それでも…!」

「…何なら俺も同罪さ。いや…一番罪深いかもな。」

「…違う…貴方がどれほどのことをしようと、余所者の貴方が何もしなくて、それで攻められる謂われはないはずです。」

 

なんか賢そうなことを言い始めた。

彼女の言い分では、あくまでも輝夜が全部悪いと言うことらしい。

余所者の俺が何をしようと、原因は輝夜ただ一人…あいつがいなければ襲われることもなかった。

町民や帝までも庇ったが、輝夜を守って死ぬ人を見た。

人の死を見て、父の死も触れ、輝夜への憎しみは溢れた。

その結果が復讐心に燃える子供。

 

「……だから私は…あいつを見つけ出して殺してやる…!」

「はぁ…悲しいな…」

「……」

「子供が囚われることじゃないよ。復讐なんて。」

「それでも…私は…」

「…なあ。一緒に旅をしないか?」

「旅…?」

「ああ。広い世界を見て、色んな人とあって、復讐が全てじゃないって…そう思ってほしい。」

「……」

「復讐心じゃ生きられないよ。例えそれが果たされても、待っているのは孤独で虚しい暗闇だけだ。子供の時からそんなもの…囚われていいわけがない。」

「……どうせ不老不死なんだから…復讐の前に、未練をなくすのもいいかもしれませんね…」

 

少しの笑みをこぼしながら、少女は俺に付いて来ることを決めた。

 

「目一杯楽しめ。広い世界を見せてやるよ。それこそ…復讐なんてどうでもよくなるぐらいにな。」

「これからよろしくお願いします。」

 

 




年齢は…十五位で。


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四十九話 ~辺境暮らしの不死人~

編集から投稿まで3日空けてたー…


少女を連れ旅に出た。

字面だけみると拉致だが、しっかり本人も承知の上だ。

まずは森へと入りこんだ。

誰の目にも留まらないように、人気のない森林へ。

川を見た。

動物を見た。

崖からの絶景を見た。

森の中、魚や木の実を主食に、俺達二人は暮らしていた。

気付けば森で暮らし始めてから、一月が経とうとしていた。

 

「人里離れた辺境で暮らしてるわけだが…まだ憎いか?」

「…少し忘れて楽しい…けど…忘れられません。」

「……」

 

やはり子供とはいえ、憎しみを幸福とすげ替えるのは難しい。

洞窟暮らしで主食は木の実、村での一般的暮らしを考えると、子供ながらに不満を溢さない分偉い方だ。

しかし困った。

この子も不老不死になった以上、可能ならば幻想郷に行ってほしい。

紫の話を永琳達にしたということは、幻想郷で輝夜とこの子が会う可能性は大いにある。

その時がいつかは分からないが、数百年経ってもこの憎しみが風化しないのなら非常にまずい。

下手をすれば幻想郷でいつも殺し合いをする関係になってしまう。

 

「………」

「あの…」

「ん?どした?」

「…私のやろうとしてること…間違ってますよね…?望さんが悩んでるのだって…私のためなんですよね…?」

「あー…まあそうだけど…」

「…私は…やっぱりまだ憎い。輝夜を許すことは出来ない。けれど…望さんに、私のために悩んでほしくないんです。」

「……」

 

森で暮らした一月、この子の性格はある程度分かった。

基本的にめちゃくちゃ良い子なのだ。

第一に他人のことを考え、憎悪の感情さえ振り切れず、更には動物を狩ることさえ躊躇し、あまつさえ過去の行動に罪悪感を覚える。

実を言うと魚をこの子は一度も採っていないのだ。

 

「…でも子供が遠慮するもんでもないな。」

「え?」

「こうゆう悩みは大人にしか出来ないんだよ。まして育てるって決めた以上、お前はもう俺の子供みたいなもんだ。子供のために悩むくらいさせてくれ。」

「……」

 

まあ名前すら教えてもらってないが。

そろそろ名前を教えてほしい。

一月名無しだった。

自分のことを死んだ扱いにするために、また過去にすがらないために、名前を捨てることを決めたらしい。

正直俺にはよく分からない…が、そうしたいならそれでいい。

俺は親になっても子供の好きにさせるだろう相手いないけど。

 

「…望さん。改めて…ありがとうございます。」

「…どういたしまして。でも敬語はいらないぞ?」

「あ…ありがとう…?」

「はは…何で疑問なんだよ。」

 

―――――

 

暮らし始めて半年が経った。

未だに名前のない少女と暮らしている。

親代わりとして俺が名前付けるのも提案はされたが…やはり本当の亡き父親に申し訳ない。

改名や偽名にしろ、自分で考えるべきだ。

そんなことを考えながら、熊よろしく鮭を打ち上げる。

 

「これぐらいか…」

 

この半年、多少は場所を移した。

結果これは食糧ではなく、売却用となった。

人里を見つけたのだ。

凡そ50km地点に村があり、そこで食糧や衣類を買っている。

その金銭の回収のために魚を売るのだ。

 

「今日は土産も買ってくか…」

 

と言いつつ買うのは団子固定なのだった。

 



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五十話 ~助手と店主~

apexのランク戻して…音バグと…あとキル上限消えたのにたまにバグって上限固定されるのも直して…


人里で暮らし始めて半年。

普通の人と同じく暮らしてきた。

何でも屋として活動し、少女…『妹紅』は助手として働いている。

月の都の依頼は多岐に渡った。

しかし今のような古い時代程度だと、受ける依頼も限られる。

例えば店番や清掃、食材採取や…時々狩りにも出る。

妖怪なども少なく、退治依頼もとくにない。

基本金はちょっとした生活費程度だけ蓄え、あとは狩りや採取をして食材を得る。

衣類は買うが、住む場所は村の人に手伝ってもらい、外れに一軒立てた。

衣食住は完璧、金を蓄えてる分、他より少し裕福に暮らしている。

勿論戦いはあまりなくとも、妹紅を鍛えることは忘れていない。

自身もしっかり鍛えている。

しかし半年間特別な何かがあったかというとそこまではなかった。

精々生活を整え、日々鍛錬をし、名無しの少女に名が付いた程度だろう。

最後を除けば、ほとんどいつも通りなものだ。

 

「ほんと静かでいい日々だ…」

「さっきからぶつくさ何言ってるの?」

「何でも?平和を噛み締めてたとこさ。」

「……」

 

あと妹紅の口調が生前の時代の高校生くらいになっていたことだ。

そろそろいい頃合いだろう。

実を言うと…未だに蓬莱の薬を手元に置いてある。

それはつまり、記憶は未だ戻っていないということだ。

以前課題を終えた後、冥界の神が現れて、結果数十年経ってしまった。

そういった不測の事態がいつ来てもおかしくない。

一年過ごしたおかげで、この辺の人との関係も良好。

妖怪はいないために、危険だとしたら森の獣達のみ。

生きる術は既に叩き込んだ。

最悪以前のようなことがあっても、妹紅が倒れることも、村が危険に陥る事態も、確率は限りなく低いだろう。

 

「…それじゃ…妹紅。」

「ん?何?」

「これから少し俺は眠る…というと少しおかしい気もするけど…とにかく意識はなくなると思ってくれ。」

「何かするの?」

「まぁな。とはいえそう長くは眠らないと思う。前はちょっとした異変があって数十年意識はなかったけど…多分そっちのが稀だろ。」

「……もしそうなっても…また…会えるよね…?」

「当たり前だろ?もし十年百年千年眠ってようと、いずれ必ず会えるさ。俺達は不老不死だぞ?」

「…うん。」

 

俺と依姫がそうだったように。

生きてさえいれば、会えないことは絶対にないのだ。

 

「それじゃあ…」

 

―――――

 

場所を移動して蓬莱の薬を破棄する。

寝ることが記憶を戻すトリガーなのだ。

説明した後、破棄して帰る。

そういえば一時、破棄とは何を差す言葉だろうかと疑問を抱いたことがあった。

しかしその認識が間違っていた。

何を差すかではなく、俺がどう認識するかが重要なのだ。

過去の課題…薬の実験台、武器を持つ、不老不死にする、どれも曖昧だ。

実験台はともかく、持つだけなんて曖昧では、自分の所有物にするのか、ただ持つだけか、そんなの認識次第だろう。

なら破棄というなら…

 

「これでも大丈夫だろう。」

 

俺が思ったのだから。

薬は液状、永琳のことだから丸薬でもあるだろうが、今に限りは液状でよかった。

瓶ごと『破壊』すればいいのだから。

俺は瓶を叩きつけ、染み込んだ地表を…文字通り消し去った。

完全なる消滅。

綺麗さっぱりこの世から消えた。

 

「さてと…良い夢見れるかな…?」

 

―――――

 

「じゃあ妹紅、後は任せるぞ。」

「うん…」

「…心配すんなよ。そもそも俺が警戒してるだけで、一時間やちょっとで起きる可能性の方が高いんだしさ。」

「でも…可能性はあるんでしょ?」

「まあ…」

 

実際確率としてはかなりのものだろう。

冥界神のような奴でなければ、特に問題もあるまい。

敢えて可能性を示唆するなら…記憶の中よりも、現実で何かが起きることの方があり得る。

 

(心配し過ぎってだけならいいけど…)

 

それから少し話して、夜が更けた頃に、二人揃って眠りに付いた。

 

―――――

 

夢の始まりは日常だった。

子供の頃に通っていた小学校の記憶だ。

この記憶の思い出すのには決まった法則も、順番もないだろう。

そして記憶の中を歩む今のような夢。

それ以外の記憶も軽くなら思い出す。

なら何故夢の中に入るのか。

何か重要な情報なのかもしれない。

自分の死、姉の存在、ならば次に俺に関わる重要な情報が、きっと今分かる。

特別なことがある時は、非常に楽しみに思う。

そういうものだろう。

 

 




妹紅の名前は設定上でも自分で付けたらしいですね~調べて始めて知りました。ちなみに本名見つからなかった…


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五十一話 ~過去と現在~

嵌まるゲームは終わりないやつばっかり…完結出来るかな…


微睡む意識の後、俺は見知らぬ家…いや、前世の我が家に立っていた。

珍しくもない廊下、四つの扉はリビングや自室へ繋がっている。

部屋の構造を思い出す。

リビングから繋がれた一部屋…それが俺と、姉の部屋だった。

 

「懐かしいな…」

 

自室へ向かう。

扉を開けたその先には…仲睦まじい姉弟の姿。

 

「……」

 

俺は過去の記憶を少なからず持っている。

例えば…姉がトラウマになっていたこと。

姉が原因で、女性に酷く恐怖を覚えていたこと。

今更そんなことは思わないが、つまりこの凡そ平和そのもののような光景は、全て虚構に過ぎないのだ。

『小学生』の姉弟が、一緒に過ごすのは当然なのに、俺にはとても…

 

『僕大人になったら姉ちゃんと結婚するー!』

『そうね!』

 

小学生が姉に言う子供の戯れ言。

こんな光景も、珍しくないだろう。

ああ…だんだん思い出してきた…

 

―――――

翌日

―――――

 

「行ってきまーす!」

 

小学生なのだから当然学校に向かう。

しかしその日は忘れ物をして一度帰ったのだ。

 

「え…?」

「―――!?」

 

姉の体に鱗、手は灼けたように紅く、爪は獣のように鋭く、顔は憎悪に満ちていた。

その顔は、俺を見た瞬間に変わった。

驚き、慌て、逃げるように去って行った。

腰を抜かしてへたり込む俺の目には…焼け焦げた人の姿があった。

 

「ひ…わあぁぁ!」

 

声を上げて、俺も部屋を後にした。

姉がトラウマになったのはその頃だ。

学校にも行かず、家にも帰らず、河原で一人佇んでいた。

そんな時、迎えに来たのは親でもなく…姉だった。

その時のことが、鮮明に思い出される。

 

―逃がさない

 

耳元で囁かれたその一言は、若い少年にトラウマを植え付けるには十分だった。

泣きそうな顔で家に帰り、死体のあった部屋に向かってみると…朝のまま、綺麗な部屋があるだけだった。

 

―――――

 

「…あれが前世のトラウマか…」

 

意識を取り戻した俺は、しみじみとその記憶を思い出していた。

結局何だったのか、今となっては分からない。

しかしこれだけは分かる。

 

「今の方がよっぽどトラウマだな…」

 

理不尽に殺され、転生しては二度死んで、迫害、殺戮、逃げ隠れ、二度と会えない友を憂う。

知り合い一人に逃がさないと言われた程度、もはやトラウマ足り得ない。

そう考えれば、転生も悪くはなかった。

 

「…まだ夜か…」

 

俺は再び眠りについた。

すんなりと意識を手放せたのは、妹紅と離れなかった安心感からだろう。

 

―――――

 

「おはよう望。」

「……おはよ~…ふぁ…」

「眠そーだね。」

「今日は一日寝て過ごすかなー…」

「それもいいかも…」

 

何でも屋なんて職業だ。

依頼があろうとなかろうと、好きな時に仕事をする。

寝たい時に寝て、金が欲しけりゃ働いて、旅をしたけりゃ村を発つ。

自由こそが不老不死の特権だ。

 

「そういえば…」

「どうしたの?」

「……いや…ちょっとばかし用があってな。留守番頼んだ。」

「うん。仕事は…」

「帰ったらいくつかやるよ。誰か来たらいないって言ってくれ。そんな時間もかからないしな。」

「分かった。」

 

妹紅に留守を任せ、誰もいない林道に出た。

用というのは当然…

 

「次の課題だな…」

 

妹紅の前で見るわけにも…別に問題ないとは思うが、あまり変なものなら巻き込みかねない。

このことについては、極力隠す方向でいくと決めていたのだ。

 

[酒呑童子の守護]

 

いつも通りに課題を見る。

その内容はこの時代の人間には絶対に通じないものだった。

酒呑童子と呼ばれる者はただ一人。

鬼を統べる妖怪の王たる存在だ。

これも前世なら誰か分かるのだろうが…今の俺には見当もつかない。

しかし探す方法ならある。

これでも前世はオタク…と言うと本当のオタクに怒られるが、こういったものには興味があった。

だから酒呑童子が討伐されるはずの歴史も、誰がどう討伐するかも、年代も…今から計算するなら多分三百年程の間と絞れる。

ある程度記憶が戻らなければ分からなかったかもしれない。

 

「今回は余裕で達成してやる!」

 

断言出来る程自信があった。

その時だけは…

 

―――――

 

その後に過去を思い出した。

鬼の四天王と呼ばれた萃香と勇義、どちらかが酒呑童子かもしれないなら、俺はまた、出会わなければならない。

失った場所へ。

奪った者へ。

許されない罪へ。

帰らなければならないのだ。

それは少し…憂鬱だ…

 

「…どの面下げて…」

 

微かに希望も持っていた。

紫の夢見た世界に行けるのか。

絶望もしていた。

何もかも奪い、捨てた俺に、そんな資格はないと。

欺くも運命というものは…あまりにも悪戯好きだ。

 

 




また出番があるようですね…オリキャラの出番は多くしたいものです。


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五十二話 ~旅発ち~

サンブレイクキリン早よ


勇義や萃香に会うことに不安を感じながら、時間は無慈悲に進むものだ。

記憶が戻って早一年…何で妹紅の身長伸びてるんだ?

年齢から考えたらまだ伸びる歳とはいえ、不老不死な身が成長するのもおかしな話だ。

変化はその程度。

結局何の進展もないままに、変わりない生活を送っていた。

平和で暇な、そんな一年間。

 

「たかが一年じゃ代わり映えしないな…」

「急に何?」

「だってなー…」

 

どこかでしばらく定住していると、慣れ過ぎて変わる気がしなくなる。

何度もしてるから間違いない。

変化が苦手になっていく。

そんな感覚だ。

それに酒呑童子に関してはまだ遠い。

大和に戻るのも、守るために人間を抑えるのも、今からではまだ早過ぎる。

 

「……」

 

しかし戻らないにしても、このままここにいるのもどうだろう。

何十年と変わらない姿で、同じ場所に留まり続けるのも難しい。

下手すれば討伐対象になるのはこの俺だ。

いても四、五年が関の山だ。

ここに留まり一年と半年…旅発つには丁度いいか。

 

「妹紅。」

「さっきからどうしたの?」

「そろそろ旅に出ようと思うんだが…」

「…本当?」

「本当。一ヶ所に留まるのがどうにも苦手でな。暇が嫌いなんだよ…俺は。」

「最近は確かにやることないかも…」

「な?お前を鍛えるなら場所は選ばないし、金が入り用でもない。人と話したいなら次の村でも探せばいい。とにかく退屈でなければ何でもいいんだよ。」

「…私は…退屈も嫌いじゃないな…」

「…そうか……妹紅。俺は旅に出る。お前はどうしたい?」

「……決まってるでしょ?」

「…そうか。」

 

それから程なくして、俺達二人は旅に出た。

最初から、妹紅が離れるつもりはなかったのだ。

この子の性格は、恩だけ受けて返さないようなことはしない。

 

(まあ妹紅が残りたければそれもよかったか…)

 

結局俺の行動は…全て気分だからな。

妹紅が似ないよう気を付けなければ。

 

―――――

 

さて…旅に出たとして、目的地なんてものはない。

となれば何か目指すものがほしい。

 

「……」

「どこに行くか決めてなかったのね…」

「…決めた。海だ海!海目指そう!」

 

川魚と海の魚の味の違いや海藻など、上手いもの求めて海へ向かおう。

ついでに海を渡れば、この島以外の島や面白い異変があるかもしれない。

 

「目指すは外海!ここの奴らの知らない世界だ!」

「遠いんじゃない?」

「いーんだよ。腐る程ある時間、無駄遣いしなくてどうする!それに言ったろ?広い世界を見せてやるってな!」

「…方向音痴なんだから…迷わないでね?」

「…保証はしかねる…」

 

―――――

 

妹紅がいるため飛ぶことは出来ない。

俺が飛ぶ時は霊力を推進力に、無理矢理逆噴射して飛ぶ。

しかしまだ霊力を推進力にする方法は、妹紅に出来る難易度じゃないからだ。

そもそも力の総量が桁違いだし、制御能力的にも力を使い始めたばかりの妹紅には難しい。

前に一月ぶっ通しで飛んだ時は俺でも地獄だった。

海を越えるのも簡単な話じゃない。

つまり俺のやることは、海を越えるために船を作るか、妹紅の能力を更に伸ばすか。

はたまた紫のような能力持ちを探すか。

まあ…海に出るまでで何年かかるかも分からないが。

まあそれまでにはどうにかなるだろう。

 

―――――

 

村を見つけ、度々留まり、再び発っては野宿して、仲良くなっては別れを嘆き、仕事を受けては戦って、海は一体どこにある。

そう…旅に出てから十年近く、まだ海に出ていない。

大和は日本国であることを考えると、大陸にいるというのも考えられる。

昔はユーラシア大陸と繋がれた道があっただろうし、ともなると俺達は、思いの外大陸の真ん中で暮らしていたのかもしれない。

方向を間違えてぐるぐるしてる可能性もなくはない。

とにかく海にはまだ出られない。

その間の妹紅の変化を並べると…

 

後天的に火の能力を得た。(詳細不明)

空を飛ぶための霊力、能力制御が飛躍的に伸びた。

身体の成長が止まった。

それによって身長が抜かれた。

 

とまあ…相当変わった。

おかげで海を越えるのも、工夫をすればどうにかなりそうだ。

 

「でも海に着かないからなぁ…」

「わざわざ聞いたりもしてるのに…」

「本当にな…」

 

妹紅は別に方向音痴というわけではない。

一度通った道なら、それが道なら覚えてるくらいだ。

林などでは分からないみたいだから、方向音痴とか関係ないのだろう。

はたして俺達が海にたどり着くのは…いつになるのだろうか。

 




妹紅の口調の変化はかなりですね。
礼儀正しい子供→高校生くらいの女子→皆の知る荒い口調
て感じで変えるつもりです。まあ女子の口調なんて知りませんがね!


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五十三話 ~邂逅したのは海の上~

デジモンサヴァイブクリアした~…バッドエンドだよあんなん…次はハッピーエンドにしたいな…


苦節二年…そう…更に二年だ…海に出た。

妹紅は更に成長し、頼りになる助手になってくれた。

さて海を渡る方法だが…飛び続けるより楽な方法を思いついた。

飛ぶことは変わらないが、海を消滅させながらなら楽ではないか。

簡単に言えば着地、一部消滅、壁の創造、一休み。

この工程を踏めば休憩が出来る。

こんな簡単なこと早く気付けばよかった。

無駄に疲労し続けたのが悔しい。

まあ気付いたのも妹紅だけど。

…馬鹿で悪かったな。

 

「さてと…行くか。」

「うん。」

 

俺はいつも通り空へ。

妹紅は…俺とは違い、炎の羽を形成して飛んでいる。

霊力は不形不重、故に空気のように自由自在に形を変え、空間に漂っている。

体内にある霊力も固定されているわけではなく、空気となんら変わりない。

もし体内の霊力を操れるようになったら。

水に浮く船のように浮力を与えられるなら。

霊力の量は必要になっても、風船のように浮かぶことが出来る。

俺がやらない理由は、単純に出来ないからだ。

体内の霊力など扱えない。

放出して操作する方が楽だ。

見えない力を操作するために集中するより、うっすら見える力を感覚で操作する方がましだ。

多分性格的に向いてないのだろう。

俺のやり方も、妹紅には出来なかったしな。

本人曰く…

 

『左右で同じ力じゃなきゃ変に飛ぶし、勢いとか…あと霊力減り過ぎても分からないよ。』

 

だそうだ。

バランスにスタミナ、妹紅はそうゆうのは苦手そうだ。

能力が後天的に得られたことから、体内で完結する力の使い方は、感覚で分かるようだがな。

タイプは違えど、割りと俺と妹紅は似てるのかもしれない。

 

―――――

 

「そろそろ降りる?」

「そうだな…妹紅はあとどれぐらい飛べる?」

「二十分くらい。」

「ならもう少し飛ぼう。」

 

既に十日程飛んでいる。

一日飛んでは一日休む。

だから実質五日程度か長くて七日程飛んでいるが、未だに島は見えない。

前は一月ぶっ通しだったが、妹紅が太陽の位置や水の流れから方角を示してくれる分、前より直線に飛んでいる。

俺には本当に分からない。

方向音痴ってのは方角すら分からないものさ…

 

「よし…降りるぞ。」

 

海の消滅なぞ簡単だ。

水のある空間を削るだけ。

そこに能力で削った跡に沿って空間を作って、水の流れない休憩地点の完成。

飛び立つ時に沿って張った壁を取り払えば水が流れて元通り。

能力で作った壁は飛ぶのに放出し続けるよりはるかに効率がいい。

回復の方が早い程度に力を抑えられる。

妹紅はしっから休めるから、次に飛ぶのに憂いはない。

 

「それじゃ、しっかり休めよ。」

「うん…うん!?」

「どうした?」

「後ろ…」

「……うお!?」

 

人がいた。

海のど真ん中に、船も近くになく。

しかし…

 

「よく見ると…足が魚?…人魚って奴か…」

「人魚?」

「ああ。俺のとこじゃそう呼んでた。昔話や伝説といった類だったけど…まさか実在したのか…」

 

『――!―……――!……』

 

何か喋っている。

しかし相手は水の中、壁もあるせいで全く聞こえない。

それに気付いて少し落ち込んでいた。

まあ別壁を消すだけだが。

 

「聞こえるか?」

 

穴を開けて声をかける。

頷いているから聞こえているだろう。

 

「話してみたいから上に上がってくれるか?人間は水の中じゃ生きられないんだ。」

 

流石の俺も呼吸困難になったら死ぬ。

人魚は急ぎ目に上に向かってくれた。

 

「話出来るの?」

「理解はしてるみたいだな。言語は同じなのかもな。」

「……怪我。」

「え?」

「あの子…怪我してた…何かあったのかも…」

「…話してみないとな。」

 

―――――

 

「さて…とりあえず聞きたいのは…人魚で合ってるか?」

「陸でどう呼ばれてるか知らないけど、おそらくそう。」

「俺の知る伝説上の人魚は、こんな浅瀬にはいないと思うんだが…何でこんな所に?」

「……貴方達が何者か知らないけど、早く立ち去った方がいい。」

「何で?」

「私達の…戦に巻き込みたくない。」

「戦?」

 

 

 



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五十四話 ~海の物語~

妹紅どんな喋り方してたっけ?


「戦って…海で何と戦うんだ…?」

「同族争いとか…?」

「違う。触手たくさん襲って来た。仲間が何人も喰われて…海底の住処は…」

「触手…海だし蛸か烏賊か…?」

「何それ?」

「触手みたいな手を自由に動かして…墨を吐いたりする軟体生物だ。確か…手は八本だったかな…」

「……いや…十本あった。陸の者も知らない生き物か…」

「十本…なら烏賊だな。烏賊は八本の足と二本の腕を持つんだ。昔の友達が詳しかったからな…」

「…大きさも分かれば、望なら種類も分かる?」

「そうだな…て言っても俺はダイオウイカ位しか知らないしな…大体は食えると思う。」

「大きさはとにかく大きい。少なくとも我々の十倍、あるいはそれ以上だ。」

「十倍…20m近くな烏賊なんて…いや…」

 

烏賊の妖怪と言えば、クラーケンなる存在が有名だろう。

烏賊か蛸か定かではないが、普通の生物じゃないことは明らか。

大きさなどそれこそ不定だろう。

まずいのはクラーケンは肉食ということ。

補食された彼女の仲間はもう…

 

「…なあ、俺も手伝ってもいいか?」

「陸の者が?何故?」

「俺達は海を渡りたい。でもそんな危険な奴を放置するわけにもいかない。下手すれば陸も被害を被る。それに…」

「まだ何か?」

「困った奴らを見てみぬふりする程、薄情じゃない。たまには海鮮物もいいかもな。」

「…なるほど…では退治の代わりに、極上の持て成しを用意しよう。」

 

狩りの時間だ。

 

―――――

 

「まだ何かあるよね?」

「…実はクラーケンが蛸か烏賊か気になって…」

 

―――――

 

「空気のあるとこもあるんだなー…」

「不思議な空間…」

「陸の者と我々の種族が、恋に落ちたという話が伝わっている。ここは、そんな者達によって造られた空間だ。」

「人魚姫の話か…陸にも伝わってるよ。しかし人が海に潜ったのか?」

「陸で生きられる者の話は聞いたことない。陸との交流はあったが…それも昔の話だ。」

 

人魚姫の物語では魔女との取引で足を得た人魚が、陸の王子の元へ向かう話だった。

しかしここでは逆で、海に人が入る話のようだ。

人魚の協力を得てこの空間がある。

能力が浸透しなかった俺の元いた世界だから、人が海で暮らす発想はなかったのか。

はたまた事実逆なのか。

とにかくこの空間は有難い。

 

「しかし何でここで人魚が暮らしてるんだ?」

「あの生物はここには入ってこない。」

「成る程…海で唯一安全な場所ってことだね。」

「でも水なくて平気なのか?」

「陸の者との出会いの場なら、我々の生活も問題ない。とは言え、食糧の備蓄も、不自由さも、とても長く耐えられるものではない。」

 

早く倒さなければ、人魚は絶滅する。

それどころか海の生態系が崩れ、次第に海は荒れていく。

これを知っていたなら、課題にでも設定したのに…

 

「とりあえず妹紅。今回はお前は留守番だ。」

「!何で…」

「今回に限っては足手まといだ。海じゃ火も使えない。それに飛び続けた疲労もあるだろ?」

「そんなの…望も…」

「お前の限界に合わせてたからな。俺はまだ半分以上残ってる。すぐに行くべきだしな。」

「……」

「一人では危険だ。せめて私も…」

「守りながらの方が危険なんだよ。ま、任せとけって。こう見えてそこそこ強いんだ。」

 

まだまだ不満を言う妹紅だったが、足手まといに間違いなかったことは、ちゃんと理解していたようだ。

案内として一人着いて来るだけで、あとは勝利を願って送りだしてくれた。

 

―――――

 

「あれだ。」

 

案内されて向かった先は、陸で言えば城下町のような場所だった。

海の底は人間にたどり着けないと言うが、その場所は海底だった。

まあ現代とは違うのだろう。

その町の大きさはかなりのもの。

2、3kmはあるだろう。

信じられないのはその町の3分の1近くに、巨大な触手が張っていたこと。

 

(どう見ても1kmくらいないか…?)

 

「ここから見える大きさに…?」

 

どうやら以前より大きくなっているようだ。

クラーケンは現代では実はダイオウイカなのではとされているが…あれはどう見てもその規模ではない。

まさに化け物そのものだ。

ハンデありで勝てる相手とも思えない。

とりあえず空気が欲しい。

今は顔周辺に膜を張って呼吸を保っている。

常に作りだしているから切れることはないが、如何せん首の稼働域が小さい。

そして幕に防御力はないから、攻撃されれば割れる。

その瞬間、俺は窒息の危険が生まれるのだ。

つまり破壊されないよう戦う上視界も不安定。

更には水中ということは体の動きも制限される。

 

(…すぐに戦うのは得策じゃないか…)

 

「本当に挑むのか?」

 

膜に彼女の顔をいれて答える。

こうしなければ喋っても聞こえないからだ。

俺も口の動きでなんとなく理解してた。

 

「今挑んでも勝てないかもしれない。条件が不利過ぎる。…一晩だけ、休みをくれ。全快ならどうにかなる。」

「…そうか…」

 

やはり早く倒したいのだろう。

手遅れになる前に倒したいが、勝つ可能性が低いのに挑むのは、余計な時間を増やすだけだ。

妹紅に偉そうに言った手前気が引けるが、俺は戻ることにした。

決戦は明日…

 

(絶対に倒してやる…)

 

―――――

 

ちなみにクラーケンの見た目は完全に烏賊だった。

 

 



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五十五話 ~深海の決戦~

バイト連チャンで流石に疲れた…まああまり時間がなくて更新途絶えて…また自分のことだから更新して休みをやるんだろうなぁ…すみません。


日を跨いで翌日早朝…全快だ。

今なら海ごと消し飛ばせる。

クラーケンを倒す方法もいくつかある上、どれも可能となった。

 

「…烏賊か……食えるのか…?」

 

その思い付き一つで、半分近くの方法が消滅した。

 

―――――

 

「……」

「我々全員を集めて…作戦の一つも指示はないのか?」

 

人魚の一人が痺れを切らして聞いてきた。

今の状況は、人魚の戦闘可能人員全員を召集、待機させ、遠くからクラーケンの様子見中。

それも既に三十分程…そろそろだ。

クラーケンの真下、町並みの中から、深海とは思えない光が辺りを照らした。

太陽と見紛う程の輝き、その光はクラーケンを包み込む。

クラーケンは深海生物…つまり光を知らない。

照らして時間が経てば寧ろ寄るが、この時点では光を警戒して後退する。

その時間が重要だ。

 

「全員町へ!今なら問題なく潜入出来る!足の一本も家屋に絡ませるな!」

「成る程…!」

 

全員が府に落ちたようだ。

この待機時間は能力の発生のため、深海の底に光を配置するための時間だった。

空間自体を扱う俺の能力なら、離れた所でもある程度の操作は出来る。

奴の視認範囲外のために距離が遠く、五感も使えないために時間はかかったが、これで町からクラーケンを離すことが出来る。

足を絡めることが出来なければ、いくらクラーケンでも漂うことになろう。

町への被害、人魚への被害を気にせず、戦うことが出来る。

人魚が町に入った後、光を消した俺はクラーケンの前に出た。

当然の如く襲い来るが、既に奴の優位は崩れている。

極めつけは…

 

「これだ!」

 

水の指定と空間の固定、伸びる足を除く奴の体を、水を消滅した空間に引きずり込む。

空間を固定したために最早奴は身動きすら出来ない。

こうなればなぶり殺しに変わりない。

長過ぎた足は入れることは出来なかったが、そのために彼らを配置したのだ。

自分達の町は自分達に守ってもらおう。

とは言え…奴も諦めてはいなかった。

信じられないことに手足を落とした。

蜥蜴の尻尾切りのように、分断した手足は再び生え、外の手足は溶けて溶解液のように、なっていた。

「まじかよ…」

 

つまりクラーケンの巨体全てが結界に収まり、俺と一対一の状態ということ。

しかも結界内ほとんどが触手で覆われ、更には切り落とすことが危険を増やす行為だということが明らかに。

本来なら絶体絶命の表現が正しい。

奴も人魚達もそうなのかそれぞれの表情は分かりやすい。

 

「でも忘れてないか?ここは俺の能力内…俺の世界だ。」

 

触手が高速で突き刺しに来る。

あの巨体とこの速度なら、山に穴を開けることさえ出来そうだ。

しかし…場所が悪い。

触手は溶解液が出ることもなく消えていく。

空間の消滅は俺が最も得意とするものだ。

被害や食うことを考えなければ、始めから消滅させればそれで終わりだったが…初見はその力も残ってなかったのだ。

だが全快の今、烏賊風情が勝てる勝負ではない。

 

「まあとどめは…妹紅に任せようかな?」

「焼き烏賊って美味しいの?」

「上手い。少なくとも俺は好き。」

「…私を連れ込んだのそれが目的?」

「……」

「…『沈黙は是なり』って教えてくれたのは望だよ…」

 

呆れられてしまった。

まあそのつもりだったのだから仕方ない。

烏賊料理と言えば寿司やらスルメやら色々あるが、作る道具も材料も場所もない。

なら焼き烏賊が楽だろう。

 

「でも望がやればいいんじゃ…」

「手の内は簡単に晒すな。恩を仇で返されるかもしれないからな…」

 

実際過去立ち寄った村でもあったからな、裏切り。

 

「それじゃ…海鮮料理でも楽しむとするか!」

 

クラーケンは焼け焦げていく。

妹紅の精一杯の火力でさえ、耐えるこいつは正しく強敵だった。

 

―――――

 

勝利の宴…というには質素な料理を、俺達は振る舞ってもらっていた。

都市の食糧はクラーケンの腹の中…巨大化の原因はこれだった。

代わりに町の損壊はあまりなく、食糧以外の被害は少なかった。

 

「一族を代表して、貴方方に感謝する。あの時声を掛けたこと…最早誇りに思う。」

「いいさ。こうして報酬ももらってることだしな。」

「いや…このような質素なもので寧ろ謝罪したい。何か他に要望があればその通りに…」

「…なら道案内してくれないか?実は俺達、目的地もなく海を渡っててな。そうだな…」

「二人が来た方向とは違う場所を教えればいいか?」

「え、分かるのか?」

「陸の者達の分かる道と、我々の分かる道は、丸っきり逆なんだ。陸の者は原の道を。我々海の者は水の道を。つまり海であれば、我々なら案内が可能だ。」

「でも島の場所なんて知ってるのか?」

「ああ。少し赤みがかった土の島を見つけたことがある。大陸とは言わないが、島周りを回るのに二十日はかかった。」

「赤み…確かに俺は知らないな。」

 

オーストラリア辺りかと思うが、時代が時代だけに断言出来ない。

まあ探索すれば分かるだろう。

 

「よし。そこに向かおう。」

「ではこれを渡そう。」

 

小さな玉のような物。

中には霊力が燻っていた。

 

「これは?」

「先の空間、その核となっていた霊石だ。これさえあれば、あの空間をそのまま動かすようなもの。」

「…でもそしたらあそこは…」

「クラーケンのせいで閉じ込められ、あの場所を嫌う者が増えてしまった。あそこのおかげで二人の助けも得られたが、閉じ込められるのは、予想より辛いものだ。」

「そうか…分かった。有難く貰うよ。」

 

その石は霊石というだけあり、霊力が原動力。

発動したいなら、ただ霊力を込めるだけ。

俺達三人は、それを利用して島へ向かった。

たどり着くまでは呑気に魚を捕ったり、人魚を鍛えたり、ハプニングというハプニングも起きなかった。

平和に、そして退屈に思えたその航海は、島を見付けて終了した。

 

 

 




海の上で何起きると?てことでカット。流石に海で引っ張るのも…


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五十六話 ~大陸移動~

赤土を踏みしめ、新しい大陸に到達した。

言われた通り土は赤く、また周囲には木の一本もありはしない。

言うなれば砂漠…しかも見える限り全てが砂。

村があるかも期待出来ない。

 

「……」

「これは…」

「何かおかしいのか?陸とはこのような地形では…」

「いや、おかしくはない…けど…外周周った時にさ、村みたいなのとか…もしくはこの赤いのでも砂じゃない場所とか…見覚えないか?」

「ふむ…村は見なかったが、右回りに五日程の地点の陸は、石のように固まっていたな。そちらへ案内しよう。」

「頼む。」

 

案内は継続。

話通り五日程、陸の周りを移動することになった。

 

―――――

 

「これは…!?」

「どうしたの?」

 

案内された陸を見ると、明らかなレンガの地面と、建設中のような工事跡…更に街灯。

間違いなく人の手が加えられた場所だった。

しかし素直に喜ぶことも出来ない。

レンガのいくつかは風化していて、見る陰はあっても、そのものの形は保っていなかった。

つまり長い間放置されていたということだ。

 

「……」

「すまないがこれ以上の場所はこちらも分からない。」

「いや…ありがとう。ここで十分だ。」

 

少しの挨拶をして、案内役の人魚と別れ散策を開始した。

 

「…人の気配もない…」

「でもこれって…」

「ああ。多分町か村の跡だ。」

 

少し進んだ場所に、少し大きい程度の町のようなもの…跡地があった。

人の気配はなく、家屋は崩れ、街灯は折れて、ゴーストタウンもいいとこだ。

 

「どうして放置されてるんだろう…」

「さあな。妖怪かなんかに襲われて逃げたか…はたまた内戦でも起きたか…事情はよく分からないが、生き残りがいれば近くにいるかもしれない。とりあえず少し漁って、何もなければ移動しよう。」

「うん。とりあえず海から真っ直ぐ…えっと…西?に向かおうか。」

「そうしよう。」

 

それから散策の結果、更に滅びた町が四ヶ所…やはり何かに襲われたのだろう。

二ヶ所程は、戦闘の跡も残っていた。

 

「……酷い…」

「ああ。きっとまだあるんだろうな…町を探し続けてみよう。」

「分かったよ。」

 

―――――

 

更に数日、歩くこと百数キロの地点に、ようやく人を見つけた。

十歳程度の子供が、バケツを持って歩いていた。

 

「あれって…」

「砂漠だからな…水の確保が一番大変なんだろ。おーい!」

「!?………」

「え!?ちょっと!?」

 

バケツを落として走り出してしまった。

突然声を掛けたから驚いたのか。

もしくは…

 

「追うぞ!」

「うん!」

 

子供の走りと飛ぶ俺達…追い付くのに時間はかからず、数秒で捕まえた。

 

「どうして逃げるの?」

「――!―…!」

「!英語か?」

「英語?」

「俺達とは違う言葉ってことだ。えっと…離せ…来るな…危ない?」

 

要約…危ないから来るな。

子供が言うにしては物騒なものだ。

これまでの町のことからして、水取りに来てた子供がこんなこと言うなど、住処が既に支配されてるくらいしかないだろう。

もしくは英訳ミスしてるだけで、俺達のことを危険な存在と認識しているのかもしれない。

こんなことなら英語の勉強すればよかった(最高78点)

聞き取れるか分からないけど…

 

「―――」

「―!――…」

「―――」

「待って望。分かる言葉で喋って。」

「――おう。とりあえず事情は分かった。て言っても子供が知ることなんて少ないけどな。」

「町がああだった理由聞いたの?」

「ああ。やっぱり襲われたらしい。しかも滅んだ町の住民全員捕らえて従わせてるようだ。」

「…妖怪がわざわざそんなこと?」

「ないな。偉ぶった人間がやったか、人間に思考の近い妖怪か、何にせよ放ってはおけないな。」

「そうだね。どんな相手だって負けないよ!」

「しかし…どうもトラブルに巻き込まれる運命みたいだな…」

「自分から首突っ込むくせに…」

 

 




東方キャラ…関係ある話だけど…時代的にキャラ出せねぇー…


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五十七話 ~謀略~

町までの案内をしてもらうため、俺達の実力を軽く見せた。

まあ軽く(地面粉砕)見せたことで納得してもらえた。

しかし何に教われたのかこの子は知らなかった。

どころか町の大人も、誰も妖怪の姿は見てないらしい。

気付いた時には気を失い、死んだ者もいたはずにも関わらず死体もない。

噂では死体すら喰っていると…

 

「でも気を失うなんて普通ある?人間何人いようと強い妖怪一人いれば十分なのに…」

「それに意識を奪いながら連れて行くのが限られるのもおかしいな。つまりそいつは、人間を何人も連れていく方法、もしくは理由がない。戦闘を避けている。何よりも人間を必要としている。」

「妖怪らしくないね。」

「うーん…定期的に人間を喰うために家畜扱いか…?いやそれなら自由にさせないな…」

{あそこです!}

 

少し高い坂を超えると、荒れていない町を見つけた。

繁栄こそしてないものの、家屋の崩れはなく、人々も普通に歩いている。

問題は光の少なさ、夜の危険は過去見たどの人里より上だろう。

しかしよく見たら家屋の最奥、門から真っ直ぐの場所に、やたら大きい洋館があった。

紅を基調に、正面最上に時計の付いた、窓のない館。

おそらくあれが妖怪の拠点だろう。

 

「早速乗り込むか。」

「え!?待って待って!いくら不死でも駄目だって!」

「冗談だよ。町民盾にされても困るし。」

「本当に…?」

 

失敬なそんなことしない。

例え前科があっても毎度することじゃない。

偵察は大事。

 

「まあとりあえず情報集めからだな。町の人から話聞いたり、可能なら外周だけでも館を調べよう。」

「じゃあ私は館に行ってみる。どうせ言葉分からないし…」

「流石に危険だぞ?」

「いざとなったら炎を空に打ち上げるよ。見たら来てくれれば大丈夫。」

「…絶対に警戒を解くなよ?それから内部には入るな。勝てないって分かったらすぐに逃げる。分かったな?」

「うん。」

「ならよし。」

 

俺達は別れて調査を始めた。

 

―――――

 

何人かに話を聞いた。

外出してる者が少ないが、たまに外れにいる人に話を聞けた。

一応夜以外はそこまで危険はないようだ。

夜以外に襲われた話はなく、他の妖怪などが来ることもない故に、夜を除けば安全な場所ではあるようだ。

どうやらあの館は半年前に突然現れたらしい。

館の主の姿は誰も知らず、何がいるか、どれだけいるか、どう館を建てたのか、何もかも情報はない。

しかし後の世を知る俺なら何となく予想出来る。

夜に活動、窓のない館、英語圏の存在、もはやゾンビか吸血鬼しかないだろう。

となれば話は早い。

日の出と同時に仕掛ける。

最悪は館を吹き飛ばす。

館毎倒してやる。

とにかく方向性は決まり、俺は妹紅を探しに館へ向かった。

 

「しかし赤いな…」

 

―――――

 

「妹紅!」

「あ、望…どうだった?」

「こっちは大収穫。多分種族も分かった。」

「そっか…」

「?何か気になることでもあったのか?」

「……多分…なんだけど…地下に閉じ込められてる人がいるみたい…」

「閉じ込められてる人?拐われた人間じゃなくて?」

「ううん。実はさっき―」

 

―――――

 

「これ…凄い大きい…遠目じゃ分からなかった…」

 

望に言われた通り、壁に沿って歩く。

一周したが何もなく、入り口も一ヶ所のみ。

窓もなく、見る限り隠し通路などもない。

 

(私のとこにもあったし…抜け穴とかあるかな?)

 

そう思って更にもう一周したが、特に変哲のない壁が続くのみだった。

 

「何もなさそう…望のとこに戻ろ…」

『待って!』

 

身を翻して帰ろうとするも、何者かに呼び止められる。

 

『突然ごめんなさい!でも…助けて欲しいの!』

「?もしかして拐われた人?良かった…すぐに…」

『違うの!』

「え…」

『私はノーチェ・スカーレット…この館の…主の娘…』

「!?」

 

館の主は村々を滅ぼした張本人。

その娘ならば、警戒するのは当然だろう。

 

「助けてって…あなた達が何をしたか…」

『分かってる!お父様が何をしたのか…全部…!』

「…なら…」

『でも助けて欲しいの!お父様は…数年前から変わった…とても優しくて、家族思いだった父は…』

 

彼女は震える声で、衝撃的な話を続けた。

 

『母を殺し、私を閉じ込め、人間を殺して回った!』

「!」

『あんなのがお父様とは思えない!数年前は、人間と友好的だったのに…そんな父を、皆慕ってたのに…』

「…何か変わった原因…もしくは別人の可能性は…」

『分からない…だけど…これ以上お父様が何かする前に、殺して欲しいの…』

「……助けて欲しいのは…この町の人間?」

『…そう…そして出来るなら…父を苦しまずに殺して…お願い…!』

 

―――――

 

「成る程…しかし嘘の可能性もあるしなぁ…」

「分からないけど…嘘じゃないと思う。」

「根拠は?」

「あの館の構造と、種族が吸血鬼ってこと、それから、町の人の捕らえられた場所、全部分かった。」

「おお…!大収穫じゃないか!でも…今更ながらどう会話したんだ?閉じ込められてるんじゃないのか?」

「分からない…はっきり聞こえたし…何かの能力とは思うけど…普段会話するときと同じ聞こえ方だし…」

「…まあ、探索する内にその子も助けて、その時聞けばいい。とにかくそこまで分かったのなら、日の出に館の主に直行しよう。」

「うん。あ、ねぇ望?」

「何だ?」

「あの…吸血鬼って…何?」

 

 




ノーチェ…スペイン語の『夜』
時期的にレミフラは生まれてないです。ただ思い付きで書きたくなっただけです。ちなみに本人達いないけど親先祖の話出てるのはこれで三人目…かな?


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五十八話 ~館攻略は堂々と~

俺達は村で休むことなく、村の外で野宿した。

残念なことに泊めてくれそう…というより会話が出来る時間帯でもなかったようだ。

夜になると本当に誰もいない。

 

「よっと…」

「便利だよね~それ。土だけど家出来るし、簡単だし。」

「創造は苦手だからな。丸に穴開ける程度が俺の限界だな。もっと上手ければ家とか出来るけど…」

「望と一緒なら、土の家でも楽しいよ。」

「そりゃありがと。」

 

でも戦闘に使える程便利でもない。

単純構造の物なら創れても、複雑なものは形だけだ。

精々空間を広げて剣やら斧やら打ち出すくらいだろう。

創造力を鍛えるなんてどうすればいいだろうか。

 

「まあいいか…」

「何が?」

「何でも。さ、もう寝よ。やることないし。」

「……ねぇ望…」

「何だ?」

「…寒いし…少しだけ…くっついて寝て…いい?」

「まあ布団もないしな…お前能力炎だよな?」

「…使ってないときはただの蓬莱人だよ。」

「まあいいけど。お休み。」

「お休み…」

 

地面はレンガ、壁は赤土、そんな場所で、妹紅に袖を捕まれている。

袖を掴むということは、寒いわけではないだろう。

俺はそんなに鈍感じゃない。

年を経て『好む』から『恋しい』に変わったのか、さっきの会話でも赤面顔だった。

なついた子供が赤面するか?

 

(…悪いな…)

 

色恋沙汰にうつつをぬかす暇はない。

何より…この子を、俺の行いに巻き込みたくない。

そのためには別れて旅に出る必要もある。

 

(いつかは…いや、この子のパートナーは俺じゃない。せめて…その時までは…)

 

妹紅と俺は、家族であろう。

 

―――――

 

「………」

 

俺は妹紅が目覚めるであろう時間よりも、遥かに早い時間に館へ向かった。

時間にして早朝三時程だろうか。

予定では五時に決めていた。

寝たのが十一時程と考えても、目覚めるまでまだ数時間あるだろう。

危険な目に会うのは俺だけでいい。

それが偽善的自己犠牲であろうと、俺がもつ確かな信念だ。

それに…

 

「さーて…吸血鬼狩りだ!」

 

人を捕らえ、娘を閉じ込め、尚人々を苦しめる…

 

「一発顔面ぶん殴る!」

 

―――――

 

「あ~あ。あいつの力はああやって強くなったんだ。納得納得…」

「もう取り返しつかない程ですよ…」

「そうね。まあいいんじゃない?」

「いいんじゃないって…あの人の人柄は確かです。しかし…強い力は人を変えるんですよ!?人間の心は…私達にさえ分からないんですから…」

「それで神に挑むのもまぁ…面白そうじゃない?」

「面白くありません!」

「まあ私達は見てるだけよ。彼が善で在るのか。それとも…」

 

―――――

 

俺が館に向かう途中、まだ日は出ていなかった。

日の出まではまだ一、二時間。

妹紅が目覚める時間を考えて、早めに出たのだ。

それに…正面からぶん殴ってやりたかったから。

 

「……」

 

黙って館の壁を消し、堂々と練り歩く。

その姿は普通に不法侵入者だった。

 

「客人とは珍しい…」

「誰だ?」

「主に仕える者でございます。そして…貴方が最後に目に移す存在でしょう。」

「そーかい。なら逆に地獄を見せてやるよ。」

「ふふ…もう終わっておりますよ?」

 

辺りを大量のナイフが埋め尽くす。

まるで俺に引き寄せられるように、そのナイフは四方八方から迫り来る。

 

「……これだけか?」

「!?」

 

辺りの空間を消滅…もちろんナイフも消え去った。

 

「ならこれはどうでしょう?」

 

ナイフがランダムに迫り来る。

先のように一斉ではなく、ランダムに次々と。

しかし関係ない。

消滅させ続ければいい。

 

「…なるほど。」

「?」

「周囲の消滅…おそらく持続性もあり…その気になればすぐにでも戦いを終わらせられるのでしょう。」

「…お前の方こそ…ナイフの扱いが単調だな。瞬間移動重力操作…もしくは…時間操作か?」

「…ふふ…お互いに能力が割れましたね…では私の行動は予測出来ましょう。…ならば望み通りに…」

 

目の前から執事風の老人は姿を消した。

勝てないことを悟って、能力を主に伝えに行ったのだろう。

 

(それだけじゃなさそうだな…)

 

まるで戦う気がなかった。

そうでなければ、更に情報を引き出すため、しばらく戦い続けるはずだ。

ナイフの出現から重力操作はない。

瞬間移動なら残像すら見えないとも思えない。

空間能力なら出現の瞬間は見えるはず。

弾幕なら霊力の気配が分散して感じるだろう。

他にも候補はあるが…一瞬で移動までするならば、時間の操作が濃厚だろう。

証拠に…わずかに歩いた跡がある。

 

「…辿れってか。」

 

間違いなくあの老人は、主の下に案内している。

彼もまた、ノーチェと同じ被害者なのだろう。

 

「お前も救いたいのか…分かったよ。」

 

館の主に仕える者…そんな奴に案内されるなら、行ってやろうじゃないか。

例えそれが罠であろうと、正面から叩き伏せる。

それが俺のやり方だ。

 

 




天使久々登場ですかね?飛ばすことが多かったし出す機会なかったし、これからも登場少ないかもなー…


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五十九話 ~裏切りは誰が為に~

今回凄い分かり辛い。自分で思う。理解は出来る。自分にはどういうことかもはや図解が頭に出来てる。けど文章に出来ないごめんなさい!
追記:10000UA突破ありがとうございます!書き忘れました。


足跡を辿り、館の中を練り歩く。

その先は明らかに地下であり、主がいるとも思えない。

先にノーチェから連れ出せということだろう。

 

「まあ地下にいるかもしれないけど…な!」

 

紙を捲るように扉を引き裂く。

地下への入り口が頑丈な鉄扉だったためだ。

間違いなく地下へ続く階段。

 

「姫の救出といくか~」

 

階段を下りきると、空けた部屋が一つ。

広さだけなら館の半分程はありそうだ。

残念なのはそこには一切の物がなく、正面に見える扉を護るように、伝承を模したような者達が仁王立ちしていることだ。

影のような姿の数十体の魑魅魍魎。

何故ノーチェをそこまで閉じ込めるのだろうか。

あるいはノーチェ以外を閉じ込めているのか。

何にせよまずはこいつらの片付けからだ。

 

「生物じゃなきゃ加減はいらねぇな?」

 

―――――

 

およそ戦闘とは呼べない虐殺を終え、扉に手をかける。

この扉は木の扉であり、大量の札が張られていた。

ある意味開けるのを躊躇われる…が、別に気にせず解放する。

この程度で警戒する段階はとうの昔に過ぎているのだ。

 

「ノーチェーいるかー?」

「―――」

「…下にいるのか。」

 

扉を開けるとまた階段、しかしその階段で終わりのようだ。

ちゃんといてくれて良かった。

声のする方には更に扉があり、しかし階段ではなく部屋に繋がっていた。

 

「…貴方が…望さん?」

「ああ。しかしこんなに深いとはな。てかあの門番なんだよ…」

「…ありがとうございます。迎えに来てくれて…」

「それより父親だ。お前ならどうにかならないか?」

「……無理です。」

 

自分には不可能だと断言した。

どうやら彼女は父の変化の原因を知っているようだ。

 

「父は…私達のために呪われたんです…私のこの部屋には、過去封じられた霊が存在していたんです。」

「…乗っ取られたと?なら何故お前はここに閉じ込められたんだ?封印を解いたんだ?」

「……私が閉じ込められたのは、私の体を次の依り代にするためです。私の体が成長するまで、病も傷もなくすため…封印を解いたのは……」

「…話辛いか?」

「…いえ…話さなきゃ…封印を解いたのは…母です…」

「そんな危険なの何で解いたんだ。」

「その霊が、この家の…一族の霊だったからです。その中に、私の妹も…」

「複数の人の総合霊か…出来もしないのに救おうとしたのか。」

「はい…母が取り込れる直前、父が前に出て身代わりになったんです。それでも結局母は取り込まれ、巻き込まれた私だけ護られました。」

「しかしそんなに霊が集まったら意識が混濁するはずだ。こんなことは考えつかないだろ?つまり統括している霊がいるはずだ。」

「…私達の祖先…吸血鬼の始祖…その意志が、取り込みながら操っています。」

「成る程?ならその魂を消し去れば、どうにかなるのか?」

「!出来るんですか!?」

「無理。でも宛てはある。力を借りられるかは分からないけど…まあ時間は稼ぐ。」

「それって…」

「そいつと俺は戦う。可能なら拘束する。解放もな。でも魂の消滅や剥離なんて出来るわけない。そこでお前にも手伝ってもらう。」

「何を…?」

「ちょっと待ってろ。」

 

こんなことの頼りなど紫しかいない。

しかし呼ぶことも会うことも難しい。

向こうも俺の居場所など分からないだろうから。

しかしあいつなら、死んだ俺を探しているだろう。

もしかしたらもう見つけているかもしれない。

例え探していなくても、賢い…というか悪どいあいつなら、力を全開で放出すれば、見つけてくれるのでは?

少なくとも、危険がないか確認には来るだろう。

工夫をすれば正確な場所まで分かる。

つまりやり方は簡単。

 

「軽く手紙を書いた。これを先日お前が話した奴に渡せ。それだけだ。」

「わ、分かりました!」

「外まで送る。ちゃんと渡してくれよ?」

「はい!」

 

その工夫のために、妹紅にも動いてもらおう。

 

―――――

 

「任せたぞ。」

「はい!絶対に渡します!」

 

ノーチェを送り出した俺は、振り返って言葉を発した。

 

「…随分と優しいな。」

「感謝しておりますよ。ノーチェ様を送り出してくれて。ですからどうか…死なないよう願います。」

 

彼は無防備に、素直に身を差し出すように、ナイフを落とした。

何故ノーチェもこの執事も、何も話すことがなかったのか。

何故ノーチェは俺が直接話を聞いた時に、話すことが出来たのか。

ノーチェに対する監視の目…館に入ってから見ていた蝙蝠達…

そのせいで、二人はまともに話せなかった。

この執事は、それを破壊して主の元へ戻った。

ノーチェを救うため、自ら犠牲になったのだ。

監視されたノーチェを館から出すため。

その目を全て、自分と俺に向けるため。

主は、裏切りに気付いたことだろう。

同時にしてやられたことにも気付いただろう。

もう彼に生きる道はない。

配下の執事が、吸血鬼との契約をしていないはずがない。

後はもう、殺されるだけ。

 

「…後は任せとけ。老兵はそろそろ退場の時間だ。」

「ありがとうございます。それでは…御武運を。」

 

飲み込むように消し去る。

苦しみは皆無だろう。

 

「…胸糞悪いな…」

 

殴る理由が増えたようだ。

 

 




なんかミカルゲみたいとか考えちゃった。


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六十話 ~楽しく永い夜~

クリスマスは更新したかった…何故バイト…


執事を看取り、赤い館を歩く俺に、もはや主の加減はない。

利用出来る駒も、封じる場所も、監視する必要さえなくなった。

今や俺一人殺すためだけに、眷属たる獣達は総攻撃。

狼は吠え、蝙蝠は噛み付き、本体は出てくる気配もない。

じわじわいたぶるつもりなのだろう。

そう見えるよう体は傷だらけのままだから。

 

「…見えてるよな?どんなになろうとお前は殴る。だからそれまで…精々そうやってビビってろ!」

 

見ているであろう主にそう告げる。

この体は、どんなに傷付こうが辿り着くという意志の現れ…今の俺の、怒りの証明だ。

その宣言から、獣が少し散って行った。

その内の一匹の蝙蝠が近づき、なんと言葉を発したのだ。

おそらく伝達か何かだろう。

 

『貴様ごとき矮小な存在…我が敵にあらず…その怒りごとねじ伏せてくれよう…』

 

そう言い残し蝙蝠は破裂した。

小動物にしては血が多い…肉もないことから吸血鬼らしく、血液から作られた獣なのだろう。

奴は手札を一つ晒したのだ。

 

「雑魚扱いか…」

 

俺は笑みを浮かべ歩き始めた。

 

―――――

 

「…こいつは…」

 

獣を引いた理由はここにあったのだろう。

それと同時に、俺に絶望を与えるために。

最上級に向かう途中、仁王立ちの如く立ち塞がる一体の獣…いや化け物。

血液で作られた巨大な虎だ。

虎ってここいたのか…

 

「なんて場合じゃないかっと!」

 

素早い動きで爪を振るう。

その爪も牙も奴の血…触れればどうなるか分からない。

なら触れる必要はない。

弾幕で削り取る。

肩を、胴を、頭を、次々に撃ち抜く。

しかし撃ち抜かれた部分はすぐに再生され、止まることはない。

奴の体が血で出来ている以上、再生を止めるのは不可能だろう。

 

「俺には関係ないがな。」

 

人でない化け物なら加減はいらない。

命などない傀儡に、命を奪わない攻撃は必要ない。

ただ得意な消滅をするのみ。

 

「消すだけなら得意分野だ。次からは対策立てるんだな。」

 

その虎を抜ければ、いよいよ大ボスの登場だ。

 

「……」

「待っていたぞ。」

「そうか。俺も楽しみにしてたぞ。」

「貴様の力は見せてもらった。消滅に創造…人知を逸しているな…寄越せ…その力全て…」

「…何となく予想してたけど…お前…他人の能力奪えるのか?」

「知ってどうする…貴様はここで死ぬのだ…さあ…我が力にひれ伏せ…」

 

辺りに血が飛び散る。

戦闘の始まりのようだ。

 

―――――

 

無数に増え続ける血の軍勢…一体一体弱かろうと、こうも多いと煩わしい。

どれだけ消してもまた増える。

弾幕の嵐、血の軍勢、更には地面や壁から針が飛び出、風は刃となり斬りかかる。

一体いくつの能力を持っているのか。

真意は分からないが、まだまだ能力はあるようだ。

証拠に…今度は炎の球を打ち出してくる。

壁や床に当たる側から爆発する。

別々の能力の組み合わせだろう。

地面が鞭のようにしなり、血が付いたところは溶け、多過ぎる攻撃に舌を巻く。

 

「我が力は無限!貴様如き凡百の者に、抗える術はなし!大人しく身を捧げよ!」

「凡百か…俺をその他大勢に例えるには…少々難しいな…」

「何…?」

 

奴は動かない。

座った椅子から動くことはない。

余裕の現れからだろうが、それで勝てる程甘くはない。

奴の能力の全てを消滅、奴の前まで走り出す。

ただ一発…決めたことを遂げるために。

 

「貴様…!何!?」

 

走り込むのではない。

瞬間移動の如き速度で目の前に踏み込む。

 

「おらぁ!」

「ぐぁっ!」

 

横顔にめり込む程本気で殴打を決める。

 

「これで一発…あと二発だ…お前は絶対に殴る。」

「…ならば…貴様は八つ裂きだ!」

 

互いに宣言し戦いを再開する。

片方は相手の苦しみを望んで。

片方は怒りを携えて。

 

「永い夜を見せてくれよう!」

「楽しい夜にさせてもらう!」

 

第二ラウンドの開幕だ。

 

 




遅くなりましたがメリークリスマス!


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六十一話 ~好敵手~

バイト時間変わって夕方多くなった影響により…話書くどころかゲームのモチベすら著しく低下してました。おかげでペルソナ3やり直してる始末…猫に癒されながら書きます。


椅子から殴り飛んだ奴は、とうとうその身自ら武器を手にした。

おそらく能力の略奪が奴の能力…その能力で…

 

「しっ…!」

 

武器を操る能力だけ除外されるわけがない。

棍を後ろにやり、回すように振り回す。

更には周囲から剣が飛んで来て、更に地面は針の山…

前は棍、下は針、四方八方剣の弾、正しく四面楚歌だ。

 

「だから何だ。」

 

棍を除く全ての攻撃を消滅させ、迫る棍に拳を合わせる。

棍は砕け、そのまま奴の顔面に拳が…届くことはなかった。

砕けた棍がそのまま、捕らえるように腕に突き刺さる。

 

「消し飛べ。」

「断る。」

 

圧縮した弾幕を、ビームのように発射する。

腕を消滅させ、それを回避する。

すかさずビームの軌道を変えようとする奴は、そのまま後方へ吹き飛んだ。

回避した直後に踏み込み、残った手で殴り飛ばしたのだ。

 

「これで二発。後一発だ。殴った後で捕まえる。」

「この程度…不死と呼ばれしこの我が、傷や痛を負うとでも?」

「いいや?ただのストレス発散さ。…本命はこっちだしな。」

「何を…」

 

奴の上から巨大な針が降り注ぐ。

 

「少し前から置いておいた。避け切れるか?」

「造作もない。」

 

まるで回避場所が分かってるかのように、奴は最低限の動きで完璧に回避した。

予知か予測か、遅い攻撃では着弾点も把握されている。

針の間にいる奴は、その場からこちらに攻撃を仕掛ける。

仕返しだと言わんばかりの針山が、地面から発生する。

不意の攻撃のため、避け切れず腕や足に刺さる。

 

「ふ…そちらは避け切れんようだな?」

「避ける必要がないだけさ。それに…お前も油断したな?」

「こちらの台詞だ。」

 

お互いの針山が爆発する。

俺の針には内部に時限爆弾が。

おそらく奴の針はそのものが爆弾だ。

普通であればここで決着することだろう。

何せ相手は不死身の吸血鬼…いかに頑丈な人間でも、この大爆発では無事ではいられない。

 

「普通ならな!」

「何!?」

 

互いに煙の中、しかし俺は奴の顔面を確実に捕らえ、殴り飛ばすことに成功する。

せっかくの豪邸を台無しにしながらの奴の自爆特攻は、自らが殴られる結果を生んだ。

 

「……何故無事なのだ…?人間ごときが…」

「生憎こっちも普通じゃないんでね。それよりも…あと一発だ。」

「…ふん。まさか人間がこれ程とは思わなかったぞ…」

「そりゃそうだよな?お前も俺を殺せないんだから。」

「!」

「お前の能力の奪い方…その相手を喰うことだろ?それも面倒な手順がありそうだ。そうでなくとも形ある死体でなきゃ無理みたいだな?」

「…それがどうした。もう貴様に加減はしない。」

「へぇ?」

「貴様を我が好敵手と認めよう…能力を手にすることを諦め、全力で消し去る…」

 

ここからが奴の本気…ここからは死に物狂いで殺しにかかることだろう。

対してこちらは殺さないよう加減しながら防ぎ切る。

過去類を見ないクソゲーだ。

 

「ここからがラストラウンドだな…!」

 

 




次回決着。予定通りだし構成あったのに更新時間掛かる程モチベ低下中。はっきり言ってペルソナの次にマナケミアやるつもりでした…


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六十二話 ~無間の牢獄~

時間空き過ぎて構成忘れました。んでいつも通ーり思い付き製作開始じゃー!…遅くてごめんなさい。


加減を止めた奴の攻撃は、威力も数も桁違いだった。

同じように能力を乱射してくるが、その一つ一つが必殺…範囲も広く、もはや回避の選択肢すらなくなった。

消滅させ続けてもじり貧だ。

しかも館は粉微塵…太陽に当てられて平気そうだ。

弱点も宛にならない。

正直負ける可能性を考えたのは鬼子母神以来初めてだ。

最も今回はこちらの加減が前提…実力は遥かにあいつの方が上だ。

 

(まだか妹紅…!)

 

耐え続けて時を待つ。

笑みを浮かべながら攻撃を受け続ける俺の姿は、端から見れば不気味の一言に尽きる。

そんな様子に怒りを、苛立ちを露にする吸血鬼が一人。

 

「貴様…いつまで防ぎ続けるつもりだ!何故戦わん…!?何故そう我を嘲る…!?誇りも信念も…執念すらない貴様が!我を愚弄するかぁ!」

「…そんなに戦いたいならやってやるよ。」

 

激化する攻撃を防ぎ続けたのは、苛立たせるため。

苛立たせて攻撃を単調化させれば、周りへの注意はなくなる。

そも最初から俺がしてるのは、あくまでも時間稼ぎ。

殺さず生かし、俺にだけ集中させること。

これが俺の目的だ。

故に…

 

「かかってこい。」

「――!沈め!人間がぁー!」

 

―二つの意味での時間稼ぎだ。

 

「!?」

「気付いたか…そうだよ…俺が無駄に防ぎ続けてたと思うか?」

「この…!どこまでも卑劣な…」

「狡猾と言ってもらおうか。さぁ…防ぐか避けるか…どこまで出来るかな?」

 

攻撃を無力化させるための消滅の障壁。

そしてじわじわと呑み込み、俺の世界に引き込む創造の結界。

そこに待つのは…奴の能力を越える数と力。

 

「ようこそ…俺の世界へ…!なぁに安心しな?この空間で死ぬことはないさ。即座に蘇えらせてやるよ…」

「……っ!」

 

無限の弾幕…無限の世界…奴は攻撃するだけじり貧だ。

 

「――!嘗めるなぁー!」

 

どうやら吸血鬼本来の力を解放したようだ。

血が辺り一帯に広がり、槍や獣になって防ぐ。

ほぼ全ての血液を消費しているだろう。

 

(それで死なれたら再生も出来ないし…厄介な…)

 

まあ体が残れば血は輸血でもすればいい。

生きてさえいればそれでいい。

精神的にも身体的にも苦しみ続けろ。

例え能力の全てを使おうと、自らの最高の力を使い切ろうと、苦しむのはお前だ。

大小様々、形もバラバラ、威力は軽く国を滅ぼせる程であり、数は過去最高。

奪った力で、体で、地位で、好き勝手した略奪者は、ここで終わりを迎えるのだ。

 

(そろそろか…)

 

その考えと同時に、妹紅と過ごした仮拠点から、巨大な火柱が上がる。

手紙は届いたようだ。

 

『この手紙を見たら、ノーチェや他の人を巻き込まないよう、全力で力を使え。全部燃やし尽くすつもりで本気でな。』

 

説明もほとんど無しに力を使えっていう指示、良くやってくれた。

ほんの少しでも紫が注意を向ける程度…それが重要だった。

これなら十分…

 

「なあ吸血鬼…もし今能力を解除したら…ここはどうなると思う?」

「何…?」

 

こいつとしては好都合だろう。

自分を縛った空間を解除すると言っているのだから。

しかし安直過ぎる。

能力を解除し、その答えを示す。

この空間は、俺の能力…力の全てで作られている。

詰まるところ力の制御を失い、暴走した俺の霊力が、空間を突破して放出される。

そして俺の力は無駄な程に強力であり、あり得ない程多い。

空間から放出されるなら、空間の中にいた奴はどうなるか。

強大な力の奔流に飲まれることだろう。

それこそ、無限に続く牢獄だ。

 

「貴様…我を道ずれに…!?」

「そうでもしないと止められないだろ?」

「おのれぇ…人間風情がぁ!」

 

止めようと攻撃するが、もう遅い。

逃れることはもう出来ない。

 

「俺と一緒に死に続けようぜ?」

 

死の牢獄の完成だ。

最早制御も効かない。

捕らえるために力をほぼ全て注ぎ込んだ故に、放出が終わる時は俺にも分からない。

貯めた力を放出しただけだが、俺がここにいる以上、俺が力尽きるまで永遠に続く。

そして霊力の限界は、到達したことのないもの。

吸血鬼の牢獄にはこれ以上ない。

しかしここからが本番だ。

 

―――――

 

望の手紙を見て、倒れる程火柱を上げたけれど…何の意味があるか分からない。

それ以前に置いて行ったことが一番許せない。

ノーチェが心配してるけど、倒れるのは慣れてる。

だから大丈夫…

 

「人間には過ぎた力ね。」

「!?」

「……?」

 

伏せた私には見えない位置から、ノーチェじゃない声が聞こえる。

女性の声だ。

 

「望の今の同行者ね?」

 

その声はとても通る綺麗な声で…そしてとても、不快な声だった。

 

 

 




思い付きで書くには間空き過ぎで内容覚えてない。空くほど自分で分からないです…


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六十三話 ~共存の形~

以前二ヶ月空きましたね…今回もです。二千文字以下の話じゃなかったら読み返すことも出来ない…そういう意味で短くしてるんですけどね~…文字数増やすか悩んでます。


「彼はもう人間ではないのかしらね…」

「だ…れだ…?」

「そんなに警戒する必要はないわ。望が呼んだのよ?」

「望さんが!?」

「ええ。最も…『友人』なんて…近しい間柄じゃないけれど…」

「!…望さんの宛って…」

「?何か聞いてたのか?」

「望さんが…協力してくれそうな人がいるって…」

「そうね…どんなことでも、彼に協力するのは吝かではないわ。それも…見るに貴女のためのようね。」

「あ…そうですよね…一から説明します。」

 

―――――

 

「成る程ね…」

「協力…してもらえますか…?」

「そうね…私も慈善事業じゃないしね~…」

「!…そう…ですよね…」

「だから対価が必要ね。」

 

彼女は私に顔を近づけ、嬉々とした声でそう言った。

それに対して反発したのは、私ではなく妹紅さんだった。

 

「今の聞いて…協力しない選択肢があるか!望の知り合いなら…なんで全部見捨てるなんてこと出来るんだよ!」

「あら?貴女は何か勘違いしているわね…」

「何が…」

「私は妖怪(・・)よ?」

「!」

 

そうだった。

妹紅さんや望さんは、妖怪でも人間でも接し方を変えない。

だからこうして頼ることが出来た。

だからこそ…信じることが出来た。

しかしそれは二人だから…人間(・・)の二人だったから。

人間は他者を考える思考を持つ。

しかし妖怪は、一人で生きる生物だ。

彼女のように望さんと行動を共にしても、考え方まで同じになるはずがない。

妖怪にとって他者を助けるのは…自分の利になる場合のみ。

そして今利益を得るとしたら…

 

「貴女達…私に従いなさい。」

「……」

 

私達の全てを奪うことだろう。

 

―――――

 

どれ程の時間が過ぎただろう。

一時間か一日か…はたまた一ヶ月か…

自分に殺され続けるとは夢にも思わなかった。

それは奴も同じだろう。

目の前で、もはや塵と化した吸血鬼も、同じことを考えているのではないか。

早く来てほしいものだ。

 

『こんなことする必要あった?』

『檻が必要だったんですよ…生半可じゃ壊されますし…』

『まあ分かるけどね~…自分巻き込まない方法は?』

『内側から更に力を放出し続けてるから…』

『大体もっと準備しなさいよ。先に力貯めた護符でも作ればよかったのに。』

『………(反論出来ない…)』

(さっきから煩ぇ…退屈しないけども…準備する時間なかったんだよ知ってんだろ…)

『当然!』

(くそ殴りてぇ…)

『今のあんたに殴られたら私でも死ぬわよ。』

(はぁ…紫早くしてくれないか…?)

 

―――――

 

「従う…?」

「ええ。正確には協力関係だけれど。」

「協力?」

「私は妖怪と人間が、共に暮らす世界を夢見ている。そのための準備も着々と進めているわ。」

「……」

「不可能と思うのでしょう。馬鹿らしいと吐き捨てるのでしょう。それでも…それが私の願いよ。」

「…何すればいいんだ?」

「既に試験的に、そういう地域をいくらか作ってあるわ。そこに住んでくれればいい。どのみち吸血鬼のお嬢様は…もうここで暮らせないでしょう?」

「……分かりました…こちらとしては特しかありません。でも…父も一緒でなければ…その約束はしません。」

「強かね…勿論助けるわ。…ついでに望もね。」

「なら早く行けよ。正直…あんたと一番共存出来る気がしないよ。」

「あら…相性が悪いのかしらね?ふふ…」

「…行けよ。」

「ええ。」

「お願いします。」

 

―――――

 

『……来たわね。』

『はい?』

 

天使が何かいう前に、俺の体は引きずり出された。

見覚えのある目玉空間。

ある種不快感にも似た感覚を過ぎた目の前には…

 

「よぉ…いつぶりだっけ?」

「相変わらず変わらないわね。」

 

数年ぶりの旧友の姿があった。

 

 




一応次で吸血鬼は終わり。文字数増やしてもいいんですけどね…何気に毎回二時間とかで書いてますし。読み返すの面倒いんでやっぱりこのままで。空くのは許して…


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六十四話 ~蜘蛛の糸~

週五百円分のティッシュがなくなるのは懐的に辛い。寒暖差アレルギー辛い。ファッキンホット!!…思考能力低下中でこれ以外の2つも更新遅くなってて…夏中はもう更新出来ないかも…すみません。出来たらします。


「本当に…久しぶりね…」

「何年ぶりだろうな…」

「妖怪に時間を聞くのかしら?」

「はは…違いない。」

 

旧友との再開を喜ぶ暇はない。

今はやらなければならないことがある。

 

「事情は聞いたってことでいいんだよな?」

「ええ。でも一つ酷なことも言わせてもらうわ。」

「酷…?」

「私はこの数十年の間…夢の為に努力した。それこそ…血反吐吐いても自分を鍛えるのを止めなかった。それが必要だと知っていたから…」

「……まさか…」

「ええ…完全な魂の分離は…今の私には荷が重い。たとえ出来たとしても、必ずどこか異常が出る。ましてやいくつの魂が集まっているの?その中から、あの身体の魂だけを分離するのは…不可能よ。」

「…そうか…方法はないのか…?」

「……一つ…可能性のある方法はあるわ。」

「!あるのか!?」

「分離は出来ない。複雑怪奇な魂の絡み付きから、一つの魂を見つけることは出来ない。なら…『絡み付き』を無くせばいい。孤立した魂を引き上げるのは難しくない。」

「…魂と身体の境界…お前がそれを弄れるなら、俺をその魂の塊に送ることも出来るんだな?」

「ええ。しかしそれはとても危険。魂の世界は、現実とは違う虚構。故に貴方の今の力は使えないかもしれない。そうなれば、丸腰の非力な人間が鬼に挑むも同然よ。」

「……やれ。」

「!?聞いてなかったの!?確かに貴方は他人の為に命を掛けられることは知ってる。けど貴方のその行動は、『死なない身体』を徹底的に利用しているもの。魂が朽ちれば、身体は関係ない。貴方でも死ぬのよ!?」

「…それが…俺が止まる理由にはならないよ。いつだって俺は…やりたいことをやってるだけだ!」

「……忠告…したから…」

「ああ。」

 

身体から何かが引き抜かれる。

その感覚の後、俺がいたのは宙だった。

自分と、紫を上から眺めるようだった。

しかし数瞬の後、力に呑まれた吸血鬼の下へ…

 

「この糸は…」

『さしずめ…蜘蛛の糸ってとこかしら?』

「お前らはいるのか…」

『私達がいるのは魂の世界のようなものだしね。それより本気?あれに入るの。』

 

あれ…既に見えている塊…人の姿と分かるものの、手や足が絡み合い、糸で巻かれたようなその塊。

あの中から、ノーチェの親を見つけ出す。

残りは…肉体がない以上、紐解いて解放することが出来ても、助けは出来ない。

 

「すまない…俺が助けられるのは一人だけだ…」

 

その言葉に反応した亡者達は…道を開けた。

 

「……は?」

 

肉体のない亡者は、肉体を得るためなら、俺の邪魔をすると思ってた。

しかしどうだ。

ノーチェの瞳、ノーチェの髪色、性別は違えど、ノーチェの生き写しのような見た目の青年の下へ、彼らは道を開けている。

 

「どういう…」

 

【助けて】

 

「!」

 

確かに聞こえた。

まるで合唱のような大音量で、確かに聞こえた。

『助けて』と…

彼らは、奪って生きるよりも、解放されて死ぬことを選んでいるのだ。

 

(……っ!)

 

俺は青年に近寄り、糸を見た。

元の身体の持ち主が故か、他の人に絡む糸は、全て彼に繋がっていた。

一つちぎる度に、彼らは解放されていく。

そしてそれが最後の一つとなった時、初めて彼は口を開いた。

 

「…殺してくれ。」

 

切実な願い。

しかし叶わせるつもりはない。

 

「…ノーチェを一人にする気か。お前は助かる。俺が助ける。天下の妖怪の王が、しばらく苦しんだからって死を選んでんじゃねえよ。」

「…厳しいな…」

 

最後の一つをちぎった時、彼らは全て解放された。

そこに残されたのは、俺と青年だけだった。

 

―――――

 

「……!来た!」

 

魂が孤立した今なら身体に定着させられる。

望を呼び戻して、両方助けられる。

 

「やってくれたわね…!」

 

後は私の仕事だ。

身体に今定着してるあの魂を引き抜いて、彼の魂を定着させる。

望はすぐにでも…

 

「戻りなさい!」

 

―――――

 

俺についた糸が引かれ、魂が身体に引き付けられる。

すぐさま身体に魂を重ねられ、身体に定着された。

 

「……この感覚は二度と味わいたくないな…」

「私は味わうことのない感覚ね。」

「ちっ…今どうなってる?」

「上々。後の懸念は…奴の存在よ。」

 

身体から定着した魂を追い出した時に気づいたらしい。

あの身体をさっきまで使ってた奴は…既にそこに境界がない。

魂だけで、肉体を作り出している。

故に奴は、魂で現実に現れている。

 

「まじか…」

「既に彼女の父親の魂は戻ったわ。時期に意識も戻るでしょう。それと…流石に消耗が激しくて…あれと戦う体力はないわ。」

「…俺も…あの放出が痛かった。もう空っぽだ…」

 

折角ここまで来たのに、初めてのガス欠がこんなタイミング…勝ち目がないとは笑えない。

見るにもう奴に自我はない。

しかしその為に力を限界まで使ってくるだろう。

放っておけば自壊する。

しかし逃げる力はない。

 

「まじでどうしよ…」

「お手上げね…」

「あー…巻き込んで悪い。」

「そうね…でも…悪くはないわ。」

「くく…そうか。」

「でも諦めはしないでしょう?」

「当然。全力で逃げる。」

「覚悟はいいわね?」

「ああ。」

 

もはや力むことも辛い身体に鞭打って、俺達はそれぞれ離れた。

的を分散して時間を稼ぐ。

その結果…

 

【――――!】

 

全体への力の放出。

俺と同じ行動。

そして…今最も絶望的攻撃。

紫は言わずもがな、不老不死の身体でも、魂が喰われれば俺も死ぬ。

この攻撃…喰らえば死ぬ。

しかし回避は不可能。

 

(嘘だろ…?)

 

二人共死を覚悟した。

その時だ。

俺達は妹紅とノーチェの前にいた。

ノーチェの父親も一緒に、三人全員無事に。

 

「どうにか…なりましたかな?」

「お前…執事!」

 

そこには、俺が呑み込んだはずの執事がいた。

 

 




さて…二ヶ月前あった構想では終わらせるつもりだったっけ…まあその構想と被ってるとこ一つもないけどね!端的に言うと主犯消して終わってバイバイだったから執事生かすつもりなかったし、魂下り考えてなかったし…計画性皆無ですね…遅い時点で計画性もくそもねえや…


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六十五話 ~信頼と約束と~

熱出た…この夏病気十回くらいなってる…バイト中に意識失いかけるのよね…最近(二ヶ月)


「どうして…何で生きて…」

「おや?貴方様ならいくらか予想が付いているのでは?例えば…契約について…」

「!そうか…当主との契約…それが体の持ち主が変わった時点で消えたとしたら…吸血鬼の契約は魂の契約。監視はあれど『目』さえ潰せば自由も同然。」

「私は自由に動ける。ましてや…死んだ者のことを、誰が警戒しますか?」

 

彼は呑まれたように見せ、その実潜伏していたのだ。

時を止める能力は万能に程近い。

俺からの回避も、先の場所からの脱出も、文字通り瞬く間に終わる。

自分ではどうにもならないからこそ、機を見て助けるために、ずっと近くにいたのだ。

そしてそれは成功した。

ノーチェ、父親、そして俺達。

全員の生還は彼の存在なしでは不可能だった。

 

「老獪の策としては…少々粗末なものでしたかな?」

「はは…それを言うならそれ以上の歳の俺らはなんだよ…」

「はて…?お二人は未だ若く思えますが?」

「あら…老獪は誉めるのも上手ねぇ?」

「いえいえ…しかし…私にはこれが限界ですな。あくまで私達は逃げただけ…あの者を屠る…または封じるでもしなければ、この街は無事では済みません。」

「……紫。」

「恐らく考えてることは同じね。」

「多分な。執事。」

「はい?」

「今どの程度力は残ってるのかしら?」

「…七割…といったところでしょうか…」

「妹紅は?」

「…二割。」

「私はほとんど大丈夫ですよ!」

 

恐らく意図が分かるのは俺と紫だけだろう。

簡単なことだ。

力の境界を操れば、紫を経由して俺に力を注ぐのは難しくない。

三人の力を俺に、全て使えばあの場所一つ消すのは簡単だ。

 

「三人とも…最後の仕事を頼むぜ?」

「やるわよ望。三人とも、私の能力に抵抗しないように。今から三人の力の大半を望に注ぐわ。後は私達に任せて、力だけ渡しなさい。」

「どうぞ。この老体、まだ役に立てるのなら本望です。」

「私も大丈夫です。」

「きついけど…多分二割でも二人より強いよな…?」

「よーし覚悟よし。やるぞ紫!」

「ええ。直接消しなさいよ?」

「任せろよ。消滅は俺の得意分野だ。」

 

直後、体が熱くなり、満たされる感覚が来る。

三人…紫が少し入れてくれたから四人分と考えると、正直少ない。

だが、二割もあれば消滅は容易い。

座標を指定して消滅する力は残ってない。

だからこそ…喰らい呑み込む。

 

「紫!」

「ええ!」

 

紫も意図を察し、その場所までの境界を開いた。

消滅は紫の能力も消すだからその身ごと境界を潜り、奴の目の前に姿を現す。

未だ喰らうつもりの死に損ないは、愚直な突撃を俺にする。

 

「今度こそ…くたばれやぁ!」

 

漂う妖気ごと…その身体を、魂を、その全てを呑み込んだ。

厄介な吸血鬼の魂は、数々の人々の命を贄としたが、無事に終わりを迎えた。

 

―――――

 

「……ぐ…」

「!お父様!」

 

元凶の討伐は成功した。

この街も、吸血鬼という種についても、皆終わり。

力を使い切って休んでいる間に、父親が目を覚ました。

 

「やっと起きたか?」

「君は…そうか…本当に…」

「これからどうするつもりだ?予定は?」

「…受け入れてもらえるなら…街の者達に、償いの機会を貰いたい。そのためなら…」

「命でも差し出すってか?」

「はは…それは君が許さないな…」

「…お前が最初に謝るのは、俺や街の奴らじゃないだろ?」

「…ああ。」

 

彼は自分に泣きついているノーチェを優しく引き離し、正面へと見据えた。

 

「すまなかった。ノーチェ…私は…償い切れないことをした。例え自分じゃないとしても、この体がやったことに変わりはない。お前にも…」

「全部覚えてるんだね…」

「ああ。だが、もうこんなことはしない。絶対に…!もしまたあんな奴が来るなら、死んででも抗ってみせる。」

「死ぬのは許さねぇぞ。」

「…そうだったね…だが、私はそれほどの覚悟を決めた。それだけは…伝えておきたいんだ。」

「…うん…お父様…」

「……」

「…しんみりしてるとこ悪いけど…街の連中集めたわよ。」

 

そうこうしていると、紫が戻ってきた。

紫には今回の件の原因、真相、結果、それらを街の人に伝えることを頼んだ。

それを聞いた上で、ノーチェの父の処分を決めようということだ。

 

「……皆、集まってくれたこと、感謝する。それと同時に…すまなかった。この体は、他人に使われてたとはいえ、君達の家族を手にかけた。どんな償いが出来るかは分からない。望まれるのなら、私の命も…いや…」

「……」

「身勝手ですまないが…私は、死ぬことも許されないようだ…命を差し出すことは出来ない。代わりに…それ以上の苦しみでも、黙って受け入れよう。どうか…私に償いの機会を与えて欲しい。」

 

街の人々は、皆それを望んでいないようだった。

 

『昔…妖怪に襲われたのを助けてもらいました。』

『俺も子供の時怪我の治療してもらった!』

 

その後は口々に過去の行いを並べていった。

最後に、代表のように前に出た人が、皆の考えをまとめてくれた。

 

『我々は皆、貴方の苦しみを望んでいません。やったのはあくまでも、貴方に憑いた者のせい…貴方に罪はない。けれど…それでも償いたいと言うならば…これから先も我らを護っていただけませんか?』

「…それほど思ってくれていたとはな…約束しよう。私は、皆を護ろう。今度こそ…」

「…一件落着…かね?」

「そうね。」

「…紫の願いの完成形…こうゆうのかもな…」

「ええ…」

 

 

 




今更ながら妹紅以外は英語です。英語苦手なので書かない。妹紅と紫遭遇時は日本語。そこからは妹紅以外英語。そこからは紫が能力で調整して全員通じるようにしてます。書くの忘れてました。


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六十六話 ~重き信頼~

酒呑童子討伐年調べたサイト間違いでした。五十一話で五十年後くらいとかほざいてたけど妹紅生誕から三百年は後なんですよね。だから直しときました。そして今回は作中時間スキップないのでどうしましょうね……


ノーチェとその父、そして妹紅の三人は、力を使い切って休んでいる。

その世話役として執事は同行。

俺と紫はその間に、ここ数十年の話をしていた。

 

「これからどうするつもり?」

「そうさな…この街からは出ていく。けど…」

「?何かあるのかしら?」

「…いや…なあ紫…」

「…夢花なら元気よ。鬼の下で順調に育ってる。…萃香は母としては優秀ね。」

「…そうか…」

「ええ。」

 

俺から言葉は出せなかった。

それを察して黙る紫。

何年生きようが何と戦おうが、俺はこの女性に一生敵わないだろう。

少なくとも、対話においては誰よりも強いだろうな。

 

「まだ俺にはやることがある…だから会えない。そう…夢花に伝えてくれ。」

 

俺が不老不死であることは、恐らく誰かが伝えている。まだ萃香の危険までは遠い。

下手に介入すれば、その未来は変わる。

今の俺が夢花達に会えないのは、必要なことなのだ。

人間は欲深い。

萃香達が人間を殺さずとも、酒呑童子の討伐は必ず起こる。

ならもう一つ必要なことは…

 

「紫…少し…大事な話がある。」

 

俺のことを話すことだ。

 

―――――

 

とは言え全ては話せない。

ここがゲームの世界のようなものだとか天使達のこととか課題とか転生とか。

ほとんど説明は出来ない。

なら、濁しながらも協力してもらう他ない。

幸い東方の記憶は一部戻っている。

これから先起こる異変、問題、現れる人種、全てでなくともかなり知っている。

 

「それで?何を話すのかしら?」

「ああ…実は…俺には能力が二つある。」

「………は?」

 

何故だろう凄く不機嫌になった。

と思ったがこれは俺が悪い。

言い方は完全に悪意のある言い方だ…ないけど。

 

「いや悪い…突然…これから先のことで協力してもらいたいことがあって…」

「…はぁ…別にいいわ。こんなことで機嫌を損ねる程、若いつもりもないし。」

「助かる…それで俺のもう一つの能力なんだが…」

「待ちなさい。そもそも貴方の能力の詳細は聞いたことがないわよ?」

「あれ?そうだっけ?」

 

考えてみると誰にも話したことなかった。

言われてもピンとこないだろうし。

 

「そうだな…まあ簡単に言えば、何でも創れる能力?」

 

嘘は言っていない。

実際大抵のものは何でも出来る。

出来ないのは個人が関係することだけだ。

 

「へぇ…その上もう一つ能力があると?」

「ああ…それは…」

 

(待て…どう言えばいい?)

 

濁し方を考えていなかった。

未来が見える能力…だと今までの行動がかなり不審。

危険が迫ったら何かが…みたいなのは早過ぎる。

個人の運命が見える…だと後々ばれる…主に吸血鬼のせい。

 

「望?」

「……」

 

(駄目だ…何て言えば…)

 

いや…あるじゃないか。

ついでに今までの不審な行動…主に一人言を正当化する能力。

 

「…ある人物と交信する能力だ。」

 

天使についてを話さず、ある人物と濁す。

そして未来を見る能力はその者が持つ。

その者との会話が可能な能力。

そいつの干渉には限りがある。

その干渉の制限の内に、いくらか大きな出来事を教えてもらった。

 

「――例として上げるのなら…都市への妖怪の進行、妖怪と神の戦争、輝夜の逃亡…まあお前は知らないか。」

「そうね…それにそれほどの規模の大きいものなら、吸血鬼の戦いなんて些事でしょうね。」

「ああ…それに全部知ってるわけじゃない。あくまでもあまりの大事…もしくは俺の関わった人の危機。そういった未来を、限りはあれど教えてくれる。」

「そう…つまりはその最悪の未来を回避するため、協力してほしいということかしら?」

「ああ。」

 

勝手に考えて勝手に納得してくれた。

実際適当言ってるだけだが嘘はない。

未来は知ってるし会話は俺だけしか出来ないしあいつの気分次第でしか話さない制限もある。

嘘は点いていない。

 

「なら今分かっていることを聞きたい所だけれど…話すことは出来ないのでしょう?」

「……話が早くて助かる。根本から避ければそういったことを未然に防ぐことは出来るが…」

 

俺の介入で未来が変わるのは…既に実証されている。

起きることは起きる。

防げば知らない危機に瀕することになるだろう。

分かっている未来を、最低限の労力で、最も平和的に解決する。

目指す未来は決まっている。

そのために…当事者にはご協力願おう。

 

「…そう。ならこれでも渡しておこうかしら。」

「これは…鈴?」

「実験的な物よ。私の能力を、限定的に使える道具。持ってて違和感ない形にしているだけで、実際の形は札よ。」

「…どこに繋げた?」

「私の家の入り口。特別よ?これは…信頼に足る者にしか与えないもの。」

「!」

 

その意味が分からない俺ではない。

いついなくなるか分からない俺を繋ぎ止めるための…あまりにもか細い命綱。

過去にかなりの事をしでかしたのに、誰よりも俺のことを考えてくれている。

誰よりも…俺を肯定してくれている。

やったことは消えない。

罪は罪として、永遠に枷として背負う。

それでも共に生きるという意思の現れ。

 

(これが想像でも…こいつだけは、俺を信じ続けてくれるのか…)

 

それはとても…

 

「重い贈り物だな…」

「そうよ…肌身離さず持っていることね。」

「…ああ…」

 

涙が出る程嬉しいじゃないか。

気付いているはずなのに、彼女は何も言わない。

そうして側に居てくれる。

やはり俺は、八雲 紫にだけは…勝てないだろう。

 

 

 




何か紫ヒロインみたいになってる気が…紫ファンには悪いが20~30位くらいです。あれ…?これは予想してなかった…思いつき編集だとヒロインも定まらない…
―――――――――――――――――――――――――
1/31追記
活動報告の場所に休載報告を投稿しました。簡単に言えば書き留めの時間を頂きます。


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