ONE FOR ALL9代目はボンゴレX世 (鉄血のブリュンヒルデ)
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中学生編
標的(ターゲット)0 家庭教師


2020/08/09:内容修正


「ひ、ひどいよかっちゃん……。

 

な、泣いてるだろ?」

 

 

日差しの強い、ある夏の日。

 

僕は泣いてるクラスメイトの前に立っていた。

 

ズボンをぎゅっと掴み、怖いのを必死に我慢して。

 

震えながらも、必死に声を振り絞っていた。

 

 

「こ、これ以上は、僕が許さゃなへぞ!」

 

 

体が強ばって上手く喋れない。

 

きっと今の僕は、酷く滑稽に見えていただろう。

 

 

「フンっ」

 

 

幼馴染の手の平から爆発が起こる。

 

あれが、かっちゃんの"個性"。

 

 

「無個性のくせに」

 

 

そして僕には、"個性"が無い。

 

 

「ヒーロー気取りか?デク!」

 

 

個性が無ければヒーローにはなれない。

 

誰もが知る現実だった。

 

僕も知っていたし、分かっていた。

 

そしてこの後、僕は何も出来ずにかっちゃんとその友達二人にボコボコにされる。

 

それが僕の知ってる幼少の頃の記憶。

 

 

 

…………………………

 

 

 

「出久ー?そろそろ起きないと、ご飯冷めちゃうわよー?」

 

 

母さんの声だ。もう朝なんだ。

 

僕はベッドから降りて、母さんがいるリビングに向かう。

 

 

「おはよう出久。ほら朝ごはん」

 

「うん。ありがとう母さん」

 

 

今日のご飯はベーコンエッグか。

 

母さんの料理はいつも美味しそうだ。

 

 

「そうだ出久。今日の夕方から家庭教師の先生が来るから」

 

「そっか、分かったよ……………え?」

 

 

家庭教師?え、誰の?

 

 

 

……………あ、僕のか。

 

 

「って、えぇぇぇっ?!」

 

 

僕に家庭教師?!僕、そんなに成績悪い訳じゃ無いんだけどな…。

 

 

「ほら、この手紙が届いたのよ」

 

 

母さんから受け取った手紙には、こう書かれていた。

 

 

【挿絵表示】

 

 

……………いや、めちゃくちゃ怪しいよ?!

 

これ、新手の詐欺なんじゃ?!

 

母さんそういうの引っかかりやすそうだし!

 

 

「いいよ家庭教師なんて!僕、成績は悪くないし、それに家庭教師って結構お金かかるでしょ?!」

 

「それがね出久。寝る所とご飯さえ用意してくれれば、24時間無料で教えてくれるんだって!」

 

 

ますます怪しいよ?!

 

もしかして、変な組織の罠にハマったりしてないよね?!

 

 

「あのね出久!私、ずっと出久の為に何か出来ないかって、考えてたの。だから、この手紙見てこれだって思ったの……」

 

 

母さんが、こんな事考えてたなんて………。

 

 

「ごめんね出久。やっぱり今からでも断りの連絡するね」

 

「待ってよ母さん!」

 

 

母さんが僕の為に、してくれた事なんだ。

 

 

「とにかく、今日一日だけお願いしてみるよ。

 

もしそれで危ない人だって分かったら、警察やヒーローに通報すればいいし」

 

「っ、ありがとう、出久!」

 

 

お礼を言うのは、僕の方なんだけどな……。

 

けど、とにかく今は学校に行かなきゃ。

 

その前に、朝ごはん食べなきゃね。

 

 

「母さん。いただきます」

 

「うんっ!しっかり食べてね!」

 

 

とにかく今日、色々頑張らなきゃな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

この時、僕はまだ知らなかった。

 

今日来る家庭教師が、超凄腕のヒットマンだって事を。

 

そして、僕の身にこれから、何が起こるかも。




次回予告!

出久「母さんが急に決めちゃった家庭教師、大丈夫かな……」

??「まぁ、心配しても仕方ねぇだろ。いつまでもうだうだてんじゃねぇ」

出久「ご、ごめんなさい……。ってこの赤ちゃん誰?!どこからか入って来たの?!」

??「うるせぇ。とにかく次回は俺も登場だ」

出久「じ、次回!『標的(ターゲット)1 えぇ?!僕がマフィアの10代目?!』」

リボーン「更に向こうへ」

出久「ぷ、Plus ultra!!」


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標的(ターゲット)1 えぇ?!僕がマフィアの10代目?!

「はぁ……」

 

 

今日もかっちゃん達にいじめられた。

 

もう慣れたけど、やっぱり痛いのは嫌だな。

 

 

「ただいま」

 

 

僕が家に帰り着くと、母さんが笑顔で出迎えてくれた。

 

 

「おかえり出久」

 

 

母さんは僕がいじめられてる事を知らない。

 

気付いてるかも知れないけど、先生も加担してるから、学校に言ったって意味が無いかもしれない。

 

 

「今朝の話、覚えてる?」

 

「うん。家庭教師の先生が来るんでしょ」

 

 

一体どんな人なんだろう。

 

変な人じゃないといいんだけど。

 

 

「実はもう来てて、出久の部屋にいるのよ」

 

「そっか。じゃあ挨拶してるくね」

 

 

とりあえず、失礼が無い様にしないと……。

 

僕はドアを開いて中に入る。

 

 

「初めまして!緑谷出久です!」

 

 

とにかく大きな声で挨拶をしてみた。

 

けど、僕の目の前には誰もいなかった。

 

 

「あ、あれ?」

 

「ちゃおっす」

 

「へあ?」

 

 

つい、変な声を出してしまった。

 

何処にも見当たらなかったはずの人の声が、どこから?!

 

 

「お前がデクか」

 

「え?!なんで、僕の呼ばれ方知ってるの?!」

 

 

その呼び方は、学校の皆しか知らない筈なのに……。

 

ていうか、この声って下から?

 

少し視線を下にずらすと、そこにはスーツを着てハットを被った赤ちゃんがいた。

 

 

「って赤ちゃん?!」

 

「今日から俺が面倒見てやるぞ」

 

 

面倒見るって事はもしかして………。

 

 

「もしかして君が家庭教師の先生?!」

 

「察しがいいな。その通りだ」

 

 

こんな、僕よりも子供そうな子が僕の家庭教師?

 

 

「あら、出久も驚いたの?

 

私も最初ビックリしたんだけど、どうもそういう"個性"らしいのよ」

 

 

個性………。なるほど、体が小さいまま成長しない個性とかなのかな?それとも体のサイズを自由に操る、又は自由に小さくする個性なのか?それをヒーローに置き換えると潜入や奇襲とかに使えて……

 

ブツブツブツブツブツ……

 

 

「うるせぇ」

 

「どわっ?!」

 

 

いきなり顔面を蹴られた?!

 

ていうか今のパワー何?!

 

 

「それじゃあ授業を始めるから、二人にしてくれ」

 

「そうね。じゃあ頑張ってね出久」

 

「う、うん……」

 

 

ガチャッ バタンッ

 

 

「さて、それじゃあ本題に入るぞ」

 

 

振り返った赤ちゃん(この呼び方失礼かな?)はこちらを射抜く様な目で見ていた。

 

 

「俺は、イタリアのマフィアである"ボンゴレファミリー"のボス、ボンゴレ9世の依頼で、お前を立派なマフィアのボスに教育する為に来た、家庭教師のリボーンだ」

 

 

マフィア?!ボス?!僕が?!

 

 

「訳が分からないよ!何言ってるの?!」

 

 

僕が驚いていると、赤ちゃん……リボーンが懐から一枚の紙を取り出した。

 

 

「ボンゴレファミリーの初代ボスは、引退して日本に渡ったんだ。

 

 

それが、デクの曾曾曾祖父さんだ。

 

つまり、お前はボンゴレファミリーの血を受け継ぐれっきとしたボス候補なんだぞ」

 

 

僕が飲み込めずにいると、リボーンはいつの間にか服を着替えていた。

 

 

「そんな話聞いた事無いよ!」

 

 

「心配すんな。俺が立派なマフィアのボスに教育してやる」

 

 

「何を勝手な事を……」

 

 

そもそも僕がマフィアのボス候補なんて話も信じられないのに……。

 

ていうか!

 

 

「それ僕のベッド!」

 

「おやすみタイムだ。また明日な」

 

「ちょっと!……って、何仕掛けてるの?!」

 

 

なんか、僕のベッドの周りにワイヤーとか手榴弾とかが……。

 

 

「言い忘れてたが、俺の眠りを妨げると、ブービートラップが爆発するぞ。

 

スピー……スピー……」

 

「目を開けたまま眠ってる……ていうかまだ夕方だし、何も教わって無いんだけど?!」

 

 

そんなこんなで、僕とリボーンの出会いの日は幕を閉じた。




次回予告!

出久「どうしよう。今日来た家庭教師のリボーン、めちゃくちゃ変な人だったよ」

リボーン「一々うるせぇ。ドタマぶち抜くぞ」

出久「うわっ?!その銃何処から出てきたの?!」

リボーン「とにかく、次回は今日以上にやべぇ奴が出てくるみてぇだぞ」

出久「えぇ?!リボーン以上にやばい人?!」

リボーン「今は明日に備えて寝るとするか。スピー スピー…」

出久「って、だからそれ僕のベッド!

ってあぁ、時間が無い!

次回!『標的(ターゲット)2 死ぬ気の強さ』

更に向こうへ!Plus ultra!!」


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標的(ターゲット)2 死ぬ気の強さ

「ひ、ひどいよかっちゃん……。

 

な、泣いてるだろ?」

 

 

日差しの強い、ある夏の日。

 

俺は震えてる幼馴染の前に立っていた。

 

威嚇ように手を爆発させながら

 

イライラしながら、しかし余裕を見せる為に笑いながら。

 

 

「こ、これ以上は、僕が許さゃなへぞ!」

 

 

今のアイツは、酷く滑稽に見えた。

 

 

「フンっ」

 

 

もう一度、手の平から爆発が起こす。

 

これが、俺の"個性"。

 

 

「無個性のくせに」

 

 

そして幼馴染"デク"には、"個性"が無い。

 

 

「ヒーロー気取りか?デク!」

 

 

個性が無ければヒーローにはなれない。

 

誰もが知る現実だ。

 

俺も知っていたし、分かっていた。

 

そしてこの後、デクは何も出来ずに俺と連れ二人にボコボコにされる。

 

そうなるはずだった。

 

 

「僕は、ヒーローになるんだぁぁぁっ!」

 

 

デクの額に、炎が灯った。

 

その事にビビって連れの二人は逃げ出したが、俺は逆に苛立っていた。

 

 

(コイツ、個性あるじゃねぇか!俺を騙しやがったのか!)

 

 

そこから、俺はデクに殴りかかった。

 

デクも俺に殴りかかった。

 

そこからは、泥試合みてぇな状況だった。

 

結局は俺が勝ったが、俺もボロボロだった。

 

余計に腹が立った。デク相手にここまでボロボロになった事もそうだが、デクが個性を隠してやがった事だった。

 

その事を翌日問い詰めてやろうとしたら、デクの野郎は、その事を完全に忘れていた。

 

あの炎を出した事も、俺とやりあった事も………。

 

それが俺の知ってる幼少の頃の記憶。

 

 

 

…………………………

 

 

 

「…………クソが」

 

 

嫌な夢を見ちまった。

 

俺が、あのクソデクとやりあった日の事は、俺以外に誰も知らねぇ。

 

勿論やりあった相手であるデクの野郎もだ。

 

突発的に目覚めた個性のせいなのか、そういう演技なのか。

 

いや、アイツがそんな器用に人を騙せるとは思えねぇ。

 

 

「勝己ーー!!そろそろご飯食べないと遅刻するわよー!」

 

「うっせぇババァ!分かっとるわ!」

 

 

ちっ。もう考えるのはやめだ。こんな事考えると、またデクに会ってイライラするのがオチだ。

 

 

 

…………………………

 

 

 

「今日からお前を立派なマフィアのボスに教育してやる」

 

「だから、僕はマフィアになんかならないよ!」

 

 

今朝起きてすぐ、リボーンが僕に言った一言だ。

 

昨日の事を夢だったなんて思う暇もなく言われた一言。

 

 

「そもそも、僕はヒーローになりたいんだ。

 

マフィアなんかにならないよ」

 

 

そうだ。僕はヒーローになりたいんだ。

 

ヒーローに、ヒーローに……。

 

 

「"無個性"の癖にか?」

 

「っ?!」

 

 

やっぱりこの人も、個性が無い僕を馬鹿にするのか…。

 

そりゃそうだよね。この超人社会で、個性を持っていない方が、もはや異常なんだから……。

 

 

「けど、無個性の人がヒーローになれないなんて決まりは無いんだ!前例が無いだけで、可能性はゼロじゃ!「下らねぇ事を考えてんじゃねぇ」どわぁっ?!」

 

 

蹴られた?!ていうか本当にこのパワーは何なの?!

 

 

「いいかデク。ヒーローってのは命懸けだ。

 

誰かを、今まで会ったこともない奴を救う為に、命を懸けなきゃならねぇ仕事なんだ。

 

確かに前例が無いだけで、無個性はヒーローになれないなんて決まりはない。

 

だが、ヒーローが公的な職業になってからもう長い年月か立ってるが、その中で前例が無いって事は、無個性がヒーローになるのは、土台無理な話って事の証明なんじゃねぇのか?」

 

 

……………凄いなリボーンは。

 

僕が理解してて、けど知らないふりをしていた事を、こんなにあっさりと見抜いちゃうなんて……。

 

 

「まぁ、安心しろ。

 

お前には、個性以外の力が備わってる。

 

個性なんかに負けない、物凄い力がな」

 

 

個性に負けない、個性以外の力?

 

 

「それはなんなの?!教えてよ!」

 

「そんな事よりお前、早く支度しねぇと学校に遅れるぞ」

 

 

学校?……………わぁ?!

 

もうあまり時間無いじゃん!

 

 

「行ってきまーす!」

 

「いってらっしゃい。気をつけてね」

 

 

その後僕は何とか学校に間に合ったんだけど、リボーンの言葉が気になって、授業に集中出来なかった。

 

 

「はぁ……。

 

午後はちゃんと切り替えないとなぁ」

 

「あんな事で一々悩んでんじゃねぇ」

 

 

あんな事でって、自分で言っておいて何を………。

 

ん?

 

 

「なんでリボーンが学校にいるの?!」

 

「生徒の学校での姿を知るのも家庭教師としての仕事だからな」

 

 

いや、普通家庭教師は学校にまで来ないでしょ?!

 

僕がそんな心配をしていた時だった。

 

 

 

「助けてぇぇ!」

 

 

 

「っ?!」

 

 

なんだ今の声?!

 

助けてって、一体何が?!

 

「デク、あっちだ」

 

 

僕が声の出処を探していると、リボーンが学校の校舎を指さした。

 

 

「あれは?!」

 

 

同じクラスの女子?!

 

なんであんな、窓から落ちそうになってるの?!

 

 

「とにかく、ヒーローを呼ばないと!」

 

「そんな暇ねぇぞ。

 

アイツ、今にも落ちそうじゃねぇか」

 

 

本当だ。でも、どうすれば!

 

 

「お前が助ければいいじゃねぇか」

 

「そんな簡単に言わないでよ!

 

僕には個性が無いんだよ?!」

 

 

個性が無ければ、ヒーローになれない。

 

ヒーローみたいに誰かを助ける事が出来ない。

 

だから僕にはどうする事も……。

 

 

「そうやっていつも諦めてんのか?」

 

「え?」

 

 

リボーン、何を言って………。

 

 

「言っただろ。

 

お前には個性なんかに負けない力が備わってるって」

 

「そんなの、今まで使った事無いし、第一本当に僕にそんな力があるの?!」

 

「どうやら俺の出番の様だな」

 

「え?どういう事?」

 

 

リボーンは帽子に乗ってたカメレオンを手に乗せて…って、えぇ?!カメレオンが銃に変わった?!

 

 

「いっぺん死ね」

 

「え?」

 

「死ねば分かる」

 

「ちょ、ちょっと待って!」

 

 

 

バンッ!

 

 

 

リボーンの放った弾丸は空中で割れて、その中から飛び出した炎の様な物が僕の頭を直撃した。

 

 

 

その瞬間、僕は後悔した。

 

これで死ぬんだ。

 

何やってるんだ僕は。

 

死ぬ気になれば、彼女を救えたかもしれないのに。

 

その後悔が、僕の額に炎を灯した。

 

「It’s死ぬ気タイム」

 

 

 

復活(リボーーン)!!」

 

 

 

"俺"の体が、熱いくらいに燃えている!

 

 

「死ぬ気で助ける!」

 

 

っ!手を離した!落ちる!

 

 

「いやあぁぁぁぁぁっ!」

 

「死ぬ気で受け止める!」

 

 

間に合えぇぇぇぇぇぇっ!

 

 

「きゃっ?!………あれ、私、助かった?」

 

 

よし!間に合ったぁ!

 

 

 

 

 

っ?!何を?!

 

……………"僕"が、助けた?

 

凄い!やった!僕が人を助けられたんだ!

 

 

「緑谷?!……って、なんでパンツだけ?!///」

 

「え?うわぁっ!本当だ!なんで?!」

 

 

いつの間に脱げたんだ?!ていうか僕の服どこ?!

 

 

「最後の最後で締まらねぇ奴だな。

 

ほら、お前の服だ」

 

「あ、ありがとう。

 

ていうか、僕の体、どうなってたの?!」

 

 

突然体が燃えるように熱くなるし、なんか、性格も荒くなってた様な……。

 

 

「それは死ぬ気弾の効果だぞ」

 

「死ぬ気弾?何それ?」

 

 

物凄い力って、もしかしてその死ぬ気弾っていうのが関係してるのかな?

 

 

「後で説明してやるから、とりあえず服を着やがれ。

 

そのままじゃお前変態だぞ」

 

「え?あっ、そうだった!」

 

 

それにしても、僕にあんな力があったなんて……。

 

これって、僕もヒーローになれる可能性があるって事だよね!

 

 

 

…………………………

 

 

 

「デクの野郎、結局個性あるんじゃねぇか!」

 

 

俺は最悪な程に苛立っていた。

 

今朝見た夢のせいで元からイライラしてた上に、今日のデクが起こした一連の流れだ。

 

 

「俺を騙しやがったのかのか。

 

あのクソナードが!」

 

 

俺をコケにしやがって……。

 

アイツは絶対許さねぇ………!




次回予告!

出久「まさか僕にあんな力があるなんて」

リボーン「あれがボンゴレに伝わる死ぬ気弾だ」

出久「死ぬ気弾………結局それはなんなの?」

リボーン「それは次回のお楽しみだ。

それに、次回は今日出てきたやべぇ奴がもっとやべぇ事になって出てくるみてぇだ」

出久「そういえばそのヤバい人って結局誰なんだろう。

気になるけどそれはまた今度!

次回!『標的(ターゲット)3 爆豪勝己』

リボーン「更に向こうへ」

出久「Plus ultra!!……って、かっちゃん?」


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標的(ターゲット)3 爆豪勝己

「起きろデク。朝だぞ」

 

 

朝?って、まだ5時じゃないか………。

 

 

「まだ起きるには早いよ……」

 

「仕方ない。ボンゴレファミリー伝統のお目覚め方をやるか」

 

 

何か聞こえるけど、眠くてよく聞こえない……。

 

 

「3、2、1」

 

 

ビリリリリリリリリッ!

 

 

「うわあぁぁぁっ!な、何すの?!」

 

 

急激な痺れで目を覚ました。

 

リボーンを見ると白衣に着替えてよくドラマとかで見る人間に電気ショックを与える奴が……。

 

 

「お目覚めか」

 

「普通、起こすのに一々心臓に電気ショック与える?!」

 

「良かったな、無事に目が覚めて。

 

たまにそれっきり目覚めない奴もいるからな」

 

「それはショック死してるんだよ……」

 

 

稀に出てくるこのとてつもない内容の言葉が怖くてたまらないよ……。

 

 

「ていうか、こんな朝早くに………って、そうか。今日からトレーニングするんだ」

 

「やっと思い出したか、ダメデク」

 

「何その呼び方酷くない?!」

 

 

事の始まりは昨日の夜。

 

死ぬ気弾の事を教えて貰った時だ。

 

 

 

…………………………

 

 

 

「それで、死ぬ気弾ってなんなの?」

 

 

無個性のはずの僕が、あれだけの力を使えたんだ。

 

それに、ボンゴレファミリーに伝わる物らしいし……。

 

 

「死ぬ気弾っていうのは、学校でも言った通りボンゴレファミリーに伝わる特殊弾だ。

 

コイツを脳天に撃ち込み一度殺す事で、そいつの後悔を原動力に死ぬ気になって蘇らせる」

 

「あの時僕、本当に一度死んだんだ……」

 

 

あの時の死ねって言葉は本当だったんだ……。

 

 

「ただ、もしコイツを後悔のない奴に撃ち込んじまうと、その時はただそいつの頭に風穴が開くだけだ」

 

「つまり、後悔していないと使えないって事か」

 

「そうだ。だからこの力に頼らなくてもいいくらいに、お前は強くならなきゃいけねぇ。マフィアのボスになるとしても、ヒーローになるとしてもだ」

 

 

そうだ。僕はもっと頑張らなくちゃいけないんだ。

 

この力があるからってヒーローになれる訳じゃ無いんだ。

 

 

「という訳で早速明日の早朝からトレーニングだ」

 

「え?トレーニング?」

 

「当然だろ。

 

お前は勉強面に関しちゃ俺が教える事は僅かだが、体はまだまだただの中学生だからな」

 

そうか、なるほど。

 

確かに死ぬ気の力が切れた後にどっと疲労感が来た。

 

もしもしこの力を使って戦闘を行った場合、切れた後のインターバルを狙われる可能性もある。

 

それを軽減する為には体作りが重要だって事だよな……。

 

 

「分かったよリボーン。僕やるよ!」

 

 

 

…………………………

 

 

 

これが事の始まりだったんだけど……。

 

 

「なんで僕、海浜公園でゴミ拾いしてるの?」

 

「何言ってんだ。ヒーローの基本は奉仕活動だろ?

 

それに、ボンゴレの起源は街を守る自警団だ。

 

そういう意味じゃ、ヒーローとしてもマフィアとしても、このトレーニングがお前にとってちょうどいいんだ」

 

 

街を守る自警団…………。

 

確かにそこを切り取ればヒーローの起源と似てる。

 

 

「とにかく拾え。

 

重い物や大きい物を運ぶ時には、どの部位をどういう風に使うのかをしっかりと考えろ。

 

そうじゃなきゃトレーニングの意味がねぇ」

 

 

なるほど。

 

全身を鍛えるだけでなく、体の使い方も考えるのか。

 

 

「分かったよ。やってみる!」

 

 

そこから一時間、まずは軽そうな物からやってみることにした。

 

形や大きさで使う筋肉が全然違う!

 

なるほど、これは!

 

 

 

 

そしてトレーニングを終えて、僕は家に戻った。すると母さんが驚いた顔でこっちを見ていた。

 

 

「あれ、出久?!外いたの?!いつから?!」

 

「あ、えっと、リボーンと一緒に、体作りのトレーニングに……」

 

「リボーンちゃんと、トレーニング?」

 

 

これ、ちゃんと伝わるかな……。

 

 

「もう、それならそうと言ってよ。ビックリしたじゃない」

 

「え?」

 

 

心配性の母さんが、こんなにあっさり?

 

 

「あ、トレーニングって事は疲れてるわよね。

 

少し早いけど、朝ごはん食べる?」

 

「あ、うん!食べる!」

 

 

なんか、さっきまでの疲れが一気に飛ぶ様だよ。

 

 

「ママン。俺の分も頼む」

 

「えぇ、分かってるわ。リボーンちゃんの分もちゃんとあるから」

 

 

そういえば、食事と寝床があればいいんだっけ。

 

けど、母さんの適応早いなぁ。

 

 

「いただきます」

 

 

うん。今日も母さんのご飯は美味しいや。

 

 

「出久。学校が終わればまたトレーニングだ。

 

今度は2時間だ。学校で無駄に体力使うんじゃねぇぞ」

 

「学校でそんなに疲れる事はないと思うけどな…」

 

 

昨日みたいな事はそうそう起こらないだろうし。

 

 

「油断は禁物だぞ。

 

常に危機意識を持つ事がヒーローへの第一歩だ」

 

「まぁ、そうだろうけどさ……」

 

 

ちなみに、母さんの前ではなるべくマフィアの話はしない様にリボーンに頼んだんだ。

 

母さんも知ったら混乱するだろうし。

 

 

「ごちそうさま」

 

「今日も美味かったぞ、ママン」

 

「あら、ありがとうリボーンちゃん」

 

 

よし。ご飯も食べたし、着替えて準備をしよう。

 

それから準備を済ませて、部屋で少しだけ今日の予習をしてから家を出た。

 

 

「リボーンは今日も着いてくるの?」

 

「当たり前だろ?俺はお前の家庭教師なんだから」

 

 

理由になってない気がする………。

 

 

「お、緑谷じゃん。昨日は凄かったな」

 

「え?」

 

 

リボーンと話してたら、急に後ろから声をかけられた。

 

 

「えっと、同じクラスの」

 

「そうそう。

 

ていうか昨日のお前本当に凄かったぞ。見直した」

 

 

っ?!こんな風に話しかけて貰えるなんて……。

 

 

「もうお前を無個性だからって馬鹿に出来ないな。

 

それに聞いた話じゃ、お前炎系の個性使えるらしいじゃん」

 

「えぇ?!誰が言ってたのそんな事!」

 

 

僕、昨日炎なんて使った?!

 

 

「なんかクラスで噂になってるぞ。

 

俺は投目で見てたからよく見えなかったけど、なんか額に炎が灯ってたらしいな」

 

 

額に炎?

 

もしかして、それって死ぬ気の状態に出る物なんじゃ?

 

 

「とりあえず、俺部活の朝練あるから、また後でな」

 

「う、うん。また」

 

 

けど、まさか虐められてた僕が、あんな風にクラスメイトと話せるなんて………。これも、ある意味リボーンのおかげかな。

 

 

「良かったじゃねぇかデク。

 

念願の友達だぞ」

 

「うん。そうだね!」

 

 

僕はその後も、色々な人から声をかけられながら教室まで歩いた。

 

リボーンはいつの間にか姿を消していた。

 

昨日みたいに何処から見てるんだと思うけど。

 

 

「ふぅ。こんなに大勢の人と話したのなんて初めてだな」

 

 

話してみると皆いい人ばかりで、ただ雰囲気で僕を虐めてたり馬鹿にしてただけみたいだ。

 

その事もちゃんと謝ってくれたし、なんだか今日はいい事ばかりだよ。

 

 

「あ、緑谷!」

 

「はい?」

 

 

あれ、彼女は昨日の?

 

 

「昨日は本当にありがとう。

 

今まで、馬鹿にしてきたのに、助けてくれて……」

 

「あ、気にしないでよ!体が勝手に動いただけだから!」

 

 

実際、死ぬ気になって無我夢中だったからあながち間違いでもないんだよなぁ……。

 

 

「それでも!」

 

「いいんだ。

 

それより、怪我が無くて本当に良かったよ」

 

 

うん。やっぱりその事が素直に嬉しいや。

 

怪我が無くて、ちゃんと助けられたんだ。

 

僕にしては凄い上出来だよ。

 

 

「…………緑谷、あんた。

 

確かヒーローになりたいんだよね?」

 

「え?あ、あぁ、うん。

 

身の丈に合わない夢だって事は分かってるんだけどね」

 

 

死ぬ気の力があっても、僕自身はまだ全然弱いし。

 

それにリボーンがいなきゃ死ぬ気の力だって使えないんだ。

 

 

「そんな事無い!

 

その、緑谷なら………」

 

「僕なら?」

 

 

僕ならって、なんだろう?

 

 

「……緑谷なら絶対に!いいヒーローになれるよ!」

 

「っ!」

 

 

こんな事、言って貰えるなんて。

 

今まで皆から無理だって言われ続けて、実は自分でももう半分は諦めてたのに………。

 

こうやってちゃんと人に認めて貰えるって、こんなにも嬉しかったんだ。

 

 

「うんっ!ありがとう!」

 

 

少し、泣いちゃったな。かっこ悪いや。

 

リボーンにまた、締まらない奴って言われちゃうかな。

 

 

 

…………………………

 

 

 

それから学校にいる間、今までからは信じられないくらいに僕の周りに人がいた。

 

昨日の事を褒めてくれたり、今までの事を謝ってくれたり。

 

けど、こんなに幸せな事だけが続く訳じゃ無かったんだ。

 

 

「おいデク」

 

 

不意に、昨日から聞いていなかった幼馴染の声が聞こえた。

 

 

「な、何?かっちゃん」

 

「お前、俺を騙してたのか」

 

 

騙す?一体なんの事だ?

 

かっちゃんは何を言ってるんだ?

 

 

「ごめん、よく分からないんだけど……」

 

「ふざけてんのか?てめぇの個性の話だよ!」

 

 

かっちゃんに突き飛ばされて、僕は椅子から落ちた。

 

 

「いたっ?!」

 

「ちょっと爆豪!酷くない?!」

 

「そうだぞ爆豪。やり過ぎだろ」

 

 

皆が一斉にかっちゃんに文句を言う。

 

かっちゃんは更にイライラし始めた。

 

 

「うるせぇ外野は黙ってろ。

 

ていうかお前ら恥ずかしくねぇのか?

 

今まで散々馬鹿にして来た奴がちょっといい所見せりゃ皆で掌返してヘラヘラと仲良しごっこか?」

 

「そ、それは……」

 

「確かに、緑谷の事馬鹿にしてたけど……」

 

 

不味い。このままじゃ揉め事になっちゃうよ!

 

 

「待ってよかっちゃん!

 

その、昨日は無我夢中で、自分でもよく分からない内に力を使ってたんだ!

 

だから、別にかっちゃんを騙してた訳じゃないよ!

 

それに、僕は馬鹿にされてた事なんて気にしないし、その事で皆を責めないでよ!」

 

 

無我夢中で言えば今もなんだけど。

 

それより、こんなにまともにかっちゃんと会話をするのは、久しぶりな気がする。

 

 

「あぁ?なんだデク。

 

ちょっと個性が使える様になったらすぐ俺に反抗か?

 

そんなぽっと出の個性で、ヒーローになれると思ってんのかこのクソナードが!」

 

 

確かにそうだ。

 

まだまともに使えない力じゃヒーローになんか、なれやしない。

 

けど、僕はどうしてもかっちゃんに言わなきゃいけない。

 

 

「じゃあ、かっちゃんはヒーローになれるの?」

 

「なんだと?

 

てめぇ俺を舐めてんのか?!ぶっ飛ばすぞ!」

 

 

ダメだ。ここで折れるな!

 

ここで折れたらいつもの僕だ!

 

変われ!緑谷 出久!

 

 

「ヒーローは困ってる人を助ける為にいるんだ。

 

そんなヒーローになりたいって言ってる人が、人を虐めて傷付けてどうすんだよ!」

 

「っ?!」

 

 

その瞬間、クラス中が凍り付いた様な気がした。

 

 

「なんだと?」

 

 

今までまともに反論してこなかったせいか、かっちゃんが少し動揺している。今なら、言える!

 

 

「僕はずっと、君に憧れてたんだ!

 

凄い個性を持ってて、それを活かす才能もある!

 

けど、君はヒーローとは程遠い行動をしている!

 

それでも、僕は君が凄いって思ったから!

 

だから超えたいんじゃないか!馬鹿野郎!」

 

 

言葉はめちゃくちゃで、言ってる事もめちゃくちゃだ。

 

けど、これで僕の言いたい事は伝えたつもりだ。

 

 

「………なぁ、勝己。もういいんじゃね?

 

結局何言いたいか分からねぇけど、緑谷お前の事嫌ってねぇし、お前だってただ緑谷が憎いだけでやってる訳じゃねぇんだろ?」

 

 

え?どういう事?

 

 

「なぁ緑谷。コイツよ、前に言ってたんだ。

 

身の丈に合わねぇ夢ばかり見てると、いずれ痛い目見るだけだって。

 

実はコイツ、お前の事心配してたんだぜ?」

 

「してねぇわ!」

 

「ほらちょっと黙ってろって」

 

 

ダメだ。考えが追いつかない。

 

かっちゃんが僕を心配?そんな訳……。

 

 

「だから緑谷。怒ってはねぇみたいだけど、改めて勝己の友達として頼む。

 

勝己を許してやってくれねぇか?」

 

「そ、そんな、僕は別に!」

 

 

僕が別に怒ってもないし、許すとかそんな必要無いって言うか、とにかくそういう事を伝えようとした時だった。

 

 

「うっせぇ!黙れ!ぶっ殺すぞ!」

 

「うわっ?!」

 

 

かっちゃんが僕の目の前で爆発を起こした。

 

爆風で体が浮く。

 

そしてたまたま開いてた窓から、僕の体が外に出てしまった。

 

 

「っ?!デク!」

 

「緑谷!」

 

 

驚いた様な顔で、かっちゃんやクラスメイトがこっちを見てる。

 

って、冷静に考えてる場合じゃない!ここは3階で、落ちたら怪我じゃ済まないぞ!

 

 

「全く。世話の焼ける生徒だな」

 

 

え?この声って……。

 

 

「リボーン!」

 

 

ふと気がつくと、僕の体は宙に浮いていた。

 

厳密に言うと、ロープみたいな物が僕の腰に絡まっていて、それで吊るされた状態だった。

 

 

「ご、ごめん。ありがとう」

 

「体幹がなってねぇからこういう事になるんだ。

 

帰ったら体幹も鍛えるぞ」

 

 

うぅ。トレーニングがまたきつくなった予感……。

 

そんな事を考えていると、リボーンが僕の体を教室に戻してくれた。

 

 

「緑谷、大丈夫?!」

 

「う、うん。大丈夫だよ」

 

「けどさっきのは何だったんだ?

 

なんか緑谷の腰に巻き付いてたよな?」

 

 

あっ、そうだ!誤魔化さないと!

 

 

「な、なんか、上の階の人が助けてくれて…」

 

「そうか!じゃあ後でお礼言いに行かないとな!」

 

 

こ、これはこれで墓穴を掘った様な……。

 

 

「ほら、勝己!緑谷に謝れよ」

 

 

そして、かっちゃんの友達がかっちゃんを前に出す。

 

 

「い、いいよ!僕がバランス崩したのも悪いんだし!」

 

「緑谷。そうやっていつも自分のせいにするからこういう事になるんだぞ。

 

ちゃんと怒っていい時は怒った方がいいんだぞ?」

 

 

そう言われてもなぁ……。

 

 

「デク」

 

「っ、かっちゃん、何?」

 

「俺は」

 

 

なんだろう。かっちゃんが、何か言おうとしてる。

 

その時だった。

 

 

「なんださっきの音は!」

 

「っ?!」

 

 

まずい!社会の先生だ!

 

この先生真面目だから、このままじゃかっちゃんが!

 

 

「緑谷!その焦げた制服なんだ?!まさかいじめか?!

 

爆豪!お前がやったのか?!」

 

 

まずいまずいまずい!

 

このままじゃかっちゃんが!

 

 

「あ、すみません先生。

 

実は急に部屋に蜂が入ってきて、爆豪がそれを追い払おうとしてくれたんすけど、ちょうど緑谷も同じだったみたいで。

 

それで爆豪が軽めに使おうとした個性が緑谷が出てきた事に驚いてちょっと制御誤っちゃったみたいで」

 

 

え、なんか凄い設定出来上がった?!

 

 

「何?しかし、校内での個性の使用は禁止されている。

 

どの道校則違反だ」

 

「いや、でも先生。

 

先生だってふとした瞬間に個性使っちゃう事あるでしょ?」

 

「いや、まぁ、そうだが……」

 

 

凄い。先生を押してる!

 

 

「それに爆豪も緑谷も他の皆の為にやろうとしてくれた結果こうなっちゃったんですよ?

 

これはもう不慮の事故って奴ですよ」

 

 

な、なんか、凄いな皆。

 

 

「……じゃあ、今回は不問にしてやる。

 

次からは気をつけるように!」

 

 

凄い!許して貰えた!

 

 

「………行った?

 

はあぁぁっ、疲れた」

 

 

クラスの何人かが椅子や机、床に座り込んだ。

 

 

「ほら、爆豪。一応緑谷に謝っとけ」

 

「…………」

 

「かっちゃん、別にいいよ?僕は気にしないから」

 

 

これ以上はかっちゃんの立場が悪くなっちゃうし、僕はそういう事を望んでる訳じゃない。

 

だからとにかく、ここはかっちゃんと穏便に済むように…

 

 

「悪かった」

 

「…………え?」

 

 

かっちゃんが、謝った?

 

 

「えぇ?!い、いいよ全然!」

 

 

ビックリし過ぎて大きな声を出しちゃった。

 

けど、かっちゃんが、あのかっちゃんが謝るなんて…。

 

 

「これは俺のケジメだ」

 

「ケジメ?」

 

 

どういう事だろう。

 

 

「もうお前を見下さねぇ。

 

個性がある以上はおめぇももう雄英受験する最低条件は揃ってんだ。

 

お前が俺を超えるってんなら、俺は更にその上に行ってやる。

 

いいか。俺が一番強えんだって事を、雄英で証明してやる」

 

 

……………これって、え?もしかして!

 

 

「雄英で、俺の方が強えだって事を証明してやる」

 

 

マジかよ、かっちゃん!

 

 

「すげぇ!あの爆豪が緑谷をライバル認定しやがった!」

 

「やったじゃん緑谷!」

 

「うっせぇ!お前ら全員黙ってろ!」

 

 

凄いな。こんな日が来るなんて思いもしなかった。

 

かっちゃんが僕を認めてくれた。

 

 

「良かったなデク。

 

爆豪の強さはファミリーに必要だ。

 

しっかりとライバルとして高め合えよ」

 

 

リボーンの呟きは、この時の僕には聞こえていなかった。

 

けど、とにかく僕はこの日を絶対に忘れない




次回予告!

出久「まさかかっちゃんが僕の事を認めてくれるなんて」

勝己「まだ認めちゃいねぇ。

雄英に受かって、それからが本当の勝負だ」

出久「そうだね。僕も君を超えられる様に頑張るよ!

次回!『標的(ターゲット)4 現れた男』」

爆豪「更に向こうへぇ!」

出久「Plus ultra!!」


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標的(ターゲット)4 現れた男

「遅せぇぞデク。

 

そなんじゃいつまでたっても終わらねぇぞ」

 

 

リボーンはそう言いながら、僕を冷蔵庫の上から見下ろす。

 

 

「いや、けど急にこんな重い物は無理だよ。

 

もっと順番に……」

 

「そんなんで、爆豪に勝てるのか?」

 

「っ?!」

 

 

そうだ。僕はかっちゃんに認めて貰ったんだ。

 

だから、かっちゃんのその気持ちに答えられる様に、僕も頑張らないと!

 

 

「ほう。少年がこんな朝早くからゴミ拾いか。

 

関心だな」

 

「え?」

 

 

僕が気合いを入れ直していると、駐車場の方から男の人の声が聞こえた。

 

 

「やぁ、少年。驚かせてしまったかな?」

 

 

そこにはまるで、骸骨の様にやせ細った男の人がいた。

 

そして男の人はゆっくりとこっちに歩いて来ていた。

 

 

「あ、いえ!大丈夫です!」

 

 

あれ、いつの間にかリボーンがいない?

 

まぁ、リボーンは僕が人と接する時はいつも消えるし、今日もそんな感じだろう。

 

 

「しかし、なんでまた君の様な少年がゴミ拾いを?」

 

「えっと、その、ヒーローになる為の特訓です」

 

「ほう。ヒーローか」

 

 

一瞬、品定めをする様な目に見えた気がしたけど、気のせいかな?

 

 

「では少年。君の個性はあまり戦闘に向かないタイプなのかい?」

 

「え?」

 

「見た所、個性の訓練と言うより、個性を使う為の体作りに見えたものでね」

 

 

この人凄い。僕のトレーニングの目的を見抜いてる。

 

けど……。

 

 

「………実は、違うんです」

 

「おや、そうなのかい?

 

では私の見当違いか。いやいや、私の目も衰えたな」

 

 

そう言って笑う男の人に、僕は再び首を振って否定した。

 

 

「そりゃ想像出来ませんよ。

 

ヒーローになりたいなら、普通は個性を持ってる事を前提に考えるのが当然ですし……」

 

「まさか、君は……」

 

 

察した、よね?

 

 

「はい。僕は無個性なんです。

 

無個性の癖にヒーローなんて、って思いました?」

 

「………いや、そんな事は無いさ。

 

実はね、私も無個性なんだ」

 

「え?そうなんですか?」

 

 

初めて会った。僕以外の無個性の人………。

 

 

「けど、私も君と同じように諦められなくてね。

 

平和の象徴になりたくて、必死に努力したよ」

 

 

平和の象徴……………。

 

 

「まさか、あなたもオールマイトに憧れて?」

 

「まぁ、そうとも言えるかな。

 

そういうヒーローになりたたいと、常に思っていたさ」

 

 

不思議だ。

 

この社会でオールマイトに憧れていない人の方が少ないはずのに、この人は特別に思える。

 

 

「そうだ。君はどうして、ヒーローになりたいと思ったんだい?」

 

 

僕が、ヒーローになりたい理由………。

 

 

「僕が小さい時、ある動画を見たんです。

 

その動画は、オールマイトが災害救助を行ってて。

 

それを見て僕は、笑顔で誰でも助けてしまう姿を見て僕は、ヒーローになりたいって思ったんです」

 

「驚いたな。

 

君くらいの世代だと、戦っている姿に憧れる子が多いと思っていたよ」

 

 

男の人は驚いた様にそういった。

 

 

「確かに、僕もその姿に憧れてます。

 

けど、やっぱりヒーローの本質は、困ってる人を助ける事だと思うんです」

 

「っ!」

 

 

そうだ。僕は困ってる人を助けられるヒーローになりたくて頑張ってるんだ。

 

 

「そりゃ、人に危害を加える(ヴィラン)は倒さなきゃいけないし、その為に戦わなきゃいけない事もあると思います。

 

だから僕は"助けて勝つ"ヒーローになりたいんです」

 

 

リボーンが言う様に、僕にはマフィアの血が流れてるかもしれない。

 

けど、僕はやっぱりヒーローになりたいんだ。

 

リボーンのおかげで自信もついたし、かっちゃん達とも打ち解けた。

 

けれどそこは、やっぱり曲げられないんだ。

 

 

「少年。名前を教えてくれないか?」

 

「緑谷 出久です」

 

「そうか。

 

緑谷少年。君が目指す道は途方も無く険しいぞ。

 

それでも君は、迷わずに進めるかい?」

 

 

迷い、か。

 

僕は今まで沢山迷ってきたけど、答えは簡単だったんだ。

 

 

「はいっ!」

 

 

もう迷わないし、止まらない。

 

僕の力がどこまで届くかは分からないけど、この手が届く所まで僕は、手を伸ばしたいんだ。

 

 

「応援しているよ。

 

きっと君は、最高のヒーローになれるさ。

 

その心がある限り君は、例え個性が無くとも、ヒーローになれる」

 

 

ここ最近、皆がこうやって僕を認めてくれる。

 

それに応えられる様に、もっと頑張らないと!

 

僕がそう考えていると、男の人はいつの間にか駐車場の方に歩いていた。

 

 

「君がもし、これからもヒーローを目指し続けるなら、何処かで会えるかもしれないな。

 

その時、君がどれだけ成長しているか楽しみにしているよ」

 

「はいっ!また会いましょう!」

 

 

よしっ!それじゃあ特訓の続きだ!

 

あの人も言ってくれたし、気合を入れて頑張るぞ!




次回予告!

出久「今日会った人、いい人だったなぁ」

リボーン「おい、何特訓サボってやがんだ」

出久「あ、リボーン!今までどこに居たの?」

リボーン「そんな事より、次回は時間を飛ばして三年の春だ。

そろそろ進路を考えなきゃな」

出久「そうだね!

って!何あのドロドロした奴!」

リボーン「言い忘れてたが次回は俺はボンゴレ本部に呼び出されてるから、自分の力でどうにかしろよ」

出久「いきなり大ピンチ?!

次回!『標的(ターゲット)5 邂逅』」

リボーン「更に向こうへ」

出久「Plus ultra!!」



…………………………



突然ですが、ご報告があります。

アンケートに協力して頂いた方々、誠にありがとうございました。

今回、自分の中で決められずにアンケートという形で決定しようと思っていたのですが、ある読者の方からのアドバイスを受けて、ボンゴレリングの守護者を「僕のヒーローアカデミア」のキャラに当てはめるという形を取らせて頂きます。

理由と致しましては、「家庭教師ヒットマンREBORN!」のキャラを登場させるとなると、雄英高校編に入った際にどうしてもヒーロー科のキャラを数名削る事になってしまう為です。

アンケートにご協力いただいたにも関わらずこの様な勝手な決定をしてしまい、誠に申し訳ありませんでした。


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標的(ターゲット)5 邂逅

トレーニングを初めてもう2年。

 

海浜公園でのトレーニングは約一年をかけて終わらせて、それ以降はリボーンから格闘術や基礎体力を鍛えるトレーニングをして貰って、今では個性無しの体育の授業ではかっちゃんと競り合う程になった。

 

リボーンのトレーニングは厳しいしキツイけど、着実に僕の力になっている。

 

けどまだ、死ぬ気の力を自分で引き出すには至っていない。

 

そのトレーニングも積んではいるんだけど、リボーン曰くまだ覚悟が足りないらしい。

 

それと最近は通学路でも走って基礎体力を鍛えている。

 

 

「デカい、ヴィランっ!」

 

 

ランニングをしていると、いつも近くを通る電車の駅のすぐ側の線路で(ヴィラン)が暴れていた。

 

ちなみに僕はもう既にヴィランと遭遇した事がある。

 

けど、それはたまたまひったくりの現場に居合わせて、それを捕まえたり、そんな程度だ。

 

その時は警察からは注意と感謝をされた。

 

まぁ、確かにヒーローでも警察でも無いのにそんな事したら本当は危ないし、年齢によってはヴィジランテ判定されてしまう。

 

ちなみにヴィジランテとは、ヒーロー免許を持っていない者が個性を使用しヒーロー活動を行う事、またそれを行う人の事を指す言葉。

 

それは違法行為にあたり、ヴィラン程ではないけど刑罰もある。

 

ヴィジランテ判定されてしまったら、その時点でヒーローへの道が閉ざされてしまうから、それ以降はそういう行動は出来る限り避けてるんだけど。

 

その話をリボーンにしたら「ヒーローへの道が閉ざされたら、迷いなくマフィアのボスになれるな」って言われた。

 

 

そんな事を考えていると、巨大化?していたヴィランが暴れている最中に鉄道の設備の一つを破壊し、線路から落下してきた。

 

下には人がいる。このままでは死傷者が出る。

 

その時だった。

 

 

「ふんっ!くっ、ぐぅぅぅっ!」

 

生身でそれを受け止める人が、英雄(ヒーロー)がそこにいた。

 

 

「デステゴロだ!」

 

「腕っ節一つで正義を貫く!パンチングヒーロー!」

 

 

ヒーロー、デステゴロ。

 

この辺りで活動するヒーローの一人で、パワー型の個性を持ってる。

 

(ヴィラン)との戦闘は勿論、その実高い判断能力等も相まって災害救助でもその真価を発揮する事ができる。

 

 

「はいはい。一応危険だからね。

 

下がって下がって」

 

「おぉっ!災害救助のスペシャリスト!バックドラフトも来たぁ!」

 

 

水を操り規制線を張るのは、同じくこの辺りで活動するヒーローのバックドラフト。

 

個性を使った放水等で火事の現場等では大活躍する。

 

 

「それにしても怪物化とかすげぇ個性。

 

何やらかしたんだ?」

 

「ひったくり。追い詰められて暴れてんだと」

 

「あの個性でひったくりって……」

 

 

僕はとりあえず野次馬の先頭に行き、どんなヒーローがいるのかを観察することにした。

 

 

「キャー!カムイー!」

 

 

すると近くから黄色い声援が上がった。

 

それと同時に、体が樹木で出来ているヒーローが現れた。

 

 

「シンリンカムイ!

 

人気急上昇の若手実力派!」

 

「聞いといて解説か兄ちゃん。

 

オタクだな?!」

 

「あ、いや、あっ、へへへ………」

 

 

ついいつもの癖で…………。

 

っと、恥ずかしがってる場合じゃなかった。

 

ちゃんと観察しないと。

 

シンリンカムイは自身の腕を樹木の根のように伸ばして(ヴィラン)の腕に巻き付ける。

 

(ヴィラン)はそれを振りほどこうと腕を大きく振る。

 

そうなるとシンリンカムイは当然引っ張られる訳だけど、彼は迷わずその腕を引き戻し、狙っていたかの様に駅の屋根に着地した。

 

 

「通勤時間帯に能力の違法行使及び強盗致傷。

 

まさに邪悪の権化よ!」

 

 

そう言ってシンリンカムイは自身の右腕を水平に横に伸ばして、その腕をまるで本物の樹木の様に幾つにも枝分かれさせる。

 

 

「あっ、出ますよ!」

 

「一発派手に見せろよ!樹木マン!」

 

 

出るぞ。シンリンカムイの必殺技!

 

 

「先制必縛!ウルシ鎖牢!」

 

 

腕を前に突き出して、腕の枝で(ヴィラン)を拘束するシンリンカムイの必殺技!

 

 

「キャニオンカノン!」

 

 

その瞬間、巨大な人影が(ヴィラン)を蹴り飛ばした。

 

 

「え?」

 

 

シンリンカムイの間の抜けた声が聞こえた気がした。

 

 

「キタコレキタコレキタコレキタコレ」

 

「うおぉ……」

 

 

唐突に何処からか現れたカメラを構えた人達が一斉にシャッターを切り出した。

 

 

「本日デビューと相成りました。Mt.レディと申します。

 

以後、お見シリおきを」

 

 

決めゼリフなのか、Mt.レディはウインクをしながらそう言った。

 

 

「て、手柄が……」

 

 

シンリンカムイの悲しそうな呟きが聞こえた気がした。

 

 

「巨大化か。

人気も出そうだし凄い個性でもあるけど、それに伴う街への被害を考えると、割と限定的な活躍になって行くか……。

 

いや、大きさは自在か、それか……」

 

「おいおいメモって!ヒーロー志望かよ!

 

いいねぇ!頑張れよ!」

 

 

さっきの野次馬で少し話した人が、サムズアップをしながら笑顔でそう言った。

 

 

「えっ?あっ、はい!」

 

 

僕は元気よく返事をして、その人と別れて学校に向かった。

 

 

 

…………………………

 

 

 

「えー、お前らも3年ということで、本格的に将来を考えていく時期だ」

 

 

教室で、先生がそう話を切り出した。

 

 

「今から進路希望のプリントを配るが、皆……」

 

 

先生がプリントを掴むと、クラスの全員がゆっくりと個性を発動させていく。

 

 

「だいたいヒーロー科志望だよねぇ」

 

 

 

「いえーーーい!」

 

 

 

クラスの皆が個性を発動させながら叫んだ。

 

皆元気だなぁ。

 

 

「んーんー!皆いい個性だ!

 

でも、校内での個性の使用は、原則禁止な!」

 

 

まぁ、もうそこら辺の校則はあってない様な物なんだけどね。

 

皆使ってるけど、先生黙認してるし。

 

 

「先生ぇ!皆とか一緒くたにすんなよ……」

 

 

その時、かっちゃんがそんな声を漏らした。

 

 

「俺はこんな没個性どもと一緒に底辺なんか行かねぇよ」

 

 

まーた、かっちゃんが喧嘩売ってる……。

 

 

「そりゃねぇだろ!勝己!」

 

「そーだそーだ!」

 

「モブがモブらしくうるせぇ!」

 

 

あーもう、またこれだよ。

 

こういう所は治らないんだから……。

 

 

「あー、確か爆豪は雄英高だったな」

 

 

その瞬間、クラス中からザワザワと声が聞こえ始めた。

 

 

「え?」

 

「あの雄英って、あの国立の?」

 

「今年偏差値79だぞ?!」

 

「倍率も、毎度やべぇんだろ?」

 

 

まずいよなぁ。この話題確実に僕にも回って来るよなぁ…。

 

 

「そのザワザワがモブたる所以だぁ…」

 

 

止めるべき?

 

でも、ちょっとこのノリは関わりたくないなぁ…。

 

 

「模試じゃA判定。

 

俺はこの学校(うち)のただ2人の雄英圏内!」

 

 

いや、机の上に立ったら危ないって。

 

行儀悪いし。

 

 

「あのオールマイトをも超えて!

 

俺はトップヒーローとなり!

 

必ずや!高額納税者ランキングに名を刻むのだ!」

 

 

あーあ、もう。心にも無いことを……。

 

そりゃトップヒーローはなりたいんだろうけど、高額納税者は別に目的じゃないでしょ……。

 

 

「そういえば、緑谷も雄英志望だったな」

 

 

あ、まずい。

 

 

「えぇ?!緑谷も?!」

 

「うちのトップ2が二人とも雄英志望?!」

 

「何その胸熱展開!」

 

 

ほらもう、こうなる……。

 

 

「オイコラ、デク!

 

てめぇ個性の制御ちゃんと出来てんだろうなぁ?!」

 

「あ、いや、それはまだちょっと……」

 

 

個性っていうか、死ぬ気モードなんだけど……。

 

 

「お前よくその状態で雄英受けるなんざ言えたな!

 

あぁ?!」

 

「いや、だって」

 

「だってもクソもあるかぁ!

 

冬までに制御出来ねぇんならお前に雄英受けさせねぇぞゴラァ!」

 

 

いや、そんな事言われてもな……。

 

でも確かにかっちゃんの言う通りだ。

 

あと半年までにものに出来なきゃ、雄英に受かるなんて到底無理だ。

 

 

「うん。分かったよかっちゃん!

 

必ず完成させる!僕の力を!」

 

「啖呵切ったんだ。絶対だぞ」

 

 

獰猛に笑うかっちゃんを真正面に捉えるくらいには、僕は成長出来てるみたいだ。

 

 

「くっそぉ!お前らのライバル感堪らないなぁ!

 

先生もそんな青春したかったなぁ!」

 

「かっこいいぞ緑谷!」

 

「爆豪も頑張れよ!」

 

「み、緑谷ならできるよ!///」

 

「これで落ちたら恥ずかしいぞ二人ともぉ」

 

 

な、なんか、すごいな。

 

僕がこんなに多くの人から応援して貰えるなんて……。

 

 

「うっせぇ!受かるわ!」

 

 

かっちゃんに先越されちゃったな。僕も!

 

 

「そうだよ!絶対に受かってみせる!」

 

 

そこからは隣のクラスの先生に怒られるまで、僕達は沢山檄を飛ばしあった。

 

こんなに多くの人から応援して貰えてるんだ。

 

絶対に受かるんだ!雄英高校に!

 

 

 

…………………………

 

 

 

「おいデク。ノート見せろ」

 

「え?うん。いいよ」

 

 

放課後。僕とかっちゃんは教室に残っていた。

 

 

「今朝の事件、見てたんだろ?そこ見せろ」

 

「うん。このページだよ」

 

 

あの日からかっちゃんは、たまに僕のノートを見る様になった。

 

小さい頃から書き溜めてる「将来のためのヒーロー分析ノート」。

 

今では15冊目になる。

 

 

「今朝はMt.レディっていうヒーローのデビュー戦だったんだ」

 

 

その中には勿論かっちゃんの事も書いてある。

 

ていうかクラス全員分あるかな?

 

最近ではヒーローだけじゃなくて、街で見かけた個性とかもノートに書いて分析する様にしてる。

 

そのお陰か、学校で何人かが僕のノートを見に来て、中には自分の個性を分析してくれなんて言う人もいた。

 

別に僕は専門家って訳じゃ無いんだけどな。

 

 

「あの巨大化の個性の奴か」

 

「そうそう!ただ、もしあのサイズにしかなれないなら活動場所が制限されるって言うのが少しネックな所かな」

 

「まぁ、郊外なら活躍出来んだろ」

 

「そうだね。けど都心部での戦いを想定した場合どうなるんだろう」

 

 

放課後にこうやって二人でヒーローを分析するのは、もはや日課になっていた。

 

たまに他の人が参加したりする時もあって、僕は結構この時間が好きだったりする。

 

 

「あっ、そうだった。

 

僕今日はお使い頼まれてるんだった!

 

ごめんかっちゃん!今日は帰るね?」

 

「11番のノート貸せ。あの中に気になるのがある」

 

「あ、うんいいよ。

 

それじゃあまた明日!」

 

 

僕はかっちゃんにノートを渡して、教室を出た。

 

 

 

…………………………

 

 

 

僕はおつかいを終えて、いつもとは違う道で家に帰っていた。

 

 

「あっ、そういえばかっちゃんに爆破の使い方で提案があったんだけど…………。まぁ、明日でいいや」

 

 

この時、もし学校に戻っていたら、運命は変わってしまったかもしれない。

 

 

ニュルニュルニュルニュルニュルニュルッ!

 

 

「っ?!この感じ!」

 

 

こっちに悪意が向いている。(ヴィラン)だ!

 

 

「Mサイズの隠れ蓑……。

 

鍛えてあるし、これはいいの見つけたぁ!」

 

 

「っ!」

 

 

右に躱す。左の壁から伝ってくるから、屈む!

 

 

「避けやがった?!」

 

「凄腕のヒットマンに鍛えられてるから、ねっ!」

 

 

僕は(ヴィラン)の動きを観察して、あのヘドロの様な体がどう動くかを予測して攻撃を躱す。

 

隠れ蓑って言葉から察するに、アイツは体を乗っ取れるのか?

 

そうやって警察やヒーローの手から逃げてたとすると……。

 

 

「お前今まで、何人の人を隠れ蓑にして来たんだ!」

 

「ん?何人?さぁ、覚えてないなぁ!」

 

 

コイツ、やっぱりもう何人か被害者を出してるんだ!

 

出来るならここで抑えたいけど、あの流動体の体を掴めるとは思えないし、鍛えたとは言え僕の体は無個性のままなんだ。

 

どうする!ここで見逃せばまた被害者が出るし、それ以前にコイツが僕を見逃さない!

 

もしオールマイトみたく、拳で衝撃を飛ばせたら!

 

 

「っ?!」

 

 

しまった?!足元のヘドロに気が付かなかった!

 

 

「捕らえたぜガキィ!」

 

 

くそっ!ここまでなのか?!

 

 

 

ガコンっ!

 

 

 

不意に、金属がぶつかる音が鳴ったのが聞こえた。

 

 

 

「もう大丈夫だ少年!」

 

 

 

この、声は?!

 

 

 

「私が来た!」

 

 

 

オールマイト!本物?!

 

だとしたら!

 

 

「オールマイト!コイツは流動体だから、風圧で飛ばして!」

 

「ナイスなアドバイスだ!

 

いいとも。期待に応えよう!」

 

 

(ヴィラン)が飛ばしたヘドロの腕を軽く躱して懐に入ったオールマイトは、拳を引いて構えた。

 

 

 

「TEXAS! SMAAAASH!!」

 

 

 

そして風圧でヘドロを飛ばして、それらを残らず手に持っていたペットボトルで回収して行った。

 

 

「少年!大丈夫だったかい?!」

 

「はい!それより、危ない所を助けて貰って、ありがとうございました!」

 

 

僕がお礼を言うと、オールマイトは「HA-HA-HA!」と笑った。

 

 

「何、それがヒーローって物さ。

 

しかし少年。以前どこかで………」

 

「え?いや、以前にどこかで会いました?」

 

「何処だったか………っ?!」

 

 

なんだ?オールマイトが少し驚いた様にこっちを見てる。

 

 

(思い出したぞ!

 

以前この街を訪れた時に出会った無個性の少年じゃないか!

 

オイオイ見違えたぞ全く!

 

随分と逞しくなったじゃないか!

 

いや、しかし私のあの姿がバレる訳にはいかない。

 

ここは少し申し訳ないが誤魔化さなければ)

 

 

「いや、私の勘違いだったみたいだ。

 

しかし、さっきの(ヴィラン)は酷く興奮状態だったみたいだが、乗っ取れてないのを見るに、まさか戦ったのか?」

 

 

まずい!いくらオールマイトと言っても、ヴィジランテ行動だと思われたら逮捕されるかも!

 

 

「いえ!僕は攻撃を躱してただけです!」

 

 

これでどうにか誤魔化せるといいけど……。

 

 

(いや、私でもギリギリ躱したんだぞ?

 

この少年、一体どんな特訓をしたんだ?)

 

 

「あの、オールマイト?」

 

「え?あぁ、済まないな少年。

 

そうだ。出会えた記念にサインでもどうだい?」

 

 

オールマイトのサイン?!

 

もし貰えるなら、これは家宝物だぞ!

 

 

「是非!」

 

「それじゃあ、何か書けるものを貸してくれるかい?」

 

「はい!」

 

 

僕は将来のためのヒーロー分析ノートを取り出して、一番新しいページを開いた。

 

 

「お願いします!」

 

「よしっ!それじゃあ!」

 

 

そしてオールマイトは力強く見開き一ページを使って大きくサインを書いてくれた。

 

 

「ありがとうございます!

 

一生大切にします!」

 

「HA-HA-HA!!そうしてくれると助かるよ!」

 

 

オールマイトはそう言いながらポケットにヘドロの入ったペットボトルを入れた。

 

 

「じゃあ、私はこれを警察に届けるので。

 

液晶越しに、また会おう!」

 

「はい!」

 

 

オールマイトは少し屈むと、驚異的なジャンプ力で去っていった。

 

 

「もう少し話したかったけど、忙しいよね」

 

 

僕はこの事を明日クラスの皆に話そうと思いながら、再び帰路に着いた。

 

その途中で少しお腹が空いたから何か食べて帰ろうと商店街に向かった。

 

 

 

ドカァァァァァァンッ!

 

 

 

「っ?!爆発?!(ヴィラン)なのか?!」

 

 

僕は慌てて走った。

 

今日は特売日の店があるから、人が多いはず!

 

そんな状態で(ヴィラン)が暴れてるなら!

 

 

「なんで一日にこう何人も!」

 

 

オールマイトの存在によって、日本の(ヴィラン)犯罪件数は他国と比べて圧倒的に少ないと言っても、(ヴィラン)が全ていなくなる訳じゃないのは分かってる。

 

けど一日に複数の(ヴィラン)が別々に事件を起こすなんてあまりない事だ。

 

とにかく行こう。

 

今回は何か、胸騒ぎがする!

 

 

 

 

 

そして僕は、そこで信じられない物を見たんだ。

 

 

「さっきの、ヘドロの(ヴィラン)?!」

 

 

なんで?!さっきオールマイトが捕まえたはずじゃ?!

 

 

その時、僕の視界に、更に信じられない物が写った。

 

 

「…え、かっちゃん、なのか?」

 

 

かっちゃんが捕まってる?どうして?!

 

けど、それならさっきの爆発も納得いく。

 

あのヘドロの(ヴィラン)に爆発を起こす類の力は無いはず。

 

なら、(ヴィラン)に抵抗したかっちゃんが爆破の個性を使ったって考えれば、全てが………って、そんな事を考えてる場合じゃ無い!

 

考えろ、緑谷 出久!

 

個性の無い僕じゃ、あの(ヴィラン)を倒す事なんて出来ない。

 

周りにいるヒーローに、相性のいい個性のヒーローはいなさそうだ。

 

じゃあオールマイトだ。

 

けど、オールマイトが何故か姿を表さない。

 

あのオールマイトが(ヴィラン)を逃がしたままにするのか?

 

いや、しないはず。

 

それなら、何か理由があるはずだ。ここに来られない理由が。

 

 

「……………賭けるのか。そんな小さな希望に」

 

 

オールマイトが何かしらの影響で足止めを食らってるなら、その間時間を稼ぐしかない!

 

 

「くっそ!」

 

 

足が、勝手に前に進んでいた。

 

でも、そうするしかないんだ。

 

相性のいい個性のヒーローがいない今、多分誰も手を出そうとしていない。

 

それにかっちゃんが人質なのも厄介だ。

 

ならいっそ、僕が囮になればいい!!

 

 

「っ?!馬鹿野郎!止まれ!止まれぇ!」

 

 

誰かの声が聞こえた気がした。

 

でも、もう止まれない。

 

ここで一歩でも止まれば、一瞬で(ヴィラン)の攻撃を食らう!

 

 

(ヴィラン)!こっちだ!」

 

「っ?!お前、さっきのガキ!」

 

「デクっ?!」

 

 

よし、注意がこっちに向いた!

 

こういう時は、25ページ!

 

 

「いっけぇ!」

 

 

僕はバックを開けて(ヴィラン)に投げつけた。

 

すると狙い通りに中身が散らばって(ヴィラン)の視線が逸れる。

 

それと、ちょうど目に筆箱が直撃して(ヴィラン)が苦しむ。

 

 

「ゲホッ!ごっ、うえっ!」

 

「かっちゃん!」

 

 

くっそ!やっぱり掴めない!

 

 

「何やってんだお前!

 

今のお前が来てどうにかなる相手か?!」

 

「そんなの、僕だってわかってるよ!

 

でも、君が、助けを求める顔してた!」

 

「しとらんわボケ!」

 

 

このままじゃ、せっかく作った隙が無駄になる!

 

どうする?!

 

 

「もう少しなんだから、邪魔するなぁ!」

 

「っ?!」

 

「無駄死にだ!自殺志願かよぉ!」

 

 

くっそ、ここまでか!

 

 

「よくやったなデク。ご褒美だ」

 

「っ?!」

 

 

この声、リボーン?!イタリアに戻ってるんじゃ?!

 

 

その瞬間、僕の脳天に衝撃が走った。

 

そして僕は後悔した。

 

何やってんだ僕は……。死ぬ気になれば、かっちゃんを救えたかもしれないのに………。

 

そして僕の額に、炎が灯った。

 

 

 

復活(リボーーン)!!」

 

 

 

「死ぬ気で勝己を救う!」

 

「っ?!なんだこのガキ?!」

 

「っ!デク!」

 

 

ヘドロを掴めないなら、勝己を掴めばいい!

 

俺が勝己を助けるんだ!

 

 

「うおぉぉぉぉぉっ!」

 

 

俺は勝己の腕を掴んで、ヘドロから引っこ抜いた!

 

これなら、心置き無く吹き飛ばせるだろ!

 

 

「オールマイトォォォォッ!」

 

 

「情けない。

 

ファンがここまでやってくれたんだ!

 

もう一度、期待に応えよう!」

 

「オールマイトォォォッ!」

 

 

ヘドロが、オールマイトを襲おうとしている!

 

俺が止める!

 

 

「感謝するよ少年!

 

行くぞ(ヴィラン)

 

プロはいつだって命懸けぇぇぇっ!」

 

やれ!オールマイトォォォッ!

 

 

 

「DETROIT! SMAAAASH!!」

 

 

 

ヘドロは風圧でバラバラに飛んでいき、かっちゃんを掴んでいた僕は、オールマイトに掴まれて何とか吹き飛ばずにすんだ。

 

その後、オールマイトが起こした突風で上昇気流が生まれ、その日の天候を変えてしまった。

 

その雨のせいか分からないけど、僕の額の炎はいつの間にか消えていた。

 

 

 

…………………………

 

 

 

その後、散ったヘドロはヒーロー達に回収され、無事警察に引き取られたみたいだ。

 

そして僕はヒーローに怒られた。

 

君が危険を冒す必要は無かったとか、自殺行為だとか……。

 

確かにそうだ。僕はヒーローでも何でもない一般人だ。

 

ヒーローからしたら、守らなきゃいけない物が率先して死地に飛び込んで行く様なものだったろうし。

 

けどその後に、少しだけ感謝をされた。

 

僕が時間を稼いだからオールマイトが到着出来たとか、その他諸々。

 

正直あそこにオールマイトがいるかどうかは、賭けだったんだけどね。

 

 

「オイ!デク!」

 

 

僕がそんな事を考えながら歩いていると、後ろからかっちゃんが走って追いかけて来た。

 

 

「かっちゃん?どうしたの?」

 

「俺は、お前に助けなんか求めてねぇぞ」

 

 

その事か……。

 

あの時僕も夢中だったから何言ったかあまり覚えてないけど、それは覚えてる。

 

うん。絶対言うと思った。

 

 

「あんな(ヴィラン)、俺一人でどうにか出来たんだ」

 

 

まぁ、平常時なら余裕だろうけど………。

 

 

「………けど、今日は助かった」

 

 

かっちゃんがちゃんとお礼を言うと、最近あまり珍しくなくなってきたなぁ……。

 

 

「けどなぁ!もうこんな恥は晒さねぇ!

 

借りは必ず返す!そんだけだ!じゃあな!」

 

 

怒涛の勢いで喋って帰っていった。

 

 

「まぁ、かっちゃんらしいや」

 

 

僕は改めて帰ろうとした時、振り返ったそこには、やせ細った男の人が立っていた。

 

 

「やぁ、少年」

 

 

この人何処かで?

 

…………あぁ!

 

 

「二年前の!お久しぶりです!」

 

 

僕がお辞儀をして顔を上げると、彼は面白そうな顔でこっちを見ていた。

 

 

「そうか。君からしたら2年ぶりの再会なんだな。

 

まぁ、かくいう私も昼まではそうだったんだが」

 

 

どういう事だろう?

 

君からしたらって事は、あの人と僕は一度会ってるけど、気付いてないだけ?

 

 

「それより少年。少し場所を変えて話さないかい?」

 

「え?まぁ、いいですけど」

 

 

男の人は、僕を2年前に出会った海浜公園まで連れて歩いた。

 

 

「あの、もしかして今日何処かでお会いしましたか?

 

すみません、僕全然分からなくて」

 

「すまないな。その時は違う格好をしていたんだ」

 

「あっ、なるほど」

 

 

それなら納得だ。

 

けど、結構特徴的だから会ったらさっきみたいに気付けたはずだけどな……。

 

 

「その時の姿になるとね」

 

 

そう言うと、男の人から蒸気が発せられて、その体がどんどん筋肉質になっていく。

 

 

「私がいた!ってね」

 

「…………へあ?」

 

 

嘘、だろ?

 

だって、さっきまであんなにガリガリで、っていうか!

 

 

「オールマイト?!」

 

「そう!私はオールマイ、ぐはぁっ?!」

 

「うわあぁぁぁっ?!」

 

 

血を吐いて元に戻った?!

 

こ、これって一体?

 

 

「すまない少年。驚かせてしまったね」

 

「い、いえ……」

 

 

ガリガリの姿からオールマイトの姿。

 

そして血を吐いて元に戻る…。

 

これってつまり……。

 

 

「オールマイトの体が、弱っている?」

 

「勘がいいな少年。その通りだ」

 

 

考えた中で、一番最悪の可能性が当たってしまった……。

 

オールマイトの弱体化……。

 

前々から噂はされていた。

 

最近活動の頻度が低いだとか、メディア対応が短くなってるとか、色々な噂があった。

 

そしてこのガリガリの体。

 

今までオールマイト最大の謎であったプライベート。

 

この姿なら、見つかる事は無いから、ある意味納得だ。

 

 

「実はな少年。

 

私は君に、質問と提案をしに来たのだよ」

 

「質問と、提案?」

 

 

オールマイトから、僕に?

 

一体何なんだ?

 

 

「君はもしかして、ボンゴレファミリーの関係者じゃないのかい?」

 

「…………………え?」




次回予告!

出久「なんでオールマイトがボンゴレの事知ってるんだ?!」

リボーン「さぁな。理由はお前が考えろ」

出久「ていうかリボーン!今日はイタリアに戻ってるはずじゃなかったの?!」

リボーン「急遽予定が変わってな。

それより、次回は遂にオールマイトの秘密が明かされるみてぇだな」

出久「っ!そうだよ!僕なんかに大切な秘密を…」

リボーン「シャキッとしやがれ。

相変わらずのダメデクだな」

出久「酷くない?!

ってもう時間が無いや!

次回!『標的(ターゲット)6 ONE FOR ALL』

更に向こうへ!」

リボーン「Plus ultra。死ぬ気で見ろよ」


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標的(ターゲット)6 ONE FOR ALL

「君はもしかして、ボンゴレファミリーの関係者じゃないのかい?」

 

「…………………え?」

 

 

ちょっと待て。なんでオールマイトの口からボンゴレファミリーの名前が?!

 

 

「え、いや、その」

 

 

まずいまずいまずい!

 

一先ず落ち着け!

 

オールマイトはヒーローで、僕がマフィアのボス候補なんて知ったら捕まっちゃうんじゃ?!

 

 

「あ、そうか。

 

大丈夫だ少年。私はボンゴレファミリーは(ヴィラン)組織ではない事は理解している。

 

捕まえたりはしないさ」

 

「え?!

 

ど、どういう事ですか?!」

 

「私は昔ボンゴレファミリーに助けて貰った事があってね。

 

それに以前、ボンゴレファミリーの方に修行をつけて貰った事があるんだよ」

 

 

ボンゴレファミリーの人って、まさかリボーンじゃないよな?

 

いや、でもあの強さなんだ。有り得なくもないけど…。

 

 

「君があの時額に灯したあの炎。

 

あれは死ぬ気の炎なんだろ?」

 

 

死ぬ気の炎。

 

確か前にリボーンから聞いた事がある気がする。

 

 

「は、はい。一応は……」

 

「少し話を聞かせて貰えないかな?

 

君がボンゴレファミリーとどういう関係なのか」

 

 

どういう関係、か。

 

え、言って大丈夫なのか?

 

幾ら何でもボス候補だなんて言っていいのか?

 

 

「ソイツはボンゴレファミリー10代目ボス候補だぞ。俊典」

 

「「っ?!」」

 

 

その時、背後から声が聞こえた。

 

僕とオールマイトが振り返ると、そこには木の枝の上に立つリボーンがいた。

 

「「リボーン(師匠)?!……………え?」」

 

 

なんでオールマイトもリボーンの事……。

 

ていうか師匠って、まさか?!

 

 

「久しぶりだな俊典。

 

いや、オールマイトって呼んだ方がいいのか?」

 

「いやぁお久しぶりですリボーン師匠!

 

その後はお変わりなく?」

 

「見ての通りだ。

 

お前は随分変わっちまったな」

 

「お恥ずかしい限りです…」

 

 

やっぱり、オールマイトが以前修行を受けたのは、リボーンだったんだ……。

 

 

「ところで師匠。

 

先程、少年がボンゴレファミリー10代目ボス候補だと仰いましたが、それは本当ですか?」

 

「あぁ。デクは正真正銘ボンゴレのボス候補だ」

 

 

僕、やるなんて一言も言ってないのに……。

 

 

「では、提案の方は厳しいですね……」

 

「っ!そうだ!その提案って何なんですか?」

 

 

僕が一番気になっていた所だ。

 

オールマイトの提案って、一体何なんだろう。

 

 

「お前まさか、ONE FOR ALLをデクに継がせる気だったのか?」

 

 

ONE FOR ALL?なんだ?一体なんの事だ?

 

 

「流石はリボーン師匠。その通りです」

 

 

オールマイトは肯定してるけど、僕には全く分からない。

 

 

ONE FOR ALLってなんだ?

 

それと、継がせるって一体?

 

 

「まぁ、いいんじゃねぇか?

 

一応デクはヒーロー志望だ。

 

ONE FOR ALLを継げる体は出来てるしな」

 

「えぇ。それに今日の彼を見て思ったんです。

 

彼は"最高のヒーロー"になれると」

 

 

オールマイトから物凄い事言われてるけど、疑問が多過ぎてまともに受け止められない。

 

 

「ちょっと待って!さっきからONE FOR ALLとか色々何の話をしてるんですか?!」

 

 

二人とも説明無しで会話進めるから全く分からないよ!

 

 

「あ、あぁ。説明がまだだったね。

 

リボーン師匠。私からでよろしいでしょうか?」

 

「そりゃあお前の力なんだからお前が話すのが筋だろ」

 

 

オールマイトの力?

 

 

「少年。私の個性の話だ」

 

「オールマイトの個性?」

 

 

ネットじゃ超パワーとかブースト系って噂を聞くけど、それがさっき言ってた"ONE FOR ALL"っていうのと関係あるのかな?

 

 

「そうさ。

 

私の個性、それは力を蓄え譲渡する個性。

 

冠された名が、ONE FOR ALLという訳さ」

 

 

力を蓄え譲渡する個性?

 

そんな個性、本当にあるのか?

 

 

 

 

 

いや、待てよ?2年前の会話を思い出せ。

 

 

『実はね、私も無個性なんだ』

 

 

あの時オールマイトは自分の事を無個性だって言った。

 

オールマイトの性格上嘘は言わないはずだ。

 

けど、オールマイトは個性を持っていた。

 

それはつまり………。

 

 

「オールマイトは元々無個性だったんですね」

 

 

「相変わらず勘がいいな君は。

 

その通りさ。私はお師匠……先代からONE FOR ALLを受け継ぐまでは無個性だったのさ」

 

 

元は無個性だった人間がNo.1ヒーローになれるほどの力……。

 

いや、違う。

 

確かにONE FOR ALL自体が凄い力を持っているんだろう。

 

けど、やっぱりその力を持ったオールマイトだからこそNo.1ヒーローになれたんだ。

 

 

「そこで少年。先程の提案の話だ」

 

 

ここまで情報があれば、流石に僕でも分かる。

 

 

「その個性を、僕に?」

 

「そうだ。

 

一人が培い、また一人へ。そうやって正義の心と義勇の心で紡がれたこの個性。

 

次は君の番だと言う事さ」

 

 

以前の僕なら、喜んで飛び込んだかもしれない。

 

ヒーローになりたいという心ばかりが先に出て、現実を見ようとしていなかった僕なら。

 

正直に言えば今も二つ返事で引き受けたい。

 

けど、自分の力を認識している今は思ってしまう。

 

本当に僕でいいんだろうか、と。

 

 

「……少年。迷っているのかい?」

 

 

オールマイトが不安そうにこちらを見ている。

 

するとリボーンが僕に近付いて、その目で僕を撃ち抜くかの様な視線を僕に向けた。

 

 

「はっきり言っておくぞ。

 

この力を受け取ったからって、No.1になれる訳でもなければ必ずヒーローになれるという保証もない。

 

重荷になるくらいなら、受けねぇのが得策だ」

 

「リボーン師匠?!」

 

「黙ってろ俊典。

 

これは俺とデクの、教師と生徒の話だ」

 

 

リボーンの言う通りだ。

 

力を生かすも殺すもそれを持つ人間次第だ。

 

そして、その力を何の為に使うかもだ。

 

 

 

以前、とある番組の中で(ヴィラン)犯罪で捕まって公正した人のインタビューを見た事がある。

 

その人は会社の不当解雇に、会社を襲撃という形で抗議したんだ。

 

勿論そんな事をすればヒーローや警察に捕まるし、事実その人は事件を起こしてから一時間でヒーローに取り押さえられた。

 

そしてそのインタビューの中で、自分が(ヴィラン)になった理由というものがあった。

 

その中でその人は「社会の不平等さや不条理さを身をもって感じ、どうしても我慢出来なかった」と言った。

 

社会の不平等さなら、僕も知っているし、もしかしたらその人よりもよく知っているかもしれない。

 

そんな僕が大きな力を手に入れて、本当に正しく使えるのか。

 

僕には、分からなかった。

 

 

「デク。お前がオールマイトに憧れてるの話だ知ってるし、否定する気もねぇ。

 

だがお前が思ってる程コイツは無敵じゃねぇんだ」

 

「どういう、事?」

 

「俊典。お前が話せ。

 

ONE FOR ALLの始まりと、お前の宿敵について」

 

 

ONE FOR ALLの始まりと、オールマイトの宿敵?

 

始まりって事は、初代のONE FOR ALL保持者の事だろうけど、オールマイトの宿敵って誰だ?

 

 

「そう、ですね。

 

何も言わずに継承させてはいけませんよね…」

 

 

オールマイトは話すつもりみたいだけど、一体何なんだ?

 

 

「まず、ONE FOR ALLを語る前に話さなければならない(ヴィラン)がいる。

 

その(ヴィラン)の名はオールフォーワン。

 

個性はその名と同じALL FOR ONE。

 

個性を奪い、与えるという力だ」

 

 

個性を奪い、与える個性?

 

そんな滅茶苦茶な個性があっていいのか?

 

 

「続けるよ。

 

オールフォーワンには弟がいたんだ。

 

私や君と同じく、無個性の弟がね」

 

 

無個性の弟………。

 

個性を奪い与えるALL FOR ONE。

 

力を蓄え与えるONE FOR ALL。

 

オールマイトが話したって事は、偶然じゃないよな?

 

………………いや、待てよ?

 

もし仮に、弟が無個性じゃない場合どうだ?

 

兄が個性を奪い与えるという個性に対して、もし与えるだけの個性なら、個性を持っていること自体に気付いてないだけだとしたら?

 

 

「オールマイト、待ってください」

 

「どうしたんだい、少年」

 

「もしかして、オールフォーワンは弟に、個性を与えたんじゃないですか?」

 

 

僕が言うと、オールマイトが驚いた様に、リボーンは少し笑ってこっちを見ていた。

 

 

「正解だ少年。どうして分かったんだい?」

 

「ONE FOR ALLが"蓄え与える"個性で、ALL FOR ONEは"奪い与える"個性。

 

この2つの共通点として、"与える"という事があって、兄弟なら遺伝が似通った個性を持っていても不思議じゃないし、もしそれが与えるだけの場合、持っていること自体に気付けない可能性もあります。

 

もしその弟に、力を蓄積する個性を与えたとしたら、それがONE FOR ALLの始まりって事になるんじゃないでしょうか?」

 

「あぁ。私が説明するまでもなく、その通りだ」

 

 

どうやら合っていたみたいだ。

 

 

「二つの個性が交わり、一つとなった。

 

それがONE FOR ALLという個性さ。

 

巨悪を倒す為の力は、巨悪その物が生み出したんだ」

 

 

オールフォーワンは、ONE FOR ALLを生み出してどう思ったんだろう。

 

後悔したんだろうか。それとも歓喜したんだろうか。

 

 

「ONE FOR ALLの継承者は必ず巨悪と対峙する運命にある。

 

その運命を受け入れてくれるのなら、この紡がれた力を、受け継いでくれないだろうか」

 

 

巨悪と戦う運命……。

 

 

「お前次第だぞ、デク」

 

ボンゴレファミリー10代目ボス候補としての運命。

 

ONE FOR ALLの継承者としての運命。

 

どちらも決して軽いものじゃない。

 

僕に背負えるだろうか。

 

2年前まではただの無個性だった僕に、そんな大事な力を受け継ぐ資格があるんだろうか。

 

 

「…どうして、僕なんですか?」

 

「そうだな。

 

初めて君に会った時。ヘドロと戦う君を見た時。

 

そして友を助ける為に走り出した君を見て、私は思ったんだ。

 

無策でも、無謀でも、友の為に走り出した君は、あの場の誰よりもヒーローだった。

 

活動限界を言い訳に、他のヒーローに任せようとしていた私なんかよりもずっと。

 

だからこそ、私はあの時動かされたんだ」

 

 

……………僕はヒーローになりたい。

 

けど、もしこのまま死ぬ気の力を使いこなせなければ、雄英合格なんて夢のまた夢だ。

 

ならばいっそ、賭けてしまおう。

 

僕の夢を、目標を、ONE FOR ALLに。

 

 

「オールマイト。

 

僕はあなたに憧れてヒーローを目指しました。

 

でも、無個性という大きすぎる壁に阻まれて、僕はもう無理なんだろうと諦めていました。

 

そんな時なんです。リボーンに出会ったのは。

 

リボーンに出会って、初めは滅茶苦茶な人だって思ったけど、僕がマフィアのボスになりたくないって言ってもちゃんと色々な事を教えてくれたし、ヒーローになりたいって言う夢も否定しなかった。

 

そして、今日こうしてあなたと出会えた。

 

僕は、沢山の物を貰って、育ってきたんです。

 

だから、それを返せる力なら、僕は欲しいです」

 

 

これが僕の気持ちだ。

 

 

「僕が皆の為に出来ることを、やってみたいんです」

 

 

リボーンは笑い、オールマイトも笑う。

 

 

「よく言ったな、デク」

 

「ありがとう!少年!」

 

 

二人から祝福されている。

 

そして何人もの人から応援されている。

 

もう、僕は諦めたりしない。しちゃいけないんだ。

 

 

「さぁ、授与式だ!緑谷出久!」

 

「はい!」

 

 

オールマイトは再びムキムキの姿になり、僕に笑いかける。

 

 

「これは受け売りだが、最初から運良く授かった者と選ばれ譲渡された者では、その本質が違う。

 

肝に銘じておきな。

 

これは、君自身が勝ち取った力だ」

 

 

そう言ってオールマイトは、自分の髪の毛を1本抜いた。

 

 

 

「食え」

 

 

 

「……………へあ?」

 

 

信じられない言葉に信じられない声が出た僕だった。

 

 

「別にDNAを摂取出来れば何でもいいんたけどさ!」

 

「思ってたのと違いすぎる!」

 

「はぁ………相変わらず締まらねぇ奴らだな」

 

 

こうして僕の、新たな運命が幕を開けた。




次回予告!

オールマイト「緑谷少年、おめでとう!」

出久「ありがとうございます!」

オールマイト「いやぁ、しかし君がボンゴレファミリーの次期ボス候補だったとは!」

出久「僕も初めて聞いた時は冗談だと思いましたよ…」

オールマイト「さてと、それじゃあ明日からONE FOR ALLを使う為の訓練を始めようか!」

出久「はい!よろしくお願いします!」

オールマイト「いい返事だ!

っと、そろそろ時間だな。

次回!『標的(ターゲット)7 語られる過去と特訓開始』

それではご唱和ください!」

出久・オールマイト「「更に向こうへ!Plus ultra!!」」


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標的(ターゲット)7 語られる過去と特訓開始

「では、私からの訓練を今日から本格的にスタートしよう!」

 

 

ガリガリの姿、トゥルーフォームでオールマイトはそう言った。

 

 

「はい!

 

けど、ここは?」

 

 

ONE FOR ALLの継承から一夜明けて、僕達はある山奥の施設に来ていた。

 

 

「ここは場内であれば個性の使用が認められている施設でね。

 

ヒーローが新技を編み出す為等に使用しているんだ」

 

「ヒーローが使う施設?!」

 

 

ヒーローの使う施設で特訓出来るなんて………。

 

 

「と言っても、会員制のトレーニングジムなのだけどね。

 

今回は私の紹介という事で入会させて貰ったのさ」

 

 

オールマイトの紹介!

 

そんな、僕の為にここまでしてくれるなんて………。

 

 

「けど、こういう所って結構お金かかるんじゃないですか?」

 

「心配すんな。お前を鍛える為の予算は、俺がボンゴレ9世から預かってる」

 

 

僕が心配をしていると、オールマイトの肩に乗るリボーンがそう言った。

 

けど、ボンゴレから出る予算って……。

 

 

「おぉ。ボンゴレから!それは頼もしい」

 

 

オールマイトもノリノリだ。

 

けど、そう言えばオールマイトとボンゴレの関わりって、大丈夫なんだろうか?

 

ボンゴレファミリーはイタリア最大手のマフィアだってリボーンが言ってた。

 

そんな所とNo.1ヒーローが関わりを持つって少し不味い気もするんだけど。

 

 

「あの、オールマイト」

 

「どうしたんだい?緑谷少年」

 

 

ここは思い切って聞いてみよう。

 

これから関わっていくのに、疑心とかあったら失礼だし。

 

 

「もしかしたら、失礼な質問になるかもしれないんですけど……。

 

オールマイトとボンゴレの関わりって、一体なんなんですか?

 

正直、No.1ヒーローとイタリア最大手のマフィアの関係って、想像出来なくて……」

 

 

僕の言葉に、オールマイトは呆気に取られた様な表情になった。

 

 

「リボーン師匠、教えていないのですか?」

 

 

オールマイトは驚いた表情になってリボーンにそう聞いた。

 

 

「俺はデクに必要だと思った情報しか与えねぇんだ。

 

無駄な情報は混乱の元になるからな」

 

 

オールマイトは、リボーンが教えたものだと思っていたらしい。

 

まぁ、僕も聞かなかったし、そう思われても仕方ないか。

 

 

「とにかくそこら辺の話も中でしよう」

 

 

そう言ってオールマイトは僕を中に招き入れた。

 

そして個室の休憩室の様な場所に案内された。

 

 

「私とボンゴレファミリーの関係だったね」

 

「はい」

 

 

どうやらちゃんと聞かせて貰えるみたいだ。

 

一体どんな関係なんだろう。

 

 

「実はね、最初の出会いは十年前なんだ。

 

イタリアから応援要請を受けた私は現地で大型(ヴィラン)組織と戦闘になったんだ。

 

その時に助けてくれたのが9代目率いるボンゴレファミリーとリボーン師匠だったという訳さ」

 

 

十年前の、イタリアからの応援要請?

 

初めて聞く話だ。

 

 

「その後イタリア政府からボンゴレについて聞いてね。

 

初めはマフィアだって知って(ヴィラン)だと思ったんだが、ボンゴレが実は裏の政府公認組織である事を知ってね。

 

どうやら政府ですら手を焼く案件を引き受ける代わりにその存続を保証されているらしい」

 

 

イタリアでそんな事が……。

 

 

「その一件以降はイタリアに行く機会も無くお礼を言いそびれていてね。

 

そんな時だったんだ。

 

7年前に、ボンゴレである反乱が起こったんだ」

 

「反乱って事は、ボンゴレ内での争いって事ですか?!」

 

 

僕の質問に、オールマイトは頷いた。

 

 

「その反逆の時に、俺が俊典を呼んだんだ」

 

 

リボーンがオールマイトを?

 

リボーン自身があれ程の強さを持ってるのに、オールマイトを呼ぶ程の事態って、滅茶苦茶やばかったんじゃ?

 

 

「まぁ、私が到着した頃にはほとんどが終了していたのだがね」

 

「そうなんですか?

 

じゃあ、やっぱりリボーンが倒したの?」

 

「いや、その時俺は任務で日本に居てな。

 

俊典と一緒に戻ったんだ」

 

 

それじゃあ、誰がその反乱者を?

 

リボーンがオールマイトを呼ぶ程の相手を倒せるなんて、相当の強さだぞ?

 

 

「反乱を治めたのは、現ボンゴレファミリーのボス。

 

つまりボンゴレ9世だ」

 

「ボンゴレ9世……僕を次のボスに指名した人?」

 

「あぁ、その通りだ。

 

俺は決着が着いた後の残党狩りにしか参加してねぇから、どうやって退けたかは知らねぇがな」

 

 

ボンゴレ9世って、そんなに強かったのか……。

 

 

「そして、それから一年後に借りを返す為にボンゴレファミリーは俊典の宿敵であるオールフォーワンとの戦いに手を貸したんだ。

 

イタリア政府を通じて、日本の政府と警察に許可を得てな」

 

 

オールフォーワンとの戦いで、ボンゴレファミリーも戦ったのか。

 

 

「そこでまぁ、オールフォーワンに深手を負わせる事が出来たんだが、俊典もこのザマでな」

 

「面目ない……」

 

 

オールマイトとボンゴレが協力して、それでも完全に倒す事は出来なかったのか……。

 

僕にはそれと戦う運命がある。

 

その時僕は、勝てるんだろうか……。

 

 

「とにかく、今日は特訓だ。

 

ONE FOR ALLを一年である程度は使える様にしねぇと、雄英首席合格なんて夢のまた夢だからな」

 

 

そうだよな。

 

時間制限もあって、リボーンがいないと使えない死ぬ気モードじゃ、ヒーローになる所か、雄英に首席合格なんて………。

 

 

 

ん?……いや、いやいやいや。

 

 

「首席合格?!僕が?!

 

そんなの無理だよ!」

 

 

そもそも合格出来るかすら分からないのに。

 

それなのに首席合格だなんて、厳しい所の話じゃないよ。

 

 

「何言ってやがる。

 

ONE FOR ALLとボンゴレを受け継ぐんだ。

 

雄英の試験程度軽々乗り越えるくらいしろ」

 

「だから僕はボンゴレのボスになる気無いんだけど?!」

 

 

ヒーローがマフィアのボスなんて、前代未聞なんてレベルじゃないよ。

 

 

「いいからとっとと始めろ。

 

あと10ヶ月しかねぇんだぞ」

 

 

正論で丸め込まれてる気がするのは気のせいかな?

 

 

「まぁ、目標は高いに越したことはないさ」

 

 

オールマイトまで……。

 

けど、確かにそれくらい出来ないと、最高のヒーローになんてきっとなれない。

 

それから僕達は大きな体育館くらいはある建物の中に来ていた。

 

 

「まずは基本だ。

 

とりあえずあれを倒せ」

 

 

急に始まった特訓。

 

目の前にいるのは、ロボット?

 

 

「ボンゴレの技術部門が作った(ヴィラン)ロボだ」

 

 

(ヴィラン)ロボ、か。

 

つまり、あれ相手に模擬戦をしろってことかな?

 

 

「あの、リボーン師匠。

 

あのロボットは前に私の訓練でも使用したものですか?」

 

「あぁ。

 

だが、オメェのデータをとって前よりも硬く作ってある。

 

そう簡単に倒せねぇぞ」

 

「あ、あのロボットよりもですか?!」

 

 

なんかオールマイトとリボーンが話してるけど、よく聞こえないや。

 

まぁ、とにかく初めは回避を『標的ロック。死ネェ!』って、うおっ?!

 

 

 

ズドオォォォォォンッ!

 

 

 

ランチャー?!

 

一発当たったら今のでお陀仏だぞ?!

 

 

「ちょ、リボーン!

 

設定間違えて無い?!」

 

「間違えてねぇぞ。

 

そいつは俊典が最初に相手にした設定だ。

 

俊典はそいつなら瞬殺していたぞ」

 

 

そ、それならまだ……って!

 

 

「それはオールマイトならの話でしょ?!」

 

「ガタガタうるせぇ。

 

ちゃんと相手を見てねぇと死ぬぞ」

 

 

くっ、相変わらず滅茶苦茶だよ!

 

 

僕はどうにか攻撃を避けているけど、このままじゃ埒が明かない!

 

 

「何してやがる。

 

さっさと攻撃しやがれ」

 

「そんな事言われたって、避けるので精一杯だよ!」

 

 

そもそも近付く事自体が難しい。

 

あの大量の銃火器がギリギリ避けられるくらいで絶え間なく放たれる。

 

それを掻い潜るなんて……。

 

 

「何言ってんだ。

 

ONE FOR ALL使えばいいじゃねぇか」

 

 

それが出来ればもうとっくにやってるよ。

 

オールマイトのあのパワーに、体が耐えられるのか?

 

けど、もし使って、僕の体がその力に耐えられなかったら?

 

 

「難しく考えてんじゃねぇ。

 

その力はもうお前の物なんだ。

 

オールマイトの力だとか、継承された力だとかは考えなくていい。

 

ONE FOR ALLは、お前自身の個性なんだぞ」

 

 

僕自身の、力………。

 

 

『消エチマイナ!』

 

 

くっそ!こうなったら、やってやる!

 

 

「っ!」

 

 

 

ズドオォォォォォンッ!

 

 

 

「緑谷少年!」

 

「どこ見てんだ俊典。あっちを見ろ」

 

 

どうなった?全力で踏み込んで、間に合えと思いながら跳んだけど。

 

……足に地面を踏んでる感覚はない。

 

 

「っ、上手く行った!っけど、痛い!」

 

 

ダメだ。反動で足が思う様に動かない。

 

折れては無いだろうけど、これじゃあ戦えない。

 

けど、戦わなきゃ、やられる。

 

なら一か八か、やってみるしかない。

 

ちょうど近くに足場に出来そうな瓦礫がある。

 

これを蹴って、一気に距離を詰めて強化した拳で殴る。

 

ONE FOR ALLの力でなんとか足を動かして、僕は瓦礫を蹴って距離を詰めた。

 

 

「そうだ少年!今こそ叫べ!」

 

 

 

 

 

 

行くぞ。ONE FOR ALL!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「SMAAAAAASH!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

僕の拳が、ロボットに直撃する。

 

 

 

ドゴオォォォォォンッ!

 

 

 

一瞬だけ抵抗感を感じたけど、それはいつの間にか消え失せ、破壊音と共に僕の拳がロボットを貫いていた。

 

 

 

…………………………

 

 

 

「いっててててて…」

 

「大丈夫かい?緑谷少年」

 

 

筋肉痛の様な痛みが全身を襲う。

 

あれだけの力を使ったんだから、仕方ないよね。

 

 

「何情けねぇ声出してやがる」

 

 

リボーンはそう思ってないみたいだけど……。

 

 

「まぁ、今回は上出来な方だろ。

 

もし半端な体でさっきの動きをすれば、間違いなく骨が粉々になってたぞ」

 

「骨が粉々?!」

 

 

流石はオールマイトの力。

 

やっぱりそうなっても仕方ない………。

 

けど、僕は今回この筋肉痛だけで済んでる。

 

リボーンが鍛えてくれてたおかげかな。

 

 

「だが、今のこの体たらくじゃ、戦闘じゃまともに使えやしねぇ」

 

「ま、まぁ、そうだね」

 

 

そこまではっきり言わなくてもいいじゃないか、って思ったけど、言ったら何されるか分かったもんじゃない。

 

 

「そもそもオメェ、ONE FOR ALLを毎回フルパワーで使うからそういう事になるんだ」

 

「え?」

 

 

リボーンは一体、何を言ってるんだ?

 

 

「まだオメェの体は出来上がってねぇんだ。

 

一々全力でぶっぱなしてたら、そりゃ反動が来るのも当然だ」

 

「つまり、ONE FOR ALLの出力を調整しろって事?」

 

「そういう事だ。

 

お前にわかりやすく例えると、爆豪の爆破なんかがいい例だ。

 

アイツは威嚇に使う小さな爆破や、攻撃用の爆破を使い分けてるだろ?

 

あんな感じで、力に強弱をつけるんだ」

 

 

かっちゃんの爆破………。

 

そうか、なるほど!

 

 

「やってみるよ!

 

さっきのロボット、もう一回出せる?」

 

「あぁ。在庫はまぁまぁある。

 

技術部門の奴らを泣かせる勢いでぶっ壊しまくれ」

 

 

そして僕はONE FOR ALLの出力調整の為に、2時間くらいロボットと戦い続けた。

 

今の所、使えてる力は5%くらいかな。

 

 

「よし。いいぞ。

 

それじゃあ次の段階だ」

 

「次の、段階?」

 

 

今やっと制御出来るようになったばかりなのに……。

 

 

「今のままじゃ、瞬発的に力を使えるだけでガチの戦闘じゃ全く意味をなさねぇ」

 

「確かに、その通りだけど、じゃあどうすればいいの?」

 

「さぁな。んなもん自分で考えろ」

 

 

言っときながら無責任な……。

 

 

「リボーン師匠。流石に突き放しすぎでは?」

 

「うるせぇ。

 

それなら先代継承者としてお前も何かアドバイスしやがれ」

 

「そうですね…………。

 

では緑谷少年。私からのアドバイスだ」

 

 

お、オールマイトからのアドバイス?!

 

一体何を言ってくれるんだろう!

 

 

「感覚だ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「な、なるほど」

 

「全然ダメじゃねぇか」

 

 

そんなこんなで、また休憩所に戻って、僕はONE FOR ALLについて考えていた。

 

 

「済まない緑谷少年。私は割と最初からONE FOR ALLを使えていたから、どう教えたらいいのか分からないんだ」

 

「気にしないで下さい。

 

これは僕の問題でもあるんです」

 

 

訓練場での僕とオールマイトの会話だ。

 

やっぱり僕とオールマイトとじゃ、その辺に差が出てくる。

 

 

「うーん……」

 

 

最初の僕は、全力のONE FOR ALLで足や拳を強化して使っていた。

 

そしてその後は、力を制御して小さな力でダメージを与えて行くスタイルに切り替えたけど、それが正解で無いとすると……。

 

 

「ハァ……。

 

仕方ねぇ。一つヒントをやる」

 

「ヒント?」

 

 

流石にこのタイミングで滅茶苦茶な事言わないよな?

 

 

「言っておくが、ONE FOR ALLは必殺技じゃねぇんだぞ」

 

「………え?」

 

 

それだけ?

 

ONE FOR ALLが必殺技じゃないって、一体どういう事なんだ?

 

 

「個性ってのは、本来はその人間が元から持っている力だ。

 

お前は継承という超特殊な方法でその力を得たが、この世界のほとんどの人間が、息を吸う様に個性を使っている。

 

オメェ、息すんのに一々意識してるか?」

 

「してないけど……それとこれとどんな関係があるの?」

 

 

そもそも僕と普通の人じゃ、色々と違いがあると思うんだけど……。

 

 

「俺はオメェに言ったはずだぞ。

 

ONE FOR ALLはもうお前の力だってな」

 

 

ONE FOR ALLは、僕の力……。

 

呼吸をする様に、個性を使う……。

 

 

「………………使う?」

 

「気付いたみてぇだな」

 

 

そうか。僕は今日、ONE FOR ALL"を使う"って考えてたんだ。

 

さっきみたいに、一々それを意識して体のスイッチを一々切り替えて戦うんじゃ間に合わない。

 

なら、最初から全部付けていれば!

 

 

「そうだデク。ONE FOR ALLは使うもんじゃねぇ。

 

お前の中にあるものだ」

 

 

これなら、いける!

 

 

「リボーン!もう一度模擬戦がしたいんだ!

 

何かが、掴める気がする!」

 

「よく言ったな。

 

あぁ、ロボットの在庫を使い尽くしちまえ」

 

 

そして僕達はもう一度訓練場に戻ってきた。

 

 

「リボーン師匠。彼は辿り着いた様ですね」

 

「あぁ。少し遅すぎるくらいだがな」

 

 

ONE FOR ALLを全身で、使うんじゃない。

 

ONE FOR ALLは、僕自身なんだ!

 

 

「これが僕の、ONE FOR ALLだ!」




次回予告!

出久「やっと答えに辿り着いた!」

リボーン「俺がヒントを出してやったんだ。

答えられなかったら、脳天に風穴が空いてた所だ」

出久「冗談でもやめてよ!

とにかく次回は、僕のONE FOR ALLを完成させるんだ!」

リボーン「それと、次回はまさかのアイツの登場だぞ」

出久「まさかのアイツ?

少し気になるけど、時間だし、いつものやつ行こう!


次回!『標的(ターゲット)8 FULL COWLと轟く感情』」

出久「更に向こうへ!Plus ultra!!」
リボーン「死ぬ気で見ろよ」


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標的(ターゲット)8 FULL COWLと轟く感情

「これが僕の、ONE FOR ALLだ!」

 

 

全身にONE FOR ALLを使う時の独特な熱さが駆け巡る。

 

落ち着け。ONE FOR ALLは僕の力だ。

 

そして、僕自身なんだ。

 

 

「リボーン、どう、かな?!」

 

「あぁ。正解だ」

 

 

必要な部分だけじゃなくて、全身でONE FOR ALLを使う事で、僕の身体能力を引き上げる。

 

名ずけるなら、

 

ONE FOR ALL FULL COWL

 

 

「その状態で動けるか?」

 

「待って、まだ、調整が難しくて…」

 

 

答えに辿り着いても、まだ上手く扱えない。

 

一先ず、さっき使えた5%より下の、3%で!

 

 

「う、上手く、いった!」

 

 

何とか体が動かせる程度の力になった。

 

 

「よし。その状態で慣らせ。

 

んで、ある程度慣れたら5%だ」

 

 

とりあえず、走ってみよう。

 

僕の50m走の最高タイムは、6秒03。

 

それと比べて、どのくらいで移動出来るか!

 

 

「行くぞ!」

 

 

足を踏み込み、前へと体を押し出す。

 

 

 

ズオォォォォォンッ!

 

 

 

「っ?!」

 

 

なんだ?!

 

一瞬で、もう壁際?!

 

このままじゃ、ぶつかる!

 

 

「くっそ!」

 

 

 

ドゴンッ!

 

 

 

何とか、壁に着地?出来たけど、まだ力の加減が出来てないな…。

 

とりあえず僕は地面に降りて、今踏み抜いてた壁の破片を払った。

 

 

「ったく。なんだ今のザマは」

 

 

リボーンがこっちに来てる。

 

まぁ、今のはなぁ…。

 

 

「うん。分かってる。

 

もう少し反応が遅れてたら、壁にぶつかってた」

 

「そういう問題じゃねぇ。

 

お前今、本当に3%のつもりか?

 

制御がブレブレだ。

 

まだお前は無意識下で使える程ONE FOR ALLが体に馴染んでねぇんだ。

 

今は意識して抑えろ」

 

 

意識して、抑える……。

 

 

「……………よしっ。3%に戻した」

 

「さっきは走るっていうのが先に出て、無意識にスピードを意識しちまった結果の制御のブレだ。

 

今回は3%の力で50mを移動するって考えろ。

 

あと、50mピッタリで止まれる様にしろよ」

 

 

また微妙にきつい事を……。

 

けど、50mピッタリで止まれる様にってどういう事?

 

まぁ、とにかくやってみよう。

 

 

ONE FOR ALL FULL COWL

 

 

体をスパークが駆け巡る。

 

よし。力を維持して、そして駆け出す!

 

 

「っ!」

 

 

そして、50mで止まる!

 

 

ザザアァァァァァッ!

 

 

「5mもオーバーしてんじゃねぇか。

 

そんなんじゃ戦闘じゃ使えねぇな」

 

「リボーン師匠、それはどう言う事でしょうか」

 

 

オールマイトも近寄ってきた。

 

というか、なんでピッタリで止まらなきゃならないんだ?

 

 

「まず、俊典は基本的に動きが一直線だ。

 

コイツはONE FOR ALLの100%を反動無しで使える分、パワー押しになるんだ。

 

何度も言ったが全然直りやしねぇ」

 

「面目ない…」

 

 

確かに、オールマイトは(ヴィラン)と戦う時は常に正面から立ち向かう姿が印象的だ。

 

………そうか。なるほど。

 

 

「つまり僕は、小さな力を全身で使う事で、機動力を活かした戦法を編みだせって事?」

 

「そういう事だ」

 

 

僕はONE FOR ALLを受け継ぐならオールマイトの様にならなければならないと思い込んでたけど、そうじゃないんだ。

 

僕は僕なりの戦い方を探せばいいんだ。

 

そしてその後、僕達は特訓を始めて一時間もした頃、一時切り上げて食堂で昼ご飯を食べていた。

 

 

「ごめんな緑谷少年。私は最初から力を100%で使えていたから、あまり役に立てそうにない」

 

「元々大して役に立ってねぇだろ」

 

 

僕が食べてるのはカツ丼。

 

オールマイトはゼリー飲料。

 

リボーンはサンドイッチとエスプレッソだ。

 

 

「そんな事無いですよ」

 

 

僕達が訓練の合間の休憩で寛いでいたその時だった。

 

 

「ん?おぉ、君は昨日のヘドロ事件の」

 

「え?」

 

 

僕の背後から、低く迫力のある声が聞こえた。

 

僕が振り返ると、そこにはシンプル目なヒーロースーツを着て、体の至る所から炎を放出している男の人が立っていた。

 

 

「エンデヴァー?!」

 

 

なななな、なんでエンデヴァーがここに?!

 

って、そうか。ヒーローが使う施設なんだから、いてもおかしくはないか…。

 

 

「君は確か中3だったな。

 

ここにいるという事は、君も雄英を志望しているのか?」

 

 

君も?

 

そう言えばエンデヴァーには子供がいるんだったっけ。

 

 

「エンデヴァーの息子さんも、今年雄英を受けるんですか?」

 

「あぁ。今は反抗期で言う事を聞かんが、アイツにはいずれはオールマイトをも超えるヒーローとなる義務がある」

 

 

オールマイトをも超えるヒーロー?義務?

 

……………そうか。

 

 

「よかったら、一度合わせてくれませんか?」

 

「ん?あぁ、いいだろう。

 

同年代の者との接触はいい刺激になるだろうからな。

 

連れてくるから待っててくれ」

 

 

そう言ってエンデヴァーは食堂を後にした。

 

 

「緑谷少年。何をするつもりだい?」

 

 

オールマイトが少し驚いた様にこっちを見ていた。

 

 

「いえ、具体的には考えてないんですけど…。

 

ただ、もしエンデヴァーが息子さんをオールマイトを超える為の道具にしか見ていないなら、その考えを、正さなきゃと思って…」

 

 

でもやっぱり、家庭の事情に首を突っ込むべきじゃ無かったかな…。

 

 

「まぁ、いいじゃねぇか。

 

ちょうど対人戦の経験も積ませようと思ってたんだ」

 

 

対人戦、か。

 

エンデヴァーの息子ってくらいだから、炎系の個性なのかな?

 

 

「まぁ、今回は軽いスパーリング程度に考えておけ」

 

 

スパーリングか。

 

ボクシングとかの試合形式の練習だったかな。

 

 

「待たせたな」

 

 

エンデヴァーが戻ってくると、その後ろに左右で髪の色が違う男子が苛立ちを隠さずに立っていた。

 

 

「…何をしている。挨拶をしろ焦凍」

 

「……チッ」

 

 

エンデヴァーの言葉に、彼は舌打ちで応える。

 

エンデヴァーもそれには慣れている様で、軽いため息だけ吐いた。

 

 

「無愛想な奴ですまんな」

 

「い、いえ…」

 

 

それより、あの左目の辺りの火傷は一体?

 

 

「そんじゃ、二人でスパーリングでもして来い。

 

その方が互いに利益があんだろ」

 

 

リボーンがそう言うと、エンデヴァーは驚いた様にリボーンを見た。

 

 

「驚いたな。

 

まさか赤ん坊からそんな提案を聞くとは。

 

しかしいい案だ」

 

 

そう言うとエンデヴァーは、焦凍と呼ばれていた彼に低い声で命令を出した。

 

 

「焦凍。やって来い」

 

 

その言葉に、彼はエンデヴァーを鋭く睨みつける。

 

エンデヴァーはそれに何を言うでもなく、ただ見下ろしている。

 

 

「おいエンデヴァー。

 

俺達は上で観戦するぞ」

 

「何故俺に指図する。

 

まぁ、その気ではいたがな」

 

 

そう言ってエンデヴァーとリボーン、オールマイトは2回の観覧席に移動した。

 

 

「悪ぃな。クソ親父に付き合わせちまって」

 

 

その時、彼の声を初めて聞いた。

 

 

「いや、どっちかって言うと僕がお願いしたんだよ。

 

僕は緑谷出久。君は?」

 

「轟焦凍だ」

 

 

さっきとは少し違う雰囲気で、多少は話しやすい雰囲気になっている。

 

 

「ところでお前が俺を呼んだってのはどういう事なんだ?」

 

 

…これ本人に聞いていいのかな?

 

 

「えっと、その……。

 

さっき、エンデヴァーと話した時に、君にはオールマイトを超える義務があるって、聞いてさ」

 

 

僕がそう言った瞬間、彼の………轟くんの表情が一気に固くなった。

 

 

「それで、クソ親父に金握らされて、相手するってか?」

 

「違うよ。

 

僕は、負けられないって、思ったんだ」

 

 

次の言葉で、轟くんは驚いた様に固まった。

 

 

「僕は、ずっとオールマイトに憧れてて、ずっと彼みたいなヒーローになりたいって、思ってた。

 

僕は、誰よりも最高のヒーローになりたいんだ。

 

だから君がオールマイトを超えなきゃいけないなら、僕は更にそれを超えるヒーローになりたい」

 

 

そうだ。誰よりも最高のヒーロー。

 

僕が憧れたオールマイトは、いつもそうだった。

 

 

「…………うるさい」

 

「轟くん?」

 

「うるせぇんだよ!」

 

 

 

ズアァァァァァァァッ!

 

 

 

「っ?!」

 

 

僕は咄嗟に横に回避した。

 

後ろじゃなくて正解だった。

 

轟くんの右足の足元から次々に氷壁が展開される。

 

もし後ろに逃げていたなら、あれに巻き込まれて動けなくなっていた。

 

 

「黙って聞いてりゃベラベラと…。

 

余計なお世話なんだよ」

 

「ごめん。

 

けど、余計なお世話がヒーローの仕事だから」

 

 

行くぞ、ONE FOR ALL。

 

 

「今度はこっちから行くよ!」

 

 

 

FULL COWL

 

 

 

3%を維持したまま、さっきの攻撃で出来た氷山を足場に、懐へ!

 

 

「なんだ、その動き!」

 

 

轟くんは再び氷壁を僕に向かって作り出す。

 

この一瞬だけフルカウルを解除して、拳に5%を力を!

 

 

 

「SMAAAAAASH!!」

 

 

 

ゴオォォォォォッ!

 

 

 

僕の放ったスマッシュが氷壁を砕き、更にそれにより生まれた氷の礫が轟くんを襲う。

 

 

「くっ!」

 

 

轟くんはそれを地面を滑って回避して、続けて氷壁を放つ。

 

けど、僕は違和感を感じていた。

 

 

 

彼の父親のエンデヴァーは炎系の個性を持っている。

 

それに対して轟くんは氷系。

 

母親がそうなら違和感は無いけど、もしそうだとして、それだけで「オールマイトをも超えるヒーローとなる義務がある」なんて言うかな?

 

 

 

今の轟くんの右半身には、氷壁を出した反動なのか、霜がおりてる。

 

そんな風に、多分エンデヴァーにも炎を使い続けると熱が篭もるっていう弱点があるはず。

 

けどもし、その両方を相殺とまでは行かずとも、軽減出来るとしたら?

 

母の氷と、父の炎。

 

その両方を受け継いでいたとしたら、それはエンデヴァーの言う「オールマイトをも超えるヒーロー」になれる可能性があるんじゃないのか?

 

 

「………轟くん。

 

そろそろ本気出してよ」

 

 

僕の言葉に、轟くんは驚愕とも、怒りともとれる表情になった。

 

 

「僕の推測だけど、君の個性は右半身で氷を、左半身で炎を操る個性じゃないのかい?」

 

 

今度は驚愕であると分かる表情になる。

 

正解だったみたいだ。

 

 

「右半身の氷の反動であるその霜は、左の炎で溶かす事ができる。

 

違うかい?」

 

 

今度は怒り。

 

きっとこれも正解だ。

 

 

「それなのに、君は右の力だけで僕に勝とうとしてる。

 

僕を、舐めてるのか?」

 

 

自然と零れた言葉に、僕が驚いた。

 

あまり出した事の無い低く唸る様な声が出て、僕はハッとした。

 

けど、目の前の轟くんは完全に頭にきているみたいだ。

 

 

「人の事情も知らない癖に、ズケズケと踏み込んで来るな!

 

俺は、左は絶対に使わねぇ!

 

半分の力で、ヒーローになるんだよ!」

 

 

また氷壁が来る。

 

けど、さっきより速度も威力も落ちてる。これなら余裕で避けられる。

 

僕はもう一度FULL COWLを発動させて氷の足場をパルクールの様に跳んで轟くんに迫る。

 

 

「半分の力で、ヒーローになる?

 

ふざけるな!」

 

 

そのまま勢いを乗せて轟くんを殴り飛ばす。

 

けど、氷壁を薄く幾つも張ることで減速して、壁に激突するのを回避した。

 

 

「皆、全力でやってんだ!

 

それなのに、半分の力で、勝てると思ってるのか?!」

 

 

僕は気付かない内に、口調がどんどん荒くなっていた。

 

轟くんもそれは気にせず、僕に向かってくる。

 

けど、動きが鈍い。

 

僕は再び彼を殴り飛ばして、そして彼に語りかける。

 

 

「ねぇ轟くん。

 

実は僕、少し前まで無個性だったんだ」

 

 

その言葉に轟くんと、観覧席のエンデヴァーが目を見開く。

 

 

「つい最近、個性が使える様になったけど、その個性は両親のどちらとも違う個性だった。

 

何が言いたいのかって言うとね」

 

 

一息ついて、僕はもう一度語りかける。

 

 

「例え親と似ていても、性質が同じでも、それは親の個性なんかじゃない。

 

君自身の力なんだ」

 

 

少し嘘交じりだけど、これが僕が彼に伝えたい事だ。

 

 

「例えエンデヴァーが君に何を望んでいても、例え周囲が君とエンデヴァーを同視しても、その個性は、君自身の力だ!

 

君にしかない力なんだ!

 

他の誰でもない、君だけの!」

 

 

もしも伝わらなくても、その時は何度でも言うまでだ。

 

 

「俺の、力?」

 

 

揺らいだ。

 

今なら伝えられる。

 

 

「そうだよ!

 

皆、自分の力で、頑張ってるんだ!」

 

 

轟くんの攻撃はいつの間にか止んでいて、僕は彼の正面に立ってその目を見た。

 

 

「もし仮に半分の力で雄英に入れたとしても、きっとその先は辛いだけだと、僕は思う。

 

だって、皆が全力でやってる事を、君はそんなシラケた目でこなすだけなんて、つまらないじゃないか。

 

それに見なよ。

 

僕はまだ、君に傷一つつけられちゃいない」

 

 

その言葉で、轟くんの目はさっきとは違うものに変わった。

 

 

「もし僕に勝ちたいなら!」

 

 

 

「全力でかかって来い!」

 

 

 

(いつから、忘れてたんだろうな)

 

 

その瞬間、轟くんの左半身から、炎が吹き出した。

 

 

「舐めてるのはどっちだって話だ。

 

全力で来いだと?

 

敵に塩送る様な真似しやがって」

 

 

笑っている。

 

轟くんが笑っている。

 

 

「お前何笑ってんだよ。

 

状況わかってんのか?」

 

 

どうやら僕も笑ってたみたいだ。

 

 

「嬉しいんだ。

 

全力の君と戦えるのが」

 

「変な奴だよ、お前」

 

 

次の一撃で、きっと決着がつく。

 

僕が焚き付けたんだ。

 

僕だって全力だ!

 

 

 

ONE FOR ALL!100%!

 

 

「いいぞ焦凍!そうだ、俺を超えろ!

 

俺の力を超えて、お前はNo.1ヒーローを超える男となるのだ!」

 

「まさか緑谷少年は、100%を使うつもりか?!」

 

「まぁ、相手の力を考えりゃ妥当な判断だ。

 

力を体に慣らした今なら、100%の反動も多少は抑えられるだろうしな」

 

 

この時観覧席ではこんな会話があったらしいけど、その時の僕達には全く聞こえてはいなかった。

 

 

 

「「行くぞ!」」

 

 

 

僕が地面を蹴り走り出すと同時に、轟くんも氷壁を放つ。

 

炎で反動を相殺しているのか、さっきよりも速度も範囲も段違いだ。

 

 

僕はそれを薙ぎ払う様に拳を横に振り、その力で生じた衝撃波で氷壁を破壊する。

 

しかしそれも長くは続かずに次の氷壁が。

 

それを次は拳を前に突き出して一直線に衝撃を飛ばす。

 

そしてその攻撃で壊れた氷壁の間を一直線に突き進む。

 

轟くんは僕の道を阻もうと真正面から氷柱の様に氷を放つ。

 

それを予想していた僕は、あえて飛び込み、再び拳を放つ。

 

 

 

「SMAAAAAASH!!」

 

 

 

そして、それを突き破った先に、炎を全力で解き放つ轟くんがいた。

 

 

「緑谷、ありがとな」

 

 

短くそう呟き、彼は炎を完全に解き放つ。

 

そして氷の影響で冷やされた空気が、急激に加熱されて膨張し、爆風と化した。

 

僕の意識は、そこで途切れてしまった。

 

 

 

…………………………

 

 

 

「さっきの戦いは良かったぞ焦凍」

 

 

戦いを終え、炎で焼けてしまった服を着替えた焦凍に、エンデヴァーが声をかける。

 

その声に反応した焦凍は、振り返る。

 

その目は依然として憎みや恨みを孕んだものであるが、それが少しだけ和らいでいた。

 

 

「それでいい。

 

俺の力を持って、俺を超えろ」

 

 

焦凍はそれを聞くと、エンデヴァーの目を睨み、告げた。

 

 

「この個性は、アンタの力じゃない。

 

右は母さんから受け継いで、左はアンタから受け継いだかもしれねぇ。

 

けど、それだけだ」

 

 

その言葉に、エンデヴァーは目を見開いた。

 

 

「これは、俺の力だ」

 

 

そう言うと焦凍は右から冷気を、左から熱気を放出した。

 

 

「…………そうか。

 

そうだったな」

 

 

エンデヴァーはそれだけを呟くと、何処かへと歩いていく。

 

 

「帰りの金はお前の荷物の所に置いていく。

 

後はお前が気が済むまでやればいい」

 

 

そう言い、エンデヴァーはロッカールームへと消えた。

 

 

「余計なお世話なんだよ」

 

 

焦凍はそれとは逆にある、医務室へと足を向けた。

 

 

 

…………………………

 

 

 

「んんっ…………あれ、ここは?」

 

 

僕が目覚めると、そこはベッドの上だった。

 

 

「ようやく起きたか」

 

「リボーン?」

 

 

ここは、休憩室?

 

僕は、なんで寝てたんだ?

 

 

「お前、轟に負けたんだ」

 

 

…………そっか。僕負けたんだ。

 

でも、伝えたい事は伝えたんだし、僕は満足してる。

 

 

「まぁ、個性使い慣れた相手にあそこまでやれれば、マシな方だろう」

 

 

リボーンが褒めてくれるなんて、珍しいな。

 

さて、そろそろ起きて……って?!

 

 

「痛たたたたたたっ?!」

 

 

な、なんだ?!体中が痛い?!

 

 

「ONE FOR ALLで全力戦闘すりゃ、そうなるに決まってんだろ。

 

お前の体はまだ未完成なんだ」

 

 

いや、確かにそうかもしれないけど……。

 

流石にここまでは予想してなかったよ………っ!

 

 

コンコンッ

 

 

その時、部屋の扉から軽く叩くような音が聞こえた。

 

 

「入っていいぞ」

 

 

それにリボーンが応えると、扉が開く。

 

そこには、轟くんが立っていた。

 

 

「緑谷、大丈夫か?」

 

 

どうやら、心配して来てくれたみたいだ。

 

前まで友達がいなかったから、こういうのが未だに新鮮だ。

 

 

「僕は大丈夫だよ。

 

それより轟くんこそ大丈夫?

 

結構派手に殴っちゃったけど」

 

「あぁ。今はもう痛みは引いてる。

 

お前が殴る瞬間だけ手を抜いてくれたおかげだな」

 

 

え?僕、そんな事した覚えは無いんだけど……。

 

 

「無意識に力を抑えちまったんだ。

 

そういう甘え所はいずれ命取りになるぞ」

 

 

相手が轟くんだったから、手を抜いちゃったのかな?

 

 

「けど、思ってたよりひでぇな。

 

本当に大丈夫か?」

 

「うん。これはほとんど個性の反動だよ」

 

 

もっと鍛えないと。

 

いくらFULL COWLで制御出来るって言っても、いずれは100%反動無しで使える様にならないと、最高のヒーローになんかなれない。

 

 

「…………緑谷。

 

聞いて欲しい話がある」

 

「聞いて欲しい話?」

 

 

なんだろう。

 

轟くんの顔は至って真剣で、これから僕にする話がどれだけ大事な物なのかが伝わってくる。

 

 

「入るぞ、緑谷少年」

 

 

その時、トゥルーフォームのオールマイトが部屋に入ってきた。

 

それと同時に、リボーンは腰掛けていた椅子から降りて、オールマイトの方に歩いていった。

 

 

「俊典。飲み物買いに行くぞ」

 

「コーヒーなら今買ってきましたが?」

 

「今は茶が飲みてぇ気分なんだ。

 

とにかく行くぞ」

 

 

どうやら気を利かせてくれたみたいだ。

 

 

「……いいか?」

 

「うん。いいよ」

 

 

僕は少し痛みの和らいできた体を起こして、話を聞く姿勢をとる。

 

 

「まず、俺の母親はお前が言った通り氷系の個性だ」

 

 

やっぱりそうだったんだ。

 

けど、何で今その話が出てきたんだ?

 

 

「親父はプロになって早くにNo.2の座に上り詰めた。

 

けど、どれだけやっても埋まらねぇオールマイトとの差を感じていたんだ。

 

そこで目を付けたのが母さんだった。

 

氷系の個性を持つ母さんの親族を金で丸め込んで結婚し、自分の子をオールマイト以上のヒーローに育てようとしたんだ」

 

 

個性に目をつけた………。

 

 

「それって、個性婚ってこと?」

 

「あぁ。そうだ」

 

 

僕も話には聞いた事がある。

 

超常黎明期に問題になった、自身の個性をより強く受け継がせる為だけに、個性で配偶者を決めて結婚する事を指す言葉だ。

 

けど、それをエンデヴァーがしていたなんて…。

 

 

「続けるぞ。

 

その後親父は俺の上に3人の子供を母さんに産ませた。

 

けど、3人共が望んだ様に個性を受け継がず、そんな時に産まれたのが俺だっだんだ。

 

炎と氷。その2つともを持って産まれた俺は、小さい頃から鍛錬という名の虐待に近い行為を俺に向けた。

 

兄弟達とも隔絶され、俺にとって母さんだけが救いだった」

 

 

轟くんにそんな過去があったなんて………。

 

僕は何も知らずにあんな事を言っていたのか…。

 

 

「けど、それもある日、崩れ去ったんだ」

 

 

そう言って轟くんは、左目の火傷の痕をなぞった。

 

 

「俺を庇ってくれていた母さんに、親父は手をあげた。

 

それを何度か繰り返す内、母さんは心を病んでいった」

 

 

正直、信じられなかった。

 

確かにファンやマスコミに対する対応が悪いと言われるエンデヴァーだけど、そのヒーローとしての仁義だけは通していると思っていた。

 

それが、こんな……。

 

 

「そして母さんは、お前の左が憎いと、俺に煮え湯を浴びせた」

 

 

それが、火傷の原因………。

 

 

「記憶の中の母さんは常に泣いていた。

 

けど、今日お前と戦ってて思い出したんだ。

 

心を病む前に、母さんが俺に言ってくれた言葉を」

 

 

そうか、それで……。

 

 

「それで、僕に話してくれたんだね」

 

「あぁ。散々言われっぱなしだったからな」

 

「ははっ…ごめん…」

 

 

僕が謝ると、轟くんは首を横に振った。

 

 

「いや、いいんだ。

 

おかげで吹っ切れた」

 

「そっか。それならいいんだ」

 

 

それから僕達は、色々な話をした。

 

 

お互いに雄英を目指していること。

 

轟くんは推薦で受けるということ。

 

後は僕のノートを使った轟くんの分析や、様々なヒーローの情報から纏めた轟くんの個性の使い方についてとか。

 

 

リボーン達が帰ってくる頃には、僕達はすっかり打ち解けていた。

 

 

そして、また会おうと言って僕達はそれぞれの帰路についた。




次回予告!

出久「轟くんの個性は戦闘は勿論、災害救助でも使えそうだね」

焦凍「今まで戦闘の訓練しかしてこなかったから、そこら辺も今後は考えて鍛えねぇとな」

出久「そうだね!って、えぇ?!

かっちゃんが俺も連れて行けって?!

次回!『標的(ターゲット)9 ライバル』」


焦凍「更に向こうへ」

出久「Plus ultra!!」


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標的(ターゲット)9 ライバル

轟くんと初めて会った日からもうしばらく経ち、クラスではもう少しで夏休みという事で皆夏休み何処へ行くか、何をするかで賑わっていた。

 

 

「ねぇねぇ緑谷。

 

緑谷って夏休みの予定とか決まってんの?」

 

 

僕が授業の準備をしていると、クラスメイトの女子が話しかけてきた。

 

 

「ある程度はね。けどなんで?」

 

「いや、最後の夏だしって事で皆で近くの花火大会でも行こうってなってさ。

 

出来れば全員で集まりたいんだよね」

 

 

一年の時のあの一件以来、僕はこうやってクラスメイトと普通に会話出来るくらいになっていた。

 

 

たまにかっちゃんとしていた放課後のヒーロー分析ノートの閲覧も、いつの間にか人が増えて、今では僕一人では処理できなくなり、学校側からの提案で僕のヒーロー分析ノートの要点だけを纏めた別の資料を作った。

 

今では学校の図書室の一角にそのコーナーがあり、連日誰かが借りていて、中々返ってこない事もあるからそれぞれ5部ずつ、かつ借りられる期間は3日間というルールが出来たくらいだ。

 

流石にこんな事になるなんて予想もしてなかったけど、資料を作る過程で、今まで重要視していなかった部分も見返す事が出来て、僕にとってはプラスだった。

 

 

他には、轟くんとの訓練は今でも続いていて、日々ONE FOR ALLの制御と許容上限の向上を目指している。

 

今はまだ3%しか完全に制御出来ないけど、いずれは100%で使える様にならなきゃいけない。

 

 

「そういえば緑谷って、最近どんどん筋肉ついてるよな。

 

一年の頃のヒョロヒョロのお前が懐かしいぜ」

 

 

かっちゃんの友達………もとい、現在は僕の友達でもある男子が話しかけてきた。

 

リボーンの特訓もあるだろうけど、多分一番の原因はONE FOR ALLだと思う。

 

 

確か以前に、個性因子の活性化やその肉体への定着率によって体の成長や作りが変わるという検証結果が発表されていた。

 

その際たるは異形系、または体に動物や虫、道具等の特徴が現れている人達だ。

 

 

つまり、僕の中に元々無かった個性因子がONE FOR ALLの影響で体に発生した事により、僕の肉体その物が変容したんじゃないかって。

 

まぁ、素人の僕じゃ、推測の域を出ないけど。

 

 

「そういえば前に、お前が隣町の辺りでランニングしてるの見たって言ってた奴がいたんだけど。

 

確か、スポーツクラブのジャージっぽいの着てたとか言ってたかな?」

 

「え?」

 

 

これ、どう説明すればいいのかな?

 

まぁ、普通に説明すればいいか。

 

別にやましい事してる訳じゃ無いしね。

 

 

「それは、町外れにある個性使用可能な施設でトレーニングしてて、そこのジャージなんだよ」

 

「そーなのか!

 

やっぱり雄英受けるからには相当鍛えなきゃだよなー!」

 

 

そうだよね。

 

雄英を受けて、尚且つ首席を狙うなら、まだまだ鍛えないと!

 

 

「おいデク」

 

「あ、かっちゃん。どうしたの?」

 

 

かっちゃんとは、最近では幼少期よりも良好な関係を築けている。

 

かと言って、仲良しこよしって訳じゃない。

 

僕もかっちゃんも、お互いを共に雄英を狙うライバルとして意識しているって感じだ。

 

 

「その施設、俺も連れてけや」

 

 

……………へ?

 

 

「えぇ?!なんで?!」

 

「なんでもクソもあるか。

 

普通にトレーニングしてたんじゃ、個性を伸ばすのには限度がある。

 

力をつけるにはそれなりの環境が必要だろうが」

 

 

そっか。公共の場で個性を使用するのは原則禁止だ。

 

トレーニングとして行えるのは、よほど住宅街とか人の目から離れた場所か、そういった施設に限られる。

 

 

「少しだけ待ってくれない?

 

僕の指導をしている人に相談してみる。

 

明日までには返事をするよ」

 

「明日までだな」

 

 

かっちゃんはそれを聞くと、自分の席に戻った。

 

 

「あ、爆豪も夏休みの予定後で聞かせてね!」

 

「気が向いたらな」

 

 

かっちゃんも最近、すっかりクラスメイトとの付き合いがよくなってきてる。

 

なんか、こうやって皆と繋がれるって、楽しいな。

 

 

 

…………………………

 

 

 

『爆豪少年も、ジムに招待して欲しい?』

 

「はい。出来ますか?」

 

 

僕は放課後、さっそくオールマイトと連絡をとっていた。

 

 

『あぁ、可能だが、急にどうしたんだい?』

 

「実は、僕があそこのジャージを着てランニングしているのを見かけた人がいて、その人から聞いたってクラスメイトとその話をしていたら、かっちゃんが俺も連れて行けって。

 

僕的には良かったんですけど、やっぱりオールマイトに一度も相談しておかないと、と思って」

 

 

僕がそう言うと、オールマイトは二つ返事で答えてくれた。

 

 

『勿論OKさ!

 

ライバルは多い方が燃えるからね!』

 

 

なんなら、少し嬉しそうだった。

 

僕も、轟くんに続いてかっちゃんともトレーニングが出来ると分かって、心做しか気分が浮いていた。

 

 

「じゃあ、さっそくかっちゃんと連絡とってみます」

 

『あぁ!

 

話が決まったらまた連絡してくれ!』

 

「はい!また後で!」

 

 

そこで通話を終了して、今度はかっちゃんの電話にかけてみる。

 

 

「あ、かっちゃん、今大丈夫だった?」

 

『なんだデク。

 

指導者に答え貰ったんか』

 

 

良かった。大丈夫みたいだ。

 

 

「うん。

 

次の土曜日なんだけど、空いてるかな?」

 

『土曜日だな。

 

なんか持ってくもんあんのか』

 

 

ていうか、普通にかっちゃんと電話してるのって凄いな。

 

2年前なら信じられないよ。

 

 

「いや、特には無いよ。

 

昼ごはんも向こうで買えるし、辛いのも色々あるよ」

 

 

かっちゃんは辛党だから、こういうのは伝えた方がいいよね。

 

 

『分かった。

 

どこに行きゃいいんだ』

 

「家に居ていいよ。迎えに行く」

 

『分かった。

 

土曜日だな。ババァに言っとく』

 

 

かっちゃんのお母さんか。

 

懐かしいなぁ。

 

 

「うん。おばさんによろしくね」

 

『あぁ』

 

 

そこで通話を終了して、僕は一息ついた。

 

 

「そういえば、轟くんにも伝えておかないと」

 

 

僕はもう一度スマホの画面をつけて、次に轟くんに電話をかけた。

 

出てくれるかな?

 

 

『緑谷、どうした』

 

 

良かった。出てくれた。

 

 

「実は、前に話してたかっちゃ……じゃなかった。

 

爆豪勝己って同い年の幼馴染がいるって話したでしょ?」

 

『そういえば言ってたな。

 

それがどうしたんだ?』

 

「その幼馴染が一緒にトレーニングに参加する事になったんだけど、相談なく決めちゃって、一応聞いておかなきゃなって思って」

 

 

出来るなら、僕は3人でトレーニングをしたい。

 

かっちゃんと轟くんは強い。

 

その2人と一緒に高め合えれば、僕は今よりもっと強くなれる気がする。

 

 

『あぁ、俺はいいぞ』

 

 

良かった。これで全員の同意が得られた。

 

 

「ありがとう轟くん。

 

それじゃあ次の土曜日に」

 

『あぁ』

 

 

僕はそこで通話を切った。

 

 

「ふぅ………」

 

 

とりあえずこれで、今度の土曜日の楽しみが増えた。

 

多分かっちゃんは、ONE FOR ALLを使った僕より強い。

 

いくらONE FOR ALLが凄くても、僕自身がかっちゃんに遠く及ばない。

 

その差を埋める為に、今はかっちゃんの強さを知らなきゃいけない。

 

 

「今度は負けないぞ、かっちゃん」

 

 

小さい頃から負け続きだった。

 

だから今度は、僕が勝つ。

 

 

 

…………………………

 

 

 

ピーンポーンッ

 

 

今日は土曜日。

 

ここはかっちゃんの家の前で、近くにオールマイトの運転する車が泊まってる。

 

 

『はーい。あら、出久君?』

 

 

この声は、かっちゃんのお母さんかな?

 

 

「お久しぶりです。かっちゃん迎えに来たんですけど」

 

『えぇ聞いてるわ。少し待っててね』

 

 

インターホン越しにそう聞こえた直後に「勝己イィィィ!出久君来たから降りて来なさァァァい!」と家の中から聞こえ、その次に「うっせぇぞババア!分かっとるわ!」と聞こえた。

 

相変わらずだなぁ、二人とも………。

 

 

ガチャッ

 

 

待つこと1、2分。

 

かっちゃんが家のドアを開けて出てきた。

 

小さめのバッグを持ってる。

 

タオルとか入ってるのかな?

 

 

「おはよう、かっちゃん」

 

「おう」

 

 

かっちゃんは短く返すと、大股で歩いてくる。

 

 

「んで、どうやって行くんだよ」

 

「うん。

 

今日はかっちゃんが初めてって事で、僕の先生に送って貰うよ」

 

 

僕がそう言うと、かっちゃんは「そうか」とだけ答えた。

 

 

「あの車だよ。

 

それじゃあ行こっか」

 

 

僕が歩き出すと、かっちゃんは後ろから着いてくる。

 

そして僕達はオールマイトの運転する車でジムに向かう。

 

この人がオールマイトだって知ったら、いくらかっちゃんでもびっくりしそうだよね。

 

 

「さぁ着いたぞ」

 

 

オールマイトがそう言うと、車はバックで駐車場に入った。

 

 

「ありがとうございました」

 

「っす」

 

 

僕達は車を降りてロッカールームに向かう。

 

 

その途中でかっちゃんはオールマイトにこのジムの会員カードを貰っていた。

 

これがあれば、施設内での買い物は全て無料になる。

 

その分会費が高いんだけど。

 

僕とかっちゃんの会費はボンゴレが払ってくれる事になっている。

 

かっちゃんの会費は、その事をリボーンに相談した時にそう言われた。

 

そんなに頼って大丈夫なのか聞くと「何言ってんだ。ライバルの育成はお前の成長にも繋がるんだ。それにたかがジムの会費程度払えねぇ訳ねぇだろ」との事だった。

 

 

「お、緑谷か」

 

 

ロッカールームに入ると、室内のベンチに轟君が腰掛けていた。

 

 

「そいつが爆豪か」

 

「うん。爆豪勝己。僕の幼馴染なんだ」

 

 

轟君はベンチから立ち上がると、こちらに近付き、かっちゃんに手を差し出した。

 

 

「轟焦凍だ。よろしくな」

 

 

それに対してかっちゃんは、手をポケットに突っ込んだまま轟君を睨みつける。

 

 

「テメェがデクに勝ったってのは本当なんだろうな?」

 

「あぁ、何度かな。

 

でも同じくらい負けてる」

 

 

それを聞くとかっちゃんはその顔に獰猛な笑みを浮かべる。

 

 

「なら、俺と戦えや」

 

 

かっちゃんなら、そう言うと思った。

 

そして、それに対して轟は表情は変えないけど、目に闘志が宿っていた。

 

 

「あぁ。いいぞ」

 

 

そして僕もそんな2人にあてられてか、いつの間にか口角が上がっている事に気がついた。

 

 

「なんか盛り上がってるな」

 

 

すると部屋の入口から聞き慣れた声が聞こえた。

 

 

「リボーン。先に来てたんだ」

 

「よう、リボーン」

 

「ちゃおっす」

 

 

轟君とリボーンも、だいぶ打ち解けてきてる。

 

ていうか、多分初めの頃の僕より普通に打ち解けてた。

 

 

「んじゃ、トレーニングルームに行くぞ」

 

 

リボーンの言葉に、全員が頷く。

 

そして僕達はトレーニングルームに移動して、轟君とかっちゃんはその中央に立った。

 

 

「2人とも、死ぬ気で戦えよ」

 

 

リボーンのその声と共に、2人は構えをとる。

 

 

 

BAAAAAANG!

 

 

 

「開始だ」

 

 

リボーンのその言葉と共に、2人は動いていた。

 

轟君は絶え間ない氷結の壁を。

 

かっちゃんは両手で爆破を連発し、それを砕く。

 

 

「おいゴラァ!この程度か?!」BOMBOMBOM!

 

「これから本気を出す所だ!」

 

 

轟君は左の熱を僅かに使い、右の氷の反動を抑える。

 

そうして先程よりも圧倒的に速度のある氷壁を放出する。

 

 

「中々の強個性じゃねぇか」

 

 

かっちゃんはそう言いながら爆破を続ける。

 

 

「だが、それ故に大雑把なんだよ!」BOMBOM!……

 

 

 

BOOOOOM!

 

 

 

そして唐突に爆破をやめたと思えば、爆破を利用して跳躍した。

 

 

「なっ?!」

 

 

「個性は、使い方次第なんだよ!」

 

 

 

BOOOOOOOOM!

 

 

 

そう言ってもう一度、先程よりも強い爆破を起こし、一気に距離を詰める。

 

かっちゃんはそのまま轟君に向かって掌を向けて爆破を起こす。

 

 

「死ねぇ!」

 

 

 

BOOOOOOOOOOM!

 

 

 

し、死ね?

 

いやまぁ、かっちゃんらしい掛け声だけど……。

 

けど、今の爆発の威力だと轟君が心配だ。

 

 

パラパラ…………………ッ

 

 

どうやら心配はいらないみたいだ。

 

 

「ゼロ距離でそんな威力使うかよ普通」

 

「テメェの個性ならこの程度ふせげるだろうが。

 

試したんだよクソが」

 

 

かっちゃんの睨む先に、氷壁を背に立つ轟君の姿があった。

 

 

「なるほど。

 

直前でかっちゃんとの間に氷壁を展開して防御壁にしたのか。

 

更に後ろにも展開する事で、吹き飛ぶ事も抑えたってとこかな?」

 

「一瞬であの判断が出来る奴はそういねぇ。

 

トレーニングの成果が出てんな」

 

 

僕とリボーンの会話なんて知らず、2人は再び構えをとる。

 

 

「こっからが、本番だ」

 

「たりめぇだろ」

 

 

そして、かっちゃんはまたさっき使ったのと同じく背後に爆破を放つ加速で一瞬で轟君の目の前に躍り出る。

 

 

「この加速が、厄介だな!」

 

 

それに対して轟君は、足元から垂直に氷柱を放ちかっちゃんを狙う。

 

 

「おっせぇ!」BOMBOMBOM!

 

 

かっちゃんは両手を器用に切り替えながら小さな爆破で轟君の背後に回り込む。

 

 

「あまり、使いたくはねぇんだがな!」

 

 

轟君はそれを見て、背後に炎を放つ。

 

 

「ちっ!」BOOOM!

 

 

かっちゃんは両手を轟君に向けて爆破を起こす。

 

攻撃と同時に距離をとった。

 

けど、ダメージは受けてるみたいだ。

 

 

「体の左右で炎と氷を使う個性か。

 

さっきのクソでけぇ氷壁をノーリスクで出したのはそういうカラクリか」

 

 

轟君の個性とその使用法を今の一連の動きで見抜いてる。やっぱりかっちゃんは凄い。

 

 

「おもしれぇ。

 

デクに使うつもりだったが、オメェで試してやるよ!」

 

 

BOOOOOOM!

 

 

そう言いながらかっちゃんは爆破で真上に飛び上がる。

 

 

「何するつもりか知らねぇが、そう簡単にやらせる訳ねぇだろ!」

 

 

轟君はかっちゃんに向けて氷柱を放つ。

 

 

「爆豪の奴、必殺技を使うつもりかもな」

 

「必殺技?」

 

 

リボーンの言葉を聞いて僕はかっちゃんの顔を見る。

 

するとその顔は、獰猛に笑っていた。

 

 

 

手榴弾(ハウザー)!!!

 

 

 

そして両手を左右でクロスさせて構えた。

 

 

 

着弾(インパクトォォォォォ)!!!!

 

 

 

そして両手で連続的に爆発を起こして錐揉み回転しながら轟君に迫る。

 

その過程で轟君の放った氷柱をいとも簡単に砕き着実に接近する。

 

 

「くっそ!」

 

 

轟君はそれに氷柱の勢いを上げることで対抗するけど、それも意味をなしてない。

 

 

 

くたばれやぁぁぁぁぁぁっ!

 

 

 

そしてゼロ距離まで迫り、特大の爆発を轟君に向けて放った。

 

 

「轟君!」

 

「安心しろ。無事だ」

 

 

爆煙が晴れると、そこには緑色の大きな球体が1つあった。

 

 

「あ、あれは?」

 

「俺の相棒のレオンだ」

 

 

レオンって確か、形状記憶カメレオンの?

 

ていうか今更だけど形状記憶カメレオンってなんなの…。

 

とにかく、その緑色の球体が急激に一匹のカメレオンに戻る。そしてその中から轟君が出て来ていた。

 

 

「ありがとな、レオン」

 

 

そう言って轟君はレオンを指先で撫でる。

 

 

「俺の勝ちだ」

 

 

かっちゃんはそう言いながら轟君に歩み寄る。

 

 

「あぁ。完敗だ」

 

 

轟君が立ち上がると、かっちゃんは僕達のいる観覧席を指した。

 

 

「さっさとあっちに行ってろ。邪魔だ」

 

 

そしてかっちゃんは、僕を見た。

 

 

「降りてこいデク。

 

次はテメェをぶちのめしてやる」

 

 

かっちゃんは笑い、そう言う。

 

 

「うん。今から行くよ」

 

 

こんな状況で言うのも、少し違うかも知れないけど。

 

 

「サンドバッグになるつもりはないぞ!かっちゃん!」

 

 

僕も笑って、そう答えた。




次回予告!

出久「ついにかっちゃんとの直接対決。

勝利の権化たる君を倒して、今よりも前に進む!」

勝己「来いやデク!

テメェをぶちのめして、更に上に行く!」

出久「絶対に負けない!」

勝己「やってみろや!」

出久「次回!『標的(ターゲット)10 デクVSかっちゃん』!

更に向こうへ!」

勝己「Plus ultraaaaaaa!!」


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標的(ターゲット)10 デクVSかっちゃん

※11/13 19:56 次回予告のタイトルを変更致しました


「サンドバッグになるつもりはないぞ!かっちゃん!」

 

 

そして僕は観覧席から飛び降りて、かっちゃんの前に着地する。

 

 

「緑谷、頑張れよ」

 

「うん、ありがとう轟君」

 

 

轟君は僕と入れ替わる様に観覧席に登った。

 

怪我は思ったよりも大した事は無さそうだ。

 

 

「構えろや」

 

「うん」

 

 

僕は今から、かっちゃんと戦うんだ。

 

小さい頃から、ずっと憧れていたかっちゃんと。

 

無個性が原因でいじめられたりしてたけど、それでも憧れた。

 

その強さと、絶対に勝ちを諦めない姿が、眩しかった。

 

そして2年前、君に認めて貰って僕はようやく前に進めた気がしてた。

 

けどさっきのかっちゃんを見てよく分かった。

 

かっちゃんも前に進んでいる。

 

僕は全然まだ追いつけてなんかいやしないんだって。

 

だから、次は僕が勝つ!!

 

勝って、前に進むために!

 

 

 

ONE FOR ALL FULL COWL

 

 

 

今完全に制御出来るのは3%まで。

 

けどそれじゃあかっちゃんには勝てないんだ。

 

だからそこ、今扱えるギリギリの力を!

 

 

 

5%!

 

 

 

「君に!勝つ!!」

 

 

僕が力を身に纏うと、かっちゃんは僕を睨みつけた。

 

 

(炎が出ねぇし、性格も多少好戦的になった程度か。

 

あの時とは明らかに違ぇ力。

 

だがまぁ、んなもんはどうでもいい)

 

 

かっちゃんの表情が、獰猛な笑みに変わる。

 

 

「今すぐに、ぶっ飛ばしたらぁ!」

 

 

視界の端方で、リボーンが銃を構えるのが見えた。

 

 

 

BAAAAAANG!

 

 

 

「死ぬ気で戦えよ」

 

 

 

「「っ!」」

 

 

 

僕達は同時に加速し、その距離は一瞬で消失する。

 

 

「オラァ!」

 

「ハアァ!」

 

 

昔のかっちゃんなら、ここで右の大振りを出したはず。

 

けど、それは以前に僕が指摘してるからか、今回は右のストレートだ。

 

そして僕も右の拳をかっちゃんに向けて放つ。

 

 

「遅せぇ!」

 

 

かっちゃんは右手で爆破を使わず、横に向けていた左手で使った。

 

それも小刻みに使って僕の背後に回り込むように。

 

 

BOBOBOBOM!

 

 

「くっ!」

 

 

僕はすかさず裏拳で迎撃しようとした。

 

けど、振り返った僕の視界には爆破によって生じた煙だけしか映らなかった。

 

 

「吹っ飛べや!」BOOOOM!

 

 

その声と共に、下からさっきの移動とは比べ物にならない程の爆発が僕を襲った。

 

 

「ぐあっ?!」

 

 

僕は空中に飛ばされ、そこで気がついた。

 

かっちゃんは爆破を利用して空中でも動けるけど、僕は空中で動く事が出来ない。

 

唯一出来るとすれば、ONE FOR ALLの100%で引き起こすことの出来る風による移動。

 

でも、あれはデメリットが大き過ぎるから多用も出来ないし、まだコントロールが出来ない状態じゃ上手く扱える自信もない。

 

 

「くっ!」

 

 

轟君の時はあれで決着がついたからよかったけど、実戦であんな一度きりの力なんて使い物にならない。

 

けどこのまま何もしなければ次の一撃でやられる。

 

それだけは、ダメだ!

 

 

「死ねや!」

 

 

掌を構えるかっちゃんが見えた。

 

この間合いじゃ、拳が届かない!

 

きっとかっちゃんはそれを見越してあの位置なんだ。

 

考えろ緑谷出久!

 

拳が届かないなら、どうすればいいのか!

 

 

「っ!」

 

 

刻一刻と迫るかっちゃんの掌に向けて放ったのは、蹴りだった。

 

そして蹴り上げたかっちゃんの掌はあらぬ方向に爆破を発動し、中々の規模だったそれはかっちゃんを地上に押し戻した。

 

 

「ちっ!クソが!」

 

 

かっちゃんは爆破を地面に向けて小刻みに放つ事でその勢いを殺した。

 

けど、これだけ時間があれば、僕も地面に降りられる。

 

 

「ふぅ…………」

 

 

正直、めちゃくちゃギリギリだった。

 

あの瞬間に足が出たのは、本当に無意識だった。

 

 

「この程度は出来なきゃなぁ」

 

 

かっちゃんはそう言いながら再び構える。

 

 

「まだ行くぞオラァ!」BOOM!

 

 

爆破の加速。

 

真正面で受けるのは得策じゃないかもしれない。

 

僕は地面を蹴って横に駆ける。

 

無論かっちゃんも僕を追う。

 

互いに近接格闘タイプだからこそ、ある程度の動きは分かる。

 

問題はここからだ。

 

かっちゃんの個性の爆破は一見単純な個性に見えて、その実使い方は無限大だ。

 

かっちゃんの汗に含まれるニトログリセリンを爆発させるという事は、その汗を溜めて一気に爆発させればそれだけ高い威力の爆破を起こせるという事だ。

 

けどきっと、威力が上がるに比例してかっちゃんの肉体への反動は増すはずだ。

 

狙い目は、大技の直後。

 

今は逃げの一手だ。

 

かっちゃんにはあえて汗をかかせて、大技を出させる。

 

 

「逃げてばっかりじゃ、勝てねぇぞ!」

 

 

かっちゃんは僕に迫り爆破を僕に向けて放つ。

 

僕は何とか避けてまた距離をとる。

 

だけどあまり距離を開けすぎると、さっきの轟君に使った必殺技を使うかもしれない。

 

あの技は距離が遠ければ遠い程勢いが増すから、なるべくある程度近い間合いで、小刻みな動きで逃げる。

 

 

「こんの、ビビりがぁ!」

 

「っ?!」

 

 

しまった。かっちゃんに右肩の服を掴まれた!

 

 

「オラアァァァァ!!」

 

 

かっちゃんは叫びながら僕を投げ飛ばした。

 

くっそ、まずいぞ!

 

 

「終わりじゃねぇぞ!」

 

 

また来る。

 

けど待て。なんでさっき、投げ飛ばす時に爆破を使わなかったんだ?

 

その方が、効果的に僕にダメージを与えられた筈なのに…。

 

 

…………まさか?!

 

 

僕は慌ててかっちゃんがさっき触れた場所を触ってみる。

 

するとそこは何かの液体で濡れていた。

 

やっぱり、これはかっちゃんの汗だ。

 

 

「消し飛べェェ!」

 

 

けど、気付いた頃には遅かった。

 

 

 

BOOOOOOOM!

 

 

 

「グアァァァっ?!」

 

 

かっちゃんの爆破が僕を襲い、更に服に染みていたかっちゃんの汗が誘爆して更に追い討ちをかけてくる。

 

 

「くっ、ハァ…………ハァ……ッ」

 

 

服の所々が焦げたり破れたりしている。

 

体にも、火傷が多く見て取れる。

 

 

「この程度の小細工で、何動揺してんだ」

 

 

結構、ダメージが深いな。

 

右肩を上げると痛みが走る。

 

だからって、止まる訳にはいかないだ!

 

 

「まだだよ、かっちゃん!」

 

 

僕の叫びに、かっちゃんはバチバチと小さな爆破の威嚇で答える。

 

 

「そうでなくちゃ張合いがねぇ!」

 

 

再び加速。

 

どうすればいい。

 

かっちゃんのスピードは僕の5%じゃ反応するのがやっとだ。

 

この状況をどう変える?!

 

 

「くっそ!」

 

 

考えが纏まらない内は逃げろ!

 

このまま戦ったんじゃ、かっちゃんには勝てないぞ!

 

 

「また逃げんのか?!アァ?!」

 

 

単純なパワーならONE FOR ALLの方が上かもしれない。

 

けど、かっちゃんは今までの人生で慣れ、工夫して鍛えられた個性だ。

 

その違いが、あまりに大き過ぎた。

 

舐めてた訳じゃないけど、やっぱり強いっ!

 

 

「サンドバッグにはならないんじゃねぇのか?!

 

アァ?!」

 

「っ?!」

 

 

その瞬間、僕の中で何かが切れた。

 

そして瞬間的に、体の中からとてつもない熱が生まれるのを感じた。

 

僕はこの感覚を知っている。

 

僕の体の許容を超える力を使おうとした時に感じる、まるで警告を鳴らす様な熱だ。

 

だけど今はそれを無視した。

 

 

「うおぉぉぉぉぉぉぉっ!」

 

 

その力を全て右腕に集約する。

 

もしかしたら、前にリボーンが言ったように骨が粉々になるかもしれない。

 

けど今は、そんなリスクは捨て置く。

 

かっちゃんに、一矢でも報いたいんだ!

 

 

「行くぞ!かっちゃん!」

 

「来いや!デクゥゥッ!」

 

 

かっちゃんは減速して距離をとり、あの構えをとる。

 

 

 

手榴弾(ハウザー)!!!

 

 

 

僕も、右腕の力を更に高めて叫ぶ。

 

 

 

DETROIT!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして2つの力は同時に解き放たれる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

着弾(インパクトォォォォォ)!!!!

SMAAAAAASH!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

爆破と風圧。

 

2つの激しい力のぶつかり合いは、辺りに爆風を巻き起こした。

 

 

 

 

薄れていく視界の中で、吹き飛ばされるかっちゃんの姿が見えた。

 

少し、やりすぎちゃったかな…………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…………………………

 

 

 

「なんて戦いすんだこいつら…」

 

 

轟が驚いたように呟く。

 

しかしデクの奴、最後の一撃は明らかな自爆覚悟の攻撃だったな。

 

爆豪相手に、負けたくねぇって気持ちが強くなり過ぎたか。

 

 

「リボーン、下に降りてアイツらを医務室に運ぶんだが、手伝ってくれねぇか?」

 

「ったく。仕方のねぇ奴らだ」

 

 

負けたくねぇって言うのは悪い事じゃねぇが、それが先走りすぎて身を滅ぼすなら意味がねぇ。

 

まだまだ教える事は山ほどありやがるな。

 

しかし爆豪の爆破の煙がまだ残ってやがる。

 

デク達が何処にいるか分からねぇな。

 

 

バキッ!

 

 

ん?なんだ?

 

 

「このっ!」

 

 

この声はデクじゃねぇか。

 

じゃあさっきのは、殴った音か。

 

コイツらまだ続けてやがったのか。

 

 

「いい加減、倒れろや!」

 

 

今度は爆豪の声か。

 

コイツら変な所で似てやがるな。

 

 

「俺の方が、強ぇんだよ!」

 

「君に勝つって、言っただろ!」

 

 

煙が晴れたその先に見えたのは、フラフラになりながら殴り合う爆豪とデクの姿だった。

 

 

「俺はお前に勝って、上に行くんだよ!」

 

「だから、それを超えるんだって言ってるじゃないか!」

 

「だから俺がその上を行くっつってんだよ!」

 

 

何だかんだ言いながら、コイツらも結局まだ15のガキだな。

 

けどコイツら、止めねぇといつまでも止まりそうにねぇな。

 

 

「おい轟。ちょっとあいつらの動き止めてみろ」

 

「ん?あぁ、分かった」

 

 

轟はそう言って右足の先から氷を放ち、また殴りかかろうとしてたデクと爆豪の腕を止めた。

 

 

「おい馬鹿共。今日はここまでだ」

 

 

…………返事がねぇな。

 

 

「おい、おめぇらいい加減に「勝つ、んだ…」ん?」

 

 

「俺が、勝つ………」

 

「僕が、勝つ………」

 

 

ったく。コイツら後半から執念だけで動いてやがったのか。

 

恐らく意識は途切れ途切れで、体はもうズタボロのくせに。

 

 

「コイツら、凄いな」

 

「ただ馬鹿なだけだろ」

 

 

まぁ、こういう馬鹿を鍛えるのも、悪くはねぇな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…………………………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

僕とかっちゃんの戦いから、数時間が経過した。

 

今僕達は、ジムの医務室のベッドに寝ている。

 

 

「全く君達は、戦闘訓練もいいけど、もうちょっと加減しなさい。

 

特に緑谷君。君の右腕は本当に酷かったんだぞ?」

 

 

今はいつもお世話になっているジムの医療スタッフの女性にめちゃくちゃ怒られている。

 

確かにまぁ、やり過ぎたのは分かってるんだけど…。

 

 

「しかしまさか自分の放った攻撃で粉砕骨折とは…。

 

多分だけど君、制御出来るはずの個性をわざと制御せずに使っただろ」

 

 

完全に見抜かれてる………。

 

 

「そして君だ爆豪君。

 

君の必殺技、手榴弾着弾(ハウザーインパクト)だったっけ?

 

あれ、威力が高すぎるからもう少し抑えて使えな」

 

 

かっちゃんの必殺技、早速ダメだし貰っちゃった…。

 

 

「…………ちっ」

 

 

かっちゃんも思うところがある様で、気まずそうに顔を逸らした。

 

 

「はい、それは了解したと捉えるぞ。

 

次またあれ以上の威力で使ったら施設の使用にある程度制限かけなきゃならなくなるからな」

 

 

それは困るけど、全力で戦えないならあまりトレーニングにならないんじゃ……。

 

 

「緑谷君。私の個性も万能じゃない。

 

余程の事が無い限りは大丈夫だが、同じ怪我が何度も続けば、私も手をつけられないぞ」

 

 

この人の個性は"身体活性"。

 

自分自身や触れた人間の体を活性化させる個性だ。

 

今回の場合は体の中の治ろうとする機能を活性化して貰って回復を早めてもらった。

 

けど、この人が言った通り万能じゃない。

 

活性化させた所でそれが追いつかない程の重傷は治せないし、もし無理矢理活性化させてしまうと、逆に体に負荷がかかってしまい、最悪の場合は死に至る可能性もある。

 

 

「さて、処置は終わった。

 

さぁ今日はもう帰りな」

 

 

確かに、もうそこそこ時間が経ってる。

 

あまり遅いと母さんが心配するかもしれないし。

 

 

「ありがとうございました」

 

「っす」

 

「はーい、お大事に」

 

 

僕とかっちゃんは一先ず着替える為にロッカールームに向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…………………………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いつも悪ぃな」

 

 

緑谷君達が出ていった後、私は椅子の上に立つリボーンにそう声をかけられた。

 

 

「本当にいつもいつも。

 

君の生徒はどうしてこう無茶ばかりするんだ」

 

 

緑谷君然り、オールマイトもそうだ。

 

リボーンの生徒で一番マシなのはディーノくらいだな。

 

まぁ、それでもまだマシ程度なんだけど。

 

 

「んなもん俺が聞きてぇくらいだ」

 

「……とりあえず"元ボンゴレ専属医"として忠告しておく」

 

 

私がそう言うとリボーンは表情を真剣なものに変えた。

 

 

「彼はまだ若い。

 

もし本当にボスに育てたいならもう少し自分を大切にする事を教えた方がいい」

 

「あぁ、分かってる」

 

 

ボンゴレファミリー10代目ボス候補。

 

そして、ONE FOR ALL9代目継承者である少年か。

 

 

「随分と険しい道のりだな」

 

「だが、アイツが選んだ道だ。

 

ボンゴレの方は拒否しまくってるがな」

 

 

リボーンはそう言うと乗っていた椅子から飛び降りた。

 

 

「もしかしたら、近い内にオメェの力を借りる事になるかもしれねぇ。

 

その時は頼むぞ。

 

元ボンゴレのヒットマン、モールテ・アッティーヴァ」

 

「はぁ………ヒットマン時代の名前はやめてくれ。

 

今はただのトレーニングジムの女医の活川 命子だよ」

 

 

出来れば、物騒な事にならない事を祈るよ。

 

 

 

ねぇ?緑谷出久君。

 

 

 

いや、ボンゴレX世(デーチモ)




次回予告!

出久「流石はかっちゃん…。

いくら僕が使いこなせていないとはいえ、ONE FOR ALLと同じかそれ以上の力を持っていた。

僕ももっと頑張らないと!」

リボーン「そんなお前の為に心優しい俺は助っ人を呼んでおいてやったぞ」

出久「助っ人?一体誰なの?」

リボーン「お前の兄弟子だ」

出久「兄弟子?僕の?」

リボーン「ま、会えば分かんだろ。

次回。『標的(ターゲット)11 先輩ボスとヒットマン』

更に向こうへ」

出久「Plus ultra!!」


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標的(ターゲット)11 先輩ボスとヒットマン

今日は一学期最後の日。

 

終業式はさっき終わって、先生達の会議が終わるまでの間僕達は教室で待機になった。

 

 

「緑谷ー」

 

 

日課であるノートへの記録や分析をしていると、クラスメイトの風間さんが話しかけてきた。

 

 

「どうしたの?」

 

「いやぁ、うちらLINE交換まだじゃん?

 

夏祭りの時の連絡とかしたいし交換しない?」

 

「うん。いいよ」

 

 

僕はスマホを取り出すと、LINEの画面を開いた。

 

 

「ありがとー。

 

そういえば夏樹とは交換したん?」

 

 

夏樹…………あぁ、炎さんの事か。

 

 

 

(ほむら) 夏樹(なつき)さんは、僕が初めて死ぬ気モードになった時に助けた、僕の隣の席の女子生徒で、最近よく話しかけて貰ってる、僕の数少ない女友達だ。

 

って、誰に説明してるんだ僕は。

 

 

「いや、まだだけど?」

 

「そーなん?ちょっと待ってねー」

 

 

そう言うと彼女は教室の前の方で話していた炎さんの方を向いて声をかけた。

 

 

「夏樹ー。緑谷とLINE交換まだってマジー?」

 

 

それを聞いた炎さんが物凄い勢いで彼女を連れて行った。

 

 

「ちょっと涼香!急に何よ?!///」ヒソヒソ

 

「いやぁ、さっき緑谷に聞いてみたらまだ交換してないって聞いて」

 

「そ、それは、だって、恥ずかしくて………」ヒソヒソ

 

「2年も片思いしたまんま、しかもLINE交換もしてないとか、前途多難すぎない?」

 

「うるさいわね?!私だって、そりゃちゃんとしたいけどさ…」ヒソヒソ

 

 

2人ともどうしたんだろ?

 

もしかして、僕何か変な事言っちゃったかな?

 

 

「ほら、交換してきなさいよ。

 

私も行ったげるから」

 

「なっ?!なんで?!」

 

「このまま何も伝えなかったら、そのまま進路も別れて忘れられちゃうよ?」

 

 

たまにチラチラこっち見てる。

 

やっぱり僕が変な事言ったんじゃ……。

 

な、なんだ?僕さっき何言った?

 

 

「そ、それは嫌だけどさ……」

 

「それじゃ、ほら!行こう!」

 

「えぇ?!い、今?!」

 

 

あ、炎さんを連れて戻ってきた。

 

心做しか、顔が赤い?

 

 

「ほら、言いなよ」

 

「あ、ああああ、あの、緑谷!」

 

「う、うん」

 

 

な、なんか緊張してる?

 

一体何だ?

 

 

「その、LINE!……交換、して下さい………」

 

 

………え?

 

 

「LINE?いい、けど……?」

 

 

なんか、変に緊張しちゃった……。

 

ていうか元々そういう話だったのに何緊張してるんだ僕は。

 

 

「ていうか炎さん顔赤いけど、大丈夫?

 

もしかして風邪?」

 

「えぇ?!///別に何でもないよ?!///」

 

 

僕が聞くと炎さんは全力で否定した。

 

 

「そう?なら良かった」

 

 

そして少しだけ他愛のない話をして、炎さんは自分の席に戻った。

 

って言っても、席隣なんだけど。

 

 

「しかし、あれで気付かない緑谷ってすげぇ鈍感よな」

 

「緑谷って昔からあーなのか?

 

なぁー、教えてーかっちゃんせんせーい」

 

「喧しいわ、爆破すんぞボケ」

 

 

な、なんか左からトゲトゲした視線を感じるのは気の所為だろうか……。

 

 

 

…………………………

 

 

 

放課後、昼過ぎからジムでいつもの2人とトレーニングをする事になってるから、僕は少し駆け足で家に戻っていた。

 

すると、僕の家のあるマンションの前に、スーツを着たいかにもな人達が大勢立っていた。

 

 

「なっ?!」

 

 

つい変な声が出た。

 

いや、でも待て。

 

もし一般人だったらめちゃくちゃ失礼だろ…。

 

 

「ん?」ギロリ

 

 

明らかにそちら側の人達だぁー!

 

不味い!僕こんな人達に絡まれる事したか?!

 

 

 

………って、僕マフィアの後継者候補じゃん?!

 

って事は暗殺?!この人達殺し屋?!

 

いや、だとしたら全く"暗"殺ではないけどね?!

 

 

「「「お帰りなさいませ。緑谷出久殿」」」

 

「え、えぇ?」

 

 

あれ、いつの間にか整列していたスーツの人達は、穏やかに笑っていた。

 

さっきのあの強面な感じは何処へ…。

 

 

「さぁ、どうぞ」

 

 

とにかく、通して貰えるみたいだから早く帰ろう!

 

 

 

僕は急いで家に入って扉を閉めた。

 

 

「あ、おかえり出久」

 

 

家に帰った僕を出迎えたのは、いつもと変わりのないお母さんだった。

 

 

「お客様がいらっしゃってるわよ」

 

「え?」

 

 

こ、このタイミングで来る客なんて、めちゃくちゃ嫌な予感がするんだけど……。

 

とりあえず僕は、自分の部屋に行く事にした。

 

 

「うふっ。リボーン君にあんなハンサムなお友達がいるなんて」

 

 

僕は部屋の扉を開けてまずリボーンに文句を言う事にした。

 

 

「リボーン!また何したの?!……って?!」

 

「「あぁん?」」

 

 

部屋の中にもいる?!

 

 

「待ってたぞ、デク」

 

 

僕が驚いていると、リボーンがこちらを振り返りながらそう言った。

 

 

「一体これはなんなの?!」

 

 

リボーンに問い詰めようとしたその時、部屋の中に見覚えのない椅子があるのに気が付いた。

 

 

「よぉボンゴレの大将」

 

「え?」

 

「遥々イタリアから遊びに来てやったぜ」

 

 

椅子が回転してこっちに向くと、そこには若い男性が座っていた。

 

 

「俺はキャバッローネファミリーの10代目ボス。

 

ディーノだ」

 

「キャバッローネって、マフィア?!」

 

 

じゃあ下にいたあの人達も?!

 

 

「ん?」ギロ

 

 

な、なんか睨まれてる?

 

 

「ぷ、あははははっ!こりゃダメだな!」

 

 

と思ったらなんか笑い出した………。

 

って、なんかこっちに来てる?

 

ディーノと名乗った男の人は僕の目と鼻の先まで来て、僕を見下ろしていた。

 

 

「オーラがねぇ。

 

面構えが悪い。

 

覇気もねぇし、期待感もねぇ」

 

 

と思ったら唐突に罵倒されたんだけど……。

 

 

「足も短ぇ。

 

金も無いし、力も上手く扱えねぇ」

 

 

り、リボーンまで…………。

 

 

「幸も薄そうだ。

 

ボスの資質、ゼロだな」

 

「んっ」

 

「「ははははははっ」」

 

 

別にボスになりたい訳じゃないけど、これはこれで嫌だな…。

 

 

「リボーン!何なのこの人達?!」

 

「ディーノのは、お前の兄弟子だぞ」

 

 

兄弟子?それってどういう事だ?

 

とりあえず僕は座ってディーノさんの話を聞く事になった。

 

 

「悪ぃ事ばっか言ったが、気を悪くするなよ?

 

ボンゴレ10代目」

 

 

その呼ばれ方はあまり好きじゃないんだけどな…。

 

 

「俺もリボーンに会うまで、ボスの資質なんてこれっぽっちも無かったぜ」

 

 

リボーンに会うまで?

 

 

「リボーンに会うまでって、まさか…」

 

「俺はここに来るまで、ディーノをマフィアのボスにすべく、教育してたんだ」

 

 

や、やっぱり…………。

 

 

「リボーンの特訓は容赦なくてな。

 

何度死にそうになった事か」

 

「ま、デクはお前と違って勉強は出来たから、そこの苦労は無かったがな」

 

「は、ははははは………っ」

 

 

何で勉強で死にそうになるんだ?!

 

一体どんな教え方してたんだよリボーン!

 

ってもしかして、僕もこれからそんな目に会うの…?

 

 

「おかげで今じゃ、五千のファミリーを持つ一家のボスだ。

 

本当はリボーンに色々な事を教わりたかったんだが、お前の所に行くって言うから、泣く泣く見送ったんだぜ?」

 

「あの、リボーンに家庭教師をして貰ってるのはありがたいんですけど、僕マフィアのボスになる気は無いんです!」

 

 

確かにリボーンのおかげで鍛えられたし、かっちゃんにも認めて貰えた。

 

けど、それとこれとは話が違うんだ。

 

 

「んんっ?」ギロ

 

「ひっ?!」

 

 

ま、また睨まれた。

 

それに情けない声出しちゃった……。

 

 

「ぷっ、ははははっ!

 

リボーンの言う通り、コイツ昔の俺にそっくりだな!」

 

「えぇ?」

 

 

僕がディーノとそっくり?

 

どういう事だろう?

 

 

「俺もボスになる気は無かった。

 

ハナからマフィアを目指す奴に、ロクなのはいねぇからな」

 

「いや、でも僕は…」

 

 

マフィアより、ヒーローになりたい…………。

 

 

「リボーンの腕は確かだ。

 

きっとお前も、立派なボスになれる。

 

それでも一生やらねぇってんなら……」

 

 

そう言ってディーノさんは懐に手を入れ、何かを取り出そうとしていた。

 

ま、まさか銃?!

 

だとしたら、取り押さえるべきか?!

 

 

「噛むぞっ!」

 

「……………え?」

 

 

身構えた僕の目の前に突き出されたのは、一匹の亀だった。

 

………いや、亀?

 

 

「人が悪いですぜ?ボス。

 

ボンゴレが完全に身構えてんじゃねぇですか」

 

 

ディーノさんの隣の付き人みたいな人が、僕を指して少し笑いながらそう言った。

 

 

「悪ぃ悪ぃ。

 

コイツはエンツィオって言って、リボーンにレオンをくれと言ったら代わりにくれたんだ」

 

 

レオンの代わりに?

 

 

「このレオンは、俺の相棒だからな」

 

 

でも確かに、レオンの能力は凄い。

 

銃になったり、体の中で死ぬ気弾を作ったりと、万能すぎるくらいだ。

 

 

「そういえば今日、爆豪達とトレーニングする日だったな」

 

「あっ、そうだよ!

 

こんな事してる場合じゃないんだった!」

 

 

僕が慌てていると、ディーノさんがリボーンに話しかけていた。

 

 

「爆豪ってのは、デクのファミリーか?」

 

「あぁ。他にも轟ってのがいる」

 

「ちょ、リボーン!

 

2人はそんなんじゃなくて、友達だから!」

 

 

というか2人をこんな事に巻き込めないよ……。

 

 

「まぁ、とりあえず会ってみりゃ分かるだろ」

 

「え?会ってみりゃ?」

 

 

それってもしかして、ディーノさんも今日来るって事?

 

 

「それもそうだな。

 

まぁ安心しろ。別にお前のファミリーをどうこうしようって訳じゃねぇんだ」

 

 

ディーノさんがそう言うなら、大丈夫なんだろうけど…。

 

 

「んじゃ、とりあえず行くか」

 

 

リボーンのその言葉で、僕達は移動する事になった。

 

 

「あら出久。お客様はお帰り?」

 

「いや、前に言ってた通りジムに行くんだよ。

 

この、ディーノさんと一緒に行くんだ」

 

 

母さんはそれを聞くと少し驚いた様な顔になった。

 

 

「あら、じゃあディーノさんも出久の家庭教師なの?」

 

 

家庭教師、か。

 

でもディーノさんみたいに優しそうな人が家庭教師なら、楽しいだろうな。

 

リボーンとの日常も、最近では楽しめるけどね。

 

 

「俺はどっちかって言うと、デクの……出久の先輩みたいなものだよ。

 

俺も昔、リボーンの教えを受けてたんだ」

 

「そうなのね!

 

出久良かったじゃない。お兄さんみたいな先輩が出来て」

 

 

母さんが笑ってこっちを見る。

 

確かにディーノさんはお兄さんみたいだなって感じる。

 

 

「んじゃママン、行ってくるぞ」

 

「行ってくるね」

 

「出久は預かるぜ」

 

 

僕達がそれぞれ母さんに声をかけると、母さんは再び笑って応えた。

 

 

「うん。怪我はしない様にね」

 

 

それから僕達はディーノさんの側近のロマーリオさんが運転する車に乗り込んでジムに向かう。

 

 

「何か聞きたいことはねぇか?可愛い弟分よ。

 

兄貴分としてアドバイスしてやるぞ」

 

 

その中で、助手席に座るディーノさんが僕にそう声をかけた。

 

ディーノさんに気に入られるのは嬉しいけど、僕はマフィアになりたくないしなぁ……。

 

 

「そういえば、リボーンが言ってた爆豪って奴と轟って奴はどんな奴なんだ?」

 

「え?かっちゃんと轟君ですか?」

 

「いい機会だ。

 

アイツらの事をディーノに教えてやれ」

 

 

かっちゃんと轟君の事か。

 

流石に轟君の家の事は言えないし、そこら辺を考えながら話してみよう。

 

 

 

それから僕はなるべく2人の聞かれたくないであろう事を省きながらディーノさんに話した。

 

と言ってもかっちゃんにそう言うのは無いだろうけど。

 

 

「しっかし、少し前まで虐めてきてた奴と一緒にトレーニングするなんて、お前も物好きだな」

 

 

ディーノさんの言葉に、少し顔が引きつった。

 

 

「その事に関してはまぁ、色々あって……」

 

「ま、そういう所はボンゴレI世の思想に通ずるものがあるな」

 

 

僕が、I世と?

 

一体どういう事なんだろう?

 

 

「ディーノさん、それってどういう事なんですか?」

 

「それはお前の家庭教師のリボーンに聞いてみろよ。

 

ボンゴレの歴史には、リボーンの方が詳しいしな」

 

 

ディーノさんがそう言うと、僕の隣のリボーンが帽子の先を指で擦りながら応えた。

 

 

「ボンゴレI世は、気に入った奴は誰であろうと構わず受け入れ、初代ファミリーのメンバーには国王、ライバルマフィア、宗教家など何でもありだったらしい」

 

「そんなボンゴレI世と、X世であるお前のファミリーの爆豪や轟はよく似ているって感じてな」

 

 

国王やライバルマフィア………そんな人まで受け入れていたなんて、凄い人なんだな………って!

 

 

「かっちゃんも轟君もファミリーとかじゃないんですって!」

 

「ハハハッ!悪ぃ悪ぃ。そういえばそうだったな」

 

 

ディーノさんが笑いながら謝る。

 

絶対本気で思ってないよ……。

 

 

「おいボス。そろそろ着くぜ」

 

「お、もうか。

 

そんじゃあ、デクのファミリーを見てみるとするか」

 

「ディーノさん!」

 

「分かった分かった」

 

 

また笑ってるし………。

 

やっぱりディーノさんに気に入られるのは複雑だ…。

 

 

 

…………………………

 

 

 

「ん?おぉ、遅かったじゃないか緑谷少年」

 

 

僕がロマーリオさんの車から降りていると、トゥルーフォームのオールマイトが声をかけてきた。

 

 

「あ、オール………俊典さん。すみません」

 

 

僕が呼んだのはオールマイトの本名で、オールマイトのこの姿を知らない人達の前ではそう呼ぶようにしている。

 

特にかっちゃん達にバレたら大変だし……。

 

 

「しかし、その車は「よぉ俊典。久しぶりだな」、っ?!

 

おぉ!ディーノじゃないか!」

 

 

え、もしかして、オールマイト達って知り合い?

 

 

「そういえば言うの忘れてたな。

 

俺はコイツの事も知ってるし、お前が後継者だって事も知ってんだ」

 

「えぇ?!そこまで?!」

 

 

案外この情報って知ってる人多い?!

 

 

「おい俊典。早く戻らないと轟君と爆豪君がまた無茶するぞ………って、なんでディーノがいるんだ?」

 

 

あれ、活川さんも?!

 

いやでも待て。ディーノさんを知ってるだけで、オールマイトの事は知らないかも知れないじゃないか。

 

ディーノさんを知ってる事自体ちょっとあれだけどこの際考えないでおこう。

 

 

「しかし、また一段と細くなりやがったな俊典」

 

「活動限界ギリギリどころか超過してマッスルフォームを維持するからそうなるんだ。

 

いい加減お前の面倒を見る医者の身になれ」

 

 

もうこの会話自体が証拠だよ………。

 

ここにいる全員オールマイトの事知ってるよ……。

 

 

「あぁ、驚かせちまったな。

 

俺はリボーンから教えを受けている間に俊典と知り合ったんだ。

 

あとそこの女医は以前は活性死のモールテ・アッティーヴァと呼ばれた伝説的なヒットマンだったんだぜ 」

 

 

待って待って待って。

 

情報量が多すぎる。

 

リボーン繋がりでディーノさん達が知り合ったのはまだ分かる。

 

けど、活川さんがヒットマンってどういう事?!

 

 

「ディーノ。人の黒歴史を掘り返すのはやめろ。

 

ヒットマンは5年も前に辞めたんだ」

 

 

心底鬱陶しそうに活川さんはそう言った。

 

ていうかヒットマンだったって事自体は否定しないんだ……。

 

 

「悪いね緑谷君。

 

別に隠していた訳じゃないんだが、態々昔はヒットマンだったなんて自分から言うものでもないと思ってね」

 

 

いつもと変わらない風に喋る活川さん。

 

こうやって見ると、昔ヒットマンだったなんて信じられないな。

 

 

「そうだデク。俺達3人は少し話があるから、先に俊典と一緒にトレーニングしててくれ」

 

「はい。分かりました」

 

 

とりあえず、そこら辺の話はまた今度聞けばいい。

 

今はトレーニングに集中だ!

 

 

 

…………………………

 

 

 

「それで?

 

2人は私に話があるんだろ?」

 

 

ジムの裏にある森の中で、私はディーノのその肩に乗るリボーンにそう聞いた。

 

この2人が持ってくる話題なんで、絶対ロクなものじゃ無い。

 

 

「今日はデクとディーノの顔合わせだけのつもりだったんだがな。

 

どうやらディーノがマークしてた連中が動き出したらしい」

 

 

それを聞いた瞬間、脳が沸騰したように熱くなった。

 

 

「ディーノが、マークしてた?

 

確かそれは、ジャックファミリーの残党だと聞いていたが」

 

「その通りだ。

 

9代目の暗殺を目論み、それを阻んだお前とお前が率いたボンゴレファミリーのヒットマンと構成員をほぼ壊滅させた、ジャックファミリーの残党だ」

 

 

リボーンの言葉に、今度は脳が極限まで冷えていく。

 

………あぁ、そうか。

 

奴らはこのタイミングだからこそ動き出したんだ。

 

 

「今度の奴らの狙いは9代目じゃなく、10代目である緑谷君という訳?」

 

「まだ仮説の段階だが、そうだろうな。

 

言い方は悪ぃが、老いた9代目を暗殺するより、他の正当後継者が死んじまった以上、デクを消した方がボンゴレにとっては痛手になる」

 

 

ディーノの言葉が、頭の奥底に木霊する。

 

確かに、9代目を殺した所で継承権がある緑谷君がいればボンゴレは再建出来る。

 

けど緑谷君を先に消してしまえば、後継者の座を狙ってファミリー内での抗争が起こり、ファミリーは内側から崩壊する。

 

何とも奴らが考えそうな事だ。

 

 

「それで?

 

ジャックファミリーが動き出した今、私にまたボンゴレに戻れとでも言いに来たのか?」

 

 

だとしたら私は御免だ。

 

もう二度とあんな悲劇は見たくない。

 

 

「いや、今回お前にはデクの護衛を任せてぇんだ。

 

俺も付かず離れずって訳にはいかねぇからな」

 

「俺もイタリアに戻って調べたい事がある。

 

だからアンタに俺の可愛い弟弟子を頼みたいんだ。

 

今回だけでいい。力を貸してくれないか?」

 

 

今回だけ、か。

 

もし断れば、緑谷君の警護はどうなるのだろう。

 

きっとボンゴレから人員が宛てがわれるはずだ。

 

けど、ジャックファミリーは普通の人間が相手に出来る程の連中じゃない。

 

まともにやり合えるのはそれこそ、独立暗殺部隊ヴァリアーくらいだ。

 

だが奴らは今"揺りかご"の一件でまともな活動が出来ないはずだ。

 

そうなるとやはり、通常のファミリーが警護にあたるんだろう。

 

ボスの命令で、命すら投げ出す様な連中だ。

 

きっとまた、死体の山が出来上がる。

 

医者として私は、それでいいのか?

 

 

「まぁ、無理にとは言わねぇ。

 

お前がダメでも宛は他にあるからな」

 

 

リボーンはそう言うと、帽子を深く被った。

 

 

「死体がいくらか増えるかもしれねぇがな」

 

 

………ハァ。

 

本当にいい性格してるよ。この赤ん坊は。

 

 

「今回だけだぞ」

 

 

あぁ。絶対に今笑ってやがる。

 

誘導もいい所だ。

 

 

「恩に着るぞ。

 

まぁ、最悪の場合はコロネロでも呼びつけようと考えていたがな」

 

「それを先に言え」

 

「最悪の手段だったからな。

 

そんじゃあ、その方向で話を進めるぞ」

 

 

そして私達はそこから10分ほど話して、緑谷君達の元に戻った。

 

緑谷君達は何も知らず、いつもと変わらぬ笑顔を見せていた。

 

 

 

…………………………

 

 

 

「ボス。そろそろ日本(ジャッポーネ)です」

 

 

ようやくか。

 

飛行機で12時間くらいか?

 

これだから日本(ジャッポーネ)は嫌なんだ。

 

 

「まぁ、これでボンゴレの10代目候補を潰せると考えたら、多少はお釣りが来るかな」

 

 

楽しみだなぁ。

 

先代がどうとかは興味無いけど、君には個人的な興味があるよ。

 

なぁ緑谷出久君。

 

君は大切な者を奪われた時、どんな顔をするんだろうね?




次回予告!

活川「全く。こんな仕事まで押し付けないで欲しいんだが」

出久「まぁまぁ。とにかく次回は夏祭りですよ。

楽しまないと損しちゃいますよ」

活川「夏祭りねぇ……。

何事も無く終わるとは思えないな」

出久「怖い事を言わないで下さいよ。

それじゃあお願いします」

活川「仕方ないな。

次回、『標的(ターゲット)12 強襲・ジャックファミリー』」

出久「更に向こうへ!Plus ultra!!」


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標的(ターゲット)12 強襲・ジャックファミリー

「緑谷ー。こっちこっちー」

 

「あ、風間さん。こんばんわ」

 

 

夏休みのある日の夜。

 

僕は折寺神社で行われる夏祭りに来ていた。

 

集合の10分前だけど、もう何人かは集まっていたみたいだ。

 

脇の方にかっちゃんがいるのも見える。

 

ちゃんと来てくれてよかった。

 

 

「なんか緑谷の私服って初めて見るけど、結構いかしてるのな」

 

「そうかな?」

 

 

ちなみに僕の私服の大半は文字Tシャツだったんだけど、リボーンから「なんだそのダセェ服は」と言われて2年前にだいたい買い換えた。

 

個人的には気に入ってたんだけど、どうやらこっちの方が大衆受けはいいみたいだ。

 

この流れで思い出したけど、リボーンは今家でレオンの様子を見ている。

 

なんか最近調子が悪いみたいで、色々な形に勝手に変身しちゃうみたいだ。

 

 

「悪ぃ緑谷。遅れたか」

 

 

その時、僕の後ろから聞きなれた声が聞こえた。

 

 

「ううん、大丈夫だよ轟君」

 

 

どうして轟君がいるのかって言うと、前にクラスメイトに写真を見せた時に「緑谷!この人絶対に夏祭りに連れて来て!」と迫られて、轟君に確認をとったら「別にいいぞ」と返事が来たので、こうやって一緒に集まることになった。

 

轟君とこうして直接会うのも、ディーノさんと初めてあったあの日以来かな。

 

 

 

あの日はディーノさんが部下の目の前じゃないと力が発揮出来ない体質(個性なのかな?)が発覚したり色々あった。

 

それに、活川さんがヒットマンだったって事も知った。

 

あの人がヒットマンだったなんて、今でも信じられないけど。

 

 

「それより緑谷。ほれ、夏樹の浴衣姿に何か言う事は無い?」

 

 

僕が少し考えていると、風間さんが話しかけてきた。

 

振り返ると、浴衣を着て顔を赤くしている炎さんがいた。

 

 

「ど、どうかな?///」

 

「うん!凄く似合ってるよ!」

 

「ありがとう………///」

 

 

正直に思った事を言った。すると炎さんは更に顔を赤くして俯いた。

 

 

「顔赤いけど、大丈夫?」

 

「えぇ?!だ、大丈夫だよ?!///」

 

 

凄く慌てて後ずさりする炎さん。

 

って、段差に躓いて転けそう。

 

 

「きゃっ?!」

 

「っ!」

 

 

一瞬だけONE FOR ALLを発動して炎さんを受け止める。

 

良かった。怪我は無いみたいだ。

 

 

「大丈夫?」

 

「う、うん…………///」

 

 

まだ顔は赤いみたいだけど、大丈夫みたいだ。

 

 

「フゥゥ、緑谷やるぅ」

 

「え?」

 

「天然人たらしって奴だな」

 

「えぇ?」

 

 

なんでか分からないけど物凄い言われようだ……。

 

 

「とりあえず早く回ろー。

 

花火まで3時間あるって言っても、出店も色々あるし人も多いし」

 

 

風間さんの提案で、僕達は動き出した。

 

けどクラスのほとんどが集まって動くと他の人の迷惑になるって事で、何個かのグループに別れる事になった。

 

僕が一緒に行くのは炎さんと轟君と風間さんだ。

 

 

「いやぁ、それにしても人多くない?」

 

「祭りなんだから仕方ないだろ」

 

 

風間さんのボヤキに、轟君が答える。

 

この2人何となく雰囲気が似てるから、見てて面白いな。

 

なんか、兄弟みたい。

 

 

「あ、射的だ。

 

轟って射的出来るん?」

 

「やった事ねぇな。

 

この機会にやってみるか」

 

 

轟君は財布からお金を取り出して出店の人に渡す。

 

 

「おう兄ちゃん。5発分な。

 

そっちのもじゃもじゃ頭の兄ちゃんもやるかい?」

 

「あ、いや、僕はいいです」

 

「それじゃあ緑谷達は花火見る場所確認して来てよ。

 

夏樹が場所知ってるからさ」

 

 

風間さんがそう言うと、炎さんは頷いた。

 

 

「うん。分かった」

 

 

そこで僕達は風間さんと轟君と別れて花火がよく見えるらしい場所に向かった。

 

行き道はまるで獣道みたいで、クネクネと森の中を曲がったりしながら進んで行った。

 

そして開けた場所に出ると、そこは祭り会場が見渡せる小高い丘だった。

 

 

「うわぁ。凄い場所だね」

 

「でしょ?私と涼香で毎年ここに来て見てたの。

 

ここら辺の人でもあまり知らない穴場なんだ」

 

 

僕、祭り自体あまり来てなかったから、こういう場所があるなんて知らなかったな。

 

 

「そう言えばそこそこ時間たってるけど、2人とも遅いね?」

 

「そそ、そうだね!2人とも何してるんだろーね!///」

 

 

僕が疑問を口にすると、炎さんは慌てた様に言った。

 

手もバタバタ動かしてる。

 

それから少し間が空いて、次に声を出したのは炎さんだった。

 

 

「………ね、ねぇ緑谷」

 

「ん?どうかした?」

 

 

炎さんが体ごとこっちを向いて、浴衣の袖をギュッと握り締めていた。

 

 

「2年前、窓から落ちた私を助けてくれてありがとう」

 

「お礼なんていいよ。僕がやりたくてやったんだし」

 

 

僕がそう言うと、炎さんは少し顔を膨らませてこっちを見た。

 

 

「私が言いたいの!」

 

「ご、ごめん…」

 

 

怒らせちゃった……。

 

けど少しすると、またさっきみたいに戻った。

 

 

「あのね?私、その時からずっと、緑谷の事…」

 

「僕の事?」

 

 

なんだろ?

 

炎さんは何を言いたいんだろう?

 

 

「私、ずっと!「あれ?先客がいたかー」…えっ?」

 

 

炎さんの言葉を遮って、若い男の人の声が聞こえた。

 

 

「あ、ごめんね?なんかお邪魔だったみたいで」

 

 

振り返るとそこには、僕達より少し年上くらいの男の人が立っていた。

 

 

「大丈夫ですよ。貴方も花火を見に来たんですか?」

 

「まーね。去年引っ越して来て、その年もここから花火を見たんだけど、最高だったよ」

 

 

爽やかな人だな。

 

それより、轟君達まだかな?

 

 

「………ねぇ、緑谷」

 

「ん?どうしたの?」

 

「去年、ここで花火を見てたのは、私と涼香だけだった」

 

 

それがどうかしたの?

 

そう聞こうとした。

 

けど、何かが引っかかった。

 

さっきあの人は、去年も"ここ"で見たって言っていた。

 

見た所この近くに同じ様な開けた場所は無さそうだし、去年引っ越して来たってことは、その前と間違える事がありえない。

 

けどだとしたら、何でこの人は、そんな嘘を?

 

 

「あらら。バレちゃったか」

 

 

そう言うと、男の人が纏っていた雰囲気が一瞬で変わった。

 

 

「まぁ、別に大して隠す意味は無かったんだけどね?

 

まぁ、ゆっくり話でもしようじゃないか。

 

ボンゴレ10代目」

 

 

今、この人ボンゴレって?

 

それに手には、拳銃?!

 

この人、ヤバい!

 

 

「炎さん、僕の後ろに「緑谷君!下がれ!」えっ?!」

 

 

僕が炎さんを庇おうとしたその時、何処からか活川さんの声が響いた。

 

 

「おっと、危ない危ない」

 

 

男の人が急に飛び退く。

 

するとその地面に深深とメスが刺さっていた。

 

 

「医者としてどうなんだい?

 

モールテ・アッティーヴァ、活川 命子」

 

「お前こそ、そういうブツは日本じゃ違法だと言う事を知らないのか?」

 

 

活川さんの手には、さっき地面に刺さったのと同じメスが数本握られていた。

 

 

「しかし驚いたぞ。

 

まさかジャックファミリーが代替わりしていたとはな」

 

 

ジャックファミリー?

 

って事は、この人はマフィアの、それも代替わりって言葉から考えると、ボスなのか?

 

 

「そういう訳。

 

まぁ先代がボンゴレのボスを殺したがってたのは知ってるけど、別に僕はボンゴレとか興味無いしね」

 

「なら何故ここに来た。

 

ボンゴレに興味が無いなら、緑谷君を狙う理由は無いだろ」

 

 

活川さんが、普段からは想像もつかない様な低い声で会話を続ける。

 

 

「それがそうでも無いんだよねぇ。

 

僕は彼自身に興味があるんだ。

 

ボンゴレとか関係なく、緑谷出久君本人にね」

 

 

僕に、興味が?

 

この人は一体、何を言っているんだ?

 

 

「君が大切な者を奪われた時、どんな顔をするのかなってさ」

 

 

大切な者を、奪われた時?

 

っ?!まずい!

 

 

「炎さん!逃げて!」

 

「えっ?」

 

 

未だに状況を飲み込めていないであろう炎さんを急いで抱えて僕はその場を離脱しようとした。

 

その時だった。

 

 

「おっと、行かせませんよ」

 

 

僕達の目の前に、スーツを来た男の人が立ちはだかった。

 

 

「くっ?!」

 

「緑谷君!」

 

 

炎さんを抱えているから、逃げながらじゃ戦えない。

 

けど、この人が簡単に抜ける程容易い相手じゃないのは、僕でもわかる。

 

どうすれば、この状況を抜けられる?!

 

 

「ダメだよモールテ・アッティーヴァ。

 

君が仕掛けてきたんだから、余所見なんかしちゃあさ」

 

 

活川さんも今は動けない。

 

なら、やるしかない。

 

 

「ごめん炎さん。僕の後ろにいて」

 

 

僕は炎さんを降ろして背後に回す。

 

 

「私と戦うおつもりですか?」

 

「えぇ、あなたが通してくれるなら、そんな必要無いんですけど」

 

「ご冗談を」

 

「そう言うと思ってましたよ」

 

 

3%で様子を見よう。

 

この人の個性が何なのか、まだ分からない。

 

それに炎さんが後ろにいるんだから下手に前に出られない。

 

 

「来ないのですか?」

 

「くっ」

 

 

かと言って、この状況も良くない。

 

何か、状況変える一手が欲しい!

 

 

「避けろ緑谷!」

 

「っ?!」

 

 

この声は、轟君?!

 

って事は!

 

 

ガキガキガキガキガキガキッ!

 

 

やっぱり、氷結!

 

 

「むっ?」

 

 

よし!足を止めた!

 

今なら「この程度なら、どうということはありませんな」、何?!

 

氷が、どんどん複数の球体に変えられている?!

 

 

「私の個性は、触れた物を任意の形に変形させる個性です。

 

生物には通用しませんのでご安心を」

 

 

安心なんかできるわけが無い。なんて個性なんだ。

 

その気になれば、この地球その物が武器になるって事じゃないのか?!

 

 

「また変形した物を意のままに操る事も出来ます。

 

この様にね」

 

 

そう言って奴は、球体になっていた氷を鋭利な刃物に変え、僕に放った。

 

 

「くっ?!」

 

 

何とか躱したけど、まだストックはあるみたいだ。

 

奴に効く攻撃は、純粋な打撃か個体でないもの。

 

それに当てはまるのは、僕のONE FOR ALL、轟君の炎。

 

手数が、圧倒的に足りていない。

 

 

「ふむ。この氷は10秒と言った所か」

 

 

10秒?今10秒と言ったのか?

 

一体何の秒数だ?

 

氷が10秒だと言ったからには、氷に関する「緑谷!ぼさっとするな!」っ!そうだ、そんな場合じゃなかった!

 

 

「中々良い友をお持ちですな」

 

「えぇ。とても!」

 

 

話しかける余裕があるって、見せつけてるのか。

 

それにさり気なく僕を轟君との間に誘導した。

 

これじゃあ、轟君の炎が使えない!

 

…………炎?そうだ!炎さんの個性も炎だ!

 

けど待て。冷静になれ!

 

炎さんを戦闘に巻き込んじゃダメだろ!

 

もう既に巻き込んでるけど、実際に戦うのは訳が違う!

 

 

「緑谷、ねぇ、緑谷!」

 

「っ?!炎さん、どうかした?

 

まさか、怪我でもしたの?!」

 

 

くっそ、いつだ?!

 

あの氷の刃か?!

 

 

「違う!

 

その、さっきはよく分かって無かったけど、あの人達、(ヴィラン)だよね?」

 

 

炎さんの理解が追い付いて来たみたいだ。

 

まぁ、流石にあそこまで攻撃を受ければ、どんなに鈍い人でも分かる。

 

 

「そうだよ。

 

けど大丈夫。絶対に、僕が守るから」

 

 

出来るだけ冷静に、笑顔でそう答えた。

 

ヒーローは、笑顔で誰かを助けるんだから。

 

 

「でも、緑谷も私と同じ中学生なんだよ?!

 

轟君だってそうだし、まだヒーローじゃないんだよ?!」

 

 

そうだ。

 

僕達はヒーローじゃない。

 

(ヴィラン)と戦う資格も、個性を人に振るう資格も無い。

 

 

「分かってるよ。

 

でもね、今はそんな事気にしていられない。

 

じゃなきゃ、君を守れないんだ」

 

 

今は炎さんを守る。それだけを考えろ。

 

頭を回せ。体を動かせ!

 

(ヴィラン)を見ろ。弱点を見つけろ!

 

その為にまずは!

 

 

「轟君!炎さんをお願い!」

 

 

抱えたままじゃ戦えない。

 

それに、轟君の氷はいざって時に防御壁になる。

 

アイツに触れられなければ、それでいい!

 

 

「おい緑谷、どうするつもりだ!」

 

「出来るだけ時間を稼ぐ!その間に逃げて!」

 

「ふざけんな!お前一人で敵う相手じゃねぇだろ!」

 

「そうだよ!大怪我するかもしれないんだよ?!」

 

 

心配してくれるのは、凄く嬉しい。

 

けど、ダメなんだ。

 

このまま3人で居ても、最悪全滅だ。

 

だったら、なるべく生存者を増やすべきだ。

 

 

「それに、逃げるならお前の個性の方が向いてるだろ!

 

俺の身体能力は普通の人間なんだぞ?!」

 

「そうだけど、轟君の個性じゃコイツの足止め出来ないだろ?!」

 

 

つい強い言葉を使ってしまった。

 

けど、このくらい言わないと引いてくれない。

 

 

「でもお前、死ぬかもしれねぇんだぞ?!」

 

「っ?!ダメだよ緑谷!」

 

 

まだ、ダメなのか?!

 

だったら、もう嫌われてもいい。

 

絶対に逃がさなきゃいけないんだ!

 

 

「足手纏いなんだ!

 

早く逃げてくれないと戦えないんだよ!」

 

「「っ?!」」

 

 

2人とも、傷ついちゃったかな………。

 

けど、仕方ないんだ。

 

 

「………緑谷。死ぬんじゃねぇぞ」

 

「大丈夫。僕はいつだって死ぬ気だから」

 

 

それだけ言葉を交わすと、轟君は炎さんを抱えて走り出した。

 

その最中で激しい声のやり取りが聞こえたけど、(ヴィラン)に集中する僕には上手く聞き取れなかった。

 

 

「行かせませんぞ」

 

「こっちのセリフだ!」

 

 

地面に触れようとした(ヴィラン)の手を、ONE FOR ALLで身体強化して接近し止める。

 

 

「絶対に2人に手は出させない」

 

「良い目ですな。いいでしょう」

 

 

死ぬ気で、こいつを止める。

 

 

 

…………………………

 

 

 

「轟君!ダメだよ!緑谷を置いて行けないよ!」

 

 

私を担いだ轟君はここへ来た道を逆に走っていた。

 

このままじゃ、緑谷が死んじゃうよ!

 

 

「アイツの覚悟を無駄にする気か?!

 

アイツは今命張って俺達を逃がしてんだぞ?!」

 

 

命張ってって、それじゃあ緑谷が本当に死ぬ覚悟で残ったみたいじゃん。

 

そんなのダメだよ!緑谷はまだ普通の中学生なのに!

 

 

「一先ず待たせてる風間にお前を預けるから、ヒーローと警察、あと救急隊も呼んどいてくれ!」

 

 

救急隊?

 

それじゃあ、緑谷が怪我をするのは、前提なの?!

 

そんなのって…。

 

 

「っ!轟!待ってろって何だったのって、何で夏樹抱えてんの?!」

 

「話は後だ!とりあえずヒーローと警察を「轟君ごめん!」はっ?!」

 

 

ガツンッ!

 

 

涼香に要件を伝えようとした轟君の頭を殴って、私はさっきの道を引き返した。

 

 

「ちょ、夏樹何してんの?!」

 

「このままだと、緑谷が死んじゃうよ!私が助けなきゃ!」

 

「はぁ?!ちょ、夏樹!」

 

「行くな炎!ってぇ……っ!」

 

 

止めようとする轟君と涼香を何とか振り切って、私は山の中を走った。

 

そして視界が開けた瞬間、私の目に映ったのは2人の(ヴィラン)に見下ろされる、倒れ伏した緑谷だった。

 

 

「緑谷!」

 

 

私は叫びながら、突き出した手から炎を放っていた。

 

 

 

…………………………

 

 

 

「ハァ!!」

 

「フンッ!」

 

 

何度も攻撃を繰り出してるけど、それは(ヴィラン)の個性を帯びた木によって何度も防がれる。

 

砕いても次は砕けた幹から刃を作り出して僕に放ってくる。

 

このパターンを何十回と繰り返している。

 

活川さんの方もまだもう1人の(ヴィラン)に手こずってるみたいだし、とにかく時間稼ぎだけを考えろ。

 

 

「貴方の力にはまだまだ余力があると見えます。

 

全力を出せば、私を倒せるのではありませんか?」

 

 

本当はそうしたい所なんだけど、それは出来ない。

 

ここでONE FOR ALLを全力で使えば、確かにこの(ヴィラン)を倒せるかも知れない。

 

けど、この丘を破壊せずにあの威力を振るう自信が、僕にはない。

 

もしこの丘が崩壊すれば、下の祭り会場にその瓦礫が降り注ぐかもしれしない。

 

そうなれば何人の犠牲者が出るか分からない。

 

 

「まぁ、いいでしょう。

 

それでは、今の内に貴方を倒してジャック様への手土産にするとしましょう」

 

「そう簡単にやられ無いぞ。

 

お前1人なら、僕でも何とか抑えられるんだから」

 

 

そうだ。

 

焦らなければ、そう負ける相手でもない。

 

リボーンからの修行や、かっちゃんと轟君との戦闘訓練で力は付けてるんだ。

 

僕1人で何とか

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

バンッ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……え?

 

ふと、右足に軽い痛みを感じた。

 

まるで、注射を刺されたような……。

 

 

「卑怯とは存じておりますが、私は1人ではありません」

 

 

その言葉を聞きながら、唐突に僕の体は痺れ、すぐに立てなくなった。

 

 

「ウヒッ!引っかかった引っかかった!」

 

 

コイツ、いつから、何処に?!

 

 

「俺の個性は気配遮断。

 

探知系の個性でも見つけられねぇよ!

 

ましてやお前みてぇなパワー馬鹿にはナァ!ウヒッ!」

 

 

くっそ!完全に油断していた!

 

敵が1人だって思い込んで、的を絞ってた!

 

 

「お前に撃ち込んだのは俺が趣味で作ってる毒薬さ!

 

まぁ、今のはただ神経を一時的に麻痺させるだけだから死にやしねぇよ。

 

ボスに殺すなって言われてるからな。つまんねぇぜ。

 

殺しゃ早いのによぉ!ウヒッ!」

 

 

破綻者だ。

 

こんな奴がいるなんて、予想してなかった。

 

油断出来る状況じゃないってのに、何してんだ僕は!

 

 

「それではボス加勢に行きましょう」

 

「おっ、中々いい女じゃん。

 

毒でのたうち回るのが見てみてぇぜ!ウヒッ!」

 

 

くっ、ダメだ!

 

あの(ヴィラン)1人を捌けていない状況で、もしこの2人も加われば、活川さんが殺される!

 

 

「やめ、ろっ………」

 

 

何とか右腕をONE FOR ALLで無理矢理動かして気配遮断の(ヴィラン)の足を掴んだ。

 

 

「オイオイこのガキ、俺の麻痺毒食らって動いてやがる。

 

トんた獲物だこれは!ウヒッ!」

 

「行けませんよ毒蛇。

 

彼はジャック様の標的なのですから」

 

「分かってらァ!」

 

 

バキッ!

 

 

「がっ?!」

 

 

腕を蹴り上げられ、僕は仰向けになった。

 

 

「とりあえず先に気絶させるか」

 

「そうしましょう。

 

下手な動きをされては困りますから」

 

 

くっそ!ここまでなのか!

 

 

 

諦めかけたその時、聞こえるはずのない声が耳に響いた。

 

 

 

緑谷!

 

 

 

なんで、彼女がここにいるのか。

 

どうして戻って来たのか。

 

色々聞こうとしたけど、それよりも早く彼女は行動していた。

 

 

「緑谷から離れて!」

 

 

突き出した手から炎を放つ炎さん。

 

しかしその炎をいとも容易く躱して、毒蛇と呼ばれていた(ヴィラン)はニヤリと笑っていた。

 

 

「何?お前の彼女?

 

だったら、これかなぁ?!ウヒッ!」

 

 

そう言って(ヴィラン)は銃を構えていた。

 

炎さんは自身の放つ炎で視界が塞がれて、それが見えていないようだった。

 

 

「炎さん!逃げて!」

 

 

僕が叫んだ頃には、(ヴィラン)は既に引き金を引いていた。

 

 

 

バンッ

 

 

 

乾いた銃声が響き、そして次の瞬間だった。

 

 

「痛っ?!」

 

 

炎が止み、右腕を抑えている炎さんが見えた。

 

 

「彼女には何を?」

 

「あれはチョー強力な神経毒。

 

けど、簡単には死なねぇぜ。3時間くらいかけてジワジワと体に毒が回るんだ!ウヒッ!」

 

 

嘘、だろ?

 

そんな、炎さんが、死ぬ?

 

ダメだ、ダメだダメだダメだダメだダメだダメだ!

 

 

「うおおおおおおおおおおおおおおっ!」

 

 

「「っ?!」」

 

 

 

ONE FOR ALL FULL COWL

 

 

 

100%!

 

 

 

他の何も関係ない!

 

今はコイツらを!

 

殺す!

 

 

「はい、そこまで」

 

「ぐあっ?!」

 

 

僕が抱いた殺意は、その一言と共に放たれた蹴りで、一瞬で消えてしまった。

 

見上げるとそこには、ジャックファミリーのボスが立っていた。

 

 

「お前、なんで、活川さんは?!」

 

「あぁ彼女?彼女ならそこで寝てるよ」

 

 

ジャックファミリーのボスが指さした先には、横たわる活川さんがいた。

 

 

「安心しなよ。命はとってないから。

 

その方が後々楽しいからね」

 

「後々?楽しい?」

 

 

コイツは、何を言っているんだ?

 

ここで僕らを、殺さないのか?

 

 

「さっき思い付いたんだけど、僕とゲームしない?」

 

 

ゲーム?

 

こんな状況でコイツは何を言っているんだ。

 

 

「ルールは簡単。

 

この地図に書かれた場所にいる僕達を倒して解毒剤を手に入れて彼女の命を救えば君の勝ち。

 

代わりに君が彼女が死ぬまでに僕達を倒せず、解毒剤を手に入れられなければ僕達の勝ち。

 

負けた方はそうだな。相手の言う事を何でも1度だけ聞くなんてどうだい?

 

シンプルな賭け事さ」

 

 

そう言ってジャックファミリーのボスは僕の目の前に地図を落とした。

 

 

「ま、やるかやらないかは聞くまでも無いよね?

 

それじゃあ待ってるから、またねぇ」

 

 

いつの間にか奴らは消えていた。

 

残されたのは気絶した活川さんと、毒で身動きが取れない炎さん。

 

そして、自分の無力さを嘆く僕だけだった。

 

 

「チクショオオオオオオオオオオオオオッ!」

 

 

そしてその後駆け付けた救急隊に僕らは保護され、病院へと搬送された。

 

 

 

…………………………

 

 

 

僕は今、祭り会場から1番近くにある大きな病院の病室にいる。

 

ただ力なくベッドの上で上半身を起こしているだけだ。

 

 

「出久!」

 

 

病室に駆け込んで来たのは母さんで、全力で走ってきたのか息が途切れ途切れだった。

 

 

「何でこんな事になったの?!

 

一体何があったの?!」

 

 

僕を心配そうに見つめる母さんの肩に、女性の手が乗った。

 

 

「緑谷君のお母様ですね。

 

今彼は酷く精神が脆くなっています。

 

あまり刺激を与えないで下さい」

 

 

それは活川さんで、気絶から回復してすぐに活性で自らと僕の傷を治してくれた。

 

けど、炎さんの体を蝕む毒は、活川さんの活性でも、この病院にいる医師の医療系個性でも治せなかったらしい。

 

 

「あの、あなたは?」

 

「申し遅れました。

 

私は普段緑谷君がトレーニングをしているジムの医師で、今は彼の体を知る者としてここで彼を診ています。

 

幸い体の傷はどうにか出来たのですが、心の傷までは、私の個性では治せませんでした」

 

「心の、傷?

 

一体、出久の身に何があったんですか?!」

 

 

活川さんに詰め寄る母さん。

 

それに対して活川さんは冷静に答えた。

 

 

「彼は彼の友人である炎 夏樹さんと共にいた所を(ヴィラン)に襲われ、その際に防衛手段として戦闘を行いました。

 

その最中に(ヴィラン)が炎 夏樹さんの体内に致死性の毒を注入し、今この病院の特別処置室にいます。

 

彼はその(ヴィラン)から彼女を守れなかったという精神的なショックで、過度なストレス状態にあるのです。

 

ですからどうか、今は別室にて待機をお願いします。

 

今彼にとって何がストレスになるのか分かりませんし、ストレスの蓄積された状態で何をするか分かりません」

 

 

活川さんの言葉に、母さんが徐々に冷静になっていった。

 

 

「そんな事があったなんて………。

 

すみません。あなたの言うとおり、別の部屋で待機しています…」

 

「えぇ。私が案内致します」

 

 

そう言って活川さんは、母さんと共に病室を出て行った。

 

 

 

それから数分が経ち、いつの間にか目の前のテーブルに、小さな影が乗っていた。

 

 

「おいデク」

 

 

この声はリボーンだ。

 

何か返事をしたいけど、生憎僕にはそんな力が残っていない。

 

 

「オメェいい加減にしろよ。

 

いつまでそうやって壊れたフリをしてやがる」

 

 

壊れたフリ?

 

リボーンは一体何を言ってるんだ。

 

僕はもう、ダメなんだ。

 

炎さんを守れなかった。

 

それに奴らは僕がボンゴレファミリーの後継者だから襲ったんだ。

 

つまり僕のせいで炎さんは死ぬんだ。

 

やっぱり僕なんかが、ONE FOR ALLを受け継ぐべきじゃなかったんだ。

 

 

「馬鹿デクが!」

 

 

ガシャーーーンッ!

 

 

そう言ってリボーンは僕をベッドから叩き落とした。

 

 

「いいかデク!

 

過去を悔やむ気持ちは俺にだって分かる。

 

けどな、オメェがいくら悔やんだ所で過去は変わらねぇんだ。

 

どれだけ手を伸ばそうが、どれだけ強くなろうが、過去だけは絶対に変わらねぇ。

 

だからオメェに出来んのは、"今"足掻いて、未来を変える事だろ!」

 

 

リボーンは僕の胸ぐらを掴みながらそう言った。

 

そして僕の顔を引き寄せて更に続けた。

 

 

「気に入らねぇ運命をぶち壊すのがヒーローなんじゃねぇのか?

 

お前はそんなヒーロー(オールマイト)に憧れてんじゃねぇのか?!」

 

「じゃあどうしろって言うんだよ!

 

僕1人じゃ、あんな奴らに勝てる訳無いだろ?!」

 

 

反射的に、僕は叫んでいた。

 

そして、険しかったリボーンの顔が、いつもの意地悪な笑顔に戻っているのが分かった。

 

 

「そうだ。お前1人じゃどうにもならねぇ。

 

だからファミリーがいるんじゃねぇか」

 

「え?」

 

 

リボーンがそう言うと、病室の扉が開いた。

 

 

「何寝てやがる。

 

さっさとクソ(ヴィラン)共をぶっ潰しに行くぞ」

 

「緑谷。今度こそ守りに行くぞ」

 

 

そこに立っていたのはかっちゃんと轟君だった。

 

そしてその背後に、更に1人が重なる。

 

 

「何勝手に病人を連れ出そうとしてるんだリボーン」

 

 

活川さんが2人を押し退けて病室に入って来た。

 

 

「もし連れて行くなら、主治医である私も同行する。

 

道中のメンタルケアや治療も必要だろうしな」

 

「元から連れてくつもりだったぞ。

 

まぁ、これでメンツが揃ったな」

 

 

リボーンはそう言うと、僕の服を取り出した。

 

 

「さっさと着替えて、敵のアジトに乗り込むぞ」

 

 

僕は迷いなくそれを掴み、立ち上がった。

 

 

「皆、ありがとう!

 

僕はもう、止まらない!」

 

 

さぁ、反撃の開始だ。

 

 

待っていろ、ジャックファミリー!









次回『標的(ターゲット)13 反撃の狼煙』






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標的(ターゲット)13 反撃の狼煙

前話の時点で達成していたのですが、お気に入り登録者数が300人を超えました。

お気に入り登録して下さった読者の皆様、誠にありがとうございます。

また、評価を下さった皆様にも感謝申し上げます。

それとは関係ありませんが、この小説でのデクの死ぬ気モードを書いてみました。
手書きで上手いわけでも無いので、ほぼ自己満足で書いているだけです。
超死ぬ気モードも書こうかと思っていたのですが、まだそんなに絵が上手く無く、書けませんでした。


【挿絵表示】


今後とも皆様に満足頂ける作品作りを目指していきますので、これからもご愛読の事よろしくお願い致します。


僕の宣誓から約5分。

 

僕達は未だに病室内にいた。

 

 

「で、この状況どうすんだ?」

 

「んーーっ」

 

 

実はこの建物、今は物凄い数の警察と報道陣に囲まれている。

 

海外からの未知の(ヴィラン)

 

そして、その連中に襲われた被害者がいる病院。

 

そりゃ警察も守ろうとするし、報道陣も話を聞こうとする。

 

どちらも遭遇すれば面倒だ。

 

 

「そういや、確認してなかったな」

 

 

僕が考えていると、肩に乗ったリボーンがそう言った。

 

 

「オメェら、犯罪者になる覚悟はあるのか?」

 

「え?」

 

 

犯罪者って…………そうか。

 

 

「僕はいいよ。

 

確かにヒーローにはなりたいし、個性を許可無く使う事は犯罪だし、そうなればヒーローへの道が閉ざされるのだって分かってる」

 

 

でも、それでも、僕は行かなきゃいけないんだ。

 

助けたい。そう思ってしまったら、もう止まれない。

 

止まっちゃいけないんだ。

 

 

「今ここで行かなきゃ、僕は一生後悔する。

 

それに、僕の将来なんかの為に、炎さんの命を犠牲にしていい訳が無い」

 

 

僕が行く理由はそれで十分だ。

 

けど、轟君達はどうなんだろう。

 

こんな事に巻き込んでいいのか?

 

僕のマフィア絡みの事は、轟君達には関係ないのに…。

 

僕はそう考えながら轟君とかっちゃんを見た。

 

 

「俺は緑谷に、返しきれねぇ程の借りがある。

 

けど今はそんなの関係無く、ただ俺がそうするべきだと思ったから行くんだ。

 

炎とはついさっきからの付き合いだが、友達の大切な奴だからな」

 

 

轟君がそう言うと、今度はイラついた様にかっちゃんが轟君の肩を突いた。

 

 

「御託はいい。

 

俺は俺の身内に手を出すなんざふざけた真似しやがったクソ(ヴィラン)をぶちのめすだけだ」

 

 

なんて言うか、かっちゃんらしいや。

 

けど、これで覚悟は決まった。

 

 

「いいかデク。

 

最近のレオンの不調で死ぬ気弾はこの残り1発しかねぇ」

 

 

そう言ってリボーンは1発の死ぬ気弾を僕に見せた。

 

 

「うん。

 

死ぬ気弾は余程のピンチにだけとっておいて」

 

 

それこそ、僕の戦ったあの物体操作の(ヴィラン)や、活川さんも倒したジャックが相手になった時、僕の内側の力を使うしかない状態に追い込まれるかもしれない。

 

100%の力を、たったの蹴り1発で解く程の力を持つアイツの全力がどれ程かなんて、僕には想像も出来ない。

 

 

「命子。いざとなったらお前の切り札も切って貰うぞ」

 

「分かってる。それを躊躇える相手じゃないって事もね」

 

 

活川さんも、何か隠し球があるみたいだし、今度こそ勝つんだ。

 

 

「けど、本当にこの状況をどうすれば……」

 

 

何か、病院を抜け出す方法を「なんだなんだ?野郎が3人で美人を囲みやがって」探………え?

 

 

「ったくよぉ。ガキにはこんな美人勿体ねぇだろ」

 

 

えっと、この病院の医者、なのかな?

 

一応白衣着てるし………。

 

 

「へぇ。私を美人とは、見る目があるな。

 

トライデント・シャマル」

 

「あ?なんでその名前…………って、お前よく見たらモールテ・アッティーヴァじゃねぇか!」

 

「その名で呼ぶな、ナンパ男」

 

 

活川さんと知り合いみたいだけど、この人は誰なんだろう?

 

さっき言ってた、トライデント・シャマルっていうのは、名前なのかな?

 

 

「急に呼んで悪かったなシャマル」

 

「ったく。治療するのがかわい子ちゃんじゃなかったら病死させてた所だぞ」

 

 

かわい子ちゃん?治療?………それって!

 

 

「あの!それって炎さんの事ですか?!」

 

「うるせぇな。野郎が迫ってくんじゃねぇ」

 

 

そう言ってシャマルさんは僕を押し退けた。

 

 

「リボーン。先に言って置くが、あの毒は俺には治せねぇよ。

 

あれは普通の毒とは訳が違ぇ。恐らく個性の類だ」

 

 

個性の?

 

けど奴は自分の個性を気配遮断だって……。

 

いや、そもそもアイツが本当の事を言ったとも思えない。

 

 

「そういや襲ってきた連中はジャックファミリーの連中だって話だが」

 

「そうだ。残党どころか、新しいボスを立てて復興してやがる」

 

「その中に毒蛇とか呼ばれてる奴がいなかったか?」

 

 

っ?!毒蛇!

 

そうだ!蛇だ!奴の本当の個性は蛇!

 

 

「蛇の能力を使う個性!」

 

「その通りだ。

 

奴は標的に蛇の様に忍び寄り毒を塗りたくったナイフでの刺殺や、木の上から獲物を狙う蛇の様にライフル等で毒の入った注射針のついた弾丸を使った狙撃みたいな基本毒を用いた暗殺を好む猟奇型ヒットマンた」

 

 

特徴で言えば完全に合致している。

 

問題は、何処まで蛇の能力を使えるかだ。

 

さっき遭遇した時は、その姿は一般的な人間のそれだった。

 

能力を使うだけなのか、それとも変身型なのか。

 

 

「シャマル。

 

夏樹の死までのタイムリミットはどのくらいになったんだ?」

 

「ざっと見積もって3時間って所だ。

 

だが毒とウイルスがどう作用するかは分からねぇ。

 

様態が急変したら連絡してやる」

 

 

話がどんどん進むけど、肝心の抜け出す方法がまだ無い。

 

誰にも見つからず、外へ抜け出す方法は………。

 

あるにはあるけど、使えるかどうか…。

 

 

「デク。オメェ何か思い付いてるんじゃねぇのか?」

 

「まぁ考えたけど、現実的に考えたら…」

 

「いいから話せ。今は1つでも多くのアイデアがいるんだ」

 

 

きっとリボーンも気付いている。

 

けどそれを僕に言わせようとしているんだ。

 

 

「病院から外へ出る為には、少なくとも僕達の顔は見られちゃいけないと思う。

 

そうなったら顔を隠して出るしかないけど、普通に出口から出たんじゃ報道陣に捕まるし、警察にも止められる。

 

それを回避する為には、絶対に誰にも止められず、かつ顔が見えない手段が必要になる」

 

「そんなもんあるのか?」

 

 

轟君はそう言いながら考える。

 

けどここで、活川さんとシャマルさんは気付いたみたいだ。

 

 

「なるほど、救急車だね?」

 

「考えたな」

 

 

そこで轟君も気付いたみたいで、少し驚いた様な表情になる。

 

 

「ンなもんどうやって使うんだ」

 

 

かっちゃんがイラついた様に言う。

 

問題はそこだ。

 

どうやって救急車を使うか。

 

 

「ったく。仕方ねぇな。

 

俺が病院に話を通してやるよ。

 

ここの医院長には貸しもある」

 

「本当ですか?!」

 

「だから野郎が迫ってくんじゃねぇ」

 

 

また僕は押し退けられた。

 

けど、これなら行ける。

 

 

「そんじゃあ改めてメンバーの確認だ。

 

乗り込むのは俺とデク、爆豪、轟、命子の5人。

 

シャマルは夏樹の様態を見ててくれ。

 

場合によっちゃこっちに連絡を頼んだぞ」

 

「分かってるっての」

 

 

リボーンはシャマルさんに確認をとると、次は僕の方を向いた。

 

 

「これから行くのは生きるか死ぬかの世界だ。

 

相手は並大抵の(ヴィラン)なんかとは比べ物にならない奴だ。

 

それでも行くんだな?」

 

 

正直に言ってしまえば、物凄く怖い。

 

いくらかっちゃんや轟君、活川さんにリボーンがいるとは言っても、僕はまだ中学生だし、力だってまたちゃんと身についていない。

 

けど僕の心は立ち止まる理屈よりも、助けたいと言う気持ちの方がずっと強く疼いていた。

 

だから、もう迷わない。

 

 

「行こう。助けられる命なら、何を賭けてでも助ける。

 

僕の憧れたヒーローなら、そうするはずだから」

 

 

僕の答えにリボーンは満足した様に笑った。

 

 

「そんじゃあ行くぞ。

 

シャマル。車は手配できたのか?」

 

「あぁ、終わってるぜ」

 

 

シャマルさんの言葉を聞いて、僕はかっちゃんと轟君、活川さんの方を振り返った。

 

 

「俺は大丈夫だ」

 

「私もだ」

 

「とっとと行くぞ」

 

 

僕は1人じゃない。

 

それだけで、立ち上がれる。

 

炎さんの命と僕達の日常を返して貰うぞ、ジャック。

 

 

 

…………………………

 

 

 

「ジャック様。どうやらボンゴレの者により人質の延命が行われた様です」

 

 

誰かと連絡をとっていた操地が帰って来て言った。

 

 

「あ、やっぱり?

 

ボンゴレ側にトライデント・シャマルがいるって知った時からそうなるんじゃないかとは思ってたけど、まぁ伸びても2時間程度が限度でしょ?

 

残りは3時間。

 

最初のタイムリミットにリセットされたと考えたらいいじゃん」

 

 

ゲームが長く楽しめるなら、それはそれでありだしね。

 

まぁ、毒蛇は面白くなさそうな顔してるけど。

 

 

「ケッ!あのクソシャマルが!

 

余計な事しやがって!」

 

 

癇癪を起こした子供みたいだな。

 

まぁ、アイツにもヒットマンの誇りとかあんのかな?

 

どうでもいいけど。

 

 

「毒蛇。ボスの御前では控えろ」

 

「アァ?!テメェから殺されてぇのか?!」

 

「戦力を減らすのは本意では無いが、お前が指示を聞かぬのならば仕方あるまい」

 

 

全く。この2人はいつもこうなんだから。

 

こういう時は、

 

 

「2人とも、やめよっか?」

 

 

一声掛けてあげなきゃね?

 

 

「「っ?!」」

 

 

あ、驚いた驚いた。

 

 

「申し訳ありません、ジャック様。出過ぎた真似をお許し下さい」

 

 

うんうん。素直なのは操地のいい所だね。

 

毒蛇はまだ納得してないみたいだけど。

 

 

「ボス!先に突っかかって来たのはアイツの方だ!

 

俺は悪くねぇ!」

 

「確かに突っかかったのは操地だけど、君も良くない態度だったよね?」

 

 

毒蛇が狼狽えてる。

 

ま、意地悪はこの辺にしておいてあげるかな。

 

 

「まぁ、今回はお咎めなしでいいよ。

 

今君に死なれると、解毒剤の予備が作れなくなっちゃうしね」

 

「な、なぁボスさんよぉ。

 

解毒剤なんか本当に作る事は無かったんじゃねぇか?

 

ねぇとは思うが、万が一アンタが負けたら、あのガキが生き残っちまうんだぜ?」

 

 

…………へぇ。

 

少し甘やかしすぎたかもしれないなぁ。

 

 

「がっ?!」

 

 

あら、ちょっと頭掴んだだけで怯んじゃって、だらしないなぁ。

 

 

「あのね毒蛇。

 

ゲームってのは対等な条件でやるから楽しいんだろ?

 

もし解毒剤が無かったらただ一方的にあの子が死ぬだけ。

 

それじゃあ対等な条件とは言えない。

 

君にそれが理解出来ないなら、やっぱり解毒剤を先にいくつか作らせて殺しちゃおうか?」

 

「まままま、待ってくれボス!

 

俺が悪かった!許してくれ!」

 

 

……はぁ。興が冷めた。

 

 

「ジャック様、ここはお鎮まりを」

 

「分かってる。

 

とりあえず迎え撃つ準備はしといてよ」

 

「かしこまりました。

 

他の人員も配備しておきます」

 

 

ハァ………。

 

ボスってのは面倒な物だね。

 

君にも分かるだろ?緑谷出久君。

 

 

 

…………………………

 

 

 

「ほら急げ。こっちだ」

 

「はい!」

 

 

僕達はシャマルさんの案内で病院の車庫に来ていた。

 

そこには定期点検に出す前の救急車があり、自由に使っていいそうだ。

 

 

「命子。運転頼めるか?」

 

「当たり前だろ」

 

 

活川さんが運転席に乗り込み、僕達3人は後ろの傷病者の乗るスペースに乗り込んだ。

 

 

「おいボンゴレの10代目」

 

「は、はい?」

 

 

その呼ばれ方好きじゃないですと言いたいけど、シャマルさんの圧でそんな事は言えなかった。

 

 

「俺は男は診ねぇ主義なんだ」

 

 

それ医者としてどうなんだろう………。

 

 

「だから、絶対に無事に帰って来い。

 

お前には待ってる人がいんだろ」

 

「っ、はい!行ってきます!」

 

 

シャマルさんの激励を背に、僕は扉を閉めた。

 

 

「行くぞ男子共。しっかりシートベルトは閉めろよ」

 

 

そう言って活川さんは、シャマルさんの開けたシャッターから外へと出た。

 

そして裏口から出ようとした時、そこに表程では無いけど、そこそこの人数の人がいるのが見えた。

 

 

「おい、車が来たぞ」

 

「救急車だ。あれは止められないか」

 

 

どうやら救急車を選んだのは正解だった様で、裏口にいた記者達は車を避ける。

 

それから僕達は10分くらいかけて地図の印の場所に、山奥の大きな屋敷の様な場所に着いた。

 

 

「いかにもって場所だな」

 

 

轟君の呟きに、僕は頷いて答える。

 

 

「んで、何か策あんのか」

 

 

かっちゃんは僕の方を見てそう聞いた。

 

策、か。

 

正直に言えば、どんな策を考えようとあの力の差があればそれを全て崩壊させられる可能性もある。

 

かと言って行き当たりばったりじゃまともに戦えない。

 

 

「とりあえず陣形だけは整えておこう」

 

 

それから僕達は、いつでも敵と遭遇してもいい様に陣形を整えた。

 

パワー型ですぐに動ける僕と、瞬発力と爆破による加速力は最速のかっちゃんが前。

 

いざって時に後方から氷壁を展開して僕らを守ってくれる轟君。

 

本当は防御役は前の方がいいんだけど、轟君は咄嗟の動きが固くなる癖があるから、その隙を狙われてしまうかもしれないから後衛に回した。

 

そしてその中心は恐らく僕達の中では経験でも実力でも最強の活川さん。

 

リボーンは轟君の肩に乗っている。

 

 

「これでどうかな」

 

 

リボーンを見ると、その顔は満足気だった。

 

とにかく、これが今僕に考えられる最善の陣形。

 

そしてもしもの時は、活川さんの切り札か、僕の1度きりの死ぬ気モードで切り抜ける。

 

 

「よし、行こう!」

 

 

兎にも角にも、これ以上時間を無駄には出来ない。

 

少しでも気を緩めれば誰かが死ぬ。

 

絶対に全員で生きて帰って、いつもの日常に戻るんだ。

 

その為に僕は、戦うんだ。




次回予告!

オールマイト「緑谷少年のいる町で海外から来た(ヴィラン)が?!

少年やリボーン師匠とも連絡がつかないし、不味いことに巻き込まれて居ないといいが……。

とにかく今は急いで、私が行く!

次回!『標的(ターゲット)14 戦闘開始』

ちょ、戦闘開始って?!

さ、更に向こうへ!Plus ultra!!

大丈夫だよな?緑谷少年…」


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標的(ターゲット)14 戦闘開始

当初の予定:年内にUSJ編までは行きたい

現在の状態:入学どころか入試すらまだ

あっるぇ?

それはさておき、皆様年末はいかがお過ごしだったでしょうか?

来年からも皆様により満足頂ける作品作りを目指していきますので、応援よろしくお願い致します!

それと今回は慌てて短めの話になってしまっています。


「案外中は綺麗なんだな」

 

 

屋敷の中に入って数分。

 

後ろで辺りを見回しながら轟君はそう言った。

 

確かに外観とは裏腹に中はついさっき掃除したばかりの様に綺麗だ。

 

ジャック達が掃除でもしたのか、それとも個性の性質を生かす為なのか。

 

 

「オイ、無駄口叩いてんじゃねぇぞ」

 

 

轟君に対してかっちゃんは不機嫌そうに答えた。

 

 

「何処から(ヴィラン)が来るか分かんねぇこの状況で何呑気に話とんだ」

 

 

確かに、ここは完全に相手のフィールドだ。

 

特に毒蛇の隠密性なら何処に身を潜めていても気付けないかもしれない。

 

 

「気を抜くなよ皆。奴らは狡猾だぞ」

 

 

活川さんはそう言って険しい目付きで辺りを見回す。

 

けど、なんとなくだけど、この部屋に(ヴィラン)は居ないと思う。

 

前に奴らと遭遇した時みたいな刺々しい感覚が感じられない。

 

 

「そういえば活川さんの個性って活性化でしょ。

 

戦えるんですか?」

 

 

轟君はそう言って前を歩く活川さんに聞いた。

 

轟君とかっちゃんは知らないけど、活川さんはその個性の過剰使用を利用した暗殺を得意とするヒットマンだ。

 

けど、全ての仕事でそのやり方が通用したかと言えば、きっと違う。

 

中にはそういう個性の効かない相手がいただろうし、そもそも相手に触れなければいけないという性質上、それを躱す力量を持つ相手にはそのワンパターンでは通用しない。

 

けど活川さんが今までここに居ると言うことは、そのピンチも乗り越えて来たって事だ。

 

僕はそんな事を考えながら歩いていた。

 

その時、唐突に頭の中で声が響く。

 

僕の声なのか、それとも本能なのか、そしてそれを感じた瞬間に僕はかっちゃんに向く視線を感じた。

 

そこには誰もいないのに、僕はどうしようもなくそれを酷くおぞましい程に強く感じていた。

 

 

「かっちゃん!避けて!」

 

 

僕は咄嗟にかっちゃんを突き飛ばした。

 

それと同時に僕もバックステップでその場を飛び退く。

 

するとフローリングに深々と針のついたアンプルが刺さった。

 

 

「オイオイなんだよ。お前確かパワー型の個性じゃ無かったか?

 

まぁ、どうせまぐれだろ。ウヒッ!」

 

 

毒蛇だ。

 

けど、やはり見えない。

 

さっき感じ取ったのは、奴の殺気なのか?

 

声で位置を探ろうにも、反響してそれも難しい。

 

 

「オイコラデク!何庇ってんだゴラァ!」

 

「あっ、かっちゃんごめん!痛かった?!」

 

「俺を心配すんじゃねぇ!!」

 

 

とりあえず無事、かな?

 

けど、どうすればいいんだ。

 

さっきみたいに毎回直感だけで避けられる訳ないし、かと言ってどれだけ目を凝らしても見えないんじゃ対処のしようが無い。

 

近付いて来るなら気配でどうにか出来るかもしれないけど、奴は銃で攻撃してくるし、それにさっきは無音であの弾丸が飛んで来たのを考えると、サイレンサーみたいなのを使ってるのか?

 

 

「デク。ここはお前の出番だぞ」

 

「どういう事?」

 

 

リボーンの言葉の意味が理解できない僕は、答えを求めて聞いた。

 

するとリボーンは真っ直ぐ僕の目を見ていた。

 

 

「お前が感じた"直感"は間違いじゃねぇ。まぐれでもねぇ」

 

「僕の、直感が?」

 

「今は詳しく説明してる暇はねぇ。

 

今回は戦闘を爆豪と轟に任せて、お前はその直感で2人に奴の位置や攻撃されている事を伝えろ」

 

 

僕の直感で、そんな事が出来るのか?

 

けど、さっきのが間違いでもまぐれでも無いのなら、それこそこの状況を打開する唯一の手だ。

 

 

「チッ!今回ばかりは仕方ねぇ。

 

オイコラデク!間違った指示出しやがったらぶっ殺す!」

 

「俺はお前を信じてる。頼んだぞ緑谷」

 

 

2人もその気だし………。

 

とにかく今は、やるしかない。

 

 

「分かった。やってみるよ」

 

 

僕がそう言うとリボーンは笑った。

 

 

「オイオイ、俺を無視して立ち話か?ウヒッ!」

 

 

まただ。声が響いて位置が掴めない。

 

それに目にも見えないからどうしようもない。

 

 

「すぅぅっ、ふぅぅぅ……」

 

 

僕は一度深呼吸して、耳を塞いだ。

 

余計な情報を入れるな。

 

違和感を見つけろ。

 

そう頭の中で唱えて、僕は心を無にした。

 

 

「…………………かっちゃんの左!」

 

「死ねやァァァァッ!」

 

 

僕の声と同時にかっちゃんは左側に向けて爆破を放つ。

 

 

「なっ?!」

 

 

そして咄嗟に回避を選び、その時に集中が途切れたのか、毒蛇の姿が目に映った。

 

 

「轟君!動きを!」

 

「分かってる!」

 

 

そこへすかさず轟君の氷で動きを封じにかかる。

 

 

「ぐあっ?!」

 

 

轟君の氷が正確に毒蛇を捉え、その体の2/3を固めて動けなくした。

 

 

「奇襲出来なきゃ雑魚じゃねぇか」

 

 

かっちゃんがシラケた様にそう言う。

 

 

「クソが!離しやがれこの糞ガキ共!」

 

 

まだ抵抗するつもりの様で、毒蛇はじたばたと暴れていた。

 

 

「あまり動かない方がいいぞ。

 

体が凍りついているんだ」

 

 

まぁ、体をほとんど固められて動ける訳が………。

 

 

 

 

待て。

 

体をほとんど氷で覆われているんだぞ?

 

奴の個性が毒蛇だとしたら、氷との相性は最悪のはずだ。

 

蛇の特性上、寒さは動きを鈍らせる事になるはずだ。

 

 

「とりあえず、もう少し固めてとくか」

 

 

轟君はそう言いながら毒蛇に近づく。

 

その時だった。

 

毒蛇の口元が邪悪に歪んだ。

 

 

「轟君!ダメだ!」

 

「え?」

 

 

僕が叫んだ時には、奴は既に行動を起こしていた。

 

 

「遅せぇ!」

 

 

氷から1つの人影が飛び出し、それは轟君を目掛けて突撃していた。

 

 

「クソが!」

 

 

そしてそれを阻んだのは、僕よりも早く動き出していたかっちゃんだった。

 

 

ザクッ!

 

 

「くっ?!」

 

「かっちゃん!」

 

 

かっちゃんの腕にナイフが刺さっているのが見え、僕はかっちゃんに駆け寄った。

 

 

「かっちゃん、大丈夫?!」

 

 

かっちゃんは右腕を抑えて膝を付いていた。

 

 

「ウヒヒヒヒッ!引っかかりやがった!」

 

「っ!」

 

 

また声が反響するが、今はその姿を隠す事をしていない。

 

そしてその姿を見ると、明らかに先程とは異なっていた。

 

 

「クソがっ、発動型の異形型って、事かよっ!」

 

 

かっちゃんは息も絶え絶えになりながら苛立った様に言った。

 

 

「お前らみたいなガキにこの姿を使う事になるたァ思ってなかったぜ」

 

 

毒蛇の姿は、鼻は潰れ、目は蛇のように縦に長くなっていた。

 

牙は鋭く長く、舌は口から飛び出る程に長くなっていた。

 

そして体はまるで骨と皮しか無いようにやせ細っていた。

 

 

「てめぇらはもう終わりだ。

 

この姿を見た奴が生きて帰った試しは、ねぇんだからなぁ!」

 

 

「轟君!援護をお願い!」

 

 

僕はかっちゃんを守る為に前に立つ。

 

不本意な形だけど、戦闘開始だ。




次回予告!

リボーン「しっかり先手取られてんじゃねぇか」

出久「言わないでよ……」

活川「とりあえず爆豪君は任せろ。君が暴れている間に応急処置は済ませておく」

出久「すみません、お願いします!」

リボーン「デク。気ィ抜くんじゃねぇぞ」

出久「分かってるよ。油断せず確実に勝ちに行く!」

活川「次回『標的(ターゲット)15 蛇の毒牙』」

出久「更に向こうへ!Plus ultra!!」

リボーン「死ぬ気で見ろよ」


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標的(ターゲット)15 蛇の毒牙

「ウヒヒヒヒッ!てめぇらなんざ、この姿の俺にとっては雑魚中の雑魚なんだよ!」

 

 

毒蛇は壁を蹴り、僕らに向かって突撃してくる。

 

 

「轟君!」

 

「あぁ!」

 

 

数分間、毒蛇の攻撃をどうにか轟君の氷壁と僕のパワーで押し返してはいるけど、そろそろ轟君の限界が近い。

 

けど、この間にある程度考えは纏まった。

 

毒蛇のあの姿はきっと、蛇の特徴である脱皮によるものだ。

 

そしてそれを自己流で個性を伸ばす事で、戦闘形態へ移行した様になったんだ。

 

 

「活川さん、かっちゃんの様子は?」

 

「あぁ、大丈夫だ」

 

「俺を心配するたァテメェ随分余裕だなぁ!アァ?!」

 

 

腕の止血と治療を受けながらかっちゃんが怒鳴る。

 

まぁ、うん。大丈夫そうだ。

 

 

「リボーン、ごめんけど、死ぬ気弾の準備してて貰えないかな」

 

 

最悪の場合、ここで僕の切り札を切るしかない。

 

少なくともまだあの物体操作の(ヴィラン)やジャックがこの先に控えているけど、どっち道この状況を切り抜けない事には意味が無いんだ。

 

 

「馬鹿言ってんじゃねぇ。

 

この程度の相手テメェの力だけでどうにかしやがれ」

 

 

やっぱり。そう言われると思ってた。

 

けど、どうすればいいんだ。

 

一撃一撃は大して重い訳でも無いけど、何度も何度もスピードに物を言わせてヒットアンドアウェイでダメージが蓄積してきてる。

 

僕は普段からゼロ距離で戦闘を行うスタイルだからある程度慣れてはいるけど、轟君は氷を主軸にした遠距離から一撃を狙うスタイル。

 

やっぱりこういう相手に対しては不利だ。

 

 

「ウヒヒヒヒッ!そろそろトドメと行くかァ?!」

 

 

毒蛇は

 

まずいぞ。このまま押し切られたら!

 

 

「ちったァ黙れやクソ雑魚が!」

 

 

毒蛇の突撃を阻んだのは、爆破の勢いを利用して殴りつけたかっちゃんだった。

 

 

「かっちゃん?!大丈夫なの?!」

 

「うっせぇ!あの程度でこの俺がくたばる訳ねぇだろ!」

 

 

さ、流石はかっちゃん……。

 

 

「言っておくが左腕は酷使するなよ。

 

処置したとは言えども活性による傷口の修復だけなんだ」

 

「うっせぇ!分かっとるわ!」

 

 

かっちゃんの腕を見ると、包帯が巻かれていて血が少しだけ滲んでいた。

 

 

「かっちゃん本当に大丈夫?無理したら後が「テメェもうっせぇ!」ひっ?!ごめんなさい!」

 

「お前ら、喧嘩するなら状況選んで喧嘩してくれ」

 

 

僕とかっちゃんの会話を轟君が止めた。

 

うん。そんな場合じゃないのは分かってるんだけどね。

 

 

「ごめん轟君!」

 

「おいゴラ半分野郎!

 

テメェ何こんな雑魚に手こずっとんだボケ!」

 

「お前も刺されただろ」

 

「テメェがとろいから腹たってぶっ飛ばしに行ったらやられたんだろうが!」

 

「あ、そういえばそうか。悪ぃ」

 

 

轟君も大概だよ……。

 

と、今は飲み込んで毒蛇に集中だ。

 

 

 

 

「リボーン。私は本当に手を出さなくていいのか?」

 

「あぁ。あの程度の相手に自分達の力で勝てない様じゃ、ジャックを倒すなんて夢のまた夢だからな」

 

 

 

 

僕達は思考、感覚、全神経を毒蛇への警戒に向けていた。

 

 

「さっきから奴は保護色を使っちゃいねぇ。

 

制限があるか、脱皮したら使えねぇってとこか」

 

「もし脱皮が防御力と保護色を犠牲にした戦闘スタイルなら、僕とかっちゃんで対応出来る。

 

轟君、フォロー頼めるかな?」

 

「任せろ」

 

 

3人でそれぞれ背を向けて全方向を見る。

 

中々高速で部屋中を縦横無尽に飛び跳ねる毒蛇を捉えられない。

 

けど少し目が慣れてきた。

 

かっちゃんもそうみたいで、少しずつ手で小さな爆破を起こして体を温めていた。

 

 

「ウヒヒヒヒッ!そろそろ殺すかぁ?!」

 

 

っ!来る!

 

 

「僕が行く!」

 

 

僕は予測した方向に向けて拳を向けながら跳ねた。

 

 

「なっ?!」

 

 

よしっ!ビンゴ!

 

目の前に毒蛇が迫る。

 

一撃で終わらせる!

 

 

「避けろデク!」

 

 

この声、かっちゃん?避けろって、って?!

 

 

「なんつってなぁ!」

 

「くっ?!」

 

 

毒蛇が口を大きく開けて牙を剥き出しにしているのが見えて、咄嗟に拳を引いて右足を振り上げた。

 

 

「ごアッ?!」

 

 

偶然それが顎に上手く当たり、毒蛇の動きが止まった。

 

 

「轟君!氷を!」

 

「あぁ!」

 

 

流石にこれ以上脱皮はできないはず。

 

もう一度轟君の氷で固めて、一気に叩く!

 

 

「かっちゃん!」

 

「るせぇ!分かっとるわ!おい轟!炎寄越せ!」

 

「火傷しても知らねぇぞ!」

 

 

かっちゃんが部屋の天井まで跳ぶと、轟君がそこに向けていつもより弱めの炎を放った。

 

かっちゃんはそれにより体温の上昇を強制的に促して、かいた汗を使って爆破を起こし、毒蛇の真上に移動する。

 

 

「死ねやァァァァァァ!」

 

「ンガァ?!」

 

 

そして真上に小さな爆破を起こし天井から一気に急降下し、毒蛇の頭にかかと落としを決めた。

 

 

「お前、なんで動けて、がっ?!」

 

 

バキッ!

 

 

「黙ってろ。テメェはここで終わりだ」

 

 

毒蛇がかっちゃんを睨みつけると、かっちゃんは右手で拳を作り殴り気を失わせた。

 

何か話してたようにも見えたけど、何を話してたんだろ?

 

まぁ、とにかくこれで第一関門突破だ。

 

 

「ふぅ………」

 

「ふぅ、じゃねぇ。

 

オメェさっきの蹴りまぐれだろ」

 

「うっ……」

 

 

やっぱりリボーンにはバレてた………。

 

 

「うっ、じゃねぇ!このクソデク!

 

バレてねぇとでも思ってたのか、アァ?!」

 

 

かっちゃんにもバテてる……。

 

 

「確かにまぐれではあったが、まぁ結果オーライだろ?」

 

 

地味に活川さんもバレてるみたいだ…。

 

流れ的に轟君にもバレてるかな?

 

 

「あれまぐれだったのか?

 

緑谷、凄ぇな」

 

 

バレて無い上で褒められるのは、なんか逆に申し訳ないな…。

 

 

「そんじゃあ、次に進むぞ。

 

少なくとも敵は後2人はいやがんだ」

 

 

リボーンの言葉に僕は頷き、僕は轟君とかっちゃんを見る。

 

 

「俺は大丈夫だぞ」

 

「さっさと行くぞ」

 

 

うん。大丈夫みたいだ。

 

けど、かっちゃんが少し苦しそうに見えるのは気のせいかな?

 

轟君達は特に反応してないし、やっぱり僕の気にしすぎみたいだな。

 

とにかく早く、炎さんの死のタイムリミットが迫ってるんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(あのクソ蛇が……っ!)




次回予告!

リボーン「ったく。なんだあの情けねぇ蹴りは」

出久「は、はい……」

リボーン「まぁ、その後の轟と爆豪への指示は及第点だ。

だが、次もさっきみたいに上手く行くと思うなよ。

持てる全てを相手にぶつけるんだえ

出久「うん、分かってる。

どんな敵が相手でも全力で戦う!

次回『標的(ターゲット)16 全方位からの攻撃』!

更に向こうへ!Plus ultra!!」

リボーン「死ぬ気で見ろよ」


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標的(ターゲット)16 全方位からの攻撃

毒蛇を倒してから数分が経ち、僕らは屋敷の一階の奥の方に来ていた。

 

敵の襲撃や罠なんかは無くて、逆に不気味だ。

 

 

「……………クソがっ!

 

「ん?かっちゃん、何か言った?」

 

「何でもねぇわ!前見とけやクソデク!」

 

 

相変わらず酷い言われよう……。

 

けど、いつもより勢いが無い気がする。

 

何と言うか、力はないけどいつもより棘のある様な…。

 

 

「…………いやがるな」

 

「あぁ」

 

 

僕が考え事をしていると、リボーンと活川さんが大きな扉を睨みながらそう言った。

 

 

「もしかして、敵?」

 

「そうだ。

 

この感じは、緑谷君が戦った奴だ」

 

 

という事は、あの触れた物を操る個性を持った(ヴィラン)だ。

 

この戦いじゃ、轟君の氷結はあまり使えない。

 

つまりさっきみたいに動きを封じる事が出来ないって事だ。

 

つまり直接戦闘出来るのは、拳の物理攻撃で戦う僕と、爆破という定まった形のない攻撃方法のかっちゃんだ。

 

轟君には僕達の離脱の時に炎で支援して貰うとして、活川さんはまだ温存しておいて貰おう。

 

アイツが相手なら、僕とかっちゃんだけでなんとかなるはずだ。

 

死ぬ気弾もまだ使う訳にはいかない。

 

 

「………行くよ」

 

 

ギギィ………

 

 

僕は扉を開き部屋の中を見る。

 

するとそこは食堂の様な場所で、机や椅子、食器なんかもあった。

 

 

「お待ちしておりました。ボンゴレ10代目」

 

 

部屋の奥の椅子の脇に、一人の壮年の男性が立っているのが見えた。

 

あの姿、見間違えるはずがない。

 

物体操作の(ヴィラン)

 

 

「もし友好的な関係であれば、この席にジャック様が座り、あなた方とこのテーブルを囲んでいたのでしょう。

 

ですが我々は敵対同士。全力でお相手します」

 

 

油断は無いみたいだ。

 

それなら最初から、飛ばす!

 

 

「行くよかっちゃん!」

 

 

僕は構えを取って、かっちゃんに声をかける。

 

けど、かっちゃんの声は中々聞こえずに、僕は少し構えを緩めて振り返った。

 

 

「かっちゃん?」

 

「うっせぇ!分かっとるわ…っ!」

 

 

やっぱり何かおかしい。

 

かっちゃんの額には汗が滲んでいる。

 

顔も少し強ばってる。

 

 

「かっちゃん、もしかして毒蛇に毒を?!」

 

「なにっ?!」

 

「やっぱりな」

 

 

僕が聞くと轟君は驚き、リボーンはいつもと変わらない表情でかっちゃんを見る。

 

 

「活川さんも、知ってたんですか?」

 

「すなまいな緑谷君。

 

本人の強い希望で黙ってたんだ」

 

 

そういうところはかっちゃんらしい、けど!

 

 

「かっちゃん、無理しちゃダメだって!

 

もしかっちゃんが死んだら、どうするんだよ!」

 

「俺を心配してんじゃねぇ!

 

それに、これはただの麻痺毒だ。死にやしねぇ」

 

「けど、後遺症が残る可能性もあるじゃないか!」

 

「ここで死んだら後遺症もクソもねぇだろうが!」

 

 

僕はかっちゃんが戦う事を認めたくなくて、かっちゃんはそんな僕が邪魔で、言い争いがどんどん激しくなる。

 

それを見て止めようとしていたのか、轟君は困惑した様に僕達を見ていた。

 

きっと僕達がこんな感じで喧嘩するのは初めて、本当は僕も驚いている。

 

僕がかっちゃんにこんなに反抗するなんて、2年前以外だと幼少の頃くらいだ。

 

その時は確か、ボコボコにされたんだっけ。

 

何故かその時の記憶は鮮明には思い出せない。

 

なんなら、リボーンと出会う少し前に思い出したくらいだ。

 

そんな事より、今はかっちゃんを!

 

 

「そろそろ、よろしいですかな?」

 

「「っ!!」」

 

 

そうだ、今は敵の目の前だ。

 

言い争いしている場合じゃない、って事は分かってるんだけど!

 

 

「いいかデク。

 

テメェが俺の心配するってんなら、コイツさっさと片付けて、親玉もぶっ潰して、さっさと帰る。

 

それしか俺は呑まねぇ」

 

「…………無理はしないって、それだけ約束してくれる?」

 

「分かってんだよ」

 

 

僕が全線に出よう。

 

かっちゃんは前に出さない様に僕が戦う。

 

アイツとは戦った事があるから僕の方が適任だ。

 

絶対にかっちゃんに、負担をかけるな!

 

 

「行くぞ!」

 

「っ?!デクテメェ!」

 

 

かっちゃんが怒鳴るけど、気にするな!

 

 

「ふむ。どうやら焦りがある様ですな。

 

その様な状態では、ジャック様はおろか私ですら倒せませんぞ」

 

「うるさい!お前は僕が!倒す!」

 

 

思考が徐々に極端になっていく。

 

(そうだ。コイツは倒さなきゃいけないんだ。

 

コイツがいなければ炎さんをちゃんと逃がす事が出来た。

 

コイツが足止めさえしなければ炎さんをあんな場所から一秒でも早く逃がしてあげられたんだ!)

 

心がまるで獣の様に目の前の敵を倒せと叫んでいる。

 

 

「全部全部!お前が悪いんだ!」

 

 

感情の高まりが力の制御をブレさせる。

 

最近では5%を意識して抑えていたそれが、一気に高まる。

 

 

「SMAAAAAASH!!」

 

 

全力とまではいかないが、相当な力を乗せて振り抜いた拳。

 

だけどそこに、狙っていた頭部の感触どころか、何かに触れたという感覚すら無かった。

 

 

「言ったはずですぞ。

 

私ですら倒せはしないと」

 

 

避けた?!

 

けど、コイツの個性は物体の形を変えて操るだけだろ?!

 

ならなんでコイツは今の攻撃を避けられたんだ?!

 

 

「デクの奴、冷静ならあの程度看破できる癖に」

 

「緑谷落ち着け!」

 

「おいゴラデク!俺を差し置いて何1人で「かっちゃんは手を出さないでよ!」あぁ?!」

 

 

かっちゃんの声を僕は遮った。

 

 

「僕はコイツを倒して、炎さんを助けなきゃいけないんだ!

 

僕がコイツを早く倒せなかったから、炎さんは毒に侵されているんだ!

 

だから今度は、絶対に!僕がコイツを!」

 

 

熱を持った思考が冷めない。

 

誰の声も響かない。

 

それが数分続いた頃、ストレスが蓄積されていく僕にそれは突然の出来事だった。

 

 

「調子に乗ってんじゃねぇぞデク」

 

 

「いでっ?!」

 

 

小さな影が僕の頭を蹴り飛ばした。

 

その正体はリボーンで、仰向けで倒れた僕の胸ぐらを掴んでいた。

 

 

「オメェが責任感とか後悔とかあんのは分かってる。

 

それを感じるなとは言わねぇ。

 

だがな、お前が何でここに来たか。それを忘れてんじゃねぇ」

 

「僕が、何でここに来たか?

 

そんなの、炎さんを助けなきゃ「違ぇだろ」……え?」

 

 

リボーンは何を言っているんだ?

 

僕は、炎さんを助ける為にここに来たんだ。

 

それが、違う?

 

 

「お前はそんな、義務とか責任とかの為に来たんじゃねぇ。

 

確かに、お前の存在が夏樹を危険に晒したかもしれねぇ。

 

そこにお前が"助けなきゃいけない"理由があるのも確かだ」

 

 

そうだ。

 

ボンゴレのボス候補の僕が傍にいたばかりに炎さんは…。

 

 

「だがそれでもお前は、"助けたい"って思ったんだろ」

 

 

リボーンの言葉に、一瞬僕は気付けなかった。

 

その微妙な言葉の違いが。

 

だけど気付いた後は、すぐに何が言いたいのか理解出来た。

 

 

「義務や責任なんかじゃねぇ。

 

お前はお前の意思でここに来たんだろ」

 

 

………ほんの些細な差だ。

 

言葉としても、意味としても。

 

ただ、受け取り方1つでそれは僕の心を落ち着かせた。

 

 

「助けなきゃいけないって思うのは大切な感情だ。

 

ヒーローを目指す者としてそれは正しい。

 

だが、ヒーローもボンゴレも、最初はただ助けたいという感情から生まれたんだ。

 

義務感や責任感に縛られるくらいならそんなもん捨てちまえ。

 

お前はただ、助けたいと思った奴を助けりゃいい」

 

 

………結構、楽になった。

 

というより、敵が待ってくれている事に今気が付いた。

 

 

「そろそろ、貴方の本気が見られそうですな」

 

「…えぇ。お待たせしました」

 

 

とにかく今は奴の個性だ。

 

さっきの高速移動にもカラクリがあるはずだ。

 

個性は触れた物体の形状を変化させて操る。

 

………………そうか。

 

 

「アイツは、自分の衣服を操ったんだ」

 

「正解です」

 

 

随分と素直だ。

 

不気味に感じるけど、今までの奴の言動からそういうブラフを使うタイプじゃないとは思う。

 

理論としては、形状変化を微量に抑えて、その後の物体操作で衣服を横に飛ばす事で自分の体を引っ張ったんだ。

 

 

「デク。冷静になれば戦況は自ずと見えてくる。

 

心を燃やしてクールに戦え」

 

 

地味に難しい注文を……。

 

けど、今はそれしかない。

 

 

「おいコラデク。頭ァ冷えたか」

 

「うん。ごめんねかっちゃん」

 

「俺も援護に入る」

 

「ありがとう、轟君」

 

 

大丈夫。仲間がいる。

 

強くても敵は1人だ。

 

数で押せば、いける!

 

 

「行くよ!」パリッ!

 

「あぁ!」ボゥッ!

 

「命令すんな!」BOM!

 

 

3人とも構えをとり、敵を睨む。

 

 

「よろしいですかな?」

 

 

静寂。そして一一一。

 

 

「「「行くぞ!」」」

 

 

僕は地面を駆け、かっちゃんは爆破で空から、轟君はその隙間を縫う様に炎を走らせる。

 

 

「私を警戒して氷ではなく炎で、ですか」

 

 

そう言いながら(ヴィラン)は地面に手を着く。

 

 

阻みし絶壁(ブロッコ・デッラ・スコグリエラ)

 

 

その瞬間、僕とかっちゃんの目の前に床のタイルが壁となり現れた。

 

 

「くっ?!」

 

「クソっ!」

 

 

僕達はそれをどうにか蹴る、又は爆破による後退で衝突防いだ。

 

そして材質的に、轟君の炎が効いていない。

 

 

「事前にここのタイルは特殊な物と取り替えてあります。

 

そう簡単に壊せるものではありませんよ」

 

 

くっそ!

 

その身一つで戦う毒蛇と違って、コイツは手数が多いのが特徴だってのは分かってたけど、こういう個性持ちに事前に準備をされたら、一筋縄では行かないぞ!

 

 

「2人とも聞いて。

 

今からパワーを少し上げる。

 

正直このレベルになると自分の体にどの程度反動があるか分からないし、衝撃が2人に行っちゃうかも知れないんだけど」

 

「俺を心配なんざ余裕じゃねぇか。

 

一々確認なんかせずに使えや。出し惜しみ出来る相手じゃねぇだろ」

 

「俺は構わねぇぞ」

 

 

よし。なら、やってみよう。

 

 

ONE FOR ALL FULL COWL

 

6%!

 

 

「ほう。これは中々」

 

 

(ヴィラン)はここで初めて構えと取れる体勢をとる。

 

 

「っ!」

 

 

僕は足に力を入れ、一瞬で間合いを詰めて振りかぶった拳を振り抜く。

 

 

「早いですな」

 

 

しかし(ヴィラン)はそれをバックステップ回避し、更に個性の物体操作で衣服を後方へと引っ張る。

 

 

「ンなもん、読めてんだよザコがァ!」

 

 

そこへかっちゃんがすかさず追撃を仕掛ける。

 

 

「直線的ですな」

 

「がっ?!」

 

 

しかしかっちゃんの勢いは唐突に止まった。奴が触れた壁から飛び出した石柱によって。

 

 

「かっちゃん!」

 

「爆豪!」

 

 

僕が飛び出し、轟君はそれを援護しようと氷を展開した。

 

 

「させませんぞ」

 

 

(ヴィラン)は壁から手を離して放たれた氷に触れた。

 

その瞬間、氷はいくつにも分解されて形を鋭利な物へと変えた。

 

 

「っ?!悪い緑谷!来るぞ!」

 

 

くっそ、空中じゃ受身が「見てられないな」ビュンッ!

 

(ヴィラン)の攻撃への対処を思考する僕の耳に、活川さんの声と風を切る音が聞こえた。

 

 

ガキンッ!

 

 

そしてその後に響いたのは、金属の衝突音だった。

 

 

「ほう。次は活性の死神(モールテ・アッディーヴァ)が相手ですか」

 

「その中二臭い呼び方はやめてくれ。

 

私はただの女医の活川 命子だ」

 

 

かっちゃんを受け止めて何とか着地して振り返った僕の目に写ったのは、数本のメスをそれぞれ両手に収めた活川さんの姿だった。

 

 

「緑谷君。爆豪君を連れて下がれ。

 

時間稼ぎと攻略のヒント位はしてやろう」

 

 

そう言いながら活川さんはメスを懐に仕舞い、左手で右手を掴んだ。

 

 

「さて。久々に使うから加減が出来るか分からん。

 

せいぜい緑谷君達が回復するまでは倒れてくれるなよ?

 

あそこの赤ん坊がうるさいんだ」

 

「えぇ。努力しましょう」

 

 

活川さんはニヤリと笑うと、腕を握る手に力を込める。

 

 

身体活性(アッティヴィタ・フィージカ)

 

 

その瞬間、活川さんの髪はやや逆立ち、スラッとしていた手足にはしなやかな筋肉がついていく。

 

あれは、自分の体を活性化させているのか?

 

 

「あれが活川さんの、奥の手?」

 

「いや違ぇ。あれはその1歩手前だ」

 

 

僕でも感じ取れる程の力を持ったあれが奥の手ですらないなんて、活川さんはそこまで強かったんだ。

 

轟君も同じ様に思っていたらしく、目を見開いていた。

 

 

「参ります」

 

「あぁ。かかって来い」

 

 

(ヴィラン)は加速して発勁の様な構えで活川さんに攻撃を仕掛けた。

 

対する活川さんは最小限の動きでそれを避け懐に入り込み、右手で作った拳で(ヴィラン)の鳩尾に抉り込む様な一撃を放った。

 

 

「ぐっ?!」

 

「おいおい。まだ序の口だぞ」

 

 

そう言って拳を引いてその動きのまま左足で(ヴィラン)を蹴り飛ばした。

 

 

「今の手応えは、逸らしたな」

 

「見破られましたか。

 

しかし一撃目は逸らしきれませんでした。やはり噂に違わぬ実力。

 

貴方とこうして戦場で相見える事が出来る事を誇りに思います」

 

「御託はいい。もう終わりか?」

 

「ご冗談を」

 

 

(ヴィラン)は再び構え、対する活川さんも構える。

 

 

「っ!」

 

 

活川さんは地面を強く蹴って開いた距離を再び詰める。

 

 

阻みし絶壁(ブロッコ・デッラ・スコグリエラ)!」

 

 

(ヴィラン)はそれを阻もうとさっき僕のスマッシュを阻んだ壁を展開させた。

 

 

「それは一度見たぞ」

 

 

活川さんは体勢を変えて壁に手を付く事で減速し、そのまま真上に飛び上がる。

 

 

「甘いですぞ」

 

 

そこへ地面から飛び出した柱が襲う。

 

しかしそれを難なく躱した活川さんは、いつの間にか手の中にあったメスを投擲する。

 

(ヴィラン)も同じ様にストックしてあった氷塊の形状を鋭利な物へと変えて迎え撃つ。

 

メスとストックしてあった氷塊とでは数に差があり、僅かに氷塊の方が勝っていた様だった。

 

メスの間をすり抜けて活川さんを狙う氷塊の数はおよそ5つ。そしてあらぬ方向に飛んでいく氷塊が10と少し。

 

活川さんはそれ等を全て掻い潜り(ヴィラン)へと迫る。

 

 

「ちなみに背後には気が付いているよ」

 

 

突然(ヴィラン)とは真逆の方向にメスを投げる。

 

するとさっきら何度か聞いた金属の衝突音がまた響いた。

 

 

「あれって!」

 

 

その音の発生源は、さっき的外れの場所に飛ばされていたはずの氷塊だった。

 

 

「ミスに見せかけた奇襲だな。

 

だが偉く初歩的なフェイントだな」

 

 

確かに、僕ならともかく、活川さんの様な一定以上の力を持つ人達には通じない様な技だ。

 

 

「なるほどな。

 

お前、同格以上の相手との戦闘の経験が無いな?」

 

 

そうか。それなら納得がいく。

 

それにあの個性なら不意打ちも初見殺しも出来る。

 

まともな戦闘自体、そもそも回数が少ないのかもしれない。

 

 

「やはり貴方の目は誤魔化せませんな。

 

仰る通り、私は先代の頃は戦力として数えられない程でした。

 

そこへ今代のボスが私を側近として指名して下さったのです。

 

その御恩に応える為にも、貴方達を簡単に通す訳にはいかないのです」

 

 

このレベルの人が戦力外なんて、ジャックファミリーはどれだけ強大だったんだ。

 

 

「恩か。なるほど。

 

まぁ、いい感じに盛り上がって来た所で選手交代だ。

 

緑谷君。奴は君一人で倒すんだ」

 

 

僕が戦慄していると、活川さんがこちらを振り返っていた。

 

 

「僕1人、ですか?」

 

「あぁ。そこの家庭教師もそう言うはずだ」

 

 

活川さんに言われて僕の後ろに立つリボーンの方を向くと、リボーンは僕をジッと見ていた。

 

 

「行ってこい。

 

もう相手の手の内はある程度把握した筈だ。

 

考えるのを止めるな。お前の武器はその考える力なんだ」

 

 

リボーンは力の籠った視線で僕を貫く勢いで見る。

 

ここまで言われて、ビビって立ち止まっていられない。

 

行くぞ。

 

 

「焦りは、無いようですな。

 

今度ばかりは一筋縄では行きそうもありません」

 

 

冷静に敵を見ろ。

 

考えろ。

 

奴の情報を頭の中で統合して考えるんだ。

 

さっきの戦闘の動きで、奴の個性で操れるのは一度に一種類だけだって事は分かった。

 

もし出来るなら氷塊と柱、そして壁を同時に使っていた筈だ。

 

恐らく出来るとしても、壁と柱の組み合わせだ。

 

どちらも地面から出せばそれは同じ物を操っている事になるんだから。

 

もしかしたら、出来るけどそれをしない理由があるのか?

 

それと奴は前に戦った時に、氷を10秒だと言った。

 

何の秒数なのか、それは多分操れる時間だ。

 

形状変化と操作の時間が合計だとして、さっきの奴の動きの合間の微妙な間はインターバルの様な物があると考えていいと思う。

 

だとしたら、その一瞬が勝負だ。

 

 

「フゥ…………」

 

 

僕は体から力を抜いた。そしてもう一度全身に力込めて意識を力の制御に向ける。

 

 

ONE FOR ALL FULL COWL

 

6%

 

 

「行きます」

 

「いいでしょう」

 

 

右足に力を込めた。

 

そこに熱が集まり、力に変わる。

 

ただフルカウルで身体能力を上げるだけじゃダメだ。あの壁と柱を越えられるだけの突破力が必要なんだ。

 

だから、フルカウルと部分強化を同時に行ってその瞬間に必要な力を使う。

 

けど、強過ぎる力で反動を受けるかもしれない。

 

だから使うのは一瞬だけだ。

 

その為に、頭を回せ!

 

 

「っ!!」

 

 

力を解き放ち、僕は地面を蹴り(ヴィラン)へと一直線に跳躍する。

 

 

阻みし絶壁(ブロッコ・デッラ・スコグリエラ)!」

 

 

(ヴィラン)は地面に手を付き、そこから壁が生まれる。

 

さっき5%の力で僅かにだけどヒビが入ったのは分かった。

 

今度は、10%の力で!

 

 

「SMAAAAAASH!!」

 

 

僕は右足に力を集束させて壁に向けて振り抜く。

 

 

「ぐっ?!」

 

 

手応えは、ある!

 

このまま押し切って!

 

 

「まだ、まだですぞ!」

 

 

出した壁から、更に柱を?!

 

 

「ぐっ?!」

 

 

跳躍する事である程度力を逸らせたけど、それでも足へのダメージは大きい。

 

全ての動きの基本となる足へのダメージは、近接メインの僕にとっては相当な痛手だ。

 

ここ最近で僕は足を使った戦闘スタイルも開発している途中だったからこそ、その癖でつい足を使ってしまった。

 

酷くタイミングが悪い。

 

一応、戦いが済めば活川さんが治療してくれるとは思うけど、それでもそれに頼りきりじゃ申し訳が立たない。

 

けど、やっぱりあの壁を突破するには、腰の捻りや、腕より長い事で生まれる遠心力による威力が必要なんだ。

 

かと言ってこれ以上力を上乗せすると、今度は反動が来る。

 

これは本当に、考えるのを止めた瞬間が敗北になりかねないぞ。

 

 

「ハァ……」

 

 

ふと、相対する敵からそんな声ともとれないものが聞こえた。

 

ため息、なのか?

 

今のは、敵対する僕が弱い事への不満だろうか?

 

いや、今まで使っていなかった手を使ったあたり、それは無いと思う。

 

なら今のは何だ?

 

…………疲れ、なのか?

 

そうか。入れ替わりで戦う僕らと違い、奴は1人だ。

 

もうすぐ体力に限界が来てもおかしくない。

 

それなら、一気に畳み掛ける!

 

 

「はぁ!」

 

 

一か八か、柱が出るタイミングで10%の力を右足に一点集中させてぶち抜く!

 

 

「SMAAAAAASH!!」

 

 

 

「ぬっ、ぐぅっ!」

 

 

(ヴィラン)は作った壁にもう一度触れる。

 

柱が来る。なら!

 

 

ONE FOR ALL!

 

10%!

 

 

 

「SMAAAAAASH!!」

 

 

このまま、押し込め!

 

 

「ハアァァァァァァァッ!」

 

「ぐぅぅぅっ!」

 

 

もっと!強く!

 

 

「くっ、この、ままでは!」

 

 

絶対に、勝つんだぁぁぁぁぁぁっ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「SMAAAAAAAAASH!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

足の先から、壁が砕けるのが分かった。

 

そしてその先の、清々しい表情の(ヴィラン)の腹へと、僕の攻撃が命中した。




次回予告!

リボーン「お前何回スマッシュって言ってんだ」

出久「いや、あれを言うとなんか力が籠るし…」

リボーン「まぁいい。とりあえず難所は突破したな」

出久「うん。けどまだ油断はできない」

リボーン「何当たり前の事キメ顔で言ってんだ」

出久「い、いいだろ別に!///

けど、次はやっとジャックと、ってあれ?!」

リボーン「次回『標的(ターゲット)17 盲目の刃』」

出久「ちょ、勝手に締めないでよ!」

リボーン「更に向こうへ。Plus ultra

死ぬ気で見ろよ」

出久「え?!リボーンが全部言うの?!」


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標的(ターゲット)17 盲目の刃

本話投稿直前に、今まで投稿していた全話のタイトルの『標的』にルビでを付けて『標的(ターゲット)』という表記に変更しています。


僕は床に座り込んでゆっくり息を吐いた。

 

僕達の目の前には後ろで手を縛られた(ヴィラン)、操物が床に座っていた。

 

まぁ、この人相手にこの程度じゃ本当は無意味なんだけど、どうやらこれ以上僕達と戦うつもりは無いみたいだ。

 

だから僕は、さっき操物の腕を切り落とそうとした活川さんを止めた。

 

 

「いくら私が戦う意志を見せなくなったとは言え、些か敵に対する警戒が足りないと思うのですが」

 

 

本人からも言われる始末だけど。

 

 

「捕えられる前にも言いましたが、我々はジャック様より、敗北した場合には行動を起こすなと言われています。

 

しかし私がそれを破らぬ証拠も、そもそも貴方達を背後から襲う為の虚偽である可能性すらあるというのに」

 

 

確かにそうだ。

 

我ながら(ヴィラン)の言葉を鵜呑みにするのはどうかとも思う。

 

けど、これだけは確信を持って言える。

 

 

「きっと貴方は嘘をつかないし、ジャックの事も裏切らないと思うんです。

 

まぁ、ただの勘ですけどね」

 

 

言葉が嘘かは分からないけど、少なくともこの人はジャックの言う事を絶対に守る。

 

度々口にしていたジャックへの忠誠の言葉。

 

僕にはそれが嘘に感じられなかった。

 

 

「勘、ですか。

 

いやはや。ボンゴレ後継者の感ならば仕方ありますまい」

 

「え?」

 

「オイデク。時間がねぇんだ。

 

さっさと進むぞ」

 

 

僕が操物に話を聞こうとすると、それを肩に乗ったリボーンが止めた。

 

確かに、僕達には時間が無い。

 

もう二人倒したんだ。後はジャックだけだ。

 

 

「あぁ、念の為に申しておきますが、ジャック様に辿り着く為の壁は、後一つございます」

 

「なっ?!」

 

 

後一つ?!

 

しかも、多分この人を超える強さの人がいる可能性があるって事だ。

 

もう既にここに着いてから一時間と少しは経過してる。

 

移動した時間も含めると、もう半分も時間を使ってしまっている。

 

それにシャマルさんの言葉通りなら、3時間から短くなる可能性すらある。

 

クッソ!今まで時間をかけすぎた!

 

 

「その様子ですと、やはり毒蛇は伝えていなかった様ですね。

 

この館の中にはあと一人ジャック様への道を阻む者がいます。

 

その者を倒さなければジャック様は姿を現しません」

 

「緑谷君、急ごう。

 

このままでは間に合わない」

 

「はい!」

 

 

早くしなきゃ、炎さんが!

 

 

「お待ち下さい」

 

「っ!まだ何かあるんですか?!

 

足止めの為なら僕達は!」

 

「いいえ、その者がいる場所をお教えしようかと思いまして」

 

 

……………え?

 

 

「この部屋を出て階段より上の階に上がり、すぐにある大きな扉です。

 

その中のダンスフロアにその者はいます」

 

「………嘘では、無いんですね」

 

「えぇ。ジャック様に誓っても」

 

 

ジャックの名前が出たって事は、きっと嘘じゃない。

 

きっと負けた場合は教える様に指示されていたんだろう。

 

 

「行きましょう」

 

「待て緑谷君。奴の言葉を信じるのか?」

 

「どっち道手がかりもないですし、今はそうするしか」

 

 

活川さんも多分それしか無いと分かってる。

 

だから僕に本当にそれでいいかを聞いたんだと思う。

 

 

「君がそれで良いのなら私は止めない。

 

君達もいいね?」

 

「俺は緑谷の決めた事なら文句は無いです」

 

「話してる時間はねぇだろ。さっさと行くぞ」

 

 

轟君もかっちゃんもいいみたいだ。

 

それじゃあ早く行かなきゃ。

 

 

「それではご武運を」

 

 

そう言った操物を背に、僕達は部屋を後にした。

 

 

 

…………………………

 

 

 

その後僕達は操物から聞いた通りの場所に赴いた。

 

 

「なるほど。奴は嘘を言ってはいなかったみたいだな」

 

 

扉の前に立つ活川さんはそう言って冷や汗を掻いていた。

 

 

「緑谷君。どうやら今回の相手は相当なやり手だぞ。

 

さっきの操物や毒蛇の比じゃない」

 

 

あの二人の比じゃない?

 

今まで僕達はその二人でさえギリギリで乗り越えてきたのに、それを更に上回る敵なんてどうやれば……。

 

 

「おい。何簡単に諦めてんだ」

 

 

心が沈みかけていた僕に、リボーンが声をかけた。

 

 

「壁がでけぇなら、その分強くなれ。

 

オメェ達にはそれが出来る、若さって武器があるだろーが」

 

「赤ん坊のリボーンには言われたくないよ……。

 

けど、ありがとう」

 

 

そうだ。今までの二人だって、きっと昨日までの僕なら勝てなかった。

 

今日、苦難に共に立ち向かった”僕達”だから勝てたんだ。

 

大丈夫だ。

 

僕は一人じゃない。

 

かっちゃんが、轟君が、活川さんが、そしてリボーンがいたから僕はここまで戦えているんだ。

 

 

「リボーン。まだジャックが残ってるけど、もしもの時はお願い」

 

「あぁ、分かってる。

 

命子も分かってるな」

 

「流石にコイツはヤバそうだからな」

 

 

話は纏まった。もしもの時は、文句を言われるかもしれないけど、かっちゃんと轟君には下がって貰って、僕の死ぬ気モードと活川さんの切り札で乗り切る。

 

 

「行くぞ」

 

 

活川さんはそう言いながら扉を開いた。

 

そこは操物が言っていた様にダンスフロアで、その中心辺りにこちらに背を向けた和装の男が正座で座っていた。

 

 

「子供の男が三人に、大人の女が一人。女はかなりの手練れの様だ。

 

そして、なるほど。アルコバレーノが一人いるな」

 

 

男は何かを呟くと、ゆっくりと振り返りながら立ち上がった。

 

腰から刀の柄のようなものが見えた。

 

だけど何処にも鞘が見えない。

 

あれは一体なんだ?

 

 

「しかしどうやら傷は浅いようだ。

 

いやしかし、あの二人も戦闘慣れしていなかったとは言えかなりの個性の使い手だ。

 

それを倒しここに辿り着いたお前達に賞賛を送るべきか」

 

 

顔を上げたその男の顔が部屋の明かりで照らされる。

 

 

「「「っ?!」」」

 

 

僕とかっちゃんと轟君は、その異様さに目を疑った。

 

だってその男の瞼は、無数の糸で縫い合わされていたからだ。

 

どうしてあんな、酷い有様に?

 

この人が、本当に次の相手なのか?

 

 

「ん?驚いているのか?

 

まぁ無理もない。こんな物を見たら誰でも驚くだろう」

 

 

そういいながら彼は自らの目を指でなぞった。

 

 

「………っ?!」

 

 

ま、待て。

 

なんで今、僕達が驚いているって分かったんだ?!

 

明らかに目は塞がっているし、僕達は驚きのあまり声も出せていなかったから、聞こえもしないはずなのに!

 

 

「まぁ落ち着け。

 

しかしそこの女とアルコバレーノは落ち着いている様だな」

 

 

女って、性別まで分かるのか?!

 

それに、アルコバレーノ?

 

一人だけ呼ばれていない事を考えると、リボーンの事を言っているんだろうけど、一体なんだ?

 

 

「ん?困惑しているのか?」

 

「なっ?!」

 

 

今僕は、喋ってすらいないんだぞ?!

 

まさかアイツの個性は、人の心が読めるのか?!

 

 

「困惑と驚愕。

 

察するに、俺の個性を見破ったのか?」

 

 

………これでほぼ確定だ。

 

アイツは僕の心を読んでいる。

 

 

「緑谷、何か分かったのか?」

 

「馬鹿かオメェは。

 

デクが何も喋ってねぇのに奴はあたかも俺達が喋っているかの様に喋っていやがった。

 

そこから暫定的にアイツの個性がこっちの考えてる事が分かる類の個性だってわかんだろが」

 

 

言い方はあれだけど、轟君にもかっちゃんが説明してくれた。

 

 

「おぉ、ようやく声が聞こえた。

 

やはり会話は声で無いとなぁ」

 

 

嬉しそうに男はそう言った。

 

 

「けど、それだけの個性なら俺だけでも!」

 

「轟君、待って!」

 

 

僕の制止も間に合わず、轟君の放った氷はすでに男に迫っていた。

 

 

「敵意、焦り、そして僅かな殺意」

 

 

それは一瞬で起こった。

 

光が放たれたと思えば、次の瞬間には轟君の放った氷は粉々になっていた。

 

 

「「っ?!」」

 

「馬鹿!下がれ!」

 

 

驚き初動が遅れた僕と轟君は活川さんに襟を掴まれて下がる。

 

すると、僕達の居た場所の丁度首辺りを光が通過した。

 

 

「クソが!何だ今の!」

 

 

かっちゃんが苛立たし気に敵を睨む。

 

 

「今のは、個性による攻撃ではないな」

 

「恐らく、あの腰の武器だな。

 

鞘がねぇのを見るに、エネルギーで出来た刃だな」

 

 

「ほう。流石はアルコバレーノだな。

 

それに女の方も悪くない。

 

子供はさっきから聞いていた一人ともう一人の激情少年は期待できそうだったが、どうやら微妙だな。練度がまるで低い。

 

もう一人はもはや論外。

 

反応してはいたが動けなかった少年と違って、お前は反応すらしていなかった。

 

味方との連携を考えずに攻撃し、挙句の果て自分の攻撃で自分の視界を塞ぐ始末。

 

この感じる冷気は氷か。それもかなりの質量だ。

 

強い個性が故に攻撃が単調で大雑把。

 

敵に反撃をされない事を前提とした攻撃は確かに格下には聞くだろうが、格上相手にそれは殺して下さいと言っている様なものだ」

 

 

まるで教師の様に轟君の失敗点を語る男。

 

それに対して轟君は今にも二発目を放とうとしていた。

 

 

「落ち着け轟。お前じゃアイツには攻撃を当てるどころか、この戦いじゃ足手纏いだ」

 

「リボーン!そんな言い方ないだろ?!」

 

 

リボーンのあまりの言い様に僕は堪らず声を荒らげた。

 

 

「うるせぇ。奴の言う事は事実だ。

 

それに手の内のわからねぇ相手に対して無計画な攻撃なんか悪手に決まってんだろ」

 

 

そりゃそうだろうけど、僕が言いたいのはそう言う事じゃない。

 

けど、今ここで言い争ったって意味がない。

 

とりあえず僕に出来るのは、考えることだ。

 

さっきの光は攻撃の前触れなのか、それとも攻撃自体なのか。

 

この二択なら、きっと後者だ。

 

だとしたら個性なのか?

 

けど奴は僕達の考えている事が分かる。

 

だとしたら、そのどちらかの副次的な効果を、あの武器で強化しているのか?

 

それとも、個性に関係なくあの武器がそういう機能を持っているのか。

 

 

「困惑、いや、思考か。

 

ずいぶん余裕だな」

 

「デク。何か思いついたのか?」

 

 

リボーンは僕の方を見てそう聞いた。

 

正直、何も分かっていない。

 

けど分かることは、目の前の男はまともにやりあっても勝てないって事だ。

 

 

「まだ何も分からない。アイツが何処まで心を読めるのか、どこまでがあの攻撃の射程範囲なのか。

 

とにかく今アイツに近づくのは危険すぎる」

 

「なら、遠距離戦に徹するが吉か」

 

 

そう言って活川さんは懐から数本のメスを取り出す。

 

 

身体活性(アッティヴィタ・フィージカ)

 

 

操物との戦いと同じ様に、活川さんは自らの体を活性化させて身体能力を上げた。

 

 

「めんどくせえが、仕方ねぇか」

 

 

かっちゃんはそこら辺にある大き目の石を掴み、手の上で転がす。

 

 

「僕は、何とか一撃を狙ってみます」

 

「あぁ」

 

 

活川さんに確認をとって、僕は構える。

 

 

「なんだ、ようやく来るのか」

 

 

男は笑っていた。

 

不気味だけど、ここでビビってても仕方ない。

 

 

「爆豪君は右から頼む。

 

私は左から行く」

 

「命令すんなや」

 

 

そうは言うけど、かっちゃんは体を僅かに右側に向ける。

 

僕は腰を落としていつでも攻撃が出来るように構える。

 

 

「「っ!!」」

 

 

活川さんとかっちゃんは同時に駆け出した。

 

 

「しっ!」

 

 

活川さんはそのままメスを投擲。

 

 

爆破散弾(ブラストショットガン)!!」

 

 

かっちゃんは爆破で飛び上がり、手に持っていた石を投擲すると同時に手の平から爆破を起こして石を無数の礫に変えて飛ばす。

 

あれは多分即席で作った新技だ。

 

どちらも当たればタダじゃ済まない攻撃。

 

この攻撃をもし仮に防いだとしても、僕が決める!

 

そう考えて構えた瞬間だった。

 

 

「右から八つ、鋭い。

 

左は無数、一つ一つ小さいが躱しきれんか」

 

 

その声が聞こえ、僕は突撃を止めた。

 

 

(そこまで正確に読み取れるのか?!)

 

 

僕はそこで気が付いた。

 

(ヴィラン)の殺意が乗った視線がかっちゃんに向いている事に。

 

 

「かっちゃん!」

 

 

僕は無意識にONE FOR ALLを発動してかっちゃんの元へ飛び、タックルの様にしてその場を離脱した。その刹那―――。

 

 

「っ?!」

 

「オイ、デクッ!」

 

 

背中に、鋭い痛みを感じた。

 

浅いみたいだけど、触れただけでそこを中心として熱が僕を襲う。

 

 

(今のは、なんだ?!

 

さっきの光といい、奴の攻撃法が分からない!)

 

 

僕はそのまま力が抜けて、力無く地面に落ちていく。

 

と思っていたら、襟の辺りから引っ張られ、次に聞こえる爆破音。

 

視線を上げると、かっちゃんが僕の襟を掴み爆破によるホバリングで綺麗に着地していた。

 

 

「これで貸し借りは無しだ」

 

 

そう言ってかっちゃんは僕を放り投げる。

 

 

「ふべっ」

 

 

地面に落ちた衝撃で変な声が出た。

 

けど、それだけだ。

 

背中の痛みはわずかに残ってて、感覚的に出血しているというのは分かるけど、それも大した事は無い。

 

考えるのを止めるほどの傷じゃない。

 

とりあえず現状を把握しよう。

 

活川さんの放ったメスは壁に突き刺さっているから、あれは躱されたんだ。

 

そしてかっちゃんの技で放たれた礫は地面に着弾はしているけど明らかにその数が少ない。それを見るに自分に被害のあるものだけを破壊したのか?

 

 

「デク。一回しか言わねぇからよく聞いとけ。

 

個性の分析はテメェに任せる。

 

俺と医者がアイツの手札を炙り出す。

 

それをしっかりと見とけ」

 

 

かっちゃんからまさかの提案。

 

けど、大丈夫なんだろうか。

 

信じて無い訳じゃない。

 

けど、相手が強すぎる上に未知数だ。

 

それを二人で抑えるなんて。

 

 

「すまない緑谷君。

 

本来私が爆豪君を庇って君に攻撃をして貰う方が作戦的には良かったんだろうが」

 

「いえ、大丈夫です。

 

僕も無意識でしたから」

 

 

身体強化を使っているお陰で一瞬で僕達の目の前まで移動してきた活川さんを僕の背中に触れて活性である程度傷を癒してくれた。

 

そして三人三様に構え、(ヴィラン)への警戒を最大限にしながら会話を始める。

 

 

「とにかく、奴の情報を整理しよう。

 

私は武器に関して分かった、というよりも知識がある。

 

あれは、そうだな。よくSF映画やロボットアニメに出てくる、熱量で焼き切る類のものだ。

 

半端じゃなく出力の高いバーナーとでも考えれば分かりやすいだろう。

 

つまり奴が攻撃する際に放つ光は、その熱量が光となって可視化している状態だ。

 

その扱い辛さからあまり見た事は無いが、以前マフィ………いや、ヒーローの活動を見た時にそう言った武器を使う輩がいた」

 

 

確かに、あの攻撃に触れた時、痛みよりも熱いって感覚が強かった。

 

けどそんな武器、いくらこの超人社会でも結構なオーバーテクノロジーじゃないか?

 

個性で似た様な事が出来る人はいるだろうけど、それを個性ブーストアイテムでも何でもなく、武器単体に落とし込むには結構無理がある気がする。

 

けどさっき活川さんがマフィアと言いかけていて何となく納得はできた。

 

リボーンの持つ死ぬ気弾なんかが良い例だ。

 

死ぬ気弾の事なんて正直仕組みも何も分かったもんじゃない。

 

それを考えると、マフィアの中にそういう超常的な技術があるというのは何となく察しが付く。

 

前にリボーンから聞いた話じゃ、ボンゴレくらいの古参マフィアになるとその歴史は超常黎明期のさらに昔から存在しているらしい。

 

それを考えると、もともとマフィアが持っていた技術に個性が組み込まれた結果、そういった技術も発展したって考えられる。

 

 

「俺からは、あの個性の断片的な情報だ。

 

アイツは俺たちの攻撃に対して、事細かに把握している様に見せていやがる。

 

だが恐らく本質は違ぇ。

 

偶に聞こえる声の中に『敵意』だの『困惑』だの言っていやがった。

 

恐らく読み取れるのは感情の種類程度だ。

 

それ以外の感知はアイツ自身の経験とかとしか言えねぇ」

 

 

かっちゃんの意見も納得できる。

 

だけど一つだけ疑問が残る。

 

轟君の氷結ならを回避した事はまだ理解できる。

 

それなら、活川さんのメスの数を当てたのは一体何なんだ?

 

それにかっちゃんが放った物が礫でありそれが無数である事なんて、経験で分かるものじゃ無いはずだ。

 

 

「…………情報が無さすぎる」

 

「だからそれを今から炙り出すっつってんだろ」

 

「私と爆豪君でどのくらいの時間抑えられるかは分からないが、その間に君は奴の個性を看破してくれ。

 

君の情報分析能力が頼みの綱だ。任せたぞ」

 

 

かっちゃんと活川さんが僕の前に出る。

 

そしてさっきと同じ様にそれぞれメスと石を手に持っていた。

 

 

「なるべく多く手札を切らせる。

 

だが無理はするなよ、爆豪君」

 

「誰に言ってんだ」

 

 

活川さんの言葉に、かっちゃんは獰猛に笑って答える。

 

 

「そろそろ来るか?」

 

「待たせて悪かったな」

 

「心配しなくても、今すぐにでもぶっ殺したらァ…!」

 

 

悠然と構える(ヴィラン)と、それを睨みつけるかっちゃん達。

 

 

BOOOOOOM!

 

 

硬直を破ったのは、過剰な程に鳴り響いた爆発音だった。

 

(ヴィラン)は微動だにせず。

 

音に反応してた訳じゃないのか?

 

 

「しっ!」

 

 

活川さんはメスを投げ、そして自身も地を駆ける。

 

(ヴィラン)はメスを最低限の動きで躱して、追撃をする様に放たれた活川さんの蹴りを受け流した。

 

 

「様子見のつもりか?」

 

 

そう言いながら(ヴィラン)は件の武器を活川さんに向ける。

 

 

「っ?!」

 

「俺を忘れてんじゃ、ねぇ!」

 

 

活川さんが地面に着地する直前、かっちゃんがそう言いながら真後ろから爆破による加速で迫る。

 

 

「いやいや、そんなに殺意をずっと向けられていれば忘れる事なんて無いさ」

 

 

活川さんが地面から飛び上がるのと同時に(ヴィラン)は活川さんがいた場所に光の刀身を伸ばす。

 

そしてそれをそのまま自分のいる点を中心に回転することでかっちゃんへと向ける。

 

 

BOOOOM!

 

 

かっちゃんはそれがわかっていたかの様に正面に向けて爆破を起こす事で急速に後退しそれを回避する。

 

今のって、そういう事なのか?

 

 

「オイデク!今の見とったか!」

 

「見てた!」

 

 

きっとかっちゃんもこれを狙ってたんだ。

 

最初の攻撃の時も、二度目も、今も、一度伸びきるとその後から刀身が伸びる事は無い。

 

最大射程が分からないけど、そこが分かれば対処は出来る。

 

けど、僕達の攻撃が通らなければ意味がない。

 

僕のONE FOR ALLを使った加速もかっちゃんの爆破による加速も対応圏内。

 

そんな相手に、僕が切れる手札は………。

 

 

「ねぇ、リボーン」

 

 

もう、死ぬ気になるしかないのか?

 

 

「待て」

 

 

僕がリボーンに死ぬ気弾を撃って貰う様にお願いしようとしたその時、それを止めたのは活川さんの声だった。

 

 

「死ぬ気弾を使う前に、私の戦いを見て欲しい」

 

「え?」

 

 

戦いを、見る?

 

 

「リボーンもいいな?」

 

「むしろ頼みてぇくらいだ」

 

「どういうこと?」

 

 

今までの戦いで活川さんの戦い方は見てきた。

 

確かに活川さんの身体活性(アッティヴィタ・フィージカ)を使った戦い方は確かに参考にはなったけど。

 

 

「言ったはずだぞデク。命子には切り札があるってな」

 

 

そういえば、確かにそう言っていた。

 

けど、それとこれとに一体何の関係があるんだ?

 

 

「まぁ、とりあえず見ててくれ。

 

あとそこの今にも私を殺しそうな爆発少年を止めてくれ」

 

 

最後の最後で無理難題を押し付けられた気がするけど、とりあえず僕は頷いてかっちゃんを鎮めた。

 

 

「さて。もう使わないと決めてたんだがな」

 

 

活川さんはそう言うと一本の黄色い何かが入った注射器を取り出した。

 

 

「そ、それは?」

 

 

僕はそれを見て以前ニュースで見た海外で密造されている個性強化薬というのを思い出した。

 

確か体内の個性因子を活性化させる事で個性の力を数倍にも引き上げるとか。

 

僕がそんな事を考えていると、活川さんはこちらを苦笑しながら見ていた。

 

 

「君が考えている事はなんとなく分かるが、違うよ」

 

 

そう言って活川さんは注射器を腕に刺す。

 

 

「まぁ見てな。きっと驚くぞ」

 

 

そして活川さんは注射器の押し子を一気に押し込む。

 

 

「くっ」

 

 

そして顔を一瞬だけ苦しそうに歪めた後に、目を大きく開いた。

 

 

「っ?!」

 

僕はその光景に驚愕した。

 

活川さんの額には、まさしく僕がなろうとしていた死ぬ気モードと同様に、炎が灯っていた。

 

僕の時とは違い、黄色い炎が

 

 

「あれが命子の切り札だ。

 

命子がボンゴレに居た頃に死ぬ気弾を解析して作った、その名も」

 

「死ぬ気薬。久しぶりに使うが、これ程気分の悪い代物を私は知らない」

 

 

活川さんはまるで、自嘲するかの様に笑っていた。




次回予告!

出久「この(ヴィラン)、強い!」

リボーン「まぁこのレベルになると、ガキのお前らじゃまだ厳しいかもな。

参考に、命子の戦いをしっかりと見ておけ」

出久「死ぬ気薬。そんな切り札があったなんて……。

次回!『標的(ターゲット)18 もう一つの死ぬ気』

更に向こうへ!Plus ultra!!」


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標的(ターゲット)18 もう一つの死ぬ気

皆様どうも、本作の作者である鉄血のブリュンヒルデです。

今更ながらにどんな名前だと思う今日この頃です。

それはさておき四月になりましたね。

今回の話は今日この日に投稿しようと思い至り短めにしました。

四月一日といえばエイプリルフールですが、それをネタに書ける状況でもないので今回は見過ごす事にしました。

そして、四月といえば新たな生活を始めたり、新たな環境に身を置く方もこの小説の読者の方々にもいらっしゃるのでしょうか?

もしいらっしゃるのなら、今後のご健闘をお祈りします。

それでは宣告通り今話は短いですが今後とも引き続きお楽しみいただける様に頑張っていきます。

感想やこうしたら良いのでは?というお声もお待ちしています。

それでは「標的(ターゲット)18 もう一つの死ぬ気」をどうぞご覧ください。


「活川さん、炎を?!」

 

「ありゃあ、デクのと同じ炎?!」

 

 

轟君とかっちゃんはそれぞれに反応を示す。

 

僕も驚いていた。

 

活川さんが死ぬ気モードを使えた事もだけど、僕とは違って炎以外はいつものままだ。

 

リボーンと活川さんが僕に見せようとしてたのは、これなのか?

 

 

「命子の死ぬ気薬は、俺の死ぬ気弾よりも死ぬ気度は劣る。

 

だがその分力を制御しやすいんだ。

 

それに命子自身の精神力も関係してる。

 

死ぬ気モードってのは、心の強さがそのまま出力に変換される。

 

その点命子は数々の任務での経験や人生経験で精神力をかなり鍛えてる。

 

オメェと命子の差はそこだ」

 

 

精神力…。

 

確かに、一流のヒットマンと中学生じゃ圧倒的な差があるはずだ。

 

今まで僕以外で死ぬ気の力を使う人に会った事が無かったから、確かに勉強にはなるかもしれない。

 

 

「余興は終わったのか?」

 

 

(ヴィラン)がそう言うと、活川さんは表情を戦闘時の物に切り替える。

 

 

「あぁ。待たせたな」

 

「……なるほど。

 

先程よりは手応えがありそうだ」

 

 

(ヴィラン)は僕達全員を相手にしていた時とは違い、構えをとった。

 

僕達じゃ構えるまでもなかったって事か。

 

 

「さて、行くか」

 

 

活川さんはメスを数本持つと、腰を低くして構えた。

 

 

「どこからでも来い」

 

 

(ヴィラン)の言葉と共に、活川さんは一瞬で僕の視界から消えた。

 

 

「ほう、速い」

 

 

気付いた時には既に(ヴィラン)の目前まで迫っていた。

 

全く目で追えなかった。

 

 

「しかしまだ対応圏内」

 

「だろうな」

 

 

(ヴィラン)は剣を使わずに手刀でそれに応じ、活川さんはそれを身を屈めることで回避した。

 

そこへすぐさま腰の鞘の向きを変えてそのまま射出させた。

 

 

「っと」

 

 

それを危なげもなく躱した活川さんは手に持っていたメスを先程の非ではない速度で(ヴィラン)へと投げつける。

 

 

「甘い」

 

 

しかしそれは服の内側に仕込んでいたらしい腕のアーマーに弾かれる。

 

活川さんはそれが分かっていた様に飛び退き、更にメスを投げる。

 

それを今度は鞘を引き抜き、レーザーで全てを焼き切る。

 

 

「まだだ」

 

 

レーザーが引き始めるのと同時に、活川さんは一気に間合いを詰めた。

 

 

「は、速い……」

 

「クッソ!目で追うのがやっとかよ!」

 

「あれが、活川さんの死ぬ気……」

 

 

僕達はそれぞれに反応を示す。

 

轟君は自分とは違いすぎる次元の戦いへの驚愕と僅かな恐怖を。

 

かっちゃんは自らを遥かに凌駕する戦いへの苛立ちを。

 

僕は、炎を灯した活川さんの戦いへの憧れと焦りを。

 

 

「そういえば気になってたんだけど、さっきからその死ぬ気ってなんなんだ?」

 

 

ふと、轟君がそんな疑問を漏らす。

 

僕はその質問にまた新たな焦りを感じた。

 

死ぬ気の説明をするって事は、マフィア関連の事を二人に聞かせるって事だ。

 

こんな事、二人に聞かせられない。

 

 

「その事については戦いが終われば俺からオメェらに教えてやる。

 

だから今は命子の戦いを見とけ」

 

 

僕が葛藤している間に、リボーンが二人に答える。

 

 

「リボーン!」

 

 

僕はつい声を荒らげた。

 

けど仕方ない。

 

だってそれを話すって事は、二人を僕の問題に巻き込むって事だ。

 

 

「デク。オメェの言いてぇ事は分かってる。

 

だがな、コイツ等はとっくに巻き込んじまってるだろ。

 

なら全てを話すってのが筋ってもんだ」

 

「けど!」

 

 

まだきっと、たまたま僕達を襲った(ヴィラン)で通せる。

 

かっちゃんは勘づいているかもしれないけど、下手な詮索はしない筈だ。

 

なら、何も教えない方がいい。

 

 

「いい加減にしろよデク。

 

オメェ等がこの戦いに勝って来年雄英に行くとして、その秘密をずっと隠していくつもりか?

 

ンなもん無理に決まってんだろ」

 

「それは、そうかもしれないけど…」

 

「少なくともオメェは今ンなしょうもない事で悩んでる暇はねぇだろ。

 

今オメェがやるべき事は、命子の戦いをその目に焼き付けることだ」

 

 

リボーンは一度言い出すと聞かない。

 

ここは一先ず、戦いに集中するべきだ。

 

それは分かってるんだけど、どうしても考えてしまう。

 

もし二人に僕がマフィアの後継者候補だって知られたら、例え僕が拒んでいるとしても僕はまた前の様に一人になるんじゃないかって。

 

それだけならまだいい。

 

けど、その事を知ってしまったばかりに二人に危険が及ぶなら、僕は……。

 

 

「緑谷」

 

 

葛藤の最中、僕と一緒に後ろで待機していた轟君に声をかけられた。

 

 

「俺はお前が何を隠してても受け入れる。

 

確かに隠されてた事は少し気になるけど、俺はお前の友達だからな」

 

「テメェの隠し事如きで一々俺がどうこう思うと思ってんのか」

 

「轟君、かっちゃん……」

 

 

ここに来てから、僕は二人に助けられてばかりだな。

 

少しは僕も、返せる様にならないと。

 

その為にも今は。

 

 

「切り替えは終わったか?」

 

「うん。ごめんねリボーン」

 

 

目の前の戦いを見ろ。

 

学べ、覚えろ、そして考えろ。

 

導き出すんだ。奴の攻略法を!

 

 

「ハッ!」

 

「一突き毎に速さ、鋭さが増している。

 

いや、現役時代の感覚を取り戻しているのか」

 

「あぁ。その内お前の腹を掻っ捌いてやる」

 

「医者の台詞とは思えんな」

 

「よく言われるよ」

 

 

さっきの僕達も参戦していた時とは違い、(ヴィラン)は派手な技を使っていない。

 

レーザーを使った薙ぎ払いや斬撃は、僕達の警戒度を上げさせる為の手段だと考えられる。

 

今行われているのは完全に活川さんのメスの間合いでの戦い。

 

それによく見ると、(ヴィラン)の纏う和服が所々破れている。

 

活川さんの攻撃が当たりだしているんだ。

 

死ぬ気モードになって身体能力が上がったからか?

 

いや、それは違う。

 

自惚れとかじゃないけど、ONE FOR ALLの方が純粋なパワーは上の筈だ。

 

それなら技術の問題か?

 

実際に活川さんはヒットマンとして数々の戦いを乗り越えてきた経験があって、いくら僕がリボーンやオールマイトに鍛えられているとしてもその差は数か月で埋まる物じゃない。

 

けど、この戦いではきっとその答えの半分は不正解だ。

 

死ぬ気モードになった事による身体強化でも技術でもないとすると、後は……。

 

 

「……まさか、”死ぬ気モードである事”なのか?」

 

 

もし奴の感情を読み取る個性が、死ぬ気モードになる事によって阻害できるとすれば……。

 

 

「答えは出たか?」

 

 

リボーンが僕に問いかける。

 

だけど、確証がない。

 

もしこの考えが間違っているとしたら?

 

 

「いいから言ってみろ。

 

どっち道何も解決法がねぇんだ」

 

 

相変わらず強引な……。

 

けど、確かにそうだ。

 

この後にジャックがいるけど、今はそんな事言ってられない。

 

ここで負ければ意味がないんだ!

 

 

「ほう。向こうの少年も覚悟ができたようだな」

 

 

僕が決意を固めていたその時、突然戦闘の気配が止んだ。

 

 

「おいなんだ。急に距離をとるなんて」

 

 

活川さんはそう言ってメスを投げる準備をする。

 

 

「まぁ待て。

 

そろそろ頃合いだろう」

 

 

頃合い?アイツは何を言っているんだ?

 

 

「依頼主からの要望でな。

 

戦いが終盤に差し掛かりそうになれば自らの個性を明かせ、とな」

 

「なに?!」

 

 

ジャックがそんな指示を?

 

けど一体何の為に?

 

 

「まぁ俺としては構わんがな。

 

この戦いで俺が勝てばこの情報は外に漏れる事は無い。

 

逆に負けたとしても、その時は俺の命が尽きる時。故にその情報の意味はなくなる」

 

 

筋は通ってる。

 

そしてそれと同時に奴は僕達に個性が知れても問題がないと思っているって事だ。

 

 

「では言おうか。

 

俺の個性は感情感知。

 

その名の通り、周囲の生物の感情を読み取る個性だ」

 

 

その事に驚きは無い。

 

これは戦い始めてからすぐに何となくわかっていた事だ。

 

 

「最大範囲は半径一キロ。

 

範囲を狭める事でその精度が上昇する」

 

 

半径一キロ?!

 

それをもしこの部屋だけに限定しているとしたら、その精度は半端なものじゃないぞ!

 

 

「後は……そうだな。

 

これは個性と半分関係ないのだが補足情報だ。

 

人間が使う物には、その感情が乗り移るんだ。

 

例えばさっきの遠距離攻撃なんかは、メスと礫一つ一つに殺意や敵意といった感情が乗り移っていた。

 

だから俺は感情感知でその正確な位置、スピード、数が分かったという訳だ」

 

 

なんて個性だ。

 

だから僕達の攻撃はあんなに簡単に躱されていたのか。

 

 

「さて、種明かしは済んだ。

 

そろそろ決着と行こうじゃないか」

 

 

(ヴィラン)が来る。

 

僕も、改めて覚悟を決めた。

 

 

「リボーン。

 

行くよ」

 

「仕方ねぇな」

 

 

僕の肩から降りたリボーン僕を見ながら銃を構えた。

 

 

「デク。いっぺん死ね」




次回予告!

出久「感情感知。なんて個性なんだ」

リボーン「ビビってんじゃねぇ。

覚悟を決めて死ぬ気で行け」

出久「うん。分かってるよ。

絶対に負けられないんだ!

次回『標的(ターゲット)19 最後の死ぬ気弾』

更に向こうへ!Plus ultra!!」


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標的(ターゲット)19 最後の死ぬ気弾

この二次創作を読んでくださっている皆様。

今回投稿が遅れてしまい誠に申し訳ありませんでした。

といってもこれが初めての事では無いので今更何を言っているんだとなるかもしれませんが、今回は今までの中でも特にひどい遅れでしたので、こうやって謝罪を狭ませていただきました。

今後はなるべく早いペースで投稿できる様に心がけていきますので、今後も継続してこの二次創作を見守って頂けると嬉しいです。

それと今回から雄英入学までの間でアンケートを取りたいと思いますので、そちらにもご協力頂ければ今後の作品作りの参考となりますので、どうかよろしくお願いいたします。




 

 

「いっぺん死ね」

 

 

銃口から放たれた弾丸が、僕の脳天を撃ち抜く。

 

本来命が終わりを告げるその瞬間、僕の中に強い後悔が宿る。

 

 

 

あぁ。もっと死ぬ気で戦えば、あの(ヴィラン)を倒せたのに。

 

まだやらなきゃいけない事があるのに。

 

助けたい人がいたのに。

 

 

 

僕はここで、死ぬのか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

復活ッ!(リ・ボーーーーーーーンッ!)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

いや、違う!

 

こんな所で死ねない!

 

こんな所で終われない!

 

 

「It’s死ぬ気タイム」

 

 

まだやらなきゃいけない事がある!

 

助けたい人がいる!

 

 

だから、俺は!

 

 

 

「死ぬ気で!お前を倒す!」

 

 

 

…………………………

 

 

 

俺が死ぬ気弾を撃ち込むと、デクの額から炎が吹き出す。

 

普段なら序盤から吹かしすぎと言いてぇ所だが、今は抑える。

 

恐らくデクの狙いはその行動自体にある筈だ。

 

まぁデクが俺の教えを覚えていればの話だが、アイツならそこら辺の心配はねぇ。

 

死ぬ気の炎は生命エネルギーであると共に、精神エネルギーでもある。

 

強い感情があれば、それだけ強い炎が灯る。

 

その強さに上限はねぇ。

 

だが上限が無くとも限界はある。

 

デクの力が尽きちまえばそこまでだ。

 

 

 

「死ぬ気で!お前を倒す!」

 

 

 

ま、俺は見守る事だけだ。

 

9代目との盟約抜きにしても。

 

この程度の試練も乗り越えられねぇなら、オメェにヒーローとしての未来も、ボスとしての未来もねぇからな。

 

 

 

…………………………

 

 

 

炎を灯した姿、とうとう出やがったか。

 

トリガーはあのガキが撃った弾丸みてぇだが、さっきの医者と同質の力って考えるべきか。

 

つまりあれは、外部から何かしらを取り入れる事によって発動する"個性じゃねぇ何かしら"の力。

 

だとしたらガキの頃のあれは何だ。

 

あの頃からあのガキがいたとは思えねぇ。

 

なら一体何なんだ。

 

もしあの弾丸やら薬やらをトリガーにして体内の何かしらを炎に変換するなら、デクのガキの頃に使った力の説明がつかねぇし、何より今までアイツの使ってた超パワーの個性は何だ。

 

素の身体能力であんなパワー出せる訳ねぇ。

 

なら、デクの個性は身体強化で、ガキの言ってた死ぬ気とか言うのがデクと医者の炎に関するワードって事か。

 

まぁどっちにしたって関係ねぇ。

 

デクがどんな力を使おうが、どんな秘密を抱えてようが、俺がその全てを上回って、トップに立つんだからな。

 

だからデク。

 

んなザコ(ヴィラン)とっととぶっ飛ばせ。

 

そんで俺達の日常にさっさと帰るぞ。

 

 

 

…………………………

 

 

 

なぁ緑谷。

 

俺はお前のお陰で()も俺の一部だって気付けた。

 

親から受け継いだとしても、俺の中の力は紛れもなく俺の物なんだって分かったんだ。

 

それなのにそのお前の切り札が炎だなんて、とんだ皮肉だよな。

 

けど、不思議と怒りとかは無いんだ。

 

炎の個性を持っているからか分かる。

 

お前のその力は俺の個性や、(ほむら)の個性とは本質的に違うんだって。

 

俺達はただ体から炎を発しているだけ。

 

けどお前のその炎は、まるでお前の心みたいだ。

 

荒々しく燃えていても、見ている奴を安心させてくれる。

 

緑谷。お前やっぱり、根っからのヒーローだよ。

 

だからこそ、負けられねぇ。

 

 

 

…………………………

 

 

 

緑谷君の炎、以前リボーンに見せられた映像の時よりも強くなっている。

 

いや、意図して強くしているんだろう。

 

さっきの私の戦いを見て、彼は気付いた様だな。

 

奴も一流のヒットマンだ。

 

目は見えずとも、感覚で部屋の大まかな広さは把握している筈だ。

 

だが流石に私達の詳細な体つきまで分かるわけでは無い。

 

つまり奴の感知を少しでも誤魔化せれば、攻撃を回避出来る可能性が一気に上がる。

 

だからこそ、彼は最後の死ぬ気弾という切り札をここで使う決断をしたんだ。

 

今まで緑谷君が死ぬ気モードを使う機会は殆ど無かった。

 

今の彼にとって優先すべきはリボーンがいないと使えない死ぬ気モードの特訓より、俊典から受け継ぎ常時使用する事が出来るONE FOR ALLだ。

 

リボーンもそれが分かっているから死ぬ気弾という選択肢を最悪の場合の切り札として認識させる様にしていた筈だ。

 

それ故に彼は死ぬ気を制御出来ない。

 

だが、逆に暴発させる事なら容易だ。

 

しかし、炎を強く灯し続けるという事は、それだけ生命力を消費する。

 

主治医の目の前で命を落とすなんて、そんな馬鹿な真似だけはしてくれるなよ。

 

 

 

…………………………

 

 

 

「そうか。

 

アルコバレーノに、モールテ・アッティーヴァ。

 

そしてその感知のブレが生まれる力。

 

お前がボンゴレの次期継承者か」

 

 

(ヴィラン)、は静かにそう呟いた。

 

目は無くとも、出久が発する強い感情にそのいる向きは補足している。

 

だが、先程まで掴めていた正確な位置が今では分からなくなっていた。

 

 

「相手がボンゴレのボス候補となれば、このまま名乗らない訳にも行かぬか」

 

 

(ヴィラン)はフッ、と笑い出久が居るであろう方を向いて名乗りを上げた。

 

 

「俺の名は仙鬼。

 

ジャックファミリーに雇われたヒットマンだ。

 

相手がボンゴレのボス候補となれば最早手加減はせぬ。

 

ここからは、お前を子供としてではなく一人の戦士として認め、戦力で叩き潰そう」

 

 

静かに名乗りをあげる仙鬼に対して、出久は強く意思の籠った眼光で仙鬼を睨む。

 

 

「お前が誰であろうと!俺は死ぬ気でお前に勝つ!」

 

 

仙鬼はニヤリと笑い、出久の前で構える。

 

 

「来い」

 

 

その言葉と共に、出久は力強く地面を蹴る。

 

そして距離を詰めた途端に拳のラッシュを放つ。

 

 

「やはり、個性を使っていた方が早い。

 

だがモールテ・アッティーヴァの時以上に気配が分散している。

 

この距離でも正確な位置が掴めんとはな」

 

 

そう言いながらも感じる拳圧や感情感知に頼らない五感により出久の攻撃を躱していく。

 

しかし出久もただ躱されているだけではなく、一突き、一突き毎に鋭さが増していた。

 

 

「成長期というのは恐ろしいな。

 

戦いの中で成長していく。

 

まるで力の上限を知らぬ様だ」

 

 

その言葉を聞いたリボーンが、口角を上げる。

 

 

「そうだ。

 

それこそがデクの、そしてこいつらの強さなんだ」

 

「なるほど。

 

アルコバレーノがそう評するという事は、それだけの才と可能性を秘めているという事か」

 

 

仙鬼はそう言いながら腰の鞘に手をかける。

 

 

それを素早く引き抜き、伸ばした刀身で出久の胴を狙う。

 

 

「ウオオォォ!」

 

 

出久はそれをのけ反ることで躱し、更に仙鬼の右手に握られた鞘を弾き飛ばす。

 

それと同時に鞘から放出されたエネルギーが霧散する。

 

 

「今だ!ハアァァ!」

 

 

出久はそう叫びながら拳を振り抜く。

 

 

「遅い!」

 

 

そう言いながら仙鬼は白刃取りの要領で出久の拳を止める。そして更にそこへ

 

 

「刀が手元になければ使えないと言った覚えは無いぞ」

 

 

出久が弾いた鞘が地面に転がっていながらも、その刀身を伸ばして出久の右足を貫く。

 

 

「グァッ?!」

 

「下手に動かない方がいいぞ。

 

足を失いたくないのならな」

 

 

それを聞きながら出久は仙鬼を鋭く睨む。

 

そして額の死ぬ気の炎をかつて無いほどに強く燃え上がらせる。

 

 

「いまさら何を「今だ!」っ?!」

 

 

出久の言葉と共に炎の中で何かが動くのを感じる。

 

だが死ぬ気の炎の影響か、感情感知も五感ですらも正確な位置が割り出せない。

 

更に両手は出久の拳を受け止めているために下手に離せばその拳を食らう事となり、例え一瞬の間に退いたとしても、死ぬ気になった出久が足を気にせずに追ってくる可能性がある。

 

 

爆破散弾(ブラストショットガン)!!」

 

 

派手な爆発音と叫ぶような声に注意が向いてしまうが、それでも出久の拳を離さず、更に予想される攻撃の来る方向に出久を挟む様に動く仙鬼。

 

だがいつまで経っても攻撃が出久に被弾した様な声もなければ、辺りに着弾した様な音も無い。

 

仙鬼がその意味に気付いたのは、自身の足に痛みが走る一瞬前の事だった。

 

 

「グッ?!」

 

 

その痛みの正体を感覚で探ると、それは鋭い凶器。

 

そして痛みのせいで仙鬼の掌から一瞬力が抜ける。

 

 

「行け!緑谷君!」

 

 

その隙を衝いて、命子が鞘を壊す。

 

鞘が壊れた事により、出久の動きを止めていた刀身が消滅する。

 

 

 

ウオォォォォォ!

 

 

 

そのまま突き出していた右腕を引き、その体の回転を利用して左腕を振り抜く。

 

 

「グハッ?!」

 

 

攻撃は見事に仙鬼の鳩尾に入り、それに仙鬼は一瞬よろめく。

 

 

 

これで!

 

 

 

そして、再び右の拳を握りしめて、放つ。

 

 

 

終わりだァァァァァァ!

 

 

 

拳が仙鬼の顔面を捉え、そのままの勢いで正面の壁へと叩きつけられた。

 

 

「どうやら、やったようだな」

 

「あぁ、デクの勝ちだ」

 

 

リボーンがそう言って見据える先には、息も絶え絶えで膝をついた、死ぬ気モードの切れた出久の姿があった。

 

 

 

…………………………

 

 

 

「ハァ…ハァ……」

 

 

ギリギリだった。

 

あそこで活川さんが援護してくれていなかったら、確実に負けていた。

 

後半になるにつれて死ぬ気モードに対応されていた。

 

まだ、僕の自力じゃこんな物か。

 

拘束を終えた僕は、右足の痛みによろめく。

 

 

「緑谷、大丈夫か?!」

 

 

膝をついた僕に、轟君が駆け寄ってくる。

 

心配かけちゃったな。

 

 

「うん、ギリギリね」

 

「すまない。俺、何も出来てなかった」

 

「気にしないでよ。相性が悪かったんだよ」

 

 

僕は立ち上がろうと地面に手を衝くと、それを活川さんが制止した。

 

 

「待て。先に手当てをしよう。

 

武器の性質上毒は無いだろうが、少なくとも治療しなければ」

 

「あ、すみません……」

 

 

この戦いの中で、活川さんの個性に頼りきりだ。

 

サポート面でも、戦闘面でも。

 

それに、まだジャックが残っているというのに死ぬ気弾を使ってしまった。

 

後の戦いは本当に僕自身と、僕がどれだけONE FOR ALLを十分に使えるかだ。

 

そして、僕達はジャックの個性をまだ知らない。

 

少なくとも、死ぬ気モードじゃない活川さんを圧倒する程の力を持っている。

 

それならジャックに対して有効なのは死ぬ気モードの活川さんを含んだ全員での総力戦になるのか。

 

単純だけど、これしか思いつかない。

 

僕も反動を気にせずに戦うしかない。

 

しかしそうなると連携にも支障が出るかもしれないし……。

 

ブツブツブツブツ……。

 

 

「緑谷君、不気味だしうるさい」

 

「え?!あ、すみません……」

 

 

しまった、口に出てた…。

 

 

「まぁ、とりあえず今軽く聞こえた策には賛成だ。

 

というかそれしかない。

 

死ぬ気薬はまだあるから死ぬ気モードは使える。

 

それとほら、君の服だ」

 

「ありがとうございます」

 

 

治療が終わって僕はリボーンが用意していた替えの服に着替えて、かっちゃん達に作戦を伝えた。

 

 

「俺はいいぞ」

 

「今はそれしかねぇんだろ。

 

なら議論の余地はねぇ」

 

 

二人とも同意してくれた。

 

これなら、後は問題は実際に戦いの中でどれだけ連携できるかだ。

 

 

「次はいよいよ敵の大将だ。

 

お前ら、死ぬ気で戦えよ」

 

「うん」

 

「分かってらァ」

 

「あぁ」

 

「無論だ」

 

 

急がないと、炎さんの命のタイムリミットは刻一刻と迫っているんだ。

 

絶対に生きて帰って、そして炎さんも救うんだ。




次回予告!

出久「ようやく勝てたけど、死ぬ気モードはもう使えない」

リボーン「まぁいいじゃねぇか。ここからはお前が受け継いだ力の真価が問われるって事だ」

出久「そうだね。この力で、必ず炎さんを助けるんだ!

次回『標的(ターゲット)20 黒き力』

更に向こうへ!plus ultra!!」


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標的(ターゲット)20 黒き力

前話投稿後、この二次創作のお気に入り登録者数が400人を超えました!

これも更新の度にお読みになられている皆様のおかげです!
ありがとうございます!

これを励みに、更新速度の上昇と、皆様によりご満足いだける作品作りを心掛けていきますので、よろしくお願い致します!

……という誓いを立てて書いていたのですが、結局1ヶ月以上もかかってしまいました。相変わらずの亀更新ですが、出来ればこのままお付き合い下さい。
原作に入りさえすれば、まだペースを上げれると思うので、どうかそれまでは!


あの(ヴィラン)を倒して、僕達は一番上の階へと向かった。

 

その階に着くと、目の前に大きな扉があった。

 

この奥に、ジャックがいる筈だ。

 

どうして僕達が迷わずにここに来れたかと言うと、あの(ヴィラン)を倒した時に懐から地図が出て来て、そこに書かれていたからだ。

 

これまでの戦いの中で、ジャックは自分の仲間が負けた時に敢えて次のヒントを残す様に仕向けている様に感じる。

 

まるでゲームの様に。

 

きっとジャックはこの戦いをゲームに見立てているんだ。

 

炎さんの命をかけたこの戦いを。

 

許す訳にはいかない。

 

ヒーローを志す者として。

 

そして何より、炎さんの友達として。

 

 

「…開けるよ」

 

 

僕が左右に立つかっちゃんと轟君をそれぞれ見て確認すると、2人は沈黙でそれを肯定する。

 

僕は扉に手をかけて、ゆっくりと開く。

 

中はまるで小劇場の様な場所で、奥にはステージがあり、椅子があったであろう場所はまるで片付けられた様に何も無くなっていた。

 

 

「やぁ、いらっしゃい」

 

 

…たった数時間。

 

数時間程度しか間が空いていないというのに、まるで数ヶ月ぶりにみるようで、それでいてつい先程の事のように覚えている。

 

今まで戦った相手が強敵ばかりだったせいだろうか。

 

大切な人が傷付けられたせいだろうか。

 

どちらだとしても関係ない。

 

炎さんを救いたい。

 

今はそれだけ考えていればいい。

 

 

「いやぁ、よくあの3人を倒せたものだよ。

 

特に最後の仙鬼なんて、日本に来てから腕利きのヒットマンだと言うから雇ったのに。

 

けど、実際に炎を灯した君と戦えないのは残念だな」

 

 

死ぬ気弾がもう残っていない事は、既にバレているのか。

 

けどこれはまだ想定内。

 

そもそも敵のテリトリーの中な訳だし、当然だ。

 

 

「余裕だな。

 

いくら活川さんを圧倒してたお前でも、四人相手なんだぞ」

 

 

轟君が右手を構えてそう言う。

 

いつでも氷結を放てるという脅しだろう。

 

 

「何言ってんだよ。

 

君達なんて本気を出すまでも無いよ。

 

特に君は、僕に指一本触れる事すら出来ないよ」

 

「なんだ「落ち着け半分野郎」って?!」

 

 

苛立った様に氷結を放とうとした轟君を、かっちゃんが後頭部を叩いて止めた。

 

 

「あんな程度の煽りに乗ってんじゃねぇよ」

 

 

その声は何処までも冷静で、その目は真っ直ぐ(ヴィラン)だけを見ていた。

 

 

「わ、悪い……」

 

「あらら、もう少しでマジギレした顔が見れたのに」

 

「趣味悪ぃんだよ」

 

 

かっちゃんはそう言いながら右手から火花を散らす。

 

 

「さっさと始めるぞ」

 

「轟君。援護はお願い」

 

「すまねぇ。もう大丈夫だ」

 

「あまり時間が無い。急ぐぞ」

 

 

僕、かっちゃん、轟君、活川さんの四人は、それぞれの構えをとりジャックを睨む。

 

 

「4対1か。

 

なんだがRPGのラスボスになった気分だ」

 

 

ジャックは笑いながらそう言い、次にその笑みを不気味なものに変えてこちらを見る。

 

 

「来なよ」

 

 

その言葉に、まず動いたのはかっちゃん。

 

爆破の加速で一気に詰め寄ると、右手を発勁の様に突き出して掌から爆発を起こす。

 

その間に轟君が作った足場を蹴って僕がジャックの右半身に蹴りを放ち、死ぬ気モードになった活川さんも同じ様に左半身に向けて蹴りを放つ。

 

 

「おぉ、速い速い」

 

 

っ?!

 

この手応えは、受け止められたのか?!

 

どうやらそれは活川さんも同じ様で驚愕の表情を浮かべていた。

 

そしてかっちゃんが起こした爆煙が晴れると、そこにはそれぞれ僕と活川さんの蹴りを片手ずつで受け止めたジャックの姿があった。

 

というか、蹴りを受け止めたのはまだ理解出来るけど、かっちゃんの爆破が全く効いてない!

 

 

「あれ、これだけで驚いちゃった?

 

まだ序の口なんだけどなぁ」

 

 

そう言いながらジャックは僕と活川さんを振り回してぶつけた。

 

 

「「がっ?!」」

 

 

そして次に後退していたかっちゃんに向けて僕たちを投げた。

 

 

「チッ!クソが!」

 

 

かっちゃんは舌打ちをしながらも僕達を受け止めた。

 

 

「ぐっっ!」

 

 

そのままの勢いでかっちゃんは壁に叩きつけられる。

 

 

「爆豪!」

 

「かっちゃん大丈夫?!」

 

「大丈夫か爆豪!」

 

「俺を心配してんじゃねぇ!前見ろやボケ!」

 

 

っ、そうだ。

 

今はとにかく前だけ「よそ見されちゃうと悲しいな」っ?!

 

 

「がっ?!」

 

 

一瞬で僕の目の前にやってきたジャックは、回し蹴りで僕を壁に叩きつける。

 

 

「緑谷!このや「遅いって」かはっ?!」

 

 

霞む視界の中で轟君の鳩尾にジャックの拳がめり込むのが見えた。

 

 

「調子乗ってんじゃねぇ!」

 

「シッ!」

 

 

それを挟み込む様にかっちゃんと活川さんは超速でジャックに迫る。

 

 

「うーん。まだまだだねぇ」

 

 

しかしジャックはいつの間にかそれを避ける様に移動していて、かっちゃん達をニヤついた顔で見ていた。

 

 

「ハッ!ンなもん!」

 

「想定内だ」

 

 

そう言いながらかっちゃん達は空中で姿勢を変えて、かっちゃんと活川さんはそれぞれの足を突き合わせてそこから2人とも同時に足を伸ばす。

 

活川さんの強化された身体能力によって弾き飛ばされたかっちゃんは更に爆破で加速し、その中で体を回転させる。

 

 

手榴弾着弾(ハウザーインパクト)!」

 

 

かっちゃんは最小限の動きと威力でジャックに必殺技を放ち、即離脱する。

 

更にそこへ活川さんのメスの投擲、轟君の灼熱が襲う。

 

仕掛けるなら、今!

 

今使える最大の力で、いや、その更に向こう側の力で!

 

 

 

ONE FOR ALL FULL COWL

 

10%!

 

 

 

ジャックの背後に回り込み、拳を構える。

 

狙うのは後頭部。

 

確実に、意識を狩りとる!

 

 

 

「DETROIT!

 SMAAAAASH!!」

 

 

 

この一撃で!

 

 

「残念でした」

 

 

…………なんだ?

 

この、形容し難い手応えは。

 

受け止められた訳でも、ヒットした訳でも無い。

 

まるで、僕自身が静止している様だ。

 

 

「いやぁ、本当に惜しかったよ。

 

相手が僕じゃなければ、もしかしたら通じたかもね」

 

 

活川さんのメスも空中で静止しているし、轟君の炎も何かに阻まれる様になっている。

 

これが、ジャックの個性なのか?

 

 

「そろそろ僕のターンでいいよね」

 

 

そう言ったジャックは手を動かすこともなく僕を弾き飛ばす。

 

 

「ぐっ、何なんだ、今のは…っ!」

 

 

空中で静止させ、更に弾き飛ばす力もある。

 

重力操作の様な個性なのか?

 

しかしそれを相手に触れる事無く行えるとなると、相当に強いぞ。

 

 

「緑谷、アイツの個性について、何か分かったか?」

 

「いや、正直何も。

 

強いていえば、ジャックの個性は空間に作用する系のものだと思う。

 

その範囲がどの程度か分からない内は、下手に動けない」

 

「だったらどうすんだ。

 

アイツが今までの奴らみてぇに自分の個性の情報ペラペラ喋るまで待つってか?」

 

 

ジャックの動きを注視しながら、僕達は策を講じる。

 

けどこれまでの戦いで僕達が勝てたのは、相手が個性の情報をこちらに開示したから。

 

つまり個性を明かせというジャックの指示があったからだ。

 

このパターンにジャックが当てはまるか否かで、戦い方は変わる。

 

現状僕達はジャックの個性を探りながら戦わなければならない。

 

プロヒーローになればそれが当たり前になるけど、まだ中学生で経験の浅い僕達では、それはあまりにも難しい。

 

いっその事、本人に聞いてみるか?

 

この戦いをゲームの様に考えているジャックなら、もしかしたら答えるかもしれない。

 

それで答え無かったとしても、それ自体は別に害がある訳じゃない。

 

 

「ジャック。お前の個性は何だ」

 

 

答えるか、答えないか。

 

どっちだ。

 

 

「ん?僕の個性?

 

あーそうか、まだ言ってなかったね」

 

 

っ!この言い方は、答えが聞けるって事か?

 

一体なんだ。

 

重力操作、空間操作、気流操作。

 

予想の内のどれだとしても強個性だ。

 

けどここに居る人間だけで、どれも対応可能だ。

 

頼む。予想通りであってくれ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「実は僕さ、無個性なんだよね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

………………は?

 

今、ジャックは何て言ったんだ?

 

無個性?

 

そんな訳ない。

 

無個性にあんな事が出来るわけがない。

 

 

「ふざけてんのか。

 

無個性が俺達の攻撃を防いだり、緑谷を空中で止めたりぶっ飛ばしたり出来るわけねぇだろ」

 

「いやいや、これが本当なんだって。

 

僕はそこの緑谷出久君と同じで、生まれた時から無個性なんだ」

 

 

ジャックは、一体何言ってるんだ?

 

僕が無個性?

 

 

「緑谷が無個性?

 

お前何言ってんだ。緑谷のあのパワー見たろ。

 

確かに最近まで個性が発言していなかったからって、あの力があって無個性な訳がないだろ」

 

 

そうだ。

 

僕にはこの、オールマイトから貰ったONE FOR ALLが…。

 

 

「あーそうか。うんうん。

 

勘違いするのも無理は無いよね」

 

 

待て。ジャックは何を言おうとしているんだ。

 

僕を無個性と言ったのは、少し前まで僕が無個性だったって話じゃ無いとしたら?

 

僕の体そのものに、個性が宿っていないって話だとしたら?

 

ジャックは、僕の、僕達の秘密を知っているのか?

 

 

「ジャック待て!何を言おうとしている!」

 

 

僕が怒鳴ると、ジャックはあっけらかんと答えた。

 

 

「何って、君の事だろ?

 

折角出来た友達に隠し事は良くないなぁ」

 

「うるさい!」

 

 

僕はフルカウルを発動して接近する。

 

今すぐコイツを止めないと、僕とオールマイトの秘密が!

 

 

「ちょっと静かにしてようか」

 

「がっ?!」

 

 

もう1mで拳が届くという所で、僕は見えない何かに横の壁に叩きつけられ、更に首を圧迫される。

 

 

「ぐぁっ、かっ?!」

 

「デク!」

 

「緑谷!」

 

「緑谷君を離せ!」

 

 

そこへ活川さんが助けに来る。

 

けどジャックは分かっていた様に、僕と同じ様に反対側の壁に叩きつけ首を絞める。

 

 

「いやぁ、ガッカリだよ。

 

君の力はこんなものか?」

 

 

ジャックは僕を見ながらため息をつく。

 

 

「3人を倒したし、期待してたんだよ?

 

けどまぁ、仕方ないか。

 

本当なら君は、今も無個性の木偶の坊のはずだったんだから」

 

 

やめろ。それ以上言うな。

 

僕はそう目で訴えるも、ジャックはそれを笑って否定する。

 

 

「ねぇ、どんな気分だったんだい?

 

オールマイトから力を受け継いだ時は」

 

「……………は?」

 

 

その言葉に一番に反応を示したのは、かっちゃんだった。

 

 

「オール、マイト?」

 

 

その次に轟君。

 

終わりだ。

 

折角認めて貰えたのに、折角友達になれたのに。

 

ただ貰っただけの力を使っていただなんて知れたら、二人は…。

 

僕は恐る恐る二人の顔を見る。

 

きっと、僕を軽蔑する様な目で見ているに違いない。

 

 

「……チッ!クソが!」

 

 

しかしかっちゃんは僕の予想に反して、というより予想のしようがない様な反応を示した。

 

かっちゃんは自分の顔を殴り、そしてジャックを睨む。

 

 

「デクが誰のどんな力受け継いでいようが関係ねぇ!

 

俺にとっての最優先事項は、目の前にいる敵に完膚無きまでに勝利するただそれだけだ!

 

俺を惑わそうとしたんなら、無駄だったなぁ!」

 

 

そう吠えるかっちゃんを、ジャックは面白い物を見る様な目で見る。

 

 

「ふふっ」

 

 

そして僅かに、だけど確かに笑った。

 

 

「いやぁ、君には驚かされてばかりだよ。

 

爆豪勝己」

 

「アァ?」

 

 

どういう事なんだ?

 

驚かされてばかりって、ジャックとかっちゃんはさっき会ったばかりだし、それに今の言い方じゃ、たった今また驚かされたみたいだ。

 

今の会話の中で、一体何に?

 

 

「いやさぁ、だってそうだろ?

 

毒蛇の毒を食らってそんなにピンピンしているなんてさ。

 

いくら致死性じゃないにしても、あの快楽殺人鬼がただの麻痺毒なんて使うはずないしね」

 

 

…………待て。

 

待て待て待て。

 

どういう、意味だ?

 

麻痺毒を、使うはずが無い?

 

でもだって、実際にかっちゃんにはそういう症状が……。

 

致死性じゃ、無いにしても……。

 

まさか?!

 

 

「ンーっ!ンンーーーっ?!」

 

 

ダメだ。口を塞がれていて思う様に喋れない。

 

けどこれだけはどうしても確かめなければならない。

 

もしかっちゃんに毒が回っているなら、これ以上戦わせる訳にはいかない!

 

頼む、違っててくれ。

 

こんな予想、当たらないでくれ!

 

 

「ンなもん、知っとるわ」

 

 

しかし、その願いは他でもないかっちゃん自身に否定された。

 

 

「この俺が、あんな雑魚の毒でくたばるかよ」

 

「強がり言っちゃってさ。

 

そろそろ限界なんだろ?」

 

 

今まで戦闘にばかり意識が行っていて、全然気付け無かった。

 

かっちゃんの汗は、個性を発動する上で必要不可欠だ。

 

けど、明らかに異常な程に流れている。

 

流れすぎている。

 

だったら僕は、苦しんでいるかっちゃんの横を、平然と歩いていたのか?

 

いつの間にか僕の頭からは、オールマイトと僕の秘密を語られた事への怒りや焦燥等は消え去っていた。

 

とにかく今は、この状況を打破しなければならない。

 

僕を抑えている何か、これの正体を突き止めなければならない。

 

何も見えない訳ではない。

 

何かがぼんやりと、見えそうな気がする。

 

まるで手の様な形をした何かが。

 

それは霧のようにはっきりと捉える事が出来ない。

 

けど、僕に干渉出来ているという事は、こちらからも干渉出来るはず。

 

ならば無理矢理にでも引き剥がすのみ。

 

 

「ンンーーーーーーーッ!!」

 

 

僕は口を抑えられながら、けど己を鼓舞する為に声を振り絞る。

 

そしてONE FOR ALLを100%に引き上げて、ひとまず指一本は捨てる覚悟でデコピンの容量で真下に衝撃波を放つ。

 

 

「おっと」

 

 

ジャックはそう言いながらも一歩だけよろめいただけだ。

 

けど、確かに僕を抑えていた何かは消えた。

 

正体はまだ掴めないけど、とにかく状況は変わった。

 

ここから速攻で畳み掛ける!

 

 

 

ONE FOR ALL FULL COWL

 

10%!

 

 

「DETROIT!SMAAAAAASH!!」

 

 

 

「無駄だってば」

 

 

それをまたも見えない何かに阻まれる。

 

けど、これは瞬間的に100%を使えば弾ける事は分かっている。

 

それにさっきとは違って腕全体で使うから、不可は分散するはず!

 

 

 

ONE FOR ALL! 100%!

 

 

 

ウオォォォォォォォッ!

 

 

 

衝撃が辺りに突風を巻き起こし、部屋の中を蹂躙する。

 

 

「くっ!なんてパワーだよ!」

 

「クソが!これが、オールマイトから継いだ力かよ!」

 

 

このまま、フルパワーで押し切る!

 

 

「…………ダメだ。足りない」

 

「あぁ」

 

 

この時、二人の会話がヤケに鮮明に聞こえた気がした。

 

そして次の瞬間に、僕の視界は黒い何かに覆われていた。

 

 

「はい、ゲームオーバー」

 

 

そして拳となったそれが、僕を再び壁に打ち付けた。

 

 

「がっ?!」

 

 

けど一つだけ違う所があった。

 

さっきより明らかに、壁が脆い。

 

何故だ。勢いはさっきと凡そ同じだ。

 

なのになんで、こんなにも簡単に?

 

 

「不思議かい?

 

そりゃそうだよね。その壁さっきまで頑丈だったもん。

 

それがこーんなにあっさりと壊れちゃって」

 

 

ジャックはまるで僕の心を見透かした様に僕の考えを言い当てた。

 

 

「それよりさっきのでっかい拳見た?凄いでしょ」

 

 

まるで無邪気なこどものように笑うジャック。

 

僕はその不気味さに僅かに鳥肌が立った。

 

 

「これが、お前の、個性なのか…?!」

 

「全く、殴られて阿呆になったのかい?

 

さっき言ったじゃないか。僕は無個性だって」

 

「ふざけるな!あんな力、個性以外の何だって言うんだ!」

 

 

だって、そうじゃないか。

 

無個性にそんな力があるはずがない。

 

だから僕はあの時挫折して……。

 

その後、リボーンに出会わなかったら僕は本当に諦めてしまっていた筈だ。

 

 

「そんな事を言ったって、君だって似た様なものじゃないか」

 

「何を言ってるんだ。

 

僕はさっきお前が言ったみたいに個性を受け継いで、それで戦っているんだ。

 

それが何でお前と同じになるんだ!」

 

「君は人の事を観察するのは得意でも、自分の事となると鈍くなるんだね」

 

「なんだと?!」

 

 

ジャックの言っている意味がまるで分からない。

 

僕にそんな特別な力なんか無いのに。

 

 

「本質は違えど、この世界にそういう個性で無い力は多い。

 

特に僕や君のいる世界ではね」

 

 

………そうか。

 

今になってやっと分かった。

 

ジャックが言いているのは、死ぬ気モードの事だ。

 

僕は何を自惚れていたんだ。

 

リボーンが居なきゃ使えないのに、僕の力だなんて。

 

リボーンと出会って死ぬ気の力を知って、リボーンが特訓をつけてくれて、そのお陰でかっちゃんに認めてもらえて、オールマイトから力を授かった。

 

僕は結局、一人じゃ何も成していないじゃないか。

 

 

「そういえば僕の力の紹介がまだだったね。

 

これはジャックファミリーのボスが代々受け継ぐ力。

 

その名も”黒きオーラ”」

 

 

そう言ったジャックの周りに黒い靄のような物が集まり、次第にそれは漫画等でよく見るオーラの様にジャックの体を包んだ。

 

 

「これの使い道は多彩でね、君にも見えただろうけど拳の形にして飛ばしたり、そのまま相手に押し付けることで潰したり拘束したり。

 

後ネタ晴らしをすると、さっきまでこの建物が頑丈だったのは僕がこの建物全体をオーラで補強してたからなんだ。

 

目に見えなかったのは、それだけ濃度が薄かったからってだけんだけどね」

 

 

…なんて力だ。

 

目に見える濃さに力が比例するなら、ONE FOR ALLを跳ね返したあの拳よりはっきりと、それこそ背後が見えなくなる程のあれは、どれだけの力があるんだ。

 

こんな相手に、どうやって勝てっていうんだ。

 

やっぱり僕達みたいな子供が来る場所じゃなかったのか?

 

大人に、ヒーローに任せるべきだったのか?

 

……ごめん炎さん、僕は、僕は!

 

 

「オイコラ、デク!

 

テメェ何一人で勝手に諦めてんだ!アァ?!

 

そんなんだからテメェはクソナードなんだよ!」

 

 

かっちゃん?

 

けど、じゃぁどうしろって言うんだよ。

 

こんな桁外れの奴を相手に、どうやって勝てって言うんだよ…。

 

 

「テメェの事だからどうせどうやって勝つんだとか、そんなしょうもねぇ事でウジウジ悩んでんだろうが!

 

いいか!一度しか言わねぇぞ!

 

勝つか負けるかじゃねぇ!

 

 

 

 

ヒーローはいつだって!

 

 

 

 

絶対に!

 

 

 

 

勝つんだよ!

 

 

 

 

……少しだけ、笑いそうになってしまった。

 

昔からかっちゃんは変わらない。

 

 

 

 

そうだ、勝つんだ。

 

炎さんと、かっちゃんの命を救うために。

 

 

「話は終わったかい?

 

いやぁ、やっぱり友達って言うのはいいものだね。

 

僕ってほら、こんな力持ってるものだから友達なんて出来なくてさ」

 

 

まるで日常の会話の様にジャックは話す。

 

けど耳を傾けるな。

 

ジャックが何を言おうが関係ない。

 

僕は、僕達は勝つ。

 

さぁ、第二ラウンドだ!




次回予告!

出久「ジャックの力はとてつもない。

けど僕は勝つんだ。

あの日常を取り戻して、皆と笑いあう為に!


次回『標的(ターゲット)21 勝ちたい!目覚めの瞬間』

更に向こうへ!plus ultra!!」


…………………………


8/5、次話の内容と噛み合わないと感じ、次回予告内の次話タイトルを変更しました。


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標的(ターゲット)21 勝ちたい!目覚めの瞬間

前話後書きにも書きましたが、内容と嚙み合わない為に前話の次回予告内のタイトルを変更いたしました。

それと劇場版ヒロアカ見たんですが、吉沢亮さんアフレコ上手すぎません?


まず考えろ。

 

あの力がONE FOR ALLの100%を跳ね返すだけの力を持っているのは紛れも無い事実だ。

 

正直に言えばこの情報だけで心が折れそうだけど、それでも僕達には勝つ以外に道は無い。

 

とにかく奴の力の情報を整理しよう。

 

あの黒い靄……黒きオーラとジャックが呼んだそれは、恐らく普段は実態を持たず、ジャックの意思でそのオンオフが切り替わっていると考えられる。

 

形状は自由自在。

 

壁の様にする事も出来れば、拳の形にも出来る。

 

更に建物の補強すらも出来る。

 

この時点で万能過ぎる力だ。

 

それにきっと、これだけじゃない。

 

ただの勘だけど、まだジャックから感じる得体の知れなさが消えない。

 

かと言って様子見をしている程の余裕はない。

 

だったら答えは一つ。

 

ひたすら打ち込む!

 

 

「行くよかっちゃん!轟君!」

 

「あぁ!」

 

「指図すんな!」

 

 

僕は地面を蹴り正面へ、かっちゃんは掌から爆破を起こし空中へ。

 

そして轟君は氷壁を放つ。

 

 

「馬鹿の一つ覚えかな?」

 

「ハッ!ソイツァどうだかな!」

 

 

ジャックの言葉にかっちゃんは獰猛に笑いながらその攻撃をもって答える。

 

右の大振りに見せかけて左腕を腰の辺りから素早く振り抜く。

 

 

「甘いよ」

 

 

ジャックはそれをかっちゃんの腕を掴むことでいとも簡単に食い止める。

 

 

「わかってんだよ!」

 

 

かっちゃんは言いながら左手を開く。

 

 

閃光弾(スタングレネード)!」

 

 

そしてかっちゃんの掌から放たれたのはただの爆破ではなく、強い閃光だった。

 

まさか、また新しい技を?!

 

 

「っと、これは予想外」

 

 

っ?!ジャックが初めて揺らぎを見せた!

 

今なら!

 

 

 

ONE FOR ALL FULL COWL

 

10%!

 

 

 

「ハアァァッ!」

 

 

力を込めた右腕が熱を帯びる。

 

それと共に右腕を赤い痣の様な光が駆け巡る。

 

そして痣は消えて全身がスパークに包まれ、右腕に纏うスパークがそこからより一層強くなる。

 

そしてそこへ轟君が氷壁で足場を形成する。

 

僕はそれを蹴り、一秒も掛からずジャックとの間合いを詰める。

 

 

 

「DETROIT SMAAAAAASH!!」

 

 

 

この一撃が通ればそれでいい!

 

 

「だから甘いってば」

 

 

もし通らなくても!

 

 

 

100%!

 

 

 

「無意味だって分からない?」

 

 

もっと、オーラを僕に、向けさせろ!

 

 

「ウオオォォォォォォォォっ!」

 

 

僕は100%の力でラッシュを放つ。

 

体が悲鳴を上げるのが分かる。

 

これ以上は危険だと、脳が危険信号を発している様だ。

 

筋肉が所々千切れ、骨が軋む。

 

それでも!今は拳を止めない!

 

 

「オオォォォォォォォォっ!」

 

「くっ、何だ、このパワー!」

 

「デクっ?!」

 

 

視界の端の方で、かっちゃんの動揺した顔と、かっちゃんの手を掴むジャックの手が僅かに緩むのが見えた。

 

 

「っ!」

 

 

僕はかっちゃんに強い視線を送る。

 

かっちゃんはそれだけで察した様で、同じ様に強い視線で返す。

 

 

「これでぇぇ!」

 

 

僕が渾身の一振を構える。

 

ジャックが目の前を黒く覆う程のオーラを展開したのが分かる。

 

そう。これでいい!

 

 

「死に晒せヤァァァァァッ!」

 

 

かっちゃんは掌から特大の、そして前方に威力を絞った爆破を起こす。

 

 

「なっ?!」

 

 

僕にばかり意識が向いていたからか、ジャックはかっちゃんの攻撃に気付いていなかった。

 

そして目の前を覆うオーラが、消えた。

 

今なら、行ける!

 

 

 

「DETROIT SMAAAAAASH!!」

 

 

 

僕の拳が、ジャックの鳩尾に入る。

 

ジャックが苦悶の表情を浮かべるが、気にせずに僕は拳を振り切った。

 

 

「グアァァァッ?!」

 

 

ジャックは苦しげな声を上げながら勢いよくステージの奥の壁に衝突し、そのまま項垂れるように気を失った。

 

 

「ハァ…ハァ…」

 

「グッ、ハァ…」

 

 

僕とかっちゃんは未だ警戒しながらジャックを睨む。

 

 

「爆豪、緑谷…お前ら……」

 

 

そこへ轟君が歩み寄る。

 

 

「リボーン、どうやら」

 

 

活川さんが隣にいるリボーンに視線を送る。

 

 

「あぁ…」

 

 

そしてリボーンは口角を上げ、僕達に向けて言った。

 

 

「ついにやったな」

 

「……っ!」

 

お……終わったんだ……。

 

これで、炎さんを助けられる!

 

 

「グッ?!」

 

「っ!かっちゃん!」

 

 

その時、かっちゃんが苦しそうな声を出しながら膝を着く。

 

 

「もしかして、毒が!」

 

「ちょっと見せてくれ」

 

 

そこへ直ぐに活川さんが駆け寄り、かっちゃんの脈や瞳孔を見る。

 

 

「精密な検査が出来ないから分からないが、恐らく激しい運動により毒の周りが早まっているんだ。

 

けどこの程度ならまだ時間はある筈だ」

 

「そ、そうですか……。良かった…」

 

 

僕も緊張が解けて、その場に座り込む。

 

 

「君も少し休め」

 

 

活川さんはそう言って僕の腕を掴み、活性化の個性で体の治癒能力を早めてくれる。

 

 

「俺、今回あまり役に立てなかったな…」

 

 

轟君が悔しそうにそう言う。

 

 

「そんな事無いよ!轟君が居なかったら危なかった場面も沢山あったし、最後だって轟君の氷で出来た足場があったからしっかりと踏み込めた」

 

「緑谷…」

 

 

轟君は少し笑う。

 

 

「とりあえず、そろそろボンゴレの部隊と医療班が到着するはずだ。

 

ちゃんとした治療はソイツら任せて、後は解毒剤だ」

 

 

そうだ。解毒剤を探さなきゃ。

 

 

「その医療班、いらないよ」

 

「「「「「っ?!」」」」」

 

 

誰もが、勝利を確信していた。

 

だってそうだろ。

 

あれだけの攻撃を受けて、立ち上がれるなんて!

 

 

「何故なら生存者は、いなくなるからね」

 

 

僕らの視線の先には、拳銃を構えたジャックがいた。

 

 

「テメェ!」

 

「まだ立ち上がれるのかよ!」

 

 

かっちゃんと轟君も直ぐに構える。

 

 

「フフっ」

 

 

ニヤリと笑いながら、ジャックは僕らに向けていた銃口を、自分の頭に押し当てる。

 

 

arrivederci (またね)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

バンッ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

乾いた音が、部屋に響く。

 

僕達は、ただ立ち尽くしていた。

 

 

「や、やりやがった…」

 

「そんな…なんで…こんな事……」

 

「捕まるくらいなら、死んだ方がマシってヤツかもな」

 

「やるせねぇな…」

 

 

その時、僕の背筋を凍える様な悪寒が駆け抜けた。

 

何だ…この感じ…。

 

 

「生きたまま捕獲はできなかったが、仕方ねーな」

 

 

なんだろう……。

 

すごく嫌な感じがする……。

 

 

「ウッッ」

 

 

その時、活川さんが苦しげな声を出しながら膝を着く。

 

 

「っ、活川さん!」

 

「どうした命子」

 

 

僕とリボーンが近寄ると、活川さんは僕達を見上げた。

 

 

「いや、久しぶりの全力の戦闘だったたから疲れたのかもな」

 

「無理すんなよ」

 

 

リボーンがそう言うと、活川さんはかっちゃんの方を見る。

 

 

「すまない。肩を貸してくれないか?」

 

 

……あれ?

 

 

「アァ?ったく、しゃーねーな。

 

これで貸し借り無しだからな」

 

「っ!!

 

かっちゃん!!行っちゃダメだ!」

 

「は?」

 

「え?」

 

「ん?」

 

 

僕がそう叫ぶと、かっちゃんと轟君、リボーンが不思議そうに僕を見た。

 

 

「どうしたんだ?

 

緑谷君も肩を貸してくれないか?」

 

「え…?!あ、はい…」

 

 

あれ、僕何言ってるんだ?

 

 

「デクは解毒剤探してろ。

 

俺一人で十分だ」

 

「で、でも…」

 

「すまないな爆豪君」

 

「ほら、手ぇ出せや」

 

 

そう言ってかっちゃんは手を差し出す。

 

 

「あぁ」

 

 

そして活川さんはその手を取ろうと……。

 

 

「っ!!」

 

 

次の瞬間、僕は目を疑った。

 

かっちゃんの手を取ろうとしたかに見えた活川さんは、その手に持っていたメスでかっちゃんの頬を切ったんだ。

 

 

「なっ、何しやがんだ!!」

 

「!!」

 

「えぇ?!」

 

「っ!!すまない爆豪君!」

 

 

やっぱり変だ…。

 

何か、違う…!!

 

 

「何やってんだ命子」

 

「リボーン!」

 

 

僕達が動揺していると、リボーンが活川さんの顔の前に跳ぶ。

 

 

「しっかりしろ。

 

刺したのはお前の患者だぞ」

 

「私はなんて事を…してんだ!」

 

 

活川さんはそう言いながらもリボーンに向かってメスを振り下ろす。

 

 

「リボーン!」

 

「ガキ!」

 

 

リボーンはそれを余裕で躱し、少し離れた位置に着地する。

 

 

「こいつは厄介だな。

 

何かに憑かれてるみてーだ」

 

「憑かれてるって、んな呪いみてぇな事あんのかよ!」

 

「だが事実だ」

 

「何言ってるんだ。私だよ」

 

 

やっぱり違う…。

 

活川さんじゃない。

 

この感じ…前にも……。

 

あ…………。

 

 

「……ジャック?」

 

 

いや、でも、ジャックはさっき、自分の頭を撃って…。

 

 

「フフっ」

 

 

僕は自分に言い聞かせながら理解していた。

 

目の前にいるそれが……

 

 

「バレちゃった?」

 

 

黒いオーラを纏っていることに。

 

 

「そんな?!」

 

「!」

 

「どうなってんだクソが!」

 

「マジで祟りなのか?!」

 

 

四人がそれぞれに反応を示し、そしてリボーンは冷静にジャックの黒いオーラを纏った活川さんを見る。

 

 

「そんなバカなことあるわけねーぞ」

 

「でも……」

 

 

僕はジャックが倒れていた方向を見る。

 

 

「やっぱり、死んでる…」

 

 

何度見ても、明らかに息絶えている。

 

なら目の前にいるのは、本当に霊になったジャックが取り憑いているのか?!

 

 

「いやぁ、君達ともう少し遊びたくてさ。

 

地獄から帰ってきたんだ♪」

 

 

「そんな事が…っ!」

 

「あと考えられるのは…まさかな…」

 

「クソが!こんなもんぶっ飛ばじゃ正気に戻るだろ!」

 

「ちょ、かっちゃん?!」

 

 

僕が止めるよりも早く、かっちゃんは攻撃モーションに入っていた。

 

かっちゃんは爆破で接近し、握り締めた拳を鳩尾にめり込ませた。

 

 

「かはっ?!……………」

 

「アァ?なんだ呆気ねぇな」

 

 

かっちゃんはそのまま活川さんを寝かせる。

 

 

「活川さん!」

 

 

僕が呼びかけるけど、返事は無い。

 

 

「ど、どーしよう……。

 

まだ演技の可能性も…」

 

「分かんねーな」

 

 

僕は恐る恐る活川さんに近付く。

 

その時、後ろに気配を感じた。

 

 

「俺がやったるわ」

 

「かっちゃ…ジャック!!」

 

 

僕はかっちゃんが振り下ろすメスを間一髪で避ける。

 

 

「くっ、かっちゃんまで!」

 

「へぇ、まぐれじゃないんだ。

 

初めてだよ。憑依した僕を一目で見抜いた人間は。

 

本当に君は面白いよ」

 

「そんな、どうなってるの?!」

 

「間違いねーな。

 

自殺と見せかけて撃ったのはあの弾だな」

 

 

あの、弾?

 

リボーンは何か知っているのか?

 

 

「憑依弾は禁弾のはずだぞ。

 

どこで手に入れやがった」

 

「憑依弾…?」

 

「あれ、気付いた?

 

これが特殊弾の力だっていうことに」

 

「え?特殊弾って、死ぬ気弾の事?」

 

「そうだ。

 

憑依弾はその名の通り他人の肉体に取り憑いて自在に操る弾だぞ」

 

 

そ、そんな物まで?!

 

そんな切り札まで持ってたなんて……。

 

 

「憑依弾はエストラーネオファミリーが開発したと言われる特殊弾でな。

 

コイツを使いこなすには強い精神力だけでなく、弾との相性の良さが必要とされていたんだ。

 

だが使用法があまりにも酷かった為、マフィア界でも禁弾とされ、弾も製法も葬られたはずだ」

 

「憑依弾の力はよくある洗脳とかマインドコントロールの比じゃない。

 

操るんじゃなくて乗っ取るんだから。

 

つまりこの体は僕の思いのままって訳」

 

 

そう言ってジャックは手に持ったメスでかっちゃんの腕に傷を入れる。

 

 

「や、やめろ!!」

 

「お前、爆豪の体に何してんだ!」

 

「マフィアの掟で禁止されたそれを、何でお前が持っていやがる」

 

「あまりジャックファミリーのボンゴレへの恨みを舐められちゃ困るなぁ…。

 

ま、僕にとってはそんなのどうでもいいんだけどね。

 

ただこの遊びをもっと楽しめさえすれば」

 

 

あ、遊び?

 

 

「さて、次は君の番だよ緑谷出久君」

 

「緑谷だと?!」

 

「え、僕?!」

 

「やはりお前の目的は…」

 

「そ、僕が欲しいのは緑谷出久君の体さ。

 

だってオールマイトの力が宿った体なんて、面白そうじゃないか」

 

 

じゃあジャックの狙いは、僕の中のONE FOR ALLなのか?!

 

 

「デク、轟。あのメスに気を付けろ。

 

あのメスで傷つけられると憑依を許すことになるぞ

 

本来は特定の武器でしか使えねぇはずだが、奴はあのメスで同じ事をしてやがる」

 

「そ、そんな!」

 

「よく知ってるじゃん」

 

 

そう言いながらジャックはあらぬ方向にメスを投げた。

 

 

「その通りだよ」

 

「「っ?!」」

 

 

僕と轟君は驚きながら声がした方を見る。

 

 

「油断大敵だよ、轟焦凍君」

 

「なっ?!」

 

 

ジャックはそう言いながら轟君の腹にメスを突き立てる。

 

 

「轟君!」

 

 

轟君はその場に倒れ込み、そして何故か活川さんの体もその場に力無く倒れ込む。

 

これって、まさか?!

 

 

「……フフっ。

 

はい、取り憑き成功〜」

 

「そんな、轟君にまで?!」

 

「それじゃあ挨拶代わりに」

 

 

そう言いながらジャックは右手を地面に着ける。

 

あの構え、まさか?!

 

 

「行け」

 

 

その声と共に高速で氷の柱が形成され、僕に迫る。

 

 

「くっ?!」

 

 

避ける僕の視界の端を何かが通り抜ける。

 

 

「こっちだよ」

 

 

その声と共に、右手にメスを持ち黒いオーラを放つ活川さんが迫る。

 

 

身体活性(アッティヴィタ・フィージカ)

 

 

口から僅かに漏れたその声に、僕は反射的にONE FOR ALLのパーセンテージを上げる。

 

 

「ハァ!」

 

「グアァ?!」

 

 

腕をクロスさせてがーどするも、それをぶち抜く程の勢いで僕は蹴り飛ばされる。

 

今の一連の流れで分かった。

 

ジャックは、憑依した人間の個性を使うことができるんだ!

 

 

「それじゃ」

 

 

僕が結論を出したのと同時に、聞きなれた声が僕の耳に入った。

 

 

「これで終わりだ」

 

 

僕の目の前にいたのは、似合わないにやけ面で僕を見るかっちゃん……いや、かっちゃんに憑依したジャックだった。

 

 

「っ!!」

 

 

僕は全身に力を入れて、精一杯の防御で構える。

 

けど次に僕が聞いたのは爆破の音じゃなくて、何か重いものが地面に落ちた様な音だった。

 

 

「………かっちゃん?」

 

 

そして僕が見たのは、地に倒れ伏すかっちゃんの姿だった。

 

 

「あれ?この体、想像以上に限界みたいだ。

 

もう動けなくなっちゃった」

 

 

限界、だって?

 

でもさっき、まだ大丈夫って活川さんが!

 

 

「さっき命子が言ったのは、毒で死ぬまでのタイムリミットの話だ。

 

爆豪の体はもうとっくに動けるはずがねぇくらいに憔悴しきってたんだ」

 

「そ、そんな……」

 

 

僕がかっちゃんを見ていると遠くで活川さんの体が起き上がるのが見えた。

 

 

「まぁいいさ。体の替えなんていくらでもある」

 

 

その声と共に轟君の体も起き上がる。

 

 

「そんな、二人同時に?!」

 

「それだけじゃないよ」

 

 

ジャックの言葉を証明するかの様に唐突に扉が開かれ、そこには倒したはずの毒蛇と操物が黒いオーラを纏って立っていた。

 

 

「同時に四人に憑依するなんて聞いたことねぇぞ」

 

「そんな事より、自分の心配をしなよ。アルコバレーノ」

 

 

そう言いながらジャックは毒蛇の爪で切りかかり、活川さんの体を使ってメスを数本投げる。

 

 

「ちっ」

 

 

リボーンはそれを舌打ちしながらもスーツを脱いですべてを往なす。

 

 

「コイツは圧倒的にやべーぞ」

 

「そういえば僕のオーラについてまだ言っていないことがあったね」

 

 

そう言って活川さんの体を使ってジャックは体にまとっていたオーラを空中に霧散させる。

 

 

「なに、ちょっとしたマジックさ」

 

 

ジャックの言葉と共に、地面からマグマが噴き出す。

 

 

「なっ?!なんでこんな事が?!」

 

 

僕は次々に噴き出すマグマを躱す。

 

 

「落ち着けデク。こいつは幻覚だ」

 

 

幻覚だって?!でも、実際に僕の目の前にあるこれから、耐えられない程の熱さを感じるんだぞ?!

 

 

「フフっ。高度な幻覚は人の五感にすら干渉するのさ。

 

特に僕の黒きオーラと幻覚の愛称は抜群でね。

 

この力は人の脳と精神にも干渉できるんだ。

 

だから幻覚を見せ、感じさせる事は僕にとって呼吸をするのと同じように簡単なわけさ。

 

種明かしをすると、憑依弾の力もこのオーラがあるから使えているんだよ。

 

憑依弾で取り憑き、オーラで精神を侵し、そして脳も支配する。

 

ほら、完璧だろ?」

 

 

僕はジャックの言葉に怒りが頂点に達していた。

 

 

「ジャック!お前、人をなんだと思ってるんだ!」

 

「ん?そうーだなぁ……」

 

 

ジャックはそう言って少し考えて笑いながら僕を見て言った。

 

 

「おもちゃ、かな?」

 

 

頂点に達していた怒りが、爆発して溢れる。

 

僕は相手の体が轟君の体である事も忘れ、地面を蹴っていた。

 

 

「ふざけるなァァ!」

 

 

僕は右手を強く握りしめて振りかぶる。

 

 

「緑谷、俺を殺すのか?」

 

「っ?!」

 

 

瞬間、いつもの轟君の顔に戻り、僕の体から力が抜ける。

 

 

「ほーらやっぱりひっかかった」

 

 

次に僕が見たのは、巨大な真っ黒な拳だった。

 

 

「ガッ?!」

 

 

そして僕は再び壁に打ち付けられて、そして床に倒れた。

 

 

「リ、リボーン……」

 

 

僕は縋る様にリボーンを見た。

 

もう全身が痛い。

 

立て立ち上がれても、相手は僕の大切な人の体を常に盾に出来るんだ。

 

もう、僕にはどうにもできないよ……。

 

 

「俺は手ェ出せねぇんだ。

 

デク、早くなんとかしやがれ」

 

「そんなこと言っても、もう僕には無理だよ…」

 

「俺の教え子なら超えられるはずだぞ」

 

 

そう言ってリボーンはジャックの攻撃を避け続ける。

 

 

「そんな……そんな無茶苦茶な事言わないでよ!」

 

 

僕はありったけの声で叫んだ。

 

 

「フフっ。焦ってるんだよ君の先生は。

 

生徒の絶体絶命の危機に、支離滅裂になっている」

 

 

メスを振り下ろすジャックの攻撃を避けたリボーンはさらに続けた。

 

 

「ウソじゃねーぞ。

 

お前の兄貴分、ディーノの超えてきた道だ」

 

 

え……?

 

ディーノさんが?

 

 

「ディーノが俺の生徒だった時も絶体絶命のピンチがあってな。

 

アイツはそれを乗り越えた時、

 

”へなちょこディーノ”から”跳ね馬ディーノ”になったんだ」

 

 

「なったって、意味わからないよ!

 

だいたい僕はディーノさんとは「上だぞ」っ?!」

 

 

僕がリボーンの言葉を否定していると、真上から氷の矢が降ってきた。

 

それを咄嗟に避けたけど、不安定な態勢で着地したせいでバランスを崩して転がってしまった。

 

 

「さて、おしゃべりはこのくらいにしておこうか」

 

 

そう言ってジャックは毒蛇の体で僕に迫る。

 

 

「くっ!!」

 

 

その最中、毒蛇の体が脱力したようにその場に倒れこむ。

 

 

「……?!」

 

「なに、よくある事だよ」

 

 

そう言ってジャックは操物の体を使って毒蛇に寄り添う。

 

 

「いくら乗っ取って全身を支配したといっても、肉体が壊れてちゃつかえないもの」

 

 

それって、怪我して動かない体を無理やり動かしてるって事じゃ……。

 

 

「それで毒のダメージで動けない爆豪には憑依しなかったんだな」

 

 

リボーンが納得したように言うと、さっきまで倒れていた毒蛇が起き上がった。

 

 

「毒蛇はもう少しいけそうだね」

 

 

そう言ってはいるものの、毒蛇の体は僕達から受けた傷口が開いて血が垂れ流れていた。

 

 

「ダメだ!動いたら、ケガが!」

 

「大丈夫だよ。

 

僕は今魂だけみたいな存在だから、痛みを感じないし」

 

「何言ってんだよ!仲間の体なんだろ?!」

 

「違うよ。憑依したらもう僕の体だ。

 

壊れようが息絶えようが僕の勝手だろ?」

 

 

ジャックは当たり前の事かの様に言い放った。

 

 

「そんなの、おかしいよ!」

 

「他人の心配してる場合?」

 

「自分がやられるって時に」

 

「君は面白いけど、マフィアには向かないね」

 

 

僕の言葉に、ジャックは複数の体を使って答える。

 

けど、そんな事より、さっきの戦いで着いた傷から、どんどん血が!

 

 

「頼むやめてくれ!!このままじゃ死んじゃうよ!」

 

「うーん。いいけど、それじゃあ大人しく僕に憑依されてよ。

 

そうしたらこの二人は解放してあげる」

 

 

そ、そんな…?!けど、従わなきゃ二人が、そして今も毒で苦しんでるかっちゃんと炎さんも!

 

 

「やっぱり迷うんだ」

 

「まぁどのみち君みたいな根が気弱な人間はこの世界で生き残れない。

 

ボンゴレ十代目みは不適格だ。

 

それならいっそ、僕に体を明け渡しなよ」

 

 

ど、どうすればいいんだ!

 

でも、僕が体を譲ったところでジャックが約束を守るとは限らないし!

 

 

「リボーン、どうすれば!」

 

「俺は何もしてやれねーぞ。

 

自分で何とかしろ」

 

 

そ、そんな…。

 

 

「こんな状況、僕一人じゃ!」

 

「情けねぇ声出すな」

 

 

僕が弱音を吐くと、リボーンが僕を蹴り飛ばした。

 

 

「だって、僕…」

 

「いいかデク」

 

 

そしてリボーンは僕の胸倉をつかんだ。

 

 

「お前は誰よりもボンゴレ十代目なんだ」

 

「?!」

 

 

リボーンは一体、何を言っているんだ?

 

 

「お前が気持ちを吐き出せば、それがボンゴレの答えだ」

 

「僕の、気持ち?」

 

 

僕は考え、俯く。

 

そんな僕を見て、ジャックは笑う。

 

 

「フフっ。家庭教師もサジを投げたみたいだね。

 

彼の気持ちは”逃げだしたい”だよ。

 

それとも”仲間の為に逃げられない”……かな?」

 

 

そんなの、決まってる……。

 

 

「…ちたい…」

 

「?!」

 

「フッ」

 

 

僕の気持ちなら、もう決まってる。

 

 

「ジャックに、勝ちたい……」

 

「へぇ、意外だ。

 

けど続きは乗っ取った後に聞くよ。

 

君の手で君の大切なもの全部壊した後にね」

 

「…こんな酷い奴に、負けたくない」

 

 

ヒーローを目指す者だとか、マフィアの継承者だとかは関係ないんだ。

 

僕は!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

こいつにだけは!

勝ちたいんだ!

 

 

 

「終わりだ!」

 

 

ジャックがメスを振り下ろした瞬間、リボーンの背中から何かが弾けた。

 

 

「っ?!何をした!」

 

「僕は何も……あぁっ?!

 

レオン?!」

 

 

僕が頭上を見上げるとそこには、糸の様な物を無数に伸ばした球体のレオンがいた。

 

 

「ついに羽化したな」

 

「羽化?!」

 

「あの時と一緒だ」

 

 

そう言ってリボーンは口角を上げた。

 

 

「ディーノが跳ね馬になった時な」

 

 

そう言ったリボーンをジャックは睨む。

 

 

「そうか……。

 

アルコバレーノ、君の仕業か」

 

「ちげーぞ。

 

こいつは形状記憶カメレオンのレオン。

 

俺の生徒が成長すると羽化する、俺の相棒だ。

 

どういうわけか、生徒に試練が訪れるのを予知するとマユになるんだ」

 

 

そ、そんな能力があったんだ…。

 

 

「フフっ。それは面白い」

 

「最後に何を見せられるかと思えば、ペットの羽化だなんて」

 

「本当に君たちは面白いな」

 

 

いや、めちゃくちゃ笑われてるよ!

 

 

「ていうか羽化してどうなるんだよ!

 

これとディーノさんが跳ね馬になるのと何が関係あるの?!」

 

「見てみろ」

 

 

リボーンに言われるがままに僕はレオンを見る。

 

すると何やら口をもごもごと動かしながら、膨らんでる?

 

 

(ニュー)アイテムを吐き出すぞ。

 

俺の生徒である、お前専用のな」

 

「えぇ?!アイテム?!」

 

「ディーノの時は”跳ね馬の鞭”と”エンツィオ”を吐き出したんだ」

 

「エンツィオってレオンの子供だったの?!」

 

 

で、でも、確かにエンツィオみたいなのが出てきたら、何とかしてくれるかも……。

 

 

「いつまでも君達の遊びに付き合っていられない。

 

そろそろ終わらせよう!」

 

「来るぞ!」

 

「くっ!」

 

 

僕が身構えるのと同時に、活川さんの体でジャックは飛び上がる。

 

 

「それじゃあ目障りな、これから!」

 

 

そう言ってジャックはマユになっているレオンを切り裂いた。

 

 

「レ、レオン!」

 

「心配ねーぞ。レオンは形状記憶カメレオンだからな。

 

それより、何か上に弾かれたぞ」

 

 

リボーンの言葉に、僕は頭上を見上げる。

 

 

「あっ!」

 

「無事みてーだな。あれが(ニュー)アイテムだ」

 

「あれが……ん?」

 

 

そして見上げる僕の顔にそれは落ちてきた。

 

ゆっくり、ふわりと。

 

 

「こ、これって……毛糸の手袋ーーー?!」

 

 

こんなので一体どうやって戦うんだ?!

 

手の血行良くしてどうすんの?!

 

 

「エンツィオとか武器が出るんじゃないの?!」

 

「……さーな?

 

とりあえずつけとけ」

 

「なっ?!」

 

 

僕がリボーンに詰め寄っていると、メスを持った毒蛇が襲い掛かってきた。

 

 

「最後まで面白かったよ、君達は」

 

「やばっ?!」

 

 

僕は咄嗟に手でそれを受け止めた。

 

するとなぜか僕の体は後ろに弾かれた。

 

 

「攻撃を弾かれたのか?」

 

 

と、とにかく助かった……ん?

 

 

「中に何か……あっ!!」

 

 

手袋の中からコロリと落ちてきたのは、僕が見慣れた物。

 

「た、弾だ!」

 

(特殊弾?!)

 

「そいつだな……。

 

よこせデク」

 

「えっ?!」

 

「撃たせる訳ないだろ!」

 

 

そう言ってジャックはリボーンを妨害する。

 

その最中リボーンは腕を掴まれたけど、いつの間にか仕込んでいたレオンの義手でそれを抜け、いつの間にか僕の手から弾を奪っていた。

 

 

「ゲット」

 

「……っていつの間に?!」

 

「見た事ねー弾だな。

 

ぶっつけ本番で試してみるか」

 

 

えぇ?!ぶ、ぶっつけ?!

 

 

「させないよ!」

 

 

ジャックのその声と同時に、やや大きめの丸い石が僕の上から降ってきた。

 

 

「?!」

 

「爆豪勝己の汗を操物の個性で作った弾の中に入れて作った即席の手榴弾さ」

 

 

ジャックの言葉と同時にリボーンは銃を構える。

 

 

「間に合うもんか」

 

 

その言葉と同時に、全ての石が爆発した。

 

僕の聴覚を、爆音が支配した。

 

 

「爆発をまともに食らったね」

 

「あらら、これは重症だ」

 

「何の効果も表れないのを見ると、特殊弾も外したみたいだね」

 

「案外呆気なかったな。

 

さて、それじゃあそろそろ体を貰おうか」

 

 

……痛い。

 

体中が…痛いよ……。

 

もう…死ぬのかな……?

 

 

もういいよね…。

 

よくやったよな…。

 

みんな、ごめん…僕…ここまでだ……。

 

もうたくさんだ…。

 

こんな痛いのも………こんな怖いのも………。

 

 

『い、出久?!』

 

 

っ?!

 

 

『病院抜け出すなんて、何考えてるの?!』

 

 

え……?

 

か、母さん…?

 

……夢、なのか……?

 

 

『はぁ?!

 

夏樹を助ける為に、(ヴィラン)のアジトに乗り込んだ?!

 

アイツ何考えてんの?!』

 

 

今度は、風間さん?

 

 

『……緑谷。

 

夏樹を泣かせるような結果になったら、絶対許さないから。

 

絶対生きて帰って……』

 

 

ていうか、なんで二人の声が……。

 

 

「特殊弾の効果みてーだな」

 

 

ん?!リボーン?!

 

 

「お前が感じてるのはリアルタイムでみんなから届く小言だ」

 

 

?!小言…?!

 

な…なんでこんな時に…小言聞かされなきゃならないんだ…。

 

最後の最後にまた木偶の坊って思い知らされるのか……。

 

 

『くっ!急ぐぞエンデヴァー!!』

 

 

え、オールマイト?!

 

って、今エンデヴァーって?!

 

 

『焦凍が行った祭り会場で(ヴィラン)が暴れ、その際に毒を盛られた女子を助ける為にアジトに乗り込んだだと?!

 

なんでそんな事になっているんだ!』

 

『分からない!

 

だが少なくとも私の師匠がついてるはずだから、最悪の事態は免れるはずだ!』

 

『師匠だと?!』

 

『そこら辺の説明は後からするから!

 

無茶はしないでくれよ、緑谷少年!』

 

 

オールマイト……すみません…。

 

もう結構無茶してます…。

 

 

『みど、りや……』

 

 

っ?!この声は、炎さん?!

 

 

『お願い、死なないで……』

 

 

炎さん………。

 

 

「俺からの小言は言うまでもねーな」

 

 

リボーンの言葉に、僕は閉じていた目を開きジャックを睨んだ。

 

 

「へぇ、まだそんな目ができるんだね。

 

けどもう終わりだよ。

 

死なれちゃ困るしね!」

 

 

ジャックが振り下ろしたメスを、僕は力強く掴む。

 

 

「なっ?!」

 

 

そして手袋は、グローブに変化する。

 

そのまま握ったメスを捻って真ん中から折る。

 

 

「っ!!」

 

「ジャック…」

 

 

体の底から力が溢れ出す。

 

 

「お前を倒さなければ…!」

 

 

”俺”の額から、炎が溢れ出る。

 

 

死んでも死にきれねぇ!




次回予告

リボーン「ついに新たな力を手に入れたデク。

いいかデク。お前が勝たなきゃ、全てが終わっちまうんだ。

だから戦え、勝て。

死ぬ気の強さに限界はねぇんだ。

次回『標的(ターゲット)22 ブラッド・オブ・ボンゴレ』

更に向こうへ、Plus ultra。

死ぬ気で見ろよ」


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標的(ターゲット)22 ブラッド・オブ・ボンゴレ

今回は短めで切ります。

そして今月の内にジャック戦に区切りを付けれる様に頑張ります!

後は気付いていなかったんですが、この二次創作を描き始めてからもう一年が経過していました。
Twitterで仲良しの作者さんと話してて何となくノリで描き始めたのですが、自分が思っていたよりも沢山の人に見て貰えて嬉しい限りです。

けど最近気付いたんですが、ここだけの話まだ『僕のヒーローアカデミア』の単行本一巻すら終わってないんですよ…(今更)


「その頭のオーラ……。

 

なるほど…特殊弾が命中してたんだ」

 

 

呟くジャックを、特殊弾の力を得た出久が額の炎を静かに揺らしながら睨む。

 

 

「けど仙鬼と戦ってた時にはもっと荒々しかった気がするけど」

 

「小言弾はデクの静かなる闘志を引き出すんだ。

 

死ぬ気弾とはまるで違う、全く新しい力を秘めた弾だからな」

 

 

リボーンの言葉を聞いたジャックは面白そうに出久を見る。

 

 

「僕には戦意喪失してやる気を無くしている様にしか見えないけどね。

 

どのみち僕の黒きオーラの前じゃ君なんて敵じゃない」

 

 

そう言ってジャックは毒蛇の体を使って出久に攻撃を仕掛ける。

 

完全に背後からの奇襲。

 

小言弾を撃たれる前の出久なら驚きながら対応していたそれを

 

 

「っ?!」

 

 

今の出久はそれを振り返ることも無く右手だけで毒蛇の顔面を掴み、更に左腕で肘打ちを叩き込んだ。

 

 

「がっ?!」

 

 

毒蛇の体は勢いのままに数メートル飛ばされて地面に転がる。

 

 

「まだだよ」

 

 

次に仕掛けてきたのは操物の体を操るジャック。

 

手に持っていた氷を変形させて放つ。

 

 

(奴は幻覚…)

 

「……そこだ!」

 

 

出久は突然何も無い場所へと走り出し、そして拳を振る。

 

すると突然鈍い音が響き、そこから操物が現れた。

 

 

「なに?!」

 

 

そのまま操物の体は毒蛇と同じ様に地面に転がる。

 

 

「バカな…」

 

「アイツは黒きオーラの幻覚を見破れなかったはずだ…」

 

 

困惑するジャックに対して、リボーンはニヤリと笑う。

 

 

「これこそ小言弾の効果だぞ。

 

デクの内側に眠る"ボンゴレの血(ブラッド・オブ・ボンゴレ)"が目覚めたんだ」

 

ボンゴレの血(ブラッド・オブ・ボンゴレ)だと?」

 

「死ぬ気弾が危機によるプレッシャーで外部からリミッターを外すのに対し、小言弾は秘めたる意思に気付かせることにより内面から全身のリミッターを外す弾だ。

 

そして同時に内面にある感覚のリミッターも解除するんだぞ」

 

 

リボーンはそう言って出久を見る。

 

 

「デクの場合、それはここに来て時折見せるようになったボンゴレの血統特有の"見透かす力"

 

超直感だ。

 

まだグローブの使い方がなっちゃいねーがな」

 

 

出久はその言葉とともに、一歩前に出る。

 

 

「おっと、忘れた訳じゃ無いよね?

 

これは君の友達の体だよ。手をあげられるのかい?」

 

 

ジャックはそう言いながら焦凍の体を使って駆け出し、出久へと迫る。

 

 

「出来るかい?」

 

 

そして意趣返しとばかりに肘打ちを出久の顔面に放つ。

 

 

「がっ?!」

 

「できるのかい?」

 

「ぐはっ?!」

 

出久はそれによろめき、その隙に次は命子の体を使い出久の腹に膝蹴りを放つ。

 

 

「フフっ。やっぱり手も足も出ないね」

 

「いいサンドバッグだよ」

 

 

ジャックは笑いながら2つの体を使って出久を挟み攻撃を繰り返す。

 

 

「ちげーぞ」

 

 

しかしリボーンは冷静に断じた。

 

 

「これほどの攻撃だ。

 

ガードしても避けても命子達の体に負担がかかっちまう。

 

だからデクは今、自分の体で攻撃をいなして2人の体を守ってるんだ」

 

 

リボーンがそう言うのと同時に、デクは轟の体で放たれた拳を衝撃を和らげる様に受け流して背後に回る。

 

 

「っ?!」

 

 

そしてそのまま体を回転させ勢いのままに焦凍の首に手刀を当てる。

 

 

「くっ、体が…?!」

 

「打撃で神経をマヒさせる戦い方を直感したな」

 

「直感しただって?ふざけてるのか!」

 

 

次は命子の体で身体活性(アッティヴィタ・フィージカ)を使い高速で迫り拳を振る。

 

出久はそれを先程と同じく受け流し手刀で神経をマヒさせる。

 

 

「くそ……」

 

 

命子の体は力無く項垂れ、そして同時に倒れ出す焦凍と共に両腕でなるべく衝撃を与えぬように抱える。

 

 

「待たせて、ごめん………」

 

 

出久は心の底から悔しさを滲ませた様な表情で呟く。

 

 

「リボーン、処置を頼む」

 

「急にいばんな」

 

 

2人をそっと床に寝かせ、そして出久は立ち上がりながら強い気配のする方を睨む。

 

 

「出て来いジャック。生きてるんだろ?」

 

「フフっ」

 

 

そして気配は更に濃くなり、暗闇から黒きオーラを身にまとったジャックが姿を現す。

 

 

「フッ、格闘センスが格段に上がってるのは認めるよ。

 

けどその程度で図に乗っちゃ困るよ」

 

 

笑うジャックを出久は静かに睨みつける。

 

 

「僕が今まで、完全な黒きオーラの力を使っていない事に気付いてるかな?!」

 

「今まで憑依やこの屋敷の補強に使っていたオーラだな」

 

「その通り。

 

それらが全て僕の元に集まった時、君に勝ち目はない」

 

 

そう言いながらジャックは笑う。

 

そして体の周りを今までよりも更に深い黒が覆う。

 

 

「どす黒いオーラだな」

 

「見えるかい?

 

僕や君みたいにオーラを使い戦う戦士にとって、吹き出すオーラの大きさが強さに直結する!」

 

 

ジャックはそして言いながら一瞬で出久との距離を消し去る。

 

 

「っ?!」

 

 

そしていつの間にか手にしていた棍棒を振り、出久はそれを両手で受け止める。

 

しかしジャックが更に力を込めると出久は押され、そしてがら空きになった腹を右の拳で殴り出久の体を宙に浮かせる。

 

 

「がはっ?!」

 

「君と僕じゃ、力の差がありすぎる」

 

 

そして棍棒を高速で回転させて、その勢いのままに出久を殴り飛ばす。

 

壁はいとも簡単に壊れ、出久は壊れる際に生じた煙で覆われる。

 

 

「ハハハハッ!

 

脆いね。ウォーミングアップのつもりだったのに」

 

「で、なくっちゃな………」

 

「っ?!」

 

 

勝利を確信していたジャックの耳に、出久の声が届く。

 

そして出久が飛ばされた方を見ると、額の死ぬ気の炎が先程より強く燃え盛っていた。

 

 

「なに?!オーラがはじけた…?!」

 

「わかってきたみてーだな。グローブの意味が」

 

 

煙が晴れると、そこには両拳を額に押し当てるデクの姿があった。

 

 

「お前の力がこんなものなら、拍子抜けだぜ」

 

 

そして手を離すと、炎はグローブに燃え移っていた。

 

 

「フフっ、全く君は楽しませてくれるよ」




次回予告

リボーン「いよいよ戦いも大詰めだ。

フルパワーを出したジャックとグローブの力に気付いたデク。

さぁ、今こそそのグローブの力を見せてやれ

次回『標的(ターゲット)23 (イクス)グローブとジャックリング』

更に向こうへ、Plus ultra。

死ぬ気で見ろよ」


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標的(ターゲット)23 (イクス)グローブとジャックリング

八月中にジャック戦に区切りをつけると宣言したにも関わらず間に合わずにすみませんでした…。

ていうか1ヶ月以上遅れてしまいました…。

本当に申し訳ありませんでした!(何度目かの謝罪)


拳を構える出久を、ジャックが睨む。

 

ジャックからは未だ余裕の色が伺える。

 

 

(イクス)グローブは死ぬ気弾と同じ素材でできていて、死ぬ気の炎を灯す事が出来るんだぞ」

 

「フフっ。まるで毛を逆立てて体を大きく見せようとする猫ちゃんだね。

 

けどいくらオーラが見てくれを変えたって無意味さ」

 

「死ぬ気の炎はオーラじゃない」

 

 

グローブの炎を見せる様に構える出久。

 

こちらもやはり、先程と変わらず静かにジャックを睨んでいる。

 

 

「へぇ、面白い事言うじゃん。

 

なら、見せてもらおうか?!」

 

 

ジャックは棍棒を構えて走り出し、その勢いのまま振り下ろす。

 

しかしそれを出久は片手でいとも簡単に受け止め、更にグローブに灯した炎で棍棒を溶かして折り曲げる。

 

 

「な?!」

 

 

飛び跳ねて距離を取ろうとするジャックの眼前を出久の手刀が横切る。

 

 

「つっ!!」

 

(熱い…?!

 

オーラが熱を帯びてるのか?!)

 

「死ぬ気の炎とオーラではエネルギーの密度が違うからな。

 

一定以上の力を持つ人間にしか認識できないオーラと違って、死ぬ気の炎はそれ自体が破壊力を持った超圧縮エネルギーだ」

 

「そのグローブは焼きゴテという訳か…」

 

「それだけじゃない」

 

 

出久はそう言いながらジャックに向かって駆け出す。

 

 

「くっ!」

 

 

ジャックは余裕を消してそれを迎え撃つ。

 

だが次の瞬間、ジャックの目の前から出久の姿が消えた。

 

 

「消えた?!」

 

 

そしてその直後に、ジャックは背後から強い気配を感じた。

 

 

「っ!!いつの間に?!」

 

 

その様子をリボーンはニヤリと笑いながら見ている。

 

そして出久はジャックを殴り飛ばし、ジャックは壁に激突する。

 

ジャックは咄嗟に防御した様で、手にしていた棍棒は中心辺りが熱で歪んでいた。

 

 

「何だ今のは……?

 

アイツは何をしたんだ…」

 

「ウォーミングアップはまだ終わらないのか?」

 

「くっ!……フフっ。

 

ハハハハハハッ!

 

君がここまでやるとはね。

 

ますます君の体が欲しくなっちゃうよ」

 

 

そう言ってジャックはポケットから何か小さなものを取り出した。

 

 

「……指輪?」

 

 

出久はそれを見て疑問の声を上げる。

 

 

「そう。これはジャックリングって言ってね。

 

ジャックファミリーの一代目が引退する前に作られたもので、僕の黒きオーラを強化するんだ」

 

 

ジャックはそう言いながら右手の中指にリングをはめた。

 

すると、ジャックの纏うオーラが一気に肥大化し、その密度も一気に跳ね上がった。

 

しかし出久とリボーンが見ていたのはオーラではなく、ジャックが身に着けたリングの方だった。

 

 

「あれは?!」

 

「あぁ、死ぬ気の炎だな」

 

 

出久の驚愕した様な声に、リボーンは冷静に返した。

 

ジャックの指輪から発せられたのは、出久や命子とも違う藍色の炎だった。

 

 

「皮肉だよね。

 

ボンゴレファミリーを潰す為に得た力が、まさかボンゴレと同質の力だなんて」

 

 

ジャックはニヤリと笑いながら出久を見る。

 

 

「さて、それじゃあ再開と行こうか」

 

 

そう言ってジャックは歪み折れ曲がっていた棍棒を拾い、そして僅かに力を込めて握る。

 

 

「なっ?!」

 

 

すると棍棒は瞬く間に元の形へと戻っていった。

 

 

「あの力、操物の個性だな。

 

なんでジャックが使えるんだ」

 

「簡単な話さ。

 

僕と操物は長い事一緒にいたからね。

 

昔から黒きオーラを使った憑依先として使ってたらいつの間にか使える様になってたのさ。

 

毒蛇のはまだ使えないけどね」

 

 

そう言いながらジャックは足元に落ちていた命子のメスを何本か拾い、それを棍棒の先端に当てる。

 

そしてメスの形状を変え、三叉槍を作り出す。

 

 

「この力は、正直使いたく無かったんだ。

 

この状態になると力は強くなるけど、少しだけ理性が飛んじゃうんだよ」

 

 

そう言ったジャックの頬を一筋の汗が伝う。

 

 

「だから、早く終わらせよう……っ!」

 

 

ジャックはそう言いながら先程とは比べ物にならない速度で駆ける。

 

 

「くっ?!」

 

 

三叉槍を横へ薙ぐ様に振る。

 

出久はそれを腕をクロスさせる事で防御するが、予想以上のパワーに弾き飛ばされる。

 

出久と壁の距離がどんどんと縮まる中、リボーンは叫ぶ。

 

 

「いけ、デク。

 

今こそ(イクス)グローブの力を見せてやれ!」

 

「うおぉぉぉ!!」

 

 

出久はリボーンの声に呼応するように叫ぶと、掌を背後の壁に向けた。

 

そして壁に激突する直前で(イクス)グローブから膨大な量の炎が噴き出す。

 

 

「な?!炎を逆噴射した?!」

 

 

その勢いで壁に激突することを免れた出久はそのまま両手を合わせてもう一度炎を噴かせる。

 

すると出久はそれを推進力にジャックへと迫る。

 

 

「これは、まさか?!」

 

「そーだぞ。

 

さっき瞬時にお前の背後に回ったのは死ぬ気の炎の推進力を使った高速移動だ」

 

 

出久はそのままジャックへと迫り、右手でジャックの顔面を掴むとそのままグローブの炎でジャックを焼く。

 

 

「ぐあぁぁぁ?!」

 

 

その最中、どんどんとジャックのオーラは小さくなっていっていた。

 

 

「死ぬ気の炎がジャックのどす黒いオーラを浄化したな」

 

 

そのまま背後にあった壁へと激突させ、出久は僅かに下がる。

 

しかし、出久の顔には未だに警戒の色が浮かんでいた。

 

 

「……なんだ?」

 

「妙だな。ジャックのオーラは確かに今、デクの死ぬ気の炎で浄化したはずだ」

 

 

出久とリボーンが倒れたジャックを見ていると、突然ジャックが起き上がり苦しみだした。

 

 

「があぁぁぁ?!」

 

「っ?!ジャック?!」

 

「一体何が起きてやがるんだ」

 

 

ジャックは頭を抱え尚も苦しみ、膝をつく。

 

出久はそれを見ていられずに駆け寄った。

 

 

「大丈夫か?!」

 

「バカデク!離れろ!!」

 

 

駆け寄り手を背に添えた瞬間、ジャックの右手にはめられたリングから膨大な量の黒きオーラが噴き出した。

 

 

「こ、これは?!」

 

 

出久はそれに驚きながらも(イクス)グローブを使って後退する。

 

 

「なるほどな。

 

これがジャックリングの力ってわけだ」

 

「どういう事だ?!」

 

「ジャックは憑依弾を用いたとはいえ、複数人の体に憑依して操るなんて事を平然としやがった。

 

それにジャックファミリーはボンゴレと浅からぬ因縁がある。

 

そんな一族が肉体が死んだ程度で復習を諦めるとは思えねぇ。

 

例え継承者がそれを望んでいなくともな」

 

 

リボーンがそう言うのと同時に、ジャックは更に苦しみだす。

 

 

「やめろ…っ!!僕は、お前じゃない……っ!!」

 

「っ?!」

 

 

その時、出久の脳裏にかつて自らが幼馴染に言った言葉が響いた。

 

 

『君が!助けを求める顔してた!』

 

 

そして同時に、背後から自分を見る小さな幻影を見た。

 

 

『だったら、あの人は助けないの?』

 

 

もし今出久がONE FOR ALLを継いでいなくとも、小言弾の力を得ていなかったとしても、その行動は変わりはしない。

 

なぜなら出久の行動は、体が勝手に動くのだから。

 

 

「ジャック!!」

 

 

出久はジャックから放たれる黒きオーラに押されながらも、一歩一歩前へと進む。

 

その最中、オーラに乗って様々な記憶が出久の脳内に入り込む。

 

 

(これは、ジャックの記憶、なのか?)

 

 

出久の意識はいつの間にか、黒きオーラの中に飲まれていった。

 

 

 

 

 

……………………………………………………

 

 

 

 

 

目を開くと、そこは天井がやけに低くテーブルや椅子も異常に小さかった。

 

 

ここは、保育園か幼稚園か、どちらにしても何故俺はこんな所に?

 

 

『えぇ?――君無個性なのぉ?』

 

『うわぁ、だっせぇ』

 

 

声がした方を見ると、そこには三人の子供がいた。

 

どこかで見た様な光景だ。

 

そこで俺は二人の子供の目の前でじっと黙ったままの子供に目が行った。

 

あれは、ジャックなのか?

 

俺が疑問を抱いていると、ジャックらしき声が聞こえた。

 

 

(そんな酷い事言わないでよ。

 

僕だってみんなと同じ人間なんだよ?

 

そんな力なんか無くたって、僕は……)

 

 

だがジャックの口は全く動いていなかった。

 

これは、ジャックの心の声なのか?

 

そう考えながら瞬きをする。

 

そして目を開くとそこはさっきとは打って変わって教室の様な場所へと変わっていた。

 

 

『みんな見てよ!

 

僕にも個性が出たんだ!』

 

 

そう言って、先程より成長したジャックが嬉しそうに黒きオーラを発する。

 

だが、それを見たクラスメイトは顔を顰める。

 

 

『え、何それ』

 

『めちゃくちゃ黒いし不気味』

 

(ヴィラン)向きな見た目の個性だ』

 

『ヒーローには向いてないと思うよ』

 

 

中には笑う者もいた。

 

どことなく似ている。

 

俺が無個性だと笑われていたあの頃に。

 

 

「……見たんだ」

 

 

その時、ふと背後から声がかかる。

 

俺はゆっくりと振り返りその顔を見る。

 

 

「…ジャックか」

 

 

そこには嘲笑する様な顔のジャックが立っていた。

 

 

「馬鹿みたいだろ。

 

力を得たからって誰かに認めてもらえる訳でもない。

 

そんな事も分からずこんな気味の悪い力を見せびらかしちゃってさ」

 

 

そう言いながらジャックは幼い自分を見下す。

 

 

「まぁこれの続きは単純さ。

 

馬鹿にされて、気味悪がられて、僕はこの力を嫌った。

 

そして中学に上がる頃、僕がジャックファミリーの後継者だって知った。

 

そしてこの力が、個性じゃないって事もね。

 

結局無個性だったっていう悲しみと同時に、心のどこかで安心してたんだ。

 

この力は個性じゃない。つまり僕を馬鹿にしてきたアイツらとは違うんだってね」

 

 

そしてジャックは次に俺の方を見る。

 

 

「だから、初めて君の事を知った時は酷く妬ましかった。

 

同じ個性では無い力を持ちながらも君は皆から認められて、更にはあのオールマイトからも認められた。

 

僕と同じマフィアの後継者で、どうあってもこの血は穢れているんだ!

 

それなのにお前は、なんでお前だけ!!」

 

 

その目は段々と憎悪に染まっていく。

 

 

「僕は血の呪いに縛られているのに、どうしてお前は、憧れたヒーローに後継に選ばれて、日向で笑っているんだ!!

 

憎い!妬ましい!!全てがムカつく!!

 

 

 

 

だから決めたんだ。

 

この呪われた力で、君の持つ最強のマフィアの力と、最強のヒーローの力を奪って、この僕がこの世界をぶっ壊す。

 

マフィアも、ヒーローも、(ヴィラン)も関係ない。

 

全てが等しく終わりを迎える。

 

日向と影を統べた僕の手で!」

 

 

そう言ったジャックの体から、更に強い黒きオーラが発せられた。

 

 

「………確かに俺は、誰かに何かを貰ってここまで強くなれた。

 

お前の元に辿り着くまでにも、俺一人では絶対に乗り越えられない壁が多くあった。

 

それを乗り越えられたのは、勝己や轟、活川がいたからだ。

 

そしてその全ての出会いが、リボーンのおかげだった。

 

確かにこの力は、マフィアの血塗られた歴史の上にあるのかもしれない。

 

だが、力は使う者の意思で善にも悪にも変わる。

 

俺達の血がどれだけ汚れていたとしても、俺達は俺達の手で、未来を選ぶ事が出来るんだ!

 

どれだけ周りにバカにされても、今を変えたいなら諦めちゃダメだったんだ!

 

そんな簡単な事が、どうして分からないんだ!」

 

 

俺の言葉にジャックは、そのオーラを更に強くした。

 

 

「黙れ!お前に何が分かる!

 

僕はずっと一人だった!

 

両親からも捨てられ、僕の周りに誰もいなかった!

 

その苦しみが、お前なんかに分かるものか!」

 

 

「お前は一人じゃない!

 

少なくとも毒蛇や操物は、お前の為に戦っていたじゃないか!」

 

 

「黙れぇぇぇぇぇぇぇっ!」

 

 

次瞬間、ジャックと俺は駆け出していた。

 

そして互いの拳が交差し、俺の拳はジャックの頬を打ち、ジャックの拳は俺の目の前で止まっていた。

 

 

「………クソっ。

 

何処までも僕は、日向にいる君には、届かないのか……」

 

「違う、ジャック!俺は!」

 

 

自嘲する様に笑うジャックに俺は声をかけようとするが、そこで目の前かボヤけていく。

 

 

 

 

 

……………………………………………………

 

 

 

目を開くと、目の前には地面に倒れたジャックがいた。

 

 

「終わったな」

 

「…………うん」

 

 

気が付くと僕は死ぬ気モードが解けていた。

 

 

「あっ、そうだ!皆の怪我!」

 

「心配ねーぞ。

 

ボンゴレの医療班も敷地内に到着したらしいしな」

 

「よ、よかった…」

 

 

リボーンとの会話を終えて、僕は倒れたジャックを見た。

 

 

「ジャック……。

 

死んでないよね?無事だよね?」

 

「ったく甘いなお前は」

 

 

僕がジャックの様子を見ていると、僕達が入ってきた入口がゆっくりと開いた。

 

 

「あっ!」

 

「医療班がついたな」

 

 

リボーンがそういうのと同時に扉から複数の影が濃い霧と同時にあらわれた。

 

けどその人達の行動は僕達の予想を裏切り、鎖のついた首輪の様な物を室内にいるジャック、毒蛇、操物の首にかけた。

 

 

「なっ?!」

 

 

霧が晴れると、そこにはボロボロのシルクハットとコートを着て、顔を包帯で覆った3人組だった。

 

 

「早ぇおでましだな」

 

「い、一体誰?!」

 

復讐者(ヴィンディチェ)

 

マフィア界の掟の番人で、法で裁けない奴らを裁くんだ」

 

 

そして三人を引きずって再び扉へと向かう。

 

 

「ちょ、何してるんですか?!」

 

「やめとけデク」

 

「っ?!」

 

 

僕が止めようとした所を、リボーンが制止する。

 

 

「あぁ…」

 

 

連れ去られる三人を、僕はそうやって情けない声を出して見るしか無かった。

 

 

「奴らに逆らうと厄介だ…。

 

放っとけ」

 

「リボーンがそこまで…そんなにヤバいの?」

 

 

僕の問いかけに、リボーンは無言でそれを肯定する。

 

 

「あ、あの3人どうなるの?」

 

「罪を裁かれ、罰を受けるだろーな」

 

「ば、罰って…?」

 

「さーな。だが軽くはねーぞ。

 

俺達の世界は甘くねーからな」

 

 

リボーンの言葉に少しの衝撃を受けていると、次は勢いよく扉が開かれる。

 

 

「お待たせしました!怪我人は?!」

 

「今度こそ医療班が来たな」

 

 

その後医療班の人達は手際良く全員を担架に乗せて運んでいく。

 

 

「あっ、解毒剤!」

 

 

僕は一番大事な事を忘れていたのを思い出して、辺りを見渡す。

 

するとステージの上に、一つのアタッシュケースがあった。

 

 

「こ、これかな?」

 

 

僕は少し怯えながらそれを開く。

 

するとそこには4つ程のアンプルと注射器が入っていた。

 

 

「これだ!」

 

 

僕はそれを持って、まずまだ運ばれていなかったかっちゃんに駆け寄る。

 

そして医療班の人にそれ等を渡して、それを手馴れた手つきでかっちゃんの腕解毒剤を注入した。

 

するとかっちゃんから苦悶する様な表情が消え、顔色も徐々に良くなっていく。

 

 

「良かった、効いてる!」

 

「それでは我々はここから少し離れた廃病院へと向かいます。

 

今はボンゴレが整備して使える状態ですから、ご安心を」

 

 

医療班の人達はそう言うと素早く部屋から出ていく。

 

 

「それじゃあ僕達も炎さんの、所へ……っ?!」

 

 

その時、僕の全身から力が抜けた。

 

 

「がっ?!」

 

 

僕はそのまま倒れ込み、床に這いつくばった。

 

 

「こ、これ、は?」

 

「どうやら小言弾のバトルモードは凄まじく気力を消耗するらしいな。

 

今お前の体はさっきの戦いにそのほとんどの気力を使い、今そうしているのが精一杯の状態なんだ」

 

 

そ、そんな……?!

 

これじゃあ、炎さんの命が、救えない!

 

タイムリミットだって、後30分もないんだ!

 

ここから車で移動したとしても、間に合わないのに、こんな時に!

 

 

(やべーな。

 

そろそろシャマルから言われた時間も切れる。

 

今からじゃ到底、車で間に合う時間でもねぇし、コイツが動けねぇ今、俺が運ぶしかないが、それだとな)

 

 

僕が悔しさで震えていると、ふと目の前に火花が散った気がした。

 

 

「…?」

 

 

それはやがて連続して発生し、そして円を描く。

 

するとその内側に全く別の風景が現れ、一人の男性が立っていた。

 

 

「良かった、見つけましたよボンゴレ10代目」

 

「あ、あなた?」

 

「そうか、お前がいたんだっな。

 

ボンゴレの運び屋、ポルターレ」

 

 

リボーンがそう呼ぶと、男の人は僕に優しく笑いかける。

 

 

「安心してください、私は味方です。

 

9代目からの命を受けて、あなた方を病院へと運ぶ様にと」

 

「え?それじゃあ!」

 

「えぇ、その解毒剤であなたの大切な方を助けられます」

 

 

そう言ってポルターレさんは僕に肩を貸してくれて、再び先程と同じ様に円を描く。

 

その先には、驚いた顔のシャマルさんと炎さんの眠るベッドがあった。

 

 

「なっ、お前運び屋か?!

 

なんだなんだ次から次に!」

 

「申し訳ないドクターシャマル。

 

彼と、この解毒剤を届ける様にと9代目から命を受けまして」

 

「っ?!解毒剤だ?!

 

それを早く言え!」

 

 

それを聞いたシャマルさんは僕の手から解毒剤をひったくり、こちらも慣れた手つきで炎さんに投与していく。

 

 

「どうやら薬は合ってるみてーだな」

 

 

リボーンがそう言うのと同時に、炎さんの顔色が徐々に良くなっていく。

 

 

「後はこの子に感染させてる病気を打ち消せば完璧だ」

 

「病気?」

 

「シャマルは生まれつき菌やウイルスが付着しやすい体質を持っててな。333対のそれぞれ打ち消しあう666の不治の病にかかってんだ。

 

その不治の病原菌を"トライデントモスキート"と呼ばれる蚊に運ばせて更にターゲットを病死させるヒットマンなんだ。

 

今回はそれを上手く使って夏樹を延命させてたんだ」

 

 

活川さんもシャマルさんも、ヒットマンは凄い力を持った人ばかりだな……。

 

 

「今回使ったのは肉体が変化しなくなる代わりに永遠の眠りにつく""眠り姫病だ。

 

毒が強力すぎて眠り姫病の不変の作用が三時間しか保てなかったんだがな。

 

解毒剤を投与して毒が消えたから、いよいよこのかわい子ちゃんは本格的に眠り姫病患者って事になる。

 

そこでこの"狂起病"に感染させる事で眠り姫病の症状を打ち消す。

 

この狂起病ってのは超人的なパワーを得る代わりにどれだけ睡魔に襲われようが眠る事が出来きずに、いずれ肉体が限界を迎えて死に至るって病気でな。

 

超人的なパワーを不変の症状で、永遠の眠りを眠れなくなる症状で打ち消すのさ」

 

 

シャマルさんの説明を聞きながら、僕は改めてとんでもない人達と知り合っているのだなと感じた。

 

そしてシャマルさんは一匹のトライデントモスキートを放った。

 

 

「そんじゃあこのかわい子ちゃんを起こすぜ。

 

後は好きにしな」

 

 

そう言ってシャマルさんはトライデントモスキートを回収して病室を出た。

 

 

「では私も、9代目の元に帰ります」

 

「あっ、ありがとうございました。

 

えっと…ポルターレさん」

 

「いえ、気にしないで下さい。

 

私は私の仕事をしただけてすから」

 

 

そう言ってポルターレさんは円型のゲートを通って元の場所へと帰って行った。

 

 

「…大丈夫だよね?」

 

「シャマルは優秀なドクターだ。

 

心配はいらねぇ」

 

 

僕は少し不安になり、炎さんの顔を見る。

 

先程とは違い、穏やかな顔で眠る炎さん。

 

その瞼が、僅かに開いた気がした。

 

 

「っ?!炎さん?!」

 

 

僕はつい大きな声を出してしまった。

 

すると炎さんはその瞼をゆっくりと開けて、僕を見た。

 

 

「………みど、りや?」

 

 

その声を聞いた瞬間、僕の全身から、今度こそ完全に力が抜けた。

 

 

「よかった…………」

 

「安心して気絶しやがった。

 

ま、これで一つ壁を乗り越えたな

 

俺も家庭教師として……ねむい…ぞ」

 

 

薄れゆく意識の中で、リボーンのそんな声が聞こえた気がした。

 

 

「…………ありがとう…私のヒーロー」

 

 

そして最後に、柔らかな温かさを感じながら僕は眠りについた。




次回予告

シャマル「ったく。なんで俺がこんな事しなきゃなんねーんだ。

しかもガキのお守りまで押し付けやがって」

ポルターレ「まぁまぁ、そう言わず」

シャマル「ていうかお前は今回ちょっとしか出てねー癖に何こんな所にまでしゃしゃり出てんだよ」

ポルターレ「9代目の命を受けて」

シャマル「どんな命令だ」

ポルターレ「そんな事より、次回は随分と面倒な事になりそうですね」

シャマル「他のガキ共にボンゴレの事話すだけかと思ったら、なんで日本のNo.1とNo.2までいるんだよ」

ポルターレ「どうやらもう一波乱ありそうですね。

次回『標的(ターゲット)24 僕の力』

更に向こうへ Plus ultra。

実はこれ1度言ってみたかったんです」

シャマル「知らねーよ」


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標的(ターゲット)24 僕の力

「緑谷出久!貴様を拘束する!」

 

「お、落ち着いてくれエンデヴァー!」

 

 

僕を睨みつけるエンデヴァー。

 

間に入って狼狽えているオールマイト。

 

臨戦状態の活川さん。

 

どうしてこうなったのか。

 

話は今日の朝に遡る。

 

 

 

 

 

…………………………………………………………………

 

 

 

 

 

ジャックファミリーとの戦いが終わった翌朝、僕は母さんに睨みつけられていた。

 

 

「出久。私がどれだけ心配したか分かる?」

 

「ハイ」

 

 

ベッドの上で正座して、僕は母さんの説教を受けていた。

 

僕は炎さんのベッドに伏して寝ている所を発見されたらしい。

 

ちなみに炎さんの容態は全くの健康体らしく、後は検査入院を3日程経て退院となるらしい。

 

 

「聞いてるの?」

 

「あ、ごめん……」

 

「ハァ…………。

 

友達が心配だったのは分かるけど、病室を出るなら一言声をかけてよね。

 

心臓が止まるかと思ったわよ」

 

 

僕はあの夜、炎さんが心配で病室を抜け出して様子を見に行った事になってる。

 

幸い僕が居ないことが判明した時間が戦いの終局くらいだったらしく、そのおかげで僕がジャックファミリーと戦った事実は誰にも知られてはいない。

 

そして僕にはこれから、ある意味一番の難所が残っている。

 

かっちゃん達に全てを話さなきゃならない。

 

死ぬ気モードの事、ボンゴレの事、そしてONE FOR ALLの事。

 

出来ればずっと秘密のままでいたかった。

 

けど確かにリボーンの言う通り、これから戦っていく中で誰にも打ち明けずにいるのは、巻き込んだ側として無責任だ。

 

 

「……母さん」

 

「どうしたの?」

 

「これから別の病院にいるかっちゃん達に会いたいんだけど」

 

 

僕がそう言うと、母さんはあからさまに表情を曇らせた。

 

 

「今から?でも、勝手に病院を出るなんて、良くないんじゃないの?」

 

「大丈夫だぞママン。

 

病院からもう許可はとってる。

 

だから安心して家でデクの退院祝いでも作って待っててくれ」

 

 

母さんの問いにリボーンは笑って答えた。

 

母さんはリボーンの言葉に安心したのか、僕に向かってぎこちないけど笑顔を向けた。

 

 

「それなら、あまり遅くならないように帰ってきてね」

 

「うん、分かってるよ」

 

 

僕も笑顔で返す。

 

そして僕とリボーンは病院を正面出入口から出た。

 

どうやらもう報道陣はいないみたいだ。

 

リボーン、又はボンゴレが何かしたのかな……。

 

僕が少し心配していると、目の前に誰かが立っている事に気が付いた。

 

 

「ようデク。今回はよく頑張ったな」

 

 

そこに立っていたのはディーノで、後ろには恐らくロマーリオさんが乗っているであろう黒塗りの車が泊まっていた。

 

 

「ディーノさん!」

 

「待たせちまったか」

 

「いや、ちょうど着いた所だ。

 

珍しくロマーリオが道に迷っちまってな」

 

 

ディーノさんの言葉に反応したのか、助手席側の窓が開かれた。

 

 

「よく言うぜボス。

 

アンタが最初に道間違えたんじゃねぇか」

 

「おまっ、それは言わねぇ約束だろ!」

 

 

相変わらず仲のいい2人だ。

 

こうして見ているとなんだか本当に家族みたいだ。

 

 

「っと、ここに停めたままだと怒られちまうな。

 

さぁ乗れよデク。

 

爆豪達の所まで連れてってやるぜ」

 

 

ディーノさんはそう言いながら後部座席のドアを開ける。

 

 

「いいんですか?」

 

「遠慮すんな。

 

また可愛い弟分と話してぇだけだ」

 

 

僕はその言葉に甘える事にして、リボーンと一緒に車に乗り込む。

 

 

「さっきも言ったが、今回は本当によく頑張ったな。

 

噂になってるぜ。若きボンゴレ継承者がジャックファミリーの継承者を討ったってな」

 

「そ、そうなんですか?」

 

 

昨日の話なのに、もうそんなに?

 

けど、それならまたジャックファミリーみたいに襲ってくる奴が出てくるんじゃ…。

 

 

「安心しろ。お前個人に繋がる様な情報は洩れちゃいねぇから」

 

 

僕の心情を察したディーノさんはそう言って笑う。

 

 

「ボンゴレの情報操作も影響しているしな」

 

「情報操作?」

 

「今マフィア界に流れているボンゴレ十代目の特徴を表す情報はどうあってもお前にはたどり着けないようになってんだ」

 

 

ディーノさんの言葉を補足するようにリボーンはそう言った。

 

 

「でも、それだと逆に逆算して僕に辿り着くんじゃ?」

 

「そんな事考えてねぇ訳ねぇだろ。

 

情報の中に僅かにデクの本当の情報も織り交ぜてるんだ。

 

そのうえで抜け道を作り結果的に全く違う人物像が浮かぶって訳だ。

 

相手を騙す上で、噓の中に僅かな真実を織り交ぜる。

 

詐欺師の基本だぞ」

 

「そんな基本知らなくていいよ…」

 

 

それから僕達は他愛のない話をしながら病院までの時間を過ごした。

 

そして病院に着くと、ディーノさんは僕を見て優しく笑う。

 

 

「大事な仲間(ファミリー)なんだ。

 

話すからには包み隠さず、全てを話してやれよ」

 

「はい。

 

それと僕にとって2人は、仲間(ファミリー)じゃなくて友達です」

 

「そーだったな」

 

 

ディーノさんは再び笑い、僕とリボーンはその笑顔を背に病院に入った。

 

受付で病室の場所を聞こうとしたら、ナース姿の人全員に深々とお辞儀をされた。

 

そういえばこの人達全員ボンゴレの関係者なんだ…。

 

僕は忘れていた事実に少しだけ気後れしながら教えて貰った病室へと向かい廊下を歩いていると10mは離れているのに、声が聞こえた。

 

 

 

「焦凍オォォォォォォォ!!」

 

 

 

聞きなれた声が。

 

 

「この声って!

 

な、なんでエンデヴァーがここに?!」

 

「さーな。

 

まぁ息子が入院したと聞けば普通来るだろ」

 

 

僕は急いで病室の前まで行き扉を開くと、そこには2つのベッドがありその上にはそれぞれかっちゃんと轟君。

 

そしてかっちゃんの隣に活川さんとオールマイト。

 

轟君の隣に案の定エンデヴァーがいた。

 

というより、抱き締めていた。

 

そしてエンデヴァーを心底面倒そうな顔で見る活川さん。

 

その傍らにいるオールマイトの笑顔が引きつっている。

 

多分活動限界なんだ。

 

 

「お、緑谷君。やっと来たな」

 

「っ!緑谷少年!」

 

 

そして僕に気付いて2人は笑顔になった。

 

安心している様だ。

 

 

「っ?!お前は、確か焦凍の」

 

「あ、はい。お久しぶりです」

 

 

僕はエンデヴァーに会釈しながら、かっちゃんと轟君の間に立った。

 

 

「デク」

 

 

低い声で僕を呼んだのは、こちらを見るかっちゃんだった。

 

 

「あの後、ジャックはどうなった」

 

 

その言葉を聞いた途端に轟君も僕を見て、エンデヴァーは驚いた困惑している様だった。

 

 

「倒したよ。

 

その後は、復讐者(ヴィンディチェ)って言う人達が連れて行った。

 

ジャックファミリー全員をね」

 

「……そうか」

 

 

かっちゃんは静かにその目に悔しさや怒りを滲ませた表情になった。

 

 

「ま、待て!

 

ジャックとは何者だ!」

 

 

エンデヴァーが待ったをかけ、それに対して活川さんが面倒臭そうに答える。

 

 

「ジャックとは今回彼らが戦った(ヴィラン)だ。

 

ちなみにジャックファミリーっていうのはイタリアのマフィアの事だ」

 

「マフィアだと?!

 

何故焦凍達がマフィアと襲われたのだ!」

 

 

活川さんとエンデヴァーの会話に、かっちゃんと轟君も驚いていた。

 

 

「…驚いていないということは、貴様は知っていたのか」

 

 

そしてエンデヴァーは冷静さを取り戻し、僕に問う。

 

 

「はい」

 

 

僕の答えに、事情を知らない三人が驚く。

 

 

「その事を含めて、それを説明する為に僕はここに来ました。

 

僕の個性の事も」

 

「何故ここで貴様の個性の話になる」

 

「み、緑谷少年?!」

 

「すみませんオールマイト。

 

でも僕は今回の件に巻き込んだ二人に、説明する責任があります」

 

 

僕とオールマイトの会話に、エンデヴァーは眉を顰める。

 

 

「この際貴様らが知り合いである事は気にしないにしても、何故この会話にオールマイトが関与する」

 

「それは、僕の個性がオールマイトから貰った物だからです」

 

 

そしてエンデヴァーの顔は驚愕に染まる。

 

 

「聞くのは二回目だが、それでも信じられねぇな」

 

 

轟君はそう言って僕とオールマイトを見る。

 

 

「けど、オールマイトが緑谷を選んだってのは、なんか納得出来るよ」

 

 

轟君は僕を見て笑う。

 

そしてそれを見てエンデヴァーは再び冷静さを取り戻す。

 

 

「……その、個性を貰ったというのは、どういう意味なのだ」

 

「オールマイト、いいですよね」

 

「……あぁ。

 

君が決めたのなら、私は止めないさ」

 

 

僕は立ち上がり右腕の袖を捲った。

 

そしてONE FOR ALLを発動させ、発動時特有の痣を浮かび上がらせた。

 

 

「僕の個性は、ある(ヴィラン)が生み出した物なんです。

 

その名はオールフォーワン。

 

個性を奪い与えるという個性を持った超常黎明期から生き続けるとも言われる最恐の(ヴィラン)です」

 

 

僕の言葉に、三人の表情が強ばった。

 

 

「個性を、奪い与えるだ?

 

そんなバケモンまでいやがるのかよ」

 

「そんなの、なんでもありじゃねぇか!」

 

「個性を貰ったという話からまさかとは思っていたが、実在していたのか」

 

 

エンデヴァーは恐らく情報を持っていたのか、そこまで驚いている様子はない。

 

 

「オールフォーワンには弟がいました。

 

弟は個性が発現せず、兄であるオールフォーワンから力をストックす個性を無理矢理与えられました。

 

けど無個性だと思われていた弟には、実は個性は確かに宿っていたんです。

 

ただ、個性を与えるだけの個性が」

 

 

それを聞いてかっちゃんは、何かに気付いた様にこちらを見た。

 

 

「まさか、個性が混ざったのか?」

 

 

その言葉に轟君は強く反応する。

 

 

「うん。

 

力をストックする個性と、個性を与える個性。

 

その2つが混ざり生まれたのが、僕が受け継いだONE FOR ALLなんだ」

 

 

僕の話に、誰もが聞き入っていた。

 

 

「けど一代目の力ではオールフォーワンを倒す事は叶わず、敗れた。

 

だから一代目は決めたんだ。

 

この力を受け継ぎ次代に託そうと。

 

いつかオールフォーワンを討つ力にする為に。

 

これが僕がオールマイトから聞いたONE FOR ALLの歴史です」

 

 

僕が話終わると、エンデヴァーは眉間を抑えた。

 

 

「全く、頭の痛くなる様な話だ……」

 

 

けど次には鋭い目付きに変わり、僕を見る。

 

 

「とにかく貴様の個性に関しては分かった。

 

だがまだ肝心な事を聞いていない。

 

何故焦凍や貴様らがマフィアに襲われた。

 

そのONE FOR ALLが原因か」

 

「いえ、違います。

 

ここからは、僕が受け継いだ物じゃなくて、僕自身の事です」

 

 

次の話に移ると、三人は再び僕を見た。

 

 

「さっき言ったように、ジャックファミリーはイタリアのマフィアで、ジャックはそのボスでした。

 

それと同じ様に、僕はイタリアのマフィアであるボンゴレファミリーの一世の血を引いているんです」

 

 

僕の言葉を聞いた三人はその顔を驚愕に再び染める。

 

 

「緑谷が、マフィア?」

 

「正確には、後継者候補なんだ。

 

僕も二年前に聞いた時は信じられなかったけど…」

 

 

動揺する轟君の横から、鋭い視線を感じた。

 

 

「なら、あの死ぬ気とかいう力もマフィアの力って事か」

 

 

かっちゃんはそう言って僕を見る。

 

 

「……うん。

 

今まで騙してて、本当にごめんね」

 

 

僕の言葉に、かっちゃんはため息をつき、再び僕を見る。

 

 

「この貸しはデケーぞ」

 

「うん、いつかちゃんとお詫びするよ」

 

 

そして僕がエンデヴァーを見る。

 

その目は明らかに敵意を宿していたけど、僕は続ける。

 

 

「つまり、ジャックはボンゴレの後継者候補である僕を潰す為に僕と友達を襲い、友達に打ち込まれた毒の解毒剤を得る為に僕は二人を巻き込みました。

 

関係の無い二人を巻き込んだ事は反省していますが、僕は自分の行いを後悔していません。

 

僕一人なら、どんな刑罰でも受けます。

 

ですから、どうか二人は、見逃して下さい」

 

 

そう言って僕は、深々とエンデヴァーに頭を下げた。

 

 

「デク、テメェふざけんな!」

 

「そうだ緑谷!俺達だって無資格で個性を使ったんだ!

 

それに俺達だって炎を救いたくて戦ったんだ!

 

お前が罰を受けるってんなら、俺達も!」

 

「静かにしろ」

 

 

僕に食いついてくる二人を制止したのは、以外にもエンデヴァーだった。

 

 

「確かにお前達は無資格で個性を行使した。

 

そしてその中で他人に暴行を加えた。

 

いくら友を救う為とは言えこれは立派な犯罪行為であり、お前達はそれ相応の処罰を受けるべきなのだろう。

 

それを踏まえて言おう」

 

 

そしてエンデヴァーは僕の目の前に立ち、その炎を昂らせる。

 

 

「緑谷出久!貴様を拘束する!」

 

 

その言葉と共に、活川さんはメスを取り出して臨戦態勢に入る。

 

 

「お、落ち着いてくれエンデヴァー!」

 

 

オールマイトが間に入ってエンデヴァーを止めようとする。

 

だがエンデヴァーは止まらない。

 

 

「オールマイト!貴様ふざけているのか!

 

目の前にいるのは日本で言えば指定(ヴィラン)団体の跡継ぎだぞ!

 

そんな危険人物を放っておくつもりか!」

 

 

エンデヴァーの言う事は正しい。

 

僕は犯罪者なんだ。

 

 

「おいNo.2、あまり図に乗るなよ。

 

ここでお前が彼をどうこうするつもりなら、私は容赦なくお前を殺すぞ」

 

 

活川さんは殺気の篭った目がエンデヴァーを鋭く睨むが、エンデヴァーは全く意に返さない。

 

 

「貴様もマフィアの関係者とあらば拘束させて貰うぞ」

 

「っ?!待って下さい!

 

捕まえるなら僕一人だけです!

 

活川さんも僕が巻き込んだんだ!」

 

「緑谷、お前まだそんな!」

 

「俺ら守ってるつもりか?!アァ?!」

 

 

場の空気が一気に悪くなる。

 

このままではいつ戦闘が始まってもおかしくない。

 

その時だった。

 

 

「待ちたまえ、エンデヴァー」

 

 

エンデヴァーの肩を力強く掴む、オールマイト。

 

 

「まだ何か用か。

 

奴を庇うならば、貴様であっても!「聞いてくれ」っっ?!」

 

 

エンデヴァーは目を見開く。

 

肩を掴むオールマイトの全身から、湯気の様な物が立ち上っていたからだ。

 

 

「緑谷少年が全てをさらけ出したんだ。

 

私も全てを話すのが、筋という物だろう」

 

 

そう言いながら、オールマイトの体は徐々に萎んでいった。

 

 

「なっ?!」

 

「アンタは?!」

 

「デクの、コーチ?!」

 

 

オールマイトの体はやせ細り、本当の姿(トゥルーフォーム)になった。

 

 

「エンデヴァー。

 

私にはもう、ヒーローとしての時間はあまり残されていないのだよ。

 

無論私が引退したとしても、君や素晴らしいヒーロー達がいる。

 

だが、君も他のヒーローも永遠ではない。

 

だから、必要なのだよ。

 

平和の象徴を継ぐ者が、必要なんだ」

 

 

エンデヴァーは呆気に取られ、気付けばその身を包む炎が消え去っていた。

 

そして項垂れる様にベッドの傍の椅子に座る。

 

 

「では平和の象徴よ、一つ問おう。

 

何故、お前は緑谷出久を選んだ」

 

 

エンデヴァーの問いに、オールマイトは静かに語り出す。

 

 

「彼は無個性でありながらもヒーローの道を諦めず、友の窮地にその身一つで飛び出した。

 

無論それは褒められた行為では無いし、下手をすれば犬死だ。

 

だが、その時私は思ったのだよ。

 

あの場のヒーローが自らとの相性を考え、あの状況を見ている事しか出来なかったその中で、鍛えているとは言え何の力もない無個性な緑谷少年こそが、あの場の誰よりヒーローだったと」

 

 

オールマイトが語り終わると、エンデヴァーは静かに立ち上がる。

 

 

「………緑谷出久」

 

「はい」

 

「次に貴様が法を犯す様な事があれば、俺が貴様を捕らえる」

 

「肝に銘じておきます」

 

 

それを聞くとエンデヴァーは病室の扉を開き外に出る。

 

 

「焦凍、帰りは冬美が迎えに来る。

 

夕方には到着するらしいから、荷物を纏めておけ」

 

「え?あ、あぁ……」

 

 

突然声をかけられたからか、轟君は驚きながらも答えた。

 

 

「良かったなデク。

 

No.2から直々に捕まえる宣言だぞ」

 

「いや嬉しくないよ?!」

 

 

そして突然リボーンにからかわれ、僕はいつもの癖で返してしまった。

 

その後僕は少し話した後、病室を後にした。

 

その後ボンゴレの関係者にかっちゃんが、冬美さんっていう轟君のお姉さんに轟君が家に送り届けられたと聞いた。

 

その夜僕は母さんの作った豪華な退院料理に舌を鳴らしながら、これからの生活に思いを馳せていた。




次回予告!

出久「これで、全てが終わった。

これからは出るだけ平穏な毎日を…」

リボーン「次回はジャックファミリー討伐のご褒美に、俺が最高に楽しいテーマパークに連れてってやるぞ」

出久「早速平穏が崩れる音が?!

次回!『標的(ターゲット)25 おいでませマフィア(ランド)』!

更に向こうへ!Plus ultra!!」


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標的(ターゲット)25 おいでませマフィア(ランド)

正直この遅れに言い訳とか付けようがないんですが、前話を書いた後全然話が書けなくなってしまってこれ程遅れを出してしまいました……。

これからも投稿ペースが安定するかどうか分からないですが、どうか飽きずにお付き合い下さい…。


「これで、最後っと」

 

 

ジャックファミリーの襲撃から五日が立ち、僕は平穏な生活に戻っていた。

 

あの後僕達が(ヴィラン)に襲われたと聞いたクラスメイトから沢山の心配のメッセージが届いた。

 

ちょっと不謹慎だけど、僕はその事実が少しうれしく感じていた。

 

そして今最後の一人に返信し終わり少し息をつくと、玄関の方からドアの閉まる音が聞こえた。

 

 

「あ、母さんおかえり」

 

「ただいまぁ」

 

 

僕は部屋から出て母さんを迎える。

 

両手に持った買い物袋を受け取って、僕は母さんが嬉しそうにしているのが見えた。

 

 

「どうしたの?」

 

「実はね、商店街の福引で特賞当たっちゃったのよ!!」

 

「へぇ、よかったね!」

 

 

嬉しそうな母さんを見ると、なんだか僕まで嬉しくなった。

 

そして買い物袋をダイニングのテーブルの上に置いて中から一つの封筒を取り出した。

 

 

「じゃーん!これ!豪華客船で南の島に行くの!」

 

「えぇ?!凄いね!」

 

 

母さんはそのチケットを高く掲げてヒラヒラと振る。

 

 

「しかもこれ、1グループ10人まで行けるのよ!」

 

「商店街のくじ引きの景品だよね?!

 

……ていうか1グループ10人までって言っても、今この家にいるのリボーン含めても3人だけだよ?」

 

「そうなのよ。

 

だから知り合いでも誘おうかなって思って。

 

爆豪さん達なんかいいんじゃないかしら?」

 

「いいかもね」

 

 

そういえば最近かっちゃんのお父さんに会ってないなぁ。

 

凄く優しい人で、昔かっちゃんの家に行く度にお菓子くれたっけ。

 

 

「あ、そういえば出久の新しい友達の、轟君だっけ?

 

私会ったこと無いから、この機会に誘ってみない?」

 

「うん、後で聞いてみるよ。

 

けど、他はどうするの?」

 

「うーん………。

 

まぁ別に10人居なきゃ行けない訳でもないし、船が出るのは3日後だからそれまでに考えておけば大丈夫よ」

 

「それもそうだね」

 

 

僕は母さんとの会話を終えて自分の部屋に戻った。

 

 

「どうしたんだデク」

 

「あ、リボーン。

 

実は母さんが豪華客船の招待状を福引で当てたんだけど、招待できる人数が多いし、誰を誘おうかなって」

 

 

それを聞いたリボーンは少しニヤリとして僕を見る。

 

 

「なら夏樹を誘えばいいじゃねぇか。

 

ちょうど昨日退院したらしいからな」

 

「いや、それは……」

 

 

僕はリボーンの提案に難色を示す。

 

この前の一件は僕のせいで炎さんが危険な目にあったんだ。

 

炎さんにはマフィア絡みの事は伏せて人違いで僕達を襲った(ヴィラン)だと説明してあるけど、それでも……。

 

 

「この前巻き込んじまった事に責任感じるかも知れねーが、逆に考えてみろ。

 

そんな夏樹を超楽しいテーマパークに連れてって詫びを入れるんだ。

 

どうだ?理にかなってるだろ?」

 

「そう言われれば、確かに……」

 

 

なんか、丸め込まれている様な気がするけど……。

 

 

「それはそうと、他に誘う奴は決めてるのか?」

 

「一応、かっちゃんとその両親二人、轟君とかかな?」

 

「ママンは誰か誘うって言ってたのか?」

 

「さっき言ったのが母さんの提案なんだ。

 

それでもまだ人数に余裕があるんだ」

 

 

僕が悩んでいると、リボーンは僕の肩に飛び乗った。

 

 

「まぁ、まだ時間があるんなら今は考えなくてもいいだろ。

 

それより昨日までサボってた分のトレーニングだ。

 

とりあえずジムまで走るぞ」

 

「いや、別にサボってた訳じゃ……。

 

ていうか、雄英の受験までは時間があるしそんなに急いで鍛えなくてもいいんじゃない?」

 

 

僕がそう言うとリボーンは僕の頭を小突いた。

 

 

「何言ってんだ。

 

この前のジャックとの戦いをもう忘れたのか?

 

あの時はお前が(ハイパー)死ぬ気モードへの覚醒があったから勝てただけだ。

 

毎回都合よく今回みたいな事が起こるわけねーだろ」

 

 

……確かにそうだ。

 

あの時、僕の力は全くと言っていいほど通じていなかった。

 

レオンとリボーンのおかげで勝てたんだ。

 

もしまた誰かがぼくを狙って襲撃して来た時、また僕の力が通じなかったら……。

 

 

「ごめん、僕の考えが甘かったよ」

 

 

ジムに行くために僕はジャージに着替えて母さんに出かけると伝えて家を出た。

 

 

「信号以外では止まらず、一定のペースを保つんだぞ。

 

それと道中はこれを背負ってろ」

 

 

リボーンはそう言うと黒い大きめのリュックを取り出した。

 

それを受け取ると想像以上の重さに腕が伸びきる。

 

 

「うわ、何これ?!」

 

「2リットルのペットボトルが10本入ってんだ。

 

道中の水分補給はこれで安心だな」

 

「いや負担増してない?!」

 

 

明らかにリボーンがニヤけてる。

 

これはわざとやってるな……。

 

 

「ちなみに、道中は余程のことが無い限りは個性使うなよ」

 

「わかってるよ」

 

 

僕は家を出て、ランニングを始めた。

 

 

「そういえば、ジャック達ってどうなるんだろう」

 

「なんだ急に」

 

「いや、少し気になって」

 

 

僕の質問にリボーンは眉間に皺を寄せた。

 

この前戦ったばかりの相手を気遣うなんて、やっぱりおかしいよね。

 

 

「捕らえたのは復讐者(ヴィンディチェ)だからな。

 

あいつらに捕らえられた奴らの顛末は誰にも分からねぇ。

 

ただ言えることは、復讐者(ヴィンディチェ)に捕らえられた奴の姿を再び見ることは叶わないって事だけだ」

 

 

リボーンの言葉に、改めて自分がどんな世界に巻き込まれたのかを実感した。

 

そして、友達をそんな世界に巻き込んでしまった事を強く後悔した。

 

 

「お、信号赤だぞ」

 

「うん」

 

「水分補給しないなら腿上げしとけ。

 

なるべく無駄に体を冷まさない様にな」

 

「分かってる」

 

 

僕は腿上げをしながら、自分の拳を見る。

 

この体に宿る、二つの力。

 

悪を討つ為に受け継がれてきたONE FOR ALLに、裏社会を牛耳るマフィアの力。

 

相反する力をどう使っていけばいいのか、未だに答えは出ない。

 

ヒーローになったとして、(ヴィラン)との戦闘は避けて通れない。

 

そしてその(ヴィラン)がもし仮にONE FOR ALLを超える力を持っていたら……。

 

いや、実際僕の力はジャック相手に通じなかった。

 

だけど、だからと言ってリボーンが居なければ使えない力に頼っていたら、いつかリボーンが居なくなった時に僕は…。

 

 

「何してんだデク。信号変わったぞ」

 

「あ、ごめん…」

 

 

僕はリボーンに言われて慌てて走り出す。

 

 

「何考え込んでんだ」

 

「え?」

 

「ま、大方2つの力がどうとか考えてたんだろ」

 

 

普通に見破られてるし……。

 

 

「ジャックと戦って分かったんだ。

 

僕がいくらヒーローになる事を望んで力をその為に使ったとしても、いずれマフィアとしての運命から逃げられなくなる。

 

僕が何と言おうと相手には関係なくて、結局誰かを巻き込んでしまう」

 

 

僕はリボーンに弱音を吐く。

 

 

「まぁ、確かにな」

 

 

リボーンはそう言って空を見上げる。

 

 

「血筋ってのは、それだけで敵を作っちまう事がある。

 

特にボンゴレみたいな裏社会で絶大な力を持つ者の血筋なら尚更にだ。

 

だが、だからこそお前は強くならなきゃいけねぇ。

 

大切な誰かを巻き込んじまうなら、その脅威から守れるくらい強くなれ。

 

戦いに身を投じると決めたのなら、それがお前の責任だ」

 

 

リボーンの言葉を聞いて、僕の頭に色々な人が思い浮かんだ。

 

母さんや、中学の友達。

 

かっちゃんや轟君。

 

そして、炎さん。

 

確かにそうだ。

 

どう足掻いても僕が狙われることが変わらないのなら、僕自身が強くなって皆を守ればいいんだ。

 

簡単な事じゃないけど、それでもやらなきゃいけないんだ。

 

そんな事を考えながら走っていると、いつの間にかジムの前に着いていた。

 

 

「そういえば、活川さんにまだちゃんとお礼言ってなかったな」

 

「どうせ気にしねぇだろうが、まぁ一応しといたほうがいいかもな」

 

 

僕はそのまま医務室に向かって、ドアをノックする。

 

 

「活川さん、いますか?」

 

「ん?あぁ緑谷君か。

 

入っていいぞ」

 

 

活川さんの返事を聞いて、僕は医務室のドアを開く。

 

すると中には2つの試験管を持つ活川さんの姿があった。

 

 

「活川さん、それは?」

 

「これかい?

 

これは新しく作った死ぬ気薬さ。

 

この前の戦いで消費してしまったからね」

 

 

そう言って活川さんは試験管を揺らす。

 

するとそこの方に僅かに黄色の液体が入っているのが見えた。

 

 

「それだけなんですか?

 

前使っていた時にはもっとあったような」

 

「この原液を何倍にも希釈して使うんだ。

 

このまま使うと死ぬ気を通り越して死にかける。

 

試してみるかい?」

 

 

活川さんはそう言って試験管を差し出す。

 

 

「いや使いませんよ!」

 

「冗談に決まっているだろう。

 

そんなことしたら君の家庭教師に殺されてしまう」

 

 

活川さんはそう言って笑う。

 

そして試験管を台にのせて僕の方を振り返る。

 

 

「それで今日はどうしたんだい?

 

今日は訓練の日ではなかった筈だが」

 

「あぁ、俺が来させたんだ」

 

 

リボーンはそう言いながら机に飛び移った。

 

 

「また何か企んでるんじゃないだろうな」

 

 

活川さんは疑いの目をリボーンに向けるが、本人はそれを全く気にしていない。

 

 

「俺がそんなことするような奴に見えるか」

 

「見えるから言ったんだ」

 

 

勝川さんは大きくため息をつき、椅子に腰掛ける。

 

 

「それで、何の用なんだ?」

 

「いや、僕がお礼を言いたくて」

 

 

僕がそう言うと活川さんはポカンとした顔で僕を見た。

 

 

「お礼?一体何のお礼だい?」

 

「いや、この前ジャックファミリーとの戦いで助けてくれたじゃないですか」

 

 

僕の言葉に活川さんは「あぁ」っと思い出したような声を上げた。

 

 

「そのことなら気にするな。

 

ジャックファミリーとは個人的な恨みもあったし、今回私が君を守っていた理由の半分はボンゴレからの依頼でもあったからね」

 

 

活川さんはそう言って机の上のマグカップにコーヒーを注いで一口飲んだ。

 

 

「それでも、あなたがいなかったら僕はジャックの元までたどり着くことができなかった。

 

だから、ありがとうございます」

 

「君は変なところで頑固だな。

 

まぁ、その気持ちは受け取っておくよ」

 

 

活川さんはそう言って笑う。

 

その活川さんを見て、僕はあることを思い出した。

 

 

「そうだ!

 

そういえば、僕の母さんが商店街の福引で豪華客船の旅の10人まで行けるチケットを当てて、まだ人数が余ってるしどうですか?」

 

 

活川さんはそれを聞いて僅かに眉間に皺を寄せた。

 

 

「この時期に豪華客船って……そう言うことか。

 

あぁ、それならその言葉に甘えさせて貰おうか」

 

 

活川さんはそう言って立ち上がる。

 

 

「まぁそれはそれとして、今日はトレーニングに来たんだろ?

 

爆豪君達が来ないなら私が相手になろう」

 

「いいんですか?」

 

「あぁ。

 

この前の戦いで、私も自分の腕が訛っているのを実感してね。

 

これから君の家庭教師(かてきょー)としてやっていくには、現役時代の更に上の力がいるからね」

 

 

そうか、上を目指すのは僕みたいな素人だけじゃなくて、活川さんみたいなプロの世界を経験した人も同じなんだ。

 

………って、家庭教師(かてきょー)?!

 

 

「え、活川さんもなんですか?!」

 

「あぁ。そこの赤ん坊から言われたのもあるが、あの9代目からの頼みは断れないさ」

 

 

活川さんがここまで言うなんて、やっぱり9代目って大物なんだ…。

 

 

「それじゃあ準備をするから待っていてくれ」

 

 

それから僕は活川さんと3時間程トレーニングをして、活川さんの車で家へと帰っていた。

 

 

「そういえば君、勉強の方は大丈夫なのかい?」

 

「え?大丈夫ですけど、どうしたんですか?」

 

「いや、ここ最近訓練したりトラブルに巻き込まれたりと色々あっただろ?

 

それで心配になってね。

 

雄英の試験までもう半年程度しか残っていないしね」

 

 

確かに最近色々とバタバタしてたし、本腰入れて勉強はできてない。

 

けどまぁ宿題とかは終わってるし、特別焦る事も無いかな。

 

 

「もし二学期の中間試験で1位取れなかったらボンゴレ式ねっちょりトレーニングだからな」

 

「んーっ!帰ったら一学期の復習でもしようかなぁ!」

 

 

嫌な予感しかしない名前にとりあえず誤魔化そうと少し大袈裟に声を出す。

 

その様子に活川さんは苦笑していた。

 

 

「まぁ、君にそういった心配がいらないことは十分かっているさ。

 

話は変わるが、今回の旅行に爆豪君達は誘うのか?」

 

「そうですね。かっちゃんとかっちゃんの両親と轟君を誘ってます。

 

まだ返事待ちですけど」

 

 

それを聞いた活川さんは「ふむっ」と言って片手を顎に当てて何かを考える様な仕草をとる。

 

 

「夏樹君は誘わないのか?」

 

「へ?」

 

 

活川さんがリボーンと同じ事を言った事に僕は驚いて変な声が出た。

 

 

「リボーンにも同じ事言われました。

 

けど、あんな事があった後に誘うのも気が引けて…」

 

「そうかい?結構喜ぶと思うが」

 

「え?何でですか?」

 

「え」

 

 

僕が聞くと活川さんは驚きリボーンの方を見る。

 

 

「リボーン、まさか緑谷君は」

 

「まぁ、そういう事だ」

 

「え?何の話?」

 

 

何故か活川さんはため息をつきながら車を停めた。

 

 

「まぁとりあえず私は人数に余裕があればでいい。

 

それとさっき言った様に、夏樹君は君が誘えば喜ぶと思うから、とにかく試しに誘ってみるといい」

 

「分かりました。今日はありがとうございました」

 

「あぁ、また今度」

 

 

僕が車を降りると、活川さんはそのまま車で去っていった。

 

リボーンを肩に乗せてそのまま自分の家まで階段で上がる。

 

 

「んで、どうするんだ?」

 

「炎さんの事?

 

誘うだけ誘ってみようかなって」

 

 

僕は家の扉を開けながらリボーンに答える。

 

母さんに帰りの挨拶を済ませて自分の部屋に戻る。

 

どうやら爆豪家はかっちゃんとかっちゃんのお母さんだけが来るらしい。

 

かっちゃんのお父さんとも久しぶりに会いたかったけど、どうやら仕事が忙しいらしいから仕方がない。

 

それから残りの人数は僕が誘いたい人を誘っていいらしい。

 

それから僕はまず轟君にメッセージを送り、その後炎さんとのトーク画面を開く。

 

 

「どうやって聞こうかな」

 

「普通に誘えばいいじゃねぇか」

 

「そうは言っても、あんな事があった後だよ?」

 

 

僕が聞くと、リボーンはあからさまにため息をついた。

 

 

「そういう時だからこそ普段通りに誘うんだろうが。

 

ここで変にかしこまったりしたら余計相手に気ィ遣わせるぞ」

 

 

なるほど、確かに……。

 

僕はスマホのキーボードで文字を打ち込んで一応内容を確認して送信する。

 

 

 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

 

 

出久【炎さん、突然ごめんね。

   実は母さんが商店街の福引で豪華客船の旅の

   チケット当てたんだけど、そのチケットで

   9人まで同行できるみたいで、今身近な人に

   声をかけてる所なんだ。

   それで、この前人違いとは言えあんな事に

   巻き込んじゃったし、お詫びにどうかなって

   思ったんだけどどうかな?】

 

 

 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

 

 

僕がメッセージを送るとすぐに既読の表示がつき、返信がきた。

 

 

 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

 

 

夏樹【そんなの気にしなくていいのに(笑)

   確かにあの時は怖かったけど、それは緑谷も

   同じでしょ?

   ていうか、豪華客船の旅って商店街の福引で

   当たるもの?】

 

出久【それは僕も思ったんだけど、割とそういうの

   はあるみたいだよ?

   それで、どうかな?】

 

夏樹【私は行きたいけど、親に聞いてみないと分か

   らないかな。

   まだ親が帰って来てないからそれからでも

   いい?】

 

出久【うん。大丈夫だよ】

 

夏樹【それじゃあ後で返信するね】

 

 

 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

 

 

僕はやり取りが一区切りついた事を確認して、スマホを置いた。

 

 

「まぁまぁだな」

 

「なんの評価?」

 

 

そんなリボーンとのやり取りをしながら、僕は二学期の予習に取り掛かった。

 

 

 

…………………………

 

 

 

私の名前は炎 夏樹。

 

私には想い人がいる。

 

その名前は緑谷 出久。

 

私が学校の窓から落ちてしまった時に助けてくれて、それから私は彼の事が好きになった。

 

それまではクラスメイトから馬鹿にされたりしていて私もそれを見て見ぬふりしていたくせに、助けてくれたら好きになるなんて単純で自分勝手だとは思う。

 

けど、それでも私はその時の緑谷の強い瞳に心を奪われた。

 

そして2年間告白も出来ずいて、夏祭りでやっと覚悟を決めて告白しようとした。

 

そんな時に、あの事件は起こった。

 

想いを告げる言葉に割り込んできた人がいて、私達はその人に襲われて、そして私はその人の仲間に毒を撃ち込まれた。

 

それからの事は、実は朧気に覚えている。

 

薄れて行く意識の中で、男の人が私の命をかけたゲームだと言い、その後緑谷が叫んでいた。

 

そして目が覚めて直ぐに見た、傷だらけで服もボロボロの緑谷の姿。

 

あの時数秒だけしか意識が保てなかったけど、それでも覚えてる。

 

泣きながら笑って、そして疲れ果てた様に私の寝ていたベッドに頭を伏せて眠ってしまった姿。

 

緑谷は否定してるけど、私はその姿で確信した。

 

緑谷が、私を助けてくれたんだって。

 

やっぱり緑谷は、私のヒーローだって。

 

そして今、そんな緑谷から、旅行に誘われました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

いやいやいやいやいやいや、ちょっと待って?!

 

な、なんで?!

 

こ、これってアレなのかな?!

 

実質デートのお誘いなんじゃないかなぁ?!

 

えー!ちょっと待ってよ表情筋が仕事してない!

 

絶対今ダラしない顔してる!

 

と、ととと、とりあえず、この事を涼子に知らせなければ!

 

 

私は慌てながらスマホを取って今のありのままの状況をメッセージで無駄に長い文章で送った。

 

そして帰って来た返信は…

 

 

 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

 

 

涼子【それ普通にお詫びとかじゃない?】

 

 

 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

 

 

うん、まぁ、涼子とも長い付き合いだし、涼子がそういう結論を先に言っちゃうタイプだってのは重々承知してるよ。

 

けどね?

 

 

「そこまではっきり言う事無いじゃん!」

 

『こーやってすぐに電話する行動力を何故告白に活かせないのか』

 

 

ぐうの音も出ない。

 

 

「またはっきり言う…」

 

『言っておくけど、多分夏樹からアプローチしないと一生付き合えないよ?

 

緑谷の頭の中はヒーローでいっぱいな訳だし』

 

「分かってはいるんだけど…」

 

 

確かに、私は緑谷の目標に真っ直ぐ向かっていく姿がかっこいいと思ってた。

 

けど真っ直ぐすぎるんだよなぁ…。

 

 

「そーだよね。

 

私のアプローチに気付かない程だし…」

 

『いや、それは夏樹のアプローチ不足』

 

「だから言い過ぎだって!」

 

『事実だからしょうがないよね』

 

 

さっきから似た様な会話が繰り返される。

 

だけど、自分でも分かってる。

 

私からアプローチしたのなんて数えるくらいだし、それも大した事をしていない。

 

普通に緑谷との会話とかが楽しくて…。

 

 

『ていうか、迷う理由あるの?

 

まぁあんな事の後だし、夏樹の親が心配するだろうけど』

 

「いや、そこは大丈夫だと思うんだけど、ただ緑谷から旅行に誘われるとか今まで考えた事も無くて、どうすればいいか分からなくなって…」

 

『それで私に電話したと』

 

「うん…」

 

 

私が答えると、電話から「んーっ」と何かを悩むような声が聞こえた。

 

 

「涼子?」

 

『ねぇ夏樹、その旅行に行く人数ってまだ余ってる?』

 

「緑谷に確認しないと分からないけど、なんで?」

 

『いや、私も行こうかなって』

 

 

涼子の意外な言葉に私は驚いた。

 

けど、どうして涼子も?

 

 

『夏樹1人じゃ心配だもん。

 

どうせ行ったとしてもノープランになるだろうし』

 

「そんな事は!…………あるかも」

 

『でしょ』

 

 

やっぱり涼子は私の事をよく理解しているみたいだ。

 

残念な認識なのは気になるけど。

 

 

「それじゃあ緑谷に聞いてみるよ」

 

『オッケー。

 

ていうかその前に両親に確認でしょ』

 

「あ、そっか。

 

それじゃあ後でかけ直すね」

 

『ほいほい』

 

 

 

…………………………

 

 

 

予習を始めて数分、スマホから通知音が鳴る。

 

手を止めて画面を見ると、轟君からメッセージが届いていた。

 

 

 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

 

 

焦凍【その旅行、まだ人数余ってるか?】

 

出久【余ってるけど、どうしたの?】

 

焦凍【姉さんを連れて行きたいんだ。いいか?】

 

出久【一応確認してみるね】

 

焦凍【あぁ】

 

 

 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

 

 

僕はそのままスマホを持ってリビングに行き、母さんを探す。

 

どうやら夜ご飯の支度をしていたみたいで、母さんはキッチンから出て来た。

 

 

「出久、どうしたの?」

 

「あ、母さん。

 

轟君がお姉さんを連れて行きたいって言ってるんだけど、いいかな?」

 

「えぇ、いいわよ」

 

「ありがとう」

 

 

笑顔で承諾してくれた母さんに僕はお礼言いながら僕は轟君にメッセージを送る。

 

 

 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

 

 

出久【大丈夫だよ】

 

焦凍【分かった、ありがとう】

 

出久【そういえば船の屋上と行った先にプールが

あって海もあるらしいから、そこで遊びたかったら

水着持って行った方がいいかも】

 

焦凍【分かった、姉さんにも伝えとく】

 

 

 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

 

 

なんだかんだで、もう残りの枠は一つになっていた。

 

さて、あと1人はどうしようかな。

 

僕は考えながらスマホを見る。

 

するとちょうどそのタイミングでスマホが震えて、画面を見るとそこには炎さんからのメッセージの通知が表示されていた。

 

僕はトーク画面の炎さんのメッセージを見る。

 

 

 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

 

 

夏樹【何回もごめんね?

   確認なんだけど、まだ定員って空いてる?】

 

出久【空いてるけど、誰か誘いたい人でもいる?】

 

夏樹【うん。涼子誘いたくて】

 

出久【ちょうどあと1人空いてて、誘う人もいない

   からいいよ】

 

夏樹【ありがとう。涼子にも伝えておくね】

 

出久【うん】

 

 

 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

 

 

これで人数は10人だ。

 

一応纏めておくかな。

 

まずは僕と母さんとリボーンの3人、かっちゃんとそのお母さんの2人、轟君とそのお姉さんの2人、炎さんと風間さんの2人、そして活川さん。

 

これで合計10人だ。

 

とりあえず母さんに報告して、僕も準備をした。

 

 

 

そして時間は経ち、出発当日。

 

船に乗るメンバーはそれぞれキャリーケースやボストンバックを持ち僕達の住むマンションの前に集まっていた。

 

 

「ここで集合なのは知ってたけど、ここからどうするの?」

 

 

そう母さんに質問したのは、かっちゃんの母さんだ。

 

 

「一応メールの通達にはここまでマイクロバスで迎えが来るって書いてたけど」

 

「そういえば、出久君以外は初めましてよね。

 

私は勝己の母親の爆豪光己です」

 

 

かっちゃんのお母さんはそうにこやかに自己紹介をする。

 

するとそれに反応したのか、轟君とそのお姉さんが前に出る。

 

 

「俺は緑谷と……って親もいるのか。

 

出久と勝己の友達の轟 焦凍です」

 

「アァ?!誰が友達だァ?!」

 

「ちょ、かっちゃん落ち着いて?!」

 

 

轟君の言葉に反応したかっちゃんを僕が止めて、かっちゃんの言葉を聞いてかっちゃんのお母さんがキレそうになるもそれを僕のお母さんが止める。

 

 

「あ、えっと、私は焦凍の姉の轟 冬美です」

 

 

それに困惑しながらも轟君のお姉さんの冬美さんも続いて自己紹介をする。

 

 

「わ、私は出久君や勝己君のクラスメイトの炎 夏樹です!」

 

「同じく、風間 涼子です」

 

「あら、あなたは…」

 

 

母さんが炎さんの顔を見て少しだけ表情を曇らせる。

 

 

「あ、はい。その節は…」

 

「あ、違うのよ?!

 

 

炎さんがお辞儀をして、それに母さんが慌てる。

 

 

「ただ、あんなことがあった後だし、体調とか大丈夫?」

 

「それは大丈夫です。

 

活川先生のお陰で後遺症も無くて」

 

 

炎さんが笑顔で答えると、母さんもぎこちないけど笑顔で「よかった」と返す。

 

 

「後は私だけか。

 

私は活川命子。緑谷君たちの通うジムで医者をしています。

 

今回は緑谷君に誘われた事もあり同行することとなりました。

 

以後よろしくお願いします」

 

 

活川さんは軽く会釈をし、初対面の人達は会釈を返す。

 

そしてタイミング良く道の先にマイクロバスらしき車が見えた。

 

 

「あ、もしかしてあれじゃ無いかしら?」

 

 

かっちゃんのお母さんが気づいて僕の母さんに声をかける。

 

皆はそれを見てそれぞれの荷物を手に取る。

 

そして車は僕達の前で止まり、助手席からメガネをかけた女性が降りてくる。

 

 

「お待たせしました。

 

緑谷様御一行でお間違いありませんね?」

 

「あ、はい。

 

お迎えの方ですよね?」

 

「はい。

 

今回皆様の旅の案内を務めさせて頂きます、ガイドのオレガノと申します」

 

 

オレガノと名乗った女性は後部座席のスライドドアを開けて手で僕らを招く。

 

 

「さぁどうぞ。

 

お忘れ物などございましたらお申し付け下さい。

 

移動を含めても時間に余裕がございますから、ご自宅までお送りいたします」

 

 

オレガノさんの言葉に何人かバックの中を確認する。

 

 

「皆さん、忘れ物はございませんか?」

 

「大丈夫です」

 

 

母さんがそう言うと、荷物を見ていた人たちが頷く。

 

 

「ではお乗りください。

 

船着場はここから一時間程です。

 

途中高速道路に乗りますが、通過するパーキングエリアやサービスエリアでは休憩を取りますので、お手洗いや買い物がございましたらお申し付けください」

 

 

オレガノさんの言葉に僕を含む10人が頷いた。

 

そしてそのまま10人とも乗り込み、オレガノさんが扉を閉める。

 

 

「それでは出発いたします。

 

シートベルトの方は大丈夫でしょうか?」

 

 

母さんは全員の腰と肩を見てオレガノさんの方へ向き直る。

 

 

「大丈夫です」

 

 

母さんの返事にオレガノさんは笑顔で返し、運転手の人に「出発よ」と声をかける。

 

運転手さんは頷き、車はゆっくりと動き出す。

 

車の中で、僕達はそれぞれ雑談で時間を潰していた。

 

 

「そーいえば緑谷達って雄英受けるんだっけ?」

 

風間さんが僕とかっちゃん、轟君を見てそう言った。

 

 

「そうだね。轟君は確か推薦入試受けるんだよね?」

 

「あぁ、親父の名声ありきだけどな。

 

まぁ、利用出来る物はするさ」

 

 

轟君はそう言って持っていたペットボトルのお茶を飲んだ。

 

 

「風間はどこ受けるんだ?」

 

 

今度は轟君が風間さんに聞く。

 

それに風間さんは頬を少し書いて苦笑を浮かべる。

 

 

「いやぁ、それが最近になって少し迷いが出てさ。

 

どうしたものかと」

 

「そろそろやべぇだろ」

 

「そーなのよ」

 

 

それを聞いて炎さんも悩まし気な表情を浮かべる。

 

 

「どうしたの?」

 

「あ、いや、実は私も最近進路変更して、それが結構難関でさ」

 

「へぇ、どこに?」

 

「えっと、それは…」

 

 

僕が聞くと、炎さんは少し視線が泳いだ。

 

どうしたんだろう?

 

 

「夏樹って確か進路雄英に変えたんだよね」

 

「ちょ、なんで言うの?!」

 

「え、炎さんも?」

 

 

僕が聞くと、炎さんは頬を赤らめて苦笑を浮かべた。

 

 

「あ、あはは……」

 

「まぁ、ヒーロー科じゃないらしいけど」

 

 

ヒーロー科じゃないって事は、普通科かサポート科、後は経営科のどれかだ。

 

 

「うん、私は経営科にしようかなって。

 

就職にも有利だし、それに……」

 

「それに?」

 

 

そう聞くと、炎さんは更に顔を赤らめる。

 

大丈夫かな?もしかして体調が悪いのかな?

 

 

「緑谷、その辺にしときな」

 

「そーだぞ緑谷。炎が辛そうだし休ませてやれ」

 

「轟も違う」

 

「え?」

 

 

そんな噛み合ってる様で噛み合ってない会話をしながら、僕達は港に着くまでの時間を過ごした。

 

 

「皆様、そろそろ到着ですのでお手持ちのお荷物の準備をお願いします」

 

 

僕達はそれぞれバッグや小物を手に取り、それと同時に車は減速し出して大きな船が見える大きな通りの前に止まった。

 

 

「それでは皆様、車から降りたら私が案内致しますのでひとまずはあちらの看板の前でお待ちください」

 

 

僕達はオレガノさんの言葉に従って車から降りて大きな看板の下でオレガノさんを待つ。

 

オレガノさんは運転手さんと少し話してから僕達の方へと歩き、その後数秒も置かずに車は走り出した。

 

 

「運転手さんはどうするんですか?」

 

「彼は車を停めてから合流という事になっています。

 

その間に受付を済ませておきましょう」

 

「はい」

 

 

オレガノさんを先頭に僕達はあまり横に広がらない様に奥に見える建物まで歩く。

 

その道中、辺りを見回してみると明らかに僕らとは階級の違う人達がいた。

 

ていうか、僕達以外はそんな感じだ。

 

場違い感が半端じゃない。

 

僕以外にも、ほとんどがそんな感じの事を思っているみたいで気にしていないのはかっちゃんと轟君と活川さんくらいだ。

 

そしてそのまま歩いていると、僕達の前に大きな人影が立ち塞がった。

 

 

「おいおい、来る場所を間違えてねぇか?

 

ここはあんたらみたいな庶民が来る所じゃねぇぞ?」

 

 

こちらを見下すように笑う大柄な男がそこにはいた。

 

それに対して母さんと冬美さん、炎さんが少し怯み、かっちゃんと轟君、かっちゃんの母さんが相手を睨みつける。

 

 

「あぁすみません、うちの者が」

 

 

大柄な男の後ろから細身の男が現れ笑いながらそう言った。

 

しかしすぐにその顔を大柄な男と同じ様な笑みを浮かべる。

 

 

「でもまぁ、これ以上恥をかきたくないって言うなら、帰ることをお勧めしますよ」

 

 

明らかにこちらを小馬鹿にした言動。

 

どういった対応を取るべきか悩んでいると、オレガノさんが一歩前に出る。

 

 

「我々は正式な手続きを踏んでここにいます。

 

あなた方にとやかく言われる筋合いはありません」

 

「どうせたまたまチケットを手に入れただけだろ?

 

個人を指定して招待を受けている俺達とは何もかも違う」

 

 

母さんが目を伏せる。

 

もしかしたら僕達を連れて来た事を申し訳なく思っているのだろうか。

 

だったら違う。

 

母さんは何も悪くない。

 

僕は意を決して反論しようと顔を上げると、後ろから肩を掴まれる。

 

 

「ここは私に任せてもらう」

 

 

そう言って前に出たのは活川さんで、その肩にはリボーンも乗っていた。

 

 

「あ?なんだ女。

 

何か文句でもあるのか?」

 

 

ニヤニヤと活川さんを見下ろす大柄な男。

 

活川さんは表情を変えずに見上げ、次にリボーンを見た。

 

 

「2秒だな」

 

「あぁ、2秒だな」

 

 

急に活川さんとリボーンが謎の会話を初めて、僕達も男達も困惑した。

 

 

「何言ってんだ?」

 

「今私達が言った秒数の意味が分からないなら、君はこの世界に向いていないよ」

 

「あぁ?さっきから偉そうにしやがって!」

 

 

大柄の男が活川さんに怒号を飛ばす中、隣の細身の男の顔が徐々に強張っていく。

 

 

「お、おい、ちょっと待って!」

 

「なんだよ」

 

 

細身の男はリボーンと活川さんを交互に見て、顔を青ざめていた。

 

 

「ボルサリーノを被った黄色いおしゃぶりの赤ん坊って、完全に…」

 

「なっ?!

 

て事は隣の白衣の女は……。

 

待て!じゃあこの連中は?!」

 

((ボンゴレの上層部の御一行?!))

 

「察しが良くて助かるよ」

 

 

あからさまに顔色が悪くなる2人。

 

どうしたんだろう?

 

 

「私たちもプライベートで来てるんだ。

 

騒ぎを大きくしたくはないし、今のうちにさっさと船に乗り込んで私たちの事を忘れると言うのならこの件は不問にしてやってもいい」

 

 

「「す、すみませんでしたぁぁぁぁぁぁ!!!!」」

 

 

な、なんだ?

 

なんで急に態度を変えたんだ?

 

ていうか、あの2人は何を言って……。

 

いや、ちょっと待てよ?

 

リボーンも活川さんも、マフィアの世界では超有名人ってディーノさんが言ってた気が……。

 

でもこれは母さんが福引で当てたって……。

 

 

「どうしたんだ緑谷君」

 

「え?」

 

 

前を見ると、そこにはいつもと変わらない雰囲気で活川さんが僕の方を見ていた。

 

 

「早く船に乗ろう。

 

私はお腹が空いたよ」

 

 

僕の考えすぎ、かな?

 

でもまぁ、流石にこんなに公の出てる様な物にマフィアは絡んでないよね。

 

 

「はい!」

 

 

活川さんに続いて僕達は歩いて行き、搭乗手続きを済ませて船に乗った。

 

そして僕達は船内の豪華絢爛な作りに目を奪われた。

 

なんだこれ?

 

これ本当に商店街の福引の景品で当たる物なのか?

 

 

「引子さん、これ本当に福引で当てた?」

 

「そ、そのはずだけど……」

 

 

母さん達もこれには困惑してるみたいで、炎さん達はもはや訳が分からなすぎるのかぽかんとしていた。

 

 

「おいデク」

 

「わっ、かっちゃん?」

 

 

かっちゃんが僕の服の襟を掴んで引き寄せる。

 

 

「確かあの医者もガキもマフィアの関係者だろ」

 

「そのはずだけど?」

 

「この船まさかそれ関連じゃねぇだろうな?」

 

「それは僕も考えたんだけど、流石にこんなに目立つ船がマフィア関係じゃないんじゃないかな」

 

 

僕がそう言うとかっちゃんんは「そうか」とだけ言って船を見渡す。

 

 

「それではみなさん、お部屋へご案内いたしますので私に着いて来て下さい」

 

 

僕達はオレガノさんについて行き、またそこで衝撃を受けた。

 

 

「えぇ?!全員に個室があるんですか?!」

 

「そうですよ」

 

 

オレガノさんはさも当たり前かの様に言い放ち、まず母さんの部屋の扉を開いた。

 

 

「………何かの冗談、ですよね?」

 

 

母さんの言葉は僕達全員の総意で、誰もが目の前の状況が信じられていなかった。

 

 

「いえ、こちらは緑谷様御一行の為に用意されたVIPルームです」

 

「え、VIPルーム?!」

 

「えぇ。今回緑谷様がお持ちのチケットは国際来賓VIPルーム体験チケットと言って、毎年全国で1グループを招待してこの船での旅を楽しんで頂くと言う企画なのです」

 

 

なんというか、僕達とは違う世界の話のようだ。

 

ていうか本当に住む世界が違うんだ。

 

けどまぁ、そのお陰でこうやって旅行を楽しめるならいいんだけど。

 

 

「引子さん凄いじゃない!」

 

 

それに対してかっちゃんのお母さんは笑顔で母さんの肩を掴んで母さんの顔を見る。

 

 

「だ、大丈夫かしら?

 

私、これで一生分の運使っちゃったんじゃないかしら?」

 

「もー今はそんな事より、この旅行を楽しみましょうよ!

 

折角当てたんだから!」

 

 

不安がる母さんをかっちゃんのお母さんが笑顔で励ます。

 

 

「そうよね?

 

とりあえず皆、荷物を置きましょうか」

 

 

母さんに言われて僕達はそれぞれの部屋に部屋に案内してもらってそこに荷物を置いた。

 

 

「そういえばリボーンは一人部屋で平気なの?」

 

「なんだオメー、馬鹿にしてんのか?」

 

「あ、いや、そう言う訳じゃないんだけど……」

 

 

リボーンはそれ以上僕に何か言う事は無く、そのまま皆の方へと歩いて行った。

 

僕はその後に着いて行き皆と合流しようとした時だった。

 

 

「?!」

 

 

後ろから何かを感じて振り返った。

 

けどそこには誰かがいる訳でも何か変な物がある訳でもない。

 

こんな場所にいるから、無意識に過敏になってるのかな?

 

 

「緑谷、どうしたの?」

 

「え?」

 

 

声が聞こえて振り返ると、炎さんが不思議そうな顔で僕を見ていた。

 

 

「大丈夫?」

 

「あ、うん、大丈夫だけど…」

 

 

僕はもう一度さっきの方向を見てみるけど、そこにはやっぱり誰もいない。

 

けど、さっきの感じ、どこかで……。

 

 

「僕の気のせいみたい。

 

みんなは?」

 

「あっちにいるよ」

 

 

僕は炎さんと一緒に皆と合流して、そこから皆で色々な場所を見て回った。

 

船の中は一部ショッピングモールの様になっていたりしてそこに立ち並ぶ全ての店が到底僕達に帰る様な物もなく、他には見晴らしのいいデッキにプールがあったり、あとはカジノがあったりもするみたいだ。

 

そうして僕達は一泊二日の船の旅を楽しんだ。

 

そして船が港に停まったらしく、僕達は事前に纏めておいた荷物を持って船から降りた。

 

 

「うわぁぁぁ……っ!」

 

 

そう右隣で声を上げる炎さん。

 

多分目の前の立派なテーマパークに心躍らせているんだろう。

 

そして左隣から明らかに僕を睨んでいるかっちゃん。

 

多分目の前のテーマパークについて僕に物申したいんだろう。

 

それもそのはずだ。

 

僕だってまだ飲み込めていない。

 

目の前の建物のいくつかから上がるバルーンが、リボーンの形をしているんだから。

 

 

「な、何ここ?!」

 

 

僕がそう叫ぶと、前を歩いていたオレガノさんが振り返った。

 

 

「それでは皆様、ようこそマフィアランドへ」

 

 

オレガノさんの言葉に、かっちゃんからの視線が更にキツくなっていくのを感じた。




次回予告!

出久「マフィアランドって一体なんなの?!

所々からリボーンのバルーン上がってるし、なんか嫌な予感しかしない!

ていうか男子だけ別行動ってどう言うことだよリボーン!!

次回!『標的(ターゲット)26 青いおしゃぶりの赤ん坊』

更に向こうへ!Plus ultra!!」


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標的(ターゲット)26 青いおしゃぶりの赤ん坊

最早遅れる事が恒例みたいになっててすみません……。


「ようこそ、マフィアランドへ」

 

「マフィアランド?!」

 

 

オレガノさんは微笑みながら説明を始めた。

 

 

「ここはマフィアの起源ともされるシチリア島を再現しつつ、様々なアトラクションやレストラン等が点在しています。

 

ランド内のお買い物やお食事にはこちらのカードをお使いください。

 

こちらはチケットの特典でして、園内で金銭が発生する場合にお使いください。

 

またこちらを提示して頂ければランド内のアトラクションに最優先でお乗り頂けます」

 

 

オレガノさんはそう言って全員に一枚ずつ黒いカードを配った。

 

正しく至れり尽くせりって感じだ。

 

けど、やっぱり“マフィア”の部分が気になる。

 

この待遇に、リボーンのバルーン。

 

そもそもリボーンはマフィア界では有名なヒットマンでそれがあんなに大々的に掲げられているってことは……。

 

うん。完全にマフィア絡みだこれ。

 

 

「こ、これって、何買ってもタダって事?」

 

「えぇ、そうですよ。

 

経費は全て我々が負担致しますので」

 

「大丈夫なのかしら?

 

後から請求とか…」

 

「ございませんよ」

 

 

母さんが不安そうにする中、炎さんが建物の上のバルーンを見つけて驚いていた。

 

 

「あっ、あれってリボーン君じゃない?」

 

「あぁ本当だ」

 

 

風間さんもそれを見て驚いてるみたいで、それを聞いた母さんもバルーンとリボーンを何度か見比べていた。

 

 

「あれ本当にリボーン君?」

 

「そうだぞママン。

 

俺はここでちょっと名が知れててな。

 

だから安心して楽しんでいいぞ」

 

 

リボーンに言われて安心したのか、母さんはほっとした様に笑った。

 

 

「じゃあ、お願いします」

 

「えぇ、お任せ下さい。

 

それでは皆様、まずは入島の手続きをしますので、私について来てください。」

 

 

オレガノさんは笑顔で答えて先導するように歩く。

 

それに着いて行こうとした僕の襟を誰かが掴む。

 

 

 

「オイコラ、デク」

 

 

あ、うん。

 

分かってた。

 

 

「か、かっちゃん?

 

離して貰えたら嬉しいなぁ、なんて……」

 

「テメェ、今回の事にマフィア関係ねぇって言ってたよな?」

 

 

やばい。

 

顔が見えないけど絶対怖い顔してる。

 

 

「あ、うん、そうだね……」

 

「この島の名前言ってみろ」

 

「えっと………マフィアランド」

 

「はっきりマフィアって入ってんな?」

 

「うん」

 

「どう言う事だコラ」

 

 

正直に言えば僕が聞きたいんだけど……。

 

けどそれ言ったらかっちゃん怒るだろうなぁ…。

 

 

「お前ら、何やってんだ?」

 

 

立ち止まる僕達に轟君が声をかける。

 

 

「あ、いやぁ…」

 

「そういえばマフィアランドって、ボンゴレ関係あるのか?」

 

「えっとぉ……」

 

 

轟君遠慮なく聞くなぁ……。

 

これってどこからどこまでがボンゴレが関与してるんだろう?

 

もしかして最初から?

 

いやでも母さんがチケットを当てたのは福引で………いや、リボーンなら福引を仕込むとかやりかねないな……。

 

 

「とりあえずそこら辺を確かめる為にも、今は着いて行こうよ。

 

リボーンが進んで母さん達を危険に晒すとは思えないし」

 

「あぁ」

 

「……チッ。

 

何か怪しいと思ったらすぐに離脱するからな」

 

「うん」

 

 

とりあえず話をまとめた僕達は少し前の方を歩く皆と合流した。

 

そのまま歩き大きな建物の中に入ると、そこで僕達は少し足を停めた。

 

 

「あら、凄い行列ね」

 

「……確認しましたが、どうやらシステム障害みたいですね。

 

どうやら1グループを半分に分けて処理をしている様なので、我々も半分に別れましょう」

 

「分かりました」

 

 

なんでそんな地味に面倒な処理を?

 

まぁ、何かしらの理由があるんだろうけど。

 

 

「それじゃあ、この2グループに分けて行こう」

 

 

そう言って活川さんは僕と轟君、かっちゃんを引き寄せる。

 

ちなみに活川さんの肩にリボーンが乗ってるから、これでちょうど半分だ。

 

けど、このメンバーつい最近見たんだよなぁ……。

 

 

「二つの入り口があって、それぞれコースがあります。

 

今日のところはそれぞれのコースを堪能頂いて、ランドの中心のホテルにて合流いたしましょう」

 

「あぁ、分かった」

 

 

活川さんがそういうと、もう一つのグループをオレガノさんが先導しそれぞれのグループで歩き出した。

 

 

「それじゃあ出久、また後でね」

 

「うん、母さん達も楽しんでね」

 

 

僕達は下の階へと続く階段を降りていき、2階ほど降りた所で人は疎らになり、3階降りた階で階段は終わり、辺りに人はいなかった。

 

周りは見た目で言うと駅のホームの様だけど、ここは一体何なんだろう。

 

僕が色々考えていると、前を歩く活川さんが立ち止まり振り返った。

 

 

「さてと。

 

もう勘づいているかもしれないが、一応言っておこう。

 

今回の旅行は君の母親がたまたま当てた物なんかじゃない。

 

全部リボーンが仕組んだ事だ」

 

 

まぁ、何となく察しはついていたけど、改めて聞くと何やってんだって思う。

 

大体旅行を全部仕組むってどれだけの費用かかったんだろ…。

 

 

「まぁ、最近心労をかけてたママンに羽を伸ばして貰おうと思ったってのは嘘じゃねぇぞ。

 

夏樹に対してのお詫びってのもな」

 

 

そこに偽りが無いのは有難いけど、結局本来の目的は何なんだろう。

 

 

「君達が気になっているだろう本来の目的は、君達の実力を底上げする事だ。

 

君達もこの前の事で分かってると思うが、世界には君達の想像も及ばない様な力や、能力を持った人間が多く存在する。

 

私や緑谷君が使う死ぬ気モードやジャックの黒きオーラ然り、個性という括りを超えた力だってこの世界には溢れる様にある。

 

その時君達はこの前の緑谷君の様に毎度都合よく新たな力に目覚められるなんて限らない。

 

君たちに必要なのは己の力を知り、理解し、いつでもその最大値を発揮する為の体を作る事だ」

 

 

活川さんの説明を聞いていると、ホームに強い光が差した。

 

 

「これから君達が行くのは裏マフィアランド。

 

世界最強の軍人がいる場所だ」

 

 

そう言った活川さんの後ろを電車が通過し、やがて僕らの目の前に扉が来る様に止まった。

 

 

「今から行く場所は君達にとって相当な試練の場となるだろう。

 

下手をすれば死ぬかも知れない。

 

命が惜しいなら引き返してもいい。

 

自分の力では及ばぬ物から逃げる事は決して恥ずべき行為ではない。

 

だが君達の中であの日の戦いに後悔があるなら、覚悟を決めて乗り込め」

 

 

活川さんの脅迫にも聞こえる言葉。

 

だけど、僕達に迷いは無かった。

 

僕達は合図も無く歩き出し、そして電車に乗り込んだ。

 

するとすぐに背後の扉が閉まり、ゆっくりと電車は動き出した。

 

僕はこれからの訓練が壮絶なものになる予感に、一人拳を握りしめた。

 

 

 

…………………………

 

 

 

電車に乗ってから十分程揺られ、僕達は電車を降りた。

 

 

「島の裏側まで来たんじゃない?」

 

「みたいだな」

 

 

僕と轟君は話しながら辺りを見回す。

 

 

「よく来たな!コラ!」

 

 

その時、僕達の後ろから声が聞こえて振り返った。

 

 

「名乗れ、コラ」

 

 

そこには軍服の様な服を着て頭に鷲を乗せた赤ん坊が立っていた。

 

 

「何だ?この赤ん坊」

 

 

轟君はそう言いながら目の前の赤ん坊を見る。

 

 

「ちゃおっす、コロネロ」

 

 

リボーンがそう言って手を上げると、コロネロと呼ばれた赤ん坊がリボーンを睨んだ。

 

 

「リボーン!」

 

 

コロネロは背中に背負っていたライフルをリボーンに向けた。

 

 

「コラ!」

 

 

そしてそう言いながらライフルの引き金を引いた。

 

青い光を纏った弾丸は真っ直ぐリボーンに向かって飛ぶけど、リボーンはそれを軽く飛んで躱した。

 

 

「えぇ?!いきなり何してんの?!」

 

 

僕が驚いていると今度はリボーンがレオンを変身させた銃でコロネロを狙い撃った。

 

 

「ぐわ?!」

 

 

そして弾丸はコロネロの眉間に命中し、コロネロは後ろに倒れた。

 

 

「ちょ、リボーン?!何やってんの?!」

 

「コイツが裏マフィアランドの責任者、コロネロだ」

 

「って、倒しちゃってるじゃん?!」

 

 

僕がリボーンにツッコんでいると、コロネロはまるで何も無かった様に起き上がった。

 

 

「鍛え方が違うぜ、コラ!」

 

「嘘ぉ?!」

 

 

僕が驚いていると、コロネロは起き上がって地面に落ちていた形の変わった弾丸を拾った。

 

 

「この軟弱な弾は間違いなくリボーンだぜ、コラ」

 

「そのどでかいライフル。

 

相変わらず趣味悪りぃな、コロネロ」

 

 

また変なのが出てきたな……。

 

 

「リボーンの友達なの?」

 

「オイ!そんな良いもんじゃねぇぜ、コラ!

 

コイツとは腐れ縁だ」

 

「俺達は同じ所で生まれたんだ」

 

 

幼馴染って事なのかな?

 

通りで変な訳だ…。

 

 

「リボーン、お前何しに来た」

 

「俺はただの付き添いだ。

 

俺の生徒達がここで修行するんだ」

 

「生徒?

 

って事は、コイツらの誰かがボンゴレ10代目候補か、コラ」

 

 

コロネロはそう言いながら僕達を見る。

 

そして見定める様に僕達を順に見て行き、そして眉をひそめた。

 

 

「オイ、本当にこの中にいるのか?コラ」

 

「あぁ、いるぞ。

 

まだ弱っちぃから分からねぇかも知れねぇけどな」

 

 

弱っちぃって………。

 

いやまぁ、そりゃ多少強くなったと言っても、そんな自分が強いとか思っている訳じゃないけどさ…。

 

 

「まぁ、この中で一番マシそうなのはコイツだな、コラ」

 

 

そう言ってコロネロは僕を指した。

 

 

「内に秘めてる物が一番だ。

 

純粋な強さならコイツだな」

 

 

次に指したのはかっちゃんで、かっちゃんは僕に中指を立てた。

 

理不尽。

 

そしてコロネロは最後に轟君を指した。

 

 

「コイツはダメだな。

 

磨けば光るだろうがここ向きじゃないぜ、コラ」

 

 

轟君は少し顔を顰めた。

 

当たり前だ。目の前で自分はダメだなんて言われたら。

 

僕が抗議の声を上げようとした時、リボーンはコロネロの言葉に少し笑った。

 

 

「まぁ別に、ここで完成させる訳じゃねぇからな。

 

コイツらにとってここはあくまでも通過点だ」

 

「ほう、言ってくれるじゃねぇか、コラ」

 

 

コロネロはそう言いながらニヤリと笑い、僕らに背を向けた。

 

 

「とにかくここは俺の教場だ。

 

リボーン、お前は手を出すんじゃねぇぞ、コラ」

 

「あぁ、だが命子は付けるぞ。

 

スパーリングの相手ぐらいは必要だろうからな」

 

「命子?あぁ、活性の死神(モールテ・アッディーヴァ)か。

 

好きにしろ、コラ」

 

 

コロネロはある程度の距離をとると、もう一度僕達の方へと体を向ける。

 

 

「じゃあまずはお前らの名前、個性名と出来る事を教えろ。

 

まずはお前からだ、コラ」

 

 

そう言ってコロネロは轟君を指した。

 

 

「…轟焦凍。

 

個性は半冷半燃。

 

右半身で氷を、左半身で炎を出す事が出来る。

 

威力の調整は可能で、氷はある程度の形状なら操作出来る。

 

デメリットは、それぞれ使用する度に体温が上下するからどちらかを使って調整しなきゃならねぇ」

 

 

轟君はさっきあんな事を言われた手前、少しだけ眉に皺を寄せたまま答えた。

 

コロネロはそれを聞いて顎に手を当てて少し考える様な仕草をとって、次にかっちゃんを指した。

 

 

「次、お前だぜコラ」

 

 

かっちゃんは舌打ちをしながらコロネロを見下ろした。

 

 

「爆豪勝己。

 

個性、爆破。

 

掌の汗腺からニトロみてーな汗を出して爆発させる。

 

汗かけばかく程に威力が増して、爆破を使ってホバリングみてぇに飛べる。

 

デメリットはでけぇ爆破を使うとその分体に反動が来る」

 

 

コロネロはかっちゃんの説明に轟君の時と同じ様に少し考えて最後に僕の方を指した。

 

 

「最後はお前だぜ、コラ」

 

「緑谷出久。

 

個性は「ONE FOR ALL、だろ?」…え?」

 

 

今コロネロ、ONE FOR ALLって?!

 

なんでコロネロが、ONE FOR ALLの事を知っているんだ?!

 

 

「オイ、何驚いてんだコラ」

 

「だ、だって、今ONE FOR ALLって!」

 

「何だ、リボーンから聞いて無かったのか?

 

俺はONE FOR ALLの事もALL FOR ONEの事も知ってるぞ、コラ」

 

「えぇ?!そうなの?!」

 

 

こういうのって限られた人しか知らない物じゃないの?!

 

最近出会った人ほとんどが知ってるじゃん!!

 

 

「まぁONE FOR ALLはともかく、ALL FOR ONEの事なら裏社会じゃ知らない奴はいねぇぞ。

 

一昔前は奴が裏社会を牛耳ってたからな。

 

ま、マフィア界トップクラスのファミリーはその限りじゃねぇがな」

 

 

リボーンは被ったボルサリーノを直しながらそう言った。

 

改めて聞いてマフィア界がどれだけぶっ飛んでるかよく分かる……。

 

 

「それで改めてお前の個性、てよりどの程度まで扱えるのかを教えろ、コラ」

 

 

どの程度、か……。

 

 

「僕はONE FOR ALLの全身に張り巡らせて使うFULL COWLをベースに闘うスタイルで、基本的に必殺技はオールマイトを踏襲したもので、それを自分のスタイルに合わせてアレンジしている感じ。

 

デメリットは、僕自身の体が未完成でまだ100%の力の反動に耐えられない事で、最悪の場合骨が砕ける」

 

「まぁ過剰な力さえ使わなければって感じか」

 

「そんな感じかな」

 

 

僕の説明を聞いたコロネロは顎に手を当てて何かを考えていた。

 

 

「……それぞれ、まだ汎用性のありそうな個性だな。

 

特に爆豪の個性は工夫次第でまだまだ伸びるぜ、コラ」

 

 

コロネロの言葉を聞いたかっちゃんは「勝った」とでも言いたげな顔でサムズダウンをする。

 

理不尽。

 

 

「それで僕たちはここで何をやればいいの?」

 

「オメェらが毎日いなくなるとママン達に怪しまれるから、時間は今日一日しかねぇ。

 

だから無闇矢鱈にスパーリングなんかしても効果が薄い。

 

そこで今日オメェらがやるのは、個性伸ばしだ」

 

 

それからリボーンの説明が始まった。

 

個性伸ばしとは、自分の個性を見直して今の限界の上を目指し新たな用途の開拓を行う事らしい。

 

そしてリボーンの指示で僕たちはそれぞれに訓練を開始した。

 

僕はリボーンに、かっちゃんは活川さんに、轟君はコロネロにそれぞれその日一日ついてもらうことになった。

 

 

 

そしてそれから数時間経ち、僕達はヘトヘトになって最初に集まっていた岩場に戻ってきた。

 

 

「そ、想像以上にキツかった…」

 

「今日一日だけの修行だからな。

 

このくらい詰め込まなきゃ意味がねぇ」

 

 

リボーンはそう言いながらニヤニヤとコチラを見ていた。

 

いや、これ多分必要以上にやってる……。

 

けど、確かに今日一日で成長できた実感はある。

 

僕の足を使った戦法も独学だけど形になりつつある。

 

けど、今の所戦闘に安定した戦術として用いるには足らない。

 

リボーンもこれに関してはあまり教えてくれなかったし、これはじっくりを仕上げるしかなさそうだ。

 

 

「さて、そろそろ戻るとしよう。

 

これ以上遅れると流石に怪しまれてしまう」

 

 

「は、はい……」

 

 

僕達は重い体をなんとか起こしてランドの表側に戻る電車に乗り込んだ。

 

それから僕達は電車に揺られながら活川さんの個性で傷と体力を回復してもらってそれぞれ今日の特訓での経験を思い浮かべながら時間を過ごした。

 

 

そして電車が止まったのを感じて、僕は顔を上げた。

 

人が行き交うのを見るに、どうやら表側の駅の様だ。

 

僕が立ち上がるのと同時にかっちゃんと轟君も立ち上がって、3人でホームに降りた。

 

後ろからリボーンと活川さんが降り、その後すぐに電車は扉を閉めて走り出した。

 

駅を出ると目の前に船と同じくらい豪華絢爛なホテルが見えて、体力は回復したはずなのに一気に心が疲れた。

 

 

「またこの感じか…」

 

「しょうがねぇだろ。

 

この島はマフィアが真っ白な気持ちで休めるようにドス黒い金を大量に注ぎ込んだからな」

 

 

ドス黒いの方が気になりすぎる…。

 

とりあえずそれはさておき、母さん達と合流しないとな。

 

僕は連絡を取ろうとスマホを見るとそこには何件かの通知が表示されていて、それは母さんからのメッセージだった。

 

確認しようとすると、ちょうど母さんから新しいメッセージが送られてきた。

 

 

 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

 

 

引子【もうすぐホテルに着くんだけど、出久達は今

   どこら辺にいるの?】

 

 

 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

 

 

これはちょうどよかったかもしれない。

 

僕は母さんにもうホテルの前にいると伝えてホテルの前の噴水の周りのベンチに腰掛けた。

 

 

「今日一日だけでドッと疲れたな…」

 

 

やっと母さん達と合流できるからか、轟君は椅子にもたれかかってそう言った。

 

 

「確かにね。

 

けど、それ以上に今日は収穫があったよ。

 

力の使い方次第で、パワーが今の上限より少し高くても低い反動で技を放てるって分かったしね」

 

「あぁ、俺もまだ自分の個性に色々可能性があるって気付かされたよ」

 

 

轟君は自分の右手を握ったり開いたりして少し笑う。

 

 

「自分の個性の事くらい自分で開拓しろや」

 

 

かっちゃんはそう言いながら僕から一人分くらいのスペースを開けて座った。

 

 

「そういえばかっちゃんはずっと活川さんと組手してたね」

 

「俺は今はそういう段階じゃねぇ。

 

この前の戦いで編み出した技を煮詰めるには組手が合理的なんだよ」

 

 

なるほど、確かにそうだ。

 

あの戦いの中で僕は新しい死ぬ気モードを手に入れたけど、それ以上にかっちゃんは全ての戦いで新たな技や戦法を編み出していた。

 

未だにかっちゃんのそう言う所に追いつけた気がしない。

 

 

そうして雑談している間に、通りの向こうに母さん達が見えた。

 

 

「なんか随分久しぶりな気さえする」

 

「少しわかる」

 

「くだらねぇ事考えてねぇで行くぞ」

 

 

かっちゃんを先頭に僕達は数時間ぶりに母さん達と顔を合わせた。

 

 

「ヤッホー緑谷ぁ………なんかやつれてない?」

 

「今日一日島を満喫したからな」

 

 

島の裏側だったけどね……。

 

それから僕達の服がボロボロな言い訳をしたりホテルの中に入って中が更に豪華絢爛で驚いたり、なんかディナーが三つ星級だったりと色々な事がありながらも、部屋に辿り着きようやく落ち着ける。

 

と思っていた頃が少しだけありました。

 

 

「いや、部屋間違ってない?」

 

「何も間違っちゃいねぇぞ」

 

 

リボーンはあっけらかんと答える。

 

いや、絶対に間違ってる。

 

だって、だって!

 

 

「なんで僕と炎さんが同じ部屋なんだよ?!」

 

 

この島に、僕の胃が休まる場所はあるのだろうか………。




次回予告!

リボーン「よかったなデク。

明日からは普通にリゾートを楽しめるぞ」

出久「わーい嬉しいなぁ、ってそうじゃなくて!

なんで僕と炎さんの部屋が!」

リボーン「さて明日から忙しくなるしそろそろ寝るか」

出久「寝るって、だから僕達の部屋が!」

リボーン「次回『標的(ターゲット)27 心安らがない休日』。

更に向こうへ、Plus ultra。

死ぬ気で見ろよ」

出久「無視しないでよ!」


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標的(ターゲット)27 心安らがない休日

言い訳は書きません。
単純にウマ娘とお絵描きにハマって書く手が完全に止まっていました。

毎回毎回、本当にすみません……。


「な、なんか、気まずいね…」

 

「そ、そうだね……ハハハッ……」

 

 

あの後結局、僕達は同じ部屋に泊まることになった。

 

何度も断ったのに、変更は明日しか出来ないの一点張り。

 

ちなみに部屋割りは

 

母さん、かっちゃんのお母さん。

 

冬美さん、風間さん。

 

かっちゃん、轟君。

 

僕、炎さん。

 

こんな感じだ。

 

どうやら活川さんとリボーンはそれぞれ知り合いと会うらしく今日はそれぞれ別のホテルに行くらしい。

 

それにしても、もう少しやりようがあったはずだ。

 

けど最後にリボーンに言われた「今度はしっかりボディガードしてやれよ」という一言で、僕は受けざるを得なくなった。

 

確かにあの時守りきれなかったから今回はしっかり守らなきゃと思ったけど、今思えばテーマパークで誰から守るって言うんだ……。

 

まぁこの島はマフィアだらけだから危険な事に変わりは無いだろうけど…。

 

そんなこんなで、とりあえず僕達は2つあるベッドのどちらで寝るかを話し合って、僕が窓側で炎さんが扉側という事になった。

 

明日も朝から遊ぶため、少し話して10時には二人とも布団に入った。

 

けど、僕はなかなか眠れずにいた。

 

僕はふと、隣で眠っている炎さんを見る。

 

あの戦いから一週間と少し経ち、その間僕はあの時の事を何度も思い出していた。

 

ジャックの事は、やっぱり許せない。

 

僕を狙うだけならまだいいけど、炎さんを巻き込んで、挙げ句の果てに憑依弾の力を使って他人の体をまるで使い捨ての道具の様に扱ったアイツが。

 

けど、それでも、最後にジャックの記憶を見て僕は思ってしまった。

 

もし僕がリボーンと出会わずに死ぬ気の力に目覚めていたなら、僕もジャックの様になっていたのではないかと。

 

そうではないと信じたいけど、否定はできない。

 

炎さんが毒を打ち込まれた時、僕は完全に殺意に飲まれていた。

 

ジャックの攻撃で消えたとは言っても、僕はあの時一切の躊躇をせずに二人を殺そうとしていた。

 

そんな僕に、これからヒーローを目指す資格があるんだろうか。

 

僕はそんな事を考えながら、迫る眠気に身を任せ瞼を閉じた。

 

 

 

…………………………

 

 

 

翌朝、僕達は朝の8時に皆で部屋を出て、一緒にエントランスまで降りる。

 

するとそこには活川さんとその肩に乗ったリボーンがいた。

 

二人と合流した僕達はレストランで食事をとり、ランドのエリアへと向かった。

 

皆は昨日も遊んだけど、僕とかっちゃんと轟君は今日が初めてだ。

 

こちらに来る前に母さん達は僕達が昨日行った方にも行ってみたいと行っていたけど、流石にそれはマズいからなんとか誤魔化した。

 

そして僕達は色々なアトラクションを堪能した。

 

ジェットコースターや、体感型のアトラクション、島の地形を利用した迷路。

 

轟君はジェットコースターに乗るのが初めてらしく、冬美さんも昨日が初めてだった様だ。

 

乗った後に少しだけ疲れた様に見えたけど、そんな姿が2人とも似ていて少しだけ微笑ましかった。

 

この後僕達は昼ご飯を食べようとレストランに入った。

 

 

「ふぅ、ちょっと疲れちゃった」

 

 

母さんは笑いながらそう言って席に座る。

 

 

「あらそう?私はまだまだ遊び足りないくらいよ」

 

「ババァが何言ってんだ」

 

「誰がババァですって?」

 

「ハッ、自覚ねぇのかよ」

 

 

今にもかっちゃんを殴りそうなそうなかっちゃんのお母さんを冬美さんと母さんが抑える。

 

2人はどこにいても通常運転だなぁ……。

 

なんていつも通りのくだりを終えて僕達は運ばれて来たご飯を食べる。

 

A5ランクの肉やキャビアとかが普通に出てくるのはもう一旦目を瞑る。

 

アァ、料理、美味シイナァ。

 

 

「ねぇ、この後どうする?

 

まだ行ってない場所沢山あるわよ」

 

 

かっちゃんのお母さんはそう言って料理を口に運ぶ。

 

 

「そうですね……。

 

乗り物系は午前中行きましたし、今度はランドを回ってみるのはどうですか?」

 

 

冬美さんも料理を口に運びながら答える。

 

 

ランドを回る、か。

 

確かに今日の朝見たマップだと、アトラクションとかじゃなくて街並みを再現した商店街みたいな場所もあるみたいだし、後はランドの真ん中辺りに大きな城がある。

 

そういう場所を見て回るのも楽しいかもしれない。

 

僕達はご飯を済ませて外へ出る。

 

このレストランへ来る時も思ったけど、こうやって見回してみると一見しただけではここがマフィアが集うテーマパークだなんて思えない。

 

大人も子供も皆が普通に楽しんで、普通の遊園地と変わらない。

 

確かにマフィアという肩書きは怖いけど、それでも一人一人は純粋な心を持った普通の人なんだ。

 

もしかしてリボーンは、僕にそういう事に気付かせる為にここに連れて来たのかな?

 

 

「おい、何やってんだ緑谷」

 

 

僕が考え事をしていると、前を歩く轟君に声をかけられた。

 

 

「そんなゆっくり歩いてたら逸れちまうぞ」

 

「あ、うん。分かった」

 

 

前を歩く皆に少し小走りで追い付き、ついでに活川さんの肩に乗るリボーンを見た。

 

リボーンは楽しそうにする母さん達を見て笑ってる。

 

母さん達の労いっていうのも、あながち嘘じゃないみたいだ。

 

 

「ん?どうしたデク」

 

 

僕が見ているのに気付いたリボーンは僕の方を見ながら言った。

 

 

「いや、何でもないよ」

 

 

僕が応えると、リボーンは何やらニヤリと笑った。

 

なんかとてつもなく嫌な予感がする。

 

 

「命子に見惚れてたのか?」

 

「んなっ?!ち、違うよ!」

 

 

想像していなかった類のからかわれ方をして、僕は思わず大きな声で否定してしまった。

 

 

「なんだ、そうなのか緑谷君。

 

それは年甲斐もなく照れてしまうな」

 

「ち、違いますって!」

 

 

活川さんもリボーンの悪ノリに乗っかって僕をからかう。

 

 

「あら出久君、こういう女性がタイプなの?」

 

 

かっちゃんのお母さんもそれに乗る。

 

なんか、まずい雰囲気に……?!

 

風間さんもニヤニヤしてるし、かっちゃんと轟君はなんか微妙な距離を置いてるし、オレガノさんはガイドだからそもそも頼りにできないし、頼りになるのは炎さんだけ!

 

 

「………」

 

 

あれ、なんか黙ってそっぽ向かれた?

 

なんか怒ってる?!

 

 

「まぁ冗談はさておき、そろそろランドの中央の城だな」

 

 

リボーンのからかいに油を注いだ活川さんはあっけらかんとそう言った。

 

何なんだ一体…。

 

 

「うわぁ、凄い!」

 

 

さっきまでそっぽを向いていた炎さんの声に、僕は前に視線をやる。

 

そこには某夢の国の城にも見劣りしない立派な城が建っていた。

 

ランドの至る所から見えたりしてたから大きいなとは思っていたけど、近くで見ると迫力が更に増して見える。

 

辺りにも炎さんと同じような反応をしている人達が多くいる。

 

轟君も城を見上げて「おぉ」と声を漏らした。

 

かっちゃんはいつも通り「ハッ」っと鼻を鳴らして興味が無さそうだ。

 

僕達は早速中へと向かうが、ここで驚いたのはこの城はトンネルの様になってる訳じゃなく、どうやら本物の城の様だ。

 

最初に入ったのはエントランスとしても機能し、どうやらパーティ会場としても使えるらしい大広間だ。

 

年に一度ここで大々的にパーティが行われたり、予約さえすればだれでも貸し切り可能とのこと。

 

ただとんでもなく値段が高い事は間違いない。

 

質の良さそうな絨毯に、装飾のスゴいシャンデリア。

 

明らかに僕達の生活からかけ離れすぎている。

 

まぁ、旅行は非日常を求めるものだけど、これはなぁ……。

 

なんて考えていると、後ろから肩を叩かれた。

 

振り向くと、肩を叩いたのはどうやら轟君の様だ。

 

 

「なぁ緑谷、皆そろそろ次行くってよ」

 

 

轟君に言われて母さん達を見ると、パンフレットを見ながら話し合っていた。

 

僕も流石にこの場違い感溢れる場所には長居したくない。

 

 

「うん、僕も」

 

 

母さん達の話し合いに参加しようと一歩踏み出した時、背後から何かを感じた。

 

 

「っ?!」

 

 

振り返ってもそこにはただ人混みがあるだけだ。

 

さっき感じた何かも、もう既に感じない。

 

けど、この島に来る時から何度も感じる気配に、僕は確信に迫れそうで迫れないもどかしさを感じていた。

 

僕は母さん達とにこやかに話す炎さんを見た。

 

僕の脳裏にジャックに襲撃されたあの瞬間が過る。

 

これ以上、炎さんの様に関係のない人を巻き込む訳には行かない。

 

今日の夜にでもリボーンと活川さんに相談しよう。

 

僕はそんな事を考えながら皆の輪に加わる。

 

 

 

…………………………

 

 

 

その日の夜、僕は本来の部屋割りとなり同室になったリボーンと、事前に呼んでおいた活川さんに僕の感じた気配の事を話した。

 

 

「ふむ、やはり君も気付いていたか」

 

「君も?」

 

「実は、昨日私とリボーンが夜に別の部屋に行くと言っていたのは、その件だったんだ」

 

 

まさか、リボーンと活川さんも気付いていたなんて。

 

けど、確かにそれはそうだ。

 

僕の中にあるっていう超直感という力は、あくまでも芽生えたばかりで到底実戦の中では使い物になる段階じゃないってリボーンに言われてたし、それに対して二人はヒットマンとして名を裏社会で轟かせる様な達人だ。

 

あの気配が本物だったんなら、そんな二人が感じ取れないはずがない。

 

 

「気配は感じていたし、相手の目星もある程度ついてはいたんだがね。

 

何せここはマフィアランドだ。

 

この島では殺しは勿論だが、戦闘や盗みもご法度だ。

 

つまり私達は向こうから仕掛けられない限りは何も手が出せないのさ」

 

「けど、ならなんで僕達には何も言ってくれなかったんですか?」

 

「いたずらに不安を煽ることになりそうだったしね。

 

それに今はあの戦いの祝勝会も兼ねているんだ。

 

そんな時に君達に余計な事を考えて欲しくなかったんだが、君には逆効果だったようだな。

 

だが決して君を信じていなかったから言わなかった訳じゃないという事だけは分かってほしい」

 

 

そうか、活川さんもリボーンも僕達から危険を遠ざけようとしてくれていたのか…。

 

けど、知ってしまった以上は僕も黙って守られるだけなんて嫌だ。

 

僕はその旨を二人に伝える。

 

しかし二人から帰ってきた返答はそれを否定する物だった。

 

 

「私は相手の目星がついているとさっき言った。

 

そして、不安を煽らない為に君達には伝えなかったと。

 

それは私達なら問題なく対処出来ると考えたが故であって、今回の案件は君では力不足だ」

 

 

活川さんの言葉は今まで僕に告げてきた警告や注意とは、明らかに違う声色だった。

 

だが僕だってここで引き下がりたくない。

 

僕はなんとか頭を回して説得の言葉を選ぶ。

 

 

「けど、僕は死ぬ気モードのおかげとは言っても、あのジャックに勝ったんだ!

 

二人の足手纏いには!「邪魔だって言ってんのがわからねぇのか」…リボーン」

 

 

僕の言葉を遮ったのは、いつもは僕を矢鱈と色々なトラブルに巻き込むリボーンだった。

 

 

「命子は長く戦線を離れていたが、それでも裏社会じゃ名の知れたヒットマンだ。

 

ジャックとの戦いの時は九代目からのお前の護衛依頼が出ていたから、完全に攻撃に打って出ていたわけじゃねぇ。

 

寧ろ今回はランド側に有事の際は客を守るという約束を取り付けている。

 

後ろに護るものがない命子は全力で戦う事ができるんだ。

 

確かにジャックは強かったが、裏社会にはそれを超える猛者が数えるのがバカらしくなる程にいるんだ。

 

命子はそれを幾度となく屠ってきた。

 

あの時の命子に勝っていたジャックに勝ったからと言って、お前が命子を超えたわけじゃねぇんだ」

 

 

リボーンの言葉が、僕の心に重く沈み込む。

 

確かに、僕が活川さんを超えていない事なんてよく考えればわかった筈だ。

 

けど、僕はジャックに勝った事で慢心していたのかも知れない。

 

かっちゃんや轟君、活川さんと四人で挑んだジャックに最終的に僕は自分だけで勝利したんだと。

 

そこに至るまで、どれだけ3人に助けられたのかすら忘れて。

 

 

「今回、命子はプロとしてこの件に対処する。

 

そんな所にアマどころか力の使い方を覚えた程度の素人が首を突っ込んでも、返って邪魔になるだけだ」

 

 

僕は今度こそ返す言葉が見つからずに黙り込む。

 

それでもう語ることもないと思ったのか、活川さんは席を立った。

 

 

「別に君が憎くて言っているんじゃない。

 

だが今回ばかりは君は傍観者であるべきだ。

 

今度はしっかりと夏樹君を護るんだぞ」

 

 

活川さんはそう言うと部屋を出て行ってしまった。

 

 

「俺は今夜も行くところがあるから、今日はお前一人でこの部屋は貸切だ。

 

悩むなら好きなだけ悩んで、お前なりの答えを出せ」

 

 

リボーンもそれだけ言い残して部屋を出て行った。

 

それから僕は一晩悩んだけど、明確な答えが出ないまま睡魔に負けてしまった。




次回予告

出久「僕はどうすべきなんだろう。

リボーンは僕なりの答えを出せって言っていたけど……」


次回『標的(ターゲット)28 襲撃者“スカル”』


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標的(ターゲット)28 襲撃者“スカル”

アイデアが全く文章にできない今日この頃

それはそうと、皆様あけましておめでとうございます。

今年は何とか、もっと投稿ペース早められるように頑張ります


リボーン達からの警告と拒絶から一夜、どうやらリボーン達はこの島の守りに徹するべく僕達とは別行動をとる様だ。

 

無論皆にはそれらしい理由を話して誤魔化していたけど。

 

結局僕はあの後答えを出せなかった。

 

リボーンや活川さんがジャックを上回る強者と言った敵なんて、今の僕とは次元が違いすぎる話だ。

 

昨日リボーン達に色々言われて、僕は改めてジャックとの戦いを振り返った。

 

今思えば、ただ相性が良かっただけに思える。

 

ジャックがあの指輪……確かジャックリングと呼んでいたそれを身につけてからの戦いは、単純なパワーは拮抗していたし、技巧も含めればジャックの方が優っていたのかも知れない。

 

僕はただ、ジャックがあの死ぬ気モードに慣れる前に決着をつけられただけで、それもリボーンが言うには僕の死ぬ気の炎がジャックのオーラを浄化したからだかららしいし、つまり僕は自力では何も成し遂げられていないって事だ。

 

死ぬ気モードは確かに僕の内に眠っていた力かも知れないけど、結局はリボーンがいないと使えない力だ。

 

(イクス)グローブだってレオンが生み出してくれたもので、それが無ければ僕はジャックに太刀打ち出来なかった。

 

結局、僕一人じゃ何もなしえていない。

 

昨日からずっとこんな考えが僕の頭を埋めつくしている。

 

 

「なぁ、緑谷」

 

 

そんな時に、前を歩いていたはずの轟君から声をかけられた。

 

 

「姉さん達が食べたいらしいから、今から爆豪と俺さポップコーンを買いに行く事になったんだが、お前も来てくれ」

 

「え?……あぁ、うん行くよ」

 

 

轟君は分かるけどかっちゃんが行くのは意外だと思いながら、僕は2人に着いていく。

 

屋台に買いに行くと思っていたんだけど、2人はどんどん人の少ない場所に歩いて行く。

 

こんな所にポップコーンの店があると思えないんだけど、一体2人は何処へ向かっているんだろう。

 

すると、店の裏の路地に入った所で2人は立ち止まった。

 

 

「えっと、2人ともどうしたの?

 

ポップコーンを買うんじゃ?」

 

「すまねぇ緑谷、ポップコーンを買ってきてくれって頼まれたのは本当だけど、俺達の本命はそれじゃないんだ」

 

「ど、どういうこと?」

 

 

こちらを見る轟君の目はまるで心配している様で、かっちゃんはイライラした顔でこちらを見ていた。

 

 

「テメェが何か隠してる事なんざとっくに分かってんだよ」

 

 

かっちゃんは僕を睨みながらそう言う。

 

結構頑張って隠してたんだけどな…。

 

 

「お前の親や炎達を心配させたくない気持ちは分かるけど、俺達にくらい話せよ。

 

俺達、友達だろ?」

 

 

轟君は真っ直ぐと僕を見る。

 

けど、僕は迷っていた。

 

轟君とかっちゃんに、この事を話していいのかどうか。

 

話せばまた2人を危険に巻き込んでしまうのではないか、と。

 

僕が悩んでいると、かっちゃんが僕の胸ぐらを掴んだ。

 

 

「どうせテメェの事だから、俺らを巻き込むとかそんな事考えてんだろうが。

 

舐めんのも大概にしろや」

 

 

いつもの激しい怒りじゃない。

 

とても静かに、僕に怒りを向けている。

 

それはある意味で、普段以上に恐ろしく感じた。

 

 

「確かにこの前の戦いじゃ役に立てなかったけど、それでも一人で思い悩むよりマシだろ」

 

 

轟君も怒りでは無いけれど、強い感情の篭った目で見つめてくる。

 

 

「………二人とも、ごめん。

 

二人を舐めていた訳でも、信じていなかった訳じゃないんだけど……。

 

分かった。話すよ」

 

 

 

それから僕は船に乗っていた時から感じていた違和感の事、そして昨日のリボーン達との会話の内容を話した。

 

それを聞いてかっちゃんは苛立ったように拳を握りしめ、轟君は汗を流した。

 

 

「じゃあ何か?

 

俺達は戦力外だから大人しく守られてろって事か?」

 

「いや、でもあの二人が警戒するレベルなんだろ?

 

確かに俺達じゃ足手纏いになるだけかも知れねぇ…」

 

 

轟君の言葉にかっちゃんは更に苛立ちを強く見せる。

 

 

「だったらテメェらはそうやって後ろに隠れてろ。

 

俺は誰がなんと言おうが行く」

 

 

かっちゃんはそう言って僕達に背を向けた。

 

 

「待ってよかっちゃん!」

 

 

咄嗟に引き止めようとかっちゃんの肩を掴む。

 

 

「うっせぇなぁ!」

 

 

かっちゃんは怒りの籠った目で僕を睨む。

 

 

「テメェらはただの旅行のつもりで来たんだろうが、俺はこの島に強くなる為に来てんだよ!」

 

「ど、どういう事?」

 

「あのガキが態々女医を連れてまで本島から離れた島に俺達三人を連れて来るなんざ、明らかにただの旅行じゃねぇだろ。

 

それなら俺達を鍛える為の環境があるはずだと踏んだから俺は来たんだ。

 

そして鍛えて、テメェらとやり合うだけじゃ感じれねぇ何かを感じた。

 

だってのに、襲撃者なんていう鍛えた力を試す絶好の機会に、お前らは弱くて邪魔だから引っ込んでろだ?

 

ふざけんのも大概にしろや!」

 

 

かっちゃんの怒りの言葉を聞いて分かった。

 

この怒りは、かっちゃんを止めようとした僕達にでも、邪魔だと言ったリボーン達に向けたものでもない。

 

リボーン達に戦力にならないと判断された自分に対してなんだ。

 

 

「……かっちゃん、僕は」

 

 

どうにかして説得しようと、僕は言葉を探す。

 

その最中、爆音は響いた。

 

 

 

ズドオォォォォォンッ!

 

 

 

突然響いた爆音に、僕の脳裏にジャックに襲撃された時の事が過ぎる。

 

 

「い、今の音は?!」

 

「まさか、襲撃が始まったのか?!」

 

「クソが!」

 

 

動揺する僕と轟君。

 

かっちゃんだけが冷静に爆音の発生源を探っていた。

 

 

「と、とりあえず僕達は母さん達の所に行こう!

 

こんな状況で僕達が離れてるのはマズイよ!」

 

「テメェらだけで行け!

 

俺は襲撃者をぶっ潰す!」

 

 

かっちゃんは掌から細かな爆発をバチバチ起こして体を臨戦態勢に切り替える。

 

 

「だから、僕達はリボーン達の邪魔になるかもしれないって言っただろ?!

 

それにリボーン達が戦場に出るなら、僕達が母さん達を守らないと!」

 

「ンなもんテメェらだけで十分だろうが!」

 

 

僕の言葉も聞かず…いや、聞いたからこそかっちゃんは正確に戦力を分析して僕達だけで十分だと言ったのか?

 

だとしても、かっちゃんを行かせる訳にはいかない。

 

僕達はまだ子供で、力の使い方を覚えただけの素人なんだ。

 

どうにか留まって貰おうと必死に言葉を探す。

 

そんな中、ランド内の各所に設置されたスピーカーからアナウンスが鳴る。

 

 

『敵襲!敵襲!

 

皆さん避難所へ避難してください!

 

避難所はマフィアランドの象徴(シンボル)のマフィア城です!

 

尚、ランド職員は迎撃態勢にシフト!』

 

 

マフィア城って、あの城か?!

 

だったら炎さん達も近い場所にいるし、今すぐ急げば僕達も間に合う!

 

 

「聞いただろ爆豪!

 

ここの職員が戦うって言ってんだ!

 

俺達が戦う必要なんかねぇだろ!」

 

 

轟君はそう言ってかっちゃんの肩を掴むけど、かっちゃんはそれを振り払う。

 

 

「ンなもん知った事か!」

 

 

そして更にそこに追い打ちをかける様なアナウンスが響く。

 

 

『現在当ランドの職員が対処にあたっていますが、敵勢力の数が多くこちらが押されています!

 

そこで只今当ランドの責任者により、来園者の個性使用が解禁されました!

 

皆様の中で腕っぷしに自信のある方はご協力ください!』

 

 

かっちゃんはアナウンスを聞いて口角を上げる。

 

 

「だとよ。

 

これで俺が行く理由は十分だろ」

 

 

そう言ってかっちゃんは爆破を使い飛び去ってしまう。

 

 

「おい、爆豪!!」

 

 

轟君は叫ぶがかっちゃんは爆音でそれが聞こえないのか、それともそもそも聞く気がないのか、気にする事は無くどんどんと離れていく。

 

 

「……行っちまった。

 

こうなった以上、俺達だけで皆のところに行くしかねぇな」

 

「そうだね…」

 

 

僕と轟君は仕方なく二人だけでマフィア城へと向かう。

 

かっちゃんはきっと大丈夫だ。

 

かっちゃん自身も強いし、きっと戦場には活川さんやリボーンもいるはずだし。

 

そう言い聞かせながら、僕はマフィア城の中へと入る。

 

中には多くの人がいるが、多くは女性や子供だった。

 

 

「母さん達は……」

 

 

僕と轟君は辺りを見回す。

 

もしかして逃げ遅れているのかと不安に思い始めた頃、ふと後ろから声がかけられた。

 

 

「あっ、緑谷」

 

 

振り返るとそこには炎さんが立っていた。

 

 

「あ、炎さん、無事だったんだね!」

 

「もう、大袈裟だよ。

 

まぁ放送聞いたときは驚いたけど。

 

皆は向こうにいるよ」

 

 

僕は炎さんに連れられて母さん達と合流した。

 

どうやら誰も怪我はしていないみたいだ。

 

 

「いやぁ、それにしても凄い事になってるわね。

 

敵対マフィアとの戦争だなんて」

 

 

かっちゃんのお母さんはそう言って周りを見る。

 

……ん?いや、待て。

 

今なんか凄い事言わなかったか?!

 

 

「え、知ってるんですか?!」

 

「えぇ、さっきオレガノさんから聞いたのよ」

 

 

僕は母さん達の後ろに立つオレガノさんを見る。

 

同意する様にオレガノさんは頷き、そして母さんも頷きながら答えた。

 

 

「ホント、凝った設定よね」

 

「え?設定?」

 

 

母さんの予想外の発言に、僕は一瞬訳が分からなかった。

 

 

「えぇ、そうでしょ?」

 

 

僕はオレガノさんを見た。

 

オレガノさんは微かに笑い、僕を見る。

 

そこで、僕は一つ確信を得た。

 

 

「あの、オレガノさん、聞きたいことがあるんです。

 

少し向こうで話しませんか?」

 

「えぇ、構いませんよ」

 

「轟君も来てくれる?」

 

「え?あぁ、いいぞ」

 

 

オレガノさんは未だ笑ったまま、轟君は少し戸惑いながらも僕の後ろに着いて歩く。

 

そしてもの陰に入った所で、僕は振り返った。

 

 

「オレガノさん、それじゃあ質問です」

 

「えぇ、なんでも聞いてください」

 

 

オレガノさんはこれから何を聞かれるのかが分かっているかの様に僕を見る。

 

 

「あなたは、マフィアの……ボンゴレファミリーの関係者なんですか?」

 

 

僕の質問に驚きを見せたのは轟君だった。

 

 

「緑谷、お前何言ってんだ?」

 

「この旅行はリボーンが仕組んだ僕達を鍛える為のものだ。

 

きっと船の中やこの島でのVIP対応は、この旅行自体がリボーンがボンゴレの力を使って用意したものか、ボンゴレファミリー関係者ならこういう対応になるのかもしれない。

 

そんな旅行の案内をする人が、普通の人の筈がない」

 

 

それを聞いた轟君はハッとした様にオレガノさんを見る。

 

 

「確かに、言われてみればそうだな」

 

「答えてください、オレガノさん」

 

 

オレガノさんは尚も表情を崩さずに答えた。

 

 

「えぇ、私は確かにボンゴレと関係のある組織に属しています」

 

 

誤魔化しも何もなくオレガノさんはそう言った。

 

 

「母さん達に、これがイベントだと説明したのはなんでですか?」

 

「リボーンさんより、彼女らにはマフィア絡みの事は知られないようにと指示がありまして。

 

マフィアランドに連れてきておきながら、中々に無茶を仰る方です」

 

 

オレガノさんは困った様に笑う。

 

 

「あなたがボンゴレの関係者って事は、一応は味方だと思っていいんですね」

 

「えぇ、そうですね。

 

あなたがそう思えるのならば」

 

 

正直、完全には信用できない。

 

相手がマフィア関係者って事もあるし、それに目的がどうであれこの人は僕を騙していた。

 

不信感は拭えない。

 

だけど、この人は少なくとも皆をマフィアの世界から遠ざけてくれている。

 

それに今は僕の個人的な感情でどうこう言える状況でもない。

 

 

「一先ずは、信じます。

 

今はみんなの元を離れる訳にはいかないし、轟君もそれでいいよね?」

 

「あぁ、俺はお前がいいなら文句はねぇ」

 

「では皆さんの元に戻りましょう。

 

建物が頑丈とは言っても危険に変わりはありません」

 

 

僕達三人は揃って皆の元へ戻る。

 

皆はこれをイベント信じて疑っていない様子だ。

 

かっちゃんがいない理由を、イベントに参加しに行ったと言ったら信じてくれたし。

 

これなら、無事に終わりそうだ。

 

 

しかし、僕のそんな油断を断ち切る様に大広間に大きな声が響いた。

 

 

「おい、奴さん来やがったぞー!!」

 

 

どうやら城の守りをしていたらしい屈強そうな男性がそう言いながら大広間に入ってきた。

 

 

「くそ、最前線の奴らは何をしていやがる!」

 

 

もう一人の男性が入り、そして外から何やら爆発音が聞こえる。

 

まさか、かっちゃん?!

 

 

「緑谷、今のって」

 

「うん、もしかしたら」

 

 

轟君も僕と同じ考えらしく、僕は頷きながら答えた。

 

 

「うわぁ、凄い音だね」

 

「図分と派手な演出ね」

 

 

皆はイベントの演出だと思い、楽しんでいる。

 

周りの人たちも、さっき聞こえた言葉の中に「リゾート気分に飽き飽きしていた」「やっぱりマフィアはこうじゃないと」というものがあり、いい感じに母さん達の場違いなテンションも馴染んでいた。

 

 

「……緑谷」

 

 

そんな時だった。

 

僕の隣に立っていた炎さんが僕の服の袖を引っ張りながら話しかけてきた。

 

 

「炎さん、どうしたの?」

 

「私、嫌な感じがするんだ。

 

なんでか分からないけど、あの日襲われた時みたいに体が強張って…。

 

ねぇ緑谷、これ本当にイベントなんだよね?」

 

 

僕は炎さんの言った言葉に、何と答えればいいか分からなかった。

 

別に炎さんは何か確証があって言っているんじゃない。

 

きっと僕と轟君の雰囲気から近い何かを無意識に感じているんだ。

 

だからって、否定したところで炎さんの不安はきっと消えない。

 

唯一この不安を拭う方法は、一分でも早く炎さんをこの状況から解放することだ。

 

今この島側の戦力は、この城にまで追いやられている。

 

もしかしたら、リボーン達は何らかの理由で戦えなくなっているかもしれない。

 

なら、僕がやるべき事はなんだ。

 

僕ができることは、なんだ。

 

 

「……なぁ、緑谷」

 

 

悩む僕に、轟君が声をかけてきた。

 

 

「どうしたの、轟君」

 

「行って来いよ」

 

「…え?」

 

 

轟君の言った言葉がすぐには呑み込めず、僕は間の抜けた声を出した。

 

 

「もう敵は目の前まで来てる。

 

それだけこっちが圧されてるって事だろ。

 

リボーンも、活川さんも、爆豪の事も気になってるんだろ。

 

それに、皆が不安がってるのをお前は見ていられない。

 

違うか?」

 

「……轟君」

 

 

僕の中で、答えは決まった。

 

 

「もしもの時は、皆をお願い」

 

「任せろ」

 

 

轟君の返事を聞いて、僕は扉の方を向き歩く。

 

 

「待って」

 

 

それを、後ろからかけられた声が止める。

 

確認するまでもなく、それは炎さんだった。

 

 

「本当に、イベントなんだよね?」

 

「うん、そうだよ」

 

「外で起きてる爆音も、演出なんだよね?」

 

「うん」

 

 

炎さんはまだ不安そうに僕を見る。

 

僕は袖から炎さんの手を離す。

 

 

「ただのイベントだよ。

 

楽しそうだから、僕も参加してくるってだけ」

 

「……そっか」

 

 

炎さんはまだ納得はしていなさそうだけど、もう止めないと示すように手を後ろで組んだ。

 

 

「じゃあ、気を付けてね」

 

「うん、行ってくる」

 

僕は改めて扉へと歩く。

 

扉を護る二人の男性に外の援護に行くと伝えると、二人は「頼んだぞ」と言いながら僅かに開いた扉に僕を通す。

 

通路を抜けると、そこは正に戦場。

 

爆発痕、倒れる人、怪我人を背負い撤退する人。

 

その中に知り合いがいない事に安堵と不安を覚えながら僕は爆音と強者の気配のする方へと駆ける。

 

全身に5%の力を張り巡らせて森の中を早く、速く!

 

 

「死ねやァァァ!!」

 

 

その時、前方から聞き慣れた声の聞き慣れた言葉が聞こえた。

 

それと同時に響く爆音。

 

その正体は、やはりというか何というか、かっちゃんだった。

 

 

「クソがっ!全然減りやしねぇ!!」

 

「かっちゃん!大丈夫?!」

 

「アァ?!」

 

 

振り返ったその顔は正に鬼の形相。

 

まぁ、とりあえず怪我は無さそうで良かった。

 

 

「テメェ、出てきたんか」

 

「うん、皆は轟君とオレガノさんに任せてきた」

 

「オレガノってあのガイドの……そういうことかよ」

 

 

かっちゃんは舌打ちしながらも意識を森の奥から湧き出てくる敵に向ける。

 

 

「恐らく、コイツらの親玉はこの先だろうな」

 

「城の守りについてる人の負担を軽減する為にも敵は減らさないとだけど、これ以上ここに時間を取られる訳にも行かない。

 

どうしようか」

 

「正面突破だろ」

 

「言うと思った」

 

 

僕は足に力を込めながらクラウチングの体制を取り、かっちゃんはいつも通りの両手を後ろに向けた構えを取る。

 

 

「遅れんなよ」

 

「分かってる」

 

 

短く言葉を交わし、僕達は駆ける。

 

道中に敵を気絶させて行きながら、真っ直ぐに。

 

それはさながら障害物競走の様で、こんな状況だけれど僕はかっちゃんの隣を走るのが少し嬉しかった。

 

 

「オイオイどうしたァ?!ペース落ちてんぞ!」

 

「ご心配、どうも!」

 

 

さっきから何とか躱しているけど、銃を持った敵の攻撃が激しい。

 

ほとんどは撃つ前に気絶されてるけど、稀に間に合わない場合もある。

 

これがもし弾幕を張れるほどに増えれば、流石に対処しきれない。

 

そんな事を思いながら駆けていると、いきなり視界に光が差す。

 

どうやら森の中の木のあまり生えていないエリアに出たみたいだ。

 

そして目の前にはランド側と襲撃者の戦闘が繰り広げられていた。

 

 

「かっちゃん!行くよ!」

 

「分かっとるわ!」

 

 

僕達は同時に飛び出し、敵を全員気絶させる。

 

終わったと思った所に、物陰に隠れていたのか、もう一人の襲撃者が僕に飛び掛かる。

 

僕がそれに反撃しようとしたその時、襲撃者の首から下が凍り付いた。

 

 

「これって」

 

「悪いな緑谷。

 

アトラクションなら俺も行って来いって言われちまって、断るのも不自然だから出てきちまった。

 

皆はオレガノさんと、合流したもう一人の仲間の人に任せてきたから安心しろ」

 

 

轟君の登場には驚いたけど、どうやら大丈夫らしい。

 

それにどうやらここは今ので最後だったらしく、皆は歓声を上げている。

 

 

「よーし片付いたぞ!」

 

「お前ら子供なのにやるなぁ!」

 

「こりゃあ、コイツらのいるファミリーの将来は安泰だろうよ!」

 

 

大柄な男達の大袈裟な笑い声。

 

しかしそれを遮る様に轟音が響いた。

 

それは段々と近づいて来て、そして目の前の木々が薙ぎ倒されてその姿を表す。

 

 

「なんだコイツ?!」

 

「こ、これって、タコ?!」

 

 

目の前に現れたのは、4mはありそうな鎧を纏った巨大なタコだった。

 

 

「おい、あそこを見ろ!」

 

 

隣にいる髭の濃い男がタコの目の前の地面を指した。

 

よく見てみるとそこには、紫のおしゃぶりを首から下げてヘルメットを被った赤ん坊が立っていた。

 

 

「奴は、カルカッサファミリーの軍師スカル!」

 

「え?!あの赤ん坊が?!」

 

「間違いない!

 

あの紫のおしゃぶりはアルコバレーノの証!」

 

 

アルコバレーノって、確かジャックがリボーンにそんな事を言ってた気が……。

 

 

「アルコバレーノって、なんなんですか?!」

 

「アルコバレーノとは虹!

 

そしてマフィア界にいる七人の最強の赤ん坊を指す!」

 

「は、はぁ?」

 

 

さ、最強の赤ん坊?

 

ていう事は、コロネロもそのアルコバレーノ?

 

 

「このヤロー!」

 

「死ねチビがー!!」

 

 

僕が考え事をしていると、数人の男が手に持つ武器や己の個性で攻撃をしかける。

 

それに対して、スカルと呼ばれた赤ん坊はただ指をくいっと動かしただけだった。

 

すると背後の鎧を纏ったタコが弾丸をその触手で弾いた。

 

 

「まさかあのタコ、あの赤ん坊の指に連動して?!」

 

「そうか、聞いたことがあるぞ!

 

スカルは巨大なタコを意のままに操ることができると!

 

奴がそうだったのか!」

 

 

巨大なタコを操るって、そんな個性があるのか?!

 

僕が驚いている間に、数人の男を弾き飛ばしていた。

 

 

「クソが!舐めやがって!」

 

 

そう言いながらかっちゃんは爆破で空中へと上昇し、腕を交差させる。

 

 

「たこ焼きにしてやらァ!」

 

 

そして左右の手で交互に爆破を起こし、体を回転させながらタコに向かっていく。

 

かっちゃん、一撃で決めるつもりだ!

 

 

手榴弾着弾(ハウザーインパクト)!」

 

 

そして最大火力をタコにぶつける。

 

 

「これなら!」

 

 

これなら勝った。

 

そう言おうとした僕だったが、煙の中の大きな影が未だ動いている事に気がつき驚愕のあまり息を飲んだ。

 

 

「おいおい、今の爆豪の全力だろ?!」

 

「まさか、そんな!」

 

 

僕らは驚きながらも構えを取る。

 

かっちゃんはタコから距離をとって着地しながら様子を伺う。

 

そして煙が晴れたそこには、ほぼ無傷のタコが触手を畝らせながらこちらを見ていた。

 

 

「ほとんどノーダメージじゃねぇか!」

 

「うっせぇな!分かっとるわ!」

 

「言い争ってる場合じゃないって!」

 

 

僕は轟君を中心にしてかっちゃんと3人で挟み込む位置に移動した。

 

三人三様に構えを取り直し、タコを睨む。

 

足元にいるスカルの指の動きを見ればその動きを予測する事ができるけど、そんな事をしているとタコ本体の攻撃に出遅れてしまう。

 

かと言ってタコの動きを見て判断して動くなら、防戦一方になってしまう。

 

僕達の周りにいる人達はきっとこのタコに対して有効な個性を持っていないんだろう。

 

離れた位置から警戒しながら様子を窺っている。

 

その他にも怪我人や、それを引きずったり担いだりして戦線を離脱する人。

 

つまりもう、僕達しかいないんだ。

 

だけど、かっちゃんの最大火力をほぼ無傷で受け切る防御力を持つあのタコに僕達3人で対抗できるのか?

 

不安は数えたらキリがないけど、やるしかないんだ。

 

 

「コイツは、ここで食い止める!」

 

「アァ、やるぞ!」

 

「言われるまでもねェ!」

 

 

僕はONE FOR ALLを8%で体に纏い、かっちゃんは両手を後ろに向けて構えて火花を散らし、轟君は左右それぞれで冷気と熱気を纏いだす。

 

そしてタコが3本の触手を振り上げ、振り下ろすのと同時に僕達は動き出した。

 

まずは轟君が氷結で滑走しながら複数の氷柱を打ち出しす。

 

タコはそれを触手で叩き割りながら更に轟君に別の触手で追い討ちをかける。

 

それを僕が踵おとしで地面に叩きつけ、その隙にかっちゃんがタコの顔面に爆破を見舞う。

 

それで仕留めきれない事はわかっている。

 

僕はタコの触手を足場にしてタコに迫り、右腕のみONE FOR ALLの10%に引き上げる。

 

振り上げた拳をタコの側頭部に叩きつける。

 

タコ特有の弾力を拳に感じながら、僕は更に側頭部を蹴りながらその場を離脱する。

 

すると予想どりタコが触手で僕がいた場所に攻撃を加えてきた。

 

轟君がすかさずそこに氷柱を放ち、そこから放たれる冷気で更に触手を側頭部に氷つけて動けなくする。

 

そしてそれに苛立ったのかタコは轟君に触手を伸ばすが、轟君はそれを地面から射出した氷柱で打ち上げる。

 

かっちゃんがその隙をついてタコの眼前に飛び出す。

 

完全に意識の外からの登場に、タコの視線は完全にかっちゃんに向けられた。

 

かっちゃんは狙い通りとばかりにニヤリを笑いながら両手を広げてタコに向ける。

 

 

閃光弾(スタングレネード)!」

 

 

その掛け声と共に掌から閃光が放たれ、タコは目を瞑る。

 

僕はそれを合図にFULL COWLを10%に引き上げて真上に飛び上がる。

 

それに合わせて轟君が僕を追い越す高さの氷柱を作り上げ、僕はそれを蹴ってタコに迫る。

 

右足を振り上げて、そして勢いをつけて脳天に振り下ろす!

 

 

「MANCHESTER SMAAAASH!!」

 

 

タコの真上から踵を叩きつける。

 

衝撃に、地面に蜘蛛の巣の様なヒビが入る。

 

この攻撃はタコにも効いたのか、タコは何となく苦悶の様な表情を浮かべた。

 

 

「二人とも、畳み掛けるんだ!」

 

 

僕は二人を見ながらタコを挟んで轟君達の反対側へと着地した。

 

 

「おう!」

 

「命令すんな!」

 

 

轟君は動きの鈍った触手を氷で拘束しながら左手から圧縮した火炎を一直線に放った。

 

氷結により冷やされた大気が熱により膨張し、爆発を起こす。

 

それにより生じた突風をもろともせず、かっちゃんは轟君の真横を通り過ぎていく。

 

 

「合わせろ半分野郎!」

 

「あぁ!」

 

 

轟君はかっちゃんを包むように炎を螺旋状に放つ。

 

かっちゃんは手榴弾着弾(ハウザーインパクト)を放つ構えをとった。

 

まさか、二人の連携技?!

 

 

手榴弾爆裂(ハウザーエクスプロージョン)!」

 

 

かっちゃんは普段より格段に威力の増したそれをタコの顔面めがけて放った。

 

あの威力なら、もしかしたらやれるかもしれない。

 

けど、それでも更に畳み掛ける!

 

 

「DETROIT SMAAAAASH!」

 

 

二つの衝撃が、タコを前後から襲う。

 

かっちゃんの起こした爆発が収まるのを見て、僕は離脱する。

 

そして同じく離脱したかっちゃんと轟君の隣に着地し、煙が晴れるのを待つ。

 

 

「流石に、倒せたよな?」

 

「分からない。

 

でも、少なくともさっきよりはダメージは通っているはず」

 

 

僕が轟君の疑問に答える間に、煙はどんどんと晴れていく。

 

倒れていてくれと願う僕達の願いとは裏腹に、煙の晴れたそこには未だ健在のタコの姿があった。

 

でも明らかにさっきよりもダメージが残っている。

 

このまま行けば、倒せる。

 

だけど、もう僕達にそんな余力はない。

 

轟君の個性は使えば使うほど体に負荷がかかるし、かっちゃんも個性の反動がある。

 

もう残された手は、僕の自爆覚悟の100%だけだ。

 

だけどそれで倒しきれなかったら?

 

きっとこのタコはこのまま城を目指すはずだ。

 

そうなったら、あの中にいる人達全員が危機に晒されることになる。

 

どうすればいい。

 

一体僕達はどうすれば!

 

 

「なんだオメェら、出てきてたのか」

 

 

絶望しかけたその時、聞きなれた声が僕の耳に届く。

 

 

「っ?!リボーン?!」

 

「な、なに?!」

 

 

驚く僕に反応して、さらにスカルも驚いて声のした方を向く。

 

 

「ごめん、出てくるなって言われてたけど、やっぱり黙ってみているなんて嫌だったんだ!」

 

「あぁ、分かってる。

 

寧ろ今回はオメェらが危険を顧みず仲間の為に戦場に出る覚悟が備わっているかを見たかったから発破かけたんだからな。

 

所謂、試験だ」

 

「……え?」

 

「夏樹の時はお前達が行かざるを得ない状況だったが、今回は違ぇ。

 

自分達が戦う必要がない状況で、それでも仲間を守るために立ち向かえるか。

 

今回は合格だな」

 

 

なんだかもう、頭が追い付かないや…。

 

 

「じゃあ、もしかして今回の襲撃も仕込み?」

 

「いや、襲撃自体は本物だ。

 

だろ?スカル」

 

「なぜここにリボーン先輩が…?」

 

「せ、先輩?!」

 

 

スカルって、リボーンの後輩?!

 

ていうか赤ん坊に上下関係あるの?!

 

 

「おしゃぶりが光ったのに気が付かなかったのか?」

 

「あ」

 

 

またリボーンの変な知り合いか……。

 

 

「せっかく久々に会ったんだ。

 

一杯やるぞ。あのタコを刺身に」

 

「ば、バカ言うな!」

 

 

あのタコって食べれるんだ……。

 

 

「というより!

 

オレは今カルカッサファミリーのボスから命を受けている!

 

お前は倒すべき敵だ!」

 

「お前いっつも誰かのパシリだよな」

 

「パシリじゃない!

 

お前だけだ!!俺をパシリに使ったのは!

 

なめやがって!許さんぞ!」

 

 

スカルはそう言って右手を突き出し拳を握りしめた。

 

するとタコはそれに連動してリボーンをその触手で掴んだ。

 

 

「リボーン!!」

 

 

触手に振り回されながらも、リボーンは触手の隙間からスカルに銃を向けて3発放った。

 

 

「くっ?!」

 

 

咄嗟にタコでそれを防いだスカル。

 

だけど一発だけ防ぎきれなかったのか、左手から出血していた。

 

 

「左手を……流石の早撃ちだな。

 

少し油断した…。

 

だが片手があれば充分だ!

 

つぶしてやる!」

 

 

タコの触手が徐々に締まる。

 

相当に力が強いのか、リボーンはその手に持っていた銃を手から落としてしまった。

 

 

「リボーン!」

 

「どうだ!

 

もう昔のスカルではないんだ!

 

死ねリボーン!」

 

 

スカルはその手を更に硬く握りしめる。

 

このままじゃ、リボーンが!!

 

……って、あれ?

 

 

「うんしょっと」

 

「なっ?!」

 

 

タコの触手が締まる事はなく、タコは呆然とスカルを見ていた。

 

その隙にリボーンは平然と触手から抜け出して触手の上に立った。

 

 

「何をしている!

 

どーしたんだタコ!!」

 

「ソイツ戸惑ってるよーだな。

 

お前の左手のそんな姿、見たことねーだろーからな」

 

「ん?

 

!!デカっ?!」

 

 

スカルの左手はなぜか不自然なほどに膨れ上がっていた。

 

左手といえば、さっきリボーンが打ち抜いたのも左手だった。

 

 

「もしかして、特殊弾?」

 

「あぁ。

 

死ぬ気弾の派生のゲンコツ弾だ。

 

手の甲に撃つ事で手を肥大化させることができるんだ。

 

普段見たことのねーそれに、タコは命令の意味がわからずに動けねーって事だ」

 

 

そう言いながらリボーンはタコの触手からスカルに向かって飛び降りた。

 

 

「オレの番だぞ」

 

 

リボーンはそう言ってスカルを蹴り飛ばした。

 

 

「ギャ!!!」

 

 

スカルは悲鳴を上げながら木にぶつかった。

 

 

「リ、リボーン、相変わらず滅茶苦茶強い……」

 

「くそ…こうなったら…!

 

戦艦から城を砲撃しろ!」

 

 

な、砲撃?!

 

そんなことしたら皆が!

 

 

「リ、リボーン!

 

砲撃を防がなきゃ!」

 

「安心しろ、砲撃はできねーぞ。

 

コロネロも起きただろーからな」

 

「なっ、コロネロ先輩もここに?!」

 

 

海の方角を見ると、確かにコロネロのようなシルエットの赤ん坊が鷹に掴まれて飛んでいた。

 

 

「いくぜコラ。

 

SHOT!」

 

 

それからすぐに爆発音が聞こえ、海から黒煙が立ち上った。

 

 

[スカル様!全艦撃沈されました!]

 

 

スカルのメットの無線から船員らしき声が聞こえた。

 

 

「コロネロのライフルが火を噴いたな」

 

 

コロネロも滅茶苦茶に強かった…。

 

 

「ていうか今まで何してたの?!

 

活川さんもいないし!」

 

「だから言っただろ、今回はオメェらの試験だって」

 

「試験って……リボーンが言ったんだろ!

 

相手は僕たちが敵う相手じゃないから今回は出てくるなって!」

 

「あぁ、そのことで怒ってんのか?

 

敵が強いってのは嘘だ。

 

コイツ戦いに関しちゃ相当弱いぞ」

 

「え、そうなの?!」

 

 

聞いてた話と全然違う!

 

じゃあ、僕達が覚悟決めて挑んだのは何だったんだよ!

 

 

「そのくらいプレッシャーかけとかねぇとオメェら普通に出て来ちまうだろうが。

 

それじゃあ試験の意味がねぇからな」

 

 

なんかもう、色々と緊張が解けて一気に疲れた…。

 

 

「けど、じゃあなんで今出てきたの?」

 

「んなもん決まってんだろ。

 

オレのパシリはオレが締める。

 

それがオレのポリシーだ」

 

 

訳がわからないけど、まぁリボーンらしいや……。

 

ともあれマフィアランド側はカルカッサファミリーに勝利し、島に平和が訪れた。

 

 

 

そしてその夜、勝利を祝した(元々開催予定ではあったらしい)パレードが行われることになった。

 

マフィア関連の事が皆にバレたらマズいから、僕達は離れた所でバーベキューをすることになった。

 

用意された食材はどれも高そうなものばかりで、とりあえずそれはイベントの景品ってことで何とか誤魔化した。

 

 

「んーっ!どれも美味しわね!

 

ほら、皆もどんどん食べちゃって!」

 

 

かっちゃんのお母さんがどんどん肉を焼きながら僕達に配っていく。

 

代ろうとも思ったけど、どうにも高級な肉にテンションが上がっていてトングを手放す気がないようだ。

 

 

「俺、友達とバーベキューなんて初めてだ」

 

「うん、僕も」

 

 

僕と轟君はそれを見ながら話していた。

 

 

「俺達、守れたんだな」

 

「そうだね。

 

今回は守れた」

 

 

轟君は優しく笑い、僕も釣られて笑顔になる。

 

 

「俺、ちょっと姉さんと話してくるよ」

 

「うん」

 

 

轟君はそう言って冬美さんの方へ歩いて行き、それと入れ替わるように炎さんがこちらに歩いてきた。

 

 

「どうしたの?」

 

「ううん、別に。

 

ただ、緑谷がちゃんと帰ってきてくれてよかったなって。

 

変だよね、ただのイベントなのに」

 

 

炎さんはそう言って笑う。

 

何だか、炎さんには今回の事が見透かされていた様な気さえする。

 

ただ僕達の雰囲気からあの時に近い何かを感じてそう思っただけかもしれないけど。

 

けど炎さんの笑顔を見て、改めて守れたんだと実感が湧いた。

 

 

「ねぇ緑谷」

 

 

炎さんは、さっきよりもか細い声で僕の名前を呼んだ。

 

 

「どうしたの」

 

 

炎さんの顔を見ると、少しだけ赤くなっているように見えた。

 

 

「えっと、私ね!」

 

 

炎さんが何かを言おうとした瞬間、大きな音ともに空に大きな花火が輝いていた。

 

 

「うわぁ、凄いね」

 

 

それから程なくして、連続して花火が上がる。

 

ついそれに見惚れていた僕は、炎さんに視線を戻した。

 

 

「あ、話切っちゃってごめんね?」

 

「いいよ」

 

 

炎さんはそう言いながら苦笑いを浮かべた。

 

 

「それで、なに?」

 

「……私ね」

 

「うん」

 

「この旅行に来れてよかった。

 

誘ってくれてありがとね」

 

「あぁ、そのことか。

 

気にしなくていいよ」

 

「私がお礼言いたいだけだよ…って、そういえばあの時もこんな話したね」

 

「そういえばそうだね」

 

 

そういって二人で笑った。

 

それから僕達は他愛のない話をした。

 

皆とも色々な話をして、パレードが終わるまで笑い声が途絶える事はなかった。

 

そして翌日船に乗り、再び一泊二日の船旅を楽しんでそれぞれの日常へと帰っていった。




次回予告!

出久「なんか、旅行の間の体感時間が実際の経過時間と全然噛み合ってないや…」

リボーン「そうだな。

具体的にいえば十ヶ月くらいに感じたぞ」

出久「流石にそれは言い過ぎだと思うけど…」

リボーン「そんなことより、次回は一気に飛んで入学試験当日だ」

出久「ついに来たんだ…。

最高のヒーローになる為にも、全力で挑むぞ!」

リボーン「当たりめーだろ。

もし不甲斐ねー成績残しやがったら、ボンゴレ流超ネッチョリトレーニングだからな」

出久「なんかネーミングからしてヤバそうな予感!!」

リボーン「次回『標的(ターゲット)29 雄英入学試験』」

出久「更に向こうへ!Plus ultra!」

リボーン「死ぬ気で見ろよ」


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標的(ターゲット)29 雄英入学試験

試験の流れは実技試験以外原作で描写されていなかったのでオリジナルです。


雄英入学試験当日の早朝。

 

僕はトレーニングに使っていた海浜公園に来ていた。

 

 

「やぁ、おはよう緑谷少年」

 

 

近づく僕に気がついたトゥルーフォームのオールマイトがそう言って右手を上げる。

 

 

「おはようございます」

 

 

僕もあいさつを返して隣に並んで水平線を眺める。

 

 

「ついにこの日が来たな。

 

緊張しているかい?」

 

「少しだけ」

 

「そうか」

 

 

僕はオールマイトの質問に答えながら右手を握りしめて、それを見た。

 

 

「この十ヶ月で、力のコントロールはある程度できるようにはなりました。

 

あとは、試験でいつも通りの事をやるだけです」

 

「それでいい。

 

君はONE FOR ALLを継いで、数々の試練を乗り越えてきた。

 

君ならやれるさ」

 

 

No.1ヒーローからの激励。

 

これ程までに贅沢で、やる気の出るものはない。

 

 

「さぁ、少年。

 

そろそろ行ったほうがいいんじゃないか?

 

家に帰り、準備することもあるだろう」

 

「まぁほとんど昨日の内に終わらせたので、後はシャワーを浴びて着替えてご飯食べるくらいです。

 

けど、そうですね。

 

そろそろ帰ります」

 

「先ほども言ったが、君ならやれる。

 

肩の力を抜き、されど程よく緊張感を持って臨むことだ」

 

「はい、それじゃあ」

 

 

僕は砂浜から歩道の方へ歩く。

 

 

「緑谷少年!」

 

 

その僕に後ろからオールマイトが声をかける。

 

 

「きっと入試の説明会でも聞くとは思うが、少し早めに雄英の校訓を君に授けよう」

 

 

オールマイトは体から湯気を立たせながらその姿をマッスルフォームへと変える。

 

 

「更に向こうへ!」

 

 

そう言いながら右手を強く握り、上へと突き上げる。

 

 

「Plus ultraaaa!」

 

 

力を抑えたのか、少し強め程度の風が僕の頬を撫でる。

 

 

「苦境に立たされた時、この言葉を叫ぶといい」

 

 

オールマイトは笑顔でそう言った。

 

僕も拳の握り突き出す。

 

オールマイトの様に最小限の力で風圧を飛ばしたりはできないから、ONE FOR ALLは使わないけれど。

 

 

「行ってきます」

 

 

今度こそ僕は帰路に着いた。

 

 

 

…………………………

 

 

 

「ただいま」

 

 

玄関を閉じながらそう言うと、リビングの扉が開き母さんが顔を覗かせた。

 

 

「おかえり出久。

 

今ご飯準備してるから、今のうちにシャワー浴びちゃいなさい」

 

「うん、ありがとう」

 

 

僕は母さんにお礼を言いながら風呂へと向かう。

 

シャワーを浴び髪を乾かしてからダイニングに向かうと、テーブルの上に朝食が並んでいた。

 

いつも通り美味しそうだ。

 

 

「いただきます」

 

 

席について、僕は早速ご飯を食べる。

 

栄養バランスのしっかり摂れていて、しっかり食べ応えもある料理を毎日用意してくれる母さんには頭が上がらない。

 

僕は感謝しながら朝食を済ませ、母さんにお礼を言って自分の部屋に戻り制服に着替える。

 

念の為に試験会場に持っていく荷物を確認する。

 

筆記試験対策のノートと、筆記用具、実技試験に使うジャージ、財布、お腹が空いた時の為のゼリー飲料。

 

よし、問題はないな。

 

リボーンは今日用事があるらしく、朝早くに出かけたから今日は特に目立ったトラブルはない。

 

かっちゃんと炎さんとは四十分後に駅集合だから、十分後に出れば余裕をもって行ける。

 

僕は自分の部屋で試験対策の復習をしながら時間を潰した。

 

そして時間になったのを確認して、母さんに声をかけて玄関に向かった。

 

 

「それじゃあ出久、頑張ってね」

 

「うん、行ってきます」

 

 

僕は玄関の戸を開きながら、母さんにガッツポーズで答えた。

 

そして僕は駅まで歩いて向かう。

 

道中で知り合いや、別の学校の試験に向かうクラスメイトと挨拶を交わす。

 

家を出て約十分、僕は駅の改札の前に着いた。

 

どうやら僕は二番手みたいだ。

 

先に着いていたかっちゃんに手を挙げて挨拶をすると、少し遠目でも分かるくらい舌打ちをしているのがわかった。

 

 

「お待たせ」

 

「…おう」

 

 

なんかこうやってかっちゃんと待ち合わせして入試に行くなんて、三年前のリボーンと出会う前の僕なら考えもしなかっただろうな。

 

 

「あれ、二人とももう来てたの?」

 

 

僕が物思いに耽っていると、後ろから声をかけられた。

 

そこには制服に身を包んだ炎さんが立っていた。

 

 

「もしかして待たせちゃった?」

 

「そんな事はないよ。

 

僕もついさっき着いたばかりだし、かっちゃんはいつからいたの?」

 

「んなモンどうでもいいだろうが。

 

とっとと行くぞ」

 

 

かっちゃんは大股で改札の方に歩いていく。

 

僕は炎さんと顔を見合わせて軽く笑い合い、かっちゃんの後を追った。

 

それから電車に揺られ、到着した駅から外に出る。

 

すると、そこから見える山に巨大な建物があるのが見えた。

 

前に道の予習で来た時も思ったけど、とてつもなくデカい。

 

1学年で11クラスあり、更に様々な環境を想定した施設もある。

 

更にあの山全体が雄英の敷地らしいからまだ増やす計画もあると前にサイトで見た。

 

日本一のヒーロー育成機関というだけあって、施設のどれもが全国のどのヒーロー科を有する学校と段違いだ。

 

 

そんな事を考えながら、僕は2人と一緒に雄英高校へと続く道を歩く。

 

道中で、僕達と同じく試験を受けに行くであろう人達を多く見かける。

 

学校に近付くにつれてその数はどんどん増えていく。

 

この内のほとんどがヒーロー科を受験する。

 

こんな人数の中から、たった36の席を争うんだ。

 

競うことが好きって訳じゃないけど、少しだけワクワクする。

 

 

「はぁぁぁ………。

 

なんか、ここに来て緊張して来ちゃった…」

 

 

隣で炎さんが胸に手を当てて深呼吸をする。

 

 

「うん、僕も。

 

校舎の大きさに圧倒されているのもあるかも」

 

 

改めて目の前の校舎を見上げる。

 

とにかくデカい。

 

 

「そんなんだからテメェはクソナードなんだよ」

 

 

何故今の流れで僕だけが罵倒されるんだ。

 

いや、炎さんも罵倒されればいいと思っている訳じゃないけど。

 

というか、さっきから随分と視線を感じるんだけど、何なんだろう?

 

 

「おいあれ、あのヘドロヴィランのニュースに出てた奴らじゃないか?」

 

「あのオールマイトが解決した事件の?」

 

「ホントだ。捕まってた奴とパンツ姿で突っ込んで行った奴だ」

 

「あのトゲトゲ頭の方の個性って確かめちゃくちゃ強力じゃなかったか?」

 

「あのボサボサ頭の方も強いのか?」

 

 

…………そうだった。

 

あの事件、オールマイトが絡んだ事もあって結構知れ渡っているんだった………。

 

 

「そういえば緑谷、一時期SNSでパンイチヒーローって呼ばれて結構バズってたね」

 

「炎さん、追い打ちかけないで…」

 

 

炎さんは笑いながら10か月前の投稿のスクショを僕に見せてくる。

 

あの時学校で僕もかっちゃんもイジられて大変だったんだ。

 

主にかっちゃんのストレスを抑えるのが。

 

 

無 駄 話 し て ね ぇ で と っ と と 行 く ぞ

 

「「あ、うん」」

 

 

明らかに不機嫌そうに前を歩いていくかっちゃんを、僕達はまた顔を見合わせて少し笑いながらその後をついていく。

 

 

「あ、っと?!」

 

 

その時、炎さんが足がもつれたのか前に向かって倒れていく。

 

僕は咄嗟に炎さんを前方から抱き留めた。

 

 

「……あれ、軽い?」

 

 

抱き留めた時に腕にかかるはずの重みが不自然な程に軽く、僕は炎さんを起こしながら炎さんを見た。

 

 

「大丈夫?」

 

「わっ、え?!」

 

 

空中でバタバタする炎さんの隣に、茶髪でショートボブヘアの女子が立っていた。

 

 

 

「私の個性。

 

ごめんね勝手に。

 

まぁ、私が個性使わなくても大丈夫みたいだったけど」

 

 

茶髪の女子が僕を見て笑った。

 

 

「でも、転んじゃったら縁起悪いもんね」

 

「ありがとね!私は炎 夏樹」

 

「私は麗日お茶子。

 

いやぁ、それにしても緊張するよねぇ」

 

「私も緊張してる」

 

 

そう言いながら麗日さんは両手の指をくっつけた。

 

すると炎さんの足が地面に着く。

 

重力を操る類の個性かな?

 

 

「麗日さんはヒーロー科を受けるの?」

 

「そうなんだぁ。

 

炎さんは違うの?」

 

「うん、私は経営科を受けるんだ。

 

こっちの2人はヒーロー科受けるんだけどね」

 

「2人?」

 

「あぁ、あっちのガラ悪そうな人も一緒の中学なの」

 

「そうなんだ」

 

 

麗日さんはそう言いながらかっちゃんの方を見た。

 

 

「おぉ、ガラ悪そう」

 

「ね」

 

「アハハハ……」

 

 

二人の会話に苦笑浮かべつつ、僕はスマホに表示された時間を見た。

 

 

「あ、そろそろ行かないと。

 

復習する時間とか無くなっちゃうよ」

 

「ホントだね」

 

 

炎さんは僕のスマホを覗き込みながら同意した。

 

すると麗日さんは何かを思い出した様に慌て出した。

 

 

「あ、私ちょっと親に電話しなきゃだから、行くね」

 

「うん、お互い頑張ろうね」

 

「うん!そっちもね!」

 

 

僕達は走って去っていく麗日さんに手を振りながら、再び歩き始めようとしたその時。

 

足元に何かが落ちているのに気がついた。

 

 

「これ、お守りかな?」

 

 

僕は赤いお守りを拾い上げる。

 

裏側を見るとそこには力強い文字で「頑張れお茶子!」と書いてあった。

 

 

「これ麗日さんのだね」

 

「今からもう人混みの先に行っちゃったからどこにいるか分からないね」

 

 

どうにか見つけようとしたけど、もう建物の中に入ってしまったのかどこにもその姿を見つけることはできなかった。

 

 

「これどうしようか」

 

「うぅん……。

 

筆記試験の合間で見つけられればいいんだけど、無理ならヒーロー科の実技試験の時に探してみるよ」

 

「うん、そうしよ。

 

とりあえずそれは緑谷が持ってて」

 

 

話を纏めて、僕達は筆記試験の会場へと向かった。

 

案内された会場で全体の流れと、筆記試験終了後の各学科での流れの説明を受けた後に学科試験が始まった。

 

筆記試験は特に問題なく解け、合間の休憩時間で聞いた感じだと2人もその様だった。

 

 

そして筆記試験が終了して昼休みに入り、僕達は三人で集まっていた。

 

 

「麗日さん見つからないね」

 

「うん、結構離れた教室だったのかな?」

 

「かもね」

 

 

僕達は昼食を摂りながら、これからのスケジュールを確認していた。

 

僕とかっちゃんはこの後ヒーロー科の実技試験に向かう。

 

内容は事前に公表されてはいなかったけど、調べた感じだとそれぞれポイントを持ったロボットを倒す程に加点されていくシステムらしい。

 

 

炎さんの受ける経営科はこの後面接試験があり、僕達よりは早く終わるらしい。

 

以前に面接試験の練習をする炎さんを見たけど、その時の受け応えはスムーズに行えていたから後は本番でそれを発揮するだけだ。

 

練習の時に、色々な所から雄英高校の面接試験のデータを集めるのに苦労していた進路担当の先生の目の下のクマが凄かったのを思い出す。

 

今まで折寺からは雄英高校を受験する人は僕達を含めても両手で足りる程しかいないらしく、そのどれもがヒーロー科志望だった為に何も情報が無かったらしい。

 

 

「とりあえずお守りは僕が持っておくよ。

 

かっちゃんの方でも探して、見つけたらこの事を伝えてくれる?」

 

「わーっとるわ」

 

 

かっちゃんはそう言って手に持った激辛高菜おにぎりを口に入れてしっかり噛んだ後に生姜湯で一気に飲み込んだ。

 

 

「そろそろ行くぞ。

 

早めに行かねぇと一気に移動するモブ共が邪魔だ」

 

「知らない人をすぐにモブって呼ばない」

 

 

僕達は自分達のゴミを纏めながら立ち上がる。

 

 

「それじゃあ私は案内あるまでは待機だから、行ってらっしゃい。

 

2人とも頑張ってね」

 

「うん、炎さんもね」

 

 

炎さんと別れて、僕達は実技試験の説明のあるホールへと向かう。

 

説明会の30分前だからまだ人は疎らにしかいない。

 

 

「なんか、いよいよって感じで少し緊張するな。

 

かっちゃんは?」

 

「する訳ねぇだろ。

 

相手が何だろうが、競う相手が誰であろうが関係ねぇ。

 

全てを上回ってトップに立つ。

 

それ以外は眼中にねぇ」

 

 

かっちゃんは席に豪快に腰掛けながら足を組んだ。

 

その音に、右斜前辺りの席の人が反応し、こちらを振り返った。

 

 

「おい」

 

 

低く迫力のある声が、僕達に向けて放たれた。

 

 

「そこの君、姿勢を正さないか。

 

ここは天下の雄英高校。

 

その様な不遜な態度が許される場ではないぞ」

 

「ア"ァ?」

 

 

おっと明らかにマズイ。

 

多分この二人、酷く相性が悪い。

 

 

「どんな姿勢だろうが俺の勝手だろうが。

 

第一テメェに指図される義理はねぇ」

 

「……確かに初対面の相手に失礼だった」

 

 

意外にも簡単に認めたから、僕もかっちゃんも呆気に取られた。

 

 

「しかし、君もその威圧的態度を隠さない点は頂けないぞ。

 

それに先程の発言も人によっては不快感を抱く事もあるだろう」

 

「……チッ、わーったよ」

 

 

かっちゃんは面倒になったのか、組んでいた足を解いた。

 

 

「僕も急に話しかけてすまなかった。

 

互いに試験ではベストを尽くそう」

 

 

眼鏡の男子はそう言いながら席に座り直した。

 

そのすぐ後くらいから多くの受験者が入って来て席はどんどん埋まって行った。

 

そして説明会の時間になると館内の明かりが落ちてステージの中央の床が開き、そこから1人のヒーローコスチュームを着た男と教壇が上昇して来た。

 

上昇が止まると男は大きく息を吸い込み、そして解き放った。

 

 

「今日は俺のライブにようこそォォォ!

 

エヴィバディセイヘイ!!」

 

 

会場全体に響き渡る大声量。

 

その発生源はボイスヒーロープレゼント・マイク。

 

レスポンスを求めたプレゼント・マイクだが、誰も反応しないまま数秒が経過すると痺れを切らしたかのように再び息を吸い込む。

 

 

「……こいつぁシヴィーー!

 

受験生のリスナー!

 

実技試験の概要をサクッとプレゼンするぜ!!

 

アーユーレディ?!

 

YEAHHHHH!!!!

 

 

またもやレスポンスは無かったが、プレゼント・マイクは気にすることなく進行していく。

 

 

「入試要項通りリスナーにはこの後!

 

10分間の【模擬市街地演習】を行って貰うぜ!!」

 

 

プレゼント・マイクがそう言うと、背後の巨大なモニターに地図が映し出され、各会場と思わしき場所にそれぞれアルファベットが振ってあった。

 

 

「持ち込みは自由!

 

プレゼン後は各自指定の演習会場に向かってくれよな!!」

 

 

なるほど。

 

内容は事前に配られた資料通りだな。

 

 

同校(ダチ)同士で協力させねぇってことか」

 

「僕はBで、かっちゃんはEだね。

 

この試験ではなるべく個人の力量や対応力を見る感じだろうね」

 

「テメェとの勝敗が分かんのは合否発表の時か」

 

 

僕達は極力周りに聞こえない程度の声で話す。

 

どうやらその甲斐あって周りには聞こえていないみたいだ。

 

 

「演習場には"仮想(ヴィラン)"を3種・多数配置してあり、それぞれ攻略難易度によってポイントが設けられている!!

 

各々なりの個性で"仮想(ヴィラン)"を行動不能にし、ポイントを稼ぐのが君達の目的だ!!

 

もちろん他人への攻撃等のアンチヒーローな行為はご法度だぜ?!」

 

 

なるほど、これは分かりやすい。

 

けどこの内容だと戦闘向きではない個性の人は合格不可能とも言えるのでは無いのか。

 

日本一のヒーロー育成機関の雄英にしては合理性に欠ける気もするけど、もしかしたら雄英の方針が戦闘力の高いヒーローの育成なのかもしれない。

 

というか、このプリントには4種の(ヴィラン)役のロボットが書かれているが、説明と食い違う。

 

これから説明があるんだろうか。

 

というかこのロボって、僕がジムで破壊しまくった奴と同じなんじゃ……。

 

 

「…質問よろしいでしょうか?!」

 

 

一人で思考していると、右斜め前の席から手が挙がった。

 

あれは、さっきかっちゃんの険悪になりそうだったメガネの男子だ。

 

 

「プリントには4種の(ヴィラン)が記載されています!

 

誤載であれば日本最高峰たる雄英において恥ずべき痴態!!

 

我々受験者は規範となるヒーローの御指導を求めてこの場に座しているのです!!」

 

 

随分とハキハキと喋る人だ。

 

さっきのやりとりからも感じていたけど、相当に真面目な人なんだろう。

 

 

「オーケーオーケー。

 

受験番号7111君、ナイスなお便りサンキューな!

 

4種目の(ヴィラン)は0P(ポイント)

 

そいつは言わばお邪魔虫(・・・・)

 

スーパーマ○オブラザーズやったことあるか?!

 

あれのドッスンみたいなもんさ!

 

会場に所狭しと大暴れしている"ギミック"よ!」

 

 

なるほど。

 

つまりは無視するのが最適解だな。

 

でも、これこそ正に合理性に欠けるんじゃないか?

 

試験の内容自体そこそこの危険を伴うし、こんなのが暴れたら怪我人が出る事は必至な筈だ。

 

……いや、今は考えても仕方がないか。

 

 

「有難う御座います!失礼致しました!」

 

 

メガネの男子は綺麗なお辞儀をした後に素早く着席した。

 

うん、真面目だ。

 

 

「俺からは以上だ!!

 

最後にリスナーに我が校の"校訓"をプレゼントしよう。

 

かの英雄ナポレオン=ボナパルトは言った。

 

【真の英雄とは人生の不幸を乗り越えていく者】と!!」

 

 

プレゼントマイクはそう言って両手を大きく広げ、言った。

 

 

Plus(更に) ultra(向こうへ)!!

 

それでは皆、良い受難を!!」

 

 

その言葉を最後に説明会は幕を閉じ、僕達はそれぞれの会場へと向かっていた。

 

そして会場毎の別れ道に立った僕とかっちゃんは、お互いに視線を合わせた。

 

 

「この受験、一番になるのは俺だ」

 

「負けないよ。

 

この日の為に、僕も出来ることは全てやった」

 

 

それだけの会話をして、僕達は背を向けて歩き出した。

 

 

(……行くぞ、ONE FOR ALL)

 

 

そしてそれぞれの会場へと向かった。

 

 

 

…………………………

 

 

 

「……広っ」

 

 

確かに市街地演習とは言っていたけど、これは凄すぎる。

 

僕の目の前には、街一つ分のスペースの広さの広大な演習場があった。

 

敷地内にこんな施設がいくつもあるのか。

 

……辺りを見渡すと、多種多様な個性を持った人達がいる。

 

その中に、見覚えのある茶髪のショートボブの女子を見つけた。

 

同じ会場だったのか。

 

僕はポケットの中の予備のハンカチに包んでいたお守りを取り出しながら麗日さんの方へと向かった。

 

 

「あ、うらら「その女子は精神統一を図っているのではないか?」…え?」

 

 

僕の背後から声をかけたのは、さっきのメガネの男子だ。

 

 

「…君はあの時の」

 

「あ、どうも」

 

「それより、彼女は今集中している。

 

君はそれを妨害するつもりか?」

 

「いや、違うんだ。

 

筆記試験の前に彼女と知り合ったんだけど、彼女お守りを落としたんだ。

 

それを渡そうと探してたんだけど中々見つからなくて」

 

 

僕の言葉を聞いて、メガネの男子は急に表情を変えた。

 

 

「なっ?!それはすまない!

 

君のその善意を妨害目的と勘違いしてしまうなど…っ!」

 

「傍から見たらそう見えても仕方ないよ」

 

「いや、しかし!」

 

「僕は大丈夫だから。

 

とりあえずこれを彼女に渡すよ」

 

「あぁ、引き止めてすまないな。

 

ついでに、君を引き止めてしまったことを彼女に謝罪しよう。

 

ぼ…俺は飯田天哉だ、よろしくな」

 

「僕は緑谷出久、よろしくね」

 

 

軽く自己紹介をした後、僕は改めて麗日さんの方へと向かった。

 

 

「麗日さん」

 

「…ん?あ、緑谷君!

 

どうしたの?」

 

「これ、会った時に落としてたみたいなんだけど、中々麗日さんを見つけられずに渡せなかったんだ」

 

 

僕はハンカチを開いて中にあったお守りを渡す。

 

 

「あ、これ!

 

無くしたと思ってたんだけど、拾ってくれてたの?!

 

わー、ありがとう!」

 

 

麗日さんは嬉しそうにお守りを握りしめて胸に当てた。

 

 

「そういえば、隣の人は?」

 

 

麗日さんは飯田君を見て首を傾げながらそう言った。

 

 

「俺は飯田天哉。

 

先程君に話しかけようとした緑谷君を僕が妨害目的かと勘違いして引き止めてしまった事の謝罪をしようと」

 

「えぇ?!そんなんええのに!

 

飯田君は真面目やね」

 

「いや、俺は善意で動いていた緑谷君に対して、そしてその善意が向いていた相手にも失礼な事をしてしまった。

 

規範たるヒーローを目指す者として恥ずべき行為だっ!」

 

 

飯田君はそう言いながら拳を握りしめた。

 

本当に根っから真面目で、いい人なんだろう。

 

 

「さてと、2人ともそろそろ準備をした方がいいよ」

 

 

僕は筋を伸ばしながら2人に声をかけた。

 

 

「え?でも、まだ開始前のアナウンスも鳴ってないよ?」

 

「これは僕の想像だけど、雄英がトップヒーローとなる人材を育成することを方針としているのなら、求められるのは突発的な事象に対する反応も見られるはずだ。

 

だから、開始に秒読みなんてないはずだ」

 

「なるほど、それは言えているな」

 

 

飯田君はそう言いながら顎に手を当てて考える。

 

 

「では今この瞬間に開始されても何ら不思議ではないと言うことか」

 

「うん、そうだと思う」

 

 

僕は初めから開かれていた門を見ながら、ストレッチをする。

 

 

「…緑谷君凄いね。

 

私なんか緊張して全然そんな落ち着いていられないよ」

 

 

麗日さんはそう言いながらお守りを握り締める。

 

 

「……そろそろかな」

 

「え?」

 

 

僕は、右足を軽く引いて少し力を込める。

 

 

「2人とも」

 

 

僕は飯田君と麗日さんの方へと振り返り笑いかける。

 

 

「お互いベストを尽くそう」

 

 

僕がそう言うと、少し慌て気味だけど2人も構えをとった。

 

 

「ハイ!スタートー!」

 

 

僕はその声を聞きながらFULL COWLを5%で纏い1秒もかけずに門を駆け抜ける。

 

 

「どうしたぁ?!実戦じゃカウントダウンなんざねぇんだよ!!

 

走れ走れぇ!!

 

あのリスナーはもう3機はぶっ壊してんぞぉ?!」

 

 

他の受験生もスタートしたのか、後ろから様々な音が聞こえる。

 

僕は他の妨害にならないように適度に仮装(ヴィラン)を残しつつ進む。

 

ふとその時、視界の端に目の前の仮装(ヴィラン)に気を取られて背後の仮装(ヴィラン)に気付いていない複腕型の個性を持つ受験生が映った。

 

僕は目の前の仮装(ヴィラン)を右足で蹴り、その勢いを利用してその仮装(ヴィラン)の脚部を破壊する。

 

 

「今の内に!」

 

「っ?!あぁ!」

 

 

複腕の受験生は振り返りながら仮装(ヴィラン)の頭部を破壊する。

 

 

「すまん、助かった!」

 

「気にしないで!お互い頑張ろう!」

 

 

僕はそのまま通り過ぎポイントを稼ぎつつ、他の受験生がピンチなら妨害やポイントの横取りにならないように配慮しつつ援護する。

 

その最中でお腹からビームを出す個性の受験生とも連携したりした。

 

とりあえず合格が確実と言える程度のポイントを稼ぎながらその後も同じ様に動いていると、突然轟音が響き一定のリズムで地面が揺れる。

 

 

「いや、デカすぎるでしょ…」

 

 

僕が空を見上げると、建ち並ぶビルよりも巨大な仮装(ヴィラン)がこちらを見下ろしていた。

 

これがプレゼント・マイクが言っていた0Pの(ヴィラン)だろう。

 

なら相手にするメリットは無いけど、放置しても邪魔になる。

 

僕が対処を迷っていると、0Pの(ヴィラン)はその手でビルを握り、その力に耐えられずビルの一部は崩れ、瓦礫が降り注ぐ。

 

その下に視線を移すと、そこには見覚えのあるショートボブの女子が走っていた。

 

僕はそれを認識してすぐに飛び出し、降り注ぐ瓦礫を蹴り砕く。

 

 

「っ?!緑谷君?!」

 

「麗日さん、大丈夫?!」

 

 

僕は着地しつつ上を見上げ、まだ瓦礫が降って来ている事を確認して麗日さんを抱えた。

 

 

「わっ、えぇ?!///」

 

「ごめん、少しの間我慢して!」

 

 

僕はそう言いながら麗日さんに不可のかからない程度のスピードで瓦礫が落ちてくるよりも早く駆け抜けた。

 

 

「っ?!君は緑谷君!」

 

 

ちょうど止まった位置で飯田君と出会した。

 

僕はとりあえず麗日さんをその場にゆっくりと立たせた。

 

 

「あ、ありがとう緑谷君……///」

 

 

麗日さんは抱えられていたのが恥ずかしかったのか、顔を赤くしていた。

 

 

「気にしないで。

 

それよりも…」

 

「あれがプレゼント・マイクの言っていたギミックか」

 

「いくらなんでもあれはデカすぎやろ…」

 

 

僕は軽く辺りを見回す。

 

今の少しの間で相当な被害が出ている。

 

幸い人身被害は無いようだけど、これを放置すれば間違いなく怪我人が出る。

 

なら、やる事は一つだ。

 

 

「2人とも、あれは僕が何とかするから離れてて」

 

「なっ?!何を言っているんだ!

 

いくら君のパワーが凄くてもあれは無茶だ!

 

それにあれは0Pのお邪魔ギミックだ!

 

態々相手取る必要も無いだろう!」

 

 

普通なら、ライバルである僕が無駄な行動を取ろうとしていれば寧ろ喜ばしいはずなのに、ここで僕の心配をするなんて、飯田君はいい人だな。

 

 

「あれを放置すれば試験の妨げになるし、最悪の場合は怪我人も出るかもしれない。

 

ヒーローを目指す者として、そんなの見過ごせない」

 

「「っ?!」」

 

 

僕は右腕の袖を捲りながら走り出し、フルカウルを7%で纏う。

 

そして両足の出力を10%に引き上げ、0P仮装(ヴィラン)の眼前までビルを蹴り飛び上がる。

 

オールマイトにONE FOR ALLを受け継いだ時に言われた言葉を思い出しながらフルカウルを10%に、そして右腕に現在の低い反動で発動できる力、11%の力を込める。

 

 

『ケツの穴グッと引き締めて心の中でこう叫べ!!!』

 

 

右腕に感じる熱をそのまま、放った。

 

 

「SMAAAAAASH!!」

 

 

仮想(ヴィラン)の顔面は歪み、そして後ろ向きに倒れていく。

 

僕は念の為にもう一撃加えるために、弾け飛んでいた瓦礫を蹴って急降下しながら前転の要領で体を回転させて11%の力を纏った足を振り下ろす。

 

 

「MANCHESTER

SMAAAAAASH!!」

 

 

そのまま仮想(ヴィラン)はその場に崩れ落ちていく。

 

僕はビルの壁を蹴って衝撃を和らげて地面に着地した。

 

振り返ると、少し離れた辺りに飯田君達を見つけた。

 

どうやら離れはしたけど、心配で見ていたようだ。

 

そんな二人の背後に仮想(ヴィラン)が迫っているのを見つけ、再びFULL COWL8%を纏い蹴り抜く。

 

二人はそれに驚きながらも体勢を整える。

 

だが、どうやら時間が来てしまったようだ。

 

 

「終ーーー了ーーー!!」

 

 

二人はそれで緊張が解けたのか、肩を下ろした。

 

 

「ハイ、お疲れ様〜」

 

 

すると背後から白衣を着た低身長の老婆が歩いてきた。

 

 

「あのお婆ちゃんは…?」

 

「彼女はリカバリーガールだよ。

 

負傷した人に唇で触れることで対象者の治癒力を活性化させるんだ」

 

 

僕が説明していると、リカバリーガールが倒れたり座り込んでいる受験者に治癒を施していく。

 

 

「雄英のこの危険性の高い試験を行えるのも彼女の存在に依るだと思う」

 

「へぇ……。

 

緑谷君、色々知ってるんだね」

 

「ヒーローの情報を調べるのが趣味でね。

 

雄英の教員になっているヒーローは事前に調べているよ」

 

 

僕が麗日さんと話していると、飯田君は何やら考え込むように顎に手を当てて僕を見ていた。

 

 

「どうしたの?」

 

「…緑谷君、君は」

 

 

飯田君が何か言いかけたその時、会場内にアナウンスが響いた。

 

 

「本日の試験はこれにて終ーーー了ーーー!!

 

リスナーは更衣室で着替えを済ませて各自解散してくれよな!!」

 

 

アナウンスが鳴り止むと、飯田君は表情を戻した。

 

 

「ごめん、なんだっけ」

 

「…いいや、今はいい。

 

合格したその時、改めて教室で聞こう」

 

「…そっか。

 

うん、わかった」

 

 

僕は右手を差し出した。

 

飯田君はその手をがっちりと掴む。

 

 

「君に出会えてよかった」

 

 

飯田君はそう言って僕に笑いかける。

 

 

「それじゃあもう会えない見たいじゃないか。

 

また教室で会おう」

 

 

僕も笑顔で答えて強く握り返す。

 

 

「あ!二人ともずるーい!

 

私も!!」

 

 

麗日さんはそう言いながら、僕達の手の上に自分の手を重ねた。

 

 

「教室で会おうぜ!」

 

 

そう言いながらサムズアップをする麗日さんの顔に憂いはなかった。

 

そうして僕達はそれぞれの割り振られた更衣室で着替えを済ませて解散した。

 

僕は校門に寄りかかりかっちゃんを待つ。

 

すると人混みの中に見慣れた尖った髪型を見つけた。

 

 

「…チッ」

 

 

かっちゃんは僕を見つけるなり舌打ちをしながら近付いてくる。

 

 

「炎は」

 

「駅前のカフェにいるって」

 

 

僕達は駅までの道を歩き始める。

 

 

「そういえば、試験の終わり際にかっちゃんのいる方の試験会場から爆音が聞こえてたけど、0Pの仮想(ヴィラン)倒したの?」

 

「テメェこそ、あの破壊音はどうせテメェだろ」

 

 

そんな会話をしながら僕達は駅の方まで歩く。

 

20分程歩いたところで僕達は駅前にあるカフェに入り炎さんを探す。

 

すると、奥の方の窓際の席から手を振る炎さんを見つけて僕達はその席に着く。

 

 

「お待たせ」

 

「ううん、大丈夫だよ」

 

 

炎さんはそう言いながら手元の飲み物を飲む。

 

 

「いらっしゃいませ、ご注文は?」

 

 

店員の人が僕達の席の前に立ち止まり、手に持つタブレットを構えながら僕達を見る。

 

 

「エスプレッソを一つ。

 

かっちゃんは?」

 

「俺もそれでいい」

 

「砂糖とミルクはお付けしますか?」

 

「大丈夫です」

 

「はい……。

 

以上でよろしいでしょうか?」

 

「はい」

 

「かしこまりました。

 

少々お待ち下さい」

 

 

店員の人は厨房の方に向かい、オーダーを伝えているようだ。

 

かっちゃんは机に置かれたお冷を飲みながら僕を見た。

 

 

「んで、テメェは試験どうだったんだ」

 

「うん、合格ラインは通過してると思うよ。

 

後は順位がどのくらいかって感じかな。

 

炎さんは面接どうだったの?」

 

「私もそんなに詰まらず言えたし、大丈夫だとは思うんだけど…」

 

 

炎さんはそう言いながらストローで自身のコーヒーを少し混ぜる。

 

 

「きっと大丈夫だよ。

 

炎さんが頑張ってたのは僕もかっちゃんも、クラスの皆も、先生達も知ってる。

 

毎日面接の応えの見直しをしたり先生にアドバイスを聞きに行ったり、毎日面接の練習だってしてた。

 

だから、大丈夫」

 

「緑谷…」

 

 

炎さんは俯いて、そしてグッと顔を上げた。

 

その表情にもう憂いは無かった。

 

 

「ありがとう緑谷!

 

やっぱり緑谷の大丈夫は安心できるよ」

 

「そうかな?

 

それなら良かった」

 

 

僕は笑って炎さんを見る。

 

会話が一区切りした所でエスプレッソが運ばれてきて、僕はそれを受け取り一口飲んだ。

 

かっちゃんも同様にエスプレッソを一口飲んだけど、何故か曇った表情になった。

 

 

「クソが、コーヒーが甘ぇ」

 

「え、うそ?僕のは普通だよ?」

 

「どっかの誰かが砂糖でもぶち込んだんだろうよ」

 

「店員さんに言って取り替えて貰う」

 

「……いらんわ、めんどくせぇ」

 

 

かっちゃんは明らかに不機嫌そうにまたエスプレッソを一口飲んだ。

 

 

 

…………………………

 

 

 

試験から一週間後、僕達は折寺中学校を卒業した。

 

希望の進路を叶えたい人も、叶えられなかった人もいる。

 

それでも僕達はお互いに笑顔で別れを告げた。

 

そしてそれから一週間が経ち、僕は朝のランニングを終えてマンションに帰って来ていた。

 

朝の新聞が入っていないか確認したところ、そこには見慣れない白い封筒が入っていた。

 

まさかと思い裏返して見ると、そこには雄英高等学校と書かれていた。

 

ついに、来た。

 

僕は母さんにその事を報告して自室に入った。

 

ゆっくりと封を開き、中身を確認する。

 

そこには何枚かの書類と、丸い機械が入っていた。

 

その機械をテーブルに置くと、そこから映像が空中に投影された。

 

 

「んっんん"〜〜!!

 

私が投影された!!!

 

 

予想もしていなかったオールマイトの登場に、僕は少し驚きつつもしっかりと映像を見る。

 

 

「諸々手続きに時間がかかって、連絡とれなくてね。

 

いや、すまない!!」

 

 

雄英からの合否発表にオールマイトが映るって事は、まさかそういう事なのか?

 

 

「聡明な君の事だから察しているとは思うが、私がこの街に来たのは他でもない。

 

雄英に勤める事になったからなんだ」

 

 

やっぱり…。

 

けど、オールマイトが雄英の教師になるなんて、これは公表された瞬間とんでもないニュースになるな…。

 

 

「えぇ何だい?!巻きで?!

 

彼には話さなきゃならない事が…。

 

後がつかえてる?!

 

あーあーわかったOK…」

 

 

オールマイトは何やらカメラの向こうを見ながらそう話す。

 

多分撮影のスタッフと話してるんだろう。

 

 

オールマイトは再びカメラに視線を戻す。

 

その顔はいつもの笑顔に戻っていた。

 

 

「筆記、実技共に素晴らしい成績だ!

 

全科目で5位以内の成績!

 

総合成績は2位だ!

 

1位とは僅か1点差だ!実に惜しい!」

 

 

僕が、2位か……。

 

いまいち実感が沸かないけど、とりあえず今はオールマイトの話を聞こう。

 

 

 

「さて、次は実技の成績だ!

 

君の(ヴィラン)P(ポイント)は68!

 

これは歴代で見ても高水準の成績だ!

 

そしてそれらを踏まえた君の総合成績は!」

 

 

オールマイトは力を込めて後ろのモニターを指す。

 

そこにはデカデカと「2位」の文字が書いてあった。

 

 

「いやぁ実に惜しかった!

 

もし仮に君が建物の損壊や他者を気にしていなければもっと(ヴィラン)P(ポイント)を稼げていただろう!

 

現時点でまだ名前は公表できないが、1位の受験者もそれらを気にしつつ動いていたが、君程ではなかったからね!」

 

 

1位はかっちゃんなんだろう。

 

僕が2位だとしたら、その上にいる1人は絶対に。

 

納得はするけど、やっぱり悔しい…。

 

 

「だが、ここで終わらないのがこの試験さ!」

 

 

僕が悔しがっていると、映像はまだ続いていた。

 

 

「君はその力で、もっと多くの仮装(ヴィラン)を倒せていただろう。

 

だが君は他人の為にそのメリットを捨てて行動した。

 

ならば、ヒーロー仕事とはなんだ?

 

凶悪な(ヴィラン)と戦う?あぁ必要だろう。

 

だが、ヒーローとは人を守り、助け、希望を与える者!

 

そのヒーローの本質を体現した者を評価しないヒーロー科なんて、あってたまるかって話だよ!」

 

 

そう言ってオールマイトは手に持ったリモコンを操作する。

 

すると画面に試験中の僕の姿が映し出された。

 

 

「綺麗事?!上等さ!!

 

命を賭して綺麗事実践するお仕事だ!!」

 

 

そして更に操作すると、さっき表示されたポイントに更に新たなポイントが追加された。

 

 

救助活動(レスキュー)P(ポイント)!!

 

しかも審査制!!

 

我々雄英が見ていたもう1つの基礎能力!!

 

緑谷出久!!83P(ポイント)!!

 

そしてこれにより、君の順位は!!」

 

 

画面が切り替わり、そこには驚愕の結果が表示されていた。

 

 

「爆豪勝己!!1位!!

 

そして緑谷出久!!同一1位!

 

雄英始まって以来初めての事だ!

 

君は誇っていい!!

 

これは、君が自らの努力で掴み取った結果だ!!」

 

 

僕が、無個性だった僕が、かっちゃんと並んだ?

 

 

「来いよ緑谷少年!

 

雄英(ここ)が君のヒーローアカデミアだ!

 

 

僕は喜びのあまり、大声で叫んだ。

 

そこに母さんが駆け込んで来て、更に何処からか現れたリボーンに「うるせぇ」と後頭部を蹴り飛ばされた。




次回予告!

出久「第1の目標である雄英高校の合格は叶った。

それもかっちゃんと同一の1位だなんて。

けど、今になって中学の生活も名残惜しく感じるな…」

リボーン「なかなかいねぇぞ、オメェの中学生活に約3年もかける奴は。

それも大した長さでもねぇのに」

出久「急にメタ発言やめてよ…。

とにかく!これで中学生編は終了!

次回から、雄英高校での新しい生活が幕を開ける!

次回!『標的(ターゲット)30 始まりの試練(かべ)

更に向こうへ!Plus ultra!!」

リボーン「死ぬ気で見ろよ」


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雄英入学編
標的(ターゲット)30 始まりの試練(かべ)


今回から『雄英入学編』となります。
投稿ペース、上げられるかなぁ…。

と書き始めた時に書いて投稿する時にはとんでもなく遅れてるという。


合格者への合格通知が届けられている頃、雄英高校の会議室に教員となるヒーロー達が揃っていた。。

 

ここでは今、ヒーロー科のクラス分けが行われていた。

 

それぞれの手元には生徒の資料が置かれている。

 

 

「それじゃあ、残りはこの6人なのさ」

 

 

そう言って机に6つの資料を広げるのは、雄英高校の校長を勤める根津。

 

"動物が人間以上の頭脳になる"という他に類をみない、個性を発現させた動物。

 

当人にも、ネズミなのか犬なのか熊なのかと日々疑問を抱いている。

 

その正面の机の左右に並ぶのは、一年の各クラスの担任の教師と、各教科を担当する教員ヒーロー達だ。

 

その中で筋肉質の男が資料を見ながら顎に手を当てた。

 

ブラッドヒーロー:ブラドキング、本名 管 赤慈郎。

 

今年の一年B組のクラス担任を任せられた教員だ。

 

 

「基本は例年通り両クラスで能力に差が開かん様にするべきでしょうな。

 

推薦を二名ずつ。

 

そして今回は特殊ですが、首席の二人を各クラスに割り振るという形で」

 

 

会議室にいる全員がその言葉に同意を示し、頷く。

 

ただ一人、資料を鋭く見る男を除いて。

 

 

「いや、待てブラド。

 

今回の首席二人と、轟焦凍を俺に預けてくれないか」

 

 

抹消ヒーロー:イレイザーヘッド、本名 相澤 消太。

 

彼はそう言いながらブラドキングを見る。

 

 

「おいおいイレイザー。

 

流石にそれは横暴なんじゃねぇか?

 

一般入試の首席二人と推薦一位を根こそぎってのはやりすぎだろ」

 

 

ブラドキングは鋭くイレイザーヘッドを睨む。

 

 

「そうよ相澤君、そんな事をすれば二つのクラスの初期の実力に差が生まれる可能性はあるわ。

 

それは生徒のモチベーションを下げる危険性があるわよ」

 

 

ブラドキングに同意したのは、18禁ヒーロー:ミッドナイト。本名 香山 睡。

 

 

「無論それは承知してます。

 

ですが、今回の提案には訳があります」

 

 

イレイザーヘッドは冷静に、3つの資料を並べた。

 

 

「緑谷出久、爆豪勝己、轟焦凍。

 

この三人はある事件への関与が疑われます」

 

「先輩、ある事件というのは?」

 

 

次に疑問を唱えたのは、スペースヒーロー:13号。本名 黒瀬 亜南。

 

その疑問に答えるように、イレイザーヘッドは1枚の資料を取り出した。

 

 

「今から約半年前、折寺神社夏祭りにて発生した現地中学生の襲撃事件を覚えていますか」

 

「ええ、覚えているわ。

 

海外から来た(ヴィラン)がたまたま居合わせた中学生2人組を襲った事件だったわよね?

 

確か、オールマイトさんとエンデヴァーさんが解決した案件じゃなかったかしら?」

 

 

イレイザーヘッドの質問に、ミッドナイトが答える。

 

どうやら全員がその事件を把握しているらしく、その場にいる全員が頷いた。

 

 

「この三名はその日、あの夏祭りにいた事は調査済みです。

 

そして緑谷出久に至っては、襲われた二人の内の一人です」

 

「そういえば、被害を受けた二人共が自衛の為に個性を使用したと証言していましたよね。

 

その事に関しては正当防衛で処理されたはずじゃ?

 

それにその場合他の二人は関係ないような」

 

 

13号はそう言いながら首を傾げた。

 

イレイザーヘッドはそれに頷くが、更にもう一枚の資料を取り出した。

 

 

「確かにその件は正当防衛で間違いない。

 

だが、問題はその後だ。

 

(ヴィラン)はその後、そこから少し離れた山の中の屋敷に潜伏し、たまたま現地付近にいたオールマイトさんとエンデヴァーさんにより捕らえらた、とされている。

 

だが、トップ2が揃って現場近くにいた?

 

話が出来すぎてる。

 

俺は、今回の入試トップの3人こそがこの(ヴィラン)と戦ったのでは無いかと睨んでいる」

 

「そんな、まさか。

 

この子達はその時中学生なのよ?」

 

「そうです、中学生です。

 

例え訓練していたとしても、(ヴィラン)と対峙できる程の力を持つはずがない子供です」

 

 

イレイザーヘッドの言葉に、その隣に座るサングラスをかけた男が反応する。

 

ボイスヒーロー:プレゼント・マイク、山田 ひざしだ。

 

 

「そういや一般の実技の時、あの二人妙に戦い慣れしていやがったな」

 

「そうだ。

 

他の合格者で言えば、切島鋭児郎、麗日お茶子、塩崎茨、後はヒーロー一家の次男である飯田天哉等、個性の扱いにある程度慣れている者はいたが、それでも中学生の域を僅かに超える程度だ。

 

だがあの二人は、戦うことそのものに対して慣れのような物があった。

 

個性の扱いへの慣れ、戦闘と周囲の阻害への配慮。

 

最早プロヒーローとして前線に出られるレベルと言っても差し支えない程だ。

 

轟焦凍も同様に、いくら親がNo.2とは言えどそれで説明できる程のレベルに留まっていない」

 

 

イレイザーヘッドの言葉に、全員が考え込む。

 

 

「校長、根拠が無い話なのは重々承知しています。

 

でも、いやだからこそ、俺にこの三人を任せてくれませんか。

 

ブラドも、頼む」

 

 

ブラドキングは己の目を真っ直ぐに見るイレイザーヘッドに、根負けした様にため息をついた。

 

 

「はぁ…、分かったよ。

 

生徒を疑うってのは感心しないが、お前なりの考えがあっての事だろ」

 

「菅君がいいなら、私も構わないのさ。

 

元よりクラス分けは担当教員の意見が最優先だからね」

 

「ありがとうございます」

 

 

そして残り3名のクラス分けが終わり、会議は終了した。

 

 

 

…………………………

 

 

 

「………よし」

 

 

僕はリュックの中身を確認してリュックの口を閉める。

 

今日は遂に雄英高校入学の日。

 

僕はリビングへと向かい、母さんに声をかけた。

 

 

「準備終わったよ」

 

「うん、確認はばっちり?」

 

「うん、昨日の夜にやっておいたし、さっきも確認したよ」

 

 

母さんは頷きながら、僕の方をじっくりと見る。

 

 

「うん!制服似合ってる!

 

格好いいよ出久!」

 

「ありがとう」

 

 

僕は笑顔で返しながらバッグを椅子に置き、空いてる椅子に腰掛ける。

 

 

「馬子にも衣装って奴だな」

 

 

それと同時にリビングに入ってきたリボーンはそう言いながら僕の横の椅子へと飛ぶ。

 

 

「リボーン君おはよう」

 

「おはようママン」

 

 

リボーンはその体には大きなナイフとフォークを上手く使い目の前の目玉焼きを綺麗に切って食べていく。

 

 

「リボーン、どうせ答えは分かってるけど、雄英までついてくるの?」

 

「あたりめぇだろ。

 

俺はお前の家庭教師(かてきょー)だからな」

 

 

全くもって理由にはなってない気もするけど、正直なんとなく分かってたことだ。

 

ただ、確か雄英は許可された人以外は入れないシステムになっているはず。

 

リボーンはどうやって入るつもりなんだ?

 

そんな事を考えながら、僕は朝食を済ませた。

 

その後身だしなみを整えて、玄関へと向かう。

 

僕は振り返ってリビングから出てきた母さんを見る。

 

 

「気をつけて行ってきてね。

 

勝己君と夏樹ちゃんによろしくね」

 

「うん」

 

僕が靴を履き終えた所でリボーンが僕の肩に飛び乗る。

 

そして僕は立ち上がって扉を開けた。

 

 

「じゃあ、行ってきます」

 

「行ってくるぞママン」

 

 

手を振る母さんを見ながら扉を閉めて、駅までの道を歩き始めた。

 

 

「今日は爆豪は一緒に行かねぇのか」

 

「先に行ったみたいだよ。

 

なんか、登校初日に一緒に行くほど馴れ合うつもりは無いんだって」

 

 

リボーンの質問に、僕は苦笑しながら答えた。

 

正直に言えば、受験に一緒に行ったのに何を今更とは思うんだけど、そこはかっちゃんなりの拘りがあるのだろう。

 

そんな事を考えていると、ちょうど十数メートル先の一軒家からオレンジ色の髪の少女が出てきた。

 

 

「おはよう、炎さん」

 

「あ、緑谷!おはよう!」

 

 

炎さんは笑いながら僕に手を振った。

 

けど次の瞬間に少しだけ、表情を曇らせていた。

 

 

「(ハァ……あの時ちゃんと言えていれば…)」

 

 

 

…………………………

 

 

 

私の名前は炎 夏樹。

 

私には好きな男の子がいる。

 

彼の名前は緑谷 出久。

 

中学一年生の時に、幼馴染の涼子と廊下で話しているところに虫が飛んできて、それに驚いた涼子が個性を暴発させて、私は窓の外に放り出された。

 

なんとか窓枠に摑まる事は出来たけど、私の握力じゃ十数秒しか保てずに手を離してしまった。

 

もうダメだとそう思ったその時、緑谷は現れた。

 

今まで無個性だからと周囲からバカにされ、私も巻き込まれたくないが為に見て見ぬふりをしてきた。

 

そんな私を、緑谷は助けてくれた。

 

自分でも単純だと言う自覚はある。

 

でも、いじめに加担していながら命を救ってくれて、更に何の見返りも求める事もしない緑谷に、私は恋をした。

 

それから彼は変わっていった。

 

それまでのどこか自信の無さそうな目はだんだんと力強くなっていき、体付きも線の細かったそれからどんどんと筋肉質に変わっていった。

 

そんな緑谷をバカにする人は、もういなかった。

 

もしかしたら、私を助けた事がきっかけになったのかもと想像するだけで、胸が踊った。

 

そして3年生の夏。

 

私は涼子の協力も得て、夏祭りで緑谷と二人きりになった。

 

そして思いを打ち明けようとしたその時、2度目の事件が起こった。

 

何故か緑谷の名前を知る(ヴィラン)が、私達二人を襲った。

 

そこに一人の女性、後に名前を知る事になった活川さんが助けに入ったけど、更にもう一人の(ヴィラン)が現れた。

 

私を背負いながら戦う緑谷。

 

途中で轟君が合流したのはいいけど、緑谷は私を轟君に預けて一人で戦いに臨んでしまった。

 

轟君に背負われて涼子と合流したところで、私は轟君を振り払って緑谷の元へと駆けつけた。

 

死ぬ気なんて嫌だ!私を助けてくれた緑谷を、今度は私が!

 

そう思い、倒れ伏す緑谷の前に立つ二人の(ヴィラン)に無我夢中で炎を放った。

 

だけど私は、毒を使う(ヴィラン)の銃弾を浴び、その後意識を失ってしまった。

 

その後、目を覚ました私の目に写ったのは、ボロボロで不安そうに私を見る緑谷だった。

 

その後緑谷はすぐに気を失い、私も襲ってくる眠気に抗えずに眠ってしまった。

 

後から説明を受けたけど、どうにもたまたま現場近くにいたオールマイトとエンデヴァーが(ヴィラン)の集団から解毒剤を回収して私を助けてくれたらしい。

 

でも、私は確信している。

 

私を助けてくれたのは、緑谷なんだって。

 

でも資格を持たずに個性を使うのは違法だし、そういう事もあって話を合わせているんだろう。

 

だから私は緑谷の話に騙された振りをした。

 

そしてまた、緑谷への思いは一層深まっていた。

 

その数週間後、マフィアランドっていうテーマパークにお詫びとして連れて行って貰い、そこで思いを告げるチャンスが訪れるも、私は日和って伝えられなかった。

 

それに他にも人がいたから、本当にお詫びのつもりでしかなかったんだろから、雰囲気も崩したくないしね?

 

決して日和っただけではない。

 

それからまた時は流れ、卒業式。

 

今度こそ思いを告げようと、私は卒業式が終わった後に手紙で緑谷を校舎裏へと呼び出した。

 

 

「炎さん、どうしたの?」

 

 

ここで何の思惑もなくそう聞くあたり、緑谷の私に対する恋愛感情って全く無いのではと不安になるけど、今日こそはと心に決めて気持ちを強く持つ。

 

 

「あのね、今日は緑谷に伝えなきゃ行けないことがあって…」

 

 

そう言って俯く私を、緑谷はただ不思議そうに見る。

 

 

「私、緑谷のこと!」

 

 

私は顔を上げて、緑谷を見る。

 

そして、ずっと言えなかった気持ちを…!

 

 

「………本当に尊敬してるんだ!」

 

 

また、言えなかった。

 

 

「……え?」

 

 

期待とか何もしてなかった緑谷でも、急にこんなことを言われて驚いたみたいだ。

 

私も驚いている。

 

言おうとした言葉と口から出た言葉が全然違う。

 

 

「だってあの雄英のヒーロー科に首席合格だよ?!

 

本当に凄いよ!」

 

「ええと、それならかっちゃんも呼んだ方が良かったんじゃ…?」

 

 

緑谷のド正論が私の心を抉った。

 

 

「いや、その、ほら!

 

爆豪君って、何か近寄り難いじゃない…?」

 

 

心の中で爆豪君に謝りつつ、私は必死に言い訳をした。

 

 

「あぁ、まぁ…かもね」

 

 

緑谷は苦笑しながらそれを受け入れた。

 

 

「とりあえず、私もどうにか雄英に受かった訳だし、これから3人同じ中学出身って事でお互いに頑張ろうって、それだけ!」

 

「……うん、そうだね」

 

 

緑谷は私の勢いに驚きつつ、でもしっかりと私を見て笑顔で答えた。

 

あぁ、そういうところぉ…。

 

 

「ごめんね、本当にそれだけ!

 

時間取らせちゃってごめんね!」

 

「ううん、いいよ。

 

今ので一層気合いが入ったよ」

 

 

こういうところぉ…。

 

 

「それじゃあ、確かこの後皆で写真撮るって言ってたから、炎さんも行こ」

 

「ちょっと寄るところあるから緑谷は先に行っておいて!」

 

「うん、分かった」

 

 

緑谷はそう言ってその場所を離れ、私は後ろからこっそり見守っていた涼子に苦笑を向けた。

 

 

 

…………………………

 

 

 

一瞬だけ表情を曇らせた炎さんだったけど、すぐに笑顔に戻り僕に駆け寄った。

 

 

「今日からとうとう雄英だね!」

 

「うん、準備は大丈夫?」

 

「緑谷に言われた通り昨日の内に出来ることはしておいたから大丈夫!」

 

 

僕は頷いて、歩き出す。

 

炎さんも隣を歩き、僕達は二人で雄英まで移動した。

 

事前に渡されていた校内の案内図に従い歩き、僕達はそれぞれの教室へと向かった。

 

そして僕は、一年A組の教室の前に辿り着いた。

 

 

「扉でか…バリアフリーか?」

 

 

クラス分けは事前に公開されていなかった。

 

かっちゃんや轟君と同じクラスがいいけど、僕とかっちゃんは一般入試で同点で一位を取った。

 

少なくともかっちゃんと一緒になる事はないかなぁ…。

 

僕は教室の扉に手をかけて横へと開く。

 

 

「だからなんで俺に話しかけんだよテメェは!!」

 

「いや、俺は慣れない環境で少し緊張してるし、爆豪はどうなんだろうって」

 

「しとらんわボケ!ぶっ殺すぞ!」

 

「君!今の発言は聞き捨てならないぞ!

 

ぶっ殺すとはなんだ!君は本当にヒーロー志望か?!」

 

 

同じクラスになれる確率の低いと思っていた二人ともが教室にいたし、何なら飯田君もいた。

 

 

「かっちゃんの死ねは普通の人の殴る的な意味だよ」

 

「「「?!」」」

 

 

っと、つい口を挟んでしまった。

 

 

「緑谷君!同じクラスだったのか!」

 

 

飯田君は僕を見て笑う。

 

教室の中にちらほら見た顔がある。

 

それに、教室の後ろの方に轟君の姿が見える。

 

まさか同じクラスに3人とも揃うだなんて。

 

 

「久しぶりだね、飯田君」

 

「あぁ!

 

君の実力なら合格は間違いなしだと思ってはいたが、まさか主席とは!」

 

「自分でも驚いたよ」

 

 

僕はそう言いながら飯田君の前に手を差し出した。

 

 

「改めて、緑谷出久です!よろしく!」

 

「飯田天哉だ!こちらこそよろしく!」

 

 

飯田君は笑ってがっしりと僕の手を掴んだ。

 

 

「あ!緑谷君だ!!」

 

 

その時、僕の背後から聞き覚えのある声が聞こえて振り返る。

 

するとそこにはこれまた知り合いの女子がいた。

 

 

「麗日さん!」

 

「久しぶり!!もしかして緑谷君もA組?!」

 

「うん!」

 

 

すごいな、こんなにも知り合いが同じクラスに揃うだなんて。

 

 

「あ、爆豪君も飯田君も受かったんだ!

 

炎ちゃんは受かったの?」

 

「うん、炎さんも第一志望の経営科に合格したよ」

 

「そっか!

 

もし今日が式とかガイダンスだけならみんなで会おーよ!

 

ていうか、先生ってどんな人だろうね!」

 

 

登校初日だからかやたらとテンションの高い麗日さん。

 

担任の先生か。

 

 

「きっと、麗日さんの後ろにいる人だよ。

 

ですよね?そこの寝袋の人」

 

「え?!」

 

 

麗日さんは驚いて振り返り、飯田君も同じ方向を向く。

 

そこには黄色い寝袋に包まれた、一見するとくたびれた様な人が寝転がっていた。

 

 

「友達と話しながらも周囲の警戒とは、高校生らしくないな」

 

「常在戦場。

 

僕の家庭教師の教えです」

 

「まぁ、お前以外は気づいた様子はナシ、か。

 

友達ごっこがしたいなら他所へいけ。

 

ここはヒーロー科だぞ」

 

そう言いながらとモゾモゾと動き、寝袋の隙間からゼリー飲料を取り出して一気に吸った。

 

 

あまりの異様さに、クラスの全員が黙り込んでしまう。

 

 

「ハイ、静かになるまで8秒かかりました。

 

君たちは合理性に欠くね」

 

 

やはり担任の先生らしい。

 

雄英の教師ということは、この人もプロヒーローなのだろう。

 

確かに、どこかで見た覚えが…。

 

…。

 

 

「担任の相澤消太だ。

 

よろしくね。」

 

 

そう言いながら相澤先生は寝袋の中から何かを取り出した。

 

 

「早速だが体操服(コレ)着てグラウンドに出ろ」

 

 

これから入学式じゃないのか…?

 

僕達は全員疑問を抱きながら与えられたそれに着替え、グラウンドに出た。

 

そして相澤先生の口からこの移動の目的が告げられた。

 

 

「個性把握テスト?!」

 

 

数人が声を揃えて言った。

 

僕も驚いていた。

 

やるとは思っていたけど、まさか初日だなんて。

 

 

「入学式は?!ガイダンスは?!」

 

 

麗日さんは焦りながら相澤先生に質問する。

 

相澤先生振り返る事もせずに説明を続ける。

 

 

「ヒーローになるならそんな悠長な行事出てる時間ないよ」

 

 

そう言って振り返り鋭い目で僕達を見る。

 

 

「雄英は"自由"な校風が売り文句。

 

そしてそれは"先生側"もまた然り」

 

 

その目はこちらを試している様で、そして僅かにだけ僕を強く見た気がした。

 

 

「ソフトボール投げ、立ち幅跳び、50m走、持久走、握力、反復横跳び、上体起こし、長座体前屈。

 

中学の頃からやってるだろ?

 

個性禁止の体力テスト。

 

国は未だ画一的な記録をとって平均を作り続けている。

 

合理的じゃない。

 

まぁ、文部科学省の怠慢だよ」

 

 

そう言いながら先生は近くにあった箱から大きめの、ハンドボールのような物を取り出した。

 

そしてそれを持ちながら僕達の方を向き、見渡した後にかっちゃんの方へと歩いて行った。

 

 

「爆豪、中学の時のハンドボール投げ何mだった」

 

「71m」

 

「じゃあ個性を使ってやってみろ。

 

円から出なきゃ何してもいい。

 

早よ、思いっきりな」

 

 

かっちゃんはボールを受け取り、グラウンドに書かれた円の中で軽く体操をする。

 

 

「んじゃまぁ」

 

 

かっちゃんはゆっくりとフォームを作り、そして腕を思いっきり振る。

 

 

「(球威に、爆風をのせるッ!!)

 

死ねぇぇぇ!!

 

 

かっちゃんはボールを投げると同時に掌から特大の爆破を起こす。

 

…………ていうか、死ねって言ったな。

 

まぁいつもの事か。

 

 

「まずは自分の"最大限"を知る。

 

それがヒーローの素地を形成する合理的手段」

 

 

そう言って手に持っていた端末のモニターをこちらに見せる。

 

そこには、本来のハンドボール投げではありえない『717.3m』という数字が表示されていた。

 

 

「なんだこれ!!すげー面白そう(・・・・)!」

 

「717.3mってマジかよ!」

 

「個性思いっきり使えるんだ!

 

さすがヒーロー科!!」

 

 

なんだろう。

 

この雰囲気、なんか良くない気がする。

 

 

「面白そう、か。

 

ヒーローになる為の三年間、そんな腹積もりで過ごす気でいるのかい?」

 

 

僕の心配が的中したのか、相澤先生の雰囲気が僅かに変わった気がした。

 

 

「よし、トータル成績最下位の者は見込みなしと判断し、除籍処分としよう」

 

「はあぁぁぁぁ?!」

 

 

相澤先生の言った言葉にクラス中がどよめく。

 

無理もない。

 

入学初日から除籍処分だなんて聞かされたら。

 

 

「生徒の如何は先生(おれたち)の自由。

 

ようこそ、これが

 

雄英高校ヒーロー科だ

 

 

入学初日から訪れた試練(かべ)に、僕達は心の準備をする間もなく挑む事となった。




次回予告!

出久「入学初日から訪れた試練。

僕達はこの試練に打ち勝つことが出来るのか。

相澤先生の真意が見えない以上、全力でやるしない。

次回『標的(ターゲット)31 最大限』

更に向こうへ!Plus ultra!!」


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