バカとMMORPGと召喚獣! (ダーク・シリウス)
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ゲームの前にリアルで前哨戦!

「お待ちしてました王様。本日私に御声をお掛けして頂き誠に―――――」

 

「堅苦しい話は無しだ。お願いしたのはこっちなんだからな。さて、説明する必要はないが改めて言わせてもらう。これから向かう学園には前々から蒼天が作り出したシステムの審査をすることを伝えている。そこで審査は俺以外にもう一人、お前を指名させてもらった。理由は何だと思う?」

 

「はい、違う視点で審査を経て判断する為ですか?」

 

「残念、理由はまだ複数ある。一つはあの学園の学力と蒼天の学園の水準と比較するためだ。10年前から蒼天のシステムを導入した姉妹校であるからな。もう一つは必要ないと思うが教師の教育指導と人格の調査。これは一応念のためだ。別段重要じゃない」

 

「はぁ、他にありますか?」

 

「ある。あの学園は武家の人間が集まる。そこでお前も切磋琢磨して強さを磨くのが目的の一つだ。いい刺激になると思うぜ」

 

「ははは、私的には蒼天の上空にいる守護者達の存在の方が世界で一番刺激的だと思いますよ」

 

「野に放ったら世界が滅ぶ危険極まりないけどな。―――対戦してみる?」

 

「遠慮します!」

 

「そうか。したくなったら声を掛けてくれていいぞ。そんでこれが最後だが、俺は正体を隠して学園生活を送る。バレるような下手なことはしないつもりだが俺のフォローをしてくれ。多分、俺の旧友と言えるヤンチャ共がいるからな」

 

「噂の子達ですか。王様を見抜く人っていますかね?」

 

「敏い奴だったらあるいは、な。バレたら口封じするしかないが」

 

「了解です。あの、学園にいるときの王様をどうお呼びをすれば?」

 

「―――死神ハーデスと呼んでくれ。できるならば、周りから好んで近づくことがない見た目も名前も不審者な設定で行く」

 

「・・・私、その人の傍に好んでいる変人に認識されません?」

 

「問題ない。同じクラスメートになれば他の連中も同じ狢の穴になる。それと今日から発売するあのゲームも応募したか?」

 

「しましたよ。βテストも参加させてもらいましたし、早くしてみたいです」

 

「本格的な正式サービス開始は土曜日だから俺も楽しみだ」

 

「王様もするんですか?じゃあ、一緒にしませんか?」

 

「いいぞ。ただししばらくはソロで活動したい。ソロだと思わぬ発見が出来そうだからさ」

 

「いいですよー。あ、もうそろそろ行かないと遅れちゃいますよ」

 

「おっと、じゃあ行くとするか」

 

 

 

 

春麗・・・・・。桜が満開に咲く季節が訪れ、在学の生徒たちは進級し、

初めて通う高校に青春を謳歌、または自分の能力をさらなる向上を、

心中緊張の気持ちで抱く大勢の新入生たちが川神文月学園、略して神月学園の門を潜っていく。

 

「おはよー」

 

僕はそんな集団から遠く離れて登校する一つの仲の良い集団に接触する。

 

「おー、明久じゃねぇか」

 

「皆のんびりしているね」

 

「テトリスのピースになっていく姉さんの挑戦者達を見ていたら、既に遅刻確定だ。

 なら、遅刻者は遅刻者らしく威風堂々と歩いて行けばいいってことだ」

 

「ははは・・・・・川神先輩は相変わらず凄いね」

 

脳裏に浮かぶ川神先輩に破れた敗者の末路。きっと骨をあらゆる方向に

曲げられて積み上げられたはずだ。

僕みたいに関節を外されて直ぐに戻せる人じゃないと入院が確定だ。

その時の費用は一体どうなるんだろうか?やはり、自腹だろうか?

 

「すっかり春だなー」

 

「そうね!・・・・・眠くなるわぁ・・・・・」

 

「ワン子、授業中寝たら先生に叱られるぞ」

 

「その時はフォローしないからよろしく」

 

「ええーっ!」

 

ワン子と呼ばれた栗毛のポニーテールの少女。名前は川神一子で、川神百代先輩の義妹だ。

活発で毎日ゲンキハツラツな性格、僕と同じ勉強が苦手だけど努力は絶対に怠らない。

それとワン子と呼ばれている理由は―――。

 

「それワン子。このビーフジャーキーを取って来い!」

 

この中で身長が高く、いつも身体を鍛えてビックガイになろうとしている筋肉隆起の島津岳人が棒状の肉を空高く思いっきり投げた途端。

 

「わおーん!」

 

嬉々と尻尾があったら絶対に激しく振っているであろう犬のようにビーフジャーキーを

追い掛けて行った。

ワン子と呼ばれる所以の一つである。他にも誰にも構わず懐いたり、犬と同等に躾けられ、

毎日元気にいるから何時しかワン子と呼ばれるようになったとか。本人は気にしていないし、

皆はそんな彼女を楽しそうに見守っている。

 

「そう言えば川神先輩は?」

 

「ああ、可愛い後輩と一緒に通学した」

 

「くそぅ・・・・・!俺にも春が欲しいぜ・・・・・!」

 

「ガクトは頑張る方向を間違えていなければモテているって」

 

「それは一体どんな方向だ!?」

 

「学力向上?」

 

「却下だ!」

 

「これからのガクトの未来が心配だぁ・・・・・」

 

遅刻確定だからって焦らずのんびりと行くなんてこの集団だけだね。

だからこそ、こんなメンバーと一緒にいたら心地よくて

僕もついつい彼らと一緒に行動してしまう。

 

「さーて、俺たちの新しい教室はどこかねー?」

 

「まー、結果は分かっているんだケド」

 

「Fだな」

 

「うん、Fだね」

 

「俺たち風間ファミリーが集えるクラスといえばそこだけだもんな!」

 

風間ファミリー。七人の幼馴染の集団。リーダーは赤いバンダナを頭に巻いている

イケメン=死ねの風間翔一だ。学校をサボってバイトだったり、違う地方まで言って

食べ物を買いに行くほどの自由すぎる男子学生だ。クラス振り分けの試験の時だって―――。

 

『せんせー。俺、バイトの時間が迫っているので行ってきます!』

 

って、抜け出す程の自由人だ。まるで風のように一ヵ所には留まらず

常にどこかへと行ってしまう。当然、途中欠席したため翔一はFだ。

 

「そういや明久。聞いたぜ、具合の悪い女の子のために自分も試験を放りだしたんだってな。

お前、男じゃねぇか」

 

「小学校からの知り合いだったし・・・・・助けてあげるのは当然だよ」

 

僕もとある理由で試験を抜け出したからFクラスになっているはずだ。

 

「くっ、俺様もそんな女の子がいたらすぐさま手を差し伸べてやるのに!」

 

「はいはい、ゴリラなガクトが介護したら逆に悲鳴が上がっちゃうかもしれない」

 

「バカに言われたくねぇっ!」

 

「なんだと!?僕だってバカなゴリラに言われたくないよ!」

 

「・・・・・どっちもどっち」

 

呆れ混じりに嘆息するのは、紫の髪に花の髪飾りをつけている女の子の椎名京。

 

「って、そろそろ本格的にヤバいんじゃね?」

 

「ん?そうか?というかワン子の奴はまだ戻ってこねぇー。これで呼ぶか」

 

ピーッ←犬笛の音である。

 

しばらくして、向こうから元気よく駆けてくるポニーテール。

 

「お前、どこまで行っていたんだよ?」

 

「学校の校門前よ!丁度そこに鉄人先生がいたわ!・・・・・私のご飯をキャッチしていたし」

 

『・・・・・・』

 

鉄人・・・・・あ、あの人かぁああああああっ!?

これは本格的に拙いんじゃないかな!?鉄人といえば・・・・・!

 

「―――全力でダッシュだ!」

 

翔一の掛け声と共に、僕達は金メダルを取れるんじゃないかって

思うほど駆け足で学校の校門にむかった。

 

「お前ら、遅いぞ!全校集会には遅れるなと説明されただろう!」

 

玄関の前でドスのきいた声に僕達は足を停めた。

浅黒い肌をした短髪のいかにもスポーツマン然とした男が立っていた。

 

「あ、鉄人。おはようございます」

 

「鉄人、おはよーっす!」

 

「おはようございます、西村先生」

 

「鉄さん、おはようございます!」

 

「えーと、魔人カ○ザー先生おはようございます」

 

「・・・・・おはようございます」

 

軽く頭を下げて挨拶をする。何せ相手は生活指導の鬼、西村教諭だ。

目をつけられるとロクな目に遭わない。

 

「直江と椎名以外、ちゃんと西村先生と呼ばんか!このバカどもが!」

 

うわ、ハッキリ生徒の前で罵倒したよ!ちなみに鉄人と言うのは生徒の間での西村先生の渾名で、

その由来は先生の趣味であるトライアスロンだ。真冬でも半袖いる辺りも理由の一つだけど。

 

「それにしても、普通に『おはようございます』じゃないだろうが」

 

「えーっと、今日もいい筋肉ですね?」

 

「島津・・・・・お前は遅刻の謝罪よりも俺の身体の方が重要なのか?」

 

「男なら鍛え上げた体の筋肉を誇りに持たないでどうするんっすか!

今度また熱いレスリング対決をしましょうぜ!」

 

お、おえ・・・・・っ!ガ、ガクトォ・・・・・お前はなに言いだすんだよ!?

朝から気持ちの悪い発言をしないで!

 

「・・・・・まあ、生徒の中で俺と対等にレスリング対決できるのはお前しかいないだろうな」

 

あれ、鉄人も鉄人でまんざらじゃない!?

 

「ほら、受け取れ」

 

気を取り直した先生が懐から数枚の封筒を取り出し、僕達に差し出してくる。

宛名の欄には『吉井明久』と、大きく僕の名前に名前が書いてあった。

 

「「「「「「「あ、どーもです」」」」」」」

 

皆と揃って一応頭を下げながら受け取る。

 

「にしても、面倒なクラス編成の発表っすね」

 

「そうだな。普通に掲示板で発表したら楽じゃないっすか?」

 

うん、確かにね。こうやっていちいち全員に所属クラスを書いた紙を渡すなんて、

面倒なだけだと思うけど。ご丁寧に一枚一枚封筒に入れてあるし。

 

「普通はそうするんだけどな。まあ、ウチは世界的にも注目されている

最先端システムを導入した試験校だからな。この変わったやり方もその一環ってわけだ」

 

「その最先端システムって、蒼天から持ちかけられてこの実力主義の

学校に導入されたんですよね」

 

「ああ、あの国が開発してこの学校が試験校として選ばれ導入されたそうだな。俺も詳しくは知らん」

 

『蒼天』。とある海に存在する大きな島国だ。しかも世界中の技術よりも技術が

発展していて、他の国じゃあ考えられない開発や、有り得ない生物も生息している

周りから注目を集めている有名な国だ。

特に有名なのは宇宙にまで伸びている巨大な建造物だ。

宇宙開発も手を伸ばしている話もよくテレビで見る。

 

けれど、蒼天はどこの国とも同盟関係を結ばず、独立国家を数十年保っている。

それなのにどうしてだか日本のここ、神奈川県川神市のとある学校、

まあ僕たちが通っている川神文月学園=神月学園にオカルトと科学、

偶然が重なった結果。完成された『試験召喚システム』というものを向こうから

『この学校で試験させてくれないか?』って風に話を持ちかけたらしい。

 

そして、それはもう十年前のことになる。どうしてこの学校なのか、

どうして周りの交流が閉鎖的だったあの国が日本のこの学校を選んだのか、

僕達学生はどんな結論を浮かべても分からないでいる。

気まぐれか、それともここではないといけない理由があるのか・・・・・。

 

「そんじゃ、先生。俺たちは行きますね」

 

「僕達のクラスも分かり切っていることだし」

 

「あー、やっぱりFクラスだわー」

 

僕以外の皆が封筒の中身を取り出して確認を終えていた。僕も封筒から取り出して

どこのクラスに所属されたのか確認―――っと。

 

 

―――吉井明久―――Fクラス―――

 

 

・・・・・だよね。まあ、いいや。僕は風間ファミリーと一緒に学園生活を謳歌

できれば問題ない。僕は風間ファミリーじゃないけど、皆は僕を迎え入れてくれる。

 

「お前達さっさとグラウンドに行け。今グラウンドにいない生徒はお前達だけだ」

 

「はい、すみませんでした。ほーら、明久。私達も行くわよ!」

 

「クラスに行くとき、他のクラスの中の様子を見ようぜ」

 

「でも、静かに行こうね」

 

「ガクトが騒がないように躾ける?」

 

「おい京。俺様をなんだと思っているんだよ」

 

「取り敢えず行こうぜ。西村先生が睨んでくるし」

 

ほら、皆は賑やかに行くんだよね。まったく、傍から見れば皆は今でも騒がしいと思うよ。

 

 

―――学園長室―――

 

 

「まったく、アンタから話を聞かされて何の冗談だと思ったけど本気でここに来るなんてね」

 

「なに、あれから十年・・・・・もうこの学校は周りから注目の的だ。お前をこの学校に配属させたのは俺自身でもあるんだからな。そろそろボロが出てもおかしくない時期だと思って審査をしに来たわけだ」

 

「この学園に任せられてから一度だって不備なことは起こしたことがないさね。」

 

「そのようだな。だが、報告書だけじゃ信用は得られない。直で調べてみてみたくなる時もある。今回だって報告書を読ませてもらったけど、観察処分者が現れたんだって?」

 

「ああ、教師の私物を売った大バカがいてね。そいつに課したのさ」

 

「はは、大バカね。俺は好きだぜ?特に誰かのために必死にバカみたいに一生懸命な奴がさ。それじゃ本題に入ろうか。俺もこの学校の生徒として入学させてもらう。すでに理事長には話がついているから拒否権はない」

 

「蒼天の王の破天荒な行動に誰が止められると思っているんだい。んで、アンタはどの学年のクラスに入るつもりだい」

 

「ん・・・・・やはり、二年の下位クラスに所属しよう。―――思いっきり変装をしてな」

 

「Cクラス以上だったら設備を増やす手間が増えたところだ」

 

「だろうな。それじゃ、全校集会にまた。フォローは頼んだぜ?」

 

「わかったよ」

 

 

―――全校集会。

 

 

―――朝のHRは、臨時で全校集会が開かれた。全校生徒が校庭に集まって教壇に立っている理事長の話に耳を傾ける。

 

「皆も今朝の騒ぎで知っているじゃろう、武士道プラン」

 

全学生達を前に、学長の説明が始まっていた。

 

「この川神学園に転入生が10人入ることになったぞい」

 

理事長が示した人数に皆がざわめく。

今朝ニュースで言っていた人数と違うような・・・・・?

 

「あれ?確か武士道プランの人数は3人じゃなかった?」

 

「まだ他にいる系?・・・・・イケメン系?」

 

「武士道プランについての説明は新聞でも見るんじゃな。

重要なのは学友が増えるということ。仲良くするんじゃ。・・・・・競い相手としても

最高級じゃぞい、何せ英雄」

 

「確かに・・・・・英雄達と競い合いができれば驚くほどのレベルアップに

繋がるはず・・・・・。 先人に学ぶ、の究極系だな。

まあ、あくまで武道をしているやつらだがな」

 

雄二が顎に手をやり納得した様子だけど、そうじゃない僕達は最初から競う相手にもならないだろうね。

 

「武士道プランの申し子達は全部で6人じゃ。残り2人は関係者。

まずは3年生、3−Sに1人はいるぞぃ」

 

「今の時期に三年生が入ることになろうとはの」

 

「・・・・・訳ありの可能性」

 

「でも、凄い学力よね。いきなりSクラスに入っちゃうなんて」

 

一子の感嘆の言葉には僕も同意する。

 

「それでは葉桜清楚、挨拶せい」

 

理事長の声と共に、女の子が一人しゃなりと前に出た。そのまま。

ゆっくりと壇上に上がっていく。

優雅な足の動きで男子達からは、ほーっという溜め息が漏れた。

 

「こんにちは、初めまして。葉桜清楚です。皆さんとお会いするのを、

楽しみにしていました。これから、

よろしくお願いします」

 

壇上に上がった先輩、葉桜清楚のふわりとした挨拶した後、

男子達の歓声が巻き起こった

 

「やべっ、名前からして清楚過ぎるんですけど!?」

 

「なんか文学少女ってイメージだね!良い感じ!」

 

「すっげぇ!宴にグッズ出したら価値は間違いなくSR!」

 

「・・・・・!(パシャパシャパシャッ!)」

 

ムッツリーニが物凄い勢いでカメラのシャッターを押す。ムッツリーニ商会がまた潤うね。

 

「あーあ、皆色めきたっちまって・・・・・ま、無理もねぇか」

 

「ハイハーイ、気持ちは分かるけど静かにネ!」

 

教師達が歓声を上げる生徒達を宥めた時。

 

「が、学長、質問がありまーす!」

 

「全校の前で大胆な奴じゃのう。言うてみぃ」

 

「是非、3サイズと、彼氏の有無を・・・・・!」

 

「全校の前でこの俗物がーっ!」

 

小島先生の鞭が同じクラスの福本育郎君に炸裂した!

 

バッシィィィィィィィィンッ!

 

「あぅぅうんっ!」

 

鞭って痛いはずなのにクラスメートは恍惚とした表情を浮かべる。

 

「アホかい!・・・・・まあ、確かに3サイズは気に成るが」

 

「・・・・・ええっ」

 

葉桜さんは赤面し、恥じらった。

 

「おいジジイ死ね!」

 

どこからかモモ先輩の声が聞こえてきた。葉桜さんは咳を一つ零すと口を開いた。

 

「片想いの人はいます。私のサイズのことは・・・・・皆さんのご想像にお任せします」

 

『ウオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!』

 

男子生徒達がまたしても歓声を巻き起こす。

うん、あの恥じらい方はこうグッ―――とくるものがあるよっ。

 

「総代、真面目にやってくださイ!」

 

「おお、すまんすまん、ついのう。・・・・・葉桜清楚、

という英雄の名を聞いた事がなかろう、皆」

 

理事長の質問に僕は素直に頷いた。それから、

 

「うん、そんな前の偉い人は聞いた事が無い」

 

「あ、いないのね。知らなくてビクビクだったわ・・・・・」

 

「―――実はいます。ワン子・・・・・、こんな常識知らないのか・・・・・?」

 

「ひいっ!?」

 

「ワン子、大和のサドな冗談だよ」

 

「よ、良かったぁ・・・・・。お仕置きされるかと思ったわ」

 

一子をからかう大和の声が聞こえてくる。

 

「これについては、私から説明します。実は私は、他の三人と違いまして、

誰のクローンだか自分自身ですら教えてもらってないんです。葉桜清楚と言うのは

イメージでつけられた名前なんです」

 

「そうなのか。自分が誰だか分からねえーのか」

 

翔一が不思議そうに言う。

 

「25歳ぐらいに成ったら教えてもらえるそうです。

それまでは、学問に打ち込みなさいと言われています。

私は本を読むのが趣味なので・・・・・。だから、清少納言あたりのクローンだと

いいなと思ってます」

 

「清少納言かぁ、そうなら確かにイメージ通りだよね」

 

「しかし存在感ある人だな。大勢の前で声もよく通る」

 

「正体が謎だからテレビでは放送されなかったのか・・・・・」

 

各々とFクラスの皆がざわめき立つ。

 

「皆、テンションが上がってきたようじゃな、良いぞ良いぞ。そして、二年に入る

6人を紹介じゃ。全員が、2−Sとなる男子一人と女子が五人じゃ」

 

「・・・・・なんとなくそう思ったよ。Sクラスが強くなっちゃたね」

 

「ああ、かなり面倒なことになる。試召戦争の時、どう迎え討てばいいか・・・・・」

 

雄二が悩みだすところで、4人の女性がスタスタと壇上に上がってきた。

 

「こんにちは。一応、弁慶らしいです、よろしく」

 

弁慶と名乗った少女が挨拶をして一拍して遅れた時。

 

「結婚してくれえええええええええええええ!」

 

「死に様を知った時から愛してましたあああああああああああああああ!」

 

ガクトと福本君が大声を張り上げながら興奮し出した。

 

「あんたら、アホの極みだわ・・・・・」

 

「しかし、なんてーの。・・・・・清楚とか見ちまうとアタイら

自信汚く思えてきてさー、今度はあんな色気溢れるの来ちまって死にてぇ系」

 

「ほんとにね・・・・・、なんだか自信なくしちゃうよ」

 

2−Fの女子がそう言っている最中、黒髪のポニーテールの女性が咳をする

 

「義経ちゃん、落ち着いて、・・・・・大丈夫」

 

「ん。義経はやれば出来る」

 

「・・・・・よし!」

 

二人に励まされて気合を付いたようだ。

 

「源義経だ。性別は気にしないでくれ、義経は武士道プランに関わる人間として

恥じない振る舞いをしていこうと思う。よろしく頼む!」

 

源さんの自己紹介が終わった瞬間だった。

 

『うぉおおお!こちらこそよろしくだぜぇ!』

 

『女なのは気にしない!俺たちにとってはご褒美だぜ!』

 

男子学生の怒号が、大地を揺らした。す、凄い・・・・・っ。

 

「挨拶で来たぞ、弁慶!」

 

「義経、まだマイク入っている」

 

「・・・・・失礼」

 

「緊張し過ぎないことだね」

 

「しきりに、反省する」

 

ははは、源さんは少しばかりおっちょこちょいみたいだね。

えと、残りの二人は・・・・・?

 

「私は伊達正宗だ。英雄、正宗のように眼帯を着けていないが

そこは気にしないでくれ」

 

クールビューティーな人だと思った。艶やかな黒髪を腰まで伸びていて、

どこまでも瞳が青かった。でも、片方の目は金色だなぁ・・・・・。

 

「織田信長です。以御お見知りおきを」

 

意外とシンプルな自己紹介だった。

 

「女子諸君。次は武士道プラン、唯一の男子じゃぞ」

 

理事長の言葉に女生徒達が少しだけざわめく

 

「やっとか。正直女ばかりだと味気ないと思っていたぜ」

 

「どんな人なのじゃろうか」

 

「・・・・・興味深い」

 

雄二達が興味深々と教団の方へ視線を向ける。

 

「2−S、那須与一!でませい!」

 

唯一、男子学生の英雄のクローンを呼ぶ理事長。

 

「京。与一といえば・・・・・、恐らく弓使いだぞ」

 

「女の子じゃないなら、弓使いでキャラかぶりもアリ」

 

「どんな男だ。ダルやヒロみたいな奴だったら爆発しろ」

 

皆が固唾を飲んで、登場を持った。

 

「あぁ?なんだ、出てこねーじゃねぇか」

 

・・・・・一向に現れない・・・・・。

 

「照れているのかのう?よーいーち!」

 

「よいちさーん!怖がらなくて大丈夫ですよー!」

 

「おー。いきなりサボりとは、ユニークな奴だな」

 

「サボり?それは感心しないな」

 

皆が現れない那須与一にザワつき始めた。

 

「あわわ・・・・・与一の奴は何をしているんだ・・・・・。皆との和が・・・・・」

 

「後でアルゼンチンバックブリーカーだな・・・・・」

 

 

―――屋上―――

 

 

屋上に1人の少年がゴロリと横になっていた

 

「・・・・・ハッ、くだらねぇの。卒業するまでの付き合い・・・・・慣れ合いに

意味あるのか?人間は死ぬまで1人なんだよ」

 

この少年の名は、那須与一。源義経達と同じ英雄のクローンである。仲良しこよし群れることを拒み全校集会が終わるまでサボタージュを決め込む、そんな少年を見下ろす人影が静かに現れた。

 

「―――まったく、お前はどうしてそんな性格に成ったのか知りたいな」

 

「誰だっ!?」

 

バッ!と身体を起こし辺りを見渡す。

 

「此処だ、与一」

 

声がした方向に顔を向けると給水塔に一人の男がいた。

その男は―――真紅の髪を靡かせ、金色の双眸を那須与一に向けていた。その男を見て

那須与一は愕然とした面持ちで口を開いた。

 

「あ、兄貴・・・・・」

 

「久しぶりだな。十年振りか?」

 

「あ、ああ。そうだな・・・・・」

 

「さて、昔の事だが俺と約束した事をどうやら守っていないらしいな?」

 

「・・・・・っ!」

 

男の言葉を聞いた途端に那須与一が身体を震わせた。

 

「与一、お前に二つの選択を与える。今すぐ義経達の所に行くか

俺の説教を称した体罰を受けるか、どっちか選べ」

 

瞬時で与一の目の前に移動し、那須与一の瞳を覗き込むように口を開く。

男の瞳は金色に瞳孔が垂直のスリットになっていた。

まるで猛獣に狙われているかのような感覚で、緊張感が高まる。

 

「わ・・・・・わかった。義経達の所に行く・・・・・」

 

「ん、賢明な判断だ」

 

満足気に笑みを浮かべる男は人差し指を唇の前で止めながら言った。

 

「ああ、俺も全校集会に顔を出すことになってる。それまで誰にも言うなよ?

言ったら・・・・・様々な格闘技、柔道の技のオンパレードを与えてやるから」

 

「絶対に口を割らないぜ!男と男の約束だ!」

 

 

―――グラウンド―――

 

 

「み、皆聞いてくれ、今、与一はたまたま来ていないが・・・・・その・・・・・

照れ屋で、難しいところもあるけど・・・・・与一は良い奴なんだ。

だから、これで怒らないで・・・・・与一と話してやって欲しい。いない件は、義経が

謝る。本当に、すまなかった」

 

皆の前で、源さんが深々と頭を下げた。

 

「だから皆、与一と仲良くやって欲しい」

 

「・・・・・よろしく頼む」

 

―――っ!?

 

教壇から男の声が聞こえた。目を真っ直ぐ教壇に向けると、

一人の男子生徒が立っていた。

い、何時の間に・・・・・さっきまでいなかったのに・・・・・。

 

「よ、与一。い、何時の間に・・・・・?」

 

「・・・・・言いたくねェ」

 

顔をプイッと源さんから逸らした。

 

「はー、美味しい」

 

「おおい!瓢箪が気になっていたが後ろで弁慶が酒を飲んでるぞー!」

 

「弁慶、我慢できなかったのか?」

 

「申し訳も」

 

「こ、これは・・・・・皆も知っている川神水で、酒ではない」

 

「なんだ、そうなのね・・・・・って、川神水なら飲んでいいわけないじゃない!」

 

一子の言う通りだ。この場に肯定する人は―――。

 

「川神水はノンアルコールの水だが、場で酔える」

 

「流石は小島先生。死活問題だからきっちとしないとネ」

 

いたー!?え、教師公認なの!?いいのそれで!?

 

「皆さん、すいません。私はとある病気でして、こうして時々飲まないと、体が震えるのです」

 

「なんだそうなのか、なら仕方が無いな」

 

「ていうか、それはア・・・・・むぐっ」

 

「空気を読めよ、モロ。いいんだよ、美人なら川神水ぐらい」

 

ガクト。キミの思考はときどき僕も分からなくなる時があるよ・・・・・。

それにしても、特別待遇過ぎる気もするなぁ。Sクラスだからってそこまで自由奔放だっけ?

 

「弁慶は川神水を飲む代わり成績が学年で四位以下なら、即退学で構わんと念書ももらっておるしな。

じゃから、テストで四位とかだったら、サヨナラじゃ」

 

条件付きだったんだ。それなら納得できる。

 

「弁慶、お前は五杯で壊れる。これ以上は・・・・・」

 

「分かってる・・・・・、そもそも今飲んでるのはワザとだし、

全校の前で一度この姿を見せておく・・・・・、

こういう人間だと認識してもらうと何時でも好きな時に飲めるわけで」

 

「無用に敵を作っているようで、義経はハラハラだ・・・・・」

 

「競争意識を刺激しているわけ。良しとして」

 

あはは・・・・・Aクラスとの仲がさらに悪化しそうだ。

 

「なんだか、皆に不快感を与えたかもしれないが・・・・・仲良くやっていきたい。

よろしく頼む」

 

源さんは深々とお辞儀した。葉桜さんもたおやかに頭を下げる。

弁慶さんはしゅた、と手あげる程度だった。

与一君は「ふん」と顔を反らした。織田さんと伊達さんは小さく頷く。

 

「後は武士道プランの関係者じゃな。ともに1年生で2人とも1−Sじゃ!

さぁ、入ってくるがいい」

 

理事長が誰かに高らかに言った。しばらくすると―――。

 

「お?なんか、行儀よさそうな奴がいっぱい出てきたぞ」

 

「あれは、高名なウィー○交響楽団・・・・・。何故こんな所に?」

 

現れた大勢の人達は、いきなり演奏を始めた。

 

「これは、登場用BGMというやつ?」

 

「この雰囲気・・・・・なんだか、嫌な予感しかしないわ」

 

ふと、後ろの方からどよめきが起こった。なんだろうと皆の視線が集中すると、

そこには―――。執事服を着込んだ大勢の男達が2列で川神学園に入ってきた。

そして、お互い手を相手の肩に置いて道を作った。―――そこに道を作った男達の上に

歩いて来た真紅の羽扇を持つ銀の長髪に紫の瞳、額に×印の傷が

ある少女。その少女を見て僕達は唖然とした。

 

「我、顕現である!」

 

誰!?女の子、幼女!?ええええええええ!?

 

「我の名は九鬼紋白。紋様と呼ぶがいい!我は飛び級する事になってな。

武士道プランの受け皿になっている、川神学園を進学先に決めたのだ。

そっちの方が、護衛どもの手が分散せんからな。我は退屈を良しとせぬ。

1度きりの人生、互いに楽しくやろうではないか。フハハハハーッ!」

 

九鬼紋白・・・・・彼女の自己紹介に全校生徒は呆然となった

 

「凄ーく強烈な人が来たね・・・・・」

 

「ああ、九鬼が二人とはカオス過ぎるだろう・・・・・」

 

雄二すら、唖然と見ている。嵐が二つもこの学校にいるんだ。

きっと騒がしい学校生活になるに違いない。

そして、もう一人の転入生とはいうと・・・・・。

 

「新しく1年S組に入る事に成りました。

ヒューム・ヘルシングです。皆さん、よろしく」

 

金髪で鋭い眼光の執事服を身に包む老けた男性だったッ!!!!!

 

「「そんな老けた学生はいない!」」

 

つい、僕と雄二がその人に向かってツッコンでしまったよ!

いくらなんでもこの学校の年齢制度は緩すぎる!

 

「ヒュームは特別枠。紋ちゃんの護衛じゃ」

 

理事長の言葉に疑問が湧きだす。

 

「別にクラスに入らなくても教師でも良いのにねぇ」

 

「そんな年輩の方が来ても話題も合うとは思えんの・・・・・」

 

島田さんと秀吉の呟きを聞きとったのかヒュームさんは口を開く。

 

「お嬢さん。こう見えて私は、ゲームなど好きですよ。スプライト型機体が、私のロボです」

 

『それPC98のゲームじゃねーか!何年前だよ!』

 

2−Fからツッコミが入った。

 

「えーここで僭越ながら、ご挨拶させて頂きます」

 

今度は銀髪に眼鏡を掛けた老執事の人が何時の間にか現れる。

 

「私、九鬼家従者部隊、序列3番。クラウディオ・ネエロと申します。

私達九鬼家の従者は、紋様の護衛と武士道プランの成功のため、

ちょくちょく川神学園に現れますが・・・・・どうか仲良くして頂きたい。

皆様の味方です」

 

「フハハ、因みにクラの好みはふくよかな女性だ。

未婚らしいので惚れた奴が口説いて良いぞ」

 

「ご解説ありがとうございます、紋様」

 

いない!そんな人に口説くこの学校にそんな女子生徒はいない!

 

「うむ。以上がこの8人がこの学校に入る事に成る。皆、仲良くするんじゃぞぃ」

 

理事長の言葉により全校集会は終了した。

 

「うん・・・・・Sクラスに濃い人達が入ったってことは分かった」

 

「だな・・・・・これからこの学校はどうなることやら・・・・・」

 

「・・・・・新作入荷」

 

「英雄のクローンとは言え、本物の英雄ではないのじゃろう。

まあ、あの者達と話す機会はそうそうないじゃろうな」

 

「それはそれでドキドキしちゃうわ。身分の違いで」

 

「はい。私もそう思います」

 

僕も含め雄二達も自分の教室へと戻る雰囲気に包まれた。・・・・・あれ?でも、転入生10人じゃなかったっけ?

 

 

 

「さて、以上を以て全校集会は終了とする。皆、後悔のある学園生活をしてはならんぞぃ」

 

神月学園の理事長の川神鉄心の話が終わり、場は気が緩んだ雰囲気を醸し出し小声であるがクラスメート同士で会話を交わし合い始める。しかし源義経達が壇上から降りた途端に鉄心は今思い出した風に言い始めた。

 

「おっと忘れておったわぃ。この学園にもう二人の転校生とゲストが来るのでの。お前達失礼のないように心がけるのじゃ」

 

転校生とゲスト―――?一体誰なんだ?と終わったはずの終業式の後に今度は何の話をするんだと思っていた生徒一同の目の前で壇上に姿を現す一人の人物と、黒いフード付きの外套で全身を包み隠すだけでなく骸骨の仮面を被った不審極まりない人物に、背中まで伸びた黒髪に黒髪の神月学園の制服に身に包む少女。

 

「おはよう神月学園の生徒諸君!」

 

高らかに自身の声量で挨拶した男。暑い日差しに照らされる真紅の長髪に金色の双眸、長身的な体を身に包む服装は煌びやかな純白に金の刺繍で龍を縫った漢服。

 

「俺は蒼天の―――」

 

『た、旅人さんんんんっ!?』

 

「中央区の王、イッセー・D・スカーレットだ。あー、今の叫び声は気にしないで聞いてくれ」

 

話を遮られ苦笑する蒼天の王を、遮った学生達は最初こそ驚いたものの直ぐに満面の笑みを浮かべて誰よりも一際に騒いだ。

 

「マジかよ旅人さん!?久しぶりだぜ旅人さーん!」

 

「おい旅人こっちを向け!あの時から成長したお前を倒す美少女がここにいるぞ!」

 

「ふはははは!久しぶりであるな旅人!」

 

「旅人のお兄ちゃーん!」

 

「旅人さん結婚して!」

 

蒼天の王に向かって旅人と連呼する生徒達を一瞥し、静かに天に向かって人差し指を突き立てた。

 

「・・・・・少し黙ろうか」

 

一瞬で巨大な火炎球を生み出す、彼が眼光を鋭く睨みつけ凄まじく恐ろしい形相をしたので全員が心から恐怖して口を閉ざした。王者の風格とそれに相応しい力の一端を見せつけた事で格上の差を示したのであった。

 

「よし、静かになったので話をさせてもらう。俺は自分で言うのもなんだが蒼天の王を務める者の一人だ。そんな王がここにいるのは二つ。一つは蒼天が開発したゲームをこの学園の生徒にも楽しんでもらいたく、プレゼントを贈るサプライズをするためこの瞬間に訪れさせてもらった」

 

火炎球を消して、壇上から降り立つ蒼天の王の横から教師達が押し車を運んできた。その中には何かが入っていてその一つを取り出す。

 

「VRMMORPG、NWOを遊ぶための必要な道具だ。これが壊してしまうと遊べなくなるので保管は気配るように。それじゃ、一年一組から順に渡すから前に出て取りに来てくれ」

 

教師の誘導で生徒は緊張しながら蒼天の王から受け取り列に戻る。二年、三年生も同じくスムーズに手渡していく。何か言いたげな生徒には鉄人こと西村宗一郎の睨みでねじ伏せた。

 

「全員行き届いたな?今回俺のサプライズのために付き合ってくれて感謝する。それじゃ、まっすぐ家に持ち帰って正式サービスが開始したらゲームをしてくれ。この話は以上だ。そしてもう一つは、俺の国からこの二人を神月学園に転校をさせてもらった。この死神のような出で立ちをした人物は俺の義理の息子のハーデス。そして可愛らしい女の子は松永燕だ。二人共成績は優秀なんだが、この格好をしなくちゃならない事情があるハーデスの為にFクラスに配属させてもらった。Fクラスの生徒はどうか仲良くしてやってくれ」

 

去ろうとする王を護衛の形で追従する教師達。

 

「さて―――」

 

厳かに声を発する西村が両腕の筋肉を盛り上げる。

 

「蒼天の王に礼節を弁えず失礼極まりない言動をした者は放課後に地獄の補習を決行する!逃げれると思うなよ、お前達の家まで追いかけて補習を受けてもらうからな!」

 

「うげぇっ!?」

 

「そんなぁっ!」

 

吉井明久はこの瞬間思った。みんな頑張れと。

 

 

 

裏から蒼天へ戻ろうと足を運んだ蒼天の王だったが、先回りしていたヒュームとクラウディオに行く先を阻まれた。

 

「九鬼家の従者が何か用か?蒼天の王の前を塞ぐとは大した度胸だ」

 

「少々お時間を頂けるならば長くはお引止めいたしません」

 

「長くも少なくとも、国際問題になりかねないことをしている自覚はあるのか?そして今の俺は蒼天の王としてここにいるんだが・・・・・高が財閥の従者が一国の王に敬意を表す姿勢じゃないな。―――平伏せ」

 

「「っ・・・・・」」

 

二人の身体に凄まじい重力のような圧力がかかり、己の意思に反して姿勢を低くされた。

 

「悪いけどその姿勢で話してくれよ?面倒なことに何時の間にか力を示さなきゃならなくなってしまったんだからな」

 

「この力は・・・・・っ」

 

「発言の許可をもらうまで他の国の大統領や王でも許されない。お前達はそれ以下だ」

 

「貴様・・・・・ぐっ・・・・・!」

 

ヒュームを中心に地面が凹んだ。

 

「プライベートなら気にしないけどさ、俺は今蒼天の王としてここにいるんだよ。世界の王に対して失礼な発言をしてると身を滅ぼすぞヒューム・ヘルシング。で、用件は何だクラウディオ・ネエロ」

 

「はい、九鬼家との取引の商談に興味がありますか?」

 

「ふーん商談ね。蒼天は九鬼家と取引をする時期はまだまだ先なんだが、その話をそっちから持ち掛けてきたということで保留にさせてもらう。いずれは場を設けてもらおう」

 

「畏まりました。良き返事をして頂き誠にありがとうございます。―――揚羽様もお喜びになるでしょう」

 

「まだその話を引きずるつもりか。・・・・・商談をする相手を名指しする必要があるかもな」

 

「ふふ、何の事でしょうか。ところで迎えの車が見えませんがこれからでしょうか?」

 

「蒼天がどこにあるのか知ってるだろ。迎えなら今来た」

 

意味深に言った後で上空から分厚い装甲を纏い空を駆ける女性達と有翼を持つ巨大な金色の生物が現れた。その生物の背中に乗り出すと蒼天の王を迎えに来た一行と共に一気に空の彼方へと飛んでいった。

 

「蒼天を創造した王しか従わぬ蒼天の守護龍・・・・・凄まじいですね」

 

「何時か倒す」

 

「正式な試合でお願いしますよヒューム。では私は報告をしに戻りますのでよろしくお願いします」

 

 

 

 

 

 

「死神死神!お前、旅人さんの義父なんだな!」

 

全校集会が終わって僕達Fクラスは自分のクラスに戻った。戻たというより初めてクラスに入ったのはいいんだけど・・・・・ここどこ?山奥にある廃屋?教室とは思えない環境が悪そうで居続けたら人体に害がありそうだよ。椅子が座布団、机がちゃぶ台で汚れた床は畳、割れた窓。これが最底辺クラスの教室かぁ・・・・・。こんな教室の中でも翔一は興奮気味で一番後ろの窓際の席に陣取って座っている死神ハーデスに問い詰めてる。ここにいない川神先輩を除いて。ハーデスは、黒いマントからスケッチブックを取り出して書き始めて答えた。

 

『・・・・・それがどうかしたか』

 

「何でスケッチブックで書いて答えるんだ?」

 

「ハーデスは喋れないからだよん」

 

ガクトの質問に松永燕さんが応えた。

 

「昔喋れなくなってしまったことがあってね、だから喋るときはこうして書いて意思疎通をしなくちゃいけないの。ごめんね?」

 

「あーすまねぇ」

 

「ううん、わかってくれるならこっちも嬉しいよ。それで王様のことがどうしたの?」

 

「そうそう、ガキの頃の話なんだけどよ。俺達は昔旅人さんと何年も遊んだことがあるんだ!」

 

「でも次の旅に出てそれっきり会えなくてさ。こんな形で再会するとは思えなかったからびっくりしたよ」

 

「まさか、蒼天の王様だなんて驚いたわー」

 

なるほど、仲の良かったお兄さん的な人だったんだ。あんなに嬉しそうだったのも納得できるね。

 

「あー、王様が昔やんちゃで愉快な子供達の話を聞いたことがあるよ。それがキミ達のことかー」

 

「貴女は旅人さんの何なの?」

 

「蒼天の学園の生徒と理事長?」

 

「あの人、王様なのに理事長もしてるの?」

 

「普段は警備の人のように蒼天中を歩き回ってるよ。だから割りと王様なのに接触率が高いわけだから友達的な感覚なんだよね」

 

総理大臣のような人が仕事もせずに歩き回ってる?

 

「・・・・・王と理事長の仕事は?」

 

「そこまでは知らないかな。ね、ハーデス君」

 

話し掛ける松永さんに小さく頷くハーデス。

 

「じゃあじゃあ!旅人さんの連絡先は―――!」

 

『・・・・・国際電話』

 

「普通の携帯や電話じゃ駄目なのねー」

 

「蒼天は外国扱いされてるから仕方がない。それにそうじゃなくても教えてくれるかどうか怪しいところだ」

 

大和がそう言う。旅人さん、王様の話で盛り上がる翔一達と比べてこっちはこっちであの話題の話をする。

 

「楽しみだね。早く土曜日にならないな。なんたって世界で初めて革命的なゲームだから、ゲーム好きな人にとっては水詮ものだよ!」

 

「明久、垂涎だ」

 

「お主等、何の話をしてるのじゃ?」

 

「あ、秀吉。それはゲームの話だよ。ほら蒼天が開発した」

 

「おお、あれじゃの。ワシも楽しみじゃ。現実世界のようにゲームが楽しめれるというのじゃから興味が大いにある」

 

「・・・・・俺も楽しみ」

 

「確かにな。蒼天と日本限定で発売する前に応募できるからと言っても、多くの応募からランダムの抽選で選ばれるわけだからな」

 

「まさか学校で配られるとは思わなかったけど、当たって嬉しい!」

 

あー、早く本当に明日が土曜だったらどれだけ嬉しいことやら!

 

「あ、ハーデスと松永さんはハードを貰えたの?全校集会の時貰ってなかったけど」

 

『・・・・・この前直接貰った』

 

「王様の笑顔つきでね」

 

「「「「なんて羨ましいっ!」」」」

 

『・・・・・そんなお前達にフライングを込めて教える。β版で知ったゲームのキャラクターについて』

 

「おっ、迷わず設定できそうだな教えてくれ」

 

「仏様神様死神ハーデス様教えてください(m(__)m)」

 

「・・・・・お願いします(m(__)m)」

 

「土下座してまで教えて欲しいのかの」

 

スタートダッシュは見逃せないよ秀吉!

 

『・・・・・まず最初にジョブとサブジョブの職業が選べる。サブジョブは後ででも選べて職業は多種多彩にある』

 

「・・・・・ハーデス。忍者はないのか」

 

『・・・・・秘密』

 

楽しみを引き延ばすねハーデス。更に気になってしまって仕方がなくさせてしまうなんてさ。

 

「ワシは侍風になってみたいの。ハーデス、他はあるかの?」

 

『・・・・・教えなくともわかるスキルと魔法が覚えられる。これはレベルで取得するんじゃなく、行動とクエストで入手する』

 

「・・・・・透視の魔法っ」

 

『・・・・・自分で探せ』

 

「よーし、探そうムッツリーニ!」

 

「・・・・・(コクコク)ッ!」

 

「ハーデス、他は?」

 

『・・・・・キャラクターの細かな設定が可能』

 

「どんな風にだ?」

 

『・・・・・男らしい顔つきに』

 

「なんとっ!?」

 

『・・・・・女性のバストが三桁にまで変更ができる具合に』

 

「なんですってぇっー!?」

 

「あ、島田さん」

 

「死神、今の話は本当なわけっ!?どうやってできるか放課後に教えてもらうわよっ!」

 

『・・・・・ゲームの話し合い。現実的は手術しないと』

 

「ゲーム?」

 

「蒼天が開発したゲームの話しだよ」

 

「あ、テレビのニュースで話題になってるゲームよね?その道具をもらったけれど」

 

「そういうことだから、ハーデスから少しゲームの内容を教えてもらっていたんだ」

 

「ウチもテレビで知ってるけど楽しいの?」

 

「ゲームの世界で思いっきり遊べちゃうからね」

 

『・・・・・出会いがあれば恋愛することも可能。蒼天のゲームは未成年者でも結婚ができる。その気があれば同性だって』

 

「「なんだ、とっ・・・・・!」」

 

「二人共、何故こっちを見るのじゃ」

 

『・・・・・同性として見ているから?』

 

「「何を言う。秀吉は男でも女でもない。第三の性別、秀吉だからだ」」

 

『・・・・・そんな性別はゲームに存在しない。そんなこと言うなら、女装したお前らもアリだと思う』

 

「あっ、確かに可愛くなるかも。ねね、女装してみない?蒼天でβテストしたプレイヤーの中に男性なのに女装したプレイヤーもいたんだよね。きっと二人も似合うと思うよ」

 

「「すみませんしたくないです」」

 

『・・・・・以上説明終わり』

 

「おう、色々とありがとうよ。じゃあ、次はキャラクターの名前を考えようか」

 

「えーと、皆さん」

 

不意に背後から覇気のない声が聞こえてきた。そこには寝癖のついた髪に

よれよれのシャツを貧相な体に着た、いかにも冴えない風体のオジサンがいた。いつの間に入ってきたんだろう?

 

「席についてもらえますか?HRを始めますので」

 

学生服も着ていないし、どう見たって十代には見えない。

どうやらこのクラスの担任の先生みたいだ。

僕達はそれぞれ返事をした後にそこらへんの席(?)に着く。

というか、椅子が無いから直で床に腰を下ろす形が席なんだよね・・・・・。

 

「えー、おはようございます。二年F組担当の福原慎です。よろしくお願いします」

 

自分の名前を書こうとしたのだろう。だが、薄汚れた黒板に振り向いた時にやめた。

うわ、チョークすらロクに用意されていないよ。

 

「皆さん全員に卓袱台と座布団は支給されてますか?不備があれば申し出てください」

 

六十人程度の生徒が所狭しと座っている教室には机が無い。あるのは畳と卓袱台と座布団。

なんて斬新な設備だろう。一年生の時から噂には聞いていたけど、

実際に目の当たりしたりすると言葉が出ない。

 

「先生、座布団に綿が殆どないです」

 

と、僕が先生に不備を申し出る。

 

「あー、はい、我慢してください」

 

「先生、僕の卓袱台の足が折れています」

 

「木工ボンドが支給されていますので、あとで自分で直してください」

 

「先生、窓が割れていて隙間風が寒いんですけど」

 

「わかりました。ビニール袋とセロハンテープの支給を申請しておきましょう」

 

セロハンテープすらないのぉっ!?もうAの設備とは雲泥の差以上だよ!

 

「必要な物があれば極力自分で調達するようにしてください」

 

「「マジかよ・・・・・」」

 

唖然と言う大和とガクトだった。流石にこの環境で学校生活は絶対にやだよ!

 

「では、自己紹介でも始めましょうか。そうですね。廊下側の人からお願いします」

 

福原先生の指名を受け、車座を組んでいた廊下側の生徒一人が立ち上がり、名前を告げる。

 

「木下秀吉じゃ。演劇部に所属しておる」

 

「大和、お前の知り合いに畳屋はいるか?いたらなんとか譲ってもらって、

このカビだらけな畳と交換したほうがいいって」

 

「分かった。今確かめる」

 

「お姉様もこの教室で学んだのかしらね・・・・・」

 

「そう言えば去年のこの日ぐらいに物凄く愚痴を言っていたね。

『あんなの教室じゃなくて廃屋!いや、キノコ栽培する場所だ!』って」

 

その気持ち、物凄く同感です。川神先輩。

 

「・・・・・土屋康太」

 

「あ、姉さんからだ。・・・・・お前ら、教室はどうだ?」

 

「最高です!って、返信してやれ」

 

「それと、お姉様の気持ちは物凄く伝わったよってお願い」

 

「島田美波です。海外育ちで、日本語は会話はできるけど読み書きが苦手です」

 

何人か知り合いが自己紹介をしている中でも風間ファミリーは自分の空間を作り、

ほのぼのとしている。ある意味、空気を読まない集団だ。そんな集団にも順番が回ってきた。

 

「俺の名前は風間翔一だ。趣味は冒険と探検!よろしくな!」

 

どっちも一緒のような気がするけど・・・・・。

 

「直江大和だ。これから一年間よろしく」

 

うん、シンプルな自己紹介だ。

 

「アタシは川神一子!好きなことは努力することよ!皆も一緒に努力しましょうね!」

 

『努力最高っー!フォオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッッ!』

 

・・・・・返す言葉が見つからない・・・・・っ!

 

「椎名京。得意なことは弓を射ること。それから好きな人は・・・・・・」

 

『・・・・・』

 

「旅人さんだね」

 

『異端審問会を開こうではないか!』

 

おのれ、幸せ満喫の旅人よ!また僕の前に現れたらミンチにしてくれるわっ!あ、冗談です。

 

「島津岳人だ。自前の体を鍛えることが趣味だな。あと彼女募集中だ!」

 

『俺達も今現在絶賛中彼女募集中だゴラァアアアアアアアアアアアアアアアッ!』

 

何時も聞いているから聞かなくても分かる自己紹介だ。

 

「えーっと、師岡卓也です。機械、主にパソコンのことに関する事を知りたいなら僕に訊いてね」

 

このクラスにその知識を得ようとしている者はいないだろう。っと、今度は僕の番だった。

気さくで明るい好青年ということをアピールしないと。

一瞬考えて、軽いジョークを織り交ぜて自己紹介をする事に決定。軽く息を吸い、立ち上がる。

 

「―――コホン。えーっと、吉井明久です。気軽に『ダーリン』って呼んでくださいね♪」

 

よし、これで僕と言う人間を紹介でき―――。

 

 

『ダァァ――――――リィ――――――ンッッッ!』

 

 

野太い声の大合唱。これは思った以上に不愉快だ!

 

「―――失礼。忘れてください。とにかくよろしくお願いします」

 

作り笑いで誤魔化しながら席に着くものの、

 

「よう、ダーリン。これからよろしくな」

 

「よろしくね、ダーリン♪」

 

「よろしくな、ダーリン!」

 

「よろしく、ダーリン」

 

「ダーリン、よろしくね♪」

 

「墓穴を掘ったな。なあ、どんな感じだ?どんな感じの気分なんだダーリン?」

 

「あふんっ!」

 

予期せぬ場所から再び不愉快な発言がぁっ!もう穴があったら入りたい!

だから、そんな温かい目で僕を見ないで!お願いだからぁ!

そんな僕の気持とは無関係に自己紹介は続く。その後もしばらく名前を告げるだけの

単調な作業が続き、いい加減眠くなった頃に不意にガラリと教室のドアが開き、

息を切らせて胸に手を当てている女子生徒が現れた。

 

「あの、遅れて、すいま、せん・・・・・」

 

彼女の存在に誰からと言うわけでもなく、教室全体から驚いたような声が上がる。何故なら彼女はこのクラスにいるような人じゃないからだ。

 

「では、姫路さん自己紹介をお願いします」

 

「は、はい!あの、姫路瑞希といいます。よろしくお願いします・・・・・」

 

小柄な体をさらに縮めこめるようにして声を上げる姫路さん。肌は新雪のように白く、背中まで届く柔らかそうな髪は、優しげな彼女の性格を露わしているようだ。保護欲を掻きたてるような可憐な容姿は、九割男のFクラスで異彩を放っている。

 

「松永燕です。本当は皆さんより上級生なんだけれど、ハーデス君のフォローをするべく一年生として編入しました」

 

次に今日転入してきた二人が。松永さんの後にハーデスがどこからともなく取り出したスケッチブックを開いた。

何かを書いて・・・・・僕達に見せびらかした。

 

『・・・・・名前は死神・ハーデス。蒼天からやってきた』

 

「皆さん、彼はとある事情で意思疎通が少し困難しております。できる限り優しく接してやってください」

 

いや、先生。口からプシューって煙を出す生徒と仲良くなるなんて・・・・・。

 

『我らの神が降臨成された!我らが神よ!我らが父よ!この魂は貴方に捧げます!』

 

って、何時の間にか黒い覆面にマントを着用し、鎌を持っている

クラスメートたちが喜んでいるぅぅぅぅっ!?仕舞いには拝めているよ!

いきなり初日でクラスの殆どの心をあの姿で掴んだというのか!?

 

「類は友を呼ぶっていうけど・・・・・こんな感じなんだろうな」

 

「ははは・・・・・直ぐにこのクラスに馴染みそうだね」

 

何とも言えない面持ちの大和と苦笑のモロ。あの二人はそれぞれ席に座った。

自己紹介中に入ってきた姫路さんは僕と雄二の間。ううう、妙に心が落ち着かないなー。

 

 

               ―――☆☆☆―――

 

 

あー、初めましてだな。俺は直江大和。今現在、教卓が壊れたことで先生は別の教卓を

持ってこようと教室から出た。教師がいない教室はただの部屋と化と成り、

Fクラスのメンバー達は自習と言うことで各々とのんびりし始めた。

そんな時、咳をする姫島を見た明久の奴は坂本を廊下に引き連れて行った。

何やら企みを考えていそうだな。・・・・・にしても、あのハーデスとか言う奴。

不気味さを抱かせてくれるが・・・・・なんだ、この感覚。懐かしい・・・・・?

 

「よっ、ハーデス。さっき自己紹介してなかったけど俺は風間翔一って言うんだ。よろしくな!」

 

『・・・・・よろしく』

 

バッと挨拶の言葉を書いたハーデス。早いな・・・・・。

キャップもキャップだが、よくあいつとあっさり話しかけられるな。

 

「なあなあ。蒼天と旅人さんの話を聞かせてくれよ」

 

「あっ、アタシも知りたいわ!」

 

ワン子まで好奇心に問いかける。蒼天の事はある程度でしか知られていない。

他の国との交流を拒んでいて、日本も含めて蒼天以外の世界各国は蒼天のことに関してはあまり知らされていない

未開の地に等しい。

 

分かっていることは、大昔に勃発した第一次世界大戦の真っ只中に巨大な怪物を従え信じられないことにたった一日で停戦させた天使のような姿をした男。後に蒼天というどこの国より小さな国を築き建国した最中で再び勃発した第二次世界大戦でも、巨大な怪物で各国の戦力(蒼天VS世界連合軍)をほぼ殲滅させた上にたった一国で、交戦勢力の国を滅ぼしたとか。故に―――。

 

蒼天に戦争を仕掛けるな!蒼天に逆らうな!再び国を世界を滅ぼされる!いやマジで!

本当に本当にやめろよな後世の者達!

 

という世界が蒼天に対して感じた強い警告の言葉を遺すほど恐怖と絶望を植え付けられたようだ。

 

第二次世界大戦の終戦後、もしもどこかの国同士が核兵器の開発及び戦争を、蒼天に攻撃の意を起こすようなら国家連盟もとい連帯責任として世界を滅ぼす、という恐怖と絶望の条約を締結された。軍事力、兵器、兵法が通じない巨大な怪物が存在している限り、どの国も蒼天に力で捻じ伏せられ頭を下げる以外生き残れる方法がない。そんなわけだから第一次世界大戦から信じられないことに生きている蒼天の王がその国に入国すると、過剰なまでの厳戒態勢がされて、大統領や皇帝、国王が座る専用の椅子に座らせることで蒼天に逆らわない意を表している。

 

「質問!蒼天に住んでいる人はどんな人達なの?」

 

ハーデスはすらすらとスケッチブックに文字を書いて俺たち見せてくる。

 

『・・・・・色んな国の人たちがいる』

 

「じゃあ、日本人もいるのかしら?」

 

『・・・・・見掛ける』

 

「んじゃ、あの巨大な建物は?」

 

『・・・・・それは』

 

ハーデスから俺たちが知らないことを淡々と教えてくれる。こいつの話は退屈しのぎで丁度良い。

ワン子たちが質問攻めをしていれば、坂本と明久が教室に戻ってきて、先生も戻ってきた。

それから自己紹介の時間が再び始まる。

 

「坂本君、キミが自己紹介最後の一人ですよ」

 

「了解」

 

先生に呼ばれて坂本が腰を上げて立つ。ゆっくりと教壇に歩み寄る。

何故教壇に?ここに入ってくる時もあそこで立っていたな。

 

「坂本君はFクラス代表でしたよね?」

 

福原先生に問われ、鷹揚に頷く坂本。ああ、あいつが代表か。

別にクラス代表といっても、学年で最低の成績を修めた生徒達が集められるFクラスの話。

何の自慢にもならないどころか恥になりかねない。

それにも問わず、坂本は自信に満ちた表情で教壇に上がり、俺達の方に向き直った。

 

「Fクラス代表の坂本雄二だ。俺のことは代表でも坂本でも、好きなように呼んでくれ」

 

 

「赤ゴリラ」

 

「バカ代表」

 

「赤味噌」

 

「赤ちゃん」

 

「赤っ恥」

 

 

「よし、今言ったやつ前に出てこい。こっから外へ突き落すからな」

 

好きなように呼べっていた本人がこれだ。Fクラスというバカの集まりの中で比較的成績が

良かったというだけの生徒。他から見れば五十歩百歩といった存在。

 

「大和も本気出せばAくらいいけそうなのにねぇー」

 

「そう言う京だってBぐらいは余裕だろ?」

 

「Fはのんびりとできそうだから却下」

 

ま、俺と京はともかく他の皆と一緒にいたいという気持ちもあってか

いつものメンバーと学校生活を送ることができたわけだからよしとしよう。

 

『・・・・・』

 

視線を感じる。眼だけ動かしてみればハーデスがこっちを見ていた。

俺達の話を聞いていたのか?でも、こいつには関係のないことだろう。

 

「さて、皆に一つ訊きたい」

 

坂本が、ゆっくりと、全員の目を見るように告げる。間の取り方が上手いせいか、

全員の視線は直ぐに坂本に向けられるようになった。

皆の様子を確認した後、坂本の視線は教室内の各所に移りだす。

 

 

―――カビ臭い教室。

 

 

―――古く汚れた座布団。

 

 

―――薄汚れた卓袱台。

 

 

つられて俺らも坂本の視線を追い、それらの備品を順番に眺めていった。

 

「Aクラスは冷暖房完備の上、座席はリクライニングシートらしいが―――」

 

一呼吸おいて。静かに告げる。

 

 

 

「―――不満はないか?」

 

『大ありじゃっ!』

 

二年F組生徒の魂の叫びだったとここに追記しておく。

 

 

 

 

「だろう?俺だってこの現状には大いに不満だ。代表として問題意識を抱いている」

 

いや、お前にそんな意識があるとはとても思えないと思ったのは俺だけかもしれないな。

 

『そうだそうだ!』

 

『いくら学費が安いからといって、この設備はあんまりだ!改善を要求する!』

 

『そもそもAクラスだって同じ学費だろ?あまりに差が大き過ぎる!』

 

堰を切ったかのように次々と上がる不満の声。

 

「皆の意見はもっともだ。そこで」

 

思った通りの反応に満足したのか、自身に溢れた顔に不敵な笑みを浮かべて、

 

「これは代表としての提案だが―――」

 

これから戦友となる仲間達に野性味満点の八重歯を見せ、

 

「―――とりあえず、FクラスはAクラスに『試験召喚戦争』を仕掛けようと思う」

 

Fクラス代表、坂本雄二は戦争の引き金を引いた。

 

 

 

「おい、坂本」

 

あれからAクラスと戦える根拠の要素を述べた坂本だった。

宣戦布告をしに使者

死者

として明久を騙して行かせようと魂胆が分かっていたから、

ガクトと一緒にEクラスに向かってもらった。

 

「なんだ?」

 

「確かにC、D、E程度のクラスならAクラス候補だった

姫路を主力にして戦えば勝てると思うが、BクラスとはともかくAは無理があるんじゃないか?」

 

「ああ、集団戦で戦えばまず勝つことは不可能だな。だが、なにも戦い方はそれだけじゃない」

 

「・・・・・なるほど、お前の考えはそう言うことか」

 

「頭の回転が早い奴は嫌いじゃねぇぞ」

 

「だが、それでもキツい。どうするんだ?」

 

「心配すんな。俺がお前らに勝たせてやるよ。最後は俺が勝利の栄光を掴んでな」

 

・・・・・不安だな。こいつの幼少の頃の時は知っているが、それはもう過去の話しだ。

 

「負けたら承知しねぇぞ。やるからには下剋上だ」

 

「当然だ。しっかりお前も働いてもらうぞ、軍師大和」

 

「了解だ。それはそうとお前『とりあえずAクラスに』ってのはどういうことだ?」

 

「なんだ、覚えていたのか?」

 

「お前の発言に気になることがあるんだよ。

まさかとは思うが、Sクラスにまで戦争しようなんて考えちゃいねぇよな?」

 

あそこは身体能力、成績も優秀でまさしく文武両道のクラスと言えよう。

そんなクラスにも俺達の幼馴染がいるわけだが・・・・・。

 

「そうだな。いずれSクラスにも戦争をしようと思っている。

だからこそ取り敢えずだ。今の俺達に足りない者が多すぎる。何だか分かるか?」

 

「点数と戦争の場数・・・・・経験だろう」

 

「点数はしょうがない。が、お前の言う通り戦争をするためにはまず経験が重要だ」

 

これからする事に経験が必要。そして自信を付けさせるためだな。

 

「さてハーデスと松永」

 

坂本がハーデスに声を掛けた。

 

「お前達の学力はどのぐらいだ?」

 

『・・・・・点数が無い。補充しない限り戦えない』

 

「じゃあ、さっさと補充しておけよ。『試験召喚システム』を開発した蒼天の出身者さんよ」

 

『・・・・・了解。それと』

 

「なんだ?」

 

『・・・・・好きにさせてもらう。勝てば何だっていいらしいしな』

 

不敵な物言いを告げるハーデス。

 

 

 

キーンコーンカーンコーン。

 

その直後、鐘が鳴り始め―――試験召喚戦争の始まりの意味でもあった。

 

「開戦だ!総員、戦闘開始ッ!」

 

坂本雄二の指示にFクラスは動きだす。

 

 

燕side 

 

「さてさて、初日で『試験召喚戦争』をするなんて思い切った行動をするねハーデス君?」

 

『そうだな』

 

二階に降りて自習している一年生の教室の前を素通りにして廊下を歩く。

 

「ところでハーデス君。ここから二階あっちの階段に上がってEクラスの背後を襲うの?」

 

『いや、サボタージュをするためだ』

 

「あらま、学校初日でサボっちゃうのですか?じゃなくてしちゃうの?」

 

サクッと倒して終わらすかと思ったのに意外だね。王様だからサボることはしないと思ったのに。

 

『意外か。理由は俺達が参加しなくてもこの勝負は勝つからだ』

 

「私達の出る幕はない、そういうことだね?」

 

『そしてこの渡り廊下からくる可能性もあるからな』

 

正当な理由を建前にしてサボる、なるほどね考えますね王様。

 

「堂々と胸張ってサボれますね。出る幕があるとすれば、Aクラスかな?」

 

『一騎打ちの勝負をするならな』

 

壁に背中を預けてここの廊下で三階の戦いが終わるまで待つ姿勢の王様だったけれど、新校舎側の階段からお客さんがやってきた。

 

「フハハハハッ!九鬼英雄降臨である!」

 

「『・・・・・』」

 

この高らかに笑いながら名乗る人を忘れることが難しい相手が、何人も引き連れて接近してきた。明らかに違う生徒の人達だ、試験召喚戦争で授業が潰れ暇になって教室から出てきたのかな。

 

「蒼天の死神ハーデスと松永燕だな?我が名はSクラス代表の九鬼英雄である」

 

「九鬼君ね。私達が蒼天の人だって言うことは、王様絡みの話かな?」

 

「うむ、我の目的を看破するとは流石であるな」

 

「王様とは仲がいいからね。笑いながら名前を自己主張する子供の財閥で執事をしていた話をきいたよん」

 

「おお、そうか!うむまさしくそれは我のことである」

 

嬉しそうに頷く当たり親しい関係だったんだねぇ。王様は誰とでも仲良くなれちゃう不思議な魅力を持ってるから、わかるけどね。

 

「となると九鬼君の後ろにいる人達も」

 

「その通りである。旅人と縁がある者達ばかりだ。故に全校集会で旅人と再会できたのは驚いたものだ。そして蒼天の王だということもな」

 

「まー何かと有名すぎるからねうちの王様は」

 

そんな王様はここにいるんだけど、誰も気づかないよね?気付いた人はある意味王様より凄いよ。

 

「ねーねー、旅人のお兄ちゃんは蒼天に行けば会えるー?」

 

白髪に赤い瞳の女の子が王様と会いたがって訊いてきた。本当にすぐ目の前にいるよ?王様。

 

「仕事をしていないときは街中で会えるよ」

 

「旅人さんは元気のようですね」

 

「王様が病気なったことは一度もないぐらい元気すぎるよ」

 

「あの人と連絡が取れますか?」

 

「うーんと、今日は仕事だったはずだからできないかな。というか国際電話じゃないとできないよ?」

 

「そのぐらいのものであるなら直ぐに用意できる。休みの日は何時なのだ?」

 

連絡する気だこの人達。王様、どうしよう?教えちゃってもいいの?

 

『・・・・・あの人にも都合がある。簡単には教えられない。教えるなとも言われている』

 

と書いたスケッチブックで伝えると少し残念そうに九鬼君は「そうか」と口から零した。

 

『・・・・・お前達のこと、伝えておく』

 

「うむ、頼むぞ死神ハーデスよ。休日の時には九鬼財閥に顔を出してほしいとそう言ってくれ」

 

九鬼君からの伝言の後、無言でハーデス君が黒マントから何通ものの封筒を取り出して九鬼君達に手渡した。それは王様が彼等宛てに書いた手紙で、それが何なのか分かると感謝の言葉を残して私達から離れた。

 

「・・・・・人気者だねぇ?」

 

『・・・・・そうだな。・・・・・上も終わったようだな』

 

勿論、Fクラスの皆の勝鬨の声でどっちが勝ったのか明白。王様の思惑通り、私達は何もせず勝負に勝った。

ただ、この後王様も予想外なことが起きてしまったのは私も知らなかった。

 

 

 

              ―――☆☆☆―――

 

 

 

「決着はついた?」

 

それはEクラスとの勝負に勝ってしばらくのんびりしていた時だった。僕達の教室に見知った顔の女子が現れた。それは見間違うことなく秀吉だった。

 

「どうしたの秀吉。その女子の制服を着て」

 

不思議に思う僕だが、秀吉がどうして女子制服を着ているのかすぐに理解した。

 

「そうかやっと本当の自分に目覚めたんだね!」

 

「明久よ。ワシはこっちじゃぞ」

 

背後から聞こえる呆れた声。その声は僕が知っている美少女の声だった。

 

「え?え?秀吉が二人?」

 

「それはワシの姉上じゃ」

 

「秀吉はアタシの双子の弟よ」

 

と、目の前の秀吉とそっくりな美少女がまるでゴミを見ているような目で口を開いた。

 

「アタシは二年Aクラスから来た大使、木下優子。我々Aクラスはあなた達Fクラスに宣戦布告をします」

 

 

 

 

その頃ハーデスと燕は校内を歩き回っていた。

放課後というだけあって、生徒の数がまばらである。ハーデスと出くわした生徒は

悲鳴を上げ、恐怖で顔を引き攣らせる。学校中を歩き回ると、

ハーデスの目に『茶道部』と書かれたプレートの一室が留まった。

なにを思ったのか、ハーデスはその扉にノックをした。

 

『はい、開いておりますわ』

 

入室の許可が下りた。ハーデスはゆっくりと扉を開け放った。

 

「・・・・・」

 

茶道部に入ると、中にいた着物を身に包む女性がハーデスの姿を見て固まった。

まさか、死神みたいな恰好をした者が入ってくるとは誰が思うのだろうか?

スケッチブックに文字を書いて見せ付けた。

 

『この恰好で失礼、俺は二年Fクラスの死神・ハーデス』

 

「蒼天から来た転入生でしたね。声が発せられないのですか?」

 

着物を身に包む女性の問いにハーデスは首を横に振った。

辺りを見渡すとハーデスは煙を出す。

 

『いや、この学校に知り合いがいるからな。俺の声を聞いたら直ぐに正体がばれる』

 

「あら、それがあなたの声ですのね?それで、この部屋に何か御用?」

 

『校内を歩き回っていたらここの部屋に目が留まった。興味本位で入っただけだ。

部活中か?』

 

「まだ始まっておりませんわ。始まるまでご一緒にお茶をしませんか?」

 

『ご配慮感謝する』

 

燕が扉を閉め、女性の前に腰を下ろす。徐に仮面に触れて外しフードも取り払う。

女性の視界に飛び込んできた真紅の長髪にスリット状の金色の瞳の男の素顔。

 

「・・・・・蒼天の王様?え・・・っ!?」

 

「やっぱり驚くよねぇ。えーと名前は?」

 

「も、申し遅れました。私、三年Aクラスの小暮葵と申します。以後お見知りおきを」

 

「上級生か、よろしく先輩」

 

握手を求め手を差し伸べるハーデスに葵も手を差し伸べて握手を交わす。

 

「失礼ですが、蒼天の王様なのですか?」

 

「ああ、そうだ。ふふ驚いただろ。変装してこの学園の『試験召喚システム』の調査目的で通うことにしたんだ」

 

「何故変装を・・・・・?」

 

「朝の全校集会、バカ騒ぎした生徒がいただろ。まだ小学生だった頃のあいつらと数年間過ごしたことがあってな。それも含めて色々と公で調査することができないのさ」

 

納得の面持ちで葵は横にいる燕を見て「彼女は?」と問うた。

 

「燕は俺のフォローの為に蒼天から連れてきた優秀な子供だ。年齢的には小暮と同じだぞ」

 

「学年は後輩だけどよろしくね?」

 

葵はハーデスに茶を振る舞い、ハーデスはその茶を作法通りに一口飲む。

 

「ん、美味だ」

 

「蒼天の王様の御口に合ってなによりですわ」

 

「初対面の俺に茶を振る舞ってくれてありがとうな」

 

「ふふっ、死神が来たと驚いてしまいましたわ」

 

「正体を隠すにはもってこいだと思ってな。お礼と言っては何なんだが、これを」

 

マントの中に手を隠したかと思えば、何かが詰まっている袋を葵の前に置いた。

 

「これは・・・・・?」

 

「蒼天が栽培している緑茶だ。口に合うか分からないが美味いぞ」

 

「頂いてよろしいのですか?」

 

「ささやかなお近づきの印だ。たまにここに来させてもらうからな」

 

朗らかに言うハーデスだが、葵は目を丸くする。燕がお茶菓子を全て胃の中に収めると

骸骨の仮面を再び顔に装着し、フードも被れば死神の格好となる。

 

「今度は菓子を持ってくる。ああ、言わずともわかっていると思うが親でも誰にも秘密にしてくれ」

 

マントを靡かせて茶道部からいなくなった。

そんなハーデス達を見送って目の前に置かれた袋を手にして封を開けた。

 

「・・・・・」

 

とても好い香りがする緑茶・・・・・。葵は緑茶の香りを嗅いでると、

 

「先輩、遅れてすいません。・・・・・それ、なんですか?」

 

茶道部の後輩が姿を現した。葵はその問いに小さく笑んだ。

 

「死神からのプレゼントですわ」

 

 

              ―――☆☆☆―――

 

 

「大和、大和。Aクラスに勝てると良いね」

 

「ん・・・・・できればそうだと思いたいな」

 

俺達は昨日、Aクラスに宣戦布告され、早くもAクラスと試召戦争をすることになってしまった。このことを先に帰ってったハーデスと松永も知らせると軽くびっくりしてた。

 

「え?どうして?」

 

「人は小さいミスを必ずする。だから、坂本自身もミスる可能性がある」

 

仮にあいつが敗北した場合、どうしてくれようか・・・・・。

 

「しっかし、なんで俺達に宣戦布告済んだ?」

 

「Aクラスが勝っても何のメリットも無いよね?」

 

ガクトの疑問は明久だけでなく多分Fクラス全体だと思う。こっちが仕掛ける筈が逆に仕掛けられるとは予想外もいいところだ。このクラスにいる俺が言うのもあれだが、最底辺のクラスに戦う意味がAクラスにあるのか?

 

「そうでもないよ」

 

「京?」

 

「戦争で負けたクラスは三ヶ月間、試召戦争を仕掛けるのは禁止される」

 

となると、Aクラスはこれ以上授業を潰されたくないが為に

宣戦布告をしたってことだろうな。京の発言にそう予想していると。

 

「おーい、大和達。Aクラスに行くからお前も来い」

 

教室で作戦会議を開いていた坂本に呼ばれ、俺は腰を上げて坂本達と一緒について行った。

 

             ―――☆☆☆―――

 

「一騎討ち?」

 

「ああ。Fクラスは試召戦争として、Aクラス代表に一騎討ちを申し込む」

 

恒例の宣戦布告。今回は代表である雄二を筆頭に、僕、姫路さん、

秀吉にムッツリーニ、大和、ハーデス、松永さんと首脳陣勢揃いでAクラスに来ていた。

ハーデス、キミはどうして背中に大鎌を背負っているのか聞かないよ。

 

「何が狙いなの?」

 

現在雄二と交渉のテーブルについているのは秀吉―――の双子の姉の木下優子さん。

秀吉を女の子にしたそのままの姿で、とても可愛い。

でも、この子を認めると秀吉にも気があるということに・・・・・!

 

「もちろん俺達Fクラスの勝利が狙いだ」

 

木下さんが訝しむのも無理はない。下位クラスに位置する僕らが、

一騎討ちでAクラス代表の霧島さんに挑むこと自体が不自然なのだから。

当然何か裏があると考えるだろう。

 

「面倒な試召戦争を手軽に終わらせることができるのはありがたいけどね、

だからと言ってわざわざリスク犯す必要もないわね」

 

「賢明だな」

 

予想通りの返事。ここからが交渉の本番だ。

 

カキカキカキカキ・・・・・。

 

交渉のテーブルの椅子、雄二の隣に腰を下ろして座っているハーデスが何かを描いている。

ハーデスの存在を見せびらかし、交渉を有利にさせるためなのだろうか?

 

「・・・・・ところで、あなたの隣にいる死神・・・・・何しているの?」

 

「そうだな・・・・・おい、ハーデス。さっきから何を熱心に書いているんだ?」

 

交渉の話しは一時中断。ハーデスが何を書いているのか

雄二も気になっていたようでハーデスに問うた。

 

『・・・・・』

 

ハーデスは数枚の紙を纏めて雄二に手渡した。その紙を受け取り、雄二は見た途端に噴いた。

 

「お、お前!何書いているんだよ!?」

 

『・・・・・〆切りが迫っているから』

 

「〆切りってお前・・・・・こんなものを書いていたのかよ」

 

・・・・・何か絵本でも書いていたのかな?雄二が持っている紙は木下さんにも渡った。

 

「・・・・・っ!?」

 

すると、木下さんの目が大きく見開き、顔が真っ赤になって身体も震わせた。

ハーデスは木下さんから紙を奪うように取り、再び書き始めた。

何を書いているんだろうか・・・・・。

 

「ハーデス、ここで書いているのが邪魔になっているみたいだから他のテーブルで書いた方が良いよ?」

 

『・・・・・わかった』

 

僕の言葉にコクリと頷いた。ハーデスは立ち上がって紙と鉛筆、

消しゴムを持って別の場所へ―――ってどうして木下さんは僕を睨むの!?

僕、なにも悪いことをしていないよね!?

 

「なんだ、ハーデスに気でもあるのか?」

 

「じょ、冗談じゃないわよ!誰があんな怪しい奴なんかと!」

 

「冗談だ。さて、一騎討ちをYESかNO・・・・・どっちだ?終戦直後で弱った弱小クラスに攻め込む卑怯者のAクラスさんよ」

 

雄二の挑発、尋ねに木下さんは目を細めた。

 

「・・・・・今、ここでやる?」

 

売り言葉買い言葉。木下さんが雄二にそう言ったその時だった。

 

「・・・・・待って」

 

「わっ!」

 

「・・・・・雄二の提案を受けてもいい」

 

突然現れた静かな、でも凛とした声。何時の間にか二人の女子生徒が近くに来ていた。

黒い長髪に黒い瞳、物静かな彼女は霧島翔子さん。Aクラス代表だ。

それとそんな霧島さんの後ろにいる霧島さんと同じ顔の女子生徒。一体誰だろう?

でも、2人共全く気配を感じさせないなんて。まるで武道の達人みたいだ。

 

「あれ?代表。いいの?」

 

「・・・・・その代わり、条件がある」

 

「条件?」

 

頷いて、霧島さんは何故かハーデスを一瞥し、雄二に向けて言い放った。

 

「・・・・・負けた方は何でも一つ言う事を聞く」

 

「うーん、そういうことならこうしましょう。勝負内容は五つの内

三つそっちに決めさせてあげる。二つはうちで決めさせてもらうわ」

 

全ては譲ってくれなかったけど、木下さんの妥協案が得られた。

 

「交渉成立だな」

 

「・・・・・勝負はいつ?」

 

「そうだな。ま、今すぐじゃなくてもいいよな?勝負の日時はFクラスの都合がいい時でも構わないか?優秀なAクラスはそのぐらいの度量があると見込んで提案させてもらう」

 

「・・・・・わかった」

 

独特の雰囲気を持つ人だな。話し方だけならムッツリーニに似ているし。

 

「よし。交渉は成立だ。お前等、教室に戻るぞ」

 

「そうだね、皆にも報告しなくちゃいけないからね」

 

「おい、ハーデス。交渉を終えたから帰るぞー」

 

ハーデスにも声を掛ける。最後まで何か書いていたけど、何だったのかあとで聞こう。

僕らの試召戦争の終結は、すぐそこまで迫っていた。

 

 

              ―――☆☆☆―――

 

 

「んで、どーすんのさ雄二。あんな約束をして」

 

昼休み、僕達は屋上で作戦会議をしながら茶菓子を飲食。

 

「俺達が勝つから関係ない。向こうが言いなりになる特典が付いたまでだ」

 

「しかし良いのか?あの霧島翔子というものは妙な噂があるのじゃが」

 

「妙な噂?」

 

「成績優秀、才色兼備。あれだけの美人なのに周りは男子がおらん話じゃ」

 

秀吉が知っている噂の話を聞いて俺は不思議に心の中で首を傾げた。

 

「へぇ、モテそうなのにね」

 

「何でも男子には興味が無いらしいのじゃ」

 

「まさか、女子に興味があると?」

 

「・・・・・っ!」

 

ムッツリーニがフィルムの交換をし出して、何かの撮影の準備をし出す。

 

「待つんだムッツリーニ。―――僕も手伝うよ」

 

「・・・・・明久ぁ・・・・・」

 

あれ、大和が頭を抱えているのは何故なんだろう?

 

「坂本。教科を三つ、こっちが選択できるわけだが何にするつもりだ?」

 

「まず一つは当然保健体育。これはムッツリーニに選んでもらう予定だ。

ムッツリーニの最強の武器にして唯一無二の強みだからな」

 

「・・・・・任せろ」

 

寡黙なる性識者(ムッツリーニ)の名は伊達ではないのだっ!

 

「それでもう一つは?」

 

「もう一つどころか二つは、蒼天から来たハーデスと松永に選んでもらう。日夜『試験召喚戦争』を繰り広げてるだろう本場からやって来てくれたんだからな」

 

『・・・・・日夜ではないが』

 

「任せてね。ちゃーんと勝ってみせるよ」

 

成績は不明だけど期待値は大きい。『試験召喚システム』を開発して蒼天にある学校でも運用している話だ。単純な操作だったら教師でも負けないかもしれない。

 

「それで、最後は?」

 

「最後は姫路に戦って勝ってもらおうかな」

 

「は、はい。任せてください」

 

握った両拳を胸の前に。気合が入っている証拠だね。

 

「坂本君坂本君」

 

「何だ松永?」

 

にっこりと可愛らしく笑う彼女はハーデスが見せつけるスケッチブックに指した。

 

『・・・・・お前も負けたら許さない。負けたら―――』

 

「負けたら?」

 

ぺらりと一ページ捲った紙の裏で書かれた文字を見た途端。

 

『・・・・・大量のプチプチと大量の腐ったザリガニを代表の家に郵送する』

 

「絶対に勝つから信じろ!だからそれだけは勘弁してくれっ!家庭が崩壊してしまう!」

 

あの雄二が土下座しそうな勢いで必死に叫んだ。君の家庭はどんな問題を抱えているというんだろうか。



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ゲームの前にリアルで前哨戦!その2

大和side

 

「では、両名共準備は良いですか?」

 

 

Aクラス担任かつ学年主任の高橋先生が立会人を務める。

今日も知的な眼鏡とタイトスカートから伸びる脚にガクトが欲情した眼つきに見られている。

 

「ああ」

 

「・・・・・問題ない」

 

一騎討ちの会場はAクラス。ここは広いし最終決戦の場所としては良い感じだ。

 

「それでは一人目の方、どうぞ」

 

「アタシから行くわ」

 

向こうは木下―――秀吉の姉、木下優子。対するこちらは、

 

『・・・・・俺が行こう』

 

序盤からハーデスか。早速その実力を見せてもらおうか。

 

「この学校にそんなふざけた恰好で登校するなんて、よく学園は許してくれるわよね」

 

『・・・・・』

 

「そっちから科目を選択してもいいわよ。

どんな科目だろうがアタシの勝利に揺るぎないもの」

 

『・・・・・分かったわ』

 

ハーデスはスケッチブックに何かを書き始め、高橋先生に突き付ける。

高橋先生は頷き、召喚獣を召喚する専用のフィールドを展開した。―――保健体育か。

同じ教科を選んではいけないなんてルールは決められていないし、

土屋が保健体育を選んでもだ―――。

 

「試験召喚獣召喚―――試獣召喚(サモン)ッ!」

 

『・・・・・試獣召喚(サモン)

 

ハーデスが初めて声を出した。とても低くい声音だったけど喚び声に呼応してハーデスの足元に

幾何学的な魔方陣が現れる。教師の立ち会いの下にシステムが起動した証だ。

そして、姿を見せる召喚獣。現れたソイツは、ハーデスと同じ骸骨の仮面に全身を覆う

黒いマントを着ていた。武器は・・・・・ない!?武器がない点以外はハーデスにそっくりだ。

身長は80センチ程度だ。その姿を一言で表現するなら、

『デフォルトされたハーデス』てっところだ。あっちは巨大なランスの重戦士か。

 

 

              保健体育

 

Aクラス 木下優子 259点 VS ???点 死神・ハーデス Fクラス 

 

 

 

「蒼天から来たとしてもあなたの点数を見なくてもアタシが勝つわ!」

 

召喚獣を召喚した木下がハーデスを肉薄する!対してハーデスは。

 

『・・・・・相手を外見で判断するお前の敗北だ。』

 

 

―――ザンッ!!!!!

 

 

召喚したハーデスの召喚獣が黒い光を残して木下の召喚獣の背後に移動した刹那。

木下の召喚獣の首が身体から離れてハーデスの召喚獣の手に握られていた。もう片方の手には刃が備わっているトンファーだ。

 

『・・・・・どれだけ高い点数だろうと・・・・・』

 

 

              保健体育

 

Aクラス 木下優子 259点 VS 1000点 死神・ハーデス Fクラス 

 

 

 

 

『・・・・・お前の命を狩る死神に負けはない』

 

せ、1000点・・・・・っておい!?そんな点数を取れるのかよあいつは!

 

「せ、1000・・・・・っ!?先生、あの点数は本当なのですか!?カンニング、不正でもしない限りこれは!」

 

「回復試験の立ち合いの元、西村先生が対応してくれました。彼の点数は紛れもなく自身の力でテストの問題を解き一切の不正はしなかったそうです」

 

あの人の前でカンニングもできない。鋭い監視の眼差しを受ける中であれだけの点数を・・・・・。あっさりと驚異の点数で木下優子を倒したハーデスは驚きのあまり愕然と静寂な雰囲気に包まれた俺達のところに戻ってきた。

 

「お前・・・・・そんだけ点数を取れるならどうして言わないんだよ」

 

『・・・・・言う必要があるのか』

 

「いや別に・・・・・でもお前、保健体育で1000点って凄いな。意外とムッツリーニだとは」

 

『・・・・・あ?』

 

そんな事を言ったら、俺はハーデスに大鎌を振り回されながら追いかけられた。それはもう耳の傍で風を切る音が聞こえて本能的に危機感を覚え、松永さんがハーデスを止めるまで続いた!

 

「自業自得だよん直江君?」

 

「すみませんでした!」

 

マジで俺は魂を狩られるかと思った・・・・・!マジで怖かった・・・・・!絶対ハーデスを怒らしてはならないと心から誓っていたところで。

 

「・・・・・」

 

土屋がハーデスを睨んだ。

 

『・・・・・なんだ?』

 

「・・・・・俺のライバル」

 

ああ、お株を取られたことでライバル心が燃えたのか。

あいつらしいな。と、二人を見ていると二回戦は松永さんが打って出て―――。

 

「ハーデス君ほどじゃないけど、私もそれなりに強いんだよねー」

 

 

               物理

 

Aクラス 佐藤美穂 389点 VS 521点 松永燕 Fクラス

 

 

蒼天は、化け物か?軽々とAクラスの平均点を凌駕する点数を叩き出すなんて・・・・・!

 

『うおおおおおおお!圧倒的過ぎる!』

 

『あと1勝で俺達の勝ちだっ!』

 

勝利を目前に教室を揺るがしかねない声量で盛り上がるFクラス。Aクラスからは動揺の色が隠しきれず、焦りが顔に出ていた。

 

「では、三人目の方どうぞ」

 

「こちらからはムッツリーニだ」

 

「・・・・・(スクッ)」

 

当然のように土屋か。この勝負も勝てるな。なぜなら土屋は総合科目の点数のうち、

実に80%を保健体育で獲得する猛者だと聞いた。その単発勝負ならAクラスだって負けはしないAクラスから出たのは黒髪に黒目の大和撫子風な女子・・・・・って

 

「姉さん・・・・・私が出る」

 

「・・・・・お願い」

 

Aクラスの代表と瓜二つの女子同士の会話で察し、この勝負は勝利の確信から敗北濃厚になった。何故なら科目を選択できる権利をまだ2つ残しているからだ。

 

「教科は何にしますか?」

 

高橋先生がムッツリーニに尋ねる。

 

「・・・・・・保健体育」

 

やはり。土屋の唯一にして最強の武器が選択したか。

 

「試験召喚獣召喚―――試獣召喚(サモン)・・・・・・」

 

「・・・・・試獣召喚(サモン)

 

二人に似た召喚獣が、それぞれ武器を手に持って出現する。土屋は忍者の服装で小太刀の二刀流。一方Aクラスの相手の彼女は武者鎧に日本刀の出で立ち。しかもどの教科も400点越えでなければ装着できない特殊な

攻撃を発動する事ができる腕輪を装着している。

 

「・・・・・」

 

土屋の次の動きを対応しようと日本刀を構える相手に対して土屋は、自分の召喚獣の腕に身につけてる腕輪を輝かせた。

 

「・・・・・加速」

 

土屋の腕輪が輝き、あいつの召喚獣の姿がブレた。そして次の瞬間。

 

「ふっ・・・・・!」

 

「・・・・・ッ!?」

 

戸惑う―――土屋の顔。俺もハッキリとは分からない。何時の間にか土屋の召喚獣は木下優子のように身体が首を切り離されてやられていたからだ。

 

「これ以上は負けられない・・・・・」

 

ボソリと、彼女が呟く。一呼吸置いて、土屋の召喚獣の首から血を噴き出して倒れた。

 

 

              保健体育

 

Aクラス 霧島翔花 588点 VS 576点 土屋康太 Fクラス

 

 

 

 

―――ムッツリーニを越えた、だと!?

 

「・・・・・こ、この、俺が・・・・・!」

 

あいつが床に膝をつく。相当ショックみたいだ。

 

「・・・・・これで、二対一ですね。次の方は?」

 

高橋先生は淡々と作業を進める。声も少なからず震えていた。

まだあと一勝で俺達の勝ちという状況に信じられないのだろう。この順で行くと―――。

 

「あ、は、はいっ。私ですっ」

 

『いよっしゃぁぁぁああああああああああっ!』

 

最後はやはり姫路だ。唯一Fクラスにいながら、Aクラスとまともに戦える人材の一人だ。

彼女が勝利を収めれば、俺達Fクラスの勝ちだ。さて、相手は誰だ・・・・・?

 

「・・・・・」

 

Aクラスから歩み出たのは―――霧島翔子だと!?

 

「なっ、翔子だと!?おい、俺と勝負するんじゃなかったのか!」

 

「・・・・・ハッキリ言って、久保だと負けてしまうかもしれない。だから、ここで食い止める。

 Aクラスのためにも」

 

なるほどな。流石にAクラス代表も表は冷静そうな顔だが、

内心は焦心に駆られているようだ。

誰がどの順番に出ていいのか自由だし、こう言う戦い方もある。

 

「ちっ・・・・・!姫路、翔子が出るなら俺が―――!」

 

「いえ、私にやらせてください」

 

「朝の作戦にも言ったはずだぞ!翔子に勝てるのは俺しかいないんだ!」

 

「・・・・・雄二が出るなら、私は久保に変わってもらう」

 

「んだと・・・・・っ!?」

 

・・・・こりゃ、詰んだな。霧島の奴、完全にクラスの勝利を狙っている。代表が負けたら勝敗の数は関係なくこっちの負けになってしまうんだからな。それはこれから姫路と戦うAクラスの代表も同じだ。

 

「では、Fクラス姫路瑞希さんとAクラス霧島翔子さんの一騎討ち勝負を始めます」

 

高橋先生も頃合いを見て試合を進めた。

 

「科目は何にしますか?」

 

「・・・・総合科目」

 

「分かりました。それでは・・・・・」

 

高橋先生が前と同じように操作を行う。

それぞれの召喚獣が喚び出されて―――激闘が繰り広げた。

 

 

               総合科目

 

Aクラス 霧島翔子 4419点 VS 4409点 姫路瑞希 Fクラス

 

 

 

・・・・・10点差か・・・・・厳しい状況だな。

Aクラス代表は伊達じゃない・・・・・っ!

 

「・・・・・勝負」

 

「負けません!点数だけが勝ち負けじゃないんです。

揺るがない想いも籠めて私は勝ちます!」

 

「・・・・・それは私も同じ・・・・・」

 

二人の召喚獣の武器は大剣と刀。激しく刀剣を振るい、激しい攻防を俺達に見せてくれる。

両クラスから二人の声援でいっぱいだ。Aクラスの室内中に声で轟く。

 

「はぁああああああっ!

 

「・・・・・っ」

 

熱い情熱と静かな情熱は何時までも続くかと思った直後、

一方の召喚獣が隙を作ってしまい、もう一方の召喚獣はその隙を突いた。その結果―――。

 

 

            総合科目

 

Aクラス 霧島翔子 1点 VS 0点 姫路瑞希 Fクラス

 

 

 

 

Aクラス側の勝利。

 

「・・・・・ごめんなさい」

 

「いや、Aクラス代表にあそこまで追い込んだ。よく頑張った」

 

「だな、あの代表が1点まで追い込んだのは姫路が初めてだ。

胸を張って誇ってもいいぐらいだぞ」

 

ふと、ハーデスが音もなく現れた。スケッチブックに文字を書き、姫路に突き付ける。

 

『・・・・・あとは操作が慣れれば問題ない』

 

「ハーデス君・・・・・はい、次は負けません!」

 

「これで二対二です」

 

高橋先生の表情に安堵の色が浮かんでいる。

Aクラスが負けてしまうなんて思いもしないだろうしな。

首の皮一枚繋がった程度だが・・・・・。

 

「おい、坂本。次は誰を出すんだ?流石にお前を出す訳にはいかないぞ」

 

「・・・・・」

 

次の相手は学年次席だ。それを凌駕できる奴は今の俺達にはいない。

 

「Fクラス、誰が出ますか?」

 

あの先生も催促してくる。坂本・・・・・お前はどうするつもりだ?そんな思いで坂本を見ていると―――。

 

「フハハハハッ!九鬼英雄、降臨なり!」

 

「おじゃましまーす!」

 

『・・・・・はっ?』

 

この場に、戦争中にSクラスの奴らが乱入してきた。流石にこれは予想できないって!

 

「あなた達はSクラスの生徒達ですね?今はAクラスとFクラスの戦争中です。

干渉しないでください」

 

「問題ない。我らは余興を観に来ただけなのだからな。・・・・・ほう、二対二か?

あのAクラスがFクラスに敗北に追い詰められているなど前代未聞であるな」

 

「所詮はAですからね。Sクラス代表の英雄様のクラスには遠く及びません!

ましてや、Fクラスに追い詰められているクラスなら尚更高が知れているです!」

 

『・・・・・っ!』

 

Aクラス生徒達から怒気が孕んだ。SとAの両クラスの中は犬猿の仲、最悪と言ってもいいぐらいだ。

 

「で、死神の戦いは終わったか?終わっていなければ我らの前で戦って見せろ。

実を言うと我は死神の戦いぶりを見たくてやってきたのだらな」

 

「・・・・・死神・ハーデスの戦いは一回戦で終わりました」

 

「なに?そうなのか」

 

これで納得できる―――英雄じゃない。

 

「では、もう一度死神を戦わせろ。二度同じ者が戦ってはならないルールではないのであろう?」

 

『はぁっ!?』

 

この疑問と驚愕が混じった声はAクラスとFクラス全員の声だ。

 

「待ちなさい。Sクラスが勝手に試召戦争のルールを変えないでください。

これは事前に決まったことです」

 

「だが、そのルールは決められていないのだろう?」

 

「・・・・・それは・・・・・」

 

「ならば問題あるまい。さあ、我の前で戦って見せろ」

 

英雄の横暴な決め事に場が静まり返る。

 

「・・・・・しょうがないな。ハーデス、行けれるか?相手は次席だろうが」

 

『・・・・・問題ない』

 

正直・・・・・あいつに助けられたって感じだ。ハーデスが中央に立ち、

学年次席の久保利光と対峙する。

 

「正直・・・・・この勝負は既に意味のないものとなっている。キミはどう思うかね?」

 

『・・・・・』

 

久保の言うことにもっともだと、首を縦に振った。

 

『・・・・・勝負ではFクラスが勝ち。だけど、総合的な実力はAクラスが勝ちだ』

 

「そう言ってもらえると、ありがたいね。またFクラスと再戦をしたい。今度は真っ向勝負でね」

 

『・・・・・望むところだ。俺も楽しみにしている』

 

科目は数学。

 

 

               数学

 

Aクラス 久保利光 389点 VS 1点 死神・ハーデス Fクラス

 

 

 

ちょ、1点だと!?あからさますぎる極端じゃないか!?全てのやる気は保健体育に注ぎ込んだってことかよ!

 

「お前は正真正銘のムッツリーニか!」

 

『・・・・・待っていろ。後で命を狩る』

 

そう宣言と共に久保に飛び掛かった。鎧と袴に二振りの大鎌を装備した久保は腕輪を輝かせて風の刃を繰り出す。遠距離攻撃をされても紙一重でかわすハーデスは、距離を縮めて懐に飛び込んだところで振り下ろされる大鎌。トンファーで大鎌の軌道を反らし久保の首筋に死神の鎌もとい交差したトンファーブレードを挟み込んだ。

 

『・・・・・魂を狩る者(ソウルイーター)

 

最後に技名を発して両腕を振るって久保の首を切り落とした。

 

 

―――☆☆☆―――

 

明久side

 

九鬼君とSクラスはハーデスの戦いを見たらさっさと自分のクラスへ戻って行った。

 

「んじゃ、勝者は敗者に命令権を下す時間に入ろうか?こっちは三勝、そっちは二勝だが翔子、Aクラスは何を願う?」

 

「・・・・・」

 

霧島さんは一度顎に手をやって悩み、雄二に真っ直ぐ言う。

 

「・・・・・死神をAクラスに入れる」

 

「ダメだ。それだけは絶対に権利を使ってでも拒否るぞ」

 

「・・・・・ダメ?」

 

「ダメだ」

 

断わるの早いよ雄二。

 

「・・・・・じゃあ、死神をSクラス戦の時にだけ貸して?」

 

「お前、Sクラスに挑むのか?」

 

「・・・・・何時かしようと思っていた。それに、あそこまで言われて何も思わない私じゃない」

 

霧島さん・・・・・。

 

「・・・・・まあ、それだったら問題ないな。んじゃ、今度はこっちの願いを言うぜ。

―――Aクラス全員、Sクラスとの試召戦争の時に全力で俺達に力を貸せ」

 

「え?」

 

『ええええええっ!?』

 

え、Sクラスとの戦争って・・・・・本気で言っているの!?雄二!

 

「・・・・・雄二もSクラスに?」

 

「お前と同じ気持ちだったわけだ。最低ランクのFが最高ランクのSに勝ったら

これほど愉快な気分は味わえない。最高だろう?」

 

「・・・・・雄二らしい」

 

「褒め言葉として受け取らせてもらうぜ」

 

肩を竦め、気にしない態度をする雄二だった。本当に、Sクラスと試召戦争をするんだね。

 

「あのクラスに勝つためには俺達だけじゃダメだ。協力が必要だ。それで翔子、残りの権利はなんだ?」

 

「・・・・・」

 

霧島さんは自分と同じ顔の女子生徒に目を向ける。

 

「・・・・・翔花、あなたの願いはなに?」

 

「姉さん・・・・・いいの?」

 

ね、姉さん・・・・・?信じられない言葉を発した彼女に霧島さんは頷いた。

 

「雄二、まさか・・・・・」

 

「ああ、あの二人は姉妹だぞ。霧島翔花、翔子の実の妹だ」

 

「まあ、そうじゃろうの」

 

「・・・・・纏う雰囲気も同じ」

 

秀吉とムッツリーニは分かっていたみたいだ。

 

「じゃあ・・・・・雄二。私と付き合って」

 

「・・・・・え?」

 

「お前、まだ諦めていなかったのか」

 

「諦めない・・・・・ずっと私は雄二が好き」

 

ど、どういうこと・・・・・?

 

「拒否権は?」

 

「ない・・・・今からデートに行く」

 

「え、あ、や、待て―――っ!」

 

問答無用とばかり霧島さんの妹は素早い動きでスタンガンを雄二に押し付け、

意識を狩ると雄二をどこかへと連れて行った。

 

「あー、代表がいなくなったから代理として俺が話を進める。ハーデスと松永さん。Aクラスに何を求める?」

 

Aクラスの設備とFクラスの設備の交換は約束されたのも当然だ。今回はこの二人、特にハーデスが二度も白星を勝ち取ったんだから多少の我儘は雄二も許すだろう。

 

「うーん、どうしようかハーデス君?」

 

『・・・・・Aクラスに求めるものは個人的に何もない』

 

「私もそうだよねー。でも、クラス全体の事を考えると」

 

考え込む二人に処刑待ちのAクラスは息を呑む。どんな要求をされても従わなきゃいけない決まりだからね。勿論人権侵害と非人道的な命令以外でだ。

 

『・・・・・直江大和、お前なら何を望む』

 

話を振られて面を食らうが、相談をされるなら応えるまでだ。

 

「坂本の考えではSクラスとも戦う気でいるのは知ってるだろ?」

 

『・・・・・代表がそれを望んでいるなら、AクラスはこれからSクラスとの戦争が終わるまでFクラスにする。これならFクラスの生徒をAクラスの生徒と一定の期間の間、入れ替えでもすれば成績も少なからず伸びるかもしれない。設備を交換したところでAクラス以外のクラスが戦争を吹っ掛けてくるのが目に見えてるからな』

 

「あー、Fクラスの成績でAクラスにいたら他のクラスにとって格好の相手だからね。Aクラスの設備を奪った私達は奪いやすい相手になっちゃうから。となると、Fクラスの教室の設備の改善+ランクアップと指定するAクラスの設備をいくつか貰う程度が妥当かな」

 

おー、それだったら僕も賛成だよ!あんな廃屋の設備が改善されるなら他の皆も文句は言わないと思うし。

 

「・・・・・いいの?」

 

「うん、身に余る環境は人をダメにしちゃうからね」

 

『・・・・・代表が文句言うなら命を狩るまでだ』

 

いや、狩ってはダメだよ。駄目だからねハーデス。とこれから追い掛け回される大和の身の心配をしてると、代表の霧島さんがハーデスにもっと近づいて、黒いマントを掴んで上目遣いをした。

 

「・・・・・死神、私と付き合って」

 

「・・・へ?」

 

「え?」

 

『え、えええええええええっ!?』

 

Aクラスの教室が揺らいだ。

 

「ちょっ、代表!?どうしてこんな見た目が怪しい奴と付き合うのよ!?」

 

「・・・・・私は死神の正体を知っているから」

 

ハーデスがビクッ!と身体を震わせた。何故か松永さんも目を丸くしてる。何でだ?

 

「えっと、霧島ちゃん?嘘を言わない方がいいよ?」

 

「・・・・・知ってる。だって、どんな変装をしても好きな人だからわかる」

 

「・・・・・ちょっとこっちに来て」

 

松永さんが霧島さんを連れて誰でも聞こえない教室の隅で何やら話し合いをしだしたが直ぐに戻ってきた。

 

「ハーデス君、この子に教えた?」

 

『・・・・・(ブンブン)!』

 

「そっかー、愛って凄いなー」

 

全力で否定するハーデス。遠い目をする松永さん以外ハーデスの素顔を見たことが無い筈なのに分かるって、愛で片づけていいの?

 

『・・・・・どうして分かったんだ・・・・・』

 

「・・・・・分かる。あの日から私はあなたのことを忘れたことが一度もない。

 どんな変装をしても、一目で分かる」

 

『・・・・・そうか』

 

「・・・・・だから、お礼を前提に私と付き合って」

 

『・・・・・それは無理だ』

 

話が平行線だね・・・・・。

 

「・・・・・今から私とデートする」

 

『・・・・・今からか!?ちょ、待―――!』

 

霧島さんの行動は早かった。ハーデスのマントを掴んで廊下にまで引き摺っていく。

 

「さて、Fクラスの皆。お遊びの時間は終わりだ」

 

唖然としている僕らの耳に野太い声がかかる。音のした方を見やると、

そこには生活指導の西村先生(鉄人)が立っていた。

 

「あれ?西村先生。僕らに何か用ですか?」

 

「ああ、今から我がFクラスに補習についての説明をしようと思ってな」

 

鉄人。我がFクラスって?

 

「おめでとう。お前らは戦争に勝ったおかげで、

福原先生から俺と―――副担任の小島先生に担任が変わるそうだ。

これから一年、死に物狂いで勉強できるぞ」

 

『なにぃっ!?』

 

クラス男子生徒が全員が悲鳴を上げる!

ちょ、待って!鉄人は分かるけど小島先生って―――。

 

「あわわわわ・・・・・・!」

 

「あ、あの先生かよ・・・・・!?」

 

「うわー、監視が強化されたね」

 

「俺には関係ないけどな!」

 

「うーん、僕もかな?」

 

「大人しくしていればな」

 

風間ファミリーが誰よりも早く反応していた。小島先生―――正式名は小島梅子。

生徒指導の鬼の西村先生並みに、鬼のように指導が厳しい先生は小島先生で

『鬼小島』という別名がある。

そんな鬼のツートップが僕達の担任の教師になるなんて・・・・・!

 

『『『『『Aクラスに勝ったのにあんまりだぁあああああああっ!』』』』』

 

Fクラス男子生徒全員の叫びは、きっと全学年生徒の男子の気持ちも一緒だと僕は思いたい!

 

 

 

―――Aクラス―――

 

 

 

「最後はあんな結果だったけど、ランクダウンはするしいくつか奪われるだけでクラスの入れ替えはせずによかったわ」

 

「でも、代表には驚いたよ。Sクラスと戦争をする気でいたなんて」

 

「これから僕達はこの変わらない設備でFクラスになるなんて不思議な気持ちだ」

 

「・・・・・でも、Sクラスが横やり入れるなんて」

 

「何か企んでいる・・・・・?」

 

「にょっほっほっ!失礼するのじゃ」

 

「っ・・・・・あなたは」

 

「此方はSクラスの大使じゃ。丁重に扱うようにのう?」

 

「・・・・・Sクラスが何をしに来たの?」

 

「このクラスに大使としてやってきた時点で分かっているようなことすら分からぬのであれば、

お主らの頭は空っぽのようじゃな。まあいい、特別に教えてやろう。下々の輩に栄光あるSクラスが手ほどきをしようと思っておる。高があのどん底の知能のない山猿共に苦戦を強いた

下等なクラスに此方らSクラスがAクラスに宣戦布告をしに来たのじゃ」

 

「なんですって・・・・・!?」

 

「もしもAクラスが負けた場合、のクラスは此方らSクラスがもらい受ける。

貴様らは最低最悪のFクラスがいるカビ臭い旧校舎に荷物を纏めて引っ越すのじゃ」

 

「待ちなさい!私達はFクラスに負けて三ヶ月間の試召戦争を禁止されてるのよ。

 それを学園が認めるわけがないし、Sクラスの横暴を黙認するわけないじゃない!」

 

「こちらには世界最大財閥の一つの九鬼財閥に三大名家の一つ不死川家。

他にも此方のクラスに国家や財政に勤めておる両親の者共もおるのじゃ。

学園長は此方らの提案を無化にはできんのじゃ」

 

「(それは脅迫というものでしょうが・・・・・っ!)」

 

「よって、学園長も快く此方らの提案を受け入れ、明日の朝九時からお主らと試召戦争をする。

精々頑張るのじゃ。にょほほほ♪」

 

「・・・・・明日の九時・・・・・今日消費した科目を補給する暇が・・・・・」

 

「まさか、僕達の戦いを見に来た理由はこの為だったのか・・・・・っ!」

 

「なんていやらしい奴らなのよ・・・・・!」

 

「それでも・・・・・私達は戦わないといけない。幸い、私達はFクラス」

 

「あ、そっか!Sクラスは二クラス分の相手と総力戦をしなくちゃいけないから」

 

「簡単には勝てない相手だけれど私達も簡単には負けない状況になっていたのが救いね。直ぐに旧校舎のFクラスにも教えましょう」

 

 

―――Sクラス―――

 

「な、何じゃと!?戦うまでもなくAクラスがFクラスになることは既に決められていた!?」

 

「ええ、情報の食い違いが起きてしまいましたね。質で優ってる私達は量の彼等と戦わないとなることになりました。簡単に倒せる相手ではなくなってしまったわけですが英雄、作戦はこのままで?」

 

「うむ、作戦に変更は無しだ。我らはAクラスと戦うつもりでいが、そうでなくなってしまったのならば、このまま我らはFクラスに仕掛けるとするぞ」

 

「元Aクラスに対する宣戦布告の件は?撤回はできませんよ」

 

「宣戦布告してしまった以上は仕方がない。Aクラスを旧校舎へ追い込むことができなくとも操作を向上することはできよう。だが、死神ハーデスと松永燕は警戒するべきである。よいな」

 

 

 

 

―――☆☆☆―――

 

 

翌日

 

 

「英雄の奴・・・・・一体何を考えているんだ?」

 

「あいつの頭の中は分かりたくも無い」

 

「なんでまた俺達と模擬試召戦争をするんだろう?」

 

翌日、朝から試召戦争が始まろうとしていた。SクラスとFクラス、エリートと凡人の戦いだ。

昨日の続き今日も試召戦争をすることになるなんて、思っていなかった俺達にとっては寝に耳に水な話だ。FクラスになったAクラスもSクラス教室に近い為、拮抗の戦いになるに違いない。

 

英雄は何の目的で試召戦争をするのか?なんか、あいつらしい目的があるような気がするが・・・・・。

それを今の俺達は知る由も無いか・・・・・。

 

「で、ハーデスはどこに行ってんだ?」

 

「何も言わずに教室から出て行ったきり戻って来てないね」

 

そろそろFクラスとSクラスの試召戦争が始まる時間だ。元Aクラスが倒されれば今度はこっちに襲ってくるから坂本と対策を・・・・・。

 

「あ、始まったわ」

 

始まりのチャイムが鳴り出すと、殆どの男子達が突然、黒い覆面と黒いマントを装着しては大鎌を持って教室から飛び出していった。な、何ごとだっ!?あ、明久と土屋にガクトまで行った!

 

―――Aクラス―――

 

燕side

 

「西村先生、Fクラス松永燕がSクラスに総合科目で挑みます♪」

 

「承認する!」

 

試獣召喚(サモン)!」

 

試召戦争の開始の合図とともに、Sクラスの教室の黒い樫木で加工された扉の前に陣取って総合科目のフィールドを展開させた。同時に開かれる扉の奥からSクラスの生徒達が飛び出して戦場に足を踏み入れてくた。

 

「な、もういるだと!?」

 

「構うな!相手はたった一人。しかも総合科目だ!」

 

「へ、Sクラスの総合科目の点数は4500点以上だ。蒼天の人間だからって俺達選ばれたエリートに―――」

 

                総合科目

 

Sクラス 佐藤幸助 4701点 

 

Sクラス 藤堂大毅 4691点 VS 7021点 松永燕 Fクラス

 

Sクラス 鏡智明  4687点

 

 

「蒼天の学校の総合科目の平均点は7000点ぐらいだけど何か言ったかな?」

 

「「「なっ!?」」」

 

私の召喚獣の両手に持つ二刀流の刀で先陣切って出てきたSクラスの生徒を瞬殺。まずは牽制ってね。

 

「そっちがただのエリートなら、蒼天の学校の生徒は世界から選りすぐられた一流のエリートだよん。私は普通枠の人間のつもりでいるけれどね」

 

ドドドドッ!と地鳴りが響いてきた。ハーデス君の作戦が始まったようだね。振り返れば―――謎の黒い覆面の集団が雄叫びを上げながら大鎌を掲げて駆けて来てる。

 

『死を恐れるな!我らには死神の加護が授けられている!』

 

『死後の世界に待っているのは―――!』

 

『『『『『聖書!聖書!聖書!』』』』』『『『『『金一封!金一封!金一封!』』』』』

 

『『『『『エイチ・ジィー・エー・エム・イィーッ!エイチ・ジィー・エー・エム・イィーッ!』』』』』

 

『見よ!松永様が敵の突破口を開いてくれている、突撃じゃあああああ!』

 

『『『『『くたばれクソエリートの男共ぉおおおおおおおっっっ!!!』』』』』

 

自分達の少ない点数(ライフ)と引き換えにクラスメート達が特攻を仕掛けた。その様子はまるで昔の戦争で実際にあった神風特攻隊のようだった。だから、彼らの死は決して無駄ではないことがすぐに証明される。

 

「うわっ!な、何だこいつらぁっ!?自爆しやがったぞ!」

 

「巻き込まれたら戦死だぞ!逃げろ!」

 

「馬鹿、後ろに来ないでよ!」

 

「お前ら邪魔だよ!どきやがれ!」

 

「戦えよお前!それでもSクラスの生徒かよ!?」

 

「うるせぇ!だったらお前が戦えよ!」

 

Sクラスの教室の中で仲間割れの声と阿鼻叫喚が聞こえる。うーん、ハーデス君の作戦通りになってるね。

 

「・・・・・何これ」

 

「あ、木下ちゃん。教室の中から出ちゃだめだよ」

 

気になって出て来ちゃった木下ちゃんと他の元Aクラスの皆。今もクラスメートの自爆攻撃の音が聞こえてくる中で質問をされた。

 

「Sクラスに何をしてるの?」

 

「自爆攻撃をしてるところ。Sクラスにこれ以上強くさせないためにね」

 

「それ、どういうことなの?」

 

「Sクラスはエリート集団でしょ?Aクラスの総合点数より高いのに召喚獣の操作まで慣れてしまったら手が付けれなくなるんだよん。ハーデス君の作戦で、相手に何もさせないまま戦力をできるだけ削っているんだ」

 

この作戦を考えたハーデス君はまだいないけどね。

 

「・・・・・死神、凄い」

 

「そこまで先を見据えていたってことは坂本君より頭が回っていることよね。だけど死神は?」

 

「万全に整えている真っ最中。それまで私がここで食い止めなきゃならないの」

 

自爆攻撃の音が静まり、少ししてボロボロな点数のSクラスの生徒達が出てきた。クラスの皆が打ち漏らした相手を私が綺麗さっぱりに後始末をしていく。だけど、最後まで簡単にはできないんだよね。

 

「おっと!」

 

鋭い斬撃が放たれて回避しながら最後の名も知らない相手を戦死させた。さて、こっからはSクラスの主力が相手だよね。

 

 

                 総合科目

 

Sクラス 源義経   5041点 

 

Sクラス 武蔵坊弁慶 6091点  VS  7021点 松永燕 Fクラス

 

Sクラス 伊達政宗  4917点

 

 

 

「蒼天の松永燕。報告通り凄い点数だね」

 

「さっきの自爆攻撃で味方もほぼ壊滅された。見事だ」

 

「でも、これ以上はこちらも黙ってやられない」

 

今日転入してきた人達が無傷っぽくて高得点だ。うーん、ちょっと厳しいかも!

 

「覚悟を―――!」

 

伊逹ちゃんが日本刀で斬りかかってこようとしたけど、不自然に動きを停めた。

 

『・・・・・試獣召喚(サモン)

 

 

                 総合科目

 

 

Sクラス 伊達政宗  4917点  VS  13000点  死神ハーデス Fクラス

 

 

静かな声と共にフィールドに現れた死神と彼女の総合点数の二倍以上を叩き出した驚異的な点数。後ろから私と肩を並ぶ死神の格好をした人が不敵な物言いの文字を見せつけた。

 

『・・・・・死ぬ覚悟はできてるな』

 

「1万3千・・・!?」

 

13教科ある一教科につき1000点になるまで問題を解いたってことになる。ほんと、うちの王様は凄いよねー。純粋なチートだよん。

 

で―――結果は言うまでもなくハーデス君の圧勝で義経ちゃん達を倒して、破竹の勢いを止めず代表の九鬼君も歯牙にもかけられず倒されSクラスは敗北。仲間達の特攻が功を制した上に殆んど私とハーデス君の二人勝ちで蒼天の名を落とさず完全勝利。ふふ、Fクラスの皆も私達がここまでできるなんて寝に耳に水の話だよね。

 

―――大和side

 

 

「あー英雄、俺達が知らぬ間に見事にやられたようだな」

 

「何とでも言え直江大和。相手の行動を見抜けず、情報を集めきれなかった我らの敗北は確定されていた」

 

「こっちも似たようなもんだぞ。まさかクラスメートを特攻させた後で二人だけで倒しきるなんて想像すらしていなかったんだからな。蒼天の学校の生徒、もしも戦うことになったらお前が見た二人の総合点数が当たり前のように俺達の前に現れるかもしれないぞ」

 

「・・・・・死神のような点数を持つ者が当たり前のようにいてほしくない話だ」

 

松永さんより死神の方を警戒してるのか。となるとAクラスの時の一騎打ちを思い出して考えるべきは、総合科目以外の全教科1000点も問題を解いて叩き出した点数、13000点の相手と戦うことか。・・・・・考えたくないがあり得る話だな。

 

「坂本、Sクラスの制裁はどうする。お前が描いていたシナリオ通りじゃないのは分かっているつもりだぞ」

 

「否定はしない。さて、Sクラス。たった二人相手に負けたお前達は俺達も含めて蒼天の実力を把握しきれていなかったわけだ。というわけで三ヵ月間お前らFクラスの教室で過ごせ」

 

「・・・・・このあばら家のような教室でか」

 

そう、英雄はFクラスに連行されて現状の教室を目の当たりにした際は酷く絶句していた。人生の中で一番ひどい設備を見たに違いない。だが安心しろ英雄。

 

「これでもAクラス戦と勝利した際には学園長に改善の申請を出している。しばらく我慢すれば住めれる環境に改修されているはずだ」

 

「そうであることを祈るぞ直江大和」

 

「因みに三ヶ月後まで汚したり設備を負けた腹いせや鬱憤で一つでも壊したらもう三ヵ月延期だからな」

 

プライドが高くて短気な奴がいることを想定して英雄に釘を刺す。

 

『・・・・・』

 

これで話が纏まり解散の雰囲気のところでハーデスが英雄の前に寄って来た。そして黒いマントから包帯だらけの手の中に何やらごつい物を取り出した。スピーカーが内蔵されているのか声が聞こえた。

 

『よぉ、久しぶりだな英雄。ハーデスと燕にこっ酷くやられたって?』

 

「っ!?た、旅人か!?」

 

『おうそうだ。今のんびりと蒼天の中でバカンス気分で過ごしているぜ』

 

まさか、旅人さんと繋がっていたなんて!だからキャップ達も無反応でいるわけもなく、

ハーデスは俺に黒くてごつい物を手渡すと直ぐに逃げる形で離れて皆が俺に集まってきた!

あいつ、これを想定していたなむぎゅっ!?

 

「旅人さん、俺俺俺!風間翔一だぜ!元気だった!?」

 

『おー元気だぜ翔一。全校集会の時見たが、格好良くなって。ガクト立派な筋骨隆々になってたな女にモテてるか?』

 

「聞いてくれよ旅人さん!それが全然モテやしないんだぜ!?俺にモテる為に何が足りないのか教えてくれ!」

 

『筋肉だけが持てる秘訣じゃないんだぜ。お前の周りにいるモテる男を観察して、自分でもできる要素があったら身につけてみる努力をしてみろ。京はいるか』

 

「うん、いるよ旅人さん」

 

『綺麗になっていたな。昔のお前を知る一人として健やかに成長してくれて安心したよ。友達も増えたか?翔一達以外でだ』

 

「・・・・・頑張って増やす」

 

『はは、仲良しグループが心地いいか。また次に会う時まで頑張ってそうしてくれよ』

 

「また会いに来てくれるんですか?旅人さん」

 

『会えることは確定だ。卓也、俺と会いたいか?』

 

「アタシはもちろん会いたいわ旅人さん!お姉さまもね!」

 

『楽しみにしているぞ一子。今度は蒼天の王ではなくお前らの友達として接してあげるからな。ああ、大和はいるよな』

 

「はい、いますよ」

 

『くくく、昔の中二病は卒業したか?』

 

「なっ!?そ、そんな昔のこと掘り返さないで下さいよ!」

 

『いやー与一がひねくれて成長したみたいで昔のお前のようになってないか気になったんだ。お前と与一なら仲良くやっていけそうだからそれとなく交流をしてくれ』

 

「・・・・・わかりました。あ、旅人さん。タイムカプセルはどうしましょう?」

 

『ああ懐かしいな。俺も参加したいが多分できそうにない。あの中に入れたのは当時あの場に居た全員に向けての手紙だ。皆で読んでくれよ。さて英雄』

 

「うむ」

 

『世界を統べる夢をまだ抱いているなら遠くから応援している。だが、上ばかり見ているなよ。平等にしたも見て幅広い視野で頑張れ。俺から言える事はそれだけだ』

 

「助言を感謝するぞ旅人。いずれ九鬼財閥は蒼天とも交渉したい」

 

『ふふ、世界中を探しても俺の国にしかないものが溢れているぞ。どれか欲しいなら全力で相応の物を用意しておけ』

 

「ふはははは!うむ、必ずや旅人を唸らせるものを用意する!」

 

『言い切ったな?つまらない物だったら―――お前らの頭を鶏の冠のようにしてやろう』

 

「「「「それは止めて!?」」」」

 

『ははははっ!楽しみにしているぞ。また会えるその日まで元気でな!』

 

久しぶりに旅人さんと会話が出来て嬉しくてたまらなかった。皆もそうみたいで顔に笑みを浮かべていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

―――明久side

 

大和達が旅人―――蒼天の王様と話で夢中になっている頃。蚊帳の外の僕らは僕等である話題で盛り上がった。

 

「明日いよいよ正式サービスの開始だね」

 

「楽しみじゃの」

 

「・・・・・俺は忍びになる」

 

「ブレないところは相変わらずだが、お前ら名前は決まったのか?」

 

雄二がそう聞いてくる。僕らは誰もまだ何も決めてないと首を横に振るけど、一人だけは決まっているのも当然だった。

 

「ムッツリーニはムッツリーニで決まりだね」

 

『・・・・・見ただけでどんな性格なのかわかる名前は止めた方がいい。嫌われる』

 

ハーデスがスケッチブックでアドバイスをしてきた。うーん、そうかもしれないね。

 

「・・・・・わかった」

 

「ムッツリーニではないが、ワシはヒデヨシと名前にしようと思ってる。戦国の武将で同じ名前の者もおるし」

 

『・・・・・渾名的にサルと呼ばれている。・・・・・サルヨシ?』

 

「そんな名前は嫌じゃぞ」

 

「他の言い方で言うとヒデヨルかヒデルだな。ヒデルの方は優秀の秀と英語の英の名前に検索で出てくるぞ」

 

「あ、木下君の名前と同じですね」

 

「いいんじゃない?漢字的にもいい感じだし」

 

『・・・・・ダジャレか』

 

「違うわよっ!」

 

「ヒデルか。ふむ、男らしい呼び方でもあるし同じ名前でしっくりくるの。では、ワシはヒデルにするのじゃ」

 

「・・・・・雄二は?」

 

『・・・・・ユージオ』

 

「悪くねぇな。候補の一つにさせてもらうぜ。ムッツリーニはどうすっか?」

 

「うーん、忍者になりたがってるから忍者に関する名前でいいんじゃない?」

 

『・・・・・風魔小太郎、服部半蔵、加藤段蔵・・・・・土屋昌続?』

 

「誰なのじゃ?」

 

「えっと確か・・・・・日本史で戦国時代にいた武将だった人だよね?」

 

『・・・・・曖昧な答えだけどその通り。武田信玄の傍に居続けた侍大将。加藤段蔵という忍者の首を打ち取った説もある』

 

「なるほど、同じ土屋の姓だし忍者を倒した人だったら?」

 

それで決定的な雰囲気になったんだけどムッツリーニはそうじゃないらしく顔を顰めた。

 

「・・・・・複雑極まりない」

 

「だろうな。忍者になろうとしている奴が忍者を倒した人間の名を名乗れなんて滑稽だ」

 

『・・・・・加藤段蔵は幻術使いの飛加藤って呼ばれていた。トビはダメか』

 

「可愛いですね。トビ君って言いやすいですし」

 

「ウチもそう思うわ」

 

「・・・・・候補の一つにする。ハーデス、感謝」

 

「じゃあ今度は僕―――」

 

「バカでいいだろ」

 

「むきー!バカは悪口だよそれ!おいバカなぁバカって呼ばれるのは嫌だよ!

 ハーデス、僕にもいい名前の妙案をプリーズ!」

 

『・・・・・。・・・・・。・・・・・。』

 

「あれ、ハーデス?何か悩んでる?」

 

「お前にこれといった特徴がないからじゃないか?」

 

「・・・・・バカしか取り柄がない」

 

「否定できんのぅ」

 

「そんなバカなっ!?ハーデス、何かないのぉっ!?」

 

『・・・・・ヨッシー?』

 

「吉井の吉の間に小っちゃいっを入れて伸ばした程度か。まぁ、呼ばれそうな渾名でもあるな」

 

「・・・・・ハーデス、他のない?(涙)」

 

バカと呼ばれるよりはいいんだけど、もう少し別の名前で呼ばれた僕の気持ちにハーデスはまた悩んでくれて

考えてくれて・・・・・思いついた僕のキャラクターの名前を書いてくれた。

 

『・・・・・ラック』

 

「ラック?何それ?」

 

「日本語で言うと運、特に幸運を表す英語の名詞ですね。でも、どうしてですか?」

 

『・・・・・吉井の吉はおみくじで大吉・中吉・小吉と運試しに扱われる。だからラック』

 

「ほー、そこまで考えれるとは。流石保健体育で1000点の―――(ジャキッ)『・・・・・霧島翔花に突き出してやろうか』すまん。俺の命を大鎌で狩り取ろうとしないでくれあいつにも突き出さないでくれ悪かったから」

 

「吉井君。どうですか?」

 

「ヨッシーよりはいい!縁起のいいそれで決まり!」

 

「ていうか、あんたらハーデスに名前を付けてもらってばかりよね。逆にハーデスの名前を考えたらどうなのよ?」

 

「「「「・・・・・決めにくい」」」」

 

「あはは・・・・・」

 

『・・・・・無能共に期待していない。ハーデスでいい』

 

「変わらないじゃない。まぁ、それがいいならいいでしょうけど」

 

「あのーハーデス君。私にも何か名前をお願いできませんか?」

 

『・・・・・剣を使って戦う?魔法で戦う?』

 

「えっと、身体を動かすのはちょっと得意じゃないので魔法かもしれません」

 

『・・・・・。・・・・・。・・・・・キューレ』

 

「キューレ、ですか?意味はあります?」

 

『・・・・・剣で戦うんだったら戦乙女のヴァルキューレの誰かの名前にしてた。そうじゃないならキューレ』

 

「姫路の召喚獣が西洋鎧の騎士みたいだからか」

 

『・・・・・(コクリ)。姫島瑞希には神官をお勧めする』

 

「どうしてですか?」

 

『・・・・・吉井明久が守ってくれる』

 

「吉井君が守ってくれる・・・・・頑張ります!」

 

さらっと

 

「し、死神?そのウチも何か考えてくれるかなーなんて」

 

『・・・・・ヒルデガルド。ドイツの帰国子女だからドイツに関係する名前で思いついた』

 

「ヒルデガルド・・・・・何か凄い名前ね。でも、確かに共通点のある名前だからヒルデガルドにするわ。ありがとう、ハーデス」

 

『・・・・・帰る』

 

「おう、ありがとうな」

 

「僕達も帰ろっか」

 

「うむ、帰って明日に備えてやってみたいのじゃ」

 

「なら早く帰りましょうよ」

 

「はい、皆さん。今度はゲームの中で会いましょうね」

 

『・・・・・バイバイ』

 



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前哨戦後の初VRMMORPG

一部変更しました。ノームのオルトと畑に関する話を初日に加えました。


明久side

 

「よーし、早速やってみようかな!」

 

事前登録は済ませてるし正式サービスが開始される土曜日の今日、朝の九時丁度になる前に初期設定も終えて頭にかぶるVRヘッドギアを持ってワクワク感を膨らます僕は 被って電源を入れると無機質な羅列のメッセージが流れた後、電脳世界へとダイブした。その瞬間はあっという間で別の空間に立っていて、手足を動かしゲームの世界の一歩と前という場に居る実感を確認して感動していると立体的な人の映像が浮かび上がった。

 

『NWOにようこそ!俺は蒼天の王だよろしくな!』

 

「うわ、王様!?」

 

『その通りだが少し違う。俺は初期設定を決めるプレイヤーの手助けをする役割を担っているAIだ。ということでまずは名前と自分専用のパスワードを入力してくれ。なお、他人にヘッドギアとパスワードを貸してプレイをさせることはできるが、悪用される可能性があるから気を付けてくれよ』

 

へぇ、そういうことも出来るんだ。悪用されるのは勘弁だね。

 

「えーと名前とパスワード・・・・・。名前はもう決まってるもんね。ラックっと。パスワードは・・・・・」

 

カタカナ字入力で済ませると今度はハーデスが言っていたキャラクターの設定だ。目の前で僕自身の等身大の映像が浮かんでその調整をするための数値をいじれる以外にも色んな設定ができることに驚きだ。

 

「へぇ、顔と髪に目の色を変える以外にも色々と出来るんだ。これは設定のし甲斐があるなぁ」

 

夢中になりすぎて十分以上も時間が経ってしまって後悔のないキャラクター設定に満足すると完了ボタンを押した。すると次はプレイヤーの職業、戦闘スタイルの選択を促された。何故か二つもだ。

 

「えっと、王様。どうして職業を二つも選ぶんですか?」

 

『一つだけ遊ぶより二つも遊びたいとは思わないか?』

 

「思います」

 

『だろ?例えばメイン剣士とジョブ魔法使いを選んでレベルを上げていくと特殊職業である魔法剣士になることが出来るんだ。ただしメインが剣士でジョブが魔法使いにすると物理攻撃が高めな魔法攻撃力の魔剣士になる。逆だと魔法攻撃が高い物理攻撃が出来る魔法剣士となるんだ』

 

「メインとジョブの職業の組み合わせで強さも変わるんですか?あと魔剣士と魔法剣士の違いって何ですか?」

 

『最初の質問を答えよう。その通りだ。だが、最初に選んだ職業だけでゲームを楽しんでもらうだけじゃなく、プレイ中でも他の職業を選択して遊べることが出来るぞ。二つ目の質問の魔剣士と魔法剣士の違いは、魔剣士の場合は武器が属性魔法が付与された剣を主に武器とするスタイル。魔法剣士の場合は魔法と剣を同時に攻撃できるスタイルだ』

 

そうなのか!!選択に失敗したプレイヤーが再度他の職業を選べて遊べれるなら楽しめれるね!!

 

『だがな?他の職業を選んで遊びたい時。例えば剣士を遊びたい時はジョブを空欄にしてから数ある専門職業のNPCのクエストを受けなきゃならないぞ。他の職業も例外なくしなければいけない。理解してくれたかな?』

 

頷く僕はメインが魔法使いでジョブを剣士に選択した。これで僕も魔法剣士になる道を歩むことが出来るんだ!!

 

『だが気を付けてくれ。中には反り合わない職業同士を選ぶと極端なプレイをしなくちゃいけなくなる。よーく職業の内容を見て、自分がどんなスタイルでゲームをしたいのか考えてから決めてくれよ。他に質問はあるか?』

 

もう、選んじゃいましたよ王様・・・・・質問か・・・・・そうだ。

 

「メインとジョブって片方しか遊べれませんよね?その時の経験値はやっぱり片方だけですか?」

 

『そのとおりだ。もし両方も経験値が入ると碌に使わずレベリングするだけで、他の職業のレベルが上がるだけになってしまう面白味が無いことだからな。その代わりプレイ中に得た称号はメインとジョブも共有し、レベルアップ時のステータスポイントがジョブにも加算される。スキルも共有できるスキルしか使えない。ただし、解放していない状態の職業にポイントは入らないから覚えておいてくれ。他に質問は?』

 

無いと言うと不意に僕の眼は光でいっぱいになって何も見えなくなった。

 

『ではラック。NWOで新しい第二の世界と人生を楽しんでくれ!!』

 

王様の言葉を最後に光に包まれた。視界が回復、というよりは目の前が鮮明に街の風景を映し出すと辺りを見回す。百メートル以上ある大樹を囲むように大小様々な建物があって、僕のように初めてゲームの世界にやってきたプレイヤー達が大勢いた。

 

「おう、ようやく来たな遅刻野郎」

 

「へ?」

 

振り返ると三人の男のプレイヤーが僕を見ていた。彼らの顔を見て直ぐに誰だか分かった。

 

「雄二、秀吉、ムッツリーニ?」

 

「おい、ここはゲームの世界だぜ。キャラクターの名前で言え」

 

「ああ、そうだったね」

 

雄二ことユージオは現実世界と変わらないけど、強いて言えば目つきが鋭くなってる?

ムッツリーニことトビは顔は変わらないけど、キャラクター設定にあった覆面をしていた。

最初から忍者スタイルで突き進む姿勢だ。

そして秀吉ことヒデルは、髪をポニーテールにして右目に走る痛々しい傷跡、以外は変わってない。

 

「へぇ、三人共そんなに変えてないんだね」

 

「別に凝って変える必要もないだろうって結果だ。てか、お前だってそうだろ」

 

「そうかな?」

 

「・・・・・ユージオぐらいの身長」

 

「目も鋭くなって凛々しくなっておるがの。じゃが・・・・・」

 

「「「バカは変わらないことはわかった」」」

 

「揃ってバカは酷くない!?」

 

バカな風に見られないよう顔をちょっと変えたのに印象まで変えられないのか!話が違うよハーデス!

 

「って、ハーデスは?」

 

「お前が遅いもんで先に散策していったぞ。因みにハーデスは大盾使いの重戦士だった。キャラクターの顔はお前よりイケメンで髪の色は銀、目の色はサファイアブルーだったがリアルの顔じゃない別物だろうがな」

 

「僕が最後なの?って、不細工な雄二に言われたくないよ!!」

 

「・・・・・俺達だけの話だったら」

 

「姫路や島田はまだじゃがな」

 

良かった。最後が僕じゃなかったんだね。それにしても二人がまだ来てないなんて僕以上に設定を凝っているのかな。

 

「ラックも来たから俺達も行こうぜ。別に待ち合わせを約束したわけじゃないからな」

 

「うむ、今日は自由に動くことにしようか」

 

「・・・・・賛成」

 

僕も同意見だと頷いて二人には申し訳ないけれど早くこのゲームを楽しみたいからね。

 

「あ、職業は何にしたの?ユージオとヒデル」

 

「俺は重戦士でいくつもりだ。ジョブはまだ決めちゃいねぇ」

 

「ワシは侍のようになりたいからの。刀を使ってみようかと思っておるから剣士じゃ」

 

「・・・・・忍びがなかったから剣士にした。ラックの職業は?」

 

トビに選んだ職業を僕は言い返した。

 

「魔法剣士になってみたいから魔法使いと剣士を選んだよ。姫路さんは神官を選ぶと思うから、美波はどうするかだね」

 

「騎士か戦士じゃないか?他にもいろんな職業があったけど島田が選びそうなのはこの二つかもしれないぞ」

 

美波は一子の次に運動神経がいい方だからユージオの予想は当たるかもしれない。もしハーデスを除いて僕達が組んだら姫路さんを除いて前衛で戦うのは五人ということになる。うーん、回復役がちょっと不安かな。

 

「まずは武器屋に行ってみるか?」

 

「・・・・・どこでも構わない」

 

「クエストを受けるところはどこなんだろうね。お金も集めて強い武器が欲しいからさ」

 

「それも探すのも良いじゃろう。クエストはNPCからでも発生して受けれると説明書でも書かれておったからの」

 

大通りに進む道の端で食材を売っている露店が軒並みに並んでいる。頭の上にはNPCと白色の文字の名前が浮かんでいる。プレイヤーは、ユージオ達の頭の上を見ても名前は浮かんでいない。

 

「こうしてのんびりしている間に他のプレイヤーはレベルを上げてるんだろうね」

 

「最強のプレイヤーになりたいならそうするだろ」

 

「・・・・・ハーデスはどう戦うのか」

 

「短刀だけで戦うという意味なら攻撃力が少なさそうで苦労しそうじゃの」

 

うーん、レベル上げが大変そうだなハーデスは。ふと僕は思い至った。

 

「武器は持っているんだっけ?僕等以外にも武器を持っているプレイヤーは見かけないけど」

 

「インベントリの中にな。街中では決闘する以外、魔法=スキルが使えないようだ。出して歩きたいなら装備するらしいぞ」

 

「ユージオってどうやって知ってるのその情報」

 

「お前、説明書読んでるならわかるだろ。ステータスを開いて『?』マークのところを押せば、わからないことがあれば運営にメッセージを送れるし他にもプレイヤーが考えそうな疑問の説明が書かれてあるんだよ」

 

え、そうなの?不思議そうに見つめる僕を三人は呆れ顔を浮かべた。

 

「やっぱりバカは変えられないか」

 

「・・・・・死んでも治らない」

 

「バカじゃの」

 

「ぐっ!?」

 

よ、読み忘れていたんじゃないんだよ!?ただ、早くゲームをしたくて後回しにしていただけなんだ!

 

「ほ、ほら早く街中を探索しようよ!あ、あそこの店にケバブが売ってるよ!良い匂いするねゲームなのに!」

 

「・・・・・あからさまな苦し紛れ」

 

「じゃが、確かに不思議ではある。現実世界の料理の味も再現されているのかの?」

 

「食ってみりゃわかるだろ。美味ければ現実世界じゃ食べれない料理を探してこのゲームの中で食えばいい」

 

「天才か!よーし、色んな料理を探しに冒険だ!」

 

このゲームはそんな内容のゲームだったか?とユージオの言葉を無視してケバブを売ってる店の方へと近づいた。

 

 

ハーデスside

 

この頃のハーデスは他のプレイヤーのプレイとは異なることをしていた。それは初期設定で選ばなかった他の職業の解放だった。全ての専業職業の課せられたクエストを受けて次々と解放していき、数時間も費やし経過した頃―――。

 

『おめでとうございます。全プレイヤーの中で最初に全ての職業を解放した死神ハーデス様に称号と報酬をプレゼントします』

 

称号:万に通じる者

 

取得条件 全ての職業を開放する

 

効果:賞金10000G獲得。各職業ステータスポイント10点獲得。各職業の秘伝書

 

メインを重戦士で大盾使いに選択したハーデスは、ジョブをテイマーに選択した。テイマーはランダムでテイム状態のモンスターを得られるシステムがある。β版時の第2エリアまでのモンスターから選ばれ共に活動するがハーデスはこの時困惑していた。

 

「ム?」

 

ログイン時からハーデスの隣に寄り添うように立っていた、背の低い影。ハーデスの初期モンスターである。パッと見は童話に出てくる小人と言ったところ。茶色の服を着た、茶髪の、70cmほどの小人がそこにはいた。童顔で、愛嬌のある顔をしており、頭身の低い人間の子供にも見える。性別は不明。

 

 

オルト

 

LV5

 

HP 22/22

MP 26/26

 

【STR 7】

【VIT 5】

【AGI 5】

【DEX 10】

【INT 12】

 

装備

 

頭 【土霊のマフラー】

 

体 【土霊の衣】

 

右手 【土霊のクワ】

 

左手 【土霊のクワ】

 

足 【土霊の衣】

 

靴 【土霊の靴】

 

装飾品 【空欄】【空欄】【空欄】

 

スキル:【育樹】【株分】【幸運】【重棒術】【土魔術】【農耕】【採掘】【夜目】【栽培促成ex】

 

 

完全に農業スキル。である。しかも【栽培促成】にex付きはなんだ?エクストラ?んー・・・・・。

 

「ノームのオルトか」

 

「ム!」

 

「装備とスキルの見た目通り農作業ができるんだな?」

 

「ムム!!」

 

ならば次に俺のすることは決まったな。畑の真ん中に、冒険者ギルド並ではないものの、そこそこ大きな建物が立っていた。紛れもない、農業ギルドだ。

 

「すみませーん。畑が欲しいんですけど?」

 

「あら、いらっしゃい。ようこそ。じゃあステータスを出して登録してくれる?あなたは農業ギルドに登録していないから畑は購入できないの」

 

窓口の蜂蜜色の豊かな髪と豊満な体つきのNPCの女性が教えてくれる。なるほど。まあ、それはそうだよな。今後も利用するだろうし登録しておいた方が良いだろう。

 

「じゃあ、登録します」

 

「はい。じゃあ、ステータスウィンドウをかざしてくれる?」

 

「はい」

 

「―――登録完了ね。クエスト掲示板はあそこ。受付窓口はあそこだから」

 

登録はあっさりとしたものだった。まあ、ゲーム内だし、書類を書かされるとは思っていなかったけどさ。

 

「じゃあ、改めて畑が欲しいんです」

 

「グレードはどうする?」

 

「グレード?」

 

「ええ。土の質や施設によってグレードが変わるのよ」

 

NPCの女性が、地図を出して、詳しく説明してくれた。農業系のプレイヤーがまだそれほど多くないので、畑は大体希望通りの場所が買えるだろうという事だった。

 

金を払えば買った畑をグレードアップもしてくれるらしい。朗報だ。なら、よく吟味しないとな。

 

最も安いのは1面2000Gから。グレードアップの度合いによって3000G、6000G、10000Gとなる。今の俺なら全部の畑を買える額を持ってるけど・・・・・。

 

「10000Gの畑について、詳しく知りたい」

 

「ええ、何でも聞いてね」

 

 

女性に色々質問してみた。

 

まず、納屋は6畳の小さい小屋みたいなものらしい。木製の物置小屋って感じか。中には一応小さい机と椅子があり、一切リフォームの出来ない簡易ホームとしても利用可能らしい。さらに地味に嬉しいのが、肥料を自動で生み出してくれる肥料庫が備え付けられるということだ。肥料は30Gと安いが、長い目で見ればお得だろう。

 

そして、最も重要なのが、小型の道具箱が付いていることだ。これは、モンスも利用可能なインベントリ機能の付いた箱のことである。例えば、俺が遠出している間、オルトが自動で収穫したアイテムなどを時間経過による変質なく保管しておくことが可能なのだ。

 

 

ただマイナス面もあり、納屋の分畑の面積が狭く、作物を植えることが可能な場所が10ヶ所に減ってしまうらしい。それでも納屋は魅力的だ。

 

「よし、6000Gの畑を買っちゃおう。」

 

俺はさらにギルドショップのラインナップを確認する。

 

そんな時に目を引いたのはとある肥料だった。それは2000Gもする高級肥料である。畑全体に撒くのではなく、1マスにしか使えない代わりに、普通の肥料の10倍も効果があるらしい。

 

これだけ購入可能な数に制限があった。3つまでしか買えないようになっている。どうやら1週間に一度入荷するという設定らしい。それだけレアなアイテムってことか。

 

現在の所持金は13000G。うん、買えちゃうんだよな。でも、種を買いたいから6000Gのグレードの畑と種だけするか。心中で独り言のように呟きながら購入するものを選び終えると待ってくれた女性NPCに話しかけた。

 

「はい。それじゃあどこのが欲しい?」

 

「場所は広場から近くて、冒険者ギルド、農業ギルド両方に行きやすいと嬉しいかな」

 

「ならここね」

 

彼女が地図でおすすめの場所を教えてくれる。確かにここなら立地が完璧だ。

 

 

「じゃあ、ここで。グレードは6000Gを1つお願いします」

 

「ありがとう」

 

 チャリーンという音がまた聞こえた。所持金が残り7000Gだ。

 

「場所は地図にマッピングしておいたわ」

 

なるほど。案内はしてくれないと。

 

「それと、畑にまくための種とかって、どこで買える?」

 

「種なら、こっちでも扱ってるの」

 

「あ、そうなんだ」

 

見せてもらった2種類の種は両方とも100Gだった。うーん、傷薬草はいらない感じはするが記念に買っておくか。

 

「食用草の種と、傷薬草の種ね? 2点で、200Gよ」

 

100Gずつで買ったのは、5粒入りの種袋が2つだ。携帯食の原料になる食用草と、傷薬の原料となる傷薬草である。傷薬は初期だけ使う、ポーションの下位薬だった。下級ポーションの半分ほどの回復量だが、序盤では便利だ。俺みたいな防御特化の極振りしてるプレイヤーを除いてだけど。

 

さて、Gの残りはまだある。どうせだから何か買っちゃおうか? そこで目についたのは肥料だった。

 

「これは?」

 

「畑にまくと植物の栽培にボーナスが付くの。効果は5日間」

 

高級肥料の下位ってことか。買っておこう。しかし、よもや農耕(のうこう)をすることになろうとは、何やってるんだろうな俺と思いながら購入する。一つ30Gだ

 

「さて、畑に行くか」

 

「ムムッ!」

 

畑は本当にすぐそばだった。歩いて3分もかかっていない。

 

「おお、畑だねぇ」

 

「ム」

 

「頼むぞ、オルト。お前の手腕が懸かってると言っても過言じゃないぜ」

 

「ム!」

オルトが自分の胸をドンと叩く。これは完全にわかる。任せろ! だろうな。

 

「畑は1面につき、20個まで作物を育てられるわけか」

 

今ある種は食用草が5粒。傷薬草が5粒。計10粒だ。うん、畑が余ってしまうな。

 

「そうだ。これを10000Gの畑で植えられないか?」

 

種と肥料を渡す。できるか?と俺から受け取るオルトを見ていると。

 

「ムムームムムー」

 

俺の目の前で、オルトが畑の一マス部分に肥料をまいた。そのあと買った草を渡すと、オルトが持っていた草が消えた。代わりのオルトの小さい手の中には、種が2粒残されている。鑑定してみると、薬草の種だった。

 

「へぇ、今のが株分スキルか」

 

「ムームムー」

 

オルトが念じるように呟くと、足元の土が盛り上がった。

 

「ああやって土魔術を使うのか。使い方次第では戦いにも使えるか?」

 

オルトはそのままクワでザクザクと土を掘り起こし始めた。オルトは作ったばかりの畝に指でチョコンと穴を開けると、株分で生み出した種をまいていく。

 

「うん、見た目も完全に農業だな」

 

土をかぶせてポンポンと軽くたたき、井戸から水をくんできて、上から撒く。うん、魔法的な感じが一切ないな。大丈夫なのか少し不安になるが、農業スキルもあるんだし大丈夫だろう。

 

そう思ったら――。

 

「は?」

 

「ムッ?」

 

「いや、驚いただけだ。でも、もう芽が出るのか?」

 

「ムー」

 

自慢げに胸を張るオルトの頭を撫でながら、俺の視線は畑に釘づけだった。

なんと種を植えてからほぼ一瞬で、新芽がピョコンと顔をのぞかせたのだ。いくら何でも速すぎないか?

だって、さっき見た農業掲示板には種を植えてから芽が出るまで最低24時間かかると書いてあったのだ。それが一瞬? どういうことだ?

 

「オルトのおかげなのか?」

 

「ムム」

 

やはりそうらしい。農耕スキルが高いのか、栽培促成が思った以上のスキルだったのか。はたまた土魔術で何かしているのか。

 

ともかく、オルトがいてくれたら畑は大丈夫そうだな。と言うか、24時間が一瞬とか今後が楽しみになってきた。 もっと育てられるものがあれば、さらに畑で栽培出来るのだろうか?

 

「外で採取か」

 

待てよ? とんでもないことに気づいてしまった。俺は農業ギルドで何か情報が得られないかと考えた。窓口のお姉さんに、畑で育てられる草の種類を聞いてみる。

 

「農耕のレベル次第で、どんな草だって栽培できるわ」

 

なるほど、オルトならこの辺の草は問題なさそうだ。ならば採取ツアーの決行である。

 

「オルト。畑は任せたぞ。俺は、仕入れに行ってくる」

 

「ムム!」

 

 

 

町の外に出てテイマーから重戦士の職業に切り替えた。大盾使いとしてもオルトを使役するためのスキルは共有出来ているから問題ないとして採取に励むと、初期装備の出で立ちの俺に突っ込んでくるモンスターに眼差しを向けていた。白いふさふさした毛並みの獣のモンスター『アルミラージ』。

 

初めてエンカウントしたモンスターがアルミラージか。初戦闘でとある検証を試すべく無防備で佇んでると、一生懸命体当たりしても全くダメージが入らずだった。HPも全く減らないこの現象は・・・・・。

 

【STR(力)】 0〈+9〉

【VIT(防御力)】100〈+28〉

【AGI(敏捷性)】 0

【DEX(器用度)】 0

【INT(知力)】 0

 

重戦士の職業=大盾使いに選択し、短刀の攻撃力のおかげでSTRは0ではないものの、極端な防御力に極振りした結果によるノーダメージであった。最初は何となく検証してみたら面白いことになって、今後のゲーム活動を思い返すと思いついた。

 

―――アレ、もしかして今後も防御力に極振りするとモンスターとプレイヤーの攻撃無効化できるんじゃね?

 

必死にじゃれて(?)くるもふもふを見ながら、不動明王のごとく佇む己を想像してちょっと面白そうだと今後の方針を決め、これからも極振りで行こうと決意した。

 

「歩いてもついてくるかな」

 

AGIが0の歩みは亀より遅い恐れがある。現状ではうさぎとかめのように比べて把握することは敵わないが、走ってもダントツで現実世界の子供にも後れを取る自信がある。それが微妙な気持ちになってしまうのは致し方がないと思いつつ、不動の二文字に憧れがあるので今のスタイルを変えずに行こうと行動を開始する。

 

「きゅ!」

 

「お、ついてきてる」

 

背中にぶつかる感触、アルミラージが動き出す敵を追いかけながら体当たりをしてくる。まるで犬か猫かもっと遊べ!と言いたげに身体を擦り付けてくるかのような感覚に口元が緩んだ。

 

「よし、採取しながら他のモフモフを見つけてもっと堪能してみよう!」

 

ぶつかってくる際に感じるもふっとした感触を愉しみながらアルミラージと戯れ(?)散策をする。いや、本当に可愛いのなんのって。ぶつかってくる瞬間を狙って捕まえてモフると毛皮の感触が人を裏切らせない柔らかさな上にさ。放して逃がすとまたぶつかる攻撃をしてくるんだ。それが微笑ましくて時間を忘れてつい戯れ(?)てしまった時に手に入れてしまった。

 

 

『スキル【絶対防御】を取得しました』

 

 

「ん?スキル?」

 

周囲から攻撃してきているのもお構いなしにスキルの確認をする。

 

 

スキル【絶対防御】

 

このスキルの所有者のVITを二倍にする。【STR】【AGI】【INT】のステータスを上げるために必要なポイントが通常の三倍になる。

 

取得条件

 

一時間の間敵から攻撃を受け続け、かつダメージを受けないこと。かつ魔法、武器によるダメージを与えないこと。

 

スキル使用条件

 

要求【VIT】値100以上。

 

 

「VITが二倍って、ことは今のVITは128だからその二倍って・・・・・【VIT 256】?これ、かなり凄いスキルだよな?いつの間に一時間もモンスターから攻撃を受けていたのか。時間の流れ早すぎる」

 

そろっと移動するか。今日は森の探検でいいな。レベル上げは明日でもできると決め込んでのろのろと更に森の奥へと進んでいく。そして数十分も時間を費やしてどこまで進んだかわからないぐらい深奥へ歩んだ先に、未だ正式サービスが開始されてばかりで、プレイヤーの間では未発見な果実の林檎を見つけた。しかし、やはりというべきか人間では届かない高さで実っているところもあって手を伸ばしても届かない。

 

「ジャンプってステータスに反映されてるか?」

 

盾を持ったままその場で跳躍。地面から離れた身体は確かに上へと跳んだが、届かず直ぐに重力に従って地面に着地。今度は盾を置いてジャンプしてみると・・・・・差は変わらない。

 

「歩行と走りだけじゃなく、跳躍すらステータス依存なんて・・・・・」

 

その場でorzと落ち込む状態になってもアルミラージの他、道中エンカウントしたリアルすぎる大ムカデに大蜘蛛(見た目はタランチュラ)、他に狼やら芋虫やら色んな多くのモンスターから攻撃を受ける。ダメージは全く無い。

 

「手の届く範囲のリンゴを取るしかないか。料理が作れるなら・・・・・ああ、DEXが0だから作り方が分かっても調理が失敗してしまうのかも」

 

アップルパイが作れない!と酷く嘆く俺に励ます(?)モンスター達に囲まれ攻撃を一身に浴びせてくる。

 

「林檎を手に入れたらもっと森の中を歩いてみよ。幸いモンスターの攻撃は効かないし」

 

そうと決まればインベントリの一列の枠を林檎で一杯にするつもりの俺は届く範囲の林檎へ手を伸ばす。その中でたった一つだけ黄金に輝く林檎を見つけゲットした。

 

 

黄金林檎【レア】

 

一定時間経験値とスキルの熟練度がUPする

 

 

何と経験値とスキルの熟練度を増やすレアアイテムだった。今すぐ使いたい衝動に駆られたが、普通に食べるのでは勿体ない気がしてアップルパイのために使わずインベントリにしまった。

 

『スキル【採取】を取得しました』

 

スキルを取得したアナウンスを聞き流す。そうするほどの意識を向けざるを得ないことが現在進行形であるからだ。

 

「・・・・・それにしても、お前ら飽きないのかな」

 

周囲を見回すとまだいる、もう百回以上は攻撃してきてるモンスター達にちょっと憐れんでしまった。

 

 

ラック(明久)side

 

「そう言えば大和達もやってるかなー」

 

ケバブの味を堪能した後、町の外でモンスターを倒して順調にレベルを上げた時、皆に同意を求めた。

 

「あいつらのアバターの名前は知らないがな」

 

「ワシらはハーデスに考えてくれたから分かるがの」

 

「・・・・・姫路と島田もまだ見当たらない」

 

もう来ている頃だと思うけど、トビの言う通り二人とはまだ合流できていない。ユージオは気にしていない風だけど、一目見たい気持ちはあるかな。

 

「ハーデスとも会ってないけど、どこにいるんだろう」

 

「気になるならメールでもすればいいじゃねぇか」

 

「では、ワシが試してみるかの」

 

ヒデルがメール画面を空中にブォンと展開してローマ字入力でハーデスにメールを送った。フレンド登録しないとできないようだけど、僕はハーデスと登録していないからできない。

 

「返信が来たぞ。西の深奥の森にいるようじゃ」

 

「同じ森にいたのか」

 

「ワシらも西の森におると送信しておくぞぃ」

 

「・・・・・ついでに新しい情報が欲しい」

 

ヒデルはもう一度メールを送って少し経った時に返信が届いたようだ。

 

「今いる森の中で経験値とスキル熟練度がUPする林檎を見つけた、と」

 

「へぇ、林檎ってアイテムかな?きっとそれレアだよ」

 

「となると俺達も森の深奥へ進めば何かレアなアイテムが手に入るかもしれないってことか」

 

「・・・・・どうする?」

 

未知の発見の為に危険な冒険をするか否か、トビは僕達の意見を求めるけど決まってるよね。ユージオが不敵な笑みで森の奥へと視線を送った。

 

「行ってみようぜ。強いモンスターは四人でいけばなんとか倒せるだろ。最悪ラックを囮にして逃げればいい」

 

「じゃな」

 

「それじゃ、マップを確認してから行こうよ。それと強いモンスターはユージオを囮にして攻撃しよう」

 

「・・・・・準備は必要不可欠」

 

満場一致で僕達は更に森の奥へと挑戦することになった。他のプレイヤーもそうだけど、ハーデスにも負けたくないからね。きっと僕達よりもレベルを上げてるかもしれない。

 

 

ハーデスside

 

「・・・・・くぁ」

 

ゲームを初めて採取ツアーをしてから数時間が経過。どんどん探検気分で進みプレイヤーがいない森の奥、そこで耳にシステムからのメッセージが届いた音で意識が覚醒した。目を開けたら空はすっかり朱色に染まっていた。道中横になっていたからいつの間にか眠っていたようだ。あるシステムを確認するととんでもないことになっていて急いでインベントリから林檎を取り出して食べ始める。味そのものは現実世界の林檎と変わらず美味かった。寝ている間それなりに減っていた―――空腹度を満腹になるまで食べ続ける。理由は空腹度が無くなるとデスペナルティを受けるシステムがあるのだ。受けると五つの項目の能力が半減して、空腹度が続くと体力が減って最後は死亡扱いされるのだ。ダメージ0の俺以外の通常のプレイヤーだったら、森の中で見つけた林檎を採取できず満腹を回復ままらずにデスペナルティで町に戻されているだろう。まぁ、見つけたとしても俺はDEXが0なので採れた林檎の数は多くなかった。採取までもステータス依存とは・・・・・!極振りの弊害キツ過ぎるだろ運営!?黄金の林檎をゲットできたのは稀の成功だったかもしれない。

 

「そろそろ戻るべきか。ログアウトしても町に戻っているとは限らないしな」

 

それに―――ここまでついてきたモンスターがまだ攻撃してきているし、いい加減俺もどうにかした方がいい気がしてきた。でもおかげで新しいスキルが一つ取得できたのは悪くないと思うけど。

 

 

【毒耐性中】

 

 

強力な毒を無効化する。

 

取得条件

 

強力な毒を四十回受けること

 

 

あ、もう二つ増えてる。さっきのメッセージはこれか。

 

 

【挑発】

 

 

モンスターの注意を一点に引き寄せる。

 

取得条件

 

十体以上のモンスターの注意を一度で奪うこと。アイテム使用可。

 

 

【瞑想】

 

 

使用すると、十秒で最大HPの1%HPを回復する。効果持続時間は十分。消費MPなし。【瞑想】時にはあらゆる攻撃行動を取れなくなる。

 

取得条件

 

攻撃を受けつつ三時間瞑想すること。

 

 

「・・・・・眠っている間は瞑想扱いされるのか。スキル取得の条件の基準がいまいちわからないな」

 

だけどうん、何度見てもタンクの職業らしいスキルだ。現プレイヤーの中じゃ最もスキルを取ってるんじゃないか?

挑発に関しては何も言わん。歩く度に増えていくモンスターを一度で注意を奪ったかなんて判定できない。途中、フォレストクインビーという巨大蜂から食らった毒攻撃で得た耐性も中々どうして。

 

「さて帰ろう」

 

ガジガジ、ビシバシ、ツンツンと攻撃を止めないモンスターを気にせずに来た道へ戻るとするか。夜の外のエリアのモンスターは一気に強くなるのがゲームの常識なためにさっさと町に戻った。戻ったのはいいんだが・・・・・・。

 

俺は今―――背中に竹かごを背負って初期の服装で始まりの町のゴミ拾いを勤しむことになってしまった。事の原因は十分前の事。

 

今度は始まりの町で探索していると、竹かごを背負った老人と出会った。フラフラとおぼつかない脚で歩いていた。その日とはNPCだが見ていると危ういなと思って近づき話しかけようとしたら、突然ばたりと倒れこんで直ぐに介護した。

 

「大丈夫か?」

 

「ああ、お優しいのすまないね。最近足が酷くて立ってるのもやっとなんじゃ」

 

「なら家まで送ろうか?」

 

「すまないがやることがあるのじゃ。家に戻るわけには行かん」

 

話を聞いてみたところ、この老人は急激に増えた人に伴い町中で捨てられるゴミも増えたことで広場にある巨大樹に影響が出ないようゴミ拾いを始めたようだ。多分その急激に増えた人間ってプレイヤーの事なんだろうな。

 

「儂のような年寄り以外の者はもう知らんかもしれぬが、あの大樹には精霊様が宿られておるのじゃ」

 

「精霊様?」

 

「百年に一度、精霊様は大樹の化身として現れこの町に加護を下さる。この町が外のモンスターに襲われておらんのは全て精霊様の加護あってこそじゃ。だから、この町に生きる儂等は精霊様に感謝の意を込めて町を綺麗にしておるのじゃ。しかし、最近の若い者は年寄りの儂等に耳を傾けないどころか信用もせん。お主はどうなんじゃ?」

 

ここで答えを間違えたらいけない気がしてならない。本心から思ったことを口にする。

 

「本当に精霊様がいるなら、この町に住まわせてもらっている俺も微々ながら町の為に何かしたい」

 

「精霊様がおらんでもか?こんな老いぼれは報酬も何も出せんぞぃ」

 

「報酬欲しさに言っているんじゃないさ。こんな体でも町の為に働くお爺さんの為に手伝いたいんだよ。一人より二人で分担すればゴミを早く集めやすいだろ?」

 

竹かごを手に取り背負うと俺の目の前に青いパネルが浮かび上がった。勿論YESを押すと老人の顔に笑みが浮かんだ。

 

「最近の若い者はまだ捨てたものではないようじゃな。すまぬが儂の代わりにやってくれるかの。五十年に一度、つまり一週間後までじゃ」

 

「わかった、頑張って集めるけど拾って溜まったゴミはどこに?」

 

「またここに来て欲しい。それも籠が満タンにしてからじゃ」

 

インベントリ代わりの籠の枠は100。100個のゴミを一週間以内に集めないと駄目ってことか。

 

「じゃ、行ってくる。お爺さんも気を付けて帰ってな」

 

「うむ、ありがとうの若い者」

 

老人と別れてゴミ拾い前にオルトと合流しに行こう。

 

 

「ただいまー」

 

「ムーム!」

 

走り寄ってくるオルト。

 

「ムーム、ムーム」

 

何か訴えかけてる?

 

「どうした?」

 

「ムム」

 

オルトの指し示す方には、大分成長した若葉の姿があった。もう新芽とは言えない大きさだ。

 

「早っ! もうこんなに成長したのか?」

 

「ム」

 

「すげー。オルトすげー」

 

「ムムッム」

 

「そうだ、これ、携帯食料と新しいお土産な?」

 

「ムーッ!」

 

外のエリアで採取した様々なアイテム。それらを見てオルトは大はしゃぎ。一日一回食べさせないとテイムのモンスターのステータスが下がるというからな。携帯食料を食べ終えればオルトは早速畑に植え始めた。俺は森で採取した水軽石という水と一緒に入れておくと、水を浄化するアイテムを桶に井戸水を張って中に水軽石を入れる。すぐに変化はない。どうやら、暫く置いておかないといけないみたいだ。その間に俺はゴミ拾いを始めるか。

 

「じゃ、またなオルト」

 

「ムー!」

 

このままログインするつもりでオルトと別れゴミ拾いを始める。町中の地面に注意深く視線を向けていると、何か落ちているのが見えた。普通に歩いていたら見逃すのは間違いない、小さな石ころだ。

 

「これがゴミか?」

 

ゴミ拾いクエストを受けたことで、ゴミに緑マーカーが表示されるようになったらしい。しかも他の石ころには緑マーカーは表示されていない。どうも闇雲にゴミを拾えばいいわけではないらしい。

 

「よし、マッピングしながらゴミ拾いだ」

 

VRゲームの中でゴミ拾いとか、どんだけ地味なんだって話だ。だが、これも経験値と貢献度のためだ。

 

と―――そんなこんなでゴミ拾いクエストをしている真っ最中な現在進行中でも俺はひたすらゴミを拾い続けた。ゴミは石ころに留まらず、草や割れた花瓶など、多岐にわたる。拾ったゴミが20を超えた。

 

マップを確認すると、南区はほぼ回り終えていた。それでも、ゴミを3しか拾えていない。

 

「次は西区に行くか」

 

俺は西区を歩きながら、ゴミを拾っていた。マッピングも、ゴミ拾いも、すこぶる順調だ。ただ、いくつか気になることもある。

 

「おいあれって」

 

「背負子を背負ってゴミ拾い?」

 

「おいおい、初心者がこの最新ゲームをしてゴミ拾いってw」

 

「うわ、哀れな・・・・・」

 

なんか、妙に人の視線を感じた。それと共に、何やらヒソヒソと小声で話している。いや、分かっているのだ。何やらじゃない。完璧に嘲笑されている。うん・・・・・顔覚えたからな?夜の町の外で出会ったらプレイヤーキルしてやるから覚悟しとけよ?

 

「西区は大体回ったな」

 

順調そうに思えたゴミ拾いは微妙だ。6個しか拾えなかった。しかし西区はほとんどの場所を回っただろう。

 

「でも、このペースだと、東西南北全部まわってゴミ拾いしても、一週間以内に100個に届かないよな」

 

1区画3個前後のゴミが落ちているとすると、4区画で12程度。100個は達成できない。

 

そんな俺だが、実は気になっていることがある。

 

「あそこ、確実に緑マーカーが出てるんだよな」

 

そこは町の水路だった。横幅7、8メートルほどの、運河と呼ぶには狭くて浅い水路だ。各区画の中心にある巨大樹に向かうようにこの水路は走っている。

 

その水路の中に、緑マーカーが見え隠れしているのだ。水路に入り濡れながらトングを伸ばして水の中のゴミを拾うことを試みる。結果は・・・・・

 

「よし、採れた!」

 

それはやはりゴミだった。

 

ゴミ拾いの達成に光明が見えた。だが、同時に最悪の結果でもあった。

 

「他の水路にもゴミが落ちてるかもしれない?」

 

だとすれば水路にも探さなければいけないことになる。夜になれば辺りは暗い。夜に水路に入ってゴミ拾いをするのは色々な意味で勘弁だった。しかし、ゴミを100個拾おうと思ったら、ほぼ確実に水路に入らないとならないだろう。

 

「まぁ、水路に入って大丈夫な深さだ溺れはしないだろ」

 

悩んでも仕方がない末俺は水路でゴミ拾いを始めた。くっ、水で歩行が更に遅い!早くAGIが欲しいっ!こんな姿を目撃したプレイヤーも噂したいならしやがれってんだ!

―――結局、全ての水路でのゴミ拾いが終わるのに2時間以上かかってしまった。しかも、最終的には16個のゴミを拾うことができた。やはり少ない。

 

「あれ?なんだここ」

 

だが、俺は新しい発見を目の当たりにした。橋の上からだと見えず死角になっている橋の袂に、鉄の扉がヒッソリと取り付けられていた。暗がりなうえ、石材と同じネズミ色をしているため、降りなければ絶対に気づかないだろう。

 

「開かないか」

 

鍵がかけられているのか、錆びついているのか、どうやっても扉は開かない。

 

「鍵が必要か?」

 

きっと、イベントか何かで開くのだろう。残念だが、諦めるしかない。

 

「とりあえずこの場所のことは覚えとけばいいな」

 

俺は扉を諦めてゴミ拾いに戻ることにした。開かない扉よりも、目先のクエストだ。途中見かけた梯子に上り―――不意に影が差し込んで顔を見上げると黒髪黒目の少女と視線が合った。

 

「何してるのハーデス君?」

 

少女が不思議そうなものを見る目で俺を見て、俺が這い上がってくるのを邪魔しないよう退いてくれると理由を語りながら登り切った。黒髪に黒瞳・・・・・リアルの容姿のままで佇む彼女―――松永燕ことイッチョウに言い返す。

 

「ゴミ拾いのクエストだよイッチョウ」

 

「ゴミ拾いってβ版でも検証された誰もやりたがらないクエストだよね。数日間この町から出られずただひたすらゴミを集めて報酬が何ももらえないハズレクエストと揶揄されてる。だから何か妙な噂が流れてたか」

 

噂?と首をかしげるとイッチョウは噂の内容を教えてくれた。

 

「ゴミ拾いをしている初心者がゾンビのように徘徊しまわってるって、ちらほらとそんな話が聞くよん」

 

「よし、そいつらを見つけたら殺してやる。ところでそっちはレベルどのぐらい上がった?」

 

「うん、6だよ。スキルも何個か取得できた。ハーデス君は?」

 

「俺はまだ1。だけどスキルが四つと称号を一つ習得したぜ。ゴミ拾い一週間以内に100個集めないといけないからな」

 

「うわ、しんど・・・・・え、一週間も?リアルでも一週間も縛られて大丈夫?完全に出遅れてるよ?」

 

「色んな発見を見つけたいからな。特別強くなるのは二の次って感じに思って―――重戦士の大盾とテイマーの職業にしたんだ」

 

「そっかー、そういうプレイもアリかもね。じゃあ、そんなハーデス君にちょっと珍しい情報を教えよう!」

 

おおー行動力ある人からの情報はありがたいなー(棒読み)。

 

「その前にイッチョウ。職業を全部解放した?」

 

「してないよ?ハーデス君はしたの?」

 

「ああ、一気に終わらせたら称号『万に通じる者』を取得したぞ。一番最初に取得したからか、賞金も10000G獲得して各職業ステータスポイント10点獲得。各職業の秘伝書も貰ったわ」

 

「何それ!?凄くいい報酬じゃん!!」

 

羨ましい!とイッチョウも手に入れようとする雰囲気が伝わり、頑張れよと応援する俺から駆け出して専用職業師匠のNPCへ尋ねに向かったイッチョウの背中を見送った。

 

―――数時間後。秘伝書は手に入らなかったが称号とステータスポイントと賞金は貰えたと遅めの夕餉中に話してくれたのであった。

 

「あの情報、情報屋に売ったらいい値段で買ってくれると思いますよ西区の大通りにいるんで行ってみたらどうですか?」

 

「そうか。なら行ってみようかな」

 

明久side

 

月曜日となって学校の教室とは思えないAクラスより豪華絢爛な設備を手に入れ、三ヵ月間過ごすことになった僕らは思い思いに満喫していた。まず最初に僕達は壇上に立つハーデスからある物を受け取っていた。

 

『・・・・・FFF団会長、須川亮前へ』

 

「ははー!」

 

ハーデスからSクラス戦の時に特攻隊を命じられた僕らに約束された報酬を一人一人厳かに手渡される。命を懸けるに相応な報酬なれば命を投げ出す覚悟なんてできるからね!

 

『・・・・・約束の報酬だ。受け取るがいい』

 

「ありがたき幸せ!」

 

聖書と金一封に口に出せないアレなゲームが同封されている白い封筒と茶色い封筒を受け取った須川君は、自分の席に戻りながら中身を確認すると狂喜のあまり小躍りをしだした。彼を見てハーデスは約束通りに用意してくれたものだと僕等に期待感を高めてくれた。実際、僕の番が来て受け取った封筒の中身は満足のいくブツが収められていた。

 

『・・・・・次も俺の為に働けば報酬は約束しよう。それが欲するならば次の戦まで点数を稼げ我が死徒達よ。

 お前達の真価は命を散らした後に発揮するのだ。さすれば報酬は約束された理想郷の先にある』

 

『『『『『我が主よ!この命は全て貴方様の為に!!!』』』』』

 

この時を持ってFFF団はハーデスに忠実な下僕となり報酬のためなら命を捧げる兵隊となった!

 

「完全に殆どのクラスメートの心を掌握しやがったな」

 

「ガクトもすっかり犬になっちゃったね」

 

「これでテストに集中していい点数を出してくれるなら御の字だろ。ただ、坂本がこれからも試召戦争をするかは分からないけどな」

 

僕的には目的は達成したけれど大和の言う通り、雄二はどうするんだろ?

 

「ねぇ、雄二。今後も試召戦争をするの?」

 

「あ?三ヵ月間はしねーぞ。Sクラスを打ち破った二人がいる限り好き好んで戦争を吹っ掛けてくるクラスはいないだろうしな」

 

「うん、それもそっか。でも三ヵ月間ってSクラスが試召戦争を申し込みができない期間だよね?雄二、もしかしてだけど」

 

「恨み憎しみを込めて報復という名のリベンジに燃えて、Sクラスが戦争を仕掛けてくるだろうからな。ま、それまで俺らは自由に元Sクラスの教室を満喫してよーぜ」

 

リクライニングチェアに体を預け寛ぐ雄二からはやる気のなさを感じる。もうやることが無くなったように。実際ハーデスと松永さんがSクラスを倒した話で学園中が盛り上がり、同じ学年の同級生達からはFクラスにすごく警戒してて凄くない僕にも奇異的な視線を向けてくるようになった。

 

「そう言えば、Aクラスはもう元に戻ってるんだっけ雄二」

 

「Sクラス戦まで限定的な同盟だったからな。そのSクラスが負けたからにはAクラスも何時までも俺達と同盟の関係を続ける理由は無い筈だ」

 

「・・・・・そんなことない」

 

雄二のを否定したのは、静かに喋るムッツリーニじゃなくて・・・・・何時の間にか元Sクラスの教室に入って来ていたAクラス代表の霧島さんだった。

 

「しょ、翔子?どういうことだ?Sクラスは負けたんだぞ。もう協力することもないだろ。FクラスとAクラスの協定はSクラスを倒すまでの筈だ」

 

「・・・・・雄二はSクラスとの戦争は本当にこれで終わりだと思ってる?卒業するまでSクラスが負けたまま大人しくしていると思う?」

 

「・・・・・」

 

「・・・・・死神と松永を警戒して何か仕掛けてくる。雄二が考えもしなかった、思いつけないようなことを」

 

「二人と無力化すればSクラスの連中が俺達のこと取るに足らん相手と言いたいのか」

 

静かに頷く霧島さんの言い分には僕でも危機感を覚える。多分、凄く目立ち過ぎた二人を全力で対処するために手段を択ばないじゃないかって言われたようにしか聞こえないからだ。

 

「だとしても、上位のクラスから宣戦布告を受けても俺達下位クラスは断ることができる。何せ最弱のFクラスだからな」

 

「・・・・・断れない状況になったらどう断るの?」

 

「何だと?そんなこと―――」

 

「・・・・・雄二にじゃなくて学園長に宣戦布告の申請をすれば、断れることができる下位クラスでも承認されたらいくら雄二の言い分が正論でも意思とは関係なく試召戦争が起こる」

 

―――雄二!?霧島さんの発言で僕はおっかなびっくりの気持ちで雄二の顔を見たら、そんな抜け道の穴があったのか!って信じられないものを見た顔をしていた。

 

「・・・・・実際、雄二達に負けて三ヵ月間も試召戦争を仕掛けれず弱っていた私達はSクラスに宣戦布告された。それだけならまだ納得できるけど負けたら私達は旧校舎に追いやられるところだった」

 

「なんだと?設備のランクダウンがルールの筈だろ・・・いや、翔子の言い分通りならそんな横暴なやりかたも可能にしちまうか。Sクラスの連中は財閥だの業界だの政治の仕事をしている親だらけだ。この学園は試験校のため経営が世論に左右されやすく、イメージの低下を避けるため不祥事は大っぴらにできないという問題点があるから」

 

「・・・・・うん、Sクラスの誰かがあることないこと言いふらしたら学園は困る。だからSクラスの意分も無視できない」

 

事の重大さに気付いて忌々し気に舌打ちをした雄二は、自分よりSクラスのことを重く受け止めている霧島さんの同盟の継続の有無を考え直し始めて・・・決めた。

 

「わかった。お前がそこまで言うならAクラスはこのままFクラスとしてSクラスに対する備えを万全にしていこう」

 

「・・・・・うん、ありがとう。正直ダメかと思った。・・・・・あの手段を実行しなくちゃならなかった」

 

「待て、俺が頑なに断ったらどうする気でいたんだ!?」

 

「・・・・・雄二を説得するために翔花を雄二の家に同棲させていた」

 

あ、心底自分の判断に間違えなかったことに安心してる。

 

「・・・・・ということで、死神を私達のクラスに連れて行く」

 

「それこそ待て!?ハーデスを引き抜くことを許した覚えはないぞ!」

 

「・・・・・違う、同じFクラスだから成績向上の為に生徒の入れ替えをするだけ」

 

あ、ハーデスが決めた勝利の特権を利用しようとしている。勿論それは雄二も了承しちゃったから霧島さんの行動に口出しはできない。だとすると・・・・・。

 

「霧島さん、ハーデスを連れて行くならそっちは誰と入れ替えるの?」

 

「・・・・・ハーデスだけじゃなく松永も連れて行く。こっちは翔花と久保を、Fクラスの成績の向上に頼むつもり」

 

「止めろぉー!?よりによってあいつと入れ替えるんじゃねぇっ!俺の心の平穏の為にぃ!」

 

「うるさいぞ坂本っ!席に就けHRを始める!」

 

鉄人の喝で僕達は席に就く。霧島さんはまた後で来ることを言い残して自分のクラスへと戻っていった。そして鉄人が黒板に何かを張り出した。

 

 

「今日は学園長からの指示で特別授業を行うことになった」

 

前から配られる紙を受け取りながら鉄人の説明に耳を傾け、黒板に張られた特別授業の内容を見た。

 

「二年生三年生の合同による神月学園主催豪華賞品争奪戦オリエンテーリング大会?」

 

クラスの皆の視線は黒板に集まっていて僕はそれを疑問に呟く。

 

「ほー、そんなことをするようだな」

 

「急にどうしてそんな事をするんだろうね」

 

「さーな。ただ、今日の授業は丸潰れだってことだけは分かる」

 

「それは素晴らしいことじゃないか」

 

授業が潰れるなら喜んでしようじゃないか。

 

「豪華賞品って?」

 

「ここに商品が書いてあるだろ」

 

配られた大会の紙の下辺りに指して言った。

 

「が、学食一年分の食券に新作ゲーム引換券!?」

 

「随分と豪華だな」

 

「シークレットアイテムもあるって書いてあるね」

 

豪華賞品が書かれた紙を見て興奮気味に声を出す。

 

「こ、これをどうやって手に入れるの?」

 

尋ねると、雄二が何かの地図を広げた。

 

「これが学園の地図」

 

「ここから探し出すのか。僕、RPGで宝箱探すのは得意なんだぁ」

 

「そしてこれが試験問題だ」

 

「えっ・・・・・!?」

 

僕の目の前にドサリと鉄人が置いた山のように積まれた試験用紙。

 

「この試験の答えがチェックポイントの座標になっていて、そこに隠してあるチケットが賞品の引換券だ」

 

「そ、それじゃテストが解けなければ貰えないじゃないか!」

 

「しかも同じクラスや他のクラスのチームと召喚獣バトルで奪い取ってもいいことになってるな」

 

「何から何まで不利じゃないかぁっ・・・・・」

 

この大会の賞品争奪の内容に戦慄する僕。いや、待てよ?

 

「そうだ、姫路さんとなら―――!」

 

Aクラス候補の姫路さんならテストを簡単に解ける。彼女と一緒ならば!

 

「何気にオリエンテーリングのチーム分けを発表するぞ」

 

と、鉄人が丸めた用紙を黒板に広げてチーム表を覗かせてくれた。

もうチームを決めていたなんてせこいことをっ!

 

「僕のチームは・・・・・雄二とムッツリーニ?姫路さんは島田さんと京のチーム!?」

 

大和はガクトと一子、卓也はその他二人、翔一は秀吉と須川君かぁ・・・・・。

 

「死神と松永の二人はチームとする。制限時間は放課後のチャイムまで。これも授業の一環だ。真面目に取り組むように」

 

鉄人の発した言葉がオリエンテーリングの始まりとなった。

おのれ、鉄人!雄二とムッツリーニじゃ戦力にもならないじゃないか!

 

「明久、言いたいことが分かるから言うぞ。そのままのし付けて返してやる」

 

「・・・・・返す」

 

それは僕のセリフだ!

           

              ―――☆☆☆―――

 

―――燕side

 

 

学園長も面白いことをするもんだね。お宝探しなんて蒼天でもしなかったことだよこれ。ハーデス君はどう思っているのかな?私の隣で手がブレて見えないほど問題用紙を解いている彼を見ていると、プリントに走らせていた鉛筆を持っている手を止めた。

 

『燕』

 

「はい?」

 

『このシークレットアイテムという商品が気になる』

 

景品の覧に書かれてる一つを言う彼に私も改めて見直す。

 

「これですか?私はよくわかりませんけど何でしょうかね」

 

『・・・・・カヲルは技術者としての腕も持っている。予想だが試験召喚システムに関する道具かもしれない』

 

「それを手に入れて実用的だったら蒼天にも導入すると?」

 

『あいつの腕は本物だ。無駄な物は作らないからな。ただ―――不良品だった場合は考えを改める』

 

この学園に来た目的がこんな形で早くも行うことになるなんて、私達の心意を知らない学園長は驚くだろうねぇ。

 

『・・・・・いくぞ』

 

「はーい!まずはどこに?」

 

『・・・・・Aクラス』

 

引換券を求めAクラスへ向かう。中に入れば案の定、私達のように問題用紙を解いて探しに来た同学年の皆がいたんだけどまだ見つけていない、もしくは無いから見つからないかのどっちかだ。

 

『・・・・・次行こう』

 

「探さないんで?」

 

『既に探し尽くされていることを知らずに探してしまう、そのループになりかねない』

 

ああ、確かに。最初の人がしたっていう痕跡がないと同じ事をしてしまうアレだね。ハーデス君はAクラスの中の状況を見てそう決断して次の場所へと向かおうとするからついていく。

 

「ハーデス君、ゲームの方は順調?」

 

『・・・・・ファーマーとして頑張ってる』

 

「え、何でそっち?」

 

次に探す場所は女子トイレだった。私に任せて男子トイレに入る彼と同時に女子トイレに入る。綺麗に掃除され清潔を保ってる共同トイレの中を軽く探しても隠せるような場所は見当たらない、個室便座の中を調べてもないということはタンクの中だけ。

 

・・・・・全部調べてもなかった。

 

トイレを後にするとハーデス君もなかったということで別の場所へ探す。

 

「今度は下駄箱?」

 

『・・・・・そうみたいだ』

 

探すのが大変な場所で探す。ない、ない、ない、ない、ない・・・etc。全ての下駄箱を開け終えてハーデス君と合流する。

 

『・・・・・あった?』

 

「なかった。そっちは?」

 

『・・・・・ない』

 

隠す場所としては王道的な感じだからもう取られた後かもしれない。

 

『次は職員室』

 

「先生はいると思いますけど、そこにも隠されているんですか?

 

『解いた問題用紙と場所を照らすとそこにもあるそうだ』

 

後は本当にあるかどうか、だね。丁度一回にいるから直ぐに向かい、無遠慮に先生が誰もいない職員室に入って探してみる。あるかな、あるといいなー。ということで引き出し、失礼しまーす。ガラ、ガラと引き出しを開けてプリントや教科書、はたまた雑誌やらお菓子などばかり見つけしまうと同時にゴミ箱の中も探してみると、何も入っていないゴミ箱の中に念願のカプセルを発見!

 

「ハーデス君、あった!」

 

『・・・・・中身は?』

 

おっとそうだった。さてさて、中身は何かカプセルを開けて券を見てみると。

 

『西村先生との補習授業』

 

「『・・・・・』」

 

・・・・・誰も欲しがらない物を手に入れてしまった私達の間で静寂の時が過ぎる。

 

『・・・・・放課後のチャイムまで持って居よう。誰かに擦り付ける』

 

「はい、わかりました」

 

と、彼の言葉に従う。これを渡されるまだ知らない人へ、ごめんね!

 

それからの私達は次々と景品があるかもしれない指定された座標ポイントに向かって探し続けた。小一時間経過すると、試召戦争をしている生徒同士の騒ぎがちらほらと聞こえたり見かけたりする。召喚バドルによる奪い合いは許されてるから、私達もハーデス君と勿論その戦争に参加して勝ち取って中身を確認したけど、いらないのだったのかその場で他の人に渡して次へ探す。

 

「いいの?せっかく手に入れたのに」

 

『寧ろ、あの場に居たら放課後まで勝負を吹っ掛けられ続けて他の景品を探す余裕がなくなる』

 

そう言われて後ろに振り返ると、どんな景品か知らないのにそれ欲しさに勝負を仕掛ける生徒と、勝負に応じるしかない生徒がまた試召戦争を始め出した。更に奪い合いをしているところを見かけて駆け付ける生徒が続出する。・・・・・確かに。

 

「景品を見つけたとしても二つか三つだけに?」

 

『そうするべきだ』

 

一つは黒鉄の腕輪だとして他は何がいいかなー。学食一年分とかいいかも。

 

「因みに勝ち取った景品の中身は?」

 

『新作ゲーム』

 

今、ゲーム業界の革命を起こしているVRMMORPGがあるのに新作のゲームって。あ、もしかしてそれなのかもしれない。それだったら手に入れたい気持ちがわかるかも。

 

―――数時間後。

 

念願の物を見つけた矢先、お昼休みの時間となったからハーデス君と屋上で昼食をすることにした。その最中、庭園の花壇の中にカプセルを見つけたのがラッキーでさらに中身は学食一年分の引換券だった。

それからベンチに座り、ハーデス君特製弁当を食べながらのんびりとしていた。警戒して骸骨の仮面の下の半分だけ外して弁当を食べる彼と共有する時間は『旅人さん』を慕う彼等彼女等に対して優越感を覚える。だって、皆が会いたがっている人は直ぐに横にいるんだからね。武神と世界中から畏怖も込めて称されてる川神百代ちゃんですら気付いていない。

 

「ふふっ」

 

「どうした?」

 

「楽しいなーって思ってました」

 

嘘は言っていない。偽りのない本心を笑顔と共に言うと、私の頭に手を置いて撫で始めた。

 

「なら、今のうちに楽しんでおけ。仕事で忙殺されるあまり楽しむ時間がなくなるからな」

 

「王様―――じゃなくてハーデス君もそうだったの?」

 

「大人になれば分かってくるさ」

 

しみじみと言うハーデス君は大人の大変さを物語らせるに十分な経歴を持ち実体験をしている。その実、信じられないことに若々しい姿で年齢が百歳以上、つまり昔の戦争当時から変わらない姿で生きているのだこの人は。だから昔からハーデス君の若さの秘訣は何なのか、蒼天でも謎で包まれている一つ何だよね。

 

「そうなんだ。じゃあ、ハーデス君の傍で経験してみるよ」

 

「・・・・・俺の傍で?」

 

どういうことだ?と風に復唱する彼に意味深で笑みを浮かべた後、残りの弁当のおかずを食べる。

 

 

放課後のチャイムがなり、オリエンテーリング大会は幕を下ろしたことを学園長と二年Aクラスの担任の高橋教諭は話し合い始めた。

 

「終わったようだね。用意した賞品はどれぐらい見つけられたのかい」

 

「はい、報告では主に三年生が試召戦争で勝ち取ったか自力で見つけたようで三分の一の商品を手中に収めております。他は一つを手にした二年の生徒がいれば同じ生徒が複数確保した模様です」

 

「ほー三年相手に負けていないとは感心だね。この機に成績を伸ばす生徒が増えることを願うよ。それで、シークレットアイテムの方は誰が見つけたか分かっているのかい」

 

その問いに高橋教諭は答えた。

 

「ええ、Fクラスの生徒が見つけたようですね」

 

「なるほど・・・・・(あいつ等ではないことを祈るよ)」

 

見つけてほしくない人物を脳裏に過らせたが既に遅く、手に入れてしまったことを学園長はまだ気づいていなかった。

 

 

「これがシークレットアイテムの黒鉄の腕輪かー。外見は凄く立派だけどハーデス君は性能が気になるんだよね?」

 

『・・・・・そうだ。発動キーは起動(アウェインク)か』

 

「何がどうなるか、では早速使って試してみようっか」

 

性能によっては蒼天にも取り入れるつもりでいるハーデスは燕と同時に誰もいない屋上で発した。

 

「『起動(アウェインク)』!」

 

そう言うと腕輪が起動し、二人を中心に特殊な空間が構成して試召戦争時に立会人として召喚獣で戦わせるために展開する同じフィールドが二人を囲んだ。

 

「おー、これは」

 

『・・・・・「試獣召喚(サモン)」』

 

召喚するハーデスに燕も召喚獣を召喚して、自分達の召喚獣を前に感嘆の息を漏らす。

 

「あーなるほど、コレですか。蒼天にもありますね」

 

『・・・・・この学園には無いものとして開発したか』

 

「そうかもしれないね」

 

見慣れたモノであったことに期待していた二人は少し肩を透かした。今思えば蒼天の技術者としてこの蒼天に十年前から派遣したのは他でもないハーデス自身だ。彼女が技術班の一人として開発したことがある物は時間をかければ大抵の物は作れる、と思い返していたら燕の腕輪がスパークを起こした。

 

「へ?わっ!」

 

『なに?』

 

何故かハーデスの腕輪は爆発せず、爆発する黒金の腕輪に巻き込まれた燕は、包まれた煙が晴れると水色の下着が露出してしまうほど制服がボロボロになっていた。

 

「え、えええっ!?何で!?」

 

『・・・・・カヲルめ、この俺に不良品を掴ませやがったな』

 

「というか、王様こっちを見ないでって、あ、先に行こうとしないで!私をこの状態のまま置いていかないで―――きゃっ!?」

 

屋上を後にするハーデスは予備の黒マントを燕に羽織らせてお姫様抱っこで教室まで運び、体操着に着替えてもらうと学園長室へ直行した。

 

「学園長どういうことですか!」

 

「いきなり怒鳴られても分かりはしないよ。説明しな」

 

『なら不良品の事ついて語ろうかカヲル』

 

黒金の腕輪とスケッチブックを見せつけながらドスの利いた声で追求するハーデスを、学園長はサーと顔を青ざめた。

 

『お前の腕を買って、能力も見込んでこの学園に派遣した者として見過ごせない事情がある。総合的点数が低い生徒ではないと不具合が生じる物を作って自分の立場を危うくしてどうしたいんだ?Fクラスの生徒しか使えないものを他の生徒が手に入れて、猛抗議をしにきたその生徒に対する対応は厚顔無恥でいるつもりか?』

 

「そ、それはだね・・・・・」

 

『最先端の技術とシステムを導入してるこの学園は何かと敵が多いことも分かっているだろカヲル?十年も蒼天から離れてしまって以前のような技術の腕が鈍ったなら、もう一度お前の腕を以前のようになるまで蒼天に戻ってもらうぞ』

 

学園長に赤い眼光を煌めかせマスクの中で睨む。すると、学園長が立ち上がってハーデスの前に背中を丸くして土下座をしだした。

 

「もう一度だけ私にチャンスを!次は必ず不具合がない物を開発するから!」

 

必死な懇願に暫く見下ろし続けたハーデス。不穏な空気が漂う場で燕はどうなるか見守るしかできないでいると、不穏の空気を和らげる溜め息が聞こえた。

 

『怪我の功名、次に活かせる失敗なら何も言わない。いいな』

 

「わ、わかっ―――」

 

『ただし』

 

安堵する学園長の言葉を遮り釘を刺す。

 

『また同じことで、学園の生徒を巻き込むような失敗が露見したら、蒼天の王としてお前を懲戒処分を下す。その時は蒼天に戻り一から技術の腕を鍛え直してもらう。これは決定事項だ、異論は認めんぞ』

 

「ま、待ちな!そうしたらこの学園の長の席が空いてしまうじゃないか。一体誰がその空いた席に―――」

 

『代理の者に任せる。それまでは蒼天に出直したお前が技術者としての腕が問題がないと判断されるまで、再びこの学園に戻って管理してもらうことはない。わかったな』

 

「・・・・・分かったよ」

 

項垂れる学園長を「二度目はない」と切り捨て、学園長室を後にする。

 

『やはり、報告書だけ鵜呑みするわけにもいかなくなった』

 

「監視の判断は間違っていませんでしたね。ところであの学園長の代理人って誰にするんですか?」

 

『それはまだ内緒だ』

 



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出遅れた者の進展

一部改稿しました。


VRMMORPG NWOが運営されて3日目。週末明け(月曜日)の学校へ行く前にオリジナルは魔法で分身体である俺を作り、自分の代わりにゲームをして貰う裏技を駆使した。こうでもしないとゴミ拾いクエストが終わらないんだとさ・・・・・。

 

 

というわけで、オリジナルの代わりに俺がログインをして最初に畑に顔を出した。

 

「おはよう、オルト」

 

「ムーム」

 

「おっ、凄いなこれ」

 

畑に着いた俺は、目の前の光景に感動してしまった。昨日までは何もなかった畑に、植物が生えそろっている。

 

「薬草に、毒草、麻痺草と陽命草・・・・・。全部、品質が上がってる。流石だオルト」

 

昨日オリジナルがオルトに渡した時は、確かに品質★1だったはずだ。しかし、今畑に生えている物は、品質が2段も上の★3の物に変わっている。

 

「これが、農業系スキルの効果か? あと、肥料と腐葉土も撒いたしな」

 

 

名称:薬草 

 

レア度:1 品質:★3

 

効果: HPを7回復させる

 

 

名称:毒草 

 

レア度:1 品質:★3

 

効果:使用者に低確率で毒効果

 

 

名称:麻痺草 

 

レア度:1 品質:★3

 

効果:使用者に低確率で麻痺効果。

 

 

名称:陽命草 

 

レア度:1 品質:★3

 

効果:ポーションの素材。満腹度3%回復。

 

 

さらに、食用草と、傷薬草も育っていた。こっちも品質が★3に上がっている。

 

「これ、収穫していいのか?」

 

「ム」

 

オルトが、足元に生えていた薬草をブチッと抜いて渡してくれる。ああ、ただ抜くだけでいいのか。俺もさっそく、毒草を引き抜いてみた。うん、★1の物より大きさも大きいし、色も濃くていかにも毒って感じが増している。

 

この朝の収穫は、薬草×2、毒草×2、麻痺草×2、陽命草×2、傷薬草×5、食用草×5となった。素晴らしい。

 

「あと水はどうなってる?」

 

「ムー」

 

「ふうん。使い終わると、水軽石は割れちゃうのか。でも、見た目は普通の水と変わらないな」

 

水桶には確実に緑マーカーが出ている。俺は木桶ごとインベントリに収納してみた。すると、桶だけがその場に残り、インベントリの中に浄化水というアイテムが10個増えている。成功のようだ。

 

名称:浄化水 

 

レア度:2 品質:★1

 

効果:素材

 

「これでポーションの材料が揃ったんじゃないか? しかも、普通に採取するよりも高品質で」

 

俺以外の人はこの辺で採取できる、★1の薬草と陽命草に、井戸なんかで汲める普通の水で作るんだろうしな。オート作成の指示に従い、★3の薬草と陽命草、浄化水を取り出し、ゴリゴリ調合していく。材料が違うだけで、手順は傷薬と一緒だった。

そして、鉢が光って、ポーションが完成する。初の調合は★1の下級ポーションか。まずまずだな。

 

 

名称:下級ポーション 

 

レア度:1 品質:★3

 

効果:HPを30回復させる。クーリングタイム10分。

 

 

これは良い物だ。ポーションが入っている瓶がどこから来たのかは気になるが。序盤では有用なポーションだろう。さすが、良い品質の素材を使っただけある。

初期装備に入っていた★1下級ポーションよりも、10点も多くHPを回復してくれる。まあ、今の俺の場合、防御極振りだから今のところダメージが食らわないからあまり関係ないんだけどな。

 

『調合スキルがLv2に上がりました』

 

よしよし、順調にレベルアップしてるぜ。さすが★3!にしても、100%成功する代わりに品質が下がるというオート調合でこの品質か。

 

他のレシピもチェックしてみようかな。

 

傷薬、携帯食は、草と水だけで作ることができる。簡単なレシピだった。これもオルトに株分してもらう分を残して、調合しちゃおう。食用草1つで、携帯食が5つ作れる。1つで満腹度が20%回復するので、1日分は賄える計算だ。クソ不味いから、違うのが食べたいけどね。とりあえず10個作っておこう。

 

傷薬草2つに井戸の水で、傷薬も2つ作っておく。傷薬に浄化水は勿体ないからな。だって品質が最低でもほぼ全快だから・・・・・。

 

毒薬、麻痺薬は、それぞれのレシピに毒草、麻痺草が3つずつ必要だった。今は手持ちがない。狩猟薬も、毒草と麻痺草に赤テング茸というキノコが必要で材料不足だ。残る蜜団子も食用草はあってもハチミツがない。

 

「まだまだ材料が足りないか。探すしかないな」

 

それに問題もある。スキルレベルを上げても、基礎レベルが上がらないと、ステータスが上昇しない。それではいつまでも強くはなれないのだ。生産で得られる経験値はあまり多くないらしいし、できれば生産以外でも経験値を稼ぎたいところだ。

 

「・・・・・ゴミ拾いクエスト、さっさと終わらせなきゃ。まあ、今はとりあえず種まきだな」

 

俺は薬草をオルトに渡して株分けしてもらった。株分けをすると品質が下がってしまうのは分かっているが、★3を渡したらどうなるのか? もし品質が1段しか下がらず、2の種になったら? 作物の品質は1日で2つ上がる訳だから、繰り返せば8日後には★10の薬草が作れてしまうのでは?

 

「ビンゴ! まじでか!」

 

オルトの創り出した種は、★2だった。これは畑で採れた作物を植えるしかないじゃないか。

 

俺は残っている収穫物から、薬草×1、毒草×2、麻痺草×2、陽命草×1、傷薬草×3、食用草×1を株分けしてもらい、畑に種を撒いた。明日が楽しみだな。暫くは調合に回さないで、素材の品質を上げることに専念しよう。

 

 

畑で作業をすることもなくなったオルトと始まりの町を徘徊する。その際、南方の外れの方、農業地区にも向かった。ここは、俺以外にも純粋なファーマー系のプレイヤーが畑を買って、実際に栽培を行うが、今のところファーマー系のプレイヤーはいるにはいるも、数も作物も片手で数えるぐらいで少ない。畑の真ん中には、そこそこ大きな建物が立っていた。畑を管理している建物の中にいるNPCと話し、畑を購入する必要がある。オリジナルがお世話になっておりますお姉さん。

 

「ん?ここにもゴミあったか」

 

畑ある場所にないと思われたゴミを発見。拾ってさらに探索してみると、何故か販売機が畑の前に設置されていた。ファンタジーRPGなのに近代の機器がどうしてあるんだ運営よ・・・・・。しかし物は試しにと購入してみるか。無難なのは野菜ジュースだろうな。というかそれしかないので全部買い占めて飲んでみたら、満腹度がちょっと増えて味は野菜の甘味や苦みなどが混じって普通に美味しい野菜ジュースらしい飲み物だった。延々とロボットのように作業をするゴミ拾い中の気分を変えるのに丁度いいな。他の販売機はどうだ?行ってみよっと。

 

 

「あれ?完売してる!誰だろう、嬉しいな」

 

農業地区からハーデス(分身体)がいなくなった後。畑の主が戻ってきたら売れるとは思わず、半ば放置していた自分の商品の完売に心がほんわかと温かくなった。

 

 

草根を分けてでも探す根気でゲーム内で数時間が過ぎた。宿屋で部屋を借りて一瞬で眠り、一瞬で目を覚ますリフレッシュって何?って眠った感覚がない起床からゴミ拾いを開始した。昨日買った野菜ジュースで満腹度を増やしつつゴミを集めていた時、少し減った満腹度を増やそうと野菜ジュースを飲もうとした時だった。

 

「おにーちゃんおにーちゃん」

 

足元から幼い声が聞こえる。誰だ?と視線を落とすと小さな男の子と女の子が純粋無垢な眼差しで見上げてくる。はてNPCの子供だけど、NPCが自分から話しかけてくるのか?

 

「どうした?」

 

「それジュース?」

 

「野菜ジュースだ。野菜は好きか?」

 

「うん、大好き!ボク、トマトが大好き!」

 

「僕も!」

 

ボクっ子幼女・・・・・。いや、どうでもいいなうん。

 

「じゃあ、トマトジュースをあげようか」

 

「くれるの?ありがとう!」

 

「ありがとうございます!」

 

丁度残り二つだけだったからタイミングよかったな子供達。渡すと美味しそうに飲んでプハッと飲み干した。

 

「美味しい!」

 

「それはよかった。じゃあな」

 

「あ、待っておにーちゃん。おじいちゃんの手伝いをしてるの?」

 

「おじいちゃんの手伝い?」

 

「この町を毎日綺麗にしてるおじいちゃんだよ。そのかご、おじいちゃんのだから」

 

あの老人の孫か?関係は分からないけど取り敢えず嘘じゃないから頷く。子供達は俺の手を引っ張ってどこかへと連れて行こうとする。

 

「だったら、僕達も手伝うよ!」

 

「ボク達も精霊様に会いたい!」

 

精霊の話を聞かされていたのか、目を輝かせて言ってくる。大丈夫か?と考えながらも幼い子供達の純粋な想いに負けて一緒にゴミ拾いをすることにした。気分転換になるジュースを飲みながらするはずの作業が、子供達の賑やかな言動に振り回される保護者な気分も足して、心なしか俺も笑いそうになりつつゴミを集める。

 

そしてどうしてか俺よりも子供達の方がゴミを見つけやすくなるという不思議現象が起きる。小さい視点だからか?謎だ。オルトも負けじと一生懸命探す姿に・・・・・ホッコリ。

 

その他にも子供達が緩衝材にも担っているのか、大人のNPC達と挨拶をしながら「おじいちゃんのゴミ拾いを手伝ってるおにーちゃんのお手伝いをしてる!」と言うので彼等彼女等は微笑まし気に俺に話しかけてくるのだ。

 

「そう言えばもう時期、精霊様が降臨なされる、とかだったわよね?」

 

「本当にいるのかしら?見たことが無いわ」

 

「町を綺麗にしてくれることは感謝してるが、この町を守護してくれる精霊なんてちょっと信じられないなぁ」

 

「爺さん婆さんの作り話だと俺は思ってるぜ」

 

精霊の話を聞いているとあの老人の言う通り、精霊の存在はあまり信用していないかされていない。話を聞かされているけれど空想上の作り話だと思わられているぐらいだ。それに対して子供達は猛抗議する。

 

「いるよ!絶対に!」

 

「いるー!」

 

大人のNPC達から「あまり子供達の言葉に真に受けるな」的な風に言葉を残されながらゴミ拾いを続ける。

 

「おにーちゃん、おにーちゃんも精霊様、いないと思ってる?」

 

「・・・・・」

 

不安そうに尋ねてくる子供達の純粋さを守りたい気持ちで答えた。

 

「いるもいないも、姿が見えなくても精霊様がいるこの町を見守ってくれているはずだ。だから、精霊様が怖いモンスターから守ってくれてありがとうって感謝しながら生きるのが大切だ」

 

「ありがとうってかんしゃを込めて?」

 

「ああ、感謝を込めてだ」

 

「わかった、僕、大人になっても毎日ありがとうって精霊様にかんしゃする!」

 

男の子がそう決意を秘めた言葉を言えば女の子も力強く同感だと頷く。

 

「よし、じゃあゴミを100個までもう少しだ。頑張ろう」

 

「ムー!」

 

「「おー!」」

 

意気揚々と子供達はさらに熱心にゴミを見つけ出してくれて、負けじと俺も見つけては子供達に食事を奢って探すことでオリジナルが帰ってくるまで続けた。

 

 

平日では分身体にゲームをして貰ってから、リアルで早くも7日目が経過した。その途中、不思議なことに称号とスキルを手に入れてしまった。最初にそれは4日前のことだ。

 

「・・・・・なんだこれ?」

 

なんか謎の草が生えていた。どうやら1マスだけ空いていたスペースにオルトが植えたらしい。

 

「・・・・・雑草?」

 

それはどう鑑定して見ても雑草としか表示されなかった。いやいや、何だこれ。花が付いているわけでもなく、バジルに似た緑の草が生えている。

 

「うーん。いったい何なんだろうな? 農耕スキルのレベル上げのために適当にそこら辺の草を植えてるだけなのか?」

 

品質が10という最高品質なのだが、雑草だしな。効果も何もないから、品質なんか何の意味もないし。扱いとしては石ころとかそういうのと同じカテゴリーなんだろう。

それにしても、見れば見る程バジルだな。というか、これってバジルじゃないか? そう思ったらバジルにしか見えなくなってきたぞ。

 

「ふむ」

 

俺は雑草を摘んで、口に含んでみた。毒があっても、これだけで死んだりはしないだろう。ゆっくりと咀嚼してみる。すると、俺は驚きのあまり一瞬固まってしまった。

 

「バジルじゃんこれ」

 

この雑草、味が完璧にバジルだったのだ。バジルは昔プランター栽培をしていたことがあるので間違いない。フレッシュバジルその物だ。俺は信じられないと手の中にある雑草を見つめる。

 

「バジル?どうして?雑草なのに?」

 

俺はそのまま畑の外に生える雑草を引き抜いてみた。見た目はオオイヌノフグリ的な感じだ。それをそのまま齧ってみるが・・・・・。

 

「まっずっ」

 

雑草だった。青臭いし苦いし舌がピリピリするし、とても食えた物じゃない。データとしては全く同じアイテムなのに。何でだ?

 

『アイテム、雑草を栽培、収穫しました。条件を達成し、スキルが【植物知識】を取得しました』

 

首を捻っていたら、何やらアナウンスが響いた。どうやら、オルトが雑草を育てたおかげで何かの条件を達成できたらしい。スキル一覧に目を通す。すると、解放されて24時間以内の証である★マークの付いたスキルが1つあった。

 

「植物知識?」

 

説明を見ても、この世界の植物についての知識としか書いていない。ただ、ここまでの流れで雑草を見分けるためのスキルなんだろうという事は想像できる。

 

「取得するためには必要ポイントが2か」

 

説明を見ても、全ての植物の詳細が表示されるとしか書いていない。ただ、ここまでの流れで雑草を見分けるためのスキルなんだろうという事は想像できる。よし、残してあるポイントを使うか。ポチポチとスキル【植物知識】を取得した瞬間に直ぐに結果が出た。おお、雑草が雑草じゃなくなったぞ。

 

 

名称:バジル

 

レア度:1 品質:★10

 

効果:なし。食用可能。

 

 

名前が分かるようになった。効果もなしだけだったのが、食用可能の文字が追加されている。本当にバジルだったな。興奮しつつ他の雑草も鑑定してみると、それぞれの雑草にきちんと名前があった。品質についてはほとんどが品質:6以上だな。バジルも生えていた。オルトがバジルの種をどこで手に入れたのか疑問だったが、始まりの町だったらそこらへんに生えているらしい。

 

さらに鑑定をしまくっていると、面白い雑草を見つけた。

 

名称:チューリップ

 

レア度:1 品質:7

 

効果:なし。観賞用。

 

観賞用の文字だ。まあ、見た目きれいだし。もしかして売ったりできるんだろうか? プレイヤーには見向きもされないかもしれないが、NPCに売れるのか? チューリップも育ててみるか? 俺は取りあえずアルトにチューリップを渡してみた。すると、アルトは花を俺に返し、球根を株分した。すると球根が2つに増える。株分け可能なようだった。

 

にしても効果がなければチューリップでも雑草扱いなのか。だが、味や香りがあるなら、料理などに利用できるかもしれない。チューリップなら花瓶に差して観賞するとか? これは調べる価値があるだろう。

 

「余裕があったら雑草も育ててみるか。とりあえず品質上げの試行錯誤とバジルとチューリップだ。農業ギルドのクエストの納品とギルドレベルもして・・・・・やることが多すぎるなぁ・・・・・・」

 

ピッポーン

 

久々に聴く2回目のアナウンスだった。ん?なんだ?

 

『おめでとうございます』

 

おお? なんか祝福された。また良い知らせか?

 

『初ログイン時から、一切の殺生を行わなかった死神ハーデスさんに、称号『不殺の冒険者』が授与されます』

 

「まじで? 称号だって?また新称号ゲットだな。しかし、不殺と書いてコロサズね」

 

頬に十字傷のある侍みたいな称号だな。しかし、どういう条件で称号を獲得できたんだ? アナウンスの言葉から考えると、ログインしてから何も殺してないっていうことが条件みたいだが・・・・・。どうしてこのタイミングなんだ?

 

初ログインから数えて、ログインしてるゲーム内時間の総計が96時間内で、モンスターや動物を殺さないことが、『不殺の冒険者』の獲得条件なのだろうかね。好きで殺しをしなかった訳じゃないんだけどな。思わぬ幸運だった。よし、詳しい情報を見てみよう。

 

称号:不殺の冒険者

 

効果:賞金3000G獲得。ステータスポイント4点獲得。スキル 手加減を獲得。

 

手加減:次に繰り出す攻撃、スキル、魔法、アイテムで、敵のHPを0にしない。

 

 

割といいスキルだなこれ。ジョブはテイマーだしテイムしやすくなるだろこの『不殺』のスキルは。あ、所持金10000G・・・・・。あのグレードが買えるじゃん!

 

「オルト、10000Gの畑が買えるぞ。―――金が無一文になるけどな!!」

 

「ムー!」

 

買ってください、お願いしますというオルトの懇願に足りなかった分はお手伝いクエストをして補い、辛うじて目標金額に達成したら念願の10000Gの畑を購入したのであった。

 

それから2日前―――。彷徨いながら町中歩いてどこを探しても、あと5つが見つからない時だった。面白い店を見つけたのだ。

 

「あの、ここって昨日もありました?」

 

「そりゃあ勿論だ! 創業から20年。一日も休んだことはねーよ!」

 

それは中央広場から東区へと延びる大通りから、一歩入った路地にあった。この通りは何度か通っているし、絶対にこんな店なかったはずなんだが。

それは色とりどりの花を売る花屋だった。一本から買う事が可能で、ブーケや花束なども売っている。俺は興味津々で店の中を覗いてみた。

 

「おおー凄いな」

 

花屋には切り花だけではなく、鉢植えやドライフラワー、さらにはポプリや押し花などの加工品まで置いてあった。とにかく花全般を売っているらしい。店先の花をいくつか鑑定してみる。

 

 

名称:コスモス

 

レア度:1 品質:★7

 

効果:なし。観賞用。

 

 

これ以外にもサルビアやカーネーションが売られているが、名前の表記以外はすべて同じだった。だが、分かったぞ。多分、この店を発見できたのは植物知識のおかげだ。このスキルが無ければ雑草を売っているだけの店だからな、入る事さえ出来ないんだろう。まさかこんな店があるなんて。次はポプリを鑑定してみる。

 

 

名称:ポプリ(ラーベンダ)

 

レア度:1 品質:★5

 

効果:なし。小物。

 

 

小物ってカテゴリーがあるのか。軽く嗅いでみると、ラベンダーの匂いがする。目に見えた効果はなくても、これは面白そうだ。

それに、ハーブ系の匂いを利用できるなら、調合や錬金に雑草を利用することもできるかもしれない。これはぜひ他の小物も見てみなくては。

 

「何か生産のヒントになるものがあるかもしれないし」

 

俺は発見した花屋を見て回っていた。

店には10種類近い花と、それを使った小物などが置いてある。

 

「これは押し花か? しかも栞に加工してある」

 

 

名称:押し花の栞・コスモス

 

レア度:1 品質:★4

 

効果:なし。小物。

 

 

ポプリと違って香りもないし、本当に観賞用だな。一応栞になってるけど、本なんかないから使い道ないし。

 

「いや、本当にないか?」

 

他のゲームだと、図書館に行って本を読まないとレシピやスキルが手に入らないという設定がある場合もあるが、このゲームに図書館はない――と思ってたんだが。この栞を見たらもしかしてと思ってしまうな。

 

始まりの町に無いだけで、先に進むとあるんだろうか? でも言語系のスキルはないんだよな。俺が取得条件を満たしてないだけなんだろうか。

 

「とりあえずポプリと栞は1つずつ買っておこうかな」

 

合わせて300Gだし、安い物だ。一応、使い道が無いか店の人に聞いておこう。

 

「すみません。これって、効果なしとはどうしてですかね?」

 

俺の言葉を聞いて、店の人は俺を見て納得した風な顔で頷いた。

 

「ああ、お前さん異界の冒険者か? そういえば異界の冒険者は全員が鑑定スキルを持ってるんだったな」

 

「そうなんですよ」

 

「効果と言われてもな。見て心が和むとか、人に贈ると喜ばれるとか、そんな感じだな」

 

本当に普通の花や小物扱いらしい。

 

「じゃあ、逆に花を買ったりもしてくれるんですか?」

 

「ああ? お前さん、花を育ててるのか?」

 

「今はチューリップを少しだけですけど」

 

「この町じゃチューリップは人気がねーんだよな。一応、1本10Gで買い取ってるが」

 

安い。メチャクチャ安いぞ。これだったら料理に使える可能性があるバジルルを栽培する方がいい。

 

「なあ、花を育ててるんなら、これを栽培できないか?」

 

「ん?これは・・・・・」

 

「ワイルドストロベリーの種だ」

 

「え? イチゴ?」

 

「イチゴの野生種だな。味は全然良くないが、香りがいいからお茶に入れたりするんだ。うちはハーブは取り扱ってないが、これだけは俺が好きで仕入れてたんだ。だが採取してた婆さんが病気で引退しちまってな。栽培してくれたら20Gで買うぜ」

 

「ご自分では栽培しないんですか? 難しいとか?」

 

「いや、農耕持ちなら簡単だぞ。ただ、野菜よりも優先する奴がいないってだけで。おれが育てないのは単純にスキルが無いからだ。で、どうだい?」

 

 

納品クエスト

 

内容:ワイルドストロベリーを栽培し、その実を10個納品する

 

報酬:200G、ミントの種

 

期限:なし

 

 

安い。言葉通り1つ20Gでの納品だ。だが、俺は受けることにした。そもそもギルドを通さないクエストなんて初めて見たし。住人からのお願いなら受けておいた方が良さそうな気もする。

 

それに報酬のミントの種も気になった。多分効果はないのだろうが、新たなハーブだしね。バジルとミントがあったら、色々幅も広がりそうだ。

 

「受けます」

 

「そうか! よろしく頼むぜ!」

 

こうして俺は、ワイルドストロベリーの種を5つ手に入れてオルトにクエスト用の種を渡してゴミ拾い活動を再開。最終日に100個のゴミ集めがクエスト達成条件を達成する。時間は結構ギリギリだ。あと10分もせずに、日は完全に落ちるだろう。

 

「ひゃっこめのゴミ見つけたね!」

 

「これで町がまた綺麗になったね!」

 

「二人のがんばりがあって助かったよ。ありがとう」

 

「「えへへー」」

 

頭を撫でられて嬉しそうに笑う子供達。そう言えば名前を聞いていないな。そう思い改めて名前を聞こうとしたら、1週間ぶりに会う老人が大通りの向こうから歩いてきた。

 

「おお、若いの。儂の孫達と集めてくれたようじゃな。迷惑を掛けんかったかの」

 

「親族だったのか。迷惑どころか一人で集めるつもりが、何だか手伝わせて申し訳ない思いだよ」

 

「いやいや、儂の代わりに相手をしてもらっただけでもありがたい。この子達に簡単でもまだ幼い子供じゃ、怪我をさせたくなかったからのぉ」

 

話し合いながら背負子を下ろして老人に100個のゴミを確認してもらう。

 

「ふむ、これぐらい集めれば町も綺麗になったじゃろう。精霊様もきっと喜んでくださる筈じゃ」

 

「精霊様会える?」

 

「おじいちゃん、精霊様会える?」

 

「うむ、きっと会えるとも。儂も会って見たくて仕方がないのじゃ。何せ100年に一度―――」

 

辺りが暗くなった。日が完全に落ちたからだ。太陽の代わりに町はともる街灯で明かりを確保していき、食らい町中でも歩きやすくなった。しかし、それ以上の光量が広場から発せられた。何事だと思っていると、老人が俺に伝えてきた。

 

「すまぬ若いの。一足早く儂は広場に行くぞ!」

 

「え?」

 

あの足が悪かったんじゃないの?と俺が呆けるぐらい老人が陸上選手顔負けの速さで走っていった。老人、あんた何者?子供達も精霊様に会えると俺の手を引っ張って広場へと向かおうとする。

 

広場ではプレイヤーもNPCも関係なく大勢の人間が眩い光を放つ巨大樹の前に集い見上げていた。何かのイベントの前触れかと佇んで見つめているとカッ!と閃光が一点から迸り、次に光とともに姿を現す絶世の美女。ウェーブが掛かった緑色のロングストレートヘア、透明感が高い淡い黄緑色のドレスで身に包み身長は150cmほどの女性が空中に浮きながら最初に微笑んだ。

 

『初めまして。私はこの町を守護する大樹の精霊です』

 

NPC達がざわめきだす。神秘的な登場をした精霊に驚きを隠せれない俺達プレイヤーも唖然としていた。

 

『この度は、異界から来訪せし者達が現れて丁度一週間となりました。この町を守護する者として皆さんの行動をずっと見守っておりました。その中で町に貢献した者に贈り物を授けようと100年の一度の眠りから目を覚ましたのです』

 

町に貢献した者ね。ま、ゴミ拾い程度で貢献度は高くはないだろ―――と思っていたら、大樹の精霊が夜天にむかって手を掲げたかと思えば、手の平に浮かぶ球体が複数散らばるように弾け飛び、その一つが俺の胸に飛んできた。

 

「・・・・・卵?」

 

「ムー?」

 

何故精霊から卵を貰うことになったんだ?他にも貰った人は何だったんだ?と素朴な疑問を抱いていると頭の中で音声が流れた。

 

『おめでとうございます。大樹の精霊から報酬としてモンスターの卵をプレゼントされました。卵をテイムしますか?』

 

色々尽きない疑問の中でテイムをすることにした。

 

『卵を【テイム】しました』

 

「え、これで?あ、精霊が消えていく」

 

何か話をしていたかもしれないが聞き逃した俺はもう一度訊き返すことも知る術もない。一体何だったんだろうと首をかしげる。周囲の奇異な視線を一身に浴びて。

 

「おにーちゃんおにーちゃん!」

 

「精霊様、本当にいた!いたよ!」

 

そんな視線に気にならないほど興奮を覚えている子供達がピョンピョン飛び跳ねて喜んでいた。

 

「これで大人達も信じるようになるな。良かったな」

 

「うん、おにーちゃんも信じてくれてありがとう!」

 

「お礼にこれ、あげる!」

 

笑顔を浮かべる女の子から手渡された用途不明の黒い鍵。

 

「この間、おじいちゃんの手伝いを内緒でしていた時に見つけたんだ」

 

「どこに開けるのか分からないけど、きっとおにーちゃんが喜ぶかも!」

 

最後に「精霊様に会わせてくれてありがとう!」と言葉を残して人混みに紛れて去ってしまった。急に一人ぼっちになって何とも言えないこの虚空は、やはり寂しいものだなぁ・・・・・。

 

 

【運営】

 

 

「開始してから一ヵ月も経たずにあのイベと発生させるとはな」

 

「始まりの町に住む総計NPC十人以上のお助けクエストをしないと発生しないからな」

 

「さらに発動キーはゴミ拾いだ。普通のプレイヤーだったら誰もやろうとはしないだろ。リアルで一週間も町から出られず縛られる上、実入りが全くない善意でやらなきゃこんなに早く精霊イベントは発生しなかった」

 

「精霊から享けた卵の中身は?」

 

「ランダムだ。どんなスキルを持ってるのかもランダムで決まって、管理している俺達にもわからん」

 

「完全に博打だな」

 

 

 

精霊から卵を貰い子供達と別れ、今は夜ということもあって一応人目を気にしつつ、コソコソと水路に降りる。そして、できるだけ水音をたてないように、橋の下に入り込んだ。卵を抱えたままで。

 

「夜だと全然見えないな。えーと、確かこの辺のはずだよな」

 

俺の中でこの鍵が使えそうな場所は一つだけ。なので物は試しにと思い実行する。ただ、鍵穴は全然見えないな。手探りで鍵穴を探して、鍵を突っ込んでみる。

 

ガチャカチャ。

 

「んーやっぱりダメか?」

 

カチャ――ガチャン。

 

「開いたか」

 

呆気にとられる俺の前で、扉がギィーッという音とともに、ゆっくりと開いた。

 

「あーランタンが欲しい」

 

夜に来たことをちょっと後悔した。超絶不気味だったのだ。幽霊でもでそうな雰囲気である。奈落の底のように扉の奥は暗すぎるんだ。

 

「ま、行ってみるか」

 

町の地下にモンスターがいる筈もないだろうと高を括り中に侵入する。扉の向こうは下りの階段になっていた。俺はゆっくりと足を踏み入れる。壁には等間隔でランプのようなものが壁に備え付けられており、何とか見渡すことができる。

 

どれほど下っただろうか。長く感じるし短く感じる階段のその先は小部屋になっていた。

 

「まだ先があるか」

 

先に進んでみると、通路が二股に分かれていた。どっちに行くか。とりあえず右に行ってみよう。暫く続く長い通路を進むと、先には扉があった。とりあえず開けてみると、ほとんど抵抗もなくスッと開いてしまった。

 

「何があるか、何が出るのか・・・・・」

 

入る前にそっと覗いて中をチェックする。そこは妙な部屋だった。まず目に入るのは、巨大な根っこだ。1本1本がドラム缶くらいの太さがある木の根が絡み合い、部屋の半分ほどを覆っている。そして、その根に囲まれるようにして、祭壇のようなものが鎮座していた。

 

「ボスはいないみたいだな」

 

警戒して、足を踏み入れる。入ってみると分かるが、そこは清々しい空気が満ちていて、とてもモンスターが出てくるような雰囲気ではなかった。

 

「この祭壇は何だろうな?」

 

イベント臭がプンプンだ。

 

「このデカイ根は、上の水臨大樹の根だと思うんだよな」

 

「その通りです」

 

「誰だ?」

 

「ここです、冒険者よ」

 

俺の呼びかけに応えたのは、祭壇からフワッと浮かび上がった、光に包まれた美女だった。というか精霊様だった。

 

「精霊様か?」

 

「はい、わたしは大樹の精霊です。先ほどぶりですね」

 

しかも覚えられていた。俺は軽い興奮を覚え、思わずスクショを撮った。そうだ、動画も撮っておこう。こっちが動画を撮っていることはNPCには伝わらないっていう話だったが、本当らしい。精霊様には特に変化はなかった。

 

「勝手に入り込んでよかったか?」

 

「良いのです。昔は、誰でもこの祭壇にやってきて、供え物を置いていったものです」

 

「へえ、そうなんだ」

 

「その代りに私は祝福を与え、互いに必要としあう良い関係が続いていました」

 

懐かしそうに語る精霊。しかし、直ぐに悲しげな顔になってしまった。

 

「しかし、その昔私を害そうとした愚か者がいたため、私はこの町の人々に頼み、扉を付けてもらったのです。入る者を制限するために」

 

「え、じゃあ、俺が入ったのは?」

 

「自らの力で鍵を手に入れ、辿り着いた者であれば問題ありません。鍵は邪悪な者には触れることもできないようになっていますから」

 

「え、これってそんな凄い鍵だったんだ」

 

「魔導の力によって生み出された物だそうです。あの扉も、同様に魔法の力が込められています」

 

そういう設定か。知らなかったとは子供達、グッジョブ。

 

「御供え物をしたら、祝福を授けてもらえるのか?」

 

「はい、供え物によって、与える祝福は違いますが」

 

どうしよう、精霊の祝福気になる。ただ、ろくなものを持ってないんだよな。

 

「あ、そうだ御供え物って、毎日できる?」

 

「私は毎週『木の日』にだけ、降臨することができます」

 

なるほど、木の精霊だけに、木の日にだけ現れるのか。リアルの今日は木曜日。つまり木の日となっている。いや、俺ってばラッキーだったな。

 

「そして、一度祝福を与えられたら、8週後までは祝福を得ることはできません」

 

「そうですか」

 

 それじゃあ、実験で変な物を供えてみるとかも無理じゃないか。一度戻って、何か御供え物になりそうなものを手に入れてくる時間はない。

 

「何かなかったっけ、えーと・・・」

 

何をもって良い供え物とするのか。そもそも木の精霊が貰って喜ぶものって何だろう。

 

しばらく考えて、思い出した。そうだ、アレあるじゃないか。これなら、木の精霊も満足してくれるんじゃないだろうか?でもなぁ・・・・・。・・・・・うーん・・・・・気になるしやむを得ない。

 

「これとか、お供えできる?」

 

卵を抱えていた片方の手で黄金の林檎を選んでお供えする。

 

「これは良い物です。あなたのお心遣いに感謝を。代わりに、祝福を授けましょう。これをお持ちなさい」

 

俺の思っていた祝福と違った。スキルとか、ステータスアップとか、あわよくば称号とか期待してたのに。アイテムだった。その名前は―――。

 

 

名称:巨大樹の苗

 

名前はこれだけ、詳細はこれだけ・・・・・もっと詳しく!

 

 

「ありがとうございます」

 

「あなたに幸運がありますように」

 

《水臨大樹の精霊の祭壇が特殊解放されました。最初に到達したプレイヤーに、称号『大樹の精霊の加護』が授与されます》

 

『また死神ハーデスさんにはボーナスとして、火結晶、水結晶、土結晶、風結晶を贈呈します』

 

いや、称号も貰えたわ。しかもユニーク称号。さらにレアっぽいアイテムも! ありがとうございます精霊様!

 

称号:大樹の精霊の加護

 

効果:賞金5000G獲得。ボーナスポイント4点獲得。樹木系、精霊系モンスターとの戦闘の際に与ダメージ上昇、被ダメージ減少。さらに大樹の精霊の好感度が一定値満たしましたのでスキル【幸運】を取得する。

 

本当に幸運があったよ精霊さーん!

でもってえっと【幸運】はなんだ?『全ての確率が上方修正される』・・・?

つまり成功しやすさと失敗しにくいのが増えたり減ったりするってことか?

これ、生産職のプレイヤー向けなんじゃないか?あ、満足そうな顔で消えていった。もう少し聞きたいことあったんだけど。まぁ、いなくなってしまったならしょうがない。地上へ戻ろう。あ、その前にここに来る前にもう一つの道にも行ってみよ。

 

「・・・・・なんだアレ」

 

精霊の祭壇に続く同じ扉をもう一つ見つけて軽く開いて隙間から覗いて述べた感想だった。

何でだって?そりゃあ・・・・・。

 

「ふふ、100年振りの久しぶりのお供え物は黄金の林檎なんて嬉しいです♪私、これが大好物なんですよねぇ。んー、美味しい!早く次の8週にならないですかねー」

 

後ろ姿ではあるが間違いなく精霊が卓袱台の前に腰を落としてシャクシャクとお供えした林檎を食べていた。よく見れば卓袱台は炬燵であり、周囲を見回すと人間が住んでいるような生活空間を作っている家具や本も壁際に置かれていて、ここで暮らしているのだと窺わせる精霊の姿を見た俺は、そっと静かに扉を閉めた時だった。

 

『おめでとうございます。初ログインからモンスターを倒さずレベルも1のまま一週間プレイした死神ハーデス様に称号と報酬をプレゼントいたします』

 

・・・・・・微妙に嬉しくないんだが。まぁ、貰えるものは貰おうか。今度はどんな称号と効果なんだろうな?

 

称号:出遅れた者。

 

取得条件 一週間レベル1の状態で始まりの町を過ごす。

     

 

効果 レベルアップ時のステータスポイント取得量が3倍。

 

運営からの報酬:賞金10000G(ガンバレー!by運営♪)経験値 スキル熟練度UPスクロール×3

 

 

ブチ切れていいかな。握り拳を作って運営に対する怒りを覚え。

 

《運営からのお知らせです》

 

そう思っていたらアナウンスが流れだした。

 

《正式サービス開始から、ゲーム内で1週間が経過いたしました。沢山のプレイヤーの皆様に、ログインしていただき、ありがとうございました》

 

運営からのお知らせだった。同時にメールも届いている。内容はモニタと同じ映像データだ。

 

《特に積極的に行動をしてくれたプレイヤーを対象に、特別報酬が授与されます》

 

 へー。そんなこと告知されてなかったと思うけど。シークレットイベントってことか。面白いな。まあ、俺には関係ないか。どうせβテスターがもらうことになるだろうし。

 

《まずは、総移動距離の最も多かったプレイヤーに「冒険者」の称号が送られます》

 

外へ出て水路の梯子に登って町に戻ると、周囲のプレイヤー達のおおーというため息が広場全体から漏れた。称号とは、特定のクエストや、行動を行ったものに与えられるもので、取得には結構苦労するらしい。大抵の称号にはスキルやステータス上昇などの特典があり、序盤で称号をもらえるとなると結構な大盤振る舞いだ。・・・・・既に俺は持ってるけどな。

 

しかもこれはシークレットイベントでもらえる、かなりレアな称号。下手したら今後同じ称号はもらうことができないユニーク称号になる可能性も高い。そのため、誰もが興奮の面持ちでモニタを見つめている。

 

《対象者の総移動距離、51.6Km。獲得者の特徴を取って、『紫髪の冒険者』の称号が授与されます》

 

50kmか。多いのかどうか、いまいち分からんな。周辺のプレイヤーのささやきを盗み聞いたところ、騎乗系スキルを持ったプレイヤーに違いないという事だった。なるほどね。

 

《次に、総獲得アイテム数の多かったプレイヤーに「探索者」の称号が送られます》

 

移動距離に、獲得アイテム数か。どっちも俺には関係ない。

 

《対象者の取得アイテム数は91。獲得者の特徴を取って、『紅玉の探索者』の称号が授与されます》

 

髪が赤いのかな? まあ、序盤でこれだけ活躍してればその内有名になるだろうし、その時判明するか。

 

《最後に称号の獲得が多かったプレイヤーに「先駆者」の称号が送られます》

 

称号の獲得?

 

《対象者の獲得数は4。獲得者の特徴を取って、『白銀の先駆者』の称号が授与されます》

 

ピッポーン

 

『称号「白銀の先駆者」を獲得しました』

 

シロガネノセンクシャ? はい俺でした。称号を確認してみる。新たに称号という欄がステータスに追加されていた。

 

 

 

称号:白銀の先駆者

 

効果:賞金4000G獲得。ステータスポイント2点獲得。スキル 逃げ足を取得しました。

 

 

逃げ足・・・・・?

 

【逃げ足】 モンスターまたはプレイヤーから逃走時が成功しやすくなる。

 

 

溜息が出た。・・・・・・これAGIがないとダメな奴じゃん。

 

「・・・・・あ、賞金貰えたし苗も貰ったし。これ高級肥料を買ってオルトに植えてもらおう」

 

勿論うちのオルトは俺の腕の中に納まっているその2つを見て大喜びしたのは言うまでもなかった。

 

 

 

 

 

 

―――翌日。学校から戻り燕と夕餉を過ごしながら談笑、入浴後はNWOを起動してゲームの世界に飛び込むと直ぐにレベル上げに精を出した。森に入り【挑発】で誘き寄せた周囲のモンスター達を見まわして悪い笑みを浮かべた。

 

「じゃあ、早速俺の為に糧となってもらおうか?」

 

ビクッ!とモンスター達が怯えた気がしたのはきっと気のせいだと思う。攻撃力が低い短刀や盾を使って苦労しながらもモンスター達を蹂躙した。全てのモンスターを倒し終えるといつの間にか、数多のモンスターのドロップアイテムや装飾品の銀色の指輪、様々な物がドロップしていたことに気づくと同時にレベルアップの報せとまたスキルが増えたのだった。

 

『レベルが11に上がりました』

 

 

フォレストクインビーの指輪【レア】

【VIT +6】

 

自動回復:10分で最大HPの一割回復。

 

「おおおお!これは凄い。HP回復!またレアなものを手に入れてしまったってことは運が良かったのかな?」

 

MPが初期値な上、魔法を一つも取得していない俺にとってHP回復は貴重である。さらについでに付いている【VIT +6】が地味に大きいのだ。【絶対防御】持ちの俺にとってそれはVIT+12ということだからである。

それを最初から着けていたグローブを外して付ける。グローブは装備品では無い唯のオシャレアイテムなので指輪の上から着け直す。あとレベルアップもしたからステータスポイントも一気に増えてるこれを全部VITに使ってっと。ん、これでVITは134になったな。

 

続いて新スキルの情報を確認する。

 

【極悪非道】

 

相手の攻撃をわざと受ける度に【VIT +1】

ただし効果はスキル発動から一日の間。

上限は【VIT +25】

 

取得条件

倒すことの出来る相手の攻撃をわざと受け続ける時間が一定値を超えること。

かつ、それまでに一度もデスペナルティを受けていないこと。

 

【シールドアタック】

 

盾で攻撃する。威力はSTR依存。ノックバック効果小。

 

取得条件

盾での攻撃でモンスターに十五回止めを刺すこと。

 

 

大物喰らい(ジャイアントキリング)

 

HP、MP以外のステータスのうち四つ以上が戦闘相手よりも低い値の時にHP、MP以外のステータスが二倍になる。

 

取得条件

 

HP、MP以外のステータスのうち、四つ以上が戦闘相手であるモンスターの半分以下のプレイヤーが、単独で対象のモンスターを討伐すること。

 

「うん、大体発動する。俺のステータスは0が四つだから・・・・・うん?じゃあ戦闘するときは殆どずっと二倍が掛かるってことだよな?てことは絶対防御の効果も合わせてVITは・・・・・四倍?」

 

す、凄いんじゃこれ・・・・・それにステータスポイントは偶数になると5ポイント、毎10レベルごとに10ポイントだから30ポイント手に入れられることは燕から把握しているが・・・・・。『レベルアップ時のステータスポイント取得量が3倍』の俺だと、偶数時の5ポイントが15ポイント得られ、十の倍数の時はステータスポイントがいつもの二倍貰える時は30ポイント。レベルが五回、毎10レベルも上がる時に得るステータスポイントは総計―――90も得られるプレイヤーは絶対に俺しかいないだろこれ!!!

 

 

死神・ハーデス

 

LV11

 

HP 40/40

MP 12/12

 

【STR 0〈+9〉】

【VIT 130〈+34〉】

【AGI 0】

【DEX 0】

【INT 0】

 

装備

 

頭 【空欄】

 

体 【空欄】

 

右手 【初心者の短刀】

 

左手 【初心者の大盾】

 

足 【空欄】

 

靴 【空欄】

 

装飾品 【フォレストクインビーの指輪】

 

【空欄】

 

【空欄】

 

称号:万に通じる者 不殺の冒険者 出遅れた者 大樹の精霊の加護 白銀の先駆者

 

スキル

 

【絶対防御】【テイム】【幸運】【手加減】【逃げ足】【大物喰らい(ジャイアントキリング)】【毒耐性中】【瞑想】【挑発】【極悪非道】【シールドアタック】【採取】【植物知識】【使役Ⅰ】

 

 

 

だけど、全てのポイントを考えなしに注ぎ込むのは愚の直行だろう。ポイントの使い道は他にもあるんだしな。それは主に生産系のスキルは戦闘系のスキルよりもレベルの上限が高いからだ。行動で熟練度を高める戦闘系スキルと違って、生産系のスキルは行動以外にもステータスポイントでレベルを上げることができるみたいだそうだ。その他にもポイントでしかスキルを取得できないものもある話だし。

 

ということでステータスポイントの90の内の30は防御に振って残りは生産系だな。錬金術とかもあるんだし、そっちの方面でも楽しみたいからな。取り敢えず使わずに残した60を・・・・・おっと、称号の報酬でもらったポイントの10も使えるな。ふははは!!!

 

 

【運営side】

 

「なぁ、このプレイヤーおかしすぎだろ?1週間でスキルを8つも取得する上に称号4つも手に入れたぞ。現在進行形、生産系スキルを取得しているし」

 

「『出遅れた者』の称号を手に入れた時点で目に見えたよ」

 

「メインが重戦士の大盾使い、ジョブがテイマーのプレイヤーか。タンク役としては申し分ないけどβテストじゃ攻撃が低い理由であまり人気がないはず。テイマーもサモナーに比べて人気が無い」

 

「人気のない職業を知らずに選んでしまったんですね。でもま、他の職業も選べて遊べれるからお試しプレイでしょうかね」

 

「ところでさ、このプレイヤーの顏。誰かに似てないか?」

 

「誰にだよ?」

 

「いや、気のせいだと思うけど中央区の王様にさ」

 

「いやいや、そんなわけないだろ?このゲームに参加していようと不思議じゃない方だが、ここまでぶっ飛んだプレイをする人じゃない。世の中顔が似ているだけの人間はいるんだ」

 

「それに仮にそうだとしても、このゲームの称号とスキルや魔法の取得方法を知っているはずがない。寧ろ教えようとすると『そんなつまらないことを聞きたくねぇ』と呆れて言い返すぞ」

 

「うーん、それもそうか。でも、目が離せないプレイヤーなのは確定だ」

 

「だな。こういうプレイヤーがいるから俺達運営も盛り上がる」

 

「今後も見守ってやろうぜ」

 

 

 

「くしゅんっ!・・・・・ゲームの中でもくしゃみ出るのか。リアルを追求しすぎじゃないか?」

 

最初にいた町―――始まりの町へ戻った頃にはすっかり暗く夜の時間帯となっていた。ゲームの世界は朝いたプレイヤー達の数もそれなりに増えてログインしてるようだ。ゲーム世界の一時間は現実世界の時間と同じだ。夕食を食べているか明日仕事の人は就眠している頃だろう。ただしそれは規則正しい生活をしている大人の話だ。廃人ゲーマーはその限りではない。

 

「今度はクエストをしてみるかな。攻撃力が低すぎて中々倒せれないけど(涙)」

 

戦闘時だけSTRとAGIが付加した装飾品を装着できれば楽になるんだがな・・・・・。ま、今日はここでにしよう。あいつらには先にログアウトしてるとメッセージを送ってっと。

 

 

翌日―――。

 

 

ハードの電源を入れて電脳世界へダイブし二日連続でVRMMORPGを始めると、直ぐに行動を取った。昨日の考え通りにクエストを受けて報酬を貰おう。

 

「うーん・・・・・」

 

掲示板を見た限り色んなクエストがある。他のプレイヤーがクエストしていても同じクエストを受けれるみたいだか制限付きだ。毎日ランダムでレベルごとに違うクエストがあれば、パーティーを募集してるのがあり生産職を目指そうとしているプレイヤーが求める素材集めなど、様々なクエストがあるな。

 

「NPCのクエストを探してみよ」

 

掲示板にはない特殊なクエストとして運営が用意したもの。他のプレイヤーも周知だろうハードに付属されていた説明書もとい簡単な攻略情報を読めばNPCに最新式のAIを搭載されていて、なんと状況に合わせてNPCが自動でクエストを依頼してくるのだそうな。プレイヤーの行動によってゲーム内の経済の流通ルートが変わったり、国家間のバランスが変化するとかどうとか。

 

 

「あそこの武器屋。何なんだ?何時になったら開くんだよ」

 

「この町の武器屋は複数あるけど閉まってるのはあそこぐらいしかないんだろ?まあ別に気にしなくていいだろ」

 

他のプレイヤーの会話を耳にし、自然と足が動いて向かった先が―――堅く戸締りしている、燃え盛る炎を切り取った背景に交差した剣と槍に盾のシンボルの看板が掛かっている店。マップで確認してもここが武器屋であることが表示されている。だというのに開店していないのはおかしい。心の中で首を傾げ、店の裏手に続く狭い路地裏へ身体を潜らせて進み出た。だけど誰もいない。辺りを見回し武器屋の裏口を視界に入れてノックしてみると。

 

「・・・・・」

 

しばらくして赤髪で青瞳の青年が怪訝な目つきをした。

 

「誰だお前」

 

「突然の訪問で申し訳ない。武器屋が開いていない話を聞いてな。何か訳があるのかと思って尋ねに来たんだ。この店の店主か?」

 

「お前には関係のない話だ。さっさと帰れ」

 

「もし違うならこの店の店主が不在なのと関係があるんじゃないのか?もしよければお前の店主を探しに行くが」

 

ぶっきらぼうに言い返されても気にせずそう話を持ち掛けると、NPCは俺の装備をチラリと一瞥した。

 

「・・・・・その装備を見たところ、お前は大盾使いの冒険者か」

 

「ああそうだ。そろそろ新しい装備に変えたいと思っていたところだ」

 

「・・・・・お前の実力は、外のモンスターをどれだけ倒せれる」

 

「んと、これで証明にならないか?」

 

フォレストクインビーの指輪をグローブを外して見せると、青年は軽く目を張った。

 

「・・・・・中に入れ」

 

店の中へ招き入れられる。窓を閉ざして真っ暗で足元がよく見えない。青年は窓を開けて日の光を見せの中に差し込ませて明るくしていった。今いる場所は鍛冶をするための工房だったことがようやく気付く。青年は燃え盛っていない炉を見つめ、口を開いた。

 

「見ての通り店は閉店しているんだ。俺はまだ見習いだから師匠の下で修業している」

 

「休業中って感じじゃなさそうだな」

 

「鍛冶をするためには鉱物が必要不可欠なんだ。だから師匠は不足した素材を採取するためにいつも遠出しに行く。何時もなら二日三日で何時も帰ってくるんだが、師匠はまだ帰ってこないんだ。もう一週間も経つ」

 

「遠出する場所にモンスターが?」

 

「ああ、強いモンスターがいる。だから安全と思われている鍛冶は思っている以上に命懸けなんだ」

 

拳を硬く握り締め、無力な己を悔しがる表情で歯を噛みしめる。

 

「見習いの俺が店を開いて未熟な武器を打つわけにはいかねぇ。そんなことしたら師匠の拳骨が吹っ飛んでくるんだから」

 

「・・・・・痛そうだな」

 

「ああ、メチャクチャいてぇぜ。でもよ、師匠を憧れて鍛冶師になろうと決意した(おれ)の熱は、こんな程度で冷めることは絶対に無い」

 

確固たる堅く強い意志の炎を瞳の奥でチラつかせる青年。その気持ちはとても好意的になり、いつの間にか俺は笑っていた。

 

「その気持ちをずっと捨てなければ、きっと師匠も認める凄い鍛冶師になれると信じてるぜ。だからこれからも頑張れ」

 

「・・・・・何だか小恥ずかしい話をしちまったな。初めて会ったやつにそんなこと言われたのは初めてだからよ」

 

「初心だな」

 

「うっせ。―――師匠の事、頼めれるか。フォレストクインビーを倒したなら多分、あのモンスターをも倒せるかもしれない」

 

あのモンスターと言われてもピンとこない俺に青年は真摯に教えてくれた。

 

「毒のモンスターで溢れている迷宮の奥に潜む毒竜(ヒドラ)をだ。師匠は毒竜の素材を採りに向かって行ったんだ」

 

ヴォンと青いパネルが空中に浮かぶ。NPCからのクエスト要請が発生した証だ。迷いなくYESとNOからYESを選んで押して受託する。

 

「師匠はしぶとさが自慢だと言ってたが毒を受けているとしたら、流石の師匠も命が危ういかもしれない。これも持っていってくれ。毒耐性のポーションと回復のポーションだ」

 

黄色の液体と緑の液体が詰まったガラス製のフラスコを受け取った。

 

「師匠は東の山にある迷宮にいるはずだ。どうか師匠を頼む」

 

「任せてくれ」

 

自前のポーションを用意しなくちゃならないだろうな、実行はその後だ。

 

 

 

初めてのクエストを受けた。失敗はしたくないからありったけのポーションを買う。HPはたったの40のままだから最下級のポーションでも十分に間に合ってしまう。ふっ・・・・・悲しい話だな。でもまあ巨大蜂の指輪に加えて【瞑想】もあるのだ。回復に余念がない。が、ダメージを受けるような状況になった時点で圧倒的不利なのは間違いない。毒耐性を得ていても無効化できてるわけじゃないからな。準備を整えてダンジョンへと向かう。目指す場所は青年がもたらした情報、プレイヤーの間では未だ未発見の【毒竜の迷宮】だ。

 

「【毒耐性中】を進化させるのにとっておきのダンジョンだな。【毒無効化】があるなら是非ともしておきたい」

 

いざダンジョンへと鼻歌をしながら町から飛び出した。

 

 

穏やかな気候の中で森とは逆方向へとてくてく歩く。ここがゲームの外で、大盾と短刀を持っていなければ、遠足に向かっているようにしか見えない気楽な行進だろうな。それでも道中で何度かモンスターに襲われたが、ノーダメージのため倒すこともなくスルーしていく。この辺りのモンスターは森のモンスターよりも頭が良いようで、攻撃が通らないとなるとさっと行動を切り替えて去っていった。うん、普通これが本来取るべき行動の筈だ。とモンスターを見送りそうして歩いていくと、次第に周りの木々が枯れて、地面はひび割れ荒れて風景が寂れていくことに気が付いた。さらには、ぽこぽこと音を立てる沼が地面にいくつも発見できた。そうして歩くことさらに十分。

 

「あれがそうか?」

 

地面が一部隆起してぽっかりと口を開けているのが見えた。その中へと入っていくと、中は思っていたよりも天井が高く、大盾もちゃんと構えることできるぐらいだった。奥へと進んでいくと毒々しい色のスライムや蜥蜴が壁や地面を這って突撃してきた。

 

「スライム、可愛くねっ」

 

半透明の体の中を漂うように動き回ってる核を壊せれば倒せるギミックなんだろうけど、うーん・・・・・。

うん、無視しよう。戦う時間が惜しい。毒に関しては【毒耐性中】だから毒攻撃もすべてノーダメージ。師匠を助ける邪魔にすらならない。そう決め込んだ俺はそうして奥へ奥へと進んでいく。毒をテーマにしたこのダンジョンには、あちらこちらに毒々しいモンスターがいたり、ギミックがあったりした。

 

それからもダンジョンを進んでいくと少し開けた場所に出た。今まで進んできたところが通路だったとすれば、この開けた場所は部屋といった感じだ。そしてその部屋の中心では草花が生き生きとした緑をアピールしていた。薄い紫色の小さな花弁がひらひらと揺れているのが俺の目に映る。

 

「毒の花なんだろうけど、採取できるなら」

 

花の近くまで行くと、しゃがみこんで花の根から抜こうとした。すると紫色の花びらがつぼみのように丸まって、紫色の霧を噴き出した。更に連鎖するように、周りの花も毒々しい霧を噴き出し始める。

 

「やっぱり罠かよ。でも―――!」

 

ブチリと手の中でそんな感触をした瞬間。青いパネルが『ヴェノムフラワー』と空中に表示した。

 

「GETだぜ!」

 

林檎の時もそうだったから手に入れれると思ったが当たりだったな。今度もう一度来て採取しよう。インベントリに仕舞い立ち上がって部屋を後にする。部屋から繋がる通路を随分歩いたら次に開けた場所を見つけて目にしたのは、いかにも毒がありそうな紫色の沼である。ぽこぽこと音を立ててガスが沼の奥から上がっていた。

 

「これも採取できそうだけど後回しだ」

 

そう言って無視して通り過ぎようとしたとき、視界の端で独沼から何かが飛び出してきた。持ち前の反射力で130〈+34〉×四倍のVITの裏拳で叩き落とした。不意に気付く。

 

「あ、反射能力はリアルに反映されるのか。これは僥倖だな」

 

叩き落とした何か―――視線を下に落とす。すると跳ねた魚の姿を捉えた。トビウオ?てか、この独沼は魚が泳げるぐらい底が深いのか?危ねぇ・・・・・。毒沼に気を付けて先へと進もう。

 

モンスターやトラップを掻い潜り、スライムを無視しながらもついに辿り着いた最深部。ここまで来て師匠らしき人物は見なかったが、やっぱりこの先か―――?と見つめる目の前には俺の背丈の三倍はある大きな扉。俺は装備を解除してから両開きのその扉を力を込めて開ける。ギギギと油の切れたような嫌な音を発しながら扉が開き切り、部屋の全貌が明らかになる。あちらこちらに独沼があり、薄く紫がかった気体で満たされている。警戒して入ったと同時。後ろの扉が勢いよく閉まった。

 

「っ!」

 

部屋の奥で壁に背中を預けるようにプレイヤー以外訪れるはずがないNPCがいた。青年の師匠らしき者は巌のような巨躯で二メートルは優に超えた筋骨隆々の赤髪の男だ。頭を垂らしてぐったりと動かない。危険な状況かもしれない。今すぐ駆け出してポーションを飲ませたやりたいところだが、

 

「そう問屋は卸してくれないか」

 

独沼から竜が姿を現した。。しかし、それはただの竜ではなかった。ところどころ溶けて骨が見えている腐り落ちたような体。長く伸びる三本の首。六つの赤い眼球。竜が咆哮し、紫色の霧が散る。毒沼に浸る腐竜は道中のモンスターなどとは比べ物にならない存在感を放っていた。

 

「う・・・・・誰か、いるのか・・・・・?」

 

項垂れたまま、掠れた声が師匠から聞こえてきた。

 

「生きているか、鍛冶屋の師匠!」

 

「・・・・・誰だか知らないが、逃げろ・・・・・こいつの毒は・・・命が幾つあっても足りねぇ」

 

「師匠を助ける約束した以上は助けてやるからもうちっとしぶとく生きていろよ!」

 

というか、今の装備で勝てるとは思えないんだよな。このクエスト、もしかすると結構かなり厳しいんじゃ?だとすれば、数時間も掛かると思って考えると優先するべきは・・・・・。

 

「ええい、無様でも何でも勝手に笑っていろ運営!」

 

足の遅さは重々承知の上。ならば走る以外にも行動できる方法をするまでだ。それは―――アクロバティック!反射能力がゲームの中で反映されるなら、ステータス依存が反映されない動きをすれば走るよりは速いはずだ!

そう考えている俺をお構いなしに毒竜がその口を大きく開き、毒液の奔流を放射してきた!

後ろへ跳んで上半身を下に仰け反って地面に両手をついて、両腕に力を溜めバネのように地面から腕の力で跳びさらに後ろへと体勢を戻して三頭のうちの一つのブレスを交わす。―――よし!もっと早く動けば断然早い!

 

「おおおおおおっ!」

 

毒がびちゃびちゃとブレスを交わし続ける俺がいた場所に吐かれ地面は紫色に塗り潰していく。それでもギリギリ、いや、走るより速くても飛び散る液体が身体や髪、顔に掛かって毒状態になってしまうか!だが、なりふり構っていられない!

 

「到着!」

 

師匠の下までアクロバティックし続けた。瞬時に大盾を装備し直して俺と一緒に師匠の身体を隠すように立て、もう片方の手はインベントリから毒耐性のポーションと回復のポーションを取り出す。

 

「これを飲め!」

 

「・・・・・うっ」

 

「ああもう、飲めれないのか!」

 

大盾にすごい勢いでぶつかる毒液の音を背に、二つのポーションを一本ずつ無理やり飲ませる。

飲ませ終わると師匠の全身が淡く光り、回復したようで項垂れていた師匠の頭が動いた。

 

「た、助かった・・・・・流石の俺も毒には勝てなかったぜ」

 

「一週間も毒に侵されながら生きていたその生命力に驚嘆ものだ、って盾が腐食してるぅっ!?」

 

「っ、くるぞ!」

 

毒竜の毒液で腐食して使え物にならなくなった大盾がポリゴンと化して消失した頃合いを見計らって、また毒のブレスを放ってきた。師匠と二手に分かれて回避する。

 

「装備を破壊されるとなると残された方法は・・・・・あるのか?」

 

「お前、毒耐性は!」

 

「【毒耐性中】!」

 

「それじゃあ全然足りねぇ!毒竜の毒は致死性だ!まずは耐性を付けろ!」

 

NPCなのにアドバイスをしてくる?不思議を通り越してその通りに従う。元よりそのつもりでもあったから師匠を先に回復させたんだ。

 

「【挑発】!そして【瞑想】!」

 

師匠に攻撃を向かわせてはならない。【挑発】で毒竜の意識をこっちに奪って俺は目を閉じ、集中力を高める。

【挑発】を受けた毒竜は師匠に向けていた一本の鎌首をこっちに戻して【瞑想】中の俺にブレスを降り注ぐ。【瞑想】は集中力を高め続けなければその効果をなさないのだ。三時間の眠りが瞑想になるのか今でも疑問だがな。指輪と【瞑想】そしてなけなしのお金で買い込んだポーション。全て使って、俺が狙っているさらに上の【毒耐性】。それが唯一の勝機!

 

「(現実だったらこんな方法をしていたら身体が腐り落ちていただろうな・・・・・)」

 

心中、無謀すぎる対処方法に苦笑する。そうやって耐え続け、HPが残り二割を切った辺りでポーションを飲む。これを繰り返していく。回復量は追いついていない。ポーションが無くなるか、耐性を手にするか。どちらが早いかだった。

 

 

暫く耐えると俺の頭の中に声が響く。

 

『スキル【毒耐性中】が【毒耐性大】に進化しました』

 

 

念願の結果に、しかし俺は喜べなかった。まだ皮膚を焼く痛みは残っている。まだ耐性が足りないんだ。これ以上進化するかも分からない耐性スキルだが、俺はそれに賭けるしかなかった。

 

 

最後のポーションも空き瓶になった頃。

 

 

「―――よしっ!」

 

 

喜ぶ俺の頭の中に響き渡ったのは【毒無効】というスキルの取得通知。今なら降り注ぐブレスすら心地よく感じられた。しかし、問題の一つが解決したところでまた浮上する問題。短刀も腐食するならば装備しても意味がない。文字通り素手喧嘩(ステゴロ)だ。どうやってこの竜を倒せばいいのだろうか?竜の攻撃はノーダメージ。しかし俺の攻撃も、もちろんノーダメージ。しかも、NPCのクエストをしているとはいえ師匠の救助が失敗に終えても毒竜との戦闘とは無関係だろう。故に死ぬか倒すかしなければまともにこの部屋から出られないのだ。ログアウトすれば脱出できるものの、途中棄権なんて俺の中には存在しない。このほぼ手詰まりの状況は開発陣すら予想していなかった事態だろうな。

 

「おっと、満腹度が減ってた」

 

インベントリから林檎を取って満腹度を増やす。・・・・・。・・・・・。・・・・・うーん。

 

「爪を失った竜が残された武器は牙・・・・・か」

 

ブレスを受ける中で咀嚼しつつあることに思い付いた。しかし、ゲームでこれはアリ?なのかと運営に疑問を抱く。しかしまあ、やるしかないだろうな。これで結果が出たなら御の字、結果が良ければ全て良しだ。林檎を食べ終えた俺はついにとある行動に出た。

 

「ゲームの世界の竜の肉、毒竜の肉の味はどんなんだろうな?」

 

舌なめずりをしてギラギラと捕食者の目つきで毒竜を見上げた。すると何故かビクリと震えて一歩後退る毒竜を気にせずそして、俺は両手を合わせて。

 

「この世のすべての食材に感謝して いただきます」

 

その足に齧り付いた。

 

「・・・・・しばらくこの味の食材は食べたくないな」

 

顔を歪める感想を吐露する。しばらく観察していて分かったことは、齧り取った部分は再生されることがないということだ。しかし、削るだけでは剥がれ落ちた肉がどういう原理か逆再生のように元の場所へと戻ってしまう。ダメージも通っていない。

 

「倒すまで食べないとダメかぁ・・・・・この味が苦手、嫌いなプレイヤーにとって生き地獄そのものだろ」

 

毒竜の肉は僅かに苦みがあってそれはピーマンを思い起こさせる。それでも、どうしてゲームの世界で悲しくて食べなければこの部屋から出られないことになってしまったのかと思いながら食べる。だが俺にとっての味方はモンスターの肉を食っても満腹度には何ら影響がないことだ。捕食という手段は攻撃に分類されているかもしれない。味は感じても腹は満たされないのだ。

 

「もぐもぐ・・・・・あっ、ブレスかけてくれてありがとう。むぐむぐ・・・・・辛みがあってピーマンっぽさが消えて助かる。―――これなら一気に喰える」

 

そうやって胴体部分も食べ進めていく。そうして五時間程食べ続けた結果。胴体部分が骨だけになった。次は尻尾、と俺が尻尾の方に滑り降りようとした時、毒竜の骨がボロボロと崩れ落ちて、竜自体も動かなくなる。そして毒竜は光となってそのまま消えていった。その直後に運営からのアナウンスが流れた。

 

『死神ハーデス様が【毒竜の迷宮】を単独で踏破しました。おめでとうございます!これにより一部のシステムが解放されました』

 

「え、倒しちゃったの?この方法で?」

 

システムの穴を突けるだけ突いて、ついに毒竜を打倒してしまった件について俺は何とも言えない気持ちになった。俺が知っているゲームじゃない気がしてならないからだ!

 

それと共に毒竜のいた辺りに、光り輝く魔方陣と大きな宝箱が現れた。

 

『スキル【毒竜喰らい(ヒドライーター)】を取得しました。これにより【毒無効化】が【毒竜(ヒドラ)】に進化しました』

 

『レベルが18に上がりました』

 

「―――いよっしゃあああああああああああああッッッ!!!!!」

 

嬉しい報告に雄叫びを上げ、レベルが上がったことでステータスポイント60の内20をいつものようにVITに振った。これでVITの基礎値は150になった。自分で選択して何だけど、あるなら防御力貫通以外で俺にダメージを与えるプレイヤーはいるのか?て思ってしまうぐらい。

 

「よし、また守りが堅くなったな」

 

続けてスキルを確認する。まさか【毒竜喰らい(ヒドライーター)】などというスキルがあるとは思ってもいなかったよ。これなら竜を食べ続ければ【竜喰らい(ドラゴンイーター)】もある示唆がされたも当然だ。

 

 

毒竜喰らい(ヒドライーター)

 

毒、麻痺を無効化する。

 

取得条件

 

毒竜をHPドレインで倒すこと。

 

「食べることはHPドレイン扱いされるのか?・・・・・ふむ、HP吸収のスキルがあれば取得できるか?」

 

ただ、こんなことをするプレイヤーが後にも先にも俺以外いないだろうな。確かに食事によってHPは微量ながら回復する。しかし、正規の取り方ではないだろうことは明白だ。むしろ正規の取り方の方がよっぽど難易度が低いだろう。はは・・・・・だれが好き好んで俺みたいに毒竜の腐肉を食べるんだろう。

 

 

毒竜(ヒドラ)

 

毒竜の力を意のままに扱うことができる。MPを消費して毒魔法を使用できる。

 

取得条件

 

毒無効化を取得した上で毒竜をHPドレインによって倒すこと。

 

 

これを見て俺は戦慄した。それもそのはず―――!

 

「おっしゃぁああああっ!初めての俺のまともな攻撃手段だ!しかも毒なんて相性ぴったり!」

 

当ててしまえば後は耐えているだけでいい、俺のVITを最大限に活かせる戦法ができるというもの!しかしだ。

 

「MPが問題だな。MP一度も上げてないし直ぐに使い切ってしまってただの不動の歩く要塞に戻る。うーん」

 

うんうん唸っていた時に、師匠の存在を思い出して試行を中断する。

 

「・・・・・あー、もういいか?」

 

「あ、すみませんでした」

 

「いや、俺を助けてくれた上に一人であの毒竜(ヒドラ)を倒したお前には俺も驚嘆の念を向けずにはいられない。ありがとうよ」

 

気さくさに感謝される。

 

「毒竜の素材を取りに迷宮に向かったって聞いたんだけど、確保できた?」

 

「おうとも。大量に確保できたぜ」

 

消失したはずの極太の骨がいつの間にか薪のように束で縛られていていた。どうやって手に入れたんだあの一瞬で。師匠は満足げに腕を組んで目的の素材を見つめる。

 

「俺一人じゃあ倒せなかったしあのままだったら未熟な弟子と店を置いてくたばってた。お前のおかげで命も仕事も救われた感謝しきれねぇ恩も受けた」

 

野太い腕が伸び、太い手が俺に突き出してきた。

 

「本当に感謝する。ありがとう」

 

「助けれてよかった。師匠の弟子にも胸を張って報告できる」

 

「勝手に俺を殺してただろう?。ったく、今回ばかり俺の拳骨から免れて運のいい奴め。下準備を万全にしても結果はこの様だったんだからな」

 

ははは、と笑うしかない。だけど、この豪胆っぷりは嫌いじゃない。

 

「俺は一足先に帰る。お前も戻ってきたなら俺の店に来い。命の恩人の為にお前が欲する物を作ってやっからよ」

 

「ありがとうございます!」

 

骨の束を背負い、この部屋を後にする師匠を見送る。師匠がいなくなると目の前に青いパネルが浮かび上がった。

 

「お、クエスト『鍛冶師の救助』の達成報告。もう一つは『毒竜の迷宮の攻略者』の称号?えっと、報酬は・・・・・」

 

報酬を確認した後はお待ちかねの宝箱~!

 

その宝箱はかなり大きい。横は三メートル、縦は一メートル、高さは二メートルほどの長方形だ。

初めての宝箱に俺はゴクリと唾を飲み込む。緊張と興奮で鼓動が高鳴る。ゆっくりと蓋を持ち上げて中身を確認する。

 

「おおおおおおおおおおおおおおっ!」

 

興奮のあまり大声で叫ぶ。中に入っていたのは黒を基調として所々に鮮やかな赤の装飾が施された大盾。

重厚な輝きを放ち、赤いバラのレリーフが目立ち過ぎずそれでいてしっかりとした存在感を持つ様に

彫られたいかにも先程の大盾に合いそうなフード付きマントの鎧。

そして、美しく輝くガーネットが埋められている鞘を持つ落ち着きのある漆黒の短刀。

 

それらを手に取り一つずつ説明を見ていく。

 

【ユニークシリーズ】

 

単独でかつボスを初回戦闘で撃破しダンジョンを攻略した者に贈られる攻略者だけの為の唯一無二の装備。

一ダンジョンに二つきり。取得した者はこの装備を譲渡出来ない。

 

『闇夜ノ写』

 

【VIT +20】

 

【破壊成長】スキルスロット空欄

 

『黒薔薇ノ鎧』

 

【VIT +25】

 

【破壊成長】スキルスロット空欄

 

『新月』

 

【VIT +15】

 

【破壊成長】スキルスロット空欄

 

まさに俺専用装備。短刀までもがVIT強化という、他の人が使ってもその強力さを十分に発揮出来ない装備である。

 

「どうせするんだ。どこに行っても変わらないしここで確認しよっと」

 

 

【破壊成長】

 

この装備は壊れれば壊れるだけより強力になって元の形状に戻る。

修復は瞬時に行われるため破損時の数値上の影響は無い。

 

【スキルスロット】

 

自分の持っているスキルを捨てて武器に付与することが出来る。こうして付与したスキルは二度と取り戻すことが出来ない。付与したスキルは一日に五回だけMP消費0で発動出来る。

それ以降は通常通りMPを必要とする。スロットは15レベル毎に一つ解放される。

 

 

「敢えて言おう・・・・格好良くて!強いと!」

 

スロットが追加されることを確認出来た俺は迷うことなく短刀『新月』に【毒竜(ヒドラ)】を付与する。

これで懸念だったMP問題も解消である。

 

「そして、お待ちかねの~装備!そして―――我、堂々たる凱旋を果たす!」

 

全ての装備を身に着込むと魔方陣の光に包まれてダンジョンからいつもの町へと転送された。

 

 

死神・ハーデス

 

LV18

 

HP 40/40

MP 12/12

 

【STR 0〈+9〉】

【VIT 150〈+66〉】 

【AGI 0】

【DEX 0】

【INT 0】

 

 

装備

 

頭 【空欄】

 

体 【黒薔薇ノ鎧】

 

右手 【新月:毒竜(ヒドラ)

 

左手【闇夜ノ写】

 

足 【黒薔薇ノ鎧】

 

靴 【黒薔薇ノ鎧】

 

装飾品 【フォレストクインビーの指輪】

 

【空欄】

 

【空欄】

 

 

称号:万に通じる者 不殺の冒険者 出遅れた者 大樹の精霊の加護 白銀の先駆者

   毒竜の迷宮踏破

 

スキル 【絶対防御】【逃げ足】【手加減】【テイム】【使役Ⅰ】【幸運】【大物喰らい(ジャイアントキリング)】【毒竜を喰らい(ヒドライーター)】【瞑想】【挑発】【極悪非道】【シールドアタック】【採取】【植物知識】【錬金術Ⅹ】【料理ⅩⅩ】【調理ⅩⅩ】【調合ⅩⅩ】

 

 

 

 

 

 

 

『運営side』

 

 

「・・・・・」

 

「・・・・・」

 

「・・・・・」

 

「あのプレイヤー・・・・・ヒドラを喰って勝ったな」

 

「誰があんな真似してスキルを取得するかなんて、ただのネタの勢いで設定をしたのにそれを実行する奴を目にするなんて」

 

「待てよ。HPドレインでスキルを取得できるって知ったあのプレイヤー、他のモンスターをもするんじゃ」

 

「ははは、まさかー?そんなわけ―――」

 

「「「あり得そうだー・・・・・」」」

 

「え、ちょ、待てっ。だとしたらあの凶悪なスキルを手に入れられるんじゃ!?」

 

「あのバカげたネタをか?それこそ思いつかないだろ。てか、レベル上げを他所にHPドレインを集中するとは思えにくい」

 

「今回も偶然が偶然を呼んだ展開になったに過ぎない。またヒドラ戦のようなことにはならないと俺は思いたい」

 

「それより見ろよVITの数値。あともう少しで1000達するぞ。他のプレイヤーだってまだ三桁すら届いてないのに・・・・・」

 

「これは防御貫通のスキルじゃないと勝つのが難しくなってきたなぁ」

 

「完全に防御特化でプレイする気だ死神ハーデス」

 

「こんなプレイをするプレイヤーは後にも先にもこいつだけだと思いたいが」

 

「第一回イベントまでどう成長していくのか見ていて楽しい反面、怖いな」

 

「そんなことより残りのユニーク装備は1つだぞ。どんな他のプレイヤーが手に入るのか気になるな」

 

「そうだな」

 

 

 

ユニークシリーズ装備の装備とスキルを獲得して歓喜の気持ちが静まらないまま武器屋に訪れた。ここに来るまで案の定、同期のプレイヤー達の視線を一身に奪っては集め目立つと言っても過言ではない、圧倒的存在感を放つこの装備に注目する人が沢山現れる。

 

数時間ぶりに戻った武器屋は、閉じ待っていた扉が開いて利用できるようになっていた。裏口からではなく今度は正面の出入り口から入ってみると、何人かのプレイヤーがいて武器の購入を求めていた。列に並んで待ってしばらく、俺の番になると青年は目を張った。

 

「ようやく来たかっ。師匠が待ってるから裏口から勝手に入ってくれ」

 

「ん?わかった」

 

言われた通りに店から出て裏口から入ると、あの師匠が燃え盛っている炉の前に陣取り何かを作成していた。工房に現れた俺の存在に気付き方に振り向く。

 

「よう、来たな。改めて名前を言おう。俺はこの町、始まりの町の鍛冶師ヘパーイストスだ」

 

「(ヘパーイストス?まさか、ヘファイストス?)俺はハーデスだ。無事に戻れた姿を見て安心したよ」

 

「俺はこう見えても若い頃はそれなりに名の知れた冒険者だったんだぜ。そんじゃそこらのモンスターには遅れは取らないが、一人だと限界がある。あの毒竜のような相手だとな」

 

「これから気を付けろよ?」

 

「ガハハッ肝に銘じておくぜ。さて、本題だがお前には俺の作品をタダで譲りたいと思う。どんな装備かどれほどの性能を求めているか言ってくれや。あんな新米冒険者の装備であの毒竜を倒したんだ。更なる冒険をするってんなら相応の装備を揃えておかなきゃいけねぇだろう」

 

大盤振る舞い、太っ腹なヘパーイストスが大きな鎚を持って力こぶを見せながら。求めている装備化・・・・・決まってる。

 

「できたらSTRとAGIにDEX100の装飾品とこの装備と同じ色の髑髏の仮面が欲しい。作れるか?」

 

「おお、伝説の装備を手に入れたんだな!こいつは鍛冶師として血が騒ぐぜ、命の恩人の求めている物を作れないようじゃあ鍛冶師の名が廃る!だが、わかっていると思うがそれだけの性能を求められるとあれば相応の素材も必要だ。製作費はタダにするが素材集めは自力でやってくれないか?」

 

この瞬間にクエストが発生して俺は直ぐに了承した。

 

「わかった。まず何を集めればいい?」

 

「おう、各ステータスをそこまで求めるとなるとだな・・・・・」

 

こうして素材集めのクエストが始まった。その集める素材の中には倒した毒竜の名前があったが他はまだ知らない素材の名が多い。

 

「これ全部、この町の外にあるのか?」

 

「おうとも。場所が分からないなら俺に訊くといい」

 

これ―――鍛冶師の救助の報酬が遠のいたのだが?師匠を守りながら毒竜を倒すのはかなり大変だったのに。まぁ相応の報酬だと思うとしよう。これ以上場に留まるのはよくないと思い外へ出るとメールが届いた。ヒデルからか。

 

「今から会えないか、か。OK、中央大樹に行くっと」

 

大方ラック達もいるだろうな。あ、昼飯食ってない・・・・・あの腐肉を喰ったせいで食う気がないけど。

 

 

ヒデルがメッセージを送って数分ぐらいたった頃に待ち合わせした場所でヒデルが俺を見つけて手を振る仕草をした。

 

「えっと、君がハーデス?素顔を見るのは初めてだね」

 

「普段仮面を被ってるからな。ユージオとトビにも同じこと言われたぞ」

 

「ねぇ、どうして仮面を被ってるの?」

 

「教える気はない」

 

軽くあしらった次にユージオが話しかけてきた。

 

「ハーデス、その装備はどこで手に入ったんだ?レアな装備のようだが」

 

「ダンジョンのボスを初回戦闘で倒した報酬だ。一ダンジョンに二つしかないユニークシリーズの装備だから手に入れるなら今の内だぞ。ボスの詳細は教えない。お前達で頑張って倒せ」

 

「わかった。そんな設定があるんだな。よし、他にもダンジョンがある筈だからそのユニークシリーズの装備を手に入れてやるぜ」

 

「・・・・・俺も欲しい」

 

「ワシもじゃな」

 

「僕もだよ!」

 

と限定品の入手に燃えるこいつらに「武器屋が開店してるぞ」と教えてた。

 

「ああ、あそこの?なるほどクエスト絡みだったとは。こうなったら他のNPCに話しかけまくってクエストをしようぜ」

 

「・・・・・今すぐ行こう」

 

「うん、更なる冒険が僕らを待っている!」

 

「ハーデス、お主はどうする?」

 

「一旦ログアウトする。それから素材集めをしなくちゃならなくなったから町の外に行ってくる」

 

 

 

現実世界に戻り昼食を済ませて一時休憩してからゲームにログイン。素材集めの為に西に東、今度は北に訪れてみた。ショップで購入した寝袋を使って泊まり込みの検証も行う予定だ。それはHPドレインでまたスキルを取得できるか、だ。毒竜をHPドレインで倒し取得できたなら他のモンスターもできるはずじゃないか?そして、盾の専用のスキルの取得方法を試してみたく、この北の森の奥で試す。

 

「この辺りでいいか。よし・・・・・【挑発】!」

 

俺の身体から光が円形に放射されてモンスターが寄ってくる。その内の初見のモンスターゴブリンだけを相手取る。ゴブリンの数は五体。その他のモンスターは攻撃されようがノーダメージだから放置しておく。

ゴブリンはその粗悪な剣で斬りかかってくる。ガッチリと受け止め、弾く。

 

「大盾で長く防ぎ続けたら手に入るか?」

 

三分のタイムラグ後の度に【挑発】をしてゴブリンの数を増やす。今度は増員して十体に叩いてもらう。さらに三分後、ゴブリンを十五に増やして相手取って三分後も【挑発】を―――。

 

翌日―――。

 

『スキル【大盾の心得Ⅹ】を取得しました。これにより【攻撃逸らし】は【受け流し】に進化します』

 

「【大盾の心得Ⅹ】・・・・・ようやくカンストして【受け流し】とやらを取得できた・・・・・特訓した最中に取得した【攻撃逸らし】があったからか」

 

確認してみよう。

 

 

【受け流し】

 

あらゆる攻撃を完全に受け流し自身の受けるダメージを無効化、近くに居る他の敵に逸らした攻撃を当ててダメージを与えること出来る。

 

取得条件

 

攻撃逸らしを取得した上で大盾の心得ⅩにするかつVIT800必要。

 

うん・・・・・納得できる条件だった。

 

「それじゃ、付き合ってくれたゴブリンさん達。申し訳ないけど【パラライズシャウト】」

 

シャウトと言うには静かな、しかし確かなキンッという音が響く。新月に付与したスキルは元々毒竜のものだから、技名は竜のものがほとんどだ。音をトリガーとする少し特殊なスキルのため、俺は鞘に短刀を収めるときの高いキンッという音をトリガーにしている。理由?深い理由なんてないよ。ぶっちゃけ、演出or格好良さを求めただけなんだよ。ゴブリンがバタバタと倒れていく様を見つめその内の一体に近づきそして・・・・・。

 

「いただきます」

 

ガブッシュ!とゴブリンの身体に牙を突き立て喰らい始めてみた。この行為をして手に入れられるスキルがあるなら、一先ず色んなモンスターをHPドレインしてみよう。

 

 

『運営』side

 

「や、やり始めたぁっー!?」

 

「マジでHPドレイン行為をしてるのかぁっ!?しかもゴブリンに!」

 

「あー・・・・・しばらく肉を食えなくなるかも」

 

「いいんじゃないか?最近太り気味になってきたって嘆いただろ」

 

「もう十五体目だぞ。ゴブリン、そんなに味が美味くしたっけ?」

 

「えっと、梅干し風味にした気が・・・・・」

 

「聞いただけで口の中が酸っぱくなるから!道理であのプレイヤーしかめっ面だよ!」

 

「あ、今度は爆発テントウに手を伸ばした」

 

「「「(ガタッ)!?」」」

 

 

今度はリアルなテントウムシを片っ端から食べ始めた。

 

「あっ・・・・・あのバチバチ弾けるお菓子みたいな感じ!腐肉より美味い!」

 

手当たり次第よくわからないテントウムシを五十匹食べた時に頭の中で音声が流れた。

 

 

 

『スキル【悪食】を取得しました』

 

『スキル【爆弾喰らい(ボムイーター)】を取得しました』

 

「よしキターッ!」

 

 

新しく手に入れたスキルを確認する。さてさて、どんなスキル何だろうなー。

 

【悪食】

 

あらゆる者を飲み込み糧に変える力。

魔法さえ喰い荒らし自分のMPに変換することが出来る。容量オーバーの魔力は魔力結晶として体内に蓄えられる。

 

取得条件

 

致死性の劇物を一定量経口摂取すること。

 

 

爆弾喰らい(ボムイーター)

 

爆発系ダメージを50%カットする。

 

取得条件

 

爆弾テントウをHPドレインで倒すこと。

 

 

「・・・・・ふふっ」

 

頑張った甲斐があった。そして爆弾喰らい(ボムイーター)に関しては爆発系ダメージを半分カットするという。つまりこれは、アレだよな?無効化することもできるという奴だよな?毒竜の時と同じなんだよな?じゃあ、だったらやることはただ一つじゃないか・・・・・ニヤ。

 

「テントウムシ百匹食べるまで頑張りますか!」

 

 

『運営』side

 

「ノォオオオオオオオッ!?」

 

「こいつ、察しやがった!」

 

「駄目だ、止まりません!」

 

「諦めるな!何とか防ぐんだ!」

 

「無理です、【パラライズシャウト】で爆発テントウを仕留め美味しそうに食べておるであります!」

 

「私達はトンデモないバケモノを生み出してしまったか・・・・・」

 

「これはゲーム内が荒れるぞっ・・・・・!」

 

 

 

『スキル【爆弾無効化(ボムキャンセラー)】を取得しました』

 

食べ続けている最中に頭の中に響き渡ったスキルの取得通知。

 

「予想通り、だけど俺はもっと先に・・・・・テントウムシを駆逐する!」

 

無駄で終わるかもしれない。だけどここまで来たからには俺はやり遂げてみせる!そんな意気込みで時間かけて喰い尽くす。さぁ、どうだ、まだか、まだなのか?ならばもっと食い散らかしてみせるぞ運営!

 

『スキル【爆裂魔法】を取得しました。これにより【爆弾無効化(ボムキャンセラー)】が【エクスプロージョン】に進化しました』

 

「―――――っしゃああああああああああああああああああッ!」

 

取得通知が届いた瞬間、天に向かって勝利の雄叫びを上げる。―――総計二百三十匹も捕食し終えたぞコンチクショウ!

 

 

『運営』side

 

「「「「「コ、コイツ、やり遂げやがったッッッ」」」」」

 

「なんて執念だよ死神ハーデス。思わず称賛の拍手をしそうになった」

 

「うむ、プレイヤーながら天晴だ。第一回のイベントがどうなるか見ものだぞこれは」

 



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とあるNWO掲示板1

【テイマー】ここはNWOのテイマーたちが集うスレです【集まれ】

 

 

 

新たなテイムモンスの情報から、自分のモンス自慢まで、みんな集まれ!

 

 

 

・他のテイマーさんの子たちを貶めるような発言は禁止です。

 

・スクショ歓迎。

 

・でも連続投下は控えめにね。

 

・常識をもって書き込みましょう

 

 

 

 

 

:::::::::::::::

 

 

 

 

 

29:アメリア

 

 

 

やっぱりうちのウサぴょんが最高!

 

 

 

モフォモフォの魅力に早くも堕落しそうな予感が……。広場の芝生でウサぴょんと戯れていたら周りの目が……。

 

 

 

 

 

30:イワン

 

 

 

いやいや、俺のスネイクの鱗の触り心地こそ至高なり。

 

なのになぜ女子は逃げる……。

 

 

 

 

 

31:ウルスラ

 

 

 

あー、へびはね~。苦手な人はいるかも?

 

 

 

 

 

32:イワン

 

 

 

やっぱそうだよねー。でもいいんだ、スネイクの鱗は俺が独占ってことだからな!

 

 

 

 

 

33:アメリア

 

 

 

私はヘビもキライじゃないよ?

 

 

 

モフモフが好きすぎるだけで。

 

 

 

 

 

34:エリンギ

 

 

 

>>32

 

がんばwww

 

 

 

 

 

35:ウルスラ

 

 

 

>>32

 

いいことあるよwwwww

 

 

 

それにしても、隠密行動が上手そうな名前www

 

 

 

 

 

36:イワン

 

 

 

あんがと、スネイクと共に強く生きるよ。でも次はモフモフを加えようかな。

 

まあ、スキルのレベルアップが先だけど。

 

なんせ開始直後に速攻でロックアントをテイムしてしまったので枠が足りていないのさ!

 

 

 

 

 

37:アメリア

 

 

 

初期ボーナスで、従魔術のレベルを上げてないの?

 

 

 

 

 

38:ウルスラ

 

 

 

専業じゃなくて、生産との兼業とかならボーナス足りない可能性もあるかもよ

 

 

 

 

 

39:イワン

 

 

 

>>37

 

上げてない。剣とか魔術とか生産にも手を出したから……。それに学生には課金とか無理なんです(T_T)

 

初期課金ボーナスって何? 美味しいの?

 

 

 

 

 

40:エリンギ

 

 

 

魔術は取っておいて損はないんじゃない?

 

モンス前衛でプレイヤー後衛っていうのがテイマーの基本だろうし。

 

 

 

あと生産スキルを取るのもありだと思う。生産スキルでも僅かに経験値が手に入るし。資金稼ぎにもなる。

 

 

 

種族やステ振りによっては剣でも行けるかもしれない。

 

 

 

問題は、全部のレベルが安定してくるまでは全てが中途半端になりかねないところ。

 

 

 

 

 

41:オイレンシュピーゲル

 

 

 

なあなあ! 始まりの町で見たこともないモンスを見たんだが! あれ何だろう?

 

 

 

 

 

42:アメリア

 

 

 

ほほう?

 

 

 

 

 

43:ウルスラ

 

 

 

詳しくプリーズ

 

 

 

 

 

44:オイレンシュピーゲル

 

 

 

今、始まりの町を散策してたんだけどさ。畑を耕す超絶ぷりちーな男の子が居たんだよ!

 

 

 

 

 

45:イワン

 

 

 

男の子……? おいショタコン! それとも男の娘なのか?

 

 

 

 

 

46:ウルスラ

 

 

 

NPC相手でもハラスメントは成立します。44が男か女かで罪の重さが変わりますがww

 

 

 

 

 

47:オイレンシュピーゲル

 

 

 

いやいや、待て。話を聞いて!

 

その男の子は普通じゃなかったんだ! 身長は1メートルもなくて、まるでお伽噺に出てくる小人みたいな恰好だったんだ!

 

 

 

 

 

48:エリンギ

 

 

 

ファンタジーの世界観だし、いてもおかしくないんじゃないか? てかスクショはないのか?

 

 

 

 

 

49:オイレンシュピーゲル

 

 

 

ない。盗ろうとしたんだけど、畑がホーム扱いみたいでさ。シャッターがきれんかった。鑑定も効かないし。でもマーカーが青かったよ?

 

 

 

 

 

50:アメリア

 

 

 

盗るって。ある意味間違いじゃないけど。盗撮は犯罪だよ?

 

 

 

でも青マーカーだったんなら、プレイヤーか、使役モンスだね。

 

 

 

初期獲得モンスに小人みたいなモンスなんていたかな? アミミンさんの情報にも載ってなかったと思うけど。

 

 

 

一番人型っぽいのでゴブリンwww

 

 

 

でも奴らはプリチーじゃないからな~。それともあれを超絶プリチーと言える性癖……?

 

 

 

 

 

51:オイレンシュピーゲル

 

 

 

やめて! 変な疑惑植え付けないで!

 

もっとちゃんとした小人さんでした! ゴブリンではありません!

 

 

 

 

 

52:アメリア

 

 

 

じゃあ、謎だねー。

 

 

 

ゲーム開始前にアドバンステイムで取得可能なモンスを調べたけど、人型モンスは入っていなかったはず。

 

 

 

 

 

53:オイレンシュピーゲル

 

 

 

でも、βの時に発見されなかっただけで、実は第2エリアに出現するレアモンスなのかもよ?

 

 

 

 

 

54:エリンギ

 

 

 

それはない。βテスト時、エリアの踏破度みたいなデータがプレイヤーに開示されてて、第二エリアの採取物、モンスターデータ、エリアマップは100%に到達してたはずだから。

 

 

 

 

 

55:ウルスラ

 

 

 

テイムモンスとは限らないんじゃ? サモナーのスキルに、ホームにサモンモンスを常駐させるスキルがあったはず。

 

 

 

 

 

56:イワン

 

 

 

それはあるかもね。テイマーとサモナーのモンスは5割しかかぶってないそうだし。俺たちが知らんモンスは、サモナーのモンスの可能性が高いと思うが

 

 

 

 

 

57:オイレンシュピーゲル

 

 

 

それかなぁ?

 

 

 

 

 

58:アメリア

 

 

 

正式版からの新モンスっていう可能性もあるんじゃ?

 

 

 

 

 

59:エリンギ

 

 

 

その可能性も当然ある。それ以外だとエレメンタラーの精霊とか?

 

 

 

 

 

60:オイレンシュピーゲル

 

 

 

色々あるんだね。少し調べてみようかな?

 

 

 

 

 

61:アメリア

 

 

 

がんば!

 

 

 

 

 

62:イワン

 

 

 

>>60

 

期待してる。手伝わないけどww

 

 

 

 

 

63:ウルスラ

 

 

 

>>60

 

ぜひ続報を。手伝わないけどww

 

 

 

 

 

64:エリンギ

 

 

 

正体が分かったら教えてくれ。手伝わんけどなwww

 

 

 

 

 

65:オイレンシュピーゲル

 

 

 

少しは手伝ってくれよ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【農業】農夫による農夫のための農業スレ【ばんざい】

 

 

 

:NWO内で農業をする人たちのための情報交換スレ

 

:大規模農園から家庭菜園まで、どんな質問でも大歓迎

 

:不確定情報はその旨を明記してください

 

:リアルの農業情報は有り難いですが、ゲーム内でどこまで通用するかは未知数

 

 

 

 

 

:::::::::::::::

 

 

 

 

 

20:タゴサック

 

 

 

>>17

 

マナリンゴの正式版での再現はしばらく無理だろう。βテストの時も品種改良exを持ってたプレイヤーが偶然作り出しただけだし。

 

その品種改良exも、イベント上位者へ配布されたランダムスキルボックスで奇跡的に手に入れたスキルだったらしい。

 

 

 

 

 

21:チャーム

 

 

 

品種改良ex? 単なる品種改良じゃだめなの?

 

 

 

 

 

22:つがるん

 

 

 

exスキルは普通のスキルと比べて効果が段違い。色々なプレイヤーが再現を試みたが、品種改良スキルでは無理だった

 

マナリンゴを造るには、品種改良exが必須だと思われる

 

 

 

 

 

23:テリル

 

 

 

exスキルって、普通には手に入らないのか?

 

 

 

 

 

24:チャーム

 

 

 

確かに。手に入るなら私も欲しい! 農耕exとか、株分exとかないのかな?

 

 

 

 

 

25:とーます

 

 

 

不可能ではないが、かなり難しいぞ

 

exスキルは単にボーナスポイントを消費すれば覚えられるって訳じゃない

 

イベントとかスキル構成とか、何らかのトリガーを引くと取得可能スキルのリストに現れる

 

しかも消費するボーナスポイントが半端ない

 

 

 

 

 

26:テリル

 

 

 

どれくらい? 普通のスキルを取得するには4~10くらいだよね?

 

 

 

 

 

27:つがるん

 

 

 

俺、実はβテストの時にexスキルがリストに出現したんだよね。条件は分からずじまいだったが

 

育樹ex。覚えるのに必要なボーナスポイントは60だった

 

 

 

当然覚えられる訳もなく

 

 

 

 

 

28:テリル

 

 

 

はあ? 60? それってなんて無理ゲー?

 

 

 

 

 

29:チャーム

 

 

 

レベルが2上がるごとに貰えるボーナスポイントが5、十の倍数だと10だから……。最速でも30レベル?

 

 

 

 

 

30:タゴサック

 

 

 

実際にはもっと遅くなるぞ。

 

他のスキルを覚えない訳にはいかないし。ボーナスポイントはステ振りにも使うからな。

 

そもそも生産プレイヤーの基本は、生産とクエスト達成で経験値を稼いでのレベルアップだし。

 

やはり戦闘メインプレイヤーとくらべると基礎レベルの上りが遅いし。

 

 

 

 

 

31:チャーム

 

 

 

exスキル……。無理ですね。

 

 

 

 

 

32:とーます

 

 

 

効果は絶大なんだけどな

 

品種改良:作物に他の素材を組み合わせることで、新たな品種を生み出す

 

品種改良ex:作物に他の素材やアイテムを複数混ぜ合わせることで、新たな品種を生み出す。大成功率が大幅に上昇。変異確率が大幅に上昇

 

 

 

これだけ違う

 

 

 

 

 

33:テリル

 

 

 

違い過ぎない? もはや別物?

 

 

 

 

 

34:つがるん

 

 

 

だからこそexスキルの取得は超難関。少なくとも初期には無理だろう

 

可能性としては、キャラメイク時にランダムスキルとかで覚えてるとかか?

 

 

 

 

 

35:タゴサック

 

 

 

それだって奇跡的な確率だろうけどな。

 

 

 

 

 

 

 

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鍛冶師イズと情報収取

ヘパーイストスに納品する素材集めをして数日が経過した。徹夜でしてもVIT以外のステータス数値は0故に採取や採掘は困難を極める。モンスターのドロップアイテムを売って換金して得た資金=Gを貯めつつ、効率よく集めるために掲示板に素材を買い求める依頼を登録しているので、入手の手段を幅広くしてからだった。頼まれたクエストも―――。

 

「どうも」

 

「あの時の兄ちゃんじゃないか!」

 

「これ、頼まれてたワイルドストロベリーです」

 

「おお! 作ってくれたんだな! ありがとうよ! ほら、これは報酬だ」

 

 

納品クエスト

 

内容:ワイルドストロベリーを栽培し、その実を10個納品する

 

報酬:200G、ミントの種

 

期限:なし

 

 

200Gとミントの種だ。ミントっていう種がある訳じゃなく、ブルーミント、レッドミントの2種を5つずつもらえた。雑草も充実してきたよな。

 

「改めて礼を言うぜ。おれはスコップっていうんだ。よろしくな」

 

「あ、死神ハーデスと言います」

 

「なあ、ハーデスを見込んで頼みがあるんだが、話だけでも聞いちゃくれないか?」

 

「頼み?」

 

「おう。実は俺の弟が露店をやってるんだが、ちょっと仕入れの事で困っててな。助けてやってほしいんだ」

 

「縁は縁を結ぶ・・・・・チェーンクエストか。わかった、どこにいるんだ?」

 

「おう!ありがとうな!弟は北区で露店を開いてるからよ」

 

おじさんの言葉と同時に、マップに赤い点が表示される。俺はそのままの足で弟さんの露店に向かった。

 

「お、あれかな」

 

言われた通りの場所には、確かに露店があった。ここもマッピング中に通ったはずなんだが、露店は無かったように思う。クエストが切っ掛けになって見えるようになったってことか?

 

「あのー」

 

「おう、らっしゃい。何をお探しで?」

 

出迎えてくれたのは、花屋のおじさんそっくりの厳ついおっさんだった。ただ、こっちの人の方がやや背が低いかな?

 

 

 

「花屋のスコップさんの紹介で来たんですが。何やらお困りという事で」

 

「おお。お前さん異界の冒険者か?」

 

「はい。死神ハーデスと言います」

 

「俺はライバっていうんだ。よろしくたのむ」

 

「よろしくおねがいします」

 

「見ての通り、俺の露店はハーブやスパイスを取り扱っているんだが・・・・・」

 

ライバさんの言葉通り、露店では色とりどりのハーブやスパイスを売っていた。塩や胡椒、レッドミントやバジルル等々。しかもハーブティーなどもあるな。これは俺でも作れるのか?

 

 

名称:ハーブティーの茶葉・カモミーレ

 

レア度:1 品質:★8

 

効果:なし。食用可能。

 

 

 

名称:ハーブティーの茶葉・ラーベンダ

 

レア度:1 品質:★8

 

効果:なし。食用可能。

 

 

「実はよ。ハーブの仕入れ先が休業しちまって、幾つかのハーブの入荷が滞ってるんだ。で、幾つかのハーブを栽培して納品してほしいんだよ」

 

「種は貰えるんですか?」

 

「勿論だ」

 

それなら栽培自体は可能だろう。だが、大量のハーブを恒久的にというのは中々厳しい。畑を圧迫するし。そう伝えたら、一回だけで良いそうだ。

 

「新しい仕入れ先は見つけてあるんだが、収穫と運搬を合わせたら10日かかるらしいんだよ。だから、今週分の仕入れさえできたらいいんだ」

 

 

 

納品クエスト

 

内容:ブルーセージ、レッドセージを栽培し8個ずつ納品する

 

報酬:300G、ラーベンダの種

 

期限:4日

 

 

 

うーむ。相変わらず安い報酬だな。だが、チェーンクエストであるなら、最終的に良い報酬が貰える可能性がある。NPCからの頼みだしな・・・・・。それに、俺はあることを考えていた。

 

このゲームのNPCは高度なAIで動いているらしい。それに、自由度もそれなりに高い。だったら、NPCと交渉が出来るのではないか? そう思ったのだ。

 

「あの、ハーブの種って売ってもらえないですか? ハーブじゃなくても、花の種でも良いんですけど」

 

「種が欲しいのか?」

 

「ハーブ類に興味があるんで」

 

「異界の冒険者にしては珍しいな。依頼をこなしてくれたら考えてやらんでもないぞ?」

 

「本当?」

 

「おう。別に貴重な物でもないしな」

 

ライバさんに今ある種を見せてもらうと、ハーブはオレガーノ、ヨモギン。花はアジサイ、コスモスの種があった。言ってみるもんだな。それとも、好感度的な物が高いおかげか? 一応、ライバのお兄さんの依頼をこなしてるわけだしな。

 

「じゃあ、依頼受けます」

 

「そうか! ぜひ頼むぜ」

 

という事で俺は、ブルーセージ、レッドセージの種を10個ずつ受け取ったのだった。ついでにハーブティーも買ってみた。味を試してみたいのだ。

俺は頭の中で畑の空きを考える。依頼の種を植えるスペースが無いな。ハーブ用の畑が手狭になってきた。

 

「新しく買っちゃうか」

 

ハーブ用の畑は品質を気にしなくても済むから、最も安い2000Gの畑でいい。どうせだから買っちゃうか。ハーブティーやポプリ、押し花を作る実験をするにしても、今のままじゃ素材が足りないし。

ということで、俺は新たに2面、畑を購入するのだった。とりあえず手に入れたばかりのハーブの種を植えておく。明日には納品できるだろう。

お次は楽しい実験タイムだ。いや、オルトがハーブへの水まきを終えるまで暇なので、時間つぶしがてらね。ついさっき存在を知ったばかりだが、ハーブティーはぜひ作ってみたいし。

 

「さて、今ある雑草は――」

 

バジルル、カモミーレ、ワイルドストロベリー、チューリップだ。

半分は実験に使っても良いな。言っておくが、単なる好奇心だけじゃないぞ。雑草やその加工物は特殊な効果こそ無いものの、味や香りは凄く良いからな。俺の美味しいゲームライフの為に、ぜひ必要なのだ。

本当はコーヒーが飲みたいけど、発見したという報告は聞かない。いや、いつか自分で作った豆でコーヒーを淹れるなんて、夢があるんじゃないか? まあ、いつになるかは分からんが。

 

「普通にハーブティーを作るんなら、乾燥させればいいんだよな?」

 

いや、待てよ。前にカフェで飲んだフレッシュハーブティーは、普通に摘んだばかりのハーブにお湯を注いでたな? 想像以上においしくて驚いたんだよ。そっちを試してみるか。俺は鍋でお湯を沸かして、そこにカモミーレを投入してみた。火を止めて少し待って見ると、段々と色が緑に変わってきたぞ。

 

 

名称:雑草水

 

レア度:1 品質:★2

 

効果:なし。食用可能。

 

 

ハーブティーにはならなかった。味はどうだ?

 

「ぶふっ!」

 

俺は口に含んだ直後に緑の水を噴き出していた。やばいね。雑草のエグ味だけを抽出したような味だった。ただただ不味い。ホレン草携帯食に匹敵するぞ。

バジルルでも試してみたが、結果は同じただの色付き水だ。どうやらフレッシュハーブティーは作れないか、俺のスキルが足りないようだ。

 

「仕方ない。ドライハーブティーを試すか」

 

こっちも簡単だ。錬金のアーツ、乾燥をかけるだけだからな。

 

 

名称:ハーブティーの茶葉・カモミーレ

 

レア度:1 品質:★4

 

効果:なし。食用可能。

 

 

よし成功だ。これでハーブティーは基本乾燥させればいいということが分かった。

ただ、品質は低いな。俺は店で買って来た★8の物と飲み比べてみる事にした。作り方は全く同じ。使う水も井戸水だ。

 

 

名称:ハーブティー・カモミーレ

 

レア度:1 品質:★3

 

効果:なし。食用可能

 

 

名称:ハーブティー・カモミーレ

 

レア度:1 品質:★7

 

効果:なし。食用可能

 

 

さて、何か差があるか。

 

 

 

「ずず・・・・・。ずず・・・・・んー?」

 

違うな・・・・・。★7の方が香りが強い気がする。本当にごく僅かだが。★3が不味いわけではないし、しばらくは品質を気にしなくていいか。

お次はポプリかね。そう思ったが、ポプリってどう作るんだ? 単に乾燥させたハーブを袋に詰めればいいのだろうか? うーん。

 

「まあ、一度やってみよう」

 

チューリップをアーツで乾燥させてみる。

 

 

名称:ドライフラワー・チューリップ

 

レア度:1 品質:★4

 

効果:なし。観賞用。

 

 

だよね。乾燥させただけなら、単なるドライフラワーだ。とりあえずこれを細かく砕いてみるが……。出来たのはゴミだった。やっぱり乾燥させるだけじゃダメか。

 

「仕方ない。ポプリの作り方はログアウトした時に調べてみよう」

 

最後はワイルドストロベリーだ。普通のイチゴだったらジャムにでもするが、砂糖もないし。そもそも小さくて、ジャムにするには量も少ない。これも乾燥させてみるかな。

 

 

名称:ドライハーブ・ワイルドストロベリー

 

レア度:1 品質:★3

 

効果:なし。食用可能。

 

 

ハーブティーではなく、ドライハーブか。食用可能となっているし、俺は一粒口に含んでみた。うーん、微糖? 甘さ控えめにも程があるな。ただ、香りは悪くない。イチゴと柑橘系を混ぜたような、甘味と酸味の混ざった良い香りがする。花屋のスコップが言っていたように、ハーブティーやクッキーなんかに混ぜたら美味しそうだ。

 

使い道は色々あるだろうと試行錯誤が楽しくなってきたところにメッセージが届いたのだ。送り主は『イズ』。始まりの町で話がしたいとのことで待ち合わせの場所として広場に赴く。特徴は水色の髪だと教えてもらったので直ぐに見つけれた。

 

「こんにちは。メッセージをくれたイズか」

 

「ええ、私がイズよ。貴方がハーデスね?」

 

駆け出し中のプレイヤーらしい装備をしている美女。髪と瞳は同じ水色で大人の女性のプレイヤーと話をしたのはゲームをして以来初めてだ。

 

「掲示板を見てメッセージを送ってくれたのは、素材をくれるということか?」

 

「うんと、その事なんだけどね?私、戦闘が苦手で鍛冶師の生産職プレイヤーとしてゲームを始めたの。だから鍛冶師として装備を作るのに必要なアイテムの採取は私ひとりじゃ今厳しくて」

 

「アイテムの収集の手伝いをしてほしいってことか?」

 

「うん、手伝ってくれたらあなたが欲しがっている鉱石を報酬として渡すわ」

 

悪くないと提案に頷き、彼女との取引を成功させるためにヘパーイストスの元へ向かう。

 

「おう、いらっしゃい―――ってなんだお前さんか。しかも可愛い彼女を連れて来やがって、自慢か!素材の方はどうした!」

 

「ヘパーイストスもまだまだイケイケなワイルドの鍛冶師だと思うのは俺だけか?燃え盛っている炎のような赤髪が格好いいし、キリッとした瞳に女性が好みそうな筋骨隆々の逞しい身体、それに―――」

 

「だぁーッ!もういい、それ以上褒めちぎるな!背筋が痒くなってきやがったから!?」

 

ガリガリと後ろに手を回して背中を掻くヘパーイストスを弟子が唖然として見ていた。どうやら褒められることに慣れていない様子だ。まあ、それはそうと本題に入るか。

 

「鉱石が掘れる場所を教えて欲しい。俺の報酬の装備品の素材にも幾つか鉱石があるけど場所が分からないんだよ」

 

「ああ、そんなことか。そうだな。毒竜を単独で倒す実力があるなら・・・・・提示した鉱石より上質の鉱石が掘れるかもしれない場所を教えておくか。お前だけだったら駄目だったがな。そこの嬢ちゃんは鍛冶師の端くれだろ?同じ鍛冶師のよしみでとっておきの場所を教えてやる」

 

おお、何だか派生クエストが発生したっぽい。

 

「どこなんだ?」

 

「おう、そこはな?昔この町で鍛冶師として生活していた俺のじいさんの話なんだがよ。町の外で地下坑道があって爺さんしか手に入れない宝の山のような鉱石や金属を掘れたそうなんだ。だけどその中にモンスター共が棲み付いちまって以来入れなくなってしまったらしい。で、鋼鉄の扉でその地下坑道を閉ざしたようだ。今もそうらしいぞ」

 

イズと顔を見合わせてその場所を教えてもらう懇願をすると、店の奥に引っ込んで行って直ぐに黒い鍵と何故か白銀色のピッケルを複数持ってきた。

 

「本来ならお前達に頼まず一人で行くつもりだったんだが仕事が立て続けに増えてそれどころじゃねぇ。 代わりに行ってモンスターを退治して掘りやすくしてくれないか。ついでに俺の分の鉱石も持ってきてくれ」

 

『クエストが発生しました。受理しますか』

 

と青いパネルと共に音声が流れた。受託のボタンを押すとヘパーイストスから鍵を受け取れるようになった。

 

「場所を教える。場所は―――」

 

 

 

 

「ここなわけか。悪かったなイズ、歩くの遅くて」

 

「VIT極振りのプレイヤーだとは思ってなかったわ。β版をしていたプレイヤー達の間では極振りプレイは、特に盾使いの職業は攻撃力が低すぎて中々モンスターを倒せないで死ぬ、足が遅すぎて移動と回避が困難で死ぬ、防御力以上の攻撃を受けると低いHPで直ぐに死ぬ不名誉な三拍子が揃って、βテストの最終日には誰も極振りはしなくなるほど不人気だったわよ?」

 

鍵を掛けられた鎖で硬く閉ざされている扉の前でイズから極振りの苦労を語られた。

 

「じゃあ、俺はその唯一成功した極振りプレイヤーってわけだな」

 

「その装備を見る限りはそうね。毒竜の迷宮を攻略して手に入れたんでしょ?」

 

「そうだ。数時間かけてな」

 

解錠して鎖を解き放ち扉を開け放つ坑道の中は人工で発掘された洞穴が二人を迎えた。中はやはり暗く、松明やランタンといった照明道具が無いと足元が見えない。

 

「さて、鉱石だから壁を掘るのか?」

 

「違うわよ?宝石の結晶みたいな塊が採掘ポイントにあるの。そのポイントのところにまで行かないと」

 

「道中モンスターも出くわすと。じゃ、イズを守りながら進まなきゃならないな。重戦士のタンク役冥利尽きる」

 

「よろしくね。念のためにやられそうになったらポーション使うわ」

 

必要あるのかな?と思いながら坑道の洞窟の中へと足を踏み入れた。手慣れたようにランタンを出して光源を確保するイズの前、大盾を構えながら前進する。ダンジョンのように幾つも道が枝分かれしていて、初見できた洞窟内のマッピングをしつつ、遭遇するだろうモンスターへ警戒していると。ゴンッと頭に何かが当たった。

 

「え?」

 

「えっと、下」

 

イズが俺の足元に向かて差す指で原因を教えてくれる。足元に目をやると尻尾の先に尖った石を纏ったトカゲが瀕死状態で倒れていた。尻尾の岩は殆ど砕けていてその残骸も転がっている。

 

「天井に張り付いていたのか。気配察知的なスキルが無いからわからなかった」

 

足で踏みつけてトドメを差す―――不意に天啓を得たように思いついた。実行するのは目的の鉱物を手に入れるまでと戒めて盾を構え直すと天井や足元、壁にも注意を払いつつ採掘ポイントへ赴く。

 

イズside

 

掲示板を見て生産職のプレイヤーの私にとって好都合な募集があって、直ぐにでも募集したプレイヤーに連絡を取ったのが幸先が良かった。β版では知り得なかった鉱山の場所をNPCの鍛冶師が親し気に彼に教えてくれたのだ。どうやらNPCの鍛冶師に関するクエストをこなしたからだと思うけれど、私が一緒じゃなきゃ教えてもらえなかったその場所にいるモンスターと戦う彼は、圧倒される。

 

「【パラライズシャウト】」

 

麻痺攻撃でモンスターを麻痺させてからゴブリンを倒したり、岩石の人型モンスターのゴーレムを手で触れただけで倒したり、とにかく私に攻撃されないよう注意を引くスキルを使って大盾と体術でどんどん倒していく。

 

「あ、スキル取得できた」

 

ポツリと零された言葉に軽く驚嘆した。β版で防御特化に極振りしたプレイヤーは検証として暫くプレイした結果、極振りプレイは極端に難しくて自他共に認める何もできないことが再確認されて、パーティも入りづらく入れようとする気もないから成功例はなく不人気なのにスキルを取得しちゃうなんて。

 

「ハーデス、スキルは何?」

 

「【体術】。武器を使わずモンスターを倒すと取得できるみたいだ。これならウサギ相手にも取得できるな。ん、【衝撃拳】!」

 

片手で彼の拳から空気の弾が打ち出されてモンスターをHPバーを減らしながら吹っ飛ばした。

 

「ははは!楽しいな、スキル取得は!」

 

レベル上げて強くなるよりスキルを取得する方が楽しそうな彼が今後、人外的な成長を遂げることをこの時の私はまだ知らなかった。

 

圧倒的な防御力の前ではモンスター達は倒せず倒されて彼が通った道に何も残らない状況が深奥に進むまで続いた。初見の鉱山でしばらく時間が掛かってあちこち進んでは行き止まりに足を停められてしまうこと何度も経て、やっと目的の採掘ができるポイントに辿り着いた。目の前がいっぱい白銀色の光を輝かせる鉱石の塊がある場所に。

 

「ここがそうか?やっと着いたぁ・・・・・うん?」

 

「鉱石も初めて見る・・・・・えっ?」

 

彼と私もその鉱石を見て信じられないと目を丸くした。だってこれ・・・・・!!

 

「これ・・・・・鑑定するとミスリル鉱石って表示するぞ」

 

β版では流通していなくて鍛冶師や武器店のNPCでも取り扱ってなかった、レアなミスリルがまさかこんな形で採掘できるなんて・・・・・!

 

「俺、β版はやったことないけど割とマイナーだったりする?」

 

「いいえ。β版の時はど見つけた話は聞いたことが無いわ。多分誰一人手に入れたことが無い希少の鉱石よ。・・・・・手持ちのピッケルで掘れるかしら」

 

「試してみたらどうだ?貰ったピッケルの耐久は何故か異様に高いのかわかるし」

 

うん、そうしよう。まずは自前のピッケルをインベントリから取り出して勢いよく振り上げてミスリル鉱石の塊に振り下ろすと―――白銀色の鉱石はアイテムとして私の足元に零れ落ちた。その代わりピッケルの耐久が半分以上に減った。

 

「普通のピッケルの耐久値が一気に半分以下になったわ」

 

「決まりだな。専用のピッケルじゃないと簡単に採掘できないか。貰ったピッケルのここの部分はミスリルで加工されてるから、もっと掘れ易く集めれるだろうな」

 

「骨折り損にならなくてよかった。早速掘るわ」

 

「任せた」

 

彼は(卵みたいなものを抱え出して)護衛に徹し、私は初めて手に入れる鉱石を専用のピッケルで掘り続ける。

あ、採掘スキルレベルが上がる上がる!ふふ、どんどん掘るわよ~!それそれー!

 

―――小一時間経過。掘り尽くしたミスリルは私のインベントリの一部の枠は白銀の鉱石で一杯になった。一部はNPCに譲渡することになって、他は彼の分。そして残った分は私の分と彼と相談して決まった。来た道に戻る道中は彼を止めるモンスターはいなく、ダメージを受けずに鉱山を後にして始まりの町に帰り鍛冶師が待っている店へと直行する。

 

「ヘパーイストス、戻ってきたぞ」

 

「戻ってきたな。爺さんの鉱石はどんなんだった?」

 

「ああ、リズ」

 

「はーい、これです」

 

NPCが指定した数の分のミスリルを取り出すと、彼の眼が極限まで見開き震える手でつかみ上げた。

 

「こいつはまさかミ、ミスリル!?この世界で数ある王国でも三つしかない希少が高すぎる鉱石じゃねぇか!?」

 

「王国?」

 

あ、β版をしていない彼は知らないのね。あとで教えてあげましょ。若い青年のNPCが口を開いた。

 

「師匠。師匠の爺さん、こんな凄い鉱石を独占していたのか・・・・・?」

 

「そうらしい。俺もこんな色の武器や防具を作る爺さんを見たことがあったんだが・・・・・」

 

まさかミスリルだとは思いもしなかったぜ・・・・・。と深いため息を吐きながら脱力感を窺わせる。

 

「知らなかったのか?上質の鉱石が掘れるって言ってたのに」

 

「俺もミスリルが採れる鉱山なんて思ってもみなかったんだよ。爺さんの死の間際に珍しい鉱石がある場所を教えてもらったが、当時の俺は鍛冶師になる気はなかったから遺言として覚えていた程度だったからよ」

 

鍛冶だって無理やり覚えさせられたから鍛冶スキルを得てしまったんだ、と語る鍛冶師のNPCの話は続く。

 

「こいつはまた手に入れなきゃ在庫が尽きるな。新しい武具の制作前にミスリルのピッケルを作らなきゃならねぇ」

 

「鉱山の中のモンスターは粗方倒しといたけど大丈夫か?また出てきそうだぞ」

 

「数を減らしてくれたんなら問題ねぇ。弟子と一緒に行くからな。こいつも一人で素材を集めるよう鍛えなきゃならんしよ」

 

それは私達鍛冶師のプレイヤーにも言われた気がしてならないわね。戦う鍛冶師なんて逆に珍しいから。

 

「今回の爺さんの坑道内のモンスターの掃討の報酬は手に入れたミスリルでいいな?お前の要望の装備もミスリルで代用するから本来必要だった他の鉱石や金属を集めなくていいぜ」

 

「え?じゃあ」

 

「後はモンスターから手に入れれるドロップアイテムだけだろ?数は多いが、採掘するよりは簡単なはずだ」

 

安堵でため息を吐くハーデスはVITの極振りしてるから採掘は極めて困難を強いられちゃうから、ラッキーな話よね。私もミスリル手に入れられてラッキー♪

 

「ああ、それとミスリルの場所は誰にも言わないでくれよ。他の鍛冶師や冒険者達に知られたら根こそぎ掘り尽くされて鉱脈が枯渇するからな。お前達だけは特別として今後も採掘してくれて構わないぞ」

 

「ありがとうございます!」

 

私達だけの特権を得た証として鍵をくれた。嬉しい私とは対照的にハーデスはちょっと微妙な反応だった。鍛冶師じゃないとミスリルの使い道がないからかもしれないわね。

 

「ハーデス、また一緒に行ってくれる?」

 

「構わないよ。イズ、フレンド登録OK?」

 

「勿論、これからもよろしくね」

 

長い付き合いになりそうだし、登録してもいいと私自身も考えてたところ。彼との出会いで思わぬ物が手に入り、他のプレイヤーよりスタートダッシュができた気分でフレンド登録した後でも、私は彼の素材集めに付き合ってレベリングもしてもらっちゃった。

 

 

 

 

「ああ、そうだ。ヘパーイストスなら知ってるか?」

 

「話の内容によるが一先ずさっきから抱えてるその卵は何だ」

 

「精霊様からもらったんだ。これもそうだけど分かる?」

 

インベントリから火結晶、水結晶、土結晶、風結晶を出して確認してもらおうとしたが、ヘパーイストスはこれらを一目見て目を大きく見開いた。

 

「属性結晶じゃないか!」

 

「属性結晶?」と鸚鵡返しをする俺に若干興奮気味で語ってくれた。

 

「その名の通り属性が宿っている結晶だ。武器に火結晶を加えると物理攻撃と火属性のダメージが付加され、防具に使うと火の耐性が付加するんだ。属性魔法の威力だって上昇するんだぞ。ミスリルとだって相性がいい」

 

「かなり珍しい?」

 

「俺も王立図書館で見聞で知った程度で実際に手にしたことが無いし打ったことが無い。しかも入手方法はどこかにいる精霊のモンスターからだと昔ちらっと聞いたぐらいだ。それが本当なのかどうかも俺すら分からない」

 

精霊のモンスター。大樹の精霊から貰ったアイテムだから、精霊に関するモンスターから手に入れるだろうなんて安直すぎるか?

 

「もしお前が良ければ、この結晶を売って・・・・・いや、これだけじゃ足りねぇな。色々とこの手で試してぇことたくさんある」

 

欲しいけれど数が足りない。野太い両腕を組んで考え込み苦悩するヘパーイストスからまたクエストのパネルが浮かび上がった。ミスリルと同様の採取クエストだ。了承了承っと

 

「すまねぇ、今回ばかりは力にならない。首を長くして待ってるから手に入ることがあったら大量に確保しといてくれ」

 

「わかった。あー、俺の報酬が遠のくなー」

 

「それはお前のオーダーメイドだ。仕方がないだろう。だが、今度は俺も手伝ってやらぁ。ミスリルを報酬にお前が収集する筈の素材をギルドに依頼してくる」

 

ギルド?ああ、そういえばあったんだよな。まだ一度も行ったことが無かったから忘れてた存在だ。

 

「いいのか?まぁ、また集めてくればいいだけか」

 

「おう!そん時は遠慮なく言うから頼んだぜ。だが、くれぐれもあの嬢ちゃん以外の他の人間には連れていくことも教えることもしないでくれよ。爺さんの遺産だからな」

 

釘も差される。ヘパーイストスの忠告を無視したら好感度が下がりそうだ。これからも頼るだろうし気を付けよう。ていうか、ミスリルを報酬にって・・・・・。

 

「因みに聞くけどさ、俺もミスリルを報酬にして誰かに依頼しても?」

 

「爺さんの鉱山の場所を秘密にしてくれりゃいい」

 

―――何で気付かなかった、俺のバカ!

 

店を後に外へ出てどうやって精霊のモンスターを探そうかと考えた時、横から両手を伸ばして懇願してくるイズさん。心なしか目が輝いてはいないか?

 

「ちょうだい!」

 

「駄目だ」

 

「えー!?」

 

「精霊に関するかもしれないからしばらくとっておくんだよ。精霊のモンスターから手に入るって話だけど、実際はどうなんだ?」

 

物凄い物欲の眼差しを向けられても無視しながら真意を確かめる。

 

「βテスターの時は話だけ聞いた程度に第3エリアでも激レア。βでもほとんど産出しなかったし。土結晶はノームのレアドロップだけど、他の存在は初めて見たわ」

 

「第3エリア・・・・・ノーム?土の精霊か?」

 

「ええ、そうらしいわ。βテスターで情報屋から聞いた限りノームがいるらしいの」

 

精霊、ノーム・・・・・だとすると。

 

「属性結晶と精霊に関して考えると火精霊はサラマンダー、風精霊はシルフ、水精霊はウンディーネ、土精霊はノームってことになるな」

 

「どうしてそう思えるの?」

 

「このゲームはファンタジーだからだが?」

 

何を当たり前なことを聞くんだ?と不思議そうにイズを見つめた。

 

「だとすれば、各精霊の住処がフィールド上のどこかにある筈なんだよなぁ。多分、特殊な方法で出入りが可能にするギミック付きで」

 

「それって不思議な場所がどこかにある前提で?」

 

「うん、だと思う。ところで情報屋って?」

 

βテスターじゃない俺が無知でも仕方がない。イズは情報屋の事を提示してくれた。

 

「名前の通りゲーム内のすべてを検証、情報を集めたり売買するプレイをしているプレイヤーの呼称よ。

知らない情報を求めて情報屋から勝手、自分しか知らない情報を売ることもできるから

プレイヤーの間じゃあ重宝されてるの」

 

「そういうプレイヤーは今でもいるものか?」

 

「いるわよ?『タラリア』ってギルドの名前でね。西の露店に行けば直ぐに見つかると思うわ」

 

西の露店か。あとで行ってみよう。

 

「で、今度はこっちが聞きたいんだけれど、その卵は何?精霊様から貰ったって?」

 

イズの視線の先は両腕で抱えている卵。

 

「ああ、精霊降臨時で町に貢献したプレイヤーとして精霊から貰った」

 

「へぇ、先日の不思議な精霊の降臨はそんなイベントだったんだ。ハーデスは何してたの?」

 

「ゴミ拾いのクエストをしていた。1週間ゴミ拾いで報酬は何もない」

 

「それが終わって精霊が現れたってことは、そのクエストが発動するキークエストじゃないかな?」

 

そんなクエストがあるのか?うーん、いまいちクエストの繋がりが読めないな。

 

「何が産まれるのかしらね」

 

「精霊だったら大歓迎だ」

 

「精霊だと生産系のモンスターよ?戦闘能力はないけれど生産能力は中堅ほどの力があるから」

 

おお、生産か。農業地区で一緒に畑を耕したり任したりして生産しつつ楽しむプレイもいい。

・・・・・防御特化のプレイが薄れていく気がするが、この際楽しんだもの勝ちだとして色んなことをしていこう。

 

「イズ。またミスリルを掘るだろうけど、専用のピッケルって製作できるのか?」

 

「何とかね。でも、私のステータス数値がまだ高くないから性能は低いでしょうね」

 

「生産職ゆえの難しいところだよな」

 

「そうね。ステータスポイントを増やせるものがあればいいのだけれど」

 

うん?イズは知らないのか?

 

「イズ、イズ。称号を獲得すると貰えるぞ。ステータスポイントの巻物」

 

「・・・え?」

 

そう言った次の瞬間。卵にピシッと音が鳴って罅が入ったのだ。

 

「あ、卵が孵化する!?」

 

「どうすれば?」

 

「意外と普通に冷静ね! 一先ず地面に置いたら?」

 

その通りにしてイズとヘパーイストスと頭を突き合わせて見守る。そしてついに卵が割れて。中からモンスターが現れた。

 

「キュイ?」

 

パッと見・・・・・フワフワな羽毛で覆われたトカゲだと認知するけれど、パタパタと羽音を鳴らして翼を動かし宙に浮かんでいるのはただのトカゲではなく

 

「これって・・・・・」

 

「ド、ドラゴン!ハーデス、この子はドラゴンだよ!」

 

「しかもこのサイズ・・・・・こいつぁピクシードラゴンか。生まれて初めて見たな」

 

イズが色めき立ち、興味津々に視線を注ぐヘパーイストスと一緒にピクシードラゴンを見つめる。この小さいのがか?テイムしてるから情報を確認・・・できるな。

 

 

ミーニィ

 

LV1 種族ピクシードラゴン

 

HP 55/55

MP 70/70

 

【STR 10】

【VIT 15】

【AGI 25】

【DEX 15】

【INT 25】

 

スキル:【火魔法】【風魔法】【水魔法】【土魔法】【雷魔法】【光魔法】【闇魔法】【氷魔法】【回復魔法】【砲撃】【危機感知】【巨大化】【索敵】

 

ちょっ・・・・・なにこのオールラウンダーの攻撃重視の魔法は!?

 

「オルトと同じ名前が最初から付けられてるな」

 

「それはきっとユニークモンスターだからよ」

 

「ユニークモンスター?」

 

「そ、テイムしたモンスターの名前が最初から付けられていたらそれはユニークモンスターで、他の同じモンスターの能力より少し高く、珍しいレアスキルも覚えているのが特徴なの。テイムしたいなら見分け方は大雑把で言えば色違いなモンスターを探す必要があるわ。見つけるのは難しいけれど」

 

なるほど、理解したが・・・・・。

 

「さっきピクシードラゴンって言ったな?」

 

ヘパーイストスは頷いた。

 

「発見数も片手で数えるぐらいな小さいドラゴンだからピクシードラゴンと名付けられたそうだ。生態は不明で、確かすばしっこくて豊富な魔法で攻撃するらしいが」

 

「ああ、魔力と敏捷が高いと鑑定でわかる。ヘパーイストスの言う通りだ」

 

肩に降りて俺に身体を摺り寄せてくる。甘えてるのかな?ミーニィを撫で羽毛の感触を堪能する。

 

 

「イズ、イズはまだ始まりの町で構えているつもりか?」

 

「うん、まだレベルが低いしミスリルも欲しいからね。ハーデスは?」

 

「VIT極振りの俺は報酬の装備が整い次第、他のダンジョンを攻略しつつ属性結晶の出所を探す」

 

「見つけたらいい値段で買い取るから頂戴ね」

 

「先約いるから二番目な」

 

一番はそこにいる鍛冶師のおっちゃんだ。イズと別れ、彼女の情報源を頼りに西の露店へ向かう。ミーニィは俺の頭の上に乗っかり毛玉みたいになった。ここの大通りは俺達プレイヤー向けの武器屋や道具店、魔法専用の店など構えるNPC達にまじってプレイヤーも店を借りて売買をしているらしく、いわゆる冒険者通りと名称がある。ここで情報を売買しているギルドのプレイヤーがいるらしいけど・・・。

 

「おーい、そこの頭に毛玉を乗せたお兄さん」

 

不意に声を掛けられた。毛玉を載せてるのはこの場に俺だけ、特徴的な姿を指摘され呼んだ者を探してると手招きする橙黄色の髪と瞳の少女がいた。服装の出で立ちは、獣耳を生やしたつば広帽子を頭にかぶり旅人服を着ていた。近づいてみれば緩慢的に尻尾を揺らし好奇心の光を宿した瞳で俺を注視する。

 

「何だ?この店は雑貨店か?」

 

「俺以外にもこれを持っているプレイヤーいるのか?」

 

「違うわ。まぁ、それっぽいこともしてるけれどここは情報屋をしてるの。私の名前はヘルメスだよ。よろしくね」

 

「ヘルメス?ってことはオリュンポス十二神ヘルメス繋がりで『タラリア』っていう情報屋か?あ、俺は死神ハーデスだ」

 

ヘルメスが感嘆の息をもらす。

 

「へぇ、ギルドの名前の由来を的確に当てちゃうなんてね。誰も口にはしなかったけれど言い当てたのは貴方が初めてよ」

 

「それはどうも。それに丁度良かった。買いたい情報があったから」

 

「何かな?今は東西南北の4つの第2エリアの最新(ホット)の情報が人気よ」

 

最前線の攻略組はそこまで進んでいるのかと感嘆の念を抱きつつ、精霊に関する情報を欲した。

 

「精霊、ノームとサラマンダー、シルフにウンディーネの情報はある?」

 

「へ?ノーム、サラマンダー、シルフとウンディーネ?ちょっと待って。発見したの?」

 

ヘルメスが軽く目を丸くし訊き返してきた。この反応からして情報は持っていないか。

 

「いや、βの時にノームが発見されたらしいじゃん?じゃあ精霊なら今言った三種の精霊も居てもおかしくないだろうって独自の考えで訊いてみた」

 

「中々の推察力を持ってるのね。でも残念、今内には精霊の情報は一つも仕入れてないわ」

 

「そうか。じゃあ、変わった物とかは?」

 

まだ第2エリアは行く予定はないが、事前に情報を集めておくべきだ。

 



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出会い

「変わった物?ごめん、それもないわねー。あ、でも不思議なオブジェクトの情報ならあるわ」

 

「買おう。不思議なオブジェクトって?」

 

「各方角の第2エリアにそのオブジェクトがあるの。何か謎の仕掛けがあるかもしれないけれど結局何を試しても分からずじまいで誰も謎を解き明かせないでいるわ」

 

因みにエリアについて少しおさらいしておこう。このゲームは始まりの町を第0エリアとして、そこから離れるごとに数字が加算されていく。

 

始まりの町に面している北の平原、南の森、東の平原、西の森の4フィールドが第1エリア。

 

そして、北の平原の先にある『獣牙の森』、南の森の先にある『鋭角の樹海』、東の平原の先にある『蟲毒の森』、西の森の先にある『鉤爪の樹海』。始まりの町から2エリア分離れたこの4つのフィールドを第2エリア。さらにそれら第2エリアの先にある、北の町、南の町、東の町、西の町のある4つのフィールドを第3エリアと言う。

 

それ以降は、偶数エリアが町なしフィールド、奇数エリアが町有りになっているらしい。これはあくまでも掲示板情報だがな。第3エリアからはそれぞれ2種類のフィールドに行けるらしいが、まだまだ先の話だろう。何せ正式サービスが開始されても攻略組がそれ以上フィールドの先には進めれてないからだ。

 

そして買った情報によると鉤爪の樹海には風が通り抜ける時に音が鳴る、穴の空いた大岩があるし、鋭角の樹海には何をしても火が消えない樹木程の高さの巨大な松明がある。獣牙の森には、高さ3メートル程の板状の岩が6枚、円を描くように設置された小さいストーンヘンジのような場所があるそうだ。蟲毒の森には周辺に色とりどりの花が咲き乱れる、綺麗で深い泉があるそうだ。

 

そして、余談だけどいくつものエリアを突破していくとβだった時は帝国や王国、雪国や砂漠といった場所やNPC達が暮らす国があるのだとか。ヘパーイストス達も王都から来たっぽいからまず間違いなく存在するだろう。

 

さらにもう一つ、今現在のレベルの上限は100となっている。これは後から参加してくるだろう第二陣と同時に上限が解放されるかもしれないな。

 

「なるほどな。じゃあ、その場所らが何か怪しいと」

 

「私の推測では間違いなくね。もし何か分かったなら教えてちょうだい」

 

「わかった。で、いくらだ?」

 

買った情報の値段は意外と安く、問題なく払えた。

 

「ねぇ、そっちも何か情報ない?」

 

「情報?うーん何でもいい?」

 

「ええ、何でもいいわ」

 

聞いておいて何でもとなると・・・・・どれを売ればいいか考えてしまうな。

 

「情報以外でもアイテムを売る事って?」

 

「勿論OKよ」

 

「へぇ、じゃあまず最初にこの存在の情報から」

 

ミスリルの鉱石をインベントリから出してヘルメスに手渡す。

 

「へぇ、ミスリル・・・・・ミスリルぅッ!?」

 

おっかなびっくりで叫ぶ彼女の口を片手で塞ぐ。既に遅しだろうけど頭の上でビクッ!と震えたのが分かりびっくりしたようだからな。

 

「初期のエリアにレア鉱石が一部のNPCの店で扱われてるって情報はあるけど。こ、これどこで手に入れたの!?」

 

「それは言えない。NPCに口止めされてるから」

 

「そ、そうなの・・・残念だけどNPCが絡んでいるなら訊けないわね。これ、後どのぐらい手元にあるの?」

 

「20個ぐらい?」

 

「ぐっ・・・!他に何かある?」

 

「これ」

 

4つの属性結晶を取り出し、「ふぇえええええっ!?」とヘルメスを戦慄させた。

 

「属性結晶!?しかも4つ!?土結晶以外の結晶なんて初めて見た!!」

 

「昨日、この町の地下祭壇にまた精霊と会って、ユニーク称号の報酬として―――」

 

「待って、待って待って・・・・・普通に凄い情報をすらすらと言われるとこっちの身が保てないからっ」

 

自身の胸に手を当てて何度か深呼吸する。落ち着くと「よし!」と平常心になれば身構えた。

 

「へいカモン!どんとこい!」

 

「・・・・・まだ平常心じゃないだろ」

 

でも教える。精霊の祭壇に行けた経緯と関する情報にユニーク称号の効果を。

 

「く、な、なるほど・・・先日のアナウンスは君が原因だったなんてね。毎週、魔法の鍵を所持した人が『木の日』に祭壇でお供えをすれば精霊の祝福を得られるとは」

 

「お供えした物は黄金の林檎で、貰ったのが大樹の苗だった。しかも大樹の精霊に好感度があるらしくて―――」

 

「黄金の林檎って激レアなんだけど!?」

 

「そうなのか?あの林檎が取れた場所は―――」

 

「ストップ、ストーップ!さらっと言わないで!心臓に悪いから!」

 

俺の持ってる情報は相手の心臓を悪くするほどか。なら、落ち着かせる情報でも送るか。

 

「精霊の祭壇の動画を撮ったけど見るか?」

 

「ハードル下げてきたわね。ええ、見るわ」

 

「ついでにこれも売れる?」

 

「売れるわ。なんならこっちがアップしてあげましょうか?」

 

二言で了承する。タラリアの宣伝効果にもなるし、この動画の情報を買い取るプレイヤーもいるし、俺以上にいいこと尽くめだろうな。

 

「で、情報はこれで全部?」

 

「うーん、あと個人的な情報、スキルと称号の情報はあるけど」

 

 

称号:万に通じる者 不殺の冒険者 出遅れた者 大樹の精霊の加護 白銀の先駆者 毒竜の迷宮踏破

 

スキル

 

【絶対防御】【手加減】【体捌き】【瞑想】【挑発】【極悪非道】【シールドアタック】【大物喰らい(ジャイアントキリング)】【毒竜喰らい(ヒドライーター)】【爆弾喰らい(ボムイーター)】【大盾の心得Ⅹ】【悪食】【受け流し】【体術】【爆裂魔法Ⅰ】【エクスプロージョン】

 

 

・・・・・出遅れた者は教えない方がいいな。

 

「称号6つほどあるけど1つだけ売るわ」

 

「えっ!?6つもあるの!?ちょっと待って、この中にあるかしら?」

 

 どうやら、早耳猫が情報を売っている称号のリストの様だった。全部で11。結構少ないな。しかも、白銀の先駆者などの、2日目に与えられたユニーク3称号の名前も合わせての11個だ。俺にとっては幸運なことに、不殺の名前は載っていない。

 

「これしかないのか?」

 

「少ないと思う?」

 

「うん」

 

「それくらい、称号の取得は難しいってことよ。あなたが思っている以上にね」

 

「そうなのか」

 

「で、どう? このリストに、載ってる?」

 

「載ってないな。あ、毒竜の迷宮踏破はある」

 

「本当? すごいわね!」

 

ヘルメスの興奮が頂点に達したようだ。その猫耳がピンと立っている。へえ、こういう演出は細かいな。

 

「最初にあなたに声をかけた自分を褒めてあげたいわ! 分かってないみたいだけど、これは凄いことなのよ?」

 

「俺もこれを知るまでは実感はなかったな」

 

正直、どうでもいいとも思っていたのだがな。

 

「それって、他の人が取得可能かしら? それとも先着でハーデスくんだけしか取れない?」

 

「いや、他の人でも取れると思うぞ」

 

「本当なの?」

 

「ああ」

 

ヘルメスが身を乗り出して顔を近づけてくる。

 

「良いわ。1つ3000G出しましょう」

 

「ええ?」

 

「それくらい価値がある情報よ。いえ、取得条件の情報の精度や、その有用性によっては、10000G出してもいい」

 

「おおお?」

 

ようやく、自分の情報がかなり貴重だと言うのが分かってきた。ちょっとワクワクしてきたぞ。

 

「それで? どんな称号なの? できればステータスを見せてほしいんだけど」

 

「良いぞ。これだ。まず最初に不殺の冒険者」

 

俺は称号の項目を見せながら、知っている情報を語る。スキル取得時のログも見せて、取得条件に関する俺なりの考察も聞かせた。そうして称号の情報を語り終えた時、ヘルメスが思わずといった様子で叫ぶ。

 

「ちょっと待って!」

 

「なんだ?」

 

「このスキル」

 

彼女が指差しているのは、不殺の冒険者によって得られる効果の欄だ。なんか、指先がプルプル震えているぞ。

 

「これ、手加減攻撃じゃなくて、手加減?」

 

「手加減攻撃?」

 

手加減攻撃は聞いたことがある。杖とかメイス系で、どんな場合でも相手を殺さずにHPが1残ると言う、手加減に似たスキルだ。手加減は道具や魔術でも使えるから、こっちの方がより上位なんだろうか。

 

「新スキルだわ」

 

「え?」

 

「だから、新スキルなのよ!」

 

「新スキルって?」

 

「・・・・・βテストでも確認されなかった、未だに誰も獲得していなかった全く新しいスキルのことよ!」

 

それって、俺しか取得者がいない、レアスキルってことか?

 

「嘘だー」

 

「本当よ。なんなら、今朝送られてきた集計データを見てみなさい! 載ってないから」

 

確かに。あのデータはスキルの個別獲得者の数も掲載されていた。つまり、たった一人でも獲得できていれば、スキルの名前だけは載っているはずなのだ。

 

俺は再度、集計データを見てみた。すると、ヘルメスが言った通り、手加減というスキルが掲載されていない。

 

「まじか」

 

「手加減は、今現在あなただけのユニークスキルっていう訳ね」

 

話が大きくなりすぎて実感がない。そんな凄い称号だったのか? そもそもβテストで獲得者がいなかったのだろうか? 俺の疑問にヘルメスが答えてくれた。

 

「それはね、初ログインした頃っていうのは、誰でもイケイケだし、多かれ少なかれ、戦闘をするでしょ? それにモンスターとの戦闘をしなくたって、釣りをしたり、狩りをしたりして、食料を得る場合もあるし。初ログインから4日間命を奪わないっていう条件は、前情報のない状態では難しいのよ。それこそ余程偏ったプレイをしてない限りはね。例えば、君みたいに」

 

「そういうことか」

 

俺だって、初日に1週間もゴミ拾いしなければこの称号は得てなかっただろう。誰だって最初はモンスターと戦ってみるし、いきなり負けるやつは少ないはずだ。よしんばビルドに失敗していたって、その時ならまだキャラを作り直す余地がある。普通は、作り直すだろう。

 

「じゃあ、この情報、買ってもらうと?」

 

「25000Gで買うわ」

 

「10000Gじゃなかった?」

 

「現段階では激レアなスキルの情報も合わせての値段よ。不殺の情報は、相当稼げるだろうしね」

 

「でも、一度ログインして、1回でもモンス倒してたら、獲得できないもんだぞ」

 

「大丈夫、これからまだ数十万人近くがログインしてくるし。リアルで第2陣、3陣が100万人以上インしてくる。それに廃人プレイヤーじゃなければ、プレイ時間は精々リアルで半日だからね。中にはキャラクターを作り直そうか悩んでいるプレイヤーもいるのよ。そう言う人にとっては、有用な情報だわ。なにせ、絶対に取得できる称号の情報だからね」

 

と、いうことで、俺は思いがけずに25000Gも手に入れてしまった。だがまだである。

 

「もう一つだけ情報売るわ。称号の名前は万に通じる者だ」

 

「こ、今度はどんな物かしら・・・・・?」

 

「これは簡単に言えば全ての職業を開放するだけで取得できる称号だ。一番最初に取得した俺は賞金とステータスポイントに各職業の秘伝の書を貰った」

 

「秘伝の書!?」

 

「因みに教えた知り合いも全部の職業を解放したら秘伝の書は貰えなくて、ステータスポイント10は美味しかっただけだった」

 

「それでも初日で全職業を開放して、10レベル分も貰えるのなら凄くやる価値があるわ。10000Gで買い取る!」

 

おー10000Gか。じゃあ、この情報だったらどうなんだろうか。

 

「最後に訊きたい事があるんだけどいいか?」

 

「えっと、何?なんだか唐突に嫌な予感が覚えたんだけど・・・・・」

 

「もしもの話だ。レベル10ごとのステータスポイントって30だろ?仮に『レベルアップ時のステータスポイント取得量が3倍』の効果がある称号があったら、どれぐらい売れるんだ?」

 

「―――――」

 

想像したのだろうか。ヘルメスの顔色がサーと蒼褪めて頭を抱え出した。もしかして想像を絶する値段なのか・・・・・?

 

「む、無理・・・・・無理無理無理・・・・・とても払える金額じゃないっ・・・・・!!プレイヤーのパワーバランスが崩壊してこのゲームがヌルゲーになっちゃう・・・・・!!!」

 

・・・・・ちょっと申し訳ない気分になってきたぞ。教えなくてよかったか。そっと頭の上にいる毛玉をヘルメスの顔面に押し付ける。このモフモフで癒されて欲しい。

 

「あ・・・・・柔らかい・・・・・」

 

「キュイ?」

 

「・・・・・へ?」

 

「因みにそいつ、ピクシードラゴンのミーニィだ。先日の大精霊の報酬に貰った卵から孵化した」

 

翼を羽ばたかせてこっちに戻ってくるミーニィは人の頭の上にまた載って寛ぐ。

 

「ピクシードラゴン・・・・・?βでも話題も発見すらなかったドラゴン・・・・・」

 

新モンスターの情報に頭が追い付けない様子で、うわ言のごとく呟くヘルメスは人の頭の上を見つめてくる。

 

「鍛冶師のNPCヘパーイストスの話じゃあ発見数は片手で数える程度だってさ。つまりピクシードラゴンを探そうとするならかなりの運が必要っぽいぞ」

 

「NPCがそんな話を?やっぱり、NPCとの交流は不可欠ね・・・・・。あ、他に何か知りたい情報とかある?」

 

「他か・・・じゃあダンジョンに関する情報ある?このエリアで」

 

「あるわ。東のエリアに【毒竜の迷宮】、それと南は地底湖なのだけれど怪しいのよね。中は広いし釣りスキルで釣れる魚から鱗のドロップアイテムが手に入るのだけれど」

 

【毒竜の迷宮】を踏破したから別にいいとして地底湖か。大盾使いでプレイする限り、VIT極振りの俺からすれば釣れもしないし泳げもしない。装備が出来上がるまでは無縁な場所だな。

 

「そうか。じゃあ、もういいや」

 

「そう?じゃあ、君の情報とミスリルの情報、買い取ってくれた情報料を差し引いて43000Gね」

 

「毎度あり」

 

「ふふ、どっちが情報屋か分からないわよ」

 

二週間足らずでちょっと懐が温かくなった。

 

「じゃあ、俺はこれで」

 

「あ、ちょっと待って。私とフレンドコード交換しない?」

 

「俺と?」

 

「うん。私とフレンドコード交換すると、良い情報を仕入れたらメールで知らせてあげるわよ。その代わり、また良い情報を入手したら売りに来て」

 

「なおさら、俺なんかでいいか?」

 

「うん。ぜひお願いしたいな」

 

まあ、いいか。断る理由もないし。βテスターの情報通とコード交換しておいて、損はないだろう。

 

「じゃあ、コード送りますね」

 

「ありがと」

 

ヘルメスからもコードが送られてきて、フレンドコードの交換が完了する。

 

「またいい情報待ってるね!」

 

「その時はきっと心臓に悪いやつばかりだろうから肩の力を抜いとけよ」

 

ヘルメスに見送られ、俺はホクホク顔で小広場を後にした。そのままヘパーイストスのところに行く。そろそろ素材が集まったか知りたいからな。

 

「なぁ、毛玉を乗せた連れたあんただよ」

 

「ん?」

 

広場を横切ろうとしていた足を停めて振り返ると、充実した装備をしている6人組の男達がこっちを見ていた。

 

「なんだ?」

 

「さっき情報屋でミスリルと他にも色々と売ってたよな。ミスリルが掘れる場所を知ってるのか?」

 

「知ってるけれど、NPCの好感度に関わるから教えられないぞ。教えたらミスリルが手に入らなくなる可能性があるんだ。鉱山に連れていくこともダメだ」

 

「マジかよ・・・・・つまりお前だけ独占状態ってことか」

 

少し訂正させてもらう。俺は知り合いの採掘に付き合ってるだけで、そいつの方がほとんど独占して俺はおこぼれをもらってるようなものだと言うと、そいつは誰なんだと聞かれ拒否する。

 

「ミスリル製の武器や防具が欲しいなら、扱ってる店に行ってオーダーメイドすればいいだろ?俺達から鉱石だけ譲ってもらう方が一番金がかかると思うぞ」

 

「・・・・・やっぱそうだよな。じゃあ、属性結晶もダメか?」

 

「必要になるかもしれないからダメだ。また手に入れたら現物と一緒に情報屋にも売るつもりだから」

 

結局何も得られず肩を落とす名も知らぬプレイヤー達はどこかに行ってしまう。属性結晶はともかくミスリル鉱石も安易に譲れないんだよな。したら、次から次へと欲するプレイヤー達が後を絶たないだろうからよ。

 

「おい、そこのモンスターを連れてるお前、話があるんだけど」

 

「・・・・・」

 

嫌な予感しかしないのは何故なんだろうな?

 

 

 

 

【新発見】NWO内で新たに発見されたことについて語るスレPART10【続々発見中】

 

・小さな発見でも構わない

・嘘はつかない

・嘘だと決めつけない

・証拠のスクショは出来るだけ付けてね

 

 

81:メタルスライム

 

急報だ。情報屋『タラリア』の前で情報を売っていたミスリル鉱石を持っているプレイヤーと接触した。譲ってくれないか、もしくは鉱山の場所を教えてもらいたかったがどっちもダメだった。後者はNPCの好感度が関わる場所のようで申し訳なさそうに断られた。

 

 

82:ロイーゼ

 

なんだと?そのプレイヤーはどこにいる?

 

 

83:ふみかぜ

 

教えて!鍛治師の腕がなる!

 

 

84:メタルスライム

 

いや、書いといてなんだけど行かない方がいい。ミスリル鉱石以外にも4つの属性結晶を欲しさに群がるプレイヤーが増えて(騒ぎになる=何事だと気になる=話を聞く=レアアイテムを持つプレイヤー=俺も欲しい!)のループでもう人だかりができて話をするどころじゃなくなってる。

 

 

85:佐々木痔郎

 

ちょ、初期エリアでまだ序盤なのに属性結晶って。しかもも4つ持ってるのかよ!それじゃ誰も欲しがるに決まってるだろ。どうしてバレた?

 

 

86:アカツキ

 

もしかして、最初に突撃したと思われる≫81が原因じゃ?

 

 

87:メタルスライム

 

・・・深く反省している・・・・・<m(__)m>

 

 

88:トイレット

 

ねぇねぇ!そのプレイヤー、NPCの鍛冶屋に立て籠っちゃったよ。俺も交渉したいのに!

 

 

89:ヨイヤミ

 

≫88の続き、その鍛冶屋のNPCが上半身裸で逞しい筋骨隆々を見せつけ、身の丈を越える巨大なハンマーを片手で2つ持って現れて「さっきからうるせぇっ!!てめぇらの尻穴に熱した鉄棒をブチ込まれてぇのかっ!!」ってプレイヤーを文字通り薙ぎ払って暴れている。何あのNPC、攻略組のプレイヤー数人を見たことが無いスキル使って一撃で死に戻りにさせてるんだけど!!

 

 

90:ふみかぜ

 

え、なにそれ、怖いですけど。NPCがプレイヤーをキルしてるってどうなってるの?ステータスがあるの?

 

 

91:トイレット

 

その第一死に戻りにしたのが俺で、装備の耐久が三分の二まで減ったよ!!!

 

 

92:ロイーゼ

 

敵はプレイヤーとモンスターだけじゃなくてNPCもとは・・・・・。運営もとんでもない設定をしたな。もしかすると好感度が底辺になったらNPCによって攻撃的になるんじゃないのか?

 

 

93:ヨイヤミ

 

 

可能性ありそうだな。因みに現在、軒並みに倒されたプレイヤー半分を見て、もう半分いたプレイヤー共は蜘蛛の子が散るように逃げていった。追われた?プレイヤーはそれ以降出ていこうとしない。もしくはログアウトしたかだ。一番好感度を下げてしまった恐れがある彼は哀れである。

 

 

94:佐々木痔郎

 

どうして追われた?だ?

 

 

94:ヨイヤミ

 

 

何か異様に歩くのが遅かったからだ。行く道を阻まれ360度囲まれて歩きづらかったのか分からないけど、凄くゆっくり歩いてた。βで見たAGI以外のステータスの数値を極振りしたプレイヤーのようだった。

 

 

95:ロイーゼ

 

 

極振りか。正式に開始してそんなステータスの数値をするプレイヤーはいないだろ。特にβテスターのプレイヤーは。

 

 

96:ふみかぜ

 

でも極めに極めたら強そう。

 

 

97:メタルスライム

 

 

例えそうでも成功するまで根気よく頑張る気にはなれないな。

 

 

 

何て掲示板でそんな話の内容を書かれていることなんて知らない俺は、出入り口を固く閉ざしてカウンターの席に荒々しく座るヘパーイストスは不機嫌そうに視線を向けてくる。

 

「おい、鉱山の場所を教えていないだろうな」

 

「教えていない。断じてだ」

 

「ふん、ならいい。お前には助けられた恩がある。今のでチャラにさせてもらうぞ」

 

異論なんてないと込めて頷いて、裏口には誰もいないと青年弟子の報告にさっさと出ていくつもりで動く。

 

「待て、忘れモンだ」

 

呼び止められてヘパーイストスに首だけ振り向くとカウンターのテーブルに白銀の骸骨の仮面に指輪を置いていた。え、もう?早すぎやしないか?三十分も経っていないのにもう完成したのかと思いながら、受け取りに近づいて調べたところ。

 

 

『死神の仮面』

 

【STR】10【AGI】20【DEX】34。

 

『三輪の指環』

 

【STR】50【AGI】45【DEX】36。

 

 

「すまん」

 

ヘパーイストスが頭を下げてきた。その理由はこの数値を見て分かる。

 

「お前の望む性能まで作ることが適わなかった。ミスリルをふんだんに使って強化しただけじゃここまでが限界だった」

 

「いや、全部60以上なんだから俺的には文句のない装備品だぞ」

 

「阿呆か!依頼主が望んだ、望み通りの物を作れんようじゃあこの先も作れず鍛冶師としての腕前が信用されなくなるんだよ!だから今度は自分で集めてこい!」

 

いや、最初からそのつもりだったんだけど?

 

「それまでと言っちゃあなんだが、お前の要望に応えられなかった詫びとしてこれをしばらく預けておく。ついでにこれも持っていけ。作った仮面と指輪は俺が預かっておく」

 

『古の鍛冶師の指輪』

 

【STR】120【AGI】120【DEX】120

 

 

『鷹の羽衣』

 

 

鷹に変身できるユニーク装備。

 

 

「それはオリハルコンで作られ、代々俺の一族が鍛冶師として一人前になってから受け継がれる初代が作ったと言われている指輪だ。ミスリルならできると驕った上に未熟な腕を痛感させられた今の俺が、それを持つ資格なんてないからな」

 

伝説の最硬精製金属(マスター・インゴット)・・・・・ゲーム内のオリハルコンの価値はいまいちわからないが曖昧な感想でしか抱けれないな。

 

「いいな、無理に返そうとするならその指輪を叩き壊す。俺にその指輪を壊させるような真似をさせたら、何度も俺の愛用の鎚で叩き潰しに行くからな!」

 

・・・・・ならこれは?鷹の羽衣のことを尋ねる。

 

「そいつも初代がとある女神のために生涯懸けて作ったもんだ。それを纏えばどこでも自由に飛べて直ぐにこの町に帰ってくるだろ」

 

「これもヘパーイストスが必要なんじゃ」

 

「確かに遠出の時はそれを使って移動しているが、冒険者共の依頼でミスリルを素材にした武器を作らなきゃならねぇからしばらくは使う機会はない。それにもう一つとっておきの物があるから問題ない。それを使ってお前が納得できる素材を見つけてこい」

 

さっさと集めてこいと言わんばかりなアイテムの貸し出しに、裏口から出て素材の探索の旅に出る前、オルトのために畑を買いに向かおう。南区の農業地区に足を運ぶとこはなく、試しに鷹に変身してみたら人間サイズの鳥と化した。

 

「おお、飛べるのかこれ?」

 

「師匠はよくその姿で移動しているぞ」

 

「マジか。よし、練習がてら飛んで行ってみるよ。ミーニィ」

 

「キュイ」

 

背中にしがみつくミーニィを乗せたまま翼を広げて力強く羽ばたかせてみると、俺は鳥の姿で大空へ飛べた。

 

「おー!」

 

「キュイー!」

 

俺は今、風になってるー!ミーニィも自前の翼で俺と並んで飛行する。

 

 

畑の真ん中に、冒険者ギルド並ではないものの、そこそこ大きな建物が立っていた。紛れもない、農業ギルドだ。その前に降り立って羽衣を脱いで元の姿に戻ってから入る。

 

「すみませーん。畑が欲しいんですけど?」

 

「あら、いらっしゃい。どれにする?」

 

窓口の蜂蜜色の豊かな髪と豊満な体つきのNPCの女性が受け答えてくれる。ふふ、今の俺は金を持っているのだ。更に畑を増やそう!

 

「よし、また10000Gの畑を買っちゃおう。6000Gの畑を2つに3000Gの畑を2つ、2000Gの畑を1つ追加で」

 

俺はさらに2000Gもする高級肥料を購入する。購入可能な数3つまで買うとすると38000Gも掛かる。うん、買えちゃうんだよな。

 

「よし、高級肥料を買おう。しかも全部だ」

 

高級肥料があったら、成長が遅い苗木を速く育てたり、質のいいのが育つに決まっている。独り言のように呟きながら購入するものを選び終えると待ってくれた女性NPCに話しかけた。

 

「はい。それじゃあどこのが欲しい?」

 

「場所は同じで広場に近くて、冒険者ギルド、農業ギルド両方に行きやすいと嬉しいかな」

 

「ならここね」

 

彼女が地図でおすすめの場所を教えてくれる。

 

「じゃあ、ここで。グレードは10000Gを1つ、6000Gを2つ、3000Gを2つ、2000Gを1つお願いします」

 

「ありがとう」

 

 チャリーンという音がまた聞こえた。所持金が残り5000Gだ。

 

「場所は地図にマッピングしておいたわ」

 

これでよし。

 

「オルト、ミーニィ。留守番と畑は任せたぞ。俺は、仕入れに行ってくる」

 

「キュイ」

 

「ムム!」

 

使ってしまった黄金の林檎の確保も悪くないな。そして果樹園を作って林檎を育てアップルパイの生産をしていこう。衣を纏い鷹となって空を飛び西の森へと飛んでいく。空の移動ならば歩行よりもあっという間で、初日以降来なかった深奥の森の上空まで移動すると、遠目でもわかる林檎の園を見つけた。降下して衣を脱いで林檎の木の傍に立って久しぶりに林檎を採取する。初めて採取した時の苦戦は何だったのかと、思うほどスムーズに確保できる自分に軽く感嘆して黄金に輝く林檎も1つだけゲットした。

 

「さて、次は採取だな。上空から見つけた川にも行ってみよう」

 

草の根をかき分けて探す精神で外で採取できるポイントである緑のマーカーを探す。

ふっふっふ、俺を見つけて攻撃してくるモンスターは眼中無しだ。痛くも痒くもないんだからな。

寧ろアルミラージや狼系のモンスターみたいなモフモフとした毛に包まれて役得過ぎる。

 

 

緑マーカーを見つけて鑑定する。えーと・・・・・何でこんなところに生えているんだろうな『荏胡麻』。

高さは60-100cm程度。茎は四角く、直立し、長い毛が生える。葉は対生につき、広卵形で、先がとがり、鋸状にぎざぎざしている。付け根に近い部分は丸い。葉は長さ7-12cm。表面は緑色で、裏面には赤紫色が交る。うん、特徴が一致している。リアルに再現しているな運営。

 

「油にもなるし、薬味にも使える。胡麻団子作れるかな?」

 

採取して次を探すと、もう一つ見つけて近くにもまた見つけれた。合計五本。そうして小一時間以上続け高速で採取してみたら、予想通りの結果になった。スキル【採取速度強化小】を取得したのである。

なるほど、これなら【採掘】と【採掘速度強化小】もあるな?イズも取得していそうなスキルだ。

 

「にしても・・・・・」

 

一ミリも減らないHPバーを一瞥して群がって攻撃を止めないモンスター達に一言告げたい。

飽きないのかね君達。

 

「・・・・・」

 

不意に、このモンスター達を驚かせることができるのかな?と検証してみたくなった。リアルスキル、プレイヤースキルが反映するならできなくもなさそうだけど・・・・・。

 

「すぅ・・・・・」

 

大きく息を吸いって酸素=空気を肺に溜めて一時硬直するように停止した次の瞬間。

 

「ウォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッッ!」

 

肺から全てを吐き出すように獣の咆哮よりも凄まじい声量でゲーム内に震動する空気が衝撃波としてモンスターや木々を震えさせた。おー、ここまでプレイヤースキルが反映されるか。そんで今ので集って攻撃していたモンスター達が逃げたり身体を硬直させたりという反応を示してくれた。

 

 

『スキル【咆哮】を取得しました』

 

 

スキル【咆哮】

 

直径十メートル以内にいる対象の動きを10秒硬直状態にする。

 

取得条件:一度で十体以上のモンスターの動きを停止させる、もしくは逃走させる。

 

 

普通に使えるスキルだ。これなら足の速い相手を強引に停止させることができる。そして俺だけ足が遅いなんて許せないもんなー・・・・・ふふふ。

 

「さて、採取の続きをしよう」

 

近くまで進んでいたようで川のせせらぎ音が聞こえる。その音へ進めば大量の水が穏やかに流れる光景が広がり軽く息を吐いた。川の水を跪いて飲んでみるとあまり美味しくなかった。微妙な味だ。この味に眉根を寄せると、川の中に採取アイテムの緑のマーカーが浮かんでいたのを見つけ、掴み取って見て鑑定してみたら。

 

 

浄化石

 

水に浸けていると不純物を取り除き浄化する石。

 

 

ん、また手に入った水を濾過する石的なもの。他にもあるかな?上流の方へ歩きながら川を見て幾つも同じ石を見つけていた時、上流の頂上と思しき場所へ辿り着いた。滝があるのかと思えば円形状で大きな溜め池と囲むように岩場と群生する木々に変わった感じはないか軽く一瞥するも特に視認はできなかった。滝の裏に行こうにもそこへ行く道がない。

 

「こういう時は水の中も調べるべきだよな」

 

ヘパーイストスから預かった指輪もあるし、今のステータス数値ならば泳げることもできる。そんな軽い気持ちで溜め池の中へ潜った。水中は深くはないが広い上に大量の魚が泳いでいた。天敵のいない環境に恵まれた場所だからかのんびりと俺に警戒しない。

 

「【パラライズシャウト】」

 

水中でも麻痺攻撃は通ずるようで魚達が麻痺状態となり動かなくなった隙に狩ってみればドロップアイテムは落とさない。その代わりといって水底まで泳げば採取アイテムがあると表示する緑のマーカーが至る所に浮かんでいて、全て浄化石だった。集めれるだけ集める精神で浄化石を集めたところで俺は滝の方に横穴がある事に気付いた。滝から流れる膨大な水が流れ落ちる気泡で隠れていたのだ。近づいてみない限り絶対に気付かれない隠されていた穴へ、好奇心で中に入る。横長の洞穴はそれほど長くなかったため、5メートル程度で行き止まり直ぐに水面に顔を出せた。ここは・・・・・?暗くて見えないが、陸に上がれる硬い感触を頼りに水面から出てインベントリから出したランタンで明かりを確保する。

 

「奥にも続いているのか」

 

一体どこに繋がっているのか、多分βテスターも知り得ない隠し洞窟。まさかダンジョンなわけないよな?と思ったのが数分前の事だった。

 

「ぐっ!?また押し戻されたっ!」

 

一人分しか進めない狭小の洞穴の中を進んでいたら、照らした先にオオサンショウウオのような地面に這い蹲っているモンスターとエンカウントし、俺を認知した瞬間に口から放出される水鉄砲に盾で防御すると当然のように押し戻される。―――それから俺とモンスターの意地の張り合いの始まりだ。速く駆けて行けばいいと思った作戦も連続で飛ばしてくる水の塊にぶつけられて後方の地下水に着水する。かれこれ10回以上この繰り返しをしている。俺を認知してから一定の距離を超えると水鉄砲を放つようになった。それも毒竜(ヒドラ)の射程距離の圏外からだ。寧ろあっちのモンスターの攻撃の射程長すぎるんだ。水攻撃にノックバック効果があって避けようにも避けられるスペースも、匍匐前進して進もうにも、狭小の洞窟の空間いっぱいな水の塊を放ってくるもんだから絶対にあたって吹っ飛ばされる。

 

『スキル【水耐性小】を取得しました』

 

「そりゃどうも!こんなじれったい思いは久しぶりだ!」

 

ここで【水耐性】のスキルを取得しろってことか運営め!―――とりあえずせっかくだから【水無効】まで進化させてやるよ!!

 

 

数十分後―――。

 

 

宣言通り、【水無効】も取得するほど時間を過ごした俺だが未だあの水の塊を突破できず、何度も繰り返した失敗にて得た、オオサンショウウオモドキの攻撃がされる位置の前で胡坐を掻いてこれまで試したことに悩む。普通に進んでもダメ、地面に這い蹲ってもダメ、高速での移動でもダメ・・・・・。

 

「【悪食】ならいけそうなんだがな」

 

それじゃあ何か簡単すぎて何のためにもならない。何か別の方法で攻略したいところだ。さて、どうすると暗闇の奥にいる忌々しいモンスターを睨みつける。何となく投げる物が周囲にないから林檎で八つ当たり気味で当たるか分からないのに投げてみた。当たったら攻撃してきそうだが。

 

「・・・・・ん?」

 

ズルと這いずる静かな音が聞こえた。ランタンの光でもまだ姿は見えないが確かに聞こえた。

 

「・・・・・」

 

アルミラージの肉も無言で暗闇に向かって投げつけてみたら更にズルズルという音が聞こえた。

 

「・・・・・そういうことか?」

 

改めて考えるとここはいわばあいつの巣のような場所。侵入者の俺に対して迎撃することは当たり前で何時までもいると餌にありつけれない。となれば・・・・・。思考の海に飛び込んで考え込んだ末に行動をした。来た道に戻り洞穴の横に息をひそめつつインベントリからアルミラージの肉を全力でオオサンショウウオモドキに向かって投げ続け、這いずる音を確認してから肉や果物を投げて水辺に引き寄せること繰り返していたら、ようやく奥からオオサンショウウオモドキが俺の横に顔を出すぐらい誘き出させることにできた。すぐ横にいる俺の存在に気付いていようと、目の前の水に向かって顔から突っ込んで全身も沈ませて消えた。きっと外の魚を食べに行ったんだろう。食用アイテムを大量に減らしてしまったが【気配遮断Ⅰ】と【気配察知Ⅰ】のスキルも取得してしまった。何とも言えない先ほどまでのやり取りに俺は息を吐いた。しかしやり遂げたからには奥へ進もう。何かしらあるかもしれない。巣穴の主が戻ってくる前に速足で進むと、オオサンショウウオモドキがいた場所を越えた先に不思議な光景を目にした。

 

天から降り注ぐ太陽光に照らされて祝福の光を受けているように見える一輪の花。その花がある場所は広大な水の中心に聳え立つ樹木の行く途中で、三十メートルほど泳がないといけない距離の先に水から生えている。でもだ。

 

「採取アイテムじゃない?」

 

神秘的な演出をしているのに不思議に思わせられた俺は、泳ぐ以外にも苔で覆われた八つの足場にも目を付けた。花は八つ目の足場に生えているので、八艘飛びをしてみたくなって移動方法を決めた。鎧と盾を装備から外して身軽にしてから助走をつけて、足場へ跳んだ。最初の三つでは距離は短かったが四つ目以降は足場が広く距離が離れて着地が難しくなっている。それでも何とか五つ目の足場に踏み込んで六つ目の足場へと跳び、なんとか着地して直ぐに足場の上で勢いよく走り助走つけた跳躍で七つ目の足場へと踏み込もうとしたが、

 

「距離が、届くかっ?」

 

空中に踊り出た時に一抹の不安を覚えたが、足場のギリギリに足を踏みつけれて安堵する間もなく八つ目の足場へと向かって跳躍した。しかし、そこでアクシデントが発生した。花が咲いている足場が突然沈みだしたのだ。目を丸くする俺に対して、水面が揺らいだかと思えば水中から飛び出してきた巨大な横顔のモンスター。

 

『オオオオオオオオオオオッ!!!』

 

「はぁああああっ!?」

 

大口を開いて愕然してしまう俺を捕食しようとするその姿にアンコウを彷彿させた。ふざけんな、運営!

 

「【パラライズシャウト】!」

 

鎧と盾を外しても念のために装備したままの鞘ごと短刀を前に突き出し、納刀をする仕草と共に麻痺攻撃をした。モロに受けて麻痺状態となっても大口を開きっぱなしで、背中を窺わせながら迫るアンコウモドキを避けながら足場へ足を踏み込み、緑のマーカーが浮かび出した花を瞬時で視認、採取して跳躍する。

 

「とりゃあー!!」

 

最後の場所へと確かに辿り着いた。手の中にある花を見つめ、達成感の実感と共に息を吐いた直後に背後で激しい水音と水飛沫がした。

 

『スキル【八艘飛び】を取得しました』

 

「何となくそんな感じしたよ」

 

スキルの詳細を見るのは後回しだ。あのアンコウモドキを喰ってやろうかと一瞬思ったが改めて花を確認しようとしたところ。

 

「・・・・・あの」

 

「・・・・・?」

 

声がした方へ振り返ると、大樹の陰から人が現れた。ただし外見は美しく絶世の美女と言われても過言ではないが、耳が尖っていて普通の人間ではないことを察する。樹木に寄り掛かる風に佇む彼女からまた話しかけられた。

 

「もしや、あのモンスターを倒したのですか?」

 

「倒してはいないけど、倒したほうがいいか?」

 

「おまかせします。私はあの上から落ちてしまってここで身動きが取れなくなっていましたから」

 

上というので見上げると、蔓やら蔦やら垂れ下がってる大穴から光が差し込んでいた。まだここは西の森ならば、ここは隠しエリアなのか?あの穴から落ちたプレイヤーはHPが少なければ即死だと思う。

 

「俺は冒険者の死神ハーデスだ」

 

「私はリリアン・アールヴ。見ての通りエルフです。」

 

エルフか。異種族のプレイヤーはいないどころか、初期設定時に異種族を選択するシステムは導入されていないから、彼女の関する何かのクエストが発生しそうな感じがする。

 

「どうしてここに?ああ、この森にいるのかという意味で」

 

「ある方にご助力を求めて旅をしていました」

 

「どんな人?」

 

「大樹の精霊です。あの精霊様の恩恵を享け賜わりたく・・・・・故郷であるエルフの里の危機ゆえに」

 

あ、これイベント発生したっぽい。クエストも発生して躊躇わず受理したけどさ。

 

「その精霊なら心当たりがある。案内するけれどどこか怪我とか具合はどうなんだ?」

 

「落下した際に腕と脚が骨折してしまいました。私の荷物もあの穴から落ちてしまった際に所持していた薬全て・・・・・」

 

チラリと湖の方へ視線を送る。なるほど、あそこに落ちてしまっているのか。

 

「癒しの魔法は?」

 

「使えます。ですが、骨折した骨を治すには治癒力が足りません」

 

捻挫なら癒せるのかな。

 

「荷物を拾ったらこの近くに町がある。そこでしばらく静養しないか?と言っても畑の中だけど」

 

「え、いえ、大丈夫です。あの魚のモンスターを倒していないのにそんなことさせるのは・・・・・」

 

「大丈夫だ。今すぐ持ってくる」

 

戦闘準備を整え、いざ出陣!!

 

数分後。

 

「荷物はこれか?」

 

「は、はい。あっという間に・・・・・」

 

俺を餌に襲わせてパラライズシャウトで麻痺状態にし、今湖に浮かんでいるアンコウモドキの口の中に入って探してみると、リリアンの荷物が見つかった。すぐに口から出て彼女に手渡す。中身を取り出して確認をする彼女の顔色は、大事なものは全てあったようで安堵の色が滲んで浮かんだ。さて、次の問題はこの場から脱出する事なんだが・・・骨折しているのであれば、俺の背中に負ぶさって行くにもいかないな。

 

「ん?何だそれ」

 

「エルフにしか作れない秘薬です。万が一の為にと里から持ってきました」

 

取り出した一つ、ガラスの瓶の蓋を取って飲もうとするリリアンを見つめる。それを飲み干す彼女しかわからない怪我は、癒えたのかしばらく待っているとゆっくりと立ち上がった。秘薬を飲んだことで完治した様子で安堵する。

 

「誠にありがとうございます。貴方がこの場に来なければ私はここで野垂れ死に至っていたでしょう。命の恩人です」

 

「リリアンが幸運だったんだ。それとも俺達が出会うことは既に決められた運命(さだめ)かだ」

 

「貴方と出会うのが運命・・・・・ふふ、素敵な言葉です。そのような言葉を向けられたのは生まれて初めてです」

 

綺麗な微笑を浮かべ、好感を持ってくれたようで素直に嬉しい。あ、クエスト完了した?報酬は何もないのは不思議だな。でもこの感じは・・・・・。

 

「さて、精霊に会いたいなら一緒にどうだ?今日は木の日だから会えると思う」

 

「お願いします」

 

そうと決まれば鷹の羽衣を纏い大きな鷹に変身して翼を広げる。

 

「鳥になれる羽衣・・・・・」

 

「一人分なら背中に乗せて飛べれる。ほら、しがみ付いて」

 

「はい、では失礼しますね」

 

後ろから両腕を回してしがみ付く彼女をそのままにして天井から降り注ぐ光へと向かって飛び、洞窟の中から飛び出して見せた。すると背中から感嘆の声が聞こえる。

 

「凄い・・・・・これが世界・・・・・」

 

「地上からじゃあ中々見られない光景だろう」

 

「ええ、本当に・・・・・全てが美しく見えてしまうほど新鮮です」

 

きっと顔を見れば子供のように輝かせているだろうな。そう思わせるほど彼女から高揚感が伝わってくるのだ。しばらく空の遊泳をして様々な景色と場所をかなり遠回りしながら町へとのんびり帰途に就く。

 

そして始まりの町の南方の農業区にある俺の畑の中に戻るとオルトとミーニィが出迎えてくれた。

 

「ただいま」

 

「キュイ!」

 

「ム、ムー?」

 

「ああ、彼女は森の中で知り合ったリリアン・アールヴだ」

 

「ム」

 

わかったと頷くオルトとミーニィを自己紹介する。

 

「この子は土の精霊ノームのオルト、こっちはピクシードラゴンのミーニィ」

 

「ム」

 

「キュイ」

 

頭を下げるオルトとミーニィを彼女は驚嘆の念を抱いた様子で語り始めた。

 

「土の精霊・・・・・。凄い、初めてみました。私も知識だけなら彼の四大精霊の事は知っています」

 

「そうなのか?」

 

「ええ、言い伝えではかつて古の時代で精霊は人間と共に地上に生活をしていました。しかし、時代の流れと刻は残酷で人間同士の争いが始まると精霊の力に目を付け始め、争いの道具にしようと悪い人間達がいました。ですが、それでも彼等の中には善良な人間がいましたので、それぞれ四方の方角でどこか彼等の安全な場所を優秀な魔法使い達が作り特別な方法でしか入れなくしたのです」

 

四方の方角・・・・・オルトに小屋から椅子を持って来てもらい彼女に座ってもらう。

 

「それって西に風が通り抜ける時に音が鳴る、穴の空いた大岩と南には何をしても火が消えない樹木程の高さの巨大な松明。北に高さ3メートル程の板状の岩が6枚、円を描くように設置された小さいストーンヘンジのような場所。東に周辺に色とりどりの花が咲き乱れる、綺麗で深い泉・・・・・が精霊達の住処ってことになるのか?」

 

「そこまでは、すみませんわかりません。ですけど、この言い伝えは約千年前から語り継がれています。私も一度は会って見たいと思っていましたのですごく感動的です」

 

種族が違えど無視できない種族のようだ彼女の種族は。

 

「じゃあ、あの大樹の苗木は見てどう思う?」

 

「え?・・・あ、あの苗木・・・・・私の里で古くから生えている神聖な樹木とよく似た力を感じます。どうしたのですか?」

 

それについて経緯を話すと彼女はびっくりしたように目を丸くする。

 

「この町を守る大きな大樹に宿る精霊・・・・・この町もまた神聖な場所であることは変わりません。精霊が存在する場所は魔を引き寄せない私達の目では見えない不思議な領域を発生するのです」

 

そんな設定?があるのか。色々聞いてみるのも損じゃないのは確かだ。さてオルト君にこの黄金林檎と花の

今回の採取アイテムを全て渡す。そう!勿論黄金の林檎もだ!

 

「あっ!」

 

「え・・・・・?」

 

「その黄金の林檎・・・・・」

 

物欲し気に見つめる黄金の林檎。え、まさか・・・・・?まさかだよね?彼女は深々と俺に頭を垂らした。

 

「・・・・・差し出がましいのは承知の上で申し上げます。どうか私に黄金の林檎をお譲り頂けませんか?」

 

唐突にクエストが発生してしまったっ・・・・・!く、何でこんな時にだよっ!?

ここで拒否したら黄金の林檎をオルトに渡して育ててもらえるがっ。

 

「ダメ、でしょうか?」

 

「・・・・・」

 

クエストの先に何があるのか、気になるじゃんか!ええい、もう自棄だ(涙)!

もう心の中で泣く泣く手渡す。彼女は顔を明るくして手の中にある黄金の林檎を大事そうに持ってお辞儀をした。

 

「ありがとうございます!あ・・・・・これはノームに育ててもらうつもりでしたよね?ではこれも育ててもらいましょうか」

 

「いいのか?」

 

「ええ。黄金の林檎が実った暁には一つ、私に譲ってくれませんか?勿論良ければの話ですけど」

 

「まぁ、当初の目的ができるし構わないぞ。黄金の林檎で作ったお菓子を食べたいから」

 

「お菓子・・・・・とても興味があります」

 

ふふふ、わかってるじゃないか。早速オルトに残りの高級肥料を使ってもらって黄金の林檎を苗木に、花を株分スキルで三粒にして種を畝に植えて水を撒く。あ、ハーブが収穫できる。

 

 

黄金林檎の苗木

 

レア度:7 品質:7

 

効果:黄金の林檎に成長する苗木。初心者では生育不可能。

 

 

ふむ、やはり育てるのは難しいらしい。オルトに育樹のスキルあってよかっ―――。

 

『スキル【使役】を取得しました』

 

ん?使役?テイマーとサモナーのスキルだったよなこれ?

 

 

スキル【使役】

 

このスキルを取得したプレイヤーが使役するモンスターの数をスキルレベルが5上がるごと+1にする

 

取得条件:テイムしたモンスターを一定以上使役すること。

 

 

あーなるほど。専用職じゃないからテイムできる数が少ないかじゃなくてこういうことね。

 

「あの、悩み事でも?」

 

「ああ、いや。疑問が解消したところ」

 

「そうですか」

 

ただこのNWOの職業仕様はかなり変わっている。専用装備は存在すれど、戦士職業を選んでもステータス数値によってスキルだけじゃなく使える武器が幅広く使えるようになる。他の職業である弓兵や騎士に重戦士の装備でもだ。一つの職業に縛られないジョブのシステムもあるように、プレイを楽しんでもらいたい運営の計らいが感じさせるよな。

 

なので片手剣士の職業を選んだプレイヤーは、剣のスキルともう片方装備できる小さな盾で防御することで盾使いのスキルが取得でき、STAの数値次第では大盾使いのスキルも取得、使用できて―――上級職業の騎士にクラスチェンジが可能になる。実は俺もその気になれば大盾や短刀だけじゃなくて大剣や斧も扱えることができる。ただし二度も言うが、一つの職業で幅広く武器を扱えるにはステータス数値が依存する。

 

「それじゃ、精霊のところへ案内するよ」

 

「お願いします」

 

そう言われた直後。俺の目の前に青いパネルがヴンと浮かび上がった。

 

 

貴方の仲間になりたそうにこちらを見ています。仲間にしますか?

 

 

は?何これ?―――某冒険者ゲームのモンスターのアレかよ運営!!モンスターならともかくNPCにこの表示で承諾の有無を決めさせるな!?

 

だが、結局は・・・・・彼女を仲間にすることにして町中を共に歩くが、突然電話のようなコールが鳴り響いた。フレンドコールだな。

 

「ヘルメスか・・・・・はい」

 

「あ、ハーデス君。今日は木の日だよね。もしも精霊の祭壇に行くつもりだったらさ、私達も祭壇に連れて行ってもらえないかしら?」

 

「今、行こうとしている所だがついてくるか?」

 

「え?そうなの?じゃあ、お願いできる?少しでも早く検証したいのよ。あと、他のギルドメンバーを連れて行っても構わない?捧げ物のデータは多い方が良いし」

 

「構わないぞ」

 

「ありがとう。じゃあ、2人追加ってことで」

 

「わかった。ヘルメスの露店に集合か?」

 

「ええ。構わないわ」

 

と言う事で、俺はヘルメスの露店に向かうのだった。

 

 

 

「いらっしゃい。待ってたわ・・・よ」

 

出迎えてくれたヘルメスがリリアンを見た瞬間に言葉を失って物静かになった。ヘルメスのギルドメンバーらしき男女のプレイヤーも同じくぎょっと目を丸くしてるし。

 

「まず紹介からだな。彼女はエルフの里から来たリリアン・アールヴだ。大樹の精霊に会わせるため連れて来たんだ」

 

「よろしくお願いします」

 

「あ、は、はいっ。こ、こちらこそ、よ、よろしくお願いしますっ。ハーデス君、ちょっと来なさい」

 

リリアンから引き離され、俺の肩に腕を回して密着してくるヘルメス。意外と大きいものをお持ちのようだが、彼女の顏は焦りの色を滲ませていた。

 

「ど、どういうことっ!?なんでNPC、それもエルフと一緒にいるわけ!?どういう経緯で出会ったのか教えてちょうだい!」

 

「長くなるから精霊と会わせてからでいいか?多分これ、イベントが始まる切っ掛けっぽいんだよ」

 

「そんな重要な瞬間を立ち会わせる気だったの!?尚更一緒に行かせてくださいお願いします!」

 

いや、別に構わないんだけどさ。静かにしてくれよ?

 

というわけで自己紹介は手短くで、武器屋のルフィンと、農業系の店をやっているメイプルシロップが、ヘルメスと同じギルドメンバーと一緒に行くことになった。

 

「おう、よろしく頼むぜ」

 

「よろしくー」

 

「じゃあ、早速パーティを組もうか」

 

「あ、ちょっと待って。パーティを組まなくても入れるかどうか知りたいから、まずはこのまま行きましょう」

 

「いや、鍵を持っていないプレイヤーは入れない話だって教えただろ?」

 

「そうなんだけど、それでも検証する必要があるのよ」

 

施錠されてるのに入れるわけないのになぁ。まぁ、好きにさせるか。祭壇までは遠くないし。入り口のある橋まではすぐに到着した。

 

「本当に水路に入るんですねー」

 

「足は付くのか?」

 

水路を見るルフィンの顔が引きつっているな。水が苦手なのか?

 

「大丈夫だぞ。一番深い場所でも腰くらいまでしかありませんから」

 

「なら大丈夫か」

 

「泳げないのか?」

 

「ああ、俺は現実でもカナヅチなんだ。こっちで泳げるかどうかも分からん」

 

水泳スキルもなく、リアルで泳げないんじゃ、NWOの中でも泳げない可能性はある。俺は水泳スキル無しでも軽くは泳げたので、リアルスキルの影響はあると思うが。ゲームの中で泳げれるようになったらリアルでも泳げれるかもしれないよな。水路に降りた俺を先頭にして、橋の方へと進む。

 

「こっちだ」

 

「ワクワクするわね」

 

「おお、扉があるな」

 

皆が橋の下に入ったことを確認し、俺は隠し扉に鍵を差し込む。扉は問題なく開いてくれた。だが、ヘルメス達には扉が閉まったままに見えているらしい。なんか俺が何もないところで手を動かしているように見えているようだ。うーん、間抜けな姿だ。

 

「やっぱり無理みたいですねー」

 

「じゃあ、パーティを組んでみましょう」

 

すると、ヘルメス達にも扉が開いて見えたようだ。やはりパーティを組んでいなくちゃいけないんだな。

 

「本当に階段がありますー」

 

「灯はあるのね」

 

「薄暗いから足元に気を付けて」

 

階段を下りて、祭壇へと向かう。途中で二股になっているが、祭壇がある右へと進んだ。ヘルメスは興味深げに左の通路を覗き込んでいるな。

 

「あっちは何があるのかしら?」

 

「ああ、精霊の自室だ」

 

「精霊の部屋・・・・・?」

 

「こっそり覗き見したら精霊が寝食するための環境が完備されていたから間違いない。寄り道せず進むぞ」

 

そして、祭壇のある部屋の前に到着する。

 

「ここが祭壇のある部屋?」

 

「ああ。開けるぞ」

 

その扉はやはり簡単に開いた。部屋の中には以前見たのと変わらぬ、巨大な大樹の根と、その根に囲まれる祭壇があった。

 

「えーっと、精霊様、いるかな?」

 

「はい。お久しぶりですね冒険者よ」

 

「あ、どうも。一週間ぶりです」

 

「おおー、精霊だ」

 

「綺麗ですねー」

 

「私達にも見えるわ」

 

なら問題ないな。じゃあ本題に入ろう。

 

「ここが・・・・・精霊様が降臨する祭壇」

 

「そうだ。じゃあ、ゆっくり話をしてくれ」

 

「ええ。ありがとうございます」

 

リリアンと精霊からヘルメス達と一緒に三歩程下がって見守る姿勢に入る。

 

「精霊様。どうかお願いがございます。精霊様のお力が必要なのです」

 

「エルフの者ですか。数百年振りに会いましたね。私に何を願いますか」

 

「古から私の里を見守り続けていた神聖樹の生命力が弱まり、里に押し寄せる悪しきもの達が森に現れるようになりました。その原因の究明、もしくは精霊様の恩恵で再び神聖樹に力を与えて欲しいのです」

 

彼女の里の危機というのは本当だったのか。ということはこれ・・・・・大イベントに関するクエストだったりする?精霊の返答は如何に・・・・・?

 

「申し訳ないのですが、私ではその願いを叶うことはできません。神聖樹の生命力が弱まっているのは寿命が尽きかけているのか、あるいは悪意を持つ強力な何ものかが神聖樹を穢しているかもしれませんが、直接関与することは私はできません」

 

「・・・・・」

 

「しかし、悲観するのはまだ早いのも事実です。彼の冒険者を見なさい」

 

諭される精霊に従って俺に振り返るリリアン。

 

「彼が―――彼等冒険者があなたの里を救う力となりうる可能性を秘めております。私が保証しましょう」

 

それ、他力本願・・・・・丸投げしてませんかねぇ・・・・・?

 

「心から神聖樹を、里を想うならば彼等冒険者を頼りなさいエルフの者よ。それが現在貴方が出来る最善の方法です」

 

それだけ言ってスーと精霊は俺達を残して姿を消した。これでリリアンの目的は一応達成された感じだが・・・・・納得できたのかな。

 

「リリアン。これからどうする?」

 

「今の精霊の話を里の長老にお伝えします。私達エルフだけでは解決できないものであれば、里の異変を解決に必要ならば人間達の力を借りなければいけないのかもしれません」

 

「もしかして鎖国的な感じだったのかエルフの里は」

 

「いえ、度々私達からも人間の国や町に訪れて交流することもあります。エルフの里にも人間の商人が訪れて物々交換をしていますから鎖国的ではありません。しかし、里に人間を滞在させたことは一度もありませんが・・・・・」

 

事が事だから里に滞在させざるを得ないが、俺達の事を知らないエルフ達からすれば懐疑的な印象を抱かせ兼ねないな。

 

「ハーデスさん。私は今すぐにでも里へ戻ります。今日は本当にありがとうございました」

 

「善は急げって言うけど、事を急いでは損じるぞ。また見えない穴に落ちて身動きが取れなくなってしまいましたじゃあな」

 

ということで、鷹の羽衣をリリアンに渡す。

 

「これを纏えば鷹になって空から一っ飛びができる。貸すよ」

 

「え、ですがこれ・・・・・大切な物では?これほどの魔力が籠った品はかなり貴重な物ですよ」

 

「物ひとつで大勢の命が救えるなら安い物だ。リリアンの里が俺達に協力を仰いだ時、俺も力を貸しに里へ訪れる。俺が来たらその時にでも返してくれればそれでいいさ」

 

朗らかに笑みを浮かべ彼女の胸に押し付ける。鷹の羽衣を胸に抱え唖然と見つめてくるリリアンは徐に手袋を外し、白磁のような華奢な指から研磨された翡翠色の綺麗な宝石の指輪を抜いてを差し出してきた。

 

「ここまで私に尽くしてくださるあなたに感謝をします。ならば私もそれに報いることをしたくこれを授けます。これは私の里では旅のお守りとして森妖精(エルフ)の職人が作り出す宝石の指輪です」

 

「大切な物じゃ?他種族に渡しても大丈夫なのか?」

 

「私が最も信じるに値する者にしか授けません。それは私からの贈り物と同時にもしも森妖精(エルフ)の里、しかるべき場所にいる者達へ見せてください。私―――王族の白妖精(ハイエルフ)であるリヴェリア・アールヴからの授かりものだと言葉を述べて」

 

 

彼女から貰ったお守りの宝石の指輪を鑑定してみれば、意外と高性能だった。

 

 

白妖精(ハイエルフ)の指輪【レア】★10 品質:10 破壊不能

 

【INT+100】【HP+100】【MP+200】

 

 

自然回復:装着者のHPとMPの数値を毎秒最大5回復。

 

 

え、時間制限の自動回復じゃなくて自然回復?

それにレア度も高いし壊れない装飾品ってどれだけエルフの技術が高いんだ。レア度も品質も最上位クラスだこれは。

 

「ハイエルフ?リヴェリア・・・・・?」

 

「すみません。私の素性は同族の者以外に知られてはなりませんでした。エルフの王族が、ハイエルフが人間の国や町に訪れたら余計な諍いを起こし、この身に面倒なことに巻き込まれてしまう恐れがありますから」

 

恩人に隠し事をして申し訳ございません。と頭を深々と垂らそうとする彼女の額にデコピンをする。いたっ、と口から零し額に手を抑えて不思議そうな顔を浮かべる彼女に言う。

 

「隠し事したなんて気にしてないっての。そんなこと里の危機と比べれば小さいわ。申し訳ないと思うならばまた後で自己紹介をすればいいだけじゃないか」

 

「ハーデス・・・・・」

 

「ほれほれ、何時までもここに居ちゃ俺達は里の危機を救えないって。俺達冒険者も発表されなきゃ準備も出来ないし必要になるんだから長老にこの事を伝えてくれよ」

 

急かされるリリアン改めリヴェリアは小さく苦笑を浮かべ「そうですね」と頷いた。それからヘルメス達と精霊の祭壇を後にして水路に出ると・・・・・プレイヤー達が好奇と奇異的な視線を見下ろしていた。もしかして出てくるのを待っていたのかよ?水路から這い上がって地上に戻るとリヴェリアはその場で鷹の衣を纏い、鷹そのものに変身すると力強く翼を羽ばたかせ一気に空の彼方へと飛びだって行った。

 

 

見送った後、祭壇に戻ると再び精霊が姿を見せてヘルメス達から捧げものを受け取りをしていた。

 

「じゃあ、私はこれを供えるわ」

 

ヘルメスが祭壇に供えたのは、何かの鱗だった。鑑定すると、レッサー・レックスの逆鱗となっている。

 

「今入手できる魔物素材の中でも、かなり上位の素材よ。何せエリア3のフィールドボスのレアドロップだからね」

 

「おおー、いいのか?そんなすごいもの」

 

「検証の為よ」

 

「ではあなたに祝福を授けましょう。これをお持ちなさい」

 

「これは・・・・・アイアンインゴット?」

 

 

 

名称:アイアンインゴット 

 

レア度:3 品質:★6

 

効果:鉄で出来たインゴット

 

 

品質が高いな。これは当たりか?イズに訊いたらどんな返事をしてくれるのだろうか。

 

「す、すごいわ!」

 

「ああ、やっぱりか」

 

「ええ、そうよ!アイアンインゴットっていったら、トップ鍛冶プレイヤーの中でも、ほんの一握りのプレイヤーがようやく作れるようになったのよ? それも低品質の物を! それが★6? 誰でも欲しがるわ!」

 

「おう! これは、楽しくなってきたぞ!」

 

寡黙なルフィンが興奮して叫んでいる。どうやらかなり凄い物みたいだな。俺もインゴット見るのも初めてだから興味津々だ。

 

「今はまだブロンズ系、カッパー系が主流でアイアン系はほとんど流通していない。ここでアイアンインゴットが手に入ると分かったら、かなりの奴が来たがるぞ。金を積めば手に入るってもんじゃないしな!」

 

詳しく話を聞いてみると、防具や特殊効果の付いたアイテムを作るには鱗の方が適しているらしい。だが、単純に性能だけを見ればアイアン装備の方がかなり上なんだとか。だがその原材料になる鉄鉱石は、第3エリアのレアモンスターのレアドロップらしく、欲しくても手に入らないのが現状らしい。

 

興奮冷めやらぬ2人を横目に、メイプルシロップが祭壇に近寄る。マイペースな人だ。

 

「じゃあ、次は私ですー。はい、これー」

 

メイプルシロップが祭壇に置いたのは、俺と同じ高級肥料だった。同じものを供えて、何が貰えるかという検証らしいな。そして、メイプルシロップが与えられたアイテムは、大樹の果実ではなかった。その代わりに与えられたアイテムは綺麗なピンクの花びらだ。

 

 

 

名称:水臨樹の花弁 

 

レア度:3 品質:★7

 

効果:合成に使用すると、元の素材の品質を1つ上昇させる。最大で★7まで。変異率上昇。

 

「へえ面白いですね」

 

確かに面白そうだ。合成で品質を上げるのは、品質が上がるにつれて難しくなっていくし。俺も欲しい。でも、なんで違ったんだ?

精霊に聞いても教えてはくれなかったが、ヘルメス達は初回ボーナスのようなものではないかと推測していた。

 

「最後は俺か。これを供えるぞ」

 

ルインが置いたのは普通の銅鉱石だ。多分採掘したのをそのまま持ってきたんだろう。供えるにしても、もう少しましな物があるんじゃなかろうか?

 

「え? そんなの?」

 

アイアンインゴットを狙えばいいのに。

 

「最低でも何が入手できるか、調べんといかんからな」

 

検証の為だったらしい。確かに俺も何が貰えるか気にはなるな。ただ、ルインに与えられたのはアイテムではなかった。なんと、12時間満腹度が減少しないというバフだったのだ。

 

「まあ、クズアイテムではたいした見返りはないってことね」

 

「俺的にはそれもいいと思うんだが」

 

わざわざ8週間に一回しか来れない祭壇に来て、このバフはさすがにないと思うプレイヤーはいるかもしれないけどな。すると精霊に、ヘルメスが質問をする。

 

「あの、ちょっと聞きたいんですけど。鍵を持っているハーデス君に頼めば、誰でもここまで来れるってことかしら?」

 

ヘルメスの疑問に、精霊様が頷いた。

 

「ええ、その通りです」

 

「それって凄いわよ? ここに連れてくることを商売にできるかも?」

 

さすが商売人だな。発想が凄い。ただ、さすがにその商売は俺には無理。性格的に向いていないと思うし、結構な時間を拘束されちゃうだろう。

 

さらに、精霊の発した次の言葉でヘルメスの計画は無理だったと分かる。

 

「ただし、1つの鍵は所持者以外に5名までしか登録できませんが」

 

「え? 登録?」

 

「はい」

 

精霊の言葉を聞いて、俺は鍵を確認してみた。鍵を取り出して、鑑定してみる。すると、所持者:死神ハーデスの表記の後に、登録者の名前が追加されており、そこにはヘルメス、ルフィン、メイプルシロップの名前が記載されている。

 

「これって、登録解除はできないんですか?」

 

「できませんね。ですが、複数の鍵に登録することは可能ですよ。祝福を得る回数が増える訳ではありませんが」

 

ということは、この鍵にはあと2人しか名前を登録できないってことか。

 

「ごめんなさいハーデス君」

 

「まさかこんなことになるとは・・・・・」

 

「すまん」

 

三人は謝ってくれるが、正直俺ってフレンドもほとんどいないし、連れてくるような当てもない。そこまで残念でもないんだけどね。

 

 

 

「何か代価を払うわ」

 

「いや、そこまでしてもらわなくてもいいって」

 

「ダメよ。情報提供してもらって、損失まで与えちゃったら情報屋の沽券に係わるもの」

 

「でも、もう情報料は貰っているし」

 

「それじゃ全然足りないわ!」

 

ということで話し合った結果、大樹の花弁とアイアンインゴットまで貰えることとなってしまった。まあ、俺だって欲しくない訳じゃないし? 貰える物は貰っておくことにした。なんか逆に得したんじゃないか?

 

 

 

 

 

 

【新発見】NWO内で新たに発見されたことについて語るスレPART15【続々発見中】

 

・小さな発見でも構わない

・嘘はつかない

・嘘だと決めつけない

・証拠のスクショは出来るだけ付けてね

 

 

221:ロイーゼ

 

 

俺は凄い者を見てしまった。

 

 

222:メタルスライム

 

 

聞かせてもらおうか

 

 

223:ふみかぜ

 

 

この町で凄い物を見つけることができるのかな。始まりの町でシンボル的なのは巨大樹のみで他は何もなし期待感は薄いな

 

 

224:ロイーゼ

 

 

≫223よ。俺は凄い者と言って凄い物ではないぞ?そしてそう言っていられるのは今の内だ。

これを見よ('ω')ノ(スクショ)

 

 

225:佐々木痔郎

 

 

ん?エルフ?

 

 

226:メタルスライム

 

 

隣にいる男は・・・・・あっ、ミスリル事件の・・・・・チラッ|д゚)

 

 

227:トイレット

 

 

ヒィイイイイッ!!!

 

 

228:ふみかぜ

 

 

止めてあげて!≫227のHPが0だよ!

 

 

229:アカツキ

 

 

エルフを選べるようになったのか?そんな話は聞いたことないんだが

 

 

230:ロイーゼ

 

 

ああ、そうだとも。最初は俺もそう思っていたのさ。だが、このエルフの女性は・・・・・NPCであった

 

 

231:ヨイヤミ

 

 

確かめてきた。鑑定したら間違いなく青いネームのNPCだ。この始まりの町には絶対に存在しないはずのNPCエルフがどうしてここにいるのか詳細は不明だが。

 

 

232:ふみかぜ

 

 

マジ話でNPCのエルフ?

 

 

233:ヨイヤミ

 

真剣=マジだ。しかも現在進行形で二人が南西の方へ向かうので後を付けたら、NPCとプレイヤーが・・・・・水路に降りていった。

 

 

234:ロイーゼ

 

 

な・・・・・ん?どういうことだ?

 

 

235:メタルスライム

 

 

え、何で水路・・・・・あ、大樹の精霊か!今日は木曜日だから会える!

 

 

236:アカツキ

 

 

エルフと精霊・・・・・これ、何かのイベントと繋がってるのか?

 

 

237:トイレット

 

 

どっちも絶世の美女だから是非とも参加したい!あわよくばエルフが住んでいる場所に永住したい!

 

 

238:ヨイヤミ

 

 

まぁ、落ち着け。彼のおかげで俺達にもワンチャンがあることが分かっただけでも行幸だろ?どうやらNPCを仲間にすることができるようだし、俺達プレイヤーもNPCの力を独占できるチャンスでもある

 

 

239:トイレット

 

 

ハッ!確かに!

 

 

240:ふみかぜ

 

 

じゃあ、俺は一足早くギルドのお姉さんを口説いてきます☆

 

 

241:メタルスライム

 

 

止めておけ、噂によると彼氏がいるらしいぞ

 

 

242:ロイーゼ

 

 

そんな情報をどこから手に入るんだよおい。てか、もう見ていないと思うぞ

 

 

243:ヨイヤミ

 

 

では、彼の命運に祈ろう。合掌(⁻人⁻)

 

 

244:メタルスライム

 

 

(⁻人⁻)

 

 

245:アカツキ

 

 

(⁻人⁻)

 

 

246:ロイーゼ

 

 

(⁻人⁻)

 

 

247:アカツキ

 

 

(⁻人⁻)・・・・・トイレットはどうした?

 

 

248:メタルスライム

 

 

同じ道を進んだようだ。

 

 

 

 

 

 

【農業】農夫による農夫のための農業スレ1【ばんざい】

 

:NWO内で農業をする人たちのための情報交換スレ

:大規模農園から家庭菜園まで、どんな質問でも大歓迎

:不確定情報はその旨を明記してください

:リアルの農業情報は有り難いですが、ゲーム内でどこまで通用するかは未知数

 

 

 

53:チチ

 

いつの間にか植えられた林檎の苗木だらけの畑があってびっくりした。どれだけ林檎が好きなの?って思うほどだったよ

 

 

54:つるべ

 

俺もそれ見てほしくなった。林檎の苗木どこにあるか知らない?始まりの町の店には売ってないんだよ

 

 

55:ノーフ

 

フィールドにあると思われる。胡桃も西の森の奥で見つけたから

 

 

56:ネネネ

 

モンスターに襲われながら戦い見つけるのもしんどい私は、畑を一生懸命耕している謎の小さい男の子の頑張る姿に癒されています。その子はここ最近、頭の上に何やら毛玉を載せてるけどそれも愛らしい・・・。

 

 

57:プリム

 

同じく!「ムムームー」って可愛よか!何あの子、欲しいんですけど!

 

 

58:セレネス

 

それ、多分ノームじゃね?

 

 

59:ノーフ

 

ノーム?

 

 

60:セレネス

 

確か、βじゃあ第3エリアで発見されて、スキルの殆んどがファーマーとしての能力は非常に高く、中堅の生産職と比べても遜色ない農夫系モンスターって、トップテイマーのプレイヤーの掲示板で見た。フレもノームで農業してたな。

 

 

61:ネネネ

 

ノームちゃんね。そのノームちゃんはどこで手に入るの?

 

 

62:セレネス

 

流石に知らないよ。情報屋でも売られてないことだし。

 

 

63:プリム

 

私も欲しくなった!絶対ノームちゃんのこと訊きだしてやるんだから!

 

 

64:つるべ

 

マナー守れよー。ついでに情報収集よろしく!

 

 

65:チチ

 

なぁ、俺の幻覚か?町中でNPCの絶世の美女エルフを見かけたんだが

 

 

66:つるべ

 

始まりの町にNPCのエルフなんている筈がないだろ?プレイヤーと間違って・・・・・ファッ!?

 

 

 

 

 

数多の奇異な視線を浴びながら水路から精霊の祭壇へ経由してリリアンを案内する。彼女があの精霊に恩恵を欲しがっている謎はまだ解らないが、これからわかる事だろうと思いつつ彼女が会いたがっている場所へ辿り着いた。

 

 

 

死神・ハーデス

 

LV18

 

HP 40/40〈+100〉

MP 12/12〈+200〉

 

【STR 0〈+129〉】

【VIT 150〈+66〉】 

【AGI 0〈+120〉】

【DEX 0〈+120〉】

【INT 0〈+100〉】

 

 

装備

 

頭 【空欄】

 

体 【黒薔薇ノ鎧】

 

右手 【新月:毒竜(ヒドラ)

 

左手【闇夜ノ写】

 

足 【黒薔薇ノ鎧】

 

靴 【黒薔薇ノ鎧】

 

装飾品 【フォレストクインビーの指輪】【古の鍛冶師の指輪】【白妖精(ハイエルフ)の指輪】

 

 

称号:万に通じる者 不殺の冒険者 出遅れた者 白銀の先駆者 毒竜の迷宮踏破 大樹の精霊の加護

 

スキル

 

【絶対防御】【手加減】【体捌き】【瞑想】【挑発】【極悪非道】【シールドアタック】【大物喰らい(ジャイアントキリング)】【毒竜喰らい(ヒドライーター)】【爆弾喰らい(ボムイーター)】【植物知識】【大盾の心得Ⅹ】【悪食】【受け流し】【爆裂魔法Ⅰ】【エクスプロージョン】【体術】【幸運】【テイム】【採取Ⅰ】【採取速度強化小】【使役Ⅰ】【錬金術Ⅹ】【料理ⅩⅩ】【調理ⅩⅩ】【調合ⅩⅩ】【水無効】【気配遮断Ⅰ】【気配察知Ⅰ】【八艘飛び】

 

「・・・・・」

 

全力の時以外、外しておこう。防御特化の極振りプレイが明らかに遠ざかってるぞこれ。



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風霊の街と土霊の街

リヴェリアと別れて翌日。今日は精霊の捜索をしてくれと、学校へ行くオリジナルのハーデスの代わりに分身体である俺は、四方にそれぞれの精霊が隠れ住んでいる情報を頼りに活動しようとログインした・・・・・のだが。

 

「え、何でここに?」

 

昨日、自分の里に帰って行った筈のリヴェリア・アールヴがオルトとミーニィと畑にいた。

 

「里に帰ったはずじゃ?」

 

「昨日の件を長老にお伝えしたところ。里の危機を重んじてこの町の冒険者達の協力を求めることが決定しました。私はその件を冒険者ギルドへ報告しに使いとして舞い戻ってきたのです。無事に依頼は発注されました」

 

次の瞬間だった。

 

《運営からの報告でございます。ただいまから一ヵ月後にワールドクエストを開催いたします。また明日の一週間後には武術大会、武術大会に参加しないプレイヤーの皆様に別のイベント『村々の手助け』を開催いたします。参加報酬は火結晶、土結晶、水結晶、風結晶です。全プレイヤーが参加するか否か、それまでにお決めになってください》

 

勿論、ワールドクエストの方はYESにした。武術大会は興味あるが属性結晶を参加報酬にするイベントの方が気になるのでそっちに参加することにした。するとすぐに参加報酬として四つの属性結晶がもらえた。

 

「救ってみせるよ」

 

「ありがとうございます。あ、鷹の羽衣をお返ししますね」

 

渡した物を受け取った。が・・・・・。

 

「里には戻らなくていいのか?」

 

「黄金林檎の件を忘れてませんか?」

 

あーそれか。

 

「それなら、実ったら持って行くつもりだったんだが。リヴェリアはあの林檎が好きなのか?」

 

「いえ、神聖樹の栄養剤の素材として必要なのです。その為数多の黄金林檎の苗木を育てていて、里にとっても貴重な食材でもあり特別な日にしか食しません」

 

「そっちにもあるんだ?でも何で求めてくるんだ?里にもあるのに」

 

「悪しきもの達に全て奪われしまい、樹も一本も残らず折られてしまいました。ですから遠いこの地にも黄金林檎が実っている樹があると知った時は求めずにはいられなかったのです」

 

そんな事情があって欲しがるのか。

 

「だったらここで植えず苗木にした状態で渡した方が良かったか?」

 

「構いません。私達エルフが育てるよりもノームに育ててもらった方が黄金林檎の品質はより高いと思いますから」

 

最初に実ってくれるかどうか賭けに等しいがな。昨日苗木にして植えたばかりだから2週間後までに黄金林檎が実るか時間との勝負だ。その間まではやりたいことを全てやり込めなきゃな。なのでこれから精霊を会いに行かないかと誘いに乗ってくれたリヴェリアと西の第2エリアに行く前にとライバの露店に寄って、ブルーセージ、レッドセージを納品する。オルトのおかげで1日で納品できたな。雑草は放っておいても2日で収穫できるけどな。

 

「助かった! これでしばらくもつよ! これが報酬だ」

 

報酬は貰えたが・・・・・。チェーンクエストは発生しなかった。残念だ。植物知識を手に入れたプレイヤーへのチュートリアル的なクエストだったのかもね。オレガーノ、ヨモギン、コスモス、アジサイの種は買えたから、とりあえず満足しておくか。ついでに報告しにでも行くかな。

 

「ライバの依頼を達成してくれたんだってな? 感謝するぜ」

 

「いや、大したことじゃありませんから」

 

スコップさんと話していると、店の奥から誰かがやってくるのが見えた。

 

「君が甥たちの困りごとを解決してくれたという、異界の冒険者さんかい?」

 

見た目はスコップたちと似てかなり厳ついんだが、話し方はかなり穏やかな感じだな。

 

「私はスコップの叔父で、ピスコという。よろしく」

 

「死神ハーデスです、よろしくおねがいします」

 

「初対面の君にこんなことを頼むのは礼に欠けるとは分かっているんだが、私の依頼を受けてはもらえないだろうか?」

 

お、新たな依頼の発生だ。でも急に何でだ。今朝挨拶しに来たときは何も起こらなかったのに。

 

「実は私は材木店を営んでいてね。いつもは自分で材木を切り出してくるんだが・・・・・」

 

そこで言葉を切ったピスコは、右腕を持ち上げて俺に見せた。よく見ると包帯がまかれているな。

 

「この通り怪我をしてしまってね。仕入れに行けなくて困っているんだよ」

 

「つまり、木を切って持ってくればいいんですか?」

 

「そうなんだよ」

 

どうやら伐採スキルがキーになってたみたいだ。クエストの内容も、伐採スキルがないと達成できないものだし。

 

納品クエスト

 

内容:木材・雑木・クヌギを10個納入する

 

報酬:400G、雑木・木の食器セット

 

期限:4日間

 

へえ、食器ね。持ってなかったから丁度いいか。

 

西の森か。そっちの方の第2エリア行く予定だったし途中採取できるだろうし、依頼は受けちゃおう。

 

「受けます」

 

「お、受けてくれるか! ありがとう!」

 

クエストを受けて改めてフィールドボスを倒しに向かった。毒竜(ヒドラ)以来久しぶりに戦う気がして楽しみな俺は―――。あっさりと毒攻撃でフィールドボスを倒して『鉤爪の樹海』に足を踏み入れた。何とも言えない圧勝に肩を抜かしつつも、クエスト用に納品するアイテムをそれぞれ100ずつ手に入れてスキル【伐採】と【伐採速度強化小】を取得してから風が通り抜ける時に音が鳴る、穴の空いた大岩がある場所に辿り着いた。

 

「ここがそうか」

 

「ええ、そのようですね」

 

リヴェリアと共にここまで来ては見たものの、気になるオブジェクトだけがあって他は何もない。何にも手掛かりを掴めないのも頷けるが、さて俺も他のプレイヤーと分からずじまいになる前提で謎を解かそうと風穴に近づいた次の瞬間。いきなり目の前が光り出したかと思えば。

 

『風霊の祭壇に風結晶を捧げますか?』

 

アナウンスが流れた。その後Yes/Noの選択肢が浮かび上がって、迷わず岩の風穴に俺が風結晶を捧げると、さらに強い光が泉から天へと向かって凄まじい勢いで立ち上った。またアナウンスが聞こえてきた。

 

《精霊門の1つが解放されました》

 

『風霊門を開放した死神ハーデスさんにはボーナスとして、スキルスクロールをランダムで贈呈いたします』

 

「なるほど、やっぱり属性結晶が必要か」

 

「おめでとうございます。これでシルフと会えますね」

 

「ありがとう。それじゃあ行ってみるとしようか。しかし、これが門なのか」

 

それは、まるで竜巻だった。風が渦巻く度にゴウゴウという音が聞こえる。

 

「いくぞ」

 

俺はゆっくりと竜巻に手を入れる。激しい見た目と違って、そよ風が体を撫でるような感覚が一瞬あり、すぐに風の壁を抜けることができた。

 

すでに見慣れた感のある小部屋。そして、他の精霊門と同じように1体の精霊が俺たちを迎えてくれる。

 

「よくぞ参られた解放者たちよ。わらわがシルフの長である」

 

・・・・・幼女?

 

身長はオルトよりもちょい低く見た目は中性的だが、ノームが少年寄りなのに比べて、こちらは少女寄りだ。

残りのサラマンダーとウンディーネもまさかそうなのか?改めて観察してみると、床に付くほどの長い白髪が美しい。着ている服は、白地に緑の刺繍の入ったダボッとしたブラウスに、緑のかぼちゃパンツだった。普通に可愛い。しかし手には金属製のゴツイ長杖を持っており、威厳があるのかないのか、分からない姿である。

 

「質問していいか。ここはどういった場所なんだ?」

 

「この場所はわらわ達シルフの隠れ里。選ばれし者だけが訪れることが出来る、聖なる地じゃ」

 

「なるほど、だから風霊門なのか」

 

「案内しよう。ついてまいれ」

 

おお、さすがシルフ。飛べるのか。白い髪を引きずることなく、俺たちの頭と同じくらいの高度でフヨフヨと通路を進んでいく。

 

「はい」

 

シルフの長の後について、リヴェリア。偉そうな幼女様を先頭に、俺たちは通路を進んだ。

 

「ほれ、見えてきたぞ」

 

その先にあったのは、初めてお目にかかる精霊の街、それでいて同じくらい幻想的な街並みであった。

 

「おー、綺麗だ」

 

「うつくしいです」

 

「だな、幻想的だがあれはなんだ?」

 

「あれは繭ですかね? 興味深い」

 

その街を形容するならば、糸と布と繭、だろうか?街全体が緑を基調とした、鮮やかでありながら落ち着きも感じさせる色合いで統一されている。その中でまず目に入るのが、繭のような形をしたテントたちであろう。何枚もの布をパッチワークのようにつなげ合わせたテントだ。そのテントから四方八方に糸が伸び、周囲に立っている材質が不明な柱と繋がっている。この糸と柱がテントを支えているようだった。

天井はかなり高いうえに、緑色に輝く水晶のような物で空が覆われているので、閉塞感のような物は一切感じられない。そしてそこには、シルフの長に似た精霊たちが大勢いた。

 

「どうじゃ? 美しいであろう。好きに見て回るがよい」

 

「ああ、そうさせてもらう。その前にここって街だよな?」

 

「さようじゃ。わらわ風精霊の街。門を潜りし人間であれば、自由に行動することを許可しておる」

 

これは面白そうな場所だ。早速いろいろ調べたい。

 

「他にも幾つか質問があるがいい?」

 

「何じゃ? 答えられる範囲でならよいぞ」

 

「またここに来ようと思ったら、金の日に風結晶を捧げなくてはいけないのか?」

 

「いや、日と結晶を一致させなくてはいけないのは最初だけじゃ。一度入った者であれば、いつでも門をくぐることができる」

 

今のは重要な情報だ。やはり金の日に風結晶が必要だったらしい。

 

「俺と一緒であれば、誰でもここに来れますか?」

 

「駄目じゃ、資格者のみしか入れぬ。自力で門をくぐらなくては、資格者以外は弾かれるのじゃ」

 

他人を連れてくることはできないと。

 

「あと、あの扉は? すごく大きいけど」

 

「あの先は、風霊の試練となっておる。わらわ達とは違い、狂ってしまった哀れな同胞たちが封じられておる」

 

「それって、シルフが敵として出現するってわけか?」

 

「そうじゃ。お主等に分かりやすく言えば、ダンジョンじゃろう」

 

「狂った精霊を倒したら、怒るか?」

 

「そんなことはない。寧ろ狂った精霊は、消滅させてやるのが慈悲である。元に戻せれば良いのじゃが・・・」

 

敵として現れたウンディを倒しても、文句は言われないらしい。

 

ということで、俺たちは風霊の街を探索することにした。地面は草原になっており、非常に歩きやすい。

 

「この柱・・・・・糸でできてるのか」

 

「近くで見ると綺麗ですね。風の精霊の技術はとても興味あります」

 

俺とリヴェリアが興味を持ったのは、テントを吊るすための糸を支えている謎の柱だ。高さも太さも電信柱と同じくらいだろう。近くで観察すると分かったが、どうやら糸を円状に巻いて、固めた物であるらしい。もしかしたら、テントと繋がっている糸をそのまま柱にしているのかもしれない。

どう考えても耐久度を得られそうには見えないが、まあファンタジーな上にゲームだしな。何かの不思議パワーが働いているんだろう。

 

「この辺の糸や布で製作して出来上がった服はかなりよさそうじゃないか?」

 

「エルフの技術を加えると素晴らしい装飾品が出来ます。持って帰りたいなぁ・・・・・」

 

最後辺りの感想は彼女の素だったかもしれない。裁縫のスキルを取得してみようかな。その後、色々と店を回ったのだが、俺的にはそこまで欲しい物がなかった。実際、食材はだいたい他で手に入るアイテムばかりだった。

素材は被服や皮革に使えそうな素材が多いんだが、それも俺には不要なものばかりである。何せ破壊成長だから。

ただ、ホームオブジェクトショップでは一応面白い物を発見できた。

 

「風車塔と、風耕柵?」

 

風車塔は、作物や鉱物を粉末に変えてくれる施設だそうだ。時間がかかる代わりに、品質の低下が一切ないという。

 

風耕柵は一見すると藤棚っぽいが、棒と棒の間が狭いか。さらに、目の小さい網っぽいモノがたくさんついている。これはエアプランツを育てるための施設であるらしい。まあ、まだエアプランツなんか見つけたことがないから意味ないけど。

 

「風車塔、粉末・・・・・小麦粉が出来るな」

 

「パンですか?美味しそうです」

 

しかしここにエアプランツがある可能性はあるだろうか?それからも風霊の街を見回った後、いよいよダンジョンに向かった。ダンジョンへと続いているという扉の前に、1人のシルフが立っている。

 

「こんにちは。試練へ挑戦成されますか?」

 

「そのつもりなんだが、1つ質問いいか?」

 

「なんでしょう?」

 

「入ったら、攻略するまで出られないとかないよな?」

 

「それは大丈夫ですよ。好きな時に戻ってこれます」

 

だったらとりあえず入ってみればいいか。戦闘は無理でも何か有用な物が採取できるかもしれない。

 

「じゃあ、入ろう」

 

「分かりました。ご武運を」

 

開かれる扉にリヴェリアと肩を並んで潜った先には―――。

 

「なんだこれ。凄いな。それにこりゃあ、厄介そうだ」

 

「浮いてるんですかね?」

 

まず目に入るのは、派手な色合いの床だろう。緑と白のマーブル模様の、岩石質の地面だ。エメラルドグリーンやビリジアン、ライトグリーンなど何種類もの緑が折り重なり、これがまた非常に美しい。ちょっと踏むのをためらうレベルだった。そして、四方には壁がない。壁どころか天井もない。床の縁に立ってその下を覗いてみると、深い谷が口を広げていた。途中からは霧が立ち込めており、谷底を見ることはできない。

 

「落ちたら即死っぽいな」

 

「確かに、底が深いですね」

 

リヴェリアが四つん這い状態で身を乗り出して下を見ている。なんか、彼女は初めて見るものに対して好奇心に擽られる性質っぽいな。そんなこの場所は、今いる場所が宙に浮いているという訳ではないようだった。部屋の左右には、細い柱が立っているのだ。谷底から天まで伸びる、細く高い2本の柱がこの岩塊を支えているようだった。

 

白い霧は谷底だけではなく、今俺たちが立っている岩塊の周辺や空も覆っている。どうやら霧が壁や天井の代わりをしているようだ。部屋からは先に向かう通路が伸びているが、霧のせいで先を見通すことはできない。

 

「あの、折角ですから色々と調べてみませんか?」

 

「何かあるのかもしれないからか?」

 

「はい、ですので探しましょう!」

 

やる気に満ち溢れている。というか、この部屋で何か隠してあるとしたら一ヶ所しかないと思うんだよな。だが、俺の予測した岩塊の真下には何もないようだった。

リヴェリアが樹木魔法でロープを結んで、俺が決死の覚悟で確認してくれたので間違いない。

その後、探した結果、宝箱があったのは右の柱の上であった。左の柱は霧の中まで伸びており先を確認することはできないようだが、右の柱は霧の真下で途切れているらしい。

樹木魔法で石の柱を螺旋状に縛ってもらって登って見つけた。また、霧に触れると押し戻され、それ以上先には進めず壁扱いようであるみたいだ。

 

「えっと、防風のネックレスか」

 

 

名称:防風のネックレス

 

レア度:3 品質:★9

 

効果:【VIT+4】、【風耐性小】

 

 

毒と麻痺、水無効以外の耐性はまだ取得してないからいいな。ここで耐性を上げていくのもいいかもしれない。フィールドなどの風の影響が弱くなるアクセサリーだった。しかも隠し宝箱の開放ボーナスで宝石までゲットした。確認してみると、黒翡翠という宝石が中に入っていた。

 

「リヴェリア、さっきの風車塔と風耕柵を買うけどどう?」

 

「畑がより充実になります。購入をしても貴方の損にはならないかと思いますよ」

 

賛成の意見を貰い、最初の部屋を抜けて次の部屋へと向かおうとしていた。ただ、最初の一歩を踏み出すのは人によってはちょっと勇気がいる。

 

「細い道だな」

 

通路の幅は2メートルないだろう。しかも両サイドには手すりもなく、足を踏み外せば谷底に真っ逆さまである。横に並ぶのはちょっと危ない幅だった。慎重に歩を進め、ゆっくりめの速度で通路を抜けた先は、最初の部屋とほぼ同じ造りをしていた。モンスターがいるかどうかだけが違っている。

 

「ブリーズ・キティ?・・・・・可愛い」

 

「ウニャー!」

 

部屋で待ち構えていたモンスターは、どこからどう見ても子猫だった。白地に緑の虎柄の、美し可愛い子猫だ。

 

 

モンスターというより、もんすた~って感じだな。

 

「欲しいかも」

 

あの子猫をぜひテイムしたい!あの子猫を腕に抱いて、喉を撫でてゴロゴロさせたい!

だが、すぐに俺は絶望に叩き落とされることになる。

 

「テイムの対象に指定できない、だと?」

 

つまりあの子猫はテイマー専用ではなく、サモナー専用モンスということなのだろう。

 

「まじか・・・・・しょうがない倒すか」

 

「ニャー!」

 

ほほう、猫なだけあって結構素早いようだ。だが、【パラライズシャウト】で攻撃範囲内に入ったブリーズ・キティは麻痺状態となって機動力が失った。その隙に大盾でアタック攻撃で倒す。

 

ただ、このダンジョンで真に危険なのはモンスターではなかった。恐ろしいのはやはりダンジョンギミックだったのである。

 

最初の部屋を抜け、次の部屋に向かうための細長い通路を恐る恐る進んでいる最中に、横から風が吹きつけた。

 

風自体はそこまで強くはなかったし、俺は防風のネックレスを装備しているので大した影響はない。ただ、不意打ちで風がビュオォと吹きつけてきたので、リヴェリアが短い悲鳴を上げる。

 

「大丈夫か?」

 

「ええ、なんとか」

 

「俺にしっかり捕まっていろよ」

 

風に飛ばされないよう彼女の腰に腕を回してそばに引き寄せる。どうやらこの通路、時間経過で風が吹くらしい。すると・・・・・。

 

「あ、あの・・・・・」

 

「うん?」

 

「い、いえ、何でもないですっ」

 

淡く顔を朱色に染めて戸惑いと照れが混濁したひょうじょうをうかべ、リヴェリアに振り向いた俺から顔を逸らした。彼女が痛がらない程度に抱えながら次の風が吹く前に部屋に突入すると、そこはなかなか厄介な作りをしていた。中央に大きな穴が開いた、ドーナツ型をしていたのだ。そこにはモンスターが3体待ち構えている。

 

2体はさっきもいたブリーズ・キティだ。そしてもう1体。まるで空飛ぶ殺人人形?ホラーフェイスの幼児が空を飛んでいた。

 

「狂った風霊?」

 

「きっと人間達から受けた怒りと憎しみが、千年経った今でも消えず精霊としての本質が

 歪んでしまったのかもしれません」

 

敵として襲ってくるなら倒すしかないよな。

 

「リヴェリア、ここの地形は厄介だから俺の後ろから離れないでくれ」

 

「相手は空を飛びますがどう倒すのですか?」

 

「素早そうだからな。まずは動きを封じる。あ、自分の耳を強く抑えてくれるか?俺が肩を叩くまで」

 

首を傾げ俺が何をするのか不思議そうな目をしたリヴェリアは、言う通りに長い耳に手で押さえてくれた。

 

「ウニャー!」

 

猫達が宙を蹴って飛ぶ光景に癒されてしまう。しかし、いつまでも見ていることはできない。

 

「【咆哮】!」

 

この空間の空気を震え轟かせる声量の轟音を発声。狂った精霊と2体の猫達は宙から落ちてHPが減っていないものの硬直状態になった。

 

「【毒竜】」

 

どんな行動も不能になった相手に毒魔法をお見舞いして倒したその後、終わったと肩を叩いて教える。

 

「あっという間に、今のは毒魔法?」

 

「あまり使えないけどな。仲間にも毒状態にしてしまうから基本的は一人の時しか使わない。ついでにあんな感じになるからさ」

 

毒魔法の二次災害とも称する毒液に塗れた足場。俺だけならともかくリヴェリアは絶対に避けて通れないようになってしまってるのだ。

 

「では、どうして使ったのですか?」

 

「倒さないと前に進めないからだ。てなわけでごめんな?」

 

「え?」

 

毒液の向こうに続く部屋へ行くためにリヴェリアを横抱きに持ち上げる。いわゆるお姫様抱っこだ。こんな説明をしなくても不要だとは思うが一応な?毒液の海の上を歩きだす。

 

「ちょっ・・・!」

 

「悪いけど毒の領域から抜けるまでこのままな?落ちたら即死だから」

 

「―――――っ」

 

恥ずかしくて顔を赤らめる彼女の言葉を遮り、そのまま歩き続ける。

 

 

それから1時間後。

 

 

「素材は幾つか取れたな」

 

「その度に何度もこっちはハラハラしましたけど?」

 

「悪かったな。場所が場所なだけに仕方がなかったんだ」

 

探索して採取アイテムを手に入れた中で特にこのダンジョンでゲットしたエアプランツは、足場の裏側など、少々採取するのが難しい場所に生えている。それを安全にゲットできるのは、現状の俺には難しく鷹に変身して飛びながら採取する方法ことにした。まぁ、それでもかなり難しかった。わざわざ足場の裏側に向かって突っ込み、体勢を逆様に変えて着壁し、足で壁を掴んだままの状態で口で採取したんだ。有翼の生物の大変さを思い知ったよ。

 

「こっちが防風草。こっちが暴風草。見た目は似ているが、名前が違うな」

 

採取した草の内、防風草が7つ、暴風草が1つという割合だ。レア度に関しては同じ3なのだが、このダンジョンでは暴風草の方が珍しいらしい。

 

「お、採掘ポイントがあるぞリヴェリア」

 

「この裏にですか?」

 

「樹木魔法で根を張るようにしてくれないか?それと俺達の身体に命綱のように

 

オルトがいないので、畑から召喚。ふふ、初めてしちゃったな。納得したリヴェリアは願い通りにしてくれて、オルトと四苦八苦しながら足場の裏側に採掘ポイントで採掘をする。ロープを柱に結んでトライしたのだが、命からがらだった。時間もかかるし、ゲットしたアイテムは低品質の鉄鉱石である。風鉱石っていう鉱石は取れたが。

 

「このままいてもらうけどオルトは戦闘に参加せず後ろで待機な?」

 

「ム」

 

「土属性のノームに風属性のシルフ相手ではかなり厳しいですしね」

 

そのままさらに4部屋先に進んだ場所で、俺達は他の狂った風霊と異なる狂った風霊の個体に遭遇していた。

普通の狂った風霊は緑の髪の毛なのだが、目の前の狂った風霊は白い髪の毛だ。これはシルフの長と同じ特徴である。

 

「リヴェリア、あのシルフって他の狂った風霊と違うよな?」

 

「きっと特別な個体だと思いますよ。戦闘能力も他の狂ってしまった風霊より強いかと」

 

間違いなくユニーク個体だろう。

 

「んー・・・・一先ず倒してみるか。属性結晶を手に入れなきゃならないし」

 

こうして戦闘を始めた。あっけなく飛んでいるところを麻痺させたため、狂った風霊は1メートル程の高さから地面に落下していた。オルトと一緒に攻撃して攻撃力が低い同士のダメージは時間はかかったものの、何とか倒せたうえに風結晶をGETした。だがしかし、足りなすぎる・・・・・。

 

「オルト、こうなったら採掘ポイントを見つけてドンドン掘るぞ!」

 

「ム!」

 

そう決意した俺とオルトはさらに先へと進むのだった。

 

 

それからさらに2時間後。

 

「召喚!」

 

「フマー!」

 

俺はようやくテイムしたシルフを、畑から召喚していた。入れ替えたのはオルトである。

 

 

名前:アイネ 種族:シルフ 基礎レベル15

 

契約者:死神ハーデス

 

LV1

 

HP 38/38

MP 26/26

 

【STR 8】

【VIT 7】

【AGI 15】

【DEX 13】

【INT 12】

 

スキル:【糸紡ぎ】【風魔法】【採集】【栽培】【機織り】【浮遊】【養蚕】

 

装備:【風霊の針】【風霊の狩衣】【風霊の鞄】

 

 

「フマ?」

 

「よしよし、可愛いな~」

 

ユニークシルフのアイネは、シルフの長にソックリだった。違うのはさらに幼く見えると言うことと、杖を装備していないところだろう。あと、服もアイネの方がやや地味だ。

だが、白い髪の毛や、白ブラウスに緑カボチャパンツという基本的な部分は一緒である。

それにスキルもなかなか面白い。被服皮革を持っていると予測していたんだが、その前段階のスキルだった。糸や布を作ることができるらしい。

 

『おめでとうございます』

 

お、祝福のアナウンス。これはもしや、例のあれか?

 

『テイムモンスターが、初回から3匹目まで、全てがユニークモンスターでした。称号『ユニークモンスターマニア』が授与されます』

 

やっぱり、また称号だよ。珍しいって嘘なんじゃないか?

 

 

称号:ユニークモンスターマニア

 

効果:賞金10000G獲得。ボーナスポイント4点獲得。ユニークモンスターとの遭遇率上昇、テイム率上昇

 

その報告を見流してアイネの頭を撫でる。

 

「養蚕・・・・・か。また必要な物を揃えないとな。これからよろしく頼むぞ、アイネ」

 

「フマ!」

 

「可愛いですね。これからどうしますハーデスさん?」

 

「俺は時間いっぱいになるまでここに留まるつもりだ。風結晶を集めなきゃいけないから」

 

「では、私はノームと畑の仕事をしに戻りますね」

 

「すまない。送っていくよ」

 

その際、風車等と風耕柵を買うために『タラリア』のヘルメスに買い取ってもらう。

 

「やー、ハーデスくん。いい情報あるよね?勿論あるよねー?」

 

「・・・・・何の事かな?ミスリルを買い取って欲しいだけなんだが」

 

「売ったお金で何か買うんだね?具体的に精霊門の奥で」

 

「お楽しみは最後までってことで情報は何も売らないぞ?」

 

「焦らすねー?でもま、その通りだね。楽しみにしてるよ。はい、色を付けて1つ10000G。10個売るつもりなら合わせて100000Gね」

 

「ん?色をつけるにも異様に高くないか?」

 

ヘルメスは大した理由じゃないと教えてくれる。

 

「最近掲示板でミスリルが報酬として納品クエスト以外にもマーケットにも出品されていたのよ。同時にミスリルを扱える鍛冶師のNPCも発見されたし、ようやくレア鉱石の使い道も出来たのだから、それを欲しがったプレイヤー達がたくさんのミスリルを数10万G以上も競り上げちゃってさ。もう凄かったらしいわよ?」

 

イズかヘパーイストスだな。

 

よし、これで例の2つを買える。去り際にアイネを召喚して風結晶を見せつけると、ヘルメスは凄く顔を輝かせた。

 

始まりの町を後に風霊の街に戻った俺は、早速風車塔と風耕柵を購入して風の属性結晶を搔き集める時間を召喚したミーニィと費やした。

 

 

 

 

 

「風車塔は出来れば納屋の近くがいいな」

 

「ムー、ムム!」

 

「そうだな、ここがいいか」

 

学校から戻り分身体と入れ替わった俺はオルトと相談しながら、設置場所を決めていく。それにしても、畑の真ん中に出現した風車塔は中々壮観だった。見た目はレンガと木でできた、少し細めの小型風車って感じだ。背の高さは10メートルくらいか。大して強い風も吹いてないのに一定の速度で回っているのは、ゲームならではなんだろう。風車塔の中に入ってみると、そこには大きな石臼が置いてあった。

 

1メートルくらいはありそうだ。その石臼が風車の車軸と連動して自動で回転している。近寄ってみると、ウィンドウが立ちあがった。石臼に何を投入するか聞いて来る。しかしこの施設、意外と使いづらいかもしれない。手持ちのアイテムがほとんど選べるのだ。多分、粉にできないアイテムを石臼に投入した場合、時間をかけてゴミが出来上がるだけなのだろう。

 

「で、こっちの風耕柵なんだが・・・・・。どうだオルト?」

 

「ムー・・・・・」

 

やはりこの風耕柵で作る事の出来る作物は今は存在していないらしい。風霊のダンジョンで手に入れたエアプランツはできるみたいだが用途が不明すぎる。風耐性を一時的に得るバフの薬になるのか?判るまでは放置だな。

 

「皆、少し鍛冶師の人に会いに行ってくる」

 

「フマー」

 

「キュイ」

 

「ムー」

 

「行ってらっしゃいませ」

 

畑を後にしてヘパーイストスのところに向かう。昨日の戦果を報告しよう。喜んでくれるかな?

 

「あ、そうだ。スキルスクロールを開いておこう」

 

風霊門の1番乗り特典でスクロールをもらったのを忘れていた。あの場で開けば、皆のスキルの情報も手に入ったのだろうが、後回しにしちゃったな。

 

「じゃあ、早速。オープンっと」

 

そう言いながら巻物を開く、それと共に描かれていた文字が光り輝き、その光が消えていくのに合わせて巻物も消失して俺の体が光に包まれる。そして、ステータスを確認すれば問題なくスキルを取得できていた。

 

「刻印・風? なんだこれ?」

 

戦闘スキルなのか生産スキルなのかも分からない。頭を悩ませても結局分からず、

もう見慣れた看板がある西と北西の区画の大通り、冒険者通りに進み迷わず店内に入ると何人かのプレイヤーがヴェルフの前に並んで売買のやり取りをしていた。

 

「・・・・・」

 

「・・・・・」

 

背後に並んでいると、ヴェルフが親指で奥に入れと示唆した。静かに出て裏口から入り、燃え盛る炉の前で武器の出来栄えを確認しているヘパーイストスの傍に寄った。

 

「ヘパーイストス」

 

「おう、ここに来たってことは手に入ったのか?」

 

「一応は。どうしても手に入りづらいから数は少ないよ」

 

風結晶と風鉱石を見せると瞳を不敵に光らせた鍛冶師。

 

「こっちの鉱石は見たことが無いな。風鉱石?ふむ、風属性の装備が作れそうじゃないか」

 

「そうなのか?じゃあ結晶よりいいと?」

 

「結晶の方がいいに決まってるだろ。とにかく結晶を1つと鉱石を全部くれ。あとは自分で集めに行く」

 

「場所が分かるのか?」

 

「先祖代々鍛冶師に関する言い伝えや財産は多すぎるんだよ。属性結晶だって精霊と繋がりがあるとは思いもしなかったが、『異なる日にて四方の地に向かい、不思議な結晶を用いて神聖なる門を開かんとする』って爺の変な口癖、まさか属性結晶が関係あったとはな・・・・・」

 

それ、教えてほしかったんだけど!

 

「属性結晶を見せた時に教えてほしかったなぁ・・・・・」

 

「あー、すまん・・・・・弟子でもない身内以外教えちゃならねぇんだわ」

 

「・・・・・・」

 

「悪かったって!そんなふてくされた目で睨んでくれるな!」

 

ヘルメスやリヴェリアよりもよっぽど分かりやすいヒントがここにあったなんて深く過ぎるだろ。とにかく一つ目の採取クエストは終わり、残りは3つ。

 

「明日は土の日だから、ノームがいると思う北の獣牙の森にあるストーンサークルに行ってくる」

 

「お、おう・・・・・頼んだぜ」

 

裏口から出ると、イズからメッセージが届いた。俺と会いたい?集合場所はヘパーイストスの店の裏にっと。

 

―――数分後。

 

「ハーデス、久しぶりー」

 

「おー、久しぶり」

 

「私もイベントを参加するために属性結晶の報酬を貰ったわ」

 

「だったら精霊の隠れ里に行くか?今なら風霊の門を開けに行けれるぞ。風鉱石ってのも採掘できる」

 

途端に目を輝かせるイズの答えを待つまでもなく。

 

「それと明日はノームの隠れ里に行ける日だが。イズさん、どうしますかね?」

 

土結晶を見せつけてにやりと笑いながら尋ねてみた矢先に深々とお辞儀し出した。

 

「私も連れてってくださいハーデス様」

 

「うむ、では行こうか」

 

「おー!」

 

西の第2エリアへ向かいイズと風霊の街の奥にあるダンジョンへ挑戦する。そこで満足するまで鉱石を掘り続けたのだった。

 

 

満足したイズと始まりの町で別れ花屋に顔を出す。納品クエストの受理をしに行かないと。

 

「ありがとう! それで、早速納品するかい?」

 

「じゃあ、これを」

 

「ありがたい。確かにクヌギ10個、受け取ったよ!」

 

よし、食器が手に入ったぞ。パーティ用なんだろう。1人分の皿、コップ、ナイフ、フォークがセットになった、温か味のある木製の食器たちだ。だが、これはチェーンクエストだ。まだ終わらんよな。

 

「それで、実は君に折り入って頼みがあるんだが、だめだろうか?」

 

再びピスコからの依頼だった。どうやら次の依頼の発生条件を満たしているらしい。

 

「君のおかげで仕入れは何とかなったんだけど、依頼が1つ残ってしまっていてね。木工の小物を作る依頼なんだけど、この手だと作れそうもないんだ」

 

なるほど次は木工スキルがキーか。

 

 

作成納品クエスト

 

内容:雑木で作った★8以上の食器を2つ納品

 

報酬:500G、桜の苗木

 

期限:10日間

 

 

報酬は苗木か。しかも桜! 雑木でも構わん。この世界でモンス達とお花見とか、夢があるじゃないか!

 

 

だが、この内容は達成可能かどうかわからないんだよな。期限は少し長いけどそれでも★8を達成するのに足りているかどうか・・・・・。今から木工職業にクラスチェンジして貯まりに貯まったポイントを全部生産スキルとDEXに振らないとダメか。あ、掲示板にでも以来出して見るか。一先ずこのクエストは受けよう。

 

「受けます」

 

「ありがとう!助かったよ!」

 

受けた後、掲示板に『10日以内に雑木で作った★8以上の食器を2つと養蚕箱を求む』と報酬は各種50本と提示した。まぁ、生産系に特化したプレイヤーが掲示板を見ているとは限らないから期待はせずに自力で作成するか―――。

 

「―――メール?」

 

誰だ?名前も知らないプレイヤーなのは当然だとして何の用だろうかね。えーと、マーオウ?今すぐ広場に会えませんか?・・・・・このパターン、前回もあったような。

 

ということで広場にやって来てみたら・・・・・見たことのある女性プレイヤーだった。主にリアルでだ。

 

「自分が死神ハーデス?お初―、うちはマーオウや」

 

「・・・・・」

 

別人だと思いたいが、少し確かめようか。

 

「マーオウか。よろしくな。メールを読んだけど用件は?」

 

「そりゃ、見たことのない木材を大量に揃えてるもんを見たら是非とも欲しいやん。うち、これでも木工プレイヤーのトップとしてアタマ張ってんで?是非ともそれらの木材の集め方の秘訣も教えて欲しいんもんや」

 

「それとこれは別だけど、依頼を引き受けてくれるのか?」

 

「勿論や!てなわけで早速食器だけやけど前金として報酬の半分をくれへん?この場で作ってやるさかい」

 

一応信用してみるつもりで報酬とする木々の数の半分をマーオウに譲渡すると、クヌギをアイテム欄から取り出して本当にその場で加工を始めた。周囲のプレイヤーが作業する彼女に視線を送っても意を介さず、全神経を作業に注ぎ集中するその様は職人そのものだ。

 

しばらくして、皿とコップを俺の要望通りの仕上げに、★8の食器を作ってくれた。残りの報酬を譲渡してホクホクとした顔でアイテム欄を見つめる彼女に一言。

 

「フレンドコードはしてもらってもいいか」

 

「モチのロンやで養蚕箱の方は時間が掛かるんで出来上がったら連絡するで」

 

「材料込みで値段はどのぐらいだ?」

 

「うーん、品質の数によって値段は上がるんけど、50000G以上だと思ってぇな」

 

「分かった。連絡待ってるよ」

 

俺の中では確定したが、これでコイツとの繋がりを得たわけだ。

 

 

「がははは! 凄いなお前さんは!」

 

「いやー気に入ったよ。今度、ぜひ僕の店にも遊びに来てくれ。歓迎するよ」

 

「そうだ、もし桜の花でも咲いたら、その下で宴でも開こうじゃないか!」

 

花屋に戻り★8の食器2つを納品する。ゲームの中で育てた桜の木の下で、NPCやモンス達と宴会ね。うーん、想像するだけでなんとも楽しそうだ。育て甲斐があるというものだ。

 

「そうしましょう。楽しい宴会は俺も好きだから」

 

俺がそう答えた直後だった。

 

 

 

特殊クエスト

 

内容:自ら育てた桜の木の下で、スコップ、ライバ、ピスコを招いて花見をする

 

報酬:ステータスポイント3点

 

期限:なし

 

 

 

ん? なんかクエストが発生したぞ。今のもチェーンクエストの1つだったのか。しかも受けたことになっている。頷いたからかね? まあ、それ自体は構わないんだが、さすがにこれは今すぐに達成は出来ないな。オルトに頑張ってもらおう。そして、花見なのだ!

 

チェーンクエストを一段落させた俺は、夕餉の時間に迫ったため一旦ログアウトした後、再ログインして畑で農作業をしていた。月明りがあれば真っ暗にはならないし、夜の農作業も乙なものだ。

 

水まきや草むしりだが、それでも農業の熟練度は上がる。あと数レベルを上げれば品種改良を覚えるはずだからな。空いた時間で少しでも熟練度を稼がないとね。そうやって農作業をしていると、何やら淡い光が目に入ってきた。

 

「なんだ?」

 

緑桃などの木を中心に植えている畑の方角だ。俺は近寄ってみた。

 

「この木は、胡桃の木か」

 

この間に植えた胡桃が、既に1メートル程に成長していた。その枝に、青白い光を放つ実が生っている。

一見、蛍のようにも思えた光の正体は、光る胡桃の実であった。無数の皺の入った実が、淡く青白い光を放っている。しかし、花なんか咲いてたか? いや、こんな短期間で採取できるとは思ってなかったから、全然気にしてなかった。普通のプレイヤーだと初収穫まで1週間は掛かるらしい。ただ、オルトは栽培促成を持ってるし、それと関係しているのかな?

 

「これって、もしかして光胡桃か?」

 

以前、ファーマースレの掲示板を開いて確かめる。ふんふん、胡桃の木に低確率で生る。ただ、夜の森はかなり危険で、入手難易度は中々高いらしい。

 

それが畑で入手できちゃうとはな。大分珍しいはずなんだが・・・・・。調べてみたら、胡桃は低木の内から収穫が可能だが、最初の内は1つしか実が生らないらしい。育ってくると収穫量が増えるらしいけどな。

その1つがいきなり光胡桃だったとか、オルトの幸運のおかげだろうか?

 

「何に使うんだろうな。食用か? それとも調合に使えるのかね?」

 

 

 

名称:光胡桃 

 

レア度:3 品質:★5

 

効果:素材。使用者の空腹を5%回復させる。

 

 

 

緑桃よりもレア度が高い。これは後でちゃんと掲示板をチェックしよう。収穫を終えたらじっくりと掲示板を見たい。

 

「さっさと収穫を終えちゃおう」

 

そう思ってたんだが、そうも言ってられない事情が出来てしまった。

 

「こんな作物植えたっけ?」

 

光胡桃に続いて、またまた謎の収穫物である。今夜はどうした? 本来であれば薬草が植わっているはずの場所に、見たことのない赤い草が一本生えている。しかも、全部の薬草がそうなっているのではなく、1つだけが赤い草に変わっていた。大きさは同じくらいだが、葉の形などは全然違う。単に色が変わっただけじゃなさそうだな。

 

 

 

名称:微炎草 

 

レア度:2 品質:★1

 

効果:素材

 

 

 

初めて見る植物だ。一体どこから来た? 

 

「オルトが植えたのか?」

 

「ムム」

 

首を横に振るオルト。違うらしい。じゃあ、どうやってここに生えてきた?

とりあえずゲーム内掲示板を漁ってみると、微炎草は第3エリアならどこにでも生えている草らしい。数が多いせいで、外れ扱いなんだとか。用途としては、松明や固形燃料などを作る材料になるらしい。武器などに混ぜて火属性を狙おうとしている鍛冶師は多いらしいが、成功例はないとか。ただ、使い方は分かっても、なんで俺の畑に生えていたのかは分からなかった。仕方ない、こっちもあとで詳しく調べよう。

 

「まあ、とりあえずは増やしてみるか」

 

先に行けば珍しくないとしても、俺にとっては貴重な素材である。

 

「オルト、増やせるか?」

 

「ム!」

 

問題ないらしい。微炎草はオルトに任せておけばいいや。次は光胡桃をどうするかだな。と言う事で色々調べたが、用途がありすぎて逆に困ってしまった。食用は勿論、蛍光塗料や灯り用の道具などにもつかえるらしい。さらに、盗賊ギルドなどでランクアップクエストで必要になってくるんだとか。ランクアップクエストと言うのは、ギルドランクを5に上げる際に発生するイベントで、ギルドによって内容が違う。盗賊ギルドの場合は、一晩の内に光胡桃をソロで3つ入手が達成条件らしい。因みにこのゲームの盗賊ギルドは犯罪組織ではなく、シーフなどのゲーム的な盗賊職のことである。ソロって言うのが中々難しいよな。夜の森は難易度が跳ね上がるからね。因みに獣魔ギルドの場合は、Lv10以上のモンスターを3匹引き連れていくという題らしい。・・・・・俺、そっちの方も全然してねぇや。

 

 

 

 

 

翌朝。鷹の羽衣を纏い鷹に変身する。初めて見るイズは驚き聞きたがってたが、催促して背中にしがみ付いてもらい空へと飛んだ。今日はノームの里に行く日なのだ。

 

「凄い!飛んでる、飛んでるわ!歩くよりも速い!」 

 

「まずは北の平原のフィールドボスを倒していくからな」

 

「わかったわ」

 

戦闘はもちろん俺だ。北の平原にいる犬型のボスモンスターの目の前に降り立ち、麻痺攻撃で動きを封じ、触れて【悪食】で倒して第2エリアへ突入を果たす。

 

目指すストーンサークルまでは、1時間もかからずたどり着いた。その名前の通り、小高い丘の上に、高さ2メートル、幅1メートル、厚さ30センチほどの板状の石が4枚。円を描くように配置されていた。ここから動画モードにしてからそこに近づくと。

 

『土霊の祭壇に土結晶を捧げますか?』

 

「よし捧げるぞ」

 

「お願いね」

 

やはりここが土霊の祭壇で間違いなかった。Yesを決定すると、土結晶を祭壇に安置しろと言われた。祭壇って、このストーンサークルの事か?とりあえずストーンサークルの中央に土結晶を置いてみた。すると、風霊門が解放された時と同じ様に、黄色い光が天に立ち昇る演出が発生する。

 

そして光が収まった後、やはり水霊門にそっくりな石の門がストーンサークルの中央に出現していた。そのまま待っていると、ゴゴゴと重低音を上げながら門が内側へと開いていく。その直後のワールドアナウンスまで、全く同じであった。

 

《精霊門の1つが解放されました》

 

『土霊門を開放した死神ハーデスさんにはボーナスとして、スキルスクロールをランダムで贈呈いたします』

 

やった。ただ、今は取りあえず中に入っちゃおう。風霊門は竜巻の中に入る様なエフェクトだったが、こちらは真っ暗闇である。初めてがここだったらもっと躊躇していただろうが、すでに精霊門を通るのには慣れている。

 

俺達はあっさりと土霊門に足を踏み入れた。体に闇が纏わりつく様な感覚が一瞬あるが、すぐに門の向こう側に出る。そんな俺達を出迎えてくれた者の姿くらいか。

 

「いらっしゃい解放者さん!」

 

出迎えてくれたのは、オルトにそっくりな少年だった。

 

「僕はノームの長。君たちを歓迎するよ」

 

ノームなんだが、ちょっとだけ大人っぽい? オルトよりも10センチくらい背が高いだろう。あとは服が豪華か。それ以外はほぼ一緒だな。髪の色も緑だし。少年ぽい笑みはそっくりだ。

 

「ありがとうございます。あ、そうだ。オルト召喚」

 

「ム?ム~!ムムッ!ムム~!」

 

召喚され一瞬不思議そうにノームの長を見たオルトが、興奮した様子で騒ぎ出した。そして、長の前に行くと、ピョンピョンと飛び跳ねて何やらアピールしている。

 

「おや。僕の仲間を従えているんだね。うんうん、この子も幸せそうだ」

 

「ム~」

 

ノームの長に頭を撫でられたオルトが嬉しそうに頷く。

 

「じゃあ、こっちきて」

 

「ムッムー!」

 

長が俺たちを先導して歩き出す。オルトはまるで電車ごっこのように、その後ろにピッタリと付いて行く。

 

長に案内されて街に行くのも風霊門と同じだった。ただ目に飛び込んで来た土霊の街の姿は、風霊の街とは大分様相が違っている。あっちは幻想的なイメージだったが、こちらはもっと荒々しい。そもそも、基本が洞窟だった。

 

高い天井からは巨大な鍾乳石が無数に垂れ下がり、凄い迫力がある。地面からは色とりどりの水晶みたいな結晶が乱雑に生え、まるで水晶の森のようだった。階段や通路は水晶の森を縫うように作られ、水晶の隙間に石の建物が作られている。光源も淡く光る水晶たちだ。

 

風霊の街と共通するのは、一目見ただけで心を奪われてしまう美しさだろう。風霊の街は幻想的、こちらは自然の美しさの違いはあるけどな。

 

「わぁ、凄いわ」

 

「本当にな。これは凄い。スクショ撮ろっと」

 

「ムッムー!」

 

「なんでお前が胸を張る」

 

オルトが俺の呟きを聞いて、何故かドヤ顔だ。いや、仲間が作ったんだろうが、お前が作ったわけじゃないだろうに。

 

「ようこそ土霊の街へ。楽しんで行ってね」

 

ノームの長と別れた俺達は、そのまま町を見学していった。オルトにそっくりなノームたちが至る所にいて、ムームーと談笑? したり、作業をしたりしている。これは天国じゃね? 慣れてる俺でさえこうなんだから、ショタコンがここを見たら鼻血を噴いて倒れちゃうかもな。

 

ワクワクしながら街を回ってみると、店の種類はほぼ一緒だ。不思議なことに鉱石屋があった。なんと、鉄鉱石が売ってる。確かレアな素材だったはずだ。いや、あれから時間が経過してるし、もう違うのか? でも、見向きもされなくなっているわけではないだろう。これは良い情報だ。

 

あと、販売しているホームオブジェクトもかなり違っている。風霊の街では風車塔、風耕柵が売っていたが、この店の商品で畑に設置できるのは4種類だった。

 

腐葉土を生み出す腐葉土箱。畑の品質上限を上昇させるミミズが入っているというワームボックス。地下に設置する遮光畑。下級の鉱石が自動生成されるホームマイン。

 

どれも非常に面白いんだが、俺の手持ちでは買えない物ばかりだった。前2つが3万G。畑が4万、ホームマインは6万Gもするのだ。本当に残念である。まあ、精霊門の情報をヘルメスに売ればそれなりの値段で買い取ってくれるだろうし、1つくらいは買えるだろう。もしかしたら2つ買えちゃうかもしれない。

 

「・・・・・欲しいな」

 

「え、これファーム専用じゃなくても畑を持たないと意味がないわよ?」

 

「ノームは生産職系の精霊ですが何か?」

 

「・・・・・防御特化の極振りプレイが遠ざかっちゃってるのね」

 

察してくれてありがとうよ。

 

「じゃあ、軽くダンジョンを確認しに行くか」

 

「絶対に土結晶や採掘できるもの手に入れてみせるわ」

 

イズは生産職だけど、どうにかなるだろう。あ、ダンジョン突入の前にスキルスクロールを使っておこう。

 

「どんなスキルがもらえるか――。ふむ、宝石発見? 聞いたことないスキルだな」

 

 

スキル【宝石発見】

 

採掘中に低確率で宝石系アイテムが入手できる。

 

 

ただ風霊門で刻印・風、土霊門では宝石発見と、それぞれの属性に関係ありそうなスキルがもらえたな。火霊門なら火に、水霊門なら水に関係あるスキルか? ちょっと興味がある。

 

それよりも今はダンジョン探索だ。俺たちは慎重に土霊の試練へと突入した。ダンジョンは壁に水晶が大量に埋め込まれた洞窟だ。何とか水晶が手に入らないかと頑張ってみたんだが、やはり無理だった。壁は破壊不可能らしい。

 

「最初の敵はさっそく狂った土霊か」

 

「ム」

 

「アレを倒せば手に入るわね」

 

オルトのような子供なのに、顔がグレムリンみたいなホラーフェイスである。狂った風霊と同じだな。向こうは空飛ぶ殺人人形。こちらは洋画に登場する人に襲い掛かる幼児人形っぽい。

 

「【エクスプロージョン】」

 

先手必勝とばかり、爆発魔法で狂った土霊を倒したらポリゴンと化して消失した狂った土霊のいた場所に土結晶が転がっていた。

 

「お、ラッキー」

 

「本当ね。取りに行っても?」

 

欲しくてしょうがないと雰囲気を漂わせるイズを止めもせずにあげることにした。歩き出す彼女の背中を見送ったら、いきなり目の前で消失した。え・・・・・?

 

「な、なにこれ落とし穴!?」

 

どうやら落とし穴に落ちたらしい。地面にぽっかりと開いた穴から彼女の声が聞こえる。察知できなかったぞ?恐らくイズもそうだ。罠探知のスキルを取得するしかないようだ。

 

「ありがとう・・・・・」

 

「見事な落ちっぷりだったな」

 

「誰でも気づかないわあんなの」

 

落とし穴から助け出してそう言いながら、部屋を探索してみる。風霊の試練では最初の部屋に隠し宝箱があるし、ここにもないかなーと思ったのだ。

 

ただ、どれだけ探しても見つからない。諦めて先に進もうかと悩み始めた時だった。

 

「ムム!」

 

壁に耳を当てていたオルトが、突如壁を掘り始める。どうやら隠し部屋を探し当てたらしい。さすがノーム。土のエキスパートなだけある。

 

「ムッムームッムー!」

 

破壊不能なはずのダンジョンの壁が、その部分だけバリバリと削れていく。3分後。壁の向こうには4畳ほどの部屋が出現していた。その中には宝箱が置いてある。罠はないようなので開けてみると、中には暗視のネックレスというアクセサリが入っていた。

 

名称:暗視のネックレス

 

レア度:3 品質:9 耐久:200

 

効果:【VIT+4】、

 

スキル【暗視】

 

 

やはり最初の部屋の隠し宝箱は、ダンジョンの攻略にお役立ちのアイテムが入ってるみたいだな。

 

さっそくネックレスを装備してみると、まるで昼間のように洞窟の中を見通すことができた。ヒカリゴケや光る水晶のおかげで明るいと思っていたが、やはり外に比べたら大分暗いんだな。比べてみると分かる。

 

「あ、私も取れた。へぇ、これは使えるわね。ランタンなくても活動できるわ」

 

イズにとっては嬉しい装備品らしい。そうやって部屋を見回していたら、隅に生えていたクルス茸を発見した。暗視が無い状態だと、相当近寄らないとアイテムや採掘ポイントを発見できないらしい。暗闇は思っていた以上に厄介かもな。

 

 

 土霊の試練に突入した俺たちは、最初の部屋を抜け次の部屋へと向かっていた。道中もかなり暗い。足元に気を付けないと結構危険そうだった。実際、段差に足を取られて1度転びそうになったし。オルトが支えてくれなかったらコケてただろう。

 

「次の部屋だ。皆気を付けよう」

 

「ム!」

 

「ええ」

 

俺とオルトを先頭に部屋に突入すると、そこには全長4メートルほどの蛇がいた。現在確認されている最も大きな蛇は、全長10メートルほどのフィールドボスらしい。

 

「ストーン・スネークか」

 

「シャー!」

 

「蛇タイプだからな。毒があるかもしれんから俺がやる。【挑発】!」

 

「任せるわ」

 

モンスターの意識をこっちに集中させ、戦いを開始した。ま、戦闘は意外と早く決着がついてしまった。非常に素早く、攻撃力も高かそうだったが、HPと防御力が低かったのだ。

 

「お疲れ様」

 

「ム!」

 

「ああ、大したことが無い相手だったよ、さて、この部屋は――おっ、採掘ポイントがあるな」

 

「ム~!」

 

「よーし、私の出番ね。掘るわよー」

 

分かりやすい壁の裂け目があり、そこが採掘ポイントになっていた。三人で一緒に壁を掘る。

 

「やっぱり鉄鉱石が採れるか。あとは土鉱石」

 

「これも初めて見る鉱石だわ」

 

さすがに土属性のダンジョンなだけあって、採掘が優遇されているのかもしれない。

 

「一応、この部屋も探してみよう。オルト、お前が頼りだ」

 

「ム!」

 

皆と一緒に部屋を隈なく探索する。そして、遂に求める物を発見した。オルトが。

 

「ムッムーッムッムー」

 

「やっぱり隠し通路か部屋があったか。オルト、頑張れ」

 

「ムッムムー!」

 

隠し宝箱を発見した時と同じ様に、オルトが壁を掘り始ている。1分程掘り続けると、穴の先に細い通路が現れていた。隠し部屋ではなく、隠し通路だった様だ。それにしても狭い。そして天井が低い。どれくらいかと言うと、オルトがギリギリ歩けるくらいだ。俺がこの通路を通ろうと思ったら、腰をかなり屈めるか、四つん這いにならなきゃ無理だろうな。

 

「オルトなら通れるだろうけど・・・・・」

 

俺がここをずっと進むのはきつい。もし戦闘になったら俺以外何もできずに死に戻るだろうし。

 

「仕方ない。今日のところは諦めよう」

 

「そうね。また後でくればいいしね」

 

俺達は隠し通路を諦めて、次の部屋に向かう事にした。3つ目の部屋は光源の数が少なく、かなり薄暗い。暗視のネックレスが無かったら、全部は見通せなかっただろう。

 

警戒しながら部屋を見回している。だが、俺は疾呼して二人を止めた。気配探知が反応したからだ。

 

「待て! 敵がいる!」

 

部屋の隅に、狂った土霊がいたのだ。しかも、逆側の天井に初見のモンスターがぶら下がっている。どうやら蝙蝠みたいだな。名前はダーク・バットとなっていた。

 

「キキーッ!」

 

「【挑発】!【咆哮】!」

 

蝙蝠はメチャクチャ戦いづらそうだったが。毎度おなじみ挑発してこっちに一点に意識を集中させる。そしてイズ達に耳を塞いでもらい咆哮で動きを封じる。その後は簡単に【エクスプロージョン】で倒した。

 

敵を倒して余裕ができ、この部屋にも採掘ポイントがあると分かれば採掘する。やはり土鉱石、鉄鉱石が採れるな。しかも俺のスキルレベルでもこの数が採れるんだから、もっとレベルが高い人間だったらさらに大量に、高品質で採掘できるんじゃないか? 主に隣にいる鍛冶師にとっては夢の様なダンジョンかもしれない。

 

そのまま意気揚々と4つ目の部屋に突入したが――。

 

「お、色違い・・・ユニークモンスターか」

 

いやー、危ね。死にかけた。特に二人が。俺はともかく二人は石を飛ばす術で散々削られた。狂った精霊のユニーク個体は全体攻撃を放ってくる。うん、覚えた。

2体目のノーム、居てくれても構わないが、土結晶を手に入れないと駄目だ。それが目的だからしょうがない。

ノームは本当に残念だけど、ユニーク個体は絶対にレアドロップを落とす。ノームなら土結晶だ。これは嬉しかった。

 

「イズ、時間はあるか?今日一日ここで過ごすつもりだけど」

 

「付き合うわ。でも、足手纏いになるでしょ?だからお礼と言っちゃあなんだけど。あのショップに売っていたホームオブジェクト、一つだけ買ってあげるわ。土結晶だってまだ誰も手に入れてないから凄く価値があるしね」

 

「―――やる気が出てきたぁー!」

 

「ムー!」

 

おお、オルトもやる気の炎を燃え上がらせた。ならば目標は10個以上!土結晶ゲットツアーを始めますかね!

 

「因みにこれは予想だけど。火精霊が鍛冶か加工のスキルがあったとしたらイズはテイムしたい?」

 

「できればしたいわね。テイムのスキルはショップでも買えるから誰でも気軽に取得できるのよ」

 

それは知らなかった。というかスキルショップ、俺、行ってなくね?

 

「ところでハーデス。お願いがあるけれど・・・・・」

 

「他の火精霊と水精霊の街に連れて行って欲しい?そして出来れば風精霊の街にも」

 

「あはは、わかちゃった?」

 

「分かり易い。だがいいぞ」

 

「ありがとうね。ふふ、ハーデスと一緒にいると驚くことばかりが起きて退屈しないわ」

 

綺麗に微笑む彼女は本当に綺麗と可愛さが混濁していたので一言。

 

「うん、笑うイズは可愛いな」



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植物知識の検証とファーマープレイヤー

【農業】農夫による農夫のための農業スレ8【ばんざい】

 

:NWO内で農業をする人たちのための情報交換スレ

:大規模農園から家庭菜園まで、どんな質問でも大歓迎

:不確定情報はその旨を明記してください

:リアルの農業情報は有り難いですが、ゲーム内でどこまで通用するかは未知数

 

 

 

111:ネネネ

 

なんか他のプレイヤーの畑に風車がある

 

 

112:チチ

 

風車?

 

 

113:ノーフ

 

何を言っているんだ?折り紙の風車のこと言っているのか?

 

 

114:ネネネ

 

違う。塔のように大きい風車の方だよ。本当にあるから信じられないならノームがいる畑に見に来て

 

 

115:つるべ

 

気になって来てみた・・・・・マジであった。いや待て、畑の方にも変化があるぞ。

飛んでいるちっこい幼女がいるし!

 

 

116:セレネス

 

畑に飛んでいる幼女?妖精?

 

 

117:プリム

 

あれもノームちゃんと同じモンスター?ノームちゃんがいないんだけど!

 

 

118:チチ

 

可愛い・・・・・NPCのエルフと笑顔で戯れてる光景は華だ。

 

 

119:セレネス

 

≫117の予想を考慮して精霊系のモンスターじゃないか?昨日精霊門が解放されたアナウンスが流れたし、今日も二つ目の精霊門が解放されたようだしな。

 

 

120:つるべ

 

それにしたって、畑にあんな設置できるオブジェクトがこの町にあったのか・・・・・?

 

 

121:チチ

 

そう思って農業ギルドにも確認しに行ったが、風車塔は販売していないようだ

 

 

122:ネネネ

 

実際風車って畑と何の関係性があったっけ?

 

 

123:ノーフ

 

ファーマーを選んで実用性が分からないのか?風車は具体的に言えば臼とセットされて粉を作ることができるんだ。小麦粉とかそば粉とかその他色々な粉末状にな

 

 

122:つるべ

 

実用性大あり!パンが作れる可能性が見えてきた!天ぷらそばが夢じゃない!

 

 

124:ノーフ

 

粉末にするための元となる材料は今のところ全て未発見だがな。

 

 

125:プリム

 

じゃあ、風車の使い道は今のところないってこと?

 

 

126:セレネス

 

今後に期待して事前に用意するのもアリだと思う。水田もあるかな・・・・・。

 

 

125:ノーフ

 

ここの畑の主が現れたらGMコールされない程度に質問すればいいだろう。秘匿の意思が窺えるなら無理に訊いてはダメだ。・・・・・む?あれは。

 

 

126:チチ

 

どうした?

 

 

126:ノーフ

 

ノームを連れたプレイヤーが女性プレイヤーとこっちに来る

 

 

 

 

 

「うわぁ・・・・・完璧に農業やってるのね」

 

「オルトのおかげだけどな。本当にありがとうな」

 

「ムー」

 

「で、どこに設置しとこうか?」

 

「ムム!」

 

土精霊の里から戻ってきて早速オルトに案内されるがままにワームボックス、腐葉土箱を設置していった。ホームマイン、遮光畑はオルトの指示で、そこに設置した。

 

ワームボックスは一見すると単なる木箱だが、設置する時に効果範囲を決める必要があったので、問題なく動いているんだろう。こいつは2000Gの畑に使おう。

 

遮光畑の凄い特徴は畑一つを潰してしまう代わりに、20マス全部を地下畑に出来るって点だな。これは試験用として6000Gの畑に設置だ。

 

ホームマインは2000Gの畑を10マスも潰したが、採掘できたのは銅鉱石が1つだけだった。これって、どれくらいの間隔で再採掘できるんだろうか? もし1日で1回しか採取できないんだと、元を取るのにどれくらいかかるか分からない。そもそも、畑を10マスも潰した価値が無いんだが・・・・・。これも数日使って様子を見るしかないだろうな。

 

てか、遮光畑は単純に茸を栽培するためのものだから原木が必要だよな。今ないし、どこにあるのか農業ギルドに訊いてみるか。

 

「へぇ、充実してるわね。あれって林檎の木でしょ?もう実ってるわ」

 

「一つは黄金の林檎の苗木で育てているぞ」

 

「へ?それって経験値とスキルの熟練度を増すアイテムよね?」

 

「そうだな。でも食用アイテムでもあったからできたぞ。ただ、実った時にポイントを増やせる実になってるかどうかはまだわからない。見ての通り黄金に実ってないからな他の林檎と同様に」

 

6000Gの畑に植えた林檎の苗木は熟成しきってない林檎ばかり実っている。あと数日もすれば赤くなって熟成する頃合いだと思うが、その中10000Gに植えた黄金の林檎が実るか運次第だ。

 

「ねぇ、どうして雑草を育ててるの?」

 

「ん?ああ、これバジルとハーブ」

 

「え?これがバジルとハーブ?どうして?雑草なのに?」

 

そっか、イズは知らないのか。かくかくしかじかと説明する。

 

「植物知識?一見、雑草しか見えないのは【植物知識】が無いからなの?」

 

「【植物知識】のスキルが無いからだと思う。これ、木々にも表示されるんじゃないか?」

 

「可能性があるかも。杖や弓以外に木材で加工して出来上がる物の品質が高くなると思うわね」

 

となると養蜂場用の箱に養蚕の箱を作れたりする?いや、養蚕箱に関しては風霊の街に売ってたから必要ないか。ただし、箱の品質以上作れるなら話は別だろうけど。

 

「どうする?欲しいならアドバイスするぞ」

 

「ええ、お願いできるかしら?」

 

目指す森は西。それも深奥だ。鷹になってイズを乗せて西の森へ飛んでいく。勿論黄金の林檎が実っているか確認も視野を入れている。あったら是非とも採取したいものだ。

 

「随分と奥に進むのね」

 

「この辺りなら俺常連だからな。川の上流にはオオサンショウウオモドキとアンコウモドキのモンスターがいる隠しエリアもあるし」

 

「へぇ、そうなの。何か手に入ったの?」

 

「いや、あのNPCのエルフと出会った。そう言えばそこに大樹があったな。ま、伐採はできないだろうけど」

 

目的地にたどり着き、林檎の果樹園を前にリズは簡単の息を漏らした。

 

「こんなところにあったのね」

 

「ここの林檎の木の中で黄金の林檎があるんだ。最近採ったばかりだから無いと思うぞ」

 

「じゃあ気にせず伐採しましょう。ハーデス、伐採ポイントはある?」

 

訊かれて軽く見回すと、一本の木に向かって歩きこれだと指で示す。リズは首を傾げた。

 

「それ?伐採ポイントがないのだけれど」

 

「そうなのか?俺から見るとクヌギって名前の木になってるぞ」

 

「【植物知識】の有無の違いかしらね。一先ずやってみるわ」

 

それから一本の木から材木アイテムを得るために黙々とコーンコーンと木に斧を叩きつける作業を始めた。一度も休まず淡々と斧を振るい続けて30分ぐらいたった頃。メキメキと音を立てて木が倒れた。

 

「どうだ?」

 

「えーと。本当だわ。木材が手に入ってる。それに私も一部スキルの解放のアナウンスが聞こえるわ」

 

確認すると植物知識が取得したらしい。まさか、スキルが取得できるとは思ってもみなかったな。

 

「どういうことかしら?伐採は初めてしたのに取得しちゃったわ」

 

「俺にも分からないな。集計データで【植物知識】を持ってるプレイヤーはどのぐらいだ?」

 

「待ってて。えっと、現時点で私達だけみたいね。2人だけだもの」

 

俺達だけだと?木工系職人プレイヤーですら取得していない?

 

「伐採ポイントが表示してるしてない木を伐採しても取得できていないってことか?もしかして伐採ポイントがない木に俺が見える伐採ポイントを伐採すればそれで取得できる?」

 

「ハーデスに教えてくれた木を切って手に入ったから今のところそれしか考えられないけど、それ以前に畑で雑草を栽培と収穫して【植物知識】を得たのが始まりよ?つまり誰もが不要な物の筈を意図せず貴方が誰も取得していないけれど誰も取得できる方法を見つけたことになるわ」

 

おー、つまりは情報としても売れるわけだ。

 

「理論はわかった。とりあえずもっと伐採を続けよう。【伐採速度強化】なんてスキルも手に入ると思う」

 

「いいわね。スキルは得ても無駄じゃないから」

 

意気込む俺達はずっと伐採を続け、狙い通りイズは【伐採】【伐採速度強化小】のスキルを取得したその日、様々な木材・雑木・etc、その他の桃や胡桃の実を手に入れることができて、養蜂箱を作ってもらう報酬は手に入れた材木を掲示板に依頼した。

 

「見てくれるといいわね」

 

「そうだな。今日はありがとうな」

 

「どういたしまして。また一緒にミスリルを掘りに行きましょうね。精霊の街のこと忘れないでね?」

 

「忘れないさ。じゃな」

 

夕焼けで空が朱色に染まってうっすらと暗くなってきた。ログアウトする前に畑を見に行ってみたら。何か俺の畑にでかい木が生えていた。

 

「キュイキュイ」

 

「フマー」

 

「―――♪」

 

何か知らない間に俺の畑に一人増えていた。どちら様でしょうか?

 

桜の髪をおさげにした少女の姿をしていては、頭からは大きな葉っぱが芽吹いており、肩や背中が大きく開いている露出度の高い服装(というか透けてる)。唖然と立ち尽くす俺のところにリヴェリアが来てくれた。

 

「お帰りなさい」

 

「あ、ああ、ただいまだが・・・あの桜色の髪の子は?」

 

「ついさっきあの成長した精霊の樹から出てきたのです。分かりやすく言うと精霊樹の化身ですよ」

 

精霊の化身?まさかそんな存在が誕生?するとは思いもしなかったな。畑に入り戯れてる三人のもとへ寄ると、名も知らぬ精霊の少女が俺に気づいて飛び付いてきた。

 

「えーと?」

 

猫のように顔をスリスリしてくる精霊の詳細を調べる。精霊ならオルトと同じモンスターだよな?

 

「やっぱりテイムモンスターの欄に、なんか増えてるな。えーと、ゆぐゆぐ?」

 

「――♪」

 

この少女がゆぐゆぐで間違いないようだ。オルトと同様に喋ることはできないらしい。

俺に名前を呼ばれて、嬉しそうに微笑んでいる。

でも、どうしてだ? 全く心当たりは無いんだが。テイムすらしてないんだぞ? 

勝手にテイムされるとか有るのか? いや、事実目の前にいるからあるんだろうが・・・・・。

 

「――!」

 

ゆぐゆぐが俺のローブの裾をチョンチョンと引っ張って、なにかアピールしている。

 

「何だ? 来いってことか?」

 

「――!」

 

頷いているな。合っているらしい。ゆぐゆぐが俺を案内したのは、大樹の前だった。もう苗木じゃないな。完全に樹木だ。

 

そして、そのまま精霊樹に触れると――ゆぐゆぐの姿が消えた。

 

「え?」

 

呆けていたら、精霊樹からゆぐゆぐの顔がニュっと突き出た。樹から生える少女の生首。ホラーだ。

 

「――!」

 

うん、でも分かった。ゆぐゆぐはリヴェリアの言うとおりこの精霊樹の化身みたいな存在なんだろう。しかも名前が決まっているってことは、ユニーク個体だ。

 

もしかして超激レアなんじゃないか?

 

 

名前:ゆぐゆぐ 種族:樹精 レベル10

 

契約者:死神ハーデス

 

HP:36/36 MP:38/38

 

【STR 10】

【VIT 10】

【AGI 7】

【DEX 5】

【INT 14】

 

スキル:【育樹】【樹木魔法】【光合成】【採取】【再生】【忍耐】【鞭術】

    【水耐性小】【魅了】【木工】【森守】

 

装備:【樹精の鞭】【樹精の衣】

 

 

オルトと同じファーマー職のスキルを持ってる。種族は樹精?聞いたことがないな。おお、木工のスキルもある。ゆぐゆぐに作ってもらえる。思いもしなかった結果に喜ぶと。

 

「ハーデスは精霊に好かれやすいみたいですね」

 

「自分でも分からないがな」

 

「好かれてなければ貴方のそばに複数の精霊はいませんよ。それは心が純粋でなければ精霊に慕われていないのと道理」

 

慈愛に満ちた瞳で美しく微笑むリヴェリアは、俺達のことを見つめてくる。

 

「貴方はとても優しい方。きっとこれからも精霊だけでなく多くのものが貴方を中心に集まるでしょう」

 

「はは、その時は賑やかになってるだろうなぁ・・・・・」

 

「はい、きっと楽しそうでありますよ」

 

畑を後にするリヴェリアを見送り、俺は町中にシルフのアイネを連れて探索した。

 

「・・・・・視線を感じる」

 

主に顔の横で飛んでいるアイネに向けられている視線は多い。珍しいから仕方がないのだろうが、やはり感じるせいで【気配察知Ⅱ】になってしまったじゃないか。数多の視線を浴びながら何かないかと朱色に染まった石畳を踏んで歩いて探していたら見つけた。

 

「ヘルメス」

 

「あ、ハーデス君。何またとんでもない情報を売りに来た?」

 

「相談だ。確立したらそっちに利がある話だよ」

 

シルフの里で長から気になる単語をヘルメスに打ち明ける。日と一緒に属性結晶を捧げるという話だ。

 

「なるほど、ということは水結晶は水曜日、風結晶はなんで金曜日なのかはわからないけど、土結晶と火結晶は土曜日と火曜日に捧げれば精霊の里に行ける・・・・・うん。君が金曜日の昨日と土曜日である今日に精霊の里に行けたんだからまず間違いないわね。他の里もこの情報を参考にして・・・・・」

 

「だが、どうして金曜日が風精霊の里に入れたんだ?五行思想だと風は木に属しているのに。でも、木曜日は大樹の精霊の降臨日だからな」

 

「そうね・・・・・。そこに被せるのはおかしいよね」

 

お互い、五行思想じゃないとすると、どうなるんだ?とヘルメスが何かを思い出したようだ。

 

「あ!」

 

「どうした?」

 

「ハーデス君、この世界の創世神話、覚えてる?」

 

創世神話というのは、このゲームの世界に伝わるオリジナルの神話のことだ。公式ホームページを見れば普通に掲載されている。

 

 

確か月の日に闇神が世界を作り、火の日に戦神が火をもたらし、水の日に海神が水を降らせ、木の日に樹母神が緑を生み、金の日に天神が空気を作り、土の日に地神が大地を創造し、日の日に光神が世界を祝福した。

 

 

そんな神話だったはずだ。だが、確かに神話に対応してると考えたら、金の日に風が対応していると考えられる。

 

「あー、そっちの方だったか。そりゃ盲点だったわ」

 

「可能性もあるわ。ということで、全ての精霊の里の調査をお願いするわ。終わったら精霊に関する情報を全部買い取ってあげる」

 

 

ヘルメスに残り2つの精霊の里の調査を頼まれ引き受けた。畑に戻ってみたら、俺の畑の前で立ち尽くして静観してる男女のプレイヤーが数人いる姿を捉えた。何か用かと目の前に降り立って話し掛けた。

 

「何か用か?」

 

「え?あ!?生の白銀さんだ!」

 

「ナマ白銀さん!」

 

おい、初対面なのに人を生モノ扱いにするんじゃない。

 

「人の畑を見ていたみたいだけど興味あるのか?」

 

「ある!」

 

橙色のおさげをした少女が間も置かずに食いついてきた。

 

「ファーマーなのか?」

 

「じゃなきゃ、畑なんて持たないでしょ?」

 

「そんなものか。俺はファーマーじゃないけどな」

 

「え、それでここまでファーマーじゃないのに豊かにしてるのか?すげー」

 

麦わら帽子を首の後ろに下げ、農夫らしい格好をしてる青年が意外なものを見る目で見てくる。

 

「ねね!ノームってどこにいるの?教えて教えて!」

 

深緑色の髪のロングストレートの童顔の少女が鬼気迫る勢いで追求してくる。ただ、俺を掴んでガクガク揺らしてると目の前の二つのスイカも揺れて見えるから止めてくれ。

 

「ムー!」

 

畑から走ってきて俺達の間を小さな体で割り込んでは、俺を守ろうと彼女の前にクワを横に構えた。

 

「え、ノームちゃん?」

 

「あー、多分俺を虐めてる奴だと思ってるぞ」

 

「ムムム!」

 

その通りだと頷くオルトの気持ちを知って酷く動揺してる名も知らない少女が、思考を停止したように顔の表情が凍結して固まった。

 

「そ、そんな・・・!」

 

「今すぐ謝った方が」

 

「ごめんなさい!決してあなたのご主人様を苛めていたわけじゃないの!お願い許して!」

 

いいぞ、って早いな。しかも土下座。それに浮気現場を抑えられて必死に言い訳する女みたいな言い方だぞ。

 

「ムー?」

 

「落ち着きのない知らない人なだけだ。悪い人じゃないから怒らなくていいぞ」

 

「ムー、ム。ムムム、ムムムムム」

 

何かを伝えるオルトだが、多分もう次は気を付けろよ的かな?

 

「許すそうだ」

 

「ありがとうノームちゃん!」

 

ようやく本題に入れる。

 

「話を戻すぞ。ノームの居場所は悪いけどまだ教えられないんだ。見つけたら情報屋に売るつもりだから」

 

「そうか。じゃあ、情報屋から買えばいいだけだな。因みにあの林檎は?。あ、自己紹介が遅れてすみません。俺はノーフ。メインはファーマーでプレイしてます」

 

「さっきは揺らしてごめんなさい。プリムです。戦闘はそんなに得意でも好きでもないので簡単そうなファーマーをプレイしてまーす」

 

「ネネネです。以後お見知りおきを」

 

片手をシュタと上げるネネネは眠たげな目をして片方だけもみあげが胸にまで伸ばし水色のメッシュを入れた白髪の少女だった。

 

「生モノ扱いされた死神ハーデスだ。西の森の深奥に行けばあるぞ。ただ、育樹ってスキルがないと育てられないようだ」

 

「無理、そんなスキルないもの」

 

「行動でスキルが取得できるこのゲームなら、苗木から根気よく育てれば取得できるんじゃないか?」

 

「苗木すらないから育てられないってば」

 

それもそうか。じゃあ、何かの縁だ。

 

「少し待っててくれ。オルトおいで」

 

「ム?」

 

オルトの能力で実ってる林檎から変えてもらう。彼等の知り合いの分も多めにしてもらえばインベントリに仕舞い、畑の外へ出て待っている三人にアイテムの譲渡のシステムで送る。

 

「お近づきの印にどうぞ」

 

「え、林檎の苗木?くれるのか?」

 

「こうして知り合ったからな。タダで貰うのは申し訳ないと思うならそっちも何かくれ。何でもいいぞ」

 

「そういうことなら・・・・・ねぇ、原木って持ってる?」

 

恐る恐るといった感じで訊いてくる。原木か、持ってないな。

 

「持ってない。茸の栽培ができる環境は出来てるんだけど」

 

「え、農業ギルドを上げれば手に入るぞ?上げていないのか?」

 

え、そうなのか?じゃあ、これから上げなきゃいけないな。はぁーやることがいっぱいだぁー。ネネネがインベントリ画面を開きながら言う。

 

「じゃあ、そういうことなら赤テング茸や他の茸もあげるね」

 

「あ、ズルいっ。う、うーんと私は・・・・・ハチミツじゃだめ?この町で売られているんだけど」

 

「ぜひ頂こう」

 

「食いつき早っ!じゃあ、俺は金でいいか?この二人と似たような物を育てているから目新しくないだろうし」

 

「水軽石でもいいぞ」

 

「・・・何それ?」

 

ゲーム時間かリアルの時間か分からないが水に浸けて一日経つと浄化水という素材になる石だと伝えると不思議そうに息を漏らした。

 

「それポーションの素材にもなる水だ。どこで手に入る?」

 

「西の森の奥の川の中や上流に行けば滝があってその水底にもあるぞ」

 

「わかった。後で行ってみる。先に金を渡そう。これぐらいでいいか?」

 

3000Gを貰った。それよりも西の森の奥に行くつもりか?ファーマーなのに大丈夫なのか。

 

「ところでさ、どうして雑草を植わっているんだ?あとあの風車はどこで手に入れたんだ?出来れば教えて欲しい」

 

「あー、雑草はとあるスキルを取得したからだよ。『植物知識』つって、取得出来たら一見雑草のようにも見える雑草のベールをはがせば、ハーブやら花やら違うものに鑑定できるようになるんだ」

 

「えっ?何それ、鬱陶しい雑草は実は採取できるアイテムだったの!?」

 

「信じられない、そんな隠しスキルが存在していただなんて・・・・・」

 

俺とイズしか取得していないスキルだから知り得ないのも当然だろう。

 

「このスキルの取得の方法は二つ見つかってな。どっちも簡単だから自分達で試行錯誤して取得してくれ」

 

「隠すつもりはないけど教えるつもりはないって?」

 

「単純なお人好しじゃないってことさ。三人なら直ぐに取得できると俺は思ってるぞ。伐採すればな。花屋も見つかるかもだし。それと、大目に与えた苗木は知り合いのファーマーがいたら分けてやれよ」

 

分かったと頷く、三人にもう一つの質問も答えた。

 

「風車は昨日、風霊の街で畑に設置できるホームオブジェクトを買ったんだ」

 

「え、風霊の街?じゃあ、あのちっこいのは・・・・・」

 

「テイムした風精霊のシルフ。名前はアイネだ。おーいアイネ」

 

「フマー!」

 

白い髪をなびかせながら笑顔でこっちに飛んできた。

 

「か、かわっ」

 

「おお・・・・・これはテイマーでなくても欲しくなるな」

 

「うん、わかる。・・・・・白銀さん、もしかしなくても土霊の門を開いたのは」

 

「俺だな。ノームが沢山いたし、土霊の街でもホームオブジェクトが売っていたぞ」

 

腐葉土を生み出す腐葉土箱。畑の品質上限を上昇させるミミズが入っているというワームボックス。地下に設置する遮光畑。下級の鉱石が自動生成されるホームマイン。

 

そう教えると・・・・・いきなりノーフが真剣な表情で尋ねて来た。

 

「ノームの街に入れるようになったらどうなる?」

 

「あー・・・・・これ、他のプレイヤーには内緒だぞ?友人知人でもだ。秘密にできるか?」

 

「釘を刺すほどの重要な話?うん、勿論」

 

「絶対に言いません!」

 

「俺もだ」

 

んじゃあ、教えるか。いずれ情報は知れ渡る事だし。

 

「精霊の門を開けたプレイヤーは今後自由に行き来できる。最初はそれぞれの日に属性結晶を捧げないといけないが、捧げたその後は結晶は必要とせず、気兼ねなく精霊の街に訪れることが出来るぞ。今日は土曜日だけど、ノームの街にまた行こうとすれば自由に入れる」

 

教えた次の瞬間。その場で土下座をしだした。え、何事?

 

「白銀さん!俺達もノームの街に!」

 

「案内してください白銀様!」

 

「お願いします白銀様」

 

・・・・・ええ~。

 

「土の結晶三つ分必要だけど、三つ分は確保してあるけど・・・・・」

 

「今後、その結晶の価値と同等分の働きをすると約束する!」

 

「育樹スキル持ちのノームちゃんを手に入れたら必ず献上するから!」

 

「お願いします白銀様」

 

土下座しながら懇願する三人はその姿勢のまま気持ち悪い動きでにじり寄ってくる。いや、マジでキモい!近づくな!?どうやったらそんな動きが出来るんだ!

 

「わかった!わかったから!案内してやるからその気持ち悪い動きは止めろ!?」

 

「「「やったー!!!」」」

 

こっちが折れる形で仕方なく了承する羽目になった。喜ぶ三人をさっさと土霊の門の所へ案内して土の結晶を渡して捧げてもらい、街の光景を感動してもらったらノームのテイムツアーを始めた。結果は全員、ユニークモンスターのノームを手に入れることが出来たが、中には育樹じゃなくて水耕という水田に関係するスキルを所持してるノームを手に入れた。

 

「水耕・・・・・」

 

「ウンディーネの街にそれに関するオブジェクトがあるかもしれないからめげずにいろ。米を栽培できる唯一のプレイヤーとしてなら悪くないだろ」

 

「た、確かに・・・・・!白銀様、どうか米を見つけてくださいね!」

 

「収穫物と利益は5割な」

 

「勿論だ!」

 

水耕持ちのノームを手に入れたノーフを見て、オルトを進化させていけば水耕スキルを取得できるかもしれないと近い内に進化させようと決めた。

 

 

「なぁ、他の連中にノームのこと教えるか?」

 

「うーん、直ぐにバレることだけど敢えて言わない方がいいと思う」

 

「バレても、現状精霊の街に入れるプレイヤーである白銀さんのことはしばらく黙っているべき。既に迷惑を掛けたのに更なる迷惑を掛けてしまうのは申し訳ないから」

 

「全部の精霊の街を開放したら情報を売るって言ってたしな。それまで白銀さんのことはネネネの言う通り、黙っていよう。他の事は教えるとしてだがな」

 

「「うん」」

 

 

 

死神・ハーデス

 

LV18

 

HP 40/40〈+100〉

MP 12/12〈+200〉

 

【STR 0〈+129〉】

【VIT 150〈+66〉】 

【AGI 0〈+120〉】

【DEX 0〈+120〉】

【INT 0〈+100〉】

 

 

装備

 

頭 【空欄】

 

体 【黒薔薇ノ鎧】

 

右手 【新月:毒竜(ヒドラ)

 

左手【闇夜ノ写】

 

足 【黒薔薇ノ鎧】

 

靴 【黒薔薇ノ鎧】

 

装飾品 【フォレストクインビーの指輪】【古の鍛冶師の指輪】【白妖精(ハイエルフ)の指輪】

 

 

称号:万に通じる者 不殺の冒険者 出遅れた者 白銀の先駆者 毒竜の迷宮踏破 大樹の精霊の加護 ユニークモンスターマニア

 

スキル

 

【絶対防御】【手加減】【体捌き】【瞑想】【挑発】【極悪非道】【シールドアタック】【大物喰らい(ジャイアントキリング)】【咆哮】【毒竜喰らい(ヒドライーター)】【爆弾喰らい(ボムイーター)】【植物知識】【錬金術Ⅹ】【料理ⅩⅩ】【調理ⅩⅩ】【調合ⅩⅩ】【大盾の心得Ⅹ】【悪食】【受け流し】【爆裂魔法Ⅰ】【エクスプロージョン】【体術】【幸運】【テイム】【採取】【伐採】【採取速度強化小】【使役Ⅰ】【獣魔術Ⅰ】【水無効】【気配遮断Ⅰ】【気配察知Ⅰ】【八艘飛び】【伐採】【伐採速度強化小】

 

 

 

 

【農業】農夫による農夫のための農業スレ8【ばんざい】

 

:NWO内で農業をする人たちのための情報交換スレ

:大規模農園から家庭菜園まで、どんな質問でも大歓迎

:不確定情報はその旨を明記してください

:リアルの農業情報は有り難いですが、ゲーム内でどこまで通用するかは未知数

 

 

521:ネネネ

 

白銀さんと接触出来ちゃいました。しかも林檎の苗木もプレゼントしてくれたよ

 

 

522:チチ

 

は?マジで?裏山

 

 

523:ノーフ

 

いや、俺達の分だけじゃないぞ。知り合いのファーマーがいたら分けてやってくれと大量に苗木を譲ってくれた。見ず知らずのプレイヤーに自然体であっさり渡しに来る白銀さんに感謝だけどどこか抜けている。農業ギルドのランクを上げていなかったようで原木を知らなかったようだ。

 

 

524:つるべ

 

え、まだランク1!?

 

 

525:プリム

 

でも、白銀さんの畑を見るとランクを上げる暇なんてなさそうな選り取り見取りな畑だったから納得しちゃうかな。

 

 

526:セレネス

 

兎にも角にも俺達にも苗木を貰えるならありがたく貰います白銀さん!

 

 

527:プリム

 

あとあと、白銀さんの畑に生えてる雑草・・・・・実際はちゃんとしたアイテムであり素材なんだと教えてもらいました!

 

 

528:チチ

 

なんだそれ、冗談だろ?

 

 

529:ノーフ

 

いや、マジ話だ。何気に伐採すれば取得できるって口にしたから3人で試したら・・・・・。長々と斧を降り続けて木を伐ったら植物知識っていうスキルを開放することが出来てな。一見雑草しか見えなかった雑草がバシルとかチューリップに見えるようになった。

 

 

600:つるべ

 

な、なんですとぉ~!?

 

 

601:チチ

 

え、取得条件は?何だったんだ?

 

 

602:ネネネ

 

木工と植物知識を取得してない私達が伐採する際はどの木を伐って良いのかわからないまま、ひたすら切り倒した時、クヌギを手に入れたらアナウンスが流れたんだよね。一部スキルが解放されましたって。多分、伐採するたくさんの木々には雑木以外にもちゃんと生えていたんだよ。

 

 

603:ノーフ

 

植物知識を取得してない状態で雑木以外の名のある木を伐れば取得できると確信してる。実際、スキル取得者の数は五人しかいないままだ。一人は確実に白銀さんだろ。

 

 

604:つるべ

 

それ、新発見だろ。『タラリラ』の情報屋にもまだ情報が売られてないよな。

 

 

605:プリム

 

そうそこなんだよ!自分の利益よりも他の人達に利害関係なく教えてくれた白銀さんはマジでいい人!

 

 

606:セレネス

 

知られても問題ないスキルかもしれないから教えたんだろうけど。それでも俺だったらそんなこと無理ムーリ

 

 

607:ノーフ

 

そんな白銀さんというプレイヤーはとても貴重な存在だな。末長くお付き合いをするべきだ。白銀さんの畑から欲しいものがあったら物々交換をしてくれそうな予感もする

 

 

608:チチ

 

純粋ファーマーとして負けられないのと、豊富な種類に負けて情けない気持ちがごっちゃ混ぜです

 

 

609:ネネネ

 

更なる白銀さんからの情報は、植物知識の有無で始まりの町には見かけなかった花屋の存在が明るみになったこと。野生のイチゴを育てて納品するクエストを私達は受けたよ。きっと白銀さんも通った道に違いない

 

 

610:つるべ

 

やべ、出遅れてる!?

 

 

611:セレネス

 

こうしちゃいられない!

 

 

612:チチ

 

急げ!



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新発見続々

昨日の土曜日でNWOが正式に始まってから二週間が経ったか。さて、今日は日曜日。精霊門が開く日じゃないから手を出していないことでもするか。

 

「よし、まずは獣魔ギルドに行ってみよう」

 

獣魔ギルドは、冒険者ギルドから歩いて10分、南区と西区の境界線ギリギリの場所にあった。一応西区に属するらしい。重戦士からテイマーにジョブチェンジした。

 

 

死神・ハーデス 

 

 

職業テイマー

 

LV1

 

 

HP 12/12〈+100〉

 

MP 19/19〈+200〉

 

 

【STR 10〈+127〉】

 

【VIT 10】 

 

【AGI 60〈+120〉】

 

【DEX 10〈+120〉】

 

【INT 10〈+100〉】

 

 

 

装備

 

 

頭 【空欄】

 

 

体 【空欄】

 

 

右手 【初心者の杖】

 

 

左手【空欄】

 

 

足 【空欄】

 

 

靴 【空欄】

 

 

 

装飾品 【フォレストクインビーの指輪】【古の鍛冶師の指輪】【白妖精(ハイエルフ)の指輪】

 

 

称号:万に通じる者 不殺の冒険者 出遅れた者 白銀の先駆者 毒竜の迷宮踏破 大樹の精霊の加護 ユニークモンスターマニア

 

 

スキル【手加減】【テイム】【使役Ⅰ】【幸運】【逃げ足】【毒竜喰い(ヒドライーター)】【大物喰らい(ジャイアントキリング)】【瞑想】【挑発】【咆哮】【採取】【伐採】【植物知識】【爆弾喰らい(ボムイーター)】【悪食】【爆裂魔法Ⅰ】【エクスプロージョン】【体術】【幸運】【採取速度強化小】【水無効】【気配察知Ⅰ】【気配遮断Ⅰ】【錬金術Ⅹ】【料理】ⅩⅩ【調合】ⅩⅩ【調理ⅩⅩ】【八艘飛び】

 

 

大盾使いのスキルが使用不可能なテイマー故、専用職業のスキルは消失して共有できるスキルのみだけ残ったままだ。だが、絶対防御という優位さが消えた今、戦い方を根本的に変えなくてはならないな。大盾使いで貯めて貯まっていた150ポイントも振るか。―――スキルの方に。

これからも生産系モンスターをテイムするから、重戦士の職業では使えない【従魔術】を改めて【使役】と同じレベルを10に上げた。テイマーの従魔は、従魔術と使役のレベルが上がると、支配できる数が増える。Lv1で1匹ずつ、あとはそれぞれのスキルが5の倍数の時に増えていくから、これで上限の5匹になったからオルト達を連れて歩けれるな―――って、大盾使いでも他の職業でも共有するスキルだからとんでもないことになるんじゃないか?まぁ、今は残りの141ポイントの使い道を―――。

 

 

「こんにちは~」

 

「はい、いらっしゃいませ」

 

ポイントで農業系のスキルを取得、Lvも上げてからオルト達を引き連れて中に入る俺達を出迎えてくれたのは、受付のNPCは可愛い女性だった。グラビアアイドル級のプロモーションでありながら、清楚な黒髪系という大和撫子風だった。農業ギルドに劣らないである。建物自体はそこまで巨大ではなかった農業ギルドに比べると、大分中が広い。それと、外には大きな広場が併設されており、かなり大きな印象だった。

 

2階もあるし。看板だと孵卵室ってなっているな。サモナーの従魔合成に対して、テイマーには従魔配魂というシステムがある。相性の良いモンス同士を交配させて、卵を産ませるシステムだ。最初からステの高い個体が生まれたり、新モンスが生まれたりするらしい。

 

相性の良いモンス同士をホームなどで一緒に育てていると、ごく稀に起きるらしく、合成と違ってテイマーの意思で配魂させることが難しいのだが。しかもその卵を孵化させるには、ギルドかホームにある孵卵器が必要なんだとか。・・・・・オルト達を思い浮かべると相性いいのか?と首を傾げてしまう。

 

 

因みに地下は合成室となっている。サモナーはあっちに行くんだろう。

 

 

まあ、今はクエストだ。

 

「えーと、掲示板は何処ですか?」

 

「はい。クエスト掲示板はそちらですよ」

 

小さいね。冒険者ギルドの20分の1くらいか。とりあえずクエスト一覧をチェックだ。納品クエスト以外にも、特定のモンスターをテイムしてくるといった、特殊なクエストも存在している。

 

「んー、なんか赤い奴があるけど。青いのもあるな?」

 

普通は黒文字で表示されているんだが。赤文字、青文字で表示されているクエストがあった。

 

「この文字の色の違いって、なんだ?」

 

「はい。青い文字のクエストは、達成条件をクリアしているもの。赤い文字の物は、達成条件を限定的にクリアしている物となります」

 

「限定的にクリア?」

 

「例えば、納品するアイテムを所持していても、現在持っておらず取りに帰らなくてはならない場合」

 

「なるほど」

 

「例えば、特定のスキルを得るという特殊クエストで、ポイントを支払えばすぐに達成可能な場合などです」

 

それを聞いて、俺は青いクエストをチェックしてみた。

 

 

特殊クエスト

 

内容:Lv5のモンスターをバーバラに見せる

 

報酬:500G

 

期限:なし

 

 

 

特殊クエスト

 

内容:従魔術をLv5にする

 

報酬:1200G

 

期限:なし

 

 

 

特殊クエスト

 

内容:ユニークモンスターをバーバラに見せる

 

報酬:3000G

 

期限:なし

 

 

 

特殊クエスト

 

内容:レアスキルを覚えたモンスターを、バーバラに見せる

 

報酬:5000G

 

期限:なし

 

 

 

 

なるほど彼女の言う通りの達成条件を満たしている。早速クエストを選択する。

 

 

 

・・・・・その前にまずバーバラって誰だ?

 

 

 

「あの、バーバラって・・・・・」

 

「私です」

 

「ああ、そう。え? あなたにモンスターを見せてあげればいいの?」

 

「はい! 私、モンスターが大好きなんです! 珍しいモンス、可愛いモンス、かっこいいモンス、何でも見たいんです」

 

急にテンションが跳ね上がった。

 

「なので、私に面白いモンスを見せに来てください! 報酬は支払いますので」

 

なんかギルドを完全に私物化してない? いいの? まあ、俺はいいけどさ。報酬も高いし。

 

「オルト」

 

「ム?」

 

「あらーノームさんですね。しかもユニーク個体じゃないですか!ふむふむ、レアスキルの育樹と栽培促進が覚えているようですね~」

 

バーバラさんは喜色満面でオルトを観察している。時おり頭を撫でたりしているが、オルトが嫌がっている様子はないのでそのままにしておく。美少女のバーバラさんがにやけた顔でオルトを撫でまわす絵面はちょっと引いてしまうものがあるが。

 

「ふぅ。堪能しました! クエスト達成を受理しますね」

 

 

特殊クエスト

 

内容:Lv5のモンスターをバーバラに見せる

 

報酬:500G

 

期限:なし

 

 

 

特殊クエスト

 

内容:従魔術をLv5にする

 

報酬:1200G

 

期限:なし

 

 

 

特殊クエスト

 

内容:ユニークモンスターをバーバラに見せる

 

報酬:3000G

 

期限:なし

 

 

 

特殊クエスト

 

内容:レアスキルを覚えたモンスターを、バーバラに見せる

 

報酬:5000G

 

期限:なし

 

 

『クエスト達成を確認しました。報酬が支払われます』

 

 

おし、次は農業ギルドか。勢い込んで向かった農業ギルドには、俺が即クリアクエストはあった。達成できる依頼は次の3つだ。

 

 

特殊クエスト

 

内容:自分の畑で10種類の栽培を達成する

 

報酬:1000G

 

期限:なし

 

 

特殊クエスト

 

内容:自分の畑で★5以上の作物を収穫し、納品する

 

報酬:3000G

 

期限:なし

 

 

特殊クエスト

 

内容:自分の畑で栽培した樹木の採集物を納品する

 

報酬:5000G

 

期限:なし

 

 

あ、うん。ほんと全然イケる。となれば今度は★5の樹木の採集物を納品するクエストもあるだろ。今の内にやっておこっと。ついでに今日で一週間だから高級肥料も帰るから全部買おう。

 

無人販売機が使えるなら今の内に商品になりうる物を作ろっと。ハーブティーにリンゴジュース、クッキーにサラダ諸々・・・・・・。ポイントを消費して料理と調合と調理スキルをLv30にしたから美味しく出来上がってくれますようにっと思いを込めて、選択可能になっているレシピを試してみる。使うのはハチミツ、果物、水だ。心当たりはある。ハチミツニンジンジュースだ。あれは野菜だったが。似た物が出来るんじゃなかろうか。とりあえず試してみよう。切った桃と浄化水、ハチミツを調合鉢に入れて、かき混ぜる。すると、数秒後にはアイテムが出来上がっていた。

 

 

名称:ハチミツピーチジュース

 

レア度:2 品質★3

 

効果:満腹度32%回復

 

 

やっぱり予想通りだ。さて、ここでちょっと手間を加えてみようかな。緑桃は皮をむいてみるか。実際、さっきのジュースには微妙に沈殿物みたいなものがあったし。浄化水も煮沸しちゃおう。ハチミツは変えようがないから、これが今できる最大限の工夫だ。

 

 

名称:ハチミツピーチジュース

 

レア度:2 品質:★5

 

効果:満腹度24%回復:1時間、体力+1

 

 

なん、だと? 満腹度の回復率は下がったが、バフ効果が付いた。え? 凄くないこれ? 食事でもバフが付くんだ。初めて見た。だって美味しい食事で、バフ有りなんだぞ?

携帯食で腹を満たしている奴らはまだ多いらしい。攻略は全然進んでないけど、俺の食事情は結構上位かも知れないな。他のレシピも試そう。今度は青どんぐりを使った携帯食だ。ピカッと光り、香ばしい匂いのする携帯食が出来た。これも上手く行ったな。しかも食用草に青どんぐりを混ぜるだけのお手軽レシピだ。次は胡桃で試そう。

 

出来上がった携帯食は見た目は似たような物だ。5%だけ回復率が良いけど。まあ、重要なのは味だな。食べ比べしてみるか。早速ジュースとクッキーを食べてみる。

 

「うま! マジで美味い!」

 

どんぐりクッキーはリアルで食べるカロリーバーみたいな味だ。パッサパサで甘さも大分控えめだが、初期からある携帯食とくらべたら十分美味しい。でも胡桃の方が美味しいな。より甘くて、パサパサ感も控えめだ。胡桃の方が多少珍しいみたいだし、その差だろう。

 

ジュースは文句なく甘い。今後はクッキーとジュースを常備したいところだな。1回の調合で5つ作れる携帯食と違って、こっちは複数素材を使って1つしか作れないが、それでもこの美味さを知ってしまってはもう携帯食には戻れない。

 

「そうだ、これってハチミツ混ぜられないか?」

 

木の実は殻を剝くこともできそうだし、まだ工夫の余地がありそうな気がする。いや、待てよ? リアルだとどんぐりって水にさらして灰汁を取るとか聞いたことがある。

 

でも時間がかかるよな・・・・・。とりあえずは殻を剥いて砕くだけにしておこう。調合鉢にハチミツ、食用草、殻を剥いて砕いた青どんぐりを入れて調合してみた。次に胡桃でも同じように試す。

 

出来上がったのは2種類。ハチミツどんぐりクッキーとハチミツ胡桃クッキーだった。回復量は同じだけど、重要なのは味だからな。

 

しかもオリジナルレシピが完成したぞ! 普通のレシピページではなく、オリジナルというページに登録された。なんかやる気が出てきたな。もっともっと改良して、色々なオリジナルレシピを開発してやるぜ。

今作ったものを試食してみた。満腹度はもう100%なんだが、構うもんか。

 

「やばい、美味すぎる」

 

甘味がきちんと足され、本当に美味しい。

 

「他に何かアイディアは無いか? ジュースかクッキーに混ぜたりできる物とか?」

 

そうだ、薬草とかどうだろう? 味はともかく、HP回復効果とかつくかも。

 

ゴリゴリ――ボン

 

失敗か?なんか爆発して黒い煙が立ち上っているが。出来上がったのはゴミだった。スキルが低いせいか、もともと無理なのか・・・・・。

 

他の物とかじゃなく胡桃とどんぐり、両方使ってみたらどうだろうか? ミックスナッツ的な感じで。早速、青どんぐりと胡桃とハチミツを使ってクッキーを作ってみる。

 

 

名称:ハチミツナッツクッキー

 

レア度:2 品質:★3

 

効果:満腹度27%回復:1時間、満腹度減少防止

 

 

おー!成功だ。しかも1時間満腹度が減らないなんて、かなり良い効果だぞ。より満腹度の管理が楽になるな。今日残ってる素材で使えそうなものはもうないかな? いや、待てよ。混ぜられるものがあった。ワイルドストロベリーだ。俺はハチミツナッツクッキーにさらにこれを混ぜ込んでみた。

 

 

名称:ハチミツナッツクッキー・ハーブミックス

 

レア度:2 品質:★3

 

効果:満腹度27%回復:1時間、満腹度減少防止

 

 

名前以外は何も変わらないな。とりあえずハチミツナッツクッキーを食べて比べてみようかな。

 

 

「見た目はどんぐりクッキーとほとんど変わらないけど」

 

 

だが、口にしてみると、メチャメチャ美味かった! 味が全然違う。材料費は結構かさむけど、絶対にこれが良い。さっきまで美味しいと思っていたどんぐりクッキーじゃもう物足りないな。やばい、舌が贅沢になっていく。ハーブミックスは最早市販のクッキーだった。甘酸っぱいフルーツを混ぜ込んだような味がする。俺の好みの味だ。効果なんざ無くてもいい! これからはワイルドストロベリーの収穫量を増やそう。

そうだ、これだけ美味しいんだし、オルト達も食べるかな? 試しにジュースをオルトにあげてみた。

 

「ムムムムー!」

 

今まで見たことが無い、ハッスルハッスルの反応だ。作業スピードが格段に上がったのが目に見えてわかる。今後は出来るだけこれをあげた方が作業が捗りそうだな。ゆぐゆぐにも渡そうとしてみるが受け取らない。

 

「――――?」

 

どうも光合成スキルのおかげで、食事が必要ないらしい。これは便利だけど、オルトみたいな食べ物ブーストが効かないってことでもある。ミーニィも食べさせようとしたがそっぽ向かれた。もしやお前、肉食か?アイネは食べてくれたんだがな。ミーニィには町中で見つけた串焼き肉を与えればかぶりついて食べる。肉料理・・・・・もっと調味料があればな。

 

「手に入れられないものを考えてもしょーがない。テイムモスと初のモンスター狩りでもするか」

 

このテイマーのレベルも上げなきゃならんし。経験値とスキル熟練度のスクロールを使おう。

 

「ファーマー顔負けの作物を沢山育ててるねー」

 

納屋の出入り口から聞こえる声。女の声で振り返ると見知った顔のプレイヤーがそこに立っていた。

 

「イッチョウか。畑に入れるんだな」

 

「フレンドコードを交換したプレイヤー同士じゃないとね。そうじゃないプレイヤーは中に入れない仕組みだよんって、しばらく見ない内に凄く大所帯になってるねぇ」

 

「今からこいつらのレベルを上げにモンハンしに行こうかと思ってた。今テイマーにチェンジしてるからステータスポイントも更に貯まるし」

 

メインの方は?と聞かれたから18だと言うと。

 

「まだ20レベルにもなってなかったんだ。吉井君達はもうなってるのに」

 

「嫌味を言いに来たならお引き取り願おうか。そんなアドバンテージ、俺にはものともしない唯一無二のを取得してるからな」

 

「ほほう、同期のプレイヤーの中で数レベル以上も差が広がっているのにそれを覆すスキルか称号があると?」

 

意味深な笑みを浮かべるイッチョウ。そんなスキルは存在しないと信じていないのか、それとも是非教えて欲しいなという表情の裏返しか・・・・・。

 

「教えてもらったステータスポイント。偶数が5で10レベルで10ポイントの話をしてくれたよな」

 

「うん、そうだね」

 

「俺はそのレベルアップ時のステータスポイント取得量が3倍の称号を取得してる。普通のプレイヤーのステータスポイント取得量が30だが、俺の場合はその3倍で90ポイントだ。出遅れているが30レベル分の強さを取得でき、この称号は他の全職業にも共有できるわけで・・・・・」

 

「・・・・・」

 

「イッチョウ、他のプレイヤーよりレベルだけ出遅れているのは確かだが、俺は確固たる強さを手に入れている。出遅れも案外悪くはないんだぜ?」

 

今度はこっちが意味深な笑みを浮かべる。少しだけ10レベルも上げればポイントは90も貰える。それを他の職業でも10回すれば900という破格以上の戦果を得られる。他のプレイヤーが必死こいて30レベルも上げる最中、俺はたったの10レベルだけで同期のプレイヤーと同じ強さを得られる。ヘルメスもこれに気付いた筈だ。

 

「ハーデス君、いえ、ハーデス様お願いがございます」

 

俺の前、その場で静かに土下座をしだした。

 

「何かねイッチョウ君」

 

「是非とも、この卑しい私めにもその恩恵を伝授してくださいませ。条件があるというならば何でも致しましょう」

 

「ほう、何でもとな・・・・・?」

 

芝居が掛かった風な言動をする俺達。俺はイッチョウをいやらしく見つめこう言う。

 

「この情報はこのゲームのパワーバランスを崩壊させる極秘の称号だ。情報屋に売れば最低でも1000万Gはくだらないと思うが。その価値に見合うことをお前に出来るのかね?」

 

「ええ、勿論ですとも。このイッチョウ。あなたの恩恵を手に入れたら時期に始まるイベントのトップにあなた様を立たせてみせます」

 

「ふふふ、言ったな?そこまで言うなら伝授してやってもいいが・・・・・他言無用だぞ?取得できなかったとしても後悔するなよ?」

 

「ははー!!!」

 

ま、取得方法は至って簡単!レベル1のままモンスターを倒さず1週間始まりの町にいること!はい、以上!

 

「え、これだけ・・・・・?簡単すぎて誰も気づかないでしょ。というか、ゲーム初日から一週間もモンスターを倒さないでいるのって絶対に無理。私も初日からモンスター倒しちゃったから取得できないよん!!」

 

「残念だったな。灯台下暗しって話さ。あ、これ作ったけど飲む?」

 

 

名称:ハチミツリンゴジュース

 

レア度:3 品質:★3

 

効果:満腹度を19%回復させる。HPを5%回復させる。

 

 

「うん、頂くね・・・・・なにこれ、美味しすぎる!」

 

「料理と調合に調理のレベルを20ずつ振ったからな」

 

「ぜ、全部で60ポイントも生産系スキルに振るうなんて・・・・・贅沢過ぎる」

 

「大盾使いの時に貯まったポイントで振ったからだ。まだ60ポイントも残してるから【STR】と【VIT】に10ずつ、【AGI】に40振ってこんな感じだな」

 

 

死神・ハーデス 

 

 

職業テイマー

 

LV1

 

 

HP 12/12〈+100〉

 

MP 19/19〈+200〉

 

 

【STR 20〈+127〉】

 

【VIT 20】 

 

【AGI 100〈+120〉】

 

【DEX 10〈+120〉】

 

【INT 10〈+100〉】

 

 

 

 

 

装備

 

 

頭 【空欄】

 

 

体 【空欄】

 

 

右手 【初心者の鞭】

 

 

左手【空欄】

 

 

足 【空欄】

 

 

靴 【空欄】

 

 

 

装飾品 【フォレストクインビーの指輪】【古の鍛冶師の指輪】【白妖精(ハイエルフ)の指輪】

 

 

称号:万に通じる者 不殺の冒険者 出遅れた者 白銀の先駆者 毒竜の迷宮踏破 大樹の精霊の加護 ユニークモンスターマニア

 

 

スキル【手加減】【テイム】【使役Ⅹ】【獣魔術Ⅹ】【幸運】【逃げ足】【毒竜喰い(ヒドライーター)】【大物喰らい(ジャイアントキリング)】【瞑想】【挑発】【咆哮】【採掘】【採取】【植物知識】【伐採】【爆弾喰らい(ボムイーター)】【悪食】【爆裂魔法Ⅰ】【エクスプロージョン】【体術】【幸運】【採取速度強化小】【水無効】【気配遮断Ⅰ】【気配察知Ⅰ】【八艘飛び】【錬金術ⅩⅩ】【料理ⅩⅩⅩ】【調合ⅩⅩⅩ】【調理ⅩⅩⅩ】【農耕ⅩⅩⅩ】

 

 

「・・・・・ハーデス君。これ、テイマーのステータスじゃない。絶対に違うこれ。なに、【VIT】以外+100以上って。見たことが無いスキルと装飾品ばかりだし、どんなプレイをしたらこうなるの」

 

「思うが儘にプレイしたらこんな感じだ」

 

「そして気になるスキル【八艘飛び】ってなに?」

 

「あー、大盾使いで18レベルになってから戦闘は碌にしてないままでまだ把握してないんだわ」

 

「すぐにしようよ!ほら、レベリングも手伝ってあげるから!」

 

手を掴んで納屋から引きずり出すイッチョウに連れ出される形でオルト達も追いかけてくれる。

 

「因みにイッチョウのレベルは?」

 

「25だよ」

 

・・・・・悔しくないんだからね!と心中で言い訳する俺の気持ちを気付かない彼女の手によって町の外に来てしまった。

 

「ささ、早くやって見せてみてよ」

 

「自分に合うスキルだったら取得する気だな?」

 

「うん!」

 

清々しいのは嫌いじゃないぞ。使用する前に【八艘飛び】の詳細を・・・・・うーん、なるほどね。

 

「【八艘飛び】!」

 

高く飛び、宙を蹴って飛び続けること八回。イッチョウの前に降りて結果を伝える。

 

「この【八艘飛び】はAGI依存で数値が高ければ高い程に飛ぶ距離が長くなって最大八回まで空を蹴って飛ぶ感じだ」

 

「おおお・・・・・!!!」

 

感動した声を溢すがイッチョウは知らない。このスキルを取る苦労さをな。

 

「ハーデス君。それ、教えてくれると嬉しいな?」

 

「有料だ」

 

「んー・・・・・あ、じゃあ黄金の林檎でいい?」

 

「あるのか?」

 

「うん、ほら」

 

提示したアイテムは紛れもなく黄金の林檎だった。

 

「西の森で手に入ったか」

 

「たまたまねー。夜の森の中を探索してたら見つけたんだ。激レアだから使わずにとっておいたんだー」

 

黄金の林檎か。くれるなら欲しいところだ。

 

「西の方へ進むと川がある。その上流に行けば滝があってな。巣潜りして滝の裏に洞窟がある。そこに行けば八艘飛びのヒントが得られるぞ。途中、厄介なモンスターがいるから頑張れ」

 

「どんなモンスター?」

 

「オオサンショウオモドキ。洞窟いっぱいにノックバック効果付きの水弾を飛ばしてくるから大変だぞ。定位置から誘き寄せないと駄目だったわ」

 

「どんな方法で?」

 

「食用のアイテムを大量に投げて誘き寄せた」

 

 

イッチョウside

 

 

王様の情報通りに西の森の中を進んで川の上流へ進めば、滝があって水の中に潜ると川魚が泳いでいたし、底には採取できるアイテムがちらほらと見つけた。滝壺の裏側へ泳いで洞窟を発見して迷わず進んで潜り込んだ。

 

「ぷはっ!」

 

5メートルぐらい泳いだところで別の洞穴の中に辿り着いた。迷路みたいな感じの洞窟じゃなくて良かったよ。でも、問題はここから。ランタンを出して暗闇を灯して先を進むと・・・・・。

 

「こ、こういうことなんですねぇええええっ!?」

 

大きな生物を視界に入った矢先に、死神ハーデス命名オオサンショウオモドキが大きく開けた口の奥から大量の水の塊を放って、私をこの洞窟の出入り口の張った水の溜まり場にまで吹っ飛ばした!!

 

「こ、これは難易度が高い・・・・・。しかもHPバーがなかったし、倒せないモンスターが始まりの町の森のエリアにいるなんて・・・・・」

 

王様はほんと忍耐強いね。事前の情報を聞いていなかったら諦めていた絶対に。私もう疲れたよって。頑張ったよねって。・・・・・でも!

 

「王様もクリアしたんだ。私も倒さずクリアしてみせようじゃん!」

 

簡単だけどね!餌で誘き寄せるのは!教わった通りにしたら、向こうから投げた食用のアイテムを食べながらやって来て、私の横を通りすぎて水の溜まり場の中へ潜っていった。これでクリアなんだね。オオサンショウオモドキが居座っていた洞窟の奥へ進み、そして広大な湖の奥に天井の穴から差し込む光に照らされてる古い巨木が聳え立っていた。まるで始まりの町の大樹だ。あそこへ行くためのコケに覆われた足場が8つ・・・・・なるほど。

 

「意外と取得は簡単?でも、あんなてこずらせるモンスターがいたんだからきっとこの湖にもいるよね」

 

「―――勿論いるぞ」

 

「うわっ!?」

 

いつの間にか私の後ろにハーデス君が佇んでいた!

 

「やっぱり、攻略方法は教えない方が良かったか。こんなあっさりと進まれちゃ複雑極まりない」

 

「私の心が折れます」

 

「俺は折れ掛けたたがな」

 

流石の王様も大変だったんだ・・・・・。

 

「で、どんなモンスターがいるんですか?」

 

「足場を擬態しているアンコウモドキ」

 

「え、あの足場の中に紛れてるの?」

 

「踏んだ瞬間に足場が沈んで、そっから水中から飛び出してくる。俺は麻痺状態にしたから成功したけど、イッチョウはどう成功するのか見物だな。イッチョウの成功例が他のプレイヤーにも成功の秘訣に繋がるわけだし」

 

ちょっと見てろよ。と言って、先にチャレンジするハーデス君。軽々と足場を跳んでいき、あっという間に7つ目の足場から8つ目の足場へ跳んだ直後だった。8つ目の足場がいきなり沈んだかと思えば大きな口を開いて水中から飛びだすアンコウモドキ。あの人は空中で身体を捻って、アンコウモドキの捕食行動を躱し丁度額部分にあったコケだらけの足場を踏んで古い巨木の前へと跳んでいった。

 

「と、まぁこんな感じだイッチョウー!」

 

「わかりましたー!やってみまーす!」

 

律儀にアンコウモドキは元の定位置に戻って足場だけを浮かべ、プレイヤーという餌が来るまで待ち構えだす様子を見てから私も挑戦した。

 

 

 

 

イッチョウが八艘飛びを挑戦しようとしている間、改めてリヴェリアと出会ったこの巨木を調べてみることにした。ただの背景かそれとも・・・・・と注意深く見て大木の表面を触りながら探したところ。絡み合って重なって登れるようになっている幹を見つけてそれを足場にして登ってみると、この洞窟を一望できる高さにまで行けて―――葉っぱに覆われて隠されていた扉を見つけた。ただ、不思議なことに扉の表面に1つの窪みがあり、それを嵌めないと扉を開けられない仕組みとなっていた。

 

「何が必要なんだか・・・・・」

 

窪みを見つめながら悩んでたら、下から声が聞こえてきた。

 

「ハーデス君!何かあったー?」

 

スキル取得は終わったか。こっちまで来れるかと尋ねると、少しして折り重なってできた樹木を足場にしてイッチョウは登ってきてくれた。

 

「あ、こんなところに扉があるんだ。開けられる?」

 

「何かを嵌めるギミックがあるんだ。それが何なのかはさっぱりな」

 

「ふーん」

 

イッチョウも思い悩みだし、二人揃ってこの謎のギミックの解決の糸口を考える。でも、どれだけ現状でこの扉を開けるようなモノは―――。

 

「取り敢えず、何か嵌めてみない?」

 

「ん?今ある手持ちのもんで開けられるとは思えんが・・・・・」

 

何となく黄金の林檎を嵌めた。大きさや形は違うものの、窪みの中に入れられるのでまず最初にこれだと思っての考えだった。

 

カッ!!!

 

すると、黄金の林檎が輝きだし光に包まれた。変化が起きるのは構わない。未知を目の前にするのは楽しいし最初に見つけた優越感だって感じたい。だけどだけど・・・・・!

 

「お、黄金の林檎ー!」

 

せっかく貰った黄金の林檎が台無しにー!!ああ、消えちゃった!!!視界が真っ白な閃光で塗り潰されて目の前が何も見えなくなった時。

 

 

《死神ハーデスが一部エリアを開放しました。新ダンジョンと特殊エリア『機械の街』、特殊職業『ガンマー』を開放します》

 

『特殊エリアを解放した死神ハーデスに「かつての夢」をプレゼント致します』

 

 

何かの歯車がインベントリに収まるが黄金の林檎の消失に嘆く俺にはどうでもいいことだった。

 

「orz・・・・・」

 

「えっと、また取りに行ってあげるから元気出して?ほら、精霊さんが待ってるから」

 

・・・・・精霊?

 

イッチョウの指摘に顔を上げて前を見れば、始まりの町の大樹の精霊とは異なる女性が宙に浮いていた。今更ながら周囲を見回すと樹木の根で構築された空間にいて、石造りの台もあった。ここは精霊の祭壇か何かか?

 

「私はこの聖樹に宿りし精霊でございます。あなた方が捧げてくれた黄金の林檎のおかげで再び力を取り戻し、閉ざされていた場所を開放することが出来ました」

 

「はぁ・・・・・」

 

「感謝の印に、これを授けます」

 

 

《聖大樹の精霊の祭壇が特殊解放されました。最初に到達したプレイヤーに、称号『聖大樹の精霊の加護』が授与されます》

 

『聖樹の精霊の復活により死神ハーデスにはボーナスとして光の結晶、闇の結晶を贈呈します』

 

称号:聖大樹の精霊の加護

 

効果:賞金50000G獲得。ボーナスポイント5点獲得。樹木系、精霊系、ユニークモンスターとの遭遇率増大。

 

 

 

「わっ!2つ目の称号だよん!結晶も貰えたよ!」

 

「ん?ああ、『万に通じる者』を取得してたっけ」

 

パーティ状態だったからか、イッチョウも貰えたようだ。

 

「この場所にまた来た時はあなたと会えますか?」

 

「ええ、木の日の時だけですがね。そして御供えもしてくれたら祝福を授けることも可能です。次の祝福を授けることが出来るのは8週後ですが」

 

大樹の精霊と変わらないか・・・・・。このパターン、デジャヴを感じる。

 

「黄金の林檎、使っちゃったからないんだよな・・・・・なら、今ある中で高級な物を捧げるか」

 

高級肥料を台の上に捧げた。

 

「これは良い物です。あなたのお心遣いに感謝を。代わりに、祝福を授けましょう。これをお持ちなさい」

 

俺の思っていた祝福と違った。前回と同じ苗ではなく果実だった。しかも虹色のだ。

 

 

名称:聖大樹の果実 

 

レア度:7 品質:★8

 

効果:使用者の空腹を50%回復させる。使用者の状態異常耐性を3時間上昇させる。クーリングタイム7分。

 

 

株化したらゆぐゆぐみたいな存在がテイムできるかもしれないな。だけどこれ、そう簡単に使っていいものだろうか?エルフのイベントにも関りがありそうだし、終わるまでとっておくか。

 

「イッチョウ、せっかくだから何か捧げたら?」

 

「うーん・・・ハーデス君のような高級な物じゃないと高いレアのアイテムが手に入らなそうだよね?」

 

「じゃ、高級肥料を譲渡するから試してみ」

 

「ありがとう。やってみるね」

 

渡したアイテムでイッチョウも捧げてみると、俺と同じ聖大樹の果実を手に入れた結果に喜んだが称号取得のお礼だと譲ってくれた。

 

 

聖大樹の精霊と別れ、祭壇に繋がる通路以外のもう一つの通路へ進む。その先は樹木のボスモンスターが待ち構えてたエリアでイッチョウと連携して難なくボスモンスターを踏破し、俺達は誰よりも先に新しい新エリアの機械の町に辿り着いた。

 

「うわー・・・!」

 

「なるほど、文字通り機械の町・・・・・機械で溢れてるな」

 

NPCも当然のようにいるようだ。この町のクエストもまだ手を出されていない状態だ。今ならやりたい放題じゃないか。

 

「あのシビアな経路もこの町に繋がっているなら納得しちゃうなー」

 

「俺達は運が良かったんだな。黄金の林檎がなければこのエリアを見つけることすらも叶わなかったんだ」

 

「隠しエリアも発見されないとこのエリアに進めれませんでしたよ?」

 

イエーイ!とハイタッチした後、町中の散策を始める。最初は二人で見て回り途中でGを支払えば手に入れられる機械のアイテムやこの町でしか手に入らないアイテムを動画やスクショして記録に残していった。

 

「これで移動の時が便利になれる!」

 

イッチョウは喜んで高いアイテムを買っては空を飛んで遊び始めるがまま、そのまま別行動を取った。俺は地上から探索しつつ連絡を取った。連絡してくる相手はイズだ。

 

『聞いたわよハーデス。新エリアの解放おめでとう!機械の町はどんなところかしら?』

 

「調べ始めたばかりで何とも言えないが、特徴的な事を言えば空を飛べるアイテムが売られていたぞ」

 

『へぇ!そんなアイテムがあるのね!私もそこに行ってみたいなー』

 

「今度案内するよ。この町に来るまでの経路が大変だからな」

 

『お願いね!できればその町しか売られていないアイテムも何個か買ってくれないかしら?』

 

「所持金は少ないが、気に入りそうな物だけ買っておくよ」

 

別の店に売られてる空を飛ぶために使っている機械を見る。複数人が乗れる車型のものもあれば背中に背負うだけの一人用のものもある。ただ、それらは結構高かった。

 

「むぅ・・・・・必須アイテムの割には高いなぁ・・・・・」

 

まぁ、鷹の羽衣を持っているから必要ではない。

 

ただ、それでも新しいものには興味があるためじっくりと機械を見る。

 

そうしていると、俺はあることに気づいた。

 

「これ、ネジとか使ってないんだ。近未来って感じだ」

 

ネジなどはどこにも見当たらずそしてとても軽かった。機械にしては軽いというのは相当である。俺はしばらく眺めると別の場所へと向かっていく。目的地もなく歩いている途中でハーデスは路地の入り口で倒れているNPCの老人を見つけた。

 

「ご老人、大丈夫か?」

 

ポンポンと老人を叩くと老人はボソボソと話し始めた。

 

「水を分けてくれんか・・・・・出来れば食料も・・・・・」

 

弱々しい声での老人の頼みを断る理由もなく、言われた通りにインベントリからアイテムを差し出す。

老人はそれらを受け取ると見る間に食べ終え飲み切った。

 

「ふぅ・・・・・ありがとう。どれ、お礼に一つ話をしてやろう」

 

「うん?」

 

何の話だ?クエスト発生していない・・・・・。俺が老人の前に座ると老人は話し始めた。

 

「この町の中心に立派な建物があるじゃろう?あそこには【機械神】がおってのう、空飛ぶ機械もその【機械神】が生み出しておるんじゃ」

 

「【機械神】・・・・・。それで?」

 

「奴の作り出す機械は製造方法が全く分からん、叩き割って調べた者もおったが・・・・・中にはなーんにもなかったんだと。それこそ【ネジ】も【歯車】も【バネ】もじゃ」

 

「え?あ、だから町に売られてるものは全部そうなのか」

 

「まあ、この辺りは皆が知っていることじゃ。ここからじゃよ」

 

興味津々で続く老人の言葉を待つ。

 

「実はな、あの機械神は【二代目】なんじゃよ」

 

「【二代目】・・・・・?」

 

「ああ、以前はこの町にも普通の機械といったものが溢れておった。【一代目】は機械を知らぬわしらに夢と希望を与えてくれたんじゃ」

 

老人の言うように、機械の概念がない所に与えられた機械は全て夢と希望と奇跡の塊だっただろうことは間違いない。

 

「そして・・・・・ある日、わしが町から離れていた時のことじゃ。町の方で青白い光が弾けた!」

 

「それで?」

 

早く続きをと急かす。

 

「わしは慌てて戻った。何かあったと思っての。すると…町は新たな機械に溢れ皆から【一代目】の記憶は消えておったんじゃ。それに、町から以前の機械は無くなってしもうた」

 

「その光を浴びたから記憶が?だから離れていたおじいさんは無事だった・・・・・?」

 

「・・・・・これで話は終わりじゃ。わしら二人しか【一代目】のことは知らんのじゃよ」

 

「・・・・・貴重なお話ありがとうございました」

 

お礼を言う俺に一つ頷いて老人は入り組んだ路地の奥へとゆっくり歩いていき、やがて見えなくなった。

 

「【初代】と【二代目】・・・・・何かありそうな予感がするな」

 

俺は老人の話を頭の隅にとどめておいて再び町を歩き始めた。

 

 

街を見てまわる中で目に付いたものはやはり【二代目】が作り出したという機械達だった。むしろそれくらいしか注目するところがなかったのだ。

 

「んーそろそろフィールドの探索にいこうかな。あの霧の向こう、気になる」

 

フィールドは高低差が大きく、崖になっている部分や雲まで伸びる山があちこちにある。

空飛ぶ力を持たないものに探索する権利は与えられない。

 

 

霧の立ちこめる深い深い崖を越えたその先にそびえる山に向かうため、鷹の姿となって空を飛ぶ。だが、俺は何一つ知らなかったんだ。その崖では横殴りの突風が吹くことも。

 

「うわっ!?」

 

風で体勢を崩した際に崖へと真っ逆さまに落ちていく。だけど、直ぐに体勢を立て直して遥か下、突風が吹かないへ避難、途中で衣を脱いで地に降り立っては濃霧の中で周囲を見回す。

 

「変なところに来てしまったな・・・・・」

 

マップで確認すると現在いるエリアの青いパネルで確認すると『夢の墓場』という場所に来てしまった模様。『夢の墓場』?

 

機械の町に墓場?機械の墓場ってことか?飛行機の墓場なんて場所が外国にもあるほどだし・・・・・と思いつつ先も見えない濃霧の中を歩く途中。

 

「ん?これ・・・・・」

 

足先にコツンと当たった何かを拾い上げる。それは壊れた機械だった。

様々なパーツによって組み上げられていたであろうものの残骸である。

 

 

 

だが、本来ここは発見難度の高いヒントの数々。

 

発見難度の高いパーツ。

 

ここに来るために必要な特殊条件。

 

 

 

全ての過程を偶然ですっ飛ばして俺はここにたどり着いたことをまだ気づいてもいなかった。

 

 

 

「よし・・・・慎重に進もう」

 

積み上がった残骸の山の隙間を縫うようにまともに歩ける場所をじりじりと進む。

 

「霧が・・・・・薄れてきてる?」

 

その霧が薄い方へと歩いていき、ついに最奥にたどり着いた。青い光が蛍のように舞う残骸の山に囲まれた場所。そして奥に一人の男が残骸にもたれるようにして座っている。その体は機械で出来ていた。

しかし機械にしては人に近すぎる。また人にしては機械に近すぎる。

目に光はなく、片腕は半ばからなくなっており、胸には大きな穴が開いていた。

 

「っ!?」

 

突如インベントリから勝手に飛び出したのは聖樹の精霊関係で手に入れたあの歯車。

それはふわふわと男の元に飛んでいきその空洞の胸に吸い込まれた。

それからしばらくしても何も起こらなかったため臨戦態勢で男に近づいていく。

 

「何が起こる・・・・・?」

 

「グ、ガ・・・・・」

 

一歩足を踏み込んだ瞬間に男が話し始めたためにメイン職業を重戦士にしてバッと大盾に身を隠す。

 

「我ハ王・・・・・機械の王・・・・・偉大ナル知恵ト遥カナル夢ノ結晶・・・・・」

 

「・・・・・・」

 

「我ハ・・・・・王・・・・・カツテノ王・・・・・淘汰サレタ者・・・・・」

 

俺は男の言葉を静かに聞く。

 

「我ハ・・・・・何ダ・・・・・我ハ・・・・・」

 

男の言葉はどんどんと小さく途切れたものになり、ついに話さなくなってしまった。

 

「これで終わり・・・・・?」

 

肩透かしそうになった俺の目の前で舞っていた青い光が男を包んでいく。それは胸に空いた穴に吸い込まれていき穴を光で満たした。

 

「グ・・・・・」

 

「まだだったか・・・・・」

 

それでも油断できなかった、男の様子がおかしいことに気づいたからだ。

 

「我ハ・・・ガラクタノ王・・・・・ゴミノ中デ眠ル王・・・・・夢モ奇跡モ・・・・・ガラクタニ」

 

そう言うと男の体が変形する。周りの残骸を胸の穴に吸収し、兵器を生み出し体に纏う。

 

銃が、剣が、武装が次々と展開される。

 

「オマエモ・・・・・ガラクタニシテヤロウ」

 

「・・・・・正気に戻せるかどうかわからないが、やってやろう!」

 

俺は大盾を構え、短刀を抜く。あの男がおかしくなった原因に心当たりがあった。

あの青い光、【二代目】の機械の光。

 

「あの部分だけを攻撃するっ!」

 

決意したその次の瞬間。視界を青白い弾丸が覆い尽くした。避ける暇もなくその後は壁へと弾き飛ばされる。

 

「くっ・・・・・ノックバックかっ!」

 

青白い弾丸は強力なノックバック性能を持っており、俺を残骸の山に押し付ける。ただ、俺の装甲を貫き七割もHPを減らしたのを見て危機感を覚えた。今のはVITを上回る攻撃か、それとも貫通攻撃か。どちらにしてもヤバいと。

 

「あー・・・・・動けない・・・・・」

 

しかもそのノックバック性能により動くことが出来なくなってしまった。

 

「【毒竜】!」

 

取り敢えず機械神に向けて毒竜を撃ち込むものの、機械に毒は効かなかった。毒竜本体が与えたダメージのみで毒による追加ダメージがなかった。デスヨネー。

 

「だったら・・・・・【エクスプロージョン】!」

 

機械神との距離を縮める作戦に打って出た。青い弾丸を雨のように放ってくる機械神に向かって【エクスプロージョン】を撃った。機械神にどれだけダメージが入るのか二の次で、【エクスプロージョン】で生じる黒い煙幕で俺の姿を隠すのが目的だ。【八艘飛び】で移動する俺という敵を見失ったからか機械神は自棄になって弾丸を周囲に乱射し始めるが、それによって自分の位置を教えてくれるから立て続けにMPを回復しながら【エクスプロージョン】を使う。あの弾丸を食らうのは危険すぎるので短期戦が望ましいだろうな。

 

だからこそ、一気に近づいて機械神に肉薄し青い光の溜まった胸の部分に手を突っ込んだ。

 

「これで終わりだっ!」

 

俺は機械神に抱きつくようにして奥底まで手を入れる。出来る限りその体を破壊することなく、正気に戻すために。

 

「【悪食】!」

 

 

運営からすればその行動はある意味正解で、ある意味間違いだった。

そこを攻撃することで正気に戻すことは出来ない。ただ【弱点】であるその部分を攻撃することで大ダメージを与えることができ、その結果・・・・・。

 

 

機械神の様子が変わった。

 

 

「グ・・・・・カハッ・・・・・我ハ消エル・・・・・ダガ・・・・・」

 

俺は話し始めた機械神の声を一音も聞き逃さないように耳をすませる。

 

「・・・・・僅カニ意識ノ戻ッタ今・・・・・託ス・・・勇敢ナ・・・者・・・・・」

 

そう言う機械神の胸の穴には青い光が溜まり始めていた。

 

「・・・・・我ノ・・・チカラデ・・・・・我ダッタ・・・コイツ・・・ヲ・・・・・倒・・・セ・・・」

 

そう言う機械神は俺に向けて古びた歯車を投げつけた。それをキャッチして受け取ると俺の体に吸い込まれて消えていった。

 

「・・・・・眠ラセテ・・・クレ」

 

それと共に機械神の様子が変わる。全身が青白い光に包まれ、パーツの存在しない【二代目】の装備を身に纏い空へと舞い上がり青い弾丸で攻撃してきた。俺は先程と同じように壁に向かって弾かれるしかなかった。

 

「チカラヲ託ス・・・無駄ナコト・・・」

 

無機質な声が上空から聞こえる。

 

内容からして二代目の声だろう。

 

一代目の体は二代目に乗り移られて無理やりに動かされている。

 

「・・・・・無駄じゃねぇよ・・・」

 

一代目から託された力スキル、かつての神の力。それは単純で、不思議なことなど何もない力だった。

 

「人から人へ託され継承されていく力が無駄じゃないことを証明してやるよ二代目!【機械神】!」

 

そう叫ぶと頭の中にイメージが浮かび上がる。俺は鎧と大盾と短刀を選択した。【二代目】がどこからか機械を創り出すことが出来るのに対し、【一代目】は材料が必要だった。

 

即ち。

 

装備を破壊し、武器を生み出す力。当然、材料が良質であればあるほど出来る武装は強力になる。

 

「【全武装展開】」

 

静かに呟いた俺、その身に纏う再生する黒い装備。

 

それらから、夜空を切り取ったような黒い武装が次々と展開される。

 

大盾を持つ腕の部分からガシャガシャと音を立てて銃が現れ、背中からも木の枝が伸びるようにして俺の体と比較すると大きすぎる砲身が空に向けられる。

 

短刀を持つ方の腕は同様の黒い刃が伸ばされ、それらを支える足腰は機械を纏い強靭になった。

 

胸から腹部にかけては大小様々な歯車が回転しており、顔の右半分から首にかけては歯車や配線が複雑に覆っていた。

 

「何なんだ、このスキル!?」

 

驚いて全身を覆う武装を眺めていた俺だったが、やらなければいけないことを思い出す。

 

「あれを倒さないとな・・・・・」

 

俺も空飛び、【エクスプロージョン】で煙幕代わりに二代目の視界から隠れた。すぐに煙幕から飛び出す二代目だが真後ろにいる俺の存在にまだ気づかず、

 

「【咆哮】!」

 

10秒間硬直するスキルだ。相手が機械だろうが硬直するだろう。

 

「・・・・・これで・・・・逃げられないぜ」

 

一代目の力を受け継いだ俺はつまり【三代目】だ。

 

産まれたての俺という機械神は二代目に対し静かに呟き武装全てを向けた。

 

「【手加減】そして【攻撃開始】」

 

爆音と共に全ての武装が火を吹く。

 

 

運勢の設定上ではこれらの武装は装備に見えるが装備ではない。代償により威力が決まっているスキルである。つまりそこにハーデスの【STR】値は一切関与しないのだ。ただ、一発一発の威力はそこまで高くなく連擊に偏った武装だった。そう、今回のところは。

 

 

HPが1だけ残った二代目に対し、俺はにやりと口の端を吊り上げて笑みを浮かべた。一番脆く一番引きやすそうな部分を狙っては、噛みついて―――噛み千切ったことで機械神のHPを0にした。

その後の一代目を包んでいた青い光は消えた。一代目は眠りについたんだろう。抱えて地面に飛び降りると静かに彼を彼の機械にもたれかからせた。

 

「・・・・・」

 

俺は青い光がなくなったことを確認すると一代目の機械神に向かって黙とうを捧げた後は町に戻った。そこで取得した称号やスキルを確認する。

 

 

称号:三代目機械神

 

 

スキル【機械神】

 

機械神(一代目)の力を司るスキル。使用者の装備を破壊し、銃器や刀剣などの武器を展開する。一度装備を破壊すると、一定回数(装備によって異なる)は武装を生み出すことができる。攻撃の威力は代償とする装備によって異なり、使用者自身の【STR】値は関与しない。

 

 

スキル【機械創造神】

 

機械神(二代目)の力を司るスキル。MPを消費して機械のアイテム、装備を製造する。消費するMPの数値によって製造できるものは異なる。

 

取得方法:HPドレインで倒す。

 

 

 

運営side

 

 

「嘘だろっ!?機械まで食べちゃうってどんな神経をしてるんだこのプレイヤー!!」

 

「不味い不味いって・・・・・MP200も消費した機械のアイテムって機械のユニーク装備を作れる設定してなかったっけ」

 

「いや、それは500に設定変更した筈だ。問題はない、ないんだけど・・・」

 

「なんです?」

 

「MPのみの極振りをするようなことを仕出かしたら、そんなことも可能になるなぁって・・・・・」

 

「・・・・・ヤバいじゃないですかそれ」

 

「いや、それはまだ可愛い方だ。一番ヤバいのはドールにそれを譲渡したらだ」

 

「・・・・・完全無敵の存在になり得てしまう!」

 

 

 

死神・ハーデス

 

LV24

 

HP 40/40〈+100〉

MP 12/12〈+200〉

 

【STR 0〈+129〉】

【VIT 210〈+66〉】 

【AGI 0〈+120〉】

【DEX 0〈+120〉】

【INT 0〈+100〉】

 

 

装備

 

頭 【空欄】

 

体 【黒薔薇ノ鎧】

 

右手 【新月:毒竜(ヒドラ)

 

左手【闇夜ノ写】

 

足 【黒薔薇ノ鎧】

 

靴 【黒薔薇ノ鎧】

 

装飾品 【フォレストクインビーの指輪】【古の鍛冶師の指輪】【白妖精(ハイエルフ)のお守り】

 

 

称号:万に通じる者 不殺の冒険者 出遅れた者 白銀の先駆者 毒竜の迷宮踏破 大樹の精霊の加護 ユニークモンスターマニア 三代目機械神 聖大樹の精霊の加護

 

スキル

 

【絶対防御】【手加減】【体捌き】【瞑想】【挑発】【極悪非道】【シールドアタック】【大物喰らい(ジャイアントキリング)】【咆哮】【毒竜喰らい(ヒドライーター)】【爆弾喰らい(ボムイーター)】【植物知識】【大盾の心得Ⅹ】【悪食】【受け流し】【爆裂魔法Ⅰ】【エクスプロージョン】【体術】【幸運】【テイム】【採取】【採取速度強化小】【使役Ⅹ】【獣魔術Ⅹ】【錬金術ⅩⅩ】【料理ⅩⅩⅩ】【調理ⅩⅩⅩ】【調合ⅩⅩⅩ】【農耕ⅩⅩⅩ】【水無効】【気配遮断Ⅰ】【気配察知Ⅰ】【八艘飛び】【伐採】【伐採速度強化小】【機械神】【機械創造神】

 

 

 

 

機械神との戦いで得た6レベル分、今回は60ポイントをVITに全部振った後、機械神がいると聞いた建物へと【機械神】の状態で向かった。三代目機械神として存在することになった俺でも入れるんじゃないかと予想してだ。

 

この町で一番大きい建物の扉の前に降り立った俺の予想は的中だった。扉に触れると一人で開きだして中に入れるようになったのだ。一歩前に足を出すと真っ暗だった空間に照明がパッと光って鎮座しているソレを最初に見つけた。楕円形・・・卵型のカプセル。中に何が入っているのか開けないと分からないカプセルのその前には、機械的な台があって好奇心に勝てずそれに近づく。それは一言で言えば近代的なコンピューターだった。

 

「二代目が創ったのか・・・・・?」

 

台に触れると台が光り出し、立体的な青いパネルが浮かび上がった。それから同時に声が聞こえだした。

 

『識別認証を確認します―――確認しました。死神ハーデス様。所持しているスキルを選択してください』

 

ん?どういうことだ?

 

「選択したスキルはどうなる」

 

って、聞いといてなんだけど質問に答えてくれるか?

 

『再び取得可能なスキル以外は使用不可能になります。選択したスキルによって征服人形(コンキスタ・ドール)の活動方針が異なります』

 

あ、答えてくれた。助かるし、しかも征服人形(コンキスタ・ドール)・・・・・戦闘系にも生産系にも成り得るってことか。万能型に目指せる可能性もあるなら・・・・・。

 

「スキルはその征服人形(コンキスタ・ドール)という者に受け継がれる意味でいいんだな」

 

『肯定。また、スキルを受け継がせたい場合はここ『機械神のラボ』にお越しくだされば可能です』

 

「ラボ、ね。一つ聞くが他にも存在するのか?征服人形(コンキスタ・ドール)ってのは」

 

『肯定。機械神の命であれば全ての征服人形(コンキスタ・ドール)を使役することも可能です』

 

一体幾つ存在しているんだ?だが、これを放置するわけにもいかないだろ出会ったからにはさ。

 

「因みにそれって俺しか使役できないのか?それとも他のプレイヤー・・・・・他の冒険者も使役することはできないのか?」

 

『前者は肯定。後者は肯定。ただし後者の場合、一代目か二代目の機械神の名を持つ者以外では征服人形(コンキスタ・ドール)を使役したいならば契約条件が必要です』

 

契約条件? それはなんだと聞けば戦闘スタイル・カルマ値・野生値・好感度諸々を総合してタイプ分けされ、一定条件を達成しているとプレイヤーと契約を行い、供として活動するようになるそうだ。

 

「他の征服人形(コンキスタ・ドール)はどこに?」

 

『死神ハーデス様がこの征服人形(コンキスタ・ドール)を使役する瞬間、この町の至る所に存在するようになります。他にご質問はありますか?』

 

あ、スキルの継承をしろと催促された気がする。だったら俺も決めなきゃいけないよな。うーん・・・・・悩むけどまだ気になる事がある。

 

「ごめん、質問だ。征服人形(コンキスタ・ドール)にはステータスの概念は?」

 

『否定。ありません』

 

「HPとMPは?」

 

『HPの代わりに耐久値が表示されます。MPの概念は否定。ありません』

 

「MPがない?魔法のスキルを継承しても意味がないってことか」

 

『肯定であり否定。征服人形(コンキスタ・ドール)は魔力がなくとも科学という未知のエネルギーから抽出して魔法を使えるように設計されております』

 

それ、もはや魔法じゃなくてそのまんま科学・・・・・。

 

でも、そうかそうか・・・・・そういうことなら問題ないな。スキル欄を展開して継承させるスキルを選択した。

 

 

絶対防御 悪食 体捌き 受け流し 瞑想

 

 

「スキルを継承せずに使役するとどうなる?他の征服人形(コンキスタ・ドール)もスキルの継承は?」

 

『他の征服人形(コンキスタ・ドール)と同じく、耐久値がある限りは独自でスキルを取得する方針となっております。またスキル継承は別途のアイテムを購入することで可能です』

 

「減った耐久値は回復とか元に戻すことは?スキルでもできないのか?」

 

『ポーションでの回復は否定。スキルでの回復は肯定。後にこの町の店で解放される征服人形(コンキスタ・ドール)専用のアイテムで耐久値を回復させることが可能です。しかし、耐久値が0となった征服人形(コンキスタ・ドール)は消滅、以後は二度と使役することは敵いません』

 

気をつけよう・・・・・。

 

「腐食攻撃は征服人形(コンキスタ・ドール)に通用するか?」

 

『否定。この征服人形(コンキスタ・ドール)のみ状態異常無効化のスキルを取得しておりますので効きませんが、他の征服人形(コンキスタ・ドール)は通用します』

 

何それ、俺も欲しい!

 

「あ、耐久値って増やすことは?」

 

『否定。できません』

 

決められた一定値の数値で活動されるのか。一緒に行動する際は注意が必要だな。

 

「最後だ。絶対防御のスキルを継承したら征服人形(コンキスタ・ドール)の防御力は上がるのか?」

 

『肯定。その場合はステータスの数値が上昇、倍加や倍増するスキルであれば全て使役者のステータスと同じ数値として反映されます』

 

ん、そういうことならこれでいいだろ。機械創造神以外は取得できるから問題ないし。

 

「継承するスキルを決めたぞ」

 

『開始する前にご確認します。継承するスキルはこれでよろしいですね?再度取得できるスキル以外は二度と取得できません。継承しても構いませんか?』

 

「構わない。お願いするよ」

 

『かしこまりました。スキル継承を開始します。これより征服人形(コンキスタ・ドール)、名称〝サイナ〟は死神ハーデス様のパートナーとして以後共に活動します』

 

選んだスキルはスキル欄から消滅して、カプセルが光り輝きだした。弾けるように迸る閃光の中から人の輪郭が浮き彫りし始め―――。

 

 

 

「―――で、サイナちゃんっていう征服人形(コンキスタ・ドール)を手に入れたんだねぇ?」

 

「そういうことだ」

 

合流したイッチョウから意味深な眼差しを向けられるようになった原因を視界に入れる。

 

膝の裏まで長い銀髪から空色の粒子が散りばめている瞳が空色の女性。初心者の装備で佇む彼女を全プレイヤーは人形だと信じないぐらい完璧な人の型に嵌っていた。

 

「機械の神様と戦っていたなんて、ハーデス君はどういう星の下で生まれたらそうなるのかなぁ」

 

「その言葉、イッチョウが俺の立場だったら絶対に同じことを言ってるぞ」

 

「あははー、だよねー。でも、契約条件が必要なら、他のプレイヤーも頑張って条件を達成しないとね」

 

今度はイッチョウの話を聞く。

 

「ダンジョンはあったけど、この町からその先のエリアはなかったよ。ただ、そのダンジョンにも入れなかった」

 

「入れないダンジョン?」

 

「うん、情報が全く無いから全然わからないけどね」

 

特殊なエリア故の特殊なダンジョンということか?一先ずこれらはタラリアに売っておいて、他のプレイヤーに検証してもらおう。

 

「始まりの町に戻るか。イッチョウも今日から一週間、レベル1のまま過ごさないと取得できないだろ」

 

「あ、そうだね。【八艘飛び】も取得したし、満足だよん私は。で、またあのダンジョンの所へ?」

 

「―――いえ、転移装置で戻れます」

 

ここに来て、第三者の声=サイナが言葉を発した。

 

「転移装置?」

 

「はい、片道だけですが始まりの町に戻る転移装置があります。それをご利用なされば早く帰れますよ」

 

「イッチョウ、そんなシステムがある事知ってた?」

 

「これでも第2エリアの町に進出してるよ?知ってたけどこの町にもあるなんてね。それなら直ぐに帰れるよ」

 

「その前にショップ寄っていいか?サイナの専用アイテムとやらを確認したい」

 

俺の要望に叶えてくれたイッチョウとサイナを引き連れて道具屋に赴いたところ。そこで販売されていた数々の・・・・・。

 

「たかっ!高すぎる!一番安いので10万Gかよ!」

 

「主に売ってるのはエネルギー武器と銃火器に付属品・・・・・あ、この広範囲探知機はいいね。プレイヤーやモンスターの居場所を立体的に把握できるよ」

 

「うーん、プレイヤーでも使えたらいいんだが。サイナ達の専用装備だ。あ、5000Gで耐久値完全回復のアイテムが売られてるな。買っておこう。サイナ、お前はどの装備が欲しいか要望あるか?」

 

「これですね」

 

「・・・・・遠慮がないなサイナさんよ」

 

「い、1000万G・・・・・」

 

機械のユニーク装備を指差すサイナに俺達は唖然してしまう。それから、転移装置を利用する前に来た道に戻ってみた。機械の町のエリアが解放されたことでオオサンショウウオモドキとアンコウモドキはどうなっているのか調べるためだ。するとどうだろうか・・・・・。

 

「あれ、変わってるよねこれ。アンコウモドキも含めて八つの足場と湖があった場所に辿り着いた頃なんだけど」

 

「聖樹もないな」

 

イッチョウの言葉通り聖大樹と湖があった場所は樹木の根で洞窟と化してた。聖樹の精霊の祭壇は途中の分かれ道があって、そこへ向かえば見覚えのある祭壇を見つけた。そのまま、オオサンショウウオモドキがいる洞窟へと向かうと戻ってきていないのか水辺にまで辿り着いてしまった。

 

「ステージの構造が変わったのは確かだね」

 

「かもな。サイナ、水中を活動することは?」

 

「専用装備があれば可能です」

 

今はできないと。結局俺達は機械の町まで出戻りし、転移装置で始まりの町に戻った。転移された場所は町の中央。そこから西通りに向かいタラリアへ直行すると長蛇の列が出来上がっていたので、順番を待つことしばらくして。

 

「き、来たわね!!」

 

出会い頭、耳と尻尾を逆立てるヘルメス。

 

「何故身構える」

 

「ここに来たってことは特殊エリアの情報を売りに来たんでしょ!? もうプレイヤー達がそのエリアの情報はまだなのかってしつこく問い詰められて大変だったんだから!!」

 

「藁にすがる思いで俺達から情報を入手したいのは判ったから落ち着け。全部教えるから」

 

「それはそれで破産しかねないんだけど・・・・・!!」

 

いや、するんじゃないかな?

 

「それじゃ教えるな」

 

「ど、どんとこい!!」

 

既に可哀想なぐらい身体を震わせては、負けるな自分!と決死の覚悟を決めた人の顔になってるヘルメスに長々とサイナのこと含めて全てを打ち明けたら「う、うみゃーっ!!!はさーん!!!」と頭を抱えて涙目で空を見上げながらそう叫ぶヘルメスまで3分後。情報料は200万G!でも、巨額な支払いのため銀行や手持ちすら所持してないから後日必ず支払うことになった。当の『タラリア』の資金が破産に追い込んでしまったからな・・・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

【新発見】NWO内で新たに発見されたことについて語るスレPART19【続々発見中】

 

 

 

・小さな発見でも構わない

 

・嘘はつかない

 

・嘘だと決めつけない

 

・証拠のスクショは出来るだけ付けてね

 

 

 

1:メタルスライム

 

早速だが新職業『ガンマー』か・・・・・。

 

 

2:トイレット

 

特殊エリアの機械の町も白銀さんが解放したって聞いて、戦闘中だったのに驚いて死に戻りしてしまったよ!

 

 

3:ヨイヤミ

 

職業欄にガンマーの職業が追加されていたけど、始まりの町じゃ解放することが出来ないみたいだ。やはり解放された新エリアに行かないと駄目のようである。

 

 

4:ふみかぜ

 

ガンマーは男のロマン!この際、ファンタジーゲームなのに銃器の要素を入れるのは?という疑問はかなぐり捨てて早くこの手に銃を手に入れてヒャッハーをしたい!!

 

 

5:アカツキ

 

銃のスキルって貫通攻撃が当たり前のようにありそう。連射も可能だから強そうだしな。

 

 

6:佐々木痔郎

 

片手銃と片手剣の異色スタイルも悪くないな・・・・・。

 

 

7:ロイーゼ

 

そんな職業がこれから解放されるのかね?まあ、剣士と魔法使いの職業を選択して魔剣士を目指すプレイヤーもいるから色物職業としてならワンチャンありかも?

 

 

8:ふみかぜ

 

是非とも実装されていると信じたい!そして新エリアはどこだー!?第三エリア以上の先から一行に進めないんだよ!

 

 

9:アカツキ

 

多分、何かのギミックやイベントを攻略しないと先へ進めないようにしてるんじゃ?良ければだけど他の皆は現在進行形で何してるか訊いても?

 

 

10:メタルスライム

 

 

ひたすらレベル上げ。

 

 

11:ふみかぜ

 

 

↑に同じく

 

 

12:トイレット

 

 

↑同じく

 

 

13:ヨイヤミ

 

 

資金集めにポーションを量産中。

 

 

14:佐々木痔郎

 

 

白銀さんの真似してファーマーしてる

 

 

15:ロイーゼ

 

≫14おいwあ、俺もレベル上げ。たった今レベルが上がって上位職業に転職できるようになった

 

 

16:アカツキ

 

佐々木痔郎以外、順調にプレイしているけど。白銀さんの場合はどうしたら予想斜めな結果を叩き出すプレイをするんだか

 

 

13:ヨイヤミ

 

 

俺達が気付かないことを気付いてやってるか、無意識にやっているとしか思えない。

 

 

14:メタルスライム

 

 

佐々木痔郎。他のプレイヤーの真似をして得したことがあるのか。因みに情報とかあるか?

 

 

15:佐々木痔郎

 

 

おう、ファーマーのプレイも案外悪くないって感じて楽しくなってきたのと、白銀さんがファーマープレイしてるからか、妙にファーマー一筋のプレイヤーの間では有名になってきてる。何でも白銀さん、お近づきの印に白銀産の林檎の苗木をプレゼントしたんだってさ。しかも『植物知識』っていうスキルの第一発見者だとか。俺もその取得方法を聞いてすぐに取ったよ。

 

 

16:トイレット

 

 

白銀産wwwww

 

 

17:ロイーゼ

 

 

そんな東京の銀座っぽい言い方で草が生えるwwww

 

 

18:佐々木痔郎

 

 

ファーマーじゃなくても農業ギルドの貢献レベルを上げれば、無人販売機が使えるようになる事もわかった。今後も白銀さんが無人販売機を使えるようになったら、きっと騒ぎになるような物を販売すると他のファーマープレイヤー達は確信してるっぽい

 

 

19:ふみかぜ

 

 

よくそこまで調べたな。白銀さんを知るには同じことをしろと?

 

 

20:メタルスライム

 

 

相手を知るにはまず同じ立場にいることが大事だと言うぐらいだ。あながち間違ってないだろうな。

 

 

21:佐々木痔郎

 

 

( ・´ー・`)

 

 

22:アカツキ

 

 

ドヤ顔するなや。自慢でもないぞそれは。というか白銀さんが『植物知識』の第一発見者だったのか。ファーマープレイヤーの真似してそのスキルは得するのか?効果は?

 

 

23:佐々木痔郎

 

 

外のエリア中に生えてる木々と植物の名前が分かる程度だ!だけど大工や木工プレイヤー達からすればこのスキルは垂涎もので、見たことも手に入れたこともない木材を欲しいあまり、一時期はかなり高騰した値段で売買してた。おかげで俺の懐はウハウハだ!

 

 

24:メタルスライム

 

 

それは重畳だが、それも白銀さんの影響があったからこそだろうな。

 

 

25:トイレット

 

 

あの人がやることなすこと、しでかすことやらかすことは俺達プレイヤーに影響を与えるって・・・・・

 

 

26:ヨイヤミ

 

ああいう人が後々有名人になるんだろうな。その影響力、あやかりたい

 

 

27:佐々木痔郎

 

ならば、共にファーマープレイをしよう!今なら白銀さんと接触できるチャンスがあるぞ!

 

 

28:ロイーゼ

 

 

こいつ、勧誘しやがりだしたwそんな簡単に接触出来る筈が・・・・・

 

 

29:佐々木痔郎

 

 

はい、スクショ

 

 

30:メタルスライム

 

 

・・・・・なんだと?

 

 

31:ふみかぜ

 

 

この銀髪に澄んだ青い瞳・・・・・も、もしかして・・・・・。

 

 

32:佐々木痔郎

 

 

そう、彼の有名になりつつある白銀さんである!いや、あの人。普通に話しかけやすい人でテイムモンスを紹介してくれたり色々としてくれたよ。さっき、新ダンジョンと新エリアの『機械の町』の情報をタラリアに売ってきた帰りだそうでさ。俺もその情報を買いに行ってきました。自然な流れでフレンドコードの交換もしてくれた。あの気さくさな性格は嫌いではないよ・・・・・お互いイベントも頑張ろうなって言われたし、まだ売ってないって言うハーブティーの試飲もお願いされて飲んでみたらすっごく美味しかった。

 

 

33:アカツキ

 

上から目線で言われたわけでも自慢するわけでもなく、同じプレイヤーの一人として接する態度と無欲さがゲームを楽しむ秘訣という・・・・・?

 

 

34:ヨイヤミ

 

 

うぐっ・・・・・!!こ、心が痛い・・・・・っ!!!え、ハーブティー?

 

 

35:佐々木痔郎

 

 

というわけで、手が空いているなら今から新エリアに行かないか?白銀さんに見倣ってゲームを楽しむ秘訣をしたいからさ°˖✧◝(⁰▿⁰)◜✧˖°(澄んだ眼差しで誘う)

 

 

36:ふみかぜ

 

 

最後の方が気持ち悪い。行くけど

 

 

37:メタルスライム

 

 

俺もパーティの皆に声を掛けて同行させてもらおう。気持ち悪いぞ

 

 

38:ロイーゼ

 

ファーマープレイの真似するだけでなく白銀さんの真似を始めるつもりはないだろうな?行くけど最後が台無しだ

 

 

39:トイレット

 

ということは丁度パーティの上限で行けてメタルスライムのパーティとチーム組めば行けるな。一人もはぶれず安心したのと、佐々木痔郎は気持ち悪い

 

 

40:アカツキ

 

これもゲームを楽しむ醍醐味という奴だな。案内は任せる

 

 

41:ヨイヤミ

 

 

佐々木痔郎さん。お願いしまーす

 

 

42:佐々木痔郎

 

 

≫40と≫41以外は連れて行かねぇ!あ、ここだけの話。何でも新エリアにはモンスターではないNPCでもない機械の武器をカスタムできる征服人形(コンキスタ・ドール)ってのがいるらしい。因みに全員女性だって

 

 

43:ロイーゼ

 

 

なんだそれ?白銀さんは手に入れているのか?

 

 

44:佐々木痔郎

 

 

手に入れていた。まるで従者のように白銀さんと一緒にいたよ。すっごく美人だった! はい、スクショ。さらにここだけの話、取得したスキルを征服人形(コンキスタ・ドール)に継承することができて、戦闘系にも生産系にも活動させることができるんだって。でも継承したスキルはスキル欄から消失して一から取得し直さなきゃいけないデメリットもあるんだとか。

 

 

45:ふみかぜ

 

 

ナニコレ!?そして何それ!?つまりこんな美女とパーティを組んで一緒に活動できるってこと!?マジで美人だ!!

 

 

46:トイレット

 

 

こ、このドールちゃんを手に入れる方法は!?

 

 

47:佐々木痔郎

 

 

悪い。それ以降の話は教えてもらえなかった。掲示板に一部だけ流して言い条件ってことでこの情報を提供してもらったんだよ。それ以上の事はタラリアから情報を買えってさ

 

 

48:アカツキ

 

 

ぐぬぬ・・・・・そんなの買うしかないだろ!

 

 

49:メタルスライム

 

パーティのメンバーが凄い勢いでタラリアに走って行ってしまった。それだけじゃなく、一部のプレイヤー達が慌てて走り出す現象は・・・・・。

 

 

50:ヨイヤミ

 

悟ってやれ。それよりハーブティーのことが聞きたい。

 

 

51:佐々木痔郎

 

それなら問題ない。飲んだハーブティーの品質は★5だったよ。無人販売機が使えるようになったら販売するって

 

 

52:ロイーゼ

 

何その品質の数値!?

 

 

 

 

町に戻って畑でオルト達と一緒にいるリヴェリアに話しかけた。光の結晶と闇の結晶について何か知っていないかと尋ねたいから二つの結晶を見せると、彼女はまじまじと確かめるような眼差しで視線を向けて来た。

 

「光の結晶と闇の結晶・・・・・ノーム達のような精霊がもう二ついるということですか?」

 

「リヴェリアでも知らないのか」

 

「ええ、私達エルフの間でも四大精霊の言い伝えしか知り得ません。恐らく一度も現世に干渉しなかった精霊なのでしょう」

 

人間界に一度も干渉しなかった光と闇の精霊・・・・・だったら、どうやってこの二つの結晶を捧げるギミックがある場所を探さないといけない?この世界の創世神話では―――。

 

 

確か月の日に闇神が世界を作り、火の日に戦神が火をもたらし、水の日に海神が水を降らせ、木の日に樹母神が緑を生み、金の日に天神が空気を作り、土の日に地神が大地を創造し、日の日に光神が世界を祝福した。

 

―――だ。

 

タラリアの情報網でもなかった。見つけたプレイヤーが秘匿しているか、第3エリア以降のエリアにあるのかどちらかだ。光の結晶を晴天の太陽にかざす。太陽の光に照らされ結晶は淡く輝く。

 

「うーん・・・・・」

 

まぁ、別に急いで探すことじゃないな。今は消失したスキルを再取得だ。



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新発見続々2

消失した【絶対防御】等のスキルの取得は数時間を経てようやく取得し直した。以前の戦闘力に戻した後はサイナと従魔ギルドや農業ギルドのランク上げを専念して一日を費やした。その成果で農業ギルドのランクは5、従魔ギルドは4となって、新しいアイテムを売られるようになった。従魔ギルドはハニービー、リトルベアという蜂と熊が親という天敵同士の配合で生まれた卵。それをと成長促進孵卵器もセットに購入して孵化するまで畑の納屋に設置した翌日の事。

 

学校へ赴くため分身体に代わってゲームをさせる日課が始まった。

 

オリジナルの代わりに分身体の俺は、念願の無人販売機が使えるようになったので、これまで温めて来たアイテムを一気に販売することにした。まずはハーブティー。品質★5のは500Gにしてハーブの種と茶葉を200Gに設定。無人販売機は5つしかアイテムを販売できないようだから、クッキーとジュース類の購入制限は1つまでにしよっと。

 

「あ、白銀さんだ!」

 

「こんにちはー」

 

無人販売機を弄っている最中に聞こえてくる女の声。聞いたことがあったから振り返ると、プリムとネネネが速足で寄ってきた。

 

「白銀さんも無人販売機を使えるように・・・・・ハーブティーだ!クッキーとジュースもある!」

 

「先駆者の称号を持ってるだけあって先に進んでる。あ、ハーブの種も売ってるんですか?」

 

「他のプレイヤーもハーブを育てて自分でハーブティーを作ってもらいたいからな」

 

「独占とか考えは?」

 

「したくないと言えば嘘になるが、どうせ後々【植物知識】と花屋の存在にプレイヤー達が気付く。他のファーマープレイヤーに教えたんだろ?」

 

肯定の意味で頷くネネネ。なら時間の問題だ。

 

「―――このハーブティー、すっごく美味しい!クッキーもハチミツアップルジュースも美味しい!」

 

「あ、先越された。私も買う」

 

「初購入者第一号と二号が二人とはな。ノーフは?」

 

「まだログアウトですよー。ふっふっふ、他の皆に自慢しちゃおっと!」

 

あっという間に飲食終えたんかい。

 

「確かに美味しい。料理スキルと調理スキルに調合スキルが高くないとここまで仕上がりができないのかも」

 

全部レベル30だからな。それと手動で作った出来栄えが良かったんだよ。

 

「白銀さん、機械の町はどうでした?ファーマーに関わる物とかありました?」

 

「それはなかったな。ただ、面白い物はあったぞ。空飛ぶ機械のアイテムを買えば空を自由に移動できるのがあった。数万Gも掛かるけどな」

 

「空を飛べる!?白銀さん、それいま持ってます!?」

 

「あるにはあるけど」

 

「・・・・・それ、貸してもらえることとかは?」

 

「貸すことはできないだろ?できるのか?」

 

「レンタル料1000Gでいいですか?」

 

何故にかレンタル料が発生したんだが。まぁ、別に貸すぐらいなら構わないんだがな。

 

「じゃあ、ほれ」

 

「ありがとうございます」

 

「あー!ネネネ、ズルい!」

 

「早い者勝ちだよ。・・・・・なるほど、こういう感じに使うと」

 

早速ネネネは空飛ぶ機械のアイテムの操縦桿を握って、俺達を地上に置いて空へと飛んでいった。

 

「いいないいなー!すっごく気持ちよさそう!」

 

人は空飛ぶことを憧れている種族だとか聞くけど、本当にそうなんだなと顔を輝かせるプリムを見て微笑んでしまう。それからネネネは始まりの町を一周してから戻ってきたようでしばらく時間が経った頃に戻ってきた。

 

「乗り心地はどうだった?」

 

「最・高!!!」

 

「おお、いつもクールなネネネが珍しく高揚してるっ」

 

「リアルでも付き合いがあるようだな」

 

「親友で同じ学校に通ってる同級生ですからね。あともう一人いるんですけど人見知りでいつも引き籠っているんですよ」

 

「家でか?」

 

「私達と同じ生産職をプレイしてます。主に爆弾作りがハマってしまってそういう意味で引き籠ってるんです」

 

爆弾作り・・・・・初めて聞いた単語だ。職業欄に・・・・・あ、あった爆弾使い。

 

「爆弾使いか」

 

「はい。その子の家、花火師の家系だから自ずと花火=爆弾を創れるゲームだと知るや否や、速攻でその職業を選んで楽しんでいます」

 

パーティで戦う時が気を遣いそうだな。ちょっと興味沸いたけど。機械の町にも色んな機械の道具があったな・・・・・その中には爆弾系統の―――。

 

「あ、メールだ・・・・・プリム、あの子が来るよ」

 

「えっ、一緒に遊ぶため?」

 

「私が乗ってた機械のアイテムを見てたらしく、機械の爆弾があるのか直接聞かせて欲しいって」

 

「あったぞ」

 

「報告させてもらいますね。・・・・・速い」

 

どっちの意味で?と言うまでもなく、この場に走ってくる一人のプレイヤーが髪をなびかせながら接近してきた。漫画だったら背景に砂か土煙を起こしながら、全力疾走して走る幻覚を見えてしまいそうなぐらいだ。

 

「機械の爆弾はどこだー!!」

 

カラフルなアフロ、額に鉢巻を巻いては花火祭と書かれた法被を身に着ている忘れそうにない印象な出で立ちの少女のプレイヤー。背中にでっかい砲筒を背負っているのは武器としてか。

 

「ネネネ、新種の爆弾はどこだ?嘘だったら爆弾ぶっ放すよ」

 

「こっちこっち」

 

「ん?」

 

俺の方へ指差すネネネに釣られて視線をこっちに変える祭り少女。

 

「白銀の髪・・・・・ああ、噂の白銀さんか。あなたが新種の爆弾を持ってるのか?」

 

「機械の町に見かけた程度だ。持っているとは一言も言ってないぞ。使い捨て用の爆弾として売られてもいたから嘘ではないが。ほら証拠にスクショだ」

 

「・・・・・これが新エリアに売られてる爆弾。こうしちゃいられない!今すぐ行かなくちゃ!」

 

名も知らぬ少女は踵を返して走り去っていった。まるで嵐のような存在だったと思わせる言動に呆気に取られてしまった。

 

「すみません白銀さん。三色のご飯よりも色恋よりも花火が恋人だと豪語するほど花火に情熱を捧げている娘で」

 

「まぁ、楽しそうで何よりじゃないか?一緒に遊べなくて二人はどうなんだか知らないが」

 

「爆弾の威力の検証によく付き合わされているから問題ないです。出来るかどうか知らないですけど、城を丸ごと吹っ飛ばす威力を目指しています危険な思考の持ち主ですが」

 

・・・・・・エクスプロージョンの取得法を教えたらどうなる事やら。

 

「あ、そうだ。次私の番だよ。貸して貸して」

 

「白銀さんにレンタル料払いなよー」

 

「はい!」

 

2000Gも儲かった。プリムも操縦して空飛ぶ体験をした後、さっきの祭り少女の子と新エリアへ行く話が決まったそうで俺に別れの言葉を残して合流しに行った。

 

「俺もやることをしますかね。オルト、まずお前からレベルを上げに行くぞー」

 

「ムー!」

 

「サイナ、販売機の商品が売切れたら追加することはできるか?」

 

「お任せください」

 

手伝いもできるのか。戦闘と生産も可能な征服人形(コンキスタ・ドール)はどこまでできるのか後々確かめたいところだ。オルトを引きつれ、毒竜の洞窟へ飛んで向かった。ここならオルトのレベル上げもあっという間に終わるだろう俺の考えは正しく、オルトを毒竜に一撃入れてもらった後に俺が【悪食】で一撃で倒すとオルトのレベルが一気に9レベルも上がった。この結果に味を占めた俺はもう一度だけ挑戦して二度目の毒竜討伐を成功すればオルトはレベル15になった。この機にミーニィとゆぐゆぐ、アイネのレベルも上げまくった。いやーたまに楽をするのもいいね!特にミーニィは新しい魔法を覚えたのがよかった。

 

「ただ、お前達は進化するのはまだ先なんだな」

 

「ムムー?」

 

「ま、進化させるとしても生産系の方だな。今更戦闘系になんてする気がない。これからも畑作業よろしくな」

 

「ムム!」

 

そして、テイムモンス達が全員のレベルが15以上になったから畑に戻る。

 

「これ、何だ?」

 

納屋の真ん前に謎の物体が鎮座していた。楕円形のその形は、パッと見ラグビーボールにも見えるな。色は薄緑で、テカテカと輝きを放っている。

 

「もしかしなくても卵か?」

 

購入した卵とは大分色味が違うが、形は似ていた。鑑定してみよう。

 

 

従魔の卵:親:オルト、ゆぐゆぐ

 

 

「おお! オルトとゆぐゆぐの卵か!」

 

卵の誕生は、相性の良いモンス同士を同じ牧場や同じホームで育てていると、その魔力が混ざり合い、ごくまれに産まれることがあるという設定だ。子供向けに生々しさを出来るだけ排除したのだろう。生殖的な表現がなかったのが逆に印象的だった。オルトとゆぐゆぐは人型で、どちらも精霊っぽい種族だ。確かに相性は良さそうだな。あと、モンスは生涯で1度しか配魂ができない。なので、オルトとゆぐゆぐは今後配魂ができない。

 

その分、サモナーの独自システムである従魔合成よりも効果が高いという話だが・・・・・。どんな子供が生まれるかね? 今から楽しみだ。ノームが生まれたら、畑を一気に拡張しても良いな。樹精だったら、パーティー戦闘がより安定する。どちらでも良いな。

新種になる可能性もあるが、どうだろうか。人型になる可能性は高そうだけど。

 

「これは獣魔ギルドに行くか」

 

孵卵器を入手しないといけないからな。オルト達を引き連れて従魔ギルドへ赴くと。

 

「いらっしゃいませ~」

 

バーバラが出迎えてくれた以外珍しいことに今日は人が多いな。なんと俺以外に5人もプレイヤーがいるぞ。

 

来るたびに俺しかいないかったからだ。たった5人でも十分珍しい。5人中4人が女性というのも、テイマーやサモナーの特徴が出ているね。モフモフは正義っていう事なんだろう。

見覚えのある籠を背負っているプレイヤーがいるな。初心者か? 大変だろうけどゴミ拾い頑張ってくれ。

 

「どうされました?」

 

「実は従魔の精霊と樹精が卵を産んだんだ」

 

「まあ、おめでとうございます。では、孵卵器のご利用ですか?」

 

「ああ。個人用孵卵器を見せてもらえる?」

 

「その前にクエストをご報告されては?」

 

「え?」

 

バーバラが依頼の一覧を俺に見せてくる。すると、達成可能なクエストが2つもあった。

 

 

特殊クエスト

 

内容:自分の従魔が生んだ卵をバーバラに見せる

 

報酬:3000G

 

期限:なし

 

 

 

特殊クエスト

 

内容:両親がユニークモンスターの卵をバーバラに見せる

 

報酬:30000G

 

期限:なし

 

 

2つ目のクエストの報酬が凄い。かなり達成が難しいってことだろうな。ユニークモンスを2体揃えるのも難しいのに、卵を産んでもらわなきゃならないし。

 

「いやー珍しい卵、素敵でしたー」

 

卵でさえ愛でる対象とは。モンスターマニア恐るべし。美女がでかい卵に頬ずりしている姿は凄まじくシュールだ。

 

「これで、死神ハーデス様はランクアップに必要なギルド貢献度が溜まりました。ランクアップのクエストを受けられますか?」

 

このためにバーバラさんはクエストを先に達成しろって言ったのか。

 

「受けるけど、孵卵器とこれって何か関係あるのか?」

 

「大ありですよ。ギルドランクが5に上昇しますと、購入可能な孵卵器が増えますから」

 

「え、まじで?」

 

「はい」

 

買う事は出来なくても、情報は教えてもらう事が出来た。ランクが上がることで購入可能になる孵卵器は3つもあるらしい。すでに購入可能な通常孵卵器、成長促進孵卵器に加えて、能力上昇孵卵器、戦闘技能孵卵器、生産技能孵卵器が買えるようになるらしい。

 

「うーん。意外と高いな」

 

増える3つはどれも成長促進孵卵器の倍以上している。能力上昇孵卵器が15000G。戦闘技能、生産技能に至ってはなんと20000Gもするのだ。ただ、その効果は破格だ。

 

能力上昇孵卵器は、初期ステータスがランダムで+8。戦闘技能孵卵器では初期ステータス+3に加えて所持スキルに戦闘系スキルが追加される。そして、生産技能孵卵器では初期ステータス+3と、その名の通り生産スキルが追加されるらしい。

 

ランダムなのでスキルは選べないらしいが、生まれてくるモンスが全く利用できない死にスキルは追加されないということだった。

 

「これは、絶対にこっちがいいじゃないか」

 

卵は1週間保管しておける。その間にランクを上げればいい。ランクアップクエストの達成条件は、Lv10以上のモンスターを3匹連れてくることだ。なるほど、そういうことなら楽勝だ。

 

「はい」

 

「クエストの報告ですね。はい、確認しました」

 

『ランクアップクエストを達成しました。ギルドランクが5に上がりました』

 

上がった。これで新たな孵卵器が買えるな。レベル上げしておいてよかったー。

 

購入可能な孵卵器のリストを改めて確認すると、以前言われた通り新しい孵卵器が3種類増えていた。

 

能力上昇孵卵器が15000G。戦闘技能、生産技能に至ってはなんと20000Gだ。

 

能力上昇孵卵器は、初期ステータスがランダムで+8される。モンスターの地力を上げるにはもってこいの孵卵器だ。どんなモンスが生まれてくるか分からない場合は、無難と言えば無難と言えるだろう。

 

戦闘技能孵卵器では初期ステータス+3に加えて所持スキルに戦闘系スキルが追加。生産技能孵卵器では初期ステータス+3され、生産スキルがランダムで追加されるのだ。

 

「んー、孵卵器を使うのはオルトとゆぐゆぐの卵だからな」

 

人型の可能性が高い。ノームが生まれるのか、樹精が生まれるのか、他のモンスターが生まれるのか。

ただ、ノームが生まれた場合、戦闘技能孵卵器がどうなるのか分からない。無事に戦闘技能を獲得して、戦うノームになれるのか? それとも戦闘能力なしの特徴が優先されてステータスアップ効果しか発揮されないのか?気にはなるが、さすがにこの卵で実験する勇気はないな。大人しく生産技能孵卵器を買っておこう。

 

孵卵器を無事購入した俺は、数時間ぶりに畑に戻ってきた。

 

だが、俺の畑の前にいたプレイヤー達が列を作っていた。・・・・・何事だ?・・・・・ああ、俺の無人販売機に売ってる商品を買いに来ているだけか。ちょっと驚いたな。

 

 

すぐに無くなるわけじゃないだろうけど商品の在庫の確認と補充をしちゃうか。とはいえ、今は手持ちにそこまで沢山はないし、作らないとな。まずは早速収穫からだ。オルト達にはハーブから採取するようにお願いする。

 

俺は先に納屋の中に孵卵器を設置だな。

 

「いや、待てよ・・・・・。その前に一応錬金のレシピに確か孵卵器が作れるはずだ」

 

そう思って錬金のレシピのリストを確認したんだが・・・・・。

 

「これは・・・・・どうしよう?」

 

確かに孵卵器を使うレシピがあった。しかも4つ。だが、その素材が問題だったのだ。それぞれに、生産技能孵卵器+アイアンインゴット。そこに火結晶、水結晶、土結晶、風結晶が必要だった。だが、4つもあるし、1つ使ってもいいかな?オルトとゆぐゆぐの子供がより強化されるんだったら・・・・・。

 

よし、使っちゃおう。オルトとゆぐゆぐの卵だ。出来るだけのことはしたい!

 

「よし、孵卵器のレシピを試したら、その後は畑を買いに行こう」

 

先に錬金だけどね。改めてレシピを見る。孵卵器にアイアンインゴット。そこに結晶なわけだが・・・・・。どの結晶を使おうか? 普通に考えたら、生まれてくる子供にその属性が付加されたりとか、その属性のスキルを覚えたりっていう事だと思う。

今足りてないとすると、火だな。

 

「うん。ここは火結晶にしとこう。風よりはまだ畑仕事に使えそうだ」

 

焼き畑農業とか、温室とかね。

 

新しい孵卵器になったら、生産技能は覚えられなくなるだろうが・・・・・。これだけ良いアイテムを使うんだから、錬金で作った孵卵器の方が上位の孵卵器のはずだ。だったら、そっちに賭けてみるのも良い。

 

「最高の孵卵器を作ってやるからな。待ってろ!」

 

「ム?」

 

「――?」

 

という事で、錬金だ。そう思ったんだが・・・・・。

 

 

『設備のレベルが不足しています』

 

 

え・・・・・設備が?簡易錬金セットじゃダメってことか?新しい錬金セットを買えと?まあ、初心者用の錬金セットだしなー。

仕方ないか。俺の錬金もそれなりに育ってきたし、次の段階に進めってことだろう。ついでに調合セットや料理セットも新調しちゃおうかな?

 

「マスター。予想以上の消費です」

 

「そうか、俺もこんなに売れるとは想像もしなかった」

 

納屋の中で調合を続けて、各50個程のハーブティーの茶葉を作った。補充しに無人販売機へ顔を出すと。

 

「あ、白銀さんこんちわーっす」

 

「え? あれが白銀さんなの?」

 

「そうだよ。ノーム連れてただろ?」

 

「そうだったのか!」

 

俺の正体が即行でばれたのはもう良い。この展開には慣れた。しかしさっきまで5人だったのに、僅かな間に10人に増えている。もしかして俺が思っている以上に大事なのか?開店したての無人販売機の商品が珍しいから?

 

こんな状態が続いて購入者が増えるようなら、あっという間に売り切れそうだ。これは新しく畑を買ってハーブを育てないと・・・・・ノーフ達も巻き込むか。

 

所持金は約56000G。問題はない。どうせなら5面くらい買っちゃおうかな? だが、俺の野望はあっさりと打ち砕かれることとなる。

 

「あなたのギルドランクだと全体で40面。1つの町で最大20面までしか所有できないの」

 

なんと、畑は無限に所有できるわけじゃなかった。ランク4の時には、全体で20面。1つの町で最大20面までしか所有できなかったのが、ランク5に上がったことで全体での最大所有数が倍になったらしい。

 

「次に増えるのはランク10になってからね。頑張ってね」

 

ランク10に上がると、最大で60面。1つの町で30面まで所有可能になるようだ。今、畑は18面。結局2つしか買えなかったな。

雑草用の畑はこれで9面になった。普通の畑を潰してまで雑草を育てたくはない。ポーションや野菜も使い道があるからな。

 

「うーん、とりあえずこれでやりくりするしかないのか」

 

これは、次の町を目指す時が来たってことか? 大きな町同士だと、お金を払えば転移できるらしいし。離れた町で畑を買っても、同時に面倒を見ることは不可能ではない。

 

「あー、そろそろ昼飯だな。じゃ、オルト達またくるよ」

 

「ムムー」

 

一旦ログアウトして昼食作りでもしよう。魔力の塊である俺には不要だけど小休憩ぐらいはしておこう。

 

―――一時間後。

 

もう一度ログインすると、真っ先に無人販売機に顔を出しに向かったところ―――。

 

「おおう・・・・・完売」

 

商品がすっからかん。50000G以上の利益を残して全部買われた後だったこの結果に唖然と佇んでしまった。

 

「あーようやく来たんだ」

 

「ん?ああ、ノーフか。待ってた?」

 

隣の畑、ノーフが自分の畑から出てきたからなにか用事かと思ったがそうでもなかった。

 

「いや、白銀さんがいない間に畑を弄っていたんで待っていたわけじゃないけどさ。白銀産のハーブが瞬く間にプレイヤー達の間で広まったからか、あっという間に売られた光景は凄かったぞ」

 

「それ、プリムとネネネの仕業だろうな。自慢するとか言ってた」

 

「ああ、本当うざったいほどに自慢話されたわ!白銀さんの初めてをもらいましたー凄く美味しかったー、新エリアの空飛ぶアイテム最高とかな。・・・・・だから白銀さん」

 

トレード申請、1000G・・・・・これは。

 

「俺もレンタルさせてくれ!」

 

凄く切実に頭を下げながらレンタル料金を払ってくるなよ・・・・・。

 

「始まりの町を一周だ。返せよ」

 

「ありがとう。・・・・・行ってきま~す!」

 

その後、彼も新エリアに旅立ったのは言うまでもなかった。

 

 

 

 

 

「いらっしゃい」

 

「初心者錬金セットが欲しいんだけど。ある?」

 

「ああ、あるよ。1つ2000Gだね」

 

錬金術店に顔を出して店主の老人に2000G払い、錬金セットを受け取る。これ以上のセットが欲しければ、錬金ギルドに登録してギルドランクを上げなくてはいけないらしい。登録しておくか。俺はその足で、ここまでの道中に見つけた調合ショップ、料理ショップを覗いてみた。案の定、初心者調合セット、初心者料理セットが売っている。これは買いだ。そしてこれらのギルドの登録もした。

 

「これで生産セットが全部新調できたな」

 

納屋の中で初心者錬金セット、孵卵器、インゴット、火結晶を並べながら今後の生産活動の楽しみさに胸が躍る。さて、目的も達成したし、作ろうか!レシピを見ながらまずは素材の下処理から始めた。

 

―――30分後。

 

 

名称:火属性付加生産技能孵卵器

 

レア度:4 品質:★5

 

効果:孵卵器。誕生するモンスターの初期ステータスがランダムで+4。初期スキルにランダムで生産技能が追加。初期スキルに火属性スキル、火耐性が追加。

 

 

レア度が4!能力が凄い。品質のおかげなのか、初期ステータスが+3から+4にアップしているし。効果を信じるなら、生産スキル、火属性スキル、火耐性の3つも追加されるってことだぞ? 

 

「初めて本格的な錬金にしては成功じゃないか?」

 

ぶっちゃけ、ゴールドインゴット、シルバーインゴットを素材に使う孵卵器のレシピあるだろこれ。そしたらレア度と品質も7以上で初期ステータスが+5にも6にも7にも増えるだろう。・・・・・ちょっと、錬金術師のレベル上げでもしておくか?オルトとゆぐゆぐの卵を完成した孵卵器にセットしながら考えているとイズからメールが送られてきた。

 

『やっぱり今度じゃなくて今でお願い!!!新エリアのダンジョンは生産者しか入れないって情報を入手したの!!!ミスリルのピッケルをあげるから案内して!!!』

 

「・・・・・」

 

凄い熱意がメールから伝わってくる。これ、断ったら駄目なやつだよな。了承のメールを送るとすぐに集合場所を指定する彼女と合流するため行動する。

 

 

 

そうして再び機械の町にとんぼ返りして飛行すること五分。

 

俺とイズはダンジョンの前に辿り着いた。

 

「生産者しか入れないダンジョンだったとはな」

 

「知らなかったの?」

 

「今思えば、この町も生産に関するアイテムが多くあるのに気付かなかったぐらいだ」

 

「最初に来たばかりで情報もないままだから気付かないのも無理はないわ。さ、中に入りましょ?ハーデスも生産職にジョブチェンジしたから入れるでしょ?」

 

「そしてお供にノームのオルト先生もな」

 

「ムムー」

 

俺の足元で採掘する気が満々なオルトがクワを掲げた。

 

「さて・・・・・このダンジョンの中にはどんなものが眠っているのか楽しみだわ!」

 

意気揚々とダンジョンの中に入る彼女の背中を追いかけて歩く。見つけた鉱石や結晶はすぐにガンガン採掘していく。

 

「わぁ、初めてみる鉱石と結晶よ!」

 

「流石新エリアだ。新しい要素が盛りだくさんだろこれ」

 

「ありがとうねハーデス!新しいエリアを見つけてくれて!」

 

どう致しましてと言葉を返す俺はイズに訊ねた。

 

「生産職、鍛冶師のプレイはどんな感じなんだ?」

 

「えっとねー」

 

イズは語ってくれた。生産職は武器スキルや火魔法などの魔法を一切覚えることが出来ないかわりに専用のスキルを覚えられる。

 

それは【鍛冶】だったり【調合】だったりするわけだ。

ただ、それらは工房でしか使えない。

例外として【調合】はレベルⅤまでに作成出来るものはどこでも作ることが出来るが、当然素材が必要であり、ものによっては持てる数に制限がある。

 

例えば生産職の貴重な攻撃手段である爆弾は工房でしか作れず、持てる数が五個と少ない。

ポーションは二番目に回復能力の低いものまでしか作れない。

また、武器攻撃でのダメージが減少するという面倒臭いおまけつきだ。

その代わり、【鍛冶】などのスキルで装備を完成させた際に経験値が入る。

 

つまり生産職に戦闘は厳しいということである。

 

 

生産職とはそれでも構わないと生産にのめり込んだ者達なのだ。

もちろんイズも例外ではない。

むしろ、イズは生産界のトップに上り詰めつつある。

生産に関わるあらゆるスキルを上げるため発売日からひたすら鉱石を掘り、鍛冶をし、裁縫をし、栽培をし、調合をし、時には徹夜しつつのめり込んだ。時間は強さに変わり、生産能力では右にならぶものはいない。その代わりに生産職の貴重な攻撃スキルである【投擲】のレベルが低めである、と苦笑するイズ。

 

【投擲】とはナイフなどのアイテムをぶん投げることで与えられるダメージを増加させるスキルである。

イズは素材は取ってきてもらうに徹していたので、【投擲】が低いままなのだ。

 

「あ、こっちには釣りスポットもあるのね」

 

鍛冶師をプレイしているイズが語り終えた頃は、別の場所へと移動しては釣竿を取り出すと釣りを始める。

釣れるのはこれまた見たことのない素材をドロップする魚達。

イズの目は無邪気な小学生並みにキラキラと輝いていた。俺達は釣りを終えると更に奥へと進んでいく。

 

「モンスターが全然出てこないわね。私としてはありがたいけどね」

 

「いたら逃げるしかないだろ。唯一の武器がピッケルとクワなんて不安過ぎる」

 

生産者しか入れないダンジョンに生産者では倒せない敵ばかりを配置するわけにもいかない。

その延長線で、ここはモンスターが特定の場所でしか出なくなっていた。

ボスモンスターとだけしか戦わないことも可能である。

 

イズは途中の部屋で背中に結晶を生やしたモンスターと出会ったが、戦闘を避けた。

 

「戦わないのか?」

 

「うん、勿論理由はあるわ」

 

その理由とはボスの情報を既に持っていたからである。

 

ボス部屋には入った瞬間から脱出用の魔法陣が輝いており、ボスを倒さなくても脱出することが可能だということも、ボスが纏う結晶が目当ての素材であり、ピッケルで常に採取出来ることも知っていたのだ。

そのため、ピッケルを使えば良いと考えられたものの余計な消費は避けておいたのである。

そうして雑魚との戦闘を避けて採取を繰り返しているうちに俺達は辿りついたボス部屋の扉をぐっと押し開け中に入る。

 

部屋は全てが美しく輝く白水晶に覆われていた。そして部屋の奥で丸まっていた、背中に同色の水晶を蓄えに蓄えた大きなトカゲがゆっくりと起き上がった。

 

「ほほう、随分重たそうだな。なんなら軽くしてやろうか?そのためにはさ・・・・・」

 

「背中の水晶・・・・・もらうわね?」

 

「ムムムー」

 

そう言う俺とイズ、オルトはピッケルとクワを構えた。トカゲを見る目は狩人そのものであることを誰も指摘されなかったがな。

 

 

「よっ・・・・・はいっ!」

 

イズはトカゲが突進してくるのを余裕を持って躱すとピッケルを振り下ろして再び距離をとる。イズも生産職とはいえどなかなかの【AGI】を持っているようだ。そのため動きの遅いトカゲの突進を躱すのは容易だった。イズがトカゲの方を向くとトカゲのHPが減っていることに気づくことが出来た。

 

「情報通りね・・・・・私のこのミスリルピッケルなら余裕で倒せるわ」

 

イズのピッケルは運と時間が作り上げた最高傑作。イズは全ての結晶を破壊することも不可能ではないと計算し終えた。ただ、トカゲの速度は結晶を削れば削るほど上がっていく。それに対応出来るかどうかだ。

突進するトカゲを躱しては結晶を採取してをひたすら繰り返す。

そうしているうちにトカゲの動きが変わり壁を走ったり、天井に張り付いてから落下して背中の水晶で攻撃したりしてくるようになった。

 

「あら・・・・・地面に刺さるのね?じゃあ遠慮なく・・・・・」

 

鋭い水晶を下にして天井から落ちたことにより床にぐっさり刺さったトカゲは復帰までに時間がかかる。

その間にピッケルを振るい、剥き出しの腹に向けて爆弾を投げる。

しかし、爆弾ではダメージを与えることが出来なかった。

 

「あら、やっぱり柔らかいところに投げてもダメージにならないのね」

 

「それ以前に爆弾製作できるのか鍛冶師でも」

 

「まぁね。あ、起き上がろうとしてるわ!」

 

「任せろ。【咆哮】!更に10秒間は硬直状態だ!」

 

「動きを封じるスキルね?便利だわ」

 

攻撃は通らないとは情報にあったが、それがどこまで試してのことかは分からない。少しでも早く戦闘を終わらせられれば儲けもの。イズとオルトはピッケルとクワをガンガン振るう。

 

品質の悪いピッケルならばもう壊れてしまう頃だが俺とイズのミスリルピッケルはまだ四分の三は耐久値が残っている。

 

イズはトカゲの背中が地面に刺さるタイミングだけを狙い、俺は【挑発】と【咆哮】でイズに対する動きを阻害する。それを繰り返していくとついにトカゲは地に倒れ伏した。

 

「はぁ~やっぱり私に戦闘は無理だわ・・・・・その辺りも含めて生産職にして正解ね・・・・・二人ともありがとうね」

 

「こっちも生産職の苦労が何となくわかったよ。オルト、帰ったらハチミツアップルジュースな」

 

「ムム!」

 

インベントリを確認する。イズの自慢のピッケルのお陰でかなりの量の結晶が手に入った。

 

「俺には使い道がない結晶だ。上げるよ」

 

「いいの?嬉しい!じゃあ、お礼にこの結晶で完成した装備をあげる・・・・・あら?」

 

どうしたと魔法陣に乗ろうとするイズが振り返るその視線の先には二つの宝箱があった。お、これは・・・・・。

 

イズは恐る恐る近づくとしゃがみこんでその表面をちょんちょんとつつく。

 

「こんなの情報になかったと思うけど・・・・・取り敢えず開けてみていいかしら?」

 

「ああ、いいぞ。ユニーク装備が入っている宝箱だぞそれは。久々に見たな」

 

「ユニーク装備!?」

 

イズが宝箱を開けると中には古びてところどころ焦げ跡のある茶色のロングコートと大きめのゴーグル、そして焦げ茶色のブーツが入っていた。

 

イズはそれらをインベントリにしまい込むとどんなものかを確認する。

 

 

『錬金術士のゴーグル』

 

【DEX+30】

 

【天邪鬼な錬金術】

 

【破壊不能】

 

 

 

『錬金術士のロングコート』

 

【DEX+20】

 

【AGI+20】

 

【魔法工房】

 

【破壊不能】

 

 

 

『錬金術士のブーツ』

 

【DEX+10】

 

【AGI+15】

 

【新境地】

 

【破壊不能】

 

 

 

【天邪鬼な錬金術】

 

ゴールドを一部の素材に変換することが可能になる。

 

 

 

【魔法工房】

 

あらゆる場所で工房を使用可能になる。

 

 

 

【新境地】

 

新アイテムの製造が可能になる。

 

 

 

「取得方法は・・・・・初回でボスを一定時間内で倒すことか。こりゃ、イズ一人でもイけただろうな」

 

「でも、ハーデスが一緒にいてくれたからそれよりも楽に倒せたわよ。本当にありがとう。こんな私にピッタリな装備と巡り合わせてくれて」

 

「喜んでくれるのはいいけど。参ったな・・・・・同じユニークのスキルだろうからこの有能な装備を腐らすことはできないよ。特に【新境地】・・・・・物作りが好きな者として色々と作ってみたくなる」

 

「いらっしゃ~い。生産職者は大歓迎よ?なんなら私と一緒にトップを目指しましょう!」

 

勧誘してくるイズにやんわりと断って改めて魔方陣に乗って機械の町に戻った。

 

 

 

 

 

 

【新エリアに集まれ!】新エリアで続々と新発見したものを語ろうスレ1

 

 

1:サタジリウス

 

タラリアで買った情報通りメカ少女や女性達が町中で闊歩していた。早速契約できないかと試したが「あなたはリーネ型と相性がいいです」とフラれてしまった。

 

 

2:ぽろろん

 

プレイヤーとドールの相性で契約の有無が決まるのか。その詳細も分かれば好みのドールと契約できそう。

 

 

3:大言氏

 

白銀さんはどんなタイプのドールと契約したんだろう?

 

 

4:チョイス

 

それよりも秘密の道具店でクソバカ高いガドリングガンを発見したぞ。要求されるステータスと弾が異常に高すぎる。性能と威力はかなり申し分ないけど

 

 

5デデーン

 

こっちは北の方でドリルを見つけたぜ!なんと採掘スキルが付加していて生産職しか入れないダンジョンじゃ笑えるぐらい結晶を掘り出せちゃう!

 

 

6:満〇

 

甘いな。こっちはパイルバンカーを見つけた。ただこれはガンナーの装備なのか疑問だが、当たれば一撃必殺という可笑し設定にネタ装備として買ってみた。まだガンナー職を開放する専用のNPCは見つけられないけど

 

7:メイドは奥様

 

いえーい!征服人形(コンキスタ・ドール)を使役してやったぜ!めちゃんこ可愛いよ!

 

 

8:最終兵器鬼嫁

 

おー、それはおめでとう。好みのドールだったか?

 

 

7:メイドは奥様

 

どストライクです!

 

ドドン!!!

 

 

9:サタジリウス

 

実際の所どんな感じなんだ?

 

 

10:メイドは奥様

 

 

皆も知っているだろうから省くけど、アイテムを買って取得したスキルを譲渡することができた。だから戦闘系や生産系にもお願いすれば協力してくれたり独自で行動することがわかったよ。本人から確認できた。と言うことで俺はマリーちゃんと生産を頑張ってくるぜ!

 

 

11:チョイス

 

 

生産・・・・・なるほど、そういうことも出来るなら今後のプレイのこと考えて手に入れてもいいかも

 

 

12:デデーン

 

ドールちゃんに資金集めの為に生産職の活動をして貰っている間にレベル上げは楽になるか。長い目で見れば有用性ありだな

 

 

13:満〇

 

でも悩むなぁ・・・・・せっかくスタートダッシュが出来たってのに他の為に意識を回さなきゃいけないなんて。これでも俺は前線張って一応それなり強いんだけど

 

 

14:大言氏

 

第3エリアより先に進めない現状、後ろに下がって戦闘以外のプレイをしたらどうだ?白銀さんみたいに新エリアを探索したりとかさ。絶対他にも隠し要素あるって

 

 

15:ぽろろん

 

だな。他のプレイヤーよりも高いレベルでいたい気持ちはわかるけど、他にも楽しみ方はたくさんあるぞ?

 

 

16:サジタリウス

 

第2エリアでゾンビのように探索(徘徊)しているプレイヤーみたくなりたくないがな。

 

 

17:最終兵器鬼嫁

 

このゲームでそんなことになっていた事実は知らなかった俺は、さっき白銀さんと接触出来てしまった

 

 

18:チョイス

 

え、いたの!?

 

 

19:最終兵器鬼嫁

 

女性プレイヤーと一緒にダンジョンから戻ってきたばかりだそうだ。ノームも連れていたし本当らしい。ムムムーと頭を下げてお辞儀するそんなノームが、小さかった頃の子供を思い出して胸がほっこり

 

 

20:デデーン

 

あー、ノームって小さいもんな。子供を彷彿させる愛嬌をされちゃな。てか、よく話しかけれたな

 

 

21:最終兵器鬼嫁

 

白銀さんの幸運にあやかりたくて・・・・・

 

 

22:ぽろろん

 

切実ー!

 

 

23:最終兵器鬼嫁

 

その後すぐ、ガンマーに転職できる場所を見つけた事実に白銀さんを心から感謝する!

 

 

24:大言氏

 

えええええええええええええっ!!?

 

 

25:サジタリウス

 

なん・・・・・だと・・・・・?未だ誰も発見されていないガンマー専用のNPCをか?その場所はどこに・・・・・?

 

 

26:最終兵器鬼嫁

 

タラリアに情報を売ってくる。白銀さんでも発見できていないことをここで流すわけないだろう?

 

 

27:満〇

 

くそー!先越されたー!

 



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火精霊の街と水精霊の街

イズと別れて畑に戻ってサイナと農業をするためファーマーの方で【農耕】のスキルを50まで上げてカンストしたら農耕・上級となってそのスキルから派生した育樹と水耕と言うスキルのどちらかを選べるという事実が判明した。

 

「サイナ、水耕ってあるんだから米でもあるのか?」

 

「可能性は高いかと思われます」

 

「んじゃあ、水耕を取得するから米が手に入ったら頼んだ」

 

ラボでサイナに【水耕】のスキルを譲渡した。それから農業関連のスキルをファーマーの職業に転職してから取得して全て譲渡する。【植物知識】に関しては森の中で名のある木材を伐採してもらって取得した。

 

「サイナは食事とかはするのか?」

 

「不要です。私達は機械神の力によって生み出された征服人形(コンキスタ・ドール)。この身が朽ち果てるまでマスターに仕えることをプログラムされております」

 

「どの機械神なのか分からないが一代目機械神と二代目機械神の力を受け継いだ俺もサイナ達のような存在を生み出せるか?」

 

「それはマスターの力次第でございます」

 

否定も肯定もしないか。MPもさらに増やさないとならないよな。

 

「もしサイナに一代目か二代目の機械神を譲渡したらどうなるかわかる?」

 

「一代目の機械神は装備を破壊して武器を生み出す能力ですね。それは私自身の身体を破壊しなければなりません。耐久値もすぐ0となって崩壊するでしょう。二代目機械神の能力は無尽蔵の科学のエネルギーでありとあらゆる機械を創り出すことが出来ます」

 

後半が何とも凄まじい返答だな。確かに俺が保有しているよりは有用だろうが、俺も使いたいんだよなぁ。サイナを見つめて

 

「サイナに機械以外装備することは?」

 

「可能です」

 

「冒険者が量産している装備も?」

 

「可能です」

 

ユニーク装備・・・・・いや、毒無効化のスキルを所持してヒドラのアレはHPをドレインにしなくちゃならない。サイナには出来ないから手に入れられることはできないか。となると・・・・・金が必要なわけで生産に力を注がないといけないか。それともスキルを売るか?

 

「錬金術か・・・・・レベルⅩⅩにしてあるから色々と作れるけど」

 

掲示板で調べてみれば、やっぱり回復薬が製作できる他にステータスを上昇させるアイテムも作成が出来るか・・・・・。でも、それらは始まりの町では売れなさそうだよな。だとすれば・・・・・ああ、そう言えばイッチョウが言ってたな。

 

「南に行ってみるか」

 

そうと決まればオルトを連れ町を後に一時間掛け、南にある広い地底湖に辿り着いたがその場で途中ログアウトして時間帯的にも帰ってくるオリジナルと交代するのだった。

 

 

学校から戻って夕餉を過ごし、ここまで進めた分身体がしようとしたことを引き継ぐ。地底湖の名を称するだけあって奥行きも広く水は綺麗な青色、永い時の中で出来上がった現実世界でも早々にない自然の芸術だ。この光景にゲームとはいえ感動する俺は周囲を見回す。

 

リアルであれば早々お目にかかれない、様々な形の鍾乳石が連なった大空洞。そして、底まで見通せる澄んだ水を湛えた湖。ただでさえ美しいその2つが合わさることで、冒し難い神秘さがその場を支配している。

プレイヤーの掲げる明かりに照らされた地底湖は、見る者に深い感動を与える事だろう。その場で地底湖を見つめ、神秘的なその姿を目に焼き付ける。

 

「初めてきたが、ここも釣りができるのか」

 

「―――そうだよん。しかも釣れた魚は調理ができる食用の魚だよ」

 

聞きなれた声がした方へ振り返ると釣竿を持ったイッチョウが朗らかに声を掛けてきた。

 

「ハーデス君もここに来たんだね。釣りをしに来たの?」

 

「地底湖には来たことが無かったからな。ここはどんな魚が釣れる?」

 

「まるで信号機のような色の背びれの魚が釣れるよ。ほら、これがそう」

 

見せてくれる魚のその色はカラフルだった。大きさや形はぼぼアユなんだが、その色合いはグッピーよりもさらに派手だ。鱗は赤や青、黄色の物がランダムで配置され、尾や背のヒレなどもドぎつい原色に染められている。

 

「味は?やっぱり美味いんだろ?」

 

「青ヒレの魚は美味しいんだけど、他はすっごく不味い」

 

「まんま信号機だな。まぁ、俺は釣りをするよりも直で獲りに行くよ。スキルレベルを上げるいい場所だし」

 

「あ、そっちが目的なんだね。頑張ってね。そのついで、青ヒレの魚を100匹ぐらい取ってくれると嬉しいな。魚料理を作りたいから」

 

「りょーかい。そんじゃ、行ってくるわ」

 

「あ、PT組もうよ」

 

「ん?いいぞ。オルトを頼んだ」

 

水の中へと泳ぐ。おー、地底湖の湖底も綺麗だな自分用の観賞するために動画モードにしておこっと。ん?何か突撃してくる魚がくるな。突撃ヤマメ?【パラライズシャウト】。

 

魚達の動きを観察して泳ぐコースを見つつ観覧気分で楽しみながら青いヒレの魚を狩っていくこと30分。イッチョウの要望の数を狩り終えれば、更に甲殻類はいないか湖底まで泳いでいるとある物が色々と見つけた。一つは光る珠だ。何だろうと掴み取って水面に浮上する。

 

「イッチョウ、これ見つけた」

 

「うわ、光の原因がそれだったんだ」

 

「原因?」

 

「湖から光が昇ったんだよ。だからその珠が原因だってこと」

 

なるほど、理解はしたがさっきまでちらほらいたプレイヤーが見かけなくなっているのは?

 

「どうなってる?」

 

「うん?何が―――」

 

「ムームーッ!!」

 

オルトが騒ぎ出した。何だ?と振り返ると水面から突き出た大きな背びれがこっちに近づいてきた。海の危険生物が現れるBGMが流れていたらピッタリなモンスターは突撃してきた。

 

「ギョギョギョー!」

 

ガンッ!

 

「ギョギョギョッ!?」

 

「「・・・・・」」

 

四桁の防御力の前じゃあ大きな突撃ヤマメでもダメージは入れられないようだ。ぶつかった勢いで跳ね上がって、陸の上に打ち上げられてビチビチと激しく跳ねるモンスターを神妙な顔で見つめ・・・・・。

 

「ええっと、倒してもいいのかな」

 

「いいんじゃないかな」

 

何とも言えない戦いの幕をイッチョウが下ろした。光る珠はイベントアイテムだったらしく、すでに消滅してしまっている。これからどうすればいい?悩んでいたら、いきなり視界に他のプレイヤーが現れた。まるで瞬間移動してきたみたいに。俺も驚いたが、向こうも驚いている。

 

「ハーデス君、さっきの原因は何だと思う?」

 

「俺は他の魚達を倒さず青い魚だけ百匹確保して、湖底も探してたら光る珠を見つけただけだ。イッチョウに見せようかと思ったら大きな突撃ヤマメと戦うことになった以上」

 

俺の事の経緯を聞き顎に指を添えて思考に入るイッチョウ。

 

「もしかして通常フィールドとボスフィールドが重なっていたのかも。レイドボスだったら他のプレイヤーも一緒に参加できるからね」

 

「そういうフィールドもあるのか?初めて知ったぞ」

 

「私も体験したわけじゃないけど知識としては知ってたよ。それで、何か変化とかあったりする?」

 

変化か・・・・・あるのか?インベントリを確認しても特に増減の変化はない、ステータス数値も問題ない。残るはフィールドだけで・・・・・。

 

「あ、あった」

 

「え?どんなの?」

 

俺は天井に指を差す。すると、岩の隙間から光の筋が伸びていた。ここに来た時、見える範囲で地底湖の中を一瞥していたから覚えている。天井に光の筋なんてなかったから。

 

「光の筋?」

 

陸に上がってイッチョウと近づく。道中、手に入れたヒカリ茸が3つ、これはラッキーだな。栽培したことが無い茸から意識を反らし岩の隙間から光の筋が伸びている方、崖に辿り着いた。改めて見上げると、かなり高い。

 

「窪みしか見えないけど、よく見ると入れそうな穴だ」

 

「この崖を這い上がってけば行けそうだね」

 

この瞬間を動画に記録して他のプレイヤーの奇異な視線を受けながら崖を登って狭い穴を潜る。細い通路を進んだ先に出口があった。そこから、明かりが差し込んでいる。

 

「イッチョウ、出口があるぞー!」

 

「隠しエリア?うわ、初めての経験だよん!」

 

ワクワクドキドキの気持ちでイッチョウと出口を潜る。 地底湖の先に広がる光景。そこは一見すると、背の高い草が生い茂る平原のように見えた。生えている草は葦に似ている?そして日差しが強い。

 

「おお・・・・・何かありそうな感じだ」

 

「地面は沼、ここ湿地帯のフィールドみたい」

 

「上空から進んでみよう。オルト、ありがとうな」

 

オルトを畑に送還した後、鷹に変身する俺の背中にしがみ付き空へ舞い上がる。

 

「本当に便利な装備だねー!それに上から色んな物が見られる上にここは私達の貸し切り状態!」

 

「俺達だけの秘密の場所ともいえるな。確かに、これは優越感も覚えてしまう。このフィールドに入れる条件も俺達しか知らないんだからな」

 

「うんっ!あ、カエルを発見」

 

「湿地帯だから不思議じゃないな。というかよく見つけたな」

 

「【遠見】っていうスキルを持ってるからね。望遠鏡のように遠くの物を見ることができるんだよ」

 

「何それ、俺も欲しい」

 

しばらく空の上からこの隠しエリアを調べ回った。その時だ、イッチョウが声を上げた。

 

「ハーデス君、採取ポイントがあるよ」

 

「どこだ?」

 

俺の顏の横から腕を伸ばし、視界に映る彼女の指す方へ降下する。本当に採取ポイントがあった。イッチョウが俺の代わりに採取した矢先、慌てた様子で教えてくれた。

 

「ハ、ハーデス君ッ、これ、(もみ)、お米だよ!」

 

はい米キタァーッ!

 

「イッチョウ、もっと探したい」

 

「勿論!未だこのゲームでご飯を食べたことが無いからね!」

 

イッチョウの目と空からの移動を合わせれば、他にも採取ポイントを幅広く見つけることが可能になる。それが現実のものとなると―――。

 

「ハーデス君、大麦を発見したよ!」

 

「これ、小麦!パンが作れるな!」

 

「サトウキビ!砂糖ゲット!」

 

「なぁ、湿地帯なのにトウモロコシがあるのは?」

 

「んー謎だけどいいんじゃないかな?このゲーム、色々と緩いし」

 

気にしてもしょうがないってことか。ゲームだし現実とは違うって拘っても楽しめないよな。

 

「トウモロコシ、醤油とバターがあれば美味しそうだ」

 

「醗酵しないと作れないよね。そんなハーデス君に朗報だよん。始まりの町で発酵樽って樽が売ってたよ」

 

「発酵樽?名前からして発酵が出来そうだな。醗酵スキルがあるなら取得して作りたいところだが肝心の豆がねぇ・・・・・」

 

どこで手に入る事やら・・・・・。

 

「じゃあ、俺からも朗報を授けようか。さっき潜水していたら湖底に扉があったぞ」

 

「え?もしかして、ダンジョン?」

 

「それかボス部屋かもな。あのデカいヤマメは中ボスだったかもしれん。【ユニークシリーズ】が手に入るチャンスかもしれないが、どうする?」

 

ま、尋ねるまでもないな。

 

「一度、戻るか」

 

「うん!」

 

来た道へ戻り、狭い通路の中へ潜り地底湖に戻る俺達。そして水中へ飛び込み俺が案内する。

俺とイッチョウが湖底へ潜っていき固く閉ざされている横穴の扉の前に近づく。短刀で鎖を切り裂いて中を開け放つと予想通りその穴は奥へ奥へ、深く深く伸びていて一緒に泳ぐイッチョウはそこを人魚と言ってもいい程の速度で泳いでいく。

しかし、途中で道が枝分かれしているのを見て俺達の動きが止まる。てっきり最奥まで一本道だと思い込んでいたためである。一人だとこれは骨が折れると思いつつ俺達は手分けして潜って枝分かれしている洞窟の中を泳いでいく。幾つも幾つも枝分かれた横穴を潜って十分も超えた頃、イッチョウと一緒に真っ白い大きな扉を通路の先に見つけた。

よし、と小さくガッツポーズをして来た道を引き返す。浮上するなりイッチョウとハイタッチをする。後は無事に勝てるかどうかだ。

 

「どうする、一人で挑むか?」

 

「ここまで来たんですから一緒にやりましょうよ。【水泳】と【潜水】スキルを取得したんですから、レベルも上げて万全にしておきたいんです」

 

「明日と明後日は火と水精霊の里に行きたいから今日と明々後日だけ付き合えるぞ」

 

ボス部屋のそれでも構わないと言われてしまい、扉を見つけてからその日の俺達は地底湖で【水泳】と【潜水】スキルのレベル上げに明け暮れるようになって翌日の朝。学校へ行くオリジナルの代わりに分身体の俺がログインし待ちに待った精霊の里の攻略へ挑む。

 

「ようやく火精霊の里に行ける日だー!」

 

「ムムー!」

 

「さて、今日は火曜日・・・火の日だ。『鋭角の樹海』がある南の森に行かなくちゃな。リヴェリア、精霊の里に行くがどうする」

 

「是非お供したいところですけど、これから向かう里にいるのはサラマンダーであれば私は足手纏いになるかと。魔法が樹木なので相性が・・・・・」

 

「守るから気にしないんだけど」

 

「その・・・守られる心の準備が出来ていないので、すみませんっ」

 

何故に顔から火が吹くほど赤くなる?しょうがない。無理やり連れて行って好感度も下がるだけなら連れて行かない方がいいか。丁度俺がログインしたことを気付いたイズからメールが届いたし。南の森に行くと返信してオルトだけ連れて行く。無人販売機のことはサイナとリヴェリアに頼もう。

 

「おはようハーデス。今日は精霊の所に行くんでしょ?私も連れて行って欲しいんだけれど」

 

「構わないけど妙にウキウキしてんだな?」

 

「鍛冶スキルがあるかもしれない火の精霊のところに行くもの。この日の為にテイムと使役のスキルを取得してきたわ」

 

「可能性の話だからな。そんじゃ、南の森のボスをさくっと倒しに行くか」

 

 

掲示板で調べた限りこの南の森のフィールドボスは、蜂の巣の形をしている。この巣が本体で、小型の蜂を次々と召喚してくるのだ。蜂そのものは雑魚なのだが、素早いせいで攻撃を防ぐことが難しく、まれに毒状態にされてしまうため回復がなかなか追い付かない。そのため、対応の確立されていない初期の頃は、回復アイテムを大量使用してのゴリ押しが一般的な戦い方だったらしい。

 

雑魚蜂をいくら倒しても本体に影響はなく、本体だけを狙おうすると無防備な背を蜂に襲われるという、中々ウザいボスである。だが、蜂も巣も火炎属性に致命的に弱く、巣は火で攻撃すると確実に燃焼状態になるらしい。燃焼というのは、火が消えずに残り、火属性の継続ダメージが入る状態異常だ。それ故、火炎属性を使えば、火に弱い巣をかなり早く倒すことが可能である。

 

さらに、誰かが製作した広範囲を攻撃する爆弾で蜂ごと巣を潰す方法が確立されてからは、初心者でも簡単に倒すことができるようになっていた。今ではあまりにも楽勝で倒せるせいで素材が大量に出回っており、ボス素材でありながら値が大きく崩れているほどなのだ。

 

それでもフィールドボス中で最弱と言われないのは、油断をすると死に戻る可能性が高いからだ。爆弾による自爆ダメージや、爆弾をケチったせいで倒しきれず、怒り状態で攻撃力の倍化した蜂軍団に袋叩きにされるプレイヤーも多いらしい。

 

―――【毒無効】の俺には通用しないがな!だからこそ俺は・・・・・。イズに蜂が向かわないよう【挑発】して試しに蜂の巣の中にあるかもしれないハチミツやロイヤルゼリーなど採取できないか試行錯誤してみた。

 

「うわぁ・・・・・」

 

ドン引きされてるかもしれないがな!結局、ボスだから採取しても手に入らずHPドレインで倒してみた。

 

「あ、巣がサクサクしてコーンみたいだ。中のハチミツの甘さも相まって美味しいぞイズ!ほら、食べて見ろ」

 

「ちょっ、こっちに来ないで!全身ハチミツ塗れで蜂までついてきちゃってるから!」

 

一時逃げるイズと戯れてもキチンとボスは爆裂魔法で倒した。ハチミツのドロップアイテムは手に入れたけどロイヤルゼリーは手に入らない。養蜂のスキルがないと駄目なのか?それと何故か【芳香】ってスキルを取得した。大方ハチミツ塗れの状態でモンスターの大軍を引き寄せたからかもしれない。ま、今はそれよりも第1エリアを突破して第2エリアの鋭角の樹海を進んでいった。道中で色々と採取は出来ているが、目新しい素材はない。この辺の素材はすでに次の街でも買えるかもだし仕方ないが。

 

「お、見えたな。あれが松明か」

 

木々の合間から、燃え盛る巨大な松明が見えていた。外見は本当に普通の松明なんだな。ただ森に生えている木と同じくらいデカイだけで。でも、これが火霊門の入り口で間違いないだろう。動画を録画モードにしてから松明の前に立つと前回の二つの精霊門と同じ感じでアナウンスの指示通りに火結晶を大松明に捧げる。出現した火霊門は、燃え盛る火の渦の姿をしていた。中々に迫力のある光景だ。

 

これに飛び込むのは、普通であればかなりの勇気がいるだろう。だが、俺は何の感慨も恐怖もなく、イズの手を引いてササッと門を潜ることにした。

 

「よくぞ参った、解放者よ」

 

出迎えてくれたのはサラマンダーの長だ。やはり火霊門の精霊はサラマンダーだったか。赤髪赤目、赤銅肌のややオリエンタルな容姿の男性の姿をしている。

 

そう、完全に男性型だ。いや、少年型と言った方がいいかな? 身長は150センチ程で、その顔にはまだあどけなさが残る。ただ、雰囲気が落ち着いているので、成人のようにも見えるから不思議だね。

 

上半身は体にピッチリフィットする赤いカンフーシャツ。下半身はややゆったり目のカンフーズボンだ。

 

ノームとサラマンダーが男性。シルフが女性。水精霊のウンディーネは―――おそらく女性だろうな。これで四つの精霊の性別が確定した。

 

 

たどり着いた火霊の街は、風霊の街とも土霊の街ともまた違った美しさがあった。共通するのは、幻想的で、リアルではお目にかかれないファンタジー感だろうか。

 

「おおー」

 

「ムムー」

 

「奇麗ねー」

 

オルトもイズも俺の隣で口をポカーンと開けて、初めて見た光景に見入っている。

 

火霊の街は、何というか明るかった。

 

「これは全てガラスなのか?いや、タイルも使われているか・・・・・」

 

火霊の街は、何もかもがガラスと磁器タイルでできていた。すりガラスや曇りガラス、クリスタルガラスなど様々な種類と色のガラスに、カラフルなタイルが組み合わされ、町が構成されている。

 

火霊門と街を結ぶ通路がかなり高い位置にあり、入り口からは街を見下ろすことができた。基本はすり鉢状の大きな空間だろう。そこにガラスとタイルでできたカラフルな家々が立ち並んでいる。空は、白いガラスのドームが覆っているようだ。淡い光がやわやわと降り注いでいる。

 

地面は、丁寧に均した土の上に、薄いガラスとタイルを組み合わせて敷き詰めたのだろう。カラフルな模様が描かれ、まるでモザイク画のようだ。歩いても大丈夫なのか少し心配になるが、町のオブジェクトは破壊不能だから大丈夫なのだろう。

 

街灯は細長い円柱状の透明のガラスだ。中では青白い炎が燃え、周囲を照らし出している。

 

全体的に派手だ。とは言え、嫌らしい派手さではない。オモチャの町とか、そんな雰囲気があるからだろうな。見ているだけでワクワクしてくる街だった。

 

ガラスの街を眺める。どこもかしこもキラキラしているな。ネオン街みたいだ。

 

「よーし、まずは街を見て回るか」

 

「ムム!」

 

「うん!」

 

火霊の街を歩いてまわると、サラマンダーの長よりもやや背の低い住人たちの姿を見ることができた。あれが進化前のサラマンダーなんだろう。やはり少年タイプだな。

 

ノームも個々に顔や髪型が微妙に違うが、サラマンダーはその違いがより大きい。カッコイイ系のサラマンダーもいれば、可愛い美少年タイプもいる。これは女性テイマーに人気が出そうなスポットだぜ。

 

いや、テイマーじゃなくても美少年が見放題なわけだし、普通の女性プレイヤーでも入り浸るやつが出そうだな。

 

店の種類はやはりそう変わりはないだろうが、とりあえず回ってみよう。だが最初に武具屋をのぞいても、目ぼしい装備はなかった。いや、性能的には強いんだが、俺は重戦士だから興味が惹かれるものがないのだ。まあ、ここは予想通りである。本命は素材や道具だ。

 

しかし、次に雑貨屋で種を探してみたんだが、目新しい物はあった。微炎草、ウチにはない植物だ。

 

ただ、その次に訪れた店には色々と面白い物が揃っていた。そこはガラス製品と、陶磁器の店なのだが、ガラスのペンダントやメガネ、ピアスのような装備品だけではなく、グラスやカトラリーなどの日用品なども売っていたのだ。風鈴なんて、風流でいいな。まあ、うちじゃ使えないけど、いつかホームを入手したら飾ってみるのも面白いかもしれない。

 

「食器はいいなぁ」

 

色とりどりのガラス製品や、色鮮やかな磁器。渋い色の陶器など、見ているだけでウキウキしてくる。どれもこれも欲しいが、オークションで散財したばかりだからな~。今は節約をせねば。

 

とりあえず、透明なガラス製のグラスを6つ、白い磁器製のティーカップとソーサーを6つ、茶褐色の陶器の湯呑を6つ買っておくことにした。どれも安物だし、この程度はいいよな?

 

「お次は薬屋か・・・。へえ、これは役に立ちそうだな」

 

次に足を踏み入れた薬屋で最も気になったのが、暑気耐性薬だ。これを飲むと、暑い場所でも大丈夫になると書いてある。暑い場所と聞いて真っ先に思い浮かんだのが、火霊の試練である。絶対に火が燃え盛るダンジョンであると思われるし、この薬があったら攻略が捗るのではなかろうか?

 

「買ってみるか」

 

ダンジョンで色々と実験してみよう。いや、そういう耐性のスキルが手に入るかも?

 

「よし、この調子でどんどん行くぞ」

 

「ムムー!」

 

「で、お次はお馴染みのこの店ね」

 

ホームオブジェクトの販売店だ。やっぱり面白いな。

 

畑に使えそうなアイテムだと温室があった。しかもガラス張りのちょっとお洒落なタイプだ。

 

あとは炬燵、床暖房も珍しいだろう。まあ、今の俺には設置できる場所もないけど。

 

「それ以外だと、鍛冶とかガラス工芸用のホームオブジェクトばかりだな」

 

「炉なんて私にピッタリのオブジェクトだわ!」

 

「確かに。だが、今の俺達にはあの装備があるからな必要ないだろ?」

 

「そうねー。凄く便利過ぎて手放せなくなっちゃってるわ」

 

リストには炉や窯の名前が多い。火を使うとなるとこういうアイテムばかりになるのは仕方ないだろう。料理用の石窯などもあるが、やはり設置する場所がなかった。畑には、農業系か素材産出系のオブジェクトしか設置できないのだ。

 

「石窯・・・・・物凄く残念だ。ピザが作れるのに」

 

「私もよ。ホームがないと炉を買っても設置ができないもの」

 

「ん?じゃあ、どうやって鍛冶してるんだ?」

 

「お金を払って借りているのよ。鍛冶師専用のお店をね」

 

そんなこともできるのか。ん、待てよ?

 

「俺は生産職じゃないから知らないことだけど、プレイヤーは自分の店を持てるのか?」

 

「生産職のプレイヤー限らずね。畑を持ってるあなたも知ってるでしょうけど、ファーマーは無人販売機で販売もできるのよ。それと同じね」

 

「なるほど、専用なのかと思ったがそうでもないのか。とりあえず温室だけ買っちゃおうかな」

 

それから火霊の街を一通り見回った俺たちは、そのまま火霊の試練へと向かっていた。

 

「初見のダンジョンだ。気合を入れて、でも慎重に行くぞ」

 

「ムム!」

 

「ええ!」

 

足を踏み入れた火霊の試練は、なかなか面倒くさそうな造りをしていた。基本は、天井まで3メートルほどの洞窟型ダンジョンだ。だが、当然それだけではない。

火属性のダンジョンらしく、入り口から続く通路も、たどり着いた最初の部屋も、全ての壁が炎で包まれていた。しかも床の一部が赤熱して光っている。

 

「これって、床も壁も、触ったら絶対にダメージあるよな?」

 

「ム?」

 

「とりあえず床からチェックだ」

 

まずは足を乗せてみる。

 

「あ、熱い」

 

痛くはないんだけど、赤い床に乗った瞬間、足裏にひり付くような感覚があった。ストーブに指を近づけ過ぎた瞬間の、指先の感覚がなくなるようなあの状態である。

 

「ダメージはありか。次はもう少し長く行ってみよう。あと、次は手で触ってみるか」

 

屈んで、赤い床にタッチする。今度は慌てず、そのまま5秒ほど手の平を床に押し付け続けた。軽く煙なども上がって、なかなか演出も凝っているな。

 

赤い床から手を離すと、手の平が赤く燃えたように光っている。これが熱によるダメージエフェクトなんだろう。ただ、すぐに消えたので、燃焼状態になったわけではないらしい。

 

「ダメージは5秒で5か。同じぐらいか」

 

手の平でも、靴を履いている足裏でも、ダメージは同じだ。軽減効果があるような装備じゃないと無意味って事らしい。

 

「リヴェリアの言う通り、樹木魔法が使えない場所だな」

 

しかも毎度毎度燃焼を直していたら、かなり面倒臭いだろう。それに、水をかければ治るとは言え、インベントリには井戸水がわずかと、浄化水しか入っていない。井戸水はタダだが、浄化水を使うのはもったいなかった。

 

「大丈夫?VIT極振りでも状態異常の攻撃までは耐性がないとダメージが通るわ」

 

「んー、なら、燃焼状態でいたら【火耐性小】が取得できるんじゃん?一度試してみたい」

 

仕方ないなぁって感じで首を横に振るイズ。実験継続のお許しが出たらしい。では、早速実験してみよう。

 

俺は燃え盛る炎の壁に手を伸ばす。リアルだから、かなり迫力がある。

 

「ムムーッ!」

 

オルトが俺の後ろで応援してくれている。ありがとうな。でも怖くはないんだよ。

 

「おー熱っ、さっきよりも熱い、あっ、しかも火が消えない」

 

炎の壁の方は触っただけで燃焼状態になってしまうらしい。手が火に包まれている光景は、普通の人間からすればなかなか恐ろしいものがある。

こりゃあ、かなり難度の高いダンジョンだな。水を常備しておく必要がありそうだ。もしくは水魔法とその能力があるモンスターもだ

 

「ダメージは5・・・・・。タッチ1秒で3、あとは燃焼ダメージが少し入った形か?」

 

モンスターとの戦闘以上に、地形ダメージを気にしないといけなかった。というか、戦闘中に地形ダメージ、燃焼ダメージを食らう事態になったらかなりピンチかもしれん。となると、あの薬にがぜん期待してしまうな。

 

「次は暑気耐性薬を使ってみよう」

 

この暑気というのがどの程度の熱量を指すのかで、効果が変わって来る。単に熱い場所で涼しく感じるだけなのか、熱系のダメージを軽減できる程なのか。

 

現在、周囲の暑さはそこまでではない。まあ、周りが火で囲まれているわけだし、多少気温は高いと思うが、無視できる程度だ。

 

そう考えると、地形ダメージを防ぐためのアイテムだと思うんだよな。火霊の街で売っていたことからみても、攻略を補助するアイテムだと思うし。

 

俺は暑気耐性薬を一気に飲み干してみる。味はサイダーみたいだった。爽やかで、暑い日に飲んだらおいしそうだ。暑気耐性というバフが付いたのが分かるな。

 

「ていうか、この味どうやって再現してるんだ? この薬を作るための素材に秘密があるのか?」

 

むしろそっちが気になってしまった。だって、サイダーだぞ? もし再現できたら、色々な味のフルーツサイダーなんかも作れるかもしれない。

 

「おっと、効果が切れる前に実験だ。まずは赤い床だな」

 

「ムー」

 

俺が床に足を乗せるのをオルトが固唾を飲んで見守る。そこまで真剣になることじゃないんだけどな。イズにもガン見されてるし。

 

「・・・・・平気だな」

 

10秒ほど足を乗せていたが、ダメージを負うことはなかった。暑気耐性のおかげなのは間違いないだろう。次に炎の壁に手を突っ込む。

 

「ダメージは軽減されても、燃焼状態にはなるのか」

 

インベントリから取り出した井戸水をかけると、手を覆っていた火が消える。

 

「受けるダメージは減ってるけど・・・・・」

 

どうやら火の壁に触れたダメージが1点に減り、燃焼によるダメージは軽減なしという感じらしい。

 

「いいな、これがあれば攻略がかなり楽になるぞ」

 

「検証は終わり?なら、奥に行きましょ」

 

「そうだな、実験も済んだし、進むか。いや、待てよ。最初の部屋には隠し部屋があるのがこれまでのパターンだ」

 

「土霊の試練の時みたいな?それなら調べてみよっか」

 

風霊の試練、土霊の試練、ともにネックレスの入った宝箱が隠されていた。となると、この部屋にも宝箱が隠れている可能性が高いと思うが・・・・・。

 

「オルト、今回も分かるか?」

 

「ムー?」

 

「だめか?」

 

頼りになるオルトでも分からないらしい。ただ、オルトが感じることができないということは、土を掘った先に隠されているパターンではないだろう。

 

「となると、この炎の壁の先か?」

 

 隠し通路が炎で覆い隠されているパターンは十分あり得るだろう。

 

「よし、イズ水をぶっかける準備をしてくれ」

 

「何をする気なの?」

 

「身体を張って探すのさ」

 

井戸水をイズに譲渡。それから片手を炎の壁に触れながら沿って移動し始める。掌から壁の感触が無いところが隠し部屋があるという方法だ。燃焼状態を引き起こす炎を触れっぱなしだかダメージが継続してHPが減っていく。半周をした頃に、スカッと壁の感触がなくなってここかと顔も炎に突っ込めば小部屋があり赤い箱がひとつあった。箱に近づき開けると中には予想通り、攻略を有利にしてくれるネックレスが入っていた。

 

 

名称:鎮火のネックレス

 

レア度:3 品質:9 耐久:200

 

効果:【VIT+4】、燃焼回復速度上昇・微

 

 

アイテムを確認して直ぐにイズのもとへ戻った。

 

 

バシャッ!

 

 

そして、思いっきり水を掛けられる。

 

「見つけたのね?どんなの?」

 

「これだ」

 

「鎮火のネックレス・・・そこまでって感じね。でも、この先必要になるだろうから手に入れたいけど」

 

「単身で行くのは無謀だな。というわけでこれをあげるわ。俺はこのダンジョンの中で火の耐性を得れば

 いいだけだし」

 

ありがとう、とイズはネックレスを受け取って装備する。

 

「じゃあ、先に進むぞー」

 

「フム!」

 

オルトを先頭に、次の部屋へと進む。

 

「通路に罠はないか気を付けよう。落とし穴に火責めの罠だったらイズは助かるかわからんし・・・・・」

 

「怖いこと言わないで」

 

壁と、時おり赤熱している床が罠みたいなものだが落とし穴は厄介すぎる。

 

「さて、部屋の中には・・・・・何もいないか?」

 

通路から部屋をのぞいてみる。円形の部屋の中央には 直径1メートル程度の穴が開いており、そこから炎が立ち昇っていた。炎の柱と言うほど大きくはないが、篝火という程度には勢いがある。

 

モンスターの姿が全く見えない。だが、気配察知には確実にモンスターの反応があった。どうも、炎の中に隠れているらしい。どんなモンスターか分からないのは不安だな。

 

「モンスターがいるな。よし戦闘態勢!」

 

「ム!」

 

オルトがクワを構えて、ザッと一歩を踏み出す。やる気だね。

 

「頼もしいな。じゃあ、行くぞ」

 

「ムッムー!」

 

前衛タイプの俺達二人が部屋へと駆けこんでいった。そのまま周囲を警戒するように見回す。すると、部屋の中央の篝火から何かが飛び出す。

 

「出た――って・・・・・。小鳥?」

 

出現したのは手の平サイズの小鳥であった。羽毛の代わりに炎を纏っているが、どう見ても強そうではない。名前は、ファイアラーク。見た目から考えて火属性のモンスターで間違いない。

 

「一匹だけか。テイムは・・・・・?」

 

無理だった。風霊の試練のブリーズ・キティ、土霊の試練のストーンスネークと同じ、サモナー専用のモンスターなのだろう。

 

「じゃあ、倒すか」

 

水魔法を使えば楽に勝てるだろう。しかし、生憎そんな魔法もテイムしたモンスターもいない。地道に相手を調べながら戦って勝つしかなかった。すると、このモンスターが見た目通りの弱々しい小鳥でないことが分かった。

 

まず速い。しかも飛んでいるので、攻撃が全然当たらないのだ。向こうが上空にいる時は長距離攻撃をしなくてはいけない。

 

さらに攻撃を調べれば攻撃方法は2種類。嘴での突っつきと、火の粉攻撃だ。嘴は大したことが無い。速いので避けづらいが、ダメージは皆無。オルトも問題ないのだ。

 

だが、もう1つの攻撃方法である、火の粉がなかなか大変だった。こちらもダメージは低いのだが、確率でこちらを燃焼状態にしてくる効果があったのだ。

 

「ムッムッムーッ!!?」

 

「オ、オルトの頭が燃えてる!ああ、待てっ、動き回るなっ!水掛けるから!」

 

「こっちにおいで!こっち!」

 

テイマーとサモナーの鬼門だろここ。ヤバいなこれ・・・・・。

 

「オルト、イズと後方で待機!―――【咆哮】!」

 

逃走するか硬直になるか―――後者に陥ったファイアラークはポトッと地面に落ちて【シールドアタック】で倒して初戦の幕を下ろした。

 

「私、火の耐性のある防具を作るわ」

 

「オルトの防災頭巾を頼む」

 

布でゴシゴシとオルトの頭髪を拭くイズに心底からお願いする俺だった。

 

 

 

次の部屋には、予想通りというか期待通りというか、いつか出現するだろうと思っていたモンスターが俺達を待ち構えていた。

 

「狂った火霊だな」

 

「火結晶が手に入るわね」

 

今までの狂った精霊の例に漏れず、サラマンダーに似た背格好なのに顔がメチャクチャ怖かった。

やつれた雰囲気の細面に、丸い穴が3つ空いている。ボーリングの玉の持ち手っぽいって言えばいいか?鼻はなく、目と口があった場所が暗く落ち窪んだ穴となっているのだ。眼球はないのに何故か睨まれている気がするのは、俺がそう見えているからだろうか?

 

「どこの狂った精霊も相変わらず不気味だぜ」

 

あれが可愛い精霊になると思えん。ビフォーアフターすぎんだろ。

 

「まあ、ユニーク個体でもないし、普通に戦ってみるか」

 

運良く他に敵もいない。色々と検証するチャンスだろう。すると、意外に戦いやすい事が分かった。

狂った火霊の攻撃方法は火魔術と近接格闘なのだが、【悪食】で一発倒せるのだ。

次の部屋に進むと、2体の狂った火霊に加えて、新たなモンスターの姿があった。

 

「デカい岩にしか見えないが・・・・・。ワンダリングロック?」

 

それはバランスボール程度の、灰色の岩の塊であった。よく見ると、岩の表面に顔らしきものがある。こちらを睨む様な、ナマハゲっぽい鬼面である。サイズや色的に、いきなり自爆呪文をぶっ放したりしないか心配になる姿をしているな。

 

「オルトは火精霊と戦ってくれ。リズ、避けるだけでもいいから足止めしてくれるか?」

 

「ムッ!」

 

「ええ、戦いが苦手だからそれぐらいなら」

 

ワンダリングロックの攻撃方法は転がっての突進らしい。あの大きさの岩が突っ込んで来る姿は中々迫力がある。だが、俺は危なげなく大盾で受け止めていた。

 

「ゴロゴゴー!」

 

「んんー?」

 

受け止めたはずなのになんと、俺が吹き飛ばされた!待て、転がりの攻撃はノックバックの効果があるのか?とびっくりしながら部屋の壁際まで飛ばされていた。普通のダンジョンだったら、復帰にちょっと時間がかかる程度の話で済むんだが・・・・・。炎の壁故に炎の効果をもろに受け、燃焼状態になってしまっていた。なるほどな、いやらしいぜ。このダンジョンのギミックを利用してダメージを増加させてくる敵か。

 

「ハーデス、大丈夫!?」

 

「問題ない」

 

『スキル【炎上耐性小】を取得しました』

 

「火の耐性も得たところだ」

 

【八艘飛び】で俺はワンダリングロックに突貫して【悪食】で打倒した束の間に、俺は戦っているオルトとイズに加わって狂った火霊2体を撃破する。

 

「火の領域の中で戦うのってしんどいわね。それとさっきのスキルは?空を飛んでなかった?」

 

「【八艘飛び】だ。空中で八回まで空を跳ぶことが出来る」

 

「ムムムー!」

 

「お、オルトが採掘ポイント見つけたか」

 

「あら、じゃあ行きましょうかしら」

 

ピッケルを片手にルンルン♪とスキップする俺達。しかしこのダンジョンの中で採取できたのは、微炎草と火鉱石、銅鉱石であった。微炎草は畑で育てた物の方が品質が高いし、鉱石は土霊の試練の方がいい物が採れる。火鉱石はいい物なのだろうが、俺には売る以外の使い道がないし、目の色を変えて採る程の価値はなかった。

 

暑気耐性薬の材料が手に入ると期待しているんだが、どうだろうね?

 

「いや、待てよ。鉱石って確か・・・・・」

 

軽く調べてみると、火耐性塗料という物を作るのに、火鉱石が必要であるらしい。その色は赤とオレンジのマーブル模様で、非常に美しかった。この色だけでも、入手する意味はあるだろう。

 

「へぇ、防具にいいじゃない。ハーデス、これをできるだけ多く集めたいわ」

 

「ふむ・・・・・なら、火鉱石は少し確保しておくか。でもその前にちょっと休憩しよう」

 

「なら街に戻りましょ?ここに留まっていたらモンスターがまた湧くし」

 

イズと話し合って俺達は火霊の試練をまったりと攻略することにした。無理をせず、ある程度消耗したら街に戻り、暑気耐性薬を補充し、休憩も適度に挟む。そうやって何度かアタックを繰り返した結果、俺達は発泡樹という木がある部屋までは到達することができていた。この発泡樹は木材と、発泡樹の実が採取できる。そう、これが暑気耐性薬の材料だったのだ。まだ実験した訳じゃないが、名前から予想してもこれが炭酸の素だろう。上手くすれば炭酸飲料が作れるかもしれん。

 

「炭酸・・・・ハチミツ、あとパクチーとライムがあればコーラ作れるじゃん」

 

「え、たったそれだけでコーラ作れるの?何か複雑な名前が色々書かれてあった気がするんだけど」

 

「コーラ作りの簡易版だと思えばいいよ。よくあるだろ、意外な食材で意外な調味料と合わせるとアレの味に似ているって。その類だよ」

 

「へぇ、でも見つけるのは難しいと思うよ」

 

「わかってるさ。でも見つけてみたいな」

 

発泡樹のある部屋からもう少し進むと、運よく中ボスのいる部屋である。

 

「中ボスは火霊のガーディアン、ね。だとすればあの土霊門には土霊のガーディアンがいたかもしれないわね」

 

「色々と共通点があるからそうかもな」

 

中ボスは背中にある穴から、まるで噴火のように火の球をばら撒く獣タイプのモンスターらしい。一発一発に結構な威力があるようで、並みの盾だと壊れるかもしれないな。

その後も俺たちはユニーク個体のサラマンダーを求めてダンジョンに潜り続けたのだが、何度か二人がピンチに陥る場面があった。最もヤバかったのは、ワンダリングロック3体にかち合った時だろう。

 

基本は突進だけだし、いけると思ったんだけど。まさかあんな方法を使ってくるとは・・・・・。なんと、ビリヤードの球のように仲間に突進してぶつかり、互いの軌道を変えるという戦法を使ってきたのだ。

 

そのせいで防御と回避がずれ、俺とオルトが盛大に吹き飛ばされた。イズも死に戻りかけての後は後手後手に回り、辛勝であるがなんとか麻痺攻撃で動きを封じて確実に倒していった。

 

「・・・・・し、死ぬかと思った」

 

「ムムムー・・・・・」

 

「あの不規則な動きは反則だろ。俺も燃焼ダメージで死にかけたッ」

 

今後はワンダリングロックが複数いる場合は気を付けないといけないな。

 

そんなこんなで火霊の試練のウザさに辟易しつつも、ちょっと飽きて来たし、素材類もそれなりに集まったから、いい加減もう休憩でもしようとしたその時だった。

 

「でた!」

 

「でたわね!」

 

「「しかも2体!」」

 

遂にユニーク個体のサラマンダーが2体もレア出現していた。いやー、俺の日頃の行いの賜物だろうか。いいタイミングだ。普通のサラマンダーがオレンジの髪なのに対して、サラマンダーの長と同じ赤い髪だ。

 

「よし、先に結晶を手に入れよう。1つでもゲット出来たらイズの物だ」

 

「頑張ってねー!」

 

「ムムー!」

 

ふはははー!火結晶を置いて行けー!

 

そこからさらに1時間後。

 

「きたー!」

 

「ムムムー!」

 

ようやくユニーク個体と遭遇していた。今度は絶対に捕まえる。

【パラライズシャウト】で動きを封じてから文字通り狂った火精霊を体で拘束し、【手加減】でHP1まで削る。頃合いを見てテイムを始める。

 

「テイム! テイム!」

 

MPもかなり残っているし、麻痺が解ける前に成功したいところだ。そうやってテイムを繰り返すこと8回。

 

「テイム!」

 

「ヒム?」

 

「よっし!ゲット!」

 

予想外に速く、テイムが成功していた。やや可愛いタイプの顔をした、赤い髪の少年が俺の前に立っている。

 

着ている服は、上半身は体にぴったりフィットする、前で黄色い紐を使ってとめる形になっているノースリーブのカンフーシャツだ。

 

下半身はゆったりとしたカンフーズボンである。ズボンは一見タボッとしている様に見えるが、裾はきっちりすぼまっており、動きを阻害するようなことはないだろう。少林寺とかにいそうな感じだ。ステータス、早速チェックしてみよう。

 

 

名前:ヒムカ 種族:サラマンダー

 

契約者:死神ハーデス

 

LV1

 

HP:50/50

MP:48/48

 

【STR 13】

【VIT 13】

【AGI 7】

【DEX 14】

【INT 11】

 

スキル:【ガラス細工】【金属細工】【製錬】【槌術】【陶磁器作製】【火魔術】【炎熱耐性】

 

装備:【火霊の槌】【火霊の服】【火霊の仕事袋】

 

 

街を見て予想していたが、ガラスや陶磁器の生産系モンスターだったか。少し鍛冶なんかも期待していたんだけどね。でも、これで自前で色々な食器を用意できるってことだ。今からどんなものを作ってもらえるか、楽しみである。問題は、設備を揃えなきゃいけなさそうなところかな?

 

そこも設備の値段を見て決めよう。場合によっては、最初は安い設備で我慢してもらうしかないな。炉とか窯とか、高いイメージだし。

 

「どう?鍛冶スキルある?」

 

「残念なかった。工芸に関するスキルだけだ。鍛冶っぽい仕事をしてくれそうなスキルばかりなんだが、ほら」

 

「あら・・・本当にね。あ、【製錬】があるじゃない!鉱石をインゴットにできるわよ」

 

「でも炉がないぞ?」

 

「そうね・・・・・あ、私の店の炉ならできるんじゃないかしら?」

 

試したいイズの気持ちに応え、今度は彼女がテイムするユニークモンスター巡りを再開する。

 

それから火結晶集めもしてそれなりに手に入れた後は、火精霊の街を後にしイズの店に訪れていた。彼女の借りている店に来たのは初めてだがイズが製錬して欲しい鉱石は十中八九わかっている。

 

「ミスリルのインゴットはやはり売れる?」

 

「売れるわ。鍛冶師のプレイヤーだったら喉から手が出るほどにね。最高数十万は売れるんじゃないかしら。実際、ミスリル鉱石を手に入れたプレイヤーがいないのにそれがインゴットよ?価値は凄まじいに決まってるわ。でも、始まりの町で売れるかどうかはまだ何とも言えないわ」

 

そういうものかと半ば他人事のように聞いていた。そして素朴な建物、イズの店に辿り着いた。北西の大通りにあったとは知らなかったな。中に入ると、多種多彩な武器が飾られて壁には大小の盾、皮や鉄の鎧も売り出されている光景に、知り合いの職場に感嘆する。

 

「色んなものを作ってるんだな」

 

「鍛冶師だからね」

 

「やっぱり売れるものか?」

 

「プレイヤーの間で名が広まっている鍛冶師ほど売れ行きはいい方よ。私もそれなりに売れているわ」

 

βから有名人ってことか。

 

「ささ、カルラくん。ミスリルのインゴットを製錬してくれる?」

 

「ヒム!」

 

「その後にヒムカ、俺のも頼むわ」

 

「ヒム!」

 

任せろと言わんばかりに腕に力こぶを作るイズがテイムしたヒムカになかった鍛冶スキル持ちのサラマンダーのカルラと俺のヒムカはミスリル鉱石を10個ずつ燃え盛る炉に放り込んでいく。そして、二人が交互にだが作業は一緒に炉の中をかき回すこと約1分。俺の分も作ってくれたから2分も掛かった。

 

「ヒームムー」

 

「おお、インゴットが出来たのか?」

 

「ヒム」

 

「わ、凄い。品質★6で高い方じゃない」

 

ヒムカが出来上がったインゴットの1つを手渡してくれる。冷ましたりする作業は必要ないらしい。さすがゲーム、お手軽だ。

 

「でも10個で一つか。コストが悪くないか?」

 

「また集めれば問題ないわ。ハーデス、時間ある?」

 

上目づかいで訊いてくるイズ。苦笑いして頷く。

 

「しょうがない、付き合ってやるよ」

 

「ふふっ、ありがとう。よーし、できればインゴットは100個確保したいわ。善は急げ、行きましょ!」

 

つまり1000個鉱石を掘り尽くす気だと?・・・・・安易に請け負ってしまった。

 

「明日は水の日だから最後の精霊の街に行くよね?どんなオブジェクトがあるのか楽しみだわ」

 

「そのためにこのインゴットを売りたいな。な、採掘したポイントで採掘できるようになるのは一日一回か?」

 

「それは調べたことが無いわね。試してみる?一時間後か半日だったら一日に数回も採掘できるとすればその分鉱石の数が増えるし」

 

異議無し。その間、他のところに行って時間を潰せばいいだけだ。ヒムカを畑に送還して鷹になった姿でイズを背中に乗せてミスリル鉱山へ飛びだった。

 

翌日―――。

 

今日は珍しく祝日の日。よって学校は休みだ。平日の日に休めて遊べる環境は学生にとっては祝い事だろうな。ゲームにログインしヘルメスのところへ寄った。サイナとリヴェリアをお供にして。

 

「久しぶりだな」

 

「いらっしゃい!今日は水の日だから行くんでしょ?約束の物も楽しみにしているわ」

 

「そのために資金が必要になってな。これ、どのぐらいで買い取ってくれる?」

 

ミスリルのインゴットを一つ彼女の目の前に置くと凍結魔法を食らったように表情が固まった。

 

「・・・・・?おーい」

 

「・・・・・」

 

「・・・・・」

 

両手で頬を摘まんで伸ばす。あ、柔らかい。でもってー彼女の唇に手を突き出した瞬間。

 

「イ、インゴもがっ!?」

 

「絶対に驚くと思ったわッ!」

 

これで前回面倒ごとが起きたんだからな!二度も同じ轍は踏まんぞ!

 

「・・・・・驚くなら他所でやれ。お前の驚愕の大声でこっちは他のプレイヤーに追いかけ回されたんだ。二度とここで新情報を回してやらないぞ。抑えきれないなら静かに驚け、いいな」

 

「・・・・・コクコク」

 

ならばいい。手を放せばまじまじとインゴットを品定めする眼差しで見つめだす。

 

「精霊の時も言ったと思うけど。インゴットなんて鍛冶師のプレイヤーの間じゃあブロンズ系、カッパー系の物しか流通していないの。アイアンのインゴットだってトップ鍛冶プレイヤーの中でも、ほんの一握りのプレイヤーがようやく作れるようになったばかりなの、それも低品質の物を。それがβでも手に入らなかった希少なミスリル、しかもインゴット。更に言えばこんな高品質なミスリルのインゴットなんて・・・。流通が限られているミスリルを持っているのはあなただけで、今の鍛冶師プレイヤーでも作れないでいるのにそれをインゴットにしてしまうなんて・・・・・」

 

怖い物を見る目で見られてまいか俺。そうすることができるようになったんだからしょうがないだろ。

 

「知り合いの鍛冶師が道理で喜ぶわけだわ。言っとくけどそれを可能にしたのはこいつだ。召喚ヒムカ」

 

「ヒム!」

 

火精霊サラマンダーのヒムカを召喚してヘルメスに納得させる。

 

「火精霊のサラマンダーのヒムカ君です」

 

「サラマンダーね!なるほど、生産系のモンスターなら納得できるわ。この子の情報を売ってくれるの?」

 

「最後の精霊をテイムしたら一括で売るさ。で、インゴットはいくら?」

 

「超希少だからね。武具店で商売してる知り合いが知ったら大騒ぎするぐらいだよ。今度紹介しろー!って」

 

「できれば内密に」

 

わかってるって、と苦笑いするヘルメスは買取の値段を提示した。

 

「1つ10万でどう?」

 

「数十万は売れると聞いたが、てっきり50万はいくかなって思ったぞ」

 

「他のプレイヤーにも売れるならいいんだけど、ほぼ独占状態でしょ?それにここは初期のプレイヤーが多い街だからね。このインゴットを活用できる鍛冶師のプレイヤーも少ない。価値は極めて高いけどまだ誰にも扱えないなら宝の持ち腐れって意味でこの値段なのよ。寧ろその知り合いの鍛冶師がこれで武具を作って売った方が更に倍の額で売れる方だよ」

 

・・・・・そういうものなのか?ま、俺は鍛冶師の専門プレイヤーではないから価値はあまり理解できない。それに彼女の言う通り希少でも扱えない物は放置されるのが珍しくもない。

 

「悪い、25で買い取ってくれないか?まだ見ぬホームオブジェクトが欲しいからさ」

 

「うーん、25万ねぇ。20万じゃダメ?」

 

「20万か・・・・・足りるだろうからそれで」

 

1つ20万で買い取ってくれた。

 

資金を得てホクホク顔の俺はヘルメスと別れて東の平原へと足を運ぶ。途中、イズと合流して―――。

 

「あ、ハーデス君。やっほー。ん?後ろにいるのは・・・・・誰?」

 

「売れたハーデス?ところで彼女とは知り合い?」

 

「ハーデス、どちら様ですか?」

 

イッチョウと偶然出会った瞬間に異様な雰囲気になった気がした。異なる視線が相手を見つめだす。

 

「初めまして、私はイッチョウだよ。ハーデス君とはリアルでも『とても』仲のいい友達だよ」

 

「私はイズよ。ハーデスとは『夜を明かす』まで一緒に楽しんでいるわ」

 

「私はリヴェリア・アールヴです。ハーデスとは『清いお付き合い』をしています」

 

・・・・・微妙に張り合っていないかお前ら?

 

「「「(理由は分からないけれど、負けたくない)」」」

 

「ハーデス君。この人達とはどういう関係かな?かな?」

 

「イズは鍛冶師のプレイヤーだ。だから一緒に採掘したり彼女の欲しがる物の為に行動をしてるんだ。リヴェリアは俺の畑で育ててる黄金林檎を譲る代わり、俺がいない時でも畑の手伝いをしてくれてとても助かっている」

 

「ハーデス、彼女との関係はなんです?」

 

「イッチョウとは歳は離れてはいるが本人も言った通り友達の関係だが。ある事情で同居しているし」

 

「え、同居?・・・・・通報した方がいいのかしら?」

 

運営に通報しようとするイズに本気で止めに掛かった。おいそこ、何嬉しそうに微笑んでいるんだっ。そう睨んで訴えればイッチョウが口を開いた。

 

「ハーデス君が嘘を言うか隠し事をするのかなーって、思ってたけど私達の関係を正直に言うから嬉しくて」

 

「同居しているだけで後ろめたい事なんて一切していないから当然だろうが」

 

「世間的には血の繋がりのない者同士の同居は世間じゃアレよ?両親は許しているの?」

 

「親公認だよん。寧ろ応援されている方だよー」

 

「・・・・・ハーデス、手を出しちゃダメだからね?許されているからって未成年と関係を持ったら犯罪よ?」

 

「出すか!出すとしてもイズのような成人だわ!」

 

というか、親公認ってなんだ?初めて聞いたぞ!

 

「あの、もう1人一緒に行くことになっているって人はどっちですか?」

 

「イズだ。さっきも言ったが彼女は鍛冶師だから鉱石と属性結晶を求めている」

 

「ハーデスと出会ってから本当に鍛冶師冥利が尽きることだらけなのよ」

 

「リヴェリアは風の精霊の里以降久しぶりに連れて来ようと誘ってきた。サイナは前回の反省を踏まえて俺と一緒に全線でイズとリヴェリアの護衛をして貰う」

 

「ふーん・・・・・。ね、私も一緒に行ってもいい?」

 

ん?

 

「【水泳】と【潜水】スキルのレベル上げは?」

 

「これから行く精霊の里ってところにあるならそこでもできるんじゃないかなって」

 

水精霊の里だから・・・ん、ありそうだ。断る理由はなくあっさり承諾する。こうして五人で四つ目の精霊の里へ赴くことになった。東の平原のフィールドボスはレスラーラビットというウサギである。その名の通り、プロレスラーの様に大きな体を誇るウサギだ。

 

「キシャシャウ!」

 

「ウサギって言うか・・・・・熊っぽいな」

 

2本足で立ち上がり、両手を上げてこちらを威嚇するその姿は、まるで白熊の様だった。耳が長くなかったら、本当に熊と見分けがつかないかもしれない。

 

「キシャーウ!」

 

「ふむ・・・・・」

 

「キシャー!」

 

「食べ応え・・・・・いや、モフり甲斐があるな?・・・・・ふふっ」

 

「キシャウッ?」

 

 

「いま、ボスモンスターが怯えませんでした?」

 

「食べ応えって聞こえたのは空耳よね?」

 

「気にしない方がいいよん」

 

 

レスラーラビットは速くて腕力も高いんだが、特殊な効果のある攻撃は2つしかないらしい。防御力も低いそうなので、パターンさえ分かっていればノーダメージでの突破も難しくなかった。

 

気を付けなくてはいけないのが、HPが半減してから使い始めるストンピングだ。

 

高くジャンプして、踏み潰そうとしてくる攻撃である。この攻撃の嫌らしいところが、ギリギリで避けても地面を揺らし、その振動でこっちの動きを阻害してくるのだ。

 

なので後ろに跳んで避けることで、攻撃も回避しつつ、振動によるスタンも回避するのがベストであるらしい。

 

うちのパーティで一番ヤバそうなのがイズだな。

 

それでも何とかストンピングを1発食らわずレスラーラビットをHP残り1割までイッチョウが追い込むことができた。

 

「あとちょっとで―――うん?」

 

ボスの中でも最弱に位置するレスラーラビットであるが、気を付けないといけない攻撃が2つある。1つが先程俺も食らったストンピング。もう1つが、追い込まれてから使用するウサギ天国と呼ばれる攻撃だ。

この技は全てのレスラーラビットが使う訳ではなく、30回に1度程度の割合で、使用してくる個体が出現するらしい。外見では見分けがつかないので、戦闘してみるまで分からないと情報には書かれていたんだが・・・。まさかその個体に当ってしまうとは。

 

「【挑発】!」

 

ウサギ天国。その名の通り、無数のウサギを召喚して、パーティ全体に一斉攻撃する技である。所詮はラビットなのでダメージはさほどではないし、攻撃後には消滅してしまうのだが、とにかくイッチョウ達に攻撃が向かわないようこっちに攻撃の矛先を向けさせる。

 

「「「ウサウサウサウサ!」」」

 

どこからともなく湧き出た40匹近い兎たちが、縦横無尽に飛び回ってこちらに蹴りを入れて行く。

 

 

「ノーダメージ・・・・・凄すぎるよん」

 

「というか、HPが一mmも減ってないのが異常よね」

 

「凄いですハーデス」

 

 

「【毒竜(ヒドラ)】」

 

激毒の攻撃を放ってレスラーラビットを毒状態にしてダメ押しに【エクスプロージョン】でとどめを刺す。

 

「え、もしかして爆発魔法?」

 

「違う、爆裂魔法だ」

 

「珍しい魔法を取得したんだね」

 

属性の魔法は珍しくもなく誰でも取得できるみたいだからだろうな。MPポーションで回復する。

 

東の平原を突破した俺達がいる蟲毒の森には、周辺に色とりどりの花が咲き乱れる、綺麗で深い泉があった。未だ泉の謎を解いたプレイヤーはいないが今ここに明かされようとしていた。

 

「あった。あれだ」

 

直径10メートル程の円形の広場になっている。その中心に、聞いていた通りの花に囲まれた美しい泉が存在していた。水仙の花と球根を発見できた。後で回収しよう。

 

「よし、ラスト行くぞ」

 

そう言って泉の淵に立ってみると――いきなり泉が光り輝いた。最初は太陽光が反射したのかと思ったが、明らかに泉自体が淡い光を放っている。

 

『水霊の祭壇に水結晶を捧げますか?』

 

「捧げる」

 

『では、水結晶を泉に投げ入れてください』

 

指示通りに水結晶を取り出して、泉へと投げ入れる。すると、さらに強い光が泉から天へと向かって凄まじい勢いで立ち上った。

 

「派手な演出キター!」

 

「何度見ても凄いわね」

 

「そうですね」

 

 

泉から立ち上る光の柱。

 

石でできた、古代遺跡の入り口にでも設置されてそうな、神秘的な雰囲気たっぷりの門である。門の表面には波に似た複雑な紋章が彫られ、神秘さを高めることに一役かっている。高さは5メートルくらいはあるだろう。

 

そんな門が、いきなり目の前に出現したのだ。

 

閉じられた門扉はすぐに石の扉がゴゴゴゴと開き始めた。良かった。自力じゃ絶対に開けられないからな。その直後、ワールドアナウンスが鳴り響く。

 

《精霊門の1つが解放されました》

 

『水霊門を開放した死神ハーデスさんにはボーナスとして、スキルスクロールをランダムで贈呈いたします』

 

《4種類の精霊門が全て解放されました。最初に、四門全ての開放を達成したプレイヤーに、称号『精霊門への到達者』が授与されます》

 

称号:精霊門への到達者

 

効果:賞金30000G獲得。ステータスポイント4の巻物獲得。精霊系ユニークモンスターとの遭遇率上昇。

 

称号をゲットできてしまった。しかもまたユニークモンスターとの遭遇率上昇効果である。多分、非常に有用なんだと思うが、効果は実感できてないんだよな。いや、賞金30000Gだけでも十分か。

 

インベントリを確認する。プレゼントボックスが入っていたスキルスクロールを開くと、出現したのは【水中探査】のスキルだ。うーん、知らんな。このゲームはスキルの数が膨大なので、初めてみるスキルまでは覚えてられない。

 

「とりあえず使っちゃうか。・・・んー面白いスキルだな」

 

自分の魔力をエコーの様に放ち、水中をスキャンするスキルだった。情報が3Dマップとして、俺のステータスウィンドウに表示されている。

 

レベルが上がれば精度も範囲もあがるらしい。面白いは面白いけど、俺にはあまり使い所が無いかもしれない。多分、水中で活動できる種族なんかには必須のスキルなんだろう。

 

「巻物開いたけどどうしたの」

 

「ランダムで取得できるスキルのものだったから開いたんだ。さて、中に入ろうぜ」

 

目の前の開いた門の先が見えなかった。暗くて見えないという訳ではなく、まるで水の中であるかのように、青い光がユラユラと揺れ動いている。俺達は門の中の青い光に飛び込んだ。体が水の様な物に包まれる感触があったと思ったら、次の瞬間には大きな広間の様な場所に出る。

 

 

石造りの神殿の様に見える場所だった。薄暗い部屋の四方には不思議な青い光を放つ玉が浮かび、部屋を神秘的に照らしている。

 

「おおおー」

 

「ようこそいらっしゃいました。解放者よ」

 

「わっ、誰?」

 

「私はウンディーネの長。貴方達を歓迎いたします」

 

部屋の中に瞬間移動して来たかのようにいきなり現れたのは、ウェーブのかかった水色の髪をポニーテールにした1人の美しい女性であった。着ている服は踊り子の様な薄手の衣装で、どこか大樹の精霊様に似ている気がする。あっちが緑なら、こちらは水色だ。

 

「ここは、何なんですか?」

 

「この場所はウンディーネの隠れ里。選ばれし者だけが訪れることが出来る、聖なる地です」

 

「なるほど、だから水霊門なんだねー」

 

「こちらへどうぞ、ご案内させていただきます」

 

「はい」

 

ウンディーネが踵を返して歩き出したので、俺達はその後について行った。ウンディーネは広間から続く通路を進んでいく。

 

狭い通路を抜けたその先には、先程までの石造りの薄暗いダンジョンの様な場所ではなく、天井も壁も床も、全てが白い大理石の様な物で造られた、美しい空間が広がっていた。ヨーロッパの町中にある噴水広場的なイメージだろうか? 多分、東京ドームより広いと思う。

 

壁や通路、天井、果ては階段や空中通路にまで滝や水路が縦横に設置され、水が止めどなく流れ続けている。さすが水の精霊の住処っていう感じだ。

 

そして、そこにはウンディーネによく似た美しい少女たちが大勢いた。普通に語り合う者も多いが、中には店の様な物を営んでいる者さえいる。

 

「ここは我ら水精霊の街。門を潜りし人間であれば、自由に行動することを許可します」

 

「ありがとうございます」

 

これは面白そうな場所だ。早速いろいろ調べたい。

 

「あの、幾つか質問があるんですが」

 

「何でしょうか? 答えられる範囲でお教えしましょう」

 

イッチョウが尋ねる。精霊の里に来たのは俺達の中で初めてだからな。

 

「えと、またここに来ようと思ったら、水の日に水結晶を捧げなくてはいけない?」

 

「いえ、日と結晶を一致させなくてはいけないのは最初だけです。一度入った者であれば、いつでも門をくぐることができます。ですが自力で門をくぐっていない資格者は弾かれるでしょう」

 

つまり、イッチョウも結晶を手に入れないとダメってことだ。他人を連れてくることはできないと。だけど気になる事があるな。

 

「他の精霊の里でも結晶一つで一人以上入れたのは何故なんだ?人数制限は無し?」

 

「それは属性結晶の品質が高いからです。貴方が捧げた水結晶の品質は4以上なのでこの里に入れたのです」

 

これは寝に耳に水な話だ。ヘルメスにも情報として売れるな。あと何か聞きたいことはあるか?だいたい聞いたと思うけど・・・・・。

 

「あ、もう一つ。あそこに魚がいるのが見えるけど、ここで釣りをしても?」

 

「構いませんよ」

 

精霊の住処の魚だ。何か面白いのが居るかもしれん。これも面白そうだ。

 

「では、私は入り口に戻ります。また何か聞きたいことがあれば、尋ねてください」

 

「わかりました。色々と説明ありがとうございました」

 

ウンディーネが頭を下げて去っていく。よし、さっそく探検だ。水霊の街はどこもかしこも美しかった。全てが白と水色の大理石で造られ、そこに流れる水の音が、まるで川のせせらぎの様に耳に心地よい。

 

その街を歩くのは、水色の美しい髪をしたウンディーネの少女たち。本当に幻想的だ。

 

「いやー、これぞファンタジー世界だねハーデス君」

 

「ゲームならではの綺麗さだし本当だな」

 

テンションが上がって来たイッチョウと周囲を見回しながら店に行ってみた。手近な店をのぞいてみると。

 

「ここは武具屋か」

 

「いらっしゃーい。ウンディーネの武具屋さんだよ」

 

売っているのは水属性の賦与された武具たちだ。結構性能もいい。その中で面白い装備が2つあったのでつい買ってしまった。

 

 

名称:釣り人の履物

 

レア度:4 品質:5 耐久:220

 

効果:防御力+11、釣りボーナス小

 

 

釣りスキルにボーナスが入る装備だ。防御力も上がるし、値段も8000Gと手が届く範囲だったし。これで釣りをより楽しめるだろう。それともう1つが、水霊のピッケルだ。

 

 

名称:水霊のピッケル

 

レア度:4 品質:6 耐久:400

 

効果:採掘専用、水中での採掘にボーナス

 

 

「面白いピッケルじゃない。耐久も高いし私買うわ」

 

「だな。俺も買おう。【水泳】と【潜水】スキルレベルも上がる旨味があるじゃないか」

 

イズが10本以上も買う程のこの効果で重要なのは、水中での採掘ボーナスだ。つまり、水中に採掘ポイントがあるってことだった。オルトは水中に長時間入れないと思うし、いざとなったら俺も採掘しないと。

 

 

次にのぞいた食材屋には、様々な魚が並んでいる。ビギニウグイにビギニマス、ビギニへラブナもある。ただ、それ以上に目を引いたのが、ビギニウナギにビギニエビ、ビギニシジミだった。何でもビギニを付ければいいと思ってんのか?にしても、もしかしてここでこの魚等が釣れるのか? とりあえずあとでトライしてみて、ダメだったら買っちゃおう。ウナギは1匹2000Gもするから、ぜひ釣りでゲットしたいところだ。

 

お次は道具屋である。釣り道具が充実していた。ここで水霊の釣り竿、水霊の魚籠、水霊の罠籠、水霊のルアー×2を買ってしまった。34000Gもしたが、これも初期投資だ。魚をバンバン釣り上げれば、美味しいごはんも食べれるし、すぐ買って良かったと思うさ。

 

「さーて、次のお店を見ようかな」

 

次の店に向かう。そこは雑貨屋だった。水鉱石で作った冷却作用のあるコップとか、面白いアイテムがたくさんである。その中に、俺の目を引くアイテムが置いてあった。

 

「水草の種?これって、何だ?畑で育てられるか?」

 

オルトを召喚して水草の種のことを聞くと首を横に振られた。

 

「ムー」

 

「無理なのか。設備不足? スキル不足?」

 

「ムム」

 

どうやら両方であるらしい。残念だが、今買っても無駄になりそうだ。育てる算段が付いたら買いに来るとしよう。その次は薬屋だった。普通にポーションなどが置いてある中、水中呼吸薬という薬が置いてある。飴玉の様な形状で、口に含んでいる間は水中で呼吸が出来るようになるらしい。

面白そうだが、結構高い。最も短い30分でも2000Gする。でも、いざという時のためにあってもいいだろう。どこで溺死する羽目になるかもわからないし。

 

「私も買っと。これ、ハーデス君がさっき言ってた【水泳】と【潜水】のスキルレベル上げに役立つかもだし」

 

「もう水中戦もあるってことだよな」

 

と言う事で1つ購入しておいた。他では見ない薬だし。その隣は食堂だった。

 

「ほう、ここは食堂か」

 

しかも、テイクアウトも出来るようだ。メニューを見ると、魚の塩焼きや、煮魚など俺でも作れそうなメニューが多い。アクアパッツァやブイヤベースなんかお洒落でいいな。帰ったら試したい。

 

どうしても我慢できず、ビギニアユの塩焼きを買ってしまった。700Gもしたが、メチャクチャ美味しい。これは簡単に作れそうだし、ぜひ真似しよう。

 

「最後は・・・・・待望の店キター!」

 

店の中には俺が期待していたホームオブジェクトを販売している!

 

「いらっしゃいませ! ここはホームオブジェクトを取り扱っておりますよ」

 

「ホームオブジェクト?」

 

「見せてもらおうか」

 

何も知らないイッチョウに説明をする。ホームオブジェクトとは、自分のホームに設置できる、様々なアイテムのことだ。棚やテーブルの様な生活に必要な物から、彫像や壁掛けの様な、美術品などもある。

 

普通はホームを購入せねば意味がないが、俺は一応畑がある。物によっては家ではなく、畑専用のオブジェクトもあるだ。

 

「へぇ、そうなんだ。どれも持ってない私には意味がないものだねー」

 

「ほうほう、なるほど」

 

畑に設置できるオブジェクトは4つあった。自動的に水を散布してくれるスプリンクラー。畑であればどこにでも設置できる井戸。あとは水耕用のプールに、水が常に涌き続ける泉である。

 

水耕用のプールがあれば水草を育てられるのかと思ったら、それだけでも無理らしい。アルトでさえスキルが足りていない様だ。

 

俺は取得可能なスキルの一覧を確認してみたが、それらしきスキルはない。多分、初期スキルではないんだろう。農耕のレベルを上げなくてはいけない物と思われた。

 

そして最後の『浄化の泉』だが、これがなかなか凄まじい。なんと、毎日50個、浄化水が採取できるのだ。調合に使える上、浄化水を畑に蒔くと品質を上げることも出来るらしい。

 

「水耕!やったぞ、これで籾、米を作れる!オルト、さっきの水草にはこれが必要だったんだな?」

 

「ムム」

 

「よし、なら是が非でも買おうじゃないか!」

 

「ム!」

 

オルトも賛成な様だ。畑も4マスしか使わないし、ぜひ買いたいよな。ただ、値段が20000Gもした。

 

いや、でも俺はほぼ毎日調合に浄化水を使う。それを考えたら、20日もすれば元が取れるはずだった。

 

「よし、買っちゃおう。全部5つ分だ」

 

「ム!」

 

「5つ!?結構な値段になるよ?」

 

「畑を充実するためなら散財は惜しまん!」

 

「ありがとうございます。ではこちらをどうぞ」

 

店員が差し出してきたのは、1枚の羊皮紙だった。泉の絵が描かれている。これは他の精霊の里もそうだったが、オブジェクトを設置したい場所にこの羊皮紙を置いて、設置と命じれば、たちどころに購入したホームオブジェクトが召喚されるんだ。今すぐ設置せずに、後で好きな場所に置けるのは非常に嬉しいな。畑に戻ったら、一番良い場所を考えよう。

 

「ホクホクした顔ねハーデス」

 

「これで4つすべての里のホームオブジェクトを買えましたし、畑も豊かになるでしょうからね」

 

「完璧にファーマー専のプレイヤーと逸脱してるよん」

 

俺に対してそんな感想を言ってくる皆にちょっとだけ釣りをしないかと提案する。了承した3人と水霊の街で釣りを始める。サイナも釣りスキルを取得してもらおう。

 

―――30分。

 

水霊の街で釣りを始めてから30分。釣果はそれなりであった。店で売っていた魚は全部入手できている。

 

手に入れたばかりの水中探査がメチャクチャ役に立った。魚群探知機の様に利用できたのだ。まだ精度が低いから魚の種類までは正確には分からないけど、魚の近くにピンポイントでエサを落とせた。

 

それでもビギニウナギは中々手ごわい。まだ1匹しか釣れていないんだ。

 

「よし。そろそろあがるか。オルト、罠籠を引き上げてくれ」

 

「ム!」

 

罠籠と言うのは、釣り場などで仕掛けておくと、獲物がかかるかもしれないというアイテムだ。何が取れるか、そもそも取れるかどうかも分からない運任せの道具ではあるが、うちには幸運持ちのオルトがいるからな。もしかしたらと思って購入してみたのだ。

 

「ムームムッ!」

 

「お、何か穫れたか」

 

「ム」

 

アルトが差し出した罠籠の中には、エビが1匹と、二枚貝が2つ入っていた。ビギニエビとビギニシジミとなっている。にしても、貝はどうやって罠に入ったのか。まあ、ゲームだし、深くは気にしなくていいか。

 

「やったな」

 

「ム!」

 

釣りも堪能したし、【釣り】スキルも取得できた。いよいよダンジョンに向かってみるか。

 

俺は一緒に釣りをしていた皆に声を掛け、ダンジョンに向かった。

 

ダンジョンへと続いているという扉の前に、1人のウンディーネが立っている。

 

「こんにちは。試練へ挑戦成されますか?」

 

「挑戦します」

 

「分かりました。ご武運を」

 

 

と言う事で、勢い込んで水霊の試練に足を踏み入れた俺達だったんだが、最初の部屋には何もいなかった。

 

「うーん、肩透かしもいいとこだね?」

 

ダンジョンの中は、先程の広場とはまた材質が違っていた。青みがかった、少しザラッとした手触りの石だ。

最初の部屋は12畳ほどの部屋になっていた。正面に先の見えない通路が伸び、左右の溝には綺麗な水を湛えている。

どうも水の中に光源があるらしく、部屋全体にユラユラと揺れる水の影が映し出されていた。これがまた幻想的で美しいのだ。正直、ダンジョンとは思えない雰囲気だ。

 

「水の中の光はどんな感じだ?」

 

この美しい光景を造り出す光源がどんなものなのか少し気になり、イズ達と一緒に溝の中を覗き込む。

 

「あれか。光の玉みたいなのが底にあるな」

 

「そうね」

 

皆も水の中に覗いてその美しさに感嘆の声を上げていた。

 

「それにしても深いな」

 

あの光源の深さを考えたら、水深10メートルくらいはあるんじゃないか?泳げないプレイヤーが落ちたら、それだけで死に戻るだろう。もしかしてこれもトラップなんだろうか?しかも、どうやら下はもっと広くなっているらしい。多分、左右の溝が下で繋がっているんじゃなかろうか?

 

「そうだ、こんなときこそあれだ」

 

「あれ?」

 

疑問符を浮かべるイッチョウの隣で俺は水中探査を使ってみることにした。

 

コーンというソナーの様な甲高い音と共に、水中の3Dマップが浮かび上がる。お、やっぱり下で繋がってるな。

俺達が立っている場所は実は橋の様な形状で、その下は水で満たされていた。それだけではない、どうやら橋の下に宝箱が隠されているらしい。3Dマップにはそういった情報も色違いで表示されるようだった。これは思った以上に便利だな。

 

「宝箱があるぞ」

 

「そうなの?というかよくわかったわね」

 

「さっきのスクロールで得たんだ。【水中探査】ってスキルをさ」

 

「すっごく便利なスキルじゃない。因みに宝箱の中は何が入っているのかわかる?」

 

「うーん、今までの経験だとネックレスと隠し宝箱を開けた最初のプレイヤーに宝石が手に入るんだよな」

 

誰かいる?と訊いてみればリヴェリア以外の二人は取ってきてもいい、とばかりどうぞどうぞと譲る仕草をした。3人で見つめ合って異様な雰囲気を漂わせていたとは思えない息ピッタリだな。

 

「じゃあ、ちょっと行ってくるな」

 

そう告げて俺は水中に飛び込んだ。そして気付く。下に向かって泳いでいくと、水中は俺が思っていた以上に広かった。俺の低レベルの水中探査スキルでは調べきれない程に。まだ、奥に向かって通路が伸びているんだよな。

もしかして、水中にもダンジョンが張り巡らされているのだろうか? これは中々攻略が難しそうなダンジョンだった。

 

「(宝箱発見!)」

 

宝箱は目の前だ。宝箱を開くと、中には1つのネックレスが入っていた。鑑定は後回しにして、とりあえず水上に戻る。

 

 

「空気のネックレスか。良いものじゃないか」

 

名称:空気のネックレス

 

レア度:3 品質:9 耐久:200

 

効果:【VIT+4】、呼吸ボーナス

 

 

どうやら、その名の通り空気を供給してくれて、潜水時間にボーナスが入るらしい。防御力は低いものの、このダンジョンの攻略にはとても役立つだろう。

 

さらにもう1つ、インベントリにアイテムボックスが入っていた。隠し宝箱を最初に開けたプレイヤーにボーナスが与えられるのはここも一緒のようだ。

 

開くと、青翡翠という宝石が入っていた。以前入手した緑翡翠の色違いみたいだな。これは良いものだ。

 

因みにこのゲーム内で、普通の宝箱は採取ポイントと同じで個人個人にポップする。なので、俺が開けた直後でも、他のプレイヤーは宝箱が無いと言う事態にはならないのだ。

 

「というわけで、【潜水】スキルにうってつけな装備品を手に入れた」

 

「便利な装備だよん!てなわけで、私も取りに行ってくるねー!」

 

「その次、私もいいかしら?」

 

二人も水中に潜ってネックレスを取りに行った。

 

「初めて会ったはずなのにあの二人は仲がいいですね」

 

「最初は不安だったんだがな。何で3人共不穏な雰囲気を醸し出したんだろうって。

 何か気に入らないとこあった?」

 

「だ、出してませんっ」

 

否定するが・・・俺からすれば出会い頭、友好的ではなかったのは明らかだった。原因は分からん。聞いたところでリヴェリアのようにはぐらかされるのがオチだろう。こういうのが女の問題なんだろうな。

 

二人が水中から宝箱を開いて戻ってきた後に、俺達は次の部屋に向かった。薄暗い通路を進む。そして、次の部屋に入った直後に遭遇した。

 

「ゴアア!」

 

作りが最初の部屋とほぼ同じだったんだが、水中からモンスターが飛び出してきた。新しい登場の仕方だな。

これじゃ、水中探査はまだレベルが低いから、そこまで遠くは調べられんし。まあ、倒せない相手ではないから問題はない。油断はしないがな。

 

「亀のモンスター?初めて見るモンスターだ」

 

名前はポンドタートル。小型の亀のモンスターだ。ただ、飛び出してきたときの身のこなしを見るに、亀でもそれなりに速く動けそうだった。そしてこういうパターンはもう把握している。あれはテイムできない類のモンスターである事だ。テイムに指定できないサモナー専用のモンスターってことだろう。ならば倒すしかない。

 

「【水無効】のスキルを持つ俺には水攻撃は通用しないがな。忌々しいノックバックはどうしようもないが」

 

「忌々しいっていったいどこで何が遭ったのハーデス」

 

「もうじれったいってぐらい遭ったんだよ。狭い通路でノックバック効果のある水鉄砲を食らって

 何度も吹っ飛ばされて前に進めないじれったさが。もう水棲モンスターとは戦いたくないのが本音だっ」

 

「ああ・・・・・うん、私もあれは心が折れ掛けたよん。ハーデス君に攻略の仕方を教えてもらってなかったら完璧に折れてた」

 

「(この二人をそこまで言わしめるモンスターって逆に気になる)」

 

小さい外見とは裏腹に、この亀がかなり強い。攻撃方法は突進と、口から吐く水鉄砲が主なのだが、突進してくる際は持ち前の反射神経で亀を蹴り飛ばす。だが亀なだけあって硬い。特に甲羅に隠れられると、攻撃が全然きかなかった。その間に微妙にHPを回復されてしまうのだ。

 

「ほー、回復する?いいだろう。この中でも回復できるならやってみやがれ【ヴェノムカプセル】!」

 

こういう物理防御力が高い相手には魔法、俺の場合は毒攻めだ!亀を毒で作った球体の中に閉じ込めてじわりじわりとHPを削っていく。

 

「うわぁ・・・・・受けたくない魔法だよ」

 

「無効化じゃない限り減り続けるでしょうね」

 

「よし、倒した!」

 

数分もせず倒した。とりあえずこの部屋を探索してみると、地上部分には何もない。だが、やはり水の中には何かがあった。潜ってみると、それは水草だ。せっかく見つけたんだし、今は育てられなくてもとりあえず採取しておく。

 

名称:空気草

 

レア度:3 品質:4

 

効果:口に含むと、潜水時間が伸びる

 

うーん。これって、どう考えても水中呼吸薬の材料だよな。できるだけ採取しておこう。あと、小さすぎて水中探査には引っかからなかったが、ビギニシジミもゲットできた。エビもいたが、速過ぎて全く捕まえられないが【パラライズシャウト】で麻痺させてから捕獲できた。

 

さらに水中を探索するが、さすがにこの部屋には宝箱はないな。ただ、水中にはやはり通路があり、前の部屋とも水の中で繋がっているようだった。勿論、奥にも続いている。水草を採っていると、ザブンという水音が聞こえたので上を見上げると、イッチョウが水中に飛び込んできているのが見えた。潜水して水草を引き抜くと、そのまま水中で採取を始めた。まあ、採取の手は多い方がいいし、ここは頑張ってもらおう。

 

水草とシジミをあらかた採取し終えた俺達は、次の部屋に向かう。すると、そこには恐ろしい形相の鬼女が待ち構えていた。イッチョウの口から「怖っ」と漏れた。水色の髪に、シースルーの羽衣。ウンディーネの特徴だ。だが、顔が鬼と見間違うほどに恐ろしい。つり上がった眉に、大きく見開かれた白目。頬はこけ、その顔には深いしわが幾重にも刻まれている。さらに口は堅く結ばれ、その奥からは歯ぎしりの音が今にも聞こえて来そうだった。

 

山姥とか、そう言った類とそっくりな顔である。名前は狂った水霊。これが狂った精霊という事なんだろう。ホラーが苦手な人は、夢に見そうだな。

 

どうやら1体だけらしい。しかもこちらには気づいていない。先制攻撃のチャンスだ。

 

「私が行ってもいい?」

 

「いいぞ。結晶を手に入れないとダメだし」

 

イッチョウは二振りのダガーを手にして駆け出した。接近する彼女に気づく水霊は水魔法を繰り出すが、完全に見切ってるイッチョウにはかわされて懐に飛び込まれた時にはあっという間に切り刻まれて水霊のHPを削りきる。

 

「ムム!」

 

「どうしたオルト?」

 

「ムー!」

 

戦闘終了後、オルトが何やら水中を指差している。俺はオルトの隣で一緒に水中をのぞいてみた。

 

「あれは・・・・・採掘ポイントか」

 

「ムッムー!」

 

「ん?オルト?」

 

ザブン!

 

オルトが飛び込んだ。見守っていると、オルトは不格好ながら泳いでる。そして、水中にある採掘ポイントへとたどり着いた。壁にできた亀裂の様な場所だ。その前で何度かクワを振るう。

 

そして、勢いよく水から上がって来た。全身びしょ濡れのまま、土下座するような恰好で息をゼーゼーと荒げている。やはり、水中は得意ではないらしい。泳げないと言うよりは、呼吸が続かないんだろう。

 

採掘の成果を確かめてみると、驚きの素材が入手できていた。

 

「水鉱石が採れてるもしかして、水鉱石の採掘率が高いのか?」

 

「ハーデス。私も採掘してくるわ」

 

俺も行ってみよう。オルトをリヴェリアに任せて、イズに続いて俺も水中に飛び込んだ。そして、買ったばかりの水霊のピッケルを使って採掘を行う。

 

ピッケルの効果か、水中でも抵抗なく振ることができる。

 

上に戻って確認してみると、水鉱石が3つ、錫鉱石が1つ採取できていた。やはり水鉱石が大量に採掘できるらしい。

 

「良い場所を見つけた。他に採掘ポイントはないか?」

 

そう思って部屋の中を水中探査で探ってみたが、この1ヶ所だけらしい。これは他の部屋もぜひ探してみなくては。

 

「じゃあ、次の部屋にいくぞ」

 

狂った水霊が複数いても勝てるだろう。イズとリヴェリアを庇いながらであるが、簡単に勝つよりはいい。

 

「「レッツゴー!」」

 

ノリがいいなイッチョウとイズ。次の部屋に足を踏み入れた途端、水の中から狂った水霊が飛び出してきた。このパターン、サメだったらもっと心臓に悪いだろうな。

 

「結晶を置いていけ!」

 

「ムムー!」

 

今度もテイムをせずに攻撃に専念してみた。スムーズに倒し【幸運】のおかげで水結晶ゲットできた。

 

「ねぇ、あの水の中に何かあるか調べない?」

 

「ああ、してみるか。さて、この部屋には何があるかな」

 

スキルで色々調べてみると、水中には魚影があった。なんとダンジョン内で魚が釣れるらしい。そのことを伝えてみるとそんな感じかと普通の反応をされた。

 

「一回だけしてもいいか?」

 

「いいよん。私もしてみたいし」

 

ぶっつけ本番ではないが水霊のルアーで釣りを始める。何度も繰り返し使える利点はあるものの、魚に取られたらアイテム自体が失われてしまう。もし一発目で取られたら大損である。

 

だが、水霊の街で買った物だし、この釣り場に合わないと言う事はないだろう。

 

「よっと」

 

水中探査で巨大魚の場所を把握し、その前にルアーを沈めしばしそのまま軽くしゃくる様にルアーを動かしていると、すぐに巨大魚が向かって来た。

 

「キター!」

 

「早っ」

 

水底に居た巨大な影が食いついた。俺はリールを巻きながら、巨大魚と格闘する。良い引きだが、俺からは逃げられないぞ。伊達に暇つぶしと釣りを長年していないんだからな!

 

そして5分後。

 

「ふん!」

 

俺はついに巨大魚を釣り上げることに成功していた。竿を思い切り引き上げた反動で、俺と同じくらいの大きな魚体が勢いよく宙を舞い、部屋の床にドシンと落下する。

 

淡水なのに、海水魚のハタやクエに似た外見をしていた。色は茶色地に赤い斑点だ。やっぱりクエっぽいよな。

 

「おおー、デカい!」

 

「このゲームにこんな魚がいるのね」

 

「さて、なんていう名前の魚か――あれ?」

 

赤マーカーが出てる。HPバーも表示されている。完全にモンスターの扱いなんだが・・・。ビチビチと跳ねまわっている魚モンスター。だが、突然その口から水弾が発射される。何とかかわしたが、やはりモンスターだ。名前はファング・グルーパーとなっていた。

 

テイムにも指定できる。いや、魚型は育成が難しいって聞いたし、今はいらないな。水中、もしくは陸上活動を可能にするための特殊な装備がなきゃ連れて歩けない上、ホームに水槽などが無ければ牧場に預けっぱなしにしなくてはいけないらしいのだ。

 

「【パラライズシャウト】」

 

そして戦闘がはじまる。そしてサイナの【悪食】で戦闘が終了する。麻痺攻撃で身動きができない上に水中から釣り上げられたせいで、本来の戦闘力を発揮できなかったからな。水中だったら強敵だったんだろうが・・・・・。

 

しかし、これは良いカモを見つけたんじゃないか?

 

「他の部屋でもこいつ釣り上げられたら、もしかして楽に経験値を稼げるかも」

 

弱くても、経験値はそれなりらしい。オルトとレベルアップしたのだ。進化はするかわからないが。

俺達はこの部屋にいたもう1体を釣り上げて撃破すると、早速次の部屋へと向かってみた。

 

「おっ、狂った水霊が2体だ」

 

俺達が部屋の中央に到達した瞬間に水の中から飛び出して来た。しかも、水中探査に引っかからなかったぞ。俺のスキルがまだ低いのか、そういうスキルを向こうが持っているのかは分からんが。

 

狂った水霊2体を撃破した後、ファング・グルーパーを釣り上げて撃破すること3体。これで全てのファング・グルーパーを倒した。にしても、もし水中を進んできてたら、計5体と戦わなくてはいけなかったってことだ。攻略するには水中の探索が必要そうだが、そのためにはより難度が高い戦闘をこなさなきゃいけないってことだろう。ま、俺にはしばらく関係ないか。今はテイムと結晶集めが優先だし。満腹度が減ってることを確認した俺達は、入り口に向けて撤退を開始した。まあ、戻るだけならすぐなんだが。

 

「うん?」

 

「アアアア!」

 

倒したはずの狂った精霊が目の前に居る。釣りに時間をかけ過ぎたか。でもパーティの誰かがダメージを負うこともなく倒せた。

 

「この部屋、また魚がいるな」

 

他の精霊の里もそうだったが1部屋につき、1時間くらいでリポップだな。狂った水霊さえいなければ部屋を延々行き来して魚狩りが出来る。まあ、今日の所は帰り道の奴だけ狙っていこう。俺は再びファング・グルーパーを1匹釣り上げ、止めを刺した。やはり超弱い。なのに経験値はそれなりで、俺、オルトもレベルアップできた。やっぱりレベル的に格上なのかもしれないな。その後、俺達はポンドタートル1体を撃破し、最初の部屋に戻って来たんだが――。

 

「あれ?狂った水霊だけども、羽衣の色が変なんだけど?」

 

イッチョウがそう指摘するのも無理はない。他の水霊が水色地に薄緑の模様が描かれた羽衣なのに対して、この水霊は薄水色地に藍色の模様が描かれた羽衣を身に着けていた。髪の毛の色も、他の狂った水霊に比べて明るめだ。

 

「ユニーク個体か。丁度いい、テイムしたいから手出しはしないでくれ」

 

「ムー!」

 

そして戦を始めて分かったことがあった。この水霊は範囲攻撃を持っており、【挑発】で固定してもイッチョウ達にまで攻撃が及んでしまう。皆には悪いが少しだけ待っていてもらうしかない。

 

「よし、あとちょっと」

 

ユニーク個体の狂った水霊のHPを残り1ほどに削ったところでテイムのチャンス到来。【パラライズシャウト】で麻痺している上、HPも残り僅か。テイムする好い頃合いだ。

 

「テイム。テイム。テイム。テイム――」

 

俺はテイムを繰り返すが、一向に成功しない。やはりレベルが上でユニーク個体。一筋縄じゃいかないな。

 

俺は彫像のように固まり、山姥の彫像のように見える狂った水霊にテイムを繰り返した。

 

「テイム。テイム。テイム――」

 

全然テイムできないなっ!それでもテイムを繰り返していると、水霊の麻痺が解けてしまった。

 

「アアアア!」

 

「【パラライズシャウト】」

 

瞬時で態異常攻撃に切り替えて再び麻痺状態にした後、余裕をもってテイムを再開したところで―――。

 

「テイム!」

 

「アアア――・・・・・」

 

水霊の体が一瞬輝きに包まれる。おお?上手くいったのか?

 

「フム♪」

 

変わったな~。鬼女みたいな顔だった狂った水霊が、町にいたウンディーネたちと同じような美少女に変化していた束の間、パーティが上限の為にテイムしたウンディーネはすぐに始まりの町の従魔ギルドの牧場へ転送された。

 

「これで全ての精霊をテイムしましたねハーデス」

 

「おかげさまでなリヴェリア。約束の物も手に入ったイズも更に鍛冶の腕が磨きかかるし、俺もここでやりたいこともできた。というか、これから増えるだろうな」

 

「何をするの?」

 

「結晶集め。他のプレイヤー達も欲しがるからな。ま、その分稼げるからいいけど」

 

暴利の限り尽くせそうだ。金はいくらあっても困らないのはゲームでも同じだからな。

 

「私達はタダで手に入れられたから嬉しい限りだわ。ありがとうねハーデス。今度お礼をするわ」

 

「イズからのご褒美か、何してもらおうかなー・・・・・あ、じゃあHPを増強する装備品がいいな」

 

「それでいいの?それなら丁度いい物があるからあげるわ」

 

『生命の指輪・Ⅷ』【HP+200】

 

インベントリに送られた指輪の内容に小首をかしげる。

 

「この・・・・・Ⅷって数値は?」

 

「それは【鍛冶】スキルで生産した装備にだけできる【強化】でついた数字ね。【鍛冶】の装備にはイベントの装備と違ってスキルは付けられないから、その代わりの利点よ」

 

「なるほど・・・・・」

 

「【強化】の成功率は【鍛冶】スキルのレベルで変わるけど・・・・・最大値のⅩに到達するのはかなりの運が絡むわ」

 

【鍛冶】をしていれば自ずと取得できるスキルのようだな。俺も時間があるときは取得してみよう。

 

「ありがとう、大切に使うよイズ。んじゃ皆、ダンジョンから出ようか」

 

「はーい」

 

始まりの街へ帰還してヘルメスに約束の最後の一つを、ヘパーイストスに属性結晶と鉱石を渡せばクエスト達成だ。

 

「おや、お帰りですか?」

 

「ん」

 

「またいらしてください。あの子のことよろしくお願いします」

 

「わかった」

 

ウンディーネの長とも言葉を交わすが、特にイベントなんかはなさそうだった。狂った水霊を解放したことで何かあるかと思ったんだけどな。いや、それでイベントが起きたらテイマーが優遇され過ぎか。

 



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レジェンドレイドモンスター

修正しました。


始まりの町に戻ってパーティを解散。従魔ギルドに顔を出して牧場からルフレを迎えた。身長は130くらいで、ゆぐゆぐと同じくらいだ。中学生くらいに見えるな。ひまわりの様な明るい笑顔でニコニコと俺を見つめている。

 

 

名前:ルフレ 種族:ウンディーネ レベル1

 

契約者:死神ハーデス

 

HP:40/40 MP:58/58

 

【STR 7】

【VIT 7】

【AGI 10】

【DEX 16】

【INT 16】

 

スキル:【醸造(じょうぞう)】【水中行動】【調合】【釣り】【発酵】【水魔法】【料理】

 

装備:【水霊の杖】【水霊の羽衣】【水霊の髪飾り】

 

 

名前はルフレ。やはりユニーク個体だった。というか、醸造があるんだけど。料理も。これは今後すっごく役立ってくれそうだ。

 

「なあ、ルフレ」

 

「フ?」

 

「お前の水魔法、戦闘に使えるか? 攻撃魔法を撃てるかってことなんだが」

 

「フムー・・・・・」

 

「あ、やっぱ無理なのか」

 

「フム」

 

オルトと一緒で生産特化型でした!まあ、そうだとは思ったけどさ!杖を持ってるし、オルトと並んで俺と一緒にこれから頑張ってもらえばいいか。従魔ギルドから出ると向けられる奇異な視線を気にせず畑に戻ってオルト達を呼び集めた。

 

「よし、皆。新しい仲間になるルフレだ自己紹介しろ」

 

「ムーッムムー!」

 

「キュイキュイ!」

 

「―――♪」

 

「フム~♪」

 

「ヒムヒム!」

 

また賑やかになったな。にしても、また可愛いタイプ。なんであれこれは完全に可愛い子を狙って集めてる軟派野郎だって思われ兼ねないぞ。んー、狙ってるわけじゃないんだけどな。ま、いいや。兎に角―――。

 

「ヘパーイストス。集めて来たぞ」

 

「おお、待ってたぜ!」

 

属性結晶と鉱石を納品すると俺の目の前にクエストの達成のパネルが浮かび上がった。こっちもこっちでようやく終わったな。報酬金として40000Gも得たし達成感はある。さて次はーと

 

「ヘルメス、約束の結晶だ」

 

「おおー!ありがとう、ハーデス君。じゃあ、いよいよ精霊の里の情報を売ってくれるんだね?」

 

「ああ、勿論だけど長話になるだろうから俺の畑の中でいいか?」

 

「君の畑だね。興味はあったからいいよ」

 

ヘルメスの下へ訪れる。四つの里の情報は多い故に人がいない上に許可なしで入れない場所と言えば俺の畑しかない。彼女を連れて農業地区へと足を運ぶ。

 

「ここが俺の畑だ」

 

「す、すごっ・・・・・」

 

買った畑のマスをフルに使って栽培、育樹している果樹や野菜やハーブの光景が目の前に広がっている。

 

「ムムムー!」

 

「フマー!」

 

「―――♪」

 

「ヒムヒムー!」

 

「フムー!」

 

我がテイムモンスター達が畑の中で追いかけっこをしている。遊ぶのはいいけど畑を滅茶苦茶にしないでくれよ?そしてミーニィ、人の頭に乗っかって落ち着くのは何故だ。畑の中で歩くヘルメスは、俺が一番見せたい畑に疑問を持ってくれた。

 

「色々と言いたいことが山ほどあるけど、一先ずあの畑一面の水溜まりは何?」

 

「水田だぞ」

 

「水田?まさか、お米が手に入ったの!?」

 

その通り!これで米作りが出来る―――!

 

「今から栽培するつもりだから見学する?」

 

「え、ええ、見させてもらえるなら見たいわ」

 

「それじゃ始めさせてもらう。オルト!籾を株化にしてくれるか」

 

「ムム!」

 

呼ばれたオルトは満面の笑みで、胸をドンと叩いた。いけるらしい。俺は取りあえずインベントリから籾を1つ取り出してみる。すると、1粒ではなく、お碗に盛りつけられた籾1山が出現した。

これだけあれば、水耕プール全部に植えるだけの分量は楽に確保できそうだが・・・・・。

 

「それで、どうする? やっぱり籾をどこかで苗にしなきゃダメか?」

 

「ム?」

 

俺が見ている横で、オルトがお碗に盛られた状態の籾を受け取ると、そのまま株分を使用した。籾がポンと音を立てて、お碗ごと姿を変える。

 

「え? いきなり苗に変化したんだけど・・・・・。しかも2つだけ?」

 

あれだけ大量にあった籾からは、2つの苗しか生み出されなかった。

どうやら普通の作物と同じ考え方はできないらしい。オルトが株分した籾は、稲1本から採取された分である。稲1つからお碗一杯分の籾がとれるのだ。それを株分した結果、苗が2つできた。つまり、籾は1粒ではなく、1本の稲から採取された1山を1セットと考えるらしい。

 

「で、これをどうすりゃいい?」

 

「ムム!」

 

やはり畑では無理か。「こっちに来い」という感じで手招きするオルトに連れていかれたのは、予想通り水耕プールであった。

 

「やっぱ稲を育てるには水田だよな~」

 

「ム!」

 

「サイナ、手伝ってくれ」

 

「かしこまりました」

 

同意するようにうなずくサイナと、俺は濡れることも構わずジャブジャブと水耕プールに入っていく。このためだけにメインにチェンジしてファーマーのポイントを農耕に振って取得した水耕をサイナに譲渡したんだ。育樹のスキルも当然譲渡した結果、かなりのポイントを使い果たしたが問題ない。ファーマーでも水耕、育樹のスキルが共有されてるからな。他のところにもポイントを振れる余裕があるのだ。

 

そして、俺達がその苗を田植えの如く、水耕プールにぶっ差していった。

 

「後は普通の作物みたいに、待てばいいのか?」

 

「ム」

 

「水やりはどうなる? 肥料は?」

 

「ム。ムム」

 

さすがに水耕プールなだけあり、水やりは必要ないか。ただ、肥料や草むしりは普通の畑と同じみたいだった。

 

「少し勿体ないけど、水草は全部抜いちゃおう。で、早速ここ水田にするぞ」

 

「ム!」

 

「まあ、その前に実験だけどな」

 

「ムー?」

 

まずは、株分時に使う籾の量を減らしてみよう。

 

「半分だとどうだ?」

 

「ムムーム」

 

「おわ!失敗か」

 

「ムー」

 

大事な籾がゴミに変わってしまった!やはりお椀一杯分の籾が必要であるらしい。その後、数度試してみた結果、1割程度までは減らしてもいいということがわかった。ただ、残した分は株分した瞬間に消滅してしまったので、株分に使う籾を減らすことに意味はないだろう。

 

「じゃあ、逆に増やしたらどうだ?」

 

2つ分の籾を一気に株分したら、品質の高い苗になったりしないだろうか?

 

「ムムーム」

 

「ダメか」

 

まあ、ゴミにならなかっただけ、こっちの結果の方がマシだろう。株分時の籾の量を増やした場合は、多い分が株分時に消費されずに残るらしい。

 

その後、複数の籾を混ぜて株分してみたが、一定量の籾があれば株分が可能であるらしい。それから水田一杯に籾を差して収穫の準備は完了した。

 

「見ていてどうだった?」

 

「これは確実に売れる情報ね。米を栽培するには水耕スキルが必須だし、取得したいファーマーがきっと現れるわ」

 

「うちのオルトは水耕スキル持ってないんだよな。水耕スキル持ちの進化先にするか、新しいノームを増やすかか?」

 

「現時点でそうするべき選択ね。にしてもガラス張りの温室も初めて見たわ。あれはどこの精霊の里で?」

 

「火精霊の里で買える。あれ以外にも炬燵や窯、炉に床暖房のホームオブジェクトも売ってた」

 

「へぇ面白い!まだプレイヤー専用のホームは実装されていないから買うプレイヤーはいないけど有益な情報なのは間違いないわ。他には?」

 

「そうだな―――」

 

軽く小一時間も過ぎた。今まで見てきた、体験や経験したありとあらゆる情報を提供したり質問に答えたりとアイネ達のステータスを観覧させて教えたりと時間はかかった。

 

「とまぁ、こんな感じだ」

 

「他にない?」

 

「ないぞ」

 

「そう・・・・・」

 

「どうした?」

 

それがね・・・・・と深刻な面持ちでヘルメスは告げた。

 

「手持ちが今10万Gしかないの」

 

「うん?10万?」

 

しかないってことは10万以上の価値のある情報ってことか。

 

「正直、君の持ってきてくれた情報は確実に売れるわ。今の手持ちじゃ全然足りないの。だからすぐにギルドでお金を下ろしてこなくちゃ・・・・・。いえ、その前に未払いのが・・・・・検証もしないと・・・・・。でも、かなり待たせることに。いえ、ならいっそのこと・・・・・」

 

ヘルメスが何やら考え込んでしまった。深刻な顔でブツブツと呟いている。どうやら、検証をしないといけないらしい。いや、それは確かにそうだよな。これだけの重大な情報だから。

 

「ねぇ、私から何か情報を買わない?」

 

「相殺して支払う額を減らすってことか」

 

「ええ、そうよ」

 

「うーん・・・・・じゃあ生産に関する情報を全て記録に残るメッセージで送ってもらえるか?」

 

意外そうに目を丸くするヘルメス。

 

「どうしてメッセージ?」

 

「情報量が多いのと一気に言われても頭に噛みしめれないのとゆっくりと知りたいからだ」

 

「あ、それもそうね。でも、それだけじゃあ大して相殺できないわね」

 

「取り敢えずその情報は買わせてもらうからな。それ以外なら、第2と第3エリアの町に関する情報もくれ」

 

「それもメッセージにね?いいわよ。他は?」

 

「そのエリアで手に入る物全般とスキル取得できる方法にNPCの情報かな」

 

どうだ?と訊いてみれば深刻な表情が幾分か和らいで頷いた。

 

「時間はかかるけれど、任せて。でもね・・・・・それでもまだ支払いを待って欲しいのだけれど」

 

「それでもまだってどのぐらいで売れたんだ?」

 

「えっと600万以上」

 

・・・・・凄すぎるだろ。

 

「金は急いで欲しいわけじゃないから気長に待たせてもらう」

 

「本来、未払いを待ってもらうなんて情報屋として失格なのだけれど・・・・・ごめんね」

 

「とっくの昔から俺が四の精霊に関する情報を集めることを知ってて用意しなかった時点で失格だけど、気にするな」

 

急に胸元を手で押さえて落ち込むヘルメス。ぐうの音も出ないんだろうな。

 

「そう言えば、任せた動画の評価はどんなもんだ?」

 

「上々よ。教えてくれた精霊の祭壇に入る方法を教えたら知ったプレイヤー達はゴミ拾いをし始めたわ。ランキングも上位だったわ」

 

「動画のランキング?」

 

「知らないの?」

 

プレイヤーが撮影した動画やスクショは、ゲーム内で公開することができる。公式動画などと同じように、ゲーム内、外で見ることができるらしい。そして視聴者数で順位が決められるそうだ。

 

ランキング上位者には、ゲーム内のガチャでしか入手できない通貨やポーション類など、わずかながら報酬も出るらしい。まあ、本当にわずかで、序盤で狩りをするのと大差はない程度の儲けしかないそうだが。それでも、ただ動画をアップするだけよりはモチベーションも上がる。

このランキング機能により、格好いい映像や可愛い画像を撮影して、公開するプレイヤーも増えたらしい。

人気の動画は、上級プレイヤーによるテクニック解説や、激しい戦闘動画。あとはモフモフ動画なども人気が高いという。

 

「へぇ、そんな機能があったのか」

 

「そうよ。だから見ていて楽しいし実になる動画もあったりして色々な発見が見つかるのよ」

 

「じゃあ、精霊の里の動画もアップしたらランキングに入るかな」

 

「間違いなく入るわね。今度も私がアップしようか?」

 

俺がしてみたいと伝える。ヘルメスから動画のアップの仕方を教えてもらうと、早速今までの四つの精霊の里の動画を上げた結果―――。

 

「そう言えば掲示板読んでる?」

 

「掲示板?いや、たまにだ」

 

「ファーマーのプレイヤーやテイマーたちの掲示板じゃあ、ちょくちょく君の話題が出てる時もあるんだよ?」

 

「そうなのか。テイマーもかぁ」

 

 

 

 

【テイマー】ここはNWOのテイマーたちが集うスレです【集まれPart15】

 

新たなテイムモンスの情報から、自分のモンス自慢まで、みんな集まれ!

 

・他のテイマーさんの子たちを貶める様な発言は禁止です。

・スクショ歓迎。

・でも連続投下は控えめにね。

・常識をもって書き込みましょう

 

 

444:ぶっころりー

 

どこにいるんだ、あのプリティーな妖精ちゃんはー!?第2エリアを虱潰しに探しても見つからん!

 

 

445:めぐめぐ

 

ノームちゃんも見当たらない!どこ、どこにいるの!

 

 

446:プラプラ

 

βでは第3エリアの筈だが見つからないもんだな。正式サービスしてから出現場所が変わった?

 

 

447:ネトラ

 

あり得る話だけど第3エリア止まりだからそれ以上は探しようはないよね。というか、前には進めないけど横はどこまで広がっているんだってぐらい広い。一向に壁に当たらない。運営、どれだけ広くしたの?

 

 

448:ソラ

 

βテスターでもノームだけしか発見しなかったし、他の精霊を把握できたわけじゃないから探しようがないよね。

 

 

449:ヒット

 

しかも四つの精霊門を開けたプレイヤーが独占してる状態だからな。今日だって精霊門を開いたプレイヤーのアナウンスが流れたわけだし。正直ズルいと思う!せめて動画だけでも上げてほしいもんだよ!

 

 

おおう、阿鼻叫喚?的な感じになってる。というかズルいとか言われたよ。別に独占する気はないんだがな。

 

 

512:ライトオン

 

ちょ、動画を見てよ!友人から教えられたけど、精霊門を開ける瞬間からノームたちの隠れ里と思しき中の動画がアップされてる!

 

 

513:めぐめぐ

 

本当!?

 

 

514:ソラ

 

今確認中・・・・・本当だ、『ノームの里』『シルフの里』『ウンディーネの里』『サラマンダーの里(※燃焼状態のノームが映ります。心に余裕がない人は見ないでください)』って動画が投稿されてる。なに、サラマンダーの里の動画は?ノームが燃える?

 

 

515:めぐめぐ

 

いやぁああああああっ!!!ノームちゃんが、ノームちゃんが火達磨になってるぅううううううっ!!!!!

 

 

516:プラプラ

 

ああ・・・そういう。

 

 

517:ヒット

 

ちゃんと注意事項を書く当たり、投稿したプレイヤーも映ってる動画のように驚いたからだよな。人によってはショッキングだろう

 

 

518:ネトラ

 

でもこれ、結構有益な情報には変わらないよ。隠し宝箱からモンスターの戦闘スタイルがバッチリ映っているんだから。しかも里の中には見たことのないアイテムやダンジョンの中にある素材が!

 

 

519:ぶっころりー

 

精霊ちゃんの里に行くためには属性結晶が必要なようだ!でも、肝心の里はどこにあるんだよ~!

 

 

520:ライトオン

 

いや、最初のところを見直せ。綺麗な泉と二本の大きな松明、穴の開いた大岩、ストーンサークル・・・・・見覚えがあるんだが。

 

 

521:ヒット

 

俺もある。不思議オブジェクトが存在するエリアと言えば・・・第2エリア?

 

 

522:めぐめぐ

 

ストーンサークルは北の獣牙の森だったよね!?イベントを参加するから手に入れた今なら・・・・・・!

 

 

523:ネトラ

 

でも、何で動画を投稿したんだろ?

 

 

524:ぶっころりー

 

記念かなんかじゃないのか?くそー!テイム成功した瞬間のシルフちゃん可愛すぎる!待っててシルフちゃーん!!

 

 

525:プラプラ

 

投稿したプレイヤーの名前は死神ハーデスって件について

 

 

526:ライトオン

 

ネタキャラかよ。怖すぎるんだけど

 

 

失敬な、別に魂を獲るわけじゃないんだぞ。でも、見ていて面白いな。俺もちょっと交ざってみよう。

 

 

541:死神ハーデス

 

どーも、冥府から召喚されました死神ハーデスです。

 

 

542:ソラ

 

本人がキター!?超ビックリしたんだけど!!!

 

 

543:死神ハーデス

 

初めて動画を投稿した後、どんな反応をしているか初めて掲示板を見ていたら楽しそうで初めて来た。

 

 

544:ライトオン

 

そういうプレイヤーもいるから珍しくはないが、件の方が掲示板に来てくれて感謝感謝

 

 

545:死神ハーデス

 

動画を見てくれたみたいだから精霊の里に入る方法は分かってくれたようだけど、ただ結晶を捧げるだけじゃダメなんだよコレ。ノームが好きな人、今ノームの里に行っても入れないから

 

 

546:めぐめぐ

 

なん・・・・・だと?

 

 

547:死神ハーデス

 

その詳細―――欲しければくれてやる。探せ、始まりの町の某情報屋に全て置いてきた!

 

 

548:プラプラ

 

・・・・・用事思い出したんで抜ける。

 

 

549:ソラ

 

友人と会いに行ってくる。

 

 

550:ネトラ

 

まてぇー!某情報屋ぁ~!

 

 

551:ライトオン

 

情報提供感謝感謝。

 

 

552:めぐめぐ

 

待ちなさい!最初にノームちゃん達に出迎えられるのは私よ!

 

 

553:ぶっころりー

 

ちくしょ~!?間に合うか!?いや、限界突破して必ず手に入れる~!

 

 

554:ヒット

 

はっはー!皆残念だったな!!!俺が一番に到着した!でも、情報屋がいねぇー!?

 

 

「というわけで戻った方がいいぞ?」

 

「そうさせてもらうね。じゃ、メッセージは楽しみにしててね」

 

しばらくは情報を買うプレイヤーが押し掛けてくるだろうな。さて、俺は―――テイマーのレベル上げをしようじゃないか。その為に一旦ログアウトして、経験値増加とスキル習熟度増加の課金アイテムを購入した。

 

 

経験値とスキル熟練度のスクロールも使い初心に帰るために―――毒竜の迷宮に向かった。ただし単に倒す作業を繰り返すのはつまらないからタイムトライアルをしてみようと考えた。洞窟内のモンスターとの接触をしつつ、ボス部屋まで初めて来た時の感慨深く思い出しながら三頭竜と対峙した。

 

「よう、久しぶりだな。そしてじゃあな。―――【悪食】!」

 

一撃必殺狙いで【悪食】を行使する。最初の一回でクリアしたのは二分台。まだまだ縮められる部分が有ると感じた。タイムトライアルを挑戦するならば俺の気が済む、限界まで試してみたくなるのは必然的で町へ戻る魔方陣とダンジョンの入り口前に戻る魔方陣が浮かび上がる二つの内の一つ、ダンジョン入り口に戻る方を選んで再挑戦を臨んだ。今度は極力モンスターの接触をせずに移動する。そして倒すと二分五十秒。

 

三回目は工夫してみた。【八艘飛び】でモンスター達を無視してボス部屋へ突入する。毒の沼から姿を現す毒竜(ヒドラ)と出合い頭、【悪食】で倒す。お、二分三十秒か。

 

今度の移動方法は【機械創造神】で実行することにしてみた。MP消費して背中にロケットブースターを創り装備した俺は全力で駆けて一撃で倒しす意識をして繰り返して数度もすればレベルが21も上がった!経験値上昇のアイテムの効果凄いなー。ポイントはもう180。―――これで従魔Ⅹと使役Ⅹのレベルも上げよう。テイムもな。

 

 

死神・ハーデス 

 

 

職業テイマー

 

LV21

 

 

HP 12/12〈+100〉

 

MP 19/19〈+200〉

 

 

【STR 40〈+127〉】

 

【AGI 40〈+6〉】

 

【AGI 120〈+120〉】

 

【DEX 50〈+120〉】

 

【INT 50〈+100〉】

 

 

 

 

 

装備

 

 

頭 【空欄】

 

 

体 【空欄】

 

 

右手 【初心者の鞭】

 

 

左手【空欄】

 

 

足 【空欄】

 

 

靴 【空欄】

 

 

 

装飾品 【フォレストクインビーの指輪】【古の鍛冶師の指輪】【白妖精(ハイエルフ)の指輪】

 

 

称号:万に通じる者 不殺の冒険者 出遅れた者 白銀の先駆者 毒竜の迷宮踏破 大樹の精霊の加護 ユニークモンスターマニア 聖大樹の精霊の加護 三代目機械神

 

 

スキル【手加減】【テイムⅩⅩ】【使役ⅩⅩ】【獣魔術ⅩⅩ】【幸運】【逃げ足】【毒竜喰い(ヒドライーター)】【大物喰らい(ジャイアントキリング)】【瞑想】【挑発】【咆哮】【採掘】【採取】【植物知識】【伐採】【爆弾喰らい(ボムイーター)】【悪食】【爆裂魔法Ⅰ】【エクスプロージョン】【体術】【幸運】【採取速度強化小】【水無効】【気配遮断Ⅰ】【気配察知Ⅰ】【八艘飛び】【錬金術ⅩⅩⅩ】【料理ⅩⅩⅩ】【調合ⅩⅩⅩ】【調理ⅩⅩⅩ】【農耕ⅩⅩⅩⅩⅩ】【育樹】【水耕】【機械神】【機械創造神】【芳香】【炎上耐性小】【水中探査】

 

そして更には新しいスキルも手に入った。

 

【侵略者】

 

このスキルの所有者のSTRを二倍にする。【VIT】【AGI】【INT】のステータスを上げるために必要なポイントが通常の三倍になる。

 

 

取得条件

 

一定時間内にボスを規定多数倒す。要求【STR】値100以上。

 

 

スキル使用条件

 

要求【STR】値100以上。

 

 

【破壊王】

 

両手の装備スロットを必要とする武器が片手で装備可能になる。

 

 

取得条件

 

規定時間以内にダンジョンをクリア。要求【STR】値100以上。

 

 

スキル使用条件

 

要求【STR】値100以上

 

 

アクセサリー系の装備でステータスを上げていたから手に入ったようなもんだな。ただし、指輪を外してみるとスキル欄のこの二つの色が黒くなって常時発動しなくなった。

 

「防御力に極振りする俺にとっては好都合だな。じゃなきゃ、ポイントが三倍だもん」

 

180ポイント分、これもVITに振れば全プレイヤーの中でトップクラスの防御力だと思う。そして外せば四桁が見える防御力の数値・・・・・。俺、かなりとんでもないプレイをしてるよな。

 

「この辺りにしておくか。にしても・・・・・」

 

毎度毒竜(ヒドラ)が出てくる毒沼、あれだけの巨体が入れる空間でもあるのか?少し気になるな。

水中探査で何となく調べてみると・・・・・。

 

「へ?」

 

―――――潜れる?しかも結構深い。隠しダンジョンなのか?絶対に誰も気づかないぞこんなの。しかも毒の沼なんだから誰も好き好んで近寄るわけがない。

 

「・・・・・行ってみるか」

 

水霊の里で手に入れた水中呼吸薬を使用して毒沼に潜水する。視界が全く見えない!視界というか目の前が紫ばかりで水中探査がなければスムーズに進めないし、【毒無効】を取得してなきゃ一分も経たずに死に戻りしてるぞこれ。さて、まだまだ続く毒の海の中で泳ぎ続けて10分ぐらいしたか、もう俺の視界は紫ばかりで視力がおかしくなりそうだって時に上に進める構造の道を示した3Dマップに従って泳ぐと巨大な空間に毒水から顔を出せた。

 

「何だここ?」

 

厳かな石造りの神殿、というかこの形状・・・・・闘技場(コロッセウム)か?俺の目の前に古代で作られ誰からにも忘れ去られたような大きな建造物が出迎えてくれた。この中に何があるんだろうかと素朴な疑問を浮かべながら陸に這い上がって近づいてみた。中に入れる通路を見つけメインを重戦士に変え180ポイントを全部VITに振ってから進んでみると、巨大な入り口を塞いでいた鉄格子が開き潜ればやはりこの造形物は古代の闘技場だった。何十もの階段のような無人の段座が今立っている中央のステージを囲むように造られ、この空間の灯りの元となっている巨大な松明が四方で燃え盛っている。

 

「ただのオブジェクトだけなのか?」

 

一向に変化が起きず辺りを見回しながら呆然と立ち尽くす。それともイベントを引き起こすキーをしていないか、持っていないか・・・・・?

 

 

運営side

 

 

「プレイヤーが【毒竜の迷宮】の隠しステージに辿り着きました!」

 

「マジか!え、そこらか?あのクエストを発生させてないのか?」

 

「疑問はあとでだ。急いで始動させろ!」

 

「さて・・・・・どう戦う?相手は一人じゃあ絶対勝てないモンスターだぞ?」

 

 

辺りを見回していると、俺が出てきたところと正反対な場所の鉄格子の扉が勝手に開きだした。鈍重な足音が聞こえ出入り口の奥から出てきたのは・・・・・全長10メートルは優に超える巨大な獣と一言で足りる。首周りはライオンのような黒い鬣、鋭利で長い二本の角を頭部から生やし、前足には軽く振るえば人体を簡単に引き裂くことができる鋭利な爪、サーベルタイガーのように長い二本の牙と凶悪な歯を持つ漆黒の強靭な体と片目に切り傷がある隻眼の真紅の眼が俺を睨む。

 

「・・・・・ベヒーモス、や、ベヒモスって表示されてるな」

 

HPバーを確認すれば・・・・・おおぅ、長いな。でも、やるっきゃないだろう。ここは指輪を変えよう。フォレストクインビーの指輪をイズの指に変えてHPの増強を図る。

 

ゴアアアアアアアアアアアアアアッッッ!!!

 

大咆哮をあげるベヒモス。戦いの幕が上がったとばかり巨躯の体の動きとは思えない速度で突進してきて、前脚を振り上げて切り裂こうとするか叩きつけようとしてくる。【毒竜(ヒドラ)】の毒を浴びせてみたが、毒状態になることはなくコロシアムの壁に激突した。

 

「・・・・・装備が破壊されてるし、毒の耐性が高い?いや、状態異常の耐性が無効化しているのかもな」

 

推理が正しければ俺の十八番の状態異常攻撃は通じな相手になる。だとすれば・・・・・。

 

「面倒だなぁ」

 

そして参った。これはかなりの長期戦となるのは確実だ。

 

―――数時間後。

 

「これだけ粘ってまだ二割しか削れてないのかっ・・・・・」

 

機械神の攻撃が殆ど効いていない憎たらしいベヒモスを睥睨する。巨体を駆使した突進、爪での引っ掻きに離れすぎると手を振るって斬撃を飛ばしてくるし、口内から極太のビームを直進と横凪ぎの長距離攻撃。仕舞いには火炎も吐く。背後から攻めようとすると鞭のように振るう尾での攻撃が見舞われる。あと、時折咆哮をしてくる。

 

「俺より硬くしただろベヒモスを、運営め!【全武装展開】!【攻撃開始】!」

 

こっちに目掛けて放ってくるビームを駆けながらかわし、ベヒモスに向かって光り輝くレーザーが次々に打ち出される。百を超えるそれは流星群のように地面を穿ち、ベヒモスを焼き尽くす。しかし―――。

 

「おいおい、冗談だろこれが目眩まし程度って・・・・・・」

 

顔をブルンブルンと振るって何事もなかったような顔で強襲してくるベヒモスに辟易する。単に機械神の威力が弱いだけなんだろうとダメージがそんなに与えていない現実に落胆してしまう。

 

「STRとVITが異様に高くてその次にDEX、INT順に最後はAGIか?わからん。どっちみち俺のステータスよりは上か?」

 

巨大な体で迫ってくる迫力は凄まじいが観察をしていれば何とか避けれるぐらいはなる。

 

「んだけど、それじゃあ倒せないよな・・・・・」

 

鋼のように硬い身体の豪皮の前では爆裂魔法は通用しない。【悪食】もHPを削り切れない。どんだけ体力があるんだベヒモス。

 

口内で魔力を集束し始める相手に待ってやるお人好しはここにいない。誘爆させる試みで爆裂魔法をタイミングよく―――ここだ!

 

「【エクスプロージョン】!」

 

ゴアアアアアアアアアアアアッッッ!?

 

成功、そして口の中で溜めていた魔力が暴発してHPがガクッと二割も減った。ほほう・・・・・口の中か。

ある事を思いついたがこれで死に戻りするかもしれない。ま、検証は大事だろう。ベヒモスに近づく直前、ベヒモスが後ろの二本脚だけ立ち上がり出したと思えば、勢いよく倒れこむように前足を地面に叩きつけた。俺の足元にまで激しく揺れながら隆起する土の槍に俺は真上に打ち上げられた。―――まずっ!気付いた時には巨獣は瞋恚の炎を孕ませた目で牙を剥いて俺に迫ってきた。そして機械神をバラバラに引き裂き俺のHPバーを残り一割以下まで削って吹き飛ばした。

 

「がっはっっっ!?」

 

んの野郎っ!コロシアムの壁にぶつかる直前で壁に足から踏んで壁着する。ポーションを使いHPを全回復してベヒモスを睨みつける。

 

「上等だ。お前を倒す算段は考えた。この戦いを利用させてもらうぞ」

 

 

 

運営side

 

 

「また攻撃をわざと食らったな」

 

「狙いは何なんだ?」

 

「大方、装備の破壊成長で防御力を上げるつもりなんだろうが・・・・・」

 

「ベヒモスのステータスはプレイヤーのステータスの三倍になるように設定している。同時に攻撃時はプレイヤーの装備を一撃で破壊する風にしてある。破壊成長の特性を利用するのにうってつけの相手だろうと、ベヒモスの攻撃力を上回る防御力にしても意味はない」

 

「そうだよな。ベヒモスの攻撃は常に相手プレイヤーの三倍で装備破壊が付加されて・・・・・待て」

 

「どうした?」

 

「HPポーションがどのぐらいあるのか分からないが、このままだと・・・・・あのスキルが手に入ってしまうかもしれない

 

「あのスキル?」

 

「覚えてるか?【復讐者】だよ」

 

「・・・・・あっ!」

 

「いや待て。確かダメージが十万以上越えの上に一度目以降、死亡していない条件でって、取得できないようにした鬼畜な設定にしたよな? 流石に無理があるんじゃないか?」

 

「その前に【復讐者】の取得する条件と似た方法で【背水の陣】が取得できるぞ」

 

「【背水の陣】の効果は、HP一割以下の間は【STR】が三倍にするスキルだったよな。低火力の職業を選んだプレイヤーの起死回生の福音」

 

「まあ、そのスキルを取得しても【復讐者】を取得するとは考えにくいだろ」

 

「忘れてないか?ベヒモスは相手の全プレイヤーのステータス総合数値の三倍にしては、攻撃が当たる度に攻撃力が一%上昇する風に設定しちまってるよな」

 

「あっ・・・・・そういえば。じゃ、じゃあ攻撃力が上昇するベヒモスに呼応して破壊成長で防御力が増加していく死神ハーデス・・・・・どっちも増えていい感じに一割以下が続くってことになるわけだよな?」

 

「か、仮にダメージ十万までは無理があるよな?だってあのプレイヤーの防御力を考慮すれば、何百回以上もベヒモスの攻撃を耐えないといけないわけだし、ポーションだってそれぐらいの数を保有していないと」

 

「そう言っている間にダメージが一万も超えそうなんだが」

 

「というか、ベヒモスを単独で倒しちゃったらあの称号を取得するけど、その際の死神ハーデスの防御力ってどのぐらいになる?」

 

「・・・・・五桁はいくなぁ」

 

「――――まじめな話、そんなカッチカチのプレイヤーを倒せるスキルってあるか?」

 

「・・・・・ちょっと、その辺りを話し合おうか」

 

 

 

どうなってるんだ?何度も大盾と鎧をわざと砕き割らせて、引き裂かせてスキルと防御力を上昇させている筈なのに、ベヒモスの攻撃を殺いでいるどころか押されている?

 

「・・・・・攻撃力が上昇しているのか?」

 

だとすれば悠長にしてはいられないか。しょうがない、あと数回受けてから反撃するか・・・ん?

 

 

『スキル【背水の陣】を取得しました』

 

【背水の陣】

 

HP一割以下の間は【STR】を三倍にする。

 

取得条件

 

HP一割以下を百回かつ一度も死亡していないこと。

 

 

通知が来たと思えばコレか。百回ぐらい破壊成長で防御力上げてみたかっただけなんだがな。

 

「今度、イズにHP+の効果があるフル装備を作ってもらおう」

 

口を開けてビームを放とうとするベヒモスに爆裂魔法で阻害した後、【八艘飛び】で懐に飛び込んだ。そして自ら顔に飛び込んだ俺を見たベヒモスはその凶悪な牙が生え揃っている(アギト)を開いた。

 

 

 

運営side

 

「あ、喰われた。いや、わざと喰らった?」

 

「・・・・・嫌な予感がするのは俺だけか?いや、俺だけであって欲しいんだが」

 

「それは無理だと思うぞ。あんな事をしに行ったあのプレイヤーの喰われる瞬間を見たか?笑っていたぞ」

 

 

 

「おー、ベヒモスの食道の中か。滑り台みたいだな」

 

飲み込まれた俺は狭い空間をズルズルと移動していた。

 

「でもっ、せまっ、うおっ!?」

 

急に足場が無くなり、ドボンと液体の中に落ちる。

 

俺は溺れないように浮かんでいた何かに掴まる。

 

「うわぁ・・・ここって胃の中っていう扱いなのか?・・・っていうか鎧が溶けてきてる?破壊成長だけどこれどんな扱いなんだ?」

 

ちょっと焦る俺だったが、しばらくして自分自身が溶けないことに気付くと落ち着いて周囲を観察した。

 

 

 

このボスを作った際に運営は丸呑み攻撃を高威力攻撃に設定していた。

 

飲み込まれた後も大ダメージを受け続けて、更に最後には猛毒のプールに落ちるという仕様だった。

 

さらに時折胃が収縮することにより毒のプールを生き残ったとしても装備破壊の腐食毒により無防備な状態で圧殺されてしまう。

 

本来は足の遅い大盾が技術をもってして素早い敵が繰り出す丸呑みを回避しなければならないのだ。

 

 

それをハーデスは超高防御と【毒無効】、ユニーク装備の破壊成長により正面突破してしまった。

 

大盾が十五人分は死ぬであろうダメージを受けることもなく、落ちた先の毒のプールなどぬるま湯である。

 

最早、ちょっと冷めたお風呂である。

 

しかも、生き残ることなど想定されていないこの最終地点でハーデスは鎧を溶かされて更に強くなってしまう。

 

 

「くくく・・・・・さぁーて?身体の中から生きたまま喰われる気分を知るといいさベヒモス・・・・・ん?」

 

そう言うと死神ハーデスは蠢めく肉の壁に向かって毒のプールを泳いでいった最中、採取できる緑のマーカーを見つけた。こんなところに採取アイテム?と気になって近づくハーデス。そこには原形が保っている複数の装備類があった。

 

 

 

それからハーデスが食べられてから数時間。

 

巨獣のHPバーは減少を続けていた。

 

それに伴い行動パターンが変わり多様な攻撃が繰り出されるが、肝心の敵はどこにもいないのだ。

 

 

そう敵は体内にいるのである。

 

 

「【エクスプロージョン】!【悪食】!【全武装展開】!【攻撃開始】!【エクスプロージョン】!【悪食】!【エクスプロージョン】!」

 

 

ゴアアアアアアアアアアアアアアッッッ!?グオオオオオオオオオオオオオオオオッッッ!?

 

 

 

運営side

 

 

「あああっ!?あああっ!?こいつ、また仕出かしやがったあーっ!」

 

「こんな筈じゃなかったのにぃーっ!」

 

「ベヒモスは絶対に一人では倒されないように設定したレジェンドでレイドモンスターなんだぞっ!?こんな方法で一人相手に倒されるなんてー!」

 

「しかも補食行動が仇になってしまったなぁ・・・。【毒無効】を取得した防御力特化のプレイヤーなんている筈がないと思って設定したのがいけなかったんだ」

 

「というかそもそも、ベヒモスの討伐クエストの発生を全部スルーしてるし!誰もあんな俺達の悪戯で設定した場所から行くことすら考えないだろう普通は!」

 

「奴に常識は通用しないんだ・・・・・きっと」

 

 

 

ベヒモスに喰われて一夜明けた。最後はHPドレイン、胃の中で至るところでかじりついてると遂に巨獣の命を喰らい尽くした。それと共にベヒモスの体がポリゴンの光に変わり爆散し、俺は地面に落ちる。

 

「長い戦いだったぁー!」

 

達成感を感じてると通知が届いた。そしてレベルも上がるわ複数の黒い宝箱もあるわで一気に来られた。

 

「レベルが・・・うわっ、結構上がってる。経験値増加の課金アイテム使用を加味してもベヒモス、かなりの強敵だったってことか?・・・・・運営の皆さん、なんかごめんなさい」

 

見ているかもしれない運営に土下座をする。あんな手段で勝たられるとは思わなかっただろうから。

 

 

不意にアナウンスが流れだした。

 

 

カラーン、カラーンと荘厳な鐘の音が鳴り響く。ログインしている全プレイヤーの殆んどが何事かと目を丸くする中、サービス開始初期からプレイしている者達は初めて聞くアナウンスに思わず動きを停めて耳を傾けた。

 

 

『ニューワールド・オンラインをプレイされている全てのプレイヤーの皆様にお知らせ致します』

 

 

「なんだ?」

 

「イベントに関する事じゃないか?」

 

「あー、それか」

 

殆どのプレイヤーが先日実施されたイベントになんらかの不備があったのではと予想する中、告げられた内容は全てのプレイヤーを驚愕させるものであった。

 

 

『現時刻を持ちまして、レジェンドレイドモンスター「大陸の覇獣ベヒモス」の討伐を確認いたしました。討伐者はプレイヤー名「死神ハーデス」です。さらにレジェンドレイドモンスターの討伐に伴い、一部システムと第4エリアを開放します』

 

 

「はぁぁぁ!?」

 

「ちょっ、えっ、ベヒモス!?レッサーベヒモスじゃないのか!? 一人で倒したってマジか!」

 

「白銀さん、あんたどんなプレイしてるんですかぁっ!?」

 

「第4エリアが解放された!ようやく先に進めれるぜ!」

 

 

「あらら、まだ起きていないと思ったら王様すんごく目立っちゃうことしちゃってまぁ・・・・・」

 

 

『おめでとうございます。レジェンドレイドモンスター【大陸の覇獣(ベヒモス)】を討伐しました。単独で討伐したプレイヤーには称号「勇者」を授与されます。』

 

 

称号:勇者

 

効果:HP MP【STR】【VIT】【AGI】【DEX】【INT】のポイントでの増加を三倍。

 

 

取得した称号は見なかったことにしたかったが、ここでまた運営からのお知らせが続いた。

 

『おめでとうございます。全プレイヤー中、最速で所持称号が10種類を達成しました。『最速の称号コレクター』の称号が授与されます』

 

「ああ、そういえば今ので10種類目だったか。それでまた称号がもらえるとはな」

 

 

称号:最速の称号コレクター

 

効果:賞金10万G獲得。ボーナスポイント4点獲得。ランダムスキルスクロール1つ授与。敏捷増強薬(50)+1。

 

 

これで称号は11個だな。改めて宝箱に手を出す。複数ある宝箱の一つを開けてみると、莫大なGの塊から放つ輝きに顔が照らされた。もう一つも同じでその合計金額二千万G。これ集団で勝ったプレイヤーに分割する筈だったGだろ絶対。お次の宝箱にはベヒモスの素材一式だった。最後の宝箱はというと・・・・・。

 

 

『ベヒモスの魂魄』

 

肉体が失えどベヒモスの強靭な生命力は未だ残って消え失せずにいる。

 

 

と表示された黒いオーラを滲ませてる魂魄。そのアイテムは触れようとする前にベヒモスの魂魄は地中に沈んでしまい―――。

 

 

『レッサーベヒモスと挑戦しますか?』

 

 

というアナウンスが流れた。え、レッサーのベヒモスと戦えるのか?取り敢えずNOで。ついでに新しく取得したスキルはと。

 

 

【生命簒奪】

 

相手の武器や魔法による攻撃など触れたものをHPに変換するスキル。容量オーバーのHPは蓄積される。

 

【アルマゲドンⅠ】

 

使用者以外の全てのモンスターとプレイヤーに上空から巨大流星群を叩き落すスキル、使用回数は一日一回。数と威力はスキルレベルに依存する。

 

覇獣(ベヒモス)

 

使用者自身が「ベヒモス」に変身し、MPを消費することでベヒモスの力を意のままに扱うことができ、HPが1000になる。ただし装備の能力値上昇や装備のスキルは使用不能となる。

 

 

取得条件

 

 

ベヒモスを単独でHPドレインによって倒すこと。

 

 

・・・・・つまりこれ、強くない?という感想だった。ベヒモスは鎧のスキルスロットに付けよう。

 

それにしても戦場と化していた闘技場(コロッセウム)はいつの間にか消失していたな。代わりに暗い洞穴を淡く照らす石がそこら中に光ってるけど。しかもどれもこれも全部採掘ポイントのマーカーが・・・・・。

 

「何だこれ?鑑定だ」

 

『魔鉱石』

 

魔力の濃度が高い場所にある鉱石が永い年月を経て魔力を取り込んで変異した石。極めて希少で魔法の装備や道具の生産の材料に必要。

 

「・・・・・」

 

オルト召喚! ミスリルのピッケルさん出番だ!

 

「オラオラオラオラオラー!!!」

 

一心不乱にピッケルを振り下ろし魔鉱石を削ってインベントリに収納し続ける!その最中、メールが来てるけど今は忙しい!すると今度はフレンドコールが来た。イッチョウとイズか。

 

「何だ、今忙しいんだけど!」

 

「え、何してるのハーデス君」

 

「見えるか?ベヒモスがいた洞穴に採掘ポイントが沢山だ」

 

「レイドボスがいた場所に採掘・・・・・?凄く気になるけど何が手に入るの?」

 

「魔鉱石という初見の鉱石だ。魔法の装備や道具の生産に必要なとても希少なもんらしいぞ」

 

虹色に輝く魔鉱石を見せると画面いっぱいに顔をドアップしてくる。

 

「キャー!何それ何それーっ!!?どこで手に入る鉱石なの場所はどこ!?今すぐ私も行くわよ!!」

 

「いや、多分今すぐは無理だぞ。俺がここまで来れたのは、毒竜の迷宮のヒドラのいるエリアの毒沼に潜水しなきゃいけなかったんだ。その際、10回連続周回してからだし。毒無効化スキル必要だぞ」

 

「毒無効化ね!それなら今日中に取得して見せるわ!泳ぎに関するスキルもレベルは低いけど取得してあるから何とかなる!」

 

イズとの通信が閉じた。毒無効化を取得する気だろうなぁ・・・・・。ずっと黙っていたイッチョウが口を開く。

 

「で、どーしたらベヒモスと戦うことになっちゃったんですかねー?」

 

「いや、毎度毎度毒沼から出てくるヒドラに興味あってだな。俺も潜れないかなーって半分試したら潜れることが分かって、30分ほど泳いだらベヒモスがいる洞窟に辿り着いてしまったんだよ」

 

「はぁ~・・・・・ハーデス君の行動が読めないのは好奇心が人一倍だからなのかな。因みにどうやって倒したの?レイドボスは一人で倒せるようなモンスターじゃないよ」

 

「捕食されて毒液の胃の中に放り込まれたんで体の中から好き放題やりたい放題攻撃した」

 

「・・・・・」

 

こいつ、すんごく呆れた顔をしてやがる!だってしょうがないだろ!?それしかやることが無かったんだからさ!それが狙いで自分から喰われに行った事実もあるけれどさ!

 

「これから始まるイベントでもそんな方法をしないでよ」

 

「捕食行動するモンスター以外しねぇよ。その上、俺のVITより数倍上なモンスターは特にだ」

 

「それは・・・・・かなり倒し辛かったんですねぇ。それと現在、朝の7時ですよー。そろそろログアウトしてください」

 

「・・・・・だよな。倒すのに時間が掛かり過ぎたと思ってたよ。しょうがない。続きは帰ってからか」

 

でもログアウトする前にポイントを振るか。Lv24から38まで一気に上がって120ポイントも手に入ったが、勇者の称号の効果でVITにポイントで増える倍数が3になるわけで、120×3=360・・・・・勇者の称号を取得する前の390と足して750と破壊成長で増えた装備のVIT×VIT4倍で一気に・・・・・。

 

 

 

死神・ハーデス

 

LV38

 

HP 40/40〈+300〉

MP 12/12〈+200〉

 

【STR 0〈+129〉】

【VIT 750〈+1650〉】 

【AGI 0〈+120〉】

【DEX 0〈+120〉】

【INT 0〈+100〉】

 

 

装備

 

頭 【空欄】

 

体 【黒薔薇ノ鎧:大陸の覇獣(ベヒモス)

 

右手 【新月:毒竜(ヒドラ)

 

左手【闇夜ノ写】

 

足 【黒薔薇ノ鎧:覇獣(ベヒモス)

 

靴 【黒薔薇ノ鎧:覇獣(ベヒモス)

 

装飾品 【生命の指輪・Ⅷ】【古の鍛冶師の指輪】【白妖精(ハイエルフ)の指輪】

 

 

称号:万に通じる者 不殺の冒険者 出遅れた者 白銀の先駆者 毒竜の迷宮踏破 大樹の精霊の加護 ユニークモンスターマニア 三代目機械神 聖大樹の精霊の加護 勇者 最速の称号コレクター

 

スキル

 

【絶対防御】【手加減】【体捌き】【瞑想】【挑発】【極悪非道】【シールドアタック】【大物喰らい(ジャイアントキリング)】【咆哮】【毒竜喰らい(ヒドライーター)】【爆弾喰らい(ボムイーター)】【植物知識】【大盾の心得Ⅹ】【悪食】【受け流し】【爆裂魔法Ⅹ】【エクスプロージョン】【体術】【幸運】【テイム】【採取】【採取速度強化小】【使役Ⅹ】【獣魔術Ⅹ】【料理ⅩⅩⅩ】【調理ⅩⅩⅩ】【調合ⅩⅩⅩ】【水無効】【八艘飛び】【伐採】【伐採速度強化小】【炎上耐性小】【機械神】【機械創造神】【宝石発見】【刻印・風】【水中探査】【侵略者】【破壊王】【背水の陣】【覇獣】【生命簒奪】【アルマゲドンⅠ】

 

 

あ・・・・・防御力1万超えそう。

 

 

 



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その後

オリジナルの代わりに分身体の俺が続きをやることになって、インベントリに採取尽くしたその後。毒竜の洞窟へ戻るためにまた潜水しなければならないんだが、ベヒモスがいたこの洞窟を採取しながら調べてみれば、あの巨体が通れるような通路を発見した。その先へ進む道中はモンスターはおらず、外へ続く出入り口にまで足を運べた。ただ、螺旋を描いて上を目指す感じで一時間も歩いた。

 

「ここは・・・どこだ?」

 

洞穴から出れば果てしない森を一望できる山頂らしき場所。マップを開いて確認すると、秘境の未開拓地としか表示されない。これじゃ帰り道が分からんな。

 

「うーん・・・・・・取り敢えず動くか」

 

機械神を展開、オルトを抱えて空を飛翔する。行く当ても変える場所もないままずっと空を飛び続けていたら突然辺りが真っ暗になった。夜の時間帯になった?いや、これは・・・・・。

 

 

空を覆い尽くすほどの影と俺が重なっている!!?

 

 

首を動かして肉眼で確認すると・・・・・視界に飛び込んできた影の正体が襲い掛かってきた!緊急回避して距離を置くと影の正体の姿が拝められた。姿は超巨大な二対四枚の翼を持つ鳥。身体の羽の色は真っ黒で同じ空の下で飛ぶ者を狙う猛禽類の眼は確実にこっちを捉えている。

 

「げ、もしかして・・・・・ジズだったりする?」

 

危険な赤い色に染まる怪鳥が目を見張るほどの速度で空を駆け、こっちに突進してきた。オルトを抱えながら追いかけられる側として―――否、毒竜(ヒドラ)と【全武装展開】してフルパワーで攻撃を開始した。

 

・・・・・だが、巨大怪鳥を包んでいる赤い光によって魔法と実弾、物理攻撃が全て弾かれてノーダメージの結果を見せつけられた俺は、翼で打たれ地面に叩きつけられてく地面を滑るように吹っ飛ばされた。機械神が消失して元の鎧の状態になってしまった。HPも今ので残り一桁だ。

 

「くそったれっ・・・・・!」

 

ポーションで全回復をしても安心する間もなく、突然発生した巨大な竜巻の渦に閉じ込められて真上からジズが襲ってきた。地面を駆けて回避しようが現時点で俺より速度を超えた飛行でくる怪鳥は、赤いエフェクトを纏って真っ直ぐ降りてくる。あの状態は攻撃が無効化される。なら・・・・・!

 

盾を構えて防御態勢の俺とオルトに突っ込んでくるジズとの衝突するまでの時間はあっという間だった。鎧ごと盾を粉砕し、竜巻の壁に吹っ飛ばされてそのまま風の勢いに逆らえず、海のように流されるがまま巻き上がれられ空へと放り投げだされた。

 

「あれ、まだ生きてる?―――なら!」

 

地上からまだ生存している俺にジズが追いかけてきた。身体にあの魔法と物理を無効化する赤いエフェクトが纏っていない。もしやチャンス?手を突き出した。

 

「【エクスプロージョン】ッッ!!」

 

ベヒモスですら煙幕にしかならなかった魔法は、今じゃレベルⅩの爆裂を放って怪鳥を攻撃。初めて聞く怪鳥の悲鳴を聞きながら【機械神】を纏って出来るだけ早くこの場から離れ、身を隠せそうな岩の隙間に飛び込んで息を殺す。怪鳥の見失った俺を探す気配を感じた直後、木々を全て薙ぎ払う嵐が目の前で発生した。この辺り一帯の森林を全て薙ぎ払って吹き飛ばす気か!流石にこれは死んだかと悟った―――。

 

「こっちです!」

 

「は?」

 

「早く!」

 

―――この岩の隙間に俺以外の誰かがいた。暗くてわからないが声の主に従ってさらに奥へと進んだ。一拍遅れて激しい風が切る音と共に衝撃波が襲ってきたが、更に下へと続く洞窟の中まで攻撃は届かなかった。

 

「・・・・・あなた、あの怪鳥と戦っていたとは驚きましたよ」

 

暗くて足下すら見えない闇の中を歩るく。俺を呼んで助けた者の話に耳を傾けた。

 

「あの鳥は何なんだ?」

 

「遥か古代から存在している怪物です。私達、いえ、世界中の人類の天敵であり災害の象徴・・・・・名前はジズ」

 

やっぱジズだったか。

 

「ジズは風を操り支配します。なので空を領域とする彼の怪鳥は自分の領域に入った輩は絶対に許さず、殺すまで執拗に攻撃をしてくるのです」

 

「そうなのか。それは知らなかった」

 

「あなたは本当に幸運です。この洞窟の付近にいなければあのままジズになぶり殺されていたでしょう」

 

「この洞窟は? どこに繋がっている?あ、俺の名前は死神ハーデス」

 

「私はライグ、猫人(キャットピープル)族の戦士です。そして、これからあなた達を案内する場所は、かつて人間達を追われた精霊と共に暮らす獣人族の里です」

 

闇の向こうから光が見え、その光が差し込む出入り口に進むとそこは・・・・・始まりの町にある大樹ほどの大きさの樹木を囲むは、綺麗な湖。立派な石や木の家を作って生活を送っている他、吹く風に乗って聞こえてくる鉄を叩く鎚の音、クワを振るって農作業してる大勢のノームが伺える。湖にはウンディーネ、大樹の付近にシルフが飛んでいる。獣人族の里なのに精霊達がいるのは不思議だな。でも、その獣人族も見渡せばどこにでも見かける。色んな獣人がたくさんだ。里の中を案内してくれる彼に話しかける。

 

「本当に精霊がいるんだ」

 

「彼等は遥か昔からこの地で共に暮らす同胞です」

 

エルフの王族の話でも昔精霊は人間達の悪行に耐えかねて自分達の里に引っ込んだって聞いたんだがな。昔からこの里に暮らしているのは、外の事情を知らないのか?

 

そしてここまで案内して横に立つ戦士は、獣の特徴である耳と尻尾以外は人と変わりない姿をしていた。あんな一寸先も真っ暗だった洞窟の中を悠然と歩けて行けたのは猫の目だからなのか?

 

「なぁ、ノーム達は自分達の里に引き籠っているのは知っているのか?」

 

「知っていますよ。悪用しようとする人間達から守らんと古代の善き心の人間達が精霊達の為に戦ったことを。その中には私達獣人族も共に戦いました」

 

「それは知らなかった。・・・・・だとすればお前達獣人族も人間に警戒しているのか?」

 

「察しのいい人だ。その通りです。精霊達は自然を育む特別な存在ですからね」

 

「なら、少なくとも人間を警戒している筈だ。なのにどうして声を掛けた?」

 

「あのジズとの戦いの中で戦士として戦っていたあなたは、悪い人間ではないと思ったのです」

 

見られていたのか。よく巻き込まれずにいたその身体能力も獣特有なのだろうかね?洞窟の方へ振り返る。

 

「この里に繋がっている洞窟はここだけか?」

 

「いえ、他にも複数ありますよ。私達が歩いたこの洞窟は人間の町に近い方で、よく人間に変装して人間の町で金銭と物資を売買しています」

 

人間の町に近い・・・・・だと?

 

「その人間の町とはどの辺り?そもそもこの里はどの辺りにあるのか把握してる?」

 

「私達の里は毒竜(ヒドラ)というモンスターが巣食うダンジョンがある山の裏側に位置しております。人間の町とはあなた達人間で言う第2エリアの東からここまで1時間も掛かる場所だということは」

 

・・・・・ここまで来る際、ジズに吹っ飛ばされたから結構遠い場所まで来ていたのか。

 

「よかったらこの里で見学したり何か売買してください」

 

「具体的に何が売られているのか教えてくれる?」

 

「そうですね。道具や食材はもちろん、精霊達の結晶などもありますよ」

 

「属性の結晶!?精霊達の里でしか入手できないんじゃ・・・・・」

 

「昔からある物なのでどういった経緯で入手、売買されているのかは謎なので説明はできません。しかし、かなり貴重なものなので値段は高いです」

 

驚きの話だが、これはかなり貴重な情報なのは確かだ。

 

「因みに、俺以外の人間達もかなり大勢だろうとこの里に来ても問題は?」

 

「私達や精霊、この里に危害や迷惑を掛けないのであれば私達獣人族は歓迎しましょう」

 

受け入れは大丈夫か。マナーは当然だが、ヘパーイストスのような好感度に関わってるのではなさそうでよかったよ。と言うことで早速―――獣人族のNPCに話しかけよう。あわよくばもふもふさせてもらいたい!と野心を秘めて話しかけてみれば、納品クエストが多いことが分かった。木材が欲しい、食べ物が欲しい、届け物をしてほしい、手伝って欲しい等のクエストばかりだ。それを何十回も繰り返してこなしていくと、軽装備の鎧を着込んだ戦士の獣人族のNPC達がどこからともなく近づいてきた。一人は狼族、もう一人は犬族、最後の一人は虎族。

 

「物見遊山のつもりで来たよそ者だと思っていたが、どうやら違うようだな。お前のことは長に報告してある」

 

「長?」

 

「人間の来客は初めてだからな。しかしだ、精霊にまつわる言い伝えもある故に俺達は全ての人間に警戒心を抱いている。この里の精霊に手を出す輩であれば即刻立ち去ってもらうつもりだった。しかしお前はあの化け鳥に臆さず戦ったそうじゃねぇか」

 

ライグから話を聞いたのか。

 

「長はそんなお前と話がしたいと申された。ついてこい」

 

と、数人の戦士達からの接触で俺はこの里の長と対面をすることになってしまった。長がいる場所は大樹に絡みついている蔓の上を歩いたら、大樹の枝を支えにしたログハウスがあった。門番はおらず扉を開けて中に入り、二階に繋がっている階段を上ってすぐ目の前、真っ白な羊毛を蓄えてる羊が机の前で椅子に座って出迎えてくれた。

 

「長、件の者をお連れしました」

 

「ご苦労様、あとは休んでていいよ」

 

「「「はっ」」」

 

ここまで連れてきてくれた三人の戦士達は階段を降りていってログハウスを後にした。

 

「来てくれてありがとう。私はこの里の長を勤めているウールだ」

 

「初めまして、死神ハーデスだ」

 

温厚そうな性格をして微笑まし気に見てくる。

 

「ここに来る最中にジズと出会ってしまったようだね」

 

「戦っても現状勝ち目はないと判断して逃げようとしたけどな」

 

「あのモンスターは大陸を蹂躙するという覇獣ベヒモスと同格の強さを誇っているらしい。逃げ切れるだけでも奇跡的だ」

 

それでも何時までも逃げてばかりではいられない。何時か倒さないと駄目だと思うがな。

 

「その実力を買って君にお願いしたい事がある」

 

「お願い?」

 

「うむ、まず近い内にこの里は滅びる」

 

「え、滅びる・・・・・?」

 

いきなりシリアスな展開に・・・・・どうして滅びる?

 

「理由は?」

 

「覇獣ベヒモスが目覚めた。この里まで轟くベヒモスの咆哮や暴れ回る奴の足音が聞えて来たのだ。私達はベヒモスの襲撃に近々この里を捨て新たな新天地に移さなければならない」

 

ベヒモスが活動をするから?・・・・・えっと、タイムリーな話だよな。俺の目の前に青色のプレートが浮き出てくる。クエスト【獣人族の護衛】かEXクエスト【大陸の覇獣討伐】。・・・・・EXクエストの方にYESを押した。

 

「あーと、ベヒモスの心配はないかもしれないぞ」

 

「どうしてだい?」

 

「ここに来る前に偶然出会ってしまって・・・・・倒してしまったんだ」

 

その証拠にとベヒモスの素材一式を見せるとウールの顏が驚愕一色で染まり限界まで目を開いた。

 

「ベヒモスを倒した・・・・・君が・・・・・?」

 

「ん、ということで里は滅びないし新天地に行かなくても大丈夫だから安心してくれ」

 

「・・・・・」

 

押し黙ったウール。首を捻ってどうしたんだ? と思っていると。

 

「―――勇者よ! 今晩はベヒモスを倒した君のための宴をしたい!どうか宴に参加してくれ!」

 

ウールが涙を流しながら告げたと同時にEXクエストが終了したものの、報酬はない。代わりにまた別のクエストが発生した。

 

 

『獣人族の宴』

 

プレイヤーを百人以上獣人族の里の宴に参加させること

 

 

YESしてウールの誘いに応じ、問うた。

 

「俺の友達も呼んでいいか?」

 

「勿論だとも!今夜は無礼講、宴なのだからどんどん呼んで大いに楽しんでもらいたい!」

 

そう言って俺達を置いて外へ出て行ってしまった。百人か・・・・・まぁ、問題ないな。

 

 

 

ログハウスを後に大樹を背後にしてフレンドコールする。相手はタラリアのヘルメスだ。

 

「ヘルメス、ちょっと協力して欲しいんだけど」

 

『何かな?』

 

「獣人族の里の行き方を他のプレイヤーに教えて欲しいんだ。」

 

『獣人族の里!?また新しいエリアを見つけたっての!?』

 

「ああ。そこでベヒモスを討伐した俺のお祝いとして今夜、獣人族が宴を始めるんだ」

 

『へ、へぇ・・・そうなんだ。うん、いいわよ?』

 

「俺も動画配信で更に人数を集めるからお願いな」

 

ヘルメスに獣人族の里の場所と注意事項を教えた後は配信の準備をすると、カメラの役割になる光球がふわふわ浮かぶ。この光球が俺達を撮影して、皆さんにお届けする、らしい。淡い光の光球には小さい黒い点があって、これが向いている方向を撮影している、とのことだ。光球そのものは配信者である俺を自動追尾して、思考を軽く読み取って俺が撮りたいものを撮ってくれる。で、その光球の上には大きめの真っ黒の板みたいなものがある。ここに、誰かが書き込んだコメントが流れてくる、という形だ。一応設定で、視界にそのまま表示されるようなこともできるらしいけど、俺だけ見れても仕方ないからこの形式にした。題名は死神さんIN宴会が始まるよ全員集合!てなわけで配信開始。・・・・・お、もうコメントが来た。

 

 

【死神の宴会って何だ?って思って見に来たら白銀さんじゃん!】

 

「どーも、死神ハーデスだ。以後よろしく」

 

【白銀さん宴会するんですかー?】

 

「俺が、と言うより宴会するために百人以上のプレイヤーが必要なクエストが発生してさ。是非とも協力してほしくて」

 

【どこでするんですか?】

 

「今夜、獣人族の里で」

 

【 】

 

【 】

 

【 】

 

 

その後、無言投稿が大量に流れる。

 

 

【白銀さん!獣人族の里を見つけたってマジですか!?】

 

「ようやく無言投稿が終わったと思えば開口一番の質問はそれか。偶然見つけたけど本当だぞ」

 

【死神って誰のことかと思えば白銀さんの初配信だとはビックリしたよ!】

 

「・・・・・なぁ俺の名前って白銀って定着してねぇか?」

 

【いや、それはしょうがない。「白銀の先駆者」って称号を貰ったでしょ?名前も碌に知らないから髪の色と先の称号の名前が同じだから皆して白銀さんって呼んじゃうんだよ】

 

【それよりも獣人族の里はどこ!?まさか第3エリアの先だったり!?】

 

 

「いや、第2エリアだってさ。ここまで案内してくれた猫人族(キャットピープル)・・・知らない人に分かり易く言うと猫耳と尻尾を生やした人間の顏と身体の獣人族の青年から聞いたよ」

 

【意外とご近所だった!白銀さん、第2エリアのどの方向に行けば!?宴に参加するよー!】

 

【可愛い獣人ちゃんはいますか!?】

 

「ああ、いるぞ・・・・・お、丁度良くウサギの耳を生やした獣人族だ。こんにちはー」

 

【バニーちゃん、バニーちゃんじゃないかぁっ!】

 

【ば、ばるんばるん・・・・・っ!】

 

【笑顔も可愛いよぉっ・・・・・】

 

 

「おー、獣人族の子供達もいる。おーい子供達ー」

 

【キャアアアアア!!!カワイイー!!!】

 

【ああ、抱っこも出来るなんて羨ましい!第2エリアのどこなの!どこなのよ!?】

 

【早く私もそこに交ざりたいー!】

 

 

「で、場所はタラリアから情報を売ったから買ってくれ」

 

【わかった!】

 

【ようやく獣人族の里に行けるぞー!!】

 

【白銀さん情報提供ありがとー!】

 

「じゃあ、配信はこれで終わりに―――」

 

【終わりにしないで!?さっきからすんごく気になるのが映っているから!何で獣人族の里にノームやシルフちゃん、ウンディーネたんがいるんだ。白銀さんのモンスか?】

 

「違う。昔からこの里に暮らしているんだってさ。テイムは出来ないから来てもするなよ。獣人族達の好感度が一気に下がるっぽいからさ」

 

【えええ・・・・・でも、欲しいィ】

 

 

うーん、属性結晶がまだ流通されていないからか。ならば・・・・・更なる情報を明らかにしておくか。道具屋に訪れて視聴者達に見せつける。

 

 

「ああ、そうそうこの里のショップ・・・・・四つの属性結晶が売ってあるぞ。ほれ」

 

【ちょっ!?】

 

【待って!!!え、何で獣人族の里に結晶が売られてんの!?】

 

【場所をはよ!はよぅ場所を教えて白銀さん!】

 

 

他のコメントも獣人族の里の場所の特定の催促ばかりだ。その中―――。

 

 

【白銀さん、質問いいですかね。一時期、白銀さんやノームの頭に毛玉を載せていた件について】

 

「毛玉・・・・・ああ、ミーニィのことか」

 

【ミーニィ?モンス?】

 

「大樹の精霊降臨イベントを覚えてる?その時に精霊から卵を貰ったんだ。で、孵化したのがミーニィ」

 

【ああ、そうなんだ?どんなモンス?】

 

「ピクシードラゴン。まぁ、成長しても小っちゃいドラゴンだと認識してくれ」

 

【ドラゴンンンンッ!?え、ドラゴンって毛なんて生えてるの!?】

 

「空想上の怪物だから設定は何でもありなんじゃない?意義や疑問については運営に言ってくれよ」

 

【いやいや、ピクシードラゴンってβの時はいなかったぞ】

 

「正式版ではいるらしいぞ?ただ、どこにいるのか分からないし、かなりの運がないと一生遭遇すらできないってNPCから教えてもらえた」

 

【ミーニィは強い?】

 

「普通に強いかな。魔法スキルばかりだけど、小っちゃくてもドラゴンなんだなぁって改めて感嘆するぐらいは」

 

【獣人族の里はどこですか白銀さーん!!!】

 

「タラリアに情報を提供済みだ。でもって、ここに来るまで空から探すのは止めた方がいいぞ」

 

【その理由は?】

 

「ジズって巨大な怪鳥に襲われる。多分あれ、ベヒモス並みのレジェンドモンスターみたい」

 

【ベヒモスと同格のモンスター!?】

 

【第2エリアにそんなモンスターがいるなんて初めて知ったぞおい!】

 

【そのベヒモスを単独で倒した白銀さんでも倒せないぐらい強いってことはレイドモンスター?】

 

【でもおかしいだろ。レイドモンスターなら戦ったら勝つか負けるまで逃げられないんじゃ?】

 

「あ、そうなの?ダメージを与えられない感が凄い物理と魔法を完全に無効化するスキルを使ってくるんだよな」

 

【何それムリゲー。誰でも勝てないモンスターを出してどうするんだ運営】

 

【まだ先の事なんじゃないか?そのジズとレイド戦をするのは。因みにベヒモスはどうやって見つけたんだ白銀さん】

 

んー、これはまだ教えられないかな?

 

「それについてはタラリアに売る予定だ。―――毒耐性がないとプレイヤー全員死ぬ場所を攻略しないと行けないけどな。攻略できたとしてもベヒモスともう一度戦えるかもまだ謎だし」

 

【どんな場所に行ったんだよあんたは!?】

 

他のコメントも何故か呆れる文字が投稿されていく。

 

「更にはここスキルショップ。色んなのが売られてるぞ。でもこれ全部、上級職のスキルしかない」

 

【ちょっ!!?】

 

【上級職のスキルスクロールって!?】

 

【かなり凄い発見だよ白銀さん!!】

 

【さすシロ!】

 

何ださすシロって、意味が分からん。

 

「全部一つ30万G以上するけど皆の懐の具合はどう?」

 

【全部高すぎるー!!】

 

【でも欲しいのは確か。ちょっと資金集めを頑張るか】

 

【白銀さん、もうちょっとスキルスクロールを見せてください。主に剣士の】

 

「それを応じたら他のプレイヤーも便乗して探させるだろうからお断りさせてもらう。自分で見てくれ」

 

【ただいま第2エリアの空からの偵察をしてまーす・・・・・って、本当に巨大な鳥のモンスターがいきなり襲ってきやがったぁっ!?】

 

【あ、マジなんだ。人柱ご苦労、今地上からでもその様子が・・・・・え、何あの嵐、馬鹿デカすぎるだろぉっ!?】

 

【ぎゃああああ!!嵐に巻き込まれるぅっー!】

 

【ああ、嵐に巻き込まれる人ってこんな体験をしてきたんだなー】

 

【ジェットコースターなんて可愛いと思うぐらい激しすぎるッッッ!!!】

 

【HPが見る見るうちに減っていくし装備の耐久値がかなりヤバいことにー!?】

 

おー、阿鼻叫喚の嵐が巻き起こっているなー。だから言ったのに、空から探すのは止めておけって。

 

「何だか配信を見ている暇もなさそうなプレイヤーがいるので短い間だが配信は終わりにするわ。因みにこれから第2エリアに行こうとしているプレイヤーの皆、そっちはどういう状況?」

 

【巨大鳥のモンスターが空飛んでいたプレイヤーを蹂躙して、地上にいる他のプレイヤーの存在に気付くと嵐を起こして殺しにかかってきている。白銀さんが倒せない理由はこれだよな?】

 

「そうそれ、一定時間の無敵モードっぽいのもあるし戦うならまず、機動力も兼ねてる翼を奪わないと駄目だね」

 

【デスヨネー。あ、軒並みに哀れなプレイヤーの皆を倒したからか巨大鳥が去っていった】

 

【これから捜索の続きに入りまーす】

 

「おー、皆ガンバレー。それじゃ、初配信はここまでにするよ。皆頑張って獣人族の里まで辿り着いてくれ」

 

配信動画を止めて里に繋ぐ通路へと赴く。ジズと出くわした森に戻ってそのまま東方面に数十分も歩いていくと最初のプレイヤーと出会った。

 

「あ、白銀さん!」

 

「一番目だな。このまま真っ直ぐ進んで岩の隙間を探せば獣人族の里に行けるぞ」

 

「よっしゃー!」

 

意気揚々と走り出していくプレイヤーと別れては、また他のプレイヤーと出会い行く道を教える。

ところが、空を飛んで移動するのは止めろと教えられている筈なのに信じられず機械の町で購入した飛行アイテムを使って空からの移動するプレイヤーが多い。―――だから二対四枚の翼を持つレジェンドモンスターのジズの再来は当然のようにやってきた。

 

「自業自得だとして放置だな」

 

鷹の衣を纏って鷹の姿で低空飛行する。空の領域までじゃなければ襲ってこないだろう?地面スレスレなら問題はない筈だ。とまぁ、その予想は正しくジズに狙われることもなくそのまま機械の町までひとっ飛びできた。ここに来た理由はもちろんサイナ専用機を買うためだ。あの誰も手出しが出来ないでいる1000万Gのアイテムをな。無事に購入して始まりの町の俺の畑に戻る。

 

「ムー!」

 

「ヒムヒム!」

 

「フマー!」

 

「フム!」

 

「―――!」

 

「キュイキュイ!」

 

うちのモンス達が一気に押し寄せて来た。おおう、何事だ?引っ張ったり押したりどこかへ連れて行こうとするので不思議に思っているとサイナが来て教えてくれた。

 

「マスター、卵が孵化しそうです」

 

「そういうことか!どっちだ?」

 

「両方です」

 

「わかった!」

 

納屋へ顔を出すと、二つの孵卵器にセットしてある卵の2つにひびが入っていたのだ。それも一周しかけている。俺達は孵卵器を納屋の前に出して様子を見守ることにした矢先に、卵と孵卵器が青白い光を放つ。

 

「眩し!」

 

思わず目を覆ってしまう。それにしても、どんなモンスが生まれるのか? ハニービーとリトルベアの卵だからな。蜂か熊か。それとも全く違う何かなのか。

光が治まると、卵の殻と孵卵器は光の粒となってキラキラと輝きながら消滅していった。残されたのは、1匹のモンスターだ。

 

「熊、だな」

 

だが、目の前でこちらを見上げている円らな瞳の熊は、派手な黄色の体毛だ。黄色い熊と言っても、「ハチミツ食べたいなー」とか言いそうなメタボ熊ではなく、完璧にテディである。黄色いテディベア。それが卵から生まれたモンスターの姿であった。

 

大きさはオルトよりちょっと大きい程度かな。熊とはいえ、前衛を任せられそうには見えないが・・・・・。

 

『従魔術のレベルが上がりました』

 

『使役のレベルが上がりました』

 

へえ、卵を孵すと経験値が入るのか。まあ、ある意味テイマーとして一番大きな行動だしな~。でも、これで従魔術と使役はⅩⅠだ。それと、従魔術がⅩに上がると、モンスター・ヒールという、自分の従魔限定の回復術が使えるようになるのだ。サクラとオルトの壁がより硬くなる。ま、そんな機会は滅多にないだろうけど。おっと、今は目の前の黄色いテディベアのが重要だ。

 

「撫でてもいいか?」

 

「クマー」

 

そっと触れたその毛並みは、完全にヌイグルミだった。フカフカで、ミーニィとはまた違った気持ちよさがある。

 

「おおおお、新たなモフモフがっ!」

 

「クーマー」

 

すっげえ可愛いな。でも、戦闘ができるのか本当に不安になる外見だな。とりあえず鑑定をしてみよう。

 

 

名前:未定 種族:ハニーベア Lv1

 

契約者:死神ハーデス

 

HP:27/27 MP:18/18 

 

【STR 10】

 

【VIT 7】

 

【AGI 5】

 

【DEX 8】

 

【INT 4】

 

 

スキル:【愛嬌】【大食い】【嗅覚】【栽培】【爪撃】【登攀】【毒耐性】【芳香】【養蜂】

 

装備:なし

 

 

えーと、ハニーベア、ハニーベア・・・・・既出の魔物だった。トップテイマーが発見した最近の新種のモンスターか。前衛もこなせるステとスキルな上、生産も出来るなんて有能じゃん。俺と同じ【芳香】持ってるし。

 

「クマー?」

 

「お、何だ?」

 

「クマクマ」

 

「ムム」

 

「――!」

 

「キュイキュイ」

 

何やら従魔たちが訴えてくるな。特にクマは俺の手にそっと自分のヌイグルミハンドを添え、じっと見上げてくる。何かを訴えているようだ。

 

「うーん? どうした」

 

「クックマ!」

 

次は何やら怒っている? ああ、そうか。

 

「もしかして名前か?」

 

「クマ!」

 

「うーん。そうだなー」

 

どうするか。こんな可愛いヌイグルミが生まれるとは思ってなかったからな。

 

「―――よし、お前の名前はクママだ!」

 

「クマ!」

 

片方が終わったから今度はもう片方のモンスターの番だ。

 

「待たせたな」

 

「ヤー♪」

 

クママの隣に居たのは、小さな小さな女の子だった。いわゆる妖精的な外見である。ただ、羽はないが。フワフワのクセの付いた背中まである赤い髪と、エルフの様な長い耳。

 

着ているのは、体にフィットした青い半袖半ズボンの服(へそ出し)と、ポンチョの様な茶色いマントだ。アンデスとかの民族衣装風だ。

 

まるで動くフィギュアって感じだが、そのニパッと花が咲いたような笑顔は、人形にはありえない温かみを感じさせてくれる。

 

名付けをするようにアナウンスが聞こえたので、名前がない様だ。ユニーク個体の両親から生まれても、ユニークになるとは限らないらしい。掌を上にして差し出してみると、妖精はその掌にピョンと飛び乗る。近くで見てみると、やはり可愛い少女だ。

 

「名前を付けてやらないとな」

 

「ヤー♪」 

 

「羽はないけど、妖精みたいだしな・・・・・。可愛い名前で・・・・・。よし、お前の名前はファウだ」

 

「ヤー♪」

 

 

名前:ファウ 種族:ピクシー Lv1

 

契約者:死神ハーデス

 

HP:15/15 MP:25/25 

 

【STR 4】

 

【VIT 4】

 

【AGI 10】

 

【DEX 12】

 

【INT 9】

 

スキル:【演奏】【回復】【隠れ身】【歌唱】【聞き耳】【採取】【跳躍】【火耐性】【火魔召喚】【夜目】【錬金】

 

装備:妖精のリュート、妖精の衣

 

 

武器は持っていないが、楽器を装備している。しかもスキルは演奏に歌唱だ。もしかして吟遊詩人みたいな戦い方をするんだろうか? 吟遊詩人の歌は本人が戦闘に加われない代わりに、全体へのバフ、デバフを可能にする。非常に役立ってくれるだろう。

 

回復もあるし、小さいと侮ることはできないな。火魔召喚はどんな能力なんだ? 字面からすると、火に関係する使い魔みたいなのを呼び出す能力だとは思うが。

 

どんな能力か尋ねてみると、ファウが火魔召喚を使ってくれた。いわゆる鬼火的な火の玉がファウの前にポンと出現する。ファウが命令する通りに動く様だ。これは面白い。それにファウの演奏中でも攻撃できるってことだし、相性も良さそうだな。

 

あと、生産技能孵卵器のおかげで、錬金もある。何が嬉しいって、これで生産作業の助手が出来た事だ。いい従魔を引いたぞ!

 

「よろしくな、ファウ」

 

「ヤー♪」

 

「ムーム! ムーム!」

 

「クーマ! クーマ!」

 

「キュイーキュイ!キュイーキュイ!」

 

オルト達が、俺とファウの周りを奇妙な動きで回り始めた。祝いの舞と言ったところか。すると、ファウが俺の肩に腰かけ、ポロロンとリュートを爪弾き始めた。

賑やかな酒場か何かでかかっていそうな、軽快な音楽だ。その音に合わせてファウが歌い出した。会話は出来なくても、歌うことはできるようだ。良く通る声で「ランラ~♪」と歌い続けている。

オルトたちも楽しくなってきたのか、ピョンピョンと飛び跳ねる様な激しい踊りになって来た。サクラは体を揺らしながら手拍子だ。ただでさえ賑やかだったのに、さらに賑やかになりそうだな。まあ、嫌いじゃないけどね。

 

「遅れたがオルト、ほいジュースだ」

 

「ムム!」

 

オルトは満面の笑みで、オルトを見て、ふと思いついた。

ジュースはあげたけど、もう一杯あげられないのか? テイムモンスには1日1回食事をさせないといけないが、2回以上あげてはいけないとは書かれていなかったはずだ。何度も。それこそ1時間に1回とか食事をあげたら、ずっと倍速で仕事をし続けてくれるのだろうか?

 

「あげてみるか。オルト、ほれ」

 

「ム?」

 

「おう。飲んでいいぞ」

 

「ムム!」

 

俺がジュースを勧めると、オルトは嬉しそうにゴキュゴキュとジュースを飲み干した。やっぱり何度でも食事を与えられるみたいだな。これは大発見だ。

 

「クマ」

 

「キュイ」

 

「お前らそんな目で見るなよ。勿論忘れてないぞ。ほら、ちゃんとあるから」

 

「クマー!」

 

「キュイッキュイー!」

 

複数回、一日三食も与え続けるとなれば結構な量の食糧が必要となるな。

 

「ムムム~!」

 

「ん?どうしたオルト?」

 

なんというか、雄叫び? その場で拳を握りこんで声を上げ始めた。しかもその体が僅かに光っている。

 

今にも「〇〇〇〇の事かー!」って叫び出しそうだな。

 

「ムムー・・・・・ムッ!」

 

「おわ!何だ?」

 

オルトがいきなり右腕を天に向かってバッと突き出した。一層強い光が、右の手の平から発せられる。そして、光がそのままオルトの手の平に集まっていく。

 

「何か発射しそうなんだけど一体なんだ?」

 

直後、強い閃光がビカリと発せられる。その後、まるで光が結晶化したかのような、美しい宝石がオルトの手に握られていた。

 

「オルト、何だったんだいったい?」

 

「ム」

 

理解できない俺に、オルトが手に持っていた宝石を手渡してくれた。

 

「くれるのか?」

 

「ムー」

 

 

名称:従魔の心・オルト

 

レア度:1 品質:10

 

効果:従魔の心が結晶化した物。売却・譲渡不可

 

 

ほう。これは何だ? 聞いたことが無いアイテムなんだが。品質が10っていうのも凄いし。売却も譲渡も不可能という事は、自分で使うのかね。なんか意味深な名前だよな。

 

「うーん、レシピを確認してみようかな」

 

すると、錬金レシピの中に、従魔の心を使う物を発見した。

 

「素材は、従魔の心に宝石か」

 

従魔の心は譲渡不可。

 

「宝石・・・・・」

 

結晶は宝石ではなく、魔石というカテゴリーだった。普通の宝石じゃだめなのか?どこかで買うしかないか? 

それとも獣魔ギルドか。とりあえずギルドで話を聞いてみて、進展が無かったら掲示板を調べよう。

ということで、俺は獣魔ギルドへ向かった。今日もバーバラがニコニコと受付をしている。

 

「どうも」

 

「いらっしゃいませ。本日のご用件は?」

 

「これを見てもらいたいんですけど」

 

「まあ、従魔の心ではないですか」

 

やはりバーバラさんなら知っているらしい。

 

「これについて聞きたいけど、教えてもらえる?」

 

「そうですね。では、まずはこちらのクエストをお受けになられては?」

 

 

ピロン。

 

 

特殊クエスト

 

内容:従魔の心をバーバラに見せる

 

報酬:2000G、宝石をランダムで1

 

期限:なし

 

 

「こんなクエストがあったのか。勿論受けよう」

 

「はい。ではクエストを達成されましたので、こちらが報酬です」

 

もうすでにバーバラに渡してあるからな、即行で達成だ。

 

 

『報酬2000Gと、緑翡翠を入手しました』

 

 

名称:緑翡翠

 

レア度:4 品質:★5

 

効果:素材。観賞用。

 

 

レア度4か、かなり良い物貰ったぞ。これならオルトから貰った従魔の心のレシピに使うに相応しいだろう。

 

「それで、この従魔の心の使い道だけど」

 

「すいません。詳しくはお教えすることはできません。ですが、1つヒントを」

 

ヒント?

 

「獣魔ギルドのランクを7まで上げてみてください」

 

「・・・・・それだけ?」

 

「はい」

 

うーん。具体的なことは教えてもらえないか。だが、これだけハッキリとランクを上げろと言われたんだし、いっちょ頑張ってみますか。ランクを上げるにはクエストをこなさないといけない訳だが・・・・・。今すぐこなせる依頼はそう多くない。普通に考えたら、常設クエストをこなすのが一番いいんだろうな。

 

常設クエストというのは、貢献度が1しかもらえない代わりに、何回でも受けられるクエストの事だ。勿論、毎回貢献度が貰える。通常のクエストは、一度クリアすると消滅するか、次からは貢献度が貰えなくなるのだ。

 

テイマー用の常設クエストは、特定のモンスターをテイムして、ギルドに納品するという物だった。掲示板ではテイムモンスを売るこのクエストをやり過ぎたら、何かマイナスがあるのではないか? という疑問が語られていた。テイムモンスを蔑ろにする行為になるのでは? 自分のモンス達の好感度が下がらないのか? とか色々な意見があるようだ。

 

ただ、俺的には大丈夫なのではないかと思う。そもそも、他のジョブの常設クエストは、どう考えてもマイナスが無い物が多い。特定のアイテムの採集とか、そんな物ばかりだ。そんな中で、テイマーの常設クエストにだけ致命的なマイナス要素など入れたら、ゲームバランスが明らかに変だし。

 

また、テイマーの代名詞とも言えるテイムスキル。このスキルのレベルを上げるには当然このスキルを使いまくらなければいけない訳だが、その過程でテイムしたモンスが増えすぎてしまうというテイマーが多く居た。そうなると、いざちゃんとテイムしたいモンスが出現した時に、テイム枠が残っておらず、泣く泣く倒さなくてはならないなどという事態もあり得る。

 

言い方は悪いが、必要のない無駄なモンスターをギルドで売却するのは、テイマーの基本スタンスと言えた。売る度に自分のモンスターの好感度が下がっていたら、誰もテイムスキルのレベリングなんかできないだろう。

 

まあ、テイム不可能なボスなどにテイムを無駄撃ちするという方法もあるらしいが、普通はそんな真似できないからな。テイム枠が一杯の時なら絶対にテイムが失敗するので、MPの続く限りテイムを使い続けられるが、どうも入手できる熟練度が半減してしまうらしい。

 

「俺も未だにテイムスキルが低レベルなままだし。ここは常設クエストをこなしまくるか」

 

貢献度獲得にテイムスキルのレベリング。さらにはモンスを売って資金も稼げる一石三鳥のクエストだからな。問題はクエスト自体の報酬が少なめなくらいだろう。

 

「さて、今日の捕獲対象は・・・・・灰色リスか。よし、時間まで今日はランク上げだな」

 

 

その前にある物の調査だ。毎度おなじみの鍛冶屋の裏口から入り、炉の前で弟子と作業をしている大男に声を掛ける。

 

「ヘパーイストス、見てほしいんだが」

 

「なんだ、こっちは忙し―――」

 

「ベヒモスの―――」

 

「詳しく聞かせろ」

 

作業と鎚を放り出して俺を逃がさんと肩を掴んできた。今の動きはなんだ?ほら、弟子のヴェルフが気味悪がってる顔をしてるぞ。

 

「ベヒモスだと?あの怪物をどうした?」

 

「倒してベヒモスの胃の中にあった装備を手に入れたけど」

 

「素材は?」

 

「・・・・・」

 

 

『ベヒモスの豪皮』『ベヒモスの牙』『ベヒモスの爪』『ベヒモスの(たてがみ)』『ベヒモスの角』『ベヒモスの尾』

 

 

「ふぉおおおおおおおおおおおおおおおっ!!!」

 

「「気持ち悪い声を出すなよっ!気持ち悪い!!」」

 

―――数分後。

 

VITがメチャクチャ高い俺にたんこぶを作らせるなんて・・・・・。本当のことなのにヴェルフと揃って頭を殴られた。

 

「また俺の爺さんの話だがな。ベヒモスってのは一定の周期で目覚め地上のありとあらゆる生物を喰らい、王国を幾つも滅ぼす悪魔のような大怪物なんだ」

 

「周期ってどのぐらいだ?」

 

「三百年に一度だって話だ。実際本当かどうかわからないが、とにかくベヒモスは過去の冒険者でも討伐はできず何国も滅ぼしてからようやく眠りにつく」

 

豪皮の感触を確かめるように撫でるヘパーイストス。ものすっごく熱い眼差しを向けてだ。初恋の相手を見るような目つきだぜ?気色悪いにも程がある。

 

「同時にこの『大陸の覇獣』ベヒモスの出現に呼応するモンスターが二体いる。『海の皇蛇』リヴァイアサン、『空の鳥帝』ジズ。こいつらが人間界を荒らし回るもんで、世界各国に点在する冒険者ギルドは人類の悲願として『三大クエスト』を準備している」

 

「・・・・・」

 

「その内の一体をお前が倒すなんてな・・・・・」

 

「素材はやらんぞ」

 

真顔で言うとヘパーイストスの身体が硬直した。ベヒモスの素材に向けていた首をこっちに向きながら作り笑いで話しかけてくる。

 

「な、なぁ?物は相談だがこれで装備を作る気はないか?これならかなりいい装備が・・・・・」

 

「ない。今の話を聞いて残りの二体のモンスターを倒した装備で作って欲しい思いが湧いたところだ。それに」

 

「それに?」

 

「俺はこっちの方を教えてもらいたいんだよ」

 

ベヒモスの胃の中にあった複数の装備、腐食も溶けてもなく風化した状態のをインベントリから出して床に置く。それらを一目見て、怪訝な目つきで手に取って調べるヘパーイストスは唸るような声を発する。

 

「・・・・・こいつは・・・・・」

 

「喰われた人間の装備品だけど、それ以外何も残ってなかったのにそれだけがあったのが不思議でさ。何かわかる?」

 

「むぅ、ベヒモスに喰われて有機物無機物関係なく消化されて跡形もなく残っちゃいない筈だ。なのに原形を保ったまま300年以上もせずに残っているなんざ普通はあり得ないことだ。ならば、これらの装備は普通の素材じゃないもんで作られたに違いない」

 

それは?と質問するとヘパーイストスは指を2本立てた。

 

「オリハルコン。そしてヒヒイロカネ。長年ベヒモスの強力な胃酸に耐えたこの2つの金属が有力候補だ。どれも永久不変で折れることも壊れることも一切ないと聞く。お前が今装備しているもんもオリハルコンで作られたもんだからこそ、ベヒモスの胃の中にいても決して溶けることはなかっただろ?」

 

破壊成長のおかげでな。そういう意味で首肯する。

 

「アダマンタイトは?」

 

「あれは簡単に壊れない意味で永久不変だが、主に加工して使われるのは金庫や建造物だ。武器にも使われるが希少性ではないからな。まぁ、こんな都市や国から最も離れた町じゃあ絶対に手に入らない代物ではあるが」

 

「そうなのか。んじゃ、それらの装備は元の状態に戻せれる?」

 

また唸るヘパーイストス。

 

「復元するには相応の素材が必要だがその前に研磨する必要がある。だが、オリハルコンやヒヒイロカネを素材に創り出された武器を研磨するための道具はうちにはねぇ。そんなもんを手にするとは思っちゃいなかったんだからな」

 

研磨できる道具・・・・・あ、ベヒモスを倒した報酬にあったあれならどうだ?

 

「ヘパーイストス、これは?」

 

『???』

 

名前が???で詳しく表示されていない詳細が不明なアイテム。ずっしりとした重さと金属の輝き、光沢を発するそれはヘパーイストスの手に渡った。

 

「・・・・・何かの金属か?」

 

「それもベヒモスから手に入った。風化した装備と一緒だったことから何かの縁があると思うんだ」

 

品定め、謎の金属を触診するように触って職人の目で確かめるヘパーイストス。鍛冶師として長年経験を積んだ男の中で何か察したのか風化した装備とそれを持って工房内のテーブルに置きだした。ヴェルフと一緒に彼の傍に寄って見守った。

 

「・・・・・この感触、もしかすると」

 

謎の金属の上に載せた風化した装備に手を添えて―――擦り付けるように押し出した瞬間。眩い金色の火花が迸った。一瞬だが、まるで地上に星屑が散らばったような光量で思わず目を見開いた。俺達よりも至近距離にいたヘパーイストスはしばらく押し黙って謎の金属を見つめた。

 

「こいつは・・・・・砥石だ」

 

「「砥石!?」」

 

「ああ、間違いない。それも何でも研いでしまいそうなそんな気をさせる万能な砥石だ。どうしてベヒモスから手に入れたのか謎だが、こんな物質はこの世にそうそうあるもんじゃねぇ。・・・・・なぁ、坊主」

 

真剣な眼差しで俺を呼ぶ。直感的にヘパーイストスが言いたいことを分かり一つ頷く。

 

「それが砥石だって言うなら、譲るよ」

 

「ありがとう。恩に着るぜ坊主」

 

二ッと深い笑みを浮かべた後、早速風化した装備を研磨し始める。

 

「研磨が終わるまで時間が掛かる。お前のタイミングで顔を出してくれ」

 

「わかった。期待してるよヘパーイストス」

 

「おうよ!」

 

鍛冶屋を後に外へ出る。あんなアイテムがあるなら、残りの二体も倒して手に入れるのも悪くないな。



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その後2

常設クエストの捕獲対象であるリスをテイムする為、俺は用事を済ませた後西の森にやってきていたテイム枠はまだまだ余裕があるし、サイナとレベリングする必要があるクママとファウと一緒にだ。テイマーをメインに、重戦士をジョブにした。このクエスト、テイマー用だからメインにしなくちゃいけないんだよな。でもこれでテイマーにしては防御力が高い構成にできあがったから負ける気は0だ。

 

「クママ、一緒に【芳香】だ」

 

「クマ!」

 

使用者から発する甘い匂いで確実にモンスターを誘き寄せるスキル。それを使って甘い匂いに釣られて現れたモンスター達を片っ端から【パラライズシャウト】。テイマーでも短刀が装備出来てよかったよ。

 

「クママ、ファウ。動けないモンスターを倒しまくれ」

 

「クマ!」

 

「ヤー!」

 

続々と現れるモンスターの波は止まらない。【芳香】の効果が終わるまで第2ウェーブ、第3ウェーブが当然のように続く。その中にはお目当ての灰色リスがまじっている。

 

「サイナ、新しい力の見せ場だ」

 

「かしこまりました。マスター」

 

1000万Gも必要だった征服人形(コンキスタドール)専用装備。その装備―――インフィニット・ストラトスを起動した。

 

インフィニット・ストラトスは装備であって装備ではない。インフィニット・ストラトスとはぶっちゃけメモリ、補助記憶装置なのだ。ただのメモリなのに1000万Gも高い理由は、メモリに内蔵されている性能・・・・・全プレイヤーが取得している、既存スキルを取得せずとも使用できることだ。しかも今後も新しく取得した、されたスキルを自動的に増えて彼女の糧となり力となる。

 

ただ、機械ゆえ使用不可なスキルも存在するらしい。それでもこのNWOを崩壊させかねない最強アイテム。運営は何を考えてこんなアイテムを具現化したのか分からないが、唯一無二としてかこのメモリを購入した瞬間に売店から名前も存在も消失した。事実上、サイナはレジェンドモンスター並みかそれ以上の強い存在になり得る力を秘めたが、それは職業ごとの装備を装備していないと出来ないスキルだらけだから特別無敵というわけでもないし、決められた耐久値―――1000もある。

 

耐久値を回復させるアイテムがあれど、俺達プレイヤーのように二度と復活はできない極めて扱いが難しい存在でもあるんだ。最強の存在でも倒せるよう設定されているから尚更サイナを前線に出すのはここぞの時だけにしよう。さて、インフィニット・ストラトスを起動したサイナさんは譲渡していない俺のスキル【機械創造神】を発動して、その周囲に十二の遠隔操作兵器を創り出した。それを繰り出すサイナはビームを放ったり貫いたり斬りつけたりとモンスターの集団を蹂躙していく。蹂躙から運よく免れたモンスターはサイナの懐に飛び込まんと飛び掛かってきたが、具現化した機械の盾を持ったサイナに吹っ飛ばされ、倒された。

 

「マスター、更なるモンスターの襲撃が10秒後に来ます」

 

「一斉掃射だ」

 

「了解しました。これより殲滅戦を開始します」

 

遠隔操作兵器を消したサイナは、ガドリングガン兵器を二丁創りそれぞれ両手で持って森の奥から現れたモンスターの群れに向かって乱射する。弾は別途で購入しなきゃいけないがサイナの場合は【機械創造神】で機械の弾丸を無限に生み出すことが出来るんで弾の消費に心配はない。何その情報・・・・・ブッコワレじゃん。しかも放たれた弾丸がモンスターを貫いた直後に小規模でも爆発してる。弾丸にニトロでも入ってるのかね?

 

「殲滅完了いたしました」

 

「うん、ほんと強くなったな。凄いぞサイナ」

 

地獄絵図、スプラッタな光景を見ずに内心安堵する。駆逐されポリゴンと化して消えたモンスター達を圧倒的な火力を誇った武器で倒したサイナは武器を消してこう言ってきた。

 

「マスターの私に対する貢献のおかげです」

 

貢献とな?

 

「好感度でもあるのか?」

 

「主として仕えるマスターも我々、征服人形(コンキスタドール)にも貢献しなくてはなりません。貢献度を高める方法は、いかに征服人形(コンキスタドール)が主のお役に立てる環境にできるか、です」

 

「ふむ?」

 

「貢献度がお互いに低いと征服人形(コンキスタドール)はそれ以上の事を自ら行動することはしません。それは主に仕えるマスターがそれ以上の行動を不必要であることを言動で認識させるのです」

 

決められたこと以外は、指示された、命令されたこと以上の事はしないということね。征服人形(コンキスタドール)にそれ以上の事をさせるためにはプレイヤーの強さと直結してるのか。

 

「どれぐらい貢献度の高さがあるのかは分からないが、高い方がいいんだよな?」

 

「はい。それが征服人形(コンキスタドール)の存在意義でもあります」

 

「存在意義ね・・・・・お前が人間じゃなくても機械でもお前は俺の大切な家族の一人だけどな」

 

「家族・・・・・?」

 

きょとんとした顔で不思議そうに見つめてくる。お、これは珍しい。

 

「そう、大切な家族だ。クママとファウも、ここにいないオルト達も皆な」

 

「私は機械神によって創られた人間を模した機械です」

 

「意思疎通、感情があるなら十分人間として接することも出来るぜ」

 

「それは、作られた―――」

 

「作り物でも問題ない。むしろ作り物に何か問題でも?それは悪いことのか?何を考えて機械神はお前達を創ったのか今じゃわからないが、俺とサイナと出会わせてくれた機械神には感謝してるよ」

 

サイナの頭に手を置いて機械とは思えない髪の柔らかさと温もりを感じながら撫でる。

・・・・・あ、サイナが凄すぎてリス捕獲忘れた。

 

一時間後―――。

 

あれから気を取り直して常設クエスト用のリス捕獲に精を出した。

 

「【手加減攻撃】【エクスプロージョン】!!」

 

前モンスターのHPを1にし、リス以外はクママとファウの経験値として、リスはで逃がさないよう痺れさせてからテイムする繰り返すこと一時間。従魔ギルドで常設クエストの完了をし終え、牧場から呼び戻したリスを触れる。

 

「物のついでにユニークのリスもテイムしちゃったが、これで常設クエストは終わったな」

 

「キキュ!」

 

 

名前:リック 種族:灰色リス Lv4

 

契約者:死神ハーデス

 

HP:18/18 MP:10/10 

 

【STR 4】

 

【VIT 6】 

 

【AGI 14】

 

【DEX 6】

 

【INT 5】

 

 

スキル:【警戒】【採集】【剪定】【跳躍】【登攀】【頬袋】【前歯撃】

 

装備:なし

 

 

灰色のリスは俺の肩に乗って愛嬌を振る舞ってくれる。毛並みもモフモフでリアルじゃ一生捕まえない限りは触れることすらできない小動物に密かに喜ぶ俺である。

 

「さて、また常設クエストをするか。サイナ、付き合ってくれるか?」

 

「勿論です」

 

と、ランク上げに勤しむつもりの俺だったがフレンドコールが入った。相手はイズ。

 

「イズ、どうした?」

 

『ハーデス、ヘルプ』

 

「何に対してだ?」

 

『【毒無効化】を取得したし、何とかヒドラを10回周回したんだけどね。毒沼に潜れる事実に驚いたけれど視界が紫一色で・・・・・』

 

あ・・・・・っ(察し)。

 

「すまん、その先の事は言ってなかった」

 

『・・・・・』

 

無言が恐ろしいぞイズさんよ。

 

「そこからじゃないベヒモスがいた洞窟に繋がる別の場所へ案内する。ついでに獣人族の里に連れて行こう」

 

『獣人族の里?』

 

「上級職のスキルスクロールも属性結晶も販売してる」

 

二つ返事で了承したイズと合流することになってしまい、毒竜の洞窟の前でイズを迎え機械神でサイナと一緒に低空飛行で獣人族の里へ向かう。その最中に問われる。

 

「どうしてこんなスレスレで飛ぶの?」

 

「空高く飛ぶとレジェンドレイドモンスターのジズって巨大な鳥が現れて襲ってくるんだよ。現状、ベヒモスを倒した俺でもまだ倒せれないから低く飛ぶ必要がある」

 

「そうなのね」

 

「てなわけで、こうして飛ぶしかない」

 

数十分もかかったが、ようやく獣人族の里の存在を知った経緯、ベヒモスがいた洞窟の出入り口を見つけた。そこへ飛ぼうと空高く飛べば案の定―――。

 

「ほら、あれがジズだ」

 

「へ?」

 

横から二対四翼の巨大鳥が現れ、翼を羽ばたいて風を巻き起こし二つの竜巻をドリルのように放って来た。

 

「しっかり捕まっていろよ!」

 

「う、うん!」

 

竜巻の攻撃をかわしながらサイナに問う。

 

「サイナ!閃光弾作れるか?」

 

「可能です。実行いたします」

 

【機械創造神】で俺の要望通りのモノを作り、それをロケットランチャーで飛ばした。炸裂する瞬間を見ることもなく洞窟の出入り口へとジズに背中を向けて飛ぶと、背後から凄まじい光量が迸ったのがわかった。そして目的の場所へと侵入を果たし最下層まで移動。イズが来たがっていた魔鉱石が眠っている洞窟に辿り着いた。俺が採掘してからそれなりに時間は経ったが、あれから再び採掘できる状態になっていた。

 

「ここだ」

 

「うわぁ・・・・・凄い神秘的な光を放つのね・・・・・」

 

「ここは俺とイズしか知らない秘密の場所だ。イズも飛行アイテムを買ってれば何時でもここまでいけるだろ」

 

「あのジズってモンスターがいなければいいけどね。安全にここまで来れないわ」

 

そこはしょうがないと諦めて頑張ってくれ。

 

「それじゃ掘りまくろうかイズさん」

 

「ええ!」

 

ミスリルのピッケルを取り出し、サイナにも手渡して魔鉱石を掘り始める。

 

「ふふ、ふふふ!これで魔法の武器や装備が創れちゃうわ・・・・・っ!」

 

「彼女はどうして笑っているのですか?」

 

「そっとしてあげて。今楽しんでいる最中だから」

 

「了解しました」

 

全プレイヤーの中でこの場所を知っているのは俺とイズだけ。だからその特権を大いに利用してミスリル同様、独占的に魔鉱石を確保できる―――が、何時までもそうすることは無理だろうな。

 

「おっ?」

 

魔鉱石じゃない別のアイテムが出て来た。宝石だ。しかも―――。

 

 

魔宝石 レア度:5 品質:★6

 

 

稀に魔鉱石から採掘できる希少が高い宝石。様々な用途に使える。

 

 

「・・・・・」

 

錬金術に使ってみよう!

 

「ハーデス、あっちにも採掘ポイントがあるわ!こんなに採掘ポイントがある場所は初めてよ!」

 

「ここは選り取り見取りだ。遠慮はいらん、欲望のままに掘り尽くせ」

 

「おーっ!」

 

すっごい笑顔で魔鉱石を採掘するイズを見て、まだまだ掘り続けるつもりだろうと悟った。俺も採掘を続け全ての魔鉱石を掘り尽くした頃にはインベントリに虹色に輝く鉱石が×99貯まった。いや、ほんと多すぎるんだよ採掘ポイントが。なので鍛冶師の職業に変え、機械の町のダンジョンでイズと入手したユニーク装備を装着して魔法工房を発動した。サイナに鉱石をインゴットにして貰った。

 

 

マジックインゴット レア度:7 品質:★6

 

 

魔力が籠っているインゴット。強化材にも合成のアイテムにも使える。

 

 

合成・・・・・?錬金術のことか?確かに錬金術のレベルはⅩⅩにしてあるから合成はできるが、これも合成アイテム何だな。

 

「ハーデス、どうしたの?」

 

「イズ、採掘終わった?」

 

「ええ!もう大量大量よ。これでしばらく試行錯誤して色んな物を作ってみるわ」

 

「なら、イズがやろうとしているだろうインゴットにしたこれを見てくれ」

 

虹色に輝くインゴットと説明文を見せる。

 

「強化材・・・・・す、凄い」

 

「具体的にどう凄い?」

 

「このゲームは防具や武器を作るときに混ぜ込むことが出来る素材、混合素材というのがあるの。そうするとボーナスを付けることが出来るから、戦闘系プレイヤーの皆も強化するために混合素材に必要なアイテムを集めてるの。知ってた?」

 

「無縁の話だな。今の装備はユニークのだし」

 

「私もそうだから確かに無縁なことね。で、このマジックインゴットがその混合素材とは別枠の部類に入るわけ」

 

別枠?

 

「これは混合素材を必要としない純粋な強化材なの。マジックインゴットだけ装備の能力値を強化に使えるならお手軽でしょ?二つ以上の混合素材を複数集めることもなくなるわけだし」

 

そう言うことなら確かにすごいことなのかな?あまり普通のプレイヤーのプレイをしている感じがしないから価値観が分からん・・・・・。

 

「理由は分かった。でもこれで強化に必要な装備って現状あるのか?」

 

「あるわよ。多分、ユニーク装備でもできるんじゃないかしら?」

 

すぐさま、闇夜ノ写が強化することが出来るか挑戦してみた。が―――。残念な結果を突き付けられた!

 

「できる、けど、できないっ」

 

「スキルのレベルが足りないから?」

 

それもあるけど・・・・・。

 

「ユニーク装備に使う強化材の一つがオリハルコンだった」

 

「あー・・・・・それじゃ無理ね」

 

オリハルコン、どこかで手に入るのか?ヘパーイストスも認知していたし・・・・・待てよ?

何となく周囲の壁に目を向け、俺はミスリルピッケルを手にして壁に近づいた。そして、思いっきり壁に向かって振るった。壁は削ることが出来た。イズが【植物知識】を取得した時と同じだ。だとしたら・・・・・。

 

「ハーデス?あ、もしかして・・・・・」

 

イズも俺の行動の意図を察したか、別の壁でピッケルを振るい掘り始め出した。サイナも俺を見倣って自主的に採掘を始めた。ピッケルの耐久値がなくなるまでし続け、時々場所を変えて壁の中に眠る素材を探すこと一時間。

 

「おおーっ!」

 

「わっ、見つけちゃった!」

 

イズと同時でついに掘り当てることが出来た!考えも同じでお互い見つけた物を手にしたまま見せ合った。

 

 

金鉱石 ミスリル鉱石

 

 

「ん?ミスリル?」

 

「そっちは金鉱石なのね」

 

 

『スキル【鉱物知識】を取得しました』

 

 

取得のアナウンスが聞こえたのは俺だけじゃなくイズもそうで、自然と周囲の壁を見やると・・・・・壁の向こうに眠るアイテムの名前が沢山見えてしまってだな。

 

「・・・・・イズさんや。ちょっと提案があるんだけど」

 

「奇遇ね。私も同じなのよ」

 

お互い壁を向いたまま喋り、それから無言で壁際に寄り・・・・・一心不乱にピッケルを振るい続けた。

 

 

―――数時間後。

 

 

学校から戻ってきて分身体と交代、夜食を食べ終えてからあの場所の情報は俺に一任したイズを獣人族の里の出入り口まで案内し、リヴェリアやイッチョウも獣人族の里へ案内するべく合流した。俺が獣人族の里へ再び戻った頃には大勢のプレイヤーが宴の雰囲気を醸し出している里の至る所にいて、獣人達による宴を今か今かと待っていた。

 

「わぉー、本当に獣人族のNPCがいっぱいだ」

 

「プレイヤーもイベントを参加したいから大勢いるな」

 

「獣人族・・・・・初めてみました」

 

興味津々で里を見回す二人の意識がざわつきだしたプレイヤー達に変えざるを得なかった。里の中心に現れるウールが高らかに声を上げた。

 

「皆の者!我々はこの先一生、里を手放すこともなく安寧の暮らしが出来るようになった!!この大陸を蹂躙する巨大な悪魔のごとき怪物、大陸の覇獣ベヒモスが勇者によって打ち滅ぼされたのだ!!」

 

感激と感動、歓喜・・・獣人達はもう二度と脅威に怯え拠点を移す生活をせずに済むと歓声が沸いた。

 

「ベヒモスが滅んだこの日は今日から祭りの日にする!!さぁ、今日という日を祝福して宴を始めよう!!」

 

次の瞬間。獣人族の宴のクエストがクリアした。報酬は・・・ないか。まぁいいや。それにしてもあの配信以降、100人以上のプレイヤーがこの里に足を運んでくれたのか。ありがたいな。

それからNPCとプレイヤー達がどんちゃん騒ぎだった。里に来てくれたプレイヤー達を祝いに駆け付けてくれた者達だと認識しているらしく、笑い合ってくれた。

 

「あっ!白銀さーん!」

 

「獣人族の宴に参加させてくれてありがとー!」

 

ウールの所へ行こうとする俺に何人かがお礼を言ったり話しかけてくる。相槌を打ちながらやっとのことで話しかけれた。

 

「長」

 

「おお、勇者殿!」

 

「勇者って柄じゃないから普通に名前で呼んで欲しい」

 

「ははは、ご謙遜を。ベヒモスを討伐してくれたあなたに敬意を込めて勇者と呼ばれるのは必然的です」

 

もう諦めた。言っても変えてくれないやつだこれ。

 

「これからもここにはたまにだけど顔を出す。何か困ったら始まりの町で畑を耕しているから来てくれ」

 

「ありがとう勇者殿。そんな勇者殿にお礼をしたい。―――が、勇者殿にお願いがある」

 

手を叩き出すウール。その音に呼応して二人の獣人族の戦士が一匹の金色の羊毛を蓄えたつぶらな瞳の羊を連れて来た。幼児ほどの大きさの可愛らしい羊だ。

 

その瞬間。羊を見たプレイヤー達の間で緊張感が走ったかのように静まり返った。俺もその一人だと自負する。

 

「長・・・・・この羊は?」

 

「家畜用に調教したモンスターの一匹だよ。このモンスターの羊毛は暖かくて丈夫でね、毛刈りして服に作っては人間達に売っているんだ」

 

「因みにだけど、このモンスターの生息地とかは」

 

「ここからさらに東へ一日かけて移動するといるよ。ただ、その数は激減していてね絶滅の危険性が浮上しているんだ」

 

絶滅しかけている?

 

「理由は?」

 

「空の鳥帝ジズの好物だからだ。奴が存在する限りこのモンスターは何時しかこの世から消えてしまい、羊毛を特産品販売している我々も困ってしまう」

 

困り果てた顔で言う長の話を聞いていた時―――青いプレートが目の前に出現した。

 

 

『メーアの捕獲』

 

内容:獣人族の里にメーアを50匹以上納品する。

 

報酬:なし

 

期限:なし

 

 

こ、ここでクエストだと?でも期限なしってのはありがたいか・・・・・。

 

「わかった。出来る限りジズから守ってこの里にまで届けよう」

 

「すまない。助かるよ勇者殿!」

 

YESを選択してクエストを受理したら、金色の羊が俺の足元に寄ってきて身体を擦りつけて来た。

 

「メェメェ~」

 

「なんだ?・・・・・って、これは」

 

 

 

 

名前:メリープ 種族:メーア Lv5

 

契約者:死神ハーデス

 

 

HP:20/20 MP:22/22 

 

 

【STR 4】

 

【VIT 17】

 

【AGI 12】

 

【DEX 9】

 

【INT 7】

 

 

スキル:【発毛】【雷魔法Ⅰ】【羊雲】【雷雲】【隠れ身】【身代わり】【羊祭り】【風耐性Ⅰ】【金剛】【突進Ⅰ】

 

 

「・・・・・?」

 

何故かテイムしたことになっているメーアとメリープの摩訶不思議なスキルに、目を瞬きしてしまった。

 

「長。長の頼みはこの場にいる冒険者もやりたいと思っていたら叶うのか?」

 

「是が非でもない。勿論そうしてくれるとありがたいよ」

 

「何匹か自分用に調教してしまったら?」

 

「その時はこちらに羊毛を納品してくれるなら構わないよ」

 

ほほう、それでもいいんだな。なら、皆にもチャンスがあるわけだ。

 

「この羊のモンスターはテイム可能だ!クエストを受けたいプレイヤーは順番を守って長からクエストを受けてくれ!」

 

『―――ッ!!!』

 

他のプレイヤーに告げた次の瞬間。我先とプレイヤー達が長へ殺到し出す。しばらく俺は長蛇の列に並ぶプレイヤー達の相手をすることになってしまった。

 

「ははは、凄いことになったね」

 

「まったくだ。と言うことで俺は始まりの町に戻る」

 

「はぁーい、いってらっしゃーい」

 

一度行ったことがある町ならどこからでも転移できる課金アイテムを使用、サイナ達と一緒に始まりの町に戻る。なんせ今日は木曜だ。

 

「ゆぐゆぐ、大樹の精霊に会いに行くぞ」

 

「―――♪」

 

嬉しそうに微笑するゆぐゆぐは俺の腕に抱き着いたまま、精霊の元へ足を運んだ。

 

 

「久しぶりですね冒険者」

 

「久しぶり。今日は彼女を挨拶させたくて来た。ゆぐゆぐ。精霊様に挨拶だ」

 

「――♪」

 

「あら。私の眷属ね。精霊を育むとは、天晴です。ふふ、こちらへいらっしゃい」

 

「――♪♪」

 

喜んではもらえてるかな? ゆぐゆぐも精霊に頭を撫でてもらって、ニッコニコだ。従魔の中ではお姉さんなんだけどな。こうしてみると外見相応の少女に見える。

 

「その子を連れて、また来てください」

 

「わかった。ああ、そうだ。質問いいか?」

 

「何でしょうか」

 

光の結晶と闇の結晶を見せる。

 

「聖大樹の精霊から貰った光と闇の結晶だけど、これはどこに使うべきだ?精霊に関係している感じがするんだが」

 

「申し訳ないですが、その質問に答えることはできません」

 

「じゃあ、使えるんだな?」

 

「答えることはできません」

 

収穫無し。これで終わりか。特別なイベントとか、クエストもない。ゆぐゆぐを精霊に会わせただけだった。まあ、喜んでいるみたいだしいいか。

 

畑に戻り、胡桃を見て見ると一つだけ発光している胡桃があった。それを採取するとジーと物欲しそうに見つめてくるリックが・・・・・。

 

「食うか?」

 

「キキュ!」

 

与えると凄い勢いで齧って食べるリックの好物は光胡桃か?だったら、と思ってもう一個あげようとしたところ。

 

「白銀さーん!」

 

畑の向こうから呼ぶ声に振り返り、近づくと出入り口にノーフがいた。

 

「ノーフか。フレンド登録していなかったからログイン状態がわからなかったな」

 

「それはお互い様ってことで。それで、白銀さんの畑の水田に何か植えているということは・・・・・」

 

首肯してインベントリから株化した籾をノーフに譲渡する。

 

「あったぞ、米」

 

「やった!水田も買ったからこれで栽培できる!」

 

「頑張れよー。それとフレンド登録しよう」

 

「願ったり叶ったりだ。じゃ、早速植えてに行きますわ。あ、Gも払い忘れるところだった」

 

籾を受け取りながら7000Gを払ったノーフは自分の畑に戻ったので、タラリアへ顔を出しに向かうことにした。着くと中々の繁盛で列が出来ていた。並んで待つこと十分ぐらいしてやっとヘルメスの顔が拝めた。

 

「ヘルメス」

 

「やぁ、ハーデス。君の情報でかなり買ってくれているよ」

 

「それは何よりだ。そんなヘルメスに買い取って欲しいアイテムがあるんだ」

 

「それは何かな?」

 

 

マジックインゴット

 

 

「強化材のインゴットだ。ミスリルインゴットより使いやすいと思うんだけど、どうだ?」

 

「・・・・・」

 

訊ねた俺の話を聞いていないのか、無反応。おーい、と手を振っても眼が一瞬も動かなかった。まさか、バグってる?

 

「・・・・・ふ、ふふ」

 

「ヘルメス?」

 

バグっていなかったが、不穏な気配を漂わせるヘルメスはゆらりと俺の肩に手を伸ばして掴んだ。

 

「ねぇ、インゴットの元はあるのよね?それを入手した場所を売ってくれるのかしら?」

 

「売ってもいいけど・・・・・未払いのがまだ何だろう?また払えない金額が加算するぞ」

 

「大丈夫・・・・・ええ、なんの問題もないわ。今月中に未払いのも含め、ちゃんと耳を揃えて全額払って見せるわ」

 

それなら、いいけどな・・・・・。

 

結局は魔鉱石×10個とマジックインゴット×1個を提供、後に未払いも含めて来月の始めに全額払う約束した。もしもできなかったらどうしてくれようかなぁ・・・・・?

 

「さて、俺も羊のクエストを終わらせに行くか」

 

 

 

【目指せ!羊探索テイマー隊!】白銀の先駆者は伊逹ではなかったスレ1

 

・他のテイマーさんの子たちを貶める様な発言は禁止です。

 

・スクショ歓迎。

 

・でも連続投下は控えめにね。

 

・常識をもって書き込みましょう

 

 

111:ネトラ

 

獣人族の里の宴、楽しかったなー

 

 

112:めぐめぐ

 

そして新しいもふもふモンスターである羊のメーアちゃんの存在が明らかになった今、私達は東へ進んでいるのです!

 

 

113:ライトオン

 

このブームに乗らないわけがないだろう。

 

 

114:プラプラ

 

そんな考えのプレイヤーは他にもいるわけで、我先と駆け走るプレイヤーの目撃は多いな。俺もその一人だが

 

 

115:ソラ

 

流石に空から移動しているプレイヤーはいないよな。いたらとんでもなく迷惑過ぎる。もう明らかになっているんだから

 

 

116:ヒット

 

次の瞬間。地上を照らす月の光が消えてなくなり、激しい突風が襲ってきた。何事かと思って上を見上げたら・・・・・レジェンドレイドモンスターが襲ってきたんだけど!?

 

 

117:ぶっころりー

 

ちょ、あの野郎!空から移動している奴がいたんだけどそれが原因だろ!

 

 

118:めぐめぐ

 

こ、こっちまで襲ってくる嵐に巻き込まれちゃっているんですけどー!

 

 

119:ライトオン

 

ここは逆の発想を思い浮かべろ。このレジェンドレイドモンスターを倒したら羊モンスターの平和が訪れると

 

 

120:ぶっころりー

 

( ゚д゚)ハッ!!

 

 

121:めぐめぐ

 

 

( ゚д゚)ハッ!

 

 

122:ヒット

 

倒せばテイマー勇者の仲間入りも間違いなしか。悪くないな

 

 

123:ソラ

 

倒せたらの話だけどな。でも、レイド戦はプレイヤーの楽しみの一つだからやらないわけにはいかないな。他のプレイヤー達もレイドモンスターの登場に攻撃を始め出しているし

 

 

124:プラプラ

 

!?

 

 

125:ライトオン

 

!?

 

 

125:ネトラ

 

何だ今の光。レイドボスに直撃したぞ。

 

 

126:ぶっころりー

 

ビーム兵器!?スナイパーが攻撃したのか!

 

 

127:ヒット

 

まさかの超電磁砲か!?一体誰が・・・・・あっ、ジズが・・・・・

 

 

 

「―――マスター、目標に当たりました」

 

「ダメージは?」

 

「皆無です」

 

「・・・・・超電磁砲を撃ってもこの程度かよ」

 

獣人族の里から東へ低空飛行で進んでいた時、サイナが突然ジズの登場を報告したので・・・・・超遠距離攻撃はできないかと訊いたら可能だと言い返してくれた結果。機械創造神で超電磁砲を創り上げたのだ。

 

「この機械兵器、MPだとどのぐらい必要なんだ?」

 

「変換すると500以上です」

 

「・・・・・イズにMP装備作ってもらおう」

 

そう決めた俺は再度射撃を命令する。再装填するための必要なMPが無い俺は―――【悪食】を使って地面でMPを補給することで補う。

 

「ジズは?」

 

「攻撃パターンを変え、冒険者達を襲っております」

 

「よし、時間が経ったら撃つぞ」

 

超電磁砲は射撃したら三分間のタイムラグが生じる仕様。しかも破棄しても変わらないようで、使用可能になるまでは行動するしかない。

 

「ところでサイナ。人が乗れる大きなロボットとかは作れるか?」

 

「可能ですがマスターの場合は必要MPは3000です」

 

たっか・・・・・!!そして・・・・・造れるのか!!

 

「創造しますか?」

 

「できるなら」

 

かしこまりました。とサイナの身体から溢れ出した機械に呑み込まれ、機械は巨大な人型になっていった。

 

「お、おお・・・・・」

 

機動戦士のあの三倍の速度で動くロボットのモデルが目の前に・・・・・。

 

「ファンタジーはどこに・・・・・」

 

跪いて手を差し伸べるサイナの意図を汲んで、その手に乗ると胸部が上下に開いてそこに潜るように入ると上にサイナが座っていた。ここはコックピット、操縦席か?

 

「お座りください。この機械の維持は三分間のみです」

 

「当然だよな」

 

サイナの足元に座る形で席に腰を落とすと目の前のハッチが閉じ、外の風景が見える立体的な映像が浮かび上がった。

 

「俺は何をすればいい?」

 

「思うが儘に動かしてください。私はサポートを専念いたします。―――この機体を生み出すことこそが、私達の征服人形(コンキスタドール)の本懐、最終目標なのでしたから」

 

微妙に危ない思考のサイナの言葉を聞いた直後。アンティーク的な歯車が回っている機械の鍵と目の前に青いパネルが浮かび上がった。

 

 

征服人形(コンキスタドール)の格納鍵インベントリア』

 

格納空間への鍵であり扉でもある機械神が作り出した特殊な腕輪型アクセサリー。

 

魔力を消費することで格納空間内へと転移可能。

 

空間拡張術式携帯アクセス装置。このアイテムはインベントリとは別枠の携行可能な最小のシェルターであり、機械神が創造した機械のみ収納できる許容の限界を持たぬ無尽蔵の倉庫である。また征服人形(コンキスタドール)と離れている時はこのインベントリを経由して呼び出すことが可能。

 

容量制限:無し

 

 

・・・・・エエエエエ・・・・・・ん?まだ説明の続きが

 

 

征服人形(コンキスタドール)の貢献度が最高潮に達した時に契約した征服人形(コンキスタドール)から送られる機人兵器。貢献度から好感度へと変わり、機械に心が宿り真の人間へと至る。

 

 

・・・・・?今、サイナに心が宿った状態で貢献度ではなく今度は好感度を高めろと言うことか?

でもま、認めてくなら嬉しい限りだ。

 

「サイナ、この鍵は他の征服人形(コンキスタドール)も契約した他のプレイヤーにも与えられるのか?」

 

「その通りでございます」

 

「そうか。なら、お前の信頼にこれからも応えよう。―――行くぞ」

 

「はいマスター」

 

 

とあるプレイヤーの記述

 

 

どこのプレイヤーかは知らないが闇夜に紛れて空高く飛んでいる瞬間を見てしまった矢先、同じ闇色の羽毛を持つ巨大な鳥モンスター、ここ最近話題になってきている白銀さんが語ったレジェンドレイドモンスターのジズの襲来。地上にいる俺達のパーティや他のパーティ、プレイヤー達も例外なく、一方的な蹂躙を成す術もないまま巻き起こした嵐に呑み込まれた。奇跡的に俺はHPの次にVITが高い重戦士職業(大剣使い)だったからギリ一割で生き残れた。ジズを呼んだ馬鹿プレイヤーと嵐に巻き込まれた仲間と他プレイヤーは軒並みにやられて、残ったのは俺だけぽかった。ちくしょう!あんな空飛んでいるモンスター相手に攻撃できるスキルも装備もないってのにどうやって戦えってんだよ!って、悪態をついて今度こそ俺も死に戻りする番かと諦めたその時だった。

 

「おらぁあああっ!」

 

そんな声と共に激しくてけたたましい発砲音を鳴らす巨体がジズに迫ったんだ。それは新しい巨大モンスターかと驚いた束の間、空高く飛ぶジズに向かって背中から『ミサイル』を射出したのを見てさらに驚いた。

 

「ロ、ロボットぉっ!?」

 

なんでこのゲームにロボット!?え、夢でも見てるのかよ俺!?だけど、ジズは軽やかな動きで避けてはミサイルを翼で破壊した後にこっちに竜巻を放って来た。そしたら―――俺はロボットの手に掴まれて高速移動で竜巻から逃げるように遠ざけてくれた。

 

「よっ、ラッキーなプレイヤー。羊クエストに行くならあいつの気を引きつけている間に行ってこい」

 

「お、お前は!?というか、このロボットは何なんだよ!?どんなスキルだよ!」

 

「それは内緒だ。他のプレイヤーにも言っても構わないが、信じられないと鼻で笑われるだけだろうからオススメはしないぜ」

 

俺を下ろした後にロボットを操縦するプレイヤーはジズへと背中のブースターに火を噴かせて飛んでいってしまった。そして一進一退、激しい攻防は三分間も続いた様子を見ていたけど、ロボットの姿が忽然と消えてもジズの攻撃は止まなかった。

 

「これ、皆に教えても信じてくれないよな・・・・・」

 

あのプレイヤーの言葉通り俺は、運よくジズの攻撃から生き延びれたという話を後日パーティの皆に話した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ジズの風魔法はサイナに穴を掘ってもらってその中にジッと気配を殺して数分も待っていると、あの鳥はどこかへ去っていったのか風魔法の音がピタリと止んだ。

 

ウォオオオオオオオオオオオオン・・・・・・ッ

 

だが俺の考えを否定するかのように獣の遠吠えが聞こえた。このステージに獣・・・・・狼?

 

気になってしまい穴から出て周囲を見回す。ジズの姿は未だ上空にいるが身体は明後日の方へ向いていた。彼の鳥帝が見ている方へ俺もサイナも視線を送ると、この辺りの草原の丘にいた月光で照らされて幻想的に光る『銀』の獣。牛ほどの大きさで前脚、後ろ脚が血で染めたように真っ赤だった。

 

「あの狼は・・・・・」

 

「この世界で三大天災であるベヒモス、ジズ、リヴァイアサンを除いて存在する幻獣種の一種、銀狼フェンリルです」

 

「幻獣種?」

 

「太古から存在する三大天災によって種の存続が危ぶまれている幻のモンスター、また元々個体が少ない力があるモンスターの総称。全ての幻獣種達がベヒモス達の目覚めと共に活発的に動きだします」

 

300年周期で目覚め人類を蹂躙する三大天災・・・はモンスターも蹂躙していたのか。中には絶滅したモンスターもいるというわけなんだな。その代表的なのが幻獣種。

 

「因みにドラゴンとかは?幻獣種?」

 

「ドラゴンの種族は幻獣種ではございません」

 

そう話していると、ジズがフェンリルに向かって飛んで行った。フェンリルも―――と思っていたら駆け出したフェンリルに続いて十数頭の銀色の狼達が続々と現れてジズに牙を剥いた。HPバーがないのに倒せる筈が・・・・・あれ?。

 

「HPバーが表示されてる?」

 

もしかして、ジズはフェンリル・・・・・幻獣種と戦わせる、もしくは共闘すれば戦える仕組みになっているのか?なら・・・・・・!

 

「サイナ、ジズを攻撃するぞ!」

 

「超電磁砲の使用も可能です」

 

「撃て、その後は俺の援護に徹してくれ」

 

了解と首肯するサイナを置き去りに駆けだしてジズに攻撃を仕掛ける。

つもりの俺に数匹のフェンリルが俺の存在に認知するや否や襲い掛かってきた。

 

「いやま、味方になったわけでもないから当たり前だよな!?」

 

反射神経と条件反射で噛みついてくる牙、切り刻もうとする爪を躱すために【八艘飛び】で空に逃げたままジズの懐に近づき、HPバーがある状態なら攻撃も通じるだろうと思って―――。

 

「【悪食】!」

 

奴の一翼をもぎ取ってみせた。絶叫を上げるジズは俺に風魔法を放つ姿勢に入った瞬間。

 

「俺だけじゃないぜ?」

 

後ろから宙を駆ける光がジズの片翼に穴を開けた直後に【エクスプロージョン】!と爆裂魔法で立て続けに攻撃した。その爆発によってジズは地面に墜とされた。

 

「射撃を開始します」

 

遠くからガドリングガン兵器を創ったサイナが起き上がり出したジズに稲妻の如くの弾丸を射出する。

片翼で身を守るジズの防御態勢に見守っているつもりがないのは俺だけではない。フェンリル達が一斉に駆けてジズの身体に牙や爪を立てた。見る見るうちにHPバーが4割も減っていくのを認知して、ジズが高々に鳴ったのと同時に月を隠す暗雲が空を覆い尽くした。

 

そしてジズが発生させた暗雲からゴロゴロと聞こえ、暗雲が雷雲と変わった矢先だった。黒雲から稲光と共に稲妻が地上に降り注いだ。辺り地面の地面に穴が開くほどの威力はフェンリル達にも直撃して、一匹また一匹とポリゴンと化して目の前から消失していく。これがジズの真の力だってのか・・・・・!

 

「ぐぅっ!?」

 

稲光を見た瞬間、稲妻が俺にも直撃するも麻痺に対する状態異常は無効なので、ただ強い衝撃が身体に襲ったという感覚を覚えたのみでダメージも皆無。ただし、フェンリル達はそうではなかった。今の雷の攻撃で十数匹もいたのがたったの一匹だけとなっていたのだった。その一匹も稲妻に直撃したもギリギリ耐えたが麻痺状態なのか倒れていこう身動きしなかった。地上に降り注ぐ稲妻の中、最後の一匹に目掛けてジズが稲妻を駆使して止めを刺そうとした。

 

「そんなことさせるか!」

 

【機械創造神】で巨大な機械の避雷針を生み出した。勿論、超電磁砲の充電式だ。フェンリルに落雷する筈だった自然の猛威は人の手で生み出された人工の道具によって軌道を変え、俺のすぐ傍の避雷針に直撃する。エネルギーは瞬く間に超電磁砲に貯まったので構えた。

 

「喰らえよ」

 

引き金を引いて極太のレーザービームをジズに放った。サイナが開けた翼の風穴に通り抜け今度こそもう片翼を奪い取ってみせたのである。HPが半分となったジズは己の生命に危機を覚えたのか、レイドモンスターとは思えない行動を取ったのだ。―――逃走だ。雷雲へ飛びだってそのままこの場から遠ざかったのか消える雷雲と共に姿を消したのだった。戦闘態勢を解き、避雷針と超電磁砲も消して傍に寄ってくるサイナに話しかける。

 

「逃げたみたいだがこいつはどうするべきだ?」

 

「このフェンリルも命の危機でございます。放っておけば死に至ります」

 

「ポーションで回復できるかね?」

 

「モンスターなのでポーションの効き目はありません。―――これなら問題ないでしょう」

 

どこからともなく取り出したのは、見覚えがあり過ぎる黄金色の林檎。あの、それって・・・・・。

 

「マスターの畑で実った黄金林檎でございます」

 

「やっぱり!え、リヴェリアは?」

 

「認知しております。まずマスターにご報告してからということで」

 

今報告しなくても・・・・・!でも、それしかないって言うんなら・・・・・ちくしょう、このゲームは黄金林檎がないとストーリーも進めれないのかよ!

 

「・・・・・リヴェリアには謝り通すしかないか」

 

サイナから受け取り、瀕死状態のフェンリルの口の中に無理矢理押し込んだ。丁度麻痺の効果もなくなったか、俺ごと噛み砕こうと顎に力を入れるが寸前で引き抜いたので噛まれなかった。代わりに黄金林檎を噛んで口の中で広がる果実の甘い汁を感じたか、吐かずそのまま咀嚼するフェンリルを見守ってから少ししてゆっくりとだが一人で体を起こした。

 

「回復できたか?」

 

話しかけてもジッと俺を見抜く視線は何かを見透かされている気分だった。だけども、急に何故か牙を剥いて怖い顔で唸り声を上げられる。え、何故に?

 

「マスターの身体にジズの臭いが染みついているのでは?幻獣種は基本ベヒモス達を忌み嫌っております」

 

「ジズの臭い?それだけで唸られる・・・・・いや、もしかして」

 

インベントリからベヒモスの素材を一式、一つずつフェンリルの前に出す。ベヒモスにも蹂躙されているならばこれが原因じゃないかと思ってだ。すると、俺に対して唸らなくなりベヒモスの素材に注視するようになった。それらと俺を交互に一瞥するフェンリルは踵を返して少し俺達から離れると点々と移動しながら何かを加える仕草を繰り返した。しばらくして佇んで見ている俺の前にまで戻ってきてはそれを置いた。ジズに倒されたフェンリル達の素材だ。

 

「・・・・・お前」

 

困惑する俺にフェンリルは徐に顔を近づけて来た。額と額が重なるとアナウンスが流れた。え、この流れでテイムじゃないよな?

 

 

『フェンリルの牙の笛』を取得しました。

 

このアイテムを使用するとフェンリルを召喚することが可能になります。使用回数一日一回。

 

 

狼を模した笛を手に入れてしまったのだが・・・・・。

 

「ありがとう」

 

感謝の意を込めて口にする俺から離れ、丘の向こうへと駆け出すフェンリルの姿はあっという間に見えなくなった後、狼の遠吠えが聞こえた。

 



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イベント開始~カイエンのお爺さん

 

いよいよ明日がNWO初のイベントが始まる。プレイヤーの皆はそのための準備で忙しなく活動しているが、俺はイズの店に訪れていた。

 

「いらっしゃい。ハーデスがこの店に来るなんてどうしたの?」

 

「ちょいっとそのユニーク装備のスキルを活用してもらいたいことが出来てさ」

 

「何かしら?」

 

俺は工房と隔てている台にフェンリルの素材をインベントリから取り出すと、イズは目を軽く見開いた。

 

「フェ、フェンリルの毛皮と牙に尻尾、爪に牙・・・・・ちょ、これどうしたのよ!?こんなレア度と品質が高いアイテム!!」

 

「昨日の夜、ジズと戦う展開になった時にフェンリルの群れと遭遇してさ」

 

昨夜の経緯を教え、驚嘆の息を口から吐くイズに納得させた。

 

「なるほど・・・・・まさかこのゲームに幻獣種って言うモンスターがいるなんて初めて知ったわ。それで、このアイテムを使って私に何を作ってもらいたいの?」

 

「鷹になれる羽衣を何度か見せたよな。それと同じ効果があるアイテムに仕上げてもらいたい」

 

「新アイテムを作れるスキルを所有している私ならうってつけってことね。いいわ。ハーデスには色々とお礼しなくちゃいけないからね。無償で作ってみせるわ」

 

「ありがとう。一先ず素材は全部預けておく。失敗したら使い尽きるまで作ってくれ」

 

「任せて。明日まで完成して見せるわ」

 

明日か。

 

「明日・・・・・なんなら、一緒にイベント参加するか?」

 

「あらいいの?イッチョウちゃんと二人でするものだと思っていたわ」

 

「現地でバラバラで動くこともあるだろうから四六時中も一緒に活動するわけじゃないさ。無論、俺とイズもな」

 

「ああ、そういうことね。なら、お言葉に甘えて明日のイベントは一緒になりましょ」

 

約束を交わした後、店を後にする俺の足はそのままヘパーイストスの鍛冶屋に向けて歩いた。カウンターで番頭しているヘパーイストスの弟子のヴェルフに話しかけた。

 

「ヴェルフ。ヘパーイストスの方は?」

 

「まだまだ時間が掛かるらしい。何とか形を取り戻しつつあるが風化した装備を全部研ぐのにはかなりの時間が必要だ」

 

「そうか。じゃあ邪魔しちゃ悪いな。また来るよ」

 

「なんだ、てっきり素材を手に入れた話をしに来たんじゃないんだな」

 

この店に来るたびにそんな話ばかりだからか、俺に対する印象を口にするヴェルフへ首肯する。

 

「それもなくはないんだけどな」

 

「また何か持って来たのか?どんなのだ?」

 

「あー銀狼フェンリルの牙だ」

 

工房からギャリンッ!と黒板に爪を立てて鳴らすより酷い音が聞こえた次の瞬間。金槌を強く叩く音がこっちまで響いてくる。ヘパーイストスとヴェルフの師弟関係しか分からない暗号めいた何かだったのか、俺を呆れた目で「師匠の所に行け」と言い出した。

 

「今の会話のやり取りを聞いていたのかよ」

 

「師匠ほどの鍛冶師は武具や防具、素材の声が聞こえれば一流なんだとか。つまり耳もよくなきゃいけないらしい」

 

そんな師を持つヴェルフと鍛冶師をメインにプレイするイズ達は苦労しそうだなぁ、と思いつつ店の裏に回ってヘパーイストスに顔を出す。開口一番。

 

「見せろ」

 

「へい」

 

有無を言わさん鬼気迫る眼光の前に逆らうプレイヤーがいたとしたら、そいつは確実に蛮勇か勇者のどちらかだろう。俺はどちらでもなくお世話になっている身として素直にフェンリルの牙を取り出す。

 

「・・・こいつがフェンリルの牙か。見惚れるほどの美しくも危険すぎる鋭利な切れ味を感じさせる」

 

「研ぎ終わったらそれで双剣、もしくは対刃の武器を作って欲しいと思ってる」

 

「対刃・・・・・悪くねぇな。数は」

 

「それなりにある」

 

床にばら撒く二十数個のフェンリルの牙。それを見て力強く頷くヘパーイストスはこう言う。

 

「これだけありゃあ十分だ。全部こっちに預かっておくがいいな」

 

「余ったら駄賃として牙はそのまま譲るよ」

 

「返すお釣りの方がデカいわ!!お前、フェンリルの素材がどれだけ希少なのか分かっちゃいないな!?王国に献上すれば領地を貰えるほどだぞ!」

 

「牙一つだけで?」

 

「いんや、一頭分の銀色の毛皮だ。牙一本分だとミスリルの武器と防具一式の50個以上も値する。フェンリルの牙は何でも噛み砕き、引き裂く。それもミスリルやアダマンタイトなんざ石ころのようにな。だから大昔からフェンリルを見かけたら即討伐隊が結成して素材を手に入れようとするんだ王国は」

 

実際、そういうことは大昔にあったそうだが一度も手に入れたことが無い上に逆に返り討ち、討伐隊が1000人規模でも全滅されたこともあるらしい。

 

「故にユニーク装備の素材にも成り得るんだよ幻獣種の素材はよ」

 

「ユニーク装備の素材は全て幻獣種のもの?じゃあ三大天災のモンスター達もか」

 

「そうだ。だからお前が望んでいるステータスの装備品を現実のものにするには普通の素材じゃ絶対に届かねぇ。ミスリルは希少性が高い普通じゃない鉱石であるからな。イケると思ってミスリルの装備を作ったんだが結果はあの様だった」

 

インパクトが欠けていたのかな。イズだったらどうなんだろうか。・・・・・ユニーク装備。待てよ?

 

「もしかしなくてもあの鷹の羽衣って・・・・・」

 

「気付いたか。そうだ、元の素材は『鳥帝の羽』だ」

 

意外な真実に言葉を失いかけた。いやだって、フェンリルと別れた後に『鳥帝の羽』と『鳥帝の対翼』のドロップアイテムを見つけて今持っているんだぜ?というか、ジズって鷹なのか・・・・・?

 

鍛冶屋を後にして畑に戻りながら今日の予定を考える。

イベントは明日だからな。クママとリック、メリープのレベル上げをしておくか。その後は従魔ギルドのランクアップを頑張って上げるぞ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして徹夜してまで従魔ギルドのランクを7にした。その間の時間などあっという間にNWO初のイベントが行われる日になった。準備は万全。テイムモンス達のレベルは20台。途中、リックがLv20で進化することがわかったが進化はしなかった。出来ればオルト達と同じレベルで進化させてみたい欲求が芽生えてしまったからだ。そんなリックからは光る胡桃を与えたからか、オルトから貰った同じ物、従魔の心を貰えた。いい塩梅だ。従魔の宝珠とやらの作成も出来たし。

 

「うーん。この三週間でハーデス君のプレイが如何に凄まじいのか物語っているねぇ」

 

「ふふん、可愛さ&モフモフパラダイスだろう」

 

連れて来た従魔はオルト、ゆぐゆぐ、クママ、メリープ、ミーニィ。他はパーティ上限で残念だが連れて行けず、ヒムカ達と畑の世話をしてもらいたいからサイナも留守番組。ま、直ぐに呼ぶけどな。

 

「村に移動されたらまずは宿探しだな」

 

「具体的な理由は?」

 

「野宿したいか?」

 

「ははは、スピードダッシュよりも堅実に地盤から固めようとしているんだね」

 

理解してくれて何よりだ。順位はどうでもいいから腰を落ち着かせる場所を見つけてから散策しても遅くはないだろう。

 

「ハーデスー」

 

俺を呼ぶ声と一緒に歩み寄ってくる女性プレイヤーのイズ。おはよう、と意味でハイタッチする。

 

「イッチョウちゃんもおはよう」

 

「おはようございまーす。イベントではお互い頑張りましょうね」

 

「私にできる事があるのか分からないけれど、楽しむわ。ハーデス、頼まれていた物を完成で来たわよ」

 

「お、マジか!」

 

今までの作品を凌駕する渾身のアイテムよ!と自慢げに語る彼女がインベントリから取り出したそれは、朝日の光に照らされて輝くフード付きの銀色のローブ。

 

 

『銀狼のローブ』

 

レア度:9 品質:★9

 

 

纏えば生前のフェンリルの魂が宿って使用者を『フェンリル』と化する。

彼の幻獣種に認められた証でもあり、その爪と牙は何物にも刻むことが出来る。

 

 

いやだ、何か格好いいじゃない・・・・・!!

 

「レア度と品質もどっちも9って凄いよん」

 

「それだけが残念でならないのよ。まだまだスキルの熟練度が足りなかったからでしょうね。でも、現状最高傑作だから私自身も嬉しいことなのよ」

 

俺にローブと使い残ったフェンリルの素材を譲渡してくるイズから受け取った。

 

「ていうか、何時の間にフェンリルと出会ったのハーデス君。強かったの?」

 

「真の力を発揮したジズの前じゃ一方的にやられていたが、力と敏捷が特化したモンスターなのは確かだ」

 

「ジズの本気って?」

 

「雷雲を発生させて超広範囲による稲妻攻撃。VITとAGIが高くないと即死級の攻撃だった」

 

うわ、きっつ・・・と若干顔を顰めるイッチョウ。

 

「そろそろ二人もパーティ組んで俺とチームを組もう」

 

「あ、そうね。それじゃイッチョウちゃんよろしくね」

 

「よろしくー!」

 

尚、俺達がいるのは俺の畑の前である。その後、畑仕事を全て済ませて待っていた俺達は、12時ちょうどに無事転送させられていた。イベントが終了して戻ってくるのは明日の12時。帰ってきてから畑仕事をしても問題ないだろう。心置きなくイベントに参加できるな。

 

「村か」

 

「初めてのイベントの場所にしてはのどかそうな場所ね」

 

「私達も全員同じ場所に転送されたようでよかったわ」

 

どうやら村の広場のような所に転送させられたらしいな。周囲には俺達と同じようにイベントに参加したプレイヤーたちがひしめいている。

 

「みんないるな? 点呼!」

 

「ム!」

 

「――!」

 

「キュイ!」

 

「クマ!」

 

「メェ!」

 

オルトから順番に返事をして、鳴くメリープ以外は手を上げる。よしよし、モンス達も問題なく付いてきているな。おっと、周囲のプレイヤーにメッチャ見られてるな。ちょっとはしゃぎ過ぎたか。俺はみんなを連れて宿探しに早速移動開始した。

 

 

ピッポーン

 

 

運営からメールだ。

 

 

『イベントにご参加いただき、ありがとうございます。今回のイベントに関する詳しい内容をご説明いたします』

 

 

運営メールを要約すると、こんな感じである。

 

 

まず、俺たちは29番サーバーに割り当てられた。そして、イベント中に様々な行動を取ることでポイントが獲得でき、最終的に同一サーバーのプレイヤーの獲得ポイントを集計し、他サーバーとそのポイントで競うそうだ。また、個人のポイントでもランクが付けられ、これはサーバー内で競われる。

 

嫌らしい設定だよな。一致団結しなきゃ他サーバーには勝てないが、個人でもポイントを稼がなくてはいけない。だが、ライバルの足を引っ張り過ぎたら、サーバー戦では負けてしまうかもしれない。

 

最初から個人ランク狙いで行くのか、協力してサーバー戦での勝利を狙うのか。プレイヤー間での意識の違いは、色々な争いの火種にもなるだろう。

 

メールを読み終えた後、どうするか考えていたら早速広場から出て行くプレイヤーたちがいた。抜け駆けしたい者、ソロプレイで楽しみたい者、好奇心が強い者、そんな行動力溢れるプレイヤーたちだろう。

 

それとは別に、何か広場の中央で大声を上げ始めた男がいるな。もしかして、指揮をしようとしているのか?どんなことを話し出すのか興味はある。ちょっと止まって話だけ聞いておこうか。

その紫の髪をした男性が話し始めると、結構な数のプレイヤーが周りに集まっており、結構有名なプレイヤーなのだと知れた。

 

「ちょっと聞いてくれ! 僕はジークフリード! さすらいの騎士だ!」

 

騎士プレイか。まあ、この世界観には合ってるよな。芝居がかった言動に周りの奴が何も言わないところを見ると、結構有名みたいだな。でも、ジークフリードか。龍殺しの名に負けないプレイをしないことを細やかに願うぜ。

 

「知らない人にも、紫髪の冒険者と言えば分かってもらえるだろうか?」

 

紫髪・・・・・?

 

「あ、聞いた覚えがある。確かNWOが開始されて一週間後に色付きの称号を取得した一人だったわ」

 

「あー、確かに。ここにも『白銀の先駆者』がいたね」

 

「紫髪の冒険者・・・俺も今思い出した」

 

ジークフリードの話は、思ってたよりもまともな内容だった。彼自身は個人ランクよりも、サーバー戦の方が興味がある。なので、自分と同じ考えの人は、積極的に協力し合おう。

 

そうじゃなくても、できるだけ足の引っ張り合いは止めて、新たに得た情報は開示し合おう。

 

彼の要請はそんなところだった。情報を開示し合うという話になった時点で、馬鹿にした顔で広場を出て行く奴らもいたが、結構な数のプレイヤーが彼に協力する気になったと思う。

 

俺もそうだ。何か有益な情報をゲットできたら、隠さず広めようかな~程度にはジークフリードに好感を抱いた。

 

それと、個人プレイを咎めるつもりはないので、興味が無ければ協力を拒否してもらっても構わないというのも良いね。

 

ジークフリードの言葉に賛同した中には有名な生産者や有名パーティのリーダーをしている人物もいたらしく、その3名が中心となって今後の事を話している。

 

とは言え、さすがのあの輪の中に入って意見を出す気もない。とりあえずは目下の目的を果たしつつ、彼らに協力できることがあれば協力する。そんなスタンスで行きますかね。

 

「移動するぞ」

 

この村に滞在するのは1週間だが、リアルでは6時間しか経過しない。なので、イベント中はログアウトしなくとも良い。ログアウトすることはできるが、一度ログアウトしてしまうとイベントへの復帰が出来ないのだ。

 

ただ、1日で最低でも6時間は睡眠を取らなくてはいけないらしく、ベッドなどで横になって眠らないといけなかった。

 

「とりあえず寝床を決めないとな」

 

「ムッムー」

 

「最初に宿を探すの?」

 

「いや、宿で寝泊まりは不可能だ」

 

イズは不思議そうに小首を傾げた。イッチョウは考える仕草をするが先に言わせてもらう。

 

「この場に何百人のプレイヤーがいるのかはわからないが、軽く見回したけど始まりの町ほど大きくはない。イズ、俺達がこの村に来た理由は覚えてるか?」

 

「えっと、『多くの冒険者や傭兵、生産者が武術大会開催期間は始まりの町に集まってくる。だが、そのせいで近隣の村では働き手が減ってしまい、様々な仕事が滞ってしまう。武術大会に参加しない旅人たちよ。村々を助けるために、手を貸してほしい』だったわね」

 

「そう。一見生産職向けに見えるが見知らぬこのイベントは、イベント専用の土地で俺達プレイヤー全員が寝泊まりできる宿があるとは考えにくい。一日一回は必ず寝なきゃいけない設定されている以上は、ある種サバイバル生活と変わらんことをしなくちゃいけない。最悪、セーフティーゾーンで睡眠を取るプレイヤーの缶詰め状態を体験する羽目になるぞ。ログアウトしてリアルで寝るわけじゃないんだからな」

 

うわ、と女性にとってあまりしたくない睡眠方法を想像したようで嫌そうに顔を顰めた。

 

「集まり過ぎるのも問題ってことなんだね」

 

「集団行動以前に集団による弊害があることを気付かないでいたら・・・・・」

 

「まだ確証はないが、可能性はある俺は先に寝床を確保するけど二人はどうする?解散するか?」

 

聞いた途端に人の肩を掴む二人に歩みを停められた。首だけ後ろに向けるとイイ笑顔を浮かべていた二人の顔が視界に入った。

 

「ハーデス、私達も仲間に入れて欲しいなー?」

 

「うんうん、仲間思いのハーデス君ならこんな美少女達を放っておかないよね?」

 

「元から美少女美女なのは知っているからわざわざ言わなくてもいいぞイッチョウ」

 

ステイ、ステイと二人を落ち着かせて口を開こうとした時だった。

 

「興味深い話だね。その続きを俺達にも聞かせて欲しい」

 

とある四人パーティのプレイヤー達が近づいてきた。装備の見た目で言うと、剣士と斧使い、魔法使い、黒髪黒目で褐色肌の男は・・・・・アサシンか?

 

「盗み聞きか?」

 

「そのつもりはないが、俺達も寝泊まりする場所を探すところだったんだ。丁度その話をしていた君の声が聞こえてね」

 

「ああ、そう。一先ず俺の名前は言わなくても把握しているだろうけど白銀の先駆者、死神ハーデスだ」

 

「俺はペインだ。これでも攻略組として前線で戦っていたよ」

 

これは珍しい、てっきり武術大会の方に選んでもおかしくないプレイヤーだ。

 

「大会の方に行かなかったんだ?」

 

「まだ行ったことが無い精霊の街に行くために属性結晶が必要だったからね。まぁ、その必要がなかったことを知った時は苦笑いしたけどね」

 

獣人族の里か。間が悪かったとしか言えないな。

 

「それで先ほどの話の続きなんだが俺達にも共有してもらえないかな?情報料を必要ならば払うが」

 

「んー、誰でも思いつくことなんだがな。情報料はいらんよ。ぶっちゃけNPCに話しかけて宿泊をさせてもらえないか交渉するだけの事なんだし」

 

「「あっ」」

 

「なるほど・・・・・白銀の先駆者の名に相応しい思考能力を持っているんだね。仮にNPCと交渉してもダメだった場合は?」

 

「他のNPCと交渉し続ける。まぁ、全部駄目だった場合は他のプレイヤーと缶詰め状態で一夜明かすしかないだろう」

 

「え、どういうことなの?」

 

名前の知らない金髪赤目の少女?のプレイヤーが疑問をぶつけて来た。

 

「村にセーフティーゾーンがあってそこでしか寝れないなら他のプレイヤー達も利用するしかないだろ?何百人もだ」

 

「うわ、それは嫌だな」

 

「同感だ。おいペイン、教えてもらったんだからさっさと寝床を確保しようぜ」

 

アサシン風のプレイヤーの発言にペインを催促する斧使い。

 

「そうしよう。ハーデス、情報提供感謝するよ」

 

「どう致しまして。フレンド登録でもするか?」

 

「有名なプレイヤーとのフレンドは願ってもないよ」

 

出会ったばかりのパーティのペイン、ドレッド、ドラグ、フレデリカとフレンド登録をし終え、彼の一行と別れ改めて歩き出そうとした矢先だった。オルトが急に大通りを逸れて、脇道に入っていってしまった。

 

「おいおい、オルト!急にどうした!」

 

「ムッムム!」

 

トタタタと駆けるオルトの後を慌てて追いかける。そうやってしばらく追いかけっこをしていると、オルトが急に飛び上がった。ピョンとジャンプしたオルトは、そのまま前方にあった木の壁にしがみ付く。どうやら壁の向こう側が気になっているらしい。

 

「ん?畑か」

 

そこは野菜が植えられた畑だった。ヒョロッとしたお爺さんが独りで水やりをしていた。両端に木桶を吊るした重そうな天秤棒を担ぎながら、フラフラと歩いている。なんか危なっかしいなってああ、転んだ。せっかく汲んできた水をぶちまけてしまった。

 

「お爺さーん、大丈夫ですか?」

 

俺は声をかけた。だって、さすがに放っておけないだろ?

 

「おお? 旅人さんかい? 大丈夫大丈夫。ちょいと転んだだけだから」

 

そう言って立ち上がるお爺さんは、なんかプルプル震えていて、とても大丈夫そうには見えない。

 

これは仕方ないよな?

 

「俺たちで良ければお手伝いしましょうか?」

 

「いやいや、旅人さんのお手を煩わせるわけには」

 

「畑仕事も慣れてますし、気にしないでください」

 

「そうかい? じゃあ、ちょっとだけお願いしてもいいかね~?」

 

「任せてください」

 

ふふふ・・・・・これは寝床確保のチャンスかもしれないな!

 

「え、まさかもう・・・・・?」

 

「もしもそうだったら、私はハーデスについて行くわ」

 

そんなこんなで畑の中に入らせてもらいお爺さんの手伝いをする事となった。

 

「どこまで水を撒けばいい?」

 

「あっこから、あっこまでだねー」

 

あっこからあっこって、結構広いなおい。俺の畑で言えば4面はあるな。肝心の井戸はどこにも見あたらない。

 

「水はどこから汲んできてるんですか?」

 

「ちょっと離れたところにあるため池だよ」

 

ゆっくり歩くお爺さんの後について、ため池に向かう。結構しっかりとした足取りだ。農作業はきつそうだけど、普通に生活する分には問題なさそうだった。

 

「いつもは息子に畑仕事を任せてるんだけどね~。武術大会を見に、始まりの町に行っておってね。その間だけ、ワシが畑の面倒を見てるんだよ」

 

「それは大変ですねー」

 

「まあ、水を撒くだけで良いと言われとるから、そんな難しくはないよー。本当は草むしりとかもした方が良いんじゃけど、この老体にはむりだからね~」

 

お爺さんに案内されたため池は、想像以上に大きかった。25メートルプールくらいはありそうだ。

周辺は草ぼうぼうで、田舎によくあるいわゆるため池だった。そこに桶を沈めて水を汲んでいく。

天秤棒を担ぐと、しっかりとした足取りで運び歩く。オルトもやりたいのかお爺さんの服を掴んで強請る。その様子にお爺さんに向かって尋ねた。

 

「オルト、クママやゆぐゆぐも行けるか? お爺さん、天秤棒ってあれしかないんですか?」

 

「いんや、納屋を漁ればまだいくつかあると思うぞ?」

 

ということで、俺たちはお爺さんの家で桶と天秤棒を借りることにした。イッチョウとイズも手伝い始める。オルト達にお爺さんの家に案内してもらう。畑からちょっと離れた場所なんだが、結構大きい家だ。

 

「以前は2人の息子夫婦と住んでいたんじゃがね。上の息子夫婦は始まりの町にいっておるし、下の息子夫婦は独立したんじゃよ」

 

奥さんはもう亡くなっているらしい。部屋に遺影のような絵が置いてあった。

 

「さて、納屋はこっちじゃ」

 

農具が沢山置かれた納屋に案内してもらう。様々な農具をどかしながら中を漁り、2つの天秤棒を発見できた。木桶もたくさんある。これで水撒きも捗るだろう。

 

「オルト達はどうだ?」

 

ゆぐゆぐは育樹スキル、クママは栽培と養蜂だけだ。もし天秤棒を使うのに農業スキルが影響してくるんだと、上手く行かないかも知れない。だが、余計な心配だったようだ。クママもゆぐゆぐも問題なく天秤棒を担いで、水を運べている。オルトも木桶を1つ使って水を運び。女性であるイッチョウとイズも皆で畑とため池を往復し、水を撒いていく。結構な重労働だな。井戸の有り難さがよく分かるぜ。

 

「終わった~」

 

1時間ほどで水撒きと雑草抜きを終え、俺たちはお爺さんの家でお茶をご馳走になっていた。

 

なんとハーブティーだ。この村じゃ当たり前に飲まれているらしい。わざわざ掲示板に上げなくても、イベント後には製法が広まってるかもしれないな。

 

「いやー、助かったよ」

 

「いえ、大したことはしてませんから」

 

「ありがとうねー」

 

頭を下げてくれるお爺さん。そうだ、どうせだから聞いちゃおうかな。それがお礼代わりってことで。

 

「この村って、宿屋有りますか?」

 

「宿屋? あるぞい。小さいのが1軒だけだが」

 

「え・・・1軒だけ?」

 

「観光客なんぞこないからねぇ。5部屋くらいの宿が1つだけあるだけじゃ」

 

ああ、やっぱりな・・・・・プレイヤー数に全然足りてなさすぎる。イッチョウとイズが俺を崇めるような目で見てくるのはなんでだろうか。

 

「因みに聞くけど、他に宿泊できる場所とかは・・・・・」

 

「ふむ。雑貨屋でテントが売ってると思うぞい? それを使えば広場で寝泊まりできると思うが」

 

「ちなみにテントってお幾らか分かります?」

 

「なんじゃ? お前さんらこの村に滞在する気なのかい?」

 

「ええ、1週間ほど」

 

「じゃあ、わしの家に泊まればええ。畑を手伝ってもらえれば、ワシも助かるしの」

 

 

―――ミッション・コンプリートォッ!!!

 

 

イッチョウとイズから俺に対して手を組んで感謝を込めて祈り出す始末だった。なにより畑仕事は1時間くらいで終わるし。テントよりもベッドに寝れるならその方が良いもんな。

 

「部屋は空いとるし、どうじゃね?」

 

「うちの子たちも平気ですか?」

 

 これは重要だ。メリープやクママ、ミーニィは納屋でという話だったらお断りしなければならない。

 

「勿論じゃ。ベッドも好きに使ってええぞ」

 

良かった。普通に泊めてくれるらしい。しかもベッドまで使わせてくれるとは、有り難いね。

 

「じゃあ、お言葉に甘えます」

 

「ほっほっほ。わしも賑やかな方が嬉しいでな。よろしくたのむよ。部屋に案内しようかね」

 

お爺さんに案内されたのは、ベッドが6つ置かれた部屋だった。

 

「ここを好きに使ってくれて構わん」

 

「良い部屋ですね」

 

ベッドなんか、フカフカで寝心地が良さそうだし、他の家具類も落ち着いた色合いの上品な物が揃っている。試しにベッドに腰かけてみると、羽毛布団のような柔らかい感触だ。これは気持ちいい。そして、何やらウィンドウが浮かび上がったな。どうやら、ベッドで何時間寝るか設定できるらしい。普通だったら寝具などで寝たらログアウトになるけど、イベント中は設定した時間が自動で経過した扱いになるらしい。これは便利だ。

 

「元々は下の息子夫婦が使っていた部屋だが、家具なんかはそのままにしてあるでの」

 

「ありがとうございます」

 

「夕食まで少し時間があるが、どうするかね?」

 

「え? 食事まで出していただけるんですか?」

 

「わしから招いたんじゃから、お客人の食事を用意するのはあたりまえじゃろう?」

 

それは嬉しいな。ゲームの中でまだ食べたことのない料理が食べれるかもしれない。ただ、1つ言っておかないとな。

 

「あ、でもうちのモンス達の食事はこちらで用意するので」

 

「そうかね? まあ、モンスターは人とは違う物を食べるんじゃろうし、それは当然なのかのう?」

 

「そうなんですよ」

 

「分かった。では、旅人さんの分だけ用意しておくでの」

 

「ハーデスと呼んでください」

 

「わしはカイエンじゃ、よろしくのハーデス」

 

お爺さんが一階に降りて行ったのを見送った後、二人から物凄く感謝された。

 

「ハーデス、凄く運がいいんじゃない!これで野宿せずにすんだわ!」

 

「いやー、やっぱりハーデス君について行くと事が何でもいい方向に進むねー」

 

「感謝するならオルトもしてくれ。お礼ならハチミツアップルジュースを作って上げて」

 

後日そうすると二人は頷いたところで俺はペインにフレンドコールをした。

 

「ペイン、そっちはどうだ?」

 

「交渉したが断られて別のNPCに話しかけるつもりだ」

 

「こっちはノームのオルトのおかげで寝泊まり確保で来たぞ。ベッドが六つもある」

 

「・・・・・最悪、俺達もそこで寝泊まりさせてくれないかな」

 

「畑仕事を手伝ってくれるなら交渉に応じよう。とにかく頑張れ」

 

ペインとのコールを閉じるとイッチョウが指で肩を突っついてきた。

 

「そんなこと言っても大丈夫なの?明らかにベッドの数が足りてないよ」

 

「ふっふっふ・・・・・俺にはこの時のことを考慮してあるアイテムを用意していたんだよ」

 

心配はご無用!と豪快にインベントリからあるアイテムを取り出した。

 

「じゃじゃーん!メリープの羊毛を素材に裁縫ギルドに頼んで作成してもらった布団だ!」

 

 

金羊毛布団

 

レア度:5 品質:★7

 

効果:セーフティーゾーンの中で使用すると最大12時間睡眠ができる

 

 

「うわぉ、これはまた寝心地がよさそうなものを用意したのね」

 

「定期的にうちのメリープの羊毛を裁縫ギルドに渡して頑張ってもらったんだ。メリープの羊毛、というか羊毛自体はまだ市場に出回っていないから裁縫ギルドのプレイヤー達にとって垂涎の逸品らしい。納品してくれるなら最優先で羊毛を素材とするアイテムを作ってあげるとか言われた」

 

「羊毛って毛糸の材料になるし、私もちょっと欲しいかも」

 

しかもイッチョウとイズの分もあるから床に敷いて寝る分は問題ないと詳細を付け加えた。

 

「さて、寝床の心配はなくなったことだし改めてイベントを楽しむ姿勢に入るとしようか」

 

「じゃあこのまま解散ってことでいいかな?パーティとチームの解散はしないままで」

 

「そうだな。情報収集とか連絡もし合ったりしよう。このイベント、ただ村人を手助けするだけで終わるとは限らないからな」

 

「どんな感じになるのかしら?予想できるのハーデス」

 

「まだ何とも断言はできない。少なくとも数日は経たないと分からないままだと思う。今は個人でもサーバーでも貢献度を高めるかNPCに話しかけて交流を深めるか、各々自由に過ごす他ないな」

 

と、話した後に俺達は個々に動いて村の中を散策するのであった。その前にお爺さんを捕まえてもしかすると旅人の人達が四人増えるかもしれないと伝えると、快く受け入れてくれた。お爺さん、仏さんですか?

 

「いってらっしゃい」

 

カイエンさんに見送られ、家を出る。

 

木造の家屋に、舗装されていない剥き出しの地面。通路の左右には畑や牧草地が広がり、本当に長閑な田舎の村と言う雰囲気である。

 

「どっかに雑貨屋とかないか? みんなも探してくれよ?」

 

「ム!」

 

「キュイ!」

 

「クマ!」

 

「――♪」

 

「メェー!」

 

皆が俺の言葉にビシッと敬礼する。スキップしながら、本当に楽しそうだ。

 

オルトとクママが俺と手を繋ぎ、ゆぐゆぐとメリープは後ろからついてくる。ミーニィは俺の頭に乗っていた。

 

イベント中は皆と一緒にいる時間を増やせそうだな。それだけでもイベントに参加した甲斐があったというものだ。

 

「ムム!」

 

「お、雑貨屋発見したか?」

 

「ムー!」

 

「クマー!」

 

オルトたちが俺の手をグイグイ引いて案内したのは、一軒の小さい商店だった。外観がほとんど普通の民家だ。自分だけで探していたら見逃していたかもしれない。

 

入り口の扉を開けて中に入ると、こじんまりとした雑貨屋だった。野菜や農具、武具まで置いてある。

 

「いらっしゃい」

 

店番は気難しそうな顔をした、痩せ型猫背のおばあさんだった。あれだ、ステラおばさんと正反対の印象? ウダウダしてる客に「邪魔だからさっさと買って帰れ!」とか言っちゃいそうなタイプだ。

 

「種や苗木を見せてもらえます?」

 

「こっちだね」

 

良かった。ぶっきらぼうだけど、普通に対応してくれた。

 

でも、売っている物に目新しい商品はないな。薬草や毒草、青どんぐりなどの苗木。あとはバジルルなどのハーブ類だ。

もしかしたら始まりの町じゃ売ってないアイテムが手に入ると思ったんだけどな……。

 

ただ、野菜には見たことのない品種が幾つか並んでいた。NPCショップの商品なので株分はできないが、とりあえずいくつか買ってみよう。料理に使えるかもしれないし。

 

白トマトと群青ナスを5つずつ購入した。ゲームの中でトマトとナスは初めて見たな。色々な方法で食べられそうだ。

 

さて、他の店を探すか。あと、ギルドの場所を聞いてみようかな。他の店が無いかと尋ねるのは言外に、この店じゃ品揃えが悪いって言っているようで聞きづらい。

 

ただ、ギルドの場所なら教えてくれるんじゃなかろうか? 一応商品も買ったし。

 

「あの、この村って、ギルドありますかね?」

 

「ギルド?」

 

「ええ、農業ギルドか獣魔ギルドがあったら嬉しいんですけど」

 

「ふん、こんな小さな村にそんな何種類もギルドがあるわけないじゃないか。小さい冒険者ギルドがあるだけだよ」

 

でも冒険者ギルドはあるのか。依頼はそこで受けられるんだろうな。

 

場所を教えてもらうと、最初に転移してきた広場に面しているようだ。村を一通り巡った後に寄ってみよう。

 

俺たちはおばあさんに礼を言って、再び探索に戻った。他のお店を探しつつ、時おり出会う村人さんたちに挨拶しながら歩く。まあ、半分は散歩みたいなもんだ。

 

始まりの町の洋風な街並みとも違う、長閑な村を従魔たちと歩くのは落ち着けるね。

 

1時間ほど歩いて、半分は地図が埋まったかな? そして、ようやく新しい商店を発見できた。

 

「こんにちは~」

 

「らっしゃい!」

 

「ここは果物屋さんですか?」

 

お店には見たことのある緑桃や青どんぐりに加え、見たことのない紫柿という果物が並んでいる。

 

オルトやクママの食事はここで買えば問題なさそうだ。良かった。しばらくはハチミツ団子にしなくちゃいけないかと思ってたんだ。

 

「おう! とれたて新鮮な果物だ! しばらく入荷は見込めないから、今が買い時だよ! 今ある分が売れたらしばらくは店じまいだからな!」

 

「え? しばらく入荷が無いって、どれくらいですか?」

 

このお店で果物を買おうと思ってたのに! 今買い占めたとしても、桃と柿は2つずつしか残ってない。1週間分には足りないのだ。

 

「1週間だな。うちは親父が果樹園を世話してて、そこで採れた果物を売ってるんだが、始まりの町に行っちまってな! 帰ってくるまでは新しい果物が採取できねえんだ」

 

この店員のお兄さんは、育樹を持っていないのか。お父さんが育てて、この人が売るという分担らしい。

 

「ん。待てよ・・・・・」

 

ちょっと思いついてしまったぞ。

 

NPCの店で売っているアイテムは株分できない。この紫柿も当然株分の対象外だ。だが、NPCの畑で栽培された物は? それを俺が直接もいだりしたら? もしかしたら株分できたりはしないだろうか?

 

「あの、俺の従魔は育樹のスキルを持っているんですが、果樹園の面倒を見ましょうか?」

 

さて、どうだろう。初対面の俺がこんなことを言って、信用してもらえるかどうか……。だが、お兄さんの回答はあっさりとしたものだった。

 

「なに? 本当か? それはありがたい!」

 

「いえいえ、お困りのようだったんで」

 

「謝礼はどうするか・・・・・」

 

「あ、だったら収穫した果物を少し分けてもらえませんか?」

 

「そんなことでいいのか?」

 

「はい」

 

「だったら、採れた果物を日に4個、好きな組み合わせで持っていってくれ」

 

ほほう。日に4個ね。紫柿は買えば1つ300G。それを毎日4つ貰えるというのは結構嬉しいぞ。たとえ株分できなかったとしても、珍しい果物を入手できるのは悪くないし。

 

「分かりました。畑の場所はどこですか?」

 

「今教えるからちょっと待っててくれ」

 

お兄さんがマップに畑の場所をマークしてくれた。なんとカイエンお爺さんの畑のすぐそばだ。あの辺は畑が密集している区画だし、そういうこともあるか。

 

「畑には収穫物を入れておくアイテムボックスがあるから、収穫した果物はその中に入れておいてくれ」

 

「わかりました」

 

 わざわざここまで納品に来なくてよいのは楽でいいな。持ってくるとなると結構離れてるしな。

 

「じゃあ、そろそろ行きますね」

 

「おう。明日からよろしくな!」

 



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イベント開始~村の散策

途中で他のプレイヤーやNPCとも挨拶をかわしつつ、村をだいたい回り終えた。広場に留まらずに村に散ったプレイヤーたちなので、もっとがっついた感じのを想像していたんだが、皆結構フレンドリーだったので余計な諍いは起きていようでよかった。中には俺やモンスに笑顔で手を振ってくれる人までいたし。

 

村には店は5つしかなく、どこもラインナップは始まりの町とほぼ同じだった。初見のアイテムは果物屋さんの紫柿くらいかな?

 

最後に、冒険者ギルドに行ってみた。

 

「ははは・・・案の定、混んでるな~」

 

混んでると言うか、もう暴動寸前だった。笑うしかないだろこれ。

 

ギルドの建物がメチャクチャ小さいのだ。村にある他の民家の倍程度の大きさだろう。中に20人も入ったら満員だと思われた。

 

その建物の入り口の周りを、50人近いプレイヤーたちが取り囲んでいる。順番待ちをしているんだろうが列などはなく、押し合いへし合いで怒号が飛び交っている。

 

「あれを見たら入る気力がない」

 

「ム?」

 

「キュイ?」

 

「オルトたちが踏み潰される未来しか見えん」

 

「クマ~」

 

「―――・・・・・」

 

ハラスメントブロックのおかげで本当に潰されることはないが・・・・・。あの混雑の様子を見ていると、強く押せば相手を動かしたりはできるみたいだ。ダメージはないと思うけど、やっぱり怖い。にしても、あんなに険悪な雰囲気で、今後協力し合うとかできるのか? 依頼の数が限られてたりしたら、競争になるだろうし。絶対に足の引っ張り合いになると思うんだが。これも運営の罠なんだろうか?

別に上位とかは狙ってないけど、いがみ合ってサーバーポイントが下がっちゃうのは馬鹿らしい気がするんだけどな。

 

そんなことを考えていたら、オルトが人垣に近づいていってしまった。何をしているのか気になったようだ。んな無防備に行っちゃ・・・・・。

 

「オルト近づきすぎると危ないぞ」

 

「ム?」

 

オルトを引き留めに行ったんだが、一歩遅かった。

 

「うおぉっ!?」

 

「ムムー!」

 

人垣から弾き飛ばされてきたガタイの良い男性プレイヤーに、オルトが吹き飛ばされたのだ。3メートルくらい転がって、目を回しているオルト。

 

「おいおい大丈夫か?」

 

「ム~ムム~?」

 

HPなどは減ってない。大丈夫なようだ。良かった。にしてもここは危険だな。さっさと離れよう。そう思っていたんだが――。

 

何やら、オルトを吹き飛ばした男が数人の女性プレイヤーに囲まれている。

 

「ちょっと! なにノームちゃんに酷いことしてんのよ!」

 

「そうよそうよ!」

 

「ノームちゃんが怪我したらどうすんの!」

 

凄い剣幕で男を責めているな。同時に何人かの女性プレイヤーが心配そうな顔で、近寄ってきた。

 

「あのー、ノームちゃん大丈夫ですか?」

 

「え? まぁ、大丈夫だ。」

 

「良かった!でも、白銀さんもこのサーバーなんですね」

 

「やった、1週間ノームちゃんと一緒!」

 

どういうことか話を聞いてみたら、なんとこの人たちはオルトのファンらしい。ちょこちょこ動くオルトの可愛い姿を見て、いつもほっこりしているんだとか。

 

やっぱりうちのオルトの可愛さは万人に伝わるんだな。でも、ここまで人気があるとは思ってもみなかった。そして、俺の白銀さんという呼び名が全然消えない理由もよく分かった。どうも、ノームの飼い主の白銀さんということで密かに認知されているようなのだ。

もういいんだけどね。既に諦めてるし。むしろ有名税だと思えば割と慣れている。

 

「うちのオルトの心配してくれてありがとう。でもま、俺も不注意だったこともあるし、吹っ飛んできたプレイヤーも後ろに誰かがいるなんて思いもしなかっただろう。オルトも少し目を回しただけで、大丈夫だ。な、オルト?」

 

「ムー」

 

大丈夫アピールでオルトがピッと挙手すると、女性プレイヤーたちから黄色い悲鳴が上がった。まじでアイドル並の人気だ。

 

「あ、あのー。すいませんでした・・・・・」

 

そこに、オルトを吹き飛ばした男性プレイヤーがしきりにペコペコと頭を下げながらやってきた。その後ろには般若の顔をした女性プレイヤーたちが並んでいる。

 

男がすがるような目で俺を見ていた。

 

うわー、なんだかこの男が気の毒になってきてしまったぞ。わざとやったわけでもないし、そこまで怒らんでも・・・・・。

 

「不慮の事故だ。そっちもあんな野次馬の中から吹っ飛ばされたんだから大丈夫なのかと尋ねる方でもあるさ」

 

「そ、そうか? ありがてぇありがてぇ!」

 

男が本気の感謝の眼で俺たちを見ているのが分かる。目も半泣きだし。

 

「ムム!」

 

「ほら、オルトも平気だって言ってるしこの話は終わりだ。いいな?」

 

オルトが男の足をポンポンと叩き、サムズアップする。それを見た女性たちからは再びの黄色い悲鳴が、男性からは安堵の息が漏れた。

 

お?オルトがまた何かジェスチャーをしているな。

 

「ムッムッムー」

 

両手を体の脇に付けて、小さな前ならえ的に前に突き出す。そして、その場でピシッと背筋を伸ばした。

 

「?」

 

「??」

 

他のプレイヤーは、オルトの突然のジェスチャーにポカーンだ。だが、俺には何が言いたいのかわかるぞ。

 

「だが、やっぱりああやって押し合いになるのは色々と危なそうだし、ちゃんと並んだ方が良いんじゃないか?オルトもそう言いたいんだと思うぞ?」

 

「ムー!」

 

やっぱ正解だったか。オルトがウンウンと頷いている。すると、女性プレイヤーたちが途端にやる気になったらしい。

 

皆で一致団結して、他のプレイヤーにキチンと並ぶように言い始めた。オルトを吹き飛ばした男性プレイヤーもだ。中には余計な真似をするなと怒り出すプレイヤーもいたが、大抵のプレイヤーはその誘導に従い始める。

 

皆、この混雑をどうにかしたいと考えていたんだろう。それに凄い剣幕の女性陣に逆らえる男なんてそうはいないし。周囲のプレイヤーが大人しく列を作るのを見て、何となく並び始めた者もいる。日本人だねー。うちのモンスたちも手伝っている。やっぱり可愛さは武器なのか、クママやゆぐゆぐに誘導されると、大抵のプレイヤーは従ってくれる。

 

5分もせずに、冒険者ギルドの前には綺麗な列が出来上がっていた。

 

「じゃあ、俺たちは行くわ」

 

さすがに今から並ぶのは、時間が掛かりすぎるだろうし。空いてるときに来ることにしよう。

 

「またねー白銀さん!」

 

「オルトちゃんもばいばーい!」

 

「ゆぐゆぐたん可愛い!」

 

「クママちゃんちょうだーい!」

 

「ミーニィちゃんモフモフ!」

 

何か、色々と声をかけられたぞ? もしかしてオルト以外にもファンがいるのだろうか?だが、クママはやらんぞ!

 

 

冒険者ギルドから離れつつ広場を観察してみると、広場にはテントが建て始められている。やっぱり宿に入りきれない人たちは、テントを買って広場で寝泊まりをするつもりらしい。時間が早い気もするが、先に場所を取ろうというのだろう。

しかも見た感じ、テントはそう多くは建てられそうには見えなかった。全部のテントにパーティ6人全員で寝泊まりするというならともかく、ソロや、2、3人パーティも多いだろう。

 

下手したらテント泊さえ危ういプレイヤーもいるんじゃなかろうか?

 

俺たちはお爺さんに出会えて本当にラッキーだったな。

 

「忘れずに果樹園の世話をしておかんとね」

 

明日の収穫のため、マップを見ながら、果物屋さんの果樹園に向かう。そこはカイエンお爺さんの畑から10分もかからない場所だった。

 

「近いな」

 

でも、ここならカイエンお爺さんに教えてもらったため池が使えるだろう。水撒きは問題なさそうだ。分担は俺が草むしり、メリープが草を食べ、オルトたちが水撒きである。

 

果樹園に植えられているのは、白梨、緑桃、紫柿、青どんぐり、胡桃だった。紫柿だけじゃなく、白梨まであるじゃないか。これ、絶対に欲しいんだけど。

 

「明日から頼むな~」

 

そうやって果樹園の世話が終わった後、俺はさらに村を歩き回ってみることにした。マップの穴抜けを全部埋めてしまおうと思ったのだ。始まりの町でもマップを埋めたら橋の下の扉を発見できたわけだしね。

 

まあ、無駄足だったとしてもいいのだ。従魔たちとの散歩がメインなので。村の北半分のマップを完璧に埋め終わった頃、日が落ち始めてきた。無理するようなことでもないし、そろそろカイエンお爺さんの家に帰ろうかな。

 

「みんな、戻るぞー」

 

「ム!」

 

「クマー!」

 

「キュイキュイ!」

 

「――♪」

 

「メェ~」

 

クママとオルト、メリープが追いかけっこしながら俺たちの前を進む。ミーニィは俺の頭。ゆぐゆぐは左腕にしがみ付いている。ほのぼのとカイエンお爺さんの家に戻ろうとした俺にフレンドコールが表示された。

 

「どうしたペイン?」

 

「・・・・・最悪の事態となった。そちらの宿に俺達も寝泊まりさせてもらえないかな」

 

「え、一件も?」

 

「ああ、交渉しても君が確保した場所以外は断られてしまってね」

 

「因みにどんな交渉したのか教えてもらえる?」

 

ペインはNPC相手に寝泊まりさせて欲しい、代わりにそちらが困っていること手伝って欲しいことがあるなら自分達が協力すると言ったそうだ。うーん、いきなり訪問してきて快く受け入れてくれる訳じゃないのかな?

 

「わかった。話の詳細は広場で聞かせてくれ。そこで合流だ」

 

「助かるよ」

 

結局、ペイン一行等は広場での待ち合わせを了承してもらったことで俺達も広場は向かった。

 

 

 

 

「あー、いい風だなー」

 

不愉快でない程度に強い風が、前方から吹きつけてきた。髪が軽く流される程度の風だ。両手を広げて全身でその風を受ける。

 

「気持ちいいな~」

 

俺の言葉を聞いたミーニィとゆぐゆぐも、手を広げて風を受けるような動作をした。

 

「キュィ~」

 

「――――♪」

 

ミーニィは目を細めて心地良さげだ。ゆぐゆぐも俺と同じように両手を広げて、風を全身で受けている。風で巻き上げられたゆぐゆぐの髪の毛が俺の腕をコチョコチョと撫でて、少しくすぐったい。

 

「ははっ。こそばゆいぞ」

 

「――♪」

 

俺が軽く身をよじって笑っていると、それが楽しいのか、ゆぐゆぐが自分で頭を振ったり、頭を俺の腕に摺り寄せてきた。それがまたくすぐったいのだ。

 

「おいおい、くすぐったいって」

 

「――♪」

 

「キュイ!」

 

ミーニィも混ざり、肩に降りて身体で俺の顔をファッサファッサとくすぐってくる。

 

「ちょっ、ミーニィって、お前らも・・・・・っ!」

 

「メー!」

 

「ムー!」

 

「クマー!」

 

ゆぐゆぐとミーニィにくすぐられて笑う俺を見て、楽しそうに遊んでいると思ったのだろう。オルトとクママ、メリープが混ぜてもらおうと、俺の足に抱き付いてきた。

いやいや、お前ら――。

 

「流石に抱き着かれるとバランスがー!」

 

「キュイー!」

 

「――!」

 

「クックマー!」

 

「ムムー!」

 

「メー!」

 

俺たちは一塊になったまま地面に倒れ込んだ。顔にミーニィとクママのモフモフが押し付けられて気持ちいい。皆も痛そうと言うよりは、楽しそうだった。

モンスターたちとこんな風に遊んだことなかったしな。たまにはこういうスキンシップも良いもんだ。ただ、普通の通りでやることじゃなかった。

 

プレイヤーだけではなく、NPCの住人たちまでもが俺たちを見て笑っている。

 

「・・・・・行くぞ」

 

俺は皆を立たせると、駆け足で広場へ向かった。オルトたちが笑顔で後をついてくる。追いかけっこをしてるつもりなのかもな。

 

「おお・・・・・」

 

足を踏み入れた広場にはこれから寝ようとするプレイヤー達が溢れていた。建てられるテントよりもプレイヤーが多すぎてるから寝る順番待ちしてる様子を伺える。

 

「ハーデス」

 

「数時間ぶり。ギルドに行けた?」

 

「皆考えることが同じだからね。時間を掛けて入ったよ」

 

「俺はあの光景を見て入る気力が削がれたよ。さて、行くか」

 

ペイン一行をカイエンのお爺さんの家に案内、招いた。

 

「ただいまー」

 

「おかえり。夕食の準備ができとるよ」

 

「ありがとうございます。それと朝話した四人を連れてきたんだが」

 

「ああ、畑の手伝いをしてくれるなら構わないよ。さ、簡単なものだけじゃが食べようか」

 

そうは言うが、食卓に並んだ料理はかなり美味しそうな物だった。既にイッチョウとイズも席に座って俺達を待っていた。俺達とペイン達も席に座って机に置かれた料理を見つめる。

 

兎肉の入ったスープ、トマトが美味しそうなサラダ。焼きナスなど、素朴ながら、食欲をそそる料理たちだ。唯一未見の料理は、平べったい平パンというパンだった。ナンを円形にしたような外見をしている。

 

「美味しそうですね」

 

「そう言ってもらえるとうれしいのう。ほれ、そちらに座りなさい」

 

「はい」

 

食卓につくと、カイエンお爺さんが何やら紫色の飲み物を出してくれた。ワインかと思ったら、紫柿のジュースのようだ。

 

それを見て、モンスたちにも食事をあげなくてはいけないことを思い出した。オルトとクママにはジュース、ミーニィには焼き肉、メリープは干し草だな。

 

ジュースはこれが最後だ。今日手に入れた果物を使って、明日にでも作らないとならない。まあ果物は毎日手に入るはずだし、イベント中は困らないだろう。

 

「ムムッム!」

 

「クマー!」

 

「キュイッ!」

 

「メー!」

 

ゆぐゆぐは食事が不要だが、美味しそうに食べ物を貪る弟分たちを見て、楽しそうに微笑んでいる。

 

さて、俺もいただくとしよう。イッチョウ達も手を合わせた。

 

「「「「「「「いただきます」」」」」」」

 

「はい、いただきます」

 

俺はまず平パンを手に取ってみた。インドのナンぽいのかと思ったが、思ってたよりもモッチリしてるな。千切って、パンだけを口に入れてみる。

 

「端っこはサクサク、中はモチモチでおいしいですね」

 

「そうかい? わしらは毎日食べとるから、これが当たり前なんだが。褒めてもらえると嬉しいよ」

 

「うらやましい」

 

これってどうやって作ってるんだろうか? イベント終了してからも食べたいんだけど。聞いたらレシピを教えてくれないかな。

 

「このパンはお爺さんが作ってるんですか?」

 

お店で買ってきてるんなら、その店の場所を教えてもらおう。

 

「そうじゃよ? わしがそこのオーブンで焼いてるんじゃ」

 

やった、お爺さんが作ってるみたいだ。

 

「どうやって作るんですか?」

 

「なんじゃ、お前さん料理を作るのかね?」

 

「まあ、かじった程度ですが」

 

「ほほう。ならレシピを教えてやるから、夕食を作ってはみんかね? 食材は家にある物を好きに使って構わんから」

 

「いいんですか?」

 

レシピ貰えるうえに、料理のレベリングにもなるだろうし、俺としては願ったりかなったりなんだが。

 

「わしはあまり料理が得意でないでの。やってくれるなら助かるんじゃが」

 

「いえ、こちらこそよろしくお願いします」

 

ふふふ、俺の料理の腕が火を吹くな。

 

「あ、そうだ。観光がてら村の中を歩き回るけれど、この村にしかない綺麗な場所とか言い伝えがある場所、入ってはいけない場所とかある?」

 

「ふむ・・・・・具体的な事は教えれんが、この村には昔から森で迷った村人を助けてくれる守り神がおる」

 

「守り神?」

 

「うむ。もしも出会ったとしても決して倒さないで欲しい。倒してしまったら困ったことになるからの。これ以上の事はまだ話せん。すまないの」

 

 

と、興味深い話を聞き食事を終えて二階に上がる。6つしかないベッドにペインが指摘する。

 

 

「一人と君のモンスター達の寝る場所は?」

 

「作ってもらったこれで寝るさ。身体が小さい組はイッチョウとイズにお願いして一緒に寝てもらえば何とかなる・・・・・」

 

インベントリから取り出した布団を床に敷きながら言った傍から人の身体にヒシっと引っ付くオルト達。この中で一番小さいミーニィですら、自分はここで寝るんだと俺の頭を叩いて主張し出す。

 

「完全にあなたと寝る気でいるけれど?」

 

「ははは、まるで子供みてぇな反応じゃねぇーか」

 

「テイムしたモンスターってのは、随分と懐くもんなんだな」

 

「・・・・・」

 

「スクショっと。これ、テイマー専用スレの掲示板に載せていい?」

 

「ふふふ、微笑ましいわねぇ」

 

完全に他人事として見ているこいつらをどうしてくれようかと邪な悪戯を考えていたその時。

 

「ハーデス。君の頭にいるモンスターはドラゴンなのかい」

 

「そうだぞ。ピクシードラゴンという種族だ。NPCでも小さいドラゴンの存在は認知していた」

 

「そうか。何時か俺もドラゴンと会って見たいものだな」

 

「テイムか?」

 

「可能ならしてみたいところだ。ドラゴンに騎乗できれば竜騎士の職業になれそうだからね。一応、俺は騎乗スキルを取得しているんだ」

 

なるほどなるほど。竜騎士か・・・・・。

 

「したことはないが、出来るかミーニィ。巨大化したら俺を乗せることがさ」

 

「キュイ!」

 

できる、と首を縦に振って首肯するミーニィ。え、できるのか?

 

「へぇ、できるんだ?こんな小っちゃくって可愛いドラゴンが大きくなったらどうなんだろうね」

 

ミーニィを触るために近づいてきたフレデリカ。大人しく触られるミーニィに「ふわっふわだ」と感想を吐露した。

 

「ペインがドラゴンなら、私は・・・うーん、鳥が丁度いいかな?」

 

「ジズはどうだ?」

 

「小っちゃい方がいいよ。ドレッドとドラグはー?」

 

「俺か?そうだな・・・・・速いモンスターがいいな」

 

「俺はどうなんだかな。モンスターをテイムする自分がわからねぇぜ」

 

ドレッドは足の速いモンスターか。これは教えてもいいかな?

 

「足が速いモンスターなら、フェンリルだったら見かけたぞ」

 

「「「フェンリルッ!?」」」

 

「ああ、これが証拠だ」

 

『銀狼の毛皮』を見せるとペイン達から感嘆の息が零れた。

 

「マジかよ。このゲームにフェンリルなんていたのか」

 

「うわぁー、すっごく綺麗な銀色の毛皮ー。触り心地もいいー」

 

「・・・ちょっと、頑張ってみようかな」

 

「ハーデス。フェンリルを見つけた場所は?」

 

「獣人族の里から東の野原。夜間にジズが現れて襲われていたプレイヤーを庇って戦っていたらフェンリルが群れで現れた」

 

その後の結果、痛み分けと言うよりは惨敗に近い結果で一匹のフェンリルを残してジズを撃退した話を打ち明けた。HPバーが表示されないジズを倒すには幻獣種も戦わせる必要があることもだ。

 

「ハーデス。レベルは幾つだい」

 

「メインの重戦士の大盾使いは38、ジョブのテイマーは21」

 

「ベヒモスを倒した時のレベルは?」

 

「んと、24だったかな」

 

ペイン一行、何故か唖然とした表情を浮かべだす。

 

「いやいや、24レベルでレイドボスを倒したって・・・・・ステータスの方針どうなってるわけ?」

 

「一応、防御極振り!」

 

「「嘘吐け!!?」」

 

一応っつったろ一応って。

 

「そん時以前からスキルや称号でステータスとポイントが2倍、3倍状態だったから実際24レベル以上だったんだよ。そんでHPとMP、各ステータス100台以上の装飾アイテムを装備しているから更にレベル以上のステータスだ」

 

リヴェリアから貰った指輪を魔法使いであるフレデリカに詳細の文章を見せれば、ぎょっと大きく目を見開いた。

 

 

白妖精の指輪

 

レア10 品質:★10 破壊不能

 

 

【INT+100】【HP+100】【MP+200】

 

 

自然回復:装着者のHPとMPの数値を毎秒最大5回復。

 

 

「な、何これっ!?私が欲しいんだけど!」

 

「あげないから。で、人にレベルを尋ねたペインもレベルはいくつよ」

 

「36だよ」

 

「前線の攻略組って30台?」

 

「大体はそうだね。レベルが40を目前としているプレイヤーは俺が見た限り君しか知らないよ。攻略組でもない君が一体どうやってそこまでレベルを上げたのか興味が沸いた」

 

「うーん・・・・・あれ、毒竜以降ボスモンスターしかレベルを上げていない気がする」

 

言うなれば機械神とベヒモス、こいつらだけで38まで上げた。勿論普通のモンスターも倒してるぞ?ただ、初期のエリアのモンスターだとちょっと・・・・・。

 

「今度はジズを倒すつもりでいるのかな」

 

「まぁ、そんなとこ。また勇者の称号を取得したらどうなるのか気になるし」

 

「・・・・・勇者の称号?」

 

「ああ、うん。HPとMP、各ステータスに振る1ポイントが3倍になる効果の称号な」

 

次の瞬間。寝室が静寂な雰囲気に包まれ、俺は失言したと気付いた矢先。

 

「・・・・・その話、他のプレイヤーにも言ったのか?」

 

「いや、全然?」

 

「レベルに見合わぬ強さってのは本当のようだな」

 

「もしかすっと、全プレイヤーよりも強いんじゃね?」

 

「VIT極振りってことはもしかすると4桁いってるんじゃ・・・・・」

 

お、フレデリカ。正解だ。

 

「あともう少しで5桁超えそうな所まで増やしてるぞ」

 

「えっとー、お城の強度かな?」

 

「いやいや、完璧に要塞の域だよん」

 

こらそこ、要塞言うな。

 

「んじゃ、この話は終わりな。本題に入ろう」

 

「お爺さんの話の内容だね?ハーデス君」

 

イッチョウの指摘に頷く。

 

「そ、このイベントの背景がちょっとだけ見えた」

 

「守り神の具体的な話は聞けなかった理由は?」

 

「この村に対する貢献度じゃないか?あのお爺さんの口から『まだ』と言う言葉が出るぐらいだ。守り神は恐らく村の外、山の中にいると思う。守り神を倒したら個人のランキングは上がるがサーバーの順位は下がるかも」

 

ペインを除くドラグ達がペインに視線を向けた。

 

「守り神の話、聞いてなかったら知らずに倒してたかもな。主にペインがよ」

 

「言えてる」

 

「そうだねー。一人であっという間に倒しちゃうんだもん」

 

「否定はできないね」

 

流石攻略組。後先考えず倒しちゃうのは戦闘狂故か。

 

「ということでイッチョウ。明日、守り神を見つけてくれないか?」

 

「りょーかい!」

 

「じゃあ、私はこの話を他のプレイヤーの皆に教えて回るわね。個人のランクしか貢献できないし」

 

「ん、ありがとうなイズ。それじゃ、そろっと寝るか」

 

「ムー!」

 

「クマー!」

 

「キュイ!」

 

オルトたちが一斉に俺にダイブしてきた。ゆぐゆぐもいつの間にか俺の横の位置をキープしているし。

 

枕元のミーニィはともかく、他は寝苦しくないのか? 俺はシステムで勝手に睡眠状態になるだけだから、多分関係ないけど。

まあ、好きにさせよう。結局、右にゆぐゆぐ、左にオルト、枕元にミーニィ、足元にクママ、腹の上にメリープという形で落ち着いた。いやメリープおま、地味に重いんだが・・・・・。

 

「・・・・・私達、何を見せられているんだろう」

 

「ある種のハーレム状態?」

 

「うっさい、俺は寝るな?お休み」

 

皆の頭をそれぞれ撫でてやってから、俺はベッドに横たわった。そして睡眠時間を決めるウィンドウに6時間と入力し、決定する。

 

「おお、本当に眠気が――」



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イベント~二日目

~~~二日目~~~

 

 

そして、気が付くともう朝だった。いや、良いなこのシステム。メチャクチャ気分爽快で、なんかグッスリ寝た感が凄い。イッチョウ達は・・・・・俺より後で寝たのかベッドに寝転がったまま目を閉じている。同じ部屋で他のプレイヤーより早起きすると寝顔が見れるのか。

 

「ム~?」

 

「クマー?」

 

俺が動いたせいかオルト達が起きたようだ。ゆぐゆぐとミーニィ、メリープも起き上がる。

 

「キュイ~・・・・・」

 

「――♪」

 

「メェ・・・・・」

 

まだ眠そうなオルトやクママを尻目に、ゆぐゆぐは一足早く立ち上がると窓辺に近寄り、カーテンをシャッと開けた。そして、両手を左右に広げ、朝日を全身で浴びている。そういえばゆぐゆぐは樹木の精霊だし、光合成スキルも持っていた。日光浴が好きなのかもしれないな。俺はまだまったりしているモンスたちを残して、1階に降りた。寝ている間も満腹度は減るようで、20%まで減少している。

 

実は朝食を用意してもらえるのかどうか聞いていなかった。もし用意してもらえないのなら、台所を借りようと思ったのだ。

 

「おはよう。よく眠れたかい?」

 

「はい。俺もモンスターたちもグッスリでした」

 

「それは良かった。今朝食を用意するでね、少し待っていてくれるかい?」

 

おお、俺の分まで用意してくれるらしい。

 

「まあ、昨日のスープとパンだがね」

 

「だったら、俺に作らせてもらえませんか?」

 

「おお、そうかい? だったらパンのレシピから教えてあげよう」

 

ということで、お爺さんからパンのレシピを教えてもらうことになった。レシピを貰うんじゃなくて、一緒に作ることで教わるパターンらしい。

 

「まずはこれじゃ」

 

「食用草の粉末?」

 

 

名称:食用草・粉末

 

レア度:1 品質:★6

 

効果:食材。

 

 

お爺さんに聞くと、食用草を乾燥させて、臼で挽いて粉々にした物らしい。まあ、頑張れば俺でも作れるかな?ただ、品質が★5以下だと食用草の苦みが残ってしまうようで、気を付けなきゃいけないらしい。

 

「これを水で溶いて、塩を入れる」

 

「ふむ」

 

「こうやって捏ねて・・・・・」

 

お爺さんが普通に生地を練っていく。

 

「捏ね上がったらこのままボウルに入れて、30分ほど置いておく」

 

「イースト菌はいらないんですか?」

 

「なんじゃそりゃ?」

 

どうやらゲームの中にイースト菌は存在していないらしい。どこかにはあるのかもしれないが、この村では知られてないんだろう。

 

「これで15分経つと生地が良い感じに膨らむから、それを平らにしてオーブンで焼けば完成じゃ」

 

「なるほど」

 

イースト菌なしでも問題なく生地が膨らむんだな。

 

俺たちは生地が膨らむのを待つ間に、サラダを用意することにした。白トマト、ホレン草、それにキャベツそっくりの野菜、キャベ菜のサラダである。味付けは塩コショウだけだが、野菜が美味しそうだから問題ないだろう。

 

サラダが出来上がる頃には、パン生地は倍くらいに膨らんでいた。これは凄いな。食用草の効果なのか?

 

それを4分割して、さらに平たく延ばしてオーブンの中に並べた。このオーブンは魔力で点火できるタイプらしく、魔力を流して温度を設定したらそれで終わりだ。

 

「スープは昨日の分がまだあるが、もう一品くらい作ってくれるかね?」

 

「そうですね・・・・・。やってみましょうか」

 

「なあに、食材はたくさんある。好きに作ってみたらどうだい? 失敗しても構わないから」

 

「いいんですか?」

 

「ええよええよ。どうせわしが作るんじゃ、ろくなものはできないし。ハーデスくんの料理に期待じゃ」

 

これは嬉しい申し出だ。実は、色々な食材を見て、幾つかレシピが解放されているのだ。

とりあえず俺は、肉と野菜2種で解放されている????を作ってみることにした。多分、肉野菜炒めだと思うんだが・・・・・。

システムの指示に従い、ウサギ肉を切って小さくして、群青ナス、ホレン草を切ったものと一緒にフライパンで炒めていく。最後に塩を振って完成だ。

 

「やっぱり肉野菜炒めだったか」

 

「ほほう。美味しそうじゃないか」

 

朝からちょっとガッツリだけど、ゲームの中なら気にはならない。というか、平パン、スープ、サラダ、肉野菜炒めと、昨日の夕食より豪華なんだけど。出来上がった頃にはイッチョウ達が一階に降りて来た。挨拶を交わしつつ席に座って用意された料理に手を伸ばす。

 

「うむ、美味いな」

 

「そうですね」

 

俺はカイエンお爺さんと村のことを話しながら朝食を食べた。村は農業や林業、木工細工などが主な産業らしい。また、村の周りにはそれなりに強い魔獣がいるらしく、俺たちだとちょっと厳しいかもしれない。

一番弱いモンスターはラビット。その次にはリトルベアなどが出現すると言うから、少なくとも第2エリア相当の敵が出現するんだろう。

 

あと、お爺さんは昼食は外食で済ませるそうだ。なので、次に作るのは夕食だな。

 

「今日はどうするんだい?」

 

「畑仕事を済ませたら、冒険者ギルドに行ってみます」

 

「そうかい。頑張ってな」

 

「はい」

 

よし、みんなを呼んで畑に行こう。

 

 

 

 

 

 

「皆、行くぞー」

 

朝食後、俺はオルトたちを連れて畑に出た。まずは爺さんの畑からだな。

 

オルトとゆぐゆぐ、クママが水を運びつつ、俺とメリープが草むしりだ。まあ、メリープは大きな雑草なんかにむしゃむしゃと食べているだけだから、仕事しているのかと訊かれたら何とも言えない。なお、ミーニィは戦力外通告により、人の頭の上で寝ている。

 

「まだ収穫できないか」

 

鑑定してみると、白トマト、群青ナス、ホレン草、青ニンジン、橙カボチャ、キャベ菜となっている。

 

オルトの能力ならもう収穫出来ていてもおかしくはないと思うんだが・・・・・。昨日の水まきなどが、一部をカイエンお爺さんがすでに終えていたため、オルトの栽培促成exが機能しなかったのだろうか? もしくは、俺が畑の所有者ではないため、オルトのスキルが適用されないかだろう。

明日だな。明日収穫可能になっている作物があれば、オルトのスキルの効果があるってことになるからな。

 

「さて、次は果樹園に行くぞー」

 

果物屋さんの果樹園に到着すると、収穫可能な果物が目に入ってきた。こっちは問題なくオルトたちの育樹が仕事をしてくれたみたいだな。

 

だとすると、お爺さんの畑も明日は期待できそうだ。

 

 

「収穫するぞー」

 

「ム!」

 

「――♪」

 

「クマ!」

 

「キュイ!」

 

「メェー」

 

ここにリックがいたら収穫用のどんぐりを食べ出さないか心配だが、キチンと収穫してくれるよな?

 

 

報酬は今日の収穫物から4つなのだが・・・・・。とりあえず紫柿、緑桃を1つずつ、白梨を2つにしておいた。オルトとクママにどれが好きか聞いたら、オルトは白梨、クママは緑桃が好きらしい。

 

さて、ジュース用の果物は確保できた。後はこの果物が株分できるかどうかなんだが・・・・・。

 

「オルト、この果物は株分できるか?」

 

「ム~」

 

「無理か?」

 

「ム!」

 

無理らしい。NPCの畑の収穫物という時点で、株分の対象じゃなくなってしまうんだろう。盗みは駄目ってことか。まあ、この村にいるうちにできるだけ白梨を確保しておこうかな。オルトの好物なわけだし。

 

「さて、あとは収穫物をアイテムボックスに入れて――っと。これで仕事は一段落だな」

 

畑仕事を終えた俺たちは、再び冒険者ギルドに向かっていた。この村のギルドにはまだ足を踏み入れたことさえないからね。どんな依頼があって、どれくらいポイントがもらえるのかは知っておきたい。

 

「よし、今日はそこまで混雑してないな」

 

ギルドの外に列もないし、中を覗いても10人くらいのプレイヤーがいるだけだ。おお、空いてるっ!

 

「これだけなら問題ないな。行くぞ」

 

「ム!」

 

「クマ!」

 

「――♪」

 

ピシッと敬礼するオルト達だった。お前等、何時の間にそんなポーズを覚えた?一度もお前等の前にしたことは無い筈なんだが?

 

 

初めて入ったギルドは、非常に簡素な作りだった。木製のカウンターに、一応は冒険者が並ぶためのマークのような物が床に描かれている。ちょっと田舎のファーストフード店ぽいな。

 

ただ、小さいながらもクエストボードが設置してあり、冒険者ギルドなのだとなんとか分かった。

 

「依頼は普通の冒険者ギルドっぽいな」

 

採取や討伐依頼が多いんだが、常設依頼もある。ハニービーの討伐依頼となっている。片手間にやってみるか?あと、労働依頼が幾つかあるな。相変わらず屋根の補修とか、釣り竿の作成とか地味な依頼が多い。俺ができそうな依頼・・・・・ああ、畑の世話もあるな。

 

「場所によるんだよな。カイエンお爺さんの畑の側だったら、ついでにできるんだけど」

 

そう思って依頼の場所などを調べていたら、なんとお爺さんの畑の隣の畑だった。しかも結構大きいな。10面くらいはある。

うーん。これはかなり時間がかかりそうだ。それこそ、2時間くらいは取られるだろう。お爺さんや果物屋さんの畑と合わせたら、4時間か・・・・・。せっかくのイベント中なのに、やってることがいつもと同じになっちゃうんだよね。

 

でも、俺がポイントを稼ぐにはこういう依頼をこなすしかなさそうだし、受けておこうかな。まあ、達成条件は収穫を1回することとなっているから、オルトがいれば他の人よりも早く達成できるだろう。

それに、労働クエストは実は悪くない選択肢だ。労働クエストは報酬は安いが、イベントポイントが多めみたいだし。村の貢献度にもつながるかも?

 

因みに、依頼の報酬や経験値は普段の依頼と変わらないらしい。ただ、ギルドポイントが貰えず、代わりにイベントポイントが手に入るようだった。

 

「じゃあ、この依頼を受けます」

 

「はい。では、依頼の場所はマーキングしておきますので」

 

マップを見ると、畑ではなくて一軒の家に依頼マークが付いている。依頼主の家なんだろう。

 

俺たちはさっそくその家に向かった。歩いて向かううちに妙な違和感を覚えた。なんだ? そして、依頼主の家の前に辿りつくと、ようやく違和感の正体が理解できた。

 

1回来たことがある場所だったのだ。

 

「こんにちは~」

 

「いらっしゃい」

 

依頼主の家は、なんとあの気難しそうなおばあさんが営む雑貨屋さんだった。相変わらず不機嫌そうなおばあさんに、依頼を受けてきたことを伝える。

 

「ふーん・・・・・」

 

なんか値踏みされてる!余所者故なのか頼みごとをきちんとこなしてくれるか半信半疑なんだろうな。

 

「まあ、仕事さえしっかりしてくれりゃ構わないよ。場所は教えてやるから、世話をしておくれ」

 

「はい、お任せください」

 

「ム!」

 

「――♪」

 

「クマー!」

 

「キュイキュイ!」

 

「メェー」

 

「ふむ、従魔かい。ほうほう」

 

おや、もしかして従魔好き? 右手を上げて挨拶するオルトたちを見下ろす目が僅かに細められる。一瞬、孫でも見ているかのような優しげな雰囲気が感じられた気がした。

 

「ええ、大切な家族ですよ。特にこの羊のメリープ、触ってみますか?モッコモコですよ」

 

「そ・・・そうかい?じゃあ、触らせてもらうよ・・・・・」

 

と言ってメリープの羊毛を一度触れると頬が心なしか緩んで雰囲気も和らいだ感じがした。

 

「どう?すっごいモッコモコでしょ」

 

「そ、そうだね。確かに柔らかい羊毛だよ。私も欲しいぐらいにね」

 

「お?それなら丁度ここに二つほどの毛糸玉がありますが、編める道具があるならどうぞお近づきの印に」

 

金色の毛糸玉を献上してみると、おばさんの目が輝いたのを見逃さなかった。ふふん、NPCでもモフモフの魅了には逆らえないらしいな。これはいいことを知ったぞ。

 

「では、仕事してきますね」

 

ということで、俺たちはおばあさんの畑に向かい、水撒きや草むしりを皆で行ったのだった。明日収穫できたら嬉しいんだけどね。「さて、畑仕事も一段落したな」

 

まだお昼過ぎだし、夕食まで時間がある。どうしようかな。

 

「村の側だったら、そこまで危険じゃないと思うし」

 

一歩も外に出られないほどの凶悪な設定ではないはずなのだ。そもそも、戦闘に自信があるプレイヤーは武闘大会に参加してしまっている者が多い。

こちらのイベントには生産職や、まったり組が多いはずなのだ。そんなプレイヤーに対して、外出したら即死というレベルのモンスターをぶつけるような真似はしないだろう。それが俺の予想だ。

 

まあ、俺はそんなまったり系プレイヤーの中でも特に貧弱だから、気を付けなきゃいけないことに変わりはないんだが。俺はオルトたちを連れて村の入り口に向かった。村を囲む木の壁に唯一存在する門だ。門と言っても、出入りに制限があったりするわけではなく、普通に通り抜けることができた。

 

村の周囲は森に囲まれているので、遠くを見渡すことはできない。山に囲まれているのは分かるんだけどね。

 

「森に生えてる樹木は第1エリアと変わらないな」

 

ただ、採取ポイントの数が少ないのだろうか? 10分ほど歩いてみても、薬草などが採取できなかった。

 

 

さらに5分後。

 

 

ようやく現れたのは2匹のラビットだった。

 

 

「みんな、頑張れー」

 

「ム!」

 

「キュイー!」

 

「クマッ!」

 

「――!」

 

「メェー!」

 

おお、みんなやる気だ。この戦闘で、イベント期間中ずっと村に引きこもるかどうかが決まる。重要な戦闘だぞ?とか思ってたんだけど・・・・・。相手が弱すぎた。ラビット自体のレベルも低めだった様で、クママの爪にミーニィの魔法攻撃よって瞬殺であった。

 

俺抜きでもフィールドボスに勝てるくらいには強くなってるし、さすがにこの程度の敵には苦戦しなくなっているようだ。

 

「もう何回かこの辺りで戦ってみよう」

 

「ムム!」

 

あまり村から離れないように、フィールドを歩いてみる。村の近辺ではラビットしか出現しないようだ。しかも、3匹以上は現れない。やはりそこまで難易度は高くないようだ。

 

「全然歯ごたえが無いな」

 

「クマー」

 

「キュイ」

 

どちらかと言えば好戦的な性格のミーニィとクママが、どこか残念そうだ。実入りも悪いし、もう少し強い敵と戦ってみるか・・・・・。いたらの話だがもうちょっと奥まで行くか。常設クエストもあるし

 

ということで、村から少し離れてみた。村の周辺には杉の木が多かったんだが、この辺りからは杉が減り始め、多様な雑木が姿を見せ始めている。

 

「あ、そうだ。ミーニィ、ここで巨大化してくれるか?」

 

一度も試していないスキルを試さないと。ミーニィは俺の頭から飛んで離れて地面に降り立つと、小さな身体がオルト達も乗っても大丈夫なほどに大きくなった。しかもモフ度が上がっただろうこれ!

 

「おお、凄いな」

 

「グルル」

 

「あ、鳴き声が変わるんだ?乗ってもいいか?」

 

姿勢を低くするミーニィに自力で登れないオルト達をひょいっと俺を最後に乗せていく。俺も乗るとミーニィは力強く翼を羽ばたかせて空へと飛んだ。

 

「おおー!」

 

「ムムー!」

 

自力で飛ぶ以外に空を移動することが出来た感動に声を出すのは俺だけでなく、空の移動を堪能するオルト達も楽し気に声を上げる。ミーニィは己の意思で飛び回って森の奥へと連れて行ってくれた。

 

途中で降ろしてもらうと常設クエスト用のハニービーがいて、近くの木にはハニービーの巣があった。おお、しかもたくさんハニービーがいる。いい狩場を見つけてしまった。ん?黒い靄を纏ったハニービーが一匹交じってるがあれは?

 

「クックマー!」

 

「って、クママー!?」

 

蜂の巣=ハチミツに繋がってしまったか、クママが手から爪を生やしてハニービーに襲い掛かった。止める間もなく無双を振る舞い、黒いハニービー諸共蹴散らしながら巣に飛びついてしまった。ああ、もうしょうもないな・・・・・。

 

「クマ!」

 

巣をポリゴン化にしたクママが何かを差し出してきた。アイテムと化したハチミツに・・・お、ロイヤルゼリーじゃないか。

 

「くれるのか?」

 

「クママ!」

 

「因みにお前はどっちが一番の好物?」

 

ハチミツとロイヤルゼリーを指しながら訊くと、片方を上げた。ロイヤルゼリーの方だ。流石は熊のモンスター、舌も肥えているようだ。

 

「んじゃ、ロイヤルゼリーは食べていいぞ。頑張ったご褒美だ」

 

「クママー!」

 

ハチミツを受け取った俺の了承を得て、ロイヤルゼリーを食べるクママの顏は蕩けた。スクショで保存案件だ。パシャパシャっと。

 

「ムー・・・・・」

 

「オルト?って、ミーニィお前等も何だその目」

 

何か、クママだけズルい!とばかりのジト目で俺を見てくるのだが・・・・・。

 

「ああ、わかってるわかってる。この村でいっぱい頑張ったら必ずお前等の好物をたくさん食べさせてやるよ。約束だ」

 

「ムム!」

 

「グルル!」

 

「メェー!」

 

喜びを露にする現金な奴らめ。そこが可愛いがな!ただ、ゆぐゆぐはオルト達と違って食用の好物はない。なのでその代わり俺に向かって頭を下げ撫でろと訴えてくるので抱きしめながら撫でる。すると俺の首に腕を回して抱き着いてきては顔を摺り寄せるゆぐゆぐ。

 

「ムムー!」

 

ゆぐゆぐの行動に触発された模様のオルトまで抱き着いてきて、メリープも脚に身体を擦り付ける。ロイヤルゼリーを食べ終えたクママや巨大化した顔でミーニィも引っ付いてくる。

 

「ちょ、またこのパターンか!」

 

村からかなり離れた森の奥で俺は従魔にもみくちゃされる。幸いプレイヤーの誰もいなかったから誰にも見られることもなく恥ずかしい気まずい思いせずに済んだ。

 

 

 

 

 

「ただいまー」

 

家に戻ると、どうやらカイエンお爺さんはまだ帰ってきていないらしい。

じゃあ、お爺さんが戻ってくる前に、夕食の準備をしちゃいますかね? 色々と試してみたいこともあるし。まずは、失敗の恐れがなさそうなスープからだな。

 

「調味料はっと・・・・・あったあった。結構色々あるじゃないか」

 

NWOで料理を作るとき、何も調味料を入れなくても僅かに塩味が付く。まあ、ギリギリ不味くない程度だけど。だが、キチンと調味料を使えばもっと美味しい料理が作れるはずなのだ。始まりの町では塩と胡椒しか見たこと無かった。しかし、カイエンお爺さんの家にはそれ以外にも数種の調味料類が置かれていた。

 

「塩、胡椒、醤油、味噌、オリーブオイルか。いつか栽培して入手したいもんだ」

 

俺はとりあえず醤油と味噌を取り出してみる。軽く手に取って舐めてみると、それはまさしく醤油と味噌だった。ただ、味と匂いはそこまで良くはないかな? リアルで食べている物よりは劣ると思う。

 

「まあ、それでも醤油で味噌だからな。これでスープが作れるぞ」

 

スープと言うか、味噌汁だけどね。本当は出汁も取りたいところなんだが、出汁が出そうな物が何もない。和食の料理人さんがやってるような野菜で出汁を取るなんて高度な真似、俺にはできないし。魚介類でもあればいいんだけど。明日、村で売ってないか探してみよう。

 

おっと、スープの前にパンの生地を捏ねておこう。

 

「ムー?」

 

「――?」

 

「なんだ? 気になるのか?」

 

「ムム!」

 

ミーニィとメリープとクママは部屋の隅で寝ているが、オルトとゆぐゆぐは俺がやっていることが気になったらしい。ボウルでパン生地を捏ねていると、左右からのぞき込んできた。

 

「ムム!」

 

オルトの鼻息で吹き飛んだ乾燥食用草の粉が、ゆぐゆぐの顔に降りかかる。

 

「――!」

 

粉が目に沁みたのか、ゆぐゆぐは目をゴシゴシこすりつつ呻いていた。その後、ちょっと怒った顔のゆぐゆぐに睨まれ、オルトは気まずそうに首をすくめる。

 

「――!」

 

「ム~・・・・・」

 

「ふふっ」

 

そんな姿を見て思わず笑ったら、オルトに怒られてしまった。ムッとした顔で俺の足をポカポカ叩いている。だが、その可愛い怒り方がより笑いを誘う。

 

「わはははは」

 

「ムー!」

 

オルトと追いかけっこをしていたら、あっと言う間に時間が過ぎてしまった。危ない危ない、お爺さんが帰ってきちゃうよ。

 

俺はオルトたちに少し離れた場所で見学するように言うと、料理に戻った。さて、パン生地の発酵を待つ間にスープへと取りかかろう。

 

「具は、ウサギ肉、青ニンジンだ。待てよ、群青ナスも入れちゃおうか?」

 

スープのレシピは水に具材2種類なのだが、昨日のお爺さんのスープには具材が3種類入っていた。ということは、俺でも具材が増やせるのではなかろうか?

 

「物は試しだ。やってみよう」

 

鍋に水を沸かし、青ニンジン、群青ナス、兎肉を投入する。味噌と少量の塩もだ。

 

そのままグツグツと煮込んでいくと、良い匂いが漂ってきた。うーん、いい感じにおいしそうだ。まあ、見た目は最悪だけどな。想像してみてほしい。茶色の味噌汁の中に、色鮮やかな青と群青の具材が大量に浮いているのだ。非常に食欲をそそらない光景だった。

 

だが失敗してはいない。鑑定してみると、きちんと味噌汁と表示されているからな。鍋1つで4人前らしい。

 

 

名称:味噌汁

 

レア度:2 品質:★3

 

効果:満腹度を28%回復させる。HPを4%回復させる。

 

スープを作っている間に生地の発酵が終わったので、延ばしてオーブンに入れておく。これで2品目だ。

 

「あと2品は欲しいところだな。サラダでも作っておくか」

 

作るのはもう手慣れたもので、4分くらいでチャチャッと作れてしまった。白トマトとホレン草、キャベ菜のサラダである。味付けは塩、胡椒、オリーブオイルでイタリア風に仕上げてみた。

 

「最後はメインか・・・・・。よし、焼肉だな!」

 

これも焼くだけだから簡単だ。だが、味付けに少し凝ってみようと思う。

 

「乾燥!」

 

まずはバジルル、セージを乾燥でハーブティーの茶葉にする。そこに混ぜるのは塩だ。ハーブ塩を作ってみるつもりなのだ。擂り粉木でゴリゴリと混ぜていくと、茶葉は粉々になって塩と混ざりあっていく。お、微かにハーブの香りがしてきたぞ!

 

「よし、完成だ」

 

鑑定してみると、きちんとハーブ塩という名前に変化しているではないか。品質は★2だから、作り方が悪いんだろうが、成功は成功である。

 

焼いたウサギ肉にパラパラと振りかければウサギの焼肉、ハーブ塩仕立ての完成である。まあ、名前は焼肉・ウサギ肉という素っ気ない物だったが。

 

とりあえず自分の分を味見してみよう。不味い物をお爺さんに出すわけにはいかないからな。実際、品質が★2の調味料を使っているわけだし、本当に美味しいかどうかは分からない。

 

「じゃあ、いただきまーす」

 

「ちょっと待ったー!!!」

 

食事をしようとする俺に待ったをかけたプレイヤー、イッチョウ。続いてイズまでもが現れる。

 

「やっぱり一人で食べようとしてたね。ハーデス君の手料理は見逃さないよん!」

 

「く、何故分かった」

 

「いや、この時間帯ってリアルでも夕食の準備、夕餉の時間じゃない」

 

・・・・・リアルでの生活習慣が原因か!こいつも料理は作れるが俺の料理のレベルに一週間の殆んどは俺に作らせるんだよな。

 

「しょうがない・・・・・こんなことあろうかと作り置きしていたもんを出すか。言っとくがまだ作っている最中だからな。これは味見用だ」

 

「え、何?」

 

蟹チャーハンをドン!と二人の前にインベントリから取り出した。これを見て二人は驚いた風に目を丸くした。

 

「え、チャーハン?まさか、まだ見つかっていないお米を見つけたのハーデス」

 

「そこにいるイッチョウと一緒にな。運がいいことにイベントが始まる前に収穫が出来たんだ。で、速攻で料理した」

 

「流石は防御極振りのテイマーにしてファーマーしてる先駆者のハーデス君!お米料理を実現させたね。あとは豆を発酵して納豆の完成頑張って!」

 

他力本願の納豆小町に豆は自分で見つけてこいと言い返して焼肉を口に入れてみると、肉は多少硬いものの、きちんとハーブ塩の味がする。ハーブの香りもしっかりと残っている。うーん・・・30点だな。

 

ハーブの香りがかなり強いのだ。俺はハーブ類が好きだから気にならないが、ハーブが苦手な人だったら、エグ味や雑味が残ってしまっているように感じられるかもしれない。

 

「・・・・・今日のところは醤油味噌で味付けしとこうかな」

 

ハーブ塩味を出すのは、味見をしてもらってからにしておこう。大人しく醤油と味噌で味付けをした焼肉を作っておいた。さて、これで4種類。夕食には十分だろう。

 

だが、お爺さんはまだ帰ってこない。だったら、少しだけ実験をしてみようかな。

 

実は、平パンを見たときからどうしても作ってみたい料理があったのだ。今日、オリーブオイルを見てその思いはさらに増してしまった。

 

平パンに、トマトに、バジルル、オリーブオイル。そう、ピザである。サクサクモチモチの平パンに、たっぷりのオリーブオイルとトマトソース。それだけでも十分美味しそうだ。チーズがあれば完璧だったんだが、この世界ではまだ見たことが無かった。心の底から残念だ。

 

課題はそれだけではない。まずは肝心のトマトソースを作れるかどうかを確かめなくてはならなかった。

 

刻んだ白トマトを鍋にかけ、塩、胡椒を振った後はただひたすら混ぜていく。色は白いホワイトソースみたいなのに、匂いはトマト。すっごく違和感があるな。

 

だが、15分ほど混ぜ続けていたら、それっぽくなってきたぞ。トマトの原形はほとんどなくなり、見た目やドロドロ具合は完全にソースのそれだ。

 

「よし、最後の仕上げだ」

 

俺は意を決して鍋に魔力を流し込んだ。上手くいけば何かが出来上がるし、失敗していればゴミとなる。

 

すると、ポンという音を立てて、俺の目の前に白いソースの入った小瓶が置かれていた。名前は白トマトソースとなっている。品質は★3だが、紛れもなくトマトソースだ。

 

「おし、やったぞ!」

 

これでピザが作れる! いや、それだけじゃない。一気に料理の幅が増えたぞ!

 

「ふっふっふ、明日はこのトマトソースでピザだな!」

 

ということは、俺がやることは1つだ。なんとしてもチーズを手に入れる。モッツァレラとは言わん。チーズであれば何でもよい。それさえあれば、ピザが完璧なピッツァとなるのだ!フハハハハハ!

 

「ハーデス、料理に関するとイキイキしてない?」

 

「リアルだと料理を極めすぎたあまりにオリジナルの調味料まで作っちゃうほどだよ。その調味料も美味しいからついつい食べ過ぎて最近体重が・・・・・」

 

「完全に主夫・・・・・でも、興味があるなぁ」

 

「そう?神奈川県の川神市に来てくれるなら家に案内してあげるよん」

 

「あら、そこなのね?今度遊びに行っていいかしら?」

 

「どーぞどーぞ」

 

何やらリアルで会う約束をしているらしいが、遅れてペイン達が顔を出してきた。

 

「お?飯を作ってくれたのか?」

 

「これは俺とカイエンのお爺さんの分だ」

 

「なら、二人の前に置いてるチャーハンは?」

 

「事前に作り置きしてた料理だ。お前等は何か夜食用に食べなかったのか?」

 

「また料理を用意してくれると思ってたからね」

 

「あのお爺さんがいないとするとまだ用意されていなかったのかぁ~。不味い携帯食で空腹度を満たすしかないか・・・・・」

 

嫌そうに携帯食を出して食べるフレデリカを見て、誰も料理を作らないのかと思ってしまった。

 

「はぁ・・・しょうがない。作り置きした料理を出してやるよ」

 

塩もあるし丁度いいな。四人に対しては茹でガニと焼きガニ、蟹チャーハンに蟹ピラフと現状作れるカニ料理×2を惜しみなく出した。

 

「か、蟹だぁー!?」

 

「まさか、このイベントで蟹を食べられるとは驚いたぜ・・・!」

 

「どれを食おうか迷ってしまうな」

 

「確かに、どれも美味しそうだよ。ハーデス、お礼はお金でいいかな」

 

「お礼は前線プレイヤーとして食用のアイテムを譲ってくれればいい。簡単だろ?」

 

ペインは薄く笑って頷き交渉を成立した。四人は蟹料理を食べ始め美味い!と舌鼓を打つ。

 

「イッチョウ、守り神の情報は?」

 

「うーうん。見つからなかったよん。どこにいるのかなー」

 

「俺達もクエストをこなしながら探してみたが、影の形も見当たらなかったぜ」

 

ペイン一行も見当たらないで今日を終えたか。

 

「ていうか。この料理にバフまでついているのかよ。勿体ねぇな」

 

「確かに。AGIが一定時間+10は凄すぎだ。フレデリカ、お前もできない?」

 

「むーり。前線プレイヤーは不味い携帯食で空腹度を満たすことしか考えてないじゃん。そんなプレイヤーに交じってる私やペイン達も料理スキル取得してると思ってる?」

 

ペイン自身も否定しない辺り、攻略に専念しているのが良ーくわかった。イズが顎に指で触れ視線を上に向いたまま口にした。

 

「第3エリアから解放されたから今度は第6エリアまでしか進めないかしら?仮にだけど」

 

「となるとさらに先に進むためのギミックは当然のようにあるということだね」

 

「俺もそろそろ進まないとな。第3エリアの町すら入ってないでこのプレイ状態だぞ」

 

「「「「はっ?」」」」

 

ペイン達が呆けてこっちを見る視線は敢えて無視する。事実なんだからしょうがねぇだろ。

 



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イベント開始~三日目 村人の交流

イベント3日目。

 

今日もモンスまみれの状況で目覚めた俺は、微睡んでいる皆をベッドに残して、キッチンに向かった。そして、早速朝食作りに取りかかる。平パン、不味そうな見た目の味噌汁、野菜炒めの簡単料理だけどね。ただ、カイエンお爺さんの家にはもう肉が無かったので、肉は昨日の夜狩りで手に入れてきたウサギ肉を使っている。

 

「今日はどうするんだい?」

 

「実は幾つか欲しい物があるんですけど、村で手に入りますかね?」

 

「何が欲しいんじゃね?」

 

「魚介類ですね。海の産物があればベストなんですけど。あとはチーズも欲しいです」

 

「こんな辺鄙な村に、海の物が入ってくるわけないじゃないかい」

 

「そうですか~」

 

ですよね~。ここは海から遠そうだし、まあ期待はしていなかったが。

 

「川魚なら、リッケの奴に頼めば用立ててもらえると思うが」

 

「リッケ?」

 

「うむ、川漁師見習いのリッケじゃな。本来はその父親が魚を獲っているんじゃが、今は武闘大会の観戦に出てしまっておるでの。息子のリッケが代わりに働いとる」

 

じゃあ、そのリッケっていう人に会えれば、魚が手に入るかもしれない。鮎などで出汁を取ったラーメンを食べたこともあるし、川魚でも出汁が取れないということはないだろう。なにより、普通に魚が食べたい。これはぜひ訪ねてみなければ。

 

「あと、チーズはアバルの所に行けばあると思うぞい?」

 

「その人は酪農家さんだったりします?」

 

「うむ。そうじゃ」

 

この村は自給自足なので、商店に卸したりするのではなく、生産者が家などで直接販売していることが多いらしい。これは本当に良い情報だな。そうか、店で買うだけがアイテムの入手方法じゃないってことだよな。

 

「他にも家で細々と販売しているような人はいますか?」

 

「そうじゃな・・・・・。茸採集をしてるバッツと、狩人のカカル、あとは豆農家のクヌートは自宅で細々販売しておるよ?」

 

ほほう。全て面白そうだ。俺は全部の家の場所をお爺さんに教えてもらい、今日のうちに回ってみることにした。その前に畑仕事だけどね。カイエンお爺さんの畑に向かうと、お爺さんの畑には、様々な野菜が育っていた。やはりオルトの栽培促成exと、ゆぐゆぐの樹魔術の力は偉大だわ。

 

「よし、今日は収穫できるな」

 

「ム!」

 

「――♪」

 

「クマ!」

 

「キュイ!」

 

「メェー」

 

ただ、この後どうすればいいんだろう? 全部収穫して家に運べばいいのか? この後、種まきは?

俺はオルトたちに畑を任せて、一旦お爺さんにどうするのか聞きに戻った。すると、半分は株分して畑に蒔くのだそうだ。それも俺たちにやらせてもらう。オルトたちの経験値稼ぎにもなる仕事だからね。

畑に戻ると、皆が楽し気に畑仕事をしている様子が目に入ってくる。長閑な畑で一所懸命働く妖精や動物たち。うーん、いつ見てもファンタジーな光景だ。

 

「ムッムッム!」

 

「――♪」

 

オルトとゆぐゆぐは野菜を収穫しているが、そのやり方も微妙に違う。オルトは威勢よくブチブチと抜いていくが、ゆぐゆぐは一個一個丁寧に収穫している。品質に差は出ないと思うが・・・・・。大丈夫だよな、オルト?

 

クママとメリープは協力して草むしりをしている。しっかりと役割分担ができているようで、クママが根の強そうな大きい雑草を、メリープが小さい雑草を引き抜いていた。お、今日は食わずに噛んだまま引き抜く技を身に着けたか。

 

「メェ~」

 

「クマクマクマー!」

 

特にクママは草むしりに意外な才能を発揮しており、普段は敵を斬り裂く鋭い爪で、まるで耕運機のように土を掘り返しては次々と雑草を駆除していった。いつもと違う畑での仕事にも慣れてきたのか、昨日よりもかなり早く終わっている。この調子だと、他の畑でも時間が短縮できるかもしれないな。

 

お爺さんの畑の次は、おばあさんの畑に向かう。こっちも様々な野菜が収穫可能だった。今日は収穫するだけで種まきが無いからね。サクサクと仕事が終わってくれる。

 

 

1時間後。

 

 

おばあさんの畑の後、果樹園での仕事を終えた俺たちは、皆で連れ立って村の中を歩いていた。目指すはおばあさんの店。そして、生産者の皆さんの自宅である。

最初はおばあさんの雑貨屋だ。畑で収穫した野菜を納品して、依頼達成だからね。

 

「おはようございまーす」

 

「あんたは昨日の旅人かい? 何の用だい?」

 

「作物の納品にきましたー」

 

「おや、ずいぶん早いじゃないか。それは助かるね。で、どんな塩梅なんだい?」

 

「これです」

 

品質が低いとか怒られたらどうしようと心配しつつ野菜をおばあさんに手渡す。おばあさんはギョロッとした目でしばし野菜を見つめていたが、すぐに口元をクイッと上げるニヒルな笑みを浮かべた。

 

「いい出来じゃないかい。これなら問題ないね」

 

「そうですか、良かった」

 

「報酬はギルドで受け取りな。早く納品してくれた分、色を付けておくよ」

 

「ありがとうございます」

 

収穫してきた野菜はおばあさんのお眼鏡に適ったらしい。まあ、嬉しさよりも怒られずに済んだ安堵の方が大きいけどね。おばあさんの店を辞去した俺たちは、そのままの足で冒険者ギルドへ向かった。ギルドは今日も空いてる。クエストの達成を報告すると、予定よりもポイントが多くもらえた。多少のお金なんかよりも、余程嬉しいボーナスだ。

 

俺はそのままの流れで、何かできそうなクエストが無いか掲示板を覗いてみた。そして、ある1つの労働クエストに目が止まる。

 

「またあのおばあさんの依頼が出てるじゃないか」

 

それはいま達成したばかりの畑の世話をするクエストだった。依頼主も依頼内容も全く同じだ。どうやら無限に繰り返しができるクエストだったらしい。

 

俺は迷うことなくクエストを受けておいた。俺にやれそうなクエストの中では比較的ポイントが良いからね。普通なら数日かけて野菜を育てて、納品するクエストなんだろう。それを俺たちなら毎日繰り返せるのだ。いやー、美味しいね。そして楽だ!

 

俺は再びおばあさんの店に行って、クエストを再び受領した。この辺は学習型のAIらしく、2度目だからという理由で詳しい説明などは端折られた。テレビゲームだったら、MPCからまた面倒な説明を受けなきゃいけないところだった。

 

2時間後。

 

おばあさんの畑の水やりなどを全て終えた俺たちは、カイエンお爺さんに教えてもらった生産者さんの家へと向かって歩いていた。最初は、酪農家のアバルさんのところだ。ここは俺も知っている。先日村を歩いた時に見つけた、村はずれの牧場だろう。牛が数頭いたのは覚えている。

 

「すみませーん」

 

「ほーい?」

 

牧場横にある一軒家の扉のノッカーを叩いてみる。勿論、ノッカーは牛の頭の形で、鼻輪の部分を叩く仕様だ。運営、分かってるじゃないか。しばらくすると、中から恰幅の良いおじいさんが顔を出した。

 

「おや、旅人さんかね?」

 

「こちらでチーズを譲ってもらえると聞いたんですが・・・・・。自分にも譲ってもらえますかね?」

 

「おお、そういうことか・・・・・」

 

俺の問いかけに、アバルさんが難しい顔で考え込んでしまった。あれ? 売ってもらえない?

 

「うーん、村の人以外に売ることを考えてないんだよね。それに、数も多くないから、君に売ってしまうと村の分が足りなくなってしまうかもしれない」

 

「なるほど」

 

「だが、わざわざ来てくれてただ追い返すのも忍びない」

 

「ということは?」

 

「願いを1つ聞いてくれないかい? その報酬として、我が家で食べる分のチーズを譲ろうじゃないか。どうだい?」

 

おっ、突発依頼発生か? ぜひ受けたい! 内容次第なんだけど・・・・・。

 

「やってもらいたいことは、お菓子の調達なんだが」

 

「お菓子?」

 

「ああ、最近は友人たちとお昼にお茶をしてるんだが、次のお茶会で私がお茶菓子を用意する番なんだよ。でも、心当たりがなくてね~。果物でも買おうかと思ってたんだが、5人分、何か用意できないかい?」

 

お菓子か。どれくらいの物ならお菓子と認定されるかだな。ハチミツナッツクッキーは持っているが、アイテム図鑑には携帯食料と同じページに表示されている。

 

もし、カテゴリとしてのお菓子じゃないとダメと言うなら、用意するのはそこそこ頑張らないといけないだろう。とりあえず聞いてみようかな。

 

「クッキーとかで構わないんですか?」

 

「どういう物かね?」

 

「えっと、これなんですが」

 

「おお! これはいいねぇ!」

 

俺はインベントリに仕舞っていた、ハチミツナッツクッキーを渡してみた。すると、アバルさんは喜色満面で頷いている。これでもお菓子と判断してもらえたらしい。なんか、一瞬で依頼達成してしまった。

 

「じゃあ、5枚でいいんですね?」

 

「ありがとう! みんな喜ぶよ!」

 

こうして俺は念願のチーズを手に入れたのだった。しかも、想像してたのよりもデカイ、ホールのチーズだ。30食分もあるらしい。

 

元手もほとんどかかっていないクッキーが、チーズに化けるなんて、わらしべ長者の気分である。俺が得しすぎな気もするが、イベント内のクエストだしな。初めから所持したんでなければ、村の中でお菓子を手に入れるのは結構苦労しただろう。

 

「トマトソースにチーズにオリーブオイル、バジルルもある。これでイタリアンが色々と作れるぞ~」

 

アルバさんの牧場で念願のチーズを手に入れた俺は、意気揚々と次の目的地に向かって歩いていた。目指すは最も近い、豆農家のクヌートさんちだ。豆農家と言うと、豆しか置いてないんだろうな。普通のプレイヤーならスルーしてしまうかもしれないが、俺はかなり期待している。豆と言えば、始まりの町で見た焼豆だ。リックの好物だと思われる。あの豆を自分で作れるようになったら? リックが喜ぶだろう。

 

もし種が買えないのであれば、仕方ないので豆を買えるだけ買っておくつもりだ。

10分ほど歩くと、一軒の農家が見えてくる。裏庭を見ると、確かに蔓の生えた植物が植えられている。あれが豆かな?

 

外見は本当に普通の民家だ。ここで豆が買えるなんて誰も思わないだろう。

 

「すいませーん。どなたかいらっしゃいますかー?」

 

「はーい」

 

農家の扉をノックすると、すぐに反応があった。中から出てきたのは小柄な女性だ。20歳くらいだろうか。このお姉さんがクヌートさんなのだろう。俺の姿を訝しげに見ている。

 

「あら? 旅人さん? いったいうちに何の用ですか?」

 

「こちらで豆を栽培していると聞いてきたんですが。少し分けていただきたいんです」

 

「まあ、誰に聞いたんです?」

 

クヌートさんは少し困り顔である。どうやら、あまり歓迎されていないらしい。アバルさんちでチーズを買うときにも聞いたが、基本は村で消費される分しか生産していないようだし、急に売ってくれと言われても困るのかもしれない。

 

「カイエンお爺さんです。いま、お家でお世話になってまして」

 

「カイエンさんの紹介じゃ、無下にもできないわねー」

 

もしかしてただ訪ねてくるだけじゃ、追い返されてた可能性があるのか? ありがとうカイエンお爺さん。でも、まだ渋い顔をしている。

 

「ほら、お前らからもお願いしろ」

 

ちょっと卑怯だが、俺は従魔たちの持つ最大の力を活かすことにした。力、それすなわち可愛さなり!

 

くくく、あの気難しそうな雑貨屋のおばあさんさえオトした、うちの従魔たちのあざと可愛い上目遣いを食らうがいい!

 

「ム?」

 

「――?」

 

「キュイ?」

 

「クマ?」

 

「メェ?」

 

お願いするように、そっと彼女の足に手を添えるうちの子たちの姿に、クヌートさんは完全に撃沈したな。

 

「か、かわいい・・・・・! やだ、何この子たち!」

 

「ふふ、そうでしょうそうでしょう。自慢の可愛い子達、特にこの羊ちゃんの羊毛の触り心地は最高です」

 

皆の頭を順番に撫でて、至福の表情である。今にも抱き付きそうな笑顔だ。

 

「はっ!・・・・・ごほん」

 

だが、俺の視線に気づいたんだろう。ちょっと気まずそうに咳ばらいをすると、居住まいを正した。

 

「そ、それで、何が欲しいんですか?」

 

よし、一応売ってはくれるらしい。

 

「ソイ豆? それとも味噌か醤油かしら?」

 

何? 今、聞き捨てならない言葉があったぞ。

 

「味噌と醤油が売ってるんですか?」

 

「それはそうですよ。豆農家ですから」

 

そうか、お爺さんの家にあった味噌と醤油はここで買ってたのか。それにしても、育てた豆を自分の家で調味料に変えるところまでやってるんだな。

 

「欲しいのは、豆、味噌、醤油、あと豆の種があれば欲しいんですけど」

 

「うーん、種は余ってないですね。他の物なら少し分けてあげますよ」

 

やはり種は無理だったか。でも、味噌などが手に入るのは素直に嬉しい。ついでだから聞いちゃおうか?

 

「味噌とか醤油って、豆からどうやって作るんですか?」

 

「簡単ですよ? 豆を煮て、潰した物にお塩を入れて発酵樽という魔道具に入れて発酵させるんです。塩だけなら味噌。塩水なら醤油になります」

 

「その発酵樽って、この村で手に入りますか?」

 

「いえ、さすがに村では売ってないですね。私も、始まりの町で購入しました」

 

ああ、イッチョウの話通り始まりの町で売ってるのか。じゃあ、俺が発見できなかっただけで、どこかで売ってる可能性もあるな。それに、焼豆が売ってるなら豆は手に入るだろうし、自作できちゃうかもしれない。

 

だが、そう簡単な話ではないようだ。

 

「でも、発酵樽はその名の通り、発酵スキルが無くては使えませんよ?」

 

「発酵スキル? そんなものまであるのか・・・・・」

 

そういえば、ブリュワーっていう職業もあったし、おかしくはないか。もしかしたら酒とかも造れるのか?醗酵スキルもルフレが持っていたし発酵樽ってのを使えるな。クヌートさんに聞いてみたら、発酵スキルは酒を造ったり、ヨーグルトなんかも作れるらしい。

自作のワインとかビールで一杯なんて、面白そうだよな。オルトたちが酒を飲んだ時の反応とかも見てみたいし・・・・・。まあ、とりあえずイベントが終わるまでは保留かな。町に戻ったら調べてみよう。

 

俺は豆を10食分。味噌、醤油を1甕ずつ購入して、豆農家を後にした。甕と言っても、小振りな3リットルくらいの甕なので、あまり多くは買えなかったが仕方ないな。手に入っただけでもラッキーとしておこう。

 

「次にここから一番近いのは・・・・・」

 

豆農家さんから一番近いのは、茸採集のバッツさんの家か。皆とじゃれ合いながら向かっても、5分かからんかった。だが、誰も出ない。どうやら外出中らしい。残念だ。また夕方にでも来てみよう。

 

「となると、狩人のカカルさんの家が近いな」

 

漁師さんの家も、ほとんど同じくらいの距離だけどね。

 

どちらも村の入り口付近にあるので、その途中で中央広場を通る。すると、かなりの注目を浴びているのがわかった。まあ、うちの子たちがだけどね。

 

女性プレイヤーから黄色い悲鳴が上がっているし、明らかに俺の足元に視線が集中している。毎度のことなんだけど、アイドル並みの注目度だなこいつら。俺がオルト達の人気度を改めて思いしりながら広場を通り抜けようとしていたら、後ろから声をかけられた。

 

「あのー、すいません」

 

「?」

 

振り返ると、見知らぬ男性が立っている。軽装の胸当てと籠手、武器は剣と剣士職業を選んだプレイヤーか。

 

「白銀さん、ですよね?」

 

「渾名として知れ渡ってるがな」

 

その異名に対して、ここで否定しても仕方ない。俺は首肯した。

 

「それで何か?」

 

「あのですね、お聞きしたいことがあるんですが、少しお時間よろしいでしょうか?」

 

精悍な顔立ちからは想像できないくらい、すごい腰が低い。気が優しい性格か?

 

「質問だったら答えられる範囲ならいいぞ」

 

「ありがとうございます。お聞きしたいのはですね、どこにお泊りなのかってことなんです」

 

「ん?どういうこと?」

 

男の話によると、村には泊る場所が不足しており、かなりの人数のプレイヤーが困っているらしい。宿屋は少人数しか宿泊できず、テントも広場以外では使用できないようだ。

 

村の外でテントを張ることも可能だが、テントはセーフティゾーンでないので普通にモンスターに襲われ、村の適当な場所で野宿をしても、HPなどが一切回復しないらしい。

今では広場で何とか場所を譲り合って順番で寝ているようだった。

 

そして、広場を利用するためのタイムテーブルを利用するために名簿を作成している最中に、彼らは俺が広場にも宿屋にもいないことに気づいたんだとか。まあ、俺たちは目立ってるし、気づかれるのは仕方ないかな?

 

「つまり、どこに宿泊してるのか知りたいってことか?」

 

「というよりも、宿と広場以外に泊まれる場所があるんなら、教えてもらいたいんです。ダメでしょうか・・・・・?」

 

やっぱりそんな状態に陥ったか。別にダメじゃないが。これ以上カイエンお爺さんの家に招待することはさすがにできないが、NPCの家に泊めてもらえるという情報は教えてあげても特にデメリットはないだろうし。

 

俺がNPCの家に泊っていると伝えると、男は非常に驚いた顔をしている。

実は、初日に試みたプレイヤーが複数いたらしい。だが、にべもなく断られてしまい、プレイヤーたちは無理だと判断しているんだとか。ペイン達と同様か・・・・・。

だが、詳しい話を聞いて何となく分かった。彼らは何の見返りも提示せず、ただ善意にすがって泊めてほしいと頼んだのだろう。

 

あれ、俺は交渉してもダメだったとペインから聞いたんだが?あいつらの交渉の仕方がダメだったのか?

 

俺は偶然だが、畑仕事を手伝い、その代わりに泊めてもらっている形になっている。多分、その差だ。俺はそのことを男性に教えてやった。

 

「なるほど、何らかの手伝いをして仲良くならなきゃダメってことですか」

 

「憶測だけどね。まあ、労働クエストなんかの村人の役に立つクエストもあるし、試してみたら?」

 

「そうですね。この情報、皆に広めて構いませんか?」

 

「いいよ」

 

「ありがとうございます! とても助かりました!」

 

男は最後まで礼儀正しく頭を下げて、去っていった。サーバーポイントじゃ貢献できそうもないし、こういう所で少しでも役に立っておかないとな。

 

 

 

 

広場で少々時間を使ったものの、俺たちは無事に狩人のカカルさんの家を発見できていた。

とりあえず声をかけて、ノックしてみる。

すると、家の扉が少しだけ開いた。10センチほどの隙間が空く。おっと、もしかして警戒されてる? そのまま待っていたら、扉の隙間から何かが動くのが見えた。

 

人だ。見上げるような高い位置に、老人の顔が確認できた。ギョロリとのぞく老人の目が不気味だ。

ちょっと前に流行った、排他的な寒村を舞台にしたサバイバルホラーにこんなシーンあったな。この後、余所者は去れ! とか叫ばれて、そのまましつこくすると鉈を持った老人に追いかけられるのだ。

 

「余所者か」

 

え? 嘘。もしかしてサバイバルホラー展開なの? 長閑で綺麗な田舎の村だと思ってたのに、実は恐ろしい闇が潜んでいるのだろうか? 優しいと思っていたカイエンお爺さんも、実は夜な夜な怪しい儀式を行う狂気の人だったりするのか?

そんな恐ろしい想像をしていたら、扉が静かにゆっくりと開いた。中から、白いひげを蓄えた、筋骨隆々のお爺さんが出てくる。

 

迫力あるなー。身長も俺よりはちょっと高いし、その眼光は鋭い。眉間から頬にかけて深い傷跡が走っており、どう見ても山賊の頭領か、歴戦の古強者であった。元最強の冒険者とか言われても納得してしまう風格がある。

 

しかもその右手には巨大で分厚い鉈が握られており、その迫力を倍増させていた。あれ、冗談で言ってたのに、本当に襲われたりしないよな?

 

「こんにちは」

 

「ああ」

 

「カカルさんでしょうか?」

 

「うむ」

 

一応頷いてくれているが、表情は全く動かず、内心でどう思っているのかは全然わからない。俺は失礼のないよう注意をはらいながら、お爺さんに質問をした。

 

「こちらで、カカルさんが仕留めた獲物を譲っていただけるという話をカイエンのお爺さんから聞いてきたんですが、自分にもお売りいただけますか?」

 

カイエンお爺さんの名前を出すと、カカルさんの表情が少しだけ和らいだ気がした。鬼だったのが、仁王くらいには変わったと思う。

 

「そうか、カイエンの紹介か」

 

「はい」

 

ここはクヌートさんも落としたラブリー攻撃をお見舞いしたいところだが、カカルさんに有効かどうか分からない。なにせ、この凶悪な面の筋肉爺さんが、可愛い物を愛でる姿など想像できないからな。

 

それに、オルトたちもカカルさんの迫力にビビッているのか、俺の後ろに隠れてしまっている。オルトが俺の足に真後ろから抱き付き、そのオルトの背中にクママが、さらにその後ろにメリープが隠れている。

こいつら、俺を盾にしやがったな。ゆぐゆぐだけはそんな弟分たちを呆れた顔で見ていた。なお、ミーニィは寝てるフリをしてるっぽい。

 

「で、何が欲しい?」

 

「あ、売ってもらえるので?」

 

「ああ」

 

俺の目の前に商品ウィンドウが開かれる。とりあえず商品を売ってはくれるらしい。

 

ラビットの毛皮、ラビットの肉、リトルベアの毛皮、リトルベアの爪、アタックボアの肉、アタックボアの毛皮、オリーブトレントの実、オリーブトレントの枝というラインナップだった。

 

アタックボアというのは第2エリアに出現する猪型のモンスターである。リトルベアと同じくらいの強さらしい。

 

オリーブトレントは初めて聞いたが、どう考えてもオリーブオイルの原料はこいつだろう。まさか畑で育てるんじゃなくて、モンスターから採取しているとは思わなかった。

ラビット、リトルベアの素材は自力でどうにかなる。アタックボアはまだ戦ったことはないが、イベント終了後でも問題ない。出現場所の情報は知ってるからな。

 

問題はオリーブトレントだ。枝は無理して入手する必要はないと思うが、実はぜひ欲しい。オイルを搾ってもいいし、料理に使ってみても面白そうだ。

 

 

 

 値段は1つ200Gと高価でもないし、俺は上限の5つまで購入しておくことにした。それと、今日の晩飯用に、アタックボアの肉も一緒に購入する。

その後、カカルさんに怒られたり、ましてや襲われることなどなく、俺たちはぶっきらぼうな態度で見送られながら、カカルさんの家を出るのだった。

 

もしかして顔が怖くて少しシャイで、ちょっとばかり寡黙なだけの、善良な一般市民だったのだろうか? いやいや、まさかね。

まあ、とりあえず猪肉は手に入った。豚ではないが、これで豚汁モドキが作れそうだぜ。となると、ぜひ出汁もちゃんと取りたいところだ。絶対に魚を手に入れてやるぜ!

 

俺はそのまま、カカルさんの家の数軒隣にある、漁師のリッケさんの家に突撃した。

 

「よし、ぜひ魚を手に入れるぞ」

 

「兄ちゃん、魚が欲しいのかい?」

 

「え?」

 

俺が勢い込んでノックをしようとしたそのときだ。後ろから突然声をかけられた。振り返ってみると、日に焼けた小麦色の肌と、手編み感満載の麦わら帽子いかにも田舎の子供っぽい、元気そうな少年が立っていた。

 

満面の笑顔を浮かべて少年がトコトコと近寄ってくる。

 

「こんにちは! おいらはリッケっていうんだ! 兄ちゃんは?」

 

「俺は旅人のハーデスだ。お前が漁師見習いのリッケ?」

 

「うん!」

 

漁師見習いという肩書を聞いて、若い男性を想像していたが、まさかこれほど若いとは。12歳くらいだろう。だが、腰には魚籠を吊るし、長い釣り竿を肩に担いでいるし、嘘じゃないだろう。

 

「君にお願いしたら、魚を分けてもらえるかもしれないって聞いてね。訪ねてきたんだけど」

 

「あー・・・・・そういうことか」

 

俺が魚が欲しいと言うと、リッケの表情が曇った。どうやら、簡単にはいかないか。

 

「おいら、見習いだろ? 父ちゃんほど、たくさん釣れるわけじゃないんだ。だから、村の人に頼まれた分を手に入れるだけで精いっぱいなんだよ。ごめんな」

 

「1匹も余ってないのか?」

 

「うん。むしろ足りないくらいなんだよ」

 

「そうか」

 

足りてないってことは、何かクエストをこなして譲ってもらうこともできないだろうか?いや、ここは提案をしてみるか。

 

「なら、一緒に足りない分の魚を手に入れるために釣りをしないか」

 

「え、手伝ってくれるのか?」

 

「是非にも」

 

「じゃあさ、魚が釣れるポイントまで案内するよ。おいらももう一度釣りに行くつもりだからさ」

 

おし、リッケと魚釣りの展開に進めることに成功!

 

「よし、早速釣り場に行こうか!」

 

「おう、おいらに任せておきなよ! とっておきのポイントに案内してやるから!」

 

 

俺たちは釣り場に案内してもらうために、リッケと共に村を出発していた。オルトたちはリッケが気になるのか、周囲に纏わりついている。

 

「おいこら、頭に乗るなって! ああ帽子引っ張るな! ほどけちゃうだろ!」

 

「キュイー」

 

「歩きづらいからあまりくっつくな! うわ、コケるって!」

 

「ムー」

 

「メェー」

 

「こら、魚籠にはまだなんも入ってないから! のぞくな!」

 

「クマー」

 

 リッケに遊んでもらっていると言うよりは、完全にリッケで遊んでるな。普段は俺としか遊べないし、子供のリッケと遊べるのが楽しくて仕方ないんだろう。

 

ゆぐゆぐも笑顔でオルトたちを見ている。

 

 

 ピッポーン。

 

 

そんな時、お馴染みのアナウンスが響いてきた。

 

『イベント3日目の12:00になりました。中間結果を発表いたします』

 

へえ、中間結果なんて公開されるんだな。初日と2日目に無かったから、発表されないもんだと思ってたよ。どうやら、今日からは毎日発表されるらしい。同時にメールが送られてきているな。開いてみると、様々なデータが掲載されていた。

 

まずは個人データのランキングだ。今の俺のイベントポイントは153。一番のポイント入手先は、おばさんの畑の手伝いクエストの100。あとはハニービーの討伐、素材納品クエストを細々やった成果だった。

 

 

順位は俺たちがいる第29サーバーにおいて、298人中274位だ。ビリでもおかしくはないと思ったんだけど、意外と順位が上だったな。

 

 

ま、ビリの人でも120程度は稼いでいるので、うかうかしてたらすぐに逆転されてしまうだろうが。

 

 

また、トップは411ポイントとかなり高い。多分、効率的に依頼を受けているんだろう。あと、イベントモンスターを狩っているのかもな。1匹倒しても1しかもらえないモンスターもいるだろうから、相当倒さなきゃいけないが・・・・・。

 

もう1つ気になるランキングがあった。それはサーバー貢献度というやつだ。ポイント的な物で表されているのではなく、順位だけが掲載されている。

 

 

 ただ、イベントポイントの高低では決まらないようだ。なにせ、4位に俺の名前が入っているからな。いや、何でだ?

 

 

 1、2位は、ポイントでもトップのプレイヤーたちがそのまま名前を連ねているが、3位にはジークフリード、4位には俺となっている。ちなみに、ジークフリードのイベントポイントは231で、139位だ。5位の人物もイベントポイントで12位となっていて、3位というわけでもない。

 

「うーん。この結果、何が良かったのか分からないな」

 

サーバー貢献度なんてものが上昇するような、特別なことはしてないと思うんだよな。まあ、明日以降データを見てみれば、何か分かるかね?

 

 

最後に見るのが、サーバーランキングだ。なんと、33までサーバーがあるらしいな。そんな中で、俺たち第29サーバーは3位となっていた。1位は第7サーバーだ。

 

「へえ。結構上じゃないか」

 

俺以外の人たちが頑張ってくれているらしい。そうやってデータを見ていたら、リッケが不思議そうに首を傾げている。

 

「兄ちゃん、どうしたんだ?」

 

そりゃあ、隣を歩いていた奴が急にステータスウィンドウを見て唸り出したら、不審に思うよな。

 

「悪い悪い。ちょっと重要なメールが来てさ」

 

「そっかー。じゃあ、しょうがないな~」

 

NPCにはちゃんとゲーム用語が通じるから有り難いね。データはもう確認し終えたので、俺はリッケとの会話に戻った。これ以上放っておいたら、リッケに怒られるかもしれんし。

 

「キュイキュイッ!」

 

釣り場に向かって歩きながら、父親の話なんかを聞いていたら、ミーニィが俺の頭の上から、警戒するように鋭く鳴いた。そして、髪の毛を引っ張りながら、森の一角を指差している。

 

「ん?モンスターか?」

 

「キュイ!」

 

ミーニィの警戒を見て、オルト達も即座に戦闘態勢を整える。頼もしい限りである。

ただ、ミーニィの警戒の仕方が妙だな。この辺にモンスターがいてもこんな必死に訴えかけるほどか?それに初めて警告を発する。10秒程待っていると、森の木々の間からモンスターが姿を現した。

 

「なんだ、可愛いラビットじゃないか――?」

 

現れたラビットは3匹。うち2匹は、白い兎の姿をしたどこにでもいる普通のラビットであった。

 

だが、真ん中にいる1匹が、少々妙な姿をしていた。鑑定ではラビットと表示されるんだが、黒い靄の様な物を身に纏っていたのだ。先日のハニービーと同じ黒い靄・・・・・?

 

「リッケ、あの黒いラビット、見たことあるか?」

 

「おいらも初めて見たよ」

 

と言うことは、強いか弱いかも分からないか。名前はラビットだし、まさか全滅させられるほど強くはないよな?

 

「グルルルル」

 

ウサギとは思えない猛獣の鳴き声を発する黒ウサギ。向こうはやる気だな。とりあえず戦ってみよう。

 

「リッケは後ろに下がってろ」

 

「大丈夫!おいらも戦えるよ!」

 

「え?平気なのか?」

 

「任せて!」

 

俺の心配をよそに、リッケは自信満々だ。NPCが死んだらどうなるか分からないんだが、本当に大丈夫か? あっさり倒されたりしないよな。

 

「分かった。ただ、リッケは右にいる普通のラビットを相手にするんだ。真ん中のラビットはミーニィと俺でやる。オルトとゆぐゆぐ、メリープはリッケの護衛。クママは左のラビットを倒せ!」

 

「ムム!」

 

「キュイ!」

 

「クックマ!」

 

「――!」

 

「メェー!」

 

俺の合図で、皆が一斉に動き出した。ミーニィが黒いラビットに対して、素早く突っ込んだ。小柄だからできる芸当だが。

 

「速いな!」

 

横に跳んで躱してそのまま突っ込んでくる。

 

「キュイー!!」

 

だが、直ぐに反転して突進してきた黒ラビットは、ミーニィに横っ腹をどつかれ、軽くはじき飛ばされる。そのチャンスを逃す俺じゃなさ。まあ、体勢を崩して隙だらけだったからな。誰も見逃さんだろう。

 

「ミーニィ、【ホーリーブレス】」

 

「キュイ!」

 

「グルー!」

 

「ふう、HPは強化されてなかったみたいだな」

 

 

 黒ラビットは聖なる光のビームを食らうと、悲鳴を上げて一撃で沈んでいた。黒いハニービーもそうだったが、たいしたことはなさそうだ。このラビットが強化されていたのは敏捷性だけみたいだな。

 

 

「クマー!」

 

 

 よし、クママの方は問題なくラビットを仕留めているな。リッケたちの方はどうだ?

 

 

「ムー!」

 

「―――!」

 

「メェー!」

 

「とりゃー!」

 

オルトがクワでラビットの攻撃を防いだところに、ゆぐゆぐが鞭を振るい足の体勢を崩した。そこにリッケとメリープの攻撃が炸裂だ。なんと、釣り竿を振って釣り糸を飛ばし攻撃している。しかも、HPが半分残っていたラビットを仕留めたということは、攻撃力もそれなりにあるんだろう。攻撃射程も広いし、釣り師ってもしかして強いんじゃないか?いやいや、そんな攻撃ってアリなのか?ちょっと釣り師でプレイしてみたくなってきたんだが。

 

「何とかなったか」

 

「へっへーん。おいらも結構強いだろ?」

 

「そうだな。間近で見てびっくりだわ」

 

あれなら、ラビット相手の戦闘で戦力と考えて問題ないだろう。

さて、戦闘も終わったし、ドロップをチェックしておこうかな。何か特殊なドロップを落としているかもしれないし。だが、俺の予想に反して、黒ラビットは特殊なドロップを残していなかった。と言うか、ドロップ自体が無かった。その代わり、イベントポイントが4点入手できている。

ドロップが無く、イベントポイントが入手できる? 先日倒したハニービーと一緒だ。ということはイベントモンスターだったってことか。あんなタイプもいるんだな。

 

 

 



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イベント開始~釣り師見習いとイベント進行

黒い靄を纏った謎のラビットを倒した後は特に敵に遭遇することもなく、俺たちは目的地に到着できていた。

 

「あそこが釣り場だよ!」

 

「村から近いな」

 

「当たり前だよ! 奥に行ったら危ないじゃないか。この辺なら危険なモンスターは出ないからね」

 

漁師見習いの少年、リッケに連れてこられたのは、村から15分ほどの場所にある川だった。川の両側には河原ではなく、岩棚が広がり、渓流に近い雰囲気だ。

ここまでの道中ではラビットしか出現しなかったし、リッケの言う通り危険が少ないんだろう。

 

「もっと上流に行けば珍しい魚が釣れるんだけど、父ちゃんくらい強くなきゃモンスターにやられるだけだからな」

 

「上流に行くと美味しい魚が手に入るのか?」

 

「うん。おいらも、いつか上流で釣りをしたいんだ!」

 

リッケの護衛をしながら上流に向かうなんて、出来なくはないが本人がそう言うなら行かない方針でいいか。後でバレたら怒られるのはリッケだしな。今日はここでゆっくり釣りをしよう。上流は今日の内に行ってみるし。

 

「よし、早速始めようか」

 

「じゃあ、今日はおいらのエサを貸してやるから。使っていいぞ。エサはこれだ」

 

リッケが袋を手渡してくれる。中には微かに生臭い臭いのする、茶色い泥団子の様な物体が沢山入っていた。

 

「練り餌か」

 

「おう。父ちゃん特製の練り餌だぞ」

 

 

名称:ラッケの練り餌 

 

レア度:2 品質:★7

 

効果:川魚の食いつきを良くする

 

リッケは早速釣り針に餌を仕掛け、渓流へと糸を垂らした。少年、小麦色の肌、麦わら帽子、腰に下げた魚籠に釣り竿と来たら、完全に釣りキチにしか見えんな。すっごい大物を釣り上げそうだ。そのうち川のヌシとかと対決するんだろう。

 

「じゃあ、俺もっと」

 

俺はリッケと離れた岩に腰かけると釣り糸を川に垂らす前に水霊の街で購入したこれ。

 

 

名称:釣り人の履物

 

 

レア度:4 品質:★5 耐久:220

 

 

効果:防御力+11、釣りボーナス小

 

 

初期装備状態にしてからこの履物を装備して、水霊のルアーで釣りを始める。

 

「さーて、どんな魚が釣れるかな」

 

「ムム」

 

「――♪」

 

そんな俺をオルトとサクラが両隣に座って一緒に見る。

 

メリーとクママは、周囲の警戒をしつつ、追いかけっこをして遊んでいる。この辺はラビットくらいしか出ないし、あいつらだけでも大丈夫だろう。ミーニィは定位置とばかり頭の上に乗って釣り先を眺めている。

 

「・・・・・」

 

「・・・」

 

「・・・」

 

 

 

そのまま2分ほど経過したが、アタリは来ない。うーん、簡単に釣れるとは思ってなかったが、やはり釣りは根気が必要だな。と思っていたら釣り先にマーカーが浮かび上がってすぐに引き上げると。

 

 

名称:ビギニマス

 

レア度:1 品質:★6

 

効果:素材・食用可能

 

「ムー!」

 

「――!」

 

 

ようやく魚が釣れたのだった。しかも水霊の街で釣れる魚がな。もしかしてこの川にも?

 

「やった! 来た!」

 

そうこうしていると、リッケが勢いよく竿を引き上げた。釣り糸の先を目で追うと、黒い魚が食いついている。

 

「へへ、1匹目~!」

 

 

名称:ビギニマス

 

レア度:1 品質:★6

 

効果:素材・食用可能

 

 

「そっちも来たかって言った傍からこっちは2匹目!」

 

「やるな~兄ちゃん、おいらも負けてられないぜ!」

 

リアルでは寄生虫がいる恐れがあるため、川魚は生食ができない。たまに生で食べさせる店などもあるが、特別な生育方法で育てたり、特殊な調理をしているから可能な話なのだ。

それが、ゲームの中では生で食べても平気らしい。まあ、寄生虫なんていう部分までリアルに再現する意味がないってことなのかもしれないが。

 

 

ただ、実際に釣れる実感を、リアルではなかなかできない釣りの楽しみを覚えると更にやる気が出るというものだ。

 

それからかれこれ30分。俺達は釣りの成績を競うようになった。因みに俺は4匹―――。

 

「へっへー! また来た!」

 

リッケはすでに3匹目を釣り上げている。スキルレベルに差があるとは分かっているが、そのまましばらく釣りを続け、俺はビギニウグイを2匹、ビギニマスを2匹釣り上げていた。大漁とは言い難いかもしれんが、初めて川で釣りをしたにしては上々ではないだろうか?

そうやって釣りをしていると、不意にどこからか叫び声らしき物が聞こえた気がした。

 

「リッケ、今何か聞こえなかったか?」

 

「うん。人の声がしたね」

 

「因みに村の人達の分の魚は」

 

「まだ足りないね」

 

釣りの手を止めて、周囲を警戒していると、川の上流の方から、複数の人影が駆け下りてくるのが見えた。岩の上を飛んだり跳ねたりしながら、かなりの速度で向かってくる。

 

「うおおおぉぉぉぉ!」

 

「走れ走れ走れ!」

 

「まだ追って来てるか!?」

 

「知らない!」

 

プレイヤーだな。4人が必死の形相で、ときおり後ろを気にする素振りをしながら走ってくる。何かから追われているのか? ただ、彼ら以外の気配は感じられない。

 

「あそこに誰かいる!」

 

「え? おーい!」

 

「逃げろー!」

 

そう声をかけてくるが、多分もう追われていないことに気づいていないんだろう。

 

「おーい! どうしたんだー!」

 

「やばいモンスターに追われてるんだ!」

 

やっぱりそうなのか。装備が結構しっかりしているパーティが逃げ帰ってくるレベルの敵とか、俺だったら瞬殺されるだろうな。ただ、ここはラビットしか出現しない、森の浅層だ。ミーニィも特に警告はしてこないし、多分そのモンスターはもう振り切っているのだろう。

 

「特に追って来てるようなモンスターは見えないぞー!」

 

「なに?」

 

「え、逃げ切った?」

 

「そう言えば・・・・・」

 

プレイヤーたちが、俺の言葉を耳にして、走る速度を緩める。そして、後ろを振り返って、安堵の表情を浮かべた。

 

全員、その場でへたり込んでしまう。一体何があったんだろうか?

 

「大丈夫か?」

 

「ああ、声をかけてもらって助かったよ。もう限界だったし」

 

「本当にありがとう」

 

「いや、それよりも、何があったんだ?」

 

俺が尋ねると、彼らは自分たちが何から逃げていたのか、口々に語り出すのであった。

 

 釣りの途中で出会ったプレイヤーたちに逃げてきた理由を尋ねると、彼らは快く情報を教えてくれた。まあ、自分たちの恐怖体験を誰でもいいから語りたいのだろうが。

 

「川の上流で鉱石が採れるって聞いたから、採掘に行ったんだ。そんなに強いモンスターも出ないって聞いたからさ・・・・・」

 

「最初は確かに第2エリアに出るような雑魚モンスターとしかエンカウントしなかったんだけどな~」

 

「採掘してたら、いきなりデカイ熊の奇襲を受けてさ~」

 

「3メートルは超えてたよな」

 

「うん。しかも目が血走っててメチャクチャ怖かった」

 

「変な黒い霧みたいなの出してたし」

 

「そいつの最初の一発でシーフがやられちゃって、あとはもう必死に逃げることしかできなかったってわけ」

 

第2エリアの敵を雑魚と言えるくらい強いパーティが逃げるしかできないって、その巨熊はどんだけ強いんだよ。シーフは普通は軽装だが、このパーティのメンバーであれば、それなりの装備はしていただろうし。それを奇襲とは言え、一撃で死に戻りさせるような攻撃力があるってことだろ? 出現エリアがおかしいんじゃないか?

 

 

ただ、彼らが闇雲に逃げ続けていた理由は分かった。普段は探知や警戒を請け負っているシーフが死に戻ってしまったせいで、パーティの索敵能力が極端に下がっていたんだろう。そのため、熊が追ってきているかどうか判断できず、とにかく走り続けるしかなかったのだ。

 

「今でも真後ろでクマの牙が咬み合わされた時のガチン! ていう音が忘れられん」

 

「いやー、まじで怖かった~」

 

それにしても、黒い霧を出してたって言ったよな? それって、俺たちが遭遇したラビットと同じ現象か?

 

「実は俺たちも、黒い靄を纏った変なラビットに遭遇したんだよ。倒したらドロップが無くて、イベントポイントがもらえたぞ」

 

「私たちが遭遇したクマも、もしかしてイベントに関係ある可能性があるってこと?」

 

「でも、だとすると、レベル帯を無視して凶悪なモンスターが出現した理由もわかるな」

 

「うーん。つまり、今回のイベントを攻略するためには、あれを倒さなきゃいけないってことか?」

 

「レイドでも組まなきゃ無理じゃないか?」

 

「だが、普通に遭遇するってことは、レイドモンスターじゃないってことだろ?」

 

「そうだな・・・・・。このサーバーにいるプレイヤーの選抜チームでも組めば、可能性はあるんじゃないか?」

 

どうやら彼らに今回の情報を独り占めしようという気はないらしい。他のプレイヤーに伝えて、協力を仰ぐにはどうすれば良いかと相談し始めた。

 

「どうしても、何度か戦って行動パターンを調べる必要があるだろうな」

 

「でも、最初のほうで挑むプレイヤーは絶対に死に戻るよな? 下手したら全滅だ」

 

「となると、協力してくれるプレイヤーは少ないかもな・・・・・」

 

このイベント中に死ぬと、広場のギルド前に死に戻る。イベント中は通常のペナルティがない代わりに、イベントポイントが1~3割失われるらしい。つまり、そのデカイ熊に情報収集のために戦いを挑む役目のプレイヤーは、イベントポイントを失う危険性が高いということだ。協力してくれる人は少ないだろうな。

 

フレンドも知り合いもいるけど協力できなくないが、応援はしてるぞ!

 

そう他人事のように思ってたんだけどね。

 

「そうだ! 白銀さんに協力してもらえばいいのよ!」

 

突然、そのパーティの紅一点、魔術師風の格好をした女性がそう叫んだ。というか、俺という存在は白銀で認知されてるのね。

 

「え? 白銀さんってあの? え? この人が白銀さんなの?」

 

「そうよ! そうですよね?」

 

「まあ、勝手にそう認知されているがな」

 

「ほら!前に見たことあるし!何よりもあの子!」

 

「うん? あのクマのモンスがどうしたのか?」

 

「知らないの? 白銀さんのモンスのクママちゃんよ! クマ好きプレイヤーの間では超有名なんだから!」

 

なんと、クママの名前まで知られていた。他のプレイヤーの前には連れ歩かせたことはレベル上げ以外は殆どないはずなのに。でも確かにクマ好きだったらクママを見過ごすことはできないだろうし、有名になるのは仕方ないかもしれないな。

 

「クママちゃんの可愛さに撃沈されて、リトルベアとハニービーを連れているテイマーがすっごい増えたってことでも有名よ?」

 

え? 何それ? 知らないんだけど? でも、トップテイマーのページでハニーベアの情報は掲載されてたし、他のテイマーが欲しくなってもおかしくはないな。何せ動くテディベアだからな。

 

「リトルベアとハニービーを連れてる?どういうことだ?」

 

「だってクママちゃんの卵を手に入れるためにはリトルベアとハニービーをテイムしなくちゃ・・・」

 

「ああ、テイマーじゃないから知らないのか。ランクを上げたら従魔ギルドで買えたぞ。ハニーベアの卵」

 

本当に知らなかったようであらん限りに目を見開いて硬直した。でもそうしているのがテイマーだって言ってたよな?俺よりギルドランクを上げているテイマーでもハニーベアの卵を買えなかったのか?それとも売られていたのに敢えて買わなかった?お、女性が復帰した。

 

「そ、その話は本当で・・・・・?」

 

「嘘言ってどうする。そんの時はギルドランク2で買えたから間違いない」

 

「だ、だとしたら私も手に入れるチャンスがっ・・・・・?」

 

さぁな、そこまでは確証できない。

 

「で、白銀さんの俺に手伝ってもらうっていうのはどういうことだ?」

 

「あ、そうだった。白銀さんの従魔は、色々なプレイヤーに人気があるの。私みたいなクママちゃんファンだけじゃなくて、他の子にもたくさんファンがいるわけ」

 

ああ、妙に視線を感じたり、手を振ってくるプレイヤーがいるな~とは思ってたんだが、そういうこと。

でもそのうちハニーベアもノームも、テイムするプレイヤーが出てくるだろうし、騒がれるのなんて今だけだろう。調子に乗って有名プレイヤーみたいに振る舞ったら恥をかくだけだ。期間限定で有名人気分を味わえてるくらいに思っておこう。

 

「このサーバーにも、結構な数のファンがいるわ。広場で、一緒のサーバーでラッキーだったねーって話をしたもの」

 

「なるほど」

 

「そんなプレイヤーなら、白銀さんに声をかけてもらえば協力してもらえるかも。それに、そのプレイヤーたちが声をかければ、もっとたくさんの協力を得られるかもしれないし!」

 

そう上手く行くかね? まあ、イベントの進行に関係がありそうだし、できる限りの協力はするけどさ。

 

「どこまで力になれるか分からんが、声かけくらいなら協力するよ」

 

「やった! じゃあさっそく村に戻りましょう!」

 

「そうだな。あいつも迎えに行ってやらないといけないし」

 

「いや、ちょっと待ってくれ」

 

俺は魚も手に入ったし、帰るのは構わないけど、リッケと一緒に来てるからな。リッケを放っては帰れん。

だが、そのリッケは神妙な顔で何か考え込んでいた。そしてすぐに顔を上げて、自分から帰ろうと言い出す。

 

「おいらも、村に戻ってそのモンスターの話を皆に知らせなきゃ」

 

「そうか。じゃあ一緒に戻ろう」

 

「うん!」

 

村に帰りつく頃には、日が傾きかけていた。入り口でリッケと握手をして別れる。

 

「色々と楽しかったよ」

 

「いいんだよ。釣り仲間だからな!」

 

初心者でも、釣り人認定してくれたらしい。

 

「じゃあ、またな!」

 

リッケは村の入り口まで戻ってくると、笑顔で手を振ってそのまま去っていった。夕暮れの道を歩く、釣り竿を担いだ麦わら帽子の少年の影。妙に絵になるっていうか、郷愁が感じられる絵面だね。ずっと見ていられそうだ。

 

「私たちは、広場に行きましょう。プレイヤーが一番多いし」

 

「そうだな。ああ、その熊の名前って何なんだ?」

 

「悪い。逃げるのに必死で見ていないんだ」

 

そうか。じゃあ、カイエンのお爺さんに訊いてみるか。

 

 

 

 

俺たちは、釣り場で知り合ったプレイヤーパーティに連れられて、村の広場まで戻ってきていた。

道中で自己紹介は済んでいる。クママの大ファンだと言う女性はマルカという名前だった。

そのマルカに案内されたテントには、見覚えのある紫色の髪をしたプレイヤーがいた。騎士プレイで有名なジークフリードだ。同じ3称号仲間とも言える相手である。

 

「やあ、マルカくんだったかな? どうしたんだい?」

 

「ジークフリードさん、ちょっとお話がありまして。イベントが進むかもしれません」

 

「おお! それは朗報だね!」

 

「まずは、ジークフリードさんたちに話を聞いてもらいたいんです。今、私の仲間がコクテンさんを呼びに行ってますんで」

 

「わかった。それと、そちらの彼とは初対面かな?」

 

「ああ、死神ハーデスだ」

 

「僕はさすらいの騎士、ジークフリード。以後お見知りおきを。君とはずっと会ってみたいと思っていたんだ」

 

「俺を知ってるのか?」

 

「それは勿論。同じ3称号の取得者だし、白銀の先駆者と言えばノームの主として有名だからね!」

 

「一応、メインは重戦士の大盾使いだがな」

 

やっぱ知られてたか。まあ、悪い奴ではないし、俺の称号に関しても馬鹿にしている様子はないから嫌ではないが。

 

「そうだったのか。テイマーがメインだと思っていたけれど、会える日を心待ちにしていたよ」

 

そのまま2人で雑談をしていたら、マルカの仲間がもう一人と1パーティーを連れてきた。俺は知らなかったが、このサーバーで最も高レベルで、普段のゲームでもトップ攻略組と言われるパーティのリーダーだそうだ。

 

「ハーデス」

 

「ペイン、村に居たんだな」

 

「おや、ペインさんのこと知り合いだったのかい?それなら彼のことは知ってるかな?」

 

「いや、知らないな」

 

もう一人のプレイヤーへ目を向ける。何故そんな凄いパーティが武闘大会に出場していないのか疑問に思ったが、元々対プレイヤー戦であるPvPなどには興味が無く、武闘大会には出場しなかったらしい。

このサーバーでも一目置かれており、なんとなくリーダーと言うか、中心的な扱いになっているようだ。そのコクテンというプレイヤーは、全身黒づくめの凄い厳つい装備を身に着けており、メチャクチャ威圧感があった。挨拶すると、すぐにニコリと笑い、丁寧に挨拶を返してくれる。

 

「あー、こんにちは」

 

「はい、こんにちは。コクテンという者です。どうぞよろしく」

 

「死神ハーデスだ。よろしく」

 

コクテンさんとやらが揃ったことで、準備が整ったんだろう。マルカが自分たちが襲われた巨熊のことを語り始める。遭遇地点や、強さ、黒い靄を纏っていたこと等々だ。

 

「黒い靄か。実は今日になって黒い靄とか霧を纏ったモンスターとエンカウントしたという話が幾つか寄せられているな」

 

「俺も黒いラビットと戦闘になった。その前は黒いハニービー。倒してもドロップが無く、イベントポイントが貰えるだけだった」

 

「私もですね。森の深部で、黒い靄に包まれたオオトカゲと戦った。何かイベントが進行していることは確かだろう」

 

「マルカくん。動画か何かあるかい?」

 

「それはもちろん。あまり長くはないけど、熊の姿はバッチリ撮れてるわ」

 

マルカにその動画を見せてもらったが、すごい迫力があった。仲間が奇襲で倒された直後から始まり、向かってくる熊から全力で逃げる様子が撮影されている。撮影者が時おり振り返ると、凄まじい形相で牙をむく熊の姿が真後ろに迫ってきているのが見えるのだ。

 

少し前に人気になった、ホームビデオ目線で進むパニックサスペンス映画に通じる怖さがあるな。

 

「これは凄いですね。でも、確かに黒い靄を身に纏っているのは分かるなー」

 

「ああ。それにしても、マルカくんたちは攻略組だぞ? そのパーティメンバーを一撃で死に戻りさせるとは・・・・・」

 

「そうですね。奇襲ボーナスとクリティカルが重なったとしても、一撃というのは・・・・・」

 

マルカの話を聞いたコクテンとジークフリードが唸り出す。彼らからしても、この巨熊は強いらしい。

 

「コクテンさんのパーティでも勝てませんか?」

 

「分からないですね。どんな特殊能力があるかもわからないですし」

 

「そうですよね・・・・・。やっぱり何度か戦ってパターンを確認するしかないですね」

 

「だが、パターンを探ると言っても、下手に戦えば全滅の危険もあると思うが? マルカ君たちだけでは危険ではないかな?」

 

「なので、協力者を集めようと思います」

 

そして、マルカが作戦を話して聞かせた。方々に声をかけて、パターンを探るための生贄になってくれる人々を探す。死に戻るとイベントポイントが減少してしまうため、できるだけ多く集めて、1人1死までにしたいところだが・・・・・。

 

「そのためにも、顔が広いジークフリードさんや、コクテンさんにも協力をお願いしたいんです。ここにいる白銀さんも、協力を約束してくれています」

 

「まあ、戦闘じゃ役に立たないからな。このくらいはしないと」

 

「そうですね。どちらにせよ、戦ってみないといけないだろうし……。最初の戦闘は僕のパーティに任せてください。多分、皆も行くと言ってくれると思います。僕たちはそういう、強いモンスターとの戦闘を目的にしているパーティですから」

 

なるほど。つまりNWOを狩りで楽しんでいるパーティってことか。

 

「私も知人を当たってみよう。臨時のパーティを組んで、戦いに出てもいい」

 

コクテンとジークフリードの協力も取り付けた。俺たちも他の協力者を集めるとしよう。まあ、俺とモンス達は広告塔というかお神輿で、声かけはマルカ達が全部やってくれるんだけどね。

マルカたちが心当たりに声をかけに行くと言って散っていったので、俺はギルドの前でしばし待つことにした。インベントリの中にある今日入手した食材を眺めながら、何を作るか色々と考えてみようかな。

 

「ムームッム!」

 

「クママ!」

 

「キュイ!」

 

「――♪」

 

「メェー」

 

うちの子たちは輪を作るようにしゃがんで何かをしている。覗いてみると、輪の中心には土を固めて作った山と、その山に突き刺さった棒があった。オルトたちが順番に、その山の土を少しずつ手で削っていく。どうやら棒倒しで遊んでいるらしい。俺も子供の頃によくやったな。

 

「ム・・・・・ムム」

 

「クマー・・・・・」

 

「・・・・・キュイ!」

 

「――♪」

 

「・・・・・メェー」

 

ゆぐゆぐ以外のオルト達はメチャクチャ真剣な表情だ。呆れるほど慎重な動きでゆっくりと土を崩し、その度に額の汗を拭う。まるで人生を懸けた大勝負にでも挑んでいるかのような雰囲気である。まあ、遊びに真剣なのは良いことだよね。

 

だが、勝ち残りで何度も繰り返した結果、最後に勝利したのはゆぐゆぐだった。結局、少し肩の力を抜くくらいがちょうどいいのかもしれない。

 

「ハーデス」

 

俺の前にペイン一行が近寄ってきた。

 

「黒い靄を纏う熊は、俺達が倒してきたベアのモンスターとは異なっていたね」

 

「第4エリア以降のモンスターとは?」

 

「全て見て回ったわけじゃないから断定はできないが、あれだけ迫力のあるモンスターがいるとなるとこのイベントのボスにしては些か肩透かしの思いだ」

 

イベントを進行させる要因のモンスターなのはお互い認知している様子のペインはこう言う。

 

「俺達も黒い靄を纏うモンスターとは何度も戦ってきたが、黒い靄の原因はハーデスだったら何だと思う?」

 

「うーん。情報が少なすぎるから原因追及はできない。何を倒してきたか教えてくれるか?」

 

ペインから聞くとプチ・デビル、ラビット、ハニービー、ワイルドドック、牙ネズミ・・・・・。

 

「獣に属するモンスター以外はプチ・デビルか・・・・・」

 

プチ・デビル、小悪魔・・・・・。

 

「モンスター図鑑にも載ってないな。だとすると、プチ・デビルがいるなら他にもいるだろう。悪魔系のモンスターが」

 

「このイベントに悪魔のモンスターがいるのかよ?でも何で悪魔だと思うんだ?」

 

「悪魔ってのは魔法と闇の力を操る種族だ。闇は対象を操ったり凶暴化にすることも出来る。そう言う設定のゲームや小説じゃあ割とマイナーだぜ?」

 

「凶暴化・・・・・なるほど、黒い靄がモンスターを更に凶暴化させているってんなら納得できる推測だな」

 

「てっことはあの熊もそうだってことの?」

 

ドレッド達も神妙な顔つきで話に加わってきた。でも、この仮説が正しかったら少し困ったことになるな。

 

「守護獣も凶暴化してるかも」

 

「あっ、じゃあどのモンスターが守護獣なのかわかんないじゃん」

 

「おいおい、間違って討伐したらどうなるかわからないぜ」

 

「というか、守護獣の情報もまだ集まってもいないから探しようがないな」

 

いや、それは逆だドレッド。

 

「心当たりじゃないが、探せる方法はある」

 

「それはどんな方法だい」

 

「守護獣ってのは大体力のある獣だ。そしてその存在は唯一無二の個体で、他の種族より遭遇率は極端に少ない。それが特徴の筈だ」

 

数は少なくて遭遇率が低い、と呟くフレデリカがしばらく思考の海に飛び込んだと思えばおずおずと挙手をする。

 

「ねぇ・・・黒い靄がモンスターを凶暴化させているならさ、今のところその特徴と一致している熊が守護獣じゃないのかな」

 

「「「「・・・・・」」」」

 

ペイン達と思わず顔を見合わせてしまった。

 

「ちょっとカイエンのお爺さんを探して守護獣のこと教えてもらいに行って来る。悪いけどジークフリート達に俺の代わりに話を付けてくれないか?条件があるなら出来ないこと以外は何でも応じるとでも言っておいてくれ」

 

「ああ、わかったよ」

 

「来いサイナ!」

 

サイナを召喚する鍵を行使すると、俺の横に派手な演出と音もなく参上してきてくれた。

 

「マスター、ご命令は?」

 

「しばらく俺が戻ってくるまでオルト達の面倒を見てくれるか?」

 

「かしこまりました」

 

それだけ伝えてカイエンのお爺さんを探しに駆け出す。まずは他の村人に話を聞こう。ここから一番近い酪農家のアバルの所に行ってみよう。チーズを手に入れたところだ。

 

「すいませーん」

 

「はいはい。あれ、君はハーデス君だったかな?」

 

「はい。ちょっと聞きたいことがありまして。今お時間大丈夫ですか?」

 

「うん。いいよー。じゃあ、上がって上がって」

 

「じゃあ、おじゃまします」

 

 あっさりと招き入れてもらったな。好感度的なものが上がったのだろうか? そのままアバルさんの家に上がると、そこには見知った顔があった。

 

「あれ、カイエンお爺さん」

 

「おお、ハーデスかい?」

 

カイエンお爺さんだけではない。それ以外にも、複数の老人がテーブルを囲んで何やら話し合っていた。

 

「どうしたんじゃ。こんな場所に」

 

「なんだか、聞きたいことがあるらしいよ?」

 

「そうなんですよ。川の上流に出る巨大な熊について。何かご存じないですか?」

 

「守護獣に出会ったのか?」

 

ビンゴ!幸先がいい。俺は巨大な熊がプレイヤーを襲ったことを伝えると老人たちがどよめいた。

 

「馬鹿な! 守護獣が人を襲ったのか?」

 

「ああ、今日は一人だけだが今後は結構な数のプレイヤーが襲われる危険性があります」

 

「・・・・・ありえん」

 

カイエンがボソリと呟く。

 

「どういうことだ?」

 

俺の問いかけに老人たちが視線を交わす。そして、全員が何やら頷いた。

 

「ふむ・・・・・。旅人たちは村に貢献してくれておるしな・・・・・。特にお主はよく働いてくれておる。教えても構わんじゃろう」

 

カイエンお爺さんが語ってくれたのは、中々興味深い話だった。多分、イベントに深く関わる情報だろう。こんなところで聞けるとは!

 

大昔、この村はある大悪魔に滅ぼされかけたのだという。だが、その悪魔は旅の冒険者に倒され、ある場所に封印された。その悪魔の封印を支えているのが、神聖樹という2本の聖なる木らしい。そして、その神聖樹を守っているのが、2匹の神獣だった。

 

「ガーディアン・ベアとガーディアン・ボアという神獣たちなのだが、決して人を襲うような狂暴なモンスターではないんじゃ。むしろ、森で迷った村人を助けてくれたりする、文字通り村の守り神なんじゃよ」

 

となると、どういうことなんだ? 村人じゃなければ襲う? いや、あの黒い靄が神獣をおかしくしているのか?

 

「・・・・・神聖樹に異変が起きているかもしれないねぇ」

 

「どういうことじゃアバル」

 

「カカルに聞いたんだけど、狂暴化しているモンスターが罠にかかることがあるらしい。守護獣ももしかしたら」

 

「悪魔の封印が解けかかっているとでも言うのか?」

 

「ああ」

 

「うむむ」

 

伝承によれば、封印されている悪魔の能力が、モンスターを狂暴化させて操る能力らしい。これはまたビンゴかもな。イベントの最終的なボスはその悪魔か。

 

「その守護獣はやっぱり、倒したらやばいんですか?」

 

「村にとっては長年共に歩んできた友とも言える存在じゃ。それは勘弁してくれんか? それに、守護獣を倒してしまっては、神聖樹にどんな影響があるかもわからんのじゃ」

 

危なっ。むしろガーディアン・ベアが強くて良かったわ。やつが弱かったらプレイヤーたちがもう討伐してしまっているかもしれないからな。

 

 

 ということは、熊は倒さず悪魔を倒さないといけないわけか。他のプレイヤーさんたちにガーディアン・ベアを引き付けておいてもらい、その間に悪魔討伐に向かうしかないかね?それもコクテンに相談してみよう。

 

「今の話、他の人にも話していいですよね? 守護獣との余計な争いも回避できますし」

 

「構わんよ」

 

「ありがとうございます。ああ、因みにその2匹の気を引くために好物の食べ物とか知ってますかね」

 

「むぅ、すまぬ。守護獣の好物はわからぬ」

 

わからないか、しょうがない。俺は礼を言って、アバルさんの家を出た。

 

「熊だけじゃなく猪までいるのか・・・・・。どっちも雑種だから念には念を食用アイテムの入手か」

 

熊と猪の気を逸らせる食用は、色々と役に立つかもしれない。だが、まず買いに来た果物屋さんではすでに売り切れだった。どうも、俺以外のプレイヤーたちにも、珍しい果物は人気があるらしい。

 

「んー。他には・・・・・。そうだ、おばあさんの雑貨屋」

 

行くたびに品揃えが微妙に変わっているし、もしかしたら果物があるかもしれない。無くても、何か代用品があるかもしれないのだ。おばあさんにも相談できる。どうせ他には心当たりもないしね。

 

だが、結果は芳しくなかった。おばあさんも、守護獣の好物については知らなかったのだ。果物も無かったし。唯一の成果は、高級肥料が買えたことだろう。仕入れたばかりの商品らしい。これは貴重品だ。神聖樹とやらに役に立つ可能性があるだろこれ。

 

「さて、果物が手に入らなかったのは残念だけど、そろそろ広場に戻ろう」

 

早くこのことを教えないと、無駄にガーディアン・ベアに挑むプレイヤーが増えてしまうからな。

 

 

「そんな伝承があったとは」

 

「興味深いわね」

 

「中々重要そうな話です」

 

俺はギルド前に戻ると、すでに集まっていたジークフリード、マルカ、コクテンに、先程カイエンお爺さんたちから教えてもらった村の伝承を聞かせていた。悪魔や神獣といった単語に、皆が心を躍らせているのが分かる。さすがはゲーマーたちだ。

 

「ということは、あの熊は倒しちゃいけないってことですね」

 

「まあ、倒すメドはまだ全く付いてないけどね。作戦会議のために誰も戦いに行ってないし」

 

それでもガーディアン・ベアの戦闘パターンをまとめるための会議は終わったようだ。

そこで、コクテンたちが相談を始める。彼らも俺と同じで、ガーディアン・ベアと戦って引き付ける係と、悪魔を討伐する係に分かれるしかないという結論に辿りついたようだ。

 

「俺が守護獣を引きつける役割してもいいぞ。大盾使いだし足止め役には適してる」

 

「確かに。その装備もかなり強そうですね」

 

「この装備はユニーク装備だからな。破壊される度にVITが増えるもんだからおかげで要塞のような防御力を誇ってしまってるよ」

 

ペイン達が吃驚した顔で俺に視線を送ってくる。

 

「えっと、要塞のような防御力って今どのぐらい・・・・・?」

 

「もうすぐ5桁になる」

 

「さ、流石ベヒモスを単独討伐したプレイヤーだね・・・・・」

 

頬が引きつってるぞジークフリート。だが、雰囲気はそれでも構わないといった感じで前線で攻略しているペイン達は異を唱え―――。

 

「ダメダメ!白銀さんが巨熊と戦うなんて!」

 

突然、マルカが騒いで反対の意を訴えて来た。何でだ?

 

「いや、それがですね・・・・・」

 

コクテンが何故か言い淀む。なにか言いづらい理由か?次にコクテンの口から飛び出したのは、予想外の言葉だった。

 

「白銀さんがいない間に作戦を考え、私も白銀さんには3番目か4番目くらいに挑んでもらおうと思っていたんですが・・・・・。大反対に遭いまして」

 

「大反対?誰が?」

 

「女性プレイヤーたちの大半ですね。皆さん、白銀さんのモンスターのファンのようでして、死に戻りさせるなんてとんでもないと。その、凄い剣幕でして・・・・・」

 

そう言って、コクテンは情けない顔をする。どうやら、女性陣に囲まれて散々に言い負かされたらしい。

 

「それに、白銀さんには協力者をたくさん集めていただいたので、さらに戦闘までお願いするのは心苦しいというのもありますから」

 

「まあ、それならそれで構わないけど。明日も俺は独断で動くからな?協力が欲しいと思ったら声を掛けてくれ」

 

ジークフリートにフレンド登録を申請すると彼は一瞬驚いた表情をした後に申請を受託してくれた。

 

「わかりました。要塞の防御力を期待してます」

 

「貫通攻撃の前じゃ紙装甲当然だがな」

 

ふと、ある事を思い出した。

 

「俺に対して何か条件とかあった?」

 

「条件・・・・・ああ、他のプレイヤー達からありましたよ」

 

金かフレンド登録か?

 

「なんだ?」

 

「あとは白銀さんの了承を得るだけなんですがね。白銀さんのモンスター達のスクショを取らせて欲しいそうです」

 

「スクショか?1枚だけなら構わないと伝えてくれ。マルカもな」

 

「あはは、バレちゃってましたか」

 

自分でクママのファンとか言っただろうに。

 

「俺は夕食作りの為に帰るけどペイン達はどうする?」

 

「そうか。因みに今夜の夕食は何かな?君の蟹料理は美味しかったからね。今日もどんな料理を作ってくれるのか楽しみなんだ」

 

仕事帰りの夫みたいに訊ねてくるなよ。

 

「米がまだあるからなー。醤油と味噌味の焼きおにぎり以外にも味噌汁に他は考え中・・・あ、ピザもいいか。ゲームだから栄養も体重も気にせずに何でも食べられるだろ」

 

「焼きおにぎりか。ペイン、俺も帰っていいか?好物なんだよ」

 

「はいはーい、私も。ピザ食べてみたーい」

 

「だ、そうだペイン」

 

「わかってる。今日は切り上げよう」

 

ペイン一行も俺と一緒にカイエンのお爺さんの家へ帰路につく。

 

 

「米・・・・・蟹だって・・・・・?」

 

「まさか白銀さんは・・・・・」

 

「これはとんでもないことに・・・・・」

 

 

ジークフリート達が俺達を見て何か呟いていた気がしなくもないが、敢えて気にしない。



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イベント開始~4日目 進展

イベント4日目。

 

 

 

畑仕事などを全てこなした俺たちは、昨日は留守だった、茸採集をしているバッツの家を再訪問していた。

今日は時間が良かったようで、すぐに出会うことができた。まあ、キノコを譲ってもらう代わりに、キノコ栽培の手伝いをさせられたけどな。

 

凄い発見もあったから文句はないけど。なんと、乾燥茸から出汁を取るという方法だ。干しシイリ茸を水に浸けておくと、出汁になるらしい。良いことを聞いたぜ。味噌汁のレベルがさらに向上するかもしれない。

 

 

いや、昨日の夜に作った味噌汁もかなり美味しかったけどね。

カイエンお爺さんの家に戻った俺は、手に入れた食材を使って料理をすることにした。

 

最初に取り掛かるのが味噌汁だ。何せ魚がある。とは言え、生で出汁を取ることは俺には難しいので、乾燥させてみることにした。すると、ビギニウグイは小魚の煮干し、ビギニマスは川魚の一夜干しというアイテムに変化する。

 

大きさの違いかね? まあ、煮干しがあれば出汁は取れる。どうせならとことん拘ろうと考え、浄化水と煮干しを一緒に鍋にかけてみた。すると、煮立ったところで鍋の中に変化が起こる。煮干しがどこかに消え去り、浄化水が出汁という名前に変わっていたのだ。成功らしい。品質は低いから、そこは研究が必要だろうが。

 

その出汁に、味噌と、狩人のカカルから購入したアタックボアの肉、青ニンジン、キャベ菜、群青ナスを投入すれば、青い具材の浮かぶ豚汁の完成だ。ただ、その効果が凄かった。

 

 

名称:豚汁

 

レア度:2 品質:★7

 

効果:満腹度を23%回復させる。2時間、HPの自動回復速度上昇。2時間、HP、MPが2上昇。

 

 

これだ。効果が高すぎる。これは売れるんじゃなかろうか? 食事するだけでバフが付くわけだし。さらに、その次に作ったのが念願のピザなんだが、こっちも凄かった。

 

まずはトマトソースである。白トマトを切ってオリーブオイルを加え、後はひたすら煮詰めていく。軽く塩コショウを加え、ドロドロになったら完成だ。見た目がホワイトソースの、白トマトソースである。

前は品質が低かったことも考えて、最初にトマトの皮を剥き、煮詰める時の火加減も注意してみた。品質が★5になってくれたので、頑張った甲斐があったね。

 

それを焼く前のパンの生地に塗り、オリーブオイル、白トマト、群青ナス、バジルル、千切ったチーズをのせて、オーブンで焼く。

 

 

完成した物がこちらです。

 

 

 

名称:ピザ・1ピース

 

レア度:2 品質:★6

 

効果:使用者の空腹を13%回復させる。2時間、MP消費が8%減少。

 

 

これは昨日食べたフレデリカが絶賛していた。

 

「凄い!!!2時間もMPが8%も減少するなんて、魔法使いのプレイヤーだったら必ず2時間ごとに食べたい有用すぎる料理だよ!!?」

 

と言っては、俺にピザの材料をなくなるまで作らせる代わりに数万Gの金をポンと払ってくれた。

 

今朝の朝食は昨日の余り物だが、豪華な朝食だった。しかし、味噌汁がばっちり作れるようになったからには、やはりもっと米が欲しいよな。パンも美味しいんだけど、見た目がどうしてもね。

 

使い切ってしまったピザの材料を買いに行かねば、そんなことを考えながらペイン一行とギルド前の広場に行くと、すでにマルカやジークフリードたちが輪になって話をしていた。

遅れたことを詫びると、とんでもないと逆に恐縮されてしまった。彼らは皆この広場にテントを張っており、自然と集まってしまったそうだ。それに、集まった協力者のうち、半数以上が俺の名前を出したらしい。昨日の女性陣が頑張ったようだな。

 

「むしろ白銀さんは仕事を十分こなしてくれたので、次は我々の番ですから」

 

「ああ、君は良い報告を待っていてくれ」

 

と話していたら、広場の石碑がうっすら輝くのが見えた。誰かが死に戻ってきたようだ。

 

「さっそく被害者が出たようだな」

 

「どうやらそのようで、それじゃペインさん達も来たことで出発しましょう」

 

「え? もうか?熊はともかく悪魔の居場所はまだ判明してないぞ」

 

「今回は悪魔の居場所を探すための調査隊を結成したんです」

 

コクテンたちは時間を無駄にするのが勿体ないということで、すでに朝から悪魔を探しているらしい。事前情報通り、ガーディアン・ベアは川の上流で遭遇するそうだ。コクテンたちのパーティが最初に戦ったらしい。

 

「どうだったんだ?」

 

「今のままでは難しいですね。実際戦ってみたらHPを3割ほど減らしたところで力尽きました。ただ、パターンが分かれば、やれないことはないでしょう」

 

「戦うのはいいけど倒すなよ?村の守り神的存在なんだからな」

 

誤って倒したら盛大にそいつらを・・・・・。

 

今日はギルドで依頼でも探してみるか。そう思ってギルドの中に入って、クエストボードに向かおうとしたのだが、その前に受付嬢に声をかけられた。

 

「あの、昨日リッケと一緒にいた旅人さんですよね?」

 

「ん?そうだが」

 

何で知られてるんだ? いや、一緒に歩いてたし、村の人には普通に見られてたか。

 

「実は、リッケとあと2人の子供の姿が見えないそうなんです。それでリッケと最後に話したというあなたに心当たりが無いか聞きたいんですが」

 

「最後?いえ、俺と別れた後、ギルドか村長さんの家に行ったと思いますよ?」

 

巨熊のことを村の人に伝えるって言ってたからな。だが、受付嬢は知らないと言う。詳しく説明すると、非常に驚いた顔をしていた。そんな報告は受けていないのだと言う。

 

「ええ? でも、確かに報告するって言ってたんだけどな」

 

「その巨熊というのは、どんな熊でした?」

 

「俺は直接は見てないんですけど、かなり巨大な熊のモンスターらしいですよ。川の上流で遭遇したとか。それで村の人達に訊いたら守護獣のガーディアン・ベアだとか。何だか凶暴化していることを伝えたら悪魔の封印が解けかかっているのじゃないかと危惧してました」

 

「なるほど・・・・・」

 

俺の言葉に受付嬢が考え込む。いったい何が起こってるんだ? 分かるのは、リッケが熊のことを村の人に話さずに隠していたってことか。

 

「あの、リッケたちの捜索をお願いできないですか? 村の人間も探しに出ているんですが、手が足りないんです」

 

探索クエストか。まあ、何か依頼を受けるつもりだったし、ちょうど良いな。いや、特にクエストが発生したりはしてないみたいだ。クエストではない、単なるお願い扱いってことかね?でも、イベントに関連がありそうな事件ではあるな。

 

「じゃあ、まずは心当たりを当たってみるか」

 

俺は最初に釣り場に向かうことにした。村の外でリッケに関係ありそうな場所は、あそこしか思いつかないからな。

 

「みんなもリッケを捜してくれ」

 

「ム!」

 

「キュイ!」

 

「クマー!」

 

「――!」

 

「メェー!」

 

「かしこまりました」

 

おっと、その前におばあさんの畑労働クエストをこなしておかないと。100ポイントも貰えるクエストだからな。もう慣れてきたから、30分くらいでこなせるし。

 

 

 

 

 

 

 

釣り場に向かいながら、俺はリッケを捜していた。名前を呼びつつ、スキルで周囲を探っているんだが。

 

「うーん。どこにもいないよな」

 

「キュイ」

 

「クマ」

 

俺の言葉に頷いたのは、リックとクママだ。俺は気配察知、ミーニィは索敵、クママは嗅覚という、人捜しに使えるスキルを持っている。だが、誰のスキルにもリッケの存在は引っかかっていなかった。

寄ってくるのはモンスターばかりだ。この辺はラビットしか出ないので、さくっと倒せるはずだったんだけどね・・・・・。

 

「プチ・デビルと黒ラビットがめっちゃ増えてるな」

 

「ムム!」

 

「サンキューオルト」

 

「ム!」

 

黒ラビットの突進から俺を庇ってくれたオルトは、振り向かずにサムズアップで俺の声に応えてくれる。はは、漢らしい!昨日はこの辺でプチ・デビルは出なかったはずなんだよな。黒ラビットは分からないけど。でも、昨日は1回しか遭遇しなかった黒ラビットに、今日はもう3回もエンカウントしている。

 

「リッケが本当に村の外に出てたら、相当危険なんじゃないか?」

 

「クママ!」

 

「そうだな、早く捜した方がいいよな」

 

クママが急かすように俺を手招きしている。リッケとは釣りをした仲だからね。うちの子たちも心配しているんだろう。

 

そのままラビットたちを蹴散らしながら、釣り場まで進んだんだが、そこにリッケの姿はなかった。だが、全くの空振りでもない。

 

「――!」

 

「ゆぐゆぐどうした?」

 

ゆぐゆぐが何かを拾い上げている。それは、赤い色をした小さな魚型の模型だった。これはルアーか? どっかで見た気がするが・・・・・。そうだ、リッケが持っていたルアーだ。やはりリッケはここに来たのか。

 

「皆、この辺を捜せ」

 

他に手掛かりがないか手分けして釣り場を探索すると、オルトが岩の間から何かを拾い上げた。

 

「ム!」

 

「お、何か見つけたか?」

 

「ムー」

 

オルトが発見したのは女物の髪飾りだ。ただ、これはリッケの持ち物じゃないよな? まあ一応インベントリに仕舞っておこう。

 

「キュイ!」

 

「ミーニィもか」

 

ミーニィが引きずってきたのは何やら小汚い布の小袋だ。中を開いてみると、ハーブの種が入っている。

 

「これもリッケの手がかりにはなりそうもないか」

 

だが、それ以上は何も出てこなかった。さて、この後どうするか。

 

「普通に考えたら、熊に関することで何かあるんだろうな」

 

イベントに関連ありそうな巨熊に、その熊の話を何故か秘密にしていたリッケ。そして、姿を消したリッケは、この釣り場に戻ってきたことがほぼ確実だ。

 

「ということは、熊が目撃された上流に向かった可能性が高いんだよな」

 

うーん、どうしよう。熊に出会ったら即全滅だ。いや、熊じゃなくても、普通に強いⅯOBに遭遇するだけで死に戻るだろう。

 

だが、リッケの失踪は確実にイベントに関係あると思うんだよな・・・・・。

 

「仕方ない、行くか。できるだけ戦闘は避けて、早くリッケの居場所だけでも突き止めておこう」

 

ということで、俺たちはさらに上流を目指すことにした。川沿いの岩棚を皆で登って行く上流に進んでいくと、出現するモンスターに変化が表れ始めた。ラビットだけではなくリトルベアや、アタックボアが出没するようになり、時おり黒い靄に包まれた強力な個体も襲ってくるようになっている。

迎撃して戦いつつ、時おり逃げながら俺たちは進み続けた。すると、開けた場所に出る。そこだけ岩がなく、小石が敷き詰められた広場のようになっていた。

 

しかも、その広場の端には見逃すことができないある物がある。そこには、見紛うことなき洞窟が口を開けていたのだ。

 

「おおー。初めて本格的な洞窟を見たな」

 

苔とか岩の感じが凄いリアルで、これぞファンタジーっていう感じだよな。冒険の匂いがしてきたぜ。

さて強力なモンスターとか、罠とか、危険がわんさかあるかな?

 

「クマー」

 

「お?これ、どうしたんだ?」

 

考え込んでいた俺のもとに、クママが近寄ってきた。そして、何かを手渡してくる。竹で編んだ籠か? いや、よく見るとそれは釣りで使う魚籠だった。リッケが腰に下げていた奴にそっくりだ。

 

「どこにあった?」

 

「クマ!」

 

俺が尋ねると、クママが洞窟の入り口の岩の間を指差した。そこに挟まっていたらしい。

 

「洞窟の入り口の脇か・・・・・。リッケはこの洞窟に来たのか?」

 

洞窟をのぞき込んでみると、その入り口に何か白い物が落ちているのが見えた。

 

「あれ、これは何だ?」

 

拾ってみるとハンカチだ。花柄の刺繍がしてあり、どう見ても女性物だ。

 

「――!」

 

「お、どうしたゆぐゆぐ?」

 

「――!」

 

ハンカチを眺めていたら、今度はゆぐゆぐが俺を呼びに来た。俺の手を引いて、何かを訴えかけている。どうやらゆぐゆぐも何かを発見したらしい。後についていってみると、ゆぐゆぐが広場の端にある木の上を指差した。木の上に茶色い何かが引っかかっているな。多分、麦わら帽子だろう。

 

「ミーニィ、取ってこれるか?」

 

「キュイ!」

 

俺の言葉にミーニィがピシッと敬礼して、木に飛んでいった。麦わら帽子まですぐに到達し、取って戻ってくる。

 

「リッケのか? いや、リッケの麦わら帽子はもっとつばが大きかったか」

 

これは少し幅が小さいタイプだ。そういえば、リッケと一緒に子供が2人いなくなったって言ってたよな? もしかしてその子供たちの所持品だろうか?

 

「この洞窟に入っていったのは確かだろうな。入ってみるか。みんな――」

 

「グルオオオオォォオ!」

 

「うお!え?あれって噂の熊か?」

 

皆を集めて洞窟に入ろうとしていたら、遠くから低くて重い咆哮が聞こえてくる。そっちを見ると、巨大な黒い影がこちらに向かってくるのが見えた。

 

熊だ。それも、クママやリトルベアのような可愛げのある姿ではない。怒りにゆがんだ瞳に、剥き出しの歯茎。口からは盛大に涎がまき散らされ、その狂暴さが遠目からでも理解できた。そんな恐ろし気な形相をした巨大な熊が、全力で向かってくるのだ。古の鍛冶師の指輪と白妖精の指輪を外して防御特化に戻した俺はペインに連絡を取った。

 

「ペイン、上流にガーディアン・ベアが現れた」

 

「そうか。耐えられるかハーデス」

 

「あー・・・・・耐えられるというか」

 

現在進行中、頭から噛まれてると伝えるとペインからの声が聞こえなくなった。あ、顔に何とも言えない熊の舌が・・・・・。オルト達が必死に俺を助けようとしてくれてるが、ガーディアン・ベアの方が強っぽいようで中々てこずっている。

 

「ハーデス。ダメージは?」

 

「不思議なことに0だ」

 

「わかった。俺達も急いで向かう」

 

上流でも違うところにいるらしいペイン達を待っている間。ガシガシと噛むことを止めない熊にどうしようかなーっと悩んだ。

 

 

―――10分後

 

 

「あ、白銀さ―――!」

 

「遅い!」

 

ようやくやってきた一行に叱咤をくれてやった。相変わらずガーディアン・ベアは爪を立てて逃がさないと頭に噛みついてくるが、そんなことしても俺のHPを削る事すら敵わないでいる。オルト達はすっかり少し離れたところで石積みをして遊んでしまう始末だ。

 

「えっと・・・すみませんでした。あの、それがガーディアン・ベアで?大丈夫ですか?凄く嚙まれてるんですけど」

 

「かれこれ10分以上は噛まれてるぞ俺」

 

「白銀さんの防御力ってどんだけあるんだよ・・・・・」

 

そんなことよりも―――と短刀を手に取り【パラライズシャウト】。至近距離でもろに食らったガーディアン・ベアは呻き声を上げて俺の後ろで倒れた。

 

「え、今の何?倒してしまいました?」

 

「麻痺攻撃だ。しばらくはこれで動けまい」

 

「え、つよっ」

 

「ハーデス。君はどうしてここにいるんだい?」

 

「NPCの子供を探しに来たんだ。ガーディアン・ベアと関係しているらしくてあそこの洞窟の中にいる模様」

 

洞窟に指差してこの場に居る理由を語る。一行は洞窟を一瞥して熊に視線を戻す。

 

「となると、この熊はどうしようか」

 

「放っておいたらヤバいだろうね」

 

「洞窟の中まで連れて行くか?俺がこいつの相手を請け負うから」

 

「怖いこと言わないで!?」

 

ダメか。んー・・・・・じゃあ、

 

「ミーニィ。俺達が戻ってくるまで巨大化してこいつを抑え込むことはできるか?」

 

「キュキュイ」

 

出来ない?

 

「じゃあ、遠くに運ぶことは?」

 

「キュイ」

 

それならできると頷いてくれた。

 

「だ、そうだ。ちょっと遠くに放置するから待ってもらっていいか?ジークフリート」

 

「運べるんですか?」

 

まぁ、見ていろ。

 

「ミーニィ【巨大化】」

 

そう口にすると、ミーニィの全身が大きくなってペイン達の視線を奪う美しい毛と羽毛の巨大なドラゴンと化した。

 

「ド、ドラゴンだぁっー!」

 

「やだっ、あんなに可愛かったのに大きくなるとこんなに格好いいなんて!」

 

「は、白銀さん!スクショ、記念に撮影していいですか!?」

 

「乗ってみたいな・・・・・乗れるのかな」

 

大興奮のプレイヤー達を他所に熊を掴むミーニィの背中に跨って言う。

 

「この1件が終わったら改めてな」

 

空飛ぶミーニィの乗ったまま、ガーディアン・ベアを遠くへ運びに向かった。

 

 

 

 

すぐには戻ってこられない距離にガーディアン・ベアを置き、ペイン達の元へ舞い戻って合流し突入する洞窟の中はかなり暗かった。考えてみたら、今までダンジョンや洞窟に入ったことが無かったので、こんなに暗いとは想像もしていなかった。

唯一入ったことがあるダンジョンっぽい場所は精霊様の祭壇があった地下道だけど、あそこは灯りがキチンと設置されていたし。

 

 

光源を持てぬ俺達にはサイナが【機械創造神】で全員に馴染みあるライト付きのヘルメットを創造して頭に装着している。振り向く先まで明かりが差すので暗い洞窟の中の歩行はスムーズに行けた。

 

「ムム!」

 

「オルト?」

 

不意にオルトが洞窟の壁に向かって走っていく。何だ? 疑問に思いつつオルトを観察していたら、クワで壁を叩き始めた。どうやら採掘ポイントがあったらしい。

 

と言うか、モンスターが全く現れない。もう5分くらい歩いているんだが、敵が全然いなかった。おっと、麻痺状態がなくなって起き上がったか。【パラライズシャウト】。

 

「敵、全然出ないね?」

 

「罠もないな」

 

「道も一本道だし」

 

マルカたちも拍子抜けしている。次第に緊張感も薄れて来たらしく、雑談を交わしたりしていた。マルカに至っては、隣を歩くクママをガン見しながら歩いている。

 

その後の俺たちは更に10分ほど洞窟を進み続けた。結局、罠も分かれ道もなく、採取、採掘ポイントが幾つかあるだけだったな。

 

「ねえ、光が見えるわよ?」

 

「もう出口か」

 

「結局、洞窟は安全な一本道だったか」

 

何事もなく洞窟を抜けた先は、緑の木々の生い茂る森となっていた。

 

「いよいよ本番てこと?」

 

「ここからは気を引き締めないといけないかもな」

 

俺以外の皆は改めて隊列を組み直し、森の中を進む。すると、すぐに俺たちの前に立ちはだかる影があった。

 

「出た!」

 

「ラビット5匹。リトルベア4匹。オリーブトレントが2匹だ!」

 

「数が多いな!」

 

「ペインさん、ラビットを任せていいですか?」

 

「分かった」

 

「リトルベアを最初に殲滅する!」

 

「俺がトレントを抑えておく!」

 

マルカたちのパーティがリトルベアに向かっていく。シーフだけがオリーブトレント担当だ。ヘイトをとって、引き付けておく役目らしい。

 

その間にペイン達はラビットと激戦を繰り広げた。半数が黒ラビットだったため多少手こずったが、最後はクママの爪と、ゆぐゆぐの鞭がラビットを撃破した。

 

マルカたちはまだリトルベアと戦っているな。

 

「よし、俺たちはオリーブトレントに行くぞ!」

 

「ムム!」

 

「クマ!」

 

「キュイ!」

 

「――♪」

 

「メェー!」

 

オリーブトレントは、見た目は顔の生えた木だ。顔も森の長老的な愛嬌のあるタイプの顔じゃなくて、洞穴が目と口を形作るちょっと気持ち悪いタイプの顔だ。

 

根を張っているせいでその場から動けないらしいが、長い蔓の様な物を伸ばして攻撃してくる。シーフは動けないトレントの特性を利用して、遠距離から挑発して、その意識を自分に引き付けていた。

 

それを見て、ふと疑問が湧く。

 

「オリーブトレントをテイムしたらどうなるんだ?」

 

テイムで指定できると言う事は、テイム可能なモンスターと言う事だ。だが、動けないモンスターを連れて行けるのか?

 

リトルベアを倒してこちらにやって来たマルカたちに話を聞いてみたが、分からないと言う事だった。

 

気にはなったが、今はチームを組んでいる最中だからな。テイムしてしまうと素材などは取れないし、さすがに今は試せない。いや、道中の採取物を少し譲ったりしたら試させてくれないかな?

そうお願いしてみたら、あっさりオーケーしてくれた。彼らにとってトレントの素材は大した価値が無いらしい。むしろ、リトルベアの素材などを多めに譲ると言ったら、どーぞどーぞと言う感じだ。

 

「でも、このトレント全然可愛くないと思うんだけど?」

 

「そうだな」

 

「いいの?」

 

「いや、可愛さでモンスを選んでるわけじゃないし」

 

「ええ! そうなの?」

 

そりゃそうだろ。そもそも、オルトとゆぐゆぐとクママは、最初から姿が分かってた訳じゃないし。俺もうちの子たちは可愛い子が多いとは思うけど、あくまでも偶然だ。

 

「でもでもー、なんか嫌ー!」

 

「嫌って言われてもな・・・・・」

 

「白銀さんのモンスは可愛いのが良いのに!」

 

「それはお前の希望だろ?」

 

「ほらほら、わがまま言うなって」

 

「白銀さんの勝手だろ」

 

「ほーら、落ち着こうなー」

 

「ちょ、離しなさいよ!」

 

マルカが仲間たちに引きずられていった。

 

「あのー、気にしないでください。あいつ、可愛い物に目が無いんで、たまにああなるんですよ」

 

「はあ」

 

「ささ、今の内にテイムしちゃいましょう」

 

という事で、残った戦士に手伝ってもらって、テイムを試みる事にした。ある程度HPを削った後、手加減を使って瀕死にする。後はひたすらテイムだ。

 

「テイム、テイム、テイム――よし、成功だ」

 

3回で成功した。やはりユニークモンスターじゃなければ、結構簡単にテイムできるな。

 

「さて、牧場に送られるがどんな感じになるのか・・・・・」

 

いくら何でも、移動できないままじゃないと思うんだよな。ノームみたいに、テイムすると性質が変わるタイプのモンスだと見た。

 

俺の予想通り、テイムされたオリーブトレントが光に包まれ、大きさを変えていく。ドンドン小さくなっていくぞ。そして、光が収まった時、そこに居たのは俺の想像を越えた姿に変化したトレントであった。

 

「・・・・・苗木?」

 

「これってモンスなの?」

 

いつの間にか戻って来たマルカも、首を傾げている。だが俺のステータス欄を見ると、テイムモンスターにオリーブトレントと表示されている。

 

「いや、でも、名前の決定画面が出ないな」

 

それに苗木を鑑定しても、ステータスは表示されず、オリーブトレントの苗木とだけ書かれていた。しかも、インベントリに仕舞えてしまう。何と言うか、苗木とモンスターの中間? そんな感じだ。

 

「こんなモンスターもいるのね」

 

「いや、俺も初めて見た」

 

「戦闘は無理そう?」

 

「だな。まあ、イベントが終わったら畑に植えてみるか」

 

それまではお預けだな。

 



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イベント開始~神聖樹と中ボス悪魔戦

オリーブトレントを、無事?かどうかはともかく、一応テイムした俺たちは、そのまま森の中を獣道に沿って進んでいった。その後も、数度の戦闘を経て、森が開けた場所に出る。俺たちは思わず感嘆の声を漏らしていた。

 

「へぇ、綺麗な場所だな」

 

「ムムー」

 

「キュー」

 

「クマー」

 

「――♪」

 

「メェー」

 

そこは一面の花畑となっており、中央に一本の立派な樹が立っている。水臨大樹を見慣れている俺たちからしても、中々の巨木に思えた。リアルではこれほど立派な樹にはお目にかかれないだろう。俺の地元にある、観光名所にもなっている大欅でさえ、これの半分くらいの大きさだったはずだ。これが神聖樹ってやつだろうか?ただ、巨木には見るからに異変が起きていた。

 

「この木、枯れ始めてるのかしら?」

 

「表面がヒビ割れてるな」

 

「しかも、根の周辺もパサパサだ」

 

マルカたちが言う通り、巨木の表面は乾燥し、所々ヒビ割れしてしまっている。さらに、枝葉にも所々剥げた部分があった。

 

周辺の木々や草花が真夏の盛りの様に青々と茂っているのに対し、この巨木だけが初冬の様な寒々しさを纏っている。

 

試しに鑑定して見ると、『神聖樹・弱体化』と表示されていた。

 

「弱体化か・・・・・。このせいで守護獣がおかしくなったのか?」

 

樹を観察しながら木の周りを歩いていたら、裏側にそれなりの大きさの洞を発見した。子供だったら中に入れるかな? そんなことを考えて中をのぞき込んだら、なんと本当に子供がいるではないか。

 

「子供? もしかしてリッケか?」

 

「え? に、兄ちゃん!」

 

「リッケ、良かった。無事だったんだな」

 

やはり、リッケは洞窟に来ていたらしい。中をよく見ると、リッケと共に行方不明になっていたもう2人の子供たちも一緒だった。

 

「怪我はないか?」

 

「うん。兄ちゃんたちはどうやってここまで来たんだ?」

 

「どうやってって、洞窟を通ってだけど?」

 

「ええ? 守護獣様に襲われなかったのか?」

 

「襲われたぞ。お前らも襲われたのか?」

 

「うん」

 

「最初はどこかに出かけてたみたいで守護獣様はいなかったの」

 

「それで、神聖樹の前まで来たら、戻ってきた守護獣様がすっごく怖い顔で走って来たから」

 

「慌てて木の穴に逃げ込んだんだ」

 

そう言う事か。ここまでは運良く。いや、悪くかな? ガーディアン・ベアの外出に合わせて辿り着けたけど、帰ってきた熊と鉢合わせしてしまったんだろう。理由は分からないが、ガーディアン・ベアは狂暴化していても神聖樹を攻撃するようなことはしないようなので、何とか生き延びることが出来たんだとか。

 

「それよりも、何でこんな場所に来たんだ? 冒険者ギルドとかにも内緒で」

 

「それは――」

 

自分たちがやったことが、周囲に心配をかける悪い事だとは分かっているんだろう。リッケが俯きながらポツポツと話し出す。

 

「守護獣様がおかしくなったって聞いて」

 

「本当かどうか確かめにきたの」

 

「守護獣様は、とても優しくて、僕たちといつも遊んでくれるんです」

 

「でも、人を襲う様になっちゃったら、退治されちゃうかもしれないと思って」

 

それでガーディアン・ベアの様子を確かめに来たらしい。普段は心優しい守護獣が人を襲うなんて信じられなかったし、まさか自分たちまで襲われるとは思ってもみなかったようだ。

 

危機感が無さすぎるとは思うが、普段のガーディアン・ベアがそれほど穏やかで、愛されているってことなんだろう。

 

「白銀さん、どうしたのー?」

 

戻ってこない俺を心配したのか、マルカがやって来た。

 

「ああ、子供たちを見つけたぞ」

 

「あら?可愛い!お名前は?」

 

マルカが満面の笑顔で子供たちに尋ねる。しっかりと腰をかがめて目線を合わせるあたり、慣れている様だ。マルカの態度に安心したのか、子供たちは素直に名前を名乗る。

 

「おいらはリッケ」

 

「わたしはルッカ」

 

「僕はラックです」

 

運営の手抜きと言うべきか、いい具合に揃ってると言うべきか。

 

「ガーディアン・ベアがおかしくなった理由は分からないか?」

 

「おいらも詳しく分からないけど、やっぱり神聖樹が枯れかけてるせいだと思う。こんな酷い神聖樹の姿、おいら初めて見たよ」

 

「じゃあ、いつもはこんな姿じゃないってことだな?」

 

「うん! もっと葉っぱも多くて、もっと元気なんだ!」

 

「それに、この森にモンスターが出るのも変!」

 

「いつもは守護獣様のおかげで、洞窟と神聖樹の周りにはモンスターが居ないんです」

 

神聖樹の弱体化が引き金なのか? それとも、他の異変のせいで神聖樹が弱ってるのか?

 

「ねえ? ともかく、この神聖樹をどうにかした方が良いのよね? 何とかできないかしら?」

 

「まあそうだろうな・・・・・。でも原因が分からないと、どうしようもなくないか?」

 

「そうよね・・・・・」

 

木が枯れるイベントは、ファンタジーゲームじゃよくあるイベントだ。ただ、原因は多種多様で、予想もできない。病気、呪い、毒、寄生虫や寄生植物。宿っている精霊に異変が起きていたり、水源や土壌に異常がある場合もある。

 

「リッケたちは神聖樹が弱体化してる原因を知らないか?」

 

「うーん、分からないな~」

 

「私も」

 

「僕もです」

 

となると、ちょっと樹を調べてみるしかないか。あと、効果があるか分からないけど、対処療法的なことも試してみようかね。

 

「オルト、ゆぐゆぐ、この木に肥料をやってくれ。あと、水もな」

 

「ム!」

 

「――♪」

 

勿体ない気もするけど、俺は高級肥料をオルト達に渡しておいた。本当は自分の畑に使いたいけど、ここは奮発しておこう。地底湖で採取できた水もな。

 

「俺たちは神聖樹の調査だな。メリープもクママも頼んだぞ」

 

「メェー」

 

「クマ!」

 

ミーニィは神聖樹の上を飛んでいく。上の方は俺たちには無理なので、ミーニィに任せた。クママは鼻をクンクンさせる様なしぐさをしながら、樹の周囲を回り始める。

 

「じゃあ、私たちのパーティはお花畑の方を調べるから」

 

「分かった。こっちは俺たちに任せてくれ」

 

ガーディアン・ベアが戻って来る前に、何か発見できると良いんだけどな。

 

「さて、まずはリッケたちが隠れてた洞から確認するか」

 

入れるかな? 俺は洞の中を調べようと中を覗いてみる。やっぱり暗いな。ライトで中を照らして見てみると、入り口の大きさに比べて中は結構広そうだ。大人でも数人は入れる広さがあるだろう。

 

「やっぱ中に入ってみないとダメか・・・・・。ただ、入れるか?」

 

洞の入り口は子供がようやく入れるくらいの広さしかない。頭から入ろうとしてみたが、どうしても肩が引っかかるな。今度は両手から突っ込んで見ると、何とか中に入ることが出来た。

 

「んー、身体の大きいプレイヤーじゃ絶対入れないだろ」

 

「じゃあ、私が調べてみよっか?」

 

ペイン達から離れこっちに来たフレデリカが屈んだ姿勢で提案してきた。

 

「いいのか?じゃ、頼む」

 

「お任せ―」

 

小柄な体型なので潜れ、ライトで照らしながら洞の中を調べてみるフレデリカ。ただ、これと言って不審な物は見つけられないらしい。さすがにリッケたちが何も気づけなかったし、何もないかね?

 

俺も洞の入り口からライトを照らして目で足元、壁面と順に目視みながら異常が無いかを調べていくが、単なる木の壁があるだけだ。だが、ふと天井を見上げてみると、何やら黒い物が目に入った。

 

「なんだ?棘?角?」

 

「え?どこ?」

 

「上だ」

 

それは全身黒塗りの、包丁くらいの大きさの棘であった。この色では闇に同化してしまい、灯りが無ければ気づかないだろう。そんな太い棘のような物が洞の内側、つまり神聖樹の幹に突き刺さっていた。

 

「あー、これ?」

 

「この色といい、絶対に怪しいよな」

 

「そうだね。この棘から黒い靄が出てるから間違いないよ」

 

光を照らして観察してみると、その棘からは黒い靄が立ち昇っているのが分かる。ガーディアン・ベアや黒ラビットなど、狂暴化したモンスターたちと同じだ。

鑑定してみるが、不明としか表示されない。それが余計に不安を駆り立てる。

 

「触っても平気かな?」

 

「プレイヤーに害あるのだとしたらデバフぐらいだと思う」

 

どう考えてもこの棘のせいで神聖樹が弱体化してるだろうからな。

 

「ちょっと抜いてくれないか?」

 

「わかったー」

 

フレデリカは棘に手をかけて、力を込めてみた。だが、ビクともしない。何度か試してみたんだが、動く気配が無かった。

 

「腕力が足りないのか? それともイベント的に抜くことが出来ないのか・・・・・?」

 

他の人にも試してもらうか。俺はモンス達とマルカたちに声をかけた。そして、集まって来た皆に棘の事を教える。やはり、マルカたちもこれが怪しいと感じたらしい。

 

「この中で入れそうなのは・・・・・。私とフレデリカさんだけ?」

 

「そうだな」

 

「白銀さんの腕力はいくつ?」

 

「防御力極振りにしている俺に訊くのか?」

 

「にしてはAGIが高い感じの歩行速度をしていましたよね?」

 

「それは装飾アイテムで補っているからだ。・・・・・んー、フレデリカ。これを貸すからもう一度してくれないか?」

 

ヘパーイストスの古の鍛冶師の指輪を外してフレデリカに送る。受け取ったフレデリカの目は指輪の性能を見て凍結してしまったかのように固まった。

 

「え・・・何このステータス。反則過ぎるでしょ」

 

「どうしたフレデリカ?」

 

「これ、ドラグが欲しがるよ。【STR】120【AGI】120【DEX】120だもん」

 

「ええ?冗談でしょ?」

 

「本当だよ!ほら!」

 

黒い棘そっちのけで指輪のステータスを見せびらかすフレデリカに確認したペイン達も言葉を失った。

 

「おいおい・・・・・マジで?」

 

「これ一つだけあればトッププレイヤーの仲間入りになるじゃないの!」

 

「レア度と品質がどっちも10。どうやって手に入れたんだ?」

 

唖然とする眼前のプレイヤー達に手を叩いて意識を変えさせる。

 

「はいはい、今は目の前の問題に意識してくれ。フレデリカ、指輪を付けて棘を抜いてくれるか」

 

「【STR】が高い魔法使いなんてこの瞬間私だけになるね。ちょっと新鮮だよ」

 

再度棘の抜き取りに挑戦する彼女が洞の中に入り棘を握って引っ張った直後、スポンという音とともに棘が抜た。

 

「抜けたー!凄い【STR】120は伊逹じゃなかったよー!」

 

「なぁ、ハーデス。物は相談だがあの指輪を譲ってくれないか?」

 

「無理、あれは一時的な鍛冶師のNPCからの借り物なんだよ。いつか返さなきゃならないから譲れない」

 

「そうか・・・・・残念だ」

 

「第2エリアの町すら行っていないだけあって、始まりの町で色々としているんだなお前って」

 

俺は洞から出て来たフレデリカの差し出した棘を受け取りつつ、その頭を撫でてやる。

 

「何で人の頭を撫でるのさー」

 

「ああ、悪い。丁度そこに頭があったから。うちのオルト達によく撫でていたもんでな」

 

「ようはフレデリカは子供みてぇに小せぇから撫でたってことか?」

 

「なっ、私は子供じゃなーい!ドラグ、そう言うこと言うなら今後は援護してやらないからね!」

 

待て、それは困る!と慌てだすドラグにそっぽ向くフレデリカ。

 

「さて・・・・やっぱ鑑定は効かないか」

 

花畑を調べているマルカの仲間たちに棘を見せようとしたんだが……。

 

「な、なあ、白銀さん。それ変じゃないか?」

 

「ん?」

 

「黒い煙が出てるし!」

 

言われて棘に目を向けたら、確かに棘を包む黒い靄がモコモコと勢いを増していた。

 

「っ!」

 

慌てて手を離す。だが、地面に落ちても棘からの黒い靄の噴出は止まらない。むしろ激しさを増している様子だった。

 

「うわっ! 何あれ!」

 

フレデリカとドラグも驚いているが、俺たちに答えようもない。

 

そのまま見守っていると、次第に靄が凝り固まっていく。そして、急速にまとまりを持ち始めた靄が一気に何かの姿を形作った。これってもしかして、不味い事態なんじゃないか?

数秒後、棘があった場所には、全身真っ黒な人型の何かが立っていた。

 

「人間どもよ、よくも我らの邪魔をしてくれたな!」

 

「えーと、どちら様?」

 

「我は大悪魔グラシャラボラス様に使える使徒!我の邪魔をした貴様らは、グラシャラボラス様への贄としてくれる!」

 

その姿は羊の角の生えた筋肉質の大男で、全身の肌がコールタールの様に真っ黒だ。翼はないが、いわゆるテンプレ的な悪魔と言った感じの外見だった。

 

「リッケ、友達を連れて神聖樹の洞の中に入れ」

 

「う、うん!分かった」

 

NPCが死んだら消滅しちゃう可能性が高いからな。守れる距離にいてもらった方が安心だろう。

 

「ミーニィ【巨大化】だ。サイナも援護してやってくれ」

 

「キュイ!」

 

「かしこまりました」

 

俺とオルト達は後退して悪魔を鑑定して見ると、名前はグラシャラボラスの使徒となっている。頭の上に赤マーカーとライフゲージが出現し、戦闘が始まってしまった。もう交渉も逃走も出来そうにないな。

マルカたちのパーティのバランスは悪くない。回復役が風魔術師のマルカ、索敵役がシーフの男しかいないが、前衛に盾士、剣士、槍士、が揃っており、単純な戦闘力は高めだ。

 

グラシャラボラスの使徒の攻撃を盾士が防ぎ、その隙に他のメンバーが攻撃を加えて行く。

悪魔は拳での物理攻撃がメインな様だな。時おり状態異常を引き起こす術を使う様だが、マルカの魔術ですぐに癒されていた。

攻撃力はかなり高いが、マルカ達のパーティなら対応できている。

 

ペイン達も負けてはいない。フレデリカのバフ魔法で戦闘力を高まったドラグが被弾しても崩れず戦闘を維持し、ドレッドが俊敏な動きで二振りの短剣で悪魔の攻撃をかわしながらダメージを与え、ペインは片手装備の盾と剣で攻撃を防ぎ確実に攻撃を当てていく。

 

 

俺は特に何もすることなくはないが、ミーニィとサイナの指揮をしていた。

 

 

戦闘は思いのほか順調だった。見た感じ悪魔の攻撃パターンは単調で、物理攻撃と状態異常を繰り返すだけだ。ボスなだけあってHPは多いが、これなら何事もなく勝ててしまうかもしれない――なんて思ってたんだが。

 

HPが半減した悪魔が、突然笑い始めた。

 

「下等な人間どもにしてはやるではないか! 少々本気を出す必要があるな!」

 

例の奴か。追い込まれたボスが変身しちゃう系のイベントだ。悪魔の筋肉がメキメキと音を立てて、さらに膨れ上がっていく。変身中に攻撃を仕掛けるが、弾かれてしまった。変身中は無敵ってことか。

 

「ぐははは! 無粋な輩め!」

 

悪魔に言われたくねぇー。

 

その間にもグラシャラボラスの使徒は不気味な変化を続けていた。およそ10秒後、その姿は先程までとは全く違う物へと変わっている。

 

「アオーン! 貴様ら全員食い殺してやる!」

 

変身後のグラシャラボラスの使徒はそれくらい気持ち悪い姿だった。その姿は全身毛むくじゃらの、猫背で二足歩行の巨大な犬だ。それだけ聞くと可愛くも思えるだろう。だが、実際はそんな生易しい姿じゃなかった。

 

犬は犬でも、数年くらい体を洗っていないせいで体毛が固まって縮れた雑種犬だ。それも微妙に毛が長めの奴である。目は水木先生の描く妖怪の様にギョロリとしており、ベロンと垂れ下がった赤茶けた舌が妙に不快感を煽る。

 

パッと見、先程までの方が断然強そうだな。だが、それは気のせいだった。

 

「アオーン!」

 

「くっ! 攻撃力が上がりやがったぞ!」

 

「くそっ!」

 

お約束の2回攻撃だ。しかも、攻撃力も上がっているらしい。盾士のHPが盾の上からでも大きく削られるのが見えた。

 

状態異常攻撃の頻度も上昇し、回復役のマルカのMPが凄まじい速度で減り始めたな。

 

極め付けが、厄介な範囲攻撃である。

 

「アオオオォ!」

 

悪魔が一際大きな咆哮を上げると、黒い光が悪魔を中心にドーム状に広がった。そして、次の瞬間には凄まじい衝撃が俺たちを襲う。後方に居た俺達まで巻き込まれるほどの広範囲攻撃だった。

 

このレベルのボスにしては威力は大したことないんだが、全員がダメージを喰らうと言うのはそれなりに厄介だ。回復が追い付かないしな。

 

「―――ハーデス、君も戦闘に参加してくれるか」

 

ペインからの要求に薄く笑みを浮かべた。

 

「わかった。その前にフレデリカ。指輪を返してくれ」

 

「え?あ、うん」

 

彼女の元へ寄り指輪を返してもらって狼を模した牙の笛をインベントリから取り出した。俺はこれを使う機会として思いっきり吹いた。笛から鳴る表現しがたい音はペイン達や悪魔の意識を集めるが、そんな視線を気にすることもなく視界に映る発現した銀色の魔方陣から、一匹の銀色の毛並みと赤い脚の狼の登場に注視していた。牛ほどの大きな体格の銀色の狼―――。

 

「は、白銀さんが狼を召喚した!?」

 

「銀色の狼・・・・・」

 

「綺麗・・・・・」

 

「白銀さんの従魔か?」

 

何も知らないプレイヤー達は俺の従魔だと勘違いしているが、この狼の正体を悪魔は動揺してる声音で叫んだ。

 

「フェンリルだとっ!?」

 

「「「フェンリルゥッ!?」」」

 

そう、フェンリルさんである。そのフェンリルは俺に目をジッと向けてくる。

 

「久しぶり、来てもらってありがたいところだが、あそこにいる悪魔を一緒に倒さないか?」

 

悪魔に指さす。するとフェンリルは悪魔の方へ振り向くや否や、物凄い速さで駆け出した。一気に肉薄しかかるフェンリルの姿にビビっている悪魔は攻撃を繰り出すが、あっさりと躱されては銀狼の鋭利な爪で首を斬り飛ばされた。

 

「ば、ばか―――!」

 

グシャアッ!と擬音が聞こえそうな犬の頭をいい踏みっぷりで潰して悪魔の命を狩り取ったフェンリル。王者の風格を見せつけられたジークフリート達は感嘆の念を抱く。

 

「つ、強すぎるだろ・・・・・!」

 

「あれがフェンリルの強さ・・・・・」

 

「やばい、格好良すぎる!」

 

心なしかジズより弱い相手だったからか、フェンリルがつまらなさそうだった。

 

故にそんなフェンリルのおかげであっさり勝利してしまいました。まあ、中ボス扱いだし、こんなものか?神聖樹も回復したがこの次はグラシャラボラスと戦闘か?いや、まさかな。

 

「どうしたの白銀さん?」

 

「うん?いや、何でもない。ドロップは何かなーと思ってさ」

 

「それがさー、ドロップなしみたいなの!イベントポイントはたくさん貰えたけど」

 

「やっぱ、凶暴化モンスターと同じくくりってことか」

 

「そうみたい。ねえ、どうする?」

 

「うーん、とりあえずリッケたちを連れて移動するか」

 

「それがいいかなー」

 

俺はマルカと相談して、一旦逃げ出すことにした。まだガーディアン・ベアがどうなったかもわからないしな。せっかくボスに勝ったのに、ガーディアン・ベアに鉢合わせて全滅とか笑えないのだ。

 

「ところでさ、あのフェンリルは白銀さんの従魔?」

 

「いや、フリーだぞ」

 

「フリー?え、待って。てことは、野良のモンスターってこと?」

 

「モンスターなのは当たり前だけど、何て言えばいいか・・・・・ジズと敵対しているモンスターの一種なんだ」

 

「いや、そういう情報よりもテイムしていないモンスターが私達に襲ってこないのかって心配なんだけれど」

 

あー、そういうことか。それなら問題ない。

 

「フェンリル。倒し甲斐がない相手だっただろうけど、近い内にさっきの奴より強い相手が現れるから期待してくれるか?」

 

「グルル・・・・・」

 

「それで、お前はこれからどうする?このまま俺と一緒にいるか?それとも他のフェンリルの仲間たちの元へ戻るか?俺と居るなら右足、仲間の所に戻るなら左足を上げてくれ」

 

話しかけ、問うとフェンリルは考える仕草をした後にスッと右足を上げたのだった。

 

「な?」

 

「えええ・・・・・」

 

「いやいや、これはテイマーの業界で騒ぎになるなこれ。テイムしていなくても信用を得れれば仲間になってくれるNPC扱いのモンスターもいるなんて」

 

「因みにフェンリルは幻獣種というカテゴリーだそうだ。情報はうちのサイナ」

 

「幻獣種かよ」

 

「テイムできないかな・・・・・」

 

 

 

悪魔を倒した後。リッケたちを連れて神聖樹の森から洞窟に向かおうとしていた俺たちだったが、ちょっと遅かった様だ。

 

「おい、あの化け物熊だ!」

 

「げ、まじか!」

 

「間に合わなかったか」

 

「やべ!」

 

洞窟の出口から、ガーディアン・ベアがのしのしと歩いてくるのが見えた。静かに見つめ合う俺たちとガーディアン・ベア。誰かがつばを飲み込む音が、妙に大きく聞こえた。漂う緊張感が場を支配する。黒い靄は消えたようだが、どうなんだ?

 

「・・・・・ガウ」

 

「え? えっと、どういう事?」

 

ガーディアン・ベアが急にその場で伏せて丸くなってしまった。そんな熊に、リッケたちが駆け寄っていく。いきなりだったから止める暇が無かったぜ。

 

「守護獣様!」

 

「ガウ!」

 

「元に戻ったんだね!」

 

「ガウガウ」

 

「よかったー!」

 

次々に自分の体に飛びついてくるリッケたちに、ガーディアン・ベアは優しい視線を向けている。どうやら、リッケたちが語っていた穏やかな性格に戻ったらしい。

 

「クマクマ?」

 

同じ熊として興味があったんだろうか。クママがポテポテとガーディアン・ベアに近づいて行った。そして、数秒見つめ合ったかと思うと、何やら「ガウガウ」「クマクマ」とやり取りをし始めた。

 

通じ合っているんだろうか? いや、通じ合っているんだろう。すぐにクママがガーディアン・ベアの背によじ登り始めた。どうやら遊び始めたようだ。

 

それを見たオルトもその巨体に駆け寄り、纏わりつき出した。ガーディアン・ベアがオルトに手を伸ばしたので一瞬心配としたが、オルトが自分の背に昇るのを手伝ってくれたらしい。

 

「ムムー!」

 

「クマクマー」

 

うちの子たちがガーディアン・ベアの背中を滑り台代わりにして滑り出した。さすがにやり過ぎじゃない? だが、ガーディアン・ベアは穏やかな表情のままだ。出来たクマで良かった。なお、メリープは俺の足元にいる。オルトとクママのように遊べれないからか、それとも怖いからかなのかは定かではない。ミーニィは安定の定位置として俺の頭の上に元の小ささで乗っている。

 

「戦闘にはならなさそうだな」

 

「助かった~」

 

マルカたちも安堵の声を漏らしている。戦闘になったら絶望だからな。

 

―――ガーディアン・ベアの方が。

 

しばらくして、ようやくリッケたちから解放されたガーディアン・ベアが、のそのそと歩き出す。神聖樹の方へ行くのかと見て居たら、少し行ったところで立ち止まり、こちらを振り返った。

 

「ガウ」

 

何だ? 熊はその場でじっとこちらを見ている。すると、リッケやクママたちがガーディアン・ベアの後に着いて駆け出した。さらに、ガーディアン・ベアがまるで着いて来いとでも言うかのように、手招きをした。

 

「なあ、あれって来いって言ってるよな?」

 

「そうだと思う。あのフェンリルまで行っちゃってるし」

 

まあうちの子たちが懐いているし、着いていってみるか。俺はマルカたちと共にガーディアン・ベアの後を追った。やはり神聖樹のところまで戻ってきたな。そのまま熊が神聖樹に近づき、自らの額をそっと神聖樹の幹にあてた。その瞬間、神聖樹が光り輝く。

 

「おおー」

 

「綺麗」

 

「だなー」

 

巨樹が青白い光を纏う幻想的な光景だ。俺たちは思わず見入ってしまった。ゲームの中じゃなきゃ見れない光景だよな。そのまま感動していたら、その光がまるで蛍の様に細かい光の玉となって、俺たちに向かって飛んできた。まあ危険なものには見えなかったが、ちょっと驚いてしまったぞ。

 

《プレイヤーによって、異変が1つ解決されました》

 

『死神ハーデスさんに、称号『神聖樹の加護(イベント限定)』が授与されます』

 

 

称号:神聖樹の加護(イベント限定)

 

効果:賞金4000G獲得。ボーナスポイント6点獲得。大悪魔グラシャラボラス及びその眷属に対して与ダメージ上昇。被ダメージ減少

 

 

へえ、称号が貰えたな。イベント限定って言うのは、イベントが終了したらなくなっちゃうってことか? それだと微妙だな。効果も、戦闘に直接参加する可能性が低いからあまり良くないし。まあ、ボーナスポイントが多めだからそこは嬉しいけど。

 

「きゃぁぁ! 称号よ!」

 

「おおおおお! まじか!」

 

「すす、すげえ!」

 

ん?そんな喜ぶ?

 

「白銀さん! なんでそんなに冷静なの?」

 

「称号だぞ?」

 

「いや、白銀さんは称号をたくさん持ってるって噂だ」

 

「なるほど、慣れてるのか!」

 

「さすが白銀さんだぜ」

 

なんか勝手に感心されてしまった。初めて称号を貰った人にとっては嬉しい物なのかもな。俺は初称号からして微妙だったから、素直に喜べなかったけど。

 

「ガウガ」

 

ガーディアン・ベアがまるで土下座するかのように、頭を下げた。いや、本当に感謝してくれているのかもしれない。

 

「ガウー」

 

「お、なんだ?」

 

頭を上げたガーディアンベアが、遠吠えの様にか細く鳴いた。すると勝手にステータスウィンドウが開いたかと思うと、そこに文字が表示される。

 

『次の中から、報酬を選択してください。守護獣の剣、守護獣の槍、守護獣の――』

 

守護獣シリーズの武具がズラーっと並んでいる。ただ・・・・・俺は別にいらないと思ってしまう。だって大盾使いだしテイマーだし。基本攻撃するのはオルト達従魔なのだ。マルカたちにも聞いてみたら、性能は微妙だが、効果のおかげで悪魔戦では役に立つという回答だった。

 

うーん、どうしよう。俺でも使えるものは無いかね。防具などもあるが、如何せん、ユニーク装備の方が強すぎるから微妙な性能ばかりなんだよな。これは適当な武器を貰って、使える人に渡すのが良いか?

 

そう思いながら画面をスクロールしていくと、一番下に守護獣のインゴット×2という項目が目に入って来た。

 

インゴットか・・・・・。これで作ったら、他の武器と同じ効果を持った武器が作れるのか?イズもいるんだしこれを武器や防具に加工できたら、ボス戦で役立つよな?

 

どうせイベントが進めば大悪魔グラシャラボラスとやらと戦わなきゃいけなくなるだろうし、その時に役立つだろう。ジークフリート達に武器を渡せれば、かなりの戦力向上になるんじゃないか?

 

「なあマルカ、村に鍛冶屋ってあったっけ?」

 

「どうして?」

 

「いや、一番下にあるインゴットを武器にできたら、普通に武器を貰うよりも数を揃えられるんじゃないか?」

 

「インゴット? えーっと・・・あった、これね。へえ、いいじゃない! 皆でこのインゴットを選べば、私たち以外にも守護獣装備を行きわたらせることが出来るかも」

 

「だよな?ただ、鍛冶師が居ないと無理な作戦だからさ」

 

「あー、そう言う事ね。でも、大丈夫よ。このサーバーには有名な鍛冶師が居るから」

 

「へえ、そうなのか?」

 

「うん。3人もね。一人はエロ鍛冶師のスケガワさん」

 

「・・・・・何鍛冶師って?」

 

「エロ鍛冶師」

 

「どんな事したらそんな情けない異名が付くんだ?」

 

エロ鍛冶師?俺そんなプレイヤーネームだったら絶対にゲーム辞めてるんだけど。

 

「女性は割引で作ってくれるのよ。しかも、セクシー系衣装ならさらに割引」

 

「あー、そう言う事」

 

紛うことなきエロでした。ムッツリーニと引き合わせたら意気投合するんじゃないか?

 

「でも、男性が割高って訳じゃないのよ? 単に、女性なら値引きしてくれるってだけで」

 

「そいつはその呼び名を嫌がっていないのか?」

 

「なんか、自分で名乗り出したらしいよ?」

 

「え?なんで?」

 

「さあ?」

 

会うのがちょっと躊躇うな。

 

「他二人は?」

 

「もう一人はイズさん。女性鍛冶師だよ」

 

「知ってる。一緒にNPCの家に寝泊まりしてる」

 

「あ、そうだったの?凄いわね。今じゃミスリルの先駆者や最近だと魔鉱石なんて未知のレアな鉱石を手に入れてミスリル装備より上質で高い性能の装備を作るから鍛冶師の先駆者なんて渾名が付け始められてるのよ」

 

イズ、お前ェ・・・・・。

 

「三人目はセレーネって女性鍛冶師。かなり凝った武器を作るからコアなプレイヤーの間じゃあかなり有名よ」

 

「凝った武器とは?」

 

「えっと、見たこともない聞いたこともない武器を作るのよ。リアルだと実際にある武器なんだけれど、その辺のことなんて私達は調べもしない限りは全然理解が出来ないものばかりなのよ」

 

ほー、興味あるな。一度見て見たいなその武器等。

 

「ということで、私たちはインゴットにすることにしたわ」

 

「良いのか?」

 

インゴットを使って武器を作っても、このリストと同じレベルの装備になるかは分からないし。自分たちの活躍を考えるなら、武器を貰う方が確実だろう。

 

「うん。今後のボス戦のこと考えたら、その方がいいだろうしね」

 

「なら、俺もインゴットにしておこう」

 

俺が適当に貰っても宝の持ち腐れだ。だったらインゴットで有効活用しよう。

 

 



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下準備

ボス戦を終えた俺たちは、リッケたちを連れて村に戻った。そんな俺達に他のプレイヤー達が集まってきてボスと戦う事になったいきさつは説明済みである。

 

それはもう羨ましがられた。称号についてもそうだし、強い相手との戦闘もだ。

 

「ところでずっと思っていたんだがジークフリート」

 

「うん?」

 

「あの馬はどこで入手したんだ?」

 

真っ白な馬を乗っていたジークフリート。馬は道中俺の傍にいるフェンリルに怯えていたが今は村の牧場にいるので尋ねてみたところ。

 

「課金したのさ」

 

「ああ、課金システムか。確かにあったな。ぼったくりもいいところ何故か諭吉一枚分で売られていたが」

 

「それでも僕は購入してすぐに【騎乗】スキルを習得してからハイヨーの背中で共に戦い駆け抜けていったよ」

 

俺も人の事は言えないけどさ、ハイヨーって。しかもそのハイヨーなんだが、馬?いや、馬は馬なんだが、騎士プレイをしているジークフリードの愛馬として、それでいいのか?

 

あの外見は、俺の想像する騎士愛馬とはちょっとばかり違っていた。いわゆるサラブレットではないね。顔は、白い奇跡の馬が活躍する競馬漫画に登場したオッサン鼻毛馬にそっくりだ。体はずんぐりむっくりで、どう見てもロバだった。ブサイクじゃね?

 

そう感想を抱きつつ村に戻った後は、今後の相談だ。何せ、神聖樹はもう1本あるっていう話なのだ。ただ、どうやらまだ発見はされていないらしい。

 

「でも、絶対にイベントあると思うんだよな」

 

「まあ、ガーディアン・ボアが暴走してて、神聖樹が枯れかけてるんじゃないですかね?」

 

「私もそう思う」

 

だとすると・・・・・。

 

「神聖樹に関しては、育樹をお持ちの白銀さんの力が必要かもしれませんよ?」

 

「今回、樹が復活したのだって、白銀さんたちが何かしたからじゃない?」

 

そりゃあ、肥料を上げたりしたが、神聖樹が復活したのはボスを倒したからじゃないのか?だが、そう言われると、否定も出来んな。

 

「ボス戦はともかく、その後ハーデスさんに神聖樹まで来てもらう必要はあるかもしれないね」

 

「だろうな。同行するよ」

 

できれば村の近くが良いんだが。楽だしさ。

 

「2本目の神聖樹の情報は全くないのか?」

 

「そうだねぇ。少なくとも、発見したって言う話は聞かないな。守護獣の目撃情報もないし」

 

と言う事で俺たちは分かれて情報を集めることにした。コクテンやジークフリードはプレイヤーへの聞き込み。俺とマルカたちはインゴットを武器にするとどうなるかの調査だ。なので、まずはマルカの言っていたスケガワという鍛冶師に会いに行くことにした。けれど、フレンドコールが届いたのでマルカを先に行かせてコールに応じた。

 

「イッチョウ、どうした?」

 

『ベストタイミングだと思って連絡したんだ。見つけたよ、ガーディアン・ボアがいる洞窟。洞窟の中も覗いたらおっきな木もあってその傍に大きな猪もいたよ』

 

「でかした。場所はどのあたりだ?お前の言う通り、その場所の情報を集めている所なんだよ」

 

イッチョウの情報をそのままジークフリートに伝えた後、俺は全然興味が無かったから気づかなかったが、広場の隅で露店を開いていたのだ。先に行かせたマルカの紹介で、イズ以外の女性と噂のエロ鍛冶師と対面する。

 

「やあやあ、エロ鍛冶師のスケガワです。白銀さんの噂はかねがね」

 

「ああ、どうもどうも、死神ハーデスだ。最近は白銀さんと呼ばれることが多いがな」

 

エロ鍛冶師のスケガワは思っていた以上にフレンドリーだった。もっとも、男は死ね!女だけ来い!みたいなやつだったら鍛冶師として商売やってけないだろう。

 

「うん? どうしたんだい?」

 

「いや、エロ鍛冶師って凄い異名だと思って」

 

「ああ、もしかして男嫌いだと思ってた?」

 

「いや、ゲームの中でも白い目を向けられようと自分に正直な奴なんだなと」

 

「あはは、そりゃそうだ。俺はエロ。一人で妄想を膨らませて女性を性的な目で見るのが好きなスケベだからな!」

 

「警察に捕まらない程度で生きてくれよ」

 

「勿論だ。もっとオープンでフレンドリーで、皆と分かち合って生きるさ!」

 

うん、話が通じてないし意味が分からん。ただ分かるのは、周りにいるプレイヤーたち。特に女性プレイヤーの眼が非常に厳しいものであると言う事だけだった。

 

「わかった。分かりたくないが、何となくは分かった。だからとりあえずその話はそれくらいで十分だ」

 

「そうか? まあ、その内じっくり話そうか」

 

いや、もういいから。

 

「は、初めまして・・・・・」

 

ボサボサ髪の眼鏡を掛けた女性が挨拶をしてくれた。人見知りなのか、身体を縮めているがイズが笑顔で彼女をフォローした。

 

「この子は初対面の人には緊張しちゃうのよ。慣れると普通に会話できるから安心して」

 

「そうか。にしては仲がいいな。一応は鍛冶のライバル同士なんだろ?」

 

「そうね。でもそれ以前に同じ鍛冶仲間だからフレンド登録をしてるのよ。そこのエロ鍛冶師は除いてね」

 

「はっはっはっ、何時か二人ともフレンド登録をしたいもんだぜ」

 

女に警戒させている時点で難しいかなぁ・・・・・。

 

「セレーネ。前話していたハーデスってプレイヤーはこの人よ」

 

「あ・・・・・魔鉱石の。お世話になってます」

 

なぬ?お世話に・・・・・?首を傾げ疑問符を浮かべる俺をイズは教えてくれた。

 

「貴方が譲ってくれた魔鉱石は彼女に譲ってるのよ。何時か会ってお礼がしたいって言ってたから」

 

「ということはミスリルもそうか。凝った武器を作る鍛冶師だそうだから今度見させてくれ」

 

「は、はい・・・・・」

 

自己紹介を終えてマルカにどこまで話したのかを訊く。彼女は大体の事は話したと言い返した。

 

「そうか。それじゃイズ、セレーネ、スケガワ。武器の生産をよろしく頼むよ。こっちも次に行動をしなくちゃならないからさ」

 

「え、次の行動って?」

 

「俺のフレンドがガーディアン・ボアがいる洞窟を見つけてくれた。既にジークフリートにも伝えたからすぐに行動すると思うぞ」

 

イズに件のインゴットを手渡しながら口にすると、マルカはそれなら早く行こうと言うので広場を後にした。

 

 

 

「・・・ところで、白銀さんの隣にいたあの大きな狼は何だ?新しい従魔?」

 

「・・・・・綺麗だけど凄く怖い雰囲気だった」

 

「多分、フェンリルだと思うわ」

 

「え、マジでフェンリル?」

 

「うん。彼からフェンリルの素材を預かってコートに作ったからね。今まで一番の最高傑作の出来栄えだったわ」

 

「凄い、いいな・・・・・」

 

「作ってみたいなら頼んであげるわよ?確か、フェンリルの牙だけは使わなかったからまだあると思うわ」

 

「お、俺もお願いだ!」

 

 

 

ジークフリート達と合流しようとする最中にお馴染みのアナウンスが聞こえて来た。

 

『イベント4日目の12:00になりました。中間結果を発表いたします』

 

 

おお、もうそんな時間か。俺は早速メールを開いてみた。最初は、前回298人中274位だった個人のランキングだな。

 

「おおー、上がったんだけど。っていうか上がり過ぎだわ。やっぱボス戦の300ポイントがデカかったよな~」

 

「みたいだね。私もすっごく上がってるー!」

 

なんと577ポイントで、第29サーバーの中で46位だったのだ。一気に上がってしまった。まあ、あと3日もあるし、下がる一方だとは思うけど。

 

だが、驚いたのがサーバー貢献度の方である。なんと、こちらでは4位から1位に上がっていたのだ。ボスを倒したからか? でも、一緒にボスと戦い、倒したマルカたちが上位10位にも入っていない。重要なイベントで貢献しただけじゃないってことだよな。他に俺が特別なことは・・・・・。

 

「リッケたちと仲いいとか? でも、それだけでサーバー貢献度が上がるか?」

 

やっぱり、いまいちわからないな。まあ、分からない事をあれこれ考えていても仕方がない。次に行こう。

 

「へえ。こっちは2位なんだ」

 

なんと、サーバーランキングが2位に上がっていた。全33サーバー中、俺たちのサーバーが2位だ。これって、イベントの進みが良いってことなのだろうか? 中ボスも撃破してるし、俺たちの予想や行動が間違ってないってことだろう。貢献度の稼ぎ方は分からないが、サーバー順位はイベントを進行させれば上がるってことで間違いないだろう。

 

 

 

「よし! サーバーランク1位を目指すためにも、もう一本の神聖樹を復活させようマルカ」

 

「おー!」

 

 

 

30分後―――。

 

 

 

「じゃあ、ここが2本目の神聖樹の在処ってことですか」

 

「うん、この辺の岩場に洞窟の入り口があるよ」

 

森から戻ってきたイッチョウからの情報は、マップをオープンモードにして神聖樹の情報をコクテンたちに教えていた。

 

神聖樹がある場所は、イッチョウが言うには、出現するモンスターが相当強めの樹海になっているらしい。

コクテンたちは地図を見ながら唸っている。

 

「この辺は出現する敵が第3、4エリア相当なので、あまり探索が進んでいない場所なんですよ」

 

「ハーデス君のフレンドがよくここまで探しに来たね」

 

「本当です。自力で探索となれば凄まじい時間が掛かっていたでしょうね」

 

マイフレンドの行動力に感謝だな。皆の顔を見回しながら言う。

 

「守護獣のインゴットの武器製造を終えてから行くか、このままもう一つの神聖樹に行くかって話なんだがどうする?後者を選ぶんならやりたい事があるんだが」

 

「やりたいこと?」

 

「グラシャラボラスとのボス戦を控えてるなら、料理スキルを持ってるプレイヤー全員にバフ効果付きの料理を作ってもらいたい。後は可能ならHPとMPのポーションと状態異常回復のアイテムの生産も視野に入れた方がいい」

 

ペイン達は俺の意図を察して賛成の意見を言ってくれた。

 

「確かにハーデスの作る料理のバフ効果は凄いからね。このサーバーにいる戦闘系のプレイヤー全員にハーデスの料理を大量生産して強化できればボスの攻略はしやすいだろう。それにグラシャラボラスはこのイベントの悪魔のボスだ。激しい戦いになる前提で準備した方がいい」

 

「私もそれがいいと思いまーす」

 

「俺も賛成だ」

 

「レイドボスだろうし、レイドすることが分かるなら対処もやりやすいだろうさ」

 

ジークフリート達は俺達の言葉に真剣な面持ちで受け止め、首を頷いた。

 

「善は急げ、今すぐ行動した方がいいですかね?」

 

「いいだろうな。報酬が欲しいなら・・・・・そうだな。うちの従魔との撮影会の権利をチラつかせばいいか。それと料理に使う食材は―――」

 

俺は集めて欲しい材料を一通り書き出し、コクテンに渡す。実はこの数日で豚汁やピザ以外にも色々な料理に挑戦したので、それらの材料も書いておいた。

最優先は豚汁らしいが、それ以外も用意できればそれだけ戦いが有利になるだろう。早速、有志を募って食材を集め始めるとのことだった。

 

そうして、皆と広場で声をかけてみたんだが・・・・・。

 

「ぜひ参加させてもらいます!」

 

「よっしゃー! 今度こそ!」

 

「やった!」

 

想像以上の反響で、ちょっと引いてるんだけど。前回は村に居らず、悪魔の使徒戦に参加できなかった者、戦う順番が来る前に中ボスが倒されてしまい、スクショの権利を得られなかった者たちが多数いたようだ。

 

「ふおおぉぉぉぉぉ!」

 

「食材狩りや~!」

 

「買占めじゃ~!」

 

これは期待できそうなんだけど、テンション高すぎない?

 

 

 

―――1時間後。

 

 

「うわぉー」

 

俺は目の前に広がる光景に思わず呻き声を漏らしていた。

 

「味噌が思ったよりも集まりましたね」

 

「あとは果物類が相当数あります」

 

「紫柿、緑桃、白梨ですね」

 

「肉もアタック・ボアの肉以外も相当数の提供がありました」

 

俺の前で、料理スキル持ちのプレイヤーたちが集まった食材のチェックをしている。中心にいるのは、このサーバーで最も料理レベルが高い、ふーかという女性プレイヤーだ。

 

ふーかはすでに特殊2次職のシェフに転職しており、スキルレベルは30超えという料理人プレイヤーである。他には、同じテイマーなどの姿もあるな。料理も出来るらしい。これは重畳。

 

それにしても壮観と言うか、やり過ぎと言うか。まるで食べ物系のCMの様な光景だな。プレイヤーたちから集まった食材が、宿の食堂のテーブルの上に所狭しと並べられていた。

宿の主人にキッチンを貸してもらえないかと相談したら、こちらでも快く貸してくれたらしい。村人と仲良くしてきて良かったね。

 

 

現在時刻は4日目の13時30分。

 

 

今から様々な料理を作り上げなくてはいけない。だが、まずは試作と指導だな。今ある材料で料理を作りつつ、他の料理人たちに作り方を教えるのだ。

 

「さてと、とりあえず豚汁から取り掛かるか」

 

コクテンたちにも、HPの自動回復速度とMPの上昇が付いている豚汁を優先してほしいと言われているので、まずはその指導からだ。

 

「レシピは既に渡してあるけど、1回俺が作って見せるから」

 

「お願いします白銀さん!」

 

「まずは魚に乾燥をかけて、煮干しにする」

 

「なるほど」

 

「次にシイリ茸に乾燥をかけて――」

 

皆が真剣な表情で俺の料理を見ている。何が悲しくて自分よりも遥かに高レベルのプレイヤーたちに偉そうに講義を垂れなくてはいけないのだ。むしろ俺が教えてほしいくらいだ! いや、すでに豚汁などのレシピの代わりに、彼女たちから色々なレシピを教えてもらったけどね。むしろ得したとは思う。それでも、居たたまれなさはどうしようもないのだ。

 

「これで完成。品質★7は維持できたみたいでよかった」

 

浄化水を使った時と品質が変わらない。多分、出汁を取るときに小魚の煮干しだけではなく、乾燥シイリ茸も一緒に使ったことが功を奏したんだろう。

 

「味が気になるので、試食して良いですか?」

 

「ああ、いいぞ」

 

「あ、ずるーい、わたしも!」

 

「僕にもください! 味は重要ですからね!」

 

「うんうん、味のチェックをしないと」

 

皆が先を争う様に豚汁をその場で食べ出す。バフがついてりゃ、不味くなければ味なんかどうでも良い気がするけど・・・・・。いや、単に美味しそうな匂いに負けただけか。

 

俺も食べとこ。

 

「うん、まあまあだな」

 

ただ、味は悪くないけど、やっぱり見た目がなぁ・・・。群青ナスと青ニンジンのサイケデリックな色彩は、どうしても食欲を失わせるんだよな。リアルでも、青いふりかけを使って食欲を失わせることで食事量を減らすダイエットがあったはずだ。まあ、バフ優先だから、今回は諦めてもらおう。

 

「続いてはピザだ。よーく見ておけ」

 

「おおー! ピザ!」

 

「俺、大好物なんだよなー」

 

実はチーズが思いのほか多く手に入った。酪農家のアバルさんのところで手伝いイベントをきちんとこなせば、何度でも売ってもらえると分かったのだ。

 

1人1回だが、結構な人数のプレイヤーが挑戦したので、ピザに使う分は十分に確保できている。

 

むしろ、白トマトの方が微妙だ。足りるか?とりあえず白トマトソースを作り、最もオーソドックスなタイプのピザを作ることにした。生地の上にトマトソースを塗り、白トマト、群青ナス、バジルル、チーズ、オリーブオイルを乗せていく。

 

それを見ていた料理人たちから、疑問の声が上がった。

 

「なあ白銀さん、なんで雑草を乗せてるんだ?」

 

「え?」

 

「そうそう、俺も気になってたんだ」

 

そうか、彼らはまだ植物知識スキルについて知らなかったか。

 

ただ、ノーフがもう掲示板に書き込んでいるだろうし、第5エリアにはハーブ栽培セットの存在もするという。どうせすぐに広まるだろうし、ここで教えても問題ないだろう。というか、この時点で誤魔化すのがめんどい。

 

なので、俺は植物知識というスキルが存在することと、そのスキルのおかげで雑草の中に混じっているハーブを見分けられるようになると教えることにした。

 

詳しい取得方法は各自調べてもらうと言う事で。頑張ってくれ。かなり気合が入っている様だから、皆すぐに取得するだろう。掲示板で宣伝してくれていいからね。

 

特にトップ料理人のふーかが大喜びだ。なんと、彼女は俺の売っていたハーブティーの茶葉の大ファンだったらしい。薬草などを工夫して再現を試みていた様だ。

 

「まさか雑草だったなんて! これで自作できるわ! 白銀さんありがとう! このお礼は必ずしますから!」

 

「まあ、期待しとくよ」

 

「うん!」

 

その後は、乗せる具材を少し工夫して、何度か試作してみた。俺はシンプルなピザが好きだが、他の料理人たちは具材たっぷりのアメリカンピザが食べたい様だな。

 

ソースを工夫してみたり、肉や魚を乗せたりするのは可愛い方で、とあるプレイヤーはハチミツと果物を使ったデザートピザを考案していた。いやー、女性の発想には驚かされるね。甘いピザとは盲点だった。

 

ただ、具材を変えるとバフの効果も変わってしまい、大概のピザには量産する程良い効果が付かなかった。いや、毒消しやHP回復などの優秀な効果ではあるのだが、レイドボス戦の前に食べるとなると、やはりMP消費減少の方が上なのだ。

 

結局、今回量産することになったのは、ふーかが作った照り焼きピザくらいだな。これも面白い発想だ。

 

醤油にハチミツを混ぜて照り焼きソースを作り、ウサギ肉、群青ナス、キャベ菜を乗せて焼いたピザである。リアルでも俺はマルゲリータ派なので、照り焼きは全然頭に無かった。

 

 

名称:ピザ・1ピース・テリヤキ

 

レア度:2 品質:★6

 

効果:使用者の空腹を13%回復させる。2時間、魔術詠唱速度が上昇。

 

 

貴重な醤油を使う事にはなるが、食べるのは魔術師だけなのでそこまで大量に作らずに済むだろう。

 

その後は、フルーツジュースやほうとう、ロールキャベツにラタトゥイユなどだ、この数日で試してみた複数のレシピを披露していった。あまり種類を造りすぎても食材が足りるか分からないので、皆で相談して量産する料理を決めて行く。

 

結局、最大HPを上昇させるロールキャベツに、他と食材が被らないミックスジュースを作ることにしたのだった。

 

「じゃあ、あとはふーかが仕切ってくれ」

 

「任せてください! みんなもよろしくね!」

 

「「「おう!」」」

 

美味い物を食べたおかげか、士気は高い。結果的に試食会をしてよかったな。

 

「じゃあ、豚汁班、ピザ班、ロールキャベツ班、ミックスジュース班に分けて行くから」

 

「よっしゃ! こんな大量調理が出来る機会そうそうないからな! 腕が鳴るぜ!」

 

「スキルの熟練度を稼ぐチャンスよ!」

 

さて、俺は豚汁班に振り分けられたようだし、頑張りますか。面倒だけど、手を抜くわけには行かないからな。



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作戦会議

 

2本目の神聖樹の場所をイッチョウから聞き出した翌日の5日目。出発から3時間後。

 

俺たちは神聖樹に向かいながら、激闘を繰り広げていた。今も1体のオークが俺に襲いかかって来ている。

 

オークの外見はかなり悍ましかった。目つきの悪いブタの顔に、2メートル近い上背と、だらしない贅肉ダルダルの体型。薄汚れたピンク色の肌はリアルだ。半裸のオークが迫って来る姿は、セクハラ扱いになりかねないのではなかろうか?走る度に揺れる汗だくの贅肉が・・・・・。

 

「美味しそうだな・・・・・」

 

「フゴッ!?」

 

こいつらがいなきゃ実食していたところだ。非常に残念だが今回は諦める。振り下ろしてくる棍棒を短刀で軌道を逸らし地面に叩きつけさせると、棍棒に乗って跳躍し水平に喉を切り裂いて倒す。

 

「よし、全部倒したな」

 

「サイナ。周辺にモンスターは?」

 

「500メートル先にモンスターの反応が複数ございます」

 

「そこまでわかるのか?」

 

「種類までは把握できないが数と距離だけならな」

 

「白銀さんのパーティは凄すぎるな。完璧なんじゃないか?」

 

「完璧かどうかは分からないが先を進もうぜ」

 

 

それからさらに30分後。

 

 

「つ、着いたー!」

 

俺たちは道中の激しい戦闘に遭いながらも、なんとか神聖樹へと続く洞窟へと辿りついていた。

 

「お疲れ様です」

 

「そっちこそ、お疲れ」

 

「いえいえ、元々はこちらから頼んだことですから」

 

グラシャラボラスの使徒を倒したおかげで、ここから先はモンスターが一切出現しないらしい。

とは言え、一応コクテンの仲間が前後を挟んで警戒してくれている。俺たちは散歩気分で洞窟を進むだけだ。後は、時おりオルトが採掘をするくらいかな。洞窟を抜けた先は、1本目の神聖樹の時と同じで森となっていた。そして森の中央に花畑があり、そこの中に巨大な樹木が立っている。

その根元には、巨大な獣が横たわっていた。それは巨大な猪だ。この神聖樹の守護獣、ガーディアン・ボアだった。

 

 

 

 ガーディアン・ボアはコクテンが近づくと、ゆっくりと立ち上がってその場を譲る。俺たちが樹に用事があると分かっているんだろうか?その眼は非常に穏やかで、この巨体にも関わらず怖さは全くない。雰囲気はガーディアン・ベアに似ているな。

 

「枯れそうな感じとかも、1本目の神聖樹と同じか」

 

葉に元気がなく、幹の一部がひび割れているし、確実に危険な状態だろう。フェンリルが悪魔を倒したはずなのに、枯れたままと言う事は、やはり樹を復活させるには他の要因が必要ってことか。

 

「とりあえず1本目の時と同じ様にやってみよう。皆、頼むぞ」

 

「ムム!」

 

オルトは俺が渡した高級肥料を木の根元に撒いていく。もしかしたら高級肥料じゃなくても平気なのかもしれないが、1本目と同じにしといた方が良いだろうしな。勿体ないが、ここは仕方ない。

 

「――♪」

 

ゆぐゆぐは樹魔術をかけているようだな。成長を促進させる術と、植物を回復させる術、両方使っている様だ。

 

「剪定開始します」

 

「クックマ!」

 

どれだけ効果があるかは分からないが、サイナの剪定と、クママの栽培も一応使っておく。効果が無くとも、悪影響はないだろう。

 

そうしてしばらくうちの子たちに任せていると、守護獣がおもむろに立ち上がった。そして、その鼻先を神聖樹に押し付けた。

 

もしかしてこれは――。

 

俺がガーディアン・ベアが神聖樹を復活させた時の事を思い出していると、あの時と全く同じ光景が目に飛び込んで来た。

 

巨樹が青白く輝き、光を放つ。そして、蛍の様な光の粒が俺たちを包みこんだ。2回目なのに、思わず見とれてしまった。それくらい綺麗なのだ。

 

樹を見つめていると、お馴染みのアナウンスが聞こえてくる。

 

『死神ハーデスさんは既に、称号『神聖樹の加護(イベント限定)』を所持しています。死神ハーデスさんが樹魔法スキルを習得しました』

 

あれ?称号が貰えなかったな。いや、そこは良いんだが、樹魔法を習得したぞ。

ゆぐゆぐとリヴェリアと同じ何度も見た魔法だから把握している。

 

「おおお! 称号だ!」

 

「やった!」

 

どうやらチームを組んでいるコクテンたちも、無事に称号を取得できたらしい。おめでとう。

 

 

 

無事に神聖樹を復活させて村に戻って来た俺たちは、少し休憩した後にジークフリートやスケガワと共に今後の事を相談していた。まあ、俺はおまけと言うか、話を聞いていて時おり相槌を打つだけだけどね。

今は、スケガワが打った武器を皆でチェックしている所だ。俺はユニーク装備なので不要と遠慮しているのでイズ達の出来栄えの作品を見ず、オルト達にジュースを与えている。

 

 

「期待以上の性能だな!」

 

「数を揃えたら、普通に守護獣武器を手に入れるよりもいいんじゃないか?」

 

「1度作って勝手も分かったから、品質は1つか2つは上げられると思う」

 

コクテンの称賛。スケガワとしては鍛冶師のこだわりとして、混ぜる物をカッパーインゴット以外にしたいらしい。なので、次に作るまでにプレイヤーから素材を集めるつもりなんだとか。

 

「俺の持ち出しでも良いんだが、アイアンとブロンズは、全部に使える程の量が無いんだよな。出来れば錫鉱石辺りを持ってるプレイヤーから買い取りたいところだな」

 

「錫?錫鉱石が必要なのか?」

 

錫鉱石なら少し持ってる。と言うか、2つ目の神聖樹につながる洞窟の採掘ポイントから普通に入手できたんだけど。それを教えたら、スケガワが考え込んでいる。

 

「そうか・・・・・。やはり、あの樹海は第4エリアと同レベルの場所になっているのかもな」

 

錫鉱石は第4エリアに採掘できるポイントがあるらしい。そのままでは銅よりも弱い雑魚金属なのだが、銅と混ぜると青銅に変化し、強度が上昇するらしい。

 

「鍛冶師仲間を連れてちょいと採掘してくる」

 

「護衛も付けよう」

 

「頼むよ! ふっふっふ、腕が鳴るぜ!」

 

錫にそんな使い方があったとは。銅鉱石は畑で採掘できるし、イベントが終わったら青銅装備でも何か作ってみるか? 

 

居てもたってもいられず、鉱石の採掘に向かったスケガワが抜けて、次に探索の話に移った。マップを見ながら、グラシャラボラスの居場所がどこなのか相談している。

 

「じゃあ、神聖樹の周辺に、あの黒い靄に包まれたモンスターは出現しなくなったんですね?」

 

「僕が確認した限り、出現しなかったね」

 

「1本目の神聖樹の周辺では完全に姿を見せなくなったわ」

 

「2本目の神聖樹があった樹海周辺で戦闘をしてたパーティも黒モンスターがいなくなったと報告して来たよ。中には、目の前で靄が消えて、普通のモンスターに戻った瞬間を目撃したパーティもいたみたいだ」

 

「やっぱりあの黒い靄は中ボスたちが広めていたってことでしょうか? 白銀さんはどう思います?」

 

「まあ、そうなんじゃないか?中ボスと言えど中ボスだ。何かの役割を担ってなきゃおかしい話だ」

 

「ですよね」

 

となると残りはグラシャラボラスだけなのだが。以前、発見した報告は届いていない。

 

「ただ、この辺にはまだ黒い靄を纏ったモンスターが出現するようだよ?」

 

「あ~、村から一番離れたエリアね」

 

「そこは完全に第4エリア相当の敵しかでないから、ほとんど探索の手が入っていない場所だね」

 

「だが、何かがあるんじゃないですか?」

 

「そうだね。例のグラシャラボラスがそこに居る可能性があるかもしれない」

 

「じゃあ、死に戻り覚悟で強行偵察をした方がいいかしらね~」

 

第4エリア並の敵がうようよ居る場所に突っ込むか。どんなモンスターがいるのやら。

 

「白銀さんはどうします?」

 

「うん?んー・・・・・いや、俺は行かない方針で」

 

「えー!一緒に行こうよ!」

 

「2本の神聖樹に関しては白銀さんの尽力が大きかったし、今回も協力を得られたら心強いんですが・・・・・」

 

マルカは絶対にクママと一緒にいたいだけだろう!

 

「偵察するだけなら大勢行く必要はないだろ。このサーバーにいるプレイヤー全員に配信を見てもらってさ、足の速いプレイヤーを行かせて何か見つけたら情報を共有すればいい。配信中でもお互い会話はできるしさ」

 

「なるほど!配信はそういう使い方も出来るんだったな!」

 

「でも、偵察に行ったプレイヤーが即レイドボスと戦うことになったら?」

 

「死に戻り覚悟で強行偵察するつもりでいたんだから大勢で行こうが行くまいが変わりないだろ」

 

ぐうの音も出ないコクテン達は何も言えない他所に、ペインは主張してきた。

 

「なら、俺達が行こう。ジークフリート達は彼の提案で俺達の配信動画を見て作戦を考えて欲しい」

 

「ペインさんがそう言うのであれば・・・・・」

 

「言い出しっぺの俺も空から偵察してやるよ」

 

「はいはーい、私も【AGI】が高い方だから偵察に行くよん」

 

イッチョウも行くと挙手する。

 

「ただ、本当に戦いがすぐ始まる可能性もあるからジークフリート達は村と黒い靄を纏ったモンスターが出現する森の中間位置のここまで移動、待機してもらえるか?あくまで念のためだ」

 

異論はないと頷いてくれたジークフリート達。そして俺とイッチョウ、ペイン一行は村を後に目的の森へと移動した。そうなったら、オルト達を村に残ってもらいたいので―――。

 

「では、オルト達に重要な任務を与える。よーく聞いてくれ」

 

「ムム!」

 

オルト達が横一列に並んで後ろに手を組む俺を真似し、姿勢を正しくして立つ。メリープやミーニィはその場で座って俺を見上げるしかできないが。

 

「俺はしばらく森にミーニィを連れて探索しなければならない。その間オルト達諸君等にはあそこで料理や薬を作っているプレイヤー達がいるだろう?彼等彼女等の邪魔にならない程度でお手伝い、または応援をしてほしい。それだけで皆の頑張りが更によくなる。それはオルト達諸君の頑張りが必要だ。できるかね?」

 

「ムムッ!」

 

任せてくれ!と力強く頷くオルト達に向かって軍人の敬礼をする。

 

「いい返事だ。では、諸君等の頑張りを期待しているぞ」

 

「ムム!」

 

「キュイ!」

 

「―――♪」

 

「クマッ!」

 

「メェー!」

 

オルト達も敬礼、出来ないメリープとミーニィは鳴いて応じる。

 

「サイナはオルト達のフォローしてくれるか。主にプレイヤー側にオルト達の嫌がるようなことをさせない監視だ」

 

「かしこまりました。マスター。必要あらば私もマスターの勝利の為にお手伝いをいたします」

 

「頼んだ。それとオルト達の日に一回の食事もな」

 

俺の配慮でオルト達はそれぞれプレイヤーに近づいて自分達なりの声援をすると、男女問わずオルト達の応援に黄色い声が、歓喜の声が上がってきた。

 

「オ、オルトちゃんが私を応援してくれるぅっ!」

 

「クママたんの手が、手がぁっー!」

 

「ふぉおおおおお!ゆぐゆぐちゃんの笑顔で元気百倍だぁー!」

 

「メリープちゃん、可愛いい!」

 

 

・・・・・大丈夫だろうか。このイベントが終わったら全力で労うか。と後ろ髪を引かれる思いでフェンリルまで一緒に来るなど、ミーニィの背中に乗って空から目的の場所へ移動する俺とAGIが低いドラグとフレデリカ。地を駆けるイッチョウ達は途中モンスターと遭遇しても走りながら倒すか無視して移動し続けた。

 

「おー、走るより速いな。ドラゴンの背中に乗っての移動だなんて楽でいいぜ」

 

「そうだねー。風邪も気持ちいいし」

 

「ミーニィ。何か感じるか?」

 

「・・・・・グルルッ!」

 

村からかなり移動しているがグラシャラボラスの姿は見当たらない。だが、【索敵】のスキルを駆使してるミーニィは唸り声を上げた。次の瞬間。森から天を衝くほどの巨大な黒い柱が立ち昇った!

 

ガォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!!

 

黒い靄を発する柱から獣の咆哮が村まで轟いた。あーはいはい、巨大悪魔と勝負する流れだなこれは。

 

程なくして指示したわけじゃないのに降下するミーニィ。降り立った森の中にあったそれを俺は視界に入れた。遅れてイッチョウ達もやってきた。

 

「もしかしなくてもだよね」

 

「間違いなくだな」

 

「だけど、直ぐに戦闘が始まるわけじゃなさそうだな」

 

俺達の目の前には結界らしきものに閉じ込められているグラシャラボラスと赤いマーカーで表示されている存在がいた。そして更には黒い砂時計があって現在進行形に下へ砂が流れ落ち続けている。

 

「破壊できそうな感じでもないねー」

 

「あからさまに時間経過しないと始まらないやつだなこれは」

 

「なら、村に戻ろうぜ。配信動画で他の奴らもこの光景を見て知っただろうからよ」

 

ドラグの意に賛成する俺達、踵を返してこの場から離れようとしたその時だった。四方八方から黒い靄を纏うモンスターの群れが襲ってきたのだった。それはすなわち俺達にとっては―――。

 

「ポイントの入れ食いだぁー!」

 

「向こうから来たんなら仕方がないよな?」

 

「うんうん。これはしょうがないよねー?」

 

ということで皆仲良くモンスターをこれでもかと言うぐらい倒しまくったその後は、グラシャラボラスの特大の咆哮の直後、黒い柱の動きが一段と激しくなった。柱の表面が泡立つように蠢き、何やら突起の様な物が生えて来た。

 

生物の腕っぽいか? 上の方は何かの頭のようにも見える。いや、見間違いじゃない。黒い霧の柱は――もう柱とも言えないか。すでに黒い彫像のように見えるな。明らかに人型を模し始めていた。

 

「粗方片付け終わったよー」

 

「そっちは?」

 

「こっちもだ。アレに攻撃は?」

 

「無理だろ。ゲームやアニメ的に言うと敵同士の変身する間は手を出さない、出せないお約束だから」

 

「お前、よく知ってるな」

 

そりゃあ、変身に関しては熟知してるもんで。

 

「それにしても、この砂時計も明日になったら全部流れ落ちてる感じかな」

 

「それも含めて今、生中継しているから情報は共有している」

 

生配信中なので、偵察する前にジークフリート達には配信を見るよう村にいるプレイヤー全員に言って回ってくれたから情報は知れ渡っている筈だ。動画の画面は様々なコメントが流れている。中にはこっちに来るってプレイヤーも浮上している。

 

「ところで私達はこのまま帰る?」

 

「いてもしょうがない。ジークフリートのところに戻ろう。それともこのままポイント稼ぎでもするか?」

 

「探すのか?」

 

「いーや、向こうから来てもらうのさ。【芳香】」

 

モンスターを誘引するスキルを発動。程なくして黒い靄を纏うモンスターが大量に現れた。

 

「こんな感じです。【挑発】」

 

「レベル上げに持って来いのスキルだねー。ペインさん、どうします?てい!」

 

「・・・ハーデス、もっと集めてくれないかな」

 

「前線の攻略組らしい答えだことで!」

 

その日は何十回も【芳香】を発動して百匹以上は黒いモンスターを狩り尽くしたのは言うまでもない。恐らく他のプレイヤーよりもポイントを稼いだと思うが、結果は果たしてどうなっていることやら。

 

 

 

「では、第一回グラシャラボラス対策会議を始めます」

 

無理矢理議長役を押し付けられたコクテンの言葉に、パチパチと拍手が起きた。

俺たちが今居るのは、冒険者ギルドの会議室だった。頼んでみたら、快く場所を提供してくれたのだ。

マルカたち曰く、日々依頼をこなして、好感度が上がったからではないかと言う事だった。言われてみると、イベント開始時に比べて受付の女性の態度も柔らかい気がする。

 

会議室には十数人程の人間が集まっていた。

 

実質的な最高戦力であり、他のプレイヤーからも一目置かれているコクテンとペイン。サーバー貢献度が3位で、サーバー順位優先組のまとめ役であるジークフリード。ボス戦などで活躍し、このイベント中に名を上げたマルカ。サーバー貢献度が5位な上、守護獣装備を作り上げるトップ鍛冶師のスケガワの他イズ、セレーネ。

 

他にも戦闘、生産で活躍している上位パーティのリーダーや、プレイヤーが顔を揃えていた。そして、そこに何故か俺もだった。

 

しかも、会議の進行役であるコクテンの隣と言う上座的な位置である。逆側にはジークフリードが座っていた。ここはペインがいるべきだろうにと、そのペインを見やると俺の隣に居座っていた。

 

 

「まずは、おさらいとしてこのスクショをご覧ください」

 

コクテンはこういう場に慣れているのか、スラスラと会議を進行していくな。

グラシャラボラスの前に置かれている砂時計の説明と、落ちる砂の量から導き出された砂が落ち切る日時の考察が語られる。

 

その後、最初から全力で挑むかどうかの相談だ。通常の様に何度か戦闘を挑んでパターンを解析するか、一か八か挑むか。明日は6日目なので、一か八か挑んだ方が良いのではないかという意見も出たが、明日はパターン解析、明後日に決戦という結論に落ち着いた。

 

ついで、戦闘のための準備の話だ。スケガワ達の守護獣装備は、戦闘系パーティに配られることとなった。話し合いは驚くほどに短かったな。インゴットを手に入れて来たコクテンたちとマルカたちが、称号があるから自分たちには必要ないと辞退したことで、他のプレイヤーもわがままを言いづらかったんだろう。

 

あと、一応俺も武器を辞退した。俺の場合は持つ意味が無いからスケガワに押し付けただけなんだけどな。そんな感心した様な目で見られたらむず痒かった。

 

次はグラシャラボラスの攻撃方法の考察である。勿論、グラシャラボラス自身と戦闘したことはないが、その姿は俺たちが戦った中ボスの変身前の姿と非常に似通っている。俺の知らないところでいつの間にかコクテンたちが戦った2体目の中ボスもそっくりだったらしい。

 

そのことから攻撃を予想できないかと考えたのだ。その結果、HP半減後の変身と、黒い霧を放つ範囲攻撃が共通しているだけだった。

 

中ボスの変身後は犬と猫だったので、グラシャラボラスもかろうじて動物っぽい姿に変わるだろうとは思われたが、その程度だ。これは出来るだけ回復の準備をして行って、その場で対応するしかないだろうな。

 

最後に、支援についてだ。

 

「白銀さんの提案でバフ効果付きの料理は早い段階で潤沢です。ポーションも全員分に回せるだけの量産ができてます。何よりは白銀さんの従魔達の応援でモチベーションの維持が出来たのが大きかったです」

 

「誰一人暴走しなかったのが幸いだったよ」

 

「それはまぁ・・・・・」

 

名も知らぬプレイヤーが神妙な顔を浮かべた。

 

「白銀さんの従魔に粗相なことしたその日から他のプレイヤーから罵詈雑言の嵐を食らうし。何よりプレイヤー同士が牽制し合ってたのが暴走にならなかった原因でもあるから」

 

どんだけうちのオルト達はアイドル並みの人気があるんだ。・・・・・オルト達の外出控えようかな。

 

「ジークフリート、コクテン。グラシャラボラス戦に戦闘できるプレイヤーは?」

 

「300人中250人だ。他50人は生産職のプレイヤーだけど、少し懸念があったが今は問題ない」

 

「それは?」

 

ペインの問いにコクテンは理由を打ち明けた。最初この部隊分けで、色々と揉めたらしい。コクテンやジークフリートに協力している者だけではなく、自分たちのパーティだけでイベントを進めて来た者もいるからだ。こっちに協力しろという話は、彼らにとっては軍門に下れ、下に付けと言われている様に感じたんだろう。最初は協力はしないと言ってきたのだ。

 

「ああ、そういう。攻略組にも少なからずいるんじゃないか?自分勝手に動くプレイヤーは」

 

「というか、普通にいるよ。何度もフレンドリーファイアしちゃって喧嘩になった話なんて珍しくないしね」

 

「きっと他のサーバーにもいるだろう。でも、この29番サーバーが貢献度1位なのはそういうことするプレイヤーが限りなく少ないからだ」

 

それについてジークフリートは安堵した笑みを浮かべていた。でも、だからこそ・・・・・。

 

「最下位のサーバーにいるプレイヤーが哀れだな」

 

「仕方がないとしか言えないね。話は戻すけど最終的には協力に応じてくれたよ。皆が目標を目指して一致団結すれば勝てない相手はいないさ」

 

素で格好いいことを言うなジークフリートめ。

 

「ハーデス。参考に訊きたい」

 

「なんだペイン」

 

「森の奥深くでグラシャラボラスと戦うことは確定だ。そこでグラシャラボラスを倒しきることはできるかな?悪魔の存在を誰よりも早く示唆した君の考えを聞かせて欲しい」

 

「そうなのか?」

 

「凄いな白銀さん!」

 

称賛されることでもないがペインの質問に対してグラシャラボラス戦の悪い方向を、思考の海に飛び込んで答えを見出す・・・・・。

 

「んー、中ボスと同じHPの減り具合によって行動が変わることを考慮すれば。あのボス悪魔の巨体だ。この村の破壊の蹂躙をする最悪の事態を考えるべきだな。村の破壊具合によって順位が変動するかもしれない。これが最悪の事態だ」

 

周囲のプレイヤー達に言い聞かせる風に語った後、ざわざわと隣人同士顔を見合わせて話し合いを始めたのだった。

 

「納得のいく話だな。となると、250人を分けて臨機応変に村に移動するグラシャラボラスの対応をするべきか?移動するなら第一陣と第二陣に分けるべきだ」

 

「戦闘員が全員とは言わずとも死に戻りはする。村から再出撃してもらうもグラシャラボラスがいるところまで戻るのも時間が要するからそれがいいかもな」

 

「長い戦闘とグラシャラボラスの戦い方に恐怖して戦いに復帰できないプレイヤーもいてもおかしくない。この際、生産職のプレイヤーにも戦闘に出てもらうか?特に鍛冶師は【投擲】のスキルを取得できるし」

 

「いや、全員出張らせるわけにはいかないだろ。戦える生産職プレイヤーだけに選別するべきだ。それとヒーラーの人数も割り振り訳ないとな」

 

俺の発言から明日の戦いに向けての話し合いが発展して、俺とペインに鍛冶師組は会話に入れない状況となってしまった。

 

「第一陣と第二陣、俺なら第二陣にするな」

 

「理由は?」

 

「第二陣まで移動してきたグラシャラボラスの足止めをしている間、第一陣が引き返してくるまでの足止めをするためだ」

 

「なら、俺は第一陣に配属されるようお願いしよう」

 

ジークフリートとコクテンに俺達の要望を伝えると快く了承してくれたので明日に備え―――ペイン達の舌を唸らせる料理を今日も作って寝た。



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イベント最終日

現在時刻は7日目の6時。戦闘部隊がグラシャラボラスに向かって出発する時間だ。

料理は全て配ってある。グラシャラボラスとの戦闘直前にインベントリから出して食べる作戦だった。

サーバーの300名中、俺を含めた250人程が戦闘部隊、残りがサポート部隊である。

 

「では、オルト達。行ってくるな。村に残るプレイヤーを全力で応援するのがお前達の仕事だ。頑張ってくれたまえ」

 

「ムムッ!」

 

オルト達に敬礼すればオルトも学習したように敬礼で返す。戦闘部隊から黄色い声が上がる。

 

 

「クママちゃん! 行ってくるね!」

 

「クマー!」

 

「オルトちゃん! 私、頑張るから!」

 

「ムッムー」

 

「メリープちゃん、応援しててね!」

 

「メェー!」

 

「ゆ、ゆぐゆぐたんの応援があれば、百年闘える!」

 

「――♪」

 

応援するオルト達に戦闘部隊の指揮は向上している。因みに第二陣だけどな。第一陣はとっくの昔に村を後に出発している。この部隊のリーダーは、俺にさせられた。

 

「それじゃ、出発するぞ。応援してもらったうちのオルト達に恥ずかしい死に様を晒して死に戻りしたいやつはいるか?」

 

全力で否定する124名のプレイヤー達。

 

「だが、死に戻りした先には俺のオルト達という天使達がお前達を励ましてくれるのは間違いない。そうじゃないかもしれないが、それでもお前達を出迎えて欲しいのは一体誰だ言ってみろ」

 

「オルトちゃん!」

 

「クママちゃん!」

 

「ゆぐゆぐちゃんの笑顔!」

 

「メリープちゃんのもこもこー!」

 

「サイナちゃん!」

 

「ミーニィちゃん!」

 

よーし、よくわかった欲望塗れのプレイヤー達め。

 

「ならば!生きて勝利の凱旋して村に戻る勇敢なプレイヤーや、悪魔ごときにやられようと死に恥を晒さない第二陣の諸君の働きに期待するぞ!俺達は移動してくるかもしれないグラシャラボラスの迎撃と第一陣が戻ってくる時間稼ぎだ。それでも倒しきるつもりで戦うぞ。第一陣が仕留め損ね、村の最終防衛ラインの俺達が破られると、村に残ってもらうオルト達もどうなってしまうのか―――想像は難しくない筈だ」

 

『―――っ』

 

「最悪な事態だけはしたくないならば、死ぬ前提で村を守り抜くぞお前達!」

 

『オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!!』

 

奮迅の計成功。移動開始だ。フェンリルも付いてくる中、第二陣が指定されたポイントの森へ少し速足で移動して、辿り着いた。ここでイズに作ってもらった声量を大きくするメガホンを使用して第二陣のプレイヤーに伝える。

 

「あの悪魔の巨体だ。足で踏み潰してくる攻撃と俺達を掴まえ紐なしバンジーの如く地面に叩きつけるか即死の捕食攻撃はしてくるはずだ。故に、敵の意識を引きつけられる俺がグラシャラボラスの足止めする間は大盾使いも含めてセオリー道理に全力全開の攻撃をしてくれ。もし悪魔の攻撃の予兆がしたら木々を盾に姿を隠しながらでも回避しろ。ただし、木ごと薙ぎ倒してくる可能性もあるから気を付けろよ」

 

『了解!』

 

「で―――具体的にどうして欲しいのかと言うとだな。取り敢えず第一陣の様子を見ながら考えようか」

 

それから第二陣に一朝一夕以下のぶっつけ本番をしてもらう動きの詳細を言い聞かせる。すぐに動いてもらうのはグラシャラボラスの動き次第だ。そして―――。

 

 

一時間後。

 

 

「頑張っているみたいですね」

 

「第一陣には大半の攻略組が配置されているからHPを削りまくっているだろう」

 

「コクテンさんを始め、ペインさん達のような有名な前線のプレイヤーがいますし、もしかしたら倒しちゃうんじゃ?」

 

「それは断じてないな。ファンタジー小説やゲームのボスは大抵戦いの最中に何かしら変化するお約束だ。運営だってそんな優しい設定をするはずもないだろうし」

 

俺の言葉が現実になったのは、その三十分後だった。

 

 

ゴォオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!!

 

 

グラシャラボラスの咆哮が聞こえたかと思えば、俺達の眼前に黒い光と共に転移してきた!これにはさすがの俺も面を食らってしまった。

 

「歩いてくるのかと思えばそっちかよ!?」

 

「でも、白銀さんの作戦は間違ってなかったですね!」

 

「流石白銀さん!」

 

「誉めてる場合か。作戦通りに動け!【挑発】!フェンリル、待ちに待った大物だ。全力で食らいつくぞ!」

 

颯爽とグラシャラボラスへ駆けてその牙と爪で攻撃、ダメージを与えていくフェンリルを他所に、俺を狙い落としてくる巨大な足に対して防御極振りに戻した状態で防御態勢に入った。あっという間に巨大な足によって踏み潰される。

 

「は、白銀さーん!?」

 

「もうやられたのか!?」

 

「・・・い、いや、やられてない。白銀さんが潰されず耐えているぞ!」

 

「ええっ!?どんだけ【VIT】に振ってんだあの人・・・って驚いている場合じゃなかった!攻撃するぞ!」

 

「あの大きな狼には当てないように!白銀さんの従魔っぽいんだからな!」

 

他のプレイヤーも攻撃を開始する。第一陣からの報告ではこっちが離れるとグラシャラボラスは空いた距離を詰めるようにして歩き出すと聞いた。だから俺達第二陣は一歩もグラシャラボラスから離れず、俺を軸として戦闘をすることにした。

 

更にはグラシャラボラスの影響なのか、出現するモンスターが全て黒い靄を纏っており、パワーアップしているのだ。それらのモンスターには大盾使いと魔法使いが相手をし、一気に殲滅してもらう作戦に。それ以外は全員で悪魔を攻撃する。第一陣には無理を言って大盾使いを全員第二陣に回してもらったからには、俺達も仕事をしなくちゃな。

 

「―――ミーニィ、【巨大化】!」

 

叫ぶ俺に呼応、一拍遅れて森から巨大化したミーニィが空飛び、ミーニィの背中には数人ほどのプレイヤーが騎乗している。

 

「いやっほーうっ!今この瞬間、俺達はドラゴンライダーになってるぜぇー!」

 

「うううっ・・・・・!嬉しすぎて涙が・・・・・!」

 

「ありがとーう、白銀さーん!」

 

さっさと攻撃しろよ!?―――ガンナー!

 

「射撃開始!」

 

「全ての弾を撃ち切るつもりで撃って撃って撃ちまくれぇー!」

 

「ヒャッハー!」

 

「閃光弾と手榴弾をくらぇー!」

 

空からの射撃はリアルでもかなり厄介だ。グラシャラボラスを中心に円に描きながら飛ぶミーニィから機械の町で得た銃を武器に攻撃するガンナー。上半身と頭を中心に狙って撃ってもらっているが、ボス相手にどれだけダメージを与えられるかが懸念だ。

 

「ファイアーボール!」

 

「ウィンドカッター!」

 

「ウォーターボール!」

 

「このミスリルの剣の威力を思いしれぇー!」

 

「おらぁああああー!」

 

「白銀さん、今助けますー!」

 

未だ踏み続けられている俺であったが、何時までもこうしているつもりはなかった。

グラシャラボラスの足の裏を手で触れる。

 

「【悪食】、【生命簒奪】!」

 

すると俺から足がどかされ圧力が無くなった瞬時に周囲を把握しようとした時だった。

 

「ガオオオオオ!」

 

大きな咆哮が聞こえて来た。一瞬、グラシャラボラスの咆哮かと思ったら、違う。もっと遠くから聞こえて来た様だ。

 

「なんだ?」

 

「新手か?」

 

他のプレイヤー達が騒めいていると、誰かが森の向こうを指差した。

 

「あれを見て!」

 

「げえ! まじかよ! 新手か? とか言った奴誰だ!マジになったじゃないか!」

 

「一度は言ってみたい台詞だったんだよ!」

 

「言い争ってる場合か!」

 

こちらに向かってきているのは、巨大な獣だと思われた。木々が邪魔していまいち見えづらいが、四足歩行で走ってくることは確認できた。あれとも戦わなきゃいけないとなったら、俺たちなんて瞬殺だろう。

 

何せ、大きさがガーディアン・ベアと同じくらいある。

 

「いや、ていうかあれって、ガーディアン・ベアじゃないか?」

 

「え? そうなの?」

 

ガーディアン・ベアと接触したのは、俺しかいないらしい。だが、あれは間違いなくそうだ。他のプレイヤー達は迫りくる巨体を見て不安そうに囁き合っている。でも、なんでこのタイミングで―――。いや、まさか?直感を信じて疾呼した

 

「そいつはガーディアン・ベアだ!この村の守り神的な守護獣だから攻撃するな!道を開けろ!」

 

「え、あれが守護獣?」

 

「おい、白銀さんの指示に従え!」

 

「他の奴等も近付いてきても攻撃するなよ!」

 

 俺の提案に、周りが動く。俺たちはグラシャラボラスの向こうからこちらに向かって走って来るガーディアン・ベアを、固唾を飲んで見守った。一体何が起こるのか。2体同時に相手にするという最悪のパターンも考えていたんだが、そこまで鬼畜仕様ではなかったらしい。

 

「ガオオオオー!」

 

「グラアアアア!」

 

「おお! やった!」

 

「お熊様がやりおったー!」

 

「いけ! そこだ!」

 

なんと、ガーディアン・ベアがそのままグラシャラボラスに襲い掛かったのだ。右足に抱き付くと、太腿の辺りに噛み付く。

 

大きさで言えば、ガーディアン・ベアでさえグラシャラボラスの3分の1程度しかないが、それでも心強い援軍である。

 

「よし! ここは一気に攻撃を加える!俺達に少しでも注意が向けば、ガーディアン・ベアがより長くグラシャラを押さえてくれる!」

 

『了解!』

 

俺の提案が満場一致で了承され、俺たちは作戦を変更して皆でグラシャラボラスに突撃した。

 

魔法で攻撃する班、魔法やポーションで皆とガーディアン・ベアを援護する班に分かれる。ガーディアン・ベアに近づくのはちょっと勇気が必要だったが、やはりこちらに攻撃してこない。これは、協力してくれると考えていいだろう。

 

「よし、俺も攻撃に参加するぞ」

 

「え、何かあるんですか?」

 

「百聞は一見に如かず。サイナ召喚!」

 

アンティーク的な歯車が回っている機械の鍵をインベントリから出して使用すると、銀色の魔方陣からサイナが出てきて直ぐに行動する。

 

「サイナ、全力で行く。力を貸してくれ」

 

「私の全てがあなたの物ですマスター」

 

また機械の鍵を行使して俺達の傍に人型の巨大なロボットを召喚した。これを見たプレイヤー達はぎょっと目を見開いて驚いた顔を浮かべて―――グラシャラボラスの足に踏み潰された。

 

「え、えっ?ロボット・・・・・?ロボット!?」

 

「ちょ、まじでぇっ!?」

 

周囲の反応を気にせずコックピットに乗り込み、サイナの補助もあって俺は操作する。

 

「マスター、二代目機械神のスキルを使用すれば武装の換装も可能です」

 

「そうなんだ?じゃあ物理耐性の大盾にパイルバンカーだ」

 

「かしこまりました」

 

始めから備わっていた武装を変えて、左右の腕に大盾+パイルバンカー。銃弾だと薬莢が弾けて味方に当たる可能性があるから使えないな。

 

「換装終えました」

 

「攻撃開始だ」

 

弁慶の泣き所ー!ズガンッ!と思い一撃がグラシャラボラスの脚に炸裂した。もう一丁!と立て続けに二つ目のパイルバンカーを放ってHPを減らした。おおー2割、2割だけか・・・・・弱いなパイルバンカー。

相手がボスだからか?と思っていたら、機体が激しい揺れに襲われた。

 

「対象グラシャラボラスに機体が持ち上げられております」

 

「・・・・・あー、サイナ。この機体の防御力、耐久力とかは?」

 

「マスターの【機械創造神】によって私の一部から作られた機体です」

 

「そうなのか?で?」

 

「つまり、私が搭乗することでこの機体とは一心同体です。よって、私の耐久値とボディの硬さも反映しており―――」

 

視界が一瞬で反転、更にはぐるぐると目が回るこの現象は・・・・・放り投げられた?

 

「マスターの【VIT】と同等の硬度となります」

 

「嬉しい報告ありがとうよ!」

 

成す術もなく地面に叩きつけられた俺達は、激しい衝撃に襲われながらもダメージは皆無という結果に喜ぶ暇もなくすぐに立ち上がった。

 

「にゃろう!」

 

幸い、第二陣のプレイヤー達がいる傍に落ちたのですぐに戦線復帰できた。もう容赦なんてしない!

 

 

それからグラシャラボラスに挑んで10分後。

 

 

何度も【挑発】をして俺に攻撃の矛先を集中させている間、他のプレイヤーが思う存分に攻撃できることからまだ十数人程度しか死に戻りしていない。

 

「MP切れの仲間をフォローしろ!全力の戦闘で精神と疲労で戦えないやつはこの場から離れて休憩!俺が【挑発】している限りはお前達に攻撃することは少ない!」

 

「分かりました!」

 

「うぉおおお!白銀さんだけにやらせてたまるかぁー!」

 

「白銀さん、後でそのロボットの事でお話がありますからねー!」

 

「ロボットばんざーい!」

 

足踏みや、豪快なパンチに麻痺の状態異常攻撃を繰り返すグラシャラボラス。俺の防御力がこの機体に反映されているなら悪魔の攻撃は一切通用しないし麻痺状態の攻撃は、そもそも麻痺無効化で効かないし・・・・・うん、俺にとってはヌルゲーだ。まだベヒモスの方が厄介すぎた。

 

「サイナ、ロケットパンチはできる?」

 

「可能です」

 

「じゃ、やってみて」

 

そんな要望を応えてくれるサイナは凄い。片腕がグラシャラボラスに向かって飛んでいきあろうことか、手がドリルに変形して悪魔の顔面に突き刺さったではないか!殆どの男性プレイヤーはロケットパンチに感極まった感動の声をあげていた。

 

「うわ、えっぐいほどに削れていってるな。ところで、あの腕このあとは?」

 

「落ちます」

 

「うん、そこまで便利に戻ってくるとは思ってなかったぞ?【挑発】」

 

本当に落ちて拾いに行く暇もなく、グラシャラボラスの攻撃をかわし、防いで耐えている時だった。

 

「ブルオオオオ!」

 

再び、謎の咆哮が森に響き渡った。

 

「あれをみろ!」

 

「また何か来たぞ! あれは何だ?」

 

「鳥か?」

 

「飛行機か――って、飛んですらいないけど!」

 

「お約束だって。まあ、スーパーマンじゃないことは確かだけど・・・・・・」

 

皆が騒めく中、姿を現したのは巨大な猪だった。こいつにも見覚えがある。もう一匹の守護獣、ガーディアン・ボアだ。

 

「ブルオオオオ!」

 

「グラアァ!」

 

現れたガーディアン・ボアは勢いを落とすことなく、ガーディアン・ベアがしがみ付いていたのとは逆の左足に突進していった。

 

長い牙で左足をロックしつつ、足首の辺りに噛み付いて動きを封じてくれる。それを確認した俺はフレンドコールを送ってきた者と話をする。

 

「ハーデス君、そろそろそっちと合流できる位置まで来てるよ!」

 

「頑張った甲斐があったものだ。急いでこいよ」

 

「うん!」

 

イッチョウからの報告を皆に伝える。

 

「第一陣からの連絡が入った。まもなくここに合流してくる。それまでグラシャラボラスのHPを削るぞ!」

 

『オオオオオオオオオッー!』

 

やる気を漲らせるプレイヤー達は果敢に攻撃を繰り返す。俺もようやく隙をついて片腕を取り戻し、両腕を使えるようにした頃に森の奥から雄叫びを上げながら第一陣のプレイヤー達が飛び出してきた。

 

「ロボットだっー!」

 

「間近で見ると迫力があるなっ!」

 

「お前ら待たせたな。第一陣の登場だぜ!」

 

一気に数が200人以上にも膨れ上がったことで悪魔への攻撃も苛烈になった。これで、決着がついたと思いきや。

 

 

グララオオオオオオオオオオオオオオオオオッッ!!!

 

 

使徒たちが追い込まれて変身したことを考えれば、グラシャラボラスが変身するのも当然だろう。だが、さすがにボスなだけあり、その姿は最強の魔獣、ドラゴンの様な姿であった。顔と尻尾が竜、体は人。全身を茶色の鱗が覆っているが、2足歩行。まさに半人半竜である。いや、あの大きさだと、半巨人半竜か?

 

 

変身したグラシャラボラスは凄まじく強い様だった。薙ぎ払われたグラシャラボラスの尻尾によって、何かが吹き飛ばされるのが見えた。直撃を食らったプレイヤーである様だ。

さらに、口から黒い光線の様な物を吐き出している。竜と言えばドラゴンブレスだが、火炎ではなさそうだな。戦闘部隊が火にまかれて全滅する事態はなさそうで良かった。まあ、このゲームの中で森林火災があるかどうかわからないけどね。

 

「サイナ、降りる」

 

「あの悪魔の腐食攻撃にも耐えられますが」

 

「他はそうじゃないからな」

 

コックピットから抜け出すと丁度イッチョウと目が合い、こっちに来いと手招き。すぐに来てくれた。

 

「代わりに操作よろしく」

 

「え?え?」

 

座席に押し込んでコックピットを閉ざす。あれだけいたプレイヤーはもうかなりいなくなっている。相手がそう来るなら俺もそうしようじゃないか。

 

「【覇獣】!」

 

大陸を蹂躙してきた巨大な獣とかしてグラシャラボラスの前に立った。相手も俺の存在に警戒する悪魔が睨みつけてくる。次の瞬間にはどちらからでもなく駆け出して、相手に目掛けて剛腕を振った。

 

「ウオオオオオオオオオオッ!!!」

 

「グララオオオオオオオッ!!!」

 

さぁ、大怪獣決戦!の始まりだ!

 

 

 

とあるプレイヤーの話。

 

「ええ、はい。突然の大怪獣同士の戦いを見せられることになるなんてあの場にいたプレイヤーは驚きましたね。しかも、俺達に気を配っているのか巻き込まれないように身体を張ってくれたんですよ。勿論、巻き込まれるのは嫌だから俺達も離れたんですが。いやー怪獣同士の戦闘は天変地異そのものですね。地面が激しく揺れて立つのが精一杯でした。勝敗?当然、悪魔は滅びましたよ。頭からがぶりと噛み砕いたんですから。何か咀嚼していたような気もしたんですが、気のせいですよね?」

 

 

 

 

 

 

 

 

『大悪魔グラシャラボラスの撃破に成功しました。おめでとうございます』

 

撃破アナウンスの直後、俺やオルト達のレベルが1つずつ上昇した。戦闘部隊は喜びを分かち合って笑い合う中、覇獣を解除して元に戻ると目の前にフェンリルがいた。

 

「お疲れ。ジズを倒す前の腕慣らしにはなったか?」

 

覇獣の状態でもフェンリルは俺と一緒にグラシャラボラスと戦っていた。おかげで早く倒せたようなものだが、不意に空へフェンリルのジッと見つめる視線に小首を傾げる。

 

「ん?」

 

何かあるのか?と釣られて空を見上げると・・・・・不自然なまでの暗雲が発生して、この森周辺を暗黒に覆う展開が起きた。

 

「何だ!?」

 

「いったいこれは・・・・・」

 

「まさか、また悪魔か!」

 

不気味さも醸し出す暗闇を作り出される最中だった。虚空でバチバチと黒い雷が迸り、空間に裂け目が開いたかと思えばその中から一人の人間が現れた。その者は黒髪で頭から黒い角を生やし、いかにも小生意気そうな雰囲気を纏っていた。伸びた犬歯、細長く黒い尻尾、赤い目に翼と悪魔らしい要素は揃っているが――何せ全く迫力が無い。

 

「我は魔王である!」

 

「は?魔王?」

 

周囲のプレイヤーも魔王の登場に動揺は隠さないが、「カワイイ」だの「魔王ちゃん」だのと誰も恐怖心を抱いている者は居ない。

 

「異邦の地からやってきた人間どもよ。我が魔王軍の中でも最も最弱な部下を打倒した。村の人間とその村を一切の被害を出さなかったことに我から称賛を送ろう」

 

それだけ言って、次は俺の方に視線を向けて来た。それどころか大胆不敵にも近寄ってきたではないか。

 

「初代魔王が生み出した三大天災の一つを撃ち滅ぼした勇者よ。貴様が我が魔王城まで来て我と対決する日を心待ちに―――」

 

「サイナ―、確保だ」

 

「かしこまりました」

 

「―――え?」

 

両脇で魔王を固め、捕縛。魔王は混乱。イッチョウ達は唖然。

 

「よーし、皆。村に帰ろうか!」

 

その後の俺はいい笑顔で皆にそう告げた。

 

 

 

運営side

 

 

「こんなに早く魔王の存在を明かすことになるとは思いもしませんでしたが、普通に捕まえられてますけれど」

 

「普通に捕まってしまってるな~」

 

「村人にごめんなさいをさせられている件について」

 

「激昂して怒るところなんだが、魔王ちゃんは混乱してるから理解に追い付けないでいるみたいだ」

 

「それで魔王領では味わえない美味しい料理を振る舞われて一緒に食べてますね。祭りも楽しんでますし」

 

「魔王ちゃんの撮影会も始まってるし。魔王ちゃんの威厳と美貌を!と口車に乗せられてまぁ・・・・・」

 

「まんざらではない様子で色んなポーズをしてますね。白銀さんの従魔の撮影会も便乗してはじめてますよ」

 

「・・・・・こんな残念な設定はした覚えはないんだぞ?」

 

「愛嬌ある魔王にしたいと言ったのは主任ですので、結果あんな感じになったのでは?」

 

 

 

「ま、魔王の歓迎は大いに楽しませてもらった!そろそろ魔王城に帰らせてもらう!」

 

「魔王城ってどこなんだ?この大陸にあるのか?」

 

「どこにあるのかはまだ教えられんが、その問いに対しては是と答えよう」

 

「魔王の部下ってどのぐらいいる?」

 

「72だ。その中でも幹部クラスの悪魔となれば、勇者と言えど簡単には倒せん強者よ」

 

 

「友達になった暁に―――黄金林檎をプレゼントだ」

 

「お、黄金林檎・・・・・!むむむ・・・ど、どうしても我と友達になりたいという愚かな考えを持つのか。敵同士であるぞ」

 

「じゃあ戦い合う友として戦友でいいか?敵同士でも楽しい戦いはできるだろ」

 

「戦友・・・・・うむ、悪くない。ならば勇者とはこれより我の唯一無二の戦友だ。ありがたく受け取れ!」

 

「おう、ありがとうな。気が向いたら遊びに来てくれ」

 

「ふ、ふんっ・・・」

 

ん?受け取れ?

 

 

『称号を取得しました。死神ハーデスに「魔王の戦友」を授与します』

 

 

称号:魔王の戦友

 

効果:魔王との交流が可能になり、会話時には友好度にボーナス。

 

 

ああ、これか。てか、これだけか?でもま、全プレイヤーの中で唯一無二、魔王と交流できるプレイヤーになったからいいな。亀裂が生じた空間の穴の中に潜って村からいなくなった魔王を見送った後。

アナウンスが鳴り響く。

 

『イベント7日目、18:00です。イベント終了となりました』

 

おお、もうそんな時間か。イベントが完全に終了し、村から始まりの町に戻る――と思っていたんだが、俺たちは不思議な場所にいた。

 

漆黒の宇宙の様な空間に、直径100メートルほどの円盤が浮かんでいる。その円盤には、俺を含めた300人ほどのプレイヤーが乗せられていた。どうやら、同じサーバーにいたプレイヤーが全て集められているみたいだな。

 

それだけではない。周囲を見ると同じような白い円盤がいくつも浮かんでおり、同じ様にプレイヤーが乗っていた。サーバーと同じ数だけあるんだろう。

 

何が始まるのかと思っていたら、漆黒の空間の一部に超巨大なスクリーンが浮かび上がり、そこに顔が陰で隠れたモブアバターが表示された。同時に、ステータスウィンドウでも同じ映像を見ることが出来る様だ。

 

『それでは、イベントの結果を発表させていただきます。ご静聴下さい!』

 

「「「「「おおー!」」」」」

 

なるほど、最終日の途中経過が送られてこないと思ったら、そういう趣向だったのか。グラシャラボラス戦が終わって自分たちの順位がどうなっているのか・・・・・。

 

最初は個人ポイントのランキングが発表されるらしい。全サーバーの中で上位10名が発表されるようだな。

 

まあ、ここは俺には関係ない。グラシャラボラスの撃破報酬を合わせても、約1500以上のポイントしか稼いでないからな。と言うか、俺たちのサーバーの中にはベスト10に入る者はいなかった。

 

モニターに映し出された1位のプレイヤーが、両手を上げてガッツポーズをしている。

 

それにしても、個人ポイント7000とかどうやって稼いでるんだ?そう思っていたら、上位プレイヤーが高ポイントを獲得したイベントなどが一部表示された。

 

個人ポイントはサーバーへの貢献度など関係なく、強いボスなどを撃破すれば高ポイントがもらえるらしい。なので、守護獣の撃破が高ポイントだったようだ。さらに、邪悪樹の撃破という項目もある。どうやら、神聖樹に取りついたグラシャラボラスの使徒を放置しておくと、神聖樹が邪悪樹と言うボスに変化してしまうらしい。うちのサーバーは早々に使徒を撃破したから、出現しなかったんだろう。

 

他には、村落内に出現した悪魔の撃破とか、大悪魔に蹂躙された村落からの子供を救出など、うちのサーバーでは起こらなかったイベントが相当表示されていた。

 

お次がお待ちかね、サーバー順位の発表だ。6位以下のサーバーが一気に発表される。よしよし、俺たちは入っていないな。

 

他のサーバーの悲喜交々の声が聞こえてくる。上位に入れなくて嘆くのは分かるが、なんで喜んでいる奴らもいるんだ? そう思っていたら、元々低い順位だったサーバーが、グラシャラボラス戦などを上手く戦って、大幅に順位を上げたらしかった。確かに、30位とかから10位くらいに上がってたら、喜ぶかもね。

 

その後、順番に発表されていく。5位、まだだ。4位、違う。3位、入らないよな?そして2位。

 

『2位は、第7サーバー!』

 

呼ばれなかった。ということは―――。

 

『そして、栄えある1位は・・・・・第29サーバーです!』

 

よし、1位!自信はあったけど、絶対じゃなかったからな。

 

「やったねハーデス君!1位だよ1位!」

 

「まさか、1位のサーバーになるなんて驚いたわ」

 

「はっはっはっ。俺も素直に驚いてるぞイズ」

 

ジークフリードも声をかけてきた。

 

「やったね。これは我々全員の勝利だよ!」

 

「ああ、そうだな」

 

「ですねー」

 

さすがジークフリード。さらっと正解を口にするな。

 

ウィンドウにはサーバー順位の評価基準が表示されている。イベント終了時の守護獣の状態ね。サーバーによっては殺してしまったり、放置したままのサーバーもあるようだった。

 

次は神聖樹の状態か。邪悪樹とか言うボスに変化してしまったサーバーもあるし、復活できたサーバーは数サーバーだけみたいだ。

 

村も、無傷から完全破壊まで、色々と段階がある。完全無傷はうちのサーバーだけだ。一番多いのは、村の半壊。次に多いのが村の全壊だった。

 

『次は、サーバー貢献度の順位を発表いたします』

 

「そっちもか」

 

ポイントが公開されていたわけじゃないから、まさかそこが発表されるとは思ってもみなかった。

 

驚く俺をよそに、順位が発表されていく。そして、第3位でジークフリードが発表された。うちのサーバーで貢献度2位のジークフリードが全体で3位?じゃあ、1位の俺は?

 

『サーバー貢献度、全体での1位は、第29サーバー、死神ハーデスさんです!』

 

「おおー! さすが白銀さん!」

 

「やっぱ凄いですね!」

 

モニターに俺が映し出された。祝福するプレイヤーに取り囲まれる中でオルトを肩に乗せて、手を上げると、うちの子たちも一緒に手を振ってくれた。他のサーバーの歓声のような物が聞こえて来て、本当にオルト達は人気者だ。

 

『最後に称号の贈呈です。個人ポイント1位から10位のプレイヤーには、「孤高の戦士」の称号を。サーバー貢献度1位から10位のプレイヤーには「絆の勇士」の称号が与えられます。また、イベント内で限定称号を得たプレイヤーには、失った限定称号の代わりに「村の救援者」の称号が与えられます』

 

んー?ということは・・・・・。やっぱりだ。イベント限定称号が消え、絆の勇士、村の救援者の称号が増えている。

 

「白銀さん、称号どんな内容だったんだ?」

 

「あ、俺も知りたい!」

 

まあ、教えてもいいか。元々隠す気もないしね。

 

 

称号:絆の勇士

 

効果:賞金20000G獲得。ボーナスポイント4点獲得。イベント「村の大悪魔」で活躍した証。

 

 

 

称号:村の救援者

 

効果:村落内でのNPCとの会話時、友好度にボーナス。イベント「村の大悪魔」で活躍した証。

 

 

目に見えて強力な称号という訳ではないけど、やはり羨ましがられた。一気に2つも称号を得てしまったからな。まあ、仕方ないだろう。なにせ、これで称号は14個だ。

 

また目立っちゃいそうだよな~。既に遅いがな。もっと強い称号だったら嬉しいけど、これって記念の名誉称号だし、あまり強くないんだよな。なのにすっごい羨ましがられてるし。

 

『これにて、結果発表は終了となります。お疲れ様でした。皆様をイベント開始直前にいた場所へと戻します。ポイントの景品への交換はリストから行って下さい』

 

その言葉が終わった瞬間、俺たちの視界が暗転し、直後には見覚えのある風景が目に飛び込んで来た。

 

「俺の畑だよな?おおー、皆ただいまー戻ってきたぞー」

 

「はぁー、大変なイベントだったわね」

 

「本当ね。あ。ハーデス。セレーネの件を忘れないでよね?」

 

わかってるよイズ。そしてうちの子たちは早速、留守番組のリック達と和気藹々しながら自分の持ち場に散っていく。そりゃあ、1日経過してるはずだから、早めに畑仕事をこなさないといけないんだけどさ。皆働き者だ。

 

「あ、報酬を交換できるようになってるわ。ここでしちゃってもいいかしら?」

 

「私も―」

 

「どうぞどうぞ」

 

俺の目の前にも再度ウィンドウが出現する。

 

「えーと、イベント個別報酬とポイント交換リストね」

 

イベント個別報酬は、サーバー順位1位で2万Gとボーナスポイント2点。サーバー貢献度1位で2万Gとボーナスポイント2点。村が無傷のボーナスで、「アルフの村への通行許可証」がもらえた。

 

通行許可証は、町移動用の転移陣でその場所へ移動をする際に、通行料がかからないというアイテムらしい。ということは、転移陣を使えばあの村にまた行けるのか?後で確認しに行ってみよう。

ポイント交換という物はそのままの意味で、イベントで稼いだポイントを、様々なアイテムに交換することが出来るらしい。

 

個人ポイント交換リストと、サーバーポイント交換リストの2種類があった。サーバーポイントの方は、サーバー順位やサーバー貢献度などから算出されたポイントらしい。10500ポイントとなっているが高いのか?

 

内訳の詳しい理由も色々と表示されているが、項目が膨大過ぎて、全部は把握しきれそうもない。高ポイントがもらえた項目をピックアップしてみると、守護獣1の解放、守護獣2の解放、神聖樹1の復活、神聖樹2の復活、少年少女の救出、村の損害度0などが上がっている。

 

順位発表の時も思ったけど、個人ポイントが高い人間が居るサーバーは、サーバー順位が上がらない作りになってるってことだよな。

 

「個人ポイントは・・・・・凄いな。この武器とか強い。3500ポイント必要だ」

 

他にも強力な防具や、スキルスクロールが用意されている。俺には全く手が届かないけど!

 

「何か使える物はないか?戦闘用の道具ばかりなんだよな・・・・・」

 

結局、800ポイントで孵卵器の錬金に使えるアイアンインゴットに。余ったポイントは初心者用マナポーションに変えておいた。まあ、こんなもんだろう。本番はこっち、サーバーポイントの方だ。

 

「ほほう。こっちは生産系のアイテムとか、パーティで使えるテントとかが揃ってるな。テントは必須だ。入手できる範囲だからこれにしよう」

 

個人ポイントは戦闘用、サーバーポイントはそれ以外用ってことなんだろう。

 

こっちはほぼ全ての項目が選べる。中には特定のスキルを所持していないと選べない限定のアイテムなどがあったので、選べないのはそれだけだ。

 

まず気になったのは、スキル持ち限定の項目だな。当然、テイムスキルのページもあった。

 

従魔用のエサとか、武器なんかもある。剣を装備できる従魔とかいるのか? 少なくとも俺には必要ないな。さらに項目を確認していくと、良い物を発見した。

 

「卵に孵卵器か」

 

やっぱりあったな。だが、名前だけの表示だ。蜜蜂の卵というのはハニービーの卵だろう。蜜熊はハニーベアに違いない。他にも、栗鼠の卵など色々ある。

 

説明もアバウトで、『ハチミツ大好き、蜜蜂だよ!』とか『森の友達、栗鼠さんだ!』とかそんな表示しかされていない。あれか? 何が生まれるか分からないワクワク感を楽しめとでも言うつもりか? この遊び心はいらんわ。

 

下の方に行くと、超高ポイントが必要な卵があった。赤虎の卵、風狼の卵、土竜の卵である。虎、狼が4000、竜が5000必要だ。説明文には、『猛々しい炎、赤虎の卵』としか書いてない。風狼は『風を操る魔狼、風狼の卵』、土竜には『大地の申し子、土竜の卵』だ。やっぱり分からんな。

 

うーん、どうしようか。5000も必要ってことは、かなり強いモンスターなんだろう。虎に狼に竜・・・・・ここは断然竜だな。というかモグラだろこれ。

 

「ま、リアルでも触れない小動物だ。ゲームで思いっきり触りまくって毛並みを堪能しよう」

 

さて、うーん。他には何があるか・・・・・お!農耕スキルを持っているプレイヤー限定のアイテムもある。

 

「ほうほう。始まりの町の畑の権利ね。あ、苗木と種があるじゃないか」

 

紫柿の苗木、白梨の苗木。種は、白トマト、群青ナス、キャベ菜、ソイ豆の種がある。

 

この辺は絶対に欲しい。苗木が500ポイント。種が200ポイントか。計1800ポイントだ。

 

ここでも断トツで高ポイントの謎アイテムがあった。その名も神聖樹の苗。6000ポイント。いや、わかるよ?神聖樹。でも、その苗木って必要か?悪魔の弱体化と、回復能力だ。畑で必要ない能力だろう。果実が取れるみたいな話もなかったし。

 

だが、ここでしか手に入らないのは確かだろう。ポイントも高いし。用途不明だが。

 

しかし、この苗木を選んだら土竜の卵は取得できない。さすがに竜の卵をやめて、謎の苗木をゲットする気にはなれなかった。神聖樹の苗木は諦めるしかないだろうな。

 

「他はどうしよう」

 

土竜の卵で5000。種苗類で1800。残りは3700である。リストを色々と確認していくと、面白い物を発見した。

 

「秘伝書?3000ポイント・・・・・」

 

どうやら転職時に特殊な職業を選べるようになるアイテムらしい。テイマーの秘伝書だから、テイマー系の特殊転職ってことだ。2次職のようだから、俺はもう直ぐ使えるな。というか持っているからいらないけど、転職先はコマンダーテイマー。なんと連れて行けるモンスの枠が、5匹から6匹に増えると言う職業だ。

 

モンスを連れて歩ける数が増えるというのは非常に嬉しい。戦力的な意味でも、可愛いモンスたちに囲まれると言う意味でも。これは後で転職しようと思いもう一つ気になる方に注視した。

 

「イベントの金メダル?これも3000だな」

 

詳細は『摩訶不思議な金メダル。持っているといいことがあるかも』とこれもまたアバウトだが・・・・・他に欲しい物がなかったから記念にメダルを手に入れることにした。

 

土竜の卵、紫柿の苗木、白梨の苗木。種は、白トマト、群青ナス、キャベ菜、ソイ豆、の種、イベントの金メダル。これで9800だ。

 

残りの700のうち500で始まりの町の畑を1つもらうことができるな。もう上限に達しているので増やせなかったんだが、このボーナスは上限に含まれないらしい。しかも所有畑の隣接地を選べたので、かなりお得だったと思う。

 

残り200はまだ持っていなかった、睡眠草という草の種に変えることにした。これで全部使いきったぞ。

 

「よし、決定っと」

 

押した瞬間ウィンドウが輝き、賞品をインベントリに送ったというアナウンスが流れる。見てみると、確かに全てのアイテムが入っていた。

 

さらに畑もキチンと追加されている。

 

「よしよし、手に入れたばかりの作物をすぐに植えられるな」

 

「終わったー?」

 

「終わった。イズ、アイアンインゴットある?」

 

「あるけど、どうしたの?」

 

「孵卵器に使いたいから欲しいんだ。売ってください」

 

「ということは新しいモンスターを選んだのね?どんなの?」

 

モグラ、と言うと微妙な顔をされてしまいました。

 

 

 

死神・ハーデス

 

LV39

 

HP 40/40〈+300〉

MP 12/12〈+200〉

 

【STR 0〈+129〉】

【VIT 750〈+1650〉】 

【AGI 0〈+120〉】

【DEX 0〈+120〉】

【INT 0〈+100〉】

 

 

装備

 

頭 【空欄】

 

体 【黒薔薇ノ鎧:大陸の覇獣(ベヒモス)

 

右手 【新月:毒竜(ヒドラ)

 

左手【闇夜ノ写】

 

足 【黒薔薇ノ鎧:大陸の覇獣(ベヒモス)

 

靴 【黒薔薇ノ鎧:大陸の覇獣(ベヒモス)

 

装飾品 【生命の指輪・Ⅷ】【古の鍛冶師の指輪】【白妖精(ハイエルフ)の指輪】

 

 

称号:万に通じる者 不殺の冒険者 出遅れた者 白銀の先駆者 毒竜の迷宮踏破 大樹の精霊の加護 ユニークモンスターマニア 三代目機械神 聖大樹の精霊の加護 勇者 最速の称号コレクター 魔王の戦友 絆の勇士 村の救援者

 

スキル

 

【絶対防御】【手加減】【体捌き】【瞑想】【挑発】【極悪非道】【シールドアタック】【大物喰らい(ジャイアントキリング)】【咆哮】【毒竜喰らい(ヒドライーター)】【爆弾喰らい(ボムイーター)】【植物知識】【大盾の心得Ⅹ】【悪食】【受け流し】【爆裂魔法Ⅹ】【エクスプロージョン】【体術】【幸運】【テイム】【採取】【採取速度強化小】【使役Ⅹ】【獣魔術Ⅹ】【料理ⅩⅩⅩ】【調理ⅩⅩⅩ】【調合ⅩⅩⅩ】【水無効】【八艘飛び】【伐採】【伐採速度強化小】【炎上耐性小】【機械神】【機械創造神】【宝石発見】【刻印・風】【水中探査】【侵略者】【破壊王】【背水の陣】【覇獣】

 



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学園祭1

現実の世界での朝食時、シンプルな料理を作り肩を並べて食べながら燕と会話を楽しんでいた。主にNWOの事だ。

 

「イベントも終わってもう少しで文化祭ですね。ハーデス君としてならお化け屋敷がいいじゃないです?」

 

「そうであると驚かし甲斐があって面白そうだな。だけど、その日の俺は分身体と入れ替わるつもりだ」

 

「え、どうして?」

 

「カヲルにプレッシャーをかけるためだ。神月学園の文化祭の目玉は来賓してくる人達に対する召喚獣を使ったデモンストレーション。失敗は許されないことをあいつも解ってるから、嫌な緊張感を抱くだろう」

 

「生きた心地をしないでしょうね校長先生。ちょっと同情しちゃうよん。でも、そうなると一人で来るんですか?」

 

「いーや、この日のために調整をしてきたんだ。俺以外の王達も羽を伸ばしに来るつもりだ」

 

「・・・・・頑張ってください校長先生」

 

 

そして清涼祭が始まる前。

 

拝啓。桜色の花弁が徐々に姿を消し、代わりに新緑が芽吹き始めたこの季節。

僕らの通う神月学園では、新学年最初の行事である。『清涼祭』の準備が始まりつつあった。

お化け屋敷のために教室の改造を始めるクラス。焼きそばのために調理道具を手配するクラス。

この学校ならではの『試験召喚システム』について展示を行うクラス。

学園祭準備のためのLHR(ロングホームルーム)の時間は、

どの教室を見ても活気が溢れている。そして、我らがFクラスはというと―――。

 

『明久!こいっ!』

 

『勝負だ、ガクト!』

 

『てめぇの球なんざ、場外まで飛ばしてやる!』

 

『言ったな!?こうなれば意地でも打たせるもんか!』

 

準備もせずに、校庭で野球をして遊んでいた。

 

 

 

 

 

『・・・・・召喚獣も使役する季節外れのハロウィンをモデルにした喫茶店をしてみたい』

 

俺こと直江大和は校庭で野球をしているバカ共を余所に、

数少ないメンバーと『清涼祭』という学園祭の出し物を決め合っていた。黒板の前に立つ俺の隣に立つハーデスが一番初めにそんな提案をした。

 

「ハロウィンの喫茶店とはまた奇抜な。でも、現時点で学園祭でする出し物にしちゃいいと思う」

 

「ねぇ大和。ハロウィンの定番はお菓子でしょ?料理はお菓子系ってこと?」

 

「喫茶店をするんだから他の料理も出さなきゃ駄目だぞ」

 

ジュースにナポリタン、サンドウィッチに揚げ物と喫茶店ならではの料理は数多くある。コストが低くて美味しくたくさん作れる料理でなきゃ割に合わなくなる。

 

「ねぇ、お菓子なら私のお店が甘味処だからもしかしたら提供できるかもよ?」

 

「そう言えばそうだったな。小笠原、頼めれるか?学園祭で得た稼ぎで費用は返す」

 

「ついでにお店の宣伝にさせてもらうからね」

 

クラスメートの女子の提案でお菓子の方の目途は立った。後は衣装だがどうするか。

 

『・・・・・衣装はこっちで用意した』

 

「はーい、これだよ!」

 

松永さんがハーデスの隣で男用と女用の期間限定の衣装を両手で持って掲げた。ハロウィンらしく先が折れた帽子にフリルが沢山で黒と橙色を基調にしたドレス、可愛らしく描かれたジャック・オー・ランタンのプリントが張られてポケットもジャック・オー・ランタンの顏で施されている。男の方は顔を出すカボチャの頭の部分の着ぐるみに、ウェイターが着るような紳士的な黒服とこれもまたジャック・オー・ランタンのプリントが張られた黒いマント。

 

「へぇ、ドレスが可愛いじゃない」

 

「まさにハロウウィンを彷彿させる服だね」

 

ハーデスが準備をしてくるほど、学園祭が楽しみのようだ。

 

「因みにこれ、蒼天のデザイナーの人が試作で作ってくれたんだよ」

 

「試作?ああ、まだ出し物が決まってないからか」

 

「そうそう、決まったら逐一発注しないといけないけど、他に出し物の提案あるかな?」

 

と言われるが、学園祭でする出し物なんてたかが知れている。喫茶店だって他の学年の一クラスぐらいやるだろうし、初めにいの一番で提案したハーデスのハロウウィン喫茶店・・・・・。

 

「ハーデス、召喚獣も使うって言ったよな?教師側が召喚獣の召喚を許可してくれるのか?」

 

『・・・・・学園祭中に召喚大会がある』

 

「あー。なるほど、この学園の目玉はそれだから間近で召喚獣を見れれる喫茶店はうちのクラスだけ、つまり特権だな」

 

『・・・・・幸い、ここの設備は充実。見栄えもいい。それに学園祭中こっそり召喚獣の操作も向上できる』

 

そこまで考えてるハーデスには流石だと言わざるを得ない。

 

「一粒で二度も美味しい思いができるとは、お前が考えたのか?」

 

「考えたのは王様だけどね。学園長には召喚獣を使った出し物はするって事前に許可も貰ってるし、後はどんな出し物にするか決めるだけなんだよ」

 

流石すぎるよ旅人さん!

 

「じゃあ、ハーデスの『ハロウウィン喫茶店IN召喚獣』以外の出し物の提案を考えてるなら言ってくれ」

 

皆に尋ねるとハーデスの提案で構わないという意見を多く貰った。

 

「ところでウチらだけ勝手に決めていいの?代表の坂本抜きでさ」

 

「こっちはそれなりに学園祭に向けて真面目にやっている。

あっちは学園祭の準備すらやらず遊んでいる。発言権は俺達に有りだ。

後から何を言われようと、既に決まったことだ。文句は言わさない」

 

『・・・・・同意』

 

ハーデスもスケッチブックを前に出しながら頷く。この教室にいる女子と男子共に問う。

 

「んじゃ、取り敢えずこのメンバーの中からホールとキッチンのメンバーを決めよう。

まずは料理ができる奴は手を挙げてくれ。今から文化祭中のシフトを作成する」

 

キッチンメンバーを決めるために皆に訊ねたところ―――。島田、

ハーデスをはじめFクラスの数少ない女子である小笠原千花、甘粕真与が手を挙げた。

よし、俺も含めてこのメンバーをキッチンにしよう。これから修正するつもりで軽く黒板に予定を書いていくと。

 

「あ、あのー直江君。私も手を挙げているんですけど、

どうして黒板に私の名前が無いんですか?」

 

―――やっぱり訊いてくるか。

 

「ああ悪い、姫路はホールの方が適切なんだよ。適材適所ってやつだ。

姫路の可愛い容姿と抜群なスタイルで客寄せを頼みたい」

 

「わ、私もお料理がしたいです」

 

『・・・・・』

 

「ハーデス!頼むから教室に血で汚すようなことをするな!姫路を何とかホールにして

もらうように説得するから!」

 

姫路の発言に大鎌をどこからともなく取り出すハーデスに苦労が絶えない俺だった。どうしてこうなった。まさか、姫路があんなおかしなところがあるなんて今でも信じられないぞ。

 

「ねえ、姫路って料理できないの?」

 

「小笠原、できるできないの問題じゃないんだ・・・・・。後で教えるから何も言わないでくれ」

 

「ふーん?分かったわ」

 

取り敢えず、キッチンの時間割は・・・・・こんな感じでいいだろ。

 

『貴様らッ!学園祭の準備をサボって何をしているか!』

 

『全員鞭叩き10回だ!』

 

もうすぐ戻ってくるだろうあいつらも聞かないとな。

 

「じゃあ、次ホールの方は・・・・・ハーデスは無理だな。その姿じゃ」

 

『・・・・・試験召喚大会で宣伝ぐらいはしておく』

 

「大会に出るのか?商品が目当て?」

 

俺たちが通うこの神月学園には、世界的にも注目されている『試験召喚システム』

というものがある。今年はその注目されているシステムを世間に公開する場として、

清涼祭の期間中に『試験召喚大会』という企画が催されるらしい。

俺はこれといって興味がないけどな。

 

『・・・・・俺の存在を世界中に知らしめる』

 

「お前、どれだけ出しゃばりなんだよ・・・・・」

 

『・・・・・冗談。優勝賞品に興味深い腕輪がある。それが欲しい』

 

「ああ、そう言えばそういうのがあったな」

 

まっ、ハーデスが出るなら間違いなく優勝できる。あの大会は二人組まないと参加できない。

 

「って、『試験召喚システム』を開発した蒼天から来たお前に直接貰えないのか?」

 

『・・・・・本国から稼働データのためと送られてくるなら話は別』

 

「なるほど。学園側がお前を贔屓するわけもないか」

 

蒼天の出身者とは言え、この学校にいる限りは一生徒。ということか。

 

段上の奥から校庭で野球をしていた奴らが戻ってきた。・・・・・何人か恍惚の表情を浮かべているのは

無視しよう。クラスメイト全員が戻るや否や、鉄人が降りてきて教卓の前に立った。

自分の隣に見知らぬ外国人の少女を立たせて。

 

「どうやら、学園祭の催しは決まっているようだな」

 

「はい。俺達だけで決めさせてもらいました」

 

「こんな馬鹿共の中にでもまともな生徒がいてくれて俺は正直安心している」

 

・・・・・なんと返事をして良いやら。

 

「さて、お前らに伝えないといけないことがある。

―――このクラスに転入生が加わることになった」

 

『はい?』

 

この時期に転入生・・・・・?

 

「先生、本当ですか?」

 

「教師が生徒に嘘を吐くものか。お前達が不思議がるのも無理ないが受け入れろ」

 

鉄人は顔と視線を隣にいる少女に自己紹介の促しの言葉を告げた。

綺麗な金の長髪に赤いリボンが結ばれていて、瞳が青い外人の彼女は口を開いた。

 

「私の名前はクリスティアーネ・フリードリヒ!ドイツ・リューベックより推参!

この寺小屋で今より世話になる!」

凛々しく、ハキハキと軍人のように自己紹介をした。

 

「おおお、金髪さん!可愛くね?マジ可愛くね!?」

「超、当りなんですけどぉぉぉぉぉ!!!」

 

『うおおおおおおおっ!金髪美少女キタァァァァァァァァァッ!』

 

凛とした声と立ち振る舞いに、男子達は見惚れていた。興奮していた。

 

「へぇ、ドイツから来たんだ」

 

モロが感嘆の声を漏らす。

 

「なんだか個性的なキャラが現れたって感じだぜ」

 

キャップは面白そうに笑う。京は興味がないとばかり本に夢中。

 

「あの子、強いわね。決闘を申し込んでみたいわ」

 

ワン子は彼女と戦いたいようで、ウズウズしている。

んで、ガクトは変態顔で彼女を凝視している。

 

「ええい、静まらんかこのバカ共が!」

 

シーン・・・・・・。

 

鉄人の一喝により、Fクラスが静寂に包まれた。

 

「すまんな、このクラスはバカしかいない。

頭を抱える学校生活になるかもしれんが我慢してくれ」

 

「大丈夫です。問題ございません」

 

「うむ、いい返事だ。空いている席は・・・・・あの髑髏の仮面を付けている生徒の隣だ」

 

「分かりました」

 

クリスティアーネは視線を自分の席に向けた時。一人の男子が手を挙げた。

 

「クリスティアーネさん!質問いいですか!?」

 

「ああ、いいぞ」

 

「じゃあ、クリスティアーネさん。俺と付き―――」

 

『異端審問会を開く!』

 

『『『『『了解でございます!』』』』』

 

「って、ぎゃああああああああっ!」

 

・・・・・Fクラス男子達が殺気立っている・・・・・。

俺も彼女と話しただけで異端審問会に掛けられてしまうのか・・・・・。

 

「・・・・・なんだ、アレは?」

 

「ああ、アレは気にしなくて良いわ。クリスティアーネさん。

ドイツ出身なのね?ウチもドイツの帰国子女なの」

 

「おお、そうだったのか。えと名前は・・・・・?」

 

「ウチは島田美波。趣味は吉井明久を殴ることよ☆」

 

「・・・・・それは趣味といえるのか?」

 

言えない!そんな物騒な趣味を外国人の転入生に教え込むな!

 

「ねえねえ、クリスティアーネ!」

 

ワン子?

 

「自分としてはクリスと呼ばれることを希望する」

 

『『『『『クリスさぁああああんっ!!!!!』』』』』

 

『『『『『『『『『『愛しているうぅっ!』』』』』』』』』』

 

「・・・・・すまない。恋愛事はまだする気が無い」

 

Fクラス男子の殆どが机に伏して血の涙を流した・・・・・・。

 

「じゃあ、クリス。なにか武道とかやっているの?」

 

「フェンシングを小さい頃からずっと」

 

「YES!じゃあ、あなたの腕を確かめたいわ!」

 

ワン子はワッペンを取りだした。そのワッペンを見た皆は目を丸くする。

 

「おいおい、マジかよ?」

 

「うはっ!久々に決闘が始まるのかよ!」

 

この神月学園には『試験召喚システム』の他にも切磋琢磨、

相手に直接肉体的な意味で決闘を申し込むこともできる。この町は武家の家系が多いから純粋な

力比べ、物事を決着を白黒つけるために決闘も行うことがある。

 

「クリスティアーネ。川神はお前に歓迎の義をしたいそうだが。お前の意志はどうだ?」

 

「なるほど、新入り歓迎ですね?分かりました。受けて立ちます。―――ただ」

 

「む?」

 

「私は・・・・・あの髑髏の仮面の者と決闘をしてみたいです」

 

―――☆☆☆―――

 

『これより、第一グラウンドで、決闘が行われます。内容は武器有りの決闘。

見学者は第一グラウンド―――』

 

グラウンドに学園祭の準備をしているはずの生徒達が集まってくる。

本人達の希望があれば見学不可もできるが。

他のクラスや違う学年も面白がって集まってくるのでお祭り状態だ。

 

「ハーデス、大丈夫かしら?あいつ、強いわよ?」

 

「大鎌を軽々と振るうぐらいだから・・・・・それなりに戦えるだろう」

 

グラウンドの方へ目を向ける。

 

「これより、神月学園伝統、決闘の儀を執り行う!

二人とも、前に出て名乗りをあげるがいい!」

 

この学園の理事長である川神鉄心が審判を買って出ている。

 

『・・・・・二年Fクラス、死神・ハーデス』

 

「今日より二年Fクラス!クリスティアーネ・フリードリヒ!」

 

「ワシ、川神鉄心が立ち会いのもとで決闘を許可する。

勝負がつくまでは、何があっても止めぬ。

が、 勝負がついたにも関わらず攻撃を行おうとしたらワシが介入させてもらう、

良いな?」

『・・・・・了解』

 

「承知した」

 

「いざ尋常に、はじめいっっっ!!!!!」

 

理事長の開始宣言と共に決闘は始まった。

 

「参る!」

 

『・・・・・』

 

クリスが鋭く突貫する。手に持っている武器はレイピア。

全身を使うスポーツでもあるため、身体能力も高いはずだ。

 

「はぁっ!」

 

狙いを違わず、クリスのレイピアはハーデスの身体に吸いこまれるよう貫いた―――!

 

「って、えええええええっ!?」

 

「さ、刺さった・・・・・?」

 

信じられないと唖然になる。いくらなんでもあっさりすぎる。

だが、誰から見てもハーデスの身体にレイピアが刺さっているのが分かる。

この後、どうなるんだ?様子を窺っていると、

 

「―――いや、あの髑髏の仮面の男は防いでいるぞ」

 

「ね、姉さん!?」

 

「よお、弟よ。何だか面白そうなことになっているじゃないか」

 

俺より身長が高く、赤い双眸に甘い香りがする黒い長髪にドギマギしてしまう。

 

「姉さん、防いでいるって・・・・・?」

 

「マントを貫いているが、その中身はどうなっているんだろうな?」

 

姉さんの言葉に俺は改めてハーデスを見やると、ハーデスの腕がマントから出た。

クリスが突き付けたレイピアの先端を摘まんで受け止めていた。

 

「な?」

 

「・・・・・あいつ、簡単にクリスの攻撃を受け止めたってのか」

 

「それだけじゃないんだ。あの仮面の奴、まったくの気を感じさせない。

気を完全に抑え込んでいる」

 

「え、それって・・・・・」

 

「ああ、強いぞ」

 

ハーデスが動く。レイピアを手放して後方へ距離を置いたと思えば、足を大きく振り上げた。空ぶった?と思った俺の視界にグランドの地面を削りながらクリスへ迫る何かの攻撃を放った。

 

「っ!」

 

避けるクリスに当たらなくても十数メートルまで地面を削った。な、なんだよあれ・・・・・。

 

「姉さん、今のハーデスの攻撃ってわかる?」

 

「・・・・・気の攻撃ではないことは確かだけど、ただの蹴りで斬撃を飛ばしたかもしれない」

 

「姉さんでもできるか?」

 

「大気圏外まで跳躍できるぐらいだが、斬撃を飛ばすことは多分今の私にはできないだろうな」

 

人間離れしてるな相変わらず。でも、ハーデスの技を見ると姉さんに負けないぐらい人間離れしてるってことか。

クリスとの戦いを経て強さの片鱗を見せるハーデスは手の中で光剣を生み出した。あれ、どうやって作ったんだ?

 

「ジジイと師範以外にもあんなことできる奴は初めて見た・・・・・っ」

 

姉さんから聞こえる、感想のような言葉から興奮している感じに聞こえた。そして二人の戦いは一方的になった。剣の達人でもない俺から見ても振るう動作、突く鋭さはとても綺麗でまるで踊っているようにも見えた一連は、クリスを追い詰めていき、やがて押されている彼女の足を足で払い、ハーデスも倒れながらクリスを押し倒して馬乗りになった状態で光剣を首の真横に突き刺して止まった。

 

「そこまで!勝者ハーデス!」

 

あっという間に決着がついた。あいつ・・・・・強いな・・・・・。

 

「あいつ、少しも本気を出していないな」

 

「え、マジで?」

 

「ああ、さっさと終わらせるために倒したようだな。―――――はは、こいつは面白い奴を見つけた!」

 

そう言って姉さんがハーデスの下へと歩み寄った。

その時、ハーデスに弾丸の如く赤い何かが飛び掛かった。

ハーデスは自分に向かってくる何かを察知し、腕で防いだ。

 

「久しいですね。死神」

 

その正体は赤い長髪に眼帯を装着している軍服を身に包んだ女性だった。

ハーデスの光剣に鉄製のトンファーがぶつけられていた。

というか、彼女はハーデスと知り合いなのか?

 

「次は、私と勝負しなさい」

 

『・・・・・』

 

女性の言葉にハーデスはフルフルと首を横に振った。

 

「何故です?」

 

『・・・・・』

 

「・・・・・なるほど、分かりました。必ずですよ」

 

何を分かったんだ!スケッチブックで伝えられたわけでもないのに何が分かったんだ!?

 

「あれ?美人なお姉さんだな。誰だ?」

 

「私はマルギッテ・エーベルバッハだと知りなさい。

今日より二年Sクラスに所属します。武神、川神百代」

 

んなっ、よりによってSクラスかよ!戦力が増強しているじゃないか!

 

「おー、よろしくな。それはそうと、死神。今度は私と勝負しよう♪」

 

「こら、モモ!既に決闘は終わりじゃ!さっさと自分のクラスに戻って学園祭の準備をせんか!」

 

「えー!いいじゃんか、ちょっとぐらい!」

 

 

―――☆☆☆―――

 

 

午前の授業は終わり、僕達はクリスさんも誘って屋上に昼食会を開いている。

 

「クリスさん、凄かったよ」

 

「いや、私はまだまだだ。死神ハーデスはやはり強かったからな」

 

「え、ハーデスと知り合いなのか?」

 

「いや、私が敬愛している軍人から聞いたんだ。骸骨の仮面を被った

黒いマントの者が紛争地域で敵の血を一滴も浴びず、

次々と首を刎ね飛ばしていくところを何度も見掛けたと」

 

『・・・・・』

 

それを聞いて、僕達はハーデスに目を向けた。召喚獣も相手の召喚獣の首を刎ねていたけど、

それってリアルでもしていたから簡単にできていたってこと・・・・・?

 

「ほ、本当にお前は人を殺したのか・・・・・?」

 

『・・・・・』

 

ハーデスはスケッチブックに書いて、僕達に伝えた。

 

『・・・・・戦争で苦しんでいる人間を解放するために敵をさっさと倒したまでだ』

 

首肯の意味の言葉がスケッチブックに書かれていた。

だからだろう、姫路さんや島田さんが顔を青ざめる。

 

「彼と彼の国の蒼天は昔から何度か世話になっていると父からも聞いた。

 まさか、この地にいたとは予想外だったが」

 

「世話になってるって具体的にどんな?」

 

「私も深くは聞いていないが、軍事に関する事だとは知っている。ドイツ軍の兵士達の能力を強化したり戦闘訓練をしたりとか」

 

「蒼天ってそんなこともするのか?」

 

「たまにするそうだぞ、他国との戦争規模の模擬戦を。そして蒼天の兵士達は強い。現代兵器を凌駕する兵器でドイツ軍に圧倒的な強さで勝ったのだから父はあの国の兵器にかなり興味津々なのだ」

 

国同士の交流をしてるなんて話、実際している人の関係してる人の話は初めての経験だ。

 

「ドイツの軍人といえば、Sクラスに新しく入った軍服を着た女がいたが、クリスの関係者か?」

 

「そうだぞ。マルさん、マルギッテ・エーベルバッハは現役の軍人で、私が尊敬する人だ。死神、マルさんに何て言ったんだ?」

 

『・・・・・学園祭が終わってから勝負する約束』

 

だからあっさり引いたのか。納得したよ。

 

「そう言えばSクラスってあの教室でどんな出し物をするのかな」

 

「英雄のことだから金で物を言わせて改造しているだろう。そんでド派手な出し物をするに決まっている。

 これ確定な」

 

「何でそこまでわかるんだ?」

 

雄二の質問に僕も同感だと頷くと、大和の口から驚かされる言葉を聞かされた。

 

「幼馴染だからだ」

 

「えええっ!?」

 

「まー、驚くよね普通」

 

「あんな性格の野郎と幼馴染の関係なんて誰も信じられないだろうよ。中学になるまでは、まだそれなりに一緒に遊んでいたんだからな」

 

「それからは全然遊ばなくなったもんなー」

 

「あの人は仕事で忙しくなっちゃってそれどころじゃなくなったからね」

 

「あの暑苦しくて騒々しさがなくなったた一時はちょっと寂しく感じたわねー」

 

あの九鬼君と幼馴染だなんて意外過ぎる・・・・・。いつも風間ファミリーを見ている分、そこに九鬼君が加わって遊んでいるとことなんて一度も見たことが無いから余計に唖然としてしまう。

 

「じゃあ、久々に英雄んとこに行こうぜ!」

 

「ワン子、時間が被ったら一緒に学園祭を回って見たら?」

 

「そうしてみようかしら」

 

久しぶりに学園祭だけど遊べるかもしれない機会に風間ファミリーは九鬼君と会うことに楽しむ。大和が「土屋に情報収集―――一日だけ風間ファミリー全員抜けれる時間―――」と言っていたのが聞こえた。

 

だけど、僕らはこの時知らなかった。学園祭当日、とんでもないことが起きるなんてことを。

 

 

学園祭当日。

 

「久しぶりねー。皆とこうして出掛けるなんて」

 

「偶然ではないことは確かよ。この男なら簡単に私達のスケジュールを変えるなんて朝飯前でしょ」

 

「当然だろ。この日の為にちょっとずつ調整したんだからな。嫌なら帰って仕事でもするか?」

 

「嫌だなんてとんでもないです。貴方と一緒に楽しむ一時はとても嬉しいです」

 

「私もです。だから今日は思いっきり楽しみましょうね!」

 

一人の男と四人の女性達が神月学園の門をくぐった。

 



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学園祭2

「大和ー。綺麗なクロスを作ってきたぜ!」

 

「食材の調達、これで完了だ!」

 

「調理器具も何とか揃えれたよー」

 

「教室の飾り付けももう少しで完成だよ」

 

学園祭当日、時間ぎりぎりまでテキパキと動く風間ファミリー。とても慣れているかのような無駄のない動きに感嘆していると、僕の後ろに誰かがいたことに気付かないでいた。

 

「・・・・・飲茶(ヤムチャ)も完璧」

 

「おわっ」

 

いきなり後ろから響くムッツリーニの声。いつもながら存在感を消すのが巧い。

別に常日頃はそんな事をしなくてもいいと思うんだけどな。

 

「ムッツリーニ、厨房の方もオーケー?」

 

「・・・・・味見用」

 

そう言ってムッツリーニが差し出したのは、木のお盆。上には陶器のティーセットと

胡麻団子が載っていた。ハロウウィン喫茶店としてお菓子になるような外国の料理にも作ることにしたんだよね。僕はムッツリーニが作った胡麻団子を食べながら色々と話をする。

 

「ところで、ムッツリーニ。ハーデスは?」

 

「・・・・・あっち」

 

ムッツリーニは指をとある方へ向ける。僕はその方へ視線を向けると・・・・・。

 

『・・・・・』

 

「ご、ごめんなさい!ごめんなさい!ですから、無言の圧力を掛けないでください!怖いです!」

 

何故か、ハーデスが姫路さんに顔を近づけながら大鎌を構えていた。

姫路さんも涙目だ。

 

「・・・・・ねえ、なにがあったの?」

 

「・・・・・姫路が厨房に立っていた」

 

ナイス、ハーデス!キミは多くの人間の命を救ったよ!そして始まる学園祭。開け放たれた扉の向こうから大勢の人の声のざわめきが聞こえるようになってきた。

 

「ねえ、大和。召喚大会にキャップと出るんですって?賞品が狙いなの?」

 

「そうだな。チケットを手に入れたら適当にどっかの誰かに売り渡す予定だ」

 

「あはは、小遣い稼ぎが目的なんだね」

 

「大和らしいちゃらしいがな」

 

納得の面持ちの一子とガクトだった。すると、ハーデスが姫路さんから離れ、

松永さんに近づき一緒に教室からいなくなった。そう言えば召喚大会に出るんだったね。

さらに言えばだ。大和とキャップ、島田さんと姫路さん―――。

 

「おい、明久。俺達も大会に行くぞ」

 

「うん、分かっているよ」

 

僕と雄二も召喚大会に出る訳だ。優勝したら僕らはある達成を果たせて一石二鳥。

その目的はまた後ほど説明するね。

 

―――☆☆☆―――

 

「えー。それでは、試験召喚大会一回戦を始めます」

 

校庭に作られた特設ステージ。そこで召喚大会が催される。

 

「三回戦までは一般公開もありませんので、リラックスして全力で出してください」

 

今回立会人を務めるのは数学の木内先生。当然勝負科目は数学となる。

 

「い、いきなり相手が死神なんて・・・・・が、頑張ろうね、律子」

 

「う、うん・・・・・」

 

対戦相手の女子が頷き合う。ハーデスの存在は既に学園中に知れ渡っていよう。

 

「では。召喚してください」

 

「「試獣召喚(サモン)っ!」」

 

相手の二人が喚に声を上げると、馴染みある幾何学的な魔方陣が足元に現れて召喚者の姿を

デフォルメした形態を持つ試験召喚獣が喚び出された。

 

 

                『数 学』    

 

   Bクラス 岩下律子 179点 & 163点 菊入真由美 Bクラス

 

 

 

 

向こうは二人とも似たような装備の召喚獣じゃ。西洋風の鎧とハンマーとメイスを持っている。

姫路の召喚獣を一般的な強さにしたような感じじゃろう。

 

「さーて私達も召喚しよっか。蒼天の力を見せつける為にね」

 

『・・・・・そうだな』

 

 

「『試獣召喚(サモン)』」

 

現れる私達の召喚獣。私の召喚獣は相変わらず刀を装備してる。

一方、ハーデスの召喚獣は黒いマントを全身に包み、顔には髑髏の仮面を被って刃が備わっているトンファーを持っている。死神は鎌と通常装備だけど、どうしてトンファーなんだろうね。

 

『この試合はどうなるでしょう高橋先生』

 

『BクラスとFクラスでは試合にはならないかもしれませんね。

一回戦ですのでバランスの悪いカードも多いでしょう』

 

実況を務めておる福原先生と高橋先生が、この戦況を見据える。―――Fクラスだからって舐めないでくださいよ。

 

                

               『数 学』

 

   Fクラス 松永燕 569点 & 1点 死神ハーデス Fクラス

 

  

 

 

 

「ご、569点!?そんな、勝てるわけないじゃない!律子、先に死神をやっつけちゃいましょう!」

 

「そうね!あんな雑魚だけでも倒してみせるわ!」

 

先手必勝と武器を構えて敵が飛び掛かる。

ハンマーを持つ敵は大振りでハーデスの分身を潰そうと振り下ろすが、

私がカバーして真っ直ぐ振り下ろされるハンマーの軌道を横から叩きつけて逸らし攻撃を外した。

 

「なっ!?」

 

完全に狙いが外れたハンマー。地面から持ち上げるその瞬間、

次の攻撃をするためのタイムログをハーデスは

突いた。ハンマーに乗り、そのまま敵に向かって駆け―――。

横薙ぎに払い敵の首を刎ねた。

 

「律子!?」

 

『・・・・・他人を心配するより、自分の方を心配したらどうだ?』

 

「よくも律子を!」

 

大切な友を討たれた怒りに燃え上がるのがよく分かる。敵はメイスを縦、突き、

横薙ぎに振るってハーデスの召喚獣を攻撃するのも、ハーデスは一切防がず、

軽くかわし続けて―――敵の背後に回って刀の刃を敵の胴体に深く突き刺した私。

そしてハーデスも攻撃に転じてトンファーブレードを突き刺したことで敵は刃から抜けることができないまま

点数が減り続け―――何時しか、0点となり召喚用フィールドから姿を消した。

 

「勝者、死神・松永ペア!」

 

木内先生が勝者の名を告げる。勝利のハイタッチしたその後、直江君と風間君に坂本君に吉井君の試合を見ず、教室に急ぎ足で戻ったところ。

 

「お、覚えていろよっ!」

 

教室から坊主頭の男子生徒を抱えて逃げるようにっ走り去っていくモヒカンの男子生徒。

何があったのじゃろうか?ハーデスと顔を見合わせ教室の中に入ると、

 

「ん?おー、お前ら。戻ってきたか」

 

「うむ。それで、先ほどのお二人さんは?」

 

「ああ、三年の先輩らが営業妨害をしやがってな。『パンチから始まる交渉術』~『キックで繋ぐ交渉術』~『プロレス技で締める交渉術』をして速やかに退出させてもらったところだ」

 

島津君の物言いに内心溜息を吐く。まるでヤンキーみたいな言動だね。Fクラスの喫茶店に影響が出なければいいんだけど。

 

「それで、被害は?」

 

「んーと、大和が騒がしてしまった謝罪に今いる客達にタダで提供をするそうだぜ」

 

「落ちた評判を取り戻さなくちゃね」

 

やれやれ、どうして初日から営業妨害されるのかな。それも上級生。私達、上級生の人に何もしてないのに。

 

『・・・・・』

 

王様も何か考え込んでいるようで物静かだ。この時点で嵐の前触れだって感じているのはきっと私だけだよね。

 

 

―――そして次の試合に臨む私達だった。

 

 

「次は二回戦・・・・・相手はあの二人みたいだね」

 

『・・・・・やることはかわらない』

 

校庭に設けられた特設ステージに私達と対峙する対戦相手の姿を見て確認した。

 

「BクラスとCクラス。またしても上位クラスコンビかぁ」

 

「ふん、この勝負はもらったのも当然だな。友香」

 

「・・・・・」

 

根本が小山に話しかけるも、小山は根本の言葉に同意しない。

あの者の視線は真っ直ぐハーデスに向けられてる。

 

「そうね」

 

「それでは、試験召喚大会二回戦を始めてください」

 

今回の立会人は、多少のことには目を瞑ってくれる英語担当の遠藤先生。

 

 

「「「『試獣召喚(サモン)!』」」」

 

この場にいる四人の生徒の召喚獣が出現する。

 

 

             『英語W』

 

Cクラス 小山友香 165点 & 199点 根本恭二 Bクラス

 

 

 

 

流石はBクラスとCクラスの代表コンビ。Fクラスの数倍以上の点数を得ておる。

 

 

            『英語W』 

 

Fクラス 松永燕 322点 & 1点 死神・ハーデス Fクラス

 

 

 

対する私とハーデスの点数が表示される。この手の科目は得意じゃないから必然的に

この点数だけど、私はAクラス以上の成績だから彼等からすれば強敵の筈。

 

「くたばれFクラス!」

 

『・・・・・』

 

根本君の召喚獣が真っ直ぐハーデスの召喚獣に迫る。小山さんの召喚獣は一歩も動かない。

様子見か漁夫の利を狙っておるのか定かではないけど、警戒しておくに越したことはないね。

 

「ちぃっ!ちょこまかと避けやがって!」

 

必死に武器である鎖鎌を振るうのじゃが・・・・・攻撃が当たる雰囲気ではない。

サーカスの劇団みたいに軽やかな動きをし、相手の動きを翻弄し、隙が出たら敵の体勢を崩して

立ち直るまで攻撃をしない。そんな繰り返しをしばらく繰り返しておると。

 

『・・・・・飽きた』

 

ハーデスが私にだけ聞える声量で伝えると、敵の召喚獣の体勢を崩した後に敵の顔面に絶え間なく

斬り続けた。その連続の斬撃に点数も凄い勢いで減り―――0点になった。

 

「そ、そんな・・・・・!」

 

愕然とする倒された根本君の隣にいる小山さんに尋ねた。一度もカバーもしないどころか少しも動かず静観の姿勢を崩さないのが不思議だ。

 

「小山さん。貴女は戦わないの?」

 

「止めておくわ。返り討ちに遭うのが火を見るより明らかだもの。

私より点数が高い根本(・・)君がたった一点の相手にボロ負けするいい実証人になってくれたからね。

先生、私は棄権します」

 

それだけ言って小山さんは特設ステージから降りて行った。

 

「ま、待ってくれ友香!これは何かの間違い―――!」

 

情けなく追う根本君。あー、もしかして付き合っていたのかな?

 

「勝者、死神・松永ペア!」

 

ま、カップルの事情は気にせず私達はこれで三回戦進出決定!勝利の凱旋を心の中でしながら繁盛している教室に入ると、信じられないほどにお客はほとんどいなかった。

 

「あ、戻ってきたのね」

 

椅子に座って暇そうな態度をする川神ちゃんが声を掛けてきた。

 

「この状況は一体どうなってるの?」

 

「わからないわ。少しずつお客さんが来なくなっちゃって」

 

「営業妨害とかは?」

 

「されていないわよ?」

 

私は首を傾げる。ハーデスはどう思ってるのかな。あ、また考え込んでいる。私も考えてはいるけれど、こんな状況になる理由なんて今のところ思い当たることは無いからわからない。どうしてこのクラスだけ?もしかして他のクラスも?

 

「―――あら、閑古鳥が鳴いているわねここは」

 

「へ?」

 

『『『『『いらっしゃいませーっ!』』』』』

 

男子達が水を得た魚のように、ようやく来た(美女)に歓迎した。それも四人。そしてこの四人はこの場で知っているのは私だけなのは間違いない。

 

「「「・・・・・!」」」

 

「お前達、どうしたのじゃ?」

 

川神ちゃん、椎名ちゃん、クリスちゃんが警戒を露わにした。

 

「あの二人達・・・・・かなり強いわ」

 

「うん・・・・・全然隙がないよ」

 

「気配すら感じなかったぞ・・・・・」

 

流石、わかるんだね。四人のうちの二人だけ鍛えられてるから当然だよね。

 

「お客様。この島津学人が席までご案内いたします」

 

変態的な顔を浮かべる島津君が恭しくお辞儀をして手を差し伸べる―――次の瞬間。

 

「ほぉ、紳士的な対応をするなんて知的になったのかガクト?では案内してもらおうか」

 

最後に現れた長身的で真紅の長髪を伸ばす強い意思を宿す金色の瞳が特徴の男性が、島津君の手を取って笑みを浮かべた。

 

「あ、王様!」

 

「よう、燕。それにハーデス。楽しんでるか?」

 

『・・・・・閑古鳥が鳴いてる』

 

「それについて軽くだが知ってる。後で教えよう」

 

私達にそう言って顔を向ける彼―――蒼天の王。王様の登場に場の空気が停止したように静まり返ってたけど。

 

「ええええええっ!?」

 

「た、旅人さん!?」

 

直江君達が再起動した途端に王様は深い笑みを浮かべた。

 

「よう、久しぶりだなちびっこ共。元気にしてたか?遊びに来たぜ」

 

「うわぁい!旅人さんだぁ!」

 

「旅人さん久しぶりだなっ!」

 

川神ちゃんと風間君が王様に飛びついて物凄く嬉しそうに笑う。抱擁をするほどだ。

 

「旅人さん、子供を作ろう!」

 

「京?どんな風に過ごしたら再会の開口一番にそんな言葉が出てくる?」

 

「それはもちろん、毎日十年間も旅人さんのことを火照らせた体で想いながらだよ?」

 

「・・・・・十年前、お前の何かを捻じ曲げた覚えはないんだが」

 

嘆息する王様から何とも言えない雰囲気が凄い。

 

「お久しぶりです旅人さん」

 

「モロ、京のおかしな成長ぶりを見て俺はどう反応すればよい?」

 

「あはは、ありのままを受け入れるしかないかと」

 

「受け入れたら何か大変なことになりそうな気がするぞ」

 

「旅人さん、久しぶりです。まさか、学園祭に遊びに来るなんて思いもしなかった」

 

「なに、召喚大会を見に来たのも含めて学園祭に来るつもりだったんだ。お前も参加しているんだろ?戦いぶりを見せてくれよ。楽しみにしてる」

 

「はい、頑張ります。ところで彼女達は」

 

王様は直江君の指摘で軽く彼女達に視線を送った。

 

「私達は蒼天の者よ。『試験召喚システム』にも関わっているわ」

 

「蒼天の人達?」

 

「そーよ♪私の名前は雪蓮。よろしくね」

 

「って、雪蓮。名前を教える必要があるの?今日はスポンサーとして来ているだけなのよ?」

 

「いいじゃない。個人の自由でさ」

 

雪蓮という者が朗らかに笑う。

 

「・・・・・(パシャパシャパシャ)」

 

ムッツリーニ君がこの手のことに関してぬかりはない。

だけど、『試験召喚システム』を開発した国のスポンサーにそれはいささか失礼―――。

 

「失礼」

 

美しい黒髪をサイドに結んでいる少女が、何時の間にか手に持っているの武器であった。青龍刀だ。

 

「ふっ!」

 

「・・・・・!?」

 

刹那。彼女はあろうことかくムッツリーニ君に振り下ろした。いきなりの暴挙に、

ムッツリーニ君は持ち前の身体能力で回避した。

 

「いきなり何するんですか!?」

 

「そうよ!土屋が一体なにをしたって言うのよ!」

 

島田ちゃんと姫路ちゃんが食って掛かる。が、澄ました顔で黒髪の少女は答えた。

 

「無断で私達の姿を写真に収めるのは失礼でしたので、フィルムごとカメラを斬っただけです」

 

カメラを・・・・・?ムッツリーニの方へ振り向けば・・・・・。

 

「・・・・・お、俺のカメラが・・・・・」

 

真っ二つになったカメラに身体を震わせてショックを受けておるムッツリーニの姿。

その光景に島田も見て怒りを露わに叫ぶ。

 

「撮られたぐらいで、カメラを壊すことなんてないじゃない!」

 

「では、あなたは無断で写真を取られても問題ないと仰りたいのですか?無防備であられもない姿を、もしかしたら脅迫のために撮られる写真を」

 

「そ、それは・・・・・!」

 

正論な言葉に口籠り何も言い返せない島田ちゃんは最後に口を閉ざした。

 

「もしそれが良いと仰るのであれば・・・・・あなた今すぐここで衣服を脱ぎ棄てて全裸となり、

彼に写真を取られるべきかと。そして、私達は安易で公にされてはならないのです。どうぞ、ご理解いただけると感謝します」

 

「それに命を失わないだけでも幸運よ。私達は殺生ができる権利だって得ているから、

例え警察沙汰になっても無条件で『今回の事件は何もなかった』とされるものね」

 

金髪の可愛いデフォルトの髑髏の髪飾りでツイン縦ロールにしてる金髪の女性が、大胆的な発言をってちょ―――――っ!?

 

「いい?蒼天はそれほどまで絶大的な権力を有しているの。

裏で世界の半分を掌握している蒼天はね。だから人が一人二人死のうとっ―――!?」

 

そこで彼女の言葉が途絶えた。その理由は、王様が拳骨を落としたからだ。

うわっ、今鈍い音がしたっ。殴られた彼女の目尻に涙が浮かんでるぐらいだから相当痛い筈だ。

 

「な、なにするのよ・・・・・!?」

 

「蒼天がいつ暴力的な国になったんだ華林?」

 

目を細め、睥睨する王様が威圧を放った。それだけで場に緊張が走しり、彼女に無言の圧力を掛ける。あの鋭い眼光は、初めて接する者に畏怖の念を感じさせる。

 

「・・・・・ごめんなさい。先の発言を取り消します」

 

私達に頭を下げて謝罪の言葉を述べた。王様は威圧を消して謝った彼女の頭を撫でる。

まるで子供を宥めた後の扱いだね。

 

「・・・・・しばらく学校にいるのですか?」

 

「そのつもりだ。明日も来るからな」

 

「明日も?やった!」

 

『・・・・・じゃあ、暇なんだな?』

 

「確かに暇だが・・・・・それがどうした?」

 

ハーデスの質問の真意は次で分かった。

 

『・・・・・一緒に手伝って』

 

―――☆☆☆―――

 

「いらっしゃいませー!ようこそ喫茶店ハロウィンへ!」

 

なんだ、ここは・・・・・!?僕、吉井明久が雄二と途中で出会った

小さな女の子と共に教室に戻ってきたらFクラスの教室の入り口からズラリと

客が立ち並んでいる光景を見て唖然となっていた。

 

「おい、こりゃどうなっているんだ?」

 

「僕にも分からない。取り敢えず入ろう?」

 

僕達がFクラスだと言いながら何とか教室の中に入る。

すると、見知らぬ女性達がFクラスの皆と働いていた。

 

「おお、明久と雄二。ようやく戻ってきたか」

 

「あ、うん。でも、これってどうなってんの?」

 

秀吉が話しかけてきた。うっすらと額に汗が浮かんでいてとても煽情的だった。

 

「何というか、蒼天の王様が来ての。ハーデスのお願いで共に働いてもらったら、あっという間に客がわんさか来たのじゃ」

 

『おい!食材が足りなくなったぞ!』

 

『誰か買出しに行ってくれ!』

 

『よし、風のように俺が行くぜ!』

 

蒼天の王様が来ているんだって!?それに・・・・・そうみたいだね。凄い繁盛じゃないか。

 

「まあ・・・・・ここの学校の生徒だけでしろと言われているわけじゃないからな。

これは良い誤算だ」

 

そうだね。それじゃ、次の試合まで頑張るとしますか。

 

『お前達か。他のクラスで迷惑行為をしているという生徒達は』

 

『げっ、鉄人!?』

 

『お前達をキツーイ指導をしてやるから覚悟しろ!』

 

『俺達は何もしちゃいねぇよ!』

 

『黙れ!ありもしない発言行為及び、二年Aクラスからお前達が大声で話をして

迷惑だと訴えられている!営業妨害とみなし今日一日は補習室で過ごしてもらうぞ!』

 

『『そ、そんなっ!?』』

 

なんだか、聞き慣れた声と悲鳴が聞こえてくる。僕達には関係ないことだけど。

 

 

―――☆☆☆―――

 

 

「あれ、代表。どこにいくの?」

 

「・・・・・特設ステージ」

 

「試合はまだのはずだけど?」

 

「・・・・・死神の試合を見に行く」

 

「ああ、そういうこと。視察しに行くってこと?」

 

丁度休憩時間の時、代表が出し物で着ているメイド服を着替えずそのままどこかへ

行こうとしている様子にアタシは納得した。そんな代表に私もついて行く。

 

「でも、あの死神の点数を見ても1点で戦うんでしょ?見ても大した情報もないわ」

 

「・・・・・保健体育で1000点という隠し玉みたいなことがあるかもしれない」

 

うぐ・・・・・あの時のことを言っているのね・・・・・。

アレはいくらなんでも勝ち目はない。Sクラスとならいい勝負ができそう。

 

「・・・・・それに見ないより見ていれば対処方法も考えれる」

 

「ふーん。代表って死神のどこが好きなの?あの骸骨の仮面を被ってて不気味とは思えない?」

 

気になったことを真っ直ぐ代表にぶつける。正直、あの仮面を被っている限り

慣れ合いなんてできそうにない。なんというか、近寄りがたいのよね。

 

「・・・・・私は小さい頃、助けられたから」

 

「代表、何か遭ったの?」

 

「・・・・・最初の出会いは小学校だった」

 

へぇ、小さい頃からなんだ。

 

「・・・・・私が周りからいじめられた時に彼は現れて助けてくれた」

 

「同じ小学校だったんだ?」

 

「・・・・・違う。彼は雄二を会いに来た時に私がいじめられているところを

目に入って助けてくれたの」

 

坂本君を会いに来た・・・・・?違う学校の子が違う学校に来るなんて珍しいわね。

 

「・・・・・それ以来、彼と私は会うことはなかった。

でも、私が中学一年の時、とある事件に巻き込まれたの」

 

「事件って大丈夫だったの?」

 

「・・・・・うん、彼がまた私の前に現れて助けてくれた。

その時、父が運営している会社が蒼天の会社と同盟を結ぶための集会に来ていた。

でも、父のライバル会社が蒼天の会社と同盟をするって情報を聞きつけて、

父の命を狙った騒動が起きた」

 

そんなことが遭ったんだ・・・・・。

 

「・・・・・その時だった。私はその騒動に巻き込まれ、殺されかけた時に死神が助けてくれた。

それから。物凄く申し訳なさそうに何度も謝ってきたの。自分たちの不注意だって」

 

「死神ってすごく強いのね」

 

上靴を外出用の靴に履き替え校庭に出る。

 

「・・・・・強かった。あっという間に犯人を亀甲縛りで縛り上げたから」

 

「ちょっと待って。とても信じられない結び方の名前が出たわよ?」

 

「・・・・・本人曰く『俺に牙を剥く奴ら限定でSだから』だって」

 

い、意外・・・・・そんな性格なんだ。死神って・・・・・。

 

「でも、代表が言う死神と今の死神の性格と言動がちょっと似つかないような・・・・・?」

 

「・・・・・正体を隠しているからだと思う」

 

「正体って・・・・・蒼天の出身者なんでしょう?」

 

「・・・・・それもそう。だけど、他にも理由があるかも知れない。だから―――」

 

アタシと代表は観客席に繋がる入り口を通り、会場に踏み込んだ。

 

「・・・・・この大会で死神の仮面を取って、本当の意味で向き合いたい」

 

『三回戦、開始です!』

 

丁度、三回戦の試合が始まろうとしていた。

 

「あの二人は間違いなく準決勝にまで上り詰めてくるわね」

 

「・・・・・うん」

 

「アタシは松永って人と相手をするわ。代表は死神の方をよろしくね」

 

「・・・・・分かっている。絶対に勝つ」

 

静かな強い決意の炎が代表のつぶらな瞳に宿る。死神・ハーデス。

代表の心を掴むその魔の手は安心して良いかどうか、アタシが確かめるわ。

 

『勝者!死神・松永ペア!』

 

「・・・・・優子、帰る」

 

「何か掴めた?」

 

踵返す代表に問うた。代表はアタシに背を向けたまま言った。

 

「・・・・・あとは実戦で」

 

―――頼もしい発言だわ。それでこそAクラス代表だわ。私も頑張らないと。

 

「というか、蒼天の王様が来るなんて吃驚しちゃったわ。寿命が縮んじゃったかも」

 

「・・・・・来てくれて嬉しい」

 

「代表?」

 

「・・・・・なんでもない」



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学園祭3

「残念だったね。大和と翔一」

 

「流石に点数だけの勝負じゃ負けるな」

 

「後はハーデスと松永さん、明久と坂本ペア、島田と姫路ペアだけだ。しっかり頑張れよ」

 

「うん、頑張るよ」

 

『・・・・・』

 

あれ、ハーデス?ホールに出てきちゃダメじゃないか。

 

「ん?ハーデス、どうしたんだ?」

 

「・・・・・あ。俺、用事が思い出した。ちょっと―――」

 

ガシッ!

 

ハーデスがどこかへ行こうとする大和の首根っこを掴んで、引っ張りながら奥へと連れて行った。

 

『お、おい!本気で俺を―――!?なぁ待ってくれ?他のことならするが

 これだけは―――いやあああああ!?』

 

「・・・・・」

 

えっと・・・・・ハーデスが大和に何かしたのは分かった。

でも、一体なにをしたのだろうか?しばらく固唾を呑んで待っていると・・・。

背中まで伸びたロングヘアにチャイナドレスを身に包んだボンッキュッボンッの女の人がハーデスと共に現れた。

 

「えっと・・・・・誰?」

 

「・・・・・俺だよ」

 

「え・・・・・・えええええええ!?」

 

『・・・・・結構いい仕上がり。土台が良かったから可愛いさを得た』

 

た、確かに・・・・・男とは思えないほど大和は女の子っぽくなった。

 

「・・・・・ハーデス」

 

あっ、ムッツリーニ。何時の間に・・・・・。

 

『・・・・・なんだ?』

 

「・・・・・新しい商品の発掘、感謝する」

 

「ちょっと待てムッツリーニ!まさか、この姿の俺を販売する気か!?」

 

「・・・・・(カシャ!カシャ!カシャ!)」

 

「無言で勝手に撮影するな!俺の黒歴史の一ページが増えるぅっ!」

 

大和がちょっと壊れていく。でも、可愛いからいいじゃないか。

 

『・・・・・土屋』

 

「・・・・・なんだ?」

 

『・・・・・直江は学園祭中この姿だ。存分に撮れ。限定商品として悪くない』

 

「・・・・・!」

 

ムッツリーニのカメラのフラッシュが止まらない。

 

『・・・・・それに直江。人生は死ぬまでの暇つぶしなんだろう?なら、全てに対して楽しんだもの勝ちだとは思わない?』

 

「待て!どうして前半の文字を書くお前が知って―――はっ!旅人さん、あんたかぁあああっ!!!」

 

『・・・・・とっととホールに行ってこい』

 

そう言って大和をホールに蹴り飛ばした。

 

『・・・・・大和?お前、ついにそっちの趣味に走ったのか?』

 

『ち、違う!これはハーデスと交わした罰ゲームをしているだけだ!』

 

『か、可愛いです・・・・・』

 

『はは、大和も僕と同じ目に遭ったんだね。―――良い気味だよ?』

 

『モロが黒くなっただと・・・・・!?』

 

『お姉様に写メールをするわ!』

 

『止めろワン子!そんなことされたら俺は姉さんの中で女装好きの舎弟と認識されちゃうから!』

 

『・・・・・(パシャ!パシャ!パシャ!)』

 

『土屋もいい加減に撮るなぁっ!』

 

『大和お前(笑)』

 

『旅人さん、あんたって人はーっ!』

 

大和・・・・・強く生きるんだよ。

 

『・・・・・他人事でいられない』

 

「え?」

 

『・・・・・大会で負けたらお前達もああなるからな?』

 

ちょっ―――!?

 

何で僕達まで罰ゲームのようなことをされなくちゃいけないの!?

 

「おい、ハーデス」

 

あ、王様だ。

 

「ナイスだ。面白い物を見せてくれたよ。ムッツリーニだっけ?あの子から写真をもらったから他のところに行ってくるわ」

 

「あの女性達は?」

 

「こっから自由に行動をする。ああ、もし妙なことが起きたら教えてくれ」

 

王様から番号を書いた紙を渡された僕は頷く。これ、大和達に教えなくてもいいのかな?なんて思ってたら王様が僕の気持ちを呼んだ風に「大和達には内緒だからな?」と悪戯っ子が浮かべる笑みを浮かべて言い残して教室からいなくなった。彼がどこに行ったのか、それは―――旧校舎の方だったことは知ることはなかった。

 

2-S

 

「いらっしゃいませ、ようこそ『豪華な雅の館』へ!」

 

王が廃屋だったはずの元2-Fの教室に入ると、全て入れ替えられて清潔な状態に様変わりしていた。床の畳や窓ガラス等が新品になっており、できるだけFクラスらしい設備にして自分達が快適に過ごせるようにしたのだろう。雅の名がある出し物をするこのクラスは黒い机と椅子を幾つも設け、客が食べる料理を一瞥すると豪華な和風の料理が安く提供されている。

 

「申し訳ございません。ただいま満席でございましてお時間をいただければ直ぐにお呼び出しします」

 

「ああ、構わない」

 

「ありがとうございます」

 

対応する生徒が持ち場に戻る姿を眺めて席が空くまで、教室の中の椅子に座って待っていると白髪の紅い瞳の少女と目が合う。

 

「あー!旅人のお兄ちゃん!」

 

指さして言うんじゃありません、と言うまでもなく少女が王へ向かって駆け寄って来ては座っている王に抱き着いてきた。

 

「旅人のお兄ちゃん、久しぶり!」

 

「久しぶりだな。小雪。だけど、今は仕事中だろ。ちゃんと仕事をしないと」

 

「えー!」

 

「うおっ、マジでいる!」

 

「お久しぶりです。旅人さん」

 

「え、旅人さん!?」

 

「おー、本当だね。久しぶりー」

 

「「旅人さん、お久しぶりです!!」」

 

「ふははは!ようこそだ旅人、否、蒼天の王よ!我の店に!」

 

その昔、王と交流をしていた少年と少女達が仕事の手を止めて王のもとに集ってきた。結局こうなるかと苦笑いする王は、メイド服を着た女性が席が空いた報を伝えると白髪の少女が率先して王の手を取り、席に案内する。六人は四人ぐらい座れる奥の席に誘導されて座ると、何故か一緒に座る少女達。

 

「おーい仕事は?」

 

「えへへー」

 

「私は休憩だよ?はぁ~・・・・・ここ、落ち着く」

 

「「・・・・・」」

 

前後左右、美少女達に囲まれてゆっくりできなくなった。胡坐を掻く足の上には小雪が座り、英雄のクローンである弁慶、伊達政宗、織田信長が背中と両隣を占拠する。

 

「奇麗な花に囲まれてよかったですね」

 

「って、若。あんたもサボるんじゃないよ。あ~お前達もだ!」

 

王の目の前に座る褐色肌の眼鏡をかけた甘いマスクの少年と少女達の行動にスキンヘッドの少年が苦労をしているのを見兼ねて、流石の王も助け舟を出した。

 

「ほら、準の言う通り働け。明日も学園祭に来るんだから俺と居たいのは我慢だ」

 

「う~・・・・・!」

 

「「ダメ、ですか?」」

 

「私は本当に休憩だから問題ないよ」

 

まだごねる少女達に対して魔法の言葉を放つ。

 

「そうか、仕事を放棄するならしょうがない。頑張ったご褒美が欲しくないなら大和達にあげるとするか」

 

「「仕事に戻ります!」」

 

「淳~仕事なにすればいいの?」

 

「さて、仕事に戻りましょうか」

 

現金な少女達の姿に苦笑するしかなかった。心なしか気合が入っているようにも見えて、王はようやく注文をすることができる。

 

「よいしょっと」

 

胡坐を掻いた足の上に弁慶が占領する。何か言いたげな目の王に対して、弁慶は身体を王に預けて温もりを堪能できると至極幸せそうにそのまま居座った。まったくとしょうがなく好きにさせつつも、ウェーブが掛かった髪に手を置いて撫でると。

 

「ん・・・・・すぅ・・・・・」

 

寝息を立てて、何と寝始めたのだ。

 

「え、マジ寝?おい弁慶。弁慶?」

 

それから王は小一時間も弁慶によって動けず少女達から羨望と嫉妬の眼差しを向けられ、頑張ったご褒美として王の抱擁やナデナデを求められることになるのだった。

 

「旅人よ。学園祭が終わった後は国に帰るのか?」

 

「明日も来るのにわざわざ遠い海のど真ん中の本国に帰るのが面倒だろ。川神市内で宿泊する予定だ」

 

予定を教え頭の中で三部屋は借りるかと考えていた王に同席する九鬼英雄が提案を申し出た。

 

「我が九鬼財閥に泊まってはどうだ?」

 

「なんだ、打算的か?蒼天と繋がりを得られる機会を逃さないって?」

 

「そう捉えられても仕方がないが、今宵姉上が帰ってくる日でな」

 

「・・・・・揚羽か、お前と同じで豪快な性格だったな」

 

今もそうだろ?と訊く王に両腕を組んで当然のように頷いた。

 

「未だ旅人を必ず婿にすると燃えているぞ。我も賛成だ」

 

「まだ諦めていないのか・・・・・既成事実されそうだから遠慮させてもらうわ」

 

「むぅ、残念である。せっかく姉上に旅人が学園祭に来ていると教えたのだが」

 

嫌な予感を覚えた王が顔を顰めた時だった。開け放たれている窓の外からプロペラの駆動音を鳴らすヘリが突然現れて教室内は騒然と化した。そしてヘリの扉が開かれると、王の横の窓に向かって跳躍する影が外から教室の中に乗り込んできた。長い銀髪をなびかせ、ヘアバンドでオールバックにしてることで窺える額に×印の傷跡を付けた女性が獲物を狙う猛禽類のような目つきと深い笑みを浮かべ、王を見つめる。

 

「久しぶりだな、旅人。我の夫となる者よ!九鬼揚羽、推参である!」

 

「あ、揚羽・・・・・」

 

九鬼揚羽、九鬼英雄の姉であり九鬼家の長女。

 

「ふははは!弟から写真付きのメールを受け取って仕事を手早く終わらせて駆け付けてやったわ!」

 

「・・・・・それで、この後どうするつもりか聞かせて貰っても?」

 

「無論、我の夫となる者の傍にいるつもりだ。そして我が九鬼財閥に泊まってもらい、十年振りにたくさん話し合おうじゃないか。―――私達の結婚についてもな」

 

彼女の中で描く未来の地図とこの状況の収拾をどうしようかと頭を悩まされていた時に、仕事をしていた弁慶が据わった目で揚羽に睨みつけた。

 

「揚羽さん、宿泊については賛成だけど旅人さんを独占するのは反対かな」

 

「ほう弁慶。その心は何なのか聞かせてもらおうか」

 

「旅人さんとは、将来主とのんびり過ごす生活をしたいから揚羽さんには渡さないよ」

 

「・・・・・ほう、面白いことを言うな」

 

それを言ったのは揚羽ではなく、2-Sクラスに入ってきた黒い長髪に赤い瞳の上級生の女子だった。

 

「揚羽さんの気配を感じて来てみれば、あはっ、旅人がいるじゃないか♪」

 

「百代・・・・・」

 

「久しぶり旅人~♪―――私と勝負をしよう!」

 

「だが断る!俺は学園祭に遊びで来たんだ。勝負はしないぞ!」

 

「じゃあ放課後、放課後だ!」

 

「・・・・・鉄心から川神院で数人分の宿泊の了承を取ってこい。ああ、夕飯だけはいらないと伝えてくれ」

 

条件を言われるや否や百代が携帯を取り出してどこかに連絡を繋げた。それから何度か話をした後に王へ親指を立てた深意を読み、その結果に王は溜息を吐いた。

 

「はぁ・・・・・昔以上にのんびりできそうにないな」

 

「川神院か・・・・・我も泊まりに行くぞ」

 

「私達もだからね旅人さん」

 

「ふははは!盛大な土産を用意せねばな!」

 

                     ―――☆☆☆―――

 

『それでは、四回戦を始めたいと思います。出場者は前へどうぞ』

 

マイクを持った審判の先生に呼ばれ、三回戦を勝ち抜いた私達はステージへと上がる。

外部からの来場客のために作られた見学者用の席。それらはほぼ満席といった状態で

私達の四回戦は始まろうとしていた。

 

「凄い数の観客だね~」

 

『・・・・・この学校がそれほどまで注目されている証拠だ』

 

うん。確かにね。さて四回戦の相手は―――吉井君に坂本君だね

 

「ハーデス!同じ仲間とはいえ手加減はしないからな!」

 

「そうだね!絶対に僕達が勝たせてもらうよ!」

 

意気揚々の彼等。なんか異様に気合が入っているみたいだけどどうしたんだろう?ハーデス君が私の隣で

スケッチブックにペンを走らせ、書き終わると上に掲げる。それはモニターの画面に大きく映る。

 

『・・・・・俺が勝ったらお前ら二人、清涼祭期間中に女装してもらう』

 

「「絶対に負けられねェッ!!!!!」」

 

ああ、そういう。何気に考え方がFクラスっぽくなってきてるのは気のせいかな・・・・・?

 

『それでは四人とも、召喚獣を召喚してください』

 

審判の促しに私達はその通りに召喚獣を喚び出す。

 

「「「『試験召喚獣召喚・試獣召喚(サモン)!』」」」

 

私達四人(三人)の声が綺麗に揃い、それぞれの足元に魔方陣が現れた。

この様子だけで観客席から小さな歓声が上がる。この試合から見始めた人にしてみれば、

これだけでも十分に物珍しい光景だろうね。

そして、本命の召喚獣が姿を現す。相変わらずのデフォルメサイズで、

見た目は愛嬌たっぷり。ハーデス君の召喚獣を除いてだけど。

因みに毎度おなじみの点数は未だ表示されていない。特別に設置されている

大型ディスプレイに表示する為、若干情報処理に時間がかかっておるのかもしれない。

 

『では、四回戦を開始してください!』

 

ディスプレイに私達の点数が表示された。

 

 

                  古典

 

Fクラス 松永燕   310点       211点 坂本雄二 Fクラス

      &           VS         &

Fクラス 死神・ハーデス 1点         9点 吉井明久 Fクラス

 

 

 

 

「よし明久、直接ハーデスに攻撃しろ!」

 

「ええっ!?そんなことしたら反則負けになるってば!」

 

「仕方ねぇな。じゃあ、こうしよう。ハーデスの召喚獣をお前が相手にする」

 

「うん」

 

「ハーデスの本体はお前自身が攻撃しろ」

 

「無理だって!というより全部僕任せじゃないかぁっ!そんな器用じゃないよ僕は!」

 

あの二人・・・・・何がしたいんだろう?ほら、ハーデスが・・・・・坂本君の召喚獣の首をあっさり刎ねた。

 

「あ・・・・・」

 

『・・・・・坂本、女装決定』

 

「んなバカなァァァアアアアアアアアアアアアアアッ!?」

 

天に向かって叫ぶ。・・・・・同情はしないよ。

さて、残るのは吉井君だけ。彼はどう戦う?

 

「僕一人でハーデス達に勝てるわけ無いじゃないか!」

 

『・・・・・俺に一撃を与えたら賞金10万プレゼント』

 

「俄然やる気出たよぉっ!」

 

欲望丸出しだよ。やる気を出させるハーデス君もハーデス君だけど。

二人の召喚獣は物凄い速さでフィールド内を駆け回り、攻防を繰り広げる。

 

『これは凄い!吉井選手とハーデス選手の召喚獣が凄い速度で走り回り、凄まじい攻防を繰り広げております!』

 

審判の実況に観客も湧く。私はもう既に脇役みたいな存在になってる感じで、観客の視線と意識は戦う二人に集まっていて、腕を組んで精神を集中しているハーデスは真っ直ぐ吉井君と吉井君の召喚獣を見てる。

 

「この・・・・・!」

 

『・・・・・』

 

吉井君の召喚獣の木刀はハーデス君の召喚獣の横っ腹、肩、頭、色んな身体の部位へ叩きつけたり、

突いたりするもハーデス君の召喚獣が持つトンファーで全て弾かれ、決定的な一撃が与えられない。そんな戦いが観客達にとって盛り上がる光景で会場が熱狂で湧く。

 

 

ゴンッ!!!!!

 

 

「いっだぁあああああああああっ!?」

 

そしてついにハーデス君の武器が吉井君の頭部に炸裂して一気に点数を消して彼の召喚獣がフィールドから消失した。この試合、私達の勝利!

 

 

―――☆☆☆―――

 

 

四回戦を終えてから喫茶店の中で動き回ること一時間。いよいよ準決勝の時間となり、

私はハーデス君と会場へと向かう。決勝戦は二日目の午後に予定されているから、

今日の試合はこれでラスト。準決勝の相手は霧島ちゃんと木下君の姉。

 

『お待たせいたしました!これより準決勝を開始したいと思います!』

 

まるで格闘技の入場・・・と思いながらお客さん達の前に立つ。

私達の向かいからは対戦相手の霧島ちゃんと木下君のお姉さんがやってくる。

 

「・・・・・死神。邪魔しないで」

 

『・・・・・邪魔?なんのことだ?』

 

霧島の発言に怪訝な言葉を記されたスケッチブックを見せるハーデス君。

身に覚えがないと風に。ずっと近くにいた私もハーデス君が彼女に何の邪魔をしていたのかもわからない。

 

「・・・・・死神、そんなに私と行くのが嫌?」

 

霧島ちゃんが上目遣いでハーデス君に問う。

 

『・・・・・悪い。さっぱり意味が分からない。俺が欲しいのは腕輪だ』

 

「・・・・・じゃあ、私と遊園地に行く約束をしてくれる?」

 

その言葉に合点したのか、ハーデス君はポンと手を叩いてスケッチブックで伝えようとする。

 

『・・・・・それか。別にいいぞ』

 

「・・・・・嬉しい」

 

本当に嬉しそうに微笑む霧島ちゃん。審判は私達の様子とタイミングを見張らかって

試合開始宣言を告げた。

 

 

「「「『試験召喚獣召喚・試獣召喚(サモン)!』」」」

 

ワシら四人の姿をデフォルメした召喚獣が姿を現す。

 

 

                  『保健体育』

 

Fクラス 木下秀吉      441点       351点 木下優子 Fクラス

      &              VS        &

Fクラス 死神・ハーデス 1点       425点 霧島翔子 Fクラス

 

 

 

 

『・・・・・あの時より、上がっている』

 

「当然よ。準決勝が保健体育だって分かった時から必死に勉強したもの。

あの時のリベンジをさせてもらうわ」

 

『・・・・・来い』

 

「言われなくても!」

 

 

「・・・・・倒す」

 

「霧島ちゃん、顔が怖いよ?」

 

「・・・・・死神の隣に我が物顔でいるあなたのことが、気に入らないっ」

 

「本当にハーデス君のことが好きなんだね・・・でも、このポジションは簡単に譲らないよ」

 

それぞれ因縁がある相手と私達は対決を始めた。

 

 

二人が準決勝戦に出てから程なくして事件が起きた。

 

「・・・・・姫路と島田が見掛けなくなったな・・・・・?」

 

「あれ、何時の間に?」

 

「ガクト。あの二人はどこに行ったかしらない?」

 

「悪い、こっちも忙しくて目を離していた」

 

「大和、あの二人ならアタシは見たよ?」

 

「ワン子、本当か?」

 

「うん、二人とも別々に教頭先生から何か言われた後で

アタシに用事があるって言っていなくなったわ」

 

どうしてそこで竹中教頭が出てくるんだ・・・・・?

 

「厨房に顔を出してくる」

 

そう言い残し、厨房に足を運んだ。

 

「土屋」

 

呼びかけると土屋はコクリと頷いた。

 

「・・・・・分かっている。ウェイトレスが連れて行かれている」

 

「流石だな。で、どこにいる?」

 

「・・・・・親不孝通りのカラオケ」

 

よりによってその場所か。だとすれば少数精鋭を引き連れていかないとダメだ。

 

「救いに行こう。土屋、タイミングを見て裏から姫路達を助けてやってくれ」

 

「・・・・・わかった」

 

だが、なんでこうもまたこのFクラス限定に何度も事が起こる・・・・・?

 

「あれ、大和とムッツリーニ。どこに行くの?」

 

「明久か。島田と姫路が見掛けなくなったから探しに行こうとな」

 

「・・・・・仕掛けてきたな」

 

坂本が不穏な言葉を口にした。俺は構わず土屋と一緒に二人を助けに行こうとした矢先。

 

「失礼」

 

「ん?お前はAクラスの次席だったな。名前は・・・・・」

 

今は期間限定で同じFクラスだが、呼び方がこっちの方が言いやすい。眼鏡を掛けた男子が俺達に声を掛けてくるが一体何の用だ?

 

「僕の名前は久保利光だ。ちょっとクラスメートを探しているのだが」

 

「クラスメート?」

 

「ああ、木下優子さんと工藤愛子さんだ。彼女らがしばらく経っても帰ってこないのでね、

同じFクラス同士なら知っているかなと思って尋ねたんだ」

 

「・・・・・悪い。こっちも丁度人探しをしようとしていたところだ。

二人を見つけたら連れてくるよ」

 

「協力に感謝するよ」

 

久保は踵返して自分のクラスへ戻った。あいつの話を聞くと巻き込まれた可能性は高いな。

 

「待って大和とムッツリーニ!強力な助っ人を呼ぶから!」

 

「強力な助っ人?」

 

一体誰のことだ?姉さんか?具体的に教えてくれず携帯を取り出してどこかに連絡をし始めた明久が、誰かにここへ来るようお願いしてから数分後、教室に現れた男。

 

「緊急事態のようだな。訳を聞こうか」

 

「た、旅人さん!」

 

確かに、これは強力すぎる助っ人だ!そして明久、旅人さんと連絡を取り合うことができるようにしていたとはな。後で教えてもらうぞ何がなんでもな。



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学園祭4

『さてどうする?死神だったか?そいつを、この人質を盾にして呼びだすか?』

 

『とは言っても、またあの学園に行って呼び出すのも面倒だよなぁー』

 

『別に呼ばなくてもいいと思うぜ?明日まで俺達と一緒にいてもらえりゃ

大会に参加できなくなるし』

 

『意外と簡単な依頼だったな。それなのに報酬が良いって俺達運が良いんじゃね?』

 

土屋が持っていた盗聴器の受信機から、音楽に混じってそんな会話が聞こえてきた。

依頼?ってことは、この実行犯とは別に誰かが絡んでいるってことか?

俺と旅人さん、明久に坂本は土屋に案内されたのは、川神駅の裏にある街道、親不孝通りだ。

ここの街の治安は悪く、非法な取引の売買もよく行われている話だ。

不良達の溜まり場でもあるため、何かをするならもってこいの場所だ。

 

『アンタ達!いい加減にアタシ達を解放しなさいよ!』

 

『そうはいかねぇんだよ。おとなしくここに居れば、命までは取らないぜ』

 

『あ、あのっ!どうしてこんなことをするのですか?』

 

『それは言えねーよ。依頼だからな』

 

なにもされていないことに取り敢えず安堵で息を漏らす。

 

「旅人さん、どう助けますか?」

 

「決まってるだろ。誘拐犯達を拳で倒すだけだ。百代もそうするだろうが証拠が必要だ。ムッツリーニ君、カメラは?」

 

「・・・・・ある」

 

「入った瞬間に中の現状を撮れ。大和達はここで待機。ああ、これから人を呼ぶから来たら道を何も言わず開けておけ」

 

そう言って土屋を引きつれる旅人さんは「失礼しまーす」と言いながら堂々と扉を開け放って中に侵入し手は直ぐに閉めた。

 

『あ?誰だ?てか、おいお前写真を撮るな!』

 

『おいおい、俺の顔を知らないなんて世も末だな。俺は蒼天っていう国の王だぞ?』

 

『はぁ?蒼天の王様だぁ?』

 

『ことを起こす前に取引をしよう。彼女達を全員解放してくれたなら報酬の三倍を渡すし見逃してやる』

 

『はっ?何言ってるんだ?そんな話をいきなりされて信用できるかってんだ。お断りだ』

 

『ここで交渉に応じて逃げれるのに、捕まるよりもお前達のこれからの人生が守られるんだがな』

 

『へ、警察を頼っても無駄だ。ここがどこだか分ってるのか?』

 

『ああ、知ってるとも。親不幸通りだろ?しかも一番奥にはヤクザやマフィアがいるかもしれないって噂の』

 

『そうそう、実際いるのかすらも怪しいデマな話だぜ』

 

『ま、いるわけないだろ。いたとしても下っ端か、ヤクザの真似事をしているチンピラだ』

 

ボックスの中からそんな会話のやり取りがされていると、後ろから人の気配が感じて何となく振り返ると俺はびっくりしてしまった。ガタイのいい体で黒いスーツを着込んだ強面の男達が目の前まで集団で駆けて来たのだ。

 

「おいガキ、ちょっくらそこをどいてくれねぇか?」

 

「あ、はいっ。すみませんでした!」

 

あの人が言う人を呼ぶって言ってたのはこの人達のことだったのか!間違いなくこの男達は極道、ヤクザの人達だ!明久達も思わず壁際によって道を開け放つと、声を掛けた男が乱暴に扉を開けることもせずノックをした。

 

「お取込み中失礼します。極道の者です」

 

『来たか―――残念だな。タイムリミットだ』

 

中から扉が開け放たれると男達が前進してボックスへ侵入する。

 

『オラッ!こっちへこいよガキどもがっ!』

 

『は?誰―――がっはぁっ!』

 

『てめぇら誰が下っ端でチンピラだ?ああ?覚悟はできてんだろうな?これからコンクリに詰めて海に沈めてやるからよ!』

 

『ひっ!?ま、まさか存在してたのかよ!?』

 

『待って!待ってくれ!』

 

『い、いやだ!死にたくない!助けて、助けてくれぇえええええっ!』

 

幸い、ここの部屋は他の部屋より奥だったため店員や客達に気付かれずに済んでいる。というか聞こえていて気付いているとしても誰も関わりたくないから無関心を貫くに決まっている。ボックスから出てきた誘拐犯達は口に無理やりガムテープみたいなもので張られて喋られなくされては、涙目で極道達に強制的に連れ出されていった。

 

「「「「・・・・・」」」」

 

明久達と顔を合わせ、静かになった部屋の扉をゆっくりと開けた。人質されていた島田と姫路、木下の姉に工藤の無事も確認。

 

「旅人さん。あの極道達は・・・・・」

 

「個人的に昔から懇意の関係だ。マフィアもな。たまーにだが汚れ役を買ってもらっててな。後でお礼をしに行かなくちゃ」

 

連行された人達のその後の末路は怖くて聞けない。いや、絶対に訊いてはならないの本能的に分かっているからだ。

 

「・・・・・カヲルめ、俺は言ったよな。失敗はするなと」

 

この人が真剣な顔で呟くところを見たら尚更だ。こんな旅人さんを見たことが無い俺は絶対に逆らってはいけない人だと子供の頃以来、改めて実感した。

 

 

―――☆☆☆―――

 

 

誘拐騒ぎも解決して、喫茶店の一日目も終了した。

教室の扉を少し開けて中を覗くと、何か話している坂本と明久の貸し切り状態となっていた。助け出された四人は何とも言えない表情で先に帰宅し、旅人さんは「済まさなければならない用事が出来た。蒼天に戻る」と言うだけで本国に戻った。

 

「さて坂本と明久。俺達に何か隠しているだろう」

 

扉を開けてまだ教室に残っていた二人に寄りながら問い詰める。逃げられないよう念には念を、風間ファミリーも一緒だ。

 

「いきなりの物言いだ。隠し事とは人聞きの悪いことを言うな」

 

「だが、お前が言った『仕掛けてきたか』という言葉は、予想していた意味を捉える。

明久は知らなかったようだが、噛んでいることは間違いない」

 

テーブルを挟んで二人に問い詰める。そもそもおかしいと思ってはいた。

 

「急にやる気だしたかと思えば、大会に出場するなんて坂本らしくはない」

 

「俺の気まぐれだと思わないのか?」

 

「短くない付き合いをしているんだ。それなりにお前の性格ぐらいわかってくる。坂本、清涼祭とか大会とか興味ないだろ。グラウンドで野球をするほどだからな」

 

「それだけじゃ確証がないな」

 

「じゃあ―――どうしてお前達二人はまだ帰らないんだ?」

 

それを指摘すれば坂本は口を噤んだ。

 

「まるで、これから誰かと会うために居残っているような感じだ。

俺はお前達に訊きたいことがあるから敢えて残っている」

 

「・・・・・雄二」

 

明久が当惑した面持ちで坂本に視線を送る。坂本から視線を変えて明久に。

 

「明久。お前は大会を何の理由で参加したんだ?」

 

「え?僕も腕輪を―――」

 

「嘘だな」

 

「最後まで言わせてよ!?」

 

「お前とも付き合いは短くないと思っている。

だからこそ、お前が自分から大会に参加する理由が無いとも分かっているんだ」

 

「違うよ大和。本当に僕は腕輪が欲しいんだ」

 

「最初から思ったのか?」

 

「う、うん・・・・・そうだよ」

 

どもった。・・・・・こいつら、何か隠しているな本当に。なら奥の手を使わせてもらおう。

 

「・・・・・隠し事を話したくないならそれでいい」

 

「大和?」

 

「土屋から貰った・・・・・お前らのチャイナドレスの姿をネットに流出すればいいだけだから」

 

「「ちょっと待て!()達を変態にするつもりかぁっ!?」」

 

手にしている数枚の写真を扇子状に広げて脅迫した。効果は覿面だな。ま、俺もこうされたら同じ反応をしてしまうが。

 

「なら、答えてくれるな?」

 

追及する。苦虫を嚙み潰したかのような苦い顔を浮かべる坂本に写真をチラつかせ、吐かせてやろうとした時。

 

「やれやれ・・・・・アタシを呼んでいおいて随分と賑やかじゃないかガキ共」

 

声と同時に教室の扉が音を立てて開いた。

 

「来たかババァ」

 

「・・・・・学園長?」

 

どうしてここに学園長が現れるんだ?この二人と深く何か関係がありそうだな。

 

「今回は事が事だから、きっちりとババァから説明してもらいたいことがあるんでよ」

 

「なんだい、アタシが何か隠し事をしているようなものいいじゃないかい」

 

「隠し事はなくても俺達に話すべきことを話していないことがあるんじゃねぇのか?」

 

学園長は肩を竦め上げる。

 

「ふむ・・・・・。やれやれ。賢いヤツだとは思っていたけど、

まさかアタシの考えに気がついたとは思わなかったよ」

 

「最初に取引を持ちかけられた時からおかしいとは思っていたんだ。あの話だったら、

何も俺達に頼む必要はない。もっと高得点を叩きだすことのできる優勝候補を使えばいいからな」

 

「あ、そういえばそうだよね。優勝者に後から事情を話して

譲ってもらうとかの手段も取れたはずだし」

 

「そうだ。わざわざ俺達を擁立するなんて、効率が悪過ぎる」

 

・・・・・この二人に学園長は支持をしていたというのか?

 

「お前ら、学園長と何か裏で取引でもしていたのか?」

 

「ああ、色々と話し合った結果でな。大会の優勝賞品のチケットを手に入れてくれたら

俺達の要求を飲んでくれると言う話になったんだ。―――が」

 

坂本は学園長にハッキリと言った。

 

「たかがプレミアムペアチケットを手に入れるだけで、どうして俺達は営業妨害、

誘拐騒ぎにまで起きてしまうのか疑問でいっぱいだ。まさかとは思うが、

企業の企みなんかよりもっと重要なこと、それもこの学校の存続が左右されるような状況に

なっているんじゃないよな?チケットの件については後で優勝者から説明して、

譲ってもらう手もあるからよ。さて、ご説明を願いましょうか―――クソ学園長?」

 

言い訳は許さないと学園長を睨む。そんな坂本に対して学園長は深く溜息を吐いた。

 

「そうかい。向こうはそこまで手段を選ばなかったか・・・・・すまなかったね」

 

突然学園長が俺達に頭を下げてきた。

 

「アンタらの点数だったら集中力を乱す程度で勝手に潰れるだろうと

最初は考えていたのだろうけど・・・・・そいつが決勝まで進まれて焦ったんだろうね」

 

「じゃあ、坂本達に重大なことを話していないことを認めるんですね?」

 

「はぁ・・・・・。アタシの無能を晒すような話だから、

できれば伏せておきたかったんだけどね。特に・・・・・死神にこの事は公言にしないでほしい」

 

どうしてハーデスに対してそんな事を言う?蒼天の出身者でしかないあいつに?

 

「・・・・・事情による。話せよババア長」

 

「分かった、話そう。アタシの目的は如月ハイランドのペアチケットなんかじゃないのさ」

 

「ペアチケットじゃない!?どういうことですか!?」

 

「アタシとっちゃあ企業の企みなんてどうでもいいんだよ。アタシの目的はもう一つの賞品の方なのさ」

 

「腕輪の方ですか?なにか問題があるので?」

 

調べたが。腕輪は三つあるらしい。

一つはテストの点数を二分して二体の召喚獣を同時に喚び出すことができる腕輪。

もう一つは召喚獣同士の融合ができる腕輪。

さらにもう一つは教師の代わりに立会人になって召喚用のフィールドが作ることのできる腕輪。

こっちは使用者の点数に応じて召喚可能範囲が変わるらしい。

召喚の科目はランダムで選択されるとか。

 

「そうさ。その腕輪は問題があってね、アンタらに勝ち取って貰いたかったのさ」

 

「僕らが勝ち取る?回収して欲しいわけじゃなくて?」

 

「あのな・・・・・。回収が目的だったら俺達に依頼する必要はないだろう?そもそも、回収なんていう真似は極力避けたいだろうし、な」

 

「坂本のいう回収ができない状況だから正式な方法で手に入れてほしかったわけですか?

だから坂本と明久に要求を飲む代わりに条件を突きだして頼んだと」

 

坂本の揶揄するような言葉に俺も推測を立てて話を振る。

 

「本当にアンタはよく頭が回るねぇ・・・・・。その通り。できれば回収なんて真似はしたくない。

新技術は使って見せてナンボのものだからね。

デモンストレーションもなしに回収なんてしたら、新技術の存在自体を疑われることになる」

 

できればということは、最悪の場合はそれも考えていたのだろう。

 

「それで、腕輪の問題点とは?」

 

苦々しく顔を顰めだす学園長。

 

「成績優秀、高得点の奴らが使用すると暴走してしまうのが問題点さね」

 

「あー、つまりFクラス並みの点数なら暴走は起きないわけですか。優勝の可能性を持つ低得点者なら腕輪の暴走もない。デモンストレーションをするにも俺達はアンタの理想な人材だったとそういうことか』

 

「そうさね。アンタらみたいなのが一番都合が良かったってわけさ。

召喚フィールド作成用の腕輪はある程度まで耐えられるんだが、もう片方の同時召喚用の腕輪は、

現状のままだと平均点程度で暴走する可能性がある。融合用の腕輪は特に問題ないさね」

 

「デモンストレーションで問題発生が生じると、この学校の評判はガタ落ちで、

学園長の失脚は免れない。だとすれば、そういう奴らがいて

その立場の人間―――他校の経営者とその内通者といったところですかね?」

 

色々と仮説を述べる。この学園は多くの生徒を抱え込んでいて、他校に行く生徒は減り、

当然のことながら他校を経営する者はこの学校の存在を許し難いはずだ。

ならば、手を組んで学園長を失脚させて、学園を潰そうと考える経営者もいなくない。

 

「ご名答。身内の恥を晒すみたいだけど、隠しておくわけにもいかないからね。

おそらく一連の手引は教頭の竹原によるものだね。

近隣の私立校に出入りしていたなんて話も聞くし、まず間違いないさね」

 

「それじゃ、俺達のクラスの営業妨害をしてきた先輩達とチンピラも」

 

「教頭の差し金だろうな。協力している理由は分からんが」

 

金一封、もしくは進学に関することかもしれないけどな。そこで今まで黙っていたガクトが話の輪に加わった。

 

「何かよくわからねぇけどよ。学校の一大事ってなら何とか解決できないのか?ハーデスと松永さんなら優勝できるだろ」

 

「どっちも高得点を叩き出せる二人だぞ。だけどハーデスに至っては基本的に1点で戦う。松永さんはSクラス並みの点数を。誘拐された島田たちはハーデスを呼び出すための盾だったんだ。一人だけ戦ってもよくて仮に勝った松永さんが不良品の腕輪を使うことが起きたら敵の思う壺になる」

 

「あ、でも。いざとなったら優勝者に事情を話して回収したら―――」

 

甘いぞワン子。

 

「残念ながらそうもいかない。決勝戦の対戦相手を知っているか?」

 

坂本がズボンのポケットから小さな冊子を取り出す。書き込まれているトーナメント表を追っていくと、対戦相手は、

 

「あ、オレ様達の営業を妨害した先輩かよ!」

 

「そうだ。やつらは教頭側の人間だ。喜々として観客の前で暴走を起こすだろう」

 

松永さんも高得点の保持者だ。不味いな・・・・・。

 

「学園長、ハーデスに言えないなら松永さんには?」

 

「・・・・・松永にも言えないさね。あの二人は蒼天側の人間だ。アタシの失敗を知られたら即座に王に報告されるようになってるんだよ」

 

・・・・・もしかして、旅人さんが学園に来ているのって学園長の。

 

「あの、学園長。学園にいるんですけど旅人さん・・・蒼天の王様が」

 

「な、何だってっ・・・・・!?」

 

「島田たちが誘拐された時も手助けしてくれて・・・・・学園長、顔色が凄く悪くなってますよ!?」

 

真っ青を通り越して紫になっている!一体どうしたってんだって焦燥に駆られていた時だった。

 

「あ、いたいた学園長先生。こんなところにいたんですか」

 

松永さんが朗らかにそう言ってこっちに来ると学園長が小刻みに震えだす。

 

「な、なんだい松永?アタシに用があるのかい?」

 

「ええ、とっても重要な要件です。学園長達が話していた学園長の失脚と学園の転覆される寸前の会話は王様に筒抜けですので」

 

「―――――」

 

「自分の身が可愛くて王様に隠し事をするのは蒼天の王に対する裏切り行為に等しいですよ。素直に伝えておけば、罰は軽減されていたかもしれないというのに生徒を巻き込んだ失敗をした学園長は―――懲戒処分が下されます」

 

懲戒、処分・・・・・!?

 

「と、まぁされるはずですけど、私が総合点数をFクラス並みに下げて優勝すればいいだけの話ですので。王様からは私から解決できる問題の範囲内故に懲戒処分は先送りにしてほしいと頼んでみますよ」

 

「ほ、本当かい!?」

 

「ええ、ただし条件付きが課せられるでしょうけどね。それでもいいなら」

 

「構わないよ!アンタから説得してくれ!」

 

わかりました、と言って教室を後にする松永さん。残された俺達はただ見ていることしかできなくて、地獄で仏にあったような学園長は安堵で胸を撫で下ろす気分に浸って、ため息を吐いた。

 

「蒼天って、実は怖いところなんですか?」

 

「そうじゃないさね。ようやく出世したのに転落して落ちぶれてしまうのが嫌ってことだよ。懲戒処分を食らったらクビにされてしまう恐れもあるんだからね」

 

大人社会の話か。学園長のあの反応を見て納得したな。

 

 

 

「・・・・・本気で言ってるのか燕」

 

「簡単な話ですよ。私がそうすればすべてが丸く収まるんですからね。やっぱり余計なことですか?」

 

王様のところに戻り、学園長に言った通り説得を試んでみたら怪訝な目で見られた。

 

「ああ、王としては余計なことをしてくれたなと思ってる。燕、どうしてカヲルを庇う?理由は何だ」

 

「えと、仏の顔は三度まで・・・・・的な?」

 

「・・・・・」

 

今度は何言っているんだこいつは、と凄く呆れた目と無言で見られてしまう私だった。

 

「・・・・・すみませんでした。少し同情してしまいました」

 

「・・・・・」

 

「・・・・・うう」

 

この無言の時間は凄く耐えきれない。まだ怖くないけれど肩身が狭くて居た堪れないよぉ・・・・・。

王様、深いため息を吐くいてもっと居心地が悪くなった。

 

「・・・・・王としては余計なことをしてくれたと言ったな」

 

「はい・・・・・」

 

「いつ懲戒処分にするまでは言っていなかったのに、お前が勝手な判断でそうすることができなくなった」

 

「王様・・・・・?え、どういうことですか?」

 

「最後の情けとして、カヲル自身が何か挽回させるチャンスの猶予を与えるつもりだったんだよ。あの時もカヲル自身がそう言ってたよな?」

 

「え、じゃあ・・・・・」

 

最初から問答無用にじゃなかったってこと・・・・・?と王様を見てそう思っていたら人差し指を私の額に何度も強く小突いてきた。

 

「お前が、あいつに、俺を説得して懲戒処分をなくす、なんて、勝手なことを言わなければ自分の失敗を自分で挽回させてたんだよ、この馬鹿!俺は冷酷で冷徹な王だと思ってたのか燕さんよ!」

 

「いた、いた、いたっ!?」

 

「しかも条件付きだと?じゃあその条件はあいつの代わりにお前が罰を受けることで許してやる。おら、尻を出せ。今回の独断での判断をしたお前に思いっきり十回は叩いてやる!」

 

「ご、ごめんなさぁーい!あっ!ひゃあっ!?(バシーンッ!)いったああああああっ!?」

 

 

「・・・・・あれは、痛いわね」

 

「「・・・・・ッ!・・・・・ッ!(ガクガクブルブル))」」

 

「桃花さんと雪蓮、大丈夫ですから気をしっかりしてください」

 

「無理よ。昔から今でも常連ですもの。私だって一度だけされてもう二度はごめんで気を付けてるぐらいよ。懲りないこの二人が悪いのよ月(ユエ)」

 

「ええ、自業自得です。それより我が王よ。日本に留まるおつもりならどこか宿を」

 

「ああ、手筈は済んでいる。川神院だ。顔馴染みの者に頼んで泊まらせてくれる」

 

「武の総本山・・・・・面白いわね。川神百代の家でもあるんでしょう?」

 

「その通りだ。というわけで行くぞ。立て燕」

 

「う、うう・・・・・お尻が痛い」

 

「「分かる、その痛みは分かる・・・・・」」

 

「後で薬を塗ってあげますから辛抱ですよ」

 

「どうか堪えて」

 

「塗り薬はもっと染みて痛いから嫌だよぉ・・・・・」

 



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蒼天の王

川神院。神月学園の理事長の川神鉄心と武神の異名を持つ川神百代が住んでいると言われてる武の総本山。これから何かのパーティーを始めるように続々と集まり出すことを当人達以外は誰も気づかない。

 

『いらっしゃいませっ!』

 

宿泊先の門に入ると川神院の修行僧達が整列して道を作り、王達を出迎えの歓迎をした先には川神鉄心がいた。

 

「久しいの旅人よ。元気にしておったようじゃな」

 

「突然で済まない、今夜は世話になるよ。それにしても相変わらずの老け顔だな。

十年前と変わっていないように見えるぞ?」

 

「たわけ、そっちこそ昔からずっと変わっておらんじゃろう」

 

「そういうお前はまだ若かった頃、随分とやんちゃだったよなー。出会う度に勝負しろ!って勝負を吹っ掛けてあっさりノされたお前が随分懐かしく感じる。今じゃあ鳴りを潜めてすっかり大人しくなっちゃって。猫か」

 

「うっさいわい!・・・・・旅人、いや、本名で呼んでもよいかの。古き友よ」

 

「悪いが呼ばないでくれ。二人きりの時にな。今回ここで泊まることを他の連中に知られて大勢ここに集まるかもしれない」

 

頷く鉄心が踵を返して王達を中へ案内する最中、桃色の長髪で四人の女性の中では長身的な澄んだ青い瞳の女性が王に話しかけた。

 

「知り合いなの?私、直接会うのは今日で初めてなのだけど」

 

「旧友だ。それもお前達が産まれるずっと前からな。というか第一次戦争時から存在していた要人と交流はしていたよ。第二次世界大戦の時は世界各国に攻め入った時は皆面白いぐらい顔を青ざめてたけどな」

 

「そりゃそうでしょう。敵に回したら人類が滅亡するのが火を見るより明らかな存在が蒼天の遥か上空にいるんですもの。それにどこかの国でもたった一度すら攻撃を受けたら世界に攻撃するのでしょう?」

 

「契約条項ではそうなっている。それを忘れさせないために世界中の学校の教科書にも載せているし、定期的に世界中に飛び回らせているからな。平和になりすぎて平和ボケして危機感をなくしてる人間達にとっていい刺激になるだろう」

 

悪い顔を浮かべる王に苦笑いを漏らしたり畏怖の念を抱いたりする女性達。話をしている間に木造の本殿の中へ入り靴を脱いで進む鉄心についていくと、開け放たれた襖の向こうの部屋に招かれ。

 

「お、来たな旅人」

 

「いらっしゃい、旅人さん!」

 

「マジで旅人が来やがったな」

 

「よっ、久しぶりじゃん旅人!」

 

「お久しぶり」

 

「わーい、旅人さーん」

 

川神百代と川神一子以外にも四人の男女が王を出迎えた。ガラの悪そうな体に入れ墨がある青年に、あずき色の髪に目つきが鋭い女性、のんびりとした雰囲気を醸し出す青い長髪に緑の瞳、オレンジ色のツインテールの小柄な少女。

 

「竜兵、天使、亜巳、辰子。見ない間に成長したな」

 

「おいコラ!ウチをエンジェルって言うな!天って言えって言ったよな!?」

 

「ああ、そうだったっけ?久しぶりに見た懐かしい悪ガキ達を見てつい言ってしまったな」

 

幼少期の四人を遠い目で思い出しながら懐かしむ王に百代が告げ口する。

 

「そうだぞ旅人。竜兵と天だけ悪ガキなのは昔のまんまだ。たまに悪さをしてジジイに怒られるし」

 

「・・・・・ほう?昔交わした約束を破ってるんだな?もう悪さはするなって別れる際に約束したよな?」

 

「「そ、それは・・・・・っ」」

 

「―――お仕置きだなこれは?」

 

近づく王の影に覆われた顔を引きつらせる二人。王のお仕置きは凄く痛いことを知ってる面々は心中で合掌する。

後にデカいタンコブを作ったまま『悪さをしてお仕置きされ中』と書かれた粘土板を持たされ正座される。敷かれた座布団の上に座る王達であったが。

 

「ふへへー旅人さ~ん」

 

「全力で甘えてくるな辰子」

 

「だって久しぶりだも~ん」

 

胡坐を掻く王の足の上に対面するように乗っかって抱き着く辰子。慣れた手つきで頭を撫でると辰子は嬉しくて、ますます猫のように身体を擦り付けて密着する。

 

「・・・・・随分と慕われてるのね?」

 

「昔はしょっちゅう人の身体を使って寝るほどだからなこいつは。多分、寝ている間に忍び込んで添い寝してくるぞ」

 

「そう、随分とモテモテなのね♪」

 

「「「・・・・・」」」

 

意味深な言葉と視線を向けてくる五人の女性達に王は内心ため息を吐く。

 

「お前ら、蒼天でも毎日添い寝しているんだから今日ぐらいは我慢しろよ。今日は華林の番だったけどさ」

 

「ちょっ・・・・・!」

 

「あら、華林?あなた添い寝をしていたのね?月もしていたなんて意外だったわ」

 

「へぅ・・・・・」

 

「愛紗ちゃんもしてもらってたんだね。どおりで一緒に寝てくれる日の後が長いなーって思ってたよ」

 

「そ、それはっ・・・・・!」

 

「まぁ、心臓に悪いのは裸で夜這いしてくる雪蓮だけど」

 

「「「「雪蓮(さん)・・・・・?」」」」」

 

「あ、あらそうだったかしら・・・・・?」

 

嫉妬をしていた彼女達の意識を変えさせることで面倒ごとを避けた。だが、

 

「旅人さん、旅人さん。今夜は久しぶりに一緒に寝ようね!私、隣が良いわ!」

 

「さんせー、私は上で寝るねー」

 

「なら私は右だ」

 

安眠は難しいことを察した王であった。

 

「旅人さん、夕食はいらないの?」

 

「外食してきた。日本本土の料理は久々だから美味かったぞ」

 

「ええ、美味しかったわね」

 

「たまに外国の料理を食べるのも楽しかったです」

 

「うんうん!」

 

「桃香が一番食べてたわよね。その分体重が増えるより栄養がここに集まってるんじゃないの?」

 

そう言って桃花と呼んだ桃色の髪に青い瞳の少女の背後に回った雪蓮。両腕を少女の前に伸ばすと豊満な胸を鷲掴み、揉みしだき始めて桃香を羞恥の悲鳴を上げさせた。

 

「ひゃっ!?ちょ、雪蓮さん!止めてください!いゃんっ」

 

「・・・・・本当にね」

 

「へぅ・・・・・」

 

雪蓮が揉む度に形が歪む自分に縁がない桃香の胸に、冷たい眼差しを向ける華林。自分の身体を見下ろし嘆息する月の面々に愛紗は気恥ずかしそうな顔で、さりげなく自身の豊かな胸を隠すように王から腕を組んで身体を反らす。

 

「雪蓮、やりすぎだ。叩くぞ」

 

「ごめんなさい」

 

「はぅ・・・助かったよぉ」

 

王の後ろに避難する桃香。そして自ら豊かな身体を押し付けて安心する姿に。

 

「桃香、甘えるんじゃないわよ」

 

「ズルいです、桃花さん・・・・・」

 

「へっ?」

 

「・・・・・桃花が入浴するのが大変そうだな」

 

「え、どういうことなの?」

 

疑問符を浮かべる桃花の言動に百代は悟った。天然だと。

 

「ところで旅人。その五人とはどういう関係だ?」

 

「そうそう、気になってたわ。もしかして、旅人さんの家族?」

 

「んー、そうだな。説明しておくか」

 

質問に応じる姿勢な王が一瞥する。

 

「今でも俺は蒼天の王であるけど、ここ数十年新たに蒼天に四人も王を増やした。現在の王は彼女達だ」

 

「北区の王、華林よ」

 

「東区の王、月です」

 

「南区の王、雪蓮よ」

 

「西区の王、桃香です」

 

「そして、中央区の王が俺だ。愛紗は西区の王の側近として勤めてる。俺の弟子の一人だ」

 

「愛紗です。以後お見知りおきを」

 

名乗りあげた五人の言葉に鉄心も質問の言葉を口にした。

 

「なぜ一つの国に王を四人も増やしたのじゃ?色々と問題が起きそうなのじゃがな」

 

「最大の理由は、もしも俺がいない蒼天となってしまえば蒼天はそう長く繁栄が保てないし、俺がいなくても蒼天で在り続けるようにするためだ。その為に蒼天を四つの区にした地域の中で統治、統括してもらっている」

 

「じゃあ、王になるための基準は?」

 

「色々在るな。多才な能力面、強さと威厳、心の強さ、国と民を思いやる慈愛、皆から慕われるカリスマ性。こんなところだ」

 

それらが彼女達に備わっていると暗に言う王だが一子が素朴な疑問をぶつけた。

 

「誰でも王になれそうな感じね旅人さん」

 

「話を聞けばそう聞こえるだろうけど、王って総理大臣みたいな仕事をするってことだぞ一子」

 

「あ、ごめんなさい。凄く大変そう」

 

「それに俺が直で審査と面接をするんだ。生半可な奴に俺の支えになってほしくはないからな」

 

「じゃあ旅人の弟子になるためは?」

 

愛紗を見つめて尋ねる百代。王の弟子になる条件が気になったのだ。

 

「蒼天や世界各国から選り抜きで誘った。とても優秀だったら桃花達の側近になれるし国の衛兵にもなれる。ああ元四天王の一人のスピードクイーンの橘もいるぞ」

 

「な、橘さんが蒼天に?」

 

「ああ、ん、来たな」

 

誰が来た?と考えるよりも早く外から聞こえる騒々しさと気の気配に感づく百代。

 

「蒼天にはいない・・・いえ、一人いたわね。ベクトルが違うだけね」

 

 

「ふははは!九鬼揚羽、降臨である!」

 

「ふははは!九鬼英雄、見参である!」

 

「ふははは!九鬼紋白、推参である!」

 

 

「・・・・・訂正、あの娘以上の五月蝿さね。この名乗り上げ時だけは」

 

「これからあんな連中と付き合うことになるんだぜ?」

 

「優秀なのは認めるけれど、できれば距離を起きたいわ」

 

「挨拶だけして離れたいなら、先に風呂入って寝室にいとけ。防音の結界も張っておくから」

 

「そうさせてもらうわ」

 

そう話し合っている間に揚羽達が王達がいる居間に入ってきた。

 

「我が夫になる旅人よ。久し振りに時間が許される限り会話を楽しもうではないか。結婚の話をもな」

 

「旅人、いや義兄上とこれから呼ばせてもらうぞ!」

 

「我は九鬼紋白である!よろしく頼むぞ義兄上様!」

 

ちょっと待て・・・・・?

 

「あなた、何時この女と結婚をする気になってるのかしら?」

 

「蒼天を創造して以来の身に覚えのない驚きの話だからな。お前らのウェディングドレスを見るまでは誰とも結婚をする気ならないから安心しろ」

 

「あら、この私が認めている男なんて私は蒼天で一人しか知らないのだけれど?」

 

「そうねー。今さら探す気なんてないし」

 

「「・・・・・」」

 

「主様・・・・・」 

 

またしても意味深な言葉と視線を向けられて王も口を閉ざしてしまう。華林は揚羽に不敵な笑みを向け出す。

 

「そういうことだから。蒼天の人間以外の者にこの男は誰にも譲る気はないから」

 

「ほう・・・この九鬼揚羽にいい度胸してるではないか」

 

「伊達に王を務めていないわ。それにただの財閥の者と天下統一した者とは相応しくないもの」

 

「我が旅人に相応しくないと?」

 

鋭い眼光で見下ろす揚羽と余裕な表情で見上げる華林が睨み合っている間に王は、

 

「旅人さん、こっちこっち」

 

「おおおー・・・・・」

 

大の男の体重を物ともせず弁慶の手によって座布団ごと引っ張られ、義経達がいる安全圏なところで弁慶は王の背中に背中を預ける。

 

「旅人さん久し振りです」

 

「清楚、信長に政宗。久しぶり」

 

「「はい、お久しぶりです」」

 

艶やかな長い黒髪を一本に結い上げ、雛罌粟の髪飾りを付けてる英雄のクローンの葉桜清楚が嬉しそうに王の隣に座っては、源義経も伊達政宗と織田信長と一緒に囲むように座り出す。

 

「旅人さん、明日も学園祭に来てくれるんですか?」

 

「行くぞ。たまには自分の目で神月学園を見てみる必要がある事がわかったからな」

 

「じゃあ、もしも時間があったら・・・・・」

 

「一緒に行動か?ずっとは無理だと思うぞ」

 

「あなたと一緒なら少しだって構いません」

 

そこまで言われると拒絶はできない。了承の示しとして「わかった」と頷くと清楚達は花が咲いたように笑顔を浮かべた。

 

「お前達はこれから夕食か?」

 

「いえ、食べて来ました。入浴も済ませて後は寝るだけです」

 

「そうなのか。俺達も夕食は済ませてるが風呂はまだなんだよな。おーい鉄心」

 

「何じゃ旅人」

 

何時でもいいから桃香達は先に入らせる、と告げれば揚羽が華林から離れて来た。

 

「では、話し合おうじゃないか旅人」

 

「待て揚羽さん。旅人は私と勝負をするんだ」

 

異を唱える百代であったが、頑なな揚羽がその意に対して真正面から言い返した。

 

「旅人は明日もいるのだろう。お前の勝負は明日にしてもらうがいい。我は明日になれば仕事に向かわなければならないのだから今回は私に譲れ。もう二度とこんな機会が巡ってこれんかもしれんからな」

 

「ぐぅ、旅人・・・・・」

 

「悪いが揚羽を優先させてもらう。学生と違って社会人は自由があんまりないんだからな」

 

王も揚羽の気持ちに尊重する言葉を発して百代を残念がらせた。

 

「以心伝心であるな。流石は私の夫になる男だ」

 

「誰が夫だ。婚約した覚えも揚羽と恋仲の関係になったことも一度もないだろ」

 

「確かにないが、誓いのキスを交わし合ったではないか」

 

「それこそ待て、最初に旅人のファーストキスを奪ったのは私だということを忘れるな揚羽さん」

 

次の瞬間。場の空気が凍り付いた。

 

「ふん、順番など関係ないだろう。我も初めてを旅人に捧げた身だぞ?つまりお前とは同じ土俵の上に立っているという道理だ」

 

「ほう?なら次のステージに進んでみるか?どっちが旅人に選ばれるような勝負を」

 

「戦闘の勝負は認めんぞ。お互いまだ未経験か慣れてない勝負をする」

 

聞いている王が、どんな勝負をするんだ?と己を挟んで睨み合う二人を見上げながら他人のごとく静観していた。

 

「料理でするか?」

 

「もう済ませてるのにこれ以上食べさせる訳にはいかないだろう。ここはファッションで勝負をしてみようではないか」

 

「それは揚羽さんが有利だろ。それに選んでいる時間がかかって旅人さんと話をする時間も減るぞ」

 

「むぅ、確かに。それは我も困ること」

 

中々決まらず二人して悩む滑稽な姿を見ていられないと華林が申し出た。

 

「呆れて何も言えないわね。勝負事を考えもしてないで自分に選んで貰おうなんて」

 

「「なんだと」」

 

「女の勝負なら女しかできない勝負をすればいいじゃない。それすらわからないのかしら」

 

怪訝な表情で己を見据える二人に華林は言った。

 

「男を落とすなら自分の魅了をぶつけてみればいいじゃない」

 

「おい、華林なにを考えてる?変なことを吹き込むなよ」

 

「あら、自信がないの?それとも簡単に女にオトされる男だったのかしら?蒼天の王もあろう男が。もしもそうなら・・・」

 

次の瞬間、王から威圧感が放たれて華林が不自然に言葉を止めた。

 

「面白い挑発をしてくれるようになったな華林。俺が選んだだけある女だよ」

 

「・・・・・そう、それは光栄ね」

 

「だがな?この俺に挑発するのは無謀ってもんだ。―――華林、二人にそこまで言うならお前が最初にお手本として実践してもらおうか?百代と揚羽にどうやって女の魅了をぶつける勝負をすればいいのか、な」

 

「なっ・・・!」

 

「この二人ができることをお前が出来ない訳ないよな?蒼天の王の一人であるあろう者がだ」

 

辰子を剥がしてから立つ王は、華林に近寄り彼女の前に立った。

 

「さあ、お前の魅了をぶつけてもらおうか」

 

「っ・・・・・」

 

「さぁ華林」

 

皆が見守る中、無言を貫く彼女のどんな方法で魅了をしてくるのか楽しみな王は嗤う。それからしばらくしてようやく華林が行動を取った。王の服を摘まんで、物凄く恥ずかしいとばかり耳まで朱に染まった顔と瞳を潤わせて、何かに堪える必死な表情で身体を震わせる。

 

「お、お兄様・・・だ、大好きっ」

 

「・・・・・」

 

『・・・・・』

 

声を子供っぽく高くして、愛情表現をするのが華林の魅了のぶつけ方。誰もが蒼天の王の一人が言うとは思えない言動にしばし唖然としてたり、生暖かい眼差しを向けたりしていた。先に静寂な沈黙を破ったのは王自身だった。

 

「ふふふっ、かーわーいいなぁ!」

 

王が華林を抱きしめて頬擦りするぐらい感無量になった。

 

「くっ、こ、殺しなさいっ!今すぐ私を殺しなさいっ!」

 

「なるほどなるほど、華林の魅了のぶつけ方はそれなんだなぁ?ふふ、久し振りにお兄様って言われて嬉しいなぁ。なぁ華林、今度はお兄ちゃん大好きって言ってくれない?」

 

「う、うるさいうるさいっ!誰がそんな恥かしいことを言うものですか!?」

 

「華林、あなたってやっぱり女の子ね」

 

「どういう意味よ雪蓮!」

 

「華林さん、可愛いですっ!」

 

「はい、とても。私だったら恥ずかしくて・・・・・へぅ」

 

五人の王を中心に盛り上がりを見せる中、百代と揚羽は自分の魅了=甘える勝負をしなくてはならないのかと悟った。

 

「揚羽さん、これであの人に選んでくれると思うか」

 

「ただ旅人を喜ばすだけのような気がしてならぬ」

 

「さて―――次は二人の番だな?王自身がお手本を見せたからには二人もやってもらわないと」

 

華林を抱きしめたまま王の言葉と共にビデオカメラを向けられる。

 

「旅人、そのカメラはまさかだが・・・・・」

 

「記念撮影♪」

 

「撮影されながらなんてできるか!何の罰ゲームだ!」

 

「後生だ・・・・・他の勝負で決めたい」

 

「うーん、できないのか?まぁ、久しぶりに可愛い華林を見せてくれたから別にいいけど」

 

「待ちなさい、これじゃあ私だけ恥かしい思いをしただけじゃないのよっ。ちょっとあなた聞いてる?」

 

異議を申す華林の頭を撫で聞き流す。

 

「しょうがないな。じゃあ、我慢比べでどうだ。三分間、表情を変えないで耐え続ける内容で、目を見開いたり口を開いたりするのもダメな」

 

「まぁ・・・・・それなら」

 

「シンプルな勝負でよいが、私達が我慢し続けたらどうするのだ?」

 

「はは、そんなことはない。必ず俺が驚かして見せるから引き分けはないさ」

 

王自身が二人に対して何かをする。気を引き締めなければならない事態となり、何を仕出かすか分からない王に強い警戒心がここで芽生えた。

 

「ついでだ、桃香達も参加だ」

 

「え、私達もですか?」

 

「へぇ、そんなに自信があるんだ?」

 

「とっておきのがあるからな。我慢出来たら・・・・・そうだな。三日間、俺が許容できる範囲だったら何でも願いを叶えるでどうだ?」

 

『私も参加する!』

 

蚊帳の外にいた弁慶達も我慢比べに参戦する意を示した。

 

「お、なんだなんだ?旅人さんが面白いことをするのか?」

 

「あ、キャップ達じゃない!」

 

「うん?お前らもここに泊まりに来たのか?教えていないんだがな」

 

「私が一子に教えたからだろうな」

 

百代がそう答えながら「ダメだったか?」と目で尋ねる。問題ないと笑みで返す王は―――吉井明久達にも目を向ける。

 

「お前らは?」

 

「えっと・・・・・」

 

返答に困ったような面々に首をかしげる思いの王に応えたのは霧島翔子だった。

 

「・・・・・あなたがここに泊まるって知って私も一緒に泊まりたいと父に教えたら、許してくれた」

 

「一番知らない筈のお前がどうやって知ったのかは聞かないでおこう。で、どうしてハーデスのクラスメートまでいる?」

 

「・・・・・翔花も連れて来ようとしたら、お泊りなら雄二も誘いたいとお願いされて」

 

「で?元神童の坂本雄二を誘った流れは読めれるがその後は?」

 

「俺が明久達も誘ったんだ。よく言うだろ、旅は道連れ世は情けってな」

 

「本音は?」

 

「心の平穏が欲しかった」

 

これ以上の追究は酷だろうと慰めの意味も兼ねて「頑張ったんだな」と労いの言葉を送った。

 

「それで旅人さん、モモ先輩達と何をしようとしてたんだ?」

 

「ん?それはだな、色々と話をして紆余曲折な結果こいつらだけ限定で我慢比べをしようとしてた。驚かす役は俺だ」

 

「我慢出来たら旅人が三日間何でも願いを叶える権利付きでな」

 

「許容範囲内の願いだけだ。言葉が足りないぞ百代。それと後から来たお前達は参加なしで」

 

えー!と不満とブーイングを漏らす風間ファミリー。

 

「・・・・・私も、ダメ?」

 

「ダメだ。もう決まったことだから。さて、始めるぞ。判定役は鉄心、厳しく頼んでくれるか?」

 

「些細な変化でもアウトじゃな?」

 

「無表情で貫くのが勝負の内容だ。口元と目元も動いたら即失格で」

 

「あいわかった」

 

整列に並んで座る百代達と蒼天の王達の前に座る王は、楽し気に口元を緩ませる。

 

「一子、時計の準備はいいか?」

 

「勿論よ旅人さん」

 

「ん、よし。じゃあ今から三分間、誰が一番我慢できるか・・・・・勝負開始だ」

 

こうして始まった我慢大会にギャラリー達は、どんな結果になるか見守る姿勢で王の後ろに座り込んだ。

 

「旅人、我等をどう驚かすか楽しみだ」

 

「これ、驚かされる側は黙っていなさい。次発言したら失格じゃぞ」

 

下手に喋れなくなり押し黙る揚羽の目の前で王が不敵な笑みを浮かべる。王がどんなことをするのか、じっと見つめる視線を感じながら王はその場でくるりと回って見せたその際。王の頭に獣の耳と腰辺りに狐のような尾が九つも生えた。これには揚羽達やギャラリーの大和達も驚きを隠せなかった。

 

『ええええええええっ!?』

 

「全員、失格じゃ」

 

「はやっ!」

 

一分も経たずに全員を驚かせた結果に吃驚する王。

 

「旅人さん、それ、本物・・・?」

 

「本物だぞー」

 

緩慢的に揺らす尾に燕と翔子が確かめたい気持ちで近づいて触ってみた。

 

「あ、すっごいフワフワでモコモコだ」

 

「・・・・・温かい、抱き枕にしたい」

 

抱き枕の単語で辰子が動き出して、尾をむぎゅっと抱えた矢先に至極幸せそうに顔を緩めて夢の中に旅立った。

 

「てか、驚くの早すぎだろ」

 

「驚かずにはいられないでしょっ!」

 

「そ、そうです!」

 

「まさか、そんな姿になれるなんて知りませんでしたし」

 

「いきなり見せつけられる私達の気持ちを分かってほしいものよ」

 

「だから言っただろ。必ず驚かせてみせるとっておきのがあるって。というか、第一次世界大戦と第二次世界大戦時の俺の姿知ってるだろうに」

 

見たことがないから!って全員にツッコミされて深いため息を吐いた王。

 

「つまらないな。まだ驚かすとっておきのがあるのに」

 

「因みにどんな?」

 

「こんなのだ」

 

王がそのままの姿で皆の目の前でみるみる内に小さく、幼児の姿になったのだった。

 

「どうだ?」

 

「か、可愛いですっ!」

 

「そんなことができるのね・・・」

 

「世界はたまに気を活性化させて若くなる人間がいるほどだからな。最近の知り合いだとドイツの中将・・・ああ、そこにいるクリスチアーネ・フリードリヒの父親がそうだ」

 

「何と、お父様はそんなことが出来るのか」

 

「あくまで一時的だ。俺はこの姿を自由に自分の意思で変えることも戻ることもできる」

 

燕が小さくなった王を抱えて驚嘆の念を漏らし、辰子が王の頭を撫でて愛でる。小雪と京も触りたいと小さな身体を抱える。

 

「子供の頃の王様、可愛いですね」

 

「尻尾がもふもふ~♪」

 

「お持ち帰りしたいっ」

 

「ふふ、悪戯して楽しむのも悪くない。だが、何故他の王達にも教えなかった?」

 

「こうなるだろうから教えなかったんだよ!」

 

黙ってみているほど大人しくない百代達も加わり、揉みくちゃにされる王の叫びに大和達は同情した。

 

「疲れた・・・・・」

 

数分後、元の姿と大きさに戻って四つ這いで疲労困憊の雰囲気を醸し出す王がいた。桃香達は風呂に入りに行ってこの場にいない。そんな王を尊敬して慕っている大和達から物珍しそうに視線を送っている。

 

「旅人さんが疲れるところ始めてみた」

 

「精神的にだよね。お茶、飲むか旅人さん?」

 

「飲む」

 

甲斐甲斐しくお茶をコップに淹れて手渡してくる一子から受けとる。

 

「・・・・・あー、美味い」

 

「旅人よ。次に日本に来るときは我が九鬼財閥に泊まって欲しいぞ」

 

「ああ、そうさせてもらうよ。お前がいない間に英雄達と楽しく会話をしていよう」

 

「むぅ、意地が悪いぞ旅人」

 

「姉上の分まで義兄上の相手をさせてもらうので仕事に専念をしてください」

 

「自慢か英雄。我だって旅人と時間を共にしたいというのにっ」

 

「残念だったな揚羽さん。私は学生だから旅人とイチャイチャできるぞー♪」

 

いや、そんな頻繁に日本に滞在しないって。と心中の王の声など誰にも届くはずもなく悔しがる揚羽の頭を撫でる。

 

「そういや、翔子ちゃんと翔花ちゃん。久しぶりだな。あのパーティ以来だったか」

 

「・・・・・はい、お久しぶりです」

 

「お久しぶりです」

 

正座したまま深々と頭を垂らす二人の姿に雄二がきょとんとした顔になった。

 

「王様と知り合いだったのか二人共」

 

「・・・・・霧島財閥と蒼天は懇意の関係だから」

 

「私達の時間が空いている時だけ、必ず父が蒼天主催のパーティに参加させるから・・・・・」

 

「最近はしていないから最後に会ったのは七年前だな。成長したら大和撫子か和風美人になってるだろうなって霧島財閥の安泰を見据えてたよ」

 

「お言葉ですが王様。翔花はアンタが評価するほどの性格じゃあばばばばばばっ!?」

 

「黙ってて雄二・・・・・すみません。私の夫が変なことを・・・・・」

 

「おい待て!誰がお前の夫ぉおおおおおおおおっ!?」

 

何だこのカオス・・・・・。

 

「王様、気にしないでいいと思いますよ」

 

「うむ、これがこの二人の日常じゃからの」

 

「・・・・・コクコク」

 

「こんな光景を日常と断言するお前らはもう普通じゃないよな?」

 

お前ら、ちゃんとした恋愛ができるのか?とツッコミを入れてしまうほど明久達に不安を覚える王であった。スタンガンでダメージを負った雄二に目を向けて、突き出す手の平から淡い緑色の光のオーラを浴びせる。

 

「ん?痛みが引いていく。どうなってんだ?」

 

「久しぶりに見た!旅人さんの不思議な力!」

 

「あー、初めてされる奴は不思議がるよな」

 

大和達が懐かしむように、初めてみる王の癒しの力に明久達は目を丸くする。

 

「翔花ちゃん。好きな相手が何も言わないからって無闇に攻撃するのはダメだぞ。仮に二人が夫婦の関係になったとしても、今さっきみたいなことをし続けたらDVで訴えられて離婚されてもしょうがないんだからな」

 

「浮気したお仕置きでもダメですか・・・・・?」

 

「相手の話をしっかり聞く前提で、ちゃんと第三者も含めて調べてからでも遅くはないだろ。それ以前に自分の気持ちを暴力でぶつける行為は絶対にダメだ。もっと恋愛に関する本やドラマを見て勉強しろ。Aクラスに入れる優秀な成績の娘なら簡単だろ」

 

その話は姫路瑞希と島田美波にも向けられた。

 

「そこの二人もな?好きな人がいるなら、絶対先に怒って手を出すのは恋愛的にルール違反だ。そんなこと今後もすれば優しい相手に愛想尽かれて距離も置かれ、最後は告白もできずで一生を終える可能性あるぞ」

 

「「は、はい・・・・・」」

 

軽く恋愛に関して釘をさす王に自分は?と翔子はアピールする。目で同じだと訴えた矢先、思い出したように翔一が騒ぎ出す。

 

「お、そうだ!久々と言えば旅人さん、アレやってくれよ!」

 

「アレ?」

 

「空高く投げてくれ!」

 

「おーあれか。よし、いいぞ」

 

はしゃぐ翔一に参加する姿勢の面々に対して明久達は疑問符を浮かべる。

 

「何をするんですか?」

 

「人間ロケットだ。見てれば分かる」

 

参加する面々は靴を履いて参加しない者達の目の前に移動して集まる。そして王の両手に気が集束して巨大な光手に具現化した。

 

「うはっ!旅人さんそんなこともできるのか!」

 

「昔と違って身体が成長しているからな。飛び乗った瞬間に身体を丸めろ」

 

「わかった、行くぜ旅人さん!」

 

先陣を切った翔一が王に向かって駆け出した途中で跳躍しながら身体を丸めれば、王が組んだ巨大な手で足場を作り、手の平に乗った翔一を発光させながら夜天の上空へと打ち上げた。

 

「いやっほおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉっ!」

 

光る弾丸のごとくどこまでも飛んでいくクラスメートに明久達は目を大きく見張った。

 

「旅人さん、次アタシ!」

 

「よーし、こい!」

 

「わーい!」

 

どんどん空へ打ち上げられていく人の中に英雄と揚羽もいた。凄いけどこんなことして後で大丈夫なのかと心配する明久は、参加していない大和に尋ねた。

 

「大和は参加しないんだ」

 

「もう子供じゃないからな」

 

「いやいや、そいつは単純に高所恐怖症なだけだ」

 

「なっ!高いところは苦手じゃないですよ!」

 

「なら、ウェルカム。風間ファミリー全員打ち上げロケットだぞ?」

 

「しまった!?え、いつの間に、ちょ、まっああああああああああああっ!!!」

 

大和も打ち上げられてしまった。

 

「あのー王様。この後どうやって受け止めるんですか?」

 

「こうするまでだ」

 

王の全身から神秘的な力が迸る中、六対十二枚の金色の美しい翼に真紅の髪が金色に、瞳が翠と蒼のオッドアイに、最後は頭上に輪っかが浮かぶ出で立ちに様変わりした王が大きく翼を広げては、落ちてくる翔一達を包んでいる発光が翼の発光と磁石のようにゆっくりと引き寄せられる。

 

「旅人さん、天使になってる!?」

 

「教科書や写真しか見たことが無い姿だ!」

 

「格好いい!」

 

「ステキ!」

 

無事に地上に降り立った翔一達が王の姿に感動と愕然の声を漏らす。最後に大和を受け止めて人間ロケット遊びは終わったところで、戦意を露にする百代が力強く拳を構えて臨戦態勢を王の前に取った。

 

「旅人、その姿で私と勝負をしてくれ!」

 

「今夜は揚羽を優先するって言ったろ?」

 

「ならば、我も交じれば問題はないだろう」

 

参戦の意を示す揚羽も顔から喜々の色を浮かべていた。

 

「二回も世界大戦を終結させた生きた伝説。その姿となっているお前と闘えるなら我とて異論はない」

 

「元も含めて四天王が二人か。悪いが俺と戦うにはまだ戦力が不足しているぞ」

 

「―――なら、私も参加させてもらおうか」

 

どこからともなく現れた金の瞳が鋭く、執事服を着こんだ金髪の初老の男性。

 

「ヒュームか」

 

「久しぶりだな旅人。この時を待っていたぞ」

 

「蛇のように執着してたのかよ。百回以上負け越しているのに」

 

「何時までも調子に乗るなよ。今度は俺が勝つ」

 

「調子に乗るな、か・・・・・思いあがるなよ?」

 

翼を動かしたかと思えば、境界線を描くように地面に振り落とす。誰もが知る鳥の羽、翼だったらあり得ない斬撃の痕跡が深々と両者の間に刻まれていたのだった。

 

「―――俺の翼の切れ味は人体も容易く真っ二つにもできる。下半身と別れることのないよう、気を付けるんだな」

 

 

 

大和side

 

刃と化した十二枚の翼を鋭く振るいだす旅人さん。姉さん、九鬼揚羽さん、ヒュームさんは鋭利な翼をかわしながら懐に飛び込もうとするけど、他の翼がそれを邪魔して中々距離が縮まらない。旅人さんは一歩も動かず翼を動かすことに専念してて不動明王のごとくだ。

 

「ふむ、二人はともかくヒュームもてこずっておるのか」

 

「強いのですか?」

 

「旅人を除けば百代に対抗できうる稀な奴じゃよ。三人がかりでも一撃も入れられんということは

 それほど翼に警戒しておるし、振るう度に旅人は確実に急所を狙っておる。同時に二つ以上もな」

 

見ていて冷や冷やするわぃ、と理事長が旅人さんの戦いに説明してくれた。

 

「どうした不良執事に四天王。勝負を吹っ掛けておいて逃げるだけが自慢か、話すらならないぞ」

 

「くっ、このぉっ!」

 

「深追いはするな百代!」

 

シビレを切らした姉さんが静止の声を無視して無理矢理前へ飛び込んだ。突き出される翼に掠ったり斬られたりしても、一直線に旅人さんへ接近する。その勢いが功を制したのかあと一歩のところまで進めた姉さんだったけど、旅人さんの足元の地面から、鋭利な翼の突起が飛び出して姉さんの腹部を突き刺さった。

 

「姉さん!?」

 

「いや、一瞬で翼の先端を掴み防ぎおった」

 

理事長の言葉通りだった。押し戻された姉さんが宙に放り出されると、空中で体勢を立て直して体に傷一つない姿で立ち上がった。顔に嫌な汗を浮かべてだ。

 

「おー、やるな」

 

「今のは本気で度肝を抜かされたぞ旅人!死ぬかと思った!」

 

「俺は殺す気で戦ってるんだが?」

 

「―――――」

 

あの人から殺すなんて言葉が口から出された姉さんは一瞬絶句したと思う。

 

「俺の戦いは常に殺し合いばかりだった。故に命を懸けた決闘ではないままごとに負けることは絶対にない」

 

「・・・・・この勝負すらままごとだというのか」

 

「じゃれてくる猫と遊んでいる程度でしか思ってないからなぁ。実際、俺はちっとも本気すら戦ってないし、さっきからこの場から一歩も動かされていないぜ。まず俺を動かすことから頑張ろうか」

 

あからさま挑発に姉さんの顏から表情が消えた途端。今まで見たことが無いぐらい真剣な顔つきで・・・・・。

 

「川神流・星殺し!」

 

いきなり大技を繰り出した!巨大な気のビームが旅人さんに向かって伸びるけれど、蠅や蚊を払うように一翼で夜天の彼方へ軌道を反らした。その瞬間、九鬼揚羽さんとヒュームさんがいつの間にか至近距離まで接近していた。

 

「ようやく近づけれたぞ、旅人!」

 

「ジェノサイド・チェーンソー!」

 

二人が繰り出す超強力な一撃が炸裂!と思ったがまた翼で軽々と防がれただけでなく四角から迫った翼に突き飛ばされた。あの翼、かなり厄介だ。旅人さんの超人的異常なまでの反射神経も凄すぎて三人がかりでも手も足も出せないでいるぞ。

 

「くっ、守りが堅すぎる!」

 

「・・・揚羽さん、ヒュームさん。頼みがある。あの男に一矢を報うために」

 

「ほう、貴様何を考えている?」

 

「・・・・・お前の頼みとやらは何だ」

 

姉さんが二人に声を殺して話を持ち掛けた。対して旅人さんは、離れているのに聞こえているのか楽し気に口を吊り上げてた。そして話を終えた三人が構えた。

 

「行くぞ、百代」

 

「お願いします!」

 

高らかにその場で跳躍した姉さん。何をするんだ?見守る俺の目の前で九鬼揚羽さんは自分の目前に落ちてきた姉さんのピッタリとくっつけた足の裏に目掛けて、力のあらん限りに旅人さんの方へ蹴り飛ばして見せた。

 

「なるほど、実際思っているより速く来るものだな。だが、それでも自分から斬り刻まれに来る自殺願望者そのものだぞ?」

 

全ての翼を動かして強襲する旅人さん。姉さんは自分の身を守ろうとはせず、背後から迫りくる光のエネルギー砲に足の裏から押し出される形で、さらに速度を上げて旅人さんの翼の嵐に身体が刻まれても、血を流しても無理矢理突破してみせてとうとう旅人さんの懐に飛び込んでいった!

 

「川神流・富士砕き!」

 

「っ―――――!!!」

 

直ぐに翼を引き戻す前に姉さんの拳が旅人さんの腹部に突き刺さった。その勢いは止まらず旅人さんを吹き飛ばした。途中、翼で地面に突き刺し、踏ん張る足も数メートルも地面を削って溝を作る。

 

「どうだっ!動かせたぞお前を!」

 

初めて一撃を入れた上に不動の姿勢を崩した達成感。喜びと不敵な物言いの姉さんは笑みを浮かべて押し黙っていた旅人さんに一矢を報いた。

 

「・・・・・中々の威力だが技のネーミングは直せ。実際富士山を砕いたわけじゃないだろう」

 

「百代の一撃を受けて尚、堪えた様子ではないとはな・・・・・」

 

「ダメージは通ってるぞ。ゲームのHPの数値だと10000以上減っただろうな」

 

お腹に手を添えながら何でか嬉しそうに笑う旅人さんの全身から放電が迸り始めた。

 

「だから久しく感じなかったこの痛みを与えてくれたお前達の頑張りを報いてやろう。

 俺のたった一度しか見せない全力の姿で倒してな」

 

青白い電気が旅人さんの何かに呼応するかのように激しくなり、そして青白い雷の雷鳴と光と共に包まれたあの人の姿が一瞬だけ見えなくなって、その後俺を含めて皆が呆然としていただろう。

 

旅人さんは輪っかと長髪、瞳に翼が全部青白くなっていて、輪っかと背中に幾重の輪後光を背負うように浮かべている。雰囲気もさっきとは異なっていた。怖いんじゃなくて口では言い表せない神聖な存在感を放っているんだ。

 

「神速」

 

次の瞬間。旅人さんの姿が消え失せた。どこに行った?と肉眼で探してみたら、姉さん達が突然に空へと飛ばされて驚いた時に、夜天から青白い稲光と共に落ちてくる轟雷に反応をする暇もない三人に直撃した。

 

稲妻と一緒に落ちてきたと思しき旅人さんが地面にクレーターを作って着地して、落ちてきた三人を翼で受け止めて戦いを終わらせた。

 

「蒼天に手を出すな・・・・・」

 

昔の歴史の人が体験して遺した言葉を噛みしめ、その理由の一端だけでも分かった気がして納得してしまった。旅人さんに勝てるような人間は恐らくこの世界にはいない。手を出したら最後、破滅が待っているから・・・。

不思議な力で三人の傷を全て治して、せっせと戦いの後の処理し始める旅人さんを見て決して怒らせないようにしようと肝に銘じた。

 

「・・・・・理事長、旅人さんを倒せますか?」

 

「無理じゃな。例え若さを取り戻せても勝てる気が微塵も感じん」

 

風間ファミリーのもう一人の父親のような頼りになる兄のような存在。実際は蒼天の王で姉さんより強い世界最強の、世界の王・・・・・。

 

明久side

 

 

大和が慕う王様が凄すぎて何も言えなくなった。ずっと戦いを見ていたから少し喉が渇いて一子にお茶を求める。

 

「一子、お茶ってあるかな」

 

「え?あ、うん、冷めちゃってるけどいい?」

 

「いいよ」

 

「すまん、俺も頼む。別次元の戦いに開いた口が塞がらなかったからな」

 

「そうじゃのぉ」

 

「・・・・・逆らってはダメ」

 

「うん、そうよね。それ以前に外国の王様だもんね」

 

口々に王様をあの学園のババア長よりランク付けして、僕達は失礼のないようにしていこうと心に決めた。

まあ、当然だけどね。

 

「しっかし、ずっと意識してみていたから小腹が減ったな」

 

「だね。なんか買いにでも行く?」

 

着替えの衣類や替えの制服しか持ってきてない僕達はおやつなんて持ってきていない。秀吉とムッツリーニも同伴すると立ち上がる雄二と僕と一緒に立ち上がったら。

 

「あ、それなら私実は、軽い物をたくさん作ってきましたよ」

 

鞄から取り出すバスケットに納まっているサンドウィッチを見た僕等は、彼女の料理の恐ろしさを知る僕等の本能的な警告音が五月蠅いほど鳴ったのは言うまでもない。

 

「うげっ!?」

 

「風のごとく―――!」

 

「待て、逃げてはいけない!間違ってもあれは旅人さんに食べさせちゃならないんだ!」

 

「あ・・・!」

 

そ、そうだったっ!?ここに王様達もいるんだ!姫路さんの料理の被害者になったら国際問題が発展しかねないよ!

 

「む、どうしたのだ直江大和よ。あの者のサンドウィッチに何が問題でも?」

 

「・・・・・論より証拠だ英雄。食ってみればわかる」

 

「ふむ、準。あなたも試しに食べてみてください」

 

「おいおい、大和達があんな焦った表情を見れば理由が何となくわかるのにか?」

 

「骨は拾いますよ」

 

Sクラスから生贄が捧げだされる二人が決まって、一mmも悪気のない無垢な笑顔でサンドウィッチを差し出す姫路さんに伸ばす手が三つ・・・・・三つ?

 

「食べていいなら俺も貰うぞ」

 

『―――――っ!?』

 

い、いつの間にか片手で二つも摘み取った王様が二人にまじっていた!?大和達も僕達も愕然で目を大きく見張って、止めようと口を開きかけたけど僕等の静止より先に大きな口で一気にサンドウィッチを丸ごと食べてしまった!

 

「た、旅人さぁあああああんっ!?」

 

「お、王様ぁああああああっ!?」

 

「ん?なん・・・だ・・・・・」

 

あ、あああ・・・・・!王様の顔が段々死んでいっている!顔色が悪くなって仕舞には咀嚼する間が無言になってそれがとてつもなく怖すぎる!眉根が寄って険しい表情な王様を大和達も恐々してる!

 

「・・・・・これ、中身は何だ」

 

「えっと、お口に合いませんでした・・・・・?」

 

「俺の質問に答えくれるか?」

 

追究される姫路さんは緊張の面持ちでサンドウィッチの中身を一つ一つ王様に教えていった。

うん、絶対にサンドウィッチに合わないような食材と調味料のオンパレードの暗黒料理の内容に、姫路さんの料理の凄さを知らないSクラスの皆もかなりドン引きしている。

 

「・・・・・味見はしたのか?」

 

「え、あの、夕飯を食べた後なので味見はしてません。その、体重が増えてしまいますので」

 

「・・・・・今まで注ぎ込んだ素材と調味料が美味しくなる思ってるだろう理由を教えろ」

 

「どれも体にいい栄養なのでたくさんの美味しい味を楽しんでもらいながら食べてもらいたかったんです」

 

王様、姫路さんは悪気がないんだよ!ただちょっと、そうアレなだけなんだ!アレだけなんだよ!

 

「・・・・・怒る気力がもうねぇわ」

 

姫路さんの答えに物凄く呆れ果てた顔で、王様はバタンと床に倒れた。その瞬間、この場の空気が異様なほどに静まり返ったところでムッツリーニが王様の手首に触れて脈を図った。

 

「・・・・・脈が止まってる」

 

その報告に大和達が弾けるように焦燥に駆られた。

 

『い、急いで救急車ぁあああああッ!?』

 

「冬馬!今すぐ葵紋病院の集中治療用の部屋を確保するのだ!」

 

「言われなくてもわかってますよ!」

 

「あ、久しぶり父さんと母さんに皆・・・・・そっちは綺麗な花畑で宴会?俺もそっちに行くよ」

 

「大和不味いよッ、王様が三途の川を渡ろうとしてるぅううううう!」

 

「旅人さん待って!その川を渡っちゃダメだよ!引き返してきて!渡ったら戻れなくなっちゃう!」

 

懸命に声を掛ける皆や手で必死に心臓マッサージをする僕。こうなると静止は五分五分だ・・・・・!

 

「何だお前ら?そっちに行くなだと?あんなに楽しそうに懐かしい皆がいるのに―――――はっ!?」

 

よしっ、蘇生成功だ!

 

「・・・・・何だ、ここも夢か」

 

「いえ、間違いなくリアルだよ王様」

 

「・・・・・もう一度食ってもいいか?」

 

『ダメに決まってるでしょうがっ!?』

 

この王様、生きるのにもう辛くなっちゃったの!?

 

「・・・・・サンドウィッチで死にかける王なんて毒で死んだ過去の王より間抜け過ぎんだろ」

 

「いえ、知ってたのに止められなかった俺達が悪かったです」

 

「・・・・・済まないが身体が麻痺して動けねぇ。俺が寝る場所に運んでくれないか」

 

姫路さんの料理を食べた後遺症が王様にも表れるなんて。あの最強の王様を殺しかけた姫路さんの方が、実は最強だったりするんじゃないかって運ばれていく王様を見ながら僕は思ってしまった。

 

だけど一番大変だったのはこの後で、王様の容体がおかしいことを僕等に追究する風呂から上がった他の王様。姫路さんの料理が原因だと知るや否や、怒りはしなかったけれど国際問題にしたくなかったら生涯死ぬまで調理道具に一切触れるなと厳命したのだった。料理ができないことに委縮しながら反発した姫路さんだけど、王様を殺しかけたサンドウィッチを手に持つ北の王様が南の王様に姫路さんを拘束してもらって彼女の口に無理矢理突っ込んで食べさせた。

 

「昔から国を築き上げ国と民を支え守ってきた男と、ただ成績が優秀なだけの平凡な小娘。価値観で選ばせればどっちがいいか選ぶまでもないでしょう?」

 

「―――ッ!?」

 

「食材と調味料の組み合わせや配合、味すら考えず幼稚な子供のようにバカみたいに混ぜ合わせただけの料理なんて、腐ったゴミ以下以外何物でもないわ。ああ、もしかして底辺のクラスに配属されたのは成績じゃなくて天性の料理の下手さだからじゃないかしら?」

 

冷笑と嘲笑が混濁した笑みを浮かべる北の王様。無理矢理自分で作ったサンドウィッチを食べさせられた姫路さんはその後、王様の後を追うようにして倒れた。

 

「理事長。こんな馬鹿な娘が今後とも出ないように今年中に生徒には学食で食べる制度にしてちょうだい。その費用と設備の資材は蒼天が用意するから」

 

「うむ・・・・・わかったのじゃ」

 

相手が王様だから逆らえない理事長。四人の王様達は自分達が寝る寝室へと向かった。

多分だけど、心配だから一緒に王様と寝るかもしれない。

 

「英雄、救急車が到着したようですよ」

 

「無駄にならずに済んだな。丁度良く、容態が悪い者がここにいるのだからな」

 

運び出される姫路さんを僕等は見送るしかできない。それからだけど、姫路さんが入院している病院に両親が現れて翌日なんとか担任したその日に蒼天と日本政府から手紙が届いたようだ。

 

日本と蒼天の国際問題に発展しかけた責任として、姫路さんが弁当を作れなくなった。もしも仮に弁当や外で料理を作ったら姫路さんだけ国外追放、蒼天に身柄を預けられ監視される生活を強いられることになるそうだ。その話を学園祭二日目の今日、まだ具合が悪そうな姫路さんから教えられた。



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学園祭最終日

「・・・・・うぁー、まだ気持ち悪い・・・・・」

 

すこぶる顔色が悪い王が起きて開口一番の発言が体調不良の訴えだった。その場にいる桃香達も心の中では心配で堪らないでいる。今で過ごしてきた中で始めて王が体調不良を起こしたのだ。

 

「重症ね・・・・・ここまで弱弱しいあなたを見たの生まれて初めてだわ」

 

「毒を盛られたわけじゃないのに一体どれだけ不味いサンドウィッチを作れたのか逆に興味が沸くわ」

 

「愛紗ちゃんの時は苦笑いだけで済んだのにね。春蘭さんといい勝負だったし」

 

「それを言うならあなただって失敗作の料理を作ったではないか!」

 

一部、失敗料理を作り出した話をされて言い合いを始め出したが、気分が悪い王の顔が険しくなった。

 

「悪い、今料理の話をしないで静かにしてくれるか」

 

と、しょんぼりする二人を他所に月が労りの言葉を述べる。

 

「あの、今日は安静でいた方がよろしいのでは?」

 

「そうしたいが、午後からやることがあるからな。指定の時間まで寝て回復を図る」

 

「大丈夫なの?余計に辛くなるだけじゃない?」

 

「昨日よりはマシな方だ。なんとか大丈夫」

 

「そう。無理はしないでよね」

 

「最初から迷惑をかける前提にお前らを頼りにするからな」

 

「ある意味こんな状況になる前提なら、四人の王の設立も考えたあなたの配慮は間違いなかったわね」

 

華林の指摘に王は溜め息を吐いて首を横に振った。

 

「・・・・一人の王を四人の王が協力する、何が悲しくて不味い料理を食って倒れてお前達に看病されなきゃいかないんだ。こんなの俺が望んでいた支え合いと違うわっ」

 

「「まぁ、確かに・・・・」」

 

「「「「それはそうでしょうね・・・・・」」」」

 

自分達も王を看病をすることになろうとは想像もしていなかった。それも食中毒で倒れた王をだ。

 

「王様、具合がまだ悪い状態で何とかなりますか?」

 

「何とかしなくちゃならないのが大人の仕事だ。燕、総合点数を落としとけよ。あのババアの尻拭いをすることになったんだからな」

 

「う、わ、わかりました」

 

さり気無く尻を触る燕。叩かれた影響で痛みが引いてももう叩かれたくない一心で大会を無事に終わらせようと決意するのであった。

 

 

 

 

 

燕side

 

清涼祭二日目突入。そして、私とハーデス君の召喚大会決勝戦の日でもある。朝一で言われた通り点数を低めにしてからハーデス君と屋上で時間になるまで寛いだ。私達のいない穴は他の王様達が埋めてくれて物凄く助かった。

そして時間になると放送機器が鎮座している屋上を後にし、教室に顔を出してクラスメート達の声援を受けながら特に会話もなく、黙々と会場への道を歩く。

 

「ほー。随分と観客が多いね」

 

『・・・・・決勝戦はこうではなくちゃな。そしてこの状況を悪用する輩と戦うわけだ』

 

観客席は満席で、この日を待ちわびていることが良く分かる。

 

「ハーデス君、優勝しようね」

 

『・・・・・当然だ』

 

「死神君と松永さん。入場が始まりますので急いでください」

 

私達の姿を見つけた係員の先生が手招きをしている。

ハーデス君と共に先生に近づきその時を待った。

 

『さて皆様。長らくお待たせ致しました。

これよし試験召喚システムによる召喚大会の決勝戦を行います!』

 

聞こえてくるアナウンスは今まで聞いたことのない声だ。

この手のプロを雇っているのかもしれない。

世間の注目を集めているこの学校じゃ。十分考えられることだろうね。

 

『出場選手の入場です!』

 

「さ、入場してください」

 

先生にポンと背中を叩かれる。ハーデスと私は頷き合って、観衆の前に歩み出た。

 

『二年Fクラス所属・松永燕さんと、同じくFクラス所属・死神・ハーデス君です!

皆様拍手でお迎えください!』

 

盛大な拍手が雨のように降ってくる。随分と御客が入っているみたいだ。

 

『なんと、最高成績のAクラスを抑えて決勝戦に進んだのは、

二年生の最下級であるFクラスの生徒コンビです!

これはFクラスが最下級という認識を改める必要があるかも知れません!』

 

ふふっ、嬉しいことを言ってくれるね。何時にも増して高揚感が湧くよ。

 

『そして対する選手は、三年Aクラス所属・夏川俊平君と、

同じくAクラス所属・常村勇作君です!皆様、こちらも拍手でお迎えください!』

 

コールを受けて私達の前に姿を現したのは、昨日営業妨害をしたと言う例の先輩コンビ。初めて見るね。

 

『出場選手が少ない三年生ですが、それでもきっちり決勝戦に食い込んできました。

さてさて、最年長の意地を見せることができるのでしょうか!』

 

同じように拍手を受けながら、二人はゆっくりと私達の前にやってきた。

 

『それではルールを簡単に説明します。試験召喚獣とはテストの点数に比例した―――』

 

アナウンスでルールが説明が入る。もう十分知っていることなのだけれど、先輩達はそれを無視して私達に話しかけてきた。

 

「よう、Fクラスコンビ。あんまり調子に乗っていると、痛い目に遭うぜ?」

 

「そうそう、せっかくお前らが公衆の面前で恥をかかないように、

という優しい配慮をしてやったというのにな。

Fクラス程度のオツムじゃあ理解できなかったか?」

 

・・・・・うーん、直接何かされたわけじゃないんだけどねぇ。

 

「ねぇ、一つ聞いてもいい?」

 

「ぁんだ?」

 

「教頭先生に協力している理由はなに?」

 

そう聞くと、坊主頭の上級生は一瞬驚いた顔をした。

 

「・・・・・そうかい。事情は理解してるってコトかい」

 

「いやいや、殆ど知らないよん。でも絡んでいるのは把握しているかな?それでどうなの?」

 

「進学だよ。うまくやれば推薦状を書いてくれるらしいからな。そうすりゃ受験勉強とはおさらばだ」

 

「へぇそうなんだ。教頭先生が推薦状を書くなんてそんなことを・・・そっちの人も同じ理由?」

 

「まぁな」

 

『・・・・・』

 

ハーデス君に頷いて会話を打ち切る。決定的な証拠が私達にはなかったからこれは思わぬ収穫だよん。

 

「そんな二人に忠告だよん。この学校に蒼天の王様が来ているよ?」

 

「は?何を言ってるんだ?」

 

「決勝戦を見る為に大会にも顔を出しているかもしれないから、もしも王様にガッカリさせるようなことをしたら、王様は全力で原因を追究するために動くだろうね。そして最後、教頭先生と二人が問題を起こしたことが分かったら、書いてもらう推薦状が退学処分に代わってしまうかも」

 

「待て、お前、何を言って・・・・・」

 

『それでは試合に入りましょう!選手の皆さん、どうぞ!』

 

説明も終わり、審判役の先生がワシらの間に立つ。

 

「「「『試獣召喚(サモン)!』」」」

 

掛け声を上げ、それぞれが分身を喚び出した。向こうの装備はオードソックスな剣と鎧。

高得点者の召喚獣らしく、室はかなり良さそうなものじゃった。

 

                

               『日本史』

 

 Aクラス 常村勇作  209点 & 197点  夏川俊平 Aクラス  

 

 

 

Aクラスに所属しているだけのことはあるのじゃ。じゃが、姉上や霧島より劣っておる。

普段勉強に力を注いでいないのかもしれんな。

 

「変なこと言いやがって、俺達を動揺させたってそうはいかないぜ」

 

「どうした?俺達の点数見て腰が引けたか?Fクラスじゃお目にかかれないような点数だから無理もないな」

 

誇らしげにディスプレイを示す上級生達。反論はない。確かに誇ってもよい位の点数だ。この学園の生徒だったらね。

 

 

               『日本史』

 

 Fクラス 死神・ハーデス 1点 & 229点  松永燕 Fクラス

 

 

「他の教科は10点でこんな感じだけどどうかな?」

 

『・・・・・問題ない。予定通りにやるぞ』

 

「了解!」

 

いっちょ暴れ回りますか!先に動いたのは私の召喚獣。Sクラス並みの高得点保持者だけど装備は軽装な分、動きが速い。

 

「夏川!こっちは俺が引き受ける!」

 

モヒカン頭の上級生が私の正面に立った。動き出すのが遅れたせいで、私の召喚獣にかなりの接近を許している。

 

『・・・・・こい』

 

「馬鹿が、たった1点の点数の雑魚に三年の俺が負けるわけねぇだろうが!」

 

ハーデス君の召喚獣と相手をする、正面から坊主頭の上級生の召喚獣が剣を構えて突っ込んでくる。動きが速い、けど―――。

 

『・・・・・動きが雑だ』

 

阪神を右にずらし、小さな動きで相手の身体を避けながら数回トンファーブレードを振るって点数を減らすハーデス君。

 

「っく、この・・・・・!」

 

そのまま背中を向けそうになった相手に更に畳みかけた後、振り向きざまに横凪ぎの一撃を見舞ってきた。その一撃を小さく屈んでかわし、次の瞬間には懐に飛び込んで擦れ違い様に斬り付けた。

 

「なんだテメェ、召喚獣の動きが尋常じゃねぇぞ・・・・・!」

 

「そりゃそうだよ。だって私達の召喚獣は蒼天の召喚獣だよ?」

 

語気を荒くハーデス君を睨みつける坊主君に、この場に居る全員も聞こえるように話を続ける。

 

「蒼天の学校もこの学校も大差ねぇだろ!」

 

「それが大アリなんだよん。この学園にはないシステムが蒼天では導入されているんだよね」

 

勿体ぶりながらモヒカン君の召喚獣と相手取りながら説明する。

 

「蒼天の学校、天下学園の召喚システムには生徒の総合点数で特殊能力や召喚獣の装備を買ったり作ったりすることができるんだよ?」

 

「は?何だよそれ、蒼天の学校はそんなことして何になるんだ」

 

「成績の向上と学園生活を楽しくしてもらいたいからだよ。この神月学園は各科目強化の点数が400点オーバーで特殊能力を使えるけど、蒼天の学校は召喚獣の装備に付与されている特殊能力を使うことができる。ハーデス君の場合は―――」

 

坊主君の攻撃をわざと当たると、一度フィールドから消えたように見えるけど、彼の召喚獣の真後ろに再び姿を見せた。

 

「蜃気楼。相手の視覚情報を誤認させて一度の戦闘に一度だけ絶対に回避できる、骸骨のマスクの効果」

 

ハーデス君の召喚獣のトンファーブレードが危険な赤い光を放つ。

 

「一撃必殺。相手の急所に攻撃が当たればどれだけ高い点数だとも一撃で倒すことができる、トンファーブレードの効果」

 

そして最後に―――。フィールドから姿が見えなくなったハーデス君の召喚獣は、坊主頭の首を斬り飛ばしながら私の召喚獣の後ろに姿を現した。

 

「神速、三秒間だけ絶対に回避できない速度を有することができるハーデス君の召喚獣自身に付与した特殊能力だよ」

 

黒いマントの効果は・・・言わなくてもいいか、もう勝っちゃったしね。

 

「ず、ズルいぞ!反則だ!俺達にないチートな能力を使って今まで勝ってきたんだろ!?」

 

「今回が初めて使ったんだけど?それに、今回の大会に特殊な戦いをしてはならないルールはないよね?」

 

私自身の能力も発動する。召喚獣が突き出した手の平から粘り強い糸を放出させて、モヒカン君の召喚獣を縛って行動不能にする。

 

「ちくしょう!こんなの負けても認められるかよ!?」

 

「実力主義の蒼天の学校でそんな言葉を言う人は、負け犬の遠吠えって

嘲笑われちゃうよ?純粋に負けたーって楽しく笑わないと」

 

「そんな晴れやかにできるかぁっ!?」

 

じゃあ、一生ひねくれたままな人生を過ごすことになるね。なんてことを心に留めながら相手の点数を0にしたのだった。

 

『松永・死神ペアの勝利です!』

 

見事、決勝戦は私達が勝利を掴み取ったのでした!うーん、予想通りの展開だね。

 

 

―――☆☆☆―――

 

 

大和side

 

「優勝おめでとう!松永さん、ハーデス!」

 

授賞式と簡単なデモンストレーションを終えた松永さんとハーデスを迎え入れる俺達。

正直、二人の召喚獣の能力、蒼天の召喚システムには度肝抜かれた気分だった。

召喚獣の装備に特殊能力が付与されて点数を減らさず何度でも使える仕様には今後の試召戦争には、

大きくパワーバランスが変わるかもしれない。

 

「ハーデス」

 

『・・・・・なんだ?』

 

「この学校にも二人のような点数で装備を買えるシステムが導入されるのか?」

 

『・・・・・王に直接聞け』

 

どこにいるのか分からない旅人さんからか。姉さんに探してもらおうと携帯に手を伸ばしかけた。

 

「お前達、話し込んでいる場合じゃないぞ!Fクラスの生徒が優勝した

切っ掛けで客が増えて大変なんだ!」

 

と、教室の方からクリスが掛けてきた。おっと、そうだったな。

 

「二人共、残りの時間は喫茶店を手伝ってくれよ?」

 

「分かってるよ」

 

『・・・・・了解』

 

 

―――数時間後。

 

 

『ただいまの時刻をもって。清涼祭の一般公開を終了しました。

各生徒は速やかに撤収作業を行ってください』

 

「お、終わった・・・・・」

 

「さすがに疲れたのう・・・・・」

 

「・・・・・・(コクコク)」

 

放送を聞いた途端に、明久達はその場で座り込む。俺も疲労気味だ。

にしてもハーデスは疲れていないのか、さっさと撤収作業を始めている。

何て体力バカなんだ・・・・・。

 

「しっかし、優勝していない俺達にこの腕輪を貰っていいのか?」

 

「ワシは別に腕輪なんか必要ではないからの。ハーデスも腕輪を有効活用してくれればと

思って渡したんじゃ」

 

「何だか悪いなぁ・・・・・」

 

腕輪は、三つの内の二つは坂本と明久の手にある。

ハーデスは召喚獣同士の融合ができる腕輪の方を

選んだみたいだ。まるで最初のポ○モンを選んだ感じだな。

坂本は火で、明久が草、ハーデスは水と感じで。

 

「松永さんは良いの?せっかく優勝したのに」

 

「ハーデス君と優勝できたこそが良い経験と思い出だよ。今日はそっちの方が楽しかったからいいの」

 

朗らかに、本当に楽しかったようで綺麗な笑みを浮かべた。

 

「・・・・・何だろう。今、ハーデスに殺意が湧いたよ」

 

「・・・・・許すまじ」

 

明久にムッツリーニ。お前ら、なにを言っているんだよ・・・・・。

 

「まあ、貰えるもんはありがたく貰うぜ。これで次の試召戦争時で大いに活用してみせる」

 

「そうだね。僕も二体同時召喚の腕輪を使って頑張るよ」

 

Fクラスにアイテムが付与されて戦力がアップした。

ハーデスと松永さん無しで戦えばBクラスまでは余裕で倒せるはずだ。

 

『・・・・・全部、片付け終わった』

 

はやっ!?もう全部片付けたのか!あっ、本当だ。調理器具とか食器とかそういう

物以外殆ど片付けられている。

 

「お前達が勝ってくれたおかげで学園長も一先ず安心するだろう」

 

「そうだね。それじゃ雄二、学園長室に行こうか」

 

「学園長室じゃと?二人とも、学園長に何か用でもあるのか?」

 

「ちょっとした取引の清算だ。喫茶店が忙しくて行けなかったからな。

遅くなったが今から行こうと思う」

 

これで済めば一件落着だ。

 

「ならばワシも行こうかの」

 

「あっ、俺もついて行くぞ」

 

「・・・・・(クイクイ)」

 

「うん?ムッツリーニも来る?」

 

「・・・・・(コクコク)」

 

何だか増えてきたな。ハーデスの方を見ると行かない雰囲気が伝わる。まあいいか。

 

「取り敢えず(女装中)着替え直そう」

 

「そうだね。(女装中)着替えよう」

 

「ようやくだ。(女装中)元の服に着替えようぜ」

 

だが、そう問屋は卸せなかったようだ。

 

『・・・・・まだ許さん』

 

「「「もう許してくれ!お願いだからっ!」」」

 

俺達の男子制服を掴んでいるハーデスに懇願する俺達だった!もうこんな羞恥プレイは嫌だ!

 

 

 

 

仕方なく三人に制服を返したハーデスは屋上に燕と上がった。そこには待ち合わせていたかのように四人の王と愛紗が簡易の椅子に座っていた。

 

「お疲れ様。回収はできたようね」

 

仮面を外すハーデスは中央区の王として肯定した。

 

「お披露目も無事に済ませた。これで後顧の憂いもなくなったことだろ」

 

「それは良かっただろうけどいいの?蒼天の召喚システムのことを話しちゃったでしょ?」

 

「嘘から出た実って言うだろ。ま、嘘にはする気なんてさらさらないから問題ない。この学園にお前らにも来てもらったのはその話し合いをカヲルとするためだったんだよ。―――だというのに、カヲルのやつときたらよぉ」

 

ふかーいため息を吐く王に呼応するかのように他の王達も口出す。

 

「藤堂カヲルが開発した不良品の存在を欲望と野望を秘めた身内の輩に掴まれて姉妹校の存続の危機になった、なんてことになっていたなんて誰も思いもしなかったでしょ」

 

「表面上の報告書を鵜呑みにしちゃダメなんだって改めて感じました。これからも現場に赴いて直で確認しないといけませんね」

 

「そうね。今回のあなたの働きに無駄がないと知れて安心できたところなのだけど、藤堂カヲルをこのままにする気なの?」

 

「簡単にはするつもりはない。猶予を与えただけだ。また次も何か仕出かしたなら蒼天の王として懲戒処分を下す。異論は?」

 

問われた彼女達は「ない」と示す。ならばと王がマントの中から紙を取り出して手の中で燃やして灰にした。

 

「さて、次の問題だ」

 

「え、まだ何か?転覆を企んでいた教頭の人のことですか?」

 

「あんなのクビにすればいいだけだ。証拠も揃っているからな。俺が現時点で最も問題視しているのは―――さっきから盗み聞きしている奴の処罰をしなくちゃならないことだ」

 

 

 

「っ、気づかれたみたい」

 

「え、どうしよっ?」

 

「とにかく、ここから離れましょ」

 

 

 

「(・・・・・あっちもあっちだが、面倒くさいのから対処するか)。出てこい、クラウディオ」

 

虚空に向かって呼びかける王の言葉の後、少しして出入り口の物陰から銀髪の老執事が姿を現した。

 

「やはりバレてましたか旅人」

 

「最初からここにいたんだろ。大方この五人が屋上にいる間からずっとな」

 

「なっ、そんな最初からだと・・・!」

 

「愛紗が気付かないのも仕方がない。クラウディオは年の功でお前より強いだけだからな」

 

淡々と告げられた実力の差に押し黙る愛紗。敬愛している王が言うのだから事実であるとして、受け入れるのが家臣の務めだと自分に言い聞かせているのだ。

 

「最初から気付いているのにどうして敢えて正体をばらしたのかしら?」

 

「もう詰んでいる状況なのにどうして見苦しくしなくちゃならない?」

 

「清々しい理由ね。で、これからどうする?」

 

「まぁ、こうするしかないだろ」

 

王は一本だけ指を立てた。

 

「クラウディオ、昔の借りをチャラにしてもらうぞ」

 

「全て見聞していなかったことにすればよろしいのですね」

 

「お前達九鬼財閥が俺に作った貸しはデカい。このまま俺の正体を一切誰にも知らせることもなくこれからも変わりない生活を送れ」

 

反論は許さない、と真剣な眼差しでクラウディオを見据える王。九鬼財閥相手に貸しを作っていたことはどうやら他の王達は知らなかったようで、驚嘆の念を抱きつつ目の前で交わされる交渉を見守っていく。クラウディオの返事は意外にもあっさりだった。

 

「それがあなたの望みなら私から帝様に貸しを返済した報告をさせていただきます。よろしいでしょうか」

 

「構わん。わかってるだろうが理由も告げるな。紙で書いて教えるな。電子機器で知らせるも暗号文にしてもどんな方法でも誰一人俺の正体を認知させるな。いいな?特にヒュームと揚羽が一番面倒だ」

 

「かしこまりました。では、今後ともお付き合いをよろしくお願いいたします」

 

フッと目の前で消え失せた執事を見送り、王は思わず天を仰いだ。

 

「あー・・・・・面倒な種が増えたぁ・・・・・」

 

「少し、九鬼財閥に対する貸しが勿体ない気がしてならないのだけれど仕方がないわね」

 

「バレたら面倒過ぎることが発生するからな」

 

「他にも貸しは作ってないのかしら?」

 

「小さな貸しなら幾つか。大きな方は今使った。英雄と揚羽の命を守った貸しだ」

 

九鬼財閥の後継者を守った貸しは確かにデカいわねとやはり勿体ないと心中でため息を吐く華林であった。

 

 

ドォンッ!!

 

 

『・・・・・』

 

大砲の音が聞こえた。清涼祭の最後の幕に飾る打ち上げ花火は今現在、空に満天の火の花を咲かせ続けているが、妙に爆発音が違った場所で聞えてならなかった。

 

「気のせいよね?」

 

「この場に居る俺達が気のせいだろうと思うなら、そうなんだろ」

 

だがしかし、王達の考えを嘲笑うかのようなことが立て続けに起きる爆発音が、校舎から断続的に発生して、一体何が起きている!と目を丸くする王達のところに何かが飛んできて転がり落ちてきた。導火線に点火してる丸い玉であった。

 

「・・・・・これって」

 

「花火玉、だな」

 

「え、それって―――!」

 

ドォオオオオオオオオオオオンッ!

 

王達の視界が真っ白に染まった直後に屋上で綺麗な火花が咲いた。

 

その後―――。

 

「こいつらが元凶です」

 

「へぇそうなのか・・・・・こいつらなのかぁ~・・・・・」

 

「「っ・・・・・!(ガクガクブルブル)」」

 

「被害は?」

 

「教頭室と旧校舎が半壊です」

 

「まぁ、見て分かる通り見事にぶっ壊れてるな。俺の頭も見事なもんだろ?アフロだよアフロ。屋上にいたら何でか花火玉が飛んできてドカーン!って巻き込まれてこの様よ」

 

「・・・・・これからどういたしますか」

 

会場の裏で西村宗一郎の剛腕によって連行された現行犯の生徒二人に冷たい眼差しで見下ろす王。

 

「そうだな・・・・・理由はどうあれ蒼天の姉妹校の学園を破壊してしまった事実は許されない。よって坂本雄二はF組の代表から降格処分と観察処分者に、吉井明久共々精々壊れた学園の中の清掃作業を励んでもらおうか」

 

「はっ、かしこまりました」

 

「それともう一人、藤堂カヲルは生徒を御しきれなかった責任として一時蒼天に送還だ」

 

最後の処罰される名に明久達は目を見開いた。

 

「な、学園長もですかっ?いくら何でも理由がそれだけでは・・・・・」

 

「理由が他にもあるからそうするんだ。この二人も多いに関わっててな」

 

西村宗一郎の目がまた丸くなって信じられないように二人をまた見下ろした。

 

「それは藤堂カヲル自身の問題でその解決の為にこいつらも巻き込まれていたんだが、流石にやり過ぎだ。他の王も全員こんな髪型になってるぞ二人共。特に一人はものすごーく怒り心頭だ。家を潰され、家族諸共路頭に迷わされても当然だからな?」

 

「「す、すみませんでしたっ・・・・・!」」

 

「そういうわけだ宗一郎。後は厳重注意の名の下の拳骨を食わらせて終わらせろ。

俺がやったらこいつら死ぬから」

 

「は、かしこまりました。貴様ら覚悟はいいな?」

 

「「くっ、こうなったら逃げっ・・・・・!」」

 

「逃がすかぁああああああああっ!」

 

 

 

「あの、やっぱり学園長を懲戒処分にするんですか」

 

「一時は猶予を与える名目で許したが、学園の一部とはいえ破壊した生徒の行動に巻き込まれた王がいるからな。というか、俺達の中で華林が物凄っい怒ってたし。髪が滅茶苦茶な状態にされた上に、こんなこと仕出かした生徒とその生徒をお咎めなしにしようとする藤堂カヲルに」

 

「ああ・・・・・無言で震えていましたもんね。前半私情ですけど」

 

「私情だろうが何だろうが、逆らってはいけない人間を怒らせたら命はないってことだ。結局、燕の罰も無意味なって予定通りになってしまったよ」

 

「ううう・・・・・そう言われるとお尻の痛みが思い出しますよ王様」

 

「勝手に判断した自業自得だろうが」

 

「はい・・・すみませんでした。でも、学園長がいない間は誰が代理になるんですか?まさか教頭?」

 

「もう解雇通知を送ったからいないぞ。しばらくは川神鉄心に教頭代理にもなってもらう」

 

「じゃあ、学園長の代理は・・・・・あ、もしかして」

 

 

数日後―――。

 

 

グラウンドで臨時の全校集会が行われた。

 

「今度は何だ?また九鬼家の関係か?」

 

「どうなんだろうねー。気になるところだわ」

 

全校集会の内容をまだ知らされていない生徒達の間でざわめきが目立ち、壇上に鉄心が上がるまでしばらく続いた。

 

「皆の者。これから重要なことを説明するからよく聞きなさい。まず、教頭の竹原先生がとある事が発覚して解雇した。そして校長の藤堂カオルも指導者としての不足が明るみに出たので一時的に神月学園から去ることが決定した」

 

教師のツートップが突然の消失。生徒達はその理由を知りたい気持ちでいっぱいでいたが、それを察する鉄心が遮るように言い続けた。

 

「校長の藤堂カヲルについては校長の職を辞めたわけではないのでしばらく経てばまたこの学園に復帰して戻ってくる。じゃが、それまでの間は空席となった学園長と教頭の代理となる者を紹介する。まず、教頭はこの儂、川神鉄心じゃ。理事長を務めておるが、やることは何ら変わらんからの。皆の者、気にせず学校生活を送るとよい。そして学園長の席に座る代理の者は」

 

一区切りつけた鉄心が道を開けるようにして動くと、壇上にもう一人が上がってきた。

その者こそが学園長代理―――。

 

「蒼天の王がこの学園の長となる事が決定した」

 

「神月学園の生徒諸君、短い付き合いになるだろうが学園長の藤堂カヲルが戻ってくるまでの間、よろしく頼むぜ。部活動中にも顔を出すから一緒に頑張ろう」

 

『・・・・・えええええええええええええええええええええええええっ!?』

 

 

「え、嘘、旅人さんが学園長の代理に!?」

 

「どうなってんだぁっ!?でも、ちょー嬉しいぜ!」

 

「毎日告白できる、嬉しい!」

 

「わーい!わーい!」

 

 

「ふはははっ!好都合ではないか!向こうから義兄上がやってきてくれるとはな!」

 

「おいおいおい、信じらねぇことが起きたもんだぜ」

 

「ボクは嬉しいよ!」

 

「ええ、私もです」

 

「蒼天の王・・・・・手合わせをしてみたいものです」

 

「んー、よし、これからは学園長室に入り浸ろう」

 

「だ、ダメだぞ弁慶っ。与一も止めてくれっ」

 

「姐御に逆らったらこっちがとばっちり食らうから嫌だ」

 

 

「旅人・・・・・っ!」

 

 

「旅人さんが学園長の代理・・・・・やったっ」

 

 

 

「あー、驚いたり一部喜ぶのは後にしてくれ。これから面白い話をするからな。静聴できない生徒は即西村先生と二人っきりの泊まり込みの勉強会をしてもらうから」

 

ざわめきがぴたりと止まった。

 

「話の続きだ。まだ先の話だが夏休み明けに試験召喚システムに新たなシステムを導入することに決めている。それは皆の召喚獣の装備が点数で違う装備を購入することだ」

 

『っ!?』

 

「蒼天の学校ではすでに取り組んでいるシステムでな。この学校に送り込んだ蒼天の学生二名の戦いを昨日観戦した生徒なら覚えているだろうが、その二人の装備は点数で買った物なんだ。皆、試召戦争をする度に一度ぐらいは思ったことはあるだろう?装備を変えられるなら変えてみたいと」

 

『・・・・・』

 

「俺は蒼天の学園の生徒からそんな要望を聞き、ならばと点数で装備だけじゃなく特殊能力も買えるようにシステムに加えた。するとどうだ、新しい装備と400点オーバーではないと使えない特殊能力が手に入ることで生徒の成績とやる気、その向上が何倍にもアップしたんだ。可愛い装備、格好いい装備をしてみたい生徒は望みの装備が欲しいが為に成績を伸ばしたことで、我が校はこの学園のAクラス並みの成績が標準と化した」

 

一瞬でざわめきが沸き、王の盛大な手を叩く音で静めた。

 

「ぶっちゃけ言うと、この学園の生徒の成績の水準は蒼天の姉妹校なのに、同じシステムを導入してるのに低すぎると思っている。優秀な生徒が快適な環境の教室の中で授業に励み成績を伸ばす。普通にどこの学校でもよくあることだ。しかし、俺にとってはそれはありふれた日常でよくある普通過ぎる学校生活だ。この世に二つしかないシステムによる試召戦争だって今年に入って何回行われた?」

 

『・・・・・』

 

「お前達には刺激が足りなさすぎる。せっかく全世界の他の学校にはないシステムがあるのにそれを楽しまないなんて勿体なさすぎるぞ。よって代理をしている間は試召戦争のシステムとこの学園の在り方を面白半分に代えさせてもらう。ああ、もう一つ。同時に夏休み明けになったら学食は現金だけじゃなくて総合点数を料金の分減らして食べるようにするからな」

 

『え、マジで!?』

 

「マジだ。ちょっとはやる気出るだろ?財布に優しく美味しい料理を食べられるならさ」

 

『―――――っ!』

 

実質、点数が使い切るまでは無料で食べられるという。主に学食で食べてきた生徒からすれば蒼天の王は神に見えてるだろう。

 

「雄二、これは絶対に見逃しちゃならないと思う!」

 

「点数を減らさなきゃならないのはちと考え物だが、かなり魅力的だな」

 

「とはいえ、ワシらFクラスは精々一度か二度ぐらいしかできぬぞい」

 

「ああ、数回で総合点数がなくなってしまうことにならないよう、夏休み明けに各教室に工夫をするから安心してくれ。試召戦争以外、教室で点数を補給できるようにする」

 

「・・・・・その心配はなくなった」

 

『神かアンタは!』

 

「はは、褒めてくれるな。それとまだあるが、装備と特殊能力に関しては簡単じゃないぞ。この学園の規則に則って、底辺のFクラスから最高のSクラス順に買える特殊能力と装備が高性能だったり数が多くなる。それらは個人で買えるものではなくクラス内で買えるものだから、より強い装備を狙うなら格上のクラスを奪うしかないからな。当然他のクラスの生徒が違うクラスの装備を買うことはできないの。仮に上位のクラスが負けた場合、手に入れた装備や能力は当然消失し、入れ替えられたクラスの装備で買い直すしかない。例外を除いてな」

 

『・・・・・・』

 

「さらにこのシステムを導入すると400点オーバーで発動できる能力はなくなるから気を付けてくれ。最後に一つ。試召戦争以外でも個々で同意の戦いだったら教師の戦闘用フィールドなしでフィールドを展開できるアイテムを与える。話は以上だ」

 

こうして蒼天の王が学園長代理としてやってきた神月学園は、ますます賑やかな学校になることをFクラスの主力メンバーが何となくだが察したのであった。

 



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掲示板

知ったと思うけれ【村イベント】ここは初イベント「村の大悪魔」について語るスレ【終了】

 

 

 

・武闘大会は別スレです

 

 

 

51:ロイーゼ

 

 

正直、白銀さんに勝てる要素がない。―――何なのあれさ!通常フィールドの狼系モンスターより大きい銀色の狼を使役したり、ロボットを駆使したり、ベヒモスになるとか!あんなの反則だろ!?

 

 

52:メタルスライム

 

 

それな。何度も動画を見直してしまったほどびっくりしたぞ

 

 

53:トイレット

 

 

悪魔の状態異常攻撃を食らってもピンピンしてたし、ロボットってもしかして無敵?

 

 

54:ロイーゼ

 

 

流石にそれはないと思うな。単に耐久力が異常なだけじゃないかと思う。他のプレイヤーもあのロボットの存在に機械の町に滞在するようになってるけど、白銀さんはどこで手に入れたんだが

 

 

55:佐々木痔郎

 

 

その疑問は俺が答えてやろう!

 

 

56:ふみかぜ

 

 

お前は、白銀さん追いの!

 

 

57:ヨイヤミ

 

 

答えられるのか?是非とも聞かせて欲しい。

 

 

58:佐々木痔郎

 

 

モチコース。件の動画を見て、白銀さんに教えてもらったぜ。まずあのロボットは機械の町に存在しない。征服人形(コンキスタドール)が深く関係しているようだ

 

 

59:メタルスライム

 

 

その理由は?

 

 

60:佐々木痔郎

 

 

征服人形(コンキスタドール)には貢献度という見えない数値があるらしいんだ。貢献度を高める方法は幅広くプレイヤーに貢献できる状態にしなくちゃならないんだってさ

 

 

61:ふみかぜ

 

 

それがロボット取得の条件なのか?普通に一緒に戦闘や生産の活動をするだけじゃ駄目なのか?

 

 

62:佐々木痔郎

 

 

多分な。征服人形(コンキスタドール)がどれだけプレイヤーに貢献できるようにしてくれるのかがプレイヤーの働きに左右されるらしい。あと機械の町で重火器や征服人形(コンキスタドール)専用の装備があるだろ?あれも貢献度に繋がるらしいんだ

 

 

63:ロイーゼ

 

 

それって、ロボットが欲しければ貢献度=金を貢げってことかよ。どこぞのキャバ嬢だよ

 

 

64:トイレット

 

 

欲しいなら征服人形(コンキスタドール)を強化しろってことだろうな。攻略組は積極的にしそうだ

 

 

65:ヨイヤミ

 

 

実際、ドールちゃんを使役しているプレイヤーってどのぐらいいるんだろうな。ちらほらとたまに見かけはするんだが

 

 

66:メタルスライム

 

 

それなら集計データを見ればわかる。俺が見た時は100人以上は使役していたぞ

 

 

67:トイレット

 

 

多い?いや、少ないか?

 

 

68:ふみかぜ

 

旨味があるのかないのかといえば微妙だもんな。ステータスの概念はないけど生産か戦闘、もしくは両方をしてもらうにはスキルを取得、またはアイテムを買ってまで時間を掛け苦労してレベルを上げたスキルを譲渡しなくちゃならないだろう?自分が楽しみたいのに自分を犠牲にして、相手の為に時間を費やすのが嫌なプレイヤーは普通にいるだろうしな

 

 

69:メタルスライム

 

 

そういうプレイヤーもいれば逆に自分の利益のためだとか、綺麗な好みの女性と楽しみたい理由で使役するプレイヤーもいるのも事実だ

 

 

70:ロイーゼ

 

 

そう言えば、メタスラさんのパーティメンバーは使役したのか?

 

 

71:メタルスライム

 

 

メタスラ・・・・・ああ、俺以外全員な。だから目の前でイチャイチャされると肩身が狭い思いをされてしょうがない

 

 

72:ヨイヤミ

 

 

メタスラさんは征服人形(コンキスタドール)を使役していないのか?

 

 

73:メタルスライム

 

 

特にする理由もないし興味もない。というか、そんなことしたらリアルの彼女に怒られる

 

 

74:トイレット

 

 

さらっと自分が既婚者である事を暴露しやがったぞこいつ

 

 

75:メタルスライム

 

 

既婚者じゃない。まだ付き合っている段階だ。しかも同じパーティにいて征服人形(コンキスタドール)を可愛がっているんだ。

 

 

76:佐々木痔郎

 

うん?男性パーティで構成してるよなメタスラさん?・・・・・まさかボーイ―――

 

 

77:メタルスライム

 

 

違う!中身は歴とした女性だ!・・・・・変な性癖抱えているのは否めないが・・・・・聞きたいか?

 

 

78:ロイーゼ

 

 

よし、もうこの話は止めて戻そう話を!征服人形(コンキスタドール)の話も変えて別の話にしよう!これ以上話しちゃいけない気がして来た!

 



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ドワーフの国へ!

最初のイベントが終わってから、俺達は地底湖で【水泳】と【潜水】スキルのレベル上げに明け暮れていた。因みに、今日でもうレベル上げ始めてから二週間である。別にいつも時間を合わせてログインしている訳では無い。イッチョウもプレイ時間を別で確保して【水泳I】と【潜水I】以外にプレイを楽しんでいるし、俺は畑を着々と豊かにしていきながらも、ギルドランクに励みつつイッチョウの後に挑戦するために準備をしてきた。

 

「ぷはぁっ・・・!はぁ・・・・はぁっ・・・何分潜ってた?」

 

イッチョウが水面まで上昇してきて俺にタイムを聞く。

 

「四十分も潜ってたぞ。お互い【水泳Ⅹ】と【潜水Ⅹ】になって、イッチョウを基準にすればこれが今の俺達の最大ってことだから・・・イッチョウは片道二十分で奥まで辿り着けないと溺死ってことか」

 

「でも水中呼吸薬を使えば一時間近くは潜れるね」

 

そうだな、と頷く。陸に上がって小休止するイッチョウから視線を逸らし、辺りを見回す。

 

「プレイヤー、心なしか多くなってるな」

 

「私達が隠しエリアに行ったことに気付いた、あの時いたプレイヤーの誰かが情報屋に教えたらしいよ?」

 

あの時居合わせた閑古鳥が鳴きそうな程度のプレイヤーの数は、今や二十人以上も増えた。連日のようにここで活動している俺達を見て何かあるに違いないと便乗する形で探り出したんだが、魚がヒントであることもわからず、釣りや投網で魚を捕まえるばかりで進展していない。

 

「それでも、まだ気づいていない様子だな」

 

「最初はどうしてもわからないもんだよハーデス君。・・・・・よし、いよいよチャレンジしてくる」

 

「おう、頑張ってこい。倒せたら面白いスキルを教えてやるよ」

 

親指を立てるイッチョウは湖の中に飛び込んでいった。さて、その間俺は―――。

 

「なぁ、隠しエリアの行き方を教えてくれよ」

 

こーいう輩の相手をしなくちゃなぁ・・・・・。

 

 

 

何度もハーデスの付き添いでボス部屋のルートを覚えたイッチョウは、二十分以内に辿り着き扉をゆっくりと開く。中は巨大な球体の部屋に半分水が溜まった造りになっていた。イッチョウにとっての嬉しい誤算は酸素があったことだ。これで無理をして短期決戦に持ち込む必要が無くなったのである。

 

「ぷはっ・・・さぁ・・・こい!」

 

イッチョウの目が真剣な色に染まる。それに答えるように一点に収束した光が形を成し真っ白な巨大魚が現れた。

巨大魚はその巨体で突進攻撃をしてくる。

イッチョウはその動きを完全に見切り、体を捻りすれすれで回避し、すれ違い様に赤く輝く短剣で鱗と肉を僅かに斬り裂く。

 

「【スラッシュ】!」

 

赤い光の下の毒々しい紫に染まった刃は【状態異常攻撃】

それは巨大魚の体を毒で犯す。

ほんの僅かなダメージだが、巨大魚のHPバーは少しずつ確実に削られていく。

巨大魚は切り返して再び突進してくる。

理沙はそれを同じようにあしらい相手の体を削りとる。

 

「【ウィンドカッター】!」

 

赤いダメージエフェクトがいくつか水中に輝く。イッチョウの最大威力の魔法は鱗を浅く傷つけるくらいの力はあった。

繰り返される突進はイッチョウに傷を付けることが出来ない。

そして巨大魚のHPバーが八割を割る。

ここでイッチョウは集中を高めて、巨大魚の行動を注視する。

普通のプレイヤーなら先程と同じように見えるであろう突進はイッチョウには全く違って見えていた。明らかに、遅い。

 

巨大魚は途中で突進を止めて尾びれでの範囲攻撃を前方に繰り出す。

しかし、それもイッチョウには届かない。

イッチョウは行動パターンが切り替わるタイミングを敵の頭上のHPバーの減りから予測していたのだ。

巨大魚の体長から攻撃範囲を正確に見切り、一歩分下がることで目の前を尾びれが通過していく。その尾びれをスキルでもって切り裂く。

 

「【ダブルスラッシュ】!」

 

ここまで相手の攻撃を受けずに巨大魚に攻撃を入れてきたイッチョウの連撃ダメージUPは既に最大値。

今までより少し深く、赤いエフェクトが二回巨大魚の尾びれに食い込む。

それと同時。【状態異常攻撃】によって麻痺毒を注ぎ込み敵の動きを緩慢にさせる。

 

「【パワーアタック】!」

 

動きの鈍った巨大魚の体に短剣が根本まで突き刺さる。イッチョウはそれを素早く引き抜くと距離を取る。巨大魚のHPは五割を割った。行動パターンの変わりどきだ。

巨大魚の体の左右に白い魔法陣が浮かび上がりそこから泡が溢れ出る。

 

「【ウォーターボール】!」

 

イッチョウが泡に魔法を当てると泡は激しい音と共に爆発した。あの泡には触れられない。

イッチョウは巨大魚から逃げつつ泡を水魔法で爆破し、逃げ道を作る。

巨大魚の行動パターンがイッチョウの通った道を追ってくる追尾式になっていることに逃げ回っていたイッチョウが気付く。それならと。逃げていた体を反転させ水魔法で泡を爆発させる。イッチョウは一瞬だけ開いたその空間に体をねじ込み抜ける。

 

「【パワーアタック】!」

 

赤いエフェクトが巨大魚の背に赤い一本の線となって残る。

頭から尾びれまでを深く切り裂かれた巨大魚のHPバーが二割程吹き飛ぶ。そのまま体を回転させて尾びれを刃でさらに数回削る。

イッチョウの後を追って振り返ったその一瞬。体の速度についていけなかった泡の弾幕が薄くなった。

それを彼女は見逃さない。

 

「【ウィンドカッター】!」

 

泡を潜り抜けた風の刃は巨大魚の額を深く傷つける。そして遂に巨大魚のHPバーが二割を切って赤く染まった。

それと同時。巨大魚の体の左右の魔法陣が消えて、部屋が水で満たされる。

上下左右の壁に爆発する泡を発生させる魔方陣が現れる。

巨大魚がその大きな口をガパッと開ける。その口の中には泡の魔法陣よりも強い輝きを放つ魔方陣があった。

イッチョウがリアルで培ってきたセンサーがその体を反射的に動かした。

直後、さっきまでイッチョウのいた場所に向かって真っ直ぐにひとすじの青白い水がものすごい速さで放たれる。

彼女は焦る。あれを次に躱すためには流石に運が絡むだろう。

 

 

さらに泡も迫ってきている。

イッチョウの身体の動きが鈍る。

焦りは思考を停止させる。

  

 

こういう時こそ落ち着くこと。

イッチョウは自分に語りかける。焦る心を落ち着けて集中する。

まるで時間が止まったように。

泡も、レーザーも、巨大魚の動きも。

遅く、遅くなっていく。

危険な場所が、安全な場所が、全て手に取る様に分かる。

敵の体の微妙な動き、目線。

イッチョウはこれらからレーザーの位置を予測した。

 

泡の弾幕が次にどこへ広がるとまずいかを現在の泡の位置から予測し、先回りして逃げ道を作る。過去の経験とも照らし合わせ、生き残る確率の高い道を先手先手で作り出す。

それはもはや未来予知。

チートにも似た圧倒的なプレイヤースキル。

 

「【ウィンドカッター】」

 

静かに放たれた魔法はその度に泡のカーテンを綺麗にすり抜けて巨大魚を抉る。

 

そして遂に。

 

巨大魚のHPバーは空になった。

 

 

 

 

 

 

溜まっていた水が全て抜けていって中央に大きな宝箱が現れる。

イッチョウは喜ぶより先に地面に仰向けに寝転がった。

 

「つ、疲れた~・・・やっぱ本気で集中すると疲れるよん・・・・・」

 

レベルアップとスキル取得の通知が鳴り響くが、そんなものの確認は後だとイッチョウは寝転び続ける。

地上と違い水中戦は経験したことも体験もしたことがない。勝手が違う戦場での戦闘の上にあの弾幕と高速レーザーは手に余った。

しばらく寝転がっていたイッチョウはテンションを元に戻すと、宝箱の方に向かった。

 

「いざ、オープン!」

 

両手で勢いよく蓋を開ける。

中に入っていたのは海の様な鮮やかな青を基調として端には泡を思わせる白があしらわれたマフラー。

首元に白いファーのついたそれよりも少しだけ暗い色合いの厚手のコートとそれに合わせた上下の衣服。

そして光の届かない深海の様に暗い青のダガーが二本とそれをしまうことが出来そうな暗い青のベルト

 

イッチョウは全ての装備の能力を確認していく。

 

 

 

『水面のマフラー』

 

【AGI+10】【MP+10】

 

スキル【蜃気楼】

 

【破壊不可】

 

『大海のコート』

 

【AGI+30】【MP+15】

 

スキル【大海】

 

【破壊不可】

 

『大海のレギンス』

 

【AGI+20】【MP+10】

 

【破壊不可】

 

『深海のダガー』

 

【STR+20】【DEX+10】

 

【破壊不可】

 

『水底のダガー』

 

【INT+20】 【DEX+10】

 

【破壊不可】

 

 

 

「これは・・・私のスキルの取り方が影響したのかな?ふふふ・・・私好みの装備だよん。ハーデス君よりも装備が多いけど・・・【破壊成長】とスキルスロットは無いんだねぇ」

 

装備欄を弄って全て装備して、喜びからかくるりとターンする。ベルトは装備としてはレギンスの一部の様で、新たに装飾品のスロットを食うことは無かった。

ハーデスの時とはまた違った、ステータスの伸びが大きいユニークシリーズを身につけて、イッチョウは洞窟を後にした。

 

「おお~」

 

戻ってきたイッチョウをの晴れ姿に感嘆の念を抱いてボスを打倒した彼女に拍手を送る。

 

「はあ~格好良くなったなぁ」

 

「でしょー!靴は手に入らなかったけど町で買うにしても本当に苦労したよん!」

 

そして、二人で手に入れたスキルを一つ一つ確認していく。

まずは装備についているスキルからだ。

その後に新たに取得した二つのスキルを確認する。

 

 

【蜃気楼】

 

発動時、相手の視覚情報での座標と本当の座標とにズレを生じさせることが出来る。

対象は使用者以外全員。

使用可能回数は一日十回。

効果時間は五秒。また、【蜃気楼】で作り出したズレた映像に何らかの攻撃が加えられた際、【蜃気楼】は効果を失う。

 

 

【大海】

 

モンスター、プレイヤーが触れた場合AGIを20%減らす水を使用者を中心として円状に地面に薄く広げる。

空中では使用出来ない。

範囲は半径十メートルで固定。

使用者のみがその対象から外れる。

使用可能回数は一日三回。持続時間は十秒。

 

 

【器用貧乏】

 

与ダメージ三割減。消費MP10%カット。

 

【AGI+10】【DEX+10】

 

 

取得条件

 

武器・攻撃に関するスキル10個を取得済み

魔法・MPに関するスキル10個取得済み

その他のスキル10個取得済み

その中で最低スキルレベルのスキルが10個以上ある。

この条件を満たした後でモンスターを撃破すること。

 

 

 

 

「ハーデス君の言う通り、初回単独でボスを倒すとユニーク装備がゲットしたよ」

 

「だろ?これでイッチョウもユニーク仲間だ」

 

 

さて、今度は俺の番だな。

イッチョウに見送られる俺はボスモンスターと単騎で挑んだ。時間を掛けて戦える。水中呼吸薬を使って溺死もしなくなったことで存分に俺も水中戦を臨める。ボス部屋まで辿り着きここでイッチョウが戦っていたフィールドの中で戦意の炎を燃やす。

 

「さあ、いこうか!」

 

真剣な面持ちで臨戦態勢の構えを取る俺に応えるように一点に集束した光が形を成し真っ白な巨大魚が現れた。巨大魚はその巨大で突進攻撃をしてくる。俺はその動きに合わせて大盾で受け止める。地面がない足場では踏ん張りがきかず、受け止めれても凄まじい勢いで弾かれたり押し戻されたりする。繰り返される巨大魚の突進は、俺に傷一つ付けることができない。今までのモンスターでは体感したことがないこの突進力ならば大盾のスキルが手に入るかもしれない。そうして何度もどつかれること暫く耐えてると俺の頭の中に声が響く。

 

『スキル【大防御】を取得しました』

 

よし、キタ!この瞬間、受け身から切り替えて巨大魚の突進に合わせて硬質な背中の鱗を掴み、泳ぐ巨大魚にしがみつき合ながら背中の鱗を試しに噛んでみると硬くて歯が通らずの結果を知った。ならばと一度離れて巨大魚と逃げたり追いかけたりしながら、機を窺い巨大魚の柔らかそうな腹部に目掛けて泳ぎ何とか張り付くと、大きく口を開けてかぶりついた!

 

「ん~淡白な味で美味い!」

 

水中の中どうやって喰っているのかは秘密だ。喰い続けて巨大魚のHPを一気に三割削ると行動パターンが変わった。離れたら巨大魚の体の左右に白い魔法陣が浮かび上がりそこから泡が溢れ出る。【水中探査】で巨大魚の位置を確認しながら

 

泡に触れると爆発した魔法に連鎖して、泡は激しい音と共に爆発した。見慣れた泡の魔法に敢えて突進するように前進する巨大魚。俺を爆発する泡に当ててダメージを与える魂胆だろうが、【爆弾喰らい(ボムイーター)】で爆発系のダメージを50%カットするから一撃で死ぬということはない。故に俺を泡に触れさせて爆発して減らす筈のHPは―――0である!淡白な味を愉しみながら確実にHPバーを削られてる巨大魚が、凄い勢いで壁へ突っ込んで俺を壁に巨大な体で擦り付けるという言葉では生易しい、圧迫感と水圧で思わず巨大魚から手を放してしまった。離れて行ってしまった巨大魚はその大きな口をガバッと開ける。その口の中には泡の魔法陣よりも強い輝きを放つ魔方陣があった。大盾を構えず両腕を左右に広げて、全てを受け入れる姿勢の俺に向かって真っ直ぐに高速の水のビームが放たれる。

紙一重で回避しながら迫る俺に泡を召喚して姿を隠そうとするが、爆発する泡のカーテンを突っ切って、巨大魚の口から放たれるビームを片腕で受けながら接近して今度こそ巨大魚の捕食を臨んだ。

 

 

『運営陣』side

 

「げぇっ!?またやらかしたぞこのプレイヤー!」

 

「流石に水中の中はまともな戦いをしているなーと思っていたのに」

 

「巨大魚まで喰ってる・・・・・!」

 

「もうこいつの頭の中ではボスモンスターを喰えばユニーク装備やらユニークスキルが手に入るって確定しているんだろ。・・・・・実際そうなんだけどさ!」

 

「防御特化のプレイを目指していたはずなのに、毒竜の一件以来おかしなプレイをするようになってしまった」

 

「本当だな。全てのモンスターはお前の食事じゃないってのにさぁ・・・・・・」

 

「どうする。不味い味にして食べる意欲を殺ぐか?」

 

「それでもやりかねないと思うぞ」

 

 

 

何とかHPドレインで倒すことに成功した俺は取得した新しいスキルの確認をした。

 

※命名【古大魚喰らい(シーラカンスイーター)

 

水、氷を無効化する。

 

取得条件

 

巨大魚をHPドレインで倒すこと。

 

 

古大魚(シーラカンス)

 

古大魚の力を意のままに扱うことができる。

 

MPを消費して水魔法を使用できる。

 

取得条件

 

水無効を取得した上で古大魚をHPドレインによって倒すこと。

 

 

この結果に黒く悪い笑みを浮かべてしまう。

 

「くくく、これだからHPドレインは止められないのですよー」

 

もうモンスターの味もスキルも美味しすぎてハマっちゃって仕方がないってもんだよ。さてさて、このモンスターの水魔法は何だろうなー?

 

【水の牢獄】

 

球状の水の塊に、対象を閉じ込めるスキル。立て続けに発動することで、直径約二メートルずつ拡大させることができる。

 

 

【ウォーターカッター】

 

鋭利な水の斬撃を放つ。

 

 

【濃霧】

 

広範囲で霧を発生する。使用者を除く対象の位置を把握することができる。使用者以外の探知系のスキルを封じる。

 

 

【凪】

 

モンスター、プレイヤーが触れた場合AGIを50%減らす水を、使用者を中心として円状に地面に広げる。

空中では使用できない。範囲は半径十メートルで固定。使用者のみがその対象から外れる。

使用可能回数は一日二回。持続時間は二十秒。

 

 

【母なる海】

 

使用すると、使用者を中心に十メートルの半球状が出来上がり十秒で最大HPの3%HPを回復すると同時にVITを+100にする。効果持続時間は五分。消費MPは無し。

 

 

【水の波動】

 

半径五十メートル以内のモンスター、プレイヤーの位置を察知する。

 

 

主に探知系とVITとAGIのスキルばかりか。これならAGIが高い対象でもスキルを使用しようが、本来の速度ではなくなって戦いづらいだろう。しかもこれはコンボにも使える。ただしソロ限定の意味でだ。味方まで巻き込んでしまう使いどころが難しいな。

 

「ただいまー」

 

「お帰りー。私より遅かったね?どうしたの?」

 

「ちょっと凝った戦い方をしてた。おかげで新しいスキルを取得したがな。で、イッチョウ。これから周回をしたいんだけどいいか?」

 

「うんいいよー」

 

その後、時間制限の周回をするため巨大怪魚を何度も挑み十回ほどで止めて新しく手に入った共通スキルを確認する。

 

 

【海王】

 

このスキルの所有者のみ溺死がしなくなる。潜水時【AGI】と【DEX】のステータスが二倍になる。

 

取得条件

 

一定時間内にノーダメージでボスを規定体数倒す。

 

 

【海王】は俺が【悪食】でさっさと倒したことが原因かもしれない。水中限定のスキルだけど、今後のイベント次第では役に立つスキルだと思う。

 

だけど、それよりもあの時と同じ状況と条件を満たしたからもしかしたら?と【水中探査】で試みるが・・・・・変化はなかった。ここにリヴァイアサンに繋がるヒントでもあるのかなとは思ったんだがな・・・・・。

 

「ハーデス君。これからどうする?」

 

「イベントの時も言ったが第3エリアにいい加減行くつもりだ」

 

「きっとハーデス君だけだろうねぇ。第3エリアに行っていないプレイヤーは」

 

うるさい!自覚しているわそんなことっ!

 

 

 

だけどその前に寄るところがある。そこへ行かないといけない理由がある。俺は地底湖を後に真っ直ぐ鍛冶屋に足を運んだ。

 

「ヴェルフ」

 

「ハーデス、来たな。用件はアレだろ?師匠が完璧に研ぎ終えたぜ」

 

「どんな武器だった?」

 

「自分の目で確かめてみろ。弟子の俺でもビックリする代物だ」

 

それは楽しみだ。改めて裏から出入りさせてもらい、鍛冶場に入り込むとヘパーイストスが武器を持ってまじまじと見つめていた。

 

「・・・・・美しい」

 

それも初恋の彼女を見つけてしまったような眼差しでうっとりと・・・・・。あんな状態の鍛冶師に指さしてヴェルフに言う。

 

「・・・・・話しかけ辛いんだが」

 

「ああ・・・・・実を言うと、ここ最近はあんな調子なんだよ。師匠曰く、あの武器はやっぱりヒヒイロカネの鉱石で打たれた武器らしい」

 

「他もそうか?」

 

「他はオリハルコン。破壊不能の能力付きだった。でも、それ以上に凄いのがあれだったんだ」

 

研ぎ終えた風化した装備を見せてくれた。

 

「大剣と刃付きの大盾・・・か?」

 

「ああ、でも見た目は重戦士の武器に見えるだろ?まぁ、その見た目も長年ベヒモスの胃の中にあったから風化による劣化で研いでもこのボロボロの状態だが―――」

 

俺に持ってみろと言われてたので両手で握ると、ヘパーイストスから離れ部屋の隅まで移動する。周囲の物に気配る様子を窺わせ、ヴェルフから扱い方を教えてもらいながらその場で見せつけるように振るう。

 

「・・・・・は?」

 

大剣と大盾を結合すると、大盾が剣先にスライドし出して斧に変形した。更にはそのまま大盾としても扱えるのでこんなおかしな武器は見たことが無いと間抜けな声を出してしまった。

 

「―――この武器、二つで一つの特殊武器だ」

 

「特殊武器?」

 

「通常の武器はそれぞれ個の武器として役割を担っているが、武器同士で合体や結合する事なんて、どんな鍛冶師でもそんな摩訶不思議な考えは思い浮かばないんだ。でも、古代にはそんな鍛冶師は存在していた。その証明をする物がこの武器だ」

 

斧から大剣、大剣から大盾、大盾と大剣を分離させる俺にヴェルフは語り続けた。

 

「師匠も最初はこの武器の存在に舌を唸らせた。おかげで武器の可能性がさらに広がって新作を―――と思ってたんだがな」

 

今でもヒヒイロカネの武器を見つめているヘパーイストス。まだ戻ってくる時間が掛かりそうな様子である。

 

「師匠は最後に研いだあれの美しさに惚れてしまったんで、まだ手を出していないわけだ」

 

「納得だ。おい、ヘパーイストス」

 

ペシペシとガタイのいい背中を叩く。流石に自分の世界に深く沈んでいなかったか直ぐに反応してくれた。

 

「あん?おお、お前か。研ぎ終えて見せたぞ」

 

「ヴェルフから軽く教えてもらったから分かってる。それがヒヒイロカネの?」

 

「そうだ。俺も手にするのが初めてだもんでな。お目に掛かれて感動的になって感傷的に浸ってしまったぜ」

 

「それ以上の想いを晒していたぞ」

 

ヘパーイストスの手の中にあるヒヒイロカネの武器である刀を受け取り、俺も惚れ惚れする。

 

「長年風化していたとは思えない代物だな・・・・・・まだ死んじゃいないんだな」

 

「わかるか。ああ、その通りだ。劣化してもなお存在感を放つそれはかなり腕が立つ鍛冶師が打ったに違いない。俺もヒヒイロカネを手に入れて打ったとしてもこのレベルの武器にできるか・・・正直に言えばわからん。あの奇怪な特殊武器もそうだ」

 

大剣と大盾を見やるヘパーイストス。

 

「ヒヒイロカネとオリハルコンの事は教えたが、その二つは現在極めて入手が困難でな。今じゃ存在だけが知られているだけの幻や伝説的な代物と化して、誰も見たことが無ければそれで打たれた武器を触れたことすらないとも言われている」

 

「ほうほう」

 

「―――ただ、それらを極少数だが保有している噂の国がある」

 

・・・・・国?

 

「その国って?もしかして帝国とか?」

 

「あそこは違う。確かに強力な武器を生産して高い軍事力を有しているがユニーク装備を創り上げるほどの腕前の鍛冶師はいないはずだ」

 

「鍛冶師・・・・・となると・・・・・」

 

思い浮かんだとある種族の名を口にすれば頷くヘパーイストス。

 

「そうだ。俺も修行の為に足を運んだ場所・・・・・ドワーフの国だ」

 

「ドワーフの国か・・・・・そこはどこに?」

 

「まぁ待て。順を追って説明する」

 

おっと、急かしてしまったか?

 

「あそこの国はちょっと特殊でな。ドワーフ同士で鍛冶の腕前を競い合うのが日常茶飯事なんだ」

 

「そんな国にいたのかヘパーイストス」

 

「そこで鍛冶の腕前を鍛えたって言っても過言じゃないからな俺は。で、ドワーフの国は存在すら知らないととことん知られていない場所だ。他国と交流している国じゃないと会うことすらままならない」

 

じゃあ、殆どのプレイヤーも無縁な話か?というか、保有している国にドワーフがいることだけ分かれば十分だな。

 

「ただ、ここ数ヵ月。個人的に手紙で交流をしているドワーフからの手紙によると、ドワーフの国が保有している鉱山でトラブっているらしく、仕事が出来ないでいるみたいだ」

 

「詳細は?」

 

「鉱山に地龍が住み着いてしまった」

 

「モグラ?」

 

「そっちじゃない。土属性の龍族だ」

 

知ってた。しかし、地龍がいるのか。どんな感じなんだろうか?

 

「ドワーフでも勝てないのか」

 

「ドワーフの国でも戦えるドワーフは勿論いるが。相手は龍族じゃあ厳しい。地龍は存在する龍族の中では最高峰の防御力を誇っている。並みの武器じゃ到底倒すことはできないんだ」

 

ミスリルでも倒せないとしたらとんでもなく防御力が高いモンスターということになるな。

 

「だからか、友人や俺の師匠にあたるドワーフ達から討伐の協力を手紙で寄こしてきたんだ。いい腕の冒険者はそっちにいないかーってよ」

 

「・・・・・まさか」

 

ここに来てこのパターンですか?あ、ほら・・・・・ヘパーイストスから協力要請という名のPTのお誘いが来ていらっしゃる。

 

「悪いが手を貸してくれるか?この町にいる腕の立つ冒険者と言えば俺はお前しか信用できないんだ。俺を助けると思って・・・・・この通りだ」

 

深々と俺に頭を下げるヘパーイストス。そこまでするほどヘパーイストスにとっては重要な事か。普段頭を下げなさそうな鍛冶師だが・・・・・。

 

「ん、いいぞ。ドワーフの国にも行ってみたかったからな」

 

「すまない、坊主。恩に着る」

 

『ドワーフの国の救援』というクエストが発生して勿論受理した。

 

「ドワーフの国の場所は知らないけれど、イズ達も連れて行ってもいいか?」

 

「ああ、あの鍛冶師の嬢ちゃんか。いいぞ・・・・・達?」

 

メールを送って返事待ちする間の俺は、もう一件の話を持ち出す。

 

「対刃の武器は?」

 

「おう、ばっちりだ。中々良い出来栄えで俺達もいい仕事が出来たもんだと高揚したぜ」

 

壁に向かって歩むと掛けていた武器を手に取り、戻ってくると手渡してくれた。

 

 

『狼月【上弦】』『狼月【下弦】』 レア度:9 品質:★9

 

【STR +30】【DEX +25】【AGI +30】

 

スキル【狩人】 スキル【対牙】 スキル【対刃】

 

破壊不能

 

 

対となる刃の名は下弦、空に浮かぶ上弦三日月の刃を持つ剣。フェンリルの命と魔力の残滓が込められたそれは、真の姿を未だ叢雲に隠している。

 

 

【狩人】自身よりレベルの低い対象と戦闘する場合、【一撃必殺】のスキル効果が常時発動する。

 

【対牙】自身よりレベルの高い相手と戦闘する場合、【AGI】が+50%増加。1レベルごと+5%追加。一定回数攻撃を当てることで合体ゲージが蓄積される。

 

 

必要ステータス【STR 80】【DEX 80】【AGI 90】

 

 

必要ステータス?ユニーク装備とテイマーの初期装備以外、装備を入手したことないからそんな項目があるのか?一応、装飾アイテムで爆上げしてるから使えるけど・・・・・ハッキリ言って強過ぎないかこれ?合体ゲージって一体何よ?それと【対刃】ってのは・・・・・。

 

 

【対刃】

 

唯一無二の『狼月【上弦】』『狼月【下弦】』が揃わなければ発動できないスキル。対象問わずこの装備は倒せば倒すほどより強力になる。

 

「・・・・・」

 

ちょっと、剣士を育ててみたくなっちゃった。



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火山での戦い

イズに連絡を取りドワーフの国に行かないと誘うと、元気のいい二つ返事とセレーネも連れてきていいかとの話に快く了承する。その為にヘパーイストスから友人達の同行を確認したんだからな。鍛冶屋の裏で鍛冶師二人とヒムカと待っていれば、駆けてくる二人の女性の姿が視界に入った。

 

「お待たせハーデス」

 

「お、お待たせしました」

 

「これで全員だな」

 

「おう。そっちの嬢ちゃんは久しぶりだな」

 

「お久しぶりです。ドワーフの国に同行を許してもらいありがとございます」

 

「いいってことよ。これから行くドワーフの国にはむさ苦しい男共が大勢いるから、男だけの旅に華がいりゃあ気分がいいしな」

 

「女のドワーフもいるんだ」

 

「いなきゃドワーフの種族は滅んでるっての。エルフもドワーフも人間と子孫を作ることはあるが、大抵は身内同士で国を繁栄するがな」

 

ハーフも存在しているということか。イズ達も感嘆の息を漏らしているから珍しいことを聞いた感じだ。

 

「それじゃ行くぞ。まだ坊主たちじゃあドワーフの国までいけないようだから特別に転移魔方陣で移動するぞ」

 

「転移魔方陣?この町から一気にどこにあるか分からないドワーフの国まで行けるのか?」

 

「普通に向かえば一ヵ月以上は掛かる遠い国だ。そんなのんびりと歩いている間にドワーフの国の問題はさらに深刻化する。だから特別にエルフの商人から買い取った転移魔法のアイテムを使う」

 

そのアイテムを見せてくれるヘパイストス。手の平サイズの二つのガラス玉だ。

 

「これを割れば登録した場所を最大6人までなら転移できる。場所はドワーフの国と帰り先のこの町だ。かなり貴重なもんだから、師匠達からの救援が求めて来ない限りは使わんが今使う」

 

イズとセレーネもヘパーイストスのPTに加わったことでそのアイテムを思いっきり地面に割った瞬間。ガラス玉から眩い閃光が迸り一瞬で視界が真っ白に染まった。

 

そして視界が回復して視力が戻る俺の目に飛び込んできた最初の光景は草木がない山。何の変哲もないが山の麓に人工的な検問所があった。更に補足するとその山は・・・・・活火山だった。

 

「あそこがドワーフの国?」

 

「そうだ。名前はドワルティア。ドワーフ以外にもドワルティアの存在を聞きつけた人間や商人、物好きな他種族も訪れる。まぁ、説明は後だ。さっさと中に入るぞ」

 

先導するヘパーイストスに続く。中に入るのに時間は掛かりそうだなと見解していたが、そうでもなかった。

入国料として幾ばくかのGを払うだけですんなりと背が小さく顎髭を伸ばしたドワーフの門番が通してくれたのだった。中に入るとすぐに察した。

 

「中は自然の大洞窟か」

 

「住みやすく人工的に手入れした場所は多々あるがな」

 

検問所を潜ってすぐにまた新しい場所を見つけた俺はコメントなしの動画を配信する傍らに、周囲を見渡す。地龍のこと知っているか知らないか定かではないが、住民達は緊張した雰囲気も緊迫した感じがしておらず笑い合いながら闊歩していた。建造物を見ると、機械の町を彷彿させる。でも、敢えて言うなら洞窟の中というわけだから地下都市っぽいな。天を見上げると大きな裂け目があって空や外の風が流れ込んでくるから空気は濁っていない。

 

「地龍のこと知らないのか?」

 

「知らされていないだろうな。なんせ鉱山は一番奥にあるからよ。この辺りは見ての通り商店街みたいな場所だ。懐かしいな、昔とちっとも変っちゃいない」

 

一番奥とは・・・・・あのでっかい城が立っているさらに奥のことかな?

 

「この辺りに鍛冶屋はありませんか?」

 

「鍛冶師達がいるなら鉱山との距離が近い一番奥の方だ。そこは別名、『鉄火の花場』と言われてる」

 

「鉄火の・・・・・花場?」

 

ドワーフを花と例えるならおかしすぎるな。そんな可憐なドワーフじゃないだろう。

 

「微妙な反応は尤もだが、花ってのは鍛冶師なら見飽きるほど何度も自分で咲かせているじゃないか」

 

「え?・・・あ、もしかして」

 

「おう。熱塊に鎚を叩きつけた際に不純物が散る様はまるで花みたいだろ?そういう意味で鉄の火花が絶えず見える場としてドワーフ達は『鉄火の花場』と称するようになったわけよ」

 

「なるほど~!」

 

鍛冶師だけが会話の花を開かせる。まだ鉄の火花まで咲かせてないのにな。

 

「ヒムヒム」

 

「なんだ、励ましてくれるのかありがとうな」

 

「ヒムヒム!」

 

可愛い奴め。帰ったらガラス細工の環境を整えるのを頑張るよ。

 

 

そんな感じにドワルティアの深奥まで足を運ぶと、場の空気が変わったのを感じ取った。肌に突き刺さる刃物のような緊張感が空気を張り詰めていて外から来たこっち(おれたち)まで緊張に包まれそうになる。自然とイズとセレーネも口数が少なくなって押し黙ってしまった。セレーネはイズの服を掴んで恐々と縮こまっている。なので俺が話題を盛り上げた。

 

「そう言えば、師匠ってどんな人だ」

 

「一言で言えば武人みてぇなドワーフだよ。鍛冶をするとき以外は物事言うのに口数少なく、鉄を打つときは鎚を全力で振るい、鉄に魂を込めるのが鍛冶師の当たり前のことだと言うんだ」

 

「魂を込める・・・・・」

 

「・・・・・」

 

「師匠からは免許皆伝を許されたがそれでも俺はまだひよっこの扱いだ」

 

師匠がひよっこだと?と信じられないヴェルフがそう口から零した。俺も似た感想だ。

 

「もしかして、師匠は神匠か」

 

「馬鹿言え。そんなおとぎ話みたいな神の領域に至った鍛冶師はこの世にもう存在しねぇよ」

 

おとぎ話?

 

「神匠以外にもそんな凄かったり強い職業的な称号みたいなのがあるのか?」

 

「話だけならばな。剣神、守護神、魔神、神鎚、神獣使い、神官―――とこの世界に存在する全ての職業に神の名が付く称号を得た者は真なる魔王と初めて対等以上な戦いができると伝承が現世までに言い伝えられている」

 

真なる魔王・・・・・魔王ちゃんかな?でも、魔王は72柱もいると言ってたから別枠の存在か?

 

「魔神ってなに?」

 

「神の領域にまで至った魔法使いの呼称だ。魔導の一つ上のな」

 

「魔導か・・・・・」

 

「あれはかなりの魔力と魔法が、全ての魔法を取得しないと至れない至高の頂き。魔導に至るには極めて困難な道のりだろうよ」

 

・・・・・俺達、さらっと最上位職業の転職条件を訊いちゃった?

 

「えっと、じゃあ神匠に至る方法は知ってますか?」

 

イズも神匠の存在を知ってか、ヘパーイストスに訊く。彼はどう答える?

 

「そんなもん知るか」

 

「「・・・・・」」

 

切れ味がいい抜刀で斬り返されました!ヘパーイストスはガシガシと頭を掻きながら唸るように言い続けた。

 

「俺でさえ未だ名匠のままなんだ。師匠から免許皆伝である名匠を得たのはいいが、それより上位の鍛冶師職である古匠の領域にまで至っていねぇ。古匠の領域に達する方法はドワーフの王しか知られていないんだよ」

 

ドワーフの王・・・・・。

 

「それって、あのデカい城にいるんだよな?」

 

「ああ、俺も行ったことが無い。というか、謁見すらドワルティアに住むドワーフ達でも一部を除いて招かれたことが無い話だ。師匠もそうだ」

 

「出来る方法とかは?」

 

「この国で鍛冶の腕前の評判を上げるか、王に滅多に手に入らない献上品を直接送るかのどれかだ」

 

滅多に手に入らない品か・・・・・。

 

「フェンリルの素材とかイケる口か?」

 

「悪くねぇな。幻獣種の素材は片手で数えるぐらいしか出回ったことが無い文句のない素材だ。ドワルティアにもない筈だ」

 

毛皮の素材は残っている。牙の方も・・・・・。

 

「謁見はできるとしても古匠の転職方法がわかるか断言できないけれど。最後に行ってみるか?」

 

二人へ振り返って尋ねる俺にブンブンと首を縦に振る女鍛冶師(スミス)達。

 

「私達からも色々出すわ!ミスリルと」

 

「魔鉱石が、い、いいかな・・・・・!」

 

「あん?魔鉱石だと?」

 

未知の鉱石を知らないヘパーイストスに、それを見せると「うおおおおおっ!?」と興奮の雄叫びを上げたのは言うまでもなかった。

 

魔鉱石の取引は問題を解決してからにしてもらった後、ヘパイストスの師匠の所に訪れた。崖の上にありやや斜面沿いの整備された道を歩く中、ふと気づいた。

 

「鉄を叩く音が聞こえないな。鍛冶師の仕事は日常茶飯事の筈なのに」

 

「あ、そう言えば」

 

「なんで、かな・・・?」

 

「ヒムー」

 

俺達はヘパーイストスの背中へ視線を送るが、前へ進む彼からの言葉の返事は沈黙だった。

しばらくしてとある一軒の家の前にヘパーイストスは立ち止まったのであった。

 

「師匠の鍛冶場か?」

 

「ああ、ここだ。・・・・・あん時からずっと、変わっちゃいねぇなぁ」

 

昔のことを思い出し感傷に浸るヘパーイストスの手は扉に触れ―――豪快に拳で殴り開けだした!吹っ飛ぶ扉!中で何かが割れる音が!

 

「おいクソッタレ師匠! いるかぁっ!?」

 

「し、師匠ぉっ!?」

 

「おいおい・・・・・」

 

ノックの作法・・・・・知ってるよな一応?と思い浮かんだ次の瞬間。暗がりの奥から物凄い勢いで何かが飛んできて、それがヘパーイストスの顔面に突き刺さって、ガタイの良い巨体ごと吹っ飛ばした様を見せつけられた俺達は言葉を失った。

 

「―――来たか」

 

ヘパーイストスの師匠らしき人物が鍛冶場の暗がりの奥から鈍い足音を鳴らしながらこっちに近づいてきたのがわかる。

意識は完全に部屋の奥へと注視していて、俺達は玄関から差し込む光で見えるようになったドワーフの姿を捉えた。身長は140cmか低くも鍛え上げられた肉体が服の上からでもわかるぐらい逞しい体つき。ウニのようなツンツンした黒い頭の髪と豊かに蓄えた黒ひげを複数の紐で結びあげていた。歳は見た目で言えば50歳代だろうか?ドワーフもエルフと同じ長命の種族だからもっと年上かもしれないが。

 

「ぐっ、ぐふっ・・・!クソッタレ、相変わらず人のこと金槌で殴るのは変わっていないようだなっ!」

 

「・・・・・矯正が終えていない馬鹿弟子には丁度いい」

 

彼のドワーフがヘパーイストスの師匠・・・・・。片手を徐に動かすとその手に向かって飛ぶ飛来物。パシッと難なく手中に収めたドワーフは俺達に視線を向けて来た。

 

「・・・・・この人間達は」

 

「赤髪の小僧は俺の弟子だ。他の三人は・・・・・あー、その・・・・・」

 

気恥ずかしそうに言葉を濁すヘパーイストス。なら、代わりに言ってあげるのが優しさか。

 

「初めまして。ヘパーイストスのお師匠さん。俺達はヘパーイストスと友好を交わしている者です。この国に棲み付いた地龍の問題を解決の協力に馳せ参じた所存です」

 

「・・・・・馬鹿弟子が連れて来た者。如何な者だ」

 

「こいつは俺が最も信頼している冒険者だ。実績もある。なんせ、ベヒモスを討伐した勇者だからな」

 

「・・・・・」

 

ジッと俺を見つめるドワーフ。俺というよりユニーク装備を見つめているのかもしれない。ヘパーイストスから指摘を受けた。

 

「おい、実際にブツを見せた方が早い」

 

「あー。これだ」

 

ベヒモスの豪皮を見せると触り出すドワーフ。ヘパーイストスも感触を確かめていたが鍛冶師は素材を触らないといられないのか?

 

「・・・・・ついてこい」

 

「?」

 

いきなり扉がない出入り口へと足を運ぶドワーフ。どこに案内してくれるのかは分からないが・・・・・。

 

「死神ハーデスだ」

 

「・・・・・ユーミル」

 

お互い自己紹介を済ませてなかったモノで名前が分からないままなのはコミュニケーションし辛いよな。

 

 

 

 

 

崖の道を歩くユーミルの後に続くこと十数分。ドワルティアの城から更に離れるにつれ崖の大きな切れ目の中でドワーフの工房らしき建物があった。灯りは松明で光源を確保してるも少し薄暗い。だが、その薄暗さに相まって閑古鳥が鳴くほど鍛冶師の仕事をしている音は一つも聞こえない。代わりにといったか商店街にいるドワーフ以外の鍛冶師のドワーフが工房の外に出て酒を飲んでは酔い、すっかり鍛冶師としての誇りが失ってしまった様子で一人も真っ当な鍛冶師のドワーフが見当たらない。

 

「ヘパーイストス。地龍がこの国に現れてどのぐらい経ってるのか知ってた?」

 

「俺が知った時は最近だが、このクソ師匠は元弟子の俺にそんなこと手紙に書かないでいたからもっと長い筈だ。じゃなきゃ、俺に救援を求める手紙をよこさねぇからな。そうだろ」

 

問われたユーミルは短くだがしっかりと頷いた。

 

「・・・・・8年」

 

「8年!?このクソ師匠!どうしてそんなこと黙っていやがったんだよ!」

 

「・・・・・ひよっこ程度の力は不要」

 

「それでも免許皆伝してくれたからお前と同じ名匠だろうが!」

 

「・・・・・自惚れるな小僧」

 

足を止めてヘパーイストスの膝に向かって金槌で叩いた。うわっ、いまガンッ!って鳴ったぞ。流石のヘパイストスも耐えられない痛みで膝を抱えて蹲ってしまった。

 

「・・・・・人間とドワーフの寿命は違う」

 

「ぐぉおおおっ・・・・・! ね、年季が違うって言いたいのかよ・・・・・!」

 

「・・・・・数十年程度の若造に数百年の経験を培ったドワーフを超えられるものか」

 

「お、俺だってあれから成長しているんだ! 小僧、対刃を見せろ!」

 

狼月の【上弦】【下弦】をユーミルに見せる。最初はまじまじと見つめていたが、次は興ざめと言った呆れた目つきになった。

 

「・・・・・未熟。希少な素材を完全に活かし切れていない」

 

活かし切れていない?同じ鍛冶師であるイズ達にどういうことなのかと視線で問う。

 

「強化されていない・・・からかしら?」

 

「・・・・・否・・・・・お前は」

 

「え・・・えっと・・・・・ごめんなさい。わかりません・・・・・」

 

「・・・・・お前は」

 

「え、俺?・・・・・すみません」

 

ヴェルフまでわからないとは。ますますわからないぞ。俺にとってヘパーイストスの作品は最高の・・・・・待てよ?確かここに来る前とここに来た時のヘパーイストスは・・・・・。

 

「あっ・・・・・」

 

「・・・・・言ってみろ」

 

「いや、これは弟子のヘパイストスが言った方がいい気がするんだが」

 

「俺が、だと?」

 

「だって、ヘパーイストス自身が言った言葉だ。鍛冶師じゃない俺が言うのもおかしいだろ。寧ろ長年師弟関係だったヘパイストスがよく覚えている筈だ」

 

押し黙り出したヘパーイストス。自分がここで長年鍛冶の腕前を磨いた時を思い出しているだろう。しばらく沈黙を貫いたヘパーイストスは徐に握った拳で地面を殴った。

 

「ちっ・・・・・鍛冶師でもねぇ坊主に思い出されるなんざ、クソッタレ師匠に文句言われても仕方がねぇじゃないかよ。坊主、狼月をよこせ」

 

「は?何で、もう完成してるのに」

 

「まだ完成じゃない! もう一度鍛え直さなきゃこのクソ師匠がグチグチと文句を言われるんだよ! 余ってる牙もよこせ!」

 

えええ・・・・・これでも十分強いのに・・・・・。

 

「・・・・・未熟者より俺」

 

「黙ってろ!クソチビ師匠!」

 

「・・・・・触れてはいけない琴線」

 

ガンッ!!!

 

「いっでぇええええええええええっ!?」

 

 

「・・・・・・ヴェルフ感想を一言」

 

「あんな師匠は初めて見る」

 

「ハーデス。何が分かったの?教えてくれない?」

 

「・・・・・」

 

「ヒントはヘパーイストスの言葉だ。思い出せば納得できる」

 

「ヒムム?」

 

あー、ヒムカは精霊だから関係ないと思うからいいぞ気にしなくて・・・・・多分な?

そして三人は―――。

 

「「「あっ・・・・・」」」

 

鍛冶師としての大切なことを思い出したことでようやく歩みを再開する。新武器とフェンリルの武器は没収される形でヘパーイストスに預けた。

 

「・・・・・ここから先は火山の領域」

 

「・・・・・俺も何度死にかけたことやら」

 

「「「「・・・・・」」」」

 

崖の裂け目の深奥の先、そこは赫赫たる赤い世界だった。川のように流れる赤い液体はマグマに、足場の切れ目から赤く光った直後に噴出する溶岩。

 

「これ、炎上耐性が必要かな」

 

「でしょうね。真っ赤な足場だもん」

 

「う、うん・・・・・」

 

「そっか。お前等もないのか」

 

ヴェルフもないという。ヒムカは火属性の精霊だから耐性は元からあるとして問題ない。ヘパーイストスとユーミルは当然のようにあるだろう。

 

「問題ないぞ。鉱山は溶岩が流れない場所にあるからな」

 

「あ、それなら良かった」

 

「ただ、道中は気を付けろよ。常にポーションで体力を回復する意識をするんだ。地形ダメージでどんな高い防御力でもダメージは入るぞ」

 

「うげ、それは大変だ。因みに火山にモンスターとかいる?」

 

いるなら本格的に無効化まで取得したいところだ。

 

「手を出せれねぇもんがそれはもううようよな。特に火山のボスモンスターのラヴァ・ゴーレムが筆頭だ」

 

「ラヴァ・ゴーレム?」

 

「身体がマグマと溶岩のゴーレムだ。マグマがある場所に必ず現れて襲い掛かってくる。動きは鈍いが溶岩で攻撃してくるから逃げに徹する他ないんだよ」

 

「・・・・・古代から誰も討伐できていない」

 

うわぁ・・・・・そいつは極めてシビアだな。となると素早く動く必要があるか。

 

「ヴェルフ。足は速い方?」

 

「一応はな」

 

「じゃあ、イズとセレーネか」

 

二人とヒムカだけなら問題ないか?銀狼のローブを纏いフェンリルの姿に変身した。

 

「へぇ、初めてみた。そうなるのねぇ銀狼のローブの効果は」

 

「イズ、凄い・・・・・」

 

「鷹の羽衣みてぇなもんか。やるな嬢ちゃん」

 

「・・・・・いい鍛冶師になる」

 

「おお・・・・・」

 

良かったな。名匠達からお褒めの言葉を貰ったじゃないかイズ。

 

「これならイズとセレーネ、ヒムカぐらいは乗せられるだろ」

 

「そっか。AGIが低い私達が乗れば問題なくなるのね。それじゃ乗せてもらうね?」

 

「お、お邪魔します」

 

「ヒムヒム!」

 

鐙がないのは我慢してくれよ。姿勢を低くして三人を背中に乗せる。落ちないように気を遣いつつゆっくりと立ち上がる。

 

「それじゃ、案内よろしく」

 

「・・・・・こっちだ」

 

火山地帯に続く折坂へ足を運ぶユーミル。地面から一定時間で噴き出す溶岩の地系ダメージを避けて鉱山へ向かうその道中。何となくマグマの方へ眺めていた時だった。

 

「・・・・・何か、小山並みにマグマが盛り上がってないか?」

 

「え?」

 

「―――全力で走り抜けろぉっ!!!」

 

ヘパーイストスが叫ぶ前にはすでにダッシュしていた。ユーミルもそうだった。一瞬だけ呆けてしまった俺達は地面を舐め尽くすように迫るマグマを一瞥してヴェルフを銜えて全力で駆ける。

 

「え、なんだっ。もうラヴァ・ゴーレムが出たのか!?」

 

「マグマがある所ならどこに出も現れるって言っただろうが!」

 

「こんな早く出るとは何も知らない俺達にはわかるかよ!」

 

「というか、マグマの塊から出て来ちゃってる!?」

 

「次のエリアにはマグマはない! そこまで突っ走れ!」

 

マグマゆえに速度は遅いらしいが、追われる恐怖感は半端じゃない! その次のエリアまでには余裕で辿り着けて、迫ってきたマグマは本当にマグマがない場所のここまでは来なかった。

 

「ぜぇ・・・ぜぇ・・・また、死が襲う走りをしなくちゃならなねぇとはな」

 

「・・・・・昔の方が速い」

 

「うるせっ!寄る年波に逆らえねぇんだよ!」

 

もうそれなりに年だもんな。これはどうしようもないことだわ。

 

「それで地龍は?」

 

「・・・・・ここじゃない」

 

ならどこ?という俺達の疑問はヘパイストスが解消してくれた。

 

「地龍はよ。鉱石類を喰う龍だ。鉱石を使う俺達鍛冶師にとっちゃあそいつは死活問題の話で、この火山に鉱脈の匂いを嗅ぎつけて来たんだろうな。―――地下からな」

 

「「「地下?」」」

 

マグマが流れて来ない場所・・・その場所が地下かい。

 

「だから鉱石類を喰い尽くす前に倒さなきゃいけないって話だったんだ」

 

「・・・・・地龍は最高峰の硬さ」

 

「ドワーフ達はあの手この手を尽くして討伐しようとしたが、地龍の硬さの前に歯が立たず殆どの鍛冶師の連中は鉱石を喰い尽くされてる運命を受け入れてしまった。要は諦めたってことだ。このクソ師匠を除いてな」

 

親指でユーミルを指すヘパイストス。諦めた鍛冶師達は酒に溺れることを選んだ。その姿がアレなわけか。

 

「・・・・・ドワーフは鍛冶を司る存在」

 

ぽつぽつとユーミルが感情のない声で語る。

 

「・・・・・鍛冶から手放す。即ちそれはドワーフの存在意義を放棄」

 

「・・・・・」

 

「・・・・・魂のない抜け殻。許容できん」

 

「師匠」

 

「・・・・・最後の希望、託す他ない」

 

それが冒険者ってことか。ユーミルは全ドワーフの存在意義を守ろうとしてヘパイストスに救援を求めた。そしてヘパーイストスは俺を信頼して頼った・・・・・。

 

「責任重大だー。やってやるけれど!」

 

「防御力が堅い同士の戦いは滅多にみられないけれど、私も援護するわ」

 

「私は、長距離からの支援をするね?これでもサブ職業は弓使い」

 

弓使い。初めて戦うところを見るな。

 

「弓の種類は?」

 

「単発型のクロスボウ。防御力が高くても、貫通攻撃でダメージは入るはず」

 

「・・・・・撃たないでね?」

 

「だ、大丈夫!絶対当てないから、安心して!」

 

それは俺にも通ずる鬼門みたいなもんだ。貫通攻撃に対するスキルは無いもんかな・・・・・。

 

「さて、やる気は十分として地龍のいる場所は地下なんだよな?」

 

「・・・・・否、地中を移動して火山の鉱脈のを喰らいつつ移動する」

 

「地龍が掘った穴は見つけやすいが、そこから探して移動するのは危険すぎる。巨体に押し潰されたりモグラみてぇに移動速度が速いんだ。それでドワーフ達は討伐が出来ないでいる理由の一つでもある」

 

やっぱりモグラじゃないのか地龍って。うーん、地中から鉱石類を・・・・・。

 

「・・・・・」

 

誘き出すのはオオサンショウウオモドキ以来だな・・・・・。うん、これならイケるかもしれない。

 

「ユーミル。次のエリアはどんなところだ?」

 

「・・・・・マグマの溜まり場がある。ラヴァ・ゴーレムが現れる」

 

「じゃあ、地龍の穴とマグマがあるエリアは?」

 

「・・・・火山の頂上」

 

―――決まりだ。俺は皆に伝える。

 

「頂上で地龍を誘き出すぞ。かーなり危険な賭けになるがな」

 

 

 

 

なのでNPCのお三方には火山から退場してもらい、俺達は一気に頂上へ駆けだす。ラヴァ・ゴーレムが出現する気配はあれど、フェンリルの速力に追い付くことはなかったので、火山に生息する火属性と土属性のモンスターを無視して移動する。エリアを走る続けること30分後。広大なマグマの噴火口の場に辿り着いた。この広さ、そして噴火口の場に巨大なぽっかりと開いた別の穴があった。あれが地龍が掘った穴だろうな。そこへ歩み寄って二人を下ろす。

 

「セレーネ。頼んだ」

 

「うん」

 

イズは準備してもらう。長い縄にクロスボウの矢に括りつけてもらい、その矢をセレーネが縦穴に向かって射抜く。真っ直ぐ穴の壁に突き刺さって縄―――に結ばれた魔鉱石が矢からぶら下がっている。

 

「考えたわね。鉱石の臭いをかぎ取れるなら鉱石で戦いの場に誘き寄せるなんて」

 

「餌で相手を動かすことは前にもしたことがあったからな」

 

二人には魔鉱石やミスリルを全部撒き餌のように地面にばら撒いてもらう他、変身を解いた俺の身体に魔鉱石を結んだ縄を巻き付けて完全に地龍を誘き寄せる作戦を徹底した。

 

「地龍が来る前にラヴァ・ゴーレムが来られると凄く厄介だからな。死に戻り覚悟はしてくれ」

 

「うん」

 

「あくまでも倒すのは地龍だね」

 

「そうだ。だが、戦う必要はそんなにない。―――マグマに落とす」

 

地龍といえどマグマには耐えられない筈だ。どれだけ防御力が高かろうとマグマには―――。

 

「っ!ハーデス、マグマが盛り上がってる!」

 

「マジかよ・・・・・」

 

先に現れてしまったのはラヴァ・ゴーレムだったようだ。はっきりと見てないからどんな姿か拝もうか。

 

マグマから現れたラヴァ・ゴーレムは全身がマグマであるのに巨大な手と両目と口がある。

うん、あの姿を見て勝てる勝てないの問題じゃないと思うのは俺だけじゃないと思いたい。

HPの概念はあるみたいだけどさて・・・・・倒すとしたらどうするべきだ?

 

「ハーデス、ゴーレムは基本的に核があるわ。もしかするとラヴァ・ゴーレムもあるんじゃない?ゴーレムの名前があるんだし」

 

「あの何でも溶かす溶岩の前にどうやって核を破壊しろと?」

 

「うーん・・・・・爆発で?」

 

飛び散るマグマに気をつけろよと言いたかったが、揺れ始める地面に意識を変えざるを得なかった。

震動はどんどん増していき、やがて―――縦穴とは別の方から何かが地面から飛び出してきた。

それは・・・・・・一言で言えば動く岩石だった。体格はワニっぽいが顔は龍で岩石を鎧のように外殻として成り立っているのか動きはスムーズ。地龍なのに対翼があるのはどうして?という疑問はこの際スルーだ。その翼はプテラノドンのように手としても機能するらしく、撒き餌に使ったミスリルや魔鉱石を拾っては口の中に放り込んでガリガリゴリゴリと食べ始めた。あのラヴァ・ゴーレムさんの存在は無視?

 

「本当に来たね。あれが地龍・・・・・」

 

「ええ、本当に。ねぇ、ハーデス。ちょっと相談があるのだけれど」

 

「オーケー。言わずともわかる。理解できるとも。でも、討伐が優先だ」

 

「・・・・・凄く残念だわ」

 

俺だってそうさ。思いもしない新発見を知ってしまったんだからな。―――地龍の外殻に採取ポイントが三つほどあるんだから気になるよな。

 

「【八艘飛び】!【パラライズシャウト】!」

 

一気に地龍の傍へ寄り麻痺攻撃をした。痺れ・・・・・ない?あれ?

 

「岩石だから麻痺状態は通じない?」

 

『ギィアアアアアアアッ!』

 

食事を邪魔され怒り片翼を薙いでくる地龍の動きを見切る。

 

「逃げるなよ?【咆哮】!【覇獣】!」

 

動きを十秒間停止させることに成功の間も置かず、ベヒモスに変身して地龍の尻尾に噛みつく。

いつの間にか目と鼻先まで迫って来ていたラヴァ・ゴーレムを見て、ピンと思いついた。顔を横に捻って―――豪快に左へ振って地龍をラヴァ・ゴーレムに叩きつけた。するとどうだろうか。マグマの身体が弾け飛びHPが削れたではないか!これは面白い発見だと地龍を振り回してラヴァ・ゴーレムのHPを削ることにした。弾けた体の一部はHPと共々少しずつ再生するのが分かってきたので、バシンバシン!と間も置かず叩き払い続けた。両手から弾いた後は胴体に地龍を鞭のように叩きつける。胴体の核攻撃が他の攻撃より大きく削れたので核を狙う。

 

 

「イズ・・・・・」

 

「気にしちゃダメよ。味方ならいいの味方なら。うふふ、うふふふ」

 

 

ラヴァ・ゴーレムのHPを半分も削った直後だった。ラヴァ・ゴーレムが天に向かって咆哮を上げた。

攻撃のモーションが変わるのかと警戒していると、ラヴァ・ゴーレムの腕がもう二本増えたり地面からマグマが至る所に噴火した。

 

「・・・・・嫌な予感がするな。二人共、背中にしがみ付いてくれ」

 

既に瀕死の地龍を噛み砕き、討伐をクリアにする。尾を操って二人を巻き付いて背中に乗せ、口から極太のビームを放って溶岩体を貫いた。ただし、俺の身体の下からも灼熱のマグマが噴火してダメージを与えてくる。

 

「【グランドランス】!」

 

巨大な岩の複数の槍を発生させて地面の噴火口を閉じつつラヴァ・ゴーレムにも貫いてみせた。こっちに突き出す溶岩の四本の腕から火山岩と飛ばしてきた。それらを岩の槍で受け止めるも、足場から大噴火した溶岩―――ラヴァ・ゴーレムの手に狙われ移動して回避する。が、更なる数多の溶岩の手が迫ってきた―――。

 

「まだだ!」

 

【覇獣】を解除、二人を脇に抱え【八艘飛び】で溶岩の手と手の隙間を縫うように回避。

 

「【悪食】!【巨大魚】!」

 

MPを補填して毒竜の水魔法版のスキルを発動する。頭上に巨大魚を彷彿させる魚が具現化して水鉄砲を放った。

 

「溶岩だろうがマグマだろうが、水をぶっかけられると固まるよな!【悪食】!【巨大魚】!」

 

水にぶっかけられ水蒸気を発するラヴァ・ゴーレム。濡れた個所からマグマが冷えて固まり黒く変色し―――。

 

「出番だ二人共!」

 

「OK!」

 

「当てる!」

 

イズの特製爆弾が冷えたラヴァ・ゴーレムの身体の部分に投げて爆破。崩れた部分にラヴァ・ゴーレムの赤い核が見えてセレーネのクロスボウの矢が放たれ狙い違わず核を貫く。俺は飛んでくる火山岩と地面から生える溶岩の腕から完全に回避に専念しながらも水魔法を放って身体を脆く、イズが爆弾で更に崩して露出した弱点をセレーネの矢が射抜く。その繰り返しを三十分以上も行った結果・・・・・。

 

『オ・・・オォォォォォォォォォ・・・・・・ッ』

 

難敵だったラヴァ・ゴーレムの討伐を三人で果たし遂げたのであった!その様子を見送った後で二人から手を放して仰向けに倒れた。

 

「お、おおお・・・・・疲れた・・・・・」

 

「す、凄い・・・・・私達だけでボスを倒しちゃった・・・・・」

 

「あはは、レベルが一気に上がったわー。そう言えばこの火山ってダンジョン扱いかしら?宝箱があるのだけれど」

 

いや、フィールドだろう。宝箱が出現していないし。

 

「は?宝箱?」

 

「うん、三つね。どれかがユニーク装備じゃないかしら?」

 

上半身を起こすと確かに赤い宝箱があった。立ち上がる俺達は宝箱の前に止まってお互い顔を見合わせながら頷き合う。それぞれ箱に触れて同時に開け放った―――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【ドワーフの国】またやらかした白銀さんについて語るスレ1

 

 

 

57:デデーン

 

おおおー!ラヴァ・ゴーレムを倒しやがったぁっー!

 

 

58:満〇

 

やっぱり溶岩とかマグマには水魔法必須か。冷やして固めて、脆くなった部分に攻撃して弱点の核を露出してから弓使いの一撃。凄く理に適った戦いだった

 

 

59チョイス

 

いやいや、初見で倒せるモンスターじゃないだろこれ。放っておけばHP回復するんだから普通は倒せないだろ。地面から噴火する溶岩の手も躱す動きも反射神経も普通じゃない

 

 

60:ぽろろん

 

ベヒモスになって地龍を鞭のようにラヴァ・ゴーレムに叩く光景は言葉を失いました。モンスターをあんな風に扱うことが出来るなんて初めて知った。白銀さんあんた魔王ですか?

 

 

61:最終兵器鬼嫁

 

新ステージの火山は一体どこにあるのだろうか?是非ともドワーフの国にも行ってみたい

 

 

62:サジタリウス

 

一部システムの解放とかのアナウンスが放送されてないから、もしかすると行けるエリアにあるんじゃないか?

 

 

63:大言氏

 

あり得そうだな。先の獣人族の里も遠くても第2エリアにあったわけだし、探してみようぜ

 

 

64:満〇

 

え、なに。レアな報酬が入ってそうな宝箱が三つも出てきたんだけど

 

 

65:ぽろろん

 

知らないのか?どんなダンジョンでも早い者勝ち的な要素で初めてダンジョンを攻略したプレイヤーに様々な恩恵の報酬がもらえるらしいぞ。ただし単独の方がよりいい報酬が入手できるけどな

 

 

66:デデーン

 

羨ましィ・・・・・となると、白銀さんの装備もその手で手に入ったんだろうな。ベヒモスの単独討伐のときはきっと凄い報酬を手に入ったんだろうか

 

 

67:サジタリウス

 

だな。ベヒモスに変身できるスキルもそれだろ絶対

 

 

68:チョイス

 

いいなーレア報酬いいなー

 

 

69:最終兵器鬼嫁

 

お、報酬の中身が分かるぞ!

 

 

 

 

 

スキル【マグマ耐性小】

 

 

「「「・・・・・」」」

 

え、このスキルだけ?二人の手にはスキルスクロールが握られていて、何とも言えない微妙そうな表情を浮かべていた。

 

「二人は・・・・・?」

 

「【マグマ耐性小】のスキルスクロールよ」

 

「私もだね」

 

「俺もそうだけどさ・・・・・何、ここでマグマ耐性を無効化までしたら何か凄いスキルとか取得できる訳か?」

 

報酬がこれだけだとはちょっと納得が出来ないんだがな。

 

「取り敢えず、取得できるスキルは取得しちゃいましょ?」

 

「したら試しに飛び込んでみる」

 

「えっ!?」

 

さっさと取得した【マグマ耐性小】を調べてみようじゃないか。念のために防御極振り状態にしてからだ。マグマ溜まりに近づきまずは片足から突っ込んでみた。

 

「あー、これ毒状態みたいにじわじわと減っていくな。しかも炎上する」

 

「それ絶対にハーデスだからよ」

 

今度は両足・・・・・ダメージは変わりないか。じゃあ、極振り状態を止めて首まで浸かって入ってみると。

 

「おー、なるほど~マグマはこんな感じか」

 

「一体どんな感じ?炎に包まれて燃えちゃってるんだけれどさ」

 

「沼とか泥的な、とにかく体にまとわりつく感触がするし熱さが丁度お風呂に入る温度だ」

 

 

『スキル【マグマ耐性小】が【マグマ耐性中】進化しました』

 

『スキル【炎上耐性小】が【炎上耐性中】に進化しました』

 

 

「耐性が中に進化したぞ。ん、ダメージも少し減ってるな」

 

「そう、じゃあ、そろそろドワルティアに戻らない?報告しないと」

 

「地龍のドロップアイテムは拾ったよ」

 

「ああ、そうだな。ん・・・・・?」

 

火口の中心に採取ポイントのマーカーを発見した。

 

「何か、マグマを採取することができるっぽいぞ?」

 

「へっ?あ、本当だわ!」

 

「何で、かな?」

 

さぁ、分からないけどちょっと泳いでくる。その前に【生命簒奪】!

 

「ふははは!マグマでHPを回復しながらマグマを泳ぐことが出来るプレイヤーは俺だけだろう!」

 

「「うわぁ・・・・・」」

 

マグマの泥のような身体の抵抗感を覚えながらもクロールで難なく泳ぎながらHPの回復をする。採取ポイントがある火口は直径100メートル。うん、問題ないな!

 

 

『スキル【マグマ耐性中】が【マグマ耐性大】に進化しました』

 

『スキル【炎上耐性中】が【炎上耐性大】に進化しました』

 

 

スキルも上がった報せと火口の中心にまで泳いだのはほぼ同時。採取ポイントのマーカーが表示されているこの辺だけ黄金色に輝くマグマを触れると、それだけで採取が出来た。採取できるのはどうやら一回きりか。二度と手に入らないかそれとも日を跨いでなのかはまだ分からないがとりあえず戻ろう。

 

 

『スキル【マグマ耐性大】が【マグマ無効】に進化しました』

 

『スキル【炎上耐性大】が【炎上無効】に進化しました』

 

 

「んー?これだけか?毒竜みたいにはならんのか」

 

二人の下まで泳ぎ戻り地面に這い上がった。

 

「お帰り、何が採取できたの?」

 

「気になる」

 

「待て待て、今見せるから」

 

インベントリから採取したマグマを取り出す。マグマの状態は耐性のある謎の容器に収まっていた疑問が湧くものの、説明文の方が気になるからスルー。

 

 

『大地の生命の源』

 

この世界の大陸を創り上げた生命の地盤。世界の誕生と共に存在する黄金のマグマを扱えることが出来る存在は神の頂に挑戦する者だけだろう。

 

 

「・・・・・これって」

 

「もしかすると・・・・」

 

「神匠の職業に転職するための必要アイテムだったりする・・・・・?」

 

「ヒムヒム!!」

 

突然、ヒムカが騒ぎ出した。火口の方へ指差して何かを伝えようとするヒムカの行動に俺達は視界に入れた。火口のマグマがゆっくりと盛り上がって、巨大な両手と顔を持つマグマのモンスターが再び姿を現したのだった。

 

「あー・・・・・なるほど。ラヴァ・ゴーレムはこのアイテムを守護する為だけのモンスターだったんだな。火山の各エリアにあるマグマの溜まり場でちょっとずつ戦いながらここの頂上で最終決戦をするはずだったところ、俺達は完全にスルーしてたから戦闘の難易度がハンパなく高かったと」

 

「でも、HPが回復するのよね?」

 

「するけれど、幾分か戦い易くなる設定をされていたかも」

 

「じゃあ、再度出て来たラヴァ・ゴーレムって・・・・・」

 

うん、アレだな。

 

「難易度が高いままの状態だと思います」

 

インベントリにマグマを仕舞い銀狼のローブを取り出してフェンリルに変身すると、イズ達を背中に急いで乗ってもらいこの場から緊急離脱を図る!

 

「また今度なー!」

 

そしてちらりとステータスを見た。

 

 

 

 

 

死神・ハーデス

 

LV43

 

HP 40/40〈+300〉

MP 12/12〈+200〉

 

【STR 0〈+129〉】

【VIT 885〈+2145〉】 

【AGI 0〈+120〉】

【DEX 0〈+120〉】

【INT 0〈+100〉】

 

 

装備

 

頭 【空欄】

 

体 【黒薔薇ノ鎧:大陸の覇獣(ベヒモス)

 

右手 【新月:毒竜(ヒドラ)

 

左手【闇夜ノ写】

 

足 【黒薔薇ノ鎧:大陸の覇獣(ベヒモス)

 

靴 【黒薔薇ノ鎧:大陸の覇獣(ベヒモス)

 

装飾品 【生命の指輪・Ⅷ】【古の鍛冶師の指輪】【白妖精(ハイエルフ)の指輪】

 

 

称号:万に通じる者 不殺の冒険者 出遅れた者 白銀の先駆者 毒竜の迷宮踏破 大樹の精霊の加護 ユニークモンスターマニア 三代目機械神 聖大樹の精霊の加護 勇者 最速の称号コレクター 魔王の戦友 絆の勇士 村の救援者

 

スキル

 

【絶対防御】【手加減】【体捌き】【瞑想】【挑発】【極悪非道】【シールドアタック】【大物喰らい(ジャイアントキリング)】【咆哮】【毒竜喰らい(ヒドライーター)】【爆弾喰らい(ボムイーター)】【植物知識】【大盾の心得Ⅹ】【悪食】【受け流し】【爆裂魔法Ⅹ】【エクスプロージョン】【体術】【幸運】【テイム】【採取】【採取速度強化小】【使役Ⅹ】【獣魔術Ⅹ】【料理ⅩⅩⅩ】【調理ⅩⅩⅩ】【調合ⅩⅩⅩ】【水無効】【八艘飛び】【伐採】【伐採速度強化小】【炎上耐性小】【機械神】【機械創造神】【宝石発見】【刻印・風】【水中探査】【侵略者】【破壊王】【背水の陣】【覇獣】【不屈の守護者】【マグマ無効】【炎上耐性無効】

 

 

ファッ!?VIT10000超えちゃったんだけど!!?



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クエスト終了後

「うおおりゃああああああっ!」

 

ラヴァ・ゴーレムの追撃から辛くも逃げ切れてドワルティアの鍛冶場に戻ってこれた。ほんと、やばかったぜ。【マグマ無効】がなかったらマグマで閉ざされたエリアの出入り口を突破できなかっただろう。

 

「今になって、【マグマ耐性小】のスキルがあってよかったと思った・・・っ!」

 

「「同感っ」」

 

二人も【マグマ耐性中】に進化してしまったほど俺達はマグマと溶岩に襲われ続けたのである。

ダンジョンから脱出できた達成感によりその場でぐてっと大の字に倒れ伏せた。

 

「獣の姿での移動は思いのほか疲れる・・・・・」

 

「ありがとう、助かったわハーデス」

 

「私達の為にごめんね」

 

頭を撫でてくるセレーネ。ヒムカも労いの言葉を言ってくれるが何を言っているのか分からない。しかし、おっとこの心境は・・・・・?

 

「・・・・・セレーネ。砕けた感じで話せるようになったな。俺の事は慣れたか?」

 

「え?あ、うん・・・今日は色々と大変な冒険だったからね」

 

「確かにねー。最初はラヴァ・ゴーレムみたいな相手を戦うことになるなんて想像もしなかったし」

 

うんうんとセレーネと頷き合う。

 

「―――坊主!」

 

騒がしく駆けよってくるヘパーイストス達。

 

「お前等、よくもまぁ無事で戻ってきやがったな。成果はどうだ?」

 

「おう、地龍はこの通りだ」

 

素材を回収したセレーネがユーミルに手渡す。『地龍の外殻』だ。真剣な眼差しで確認するドワーフは薄っすらと口元を緩めた。

 

「・・・・・間違いない」

 

「ってことは・・・・・」

 

「・・・・・鉱山を取り戻せた」

 

そう断言したユーミルは『地龍の外殻』をヘパーイストスに手渡す。

 

「・・・・・無駄なデカい声で伝えろ」

 

「一言余計だクソッタレ師匠!」

 

ズンズンとドワーフの鍛冶師達が集う場に歩いてすぐに立ち止まった。ヘパーイストスは大きく息を吸って・・・・・。

 

「地龍が討伐されたぞテメェ等ぁっ!!!何時まで酒に溺れて酔っ払っているんだ!!!ずっと怠けていた鍛冶師の名折れ共めがっ!!!」

 

「あれでいいのか?」

 

「・・・・・いい」

 

いいのか。あ、数人のドワーフが酒瓶を片手にやってきた。

 

「おうおう、テメェ、今何つったよ?地龍を倒しただぁ?」

 

「面白くもねぇ冗談を言うなら・・・・・おん?おめぇ、ユーミルんとこの人間の弟子じゃねぇか」

 

「あ?あー、そういや見覚えのある面だ。なんだ、俺達を馬鹿にしに戻ってきたってのかよ」

 

ドワーフ達がヘパーイストスの事を覚えていたのも驚きだが、外殻でドワーフを叩くヘパーイストスにも驚かされた。

 

「誰がこんなところまで来て馬鹿に言いに来るんだ。とうとう頭ン中まで馬鹿になったかよ」

 

「てめぇ・・・!調子に乗ってっと昔みてぇに金槌で叩いてやるぞ!?」

 

「上等じゃねぇか。飲んだくれの金槌なんざ痛くもかゆくもねぇよバーカ!」

 

「こ、このクソがきゃぁああああっ!」

 

怒り狂うドワーフが酒瓶で殴りかかるが、外殻で逆に酒瓶を叩き割ったその返しで顎下から打ち上げた。

 

「ごふっ・・・!?」

 

「はっ!ちったぁ酔いから目ぇ覚めたんならこれを見ろよ!」

 

「んなの、ただの石―――」

 

突き付けられる地龍の外殻を一瞬だけ興味なさそうに視線を逸らしたものの、また二度見、更に三度目でまじまじと見つめるドワーフ。

 

「石、じゃねぇ・・・なんだこれは?どこで手に入れた」

 

「どこに手に入れたもんじゃねぇっての。文字通りこいつは地龍を倒して手に入れたもんだ」

 

「だからそんなつまらねぇ冗談を言うんじゃねぇよ!あの最硬の外殻をおめぇ如きが破れるほど軟じゃないぞ!ユーミルのハンマーですら通用しなかった!」

 

「はぁ・・・・・おい、もっとあるか!こいつらの酔いを吹っ飛ばすもんを!」

 

「オーダーが入ったぞセレーネ」

 

「は、はいっ」

 

俺達も行こう。ヘパーイストスだけじゃ説明がスムーズにできそうにないかもしれない。

 

『地龍の外殻』『地龍の鉤爪』『千年鉱石』『竜骨【大】』

 

外殻は知ってるし、鉤爪は納得できるが千年鉱石は何だ?竜骨ってそのまんま地龍の頭部じゃないか。出したセレーネ本人も驚いてるから詳しくは見ていなかった?

 

「な、なぁぁぁぁっ!?」

 

「ち、地龍じゃ!?間違いない、こいつは地龍だ!!」

 

「小僧の言うことは本当じゃったのか・・・・・っ!?」

 

こっちはセレーネの比じゃないほど目が飛び出そうなぐらい見開いて顔中に脂汗を流している。

 

「あ、あの・・・これで証明できますか?」

 

「まさか、嬢ちゃんが倒したってのか!?」

 

「ふぇっ!?ち、違います!これは―――!」

 

「ああ、俺が遠い町から連れて来た三人の冒険者が倒した」

 

ヘパーイストスの一言で三人のドワーフ達が俺達を愕然とした表情で見つめてくるが、竜骨を持ち上げるユーミル。すご、リアルのティラノサウルスの頭部並みに大きい竜骨を片腕で持ち上げたぞ。

 

「・・・・・行くぞ」

 

「っ!?」

 

「お、おうっ!分かったぜユーミルっ!」

 

「こうしちゃいられねぇっ!奴らを集めて報せなきゃなぁっ!今日は宴だぁっ!」

 

俺達を置いてドワーフ一行は竜骨を神輿のように持ってこの場を後にした。

 

「えーと、俺達はどうすれば?」

 

「しばらく観光でもしていればいい。用がある時は呼んでやるからよ」

 

「場所が分かるのか?」

 

「おいおい、俺達は友好を交わしているんだろ?手紙ぐれぇ送れないわけがないだろ」

 

NPCと交友関係になるとそんなことも出来るのか。初めて知ったな。

 

「じゃあ、お言葉に甘えて町に行きましょ?」

 

「うん。ドワーフの国をゆっくり見て見たかった」

 

「だな。ヴェルフはどうする?」

 

「師匠と居るさ。俺も何時か、ここで世話になるだろうからな。顔を覚えさせておきたいんだ」

 

納得できる理由にこれ以上の誘いを止めて俺達だけで町へ繰り出した。

 

「ところであの竜骨。素材にするとしたら何になるんだ?」

 

「うーん、加工しなくちゃならないだろうからきっと武器や防具の素材じゃないかな」

 

「地龍・・・ドラゴン系のモンスターを倒せば竜骨が手に入る情報は凄いよ」

 

ラヴァ・ゴーレムの討伐以降の配信動画は停止してあるから、これ以上の情報は流出されない。

 

「で、問題なのは千年鉱石ってやつだ」

 

 

『千年鉱石』

 

千年間も生きた地龍が数多の鉱石類を食べ続け、体内で長い年月をかけて混ざり蓄積したもので、生半可な技術では扱うことも出来ない伝説の鉱石。

 

 

これが×3だもんで、この説明文を読む限りでは・・・・・。

 

「古匠以上の職業じゃないと扱えないって感じだな」

 

「名匠にすらなってないもの。当然よね・・・・・。」

 

「でも、上を目指す理由が出来たよ」

 

名匠になるための条件は分かったところだ。

 

「名匠の鍛冶師に弟子入りして免許皆伝を許されることでいいのかな?」

 

「他の鍛冶師のプレイヤーも上位職の名匠にはなってないし」

 

「匠なら私とイズを含めてまだ数人程度」

 

なぬ?匠だと?

 

「匠の条件は?」

 

「レベルを20上げた状態で、レア度と品質を7以上の作品を10個以上作り上げること」

 

「名匠になるには更に大変な作業になるでしょうねぇ・・・・・」

 

生産職の大変さが滲み出ている。俺もファーマーの真似をしてるけど、ファーマーではないから上位職の転職は・・・・・あるのか?

 

「そういえば、ハーデスは二次職になってるの?」

 

「いや?まだ上位職じゃないけど、帰ったらテイマーを次のランクに上げるつもりだ」

 

「まだ、初期の職業であんなに・・・・・?」

 

セレーネ。その信じられないものを見る目で見つめないでくれるかな。

 

 

会話を交えながらドワルティアの商店街にまで戻った。観光は個々に分かれて活動してみようとイズの提案でそうすることに。ヒムカを引き連れて、様々な店を見て回ることしばらくして。

 

「おっ、食材が売ってるぞ」

 

「ヒムヒム」

 

布を敷いて籠の中に食材を売ってる中年男性の店を気になって足を止める。畑で育てられそうなものは・・・・・。

 

「おおっ?これは鷹の爪!」

 

「違うよ。トウタカっていう辛い調味料になる植物だよ」

 

「トウタカ?」

 

唐辛子、鷹の爪の上の文字を抜いた名前か?

 

「トウタカね。これを売ってくれ」

 

「あいよ。どのくらいだい」

 

「この籠全部」

 

「嘘だろっ!?」

 

驚かれる。それでも購入希望を示してトウタカを籠一杯買った。それ以外にも岩塩、胡椒に何かの卵、ガリュートという名のガーリックにパスタ・・・・・ハーブやデザート作りには欠かせないシナモンやナツメグも大量に買い込んだ。というか、ここの商品―――カレー粉の材料を買い占めた。

 

「お客さん凄い買うね。こんなに買ってくれる人は初めてだよ。これでしばらくは生活に困らなくなる。ありがとう」

 

「どういたしまして。料理を作るし畑で育てたいものもあるからな。たくさん必要なんだよ」

 

「ほほう。畑をお持ちか。なら、ストロベリーも育ててみないかい?」

 

「ワイルドストロベリー?」

 

「いいや野生じゃないデザートに使われる方のストロベリーさ」

 

それは・・・・・凄く興味があります。

 

「ただね。それを売ってるのは俺の連れなんだ。この先の道を歩いて頭に紫の布を巻いた女性がいる。サボンから紹介されたと言えばストロベリーの話を聞けるよ」

 

「分かった」

 

サボンという商人の言葉を信じてその女性を探すと、あっさりと見つけた。地面に布を敷いて装飾品を売買している。鑑定すると、高い完成度ばかりの商品だが、それ相応の高い値段で付けられていた。

 

「ん・・・・・これとこれをください」

 

「まいど!」

 

「それと、サボンさんからストロベリーを育てる気があるなら売っているあなたに訪ねろと言われたんだが」

 

「おや、あの男がそんなこと言うなんて珍しいじゃないか。大量に買ってくれたんだね?物好きなお客さんだよ」

 

笑みを浮かべる女性は、後ろからバスケットを手にとって蓋を開けると小さくて赤い果実が詰まっていた。

 

「これが大人から子供まで好まれるストロベリーだ」

 

「おお、美味しそうだ」

 

「だけど、これは簡単には譲れないよ。一粒10000Gだ」

 

「は?高過ぎだろ?」

 

「ただのストロベリーじゃないのさ。ここだけの話だよ?あるモンスターの好物なのさ」

 

「そのモンスターとは?」

 

「名前は知らないけれど、うちの村の外に群生してるこのストロベリーが実る時期に必ず小さなドラゴンがやってくるんだよ。珍しく可愛いからって捕まえようとした村人がいたんだが、すばしっこくて魔法を使うもんだから捕まえられないでいるんだけれどね」

 

「全部買おう! あと、あなたの村の場所を教えてくれ!」

 

「嘘でしょっ!?」

 

金は時に偉大なりなのだ! 結果、ストロベリーだけで500000Gも掛かったがこっちはホクホク、あっちは感動の涙を流してお互いWin-Win! 金なんてすぐに稼げるから問題ないのさ!

 

それから様々な商店に足を運び気になる商品を見つけては、大量に購入する行動を繰り返した。あっという間に時間は過ぎた時に一通のメールが届いた。ヘパーイストスからだった。内容は城のところに集まれ。

 

 

 

 

イズとセレーネと合流しつつ、ドワルティアの城に辿り着いた。崖に囲まれて一本道の足場と折り畳み式の橋で城に繋がっていて、その前にヘパーイストスとヴェルフ、ユーミルが佇んでいた。

 

「来たな。どうだった」

 

「良い買い物ができた」

 

「私もよ」

 

「色々な物がたくさんあって目移りしちゃった」

 

「・・・・・行くぞ」

 

いやあの、説明をしてくれないかな?どうして王城に入ろうとしているんだけどユーミルさん。ヘパーイストス、説明よろしく。

 

「地龍討伐の話がドワーフ王の耳にも入った。王がお前達との謁見の場を設けたんだよ」

 

「王様と話を・・・・・」

 

「おー、古匠職業の話が聞けそうだな。当分先の話だがな」

 

「でも、上位職の転職方法が分かるなら当分の先でも知っておいても損じゃないよ」

 

それもそうだけどな。どんどん先行くユーミルを追いかけ近づいてくる俺達を出迎える城門が、一人で勝手に鈍重の音を鳴らしながら開いた。門を潜ると完全武装した警備中である城兵のドワーフ達が視線を各所から飛ばしてくる。王座の間がある場所は―――。

 

「ヘパーイストス。王がいる場所わかるのか?ユーミル、我が物顔で移動してるけど。案内役のドワーフが来ていないのに勝手に移動してもいいのか?」

 

「・・・・・俺に訊くな」

 

「おいおい。不法侵入で捕まったりしないよな?」

 

一末の不安を抱くことになるとは―――ユーミルが口を開く。

 

「・・・・・問題ない」

 

問題ない?ヘパーイストスと視線でどういうことだ?と疑問符を浮かべる。更に浮上した疑問は解消されることもないまま、ユーミルについて行く形で城内を歩く。真っ直ぐ一本道の通路の先、百段以上はあるだろう階段を上った先にある楕円形の大きな扉を守護する屈強な二人のドワーフに歩み寄った。

 

「・・・・・連れて来た」

 

「「はっ!」」

 

「「「「「・・・・・」」」」」

 

え、それだけ?顔パス?・・・・・まさか、ユーミルって。

 

守衛のドワーフ達の手によって扉は開かれる。扉の向こうは高くした台座の上に王座がある所まで敷かれている紅い絨毯を挟む形で佇む、幾人の正装を身体に着込んだドワーフ達や鎧を着込んだ兵士のドワーフ達。

王座の方へ視線を向ければ頭に小さな黄金の冠を載せ、王族の者として相応しい正装とマントで身に包む小さき王が座っていた。その容姿はどこか、髪と髭は焦げ茶色だが目元がユーミルと似ている。

 

俺達は王から数メートルも離れた位置でユーミルが立ち止まり、その場で跪いて頭を垂らす姿勢に倣った。ヒムカはこの意味が分からないから静かに佇んでもらうことにした。

 

「・・・・・面を上げろ」

 

王としての威厳と風格を示唆しながら王が口を開いた。言われた通りに面を上げる。

 

「久しいな兄者よ」

 

「・・・・・弟よ」

 

「んなっ・・・!?」

 

最初の一言が兄弟の挨拶だった。ヘパーイストスはまったく知らされていなかったみたいで、絶句していた。まぁ、イズとセレーネもそうだが。

 

「いい加減、城に戻ってこないか。この玉座も本来は兄者が座るべくあるというのに」

 

「・・・・・俺に政治は無理。鎚を振るい鉄の声を聞く方が向いている」

 

「何を言うか。代々この国の王族は『古匠』でなければ受け継がれないのだ。とっくの昔に鍛冶の技術は俺よりも、『古匠』に至っている兄者がドワルティアを統べなければいけないというのに」

 

あれー?ヘパーイストスさん、話が違うんだけど?ユーミルは名匠じゃなかったっけ!?

 

「・・・・・」

 

あっ、ヘパイストスの顏が面白いぐらい愕然としていて開いた口が塞がらないでいる。師弟関係時に自分は名匠だと教えられてたからユーミルの事実を気付けなかったか?

 

「・・・はぁ、この話はまた後でしよう。―――今度こそ逃がさんからな」

 

待って、ユーミルは堅苦しい王族の生活が嫌で城から飛び出したんじゃないよな?そんな風来坊みたいなことないよな?

 

「地龍を討伐した者はお前達か?」

 

王の視線はこっちに初めて向けられた。その中にはヘパーイストスも含まれているだろうが。

 

「・・・・・そうだ。未だ未熟の弟子とその弟子を除く、異邦の地から来た冒険者達だ」

 

「そうか。よくラヴァ・ゴーレムに襲われながら地龍を討伐したものだな。その証である竜骨は討伐した象徴として工業区に飾るつもりだ。ドワーフの誇りを取り戻してくれてドワーフの代表者として礼を言う」

 

椅子に座りながら頭を垂らす王のこの瞬間、クエストが達成した。報酬はないか。

 

「さて、地龍を討伐したお前達に報酬を用意したい。それぞれどんな報酬を望む?何でも構わないぞ」

 

俺達三人は顔を見合わせた。事前にあれがいいなーこれがいいなーと話していたので話し合う必要はなかった。

 

「あの、私と彼女は鍛冶師です。まだ名匠にも至っておりませんが古匠に至る方法を教えてもらいたいです」

 

「お、お願いします」

 

二人の報酬を訊いた王はそれはもう深いため息を吐いた。

 

「それは『古匠』であるそこにいる兄者に尋ねて欲しい。俺はこの玉座を受け継いでから未だ『名匠』のままなのだ」

 

「「・・・・・」」

 

「そういうわけで兄者。そのぐらいの願いは聞き届けてやれ。この者達が地龍を討伐しなければドワーフの誇りは取り返しがつかない所まで地に落ちていたのだからな。王族の者として責務を果たせやこの放浪野郎」

 

名も知らぬ王様、最後の言葉が乱暴だよ。

 

「・・・・・わかった」

 

ユーミルはこれに受け入れ、二人の望みは叶った。そして最後は俺となった。

 

「最後にお前は何を望む?」

 

「俺は、二つほど望みがあるけれど・・・・・」

 

「二つもか。人間は欲張りであるな」

 

「・・・・・地龍を討伐した貢献はこの者が大きい。彼の災害の獣、ベヒモスをも討伐した」

 

「ベヒモスだと?いくら兄者でもそんなでたらめな―――」

 

 

『ベヒモスの豪皮』

 

 

すっとベヒモスの素材の一部を提示すれば言葉を失う王。腰を抜かすどころか、玉座から飛び出して豪皮を間近で見に来た。

 

「ベ、ベヒモスを倒したというのは本当なのか・・・・・これがあのベヒモスの・・・・・」

 

「・・・・・地龍なぞ、倒すのに朝飯前」

 

いや、別に朝飯前ではなかったけど。そりゃラヴァ・ゴーレムに何度も叩きつけはしたが。

 

「それと、これもラヴァ・ゴーレムがいない間にマグマから採取したものを」

 

 

『大地の生命の源』

 

 

「「っ!?」」

 

王とユーミルの目が零れそうに見開いた。

 

「ま、まさか倒したのか!?あのラヴァ・ゴーレムをっ!!!」

 

「その後にマグマの中を泳いで直接採取をした」

 

「マ、マグマを泳ぐ・・・・・?あそこは一度武器や防具を入れたらたちまち耐久が減り、人が入れば即死する死の泉なのだぞ?」

 

「・・・・・それに耐えれるとしたら、破壊不可か破壊不能。・・・・・だが、その装備は『破壊成長』が備わっているか。前よりも装備の輝きが増している・・・・・」

 

おっ、それすら認知していたのか?

 

「現状、俺達では扱えない代物だとして『古匠』と思っていた王に献上するつもりだったんだけど・・・・・」

 

古匠ではなかったのでどうしたものかと内心悩んだが、これをユーミルに向ける。

 

「これで『神匠』に至れる?」

 

「・・・・・まだ足りない。特別な鉱石が必要になる」

 

「じゃあ、これ?」

 

 

『千年鉱石』

 

 

「・・・・・数が足りない。インゴット」

 

「え、無理じゃないか?地龍って個体はそんなわんさかいないだろ?」

 

「いや、そうでもない」

 

王様が俺にそう言ってきた。そうでもない?はて、それはどういうことだ?

 

「その千年鉱石はこの城の宝物庫にも一つだけある。それはかつて古代のドワーフがあの火山で偶然採掘していた時に掘り出したものらしい。今じゃあそれを探す奴は一人もいないがもしかすると、火山の地中深く掘り続けりゃあ見つかるかもしれねぇぞ?」

 

 

あの火山の名前はなんたって『始原の火山』なんだからよ。

 

 

地中深くかぁ・・・・・。見つかるかな。そんで次のクエストが発生した。EXクエスト『神の頂に挑戦する者』だ。YESを押すとユーミルが口を開いた。

 

「・・・・・インゴット、一つ。こっちで錬成する」

 

えっと、俺の報酬はどうなる?王にそう言うと。

 

「兄者の我儘を叶えたら無理な願いでも叶えてやる」

 

あ、お預けですか。そうかぁ~・・・・・。

 

 

 

「ということで、俺達は千年鉱石を掘ることになってしまったな」

 

現在俺は一人で息吹と称されている火山の火口に来ている。地中深く行くならばこの火口からだろうと結論を出し、この場に居ないあの二人はユーミルから古匠の転職条件を聞き出してもらっている。俺も何時かは鍛冶師になろうかな、とマグマが膨れ上がる様子を見て完全に姿を現す前にマグマの中にダイブするのだった。マグマの中じゃあ水中探査は当たり前のように発揮できず、視界一杯に赤色や橙色や白で地形の把握が全くできない。水中じゃないのにマグマの中でも呼吸は出来るのは良い誤算だが。

 

「あの巨大魚のようにラヴァ・ゴーレムと戦わなくちゃならないのかよ!」

 

 

 

 

 

イズside。

 

 

 

 

「・・・・・本来は名匠の腕になってから教えるつもりだが、教える」

 

ハーデスが一人で千年鉱石を採掘しに行ってから、セレーネと古匠のユーミルから直々に最上位の職業の条件を教えを乞うことにした。城内の一室で話を聞くことになったのだ。

 

「「お願いします」」

 

「・・・・・」

 

鍛冶師のNPC、ヘパーイストスも同席して一緒に古匠の至る条件を訊こうとしている。弟子のヴェルフはまだ教えられないとヒムカくんと別室で待ってもらっている。

 

「・・・・・古匠は、古代の武器・・・・・お前達の言い方でユニークの名の物を鍛える」

 

「「・・・・・」」

 

「至るためには・・・・・調べる」

 

「調べる・・・・・?」

 

「・・・・・ユニークの物は古代の鍛冶師達が、当時の技術で生み出された伝説の物」

 

古代の鍛冶師達が生み出した作品。ただのユニーク装備と認識していたのだけれど、そんな歴史があったのね。

 

「・・・・・まずは、調べることから始めろ」

 

 

『E✕クエスト 古代の調査』

 

 

「「っ!」」

 

私の目の前に発生した青いパネル、クエストが表示された。セレーネもそうみたいで目を丸くしていた。古代の調査・・・・・。一体どんなものを調査すればいいのかわからないけれど、YESを押してクエストを受けた。

 

「あの、何を調べれば?」

 

「・・・・・自力で調べろ」

 

「・・・・・わかりました」

 

ハーデスの力が必要だわ。古代の調査って・・・・・古代の何を調べればいいのかしら。

 

 

それまで私達は彼が戻ってくるまでの五時間、自分達で試行錯誤をした。お、遅い・・・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

「た、ただいま・・・・・」

 

火山から帰った俺は疲弊していた。もう、マグマの中でラヴァ・ゴーレムと戦いたくはない!! 倒すのがベヒモスの次に苦労したわ!!

 

「ハ、ハーデスっ!」

 

大袈裟にイズ達の前で倒れ、脱力感をこれでもかと晒す。

 

「疲れた・・・・・マグマの中でラヴァ・ゴーレムと戦うのが最悪だった。マグマの中じゃ、魔法攻撃が碌に出来ないし攻撃が当たってもすぐにHPが回復するから、採掘の邪魔だから倒すのに時間が掛かったし、採掘のポイントが全然見つからなくてぇ・・・・・あ、遅くなってごめんな」

 

「あ、謝らなくて大丈夫だよっ。ハーデスの方が一番大変だったんだから」

 

「そういえば、ラヴァ・ゴーレムが復活していたから、一人じゃ千年鉱石を探すのは苦労するわよね。ごめんなさい」

 

へへへ・・・・・労ってくれる言葉が身に染みるぜ。

 

「・・・・・鉱石は」

 

「あー・・・・・何とか掘れた。ミスリルのピッケルの耐久値が一気に減るもんだからさ、6個しか採掘できなかった」

 

起き上がって千年鉱石を6個取り出す。

 

「・・・・・マグマの中で活動できる人間は存在しない。感謝する」

 

「感謝されてもそれだけじゃインゴットにはできないだろ。またマグマに潜るから待っててくれ」

 

「それこそ待って。6個なら私からも出すわ」

 

「あ、私達も持ってるから残り1個になるね」

 

「・・・・・残り1個は宝物庫にある」

 

おお?足りるのか?でも、城の物を王が譲ってくれるとは思えないんだが。

 

「・・・・・俺も頑張らせてもらう」

 

「なんだと?」

 

意味深なことを言い残したユーミルは、俺達を置いて部屋から出てどこかへと行ってしまった。それからしばらく時が経った頃に片手に千年鉱石を持って戻ってきたユーミルと一緒に王が入ってきた。

 

「話は聞かせてもらったぞ。本当に採掘してくるとは。これであの火山に千年鉱石がある実証されたことで工業区の者達に採掘に行かせられることができる」

 

だから城の千年鉱石を譲ってくれることになったのか。

 

「これで兄者が神匠に至れるのか・・・・・」

 

「・・・・・まだ、足りない」

 

「何だと?今度は何が足りないというんだ」

 

インゴットにできる分は集まったからいいだろもう?今度は一体どんなものが必要なんだよ。

 

「・・・・・これらをつなぎにするための、相応の古代の物が必要」

 

「古代の物?」

 

「えっと、ハーデスにもおしえるね?」

 

かくかくしかじか・・・・・。

 

「ほうほう、ユニーク装備は古代の鍛冶師が生み出した伝説の作品か。なら、俺とイズの装備なら?」

 

「・・・・・既に完成されている物に手は出せない」

 

そうか。だめか・・・・・いや、あれなら?

 

「じゃあ、これらなら?」

 

ヘパーイストスに研磨してもらった風化した装備等を床に置いた。研いでもらってもまだ、実用的ではなかったからこれならどうだろうか?

 

「・・・・・」

 

ユーミルはひとつひとつ手にとって確かめる。職人の眼差しで風化していた装備を確認して、頷いた。

 

「・・・・・これらも全て古代に作られた物だが、かなりの年月で風化していたようだな」

 

「ベヒモスの胃の中から見つけたんだ」

 

「・・・・・溶かされず現代まで風化の状態で形だけは保っていたか。・・・・・どれに使う」

 

一つしかできないと言うことか。じゃあ、これだな。

 

「変形するこれ」

 

「・・・・・面白い作品だ。いいだろう」

 

大剣と大盾を選ぶとユーミルは、「一週間はもらう」と言った。なるほど、風化していた装備は古匠の鍛冶師に打ってもらう必要があったのか?

 

「話は終わったか?」

 

王が話しかけてきた。

 

「あ、うん」

 

「ならば、今度はお前の願いを叶える番だ。何を望む」

 

ようやくか。じゃ、遠慮なく言わせてもらおうか。

 

「これからもドワルティアと始まりの町と転移魔方陣で行き来したい」

 

「それが一つ目か?ふむ、それぐらいなら何とかできるだろう」

 

「もう一つは・・・・・王のあなたと友達になりたい」

 

分かった。と頷くドワーフ王は、次に「ん?」と言葉を漏らしたのだった。

 

「友達?」

 

「友好を交わしたいって願いだ。友達になると色々とお得だぞ?ドワーフの問題に手を貸すことが出来るのは俺だけじゃなくて他の人間の冒険者付きだ」

 

「・・・ふむ、お前ひとりで百人以上の者を動かせると?」

 

「百人以上はわからないけれど、このドワルティアに行きたい!っていうのと、更に頂を目指したい鍛冶師が必ず現れる。そいつらが王とドワルティアの為に動くのは間違いない」

 

王はそんな俺の言葉に未来を見据えたのか、それから俺と友達になってくれたNPCの一人になったのだった。

 

 

 

「ハーデス、相談があるのだけれど」

 

「なんだ?」

 

「『古代の調査』ってEXクエストが発生したの。それをクリアできれば話が進めれるのよ」

 

「古代を調べる・・・・・わかる?」

 

古代を調べるねぇ・・・・・。うーん・・・・・ああ。

 

「そういうことか」

 

「えっ?もうわかったの?」

 

「普通にわかる奴分かるぞ。古代を調べるってのは『考古学者』の職業を取得するためのもんじゃね?」

 

「考古学者・・・・・」

 

「それと古代を調べる対象は恐らく様々な物だ。遺跡、歴史、道具、装備、含まれているなら食材もな」

 

そして、道具と装備は既に俺達は持っている。

 

「千年鉱石とこの風化した装備に大地の生命の源だって古代からある物だから調査の対象だろ」

 

「「!」」

 

多分だが俺はそう思う。だから今の内にもう一度説明文を呼んで見とけば?と促す。二人はその通りにするが、まだ取得の条件は満たされない様子だった。

 

「ダメ押しにこれもな」

 

 

『ラヴァ・ゴーレムの溶鉱炉』

 

 

地神が大地を創造すると同じく生み出したラヴァ・ゴーレムの核。

人では手に余る代物で扱える者は未だいない。

 

 

「地神って・・・・・」

 

「この世界の神話に出てくる神だ。―――そうだ、二人ならこれの使う場所わかる?」

 

久方ぶりに闇結晶と光結晶の二つを出して確認してもらった。

 

「ふむ・・・・・これは・・・・・」

 

「・・・・・」

 

「闇結晶と光結晶って、新しい精霊の結晶なの?」

 

「見たことが無い・・・・・」

 

イズ達も興味津々になるのはいいが、ユーミル達の答えを聞きたい。

 

「すまん。他の属性結晶なら見聞したことはあるが、この二つの存在は今初めて知った」

 

「・・・・・すまない」

 

王とユーミルですら分からないと首を横に振った。が、ユーミルが口を開いて言い続けた。

 

「・・・・・だが、それに関するかもしれない古代の場所、知っている」

 

「本当か!?」

 

「・・・・・場所は忘れたが遠い地に【常闇の神殿】と朽ち果てた教会がある。そこに行けばあるいは・・・・・」

 

遠い地にね・・・・・それってドワルティアからなのか始まりの町からなのかわからないな。でも、ようやく見えた未知の精霊の居場所だ。探す他ないだろう。

 

「ありがとう!」

 

「・・・・・礼を言うのはこちらだ。一週間、神匠の頂に至れたら・・・・・ラヴァ・ゴーレムの核も打ってみせる」

 

あ、これも打つ気なのか。別にいいけどさ。

 

「礼を言うのも俺もそうだな。ドワーフの失いかけた鍛冶の誇りを叩き直してくれてありがとうなお前達。要望通り、お前達が住む町とこの国を行き来する転移魔方陣を用意してやったぞ」

 

 

《死神ハーデスが一部エリアを開放しました。新エリア、ドワーフの国『ドワルティア』。火山ダンジョン『始原の火山』。特殊職業『考古学者』を開放クエストが常時発生します》

 

 

「あ、やっぱり考古学者だったか」

 

「解放しようとするプレイヤーはあまりいないでしょうね」

 

「うん。寧ろ何それ?って思うかも」

 

「だよな。まぁ、俺も後で取るつもりだ。それよりもまず二人は名匠にならなくちゃな。頑張れよ」

 

頷く二人。こうしてドワーフの国ドワルティアの一件はようやく終えて、始まりの町に戻ったのだった。

 

 

 

死神・ハーデス

 

LV49

 

HP 40/40〈+300〉

MP 12/12〈+200〉

 

【STR 0〈+129〉】

【VIT 1020〈+4845〉】 

【AGI 0〈+120〉】

【DEX 0〈+120〉】

【INT 0〈+100〉】

 

 

装備

 

頭 【空欄】

 

体 【黒薔薇ノ鎧:大陸の覇獣(ベヒモス)

 

右手 【新月:毒竜(ヒドラ)

 

左手【闇夜ノ写】

 

足 【黒薔薇ノ鎧:大陸の覇獣(ベヒモス)

 

靴 【黒薔薇ノ鎧:大陸の覇獣(ベヒモス)

 

装飾品 【生命の指輪・Ⅷ】【古の鍛冶師の指輪】【白妖精(ハイエルフ)の指輪】

 

 

称号:万に通じる者 不殺の冒険者 出遅れた者 白銀の先駆者 毒竜の迷宮踏破 大樹の精霊の加護 ユニークモンスターマニア 三代目機械神 聖大樹の精霊の加護 勇者 最速の称号コレクター 魔王の戦友 絆の勇士 村の救援者

 

スキル

 

【絶対防御】【手加減】【体捌き】【瞑想】【挑発】【極悪非道】【シールドアタック】【大物喰らい(ジャイアントキリング)】【咆哮】【毒竜喰らい(ヒドライーター)】【爆弾喰らい(ボムイーター)】【植物知識】【大盾の心得Ⅹ】【悪食】【受け流し】【爆裂魔法Ⅹ】【エクスプロージョン】【体術】【幸運】【テイム】【採取】【採取速度強化小】【使役Ⅹ】【獣魔術Ⅹ】【料理ⅩⅩⅩ】【調理ⅩⅩⅩ】【調合ⅩⅩⅩ】【水無効】【八艘飛び】【伐採】【伐採速度強化小】【機械神】【機械創造神】【宝石発見】【刻印・風】【水中探査】【侵略者】【破壊王】【背水の陣】【覇獣】【不屈の守護者】【古代魚(シーラカンスイーター)】【溶岩喰らい(ラヴァイーター)

 

 

五時間もかかった理由は・・・・・その、激辛の味のスープをゼリーにした感じのラヴァ・ゴーレムをだな。うん、それで倒したんだ。深くは聞かないでくれ。お願いだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【農業】農夫による農夫のための農業スレ16【ばんざい】

 

 

 

:NWO内で農業をする人たちのための情報交換スレ

 

:大規模農園から家庭菜園まで、どんな質問でも大歓迎

 

:不確定情報はその旨を明記してください

 

:リアルの農業情報は有り難いですが、ゲーム内でどこまで通用するかは未知数

 

 

 

1:ノーフ

 

また先駆者の白銀さんが新エリアとダンジョンを発見&解放した件について

 

 

2:つるべ

 

サスシロ!

 

 

3:チチチ

 

サスシロ!

 

 

4:セレネス

 

サスシロ!

 

 

5:ネネネ

 

サスシロだね

 

 

6:プリム

 

安定のサスシロー!

 

 

7:ノーフ

 

そうだな。だが聞きたい。この掲示板には顔を出さないあの人がいない畑の前に我々が現地で揃っている状況なのは?

 

 

8:プリム

 

それはもちろん、新エリアで見つけた新しい作物を物々交換できたらいいなーという思いで集まった者同士!

 

 

9:セレネス

 

そうそう、どこかの誰かさん達が誰かさんの協力でノームをゲットしたんだからな。しかもいつの間にか白銀さんから米を譲ってもらって栽培しているプレイヤーがいるし!

 

 

10:つるべ

 

俺達もプレゼント交換をしたいのですよ!

 

 

11:チチチ

 

あわよくば、お近づきになりたい!

 

 

12:タゴサック

 

お前等・・・・・白銀さんの迷惑になるようなことをするなよ

 

 

13:ネネネ

 

おや、タゴサックさんだ

 

 

14:チョレギ

 

気持ちは分からなくもないけどねー。相変わらず白銀さんの畑は凄い。ファーマーをプレイしている私達よりもファーマーをプレイしているしさ、桜の木が咲いている畑はまだここだけだよ?それに米の場所が未だ発見されていないんだよねー(ノーフに羨望の眼差しを送る)

 

 

15:チャーム

 

親子丼食べたいなー! 卵はまだ見つかってないけれど!

 

 

16:つがるん

 

俺はTKG。

 

 

17:ダイチ

 

僕はシンプルなチャーハン。

 

 

18:プリム

 

あー、それもいいですね! ともかく、卵と米! この組み合わせが最強!

 

 

19:チョレギ

 

私は漬物と白米を交互に食べたら、無限に行ける気がしますね

 

 

20:ネネネ

 

ご飯とは関係ないけれど苺なら無限に行ける気がする

 

 

21:チチチ

 

苺かぁ~。ワイルドストロベリーならあるが、食用の方はまだ発見されていないんだよな

 

 

22:ノーフ

 

俺は白銀さんなら俺達の予想を超える物を発見してくれると断言するな

 

 

23:プリム

 

激しく同意!

 

 

24:セレネス

 

ドワーフの国&火山エリア・・・・・ここから新しい発見の物とは一体?

 

 

24:つるべ

 

ドワーフなら酒だろ?後は酒のおつまみ

 

 

25:プリム

 

 

完全におじさんの考えそうな発想ー。もしかしてつるべさんの年齢って40代?

 

 

25:つるべ

 

まだ二十代だよ!(・・・・・心はね)

 

 

26:ノーフ

 

心の声が漏れてるからな。

 

27:ノーフ

 

っ!白銀さんが戻ってきた!

 

 

28:プリム

 

白銀さーん!

 

 

29:タゴサック

 

 

羽目を外さないように監視してくる

 

 

30:チョレギ

 

 

私も心配なので同行します(何を手に入れたのか気になる)

 

 

31:テリル

 

噂の白銀さんを拝めるかな

 

 

32:佐々木痔郎

 

なぬ、白銀さんだと?俺も行くー!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数時間ぶりに畑に戻った途端だった。ノーフやプリムにネネネ、侍風のプレイヤーの佐々木痔郎以外にも見知らぬプレイヤー達が鬼気迫る勢いで走ってきたんだが―――何事!?

 

「白銀さん、ドワーフの国はどうでした?新しい作物はありました?」

 

「・・・・・知りたい?」

 

不敵の笑みを浮かべる俺に対して一部のプレイヤーがブンブンと首を縦に振った。ならば教えてやろうじゃないか。

 

「じゃあ、まずはこれだ。トウタカ!」

 

「トウタカ?赤くて細いこれって・・・・・」

 

「辛い調味料になるそうですがなにか?」

 

「ま、まさかっ・・・・・?」

 

「そのまさかの唐辛子だ!韓国料理の実現の可能性が出て来たのだ!」

 

おおっー!!!と歓声を上げるが、これで終わりじゃないからなお前達。

 

「続いてこれだ。胡椒!」

 

「胡椒!?」

 

「育てればホワイトペッパーにもブラックペッパーにもグリーンペッパーとか手に入る!」

 

「作物じゃないけどこれ、岩塩な」

 

「それも欲しいな!」

 

「あとこれも、卵も売ってた」

 

「親子丼!」

 

「チャーハンの時代がキター!!」

 

その他、デザートに欠かせない香辛料を紹介するとまた歓声が上がった。

 

「お次はこのポップだ」

 

「ポップ・・・・・?」

 

「ビールを作るのに必要不可欠な物だ。大麦があるし醸造すればビールを作れるだろうな」

 

「凄くねぇっ!?確実に売れるだろそれ!」

 

それからも手に入れたアイテムを見せる度、大袈裟に反応したり欲しいと口にする面々に最後のとっておきを披露する。

 

「それじゃ、最後に個人的な目玉商品もとい果物を紹介しよう」

 

「白銀さんがそこまで言わせる果物とは気になるな」

 

「まさかの蜜柑?」

 

「いや、メロンって線もあるぞ」

 

「苺だったらいいなー」

 

「ネネネ、苺をお腹いっぱい食べたいがためにファーマーを始めたもんねー」

 

「さくらんぼがいいなー」

 

予想当てクイズになってきている中でインベントリからスカイ・ストロベリーを出した。

 

「はい、スカイ・ストロベリー。甘くておいしい食用の苺の方だ」

 

瑞々しい赤い色の小さな果実を見せた途端。ネネネがその場で土下座をしだした。

 

「苺をください白銀さーん!!!」

 

「ネ、ネネネが大声を上げてるところ初めて見た・・・・・」

 

「な、なんて綺麗な土下座を・・・・・っ」

 

唖然とするプリムに試しに一つだけネネネに突き出すと、バッと顔を上げてバクッ!と魚の如く食いついた。咀嚼した後の彼女の表情は・・・にへら、と顔の表情筋が緩んで笑顔になった。

 

「・・・・・美味しぃ」

 

「だろ?しかもこれはさ。おーい、オルトー!ミーニィー!」

 

畑に向かって呼ぶと翼を羽ばたかせてこっちに飛んできた。俺の頭の上に乗ったらスカイ・ストロベリーを見せると。

 

「キュイキュイッ!!」

 

大きく口を開けて俺からストロベリーを取ってとても美味しそうに食べ始めた。更にもう二つも食べさせると、ミーニィが光出して両手で獣魔の心・ミーニィを抱えていた。

 

「どこかの村の外で育っているこの苺はピクシー・ドラゴンの大好物らしく、実った時期に食べに来るらしい情報を得た」

 

遅れてやってきたオルトに苺の株分をしてもらい、種になったそれを天に突き付ける。

 

「欲しい人は物々交換かマネーで取引するぞー! ただし、一人一種類につき一つのみだ。複数欲しいならドワルティアに行けるようになってるから、ドワーフの国で買ってくれ」

 

「私は今すぐ苺を育てる!」

 

「複数じゃないのか。まぁ、他の奴らも欲しいのが被ってるだろうからしょうがないか」

 

「胡椒をくれー!」

 

「私はトウタカと卵!」

 

俺の前で整列して次々と取引していく。ネネネは苺の種を手にいれるや否や、自分の畑に猛ダッシュして戻っていった。

 

「欲深くないんだな白銀さんって」

 

「ん?どちら様?」

 

「ああ、俺はタゴサックだ。よろしくな。トレードしてもらった物はありがたく育てるよ」

 

こんな知らないプレイヤー達とも知り合えたところで、ノーフが問うてきた。

 

「白銀さんの畑にある桜の木って・・・・・」

 

「見ての通りチェーンクエストで貰った桜の木だ」

 

「おお・・・・成長したらあんなに綺麗な桜が咲くのか。NPCを誘って宴会は?」

 

そういえば期限はないから忘れかけていた。

 

「そうだな。エルフのイベント前の一週間後に花見しようかな」

 

「するのか?じゃあ、俺も同席しても?」

 

「料理は自分で用意してくれよ?花見は・・・・・夜の21~から22時までする予定だ。来れるか?」

 

「勿論だ」

 

「ノーフだけズルい!!私も花見がしたーい!!」

 

そんな話をしていると耳聡くプリムが叫んだ。その声でまだいたファーマープレイヤー達がざわめきたってしまった。

 

「花見?」

 

「白銀さんの畑にある桜のところで?あ―――チェーンクエストだ!」

 

「桜の木を花咲かせたらNPCと花見するんだったな。ということは・・・・・」

 

「俺達も桜の木を育てている状態だから、白銀さんのクエストに乗じれば対応がわかるな」

 

この機に便乗しようとするプレイヤーがこっちに視線を向けてくる。はいはい・・・・・わかったよ。

 

「花見に参加したい奴は各自五人分の料理を持参してくれよ。夜の21~22時にまで花見するからな」

 

「友達に声を掛けてもいいですかー?」

 

「掛けてもいいけど、4人までな。100人もプレイヤーが入れる余裕ないだろうし、机や椅子だって用意しなくちゃならないから」

 

「はーい!」

 

「それと訊くけど椅子と机、ゴザを売ってる場所やプレイヤーはいるか?こっちで用意するから」

 

「それなら俺達が各自で用意するよ。白銀さんに負担を掛けたくないから」

 

・・・・・エエ子がいたよ。

 

「だから料理はたのんます!特にチャーハン!」

 

「カニチャーハンできるが」

 

「お願いしまーす!!」

 

皆と別れタラリアへ赴いた。

 

「やぁやぁヘルメス。売りたい情報があるんだけど」

 

「わ、わかってるわ。新エリアとダンジョンのことでしょ?」

 

「それと、新職業の考古学者のヒントと鍛冶師の最上位職の古匠と神匠の存在。後これな?ドワルティアで買った食用の苺やその他諸々だ!」

 

「~~~ッ!? ~~~ッ!?」

 

「あと、買いたい情報がある。いいかな?」

 

「う―――うみゃああああああああ! またはさああああああああああんっ!!」

 

またしても完全敗北して嘆くヘルメスに笑顔で頭を撫でる。

 

「総計1000万Gかもしれないけど頑張って情報を売ってくれ。それとも他にも教えて上げようか?」

 

「止めてっ!? これ以上の情報は扱いきれないわっ!」

 

次はテイマーの二次職だ。秘伝の書を使ってコマンダーテイマーにランクアップ!重戦士の方はまだいいな。重戦士の二次職の暗黒騎士と聖騎士になる方法は掲示板に載っているし。

 

「花見のために準備をしますか!」

 



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初の第三エリアへ(東編)

と、意気込っていたらメールが届いた。送り主は・・・・・。ペインか。

 

 

『配信動画を見させてもらったよ。あの動画から俺達も火山のダンジョンに行って君の戦い方を参考してラヴァ・ゴーレムを倒してきた。今度はジズも倒すつもりだ。是非君の協力を求めたい』

 

はやっ!? もうドワルティアに行って、もうあのラヴァ・ゴーレムを倒したってのかよ!攻略組の行動力、ナメていたかもしれない・・・・・。

 

「しかもジズを倒す気か。俺というよりフェンリルの存在が必要だろうな」

 

まぁ、断る理由はない。いいだろう。明日の花見のことも返信してやろう。返事待っているっと。

 

「これでよし・・・・・ってまたメールか。あ、マーオウだ」

 

頼んだ養蜂箱と蚕箱が出来たか。待ち合わせの場所は中央広場な。足先を広場へ向き向かうと噴水の前でマーオウが立っていた。

 

「お待たせ、待ったか?」

 

「全然や。二分も経っとらんで」

 

「じゃあ、例のブツを」

 

「おう、これや」

 

 

名称:養蜂箱+

 

レア度:3 品質:★8

 

効果: ホームに設置すると、ハチミツを収穫可能。責任者によって量や品質が異なる。

 

 

ついに来た!しかも品質が凄い!ただ――ちょっと高いか?

そう、養蜂箱は人間用の高さに作られていたため、クママには背が高すぎるのだ。これでは、中をのぞき込めもしない。それとも、責任者に任命しておけば養蜂スキルが勝手に発動するのだろうか?

そう思っていたら、マーオウがさらに何かを取り出した。踏み台みたいだな。って、またメールが届いた。

 

「ふっふっふ、ウチが何も考えていないんと思っとるか?自分の従魔にハニーベアがおることを知ってこれも合わせての完成品や!我が最高傑作、ハニーベア用踏み台!」

 

本当に踏み台だったか。それにしても最高傑作? 見た目は普通の踏み台だが。何か特殊な効果でもあるのか?

 

「色をハニーベアと同じ黄色に染めて、見た目の相性は抜群や。さらにここの持ち手を見ぃ!少し大きめの丸い穴を付けたことにより、ハニーベアでも簡単に持ち運びが可能!」

 

特殊効果がある訳ではなく、単に家具として優れているということだったか。まあ、クママに似合っているのは確かだが。よく見たら、踏み台部分が熊の顔の形をしている。無駄に細部に凝っているな。

 

「この台も貰っていいのか?」

 

「もちろんやで。養蜂箱とセットだと思ってくれてええんで」

 

「じゃあ、ありがたく」

 

そもそも、この台が無いとクママが養蜂箱を使えないしな。お次は―――

 

 

名称:養蚕(ようさん)箱+

 

レア度:3 品質:★8

 

効果: ホームに設置すると、蚕糸を収穫可能。責任者によって量や品質が異なる。

 

 

同等の作品を完成させたのか。ただ気になるのは・・・・・。

 

 

「これらの箱のレア度を上げるとしたら何が必要で条件なんだ?」

 

「材料は雑木さかい。リアルにもあるなら高級な材木が必要やと思うで。あとウチの技術力も」

 

「なるほどな。じゃあ、レア度の高い材木を手に入ったらマーオウに再度作ってもらうか」

 

「首を長くして待っとるで!」

 

高い代金を払って畑に戻る前に、マーオウにも花見の誘いをすると必ず行くと返事を返してくれた。

 

「クママ、アイネ。集合!」

 

「クマクマ!」

 

「フマー!」

 

呼びかけに直ぐに返事をして俺の前に集まった二人に、養蜂箱と養蚕箱を見せたら。

 

クママがキラキラした目で養蜂箱を見ている。

 

アイネが顔を輝かせて養蚕箱を見ている。

 

「お前達の為に用意したものだ。これをどこに設置するか決めてくれるか?まずはクママから」

 

「クママ!」

 

クママが踏み台を抱えたまま、えっちらおっちら俺の後を付いてくる。どこに設置するか。畑に置けばいいのか?

 

「クママ。養蜂箱を設置するのに一番良いところって、どこか分かるか?」

 

「クマッ!」

 

こういうのは、スキルを持った専門家に聞いてみるべきだよな。

 

クママが大きく頷いて、俺の前に立って歩き出す。やはり良い場所悪い場所があるみたいだった。

 

クママにとってはそこそこ大きな踏み台を抱えているため、あまり速く歩けない。一歩踏み出すごとに短い尻尾の付いたお尻がプリプリと左右に振られ、めちゃんこ可愛かった。

 

クママが選んだ場所は、最近果樹園と呼んでいる、緑桃や胡桃、水臨樹の木が生える一角だ。その中央の空いている場所に、養蜂箱を置くように俺を見返してくる。

 

「ここか?」

 

「クックマッ!」

 

俺はクママに指示された場所に、養蜂箱を設置した。すると、箱が軽く輝き、ウィンドウが浮かび上がる。

それは管理者を指定する画面だった。選べるのは俺か、クママだけだな。まあ、ここはクママ一択だけど。

 

「じゃあ、クママを責任者にっと――」

 

クママを選ぶと早速養蜂箱に変化があった。

 

「む?蜂か?」

 

小さい蜂が数匹、箱の周りを飛び回り始めたのだ。これが増えて、最終的には巣を作るってことか? それは良いんだけど、刺さないよな? まあ、変に刺激するのは止めておこう。逃げちゃったりしても嫌だし。

蜂が飛んで行ったのは、緑桃の木の方だ。もしかして、花の蜜を採りに行ったのか? だとすると、確かに果樹園は緑桃や胡桃の花があるし、良い蜜が取れるかもな。

 

リアルみたいに味が変わったりはしないと思うけど、どんなハチミツが取れるのか楽しみだ。

 

「じゃあ、頼むぞクママ」

 

「クーマー」

 

腕を上げてやる気のクママに養蜂箱を任せて、次はアイネのところに戻った俺は、早速アイネに指示して、養蚕箱をどこに設置すればいいのか尋ねる。

 

「フーマー」

 

「ここか」

 

アイネが指差したのは、養蜂箱の置いてある区画の隣であった。

 

「もしかして日陰の方がいいってことか?」

 

「フマ!」

 

置く場所も品質などに関係してくるみたいだな。養蜂箱の近くなら管理するのが簡単でいいね。

アイネの場合、浮遊があるので踏み台も必要ないし、楽なものだ。畑に置いて、アイネがなにやらモニョモニョ念じたらそれで設置完了である。

 

「クママ、ここに養蚕箱を置いて問題ないか?」

 

「クックマ!」

 

養蜂箱への影響も特にはなさそうだった。

 

「じゃあ、蚕が糸を生み出してくれるのを待ちますか」

 

「フマ」

 

「クマ」

 

アイネの隣で、クママも養蚕箱を覗いている。興味があるらしい。それにしても、髪が長くて白いフワフワ浮く幼女と、黄色い熊が仲良く並んで箱を覗き込む絵は、メチャクチャファンタジー感が強かった。まるで絵本の世界である。

 

「クマ?」

 

「フマ!」

 

「クーマー」

 

因みに蚕が吐き出した糸は、蚕を殺さずとも繭として回収できるそうだ。そもそも蛹になったりもしないらしい。ここまでくるともう蚕じゃないよな? まあ、ゲームだ。色々と省略されていたり違っていたりするもんだよな。でもま、これで二人もやることが増えたから暇じゃなくなるだろうなさて、メールを読むか

 

『花見の誘いをありがとう。俺達も明日窺うよ。料理に関してはフレデリカにお願いするつもりだ。ジズとの戦いは今夜21時にどうだろうか』

 

フレデリカ・・・・・料理に手を出したのか?数人分の用意するとなると大変な数になって苦労しそうだが、頑張れとしか言えない。それにしても、今夜とはやる気があるなペイン達。勇者の称号が欲しいようだ。だがOKだペイン。今夜は大いに楽しもう。

 

 

・・・・・。・・・・・。・・・・・。

 

・・・・・。・・・・・。

 

・・・・・。

 

 

「宴会だけど、何を作ろうか。あまり手の込んだ物は難しいよな。手軽にできて、かつ美味い物・・・」

 

さらに酒のつまみにもなってくれると嬉しいな。いや、食事と酒の肴は別々に用意した方が良いだろうか?

 

「キュ?」

 

「うん、木の実は美味しいけど、ちょっと違うな」

 

リックが青どんぐりを取り出して俺に見せてくる。リックには御馳走なのかもしれんが、花見料理としてお客さんに提供するのはちょっとね。

 

「ナッツ・・・・・。そっか、焼き豆ならナッツ代わりになるか?」

 

「キュ!」

 

「あれなら安いし、大量に生産できる」

 

「キッキュー!」

 

俺はイベント村に向かい、ソイ豆を入手することにした。ついでに川魚、チーズ、果物なども購入する。

イベント時には半分ほどの村人が闘技大会に行ってしまっており、店などの仕入れが滞っているという設定だったが、今では正常に戻っていた。特に魚や果物はイベントの時とは違って、制限が大分緩くなっている。今なら30人分の食材でも仕入れられるのだ。

 

「あとは北と東の町で酒や肉を仕入れよう。いや、もういい加減に第3エリアの町に行かないと!」

 

「キュ! ポリポリ」

 

ソイ豆の存在を思い出させてくれたリックには、ご褒美として屋台で焼き豆を買ってあげた。大好物を前に食欲が大爆発しているようだな。焼き豆の入った袋に頭を突っ込んで、ポリポリと食べ続けている。俺が手に持つ焼き豆の袋から、リックのモフモフ尻尾だけが飛び出ている絵面だ。

 

1時間後。

 

俺は畑に戻ってひたすら料理をし続けていた。焼肉に焼き魚、ジュースなどのシンプルな料理ばかりだが、ルフレが発酵で作ってくれた新作調味料を惜しみなく使い、色々な味をご用意だ。

 

焼肉だけでも肉が3種類。さらにニンニク醤油、味噌、塩コショウ、ニンニクオリーブオイル、ハーブ塩の5種の味付けだ。きっと満足してくれるだろう。

 

「取り敢えずこれぐらいでいいか。ドワーフの国に買い戻る羽目になったが、十分な収穫は得てるから文句はないけどさ」

 

俺より先陣切っているノーフ達は、俺の知らない植物や食材を数多く抱えていた。それが何か微妙に悔しいが横道反らない他のプレイヤーに、俺が横道に行って新発見をしているようなもんだから楽しいっちゃ楽しいのも否めないのも事実。

 

だからこそ、俺は他のプレイヤーが歩き進んだ道に戻ろうと決意した。羽音の森のフィールドボスはかなり弱い。というより、戦闘方法が完全に確立されており、その方法を使えばほぼ無傷で勝利が可能なのだ。

勿論、ヘルメスから買った情報にはその方法が記されている。なので多少消耗していても、問題なく勝利できるはずだった。ただ、何が起きるか分からんからね。保険は大切なのだ。

 

始まりの町から出発してから1時間。蟲毒の森のボスに挑む前に各精霊の街に訪れてホームオブジェクトや食用アイテムを買った。新しい町にも畑があるから同じ環境にしたいが故にだ。

 

「あれがボスだな」

 

俺たちは蟲毒の森のフィールドボス、岩石巨人へとたどり着いていた。その姿は1メートルを超える石の巨人で、とても弱そうには見えない。

 

実際、まともに戦えばかなりの強敵で、初期は第2エリアのフィールドボス中で最強とも言われていたらしい。まあ、それも戦い方が確立されるまでだったわけだが。

 

「じゃあ、行くか」

 

「キュー!」

 

俺たちは意気揚々とボスエリアへと足を踏み入れた。テイマーの上位職コマンダーテイマーになってから初めてメインの状態で戦いに挑む。そして連れて来たモンスターは殆どやあんまり連れ出していなかったオルトとミーニィ以外のクママ達全員だ。

 

「ゴゴゴゴゴ!」

 

ボスエリアに侵入した俺たちを発見した岩石巨人は、俺たちに向かって突進してくる。あまり早くはないが、あの石の腕でぶん殴られたら、俺程度は即死―――はない。

 

だが、俺たちは何もせずに一斉に散開した。モンス達にはすでに戦い方を教えてあるからな。放って置いても大丈夫だ。

 

「ゴゴゴゴ!」

 

「ふははっ!当たらん、当たらんよ!」

 

「ゴゴォ!」

 

「メェー!」

 

「フムー!」

 

俺は一切攻撃をせず、岩石巨人の拳を躱し続けた。すると、岩石巨人は突然その動きを止める。そのままクラウチングスタートの体勢を取った。

 

「クママ! 気を付けろ!」

 

「クックマ!」

 

力を溜めこむ様に数秒間止まった岩石巨人は、直後にアメフト選手の様なタックルを繰り出してくる。結構早いが、予想してれば躱すことは難しくない。

 

そして、タックルを回避された岩石巨人はつんのめる様に倒れ込んだ。倒れた時の衝撃のせいなのか、上半身と下半身の間に隙間が生まれ、その隙間から青く光るボールの様な物が露出している。

 

「みんな! 総攻撃!」

 

「ヤー!」

 

「キュキュー!」

 

「クマクマー!」

 

「――!」

 

「メェー!」

 

「ヒムー!」

 

これがこのボスとの戦い方だった。攻撃を一切せずに逃げ回っていると、その時点でHPが最も高い者に対して、タックルを仕掛けてくる。現状ではクママだな。

そして、タックルを避けられてしまうと一定時間倒れ込んで動かなくなり、その際に弱点であるコアが露出するのだ。そこに攻撃を叩きこみ、起き上がったら再び逃げ続ける。

 

ある程度攻撃を避ける技術さえあれば、無傷で勝利できる相手だった。

 

難点は時間がかかる事だな。幾らコアが弱点だと言っても、俺を除けばクママ程度の攻撃力では総攻撃で1割か2割程度しか削れない。つまり、10回は繰り返す必要があり、戦闘に1時間近く掛かってしまうことに。だが、そこまで時間を掛けるつもりはない。【悪食】も使って俺たちはこの作業を根気よく続け、ノーダメージでボスを突破したのだった。

 

「皆、お疲れー。これで第3エリアに行けるぞー」

 

「キュッキュー!」

 

「クックマクックマー!」

 

「フムー♪」

 

うちの子たちは輪になってマイムマイムらしきものを踊っている。ファウが加わってから、皆の歓喜の舞がより派手になった気がするな。事あるごとに踊っている。どこのパリピだ!

 

まあ、楽しそうだからいいけどね。

 

 

 

 

ボスである岩石巨人を撃破した俺たちは、第3エリア、東の町へと到着していた。やっと、やっと俺も新しい町にこれた・・・・・!!

感動で涙が出そうだよ・・・・・!!

 

「おおー、結構大きいじゃないか!」

 

始まりの町に比べたら小さいと聞いていたが、パッと見それほど変わらないな。道の広さや、壁の高さも同じくらいだし、門も同じくらいの大きさだった。

 

「まずは農業ギルドだ」

 

「ムム!」

 

「――♪」

 

一番の目的である畑を買わないとな。ただ、初めての町なので観光がてら歩き回ろう。

 

「ちょっと歩いて探すか」

 

「クマ!」

 

「キュ!」

 

「皆も探してくれよ」

 

「ヤー!」

 

「フム~!」

 

リックはクママの頭の上、ファウはルフレの肩に乗っている。

 

ファウの奏でる軽快な音楽に合わせて、うちの子たちがスキップしながら歩く。ルフレも一緒である。もう馴染始めているようだな。良かった。

 

「なあ、あれって――」

 

「え?また新しい――」

 

「まじか白銀さん――」

 

「も、萌え――」

 

「さすが――」

 

四方八方からめっちゃ見られている。妙に注目されながら入り口から続く大通りを歩いていると、中央に綺麗な噴水のある広場に出る。綺麗な西洋風の広場だ。

 

「よし、初めて訪れた記念だ。集合写真を撮ろうか」

 

「メェー!」

 

「―――♪」

 

オルトとミーニィがいないのは残念だが、また次の機会にでも撮ろう。俺の前にメリープ、その両隣にゆぐゆぐとルフレ。彼女達が重ねた手の平にリックとファウを乗せ、俺とクママが前列の3人の足元で寝転がって伸ばしあった手を触れ合う格好でスクショをした。

 

 

―――後日。噴水の前でプレイヤー達がスクショをするようになったのだとかは俺の知らないことだった。

 

 

東の町の農業ギルドで畑の購入をしていた。今の俺が買えるのは20面まで。どうせだったら一気に全部そろえちゃおう。なにせ臨時収入があったし。

 

畑の値段は始まりの町よりも1000G高いので、最もグレードが高い畑で7000G。納屋付きの畑で11000Gである。

 

俺は一旦20面の畑の購入を止め、農業ギルドのクエストを確認してみる事にした。やはり、東の町独自のクエストが幾つかある。それらをこなしてはみるものの・・・・・。

 

「全部で20000Gか」

 

これでギルドランクが上がったことで、NPCを雇って畑で働いてもらえるようになったらしい。ただ、ほとんどのNPCがスキルレベル1~4で、5以上の人間はお給料がそれなりに高かった。今はあまり意味が無いな。

 

本題に戻ろう。場所は全て隣同士に固めて、農業ギルドに近い場所を選ぶことも出来た。まだファーマーが少ないおかげで、なんとか井戸の隣も確保できたし。ただでさえ少ないファーマーが各町に分散しているおかげで、まだまだ農地は余っている状態らしかった。第2陣が入ってきたら、畑の利用者も増えるのか?もしそうなったらもう殆んどない畑を購入しようとしたらどうなる?運営が拡張するのか?

 

畑に井戸として設置できるホームオブジェクトもあった。しかもこれは普通の井戸と違い、品質が高い『清水』という水が無限に汲み上げられる井戸であるらしい。

 

品質的には井戸水→清水→浄化水という感じだった。これなら調合にも使えるはずだ。

 

さらに農業ギルドで買える物に、面白い物を見つけた。紅葡萄という果物の苗だ。緑桃の苗もある。しかも、葡萄を育てるために必要な棚の設置まで請け負ってくれるらしい。自分での設置も可能らしいので、とりあえず苗と棚を3つずつ買っておいた。

 

「毎度あり! またよろしくな!」

 

「新しい果物もゲットしたし、畑を見に行くか。ここで、オルトを召喚。リックを畑に送還だ」

 

畑の有る区画は、始まりの町とほとんど変わらないな。ただ、道や街灯などのデザインが少し違うので、新鮮さもある。

 

「ムム~!」

 

「――♪」

 

畑が目に入ると、オルトとサクラが嬉しそうに駆け出した。やはり畑が好きらしい。

 

今朝は日課の調合を行わず、全ての収穫物を残しておいた。半分はいつも通り始まりの畑に株分して蒔き、残りはインベントリに仕舞ってある。俺はそれらの種をオルトに渡しておいた。これで後は任せておけばいいだろう。

 

「あ、そうだ。先にオブジェクトの設置しないと」

 

まずは浄化の泉だ。

 

「オルト、どこがいいと思う?」

 

「ムー・・・・・」

 

「お、考えてる」

 

「ムム・・・・・ム!ムムーッ!」

 

「お、ここか?」

 

「ム」

 

少しの間、腕を組み、目を閉じて何やら考えていたオルトだったが、突然目を見開いて、ビシーッと納屋の隣を指差した。ここなら調合で納屋を使う際、楽でいいね。

 

「フム~♪」

 

泉を設置した瞬間、ルフレがいきなり飛び込んだ。水を掬って自分にかけては、気持ちよさげに目を細めている。

 

「フムン♪」

 

「まあ、ウンディーネだしな」

 

「フムー!」

 

乾燥したらヤバいとか、そう言う事だろうか? だとすると、冒険中は常に水を持ち歩いた方が良さそうだな。心配なのは泉から湧き出る浄化水の品質がどうなるかだが・・・・・。まあ、それも明日汲んでみれば分かるだろう。

 

俺は水遊びをするルフレを横目に、オルトの指示通り、納屋の裏側に葡萄用の棚を1つ設置した。もう2つは始まりの町に設置するつもりだ。向こうの果樹園も充実させたいからな。

 

「よし、オルト、サクラ、クママ、畑は任せていいか?」

 

「ムッムー」

 

「――♪」

 

「クマー」

 

良い敬礼です。毎回上手くなっている気がする。もしかして練習とかしてるんだろうか。まあ、オルト達に任せておけば問題なさそうだ。

 

 

 

「じゃあ、俺たちは醸造樽をゲットしに行くぞ!」

 

「ヤー!」

 

「フムー!」

 

「メェー!」

 

こっちはこっちで、集まって来た皆が一緒に拳を突き上げる。これも動きが揃っているな。まじで練習してるのか?

 

「まあ、今は醸造樽だ」

 

ヘルメスから買った情報によると、この町に凄腕の醸造家がおり、そのクエストをこなすことで特殊な醸造樽が入手できるらしかった。

 

発生条件が醸造スキルらしいので、とりあえず取得しておく。あとはその醸造家に会いに行くだけだ。

 

「ここだな」

 

一見すると普通の民家にしか見えない。アリッサさんの情報が無かったら絶対に発見できなかっただろう。最初に発見したプレイヤー、よく見つけたな。きっと斜め上のプレイをする変わったプレイヤーに違いない。

 

「すみませーん」

 

俺はドアをノックしながら声をかけた。すると、ドアが内側からゆっくりと開く。

 

「誰かね?」

 

「えーと、冒険者の死神ハーデスと言います。こちらに凄腕の醸造家がいらっしゃると聞いて来たんですが」

 

「凄腕かどうかは分からないが。私が醸造家のマーシャルだ」

 

「ぜひ、ご教授頂きたいのですが」

 

「構わんよ。中に入りなさい」

 

「はい」

 

その後はトントン拍子に話が進んだ。聞いていた通り、醸造のイロハを教える代わりに緑桃の木材を入手してくると言うクエストが派生したのだが、俺はすでに所持している。なんと、ヘルメスへの情報料にこの木材の代金も含まれていたのだ。アフターサービスも完璧であるらしい。これをその場で渡せば、あっさりクエスト完了であった。

 

「よし、確かに受け取った。では、お主に醸造の何たるかを教えてやろう」

 

あとはその場で酒の醸造に関する事を教わり、終了だ。その時に緑桃で作った、酒類の醸造期間が短縮されるという樽が1つと、その木工レシピ、葡萄酒を作るための紅葡萄×5がもらえる。

 

しかも、今後ここに来れば数種類の醸造樽が買えるのだと言う。この樽も通常販売品よりも品質が高く、非常に良い品であるらしい。

 

早速ラインナップを見せてもらうと、醸造樽、小型醸造樽、酒類用醸造樽の3種があった。とりあえず通常の醸造樽を3つ、酒類用醸造樽を1つ購入しておく。

 

俺の醸造はまだLv1なので、醸造樽は同時に1つしか扱えない。どうやらルフレはスキルレベルLv15相当の4つまで扱えるらしいので、彼女の分が4つの計算だ。

 

あと、お酒も販売していた。葡萄酒と緑桃酒の2種類だけだが。これも1つずつ買っちゃおうか。自分で作るにはまだ時間がかかるだろうし。値段は1つ1000Gもした。葡萄酒だけを大量に買っておこう。これなら料理にも使えるからな。

 

「飲んでも良いし。一度酩酊を経験するのもいい」

 

このゲームでは酩酊という状態異常がある。酒を飲み過ぎるとなる状態で、体がフラフラしてまともに動けなくなるんだとか。

ただ、その状態になるのはリアル年齢が20歳以上のプレイヤーだけで、未成年の場合はそもそも酒を飲んでもジュースの味になり、酩酊にならないらしい。その辺、このゲームは厳しいのだ。

 

まあ、大人の俺には関係ないけどな!いい大人が会社休んで廃人プレイするなっていう苦情は受け付けません。男はいつまでも少年なのだ。体は大人、心は少年。それが成人男性という生き物である。だからお酒も飲みますとも!

 

「じゃあ、醸造樽もお酒も手に入ったし、さっそく醸造をしてみるか」

 

 

 

醸造クエストを終えた俺は、畑に戻るためにウインドウショッピングをしながら魔道具屋などで欲しい道具をチェックしつつ、街を歩く。

 

すると、その次にのぞいた雑貨屋では新しい種を発見できた。なんと、黒ジャガというジャガイモの種だ。普通はタネイモから増やすと思うんだが、そこはゲームなのでしかたない。種は500か。買っちゃおう!ジャガイモがあれば肉じゃがも作れるし、今から楽しみだ!

 

雑貨屋の隣には薬屋があった。売っている物は俺でも作れるポーションなどだが、1つだけ初見のアイテムがある。キュアポーションだ。これはHP回復効果+毒、麻痺の回復も行えるというアイテムだった。ただ、それぞれの効果が小さく、あまり人気はないらしい。

 

2000Gもしたが、買わないと言う選択肢はなかった。何故って? これは以前見かけたキュアニンジンの素材の1つなのだ。キュアポーションと青ニンジンを品種改良で合成すればキュアニンジンが作れるらしい。

 

「よし、念願のキュアニンジンが手に入るぞ!」

 

前回品種改良を試した時と違って、今は様々な作物や素材を持っている。ここでまた品種改良を色々と試すのも面白いかもな。

 

そんなことを考えながら最後に俺が通りかかったのは、ハーブなどを扱う露店であった。店には塩、胡椒にハーブ類が置かれている。そんな中で目を引いたのは、50Gで売っていたゴロッとした塊の薬味だ。

 

「お、ニンニクだ。ハーブ扱いなのな」

 

「そうだよ。料理にも使える薬味さ。1つどうだい?」

 

「頂くよ。安いし。なあ、ニンニクの種はないのか?」

 

種があるならぜひ欲しい。ダメ元で聞いてみたんだが――。

 

「種?そうだな~。お願いを1つ聞いてくれるなら、譲ってあげても良いよ」

 

やはりこの世界のNPCは色々と融通が利くな! 尋ねてみてよかった。

 

「やった! それで、どんな事をすればいいんだ?」

 

「実はお腹がペコペコなんだ。美味しい料理を作って来てよ。それと、僕の店で売っている塩以外の商品を3種類以上使用する事。いいかい?」

 

面白いお題だな。縛りありの料理作製か。

 

この店で売っている塩以外の商品となると、胡椒、カモミーレ、バジルル、レッドセージ、ブルーセージ、オレガーノ、ニンニクだな。とりあえず持っていないニンニクだけ購入し、俺は一旦畑に戻ることにした。

 

「すぐに美味い料理を持ってくるから、待っててくれ」

 

「期待してるよ」

 

これは水霊門で手に入れたばかりの食材の出番である。ニンニクを発見したことで、作ってみたい料理が出来たのだ。畑への道中、色々と料理の構想を練っていたら、ふとあることが気になった。

 

「そう言えばウンディーネって何食べるんだ? 魚介類? それともサクラみたいに食事を必要としないとか?」

 

「フム~?」

 

「まあ、それも要検証だな」

 

 色々食べさせてみれば分かるだろう。

 

「では料理を始めましょう。今日のアシスタントはルフレさん。BGM担当はファウさんでーす」

 

「フム~」

 

「ランラララ♪」

 

リックは戻って来るなり納屋の屋根で日向ぼっこをしている。自由ですな。ファウは某調味料会社様の3分クッキングのテーマ曲を演奏中だ。

 

「取り出す食材は、水霊門で手に入れた牙大魚の切り身です。まずは軽く塩を振りましょう」

 

「フム」

 

「お次はフライパンにオリーブオイルを敷き、この魚を軽くソテーします。軽く焦げ目がついて、良い匂いがしますね~」

 

「フム~」

 

「ここに千切ったバジルル、スライスしたニンニク、切った白トマトに、今日ゲットしたばかりのビギニシジミを殻ごといれます。塩、胡椒も忘れずに。最後に白ワインの代わりに葡萄酒を少し注いで準備はオーケー。ルフレさん、このフライパンにお水を入れてください」

 

「フム~」

 

ルフレはやっぱりアクアクリエイトが使えたか。しかも俺が生み出す水よりも高品質だ。料理スキルもあるし、むしろルフレに全部任せた方が上手くいくんじゃ……。

 

「いやいや、まさかね」

 

「フム?」

 

「ま、まあ。俺の趣味みたいなものだし、ここは俺がメインで進めさせてもらおう」

 

水を張ったフライパンを火にかけ、沸騰すれば完成だ。ハーデス特製、アクアパッツァモドキである。アクアパッツァと胸を張って言えないのは、代用食材ばかりだったからだな。

 

本来だったらバジルルではなくパセリだし、シジミはアサリ、トマトはプチトマトなのだ。お酒も白ワインだし。まあ、それでも出来上がった料理はアクアパッツァとなっているので、成功って事かな。

 

 

名称:アクアパッツァ

 

レア度:3 品質:★4

 

効果:満腹度を37%回復させる。解毒効果。

 

 

解毒の効果が付いた。戦闘終了後に毒を食らったままだったら使ってみるのも良いか? いや、フィールドで食事をしてる余裕があるかどうか・・・・・。そして、安全な場所を探す時間があるなら自然治癒するだろう。あまり意味のある効果ではないかもしれない。

 

「いや、今は味が大事だ。とりあえず食べてみますか。いただきまーす」

 

ちょいとお行儀は悪いが、その場で試食だ。

 

「モグモグ――うん。味は悪くない」

 

葡萄酒を使ったせいかちょっと甘い気もするが、そこまで気にならないだろう。これは良いものを作ったぞ。

 

俺が試食をしていると、強烈な視線を感じた。横を見ると、ルフレだ。口の端からタリーッと涎を垂らして、俺の手元のアクアパッツァを見つめている。

 

「・・・・・」

 

「フム~」

 

俺が皿を手に持って動かすと、ルフレの顔が皿を追って動く。右左右左、まるで物理的に皿に視線が固定されているかのように、ルフレの視線は絶対に皿から離れなかった。

 

「ルフレ、これが欲しいのか?」

 

「フム!」

 

「そうか。ほら、食べていいぞ」

 

「フム~♪」

 

ウンディーネの主食は魚料理である。まあ、ルフレは釣りスキルがあるから、自分の分は取ってこさせることは可能だろう。ただ、今のところ魚料理のレパートリーは極端に少ない。焼き魚と、アクアパッツァだけだ。これは少し精進せねば。

 

その後、俺は再度作製したアクアパッツァを露店のおじさんに持って行った。クエストはもちろん達成である。美味い美味いと貪り食っていた。

 

「ニンニクの種も手に入れたし、畑に戻ろう」

 

「フムー」

 

この後は何をしようか。品種改良は畑の作物が収穫できる明日以降じゃないと難しいしな。

 

 

 

 

 

 

 

畑に戻ってきた俺は、醸造樽を前にルフレと何をどうするか相談していた。

 

「これで色々と作れるはずなんだが・・・・・。まず一番作りたいのは醤油だな」

 

「フム」

 

「次に味噌だ」

 

あとは魚醤とか? 魚はあるし。

 

醤油と味噌の作り方を調べてみると、途中まではほとんど同じだ。茹でたソイ豆を潰して、塩水と共に醸造樽に入れる。この後、さらに水を入れれば醤油に、少量の水と食用草を入れれば味噌になるのだ。超アバウトな作り方だな。

 

多分、リアルの様に米や麦を加えたら品質も上がるのかもしれないが、現在はまだ発見されてないしね。この簡易的な作り方をするしかない。

 

だが俺にはルフレがついている。俺よりもスキルレベルが高いはずだからな。ルフレにやってもらえば、高品質の物も出来るかも知れなかった。

 

「ソイ豆はそれなりにある。これを浄化水で茹でればいいか?」

 

「フム!」

 

いいらしい。その後、茹であがったソイ豆をルフレの指示に従って少し粒が残るくらいに砕き、醸造樽に入れていく。俺用に買った樽には浄化水、塩を加えて蓋を閉めた。後は毎日1回魔力を込める地味な作業だね。4日後には醤油が出来上がっているはずだ。

 

因みに、通常の醸造樽は5リットルくらいの大きさだ。小型の物で1リットルである。なので、ソイ豆も結構な量が必要だった。1樽につき10食分は必要だろう。その分、出来る量は多いはずだけどね。

 

「簡単すぎて不安になるが、これでいいんだな?」

 

「フム」

 

「じゃあ、次は味噌だな」

 

こっちはルフレに任せてみる。俺よりも手際よく豆と食用草を粉々にし、樽に水と共に入れる。食用草は粉末にしなくてよいのかと思ったが、どうやら少し粗いくらいの大きさが良いらしい。

 

なるほどね~。何でもかんでも粉々にすればいいって訳じゃないのか。勉強になるぜ。

 

「次は酢だ」

 

米酢は無理でも、果実から作るフルーツビネガーなら行けると思うんだよね。

 

「フルーツを使ってビネガーを作る方法は分かるか?」

 

「フム!」

 

おお。オルトでお馴染みの、胸をドンと叩く任せとけポーズだ。手持の果実を全て並べてみる。ルフレは買ったばかりの紅葡萄を5つ程手に取った。お酒を造る様にともらったが、この葡萄でビネガーになるらしい。

 

ルフレは紅葡萄を樽に入れるとおもむろに地面に置く。そして、足に纏っていた靴を装備解除すると、なんと素足で葡萄を潰し始めた。師匠のところでは手で潰せって言われたけど・・・・・。まあルフレは体重も軽いし、地球でもワイン作りの時は足で踏んでたらしい。足の方が良いってことか? まあ、俺はやるつもり無いけど。いくらゲームの中で不潔じゃないとは言ってもねぇ? 自分の素足で潰したワインなんて飲みたくない。

 

葡萄をあらかた潰し終えたら、そこに浄化水を入れる。この後はさっきのクエストで習った酒の造り方と全く一緒だった。あとは5日放置すれば葡萄酒になるはずだ。いや、酒類用醸造樽を使っているので3日で作れるか。

 

このやり方で酢も作れるってことは、同じ製造工程でも、醸造期間で違う物が出来る可能性があるってことだね。本当に勉強になる。

 

だが、ルフレは俺の疑問などそっちのけで、そのまま蓋をすると、指2本を立てた右手を俺に突き出した。

 

「なんだ? ピースサイン?」

 

「フム」

 

「違う? 私の指を見なさい?」

 

「フム~!」

 

「それも違うか・・・・・。あ、もしかして2日間かかる?」

 

「フム!」

 

正解か。にしても、2日でできるのか? 酒でさえ3日かかるのに。確か酢にするには、もっと長い時間放置しなくてはいけないはずだ。

 

「なんでそんなに早いんだ? お酒よりも酢の方が早くできるのか?」

 

「フム」

 

「違う? やっぱ酢の方が時間かかるよな。じゃあ、ルフレのスキルのおかげ?」

 

「フム」

 

「正解ね。発酵は、醸造の時間を短縮してくれるってことか?」

 

「フム~」

 

大きく頷くルフレ。発酵は思っていたよりも使えるらしい。下手したら醸造時間が半減するってことだもんな。これは色々と楽しくなってきた!

 

「なあ、魚醤も作れるか?」

 

「フム!」

 

ルフレがまずはビギニウグイを5匹取り上げた。

 

「そのままでいいのか?」

 

「フム」

 

「そこに水と塩ね。え? それだけでいいの? 魚をさばいたりは?」

 

醸造は準備段階が本当に簡単だな。心配になるがルフレは満足げである。あとは毎日魔力を込めればいいはずだ。

 

醤油、味噌、酢、魚醤と来て、残った樽はあと1つ。何を作ろうか?

 

「なあ、何か面白い物作れないか?」

 

「フム?」

 

「そうそう。この辺の素材で」

 

「フム~・・・・・フム!」

 

「またソイ豆を使うのか?」

 

味噌も醤油も作ったけど・・・・・。俺が疑問に思っていたら、ルフレは豆を茹で始めた。やっぱり調味料か?

 

だがルフレは茹であがった豆を潰さず、そのまま豆を醸造樽にぶち込んだ。そして、水を少しだけ入れ、蓋をしてしまう。何が出来上がるんだ? 豆で作る発酵品・・・・・。

 

「あ! もしかして納豆か!」

 

「フムー」

 

ルフレが嬉しそうにコクコクと頷く。納豆か。それはイッチョウに頼まれていたな。ただ、どうしても気になることが1つ。

 

「樽に臭いとか付かんよな?」

 

まあ、作ってみたら分かる事か。樽はとりあえず納屋に置いておこう。

 

「あとやらなきゃいけないのは・・・・・。魚料理だな」

 

さっき作ったアクアパッツァは美味しかった。魚料理を色々と作ってみたい。その後、俺はルフレと一緒に様々な料理を作っていった。色々な料理を1品ずつ、作りまくってみたのだ。

 

アユの塩焼き、魔魚のカルパッチョ、魔魚の味噌煮、魔魚の刺身、ウナギのかば焼き、エビフライ、川魚の塩焼き、エビの塩焼き、魚の味噌鍋、小魚の甘露煮。他にも色々だ。いやー、楽しかった。そして造りすぎてしまった。

 

数日は魚料理を食べることになりそうだね。だが、ただ適当に料理を作ったわけではない。目的があるのだ。

 

「ルフレ。この中で一番好きなのはどれだ?」

 

俺は今作った魚料理と、一応料理する前の生魚を並べて、ルフレの前に置いてみた。これらの料理は、ルフレの好物を探るために作り上げたのだ。ルフレをテイムしてから、まだここまで調味料とか豊富でも揃えてもいなかったから焼き魚を主に食べさせていた。でも今日からは違う。アクアパッツァを美味しそうに食べてたから、好物は魚料理だと思うんだよな。

 

「もしくは、さっき食べたアクアパッツァが好きか?」

 

「フム~」

 

料理を前に軽く考え込むルフレ。出来れば魚系。塩焼き辺りを選んでくれたら有り難い。逆にエビフライやアクアパッツァの様に、素材をたくさん使ったり、手間がかかる料理は選んでほしくない。

 

そう思ってたんだけどね・・・・・。

 

「フム!」

 

「それかー」

 

ルフレが指差したのは、ウナギのかば焼きであった。これはウナギが高いのは勿論、醤油に葡萄酒、茸出汁と、中々手間もかかる。

 

「その次に好きなのは?」

 

「フム」

 

「エビフライね。その次は」

 

「フム」

 

「魔魚の切り身で作った味噌煮か」

 

どうやらメインとなる魚介素材の価値が高く、手間がかかっている方が好みであるらしい。これはルフレの食費は結構高くつきそうだ。―――惜しまないがな!

 

「フム?」

 

「いや、何でもない。ほら、食べていいぞ」

 

「フム~♪」

 

なんとか魚を手軽に入手する方法はないものかね? まあ、東の町でやりたいことはほぼやったし、あとは食材を色々と料理して、後はこの町の探索でもしようか。その後ジズ戦に向けて新しいスキルを取得しにスクロールを買いに行こう。



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決戦ジズ

約束の時間となる前に合流する場所でペイン一行を待つこと5分。見慣れた4人パーティのプレイヤーが闇夜の奥から月の光に照らされながら現れた。

 

「待たせたかな」

 

「問題ない。あの時と同じ光景が出来たからな」

 

雲一つない蒼夜に浮かぶ大きな満月を見上げる。今夜こそはジズを倒し切ってみせるぞ。

 

「花見の件だけど、そっちはフレデリカが料理を用意すんのか?」

 

「そうだよー。まったく、あの料理を食べて以来は時間が空いたらMPに関する料理を試行錯誤していたら、ついでに花見用の料理を作ってくれーって言われたんだよ?面倒この上ないよ」

 

「ははは、そりゃ俺も他人事じゃないな。悪い、お詫びと言ってなんだが実ったらスカイ・ストロベリーをあげるよ」

 

「苺?ワイルドストロベリーじゃないの?」

 

「食用の苺だ」

 

まだ残っていたスカイ・ストロベリーをフレデリカに譲渡する。手の平の中の赤い果物にペイン達も興味を示して視線を注いだ。

 

「食用ってことは甘い方のだよな?よく見つけたな」

 

「ドワルティアの商人から買ったんだ。買うためには一定量か、規定量のアイテムを買うことと自身がファーマーかそれに類似している状態を話すとスカイ・ストロベリーの隠し要素を発見することが出来るんだ」

 

「うわー、それ絶対に見つからないわけだよ。いま第6エリアまで進んでいるけどさ、全然見つからなかったんだよね」

 

「そうなのか?あと、スカイ・ストロベリーはどこかのエリアの村で群生しているらしいぞ?更に言えば、実ったらピクシードラゴンが食べに現れる情報だ」

 

「へぇ、あの小さいドラゴンが向こうからくるのか?」

 

「まだ断言できないけど、ピクシードラゴンが現れなくても美味しい思いをするのはこっちだ。ファーマープレイヤーや畑を持っている探索・戦闘系のプレイヤーがこぞってマネーや物々交換して手に入れた程だ」

 

まだあるがな、と付け加えるとフレデリカがパクッと口の中に放り込んで食べだした。

 

「美味しい~! あま~い!」

 

「これでいつかはケーキやジャムを作るつもりだ」

 

「・・・・・私も苺を育てようかな。あ、まだ苺ある?」

 

あるぞ、と10個ほど譲渡すると美味しそうに食べ始めるフレデリカの横から3つの手が伸びる。

 

「あっ、ちょっ!」

 

「お、本当に苺だな」

 

「甘い」

 

「これは他のプレイヤーも欲しがるのも頷けるな」

 

頬を膨らませプンプスカと怒るフレデリカを何とか宥める。

 

「ぶっちゃけ言うと、これ一粒で1万Gもしたからな。50粒ほど買ったから50万もしちまった」

 

「「高すぎだろっ!!」」

 

「・・・・・お金払うね」

 

「流石に無償で貰っていい額じゃないね」

 

申し訳なさからか、フレデリカから7万。ペイン達からは1万Gをくれた。消費した一部が戻ってきた!

 

「さて・・・・・そろそろ本題に入るか?」

 

「ああ、そうしよう。頼めれるかな」

 

「了解。フェンリルを呼ぶな?」

 

召喚用の笛をインベントリから出して思いっきり吹いた。笛から鳴る音と共に目の前に銀色の魔方陣が浮かび上がって、そこからフェンリルが現れる。

 

「久しぶり。今夜はジズと戦うつもりだ。お前の力を借りたい。協力してくれるか?」

 

「・・・・・グルル」

 

俺の願いに応じようとするフェンリルからパーティーの加入の申請がされた。受託して俺とフェンリルに―――サイナとメリープ、ペイン一行のパーティーとチームを結成。

 

「戦闘前にデバフの料理を食べよう」

 

「おっ、そりゃいいな!」

 

「ありがたくいただくよ」

 

「って、また見たことのない料理をたくさん作ったんだね」

 

「さっさと食べて始めようぜ」

 

物の数分でデバフ料理を食べ尽くした後、俺が鷹の衣を纏って鷹になって夜空に飛ぶ。高く飛び続けると、俺達の標的である大型のモンスターの姿が久しぶりに暗夜から現れた。ただ、前回奪った一対の翼はそのまんまHPバーは満タンの状態での登場だ。

 

「ようジズ。今日こそは倒させてもらうぜ!」

 

衣を脱いで直ぐに【八艘飛び】で空中機動をしながら迫ってくるジズへ逆に突っ込んだ。空中戦はお前の方が何倍も上手だろう。だがな、お前にとってハエのような存在たる俺を攻撃するには魔法を使うよな?

 

「両手がないお前の死角こそ俺にとってのラッキーポイントだ!」

 

7回目の跳躍で矢の如く真っ直ぐ一直線に飛ぶ俺を嘲笑うかのように、真上へ移動するジズが大きく翼を広げ、魔方陣を展開した―――その瞬間。地上から弾丸が勢い良く伸びてジズの至近距離で眩い光量の閃光が闇夜を引き裂いた。それは一瞬だが、ジズには大いに効いただろう。視界が一瞬で真っ白、次いで視力が奪われて目の前は真っ暗になっている筈の黒鳥は地上へ真っ逆さまに落ちて行った。

 

「おし、一回目!」

 

墜落したジズにペイン達が攻撃を開始した。1割も減っていないがちょっとずつ確実にHPバーを減らしているのがわかる。この間に・・・・・一気に畳みかける!

 

「サイナ、機械でさらに封じろ!」

 

「了解しました。これよりアームを創造します」

 

ジズの両脇から巨大な機械のアームが飛び出し、胴体を拘束した。ふっふっふっ・・・・・これでしばらくはこっちのターンだ。HPを半分まで減らさせてもらうぜ!

 

 

「・・・・・なぁ、俺達がいる必要あったか?」

 

「ないねー。うん、ハーデス達だけでも倒せれるでしょこれ」

 

「誘ったのは俺達なんだ。彼等に負けない戦いだけはしよう」

 

「既に迫力は負けているがな」

 

 

 

ジズとの交戦を初めて30分以上が経過した。地面に縫い付けられた巨鳥は一方的な蹂躙を受け、見る見るうちにHPを減らされていく。当然抵抗しないはずがないジズは、動けない状態でも口から風魔法のかまいたちや突風を放つ。ペインとドレッドはそれぞれ躱し、フレデリカの魔法の援護でドラグは守られたりと未だ誰一人も死に戻りはしていない最中。

 

「【断罪の聖剣】」

 

光る剣を横凪ぎに振るわれ、ジズの額を斬り裂いて抜けていく。剣士の技を見て、おおっと感嘆する。

 

「どこで取得したんだそれ?」

 

「秘密さ」

 

「そりゃあ残念。【生命簒奪】!【悪食】!」

 

こうして俺もHPとMPを増やしていくことでジズのHPを削っていくと、とうとうHPバーを半分にした瞬間。ジズの身体が黒い靄と赤いエフェクトを纏いだしたのだ。その姿と空に暗雲が漂い、紫電が迸る光景を目にした瞬間。

 

「ジズから離れろ!無差別の広範囲攻撃の雷が落ちてくるぞ!サイナ!」

 

「準備は整っております」

 

いつの間にか至る所に避雷針の機器が創造されていた。流石は俺の相棒だ!稲光と共に下へ落ちる稲妻がペイン達を狙う動きを窺わせたが、避雷針に吸い寄せられる。

 

「赤いエフェクトが出ている時は物理も魔法も無効化される!」

 

「じゃあどうすんのさー!」

 

さぁ、どうすればいいんだろう?その解決策はまだ判明していないから兎に角その無敵モードが無くなる時間経過を待つしかないんだと思う。って、ヤバい。アームが壊れるっ!首に腕を回して抱きしめるとジズがアームの拘束から無理矢理強引で抜け出して、俺ごと空へ飛んで行った。んー、この後どうしようかな。俺を振り落とそうと激しい動きをするジズを他所に考える・・・・・あっ、流石に螺旋状に動かれるとっ!

 

「あっ」

 

ジズから振るい落とされてしまい、地面に落下中の無防備の所を稲妻に狙われる―――なんの!指輪も二つ外して極振り状態にした瞬間。俺は稲妻の直撃を食らった。

 

「ははははー!VIT1万も超えている俺にそんなの通用するかぁー!【機械神】!【武装展開】!」

 

破壊する装備を選び体中から兵器が飛び出して、空中移動を開始する。

 

「【機械創造神】!【攻撃開始】!」

 

【機械創造神】はミサイルを10基ほど創り、それらをジズに向けて放った。真正面からぶつかって破壊されるミサイルの一基が眩い閃光を解き放った。また視力を奪われて地面に落ちて行ったジズの前に先回り、開いた口の中で赤い閃光の雨をお見舞いした。外側がダメなら内側ってなぁっ!!地面と接触する前に退避してジズから離れる。口の中で攻撃したからHPはそれなりに減ったが今もある雷雲からの稲妻が邪魔だな・・・・・。

 

「マスター、超電磁砲の四丁分のエネルギーが充電完了しました」

 

「合図があるまで待機。―――そうだ。試してみるか」

 

サイナを見た視界に入るメリープ。あいつのスキルを思い出して試みる決断をした。

 

「メリープ、【発毛】!【羊雲】!」

 

メリープの羊毛がさらに膨張して巨大な毛玉化になった後、地面から風船のように離れフワフワと浮かび上がって地上へ落ちる俺と擦れ違い、夜空へ吸い込まれていくメリープは毛玉化とした羊毛をポポポンと分裂させて広範囲に広げた。広範囲と生易しいどころじゃない。見渡せる限りの雷雲を蓋するように、地上を覆うように金色の羊毛が雲のように広がったのだ。・・・・・初めて使う俺も口があんぐりだ。

 

視力が回復して地上から力強く羽ばたいて飛ぶジズが金色の羊毛の雲に対し、戸惑いの色を窺わせたもそれは一瞬。一気に羊雲へ突っ込んで行ったのを、メリープに疾呼した。

 

「【金剛】!」

 

ジズが羊雲にぶつかる直前。ぶつかる部分にだけ、雲が硬質な金属と化してジズの体当たりを何と防ぎ切ってみせた!金属と化した雲はその後、消失してぽっかりと暗い空を窺わせる穴が出来た。

 

「【雷雲】!」

 

金色の羊雲全体に迸る電流、ゴロゴロと雷鳴が轟く。今度は―――ジズが稲妻に狙われる番だった。巨大さゆえに回避は完全ではなく、何度も稲妻を食らう。威力はどれぐらいあるのか分からないが、三分後。雷雲が止み羊雲が暗黒の雷雲を残して消失、メリープが姿を見せて落ちて来た。それを見逃すジズではない。黒い閃光と化してメリープに襲い掛かった。

 

「【身代わり】!」

 

ジズの鋭い鉤爪がメリープの身体を引き裂いた―――かと思ったがそれは金色の羊毛だけだった。メリープは羊毛がない姿でさらに落ちてくるが直ぐにジズの追撃が入った。しかし、黙って見ている俺ではない。

 

「―――【カバームーブ】!【カバー】!」

 

【機械神】を解除して一瞬でメリープの前に移動、ジズに対して大盾を構え鉤爪の一撃をメリープから守った・・・・・大盾と鎧が砕けてってHPが減っている!?まさかの貫通攻撃かよ!?あ、やば、俺が死に戻りに・・・・・。地上に落ちた俺達。メリープは俺の身体の上にして落下ダメージから避けられた。・・・・・HPが残り1か。

 

「あっぶねぇ・・・・・ギリ保った」

 

HP回復にポーションでする。ペイン達がこっちに近づいてくるよりも先に、俺の頭の上に何時の間にかフェンリルが来て見下ろしてくる。

 

「よう、手ごわいなジズ。お前もそう思うだろ」

 

「・・・・・」

 

「でもよ、まだ諦めたわけじゃないぜ。相手は生物である以上は必ず倒せるんだ。俺も、俺達もまだまだ奴を倒すまでは戦い続けるぜ」

 

不敵の笑みを浮かべながら立ち上がる俺と羊毛がないメリープはジズを見据える。

 

「メリープ、毛がなくなってしまったが戦えるか?」

 

「メェー!」

 

「よーし、なら倒すぞ!」

 

戦意を感じ取ったか知らないがジズは、大きく翼を動かしたら巨大な嵐を巻き起こして俺達を閉じ込めた。

 

「俺を信じろ!」

 

「メェー!」

 

「グルル・・・・・」

 

嵐の目から垂直に俺達へ突っ込んでくる。巨大な体での体当たりか。いいだろう!狙いも定めやすい上にこの嵐の壁はペイン達を守ってくれると信じるぞ!

 

「【覇獣】―――【アルマゲドン】!【グランドランス】!」

 

ベヒモスになって今まで一度も使ったことが無いスキルを発動する。発動から一拍遅れて黒い雷雲に穴を開ける炎に包まれた巨大な隕石がジズの後ろから落ちて来たではないか。嵐の目に入るそれにジズも気づいたがどうすることもままならず、隕石とぶつかってそのままこっちに落ちてくる。周囲の地面から岩石の槍を作り俺達を囲みつつ穂先をジズに構え、姿勢を低くしながらメリープとフェンリルを腹の下に隠して防御の姿勢に入る。

 

そして―――嵐の中で隕石による大爆発が発生して嵐が吹き飛んだ。俺は・・・・・何とか耐えた感じだ。爆発耐性が無効だからだろうな。腹の下にいる二匹は・・・・・おお、無事か。じゃあ、ジズは?

 

 

クォオオオオオオオオオオオオッッ!!!

 

 

爆炎やら黒煙やら土煙やらを全て吹き飛ばすジズが、【アルマゲドン】を食らってもまだピンピンしていますかー。でも、あの無敵モードではなくなっているから今が好機!

 

「撃て、サイナァー!」

 

「―――射撃を開始します」

 

遠くから光の二柱が伸びてきて、ジズの片翼に穴を開けた。ダメージも確実に通ってHPが減った。

 

「メリープ、フェンリル。行くぞ!」

 

「メェー!」

 

「ウォオオオオオオオオオオオオン!!!」

 

高々に遠吠えを発したフェンリル。暗雲に開いた穴から満月が顔を出して月の光に照らされるフェンリルの毛並みが幻想的に輝き―――。

 

 

ゥォォォォォォォォォォォォォ・・・・・!

 

 

フェンリルの遠吠えに反応する遠吠えが確かに聞こえた。・・・・・この獣の声は・・・・・。ジズもその声に反応した。もしかして、と周囲に目を配らせるといつぞやの平原の丘から銀色の毛並みの狼の集団が現れてこっちに駆けてくるじゃないか!

 

「フェンリルの群れ!まだあんなにいたのかお前の仲間は?」

 

「グルル・・・・・」

 

当たり前だと言いたげに唸るフェンリル。こんな光景はもう二度と見えないかもしれないな。なら、こっちも応じよう!

 

「メリープ【羊祭り】!」

 

「メェエエエエエエエエエエエ!」

 

メリープも大きく叫んだその後。メリープの叫びの声にジズの後ろから大量の土煙が見える。その原因は・・・・・。

 

 

メェー!メェー!メェー!メェー!メェー!メェー!

 

メェー!メェー!メェー!メェー!メェー!メェー!

 

メェー!メェー!メェー!メェー!メェー!メェー!

 

 

メーアの群れがフェンリルに負けないぐらいの速度で現れてジズに向かって走り抜けていく!二方向からモンスターの群れに迫られるジズは流石に身の危険を感じ、空へ逃げようと翼を広げた矢先に遠くから飛んできたもう光の二柱が貫いた。その射撃で片翼を奪い取ってみせたのである。翼を失った鳥はもう二度と天へ羽ばたくことは敵わなくなった。それでも反撃をする動きを見せるジズ。

 

「おっと、攻撃はさせないぞ。【咆哮】!」

 

ジズに【咆哮】をぶっ放して十秒間動きを封じた。

 

「行け、フェンリル!仲間の怨みをここで果たせ!」

 

「ウォオオオオオオオオオオオオン!!!」

 

宿敵のモンスターを食らいつきに駆け出すフェンリル。そこからはもう何といえばいいだろうか。メーアがジズを圧し潰し袋叩き、フェンリルが牙と爪でジズにダメージを与えていく。・・・・・俺もフェンリルの姿になって交ざるか。

 

「俺達も行こうか」

 

「メェー!」

 

【覇獣】を解除して銀狼のコートを身に纏いフェンリルの姿でメリープと、フェンリルとメーアの群れの中に飛び込みジズに攻撃する。

 

 

「おいおい・・・・・何だよありゃ・・・・・」

 

「狼と羊がジズをフルボッコしている・・・・・」

 

「・・・・・」

 

「手が出せないねーこれ・・・・・あっ、ジズを倒しちゃった」

 

 

 

次の瞬間。不意にアナウンスが流れだした。

 

 

 

『ニュー・ワールド・オンラインをプレイされている全てのプレイヤーの皆様にお知らせ致します』

 

 

 

記憶に新しい、運営によるアナウンス。

 

いいやまさかね、とある種の警戒を抱きながらそれを聞くプレイヤー達はまたしても驚愕を叩きつけられることになる。

 

 

『現時刻を持ちまして、レジェンドレイドモンスター「鳥帝ジズ」の撃破を確認いたしました。撃破者はプレイヤー名「死神ハーデス」、「ペイン」、「ドレッド」、「ドラグ」、「フレデリカ」の五名です。さらにレジェンドモンスターの撃破に伴い、ワールドクエスト「ニュー・ワールド・オンライン」の進行を報告させていただきます』

 

 

『さらに二体目のレジェンドレイドモンスターの討伐に伴い、「海の皇蛇リヴァイアサン」のレイドボスイベントを2週間後に開催します』

 

 

「うっそぉっ!?」

 

「とうとうジズまで倒しちゃったかぁ・・・・・」

 

「リヴァイアサンのレイド戦が始まるのかよ!こうしちゃいられねぇ!」

 

「白銀さんだけじゃなく今回は前線組の有名なパーティも参加か」

 

「白銀さんの乗っかりだろ?実際、あの人の方が凄いって声が多いからジズを倒したのも白銀さんだろ」

 

「あー、村のイベントの時は一緒だったからわかるよ。あの人ほんと指示も的確で戦いやすかったぜ」

 

 

 

「うー!?私もハーデス君と倒したかったよー!!」

 

「ふふふ、ジズの素材を持ってきてくれるかしら?」

 

「す、凄い・・・・・!!」

 

 

 

『おめでとうございます。レジェンドレイドモンスター「鳥帝ジズ」を討伐しました。2パーティ、チーム以下で討伐したプレイヤーには称号【勇者】を獲得しました』

 

『死神ハーデス様は既に、称号【勇者】を所持しています。死神ハーデス様が勇者スキルを習得しました』

 

・・・・・勇者スキル?

 

 

【勇者】

 

 

使用制限は一日一回。使用すると全ステータスが三倍に倍増。魔王・悪魔に対する与ダメージ大幅上昇。被ダメージ大幅減少。各職業の勇者の奥義が使用できるようになる。

 

 

各職業の勇者の奥義とな?えっと・・・・・重戦士の奥義って装備ごとに違うのか。ふむふむ・・・大盾の場合は相手の物理攻撃と魔法を全て盾に吸収して三倍の威力で解放するのか。

 

 

テイマーは?ほう、従魔のステータスが飛躍的に上昇する魔法を使えるのか。しかも勇者スキルってメインとジョブの職業を両方使用できるとはなかなか便利だな。

 

 

「グルルル」

 

フェンリルの姿のままの俺にフェンリルが傍に寄っていた。ジズを倒せたことで陸に棲む幻獣種の安寧は守られたんだよな?元の姿に戻って銀色の毛並みを触れる。

 

「もうベヒモスもジズもいなくなった。これからはお前等を脅かす存在がいない平和に暮らせる場所で生きるんだぞ」

 

「・・・・・」

 

「ん?」

 

踵返してまだいるフェンリルの群れに向かい、その内の一頭に近づくフェンリルは短く鳴いた。何かを伝えているようだが言葉が分からない俺は、何か伝えられたフェンリルが深々と頭を垂らした後に暗雲が消え、散らばり輝く星々の夜天に向かって遠吠えをした。最初の一頭に呼応するが如く他のフェンリル達も遠吠えをする。そして共に戦ったフェンリルもする。

 

 

『称号:幻獣種に認められし者』

 

 

効果:幻獣種との遭遇率が高くなる。テイムが可能になる。

 

 

この世界で幻獣種に認められたものは僅か三人の伝説の神獣使いとなったテイマーのみ。テイマーの神の領域に至るためには神獣の協力が必要。いずれも幻獣種が深く関わり合う必要がある。

 

 

そんな称号の内容を見ていると、フェンリル達が丘の向こうへと駆けて行ってこの場から立ち去っていく。そして最後に残ったフェンリルは・・・・・俺の額に自分の額を重ねた。

 

 

『フェンリルが正式に死神ハーデス様の仲間になりました』

 

『テイマー、サモナーの全プレイヤーの中で最初に幻獣種のモンスターをテイムに成功しました死神ハーデス様に特殊職業「幻獣使い」が解放されます』

 

 

幻獣使い

 

編成従魔枠が6から7に増え、パーティ上限数が7になる。

 

条件:コマンダーテイマーに転職し、メインもしくはジョブがテイマー、もしくはその上位職の状態で幻獣種をテイムする

 

 

・・・・・先走っちゃてますよねぇ・・・・・。

 

「えっと、よろしくな」

 

「グルル・・・・・」

 

挨拶を交わす。その間にもメリープの【羊祭り】で召喚されたメーアの群れは草原の草を食べ始めたりその場で寝始めたりしていた。天敵がいなくなったから安心しているのかな。

 

「ハーデス」

 

「ペイン」

 

ペイン一行が来た。そういえばこいつら、殆ど出番なかったよな。

 

「出しゃばってすみませんでした」

 

「いや、こちらも誘っておいて役に立っていなかった。殆んど君が戦ってくれたから俺達も勇者の称号が手に入ったよ。だから、今回の戦いで手に入った報酬を全てハーデスに譲ることにしたんだが」

 

深々と頭を下げる俺をペインの考えに顔を上げて目を瞬いた。

 

「いいのか?そのまんま持っていてもいいんだぞ」

 

「ハーデスほど働いちゃいねぇからよ。今回のVIPは誰がどう見てもお前だ。貰っとけよ」

 

「寧ろジズの素材よりも勇者の称号の方が狙いだったしな」

 

「ステータスに振るポイントが三倍だもんねー。これで他のプレイヤーよりも確実に大きな差が出来るから嬉しいんだよ。ハーデスには負けるけどね」

 

「そういうことだ。この称号を手に入れたのはハーデスの働きがあってこそだ」

 

四人からそれぞれ得る筈だった報酬を受け取ることになってしまった。あの少し離れた場所にある豪華な複数の宝箱を。

 

「じゃあ・・・・・開けるぞ?」

 

俺達は宝箱に近づいて頷く四人を尻目に俺は一つずつ開けて行った。

 

まず一つ目はジズの一式素材だ。これが一番欲しかったんだよな。

 

二つ目は莫大なG。ベヒモスの時と同じ2000万Gが入っていた。

 

三つ目は―――。

 

 

『ジズの魂魄』

 

 

肉体が失えどジズの巨大な生命力は未だ残って消え失せずにいる。

 

 

と表示された黒いオーラを滲ませてる魂魄。そのアイテムは触れようとする前にジズの魂魄は夜天に昇ってしまい―――。

 

 

『レッサージズと挑戦しますか?』

 

 

というアナウンスが流れた。いやNOで。報酬はこんなものか。さて、取得できたスキルは?

 

 

 

【大嵐Ⅰ】

 

 

一分間、大嵐を召喚する。スキルレベル依存で召喚できる時間が増え任意に操作することが可能になる

 

 

【大竜巻】

 

 

対象を閉じ込め持続ダメージを与える。

 

 

【稲妻】

 

 

稲妻を発生させる雷魔法に10%の麻痺効果とスタン効果を付与する。麻痺耐性とスタン耐性スキルの影響を受けない

 

 

【飛翔】

 

MPを消費することでステータスの数値関係なく空を飛ぶことが可能になる。

 

 

んー・・・・・これだけか。ジズをHPドレインしたのは俺じゃなかったんだな。ジズに変身できるか、意のまま操れるのスキルが手に入るのかと思ったんだが非常に残念だ。これはこれで凄く強いんだがな

 

 

「ハーデス。報酬はどうだったかい?」

 

「まぁ、結構得たよ。称号もスキルも。それとここに来れば多分レッサージズに挑戦できるようになってるしな」

 

「鳥帝ジズより劣化したモンスターのレイド戦ができるのか。それって経験値が入るのか?」

 

「挑戦してみないことには何とも。俺はしないけどな。色々と試したいことが出来た。今夜はこの辺でログアウトするが」

 

「そうだねー。私も疲れちゃったよ。特にラヴァ・ゴーレムを倒すのに水魔法を連発したりマグマや溶岩から逃げ回ったりしてさ」

 

俺はもう耐性があるから平気だもんねー!

 

「それじゃ、ペイン達。次はエルフのイベントの時に」

 

「ああ、楽しみにしているよ」

 

チームを解散し始まりの町に戻る前に群れのメーア達を見つめる。

 

「・・・・・なぁ、あいつらをある場所まで導けないか?」

 

フェンリルに何となく尋ねた。

 

 

 

 

「おお、勇者様!今宵は如何致しましたか?」

 

「メーアを50頭連れて来たんだが」

 

「なんと!それはありがたいことです!では、こちらの者でメーアを―――」

 

「それとさ、さっきジズを倒してきたんだ。これでメーアの天敵が減ったから安心してくれ」

 

「な、なんですとぉ~っ!?」

 

 

 

 

 

 

死神・ハーデス

 

LV52

 

HP 40/40〈+300〉

MP 12/12〈+200〉

 

【STR 0〈+129〉】

【VIT 1155〈+4875〉】 

【AGI 0〈+120〉】

【DEX 0〈+120〉】

【INT 0〈+100〉】

 

 

装備

 

頭 【空欄】

 

体 【黒薔薇ノ鎧:大陸の覇獣(ベヒモス)

 

右手 【新月:毒竜(ヒドラ)

 

左手【闇夜ノ写】

 

足 【黒薔薇ノ鎧:大陸の覇獣(ベヒモス)

 

靴 【黒薔薇ノ鎧:大陸の覇獣(ベヒモス)

 

装飾品 【生命の指輪・Ⅷ】【古の鍛冶師の指輪】【白妖精(ハイエルフ)の指輪】

 

 

称号:万に通じる者 不殺の冒険者 出遅れた者 白銀の先駆者 毒竜の迷宮踏破 大樹の精霊の加護 幸運の者 ユニークモンスターマニア 三代目機械神 聖大樹の精霊の加護 勇者 最速の称号コレクター 魔王の戦友 絆の勇士 村の救援者 幻獣種に認められし者

 

スキル

 

【絶対防御】【手加減】【逃げ足】【体捌き】【瞑想】【挑発】【極悪非道】【シールドアタック】【大物喰らい(ジャイアントキリング)】【咆哮】【毒竜喰らい(ヒドライーター)】【爆弾喰らい(ボムイーター)】【植物知識】【大盾の心得Ⅹ】【悪食】【受け流し】【爆裂魔法Ⅹ】【エクスプロージョン】【体術】【テイム】【採取】【採取速度強化小】【使役Ⅹ】【獣魔術Ⅹ】【料理ⅩⅩⅩ】【調理ⅩⅩⅩ】【調合ⅩⅩⅩ】【水無効】【八艘飛び】【伐採】【伐採速度強化小】【機械神】【機械創造神】【宝石発見】【刻印・風】【水中探査】【侵略者】【破壊王】【背水の陣】【覇獣】【不屈の守護者】【古代魚(シーラカンスイーター)】【溶岩喰らい(ラヴァイーター)】【カバームーブⅠ】【カバー】【生命簒奪】【アルマゲドン】【勇者】【大嵐Ⅰ】【大竜巻】【稲妻】【飛翔】



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花見開催!

ジズを討伐してから早くも一週間が経過しようとしていた。いよいよ明日でNWOが正式サービスして一ヵ月が経ちエルフのイベントが始まる。

 

「王様、次こそは私も一緒に戦いますからね!」

 

「藪から棒にどうした」

 

「だってだって、最初は私の方が色々と王様より強かったのにいつの間にか、私よりも、他のプレイヤーよりもダントツでレベルが高いじゃないですか。レベル52って、現段階でその二番目に高いのが46レベル台ですよ?一体どうプレイしたらレベルがポンポンと上がるんですか」

 

朝食時に悔し気な燕の言い分に対してそう言われてもなと思ってしまう。

 

「思うが儘にプレイしていたらそんな感じになってしまったとしか言えないんだよ。コツとか秘訣とか効率のいい方法とか教えて欲しいと言われても、自分自身でもわからないから教えようもないわ」

 

「むむむ・・・・・」

 

「レッサーベヒモスとレッサージズと戦ってみたらどうだ?あれらも最近の掲示板ではまだ単独でもパーティでもチームでも倒せないって書き込まれているし」

 

「勿論いつかそうしますよ。はぁ~・・・・・一週間は長かったなぁ~。暇潰しに生産してましたけど、大変ですよ。あっという間に時間が過ぎて暇じゃないからいいんですが」

 

いいことじゃないか。それでも経験値が入るんだから無駄じゃないさ。ズズズ・・・・・うん、赤味噌は美味しいな。

 

「エルフのイベントもいよいよ明日ですねぇ」

 

「今日の夜には花見をするがな」

 

「はい、楽しみです。吉井君達も誘っているんで?」

 

「一応はな。直江大和達に俺の顏と言動でバレる可能性があるが、何とかしよう」

 

「覚えているんですか?」

 

多分な。昔と変わりない言動をしているから、京や百代辺りが気付きそうで厄介なんだよ。

 

「さて、学校が終わったら早めの夕食にしてログインでもするかね」

 

「と言いつつ、王様は自分の分身体にログインしてもらって代わりにゲームしてもらうのでしょ?それ、ズルいです」

 

「俺の代わりに分身体を学校に行かせてゲーム三昧してもいいんだぞ?」

 

「やっぱり、今のままでいいです」

 

分かればよろしい。それじゃ学校に行きますか。

 

 

 

・・・・・。・・・・・。・・・・・。

 

・・・・・。・・・・・。

 

・・・・・数時間後。

 

 

学校から戻った俺達は早めの夕食を終え、直ぐにログインをした。分身体に作業を続けてくれたおかげで色々と豊かになった。花見が始まる21時まではのんびりしていようかな、10分前だが。

 

「そう言えば魔王と交流とか、全然会えないのにどうやって交流できるんだ?」

 

畑の中でそう疑問を抱き小首を傾げる。まぁ、向こうから現れるのを待つしかないか。

 

「サイナ、この畑中に淡い光を発する機械のアイテムを用意できるか?」

 

「可能です。実行しますか?」

 

「ああ、頼む」

 

サイナの周囲に小さな光が数多く浮かび上がって暗い畑が明るくなって足元もより見えやすくなった。

 

「おお、まるで蛍だ。あの桜もライトアップしてくれるか?」

 

俺の要望に桜の木が発光しているように見える感じになった。見ていても目が痛くない光量で文字通り夜桜の完成だ。

 

「白銀さーん!」

 

畑の出入り口から声が聞こえる。足を運べばファーマーのノーフ達が勢揃いして立っていた。

 

「こんばんわ。もう来たのか?」

 

「時間まで待っていたんだけど、白銀さんの畑が光ったもんで来ちゃいました」

 

「まだ始まってもいないが、先に入るか?」

 

「お邪魔します。椅子やテーブルにゴザの設置もしたいんで」

 

ノーフ達を先に畑の中へフレンド登録しながら招き、皆が座れるように設け始めてくれた。

 

「初めて入った白銀さんの畑。すげー・・・・・」

 

「苺がこんなに実っている!」

 

「ネネネ、絶対に食べちゃダメだからね」

 

「うおっ!でっかい銀色の狼がいる!?」

 

「白銀さん。どの辺りに置きます?」

 

やんややんやと、リヴェリアとサイナも手伝う賑やかさを醸し出す俺達は5分程で準備を整えていたら新しい参加者が顔を出してきた。

 

「やっほー。来たよハーデス」

 

「随分と明るい畑だな。何かが光ってるのか?」

 

「俺達以外にもいるな」

 

「誘ってくれてありがとう」

 

ペインとドレッド、ドラグにフレデリカが畑に入ってきた。

 

「前線の有名な攻略組も来たか!」

 

「ということは?」

 

そのまさかだな。夜間にも関わらず白馬を乗って現れた騎士のジークフリートや村の第一回のイベントで知り合ったコクテンやスケガワ、ふーかにマルカ。タラリアのヘルメス、それから見知らぬプレイヤーが数多く花見に参加しに来た。

 

「久しぶりだね」

 

「久しぶりだ。そっちは変わりないようだな。息災でよかった」

 

「花見の誘いをされたら是が非でも行きたいさ」

 

握手を交わすジークフリートと軽く言葉を交わし、ヘルメス達からの挨拶を返していく。

 

「白銀さん!何ですかこれっ、見たことのない、それも鑑定したらスカイ・ストロベリーって!」

 

「デザートに使われる苺の方だ。甘いぞ?」

 

「あ、後でお話がありますっ・・・・・!」

 

どーぞどーぞ。料理に関する情報があるなら譲る所存だ。たっぷりと話し合おうじゃないか。

 

「オルト達。お客さん達を座らせる場所に案内してやってくれ」

 

「ムムー」

 

「―――♪」

 

「クママ」

 

先導したり、手を繋いだりして椅子やゴザがある方へ案内するオルト達にふーか達は黄色い声をあげた。その後すぐに。

 

「来たよー、ハーデス君」

 

「うわぁ。桜が光ってるわ。綺麗な夜桜の演出を見ながら花見をするなんていいわね」

 

「さ、誘ってくれてありがとうね?ひ、人がいっぱい・・・・・」

 

イッチョウ、イズ、セレーネが来て。

 

「おう坊主。誘ってくれてありがとうな。酒を持ってきてやったぜ。花見といやぁ酒だろ酒!」

 

「師匠。羽目を外しすぎるなよ」

 

「・・・・・感謝する」

 

NPCのヘパーイストス、ヴェルフ、ユーミルの鍛冶師組が来てくれた。

 

「この中じゃあ久しぶりだな。ハーデス」

 

「来たよハーデス」

 

「・・・・・コクコク」

 

「おお、綺麗な桜じゃな」

 

本当に久しぶりだろこいつらラック達は!最初の頃よりかなりレベルを上げているようで、それぞれの立派な装備をしているじゃないか。

 

「凄いですねハーデス君の畑」

 

「畑の作業って凄く大変だって聞いてるけど、なんで畑に桜や木が育ってるのかしら?」

 

「・・・・・」

 

・・・・・ちょっと待てよおい。

 

「ユージオ。こい」

 

「あ?なんだ、よっ!?」

 

ユージオの首に腕を回して話が聞こえない離れた場所へ連れて問いただす。

 

「おい、ヒルデガルドのあれは何だ。明らかにリアルの体型とは違和感を感じさせてくれるんだが」

 

「あ、あー・・・・・お前はヒルデガルドと今日初めて会うんだったんだな。でもま、気にするなって。ここはゲームの中なんだからよ」

 

「ゲームの中だからこそ、ログアウトした後の複雑極まりない気持ちになるというのに。あれか、あいつの自虐ネタを見せられてるのか?」

 

「知るか!本人に聞けよ!」

 

この中で聞けるかっ!

 

「それと、お前の嫁はなんて名前にしてるのかわかる?」

 

「誰が嫁だっ!?断じてそんな事実はないからなっ!!・・・・・あいつらのキャラクターの名前はそのまんまだ」

 

「なるほど。で、会ったのか?俺は会っていないんだが」

 

「今日来る」

 

あ、そうなのね。厳重に注意しないと。

 

「片割れのブレーキはしっかりしてくれよ。ここで問題を起こされちゃせっかくの花見の気分が台無しだ」

 

「わかってる」

 

「できなかったら・・・・・お前とお前の家の料理を崩壊させるもんを送ってやる」

 

「絶対に迷惑をかけさせねぇっ!」

 

信じるからな?さて、お次は・・・・・。

 

「ハーデス。遊びに来たぞー」

 

直江大和達、風間ファミリーが来たか。

 

「いらっしゃい。よく来てくれた」

 

「おおー、それがハーデスのキャラクター何だね!」

 

赤みがかかった茶髪のポニーテールの少女が朗らかに話しかけて来た。

 

「お前等のキャラの名前は何だ?」

 

「アタシはカズコ!」

 

「俺様はナイスガイだぜ!」

 

「俺は風の如く自由に生きる男だから風人!」

 

「僕はモロだよ。変な名前にするより呼び慣れている名前にしたんだ」

 

「あの人を愛する女として心を籠めて決めました。京・D・ブルー!」

 

「自分はクリスにした。別の名前にするほどでもないからな」

 

「直江兼続」

 

・・・・最後、名前負けしないようにな。

 

「その子は?」

 

「ハーデスが知らなくて当然だ。同じ寮に住んでいる一年の後輩のまゆっちだ。本名はリアルで教えるな」

 

「は、初めましてまゆっちです!よ、よろしくお願いします!」

 

長い黒髪を後ろに二つ結っている武器は刀の、侍風か?物凄くカチコチな表情で挨拶をしてくる。

 

「おう、よろしくな。それじゃ、畑の中に―――」

 

「おいコラ、最後の大トリを忘れるんじゃない」

 

ずいっと顔を近づけ主張してくる黒の長髪、赤い瞳の女プレイヤー。装備が見当たらないが、どんな職業なんだ?

 

「直江、説明。誰だ」

 

「あー、名前はカワカミ—100代だ」

 

「OK、理解した。理解してしまったわ」

 

「んー?何を理解したのかお姉さんに教えて欲しいなー?その馬鹿だろこいつって顔で私の何を理解したのかなーんー?」

 

 

―――無視。

 

「・・・・・こんばんわ」

 

「こんばんわ・・・・・」

 

畑の出入り口で待っていると姉妹の少女達が訪ねて来た。

 

「お、いらっしゃい。えーと、本当に名前そのまんま何だな。翔子と翔花」

 

「ユージオはいる・・・・・?」

 

「先に来ているが、俺とユージオが花見している間は女絡みのことで絶対に問題は起こさないでくれ。我慢出来たらリアルで一緒に買い物やら映画館やら行こう。ユージオも連れてダブルデートだ」

 

「・・・・・わかりました」

 

「わかりました・・・・・」

 

よし、約束は取り付けた。これで余計な諍いが起きないだろう・・・・・多分。

 

「因みに二人は何の職業だ?」

 

「・・・・・魔法使い」

 

「僧侶・・・・・ユーコとアイコは剣士と重戦士の斧使い」

 

「ユーコとアイコ?」

 

一瞬誰だ?と思ったが、翔子達の後ろから追いかけてくるようにこっちに近づいてくる二つの影。

 

「えっと、花見が出来る畑の場所ってここでいいのよね?って、翔子と翔花!」

 

「いたいた。もう、畑で花見をするってだけ言われてもわからないから探しちゃったじゃん」

 

なるほど、この二人のことだったか。軽装で動きやすい防具と剣を装備しているヒデルと瓜二つの少女。背中に身の丈を超える斧、というより三日月形の斧を持つハルバードってところか。

 

「・・・・・あなたが、ハーデス?」

 

「そうだが何か?」

 

「いえ、何でもないわ・・・・・私達も参加できるのよね?」

 

勿論できると、四人もフレンド登録して畑の中に招き入れた後。

 

「よう、花見の場所はここか?」

 

「あ、待ってましたよ。どうぞこちらへ」

 

最後にやってきたのはスコップ、ライバ、ピスコらNPCさんたちである。時間ピッタリに来る当たり、さすがAIだな。ただ、見たことが無い女性と男性を1人ずつ伴っている。

 

「そちらの方々は?」

 

尋ねると、スコップが2人を紹介してくれた。

 

「こっちが俺の娘でバルゴ。こっちがライバの息子でリオンだ」

 

「よろしくお願いします」

 

「こんにちは」

 

まあ、今更1人2人増えたところで大してかわりはない。俺は2人と握手をしつつ、桜の前の一番いい場所に案内した。何せ今日の主賓だからな。

 

「ゴザとテーブルがありますがどっちがいいですか?」

 

「こういう時は、地べたに直接座るに限るだろう」

 

「そうだぜ」

 

「ゴザがいいな」

 

スコップたちが口々に言う。皆さん分かってるね。俺は彼らを桜の樹の目の前に案内すると、プレイヤーたちに声をかけた。

 

「えー、皆さん!お客さんも到着されましたので、お花見を始めたいと思います!」

 

俺の言葉を聞いたプレイヤーたちが、一斉に納屋の前に集まって来た。乾杯のために飲み物を確保しておくように言っておいたおかげで、全員手にコップを持っているな。

50人以上もいるから壮観だ。というか、よくうちの畑に入ったな。まずはヘルメスからの注意事項だ。ヘルメスが、最初に注意をしっかりしておく方が良いと言って、その役を買って出てくれたのである。

 

皆の視線がヘルメスに集中するが、堂々とした態度を崩さない。大きなギルドのサブマスをやっているだけあるな。こういった事に慣れているのかもしれない。

 

「最初に注意事項を。スクショを撮るのは構いませんが、許可を得ずに掲示板にアップしたりしないように!こんなことでGMコールされるのは嫌でしょう? 特にモンスのスクショに関しては、主の許可を忘れないこと」

 

「「「はーい」」」

 

「場所を提供してくれたハーデスくんに感謝する事!畑への悪戯は厳禁です!」

 

「「「はーい」」」

 

「あと、酒の席だと言っても当然セクハラは禁止よ。何人か危なそうなのがいるけど――」

 

何人かと言いつつ、ヘルメスの視線はスケガワともう一人の見知らぬプレイヤーに向いていた。確か、オレインだったか?

 

「失敬な!セクハラなんかするか!」

 

「そうだそうだ!」

 

2人も自分たちが注意されたと分かったのか、抗議の声を上げる。だが、ヘルメスは冷静だった。

 

「言っておくけど、直接触ったりしなくても、嫌がる相手に下ネタを言ったりするのもセクハラだから? エロについて熱く語るとか。女性型モンスの造形について意見を求めるとかも、人によってはアウトよ?」

 

「・・・・・はい」

 

「わかりました・・・・・」

 

こいつら分かってなかったか。最初に注意できてよかった。

 

「では、ハーデス君、後はよろしく」

 

バトンをされて皆の前で高々とコップを掲げた。

 

「今回の花見は明日のイベントの前夜祭だ!今夜は夜桜を楽しみながら飲もう!食べよう!かんぱーい!」

 

「「「「「かんぱーい!」」」」」

 

俺の乾杯の言葉に続いて、皆が同時に叫ぶ。コップを打ち鳴らし合うコチンという音が響き、続いて「くはー!」という歓声が聞こえた。

 

「うめー! なんだこの酒!」

 

「ジュースも最高!」

 

「ええ? この世界のジュースってこんなにおいしいの?」

 

「し、知らなかった・・・・・」

 

「この酒うまー!これビールの味に似ている!」

 

続いて全員の手が料理に延びる。

 

「おいおい、この串焼き、醤油味じゃねーか!」

 

「こ、このキャベツに味噌を付けただけのつまみが最高!」

 

「このクッキーなんなの! 携帯食と全然違う!」

 

「ピ、ピザだ! 噂のピザがある!」

 

おおむね好評な様だ。半分ほどを作ったふーかたちも、嬉しそうに見ている。ただ確保しないと自分たちの食べる分が無くなっちゃうよ?

 

「ああ、皆さん。こちらをどうぞ」

 

「お、美味そうだな」

 

「いやー、いい宴だな」

 

「おら師匠。今日はじゃんじゃん飲むぞ!」

 

「・・・・・ああ。お前も楽しめ」

 

「うっす!」

 

煩く思っていないかと心配だったが、NPCにもこの宴会は好評だったらしい。渡した焼き鳥を美味しそうに食べてくれている。

 

「美味い酒に、美味い飯! そして美しい夜桜! これ以上の花見はないぞ!」

 

「そうそう」

 

スコップの叫び声が聞こえたのだろう。飯に夢中だった皆が、改めて満開の桜の木を見上げた。そして、一瞬の静寂とともに、「ほ~っ」という感嘆のため息が漏れる。

 

「いやー、ゲームの中の夜の桜も乙な物だよな。ライトアップされていて綺麗だー」

 

「確かに綺麗だわ」

 

「俺、来年の春はリアルで花見しよう」

 

やっぱみんな日本人だよな。まあ、この先プレイヤーが増えて外人プレイヤーが参入して来たら、また違う感動があるのかもしれないけど。

 

ただ、静かに桜を眺めていたのもほんの数分のことであった。やはり人が集まって宴会をしていれば、静かになどしていられないのだろう。

 

酒を飲みながら真面目な攻略論を交わし合う者たち。モンスを熱い目で見つめる集団。料理についてふーかたちに質問する者たちなど、どこもかしこも仲が良くて、主催者としては嬉しい限りだ。

 

何となくヘパーイストスのところに行くと、俺に気付いて豪快な腕に掴まれ引きずり込まれた。

 

「坊主、今夜はありがとうよ!思いっきり楽しませてもらうぜ!」

 

「是非とも楽しんでくれ。それと古匠に至らないのかヘパーイストス」

 

「いつかは成ってみせる。その為にはお前の協力が必要だ。また頼めれるか」

 

すっかり俺のお抱えの鍛冶師となってしまったヘパーイストスからの新しいクエスト・・・・・『E✕クエスト 古代の調査』。あれ、俺も考古学者の職業解放ができるのか?ふむ、調査対象の数が指定されているな・・・・・10だけ?そんで、俺はいつの間にかその条件を満たしていたみたいで既にクリアしてる証の文字が青い・・・・・。

 

「・・・・・」

 

スッと青い文字のクエストのパネルに押すと―――。

 

『職業「考古学者」を開放しました』

 

というアナウンスが流れた。ヘパーイストスを見ると・・・・・。

 

「・・・・・未熟者もようやく次の領域に片足を踏んだか」

 

「・・・・・おう、古匠に至る条件はなんだ」

 

ヘパーイストスが真摯な眼差しで酒を飲むユーミルを見つめる。俺もヴェルフも興味津々で二人の会話に聞き耳を立てる。

 

「・・・・・新しい伝説を己の腕で作る、そのための素材を2つ手に入れる」

 

「そいつはぁ・・・・・どこにあるってんだ」

 

その質問に対してユーミルが何故かこっちに視線を向けて来た。

 

「・・・・・既に持っているな」

 

「なっ」

 

「俺が?えーと・・・・・」

 

関係ありそうなものと言えば、『大地の生命の源』『ラヴァ・ゴーレムの溶鉱炉』ぐらいだぞ。

 

「・・・・・それだ」

 

出した『大地の生命の源』と『ラヴァ・ゴーレムの溶鉱炉』を指すユーミル。

 

「・・・・・古代の物を作るために、古匠用の工房が必要不可欠。生半可な炎で伝説を作ることは不可能」

 

NPCの場合は設備をグレートアップするためのアイテムが必要だということか。じゃあ、俺達プレイヤーの場合は?

 

「・・・・・古匠に至りたいなら環境から整えろ。話はそれからだ」

 

「・・・・・坊主、それを俺にくれねぇか」

 

「その前に、ヘパーイストスに預けたもんからだ」

 

じゃなきゃ渡さんと付け加えると、無言でヴェルフに視線を飛ばし師匠の視線の意図を読み取って見た時にはなかった何かを包んでいる布を俺の前に置いた。

 

「一から作り直し、更に作ったあの武器を重ね強化した。・・・・・これで問題ねぇだろ」

 

布を取り払って包まれていた物が姿を現す。

 

 

 

『簒奪狼の月蝕【ハティ】Ⅹ』『簒奪狼の日蝕【スコル】Ⅹ』 レア度:10 品質:★10

 

 

【STR+20】【DEX+35】【AGI+55】

 

 

スキル【狩人】 スキル【対牙】 スキル【対狼】 スキル【簒奪者】

 

【自己強化】

 

 

更なる強化を施された対のフェンリルの命と魔力の残滓が込められたそれは、それぞれ太陽と月を捕らえようと駆け追い続ける。

 

 

【狩人】自身よりレベルの低い対象と戦闘する場合、【一撃必殺】のスキル効果が常時発動する。

 

 

【対狼】格上との戦闘時【VIT】半減。【AGI】と【STR】が+50増加。対象の装備の耐久値を毎5%削る。

 

 

【対牙】『簒奪狼の月蝕【ハティ】』『簒奪狼の日蝕【スコル】』が揃わなければ発動できないスキル。対象問わずこの装備は倒せば倒すほど(+15)より強力になる。

 

 

【自己強化】倒すたびに耐久値が上昇する。

 

 

必要ステータス【STR 100】【DEX 100】【AGI 100】

 

 

名前も(必要)ステータスも大きく変化してえっぐいことになっている。それと新しいスキルは何だ?

 

 

【簒奪者】

 

この装備とプレイヤーの【STR】の合計数値分のHPとMPをドレインし、装備に蓄えることが可能で自他にHPとMPを還元することが出来る。容量オーバーの魔力は魔力結晶として体内に蓄えられ体力はHPに蓄積する。

 

 

ええ~・・・・・ますます凶悪に凶化されていないですかこれぇ・・・・・。作り直す前の狼月と比べた上でこの武器のステータスに唖然一色ものだ。因みに【一撃必殺】の効果は【不屈の守護者】のような致死ダメージを無効化にするスキルを無効化、【VIT】の影響を無視する【STR】依存の攻撃が可能にする貫通攻撃スキルだ。いや、これ、対防御力特化のプレイヤーのキラー武器だろ。

 

「・・・・・俺に任せればこの数倍の出来上がりを作ってみせた」

 

「けっ!最上位の鍛冶師の手に掛かればそうだろうよ!で、あんたはできたんだろうな」

 

「・・・・・無論だ」

 

ユーミルも最初に見た時はなかったのにどこから出したのか分からない代物を立ち上がって畑の地面に突き付けて来た。大剣と六つの刃が備わった大盾を。磨かれた風化していた物が、古匠のユーミルの手によって完全に生まれ変わったと言っても過言じゃない。剣も盾も赫赫としたマグマのような色で塗り潰されたように真っ赤。というかマグマを切り取って形にした感じで、地面が赤熱してて煙出ていませんか?土が溶けて沈んでいないか?

 

「・・・・・俺でも素手では持てぬ。これは大地の生命の源そのもの故」

 

マグマに耐性がある黒い手袋を嵌めている両手を見下ろすユーミル。地面の底に沈む前に掴んで持ち上げる。

 

「・・・・・大剣の銘はアルゴ・ウェスタ。大盾斧の銘はアグニ=ラーヴァテイン。この世界の原始の素材で作った相応しい名」

 

 

『アルゴ・ウェスタⅩⅩ』

 

 

【MP +200】

 

【STR +20】

 

【VIT +15】

 

【破壊不可】スキルスロット空欄

 

スキル【溶断】 スキル【溶結】

 

 

『アグニ=ラーヴァテインⅩⅩ』

 

 

【HP +300】

 

【STR +10】

 

【VIT +30】

 

【破壊不可】スキルスロット空欄

 

スキル【マグマオーシャン】 スキル【溶結】 スキル【溶熱】

 

 

「?????」

 

マグマ、オーシャン?マグマの海?また何かパーティには不向きなスキルを手に入れたな。しかも溶結って・・・・・。

 

「ユーミル。【溶結】ってのは?」

 

「・・・・・文字通り溶かして結ぶ。対象問わず全て溶かし原始の装備に直結する」

 

「直結?」

 

「・・・・・力の全てを原始の装備の糧にする」

 

「それ、ぶっちゃけ言うとアルゴ・ウェスタとアグニ=ラーヴァテインが無尽蔵・無期限に強化するものだよな?」

 

説明文にもそう記されているし!ただ、そのスキルにはMP消費しないと使えないが、それでもこの装備は強すぎるだろ!

 

「ってことは・・・・ユニーク装備も【溶結】することが出来るのか?」

 

「・・・・・アルゴ・ウェスタ、アグニ=ラーヴァテインは伝説の武器と化した」

 

「どうなるかは分からないってことか。―――なら、試してやろうじゃん」

 

新月で試してみるか。アグニ=ラーヴァテインを仕舞ってアルゴ・ウェスタと新月を持ってMPを消費する。

 

「【溶結】」

 

アルゴ・ウェスタの剣身が脈を打った。剣身からドロリと泥のようにマグマが蠢いた矢先、指定した新月に向かって伸びて包み込んだ。そのまま剣身に引きずり込まれ―――ることなく新月がマグマから抜け落ちた。

 

「ダメみたいだな」

 

「・・・・・これを試してみろ」

 

『原始の息吹』

 

【HP +200】

 

飾り付けが全くない無骨な腕輪を出す。だが、鮮やかなオレンジ色がマグマのように輝きを発し、装飾が施されていなくてもこれだけで十分な逸品だ。

 

「いいのか?」

 

「・・・・・余った物だ。使え」

 

「お言葉に甘えさせてもらう。【溶結】」

 

剣身からマグマが飛び出して腕輪を呑み込んで引きずり込む。今度は・・・完全に剣身から零れ落ちず溶けて一体化したのだろう。ステータスを見ると【HP0 +200】に加算されていた

 

「ユニーク装備以外なら問題なく【溶結】できるみたいだ」

 

「・・・・・確と見た。古匠より最上位の鍛冶師の頂に辿り着いた。・・・・・感謝する」

 

 

EXクエスト『神の頂に挑戦する者』の達成のパネルが表示された。報酬は・・・・・ああ、アルゴ・ウェスタとアグニ=ラーヴァテインが報酬か。その他は称号:古匠の助手、鍛冶職業の最上位職の古匠の転職に古匠の工房・・・・・。

 

「・・・・・古匠の工房?」

 

「・・・・・俺の工房の事だ。神匠に至った俺は、ドワルティアの城の工房ではなければ俺の腕で鍛える装備が創れない。好きに使うといい」

 

「好きに使えって、俺鍛冶師でもないんだが?」

 

「・・・・・鍛冶師になればいい」

 

サラッと言うなぁ・・・・・。

 

「ヘパーイストスに継承させなくていいのかよ。弟子なのに」

 

「・・・・・すでに己の工房を有している。鍛冶師に工房は二つもいらん」

 

あ、工房の有無で報酬が違うのか。鍛冶師でなくとも工房を貰えるとは。

 

「俺が鍛冶師だったら工房以外何だった?」

 

「・・・・・神匠の弟子にするつもりだ。お前は一目見た時から・・・・・そこの未熟者と同様に腕のいい鍛冶師になると見定めていた」

 

「だってよ、ヘパーイストス。お前、腕のいい鍛冶師になれると見抜かれていたらしいぞ?未熟者未熟者と言われようと期待されているんだな。よかったじゃん」

 

「う、うるせっ!!必ず俺も神匠になってクソッタレ師匠を超えるから、そんなこと言われても嬉しくねぇっ!!」

 

「・・・・・骨は拾ってやる」

 

どういう意味だそれはぁっ!とユーミルに怒鳴るヘパーイストス。ヴェルフと一緒に顔を見合わせて苦笑いする。

 

「お前も将来ああなるのか?」

 

「似るぐらいは成るかもしれないな。なぁ、俺のことも手伝ってくれるか?」

 

「お前がどうしてもって時になったらな」

 

初代から三代目の鍛冶師に頼られたプレイヤーは俺一人だけだろうな。まぁ、悪くはないな。

 

 

ポンポン。

 

 

「ん?」

 

 

肩を触れてくる誰かに振り返ると、セレーネといい笑顔のイズと花見に参加している大半のプレイヤーがこっちにいた。

 

「ねぇ、花見をしているのにどうして普通に別のクエストを達成しちゃっているのかな?」

 

「色々と、聞き流せない話が聞こえたよ?特にその装備について話が」

 

「これはもうさ、ハーデス君から色々と吐かせるべきなんじゃないかな?」

 

「ふ、ふふふっ・・・・・ねぇ、どれだけ情報を抱えているのかこの際全部スッキリしない?今夜は花見だし無礼講でいいんだよね?」

 

え・・・・・なんだお前等?待て俺を引きずって椅子に座らせて囲むのはなんでだ?取り調べ?待てこのカツ丼は?定番でしょ?何のだよ。

 

「さぁさぁ、私達の知らない情報を教えなさい」

 

「どこからどこまでだよ?」

 

「全部!」

 

「じゃあヤだね。そもそも無理矢理聞き出そうとする連中に教える情報は何一つない!ある種のプライバシー侵害だ!」

 

そっぽ向く俺に対して、それでも聞きたい、教えてと願を飛ばしてくる面々に鋭い目つきで睨み返す。

 

「―――どうしても聞き出そう、知ろう、聞き耳を立てたり盗み聞きをしようとする連中なら」

 

フレンド登録リストを展開しながら断言する。

 

「今この場でここにいる全員のフレンドを解消して畑から追い出す」

 

『―――っ!?』

 

「そんでファーマーのノーフ達には今後一切の新発見の農業に関する情報やアイテムの提供はしない」

 

『―――っ!?』

 

「それでもいいならこのまま続けてもいいぞ?一生許さないし話しかけても無視する。ああ、イッチョウ達の場合はリアルでも存在がいない扱いにするからそのつもりでな?」

 

『―――っ!?』

 

「さて、誰からフレンド解消しようかなー。イズから?ヘルメスか?それともイッチョウ?他の奴らから先に十秒ごと消して―――いや、全員選択してから一気に消去した方が手っ取り早いか」

 

数回操作して『消去しますか?』という表示のパネルにYESとNOの選択が浮かび、YESを押そうとすると。

 

『すみませんでしたぁあああああああああああああっ!!!』

 

全員、見ていて清々しい土下座を披露してくださいました。

 

「ふん、されたくなかったら最初からしなきゃいいんだよお前等。いいな?」

 

『はいっ!』

 

『もう二度と迷惑なるようなことは一生しません!』

 

『お許しください、白銀さん!』

 

「しばらくは許さん。反省しろ」

 

orzと花見なのにお通や状態になったプレイヤーの面々。

 

 

「うわ、凄い落ち込みよう・・・・・」

 

「自業自得だろ」

 

「だな」

 

「これで反省して改めて接し方を気を付ければいいさ」

 

 

事情聴取に参加しなかったペイン達や他のプレイヤー達からの視線が集まる中、納屋の扉がバタンと開く。オルトだった。

 

「オルト、納屋なんかでどうした?」

 

「ムム!」

 

「おいおい、引っ張るなって。にしても慌ててるな」

 

「ムッムー!」

 

俺のローブの裾をグイグイ引っ張るオルト。まるでローブを剥ぎ取ろうとしてるかのような力強さである。何がしたいんだ? いや、待てよ。この反応、クママの卵が孵化する直前にも見たことがある。

 

「もしかして」

 

俺は納屋に入り込む。そして、孵卵器を見て確信した。

 

「ひ、ヒビが!」

 

やはりそうだった。孵卵器にセットしてある土竜の卵にひびが入っていたのだ。元々、オルトの行動に注目が集まっていたのだろう。そこに俺の叫び声だ。周囲の人間を集めるには十分だった。

 

「何々?」

 

「なんかあったの?」

 

「あ、あれ見て!」

 

納屋の入り口や窓から、皆がこちらを覗いている。うーむ、全員集まって来たんじゃないか? 皆が納屋を見ようとして、押し合いへし合いが凄い。これ、放っておいたら喧嘩とか始まるんじゃないか?

 

「ど、どうしよう。すっごい騒ぎに!」

 

「ムー」

 

「無理やりにでも解散させるか? いや、待て、孵卵器を外に出せばいいのか? 皆、これが見たいんだし」

 

そもそも、孵卵器は納屋の中に置いておかなくてもいいはずだった。単に、俺が気分の問題で納屋に設置しているだけで。

 

「問題は動かせるかだけど……よし、動かせるな」

 

「ムム!」

 

オルトが先導してくれた。身振りで野次馬と化した花見の参加者たちをどかして、道を作ってくれる。オルトにどけと言われて、どかない参加者もいない。慌てて左右に割れて行く。

 

「はいはい、どいてくださーい」

 

「ムーム!」

 

とりあえず孵卵器を桜の前に置く。ここなら皆も見えるだろう。それを見たイワンが、興味津々の様子で聞いて来る。

 

「あの、白銀さん、それは?」

 

「イベントの報酬でもらったモグラの卵だな」

 

そう答えた瞬間だった。テイマーたちからどよめきが起きる。

 

「ま、まじか! あれを手に入れていた奴がいたとは!」

 

「さすが白銀さん。斜め上を行く」

 

「でも、白銀さんの卵ってことは、竜の目はなくなったわね」

 

「なんで?」

 

「だって、白銀さんよ?」

 

「なるほど。絶対に可愛いはずだもんな」

 

どうやら土竜の卵が珍しいみたいだ。考えてみたら、最高ポイントだし、俺以外に入手したプレイヤーがいないのかもしれない。

 

あと、何人かのテイマーが駆け出していくのが見えた。多分、俺と同じでイベント卵がまだ孵化してなかったプレイヤーたちだろう。確認しに行ったに違いない。

 

「白銀さん! 私もいくね!」

 

「俺も!」

 

フレンド登録したテイマーのアメリア、オイレン、イワン、ウルスラもか。まあ、テイマーにとっては一大事だから仕方ないけど、参加者が減るな。

 

そんなことを考えていたんだが、それは杞憂であった。皆、自分の孵卵器を抱えて戻って来たのだ。あっと言う間に納屋の前に10以上の孵卵器が並ぶこととなる。

 

「それにしても、白銀さんの孵卵器凄いね。なんか緑色してるし」

 

「ああ風属性付加戦闘技能孵卵器だな」

 

「名前なが! っていうか、それってもしかして属性結晶使う奴か?」

 

ウルスラもオイレンも何故か絶句している。いや、モンスターはテイマーにとって一番重要なんだから、最高の素材を使うのは当たり前だろう? まあ、俺も最初は悩んだから、気持ちは分かるけど。

 

「羨ましいぜ」

 

「でも、精霊門のおかげで属性結晶が少しは出回るだろうし、きっとチャンスは来るわよ」

 

「だな」

 

頑張ってくれ。現状だと、土結晶が一番使いやすいだろう。

 

「孵化にはもう少し時間がかかるだろうし、お花見に戻りましょう?」

 

「ま、そうだな」

 

ただ、皆の卵が何なのか話を聞いていたら、あっという間だった。最初に孵化を迎えたのは、オイレンの蜜熊の卵である。彼らはハニーベアと予想しているらしい。まあ、これはハニーベアだろうな。

 

そして、卵からは予想通りにハニーベアが生まれたのだった。「クマ?」と円らな瞳で周囲を見回すハニーベアに、見守っている周囲のプレイヤーたちから「きゃー!」とか「ほー」と言った様々な声が上がる。一番多いのは黄色い悲鳴だったけどね。さっそくオイレンが抱きかかえているな。

 

その後に孵化を迎えたのは、アメリアの卵だ。なんと、俺が最後まで迷った風狼の卵であるという。

 

「キャン!」

 

「ちっさ」

 

勇壮な巨狼を想像していたせいで、思わず呟いてしまった。現れたのは狼というか、ちっさい子犬の様なモンスターであった。緑色の体毛に、白い毛で模様が入っている。

 

「かーわーいーいー」

 

「キャウン?」

 

アメリアが喜んでいるからいいけど。鑑定してみると、確かにリトル・エア・ウルフという種族名になっていた。これが風狼に間違いないだろう。

 

「能力はどうなんだ?」

 

「うん! 風魔術があるね! あと、ダッシュスキルがあるみたい!」

 

基本はワイルドドッグの上位互換の様な能力であるらしい。だが、そこに魔術の要素があるようだ。ダッシュは短時間移動力を上昇させる技だったはずなので、速さも期待できそうだった。

 

ステータスを皆で確認する。この小ささで、基礎能力はワイルドドッグより上か。進化したらエア・ウルフになるんだろうが、かなり強くなりそうだな。ただ、俺の土竜の卵はこのエア・ウルフよりも高ポイントだった。きっともっと強いに違いない。

 

その後、皆の卵が次々と孵っていくな。未見のモンスばかりなので、見ているだけでも面白い。そして、俺の卵が孵ったのは、最後の最後だった。

 

残りは俺の孵卵器だけとなり、皆の視線が全て集中する中、卵のヒビが一周し、孵卵器が光り輝く。

 

「きたきた!」

 

「何が生まれるんだろうな!」

 

「そりゃあ、なにかモフモフでしょ!」

 

「可愛い子にきまってる!」

 

「可愛いモグラか。想像できないな」

 

「始めっからモグラ狙いだったんですか?」

 

当然だろ?

 



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花見レイド戦

光が収まった時、桜の樹の前には1匹の茶色いモンスターが立っていた。大きさは120センチくらい。手には鋭い爪を備え、どんな相手も一撃で倒せそうだ。腕も中々逞しいし、面構えもふてぶてしい。

 

周囲を見回すその様子からは、怯えや困惑は一切なかった。生まれながらにして、もう一人前の風格があった。

 

「カッコイイな!」

 

そう、凄く格好いい。カッコイイ――モグラだ。茶色いモフモフの毛を備えた、二足歩行のモグラであった。

 

「カッコイイナ」

 

頭には「日光上等」と書かれた黄色い作業用ヘルメットを被り、目の部分が小さくて丸いサングラスを鼻頭に乗せている。さらには紺色のオーバーオールに、背中にはでっかいツルハシを背負っていた。アメリカの作業員スタイルってやつだろうか?

 

「やっぱり! さすが白銀さん!」

 

「期待を裏切らないな!」

 

「誰だ、ミミズとか言ってたやつは!」

 

「モ、モグラもいいかも。あの尖った鼻を触りたい」

 

周りのテイマーたちが何やら騒いでいるが、ジーと見ている俺の耳には入ってこない。

 

「へぇ、このゲームのモグラはこんな感じか」

 

「モグ?」

 

「はいモグラ決定!」

 

てか、モグラが「モグ」とは鳴かないだろう!というか、このモグラはゴツイ爪の生えた指で、器用にサングラスの中央をクイッと上げて、妙にニヒルな笑いを浮かべている。そのサングラス、外せる?

 

「なぁ、そのサングラスを取ってくれるか?こう、ダンディーみたいに」

 

自分でも何言ってんだと思うが、凄腕のスナイパーの男を思い出したのでその再現をしてもらいたくなったんだ。モグラは俺の要求に、ゆっくりと外す仕草をした。グラサンをかけているので気付かなかったが、近くで見つめ合うと意外と目が円らだな。少し潤んだ大き目の丸い瞳は、かなりの破壊力があった。装備を全部外したら、かなり可愛いモグラさんが現れるんじゃなかろうか?

 

「か、かわっ!!」

 

「おおー!カッコいいと可愛さを兼ね備えたモンスターかよ!最強か!」

 

周囲のギャラリーが更に騒ぎ立てた。モグラの前にしゃがみ込んで目線を合わせると、俺は手をちょっと前にかざした。

 

「これからよろしく頼む。相棒」

 

「モグモ」

 

サングラスをつけ直して片手を腰にあてながらかざす俺の手に鋭い爪を備えた手で叩いてハイタッチしてくれた。やっぱニヒルだわ~。タバコとか似あいそうだ。今までうちにいなかったタイプだな。

 

それにモフモフだ。また新たなモフモフが増えたのは嬉しくもある。頭にはヘルメットを被っているので、その少し下あたりを撫でてみる。

 

「おお、いい毛触りだ」

 

「モグ」

 

いわゆる短毛なんだが、凄く柔らかい。それでいて密度も高いので、フワフワだった。産毛で作ったフェルトがあったらこんな感じかもしれないな。とにかく、リックともクママとも違う、新たなモフモフだった。

 

「さて、ステータスは」

 

 

 

名前:未定 種族:ドリモール Lv1

 

契約者:死神ハーデス

 

HP30/30 MP20/20 

 

【STR 11】11 

 

【VIT 10】

 

【AGI 4】

 

【DEX 10】

 

【INT 5】

 

スキル【追い風】【風耐性】【強撃】【掘削】【採掘】【重棒術】【土耐性】【土魔術】【夜目】【竜血覚醒】

 

装備:『土竜のツルハシ』『土竜の作業着』『土竜のヘルメット』『土竜の黒メガネ』

 

 

種族はドリモール。名前が決まってないので、ユニーク個体ではないらしい。だが、スキルに無視できないスキルがあるぞ?

 

「竜血覚醒?厳つい名前だ」

 

他にも未見のスキルが幾つかある。調べてみよう。

 

 

【追い風】:背後に風を発生させて、移動速度を瞬間的に上昇させる

 

【強撃】:全力を込めた一撃。命中率は下がる

 

【掘削】:穴を掘ることが上手になる

 

【竜血覚醒】:その身に眠る竜の力を目覚めさせる

 

 

追い風は後ろから背に風を受けて速く動くスキルか。風属性付加の影響で身に付いたスキルだろうな。で、強撃が戦闘技能になるのだろう。掘削はそのまま穴掘りだが、採掘だけではなく農業でも使えるかな? あとで試してみよう。

 

ただ、竜血覚醒はなんだ? 土竜だからなのか? まあ、イベント報酬だし、特殊な技能が身に付いていてもおかしくはないけど。今一意味が分からない。ステータスが上昇するのだろうか?

 

「おっと、検証は後にして、名前を付けてやらないとな」

 

アース・ドラゴン用に考えていた勇壮な名前の類は封印だ。むしろモグラっぽい、名前でなくては。

 

「モグラ・・・・・モグラか―――よし、お前の名前はドリモだ!」

 

「モグモグ~♪」

 

ドリモールのドリモ。分かりやすくていいだろう。俺が満足して1人で頷いていると、後ろから声をかけられた。振り返ると、ウルスラだ。

 

「ね、ねえ。撫でていい?」

 

「ドリモか?」

 

「ドリモちゃんていうのね!それで、撫でていいかしら?」

 

「いいぞ」

 

「キャー! ありがとう! じゃあ早速――」

 

「モグ」

 

ウルスラが伸ばした手が、ドリモの手によってパシッと叩かれる。

 

「え? なんで?」

 

「モグ」

 

ウルスラがさらに手を伸ばすも、やはりドリモに叩かれてしまった。どうやら撫でられたくないらしい。

 

「あれ?」

 

「モグー」

 

俺は平気だ。むしろ目を細めて、喜んでくれているのが分かる。

 

「次わたし!」

 

「モグ」

 

「俺も!」

 

「モグモ」

 

やはりダメだな。どうもドリモは俺以外には撫でさせないらしい。皆には気の毒だが、俺にしか懐かないって言うところに、ちょっとだけ優越感を覚えたのは内緒だ。まあ主の特権ってことで、皆には諦めてもらいましょう。

 

「はいはい、ドリモが嫌がってるからそこまでー」

 

「えー! なんでー!」

 

「くぅ、ツンデレモグラ、いいわ!」

 

ウルスラだけは何故か喜んでいるけどね。

 

ピッポーン。

 

ドリモの能力確認していると、お馴染みのアナウンスが鳴り響いた。

 

『特殊クエストを達成しました。次の特殊クエストが発生します』

 

「は?」

 

俺が首を傾げた直後だった。プレイヤーたちからざわめきが上がる。

 

「あれなに?」

 

「白銀さん! うしろうしろ!」

 

「おいおい、何が起きてんだよ!」

 

指をさす他のプレイヤーにつられて背後に視線を向けると、桜の樹の前に何やら変なモノが浮いていた。なんと言えば良いか・・・・・。

 

「ピンク色のクリオネ?」

 

それは一抱えもある、半透明の謎の存在だった。空中にフワフワと浮いている。ただ、顔らしきものや目があることから、単なるオブジェクトではないことは確かだった。

 

『特殊クエスト攻略時の参加者が50名を超えました。この後に発生する特殊クエスト2において、参加者全員に、全ステータス上昇、クリティカル率上昇、自動HP回復、自動MP回復、ドロップ率上昇、の効果が付与されます』

 

「特殊クエスト2?」

 

直後、俺のステータスウィンドウが立ち上がり、目の前に自動的にクエストが表示される。

 

 

特殊クエスト

 

内容:いつからか宴会に潜りこんでいた宴会好きの妖怪が、酔っぱらって暴れ始めた。正気に戻すために、妖怪を倒して大人しくさせろ。

 

報酬:討伐時間によって変化

 

期限:3時間

 

参加者:宴会参加中の全プレイヤー。※このクエストはレイドクエストとなります。

 

 

そんな情報とともに、イベントを開始するか否かの選択肢が表示されていた。

 

「これからレイドボスってこと? え? イベントだったの?」

 

「やべー!ただの花見だと思ってたから装備が万全じゃない!」

 

「回復アイテムもよ!」

 

他のプレイヤーたちのウィンドウにも同様のクエストが浮かび上がっている。かなり驚いて、慌てているな。

 

どうもこのお花見がイベントだと分かっていなかったらしい。そう言えば、花見としか言わなかったかもしれん。これは失敗したか?

 

「こんだけ人数が居れば楽勝なんじゃないか?」

 

「俺、レイド戦初めて!」

 

「血が滾るぜ!」

 

ただ、戦意はかなり旺盛だった。皆でレイドイベントということだけでもテンションが上がるらしい。しかも、大半はお酒が入っていて気分がいいし、そいつらに釣られるようにお酒が飲めない若年組も意気軒高であるようだ。

 

ただ、かなりの人数が酩酊状態だけどね。ステータス上昇などのボーナスがあるけど、それでどこまで戦えるか・・・・・。しかもボスの強さも分からないし。

 

パッと見はピンクのクリオネだが、ボスというからにはそれなりに手ごわいだろう。

 

「あ、畑から出れない!」

 

「ま、まじか!」

 

どうやら何人かは装備を整えたり、モンスを戦闘用に入れ替えるためにホームへ戻ろうとしたらしい。だが、イベント中は畑から出れないようになっているようだ。俺以外のプレイヤーたちには参加/不参加を決めるボタンがあるようなので、用事がある人は不参加にすれば出れるようになるんだろう。

 

「というか、俺も誰を連れていくか決めないとな」

 

ドリモが仲間になったことで、パーティ枠が足りなくなってしまった。メンバーどうするか決めねばならないのだ。

 

「ボス戦だからな。ミーニィ、メリープ、フェルは絶対だ。あとはオルト、ゆぐゆぐに・・・・・」

 

戦闘力のありそうなドリモを連れて行くか、レベルが高くて壁役として働けるルフレを連れて行くか・・・・・。そう思考の海に飛び込んでいるところにペインが近寄って来る。

 

「ハーデス。面白い事になったな」

 

「いやあ、巻き込んじゃったみたいで」

 

「いいや。お祭りみたいなものだ。むしろみんな楽しんでると思うさ」

 

「だといいがな」

 

ヘルメスがおずおずと話に交ざってきた。

 

「えっと・・・・・このイベントの情報、あとで売ってくれると嬉しいなぁ、なんて」

 

「未払いのGを払い終えてから」

 

うん、最後はドリモにしておくか。まだドリモは未知数で博打に過ぎる気がするも、負ける気はないから問題ないだろ。

 

 

「竜血覚醒は初めて見たけど。ぜひ生で見たいからな」

 

「じゃあ、オルト、ゆぐゆぐ、ミーニィ、メリープ、フェル、ドリモ。闘うぞ」

 

「ムム!」

 

いつの間にか俺の真後ろに集まっていたオルト達が一列に並んで、ビシーッと敬礼をする。今日仲間になったばかりのドリモも一緒だ。いつの間に教わったんだ。すると、何故か周囲から拍手があがった。

 

「あれが白銀さんのモンスの敬礼か!」

 

「初めて実物を見たぞ!」

 

「今後はうちの子たちにもやらせよう」

 

なんでだ? ああ、そう言えば公式動画で敬礼の映像が使われてたな。それの実物を見れたら、確かに少しテンション上がるかもしれない。

 

「クママ達は留守番を頼む」

 

「クマ!」

 

「フム!」

 

そんな間にも、タラリアのメンバーとコクテン、ジークフリード、ペイン達を中心にしてレイドに挑む準備が早急に進められていく。具体的には、この場に残っている料理や飲み物の中で、食べておいた方が良い料理を皆に配布したり、回復アイテムを所持しているプレイヤーから集めて分配したりしているようだ。

 

俺も回復アイテムを全て渡しておいた。なにせ、俺が主催者だからな。ここは出来るだけのことはしないといけないだろう。

 

10分ほどで、全員の準備が整う。どうやら集まっていたプレイヤーは全員がボス戦に参加してくれるらしい。俺のステータスウィンドウには、参加者の名前がズラーッと並んでいる。これは心強い。

 

いや、一人だけ不参加だ。何か用事かな? そう思っていたら、畑の外で必死に見えない壁を叩いている人物がいる。どうやらイベント発生時に畑から外に出ていると、強制的に不参加の扱いになってしまうらしい。

 

「・・・・あいつのことは放置でいいです」

 

タラリアのメンバーであるようだ。ヘルメスがそう言うなら、気にしないでいいか。

 

「じゃあ、行くぞ」

 

「お願い」

 

「では、クエスト開始!」

 

俺はヘルメスが頷いたのを確認すると、イベントを開始するを選択した。

 

イベント開始を押した瞬間、視界がいきなり変化していた。

 

「ん?広場だ」

 

桜の木はある。枝ぶりまで正確に覚えているわけではないが、多分俺の畑に生えていた桜だろう。だが俺たちが立っているのは今までいた畑ではなく、大きな広場であった。

 

地面は押し固められた土が剥き出しの、田舎の小学校の校庭みたいな感じだ。短い下草は所々生えているが、戦闘の邪魔にはならないだろう。その広場を囲むように、透明な壁が並んでいる。ボスエリアと通常エリアを隔てる、通称ボス壁と呼ばれるものだ。

 

ただ、ボスフィールドに転移したって言う訳ではなさそうだな。イベントに参加できなかった早耳猫の男性が絶望している姿や、畑の外から花見を見ていた野次馬の姿は相変わらずそこにある。

 

どうやら畑にあった作物が姿を消し、桜の木だけが残ったらしい。

 

「んー?俺の畑は?」

 

俺が――というかオルト達が丹精を込めて作ってくれた畑はどこにいった?消えちゃったんだけど。

 

「ハーデス君落ち着いて。ボス戦が終われば元に戻るから」

 

「本当か?」

 

「レイド戦じゃないけど。宿屋で幽霊と戦闘するイベントがあるの。その時も部屋の私物が消えて、戦闘後にちゃんと戻って来るから」

 

「そうか。そういうのもあるんだな」

 

よかった。まあそうだよな。これで畑が消滅なんてなったら、確実に運営に抗議が殺到するだろうし。ていうか、俺なら絶対に抗議する。畑が消えたせいで少し取り乱してたよ。

 

「あれがボスか? さっきの奴にそっくりだけど」

 

「ピンクのクリオネ?」

 

「いや、クリオネは浮かばないだろ」

 

桜の木の前に巨大なピンク色の何かが浮かんでいた。クリオネ風の形だが、その大きさが尋常ではない。大型トラックくらいはあるのではないだろうか? さっきのピンククリオネが巨大化した姿であった。

 

鑑定すると、名前はハナミアラシとなっている。花見荒らしってことかね?

 

「みんな! 行くわよ! 前衛は前に!」

 

「おう!」

 

「後衛は牽制頼む!」

 

「生産職は援護で! 無理するなよ!」

 

おおー、前線組は慣れているな。すぐにコクテンたちが先頭に立って、皆に指示を出してくれた。

 

さて、俺はどうしよう。これでも一応前衛職なのだ。魔法もあるし、後ろからの牽制くらいなら――。

 

「ハーデス君は前衛!」

 

「はーい」

 

問答無用でヘルメスに前衛組に入れられてしまった。まあ、そうですよね~。

 

「一斉攻撃だ!」

 

「ホゲゲ~!」

 

そして、レイドボス戦が始まる。最初に仕掛けるのは前衛組だ。コクテンを先頭に、前線で戦うトッププレイヤーがそれなりに揃っているので、かなり頼もしい。

 

半分くらいは酩酊に苦しんでいるので、千鳥足だが。まあ、的がでかいので攻撃を外すことはないだろう。ただ、防御に不安はあるな。酩酊状態では回避も難しいだろうし。

 

「ホゲゲ!」

 

ハナミアラシがその場で回転しながら、何かをばら撒いた。あれが攻撃か? よく見てみると、ビールの空き瓶や、中身が詰まったビニール袋だ。後は木の串とか、空き缶も混じっている。

 

「ぎゃー! なんだこれ!」

 

「汚い! 装備が汚れる!」

 

「いやー! 臭い!」

 

それはまんまゴミだった。まるで花見の後に打ち捨てられている、マナー違反者たちが残していったゴミのようだ。それをばら撒いて、プレイヤーを攻撃しているらしい。

 

威力は大したことが無くても、装備の耐久値を削りつつ、毒の状態異常を与えてくるみたいだな。嫌らしい攻撃である。俺は平気だけどな!酩酊は効くが!

 

「うげー・・・・・酩酊で毒とか・・・・・」

 

「やばい~」

 

「真っすぐあるけん…」

 

これはピンチなんじゃないか? 援護組は慌てて前衛に駆け寄り、キュアポイズンを振りかける彼等彼女等の邪魔をさせないためにも【挑発】。

 

 

「ヘイト集めておくからさっさと倒せよー」

 

「わかった!」

 

「そのスキルは役に立つのだな」

 

「よっしゃー行くぜー!」

 

人手が足りていない。俺はうちの子たちにも解毒薬を持たせて、前衛を回復させていった。薬を振りかけるだけだから簡単だ。

 

 

「やったー! オルトちゃんに回復してもらっちゃった!」

 

「なんで水精霊ちゃんがいないんだ~」

 

「サ、サクラたんにぶっ掛けられた!」

 

何とか立て直せたか。うちの子たちに回復してもらいたいからといって解毒拒否する奴がいたのは驚いたけど、そこは無視して無理やり解毒薬をぶっかけておいた。おい、うちの子たちに回復してもらうために、わざと毒になったりするんじゃないぞ? 次は回復しないからな。

 

「ホゲゲゲ!」

 

しばらくサンドバック状態だったハナミアラシが、再び回転する。お次はピンクの霧の様な物を吐き出したぞ! 範囲が中々広く、近くでハナミアラシを攻撃していたメンバーだけではなく、後衛まで巻き込んでいた。これもダメージはそこそこで、低確率で酩酊状態に陥らせる効果があるらしい。

 

低確率とは言え厄介だな。未だに酩酊は直す方法が無いので、食らってしまえば確実にこちらの戦力が低下してしまうのだ。

それでも、参加者全員に付与された全ステータス上昇、クリティカル率上昇、自動HP回復、自動MP回復効果のおかげでまだ十分に戦えている。

 

特に回復系は非常にありがたい。酩酊で低下した攻撃力を技を多く使って補えるし、回復の頻度も少なくて済む。

 

全ステータス上昇、クリティカル率上昇も目に見えて効果はないものの、きっと活躍してくれているんだろう。

 

「ホンゲェエエェェェェェェン!」

 

「っ!」

 

今度は大声攻撃か!マイクを使って怒鳴っているかのような、頭にキンキンと響く大きな音が響き渡る。耳だけではなく、脳内まで揺さぶられるかのような衝撃があった。痛みはないんだが、立っていられない。しかも低確率で麻痺の効果もあるようだ。

 

オルトが手足をピーンと伸ばして、まるで気を付けをしているかのような体勢で地面に突っ伏したまま、動けなくなっている。

 

「大変!オルトちゃんが硬直してる!可愛い!」

 

「戦闘に集中しろよお前っ!!」

 

「ひっ!?す、すみません!!!」

 

「・・・・・あの人がキレた?初めて見た」

 

「ムム~」

 

カバームーブで移動瞬間し、慌ててキュアパラライズをふりかけてやると、オルトが額の汗をぬぐう動作をしながら、ササッと立ち上がった。他の子はどうだ?フェルは起き上がって唸り声を発しているな。ゆぐゆぐ、メリープ、ミーニィ、ドリモも元気で動いている。

 

「大丈夫か」

 

「ムム」

 

厄介なことに、このボスは範囲攻撃で状態異常を付与してくるタイプであるようだ。これ、時間をかけ過ぎていたらすぐに回復アイテムが底をつきそうだな。

 

「サイナ!」

 

「残滅攻撃支援を開始します」

 

「え、残滅・・・・・?」

 

後方で待機していたサイナが【機械創造神】のスキルで数多の重火器、ミサイル、ロケットランチャーを創り出した。サイナの傍にいたプレイヤー達は目をギョッと見開いたかもしれない。

 

「射撃開始」

 

といった刹那。豪雨の如くの弾丸が絶え間なく放たれてハナミアラシを貫く、ミサイルとロケットランチャーも当たって激しい爆発が巻き起こる。

 

「ミーニィ【巨大化】!【ホーリブレス】!メリープ【羊雲】!【雷雲】!」

 

巨大化したミーニィが光属性の魔法を、空高く昇って空中に羊雲を発生させた後に雷雲と化したメリープは雷を落とす。

 

「えええっ!?メリープちゃんのスキル何あれ!!?」

 

「雲になって雷を落とす、だと・・・・・?」

 

「ミーニィちゃんがドラゴンになったぁっ!!!」

 

時間を掛け過ぎると厄介そうだからな。俺もここは本気でやろう。うちの子たちを引きつれて、前に出る。

 

「ドリモ、土魔術で攻撃できるか?」

 

「モグ」

 

「無理か・・・・・。じゃあ、俺たちと一緒に前衛だ。いけるな?」

 

「モグ!」

 

ドリモがやる気満々でハナミアラシに向かって駆けて行く。短い脚をちょこまかと動かす姿が、すごく頑張って見える。うーん、大丈夫かな?

 

「無理すんなよ~」

 

「モグモ~」

 

ボスに攻撃を仕掛けるために、俺はうちの子たちとともに前に出た。まあ、俺は後衛の位置から魔術を放つだけだが。ドリモは俺の話の返事を頷く代わりにサッと手を上げて答えると、そのまま前線に駆けて行った。

 

「オルト、ゆぐゆぐ。ドリモを頼む。ドリモはまだレベル1だからな」

 

「ムー!」

 

「―――!」

 

 

ドリモは防御重視じゃないとあっと言う間に死に戻ってしまうだろう。俺の言葉にピッと敬礼したオルトとゆぐゆぐが、ドリモの後を追って駆けだしていった。オルトたちの補助を受ければ、多少の攻撃は出来るだろう。

 

「モグ!」

 

だが、前線に出たドリモはそのままの勢いで、一直線にハナミアラシに突っ込んでいってしまった。大きなツルハシを振り上げながら、短い脚で走る様はユーモラスでちょっと和むが・・・・・。

 

「あれ?ドリモ?俺の言葉に応えてたよな?無理するなって言ったら、しっかり手を上げてたよなー!」

 

「モグモー!」

 

だが、俺の叫びをまったく聞いていないのか、一生懸命走るドリモの足は止まらない――どころか急に凄まじい加速をした。ダッシュするドリモが薄く緑に輝いたかと思ったら、走る速度がグンと何かに背を押されるように一気に上昇したのだ。

 

そして、振りかぶるツルハシが今度は赤く輝いた。

 

「モグ!」

 

「ホッゲー!」

 

ドリモのツルハシがハナミアラシの胴体に叩きこまれる。

 

おお、結構ダメージを与えたぞ。いや、コクテンが牽制で当てた、軽い攻撃程度のダメージでしかないんだが・・・・・。生まれたばかりで未だにレベル1のドリモが与えたと考えたら相当なダメージだろう。

 

戦闘ログを確認してみると、追い風から強撃を使ったようだった。実際に加速していたし、ツルハシも光っていたしな。

 

このゲームでは、速さによる打撃力上昇のシステムがある。加速がついていればその分威力が上がるのだ。強撃の威力が追い風の加速でさらに増したとしたら、想像以上の威力になることもあり得そうだった。

 

「モグ~!」

 

ドリモがツルハシを突き上げて喜びの雄叫びを上げる。あ、それに見とれていた女性がゴミの直撃を浴びて悲鳴を上げた。・・・・・馬鹿だろ。

 

それにしても、これは凄いアタッカーを手に入れたかもしれないな。今後が楽しみだ。レベルが上がって強撃の威力も上がったら、そこら辺のフィールドボスくらい楽勝になっちゃうかも?

 

なんて思ってた時があった――。

 

「モグ?」

 

再度同じ攻撃を繰り出したのに、今度は盛大にスカッた!ほぼ止まったままな上、的のデカイハナミアラシ相手にファンブルするとは。強撃は命中率が下がるらしいが、俺の想像以上の低下率なのかもしれない。

 

「モグ~」

 

体勢を崩してゴロゴロと地面を転がっていくドリモ。ハナミアラシは範囲攻撃オンリーで個別に攻撃をしてくるタイプではないのでカウンターを食らうことはなかったが、普通の戦闘だったら危険だったかもしれない。

 

しかも相手がボスだったりしたら? ミスしたら最期という可能性もあるのだ。

 

「うーん、追い風から強撃のコンボは諸刃の剣か・・・・・?」

 

あの攻撃は使う場所をもう少し選ばせよう。少なくとも、普段からバンバン連発していい攻撃ではない。追い風から普通に攻撃とかでも、通常戦闘なら十分だろうしね。

 

「モグ・・・・・」

 

「・・・・・」

 

「モグ!?」

 

「・・・・・」

 

ズッコケローリングをかました後、仰向けに転がっていたドリモをフェルが助け起こしてやっているな。と思っていたら、前脚で俺に目掛けて掬い飛ばしてきた。意外と器用だな!俺の胸に飛び込んできたドリモに対してフェルがハナミアラシへ駆けだして爪による鋭い一撃を与えた。

 

「ハーデス、あのフェンリルの行動の意味は分かるか?」

 

「まだ弱いから戦いに出る幕ではない、か。それとも単に戦いの邪魔だ的な?とにかくドリモを戦わすのはフェルにとってまだ許さないかもな。しかも、他のプレイヤーを邪魔しちゃったみたいだな」

 

転がっていくドリモを見て驚いて飛びのいた者や、単純に足元を転がられて動きを阻害された者など、何人かのプレイヤーを邪魔する形になっていた。でも平気そうだ。

 

とは言え、それで死に戻ったりしたプレイヤーはいなさそうだ。よかった。ドリモに注意を向けながら前衛プレイヤーの戦闘も観察してみる。すると、特に目を引くプレイヤーが何人かいた。

 

最初に目に飛び込んできたのは、もっとも目立つ攻撃をしているジークフリードだ。愛馬に乗ったまま、騎士槍を構えてチャージを繰り返している。

 

ハナミアラシとすれ違うように馬を走らせ、交差に合わせてランスで削り、即座に踵を返して再び突進する。他のプレイヤーの邪魔をすることも多いが、やはり最も活躍していると言っていいだろう。

 

どうやら動かない的に対しては相性がいいらしく、与ダメージでは断トツなのではなかろうか? ただ、馬が酩酊になったら途端に何もできなくなりそうではあるが・・・・・。

 

次に目立つのがアカリという女性プレイヤー。初めて知ったが、俺とジークフリートと同じ3称号の取得者の最後の一人だ。一見すると重戦士っぽいんだが、その動きはまるで軽戦士だ。あの漆黒の鎧は、意外と軽いのかもしれない。大剣を振り回しながら、それでいて手数もそれなりという、戦い慣れた戦い方だ。

 

周りの事情通に話を聞いてみると、どうやら防御を捨てた戦い方であるらしかった。いや、捨てたというよりは、普段は回避に重点を置いているらしい。今回は動かないボスなので、少し無理して連続攻撃を繰り返しているようだった。普段はひたすら回避を繰り返して、相手の隙を見つけたら大技を叩き込むスタイルで有名なんだとか。

 

「いやー、三称号持ちの人たちは凄い個性的で面白いですね~。みんな大活躍」

 

何て言われたが、あの2人と一緒にされたらたまらない。今回俺はあそこまで活躍しない。

 

そう答えたらなんか微妙な顔をされたが、何故だ? 実際、この戦闘で俺はほとんど何もできてない。ドリモがちょっと頑張ったくらいだ。いや、イベントを発生させたっていう意味では大活躍って言ってもいいのか?

 

「まあ、これから挽回しよう」

 

アルゴ・ウェスタとアグニ=ラーヴァテインを構えながら前へ出ようとする。



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花見レイド戦2

ドリモやジークフリード、アカリたちも目立っているが、違う意味で目立っているのがタゴサックとふーかだった。

 

「おらぁ!」

 

タゴサックは巨大な鉄の棍棒で戦っている。細長いリーチ優先の武器だ。それだけなら他にも使っているプレイヤーはいるだろう。だが、ツナギ風の防具を着込んだタゴサックが細長い鉄の棒で戦う姿は、族同士の抗争で暴れるレディースにしか見えなかった。アカリの隣でタゴサックが戦う姿は、シュールでさえある。

 

あと、他のファーマーたちも、ちょっとおもしろい。クワやスキの装備が多いんだが、寛ぐ用の布服や作業着なので、ちょっと農民一揆感があったのだ。なんか、すっごい悲壮感があって、応援したくなった。

 

もう一人目立っているのがふーかだ。こっちはフライパンを振り回して戦っており、緊張感が感じられない姿だった。花見の料理を作るためにコック服装備だったため、より場違い感が否めないのだろう。

 

他と言えば・・・・・何時だったか爆発をこよなく愛するプレイヤーもか。至ってシンプルに洞筒を構えて弾を発射、ハナミアラシに直撃すると大爆発。あ、微妙に他のプレイヤーにも二次災害的なダメージが・・・・・。

 

「ちょっ!ハナビちゃん、他の人にも爆発の影響でダメージ入ってるからダメだって!」

 

「あんな的のデカい相手に撃つなってどういうお預けプレイだ!」

 

「爆発力が低いのないの?」

 

「そんなの爆発と言えるかー!!」

 

・・・・・エクスプロージョンは禁止だな。さて、ラックや直江達は?

 

「ナイスガイ、ハナミアラシの注意を引きつけろ!モロ、俺と一緒に風人達にバフ魔法だ」

 

「了解」

 

「いっくわよー!【凪舞】!」

 

「【集中一突】!」

 

「【一ノ太刀・陽炎】」

 

「【衝撃拳】!」

 

「【旋風切り】!」

 

「【チャージアロー】」

 

 

「よし、ラックがボスのヘイトを稼いでいる間にラックごと集中攻撃すんぞ」

 

「僕より【VIT】が高いユージオがすればいいだろうが!」

 

「何を言う。【AGI】が高いお前の方が適任なんだ」

 

「それはトビだよ!僕はどちらかと言うと【INT】の方だ!」

 

「おぬし等、こんな時にまで言い合っている場合ではないぞ」

 

「・・・・・【加速】」

 

「ほらラック!さっさと攻撃しに行くわよ。私達だけじゃない戦いに参加していないのは」

 

「ラック君。回復は任せてくださいね!」

 

「ほれ、可愛い神官がお前を回復してくれるってよ。よかったじゃねぇか。―――心置きなくやられてこい」

 

「お前ぇー!」

 

 

「翔子、翔花。援護お願いね」

 

「ボクも頑張るかな!」

 

「・・・・・【ダークネスボール】」

 

「【ディフェンスカバー】・・・・・」

 

 

んー・・・・・うん、頑張っているなー皆ー(棒読み)。

 

 

 

さらに周りでは他の遠距離系プレイヤーが同じ様に攻撃を放っている。テイマーには後衛職タイプが多いので、モンスの数も多いな。特に、ノームたちが後衛組の前を固めてくれているので非常に心強い。

 

たまにハナミアラシが前衛のこちらを通り越して、ゴミを後衛に向かって降らしてくることもあるのだが、ノームの鉄壁の防御の前にことごとくが撃ち落とされている。ちょっとばかり「ムームー」とうるさい気もするが、俺以外のノーム好きたちがうっとりと見ているので、文句は言うまい。おかげでダメージも食らっていない訳だし。

 

ただ、俺を同類のように扱うのはやめてくれ。確かにオルトは可愛いし、ノームは可愛いと思う。だけど、俺はショタコンでも子供好きでもないのだ。

 

ノームを見ながら「ご飯が美味しく食べれますね!」とか言われても同意できないんです。「可愛いですね」とか「良い光景ですね」くらいだったら同意できたのに。しかも、ゴハン美味しい宣言にうなずく奴が多いのはなぜだ?

 

・・・・・これ以上考えると色々怖いから、やめておこう。

 

 

俺はノームたちから視線を外し、他のテイマーのモンスをチェックしてみた。モンスの中で特に目を引くのは、やはりアメリアのリトル・エア・ウルフだろう。

 

これが中々足が速い。多分、追い風を連続発動しているんだと思う。今はレベルが低くて攻撃力が低いので牽制以上にはなっていないが、育った姿を想像すると末恐ろしいな。絶対に戦いたくない。

 

 

「それにしても、だいぶ押せ押せだな」

 

俺以外の前衛組の直接受けるダメージが大したことが無いので、攻撃の手が緩まないのだ。ガリガリとハナミアラシのHPが減っていく。元のHPが大きいので時間はまだかかりそうだが、相手の攻撃力が低い上、攻撃頻度も低いからな。これって楽勝なんじゃなかろうか?

 

 

だが、それもハナミアラシのライフが残り2割ほどに減少するまでだった。

 

「ホゲエエェエェ!」

 

「うわ、新しい攻撃か!」

 

「あ、あれはバッカルコーン!」

 

「やっぱクリオネじゃねーか! なんで花見妖怪がクリオネなんだよ!」

 

「さあ? 運営の趣味じゃね?」

 

なんと頭頂部がパカッと開き、そこから触手のような物が出現したのだ。クリオネが獲物を捕食する時の姿にそっくりだった。

 

6本の触手が個別に動き、前衛のプレイヤーを重点的に攻撃していく。あれはヤバいな。コクテンの仲間が一発でレッドゾーンに追い込まれた。ドリモが食らったら一発でアウトだ。

 

さらに、開いた頭部からキラキラ光る液体のようなものを吐き出している。どうも、体に当たるとネバネバして、動きが封じられてしまうらしいな。

 

酩酊やネバネバで行動不能に追い込んで、最終的に触手で止めを刺すスタイルであるらしかった。ドリモは掘削スキルで地面に隠れられるので酩酊スモッグはかわせているんだが、触手はかわしきれんだろう。一旦下がらせた方が良さそうだった。

 

「ただ、その前にあれを試しておこう」

 

竜血覚醒をまだ使っていなかったのだ。

 

「ドリモ!竜血覚醒を使ったら、一度戻って来い!」

 

「モグ!」

 

さて、どんなスキルなのか。説明だけだと攻撃系なのか、強化系なのか、補助系なのかも分からないからね。

 

「モグモ~!」

 

ドリモの可愛らしい雄叫びの直後、その体を覆い隠す程の強い光が発せられる。おいおい、光の柱が立ち昇っているんだが。エフェクトが凄まじく派手だ。

 

「おおー!」

 

「かっけー! 何だあれ!」

 

「ドラゴンだ!」

 

「この場にドラゴンが二体いるとかすげー!!」

 

光の柱が消え去ると、周囲のプレイヤーが騒めく。あ、あいつよそ見して触手で吹き飛ばされた! ああ、死に戻った! すまん!

 

いや、でも無理もないか。なんと光の奔流が収まった後、そこにはドリモの姿ではなく、一匹のドラゴンの姿があったのだ。

 

鋭い牙に、太い爪。天を突く様な尖った角に、ゴツゴツと硬く茶色い鱗。瞳孔はトカゲのように縦長で、尾は太くたくましい。背には蝙蝠に似た翼を備え、明らかにモグラではない。

 

それは紛れもなく、ドラゴンだった。なんと竜血覚醒はドラゴンに変身するスキルだったのだ。まあ、大きさはほぼドリモと同じくらいだけど。ドリモと違って4つ足で地面を踏みしめる姿は、小型であっても雄々しく頼もしい。

 

全体的にはほぼオーソドックスなドラゴンだ。ちょっとだけずんぐりむっくりな体型だけどね。ただ角だけは、後ろではなく前にせり出す、トリケラトプスの様な形をしている。あれで突かれたら痛そうだな。

 

「モグ~!」

 

ああ、鳴き声はドリモのままなのか。するとドラゴンモードのドリモは、そのままハナミアラシに向かって突進していった。エフェクトから判断するに、追い風と強撃を使っているな。

 

「モググ!」

 

しかもクリティカルのエフェクトだ。ドリモの角の一撃で、ハナミアラシのライフがメチャクチャ減った。多分、前線メンバーのアーツ並みだろう。さっきのツルハシ強撃も凄かったが、こちらはそれ以上だ。

 

ただ、攻撃の直後にドリモの姿はもとのモグラさんに戻ってしまった。どうやら変身していられるのは10秒くらいであるらしい。とは言え、ドリモのMPはそれほど減っていない。これってもしかして、竜血覚醒が連発出来るんじゃないか?

 

そう思ったんだが、スキルが灰色に変色して使用できなくなっている。その横には23:59:4の表示だ。これはスキルのクーリングタイムである。

 

「再使用に24時間・・・・・一日か」

 

本当に奥の手だな。いや、今はボス戦に集中せねば。

 

その後、戻って来たドリモを労いつつハナミアラシに攻撃を続け、なんとか30分経過する直前で撃破することに成功した。最期はペインとアカリが放った剣スキルがハナミアラシのライフを削りきる。

 

「ホゲ、ホゲゲゲ・・・・・オハナミハ・・・・・マナーヲマモッテネェェ!」

 

ハナミアラシのライフがゼロに削られた瞬間、まるで春の嵐によって生み出された桜吹雪のように、その体が大量の桜の花びらとなって舞い上がった。

 

 

 

 戦場の周囲を囲むように花びらが渦巻き、まるで壁のようだ。思わずスクショを撮ってしまったのは俺だけじゃないだろう。

 

 

 

「うわぁー」

 

「綺麗」

 

「すっげー!」

 

皆が幻想的な光景に見とれていると、アナウンスが鳴り響く。

 

 ピッポーン。

 

《妖怪が初撃破されました。図鑑の妖怪の項目が解放されます。世界各地に妖怪は存在するので、探してみてください》

 

アプデの告知以外だと、ワールドアナウンスを久々に聞いたな。妖怪の図鑑が解放されたって言ってたが・・・・・。

 

図鑑を開いてみると、確かに最後に妖怪のページが追加され、ハナミアラシが登録されていた。ナンバー7となっているな。

 

 

『妖怪を初撃破したプレイヤーに、妖怪バスターの称号が与えられます』

 

 

称号:妖怪バスター

 

効果:賞金10000G獲得。ボーナスポイント2点獲得。妖怪に対する与ダメージ上昇

 

『妖怪を撃破しました。参加プレイヤーの職業「陰陽師」が解放されました』

 

『妖怪ハナミアラシが撃破されました。参加プレイヤー全員に、スキル「植物知識」が与えられます。すでに所持している場合、ボーナスポイント2点が与えられます』

 

『妖怪ハナミアラシが撃破されました。参加プレイヤーのスキルが一部開放されました』

 

 

怒涛のアナウンスラッシュだな。称号をもらえた上に、なんかボーナスポイントまでゲットしてしまった。解放されたスキルってなんだろう? まあ、アリッサさんたちが早速スキル一覧をチェックしているので、すぐに判明するだろう。

 

周囲のプレイヤーは称号授与の時点で歓声をあげていた。初称号の人も結構いたらしい。

 

「ありがとー!」

 

「これが白銀効果か!」

 

「ひゃっはー!称号だー!」

 

いきなり色々なプレイヤーから握手を求められて戸惑ったが、まあこのイベントは俺がホストなわけだし、感謝されるのも仕方ないだろう。

 

ただ、拝むのはやめてほしい。別に手を合わせたって御利益とかないから! なんだ白銀効果とか白銀現象って!

 

そしてアナウンスはまだ終わらない。次はイベントクリア報酬だ。報酬はハナミアラシの討伐時間によって変化するとなっていたが、俺たちはどうなんだろう? 29分台で、ギリギリ30分は超えていない。

 

『特殊クエスト2をクリアしました。攻略時間、29分37秒。報酬は、霊桜の薬×3本です』

 

レア度4のポーションだった。効果は、酩酊回復だ。なるほどね。ゲームが進めば大した価値がなくなるかもしれないが、現時点では珍重されるだろう。悪くはないと思う。

 

実際、他のプレイヤーたちも喜んでいるからな。酒飲みたちは、これでもっと酒が飲めると喜んでいる。飲まない奴らは転売する気満々だな。

 

イベント関係のアナウンスはこれで終わりであるようだ。後はレベルアップの通達だな。俺だけじゃなくて、モンス達もレベルが上がった。ドリモなんか一気にレベル8だ。さすが、レイドボス。

 

「えーっと、ドロップはなにかな?拳?徒手空拳用のグローブタイプの武器か」

 

どうやら素材などではなく、装備品をドロップするようだった。霊桜の武拳、霊桜の闘衣、霊桜の重枷、霊桜の細剣と4つも入手できたが、全て装備に【STR】が20必要で、微妙な代物である。どうも、セット装備にすると特殊な効果が発動するみたいだ。

 

すでに皆の間でリスト化が始まっているな。全部で九種類あり、武器が武拳、細剣、打鞭、鋼棍の4種。防具は闘衣、軽靴、鉢巻の3種、アクセサリが重枷、耳輪の2種だった。重枷がレア装備みたいなのだが、全ステータスが低下する代わりに、レベルアップ時のステータス上昇が増加する可能性があるという特殊な装備品であった。

 

この中から武器を含めた4種類を装備することで、酩酊無効と、それぞれの武器スキルの成長速度上昇の効果があるらしい。

 

「あとは、霊桜の薬が1つに、霊桜の小社?」

 

霊桜の小社はホームオブジェクトだった。ただ、効果としては霊桜の小社を設置するとしか書かれていない。まあ、設置には1マスで済むみたいだし、使ってみればいいか。

 

タラリアのメンバーの呼びかけで、皆のドロップの情報が集められ、集計が始まる。その結果、霊桜の小社は俺しかドロップしていないということが分かった。ホスト専用なのか、余程レアなのか、他に何か理由があるのか、正直一回だけじゃわからないらしい。

 

とりあえずイベントを終了させた後に、皆の前で小社を設置するという流れになった。ヘルメスは情報料を払うと言っていたが、皆で手に入れたアイテムだしな。それで情報料をもらうのも悪いと思ったので、公開設置することにしたのだった。

 

ああ、因みに元に戻るための出口は、いつの間にか出現していた。ピンクのブラックホールとでも言えばいいか?そこを潜ったら俺の畑に戻ってきていたのだ。

 

いやー、後半は怒涛の展開だったな。

 

「おーい! ど、どうだった? 報酬はどうだったんだ?」

 

「えーっと?」

 

いきなり知らない男性に話しかけられた。なんで畑の中に入れるんだ? フレンドしか入れないはずだけど・・・・・。いや、見た覚えがある。誰だっけ? 軽く悩んでいたら、すぐに正体が判明した。イベント開始時に畑から出てしまっていたせいで締め出されてしまった、タラリアの人だ。ヘルメスに詰め寄って、逆に頭を叩かれている。忘れててごめん。まあ、話はヘルメスたちから聞いてください。

 

「とりあえず社の設置からだな」

 

気になるから霊桜の小社を設置しちゃおう。これから用事がある人もいるみたいだし。皆、早く効果を見たがっているだろう。

 

「えーっと・・・・・ここじゃあ、設置できないな」

 

1マスでいいみたいなのに、アイテム名が灰色に変化してしまい、選択することができない。ただ、色々と場所を変えて探ってみると、桜の木の目の前にしか設置できないらしかった。なるほど、霊桜の小社だもんな。

 

「じゃあ、設置しますね」

 

「うん。あ、ちょっと待って、撮影する」

 

「・・・・・」

 

ヘルメスたちがスクショなどを撮り始めたが、あまり気にしないでおこう。

 

「設置っと」

 

「「「おおー」」」

 

何かどよめきが上がった。どうやらホームオブジェクトの設置自体、初めて見るというプレイヤーも多かったらしい。ホームが無ければ意味ないからね。

 

「激レアのホームオブジェクトにしてはメチャクチャ地味だな」

 

それはその名の通り、小さい社であった。高さは俺の腰上くらいかな? サイズは、足を取った百葉箱くらいのサイズ感だ。四角い石の土台の上に、木製の質素な社が乗っている。いやいや、肝心なのは見た目じゃない。重要なのは効果だ。

 

「えーっと、効果はなんだ・・・・・?」

 

 

名称:霊桜の小社

 

効果:妖怪ハナミアラシが宿った社。1日1回、お供え物をすると色々と良いことあるかも?

 

 

「ふむ。お供え物ね」

 

もしかして、水臨大樹の精霊様の祭壇みたいな感じか? だとしたらちょっと期待できるんですけど。というか、期待しかない。

 

俺は取りあえずお社へのお供え物ということで、お酒を置いてみることにした。日本酒がベストなんだろうけど、今は店売りのワインで我慢してください。

 

「お供え物です。どうかお納めください」

 

パンパンと適当に手を打ってみる。さて、どうだろう?

ちょっと待っていると、社が淡く光り輝いた。そして、社の扉が開いて、中からピンク色のクリオネが現れる。

 

「「「おおー!」」」

 

いちいち外野が反応するな。いや、俺もあっちにいたら同じ反応すると思うけど。あと、全員がスクショを撮っている。撮ったところで何度か見返してデータ消すだけだと思うんだけどな。まあ、レアな物を目の前にして、撮影したくなる気持ちは分かるが。

 

「ハナミアラシか?」

 

間違いない。つい数分前まで激闘を繰り広げていた相手だ。

 

すると、現れた10センチほどのハナミアラシはそのまま社の目の前に置いてあったワイングラスに突進すると、自分の体と同じくらいの大きさのワイングラスに短い手でガシッと抱きついた。そして、一気にゴクゴクとワインを飲みだす。

 

ピンク色のクリオネがよりピンク色に染まったな。顔の部分は赤い。完全にほろ酔い気分だだろう。

 

「・・・・・?これだけか?良いことってなんだ?」

 

可愛い妖怪との触れ合いが良いことですとか言わないよな? でも、ハナミアラシは飲んだくれていて、何かが起きる気配はない。もしかして供えた物が悪かったか?

 

そんなことを考えていたら、ハナミアラシがピンク色に輝いた。そのまま光は強くなり、弾けるように放出される。その直後、桜の木を中心に桜吹雪が巻き起こった。とても綺麗な光景だ。なるほど、この光景を見られるのであれば、確かに嬉しいかもしれない。

 

だが、桜吹雪は単なる演出の一環でしかなかったようだ。桜吹雪がそのままピンクの光となってパッと弾け飛び、キラキラと俺に向かって降りかかったのだ。

 

「今の何だったの?」

 

「ちょっと待ってろ。っておい、ステイ!」

 

「きゃん!」

 

興奮が抑えきれない様子のヘルメスに急かされ、頭に手刀を叩き込んだ後にステータスウィンドウを開いて調べる。すると、インベントリに見慣れないアイテムが入っていた。

 

「霊桜の花弁?5つ入ってるな。あと、ハナミアラシの怒り?」

 

「うぐっ・・・・・花弁の方は素材アイテムか~。でもこの名前、もしかして霊桜の薬の材料なんじゃない?」

 

「あ、なるほど」

 

ヘルメスが言う通りかもしれないな。これは色々と実験してみよう。まあ、毎日5つも手に入ればだけど。明日が楽しみだ。

 

「酩酊を回復する薬の素材が毎日回収できるってことよね? これまた欲しがる人が多そうな情報だけど・・・・・」

 

そんな話をしていると、アイテムのトレードなどを行っていたコクテンが声をかけて来た。

 

「あのー、白銀さんは霊桜装備を手放す気がありますか?」

 

「いや、ない。まだ持っていないモンクの装備だ。これで遊んでみたい」

 

「そうですか。わかりました。因みに手放す気になったらの話ですが―――」

 

そう答えると、コクテンがそれぞれの霊桜装備の値段を教えてくれた。高いか安いか分からんけど、まあコクテンたちが算出した値段なんだし、適正価格からそう外れてはいないだろう。そもそも、装備できないアイテムが高額で売れるんだから、俺には得しかないしね。売らんけど

 

ただ不思議なことに、霊桜の武拳がレアドロップである霊桜の重枷と同じ値段だった。霊桜の闘衣や細剣の倍近い値段だ。さっきドロップ比率を見せてもらったが、武拳のドロップ率が低いということもなかったと思うが・・・・・。なんでなんだ?

 

「ああ、それは解放されたスキルの関係ですね」

 

「あ、解放スキルももう情報をまとめたのか?」

 

「はい。前提条件の必要なスキルもあるようなので、全てを把握できているか分かりませんけど、一応リストがあります。で、その中にこのスキルがありまして」

 

「えーっと・・・・・酔拳?酔拳って、あの酔拳か?」

 

「はい、細剣術とかもあったんですが、やはり酔拳の魅力には勝てず・・・・・。みんな取得したがってましたね。その結果として、酔拳の効果が上昇するらしい霊桜の武拳の価格が高騰ということに」

 

それはそうだろう。だって酔拳だぞ? ロマンがあり過ぎる! 俺的には形意拳と並ぶ、憧れの拳法の1つだ。正直、使う使わないは別として、取得できるなら取得したい。

 

スキルポイントを消費すればすぐに覚えられるのか? スキル一覧を開いてみた。

 

「あ、白銀さんの解放スキルも知りたいんですけど、いいですか?」

 

「ちょっと待って、それも調べる」

 

24時間以内に取得可能になったスキルには★マークがつくので、調べるのは簡単である。いくつかあるな。だが、酔拳は含まれていなかった。

 

「酔拳、ないな。まぁ、当然っちゃあ当然か」

 

「酔拳は格闘系スキルの上級か、3つ以上の格闘系スキルのレベル合計が50を超えている場合に取得可能になるみたいですよ?」

 

「コクテンは覚えたのか?」

 

「当然ですね」

 

酔拳の能力を聞いてみると、なんと酩酊状態時にのみ発動するスキルであるらしい。酩酊状態が酷ければ酷い程、威力が上がるんだとか。まじで酔拳じゃないか。

 

「それ、披露してもらっても?」

 

「構いませんよ。実を言うと早くやってみたかったんですよね。それで白銀さんの方は?」

 

コクテンは俺のスキルはどうなのかと尋ねてくる。俺もスキル一覧をチェックする。

 

「★マークがついてるのは5つあるな」

 

★マークがついているスキルの中で、誰でも取得可能だというスキルが酩酊耐性、妖怪察知、妖怪知識の3つである。

 

酩酊耐性はその名の通り、酩酊になり辛いスキルだった。酒飲みは喜んでいるが、酔拳との相性は悪そうだな。妖怪察知はフィールド等で妖怪の近くに行くと、教えてくれるというスキルだ。

 

妖怪知識は植物知識と似ていて、妖怪鑑定時に詳しい情報が表示されるようになるらしい。このスキルが無い場合は、ハナミアラシと同じ様に名前とHPだけなんだろう。

 

ただ、残り2つのスキルが、コクテンから渡されたリストに乗っていなかった。

 

「えーっと、妖怪懐柔、妖怪探索の2つだな」

 

「・・・・・2つもですか?す、すごいですね!」

 

「いつも2つ以上は当たり前のように取得してるから感動も感激も薄いわ」

 

愕然の色を顔に染み出すコクテンを気付かず詳細を読む。

 

妖怪懐柔は、妖怪からの好感度の上昇率が上昇するというスキル。今後、妖怪系のイベントに好感度が関わってくるんだろうか?好感度を上げないと戦闘できないとか?もしくはハナミアラシの好感度が上がったら何か起きるとか?これは色々なことを示唆しているスキルだな。

 

妖怪探索はフィールド上で妖怪が側にいる場合に反応するという、妖怪察知に似たスキルだった。ただ、探索の場合は範囲が狭い代わりに、より正確に場所が分かるという内容だった。

 

「霊桜の小社がトリガーになっているんですかね?それともイベントホストだから?」

 

「分からんな~」

 

コクテンとスキルについて話していたら、いきなり後ろから声をかけられた。スコップたちだ。ボス戦とかいろいろあったせいで、すっかり忘れてた。

 

だが、怒った様子はない。むしろ謝られてしまった。どうやらNPCたちは酒に酔いつぶれて寝ていたせいで、何も覚えていないという設定らしかった。

 

「いやー、今日は楽しかったぜ」

 

「久しぶりに楽しい宴会でした」

 

「何か困ったことがあったら、力になるからな!」

 

「僕達もです」

 

「私とリオンは普段はギルドで働いてるので、また会いましょうね?」

 

スコップ一家はそう挨拶をして帰っていった。その直後、イベント終了のアナウンスが聞こえる。チェーンクエストが、これで終了ってことらしい。

 

 

特殊クエスト

 

内容:自ら育てた桜の木の下で、スコップ、ライバ、ピスコを招いて花見をする

 

報酬:ボーナスポイント3点

 

期限:なし

 

報酬であるボーナスポイントが手に入った。もとはといえばこんなクエストだったのだ。いやー、長かった!

 

 

俺は取りあえず残っているプレイヤーたちに声をかけて、集まってもらった。

 

 

 

「これでお花見は終了となりまーす。なんか、色々とバタバタしてしまい申し訳ありませんでした」

 

「いやいや、楽しかったぞー」

 

「レイドボス戦も勝てたし!」

 

「最高の花見だった!」

 

よかった、怒ってる人はいないみたいだな。むしろ、みんな笑顔だった。俺が頭を下げると、拍手が起きる。なんか、大昔に毎年行っていた、某日本最大の同人誌即売会を思い出した。なんか、寂しさ半分、笑顔半分で、皆が最後に拍手をするんだよね。

 

プレイヤーたちが三々五々帰っていく中、俺はヘルメスに再び捕まった。

 

「ねえ、話が逸れちゃったけど。もう1つのアイテム、ハナミアラシの怒りはどんなアイテムなの?」

 

どんなアイテムってえーっと、ハナミアラシの怒りは―――マジで?

 

「ボスとの再戦可能アイテムか~。しかも桜の木の前じゃないと使用不可・・・・・。これはまた、凄まじいものを・・・・・。毎日入手可能なのかしら?」

 

「さあな」

 

「そうよね~。あのさ、何日後かでいいからさ、この祭壇で何が取得できるか、教えてもらえない? もちろん情報料は払うから」

 

「それは構わないぞ」

 

「あと、このハナミアラシの怒りは、しばらく内緒にしておく方がいいわ。下手したら色々なプレイヤーが押し掛けるかもしれないから」

 

レイドボスに挑めるアイテムなんて、そりゃあ騒ぎになるよな。でも、特殊クエスト効果の回復なんかはもうないんじゃないか? だとすると攻略は結構難しそうだな。

 

「そもそも、このレイドボス戦を発生させるには、どんな手順が必要なの?」

 

俺はチェーンクエストの始まりから、全ての情報をヘルメスに伝える。それを聞いたヘルメスが、深いため息をついた。

 

「はぁぁー。これは長い道のりね・・・・・」

 

「そうか?」

 

「植物知識は最近広がってきたとはいえ、その後がね・・・・・。チェーンクエストを色々熟さなきゃいけないわけでしょう? そのイベントに生産系スキルが必要なわけだし」

 

「まあ、農耕、伐採、木工、育樹が必要だしな」

 

「つまり、パーティで分担してスキルを取得するか、生産系のプレイヤーの協力を得るかしないといけない訳よ。そして、高レベルのファーマーの助けが絶対に必要になる」

 

そう考えると、普通の前線パーティじゃ、イベントを発生させるのは難しいかもしれない。多分、ファーマー用のチェーンクエストなんだろうし。

 

「しかも最後はレイドボスよ? ハーデス君、良くクリアできたわよね」

 

「まあ、運良くって感じで」

 

「うちもメンバーをファーマーに復帰させて頑張ってるんだけど、まだ育樹には届いてないのよね・・・・・。誰か協力してくれるファーマーいるかしら?」

 

ヘルメスはこの後の計画を色々と練り始めた。頑張ってくれ。花見参加プレイヤーが解散したのを見て、やじ馬たちも解散していった。まあ、外から見ていても十分楽しめただろう。そう言えば、タラリアのやらかした人。なんと外からスクショをずっと撮り続けていたらしい。しかも、野次馬にいた知人にも声をかけて、全方位からの絵を押さえていたそうだ。

 

「それで、その映像をタラリアのホームページで公開したいってことか?」

 

「そうなんです。いいですか?」

 

「他の人が全員オッケーしてるんなら、構わないぞ」

 

この人に頼まれたら嫌とはいえないだろう。ここで断ったら、可哀想すぎる。すると、どうやら俺が最後だったらしい。構わないと伝えたらメチャクチャ驚かれたな。俺って、そういうお願いを断りそうに見える?ちょっとショックだわー。

 

「こ、このネタ満載映像の公開をこんなにあっさりと・・・・・。さすが白銀さんだぜ・・・・・!」

 

「何か言ったか?」

 

「いえいえ、何でもないです! じゃあ、公開オッケーってことで?」

 

「お金をとる訳じゃなくて、本当に公開するだけなんだろう?だったらいいよ」

 

「あざーっす!」

 

やらかしさんは、大きく一礼すると駆け足で去っていった。これで少しでも彼の無念が晴れればいいね。次機会があったら最前列に立たせよう。

 

「モグ」

 

「ドリモも初めてでいきなりレイドボス戦は疲れただろ?」

 

「モグモ」

 

ドリモは俺の言葉にニヤリと笑いながら、軽くサムズアップをして答えてくれた。お、男前すぎる! 他の子たちとは違っていて、新鮮な反応が面白い。

 

「頼もしいな。でも、本当にすっごい強くてかっこよかったぞ?ドラゴンにもなれるんだからな」

 

「モグ~」

 

俺がさらに褒めると、ドリモは少し照れた様子で頭をかく。褒め殺しに弱いみたいだな。カッコ可愛いね。ドリモは当たりだった。いや、うちの子たちは全員当たりですけどね!

 

「キュイ!」

 

頭に衝撃が襲ってきた。ミーニィがまた人の頭の上に乗ったことは判るがなんか違う。

 

「キュイキュイ!キュイ!」

 

「モグモ!モグー!」

 

「キュイー!」

 

クママはちゃっかりとコクテンの仲間たちの間に座ると、お菓子やナッツをもらったりしている。クママファンたちに揉みくちゃにされながらチヤホヤされるのも好きみたいだけど、こうやって自分から甘えつつ静かに構ってもらうのも楽しいらしい。基本的にプレイヤーとのスキンシップが好きなんだろうな。

 

ゆぐゆぐとオルトは互いに背中を預け合い、ゴザの隅に腰を下ろしていた。2人とも目を閉じて、ファウのリュートに聞き惚れているみたいだ。リュートの音色に合わせて体をゆっくりと揺らしていた。

 

ヒムカ達もそれぞれのファンたちに囲まれ楽しそうだ。おいそこ、メリープの羊毛をはぎ取ろうとするなよ?したらお前の全財産もはぎ取ってやるからな。

 

わいわいと騒ぐ宴会とはまた違い、静かな大人のお花見だ。これはこれで違った楽しさがあっていいな。

 

予定していた花見の時間はもう終わったんだが、皆で2次会を楽しんでいたら、ヘルメスからメールが入っていた。農業ギルドで新たなアイテムが発売されているらしい。その名も雑木肥料。育樹がないプレイヤーでも、雑木を育てられるというアイテムだ。そのかわり生育は倍かかるらしい。

 

「俺にはいらないな」

 

でも、お花見イベントを起こしたいけど育樹が無いという人にとっては、素晴らしいアイテムだろう。ヘルメスたちも早速チェーンクエストに挑戦するそうだ。

 

30分後。コクテンがようやく酩酊状態に陥ったので、ついに酔拳の演舞の披露である。

 

「よ! 待ってました!」

 

「コクテン日本一!」

 

「ほら、オルト達も盛り上げろ~」

 

「ムムー!」

 

「フム~!」

 

俺やコクテンの仲間たちがヤンヤとはやし立て、オルトたちが手を叩いて場を盛り上げる。ファウのリュートもいつの間にかアップテンポの曲に代わっていた。

 

静かな宴会もいいとか言っちゃったけど、黙ったままでいられるのは30分くらいが限度だったね。

 

コクテンは桜の木の前に進み出ると、酔拳の構えをとった。体を前後左右にユラユラと揺らしながら、指を曲げた両手を前に突き出す。指は、まるでお猪口を掴む様な形である。

 

「ホアー!」

 

その体勢から、トリッキーな攻撃を繰り出して空を攻撃するコクテン。まんま酔拳だった。映画ファンが真っ先に想像する、あの動きだ。コクテンがアクションスターに見えて来たぜ。

 

「アタ~!」

 

「確かに酔拳といえばこの動きだけど、ここまで似せちゃっていいのか?」

 

そう思うレベルで似ていた。いや、ファンとしてはむしろ嬉しいけどね? 取得希望者が殺到しそうなスキルだった。俺も格闘系スキルを育てていれば・・・・・。いや、ゲームとはいえ酔っ払った勢いで俺自身が何仕出かすか分からないな・・・・・。

 

他には細剣術、打鞭術、鋼棍術の3種類が解放されたらしい。こういう一部武器に特化したスキルは使用できる武器などが少なく、汎用性に乏しい代わりに、剣術や槍術のような汎用系武器スキルよりも成長が早いんだとか。コクテンの仲間たちも取得していた。

いくら成長が早くても、辛くないのか? 武器を買い替えようと思ってもオーダーメイドしなくちゃいけないし、値段も高くなってしまうだろう。

 

そう思ったが、霊桜装備は性能が高くてしばらくは買い替えの必要はないらしい。現在の最前線で使われている装備品よりも、一段上の性能なんだとか。ペインもそんな感じ?あ、そんな感じで今後使う予定なんだ。

 

「白銀さーん!酒を飲みましょう!」

 

「そうだな。ワインを飲むか」

 

「いやー、白銀さん良い飲みっぷりだね!」

 

結局宴会になってしまった。まあ、このまま飲み続けて夜桜を楽しむのも一興か。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「んじゃあ、俺達も帰るぜ」

 

「ああ、気を付けて。そうだユーミル。また原始の装備を作ってくれるか?鎧とか頭の装備とか」

 

「・・・・・わかった。それとまだ風化した装備があったな。また千年鉱石と大地の生命の源、ラヴァ・ゴーレムの溶鉱炉を集めれば鍛えてやる」

 

うへぇ・・・・・あれ、しんどいんだよな。マグマの中で採掘するのが特に。

 

「・・・・・千年鉱石を採掘する専用のピッケル、原初の泉とラヴァ・ゴーレムの溶鉱炉で作れる」

 

「わかった。ちょっと待っててくれ」

 

 

・・・・・。・・・・・。・・・・・。

 

・・・・・。・・・・・。

 

・・・・・。

 

 

「持って来た!(2×10)」

 

「・・・・・師匠。ちょっとって言ってラヴァ・ゴーレムを何度も倒して死の泉を泳いで大地の生命の源を採取できるものだっけか」

 

「・・・・・昔の勇者はこのぐらい朝飯前だったらしい」

 

お?何か興味深い話が聞こえたぞ。

 

「昔の勇者って会ったことが?」

 

「・・・・・偶然か必然か。お前が装備しているそれは昔のドワーフ王がその当時の人間のために用意したものだ」

 

「じゃあ、俺が二代目ってことか?」

 

「・・・・・そうなる。もはや遥か昔のこと故、まだ俺は幼かったから顔も覚えていないがその装備だけは確と覚えていた」

 

俺から集めたアイテムを受け取り、ヘパーイストスの工房でピッケルを作ってくれた。

 

 

『ラヴァピッケル』

 

マグマの中でも溶けないピッケル。だが、マグマの中でしか使えず他の鉱石を掘ろうとすれば溶かしてしまう難点がある。

 

 

使い道が限定されてるぅ・・・・・。

 

 

それでも日付が変わろうとマグマの深奥にまで潜って採取ポイントから鉱石を掘り続けに行った。

そのおかげで―――隠しエリアを発見してしまったのである。

 

「空気がある・・・・・」

 

広過ぎる洞穴だった。別世界と彷彿させる程に。だが、別のエリアへ進めるわけではないようで俺はそこで鎮座している黒い巨大な物体を離れたところから見つめる。

 

「黒い、岩?」

 

採取ポイントがないしただの岩とも思えないが。・・・・・止めておこ、なんかこの場所―――ベヒモスと戦った似てる感じがする。

 

直感を信じて隠しエリアを後にする。さーて、千年鉱石掘りまくろうか!お?レア度★9の原始の鉱石だ!こっちは宝石!

 



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エルフイベント開始

いよいよ、第二回イベントの始まりだっ!

 

「さて、エルフの里に行くから連れていくメンバーを決めます」

 

「ムム!」

 

横並びに整列するオルト達、フェルはその後ろに座っている。

 

「オルト、ルフレ、ゆぐゆぐ、リック、フェル、んーファウだ。クママ達は―――サイナと一緒に行動してくれ」

 

「クママ!」

 

「ヒムー!」

 

ここ最近判明したことだが、全スキルを無条件で自動的に取得するサイナは【使役】スキルも取得している。別行動するサイナもオルト達を使役することが可能だと知った時は耳を疑ったよ。

 

「なら訊くが、サイナが独断でテイムすることは?」

 

「不可能です。征服人形(コンキスタ・ドール)であれば私の命令に従い使役することが可能です」

 

「サイナも出来るのか。あ、【機械神】と【機械創造神】も取得しているから?」

 

「その通りでございます。我が創造主の恩恵を享け賜わった私自身も機械神(四代目)の存在です」

 

ただし身を破壊して兵器を創る【機械神(一代目)】の能力と征服人形(コンキスタ・ドール)の相性は悪い。諸刃の剣でありサイナに装備させることができるのはアクセサリーだけだ。

 

―――と、当時の事を思い出しているとリヴェリアが話しかけて来た。

 

「これからエルフの里へ跳ぶ長距離転移が始まります。今日までここに置いてありがとうございました」

 

「なに、畑の作業を手伝ってくれたからな。ようやく黄金林檎も渡せたし安心できた」

 

「この苗木でまた一から増やしていきます。エルフは長命種ですから」

 

「人間は100年で死ぬからあっという間だ」

 

「・・・・・そうですね」

 

少し寂し気な表情を浮かべる彼女はすぐ微笑に切り替えた。

 

「それでも、貴方という人間という存在を一生忘れません。この町に住んでから、里では得られなかった刺激を堪能しました」

 

「エルフの里はどんなところだ?」

 

「―――騒々、いえ、自然と一体化・・・・・静かなところです。静寂の中で過ごしているといっても過言ではないでしょう。これから多くの冒険者がそんな場所に訪れてくれますから、きっと同胞たちはしばらく困惑や戸惑いをするかもしれません」

 

今なんか、騒々しいといいかけたな?森の中で暮らしていると思うエルフから余所者扱いされることは間違いないだろうが・・・・・気になるぞ?

 

「最初に訊くけど、数百人以上の冒険者が寝泊まりできる宿は?」

 

「申し訳ございませんがありません。里は主に自給自足です。人間の国へ赴き物資を売買、調達はすれど里に他種族の者を滞在させたことはここしばらくはありませんでしたので」

 

最初のイベントと同じ感じか?でも悪しき者達に里が襲撃を受けたって話だ。

 

「そして、今里ではこれから来てくださる冒険者達にもてなす余裕もございません」

 

「物資が不足していると?」

 

「それ以上に、里に対して絶えない襲撃を食い止めて欲しいのが里の総意です」

 

防衛線・・・・・?誰よりも早く今回のイベントの情報を得られたのはいいけど、イベントの特徴を知られるのは時間の問題だな。―――ん、運営からメールだ。

 

 

『イベントにご参加いただき、ありがとうございます。今回のイベントに関する詳しい内容をご説明いたします』

 

 

運営メールを要約すると、こんな感じである。まず、俺たちは前回同様各々のサーバーに割り当てられることなくイベントを始める。そして前回より短い5日間エルフの里に暮らしベントが終了して戻ってくるのはその日の21時。今回はパーティーと個人ランキングの競い合いの要素がある。しかも―――ランキング報酬にはないがイベント参加全員に『エルフの救援者』の称号が与えられる。未だ称号0なプレイヤーにとっては初称号となって嬉しいことだろうな。

 

そんで肝心のランキング報酬、パーティ討伐数と個人撃破数のランキングがある。個人の方を見れば・・・・・。

 

「一位は・・・・・ユニーク装備なのか」

 

「はい、里の秘宝を明け渡すことになりました。里の存亡を懸けた戦いです。秘宝を守るより誇りあるエルフという種の全滅だけは避けたい長老の願いです」

 

「それだけ本気と言うことか。それなら俺も頑張らないとな」

 

 

『第二回イベント、開始5分前となりました。これから特設フィールドに転送します』

 

 

アナウンスの直後、目の前に参加するかどうかの問いが表示される。俺は迷わずYESを選択した。

 

すると、目の前の景色が歪み始める。

 

 

そして、暗転した。

 

 

見る間もなく、目の前に広がる景色が変化する。森の中に転移させられたらしい。

 

 

「ようこそ。ここが私の故郷、森の深奥に存在するジュラの大森林―――『アールヴ』です」

 

リヴェリアの語る声を耳にしながら俺は、俺達は途轍もなく巨大過ぎる巨大樹を視界に入れていた。言葉も発さない俺が注視している視線の意図を汲んだ彼女が微笑んだ。

 

「この世界で唯一無二とも云われているあの木は・・・・・世界樹ユグドラシルです」

 

天を衝く勢いで成長していて、太陽の日差しを受けている葉は傘のように広がっている。だから広い日影も出来るのは当然で俺達は暗い場所の中にいるのだが・・・・・。他のプレイヤー達の姿が見えない。

 

「俺以外の冒険者は?」

 

「アールヴは三つの層があります。この辺りの森は地平ではなく山のような大きい階段みたくなっております。ユグドラシルがある上層のこの場は、王族のエルフだけしか入れない場所です」

 

王族のエルフがいる上層・・・・・リヴェリアの親族が暮らす場所に故意で連れてこられたのか。特別な場所ってことなのはわかった。が、どうして俺達だけここに連れて来た?

 

「神聖樹はどこだ?」

 

「中層です。そこへ案内する前にまず、長老にお会いさせてください」

 

「長老って、リヴェリアの親族だよな?」

 

「ええ、父です」

 

どんなエルフなのかと思っていたが、早速会えることになるなんてな。先行く彼女が向かう先はユグドラシル―――ではなく、その後ろにあった木造の別荘を彷彿させる大きな建物だった。扉を開け放ち真っ直ぐ目的の扉がない部屋の中に入って行った。

 

「―――お連れしました」

 

「よくぞ来られた。異邦の冒険者よ!」

 

続いてい入る俺達は上半身褐色の裸でボディビル選手にマッスルポーズで出迎えられた。

 

「・・・・・?」

 

目を擦って目の前のボディビル選手を改めて視界に入れる。目を閉じてもう一度認知しようと筋骨隆々のボディビル選手を見つめる。

 

「・・・・・」

 

「ふふ、そんな熱い眼差しを向けられると照れるではないか。しかし、私のこの筋肉美に惚れ惚れしてしまうのは些か悪くない気分だ。むんっ!」

 

・・・・・誰だ。この筋肉マッチョ。人間か?

 

「リヴェリア、彼は・・・・・」

 

「・・・・・身内の恥です」

 

「身内の恥とは酷い言い草ではないかリリーアたん!この肉体を得てからというもの、私は更に莫大な魔力とどんな攻撃にも耐えられる防御力とこの拳で大岩をも砕く強い力を手に入れたというのに!」

 

リリーアたん?思わずリヴェリアの方へ振り向く。そこには耳まで真っ赤にして握り拳を作り、全身を震わせている美女がいた。

 

「あ、あれだけ口酸っぱく釘を刺したのに何で言うのですかあなたはっ!!!彼の前でその呼び名を言わないでくださいよっ!!?」

 

・・・・・なんだろう、とっても懐かしい気分を味わわされているんだが。羞恥と怒りで目尻に涙を浮かべ、誰にも知られたくなかった事実を明かされてしまった人の反応を晒すリヴェリア・・・・・。

 

「えーっと・・・・・どうして肉体を鍛えることに?」

 

「千年前のことだ。私も他のエルフ種と同じ華奢な体つきで、当時は里一番の魔法と弓使いを兼ね揃えた魔弓使いだった」

 

お、知らない単語が出て来た。魔剣の弓版か。

 

「しかし、魔王の軍勢との戦いで武器は破壊され魔力も尽きてしまい、もはや戦う力などなく魔族の軍勢に蹂躙される死を覚悟した」

 

「・・・・・」

 

「周囲から迫る凶刃!私は逃げることも躱す体力さえも残していなかった。このまま奴らに八つ裂きされる運命に愛する家族達を走馬灯のように思い出しながら死を受け入れた。だが、そんな私の命をどこからともなく現れた鍛え抜かれたぶ厚い筋肉に守られたのだ!私ごと貫く凶刃がそれを拒む鋼鉄の如く受け止めるだけじゃなく、逆に拳ひとつで砕いてみせた!」

 

その時の光景を思い出しているようで、赤らめた顔で恍惚の表情を浮かべ熱い息を零した。

 

「窮地から逃してくれたその筋肉に最初は驚かされたが、私を抱える彼の筋肉に次第に興味を持ち悟ってしまった。―――強い肉体こそが強者の証であると」

 

「・・・・・」

 

「それからの私はしばらく里から離れ恩人の弟子になった。彼の人生の全てを受け継ぐために、彼の死後でも彼の後継者としても己の肉体を鍛え上げ続けた。それがこの筋肉である!」

 

見せつけるように筋肉を盛り上げる。すげぇ・・・今、音がしたぞムキムキって。

 

「この里に戻ってすぐに私は華奢なエルフ達を鍛え上げるために長老の座を得た。それからこの里では女以外の華奢なエルフは存在しなくなった。体を鍛えれば魔力量も増えることが分かったのが一番の要因だからな」

 

「・・・・・私も一時勧められたことありましたが、とてもあんな身体にはなりたくありませんでした」

 

ポツリと吐露する彼女の声が聞こえる。

 

「此度の人間の襲撃にもそうだ。ユグドラシルだけは守り抜いてみせたのだ」

 

「人間?魔王軍じゃあ?」

 

「今の魔王は先代と違って人間界に侵攻してこなくなっているのだ。絶対ではないが侵攻しない理由は恐らく軍事力を高めているのだと私はそう推測している。その代わりに世界樹ユグドラシルの噂を聞きつけ、人間の国王・・・・・帝国軍が攻め切ってくるのだ」

 

相手はモンスターじゃなくてNPCってことかよおいおい・・・・・。

 

「だがまぁ、相手が誰であろうと私達は連戦連勝を築き上げた。魔法と弓がなければ何もできない雑魚種族とか言われてきた今の私達は昔とは違う。―――そう、この恩人から受け継いだ筋肉があるからだ!」

 

ムッキーンッ!と擬音が聞こえそうなポーズを取る長老。

 

「最後に私達の挫けそうな心に喝を入れてくれるのは鍛え上げられた筋肉!これは決して私達を裏切らない最愛にして最高の相棒ともいえるのだ!」

 

「おおー」

 

思わず納得して思わず拍手をしてしまった俺に、倣うようにオルト達も拍手をした。喝采となって長老は嬉しそうに別のポーズを取った。

 

「ふふ、この筋肉の良さがわかるようだね。見たところ君も中々の筋力を秘めているようだ。その防御力は即ち=力!力こそが防御力!」

 

「あ、はい。ありがとうございます」

 

信じられるか?聡明で知的でプライドも高い筈のエルフが脳筋にジョブチェンジしているんだぜ?それで幾度もの侵攻を防いでいるんだから凄いと感嘆してしまうよ。

 

「・・・・・長老、本題に入ってください」

 

呆れ口調で催促するリヴェリア。確かにそろそろ本題に入ってもらいたいところだったからありがたい申し出だった。

 

「む、確かに今は里の一大事だったな。では改めて真剣に本題の話をしよう」

 

「最初からそうしていただいてほしかったです」

 

長老に対してちょっと厳しくない?

 

「まずは礼を言わせて欲しい。私の娘の願いを聞き届けた以前に使者として送った娘の危機を救ってくれたことに父親として深く感謝する」

 

深々と頭を垂らした後、ソファに座るよう促され俺達は腰を落とした。オルト達はそれぞれ床に座ったり、ファウのような小さい従魔は俺の身体の上に落ち着く。

 

「娘から話を聞いていたが、本当に四大属性の精霊を使役しているとは。久方ぶりに見たな」

 

「と言うことは、千年前に?」

 

「うむ。悪意ある人間達から精霊達を守る戦いに参加した。彼等の隠れ里も私を含め古代の者達が精霊達と創り上げた。あれからもう千年も経っていたか・・・それに・・・・・」

 

今度はフェルに目を向ける。

 

「幻獣種フェンリル。彼の誇り高き銀狼を使役してみせるとは、かつて存在した幻獣使いが懐かしいな」

 

「会ったことが?」

 

「彼も君と同じフェンリルを従えていた他にも、幻獣を使役していた。後に神獣の一体を使役することが成功した彼は後に神獣使いと歴史に名を遺したな」

 

神獣か・・・・・どこで会えるのやら。まだまだ先のことだろうな。

 

「他の幻獣に会いたいなら、フェンリルに訊くといい。同じ幻獣同士の居場所ならもしかするとわかるかもしれないぞ。何ならこの里で飼い慣らしている幻獣の一種、グリフォンでも見て見るか?」

 

「グリフォンか・・・・・凄く興味あるけれど、今は里の救援を済ませたいかな」

 

「そうだった。では早速君だけにお願いしたい事がある。娘から話を聞いたと思うが神聖樹が何らかの原因で衰弱してしまっている。それがユグドラシルにも影響は出ないか不安なのだが」

 

「神聖樹に洞とかある?」

 

「いや、ないがどうして?」

 

とある村にも神聖樹があり、エルフの里の神聖樹と同じ衰弱していた理由を教えると長老は目を丸くした。

 

「悪魔の仕業だと。では、この里の神聖樹も悪魔が原因であると」

 

「黒い棘みたいなものが刺さっていたらそうだけど、なかったらその場合は俺でも解決は困難だ」

 

「そうか・・・・・衰弱しているとはいえ、まだ完全に枯れる様子ではない。もし解決方法が分かったらお願い出来るだろうか」

 

 

『クエスト 神聖樹の解決』

 

 

というクエストが発生してYESを押す以外の選択は俺になかった。

 

「感謝する。ありがとう」

 

「では長老。私はこれからハーデス様を下層にお連れし、黄金林檎の苗木を植えに行ってまいります」

 

「ノームの手で育てた物だ。きっと上質が高く実ってくれるだろう。ハーデス殿、また私に何か用があろうがなかろうが、此処へ来るときは娘から授かった指輪を門の者に見せろ。それを持つ者もアールヴ家の一員の証でもあるのだ」

 

「一員・・・・・?」

 

「そうだ。・・・・・ふむ、三大天災のベヒモスとジズを倒した勇者。勇者の血をアールヴ家に取り込むのも悪くはないか・・・・?」

 

ぼそり、と何を呟いたのかは敢えて聞えなかったことにしよう。リヴェリアの方は顔を紅潮させて実の親に対して炎の魔法を放とうと―――彼女の背後に回って羽交い締めする!

 

「落ち着けリヴェリア!それは何かマズイ気がする!」

 

「大丈夫です!この炎はちょっと肌を焦がす程度の威力しかありません!」

 

「ちょっと待って、肌を焦がすって?まさか長老の褐色肌の色って・・・・・」

 

「娘の照れ隠しによる炎の魔法を何度も受けた原因だ。今じゃあこの通りすっかりダークエルフみたくなってしまった。昔は肌色だったんだが、この褐色肌もまた筋肉の美しさを際立たせるので気に入っているよ」

 

・・・・・リヴェリア、元の肌色に戻せば多少のショックを受けると思うぞ。

 

 

・・・・・。・・・・・。・・・・・。

 

・・・・・。・・・・・。

 

・・・・・。

 

 

「ここがアールヴの中層。神聖樹以外に黄金林檎や作物、家畜を育てていた農業の場でした」

 

長い下り坂を降りて山で言う中部に辿り着いた。リヴェリアの説明通り、様々な果樹園や広大な畑、家畜を飼育する建物があったようだ。今では無残にも破壊の爪痕とまだ撤去もされてない残骸は数多い。以前のように戻すには復興作業をしなくてはならない。

 

「酷いなここまで帝国の人間が?」

 

「違います。話が逸れてしまいましたが帝国からの侵攻の話を続けさせてもらいますと、連戦連勝の私達を攻め落とせない帝国は攻め手を変えたのです。どんな技術なのかはわかりませんが、人間の代わりに数えきれないモンスターを使役して攻め入ってきたのです。中には龍種も」

 

「ドラゴンもだと?」

 

「はい。私達は勿論ドラゴンが相手だろうと戦いました。戦士達もドラゴン相手に善戦して何体も倒しましたが、やはり数の暴力には敵いませんでした。絶えず森に侵入してくるモンスターと交じって帝国軍も襲ってきて、何とか上層までの進行は食い止めましたがここは戦場に・・・・・」

 

進む途中で足を止め、作物がない畑の前に止まり袖から黄金林檎を取り出した。

 

「これをお願いします」

 

「オルト」

 

「ムム!!」

 

任せろ、と胸を叩いて黄金林檎を株分して苗木に変えた。手慣れた手つきで畑に植え終わる。

 

「これでいいか?」

 

「ありがとうございます。また零から育てていきます」

 

それはそうだろうけど・・・・・うーん、なんか違うな。中層の荒れ果てた光景を見回しながら問う。

 

「中層は俺以外にもプレイヤーが入れるのか?」

 

「一応来れますが、この何もない畑に来られても何もすることはありませんよ?」

 

「おいおい、リヴェリア。冒険者は何も戦いだけが生業ではないんだぜ?ちょっと待っててくれ」

 

生配信の準備をして・・・・・よし、撮影開始だ。

 

「久しぶりの【白銀の死神の宴】だぞ。皆ーいるか?」

 

 

『白銀さんの配信が始まっていると聞いて!ん?映っている場所はどこ?』

 

 

「中層だ。他のプレイヤーはここのフィールドの地形は把握しているか?」

 

 

『まだ転送されたばかりで試行錯誤してまーす。前回みたく寝泊まりできないかエルフのNPCと交渉しているプレイヤーが多い。というか中層ってどこにある?』

 

 

「山の中部だ。登山の体験が出来るらしい」

 

 

『山ぁっ!?じゃあ、俺達がいるところって山の麓ってことか!』

 

『中部ってことは頂上があるんだよな?頂上にはなにがありますかー?』

 

 

「エルフの王族が住んでいる家と巨大な樹木、世界樹ユグドラシルがあったぞ」

 

 

『世界樹ユグドラシルっ!?』

 

『あっ、上を見たら本当にデカすぎる巨大な木がある!あれがユグドラシルかぁ・・・・・』

 

『ユグドラシルの素材手に入りましたか!?』

 

 

「いや全然。ところで・・・・・エルフの男性は見た?」

 

 

『ああ・・・・・見た。何なのあれ?俺達のエルフ象が木っ端みじんに砕け散った』

 

『女性エルフはマッチョじゃなかったから心の安寧が保たれた』

 

『女性プレイヤーからはあちこち悲鳴が聞こえているけどな』

 

『それでも華奢じゃないエルフを見た時は酷い残念感が・・・・・』

 

 

「大丈夫だ。エルフの長老が筋肉が全てだ!華奢なお前達も筋肉の美しさと素晴らしさを教え鍛えてやる!って布教した原因だから」

 

 

『えええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ・・・・・・・・』

 

『脳筋エルフの仕業かよ!』

 

『元の華奢なエルフを返せ!』

 

『さらっと白銀さんがエルフの長老と会っていた件については?』

 

『さすシロ!』

 

『さすシロしかないだろ。それ以外何があるんだ?』

 

 

「うん、それについては後日ゆっくり話し合おうか。思うが儘にプレイしているだけなのに変な印象を抱かれちゃ堪ったもんじゃない」

 

 

『思うが儘なプレイこそが白銀さんの変な印象を抱かせるのでは?誰もマグマなんか泳げないし泳がないんだけれど』

 

『実は俺も好奇心に負けて、片足だけで突っ込んでみたら一気にHPと装備が三分の一まで減ってヤバかった』

 

『俺もその一人。マグマを泳ぐ白銀さんの真似したくてポーションで回復しながら泳いだら・・・・・【マグマ耐性】なるスキルを取得出来ちゃった』

 

 

「おっ、チャレンジャーが現れたんだな。それ、無効化まで頑張ればラヴァ・ゴーレム戦はもっとやり易くなると思うぞ」

 

 

『あ、そうなの?じゃあ頑張ってみる』

 

『・・・・・片足だけ突っ込んだ俺も試そうかなぁ。ところで今回の配信の目的は?』

 

 

「そうそう、実はファーマーのプレイヤーの力が必要なんだよ。中層は何も育っていない農業区と化していてさ、俺もさっき黄金林檎を植えたばかりだけど他のファーマーの協力を求めようと思っての配信だ。ファーマーじゃないプレイヤーでも協力してくれるとありがたいな」

 

 

『白銀さん。俺ノーフ。その話を聞いて生産職でも役目があると聞いて他の連中に声を掛ける』

 

 

「よろしく頼む。因みに俺の従魔全員ここにいるからな」

 

 

『え?全員?コマンダーテイマーでも最大6匹しか連れて来られないんじゃあ?』

 

 

「答えは征服人形(コンキスタ・ドール)

 

 

『・・・・・ああっ! そういうことか! え、ドールでもテイマーみたいにモンスターを使役できるのか?』

 

『それマ?』

 

 

「それが出来るみたいでさぁ、初めて聞いた俺もびっくり。ほら、うちのオルト達だ」

 

 

『あっ、本当に6匹以上いる!噂のモグラもいるし!』

 

『待て待て、これはある意味凄い情報だぞ?連れて行けない従魔をドールちゃんが変わりに使役してもらうなら・・・・・』

 

『自分だけのチームが出来上がるってことか・・・・・っ!』

 

 

「付け加えさせてもらうぞ。使役はできるけど、独自でテイムすることはできないからな」

 

 

『そうなんだ?でも、それも出来るとなると変だよな』

 

『テイムできたらドールちゃんが使役しなくちゃいけないからな』

 

『こちらテイマースレの掲示板の住人です。白銀さんの情報により、知り合いのノームファンのテイマーが「イベントが終わったらドールちゃんを使役する、絶対する!ノームちゃんの理想郷を叶える!」と言って叫んでます』

 

『うちの知り合いも「ウンディーネちゃんを更に5匹も増やせれるだとっ」と愕然してます』

 

『サラマンダーファンも同じく』

 

『俺はルフレファンの者。白銀さん、可愛いモンスファンの夢をさらに広げてくれてありがとう』

 

 

「あははは・・・・・どう致しまして?とにかく、手持ちにあるアイテムでここで植えてもいいファーマーや戦闘とファーマーをどっちもしているプレイヤー、家畜用の建物を建てられる木工や大工のプレイヤー、その他のプレイヤーも暇があったらここで一緒に畑を豊かにしようよ。しばらく俺達はここにいるから待ってまーす」

 

 

『はーい!!』

 

『今参ります!』

 

『待っててゆぐゆぐちゃーん!』

 

 

配信終了!!

 

 

「と言うことだから、しばらくしたらここで農作業してくれる協力者が集まる」

 

「・・・・・下層から中層までの道は楽ではありませんのに」

 

「役割がある事を知ったらやりたいのさ俺達冒険者は。そんじゃ、オルトとサイナ。たくさん植えてもらうぞ」

 

「ムム!」

 

「かしこまりました」

 

「クママ達は壊れている物の残骸の片づけだ。ファウは皆を応援する音楽を鳴らしてくれ。皆頼んだ!」

 

「キュイ!」

 

「クママ!」

 

「―――♪」

 

「キュー!」

 

「ヤー!」

 

「ヒムヒム!」

 

「フマー!」

 

「フム!」

 

「モグモ!」

 

「グルル」

 

「メェー!」

 

俺の号令に皆は気合の入った声を発して撤去作業に動き出した。

 

「リヴェリア。撤去作業の指揮は任せても?俺も作業するから」

 

「わかりました。では、数か所に分けて一つに集めてもらいます」

 

こうして俺達は中層で復興作業を始めることにした。

 

 

―――それから30分後。

 

 

「うぉおおおおっーーーー!!! 辿り着いたぁあああああああああ!!!」

 

と叫ぶ名も顔も知らないプレイヤーの後、続々と中層に到着するプレイヤー達。一旦オルト達を呼び寄せるとしよう。

 

「ここが中層か。ここも酷いもんだな」

 

「今回のイベントは防衛だけじゃなくて復興イベントも兼ね備えているのかもな」

 

「クママちゃん!会いに来たわよー!」

 

「アイネちゃーん!」

 

「ゆぐゆぐちゃんはどこですかー!」

 

中には欲望に忠実なプレイヤーもいるようだな。―――それはそれで好都合。

 

「中層まで来てくれてありがとうございます!オルト達も皆と中層の復興をしてくれることを感謝しているぞ!」

 

「ムムムー!」

 

「フマー!」

 

「ランラ~♪」

 

プレイヤー達は黄色い歓喜の声を上げる。

 

「中層もかなり広いかと思うけれど、皆と協力して時間が許される限り復興をしよう!オルト達と一緒に!」

 

『おおー!!』

 

やる気を漲らせるのはいいとして、下層の状況を知りたい。なのでフレンド登録したノーフを見つけたら速攻で捕まえた。

 

「よ、ノーフ。イベントに参加していたんだな」

 

「そりゃあ参加するさ」

 

「それもそうか。他にフレンドはいたか?」

 

「昨日の花見に参加した前線組のプレイヤーは軒並み見かけなかったな。逆に生産職だったら、何人か・・・イズさんとセレーネさんも一緒だったな」

 

「他のファーマーは?」

 

「下層じゃ特に何もやることが無い一部以外の生産職は全員ここに集まっているといっても過言じゃない」

 

だろうな。見知ったプレイヤーがちらほらとオルト達に接触しているし。

 

「下層、麓の方はどうなってる?」

 

「マップを見れば分かると思うけど。居住区域が東西南北にある。状況はここと同じ。多分プレイヤー専用のだと思う。数も限りがあったから早い者勝ちかも」

 

「防衛の方は?」

 

「どこも結構混雑しているらしい。正月に神社をお参りしに来た人達みたいにな感じなんだけど、どうやら防衛する防壁は耐久値があるみたいなんだ」

 

そりゃあ、耐久値がないと防衛をしている気分じゃないだろう。不思議そうに小首を傾げる俺をノーフは、まだ知らない(当然だが)と思って知っている限りの情報を教えてくれた。

 

「ギルド的な物は」

 

「東西南北に散り散りで転移させられた連中と情報を共有したところ、エルフの里にはなかったってさ。あるのは辛うじて機能している売店ぐらいだけど、売店の品も全然で冷やかす程度にもならない寂しい感じだ。そんなんだから防衛イベントを積極的にしている前線組みたいなプレイヤーと違って、生産職のプレイヤーは何もやることがあんまりなくて暇を持て余していたところ白銀さんの生配信だ」

 

だからこんなに来たのか。下層にも畑があるのに拘らず・・・・・違うな、早い者勝ち戦で畑を手に入れられなかったファーマーがここに集まっているということか。

 

「居住区もボロボロか?」

 

「ああ、だから寝泊まりできそうになかったり、逆にそれでもいいから寝泊まりさせてくれないかと俺も頼んでみたら・・・・・蛇蝎(だかつ)の如く嫌われて突っぱね返された」

 

あー・・・・・帝国=人間だから人間を敵視しちゃっているのかもしれないな。

 

「マッチョのエルフにか」

 

「いや、全員が全員マッチョじゃないらしいぞ?」

 

うん?それは初耳だな。勢いで全員を超強化しそうな感じだったのにあの長老は。

 

「今のアールヴの一般エルフ達の俺達に対する好感度は低いって認識でいい?」

 

「白銀さんなら好感度を上げる方法は?」

 

「数日間もこの里にいることになるんだから・・・・・ひたすら交流したりプレゼントしたりする以外はないだろうな全力で。まずは衣食住の食を改善する必要があるかもしれないし」

 

「防衛イベントだけかと思ってたけど、もしかして復興イベントでもあったりする?」

 

それは判断しかねると肩を竦める。

 

「このイベントも貢献度があるぐらいだろうし、前回のイベントの経験を活かすべきだと思うけどな」

 

「確かに、一理あるな」

 

もうそうしているプレイヤーはいるだろうし。今回は出遅れてから防衛してみるか?というかもう既に出遅れているから関係ないか。

 

 

中層に集まったファーマーやそれ以外のプレイヤー達の奮闘と尽力で広い農業区(勝手に命名)は綺麗に整えられ、何も植えられていなかった畑も今では俺も含め全ファーマーの手持ちのアイテムで大体は埋まった。

 

「・・・・・皆様、心から感謝いたします。こんなに早くも同胞達の食糧難を解決してくださり誠に感謝します」

 

規定数で畑に投資するとリヴェリアからの感謝の言葉が俺達全員の耳に届いてきて、次に貢献度のポイントがもらえた報せがパネルとして表示された。それも100だ。それを知ったこの場に居る全員が、感嘆と歓喜の声を上げた。

 

「もしよければこれからも里の復興に手を貸していただけませんでしょうか?」

 

俺達の答えはYES以外存在しなかった。これから1週間は中層の農業区に通わないといけないな。

 

「リヴェリア、大勢で大勢の分の料理を作りたい時はどうすれば?下層の家を失ったエルフ達の為に炊き出しをしたい」

 

「それでしたら長老から市民へ調理の場を設けるようお願いしましょう。ハーデス様、よろしくお願いいたします」

 

「後それと、エルフ達の家を建て直す木材って必要か?」

 

「はい。ですが何分、今の私達にその余力がございません。里に出て木材の調達をしてくれるなら、西の棟梁たち渡してください。きっと助かると思います」

 

「衣服とかは?」

 

「素材は無事ですが、職人の者達が負傷してしまい量産は困難な状態です。もしも敵うならば彼等の代わりに手伝ってもらえないですか?」

 

衣食住についての話はこれで訊き終えた。任せろと言う俺にリヴェリアは安心した表情で笑顔も浮かべて、俺達に一礼すると上層へ戻って行った。

 

「・・・・・白銀さんの『さすシロ』の原因がちょっとわかった気がした」

 

「その略は止めてくれないか?ま、ともかくこれで生産職も暇じゃなくなる理由も出来たから万々歳だろ。積極的に、たとえ断られても拒まれても交流を繰り返せばNPCの態度も柔らかくなって受け入れてくれる。もう皆も解っていることだろうがな。と言うことで、俺は東区に行ってくる。じゃーなー」

 

オルト達を引きつれ下層へ向かう。おいおい、何だよこの下り坂は!? 登る時が凄く苦労するだろう!

 

「あれが、有名なプレイヤーになれる秘訣なのか・・・・・?」

 

「普通、あそこまで訊き込まないもんだよな」

 

「俺は知らない相手に話しかける勇気もない」

 

「さすシロ!これで浮きそうになった生産職も活動できる!」

 

「確かにそれは言えてる」

 



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激しい防衛線1

トンテンカン、と鎚で何かを叩く音が聞こえる距離まで歩いた俺達は大工達の仕事場に足を踏み入れた。主に働いているのは―――マッチョエルフ達だった。

 

「急げ急げ! 王女が連れて来た冒険者達が帝国の侵攻を足止めしている間に修復を完了するんだ!」

 

「おら、そっちに飛ばすぞ! 時間がねぇ!」

 

「おうさっさと投げろ! 喋る時間もねぇ!」

 

宙に掛ける骨組みの木材たち。風を切って飛んでくる材木を片手で受け止めてすぐに加工を始める職人たちの光景に圧倒される中。

 

「ダメだ、どうしても材木が足りない! 雑木ですらあまり残ってない!」

 

「棟梁! あちこちからもっと材木が必要だという声が上がってます!」

 

「解っている!だが、足りないものは足りないんだよ! おい、手の空いている奴は里の外に出て伐採しに行け!」

 

そんな声が聞こえて来た。都合がよすぎるタイミングだ。

 

「冒険者の死神ハーデスです! 材木を届けに来ましたー!」

 

大声を張り上げて言うと職人達が一斉にこっちを振り向いた。誰だアイツは、何でここにいる的な視線を一身に浴びている俺の元に一人のマッチョエルフが来た。

 

「今、材木を届けに来たといったな?言っとくが100本でも足りない状況だ。それ以下のもんを届けられようと今感謝する暇がないぞ」

 

「リヴェリア王女から里の危機の事は教えられている。この状況を見越して集められるだけ集めて来た」

 

インベントリから雑木、クヌギ、ミズナラ、それ以外の材木も含めて×99を取り出す。

 

「数種類の材木を99本。500本以上はあるぞ」

 

「・・・・・」

 

「取り敢えずこれで足しにしてくれ」

 

「お、お前・・・・・どれだけ集めたんだ・・・・・」

 

「俺はリヴェリア王女の友人だから里を守りたいのさ」

 

王族の証と称された指輪を見せればマッチョエルフは目を皿のように見開いた。踵を返して去ろうとする。

 

「お、おい冒険者! 名前は何て言う!?」

 

「死神ハーデス」

 

東区を後に今度は一般エルフが生活している北区へ向かった。北区は商店街と住宅街が入り交じっているのが殆どらしいけれど、破壊の爪痕がはっきりと残されている。割れた窓ガラス、焼失した建物や崩れた建物。それらの撤去活動が主にエルフ達の手で行われ大通りを歩くプレイヤーは素通り。

 

「クマクマ!」

 

「ヒムヒム!」

 

クママ達が突然、撤去作業をしている一人のエルフへ走り出して一人では持てない破片の石壁を一緒に持とうとしだした。

 

「何? モンスター!?」

 

「すみません。冒険者の者だ。うちの従魔達が手伝いたいと行動をしたんだ」

 

「手伝いって・・・・・もしやノーム、サラマンダー、ウンディーネにシルフ? 精霊がこんなところに」

 

「ムム!」

 

「フマー!」

 

「フム!」

 

当惑しているエルフを他所に撤去作業をする。

 

「この瓦礫はどこに運べば?」

 

「あっ、ああ・・・こっちだ」

 

リックのような小さい従魔は小さい石ころを運び、一緒に瓦礫を置く場所へ頑張って持っていく。

 

「・・・・・人間なのに精霊に慕われているようだな」

 

「俺じゃなくても精霊と心を通わせれば慕われるさ」

 

「・・・・・俺達の里を襲う人間と違うようだな」

 

「王女の救援の求めに集まった冒険者だよ」

 

話をしながら作業を続け、小一時間ほどしたらエルフが生業にしている商店の周りは片づけれた。ただし、壁に大きな破損が残っているから商売を続けるかはまだ検討中らしい。

 

「・・・・・手伝ってくれた礼だ。ちょっと待ってろ」

 

店の中に入り奥へ消えていったエルフ。程なくして直ぐに戻ってきた。複数の紙袋を持ってきてそれを差し出してきた。

 

「・・・・・持っていけ」

 

「タダで貰うのは・・・・・」

 

「・・・・・エルフは一度恩を受けたら必ず返さないとならない。損得関係なくエルフの助けとなった者に感謝の言葉すら言えないエルフは、末代まで恥を背負うことになる。それが嫌なだけだ」

 

無理矢理俺に押し付けた後、エルフは店の奥へ戻ってしまった。それから外に出てくる気配がないために、再び歩き始めた。受け取った袋を一つだけ残してインベントリに仕舞う。くれた中身を確認すると乾燥状態の何かが大量に入っていた。開けた瞬間に香りがして・・・・・これ茶葉・・・・・?

 

 

 

『魔茶葉』 品質:8 レア度★6

 

 

煎じて飲むと3分間MP消費が30%減少する

 

 

豚汁の飲料番か。いい物を貰っちゃったな。これは育てられるのか?出来るなら毎日煎じて飲めるな。

ほくそ笑んでインベントリに仕舞いこむと開けた場所に横切った。ここも戦場の爪痕が当然のようにあるのに大勢のエルフ達が列を作って並んでいた。なんだろうな?と興味で足を運ぶと聞こえるのは。

 

「腹減ったな・・・・・」

 

「ママーまだー?」

 

「もう少しだけ我慢してね」

 

「いつまで待たせる気なんだよ・・・・・」

 

「・・・・・」

 

ここは、炊き出しをしている所か?彼等彼女等が立ち並ぶ先へ移動してみると巨大な鍋からスープらしきものをせっせと器に入れて並んでいるエルフの住民に受け渡すエルフ達がいた。

 

「おい、今日はこれだけなのかよ?明らかに昨日より少ないじゃないか」

 

「しょうがないでしょ。帝国人の奴等に食糧庫を燃やされ、中層の畑も滅茶苦茶にされたんだから作れる量も限りあるのよ。文句があるなら後ろの人に譲りなさい」

 

「ちっ! この程度で腹が膨れるものか!」

 

その場で飲み干して乱暴に器を投げ捨てたエルフを相手にする暇もないと、給仕係のエルフ達は仕事を続ける。―――が。

 

「・・・・・申し訳ございません。今日の炊き出しはこれで終了です」

 

まだ受け付けていないエルフ達にとって残酷な報せを聞かされた。当然、それに対する不満を露にする者は少なからずいる。給仕係に詰め寄り、大きな鍋の中を覗き込んで残りはないかと群がるエルフ達。今日はもう食べられないと知る子供達は空腹のあまりに泣きだす。

 

「フム・・・・・」

 

目の前の嫌な光景にオルト達は沈黙する。ゲームの中でもこんな光景を見せられるのは心が痛い物だよ全く・・・・・。

 

「ムムム!」

 

「分かってるよオルト。もしもの為に今日までせっせと用意してきたんだからな」

 

「フム!」

 

「キキュ!」

 

「クママー!」

 

「はいはい、わかってるわかってる」

 

皆に背を押され、腕を引っ張られて炊き出しの場へ更に近づく。そんな不思議な集団と化した俺達をエルフ達は気付かない筈もなく怪訝な目で見てくるのだった。

 

「あなたは一体・・・・・」

 

「リヴェリア王女の救援に応じて馳せ参じた冒険者だ。俺も多くの料理を作ってきたんで協力させてもらう。出来れば皆で料理を分け合って食べ合ってくれ」

 

テーブルに数多の種類と数多の料理をインベントリから出して起き出す。テーブルの前には俺から受け取りエルフ達に配る役としてオルト達が立つ。

 

「あなた達も協力してくれ。一人じゃ流石にさばききれない」

 

「わ、わかりました!皆さん、手伝いますよ!」

 

食事を求めるエルフ達には申し訳ないがランダムで配らせてもらう。文句があるなら食べるなという話だ。再び配膳が始まって料理を配っていく途中で空腹で泣いていた子供のエルフの手にも渡り、料理を受け取った母親が頭を下げて感謝の念を伝えてくる。

 

「具だくさんのこのスープ、美味いな・・・・・」

 

「この丸くて熱いパンのようなものも美味いぞっ」

 

「美味しいー!」

 

「この白い粒の塊は・・・・・穀物か?塩加減が絶妙だ」

 

食べるそばから口々に感想を述べるエルフ達の声。舌に合う味で安心する最中、次々減っていく料理にこの先の未来を見据える。

 

「あー! 白銀さんがいたー!」

 

と、騒がしく人の称号の名前で渾名にする声が聞こえ出した。誰だと見れば、見知った顔のプレイヤーだった。

 

「ふーか?」

 

「はい、ふーかです。炊き出しをしてるんですか?」

 

「見ての通りな」

 

「では、私も手伝いますね。生産職のプレイヤーのやるべきことが広まって他の皆もエルフの人達に手助けをするようになったんで。こんなこともあろうかと、料理をできるだけ作ってきてよかったー!」

 

ふーかも離れたところで作ってきた料理を炊き出し用としてエルフ達に配り出した。しかも。

 

「ここで炊き出しをしてると聞いて!」

 

「あ、白銀さんがいるじゃん!」

 

「俺達も炊き出しに参加するぞ!」

 

「おおー!」

 

料理スキルを取得してるプレイヤー達が広場に集まりだし、一緒に配膳していた女性エルフ達と変わって、彼女達にも食事を分け与える。

 

「あなた達も食べてゆっくり休んでくれ。何も食べていないだろうに」

 

「心遣い痛み入りますっ・・・・・っ!」

 

受け取った料理を涙流しながら食べる彼女の他にも渡して空腹を満たす。

 

「ふーか、俺達は別のところに行くことにしたからここは頼んでも?」

 

「大丈夫でーす!」

 

さて、俺達も防衛戦に参加するか。西のところに行ってみるか。

 

「というわけで来ました、西の門」

 

門の前はプレイヤーの群れで芋の子を洗うような混雑だ。これ、どんな状況?目の前のプレイヤーに話しかける。

 

「これ、どんな状況?」

 

「門を出ないと防衛イベントができないんだよ。門が狭ければプレイヤーが多いと初詣で神社に行く感じに・・・・・」

 

そのプレイヤーが誰と話しているんだ?と風にこっちへ振り返ってきた。

 

「うおっ、白銀さんかっ! え、何でここに?」

 

「防衛戦をしに」

 

「いや、そうじゃなくて。どうしてまだしていなかったのかと」

 

「里の復興作業をしていて遅れたから。これ、誰がトップなのかランキング見れたりする?」

 

「あ、ああ・・・イベントの公式サイトを表示してリアルタイムでランキングが更新しているぞ」

 

ほうほう。これだな。んで、今のトップは・・・・・案の定ペイン達か。

 

「ペイン達はまだ門から出てきていない?」

 

「かれこれ一時間も経過しようとしているな。しかも今回のイベントって他のパーティの戦闘を生中継で放送されているんだってさ」

 

「マジか。待っている間に情報を得られるのか」

 

「ありがたい設定だよな。どんなモンスターが出てくるのか分かれば対処しやすくなる。まぁ、プレイヤー側の方がその対処しやすい職業である前提だけどな」

 

「そういう自分は?パーティで向かおうとしているわけじゃなさそうだが」

 

「今誰とも組んでいないんでね。いわゆるソロプレイヤーってやつだ。最初は一人でどこまで行けるか挑戦した後、野良パーティに入れてもらうつもりだ」

 

そういう楽しみ方もあるという話を知り、門を通るまでそのプレイヤー―――ナオツグと談笑を交わした。

 

プレイヤー達の戦闘の様子を見ながら。

 

「わーい、鹿が大量だー」

 

「速い速いっ。え、なにコレ。うわ、壁の耐久値がゴリゴリ減って・・・・・」

 

しかも高レベルだから、とあるプレイヤー達の攻撃で以てしても一撃で倒せなくなってる。一体を倒している間に他の鹿のモンスター達が角で壁の耐久値を削っている。

 

「なぁ、ソロで大量の鹿相手にできる?」

 

「無理だろこれ。流石の前線組も撤退を選択するほどだぞ」

 

撤退したプレイヤー達の姿は、もう見られない。

 

「俺達も頑張るかオルト」

 

「ムム!」

 

「流石に死ぬんじゃね?」

 

「死ぬ前提ですが何か」

 

「あ、はい」

 

ようやく俺達も門を潜れる距離にまで進めれた。ソロで挑むナオツグに健闘を祈り、俺達も門を潜った。

そして、見られる側も見る側になる予想外な事実を知った。門の外に出た俺達の左右に他のプレイヤー達もいたのだ。ナオツグは見当たらないな。

 

あちらから見える景色は一致しているか、こっちに手を振ってくるプレイヤー達。手を振り返すオルト達にプレイヤー達は歓喜した。

 

視界の中には既にREADY・・・・・GO! と表示が出た後だが、敵はまだ出てこない。

隣のエリアにいるプレイヤーが、ルフレちゃーん! と叫びながらこちらを見ている。

試しにそちらに移動して見ると、ある程度近付いたところで透明な壁が赤く発光した。

壁には進行不可、と表示されている。

なるほど、こういう仕様ね・・・・・インスタンス形式だけど、他のプレイヤーの戦っている様子が見えると。中々に臨場感があって、良い感じじゃないか。そしてこうしている間に門の前にいる大勢のプレイヤー達がこの様子を見ていると。

 

前方は森だらけ。後ろは里とは思えない石造りの高い壁。森の奥から現れるんだろうなぁーと予想したところでモンスターの群れが飛び出してきた。その数は10。懐かしい初期モンスターのアルミラージだ。ただし、黒い靄を纏っている。

 

「【挑発】!」

 

前に出ながらスキルを発動する。アルミラージ達は一斉に俺の方へ押し寄せてモフモフされに来てくれた。その間、オルト達がアルミラージを攻撃して余裕で撃退のすぐ後に『蟲毒の森』、『鋭角の樹海』、『鉤爪の樹海』の初期モンスターの群れも撃破した。それらも全部身体から黒い靄を発している。

 

まずは前哨戦というか、低レベルのプレイヤーでも余裕な範囲内。

そんな敵モンスターだったが、途中から徐々に種類のものが増えてくる。

そんな中でも特に鬼門となったのが、鹿のモンスター『シャープディア』による突進だ。レベルと共に20前後の鹿の群れが、横幅一杯に広がって一斉に黒い靄を纏い壁に向かって突進していく。

 

高さがデカければ力も強いのは必然的だ。レベル以前にステータスがフェルを除いてオルト達より高いとなるとオルト達が苦戦するのは目に見えていた。壁には行かせまいとするオルト達の懸命な働きを嘲笑うかのように鹿達が跳ね飛ばした。

 

「【挑発】! 【パラライズシャウト】!」

 

鹿達の意識を強制的に変えさせ、フェルが鹿のHPバーを砕く。

 

「大丈夫かオルト達」

 

「ム、ムッ!」

 

「―――!」

 

「ん、これからも何度も跳ねられると思うが頑張って堪えてくれ」

 

その後、間の二つの集団は移動速度の遅いモンスターだったため撃退できたが・・・・・。

数えて三つ目の集団が再び『シャープディア』、しかも数が30に増えていたことでオルト達に限界が訪れた。オルト、ルフレ、ゆぐゆぐが【挑発】から免れたシャープディアに狙われてあえなく退場されてしまった。フェルの身体にリック、俺の頭にファウが乗っているから攻撃されずに済んだが、俺と同じ壁役が一気に減ったのはきつい。零れたシャープディアはすぐにフェルが仕留めたが相手は止まってくれない。このインターバルの間に・・・・・。

 

「【武装展開】!」

 

久方ぶりに発動するスキル。身体に兵器を装備してしばらく待つと、森の奥から大量のベアーの集団が現れた。

 

「フェル、下がれ! 【攻撃開始】!」

 

砲身から放たれる光が、ベアーの身体を後続中の別のベアーにまで貫く。ダメージエフェクトの粒子が大量に残して消失した。

 

 

・・・・・。・・・・・。・・・・・。

 

・・・・・。・・・・・。

 

・・・・・。

 

 

「白銀さん、すげー強いのな」

 

「ロボット関連であの兵器のスキルを手に入ったのか?」

 

 

「あれを装備してからモンスターを殲滅しまくってて、もはやユルゲーになってるわ」

 

「運良く当たらなかったモンスターは銀色の狼が狩るから隙がねぇ」

 

 

「そう言えばフレンドから聞いたんだけどよ。あれ、フェンリルだってよ」

 

「マジで?あれ、サモナーのモンスターじゃなかった?テイマー?」

 

「知らないよ。でもフェンリルの登場にサモナー界では盛り上がってるけどな」

 

 

「そろそろ前線組の最高記録なたどり着くんじゃね?」

 

「まだ先だろうが、恨めしいあの鹿どもを蹂躙する所を見せてくれ・・・・・っ!」

 

 

・・・・・。・・・・。・・・・・。

 

・・・・・。・・・・。

 

・・・・・。

 

 

どれぐらい時間が経った?・・・・・もうちょいで一時間か。インターバルの間に現在のランキングを確認してみるか・・・・・おっ、俺の名前が載ってる。そんでペイン達の撃破数が更に加算されているから再戦しているようだな。トップに踊り立つには一戦を長く、一戦で多くの撃破数を獲得しなくちゃならないかもな。

 

「フェル、疲れたか?」

 

寄って訊くと、ぺしっ、と俺の顔にモフモフの尻尾を叩きつけて来た。いらん心配はするな、と伝えたいのかな?そのまま毛並みと柔らかさを堪能しているとリックがフェルから離れ俺の肩に乗ってきた。

 

「ギュウゥ・・・・・」

 

「随分とやつれた顔をしているなお前」

 

光胡桃を与えてリックの気力の回復を試みる。大好物の餌に目を輝かせて食いつき、一心不乱に食べるリックを触りつつ眼前を警戒する。レーザーですっかり地面が穴ぼこだらけになっていて、移動の阻害になりかけているなぁ・・・・・と思った俺はふとある事を思い至った。地形を弄れるのでは?と。そしてもう一つ。罠的なアイテムも有効打になるのでは?とも。

 

「お前等、俺が合図を出したら目を閉じてくれ」

 

「グルル」

 

「キュウ?」

 

「ヤー?」

 

「一瞬で眩しく光る物を使いたい。フェル達までその光で目が見えなくなるのは困るからさ。わかったか?」

 

頷くフェル達。MPを消費して閃光手榴弾を複数ほど作ったら、インターバルが終わった瞬間に森の奥から現れるシャープディア50の集団・・・・多すぎだろ!?

 

「先手必勝の閃光手榴弾だ!」

 

左右と中央、更に後方、他は適当に投げつけ疾呼する。

 

「目を閉じろ!」

 

フェル達は硬く目を閉ざした。俺も腕で目を隠すよう翳した直後。目の前が真っ白に染まった。

強い光で目の前が見えないもの、程なくして閃光が収まって眼前の光景が見えるようになった時―――。

 

地面に横たわっていたり、周りが見えないのか動きがふらついてるシャープディアの群れが一匹も残らず突進攻撃を止めていたのであった。

 

「目を開けろお前等! 今が狩り時じゃあー!」

 

これ、凄く使えます! 楽に倒せれる! ひゃっはー!

 

 

・・・・・。・・・・・。・・・・・。

 

・・・・・。・・・・・。

 

・・・・・。

 

 

「あああああ!! その手があったかーっ!?」

 

「効率的で合理的な手段の方法を発見したぞあの人。―――さすシロ!!」

 

「閃光手榴弾なんて持ってねぇよ!?」

 

「うわー!! それは思いつかなかったよ!!」

 

「足の速いモンスターの目を奪うとあんな感じになるのか・・・・・」

 

「(錬金で作れるけど素材がなぃいいいいい!! せっかく儲かるチャンスなのにぃっ!!)」

 

 

・・・・・。・・・・・。・・・・・。

 

・・・・・。・・・・・。

 

・・・・・。

 

 

天啓を得た俺に死角など無だ!閃光手榴弾や手榴弾、機械式の罠を創造して原始的な攻撃を繰り返していたら敵のレベルはとうとう50台、ペイン達の最高記録を塗り替えようとしていたのだった。さて次は確か・・・・・。記憶に残る情報を思い浮かべようとした時だった。森の木々の揺れる様子がはっきりと分かる。臨戦態勢で構えていると林の中から勢いよく飛び出した。俺達の頭上を飛び越え、防壁との間に土煙を撒き散らしながら着地する。

 

「竜・・・・・いや、ワイバーン!」

 

こいつも黒い靄を纏った体躯に大きなコウモリのような翼、爬虫類のような鱗とヘビの尻尾、分かり易く言うなら竜と近似の姿。

 

俺がこいつをワイバーンだと判断できたのは、プレイヤー達の戦いに映っていた竜種と比して細身の体と・・・・・上部に表示されたその名前。

 

威嚇しつつ激しく動いているが、確かにそれは『ワイバーン Lv50』と読めた。

 

「防壁に攻撃しない、直接プレイヤーを狙う中ボス類だなお前は」

 

 

一歩踏み出した直後、ワイバーンが動く。

大きく羽ばたいて風圧で俺達に目くらましをした後、鳥のような足で俺を掴み上げた。

 

「お?」

 

「キュ?」

 

「ヤー?」

 

そしてそのまま羽を動かして大きな体を浮かせていく。リック達諸共、俺はその足に掴まれたまま、空へと昇った。

 

「―――そいつは悪手な行為だぞ?」

 

逆にワイバーンの足を離さないよう掴み、大きく息を吸う。

 

「【咆哮】!」

 

至近距離からの行動阻害のスキルを食らい、ワイバーンはビクッと動きを停めてそのまま重力に逆らえず地上へ落下する。

 

「フェル!」

 

すぐに飛び掛かってくるフェルがワイバーンの首に噛みつく。リックとファウも自分なりの攻撃をし、俺も【悪食】と【生命簒奪】でHPとMPの底上げをしてモンスターの群れ、次のウェーブの敵が来る前に倒せた。念のために閃光手榴弾を創造しないと。

 

その余念が功を制した。

 

次のウェーブに出てきたのは大量のシャープディアに入り交じってるベアー。多めに作った閃光手榴弾を一度目と同じ感じに投げて―――迸る閃光の直前に目を閉じ、めまいの状態異常を回避する。シャープディアとベアーがめまいを起こしている間にレーザーを撃ち、フェルの爪と牙の餌食にして数を減らしていく。

 

そこから先も中ボスであるレベル55のワイバーンも全て登場直後に撃破。こちとら『空の帝鳥ジズ』を倒したんだぞ?ワイバーン相手に負ける要素は皆無だ!

 

「壁の耐久値もまだ80%以上はある。下手なミスをしなければまだ上を目指せるな」

 

現在モンスターの頭上に表示されているネームとHPバー、レベル59の最後の一匹のウルフを撃破してから気が付くとレベル60の中ボス戦へと至る。

 

またワイバーンが出るのか、それとも別の敵なのか・・・・・。

 

体勢を整えながら森を注視していると、やがてそれは咆哮と共に現れた。

 

 

『グァァァァァッ!!』

 

 

ワイバーンとは明らかに違う、どうして空を飛べるのかという強靭な体躯。数倍はありそうな羽に、威厳を示すような立派な角、トサカ・・・・・。

 

「ドラゴンまで出るのかよ!?」

 

「キキュー!?」

 

「ヤーッ!?」

 

敵は『ウッドドラゴン』で、レベルは60。身体が樹木の根で折り重ねて形作ったような姿。両翼は皮膜代わりに枝葉。丸太のような蔓の尾。それに他のモンスター達より黒い靄の濃度が高くて全身が真っ黒だ。小手調べにレーザーを撃ってみたら、ウッドドラゴンに直撃する直前に結界の如く魔方陣が浮かんでレーザーを完全に防いだ。

 

「んー・・・・・【攻撃開始】!」

 

爆音と共に全ての武装が火を吹く。集中砲火を食らうウッドドラゴンはジッとその場から動かず、結界を張って俺の攻撃を防ぐのみ。・・・・・意味はなさないか。

 

「グルル!」

 

砲撃を止めてウッドドラゴンを見据える俺の腕を噛みつきだしてきた。え、何だフェル。地味にフレンドリーファイアが発生してHP減ってるんだけど。

 

「おい?」

 

あろうことか俺を壁の方へ連れて行こうと力強く引っ張っていこうとする。

 

「戦いを止めろってことかよ?」

 

「・・・・・」

 

見上げてくる鋭い眼差し。肯定の意を示すかのように、噛む腕から放してくれた。

 

「うーん・・・・・何か訳があるんだな?」

 

「・・・・・グル」

 

「なら、お前の言う通りにしよう。あと何回かこの戦いはするけどあのウッドドラゴンが出てくるまでならいいだろ?」

 

「グルル」

 

首肯するフェル。フェルがウッドドラゴンとの戦いを回避するほどの事態・・・・・幻獣種ではないだろうに何を感じた?っと、こうしている間に次のウェーブのモンスターの群れが、シャープディアの集団が押し寄せてきているし!

 

「フェル、訂正。あの鹿共なら倒していいだろ?」

 

それなら構わないと首を縦に振るフェルを横目に閃光手榴弾を投げてシャープディアの目を奪う。作業は効率的にしないとな。一網打尽にし終えて―――。

 

「ちょっ、待っ!?」

 

終えない!めまいしたシャープディア以外のシャープディアの集団が更に出現してあっという間に迫ってきた!

 

「フェル! ウッドドラゴンを巻き込むけど怒るなよ! 【挑発】! 【攻撃開始】! 【毒竜】! 【エクスプロージョン】!」

 

フルバースト!津波の如く森から現れるシャープディアを倒していくが、数が減らないどころか増えていく!

 

「【覇獣】! 【グランドランス】!」

 

ベヒモスの姿と化して地面から岩石の槍を複数出現させてシャープディア達を穿つも、その岩石の槍すら足場にして突進を止めない行動に目を張る。

 

「【グランドランス】! ―――【アルマゲドン】!」

 

壁の前に岩石の槍を出して盾代わりに張る。その後は空から降ってくる空気と摩擦して燃えてる隕石からフェル達を守るために身体の下に隠して身を丸くする。

 

次の瞬間。この場に大爆発が発生する。吹き飛ぶシャープディア。全方位に結界を張るウッドドラゴンの姿を視界に入れ、爆発が収まって後ろの槍の壁も壁の耐久値を多少減っていたが守って崩れた。

 

「あの結界は厄介すぎるだろ。どう攻略しろってんだ」

 

流石にノーダメージはないだろ・・・・・俺もそうだろ?いやいや、貫通攻撃があるから無敵じゃないんで。

 

「えええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ・・・・・・・・」

 

今度こそ一網打尽にしたのに、スタンピードが収まらない。ウェーブが途切れない。シャープディアに交じってこれまで撃破した全モンスターが大量に押し寄せて来た。口からビームを撃って眼前のスタンピードのモンスターを倒すも、まるで某蟲王のごとく倒しきれない。あっ、ワイバーンまで出てきやがった!!

 

「・・・・・上等だ! 限界までやってやらぁっ! 【悪食】! 【大嵐】!」

 

MPの補強をしつつ大嵐を召喚。シャープディア達がダメージを受けている証の、ダメージエフェクトをまき散らしながら空へ巻き上げていく。

 

「【大竜巻】!」

 

ワイバーン諸共に一部の大量のモンスターを閉じ込めてダメージを与える。空から降って地面に激突する大量のモンスター達がそれだけで消失していく。それでもなお倒し切れていなかったモンスターもいたが、フェルがすかさず狩ってくれるもスタンピードが収まらない!

 

「もうこの辺にしておこう。戻るぞ!」

 

【覇獣】を解除して壁まで戻って触れるとアールヴの里に帰還した。

 

 

『・・・・・』

 

 

そして直ぐに数多のプレイヤーの眼差しを浴びることに。先に退場したオルト達、待っていたサイナ達と合流する。

 

「サイナ、メンバーを入れ替える。この一戦でよーくわかったわ」

 

「どの従魔と入れ替えます?」

 

「一先ず全員だ。長い戦いをしたから小休止させておきたい」

 

「かしこまりました」

 

「それともしサイナも一緒に戦って欲しい場合はオルト達はどうすればいいと思う?」

 

「どこかに預けられる場所があると預けれます」

 

・・・・・あそこしかないんだよな。取り敢えず、オルト達とミーニィ達と入れ替えて再戦だ。



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悪魔アスタロト

その後に一戦どころか三戦ほど行ってから城郭都市に戻ると、上層のアールヴ家に訪れた。リヴェリアが出迎えてくれた。

 

「お帰りなさいませ」

 

「ん?来ることが分かってた?」

 

「あなたの活躍の話が伝わっていましたので。里の復興の援助についても炊き出しのことも、此処に全ての情報が届けられるのです」

 

王族故に情報収取は当たり前のように行っていたのか。

 

「城壁の防衛に当たっていたんだけどワイバーンが出て来た」

 

「はい、私達もその竜種を確認しております」

 

「その後ウッドドラゴンが出て来た」

 

「・・・・・ウッドドラゴン?」

 

きょとんとした顔で俺が言った言葉を鸚鵡返しする。あのドラゴンの存在は知らなかった?

 

「展開される結界のせいで倒せなかったんだ。いや、フェルがあのドラゴンと戦うことを許さなかったから倒せなかったってのもあるな」

 

「・・・・・まさか、ウッドドラゴンまでもが」

 

知っているのか?と訊くと真摯な目つきとなって長老のところまで来て欲しいといわれた。

その通りにすると、長老にウッドドラゴンの存在をリヴェリアが伝えた途端。

 

「ウッドドラゴンが!?それはマズイ、どうにか『救わねば』!」

 

「救う?」

 

「ウッドドラゴンは本来物静かで大人しく、理知を備えている優しいドラゴンだ。互い不干渉で静かに暮らすことを暗黙の了承で我々は距離を置いてたが、帝国の魔の手に堕ちてしまっているとなると危険すぎる。この世界から最悪、動植物の生命が無くなってしまう!」

 

話を催促する視線を飛ばす。リヴェリアが詳細を加えてくれた。

 

「樹木や植物の破壊と再生の能力も備わっております。ウッドドラゴンがその場にいる限り、結界は破壊されない代償に周囲の植物達の生命を吸い取るのです。森の中で暮らす私達エルフにとっては最悪な事態になり得ます」

 

「生命を吸い取るって」

 

「この辺り一帯の草木が荒れ果て後に荒野となり、長い時を経て砂漠と化します」

 

・・・・・それはヤバすぎるだろ。

 

「どうすればいい?結界を展開させては駄目なのに近づけもしないぞ?」

 

「・・・・・結界を一度だけ斬り、ウッドドラゴンを操る物を探り壊すしかありません。帝国はそれを可能にしています」

 

「それがこれだ」

 

長老がテーブルに何かを布で巻いた物を置いた。布を開くと―――それは見覚えのある黒い靄を発してる黒い棘を見せてくれた。リックとファウが恐る恐ると

 

「これを帝国が次々とモンスターの身体に突き刺してどうやってか使役している。これごとモンスターを倒すとこの棘に死骸が吸収されて最後に棘も消失する。最初はこれと届けられる報告に訝しんだが、ウッドドラゴンまで操られているとなると黙ってはいられなくなる」

 

「じゃあ、ウッドドラゴンもそうなると」

 

「そう思っても間違いないだろう。だからこそ、ウッドドラゴンを討伐せず黒い棘を破壊して欲しい」

 

「結界をどうにかする方法は・・・・・」

 

「すまない。我々もその手段がわからない。ウッドドラゴンは周囲の植物の力を借りて能力を駆使する。逆に言えば周囲の植物がない環境で戦うことが出来るならば能力は使えなくなるのだが・・・・・」

 

この辺りは大自然。そんな方法は不可能だと沈黙する長老。ある意味、ウッドドラゴンは環境に応じて無敵にもなるし無力にもなる極端な存在。無力にする方法はこっちで考えないとダメだな。

 

「ウッドドラゴンの話を聞けて助かった。何とか救ってみせる」

 

「何から何まですまない・・・・・」

 

「それとお願いがあるんだ。オルト達をたまにここに預けてもらっても?」

 

「おおっ、それならいくらでも構わない。寧ろ、精霊達や幻獣種と触れ合う機会をくれることに感謝する方だ」

 

快く了承してもらえた。感謝の念を頭下げて伝える。

 

「それはそうと、寝泊まりする場所はどうかこの家にしないか?」

 

「いいのか?」

 

「他の冒険者には申し訳ないが君は娘の恩人だ。感謝の言葉じゃなくちゃんとした礼をしなければ孫の代まで私はアールヴ家の恥となってしまう」

 

恥じうるのが嫌すぎるのかここのエルフは。でも、それも感謝して言葉に甘えることにした。

 

「・・・・・もしかすると、未来の義息子になるやもしれんし。もう少しこの目で―――」

 

「ふんっ!!」

 

 

ガッシャーンッ!!

 

 

部屋から外へ吹き飛ぶ長老。そんなことした娘。

 

「―――何も聞いていませんでしたよね?」

 

「・・・・・ア、ハイ。ナニモ」

 

「では、寝室へ案内しますね。ついてきてください」

 

ニコリと笑顔で何事もなかったように振る舞うリヴェリアにビビるオルト達。

 

「・・・・・怒らせないように気を付けような」

 

「ムム・・・・・」

 

寝室の確認が済み、その14人も一緒に寝るには狭い部屋を入ろうとする俺を中に引っ張り押すオルト達に彼女が困惑する。よもや、オルト達もここで俺と寝る気でいるのが予想外だったようだ。俺もそうだったがな。

 

「あー・・・・・14人分の布団と可能ならどこか広い部屋の床に寝たい」

 

「広い部屋となると・・・・・食卓用の部屋しかありませんね。わかりました。従者の者達に就寝の時は布団をそこへ用意させるようにします」

 

「重ね重ねありがとうっ」

 

その場で土下座をして感謝したらあわてふためくリヴェリア。・・・・・だが。

 

「あー・・・・・リヴェリア。もしかすると7人増えると思う」

 

「え?他に誰が・・・・・あっ、イズとイッチョウも?」

 

「うん、そう。あと知り合った5人組ももしかしたらここへ泊めて貰いたくなるかも」

 

「あなたの友人ならば長老も拒みはしないかと思います。後で訊いてみますね」

 

「ありがとうございます!」

 

「ですから土下座はしなくて結構ですよ!ああ、従魔達まで!」

 

オルト達も俺の真似をしたら深々と頭を下げる。そうそう、感謝は行動で示すことを忘れていなかったな。

 

「そうだ。魔茶葉を貰ったから淹れたいんだが」

 

「魔茶葉?もしかして飲み屋のエルフから貰いました?」

 

「そうだけど有名な店だったりする?」

 

「里ではあの店にしかない飲み物や乾燥させた商品は、人間の王侯貴族達の間ではかなり価値のある高級な物だと称賛されています。ですが彼は人間を好まず、商品を売るにしても極少しか売りに出しませんよ」

 

だから直接取引しようならば、絶対に顔も商品も出さない頑固者の一面もあると言う。

 

「今回の冒険者の救援の要請も、彼は良い顔をしませんでした。なのにあなたに茶葉を渡すとは・・・・・」

 

「傍に精霊が居たからだと思う。あのエルフもオルト達との仲の良さを見てから信用してくれたんだ」

 

オルト達を見て態度が変わったからな。

 

「なるほど。精霊はエルフにとっても敬う存在です。四種族の精霊が集い使役する者がいたら、まだ警戒はするが信用を傾けても良い程度になるかもしれません」

 

あのエルフはそういう感じか?では、用意しますね。と部屋を後にするリヴェリアを見送り、床に腰を落とすとあっという間に従魔達に群がられた。いや待てクママ。胡座の上に乗られたら視界一面黄色い・・・・・あ、モコモコだぁ・・・・・。

 

 

しばらくして魔茶葉の淹れ方をレクチャーしてくれる前に、貰ったから茶葉を見せる。これは私も一度しか飲んだことがない茶葉っ!こっちは数年に一度しか採取できない凄い希少で販売されるのも稀だという茶葉っ!?と興奮したリヴェリアの落ち着きが収まるまで今に至る。小一時間ほどこうしてのんびりとだ。

 

「はぁ~~~凄く、美味しかったです・・・・・」

 

「本当にこれがこの世にあったのかと思う物の美味しさだ。オルト、これを畑で育てることは?」

 

「ムム」

 

できないか。苗木からかなやっぱり。

 

「こんな非常時じゃなければ、憂いなく心から楽しめるのに残念です」

 

「大体、帝国はどうしてここに攻めてきている?」

 

「世界樹ユグドラシルを狙っているのかもしれません。あの樹木は地神が大地を創造した後に世界で最初に創造した古代樹でもあります。世界樹の葉に溜まった雫は癒しの力が籠っており、枝一つで強力な武器が製作できます」

 

かもしれない、か。具体的な理由は判らず仕舞いなんだな。ま、戦争を始める理由なんて些細な事から大それた事、千差万別だ理由を知ったところでどうにもならない時もある。そろそろ防衛線に行こうと立ち上がる。

 

「帝国が攻め入っているが里の外に出られるんだっけ?」

 

「はい。ですが高レベルのモンスターで溢れかえっております。お気をつけて」

 

「わかった。サイナ、一緒に防衛線をしに行こう。オルト達はここで待機な。リヴェリアの言うことをちゃんと聞くんだぞ。ミーニィ、ドリモ、フェル。また力を貸してくれ」

 

ムム!と敬礼するオルトやゆぐゆぐ達と別れ、アールヴ家を後に東門へ向かう。

 

 

 

五度目の戦いにて一日一回しか使えないスキルを除き順調にレベル50、中ボスのワイバーンまで倒すことができた。サイナの働きがとても助かっている。【機械創造神】で閃光手榴弾を大量生産してくれて動きを停め、地雷を設置して踏むたびに爆発で吹き飛ぶ様は痛快だった。・・・・・ふむ。

 

「マスター、地雷の補充完了しました」

 

「おし、このインターバル中に設置するぞ」

 

その後もレベル59のモンスターのウェーブを終わらせ、せっせと急いで設置する。中には痺れ罠も機械式落とし穴もある。巨大な落とし穴機を設置すると地中を深くまで掘り空洞を作り出していく。地面の表面に穴を開けなくても穴を塞ぐ工作もせず、自然なままの状態だと、そこに落とし穴があるぞーと印も相手に違和感も抱かせない。それを端から端、横一列に落とし穴を用意していく。

 

「さーて、準備万端。迎撃態勢も整えた」

 

インターバルも経て現れる木龍ことウッドドラゴンさん。あ、そこ。落とし穴ですよ?

 

と言ってもわからないだろうな。轟音を立てて目の前に着地する刹那。ズボッ!とラスボスが地面に降り立った瞬間に地面が陥没、ウッドドラゴンが地面の穴の底へと落ちるシュールな光景を見れた。

 

「今ですマスター」

 

「時間稼ぎ頼む! 【飛翔】!」

 

MPを消費して空を飛ぶ。ウッドドラゴンが落ちた穴に俺も落ち、体中の蔓を動かして地上に這い上がろうとするウッドドラゴンの身体に触れることが出来た。

 

「【手加減】! 【稲妻】! 【パラライズシャウト】!」

 

不安だったので一撃でHPバー全損しない【手加減】を加えて【稲妻】で麻痺とスタンのデバフの状態異常攻撃。それでも駄目でごり押しの【パラライズシャウト】でマヒらせる。

 

「うし、効いた!」

 

地の底へ逆戻りするウッドドラゴン。さてどこだ、あの黒い棘は?ここか?んー?ここかー?身体に纏う黒い靄で視界が不良だから手探りで探す他ないんだよな―――とっ!

 

見つけた!

 

しかも長老が見せてくれた物より太くて大きい。深々と首のうなじに突き刺さって中々取れそうにないが、取らなきゃいけない。

 

「ふんっ!」

 

足腰に力を入れ、あらん限りの握力でウッドドラゴンを操る原因を抜き取りに掛かるが、本当に簡単には抜けんっ! しかも、地上に這い上がってしまい身体から伸ばす蔓が触手のように巻き付けてきて俺の身体を縛り上げる。俺を遠ざけようと引っ張り始め―――。おや、HPバーに変化が・・・・・。

 

「え?HPが減ってる?」

 

まさか、ドレイン効果か!?

 

「【悪食】! 【生命簒奪】!」

 

そっちがその気ならこっちも考えがあるんだよ! お互いHPドレインの綱引きをはじめつつ【悪食】も使用する! HPドレインに関する事なら負けないぞ!

 

―――と思ったら【悪食】で大きな黒い棘が欠けた。・・・・・失敗した。掴んでいた部分が消失してしまったから棘を手放してしまい、蔓が俺を地上へと放り投げた。

 

 

グゥゥゥゥゥォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!!

 

 

穴からウッドドラゴンの叫びが聞こえて来たと同時に、黒い靄が意思が持っているかのように奔流と化して空中に集束し、人型に形作っていく。

 

「おのれ・・・・・よくも我の邪魔をしてくれたな人間風情が」

 

黒い靄から現れたのは紳士服を身に包み白髪をオールバック、敵意と殺意を隠さない睨みつけてくる赤い瞳を持つ長身の若い男だ。片腕に蛇を持って背中に蝙蝠のような黒い翼を生やして空に浮いたまま言ってくる。

 

「悪魔だな?帝国と手を組んでいるとは驚いたが、大方帝国を利用する側なんだろ?」

 

「ククク・・・・・その通りだ。奴らの頭の中は力にしか興味がない愚者ばかりで取り入るのは簡単だった。逆に利用されていることも気づかないのだからな」

 

「一つ質問していいか?黒い棘は一体なんだ?」

 

「人間ごときに教えることはない。貴様はここでこのアスタロトに滅されるのだからな!」

 

定められた運命を口にし、断言するアスタロトの宣言。森の奥からモンスターの大群、穴からウッドドラゴンが這い上がってきた。こっちまで突進してこないモンスター達に不思議な疑問を抱く。

 

「ウッドドラゴンに植えた黒棘を破壊しようと我の手中のままだ。あの程度で救ったと思い上がったその傲慢な考えは実に滑稽だな。このドラゴンの洗脳は既に済ませているのだからな」

 

「・・・・・」

 

黒い靄を未だ纏っているウッドドラゴンを見据える。

 

「ミーニィ、【巨大化】!【ホーリブレス】!」

 

サイナと待機していたミーニィの身体が巨大化。続いて口から純白の閃光を放ってウッドドラゴンを呑み込み―――また落とし穴に落ちた。

 

「【咆哮】!」

 

「むっ!?」

 

「ドリモ、【竜血覚醒】! 【追い風】! 【強撃】!」

 

「モグモ!」

 

悪魔の動きを十秒間強制停止、ドリモがドラゴンになって突進して攻撃した。吹っ飛ぶアスタロト。すぐにモグラに戻るドリモをサイナに回収させる。

 

「ぐっ!? この場にドラゴンが二体いようと我にはそれを上回る戦力がある! 行け!」

 

控えていたモンスター達が再び動き始め―――まだ未使用の落とし穴が、地面が一気に陥没して雪崩れ落ちていくようにしてモンスターの集団が地の底へ消えていった。

 

「こっちも何の準備もしていないでいたと思っていたのか?―――【毒竜】!」

 

落とし穴へ展開した魔法陣から毒液を放つ。瞬く間に毒の溜め池が出来て、軒並みに大体のモンスターはこれで倒した。残りは突如開いた大穴に足を止めるが、後続から押し寄せるモンスターに押される形で毒の領域に落とされる。

 

「なっ―――!」

 

「猪のように真っ直ぐ来る相手ならかなり効果覿面だろ?」

 

俺達が全員落とし穴の上に立っても蓋の役割を担っている地面は崩壊しない。だが、全力で力強く走る上に俺達より重い総重量で落とし穴の上に移動するならば、どうなるか火を見るよりも明らかな結果がこれだ。

 

「さぁ、どんどんモンスター達を出せ! この毒の領域に誘ってやる!」

 

ふははは! もう百単位のモンスターを毒に沈めている! 大穴を飛び越え様ならばサイナが創造した重火器が出迎えてくれるぞ! 実際現在進行形そうしているがな! フェルも駆け回って駆逐していく!

 

「く、くそっ・・・!おのれ、我が軍団を・・・・・悪辣卑劣な罠で! 正々堂々と勝負をしろ貴様! それでも人間か!?」

 

「そっちが黒い棘でモンスターを使役しているようにこっちも正々堂々と知謀で戦ってますが?戦わずして勝利するのが理想的だろう?―――【エクスプロージョン】!」

 

悪魔に向かって爆裂魔法を放つ。盛大な爆発が絶えないスタンピード中のモンスターにも直撃して吹っ飛ばす。

 

「き、きさ―――」

 

「【エクスプロージョン】!」

 

「ま―――」

 

「【エクスプロージョン】!」

 

もう二度ほどお見舞いしてやった後、前へ飛び出してアスタロトの懐に飛び込む。既に迎撃態勢だったアスタロトの蛇が禍々しい紫色の魔方陣を展開していて俺を待ち構えていた。

 

「喰らえ!! 我の毒を!! デッドリーブレス!!」

 

毒には毒をってことか?奴が放った毒魔法は、紫色の霧だった。

 

「ふははは! 貴様も毒魔法を使えるようだが毒に関しては我の方が遥かに上だ! 逃げる暇さえないこの毒の領域に生あるものが耐えられるものでは―――」

 

「・・・・・」

 

「な、い・・・・・」

 

「・・・・・」

 

「・・・・・」

 

平然と毒霧の中で佇む俺。何度か瞬きした後で目を点にするアスタロト。

 

「・・・・・理由を聞こうか」

 

まずは目の前の疑問から解消したい様子のアスタロトの質問を正直に答えてやった。

 

「ヒドラ知ってる?毒竜の」

 

「知っている」

 

「俺、ヒドラを食べたから毒に関するものには一切通用しなくなっちゃったんだよね」

 

「―――はっ?」

 

呆然としている間に隙をついてアスタロトの毒蛇を掴み―――いただきます。

 

「モグモグ・・・・・」

 

「わ、我の蛇を喰っているだとっ!? まさか本当に毒を無効化にする耐性を得ているというのか!!」

 

 

スキル『デッドリーブレス』を取得しました。

 

 

あ、随分と久しぶりの毒魔法を取得出来ちゃった。

 

「そういうこと。毒魔法しか攻撃手段がないなら、俺はお前の天敵になるな」

 

「ぐっ・・・・!!」

 

形勢逆転かな?とほくそ笑んでいたら毒霧の向こうから蔓が襲い掛かってきて俺の足に巻き付き、地上から高く持ち上げられた。

 

「ウッドドラゴンか!」

 

アスタロトと話し合っている間に穴から出て来たか! アスタロトが嘲笑う。

 

「ふははは! 貴様が我の毒が効かずとも物理攻撃そのものまで無効化できまい!」

 

段々と霧が薄れて下にいるアスタロトの姿が見える。

 

「やれウッドドラゴン! 生意気なその人間をミンチにするまで地面に叩きつけるのだ!」

 

自分の勝利を疑わず優越感を露にするアスタロトの命令はウッドドラゴンに届いた。俺を持ち上げる蔓がうねるように持ち上げ、勢いよく地面へ振り下ろす―――!!

 

 

―――ことはなくて、ウッドドラゴンの方へ運ばれ樹木の背中に置かれた。

 

 

「・・・・・?」

 

なんでだ?と疑問を抱かせるウッドドラゴンが首だけこっちに振り向いて、理性ある瞳から視線を送ってくる。

 

「どうしたウッドドラゴン! 何故我の命令を―――」

 

完全に晴れた霧からこっちの状況をやっと把握できた矢先に言葉を失ったアスタロト。

 

「我の支配の力から脱しているだと・・・・・?」

 

『―――去れ、悪しき者よ。私は無益な殺生は好まない。この世界で生を受けた者が例え悪意あるものでも命を奪う気はない』

 

「我を愚弄するか!! 我はまだ負けてなどいないぞ!!」

 

『これ以上この森を穢すのであれば、今度は私が相手をする』

 

地面から隆起する数多の野太い木の根が鋭い突きを放つ。最小限の動きだけで回避し、貫いた!と思ったら根っこを腐食して防いで見せた。宙へ逃げ俺達を見下ろす。

 

「・・・・・致し方がない。ここで敗れては魔王様に申し訳が立たない。計画は五分五分の成果しか達せないが、実験は概ね成功として納得しよう」

 

「魔王ちゃんと会ったら、よろしくなー」

 

「馴れ馴れしく魔王様をちゃん付けするな! 貴様の顏はよく覚えた! このアスタロトと対等に渡り合える人間などそうはいないからな。次に会う時は真の毒で骨の髄まで犯してみせる!」

 

覚悟しておけ!と捨て台詞を残して空の彼方へと飛んで行ったアスタロト。何だか話すと面白い悪魔だったな。

 

『感謝する人間よ。私が操られたままであったら彼のエルフ達にまで迷惑をかけていた』

 

「エルフの長老がウッドドラゴンを助けてくれと頼まれたからな」

 

『そうか・・・・・ならば礼を言いに行かねばな』

 

背中からサイナ達の方へ降ろされる。

 

『私もこの里の守りに入る。しばらくしたらアールブの者に会うつもりだと伝えてくれるか』

 

「ん、わかった」

 

森の奥へと歩いてこの場から遠ざかるウッドドラゴンを見送る。あ、そういえばサイナ。モンスター達は?

 

「悪魔が撃退されたことで黒い靄が消失、正気に戻ったモンスター達は森の奥へと行きました」

 

「そうか。取り敢えず今日はここまでだな。フェル、ドリモもご苦労だったな」

 

「グルル・・・・・」

 

「モグ!」

 

これでもかと、褒めちぎって撫でまわす。おーよしよし! お前等の毛並みは最高だなー!



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エルフイベント掲示板

【防衛戦】防衛イベントについて語るスレ13【鹿肉の刑】

 

 

 

56:めぐめぐ

 

 

鹿が、鹿が、鹿がぁあああああああああ!!!

 

 

 

57:ぶっころりー

 

 

無理無理! 抜ける! あれは抜けてしまうって! 

 

 

58:ヒット

 

 

速い上に数が多すぎる相手は厳しすぎるだろ。耐久値がゴリゴリと減っていく音がががががが

 

 

59:ソラ

 

 

鹿肉を置いて消えろぉおおおおおー!

 

 

60:ライトオン

 

 

どこもかしこも鹿による被害者の悲鳴が聞こえてくるな。

 

 

61:プラプラ

 

 

そういう≫60はどうなんだよ?

 

 

62:ライトオン

 

 

(溜息)・・・・・鹿が

 

 

63:ぶっころりー

 

 

速い上に数が多いシャープディア。速度は遅いけど体力が高く壁の耐久値を3割削る威力の熊。鹿と熊の中間あたりの狼がレベル30以上にもなるとそれしか出てこないな。逆に言えばこの掲示板スレにいる住人達はそこまで行っている猛者なんだけどパーティ必須でも厳しいわぁ~。レベル上がるごとにモンスターも強くなるから

 

 

64:ネトラ

 

 

ソロは絶対に無理! あんな集団相手に壁を守りながら何てできない! テイマーもサモナーも無理だろ今回のイベントは

 

 

65:ラメラ

 

 

それ中古だよー

 

 

66:ヒット

 

 

どういうことだ?

 

 

67:ラメラ

 

 

東と西の門で白銀さんがまたやらかしたからさ

 

 

68:ヒット

 

 

ああ、その言葉だけで納得だけど具体的にはどんな?俺北門のところで防衛戦してたもんで

 

 

68:ラメラ

 

 

白銀さんは鹿に対して閃光手榴弾を投げて足止めしていたんだ。視力を奪われてめまい状態の鹿達はその場で足を止めて面白いぐらいに銀色の狼と一緒に狩られたんだよ

 

 

69:めぐめぐ

 

 

ええっ!? それってありなの!?

 

 

70:プラプラ

 

 

かなり有効的な方法だぞそれは。どうにかしてモンスターの足を止めたいプレイヤーは数多くいるだろうしさ

 

 

71:ラメラ

 

 

自分もその一人! で、白銀さんは鹿が出る度に閃光手榴弾を投げて鹿肉に変えてレベル50までは進んだんだ

 

 

72:ぶっころりー

 

 

素直に凄い!50まで進んだのかよ!

 

 

72:ラメラ

 

 

ちょっと付け加えさせてもらうけど、どうやらモンスターのレベルが50以上なるとプレイヤーが戦う姿の映像が見れなくなるらしいんだ。だから、白銀さんは一時間以上も門に現れなかったことを考慮すれば。レベル55以上は勝ち続けているんじゃないかってその場にいたプレイヤー達が予想している

 

 

73:ライトオン

 

 

ちょっと、白銀さんを探して防衛戦の立ち回り方を教わりたくなってきた。自分の従魔とだけそこまで行ったとなると余計に

 

 

74:ネトラ

 

白銀さんだけが強いわけじゃないだろ?銀色の狼とかドールちゃん、最近じゃあモグラも強いとか聞くし連れて行ったモンスも強いから勝てたんだよ。テイマーから勝ち方を訊いても参考にはならんと思うよ

 

 

75:ラメラ

 

 

最初に連れて行ったのはノームとウンディーネ、狼に手乗りサイズの可愛い子ちゃんとリスだったよ。途中でノームとウンディーネが倒されちゃってから後半のモンスだけと戦ったんだろうね。レベル50以上も

 

 

76:ソラ

 

 

え、あの大量の鹿相手に・・・・・?(愕然)

 

 

77:ヒット

 

 

今の白銀さんのレベルってどのぐらいなんだろうな・・・・・あっ

 

 

78:めぐめぐ

 

 

どうしたの?

 

 

79:ヒット

 

 

白銀さん発見した! ちょっとスライディング土下座しながら訊き込み調査をしてくるぜ! あわよくば閃光手榴弾を!

 

 

80:ぶっころりー

 

 

あ、ズルいっ!

 

 

81:めぐめぐ

 

 

どこ、どこにいるの白銀さん! 教えなさい!

 



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激しい防衛線2

「白銀さああああああああああああああああああんっ!」

 

「うぉおおっ!?」

 

誰だか知らないプレイヤーが離れたところから、スライディング土下座をしてきて俺の足先まで滑ってきやがった! え、誰だ?

 

「無礼を承知してお願いします! どうか情報を教えてください!」

 

「え、何の?」

 

「鹿相手の攻略法!」

 

ああ・・・・・俺の戦い方を見たか知ったからか。でもなぁ・・・・・。

 

「閃光手榴弾があったからこそ戦い抜けれたんだ。逆に言えば閃光手榴弾がないと先には進めることもなく撤退するばかりだったぞ」

 

「じゃあ、どうしたら鹿相手に立ち回れますか?」

 

「その前に土下座やめぃ。注目浴びてるんだからよ」

 

白銀さんだ、とか囁き声が聞こえてくるし何とか立ち上がらせて、腰を落とせる場所を探し路地裏へ入り込んで質問に答える。

 

「さっきも言ったが、閃光手榴弾があったから有利な戦いに持ち込めた。つまり、デバフアイテムやスキルがあれば何とかできるんじゃないかって思う」

 

「あの大量相手に?」

 

「大量には範囲攻撃をするしかないだろうな。それこそステータスを上げるバフ効果があるアイテムを使うとかさ」

 

「な、なるほど・・・・・」

 

「後は誰もが分かっている連携かなー。防衛戦で出現するモンスターの情報も出回っているだろうし、自分なりに工夫をして限界まで挑戦する感じだ」

 

「白銀さん個人的にはどんな職業で固めればいいと?」

 

難しいことを質問してくるな。

 

「前提は鹿の足を止めることが出来る手段を持つアイテムとスキルを使えることだ。何なら爆発系のアイテムも使えると面白いかもな。機械の町じゃあトラップのアイテムもあっただろ。地雷を設置したら鹿達が面白い具合に吹っ飛んで行ったからかなり有効だった」

 

「それがこの里にもあったらと残念で仕方がないですよ・・・・・」

 

「で、どんな職業がいいと言われても断言できない。俺はまだ重戦士とテイマーしか遊んでないから他の職業のスキルは網羅していないんだ」

 

「じゃあ、大盾使いとしての意見を聞かせてもらうと?」

 

「スキル【挑発】が有効的だな。モンスターのヘイトを一気に集め、大盾使いとしての役割の発揮、HPと防御力が高ければモンスターを集めて壁に行かせないようにできる。この取得方法は十体以上のモンスターの注意を一度で奪うこと。アイテム使用可、だ」

 

里の外に行けるらしいから試しに取得してみれば?と言葉を付け足す。

 

「ありがとうございました! 頑張ってみます!」

 

「頑張れよー」

 

「あ、あと最後に・・・・・白銀さんはどこまでいけました?」

 

「ん? 何とか65まで行ったぞ」

 

名も知らぬプレイヤーと話し合いの後に上層へ。

 

「ただいまー!」

 

「お帰りなさいませ。・・・・・どうでしたか?」

 

「ああ、倒さず無事に解放したよ。ウッドドラゴンも里の守りに入ってしばらくしたらアールヴ家のエルフに会うって言ってた」

 

「そうですか、よかった・・・・・」

 

安堵で胸を撫で下ろす彼女の背後から長老が来た。

 

「無事にウッドドラゴンを救えたか。重ね重ね感謝する」

 

「原因は帝国が悪魔と手を組んでいたことだった。でも、悪魔が帝国を利用している感じだから元凶は悪魔になるか?」

 

「悪魔か・・・・・ここしばらく侵攻してこなくなっていると思えば、方法を変えたのだな。しかし、ウッドドラゴンが里を守ってくれるのであれば時期にモンスターの襲撃も収まるだろう」

 

「それでも油断はできない?」

 

頷く長老。

 

「利用されているとはいえ、帝国も十分な力で攻めて来ているはずだ。強力なウッドドラゴン以外にも恐らく別の手段も用意していると警戒はするべきだろうな」

 

まだあるのか。だとしたらウッドドラゴンの代わりのモンスターは何だろうな?

 

「里の食糧難はどうするべき?」

 

「グリフォンを飛ばして配下の者達に買い出しを行かせている。往復で三日は掛かるが今は何とかなる」

 

「それでも、市民達への炊き出しは困難に極めています。報告によると未だ逃げ出してしまった家畜たちが戻ってきていません。里の内部にいるのかもしれませんが、防壁の守りで戦士達は探す余力がありませんよ」

 

「むっ、そうか・・・・・」

 

そんなのいたっけ?家畜小屋みたいなのはあったけど、全滅していたのかと思った。

 

「勇者殿」

 

リヴェリアが俺のこと教えたのか。まだ勇者と呼ばれるのは慣れないな。

 

「この里にいる間で構わない。里内に散らばってしまった家畜達の保護を頼めないだろうか」

 

「それは他の冒険者達も含まれているか?」

 

「その通りだ。後日、他の冒険者にも協力を申請する。渡す報酬は同じだが、より数多く保護してくれた者に報酬の数を増やそう」

 

どんな報酬なのか気になるから受けることにしたら、コールが届いた。

 

『もしもしハーデス?』

 

「イズ、どうした」

 

『一応念のために確認だけど寝泊まりできる場所はもう見つけてあるのかしら?』

 

「ああ、勿論だ。そっちは?」

 

『前回の経験を活かして鍛冶師のエルフの所でセレーネと働いて、宿泊を許してもらえたわ』

 

「そうか。こっちはリヴェリアの家で念のためにお前等も宿泊できるよう頼んだけど、自分達で見つけたのならいいな」

 

『彼女の家?どこにあるの?』

 

「上層だ。リヴェリアは王族の娘で世界樹ユグドラシルがあるぞ」

 

「あの大きな木が世界樹ユグドラシル!?」

 

『しかも古代の樹木』

 

「・・・・・ちょっとセレーネと話し合ってくるわ」

 

通信が切れた直後にまたコール。

 

『ハーデス君。調子はどーお?』

 

「順調だ。そっちは?」

 

『ぼちぼちだねぇ。モモちゃん達とイベントしてたけどレベル50以上は難しいです。数が多い多い、あっという間に何匹も抜かされちゃってミッション失敗しちゃいそうなのが毎度だよ』

 

『レベル50以上ってことは55も?』

 

『まだ44かな。当然ハーデス君はそれ以上なんでしょ?』

 

「ああ、65までは行った」

 

『な、65・・・・・』

 

「これから65のボスモンスターはどうなるかわからないけど、もし変わっていないようだったら頑張れ」

 

『待って待って。不吉なこと言わないで?レベル65のモンスターって何?』

 

「それを教えちゃ面白味はないだろ。話題を変えさせてもらうがイッチョウは宿泊できる場所を見つけたのか」

 

『ハーデス君を見倣って何とかね。ハーデス君はどこに?』

 

「リヴェリアの家、場所は上層だ。王族しか入れない世界樹ユグドラシルがある場所で寝る」

 

『・・・・・ちょっと話し合ってくるね』

 

また切られた。何で話し合う必要があるんだ?個別に寝泊まりできる場所を確保できたんならそれで問題ないだろうに―――またコール。

 

『ハーデス。今日はもう防衛戦に出ないのかい』

 

「ペインか。また行くつもりだがそっちは順調?」

 

『ああ、君に記録を追い越されてしまっているがまだ届く範囲内だからね』

 

「(記録?そういえば見ていなかったな)ははは、こっちは奥の手がわんさかあるからな。簡単に負けるつもりはないぞ」

 

『それでこそ勝ちにいく甲斐があるよ。ところでだが、宿泊する場所は確保してるかい?こっちは目途がつきそうなんだ』

 

「当然だ。お前等の分も念のために確保してるけどどうする?」

 

『ならお言葉に甘えさせてもらうよ。場所はどこかな』

 

「上層だ」

 

ペイン達は素直に来ると。通信を切って長老へ振り返る。

 

「長老、俺の友人達がここへ集まってくるんだが」

 

「娘から話は聞いている。構わないぞ。勇者殿の友人なら何人でも誘いたまえ。代わりにこの筋肉の美談を語り合わせてもらうがね」

 

「(頑張れお前等)」

 

その後、イッチョウとイズ達もここへ来たいという通信が届いた。何も知らずのこのことやってくる哀れな連中に合掌・・・・・。

 

 

命運を祈った後、防衛戦へ再出撃を果たしに北門へ足を運ぶ。MPを消費して閃光手榴弾の補充は万全だ。サイナを連れながら次の戦い方を一緒に話し合ったら、北門で防衛戦しようとする大勢のプレイヤーが自分の順番を待っていた。あ、上層へ行くときは夜の19時からでお願いとメールを送らなきゃ。

 

 

 

そしてペイン達に記録を追い越させないために戦いに身を投じた。

 

「【溶岩魔人(ラヴァ・ゴーレム)】」

 

初めて使うスキルを発動する。全ての装備が溶解してドロドロになって俺の全身を包み込むそれは溶岩となって、俺は溶岩の中に閉じ込められる形でラヴァ・ゴーレムになった。

 

 

溶岩魔人(ラヴァ・ゴーレム)】は【マグマ耐性無効】の状態でラヴァ・ゴーレムをHPドレインした際に進化したスキルだ。【毒無効化】が【毒竜】に進化したのと同じだ。スキルの詳細は装備を代償に破壊してラヴァ・ゴーレムを己の手で操作するが、この中にいる状態は俺のHPがラヴァ・ゴーレムのHPとなってAGIが0となる。だが、足が遅い代わりにさらに三つのスキルが内包されている。

 

「【溶岩流】」

 

溶岩の身体から溶岩がフィールドの端とモンスターに向かって流れ出す赫赫たる赤緋色の川。ゆっくりとだがモンスターの進む場を奪っていくのが目的ではない。ラヴァ・ゴーレムと化した俺が移動するための『道』を作ったんだ。AGIが0だろうと移動と滑っての移動は別物だろう?溶岩で作った道で流れるように移動する俺は溶岩の手でモンスター達を蹂躙する。

 

 

「【火山弾】」

 

身体から天に向かって飛び出す熔岩の塊。少し遅れて目の前のモンスターの集団に直撃、燃焼ダメージが入り落ちた熔岩が形を崩して地形ダメージとして残る。真っ直ぐ放つこともできるし何より飛距離が長い。その距離は600Mだが、避けられやすいのが難だな。

 

それでも、この状態でサイナの援護もあってワイバーンを攻略、64まで壁の耐久値を何とか守り抜けた。さて、何が出る?ウッドドラゴンは支配から解放されたから・・・・・。

 

「ふははは!先日は侮っていたために遅れを取ってしまったが、今回は一味違うところを見せてくれるわっ!」

 

―――何でアスタロトがまた出てくる?

 

「・・・・・暇なの?」

 

「違うわっ! ええい、貴様と言葉を交わすのもここまでだ。帝国の技術により人工的に産み出されたモンスターによって滅べ!」

 

それはアスタロトの後ろから現れた。ぶっちゃけて言うとキマイラだ。頭が獅子、胴体が鹿(山羊じゃないのか?)、尻尾が蛇の複合モンスターが俺達の前に佇む。

 

「行け、キマイラよ! あの愚かな人間を噛み砕け!」

 

 

ガォオオオオオオオオオオオオオッ!

 

 

アスタロトの命令で牙を剥いて襲いかかってくる。だけど・・・・・。キマイラが熔岩の身体に噛み付いてきたところを狙って抱擁、熔岩の腕の中に抱き締められHPのゲージがみるみるうちに減っては、HPバーが砕けた。キマイラはHPの減り具合によって暴れだしたが、熔岩の身体にダメージを与えられなかった。この状態は水魔法しか通用しないからだ。だって、熔岩とマグマの塊だもん。

 

「・・・・・は?」

 

「えーと、ごーめんね♪」

 

可愛く謝ってみたが極薄な反応された。放心しているからだろうな。

 

「な、な、なっ・・・・・」

 

「ん?」

 

「ち、ちくしょうーっ!! 覚えてろよ貴様ー!?」

 

あ、半泣きして帰ってしまわれたアスタロト。そのあと70レベルまでも初めて挑み、出てきたのは如何にも堅牢そうな鋼鉄の身体のゴーレムの集団。足が遅そうだなぁ、と思った俺の考えを馬鹿にするかのように、互いの肩に腕を回して二人三脚ならぬ十人十一脚の姿勢に入った。いや、まさか・・・・・

 

「サイナ、壁に触れろ! 離脱だ!」

 

指示を出した同時にゴーレムたちが、重厚感を感じさせないトラック並みの速度で駆け出してきたのだった! 溶岩の腕と身体で立ち塞がるも地形ダメージが発生していないおろか、ラヴァ・ゴーレムのHPを全部削る突進力に目を丸くした。

 

「マスター!」

 

「【カバームーブ】!」

 

溶岩魔人(ラヴァ・ゴーレム)】が解除されたことで大盾スキルが使える。一瞬でサイナの傍へ移動した俺も壁に触れた瞬間にゴーレム達の突進が壁に激突した。

 

 

 

「―――あんなの無理に決まってるだろっ!?」

 

うがああああ!と無事にミッションをクリアできて喜ぶ前にあのゴーレムの対処方法を考えなきゃならない。叫ぶ俺の周囲にいるプレイヤーが奇異的な視線を送ってくるが気にしている場合じゃない。

 

「サイナ、あのゴーレム達の行動パターンは何だ」

 

「【一心同体】。数秒間だけ全てのスキルを無効化にするものです」

 

「無効化のスキルかよ。【溶岩魔人(ラヴァ・ゴーレム)】と相性悪すぎるじゃんか。それは単体で発動するものか?」

 

「いえ、二人以上の者が触れ合っている状態ではないと使用できません」

 

となると、ガッチガチに固めているゴーレム達を崩す方法は一つしかないんだがな。

 

「ハーデス」

 

「ん?」

 

名を呼ばれ振り返れば、ペイン一行がいた。

 

「ハーデスでも攻略できないモンスターが現れたのかよ?」

 

「というか、真正面から挑む全プレイヤーでも無理な話だドラグ。十人十一脚でスキル無効化の状態で突っ込んでくる相手にどう倒せと?」

 

「うん、絶対に無理だねそれ」

 

「通常攻撃で倒せねぇの?」

 

「トラック並みの速度で突っ込んできますが何か」

 

「・・・・・無理だな」

 

ペイン以外、そういう相手と戦うのは無理だと俺の気持ちを汲んでくれる。ペインは真っ直ぐ俺を見つめながら薄く笑った。

 

「だが、勝つ算段はあるのだろう?」

 

「一つだけなー。それには時間が必要だ。俺達二人だけじゃ厳しすぎる。インターバルが一気に短くなるから一息吐く間もない」

 

時計を見れば19時になろうとしていた。

 

「そろそろ俺は行くけどまだやってるか?」

 

「俺達も行くよ」

 

合流する形となったペイン一行と上層へ。お互いどうやってウェーブを乗り越えてるかを話し合いをする。

 

「フレデリカとドラグを軸にしていたのか」

 

「数は多いが、避けようもしない突っ込んでくる相手に当たらない攻撃はないからな」

 

「でもやっぱりワイバーンは大変だよ。空飛ばれちゃあ私の魔法でも届かないもん」

 

「俺らは中・近接のスキルしかないもんな。でもま、降りてくるところを強襲すれば問題なかったがな」

 

「途中で止めたのは?」

 

「回復する余裕がなくなったからね。それにこちらが範囲攻撃のスキルがあろうと暴力の数にはやはり厳しく、フレデリカが死に戻りしそうだったり壁の耐久値も削られていく」

 

なるほどなるほど、戦い方は千差万別なんだな。

 

「ハーデス、お前はどうなんだ?大盾とテイマーじゃ苦労する感じだがな」

 

「それをカバーするのが強力無比なスキルと、ペイン達も知っている強力な装飾アイテムだ。もう普通の大盾使いじゃないのは自覚しているけどな」

 

「確かに。足の速い大盾使いなんて絶対他にもいないよ。装飾アイテムでステータスの補助していてもだよ」

 

「あと閃光手榴弾で目を潰せば動きが停まることも分かったから、大盾使いでも余裕で対処できるし」

 

「スキル以外にも活用方法があるのか。それは盲点だった」

 

今回のイベントについて語り合いながら上層へ辿り着く前にイッチョウやイズ達と中層で落ち合った。

 

「やあ」

 

「待ってたわ。ペイン達と一緒だったのね」

 

「新記録を叩き出した後にな」

 

「うん、二位のペイン達を大きく突き放してるわね」

 

「ふっふっふ。これでパーティと個人の討伐数1位の報酬は貰ったも当然だ。で、イッチョウ。その連れは?」

 

「ああ、うん。一緒に連れて来ちゃった」

 

カワカミ-100代とまゆっちにクリスの顔触れに、大丈夫かな? と俺に窺う目で見てくる。

 

「寝るだけなら問題はない。食事に関しては判らないな。ダメだったら諦めてくれ」

 

「寝る場所を確保できれば問題ないさ」

 

「もともと確保してあったのにどうして来たんだ?」

 

「ハーデスと一勝負できないかなーって。勝ったら取得しているスキルを全て提示するルールで」

 

ほほう? なかなか面白いことを言ってくれるじゃないか。手をワキワキしながら妖しい笑みを浮かべ不敵に言う。

 

「そっちがそれなら、俺はリアルでちょっとだけ気になっていたその前髪を弄らせてもらおうか」

 

「や、止めろっ!? これは私のトレードマークみたいなものなんだぞ!?」

 

「拒否権はないぞ? そっちから勝敗後の勝者の特権を言い出したんだからな。それとも物理では倒せないモンスターの所に連れて行ってやろうか?」

 

「そ、そんなのいるわけが・・・・・っ!」

 

にこぉと満面の笑みを浮かる。

 

「強敵との戦いに燃えるお前が、夜間のゴースト系のモンスターが現れる森のフィールドを頑なに入ろうとしなかった、って直江兼続からの情報が」

 

「大和ぉおおおおおおおおおー!!!」

 

はい決まりー。PVPはイベントが終わってからだな。

 

「逃げるなよ?逃げたら夜中お前の部屋で・・・・・心霊現象が起きると知れ」

 

「私の部屋に何をする気だ貴様っ!?」

 

「え?そりゃあ・・・・・っと話し込んでしまうなこれ以上は。それじゃ、改めて上層に行くぞー」

 

「おい待て! あからさまにはぐらかすな、ログアウトしたら夜が気になって眠れなくなるだろう!?」

 

「トイレの中で寝れば?そうすれば最悪の事態は免れるぞ」

 

「どういう最悪の事態の意味だそれ!!」

 

スルー。俺が先導して上層へ続く山の道を歩き、途中で立ち会うマッチョなエルフの衛兵と話を交えた後に、イッチョウ達を正式に王族の家に招き入れた。

 

「暗っ!」

 

「あっ、鑑定したら本当に『世界樹ユグドラシル』って表示するね」

 

「古代樹って名称もあるんだね・・・・・これの素材、手に入らないかな?」

 

セレーネさん。何故こちらを見るのかな?イズも彼なら・・・って意味の視線を送るんじゃないよ。

 

「手に入っても俺は武器にしないぞ。量によるが」

 

「じゃあ、何をするの?」

 

「リヴァイアサン戦に備えて―――船にしようかと」

 

おい、なに全員。こいつ何を考えているんだって目線は止めろ。

 

「何んで船?武器にすれば強そうなのにさー」

 

「リヴァイアサンは海上戦になるかもしれないんだぞ?運営が自分で造船する材料を調達しろってクエストを用意してたらどうするよ」

 

「普通にそこら辺の材木じゃ駄目なのか?」

 

「それで耐久値が変動設定されていたらどうよ。木造よりも耐久度が高い鉄の船を作るために、莫大な鉄鉱石の数を集めなきゃならないだろうしさ」

 

「船を借りる設定とかは?」

 

「あると思うけど、当たり前のように金でレンタルするんじゃないか?最高は1000万Gとか」

 

「もしそれが本当に設定されたら、どんな船を借りれるのか楽しみだよ。木材を集めて作ってもらう方もね」

 

と、セレーネが言う。ドレッドも話に加わってきた。

 

「対一多数の戦いになる船上だと、思うように戦いづらいだろうな。海上戦だったら離れたところから攻撃するならよ」

 

「あー、遠距離の攻撃が可能なアーチャーとガンナーが有効か。魔法使いは中距離までしか届かないもんな魔法。まさかとは思うけど船に大砲積んでるとか?それとも自力で用意するのかも?」

 

大砲という言葉に目を輝かせるセレーネ。

 

「魔法で動く船とかアリか?」

 

「可能性だけなら大アリかもしれないぞ。個人的には戦艦みたいな船を乗ってみたい」

 

「ビームが出る方か?」

 

「そうだな。出る方が盛り上がるだろ」

 

先のイベントの話で盛り上がり、勝手知ったるかの如く王族の家の玄関の扉を開けて中に入る。皆を夕餉の間に案内して矢先に―――。

 

「長老、友人達を連れて来た」

 

「ようこそ勇者殿の友人達よ!! アールヴの里の長老として皆をこの筋肉の身体で歓迎しよう!!」

 

黒光りの筋骨隆々の身体を更に強調させるブーメランパンツ一丁でするマッスルポーズと共に笑みを浮かべる口唇から窺える白い歯がキラリと輝いた。

 

 

何も知らなかったイッチョウ達に空白の時間が訪れた。

 

 

「む?どうした?」

 

「突然の長老の登場に言葉を失っているだけだから。後から来るものかと俺も思ったし」

 

「おお、いきなり入ってきたところで挨拶されてしまうのは反応も遅れるか」

 

本当は別の意味で言葉を失っているんだけどな。

 

「改めて挨拶する前に食事をしよう。勇者殿の友人が20人連れてきても問題が無いよう用意させてもらった」

 

「里の食糧事情を知ってるのにそこまで用意されるのは逆に委縮ものなんだが?」

 

「何、明日は勇者殿達にお願いする立場だ。冒険者達の働き次第ではそれも改善するのだ。勇者殿が気にする事ではないよ」

 

何となくだが明日何をやらされるのか分かってきた。

 

「さあ、夕餉の時間を楽しもう」

 

「話はその後でな?」

 

「ふふ、勿論だとも」

 

きょとんとする面々に敢えて何も言わない、何も教えない。食事に喉が通り辛い状況にしたくないからな。

長い一列のテーブルの前に座り、俺達の前にエルフの従者たちが出す料理の数々に感嘆の息が漏れる。高級料理と彷彿させる豪華兼豪快さはないが、鑑定すると凄まじいステータスのバフが付いていたのだ。

 

「消費するMPの20%がカットだって!?」

 

「こっちは一定時間のMP自動回復なんてもんがあるぞおい」

 

「食べる度にSTRが加算する?おいおい・・・・・何だよこの料理っ」

 

「AGIとDEXも上昇する料理、凄いな」

 

この里でこんな料理が作れるのならば、俄然明日の行動にやる気が出るものだ。

 

「長老、この料理のレシピを教えてもらえても?」

 

「うむ、構わないぞ。ただこれは、代々アールヴ家の料理人が受け継がれた歴史あるものだ。勇者殿以外に安易にレシピの公開はしないで欲しい」

 

「かしこまりました。確と心得ます」

 

後に料理長のエルフ(マッチョじゃない)から独自に料理のレシピを入手することが出来た!ただ、やっぱりこの料理を作るにはこの里の食材を手に入れなきゃならない。明日は頑張ろうと意を決して夕餉の時間を過ごした―――その後。

 

「では、勇者殿達に私のこの美しい筋肉に至った経緯の人生の話を伝えよう!! 後で素晴らしい物を授ける、これで勇者殿達も私のような筋肉を手にれられるだろう!!」

 

『えっ?』

 

頑張れお前等! 俺も頑張って聞くからさ! ほら、皆で揃えば何とやらだろう?

 

と、悟った目で皆を見つめる俺をイッチョウが気付き、知ってたの?と風な表情を浮かべていたがスルーする。

 

 

美しい肉体美の経緯と各部位の筋肉の強調を見聞する長老の自慢話をなんと3時間も長々と聞かされることになろうとは、俺ですら想像を超えたがな。

 

 

アイテム『筋肉美(マッスルパワー)の秘薬』

 

効果:使用すると【STR】+68が加算する

 

 

凄いアイテムを得てしまった。これの製造方法は?あ、秘伝だから駄目?

 

 

「【STR】が68も増えるのは嬉しい誤算だが、もう聞きたくねぇ・・・・・」

 

「ねぇ、私は魔法使いなのに【STR】必要ないんですけど・・・・・」

 

「ハーデスと行動すると本当に予想外な事ばかり起こるわね。鍛冶師としてこれはありがたいことだけど」

 

「当分はポイントを【DEX】に振れるから。うん、確かにありがたいことだね」

 

嬉しさ半分もう勘弁だと疲弊したイッチョウ達は、話を聞き終え精神的に疲れたので用意された部屋へ移動する。俺はオルト達とここで寝るから皆とお休みの別れをする。

 

「ハーデス、私は要らないからこれあげるね」

 

「ペイン達にあげればいいんじゃないのか?」

 

「そうなんだけどさ。さっき食べた料理のレシピを手に入ったでしょ?MPの消費を20%もカットする料理を私も作りたいから、あげる代わりに私にも教えて欲しいんだよ」

 

理に適っているな。それなら一人ぐらい、それも同じ勇者の称号を取得しているフレデリカなら教えても問題ないかな。

 

「わかった。教えるよ」

 

「ありがとーう!」

 

「因みに聞くけど、同じ効果を持つ料理が複数食べたら重複になるか?」

 

「同じ種類のアイテムだったらならないけど、違う種類の効果ならなるよ」

 

豚汁と魔茶葉にこの料理・・・・・MPの消費が100%カットされるとどうなるのだろうか?



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エルフイベント二日目

イベント二日目~朝。

 

今日も防衛線をがんばろーと新記録に挑戦する意気込みの俺達は前触れもなく突然のクエストを受けることになった。

 

『アールヴの森に彷徨う家畜の保護』

 

クエストの名前通りに帝国の襲撃で家畜が脱走してしまい、防衛で他に手を回せないエルフ達の代わりに冒険者が家畜を連れ戻してほしい内容だ。見つけ次第触れるだけで保護扱いになる簡単な作業だが、簡単な話ではないだろう。なにせ―――。

 

「保護した家畜の累計ポイントが高ければ高い程にもらえる報酬の数とグレートが上がる、か」

 

家畜にもレア度があり、一番高いのは12ポイントだ。小型の家畜のは1~3ポイント、中型は5~7、大型は9~12と振り分けられている。大型が一番レア度が高いのはそれだけ需要があるのだろう。更にもらえる報酬は個人のポイント制で随時更新して、定められた報酬に必要なポイントになるともらえるわけで、もらえる報酬は・・・・・。

 

「トラバサミ、落とし穴と痺れ罠、閃光玉と手投げ爆弾に大型囲い罠まであるのかい」

 

最初の10ポイントでも集めればイベント用の移動阻害のアイテムが貰えるシステムだ。最初はトラバサミが×2も手に入り、それから50ポイントまで毎10ポイントずつ報酬が貰うと、50ポイントからは一気に報酬ポイントを30も集めないと落とし穴と痺れ罠が貰えず、200ポイント以降は50ポイント集めないと閃光玉と手投げ爆弾が手に入らないようになってる。囲いわなは、30ポイントずつ集めると必ず1は貰える達成報酬用に用意されている。

 

なお、パーティでこのクエストをするともらえる報酬が2倍になるとかで里外に赴くプレイヤーは続出するだろうなーと閃光手榴弾を【機械創造神】で量産しながら察した。

 

「はいよ、閃光手榴弾×100個ずつな」

 

「すまない。助かるよ」

 

「ハーデス君ありがとうねー」

 

複数パーティから報酬として10万Gずつ支払ってもらった。これで記録を塗り替えることが出来るって自信に満ち溢れているんだから凄いよな。

 

「クエストは参加するか?」

 

「手段が増やせるなら越したことじゃないからね。今日は防衛線をせずに参加してみる」

 

「ゴーレムとか出てくるならさ、落とし穴もあった方がいいと思うしね。ものすんごい競争率が高いだろうけどさ」

 

今こうしている間にプレイヤー達は報酬欲しさに頑張っているだろうな。

 

「あ、多分だけどウッドドラゴンが森のどこかにいると思うから攻撃しないでくれよ」

 

「当たり前な風に何も知らない私達に言わないでくれるかな?」

 

「前回のイベント村の熊と猪のポジションだからしょうがないだろ?」

 

「戦ったことがあるのかよ?」

 

「防衛戦でな。悪魔に使役されていたから解放したんだ」

 

「またさらっと重要情報を・・・・・」

 

「だって、皆まだそこまで進んでいないんだろ?」

 

60台のウェーブまで進んでいるなら先の言葉を取り消すぞ?どうだ?

 

「よーし、その挑発は私達に対する挑戦状だと受けてやる。お前、何レベルのモンスターまで進んだか言ってみろ」

 

「65レベル」

 

愕然で目を丸くして固まる川神-100代。イッチョウは苦笑い。

 

「レベルがレベルだから、私達はまだ50台のレベルのモンスターで手一杯だよん」

 

「そうか。だったら今日は励め。閃光手榴弾を使いまくって現在の記録+10ぐらいは更新して見せろ。俺は更にその上を行くがな」

 

「もしも俺達の所に防衛戦でウッドドラゴンが現れたらどうすればいい?」

 

「首の所に黒い靄を発する棘があるからそれを抜けば悪魔と戦う展開になる。ただ、ウッドドラゴンが支配された状態のままだから、ウッドドラゴンを開放するには悪魔に一定のダメージを与えないとダメかな」

 

「他は?」

 

「防御式の結界を張るから出現した瞬間、事前に設置した落とし穴に落とすか閃光手榴弾で次の行動を阻害するかのどっちかだな。それで結界を展開できない状態になるからその隙にウッドドラゴンの身体に飛びつけれる」

 

首を縦に振るペインがドレッド達を連れて外へ出た。イッチョウ達もそれに続き、イズとセレーネが残った。

 

「ハーデス、パーティに入れてくれない?」

 

「突然だな。どうしてだ?」

 

「個人討伐数じゃあ碌な記録を出せないだろうから、せめてパーティ撃破数でもいいから報酬が欲しいのよ」

 

パーティ撃破数の報酬・・・・・ああ、これか『不壊のツルハシ』。って、マグマの中でも壊れないツルハシは鍛冶師にとっても絶対に手に入れたいアイテムだな。

 

「君を利用するような感じで申し訳ないんだけど、不壊のツルハシは絶対に欲しいの」

 

それが出来そうなのが俺であると。んー・・・・・。

 

「となると、連れて行く従魔を考えなきゃな。サイナとフェルは必須で残り枠1に・・・・・」

 

あのゴーレムと再戦するためには・・・・・。

 

「・・・・・試してみるか。ミーニィ、初めにお前だ。力を貸してくれ」

 

「キュイ!」

 

「オルト達は畑作業が終わったらリヴェリアと待っててくれ。よろしくな」

 

「ムム!」

 

というメンバーで行ってみることにしたのだが。

 

「クエストの方ももしかすると里の貢献度に繋がってる可能性が捨てきれない件について」

 

「あ、うーん・・・・・セレーネ。どうしよっか?」

 

「うんと、じゃあ二時間ごとにクエストと防衛戦をしてみるのはどうかな?それなら少なくともクエストの方も出来るよね?」

 

相談し合って三人文殊、セレーネの提案でそうすることにする。

 

「効率よくバラバラで動くべきかな?」

 

「パーティ状態ならそれもいいでしょうね」

 

「他のプレイヤーもパーティ規模でクエストをしているなら負けない速さが大事だな」

 

となるとそれをどうするかの問題なんだが・・・・・。この中で一番速いフェルを見ながら考えた時、頭の中で豆電球が光った。

 

「あっ、じゃあこういうのはどうだ?」

 

「「?」」

 

小首を傾げ疑問符を浮かべたかもしれない二人に俺の提案を教えた。

 

 

・・・・・。・・・・・。・・・・・。

 

・・・・・。・・・・・。

 

・・・・・。

 

 

フェルの背中にイズが跨り騎乗、巨大化したミーニィの背中にセレーネが騎乗する俺の提案は取り敢えず成功したようだった。森の中で素早く駆け家畜を探すフェル、上空から家畜を見つけることができるミーニィの活躍でサイナと別行動する俺に保護した報告が届いてくる。現在ポイントは50も増えて報酬を獲得できている。俺も少し前に数羽固まっていた鶏を保護したので順調にポイントを集めている。ただ、里からかなり離れてしまっている。出現するモンスターも通常と交じって黒い靄を発するモンスターも現れるので家畜を探すのに手間がかかる。

 

「うーん、さっき見つけたのにモンスターのせいで逃げられた」

 

逃げ足が速くてモンスターに狩られてはいないみたいだが、辺りを探しても既に遠くに行ってしまったようで見つからず断念してしまう。

 

どこかにいないかと茂みをかき分け、森の中を探していた時に声を掛けられた。

 

「・・・・・こんなところで何をしている」

 

「え?」

 

振り返ったら、背後にいた者はエルフだった。しかも魔茶葉をくれた昨日のエルフ。何故か背中に籠を背負っているがモンスターが出現するこの森の中でたった一人行動しているのが気になった。

 

「それはこっちも同じ疑問でと訊きたいけど、俺はアールヴの里の家畜を探しにここまで」

 

「・・・・・ご苦労な事だな」

 

「で、あなたは?」

 

「・・・・・店が使い物にならずとも育てている物を疎かにできない」

 

それだけ言って俺の横を通り過ぎる。魔茶葉のことか?

 

「念のために護衛の真似事はさせてもらうから。一人でも大丈夫だろうと放っておけないからさ」

 

「・・・・・好きにしろ」

 

そうさせてもらう。エルフの斜め後ろの位置でキープしてついていき、時折現れるモンスターから守りながら彼の足が停まるまで同行したら、もっと里からかなり離れた場所でそれはあった。

 

流動的で滑らかな表面を描いている緑色の波もとい大量の植物の葉の光景を目の当たりにした。

 

「あれは・・・・・まさか全部ひとりで?」

 

彼は何も言わず手身近の緑色の葉を触れて黙々と葉を積み始め出した。俺は何も手を出さず護衛に徹することにするしかなかった。というか、勝手に触れていい物じゃないだろうから手伝いすることも出来ない。今度オルト達をここへ連れて行くか。

 

しばらく待つと緑の葉っぱが沢山詰めた籠を背負ったまま離れて待っていた俺の横をまた通り過ぎて森の奥へ、里へ帰ろうとする彼の斜め後ろで護衛をする。たまに現れるモンスターやばったり出会った保護対象の家畜を見つける以外の道中は無言で貫き歩く。

 

「・・・・・森が騒がしい」

 

「森に家畜が逃げてしまってるからな。どれだけいるのか分からないけど家畜の保護が終わるまでは騒がしいだろう」

 

「・・・・・さっさと終わらせて欲しいものだ」

 

物静かさが好むようだ。それ以降は一切何も喋らず里に戻ってこれた。

 

「それじゃ、またな飲み屋のエルフの方」

 

「・・・・・エルクだ」

 

「死神ハーデスだ。初めてお互い名乗りあったな」

 

「・・・・・ふん」

 

里の中へ入る所まで見送った後は保護活動の再開したその二時間後。北門の前に防衛戦を挑もうとするイズ達と作戦を話し合っていた。

 

「基本的に俺はフレンドリーファイア受ける前提で前に出るから二人は後ろから援護を頼む」

 

「ええ・・・・・あなたはそれでいいの?」

 

「【VIT】は5桁もあるから貫通攻撃じゃなきゃ問題はない。それとイズ。ユニーク装備を手に入れてから何か変わった?」

 

「生産の幅が広まったわ。お金があれば色んな物を作れるようになったし、今じゃあ手投げ爆弾を使って攻撃できるようになってるの」

 

「よし、それを投げて俺ごとモンスターを倒せ」

 

そんな提案をしたら、えっ!? と短い驚愕の声を上げた二人。

 

「いくら【VIT】が高くても爆発耐性がないとフレンドリーファイアになるわよ」

 

「それこそ問題ない。爆発無効化のスキルを取得してるから爆発物を投げられてもダメージは0なのさ」

 

「・・・・・それ、どうやって取得したのか参考に訊いても?」

 

「【毒無効化】がないとできないぞ?」

 

「あ、聞かない方がいいかもしれない。真似できそうにないから」

 

根気が必要なのは必然的だな。

 

「ということで俺に構わずモンスターのHPを1にするからトドメは二人にさせる」

 

「それこそどうやってするの?」

 

「どんな攻撃でも必ずHPを1に残す【手加減】というスキルを取得してる」

 

 

というわけで二日目の防衛線を始めることにしたのだった。レベル20までは俺が囮となってモンスター達の牽制をしつつ背後から投げられる爆弾をわざと当たって二人の撃破数を稼がせる。レベル30からは罠を設置しないといけない数になった。

 

「急いで設置をするぞ!」

 

「わかった!」

 

「うん!」

 

インターバルが終わる前に痺れ罠をジグザグに設置し、迎撃の準備を整える。

 

「【機械神】!【全武装展開】【手加減】【攻撃開始】!」

 

「【機械創造神】【手加減】」

 

森の奥から出現するシャープディアの先頭集団が痺れ罠に自ら飛び込んで軒並みに麻痺状態に陥った。痺れ罠の持続効果は10秒だけだが、麻痺になった先頭のシャープディアを避け横から前へ出るシャープディアも10秒間効果が続いている罠に入り、自ら後続の移動を阻害する肉壁となった。その瞬間をHPを1に残すスキルを発動してサイナと集中砲火を食らわす。

 

「イズ、セレーネ!」

 

「「はい!」」

 

背後から放り投げられる爆弾が前方のシャープディア達の中に消え、轟音と共に大輪の炎の華が咲いた。爆炎に包まれ一瞬でポリゴンと化するモンスター達と同時に俺達のポイント数になった。

 

「今ので数十体は倒せたわね」

 

「効率のいい方法ですると凄く簡単に倒せちゃうね」

 

どんどん爆弾を投げて爆破する二人に巻き込まれる俺はダメージ0なのでフレンドリーファイアを気にせず、前線で立ち続けられる。

 

―――まぁ、そんな上手いことが長くは続かないものである。端から端まで守って全力で突っ込んでくるモンスターの進撃は完全に止められるものではない。何より二人は生粋の生産職プレイヤーだ。イズは近接戦闘が得意ではないし、爆弾以外の攻撃スキルは殆どない。セレーネのクロスボウは弓と違い威力は高いものの再装填に時間が掛かる。なので前回と同様にサイナ、フェル、ミーニィと忙しなく動くしかなかった。

 

そして昨日のリベンジを果たすためになんとか65レベルまでクリアすれば、横並びに肩を組むゴーレム達の出現の直前にイズとセレーネと落とし穴を幾つも設置した。

 

「来たか、来い!」

 

全てのスキルを無効化にする状態で凄い勢いで突進してくるゴーレム達と対峙して、横並びに設置した落とし穴を踏み抜いて地面の穴に落ちたゴーレムを見てガッツポーズをしたが、すぐに穴から出てこようとする様子に黙って見ているわけでもなく。

 

「【悪食】!」

 

落とし穴に入ってすぐ、右手で触れたゴーレムが光となってそのまま消えていった。それを他のゴーレムの足でも繰り返すことで、MPに変換され容量オーバーの魔力は魔力結晶として体内に蓄えられていく。

 

「倒したー!」

 

厄介なスキル持ちのゴーレムを全て撃破することに成功した喜びを嚙みしめるも、次のウェーブが待ってもらえない。穴から出た直後にまた大量の鹿が―――。

 

「あれ、モンスターじゃなくない?」

 

「今度は人間相手みたいね」

 

「気を引き締めていくぞ」

 

ではなく、全身型鎧で身に包む刀剣類を武装したNPCの軍勢が押し寄せて来た。その背後から飛来してくる魔法攻撃が、守るべき防壁に直撃してみるみるうちにダメージが蓄積してHPが減って―――。

 

「撤退だ!!」

 

 

 

 

「あ、お帰りー」

 

夜まで防衛と家畜の回収クエストを繰り返し、リヴェリアの家に戻った俺達にイッチョウが食卓の間で出迎えてくれた。一人のんびりとエルフの給仕が淹れてくれたお茶を飲んでいた様子のところを話しかけた。

 

「先に戻っていたのか」

 

「うん、モモちゃんがお友達からの救援要請に応じたからね。こうして私は一足早くのんびりしていたんだよん。掲示板の情報収集を兼ねてね」

 

情報か。あんまり興味が引けるような話題がなさそうなんだが。そういえば、ランキングの方はどうなんだろうか。

 

 

一戦内・個人撃破数ランキング

 

 

1位 死神ハーデス 1098体

 

2位 ペイン     841体

 

3位 ミイ      586体

 

4位 カスミ     417体

 

5位 イズ      401体

 

以下省略・・・・・

 

 

おおう・・・・・圧倒的に勝ってる。そして以外にもだ。

 

「イズ、個人撃破数ランキング5位だぞ。セレーネも10位以内に入ってる」

 

「え、嘘っ!? あ、本当になってる!!」

 

「うわぁ・・・・・ハーデス君と戦っただけでもう? これ、クセになったらこれからも頼っちゃいそう」

 

「頼れ頼れ、異性から頼られるのは男冥利に尽きるってもんだ。こっちも遠慮なく頼るだろうからお互い様だ。で、個人のランキングがこれならペイン達とのパーティの勝負の方は・・・・・」

 

 

討伐数ランキング(一戦)・パーティ部門 ※リアルタイム更新

 

 

死神ハーデス(盾)・イズ(鍛)・セレーネ(鍛)1757体

 

 

ペイン(剣)・ドレッド(軽)・ドラグ(斧)・フレデリカ(魔)1557体

 

 

あっぶねぇー。まだ追い越せる範囲だったか。

 

「すごい! このままいけば不壊のツルハシが手に入る!」

 

「でもこの結果って罠のアイテムを使っていなかった時のでしょう? 落とし穴とか痺れ罠を使って戦ったら・・・・・」

 

今より更に数を増やしていくだろうな。あっちは前線組だし負けず嫌いそうだ。

 

「破壊不能のツルハシなら、マグマの中でも壊れる心配もなく使えるな」

 

「実際、マグマの中ってどんな感じ? 透き通ってる?」

 

「黄色なんだけど真っ白だな。黄色が明るいと白く光って見えるから」

 

「でも赤いよね?」

 

「表面だけな。不壊のツルハシを手に入れたらまた火山に向かうつもりだ。気になる物もあったし」

 

それが何なのか俺でも詳しく調べてないから分からないので何とも言えない。

 

「うーん、三人だけでそれも戦闘が不向きな鍛冶メインのプレイヤーが二人もいるにも拘らず、この結果ってあり得ないねぇ」

 

「後ろからその二人が爆弾を投げつけて来るから数を稼いでいるんだけどな」

 

「フレンドリーファイア上等で? どれだけ硬いのハーデス君」

 

硬いというか・・・・・爆発無効化を経て入手した爆裂魔法があるからなぁ。

 

「今回のイベントが終わったら次はどんなイベントをするのかな」

 

「バトルロワイヤル的なやつじゃないか? それか撮影会」

 

「どうして撮影会?」

 

「自分しか知らない光景、凄い光景、微笑ましい光景がこのゲームの中にたくさん詰まっているからだ。あーアイテムを審査するコンテストもアリか?」

 

「それって生産職のプレイヤーにとっても腕が鳴るイベントね」

 

「アイテムコンテスト・・・・・実現してほしいなぁ」

 

切に願うセレーネはきっと製作した武具のアイテムで優勝を目指すかもしれないな。

 

「ただいま~」

 

「お帰りペイン一行。記録は更新したか?」

 

「ああ、限界寸前まで粘って54レベルまで行ったよ」

 

残念。65まで行ったら何が出たのか知りたかったな。同じ勇者の称号を持っている四人のところにも悪魔が現れて戦うかもしれないからな。案外毒無効化を持っていそうだけど、今度はどんなモンスターを仕掛けてくるんだろうか?

 

「こっちは66レベルまで進んだけど、NPCの帝国の軍人がわんさかと出て来たぞ」

 

「NPCが出てくるの? うわー、凄く大変そうじゃん」

 

「前衛が重装歩兵、大盾と全身型鎧でがっちり守りを固めた陣形で後方から魔法が飛んできて直接壁に攻撃してくるもんだから即撤退したわ」

 

「遠距離から攻撃かよ。厄介じゃないか」

 

そう厄介なんだ。レベルもレベルだしスキルだけで何とかやっていけてきたが、60レベルにもなって無い俺ですら限界を感じる。壁に減少値というプレイヤーを縛る枷がなければ楽なのに。どうしてくれようか。

 

「ペイン達なら攻略できそうか?」

 

「何とも言えないね。まずは71まで攻略しないといけないから、ハーデスが協力してくれるなら心強いよ」

 

「不壊のツルハシが欲しいから無理かな」

 

「あれが欲しいのか? ってそういやそっちは鍛冶メインのプレイヤーがいるんだったな。もしも交換が出来んなら譲ってやってもいいぜ?」

 

「え? いいの?」

 

「攻略組の俺達が生産なんてしないからな。合っても使わないだろうし」

 

「料理だけは私に作らされるんだけどねー!」

 

フレデリカの不満が零れる。

 

「ギルド、クランとか結成してないのか?」

 

「そういう対抗戦イベントがあるなら結成するつもりだよ。ハーデスはするのかい?」

 

「んー考えたことが無いな。・・・・・結成したらテイマーやサモナーだらけのギルドになりそうだし」

 

あー・・・・・と全員がなんか察した風に吐露した。うちのオルト達を目的に加入したがるプレイヤーも確実にいるだろうから穏やかにプレイするなら結成しない方がいいんじゃないかと今思う俺だった。

 

「そういや、今有名なギルドってあるのか?」

 

「炎帝ノ国が盛り上がりを見せているよ。イベントのランキングに『ミィ』というプレイヤーがそのギルドのリーダーだ」

 

ミィか、覚えておこう。

 

「ま、俺達は強い奴を勧誘するだろうがな。ハーデス、お前もギルドを結成する時は誘うからそのつもりで居ろよ」

 

「おっと、ヘッドハンティングされたか? 逆に俺もペイン達を誘うかもよ」

 

「他のプレイヤーとは異なるプレイをして、誰もが思いもしない発見を繰り返すハーデスと一緒にプレイできたら楽しいかもね」

 

「なら、リヴァイアサンのレイドの時は一緒にどうだ? 2パーティ以下なら凄いスキルが手に入るぞ」

 

レジェンドモンスター討伐時に得た称号勇者。二回目に俺は勇者スキルを獲得したからな。

 

「凄いスキルってなんだ?」

 

「名前は【勇者】。使用制限は一日一回。使用すると全ステータスが三倍に倍増。魔王・悪魔に対する与ダメージ大幅上昇。被ダメージ大幅減少。各武器の勇者の奥義が使用できるようになる。以上」

 

「強い!? 凄い!?」

 

「マジか。じゃあそのスキルを持っているお前なら俺達の使う武器、勇者の奥義ってのがわかるんだな?」

 

分からなくはないけど分からないんだよなー。

 

「ああ一応はな。メインとジョブにしてる大盾の場合、相手からの物理と魔法攻撃の吸収安堵解放の効果が発動。テイマーの勇者の奥義はテイムしたモンスターのステータスを飛躍的に上昇するってさ」

 

「普通に強いな。じゃあ斧は?」

 

「ちょっと待って。えーと・・・・・ぶっちゃけ言うと脳筋だな。武器そのものが巨大化、斧使いのスキルが強化、【大地の怒り】ってスキルで相手を行動に不能にする全ステータス分のダメージを与える攻撃が出来る。ただし使用後は【AGI】が一定時間0に減少するってよ」

 

「ドラグのためにあるような奥義だよね。ハーデス、魔法使いの杖はー?」

 

「んと・・・・・【星の魔法】とやらが勇者の奥義らしい。効果もなかなか面白いぞ。相手のスキルを一定時間すべて封印、自身や他のプレイヤーにかかったデバフも消す魔方陣を展開する代わり、使用者は一切の行動が出来なくなるけどな」

 

魔法使いの勇者の奥義の効果に「デメリットはあるけど面白い」とフレデリカはそう感想を述べた。

 

「剣は?」

 

「剣は魔王・悪魔に対して有効的な光と聖属性を兼ねた一撃、VITを無視する【エクスカリバー】を放つことが出来る。ただし、レベル10の経験値を消費しなくちゃならないかなりのデメリットがあるぞ。その分、攻撃力は全職業の中で最強だ。ついでに大剣の場合は剣の奥義と同じだけどレベル20分の経験値を消費しなきゃならない」

 

「なるほど、興味深い奥義だね」

 

「因みに俺は?」

 

「短剣だっけ? 短剣の奥義の発動中はランダムでデバフ効果を与える【暗技】ってさ」

 

「相手が回避特化と弓使い相手だったら、お前が一方的に負けそうだなドレッドの奥義は」

 

「当たらなきゃノロマに下がるポンコツ奥義よりはマシだろうさ」

 

なら、実際に斧使いの奥義の威力を経験してみるか。俺の動きについてこられるのか。と言い合いを始め出す二人を他所にイズとセレーネから質問を受けた。

 

「鍛冶師の武器の勇者奥義ってある?」

 

「鍛冶師の武器は・・・・・【壊造】。形ある物を破壊して新しく造り替えるって」

 

「形ある物を壊して新しく造り替える・・・・・戦闘向けではないんだね」

 

それ以前に勇者の称号がない鍛冶師には無縁なスキルだろこれ。それを可能なのはこの場にいる俺とペイン一行だけだぞ。うーん、2パーティ以下。12人か。もしかして職業関係なく12人の勇者が(勇者スキル込み)揃わないと魔王ちゃんを倒せないのか? それはそれで厄介だな。レジェンダリーの装備についてはユーミルに訊いてみよう。



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エルフイベント三日目 誕生 血塗れた残虐の勇者

イベント三日目~。

 

 

他のプレイヤーの活動もあって目に見えるほど復興の進み具合が判るようになった。少なかった店の品揃えが増えてきて、破壊された建物が復旧終えていたり食糧難も改善されつつあるのか、炊き出しをしているところに集まるエルフの数が少なくなっている気がする。マッチョな大工職人のエルフ達のところに顔を出すと、俺以外にも木材を調達してくれるプレイヤーがいるようで、必要な木材を提供するプレイヤーの姿が見受けられる。

 

イズとセレーネは鍛冶師として復興クエストに参加するため別行動。

 

よってフリーな俺はサイナにフェルとミーニィ、メリープを預け単独で防衛線に挑んでみた。アルゴ・ウェスタとアグニ=ラーヴァテインをそれぞれ装備して。

 

「【マグマオーシャン】!」

 

初めて使用してみるアグニ=ラーヴァテインのスキル。マグマの大盾から大量のマグマが溢れ出て眼前のモンスターごと地面を真っ赤な海に塗り替えてみせた。どうやらこれは地形ダメージのスキルなのかもな。それにフィールドいっぱいに満たされたマグマは防衛するべき防壁と隣接してもダメージが入らないでいる事が判ってからも、使ってから消える気配がないしマグマに飛び込み続け、減少していくHPが無くなるとポリゴンと化して消えていくモンスターを見守ることしばらくして、ワイバーンが出るレベル50台になった。

 

「【咆哮】!」

 

俺を掴み上げようとした瞬間を狙い動きを硬直させた。10秒間停止状態のワイバーンはマグマの海に落ちた瞬間に【溶岩魔人(ラヴァ・ゴーレム)】になって畳みかける感じでワイバーンが空へ逃げないようのしかかれば、そのままマグマの中でHPバーが砕けた。

 

 

 

 

「いやいや・・・・・ムリゲー」

 

「憎いはずの鹿に同情してしまう・・・・・」

 

「俺、このイベントが終わったらマグマ耐性を身に着けるんだ」

 

「それ死亡フラグ。でもそうだな。俺もそうしよう。あ、白銀さんが戻ってきたぞ」

 

 

 

んー・・・・・やっぱりあのゴーレムがネックだわ。マグマの海を掻き分けて進んでくるあたり、現実と同じで岩石系にはマグマが通用しない。

 

「・・・・・岩石?」

 

まさか、な・・・・・? いやでも、一度ぐらいは試してみないと。

 

「あのー、お疲れ様です白銀さん」

 

至高の海に飛び込んでいた俺に話しかけてくるプレイヤー。首だけ振り向けばスライディング土下座をしてきたプレイヤーがそこにいた。

 

「ああ、誰かと思えば・・・・・えっと」

 

「ヒットです。職業はガンナー。以後お見知りおきを」

 

自己紹介したプレイヤーは軽装な防具の装備で身に包み、左右の腰に穿いた二丁の拳銃で戦うスタイルのようだな。

 

「おう、そっちもこれから挑むのか?」

 

「いえ、今回のイベントはガンナーに厳しいですよ。弾を装填する間に攻め込まれて対応が出来ないのが難点で、あまり他のプレイヤーから歓迎されません」

 

んー・・・・・それはどうしようもないな。ガンナーの短所、リスクがここで表に出てしまったなら自分で解決するしかない。

 

「そういうわけで撃破数が稼げなくてランキング外なんですよ」

 

「具体的にガンナーのスキルは?」

 

「大雑把に分けると威力の向上、命中率、射程距離、装填の速さが主ですね。ガンナーの攻撃力ってSTRじゃなくて銃のステータスで左右されるんですよ」

 

そうだろうな。現実でも銃と弾が威力を語るのだからゲームでも同じだろうさ。

 

「なので、今使ってる銃が火力が高いものの弾が消費アイテムなんで・・・・・」

 

「弾切れに陥っていると」

 

「現在その通りです」

 

世知辛ぁいッ!!! というか、身の上話を聞かされてるな。

 

「俺に何かしてほしいことでも?」

 

「・・・・・銃弾、持ってたりしませんか?」

 

生憎ガンナーで遊んだことはないから持っちゃいないんだよ。

 

「サイナ、銃弾をスキルで創造できるか?」

 

「不可能です。しかし、マスターが必要とするMPを消費して射撃可能な銃であれば可能です」

 

「マジックガンナーか?」

 

「魔法の銃、魔銃でございます。未だ機械の町には実装されてなく特殊な技術で開発しなければならない特殊武器です」

 

取り敢えず二丁創造してくれと頼んだ。サイナの両手が光輝き、やがて消えると彼女が光るラインが走る銃を持っていた。

 

「これが魔銃。攻撃の種類は魔法で威力はⅠNTに反映されます。MPで補填されますので実弾と違い、直ぐに射撃ができます」

 

ほうほう・・・・・面白い武器だな。

 

「よし、ヒットだったな。これから俺と一緒に参加して試しにこれを使って評価を示してくれ」

 

「えっ、えええっ!? い、いいんですか!?」

 

「まぁ、条件付きだがな? サイナの話だと、銃を開発するに当たって、その手の知識と技術が必要だ。鍛冶とガンナーをメインかジョブにして機械の町に彷徨いてみてくれ。恐らく銃を開発・整備する作業部屋ならぬ工場があるかもしれない。それを探してきてくれ」

 

謂わばガンスミスってやつだ。未だに見つかっていない職業をヒットに探させてもらおう俺の深意に何度も首を縦に振って首肯する。

 

「決まりだな。それじゃ、いっちょう挑みにいこうか」

 

「よろしくお願いします!!」

 

今度はサイナ達も含めて挑戦だ。小手調べとまずはヒットだけやらせ一人では対応できない時はミーニィも協力させ、それからフェルに指示を出して中盤以降はMPポーションがないヒットを下がらせ俺達全員で防壁を守って65レベルまで進んだところでラヴァピッケルさんの出番だぜい!! 十人十一脚で突っ込んでくるゴーレム達の対処法として、事前に設置したサイナお手製の機械の落とし穴に落とし這い上がろうとするゴーレムにラヴァピッケルを振るうと、ゴーレムの硬い身体の一部が溶けたのだった。この結果に次の行動を俺は取った。

 

「メリープと入れ換えてオルト召喚!」

 

「ムム-!」

 

「オルト、ゴーレムの腕をどんどん発掘するんだ!」

 

ガンガンッ!!! とピッケルを振る俺の姿にオルトもクワでゴーレムに振るって削っていく。普通に攻撃するよか、こっちの方がHPが早く減らせるじゃん!! ふはははー!! 楽勝だぁー!!

 

「サイナ、ヒットにも機械のピッケルを渡して手伝ってくれ!」

 

「了解です」

 

困惑極めてるヒットも従うしかなく、両手にピッケルを持って何度も振るうのだった。ま、66までしか攻略せず即撤退したがな。

 

 

それからヒットと別れ掲示板でた後にサイナに訊ねた。

 

 

「実際、ガンスミスって職業専用の場所は存在するのか?」

 

「あります。初めてマスターと出会った場所の中にもございます」

 

「あー、あそこってお前達を設計と開発するための物でもあったのか」

 

灯台下暗しもいいところな事実を知ったところで、ガンスミスの職業になれる方法は恐らく銃の理解力が必要なんじゃないかと思い至った。ぶっちゃけ言えば豊富な種類の銃を集めて見えない数値、熟練度を高めないとならないという方法だ。それについてサイナに訊いてみると返答を拒否されてしまった。ナビゲーターじゃないから何でも教えるわけないか。ヒットやガンスミスの職業を見つけようとするプレイヤーたち次第だな。

 

「あ、ハーデス君めっけ!」

 

嬉しそうに弾ませる俺を呼ぶ声の方へ振り返れば、イッチョウ達がこっちに近づいてきた。これから挑むのかな。

 

「今一人?」

 

「一応サイナ達もいるんだがな。そっちは今からか?」

 

「うんそんなところ。ハーデス君の記録を追い越すつもりで頑張っていくよん」

 

「そう簡単じゃないが頑張れよ。じゃあな」

 

ガンバレー、と手を振って見送ったら俺も再度防衛線を挑みに行こうかと思ったが、あのエルフはまた茶畑にいるのかな? と思い直して里の外へと移動した。

 

「―――――」

 

フェルの背に乗って茶畑に辿り着いた先は豊かな緑の光景とは打って変わって、全てを赤く塗り替え燃やし尽くす業火が緑の息吹を滅ぼさんと火の海と化していた。ここまで来ないと離れた場所で起きたことが気付かないなんてと悔やむ寄りに先に、俺達の存在に気付かず今も茶畑を魔法で燃やす元凶である武装した集団に向かって飛び掛かった。

 

「敵襲ぅっ! 敵襲ー!!」

 

「フェ、フェンリルが襲ってくるぞぉっー!!」

 

「何でこんなところにドラゴンまでいるんだぁああああああっ!?」

 

「話と違うじゃないか!! 畑を燃やすだけの簡単な任務じゃないのかよ!!」

 

NPCの帝国軍人達からすればドラゴンとフェンリルが一匹でもいたら阿鼻叫喚になるほど恐怖に陥るようだな。

 

「ミーニィ、水魔法で炎を消せ!! サイナ、フェル。目の前の人間達を一人残らず駆逐しろ!! 【飛翔】!!」

 

空高く飛びながらアルゴ・ウェスタとアグニ=ラーヴァテインを連結、空中で高圧的に回転する刃付きの大盾が赤熱して―――。

 

「【手加減】!」

 

鋭く地上に落ちながら大振りで逃げ惑うNPCの帝国軍人達を数人纏めて一刀両断した。かに見えると思うがHP1に残したから峰打ちだ。

 

「ひっ!? なんだあの武器は!!?」

 

「退けぇっ!! あんな奴に殺されたら骨も残らないぞ!! 任務は達成した、退けぇっ!!」

 

ん? 今叫んだあれが隊長か?

 

馬に乗って逃げている他の兵よりも装備の具合がいいNPCを見つけ、とりあえずサイナで確保に走らせる。

 

そして・・・・・ほぼNPCの帝国軍人達を駆逐し終え、8割以上焼失してしまった茶畑だけが残った。一度だけ見たあの壮観な茶畑がもう見られなくなるなんてとても残念に見ていると、森の奥から汗だくで荒い息を吐くエルフのエルクが飛び出して来た。

 

茶畑の見るも無残な光景に絶句、絶望に襲われて双眸が大きく見開きその場で座り込んだ。

 

「・・・・・殆んど燃やし尽くされた。襲撃して来た帝国軍人達はほぼ殲滅したけど割に合わない結果に申し訳ない」

 

「・・・・・」

 

俺の声が届いていないのか沈黙を貫くエルフはしばらく燃えた広大な茶畑を見つめた。このまま動かないのかと見守っていたら静かに立ち上がって、一部無事に燃えないでいた茶畑の方へ歩み寄って行く。慰めの言葉なんてかけずにいる自信に歯痒く、立ち尽くす俺のところにエルクが戻ってきた。

 

「・・・・・どうしてここを守った。余所者のお前には関係のない場所の筈だ」

 

「疑問を抱くなら気にしないでいい。俺はただ、長いエルフの寿命の中で大切に手入れされたあの茶畑がもう一度見たくなっただけだからな」

 

「・・・・・やはり人間の考えていることは理解に苦しむ。同じ鎧を着たあの時の人間とお前は同じだ」

 

先代の大盾使いの人間のことか?

 

「その人間もここに?」

 

「・・・・・お前に関係ない。これを受け取ってさっさと去れ」

 

 

『魔茶葉の茶木の苗』×5。

 

 

茶葉を貰ったのに今度は苗? これはエルクが使うべきなんじゃと思うもエルクは燃えた茶木の処理の作業を始めだした。手伝った方がいいんだろうが、捕えた階級の高そうなNPCの帝国軍人の件も疎かにできない。森の奥へと去る後、拘束したNPCの帝国軍人に問うた。

 

「どうして茶畑を燃やしたのか一応聞こうか。フェンリルの牙の味を知りたくないなら素直に言え」

 

「わ、私を殺せば帝国は黙っておらんぞ!? 私は帝国を守護する七聖の矛と盾と杖の一つの―――」

 

言わせておけば話が長くなりそうでアルゴ・ウェスタを軍人の鼻先に突き付け遮った。

 

「自己自慢はいいから話せ」

 

「こ、断る!!」

 

しょうがないバーベキューをするか。アルゴ・ウェスタを軍人の肩に刺す。

 

「ぎゃあああああああああああああっ!?」

 

「言う気になった?」

 

「い、言わな―――ぐおおおおおおおおおっ!?」

 

太腿に突き刺す。

 

「どうしてエルフの里を襲ったのかも教えてほしいかなー」

 

「だ、誰が野蛮でならず者共の連中なんかにぎぃいいいいいいいいいいいい!?」

 

「失敬な、俺達は一応礼儀正しい冒険者のつもりだぞ」

 

「私に拷問をしている時点で礼儀正しいと言えるものか!?」

 

もう片方の太腿にも突き刺した。それもそうだな。これは一本取られた。

 

「ま、今だけは野蛮になろう。お前が全ての情報を開示してくれるまではな? ほーら、今度はお前の大切な股間にも突き刺すぞー? これを落としちゃうぞー?」

 

「ひぃっ!? あ、跡取りが出来なくなるそれだけは止めてくれぇ~~~!! 話すっ、全てを話すからそれだけはぁっ!!?」

 

・・・・・意外と効果覿面だな。ま、話す気になってくれた方がこっちとしては大いに楽だ。そんなこんなで俺に屈服した軍人は今回の襲撃の一部始終を教えてくれた。ぶっちゃけ言うと、あの悪魔に煽られた形で世界樹を素材として奪い尽くしたら汚染しようという計画だった。世界樹を汚染したらどうなるのかは悪魔のみが知るところらしい。約束通りに全て話してくれたのでHPポーションを使って軍人を回復させ、サイナに馬を連れてきてもらったところで一つ質問を投げた。

 

「帝国はどこに―――」

 

「き、貴様の顏は覚えたからな!? 帝国に貴様のことを伝え危険人物としていつか必ず討伐してくれる覚悟しておけ!!」

 

捨て台詞を言うや否や馬を走らせて逃走する軍人の後ろ姿を見て言った。

 

「サイナ、撃て」

 

「了解しました」

 

レーザーライフルを創造したサイナの狙撃によって逃げる軍人の後頭部が撃ち貫かれてポリゴンと化した。

 

「余計なこと言わなければ無事に跡継ぎを作れたものを。馬鹿な奴だったな」

 

「最初からそのつもりだったのでは?」

 

「温情で解放したのに俺は一度も相手を殺生の有無を言ってないぞ」

 

ここでアナウンスが流れだした。

 

 

『全プレイヤーの中で初めてNPCを倒しかつ100人撃退した死神ハーデス様に、「血塗れた残虐の勇者」の称号が授与されます』

 

 

ちょい待て。なんだ血塗れた残虐の勇者って。そもそも勇者がNPCを倒しちゃいけないのか。

 

 

称号:血塗れた残虐の勇者

 

取得条件:勇者の称号を得た状態でプレイヤー・NPCを100人以上撃破・もしくはHPを1割にする。

 

効果:友好的なNPC・モンスター以外50%の恐怖感を与える。魔王・悪魔達と友好的になる。100%になると称号『恐怖の大魔王』を授与されます。

 

 

恐怖の大魔王ってなんだよ・・・・・うん? これだけ次の詳細が読め・・・・・。

 

 

称号:『恐怖の大魔王』

 

取得条件:勇者の称号を得た状態でプレイヤー・NPCを1000人撃破。

 

効果:プレイヤーが悪魔族となりNPC達の好感度が-100になり全プレイヤーから討伐の対象になり、『恐怖の大魔王』の称号を持つプレイヤーのみ特殊職業に転職します。ガンバッテー(by運営一同)

 

 

「―――いや、なんだよこの称号はぁああああああああああああああああああああっ!!?」

 

 

 

 

 

 

 

【ランキング】防衛イベントついて語るスレ5【一戦】

 

 

311:ヒット

 

 

今回のイベントに不向きなガンナーの話を聞いてください

 

 

312:炒飯御飯天津飯

 

 

確かに不向きだよな。消費アイテムの銃弾がなければ無鉄砲になり下がるもんなw

 

 

313:コッコロ

 

 

つまらない。山田君、座布団を一枚下げなさい

 

 

314:セクシー

 

それで? なにを語りたいのかしら?

 

 

315:ヒット

 

一戦だけ有名なテイマーさんと防衛線に挑みましたが、大盾使いとテイマーというオラオラー! って戦闘向きじゃない職業なのに66レベル台まで攻略したあの人、失礼だけどマジでドン引きした

 

 

316:拉麺好き

 

 

例の人、ラヴァ・ゴーレムに変身したらヌルゲー的な展開を見せられたから当然だろうな

 

 

317:爆殺ダイナマイト

 

 

てか66レベルまでいったのかよ!? どんなモンスターが出て来たか教えてくれるか?

 

 

318:ヒット

 

 

最後に出て来たのは完全武装したNPCの大群だった。流石のあの人もガッチガチの守りに徹した前衛の後ろに隠れた魔法使い達の攻撃に減らされる防壁を無視できないみたいで速攻退却した

 

 

319:ロマンマロン

 

 

NPCまで出てくるのか!? ていうかそれ、誰でも攻略できないだろ運営ー!!

 

 

320:デスマッチョ

 

 

寧ろそこまで行ったプレイヤーが凄すぎる。同じ大盾使いとしてあの人の強さは異常だと思うけど、あの強さにあやかりたい・・・・・

 

 

321:青年ガンガン

 

 

それまで≫318は背後に棒立ちしてただ眺めているという風景が浮かんでしまうんだが? ガンナーって弾がなければ他の職業よりも弱いんじゃないか?

 

 

322:ヒット

 

 

ガンナーは弱くない!! 例のあの人はガンナーに新たな可能性を見出してくれたんだ!!

 

 

323:マード

 

 

まーた新発見をしていたのかあの人。で、今度は何?

 

 

323:ヒット

 

 

銃弾いらずのMPを消費して撃つことが出来る魔銃という武器を提供してくれました。しかも銃の開発と整備をする『ガンスミス』という未知の職業を見つけてくれと頼まれたんだ。

 

 

324:ガンスミス

 

 

呼んだー?

 

 

325:セクシー

 

 

あなたじゃないわ。というかそんな名前のプレイヤーがいたのね。もしかして?

 

 

326:ガンスミス

 

 

自分、リアルじゃあ銃マニアなもんで機械の町を発見してくれたあの人には心から感謝。それにしてもやはりあの人も気づいていたのかー。ガンスミスになれる方法とかも

 

 

327:爆殺ダイナマイト

 

 

まさか、ガンスミスになれたのかお前?

 

 

328:ガンスミス

 

 

まだ道半ば、ってところだね。ガンナーと鍛冶師の職業で機械の町を彷徨ってはいるんだけど、中々見つからなくてね。それにしてもMPを消費して撃つ銃か。マジックガンナーも夢じゃないね!!

 

 

329:ヒット

 

 

あのー、イベントが終わったら一緒に探しませんかね?

 

 

330:ガンスミス

 

 

おおーいいよー。人数が多いほど速く見つけられそうだ。

 

 

331:青年ガンガン

 

 

機械の町だったらコンキスタドールなら知っているかも?

 

 

332:マード

 

 

あ、意外とそうかも? でも使役しないと教えてくれなさそうな・・・・・

 

 

333:ヒット

 

 

いまから白銀さんのドールちゃんに聞いてくるぅ~!!

 

 

334:ガンスミス

 

 

ガンナーのプレイヤー達のためにも情報提供よろしくねぇ~

 

 

335:デスマッチョ

 

 

俺も強さの秘訣を聞きに行こうかな

 

 

336:ロマンマロン

 

 

粘着しない言動を徹底するんだぞ



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エルフイベント最終日 結婚

イッチョウside

 

 

なんか、暗い影を落としている人がいる。今まで見たことが無いぐらいに。食堂で夕食を食べに集まった私達だけど部屋の隅にずーんと膝を抱えて落ち込んでるハーデス君と彼を慰めるオルト君達の光景にどうしたんだと疑問が沸く。

 

「ハーデス君、どうしたの?」

 

「さぁ、さっぱり・・・・・」

 

「あんなに落ち込んでる彼は見たことが無いわ。ゲーム中に何か遭ったのかしら」

 

誹謗中傷を浴びせられた? でもそんなのあの人は名前を言ってはならないのあの人だから受け流していそうだけど、避けられない凄く衝撃的な事と直面したのかな?

 

「えっとサイナちゃん。ハーデス君はどうしたの?」

 

「回想。新しく取得した称号がとても災難な物でしてマスターはとても落ち込んでおられます」

 

「称号で落ち込んでる? どういうことだ?」

 

「勇者の称号を得た状態で冒険者、この世界で生きる人類を1000人殺害してしまうと恐怖の大魔王になられてしまう事実にマスターは落ち込んでおります」

 

はいっ!? 恐怖の大魔王!? なんなのそのおかしな称号!! 

 

「えーと・・・・・私達も恐怖の大魔王になっちゃうってこと? 勇者の称号を持つと」

 

「肯定。十分に可能性がございます」

 

「おいおい、なんだ他所の称号の設定。他のプレイヤーを1000人倒したら恐怖の大魔王になるなんておかしすぎるだろ」

 

「既にマスターは里の外で襲撃してきた数百の帝国の軍勢のうち100人のHPを1割以下という半殺しをしてしまい、血塗れた残虐の勇者の称号を得てしまっております。冒険者でも100人殺害すると得てしまいます」

 

「どっちも100人でも不名誉な称号を得るってのかよ!! というか、里の外で一体何してたんだハーデスの奴は!?」

 

そこは激しく同感だよん。ペインさんが顎に手をやって考え込む仕草をした。

 

「今後のイベントに参加する俺達を束縛してしまう称号でもあったのか」

 

「あーペインの場合は強すぎてたくさん倒しちゃいそうだよね。そんな称号を得るなら勇者の称号欲しくなかったかなー」

 

「まったくだ。運営は何を考えて真逆な称号を設定したんだ。因みにその2つの称号を得たらどうなる? 効果は?」

 

その効果はサイナちゃんじゃなくて落ち込んでいたハーデス君がポツリと答えてくれた。

 

「・・・・・血塗れた残虐の勇者の場合は、友好的なNPC以外のNPCとモンスターに50%の恐怖を与える。恐怖の大魔王の場合は、NPCの好感度が-100になって全プレイヤーから討伐の対象に数えられる。ガンバッテー(by運営)。以上」

 

「「ふざけるな運営!!!」」

 

ドレッドさんとドラグさんが運営に怒りのツッコミを入れた。フレデリカちゃんはげんなりとした表情を浮かべ、ペインさんは「困った効果だな」と呟く。

 

「えっと、プレイヤーの方ってイベント中に倒してもそうなっちゃうの?」

 

「いや、知らないし」

 

「PKで倒しちゃった結果で得ちゃうならどっちも問題ないけど、プレイヤー同士の戦いを経て得てしまうなら詰みだね」

 

「そもそも勇者の称号を得る条件はレジェンドモンスターのレイド戦時に2パーティ以下で勝つことだ。そんな隠し設定を俺達が気付くはずがない。きっと他にも勇者の称号を得るクエストがあったと思う」

 

「大勢が勇者になれるプレイヤーのためのクエストを? 勇者って職業じゃないよな?」

 

うーん、結局勇者って良くも悪くもなってしまう称号ってことなのはわかったけど、気の毒にハーデス君・・・・・。

 

「・・・・・はぁ、落ち込んでもしょうがない。まだNPCとモンスターに怖がられるだけの称号だって割り切るしかないな。寧ろ今のイベントに都合がいいと思うべきか」

 

落ち込んでいた彼が深い溜息を吐きつつ立ち上がってこっちに来て席に座った。そんなハーデス君にセレーネさんが話しかける。

 

「大丈夫・・・・・?」

 

「なるようになるしかないって。仮に恐怖の大魔王になったらそれはそれで楽しさを見出すしかないだろ。色んなプレイヤーと戦う楽しみもまたゲームの醍醐味だ」

 

「うん、そうだね」

 

「ペイン、そこで同感したら絶対に先にお前が恐怖の大魔王になるぞ」

 

開き直ったハーデス君のおかげで場の空気は何時もの感じに戻りエルフの給仕さんが料理を運んでくれる時間になった。

 

「きゃーっ!!」

 

「・・・・・こんな感じか」

 

NPCに50%の恐怖を与えるという効果を目の当たりにしてしまった私達は恐らくハーデス君に同情したと思う。ハーデス君を一目見たエルフの給仕さんが一目散に逃げちゃったから。

 

「とても難儀な称号の効果だねハーデス君」

 

「うっさい。というか、今後のモンスターとの戦いもこれじゃあ大変だぞ」

 

「あっ、恐怖を与えるだから無条件に怖がって戦えなくなる?」

 

「逆にモンスターが出てこないならどんな場所でも楽に移動できるんじゃない?」

 

メリットとデメリットの差が違い過ぎるかな?

 

「試しに全身を隠すローブでも纏って試したら?」

 

「恐怖を上回る完全に怪しいプレイヤーになるなぁ・・・・・。まともな対話が出来るなら考慮するけどさ」

 

そう言いつつイズさんがアイテムボックスからそのローブをハーデス君に手渡し、全身を隠した彼の直後にマッチョな長老さんが入って来た。

 

「給仕の者が怖い存在がいると訊いたのだが、む? 勇者殿は何故そのような格好を?」

 

「えと、彼は友好的な人以外だと恐怖感を与えてしまうようになってしまったので」

 

「ふむ・・・・・もしや呪いの類を掛けられてしまったか? いや、友好的な者以外を恐怖を与えるというのはおかしなことだな」

 

長老さんは給仕さん達を招いてハーデス君を見るように言う。

 

「今の彼は恐ろしいか?」

 

「す、姿が見えなければ・・・・・いえ、申し訳ございませんがこの場に立っているだけでも、彼がとても恐ろしく感じます」

 

「むぅ・・・・・私は彼に恐ろしく思えないのだが」

 

顔を蒼褪めて怯える給仕さんと平然としてる長老さんの違い。本当に友好的なNPCだと恐れられず、そうじゃないNPCには怖がられるんだね。

 

「ローブでも駄目なら、恐怖感を抑える効果のアイテムを探すか作るしかないわね」

 

「称号を一つ消去するアイテムは無いものか」

 

「スキルならあるけど、称号を消すアイテムは課金アイテムでもないね」

 

「・・・・・最悪だ」

 

私も気を付けないと。いい称号があるなら悪い称号もあるって誰も思わないことだからね。

 

「称号を消す、というのは分からぬが遠い地にある神を崇める神聖教和国にいる聖女なら何とかなるかもしれないぞ」

 

「神聖教和国の聖女?」

 

「摩訶不思議な力で人間や傷ついたモンスターを癒しの力で助け、魔王や悪魔の打倒を主張しているこの世界で一番影響力がある国だ。始めにこの世界の大陸が出来たのはドワーフ達が住む火山だとして、神々が最初に舞い降りた場所と言えば神聖教和国のところだと言い伝えられている」

 

唐突に語る長老さんの話に私達は耳を傾ける。

 

「嘘か本当か分からぬが、聖女が悩める者の願いを神に祈りとして伝え、その祈りが届けば神から神託を下されることがあるようだが」

 

「神からの信神託・・・・・」

 

「うむ、神託を下された聖女から勇者殿の悩みを解決してくれるかもしれない。ただ、神聖教和国はこの大陸に点在する国のどこかにあると聞く。しばらく勇者殿の悩みは解決できそうにないが・・・・・」

 

「いや、一縷の望みがあるならそれに懸けてみる。ありがとう」

 

「礼は必要ない。聖女は勇者の力が必要不可欠であり勇者も聖女の力が必要不可欠な存在だ。勇者の頼みならば彼の国も魔王打倒のために力は惜しまないだろう」

 

そもそもだ、と言い続ける長老。

 

「勇者を選出する試練を神聖教和国は積極的に行っているそうだ」

 

『っ!?』

 

勇者を決める戦いを? 本当にレジェンドモンスターを倒す以外にも勇者を選ぶ方法があるなんて吃驚だよ!!

 

「それって何人までか分かりますか?」

 

「人数制限を設けていない。魔王を討伐しりうる可能性があるものならば何人でも構わないのだ」

 

そうなんだ・・・・・じゃあ、私にも希望があるんだね。なら頑張って勇者になってみようかな。

 

「さぁ、気を取り直して夕餉の時間にしよう」

 

長老さんの催促に私達は給仕さん達が恐れながらも運んで来てくれた料理の味に舌鼓し、備わっていたバフが勿体ないと思いつつ堪能した。

 

「長老、飲み屋のエルクの茶畑が―――」

 

「そうか・・・・・そこまで帝国の者達が攻めていたのか」

 

「苗木を受け取った。こっちで育て苗木に出来るようになったら渡すから植え直してくれないか」

 

「あの茶畑はエルフの宝でもあった。その復活に協力してくれるなら是が非でも」

 

うん? ハーデス君が虚空を見つめて指で何か触れる仕草を・・・・・まさか、クエストを発生したの?

 

 

 

―――4日目

 

 

 

不名誉な称号を得てしまった以上、モンスター相手にどれだけ効果があるのか実践してみた結果。

防壁かプレイヤーに突進してくるはずのモンスター達が、半分の確率で突撃してきたり来なかったりという摩訶不思議な現象が起きた。

 

「へぇ、ものは使いようか。50%の確率でモンスターが俺に恐怖するってのは、こういうイベントの時には楽になるな」

 

ただこの時まで俺は本当の意味で称号の効果を知らなかった。それはレベル53、俺より高いレベルのモンスターが現れた時だ。

 

「あれ、全然恐れず突っ込んでくるな? 何体か動かなくなるはずなんだが」

 

「回答。恐らくマスターより高レベルモンスターには恐れないかもしれません」

 

「え、マジで? そういうことなら嬉しいんだけど!!」

 

レベルの有無関係なく恐れないでくれるならモンスターを倒せれるじゃん!! いやっほーい!!

嬉しい誤算という事実に歓喜しながら65レベルまで攻略した。ゴーレム対策に落とし罠を設置してラヴァピッケルを装備して構えていたら―――。

 

「また相まみえることに―――(ズボッ)」

 

「え?」

 

何か見覚えのある悪魔が落とし穴の上に空から下りて来たと思えばそのまま落ちた。サイナ達と顔を見合わせ、落とし穴へ歩み寄ると穴から勢いよく飛び出してきながらソレに怒鳴りつけられた。

 

「貴様っ!! この我が来ることを知っての狼藉かっ!?」

 

「いや知るか!! 余計なことをしてくれるなよ!! そこはゴーレム対策に設置した罠なのに!!」

 

「それこそ我の知ったことか!! ええい、少しは見応えのある奴かと思えばやはり貴様とは相容れぬ存在だ!!」

 

泣きべそをかいて逃げていった魔王の幹部アスタロト。見応えのある奴って・・・・・もしかして血塗れた残虐の勇者の称号か?

 

「ふん、今貴様が考えている通りだ。勇者でありながら守るべき人間どもを血祭りにした貴様に我らが魔王様と我を除く72の柱の幹部達が関心を得た。今までの勇者とは違う勇者の貴様に遺憾ながら、魔王様から友好の証として我が送り届けに来たのだ」

 

「魔王ちゃんから贈り物?」

 

「魔王様にちゃん付けするなと言っておろうが貴様っ!!」

 

「威厳と可憐さを兼ね備えた魔王が可愛くないと?」

 

「・・・・・答える義理はない!!」

 

こいつも魔王ちゃんが可愛いと思っているんだな。

 

「さっさと受け取るがいいっ! 我は貴様と違って忙しいのだ!!」

 

青いパネルが目の前に表示された。アスタロトから送られてきたのは・・・・・なんだこれ?

 

「黒い卵?」

 

「ただの卵ではない。冥界に住む魔獣の卵だ。それも絶滅危惧種の魔獣が産み落とした卵だ」

 

「冥界、絶滅危惧種の魔獣、卵・・・・・ちょい待て、一気に知りたい情報を言わないでくれるか?」

 

「貴様の事情なぞ我が知るか。確かに渡したからな、くれぐれも魔王様のご厚意を無下にするではないぞ。血塗れた残虐の勇者よ!!」

 

「それを言うんじゃねぇえええええええええええっ!!」

 

あの野郎、愉快そうに高笑いしながら飛んで行きやがった!! 今度会ったらその頬にアルゴ・ウェスタで焼いてやるぞ!!

 

「マスター、ゴーレムが出現しました」

 

「くそっ! この怒りをあいつらにぶつけてやる!!」

 

見事に落とし穴に落ちてくれたゴーレム達にラヴァピッケルを普段より力を込めて振るった。

 

そして66レベルに出現するNPCの軍勢と対峙する間もなく撤退に徹した。これ以上NPCを傷つけたら恐怖の大魔王になってしまうわ!!

 

勇者の称号が枷でしかなくなってしまった以上、俺は65レベルまでしか攻略できない。もはや俺がこのイベントに参加する意味がなくなったも当然だ。家畜保護と復興はするが残念な気持ちになった。今日1日と明日は魔獣の卵を温める時間が多そうだな。

 

 

 

イズside

 

 

何かの卵を身体で温めているハーデスが食堂にいた。訊いたら魔王ちゃんからの友好の証としてモンスターの卵を悪魔から貰ったみたい。

 

「ミーニィちゃん以来の卵ね」

 

「そうだな。今度はどんなモンスターが生まれるのか想像できない」

 

「あの、どんな卵なのか判る?」

 

「冥界に住んでいる絶滅危惧種の魔獣だと」

 

「冥界? 絶滅危惧種って、それに魔獣とモンスターの違いって何かしら」

 

首をひねる彼でもその違いが判らないらしい。生まれてからのお楽しみね。

 

「ランキングの方はどんな感じだ?」

 

「ちょっと待ってね。えとまだ私達がトップだわ。ペイン達の撃破数が記録を更新しているけれど」

 

「・・・・・少し危ういか。恐怖の大魔王を取得するギリギリまでNPCの軍勢を倒して記録を更新しないと抜かれるだろうし」

 

心配してもどうしようもないだろうけど、彼がそうしてくれるのは私達が欲しい『不壊のツルハシ』を欲しいとお願いしちゃったからだよね。うーん、彼には申し訳ないわ・・・・・。

 

「ハーデスはこれからどうする?」

 

「今日1日はこれを温めてる。どんな魔獣が生まれるのか早く見て見たいし」

 

フェンリルの横っ腹に背中を預けて、オルトちゃん達に囲まれてる微笑ましい光景を作るハーデスを見てなんとなくスクショをした。

 

 

―――イベント最終日5日目

 

 

討伐数の記録を更新し続けるペイン達の予想道理の結果にイズとセレーネを引き連れて一戦だけ66レベル以上の更新を目指す。

 

「ハーデス、ワイバーンが来るわっ!」

 

「降りようとするところに閃光手榴弾! 視界を封じるんだ!」

 

5日間も相手にしたモンスターの対処法もスムーズにこなし大量の鹿には【挑発】で注意を引き寄せ、二人に点数を稼がせる。それからこれで何度目かわからないゴーレムを攻略すれば、NPCの軍勢が現れる。

 

「【飛翔】」

 

空を飛びNPCの軍勢の真上に移動―――「【溶岩魔人(ラヴァ・ゴーレム)】」に変身してNPC達に迫る。HPは1000と少し心許ないがそのままズドンと落ちて後ろから防壁を魔法攻撃していた魔法使いも含めてHPを削り倒していく。打ち漏らした敵に対してはサイナ達が請け負ってくれる。防壁の耐久値もまだ残っている。油断せず堅実に更新するぞ・・・!

 

 

―――あれから限界まで防衛した俺達は家畜保護に半日も精を出した。使わないポイントが貯まるばかりのを無視しもう半日は卵を温め続けていたらいつの間にかその時が来た。

 

アナウンスが鳴り響く。

 

『イベント5日目、18:00です。イベント終了となりました』

 

 

 

おお、もうそんな時間か。イベントが完全に終了し、俺たちは前回と同様に不思議な場所にいた。

漆黒の宇宙の様な空間に、直径100メートルほどの円盤が浮かんでいる。その円盤には、俺を含めた300人ほどのプレイヤーが乗せられていた。どうやら、またこうしてプレイヤーが全て集められているみたいだな。

 

周囲を見ると同じような白い円盤がいくつも浮かんでおり、他のプレイヤーが乗っていた。

 

漆黒の空間の一部に超巨大なスクリーンが浮かび上がり、そこにエルフのアバターが表示された。同時に、ステータスウィンドウでも同じ映像を見ることが出来る様だ。

 

『それでは、イベントの結果を発表させていただきます。ご静聴下さい!』

 

ペイン達と一騎打ちのような形だ。さて、結果は・・・・・?

 

 

 

一戦内・個人撃破数ランキング

 

 

1位 死神ハーデス 1198体

 

 

 

2位 ペイン    1191体

 

 

 

3位 ミイ      586体

 

 

 

4位 イズ      557体

 

 

 

5位 カスミ     543体

 

 

 

以下省略・・・・・

 

 

ペイン、あいつめ負けず嫌いだってことをよーくわかったぞ。あいつも限界まで挑んでいたようだな。さてパーティの方は?

 

 

討伐数ランキング(一戦)・パーティ部門 ※リアルタイム更新

 

 

1位:死神ハーデス(盾)・イズ(鍛)・セレーネ(鍛)2022体

 

 

1位:ペイン(剣)・ドレッド(軽)・ドラグ(斧)・フレデリカ(魔)2022体

 

 

「同列!?」

 

「同列か」

 

あ、聞き覚えがある声だった。隣に振り返ればペイン達がいた。

 

「粘った甲斐があったよー。本当に厄介だったねあのNPCの軍勢」

 

「ま、俺達の手にかかればこんなもんだろう」

 

「殆ど一人であそこまでの記録を叩き出したプレイヤーの方が驚嘆の念を禁じ得ないがな」

 

 

『次はNPCの貢献度の順位を発表いたします』

 

モニターに映し出される上位のプレイヤーほど、知った名前が載っていた。肝心の俺の名前は―――。

 

『エルフの里の貢献度、全体での1位は・・・・・死神ハーデスさんです!』

 

ん? 俺? 初日以降はあんまりしていたつもりはないんだが。他のプレイヤーが俺よりしていなかったってことか?

 

『そして最後に称号の贈呈です。今回のイベントで大いに貢献したプレイヤーは個人撃破数1位から10位のプレイヤーには、「エルフの良き隣人」の称号を。NPC貢献度1位から10位のプレイヤーには「世界樹の守護者」の称号が与えられます』

 

 

 

称号:エルフの良き隣人

 

 

効果:賞金20000G獲得。ボーナスポイント4点獲得。防衛戦で活躍した証。

 

 

 

称号:世界樹の守護者

 

 

効果:「世界樹の葉」獲得。里内でのNPCとの会話時、友好度にボーナス。イベント「防衛戦」で活躍した証。

 

 

名称:世界樹の葉

 

 

効果:10秒以内に死亡したプレイヤーに使用すれば体力全回復の状態で復活する

 

 

え、これ凄くない? 使うのが勿体ないぞ。お、パーティ部門の方から『不壊のツルハシ』が送られてきた。あの二人の願いを叶えられてよかった。でも個人の方は? 

 

『これにて、結果発表は終了となります。お疲れ様でした。一部のプレイヤー以外、皆様をイベント開始直後にいた場所へと戻します』

 

意味深なその言葉が終わった瞬間、俺たちの視界が暗転し、直後には見覚えのある風景が目に飛び込んで来た。世界樹だ。俺だけじゃなくペイン達も一行もだ。目の前に世界樹を背後に長老とリヴェリアが立っていた。

 

「勇者殿、我等エルフの里を守っていただき真に感謝する」

 

「友達の頼みならば当然だ。だけど、どうして俺達だけここに?」

 

「勇者の名に恥じない多大な貢献を築き上げた貴殿らに、我らからその働きを報いるため秘宝を授ける。だがその前に会ってほしいものがいる」

 

誰のことかと思えば地面から飛び出す幾重の樹木が形を成していき、やがてそれは悪魔の支配から解放したウッドドラゴンになった。

 

「あ、ウッドドラゴン」

 

「ウッドドラゴンか。俺達も戦ったが全然歯が立たずで撤退するしかなかった」

 

「どっかの誰かさんみたいに防御力が高すぎてね」

 

ペイン達ですらそうだったのか。

 

『よくぞエルフの里を守り抜きました勇者達よ。あなた達のおかげで全ての植物達の命が守られました』

 

「え、どういうこと?」

 

「実はウッドドラゴンはこの世界樹の化身なのです。そして世界樹はこの世界に存在する植物達の根と繋がっており、全ての植物は世界樹から産まれたものなのです」

 

「この世界で最初に始原の火山を中心に大地が、次に大地を呑み込まんとする全ての生命の母である海、そして生命が誕生する前に隆起した大陸全土に緑の命が最初に芽吹いたのが世界樹だと言い伝えられている。故に世界樹が全ての植物の始祖であり、地上の全ての生命の根幹でもある。世界樹がもしも死んでしまったら他の全ての植物達もこの世界から消え去り、地上は砂漠と化するだろう」

 

だから化身でもウッドドラゴンを救わないといけなかったのか。

 

「じゃあ、世界樹の異変ってのは解決したことになるのか?」

 

「その通りだ勇者殿。我等も最初は世界樹の異変の原因がわからなかったが、ウッドドラゴンが悪魔に支配されているならば納得できた。本当に感謝する」

 

『私の不甲斐なさにあなた達にご迷惑をかけました勇者達よ。そのお詫びに世界樹の力の一部とこれを授けましょう』

 

 

称号:世界樹の加護

 

効果:樹木、土系のモンスターの戦闘の際に与ダメージ上昇(大)、被ダメージ減少(大)、HP・MPの自然回復(大)。

 

 

スキル【生命の樹】を取得しました。

 

 

【生命の樹】

 

効果:直径10M範囲のHP回復魔法が発動中は断続的回復する。

移動不能になる代わりにノックバック無効。

 

 

名称:世界樹の苗木

 

 

あ、これ防御極振りの俺にとってピッタリなスキルだ。ありがとうウッドドラゴン!

それに世界樹の苗木って凄いレアでは?

 

『悪魔の支配から解き放ってくれたあなたには別の形で望みを叶えましょう。今望んでいるものはありますか?』

 

望みか・・・・・。仲間になって欲しいと言えばそれに近い形でなってくれそうだが。・・・・・そうだ。

 

「じゃあ、エルクの茶畑の茶木を復活させることって出来る?」

 

『己の欲を叶わず他のために望みを叶えるのですね?』

 

「ああ。もう一度あの茶木を甦らせてエルクに喜んでもらいたい」

 

あんな表情を見てしまったらどうにかしたくてしょうがない。時間はかかるだろうとオルトと一緒に育てた茶木を苗にして渡すつもりだったから丁度いい。

 

『わかりました。あなたの願いを叶えて差し上げましょう。彼のエルフがあの植物を愛する気持ちの理解者はあなたでよかった』

 

「私からも礼を言わせてくれ。感謝する勇者殿」

 

と、感謝の言葉を述べた長老から報酬を受け取れた。

 

 

『エルフの長老から「世界樹の雫」「世界樹の枝」「オリハルコン」「白妖精の指輪」を授与されました』

 

 

んん? ユニーク装備って指輪? 持ってるぞ俺。どうするんだこれ。

 

「長老、ハーデスさんには既に私の方から指輪を授けております」

 

「むっ、そうだったのか。しかし、代わりの物が何かいいのか・・・・・」

 

悩む長老はふとリヴェリアを見て、何を考えてのことかこんな提案した。

 

「うむ、ならば我が娘リヴェリアを勇者殿の心のよりどころになってもらおう。よき伴侶としてな。故に初夜どころか娘と熱い夜を何度も過ごしても構わないぞ」

 

「お父様!?」

 

わー・・・・・斜め上いくドッキリ発言だぁ・・・・・。というか、NPCと結婚できるのかこのゲーム。ハハハ・・・・・俺、知らなかったなぁー。リヴェリアが長老に食って掛かりどこかへ連れていったな。戻ってくるまで時間は掛かるか?

 

「ハーデス奴、放心しかけてるぜ」

 

「まさかの結果だったからね」

 

「このゲームに結婚システムがあるなんて聞いちゃいないぞ?」

 

「予想外な発見をまた見つけちゃったねぇ・・・・・」

 

不意にアナウンスが流れる。

 

『全プレイヤーの中で初めてNPCと婚姻をしたプレイヤーが出現しました。結婚システムが解放されます』

 

 

『一番初めに結婚したハーデス様に「英雄色を好む」の称号が授与されます』

 

 

称号:英雄色を好む

 

効果:「英雄色を好む」を持つプレイヤーのみ一夫多妻・同性愛結婚が可能。プレイヤー・NPCと婚姻を結ぶと得られる経験値が2倍となり共有します。

 

 

うん・・・・・? この効果は無視できないな。

 

「で、結婚すると何か得することがあるのか?」

 

「多分、これは最初に結婚して得た称号を持つ俺だからだと思ってくれ。婚姻を結んだプレイヤーとNPCが得る経験値が2倍となって共有するんだとさ」

 

「称号の名前は?」

 

「英雄色を好む」

 

「・・・・・また何とも言えない称号を取っちまったなお前」

 

そこ憐れむな!! それもこれも何もかも運営が悪いんだ!!

 

「話を変えるけどハーデス。キミも世界樹の苗木を?」

 

「ああ、貰ったよ。畑に早速植えるつもりだがペイン達は?」

 

「育てる気はないな。一生倉庫の肥やしの一つにする」

 

「育てたところでどうにかなるのかさっぱり出し、農業する暇もないから正直いらないんだよな」

 

「私もー。あ、ハーデスが育ててみない? この中で一番適任だしさ」

 

その言葉にペイン達もそれがいい、とばかりにせっかく手に入れた苗木をトレードしてきた。おいコラ俺に押し付けてくんな。―――しょうがないから貰ってやるけれど。

 

「ったく、しょうがないな。その代わりにお前等で二番目の夫婦になって試してほしいんだがな」

 

「は? フレデリカと?」

 

それ以外他に誰がいると言うんだ。フレデリカ当の本人は。

 

「ごめん、私パス。この三人にそういう意識全然ない」

 

真顔で懇意を拒絶したフレデリカは俺を見て少し悩んだ風に言う。

 

「でも・・・・・うーん、私達の思いもしないところでして全プレイヤーの中で一番強いハーデスから2倍の経験値を共有して得られるのって悪くないんだよねー。早く強くなれそうだし」

 

「それを人は別居状態と言う」

 

「何も言ってないよ?」

 

「結婚した状態ではいさようならって感じになるだろ」

 

苦笑を浮かべる彼女。ペインが虚空に見つめながら告げる。

 

「結婚システムを調べたが、どうやらその効果はハーデスだけみたいだ。異性のプレイヤーと結婚した時に発生する効果が経験値でなくステータスが1.5倍に増えるだけだよ」

 

それはそれで結婚したいプレイヤーが続出しそうだな。

 

「フレデリカ。どうするよ? ハーデスと結婚すんのか?」

 

「してみてもいいかな? って思ってるよ。ここはリアルじゃないから気楽にできるからいいしさ。んじゃあ、ハーデス。試しに結婚システムを使ってみようよ」

 

「お前がそれでいいならいいんだがな」

 

二人でサクッとポチっと相手の名前をネームプレートに打ち込んで、相手からの結婚承諾を受理しますかYES NOの選択が表示され俺達はYESを選んだ。すると頭上から天使の羽が付いた可愛らしいハートが現れて、表裏にYESとNOが掛かれたクッションのような物となってフレデリカと受け取った。

 

「・・・・・? なんだこれ? このYESとNOって何の意味がある?」

 

「触り心地的にクッションだね」

 

「同じものが二つか。SN、磁石みたいだな」

 

「案外、くっつけてみたら判ったりしてな」

 

そうかな? とフレデリカがYESの方で俺のNOのクッションにくっつけてみようとしたら、本当に磁石みたいでNOとYESが謎の力で反発して距離が縮まらない。俺もYESにしたら・・・・・逆に力強くくっついたクッションが光り輝きだす変化が起きた。その最中にペインが爆弾発言をかましやがった。

 

「ああ、どうやらYESの枕同士をくっつけ合ったら、性行為を同意するという意味があるらしいよ」

 

「へっ!?」

 

「ちょ、ペインそれ今更ぁ―――!!?」

 

迸る閃光に俺とフレデリカが呑み込まれ、どこかのホテルの中だろう寝室に転移させられた俺達は。

 

「た、退出しないと!!」

 

「でもどうやって!?」

 

慌てふためき、性行為回避を必死に探ったが24:00という数字と説明書しか分からず仕舞いだった。

 

『性行為を同意したプレイヤーは24時間中性行為をしないと退出できません』

 

「ペイーン!!」

 

「いや・・・・・説明を見なかった俺達も悪いってこれ・・・・・」

 

もっと早く言ってよっ!? と怒るフレデリカと「どこぞのエロゲだよ」と肩を落とす俺。時間の方は1秒たりとも動いてない。つまりは・・・・・。

 

「じっとしていても時間が進まないのかよ・・・・・」

 

「うー? うー!? どうしようどうしよう!?」

 

「・・・・・キスが性行為の始まりの認識してくれるなら時間が進むかも」

 

「あ、そういう手もありなのかも? で、でもゲームとはいえ精神的にファーストキスをしちゃうって感じがして・・・・・」

 

「軽率なことをした俺達の自業自得だな。悪いことしていないけど」

 

それからお互い沈黙を貫き妙な場の雰囲気の中で過ごしてしまう。いやほんと、どうしろと・・・・・。

 

「・・・・・ねぇ、リアルに付き合ってる人いる?」

 

「いないぞ。そっちは」

 

「いないよ」

 

いたら申し訳ないと確認してきたのか? 思い詰めた声音が聞こえてくる。

 

「・・・・・ここはゲーム、リアルじゃないから、ただの練習だから、問題ない。大丈夫、だよね」

 

「問題があるのは運営だがな。俺達の間に起きる問題は何もない。経験するだけだ」

 

「だ、だよね・・・・・じゃあ、大丈夫・・・・・大丈夫・・・・・」

 

ぶつぶつと自分自身に言い聞かせる風に呟くフレデリカは、耳まで真っ赤になった顔をこっちに向けてきた。

 

「・・・・・し、しよっか」

 

「・・・・・ん、わかった」

 

振り絞った勇気で言う彼女をベットに優しく押し倒す。不安と緊張が同居した顔色から伺えるフレデリカの頬を触れ、少しでも安心させようと頭を撫でる。

 

「あ、い、痛くしないでね?」

 

「その分、リアルでも俺から離れなくなるぐらい気持ちよくしてみるよ。なんせ24時間もあるからな」

 

ボッと別の意味でフレデリカの顔が真っ赤に染まった。

 

「ううう・・・・・そうなったら責任とってよね」

 

「大丈夫だフレデリカ。絶対にそうなる」

 

その自信満々はなんなのさぁ、と言う彼女と身体が一つに重なった時間はこの後すぐだった。

 

 

24時間後・・・・・。

 

 

無事にあの部屋から出られた俺達を迎えたのはオルト達だけだった。リヴェリアはともかく、ペイン達はどこに行った?

 

「俺達がいなくなった後、どれぐらい時間が経過した?」

 

「回答。1分も経過しておりません。ペイン様から伝言が預かっております。フレデリカをしばらく一緒に居させてくれ。以上です」

 

「・・・・・顔合わせるのが気まずいからかペイン達」

 

「ううう・・・・・こっちもそんなメールが送られていたよ。ドラグの奴なんか、ハーデスと甘い夜の夫婦生活を堪能しとけよって」

 

しばらく会わないようにしよう!

 

「リヴェリアは?」

 

「まだ戻ってきておりません。マスター、甘い夜の夫婦生活とはなんでございましょうか?」

 

「あーそれはだな」

 

どう言い返そうか言葉を濁したところ、リヴェリアが戻ってきた。

 

「ハーデスさん。突然の長老からの婚姻は誠に申し訳ございません」

 

「気にするな。でも、リヴェリアは?」

 

「・・・・・あんな父親でも長老の決定は絶対なので。あなたの伴侶としてお側に居ます。これからも、一緒にいろんな世界を見ましょうあなた」

 

 

白妖精(ハイエルフ)』NPCリヴェリア・アールヴが正式に死神ハーデスさんの仲間となりました!

 

そんなアナウンスが聞こえてくるが、どうしよう。彼女の住む場所がないぞ。

 

「家はどうする?」

 

「問題ございません。異邦の者達が集うあの町とこの里にエルフの魔法技術のひとつ転移門が敷かれます。私はあの町とこの里に行き来します」

 

「そうなのか。でも、俺も早く自分の家を構えないとな」

 

「急がなくても大丈夫ですよあなた」

 

なんか、慣れてない言われ方にくすくったいぞ。

 

「そうさせてもらう。それと彼女も俺の伴侶何だが問題は?」

 

「彼女も、ですか? てっきりイッチョウさんかイズさんかと思われましたが」

 

「リヴェリアがいない間にちょっとな・・・・・」

 

俺に寄り添ってすごく照れてるフレデリカ。本当に責任を取らなくてはならないほどにたっぷり時間かけて愛し合ったから、俺から離れなくなってしまった。

 

「そういうことだから、よろしくね?」

 

「ええ、こちらこそよろしくお願いします。伴侶として彼を最後まで愛しましょう」

 

あっという間にゲーム内で二人の妻を娶ってしまったな・・・・・。そう言えばどうすればいいんだこれ。

 

「リヴェリア、指輪が二つあるんだが」

 

「では、ここに返してください」

 

左手を伸ばしてきた彼女の意図を読めない愚鈍でもなく、二つ目の指輪を白魚のような細い彼女の薬指に嵌めた。

 

「フレデリカ」

 

「え、あ、うん・・・・・」

 

彼女も得た白妖精の指輪でリヴェリアのように薬指に嵌めた。

 

「今夜はここで泊ってくださいあなた。私が手に寄りをかけた料理を食べてもらいたいです」

 

「あ、私もいいかな?」

 

「新婚さんの手料理が楽しみだ」

 

ただし、二人の手料理だけじゃなくデザートもあった。それを食べれたのは二人が俺の部屋に来た時だった。

 



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掲示板

【エルフを守れ】雑談を語るスレ【お疲れ様】

 

 

 

 

561:名無し大盾使い

 

 

いやー終わった終わった。今回は大盾使いの活躍が目立つイベントだった。一部のプレイヤーは除いてな。

 

 

562:名無し魔法使い

 

 

溶岩魔人になったり巨大な獣になったり、ごっつい破壊兵器を纏ったりと普通のプレイヤーと次元が違う例のプレイヤーな

 

 

563:名無し大剣使い

 

 

ほんとそれ、一体どんなプレイをしたら変身できるようになるんですかねぇ(ドン引き)

 

 

564:名無し弓使い

 

 

今回のイベントも功績を残したしな。パーティ部門の方じゃペイン達と同列とは

 

 

565:名無し槍使い

 

 

ぶっちゃけ、鍛冶師プレイヤーの二人はおまけ付きだと思われても仕方がない。だって殆どソロでやっていたようなもんだもん

 

 

566:名無し大盾使い

 

 

同じ大盾使いとして俺には絶対無理なプレイです

 

 

567:名無し魔法使い

 

 

お前まで出来たらあっち側だ

 

 

568:名無し弓使い

 

 

話変わるけどさ、結婚システム解放されたじゃん。ステータス1.5は微妙だけどお宅ら誰かと結婚する相手いる?

 

 

569:名無し大剣使い

 

 

自分、独身なので

 

 

570:名無し槍使い

 

 

出会いがホシィ・・・・・

 

 

571:名無し大盾使い

 

 

最近、交流するようになった鍛冶師の女プレイヤーならいるけど、そういう対象として見る気が無いな

 

 

572:名無し槍使い

 

 

何て言い草をするんだお前ェッ!? 出会いがどれほど大事なのか判ってらっしゃらないのか!!

 

 

573:名無し大剣使い

 

 

ゲームに出会いを求めては間違っているだろうか? と思いながら密かに望んでいる俺の気持ちをわかるかぁっ!?

 

 

574:名無し弓使い

 

 

大盾使い君、不用意な発言は止めたまえ。独身男の妬みは粘着過ぎてうざったいらしいぞ

 

 

575:名無し大盾使い

 

す、すまん・・・・・(汗)

 

 

576:名無し魔法使い

 

 

そういう弓使いの内心は?

 

 

577:名無し弓使い

 

 

夜道に気を付けろよ。どこからか弓矢がお前の無防備な頭部に飛んでくるからな

 

 

578:大盾使い

 

 

ヒェ・・・・・ッ

 

 

579:名無し魔法使い

 

 

ここには嫉妬する野郎ばかりだったか。次のイベントの話をしていいいか? リヴァイアサンレイドだ

 

 

580:名無し大剣使い

 

 

リヴァイアサンか。場所は大方、海なんだろうな。船に乗って戦うか、陸で戦うのかまだわからないが

 

 

581:名無し弓使い

 

 

水系の攻撃をしてくるだろうから耐性をつけておかないと

 

 

582:名無し槍使い

 

 

巨体なんだからなけなしにVITも上げておこうぜ

 

 

583:名無し大盾使い

 

 

例の大盾使いの人だったら絶対、常識って何なのかってぐらいのおかしな戦い方をしそう

 

 

584:名無し魔法使い

 

 

予想してみる? 直接海に泳いで攻撃する

 

 

585:名無し弓使い

 

 

破壊兵器を纏ってプレイヤーを乗せて空中攻撃

 

 

586:名無し槍使い

 

 

新しくテイムしたモンスターで圧倒する

 

 

587:名無し大剣使い

 

 

リヴァイアサンと戦わず勝つ(無血開城?)

 

 

588:名無し大盾使い

 

 

リヴァイアサンの身体に張り付いて直接攻撃する。・・・・・うん、全部普通じゃないな

 

 

589:名無し弓使い

 

 

寧ろ俺達があのプレイヤーに普通の戦闘をしろと思ってもしてくれなさそうだ

 

 

590:名無し大剣使い

 

案外、俺達が気付かない内に普通じゃないプレイをしていたり

 

 

591:名無し魔法使い

 

待って待って、あのプレイが普通で俺達のプレイが普通じゃない? なら俺達は一体なんなんだ?



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鶏? いいえ神獣です

眠る美女達が目を覚まし、長老からいやらしい言葉を頂戴して羞恥と怒りで実の父親を魔法でぶっ飛ばしたエルフを見ることになった朝を迎えた。気分的に久し振りな畑に戻って作業を終わらせるとお馴染みの鍛冶屋に訪れた。ドワーフの国に行く以来だったからこっちも久し振りだな、と思っていたら。

 

「おい、ここに名匠の上位職、古匠のNPCがいるって本当か?」

 

「本当だって。始まりの町なのに上位の鍛冶職のNPCが作る装備はマジで凄いんだって。お前も作ってもらえよ。最前線にいる攻略組がほとんどここに戻ってきて、古匠が作る装備を求めるほどなんだからさ」

 

「すみませーん。この防具と武器はいくらですかー?」

 

「おい押すなよ!」

 

「周りが押し寄せてくるんだよっ!」

 

すんごい人混みだ。燃やしたらよく燃えそうだな。

 

「ハーデス、鍛冶屋に用があるの?」

 

「花見の時に来てくれた筋骨隆々のNPCがいただろう? ヘパーイストスって鍛冶の男がこの店の主なんだ」

 

「もしかしなくても常連さん?」

 

「何度も専用クエストをするぐらいにな」

 

「・・・ハーデスが中々前に進まない理由が分かってきたかも」

 

そうだなぁ・・・・・何で前に進めないんだかな。

 

「あっ、鍛冶師から借りてるって言ってた指輪の持ち主ってあの人なんだ?」

 

店から出てきたヘパーイストスに指すフレデリカ。そうだと頷きかけた瞬間。

 

「朝からうるせぇぞクソガキどもが!!! 作業の邪魔をするんじゃねえっ!!! 集中できねぇだろうがぁっ!!!」

 

二つの大きな鉄槌を同時に振り上げて、プレイヤーに振り下ろし、凪払い出すバーサーカーと化した!? 彼の一撃はプレイヤー達を軒並みに倒していくが、ここにいるプレイヤーは俺より強くはないが弱くはないはずなのに一撃で倒していく様に俺とフレデリカはがく然とした。

 

「えっ!? NPCがプレイヤーを倒すの!?」

 

「俺も初めて見たぞ。ヘパーイストスが、の話で」

 

敵わない相手と認識した一堂にいたプレイヤーが蜘蛛の子が散るように逃げていく。殴られたことがある俺ですら痛いと感じさせられたから、すぐ目の前で襲われる怖さは他人事ではない。フレデリカを抱き寄せ、プレイヤーがいなくなるのをじっと待ってれば騒がしかった真逆の閑古鳥が鳴く光景になった。

 

「あー、ヘパーイストス」

 

「あん? 坊主か。今丁度休憩するところだから入れ。用があるんだろ」

 

汗すら流さす事をしてないと風に普通に誘ってくるヘパーイストス。断る理由もないからお邪魔させてもらい店内に入ると。

 

「うわ、様変わりしたな」

 

いかにも始まりの町として初心者の装備が飾られて販売されていたのに、見ない間に上級者の装備やリフォームした店内が俺達を出迎えてくれた。古い木造の家が一から形を変えないまま、新しい木造の家に立て替えた感じだ。

 

「古匠に至れた俺だけじゃなく店ン中ぐらい見映えよくしとかないとなって思ってよ」

 

「そうなんだ。うん、見映えよくしたとはいえ鍛冶師の店にぴったりだと思うよ。高級な建物のような立派なよりも、素朴で質素な感じの方が鍛冶屋だ」

 

「そこまで誉めるなっ! 背中が痒くなるっ!」

 

「おっ、ハーデス。久し振りだな」

 

ヴェルフが朗らかに話しかけてきた。こいつも久し振り・・・・・。

 

「ヴェルフ、なんか変わったか?」

 

言葉に表すことはできないが、強いて言えば風格? 見に纏うオーラが変わってる気がする。

 

「あー・・・・・分かってしまうか? 先日、師匠から匠の鍛冶師に昇格してくれたんだ」

 

「おおー! 見習い鍛冶師からついにか! おめでとう!」

 

「ありがとう。これからは名匠の鍛冶師になれるよう頑張るぜ」

 

「応援するぞ。手伝ってほしいことがあるなら協力もする」

 

さてそろそろ本題だ。

 

「ヘパーイストス。長々と借りてた指輪を返す時が近づいてきた。古匠になったなら問題なく作れるはずだろ?」

 

「だが、お前の要望に応えるような素材は中々手に入らないぞ」

 

「これならどうだ」

 

それをヘパーイストスに手渡す。職人の手に収まってるのは市場には絶対流出しない幻の鉱石と過言ではないオリハルコンだ。

 

「ッ!!!」

 

ヘパーイストスは一目見て、触れて感じた鉱石が普通ではないことぐらいは気づいただろう。震える声音で訊いてくる。

 

「坊主。こ、こりゃぁ・・・・・」

 

「オリハルコンだ。素材として相応しいだろ」

 

「「オリハルコンっ!!?」」

 

ヴェルフまでもおっかなびっくりな反応で師匠の横からオリハルコンを凝視する。その目付き、師匠譲りだな。

 

「お、おおお・・・・・っ。こ、これが生涯触ることもないまま死ぬだろうと思っていた夢見まで見た幻の鉱石っ!!」

 

「とても綺麗だ。これを新しい形に代えるなんて烏滸がましいって思えるぐらい、鍛冶師を魅了してくれる輝きを放っていやがる」

 

・・・・・なんか、ヒヒイロノカネで造られた刀に魅了されたヘパーイストスの時よりも危なっかしい気配が。

 

「それで同じ指輪に・・・・・」

 

「何て事を言うんだ!? オリハルコンだぞ? あのオリハルコンが現ナマでここにあるってのにすぐに壊せって俺達を泣かせる気か!!」

 

「頼むっ、しばらくの間だけでいいからこのままにさせてくれぇ!!」

 

やばい、ストッパーのヴェルフまでおかしくなった。

 

「ユーミルにやらせ・・・・・」

 

「待て止めろ! 頑固ジジイにこれを渡したら死んで骨になっても手放さねぇぞ!! それでいいのか!?」

 

「今のお前らとたいして変わらねぇよアホンダラ!!」

 

ダメだこいつら、何とかしないと!

 

「今すぐにしてくれって話じゃないから慌てるな。素材を揃えてからだ」

 

「な、なんだ・・・・・それなら早く言いやがれ」

 

安堵するヘパーイストスの肩にごめんごめんと込めて叩きながらオリハルコンを触れてアイテムボックスに仕舞う。

 

「あっ!? 何で仕舞うっ!」

 

「俺のだから仕舞って当然だろ。預けに来たんじゃないんだ」

 

「・・・・・もっと見てみたかった」

 

ヴェルフお前までもか・・・・・。嘆息させてくれる青年に溜息を吐いていたらフレデリカから質問を受けた。

 

「ユーミルって誰? 女のNPC?」

 

あの時一緒にいたんだがな。まぁ、NPCじゃなくてペイン達と話してばかりだから知らないのも当然か。

 

「ヘパーイストスの鍛冶師の師匠でドワーフだ。花見の時にも来ていたぞ。鍛冶師の上位職、古匠より更に上位の神匠に至った唯一の存在だ。俺のこの鎧、ユニーク装備を作れる伝説の職人だと認識しても問題ない」

 

詳しく知らなかったフレデリカは神匠の凄さ、それをいまいちよく分からずな様子で、ふーんと言うだけで終わった。

 

「ハーデス、なんなら私のあげようか? オリハルコン」

 

フレデリカからの突然の申し出に首を横に振って拒絶した。

 

「それはフレデリカの分だ。自分のために使え」

 

「でも、ハーデスのようにしたら同じことになりそうだし」

 

できない。・・・・・鍛冶師全般的がヘパーイストスみたいだったら、否定できない。

 

「それに魔法使いのオリハルコン製の装備って思い付かないんだよね」

 

そう言えばそうだな?

 

「ヘパーイストス。実際にどんな感じになる? 魔法使い専用のオリハルコンの装備って」

 

「専門分野が違うから俺も分からない。魔法使いなら錬金術で何らかの形にするべきだと思うが、現代の魔法使い、錬金術師がオリハルコンを扱えるとは思えないな。なんせ伝説と語られてきた幻の鉱石だ。扱ったことがある人間なんてとうにいないだろう」

 

「そう? ならいいんだけどこれからどうするの?」

 

「ドワルティアに行くつもりだ。【マグマ無効化】がないと行けれない場所に気になるのがあったから」

 

「うわー・・・・・絶対普通じゃないルートで行くつもりだよ」

 

「寧ろ普通じゃないところに様々な発見が多いぞ。そのおかげで現在進行形、強くなってるんだからな」

 

何となく俺の強さの秘訣を知っただろう彼女にも、これからどうすると尋ねた。

 

「ついて行きたい気持ちもあるんだけど、そのスキルを持ってないから別行動かな」

 

「んー・・・・・ちょっとサイナに訊いてみようか」

 

もしかしたら可能性があるかもしれない。俺のスキルを共有して使える彼女ならもしかしたらだ。畑に足を運んで、後から来ていたリヴェリアがオルト達と戯れていた姿を横目にサイナに問うた。

 

「サイナ、今のお前ならマグマの中に入れるか?」

 

「肯定。マスターの【マグマ無効化】は当機の私にも共有されております」

 

「んじゃ、マグマの中でも溶けない機械って作れたり出来ないか? もしくはロボットだったら?」

 

「問題ございません」

 

よし、決まりだな。フレデリカ、一緒に行けるぞ。え、本当に大丈夫? 安心しろ不安と不可能を乗り越えることが出来れば誰よりも楽しめるさ。

 

 

「ということでやってまいりましたドワルティアの始原の火山の火口へ! ただし、意外とちらほらとプレイヤーがいるな」

 

「ハーデス達がラヴァ・ゴーレムの攻略法を動画配信したからね」

 

それを見て自分たちも攻略してみようってプレイヤーか。パーティ、2パーティ以下かそれ以上の数で挑んでいるプレイヤーの戦闘が終わるまで待っている俺達であった。

 

「おっと、ラヴァ・ゴーレムの大噴火が地中からプレイヤー達を襲いかかった。掠っただけでも装備の耐久値とHPがゴリゴリと減らしそうな危険な攻撃にプレイヤー達は初の戦闘なのか慌てているな」

 

「なに突然、実況みたいな言い方?」

 

「実際そうだからな。と言うか今更なんだが、ボスって何種類いる?」

 

なにそれ? と風にフレデリカは不思議そうに見つめて来る。

 

「フィールドにいるボスとダンジョンにいるボスにレジェンドレイドのボスと3種類以外にもいるのかなと」

 

「ああそういうこと。多分それしかいないと思うよ」

 

「じゃあ最大ボス相手に何人プレイヤーが同時で戦える?」

 

「β版時にレッサーベヒモスと戦った人数は最大50人だって聞いたよ」

 

「ダンジョンボスはレイド用のボスだと思う?」

 

「うーん、誰もそのぐらいの人数で挑んでいないと思うからわからないな」

 

ボスについて語り合っていると、程なくしてラヴァ・ゴーレムと戦っていたパーティの方は辛勝の結果で終えた。そして次は俺達の番だ。

 

「来るよハーデス」

 

火口のマグマがゆっくりと盛り上がり溶岩の身体で迫って来るラヴァ・ゴーレムにラヴァピッケルと不壊のツルハシを構えた。

 

「・・・・・ハーデス? どうやってそれで戦うの?」

 

「ちょっと検証したいことがあって。まぁ、見ててくれ」

 

足を前に運びラヴァ・ゴーレムの拳が迫ってこようと不壊のツルハシで弾き返し、がら空きになった懐に文字通りラヴァ・ゴーレムの溶岩の中に飛び込んだ。お邪魔しまーす。お、魔高炉あった。そーれ!!

 

 

フレデリカside

 

 

何を考えてラヴァ・ゴーレムの中に入っていたハーデスが、何かしているとしか考えられない。身をよじってうめき声をあけ、放っておけば自然回復するはずがダメージ量が一気に二割減って回復量より多いから・・・・・あっ、ラヴァ・ゴーレムが崩れた。

 

「はっはっー!! 予想通りぃー!」

 

溶岩から出てきて二つのツルハシを掲げ、完全勝利を果たした歓喜の雄叫びをあげた。誰もが考えもせず、考えても実行しないことをやってのけるハーデスは誰よりも早く強くなったのだと、直接戦う彼を見て私は悟った。ペインより楽しんで強くなっているんだと。

 

「凄い、レベルも上がってる」

 

そした殆んどハーデス一人で勝ち続けてきたんだろう。これからもハーデスと一緒にいたら強くなれるのかな?

 

「フレデリカー、行くぞー」

 

「うん!」

 

ロボットを召喚したハーデスから呼ばれ、足を動かす。操縦席が二つあるから・・・・・あれ、私はどこで?

 

 

・・・・・。・・・・・。・・・・・。

 

・・・・・。・・・・・。

 

・・・・・。

 

 

ラヴァ・ゴーレムを倒してすぐに火口の中にロボットで潜った。本当に装甲が溶けず、コックピットにいる俺達にもダメージが一切ない。凄いロボットだなー棒読み。

 

「・・・・・」

 

画面いっぱいに映るマグマを見てるフレデリカは、俺の膝の上に乗って借りてきた猫のように大人しくしてる。

 

「どうしたフレデリカ」

 

「こんな、密室で膝の上に乗せられるのが恥ずかしいんだけど」

 

「今だけは我慢してくれ」

 

彼女の前に腕を回して抱き締める。肩を震わすが何も言わず俺に抱き締められながら手も握られて無言を貫く。

 

ズシンッ。

 

「マスター、着地しました」

 

「さーて、あの場所の方へ向かおう。えーとあっちだ」

 

操縦士サイナが俺の記憶に残ってるあの不思議な場所へとロボットを動かし続けた。何度か採取ポイントが目につくけど目的地へ優先だ。そして端っこにまで進んだ先にある壁を登り、マグマから空気ある空間に、中心に鎮座する黒い塊がある場所へたどり着いたのだった。

 

「ここだ」

 

「空気がある。モンスターもいない場所? どの辺りに私達はいるの?」

 

「地上から約1000メートル下に潜りました」

 

通りで長く潜っているわけだ。そして気になっていたあれはなんだろうな。改めて調べよう。

 

「ベヒモスと戦う前はコロシアムのような建造物があった。その中でベヒモスと戦ったんだが、この静寂さはその時に似ている」

 

「じゃあ、凄く強いモンスターが出てくるかもしれないってこと?」

 

可能性の話だがな。黒い大きな塊を触れる。こんな場所の中にあるってのに冷たい。肌触りはゴツゴツとざらつきがある。

 

「サイナ、これ調べられる?」

 

「肯定。調べますか」

 

お願い。サイナに頼み黒い塊を機械で調べて貰う間に動画配信しながら周辺の調査でもしようか。赤熱した岩石で囲まれた空間。採取ポイントのマークはなく、一見なにもないただの空間のフィールドとも思われる。だから逆に不思議なんだよな。

 

「告。微弱な生命体の反応が確認されました。どうなされますか?」

 

「藪をつついて蛇を出すか出さないかだな」

 

「どんなモンスターが出てくるのかもわからないしねぇ。これって掘れる?」

 

コンコンと黒い塊を杖で叩くフレデリカの疑問を解消しよう。ラヴァピッケルを勢い良く振り下ろしてぶつけると、ガッ! と突き刺さるだけの硬さを感じさせられた。

 

「無理だな。鉄を叩いてる硬さだ。そもそもこれは殻なのかも怪しい」

 

「卵の殻だったら簡単に割れるもんね」

 

「ダチョウの卵の殻はとても堅いらしいぞ。と言うかこれは卵なのか?」

 

「ラヴァ・ゴーレムの溶鉱炉と同じ物質です」

 

掘れねぇわけだよ。うーん・・・・・。それなら溶岩魔人(ラヴァ・ゴーレム)になって温めてみるか? それともマグマを掛けてみるべきか?

 

「気になるならやってみれば?」

 

フレデリカから考えている俺の気持ちを酌んでくれたのでそうする。ここに来る直前に採取した黄金のマグマこと『大地の生命の源』を取り出して黒い塊に掛けた。

 

「「「・・・・・」」」

 

変化は・・・・・なかなか起きない。足りないのかそれとも温めないといけないか、それともクエストを発生させてからなのかもしれない。

 

「あっ、表面が赤く光り出したよ」

 

「微弱な生命体の反応も少し活発的になっております」

 

・・・・・決まりだな。

 

それから俺は溶岩魔人(ラヴァ・ゴーレム)に変身して親鳥のように黒い塊を温めることにした。塊の表面に浮かぶ光も時間が経過するとともに徐々に強さを増していっているのが判り、それが最高潮に達した瞬間。黒い塊が迸り出す閃光と共に真上へ弾け飛びだし、空中で何かが見えて来た。長い鳥の尾、燃える鶏冠、短い嘴に知性が孕んだ瞳を持つ鳥・・・・・。

 

「・・・・・鶏?」

 

「いやいや、赤い身体から金色の炎のようなオーラを放っている鳥が鶏の筈がないだろ。まだ幼体の雛鳥・・・・・。」

 

黒い塊から出てきた鳥は大きく(短い)翼を広げ高らかに鳴いた。

 

 

コケコッコォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!

 

 

「やっぱり鶏じゃん!!!」

 

「酷い残念感が半端ないよ!! 人がそれとなく否定したのにこの鳥がぁああああああああああああああああああ!!!」

 

 

カラーン、カラーンと荘厳な鐘の音が鳴り響く。ログインしている全プレイヤーの殆んどが何事かとアナウンスに思わず動きを停めて耳を傾けた。

 

 

『ニューワールド・オンラインをプレイされている全てのプレイヤーの皆様にお知らせ致します』

 

 

あ、この展開はまた白銀さんか。と思わずにはいられないプレイヤーが続出する最中、報告が続けられる。

 

 

『現時刻を持ちまして、通常モンスター以外にテイム可能の新たなレジェンドモンスターが出現しましたことをお伝えします。四方の至る地でプレイヤー達を待ち構えます。どうぞニューワールド・オンラインを楽しんでください』

 

 

「テイム可能なレジェンドモンスター!?」

 

「おいモンスター図鑑を見てみろよ。100ぐらい未確認のモンスターが更新されて増えてるぞ」

 

「あっ、白銀さんの銀色の狼が表示されてる!! レジェンドモンスターって幻獣種のことか!!」

 

「新しいモフモフをテイムできるわ!! どこ、どこにいるの!?」

 

 

外でそんな騒ぎになっていることを知らないでいる俺達は、目の前に降りて来る鶏もどきに視線を落としていた。さっきのアナウンスからしてこの鳥もレジェンドモンスターなんだろうな。

 

『私を目覚めさせたのはお前達だな』

 

「あ、はい」

 

『この場にまで来られる生物どころか、最初に私を目覚めさせた者は一人もいなかった。深く長い眠りついている間に資格を持つ者が我等に接触する時は世界に大いなる危機が迫っている兆候である』

 

魔王ちゃん達がいるからかな。大いなる危機という実感はまだないんだが。

 

『ふむ。お前達は資格を得ているようだな。勇気ある者達が同時に二人もとは』

 

「・・・・・勇者のこと?」

 

「恐らくな」

 

『問おう。汝らはこの鳳凰に何を求む』

 

鳳凰って・・・・・中国の霊鳥じゃん・・・・・・。

 

「いや、何も求めない」

 

『なに?』

 

「うん、私は付き添いできただけで別に何か欲しいわけじゃないし」

 

こっちの返答に対して、凄く信じられないと嘴が開いた状態で驚いている鳳凰を置いてロボットへ踵を返して乗り込む。

 

「それじゃ、元気でな」

 

「バイバーイ」

 

『―――いや!? 待て待てお前達!! 帰られてはこちらが困るぅー!?』

 

コックピットのハッチが閉じる隙間に飛び込んできやがった鳳凰。

 

「おいコラっ!?」

 

「いったー!?」

 

『何も求めないとは何という無欲な!! 普通、私を欲するか私の恩恵を求めるかであろうに!!』

 

「どっちも欲しくないから帰るんだよ!」

 

翼で必死に抱き着いて俺達から離れんとしながら鳳凰の癖に涙目で訴えて来た。

 

『後生のお願いだ頼むっ、私に課せられた使命を果たさせてくれっ!! このままでは「お前、またスルーされたのかw」と他の者達に小ばかにされるのが目に見えるのだ!!』

 

そんな事こっちが知るかぁー!!

 

「だぁー!! 離れろ、何でかお前がひっつくとダメージが入るんだよ!!」

 

『ふふん、それはそうだろう。私の身体に纏う金炎は―――』

 

「自慢話はどうでもいい!! サイナ、さっさと火口のところへ戻るぞ!!」

 

「告。内部から膨大な熱量によって当機がオーバーヒートの状態です。冷却システムが作動しません。操縦不能」

 

お前が原因かこの焼き鳥ぃいいいいいいっ!! あ、HPが一度だけ1に留まったけど0になった瞬間目の前が真っ暗に・・・・・!!

 



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神獣の恩恵

すぐ近くの町、ドワルティアに死に戻ったフレデリカと深い溜息を吐く。あの迷惑千万な焼き鳥に悪意のない事故で初めて死に戻らされるとは・・・・・。

 

「何という、死にパターンだ・・・・・。初めて死に戻りしたのが鶏もどきのせいだなんて」

 

「もう絶対、2度とあの場所には行かないよ・・・・・」

 

「気になっていたことが解消したからな。行く理由もなくなった以上、会うつもりもない」

 

サイナと離れ離れになってしまったけど、マグマの中でも活動できるから戻って来られるだろう。戻ってくるまで待つとしようか。

 

「ああ、そうだ。神匠のドワーフに会いに行くか? オリハルコン製の魔法使いの装備を作ってくれるかもしれないぞ」

 

「始まりの町にいた鍛冶師みたいにならないかな」

 

「・・・そうではないことを祈りた―――」

 

「マスター。ただいま戻りました」

 

早っ!? もう、戻ってきたのか。・・・・・んんー?

 

「サイナ、ソレはどうしたのかな」

 

「遺憾。勝手についてきました」

 

『勝手にどこかに行くではないぞお前達!!』

 

あの場から離れられないという認識はしていないと言えば嘘になるが、少し自由過ぎじゃありませんかねぇ~? サイナの頭の上に我が物顔で鎮座する俺達を死に戻りにした元凶がいた。

 

「おいコラ焼き鳥。お前のせいで俺達は無駄に死んだぞ。どう責任取ってくれる」

 

『うっ、それについてはどうしようもないことである。私の纏う金炎は他者の接触を拒むかつ、存在そのものが消えてなくならない限りは燃えてしまうのだ。い、今はその力を抑えておるから平気であろう?』

 

「「最初からやれっ!!」」

 

フレデリカも思うところがあったようで一緒に怒りながらツッコミをいれた。

 

「それで、火山の中から離れてまでどうして私達のところにくるのさ」

 

『私の話を最後まで聞いてくれぬからだ!!』

 

「どうせ何かを欲するなら更なる資格を得る為に戦えって感じだろ」

 

『それは戦いを好む連中が勝手にしている決まりだ。私達のような存在は資格ある人間達には力を認め、無償で力を貸すことにしている』

 

でも、そうじゃない奴も必ずいるという事か。

 

『私は真の意味で数多に存在する同胞達より、何かの為に命を投げ出してまでやって来られない場所で待っていたのだ。お前達はそれを乗り越えて私を目覚めさせたのだ。力を欲するならば快く私の恩恵を授けよう、そう思っていたのにお前達は・・・・・!!』

 

何で俺達が悪いみたいに言われているんだろうか・・・・・。ちゃんと最後まで話を聞かなかったことに関しては悪かったけどさぁ。

 

『これで理解したか!!』

 

「あー、うん。まぁ、したけど釈然としないこの気持ちはどうすればいいだろうか」

 

「一先ず横に置いて恩恵の話でも聞かない?」

 

・・・・・そうするか。悪い話でもなさそうだし。

 

「で、恩恵と言うのは?」

 

『私の金炎の衣だ。纏えば外敵との接触の際にダメージを与え、炎の威力が更に上がる。そして私と契約すれば金炎の衣はバージョンアップし、攻撃に炎のエンチャントが付加され不死鳥フェニックスのごとく燃え盛る炎から甦ることが可能だ』

 

「契約したらお前の他の同胞とも契約は出来なくなるのか?」

 

『資格がない者であれば過ぎたる力は身を滅ぼすことになる。資格ある者は正しい力の使い方をすればいずれ出会うだろう神獣にも認められよう』

 

たった三人しかいない神獣使い達も鳳凰達と契約をして使役することが出来たのか?

 

「契約とテイムの違いはあるか?」

 

「当然違う。私達は直接資格ある者に協力することは一切ない。基本的に認めた資格ある者に私達の力を与えるだけだが、共に戦う物好きな同胞もいる。既にお前のところにもおるような物好きがな」

 

フェルのことか。

 

『聞きたい話は以上か? ならば私と契約をしよう』

 

「力を欲する理由は聞かなくていいのか」

 

『同胞を抱え込んでおる者に興味を持ったから聞いただけのこと』

 

鳳凰の話を聞き改めてフレデリカと相談するまでもなく、契約することにした。俺達の身体に熱くない金色の炎が燃え盛ると胸の中心に吸い込まれる。

 

 

『幻獣「鳳凰」との契約が成功しました。鳳凰の恩恵を得たことでスキル【金炎の衣】を習得しました』

 

 

【金炎の衣】の効果は鳳凰が言っていたのと同じ情報が記されている。他のスキルとは格が違うな。これからも幻獣と出会えたら積極的に恩恵を得よう。

 

「ありがとうな。ついでに訊くがお前はこれからどうするんだ」

 

『資格ある者の傍にいさせてもらおう。初めての外界であるからな。お前達が見ている物と同じ物を見てみたい。だが、先ほども言ったが力を与えるだけで協力することはない。努々忘れるではないぞ』

 

ペット扱い的な感じになったのか鳳凰が。

 

『しかしだ、どうしてもというならお前達に一つ頼みがある』

 

「頼みって?」

 

『私の番を探してきてほしい。私の考えに沿えず別の場所で資格ある者を待ち続けている。彼は今どこにいるのか分からないのだ』

 

ん? 彼・・・・・?

 

「お前、雌の方だったのか?」

 

『どこからどう見ても美しい凰ではないか』

 

いや器用に腰に翼を追ってふんぞり返ながらドヤ顔されても判らんがな。

 

「取り敢えず、王様のところに行くか」

 

「友達感覚に言うけど簡単に会えるわけ?」

 

「友達になったから会えるんだよ。立場の偉い人から報酬は何がいいのかと言われたら、友達になりたいと言うのが正解だ。その後王様から頼み事と言うクエストを受けられるようになるんだからな」

 

「意外と世渡り上手だ」

 

「一番強くなるために戦うだけがゲームの楽しみじゃないぜ攻略組さんよ」

 

「前線まで進んでいないプレイヤーの言葉の重みは違うねぇ~」

 

こうして鳳凰を仲間? に加えた俺達はドワーフの城へと飛んで向かった。門番しているドワーフ達には顔パスで通してもらい、城の中にいる衛兵に俺が来た事、会えないかと伝えてもらい少しして謁見を許されたので開かれる王座の間の扉を潜って久しぶりに王様と会うことが出来た。

 

「久しぶり王様」

 

「久しいな勇者殿。今日は何用で来たのだ? 兄者なら工房に籠ってばかりでこちらの仕事を手伝いもせんのだよ」

 

「神匠に至ったドワーフは忙しいんじゃないのか? まぁ、今日は王様に教えてほしいことがあるんだ」

 

オリハルコンをアイテムボックスから取り出して見せる。

 

「このオリハルコンで魔法使いの装備は創れるのか?」

 

「んなっ、オ、オリハルコンだとぉおおおおおおおおおおお!?」

 

王座から勢いよく飛び出してくるドワーフ王の速度に負けない別の方から小さな影が迫って来た。二人同時に怖い目でオリハルコンを凝視する。フレデリカはドン引きだ。

 

「おお・・・・・っ。これが伝説の鉱石っ。融通の利かんエルフ達の秘宝が目の前にっ!!」

 

「・・・・・素晴らしい。これなら生涯最高の作品が出来上がる」

 

ヘパーイストスの言う通りになり兼ねんな。オリハルコンの魅力凄すぎる。

 

「俺の質問の答えは?」

 

「むっ、ドワーフは木材も扱うが武器とは金属と鉱物が主流だ。魔法使いの武器とは杖と魔法石。魔法に必要な魔力を効率よく循環させて暴発せんように作られているのだ。魔力との相性が抜群の鉱物、ミスリルのような物であれば話は変わるがな」

 

「魔法の書的な物は?」

 

「ああいうのは、俺達ドワーフからすれば見よう見まねで子供でも使えるよう本に記録された知識だ」

 

大体あっているな。そしてだからこそ本当に希少価値がある魔導書は高いと聞く。

 

「魔法使いがオリハルコンどころか鉱物の装備を欲しがる、なんて話は聞いたこともない。杖と魔法石が欲するなら同じ魔法使いと錬金術師の者に尋ねるべきだ。火と鉄を司るドワーフができる領分の話ではない」

 

と語るドワーフ王は毛むくじゃらな顎髭を擦る仕草をした。

 

「確か、錬金術しか作られぬ賢者の石というものはオリハルコンを素材に使うとか聞かぬかったか兄者」

 

「・・・・・ああ、どこかで聞いた。その昔に始原の火山からオリハルコンやヒヒイロカネのような鉱物が多く発掘された黄金時代の話を信じ、この国に訪れる人間は数世紀も後を絶たなかったな」

 

「親父殿の親父殿、そのまた親父殿もオリハルコンを欲しがるあまりに、火山のありとあらゆる場所を掘り起こしたとも酒の肴に話しておったの。その中にはエルフも交じっていたとか」

 

中々興味がある話をするドワーフ達の話を成長し続ける。クエストでも発生するかな?

 

「地龍もやっぱりオリハルコンを食べるのか?」

 

「好物を喰らう龍だからな。掘り起こしていない所まで地龍が探し喰らい尽くされたのやもしれん。おのれ、モグラもどきめっ・・・・・!!」

 

「・・・・・許すまじ」

 

ドワーフと地龍の犬猿の仲を見せられた気がする。

 

「地龍か・・・テイムしたら鉱石発見にかなり役立ちそうだ」

 

「むっ、その発想はなかったな。だが、先の件で地龍を討伐できる武器の製作をドワーフ達が夢中になっておるからできん話だな。骨となってもその硬さは生前のままだからな。今では誰が地龍の骨を壊せるか切磋琢磨してるほど燃え上がっておるわい」

 

骨でも生前の硬さって・・・・・。

 

「地龍は数多の鉱石を喰って成長してんなら、骨そのものが鉱石の類なんじゃ???」

 

と素朴な疑問を口にしたら、ドワーフ王とユーミルがあらん限りに目を見開いて「その考えはなかった!!」と驚いた。

 

「・・・・・新種の鉱物の発見の可能性がある」

 

「灯台下暗しとはまさにこれだ。行くぞ兄者!!」

 

あっ、凄い勢いで出て行った。王が王城から離れてもいいのかねぇ。

 

『ふむ、地龍か。同じく鉱物を喰らう巨大なミミズとよく捕食し合っていたな』

 

不意にサイナの頭が気に入っているのか、微動だにしないで居座っている鳳凰が昔を思い出した風に吐露した。

 

「何そのモンスター」

 

『お互い鉱物を喰らって成長する者同士故、永く生きて成長したその身は鉱物を喰らう側として豪華な餌だ。その身体から発する鉱物の匂いに引き寄せら鉢合うことになればどちらかが喰らわれるまで戦いは止めん。死後、骨となっても喰らいに来るほどだ』

 

骨になっても喰らいに来る? おいそれって・・・・・。

 

「・・・・・嫌な予感してきた」

 

「うん、訊いてて私もそう思った」

 

ちょっとイズとセレーネも伝えておこうかなと思っていた時に―――城の中まで伝わる大きな地震が感じた。

 

『むっ、この揺れは・・・・・件のミミズが来たようだな。それも相当大きいぞ』

 

「「えっ!?」」

 

『もしくは、お前が持っているオリハルコンの匂いでも嗅ぎ付けて来たのかもな』

 

・・・・・やばい、それって俺のせいじゃん!?

 

「私もかもよハーデス。オリハルコン、持ってるから」

 

「だとしたら、ここにいちゃダメだな。火山ダンジョンに行くぞフレデリカ」

 

地龍の件に関わってる俺だから分かる。どこにでも地中から現れるなら城の真下から絶対に来る!!

フレデリカを抱えて【飛翔】で城から飛び出し、急いで火山へ向かう途中に知り合いの鍛冶師達に連絡する。

 

「イズ、セレーネ!!」

 

『え、どうしたのハーデス。そんなに慌てて』

 

「今すぐドワルティアに来てくれ!! 地龍の問題に続く問題が発生した!!」

 

『ど、どうしてっ!?』

 

「鉱物を喰らうモンスターがもう一種いたんだ。地龍の骨を喰らいにそのモンスターが現れる予兆が今起きてる!! あと、オリハルコンを持ってる俺達のせいかも」

 

『オリハルコンっ!?』

 

『待って、本当に持っているなら一目見させて!! 今すぐセレーネと一緒に行くから!!』

 

鍛冶師はどこまで行っても鍛冶師のようだ。珍しい鉱石に凄く食いついてきたぞ。

 

「何か、オリハルコンと訊いたら凄く気合入ってたね」

 

「鍛冶師だから」

 

「納得」

 

鉄火の鍛冶場を通り過ぎ、地龍の骨が視界に入った途端に地面から巨大な何かが大穴を開けて飛び出して来た。それは地龍の骨をも呑み込み、空中にいる俺達にまで迫って来る前に回避した。

 

「これが、鉱物を喰らうミミズってか」

 

「お、大きい・・・・・」

 

全長数十メートル。寸胴という言葉の概念を超えた横幅も数十メートルはある。体の表面は長年鉱物を喰らってきた証としてか光沢を発している。目と耳が見当たらない代わりに、ぐぱぁと開く凶悪な無数の牙を生え揃った口がこっちに向けて来る。

 

「本当にオリハルコンの匂いに嗅ぎ付けて来たのかよ」

 

「アイテムボックスの中にあるのにどうやってだろうね。それにあれ見てよ。所々採掘できるマークがあるよ」

 

地龍より多いな。さて、こいつを火山の方へ誘導しなくちゃな。オリハルコンを出してっと。

 

「ほらミミズ野郎。これが食べたいならこっちにこい」

 

シャァアアアアアアアアアアアアアッ!!

 

俺達=オリハルコンを狙いに襲い掛かる鉱物喰らいのミミズ。鉄火の鍛冶場と隣接してる火山ダンジョンに繋がる小さな洞窟へ飛び込んで出た瞬間に、潜った洞窟を更に大きく拡張してくるミミズ。

 

「フレデリカ、念のためにお前のオリハルコンを預からせてくれないか。意外と敏捷がある相手だ」

 

「私じゃあ簡単に追いつかれそうだね。そうしてもらうよ」

 

もう一つのオリハルコンをフレデリカから預かり、サイナに彼女を預けて離れてもらってもミミズは俺にだけ意識を向けているようで二人の存在を完全に無視している。

 

「サイナ! フレデリカのサポートをしながら攻撃してくれ!」

 

「了解しました」

 

「鳳凰の恩恵の力をこんなに早く使う時が来るなんてねー」

 

まったくだ。そんじゃあ、戦闘開始だ。

 

「「【金炎の衣】!」」

 

金色の炎のオーラが全身を包み込み、不壊のツルハシにも金炎が纏う。

 

「せっかくだ。前回できなかった採掘をお前でしてやるよ!!」

 

 

イズside

 

 

地龍に続く問題が発生したとハーデスから聞いた途端にセレーネと合流して急いでドワルティアへ転移門で向かった。鍛冶師の足じゃあ走っても遅いから機械の町で購入した浮遊機能のがある道具で空から速く、可能性として火山ダンジョンにいるかもしれないと思って飛んでいたら、鉄火の鍛冶場に大きな穴が開いていたことに気付いた。確かあそこって地龍の骨が置かれていたんじゃあ・・・・・? 地龍が掘って開けた穴より数倍大きい。そんな相手とハーデスが? ちょっとだけ心配して、火山ダンジョンに繋がる何故か大きくなってる洞窟へ向かい潜った先に―――。

 

「【咆哮】!! よしよしまだ動くなよ掘りたいところがまだたくさんあるから~の【咆哮】!!」

 

「・・・・・中々質のいい鉱石。もっと掘る」

 

「おうお前達っ!! お前達の鍛冶場を滅茶苦茶にしたこいつから代償として掘れるところからどんどん掘ってやれっ!! ドワーフの鍛冶場のクソ力を思い知らせてやるのだ!!」

 

『うおぉおおおおおおおおおおおおっ!!』

 

巨大で身体が細長いモンスターの動きを止めるハーデスとそれに群がってツルハシを片手に攻撃? をしているドワーフの人達。王様とユーミルさんまで交じってるこの光景は一体・・・・・。

 

「あ、来た来た」

 

「フレデリカちゃん?」

 

「2人も早く参加した方がいいよー。そろそろモンスターのHPが無くなりかけてるから」

 

何もせず腰を下ろしていた彼女が話しかけて来た。そうみたいだけど先に現状を教えてほしいかな。

 

「どうしてドワーフ達までいるの?」

 

「最初は私達だけ戦っていたんだけどさ、鍛冶場がめちゃくちゃにされたことに激怒したドワーフ達がやってきて、今ああしてハーデスが動きを止めて採掘させてるの」

 

採掘? あのモンスターの身体から採掘できるの? 地龍みたいに。

 

「掘って来る!!」

 

「あ、セレーネ待って!!」

 

不壊のツルハシを片手にドワーフ達と交じり掘ろうとする友人を追いかける。私も掘りたい!!

 

「あの、すみません。私達も参加していいですか?」

 

「おういいところに来たな嬢ちゃん達!! だがこの辺りは駄目だ。ミミズ野郎の身体の上に行ってこい!! そこは手付かずのままのところがまだあるはずだからなっ!!」

 

教えてくれたドワーフに感謝しながらまた道具で空飛び、ドワーフの人達がいるけどまだ誰も採掘されていないポイントに駆け付けて一心不乱に採掘を始めた。あれ・・・・・何しに来たんだっけ?

 

 

・・・・・。・・・・・。・・・・・。

 

・・・・・。・・・・・。

 

・・・・・。

 

 

「ふははは!! いやー久々に採掘を楽しめたぞ!! 感謝するぞ勇者よ」

 

「・・・・・質のいい鉱石の数々が手に入った」

 

城に持ち込まれた数々のカーゴの中に光沢を発する大量の鉱石が山積みにされていた。あのミミズから採掘できたのはこれだけの量ではなく、鉄火の鍛冶場で働くドワーフ達の懐にも両手では抱えきれない鉱石が確保され、鉱物喰らいのミミズを討伐した報酬として鍛冶師のドワーフ全員がほくほくと笑っていた。たまたま来ていたプレイヤーもほくほくだ。運がいい奴らだな。

 

「火山を掘るよりも実りがある鉱物系のモンスターを討伐した方が鉱物が手に入りやすいとは。今まで知りもしなかったわ。もしや地龍もあの方法でならば俺達だけで何とかなったかもしれんな兄者よ」

 

「・・・・・この者がいなければ倒しにくい」

 

「うむ、そうだな。いっそのこと、地龍と鉱物喰らいを敢えて誘い出して掘り倒す方法を前向きに考えてみるか。俺が兄者の代わりに王としているようになってから今まで一番の採掘量の記録だからな。それに見よこれを!!」

 

満面な笑みを浮かべる王様の手にはそこそこ大きいオリハルコンが握られていた。

 

「あのミミズめ。やはりどこかの地で眠るオリハルコンを喰らっていたわ。道理で硬すぎて掘りづらいと思えばこれを喰らっていたならば納得できる」

 

「まさか本当に食べていたのは驚きだったよ」

 

「ああ、これを手に入れる機会を巡らせてくれたお前たちには感謝しかない。ありがとう!!」

 

『ドワーフ王エレンとの友好度がMAXになりました。ドワルティアの全NPCとの友好度にボーナスが付きます。称号【ドワーフの心の友】を授与されました』

 

 

称号:ドワーフの心の友

 

効果:ドワルティアのドワーフ限定で友好度が最大になる。

 

 

「・・・・・」

 

次にユーミルが動き出す。

 

「・・・・・感謝する」

 

「・・・・・えっ」

 

 

 

『神匠の鉄の手袋』

 

【DEX+10】

 

【技術の結晶】

 

【破壊不能】

 

 

『神匠の黒い衣』

 

【DEX+10】

 

【STR+20】

 

【工房召喚】

 

【破壊不能】

 

 

『神匠の帯』

 

【DEX+10】

 

【STR+10】

 

【鍛冶神の恩恵】

 

【破壊不能】

 

 

 

【技術の継承】

 

スキルの付加を可能になる。

 

 

【工房召喚】

 

所有してる工房をあらゆる場所で使用可能になる

 

 

【鍛冶神の恩恵】

 

全ての生産の成功率が『大』になる

 

 

 

「ユーミル、これって」

 

「・・・・・期待している。常識を覆す鍛冶師としてな」

 

―――ちょっと待ってくれませんかね。どうして常識を覆す前提なのか詳しく。

 

その後、早速鍛冶に取り掛かるユーミルと今回の騒動の後始末に追われるドワーフ王エレンと別れた。城を後にするとイズから問われた。

 

「さっきから気になってたけど、その鶏は?」

 

『私は鶏ではない。鳳凰であるぞ』

 

「え、喋った。鳳凰・・・・・?」

 

「火山の奥底の空間で眠っていたところを起こしたんだ」

 

へぇ、と感嘆の息を吐く二人。

 

「あ、オリハルコン見せて?」

 

「はいよ。フレデリカのも返すわ」

 

「うん」

 

「わぁ、綺麗な鉱石だね。・・・・・でも、私達じゃ扱えないよね」

 

伝説、幻の鉱石みたいだから古匠以上の鍛冶師じゃないと駄目だろうか?

 

「イズのユニーク装備のスキルならできないか?」

 

「どうなんだろ? オリハルコンほどのレアな鉱石を使ったことないからわからないわ。そういえば、採掘できたあのモンスターを倒したから何か手に入った?」

 

「採掘した鉱石ぐらいだ。オリハルコンが手にはいるみたいだが、俺は採れなかったな」

 

ちょっと残念。手に入ったらヘパーイストスに渡そうかと思ったがな。

 

「イズとセレーネ。呼びつけて悪かったな」

 

「ううん。こっちもなんだか採掘しに来ただけみたいで役に立ったのかわからないから」

 

「本当ね。またラヴァ・ゴーレムみたいな戦いをするのかと思ったのに採掘イベントに参加しに来たような感じだったわ」

 

本当それな。まぁ、たまにはこういうこともあるんだろうな。

 

「そう言えばさ、結婚システムを解放したのってやっぱりハーデスだったり?」

 

その不意打ちはやめて欲しい。フレデリカと一緒に不自然に動きをしてしまったじゃないか。

 

「あ、そうなのね。誰と結婚したの?」

 

「リヴェリアだ。勇者限定の報酬を貰うことになったけど、同じアイテムを持ってる俺には長老がリヴェリアと結婚をする報酬に変えたんだ。こっちの意思関係なくな」

 

「ははは・・・・・。結婚して何か得なことあるのかな?」

 

「称号を得た俺だけかもしれないが、結婚したプレイヤーとNPCに2倍の経験値を共有することだ。後、一夫多妻制と同姓結婚が可能な」

 

「ちなみにその称号の名前は【英雄色を好む】だってさ」

 

「「・・・・・」」

 

おいこら、微妙な雰囲気が場になってしまったじゃないか!!

 

「ねぇ、勇者じゃないそっちだと結婚システムってどんな感じ?」

 

「えっと、特になんてことはないわ。結婚を同意した相手の名前を記入するだけで出来るみたいよ」

 

「ハーデスと違って私達はステータスが1.5倍に増えるだけなんだよ」

 

これで結婚システムの違いが把握できたな。残るはアレなんだが・・・・・二人に試させたくないから言わないでおこう。

 

「なるほどねぇ。ハーデス、結婚するのに指輪って必要?」

 

「いや必要ないだろ」

 

「なら、どうしてハーデスと同じ指輪をフレデリカちゃんも嵌めてるの? それに左手の薬指に」

 

うっ・・・・・やっぱり訊いてくるか。フレデリカも顔を赤くなっちゃったから察しついただろうな。

 

「まさか・・・・・二人とも結婚したの?」

 

「「・・・・・検証目的でつい」」

 

「それで、何もなかったのよね?」

 

そこまで食いつかないでくれないかなっ!? フレデリカが余計に耳まで顔を真っ赤にして、横に反らすから何かあったと思われるぅっ!!

 

「ハーデス、言いなさい」

 

ドスの利いた声で有無も言わさないイズ。イッチョウのことで言ったばかりにこれだもんなぁ・・・・・。

 

「・・・・・フレデリカ、教えていいのかこれ」

 

「絶対にダメ。恥ずかしすぎて死んじゃう。でも、万が一ってこともあるから・・・・・ううう」

 

結局、俺が話すことになった。

 

「俺もフレデリカも、ろくに説明も読まず24時間も性行為しないとログアウトも出来ない絶対に出られない場所に飛ばされました。後は察してくれ」

 

「「・・・・・」」

 

フレデリカを後ろから抱き締めながらそう言うと、付け加える風にフレデリカも言い出す。

 

「い、言っておくけどゲームに戻るために仕方なく同意の上でシたんだからねっ。リアルでしたわけじゃないし、私もハーデスもこんなことになるなら結婚してなかったよ」

 

「軽率が仇になったがな。回りの奴らの言葉のままにやっちゃったし」

 

「ペインさん達が?」

 

「ドラグとドレッドだ。ペインは説明文を確認していたけど、気付かず性行為の同意を認証する行動をしていた俺達に教えてくれたんだが」

 

「もうその時は別の場所に移動されかけていた瞬間だったから、どうしようもなかったね」

 

以上の話しに二人は納得した様子でひとつ溜め息をこぼした。

 

「それって、二人が勇者だからなの? NPCとはその・・・・・シなかったの?」

 

「形は違うけど、フレデリカと・・・・・な」

 

「じゃ、じゃあ・・・・・普通のプレイヤー同士ならどうなるの?」

 

それこそこっちが知りたいと言い返す。

 

「蒼天が開発したゲームだ。同性愛ができるようにしてあると思うから二人で結婚してみたら?」

 

「それで、その、出来ちゃったならどうするのよっ」

 

「ううん、いきなりは出来ないよ」

 

フレデリカがYESとNOの文字が掛かれた羽が生えたハートの枕を出した。

 

「ハーデスもこれを持ってて、YES同士をくっつけたら別の場所に移動させられちゃうの。だがら片方が相手にNOを向けていれば大丈夫」

 

「この枕の意味が何なのか理解できなかったけど、二人はこれの意味がわかるか? リアルにもあるのか?」

 

俺も出して見せ付けると、どうやら二人は知っているご様子で朱に染まった。

 

「・・・・・それ、相手にエッチなことをしませんかってコミュニケーションみたいなのをする道具なのよ」

 

「「・・・・・」」

 

マジかぁ・・・・・。

 

「ということで、お願いできない? お二人で結婚システムを使ってみて」

 

「「イヤです」」

 

「だよねー」

 

ま、掲示板でも見ればわかるか? 後で見よう。



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神獣 その名は玄武

【唸れ結婚願望者!!】結婚システムについて語るスレ1【独身者カモン!!】

 

 

23:独身者

 

 

オレの時代がキタァー!

 

 

24:ヒカンシャ

 

 

キャラクター制作時はイケメンフェイスにできるから、それなりに活躍すると女性プレイヤーが話しかけてくれる!! 青春のバラ色をゲームの中で謳歌するんだ!!

 

 

25:モテをクン

 

ふふっ、困ったね。結婚するとステータスが1.5倍に増えるからとこのボクと結婚してほしいと群がってくるヨ。まるで美しい花の香りに引き寄せられる可憐な蝶たちのようだヨ。もちろん、全員OKしたさ

 

 

26:スーパーイケメン

 

 

好きです付き合ってくださいではなく、好きです結婚してくださいと言われた俺の気持ち・・・・・わかるぅ?

 

 

27:美画自賛

 

 

わかるぅ~!!! リアルが現実世界じゃない、ゲームが現実世界なんだ!!!

 

 

28:超美形軍曹

 

 

その通りであります!! この世界は我々のような男達の為にあるような理想郷!! 命尽きるその時まで私はイチャコラする所存でございます!!

 

 

29:貴族令嬢

 

 

逆ハーレムを目指していいオトコをゲットしてやるわぁ~!!

 

 

・・・・・・。・・・・・。・・・・・。

 

・・・・・・。・・・・・。

 

・・・・・・。

 

 

「くだらない。結婚願望者の集まりなのに欲望まみれじゃないか」

 

「身も蓋のないことを・・・・・」

 

「他の男性プレイヤーの人達が凄く喜んでいるのが伝わってくるね」

 

「それだけ願望があったんでしょうねぇ」

 

少し読んだだけで読む気が失せた。どうやら勇者じゃないプレイヤーもハーレム(逆も然り)ができるようだな。

 

「ゲームの醍醐味の一つとして顔を変えられるけどさ、現実世界に戻ったら溜息吐きそうだな」

 

「ハーデスはしてるの?」

 

「髪の色と目の色を変えて、ちょっとだけ身長を低くしただけ」

 

「へぇ、リアルのハーデスのままなんだ? 私もそうだけどね」

 

「現実世界で待ち合わせしたらすぐに見つけやすいね」

 

そうかもな。そしてお前等は絶対に驚くだろうと断言してやるよ。さて、幻獣の方は? そっちの掲示板のサイトを開いてみるか。

 

 

【レジェンドモンスター発見隊】 テイム可能なモンスターについて語るスレ1 【情報共有求ム】

 

 

79:オーバーキル

 

 

見つけたぁー!!

 

 

80:ロード・オブ・アポカリプス

 

え、どこで何を?

 

 

81:オーバーキル

 

 

北で身体に大蛇を巻き付けてるでっかい亀がふっつうに歩いてる!! 一歩進むだけで凄い地面が震動するぜ!!

 

 

82:センゴク先生

 

 

それって玄武じゃないか? 中国の四神でも四獣でも呼ばれてる。それで戦える相手?

 

 

83:オーバーキル

 

 

挑戦してみる俺。「資格がない者は失せろ。ワシ好みの輩でもない」と何故かフラレた。なお、そんなこと構わず挑んだフレが攻撃した瞬間に黒い水を吐かれて死に戻った

 

 

84:轟轟

 

 

資格が無いと戦ってくれないモンスター? また変わったモンスターだな

 

 

85:オーバーキル

 

 

めげずに資格とは何かと聞いたら「己より数倍、一人では敵わぬ強敵を倒した者を指す」と教えてくれた。これ、白銀さんとかペイン達、攻略組しか挑めないモンスターじゃないかと思われる

 

 

86:サッキン

 

 

ああ・・・・・レジェンドレイドモンスター級のモンスターを倒したプレイヤーってことか。そんなモンスターを倒したことが無いソロやパーティのプレイヤーじゃあそっぽ向かれても仕方ないわ

 

 

87:オーバーキル

 

 

なお質問した。俺だったらどんな相手が相応しいのかと。「そんなに戦いたいならば挑戦者を待ち続けている東の青龍、西の白虎のところにでも行けぃ」と言われた。さらに玄武の好みの輩は誰だと聞いたら「わしと張り合えるような堅牢で土と木と水、それに蛇を有する輩じゃ。竜でも構わん」と教えてくれる優しい一面を見せてくれた。

 

 

88:北斗の大胸筋

 

 

幻獣にも好みの相手がいるのか

 

 

89:タッキュン

 

 

取り敢えずレジェンドモンスターと戦う必要な要素が判ったな。

 

※ソロまたはパーティでベヒモスとジズとリヴァイアサン、それに準じるモンスターの討伐の戦績を得ているプレイヤー。

 

※幻獣が求めるステータスとスキルを持つプレイヤー

 

こんなところだろ。それにテイムが可能だって運営の放送が流れたからこの条件をクリアしたプレイヤーが初めて戦えるんだろう。もしかするとテイマーとサモナーも深く関わりがありそうだ

 

 

90:カッツォ~!!

 

 

玄武は重戦士の大盾使いでテイマー? ・・・・・一人心当たりがあるんだが

 

 

91:我が名はフライパン

 

 

奇遇だな。俺もだ。ちょっと北に行ってみよう。その人物が玄武と接触した瞬間を見てみたい

 

 

92:アンパンチ

 

 

この掲示板を見ていたら来てくれるだろうか?

 

 

93:オーバーキル

 

 

すまねぇ・・・・お詫び申し上げることが起きてしまった。玄武の好みのプレイヤーを知ってるって言ったらすごく興味を持っちゃって、案内する羽目になった。

 

 

94:轟轟

 

 

ちょっ!? まさか連れてくる気じゃないだろうな!!?

 

 

93:オーバーキル

 

 

大盾使いでテイマーのとあるプレイヤーさん。助けて(ノД`)・゜・。一先ず始まりの町まで戻ってみるからフィールドで待っていてくれると助かります!!

 

 

94:死神ハーデス

 

 

冥府から参上。一先ず言わせてくれ。―――何やってんのお前ぇえええええええええっ!!!

 

 

95:ロード・オブ・アポカリプス

 

 

いやいや、だからそのプレイヤーがここを見てないと

 

 

96:センゴク先生

 

 

って、見ていたぁあああああああああ!!

 

 

97:オーバーキル

 

 

ヘルプ、助けて!!

 

 

98:死神ハーデス

 

 

直ぐにはいけない。ドワルティアにいるし何より北の町以上、先に進んでないから一々フィールドボスを倒さないといけない

 

 

99:我が名はフライパン

 

 

うっそでしょ!? それでそんなに強いって有り得ねぇっ!!

 

 

100:タッキュン

 

 

俺、前線組のプレイヤーなんだが本気で言ってる?

 

 

101:死神ハーデス

 

 

ほぼ先に向かわずフィールドボスとダンジョンボス、レジェンドモンスターしかレベル上げてないからな。ついさっきもラヴァ・ゴーレムと鉱石喰らいって巨大ミミズのモンスターを倒して来たからレベル54になった

 

 

102:タッキュン

 

 

攻略組の俺等よりも強いじゃぁん!!!

 

 

103:オーバーキル

 

 

あのー、玄武が俺を甲羅の上に乗せて亀とは思えないぐらい足の速さで来たから南向してるんで待っててくれますかねぇっ!?

 

 

104:死神ハーデス

 

 

死神の借りは高いことを覚えておけ。代償はお前の命だ

 

 

105:北斗の大胸筋

 

 

骨は埋めてやる。安心して逝け

 

 

 

「昨日のイベントが終わったばかりだというのに、次から次へと問題が起こるなちくしょう」

 

「でも、いつかは会うんだからいいんじゃない?」

 

「早く始まりの町に戻って北に向かわないと」

 

「頑張って?」

 

そんなこんなで、玄武と早々に戦わなくならなくなった俺は色々省略して第3エリアの北の町より先にある第4エリアのフィールドに向かおうとしたが足を停めた。とんぼ返りしリヴェリアやオルト達を全員引き連れ、始まりの町中で獣牙の森へ行く途中に思い出した。

 

「第3エリアの先は二種類のフィールドがあるんだよな」

 

「あ、どっちからくるんだろ」

 

『ならば、私が案内してやろう』

 

本当についてきた方法がサイナの頭に乗ったままそう言う。出来るのなら頼もう。そんな軽い気持ちでお願いすると、鳳凰が空を飛び突如にして莫大な金炎に包まれると鶏の姿とかけ離れた大きな炎の鳥になった。凄い、素直に格好いいと思える。周囲のプレイヤーも鳳凰の姿に愕然と目を見張っていた。

 

「そんな事できるの!?」

 

『この姿こそが真なる姿なのだ』

 

「出来れば初めて出会った時にその姿で会いたかったぞ」

 

『体が大きいと何かと不便なのだ』

 

そう理由なら納得できる。鳳凰から乗れと催促された俺達は暖かくてふわふわな羽毛の上に乗り、鳳凰が大きな翼を広げて空を飛んで行った。

 

「ねぇ、ハーデス。私、鳳凰が欲しくなったかも」

 

「じゃあ番を探さないとな」

 

「そうだね。あー、ハーデスが第3エリアから先に進まない理由がわかったかも」

 

「はは、そうだろう? せっかくフルダイブできるゲームだ。心の底から楽しもう」

 

そして鳳凰の速度はすんごく速い。辿り着くまで卵を温めてようとする俺にイズが見つめて来る。

 

「まだ孵化していなかったのね。何が出るのか楽しみね」

 

「そうだなぁ。またモフモフがいいな」

 

「切実だね」

 

「ふふ」

 

これから玄武と戦うかもしれないってのに穏やかな雰囲気を醸し出す俺達だった。

 

―――それからしばらくして。

 

『見つけたぞ資格ある者よ』

 

鳳凰がそう言い出した。下を見ようとする暇もなく降下する鳳凰が地面に近づくにつれて俺達がいる空まで鈍重な音が轟いて聞こえてくるようになった。その音もやがて静かになった頃には鳳凰が地上に降り立った。

 

『久しいな玄武』

 

『ほう凰か。ワシらを起こしたのは何時も資格ある者にスルーされおったお前とは。鳳の奴もついに見つけられぬようになったか。分かりやすいところで資格ある者を待ち構えておるというのに』

 

『どこにいるか教えて戴いても?』

 

『まぁ待て待て。わざわざワシに会いに来るという事はお前の背中にいる者を引き合わせに来たのだろう。ワシにも紹介させろ』

 

スルスルと鳳凰の背中から下りる俺達は玄武の前に出てきた。うわ、デカいな。鳳凰より山の如く大きいぞ。というか、甲羅どころか山そのものを背負っているし山に巨大過ぎる大蛇が巻き付いているじゃんか。山を背負っている亀、玄武が大きい眼でじっとこっちを見つめて来る。

 

『ほうほう・・・・・ふむふむ・・・・・。今まで見て来た資格ある者達と比べて今回はドストライクな好みの相手が現れたか。うむうむ、申し分ないぞぉ。文句もつけられん堅牢と土と木と水、それにフェンリルまで味方につけておるとは。何時だったかフェンリルを従えた資格ある者を思い出すのぉ。そっちの小娘も資格ある者だな? 朱雀であったら興味を抱くかもしれんわぃ。会ってみるがよい』

 

『ならばお前の力を与える資格ある者として合格なのだな?』

 

『当然だ。故に少しばかりワシと遊戯を付き合ってもらう。恩恵のことはそれからじゃ』

 

「遊戯の内容は?」

 

『くははっ!!! お前のような資格ある者は初めてだからの。青龍や白虎のように戦ってみたくなった。―――年甲斐もなくお前と闘争をしたいと血が騒ぎだしてしもうたわ!!!』

 

ぐっと前脚を力んだ直後に跳ね上がるように地面から離れ、後ろ脚だけで立つ玄武の姿に瞳が凍結した。次に何を仕出かすか悟ってしまったからだ。

 

「イズとセレーネ!! 鳳凰の背中に乗って逃げろ!! 地面が割れるぞ!!」

 

「「えっ!?」」

 

『気付いたか、しかし遅い!』

 

まるで隕石が降ってきた錯覚を彷彿させる二本の前脚が、鳳凰が足で二人を掴んで宙に避難した瞬間に玄武が激しく地面を踏み抜いた。大規模な広範囲に広がる地面の沈没。その衝撃と余波は遠くまで轟く勢いで届き、プレイヤーやモンスター達も巻き込まれたかもしれない。

 

「リヴェリア!」

 

「大丈夫です!!」

 

樹木魔法で地面から根っこを生やし、オルト達の足場と防壁として守ってくれた。彼女の存在に玄武は窘める言葉で話しかけた。

 

『エルフよ。ワシの楽しみを邪魔するではないぞ』

 

「いいえ、遊戯のつもりでも私の夫に手を出すなら妻として共に戦わせていただきます」

 

『資格ある者の番か。その意気やよし!! ならば共々ワシの遊戯に付き合ってもらう!!』

 

「だったら私も交ざらせてもらうよー!!」

 

フレデリカも杖を構える姿に玄武は楽し気に目をニヤリと細めた。

 

『構わぬ。さぁ、この程度で怖気付く者達ではないだろう? 非力な精霊達も遊戯に参加する気のようだ。ワシを楽しませてもらおうかの!!』

 

・・・・・。・・・・・。・・・・・。

 

・・・・・。・・・・・。

 

・・・・・。

 

 

「【地異滅裂】!!」

 

前脚で地面を踏みフィールドに大規模な地割れを起こす玄武。地面の隙間に落ちれば死に戻りは免れないだろう。扇状に崩壊する地面が完全に無くなる前に崩れ落ちる足場の地面に飛び移って接近していく。フェルとミーニィにはそれぞれメリープとドリモを乗せて一緒に玄武へ向かっている。サイナは空中から大蛇の牽制をしてもらっているところだ。

 

『並大抵の者はこの一撃で沈むが、やはり資格ある者のだけ通用せんか。ならば次じゃな』

 

また玄武は今度は地面から飛び出る巨大な蔓を操って攻撃してきた。

 

「【金炎の衣】!」

 

『む、鳳凰の力か! だが、その程度の力でワシを倒せんぞ』

 

山そのものを相手にするようなもんだから当然だろうな。だが、それでもいい。迫って来る蔓を回避、その上に乗って駆け走る。次々と蔓が襲ってくるが下に回り回避しながら円を描きつつ前へ進む。

 

「【毒竜(ヒドラ)】!」

 

毒攻撃+炎のエンチャントを野太い亀の足に放った。でも蛇が吐く黒い膨大な水とぶつかって相殺された。

 

『毒と火の合わせ業か。過去の資格ある者達でも見ない新鮮な。だがしかし、蚊に刺されたような感じもせぬぞ?』

 

「山を相手にしているようなものだから当然だろうが」

 

『その通りだ。ワシを、自然そのものだと思い掛かってくるがよい』

 

「そうさせてもらう【大竜巻】!」

 

対象を閉じ込めて持続ダメージを与えるスキル。それに炎のエンチャントが付加されば火災旋風そのものになる!

 

『ぬおっ!?』

 

「自然には自然の攻撃が効くだろう?」

 

『くはははっ!! やりおるわぃ。ワシも負けられんのぅ!!』

 

火災旋風を持ち上げるが如く地面が高く隆起しだした。地面の壁に穴を開けて悠々と出てくる玄武に不敵な笑みをこぼす俺だった。

 

「山相手と言うか、大地そのものの間違いじゃないか」

 

『言えておるのぉ。ならば諦めるか?』

 

「いーや、全力で行かせてもらう」

 

『なれば行動で示してみよ!』

 

もちろんだ。それに相手は俺だけじゃないぞ。

 

「【多重炎弾】」

 

空から数多の火炎弾が大蛇と山に降り注ぐ。火魔法を放つ巨大化したミーニィの背中に乗っているフレデリカが地道に攻撃を始めた。

 

「全く対して効いてないってジズみたいな相手をしている気分だよ。魔法の火力の足りなさに痛感されちゃってさー」

 

『ジズ。おお、あの小うるさい鳥か。そうかそうか。あの鳥めを倒したのじゃな。だが、それだけでは物足りぬ。せめて我が物顔で闊歩しておった巨獣を倒した力でないと』

 

「メリープ、【発毛】! 【羊雲】! 【雷雲】! 【稲妻】!」

 

「メェー!」

 

大きな羊毛と化して空高く浮くメリープが羊雲を形成、雷雲として玄武に雷と俺が放つ稲妻が降り注ぐ。

 

『雷雲を起こす奇妙な羊は生まれて初めて見たぞ!! だがしかし、ワシには通用せん。【亀覇滅波】ッ!!』

 

「だろうな。だがお前は生物だ。【古代魚(シーラカンス)】!」

 

巨大な口から光の砲撃を放ってくるのを躱しながら、古代魚を彷彿させる魚を召喚して特大の水鉄砲を玄武の顏や背中の蛇に浴びせる。これも通用しないだろうが電気と水の愛称は抜群なものでな。

 

『ぬおぉおおおおおおおおおっ!?』

 

「体の中まで痺れを感じやすくなっただろ?」

 

『ぬぅ、やりおる・・・・・麻痺など初めての経験じゃ』

 

水は電気を通しやすいってな。

 

「全員、玄武から離れろ! 【大嵐】! 【アルマゲドン】!」

 

この場に突然発生する巨大な嵐が玄武を襲う。そこへ空から赤々と巨大な隕石が落ちてきて玄武の背中に直撃する。

 

『ぐおおおおおおおおおおおおおおっ!?』

 

「はっはぁー! どうだこれでも蚊に刺された感じなんてしないとは言わせないぞ!! 俺の最大の技だからちったぁ効くだろう!!」

 

かなりのダメージを与えた感じは皆無だが、衝撃ぐらいは無視しないでほしいものだ。俯いていた玄武は呟いた。

 

『ああ・・・・・お前の言う通り今のは腰にクる衝撃だった。ならばワシもそれ相応のお見舞いをしてやらんとなぁ』

 

亀の腰ってどの辺りなんだっけ? とどうでもいいことを考えていたら地面が激しく揺れ出した。その中で玄武は静かに発した。

 

『―――【フィールド・ダウン】【天変地異・海】』

 

それは玄武以外のこのフィールドの地面を全て奈落の底へと沈める技であることを俺が下に、玄武が上に移動する様子を見て数秒後に気付いた。

 

「ミーニィ!!」

 

『グオオオオオオオオオッ!!』

 

俺とサイナ以外空を飛べないフェル達を回収しろと言う思いを実行してくれる。【武装展開】をして空へ難を逃れた。

 

『やはり落ちぬか。しかしそれも予想の範囲。まだワシの攻撃は終わっておらんのに終わってしまっては面白味もない。これを乗り越えてくれたことに嬉しく思うぞ』

 

「なに―――」

 

【フィールド・ダウン】で無くなった地面から水音が聞こえてくる。思わず下へ視線を落とすと、暗い奈落の底から・・・・・大地の変わりだとばかりに黒い水が溢れ出て来た。もはやこのフィールドは黒い海と化したようなものだ。それにそれだけでなく・・・・・寒い、気温が下がってきた? あ、いや。ステータスが下がってるっ!? 装備で補ってる数値も!?

 

『玄武!! そこまでする必要はなかった筈!! この世界の生物の住処を一部とはいえ塗り替えるなど度が過ぎる!!』

 

『黄龍か麒麟の奴らめに後で元に戻してもらえば問題なかろうて。それに今のワシは最高にこの戦いを楽しいと感じているんじゃ。永く永く生きてきた中で得られなかったこれを堪能せず放棄などできん話じゃわ』

 

『耄碌ジジイめ! 死神ハーデス、玄武は【冬将軍】という技を発動している』

 

「【冬将軍】?」

 

「今この場は海に変えられているが、本来ならば時間の経過とともにこの場は大量に降雪し、お前達の力を下げ続ける玄武の力だ。そうなる前に短期決戦をしなくてはならない」

 

マジで!? 最終的にVITも0になるってことか!!

 

『ワシの主な力は水と冬。ちょいちょい土と木を使ってるが、黄龍と青龍からちと力を貸してもらっておるからだ。逆にワシの力も青龍等に貸し与えておる。よく覚えておくがよい』

 

土と木は玄武の本来の力じゃないのかよ!! って、そんなこと言ってる場合じゃないな!!

 

「ハーデス、どうするの~!」

 

「あなた・・・・・」

 

フレデリカとリヴェリアが寒そうな顔で催促してくる。玄武を注視して考え込む・・・・・。

 

 

ドクン。

 

 

何か力強い脈が打ったような鼓動が聞えた。でも気のせいだろうと思って玄武へ話しかけた。

 

 

「・・・・・。・・・・・。・・・・・玄武、質問いいか?」

 

『言ってみよ』

 

「お前って泳げるのか?」

 

『・・・・・』

 

水掻きがある亀は泳げるが地上で生きる亀は泳げない。そして玄武の足は水かきがなく山を背負う重量の身体を支える強靭で頑丈な足だ。もし水中戦が出来るなら、海の中なら【冬将軍】の効果は受け付けないだろうから誘いたいところ。だが、もしもの話がある。俺の中での予想はどうやら・・・・・的中のようだなぁ。

 

「へぇ・・・・・自ら窮地に立たせ背水の陣をするとは大した奴だなぁ」

 

『な、何を言ってる? ワシはまだ負けてもおらぬし押されてもいないぞ』

 

「ああ、そうだよな。でもさぁ、泳げないのにわざわざここのフィールドを海にしちゃうなんて大丈夫なのかなって思うわけよ」

 

ニヤァ、と笑みを浮かべる俺を見てどうしてだか玄武は焦燥の色を浮かべだした。

 

『何を考えている?』

 

「さっきの規模の土魔法はもう使えないし、巨大な蔓を操る為に地面から出さないといけないから、唯一の足場を自分で破壊する事をするとはちょっと思えないなと」

 

『ワシを追い詰めたと思っておるならそれは考え違いだ。ワシの攻撃の手段はこの黒水そのもの!』

 

水が意思を持っているかのよう天に衝く勢いで昇り、形を竜に形成した。

 

『このようにいくらでもお前達を追い詰めることが―――』

 

「逆に言えばそれしかできないだろ? フィールドを海に変えず雪景色にすれば戦いも変わっていただろうに。玄武、お前の負けだ」

 

『口では何とでも言えるわ! ワシの攻撃を耐えられまい!』

 

いーや、耐える必要もない。海中へ飛び込めば全ての攻撃は通らないだろうからさ。

 

 

フレデリカside

 

 

ハーデスが黒い海に飛び込んだ。玄武の攻撃を躱すには海中しかないのはわかるけど、それで玄武をどうこうできるのかわからない。

 

『浅知恵な。資格ある者とはいえ長く水の中に入られる筈がなかろう。それ以前にこの水そのものがワシの意のままに操れることを忘れたか? 水中でもワシは攻撃できるぞ!』

 

玄武が残した足場を囲む巨大な渦巻きが複数も発生して、それのどこかにハーデスを巻き込もうとするのがわかる。水泳や潜水、水中での活動が出来るスキルはあるけどハーデスは一体どうする気?

 

『・・・・・む?』

 

ボコリ、と音が聞こえた。それは気のせいではなく段々そんな音が立て続けに増えて、玄武の周りの水から湯気が出てきた。何で湯気・・・・・あっ。私はハーデスが水中で何をしているのか何となく察した時、黒い水が赤く見えてきて・・・・・。

 

「海底火山は知ってるぅ~?」

 

『ぬおおおおおおおおっ!?』

 

ラヴァ・ゴーレムの中にいるハーデスが顔を出して玄武の前脚を溶岩の手で掴んだ。その光景はゾッとするもので一種のホラーみたいだった。ハーデスはラヴァ・ゴーレムの状態で玄武の身体を攀じ登ろうと這い上がろうとする。自分の足場以外無くした玄武は本当に泳げないみたいで、足を振るうだけだった。

 

『は、離れろ! 離れんか!!』

 

黒水の竜をハーデスにぶつける。マグマは水と冷気に弱くて固まってしまうけど直ぐではない。玄武の首に溶岩の手が掴んだ。

 

「動くな」

 

『っ!?』

 

「よぅし、お前ら攻撃をしろ! こいつは身動きできないぞ!」

 

そう叫ぶハーデスの後に、ミーニィが玄武の背中に近づいて私とフェンリルを落とし、蛇に向かって攻撃した。ハーデスよりも貢献土が低いのは承知だけど、私も見ているだけじゃないよ! あ、鳳凰も近づいてきてノーム達を下ろした。あの子達も攻撃に参加するのか蛇に向かって突撃していく。鍛冶師のプレイヤーの二人も流れでこうげきするみたいだね。

 

『ぐぅっ、小癪なっ!!』

 

「だから動くなって、決着ついてるんだからよ。勿論俺の勝ちで」

 

『何を言うか! まだワシは負けておらぬ!!』

 

「このままお前の口の中に入ろうとしてもか? ああ、口を堅く閉じてもこのままお前の顔に抱き着いて息を止めさせるぞ」

 

『―――っ!?』

 

溶岩の手で玄武の口を開けたまま固定し、本当にその中に入ろうと溶岩の頭を突っ込もうとするハーデスにさすがの玄武も、いやいやと首を激しく横に振る。

 

「それじゃ、お前の中でゆっくりと食べてやるよ。ベヒモス同様に生きたまま喰われる苦痛を味わわせてやる」

 

その一言で、恐怖を覚えた幻獣の目の端から大きな雫が溢れ出した。

 

 

ドクンッ!!

 

・・・・・ドクン? え、なに今の音?

 

 

―――???

 

 

「魔王様、ひとつお聞きしても。以前友好の証として勇者に渡した絶滅危惧種の魔獣の卵。あれを渡しても宝の持ち腐れではないのでは?」

 

「普通の勇者なら一生孵化すらできず朽ちるだけだろう。孵化の条件もこれもまた特殊過ぎる故に繁殖がままならなかった。お前も知っていよう」

 

「ええ、そのため私達のような存在が必要不可欠だった彼の魔獣の長の方から、こちらの傘下に入る条件でも受け入れることを厭わないぐらい切羽詰まって懇願されるほどに。種の存続の為に必要な孵化の条件。それは―――」

 

「恐怖。それも己の命の危険を心から感じた時の悪感情。数と恐怖の質が高いほどに卵はそれを糧にし孵化するという難儀な種族だな」

 

「彼の種族もそれ故に絶滅危惧種となってしまわれたのですな」

 

「恐怖のあまりに冥界に住む魔獣共は、奴らから発する気配を少しでも感じるとすぐさま逃げてしまうから種の存続が危うくなってしまった。もはやいわば恐怖の大魔王よ」

 

「あの勇者にピッタリと言うわけですか。勇者でありながら数多の人間を死の一歩手前まで苦痛と絶望を与え、喜々として拷問をするあの姿は、不覚にも私は心躍りました」

 

「エルフの宝を守る大義名分があったにも拘らず、その結果が【血塗れた残虐の勇者】として名が広がってしまったあの勇者は不憫の一言。そうだ、人間界で居心地がなくなったら冥界で囲ってあげよう」

 

「名案です魔王様。ならば、例の卵の孵化に成功した暁に冥界に招待しましょう」

 

「うむ、それも名案だ。戦友として我がホームの素晴らしさを存分に語ってみせよう」

 

 

・・・・・。・・・・・。・・・・・。

 

・・・・・。・・・・。

 

・・・・・。

 

 

ドクンッ!!

 

 

『―――ま、待てくれぇっ!!! こ、降参じゃ。ワシの負けを認めるからそれだけは止めてくれぇえええっ!!』

 

・・・・・これはしょうがない。体の中から食べられる恐怖は絶対に感じたくない。幻獣を泣かせたプレイヤーは後にも先にもハーデスだけだと私は断言するよ。ちょっとそう同情した矢先にだった。ハーデスから黒い何かが飛び出して玄武の頭を丸のみにした。え、なに!? 

 

「鳳凰、今の何!?」

 

『冥界の魔獣の仕業だろう。資格ある者がまさか魔獣をも抱擁していたとは信じがたい』

 

魔獣って、もしかして黒い卵が孵化したの? 鳳凰に頼んでハーデスの傍に連れて行ってもらうと、二本の角と紋様状の羽を生やした金と蒼の眼、白銀の毛並みに漆黒の紋様が浮かんでる二股の尾の猫がいた。あ、普通に可愛い。

 

『ご主人様、もっと食べたいにゃ。生れたてでおいらはお腹空いてるにゃ』

 

「さっきみたいなのでか? 遠慮なく食い散らかせ。あ、玄武に攻撃しているのは俺の仲間だから手を出すなよ」

 

『ニャハハハ~!! 食べごたえがある亀にゃん!!』

 

『魔獣だとっ!? ぐわああああああああああ!!』

 

猫の顏みたいな禍々しい光を放って玄武の顔を呑み込んだ。直接的なダメージはないみたいだけど何だか玄武が弱弱しくなった気がする。

 

「玄武はどうしたの?」

 

『主な力を喰われたのだ。玄武の強みの堅牢の力と体力が一気に消耗したのが感じ取れる』

 

それってステータスが奪われてるってこと? 

 

 

『そこまでだ』

 

 

厳かな声が突然耳の中に入って来た。

 

 

『資格ある者の勝利、玄武の敗北。確と見届けさせてもらった』

 

『全くここまですることもなかったでしょうに』

 

『我々の手間を掛けさせるな亀よ』

 

三つの声がどこから聞こえてきて、黒い水のフィールドが光り輝き玄武が破壊する前のフィールドに戻った。復活した地面に玄武はその場で崩れ落ち、ハーデスはスキルを解いて上に向いた。私達も見上げると宙に浮いているモンスターが三体いた。

 

黄金のように綺麗で胴体が長い竜

 

もう一体も同じ身体だけどこっちは青い竜

 

見た目は鹿に似て大きく背丈は高く、顔は龍に似て身体に鱗がある不思議なモンスター

 

『おお、黄龍と青龍、それに麒麟』

 

『久しいな凰。今回はお前が資格ある者の出現の合図を放ったか』

 

『いつも鳳なのにな。こういう時もあるという事か』

 

『新鮮で不思議な感じですね』

 

黄龍、青龍、麒麟!! まさか幻獣種?

 

「・・・・・神獣か?」

 

『ええ、下界の者達は私達をそう呼称しております』

 

『今回は事情があって参った。本来の持ち場から離れることはないがな』

 

事情って? なんだか青龍が呆れているような?

 

『玄武、度が過ぎましたよ。何も自分が受け持つ場の一部を破壊するなど神獣として言語道断です。私達の力は下界にとって天変地異そのものなんですよ。だというのにあなたという亀は―――』

 

『麒麟。せ、説教は今度にしてくれぇ・・・・・精神的に疲弊しているワシを鞭打つでない・・・・・』

 

『いいえダメです。同情するに値しないほどやり過ぎたのですから二度としないようしっかりと説教します!!』

 

なんだか、お説教を始めたけど神獣って簡単に見つからないモンスターじゃなかったんだ。

 

「一応、俺達は認められた?」

 

『出さなくてもいい玄武の全力を引き出させ、勝利を掴み取った勇敢なる行動に見事の称賛の言葉を称えるに値する。我らの全力は玄武でもしてみせたようにその場を天変地異にし、生命の過剰な殺生をしてしまう故に、数々の資格ある者達とは力を抑えて戦わねばならない決まりがあった。なので・・・・・』

 

説教する麒麟と説教されてる玄武に向く黄龍。体の大きさが違うのに

 

『ああして説教されても仕方が無いという。後で決まりを破った玄武にはそれなりの罰を与えねばならない』

 

「なら、その迷惑を被った俺達に玄武から何かしてもらえないか?」

 

『ふむ、見たところお前は私達を従える者のようだな。かつての友と同じくその素質も芽生えつつあるか』

 

この話の流れからして玄武を使役しちゃうのかなハーデス。

 

『だが、まだ私達神獣を従わせるには程遠い。精進せよ』

 

「そんな事だろうと思ったよ。それで、さっきの話の件は?」

 

『玄武自身から何かを望むというならば、四神同士の話し合いを経て決めさせてもらいたい。後日お前の元に現れに来る。そして亀を勝った暁にこれを授けよう』

 

『神獣の一角「玄武」を撃破しました死神ハーデス、フレデリカ、イズ、セレーネに【勇者の光輝(オーラ)】を獲得しました』

 

 

『称号【神獣に認められし者】を授与されました』

 

 

【神獣に認められし者】

 

効果:神獣と幻獣のモンスターとの遭遇率上昇する。会話時、友好度にボーナス。

 

 

『勇者の光輝(オーラ)』緑空欄空欄空欄

 

ステータス20パーセント上昇。

 

 

わ、私も貰っちゃった! レベルもかなり上がった。対して貢献してないのに・・・・・勇者の光輝(オーラ)って? この空欄はなんだろ。

 

「おー、こんなにか?」

 

『働きに見合う私からの授けだ。いつか必ず私のところに来るがいい。いつまでも待っている。さらばだ』

 

『お前なら今すぐにでも会いに来そうだ。楽しみにしているぞ』

 

『さようなら』

 

黄龍達がそれぞれ別の方角に一筋の光となって飛んでいった。玄武は取り残された? これからどうすればいいんだろう。

 

 

 

 

 

【始まったカッチンコッチンバトル】白銀さんVS玄武の戦いを語るスレ3【見ごたえあるぜ!!】

 

 

321:観戦プレイヤー

 

 

これナマ動画?

 

 

322:観戦プレイヤー

 

 

おう現ナマだぜ。機械の町で購入したプレイヤーが空からの生配信でお伝えしているんだってよ。たまに戦いの余波に巻き込まれて死に戻りするプレイヤーが後を絶たないが

 

 

323:観戦プレイヤー

 

 

その覚悟の上でしてるんなら文句言えねぇだろ。というか、そういうことしている暇があるなら参加すればいいんじゃないかと思う

 

 

324:観戦プレイヤー

 

 

自殺願望者が一人はいるぞー。全員笑ってやれ。あんな戦いの渦中に首突っ込むプレイヤーは攻略組だけだろ

 

 

325:観戦プレイヤー

 

 

実際、百人ぐらいの集団で白銀さんと玄武の戦いに突撃した連中いたんだけど、玄武の足で一瞬で壊滅しましてねー。しかもどっちもそのプレイヤー達の存在を気付かずに死に戻りしたことが分かって思わず吹いてしまった

 

 

326:観戦プレイヤー

 

 

いや気付けって言うのは酷だろ。玄武の地面破壊、蛇の黒い水、破壊光線、地面から襲ってくるドでかい蔓に対して金色の炎に燃える死神さんは走ったり飛んだり、毒を放ったり大嵐を発生させたり稲妻を落としたり水鉄砲を放ったりして・・・・・ああ、情報が多すぎだよ!!?

 

 

327:観戦プレイヤー

 

 

どれだけスキルをたくさん包容しているのか今度教えてもらおうかな

 

 

328:観戦プレイヤー

 

 

テイムモンスも中々だな。ただ、ノームを含む精霊達は揃って外野に立たされてるんだよな。火の鳥の背中に避難させられて

 

 

329:観戦プレイヤー

 

 

間に入れない戦いだからしょうがないだろ。寧ろフェンリルとドラゴンはともかく羊とモグラを戦わせてるのが意外だった。そして見たことのないスキルを見た瞬間俺は驚いたぜぇ・・・・・

 

 

330:観戦プレイヤー

 

 

やっぱりNPCを仲間にできるんだな。俺も仲間にしてぇよ

 

 

331:観戦プレイヤー

 

 

魔法使いのプレイヤー、確か最前線攻略組のフレデリカだったよな。一緒に戦えて羨ましィ

 

 

332:観戦プレイヤー

 

 

じゃあこの後ペイン達も来るんじゃね? とても見ているだけとは思えないぞ

 

 

333:観戦プレイヤー

 

 

その勢いで玄武を倒したりしてな。幻獣の落とすアイテムもきっと豪華だろうな

 

 

334:観戦プレイヤー

 

 

なら、俺等も行ってみるか? ペイン達が来た頃を見計らって

 

 

335:観戦プレイヤー

 

 

止めておけ―。純粋に共闘するつもりもないなら、場の空気を読まない連中だと今後のゲーム活動に支障が出るぞー

 

 

336:観戦プレイヤー

 

 

勝てばいいんだよ勝てば。

 

 

337:観戦プレイヤー

 

 

他の掲示板に顔出して誘ってみるか

 

 

338:観戦プレイヤー

 

 

はた迷惑なプレイヤーが出てきてしまったか。

 

 

339:観戦プレイヤー

 

 

自業自得だろ。迷惑行為をする奴らなんか放っておいてこっちの中継を見てようぜ

 

 

340:観戦プレイヤー

 

 

とはいえ、白銀さんの戦闘はぶっ飛んでるなおい。マネできる奴いるか?

 

 

341:観戦プレイヤー

 

 

同じ構成のスキルを持っていようと出来る気がしねぇ

 

 

342:観戦プレイヤー

 

 

おっ、白銀さんがまた動いた!

 

 

343:観戦プレイヤー

 

 

そ、空から隕石ぃ~!?

 

 

343:観戦プレイヤー

 

 

そして、玄武は無傷。どんだけ硬いんだよお前ェ・・・・・

 

 

344:観戦プレイヤー

 

 

あれ、玄武の様子が?

 

 

345:観戦プレイヤー

 

 

【フィールド・ダウン】? って、ちょっ!?

 

 

346:観戦プレイヤー

 

 

フィールドが全部沈んだぞおいっ!? そんなスキルあんのかよぉっ!!

 

 

347:観戦プレイヤー

 

 

誰もあんなスキル回避できるはずがないってのっ!! あっ、白銀さんが兵器纏って飛んで落ちずに済んだ

 

 

348:観戦プレイヤー

 

 

空飛べないフェンリル達もドラゴンとドールちゃんに回収されたから落ちなかったか。

 

 

349:観戦プレイヤー

 

 

えっ、まだ終わってない? これ以上何があるってんだよ

 

 

350:観戦プレイヤー

 

 

ファッ!? フィールドが海になったぞ!? 

 

 

351:観戦プレイヤー

 

 

しかも海全てが意の間に操れるって・・・・・終わったなこれ

 

 

352:観戦プレイヤー

 

 

「お前って泳げる?」何言ってんだこいつ。亀は泳げるだろ

 

 

353:観戦プレイヤー

 

 

≫352 泳げない亀を知らないようだ

 

 

354:観戦プレイヤー

 

 

≫352 リクガメって知らないのかなー? 一般常識だぞー?

 

 

355:観戦プレイヤー

 

 

ああ、でも、玄武って泳げそうな印象皆無だよな。ウミガメみたいに足がヒレじゃないし水かきもないし。海底で歩くっていうなら話は別だけど

 

 

356:観戦プレイヤー

 

 

海底なんてあると思うか?

 

 

357:観戦プレイヤー

 

 

なければ泳げまい。犬かきも出来ないだろうな。そしてそれを指摘された玄武も追い込まれているとか。これはワンチャンあるんじゃないですかねー

 

 

358:観戦プレイヤー

 

 

黒い水を巨大な竜にして攻撃しようとしだしたぞ玄武。白銀さんは?

 

 

359:観戦プレイヤー

 

 

は? 海に飛び込んだぞ

 

 

360:観戦プレイヤー

 

 

海の中なら攻撃が届かないからじゃないか? 白銀さんもそうだけど

 

 

361:観戦プレイヤー

 

 

玄武の死角から唯一残ってる足場を登ってこようとするんじゃないか? それなら気付かれないだろ

 

 

362:観戦プレイヤー

 

 

もしくはあえてその足場を壊して玄武を溺れさせるかだ

 

 

363:観戦プレイヤー

 

 

さてどっちだ?

 

 

364:観戦プレイヤー

 

 

うん? なんか湯気出てないか?

 

 

365:観戦プレイヤー

 

 

水中から炎の魔法か?

 

 

366:観戦プレイヤー

 

 

案外、海水を蒸発させようとしてたり

 

 

367:観戦プレイヤー

 

 

それは不可能

 

 

368:観戦プレイヤー

 

 

いや待て、黒い水なのに赤くなってきたぞ? なんでだ?

 

 

369:観戦プレイヤー

 

 

「海底火山を知ってるぅ~?」って言いながらラヴァ・ゴーレムが出て来たぁああああああっ!?

 

 

370:観戦プレイヤー

 

 

ぎゃああああああああああああああああああっ!?

 

 

371:観戦プレイヤー

 

 

うわ、こわ・・・・・

 

 

372:観戦プレイヤー

 

 

ゾンビホラー並みの恐怖感が・・・・・玄武もすんげービビってる

 

 

373:観戦プレイヤー

 

 

ぎゃああああああああああああああああああっ!!?

 

 

374:観戦プレイヤー

 

 

あ、玄武。これ詰んだわ

 

 

375:観戦プレイヤー

 

 

フレデリカ達もここぞとばかり蛇に攻撃始めたな。フルボッコ受けてるのに蛇が堪えてないって強すぎだろ

 

 

376:観戦プレイヤー

 

 

うん? おい白銀さんから黒い何かが出て来たぞ

 

 

377:観戦プレイヤー

 

 

玄武の顔を噛みついたな。また未知のスキルか?

 

 

378:観戦プレイヤー

 

 

あ、いや違うみたいだ。―――猫だぁあああああああああ!!

 

 

379:観戦プレイヤー

 

 

猫にゃん!? うほっ、それにただの猫じゃないみたいだ!!

 

 

380:観戦プレイヤー

 

 

二本の黒い角、金と蒼のオッドアイ、白銀の毛並みに背中の紋様状の羽と同じ紋様が浮かんでいて、ふわふわの二股の尾って・・・・・!!

 

 

381:観戦プレイヤー

 

 

あの見た目な感じ、幻獣っぽくないよな? 図鑑にも載ってないぞ

 

 

382:観戦プレイヤー

 

 

まさか、完全なる未知のモンスター!?

 

 

383:観戦プレイヤー

 

 

おいあの鳥「冥界の魔獣」って言ったぞ

 

 

384:観戦プレイヤー

 

 

冥界って、まだ誰も到達していない未知の領域のことか? あ、冥界に魔王ちゃんがいたり?

 

 

385:観戦プレイヤー

 

 

魔王ちゃんから冥界にいる可愛い猫をプレゼントされたと思うと、超羨ましィ!!!

 

 

386:観戦プレイヤー

 

 

ちょいっと、冥界の行き来の方法についてカチコミしようかねぇ?

 

 

387:観戦プレイヤー

 

 

付き合うぜぇ兄弟



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新たな従魔と魔王ちゃん再び

玄武との戦いの幕が下り一息つく。神獣の名に相応しい攻撃をされた時は肝が冷えた。色んなスキルを積極的に見つけるのも正解の一つだろう。

 

「ハーデス。そっちは何か手に入ったー? 称号とか」

 

「【神獣に認められし者】だ。フレデリカも手に入ってるなら効果も一緒だろ。それと勇者のオーラもな」

 

「それって何だろうねー。空欄が4つもあるんだよ。これどういうこと?」

 

「聞けばいいんじゃね?」

 

未だ動かずにいる玄武に振り向く。白猫の攻撃が効いているのか?

 

「勇者のオーラってなんだ?」

 

『ううう・・・・・ワシら四獣の全力を受けて立ち、見事に負かした者にしか与えられん物。過去の資格ある者達でさえ誰一人手にする事はなかった。4つを揃えることが叶った時、ワシらの全ての力が振るえよう。今はその片鱗しか宿っておらぬとも資格ある者達の力になろう』

 

フレデリカの疑問が解消され、俺自身も納得した。

 

「あの規模の攻撃を出来る神獣が複数って」

 

「・・・・・すんごく倒すの大変だよね」

 

そしてどっと疲れを込めた深い溜息を吐いた。全力の神獣と戦うためにはその気にもさせないとダメだし、必ず欲しいわけでもないんだよな。

 

「行き当たりばったり的な感じで、貰える時は貰える方針で」

 

「意義なーし」

 

『話は済んだか。なら、ワシは帰る』

 

脚に力を込めて立ち上がる玄武。北上しようと一歩前に足を進めた直後に首だけこっちに向けて来た。

 

『そうじゃった。お前達との戦いは楽しめたわぃ。全力の戦いとは壮快だったがお前たちには迷惑をかけたの』

 

 

『スキル【雌雄の玄武甲】を取得しました』

 

『スキル【反骨精神】』

 

 

【雌雄の玄武甲】

 

 

パーティーまたはチームで受けたダメージの25%軽減する。

同じパーティーに【雌雄の玄武甲】を持つプレイヤーが存在すると50%になる。

 

 

【反骨精神】

 

 

【VIT】の数値を30秒間【STR】に変換することができる

 

 

 

『餞別というわけではないがワシの謝罪の印として受け取ってくれ』

 

「わかった。もう一つ質問していいか? 勝敗関係なくお前達とは何度も挑めるのか?」

 

『敗北した資格ある者ならばともかく、ワシらに認めさせた資格ある者がまた戦って何の意味がある?』

 

出来なくはないけど、再戦してくれるのは神獣次第ってことか?

 

『おかしなことを訊く者だな。だが、また再戦をすると言うならば一向に構わん。ワシ好みの資格ある者との闘争は楽しく感じたからの』

 

話は終わりだと、今度こそ鈍重な足音を、地鳴りを立たせながら俺達に背を向けて歩いて行った。俺達も北の町へと戻りに足を運んだ。

 

「そう言えばイズとセレーネは報酬とか貰えたか?」

 

「一応【足掻く者】って称号だけ。効果は自分のレベルの二倍のモンスターの時だけ各ステータスの数値が2倍になるの。それと今回はレベリング扱いみたいで経験値が貰えたの。レベルもかなり上がったわ」

 

「私も同じ称号手に入った。神獣って倒すと凄い経験値が貰えるみたいなだね」

 

「そうか。フレデリカ、【雌雄の玄武甲】は?」

 

「うん、あるよ。凄いねこれ。VIT関係なくハーデスと一緒なら50%も軽減してくれるなんて」

 

ペインの勇者スキルを半分も軽減できる。それでも素で生き残れる自信がないな。おっ。俺がフレデリカを背負って縦横無尽に駆け回り、移動砲としてフレデリカが魔法を撃つ発想が浮かんだんだが、試させてくれないかな?

 

「それはそうと、生まれたわね。その子なんて名前?」

 

「おお、そうだ。調べ忘れてた」

 

 

 

名前 ??? 種族 魔獣(ヘルキャット) 基礎レベル 35

 

 

【STR 11】

 

【VIT 7】

 

【AGI 35】

 

【DEX 23】

 

【INT 20】

 

 

HP 170/170

 

MP 156/156

 

 

スキル 【流体化】【霊魂搾取】【ひっかき】【ネコパンチ】【魅了】【夜目】【気配察知】【逃げ足】【恐怖】【気まぐれ】【捕食】【召喚】

 

 

装備 なし

 

 

中々猫らしいスキルばかりだな。最初の二つのスキルはどういうのだかわからないが・・・・・。

 

 

【流体化】

 

50%の確率で攻撃を回避する。

 

 

【霊魂搾取】

 

対象の最も高い数値の半分を一時的に奪い主に転移する

 

 

【ひっかき】

 

ランダムで対象にデバフを付与する

 

 

【ネコパンチ】

 

10%~100%のランダムで対象にダメージ量が変化する

 

 

【魅了】

 

対象の動きを5秒間停止させる

 

モンスターが逃げなくする

 

 

【恐怖】

 

対象の動きを5秒間停止させる

 

 

【気まぐれ】

 

主とヘルキャットのスキル再使用待機時間が変化する

 

 

【捕食】

 

倒した対象の数値の一部を奪うことが可能になる

 

 

【召喚】

 

ヘルキャットを自由に喚ぶことができる

 

 

気になったスキルだけを見れば凄く有能な件でした。動きを封じるスキルが二つもあるのはとても嬉しい。

 

『ご主人、ご主人。おいらの名前を付けてほしいにゃ』

 

「名前? つけていいのか」

 

『そうにゃ。そしてつける時は優雅で! 美しく! 強く! 皆に愛され畏怖されるような名前にしてほしいにゃ!』

 

「じゃあ、美の女神と同じ名前の『フレイヤ』にしてやる」

 

本猫がそう希望するんだから文句ないだろう。

 

『全プレイヤーの中で初めて冥府(地獄)の魔獣の孵化に成功し最初の冥府の魔獣の主となりました。称号【地獄と縁る者】を獲得しました』

 

 

【地獄と縁る者】

 

冥府のNPCとの会話時に友好度にボーナス。

 

 

『フレイヤ、気に入ったにゃ!! 流石はおいらを生んだご主人!!』

 

つけた名前は大層気に入った様子で、ゴロゴロと鳴きながら顔を摺り寄せて来る。ふふ、愛いやつめ。

 

「可愛い・・・・・触れるかな?」

 

「フレイヤ、早速お前に魅了されたらしいぞ。触れさせてくれるならもっと愛される存在になれるかもよ」

 

『ニャハハハ!! おいら、もっと愛される最強の魔獣になるにゃ!!』

 

うん、こいつの扱い方も大体わかってきたな。セレーネに抱かせると表情を緩ませてフレイヤを撫で始め、イズとフレデリカも可愛いと黄色い声を上げてすっかり夢中になった。

 

「うん? あれは・・・・・」

 

大勢のプレイヤーらしき集団が駆けてくる。さっきまでいた玄武に挑戦するきかな? って俺の考えは履き違えたようだった。

 

「お、おい! 玄武はどうした?」

 

「北の方に帰ったぞ」

 

「お前が勝ったのか?」

 

「勝ったぞ」

 

そう教えると、集団の中から「やっぱりかー」「挑戦できるかと思ったのに」「先を越されたぁ!」と残念そう声が上がる反面。

 

「俺達みたいに攻略組でもないのになんで戦うんだよ!」「玄武を倒した報酬は? 高く買い取りたいしたい」「女を侍らせやがって、生意気な奴だな」「負けろやクソが」という反感の声も聞こえてくる。

 

「「「・・・・・」」」

 

当然ながら後者の声はしっかりと三人の耳に届いていた。不満げに顔をしかめている。

 

「あのー、白銀さんですよね? 噂はかねがね聞いております」

 

1人のプレイヤーが話しかけてきた。

 

「自分、グラニュートゥと言います」

 

「よろしく。それで?」

 

「ちょっと自分と決闘をしてくれませんかね?」

 

やる気満々に双剣を鞘から抜き取って構えてきた。何でだと首をかしげる俺に理由を教えてくれた。

 

「テイマーで遊びやすくするために重戦士をサブにして遊んでるプレイヤーかと思ったんですよ。でも、こちらの予想を遥かに上回る結果を残し続けるあなたに興味を持ったんです。攻略組筆頭のペインも認めるプレイヤー、自分は白銀さんの強さを肌で知りたい」

 

「生粋の戦い好きだな?」

 

「誰よりも進んだ先にある光景をみたい、誰よりも強くなりたい。それが攻略組の性って奴なんですよ白銀さん。それなのに自分達と真逆なプレイをして瞬く間に有名になった白銀さんだ。そして玄武を撃退したその実力を―――」

 

グラニュートゥから決闘申請が送られました。YES NO

 

迷わずYESを押そうとした瞬間。俺達の真横の空間が突如に歪みだし、二人組の人物が現れた。

 

「おっ? こいつは久しぶりだな。魔王ちゃん」

 

「うむ、久しぶりであるな戦友よ」

 

片方が最初のイベント以来に再会した少女、魔王ちゃんだ。もう一人は執事服を包む肉体がとても鍛えられてるのがわかる赤髪のポニーテールの老人。

 

「勇者の戦いを見ていたぞ。あの神獣の一角を泣かすほど恐怖を抱かせるとは。流石は我の戦友と称する―――」

 

「魔王、覚悟!」

 

彼女が話している間にプレイヤーが襲い掛かった。スキル込みで襲う攻撃に魔王ちゃんは気付いているのに対応の一つも取らないその理由がすぐにわかった。

 

「【魔王の権威】」

 

「へっ?」

 

そのプレイヤーの首がポーンと宙に撥ね、残された胴体はあっけなくポリゴンとして爆散した。頭部も直ぐに弾けた。

 

「魔王の我と対等に渡り合えるのは我の天敵である勇者のみ。それ以外は我の供物か塵芥に過ぎん。なのに我と勇者の対話を邪魔するとは万死に値する―――爆ぜて失せるがいい」

 

グラニュートゥも含め、この場に来たプレイヤー全員が魔王ちゃんの一言で本当に爆発してHP全損、死に戻った。俺、【爆発無効化】持っててよかったかも。

 

「勇者殿の仲間はサービスとして生かした。優しいだろう?」

 

「気遣ってくれて助かったよ」

 

「ふっはっはっはっ! そうであろうそうであろう!! なんせ我は世界一やさしい魔王であるからな!」

 

「その通りでございます魔王様。そしてご紹介が遅れました。私は前魔王様の執事で真名はハーヴァでございます。以後お見知りおきを」

 

恭しくお辞儀する相手に釣られて俺もお辞儀してしまった。

 

「今日は急にどうした? お茶会の誘い?」

 

「それに近いな。友好の証として贈った魔獣の卵を見事に孵化させた勇者に一度我の城に来てもらおうと参ったのだ」

 

「そうか。でも、うーん・・・・・一度だけってのは少し残念だな。何度か遊びに行っちゃダメ? というか玄武との戦いで少し疲れてるし」

 

「むっ、今回は特例で招くのだ。本来敵同士の勇者を敵陣に誘う行為に危険とは思わぬのか?」

 

「世界一やさしい魔王ちゃんが勇者の寝首を掻く筈が無いと思うんだが?」

 

ハーヴァにも向かって話しかける。

 

「冥府にも町とかあるんだよな?」

 

「勿論でございます。代々の魔王様が統括してる都市以外にも72の幹部の者達の都市を始め、村や町もあります」

 

「うん、俺的にはそこにも行ってみたいから何度も遊びに行きたいんだ。という事でダメ?」

 

お願いする俺の言葉に魔王ちゃんは簡単には決められないと考え込んだ。

 

「ハーヴァ、勇者の気持ちに応える試練を与えてからでもよいか?」

 

「未だに魔王様を倒すだけの力はございませんでしょうが、警戒に値する者なのは間違いございません。全力で私が戦っても勝率は若干私めが勝つでしょうが、腕一本だけ済めば幸いであります」

 

「ほう、お前にそこまで言わすほど我の戦友は強くなっておるか。・・・・・ならばお前の立場を懸けた試練を与えよう。それをクリアできたならば我々が住む冥界に行き来できる宝物を授ける」

 

内容は? と訊いてみると手を差し出された。

 

「お前達がエルフの里を守りアスタロトの妨害をした。世界樹の素材とオリハルコンを手中に収めるための我が策をな。勇者のお前ならそれら全て手中に収めているはずだ。それを全て私に寄こせ」

 

「魔王様はかつての勇者との死闘で負った怪我により、床に伏してしまわれておられる父君である前魔王の回復の為に賢者の石が必要としてます。他の素材は既に確保していますが残りはあなたが持っているということです。父君の回復を願い代理として魔王になった敵の願いを、人類の代表の勇者が全ての期待と希望を捨てて裏切る行為ができますか?」

 

「はいよ」

 

世界樹の雫と世界樹の葉、世界樹の枝にオリハルコンを魔王ちゃんにあっさり渡す。

 

「え・・・・・?」

 

「それで父親が治るなら渡してやる。それでいいだろう?」

 

「―――バカなっ。勇者が魔王に加担する行為は全人類の敵に回すことになるのだぞっ。勇者を軽んじているのかお前はッ!?」

 

唖然とする魔王ちゃんの代わりに執事が声を荒げる。人類の敵になる? どうでもいいわ。

 

「ここで俺が拒絶してまたリヴェリアの故郷を襲う気なら、渡した方が世のためだろ。それとこれは俺の為にやったことであって、魔王ちゃんの父親を助けるためじゃないからな」

 

「勇者のためとは何だ」

 

「父親を想う少女の優しい心を助けたいだけだ」

 

「―――――」

 

絶句する魔王ちゃんに今度は俺が手を差し伸べる番。リヴェリアの故郷を守る次に大切な事だ。

 

「ということで、宝物とやらをくれないか?」

 

「・・・・・勇者とは、今まで父上が相手にして来た勇者は、罪なき民まで手に掛けた冷酷無比で残虐な者ばかりだと聞いておるのに」

 

それで俺が逆なことして血塗れた残虐の勇者っと認識されてたのかっ!! おのれ勇者めっ!!!

 

「でも、あなたは他の勇者とは違うのね」

 

「うん?」

 

なんか喋り方が変わったな? そう反応する俺に、はっと我に返った魔王ちゃんは咳を零した。

 

「ふ、ふんっ! 宝物惜しさに立場を危うくしてもそれはお前の自業自得であるからな!! お前が逃げる場所は冥界にしかないと思え!!」

 

歪んだままの空間を潜っていなくなってしまった魔王ちゃん。まだ残ってるハーヴァは指に嵌めていた真紅の宝石を外し、直接手渡して来た。

 

「魔王様が統治する都市に直接行き来できる指輪です。門の者達にこれを見せれば問題なく入ることが出来ましょう」

 

「どうやってこれを手に入れたんだーって言われて入らせてくれなかったら?」

 

「ご心配ありません。全ての者達に魔王様の人間のご友人が来ると言い聞かせます。そしてもしも人間界に追われる身となれば冥界に過ごすことを提案します」

 

「そんなことが無いように頑張るよ」

 

ユニーク装備『冥府の扉』という指輪を渡してくれたハーヴァも空間の穴に潜り、歪みが元に戻ったところで息を吐いた。

 

「やっと終わったかぁ~」

 

「あなた・・・・・よかったのですか? 世界樹の素材とオリハルコンを渡して」

 

「ああ、リヴェリアの里のためだ。物を渡すだけで平和になるなら喜んで差し出すよ。魔王軍もこれで完全にアールヴの里から手を引くはずだ」

 

「・・・・・心から感謝します」

 

気にするなと、リヴェリアに笑いながら『冥府の扉』をアイテムボックスに仕舞うとフレデリカからオリハルコンのトレードされる。

 

「フレデリカ?」

 

「オリハルコンなんて私的に使い道がわからないお蔵入りの物だからさ。ハーデスにあげるよ」

 

「冥府に行けば賢者の石の作製してくれるかと思うぞ」

 

「いーの。そんなのよりハーデスと一緒にいれば強くなれるのが判り切ってるから。ゲームは楽しんだ者勝ちなんでしょ?」

 

・・・・・そう言われちゃしょうがない。失ったオリハルコンを補充するかのように手に入った。冥界はまた今度行くとして、俺は北の町に戻った。せっかくここまで来たんだから畑を購入して茶木を植えよう。フレデリカ達もそれに付き合ってもらったら町の探索を開始した。

 

「この町に何かあるって言うの?」

 

「町なんだ。始まりの町みたいに精霊がいる隠し通路があってもいいだろ。フレデリカ達は何も知らないのか?」

 

「知らなーい。レベル上げしてたからね。暇潰しに探してたプレイヤーもいるだろうけど、結局何も見つからないでいたようだしね」

 

あの時と同じように地図作成の依頼を引き受けてきた。この町の地図を埋めつつ、時おり妖怪察知、妖怪探査を使って妖怪捜索も進めれば、何も見つからなくても損にはならんからな。

 

そのまま半日。

 

「もう地図が埋まっちゃった」

 

結局何も見つからなかった。妖怪の反応もない・・・・・。まあ、毎回何かが見つかるわけじゃないか。

 

ただ、収穫はゼロではない。地図の依頼だけではなく、途中で寝っ転がったら気持ちよさそうな原っぱを発見したのだ。町の端にあるのだが、学校の校庭くらいの広さはあるだろう。

 

公園と呼べるほど整備されているわけじゃないが、短い芝生のような草の生えた空き地に、まばらに木が生えていた。雑草ではあるが、チューリップやコスモスの花も咲いているし、ピクニックをするにはちょうど良いロケーションだ。

 

「ミーニィ、フレイヤ。空から何かないか探してくれ」

 

「キュイ!」

 

『わかったにゃー』

 

空飛ぶモンスターが増えたことで捜索範囲が増えた。さてと・・・・・。

 

「ぶっちゃけ言わせてくれ。花見レイドボスの次はリヴェリアの故郷の防衛線の直後に鉱石喰いの出現に四神玄武との戦いの連続。過密なスケジュールじゃございませんかねぇ・・・・・。これだけで片手では数えれないスキルと称号を手に入ったぞ?」

 

「実際どれだけ?」

 

「10以上は確定」

 

「多いね!?」

 

「えええ・・・・・?」

 

どういう星の元に産まれたのだろうかと思うぐらい俺自身も気づけばこんなに取得、獲得してしまっていた。頑張りすぎ? いやいや、思うが儘にプレイをしていただけだよ。

 

「ハーデス、ユーミルさんから貰った装備は? まだ試してないのよね?」

 

「する暇もないからな。所有している工房をあらゆる場所で使えるだとか」

 

「古匠だった頃のユーミルさんの工房・・・見てみたい、かな」

 

そう言えば俺達って工房を見たことないんだよな。えっと、『神匠の黒衣』を装着して【工房召喚】! と言うと俺達の目の前に眩く光りながらドワルティアにあるユーミルの工房が召喚された。中に入るとすぐに工房の中を覗いた。

 

「「わぁっ・・・!」」

 

感嘆の息を吐く二人。俺は全く価値観が理解できず小首をかしげる。

 

「普段ベテランの二人が借りてる工房とどう違うか教えてくれ」

 

「違いは大してないわ。強いて言えば工房のランクかしら。見ただけでかなり上級な物ばかりだわ」

 

「装備を作る時に使う鎚も等級と+強化が高いほど、完成した装備の度合いが違ってくるの」

 

「そうなのか。じゃあ、ヘパーイストスにあげたあの砥石はなんだろうな」

 

素朴な疑問に零した俺の言葉は工房を見ていた二人の首がぐるりと後ろを向いて・・・いや、怖いよ。

 

「砥石ってなに? そんなアイテムもあるの?」

 

「え、逆にないのか砥石」

 

「ハーデス、武器に切れ味のシステムは無いよ?」

 

「研磨も?」

 

二人揃って頷かれる。ならばと風化したヒヒイロカネで作られた古代の刀を見せてみた。

 

「この状態だけどヘパーイストスに砥石で研磨してもらったんだ。これでまだ実践に使えないレベルだ」

 

「うわ、改めてみると凄く綺麗な刀・・・・・」

 

「これで戦いに使えない? どういうこと?」

 

「元々は風化した状態から発見したんだ。同じ場所に見つけた砥石で磨いてもらっても、まだ武器は復活していないと。地龍討伐クエストの時と同じくユーミルに頼まないと使えない」

 

話を戻す。

 

「これは砥石で磨かいてもらったから、てっきりあるのかと思ったんだがな」

 

「そうなの。じゃあ、いつかその砥石を見せてもらえないかしら」

 

「頼んでみよう」

 

「お願いね。あと、もうちょっと古匠の工房を見ていい?」

 

いいぞ、と言うと古匠用の工房を楽しく見回る二人に質問をしながら中の構造を把握する。台所と食卓、寝室まであるぞ。工房兼ホームだなこれ。しかもかなり中は広くて炉が五つもある。昔、多くの弟子を取っていたのかな

 

「モンスターがいるフィールドに工房を召喚したらどうなる?」

 

「近づいて来られないと思うわ。モンスターを寄せ付けない制限時間あるアイテムも販売されてるし」

 

何それ初めて聞いた。

 

「でもそれと違ってこの工房は制限時間がないようだし、もしかするとこの中に死に戻ってすぐに戦いに戻れるかもよ?」

 

「便利過ぎないか?」

 

「私もそう思うかな。いいなーハーデス」

 

「何なら一緒に冒険する時、鍛冶をしたい時は召喚してやろうか。イズもあらゆる場所で工房が使用できるけど自分専用だよな」

 

「そうね。誰にでも利用できる工房じゃないからハーデスの工房の方が使い勝手がいいわ。この中なら私もモンスターが出るフィールドでも安心して工房を使えるわ」

 

おや? それだと俺達って・・・・・。

 

「出張、どこでも生産・鍛冶屋の誕生かこれは?」

 

「ふふっ」

 

「変な名前だけれど事実よね」

 

便利なセーフティポイント? の活用を考え付いた矢先に開けっ放しの扉からフェルが入って来た。徐に口から覗くその牙を俺の腕に噛みついて―――。

 

「だからフェルさん。お前の嚙みつきはフレンドリーファイアになるから止めてくれっ!」

 

「テイムしたモンスターに攻撃判定を受けちゃう?」

 

「でも、どうしたんだろ?」

 

外へ連れ出され、ミーニィとフレイヤがいるところに引っ張られる。何か見つけたのか?

 

「見つけたか?」

 

「キュイ!」

 

『ここに穴があるにゃ。入ってみるにゃ』

 

穴? ・・・・・本当にある。イズ達も近付いて来て一緒に穴を見下ろす。

 

「攻略組もこの穴の存在は?」

 

「多分知らないよ。私達もここに来た事自体ないんだから。もしかするとただの穴だけかもよ?」

 

「それでも調べるのは大切だ。よっと」

 

穴に飛び込み着地する。縦長で地上から深さ三メートルか。さてさて、ただの穴かなー? 壁をくまなく探す俺の視界に土色ではない名刺サイズの黒い石が入って来た。不思議に思いつつ触れてみると重低音とともに軽い振動が生じた。

 

 

ゴゴゴゴ・・・・・ッ。

 

 

「おおー、やった! 隠し通路だ!」

 

 

「嘘でしょ」

 

「こんなところに隠し扉?」

 

「レベル上げばかりしている私達じゃあ絶対に見つからないよコレ。というか、こんな発見ばかりをしてるから自然に強くなったんだねハーデスって」

 

 

穴から這い上がり、『神匠の黒衣』を装備から外すと工房も消失した。

 

「始まりの町に戻ろう」

 

「えっ? せっかく見つけたのに?」

 

フレデリカ、何か忘れていないか?

 

「いや、忘れてると思うけどもう21時過ぎてるからな? イベントが終わった直後に寄り道したらドワルティアの事件と玄武の戦いに発展してしまってログアウトするタイミングがなかったんだぞ」

 

「「あ」」

 

「あはは・・・・・今確認したら23時過ぎてたね」

 

俺と過ごすと濃密な時間になるようだ。苦笑いするセレーネの言葉にお開きの雰囲気となった。

 

「この穴の存在を誰かが先に知られて攻略されても問題ない。寧ろ他の東と西、南の町にもこんな隠し通路がある証明がされたんだからそっちも探しに行くよ」

 

「確かに、それもそっか」

 

「ハーデス、また明日も来るなら何時ぐらい?」

 

朝食を食べ終えてからだ、と8時ぐらいにまたログインすると言うとフレデリカが一緒に付き合うと言ってくれた。

 

「じゃあ、また私もその時間帯に来るわね?」

 

「うん、明日も出来るから一緒に行こう?」

 

二人も引き続き一緒に遊んでくれるようだ。約束を交わし、鳳凰の背中に乗って始まりの町まで飛んでもらい久しぶりの畑に戻ると。鳳凰が桜の木の前にある霊桜の小社を見て感嘆した。

 

『おお、素晴らしい社ではないか。それに見事な桜の下にあることも加味して気に入ったぞ』

 

小社の上に乗る鶏。うーん、悔しいけど何だか様になっている気がする。

 

『にゃ~、おいらもここが気に入ったニャ』

 

空を飛べるフレイヤも桜の木の周りを飛んだり、小屋の上に乗ったりと自由気ままに動く猫だった。

 

「それじゃサイナとリヴェリア、後は頼んだ」

 

「お任せくださいマスター」

 

「何時までも待っています」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【白銀さんとモンス】またやらかしたよあの人を語るスレ19【新発見】

 

 

598:満〇

 

 

生配信を何度見たが、玄武のとんでもない攻撃でも臆さず立ち向かう姿はまさに勇者だったな

 

 

599:デデーン

 

 

玄武の方はともかく俺的には猫の方が凄く気になる。サモナー専用のブリーズ・キティとは違うモンスターなのは一目瞭然だ

 

 

600:チョイス

 

 

紋様状の黒い翼が格好いいで。角は何だか悪魔っぽい?

 

 

ぽろろん

 

 

フェンリルは載ってるけどあの白銀の猫は図鑑に載ってないなぁ~。未知のモンスター扱い?

 

 

601:サジタリウス

 

 

久しぶりの魔王ちゃんが現れて魔王ちゃん専用のスレが盛り上がってるって

 

 

602:最終兵器鬼嫁

 

 

後から来たプレイヤーが成す術もなく爆散した瞬間は、死に戻りしたプレイヤー達も何がなんだかわからなかっただろうな。流石魔王ちゃん!!

 

 

603:大言氏

 

 

魔王を討伐しろって言われたら、無理だな二重の意味で

 

 

604:チョイス

 

 

魔王と言えど少女を攻撃しろと言うのは酷だからねぇ。涙目で助けてと懇願するフリされて不意打ちの攻撃を受けてもオールオッケー

 

 

605:デデーン

 

 

魔王を倒すのは何時だって勇者なんだが

 

 

 

606:チョイス

 

 

白銀さーん、ちょっと自分とお話をしましょうかー

 

 

 

607:死神ハーデス

 

 

おう、いいぞ

 

 

608:最終兵器鬼嫁

 

 

今のところその勇者は5人しかいないけど、もう勇者になれるチャンスはないのかなー

 

 

609:サジタリウス

 

 

!!?!!?

 

 

610:満〇

 

 

白銀さんが顔出しにきた!?

 

 

611:チョイス

 

 

本当に話をしに来てくれたとは驚きなんだが!!?

 

 

612:死神ハーデス

 

 

朝食食べ終わったからログインする前に情報収集を兼ねて見てたら、呼ばれたんで来たんだが。用がないなら冥府へ戻るわ

 

 

613:大言氏

 

 

まってまって、せっかくの機会だから色々と教えてほしいことがある。あの白銀の猫ちゃんは一体?

 

 

614:死神ハーデス

 

 

魔王ちゃんが住んでる冥界に棲息している魔獣の一種。絶滅危惧種で種族の名前はヘルキャット。

 

 

615:デデーン

 

 

冥府!? どこに行けばそんな場所に辿り着けれるんだ!?

 

 

616:死神ハーデス

 

 

魔王ちゃんから友好の証として貰った黒い卵から孵化した。冥府はまだ行ったことが無い。行く術は手に入ったけど

 

 

617:満〇

 

 

絶滅危惧種の魔獣でヘルキャット? 魔王ちゃんから卵を貰ったのか

 

 

618:サジタリウス

 

 

さらっと冥府に行ける術を手に入ったと文字を打ってるけど、それは白銀さんだけ行き来できるってことか?

 

 

619:最終兵器鬼嫁

 

 

いいなー、いいなー!

 

 

620:死神ハーデス

 

 

まだ使ってないからわからない。冥府に行くよりもまた新エリアに行けるかもしれない隠し通路を発見したからこれから探索するんで

 

 

621:デデーン

 

 

また見つけてんのか!! ・・・・・因みにそこってどこか教えてもらっても?

 

 

622:死神ハーデス

 

 

気になるなら東西南北の町中をくまなく探してみれば? と言うか暇ならそうしてもらえるとこっちとして楽だわ。因みに俺は北の町の端っこに行こうとしている。

 

 

623:チョイス

 

 

それマジ話?

 

 

624:死神ハーデス

 

 

個人的な予想と想像だから断言しないぞ。北に来るならヘルキャットと触れ合うかもな。それじゃログインしてくるんでお暇する

 

 

625:満〇

 

 

情報感謝。白銀さんを信じるなら俺は北に行ってみようかな~

 

 

626:デデーン

 

 

俺も北に下がれば行けるんですぐに向かおう。

 

 

627:最終兵器鬼嫁

 

 

ちくしょう、ヘルキャットちゃんと触れ合ってみたいのに南にいる自分が恨めしい! こうなったら隠し通路を見つけ出してタラリアに情報を売ってやる!!

 

 

268:サジタリウス

 

 

俺は西だ。隠し通路はどこにあるんだろうか。思えば町中をしっかり見て回らなかったな

 

 

269:チョイス

 

 

俺は東か。何か見つけたら情報共有しようぜ

 

 

270:大言氏

 

 

いいともー!



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第3エリアの隠しダンジョン巡り 北編

「燕、そっちは何しているところだ?」

 

「最前線でモモちゃん達とレベル上げしていますよー。どこかの誰かさんみたいに掲示板で騒がれてませんけどね。一体全体どうしたら玄武と戦うことになったんですか」

 

「助けを求められたんだからしょうがないだろ。実際戦ったらフィールドが奈落の底に落ちてヒヤッとしたし、ベヒモスと戦った方が楽だったぐらいだ」

 

「王様にそこまで言わせる神獣の強さですか。私も神獣と戦ったら勝てますかね」

 

「俺と玄武の相性が良かったから勝てたようなもんだ。他はどうなのか燕でも勝てるか正直わからん。勝ちたかったらスキルを身に着けるんだな」

 

「はーい。あ、そうだ。王様、結婚システム解放されてから誰かと結婚しました?」

 

「リヴェリアとプレイヤー同士したらどうなるか試しにフレデリカと」

 

「本当にしてたんですか!? 恋愛経験が無縁なあなたが!?」

 

「その言葉そっくりそのまま返すぞ燕。ゲーム内での結婚だ。同意の上ならば誰だってできるだろう。結婚する際に得る恩恵も悪くない」

 

「じゃあ、私とも結婚してくれますよねー?」

 

「今は無理だ。専念したいことが出来たからな。そんじゃ、昼食まで楽しもうか」

 

「やりたいことが終わったら絶対に結婚ですからね王様」

 

 

ログイン後。品種改良の食材で作った消費した料理を作り置きしていたころに来訪者が現れた。

 

「ん、時間通りに来たな。おはよう」

 

「おはよーう」

 

「おはよう、今日もよろしくね?」

 

「おはようハーデス」

 

畑で待っていれば美女と美少女達が来て、いつでも行ける準備もして来たみたいだ。畑の中に入ってきた彼女達はすぐに気づく。

 

「ハーデス、そのモンスターは?」

 

「ああ、最初のイベントでテイムした植物型のモンスターだ。苗になったんで畑に植えていたんだがログインしたらいた」

 

「トリー!」

 

愛らしい声で、俺の足元に纏わりついて来た。その姿はなんと表現すればよいか・・・・・。ゆぐゆぐは少女が木の葉を使った衣装を身に着けている姿なのだが、この子は体自体が植物性のパーツで構成されていた。木の枝と葉っぱで体が造られたピノキオとでも言おうか。

 

 

名前:オレア 種族:オリーブトレント レベル1

 

契約者:死神ハーデス

 

HP8/8 MP:30/30

 

【STR 8】

 

【VIT 8】

 

【AGI 2】

 

【DEX 8】

 

【INT 6】

 

 

スキル:【株分】【光合成】【樹精分身】【戦闘不可】【素材生産】【農地管理】

 

装備:なし

 

 

メインフレームは茶色い木の球体関節人形で、頭部と胸部、腰、腕や膝下は木の葉を束ねたキャベツっぽいパーツになっている。そして、鼻がピノキオみたいに長かった。サイズは非常に小さく、80センチくらいしかないだろう。

 

「揃ったところで2パーティで行くとなると、リヴェリアとサイナは絶対だ。フェルとミーニィ、フレイヤも一緒に来るかー?」

 

『当然いくにゃ』

 

「だったらオルトとドリモ、それにゆぐゆぐとクママだな」

 

「ムー!」

 

「モグ」

 

「―――♪」

 

「クックマー」

 

「他のみんなは悪いけど畑で留守番だ。よろしくな」

 

ヒムカ達と別れ、徒歩で北の町へ目指した―――。

 

『これッ、私を置いていくではない!』

 

正式に仲間になってもいないのに鳳凰までついて来ようとするので、巨大な火の鳥となって俺達に背中を乗せて飛んでもらうことにした。目的の北の町の端っこに辿り着き、皆で穴の中にある隠し通路へ侵入する。

 

 

 

北の町の外れで発見した地下道に、意気揚々と突入した俺とイズ達の合同パーティ。だが、すぐにその歩みを止めてしまっていた。

 

「真っ暗なんだけど」

 

「うーん、光源ゼロのダンジョンは初だなー」

 

そう、この地下道にはランプ類はおろか、光る類のなどもなかったのだ。目を細めようが、数秒間目を瞑って開けてみようが、目の前に広がる漆黒の闇に変化はない。

 

「サイナ、照明灯の機械を作れるか?」

 

「肯定。可能です」

 

彼女に闇を照らす機械を創造してもらい、足元も照らす光源を確保できた。転ぶこともなく順調に進む道中このダンジョンに出現する敵は2種類。霧で出来た骸骨のような姿をしているポルターガイストと、動物型のケダマンというモンスターだった。

 

ケダマンはその名の通り、丸い毛玉のような体に、不細工な犬っぽい顔が付いている姿をしている。この顔がまた不細工なうえに不気味なのだ。口の端から涎を垂らす、白目を剥いたパグっぽい顔面である。

ケダマンはテイム可能なのだが、アレはいらないな。一応モフモフ枠だが、可愛がれる自信はない。狂った精霊の件もあるから、テイムして見たら可愛くなる可能性もあるけど・・・・・。

 

「ゲゲゲゲェェ!」

 

「ケダマン3体か。オルト、ドリモが受け止めろ!」

 

「ムム!」

 

「モグ!」

 

「ヴァアアア!」

 

「後ろからポルターガイストだ」

 

「私が仕留めるよ【多重炎弾】!」

 

『食い甲斐のありそうなやつにゃ~!』

 

【霊魂搾取】で攻撃するフレイヤ。主な能力値を半分減少させたことでクママの爪で一体、ミーニィの魔法で一体、ゆぐゆぐが蔓で動きを封じている間にドリモがツルハシで一撃を入れて撃破してみせた。

 

「強いわね。オルトちゃん達の今レベルは?」

 

「玄武との戦いで全員25レベル以上だぞ。神獣を倒すと莫大な経験値を得るみたいだな。ほぼ全員、進化が可能な状態だ」

 

「そうなの? どうして進化させないの?」

 

「従魔の心を貰っていない奴がいるからな。それを貰うまでは進化させないのと、今すぐする必要性が感じないだけ」

 

それから進めば進むほど、敵の数も増えてきた。フレデリカやサイナは戦況を見ながら遊撃に回り、他の皆が何とか敵を倒していく。ポルターガイストが特にウザいな。魔法じゃないと倒せないうえに、念動のような物で、非常に視認がしにくい遠距離攻撃もしてくるのだ。HPが低く、魔法が当たれば絶対に倒せるのが救いだった。まぁ、こちらには魔獣と幻獣がいるから余裕過ぎて俺の出る幕はない。

 

そうやってモンスターを退けながら、地の底へ向かって下っていく。ただ、1時間ほど進んだ時点で、少々厄介な場所に行きあたっていた。

 

「坂か、それも急だな」

 

「登れる自信ないわね」

 

「私も・・・・・」

 

イズとセレーネが、手をおでこにかざすポーズで坂の先を見通そうとしている。ライトの光の届く範囲よりもさらに延びているせいで、俺にも先が見えなかった。

 

「オルト、ドリモ。頂上は見えるか?」

 

「ム!」

 

「モグ!」

 

どうやら夜目のあるオルト達にはきっちり終着点が見えているらしい。ということは、何百メートルもあるような激坂ではないのだろう。

 

「これはクライミングとまではいかなくても、相当苦労しそうだな。落下しないように気をつけないと」

 

途中で足を踏み外したらHPが低いプレイヤーは確実にスタート地点からやり直しだ。それどころか、落下した高さによっては即死もあり得る。

 

「最初はイズ達から上に行ってもらうべきか」

 

「理由は?」

 

「リヴェリアとゆぐゆぐ―――いや、リヴェリアの魔法で蔓の足場出来ないか?」

 

「できますよ。このようにですね?」

 

樹木魔法を行使し、坂の先へ階段状に伸ばしてくれた。そうそうこんな感じだ。

 

「ありがとうな。これで上がりやすくなった」

 

「これぐらいならお安い御用です」

 

急な坂から急な階段になった。でも昇り易さは断然、階段の方が昇り易い。

 

難所であるはずだった急坂を登り切った後は、そこまで危険な場所は存在していなかった。まあ、敵の数が増えはしたけどね。

 

 

ただ、最後の最後、予期しなかったギミックが仕掛けられていた。

 

 

「は?」

 

「え?」

 

「ひゃっ」

 

「う、嘘ぉ~!?」

 

なんと、下り坂になっている道の途中で、いきなり床が消失し、プレイヤーが落下する仕掛けになっていたのだ。罠扱いではないらしく、俺の罠察知には全く反応がなかった。落下した先は円形の広場になっている。その中央には、白い煙のような物が立ち昇っていた。ガスか何かか?

 

「ヴァヴァアアアアア!」

 

「うわっ、でかいポルターガイスト。・・・・・この手の物に弱いプレイヤーは酷だろうな」

 

白い煙で形作られた巨大な髑髏が、ユラユラと揺れながら叫び声を上げている。

ただでさえ不気味なポルターガイストが、巨大化するとよりキモイな。

鑑定すると、その巨大な煙の髑髏は、ポルターガイスツとなっている。どうやらこれがこのダンジョンのボス戦であるらしい。だがその前に名前! ネーミングセンスが悪すぎるだろう運営!

 

「ヴァヴァッヴァー!」

 

「なんか吐き出したわ!」

 

ボスが口から何かを発射して攻撃してきた。バランスボールサイズの白い物体だ。最初は冷気か何かと思ったんだが、オルトが防ごうとしてもすり抜けてしまった。だが、オルトのHPは確実に減っている。

 

「ヴァヴァアアー!」

 

「もしかすると、ポルターガイストを吐いて攻撃したの?」

 

それはなんと通常のポルターガイストだった。そのまま戦闘に参加し、こちらに攻撃を仕掛けてくる。ボス1体だけなのかと思ったら、ジワジワ増えるパターンか。

 

「フェル、一撃で決めろ」

 

静かに前に出る銀狼が牙を剥き、素早く動き出して増殖したポルターガイストをその牙と爪で消滅していく。

 

「魔法でしか倒せない筈なのにどうして物理で倒せるの?」

 

「フェンリルはアダマンタイトを噛み砕くことが出来る幻獣だ。見ての通り普通の牙と爪じゃないだろうし、よく見てみろ」

 

銀色の身体に風が纏っている。フレデリカにそのことを指摘してやった。

 

「風の魔法で攻撃しているだろ」

 

「なるほど、だから通じるんだね」

 

 

余裕でフェルがボスであるポルターガイスツを倒すと、壁の一部が開いて登り坂が出現した。多分モンスターは出ないだろうが、一応慎重に進んでみる。

坂を登りきった先は、再び通路になっていた。振り返ると、通路の床に大きな穴が開いているのが見える。

 

「えーっと、あれってボス部屋に落とされた穴だよね?」

 

「そうみたいだね」

 

「事前に分かっていたら落ちずに済んだんだがな」

 

「そうだね」

 

だとすると、あの穴の先に出たってことか。もう終わったことを考えてもしょうがない。先に進むか。

と、足を運んだその先にあったのは3つ又の分かれ道だ。

 

「どうする?」

 

「うーん、見ても分からないし・・・・・。とりあえず左に行ってみる?」

 

セレーネが左に指しながら提案すると、フレイヤが待ったをかけて来た。

 

『ご主人は問題にゃいけど、他は行かない方が賢明にゃ。凄く臭い毒が充満してるにゃん』

 

「そうなのか?」

 

フェルにも目を向けるとフレイヤの言葉に同意するかのように頷いた。

 

「真ん中は?」

 

『毒の匂いがするにゃ。右の方は安全にゃ』

 

そうか。なら右に行くべきだろうな。

 

「サイナ、右の道に何かないか探ってくれ。俺は中央だ」

 

「何で今の話を聞いて行くの!?」

 

「もしかしたら何かあるかもしれないからな。気になったら調べないと気が済まないんでな」

 

「うわー、【毒無効化】のスキルを持ってそうなプレイヤーでもしなさそうなのに、ハーデスはするんだね」

 

凄く呆れられている気がするがやるったらやるんだ。とにかくサイナには右へ、俺は中央の道に進んでみたら、こっちは一切何もなく手ぶらで戻る羽目になった。サイナの方は少し遅れて戻ってきて―――。採取してきたアイテムを確認していたサイナが、白いキノコを手に持っている。なんと、俺も初めて見る赤テング茸の白変種だ。

 

「へぇ。これが採取できたのか」

 

「・・・・・ハーデスの行動力と直感、私も見習うべきなのかな」

 

何か悩む彼女に声をかけ今度こそ右の通路の先へと進むのであった。そこで俺達を待ち受けていたのは―――。

 

ギュルルルー!

 

「テフ~」

 

腹をすかせたNPCが倒れている。

 

「蝶?」

 

倒れていたのは、ヌイグルミちっくにデフォルメされたモンシロチョウであった。名前はテフテフ。姿通りの名前だな。

 

「テ~フ~・・・・・」

 

グギュルルル!

 

俺たちがテフテフを見ていると、ウルウルとした目と腹の音が激しく主張してくる。

 

「テフ~・・・・・」

 

え、ご飯をあげろってこと?

 

「ちょっと待ってろ」

 

作戦タイム!

 

「何か料理あるか? アレが食べれそうな」

 

「蝶々だよね。花とか蜜とかじゃない?」

 

「でも、普通の蝶じゃないみたいだよ?」

 

「う~ん・・・・・取り敢えずみんなで全部出し合ってみる?」

 

イズの提案通りにすることとなった。いま所持している料理を、三人とテフテフのNPCの周りを食べ物で囲んだ。

 

「どうしたんだフレデリカ、変な顔して」

 

「いえ、さすがと思っただけ。どんだけ料理してたらこんなにたくさんの食材がゲットできるのかしら。異常だわ」

 

「い、異常って・・・・・」

 

「あ、ごめんごめん。褒めてるんだよ?」

 

そんなことを話している内に、テフテフはある食材に飛びついていた。

 

「テフテフ~!」

 

「それにしても、まさかこんなものを食べるとは思わなかったな」

 

「うん。私も」

 

テフテフが興味を示したのは3つ。

 

俺達がそれぞれ持っていた苦渋草とランタンカボチャ、キュアニンジンだ。一応用意してみたチューリップの花やロイヤルゼリーなど目もくれず、その1つだけを貪り食っている。

 

口に巻いた管みたいな口がないので固形物もいけるのかな~と思っていたが、まさか普通に野菜に飛びつくとは思わなかった。羽根で器用にホールドしているな。

 

「テフ~♪」

 

品種改良で作り出した作物であるということだった。多分、その条件で間違いないだろう。

 

「イズとセレーネ、畑持ってたりしてるのか?」

 

「生産に必要な素材とアイテムを作る為には必要なものがあるから」

 

「ハーデスほどじゃないけどそれなりに育ててるんだよ?」

 

しかも料理のスキルレベルも高いとか、意外だったな。今度料理会でもして食べ合いっこしたい。

 

「テフフ!」

 

そして、満足したテフテフは俺とイズとセレーネにアイテムを渡して、虚空に消える。

報酬アイテムはちゃんとプレイヤーの人数分もらえるようだ。

 

「えーっと、破れたメンコ?」

 

懐かしのレトロオモチャである。でもどうしてこれなんだ?

 

「使い道がさっぱりわからないねー」

 

「まあまあ、その内分かるって。それよりも、この後どうする? どうせだったら他の3つ行っちゃう?」

 

「付き合ってくれるのか?」

 

「もちろんよ! むしろ、こちらからお願いします!」

 

イズに続き、フレデリカとセレーネも付き合ってくれるらしい。これは嬉しいぞ。昼間までもう少し余裕があるし、皆と一緒だったら残りも攻略できるかもしれないな。

 

「じゃあ、行っちゃうか?」

 

「うん! 行っちゃおう!」

 

なら行こう。だがその前に情報を集めに行こうか。という事でぇ・・・・・。

 

「よぉ、ヘルメスさんよォ。新情報とかありませんかねぇ~? こっちはそっちより濃密な時間を過ごしたから片手だけじゃ足りない情報を山ほどあるんだがぁ~?」

 

「ッ・・・!? ・・・ッ!!?」

 

「ほ~れ~、この冥府に棲息している魔獣は絶滅危惧種で種族名ヘルキャットと言うんだ。可愛いだろう?」

 

『おいらを愛するんだにゃん人間! おいらは地獄最強の魔獣フレイヤだにゃん!』

 

喋るモンスターは初めてだろう。おん? おっとこいつも忘れてた。

 

「こっちは神獣の鳳凰だ。まだ正式にテイムをしていないフリーの状態だが、この鳳凰も中々に凄い情報が詰まっているんだが・・・・・」

 

『資格ある者よ。顔がゲスいぞ』

 

始まりの町の大通りで情報の売買をしている『タラリア』に訪れた。二体を抱えながら全身を震わせるヘルメスへ見せつける。

 

「~~~~~うみゃあああああああああああああああああああああああ!!!!! 借金地獄から脱することが出来なぁああああああああああああああああああい!?!?」

 

「とっとと前回の未払い金も払ってもらわないと困るんだぞ。一体いつまで待たせる気だコラ」

 

「い、今手元にあるのは総額の半分はあるわっ・・・・・でも、もうちょっとだけ待ってくれないかしら。こっちも色々と資金が必要で・・・ッ!!」

 

「じゃあ、最近なんか新しい食材とか出たか? 」

 

すると、ヘルメスが何やら取り出して見せてくれる。それは赤い、縦笛サイズの棒だった。いや、縦笛ほど真っすぐではなく少し反っているし、表面は少し凸凹している。

 

「これは・・・・・赤キュウリ? もうキュウリが発見されてたのか」

 

ダメ元で情報を聞いたのに、まさかこの場で出てくるとは思わなかった。

 

「あ、やっぱまだ知らなかった? 始まりの町で見つかったばかりなんだ。まだほとんど知られてないの。今のところ入手できたプレイヤーは10人いないんじゃないかしら?」

 

「え? それは凄いな」

 

「新しくNPC露店が増えて、そこで売られてたの。入るには一定以上の農業スキルが必要だけど。君なら入れると思うよ」

 

「種は?」

 

「作物状態で売られてるだけだね」

 

そうなのか、と思いつつ未払い金の一部としてそれが欲しいと口にする。ヘルメスはそう言われると逆らえないのか、トレードで譲ってくれた。

 

「と、ところで・・・・・他のプレイヤーでも関われるような情報があるの?」

 

「あるな。今のところ北の町に隠し通路を発見したんだ。その中に何があるのかも把握済み」

 

「そ、それを教えてもらうのは・・・・・」

 

「関われないのも含めて全部言ったら、もう1000万以上の未払い金が増えることになるが?」

 

「ぶ、分割払いで・・・・・」

 

「却下、悪いけどこれから西の町に行くから忙しくてまた今度な」

 

きゅうりの確保と言う成果だけ残し待たせてるみんなのところへ戻り、また鳳凰の背中に乗せてもらい西へ目指す。

「よし、初の西の町だ! とりあえず第3エリアを歩き回ってみるか」

 

「ムッムー!」

 

スムーズに俺達は第3エリアである西の町へとやってきていた。未討伐のフィールドボス? あいつらなら俺がワンパンで沈めてやったよ。

 

俺と腕を組んで歩いているのはゆぐゆぐである。楽し気に歩いているな。手を繋ぐくらいならともかく、腕を組むとなると・・・・・。ここ最近構ってやれなかったから今日は好きにさせてやろうと思う。

 

「西の町は緑がイメージカラーかー。綺麗だな」

 

「――♪」

 

屋根や壁が緑系統に塗られている町、アールヴの里がある深い森の中にいるような、心安らぐ色であった。

 

プレイヤーにNPCが騒ぎながら道を行き来している。俺たちも屋台で食べ物を買ったりしながら、町を歩いてみた。地図も埋まるし楽しいし、一石二鳥だね。

 

「おい、あれ――」

 

「まじか――」

 

「お、俺も――」

 

ただ、めっちゃ見られているな。まあ、分からなくもない。その視線はほぼ全てがフレイヤに向いていた。俺だって、自分以外にヘルキャットを連れているプレイヤーがいたら羨ましくなるだろうし、ガン見してしまうだろう。

 

フレイヤが動く度に、「おお~」というどよめきが上がる。

 

『にゃはは。人間どもの熱い視線が伝わってくるにゃ~』

 

「優越感を感じるだろ」

 

『もう最高にゃ!』

 

海中の魚のように軽やかな動きをするフレイヤが飛んだだけで、凄い歓声が上がったぞ。やはり猫の破壊力は凄まじいということか。ただ、ちょっと注目し過ぎたかもしれない。周囲のプレイヤーの目が怖い。そして人の輪が狭まってきた気がする。より近くでフレイヤを見たいんだろう。

 

このまま身動きが取れなくなりそうだな。ということで、俺は皆を連れて足早に包囲網を脱出したのだった。さすがに追ってはこないかな? ふー、ちょっと調子に乗り過ぎたか。反省しよう。

 

「適当に逃げて来たから、町の中心からは大分外れちゃったな」

 

「本当にだよ。どうしてここまで来るのかなーって思うぐらいに。完全に当てずっぽう出来たでしょ」

 

「まさしくその通りだ」

 

周囲を見回すと住宅街まできてしまったらしい。ただ、商店街に戻るのはもう少し時間が経ってからの方がいいだろう。この辺を散策してみるか。

 

「オルトどこ行きたい?」

 

「ムー?」

 

横にいるオルトに話しかけるために、視線を落とした時だった。俺は、オルト越しに見た民家の壁に、違和感があった。

 

「・・・・・ああ、隙間がちょっと歪というか、下の方が少し隙間が大きいのか」

 

「え? どれのこと?」

 

「あ、セレーネ。多分これだわ」

 

「よく見つけたねハーデス」

 

民家の壁と民家の壁の境目にある隙間なんだが、下に行くにつれて微妙に間が広がっているのだ。それが違和感の原因だろう。隙間を軽く覗き込んでみると、オルトも真似して隙間の向こうを見始める。

 

「なんか、光ってるな・・・・・。向こう側から光が漏れてるだけか?」

 

「ム?」

 

「いや、違うか?」

 

隙間の向こうから微妙に光が漏れているのが見えた。しかもよく見てみると、それが太陽の光じゃなくて人工の光であることが分かる。隙間の向こうに空間があるようだ。入り口部分は狭いものの、先に行くと横幅が広くなっているらしい。

 

「光ってる物の正体が分からないな・・・・・」

 

「ムム~」

 

隙間に体を入れようとしてみるんだが、さすがにこの隙間には入らない。さらに身をよじってみたが、無理だった。俺が無理ならこの中で身体が大きいフェルは絶対に無理だ。

 

「いや、下は少し広がってるし、四つん這いになればいけるか?」

 

周囲を見回しても他のプレイヤーはいないし、間抜けな姿を目撃されることもないだろう。ちょっくらチャレンジしてみるか。それでダメだったら、ミーニィとフレイヤに偵察してきてもらおう。

 

「フェル、お前は少しここで待機しててくれ。すぐに笛で呼ぶ。他の誰かが来たら何もせず通してやってくれ。無作法に触れられるのが嫌なら抵抗してもいい」

 

俺が何しようとしているのか、自分の身体では入れない場所だと察してる様子で頷いた。

 

「よっ、ほっ・・・・そいやっ!」

 

よし、肩が通った! このまま行くぞ。

 

「ぐ、せまいなー」

 

「キュイ?」

 

俺の前を飛んで先導してくれているミーニィが心配そうな顔をして振り返る。

 

「だいじょうぶだ」

 

そうやってハイハイで進むこと10メートル程。ようやく広い空間に出た。俺は立ち上がってグッと伸びをする。いやー、ゲームの中でもついついやっちゃうよね。

 

「えーっと、ここはなんだ?」

 

光の正体は、壁に埋め込まれた小さいランプのようなものだった。

 

「キュイ!」

 

「あ、マンホール?」

 

ミーニィが指差しているのは、地面に設置された丸い蓋のようなものだ。マンホールっぽいが、取っ手のようなもの以外にその表面に模様などは一切ない。

 

「開くか・・・・・?」

 

「ム?」

 

「モグ?」

 

「おお、お前たちも来たか」

 

うちの子たちは全員俺より小さいから。俺が通り抜けられれば、問題ないのだ。

 

「今、お前達の中で一番腕力が高いのはオルトか? ちょっとこのマンホールを開けてみてくれ」

 

「ムム!」

 

オルトが腕まくりをしながら、マンホールの前でしゃがみ込む。頼もしいな! そして、オルトの頑張りによって、マンホールの蓋がジリジリと上がっていく。

 

「キュイ!」

 

オルトの上を飛び回りながら、ミーニィが応援している。その声援に引っ張られるかのように、マンホールの蓋が持ち上がっていった。

 

「ムムー!」

 

「よーし、良くやったぞオルト」

 

「ム!」

 

ドヤ顔のオルトの頭を撫でつつ、マンホールの中を覗き込む。その下には、降りるための梯子と、漆黒の闇が広がっていた。

 

「やっと出られたぁー・・・・・」

 

「狭すぎて体のあちこちがぶつかって大変だったわ」

 

「ふぅ・・・あ、ハーデス。何か見つけたんだ?」

 

「お待たせしました」

 

彼女達も来られたか。手を貸して立ち上がらせ一緒にマンホールの中を覗き込む。

 

「さーて、二つ目の隠し通路だ。行くぞ」



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第3エリアの隠しダンジョン巡り 西編

先に軽くマンホールに落ちるように降りると、そこはレンガ造りの小さな部屋だった。天井は2メートルちょいくらいの高さかな。

 

「みんな大丈夫か~?」

 

「キュイー」

 

「ムムー!」

 

飛べるミーニィとフレイヤはそもそも梯子なんか使わない。オルトも普通に梯子を下りて来たな。ゆぐゆぐも人型なので大丈夫だ。

 

問題はクママとドリモだ。一応二足歩行だが、手は鋭い爪が生えているし、足も短い。梯子を上手く下りれるかな?

 

「下で支えようか~?」

 

「モグ」

 

マンホールの入り口を見上げながらドリモに声をかけたが、どうやら助けは必要ないらしい。首を横に振っている。

 

「モグ」

 

「大丈夫か?」

 

多少もたつきながら、梯子に足をかけるドリモ。とても大丈夫には見えん。下から見ると、オーバーオールの尻尾穴から飛び出した尻尾がヒョコヒョコと左右に揺れていた。短い脚をチョコマカと動かしながら、梯子をちょっとずつ降りようとしている。

 

「モグ」

 

俺は梯子の下で何時でも抱き留めるよう身構えて待った。だって、足を踏み外して落下したように見えたのだ。しかし、それは見間違いであった。

 

シューッ!

 

ドリモは自ら足を梯子から外し、両手で梯子を握ったまま下に滑り降りて来たのである。梯子の両端を握った手の力で、軽く勢いを殺しているようだ。そのまま華麗な着地をきめた。クママもドリモの降り方を真似て降りて来る。

 

「ハーデス、上を見ないでよー!」

 

さすがに見えないだろ。と言いたいが空気を読んで梯子から少し離れて待つと、フレデリカ達も降りて来た。

 

「ここは下水道か」

 

しばらく進むと、通路の横に水の流れている場所に出た。下水と言ったが、いわゆる汚物を流す場所ではなく、雨水などを集めて排出するための場所だと思われた。匂いもしないし、水が意外に透き通っているのだ。もしかしたら中水道なのかもしれない。

 

「下水道マップ・・・・・」

 

RPGなんかだとよくあるダンジョンだ。だいたい迷路化しているうえ、梯子を登ったり下りたりするギミックが用意されていて非常に面倒なことが多いんだっけ? そんなこと考えている俺のよそにオルトとドリモが部屋から続く通路を覗き込んでいた。2人とも夜目持ちである。先が見えているんだろう。

 

「どうだ? 敵はいそうか?」

 

「ム!」

 

「モグ」

 

『毒の臭いもしないにゃ』

 

首をフルフルと横に振るオルト達。どうやら敵は見えないらしい。それでも油断はできない。初めての場所だし、慎重に慎重を期さねば。先に進むと、案の定行き止まりである。隙間の狭い鉄格子が通路と水路にはめ込まれ、進むことが出来なくなっていた。隙間が狭すぎて、ミーニィでさえ通り抜けられない。畑にいるファウすらも入れないだろう

 

「格子の棒、壊れないもんか」

 

動かんね。俺の腕力でもどうにもならなかった。スキルなどで破壊もできない。

 

「壊れないね。だとしたら水中に潜るしかないんじゃない?」

 

「水中か」

 

チラリと宙にいるフレイヤへ視線を向けたら・・・・・。

 

『おいら、用事を思い出したから地上に戻ってるにゃあー!!!』

 

『私もだ。フェンリルの傍でお前達を待っているぞ』

 

話を聞いた瞬間からか。物凄い勢いで勝手に離れていきやがったぞあの自称地獄最強の魔獣と鶏もどきが。

 

「ゲームの中でも水に濡れるのが嫌なのか魔獣のくせに。風呂に入る猫もいるというのに情けない。鶏も戻ったら羽を毟り取って食ってやる」

 

「あそこまで拒絶するならどうしようもないわ。私達だけでも行きましょう?」

 

「それにしても攻撃魔法が撃てるってことは、完全にダンジョン扱いってことだよねここ」

 

後でどうお仕置きを・・・・・フェルもなんか濡れるのが嫌そうな感じがするな。水の中に潜ってイズの言葉通り水中まで張られてない水路を泳いで潜り抜けてみせた。

 

 

 

鉄格子の抜け道を無事潜り抜け、俺達は先に進んだ。ヒカリゴケが所々に生えているため、視界良好とはいえないが真っ暗でもない。それに先導役のオルトたちが夜目を持っているので意外と進む速度は遅くなかった。道中でふと気になったので水を汲んでみたが、最低品質の単なる水だな。これが凄い高品質だったら生産職が狂喜したんだけど、そんな美味しい話はないらしい。

 

それでも水中に採取できる物が何かないかと確認しながら進んでいると、俺の肩に乗っていたリックが鋭い鳴き声を発した。直後、水路から何かがザバーと水を割りながら上がってくるのが見える。

 

「うん? なんだあれ。ゴミ?」

 

「ヴァァ~」

 

俺たちの進路を塞ぐように立ちはだかったのは、一見すると泥とゴミをこねて固めたような、できればお近づきになりたくない外見をしたモンスターであった。

 

「ヘドロン・・・・・。なるほど、ヘドロのモンスターってことか」

 

「水路の水が綺麗なのにあんなモンスターがいるのね」

 

テイムは可能な様だが、こいつはテイムしたくない。普通に倒そう。

 

「相手は一体だが、足場が狭い。皆、気を付けろよ!」

 

「ムム!」

 

「モグ!」

 

下水道の通路は横幅が2メートルほどしかない。今までのダンジョンとはまた違った厄介さがあった。

 

「ヴァアアア!」

 

「ムッムー!」

 

救いなのは、ヘドロンの強さが大したことなかったことだろう。泥の球を飛ばす攻撃をしてきたが、オルトのクワで完全に防げている。そこにドリモのツルハシと、ミーニィの魔法、サクラの鞭が襲いかかった。

 

そして、それで終わりだ。戦闘開始1分もかからなかった。ステージが面倒な分、モンスターの難度はそこまでではないのかもしれない。

 

「って思ってた自分がいたな」

 

時には水路に潜り、時には狭い隙間を匍匐前進で通り抜け。ダンジョンをゆっくりと進んでいると、新たなモンスターが出現していた。その名も、アメメンボ。

 

水路の上をスイスイと進む、アメンボを大型犬サイズにしたような姿の昆虫系のモンスターだ。そして、前後からは2体ずつ、計4体のヘドロンが迫る。

 

「全方向から包囲されちゃった!」

 

「問題ない。【挑発】」

 

水路に飛び込み、モンスター達の意識を一身に集める。そうすれば『アルゴ・ウェスタ』を装備して【溶断】のスキルで熱烈一閃。その後、数度に及ぶヘドロン、アメメンボ連合軍との激闘を潜り抜け、俺たちはさらに奥へと進んでいった。

 

そして、マンホールに突入してからおよそ1時間。俺たちはまた本日最大の難所にぶち当たっていた。

 

「これはなかなか・・・・・」

 

水路が上り坂となっていたのだ。足場も途切れてしまい、水に逆らってこの坂を上る以外に進む方法が無さそうだった。

 

「しかも坂の途中に鉄格子があるんだけど。あれって下を通り抜けられるのか?」

 

「取り敢えず、ハーデス行ってみてくれない?」

 

イズの言葉を受けた後、俺は水の流れなど物ともせずに坂をグングン上っていく。結構な水量があるんだが、この程度であれば妨げにはならないな。

 

「行けれるぞー!」

 

「下を抜けることはできるのね」

 

とは言え、水泳・潜水のスキルを所持する俺だからあっさり通り抜けられたのだろう。フレデリカたちが水の流れる急坂を登りながら、一度水に潜らねばならないというのは、相当難度が高かいかもしれない。

 

「ミーニィ、巨大化して皆を運べないか?」

 

「キュイ!」

 

だが、そんなことせずとも唯一浮遊かつ大人数を一度に乗せることが出来るピクシードラゴンさんがいるのだ。俺の予想通り、水中に潜って進むこともせずに済んだイズ達もこっちに来られた。

 

にしても結構進んできたよな。

 

奇襲を警戒しながら慎重に進む。さっきは水路の中に落ちてた水鉱石を拾っている最中に奇襲を受けたからな。採取も気を抜けんのだ。俺だけならともかくな。

 

因みに、この下水道では水路の中で水鉱石と銅鉱石を、通路では茸類を拾う事が出来ている。どれもすでに所持している物ばかりなので、採取物はあまり良いとはいえないだろう。

 

「オルト、ゆぐゆぐ、盾にするようで済まんが、イズ達を守ってくれ」

 

「ム!」

 

「――!」

 

だが俺達の警戒をよそに、その後は戦闘はなく、行き止まりと思われる大部屋にたどり着いたのだった。見たところその部屋からさらに奥へと通じるような通路は伸びておらず、ここが終着点であるようだ。

 

部屋の形状は入り口から緩やかに下り坂になっており、全体ではすり鉢状になっている。

 

「何もないな?」

 

「ムー」

 

祭壇があるわけでも、ボスがいる訳でもなく。ただ無人の部屋があるだけだ。仕方ないので、隠し通路でも探そうかと、足を踏み出したその瞬間であった。

 

ガシャン!

 

「クマ!」

 

「閉じ込められたか。なら次に起こるのは大体アレだろうな」

 

入り口に鉄格子が降りて、俺たちは部屋に閉じ込められていた。

 

「みんな、警戒」

 

「ムム!」

 

警戒して陣形を作って待ち構えていると、ガコンと音を立てて天井が開くのが見えた。そして、そこから大量の水が部屋に降り注ぎ始める。

 

「え、 ここで水攻めか?」

 

だが、溺れさせるつもりではないだろう。入り口は塞がれているとはいえ鉄格子だし、すり鉢状になっている部屋の中央部分に水は溜まるだろうが、それ以上は格子から流れ出ていってしまうはずだ。

 

そして俺の予想通り、水は鉄格子の高さスレスレ程度で止まっていた。大部屋全域が水浸しになり、体育館くらいの面積の池が出現している。

 

だが、それで終わりではない。天井に開いた穴からは、今度は水ではないものが降ってきたのだ。

 

「アメメンボの大軍かよ」

 

10匹以上はいる。しかもその中に一際大きく、赤い個体がいた。名前はアメメメンボ。名前が手抜きじゃね? だが、気は抜けない。明らかにボスだ。

 

「これって、マズいかもしんない?」

 

フレデリカがポツリと呟いた。現状、俺たちがいる鉄格子前で、水の深さは足首程度だ。だが、部屋の中央付近に行けば俺でやっと首が出る程度だろう。うちの子たちでは水没してしまうはずだ。

 

となると足場にできる場所は、この円形のすり鉢状になっている部屋の、壁際付近だけとなる。しかも水で動きが阻害されるし・・・・・。

 

「いや、問題ないだろこれ。ミーニィ、ちょっと皆を乗せてくれ天井付近まで浮いててくれ」

 

巨大化したままのミーニィは指示通りに動いてくれる。

 

「何するつもりなの?」

 

「マグマで倒す」

 

「この密室の中で!? あ、溶岩が冷えると固まって足場になる?」

 

「ついでに言うとマグマ耐性があるイズとセレーネにはそこまでダメージは無いと思うしな。【挑発】!」

 

【飛翔】で部屋の中央へ飛び、アグニ=ラーヴァテインに装備を変えて【マグマオーシャン】を発動する。アメメンボ達の独壇場の水場が赫赫なマグマにゆっくりと塗り替えられてゆき、徐々に追い詰められていく。そして壁の端にまでマグマが届いた頃には、アメメンボ達は足が燃えてそれに呼応するようHPも減っていった。ボスの赤いアメメメンボも例外ではない。たとえ冷えて固まる溶岩でも水面がなければ移動できまい。

 

「ふはははっ!!! 密室での戦闘は俺の方が独壇場だぞ運営この野郎!!!」

 

高笑いしている間にもマグマを出し続けていたことでアメメメンボ達を一気に殲滅することが出来た。

 

「・・・・・ハーデスが魔王って呼ばれても不思議と違和感を感じないわ」

 

「同感だよ」

 

「あ、あはは・・・・・」

 

なんか言われたが敢えて気にしない。さて? ボスを倒したのに、鉄格子は解除されなかったな? お、そのかわりに部屋の反対側の壁がスライドし、新たな通路が出現している。先に進めってことなんだろう。

 

もし倒したアメメメンボが中ボスだったら今度は毒殺してやろう。だが、俺の考えた作戦は無駄なものであったらしい。通路にモンスターは出現せず、その先には小部屋があるだけだったのだ。

足を踏み入れても、ボス戦が開始されるようなこともない。ただ、その部屋の中央に何かが横たわっていた。

 

何かと言ったのは暗くて見えないからではない。部屋の四隅には強い光を放つ四角形の行灯のような物が吊るされており、光源は十分だった。

 

何かと曖昧に表現した理由は、一見しただけではそれの正体が理解できなかったからだ。

 

「白い・・・・・布?」

 

床に白い布が適当に置いてあるようにしか見えない。だが、これが単なる布でないことは、マーカーの色が教えてくれていた。どうやらNPCであるようだ。

 

鑑定すると『オバケ』というなんの捻りもない名前が表示された。なるほど、お化けか。この白い布のような物がそのまま体って事らしい。幽霊ではなく、お化け。たらこ唇のQちゃんや、何故か配管工が姫を救う国民的アクションゲームに登場する白いやつと同類だ。

 

よく見れば布の中央に顔らしきものがあった。まあ、布にマジックで落書きしたと言われたらそうとしか思えない感じだが。糸目と思われる2本の横線と、底辺を下にした三角形の口っぽい物が一応確認できる。

 

フォルム的には、ボーリングの球に白い布をかぶせて、指のない三角の手を左右に付ければ完成である。足はない。ただ、布の中は覗くことが出来ず、真っ暗な闇が広がっていた。

 

NPCということは北の町にいたテフテフと同類なのか・・・・・?。

 

「バケー・・・・・」

 

近づくと、床に仰向けに寝そべっていたオバケが目を開いた。糸目なのかと思っていたら、単に目を瞑っていただけらしい。糸目が黒い丸になった。どちらにせよ落書き風なことに変わりはないが。

 

にしても、妙に弱々しい声じゃないか? いや、これってまさか?

 

「バ、バケー・・・・・」

 

再びか細い声をあげるオバケ。

 

 

グギュルルルル~!

 

 

「な、何の音?」

 

まるで巨大なカエルの鳴き声のような。もしくは南国の鳥の威嚇の声だろうか。こちらを威圧しているかのような重低音が、どこからともなく聞こえてきた。プレイヤーの俺達が皆して音の発生源を探った。不思議とオルト達が警戒しないのは気になるが。

 

 

グギュルルル~!

 

 

謎の重低音は、前方から聞こえてくる。オバケの向こう側か? 壁の向こうに、何かいるのか?

 

 

グギュルル~!

 

 

いや、違うな。もっと近くだ。そう、オバケの辺りから聞こえてきた。というか、オバケから聞こえている?

 

「バ、バケー・・・・・」

 

「・・・・・もしかして」

 

俺はオバケに近づき、片膝をついてその様子を観察した。よく見たら頬がこけているようにも見える。

 

 

グギュルルル~!

 

 

うん。敵とかいませんでした。オルト達が戦闘準備をしない訳も分かった。

謎の音の正体は、オバケの腹の音だったのだ。弱って見えたのは、単に空腹だったかららしい。寝ていたのではなく、腹を減らして行き倒れていたようだ。

 

「バ、バケケ~・・・・・」

 

「いや、お化けが空腹ってどうよ。まだテフテフは生物だから分かるのに、お化けは心霊の類なのに」

 

「ハーデス、多分抱いてもしょうがない疑問じゃないかしら」

 

ゲームだから、と謎の説得力を感じさせるイズに思考を放棄した。そう、考えても仕方が無いと。

 

「バケ・・・・・」

 

助けてやりたい気持ちはあるが、どうすりゃいいんだ? そもそもオバケって食事をするのだろうか? 霊体なのに?

 

「精気でも吸わせりゃいいのか?」

 

「バケ・・・・・」

 

違うらしい。微かに首を振ったのが分かった。顔が胴体みたいなものだから、全身を左右に揺する感じだが。

 

「じゃあ、普通に食事をするのか?」

 

「バケ・・・・・」

 

今度は明らかにうなずいた。まじか、食事をするのか。いや、幽霊ではなくオバケ。ここは別物として考えなくてはいけないだろう。

 

「オバケの好物って何だ?」

 

Qちゃんは白米好きだったっけ? いやチョコレートだったか? どちらにせよ所持していないが。

 

「聞いても分からないだろうけど、皆は分からないよな?」

 

「「「うん」」」

 

「申し訳ありません。私も初めて見る生物? なので」

 

「解答。 この非現実的生物の主な餌は不明でございます」

 

だよねー。考えても分からないので、テフテフと同様に手持ちの食べ物を片っ端から並べることにした。

 

肉料理や魚料理、飲み物や甘味。それだけではなく、素材を好むことも考えて生肉に鮮魚、野菜にハーブ等、食用にできそうなものを片っ端だ。自分で思っていた以上にインベントリに色々入っていたな。オバケの周囲を囲むように、何十種類もの食べ物が置かれている。なにか儀式でも始まりそうだ。

 

「どうだ? 食べたいものがあるか?」

 

「バ、バケケ・・・・・」

 

首を横に振るオバケ。なに? これでもダメなの? 他に何かなかったっけ?こうなったら、そのままでは食べられない物も全部出してしまおう。食用草や雑草扱いのハーブたち。さらに薬草や水なども全部だ。

 

すると、オバケがそのちっちゃい手をそっと伸ばす。なにか気を引くものがあったらしい。そして手に取ったのは、真っ白な毒茸であった。

 

「あ、それはっ!」

 

赤テング茸・白変種だ。他のアイテムに混じって、間違えて置いてしまったらしい。だが、俺が取り上げる間もなく、オバケはその真っ白な傘に青い斑点の付いた毒々しいキノコを口に入れてしまったのだった。

 

「ちょ、それ食べないでくれ! 畑で育てるつもりで―――」

 

「バケ?」

 

オバケは毒など意に介することなく、赤テング茸・白変種をモグモグと咀嚼している。

 

「・・・・・」

 

「ハーデスがショックを受けちゃったみたい」

 

「ま、また採りに行こう? 私も付き合うから。ね?」

 

「毒キノコ食べても大丈夫なの?」

 

「バケ!」

 

・・・・・問題なかったらしい。茸を食べたオバケは途端に元気を取り戻し、体を起こした。そしてオバケは素早い動きで立ち上がる――のではなく宙にフワーッと浮かび上がる。

 

上下左右にフワフワ動きながら手をバタバタさせているな。どうも喜んでいるようだ。

 

「バケバケ!」

 

オバケはダンスする様にクルクルと回転しながら、フワフワと俺の周りを飛んでいる。楽しそうだ。その雰囲気に当てられたのか、オルト達まで踊り始めたな。

 

「ラランラ~♪」

 

「ムムー!」

 

「キュイー!」

 

「クマー!」

 

「バケケ~!」

 

さて、これからどうなるか。友好的に接触できたし、戦闘にはならないと思うが・・・・・。次にどうすればいいのか分からず踊るうちの子たちとオバケを見ていたら、ある程度で満足したらしい。オバケが俺達の前でその動きを止めた。まあ、上下にフワフワと揺れているけど。

オバケは何やら手を布の下に突っ込んでゴソゴソし始めた。そして、取り出した何かを俺達に差し出してくる。

 

「バケ!」

 

「うーん・・・・・またなんだこれ?」

 

ヒビの入った小汚いビー玉だ。その名前もひび割れたビー玉。譲渡売却不可となっているので、イベント関係のアイテムであるようだ。

 

「えーっと、これをくれるのか?」

 

「バケ!」

 

俺の問いにオバケは大きく頷く。これが助けた報酬ってことらしい。

 

「これの使い道は――」

 

「バケー!」

 

これをどうすればいいのか聞こうと思ったんだが、オバケはこちらに軽く手を振ると、ポンと言う音を残して姿を消してしまう。え? これでイベント終了ってこと?

 

「えーっと、これどういうことだ?」

 

「本当にね。残りの町ににもあんなNPCがいるとして、料理を食べさせるとレトロなアイテムを貰う感じになって来たわね」

 

「みんなで遊ぶイベントを始めるためのアイテムかな?」

 

「うーん、考えても仕方ないから皆で調べてみない? 掲示板でさ」

 

手元に残った謎のアイテムを見つめるが、使い道は分からない。フレデリカの言う通りにしようと俺達ちょっと調べてみることにする。

 

軽く掲示板などを検索してみるが、普通のビー玉の情報しか出てこない。レッサー・ゴーストのドロップであるビー玉なら、掲示板にも載ってる。ただ、イベントアイテムであるひび割れたビー玉の情報は見つけられなかった。

 

他にもオバケなどについても検索するが、こちらも特に有用な情報はない。しかし、1つだけ興味を惹かれる情報があった。

 

「東の町でも隠し通路が発見されてたのか。発見者は浜風・・・・。へぇ、このプレイヤー、スネコスリって妖怪も発見してるのか」

 

今俺たちがいる西の町ではなく、東の町でも地下通路が発見されたらしい。ただそこにいたのはオバケではなく、コガッパという妖怪がいたらしい。ここと同じ様に行き倒れていたと書き込まれている。

 

しかしコガッパに食べさせられるようなアイテムは所持しておらず、イベントが進められなかったと書いてあった。

 

「隠し通路に入る方法も書いてあるな」

 

一度確認しに行ってみるのもいいかもしれない。それに、北と西と東に隠し通路があったということは、やはり南にも何かあるんじゃないか?

 

「これは、探してみる価値があるかもしれない」

 

もともと他の第3エリアの町を歩く予定だったわけだし、一石二鳥と思っておこう。

 

「よーし! みんな、一旦上に戻るぞー」

 

「ムム!」

 

因みに、降りる時は滑り降りたドリモだったけど、登る時はメチャクチャ大変でした。皆で引っ張りつつ下から持ち上げて、ようやく梯子を登れていた。

 

また四つ這いになって狭い道を抜け出たところでばったりと上級者と見受ける見知らぬプレイヤーと鉢合わせした。

 

「ええっ、もしかして白銀さん!? どこから出て来たんだ!?」

 

「隠しダンジョンから戻ったところだ」

 

オルト達もイズ達もぞろぞろと抜け出てくる姿に、その信ぴょう性が高いと踏んだプレイヤーは恐る恐ると訊いてくる。

 

「あの、俺は満〇って言いますけど俺も隠しダンジョンに行っても?」

 

「ああ、あの時の掲示板の? どうせ何時か知られるんだ。構わないぞ。ああ、赤テング茸・白変種は絶対に所持した方がいいぞ。それを手に入れてから攻略して見ろ」

 

「ボスモンスターか何かの攻略に使うんで?」

 

「それは自分で確かめてくれ。それじゃ俺は東の街に行くから」

 

おい、鶏もどき。勝手にどこかに行きやがって。その羽を毟り取られてお前の体の中から暴れてやろうかああん? 悪かった、許してくれ? だったらさっさと俺達を乗せて東に向かえ。と顔蒼褪める巨大化した鳳凰の背中に乗っては東の町へ超特急に向かう。

 

「おい自称地獄最強魔獣。水ごときでご主人様を置いて逃げるとはいい度胸じゃん。お前の毛を刈って靴下にしてやろうか。それとも一本だけ尻尾を抜いてもいいんだぞ? それで猫じゃらしにしてやる」

 

『ぎにゃああああ!? それだけは止めてほしいにゃ!!! 本当にごめんなさいにゃ、許してほし、にゃあああっ!! 尻尾を掴んで振り回さないで、千切れるっ、目が回るぅううううううっ!!?』

 

『お、おい!? さっきからブチブチと音がするぞ!! まさか本当に私の毛を毟り取っていまいだろうな!? 鳳凰の私に対してそれは罰当たりであるぞっ、おい聞いているのか!?』

 

―――その間、ちょーっとお仕置きをしたがな。



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新たなエリア 常闇の町

北と西にあったのだ、南にだってあるだろう。そう思って探索を始めたんだが――。

 

「あそこ、人がいるな」

 

「ム」

 

南の町の端にある墓地に、5人程のプレイヤーがいた。近寄って見ると、墓地の中央にある一際大きな墓石の後ろに、階段が空いているではないか。

 

「これってもしかして、ダンジョンの入り口か?」

 

「あれ、もしかして白銀さんじゃ?」

 

階段の前で観察していると、不意に後ろから声をかけられた。

 

「えーっと? 浜風さん?」

 

その職業は陰陽師となっている。彼女が最近凄い発見を連発している噂の浜風であるようだった。元テイマーで、現在は陰陽師という、話題の最先端を行くプレイヤーだ。掲示板でも会話をしたな。

 

「あれ、髪色変えたか?」

 

「あ、その通りです。私最近髪の色を変えたんです。前は黒髪だったから。それにお花見の時にごあいさつしただけなので、覚えてなくても仕方ないかもしれません」

 

なるほど。だったら仕方ないかもしれない。というか、あそこにいたのか。

 

「掲示板を見たぞ。俺より先に隠しダンジョンを発見するなんて新鮮な気分だった」

 

「え? 本当ですか? えへへ」

 

照れたように頭をかく浜風に、この場所のことを聞いてみると、やはりダンジョンの入り口であるらしい。浜風が知人たちとともに発見したそうだ。

 

「同じプレイスタイルを模索している人たちに声をかけて、人海戦術で探したんです。うう、もうちょっと早くここに来てれば私が第一発見者になれたのに・・・・・」

 

発見したプレイヤーがすでに早耳猫に情報を売りに行ったらしいので、他のプレイヤーも次第に集まってくるだろう。多分、俺とは入れ違いになったんだろうな。

 

「白銀さんも、もしかして情報を買ってきたんですか? うふふ、これは飲まず食わずで探し続けた甲斐があったかも・・・・・」

 

「あー、情報は買ってない。自力で隠しダンジョンを探してたら偶然ここに人がいるのを見て、立ち寄っただけだ」

 

「あ、そうですか・・・・・」

 

俺が偶然だと告げると、ちょっと悔しそうだ。情報があまり広がってないのが残念なのだろうか?

 

「結構厄介なモンスターが出るらしいんで、気を付けてください」

 

「ありがとう。あれ、浜風はもう帰るのか?」

 

「実はタラリアのサブマスから呼び出されてまして。仕事の手伝いをしてほしいそうなんです。うふふ」

 

口振りは面倒だという感じのトーンなんだが、顔は何故かにやけている。

 

「あのタラリアも、私のことは無視できなくなってきたってことですよね!」

 

どうやら有名クランから名指しで協力を頼まれたことが嬉しいらしい。だが、その気持ちは分からなくもないぞ。自分もちょっとだけトッププレイヤーの仲間入りをした気になれるのだろう。

 

「まあ、浜風は最近話題だし、タラリアに限らず、注目してる人は多いんじゃないか?」

 

「えへへへ~。そうですかね~?」

 

「ああ、俺と同じぐらい凄い発見もしてるし、これからも色々な発見をしような」

 

「勿論です! いつか白銀さんを超えて見せますから!」

 

陰陽師というレア職業なうえに、情報を独占せずに自ら掲示板にアップする浜風はすでに俺なんか超えているだろう。それでも浜風みたいな有名プレイヤーによいしょされるのは悪い気はしないので、礼を言っておく。

 

「いやー、そう言ってもらえると俺もゲームを楽しめれる。お互いもっと楽しもうな」

 

「はい!」

 

彼女と別れても順番が来るまで待つ。色々なプレイヤーが集まってきたら、ダンジョンに入るのにまた並ばなくてはいけなくなるだろう。そのままダンジョンへ突入すると、そこは浜風に言われた通り、非常に不気味な場所であった。地下水道、地下通路、地下洞窟ときて、地下墳墓である。

 

「結構広いぞ」

 

「ムム」

 

他の地下ダンジョンと比べて、フロアが広い。

 

昔は綺麗に石畳が敷き詰められていたのだろうが、長い年月のせいで石畳が所々剥げ、また墓石や地面を苔や蔦が覆い隠すことで独特の雰囲気がある。

 

明かりは問題ない。壁には小さな凹みが並んでおり、そこに火の灯った蝋燭がならんでいるからだ。

 

「これは、どうせアンデッドが出るんだろうな」

 

「ム?」

 

何が出ようと倒すまでだが、何が出るんだろうな? モンスターが出るまで歩き続けたら初めて見るモンスター達が俺達の前に現れた。

 

「カタカタカタ!」

 

「ゴー」

 

「スケルトンか。あとは、コールゴーレム?」

 

スケルトンとコールゴーレムだ。2メートルを超えるゴリラ体型のゴーレムなんだが、その体が黒い石で作られている。そして、その腕は赤く熱されていた。石炭で作られたゴーレムであるらしい。

 

・・・・・発掘できますねぇ。

 

「あ、ハーデスが不壊のツルハシとラヴァピッケルを装備した」

 

「岩石系モンスターだし、片方は骸骨だから砕けるからじゃない?」

 

「ゴーレムの方は、採掘したら石炭を落としてくれるのかな?」

 

何だかイズとセレーネは採掘できそうなモンスター相手にはツルハシで戦うようになってきたな。

 

「フレデリカ、骸骨の方を頼む」

 

「あっという間に倒してあげるよ」

 

よろしく。それじゃ、戦闘開始! リヴェリアがゴーレムの手足を蔓で縛ってくれたおかげで動けない岩石はただの採掘対象になり下がった。ピッケルとツルハシを持つ俺達は躊躇なく岩石の身体に打ち込んで削っていく。おら、石炭を落とせ!

 

「凄い凄い! ポロポロと石炭を落としてくれるよ!!」

 

「普通に倒すよりこうして採掘しながら攻撃すると、ドロップアイテムとしてたくさん落としてくれるのね!! いいこと知ったわ!!」

 

「そんな二人に朗報だ。鑑定したら石炭を炉に使用すると、製作物の品質を向上させることができるらしいぞ」

 

「「コールゴーレム、もっときて!!」」

 

 

ガンッ!! ガンッ!! ガンッ!!

 

 

うん、もうこの二人だけで倒せる勢いだわ。ゴーレムに関しては二人に任せた方がいいだろこれ。

しかもこのダンジョンボスのコールコールゴーレムの召喚する様に二人が発狂してしまうほど歓喜して、掘りまくった。掘りまくった。掘りまくったのだ。俺達も手伝いはしたが、イズとセレーネだけでコールコールゴーレムを倒したのは圧倒されたな。

 

ボス部屋の南の地下墳墓の奥にいたのは、ケダマンを可愛くしたような姿のモフフというNPCだった。まあ、小さな毛玉である。そのモフフが食べた好物は果物だった。しかも品質★8以上じゃなければいけないようなのだ。俺が偶然持っていた★8の黄金林檎を食べてくれたのだが、他の果物には見向きもしなかったので確実だと思われる。

 

それから昼食兼ねて次は13時に再出発の約束を決めて一旦解散、ログアウトした。時間になると再度集結して残る東の町にある隠しダンジョンへ攻略に乗り出した。

南もそうだったが東の隠しダンジョンにも急な坂があって、ひと苦労した先に待ち構えていた東の地下ダンジョンのボスを倒してコガッパの下へと向かっている。その日の内に四つの町の隠しダンジョンをクリアし時間をかけ、ようやく俺達は最後の間へとやってきた。 そして、地面に倒れ伏すコガッパを発見する。

 

「あれか」

 

「情報の通りね」

 

 

グギュルル~。

 

「早く助けてあげましょう?」

 

「やっとこれで終わりか~」

 

「それにしても青いヌイグルミにしか見えないね」

 

色は全体的にペンキをぶちまけたように真っ青。全体のフォルムは―――埴輪っぽい? 頭部と体が一体化した、凹凸のない円柱状の胴体。そこに、それこそヌイグルミっぽく見える、指の無い細く丸みを帯びた手足と思われる物体が付いている。

 

肌の質感は柔らかそうだ。布にも見える質感をしている。あと、真っ青と言ったが、頭の天辺と顔の中央は黄色かった。頭頂部にはヒマワリの花をデフォルメしたような皿をくっつけ、口と思われる部分は鳥の嘴風である。目は小さくも円らだった。黒いビー玉っぽい感じだ。

 

カッパなのだろうが、大分可愛いな。

 

「カパパ~・・・・・」

 

グギュルルル~!

 

「はいはい。ちょっと待てって」

 

「カパ」

 

「ほい、キュウリだぞ」

 

「カパパパ!」

 

「うお!」

 

 

あぶな! いまキュウリを離していなかったら腕ごと食われていたのではなかろうか? 食われても問題ない【VIT】だけど条件反射で手を引っ込めてしまったよ。

 

「カ~パ~」

 

コガッパは美味しそうにキュウリを食べている。だが、不思議な食べ方だな。嘴とか動いていないのに、口に咥えたキュウリが少しずつ飲み込まれて行く。

 

何だろう。電動鉛筆削りに鉛筆をずっと入れ続ける光景を思い出した。

 

「カッパパ~」

 

キュウリを食べて満足したのだろう。コガッパがお腹をポンポンと叩いて満足げな表情をしている。

 

「カパ」

 

「くれるのか?」

 

「カパー」

 

コガッパが俺達に差し出したのは黒い鉄の塊だった。五百円玉より少し大きいくらいのサイズである。

 

「潰れたベーゴマか」

 

やはり懐かしのレトロオモチャシリーズであった。オバケに貰ったひび割れたビー玉。テフテフがくれた破れたメンコ。モフフの欠けたおはじきに、今回の潰れたベーゴマ。

 

使い道が分からないのも同じだ。

 

消えるコガッパを見送りつつベーゴマを眺めていたら、アナウンスが聞こえてきた。

 

《東西南北の地下エリアを全て攻略したプレイヤーが現れました。最初に4エリアを攻略したプレイヤーに、称号『マスコットの支援者』が授与されます》

 

《転移陣による転移可能場所が増えました》

 

『東西南北の地下エリアを全て攻略しました。死神ハーデスさんに『破けたお手玉』が授与されます』

 

「また謎アイテム?」

 

よく分からない報酬だな。しかもお手玉をゲットしたのはイズ達もだった。4ヶ所を攻略できたのが俺だけじゃなかったからかな。

 

アナウンスのことを彼女達と語り合う。

 

「使い方は分からないよねこれ」

 

「うーん。考えても仕方がない。広場の転移陣に行ってみないか? それで何か分かるかもしれないし」

 

「そうですね」

 

「勿論行きましょう」

 

「うん!」

 

アイテムを使ってダンジョンを脱出すると、広場に急ぐ。

 

「うわー、人が・・・・・」

 

「ムー」

 

ワールドアナウンスがあってから、少し時間が経っているからだろう。多くのプレイヤーが広場に集まっていた。しかし、転移陣は広場にいれば使用可能だ。

 

俺たちは広場の隅でウィンドウを確認してみることにした。

 

「えーっと・・・・・なんだこれ? 朽ちた遠野の屋敷?」

 

 

・・・・・・。・・・・・。・・・・・。

 

・・・・・・。・・・・・。

 

・・・・・・。

 

 

転移先を確認すると、確かに見慣れない場所が増えていた。調べてみると名前は常闇の町。星の煌めく夜空に赤と青の二つの満月。今までで最も大きなこの町は全ての建物が木製であり和の様相を呈していた。町中を水路が走り、灯りは静かに道を照らしている。町の中心に見える一際高い建物には一体何があるのだろうと心は躍る。

 

「なあ、皆はどうだ? 俺は朽ちた遠野の屋敷っていう場所なんだけど」

 

「私達も同じね」

 

「遠野って何だっけ、名前だけは聞くけど」

 

今までの関連からして恐らくは・・・・・。

 

「新しい町のエリアは妖怪が跋扈しているところだと思うな。NPCにカッパとオバケが配置されていたから」

 

「蝶々と毛玉も妖怪の類なの?」

 

それを言われると何とも言えなくなるんだよな・・・・・。

 

「どうする? 町なら戦闘はないだろうしチーム解散して探索でもする?」

 

「んー、せっかくだしこのまま探索しない?」

 

「そうだね。皆で楽しもう?」

 

話し合いはすぐに終わり解散せず町中を探索することになった。俺たちはその転移先を選んで、転移することにした。料金はかからない。無料で転移することが出来るようだ。

 

そして転移した先は―――。

 

「朽ちた屋敷。確かにそんな感じだな」

 

そこにあったのは廃墟と化した日本家屋だった。俺たちが転移してきたのは、正門と屋敷の間の庭である。正門は閉じており、そこから高く長い壁が屋敷を囲っている。

 

この敷地から出れないって事かな?

 

「ミーニィ、壁を越えられるか?」

 

「キュイ!」

 

ミーニィが俺の言葉にうなずくと、勢いよく飛び出した。まるでスーパーマンみたいなポーズで、壁の上を目指す。

 

「キュイ?」

 

そして、いきなりボヨーンと跳ね返されてしまった。どうも見えない壁によって先に進めないようになっているらしい。その後はいろいろな場所に突撃して跳ね返され続けたミーニィは、結局空に張り巡らされた見えない壁を越えることはできず、肩を落として戻ってきたのだった。

 

「お疲れ」

 

「キュイ・・・・・」

 

「やっぱ、敷地の外には出られそうもないか」

 

「キュイ」

 

ションボリするミーニィを慰めつつ、俺は周囲を観察する。縁日のような物が開かれていた。和風の平民風の格好をしたNPCたちが、楽し気に笑っている。

その中にプレイヤーがまばらにいるだろう。なにやら露店のような物に並んでいる。

 

「プレイヤーが意外と少ないな」

 

俺たちがいた東の町の広場だけでも1000人くらいはいたと思うが。

 

「たぶん、サーバー分けがされているんじゃない? イベントの時もそうだったし」

 

「なるほどね」

 

俺たちはそんな話をしながら、とりあえず日本家屋に向かってみる事にした。敷地の広さに対して、屋敷自体は普通の日本家屋である。木造の平屋だ。

 

江戸時代と言う程古くはなさそうだが、昭和初期とかそんな感じ? 非常にレトロな雰囲気がある。

ただ、窓ガラスなどは割れ、壁などは一部が崩れ落ち、中を覗くと埃や瓦礫で足の踏み場もない様子だ。

完全なる廃墟。妖怪探査などを発動してみるが、スキルには特に何も引っかからないな。

 

「えーっと、中は・・・・・あれ?」

 

「どうしたの? 急に立ち止まって」

 

「立ち止まったというか、これ以上先に進めん」

 

「え?」

 

「あ、本当だ」

 

「見えない壁があるようです」

 

リヴェリアが言う通り、見えない壁のような物に阻まれて、一定以上屋敷に近づけないようになっていた。敷地の外にも出れず、屋敷にも近付けないと・・・・・。この転移先で最も目立つ場所なんだがな。逆に、中に入るには何かのイベントやアイテムが必要っぽかった。となると、鍵になるのは縁日だろう。そう思ったからこそ、他のプレイヤーたちも露店に並んでいるに違いない。

 

「マスター、この敷地内を一周してみませんか? 何か発見があるかもしれません」

 

「えー? 先に祭りデいいんじゃない?」

 

「私も気になりますね」

 

意見が割れたな。んじゃ・・・・・。

 

「敷地内を探すのは当然だとして今は祭りに参加しよう。隠されたギミックがあるかもしれない」

 

屋敷の周りをグルッと一周した俺達だったが、いくつかの謎を見つけ出していた。

どうやら、露店の店主達がプレイヤーによって見え方が違うようなのだ。屋台は普通の人間なのだが、ゴザのような物を敷いて商売をしているNPCが、どうやら怪しかった。

 

「やっぱり、ゲットしたレトロオモチャによって変化するみたいね」

 

俺達には露店の店主がどう見てもコガッパ、オバケ、テフテフ、モフフに見えるのだが、NPCのリヴェリアとサイナには普通の人間NPCにしか見えない場合があるのだ。

店主がダンジョンNPCの露店は、全てがちょっと変わっていた。射的や食べ物系の屋台などではなく、店主とレトロゲームで対戦できるという露店だったのだ。

 

メンコ、ベーゴマ、おはじき弾き、ビー玉落としの4種類だった。そう、これは4つの地下ダンジョンで入手したアイテムを使った遊びである。お手玉だけは見当たらないが・・・・・。

 

やっぱこれを遊んでみろってことなんだろうな。ゲーム的に考えるなら、ここでNPCに勝利すると、イベントが起きるのだろうか?

 

「とりあえず、ここで遊んでみるか皆」

 

一番近くにあったテフテフの露店の前に立ってみる。すると、ウィンドウに料金100Gと表示される。

 

「安いのか高いのかわからんけど」

 

支払いを済ませると、テフテフが何やらカードを手渡してくれた。それは、様々なポーズをしたテフテフの描かれたメンコである。

 

「えーっと、ルールは・・・・・」

 

意外と簡単だな。お互いにメンコは5枚。そして、最初に地面には10枚置かれる。

メンコを投げて、地面のメンコを裏返せたら、そのメンコに描かれた得点が加算される。成功しても失敗しても、1投で交代。ただし、失敗した場合は自分の投げたメンコは地面に置かれたままとなり、1点分のメンコ扱いになる。

 

交互にメンコを投げていって、5投した後の得点で勝敗が決まるらしい。

多分、正式なものじゃなくて、NWO風のルールなのだろう。

 

「メンコか・・・・。なあ、皆はやったことあるか?」

 

「ないです」

 

「私も」

 

「私も」

 

まあ、仕方ないよな。今の世代でやったことがある人間の方が珍しいだろう。それこそ、数十年前の祖父母世代の遊びだ。

 

「まあ、とりあえずやるだけやってみようか。何度もチャレンジしていればその内慣れるだろうし」

 

と言うことで、テフテフとメンコバトルである。テフテフが適当に並べたと思われるメンコ。その中で、特に大きなメンコには5点。中くらいのサイズに3点。一番小さいメンコには1点と書かれている。この横にメンコを叩きつけて、風圧でひっくり返すってことだよな。

 

「これ、【STR】に関係する?」

 

「すると思うわよ」

 

「なら、いけそうだ。・・・・・はっ!!」

 

思いっきり他のメンコを吹き飛ばさんと地面にメンコを叩きつけたら、本当に10枚のメンコが吹き飛んだ。なんか音もスパンッ! と鳴ったし【STA120】の力は伊達ではなかった。でも・・・・・。

 

「捲るどころか、吹き飛ばしちゃダメだよ」

 

「テ、テフ・・・・・」

 

力ありすぎて勝てない欠点が浮上した。くそ、メインをテイマーにすればいいだろ。『古代の鍛冶師の指輪』も外しさえすれば他のプレイヤーと同じぐらいになる。

 

「再挑戦だ!」

 

「テフ!」

 

改めて挑戦を意気込む俺と受けて立ってくれるテフテフのメンコ勝負は、中々に拮抗した。勝利を目指した俺は、9回戦目にしてようやく勝ちを拾っていた。1点差でも、勝ちは勝ちだ。賞品が下級ポーションだろうが気にしない。

 

「勝利!」

 

「テフテフ~」

 

「お、なんだ?」

 

「テフ~」

 

なぜかテフテフに握手を求められた。あれかな? 昨日の敵は今日の友的な? まあ、いい勝負だったな。

 

「テフ!」

 

「ん? これくれるのか?」

 

「テフー」

 

すると、テフテフが何か小さいものを手渡してきた。テフテフの形をした人形だ。懐かしの、消しゴム風人形である。ホームオブジェクトのインテリア扱いになっていた。

 

「なにそれ?」

 

「変なのもらったね。またこういうのを集めたら何かあったりするんじゃない?」

 

「それが本当なら、他のゲームにも挑戦して勝たないとね」

 

なお、三人も挑戦して人形を得た。

 

 

 

5分後。

 

 

「よっしゃ!」

 

「バケ~」

 

テフテフとのメンコ対決に勝利した俺は、次のゲームに挑戦していた。2つ目のレトロゲームは、オバケとのビー玉落としだ。これは地面にダーツのような的が描かれており、そこに1メートル程の高さからビー玉を落として最終的に得点の高かった方が勝ちという遊びである。自分のビー玉で相手のビー玉を弾いたりもできるので、最後まで気が抜けない遊びだった。

 

これは全部のモンスができるので、メンコよりもいいんじゃないか? 購入した練習用ビー玉で遊んでいるんだが、メンコの時は見学だったミーニィも参加できている。

 

「キュイ!」

 

「クマ?」

 

「キュイキュイ!」

 

「クックマ」

 

クママに細かく指示を出してミリ単位で位置を修正して、ビー玉を落としている。これが結構上手いんだ。そのちっちゃな手でビー玉に回転をかけながら落としているらしい。体が小さいからこそのテクニックだよね。

 

ただ、この遊びは運にかなり左右されるようで、俺は4戦目であっさりとオバケに勝利できていた。オバケの消しゴム風人形も無事ゲットだ。三人もな。

 

 

 

テフテフ、オバケの露店を攻略した俺たちは、3つ目の露店へと向かう。

 

「次はおはじき弾きか」

 

「モッフ~」

 

モフフと遊ぶのは、おはじき弾き。

 

あれだ、冬のオリンピックの定番、カーリングに似ている。所定の場所から的めがけて交互におはじきを指で弾き、止まった場所の得点で競い合う。的に届かなければ、そのおはじきは取り除かれてしまう。相手のおはじきをどうやって弾くかがキモであろう。

 

これがなかなか難しかった。意外と力の込め方が繊細で、下手すると明後日の方に飛んで行ってしまうのだ。しかし、8回目にしてモフフが大失敗をしでかし、そのおかげで何とか勝利することが出来たのだった。

 

「モフフ!」

 

「はいはい、握手ね~。お、人形もくれるか。ありがとうな」

 

「モフ!」

 

やっぱり正々堂々の勝負で勝利した方が、NPCの反応が良いな。当然ながらイズ達も人形をGETした。

 

「最後はコガッパのベーゴマ対決か」

 

「これってどうやるの?」

 

「このベーゴマの底にこうして縄を巻くんだ。男巻きと女巻きって二つの巻き方あるんだが・・・・・」

 

数分後。

 

「よっしゃああ!」

 

「カパー!」

 

何度もイズ達と練習、遊んでればコツを掴んだ二人もコガッパと勝負して勝ち、フレデリカも何度か負けた末にやっと勝ったところで俺も挑戦。結果、俺のベーゴマはコガッパのコマを弾き飛ばし、勝利を収めていた。

 

「ふー、これで全部に勝利だぜ!」

 

賞品はショボいが、満足だ。人形も4つコンプだし!

 

「さて、これで全部を回ったんだけど・・・・・」

 

「何か変化は?」

 

「うーん」

 

とくにアナウンスがあったりもしないし、目に見えて変化もない。露店で勝つというのはあまり意味がなかったかな? そう思っていたんだが、何やらうちの子たちが騒がしい。

 

「モグモ!」

 

「キュイー!」

 

「クマ!」

 

さっきまでは練習用に購入したレトロオモチャで遊んでいたので、それがヒートアップして来たのかと思ったんだが・・・・・。違っていた。全員が同じ方向を指差して、俺に何かを訴えている。

 

「キュイ!」

 

「ムーー!」

 

「ちょ、分かったから引っ張るなって! フェルは腕を噛まない!!」

 

いったい向こうに何があるんだよ?

 

とりあえずモンス達が指し示す方に歩き出すと、ようやく俺は異変に気付いた。朽ちた屋敷の前に、赤い和服を着たおかっぱの少女が立っていたのだ。小学校低学年くらい? オルトと同じくらいの背格好である。

 

少女はにっこりと微笑んでおり、不思議と恐怖は感じない。むしろ優し気な印象があった。

 

「座敷童?」

 

そう、その少女はどこからどう見ても、座敷童にしか見えなかった。

 

「ああ? なるほど、遠野だからね」

 

セレーネが納得したようにうなずいている。遠野は座敷童伝説が残る場所であるそうだ。なるほど、この場所の名前は朽ちた遠野の屋敷だし、座敷童系のイベントが起きてもおかしくないか。

 

「あれが座敷童?」

 

「へぇ、可愛い座敷童だね?」

 

「あっ!」

 

近づこうとすると、座敷童が屋敷の敷地の中に入って行ってしまった。そして、少し歩いた場所で振り向き、こちらを手招きしている。

 

「来いってことか?」

 

「行っちゃうよ?」

 

座敷童が再び歩き出した。やばい、このままだと見失うかも。俺たちはその後を追って走り出す。

 

「通り抜けられた!」

 

「でもって、4つの人形を揃えると座敷童と会えるってことが判明したな」

 

「ハーデスの思った通りだね」

 

「ああ、そんでこれからイベントが待ち受けてるはずだ。時間が掛かろうと達成しよう」

 

「わかったわ」

 

座敷童と出会うことが、この屋敷に入るために必要なイベントだったのだろう。まあ、どうして出現したのかは分からんが。俺たちは朽ちて骨組みだけになった扉を開き、玄関に足を踏み入れる。すると、イズ達の姿がいつの間にか消えていた。

 

「あれ? みんな?」

 

「ムム!」

 

「いや、お前らじゃなくて・・・・・」

 

パーティではなく、プレイヤー単位で分けられてしまったようだ。

 

「どうしようか・・・・・引き返す?」

 

この先戦闘がなければ問題はないだろう。それに、もし引き返してイベントが終了してしまったら最悪だ。

 

「うーん、とりあえず先に進むか」

 

少し先にある扉の前に、座敷童が立っているしな。



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座敷童とかくれんぼ

「えーっと、玄関で靴は脱いだ方がいいのか?」

 

「ムム?」

 

「クマ?」

 

あー、お前らそんな土足で・・・・・。いや、そもそも、モンス達は靴なんか脱げんし、仕方ないか。よく見たら座敷童も下駄を履いたままだ。

 

「えーっと、こんにちは?」

 

「あい」

 

俺が座敷童に声をかけると、少女が可愛らしい返事をしつつ、ペコリをお辞儀をしてくれる。そしてそれに合わせるように、アナウンスが響き渡った。

 

『座敷童がオモチャを欲しがっているようです』

 

座敷童が「ちょうだい」とでも言うように、両手を俺に向かって差し出している。

 

は? オモチャ? 急に言われても・・・・・。いや、待てよ。オモチャ持ってるじゃないか。

 

「あれって、座敷童にあげるためのアイテムだったってことか? でも、壊れてるんだけど大丈夫かな?」

 

そう思いつつ、俺はインベントリを開いたんだが・・・・・。

 

「アイテムが変化してるな」

 

ひび割れたビー玉は綺麗なビー玉に。潰れたベーゴマは硬いベーゴマに。破れたメンコが格好いいメンコに。欠けたおはじきは可愛いおはじきというアイテムに変化していた。さらに破けたお手玉も、美しいお手玉という名前に変わっている。

 

「知らん間にイベントが進行していたって事ね。まあ、とりあえずオモチャを座敷童に上げちゃおうかな」

 

やはりここは特別感のあるお手玉だろう。どう考えても、女の子にはお手玉だしな。俺はお手玉を取り出して、両手を差し出している座敷童に渡してやった。

 

すると座敷童がお手玉を懐に仕舞うと、ニコリと微笑む。だが、その両手は差し出されたままだった。おや、まだ欲しがっとるのかな?

 

「もっと欲しいのか?」

 

「あい」

 

コクコクと頷く座敷童。

 

「・・・・・じゃあ、これも」

 

なんてやり取りを繰り返すこと4回。結局全てのおもちゃをあげてしまったのであった。

 

「あい!」

 

「えーっと、くれるのか?」

 

「あい!」

 

そして、座敷童が俺に差し出したのは、古びた鍵である。鑑定してみると「マヨヒガの鍵」となっていた。

マヨヒガというのは、欲がないと宝がもらえて、欲が深いと罰が当たる、雀のお宿とか花さか爺さん的な内容の伝承であるらしい。

 

「この鍵・・・・。どう考えても、この扉の鍵だよな。えっと・・・・・。ここを開けろってことか?」

 

「あい!」

 

俺は観音開きの木製扉の鍵穴に、手に入れたばかりのマヨヒガの鍵を差し込んでみた。すると、案の定扉のロックが解除される。

 

その先には、長い廊下が伸びている。その左右には襖が並び、不気味さと神秘さを感じさせた。

 

「なんか、雰囲気あるな」

 

和風ファンタジーRPGにこんなダンジョンがあった気がするな。

 

「あーい!」

 

「あっ」

 

俺が通路を観察していたら、座敷童がタタタッと通路に駆け出していった。そのまま、途中にあった曲道を曲がって行ってしまった。

いや、頭だけ出してこっちを見ているな。そして、アナウンスが響き渡った。

 

『座敷童が遊びたがっているようです』

 

「あい!」

 

なるほど、オモチャだけじゃダメってことか。

 

 

「よし、みんな行くぞ。遊び飽きてもらうまで付き合ってやろう」

 

「クックマー!」

 

「―――!」

 

マヨヒガは、欲のない人間に富をもたらし、欲深い人間には罰を与えると言っていた。つまり、何か悪いことが起こる可能性も十分あるのだ。何をもって欲深いと言われるか分からないが、俺は自分を無欲だとは到底思えんしね。

 

俺たちが通路に踏み込むと同時に、再び駆けて行ってしまった座敷童を追って通路を曲がる。その先は、何とも言えない場所であった。基本は日本家屋。しかし、その入り組み方は半端ない。エッシャーのだまし絵? アスレチック? そんな感じだ。しかもメチャクチャ広いし。上り下りの階段に、梯子が無数に存在し、吹き抜けになった場所に通路がかかっているのも見える。

 

「おーい、座敷童ー?」

 

「・・・・・」

 

ダメだ反応がない。まずはここから探し出さないといけないらしかった。

 

「よし、みんな! 頼んだぞ!」

 

『面白そうにゃ。おいらが一番に見つけてやるにゃ』

 

さて、俺も探そう。複雑に入り組んだ立体迷路のような場所を探索していく。しかし見つからない。そうやって座敷童を探している内に理解した。

 

「つまり、もう遊びは始まっているって事ね」

 

隠れんぼなのか、鬼ごっこなのか。まあ、隠れんぼだろうな。

そうやって15分程座敷童を探している内に、ふと気づいた。

 

「そういえば、こっちに曲がってきたけど、通路はまっすぐ続いてたよな?」

 

これが隠れんぼなら座敷童は動かないが、鬼ごっこなら逃げている最中だろう。可能性は低いと思うが、あっちの通路も一応確認しておこうかな。

 

「ドリモ、クママ! 俺と一緒に来い!」

 

とりあえず、探索にはあまり役に立っていそうのないドリモとクママを引き連れて、俺は来た道を引き返した。

相変わらず襖が左右に並んだ、ちょっと不思議な雰囲気の通路が続いているな。

 

「襖は――開かないか。そっちはどうだ?」

 

「モグ」

 

「壁代わりってことか? まあ、一応全部確かめながら進もう」

 

「モグ!」

 

一見壁っぽく見えつつ、実は1ヶ所だけ開くとかあり得そうだ。なんて思ってたんだけどね。全く無駄でした。押しても引いても、全ての襖はビクともしなかったのだ。

 

そのまま突き当りの扉の前にたどり着いてしまう。

 

「さて、この向こうは何だろうな。ドリモ、クママ、前衛頼むぞ」

 

「クマ!」

 

「モグモ!」

 

そして、ゆっくりと慎重に扉を開けたのだが、その先には何もいなかった。

 

「えーっと、普通の小部屋っぽいな」

 

畳が敷かれた、4畳半の小さい部屋だったのだ。窓などは一切なく、部屋の四隅に置かれた行灯が淡い光を放ち、ゆらゆらと部屋を照らしていた。

 

その部屋の中央に、机が一つ置いてある。

 

「なんだ? アイテム?」

 

机に近づいてみると、ウィンドウが表示される。

 

「この部屋にあるアイテムを1つ手にお取り下さい?」

 

へえ。なるほど。マヨヒガは富を授けてくれるんだったな。

 

とりあえず机の上のアイテムを鑑定してみる。まず一番右の緑の布だ。名前は『河童の力帯』となっていた。

 

「結構高性能だな」

 

アクセサリー扱いで、【STA+10】と水魔法の威力上昇効果があるらしい。防御力はないが、攻撃力は飛躍的に上昇するだろう。

 

「で、こっちが『幽鬼の包帯』?」

 

これもアクセサリーみたいだ。【INT+10】に、隠密効果が上昇か。その隣にあるのが『サトリの毛飾り』。見た目は茶色のファーキーホルダーにしか見えないが、【INT+10】、詠唱速度上昇効果があった。

 

最後が『玉繭の糸玉』か。絹糸を丸めて作った玉に紐を付けた、キーホルダー風のアクセサリーだな。HP+10に加えて、HPの回復速度が上昇する効果があった。

 

「これは迷うな」

 

河童の力帯は微妙だが、他のアイテムは全部欲しい。俺が思案している間、クママ達は思い思いに部屋を見て回っている。壁には絵が描かれた掛け軸なんかもかかっているし、面白いのだろう。

 

「そう言えば、さっきのメッセージ・・・・・。やっぱこの部屋にあるアイテムを1つ差し上げますってなってるな」

 

つまり、壁にかかってる絵などもありなのか? まあ、今のところ金には困ってないから最有力はこっちのアクセサリー類だけど、絵はどんな感じなんだ? それとも、持ち出せるのはアクセサリーだけ?

 

そう思いながら絵を鑑定してみたら、やはりこれも持ち出せるアイテムであるようだった。日本画的な、おどろおどろしい河童の絵や、幽霊の絵などがある。

 

「単なる絵、じゃないのか?」

 

河童の絵の名前は『河童の封じられし絵』となっている。しかもアイテムの説明には気になる一文が書かれていた。

 

「この絵をある場所に持って行くと・・・・・?」

 

その先は不明だが、単なる絵ではないってことだろう。名前から考えても、特定の場所に持って行けば河童が現れるに違いない。陰陽師じゃなきゃ意味がなさそうだよな。

 

掛け軸には河童、幽鬼、サトリ、玉繭の4種類があった。

 

「なかなかどうして、リアル的に不気味な絵だなー・・・・・。凝った絵だよこの幽鬼の絵。リアルだったら絶対にたたりとか心配になるレベルだろ」

 

そうやってアイテムを物色していると、ふと気になった。

 

「・・・・・でも、これって本当に頂いても構わないのか?」

 

マヨヒガの単語が出てくるほどだ。欲深い者には罰を与えるっていう・・・・。なんか、落とし穴がありそうじゃないか? そう考えたら、ちょっと疑心暗鬼になってきた。

 

「・・・・・とりあえず座敷童を探そう」

 

どうせどれを貰うかまだ決まってないんだ、座敷童と遊びながら考えればいい。

 

「この部屋にはいそうもないし、戻るぞ」

 

「クマ!」

 

「モグ!」

 

クママたちを連れて迷路に戻る。

 

「やっぱここの迷路のどこかにいるんだろうな」

 

しかし、今だに座敷童は発見できていない。

 

「キキュー?」

 

「ヤー?」

 

リックとファウは狭い場所を重点的に探しているらしい。あんな場所に隠れるかっていうような場所に頭を突っ込んで、ほこりまみれになりながら座敷童を探している。

 

「ムム?」

 

オルトは隠し通路などがないか、コンコンと色々な場所を叩いているが、成果がないらしい。耳を付けて音の反響を聞いては、首を傾げている。

 

「クックマ~?」

 

「モグモ~?」

 

クママとドリモは普通だ。歩きながら、物陰などを覗き込んでいる。ただ、その探し方で見つかるかねー?

 

「俺はどうしようかな」

 

探索はうちの子たちに任せて、俺はその場で推理してみた。これだけ見つからないということは、単に見つかり辛い場所というだけではないだろう。きっと意表を突くような、思いつかないような場所に違いない。

 

「うーん、つまり普通は探さない場所。こういう時はあれだ、灯台下暗し的な?」

 

しかし、俺の足下には隠れられる場所はない。いや、待てよ。

 

「足元じゃなくて、横はどうだ?」

 

俺は、開けっ放しになっている扉に手をかけた。座敷童が開けたであろうこの扉。考えてみたら調べていなかったのだ。

 

「ここだー!」

 

「あい?」

 

ええ? まじでいた。扉の影にある小さいスペースで正座していた座敷童とバッチリ目が合った。うん、可愛い。

 

「見ーつけた」

 

「あいー!」

 

見付けられた座敷童は、なぜか嬉しそうにピョコンと立ち上がる。いやー、本当にここにいるとは思わなかった。

 

「キュイー!」

 

ミーニィは俺の肩の上に乗り、両側で拍手している。褒めてくれているのかね? クママたちは悔しげだな。俺に先を越されたからだろう。

 

すると、アナウンスが聞こえてきた。

 

『アイテムの持ち出し許可を得ました。このマヨヒガからアイテムを1つだけ持ち出すことができます』

 

あれ? もしかしてまだアイテムを持ち出しちゃいけなかったのか? 危ねー。罠じゃねーか。もし座敷童を発見せずにここから出ていたらどうなってたんだろうな? いやー、さすがマヨヒガ。

 

まあ、これでイベントも終了――。

 

「あい!」

 

「うん? なんだ?」

 

『座敷童がまだ遊びたそうにしています。どうしますか?』

 

「え?」

 

なんと、イベントは終了していなかったらしい。俺の前にウィンドウが出現する。そこには、『アイテムを受け取って屋敷を退出する』、『アイテムを受け取らずに屋敷を退出する』、『座敷童と遊ぶ』という3択が書かれていた。

 

どうやら帰ることもできるらしいが……。

 

「あいー・・・・・」

 

懇願するようにこちらを見ている座敷童。あの目を見て、断ることなどできようか? 見た目は人間の少女みたいだし、これを断るにはなかなかの精神力が必要だろう。

 

「まあ、もう少し時間あるしな」

 

『では、隠れんぼを再開します』

 

俺は座敷童と遊ぶを選択するのだった。

 

 

 

イズside

 

 

『座敷童がまだ遊びたそうにしています。どうしますか?』

 

「あら、まだなんだ」

 

やっと見つけれて、これで終わりかと思ったらイベントはまだ終了していなかったらしい。私の前にウィンドウが出現する。そこには、『アイテムを受け取って屋敷を退出する』、『アイテムを受け取らずに屋敷を退出する』、『座敷童と遊ぶ』という3択が書かれていた。

 

アイテムを受け取って退出して帰ることもできるみたいだけれど・・・・・。

 

「あいー・・・・・」

 

懇願するように私を見ている座敷童。あの目を見て、断るなんて・・・・・できないわよね? 見た目は人間の女の子みたいだし、これを断るにはなかなかの精神力が必要だわ。

 

「じゃあ、もう一回よ?」

 

「あい!」

 

うーん、可愛いわ。イベント限定でしか触れ合えないのはとても残念ね。

 

 

 

セレーネside

 

 

『座敷童がまだ遊びたそうにしています。どうしますか?』

 

「え? もう一回?」

 

隠れんぼは、イベントは終了していなかったらしい。私の前にウィンドウが出てきた。そこには、『アイテムを受け取って屋敷を退出する』、『アイテムを受け取らずに屋敷を退出する』、『座敷童と遊ぶ』という3択が書かれていた。

 

このまま帰ることできるみたい、でも・・・・・。

 

「あいー・・・・・」

 

懇願するようにこっちを見ている座敷童。あの目を見て、断るなんて凄く罪悪感が・・・・・。 見た目は人間の女の子だし、これを断るにはなかなかの精神力が必要だよ。

 

「わかった、また遊ぼっか?」

 

「あい!」

 

凄く喜んでいる座敷童。また隠れんぼして遊ぶのかな?

 

 

 

フレデリカside

 

 

『座敷童がまだ遊びたそうにしています。どうしますか?』

 

「え? まだなの?」

 

やっと見つけたと思ったのにイベントは終了じゃなかった。私の前にウィンドウが出現する。そこには、『アイテムを受け取って屋敷を退出する』、『アイテムを受け取らずに屋敷を退出する』、『座敷童と遊ぶ』という3択が書かれていた。

 

このまま帰ることもできるみたいだから。さっさと帰ろうと退出の青いパネルへ指を動かしたら。

 

「あいー・・・・・」

 

懇願するようにこっちを見ている座敷童。あの目を見て、断るなんて・・・・・見た目は人間の女の子みたいだから、同性でもこれを断るにはなかなかの精神力が必要だよ。

 

「うー、しょうがないなぁ。あと一回だけだよ?」

 

「あい!」

 

ハーデスが時間が掛かってもいい的なことを言ってたからいいよね? もしかしてこうなることを予想してたのかな。

 

 

・・・・・・。・・・・・。・・・・・。

 

・・・・・・。・・・・・。

 

・・・・・・。

 

 

 

座敷童と遊ぶを選択すると、俺達のパーティが瞬間移動で立体迷宮の入り口前へと戻される。

 

さっき座敷童が隠れていた扉が閉まっており、そこに「10、9、8――」というデジタルのカウントダウンが表示されていた。

 

その数字が0になった瞬間、扉の向こうから座敷童の「あーいーい!」という声が響く。

 

もういーよー的な事なんだろうな。扉が開くと、そこに座敷童の姿はない。再び隠れんぼが始まったのだ。

ただ、先程の隠れんぼが生きたのだろうな。10分ほどで、箪笥の影に隠れていた座敷童をフレイヤが見つけだしていた。

 

『今度はおいらが見つけたにゃー!!』

 

「あーいー」

 

見つけたフレイヤも、見付けられた座敷童も楽しそうにはしゃいでいる。うんうん、楽しそうでよかった。さて、これで――。

 

 

『座敷童がまだ遊びたがっている様です。どうしますか?』

 

「おお? まじか」

 

なんと再びそんな文字が表示されたのだ。先程と全く同じ潤んだ眼で、座敷童が俺を見上げる。

くそっ! 運営め! 俺をこの場所で永久に拘束するつもりか! これ以上、お前らの思惑には踊らされないからな!

 

『では、隠れんぼを再開します』

 

「あい!」

 

そうして、再び扉の前に戻され、カウントダウンが始まった。うん、断れるわけないよね。

 

 

―――1時間後。

 

 

4度目の隠れんぼを終えた時だった。

 

 

『座敷童が満足したようです』

 

「あーいー」

 

「おお、そうか。よかったよかった」

 

「あい!」

 

そんなアナウンスが聞こえ、直後に座敷童の姿が消えていく。ここは他のNPCと同じだな。最後まで笑顔で、楽し気に手を振っていた。これでイベントも終了だろう。

 

『アイテムを1つ取り、屋敷から退出してください』

 

「さて、ようやくアイテムをゲットできるな」

 

まあ、隠れんぼに夢中になり過ぎて、どれを選ぶか全然考えてなかったけどね! どのアクセサリーをゲットするか頭を悩ませつつ、アイテムの置かれていた小部屋に戻る。

 

すると、俺はある変化を発見していた。

 

「絵が増えてるな」

 

壁にかかった妖怪の日本画の中に、座敷童の絵が増えていたのだ。アクセサリーに変化はないようだった。

 

「他の4つはアクセサリーにも名前があるけど、座敷童はこれだけか?」

 

河童や幽鬼の絵はちょっと不気味だし、凄く欲しいって感じでもない。むしろ怖い。ただ、座敷童の絵は非常に愛らしい雰囲気があり、目を引かれた。

それに、さっきまでなかったわけだし、多分イベントをこなしたことによって出現したレアアイテムなのではなかろうか? 隠れんぼに付き合った報酬なんだろう。

 

「んー・・・・・うん。よし、決めた。これにしようか」

 

これがなければステータス上昇アクセサリーを、器用さと生産力が上昇するアクセサリーなら迷わずゲットしたんだがな。俺は座敷童の封じられた絵を取り外して、インベントリに仕舞いこんだ。

 

「えーっと、これで終了か?」

 

特にイベントが起きたり、終了を告げるアナウンスもない。

 

「・・・・・あれ?」

 

普通にアクセサリーを手に取れるんだけど。これって、もしかしてアクセサリーもゲットできるんじゃないか?

 

「いや、でもな・・・・・。アイテムを1つって言ってたもんな。ああ、マヨヒガの罠がまだ存在してるのか」

 

すると、メールが届いた。フレデリカ達からだ。内容は二つ以上取ってもいいのか相談か。

 

「欲張りは身を滅ぼすから絶対に一つまでにしよう。マヨヒガはそういう奴だから」

 

とメールを返した。俺もここは欲をかかずに帰ることにしよう。そうだ、欲深は罰せられるのだ。そのまま来た道を引き返す。すると、外に出た瞬間に再びウィンドウが起動した。そこには、「マヨヒガから持ち出したアイテム1つを差し上げます」とだけ書かれている。やはり欲をかかずに正解だったか。

 

「お帰りなさいませ」

 

どうやら俺が最後だったらしい。イズたちと情報を交換したんだが、アクセサリー4種は全員が見つけたそうだ。壁にかかっていた絵に関しても、それぞれ同じで。どうやら座敷童にあげたオモチャによって変化したらしい。

 

また、座敷童にあげるオモチャなんだが、これはレトロゲーム露店で人形をゲットした妖怪に対応して、修復されるようだ。コガッパのベーゴマ露店に自力勝利して人形を手に入れた冬将軍だけ、ベーゴマが修復されて座敷童にあげることができたそうだ。

 

 

「すまん。だとするとずいぶん待たせたな」

 

「ううん、そうでもないよ? 私達もどうやら4回も遊んだみたいだから」

 

「帰ろうとするとあの表情をされちゃうとね・・・・・」

 

「それで、ハーデスは何を手に入れたの?」

 

「興味あるかな」

 

「ああ、俺はこれだよ」

 

彼女たちは普通にアクセサリーをゲットして戻ってきていた。人が持っているのを見ると、急に羨ましくなるんだが・・・・・。いやいや、座敷童の絵は彼女達も貰えたのに選ばなかったんだ、俺はこれをゲットして良かったんだ。そう思っておかなきゃやってられん!

 

「うわぁ、絵なんだ」

 

「さ、さすがハーデス。チャレンジャーだね」

 

「なるほど、ここで迷わず絵にいけるから、白銀さんって呼ばれる所以なんだ」

 

妙に感心されてしまった。いや、結構迷ったよ? それにレアアイテムなんだし、皆だってこれを選ぶと思うけどな。

 

「まあ、使い道が分かるまではしばらくは持っておこう・・・・・」

 

 

ピッポーン。

 

 

「お? 何の通知だ?」

 

ウィンドウを確認してみると、運営からの通知メールが届いたところであった。1通のタイトルが目に入った。

 

「ホームエリアの開設と、マスコットシステムの導入について?」

 

「ハーデスのところも?」

 

「私達も同じ内容みたいだね」

 

「題名からして個人のホームが手に入れられる報せじゃない?」

 

―――それは重畳なことだな。リヴェリアを居座らせるホームが買えるようになったとは。

そして内容は全プレイヤーへの普通の告知メールだった。

 

「えーっと、なになに?」

 

ゲーム内で本日の夜に予定されている大規模アップデートの告知や、それに関する様々なお知らせのメールだった。

 

公式サイトで確認できる内容だが、その辺に全く興味のない人への周知徹底用なのだろう。一応確認してみると、いくつか面白いお知らせが混じっていた。

 

「新規プレイヤー用のボーナスアイテム詰め合わせか」

 

「思ったよりも早いわね」

 

リヴァイアサンレイドの翌日。つまり日曜だな。初ログインしたプレイヤーに与えられる、使い捨てアイテムセットがある。最初に了承したゲーム規約にも、第2陣などには第1陣との差を埋めるためのボーナスが与えられると明記されていたので文句はない。最近のインターネットゲームでは当たり前のことだしな。

 

そのボーナスセットを、新規じゃないプレイヤーにも課金アイテム扱いで販売するということだった。これも事前に告知があったので知っているが、メールでは正確な内容が記載されている。そこに面白そうなアイテムが入っていたのだ。

 

「経験値アップチケットや、レアアイテムドロップ確定チケットは予想通りだったけど・・・・・。そのエリアのユニークモンスターが出現するお香って、便利だな」

 

これは始まりの町周辺でしか使えなかったが、こっちはどこでも使えるらしい。その代わり、入手からゲーム内で10日間という使用期限があるようだった。

 

「あと、これもちょっと欲しいぞ」

 

それはスキルチケットというアイテムだった。スキルスクロールは、その中に封じられたスキルをゲットできるというアイテムだったが、これはリストの中にあるスキルを1つ自分で選択してゲットできるというアイテムだ。

 

値段によって選べるスキルは違うみたいなんだが、ポイントを温存できるのはありがたい。

 

「1000円、3000円、5000円、12000円のパックがあるのか。しかも全部は買えず、どれか1つだけと」

 

当然12000円のやつだな。今から事前申し込みができるみたいだし、買っておこう。

 

「それと、ホームエリアとマスコットシステムの実装?」

 

ホームエリアは、その名の通りプレイヤーホームのみが集まったエリアであるそうだ。住宅街ってことなのだろう。

 

始まりの町の転移陣、第2~第5エリアの転移陣からは無料で転移できるが、他の場所から転移するのはお金が必要と。イベント村と似た扱いだな。これに合わせて、イベント村も第5エリアまでは無料で行き来ができるようになるそうだ。

 

「ホーム、欲しいけど今の畑が便利なんだよな。でも、色々とインテリアを弄って遊びたいのは確かだ」

 

どうしよう。一番安いホームを買って遊ぼうか? 壁紙の変更とかもできるみたいだし、フィギュアなんかも飾ってみたい。

 

あと、マスコットシステムってのは何だ?

 

「・・・・・うちの鳳凰みたいなものか?」

 

正式なホームに可愛いマスコットキャラを常駐させ、愛でることができるシステムである。フィールドを連れ歩くことはできず、自ホームか所属クランのホーム。あとはホームエリアのみ連れ出すことができる。

ホームを購入すると、無料で何種類からか選べるらしい。ただ、マスコットには特殊能力などはなく、ただただ可愛がるだけの存在であるという。

 

 

しかし特殊な能力を持ったマスコットは存在しており、そのマスコットによって恩恵があるそうだ。

 

 

「ホームにつきマスコットは1体。ただし最大6体までは増やせるか」

 

ゲーム内通貨で2体。リアルでの課金で3体増やせると書いてある。最初の1体に+2+3で最大6体ってことだった。初期マスコットは犬、猫、兎、鼠、豚、熊、蛙、梟、カブトムシ、鯉の10種類だ。そのままの姿ではなく、バスケットボールサイズのデフォルメ姿である。それがフワフワ浮いている画像が添付されていた。

 

ゲーム内で様々な行動を取ったり、入手した称号やアイテムによって入手可能マスコットは増えるそうだ。

 

「絶対ホームをゲットしよう。そしてマスコットもゲットだ」

 

うちには可愛いモンスたちがたくさんいるけど、それとはまた違った可愛さがあるからな。

 

「ホームの申し込みは? ホームエリアに行くとできるのか」

 

ホームエリアの先行お披露目と、販売を行っているらしい。今までと違って、かなり安いアパートメントタイプの販売や、庭付きの戸建てなど、種類が豊富にあるという。また、ホームエリアも利便性が高く、人気が出そうだった。

 



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夢のマイホーム

そうしてやってきたホームエリアは、案の定凄まじく混み合っていた。ただ、ホームの申し込みに並んでいるというよりも、どんなホームを買うかなどを仲間同士でワイワイと相談しているようだった。

 

「ここが受付? プレイヤーが全く並んでいないんだが・・・・・」

 

まあ、入って見れば分かるか。そう思って中に入ってみると、そこは町の不動産屋さんみたいな、ファンタジー感ゼロの事務所だった。

 

どうやら入り口をくぐると個別に隔離される作りであるらしい。ホームの受付をスムーズに行うのと、個人情報の保護の両方を同時に行っているのだろう。

 

「いらっしゃいませ! ホームをお求めですか?」

 

対応してくれるのも、まんま町の不動産屋さん風のNPCだ。小太りで、白いワイシャツに黒いスラックス。頭は7:3分けで、黒ぶちメガネ。腕にはアームバンドを付けている。

 

「あ、はい。どんなタイプがあるんですかね?」

 

「では説明させていただきます。まずはこちらをご覧ください」

 

不動産屋さんがテーブルにスッと手をかざすと、俺の目の前にウィンドウが立ち上がる。もうこの場所でファンタジー感を出すのは放棄したのだろう。完全にSFの世界だ。

 

不動産屋さんが見せてくれたのは、ホームの種類の分類表であった。

 

集合住宅タイプ、居住性重視一戸建てタイプ、庭付き一戸建てタイプ、高級住宅タイプ、屋敷タイプ、農場タイプ、工房タイプ等々、色々と種類があるようだった。

 

「お一人暮らしですと、集合住宅、一戸建てタイプがお勧めです。生産職の方ですと、農場タイプ、工房タイプですかね。こちら、最初から目的の生産施設などを備え付けることが可能となります」

 

「自分である程度間取りを決められると言うことか?」

 

「はい。勿論、後々リフォームも可能ですし、住宅タイプの物件に生産施設を増築したりも可能ですので、絶対にここで決めなくてはいけないという訳ではありませんが」

 

居住スペースとしても生産施設としても使えるが、後はどちらに比重を置くかと言うことなんだろう。

 

俺は何を重視するべきだ?

 

「うーん、俺はテイマーなんで従魔優先で選びたいんですけど。庭付きで、生産の工房を付けられるのとか有ります?」

 

「はいはい、ございますよ。例えばこれ。従魔用のスペースも備え付けた、テイマーやサモナー用のホームとなっております」

 

「ほほう」

 

「あとは・・・・・。ああ、そうそう。こちらなどもお勧めですよ。庭が広めです。また、地下などもあるので工房の設置場所もございます」

 

「日本家屋風か」

 

「はい。特殊な効果もございますし、掘り出し物ですよ」

 

「特殊効果?」

 

「四季や天気、時間に応じて、虫の音などが聞こえる機能です。勿論、オンオフできるのでご安心を」

 

風流な機能が付いているんだな。でも、面白そうだ。それに、他の家が西洋風なのに対して、これだけが唯一和風という部分も魅かれる。俺、日本人だから。

 

「ちなみにお値段はどうなってます?」

 

「はいはい、現在のホームはこのような感じですね」

 

「へぇ、この値段か」

 

「何分、特別なホームとなっておりますので」

 

一番安いアパートタイプで10万G。庭付き一戸建てが100万G。部屋数だけを見れば、普通の庭付き一戸建てに部屋を2つ追加しただけの日本家屋が250万Gとなっていた。

 

「因みに分割払いとかは?」

 

「申し訳ありませんが・・・・・」

 

残念ながらローンは利かないらしい。こんなに不動産屋さん風なのに、そこだけはゲーム仕様かい!

 

「もう少し詳しく」

 

「は。こちらが詳しい機能一覧です」

 

「ふむ」

 

家は平屋の一戸建て。庭などは拡張することも可能で、増やせるらしい。これはどれだけ広げても、外からは見えない形になるらしい。

 

獣魔ギルドの牧場のように、謎空間を利用しているようだ。

 

家は、お茶の間、和室×3、台所。あとは納戸に、地下室が2部屋という形だ。和室には押入れまで付いている。ただ、トイレや浴室はなかった。まあ、ゲームの中じゃ使わんからね。

 

ああ、あと忘れちゃいけないのが縁側。日本家屋にはこれがなければ。

 

こうやってみると結構広い。また、和室や地下室を工房などに変更も可能だし、庭には畑なども設置可能。ただし、洋室にはできないということで、そこは諦めるしかないが・・・・・。庭も拡張できるなら誰よりも幅広く拡張して一大生産が出来るよう目指してみるのも悪くない。

 

「10人以上の大人数で住めれる家屋とかは?」

 

「それでしたら少々値は張りますがこちらに。こちらはギルドハウスとしてでも利用でき―――」

 

お、さっきより広大だな。日本家屋も数種類あったか。こっちは倉庫もあるのか。おー、日本の大豪邸もいいなー!! これだと露天風呂もあるのかよ!?

 

「ん? このトランスポーターというのは?」

 

俺が気になったのは、屋敷の端っこにある、トランスポーターという表記だった。浴室とか、脱衣所みたいなノリで、普通に間取りに描かれている。

 

「それはお客様がお持ちのホームを繋げて、転送できるようにする装置です。お客様の所持するホーム同士であれば、無条件で転移可能となり、簡易ホームの場合は転送扉を設置すれば移動可能となります」

 

「簡易ホーム。それって、畑の納屋も入ります?」

 

「勿論でございます。そういった、ホームから離れた畑や牧場、簡易拠点などに移動しやすくするための機能でございますから」

 

つまり、畑間の移動が今より楽になるってことだな。これはぜひホームが欲しい。むしろ、この機能のために一番安いホームを購入するのは有りじゃないか? そう思ったが、アパートタイプには設置されていないそうだ。

 

「転送扉っていくら?」

 

「最初の1つは5万G。2つ目以降は30万Gですね」

 

最初の1つはサービス価格ってことか。ん、買えてしまう。というか、もう日本家屋を買うつもりになってしまっているが、それでいいのか俺?

 

「うーん・・・・・。まあ、いいか。縁側でモンス達と涼みながら一杯なんてできたら最高だしな」

 

「ムー!」

 

「キュイー!」

 

オルトとミーニィも賛成らしい。嬉しそうに挙手している。

 

「よし! 決めた!」

 

「では?」

 

「はい。日本家屋の―――コレを買います。あと転送扉も4つ。それと万能工房Ⅱ型も」

 

工房には色々な種類があった。錬金工房や木工工房といった特化型と、万能工房や総合工房といった広い範囲をカバーしているタイプだ。俺が設置したいそれは万能工房・一型のグレートアップした方で、一型は土地が2部屋分必要な代わりに、全ての生産に対応するというタイプである。その代わり、効果は低い。

 

一型は万能工房でも最も低性能であるらしい。二型にするには、1000万Gを支払う必要があるそうなので、ベヒモスとジズを倒して得た金で買えることが出来る。

 

一型のアップグレートバージョンの万能工房・二型。これは、全ての生産に対応している万能工房の発展形で、効果がかなり上昇していた。それこそ、木工工房などの特化型の一型に比べても、遜色ないほどだ。

 

ある意味、特化工房・一型の詰め合わせと言ってもよかった。

それに加え、2種類の特殊な施設も入手してある。1つが、ホームマインⅡ。以前手に入れたホームマインのアップグレードバージョンだ。

 

前のやつが、鉄鉱石までしか産出されなかったのに比べ、こちらは銀鉱石や軽銀。さらには水鉱石、火鉱石などの属性鉱石に、低品質の宝石なども生み出されるらしい。

 

きっとヒムカが喜んでくれるだろう。

 

2つ目が風耕畑。暴風草などのエアプランツ類を育てるための風耕柵を、一段アップグレードしたものである。

 

藤棚のような見た目だった風耕柵に比べ、外見がかなり変化している。高さ5メートルほどの、石造りの壁2枚が平行に並んだ見た目だ。壁の間にはエアプランツを生やすための細長い管がいくつも走っており、その管に刻まれた溝に種を埋め込むらしい。

 

壁の間には、常に強い風が吹き込み続けているという。ただ、この風が他の畑に影響を及ぼすことはないというので、そこは安心してよさそうだ。風耕畑は風系の施設である。風耕畑を設置するかどうか聞いてみたらアイネが非常に喜んでいたのだ。それに、エアプランツは蚕の餌にもなる。暴風草を食べさせると、風属性を持った糸が生み出されるらしい。アイネの仕事がさらにはかどるだろう。

 

「ありがとうございます。では、ホームの場所はどうされますか?」

 

「選べる?」

 

「はい。日本家屋の場合、こちらのエリアになりまして、現在はお好きな場所をお選びいただけます」

 

景観を守るためなのか、日本家屋は他の家とは全く違うエリアにあるようだった。丘と森が続いているエリアだ。

 

「広いといえば広いけど、何百戸も日本家屋を立てることはできないですよね? こういうのって、早いもの勝ちなんですか?」

 

「いえ。お庭と一緒で、手狭になれば拡張されますね」

 

じゃあ、別に一等地とかそんな場所も存在しないか。使いやすさと、景観で選ぼう。

 

「うーん、じゃあ、ここでいいですか?」

 

「はいはい。分かりました。では、こちらに設置させていただきますね。こちらをどうぞ。ホームキーとなります」

 

「あ、ありがとうございます」

 

これで購入契約は終わりか? ステータスを確認すると、あれだけあったお金が数百万Gまで減っていた。

 

「それよりも、さっそくホームを――」

 

「では、お次はマスコットに関しての説明です」

 

おっと、忘れてた。

 

「マスコットはこちらからお選びいただけますが、どうされますか?」

 

「えーっと、初期の十種類だけじゃないのか?」

 

ウィンドウに、マスコットの一覧が表示されている。ただ、その数が想定よりも多かった。

 

「はい、こちらは日本家屋限定のマスコットとなっております」

 

「そんなのがあったのか」

 

運営メールに記載されていた10種類以外に、4種類のマスコットを選択することができるようになっている。無料で特殊能力がないという部分は一緒だけどな。

 

「なんだこのラインナップ。マメ柴、三毛猫、ツキノワ熊、タンチョウ?」

 

確認してみると、初期マスコットと違って、こちらはリアルなタイプのマスコットだった。いや、ここまでリアルだともうペットって感じだな。画像を確認してみる。マメ柴、三毛猫、ツキノワ熊は子供だ。メッチャ可愛い。だが、タンチョウは普通に大人のタンチョウ鶴だった。和風ってことで選ばれたのだろうが・・・・・。だったらもう少し小さくて可愛い鳥がいるだろ。ライチョウとか、キジとか、スズメとか。なぜタンチョウ? 他の3種類を選ばないでツルを選ぶやつがいるのか?

 

「まあいいや。ここは三毛猫かな」

 

熊はクママがいる。こっちはリアル、クママはヌイグルミ風の違いはあるが、熊は熊だ。それに、フレイヤの他にも猫が欲しいのだ。

 

「マスコット枠は増やせるらしいし、とりあえずここは三毛猫で!」

 

「分かりました。では、三毛猫をホームへと送っておきます」

 

毛並みなどはランダムになるらしい。まあ、三毛の子猫なんてどれも可愛いに決まってるし、特にこだわらんけど。

 

「マスコット、ホーム設置タイプの従魔は、初期設定ではホーム間の移動が自由となっていますので」

 

「あ、わかりました」

 

転送扉さえ設置しておけば、モンスやマスコットが畑とホームを皆が自由に行き来できるってことだろう。

 

転送扉はほかのオブジェクトと同じで、自分で設置するタイプであるようだ。インベントリにアイテムとして入っている。あとで畑に設置しよう。俺は不動産屋を後にすると、待ってくれたイズ達と合流し畑に留守番させていた従魔を全部連れに戻ったら、早速アイネが風耕畑で遊んでいた。

 

「フーママー!」

 

「楽しそうだな」

 

「フーマー!」

 

壁の間を吹き抜ける風に乗って、凄まじい速度でバビューンと飛び出したかと思うと、今度は逆側から風に向かって突進していく。

 

前に進む速度と、吹き付ける風の威力が釣り合うことで、まるでホバリングしているかのようだ。

 

「フーマー!」

 

あれだ、子供が風が強い日に、前傾姿勢で風に逆らいながら「飛ばされるー!」って楽しそうに叫んでいるのと同じだろう。

 

「みんなの畑仕事の邪魔すんなよー」

 

「フマ!」

 

俺に向かって敬礼をしたアイネが、その体勢のまま強風で流されていく。ただ、それもまた楽しいらしく、上下逆さまになりながらも笑顔だった。

 

アイネが喜んでくれているようで、買った甲斐があるよね。そんで凄く楽しそうだから後で俺もやりたい。フレイヤも交ざって遊び始めるんだからな。

 

「次はホームマインだな」

 

ホームの地下に設置したホームマインⅡに向かうと、すでにヒムカがその前にいた。扉を開けると、その先は洞窟の内部だ。まあ、全長5メートルくらいしかないけど。

 

その行き止まりに、金属の箱が置いてある。その前に立つと、ウィンドウが立ち上がった。この箱が簡易インベントリになっており、ホームマインで生み出された鉱石が自動で溜まっていくのだ。

 

「ヒムー!」

 

ヒムカが簡易インベントリから鉱石を取り出し、高々と掲げて目を輝かせた。

 

「お、いきなり銀鉱石と風鉱石が採れたのか? 鉄鉱石も結構な量があるし、珪砂とかも手に入ってるぞ。初日から悪くない収穫じゃないか」

 

「ヒム!」

 

嬉しげに頷くヒムカ。これでまた、色々なものを作ってもらおう。ホームマインで銀鉱石をたくさんゲットできるなら、銀食器の量産なども可能かもしれない。

 

「―――で、さっきから黙ってるが感想は?」

 

「言葉にできない凄さに圧倒されちゃった」

 

「まーた騒ぎになるわよコレ」

 

「ホームマインⅡだっけ、畑で銀鉱石が手に入れられるなら凄く便利じゃない。私も買おうかしら? 購入方法は教えてくれない?」

 

その後、いよいよ早速購入した日本家屋に向かった。

 

「どんな家なんだろうな~?」

 

「キュー」

 

「ヤー」

 

肩のリック達と話しながらホームエリアを歩いて行くと、段々と人気が無くなってきた。というか、俺たちしかいない。

 

「あれ? 人が全然いないな」

 

「キキュー?」

 

「日本家屋、人気がないのか?」

 

「ヤヤー?」

 

「まあ、西洋ファンタジーが基本の世界だしな」

 

それなりに値も張ったし。俺以外に買えない人がいない程の値段ではなかったと思うけど、お試しでってレベルの値段ではなかった。いや、俺は買っちゃったけどさ。そう考えると、日本家屋を買う人は少ないかもしれない。

 

「ま、静かでいいくらいに考えておこう。それよりも、見えてきたぞ」

 

「キュー!」

 

「リックは好きそうだろ? いやー、こうやって外から見ると、いいねぇ」

 

こんもりとした森の中に、俺が購入した―――二階建ての日本家屋が見えてきた。家の周囲を囲むのは背の高い生垣だ。漆喰の壁バージョンも想像していたが、この方が庶民感があって俺は好きだね。黒い瓦屋根が渋い。それでいて、木造の温か味も感じさせてくれる。

 

これは想像をはるかに超えているんじゃないか? メッチャいいぞ。

 

「期待感が溢れるな」

 

俺は居てもたってもいられなくなり、ホームに向かって駆け出した。俺が急に走り出したせいでリックが振り落とされたが、綺麗に着地を決めて、俺と並走を始める。

 

ファウはその上を飛んでいる形だ。

 

「近くで見ると、またいい味出してる」

 

新築ではなく、築何十年も経過した古民家のような味わいがあった。むしろ、これがいい。門は簡素だな。木の門柱に、両開きの木の柵が取り付けられただけだ。まあ、武家屋敷ってわけじゃないし、こんなものか。玄関までは、丸い石が少しだけ間隔を開けて、並べて置かれている。あれだ、思わずケンケンパしたくなるやつだ。

 

玄関扉は、木と障子で作られた物だった。どうやらこの日本家屋、ガラスが使われていないらしい。他の窓も、全て障子だ。

ゲーム内だから泥棒もいないし、ホームエリアには自然災害もないらしい。下手したら窓を全部開けっ放しでもいいんだし、これで構わないのだろう。

 

「さてさて、家の中はどうなってるかな」

 



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探索と新しいマスコット

そして玄関を開けた俺を出迎えたのは、一匹の可愛い子猫であった。

 

「ウニャ~」

 

「おお! これがマスコットか?」

 

「ウニャン」

 

三毛の子猫だ。マスコットで間違いないだろう。思わず触ろうとしたら、その前に名前を決めなくてはいけないらしい。命名画面が現れた。

 

「名前か・・・・・。うーん、三毛猫、三色・・・・・。よし、お前の名前はダンゴだな」

 

「ニャン!」

 

これで命名終了である。モンスと同じだな。

 

「よしよし、ダンゴ~・・・・・おお、この触り心地、いいな・・・・・」

 

「ウニャー」

 

軽く撫でてやると、目を閉じて気持ちよさそうに鳴き声を上げるダンゴ。抱き上げても、大人しいままだ。フニフニとしたお腹に、柔らかい毛並み。ピンク色の鼻と肉球がラブリーすぎる。

ヤバい、超絶かわいい。俺、動物に怖がられてて触れなかったが、飼い主の気持ちが分かってしまった・・・・・。

何度か撫でてやった後、俺はリック達とダンゴを向き合わせた。従魔同士は仲がいいが、マスコットとはどうだ? これで喧嘩なんかされると困るんだが――。

 

「キュー!」

 

「ヤー!」

 

「ウニャ!」

 

全く問題なかった。どちらが上といった感じもなく、対等に遊んでいる。おお、ファウがリスライダーからネコライダーにバージョンチェンジしたな。

 

「ヤヤー!」

 

「ウニャー」

 

ファウが勇ましく指を突き出すが、ダンゴは普通に歩いている。どうやらのんびり屋さんであるらしい。

 

「じゃあ、家の中を探検だ。イズ達も手分けして探索に時間を潰してくれ」

 

「わかったわ」

 

俺は、ダンゴが加わり3人体制に増えたチビーズを引きつれ、ホームの中を探検した。

木の床に、和室の畳。明り取りの窓には障子が張られ、和の雰囲気が爆発している。最高だね日本家屋!

ああ、靴はちゃんと脱いでるよ? 今回は自分で靴を脱いだが、次回からは自動で脱げるように設定を変更しておいた。

この家に上がる際に自動で靴が脱げ、外に出る時には自動で事前に装備していた靴を装備し直すように設定したのだ。他には、衣装を着替えたりも可能であるらしい。

 

「玄関から最初にある部屋は、普通の和室か」

 

玄関から続く廊下の右は、二階へと上る階段と地下へと下る階段となっている。左側には襖があり、開いてみると10畳の和室が4つ襖に隔てられてるが開ければ宴会の会場としても利用できる広さになるようになっていた。それぞれ木製の箪笥・魚を銜えた熊彫り・二本の刀・何故か玄武が1つ備え付けられている以外は、特に何も置いていない簡素な和室だ。だが、それでも俺は感動していた。

 

「おおー、畳の匂いまでちゃんと再現されているじゃないかー・・・・・」

 

畳の匂いを嗅いでしまっては、寝転がらない訳には行かない。俺はその場で畳の上にうつぶせになった。より強くイグサの香りが鼻に入る。

 

「あー、手触りもいいー」

 

「キキュー」

 

「ヤヤー」

 

リックとファウも俺に倣って、畳の上に寝ているが、その顔は気持ちよさそうだ。従魔にも畳の気持ち良さは分かるらしい。ダンゴは部屋の入り口に箱座りをして欠伸をしているが。

 

「そうだ。和室には収納があるはずだ。中はどうなってるんだ?」

 

押入れがあることを思い出して、中を覗いてみる。すると、そこには大量の布団が一式収納されていた。

 

「ま、まじか! 布団だ!」

 

しかも宿などにある素っ気ないファンタジー風の寝具ではなく、ちゃんと和風の布団である。枕は籾殻だ。

 

「ね、寝て・・・・・。いや、ダメだ」

 

このゲームで寝具で眠るということは、ログアウトするということである。

 

「ということは、布団の寝心地は堪能できないってことか・・・・・。残念」

 

畳を心行くまで堪能した俺たちは、次の部屋へと向かった。廊下の突き当りにやはり襖がある。廊下はそのまま左に曲がり、その先で右へと折れている。あちらに行けば縁側があるのだろう。

 

「縁側は後のお楽しみにして、こっちの部屋はどうだ?」

 

縁側に行きたい欲求を押えつつ、目の前の部屋を開けてみた。

 

「ここは普通の和室か」

 

ただ、この和室からは他の部屋へと続く襖があった。正面と、左側だ。

俺はそのまま正面の襖を開けてみる。そこは、板張りの台所になっていた。

 

「ほほう。これは面白いな」

 

めっちゃ古風な台所である。タイルなどさえなく、石で出来た竃に石窯。木製の水桶などが置かれていた。それでも調理器具はきっちり金属製だし、料理をするのに不足はないだろう。外見が古風なだけで、性能は問題ないようだった。

蛇口もあるし。しかも木製の。捻ってみるとちゃんと水が出た。その辺はゲームだしな。

 

「米用のお釜まであるじゃないか」

 

この情報を持ってヘルメスのところに行ってみようかな。もしかしたらまーた、うみゃー! はさーん!! って聞けそうだわ。

 

「さて、次は向こうの部屋に行ってみよう」

 

「キュー!」

 

いつの間にか俺の右肩に戻っていたリックが賛成してくれる。ファウは頭の上だ。

 

「じゃあ、お前はこっちだな」

 

「ウニャ?」

 

ダンゴを左肩に乗せてみると、うまくバランスをとっている。ホームの中で接する限り、マスコットもモンスもあまり変わらないようだった。そのまま、台所を通り過ぎるように歩くと脱衣所に入った。着替えを置く棚もあるが、ただの飾りとしか機能しないだろ。装備を装着したまま露天風呂がある浴室に入ると自動的に入浴する姿になったからだ。

 

「はー、サウナも備わっていたのか。家屋と言うより旅館だなこのホーム」

 

湯気が立ち昇る円形上の広い檜の風呂とサウナの部屋しかない浴室。肝心の露天風呂はここだけガラス張りの壁の向こうにあった。そっちに向かうと感嘆した。

 

「空を見上げられるか。夜空の星を見ながらの露天風呂は格別だよな」

 

満足して浴室から出た。そのまま元の和室には戻らず、もう一つの襖に向かう。向き的には、庭や縁側の方にある部屋だろう。

 

「おー、これはこれは。凄いじゃないか!」

 

「ヤー!」

 

そこは茶の間だった。リビング兼ダイニング的な? なんと、部屋の中央に囲炉裏がある。テーブルにも使える幅広めの木枠の中央に灰が敷かれ、炭が置いてある。しかも上からは――なんて言うんだろう? 鉤爪的な物が付いた棒? 囲炉裏にはセットになっているあれだ。そして、その鉤爪には鉄瓶がつり下げられている。

 

「おおー・・・これ、リアルのように火は火打石で簡単に着けられるのか。ちゃんと音が鳴る。それに簡易でも火を点けられるシステムにも切り替えられるのか」

 

近づくと、炭に着火するかどうかの選択肢が現れる。一々、火打石などで火を熾すような真似をする事が出来るらしい。さすがゲーム! どうやらここで料理などもできそうだった。本当に囲炉裏だ。ただ、気になることが1つ。

 

「煙、大丈夫なのか?」

 

台所でも思ったが、ここと台所だけは天井が取り払われ、骨組みや屋根が剥き出しになっている。和室に比べ、より古民家感が強いのだ。ただ、そこには排煙のための機能などが付いているようには見えない。

 

「ふーむ? まあゲームなんだし、その辺はどうにかなるのかね? ちょっと実験してみるか」

 

俺は囲炉裏の鉄瓶で水を沸かして、お茶を飲んでみることにした。

 

「着火して(カンカンッ)・・・・・。あ、鉄瓶に水を入れないとな。これで放置すればいいのか?」

 

しばらくの間、ダンゴやリックを撫でながら、囲炉裏の前に胡坐をかいて座る。ファウが囲炉裏の木枠に腰かけて、リュートを弾き始めた。歌のない、インスト曲である。

いつも演奏しているような、北欧の民族音楽風の曲なんだが、そのゆったりと流れる音が、妙にこの場に馴染んでいた。

 

「日本家屋と意外に合うな」

 

「キュ~」

 

「ウニャー」

 

リック達も目を細めているな。そうして待つこと数分。鉄瓶の口から蒸気が上がり始める。中を覗くとちゃんとお湯が沸いていた。そのお湯を使ってハーブティーを入れてみたが、ちゃんと美味しい。いつも通りのハーブティーだった。

 

「煙は・・・・・。問題なしか」

 

炭から上がる煙が驚くほど少なく、少し発生する煙も上へと昇って行き、屋根に吸い込まれるように消えていく。

 

「リアルなところはリアルで、都合のいいところはゲーム仕様。うんうん、良いバランスだ」

 

さて、残りの部屋も時間をかけて確認しよう。この物件の詳細を見た時は―――。

 

「部屋数は和室兼寝室が×15、応接間、客間、茶の間、台所、脱衣所、露天風呂。地下室は工房用×4のはずだから、一階の残りの部屋は和室のはずだよな」

 

次は、囲炉裏のある茶の間の隣の部屋だ。

 

「さて、ここは・・・・・おお、これはこれは」

 

思わず声を上げてしまった。でも、仕方ないじゃないか。だって、俺の目の前に、人を堕落させる悪魔の発明品が鎮座していたのだ。

 

「炬燵じゃないか」

 

和室の中央に置かれていたのは大人数で囲える炬燵であった。障子を全部開け放つと、そこは縁側だ。その先にある庭も目に入る。今は雑草がボーボーに生え放題だが、それはそれで風情があるように思えるから不思議だった。木製の茶箪笥なども置かれ、非常に落ち着いた雰囲気の部屋である。茶色の天板と、白と黒の市松模様の炬燵布団。地味だ。しかし、俺はその魅力に抗いきることが出来なかった。だって炬燵だぞ? 蒼天にある個人の家でも仕事で忙しい上にエアコンで足りてしまってるからさ。

 

「これは入らざるを得ない」

 

足先を炬燵に突っ込むと、足がジンワリとした温かさに包まれるのが分かる。そのままさらに腰まで炬燵に入り込むと、快感の余り「おーっ」という声が出てしまった。いやー、ゲームの中でもここまで炬燵の気持ち良さを再現できるとは、侮り難しNWO。

 

「あー、これはいいね~」

 

目の前に広がる庭を眺めながら、先程淹れた魔茶をすする。至福のひと時だ。

 

「お前らも食べておけ~」

 

「ヤー!」

 

「キキュ!」

 

「ダンゴはどうだ? 食べるか?」

 

「ウニャー」

 

マスコットは食事が必要ないらしいが、食事は可能であるらしい。焼き魚を出してやったら、ムシャムシャと食べ始める。

 

「はー・・・・・」

 

食事を終えた俺たちは、炬燵に入ったままボーっとする。

炬燵の上で仲良く並んで長く石造りの渡橋が2つ掛かってる広い池がある庭を眺める三体。ちんまい子たちが身を寄せ合っているその背中は、異常に可愛かった。チビーズ越しの庭のスクショは、その逆光感も相まって、ゲームならではの風情みたいな物さえ感じられる。これはいいスクショだ。あとでイッチョウに自慢しよう。結構な時間、炬燵でのんびりしてしまったよ。

 

「そうだ、折角だからこの部屋の模様替えしちゃおうかな」

 

オブジェクトを置くなら、基本はこの部屋と茶の間だろう。他の和室は今後、工房などに改修する可能性があるのだ。

 

「備え付けの棚があるのは嬉しいな。ここに縁日でゲットした妖怪の人形を置こう」

 

座敷童の掛け軸は床の間にかけてみる。

 

「二階の方は・・・・・和室の寝室が5畳4つか」

 

玄関先に戻り二階に上がってすぐ襖を開けたら寝室だった。

 

「さっさと転送扉を納屋に設置してくるか。その方がいろいろと便利だし」

 

ああ、その前に残りの部屋をチェックしないと。地下の前に納戸とトランスポーターである。まあ、どっちも中には入れなかった。部屋の扉にタッチするとウィンドウが起動するのだ。トランスポーターは転移先がないので使用不可。納戸は、アイテム収納庫だった。99種類×99個までアイテムを保管できるらしい。俺はあまり貴重品がないからこの程度で十分だろう。お金も入れておけるようだし、冒険者ギルドに預けてある貴重品などをこっちに持ってきちゃおうかな。思い直せば・・・・・そんなのなかったな。

 

「で、最後に地下なんだけど・・・・・。何もない」

 

「キュー」

 

丁度イズとセレーネがいた地下は土間が4つ存在しているだけで、内の3つは備え付けてある物は天井のランプだけである。残りの1つは試し斬り、試し技、模擬戦などが出来るトレーニング用の空間だ。

 

「万能工房だよな? なんか、凄い殺風景なんだが」

 

「―――?」

 

万能工房を設置した地下室は、殺風景な板の間に姿を変えていた。床、壁、天井。以上! そんな感じだ。

一緒に確認に来たゆぐゆぐも首を捻っている。よく見ると部屋の入り口横には、和風の部屋には似つかわしくないアクリルパネルのような物が張りつけられていた。サイズは大型テレビくらいだ。

俺がそれに触ってみると、ウィンドウが起動した。木工や鍛冶、料理など、色々な種類を選ぶことができる。ああ、こういうこと。

 

「万能工房・二型のお披露目だ!」

 

「ヒムー!」

 

「じゃあ、鍛冶工房に変形させればいいか?」

 

「ヒム!」

 

「ダメ? じゃあ、どれだ?」

 

鉱石を使うなら鍛冶工房かと思っていたんだが、ヒムカのリクエストは違うらしい。首を横に振っている。

 

「どれがいいんだ?」

 

「ヒムー」

 

リクエストがあるなら、自分で選んでもらおう。

ヒムカは、俺と一緒に操作パネルをのぞき込みながら、下の方にある火霊工房というものを選んでいる。初耳だな? 火霊って、サラマンダーのことだよな? 首を捻りながら見守っていると、工房が姿を変えていく。最初は鍛冶工房だと思ったんだが、炉の数が多い。どうやら、鍛冶やガラスなど、サラマンダーのスキルに関係ある工房が一緒になった複合施設らしい。こんなタイプの工房があったのか。よく見てみると、風霊工房、水霊工房もある。風霊工房は皮革や服飾、機織りの総合工房。水霊は料理と発酵が合体した施設であるっぽかった。土霊工房がないのは、必要ないからだろう。ノームに必要なのは、畑だからな。じゃあ、もしも総合工房を購入したらどんな感じになんだろうか?

 

「じゃ、転送扉を設置しないといけないし、一度戻るぞー。ダンゴはまた後でな」

 

「ウニャー」

 

縁側で寛いでいるダンゴに声をかけると、お尻をこっちに向けたまま返事をした。この素っ気ない所もネコっぽいな。寂しがっている様子はないので、安心と言えば安心だが。

 

「―――で、感想は?」

 

イズ達に再度感想を求めると、バッとイズとセレーネが深々と頭を垂らし出した。

 

「「ハーデスのホームに住まわせて!!!」」

 

曰く、俺のホームの居心地が良かったのと、地下の工房が興味が沸いたのだとか。

 

「いや、一緒にクリアしたんだから個人の日本家屋買えるだろ」

 

「実際いくら? あそこまでした総合金額」

 

「地下の万能工房はⅡ型で1000万したぞ。あの日本家屋はギルド兼ホームとして2000万」

 

「た、高いっ・・・・・」

 

「逆にいつの間にハーデスってそこまでお金を貯めてたの?」

 

「ベヒモスとジズ討伐の報酬の中に2000万Gがあったから。もう1万Gしか残ってない」

 

残るリヴァイアサンの討伐報酬もそうだろうが、他のプレイヤーも完全参加するからもう独占出来ないな。

 

「って、あの日本家屋はギルドホームも兼ねてたの? ハーデス、ギルドを作ったの?」

 

「してないしてない。個人のホームとしてだ」

 

「ああ、でも、だからあんなに和室と布団が沢山あったのね。納得できたわ」

 

「だけども個人のホームを購入できるアップデートなのに、どうしてギルドホームも買えるのかな?」

 

セレーネの疑問は最もだ。

 

「他のホームもたくさんあったが、俺が10人以上の大人数で住める家屋はないかと訊いたらこの物件を紹介してくれたんだ」

 

「私達はハーデスから詳細を聞いてからと思って、ホームエリアにまだ行ってないけど。もしかしたら集団でも利用できるホームがあるのかも?」

 

「ホームを買いに入る時、個別に隔離される作りであるらしいぞ。ホームの受付をスムーズに行うのと、個人情報の保護の両方を同時に行っている感じだった。それに対応したNPCの会話の中には『お一人暮らしですと、集合住宅、一戸建てタイプがお勧めです』と言われたからな」

 

「ということは、複数以上のプレイヤーと一緒に住むことを言わないと紹介してくれないようになってる可能性があるわね」

 

「一人だけ利用するには広いしねハーデスのホーム。他のもだとすれば、今回のアップデートは今後にあるかもしれないにギルド関連のイベントがありそう?」

 

「気付いているか分からないけど、他の人達もパーティで住めるホームはないか聞いていそうだね」

 

彼女達と今回のアップデートに関する件について考え、悩むも使えるものは使えるんだからしょうがないということに考えを至した。

 

「住むかどうか別として、地下室の工房はイズ達も利用できる感じか?」

 

「多分、ハーデスしか利用できないと思うわ。そもそもホームだって畑同様にフレンド登録したプレイヤー以外入れそうにないじゃない?」

 

逆に言えばフレンド登録したプレイヤーは許可なく入ってくるってことだよな。うーん、何だかプライベートを侵害されてる感覚がして複雑な気分。いっそのことギルドを・・・・・いや、したら弊害が・・・・・でも、うーん・・・・・。

 

「何か悩んでる?」

 

「ギルド作ったらオルト達と一緒に入られる口実に押し掛けるプレイヤーが目に浮かぶ」

 

「「それは・・・・・悩むね」」

 

変態が変態を呼ぶ、類は友を呼ぶ。それが不安でたまらない。

 

「身内しか入れないギルドにすれば?」

 

「リアルだとイッチョウだけだから作ってもしょうがないし、ゲームの中だとさっきの押し掛けるプレイヤーが交ざるぞ」

 

「やっぱりなしで」

 

「じゃあ、条件付きだったら?」

 

「それでも絶対に来ると断言するぞ」

 

いや、別に嫌悪はしないんだが・・・・・なんだろ? 思いのままにプレイを出来なくなりそうだから躊躇してるのか? 他人の為に時間を費やすのが嫌? 

 

「ギルドって、作ったら誰にでも知られるようなものだっけ?」

 

「そうでもないらしいわよ。実際、タラリアってギルドのことだって話を聞かないとわからないし、全く気付かないプレイヤーもいるわ」

 

「自分から話さない限りは気付かれないってことだね」

 

「うん、それにハーデスが嫌だと思ったら運営に連絡すれば対処してくれると思うよ?」

 

運営か・・・・・その手もあったな。

 

「じゃあ、後日ギルド作ってみようかな」

 

「今じゃないんだ?」

 

ああ、今じゃない。なんせだな・・・・・。

 

「しばらく減った金を出来るだけ増やしてホームに畑を拡張したいし、ログアウトして課金してマスコットを増やしたいし、従魔と農業ギルドのランク上げにちょっとラヴァ・ゴーレムのところで採掘したり―――」

 

「絶賛忙しくて後回しにしたいってことなんだね」

 

「なら今日はもう解散ね。手に入れた石炭で作ってみたいし」

 

「うん、私も」

 

そんな鍛冶師プレイヤーの二人と軽く別れの挨拶を済ませてチームを解散したが、フレデリカがまだ残っていた。

 

「ログアウトするの?」

 

「少し時間はかかるがログインするぞ」

 

「そっか、じゃあ私はペイン達と合流してみるよ。そろそろドラグがサポートしてほしそうな気がするからね」

 

ペイン達と離れてから昨日の今日だが、過ごした時間は何だか濃厚だったな。

 

「あと言っておくけど。私がいない間に知らないプレイヤーと結婚したら許さないんだからね」

 

「知っている奴ならいいんかい」

 

「だって、ハーデス人気だもん」

 

少し不貞腐れてるフレデリカにそれはどうしようもないと苦笑する俺。リヴェリアからも「慕われていますね」と言われる。

 

「わかってるよ。約束だ」

 

小指を出すと、「約束だからね」とフレデリカからも小指を出して絡める。まぁ、それだけで終わらす気はないので、小指に力を入れて彼女を引き寄せた。そのまま耳元であることを囁いたら、一気に紅潮した少女が「わ、わかってるよっ」と蚊の鳴くような声で言い返してくれた。

 

「うう・・・・・。ハーデスの色に染まるのが怖い反面、嬉しい自分がいて複雑ぅ・・・・・」

 

「言っただろ。俺から離れなくなるって」

 

「もう、本当に責任取ってよね!」

 

「その代わり、フレデリカという少女の心は手放さないからそのつもりでな」

 

「っ・・・・・絶対ハーデスから離れなくなるほど好きになっちゃうよコレぇ・・・・・///」

 

それが悔しいのか俺の胸部の鎧に叩くも力が全然籠っていない。その後、俺はとりあえず納屋の壁に転送扉を設置してみた。入り口の向かい側である。普通に、地味な木製の引き戸だな。

どうやら設置場所に合わせた姿になるようだった。フレームを任意にいじれるので、もっと目立つ形に変えることもできるらしい。俺はこのまま変更するつもりはないが。

 

「本当にこれが転送扉なのか?」

 

抱く疑問と一緒に転送扉に触れてみた。ホームのトランスポーターと全く同じ画面が立ち上がる。これで転送先を選んで、扉を開けばその場所に繋がるのだろう。

 

「で、選んで開くと、転送されるわけなんだな」

 

俺が立っているのは、ホームの廊下の突き当りだった。茶の間のすぐ脇である。多分、普通の家だったらトイレがあるであろう場所に転送扉が存在しているからだ。これならば第3と第5エリアの町の畑との行き来が楽になり―――これで俺もモンス達も、簡単に畑とホームを行き来できるだろう。実際、オルト達もトランスポーターを介してホームに戻って来られている。サイナとNPCリヴェリアも問題ない。

 

「よしよし、これでみんながホームに来れるな」

 

次はマスコットを増やしに行かねばいかんのだ。もうあれだ、ダンゴを見ちゃうと他のマスコットをコンプリートを目指さない選択肢など、存在しないのだ。

 

「次は何にしようかな? やっぱマメ柴? でも池があるから鯉も捨てがたい」

 

いっそ、子熊とクママでダブル熊を結成か? それとも初期の10種類から選ぼうか? あのバルーンみたいなデフォルメマスコットも可愛いし。

 

そんなことを考えながら不動産屋に戻った俺は、お金を支払ってマスコットの保有枠を増やす。1体5万G・・・・・。そのことを思い出した俺はとある情報屋から未払い金の情報料の2割ほど受け取り再度戻った。マスコット買うのに悔いはないのだ。

 

「マメ柴、子熊・・・・・うん?」

 

そして、マスコットの一覧を見て、思わず声を出してしまっていた。

 

「は? え? これ、マジか?」

 

「はい。こちらが、現在死神ハーデス様の選べるマスコットとなっております」

 

だって、数がメチャクチャ増えていたのだ。さっきは14種類だったが、今は19種類である。

 

「座敷童、コガッパ、テフテフ、オバケ、モフフ・・・・・。おお、あいつらもか。どう考えてもあのイベントが関係しているよな」

 

でも、さっきは選べなかったのに、何でだ? いや、座敷童が増えたのは、ホームに掛け軸を掛けたからだろうか? 他の4種類に関しては、人形を飾ったからか? うーん、イズ達にも検証してもらいたい。

 

「しかもどのマスコットにも特殊能力があるんだけど」

 

座敷童は『お手伝い』、『幸運』、『日記帳』と、3つも能力があった。コガッパは『雨天』、テフテフは『虫の声』、オバケは『柳の下』、モフフは『餌付け』である。

 

ただ、詳細が分からない。不動産屋さんに聞いても、教えてはくれなかった。

 

「詳細はお楽しみと言うことで。ただ、マスコットはあくまでもその可愛さが本領ですから。能力に関してはオマケとお考え下さい」

 

つまり、それほど強力な御利益はないってことなんだろう。

 

「座敷童は確定として・・・・・。特殊能力は魅力だけど、可愛さは・・・・・。うーん」

 

可愛さならマメ柴、子熊。でも特殊能力は捨てがたい。

 

「やっぱこっちの妖怪マスコットたちにしておくか」

 

最大で6体まで枠を増やせるわけだし、全部お迎えできる。そこで特殊能力を検証すればいいだろう。

 

「じゃあ、今回は座敷童とオバケでお願いします」

 

「わかりました」

 

オバケを選んだことに特に理由はない。一番最初に出会ったマスコットなので、何となく選んだだけだ。

 

「あと、設置可能な設備も見せてもらっていいですか?」

 

「はいどうぞ」

 

不動産屋さんにリフォームのリストを見せてもらったのだが、こちらにも先程なかった項目がいくつか追加されていた。

 

「えーっと、柳の古木?」

 

これって、もしかしてオバケをマスコットにしたからか? しかも柳の古木は、タダで設置できるようになっている。

 

柳の古木の効果は、特になし。ただ、小さい池とセットになっていて、その水は生産利用が可能であるらしい。まあ、日本家屋の虫の音などと一緒で、風情や和風感の演出をするためのアイテムなのだろう。しかし、水場がタダで設置できるというのは普通はあり得ない。多分、オバケの持つ『柳の下』の効果がこれなのではなかろうか?

 

「ま、タダならぜひ設置させてもらおう」

 

俺は間取り図の中から庭の一角を指定して、設置をお願いするのだった。とは言っても池の傍にだがな。NPCから設置が完了したことを聞き、新たなマスコットやオブジェクトを手配したホームに向かうと、いつの間にか賑やかになっていた。

 

「ムムー!」

 

「ヒムー!」

 

「フマー!」

 

「フムー!」

 

精霊たちが追いかけっこをしている。その様子を眺めながら、クママやドリモが縁側でまったりとしていた。

 

「クマー」

 

「モグー」

 

「植物コンビは光合成中か?」

 

サクラとオレアは、揃って柳の古木のそばで佇んでいる。

 

「それにしても、一気に風情が出たな」

 

「――♪」

 

「トリ!」

 

俺が柳の古木を褒めると、サクラとオレアも嬉しげだ。同じ植物として、仲間意識でもあるんだろうか?

 

「あ、トンボがいる」

 

『待てにゃー!!』

 

柳の根元に広がる池には、空飛ぶ猫に追いかけられてるトンボだけではなくアメンボ等の姿もあった。さらに、メダカっぽい魚までいるな。いやー、風に揺れる柳の枝と相まって、涼し気でいい。これがタダとは、ラッキーだったな。庭は夏だが、炬燵も楽しめる。ゲームならではだろう。

 

「チビ共はどこ行った?」

 

一番元気なリック達の姿がない。そう思って探したら、炬燵に入っていた。それぞれが1面を占領して、炬燵布団から小さい顔だけを出している。

 

「キュー」

 

「ヤー」

 

「ウニャー」

 

「お前ら、贅沢だな」

 

さらに、茶の間に顔を出してみると、フェルが囲炉裏の前で寛いでいる。その横に、探していた姿がある。

 

「座敷童とオバケ! ここにいたか」

 

「あい!」

 

「バケー」

 

新しくお迎えしたマスコット。座敷童とオバケである。揃って囲炉裏の前で寛いでいた。

 

「おっと、名前を付けなきゃいけないのか」

 

「あい!」

 

「バケ!」

 

揃ってシュタッと手を上げたマスコットコンビが、期待の眼差しで俺を見上げている。これは変な名前を付けられん・・・・・。

 

「うーん、まずは座敷童だな」

 

ワラシじゃそのまんま過ぎるか? も少しは捻ろう。

 

「幸運を運ぶ家の守り神・・・・・。マモリガミ・・・・・。よし、マモリだ!」

 

これもそのまんまなんだが、ワラシよりは可愛げがあると思いたい。ワラシってタワシのイメージが何故か浮かんでくるのだ。

 

「あい!」

 

「気に入ってくれたみたいだな。お次はオバケだ」

 

「バケケ!」

 

「もうセバスチャンしか出ないんだけど・・・・・」

 

しかし、それはまずかろう。あとは、なんだろう。Qちゃん、ホーリー・・・・・。いやいや、既存キャラの名前から離れよう。

 

見た目は、フワフワ浮く白い布に、目と口を書いた感じだ。

 

「布・・・・・シーツ・・・・・リネン・・・・・リンネル・・・・・よし、お前の名前はリンネだ!」

 

輪廻であの世っぽい雰囲気もあるし、素晴らしい名前だと思いたい。そう決めたんだ俺が

 

「バッケー!」

 

リンネもマモリと一緒に小躍りしている。文句はないってことだろう。

 

あと姿が見えないのは鳳凰とハナミアラシだが、ハナミアラシは社に憑いているようだし、こっちには来られないのかもしれないな。もしくは全く興味がないか、飲んだくれて寝ているのだろう。鳳凰も桜と社が気に入っているからか?

 

「しかし、随分と大家族になっちまったな」

 

従魔であるオルト、ミーニィ、サクラ、リック、クママ、オレア、ファウ、ルフレ、ドリモ、ヒムカ、アイネ、メリープ、フェル、フレイヤ。

 

フリーの神獣の鳳凰

 

妖怪はハナミアラシ。

 

そして今日仲間に加わった、ダンゴ、マモリ、リンネ。

 

ここにいるだけで総計17人だ。俺が縁側に出ると、皆が集まってきた。

俺の隣にはオルトやマモリたちが腰かけ、リックやスフレイヤはその肩や頭の上で寛いでいる。庭ではアイネやリンネたち飛行可能組が空中追いかけっこをしていた。

いい光景である。所持金を使い切ったが、ホームを購入して本当に良かったな。いや、まだだ。これで終わりではなかった。

 

「課金してマスコットを増やさないとな」

 

そして、残りの妖怪マスコットたちもこのホームに呼ぶんだ。可愛いマスコットは増えるし、オバケのおかげで手に入ったと思われる柳の古木も素晴らしい。一気に庭に風情が出た。

 

「行くとするか」

 

布団もあるし、あれを使えばすぐにログアウトできる。和室に向かうと、布団を敷いていく。すると、マモリが手伝ってくれるではないか。布団を軽く伸ばしたり、枕を設置したりしてくれる。これが『お手伝い』の効果なのか?マモリのおかげですぐに布団が敷けたな。さっそく中に潜り込む。

 

「じゃあ、またあとでな」

 

「あい!」

 

枕もとで正座しているマモリに一声かけ、俺は目を閉じる。同時に、ログアウトするかのアナウンスが聞こえたので、それにイエスと答えると、俺の意識はゲームの中から現実へと浮かび上がっていくのであった。

 

「ふぅ。さっそく課金しちまうか」



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掲示板

 

【マスコット】マスコットスレPart2【可愛すぎ!】

 

・ここは実装されたマスコットについて語るスレ

 

・自分のマスコット自慢をし合いましょう

 

・スクショの投下も大歓迎

 

・他の人のマスコットを貶す行為は禁止です

 

・新たなマスコット情報も大歓迎

 

 

 

21:ねうねう

 

じゃあ、それがマスコットの可能性があると?

 

 

22:ニャラライズ

 

そうそう!

 

実は妖怪マスコットをゲットできてる人は少し出てるんだよ。

白銀さんの畑にいる見慣れないモンスが妖怪マスコットっていうのは確実。

確認して来たから間違いない。

 

 

23:ヌクモリア

 

白銀さんの畑からモンスが消えたーっていう阿鼻叫喚の後の、謎の可愛いちっこいのが沢山いるーっていう大騒ぎ。でも、それも納得できる可愛さだった。あれがマスコットなの? そりゃあ買うわ!

 

 

24:ねうねう

 

でも、和服の小さな女の子なんでしょ?

完全に座敷童だし、妖怪の可能性もあるんじゃないの?

 

 

25:ニャラライズ

 

座敷童は、例の遠野の屋敷で確認されている。

 

 

26:ねうねう

 

なるなる。あのお屋敷は完全にマスコット関連の場所だもんね。

だったら、座敷童ちゃんもマスコット枠の可能性は高いかも?

 

 

27:ノクターン

 

ねえねえ!

白銀さんのホームが凄いんだけど!

 

 

28:ねうねう

 

おお、ついに発見された~?

 

 

29:ヌクモリア

 

まあ、かなりのプレイヤーが探してたしね。

 

 

30:ニャラライズ

 

それで、どこにあったの?

 

やっぱりホームエリア?

 

 

31:ノクターン

 

そう! しかも山側にある日本家屋!

今のところ不動産屋の購入リストにさえ載ってない場所だって!

 

 

32:ねうねう

 

なるほど、見つからない訳だー。爆弾投下!

相変わらずやらかしてるね!

 

 

33:ノクターン

 

しかもその庭が凄いらしい。

ホームはフレンドじゃないと庭を覗いたりできない仕様だから私は見えなかったけど。

 

 

34:ヌクモリア

 

凄いって。どんな風に?

 

 

35:ノクターン

 

それが、見えた人の話ではモンスとマスコットと妖怪が20体近く集まって、飲めや歌えやの大騒ぎ! らしいよ?

 

 

36:波平

 

見てきた!

 

白銀さんのマスコットヤヴァイ!

妖怪コンプは称号のせいで分かってたけど、完全に未知のマスコットがいた!

 

 

37:ニャラライズ

 

お庭見えたの?

 

 

38:波平

 

ああ、花見の時フレコ交換してるから。

それよりも、白銀さんの庭に、妖怪でも初期でもないマスコットがいた。

 

 

39:ねうねう

 

サラッと羨ましいことを言ったね。本当にマスコット?

白銀さんなら、新モンスとか妖怪の可能性もあるけど。

 

 

40:波平

 

モンス、妖怪なら青マーカーが出る。ああ、妖怪は以前はNPCマーカーだったが、プレイヤー付きの妖怪はアプデで青に変更された。で、マスコットはNPCマーカーが出るだろ?

 

 

41:ノクターン

 

理解しました。それで、どのようなマスコットちゃんですか?

 

 

42:波平

 

子犬と子猫。

 

超リアルで凄まじく可愛かった!まめ柴とミケ猫だ!

 

 

43:ねうねう

 

いってきます

 

 

44:ニャラライズ

 

逝ってきます

 

 

45:波平

 

やめろ! 逝くな! 迷惑になるだろうが!

 

 

46:ヌクモリア

 

いま、私のフレが白銀屋敷の前にいたらしいんだけど、大混雑してたって。

そして、運営から警告が出て、みんな慌てて解散したみたい

 

 

47:波平

 

な? その内情報も出てくるだろうし、少し待った方がいい

 

 

48:ねうねう

 

三毛猫!

 

 

49:ニャラライズ

 

子猫!

 

 

50:波平

 

猫狂いどもが

 

 

51:ノクターン

 

多分、その日本家屋の専用マスコットなんでしょうね。

 

 

52:ヌクモリア

 

そーいえば、タラリアで日本家屋の情報売ってましたよ?

かなりお高いんで、私は諦めましたけど。

 

 

53:波平

 

おー、まずはそれを買ったらどうだ?

 

それで後で俺たちにも教えてくれよ(ゲス顔)

 

 

54:ねうねう

 

タラリアね!

 

 

55:ニャラライズ

 

オッケータラリアタラリア!

 

 

56:波平

 

まさか本気でいっちまうとは……。

財布の中身も逝っちまわないといいが。

 

 

57:ノクターン

 

(-人-)

 

 

58:ヌクモリア

 

(-人-)

 

 

59:波平

 

(-人-)

 

 

60:死神ハーデス

 

(‐人‐)

 

 

61:ノクターン

 

ちょっw

 

 

62:波平

 

なんか交ざってるぅっw

 

 

63:ヌクモリア

 

一緒に合掌してるけどどんな思いを込めてw

 

 

64:死神ハーデス

 

冥福をお祈りいたします。じゃ\(-o-)/

 

 

65:波平

 

あっ、待って行かないで!!

 

 

66:ヌクモリア

 

日本家屋の情報を教えてください!!

 

 

67:ノクターン

 

お願いしまーす!!

 

 

68:死神ハーデス

 

ちょっとだけなら。影~ヒョコ|д゚) 俺が買ったのはギルドホーム兼個人のホーム。値段は2000万の豪邸だよ。

 

普通の日本家屋は250万だから欲しいならマヨヒガに惑わされない事。じゃ、新しいマスコットを増やすからじゃあね

 

 

69:波平

 

もっと待ってっ!? 新しいマスコットってまだいるの!? あるの!? その情報も詳しくぅっ!!

 

 

70:ヌクモリア

 

2000万もする日本家屋だったの!?

 

 

71:ノクターン

 

応答なし・・・・・行ってしまったようだ。



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初オークション

「どうも」

 

「いらっしゃいませ」

 

 

課金でマスコット枠を増やして再ログインした後、本日2度目の不動産屋に足を踏み入れていた。

相変わらずの対応で出迎えていただきました。多分、プレイヤーの中では利用してる方だと思うんだが、「また来ましたね?」的反応がない。まあ、大人数を一度に相手にしているのだろうし、きっと処理速度優先なのだろう。さっそくマスコット一覧の中から、コガッパ、モフフ、テフテフを選んだ。さらに、ホームに設置できる施設、オブジェクト一覧を確認すると、案の定項目が増えている。

 

オバケの時と同じだ。

 

「追加されているのは、河童石、ツユ草、獣道? どれも訳が分からんな・・・・・。まあいいや、とりあえず全部タダだし、設置しちゃおう」

 

どこが河童なのか分からない、冷蔵庫サイズの黒っぽい岩の河童石。見た目がほぼ雑草の群生地であるツユ草。この2つは、とりあえず柳の古木の周囲に設置しておいた。

 

獣道だけは特殊なようで、ホームの周囲を囲む生垣に設置するようだった。見た目は生垣の下に空いた狭い穴でしかない。

 

ピッポーン!

 

『妖怪マスコット、及びその関連施設をコンプリートしました。『妖怪マスコットの保護者』の称号が授与されます』

 

おお、こんなことで称号が?

 

 

称号:妖怪マスコットの保護者

 

効果:マスコット所持枠+1。妖怪マスコット及び関連施設の情報を一部開示。

 

 

マスコット枠が+1という最高の効果だった。お金とかボーナスポイントよりも断然嬉しい。さらに、妖怪マスコットと、その関連施設の情報が一部開示、となっている。

 

「これは――」

 

ステータスウィンドウからホームの情報を確認してみると、柳の古木を含む無料オブジェクトの効果などを知ることができた。

 

まず一番最初に確認した柳の古木だが、柳のオブジェクトと、日本在来昆虫、魚類の生息する池が設置され、さらに庭のランダム自然設定に微風(涼)という項目が追加されているらしい。微風(涼)が吹くと、冷気を好むモンスターと、アンデッドタイプのモンスターの好感度が上昇するという面白い効果だ。

 

河童石は、庭の自然設定に雨(河童)、という設定が追加される効果があった。これの効果は凄まじい。何せ、この雨が降ると、庭の畑に植えている野菜の品質が僅かに上昇する効果があると言うのだ。さらに、キュウリであれば確実に1段上昇するそうだ。柳の古木と比べて「単なる庭石かよ。微妙だなー」なんて思ってごめんなさい。

 

獣道も中々面白い。効果は、庭の自然効果に獣来訪という設定が追加される。時おり狐や狸が出没するそうだ。触れ合えるかどうかは分からんが。そして、この施設の効果で獣が出現すると、獣タイプのモンスターの好感度が上昇するらしい。うちだと、リック、ドリモ、クママである。フェルとフレイヤも一応獣だが幻獣と魔獣だから好感度上昇するのかね。

 

「これは最後の1つも期待できそうだ」

 

そう思ったんだが、その効果は微妙だった。いや、人によっては凄まじいのだろうが、俺には効果がなかったのだ。ただ、構わない。それ以上にロマンがあるからな。

 

ツユ草は、庭の自然設定に蛍が追加されるという効果がある。効果としては昆虫系モンスターの好感度上昇なのだが、うちにはいないのだ。しかし蛍が見れるだけでも十分だ。このツユ草が開花して蛍が舞うらしい。メッチャ綺麗だろうな。

 

「よし、ホームに戻――る前にマメ柴ゲットだ」

 

いやー、ヤバいな。初日でうちのホームがマスコット天国になってしまった。まあ、本望ですけど!

 

早くホームの様子が見たくて、思わずダッシュしてしまった。ホームに戻ると、新しくゲットしたマスコットたちが庭の中央で大人しく待っていた。その眼差しが「早く名前をつけろ」と訴えかけている。

 

「コガッパはタロウ。モフフがホワン。テフテフがオチヨ。マメ柴がナッツだ」

 

道中考えてきたから、スラスラと名付けは終了した。すると、喜ぶマスコットたちが、俺の周辺で踊り出す。なんか盆踊りっぽいな。遊んでいると思ったのだろう。他の子たちも集まってきた。いつの間にか皆が俺の周りで踊り始めたではないか。まるで盆踊りのようである。全員勢ぞろいだ。ファウだけは踊らずに、俺の肩の上でリュートを弾いているけどね。

 

「うーん、壮観壮観」

 

ただ、どうやってここから出ようかな?

 

「あ、配信でもしようかな」

 

その時、フレンドコールが来た。

 

『もしもーしハーデス君。そろそろホームの準備を終えたかなって思って連絡したけど。捗ってるぅ?』

 

「捗り過ぎて家族団欒な状況になったよ」

 

『わーお、賑やかさだけは伝わってくるよ。なら、オークションがリアルタイムでこれから始まるってこと知ってます?』

 

オークション? そんなこともするのかこのゲームは。

 

『参加するならした方がいいですよ? 案外欲しいアイテムが手に入るかも』

 

「そうする。ああ、俺のホームに来るなら豪邸の日本家屋だから」

 

『日本家屋を買ったんだ? 掲示板じゃまだ誰もそのホームを買うどころか、どうやったら買えるのかも判明されてないようだよ』

 

簡単に買えるような方法ではないと思うな。マヨヒガを知らないプレイヤーは後で凄く残念がるだろう。

 

「その内増えるだろうさ。ああ、イッチョウ。ギルドを作るって言ったらお前どうする」

 

『勿論ハーデス君がリーダーなら入らせてもらいまーす』

 

「なら、ログアウトしたらギルドの名前を考えようぜ」

 

『いいともー!』

 

もう少しで昼食を食べるためにログアウトしなくちゃならないし丁度いいだろう。それまでは―――ラヴァ・ゴーレムから素材をたんまりと頂こうじゃないか。

 

 

―――3時間後。

 

 

「よし、行くか」

 

時間は13時直前。オークション開始時刻まであとちょっとだ。

ログアウトした際にネットで調べてみた。オークションには2つ種類があり、1つがリアルタイムで入札を行う競売タイプのオークション。これはその都度落札者が決定していく。

もう1つが決められた時間の中でプレイヤーが最高入札額を更新していき、終了時に最も高額で入札をしていたプレイヤーが購入資格を得るネットオークションタイプ。

 

プレイヤー間ではすでに競売とネトオクという名前で呼ばれている。因みに、オークションでは手持ちの金額以上の入札は出来ない。だが、色々な理由で所持金が減ってしまうこともあるだろう。そのせいで落札金額を下回ってしまった場合、購入資格が消滅してしまうらしい。

 

しかも、それを何度も繰り返した場合は重いペナルティがあるそうだ。ペナルティの内容が明かされていないのが恐ろしいね。俺も気を付けねば。

ネトオクの方ではいくつか面白いものを見つけたので、すでに入札済みである。まあネトオクの方は17時が最終入札期限なので、その直前の勝負になるだろうが。

 

「お、時間だな。会場に転移しますっと」

 

転移するかどうかの問いに、YESと答える。すると、目の前の景色が一瞬で切り替わり、俺はオークション会場の椅子に腰かけていた。モンス達はいないな。どうやらパーティは解除され、個人での参加扱いになるらしい。

 

「にしても・・・・・人が多い・・・・・いや、少ないか?」

 

この会場だけで5000人はいるはずだ。だが、全体から見たらかなり少ない。同じオークションに数万人のプレイヤーが同時に参加というのは無理がある。なので、第一会場、第二会場、といった具合に会場ごとにサーバーが用意されて、プレイヤーは自動で振り分けられるらしかった。

 

今回は出品されてるものが全て同じなのでどのサーバーでもあまり変わらない。だが、今後プレイヤーの出品が増えると、目当ての品が出品されている会場を選んで入場する形になる。目当ての品が複数ある場合は、片方を諦めなくてはいけない場合もあるだろう。会場をはしごするにしても、かなり急ぐ必要が出てくるだろうな。

 

「まあ、今日は関係ないか」

 

今一番気になるのは、この会場に狙いが被っているプレイヤーがどれだけいるかってことなのだ。

うーん、でも周りに知り合いはいないな・・・・・。

そうやって周囲をキョロキョロ見回している内に、オークションが開始された。

 

「では、ただいまより第一回オークションを開催いたします! 最初の出品はこちら!」

 

ステータスウィンドウに商品や現在の落札額が表示される。オークショニアが商品を紹介する声が気分を盛り上げてくれる。しかもオークショニアはモノクルを嵌めた、ロマンスグレーの初老の男なのだ。運営、分かってるな。

 

1つの商品に対しての入札時間は、商品紹介終了から20秒。入札者が居ればそこから10秒延長されていくようだ。ただ、入札を被せる場合、現在の入札額の1割以上の額を上乗せしなくてはならないので、あまり細かく刻むことは出来ない仕様になっている。嫌がらせや荒らしを防ぐ目的だろうな。

 

「では、こちらの品は14200Gで落札されました!」

 

目当ての物が出品されるのを待ちながら、進むオークションを見守る。思ったよりも高額が付く気がするな。多分、初めてのオークションということで、みんな気が大きくなっているんだろう。これは俺も気合を入れ直さねばならないな。

 

そして、目玉商品だと思っている最初の商品が壇上に運ばれてくる。

 

「では次の品はこちら! その名も風狼の卵です!」

 

そう、イベント報酬である従魔の卵が出品されていたのだ。土竜の卵も当然出品されるが、そっちはもう持ってるからいらん。さて、高みの見物をさせてもらうけどどのぐらいまで跳ね上がるのかな?

 

「では、10万Gからのスタートです!」

 

高いのか安いのか分からないが、リトル・エア・ウルフが手に入るのであれば欲しがるプレイヤーにとって安いものじゃないかな? 

 

誰かが12万で入札した直後、即座に15万で返された。だが、ここで引くことは出来ないだろう。 相手は――1人なのか複数なのかは分からないが、気力を折るために、誰かが20万で入札し返してやった。

 

一気に5万アップかぁ。次ももっと上がるのかな? でもここで引き下がって終わりか? だが、相手も意地になっているらしい。25万で入札し返してきたのだというのに、負ける訳には行かない。そんな気持ちを訴える30万で入札し返したプレイヤーがいた。

 

相手はどうしてもリトル・エア・ウルフが欲しいらしい。なんと40万で入札したのだ。はぁ~10万アップもするとは。これは退く気がないという意思表示だろう。落札したプレイヤーも後悔していないだろうな。

 

「45万とか凄いな」

 

お次に出品された赤虎の卵は誰かが45万で落札していった。まあ、リトル・バーン・タイガーの動画を見たけど確かに可愛かった。競合するだろうとは思っていたけども、まさかこれほどとは・・・・・。

だが、これでもまだ可愛い方だったとは思いもしなかった。次に出品された土竜の卵。なんと73万で買われていったのだ。俺を除いてみんな意外とお金持ちか。そしてその値段は絶対にうちのドリモさんを見てほしいと思っての高額落札だろう。

 

「まだ欲しいと思うものは何もないな」

 

あったら買おうと決意を新たにした俺は次の出品を待っていた。この辺りはイベント報酬のゾーンであるらしく、その後もイベント関連のアイテムが続々と出品されている。

 

イベント時に俺はテイマーの秘伝書をゲットしたが、当然他の職業にも秘伝書がある。そういった秘伝書が20程出品され、落札されていった。俺? 一応重戦士の秘伝書を買った。これを使えば特殊職業クルセイダーになるからだ。

 

そして秘伝書ゾーンが終了し、いよいよ俺が狙っていたアイテムが出品される。

 

「次はこちら! 神聖樹の苗木です!」

 

おお、よしきた! 出品されるアイテムの中でも特にこれを狙っていたのだ。イベント報酬ではドリモの卵と秘伝書をゲットしたので、ポイントが不足してしまって手が届かなかった。カタログにこの名前を発見した時、絶対にゲットすると決めていたのだ。

 

「最初は2万Gから!」

 

これは何があっても絶対に手に入れて見せよう。俺は5万Gで入札する。他に値上げしても手に入れようとするプレイヤーは・・・・・あれ?

 

「では、神聖樹の苗木は5万Gで落札です!」

 

「・・・・・安く買えた? そこまで人気じゃないのかあの苗木」

 

その割にはオークショニアの宣言にあわせて大きな拍手が起きる。まあ、他人の落札に対して拍手をするのはマナーみたいなものだが、妙に拍手が大きくない? でも何でだ?

 

「まさか白銀さんがあれを――」

 

「集計掲示板でダントツ不人気だったアイテムだろ?」

 

「さすが白銀さん」

 

え、すんごく不人気だったのか苗木・・・・・いや、多くのファーマーでも樹を育てる意味が無いという認識でいるかもしれないか。そうじゃない職業のプレイヤーも、神聖樹を手に入れる理由がないから手出しするどころか、見向きもされなかったのが目に浮かぶほど不人気なのが納得だ。

 

まあ、欲しいものが落とせたんだし気にしないでおこう。

 

これでオークションにつぎ込もうと思っていた資金は残り数百万。まだまだ戦えるぞ。神聖樹が想定を大きく下回る安さで落札できたから余裕もできた。

 

「次の商品は武器だな」

 

オークションはさらに進む。お次は武器と防具ゾーンだ。強力かつエピックで、強力な装備が続々と落札されていく。イズとセレーネの作品もあるのかな。訊いとけばよかった。そう思いながらある装備品に目が留まった。

 

「次の商品はこちら! 精霊使いのピアス!」

 

使役系職業用の頭防具なのだが、その効果が面白かった。それは、配下の精霊の能力が僅かに上昇すると言うものだったのだ。以前、転職欄にエレメンタルテイマーの名前が出たことがある。これは精霊系の従魔が三体以上いた場合につける職業だ。その情報を元に考えると、オルト、ゆぐゆぐ、ファウは精霊扱いなのだろう。―――精霊繋がりなので購入してみた。

 

そう思ってオークションを見守っていると、時おり良いアイテムが出てくる。空きスロットが3つも有るブーツとか、かなり有用そうだったのに。だが、そういったアイテムはたいてい激しい競合となり、落札することはできた。テイマーの装備にと思ってな。

 

その後もオークションは進み、アイテム部門にさしかかる。ポーションや酒なども出品されているが、俺は自作できるからなー。他にも4種の属性結晶詰め合わせや、ボスのレア素材が人気を集めていたようだな。

 

商品は残りわずかだ。最後は雑貨や小物部門である。会場のプレイヤーたちにはゆるい雰囲気が漂い始めているな。ここからは、完全な嗜好品のコーナーだ。大勢のプレイヤーにとってはおまけのゾーン。彼らのオークションはすでに終わっているのだろう。

 

かくいう俺も、体の力を抜いている。もうなにがなんでも落札したい物はないからね。

今は和風の小物やインテリアのゾーンであるようだ。和柄の壁掛けや、和傘、提灯型ランプなどが次々と出品されていく。―――日本家屋の飾りとして丁度いいので全部買い占めた。

 

「お次はこちら!」

 

次に出品されたものも見て、目を引かれた。

 

インテリア扱いのホームオブジェクトなのだが、なかなかに渋い茶釜であった。黒い金属製の、小振りな茶釜だ。表面がはげてボロくも見えるが、俺は嫌いではない。それにあれだけボロボロだったら、うちのボロ納屋に置いても違和感無さそうだ。

 

特殊な効果はなにもないが、これも落とそう。2000Gからとなっていたので、とりあえず入札してみる。3000と抑えめだ。その後俺以外にも入札者はいたが、誰もあまり本気ではないらしい。たぶん、俺と同じ衝動入札か、せっかくオークションに来たのだからという記念入札なのだろう。結局、12000Gで落札することができたのだった。

 

・・・・・。・・・・・。・・・・・。

 

・・・・・。・・・・。

 

・・・・・。

 

 

もうオークションもほぼ終わりだな。

 

「軍資金が余ったな。これはこれで今後のためにとっておこう。」

 

カタログの商品がすべて消化された時、そう呟かずにはいられなかった。いやー、オークション、なかなかに面白味があった。

 

グーっと背中を伸ばす。多分、転送されてきたときとは逆に、元いた場所に送還されるはずだ。

そう思っていたのだが、いくら待っていてもオークションの終了は宣言されない。

 

「どうしたんだ?」

 

「サーバー順で転送されるんじゃない?」

 

「こ、これはまさか――ログアウト不可になってないよな?」

 

「ラノベの読み過ぎだ」

 

他のプレイヤーもそれに気づいてざわつき始める。すると、未だに壇上にいたオークショニアがおもむろに口を開いた。

 

「皆様、これからカタログには未記載のシークレットアイテムが登場いたします! どれも大変にユニークな商品となっておりますので、ふるってご入札ください」

 

なんと、カタログ未掲載の特別な商品があったらしい。おー、さすが運営、わかってる。これでこそオークションだよな。ただ、ユニークな商品とはいただけないな。

ざわめつく会場が落ち着くのを待っていたかのようなタイミングで、商品が運ばれてきた。

 

「まずはこちら!」

 

台の上に置かれているのは、一本の剣であった。磨き抜かれたステンレスのように、ピカピカと銀色に光る、美しい剣だ。も、もしかしてあれか? ファンタジー作品においてオリハルコンと並ぶ希少金属の代名詞。ミスリルなのだろうか?

 

「こちらはマジックシルバー製のショートソードとなります!」

 

どうやらミスリルではなかったらしい。ただ、会場はかなり騒めいている、周囲の言葉に耳を澄ませてみる。おあつらえ向きにちょうど目の前に剣士風のプレイヤーがいるのだ。

 

「まじか・・・・・あれって、銀の先にあるって言う金属だろ?」

 

「おう。第8エリアから来たっていう設定の冒険者NPCが所持してたらしい」

 

「おい、性能が表示されるぞ」

 

なるほど、先のエリアでしか手に入らない武器ってことか。かなり強いのか? だが、ウィンドウに表示された武器の性能は大したことが無かった。

 

いや、強いことは強い。だが、ここまでで出品されていた武具とそこまで変わらない。レアリティは5と高いが、それだけに思える。しかし、そう思ったのは俺だけだったらしい。

 

「軽いな・・・・・。それに属性が付いてる」

 

「耐久値も高いぞ」

 

「空きスロットも2つ。かなり強力だ」

 

「それに、受け強化が付いてる。地味だが有り難い効果だ」

 

「しかも魔法攻撃力が杖並みに高い」

 

これまで出品されていたのは、尖った能力が付加された武器が大半だった。だが、あのショートソードは素の状態でそれらに並ぶほど強く、さらに空きスロットがあるので好みの強化も可能ということらしかった。ああいうのがユニークなのかは俺にはわからない。

 

火属性付きな上、敵の攻撃を受けた際のダメージを軽減する受け強化効果もある。魔法攻撃力が高いので魔法も強化される。

 

守り重視の前衛であれば、喉から手が出るほど欲しい装備であるらしい。

シークレットというには地味だと思ったが、剣士たちはかなりテンションが高かった。だが、すぐにその熱気が静まってしまう。

 

「最初は40万Gからです!」

 

高すぎる。いや、でも2エリア先の装備となれば、それくらいはするのか? それにオークションに出品されているとなれば、もしかしたらその中でも高性能な品である可能性もある。

 

ほとんどのプレイヤーは競りに参加することさえ出来そうもなかった。でも、逆に言えば買えるのはお金持ちの前線プレイヤーばかりという訳で、ある意味相応しい相手の手に渡りそうな気はするね。

 

すぐにマジックシルバーの剣の競り合いが始まった。ガンガン値段が上昇していくな。最終的には110万で落札された。剣一本が110万か。まだ何品か出て来るみたいだけど、落札は難しいかもしれん。まあ、期待せずに見ておこう。

 

その後は、マジックシルバー製の盾、神聖樹と邪悪樹の枝で作った弓、属性結晶を複数使って作られた杖など、豪華な装備たちがいずれも100万前後で落札されていく。

 

「次は・・・・・なんだあれ。画材?」

 

運ばれてきたのは、どう見てもペンキや刷毛、筆と言った、画材一式だった。ペインターという職業もあるから、そっち用の道具だろうか?

 

「お次はインテリア、ホームホブジェクト用の、ペイントツールです! 特にこちらは汚しに特化した顔料をご用意しております! この顔料でホームオブジェクトを塗装すれば、あっと言う間に100年の時を経たかのような、味のある色合いを出せることでしょう!」

 

へー、そんなアイテムもあるのか。インテリアやホームオブジェクトをあえて古めかしいレトロ感のある色にできるってことか。

 

「ちょっと面白そうだな」

 

ゆぐゆぐに頼めば作ってくれる家具類をレトロ家具風に見せたり、納屋をもっと味のある風合いにイメチェンできるかもしれない。うん、それはすごくいいぞ。

 

「最初は20万Gから!」

 

よし、買おう。シークレットアイテムに入札もしてみたい。

 

「25万と」

 

とりあえず慎重に25万で入札してみる。すると即座に30万で返された。うむ、他にも俺と同じ考えの人間がいるのかもしれん。だが、諦めないぞ。

 

30万で返されるなら。40万で返してみた。なんの、45万だ! と即座に上書きされてしまう。

 

「じゃあ、70万だな」

 

20メートルほど離れた場所にいたプレイヤーが、真剣な眼差しでこちらを見ているのが分かった。

どうやらあの男が競りの相手であるらしい。なんで俺だって分かったのかと思ったが、ちょっと声を出してたし、それで気付かれたのだろう。

 

しかし相手はまだ諦めないようだ。75万の反撃を受ける。なら、80万はどうだ?もう5万追加すると、こっちをチラ見していたプレイヤーが、ガクリと肩を落としたのが見えた。

 

「ではこちら! 80万Gで落札されました!」

 

よし、手に入った。これでホームの雰囲気をさらに深めよう。

 

 

あとはもう完全なギャラリーモードである。様々なシークレットアイテムが落札されていく様をみているしかない。

 

「へー楽器か。好きな楽器に変形するって、面白いな」

 

次に出てきたのは、落札者が最初に願った姿に変形するという不思議な楽器だった。変形するのは1回だけらしいが、どの姿になっても高性能になるらしい。

 

まあ、楽器は何十種類もあるそうだからな。ヴァイオリンとか、トランペットとか、限定してしまうと演奏系の職業でも買えない人が出てきてしまうんだろう。

 

うちの場合、ファウの楽器は固定装備だから、買う必要はないので欲しくはならないけどね。

他には、耕した畑から一定期間雑草が生えなくなるクワとかも出品されていたが、これもそこまでは俺の興味は引かなかった。

だってハーブまで育たなくなるってことだし、いちいち畑によって使い分けるのも面倒だ。しかもクワとしての性能自体はそこまでよくなかった。シークレットアイテムの中では安めの、25万Gで落札されていく。最近のファーマーは皆ハーブを作ってるらしいからな。仕方ないだろう。

 

「この辺は職業用のアイテムか?」

 

ペインター、ミンストレル、ファーマーと続いてきている。その次は、レア度の低い魚だけを引き寄せるというルアーである。どうやら非戦闘職の中でも、マイナー系の職業用のアイテムが続いているようだな。その後数品が落札され、次に出品されたのが、死霊使い用の封印石だ。

 

「こちら、怨霊の封印石となっております! 最初は15万Gから!」

 

封印石はその名の通り、中に死霊系モンスターが封印されている。使用すると、中に封じされているモンスターと契約を交わせるというアイテムなんだが・・・・・。

 

「あれ? ネクロマンサー用のモンス?」

 

この流れはもしかして・・・・・。俺がある予感を抱えたまま見守っていると、怨霊の封印石はかなり安めの48万で落札された。まあ、ネクロマンサーはテイマー以上の不人気職らしいからか。人数も少ないんだろう。

 

その次はサモナー用の契約石が壇上に運ばれてくる。封印石と同じで、使用すればサモニングモンスターが手に入る道具だった。出品されたのは、骨戦士の契約石というアイテムだ。骨か、最近知り合ったばかりなんだよな。

 

にしてもやっぱり、魔獣使役系職業のゾーンに突入したらしい。同じ魔獣でも格の違いがハッキリと物語っているぜフレイヤ。

 

骨戦士の契約石は96万で落札されていった。サモナーは数も多いし、競合する人数も多いんだろう。さて、ネクロマンサー、サモナーと来て、次は――。

 

「あ、やっぱり」

 

そして、次に出品された品物を見て、俺は思わず口から呟いた。

 

「お次はこちら!」

 

「卵来たな」

 

そう。次に運ばれて来たシークレットアイテムは、従魔の卵だったのだ。

 

「毒腐人の卵! 最初は20万Gからです!」

 

毒腐人? 名前からしてゾンビを彷彿させる名前だな。しかもいきなり20万から? おお、値段が上昇していく。すでに40万だ。

 

「70万! 77万!」

 

ガンガン値段が上昇していく。そして、最終的には106万で落札されたのだった。

 

「わからない卵を買う度胸は俺にはないな。貰う側なら貰うけど」

 

落札された毒腐人の卵が運ばれて行くのを見送り、オークションを見守っていると、ようやく終わりの時間がやってきた。最後の方は何が出品されていたか全然覚えてないな。

 

このオークション、イベントの時のように時間の経過を操作しているようで、きっちり16時に転移場所に戻れるようだった。その時間調整のために、送還されるまでに数分の待ち時間がある。俺は会場の椅子に座って送還されるのをまっていたんだが・・・・・。

 

突如アナウンスが聞こえてきた。

 

『初回オークションにおいて、オークション会場で総計100万G以上の支払いをしたプレイヤーに「宵越しの金は持たない」の称号が与えられます』

 

え? なんか称号もらっちゃったんだけど。しかも宵越しの金は持たないって・・・・・。まーた良い称号ではなさそうだよな。いったいどんな称号だ?

 

確認してみたら、本当に名誉というか、遊び称号だった。効果は特になし。一応ボーナスポイント1、賞金11000Gは貰えたが雀の涙に等しい。まあ、こういう称号もありなのだろう。

 

しかし、昨日の今日でまたか・・・・・。好き勝手やっているだけなのに、何故か増えていくんだよな。謎だわ~。



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妖怪化 未知のエリア

オークションが終ってすぐ畑に戻って来た俺を、皆が可愛らしく出迎えてくれる。

 

「ムムー!」

 

「ただいまみんな」

 

畑に異常はないな。早速、手に入れたばかりの苗木を渡しちゃおうか? 俺はインベントリから、オークションで購入した神聖樹の苗木を取り出してみた。

 

 

名称:神聖樹の苗木(衰弱) 

 

レア度:4 品質:★1

 

効果:神聖樹の苗木。悪魔の影響で衰弱している。

 

 

 

あれ? 衰弱? そんなことオークションで言ってなかったと思うけど。悪魔の影響って・・・・・。そう言えば他のサーバーだと、神聖樹が邪悪樹っていうボスに変異して大変だったって聞いたな。この神聖樹、邪悪樹っていうのに変わったりしないよな?

 

「オルト、サクラ、オレア、この苗木は育てられるか?」

 

「ムム!」

 

「――♪」

 

「トリ!」

 

苗木を囲んだ3人が、コクコクと頷いている。問題ないらしい。

 

「悪魔のせいで衰弱してるらしいんだ。変な育て方をすると邪悪樹っていうモンスターに変身しちゃうらしいんだけど、大丈夫か?」

 

「ム?」

 

「――?」

 

「トリリ?」

 

どうやらオルト達にも悪魔に関することはわかっていないようだった。これ、育てて平気か? でも、買ってしまったものは仕方がないし・・・・・なったらなったらで対応するか。

 

「精霊使いのピアスはあとでルヘパーイストスのところに持って行こう。装備には空きスロットが1つあるって言う話だし」

 

ただ、行く前にオルトの心で、宝珠を作っておかないとな。まあ、材料は揃ってるし、そっちは問題ないだろう。残りは茶釜と塗料か。先に茶釜から確認しちゃうか。俺は納屋のテーブルの上に、購入して来た茶釜を取り出してみる。

 

「うんうん、なかなかに趣のある姿だな」

 

「ヤー?」

 

「キュー?」

 

「お前達にはこれの良さが分からないのか」

 

「ヤヤー?」

 

「キキュー?」

 

小首を傾げていたファウとリックが、さらに首をひねってしまう。年少組には侘び寂びなど分からないらしい。

 

テーブルの上の茶釜を手に取ってみる。サイズも小さめで納屋にも置きやすい。色は元々黒かったんだろう。だが、今は剥げと錆びで、見る影もない。まあ、そこがいいんだけどね。

 

サイズは一般的な土鍋より少し小さいくらいかな。物語でタヌキが化けていたりするような、いわゆる茶釜と言われて想像する物より大分小さいだろう。

 

「うん? タヌキ?」

 

そうかタヌキか。全然気付かなかったけど、茶釜と言えばタヌキだよな。分福茶釜とかあるし。妖怪と言えばポピュラーな種類だろう。この茶釜、もしかして――。

 

「・・・・・ま、そう都合よくはないか」

 

妖怪察知、妖怪探索、どちらにも反応はなかった。当たり前だけどな。

まあいい。目的はインテリアな訳だし、テーブルの上に置いておこう。これで囲炉裏でもあったら完璧なのにね。

 

「最後はこいつだ」

 

ちょっと奮発し過ぎた気もする最高落札額アイテム、ペイントツールである。インテリアやホームオブジェクトなどを塗装できるらしいが、どうやって使えばいいんだろう。とりあえずテーブルの上に広げてみる。

 

大刷毛、小刷毛、サイズが違う筆が4本。さらに塗料「汚し・木材」「汚し・金属」「時間経過」の3種類だ。とりあえず1番大きな刷毛を手に取ってみる。

 

するとアナウンスが聞こえた。どうやら現状でも利用できるが、スキルがないので効果、成功度が半減してしまうらしい。塗料を無駄にしそうだし、それは嫌だな。お高かったのだから、完璧な状態で使用せねば。

 

「スキルか・・・・・。どのスキルがいいんだろう」

 

リストを確認してみる。関係ありそうなのは、描画かな? ペインターの初期スキルだ。他に目ぼしいスキルもないし、4ポイント消費して描画を取得してみるのはちょっとな。ということでペインターの職業になってから挑戦してみた。初期この頃に時間を書けてでも解放した甲斐があったぜぇ・・・・・へへへ。

 

「正解だったみたいだな」

 

きっちりとペイントツールが使用できた。マニュアルとオートがあるみたいだ。マニュアルは全て自力。つまりリアルのお絵描きとなんら変わらない。最初はこれはないだろう。絵が壊滅的に下手な訳じゃないけど、超上手いわけじゃない。マニュアルで遊ぶのは慣れてきてからにしよう。

 

オートはかなり良心的だ。PCのペイントツールのような物が立ち上がり、何度も試し書きができる。しかも、実際に目の前の風景をツールに撮り込んでそこに色を付けられるのだ。

テクスチャなども様々な種類が選べるので、かなり思い通りに塗ることができそうだった。オートだと効果低下、塗料消費上昇などの色々なデメリットもあるらしいが、俺はオート一択だな。

 

「さっそく茶釜を塗ってみるか」

 

買ったばかりの茶釜を手に取り「何が起きるかなーっと」俺が茶釜に対してオートペイントを選択したその直後だった。茶釜のボロさがさらに増す。僅かに残っていた黒い部分が完全に剥げ、錆が全体に回る。だが、それがまたいい味を出しているのだ。ボロいが、悪いボロさじゃない。ぜひ古い古民家などに置きたい。そう思わせる外見であった。だが、変化はそれだけではない。

 

「ヘンカというか、ヘンゲ?」

 

そう変ゲしたのだ。何がって、茶釜がだ。時間経過塗料を塗り終わった茶釜から、フサフサの尻尾が生えている。少し丸みを帯びた、モフモフの尻尾だ。

 

「・・・・・これは――」

 

「ポコ?」

 

茶釜+尻尾=タヌキ! きました! すると、茶釜からは手足に、タヌキの顔がポンポンと音を立てて生える。完全に茶釜のタヌキだ。

 

「お、お前は妖怪なのか?」

 

「ポコ!」

 

まじで妖怪になったらしい。俺の言葉にコクコクと頷いている。

 

『妖怪、ブンブクチャガマと友誼を結びました。一部のスキルが解放されました』

 

「おおー、戦闘しなくても、仲良くなれるタイプの妖怪だったか」

 

どうやら妖怪化した茶釜を入手すれば、それで友誼を結んだことになるらしい。妖怪察知に反応しなかったのは、あの時はまだ妖怪じゃなかったってことなんだろう。

 

「でも、俺は陰陽師じゃないんだが」

 

職業が陰陽師だと、このブンブクチャガマを使役できるはずなんだが。俺の場合は、単に図鑑が埋まり、スキルが解放されただけだ。あとは、ハナミアラシみたいにお供え物が出来たりするのか?

 

「なあ、何か食事かお供え物が必要か?」

 

「ポコ」

 

「食事?」

 

「ポン」

 

「お供え物?」

 

「ポコ!」

 

お供え物が欲しいらしい。チャガマのタヌキに対するお供え物と言うと・・・・・。

 

「これとかどうだ?」

 

「ポコポン!」

 

ハーブティーをあげてみたんだが、明らかに喜んでいる。だって、どこからか取り出した和傘の上で鞠を回しながら、小躍りしているのだ。メッチャ可愛いなこいつ。

 

ただ、ハナミアラシのように、何かアイテムをくれたりすることはなかった。まあ、今の曲芸が見れただけでも十分かね? それに、可愛い同居人が増えたわけだしね。

 

「そう言えば、解放されたスキルって何だ?」

 

スキルを確認してみると、曲芸、茶術、招福の3つが解放されていた。どれも知らないな。まあ、曲芸と茶術は名前からして今すぐ必要なスキルじゃないことは確かだろう。

 

ただ招福はどうだ? 多分、運が良くなるスキルだと思うんだが・・・・・。オルトが所持している幸運とは何が違うんだ? 

 

「うーん」

 

「ポコ?」

 

「おっと、今はお前のことが先だな。名前とか付ける必要はないのか?」

 

色々と調べてみたが、どうも名前は必要ないらしい。テイムしたわけじゃないしな。

 

「なあ、お前はどれくらい動けるんだ?」

 

「ポコ?」

 

俺がそう問いかけると、ブンブクチャガマが納屋のテーブルから飛び降りて、そのまま外に出て行ってしまった。

 

「あ、おい!」

 

慌てて追いかけると、ブンブクチャガマは畑の際で立ち止まっていた。まるで見えない壁があるかのように、道と畑の間で足を止めている。なるほど、インテリアとして納屋に置いてあったわけだし、俺のホーム内しか動き回れないってことか。

 

「まあ、畑は自由に動けるみたいだし、その中は好きに動いていいからな」

 

「ポコ!」

 

「ただ、悪戯はするんじゃないぞ?」

 

「ポコ!」

 

オレアもいるし、寂しくはないだろ。

 

「これからよろしくな」

 

「ポコポン!」

 

問題は、折角手に入れたインテリアが、動き回るようになってしまったことか。他に納屋に似合いそうなインテリアとか、売ってないかな?

 

「いや、まだ塗料はあるんだし、何かそれ用に作ってみてもいいかね?」

 

チラリ、とアイテム欄にある提灯と和傘を見た。いやいや、そんなことはないだろ?

 

・・・・・と思っていた俺が数分前にいた。

 

「チョンチョン!チョウチーン!」

 

「ケケケ!」

 

「ポコポン!」

 

好奇心に逆らえず、和傘と提灯にオートペインしたら二つとも妖怪化してしまったよこんちくしょう!! 傘の妖怪は大きな1つ目足がなくても浮遊しながら移動できて、提灯の妖怪も大きな1つ目で紙が破れた感じに裂けたところが口のようで、身体が灯ってるから明るい。しかも普通の提灯や和傘に化けれるのが憎いくらいに面白い。

 

スキルを確認すると、和傘の方は変化、曲芸、相合い傘の3つが解放されてる。いや、相合い傘ってなんだよ意味がわからねぇよ。提灯の方は、変化、照明、火の玉の3つが解放されてる。火の玉って夜に浮かぶお化けや妖怪の定番の?

 

「人のホームをお化け屋敷にさせようって魂胆か運営めッ。やってみたくなるじゃないかよっ!」

 

となると、他のインテリアもか? そうなのか?

 

「止めよう。本当にお化け屋敷になりかねん」

 

「ポコ?」

 

「チョウ?」

 

「ケケ?」

 

首をかしげるな、お前らが原因だお前らが。提灯と和傘に至っては首がないから身体を斜めに傾ける体勢で傾げた。

 

「さて、ラヴァ・ゴーレムのところに行ってくる。畑とホームを頼んだ」

 

「行ってらっしゃいあなた」

 

「かしこまりました」

 

よーし、マグマの中の採掘もしよう! ついでに鳳凰がいた隠しエリアも見に行くか。と意気込む俺は、その通りに実行して千年鉱石を採掘してから辿り着いた。何も変わってないだろうなぁ~と周囲を見回すと、最初に見た時からあったマグマの滝が、マグマ溜まりに向かって流れ落ちていく光景に目が留まる。滝の向こうに何かありそうだとマグマに濡れながら突っ込んでみたら、隠された下へ繋がる空洞を発見した。滝も含めて前はなかったのにな、と空洞の中へ潜りある程度歩いたら・・・・・太陽がないのに明るい水晶と宝石だらけの洞窟を発見したのだった。

 

 

運営side

 

 

「死神ハーデスが隠しエリアに突入しました!」

 

「予想していたが、思っていたより遅く見つけたな」

 

「マグマの中を潜水できるようになったから結果的には当然と予想の範囲内ですよ。これからどうなるのか予想できませんが」

 

「あの隠しエリアにはユニークNPCを配置してるな」

 

「はい勿論。あのプレイヤー次第で言動が変わりますよね」

 

「唯一のユニークNPCだ。彼もその凄さを知り、どんな会話をしてくれるのか楽しみだ」

 

 

 

そこは。植物が水晶のような煌きらめきを放つ森だった。木々は茶色く透き通っており、また茂しげらす葉も緑色だが透明だった。地面だけがただの土であり、それ以外の植物は全て結晶でできているかのように美しかった。咲き誇る花々も、様々な色彩の結晶から成っており、赤、黄、青、紫、ピンクと輝かしい。

 

宝石を実る透き通った水晶の樹木なのも大変珍しいが、静寂で包まれてるこのエリアの空気を感じた時、直感的に隠密で行った方がよさそうな気がした。こうして歩いたり触れたりしても問題ないなら、水晶に衝撃を与えないよう行動するのが正解だろう。

 

こういう時、忍者の職業のプレイヤーの出番なのにな。

 

「モンスターの気配はないな。水晶系、鉱物系のモンスターがいそうな感じなのに」

 

偵察を兼ねて歩き続けて10分ほど経過した。歩いてばかりでは見つからない、と空から見つけることにして【飛翔】で移動した空から見下ろした先に見つけた。薔薇のように生えてる水晶群の中心に水晶でできた巨大な樹木があった。世界樹並みに大きい樹木を。

 

「ん? あれは・・・・・」

 

近づいてみたら見つけてしまった水晶の家屋。明らかに人の手で造られた建造物が。誰かいるのかと気になった俺はその家に飛んでいった。

 

「・・・・・火山の下に水晶があるのは百歩譲るけど、どうやって人がここまで辿り着いた?」

 

静かに降り、疑問点を挙げながら扉を叩く伸ばしたその手を停めた。中を覗けるガラスの窓の向こうに白骨化した人骨があったからだ。そしてそのすぐ傍らにサイナの同機種のドールが目を瞑っている。

 

「サイナを連れてくるべきだったか」

 

こんにちわと言いながら扉を叩く代わりに見つけた水晶のベルに繋がってる紐を優しく引っ張って鳴らした。チリン、と一回音がなると目を瞑っているドールが覚醒したように目蓋を開き、動き出した。

 

「いらっしゃいませ」

 

扉を開けてくれたドールは、俺が言う前に中へ通してくれて人骨の前に座らされた。

 

「えっと・・・?」

 

「問いにお答えください。ここまで来る時、モンスターと遭遇しましたか?」

 

「えっ? 静かに来たから戦いもしなかった」

 

「ここはどこだかお分かりで?」

 

「神秘的な水晶だらけの場所としか」

 

「何か懐に入れましたか?」

 

「何も見つけれなかったから取ってない」

 

それからも質問を繰り返すドールに正直に答えていく。

 

「錬金術には興味がおありですか?」

 

「ある方だけど、ここ最近ファーマーをしたり神獣相手に戦っていたからしてないなぁ~」

 

「なに、神獣と戦っただと!?」

 

突然骨が喋りだした。え、生きてたの? こっちはびっくりしたけど、ドールは凄く呆れた表情で息を吐いた。

 

「マスター、客人を驚かす側が驚かされてどうするのですか」

 

「あっ」

 

しかも、声からして女のようだ。

 

「で、本題に戻らしていいか。どちら様だ」

 

・・・・・。・・・・・。・・・・・。

 

・・・・・。・・・・・。

 

・・・・・。

 

「私は錬金術のラプラス。こちらのドールはゼロだ」

 

「死神ハーデスだ」

 

「うむ、よろしくだ。さて、ここはどこだというと『宝饗水晶巣』というところだ。主に水晶のモンスターが棲息している。そこらへんの水晶に振動を与えると数の暴力で襲いかかってくるから気を付けたまえ」

 

自分の判断と直感に信じてよかったと思った日は今日までなかった。

 

「ここはラプラスが作ったわけではないんだな?」

 

「元々だよ。私達が来た数百年前からずっとこの状態が築き上がっていたようだ」

 

「どうして骨になっても長生きしていられる?」

 

「私は錬金術師の前に魔法を極めた魔神だった。しかし、永遠の命を得たあまりに呪いとして肉体が腐り墜ちてしまった愚者であるがね」

 

―――――っ。生きた神の領域に至った魔法使いのNPCだと? そんな凄い人物がどうしてこんな場所に?

 

「どうして私がここにいるのか不思議に思っているのかい」

 

「うん」

 

「素直でいい。理由は二つ。一つは外界との関りに嫌気がさしたのさ。厳密に言うと魔神の力を恐れ、魔神の力を強欲のまま手中に収めんとする人類にね」

 

「・・・・・」

 

「私がこのような姿になったのも仕えていた国の王が永遠の命を得られるという、賢者の石を欲したからだ」

 

「手に入るものなのか?」

 

「素材がなければ不可能に近い。賢者の石には様々な特殊素材が必要なのだ。その中で困難な素材はオリハルコンだ。これはエルフの王族しか所有しておらず、手に入れることは不可能に近い。それでも強欲な王は―――エルフの里に襲撃を繰り返しオリハルコンを手に入れてみせた」

 

そして目の前の魔神は今までの錬金術の技術を駆使し、見事に賢者の石の製作に成功した同時に自身も伝説の錬金術師として名を馳せたのだと語ってくれた。

 

「だがね。賢者の石を碌に扱ったことが無い者が使えばどうなるか、当時の私達はまだ気づかなかった」

 

「どうなった?」

 

「私の技術に誤りがあったのか、それとも私達が思っていたのより賢者の石の効力が凄まじいのか定かではないが賢者の石に宿っていた力が暴走を起こし、一国を巻き込む大爆発により私を除いて全てが吹っ飛んだ」

 

賢者の石って溶かした水で飲むもんじゃなかったっけ? どうやって溶かすのかわからないけど。

 

「とっさに防壁を張って命からがら生き残った私にも影響が及んだ。一人だけ生き残った私は老化しない肉体を何十年も得たかと思えば、最後は肉体が腐り骨と未だ尽きない命だけしか残らなくなった。その理由もようやくわかった頃には自分に失笑したよ」

 

ローブの前を捲るラプラス。血肉が腐り無くなった肉体がない今、剥き出しな肋骨に守られてるようにある石の欠片が光り輝いていた。

 

「賢者の石に宿る力は半分になっても凄まじいようだ。一国を巻き込む大爆発の際、半分に割れた賢者の石が私の胸の中に貫いていたとは気付かなかったよ」

 

「取れたりしないのか?」

 

「恐らくできるだろう。しかし私は敢えてしなかった。いや、出来なかったというべきかな。今更死ぬのが恐ろしくなってしまったんだ。せっかく骨になっても生き長らえるなら、ずっと生き続けてみたいという人間の性に逆らえなかった」

 

誰もが思いそうな考えだな。目の前の魔神もその一人に過ぎなかっただけだ。

 

「それ以降は睡眠も食欲も不要になったこの身体で、出来なかったことをし、試してみたかった、体験してみたい、経験してみたいことを散々やってきたよ。この場所を見つけたのも本当に偶然だ。この場所に通ずる洞窟は塞がってしまったが、静かに暮らすところとしては申し分ないからいっそのことここで永住することにして以来、今に至る」

 

「俺はマグマを潜ってここまで来たんだがな」

 

「マグマを!? あれからどれぐらい時が経っているのか分からないが、今時の人間はそんなことも出来るようになっているのか」

 

「やろうと思えば案外やれるのが人間じゃないのか?」

 

「・・・・・ああ、すっかり忘れていた。その通りだ、確かにその通りだったよ」

 

顔に肉があったら苦笑していたのかもしれないな。頭に手をやって乾いた笑い声を零しているから。

 

「ゼロとは何時の時に?」

 

「機械溢れる町に行ったことはあるかい? そこで人間を模して量産しようとしていた機械神と交流した経緯で最初に作られた彼女と契約させてもらったんだ」

 

「ゼロってそういう名前の意味か。俺もドールと契約している、サイナって家族をな」

 

「ほうほう、それは興味深い。では、機械神と会ったんだね? 彼は今も?」

 

興味津々に訊いてくるラプラスに機械神は二代目に乗っ取られ滅んだと伝える。

 

「今の俺は初代を受け継いで三代目機械神に、サイナが四代目機械神になっている」

 

「そうか・・・・・彼の力をキミ達に託して安らかな眠りへ・・・・・」

 

窓の外へ見つめるラプラス。逝った機械神に冥福を祈ってるのだろうか。静かに見守っているとラプラスが立ち上がり出した。

 

「ハーデスよ。案内したいところがある。ついて来てほしい」

 

そう言われアルプスについて行く形で外に出て、ゼロを家に留守番させて移動する。

案内された場所は水晶の巨大樹だった。

 

「宝饗水晶巣の全ての水晶は特殊でね。魔法の抵抗力が高いんだ」

 

「魔法の抵抗力?」

 

「勿論壊れるが力の基準が不明なんだ。魔神の私だから壊れるが、魔神の私でもとにかく壊れない水晶が『クリスタリーウッド』と私が勝手に呼称してるこの水晶樹だ」

 

骨の手で水晶樹に触れるラプラス。

 

「この場所に繋がっていた通路も水晶樹と同じぐらいの大きい水晶で塞がっているから、出られなくなった話でもあったわけだけど、クリスタリーウッドは中々興味深いことが判明したんだ。―――これ、魔力を蓄えているんだ」

 

蓄えている・・・・・?

 

「どうやってだ?」

 

「世界樹のことは知っているかい」

 

「全ての植物の根と繋がっていることか?」

 

「そこまで知ってるなら話が早い。その根にクリスタリーウッドの根も一緒に繋がっているんだ。繋がっている植物から空気中にある魔力の元、魔素を酸素のように吸収して長い年月を懸けて蓄えている。その魔力がこの場所を作り、棲息しているモンスターはクリスタリーウッドから育つ水晶を主食にしている。壊れた水晶は数日後には完ぺきに戻るほどこの場所は魔力が充実しているんだ」

 

感嘆の息を吐きクリスタリーウッドを見上げる。それは凄いとしか言えないほどここは特殊な場所なんだな。

 

「会ったばかりの君だが、話をして優しい心を持っていると思う。そこで頼みたいことがある。どうかこの場所のことを他の人間達には教えないでほしい。その代わりに君だけなら何をしても構わない」

 

「あー・・・・・荒らし回りそうだからか。クリスタリーウッドを始め、この辺りの水晶とかモンスターとか狙って」

 

「そうだ。この美しい場所をこれからもずっとこのままにしたい私個人の我儘だ」

 

「外に出ようとは?」

 

「思わなくはないが、私のような存在を人間が受け入れられると思うか?」

 

見た目は骸骨。でも中身は魔神と賢者。うーん・・・・・。

 

「多分、普通に受け入れられるぞ。俺等割と変なところで変人だし」

 

「そ、そうなのか・・・・・?」

 

全員ではないし、それは心外だと異を唱える奴もいるだろうが、この骨が女だと判れば接し方も・・・・・わからないな。骨だし。

 

「にしても、よくここは無事だな」

 

「というと?」

 

「鉱石を食べる二種類のモンスターが最近地上で現れてさ」

 

水晶は鉱石だから、ここに来ても不思議ではないんだがな。食べる鉱石に好みとかあるのかな? ラプラスにそのモンスターのことを教えようとした時、地面から振動を感じた。

 

しかもごく最近体感した振動ですねー。ほら、ドンドン大きくなってきてさ? いまここに行くぞー! と揺れも激しくなってさ。

 

「不味いな。モンスター達が警戒心を剥き出しになる」

 

「どんなモンスターがいる?」

 

「ゴーレムと蠍に蛇が三つ巴の戦いを繰り広げてる。これだけ振動が大きいとクリスタリーウッドを中心に戦い始めるぞ」

 

見てみるか? とラプラスの誘いに従いクリスタリーウッドの上へ向かった直後にそれは現れた。地龍と鉱石喰らいが咆哮を上げ、お互い周囲の宝石や水晶を喰らいながら戦い始めた。

 

「あれのことかい」

 

「そう、あれのこと」

 

「あれらのことなら数十年に一度は来るよ。そして古代から住んでるモンスター達にやられる」

 

やられる? 信じられない言葉を耳にしたとき、さらに水饗宝樹巣全体を震わす大地震が生じた。クリスタリーウッドの枝に立つ俺ですら立っていられないほどに。何が来る、と待ち構えていたら鉱石喰らい並みの黒いゴーレムと黄金の蠍と緋色の蛇がこのエリアの端っこから現れてきて、地龍と鉱石喰らいへ向かってかけて行く。そして、2と3が加わり、地上では同じ3種の小型のモンスターの群れがあっという間に、クリスタリーウッドを囲んで争い始めた。地龍と鉱石喰らい? 殴り倒されたところを伸縮自在な蠍の尻尾(でも剣みたいなトライデント)で一刀両断の後はどっちも蛇に一瞬で丸呑みされたよ。

 

「えええ・・・・・ベヒモスより強いんじゃ」

 

「あの天災とどっこいどっこいだ。部外者が現れた瞬間にあの三つ巴の死闘が始まる。どちらか一種になるまでは闘いは終わらない」

 

「最後に勝ったのは?」

 

「ゴーレムの方だ。見ての通り、あの力と防御力が厄介な武器だが、蠍も蛇もそれに負けない特徴がある」

 

蠍は剣だとしてゴーレムは盾、蛇は速度と即死の丸呑みってか? 勝てるか微妙だぞおい。

 

「縄張り争いを延々と繰り返しているのか」

 

「似たようなものだね。それなりにこの場所を長年住んでいる私からすれば、騒音の元凶に癇癪起こしてブチ切れている感じだ」

 

「本当に静寂を好んでいるモンスターだな。ラプラスの言う通り、他の人間達を呼ばないのが賢明か。この光景を見たら流石にそう思わずにはいられない」

 

「理解してくれて何よりだ」

 

しない方がおかしいだろう。だけど、それは不特定多数のプレイヤーをここに招く場合だ。ここは正真正銘、俺しか来られない絶対領域、真の意味で独占できる狩り場に成り得るエリアだ。

 

「もう覚えていないだろうけど、二人が来た道って地上に出たらどの辺りなんだ?」

 

「お前が言っていた地龍か鉱石喰らい、また地中に穴を掘るモンスターが移動の際にできた長い空洞を見つけたのは覚えている。見つけた場所は・・・・・ゼロが覚えているかもしれない」

 

「そうか。じゃあ、それは後で聞くとして・・・・・俺は行ってみるよ」

 

どこに、と訊くラプラスに三つ巴の方へ指す。

 

「正気の沙汰とは思えないな。自殺願望者だったのか?」

 

「本当にそうなのか、またここに戻って来た時にもう一度聞いてやるよ」

 

【飛翔】で自ら死闘の戦場へ飛び込み、軽くプレイヤーを百人は呑み込める大きな口を開く蛇へと直行。

はい、その腹の中に用があるので失礼しますよー。

 

 

運営side

 

 

「・・・・・『緋晶独蛇(ヨルムンガンド)』に飛び込みましたね。口の中に」

 

「だぁーくそっ!! まぁーた腹ン中で攻撃するつもりだぞあのプレイヤーめ!!」

 

「実際あの三種は打撃系のスキルを除き、物理と魔法無効化の水晶系のモンスターなので外より中の方が安全ですがね。ただし、彼ほどの【VIT】と【毒無効化】がないプレイヤーは別です」

 

「いっそのこと、持続ダメージの類として居続ければダメージを食らう設定でもするべきか」

 

「その間に倒されては意味ないのでは」

 

「・・・・・そうだよなー」

 

 

緋色の結晶の洞窟の中にいるかのような蛇の腹の中には、生きたまま呑み込んだ地龍と鉱石喰いの死骸が残っていた。激しく身体を動かす蛇のおかげでこっちもシェイクされる気分を味わされる。硬い鉱石にあちこちとぶつかりながらも不壊のツルハシを浮かんでいる採取ポイントに振るい続ける。

 

「少しだけ動かないでくれるかなー【咆哮】! うん、ダメか」

 

丸呑みされた場所が狭すぎるあまりに身動きが出来ない地龍は、散々俺に体の中から掘られてHPバーが全損、ドロップアイテムを手にしたことで地龍の存在の消失の代わりに大きな道が拓かれた。あちこちに揺さぶられぶつかりながらも奥へ進むと鉱石喰いの死骸を発見。採取ポイントもまだあったからそこを掘る。

 

「んん? おおっ、こいつらオリハルコンとヒヒイロカネを喰ってたのかラッキー!」

 

やっぱり鉱石喰いは鉱石の宝庫だわこれ。ヘパーイストス達にプレゼントしよっと。

さて、死骸もポリゴンと化しちゃったから残るは―――この蛇だけだ。不壊のツルハシの他、ラヴァピッケルを装備して・・・・・ふと思った。

 

「そういやぁ、溶結ってモンスターにも効果あるんだっけ?」

 

一度しか使ったことが無いから駄目してみるか。いい機会だやってみよう。

 

「【溶結】」

 

アルゴ・ウェスタとアグニ=ラーヴァテインを装備。大剣と連結した刃が付いた大盾が莫大なマグマの熱を帯びながら回転する斧の状態で蛇の体内の壁に叩き込んだ同時にスキルを発動した。

 

「あれ、できない?」

 

激しく暴れ回る蛇に揺さぶられる以外何の変化もないので首を傾げた。容量の問題か? んー・・・・・じゃあこいつなら?

 

「【マグマオーシャン】」

 

武器から溢れ出るマグマの海が蛇の体内を赫赫と照らしながら広がって満たされていく。

 

 

 

ラプラスside

 

 

「マスター、あの蛇が熱が帯びたように更に赤くなりましたが」

 

「ふむ、今まで見たことが無い現象だ。それに何だか苦しんでいるのも不思議だ」

 

クリスタリーウッドの上から見飽きたモンスター同士の戦いに異変が生じた違和感を抱く。緋色の蛇の身体が炎で熱した鉄の如く真っ赤な光沢を輝かしだしたのだ。その原因を判明しようと注意深く見つめていた二人の視界に、水晶が熱でドロリと溶解し蛇の身体が原形を崩す代わりにマグマの山が出来上がった。

 

「あれは【溶岩魔人(ラヴァ・ゴーレム)】? ・・・・・まさか、彼が?」

 

一角が消滅、代わりに現れた敵にゴーレムと蠍が拳と尾で溶岩の塊に突き刺した。その一撃は今度は溶岩の塊を崩した―――かのように見えたが、今度は巨大な獣が出現して蠍の尾をその大きな牙で噛みつき、地面にいる水晶系のモンスターや巨大なゴーレムに向かって八つ当たりするが如く振り回して当て始めた。

 

「今度はベヒモスだと!?」

 

信じられない物を見たラプラスから絶叫があがる。一度だけ見たことがある絶望と恐怖の象徴たる巨獣。数多の冒険者や騎士と戦士達でも全く歯が立たなかった大陸の覇獣が現れたのだ、驚くなド無理がある。眼窩に目玉があったら、驚きのあまりに目玉が飛び出していただろう。

 

そんなラプラスに驚かせるベヒモスは蠍の尾を食いちぎり、硬い水晶などまるでせんべいの如くボリボリと咀嚼してゴーレムだけを残した。それから姿を消すベヒモスから黒い影が飛び出し地上にいる無数のモンスター達に向かって光の帯が降り注ぎ、連発する大爆発が起こる。

 

 

駆け走るゴーレム。地面を踏みつけて地鳴りを鳴らすのゴーレムに、黒い影が軌道を変えて胸部に吸い込まれていくように吶喊して行った。コバエを叩き落さんと極太な巨腕が飛来する隕石を彷彿させる圧倒的迫力を前に、小さな影は縦横無尽に掛けながらゴーレムの足を集中的に抉り続け、ついに片足の関節が破壊されてクリスタリーウッドを震わす地鳴りと揺れが、地面に倒れ込むゴーレムによって生じた後。たった一人を残してゴーレムも消失したのだった。



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現在のステータス

「ただいまー!」

 

「・・・・・本当に生きて戻ってくるとは」

 

「勝つ算段があったから当然でしょうが」

 

「そうか。なら訊くがベヒモスはキミが?」

 

「ああ、倒したぞ」

 

「・・・・・なるほど、キミは勇者だったのだな。なれば納得のいく強さだ」

 

さっきまで戦いを見守ってくれた頷くラプラスは俺の実力を認めてくれた。

 

「とは言ってもリヴァイアサンはまだ倒してないがな」

 

「ならジズをも下したと? 凄まじい実力を秘めているのだな。ならばベヒモスとジズの素材はあるのだな?」

 

「使わずにとっといているぞ。錬金術で何か作れるのか?」

 

「やってみないと未来は分からないよ?」

 

「じゃあ、気が向いたらお願いする」

 

それは楽しみだ、と笑う? ガイコツから視線を反らし、周囲の自然を見回す。

 

「なぁ、今なら採取をしても大丈夫か?」

 

「ああ、さっきの三体はしばらく出現しないと思うよ。地龍と鉱石喰いというモンスターがこの場所に現れない限りはね。それに―――」

 

ラプラスが上を向いた。釣られて俺も上を見ると、クリスタリーウッドから淡い燐光が舞い始め、俺達の周囲に集まり出す。

 

「これは?」

 

「まだ形がないクリスタリーウッドの精霊達だ」

 

樹木の精霊? だとしたら樹精? ゆぐゆぐと同じ存在なのか? と考えていると、精霊達が収束し始めて綺麗な結晶の樹木の苗木化になった。

 

「見たことのない現象だ。どうやらキミの勇士が精霊達に認められた印なのかもしれない」

 

「おー、ホームに戻ったら育てよう。それとさっきの話の続き、かなりの震動を与えない限り出てこないってことなんじゃないか?」

 

「ふむ、それはわからない。好き好んでそこまでするほど私は興味なかったからね」

 

それもそうか。自分から危険に首を突っ込む魔神じゃないよな。

 

「じゃ、しばらく採取しまくってくる」

 

「思う存分してくるといい。それをする権利はキミにある。もう一度言うが、この場所には他の人間達には連れてこないでほしい。話程度ならいいが、場所のことだけは決して口外しないしないように頼む」

 

「ラプラスの約束は守るよ。俺もこの場所が気に入った。一つぐらい独占したいさ」

 

「ふふ、私達だけの秘密の場所だハーデス。キミとは良き友になれそうだ」

 

『魔神ラプラスと友誼を結びました。一部システムを開放します』

 

「あー、でも。自力でここを見つけたプレイヤーの場合はどうするんだ?」

 

「まずそれはあり得ない、と言いたいところだが先ほどのキミの戦いを見たら断言できなくなった。いずれマグマの中を潜水できるようになる人間も現れるなら仕方ないと思うことにする」

 

アナウンスを聞きながらラプラスの話を聞く。何のシステムが解放されたんだが。

 

「ハーデス、私はここを出ることにする」

 

「行く当てはないのにか?」

 

「それはこれから見つけるさ。なんなら、キミと共に外の世界を歩んでも構わないぞ? 魔神の神髄をキミに教え込んでもいいと思っているからね」

 

「賢者の石を作り出した魔神の弟子? はは、凄い肩書を持ちそうになるがその話は保留にしてくれ。今やらないといけないことが山のようにあるからさ」

 

わかったと了承してくれたラプラスは荷造りをする間に俺は時間を懸けて隅々まで探索して採取ポイントを見つけたら採取しまくった。くふふ、これでホームの畑に植えて育てて豊かにするぞ! オルト達も凄く喜んでくれるはずだ!!

 

 

―――その日の夜。

 

 

「お待たせぇー!」

 

「随分と採取しまくったようだね。ここまで時間が掛かるとは思いもしなかった」

 

「採取で時間が掛かったのもそうだけど、いきなりマグマからローブを身に包んだ骸骨が出てきたらモンスターと勘違いされかねないと思って」

 

「なんだ、そのことなら問題ないさ」

 

ラプラスは能面のマスクをどこからともなく出したそれを顔に着けると、美人な女性の顏となった。なんだそれ、錬金術で作れる代物なのか!?

 

「『夢幻の虚装』という私のお手製のアイテムだ。着ける度に他者の顏に変わり、触れられても実際の人間と同じ肌と温もりを感じさせることが可能な愛用にしている一つさ」

 

「すげー! 超便利じゃん!! 俺も欲しい!!!」

 

「ふはははっ!!! 錬金術師冥利に尽きる反応と感想をありがとう!!」

 

「でも、俺はマグマを泳いで出るつもりだけどそっちは?」

 

「魔神に不可能なことは殆ど無いよ。結界でマグマの中を移動すればいいだけの話だ」

 

さすが魔神。魔法使いの頂点に立つ存在は伊逹じゃないぜ。なら問題ないということで戻ろうか。

 

「そういや、このクリスタリーウッドって錬金術の素材とかならないのか?」

 

「いい着眼点だ。世界中全ての植物から魔素を吸収している特殊な水晶の樹木だ。葉一枚だけでも相当な魔力が蓄積されており、枝すら加工すれば魔法の武器にも成り得る。キミの言う通り錬金術の素材にもなるぞ」

 

私も何度も素材にしたことか、と快く話してくれた。

 

「調べたりはしたんだよな?」

 

「錬金術師とは一種の探究者だ。当然隅から隅までゼロと調べたよ。クリスタリーウッドの根のこともその際に知ったのだ。根に流れる魔力を感知してね」

 

「本当に凄いな。俺も集めていいか?」

 

「構わないよ。この場所にあるあらゆる全ては誰の物でもないのだから。ただし、私とキミだけの秘密の場所だけと言うことを忘れないでほしい」

 

了承を得たのでヤッホーウ!! と言う気分のテンションで採取しまくった。一目見た時から採取できるポイントがたくさんあったんだよこの樹木。

 

 

 

それから採取に満足した俺が来た道に戻り、流れ落ちるマグマの滝を突っ込んで出るとラプラスはマグマの滝を割ってから出てきて興味深げに周囲を見回す。

 

「本当にこのような場所からあの場所に通じていたとは。今まで気付かなかった自分が驚きだ」

 

「マスターは惰眠を貪っていたので当然です」

 

「怠惰な生活を過ごしていたってことか」

 

それは違う、と否定する魔神を放っておいて先にマグマの中に潜水する。俺に続いて本当に魔法によるマグマを拒み歪曲させる空間の魔法を張って俺の後に付いてくる。

 

「見たまえゼロ。このマグマの中でも魚の如く悠々と泳いでいる様はもう超越者いう存在に等しいじゃないか」

 

「マスターと同類という事ですね」

 

「いやいや、生身の身体でマグマの中を泳いでいる彼とは違うさ。それにそんな彼を守る鎧もかつての神匠が作り出した伝説のアイテム。またもう一度この目で見ることになるとは不思議な因果だよ」

 

「これからもきっとそんな出会いが巡ってくる可能性があると?」

 

「数百年も引き籠っていた私だ。きっと信じられない未知があれからさらにたくさん詰まっていそうだ。それが楽しみになって来たところさゼロ」

 

火口に浮上、ラヴァ・ゴーレムと戦っているプレイヤーがいないことを確認してからマグマから出る。ラプラス達も出てきて火山の地に足を踏みつける。

 

「本当に火山に繋がっていたのだな。ここはドワーフの火山で間違いないな?」

 

「合ってるよ。ドワーフの王とは?」

 

「会ってないな。国に訪れたことがあるだけだからね」

 

ならモノのついでに会わしてみるか。ユーミルに装備を作って欲しいし。なのでラプラスをエレンに引き合わせる為に城へ直行した。俺なら顔パスで簡単に城の中を自由に行き来できるほどドワーフ王とは友好を築き上げてるから便利だよ顔パス。

 

「やぁ、エレン。今大丈夫か?」

 

「おお、ドワーフの心の友ハーデス! どうしたまた俺に訊きたいことがあるのか?」

 

なんか態度が変わったな。俺の訪問に嬉しそうに笑いながら王座から離れて話しかけてくるエレンにあれこれと話をした。

 

「ユーミルにも装備の件で頼みたいことがあるんだが、エレンでもこの扱い方わかるか?」

 

『魔水晶』という水晶の柱を出してエレンに手渡す。

 

「水晶? いや・・・・・これはただの水晶ではないな。魔力が蓄えている感じに宿っておる」

 

「マグマの中を泳いでいたら空気がある空間を見つけた。そこにこれがあった」

 

「なるほど、ドワーフでは決して行けれぬ場所だな。俺も初めて見る水晶だから兄者と調べてみたい」

 

「お願いする。数が欲しいならもっとあげるよ。たくさん採取したから」

 

ガラガラと音を立てて積み重なる数多の水晶。その音を聞きつけたのか王座の間にユーミルが姿を見せ、挨拶を交わしたら直ぐに水晶へ意識を向けるあたりドワーフらしいと思った。

 

「・・・・・魔力を宿す水晶。試作品をいくつか用意しよう」

 

「もしもこの水晶の扱い方が判れば俺達から正式な依頼としてドワーフの友ハーデスに水晶の採掘を頼むことになる。無論、報酬は弾むぞ」

 

「数日経ったら顔を出すよ。そんで丁度いいところに来てくれたユーミル。ラヴァ・ゴーレムの熔鉱炉と黄金のマグマ、それに千年鉱石をそれなりに集めたから防具を作ってくれないか?」

 

「・・・・・」

 

手を出してよこせと仕草をするユーミル。材料を手渡すとまだ足りないと言われてしまいました。

 

「ちょっと待ってろ」

 

最短最速を目指してラヴァ・ゴーレムのお宅に訪問して家宅捜査を始めた結果、二時間ぐらいでユーミルが欲するまでの数を搔き集めた。

 

「・・・・・任せろ。最高の防具を完成する」

 

「ユーミルの腕を信じてるからな・・・・・!」

 

この労力を報いてほしいのと、つなぎとして風化した防具を求めた以上は必ず完成してほしいと願うばかりだ。

 

「それじゃあ、よろしくお願いするよ。ユーミル、鍛冶の代金これでいいか?」

 

二人に頼みながらユーミルに依頼料として渡す。手の中にある鉱石に目線を落とす神匠は徐に首を横に振った。え、足りなさすぎる?

 

「・・・・・釣りが余り過ぎる」

 

「あ、十分すぎるってことか。じゃあ次に依頼する時の報酬分ってことで」

 

「・・・・・三回までなら構わない」

 

オリハルコンが神匠に依頼する代金四回分とは・・・・・。現金にしたらどれぐらい必要なのかと訊くと。

 

「・・・・・金より神匠に依頼する相応の鉱石を求める」

 

「それ、俺でもかなり難しいじゃないか。オリハルコンだって極めて手に入れるのに難しいどころか不可能に等しいだろ」

 

「そうだぞ兄者。現物は確かに必要だが、国を運営するためには金が必要なんだ。それに神匠に至った兄者が決める依頼料では、誰にでも依頼が出来ず兄者の鎚の音が鳴らずいつまでも炉の炎が燃え盛らんようになるわ」

 

エレンも窘める風にユーミルに言う。

 

「その通りだ。現物も用意するけど出来れば現金で頼むよ。誰彼構わず依頼に請け負わなくてもいいんだからさ」

 

「ドワーフの心の友ハーデスの言う通りだ。鉱物の採掘にはこの者に依頼に出すとしても、兄者に依頼する者には俺が認める者にしか通さないようにしておく。未熟な人間に兄者の魂が宿った武具を使わせたくないわ」

 

オリハルコン、もしくはユーミルに依頼料として納得させる鉱石を持ってこさせるか、ドワーフ王が認める冒険者しかユーミルに依頼を通すか・・・・・どっちが難易度が高いかと言われたら後者なんだがな、後者でも絶対楽ではないことは明らかだろ。

 

「でも実際、神匠に依頼する代金ってどのぐらい?」

 

「大雑把で億が妥当だ。それが4回分と兄者が申すのだから4億なんだろう」

 

お、億ですか・・・・・。

 

「・・・・・オリハルコンを直接エレンに売りたいと言ったら?」

 

「確かに欲しいが、鉱石一つで国の経済を傾けさせたくないのでな。すまぬが遠慮させて欲しい」

 

1億でも? と訊くと、それぐらいならば・・・・・、と断腸の思いかそう答えてくれたエレン。

 

「じゃあ、1億で売るから残りの2回分の依頼は保留ってことでいいか?」

 

「友よ、意外と商売上手なのだな。どちらも納得させる方法を見出すとは」

 

「ホームを購入したから素寒貧な状態でな。一刻も早く金を集めたかったんだ。良かったら俺のマイホームに遊びに来てくれ」

 

「時間が空いたら遊びに来よう。自慢の酒を持って兄者とな」

 

わーい、1億ゲットー!! ん? なんか称号が手に入ったな。

 

 

称号:ミリオンダラー

 

効果:なし。ありとあらゆる方法を使って1億Gをかき集めた人物に贈られる称号。

 

 

どうも、1億Gを所持したということを示すだけの、名誉称号であるらしい。それにしては、次のミリオネアとの差別化がいまいち分からんのだが・・・・・。ミリオンダラーとミリオネアを分ける意味が分からない。

 

 

称号:ミリオネア

 

効果:ボーナスポイント2点獲得。一部のNPCからの好感度上昇。自力で1億G稼ぎ出した、真なる富豪へと贈られる称号。

 

 

一部のNPC? 一体誰のことやら。でもま、貰えるものは貰っておこうかポイントも前回のオークション時に得た4ポイントも含めて一回分増えたし金も大量に得たしいいこと尽くめだ。

 

「さて、始まりの町に帰るか」

 

エレン達と別れ、王城を後にしてラプラス達を始まりの町へ案内する。それから俺のホームへ直行するとその規模に感嘆の念を吐いた。

 

「今の時代はこういう建物が多いのかね?」

 

「これはその一つにしか過ぎないよ。他にもたくさんある」

 

「時代の流れと共に変化して行っているようだゼロ」

 

「変化のないままでは人類は衰退する一方であるかと」

 

「逆に言うと誰も受け継がれなかった古代の技術は、現代の技術では実現できなくなっているんだよ」

 

「何ということだ・・・・・。では、古代ではありふれていた技術や生産もこの時代では不可能という事なのか?」

 

「それこそ時代の流れと環境の変化、人類次第で生かすも殺すもって感じになってるからなぁ」

 

酷く落胆、肩を落として残念がっているところ悪いが玄関に入ってもらいたい。

 

「でもま、今はこんな感じで人類は生きているがな。ただいまー」

 

「ムムー!」

 

オルトが手を挙げて反応を示すと、他の従魔達も反応を示したりこっちに来たりする光景にラプラスは驚いた風に言う。

 

「懐かしい精霊達がいるだけでなく、ドラゴンにフェンリル? それにあそこで寝そべっているのは冥界に棲息しているという魔獣ではないのか? それに見たことが無い生物がたくさんいる。なんだここは?」

 

「神獣もいるぞ。おーい、鳳凰!」

 

大声で呼ぶと空から翼を羽ばたかせながら降りて来た。屋根のところにいたのか。

 

『資格ある者よ。どうした』

 

「お前を紹介したい客人がいるから呼んだ。こいつは神獣の鳳凰だ。一見、鶏にしか見えないけどな」

 

『鶏と言うではない!』

 

コケー! と怒るけどさ、その鳴き声自体がもう鶏なんだよお前ェ・・・・・。

 

「・・・・・キミは一体何に至るつもりなんだ?」

 

「至る? そんなの興味はないけどな。ただ思うが儘に生きて楽しむのが人間の人生ってもんだろう」

 

「―――――」

 

「あなた、声が聞こえたけどお客さん?」

 

「お帰りなさいませマスター」

 

絶句しているラプラスにリヴェリアとサイナも顔を出してくれた。

 

「サイナ。こっちのコンキスタドール、機械神が最初に完成させたお前達の大先輩にして母親みたいな存在だ。名前はゼロ」

 

サイナはゼロに近づきジーと凝視する。

 

「機械神が最初に作り出した初機の征服人形(コンキスタドール)、私達の母親・・・・・?」

 

「私以外の征服人形(コンキスタドール)と会うのは初めての経験です」

 

互いに見つめ合う間に漂う雰囲気は何とも言えない。サイナは数多の征服人形(コンキスタドール)を量産されていく中で唯一高性能に作られたという経緯がある。どうしてそんなことしたのかは亡き機械神しか知り得ぬことだが、何時か分かることを願うばかりだ。

 

「―――つまりは、古い同機が今頃出しゃばりに来たという事ですか。時代遅れの情報しかない程度の低い知的(インテリジェンス)でいまさら何ができるのか疑問提起です。はン」

 

「―――ブッ飛ばしましょうか。小娘」

 

あれえええぇ~? サイナさん、お前そんな性格だった? 相手をマウントを取るドールとは思わなかったぞおい。鼻で笑ってドヤ顔するなサイナさん!

 

征服人形(コンキスタドール)って喧嘩するのかな?」

 

「俺も初めて知ったところ。というか、他のドールは機械の町以外見たことが無いし。おいサイナ。逆に言うと俺が知りたい古代の情報をお前は知っているのか。知らないのに自分が知っている程度の情報で満足するのが知的(インテリジェンス)なのか? 俺からすればそれは幼稚レベルの知的(インテリジェンス)だぞ」

 

「なん・・・・・だと・・・・・」

 

「古代も新時代も、情報を共有してこそ真なる知的(インテリジェンス)征服人形(コンキスタドール)だろうが。それぐらいわからないんじゃあお前は知的(インテリジェンス)の道のスタートすら立っていないぞ」

 

「―――!?!?!?」

 

酷くショックを受けて今まで見たことが無い驚きの顔を浮かべる俺の愛機。続いて動揺を全身で露にして俺に懇願してきた。

 

「ど、どうすれば・・・・・? どうすれば真なる知性(インテリジェンス)になれるのですかマスター・・・・・?」

 

「先達者から教示を乞え。そしてお前しか知らない情報を教授するんだ。お前達征服人形(コンキスタドール)は人間と契約を結び奉仕するだけが役目じゃない筈だ。知性(インテリジェンス)を育み成長するためには全てを豊かにしないとダメだ」

 

「全て、とは?」

 

「全ては全てだ。これ以上の言葉はない。知性(インテリジェンス)とは無限に広がる宇宙のように広く深いんだ。故に精進しろ俺の大切な相棒」

 

―――了解しました、マイマスター。と言った後にゼロへ先程の言葉の撤回と謝罪をし、教えを乞うサイナの成長を見届けた。

 

「ほう・・・! 今の時代はこんな工房も現実的に出来ているとは、何と素晴らしいことか!」

 

それからホームに案内して見せたかった地下の万能工房に感心するラプラスがいた。やはり錬金術師なので錬金工房の設備を見て自分の知らない道具に大変興味を持っていた。

 

「他の三つの工房は精霊達に使わせたいから一つ余るけど、もしもラプラスがここに住むなら余った一つの工房を使わせてもいいぞ」

 

「うむ、そうさせてもらおう。その代わりに必要な材料を求めるかもしれないが頼んでよいかな?」

 

「そん時は俺の要望のアイテムを作って欲しいかな。それとゼロを機械の町に連れてアップグレードした方がいいんじゃないか?」

 

「ああ、そうだね。永らく彼女を従わせて碌にメンテナスをしていない。この機会にしてみよう」

 

こうして魔神のラプラスと彼女の征服人形(コンキスタドール)ゼロが俺のホームに永住することになった。後日彼女の正体を知ったリヴェリアは驚倒一色の顏で凄く驚いたのだった。

 

 

 

「さてと、今の俺のステータスはどんな感じだぁ?」

 

 

ジズ以降、イベントをしたり立て続けに色んなモンスターと戦って新エリアを見つけてスキルや称号をたくさん得て・・・・・考えるの止めよう見て感じよう。

 

 

 

死神・ハーデス

 

LV90

 

HP 40/40〈+300〉

MP 12/12〈+200〉

 

【STR 0〈+129〉】

【VIT 1155〈+6011〉】 

【AGI 0〈+120〉】

【DEX 0〈+120〉】

【INT 0〈+100〉】

 

 

装備

 

頭 【空欄】

 

体 【黒薔薇ノ鎧:覇獣(ベヒモス)

 

右手 【新月:毒竜(ヒドラ)

 

左手【闇夜ノ写】

 

足 【黒薔薇ノ鎧:覇獣(ベヒモス)

 

靴 【黒薔薇ノ鎧:覇獣(ベヒモス)

 

装飾品 【生命の指輪・Ⅷ】【古の鍛冶師の指輪】【白妖精(ハイエルフ)の指輪】

 

 

称号:万に通じる者 不殺の冒険者 出遅れた者 白銀の先駆者 毒竜の迷宮踏破 大樹の精霊の加護 幸運の者 ユニークモンスターマニア 三代目機械神 聖大樹の精霊の加護 勇者 最速の称号コレクター 魔王の戦友 絆の勇士 村の救援者 幻獣種に認められし者 血塗れた残虐の勇者 エルフの良き隣人 世界樹の守護者 世界樹の加護 英雄色を好む ドワーフの心の友 神獣に認められし者 地獄と縁る者 マスコットの支援者 妖怪マスコットの保護者 宵越しの金は持たない ミリオンダラー ミリオネア

 

スキル

 

【絶対防御】【手加減】【逃げ足】【体捌き】【瞑想】【挑発】【極悪非道】【シールドアタック】【大物喰らい(ジャイアントキリング)】【咆哮】【毒竜喰らい(ヒドライーター)】【爆弾喰らい(ボムイーター)】【植物知識】【大盾の心得Ⅹ】【悪食】【受け流し】【爆裂魔法Ⅹ】【エクスプロージョン】【体術】【テイム】【採取】【採取速度強化中】【使役Ⅹ】【従魔術Ⅹ】【料理ⅩⅩⅩ】【調理ⅩⅩⅩ】【調合ⅩⅩⅩ】【八艘飛び】【伐採】【伐採速度強化小】【機械神】【機械創造神】【宝石発見】【刻印・風】【水中探査】【侵略者】【破壊王】【背水の陣】【覇獣喰らい】【不屈の守護者】【古代魚(シーラカンスイーター)】【溶岩喰らい(ラヴァイーター)】【カバームーブⅠ】【カバー】【生命簒奪】【アルマゲドンⅠ】【海王】【勇者】【大嵐Ⅰ】【大竜巻】【稲妻】【飛翔】【生命の樹】【金炎の衣】【雌雄の玄武甲】【反骨精神】

 

 

9、90~~~!!? 54から一気に36レベルまで上がったのか!!! いや、玄武は神獣だから経験値も膨大で、あの大量の水晶系モンスターを一網打尽にしたから当然なのか? それに【英雄色を好む】の効果で経験値が2倍になってるから・・・・・納得しておこう。

 

「え、えっと・・・・・54から60までのポイント60×三倍の180×3の540を【VIT】に振るだろ。で、60から90までの30レベル分、90×270の×3の810。それと称号で得たボーナスポイントが全部で7×3の21に三倍の63・・・・・1413?」

 

 

 

死神・ハーデス

 

LV90

 

HP 40/40〈+300〉

MP 12/12〈+200〉

 

【STR 0〈+129〉】

【VIT 2568〈+6011〉】 

【AGI 0〈+120〉】

【DEX 0〈+120〉】

【INT 0〈+100〉】

 

 

装備

 

頭 【空欄】

 

体 【黒薔薇ノ鎧:覇獣(ベヒモス)

 

右手 【新月:毒竜(ヒドラ)

 

左手【闇夜ノ写】

 

足 【黒薔薇ノ鎧:覇獣(ベヒモス)

 

靴 【黒薔薇ノ鎧:覇獣(ベヒモス)

 

装飾品 【生命の指輪・Ⅷ】【古の鍛冶師の指輪】【白妖精(ハイエルフ)の指輪】

 

 

称号:万に通じる者 不殺の冒険者 出遅れた者 白銀の先駆者 毒竜の迷宮踏破 大樹の精霊の加護 幸運の者 植物知識 ユニークモンスターマニア 三代目機械神 聖大樹の精霊の加護 勇者 最速の称号コレクター 魔王の戦友 絆の勇士 村の救援者 幻獣種に認められし者 エルフの救援者 血塗れた残虐の勇者 エルフの良き隣人 世界樹の守護者 世界樹の加護 英雄色を好む ドワーフの心の友 神獣に認められし者 地獄と縁る者 マスコットの支援者 妖怪マスコットの保護者 宵越しの金は持たない ミリオンダラー ミリオネア

 

 

スキル

 

【絶対防御】【手加減】【逃げ足】【体捌き】【瞑想】【挑発】【極悪非道】【シールドアタック】【大物喰らい(ジャイアントキリング)】【咆哮】【毒竜喰らい(ヒドライーター)】【爆弾喰らい(ボムイーター)】【大盾の心得Ⅹ】【悪食】【受け流し】【爆裂魔法Ⅹ】【エクスプロージョン】【体術】【テイム】【採取】【採取速度強化中】【使役Ⅹ】【従魔術Ⅹ】【料理ⅩⅩⅩ】【調理ⅩⅩⅩ】【調合ⅩⅩⅩ】【八艘飛び】【伐採】【伐採速度強化小】【機械神】【機械創造神】【宝石発見】【刻印・風】【水中探査】【侵略者】【破壊王】【背水の陣】【覇獣喰らい】【不屈の守護者】【古代魚(シーラカンスイーター)】【溶岩喰らい(ラヴァイーター)】【カバームーブⅠ】【カバー】【生命簒奪】【アルマゲドンⅠ】【海王】【勇者】【大嵐Ⅰ】【大竜巻】【稲妻】【飛翔】【生命の樹】【金炎の衣】【雌雄の玄武甲】【反骨精神】

 

 

待って待って・・・? 【VIT】を四倍にするあれもあるから34316になるし、【反骨精神】で【STR】に変換した上で【侵略者】の効果で二倍、【背水の陣】の効果で一定時間【STR】三倍だから・・・・・。

 

「じゅ、171580・・・・・?」

 

防御力極振りどころか攻撃力極振りになっていないか俺のプレイスタイルッ!!?

 

「・・・・・それとこのスキル。すっかり頭から抜けていたから忘れていたけど、宝箱が出たあのエリアは隠しダンジョンだったんだなぁ」

 

 

金晶戟蠍(ゴール・D・スコーピオン)Ⅰ】

 

黒晶守護者(ダーク・ゴーレム)Ⅰ】

 

緋水晶蛇(ヨルムンガンド)Ⅰ】

 

 

 

金晶戟蠍(ゴール・D・スコーピオン)

 

金晶戟蠍を1分間召喚する。召喚した金晶戟蠍の制限時間と強さはスキルレベルに依存し、スキルレベルを上げる為には再び倒さねばならない。

 

 

黒晶守護者(ダーク・ゴーレム)Ⅰ】

 

黒晶守護者を1分間召喚する。召喚した黒晶守護者の制限時間と強さはスキルレベルに依存し、スキルレベルを上げる為には再び倒さねばならない。

 

 

緋晶独蛇(ヨルムンガンド)Ⅰ】

 

緋晶独蛇を1分間召喚する。召喚した緋晶独蛇の制限時間と強さはスキルレベルに依存し、スキルレベルを上げる為には再び倒さねばならない。

 

 

あんな大怪獣大戦争の真っ只中に飛び込んで戦えってのが鬼畜じゃないのか運営。どこもかしこも敵しかいない死地の中で倒す難易度高すぎると思うんですよねぇ。

 

 

 

 

一方―――。

 

「あれ? レベルアップした」

 

「まだモンスターと戦っていないのにかよ?」

 

「おそらくハーデスがどこかでモンスターと戦っていたのかもね」

 

「ああ、結婚したら経験値二倍が共有されるんだったよな」

 

「・・・・・ハーデス、一体どこでモンスターを倒したの。凄く経験値が増えたんだけど」

 

「どのぐらい上がってんだ?」

 

「今日だけで一気に36レベル。確かハーデス、玄武と戦う前は54だったから・・・・・レベル90になってるよ絶対。私はその次の71になったから」

 

「「「・・・・・」」」

 

「ハーデスのところに行こう」

 

「「同感だ」」

 

『―――強き者の気配を急激に増したのを感じから来てみれば。資格ある者達が挑戦をせずに帰るとは』

 

「白い虎・・・・・白虎」

 

『俺に挑む前に帰るなよ? それではこっちが退屈ではないか。どれ、四獣の一角である白虎がじゃれてやろう』

 

「随分と好戦的のようだぜペイン」

 

「是が非でもないさ。俺達も認められてハーデスと肩を並べよう」

 

「レベルの差は圧倒的過ぎるけどな」



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強化合宿 1

()

 

 

「ステータスのポイントを振り分けたことだし、畑の拡張を100万ぐらい使って広げたし、ファーマーをメインにして農耕のレベルを50までカンストしたら派生スキルを1つ取得可能だという育樹と水耕、育樹を得てその他諸々のスキルとステータスを振って準備万端と」

 

育樹と水耕スキルを持つオルト、ゆぐゆぐ、オレア、サイナと一緒に何も植えられてない広大な畑、水耕プールを豊かにしてもらうためにオルトには株分を行使しまくってくれた。水晶樹の実を苗木の株分に成功したので万々歳である。そして他にも吉報があった。

 

「おー、久々の卵じゃないか!」

 

「キキュ!」

 

「ヤー!」

 

納屋の前に、茶色と赤のマーブル模様の卵が置かれていた。出迎えてくれたリックとファウが、俺の両肩に乗ってドヤ顔をしている。鑑定すると、この2体の間に生まれた卵だ。

 

「おおー。やったな!」

 

「キュ!」

 

「ヤー!」

 

にしても、デカくないか? 一抱えはある。小型サイズであるリックとファウの間に誕生した卵なのに、オルトとサクラの卵と同じ大きさだった。というか、本人たちよりも遥かに巨大だ。

まあ、魔力が混ざり合って生み出されるという設定だし、親のサイズは関係ないってことなんだろう。

 

「孵卵器を用意しなきゃな。ヒムカ、とりあえずアイアンインゴットを用意してくれるか?」

 

「ヒム!」

 

属性結晶は火結晶がある。あとは孵卵器を買って来れば属性付加孵卵器を作れるだろう。俺は皆に畑を任せると、足早に獣魔ギルドへと向かった。

 

生産技能孵卵器と戦闘技能孵卵器で迷ったが、ここは戦闘技能孵卵器を購入することにした。生産技能を持った子はたくさんいるしね。

 

畑に戻るとすでにヒムカがアイアンインゴットを作っておいてくれたので、それを使って孵卵器を作る。

 

 

名称:火属性付加戦闘技能孵卵器

 

レア度:4 品質:6

 

効果:孵卵器。誕生するモンスターの初期ステータスがランダムで+5。初期スキルにランダムで戦闘技能が追加。初期スキルに火属性スキル、火耐性が追加。

 

リックとファウの卵を孵卵器にセットして、納屋に安置した。これで数日後にはモンスが孵るというわけだ。

 

「どんな従魔が生まれるんだろうな」

 

「キュ?」

 

「ヤ?」

 

本人たちにも分かっていないようだ。そもそも、外見も能力も全然違う2体だ。妖精っぽいモフモフ? モフモフの妖精? ・・・・・そんなわけないか。

 

「それじゃ畑をよろしく頼むな」

 

「ムム!」

 

「―――♪」

 

「トリ!」

 

「ご期待を応えてみせます」

 

ありとあらゆる素材はホームのアイテムボックスの中に保管してある。各精霊の街にあるホームオブジェクトを大量に購入した。これから忙しくなるぞー。とはいっても俺はこれからログアウトしなくちゃならないがな。

 

「じゃあ、またな」

 

布団に横たわりログアウトの状態に入った。目の前が真っ暗になって、リアルの身体を動かして顔から端末機を外す。

 

「現実の仕事の時間が迫ってきてるな」

 

これから参加する第2陣のプレイヤー達に向けての挨拶のプログラムの準備と世界に向けて生配信である発表・・・・・。

 

ブーッ ブーッ ブーッ

 

携帯が鳴り出す。誰かが連絡してきたんだろう。通話状態にして声の主からの話を耳に傾ける。

 

「ああ、うん、単刀直入で言ってくれ。おおそうか。完成したか! それじゃ、契約通りアメリカから優先に体験版を贈ってやろう。勿論、日本の分もとっとけよ。それとお前達のとこの技術者全員には短いが正式に開始する二日前まで休暇をするようにな。当然全員だ。これから家族と会えなくなるのが当たり前のようになるからな。これは絶対だ」

 

イッチョウもとい燕が部屋に入ってきて、通話中の俺を見ても傍に寄ってきた。

 

「それじゃ、俺はこれから夕食にするから話はこれでな。ああ、お疲れ様」

 

通話を止めて燕に目を向ける。

 

「お仕事ですか?」

 

「NWOの他のゲームの開発が完成した話だ」

 

「え、他にも開発してたゲームがあるんですか?」

 

「こいつはアメリカからの要望でな。莫大な資金を提供するから蒼天の技術で革命的新しいゲームを作ってくれと依頼があったんだよ。ここだけの話だが、今のアメリカ合衆国の大統領もNWOをしてるぞ」

 

「嘘っ!?」

 

本当だ。ま、お互いどんなキャラクターで遊んでいるのかは判らないからゲーム内で会う機会はない。

 

「ゲームの中には色んな人がいるんですね。それで、新しいゲームってどんな?」

 

「アメリカ人が好むシューティングゲームだ。しかも自由度120%のカスタムができるし、巨大ロボットも操作できる」

 

「うわ、凄く売れそう」

 

「まだ体験版だけども、がな。もちろん日本にもそのゲームができるぞ。それともう一つもある、その発表を近日俺がするんだからな」

 

その日はちょうどリヴァイアサンレイドが始まる直前だ。

 

「明日は学校だなぁ。霧島翔子に結婚しようと言われないようにせねば・・・・・」

 

「ゲームの中でも駄目なんですか?」

 

「坂本雄二と彼女の妹を見てもまだ解らないと?」

 

「・・・・・。・・・・・ゲームと現実の区別がつかなくなるほど、なんですねぇ」

 

理解してくれて助かるよ燕。ゲームの話を現実に持ち込まないでほしいんだよこっちは。

 

 

 

アメリカ―――。

 

 

 

「大統領、蒼天から完成した件の物が届きまシタ」

 

「莫大な出費をした甲斐があったというものだ。しかし、私の望み通りのゲームでなければ話は別になるがね」

 

「ゲームの内容によれば、何でも長くプレイすれば宇宙船の艦長にもなれる宇宙の世界を冒険するゲーム。敵勢力のNPCも存在し、コミュニティを結成するもよし、何もしなくてもよし、個人の勢力を拡大するもよし、奪い合いもよし、無限の楽しみ方が出来るそうデス」

 

「宇宙の開拓をテーマにしたゲームか。ヒーローが活躍するゲームではないのだな」

 

「いえ、もう一つのゲームもどうやら開発されていたようデス。大統領の好みであるヒーローマンガをテーマにしたゲームも一ヶ月後に体験版として贈られるそうデス」

 

「くっ、憎いぞ蒼天め・・・・・っ! 嬉しい意味でな!!」

 

「私もです。帰宅後ゲームの中で私がスター・ギャラクシーになれると思うと、高揚感が高まりマス」

 

「私は当然キャプテン・〇〇〇〇〇だ。幼い頃から彼の熱狂的大ファンなのだ。私自身が彼になれると思うと・・・・・うむ、もし私好みのゲームであったら蒼天に更なる寄付をしてやろうじゃないか」

 

「次はどんなゲームを開発に?」

 

「焦るな焦るな。まずはヒーローゲームのことで頭がいっぱいなのだから。よし、帰宅したら久しぶりに漫画を読もう。誰よりもキャプテン・〇〇〇〇〇の言動を出来るトレースをしてゲームをするのだ」

 

 

 

 

翌日。

 

背中に引っ付く燕とバイク登校して、NWOの話題で盛り上がっているクラスメートがいる教室に入った。

 

 

「大和、もうすぐ強化合宿だな」

 

「そうだな。もう一週間後か」

 

「合宿と言えば風呂があるよな?」

 

「当然だろう?お前、風呂のない合宿で数日間外の流れている川で

体を洗えっていうのか?」

 

「それはある意味美味しいシチュエーションだが、

俺様の言いたいことはそうじゃない。俺達思春期の男子にとって

合宿と言えば―――覗きに決まっているだろう?」

 

「えーと、鉄人の電話番号はっと・・・・・」

 

「待て待て!いきなり鉄人にバラそうとするな!

合宿の醍醐味をしたくないのか軍師大和よ!」

 

「俺は平穏な学園生活を過ごしたいんだ。女子の敵になりたくない。お前だけやっていろ」

 

「俺達は友達だろう?」

 

「俺の友人に犯罪者はいない」

 

「協力してくれよ!ヨンパチや他の奴らは嬉々として引き受けてくれたのにぃ!」

 

「俺の知略は覗きの為に使いたくない」

 

「大和ぉーっ!カムバーックッ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

「と、朝からガクトにふざけた要求をされた」

 

「ガクトの行動はムッツリーニ並みだね・・・・・」

 

「その寡黙なる性識者(ムッツリーニ)も覗きに協力する態勢のようだ」

 

「・・・・・だと思った」

 

Sクラスの教室にて今朝遭ったことを明久に伝えた。別に俺だって覗きは嫌いじゃないが、旅人さんに覗きに加担していることが知られたら何をされるか・・・・・(ガクガクブルブル)

 

「大和?身体が震えてるけど大丈夫?」

 

「ただの武者震いだ。それよりもまさかだと思うがお前も覗きなんてしないよな?」

 

「し、しないよ!僕だって命が欲しいんだ!」

 

「だよな。お前まで覗きを参加したら・・・・・」

 

「したら・・・・・?」

 

「ハーデスに頼んで・・・・・お前のあられもないチャイナ姿の写真を

ネットワークに流出させてもらうと思っていたところだった」

 

「絶対に参加しないと心から誓うよ大和」

 

釘は刺した。これでガクトの餌食に遭わないだろう。

 

「おーい、明久。ちょっと話があるんだが」

 

「断わる!」

 

「話の頭すら言っていないのに断わられただと!?」

 

声を駆けてきたガクトが愕然とする。早速来たな!だが、もう遅い!

 

「僕の社会的な問題に関わるんだ!今回だけガクトのお願いは聞けない!」

 

「おのれ、大和の入れ知恵だな!?」

 

「これでも純情な明久を汚すわけにはいかんのだよガクト!」

 

「ねえ、これでもってなに?僕は心と体も純情だよ?」

 

俺にそんな事を言う明久に突っ込みを入れる男子が話しかけてきた。

 

「頭は純情じゃないほどバカだけどな」

 

「ムッキィー!そんなこと言う雄二のバカは霧島さんの妹に

人生の墓場まで連れて行かれればいいんだ!」

 

「ふざけんな!俺は絶対に翔花から逃げきってやるからな!」

 

心の底からの決意だと分かったんだが・・・・・お前、後・・・・・。

 

「雄二には・・・・・鋼鉄の首輪を嵌めて牢屋に入れる必要あるみたい」

 

「しょ、翔花!?」

 

「雄二・・・・・逃がさない」

 

禍々しいオーラを全身に纏って鋼鉄の首輪とスタンガンを片手で掲げていた霧島翔花。

 

「「因みに、坂本(雄二)が話しかけた瞬間から後ろにいた」」

 

「お前ら謀った(バチチチチチッ!)うぎゃあああああっ!?」

 

スタンガンの電流でやられた坂本。俺までカウントされている。

まあ、教えなかった時点で謀ったようなものか。

 

「明久、誰かと付き合うならあれほど重い愛を向けてくる女や暴力女、

壊滅的な料理を作る女以外にしろよ」

 

「うん・・・・・そうするよ」

 

島田と姫路には悪いが、お前らじゃ明久を幸せにしてくれるか怪しい。

 

「そういや、ハーデスの奴は見掛けないな・・・・・?」

 

「そう言えばそうだね。霧島さんのところにいるのかな?」

 

「違う・・・・・」

 

霧島の妹が坂本の首に首輪を嵌めながら否定した。いない?

じゃあ、ハーデスは休みなのか?

 

「やぁ、皆おっはよー」

 

松永さんとハーデスが教室に入ってきた。何時もの二人にしては時間ギリギリできたな。

 

「おはよう、今日は珍しいわね?」

 

「王様に呼ばれて話しててね」

 

『・・・・・する奴はいないだろうが、女子風呂を覗くバカな輩の阻止を、と任命された』

 

ハーデスのスケッチブックを見て、自然な流れでガクトに顔を向ける。土屋と何やら熱心に話をしていてこっちに気付いていない。哀れな・・・・・。一人の友を失うことになろうとは・・・・・。しかし、俺も他人を心配している暇はない。何故なら・・・・・。

 

「・・・・・脅迫状を貰っただと?」

 

「うん・・・・・そうなんだよ」

 

休憩の合間に悩みを聞かされた。

こいつと何時も接しているからか悪友の坂本より、俺に頼むことがしばしばある。

 

「何て書いてあるんだ?」

 

「『あなたの秘密を握っています』・・・・・って」

 

「・・・・・明久に秘密ってあったっけ」

 

「あるよ!?誰にも言えない秘密はあるよ僕だって!」

 

正直、物凄く下らない秘密だろうと思う。

でも、困っている友人を放っておくわけにはいかない。なぜなら―――。

 

「明久、実は俺も脅迫状が下駄箱の中に入っていたんだ」

 

「え、そうなの?」

 

「内容はお前と同じだ。し、しかもだ・・・・・」

 

俺は振るえながら脅迫状と同封されている封筒から―――女の下着姿でチャイナドレスを

脱ごうとしている俺の写真を取りだした。

 

「こ、これは・・・・・!」

 

「今現在、俺の秘密にして黒歴史の一ページだ。明久、お前は?」

 

「・・・・・僕も同じだよ」

 

チャイナドレスを脱いでいる瞬間の写真を見せられた。

 

「これって俺と明久、坂本が一緒に脱いでいる写真だよな?」

 

「そう言えばそうだね」

 

「・・・・・もしかすると、坂本にも同じ脅迫状が届いているかもしれないな」

 

「聞いた方がいいよね」

 

明久と頷き合い、いつの間にか相談していたガクトから坂本に代わって、教室の隅でムッツリーニと話し合っている二人の下へと寄った。

 

「坂本、お前んとこにも脅迫状が届いているか?―――チャイナドレスを脱いでいる瞬間の写真付きで」

 

「っ!?」

 

激しくビクッと肩を跳ね上がらした坂本だった。

それからこっちに振り返って口を開いた。

 

「な、何故それをお前が知っているんだ・・・・・?」

 

「俺と明久もそんな手紙を貰ったからだよ」

 

「そうか・・・・・お前らも脅迫状が届いていたのか」

 

「ああ、あまりにも不愉快過ぎる。何の為に俺達を陥れるのか理解しがたい。

極めつけはこれだ」

 

『あなたの傍にいる異性にこれ以上近づかないこと』と脅迫状の手紙の内容だ。

 

「異性ね・・・・・つまり女か?」

 

「嫉妬による手紙だと俺も推測しているが、俺はそれ以上にヤバい」

 

というと・・・・・?首を傾げていると、MP3プレーヤーを取りだした坂本が苦虫を噛み潰したような表情になる。

 

「それ、お前の?」

 

「俺のじゃない。実は今朝、翔花がMP3プレーヤーを隠し持っていたんだ」

 

「MP3プレーヤー?それくらい別にいいんじゃないの?

雄二だって前に学校に持ってきたし」

 

たまに俺も持ってくるな。その日限って西村先生に没収される事が多い。

 

「いや、アイツは翔子と同じで結構な機械オンチだからな。

そんな物を持っていて、しかも学校に持ってくるなんて不自然なんだ」

 

それは意外だ。霧島姉妹は機械オンチか。

 

「そこで怪しく思って没収してみたんだが。

そこには何故か捏造された俺のプロポーズが録音されていたんだ」

 

「・・・・・」

 

坂本のプロポーズって・・・・・・。

 

「お前、誰にプロポーズしたんだ?」

 

「してねぇっ!俺は他の女にプロポーズなんてしてねぇ!」

 

「き、霧島さんの妹は可愛いねっ!そんな台詞を記念にとっておきたいなんて―――」

 

急に明久が何か焦ったように言いだした。どうしたんだ?

 

「いや。婚約の証拠として父親に訊かせるつもりのようだ」

 

「それ、もう絶体絶命じゃん?」

 

「これが俺の手元にある限りは問題ない・・・・・っ!

だが、この中身はおそらくコピーだろうし、

オリジナルを消さないことには・・・・・」

 

そう言って坂本が取り出したものはどう見ても再生専用のプレーヤーだ。

その中身を消したところで問題の解決にはならないだろう。

 

「おいおい、これから学力強化合宿へ行くというのに

何問題を抱えたんだよ俺達は・・・・・」

 

「本当、いい迷惑だよ。誰だろう、こんな時に限って僕達を不幸のどん底に

落とすやつは」

 

「ああ、全くだ。翔花がこんなもんを持っている時点で俺の人生は―――」

 

「雄二・・・・・それ返して」

 

「・・・・・」」

 

「あ、霧島さん」

 

何時の間に坂本の背後にいたんだ?全然気付かなかったぞ。

坂本に視線を配ると・・・・・。

 

「か、返してたまるかぁっ!」

 

叫びながら教室からいなくなった・・・・・。

そんな坂本に金属バットを持って追いかける霧島翔花。

 

「あいつ、手相を調べたら女難の相がありそうだな」

 

「同感だね」

 

「お主ら、なにをやっておるのじゃ?」

 

「あっ、秀吉。実は雄二が―――」

 

坂本が落としていったMP3プレーヤーを手にして再生してみると、木下が反応した。

 

「む。それは明久に頼まれて雄二の真似をした時のものじゃな?」

 

「・・・・・え?」

 

意外なところに意外な人物が意外にも答えてくれた。―――こいつ。

 

「遅くなってすまないな強化合宿のシオリのおかげで手間取ってしまった。

HRを始めるから席についてくれ」

 

そう告げる担任こと鉄人―――じゃなくて西村先生は片手に大きな箱を抱えていた。

もう片手には坂本の頭を鷲掴みにしていて、こっちに放り投げてきた。

うおっ、あぶねぇっ!?

 

「さて、明日から始まる『学力強化合宿』だが、大体のことは今配っている

強化合宿のしおりに書いてあるので確認しておくように。

まぁ旅行に行くわけではないので、勉強道具と着替えさえ用意してあれば

特に問題はないはずだ」

 

すいません。俺達は絶対に余計な物を持ってきます。前の席から、

ワン子から順番に冊子が回されてきたから俺も一冊取って残りを後ろに回した。

 

「集合の時間と場所だけはくれぐれも間違えないように」

 

鉄人からドスの利いた声が響き渡る。確かに集合時間と場所を間違えたらシャレに

ならない。学力強化が目的とはいえ、皆で泊まり込みのイベントに参加できないなんて寂しすぎる。パラパラと冊子を捲って集合時間と場所の書かれている部分を探す。

今回俺達が向かうのは卯月高原という少しシャレた避暑地で、

この街からは車だとだいたい四時間ぐらい、電車とバスの乗り継ぎで行くと五時間

くらいかかるところだ。合宿ということは・・・・・ハーデスの素顔を見れるチャンスか?

 

「特に他のクラスの集合場所と間違えるなよ。クラスごとでそれぞれ違うからな」

 

「どうせ俺らは狭いマイクロバスとかで行くんだろう」

 

坂本がそう漏らす。他のクラス、元Bクラスと元CクラスもDクラス、

Eクラスのバスで向かうだろうな。

 

「いいか、他のクラスと違って我々Fクラスは―――現地集合だからな」

 

『案内すらないのかよっ!?』

 

あまりの扱いに全級友が涙した。

 

「と、本来ならばそうだがお前ら。死神と松永に感謝しろよ」

 

うん・・・・・?感謝だと?何故なんだ?

 

「おい、どういうことだ?」

 

「蒼天が我々Fクラスに特別でリムジンバス並みのバスを用意してくれるそうだ。

蒼天から来た二人に不便な思いをさせないためだとな」

 

鉄人からの説明に俺達は―――。

 

『『『『『ありがとうございまーすっ!』』』』』

 

ハーデスと松永さんに向かって土下座をしたほど感謝したのだった。俺達はついでだろうけど

それでも構わない。現地集合よりは断然良い整備とバスで行けるんだからな!

 

 

~~~キング・クリムゾン~~~

 

 

「だからって端折りすぎだ!」

 

「いきなりどうした大和?」

 

無事に合宿する蒼天の私有地の建物に到着してから決められた室内でトランプで遊び、さっさと勝って終わるまで待っていたキャップに俺の挙動不審に不思議がった。トランプに集中する。

 

「にしても、合宿所って素朴な感じな建物だと思ってたけどよ。合宿所と言うよりか、旅館だよな」

 

「中から見た感じだと、かなりの広さだよね」

 

「無駄に広すぎなんじゃないか?俺達みたいな学生しかこないんだろ?」

 

皆の話を聞き耳を立てて、ガクトの意見に得た情報を口にした。

 

「普段は普通に営業もしてるそうだぞ」

 

「へぇ、そうなのか」

 

「こんだけ広くて豪勢な感じなのに英雄の奴、というかSクラスの連中が参加できないって損してるんじゃね?」

 

いや、そうでもないぞ。

 

「一部のSクラスの連中、来てるぞ」

 

「ふはははっ!邪魔するぞ直江大和とその一行!九鬼英雄、降臨であるっ!」

 

騒々しく戸を開けながら入ってくる英雄とその一行。

 

「は?何でいるんだよ?Sクラスは強化合宿には参加しないんじゃないのか?」

 

「確かにSクラスに在籍する者は貴様等よりも頭脳も成績も能力、地位も名誉、家柄すら勝っている。強化など個々ですればよいことであり、選ばれし我等が子供のように楽しむ遊戯のような催しに参加をすることなどないのだ」

 

事実であるが故にイラッと来るのは仕方がない発言だよな。

 

「で、それなのにどうやって参加できたんだよ。Sクラスは参加できないって聞いたぞ」

 

「大うつけ者め、まだ分からぬか。我等はプライベートで来ておるのだ。蒼天の王、旅人がいるこの旅館で三泊四日の宿泊である!」

 

そ、そういう手で来たのか!道理で制服じゃなくて私服なわけだよ。

 

「えっと英雄君達って、どうやって許可を貰ったの?この旅館は貸し切り状態で誰も泊まることができないようになっていると思うんだけど」

 

モロの言い分によくぞ聞いてくれたとばかり教えてくれ―――かけた。

 

「無論、我が九鬼家の威光で―――」

 

「んなもんで俺が許すか。蒼天が九鬼家に屈服したようなことは一切していない」

 

呆れた口調で英雄達の後ろから顔を出した学園長、旅人さん・・・・・。

 

「こいつらが俺もこの合宿所に行くと知った矢先から直談判+懇願してきたんだよ。前例通りエリート中のエリートのSクラスにとって意味のないから参加したがらない。参加しなければ四日間も休日になるんだからな。そっちの方がエリート共の有意義な時間を送ることができるって理由でよ」

 

「なら、やっぱり拒絶したんですか?」

 

「当然だ。だが、どうしてもって言うんだから俺は条件を言った。ここは成績の向上の強化をするために宿泊する場所。神月学園の生徒として宿泊するならエリートの頭脳をコキ使って成績の向上を成功させてもらうとな」

 

「学園長の言う通り、我等はその提案を呑みこの旅館の滞在を許してもらったのだ」

 

理に適うことだな。Sクラスの生徒なら俺達が分からないことでもスラスラと教えてくれる。ただ、教え方が分かり易いかそうでないかは判断しかねるが。そして俺達が理解できるか否かも。

 

「そんなわけでこいつらは臨時の若い先生と同時にこの旅館に泊まる生徒の立場だ。分からないことがあればお前らの担当となるこいつらの誰かに聞けよ」

 

「ふはははっ!光栄に思え。Sクラスの代表の我が庶民達に直接施しをしてやる事など滅多にないのだからな」

 

性格が分かっているから・・・こんな言い方しかできない英雄だ。ちょっとからかってやるか。

 

「そうだな。じゃあ、Sクラスの代表様にはファミリーの中で一番頭が悪いワン子を教えてくれるよな?」

 

「何?一子殿・・・・・だと?」

 

分かりやすっ! 顔が輝いている! ・・・・・旅人さん?

 

「どうしました、旅じゃなくて学園長」

 

「そのまま言い間違えてたら女装コース行きだったのに、残念だ」

 

あ、あっぶねっー!

 

「で、何だ直江大和。何を聞こうとした?」

 

「えっと、不思議そうに床を見下ろしていたんで」

 

「ああ、この階に近づく怒りの気配を感じたからな」

 

怒りの気配?

 

 

 

 

 

 

明久side

 

「ねえ、ムッツリーニはどこに行ったの? 覗き? 盗撮?」

 

「友人に対してそんな台詞がサラッと出てくるのはどうかと思うのじゃが・・・・・・」

 

ガチャッ

 

「・・・・・ただいま」

 

噂をすればなんとやら。ムッツリーニが部屋に入ってきた。

 

「お帰りムッツリーニ」

 

「・・・・・明久。無事で何より」

 

ムッツリーニがそう言ってくれるのは姫路さん―――いや、何でもない。学園長に知られたらいけないことだ。

 

「・・・・・情報も無駄にならずに済んだ。昨日、犯人が使ったと思われる道具の痕跡を見つけた」

 

「おおっ。流石はムッツリーニだね」

 

「・・・・・手口や使用機器から、明久と雄二、直江の件は同一人物の犯行と

断定できる」

 

「ワシが雄二の声音を真似した人物かの?」

 

「どうして秀吉がそんな事を了承したのか後で聞くとして、ムッツリーニ。犯人は誰だった?」

 

「・・・・・(プルプル)」

 

坂本が尋ねると、土屋は申し訳なさそうに首を振った。

 

「あ、やっぱり犯人はまだ分からないの?」

 

「・・・・・すまない」

 

「いや、そんな。協力してくれるだけでも感謝だよ」

 

そりゃそうだよね。昨日の今日でそう簡単に犯人何て見つかるわけがないよね。

 

「・・・・・『犯人は女生徒でお尻に火傷の痕がある』ということしかわからなかった」

 

「君は一体なにを調べたんだ」 

 

思わずツッコンでしまった。普通の人は名前や顔を知っている相手でも

尻の火傷の有無なんて知らない。こいつの調査方法が気になるところだ。

 

「・・・・・校内に網を張った」

 

そう告げながらムッツリーニが取り出したのは小さな機械。これは―――?

 

「・・・・・小型録音機。昨日学校中に盗聴器を仕掛けた」

 

ムッツリーニは録音機のスイッチを押すと、内蔵されている音源からノイズ混じりの声が

部屋に響いた。音声に少女と犯人思しき声が聞こえてくる。

坂本の声音を真似をした木下のコピーをもう一つ購入を求めているのは

霧島翔花だった。だが、強化合宿で引き渡しは四日後となり、雄二は胸に手を当てて

安堵で胸を撫で下ろす気分でいた。

 

「・・・・・それで、こっちが犯人特定のヒント」

 

ムッツリーニが機械を操作する。その音声から聞こえるのは、こんな売買をしていたことを

一度バレて、自分の尻にお灸を据えられて未だに火傷の痕が残っていると、

乙女に対して酷い仕打ちだと愚痴を零していた。

それ以降は他愛もない商談がいくつか続いた。

 

「・・・・・わかったのはこれだけ」

 

「なるほどね。それでお尻に火傷の痕か」

 

「今の会話を聞いても女子というのは間違いなさそうだろうね」

 

犯人探しが一歩前進して安心した時、ノックする音が聞こえた。秀吉がこの部屋の扉を開けに行くと。

 

『・・・・・遊びに来た』

 

「おっ邪魔しまーす」

 

ハーデス、松永さんペアが遊具を持参してきた。そして固まるように顔を突きだし合っている僕等を見て小首をかしげた。

 

『・・・・・何している?』

 

「ああ、俺達を脅迫している犯人は誰なのか探しているんだ。今そいつの特定の特徴が分かってな。

お尻に火傷がある女子だと言うことが分かった」

 

「脅迫? 恨まれるようなことをしちゃったの?」

 

「違うんだ、無実だよ松永さん! 僕達は何もしてない、被害者なんだよ!」

 

こうなったら二人にも手伝ってもらおう!―――かくかくしかじか。

 

『・・・・・知り合いの女子に探してもらえば済む話』

 

僕の説明を聞いたハーデスの提案に僕達は顔を見合わせた。なるほど、名案だ!

 

「でも、引き受けてくれるかな?」

 

「大丈夫だ。お前とハーデスを自由にして良いといえば喜んで引き受けてくれる」

 

「ちょっと!僕達をダシにしないでよ!」

 

『・・・・・お前の女装写真をWEB』

 

「それだけは止めてくれ!?俺が悪かったから!」

 

知り合いの女子と言えばこっちにはワン子と京、クリスさんに姫路さんがいる。他は―――

 

「あと秀吉に女子風呂に入って確かめるべきだよね」

 

「明久。なぜにワシが女子風呂に入ることになるのじゃ?」

 

「それは無理だ、明久」

 

雄二が強化合宿のしおりを僕に放ってよこした。

 

「どうして無理なのさ?」

 

「3ページ目を開いてみろ」

 

3ページ。確か入浴時間の振り分けだったな。

 

 

~合宿所での入浴について~

 

 

男子ABCクラス・・・・・20:00~21:00 大浴場(男)

 

男子DEFクラス・・・・・21:00~22:00 大浴場(男)

 

 

女子ABCクラス・・・・・20:00~21:00 大浴場(女)

 

女子DEFクラス・・・・・21:00~22:00 大浴場(女)

 

 

Fクラス 死神・ハーデス、木下秀吉・・・・・21:00~22:00 個室風呂

 

 

「なんでハーデスと秀吉が一緒の風呂なのさー!」

 

「いや、これはこれである意味当然かもしれない」

 

僕の叫びに雄二はうんうんと納得した態度でいると、

 

「どうしてワシだけが個室風呂なのじゃ!?」

 

『・・・・・不満だ』

 

案の定。二人は「異議有り!」とばかり言う。

 

「いや、秀吉はともかくハーデス。お前は仮面のまま風呂に入るつもりか?一人だけ骸骨の仮面を被った変人がいるって噂されるぞ、いいのか?」

 

『・・・・・』

 

ハーデスは徐に部屋の隅に座り込み―――いじけた。

 

「まぁ、格好だけじゃなくて実際に死神っぽいことはできるよんハーデス君は」

 

「それはどういうこと?」

 

「周囲の景色と一体化になれるからね、あの黒い外套。隠密行動には最適な装備品だよ」

 

それは凄いことだ!透明って光学迷彩っていうやつだっけ?まるで透明人間みたい―――って。

 

「・・・・・!」

 

ムッツリーニが物凄い速さでハーデスに近づいた。

 

「・・・・・ハーデス」

 

『・・・・・なんだ?』

 

「・・・・・透明になれる物をくれ」

 

でた、でたぞ性識者の言動が!

透明になったら好き放題女のスカートの中を覗くつもりだ!正直―――僕も欲しい!

 

『・・・・・一着、100万』

 

意外と思っていたより安い値段だった。でもやっぱり高い。

 

「・・・・・ローン払いで・・・・・」

 

ムッツリーニは購入した!

 

「そこまで欲しいのかお前は!?」

 

「流石だよムッツリーニ!」

 

「明久よ。そこは感動するところではないぞい」

 

 

ハーデスは自身を羽織っている同じ黒マントを黒マントから取り出して土屋に渡した。

 

『・・・・・毎度あり』

 

「・・・・・感謝」

 

早速マントを羽織り、フードを被るとムッツリーニの姿が俺達の前から姿を暗ました。

 

「おお・・・・・凄い!」

 

「なるほど、これなら女子風呂に入っても気付かれはしないだろう」

 

マントを脱いだ土屋の姿が現れる。これならいける!と、そう思った時だった。

 

―――ドバン!

 

「全員手を後ろに組んで伏せなさい!」

 

「その通りじゃ!」

 

凄い勢いで俺達の部屋の扉が開け放たれ、女子がぞろぞろと中に入って来た。

 

「な、なにごとじゃ!?」

 

「木下はこっちへ!そっちのバカ三人は抵抗をやめなさい!」

 

先頭に立つ島田さんが、咄嗟に窓から脱出しようとした僕と雄二とマントを羽織った

ムッツリーニの機先を制した。フードを被らないと透明化にならないらしいみたいだ。

 

「なぜお主らは咄嗟の行動で窓に迎えるのじゃ・・・・・?」

 

『・・・・・何かしらの自覚、身に覚えがあるんじゃないか?』

 

「うーん、フォローのしようがないね」

 

・・・・・多分、否定できない。

 

「仰々しくぞろぞろと、一体何の真似だ?」

 

窓を閉めながら女子勢に向き合う雄二。

僕とムッツリーニも貴重品の入った鞄を下ろしながらそちらを向いた。

 

「よくもまぁ、そんなシラが切れるものね。あなた達が犯人だってことくらい

直ぐにわかるというのに」

 

島田さんの後ろから出て来て高圧的に言い放ったのはEクラス代表の中林だ。

後ろで並んでいる大勢の女子も腕を組んでうんうんと頷いている。

中には元Cクラス代表もいる。他の女子と違って様子を窺っているようだ。

 

『・・・・・Eクラスの代表。どうした?』

 

「どうした?よくもそんな態度で尋ねてくるわね。覗き魔の一人が」

 

『・・・・・?』

 

ハーデスは訳が分からないと首をスケッチブックを見せながら傾げた。覗き魔?どういうことだと風に。

 

『・・・・・俺が覗き魔?どうしてそうなる?』

 

「これ」

 

小山さんが僕達の前に何かを突きつけてきた。なんだ?

 

「・・・・・CCDカメラと小型集音マイク」

 

その手の物には圧倒的な知識を持つムッツリーニが代わりに答えてくれた。

 

「女子風呂の脱衣所に設置されていたの」

 

「・・・・・・はい?」

 

女子風呂の脱衣所・・・・・にだって?

 

「え!?なんでそんな物が!一体誰がそんな事を―――!」

 

「とぼけないで。あなたたち以外に誰がこんなことをするって言うの?」

 

この台詞を聞いて、秀吉が中林の前に歩み出た。

 

「違う!ワシらはそんな事をしておらん!覗きや盗撮なんてそんな真似は―――」

 

「そうだよ!僕らはそんなことはしない!」

 

「・・・・・!(コクコク)」

 

友の無罪を立証しようと秀吉が声を荒げていた。この信頼に応えないと!秀吉の反論に合わせて前に出た僕とムッツリーニを冷ややかに見る中林さん。

 

「そんな真似は?」

 

「・・・・・否定・・・・・できん・・・・・っ!」

 

「えぇっ!?信頼足りなくない!?」

 

『・・・・・土屋の存在が信頼を減らしているんだと思う』

 

「・・・・・!?」

 

ハーデスの冷静な指摘にムッツリーニは愕然となった。

それに、今さっき透明になれるマントを購入したところだしねぇ・・・・・。

 

 

「どうして俺達が犯人だと決めつけるんだ?俺達は女子の大浴場に行った覚えはないぞ。行く理由すらないんだからな」

 

「一番有力なのは―――この手のことを得意なのはFクラスにいるのと、見るからに怪しくて強い死神。この二人が手を組めば容易く仕掛けることができるかもしれないと島田さんと姫路さんの情報でそう思ったから。これで疑う余地があると言うのかしら?」

 

そう言われハーデスと土屋を交互に見て・・・・・雄二までもが唸るように漏らす。

 

「・・・・・否定・・・・・できない・・・・っ!」

 

「『・・・・・っ!?』」

 

ムッツリー二とハーデスが物凄くショックを受けたのが分かった。

 

「まさか、本当に吉井君達がこんなことをしていたなんて・・・・・」

 

殺気立つ女子の中から一人悲しそうな声を上げたのは姫路さんだった。

そう言われると僕達が本当にしたみたいな言い方をされて戸惑うって!本当に身に覚えがないんだ!

 

「吉井・・・・・。信じていたのに、どうしてこんなことを・・・・・」

 

「島田さん。信じていたなら拷問器具は用意して来ないよね?」

 

絶対に僕の事を信頼してねぇ!言っている事とこれからやろうとしていることが完全に違うから!

 

「もう怒りました!よりによってお夕食を欲張って食べちゃった時に

覗きをしようなんて・・・・・!

い、いつもはもう少しその、スリムなんですからねっ!?」

 

『・・・・・いつもと変わらない体型だと思う。

胸の脂肪が主に体重を増やしているんじゃないか?ホルスタイン姫路』

 

「う、ウチだっていつもはもう少し胸が大きいんだからね!?」

 

『・・・・・なに、目に見えている儚い嘘を吐くんだ?

 ―――永久Aカップ島田のくせに』

 

ハーデス・・・・・君、ある意味勇者だ・・・・・。

ほら、姫路さんと島田さんから怒気のオーラが感じるよ・・・・・?

 

「皆、やっておしまい」

 

素早い動きで周りを取り囲まれ、僕とムッツリーニは石畳の上に座らされた。これは大ピンチだ。こんな時に頼りになるのは―――。

 

「雄二頼むっ!この場を何とか収めて」

 

 

「浮気は許さない・・・・・」

 

「翔花待て!落ち着ぎゃぁぁあああっ!」

 

 

「・・・・・死神、浮気は許さない」

 

「・・・・・お前まで、俺を疑うと言うのか・・・・・っ!?」

 

 

ダメだ!向こうは向こうで既に刑が執行されている!ハーデスも時間の問題だ!

 

「さて。真実を認めるまでたっぷりと可愛がってあげるからね?」

 

島田さんのS気質が全開だ。これはご機嫌を取っておかないと命に関わる! ウソは嫌だけど、ここはお世辞でも言ってごまかさないと!

 

「あのね。僕、今まで島田さんほどの巨乳を見たことがぎゃぁあああっ!」

 

「まず一枚目ね」

 

『・・・・・煽ってどうするバカ』

 

煽ってないよ! 褒めたのに! 頑張って褒めたのに重石が

僕の膝の上にぃいいいっ!

 

「吉井君。まさか、美波ちゃんの胸、見たんですか・・・・・?」

 

「あははっ。やだなぁ。優しい姫路さんはそんな重そうなものを僕の上に載せたりなんてふぬぉぉぉっ!?」

 

「質問にはきちんと答えてくださいね?」

 

最近、彼女の笑顔は綺麗なだけじゃなくなってきた気がする。そう思った時だった。

 

「なら、俺の質問にもきちんと答えてくれるよな?」

 

女子達が一斉に第三者の声の方へ振り向き、緊張で顔を引きつった。何故なら・・・・・腕を組んで無表情な学園長代理がいつの間にか部屋の中にいたからだ。

 

「答えによっては・・・・・女子であろうと体罰を下す。異論は認めない。いいな?」

 

赤い光を帯びた右手の指の関節を鳴らして宣言する学園長に島田さん達は顔を青ざめた。

 

「燕、報告」

 

「女子風呂に小型のカメラとマイクが設置されていることに気付いたそこの女子達が、吉井君達とハーデス君が盗撮犯だと疑い、御覧の通り折檻をしています」

 

「へぇ・・・・・」

 

冷ややかな眼差しが舐め回すように女子達を向けられる。

 

「どうしてそれを教師に報告しなかった?E組代表中林宏美」

 

「えっ? それは、問い詰めて本当にしたのか確かめれば分かると・・・・・」

 

「質問にはきちんと答えろ。どうして担任や他の教師に報告をしなかった?」

 

顔を覗き込む学園長に中林さんはビクッと怯えた風に身体を跳ね上げた。

 

「そ、それは・・・・・」

 

「・・・・・」

 

無言の圧力。目を逸らしてしまえばちゃんと目を向けて話せとばかり両手で中林さんの顔を固定するように掴んだ。

 

「相手の目を見て報告をしろ。質問している相手から目を反らすな」

 

「っ・・・・・」

 

怒っているわけでもなく、ただ答えを言うまで見つめているだけの筈なのに中林さんは学園長に怖がって涙目になった。そんな中林さんに溜息を吐き、標的を変えて他の女子にも事情を聴きだすも納得のいく答えじゃなかったら再度問い詰められて、結局最後は押し黙るか泣きそうになる。最後は島田さん、姫路さん、小山さんとなった。

 

「どうして教師に報告しなかった?島田美波、お前はこいつらと同じクラスの生徒だろ?疑う理由は?」

 

「よ、吉井は変態で土屋は隠し撮りが上手で・・・・・」

 

「ほう、隠し撮り・・・・・隠し撮りができると知っていて黙認していたのは? 土屋康太も一回や二回じゃないみたいだな?」

 

「っ・・・・・!」

 

矛先がムッツリーニに変わった!

 

「土屋康太、隠し撮りしていたのは事実か?素直に答えろ」

 

「・・・・・。・・・・・。・・・・・(コクリ)」

 

顔中に冷や汗を流すムッツリーニは肯定した。

 

「この旅館で盗撮したのはお前か?」

 

「・・・・・(ブンブン!)」

 

「ふむ、なるほどな」

 

ムッツリーニに近づき、重石をどかし始めたと思えば膝を立ててその上にムッツリーニの身体を軽々と乗せると―――一気にズボンとパンツを脱がして尻丸出しにした直後に。

 

「学校で盗聴・盗撮するな」

 

素早く、そして勢いが乗った手がムッツリーニの尻に十発も叩いた。その音は凄く聞いている僕でも痛いことが分かる。尻叩きが終わるとムッツリーニは生まれたての小鹿のように、全身を震わせ見ていてとても痛々しかった。

 

「姫島瑞希。どうして教師に報告しなかった?」

 

「わ、私は吉井君から真実を聞きたくて・・・・・」

 

「島田美波と同じ理由だからか?」

 

「は・・・はい・・・・・」

 

「それで、もしこいつらじゃなかったらどうする?」

 

再度問い詰める学園長に姫路さんはチラチラと僕に視線を向けてくる。

 

「えっと、それは・・・・・」

 

「ああ、因みに関係ないことを聞く。土屋康太の盗撮を知ってたか?」

 

「え、は、はい・・・・・」

 

答えた姫路さんが一瞬でムッツリーニと同じ姿勢にされ尻を丸出しにされていた。本人も何時の間にこんな姿勢にされたか不思議と疑問が混濁して、え?と漏らした瞬間。

 

「黙認かつ売買もしているなら同罪だ。尻叩きの罰を与える」

 

「えっ?(バシーンッ!×10)~~~~~っ!?!?!?」

 

み、見ちゃいけないんだけど姫路さんの生のお尻に王様の平手が炸裂して、姫路さんはその痛みに耐えきれず泣いてしまった。

 

「ちょっと学園長!どうして瑞希に酷いことを―――!」

 

「次、島田美波」

 

「えっ!?(バシーンッ!×10)いたっ!? 痛い! 止めてっ、痛いから止めてください!」

 

「教師に報告せず隠し撮りを黙認したお仕置きだからダメだ」

 

島田さんもムッツリーニからどんな写真を買ったか分からないけど、盗撮した写真を買ったから尻叩きの刑が執行された。そして最後は小山さんとなったけど・・・・・。

 

「盗撮・盗聴のカメラが設置されていたことを報告しなかったのは?」

 

「私が脱衣所に入ったところで他の女子が発見されていました。島田さんと姫島さんの意見が有力であると先生達に報告するまでもないという雰囲気でここに来ました」

 

「他の女子が発見? この中にいるか?」

 

「いません。Dクラスの清水さんが発見しました」

 

「第一発見者がここにいない理由は?」

 

「わかりません。とにかく、真っ先に報告するべき先生にしなかったのは私も注意不足でした。申し訳ございません」

 

深々と謝罪の念を込めて腰を折って頭を下げる小山さん。あ、重石どかしてくれてありがとうございます。

 

「報告は他にあるか?」

 

「うーんと、吉井君に坂本君、直江君が学園祭で女装中や着替えようとしていた瞬間を盗撮された写真で脅迫されているみたいです。バラまかれたくなかったら異性に近づくなと」

 

松永さんの話を聞き僕達に向かって学園長は一言。

 

「・・・・・問題あるか?」

 

「「大アリだ!」」

 

「学園祭中だろうとなかろうとコスプレの一環として認識されるだろ」

 

そうなんだろうけど、そうなんだろうけどそれでもコスプレが趣味なんて思われたくないんだよ王様!

 

「思われたくないのは理解したが、自分達で解決する前に一言ぐらい担任に言っておけ。何のための教師なんだ。特に鉄人呼ばわりされている西村先生は、呆れながらも少なからず協力してくれるはずだぞ」

 

「うっ、すみませんでした・・・・・」

 

「分かればいい。さて、こいつらが女子風呂に仕掛けた犯人である証拠としては不十分だ。ここは俺の顔を立てて解散してもらうが、証拠不十分で相手の主張を聞かずに身体的な体罰をした責任を果たしてもらうか。この重石を持って三十分玄関ホールで正座していろ。小山優香は俺の質問にきちんと答えたから免罪にしてやる。そんで、この場に居る女子は強化合宿中この四人との接触を禁ずる。もし破ったりでもしたら・・・・・尻叩く数はこの倍だからな?」

 

そんな! と異を唱える女子達が信じられないものを見る目で王様を見るが、「謝罪だけで済ますほど俺は甘くはないからな」と厳しいお言葉を頂戴されたのであった。

 

「次は脅迫犯のことだが、心当たりはあるか?」

 

「・・・・・いえ、まだです」

 

「そうか。なら後は教師にやらせよう。余計な諍いが起きてしまった以上は看過できないからな」

 

それはありがたい。学園長達なら直ぐに凶悪犯を見つけてくれるだろう。僕としても早く解決できるなら願ってもないことだと思っていたけど―――。

 

「お言葉ですが、これは俺達の問題だ学園長」

 

「・・・・・ほう? 自分達で解決できるというのか?」

 

「出来る出来ないの問題じゃない。無実な俺達をここまでコケにされちゃあ黙ってはいられないんだ。あいつらがそう来るんだったらこっちもとことんやってやらなきゃ気が済まねぇんだよ」

 

ゆ、雄二! キミは何てことを言うんだ!? 

 

「ふむ・・・・・なら、この機会に男子と女子の試召戦争をするか?」

 

「男子と女子の? 学園長どういうことですか」

 

「どうせお前達に体罰したこいつらに一泡吹かせたいって言うなら、男女別に分かれて召喚獣で勝負しろって提案しているんだ。お前等の行動で学園側に多大な迷惑をかけるつもりなら学園長代理として許せる問題じゃないだろう? ならば、最初からそうする方針にすれば問題はない」

 

「随分と大人な解決策を考えるんだな」

 

「だが、やり易いだろう坂本雄二。お前にとっては」

 

雄二にとってやり易い? 学園長は雄二の考えを見抜いてる上で、学園の問題を解決しようとしているの?学園長の考えていることはよくわからないけれど、雄二は獰猛な獣のように笑みを浮かべた。

 

「随分とクソババアより話が通じる学園長だな」

 

学園長も不敵な笑みを浮かべて雄二に言い返した。

 

「俺の教育方針は“自由”だ。解決できる問題なら生徒自身に最後まで責任を取らせる。お前にその覚悟があるなら大人も協力しようってだけさ。それも社会に出て大人になる子供の教育指導をする教師の長のな」

 

 

 

 

 

 

 

こうして学園長の介入で僕達の盗撮犯の疑惑は晴れた。島田さん達は一階の玄関ホールで『覗き魔と勘違いした大馬鹿女です。三十分間正座のお仕置き中です』と書かれた張り紙を張った重石を持って正座をさせられることとなった。

 

それから各クラスの担当教師が一斉に荷物検査を始めたところ、女子風呂にあった小型カメラとマイクを持っていた清水さんが連行され、学園長直々に事情聴取をしたところ、犯行を認めたらしい。

 

学園長のお仕置きを受けた清水さんも、島田さん達と一緒に一時間も正座をさせられた上に、学生あるまじき行いをした者として観察処分者に認定されたらしい。

 

でも、僕達はそのことを知らされなかったし気付きもしなかったから、雄二の思惑通りの展開になったんだ。

 



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強化合宿 2

強化合宿二日目。今日の予定は元Aクラスとの合同合宿となっていた。

学習内容は基本的に自由。質問があれば周囲や教師に聞いてもOK。

要するに自習みたいなものだ。その為、机の並びも生徒同士が向かい合うような形になっている。

 

「ハーデス。何を勉強しているんだ?」

 

『・・・・・土屋に頼まれて保健体育』

 

「・・・・・俺より知識豊富」

 

悔しげな顔を浮かべるムッツリーニらしい自習勉強だことで。

 

「でも、何で自習なんだろう?授業はやらないのかな?」

 

「授業?そんなもんやるわけないだろ」

 

『・・・・・この合宿の趣旨はモチベーションの向上。つまり、元AクラスはFクラスを見て「ああはなるまい」と、FクラスはAクラスを見て「ああなりたい」と考える。そういったメンタル面の強化が目的だから、授業はしなくてもさして問題ではない。今回元Aクラスと合同学習をしているから俺達Fクラスにとって元Aクラスは教師みたいな感じで自習をしている』

 

こいつの頭の回転に舌を巻かせてくれる。

 

「ああ、ハーデスの言う通りだぞ明久」

 

「元AクラスはともかくFクラスに効果があるとは思えないんだけど・・・・・」

 

明久の言葉には同意と頷く。現に、Fクラスは一部を除いてだらけている。逆に元AクラスがFクラスを見てああはなるまいと必死に勉強をしている。

 

そんな光景に内心溜息を吐いていると、

 

「おや、死神君はここにいたんだ。ならボクもここにしようかな?」

 

そこに訊き慣れなれた声が聞こえてきた。

 

「『・・・・・工藤愛子』」

 

「ハロハロ~死神君とムッツリーニ君」

 

二ッと歯を見せて笑う工藤。ボーイッシュな雰囲気と相まって、その仕草はとても爽やかに見えた。

 

「そういえば、皆とはあんまり喋っていないから改めて自己紹介させてもらうね。元Aクラスの工藤愛子です。趣味は水泳と音楽鑑賞で、スリーサイズは―――」

 

『・・・・・78・56・79』

 

「って、何時の間にボクのスリーサイズを知っているの?」

 

『・・・・・目測、全員のスリーサイズも把握済み』

 

「ハーデス君?」 

 

その赤い目で目測とは・・・・・女子のスリーサイズを知ることができる機能でもあるのか?松永さんからの無言の圧迫に顔を逸らしたのは理由を聞くまでもない。

 

「そっか。じゃあ次は特技ね。特技はパンチラで好きな食べ物はシュークリームだよ」

 

なんだ!?最後の方に変な台詞が混ざったぞ!

 

「ん?どうしたの吉井君?」

 

「いや、別に工藤さんの特技を疑っているわけじゃないんだ。ただ、その・・・・・」

 

「あ、さては疑ってるね?なんなら、ここで披露してみせよっか?」

 

工藤が短いスカートの裾を摘んだ時だった。

 

『・・・・・工藤愛子は変態なのか?」

 

「へ?」

 

『・・・・・いや、露出狂の変態ビッチか。実技が得意って自分で言うほどだからな』

 

ジーと赤い目を工藤に向けるハーデスだった。土屋のカメラを―――待て、撮影する気かお前?

 

「え、えっと・・・・・ボクは別にそんな風に言った覚えはないんだけど・・・・・」

 

『・・・・・特技がパンチラで、経験があるような言い方をした時点でそうだと思う。誤解されたくなければ発言には気をつけた方が良い』

 

「・・・・・ご、ごめんなさい・・・・・」

 

シュンと工藤が落ち込んだ。

 

『スパッツ穿いている時点で、パンチラなんてできやしないただからかうだけの清い純情処女のくせに』

 

「さっきの謝罪をボクに返して!」

 

土屋が鼻血を吹いている!誰か、誰か応急処置を!

 

「そんな!? 工藤さん、僕のドキドキと高鳴った純情を返して!」

 

お前も余計なことを言わんでいい!

 

「ごめんごめん。じゃあ、代わりに面白いものを見せてあげるよ」

 

工藤が取り出したのはい小さな機械だった。これって小型録音機か。

 

「コレ、凄く面白いんだ。例えば―――」

 

小さな機械をカチカチと弄る工藤。少し間を置いて、内蔵されているスピーカーから声が聞こえてきた。

 

―――ピッ《工藤さん》《僕》《工藤さんの》《パンチラ》《ドキドキ》《して》《いる》

 

「わあああああっ! 僕はそんなこと言ってないよ!? 変な物を再生しないでよ!」

 

「ね? 面白いでしょ?」

 

悪戯っぽい笑みを浮かべる工藤。その笑みは何故か明久の背後に向いていた。

 

「・・・・ええ。最っっ高に面白いわ」

 

「・・・・・本当に、面白い台詞ですね」

 

俺も明久の背後に見やるや、島田と姫路が氷の微笑を浮かべていた。すると、ハーデスが立ち上がり、島田と姫路に俺達から見えない位置でスケッチブックを見せると「「ひっ・・・!」」と顔を青ざめては俺達と離れた席に座って大人しくした。

 

「やけに素直というか、凄く怯えてたな。どうしたんだ?」

 

「えっと、王様にお尻を叩かれて合宿所にいる間は僕達と接触禁止、破ったらまた尻叩きの―――大和、どうしたの? 顔が引きつってるよ?」

 

旅人さんの尻叩き・・・・・! ヤバい、あの痛みはトラウマレベルでもう二度と尻叩きをされたくない!姉さんですら(小さい頃)泣いてしまう恐ろしいお仕置きを!

 

「・・・・・! (ガタガタブルブル!)」

 

土屋が全身を震わせる!そ、そうかお前・・・・・味わったんだなあの痛みを・・・・・。

 

「ん?これって保健体育の?」

 

『・・・・・土屋に頼まれていて教えている』

 

「へぇ、そうなんだ。じゃあ、ボクにも教えてよ」

 

『・・・・・構わない。後で小型録音機貸してくれ』

 

「いいよー」

 

その手の知識が豊富な三トリオが集った。三人の話を聞くと、こっちが変な気分になるような会話が絶え間なく繰り広げた。

 

「ねぇねぇ、死神君。一つ訊いてもいい?」

 

『・・・・・なんだ』

 

「蒼天って何か凄い事とか変わってることとかあるかな?」

 

殆んど蒼天は他の国と交流をしていないから蒼天の情報はネットでも載っていない。海のど真ん中にあるから船や飛行機ではないと行けないし蒼天の王、旅人さんが外交しに行けるのは特殊な方法でしているだろう。

 

『・・・・・変わってるところ』

 

そうスケッチブックに書いてから自分の国の特徴を捻り出そうと思考の海に飛び込む。

 

『・・・・・蒼天の民法は他の国とは異なっていること』

 

「民法?例えば?」

 

『・・・・・蒼天では近親結婚、同性愛結婚、一夫多妻制、一妻多夫制とかできる』

 

ハーデスがスケッチブックに書いた民法、第831~749条。婚姻に関わる法律を見た瞬間。

 

『『『『『はぁあああああああああああああああああああっ!?』』』』』

 

思わず大声で叫んでしまった。

 

「ちょっと待て!蒼天って同性愛結婚ができるのか!?」

 

「し、しかも・・・・・近親結婚って・・・・・」

 

「夢のハーレム、蒼天に行けば一夫多妻制ができるのかよ!?」

 

なんなんだ、蒼天って!そこまでフリーダムな国だったのか!?AクラスやFクラスの生徒達が怪訝にこっちへ視線を送ってくるが、俺達の話を聞いていたようでざわめきだしている。そんな時、学習室のドアが開き、女子が物凄い勢いでハーデスに飛び掛かった。

 

「その話は本当ですの!?」

 

『・・・・・誰だ?』

 

「私は清水美春です! 島田美波お姉様を心の底から愛している女ですわ! 先ほどの話は本当のことですの!?」

 

「ちょっ、美春!?いきなり現れてなに言ってんのよ!」

 

清水って・・・・・確かDクラスの女子だったな。こいつ、同性愛者だったのか・・・・・。

 

『・・・・・本当だ』

 

「お姉様!今すぐ私と蒼天へ移住しましょう!そこで幸せな家庭を作るのです!」

 

「イヤよ!ウチは普通に男の子が好きなんだから!子供だって作れないでしょう!」

 

『・・・・・女性器に男性器を生やす技術、蒼天にある』

 

「マ、マジで・・・・・?」

 

「お姉様!今の骸骨の文字を見られましたわね?私が豚野郎のビックサイズなアレを付けますのでお姉様は私の子を生んでください!」

 

「イヤァァアアアアアアッ!」

 

カキカキ・・・・・バッ。

 

『・・・・・まあ、蒼天にこれたらの話になるけどな』

 

興奮している清水と心底嫌がる島田を余所にハーデスはそう書いた。

 

「キミ達、少し静かにしてくないかな?」

 

そんな中、凛とした声が響き渡った。知的に眼鏡を押し上げるクールな声の主は久保利光のものだった。

 

「あ、ごめん久保君」

 

明久は彼にだけではなく、この部屋にいる皆に対して頭を下げる。ハーデスの国の法律に驚かされて大声を上げてしまったからな。申し訳ない。

 

「吉井君か。とにかく気をつけてくれ。まったく、姫路さんといい島田さんといい、Fクラスには危険人物が多くて困る」

 

危険人物が多いのは否めない。

 

「・・・・・ところで、だ。死神君。キミの国では同性愛結婚ができると騒ぎの中で小耳を挟んだんだが・・・・・。つまり、女性と女性が結婚しているように男性は男性と結婚しているということになるのかな?となると、男同士で結婚している者がいると推測するのだが・・・・・どうなんだね?」

 

久保の質問にハーデスは首肯する。

 

『・・・・・女性同士より少ないけど、二桁ぐらい男性同士で結婚した人間はいる。幸せそうに楽しそうに暮らしている』

 

「・・・・・そうか、情報提供ありがとう」

 

『・・・・・感謝されるようなことは言っていない。人は愛があれば性別なんて関係ない。俺はそう思える』

 

「・・・・・性別なんか関係ない、か・・・・・」

 

久保が妙に思い詰めた表情をしてハーデスの台詞を反芻していた。その顔を見ると・・・・・なぜだか鳥肌が立った。おかしいな。なんでだろう。

 

「骸骨野郎、良いこと言いますのね。少しは見直しましたわよ」 

 

「ハーデス!余計なことを言わないでよ!ウチの人生が滅茶苦茶になるでしょうがー!」

 

「なんだか、島田は俺と似ているような・・・・・」

 

ここも騒がしくなったな。と、そう思っていると俺の視界の端に顔だけ半分出してこっちを見つめている木下姉が映り込む。結局、この騒ぎは鉄人が怒鳴りこんでくるまで続いた。

 

 

「ところで何か進展はあったか」

 

「ムッツリーニの情報網では俺達を脅す犯人は尻に火傷がある女だ」

 

「どうして尻に火傷がある女って知ったのか敢えて聞かないぞ。でも、そいつを確定するには・・・・・」

 

「ああ、女子の尻を確認する他ない。それができる唯一の方法は」

 

「覗きをするしかない、んだよね・・・・・」

 

いや、どうして犯罪の方へ思考が走る明久。

 

「ワン子達に調べてもらうのが定石だろ」

 

「悪いが直江。俺達は女子の協力は仰がない」

 

「はっ?」

 

「昨日、無実の罪を着させられて女子達から折檻されたんだ。あいつ等がそうなら俺達は本当にしてやろうと決めたんだ」

 

何が遭ったってんだお前らは?

 

「おい、変なことを考えるなよ?安全圏なところから解決できる方法があるのにそれをしないのは愚策もいいところだ」

 

「直江、お前は旅人さんと呼ぶ学園長のこと好きだよな」

 

唐突に不思議なことを聞く。本当にどうしたんだ。

 

「そりゃ、短くない付き合いをしてたから尊敬してるし慕ってるさ」

 

「そうか。俺もババア長と学園長のどっちがいいか選ぶなら今の学園長の方を選ぶな」

 

「坂本?」

 

「昨日学園長は自己責任するなら何をしても認めると言ってくれたんだよ。俺の考えを見抜いた上で黙認してくれるなら、堂々と事を起こせるってもんだ」

 

旅人さん! あんた、それでいいのか学園の風評とか気にしないのかっ!?

 

「くくく、面白い学園長だ。ババア長より好感度が高いぜ」

 

「おい、坂本。旅人さんを舐めてるなら・・・・・」

 

「そんなことできる相手じゃないことぐらい分かってる。俺だってあの男を逆らうことだけはしたくない。それよりは戦力が必要だから集めるぞ直江も手伝え」

 

覗きを片棒を担ぐ羽目になってしまうとは・・・・・! 俺も他人事ではないから坂本達に押し付ける気はなかったんだが・・・・・こんな手段を取るつもりはなかったのに。

 

 

 

 

「ただいまー」

 

「お帰り、どうだった・・・?」

 

「うーん、外見だけだとわかんないや。あの子が学園長だなんて誰も信じられないし」

 

「そう思うわよね。でも・・・・・アタシ達が見たのは」

 

「間違いなくあの学園長だったよね。いっそ代表に訊く?」

 

「・・・そうね。何か知っていそうだし訊いてみましょう」

 

 

 

そんなこんなで強化合宿の目的とする勉強時間や天国のような高級レストランごとくの料理を食べれた夕食タイムも終わって、いよいよ入浴の時間。着替えを持って風呂場へと向かう。

 

「いやー、美味かった美味かった!合宿所って割には高級な料理が食えるって贅沢だよな!しかも何度もお替りしていいって!」

 

「本当だよな。七面鳥が目の前に置かれたときなんて吃驚したほどだぜ!」

 

「美味しい料理が食べられると分かるとモチベーションも上がるよね」

 

楽しかった夕食の話をしながら階を降りて入浴所へと目指す。

 

 

木下優子side

 

クラスメートの女子達がお風呂に入っている間にケリをつけるべく代表にお願いした。それは死神に会わせてもらうこと。例え誰かに聞かれようといいように筆記用具とノートを持ち込んでハーデスがいる部屋へと向かう途中で・・・・・。聞こえてくる声に思わず足を停めてしまった。

 

「ふはは!相まみえたぞ学園長!さあ、我等と風呂に入ろうではないか!」

 

「僕も入るー!」

 

「はいはい駄目だぞユキ、男女が混浴しては。それにこの旅館には混浴風呂がないって」

 

「いやあるぞ?何ならそこで入ってみるか?今絶賛、俺しか入れない貸し切り状態の混浴風呂だ。誰も入ってこないぞ」

 

「おや、あるのですか。では、一緒に入りましょうか」

 

「まさか、弁慶の言ったとおりになるなんて・・・・・」

 

「でしょ?水着を着てれば混浴できるって」

 

「旅人さん、背中を流しますね」

 

「私もです」

 

「あ、あの・・・私もっ」

 

聞えてくる複数の声。これから会う人がお風呂に入っていくなんて、代表の話を聞いていないの?

 

「代表、死神くんと会える?」

 

「・・・・・大丈夫」

 

愛子の憂いを問題していない代表の気持ちに訝しんでしまう。だって、アタシ達が会う人はあの人でもあるのだ。それなのにどうして死神がいる部屋へと向かうのか。

 

「・・・ねぇ、代表。死神の正体を知っているのよね」

 

「・・・・・うん」

 

「なら、学園長と死神・・・どっちと付き合いたい?」

 

訊いてみれば代表は珍しく押し黙った。でもアタシの中でこれが決定的になった。学園長達の声が遠ざかっていくのを見計らって歩みを再度進め、誰にも見つからないように一段飛ばして階段を上がって三階に辿り着く。そしてどの部屋にいるのか分からないのに、代表は当然のごとく一つの扉の前に足を停める。ストーカーの才能があるじゃないかと思うぐらいピンポイントに。そしてあろうことかノックもせずに入るのだ。一瞬躊躇する私だったけど男子の部屋に入ろうとするところを見られるのは困るから中に入った途端、横の扉から上半身裸(浴衣は着ている)の学園長が出てきた。

 

「・・・・・会いに来るのは霧島翔子だけの話だった。どういうことか説明してもらおうか」

 

「・・・・・すみません」

 

代表の顔を躊躇なく鷲掴みにして問い詰める学園長。止めるよりも信じられなかった。どうしてここに学園長がいるのか、お風呂に入っていったのも学園長の筈。この人は一体何なの・・・?

 

「・・・・・」

 

愛子も驚いているというよりか目の前の学園長を見て唖然としちゃってる。心なしか顔が熱っぽくない?

 

「どうしたの愛子?顔が赤いわよ」

 

「ふぇ?え、えっと何でもないよ。うん、大丈夫っ!」

 

首を横に振って問題ないと素振りをするけれど、チラチラと学園長の上半身を見る愛子。大人の身体がそんなに気になるのかしら・・・・・?あ、代表が解放された。

 

「取り敢えず座れ」

 

「「は、はい」」

 

「・・・・・はい」

 

テーブルは隅に片づけられて二つの布団が並べられている。その上に腰を落として座ると学園長の口が開いた。

 

「用件は何だ」

 

「・・・・・えっとどうしてあんな変装をしているのですか?死神ハーデスなんて偽名で通ってまで」

 

「・・・・・ふぅ、学園祭の時からそんな疑問を抱いていたか」

 

っ、やっぱり気付かれていたんだ。でも、どうしてあれから追究してこなかったのかしら・・・。

 

「理由は色々だ。蒼天が開発した試験召喚システムを神月学園にも導入してから十年以上経った。王として藤堂カヲルを始め学園の中を視察目的で編入したんだ」

 

「松永さんもそうだってことですか」

 

「そうだ。燕は主に俺のフォローやサポートをする役割を担っている。その結果、学園祭中に不祥事件が起きた」

 

私達が不良の人達に誘拐された時の事を言っているんだと直ぐに悟った。

 

「二度も三度も藤堂カヲルは失敗を繰り返した事で、蒼天に一時的送還してあいつが戻ってくるまでは俺が代理として長の座に就いた。ここまでは知っているな」

 

「は、はい。ですが、もう視察をする必要はないんじゃないですか?学園長自身が神月学園を管理しているようなものですから」

 

「確かにその通りだが、教育者から見る視線と学生から見る視線は違う。そして一度決めたことを半ばで放り出すのは無責任な話だから継続している。俺が変装している理由は以上だ。今度は俺から聞くぞ」

 

何を聞かれるんだろうと緊張しているアタシ達に質問の言葉を投げてきた。

 

「あの時何で屋上にいた?」

 

「それは、誘拐されていたところを助けていただいたから、お礼を言いたくて死神と松永さんを探していました」

 

「そういうことか。別にお礼何て言わなくてもいいのに。で、今まで俺の正体を知ってしまったのに追及してこなかったのは?」

 

「死神が学園長だなんて信じられず、どうして正体を隠しているのか悩んでました。考えれば考えるほど疑問が増えるばかりで、死神の正体を知っている代表から教えてもらおうと思ったのですけど、やっぱり自分で訊きたくて」

 

理解を求めて説明したらあっさりと納得してくれた。

 

「分かってるだろうが、俺の事は誰にも言うなよ」

 

「弟の秀吉も知らないですよね?」

 

「俺の事知っているのはお前達三人と三年の小暮葵って女子だけだな。茶道部の雰囲気が心地いいからたまに顔を出してる」

 

上級生にも知っている人がいるなんて、と思っていたところで扉が開く音がして中に入ってきた女子、松永さんが私達を見て目を丸くした。

 

「え、どうして木下ちゃんと工藤ちゃんが?」

 

「俺の正体を知ってしまったからだ」

 

「ええっ!?完璧に正体を隠していましたよね!?」

 

「王の俺でも完璧じゃなかったってことだ燕。今し方、釘を刺しておいたから俺の正体はもう広がる心配はないから問題ない」

 

こっちも驚いていいかしら。

 

「まさか、松永さんと学園長は同じ部屋で?」

 

「そうだけど?」

 

「あのそれって、色々と問題あるんじゃないですか?」

 

「俺が燕を夜這いかけるとか?ないない、そんなことはしないさ。ま、逆にされる方が多いけどな」

 

逆って・・・・・!

 

「松永さん、あなた・・・・・」

 

「ち、違うよん!蒼天にいた頃は住んでいる場所は別々だったし王様に、蒼天でそんなことできそうなのは同じ王様達ぐらいだよ!」

 

「ああ、そうそう。俺は燕がそうだって言っていないぞ。早とちりするな。寧ろ燕は家の中じゃあ―――」

 

「プライベートな話をするのは禁止!」

 

顔を林檎のように真っ赤に染めて学園長に飛び掛かり口を抑え込む松永さん。

 

「おいおい燕。人前で襲ってくるなよ。もしかしてそういうプレイがしたいのか?」

 

「へ、変なこと言わないでください!家の中でもちっともそんなムードの欠片も作ったことが無いでしょう!」

 

「ふははは!敢えて作らなかっただけだとしたら?もしそんなムードを作ったら燕も流されてしまうんじゃないかぁ?」

 

「私は場の雰囲気に流れやすい女じぁないよん!王様だって、顔が美人で胸が大きい女性だったらいいんじゃないの? 実際、王様の周囲にはそんな女性や女の子が沢山いるんだし」

 

「うーん、スタイルがいい女なんて興味ないんだよなぁ。でも、敢えて強いて女の好みを言えば」

 

腹の上に伸し掛かる松永さんを抱えながら起き上がっては、両手を両手で掴み彼女の額と重なった距離感で学園長は真っ直ぐ視線を松永さんに向けた。

 

「俺の正体を知っていながらありのままの自分で話が出来て、一緒にいると楽しくて、たまに見せるちょっとした仕草が可愛い、とても魅力的な女がいいぞ燕?」

 

「っ―――――」

 

屈託のない笑顔で言う学園長の言葉とともに浮かべた表情はとても綺麗だった。思わずアタシはドキッとしてしまったのであった。松永さんもそうなのか、耳まで真っ赤になっていた。

 



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緊急事態発生

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「王様、問題は解決したんですよね?」

 

「だったらどうした?」

 

「何か坂本君から協力してほしいことがあるって言われたんですけど。何かしようとしているんですか?」

 

「俺ではなく生徒同士が、だろうな」

 

「学園長として止めなくていいんですか?」

 

「それこそ解決策の一つだから止めないさ。寧ろ無意識だろうが強化合宿の本当の意味をあいつらは実行しようとしている。それをこの俺が止める筈がないだろう?」

 

「うーん・・・・・何となく考えていることはわかるんですが、もしもの場合は?」

 

「俺が見逃すと思っているか? なんなら燕も交ざってもいいぞ俺が許す」

 

「そうですか。じゃあ、協力するってことで坂本君に言ってきますね」

 

確認を取り、誘われた方へ協力する旨を報せに向かう燕の後。英雄達が料理を持って同席しながら燕との話を耳にしたようで聞いてきた。

 

「学園長、何かするんですか?」

 

「お前達を除く試召戦争だと言えばわかるだろ」

 

「ほう、そのようなことをするための強化合宿とは。これは我等Sクラスは惜しい事を逃したやもしれぬ」

 

「そうですね英雄。私達の操作技術を気軽に向上できる機会を自ら手放したみたいですからね」

 

「私的には学園長と過ごせる時間を手放したくない方で」

 

「僕もー!」

 

「こらこら、学生の本分は学業でしょうが」

 

両手に花の状態の学園長は隣からしがみ付かれたり、しな垂れかかったりする二人の少女に好きにさせながらたくあんとご飯を一緒に頬張る。

 

「お前等も参加したければしていいぞ」

 

「いいのですか?」

 

「ただし、一人は女風呂の前にいろ。女子が入浴する所を男子が間違って入らないよう監視だ」

 

「義経がその監視を任せてほしい」

 

いの一番に買って出た義経に任せる学園長。任せたと言葉を発した時に携帯が鳴り響いた。

 

「俺だ。うん、どうした? ・・・・・わかった。すぐ戻る」

 

通話に出た学園長は立ち上がるのを見て英雄たちは聞かずにはいられなかったが、それより前に英雄たちに告げられた。

 

「急用の仕事が出来た。強化合宿が終わるまでは戻れない」

 

「それは残念です。あなたと過ごせるかと思ったのですが」

 

「これでも俺は蒼天の王様だからな。だから義経。買って出た以上は頼んだぞ。頑張ったら俺の手作り料理を振る舞ってやる」

 

「!」

 

義経の艶がある黒髪を撫でた後に去り、燕の方へ向かう学園長の背中を見つめる義経が静かに燃えだす。

 

「いいなー! いいなー! 僕もお兄ちゃんの手作り料理食べたーい!!」

 

「確かに。英雄、悪巧みに便乗する気は?」

 

「義兄上に無理を言って下々の者達の家庭教師をしている身だ。我は一子殿に教えを授けねばならない」

 

「それあんた個人がしたいことでしょーが」

 

「なら、私も義経の手伝いをするよ。相手がAクラスだろうと一人じゃあ大変でしょう。政宗と信長は?」

 

「「私も一緒に」」

 

決まりだね、と今後自分達が取る行動を確認終えたことで英雄たちも分かれることになった。

 

 

―――蒼天

 

 

「集まってるな? 報告を聞かせてくれ」

 

四人の美女と美少女達が蒼天の中央区が戻ってくるのを待っていた場は円卓会議の場。各区の王しか座ることを許されないアンティークの椅子に最後の一人が座ると華琳が告げる。

 

「今準備を急がせてるけど、日本の某県某所で津波発生の可能性が発令されたそうよ。ここからじゃあ間に合わないからあなたの力が必要で呼び寄せたの」

 

「今のどのぐらい終わっている」

 

「まだ三割程度です」

 

「整い次第すぐに発しろ。俺は先に向かって被害を食い止めに行く」

 

「お願いね」

 

「よろしくお願いします!」

 

各自やることは既に定めており、それぞれ椅子から立ち上がってこの円卓会議の場に繋がる通路へと足を運ぶ。

 

「燕、お前もISの準備をしろ。これから忙しくなる」

 

「はっ、わかりました」

 

王としての発言に真剣な面持ちで返事する少女も自分が何をするべき行動をとった。

 

 

某県某所―――。

 

 

遥か海の彼方から津波で被害に遭っている現地に辿り着いた中央区の王は、数百以上も分裂して呑み込まれようとしている者、孤立している者を優先的に救助して津波の勢いを殺す岩の壁を水中から作り上げ続けながら濁流と化している海水を氷結、空中に吸い寄せて一点に集めるなどをしていって被害の最小限を全力で抑えていく。

 

 

「助けてくれー!」

 

「助けてぇーっ!」

 

「助けに来たぞ、もう大丈夫だ俺にしがみ付け」

 

「え、天使!?」

 

「あ、ありがとう!」

 

 

「走れっ!走れーっ!」

 

「ダメだ、津波の方が速すぎる!」

 

「ヤバい、もうっ、う、うわぁああああああっ!?」

 

「ギリギリセーフ!」

 

「「「えええっ!?」」」

 

 

「入院していた患者を安全な場所へ運ぶ。お前達も身の安全は守ってやる」

 

「ありがとうございます!」

 

 

「市長、あんなところにしがみ付いていたとは」

 

「すまない、感謝するっ。家内が避難しているといいんだが・・・・・」

 

 

「天使だ、格好いい!」

 

「天使、天使!」

 

「こんな普通は怖い状況の筈なのに、意外と肝が据わってる子供達だな」

 

「す、すみません! すみません! こら、あなたたち!」

 

 

たった一人で救えた人数は多いが、それでも救えなかった人数が圧倒的に多かったのは仕方がないと言える。守れた町も4割だが救えなかった6割は甚大な被害と言えよう。海からくる津波を巨大な氷壁で塞ごうと町を襲う津波と化した海水の勢いはまだ止められていないからだ。それでも王は救いの手を伸ばす。津波に流されている家の中に人の気配があれば、津波が迫ってくる直前にまだ家の中に人の気配があれば助け出す。その中に―――津波の勢いに呑み込まれ沈みかけている二階建ての家の屋根を剥がし、逃げ遅れた人を助けようとしたら。

 

「イ、イズ!?」

 

「え、その声・・・・・ハーデスなの!?」

 

ゲーム内で見知った人物とリアルで助け出される一人になろうとは当人達は思いもしなかっただろう。

 

「―――掴まれ!」

 

「う、うんっ!」

 

数秒後、沈みかけていた家が完全に沈没。助け出された女性は王の腕の中で安堵感に襲われ、大切に抱えていた鞄の口から世界唯一のハードギアが覗き光沢を放っていた。

 

 

―――数時間後。

 

 

「「「「「蒼天の自衛隊総勢500万人、ただいま到着いたしました!」」」」」

 

「敢えて詳細の指示は言わない。目に見えるもの全て対処しろ」

 

「「「「「はっ! 了解でございます!」」」」」

 

各区がの蒼天の自衛隊の総隊長に命令を出す王のもとに、金髪碧眼で頭の上に人形を乗せた少女がやってくる。

 

「ではではー、その後の相談を風と一緒にしましょうねー」

 

「来ていたのか。学校はどうした・・・いや、野暮だな」

 

「賢明な判断かとー。風達は安定するまでの作業を続けるだけですので~」

 

「ここの仮拠点は任せるぞ風」

 

「お任せあれー。後でご褒美くださいねー?」

 

 

大和side。

 

 

学園長がいなくなった原因がわかってしまった。津波が発生するほどの大地震があった場所に無理言って、英雄に頼み被災地に連れて行ってくれた。旅人さんがいなくなって数時間が経過してあれから某所はどうなったのか、テレビや携帯で知っている。蒼天の自衛隊らしき大勢の人間が瓦礫の撤去を始め、命からがら避難できた人達と話をしている様子が見て取れる。

 

「悪いな英雄」

 

「気にするな。我等九鬼家も救助するつもりであった。義兄上に先を越されたがな」

 

遅れながらも到着した九鬼家専用のヘリが津波で沼地のようになってしまった地面に着陸して、扉を開けて出てみれば無事な建造物は殆ど皆無で、他は全て津波によって押し崩され壊れ尽くした建物の集められた残骸の山しか見渡す限り残っていた。

 

「朝まであった町が何もないなんて・・・・・」

 

「これが自然の力ってやつかよ・・・・・」

 

「おい、唖然としている場合ではないぞ。我等も撤去作業をするのだ。それが条件で連れてきたのだぞ」

 

「ああ、わかってる。旅人さんはどこにいるんだろうな」

 

ここにはいなさそうだ、と俺の呟きに気にせず英雄が続々と他のヘリから降りてくる執事服の九鬼家従者達に命を下し始めたところで誰かが話しかけてきた。

 

「何や自分等? 一般人は立ち入り禁止やで」

 

関西弁を操る女の声。振り返れば、紫の髪をツインテールのように結い上げ、姉さんよりも豊か過ぎる胸を水着で身に包み、短パンを穿いた少女がいた。年齢は俺より上か?それに背中に巨大なドリルも背負ってるけど、作業員の人なのか?

 

「あなたは?」

 

「ウチは真桜っちゅうんや。蒼天の北区の王の工作兼建設工業の総責任者やで。自分等が来ることを聞いておらんねんけど何しに来たんや?」

 

「決まっている。我等九鬼家もお前達蒼天の者と共に撤去作業をしに来たのだ」

 

九鬼家?訝しいと目を細め俺達を見まわす。

 

「後から来られても困るんやけどなぁ。もう六割以上撤去終えとるところなんよ」

 

「まだ残っているならば我等も同じことをしても構わんだろう」

 

「うーん、大将に訊いてみるさかい。ちょい待って」

 

話が平行線になりかねないと判断したのか、真桜は携帯を取り出して誰かに通信を繋げた。

 

「もしもし大将? 何か、こっちに九鬼家の連中が後から来て手伝いに来たと言い張るんですけどどうします? ・・・え、ほんまに? ・・・・・ほいほいわかったで」

 

彼女はこっちに顔を向けてくる。

 

「大将が了承したで行ってきぃや」

 

「大将って、えっと中央区の王様?」

 

「そうそう、何や大将の知り合いなん? まぁ、どっちでもええけどこの辺りはウチら北区の王の管轄になっとるから大将がいるところに行ってくれん? 大将曰く、ヒュームって金髪の不良執事がいるなら素直に従わず喧嘩を吹っ掛ける言動をしそうだから俺のいる場所を教えておけ、やて言うし」

 

不穏な気配を纏うヒュームさん。あながち間違ってないかもしれないです旅人さん。

 

「大将はこの先のずっと向こうにおる。ヘリで来たんならヘリで行った方が速いで」

 

「感謝するぞ。では皆、場所を変える!」

 

再びヘリに搭乗して旅人さんがいる場所へと移動開始する。時間にしてそこまで掛からなかったけど、眼下の景色は見るも無残な瓦礫や廃墟と化した町並みしか見えなかった。そして俺達が目的とする場所は大火の炎がキャンプファイヤーをしているかのように空高く煙も一緒に昇っている。使えなくなった木材を燃やしているのだと理解したところでヘリは着陸態勢に入った。

 

「ここは、凄いな」

 

「さっきの場所もそうだったけどここも粗方撤去作業が進んでいるみたいだね」

 

「それもそうだが、見ろあれを。あれがお父様が言っていた蒼天の軍事兵器だ」

 

「何だあれ、鳥のように飛んでるぜ!?」

 

「九鬼家にはない飛行パワード・スーツのようであるな。むぅ、蒼天はあのような兵器開発の技術を持ち合わせているのか」

 

「なんか、翼が生えてる救急車っぽいのもあるんだけどね。まさか空を飛ぶわけないよね」

 

普通の作業員じゃない者も交じって活動している蒼天の自衛隊を何時までも眺めていられなかった。

 

「協力要請した覚えはないんだがな。ま、そっちがそれ相応のことをしてくれるならこっちは色々と助かるな」

 

「旅人さん!」

 

「合宿所から抜け出した件はきっちり説教するからなお前等」

 

蛇を睨む蛙のように俺達を睥睨する。怒られる承知の上で来たんだが、やはりこの人を怒らせるのは非常に不味いようだ。冷や汗が止まらなかったのは多分俺だけだと思いたい。

 

 

 

 

 

 

何かを巻いてる物を持ってきた中央区の王が現れ、傍らにはまだ小学生ほどの小さな少女が二人いた。先が曲がったとんがり帽子やベレー帽のような帽子を被っていて、初めてみる大和達に対して緊張の色が顔に出て王の足に寄り添うようにくっついていた。

 

「子供? 何でここに?」

 

「はわわっ。こ、子供ではありません。西区の王と一緒に蒼天を支え政治を務めている朱里です。こっちは雛里ちゃんです」

 

「あわわ・・・・・」

 

反論する少女の言い分に「見た目はまんま子供じゃんか」と心中揃ってツッコミを入れた一同だが。

 

「・・・・・可憐だ」

 

「トーマ、準が壊れたー」

 

「ユキ、学園長に迷惑が掛からない程度、準をサポートしましょう」

 

慈愛で満ちた瞳で二人を見つめる準。

 

「てか、こんなちっこいのが大人の仕事をさせてるのか?」

 

「見た目よりも中身が凄いぞ。この歳でSクラス以上の点数を叩き出す秀才だ。名門の大学も飛び級で卒業もしてる」

 

「ほう、それほどまでの者とは感服したぞ。蒼天はやはり常識を逸脱した国なのかもしれんな」

 

「俺が作った国だぞ? この程度で驚かれちゃ困る。蒼天は夢の国、ファンタジーに作ったんだからな」

 

ファンタジー? 誰もが首をかしげるも手に持っていた巻物、東日本の各地図を宙に広げながら浮かせた。朱里と雛里が用意された踏み台に乗ってから現状の報告を告げる。

 

「蒼天の自衛隊500万人の活動もあって―――」

 

『500万!?』

 

「五月蠅い、口を閉じてろ」

 

睨まれて押し黙る大和達。

 

「撤去作業は避難者も協力させたから八割強進んで、見ての通りこの辺りは更地だらけの土地になっている。現在は救助・避難している人達の為に炊き出しをしているところだ」

 

「その他、行方不明者の捜索と亡くなった人達の遺体の回収が同時並行でしています」

 

「蒼天から送られてくる物資の輸送船の手筈も整っています。というより蒼天は大災害にあった国の支援や援助をするためだけに、昔から物資をいついかなる時の為に貯蓄していたので50万人の避難者が出たとしても10年までは問題なく生きることができます。ただ、問題なのが住む場所で今のところ解決の目途が立っていません」

 

説明は終わりだと一区切りをつけて口を閉ざす雛里。

 

「現状は以上だ。質問はあるか」

 

「我らが手伝えることはあるか」

 

「ぶっちゃけ、救出して助かった人数分の食糧が今だけ足りていない。家の崩壊が免れた一家から食料を持ってこさせてもだ」

 

「よかろう。我が九鬼財閥から民草の為に食料を集めて来よう!」

 

「だからって買い占めてくれるなよ?他の人に迷惑が掛かるからな。できる限り日持ちするものを―――」

 

こういう時の協力は物凄く助かると王の心中で英雄の存在に感謝していると。

 

「王様ー!」

 

「物資を届けに来たよー!」

 

不意にどこからともなく幼い子供の声が聞こえてきた。朱里と雛里ではない、この場に近づいてくる者はいない。ならどこだ?と思っていると太陽の光に影が出来上がって、自然と視線を真上に向けた時であった。

 

「え、えええええええええええっ!?な、なにあれぇっ!」

 

一子の素っ頓狂な驚きの叫びは皆の心中を代表にする言葉だっただろう。何せ―――数多の巨大な船が空に浮いているのだから。

 

「あ、後続の輸送船が到着しましたね」

 

「輸送船!?海を航海する船のことじゃないのか!?」

 

「蒼天の輸送船は飛行が可能とする輸送船です。数十年前から世界各地で起きた大災害時にはあの飛行する輸送船で物資を運んでいるそうですよ」

 

「蒼天の名物としても数えられているぞ。何時か空の旅ができる豪華客船も建造する視野も入れているんだ」

 

全体が青く、全長は100m以上はあるだろう。後尾に巨大なプロペラがつけられ船体の中心から伸びるように生えている翼、エンジン。輸送船と輸送機を融合させたような巨大な物が上空を飛んできている光景に初めて見る大和達は心底から度肝を抜かされたのだった。

 

「あれ、どうやって飛んでいるんですか?」

 

「秘密に決まっているだろう。因みにあの船を設計したのは俺で完成させたのが俺と真桜達技術班だ」

 

「真桜、え、彼女もですかっ!?」

 

ただの巨乳の娘じゃなかったのか!?と 愕然とする驚きの事実だった。

 

「義兄上、蒼天は人材の宝庫なのですか」

 

「誰が義兄上だ。それと人材の宝庫なのかって? 別にそうでもないぞ。ただ、強いて言えば普通の人間より優秀な家族が国一つ分の人口の分程度はいる。強さは九鬼家従者に劣るけどな」

 

「先程、500万の自衛隊が活動している話だったが、蒼天の人口はどのぐらいなのだ?」

 

「2000万以上。日本より少ないだろ」

 

少ないが、人口の一部の自衛隊をポンと駆りだすことができる理由としては不十分。毎日訓練でもさせているのかと気持ちになるが離れたところで地上に着陸した船が搬入口を開いて物資を出し始めた。

 

「王様ー!」

 

「ただいま到着しました!」

 

「やっほー、シャオも来たよー!」

 

「・・・・・また、可憐な幼女が・・・・・」

 

「冬馬、準の様子がさっきから変だぞ。何なんだ」

 

「学園長は知らなかったですね。準はロリコンなんですよ」

 

「来るなお前達! ロリコンの毒牙にかかるぞ!朱里と雛里も今すぐ避難だ!」

 

割と本気で言う王に幼い少女達は軽く驚いた表情で目を丸くした。

 

「失敬な旅人さん! 俺は小さい花を見守ることが好きなだけなんだ! 襲うなんて以ての外だ!」

 

「本音は?」

 

「おにいちゃん、一緒に遊ぼーとか、おにいちゃん、はいあーんとか、おにいちゃん、一緒におねんねしよーとか、そういうことされたいだけなんだ!」

 

「・・・・・悲しすぎる」

 

orzとガチで準のロリコン度に落ち込みだす王を心外だと準は冬馬に親指で突き差した。

 

「オイオイ、若なんて女だけじゃなくて男もイケるバイセクシュアルだぜ」

 

「・・・はっ?」

 

「止してください準。いくら本当でも公にするものではないですよ」

 

「我が友冬馬よ。義兄上が無言で距離を取り始めたぞ」

 

「ある意味、それが正常な反応だよね」

 

朱里と雛里を抱えて名も知らない三人の少女達のところへ避難する王に誰もツッコミはしなかった。

 

「あの、旅人さん。その子達もどこの区かの王の下で働いている子供ですか?」

 

「そうだよー。シャオは南区の王、雪蓮(シェレン)姉さまの三女の妹のシャオレンだよ」

 

桃色の長いツインテールを輪っかに白いリボンで結い、青い瞳は純粋無垢な光を宿し臍を出している腹部から窺える瑞々しい身体は褐色に染まっている。

 

「シャオ、お前抜け出してきたな? おてんば娘め。国にいろって雪蓮に言われなかったのか」

 

「言われたけどさー、シャオもちょっとでもいいから外国に行ってみたかったもん! 勿論二人の手伝いもするよ?ねー、いいでしょー?」

 

王の身体に未成熟な体を擦り付け甘える仕草をしておねだりする。その姿に何かクるのか何人かの少年は顔を赤らめたり、若干前かがみの姿勢になった。だが、王は無造作に小蓮の頭を鷲のように掴み上げて持ち上げた。

 

「・・・・・帰ったら蓮華(レンファ)と一緒に説教だからな? 逃げたら尻叩きだかんな?」

 

「ひぅッ!?」

 

浮かべる笑みの裏で隠れた恐怖を感じ、怯えて涙目になる小蓮。地面に下ろして促す。

 

「電々、雷々、まだ手が欲しいならこいつらもコキ使え。手伝いに来たらしいがやらせることが無くて悩んでいた」

 

「はーい、わかりました」

 

「じゃあ、早速物資の運搬をしてもらうねー」

 

「しゃ、シャオも手伝うわよ!」

 

橙色の髪の双子の少女、姉が電々、妹が雷々と小蓮についていく大和達を見送ると三人は来た道に戻り始める。

 

「王様、良かったのですか?」

 

「どうすることもままならん。好きにさせておけ。それよりももう少しで日が暮れる」

 

空を見上げながら夜になった時の避難民の今後を見据える。

 

「はい、皆さんの寝泊まりする場所は客船を兼ねている輸送船になっております。しかし、それでも一隻につき千人程度しか利用できません」

 

「幸い、王様が津波による災害を防ぎ、多くの建物の崩壊を守れたおかげで壊れていない家の人達はそこで住んでもらうことができます。ですが・・・ライフラインが全て寸断していて不便な思いをさせてしまいます」

 

「ああ、今は仕方がないとして割り切るしかない。だから朱里、雛里。避難者の数を今日中に的確に打ち出せ。人数によっちゃあ蒼天で避難生活をさせるぞ」

 

当初の予定とは異なることを王が言い出して面を食らう二人であったが、直ぐに朱里が何か思い出した風に口から言葉を零す。

 

「あ・・・・・もしかしてあの異常な増築はこのために・・・・・?」

 

「前話し合った件があるだろ。あっちが本命。だが、状況が状況だ。復興が完成するまで蒼天に避難させれば政府も肩の荷が軽くなるだろう。当然だがタダでするわけないがな」

 

「物資の要求をするのですね。人数によっては数倍以上求めることになりますが」

 

朱里の言葉に人差し指を立ててもう一つあると伝える。

 

「それもあるが、避難者にも仕事をさせる。復興するまで多く抱え込むことになるだろうがその分、国の発展にも繋がるはずだ。今の蒼天の生産力も増すだろう。主に漁業と農業な」

 

「雪蓮さんと桃香さんの区に避難させるんですか?」

 

「余裕だったらな。全ての区に避難させるつもりだけどできるだけ同じ県、同じ地域の住民を同じ区に避難させたい。顔見知りがいたらそれだけで安心するのが人だからな。初めて出会った時のお前ら二人の時なんて―――」

 

「はわわっ!?い、今はもう違いますよぉっ~!」

 

「あわわっ・・・・・!」

 

 

 

 

「はーい、皆さーん。一列に並んでくださーい!まだまだご飯のおかわりがありますからねー!」

 

「たくさん食べてくださいね」

 

「着替えが欲しい人はこっちに並んでください!」

 

西区を統治する王達が炊き出しに精を出している真っ最中のところに大和達が合流した。そこには数えきれない数の人の長蛇の列ができていて、終わりがないように見える。それでも生き残った人達の為に全力で支援をする姿勢の王の顏は輝いていた。

 

「旅人さんが彼女を王にした理由が何となくわかった気がする」

 

「可愛いもんな」

 

「容姿は確かに可愛いけど違う!ガクト、お前旅人さんに叱られるぞ」

 

「おーい、喋ってないで手伝ってー。たくさんあるから早く追加の食材を出さないといけないんだからー」

 

「この井上準にお任せあれ!」

 

「おおっ!一気に五個も持つなんてすごーい!」

 

心から驚嘆する電々の称賛にテンションが高くなった準が終始笑みを浮かべる。愛しい小さな少女から褒められることは神からの祝福のごとくであるので、人の二倍以上の働きをする準は電々に印象を与えた。

 

「にゃー、お兄ちゃんやるのだ。鈴々も負けないのだ!」

 

そこへ対抗意識を燃やす赤髪のくりくりとした大きな眼の子供が積み重なった荷物を持ちにやってきた。微笑ましい言動をするが危ないとやんわり静止の言葉を送る。

 

「お嬢ちゃん。まだ小さいから持っちゃダメだよ」

 

「鈴々ちゃん、お願いね」

 

「わかったのだ!よいっしょっと」

 

準の制止を軽く流された。電々のお願いに鈴々と呼ばれた少女は―――まだ低学年の小学生並みの身長の少女の身体とは思えない、小さな両腕で十個も積み重なった状態の箱を軽々と持ち上げて持っていくあり得ない光景に準だけじゃなく、大和達も開いた口が塞がらなかった。

 

・・・・・。・・・・・。・・・・・。

 

・・・・・。・・・・・。

 

・・・・・。

 

 

「王様、後に増えるかもしれませんが概ね各県の死傷者と行方不明者、生存者の算出ができあがりました」 

 

夕日が沈み、電力の送電ができず一つも灯りがない元町を覆う暗闇の中。蒼天が製作した数多くの照明塔で照らされる更地を一望できるように設置された展望台にいた時、朱里から報告書を受け取り内容を確認する王の眉根が皺を寄せた。

 

「まだこんなに助けられなかったか・・・・・自分に嘆かわしいな」

 

「・・・・・心中察します。ですが、その結果の逆を思えば王様に助けられた人が多くいるのです」

 

「分かっている。行方不明者の捜索は全力で地面を掘り起こしてでもやってくれ。

 念のために山の中や海底もだ」

 

「はい、そのように」

 

「もう一つご報告が。日本政府の者が面会を求めています」

 

今頃か、と嘆息の王は展望台を後にして面会を求めている政府の役人のところへ向かう。直立姿勢の黒い服装を着込んだ中年の男性が深々と王の姿を肉眼で捉えると上半身を折って一礼した。

 

「お初にお目にかかります蒼天の王。私は―――」

 

「ほのぼのと挨拶をしている状況があるなら日本政府の対応を俺の目の前でしてほしいんだが? 何時になったら日本の王は動き出す」

 

役人の頭を鷲掴み至近距離で睨みつける。

 

「どうしてこの国の頭じゃなくてお前? お前に何の権限を渡されてここにいる?」

 

「わ、私は総理の代理として貴方様に感謝の言葉と現状の報告を―――」

 

「感謝の言葉はいらないから。現状のことを知りたいなら自分で確かめに来いと伝えてこい」

 

追い返す仕草をする王に慌てる役人は必死に取り繕うとするが、取り付く島もなく言い返される。

 

「死者と行方不明の数は追々提供する。それと津波で家屋を失った住民だけはしばらくの間は蒼天に避難させる。お前らはさっさと二回目の大震災が遭っても問題がないような町を創り直すことに全力でやれ、そう総理に伝えておけ。いいな」

 

「そ、そんな勝手なことを・・・! 我が国民を他国に避難させるならば手続きをしてもらいたい! 独断で連れて行く行為は蒼天が拉致したと疑いを向けられますぞ!」

 

「勝手? これは蒼天と日本が同盟を結んだ際に取り決めたことだ。お前、政府の人間なのにそんなこと知らないのか? 蒼天と日本、どちらかが大規模な災害に遭った時は迅速的な救助活動と援助をする盟約をよ。これも立派な救助活動に過ぎないぞ」

 

それともなにか、と王は役人に顔を詰め寄せる。

 

「お前等だけで俺一人分の働きが出来るというのか?」

 

「ひ、一人分ですと・・・・・?」

 

訳の分からないと言いたげな役人の首を掴んだまま空へ飛び、巨大な氷壁がある湾内へ連れ去った。

 

「あそこを凍らせなかったらもっと津波が押し寄せて住宅街や商店街の建物が今よりも倒壊して流されていただろう。中には身体が不自由だったり自宅で寝転んで生活する人間もいて、避難する暇もなく津波に巻き込まれてただろう」

 

「・・・・・」

 

「俺も全ての人間を救う事はできない。津波発生した直後に蒼天から報せがあって、俺一人でここまでの事態に収束させても死者を出してしまった。それでもそれ以上の人の命を救った」

 

役人に顔を向ける。

 

「でさ、お前たち人間は津波の警報を知ってから俺のような働きが出来るのか?」

 

「・・・・・っ」

 

「後は自分達でやるって言うなら蒼天の自衛隊を退却させる。もちろんお前の判断で決めろよ?」

 

それから役人を追い返すように総理大臣の下へ送り返した王は雛里に訊ねた。

 

「住処を失った避難者の収容は進んでるか?」

 

「北区と南区の方はもう間もなく完了します。ここの県の人達も桃香さんの説得の甲斐があって皆さん納得して就寝の準備をしてくださってます」

 

「蒼天に待機している東区の王達の懸命の働きもあって受け入れは70%です。明日になれば万全を期して皆さんを限定的な移住をさせることができます」

 

一つ頷く王はとある方へ視線を注ぐ。

 

「明日、死者の弔いをする。華琳と雪蓮にもそう伝えてくれ。それから蒼天に行くぞ」

 

「「はい」」

 

そして日本の大震災から一日経った翌朝。王達がいる某県で津波によって亡くなった人達の遺体がドーナツ状で間隔等に並べられてぽっかりと開いた中心に王が立っていた。死体の傍には遺族が寄り添い意識を王に向けている。

 

「まずは、日本政府と俺の不甲斐なさでお前達の友人や家族、愛する者を救えなかったことに謝罪を。―――申し訳なかった」

 

深々と謝罪の念を込めた土下座をその場で示した。遺族達と避難者は酷く驚き、息を呑んだ。一国の王が自ら非を認め汚れを惜しまない土下座をしたことに言葉も失った。

 

「大震災の時、俺はこの国にいた。そして地震が発生すると悟り一目散に駆け付けた時は、既にこの県を含め三つの県が津波に襲われていた。全力で助けを求める人々を救ってきたが、それでもまだこんなに助けることが出来ず死なせてしまった多くの人達がいる。深く申し訳ない・・・っ!」

 

「皆さん、ごめんなさい!」

 

『申し訳ございません!』

 

世界の王として他国の国民に謝罪する姿を蒼天の自衛隊や王達は静かに見守っていた。否、西区の王達は自分達も王と同じ気持ちだと一人残らず全員が土下座をしたのだ。

 

「謝罪をされようが死んだ者は生き返らない、と思っている者は必ずいるだろう。そして避難者と遺族のお前達の中に助けられなかった己を悔やみ怒りを抱いている者もいるだろう。だが、俺達は何時までも悔やんではいられない。前に進まなければいけない。それが人だからだ」

 

王達が立ち上がり、王が片腕を天に衝くと眩く発する光から金色の錫杖を掴み取り、全身を金色の光を迸ると六対十二枚の天使の姿になった。

 

「これから葬儀を始める。遺族の者は亡き者に冥福を捧げてくれ」

 

その通りにする遺族達を見守りながら錫杖を揺らす。シャランと綺麗な音を鳴らすと王達の背後に幾何学的な円陣が浮かび上がって巨大な黄金の大鐘楼が出てきた。

 

「自衛隊、鎮魂歌の鐘の音を鳴らせ!」

 

『はっ!』

 

パワード・スーツを装着している自衛隊達が一斉に動き出し、鐘の音を鳴らすための黄金の鎖を掴んで桃香の合図と共に鎖を引っ張り鳴らした。とてもとても美しい鈍重でありながら極東中を鳴り響く鐘の音。

 

カラァー・・ン! カラァー・・・・・ン! カラァー・・・・・ン!

 

その鐘の音は歌声にも聞こえ、この地で亡くなった死者たちに対する鎮魂歌(レクイエム)。天に召された死者達に届ける歌を耳にしながら王は錫杖を地面に突き刺した途端に、王を中心に水の波紋のごとく淡い金の光が広がって大地が祝福を受けたかのように輝く。それは地上だけでなく空―――天も同じだった。青い空が塗り替えられたように黄金の空となって地上に天の光が注ぐ。王が空高く浮かび上がり三人に分裂、金色の翼を百メートル以上も大きく伸ばす。そして祈りを捧げる姿勢となって。

 

「死者達よ安らかな眠りに至れ」

 

遺体に向かって翼から放たれる神々しい光。その光を浴びた遺体から身体が透き通った亡くなった人の魂が出てきた。最後の別れだと魂の状態の者達は、遺族達に声を発せなくても口を動かして伝える。遺族達は涙を流して天に昇る魂を見送る。空にいる王にも感謝の言葉と安らかな笑みを浮かべ空の彼方へと消え去って、残された遺体の中心に様々な野花が咲き乱れ、遺体から植物が生えたと思えばどんどん成長して樹木と化し―――最後は桃色の花弁を咲かせた。

 

「桜・・・・・」

 

「奇麗・・・・・」

 

祝福された葬儀として遺族達の涙が止まらない。咲き誇る桜が遺族達を包み込むように花弁を落とす。しばらくして金色の空は元の青い空に戻り、王が舞い降りた。

 

「死者の魂は天に昇った。冷たい遺体は綺麗な花を咲かせこれからも春の季節になれば何度でも咲くだろう。そしてその瞬間を見守るお前達はこれからも生き続けなければならない。それが大震災の中で生き残ったお前達の義務だ」

 

遺族達と避難者達は王の言葉を深く受け止める。

 

「俺は蒼天の王、お前達が自然災害に遭った時は必ず助けに行く。約束する絶対にだ」

 

金色の錫杖を消失した後、王が手を叩くと桃香達が動き出す。

 

「さあ、まだ食事をしていないから腹が減っているだろう。この墓標代わりの桜の木の傍で死者を弔う意味を兼ねて花見をしようじゃないか!」

 

不謹慎な、とは誰も口にせず用意される料理の数々に人々は口にして桜の木に囲まれながら食べるのだった。それは華林と雪蓮がいる県でも同じで数時間後、蒼天に向けて避難者を乗せた輸送船が飛び立つまで続いたのであった。

 

「王様、凄かったです。あんなことができるなんて・・・・・私、感動しました」

 

「感動してくれるのはいいけど、これから大変だぞ。桃香の区に大勢の避難者が住むんだ。その対応に追われる仕事をするんだからな」

 

「はい、一生懸命頑張ります!」

 

「愛紗、桃香が逃げ出さないように見張ってな」

 

「はい、勿論です」

 

「あー! それ酷いよ王様、愛紗ちゃんも!」

 

「にゃはは、おねーちゃんはたまーに息抜きと言って遊んで帰ってくることが多いからなのだ」

 

「鈴々ちゃんまで!?」

 

王達の会話中に自衛隊の一人が報告をしに現れた。

 

「報告です。南区と北区の輸送船に密航者を発見しました」

 

「は? 何だそれそんなことする奴なんて・・・・・いや、心当たりがあるな。九鬼家の奴か」

 

「はっ、その通りでございます。未だ捕らえ切れず逃げ回られているようです」

 

「・・・・・はー、どうしてくれようか。大方あの老害共の仕業だろうな」

 

「このまま連れて行くのはどうかと思うのだおにーちゃん」

 

「分かってる。俺が直々に捕まえて海に落とす」

 

「そ、それもあんまりだと思いますが」

 

「俺が知っている九鬼家従者は海に落とされても日本に戻れる超人の集まりだぞ。IS部隊を軽くあしらっている時点で従者の位は二桁の奴だ。しかもそれぞれ一人か二人乗っている輸送船じゃない船に乗っているか乗っているだろう。全部の船から探し出すとするか」

 

最後の仕事ばかりと報告をしに来た自衛隊の首に腕を回しながら引きずる王。

 

「俺の前でもバレないとでも思ったか九鬼家従者」

 

「「「えっ?」」」

 

「な、待ってください!私はあなたに仕える蒼天の人間ですよ!?」

 

「言ったな? じゃあ、蒼天の人間、西区の人間しか分からない質問をさせてもらおうか。西区を統治している王の名前は?」

 

「桃香様です」

 

「うん、じゃあ桃香のフルネームは?」

 

「は?」

 

思わず零してしまった呟きに愛紗の目が据わった。

 

「貴様、本当に西区の人間ならば貴様のことを教えてもらおうか。この船に乗っている大半の者は自衛隊。貴様の所属と階級、隊長の名前を言え」

 

その自衛隊は口を閉ざすばかりで返事をしなかった。答えることが出来ないのだということを沈黙で返しているのが明らかだ。王はにこやかに、でも威圧的に話しかける。

 

「言っておくがお前等のスパイ行為は許されないことだから覚悟しろよ。他の区の王はともかく、俺の国に不正して入国しようとする輩は容赦しないんで」

 

無造作に自衛隊の服を掴み破り捨てると九鬼家従者専用の執事服が曝け出された。

桃香が目の前の変装した侵入者に驚くよそに、王が瞳を怪しく輝かせると変装していた者の瞳から生気の光が失った。

 

「さて、俺達の船に何人お前と同じネズミが潜んでいるか教えてもらおうか」

 

 

 

 

 

 

 

「ヒューム、やはりバレてしまったようです。一人残らず、報告がございません」

 

「簡単に蒼天の情報は集められないか。侮れない奴だ蒼天の王」

 

「十中八九、私達の仕業であることも把握したでしょうね。さて、この後私達はどんな目に遭うでしょうか」

 

「知るか」

 

 

後日―――九鬼家財閥に金髪と銀髪の某人物のBL漫画が数百冊も送られてきて、数多くの従者達の間で二人の関係性を疑われる羽目になった。しかも九鬼家と連携している全世界の小中大の企業や会社員に一人一人配られていた事実が発覚した。その本は英雄と紋白、遠い地にいる揚羽、川神市と神月学園にまで送られていた。

 

「のぅ、ヒュームとクラウディオ。お主等は付き合っておるのかの? 裸で抱き合って仲睦まじい姿の本があったぞ」

 

「紋様、それは蒼天の王の悪戯で・・・・・」

 

「何故そのような悪戯をするのだ? そんなことする理由がないと思うぞ」

 

「うむ、我もそう思うぞヒュームよ。義兄上に怒りを買うようなことなければしないであろう」

 

「であるな兄上よ」

 

言えない。蒼天を調べようと少なくない数のスパイを送ったことで、このような事態になっていることを二人はとても言えない。身内だけは何とか疑いを晴らせ黙らせることが出来ようとしばらくの間、ヒュームとクラウディオが外に歩けば二人を見て関係性を疑い、顔を赤らめて黄色い声を上げる者が多数いたとかいなかったとか。

 

 

 

「王様・・・・・流石にやり過ぎでは?」

 

「ナメられちゃいかんのだよ燕君。またスパイを送られるのは困るからなー。あくまでこれはただの牽制だ。次もしたらこれ以上のことをするぞ、とな」

 

「蒼天にまでこんな本を販売されていることを知ったら被害者の方は堪ったもんじゃありませんよ」

 

「自業自得だ。こっちは命の救助活動をしているってのに、向こうは道徳に反することをして来たんだ。これぐらいの仕返しは受け入れるべきだ。その上、スパイ相手の対策を考えなくちゃいけなくなったからな。さて、どうしてくれよう」

 

「未遂でも蒼天に手を出しちゃいけない理由は絶対この人だろうねぇ・・・・・私も気を付けよ」



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新しい同棲者

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各某県某所で起きた大震災に遭った避難者を蒼天に避難させて数日後の夜。多忙に追われていた全ての作業を終えた頃には強化合宿の期間は終わっていた。川神市の親不幸通りにある家に帰宅した時。

 

「あー・・・・・燕、伝える状況じゃなかったから伝えそびれたけど紹介する人物がいる」

 

「え、誰です?」

 

家の中に入りながら歯切れ悪そうに言う王は、燕と一緒にLDKへ足を運び・・・椅子に座って紅茶を飲んでいた水色の髪の女性がこの家の主の帰宅に気付き、隣にいる黒髪の少女の存在に苦笑を浮かべる。

 

「初めまして、ね。イッチョウちゃん」

 

「えええっ!? イ、イズさん? どうしてここに!?」

 

「震災地に住んでいたんだ。津波に呑み込まれかけていた家から助けて以降はこの家に居てもらった。理由はわかるよな」

 

「・・・・・王様のことですよね」

 

その通りだと肯定する王は、こればかりは参ったと頭を掻く。

 

「彼女のことは一応信じるが、もしもと言うことがある。家も仕事も失ってしまった彼女は蒼天に移住してもらおうと提案したんだがな」

 

「・・・・・ここにいるってことはそれを拒絶したってこと? そうならどうして?」

 

燕の問いにイズは申し訳なさそうに言葉を返す。

 

「ハーデス、ううん。気心が知れてる彼と復興が終わるまで一緒に住みたいってお願いしたの」

 

「それこそどうしてって気になるんだけど、両親は?」

 

「・・・行方不明になってるの。津波も私がゲームから強制ログアウトされるまでは気付かなかったわ。友人とも連絡が付かないし。生死問わず確認できたらすぐに彼に報告される手筈になっているから、それまでいさせてほしいとお願いしたの」

 

「ゲーム内でとはいえ、一緒に遊んだ仲だから放っておけない理由もある。被災者達を蒼天に避難させたからって完全に終わったわけじゃないから蒼天も行方不明者の捜索だけは続けている。その中に彼女と繋がっている者がいれば助けなきゃならないという事だ燕」

 

筋は通っているかもしれないが、それなら別にこの家に住まなくてもホテルで泊るか部屋を借りて待っていてもいいんじゃないか、という思いがないと言えば嘘になる燕には選択肢がない。全ての決定権は燕が慕っている王が握っているのだからだ。

 

「わかったよん。でも、見つかった後はどうするの?」

 

「川神市のどこかに住んでもらう予定だ。ここは治安が悪すぎるからなぁ」

 

「そんな場所に家を構えるなんて案内されたときは吃驚したわ。ヤクザの人がたくさん来て頭を下げられた時は特に」

 

「お前の外出の際は他の悪い連中から守ってもらうよう頼んだから当然だろ」

 

「ヤクザと繋がりがあるの?」

 

「ちょっと、一騒動を起こしたのは事実だな」

 

その話はまだ私も知らないなぁと思う燕だった。

 

「と言うわけでだ燕。短くて半年、長くて一年以上は一緒に同棲することになったイズこと―――」

 

「杜崎瑠海よ」

 

「松永燕です。よろしくねー」

 

二人が現実でも知り合い握手を交わした。

 

「燕ちゃんって呼んでいいかしら。ちょっと一言だけ言わせて?」

 

「もちろん。私も瑠海さんって呼びますね。それで何かな?」

 

「―――私どうやら現実でも負けたくないことが出来ちゃったみたいだから、燕ちゃん相手でも遠慮しないわよ」

 

「ほほう・・・・・どんな勝負でも受けますよ私は?」

 

微笑みながら繋ぐ握手に力が籠り、二人の間に火花が見える幻覚に王は心底不思議そうに小首をかしげる。

なに張り合ってるんだこの二人は? と・・・・・。

 

 

 

夕食を終え、小休止してからゲームをする前に燕と瑠海とテレビのニュースを見ていた。三日前からテレビや新聞は日本で発生した地震で持ち切りだ。

 

『各某県の大震災から四日目の今日。某県の住民達が蒼天に避難していますが避難者の状況が今だ分かっておりません。私達政府は避難民達の詳細を蒼天に問い合わせていますが返答がなく「対策本部を設置している暇があるなら復興に全力を注げ」と質問に応じてくれませんでした。ええ、勿論やりますとも。しかし、できれば会見を開いて避難民達のことについて語り合いたかったものです』

 

『しかし総理、倒壊して住む家を無くした避難民達の対応はあの時すぐにできていたのではないのでしょう? ライフラインが寸断した町を復興させるよりも先に、避難民達の生活を守るため蒼天の王が行動をしたものだと思います』

 

『ええ、彼等の行動力に私も舌を巻くほど驚かされましたよ。こちらが自衛隊や緊急救助隊員を派遣するよりも自衛隊500万を総動員して迅速な活動をした。海のど真ん中にある国から来た彼等に頭が上がりませんよ』

 

『総理、現状の津波の被害に遭った各某県の復興については蒼天も介入するのですか?』

 

『いえ、ありませんよ。寧ろ先程申しましたように復興に全力を注げと蒼天から促されたのは、日本だけで復興することなのです』

 

『今回の自然災害時の対応については? 国民からは「自分達の国なのに外国の人達に助けられている間、政府の対応が遅すぎる」「外国の人達が全員土下座して何も非がないにも拘らず謝罪したのに政府は謝らないのか?」との声が挙がっています』

 

『それについては私共も深く痛感しています。この国に住む国民としてこの国の上のトップに立つ者として対応が遅れたのは真に申し訳がないと心の底から思っています』

 

『今回の救助活動は蒼天の自衛隊だけで行われ、日本の自衛隊は一人も救っていませんが感謝したのですか?』

 

『今は対応に追われ多忙な状況でございます。正式な会見で蒼天に―――』

 

『蒼天の王も多忙な日々を送っていると思います。そんな中で各某県の住民達の為に王自ら駆け付けたというのに、総理はどうしてそんな悠長にしていられるのですか? 彼等の迅速は今じゃ世界一と謳われています』

 

『その通りですよ。政府も自衛隊も蒼天に見倣って迅速的な対応をするべきではないのですか? 昔、発生した大規模の大地震時は日本の自衛隊ではなく蒼天の王と自衛隊がいの一番に駆け付けてた記録が残されています。政府と自衛隊は何一つ進歩していないのではないのですか』

 

『総理、このまま日本は蒼天におんぶにだっこをしてもらうばかりですか?』

 

それ以降、総理に向かって質問攻めを繰り返され見るに堪えないと電源を切った。

 

「総理、大変な目に遭ってるわね」

 

「それが上に立つ者の運命みたいなもんだ。いつか俺もあんな風にされる側だぞ」

 

「批判よりも賛美の嵐の方がすっごく多いですけどね? 避難者の皆はどうですか?」

 

「変わった環境にやはり戸惑いを感じているな。学生達は一週間以内にでも蒼天の学校に通わせるが、蒼天に馴染んでもらうには時間が必要になる」

 

「整った環境の中での生活も直ぐには安心できないですか」

 

「それでも日本の簡易避難生活よりはいい方だろう。寝てばかりで何もせず先が不安な生活を送るばかりよりは、仕事がある安定した生活の中は人らしく生きられる」

 

「結構な人数を急に抱えても問題ないの?」

 

「建物だけは何時でも収容できるように増築を繰り返していたから問題ないが、仕事の方は慎重に選り抜きしている。仕事ができない体の避難者もいないわけじゃないしな」

 

机の上にあるその避難者の名簿の書類の四つの束に手を置いた。

 

「そうですか。で、王様自身は仕事終わったの?」

 

「もう終えたぞ。海に面した町に住んでいた住民だから割と簡単だった。彼等の仕事のスキルをそのままフルに活用してもらう。後はそれを整えるのが桃香達の仕事なわけ」

 

書類が光に包まれて机の上から消失した。王しか知らない御業で四人の王へそれぞれ転送したのだ。

 

「震災の地に残した人達の方はもう手を出さないんですか?」

 

「地震の影響でライフラインが寸断されているからな。こういう状況になることを想定して作った船を数隻配置してある。復興が終わるまで浴場と食事は問題ない筈だ。それに蒼天だけでなく九鬼家も動くみたいだから負担は半々だ」

 

だから問題は少なくともないのだと頷く王。久々にそれぞれの自室へ入り、ベッドの上で寝転がってハードのヘッドギアを被り電源を入れるとNWOの世界へと突入する。ゲームの世界に入った瞬間、布団から起きて豊作になっている畑にいるリヴェリアやオルト達と挨拶を交わす。

 

「ただいまー」

 

「ムムムー!」

 

一週間日ぶりの再会を喜ぶオルトを皮切りにゆぐゆぐ達もこっちに寄ってきて一気に抱き着いてきた―――って。

 

「待て待て順番だお前等! 流石に重い重い! クママ、走って飛びつく―――!」

 

ドシーンとタックルしてくるクママによって俺は皆に押し潰される形で倒され、やっと起き上がれた頃には数分ぐらい経過していた。ようやく皆とハグをした頃にはフレンドのメールが届いた。

 

「ペイン達か」

 

久しぶりにインしたことを気付いたようだな。フレンドを見ていたのか? メールをそれぞれに送り返してやっと改めて畑を見たら・・・・・。

 

「おお、壮観な光景になっているじゃないか」

 

一週間日もあれば芽を出す種とすくすく成長した苗木が畑を埋め尽くそうとしていた。水晶のエリアで採取したアイテムも日の光を浴びて輝いてるな。

 

「俺がいない間に頑張ってくれたな。ありがとう」

 

「ムムー!」

 

当然だ! とばかりに誇らしげに自分の胸を叩くオルトと微笑むゆぐゆぐに

手? と上げるオレア。サイナには頭を撫でながら感謝の言葉を送ると、三人も撫でろとばかり頭を突き出してくるので感謝を込めて撫でまくった。

 

「サイナ、異変とかはなかった?」

 

「はい、問題ありませんでした。フレイヤが空腹の際は私が使役し食欲を満たす程度です」

 

「俺が居なくても独自に動けるのか。分かってたけど万能だなサイナ」

 

知性(インテリジェンス)の塊ですから」

 

それを言わなきゃインテリジェンスなんだがな。自己主張したい性格なのかなこのご奉仕メイドロボは。

 

「久々に戻って来たけど、次のイベントまでは生産でもするか。ゆぐゆぐ、ヒムカは地下の工房でそれぞれ生産の作業をしててくれ。ルフレも料理を作って欲しいかな」

 

「―――♪」

 

「ヒム!」

 

「フム!」

 

材料? そんなの集めてるに決まっているだろ? 俺がログアウトしてる間にサイナには生産系スキルを持つヒムカ達のために素材を集めてもらっているんだからな。

 

「サイナも作ってみたらどうだ? 一つぐらい知性(インテリジェンス)溢れる作品あってもいいと思うが」

 

「かしこまりました。マスターに相応しい知性(インテリジェンス)の物を作り上げて見せましょう」

 

「最高の知性(インテリジェンス)を頼む」

 

どんなものが作られるのか楽しみだな。・・・・・そうだ。

 

「マモリー」

 

「あーい!」

 

呼べばトコトコと近寄ってくるマモリにほっこりしながら問いかけた。

 

「お前の手伝いとやらは皆の行動を撮影と保存ができるのか?」

 

「あい!」

 

手を挙げた。できるのか? じゃあ、お願いしようかな。

 

「保存したら俺に言ってくれ。俺も見てみたいからさ」

 

「あーい!」

 

うん、可愛いな。

 

「ハーデス!」

 

俺も生産でもしようと立ち上がった時に久方ぶりなペイン一行が入ってきた。久しぶりーと手を挙げるとフレデリカから強く抱きしめられた。

 

「一週間ログインしてなかったから心配したよー!」

 

「ああ、悪いな。野暮用があったから遊ぶ暇なかった」

 

「もしかしてお前震災に巻き込まれていたのかよ? テレビじゃすげー話題になってるぜ」

 

「詳しくは言えないが震災に関わっていたのは確かだな。その前は学園の行事で強化合宿に行ってた」

 

「なるほどね。それじゃあゲームできるわけないな」

 

「とにかく君がまたこのゲームに来てくれただけで安心したよ。フレデリカが毎日ログアウトする前は必ずここに通いつめていたからね」

 

あらやだ、うちの奥さん可愛い!

 

「心配かけたな。現実じゃあお前の連絡先がわからないから伝えることが出来ないし」

 

「・・・・・じゃあ、連絡先交換しよ」

 

こうしてフレデリカの携帯のメールアドレスと交換することになったわけであった。

 

「夫婦の感動の再会に水差すようで悪いが、ひとつ教えてくれね?」

 

ドレットが畑の―――水晶樹の方へ見つめた。

 

「あのデカい五本の木は世界樹だとしても、水晶の樹は初めて見るな。どこで手に入れた?」

 

「1000M以上マグマを潜水しないといけない場所ですが何か」

 

「俺達には絶対無理だな」

 

【マグマ無効化】はともかく【海王】を取るためには一苦労するだろうな。

 

「連れていけなくはないけど・・・ああ、ラプラスって会った?」

 

「何度もフレデリカの付き添いで来てるから会っているよ。聞けば魔法使いの最上位、神の名が付く職業の一つらしいね。色々と教えてくれたよ。剣神という職業もある話を聞けてさらに上を目指せる意欲が高まった」

 

「それは重畳。で、ラプラスと俺の間で自力以外他のプレイヤーを案内してはいけない約束を交わしてしまったんだ。だから連れていけない」

 

「じゃあどんなモンスターがいたんだ?」

 

それぐらいならばと水晶系のモンスターのことを教えた。未知のモンスターには大変興味あるようだが、マグマの中を泳がないといけない難解をどうにかしないとな。

 

「どうやってハーデスはマグマの中を泳ぎ続けられるようなったの?」

 

「【海王】ってスキルだ。潜水している間は溺死しなくなる水場限定のスキルだ」

 

「マグマは水じゃねぇぞ」

 

「水もマグマも液体状だろ。身体を突っ込めて泳げるならそこは水場も当然だ」

 

「なんて暴論を言いやがるんだこいつ。で、一応聞くけどそのスキルはどうやって手に入れた?」

 

「周回&タイムアタック。一定時間内にボスモンスターを所定の数だけ倒すことと、一定の時間内にダンジョンをクリアすること。具体的に言えば1分30秒以内にボスモンスターを10体倒せってこと」

 

出来るものならやってみろと込めて情報提供した。ペイン達は少し静かになったのが不思議だけどな。

 

「そこまで教えてくれていいのか?」

 

「俺のせいでフレデリカもお前達も迷惑をかけたお詫びだ。ああ、地底湖に潜るとボス部屋に続く迷路なルートがあるから、そこは自力で辿り着いてくれ」

 

「地底湖にボスモンスターが? 湿地帯のエリアに入るためのボス以外にもいたのか」

 

「俺とイッチョウしか知らない情報だからなー。湿地帯エリアの方だけ情報を流したからいい隠れ蓑になった」

 

「ハーデス、意外と狡猾だね。ボスの強さって?」

 

「今のペイン達ならワンパンとまでは行かなくないけど、【潜水】と【水泳】スキルをカンストしてからじゃ駄目かな? 一週間ぐらいかけて」

 

そうまでして未知のエリアに行きたいかはペイン達次第だ。

 

「後は、ラプラスに連れて行ってもらうかだけど。あのエリアの他のプレイヤーの侵入を不可に決めた張本人が許すかどうかだ」

 

「許しを得たらいいんだね」

 

首肯する。ペイン達はラプラスを会いに地下工房へと向かって行くがフレデリカは俺の隣に居座る。

 

「・・・・・本当に心配したんだから」

 

「悪かったって」

 

俺に金髪の頭を撫でられる彼女はギュッと俺に抱き着き、そのままペイン達が断られて戻ってくるまで離れなかった。なので詫びとして俺は―――。

 

「PK勝負?」

 

「ああ、お前達が数週間後には辿り着くだろうエリアの代表的なモンスターを召喚して戦わせるためな。手に入れたばかりのスキルだから召喚時間も強さも低いけど、事前の情報を得る意味も兼ねてPKだ」

 

「お前に直接攻撃するんじゃなくて、時間制限で召喚するモンスターと戦えってことか」

 

「だから第2エリアに来たわけか」

 

ドラグの言う通り。あれから第2エリアに移動し、ペイン達と対峙していた。俺の提案に賛成する事を言ってくれたので三体同時に召喚する。

 

「【金晶戟蠍(ゴール・D・スコーピオン)Ⅰ】【黒晶守護者(ダーク・ゴーレム)Ⅰ】【緋水晶蛇(ヨルムンガンド)Ⅰ】」

 

煌めく金色の巨躯に剣のようなトライデントの尾を持つ巨大な蠍、全身が漆黒の水晶の巨大なゴーレム、緋色の巨大蛇をしたら、四人は呆然と見上げた。

 

「そんじゃあ、時間もないし実感してもらおうか」

 

蠍はペイン、蛇はドレッド、ゴーレムはドラグに嗾けた。フレデリカは観戦だ。だって魔法抵抗力ある水晶のモンスターだから相性悪すぎるもん。

 

「クッソ硬ぇっ!!」

 

「これでレベルが低いって冗談だろ!」

 

「【断罪の聖剣】!」

 

トッププレイヤーとして初見のモンスター相手に後れを取らないが、如何せんどうやら物理攻撃にも耐性が高いみたいだな。ペインのスキルでも3割しかHP減ってないし。

 

「・・・・・正直、あんなのと戦わなくてよかったかも」

 

「俺も正直、よく勝てたなーって思うよ」

 

あ、1分経った。召喚したモンスターが消失してペイン達はこっちに戻って来る。

 

「今の手持ちのスキルじゃああの水晶のモンスターを倒せねぇわな」

 

「俺の武器も全然ダメージを与えられなかったのが痛すぎる。あんなモンスターってアリ?」

 

「もう少し戦いたかったな。そうすれば倒せる好機が見えた気がする」

 

おっと、もうペインは勝つ気満々なようだ。末恐ろしいプレイヤーがいたもんだよ。

 

「ドレッドの場合はオリハルコンあるんだから鍛冶師に作ってもらえば?」

 

「お前の知り合いの鍛冶師にでもか?」

 

目の付け所がよろしいな。最大のチャンスだぞ?

 

「神の名がついている称号の一つ、鍛冶職の最上位、神匠に依頼する額が1億のところ、二回まで無料で最高の武器を作ってくれるNPCを抱えていますがどうする?」

 

「マジでっ!?」

 

「そのNPC、オリハルコンでも武器を創れたり?」

 

「古匠でもいけるかもしれないけど、性能を求めるなら神匠の方がいいんじゃないか?」

 

考え込むドレッドはその後、ユーミルにオリハルコンの武器を作ってもらうことに決めたのでドワルティアへ向かった。

顔パスで王城の中を素通りーーー。

 

「おい、ここってプレイヤーが入れない場所じゃなかったはずだぞ」

 

「俺、王様とマブダチ」

 

「一体どうしたマブダチになれるんだよお前は」

 

「鍛冶師のクエストとそのNPCと交流していたらこうなった。ゲームの中でも交流は大事だよ? スキルと称号かたくさん手に入るしな」

 

「そんなんで玄武と戦うまで第3エリアすら碌に進まずに強くなっていたのかよ・・・・・信じられねぇ」

 

因みにだが。

 

「カミングアウトさせてもらえると、称号だけで30はある」

 

「「多すぎだっ!!」」

 

「ハーデスを除けば、たくさん称号を手に入れてるプレイヤーでも15に届く辺りなんだが。凄いなハーデス」

 

まだそれしか? 遅れてるなぁ・・・・・俺が速すぎるだけなんだろうか。それとも他がレベル上げとか攻略とかに夢中だからか?

 

エレンがいるであろう王座の間に入ろうとすると。

 

「王は王弟と工房におられます」

 

「工房?」

 

「あなた様が来られたら案内するようご命令を承っております。こちらです」

 

衛兵二人が案内する背中についてく。神匠の工房とはどんな感じなのかイズとセレーネが見たかったと残念がるだろうな。静寂に包まれながら城の奥へと、地下へと続く螺旋階段を降りていくと淡い火の光が扉がない出入り口から漏れていた。

 

「こちらです」

 

出入り口の左右に分かれて止まる衛兵に催促される形で中に入る工房の中は・・・・・。

 

まるで巨人が鍛冶をするために造型された巨大な炉と、その中で荒々しく燃え盛り続ける業火の炎。床に無数の、それも古い切り傷が刻み込まれており、壁に飾れてる風に掛けられてる数多の鍛冶道具に囲まれてる二人のドワーフがトンテンカンと鎚を振るっていた。

 

「おう、やって来たかドワーフの心の友よ! だが少し待て、今いいところなのでな!」

 

「・・・・・謹聴」

 

黙って見聞していろ、と言ってることをペイン達に教えてから・・・・・俺達は1時間以上も待たされた。何を打っていたのかさておき、本題に入らせてもらおうか。

 

「待たせたな!」

 

「本当にな。何を作っていたのかあとで聞くけど、ユーミル。友達の武器を打ってくれないか? 依頼料は俺持ちで頼める?」

 

「・・・・・後で、今は話だ」

 

エレンが話を切り出した。

 

「ドワーフの心の友が採掘した水晶の使い道がわかったぞ。あれは熱しても形を変えられず、そのままで加工するしかない。装飾品の素材もいいところだ。ただ、ハンマーと盾にならば用意できるぞ」

 

「それなら試しに・・・・・作ってあったり?」

 

「当然だ。見ろ」

 

 

『クリスタルハンマー』

 

【STA+50】

 

【攻撃拡大】

 

 

『水晶盾』

 

【水晶壁】

 

【VTI+30】

 

スキルを発動したプレイヤーのHPと同じHP量の壁を半径5メートル以内に出現させる。

 

 

なんか面白そうな効果がある。えっ? くれるのか? じゃ遠慮なく。

 

「装飾品としてなら?」

 

「魔力を蓄えてる水晶であるから、魔力を少しだけ高める物が作られる。首輪でも指輪でもな」

 

「・・・・・売れ行き良好」

 

それは何より。

 

「じゃあユーミル。例の装備は?」

 

「・・・・・神匠冥利尽きる依頼、感謝する。古代の装備、再び命を吹き込めた」

 

それを受け取った瞬間に、命の息吹とも思える熱波が襲い掛かってきた。マグマを切り取った装備という感想は同じく抱かせてくれて、鎧と足具がマグマの輝きを煌々と放っており、装着してる俺に熱さを訴え掛けているように感じてならない。

 

 

『天地開闢・人災』

 

【紫外線】

 

【破壊不可】

 

【VIT+55】

 

視界に入る対象全てに不可視の炎上ダメージを与える。

 

 

『天地開闢・地災』

 

【融解】

 

【破壊不可】

 

【VIT+40】

 

半径10メートルのマグマフィールドにいる対象と装備の耐久値を減少する。

 

 

鎧と足しかなかった装備がこうも生まれ変わるのかっ。

 

「・・・・・これは余り物で作ったサービス」

 

「はい?」

 

 

『天地開闢・天災』

 

【終焉】

 

【VIT+30】

 

十秒間、対象のバフとスキルを全て封印することが出来る。三十分後再使用可能。

 

 

後からを渡された頭用のフルフェイスマスク。地龍の顔を彷彿させるそれは、依頼した装備に合うよう追加として創ってくれたのかもしれない。スキルも時間は短いながらもかなり有効的だ。

 

「因みにどうして地龍の顏みたいに?」

 

「・・・・・この地で巡り合ったモンスターを一つにしてみたかった」

 

「なるほど、格好いい装備をありがとう」

 

地龍とはいえ、龍の顏は格好いい。満足にインベントリ、アイテムボックスに仕舞った。フレデリカ達にお披露目するのはまだ早いからだ。

 

「それで、本題に戻させてもらうけど友人にオリハルコン製の武器を作ってもらえないか?」

 

「・・・・・オリハルコンだけでいいのか」

 

「どういうことだ?」

 

ドレッドの疑問にエレンが答える。

 

「オリハルコンだけでも強い武器は完成する。それは確かだが、しかし素材も用意できればさらに強力な武器に作れると兄者が言っているのだ」

 

「なるほど、そういうことか。でも、そんな素材は手持ちにないからな・・・・・リヴァイアサンから素材が出るならそれまで保留って出来るかハーデス?」

 

「ユーミル、それでもいいか?」

 

「・・・・・構わない」

 

今すぐに作ってもらわず後の結果を確認してからにするドレッドの用件は終わった。

 

「そうそう、もののついでに相談だけどさ。これで面白いもの作れる?」

 

金晶戟蠍(ゴール・D・スコーピオン)黒晶守護者(ダーク・ゴーレム)緋水晶蛇(ヨルムンガンド)の素材をユーミルの前に出すとすぐ鍛冶師の手が伸びた。

 

「・・・・・水晶、のモンスターの物か。どんなものにする要望は?」

 

「うーん・・・・・二対の大盾を俺の意思で動かせる付属品みたいな?」

 

伸縮自在な蠍の尾を見てすげーと思ったのが第一印象だったからな。そんな装備にしたいのかと言われてもまだ思い浮かべられていないんだよな。神匠ユーミルの腕に任せるってことで。

 

「・・・・・やってみよう」

 

「もっとこれだ! って言えたらいいんだけど悩ませる依頼でごめんな」

 

「・・・・・新しい武器を生み出すのも鍛冶師として当たり前のことだ。人の意思で動く装備、それだけの要望があるならば後は創るのみ」

 

やだ、なんか格好いい! 流石職人! 俺も見習いたい!



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樹精と神獣

用が済んだドワルティアを後にホームに戻る前にヘルメスに会いオリハルコンとヒヒイロノカネの存在を売って「うみゃあああああっ!?」を頂戴した後にホームへ戻ると今度はデジャブが迎えられた。畑に見覚えのない姿が二つもあったからだ。そして、畑に収まる筈がないスケールの巨大な樹木が俺達がいない間に成長していたようで唖然と見上げてしまった。

 

「あれは世界樹?」

 

「ハーデスに渡した苗木は4つ、いや全部で5つだよな」

 

「それがひとつになってあんな大きく?」

 

「うわー・・・・・」

 

「オルト達に任せると畑に関しては俺も驚かされるな」

 

おーい、とオルト達を呼び見知らぬ姿がこっちに振り返った・・・・・そして絶句する。

 

「お、おう・・・・・今度はこれか」

 

「あー・・・・・これからハーデスが辛くなるなこりゃ」

 

「主に目のやり場に困ることだろうな」

 

「運営ー!!」

 

「フレデリカ、抗議してもどうしようもない時もあるさ」

 

腰まで流れる豊かでウェーブがかかった煌めく金髪と銀髪、澄んだ綺麗な青い瞳が視界に入るのはいいが、問題は首の下。ゆぐゆぐよりある豊満でくびれがある体には、着ているのに着ていないような・・・・・見せてはならない局部は隠されてるもの、それ以外は涼しげにスケスケなのだ。通気性を重視したと言われたらそこまでだが、まだ水着を着てもらった方がこっちは困らないレベルに透けすぎているのだ。透けて見えるからわかるが、下着を着ていないのだ!!

 

「・・・・・もしかして、俺達があの木を育てたらあんなのが出てきた?」

 

「・・・・・それ言われると、ハーデスに任せた俺達の判断が正しいと思わずにはいられないな」

 

「おいこら、人に押し付けてよかったって発言早めてもらおうか」

 

ドレッドとドラグをマグマに落とす決意を秘めたところで、もう一人の方も視界に納める。

 

水色と白色が入り乱れた長い髪をサイドテールに結った淑女。服は水晶を散りばめたチャイナドレスだ。こちらも豊かなものを持っており、横から伺おうとすれば弾力がある柔らかそうな肉の塊が見えてしまう。フレデリカの気持ちがわかってしまうなこれ。

 

「えー、お前らはもしかしなくとも世界樹と水晶樹から生まれた?」

 

『―――』

 

≪―――≫

 

できれば首肯しないでほしい事実を発覚してしまった。

 

「えっと、世界樹の方は・・・・・ウッド、水晶樹の樹精の名前は・・・・・クリスだな?」

 

≪―――≫

 

微笑んで頷くクリスは俺に抱きついてきた。他に同族がいなかったものだから、対抗心? ゆぐゆぐも負けじと腕を胸に抱き寄せた。

さて、可愛らしい反応を見せてくれるようになったゆぐゆぐにほっこりしてると、バサバサと鶏もとい鳳凰が人の頭の上に乗っかってきたんだが。

 

『資格ある者よ。麒麟の気配が近づいてくる』

 

「なんですと?」

 

なんで今? あ、玄武の件か。しばらくぶりに思い出したところで空から本当に麒麟がやって来た。

 

『久しぶりですね資格ある者よ』

 

「急な来訪だな。先日の件か?」

 

『いえ、大地の活発化原因を探りにきたところあなた方がいました。この樹木は世界樹ですね? エルフが住まう地でしか存在していないのに、二つ目もここまで立派に育てたとは驚嘆に値します』

 

「うちの精霊たちの頑張りだ。俺はなにもしてないよ」

 

『正直者ですね資格ある者よ。精霊を従わせた者がいなければ世界樹を育てられなかった功績は、精霊を従わせた人間のものになりますよ』

 

事実だから虚言してもしょうがないだろ。と言いたげな目で近づいてくる麒麟を見つめた。

 

『私は他の者と違い戦闘で資格ある者を図る真似はしません。よって、私から恩恵を受け取るに値する人間はあなたが始めて』

 

「え? 何かしたか?」

 

『恩恵を与えてもいい条件は、素直な心の持ち主と正直者、強欲と欲深くない、他を尊重する想い。そして・・・・・』

 

麒麟は畑を見回す。

 

『地を司る神獣として、世界樹を始め様々な植物を育てている人間ならば恩恵を授けたいと思っております』

 

「ははは・・・・・麒麟が一番ハードだったなこれ。というか、麒麟ってどこに行けば会えるんだよ?」

 

『この世界の中心のどこにでもです。黄龍もそうですが私たち神獣は動き回って狙って会うことは難しい。ですから私たちの関心を惹くことが一番の近道なのです。そうでしょう黄龍』

 

空に呼び掛ける麒麟に応じる黄金の龍が長い体をくねらせながらホームの畑に現れる。

 

『その通りだ。かつての友でもここまでのことは成し得なかった。時代と共に人間の変化する瞬間を目の当たりにするのはやはり楽しいな』

 

『何といっても今回は凰が初めて発見されたことが新鮮で感じますね』

 

『うむ、まさしくそれだ』

 

『いつまでそのネタを引っ張るつもりだお前達はァーッ!』

 

コケーッ! と怒る鳳凰。「「「鶏か?」」」と呟くペインとドレッドとドラグは初めて聞いたか。ああ、そうだ。

 

「そう言えば、鳳凰のもう片方がどこにいるか知ってる?」

 

『私達からすれば比較的に発見されやすい場所へ常にいますよ』

 

『木を隠すなら森の中だというぐらいにな』

 

木を隠すなら森の中?

 

「この意味わかるか?」

 

「さぁ?」

 

「わからないね」

 

「そのまんまの意味なんじゃねぇか?」

 

「うーん・・・・・?」

 

ペイン達に相談しようとも三人寄れば文殊の知恵にすらならなかった。木を隠すなら森の中、これがキーワードだろうな。よく考えて探してみよう。

 

「黄龍って資格ある者と戦ってから恩恵を与えるのか?」

 

『我と麒麟は戦いを経て恩恵を与えぬことにしている。他の神獣達から認められしときこそ初めて我らが姿を現すのだ』

 

『今回はイレギュラーが発生してしまったため予定と違ってしまいましたがね』

 

全力を出した玄武を諫める説教をしに来たんだっけな。

 

「となると、勇者のオーラってやつは持っていても意味がない? 全力の神獣と戦って得れないなら」

 

『あの亀はそんな物を渡したのか?』

 

麒麟と黄龍はそれを知らなかったようで顔を見合わせた。

 

『全力の神獣と戦って勝利した実績を考慮すれば納得いきますが、それでは世界が度々崩壊してしまいますよこれは』

 

『むぅ・・・しかし、何の意味もなく渡したままでは、腐らせるために渡したようなものになってしまうぞ』

 

『神獣がそんな無意味なことをしたと思われたくないですね』

 

何だか相談し始めたんだが・・・・・ああ、サイナとリヴェリア、あの神獣に大量の飲み物を用意してやってくれ。長くなりそうだし。

 

『―――――』

 

『―――――』

 

 

―――数十分後。

 

 

『すまない。話が長引いてしまった』

 

「ああうん、ほんっとうに長々と話してたな。こっちはのんびりと寛いでしまったぞ。取り敢えずこれ飲んで一息付けろ」

 

『施しを受けるとは初めての経験です。・・・・・おおっ、これは大地の力が感じる飲み物ですね。大変美味しいです』

 

『我にとってはあっという間に飲み干してしまって、味を楽しむのも一瞬で終わってしまうのが惜しいぐらいだがな』

 

「体を小さくして飲めばいいんじゃないかなー」

 

『・・・・・その手があったか』

 

いや、出来るんかい。あ、本当に黄龍の体が小さくなった。おかわりを要求され、林檎ジュースを用意するとコップの中に顔を突っ込んで飲む姿は蛇みたいだ。

 

『うむ、これは麒麟の言う通り初めて知った美味だ。人間はこのような物を作れるのか』

 

「料理と言うものは人間が食べる為により美味しくするため、手間暇と時間をかけて作る技術だよ。料理に使うものは全て土から実っている人間と動物が食べられる植物だ」

 

『そうか。この水のような物も植物から作られているのか』

 

『上から見下ろしている我々が知らないことですね。何百何千年も食欲を感じず生きている我々に無知であることを突き付けられた気分です』

 

あれ、無意識に愚者だと煽ってしまっちゃったか?

 

「えーと、麒麟と黄龍。資格ある者って格上の相手に挑む勇気と強さが大事なんだよな?」

 

『この世界を見守り守護する役割を担っている我ら神獣からすれば当然の理だ』

 

「神獣の基準で言えばそうなるよな。でもよ、資格がなくても一点だけ突き詰めた人間も凄いところがあるぞ。お前等に飲ました飲み物を更に様々な味の飲み物だって作れるし、もっと美味しい食べ物だって作れる。さらには俺みたいとは断言できないけどこうして色んな植物を育てる人間もいれば、人間の為に働く人間もいるんだ」

 

『資格ある者以外にもそれに見合う事をしている人間もいると言いたいのか?』

 

「お前達が言う資格ある者が直接そんな人間を大勢見て来たんだよ。俺よりも凄いと思う人間は俺以外にも大勢いるのは確かだ。そこだけはどうか認知してほしい」

 

こっちを凝視する二体は神獣同士、視線を交わした後にこう告げた。

 

『―――よかろう資格ある者の言葉に嘘はないと信じ、これからは強さ以外にも我らを認めさせる人間も現れるのを待つとしよう』

 

『人は強さだけではない、我らにそう悟りを開かせた資格ある者に感謝します』

 

 

『ワールドクエストが発生しました。黄龍と麒麟が全プレイヤーに対してEXクエスト【数多の挑戦状】を送りました』

 

数多の挑戦状? ・・・うわ、本当に多種多様なクエストがびっしりとある。一つクエストをクリアすると報酬は全スキルの経験値と経験値がたくさんもらえるのか。生産系プレイヤーでも出来るクエストもたくさんあるな。ただ難易度がバラバラだ。例を挙げれば品質とレアが5以上の物を作成や納品するとかな。他にもユニークモンスターを一定以上使役しろとか、一定時間内に指定した数のモンスターを倒せとか、名声を高めろとか、一定数のNPCを笑わせろとか、本当に高難易度から凄く簡単なクエストが見たら目が痛くなりそうなほどたくさんある。俺が保有している称号とスキルの数を合わせてもその倍以上もあるぞこれ。

 

『そして、我らに施しを与えてくれたお礼です』

 

麒麟が足を上げて地面を踏んだ。するとホームの畑全体が金色に輝きだした。世界樹が神々しく輝き―――おや?

 

「ゆぐゆぐ達、光ってるけど何ともない?」

 

「―――?」

 

『―――』

 

≪―――≫

 

「トリー!」

 

「ムムー!」

 

オルトお前もか。もしかして土と植物に関する従魔だからか?

 

『我は・・・・・ふむ、資格ある者よ。願いを一つだけ叶えてやろう』

 

「え、ほんと?」

 

いきなり嬉しいこと言われたけど、いきなりだから悩むんだよな。待たせるのもあれだしどんな望みを言おうかな。オルト達、ペイン達、(妖怪)マスコット達の事を脳裏に思い浮かべながら考える。今後、遠いエリアに行くんだろうし自他共に遠足気分で行ける方法がいいかな? 空を飛ぶ猫と小さいドラゴンを見てある思い浮かべた。

 

「みんなを乗せて運べる大きな猫!」

 

『・・・・・。・・・・・? なんだそれは?』

 

うん、欲望をそのまま口にしちゃったから分かるはずもないな。首をかしげる黄龍に反省する。

 

「えっと、馬が引く馬車が巨大な猫の身体で―――」

 

地面に絵を描きながら黄龍に説明する。身体の色が三毛でー、尻尾が太くてー、もふもふがもふもふでー。と俺の願いを教えると麒麟に苦笑された感じがする。

 

『それは生物なのか怪しい生物ですね』

 

『妖怪の類では? しかし、願いを叶えると言った手前だ。出来ぬとは言えない。麒麟、鳳凰も手伝ってくれ』

 

『しょうがないな』

 

神獣三体が力を合わせて一点に力を集束し始める。見守る俺達は静かにその光景を視界に入れて、全身から黄色と赤のオーラを滲みだして集束する神獣達の力により新たな生命体の誕生の瞬間を立ち会った。

 

静かに地面に降り立ったそれは、身体がボンネットバスのような巨大なネコ。黄色の体毛で、茶色の大きなトラ柄。バスに例えるならボンネットにあたる部分が頭で、背中が空洞になった胴体は柔らかな毛皮に覆われた座席になっている。大きな黄色い眼、額の両サイドのネズミの眼全体が赤いマーカーランプ、しりの両サイドのネズミの眼全体が赤いテールランプで、12本の足という化け猫が目の前に・・・・・ッ!!

 

『資格ある者よ。少々アレンジしてみたがこれでよいか』

 

「すっごくありがとう! サイナ、黄金林檎!」

 

「既にご用意しました」

 

保存用にとっておいた黄金林檎を全部差し上げた。一つ味見させると麒麟と黄龍は『これは美味い!』と絶賛した。

 

『特別な植物の実なのですね。これを食べにこの場に留まっていいかもしれません』

 

「たまにしか実らないから留まってもしょうがないぞ。・・・・・待て、留まる?」

 

『ならば何時でも実るよう少々細工をしてやろう。たくさんあっても困ることではないだろう?』

 

黄龍がその細工を林檎畑に施した。そんなに食べたいのか神獣さん。黄金林檎も凄すぎるだろう、幻獣と神獣に好まれる食べ物なんて。そしてあろうことかこの二体・・・・・。

 

『同居人としてよろしく頼む』

 

『鳳凰共々、よろしくお願いしますね資格ある者よ』

 

「・・・・・何でこうなるのかなぁ・・・・・?」

 

 

「一週間ぶりに来たかと思えば、早速目の前でとんでもない光景を見せられたんだが」

 

「3体も神獣が一プレイヤーのホームに留まる? どうなってんだよ」

 

「流石だねハーデス」

 

「それだけで片付けちゃいけないよペイン」

 

 

 

 

運営side

 

 

「久々にやらかしましたね」

 

「まったくだ。神獣の件はともかく、まさか思いつくか普通? これじゃあ他の方も加えないといけないじゃないか」

 

「マスコットにですかね?」

 

「そうだな。日本家屋ホーム限定のマスコットにすれば他のプレイヤーも手に入るだろう」

 

「日本家屋を入手してるプレイヤーはまだ5人と少ないですが、誰にでも手にいれる要素があるので問題ないでしょう」

 

「条件的には一定以上の畑の拡張と50種類以上の採取アイテムを育てていることにしよう」

 

「ところで著作権の方は大丈夫なんですよね? 見た目がまんまパクリでしょこれ」

 

「許可取ってるから問題ない。寧ろこのゲームを開発する際、王様の要望で『他のアニメの要素も取り入れてくれ』って頼まれたからな。王様の依頼は断れないし、このゲームに合うアニメのキャラクターだけを選別した以上抜かりはない」

 

「白銀さんの行動は読めないんでどうしようもないですけどね」

 

「・・・・・ほんとそれなんだよなぁ~」

 

「あ、でも、マスコット枠全部使い切ってるから白銀さん買えないんでは?」

 

「む・・・・・少し細工でもするか。今後他のプレイヤーも稼ぐだろうから、条件を加えよう。偶然とはいえせっかく王様の要望のキャラクターを出現させたんだ。他のも揃えてほしい気持ちは駄目か?」

 

「他のプレイヤーや新規のプレイヤーも、これ欲しさに頑張ってプレイしてくれる要素の一つになるならダメではないですよきっと。王様も掲げる自由意志に反してません」

 

「そっか、なら実装しちまうか!」

 

 

 

 

名前:ウッド 種族:樹精

 

契約者:死神ハーデス

 

LV15

 

HP 100/100

MP 60/60

 

【STR 5】

【VIT 19】

【AGI 15】

【DEX 11】

【INT 20】

 

スキル:【豊饒ex】【樹木魔法】【育樹】【採集】【株分】【栽培】

    【光合成】【採取】【再生】【忍耐】【鞭術】【水耐性大】

    【魅了】【木工】【森守】 

 

 

 

名前:クリス 種族:樹精 

 

契約者:死神ハーデス

 

LV15

 

HP 50/50

MP 120/120

 

【STR 28】

【VIT 10】

【AGI 10】

【DEX 20】

【INT 30】

 

スキル:【結晶化】【水晶侵食】【水晶柱】【格闘術】【樹木魔法】【採集】

    【株分】【栽培】【再生】【魅了】【宝石彫刻】【水耐性大】【育樹】

    【魅了】【木工】【森守】 

 

 

 

装備:【水晶のナックル】【水晶の衣】【水晶の髪飾り】

 

 

 

名前:ネコバス 種族:神獣 

 

契約者:死神ハーデス

 

HP 100/100

MP 100/100

 

【STR 0】

【VIT 0】

【AGI 1000】

【DEX 1000】

【INT 0】

 

スキル:【高速移動】【運び屋】【空中移動】【透明化】【気配遮断Ⅹ】

    【軽量化】【重力無効】【浮遊】【縮小】【しのび足Ⅹ】

    【跳躍Ⅹ】【変化】【案内】【呼応】

 

 

・・・・・神獣? まだ使役出来ないんじゃ?

 

「黄龍、ネコバスに関してどうなってる? 俺は神獣を使役できるのか?」

 

『我の配慮だ。従わせど戦闘には干渉させないためのな』

 

だから敏捷と器用が異様に高いのか。しかも神獣だからかレベルの概念もないのは新しい発見だ。ウッドとクリスも中々興味深いスキルもある。

 

「よろしくなお前達」

 

≪―――♪≫

 

『―――♪』

 

「ニャーオ」

 

おおう、ネコバスの顏が大きいからしがみ付く格好になっちまうな。顎の下を擦ると目を細めるその表情は猫のまんまだな。・・・・・ん? 神獣?

 

「戦わせない配慮だとしても、神獣を使役しちゃってるのは変わらないのか?」

 

『そうだ・・・・・あっ』

 

黄龍が途中で何か思い出した風に発したそれは、俺が神獣を従える神獣使いになった事実を気付いたのだろう。ほらアナウンスが流れたぞ。

 

 

『テイマー、サモナーの全プレイヤーの中で最初に神獣のモンスターをテイムに成功しました死神・ハーデス様に特殊職業「神獣使い」が解放されます』

 

『おめでとうございます。神獣使い死神・ハーデス様。あなた様は神の領域に辿り着いたプレイヤーとしてNPC達から広く知られます。これからもNWOをお楽しみくださいませ』

 

 

神獣使い

 

 

効果:全モンスターをテイムすることが可能。編成従魔枠と使役が無限に解放。従魔との好感度が高まりやすくなる。パーティー時、従魔のステータスと経験値が二倍となり従魔の宝珠無しで召喚が可能。特殊進化、神化の選択が可能になる従魔との婚姻が可能。

 

 

条件:神獣を使役する

 

 

おっと・・・・。とうとう『四人目』の神獣使いになってしまいましたねー。神獣達が生み出したモンスターがただのモンスターじゃないんだからしょうがないよなー? ―――色々ツッコミたい、気になる効果がございますけどねっ!

 

「・・・・・ハーデス」

 

フレデリカが言いたげな目で見つめて来る。

 

「・・・・・乗ってみてもいい?」

 

「確認してみる。ネコバス、俺達を乗せてくれるか?」

 

頼むと左側の前脚まで下がる身体。おおーと声を上げてから中に入るともふもふの空間があった。足が軽く沈み、毛皮に覆われた座席のソファーに座るとこれまた腰が沈んで凄く柔らかい。

 

「ヤバい・・・・・ッ!! リアルのバスと最高級のソファーなんて目じゃないほど柔らかくて座り心地が良すぎるんだけど!!」

 

「ハーデスが絶賛してる。お、お邪魔しまーす・・・・・うわ、足がふかふかだよ!」

 

「立っているのが難しいだろこれ。だが、座り心地は凄いな」

 

「人をダメにするソファーと同じないか?」

 

「ゲームにこんな隠し要素があるなんてね。ハーデス、どこに行く?」

 

ああ、待ってくれ。オルト達も来い!

 

「ムムー!」

 

13体の従魔達が一斉に乗り出し、サイナとリヴェリアも一緒に乗ると入り口が閉じるように元の形に戻った。さて行先は―――。

 

「ペイン達は今どこまで行ってる? 」

 

「どの方角も第6エリアだよ。それ以上は解放されていないから先に進んでいないんだ」

 

「じゃあ、北の方面で第3エリアまで送ってくれネコバス!」

 

お願いした次の瞬間。ネコバスが動き出してホームから出ると、窓枠から見下ろせばホームの外から覗いていたプレイヤー達の驚愕する目と合うもあっという間に見えなくなるほど遠ざかった。そして揺れる揺れる。毛を掴まないと倒れそうになる。ただしその揺れが楽しいのか、目の前で毛皮の床に転がる従魔達。ガラスがない窓枠から外を除く従魔達もおり俺もそうしていると、もう第3エリアに着こうとしていた。

 

「あはは、速い速い! 流石バスの名前が付いているだけあって速い! 10分も経ってないぞ!」

 

「森の中の移動中が木が避けていたよ。凄いね」

 

「転移魔方陣で金も払えばすぐだが、他のプレイヤーはこっちを選んで移動しそうだな」

 

「中々に味わえない体験だからな」

 

「また乗せてくれるなら俺はこっちを乗るよ」

 

第3エリアに到着! ネコバスは町中のNPCやプレイヤーがいない建物の上に飛び乗って移動する。ネコバスを見たプレイヤーは軒並みに驚いているだろうなぁ。人気のない隠し通路がある場所で停まってもらいネコバスから降りる。

 

「そう言えば、テイマーって5体しかパーティに連れて来られないんじゃなかったっけ? 」

 

「ここだけの話だ。プレイヤーと一緒で連れて行くだけなら連れて来られるんだよ従魔って」

 

「え、そうなんだ?」

 

「同行って扱いにされるようだ。パーティやチームに組まずともテイムしたモンスターだから俺の従魔として共に戦う事はできないけどな」

 

連れて行くだけなら寛容してくれてるのかもしれない運営側は。そこで鳳凰が話に加わって来た。

 

『神獣は本来使役出来ない存在。他の人間達から神獣を従えているように見えるのは単に勘違いしているだけに過ぎん。我ら神獣は資格ある者に恩恵を与え力を貸す存在。この神獣もお前に協力しているに過ぎん。だから使役していると勘違いされるようになったのだがな』

 

「だ、そうだ。俺も初めて知ったよ」

 

「文字通り協力態勢ってことか」

 

「神獣を嗾けられたらどんなプレイヤーも勝てないだろって話だから当然のことか」

 

「白虎との戦いで分かったが、プレイヤーでは神獣を倒せないようになっているのかもね」

 

うん? 白虎と戦った?

 

「フレデリカ、白虎と戦ったのか」

 

「あ、うん。ハーデスは知らなかったよね。結局ボロ負けしちゃったけどね。すれ違っただけでスリップダメージが二桁も連続で入ってさ」

 

『白虎は中々に厄介であるぞ。戦うならば夜の方が良い』

 

「何で夜?」

 

『それは自分の目で確かめるがよい』

 

敢えて教えてくれない様子の鳳凰だった。自力で攻略しろってことなのだろう。

 

「さて、何となくここまで来てみたけどどうだった?」

 

「ゲームの中で車に乗った気分だったよ」

 

「まーた騒がれること間違いなしだな」

 

「ああ、間違いない」

 

「一週間ぶりのハーデスの爆弾投降がされたねー。迷惑行為されたら気を付けなさいよー」

 

迷惑行為か。どうせ気にする必要もないだろう。

 

「これからどうする? 俺はまたホームに戻って生産するけど」

 

「フレデリカ、ハーデスと一緒にいるかい?」

 

「変な気遣いしないでよペイン。もう心配しなくてもこれからハーデスはログインしてくれるんだからさ」

 

「なんだ、夫婦の甘い夜を「サポートいらないんだねドラグ」冗談言って悪かったからそれだけは勘弁してくれフレデリカ」

 

「やれやれ、完全に尻を敷かれてんな」

 

と、ペイン一行の会話のやり取りを見ていた時だった。この場に一パーティのプレイヤーと鉢合わせした。

 

「え、白銀さん・・・・・何だそのデカい猫!?」

 

「あー、質問は受け付けないんで。ということでさようなら! あ、フレデリカいつでもホームに戻ってきていいんだからな。あのホームはお前の家でもあるんだからリヴェリアと待っているからな!」

 

急いでオルト達とネコバスの中に戻り、透明化になってホームへと向かってもらった。

 

 

 

 

 

 

【新発見】NWO内で新たに発見されたことについて語るスレPART37【続々発見中】

 

 

 

・小さな発見でも構わない

 

・嘘はつかない

 

・嘘だと決めつけない

 

・証拠のスクショは出来るだけ付けてね

 

 

 

 

 

481:メタルスライム

 

 

一週間も不在だった白銀さんの目撃情報が上がってきたな。何でも巨大な猫の中に乗ってどこかへと行ってしまったとか。

 

 

 

482:ロイーゼ

 

 

巨大な猫の中に・・・?

 

 

 

483:ふみかぜ

 

 

理解できないんだけどどういう事?

 

 

 

484:ヨイヤミ

 

 

聞き込み調査したらどうやら件の猫、ジブ○の○トロに出て来るネ○バ○じゃないかって。スクショ見せてもらったら本当にそっくりだったからその可能性は濃厚だ。

 

 

 

485:佐々木痔郎

 

 

著作権とか大丈夫か? いや、大丈夫じゃなかったらパクる真似はしないか。そして偶然にもそんな猫を手に入れた白銀さん、マジ羨ましいぃ~!!

 

 

 

486:アカツキ

 

 

一目見たくて来てみたら白銀さんのホーム前凄い混雑して―――なかったのはどうしてだ?

 

 

 

487:メタルスライム

 

 

運営から警告されたんだろうな。前回も同じ事が起きたようだ。

 

 

 

488:トイレット

 

 

じゃあ、今ならお話が出来るかな?

 

 

489:メタルスライム

 

 

一緒に掲示板を見ているパーティが≫488と同じ考えで今向かってる。俺も心配だからついて行く

 

 

 

490:ふみかぜ

 

 

おー、じゃあ遠巻きでも一目見ようか。出来れば中に入ってみたいなー。

 

 

 

491:佐々木痔郎

 

 

あ、白銀さんだ

 

 

 

492:ロイーゼ

 

 

なんだと? すぐに白銀さんに接触してくれ! 

 

 

 

493:ヨイヤミ

 

 

もしかして接触したか?

 

 

 

494:佐々木痔郎

 

 

成功した。白銀さんの畑の前でさ、ちょうど見たことのない大きな猫の体の中から下りてきて挨拶をした。それマスコットなのかと訊いたら教えてくれた。名前はネコバス、プレイヤーを他のフィールドやエリアに運んでくれる戦闘力が0の神獣だってさ。因みにテイムしていないって。

 

 

 

495:ヨイヤミ

 

 

神獣、ネコバス、だと?

 

 

 

495:ロイーゼ

 

 

本当にあの名作のキャラクターだった!? え、間近で見てどんな感じだった?

 

 

 

496:ふみかぜ

 

 

触れた? 中はどうだった?

 

 

 

497:トイレット

 

 

とても興味がある。

 

 

 

498:佐々木痔郎

 

 

心優しいあの人は親切にオープンしてくれた。中は・・・・・席と床は毛皮で出来てて、触り心地の感想は語彙力が足りなくなるヤバさだ。自分じゃあやってみたことないけど飼い猫の腹に顔を埋める人の気持ちがわかったよ・・・・・。あれだ、人をダメにするソファーよりも神化した感じだ。毛皮にゆっくりと沈むあの感覚、今でも体が覚えてて忘れられないよ・・・・・。思わずに顔からダイブしたら白銀さんも一緒にやって、ほわぁと緩んだ顔を見せ合っちゃったよ。

 

 

499:ロイーゼ

 

 

凄く幸せな空間じゃああああああああああああああああんっ!!!そんな話を聞かされたら是が非でも俺も堪能してみたくなるよぉおおおおんっ!!

 

 

500:ふみかぜ

 

 

・・・・・(会えないかなー、会えないかなー)

 

 

501:トイレット

 

 

この機にお近づきになりたいな。

 

 

502:佐々木痔朗

 

 

だからみんなもファーマーもやろうって言ってるじゃん。

 

 

 

 

【有名人】白銀さん、さすがですPART10【専門】

 

 

 

・ここは有名人の中でも特に有名なあの方について語るスレ

 

・板ごと削除が怖いので、ディスはNG

 

・未許可スクショもNG

 

・削除依頼が出たら大人しく消えましょう

 

 

 

 

 

 

 

330:タカシマ

 

 

白銀さんが久々にログインしたらしい。一週間前からログアウトしてたあの人の生存が確認できて安心した。そして同時に久々の爆弾の爆発を起こした。それも連発だ。

 

 

331:チョー

 

 

数日前に起きた大地震と津波でリアルは大変だったからな。

 

 

 

332:ツンドラ

 

 

寧ろあの大地震で強制ログアウトされたプレイヤーが多いだろ。俺のフレンドも目の前でいきなりログアウトしたからどうしたのかと思ったら、そのまま音沙汰無しだったが久しぶりにログインしたフレンドを見て安心したぜ。

 

 

 

333:チョー

 

 

本当それな。しかも被害者は思った以上に少なくした蒼天の王も凄かった。動画見た? 押し寄せる津波を一瞬で凍らせたり、天使の姿で逃げ惑う人達を救助したり、安全地帯に運んだりする姿はマジ凄い。

 

 

 

334:苫戸真斗

 

 

蒼天の王様が来なかったら被害はもっと酷かったって話だし実際そうだよね。

それに比べて日本の政府と自衛隊はどうしようもないけど対応が遅いって非難殺到や

誹謗中傷の嵐の渦中だよ。

 

 

 

335:タカシマ

 

 

しょうがない。蒼天の王と蒼天の国のようにすぐ動けるわけじゃないからな。それにしても空飛ぶ船は凄いな。蒼天ではあんなものも開発してたのか。

 

 

 

336:苫戸真斗

 

 

このゲームを開発した時点で凄いけどね。

 

 

 

337:チョー

 

 

で、爆発の連発って何?

 

 

 

338:タカシマ

 

 

白銀さんのホームの畑に新たな樹精が増えていた! そこに現れる神獣と思しき二体のモンスター! とどめにバスのような巨大猫が登場!

 

 

339:ツンドラ

 

 

な、なんだとっ! それは本当か!

 

 

340:タカシマ

 

 

本当だ。ついさっき確認したばかりなんだ。と言うかあの化け猫。トト〇のネコ○○だろう絶対。

 

 

 

341:てつ

 

 

いいなー! 凄くいいなー! 子供の頃ト〇ロを見て乗ってみたいと思ってた○○バスに乗れる白銀さんが凄く羨ましい!! いくらでも金を積むから乗せてくれないかなぁっ!!

 

 

 

342:チョー

 

 

え、○○リのキャラクターがこのゲームに? じゃ、じゃあ〇トロの親子も出てくる可能性が!?

 

 

 

343:タカシマ

 

 

白銀さんに期待せずにはいられないだろう。俺は何時かあのお腹にダイブするんだ・・・・・!

 

 

 

344:てつ

 

 

その想い。ふかふかな布団に飛び込む遊びをした口だな? ―――わかるぜ。

 

 

 

345:タカシマ

 

 

わかるか。じゃあ一緒に夢から現実へ飛び込もうな。

 

 

 

346:ツンドラ

 

 

そんなことよりも、新しい樹精ちゃんの情報は!? ないのか!?

 

 

 

347:てつ

 

 

そんなことよりもだと? さてな・・・・・。タラリアにいけば情報があるかもしれないけど、もうレイドボスイベント始まるし。行くにしても、イベント後だろうな。 白銀さんが情報を売るか分からないし。

 

 

 

348:チョー

 

 

レイドボスイベントは白銀さんが発生させたらしいし、本人がくるんじゃないか?

 

 

 

349:苫戸真斗

 

 

ご本人から情報を聞き出すチャンス!

 

 

 

350:ツンドラ

 

 

おお! 確かに! インタビューすれば教えてもらえるかも!

 

 

 

351:チョー

 

 

そうか? まあ、頑張れ。俺は絶対にやらないけど。

 

 

 

352:苫戸真斗

 

 

なんでです?

 

 

 

353:てつ

 

 

今回は重要情報が絡んでるから、突撃したら白銀さんに迷惑がられる可能性が高い。しかも周囲にはかなりの数のプレイヤーがいるだろう。あとは分かるな?

 

 

 

354:タカシマ

 

 

ヒントは見守り隊。

 

 

 

355:チョー

 

 

ヒントというか、答えだな。

 

 

 

356:ツンドラ

 

 

・・・・・すんませんした。

 

 

 

357:苫戸真斗

 

 

やっぱり突撃はやめておきます・・・・・。

 

 

 

358:てつ

 

 

白銀さんから情報を得ようとするとき、かならずその影がちらつくからな。そのおかげで白銀さんが守られているわけで、いいことだとは思うが。

 

 

 

359:タカシマ

 

 

俺たちだって、白銀さんを困らせてるやつらがいたら通報する可能性高いしね。

 

 

 

360:チョー

 

 

結局、タラリアに行くしかないってことだな。最近クランハウスが混んでるから、露店の方に行こうかな?

 

 

 

361:ツンドラ

 

 

くっ・・・・・! 樹精ちゃんや新ネコの情報なんて、絶対に高いじゃないか! でもそれだけの価値はあるし・・・・・。あー、レイドボス戦の前にポーションを買おうと思ってたのに! どっちに金を注ぎ込むべきなんだ!

 



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情報と交渉

改めて生産活動をしよう、そう思っていたのにヘルメスからコールが届いた。

 

「久しぶりヘルメス。どうした?」

 

『どうしたもこうしたもないわよ。またとんでもないことをしたようだから詳しく知りたいのよ。あなたの従魔の情報が欲しいと知らないのに教えられないから大変なのよ』

 

「悪いけど教えられないんだよなー。厳密に言えば、教えても他のプレイヤーは絶対に情報を買っても損するだけの理由があるからで」

 

『あなたしかできないことなの?』

 

「もう俺でもできないからだ。それでも新しい従魔のプロフィールが欲しいのか?」

 

『聞くけど可愛い二人の従魔って樹精?』

 

「そうだけど」

 

『うーん・・・・・ちょっと紹介してくれる? 紹介料だけでも払うからさ』

 

肯定してサイナに向かわせた。来るまで丸太を削ろう。木工プレイヤーにチェーンジ!

 

―――数分後。

 

「マスター、お連れ致しました」

 

「おー、来たか」

 

「・・・・・何してるの?」

 

「木彫りスタンプの製作中」

 

まだ完成には程遠いがな。大分形になって来たところにヘルメスが上がってきた。

 

「いらっしゃい。ペイン達以外ではヘルメスが初めての来客だな」

 

「そうなんだ。それはラッキーかな。早速で悪いんだけど新しい従魔のこと教えてくれない?」

 

「ん、こっちだ」

 

畑の方へ案内する。思い返せばすっかり町にある畑より広くて種類も豊富になってしまったな。そこには農作業しているオルト達が居てその前にある広い庭には寛いでいらっしゃる4体の神獣、自由気ままに空を飛ぶアイネとフレイヤ。追いかけっこしてるクママ達に縁側で日光浴をしてる植物系のゆぐゆぐ達。

 

「・・・・・凄い光景ね」

 

「これからもっと増えるだろうさ」

 

「でも、テイムする上限が超えてるでしょう? どうして?」

 

「ああ、テイマーの最上位職になったからだ。その名前は神獣使い。制限がなくなって無限にテイムできるようになった」

 

「神獣使い、やっぱり神獣をテイムすることで転職できるのね?」

 

「ちょっと違うな。神獣達曰く、テイマーでも神獣をテイムも使役もすることが出来ないんだ。あくまで神獣の恩恵を享けるか、協力と言う形で使役に成り立つらしい。だからそこにいる神獣達はこの場に留まっているだけでいつの間にかいなくなるかもしれない」

 

あの巨大な猫も? ヘルメスのその問いに頷く。

 

「名前はネコバス。戦闘力が0の代わりにプレイヤーを他のエリアに乗せて運んでくれる神獣だ。ステータスも見るか?」

 

「差し支えなければお願い」

 

見せたら見せたでヘルメスの目が見開いたがな。

 

「本当に乗り物に関するスキルばかりね。これ、移動手段として商売したら絶対儲かるわよ」

 

「実際に乗って俺も実感したぞ。中は毛皮で出来てるからモフモフだ」

 

「の、乗せてもらっても?」

 

彼女の要望に応え、ネコバスに中を入れさせてもらった。ヘルメスの手を取って中へ招き座席に座らせる。

 

「わっ、わぁ・・・! 凄いふかふか・・・・・ちょっと失礼」

 

横になって体全体で毛皮を堪能し始める。俺もそうしよう。床へ静かに寝転がって毛皮の柔らかさを堪能する・・・・・。

 

「・・・・・話し合いよりもこっちの方がずっとこうしていたい気分だ」

 

「私もー・・・・・。これは売れる、本当に売れるわ・・・・・100万払っても乗りたがる魅力が詰まってるわ・・・・・でも話を聞かないとダメだわ」

 

起き上がるヘルメスに名残惜しく俺も起き上がる。

 

「次は樹精ちゃん・・・・・の前に空飛ぶ猫ちゃんの話を聞かせてくれない?」

 

「あれは魔王ちゃんが住んでいる冥界の絶滅危惧種の魔獣だ。これステータスな」

 

「ふむふむ・・・・・見たことも聞いたこともないスキルは猫っぽさを表しているわね」

 

「戦わせると強い。相手のステータスの半分を一時的に奪った本人と俺に加算するから相手を翻弄できる」

 

「私達でもテイムできるかしら?」

 

「今のところ無理だな。冥界に行かないと話にならない。俺は冥界へ行き来できるユニークアイテムを貰ったからいけるけど」

 

「随分と気になることを言ってくれるわね。見せてもらっても?」

 

深紅の宝石が付いた指輪を見せ、その効果も観覧させる。

 

「今度私達も冥界に連れて行ってくれない?」

 

「どうだろう、連れて行ってもいいのかな? 出来たら二回目に連れて行ってやるよ。さて、そろそろ出ようか。新しい樹精のところに」

 

ネコバスから出てゆぐゆぐ達のところへ足を運ぶ。

 

「い、衣装が凄いわね? 」

 

「どうにか修正してほしいと切に願うけど、してくれないだろうな。まず誰からだ」

 

「まずはこの水晶の子から」

 

「名前はクリス、種族は水晶で出来た樹木から出て来たから樹精だ。彼女は水晶と宝石を生む隠しダンジョンエリア、宝饗水晶巣という名前の場所で見つけた。これその時のスクショ、巨大な樹木の名前はクリスタリーウッドだ」

 

「うわ、凄い綺麗! 水晶の樹木とその樹木に実る宝石? 初めて見るわ」

 

「畑にも植えてあるから後で見よう。宝石も実っているから収穫時だ」

 

クリスのステータスも見せた後はウッドの紹介だ。

 

「名前はウッド、種族は大樹精。世界樹の苗木を5つオルトに任せたら、どうやら一つになってあの大きさに成長した後にウッドが生まれた」

 

「世界樹の苗木!? しかも5つって・・・・・イベントのパーティ部門で同列1位の報酬で?」

 

「よくわかったな。その通りだ。他の4人はファーマーをする気が無いから俺に押し付けたんで、代わりに畑に植えたらあんな感じになった。因みに貰えたのは勇者の称号を持つプレイヤーのみな」

 

「なるほど・・・・・これは入手が出来ないのも頷くわ。勇者になる方法って?」

 

「ベヒモスとジズ、リヴァイアサンを相手にソロか2パーティ以下で倒すこと」

 

あ、もっと無理と思っただろう。ヘルメスの顏にもそう浮かんでいるのがまるわかりだった。ステータスも見せて、うん? と唸らせた。

 

「豊饒ex? これってどんな効果?」

 

「まだ試してないんだ。推定だと恐らく畑の高級肥料より優れた効果を与えてくれるんじゃないかって思ってる」

 

「一理あるわね。何たって豊饒だもの」

 

従魔に関して教えられることは全部教えたつもりだ。確認取れば彼女も大丈夫だと了承したことで次は作物の方へ案内する。

 

「色んな作物を育ててるのね。あれ、これ何?」

 

「エルフのイベントで手に入った茶葉の苗木から育てた」

 

「お茶が飲めるの!? まだ誰も見つけていないレアものじゃない!」

 

「続いてこれ、水晶樹のエリアだ」

 

「宝石が実る樹木なんて信じられないわね。採取した宝石の使い道は?」

 

「まだなんとも。クリスの宝石彫刻で加工できるらしいけどな」

 

それも試してすらいない。今後の楽しみってことでやってもらうけどね。

 

「水晶樹の素材は?」

 

「丸太の状態ならある」

 

「・・・これ本当に樹木? 水晶のように透き通ってる」

 

「これを木彫りにしたら樹木じゃなくてクリスタルで彫刻したと勘違いされるな」

 

「それでも高額で買われる価値はあるわ。この素材、あなたの独占状態?」

 

肯定する。来られるようになれば独占ではなくなるが、今のところ俺の独占してるエリアだ。

 

「マグマの中を1000メートル潜水できれば仲間入りだ」

 

「無理、絶対に無理。そんな方法があるはずがない」

 

「【マグマ無効】のスキルを知らないのか?」

 

「それはこっちも情報を得てるけど問題はマグマの中を泳ぐことよ。装備の耐久値が減るし、息も続かない」

 

ますます不思議だな。まだ解らないのか?

 

「情報屋としてまだまだ行動力が足りないな。そのスキルと水中呼吸薬があればクリアできるだろ」

 

「あっ!?」

 

「装備の耐久値に関しては装備を外せばいいだけだ。マグマの中にはモンスターはいないんだからな」

 

俺からのヒントを得てそわそわし始めるヘルメス。

 

「そ、その情報を売ってもらっても・・・・・?」

 

「新しい従魔の情報と異なる情報なので売れませーん。最低限、未払いの金も全部回収させてもらうまでは絶対に。身内に試させたり情報公開したら縁を切る。最悪BANの覚悟しろよ」

 

「うみゃあああああああああああっ!!」

 

というか、情報だけで食っているギルド、クランじゃないよな?

 

「タラリアって人数少ないのか?」

 

「・・・規模的に言うと中の下ってところ。クランのリーダーが前線で攻略してるし、情報は買うだけじゃなくて、自分たちでも集めてるし、検証したりする人員も必要だから」

 

「戦闘員もいるんだな。ラヴァ・ゴーレムの溶鉱炉でも売れば高額になるだろうに」

 

「そればかりしてると、情報が集まらないわよ」

 

ままならないなぁー。

 

「あなた、お茶が入りましたよ」

 

「え?」

 

「ありがとうリヴェリア」

 

ヒムカ特製の湯飲みから茶の香りが立つそれを2つ分リヴェリアが用意してくれた。ヘルメスにも渡され茶を飲む。

 

「んー・・・美味しい。これは畑の茶葉からか?」

 

「いいえ、これは送ってくださったエルクさんから受け取った茶葉です」

 

「あの人から? 茶木の畑の方は?」

 

「ウッドドラゴンの力によって元通りに。そのお礼として最高級の物をエルクさんが定期的に送ってくださるそうです。どう扱おうと好きなようにしろ、と」

 

最大級の恩返しってことなのかな。なら一部だけ皆にも分けてやろう。独占は駄目だからな。

 

「・・・・・ねぇ、ちょっと。どういうこと・・・・・?」

 

「どういうこと・・・・・? その意味は?」

 

聞かずにはいられない、と鬼気迫る雰囲気を纏うヘルメスがこの場から去るリヴェリアと俺を交互に見る。

 

「彼女、親しみを込めてあなたって呼んだけど、もしかして結婚してるの?」

 

「あれ? リヴェリアのような存在と結婚できることを知らないの? 情報屋が?」

 

「―――――」

 

ヘルメスが石化した幻覚を見えた。

 

「しかも神獣使いになると従魔とも結婚できるみたいだぞ」

 

次の瞬間、ホームを揺らすほどのうみゃああああああ! と猫の鳴き声が聞こえたのだった。後で聞かされる結婚したらどんな感じになるか、俺はこう答えた。

 

「実際に結婚してみた方が早くないか? お前に結婚願望があるならさ」

 

「ふぇっ!? そ、そんな結婚なんて簡単に・・・・・!!」

 

以外と押しに弱いようだヘルメスは。

 

 

・・・・・。・・・・・。・・・・・。

 

・・・・・。・・・・・。

 

・・・・・。

 

 

羞恥心で顔を赤らめた来訪者がいなくなったことで生産活動を再開する。木彫りに集中できる時間はとても大事でやっとオルトの姿をしたスタンプが完成した。次はゆぐゆぐの等身大に乗り出して半日が経過した。細部まで再現、拘って削り作った等身大は本人と横に並んでも瓜二つだ。我ながら上出来だ。

 

「ふむ、面白いことをしているのだな」

 

「ラプラス」

 

そう言えば久しぶりにラプラスも会ったな。傍にいるゼロと一緒に挨拶すると軽く会釈する彼女は等身大のゆぐゆぐを見る。

 

「完成度は高いが、やはり木を削ったままの色では少々味気がないのは残念でならないな」

 

「しょうがない、それが木彫りというものだ。錬金術でもそれはできないんじゃないか?」

 

「・・・・・ふふっ、よくぞ言ってくれた。我が錬金術に不可能などありはしないのだ!」

 

あ、出来ないだろうという言葉を待っていたんだな? そんで自慢したかったな? この魔神さん。

 

「その昔、手持ち沙汰な私はあらゆる技術と経験を糧にして来た。その一つに木彫りとアートを極めてみせた。だが―――物はいずれ劣化して朽ちる運命。石像もやがては風化して消える。ならば人々の心と記憶の中に一生残り続けるものを作ればよいのではないかと考えついた私は、ある魔法を編み出したのだ」

 

「錬金術関係ないやん」

 

「―――実際、当時のマスターは芸術・美術の才能はまったくの0でして、人々の記憶にはマスターの凄惨な作品の印象しか後世に残りませんでした」

 

「シャラアァアアアップ!!」

 

自分のドールにもダメだしされる作品か。逆に気になって見てみたい。嘲笑する意味で。

 

「樹精を呼びたまえ。私が最高の等身大に完成させてみせよう」

 

「しくじったらお前の作品を探し出して飾ってやるよ」

 

ゆぐゆぐを呼びに行き、連れて来たらラプラスはゆぐゆぐと等身大に魔方陣を展開した。

 

「しばらくそのままジッとしてほしい。キミの身体と服の色をコピーしてこの木彫りの色を塗り替える」

 

「本当だ、木肌の色が変わってく。絵具いらずの便利な魔法だな。なんて魔法だ?」

 

「私の弟子になるならば伝授してやってもいいぞ?」

 

うーん、ちょっと考えよう。ラプラスの協力によって木彫りの等身大は見事にゆぐゆぐがそこにいるかのようになった。肌の色と服の色も、違和感が全くない。生きている風にも見えて本当に凄い。

 

「さすが魔法を極めた伝説の人。こんな事できるのはラプラスだけだろ」

 

「ふはははっ! 何せ私のオリジナルの魔法だからな! 賢者の石を作るよりも朝飯前さ!」

 

「うん、じゃあこれからもよろしくお願いしていいか? これならラプラスの魔法としての芸術が評価されるぞ」

 

「魔法の芸術・・・・・そんな言葉は今まで思いつかなかった。うむ、よかろう君の気が済むまで付き合ってあげるよハーデス」

 

こうして俺とラプラスはコンビで芸術と生産に明け暮れ没頭する時間がとても楽しかった。なんせ―――リヴァイアサンレイドの前日まで没頭してしまったんだからな。あ、木の日はちゃんとゆぐゆぐを精霊のところに連れて行ったからな? そしたら彼女から従魔の心を貰えたぜ。それ以前にも俺が不在の1週間の間にサイナがオルト達の世話をしてくれたおかげでクママ、ヒムカ、アイネ、メリープの従魔の心を貰ってくれた。ルフレがまだなのは残念だけど、やはり水場のオブジェクトが必要なのかな。マーオウに連絡して尋ねて見た。

 

『あーそら確かに生産系プレイヤーなら作れるはずやろうけれどな。まだそれを作るまでのレベルとスキルが足りんと思うで?』

 

「マーオウでも両方足りないのか」

 

『そうやな。それにそういうのはクラン規模で作るようなもんや。うち個人だけ作れる技量ではらへんなぁ』

 

「そうか無理言って悪かったな。そういう規模なら用意した報酬も釣り合わないか」

 

『何を用意したん?』

 

「水晶の樹木。地上では伐採できない新種の樹木と魔力を蓄えてる魔水晶っていう鉱石」

 

現物を見せた途端にマーオウの顏がドアップし、映像越しでは満足できないと会う約束も取り付けられた。ホームの玄関前、他のプレイヤーの視線を一身に浴びながら待っていると、千切れんばかりに肉塊を揺らす生産系プレイヤーが全力疾走してくる姿を視界に入って来た。

 

「マーオウ、そんなに急いで来なくても―――うおっ!?」

 

「あんなモンを見せられてこれが急いでこんはずがないやろ!? さっきのをもう一度見せぇ!」

 

「わかったわかった! するから離れろ! 激しく揺さぶるなぁっ!」

 

外で悲鳴上げる俺の声を聞きつけホームから現れたサイナが、マーオウにガトリングを突き付けた。

 

「マスターに危害を加える者は容赦しません」

 

「ちょぉ―――!?」

 

俺が止める暇もなくマーオウに向かって発砲するサイナ。追いかけ回されるマーオウの足元だけ狙っている辺り本気でキルするつもりはないと思いたい。まぁ、ダメージを与えちゃってるが。

 

「ハ、ハーデス! な、何とかせェッ!?」

 

「うーん・・・・・・焦って損するってこともう少し味わってもらいたいかな」

 

「か、勘弁してぇなぁあああああああっ!?」

 

それにしても、サイナに追いかけられてもここから遠ざからないのは水晶の素材を見たいためか? 

 

―――数分後。

 

「・・・・・(チーン)」

 

「死んだか(ツンツン)」

 

「棺桶に片足を突っ込んでいるだけです」

 

「なら生きてるな」

 

あれから畑が見える和室にマーオウを連れるや否や、畳に突っ伏して動かなくなった彼女をゴロリと仰向けにする。さっさと用を済ませてほしいんだがな。

 

「おーい、起きろ」

 

「う、うう・・・・・もうちょっと休ませてぇ」

 

「起きなさい(ギュム)」

 

サイナがマーオウの巨乳を握り潰さんと鷲掴みした。それは流石にセクシャルハラスメント―――あれ、相手がプレイヤーじゃないから発生しないのか? 

 

「ちょわっ!? なにうちの胸を触ってんのやっ!?」

 

「マスター、起きました」

 

「自分の命令か!」

 

「違うし酷い濡れ衣だ。ほら、起きたなら用件を済ませろよ」

 

水晶樹と魔水晶を彼女の前に用意する。凄く言いたげな眼差しを向けながらも見たことも、聞いたこともない地上の木の素材とは異なる水晶樹に目を落とす。

 

「品質とレア度が8ぃ~? こっちの水晶も7なんてこ、これなら次のステージにいけるで・・・・・!」

 

ようわからないけど欲しいなら交渉次第だ。

 

「ハーデス、これはどのエリアに生えとるもんなんや?」

 

「俺が独占してる状態の隠しエリアにある。というかほぼプレイヤーが来られない場所にあるから連れていくことも難しいんだよ」

 

「自分とついて行けば辿り着けると?」

 

「そうだが、その場所はNPCの好感度と関わってしまってるから連れていけないんだわ。自力で行く分なら構わないと言ってたけど」

 

どこに行けばいい、と言われて火山のマグマの中を泳がないといけないと言ったら頭を垂らした。

 

「無理やん!」

 

「スキルとアイテムを揃えば無理じゃないだろ、頑張れマーオウ」

 

「確かにそうかもしれへんけど、マグマを泳ぐ命知らず―――目の前におったな」

 

「おい、そいつはぁ俺を大馬鹿者だという言葉の裏返しだよなお前?」

 

乾いた笑みを浮かべつつ「そ、そんなこと思っておらん」って言うが視線泳いでいるぞ、ああん? 

 

「よし、そういう奴とはもう取引しない。お引き取り願おうか」

 

「ああん、いけずぅ! うちのお得意様がそんなこと言わんといてぇなー!」

 

「一度しか頼んでないのにお得意様とか随分と虫のいい話だな」

 

「頼むぅっ! この木材をうちに買い取らせて欲しい!! 金はいくらでも積むし何でもするからぁ!!」

 

ほほう・・・・・何でもねぇ・・・・・。

 

「お前、他のプレイヤーと結婚しろと言われても文句言わずにするんだな? 女が簡単にそんなこと言っちゃあ駄目だぞいくらゲームの中でもな」

 

「だってゲームの中なんやから結婚ちゅうても、リアルじゃないんやから気にする必要ないやろ?」

 

「・・・・・言っておくけど、おそらくこのゲームは性交できるぞ」

 

「なん? せいこうってなんや?」

 

○○○のことだと教えられたマーオウは信じられない顔をした次に耳まで紅潮した。

 

「え・・・・・え・・・・・? 嘘やろ? ゲームの中でそんな事できる筈が・・・・・マジで?」

 

「・・・・・うん、マジ。24時間経たないと出られない部屋に送られて、な」

 

「・・・・・」

 

自分の身体を抱きしめながら俺から離れるマーオウ。遺憾極まりない反応だなお前。

 

「自分、最初からうちの身体目当てで・・・・・!」

 

「サイナ」

 

「了解」

 

「だぁーっ!? じょ、冗談や冗談!! 」

 

言っていい冗談と悪い冗談はあることを思い出せよ。

 

「言っておくが他言無用なこれ。じゃないとこのゲームがエロゲーになり兼ねんわ」

 

「そ、そんなこと言うても結婚したら出来てしまうんやろ?」

 

「さぁ、俺は勇者同士と試しに結婚したら出来てしまったから、他のプレイヤー同士で結婚したらどうなるか知らないんだ。掲示板で調べてもそんな話題は挙がってないのは、敢えて伏せているか出来ていないかのどちらかだ」

 

YESとNOのハート型クッションを出す。

 

「これが手に入ったら性交が出来る」

 

「それを知らずに自分等は巻き込まれた形で流される形でシたと・・・・・馬鹿なん?」

 

「フェルー」

 

フェンリルを呼ぶ。少し経ってから大きな銀色の狼が部屋にやってきたのでマーオウに指さす。

 

「こいつの頭を噛み砕け」

 

「グルル」

 

「すみませんでしたぁああああああああああああ!!!」

 

乱射されるときと同じく、狼に噛まれる恐怖が嫌で土下座をするマーオウ。そして―――。

 

「やっほー、ハーデス君・・・・・何この状況・・・・・?」

 

「気にするな」

 

明日に備えてかイッチョウがホームにやってきた。マーオウの土下座する姿に首を傾げるイッチョウはそのまま。

 

「じゃあ、ちゃちゃっと結婚しよっか」

 

「ちょっ、自分、ハーデスの話を聞いとらんのかいな!?」

 

「うん? 何の話?」

 

「追々話す。ほらイッチョウ」

 

お互い結婚の申請をし合い、承諾すると俺達は夫婦の関係になった。そして・・・・・。

 

「なにこれ? YESとNO?」

 

「・・・・・俺、だからなのか? それとも勇者だからなのか?」

 

彼女にも性交の承認するアイテムを受け取ってしまったorz・・・・・。

 

「何か知ってるみたいだけど何のアイテムなのかな?」

 

「・・・・・○○○の承認用のアイテムです」

 

「へっ!? このゲーム、そんなことも出来ちゃうの!? プレイヤー同士で!?」

 

「・・・・・俺が勇者だからなのか、ある称号を持っているからかまだ判明していない。勇者の称号を持っていないプレイヤー同士でもできるのかもわからないけど、イッチョウは知ってるか」

 

「うーん・・・結婚したプレイヤー同士の話は聞いたことないよ。・・・・・まさか、ハーデスはシちゃったの?」

 

「・・・・・お互い碌に説明文を読まず、周りに言われるがまま試したら、な。単純な結婚するのだとばかり思ってたから」

 

イッチョウの俺を見る目が馬鹿な子を見る目になってる。くそ、言い訳出来ない!!

 

「その相手、私が知ってる娘?」

 

「フレデリカとリヴェリア」

 

「はい!? NPCも? え、これを向き合えば何時でもデきちゃうってこと?」

 

「いや、それは分からない。だからそれを仕舞ってくれないか?」

 

俺はもうとっくに仕舞った。流石にイッチョウまで手を出すわけにはいかないんだ。フレデリカはともかくイッチョウはリアルで一緒に住んでるし、久信に何て言われるか分かったもんじゃないっ。

 

「わかってるよ。流石にゲームの中とはいえハーデス君は安易にシちゃいけないもんね」

 

インベントリにそれ仕舞うイッチョウに内心安堵の息を吐く。

 

「でも、翔子ちゃんが知ったらどうするの? 弱みを握られたら―――」

 

「そん時は、リアルで説教する。そればかりは断じて笑って許しちゃならない案件だ」

 

それはいただけない。断じてな。プレイヤーとしてではなく王としてイッチョウを見つめ直す。低い声音で言うもんだからイッチョウは失態を犯した人の表情を浮かべ、戸惑いの色を顔に滲ませた。

 

「俺はそんな奴と交流した覚えはない。もし本当にするなら・・・・・良い度胸じゃないか。小娘が俺にそうさせるのもお前の父親の企みか? 俺の立場を転覆させるようなことがあれば脅して意のままに操れるようにしろ、と言われたのか聞いてやる」

 

「・・・・・できれば穏便にお願いしますよ王様」

 

「どこかの誰かさんがまーた骨折り損に尻を叩かれるような真似をしない限りは、な」

 

うっ、と無意識に自分の尻に手を回すイッチョウ。

 

「さて、待たせたなマーオウ。話を続きをしよう」

 

「わ、わかったで・・・・・でもその前に質問を。・・・・・まさか、大将なんか?」

 

「・・・・・そういうお前は真桜だろ。だが、この事は他言無用だぞ。―――わかっているな」

 

コクコクと必死に頷く。そんで、どうしてマーオウが俺の正体に気付いたのかと言えばだ。

 

「お前、ログアウトしたら尻叩きだからな」

 

「ええっ!? な、なんで!?」

 

イッチョウに振り返りお仕置き確定事項を告げた。何でだと? 自分で言った言葉をもう忘れたのか。

 

「出来れば穏便にお願いしますよ―――次に何て言った?」

 

「え、で、でもそれぐらいで気付かれるわけが・・・・・!」

 

マーオウがいやいやと手を横に振って付け加える。

 

「えっとな自分、開発技術部の松永んとこの娘なのは一目見た瞬間にわかっとったで? それにうちのことも気づいとったはずや。顔の容姿、そのまんまやからな。んで、うちらに共通する人物のことをそう呼ばれるんのは一人しかおらんよ」

 

「・・・・・」

 

面白いぐらい顔を蒼褪めるイッチョウさんの肩に手を置いた。

 

「俺が真剣になったからって、ボロ出されると困るんだよなぁ。特に百代達の前で言われたら、あいつらの中で俺が旅人に繋がるのも容易いんだ。気付いた瞬間、あいつらはこっちの事情を知ろうが知るまいが関係なしに関わってくるのが目に見えるんだぞ?」

 

「・・・・・」

 

「だからお仕置きだ、受け入れろイッチョウ。いいな」

 

「・・・・・はいぃ」

 

「うちも他人事ではないんやけど、今度から気ぃ付けや」

 

そうだな。自覚しているならとやかくは言わない。が、一つ気になるな。

 

「お前だけプレイしているのか? 二人は?」

 

「他の二人は生真面目だったり自分の趣味に突っ走っとるんでしとらんよ。うちはこのゲームの中で自由な物作りがしたいんで遊んどるんや。しっかし、噂の白銀さんがまさかの人とは思わんかったで。運営とつるんでおるん?」

 

「ないない。自力で見つけてるんだ。大体このゲームの中では俺が翻弄されている側だぞ」

 

「ほー、あんさんほどのモンが? 運営も事実を知ったら死ぬんやない? 主にショック死で」

 

あはは、あり得そうで尚更正体を隠さないといけないじゃないか。

 

「まぁ、リアルの話はここまでにしてゲームの中の話をしよう」

 

「せやな。ってことでハーデス。この素材らをうちに回してくれへん? すんごいモンが作れそうな気がするんや」

 

「水場的なの作って欲しいんだがな。できないんだろ?」

 

「うち一人だけじゃ絶対無理や。この素材で交渉すれば作ってもらえるかもしれへんで?」

 

生産クランと交渉か・・・・・。

 

「じゃあマーオウ。生産クランと交渉の窓口になってくれるか」

 

「任せておきぃ。その代わり約束のブツを忘れんでや」

 

「どのぐらい必要なのか判らないが、100本程あればしばらくいいだろ?」

 

「十分すぎるぐらいや」

 

交渉材料に水晶の素材をマーオウに渡して話し合いは終わった。ホームを後にした彼女を見送った俺達は和室でのんびりと寛ぐ。

 

「あの、質問いい? ゲームの中でシちゃったフレデリカとは今後どうするの?」

 

「24時間たっぷりシちゃったからな。すっかり俺に好意を抱いてるし責任を取るつもりだ」

 

「他の人達、特にあの4人は納得するとは思えないケド」

 

「・・・・・そうなんだよなぁ。だけど、本国の結婚制度はアレにしたから差別的な真似はしないと信じる」

 

「人気者は辛いですね」

 

「お前も俺に好意を向けてる一人だろうが」

 

「気付いていて受け取ってくれない酷い人は馬に蹴られてください」

 

手厳しいことを言ってくれる。

 

「結婚は、出来るんだよそれぐらい。だけど跡継ぎが作れない」

 

「どうして?」

 

「俺自身が100年以上この若さで生きているんだ。生まれてくる子供にもその影響が出る。そして俺に子供が出来たと知る各国が子供を浚って国を手中に収めようとする可能性もある。そうなったら戦争だ。何より、自分だけおいて先に死ぬ経験を味わえさせたくない」

 

何より、ドラゴンの遺伝子を受け継いだ子供が全員が全員・・・善意で育つわけがない。王の子供だから当然、蒼天を統治するのは自分だと主張するだろう。その傲慢と欲深さが蒼天を壊す。

 

「俺が普通の人間だったらそんな悩みを抱えないんだがな」

 

「・・・・・ハーデス君が普通の人間だったら、今の本国はないよ」

 

イッチョウが対面するように掻いた胡坐の上に乗って来る。

 

「じゃなきゃハーデス君と会えなかったし、こんな楽しいゲームも生まれなかった。私は普通の人間より今のハーデス君の方が好きだよ。一人の女の子としてね」

 

「・・・・・ありがとうよ」

 

真っ直ぐ少女の目を覗き込むように見つめて話し合っていたら、唇を重ねられた。薄く開けるとイッチョウの舌が割り込んできて俺の舌を絡めて来る。ようやくお互いの舌が離れる頃には唾液の糸を作りながら途中で切れ、顔を赤らめて瞳を濡らす彼女がそこにいた。

 

「・・・・・王様」

 

スッと仕舞ったはずのYESのクッションを向けて来る。その後ろで目元だけ隠しながら尋ねて来る。

 

「私のこと嫌いですか?」

 

「・・・・・イズとスるかもしれないぞ。それでいいのかお前」

 

「構いません。私を愛してくれるなら心の広さで受け入れます」

 

「なんだそれ。第一妻とか正妻とかそんなの決め合ったら承知しないから」

 

さっきの俺の決意を踏み躙りやがって。ここで嫌いと答えてもこいつは変わらない態度を接するだろうが、元来の俺の性格が拒否することが出来ないんだよな。

 

俺もハートのクッションを出してYESに向ければ、2つのクッションが光り輝き―――イッチョウと一緒にホテルの密室へ転移され・・・・・濃厚で濃密な24時間を過ごしたのだった。



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スキル習得クエスト

突然だが第二の町の探索もしに訪れた。まだ未知の発見があるかもしれない可能性を求めてNPCに話しかける。

 

「すみま―――」

 

「ひぃっ!?」

 

「こ、来ないでくれぇ!!」

 

「か、金をくれてやるから見逃してくれ頼むっ!?」

 

・・・・・『血塗れた残虐の勇者』の効果で怖がられて逃げられてしまう・・・・・。しかもNPCから金をたかることも出来るのかよ・・・・・。

 

「・・・・・(チラリ)」

 

「「「「「っ!?(NPC)」」」」」

 

流し目で見ただけでも怖がられる俺・・・・・涙が出そうです。通りすがるだけでもそうだし、俺を避けられる。ショックで落ち込みつつ中央から外れると人通りが少なくなる。

路地裏を歩き回っているといくつか入れる家を見つけることが出来たが空き家ばかりだった。

 

「何かないかなー」

 

空き家とはいえ家具はある。がさこそと探すとゴミと10Gに低品のポーションを手に入った。

 

 

次の空き家もガチャリと扉を開ける。

 

部屋は一つだけで、ボロボロのベッドに寝かされた少女が母親だろう女性に看病されているところだった。

 

「あら? お客さん? ごめんなさいね」

 

「あっ、いえ・・・・・」

 

「大丈夫? ・・・・・ごめんね、辛いわよね」

 

泥棒紛いに入ろうとしたのでここに居づらくて仕方なかった。こそこそと出て行こうとしたのだが、ちょうど女性が看病を終えて俺の方を向いた。

 

「あの・・・・・貴方は、騎士様ですか?」

 

「え? 一応勇者だが」

 

俺の装備は魔法使いや剣士というよりは騎士といった方がいいかもしれない。でも勇者の称号があるから素直に言った。

 

「勇者様! お願いです! 娘を助けてやって下さい! 何もお返し出来ませんが・・・・・お願いします、どうか・・・・・どうか」

 

NPCに懇願される俺の目の前に青色のプレートが浮き出てくる。

 

 

クエスト【博愛の騎士】

 

 

 

この表示の下にはYES、NOの二つの表示があった。俺はYESを押す。

怖がらず助けてやってくれと言われてNOを押すことは出来ないだろう。報酬がなくても構わなかった。

 

「あ、ありがとうございます!娘の薬が必要で・・・・・私一人ではいけそうになくて・・・・・私が案内しますので、連れていって下さい」

 

「分かった。守ってみせる」

 

女性が近くまで来る。女性の頭上にはHPバーが浮かんでいる。適当に扱えば取り返しのつかないことになるだろう。護衛クエストかな?

 

ここで青いモニターが現れクエストの詳しい説明が出てくる。達成条件を見落としのないようにきっちりと読む。

 

 

達成条件は女性を生き残らせたまま目的地にたどり着くこと。

 

時間制限はなかった。

 

「取り敢えず、町の外に出ればいいのかな」

 

俺が町の外に出ると女性が話し始めた。

 

「【生命の樹木】に向かいます。ここから東に真っ直ぐ行って下さい」

 

「わかった。じゃあしっかり掴まってくれ」

 

久々に使う『鷹の羽衣』で女性を背中に乗せて東へ飛ぶ。

 

「森が見えてきましたね。入り口があるのでそこから入って下さい」

 

「わかった」

 

低空飛行、モンスターの頭上を飛び越えて女性に導かれるがまま飛行していると森の中央らしきところにまで来たようだった。

 

「あれです、あれが【生命の樹木】です!」

 

そう言うので降ろした女性が駆け寄った木は周りの木と比べると半分程の大きさしかなかった。

 

「・・・・・伐採は不可能か」

 

できるならしようと思ったが、ポイントが表示されてないからできない。

 

「この葉が病気に効くんですよ」

 

女性は葉を数枚枝から取ると見せてくれる。

 

「それだけで足りるか?」

 

「もう大丈夫です」

 

「じゃあ、帰ろう」

 

背中に負ぶさる女性をまた飛んで町まで送る。そうして飛んでいき森を抜けた時。

 

「はぁ・・・はぁ・・・守っていただきありがとうございます。あのままでは、私は死んでしまう所でした・・・」

 

「えっ? 急にどうした?」

 

特に何もしていない。ただ空を飛んでいただけである。いや、まさか空を飛ぶこと自体が異常だった?

本来、帰り道でもモンスター相手に、プレイヤーがボロボロにされる筈だったのか?

女性の台詞は、それを乗り越えて初めて聞ける台詞だった。

こんな突破の仕方となったため、不自然な台詞になってしまったというのか?

 

「勇者様は・・・お優しいですね」

 

「・・・・・なんか、ごめんなさい」

 

何となく申し訳ない気分になって謝ったが、彼女が何か返事をすることはなかった。

・・・・・この空気に耐えられそうにない、急いで町に戻っていった。

 

「着いたぞ」

 

無事に町へ戻れて、女性の家の前に降りた。

 

「ありがとうございます! 私、急いで行ってきます!」

 

女性は急いで家の中へ走っていってしまった。遅れて入る俺の目の前には丁度女性が少女に何かを飲ませているところだった。濃い緑色の液体が器に入っている。

飲んだ少女の顔は顰めている。苦いんだろうなぁ。抹茶の色だし。

 

「・・・・・どう?」

 

「けほっ、けほっ・・・うん・・・ちょっと楽になった・・・・・ゴホッ、ゴホッ」

 

「酷い咳・・! ああ! どうしたら!」

 

女性が嘆く。その時、俺の前に青いモニターが現れた。

 

 

クエスト【博愛の騎士2】

 

 

また新たなクエストが発生した。当然これを受ける。

 

「勇者様!まだ助けてくださるのですか?」

 

「流石に放っておけない」

 

今もゴホゴホと咳をする少女は、容態が悪くなっているように見えた。

 

「では・・・【退魔の泉】に連れて行って下さい! 場所は町を出て北西です!」

 

「うん、分かった」

 

そう言うと女性はまた先に町の外へと行ってしまった。

 

「ん? ・・・・・スキル取得してる」

 

【博愛の騎士】

 

スキル名はスキル欄に確かに追加されているものの効果が無い。

 

あるのはスキル名だけだ。

 

「んー?効果が無い? ・・・・・イベントがまだ終わってないから?」

 

ならば尚更ここで投げ出す訳にはいかないと、俺は町の外へと向かった。

 

「北西ですよ!」

 

「北西だな」

 

鷹となって女性を運ぶという移動手段を使って北西へと向かう。

 

「2では終わらないよな・・・3もあるのか?」

 

さすがに2というナンバリングで終わるのは中途半端過ぎるためないと感じていた。

 

クエストの内容も前回と大して変わっていない。今回で終わりそうになかった。それを知る為にも取り敢えず泉の辺りを上空から探索して、様子を見てから考えることにして指示された方向へと進んだ。

 

 

 

程なくして眼下に泉を捉えていた。今回は女性が何も言わなかったため、そのまま真上までやってきたのだ。ゴツゴツとした岩が突き立っている場所の奥地にその泉はあった。

 

「取り敢えず、近場に降りるか」

 

泉の近くに女性を降ろすと元の姿に戻って、女性と共に泉に向かう。

泉の周りはモンスターが出ないようで、何事もなく泉に辿り着けた。

女性は泉の水を汲み上げると俺のの方に振り返った。

 

「勇者様! ありがとうございます!」

 

「いや、本当に特に何もしてない・・・・・」

 

「急いで帰りましょう!」

 

「自分勝手な相手と過ごしてる気分だぁ・・・・」

 

鷹に変身すると再び宙に浮き上がった。

 

 

 

無事に町まで戻ると女性は少女にその水を与えた。

その光景を静かに見守る。

 

「・・・・・どう?」

 

「だ、大丈夫・・・心配しないで・・・・・」

 

少女はそう言うものの、顔色は悪く体は僅かに震えている。大丈夫そうには見えなかった。

当然、また目の前に次のクエストが現れる。

 

 

クエスト【博愛の騎士3】

 

 

「うん、だと思った」

 

予想通り次のクエストが発生する。スキル【博愛の騎士】を確認してみるものの、スキルは相変わらず名前しか表示されていなくても、そのクエストを受けることにした。

 

「勇者様! ありがとうございます!」

 

「いいよいいよ」

 

「遥か遠くに巨大な町があり、その辺りには、はめるだけで体を癒す指輪があるとの噂を聞いたことがあります・・・・・不確定なもので申し訳ないのですが、それを持ってきていただけますか?」

 

「巨大な・・・・・町? どの町のことだ?」

 

先の町のことか? だとしたらこれは厄介だな。それと身体を癒す指輪・・・・・

 

「これならあるんだがな、指輪・・・・・」

 

インベントリから一つの指輪を取り出す。俺が最初期に手に入れたレアドロップ。

 

HPを回復する【フォレストクインビーの指輪】だ。

 

「勇者様! 持ってきて下さったのですね! ああ、何とお礼を言っていいか・・・」

 

「あ・・・・・これでいいんだ」

 

最近は装備していなかったその指輪を女性に譲る。指輪はレアドロップだが、二度と手に入らない訳ではない。また手に入れればいいという思いで渡した。

 

「今はめてあげるわ・・・」

 

女性が指輪を少女にはめる。同時にクエストクリアの通知が来たため、これで正しかったことが証明された。

 

「う、ぐっ・・・ガ、」

 

「・・・大丈夫? ・・・苦しいの?」

 

「ぐっ・・・・・!」

 

少女は苦痛で歪んだ顔をしていたが、急にベッドから飛び起きると扉を乱暴に開けて外に向かって走り出した。

 

「ま、待って!」

 

女性もそれを追いかけていく。取り残された俺の目の前に新たなクエスト発生の通知が浮かび上がる。

 

 

クエスト【博愛の騎士4】

 

 

当然それを受ける俺は追いかけに急いで町の外へと向かった。

 

「いた」

 

町の外に出ると座り込んでいる女性の姿が目に入った。俺が近寄ると女性は話し始める。

 

「ううっ勇者様・・・! 娘が・・・・・」

 

「どこに行った? 無事か?」

 

「娘は【常闇の神殿】に向かうと・・・・・あそこは危険なのに・・・!」

 

「何で捨て台詞を残す?」

 

「案内します・・・・! 娘を放っておけませんから・・・・・」

 

「こっちの疑問は無視かーい」

 

俺としては一人で行きたい所だったが、置いていくことは出来ないようなので仕方なく連れていくことになった女性の案内に従って泉を越えて、さらに北西に進んだ場所まで来た。

 

そこには所々崩れている古びた神殿があった。間違いなくこれが【常闇の神殿】だろう。

 

鷹から元の姿に戻ると神殿の中に入っていく。

 

壁と天井に囲まれた広間が一つあるだけの簡素な造りのその最奥に少女は倒れていた。

 

女性が駆け寄ろうとするが、その前に少女の体から漆黒の霧が噴き出る。

 

それはみるみるうちに人型になると女性に向かって襲いかかった。

 

「【咆哮】!!」

 

動きを停止してから女性の前に割り込むと守りの姿勢に入る。謎の人型は俺から距離を取る。

 

「ギギギ・・・・・!」

 

「っ! 【カバー】!」

 

飛びかかってくる動きは単調で、しっかりと受け止めることが出来た。

 

「フレイヤ【召喚】!」

 

『ニャハハハ! 喰ってやるにゃん!』

 

【霊魂搾取】を使用したフレイヤのおかげでこっちも一時的に強くなった。ここはフレイヤに任せて女性の守りに専念するか。

 

そうしてしばらくフレイヤの攻撃と俺が耐久していると、人型が急に頭を抱えて蹲り叫び始めた。

 

「グガアアアアッあアぁあア!!」

 

顔のパーツが無いため表情は存在しないが痛みに苦しんでいるかのようだった。人型の腕が槍の様に尖っていく。

 

「【悪食】」

 

女性に襲いかかる人型から守るために咄嗟に【悪食】を使用して攻撃をポリゴンと化していく。

 

「グガアアアアッ! ガガ・・・グガ・・・・・」

 

「うん・・・・・?」

 

俺を一心不乱に攻撃していた人型が急に攻撃を止めると俺と距離を取った。

 

「グギ・・・ググ・・・」

 

頭を抱えて地面に蹲った人型は次第にぼやけていき、遂には消えてしまった。

 

「終わった?」

 

「きっと・・・・・【退魔の聖水】が効いたんですよ」

 

「それってさっきの泉の水のことか?」

 

「娘には・・・・・悪魔が取り憑いていたのかもしれません」

 

俺が攻撃せずとも倒せたのは【博愛の騎士2】を無事にクリアしていたためか? 逆にクリアしていなかったらどうなっていたんだ?

 

そんな疑問を抱く俺は知る由もないが、あのクエストは女性とプレイヤーのどちらも死亡せずに持ち帰ることが出来れば成功となり、どちらかが一度でも死亡すれば失敗となるのだ。

 

ただ、どちらでもクエストは次の段階に移る。しかし、泉のクエストをクリアせずに大盾装備のプレイヤーが人型と戦うのは厳しいものがある。

 

「あ・・・クエストクリアだ・・・」

 

今のクエストをクリアしたものの新たなクエストは発生していない。

 

スキルもそのままだ。

 

「娘の元に行きましょう!」

 

「あ、うん。そうだな」

 

一緒に女性が少女の元に駆け寄り状態を確認する。少女は死んでいるかのように眠っていた。起こそうと揺さぶっても全く反応しない。

 

「取り敢えず・・・家に連れて帰ります」

 

そういうと女性は少女をおぶって神殿から出ていった。

それと同時に俺の前に青いモニターが現れる。

 

 

クエスト【博愛の騎士5】発生。

 

また、【博愛の騎士】クエスト1から4での母親へのダメージが基準値を下回っているため。

 

エクストラクエスト【身捧ぐ慈愛】が発生しました。

 

どちらかのルートを選択して下さい。

 

 

「んん?」

 

予想外の事態に首を捻った。でもエクストラクエストのルートを選ぶと、神殿から出て女性の姿を探した。しかし、女性はどこにも見当たらなかった。おい!

 

「先に帰った・・・・・?」

 

しばらく神殿の周りを探索した後で、俺も町へと帰っていった。と言うか絶対にNPC最強説あるだろこれ。

 

 

 

フレイヤを送還した後、町に着いた俺は真っ先に女性の家に向かった。

 

「どうなってるだろうな」

 

遠慮なしに不法侵入するべく女性の家の扉を静かに開く。

 

少女は眠っていた。

 

今までの苦しそうな表情は消えて、穏やかな寝顔だった。

 

「勇者様・・・娘が・・・・・娘が起きないんです・・・・・」

 

少女に近寄って様子を見てみるが、少女が息をしていないことが分かるだけだった。

 

「えっ・・・・・嘘? 死んだ?」

 

「私は・・・・・娘のために林檎を買ってきますね・・・娘は林檎が好きだから・・・・・」

 

女性はそう言うとフラフラとした足取りで外へと出ていった。現状を受け入れられていない様子で、正常な状態には見えなかった。

 

「え・・・えっ? クエスト進んでるんだよな?」

 

現在受けているクエストを確認していたが、少しして少女の体が薄く光り輝き始めたことに気付いた。少女に近づいて真横に立つ。何が起こっているのかと、観察していたらある事に気付いた。

 

「光が・・・・・文字に・・・・・」

 

少女から溢れる黄色い光は空中に文字を形作った。

 

「三日後・・・・・【朽ち果てた教会】?」

 

その文字に目を通して少しすると少女から溢れる光は薄れて消えていった。

 

「そこに行けばいいのか・・・・・そしてようやく見つけたぞあの属性結晶の

 謎の鍵を!! ・・・・・でも、どこだ?

 この町には図書館があったし・・・・・そこで調べてみようか」

 

帰ってきた女性と入れ替わるようにして俺は外へと出ていった。

 

 

 

「さてと・・・・・地図とかあるよな。なかったらネコバスに案内してもらうしかないが」

 

予定通りに図書館にやってきた俺は第二層の地図が書かれた本を探す。それからいくつか見つけたものの、詳しく書かれたものは無かった。せいぜい、地形が読み取れる程度だ。

 

「うーん・・・・・思ってたのと違う・・・・・」

 

本を閉じて教会に関する本を探す。NPCに聞かないのか? ―――一目見た瞬間に机の下に隠れだして聞くに聞けねぇんだよこの野郎。

 

「教会・・・・・聖人、聖職者、歴史・・・・・おっ!」

 

 

 

 

―――三日後。

 

 

 

 

この日を迎えた俺は三日後になった今日フェルの背中に乗って教会に向かった。三日前、このゲーム内の歴史について記されている本の隅に、小さく教会について書かれているのを発見したのだ。

 

「さっさとクエストを終わらせて長らく謎だったものを解消しよう!」

 

南に広がる森の入り口に辿り着くと森の中へと入っていく。

 

「守る人がいなければ余裕だわ」

 

時折現れるモンスターが鎧に体当たりをしてガシャンガシャンと音を立てる。それらは俺にダメージを与えることは出来なかった。俺にとってはいないのと何ら変わらない。フェルが久々の運動だと積極的にモンスターを駆逐していく。俺はのんびりと歩く。そんな俺達の前にはついに辿り着いたボロボロの教会があった。

 

「よし、入ろうか」

 

扉は既に外れて無くなってしまっており、内装も蔦や草木に侵食されてしまっている。俺は長椅子の並ぶ部屋の中央を歩いていく。正面の壁には傾いた大きな十字架があり、古びてもなお存在を放っているその真下の床にキラキラと輝く何かが落ちていることに気付いた。

 

「これは?」

 

光の正体は輝く気体の入った小瓶だった。その小瓶の情報を見てみる。

 

【大天使の欠片】

 

「何だか凄そう・・・・・集めたら召喚できるのか?」

 

それを大事にインベントリにしまいこむと、出来る限り急いで少女の元に向かうようフェルに頼んだ。

 

 

 

「失礼しまーす」

 

そっと女性の家の扉を開けて中に入る。

 

「勇者様・・・・・どうかしましたか?」

 

「ちょっと試したいことがあって」

 

眠っている少女の真横に立つと、インベントリから小瓶を取り出して蓋を開けた。

その瞬間、少女の体が眩く輝き始める。

 

「うわっ」

 

「勇者様!どうかしましたか!?」

 

「え、見えてない?」

 

少女から溢れる輝きは、以前文字を形作った時と同様に、今度は美しい女性の姿を形作ったのだ。

俺が現れた女性をじっと見つめていると、彼女は話し始めた。

 

「ありがとう。この子の命を奪ってしまうところでした」

 

「は、はぁ・・・・・」

 

「貴方には、私の力の一部を・・・・・これで私も帰ることが出来ます・・・・・」

 

その言葉を最後に光は天に昇って消えていってしまった。

それと同時に少女がむくりと起き上がる。

 

「あれ・・・・・お母さん・・・・・?」

 

「あ、あ・・・・・ああっ!」

 

女性が少女を抱き締める。少女は状況が飲み込めていないようだった。

 

「一件落着・・・・・なのか?」

 

「グルル」

 

俺としてはよく分からない終わり方だったが、クエストクリアの表示が出ていたため納得しておいた。

もうこの場に長居する理由もなくなり、そっと外に出て手に入れたスキルを確認した。

 

「【身捧ぐ慈愛】・・・・うわっ・・・・・何だこれ」

 

スキルの詳細を確認しながら呟く。これをクリアするためにも・・・・・装備が必要だ。

 

「イズ、大至急用意してほしいステータスの装備があるんだが」

 

『珍しいわね? どんな装備なのかしら?』

 

「取り敢えずホームに来てくれるか? 話はそこで」

 

『わかったわ』

 

 

 

俺はホームに招いたイズに新しいスキルを使用した。

 

その日から五日間。

 

イズはログインしている時は工房で装備について考え、納得いくまで試作を作り続けた。

 

 

 

「違う・・・・【アレ】に合う装備はこんなのじゃない・・・・・!」

 

そんなイズの声がホームの地下工房に響いていた。



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光霊の里 解放

これまで精霊の里へ辿り着くための知識から考慮すれば日曜日に結晶を捧げればいい筈なんだが、行けばわかるか。

 

「ということで愉快な仲間達と一緒に朽ち果てた教会の前に来たんだが・・・・・」

 

「ムー?」

 

「ヒムヒム?」

 

「フマー?」

 

「フム?」

 

動画配信も忘れずしているんだが、何も起きないな。なら中に入ろう。中はクエスト中だったから見る暇もなかった。

 

長椅子の並ぶ部屋の中央を歩いていく。正面の壁には傾いた大きな十字架があり、古びてもなおあるその背後には白い何かを天に掲げてる女天使のステンドグラスがある。前来たときにはなかったような・・・・・? その途中に通る【大天使の欠片】が落ちていた地点だ。

 

そこには小瓶の代わりに赤い小さな文字が床に書かれていた。

俺は立ったままではその文字を読めなかったため、寝そべるようにしてさらに指でなぞりつつ文字を読む。

 

「えっと・・・・・【召喚】?」

 

そう呟いた瞬間。教会の床が赤く輝き始める。

輝きはどんどんと強くなり壁や天井をも赤く染め上げる。

 

「んっ?」

 

反射的にその場から逃げようとしたが、それより先に視界が光輝く赤に染まった。

しばらくして光は収まり、眩しくて閉じた目を開ける。

目の前に広がっていたのは教会と同じ内装でありつつ、全てが灰色に塗り替えられた光景だった。

不気味な場所である。

 

「・・・・・どこだ? オルト達もいないってことはソロで何かしないといけない?」

 

取り敢えず教会の外へと出た。

 

「うわぁ・・・・・凄い荒れてる」

 

灰色の世界は外も同じだった。青々とした森はなくなり、遠くまで見渡せる灰色の大地に変わった。

まるで時間が止まっているかのように、あちこちで宙に瓦礫が浮かんだまま止まっている。

 

「ホラー系が苦手な人間だったらここ嫌がりそうだなぁ・・・・・」

 

呟きつつ荒地を歩いていく。目的地がないわけではない。この灰色の世界の中で一つだけ灰色でないものを遠くに見つけていたからだ。俺はその近くへと向かって空を飛んですぐに灰色でない物体のもとにたどり着く。

 

それは真っ黒な球だった。

 

 

真っ黒な球は俺が近づいたことで反応したのか、ボコボコと表面が隆起し始める。

そして遂に球体が弾けて中から炭のような黒い液体と共に何かが落ちてきた。

 

ボロボロのローブの下から伸びる尻尾。

 

頭には羊のような巻角がある。

 

それは俯いたまま話し始める。

 

「食事が来たか・・・・・」

 

その発言に警戒し大盾を構える。

それは俯いていた顔を上げ、俺の方を見て何かに気づいた。

 

「あ? お前あの時の? 天使の力が混ざって・・・・・こいつは運がいい・・・・・!お前を食って悪魔としての格上げだ。神殿ではやられたが、ここなら全力でいける!」

 

そう言うと悪魔は吼えた。間違いなく和解の道などない。戦わなければならないだろう。

恐れるよりも、戦おうとするよりも先に悪魔の発言についてあることを思った。

 

「食べる? ・・・・・へぇ、食物連鎖のトップは誰なのか教えてやるよ」

 

俺は不敵な笑みと共に不穏な言葉を口にして戦闘態勢に入る。

 

「速攻だ【覇獣】!」

 

ベヒモスに変化した俺を見上げる悪魔に【咆哮】してから飛び掛かり、捕食する。口の中で硬い異物を噛んでる感触はするが気にせず咀嚼を続ける。それと同時に悪魔のHPバーが遂に半分を下回った。

 

「ぐっ・・・・・ウゼェ! 潰す! 潰すッ!」

 

悪魔の体を黒い光が包み込み、体が膨張し姿が変わっていく。

手足は巨大化し筋肉が隆起しており、本数が増えている。

首が伸び、顔がなくなり頭部にはダラダラと涎を垂らす大きな口だけが存在していた。

醜悪な姿に変わった黒い悪魔が叫ぶ。

 

「グルル・・・・・グゲァァア!」

 

「姿変わっても意味ないからー」

 

「グギャアアアアアアアアア!」

 

結局ベヒモスの口の中から脱することは叶わず、遂に悪魔の命を喰らい尽くした。それと共に悪魔の体が光に変わり爆散し、俺も【覇獣】を解いたところで通知が届いた。

 

「【悪魔喰(デビルイーター)らい】とかだと思ったけど・・・【身捧ぐ慈愛】があったからかぁ」

 

このスキルは取得条件に【身捧ぐ慈愛】が関わってくるスキルだった。

とにもかくにも俺は新たなスキルを手に入れたのだ。

それも、新たな攻撃手段になるようなものを。

 

「【滲にじみ出る混沌】・・・・・これは・・・・・ははーん、なるほどなるほどこれも【毒竜】と同じ感じのスキルか」

 

このスキルには三つのスキルが内包されていた。

俺はスキルを確認すると迷うことなくそれを鎧にセットした。

 

「さてと・・・・・戻ったら今度こそ光の精霊だ」

 

そう呟いた俺の視界は赤い輝きに覆われていき、光が消えた時には既に元の教会の中だった。オルト達も全員いて合流も果たせた矢先に―――。

 

『光霊の祭壇に白結晶を捧げますか?』

 

「キター! はい、捧げます!!」

 

アナウンスが流れた。ステンドグラスの女天使のように光結晶を掲げると、そのステンドグラスが虹色に輝きながら両開き扉だったようで、扉に続く光の階段が出来上がっていった。

 

《精霊門の1つが解放されました》

 

『光霊門を開放した死神ハーデスさんにはボーナスとして、スキルスクロールをランダムで贈呈いたします』

 

「よし、行くぞ!」

 

気合の声を上げるオルト達と光の階段を駆け上がって扉の向こうへと突入した。そして・・・・・!

 

「初めてこの地を解放した者がついに現れたか。ようこそ解放者よ」

 

出迎えてくれたのは純白の布一枚で身体に包む、月桂冠を頭に着けた金髪の異国の王子風の青年。

 

「質問をしても?」

 

「なんなりと」

 

「ここは何て言う場所、そしてあなたは何て言う精霊だ?」

 

「光霊が住まう街にしてエーテルの隠れ里。選ばれし者だけが訪れることが出来る、聖なる地にして私達はエーテルと言う種族だ。人間達に私達の存在を知らないのも無理はない。この世界に人間が神々の手によって創造されても私達は干渉しなかった。いや、出来なかったと正しいか」

 

その理由は? と訊くとエーテルの長? が「ふっ」笑みを浮かべた。

 

「―――空気過ぎて、誰からにも気づいてもらえなかったのだよ」

 

「・・・・・は?」

 

空気過ぎる・・・・・? なんだ、その理由は?

 

「私達も最初は地上に住んでいたのだが、エーテル族の者以外は存在すら認知もしてくれず凄く浮いてしまってね。それ故、何しても私達に気付いてもらえないならもういっそのこと干渉しないことに決めたのだ。だが、それでも誰かに気付いてもらいたい思いが捨てきれず結晶を地上にばら撒いたのだ」

 

「その一つが俺の手に収まったってことか」

 

「そう言うことだ。だからこそこの場所を解放した君を私達は心から歓迎する」

 

次の瞬間。至る所から宙に浮いて近づく少年と少女のエーテルが笑顔で抱き着いてきた。オルト達にも抱き着いて話している様子だった。

 

「長の人。ここにも狂った精霊がいるのか?」

 

「いない。誰一人エーテル族の者は狂ってしまったことは一度もないぞ」

 

じゃあ、テイムする事はできないのか?

 

「仲間にするのは駄目かな」

 

「いや構わない。ただし無条件と言うわけにはいかない。試練をクリアしてからにしてもらおうか」

 

狂った精霊はいないけど試練自体はあるのか。今までの精霊の試練とは逆だな。

 

「聞きたいことは終わりかな? 案内するよ」

 

任せる! にしてもここは天国か? まるで天空の城にいる気分だ。高所恐怖症のプレイヤーは下を視ない方がいいだろう。扉を潜った先から手すり無しの階段が迷路のようにあちこち伸びていてその先はエーテルの店があり長を幼くした童顔エーテルと少女のエーテルがたくさんいる。建物はパルテノン神殿みたいな白い石造りだ。ここではどんなものが売られているのか気になるな。

 

「ここに来るときはまた結晶を捧げないといけないのか?」

 

「日と結晶を一致させなくてはいけないのは最初だけだ。一度入った者であれば、いつでも門をくぐることができる」

 

「他の人間だったら捧げないといけないってことだろう? あの光結晶はここで手に入るのか?」

 

「勿論」

 

エーテルが案内する街中の露天を通り過ぎる一つの店を紹介する。

 

「今なら安いからお買い得だ」

 

「販売しているのかい!!」

 

狂った光の精霊がいないからどうやって手に入れるのかと思ったら! しかもグレードが高くなるたびに+10000Gだ。品質とレア度が5以上になると、50000+10000で60000Gになるようだ。たっか・・・・・。

 

「・・・・・生産に関する物を販売している店は?」

 

「それならこちらだ」

 

お目当ての店へと案内してくれたそこは、ホームオブジェクトを取り扱っていた。ほうほうこれは・・・・・。

 

「観葉植物用のライトに室内や屋内でも栽培できる道具一式に昆虫を引き寄せるライトもあるのか。他にも・・・・・」

 

孵卵器もあるのか! それに凄い、プラネタリウムの機械までもあるぞ!? 一室丸ごと使うことになるが使用しない時は普通の部屋として使えるから問題ないようだなこれは。値段は・・・・・100万Gか。

 

赤外線センサー? フレンド登録していないプレイヤーが三分以上ホームの前にいた時に警報が鳴る? 意味あるのかこれ入れない仕様になってるのに。逆に言えば登録していたら一時間も居られるんだから無意味では。

 

「最後はここ、試練の間だ」

 

取り敢えず全部購入した後、長に連れられた場所は白くて大きな翼を生やした人物が掘られた扉だ。この先にどんな試練があるんだろう?

 

「この先がダンジョンでも?」

 

「その通りだ。エーテルを仲間にしたいならある物をモンスターから集めてほしい」

 

何でもそれはエーテル達にとって大切な物であり、たくさんモンスターに奪われたのだとか。それを100個も取り戻してほしいとか・・・・・ゴミ集めの再来ですか?

 

「途中で止めて出たとしたら?」

 

「100個集めてくれるなら問題ない。試練を受ける覚悟はあるか?」

 

だったら時間は問題ないか。

 

「じゃあ挑戦します」

 

「武運を祈る」

 

試練の扉が開き、オルト達と一緒に潜った先は・・・・・。今までの精霊の里の迷宮ダンジョンと違い宙に浮く逆様にした円錐状の足場が点々と幾つも浮いていて、そこにはモンスター達が既に待ち構えている状態だ。次の場へ行くための広い階段があみだくじのように設けられていて移動できる。まるでアスレチックだ。

 

「ステージごといるモンスターを全部倒せばすぐに集まりそうなもんだが、そう簡単にはいかないよなオルト」

 

「ムー」

 

「ま、時間はあるんだ。のんびりと戦うぞ。準備はいいか?」

 

「ヒム!」

 

「フマー!」

 

「フム!」

 

やる気満々な精霊達を従え、いざ出陣! ってな。出来れば今日中に集めておきたいもんだなぁと思いながら階段を上がってすぐ鳥型のモンスター、シチメンチョウとかいう―――おい運営!!

 

「【咆哮】」

 

「ガッ!?」

 

「攻撃!」

 

10秒間停止させられたシチメンチョウは、俺達に袋叩きされて倒された。神獣使いの効果でステータスが強化されてるからオルト達も強くなっているはずだ。

 

「お、これか。『エーテルの宝』。宝の内容は調べられないか」

 

これを100個も集めるのか、頑張るしかないが早く終わらしたいな。

 

「この調子でガンガン集めるぞ皆」

 

「ムム!」

 

次の階段へ昇りながら意気込む。次は羽が生えた虎だ。トラニツバサ・・・・・運営ェ。

 

「ガァー!」

 

「オルト、ガードだ!」

 

「ムー!」

 

鋭利な爪を振り下ろすトラニツバサの手をクワの柄で受け止める好きに、横から失礼させて短刀を突き刺し【パラライズシャウト】! 麻痺状態になったモンスターにまたフクロにして勝った。宝は、なしか? やっぱり出る時と出ない時があるのかゲーム仕様だな。

 

「よーし、頑張るぞー!」

 

こうして俺達の快進撃はしばらく続いた。このダンジョンは飛行能力があるモンスターばかりで、動きを封じたり麻痺状態にしたりしてから俺達がリンチする感じで倒していったので随分とユルい戦闘ばかりする間にエーテルの宝は10個ほど集まった。戦闘回数は30回でだ。うーん、なかなか集まらないな。これ、他のプレイヤーが押しかけてモンスターの争奪戦になるんじゃないか?

 

「援軍を増やすか。サイナ、フェル、フレイヤ【召喚】!」

 

フェルの場合は牙の笛で召喚した。久々に使うなこれ。俺達の目の前に現れた一人と2体に告げる。

 

「チームを組んでエーテルの宝を集めるのに手伝ってくれ」

 

「かしこまりましたマスター」

 

「グルル」

 

『いっぱい集めてやるにゃー』

 

これでよし、譲渡が可能だから効率的に集めやすくなるはずだ。

 

―――そう思っていたんだが。小休止も入れて半日も費やした時間で手に入れた数はまだ30個。

 

「途中で止めてもいい理由がようやく理解したわ」

 

「ムムー・・・・・」

 

オルト達も流石に疲労の色を浮かべているか。フレイヤも飽きて床に寝転がってだらーんと身体を伸ばして寝てる始末だ。

 

「ふぅ、結構登ってきたが・・・・・」

 

登山をしている気分だ。山の頂上の如く上に続く階段がまだ見える。

 

「サイナ、オルト達としばらくいてくれ。もっと上に行ってみたい」

 

「お気をつけて」

 

休憩させるオルト達に対してフェルは黙ってついてくる。休んでていいんだぞ、と言うと尻尾で背中を叩かれる。お前が気にする事じゃないと言われた気がした。だったら俺に合わせてもらおうか。

 

「目指すは頂点だフェル」

 

「グルル」

 

階段を上った先にいたモンスターは今度は翼を生やした体長2メートルもある大きい燃えているような赤い馬―――赤兎馬? ペガサス?

 

「うーん、まさかこんなところで・・・・・」

 

食指が微妙に動かない・・・・・テイム可能なんだが、あれって幻獣だよな?

 

「フェル、あいつは幻獣種?」

 

聞いてみたら頷いた。同じ幻獣が頷くなら倒さない方がいいよな。ここは回避で違うステージに行こう。

スルーするつもりで右の階段へ向かおうとしたらペガサスがそれを阻む行動をとった。階段を背後に俺の前に立った。戦えと?

 

「いや、戦わないって」

 

なら左だと振り向いたらペガサスはこの場から行かせまいとまた階段を塞ぐように邪魔する。

 

「? じゃあ来た道に戻るか」

 

「ヒヒーン!!」

 

「んだよもう!?」

 

踵返して後退しようとする俺の背後から突然鳴きだし、人の頭を噛むペガサス。それもダメー! と言われて気がしてならないんだが。こいつ意外と知性が高いのか?

 

「フェル、ペガサスが何を望んでるかわかるか?」

 

「・・・・・」

 

「ブルル・・・ヒヒーン」

 

「・・・・・」

 

幻獣同士の対話はすぐに終わった。フェルは俺の手を噛んでペガサスに触れさせる。

 

「なに? 攻撃?」

 

「グルルッ」

 

「うーん、違う? 乗れ?」

 

「グルル」

 

「違う? ・・・・・テイムしろと?」

 

「ヒヒン!」

 

え、こいつが答える? しかも頷くし何でテイムしなきゃならない? くそ、言葉が判れば悩むことが無いのに。俺が神獣使いだからってことはないだろうし・・・・・うーん。何でだ?

 

「何でお前をテイムしなくちゃ? どうしてテイムしてほしいんだよ?」

 

「ブルルッ! ヒヒン、ヒヒーン!」

 

「いやゴメン。人間の言葉じゃないから分からん」

 

困惑する方だ。そんな俺がじれったくてしょうがないのか、何時だったかフェルが俺を認めてくれた時のように額を重ねて来た。ただし頭突き。

 

『幻獣種ペガサスが仲間になりたそうに見つめて来ます。仲間にしますか?』

 

「幻獣種ペガサスが仲間になりたそうに見つめて来ます。仲間にしますか? だと? だからドラ○○○○ストじゃないんだぞ運営っ!」 

 

突っ込んでもしょうがないだろうけど・・・・・あー、もう。

 

「分かったよ。理由は知らないが仲間にすればいいんだろ。それで満足か」

 

「ヒヒン!」

 

訳も分からずテイムしてしまった。ペガサスはその場で跪き、俺に背中に乗れとばかりな姿勢となった。大きな背中に乗ると立ち上がりだすペガサスは―――上の階段を目指して一気に駆け上がり出す。そのステージにいたモンスターをひき殺して・・・・・えげつな。

 

「ブルル!!」

 

「お、おいっ!?」

 

鞍がないからペガサスの鬣を掴んでいないと俺が落ちる。馬の速度に余裕でついてくるフェル。

 

ドガッ! ドゴッ! グシャッ! ドンッ!

 

各ステージに一体しかいないモンスターをひき殺す擬音が聞こえる幻聴と一緒に、ポリゴンと化して消失するモンスターの散り様を見せられる。その度にエーテルの宝が手に入るのだがどうしてこんなことするのか本当にわからなくて、いつの間にかあみだくじの最終地点、ステージが一つしかないところに近づいて来てペガサスはようやくそこで立ち止まった。安堵で深いため息を馬の背中ですると、ここにいるとは思いもしなかった男女のエーテルがポツンと退屈そうに膝を抱えて座っていた。・・・・・狂ってもいなさそうだな。

 

「どうしてこんなところに?」

 

「ピッカー!」

 

「ピィー!」

 

降りる俺の足にしがみつくエーテル達。うーん、ここまで登っちゃって疲れたから帰れなくなった的な?

 

「里に帰るか?」

 

「ピカ!」

 

「ピィ!」

 

コクコク、と頷く二人に俺は鷹の姿になって二人を背中に乗ってもらうとサイナ達のところへ戻る。フェルトペガサスは自力で駆け降りて行ってもらった。

 

「サイナ」

 

「お帰りなさいませ。それは?」

 

「多分迷子? ここから出るからオルト達はフェルとペガサスの背中に乗って」

 

「ムム」

 

でも大丈夫かな。凄く速いんだが。

 

「アイネとファウはサイナが運んでくれないか?」

 

「わかりました」

 

と言うことで俺達は里に戻った。駆け降りる途中は俺達が上を目指している間リポップしたモンスター達と遭遇するが、フェルとペガサスが倒していった。そして扉が見えて来た。

 

「ただいま長」

 

「ああ、お帰り。おや、その子達は」

 

「試練の中にいたんで連れ帰った」

 

フェルとペガサスから降りるオルト達と一緒に背中から降ろすエーテル双子。

 

「そうだったのか。あの中は危険だからと伝えていたのだが、無事で何よりだった。解放者よ感謝する」

 

「どういたしまして。・・・・・あー、後これ」

 

エーテルの宝×100

 

フェルとペガサスが爆走&ひき殺しで一気に集まっていたにしても、ここまでは貯まらない筈だ。いや、なんで?

 

「ピカー!」

 

「ピィ!」

 

「ふむ。どうやらこの子達は盗まれた宝を取り戻そうと中に入ったようだね。ここまで送ってくれたお礼にこの集めた宝の分をキミにあげたそうだ」

 

「お、そうなのか。ありがとうな!」

 

よしよしと頭を撫でたらくすぐったそうに笑みを浮かべる双子が、ギューッと抱き着いてきた。長は宝を受け取ってくれた。

 

「確かに受け取った。ではこの里にいるエーテルを仲間にすることを許そう。もしまた仲間にしたいならもう一度宝を取り戻してきてほしい」

 

「ん、わかったそれじゃ―――」

 

「ピカ!」

 

「ピィ!」

 

エーテル双子が俺を離さんと抱き着いてくる。仲間にしていいのは一人の筈だから二人同時は駄目だろ。

 

「長・・・・・」

 

「構わないよ。エーテルは二人で一人のような精霊だ。片方だけでは力を発揮できないのだ」

 

「え、そうなのか? じゃあ、これからよろしくなお前達」

 

嬉しそうに頷くエーテル。恐らく光系のスキルを覚えているはずだ。テイムも問題なく成功してステータスを確認する。

 

 

 

名前:エンゼ&ルーデル 種族:エーテル

 

 

契約者:死神ハーデス

 

 

LV1

 

 

HP:40/40

 

MP:49/49

 

 

【STR 13】

 

【VIT 12】

 

【AGI 10】

 

【DEX 12】

 

【INT 17】

 

 

スキル:【早熟】【閃光】【闇耐性】【ヒール】【状態異常回復】

    【光魔術】【収納鞄】【ライト】【祝福】

 

装備:【光霊の鞄】【光霊の服】【光霊の首飾り】

 

 

 

 

名前:セキト 種族:ペガサス(幻獣)

 

 

契約者:死神ハーデス

 

 

HP:250/250

MP:140/140

 

 

【STR 130】

 

【VIT 190】

 

【AGI 100】

 

【DEX 180】

 

【INT 150】

 

 

スキル:【スタミナ超回復】【赤き閃光】【超突進】【踏み付け】

    【浮遊】【高速移動】

 

装備:なし

 

 

赤き閃光ってなんだよ。ってツッコミたいがスタミナ超回復は便利だな。まさに疲れ知らずってことになるだろうから、従魔のレースイベントが行われるならこいつを出馬させよう。・・・・・いや控えよう。出来レースになりかねん。さて、やることやったしホームに戻ろう試したいことがあるしな。

 

 

 

あれからホームに戻った頃にはすっかり日が暮れた。エンゼとルーデルを皆に紹介した後はスキルの検証だ。

 

「二人とも、【早熟】のスキルを使ってくれるか?」

 

「ピッカ!」

 

「ピィ!」

 

麒麟が畑に何かした事は後でわかった。畑の土壌を改善と改良を施したんだ。具体的に言えば、ホームの畑に作物を植えたら全部高品質になるという栄養豊富な土壌にしてくれたんだ。ウッドの出番はここじゃなくなったが問題ない。他の畑に頑張ってもらうだけだ。土と植物のオルト達も麒麟の恩恵を享けた様子だけどステータスの数値に変化はない。目に見える変化じゃなくて見えない変化かな?

 

「ピカッ」

 

「ピィ」

 

採取したばかりで実がない胡桃の木に両手を突き出す二人が放った光を浴びた胡桃の木は、見ているとまた実り始めた。そして採取可能なまでに成長したのだった。

 

「おおー、【早熟】便利だな。これ、同じ作物に何度も出来るのか?」

 

揃って首を横に振られる。一日一回か?

 

「じゃあ、苗木と種に【早熟】すると成長が速くなる?」

 

「ピカッ!」

 

「ピィ!」

 

首肯するエンゼとルーデル。なるほど、ファーマーが欲しがるスキルだなこれ。あとでヘルメスに情報を売りに行こっと。

 

「じゃあ【祝福】は?」

 

今度は俺に光を浴びせて来るがバフかな?

 

 

効果:20分、祝福効果によって、戦闘以外の全ての確率が上方修正される

 

 

ほー・・・・・これは案外凄いスキルじゃあ?

 

 

「【祝福】は俺以外の人間にも使える?」

 

「ピィ」

 

「ピカピカ」

 

頷いたって事はできるのか。イズとセレーネが喜びそうだ。

 

「じゃあ次は【閃光】」

 

試した次の瞬間。ホームを照らす刹那の光を浴びて目の前が真っ暗になった。め、目がぁ~!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【テイマー】ここはNWOのテイマーたちが集うスレです【集まれPART9】

 

 

新たなテイムモンスの情報から、自分のモンス自慢まで、みんな集まれ!

 

・他のテイマーさんの子たちを貶める様な発言は禁止です。

 

・スクショ歓迎。

 

・でも連続投下は控えめにね。

 

・常識をもって書き込みましょう。

 

 

 

 

 

821:イワン

 

 

なぁ、気のせいじゃないよな? 精霊門が解放されたってアナウンスが流れたぞ?

 

 

 

822:アメリア

 

 

気のせいじゃないよ! 私も聞こえたもん!

 

 

 

823:エリンギ

 

 

土霊のノーム、火霊のサラマンダー、水霊のウンディーネ、風霊のルフレ。これ以外にも精霊っていたっけ?

 

 

824:オイレンシュピーゲル

 

 

もしや、俺達が気付いていないだけで他にも精霊がいたんじゃ?

 

 

 

825:エリンギ

 

 

そしてその発見者は白銀さんだという

 

 

 

826:ウルスラ

 

 

あ、あり得る・・・・・。

 

 

 

827:オイレンシュピーゲル

 

 

だとしたら光の精霊と闇の精霊・・・・・? か、可愛い精霊だったら探さなきゃ!

 

 

 

828:ウルスラ

 

 

タラリアから聞きださないと!

 

 

 

829:エリンギ

 

 

タラリアはまだ早いんじゃあ? 仮に白銀さんが発見でもすぐには情報を売らないと思う。

 

 

 

830:イワン

 

 

それもう中古になるぞ。白銀さんがタラリアに現れた

 

 

 

831:ウルスラ

 

 

教えなさい! 白銀さんは何を売ってるの!?

 

 

 

832:オイレンシュピーゲル

 

 

かわいこちゃんいる!?

 

 

 

833:イワン

 

 

いる。しかも男の子と女の子で双子っぽいし、なんか赤くて大きい翼が生えた馬もいる。ペガサスだよなあれ。双子の容姿は金髪碧眼の童顔、白い布1枚だけ着て片に掛ける鞄を持ってる。白銀さんに引っ付いていて可愛いな。あ、ヘルメスがうみゃああああああ! って叫んだ。

 

 

834:アメリア

 

 

スクショは!?

 

 

 

835:イワン

 

 

無理、フェンリルが俺達プレイヤーを警戒しているのか睨んでる。ちょっと変な事でもしたら飛び掛かってきそうな迫力と威圧で、遠巻きで見てるしかない。

 

 

836:エリンギ

 

 

すっかり番犬もとい番狼に板についている・・・・・。

 

 

 

837:オイレンシュピーゲル

 

 

それにしても白銀さん、また可愛い従魔をゲットか・・・・・。裏山!

 

 

 

838:アメリア

 

 

最早そういう星の元に生まれたとしか思えない。

 

 

 

839:エリンギ

 

 

ゲームで可愛い従魔ばかりを引き当てる星?

 

 

 

840:イワン

 

 

限定的にも程があるな

 

 

 

841:ウルスラ

 

 

でも私もその星の元に生まれたかった!

 

 

 

842:オイレンシュピーゲル

 

 

俺の、道歩いてたら必ず人とぶつかる星と交換してくれないかな?

 

 

 

843:イワン

 

 

美女とぶつかるかもしれんし、ワンチャンあるんじゃ?

 

 

 

844:アメリア

 

 

というか、単に不注意なだけでは?

 

 

 

845:オイレンシュピーゲル

 

 

あー、可愛い女の子型の従魔が欲しい!

 

 

 

846:エリンギ

 

 

ぶっちゃけやがった(笑)

 

 

 

847:イワン

 

 

ビックニュース。白銀さんが新しい精霊の動画を配信したぞ。新光霊の里を発見! って題名でだ。

 

 

 

848:オイレンシュピーゲル

 

 

おおっ! ほんとだ、場所は朽ち果てた教会みたいだな。聞いたことも行ったこともないけど。

 

 

 

849:ウルスラ

 

 

ステンドグラスが綺麗。光結晶をあんな風に捧げればいいのね。

 

 

 

850:アメリア

 

 

光霊の長がイケメン! それに白銀さんに抱き付く里にいる子達がみんな可愛いー! 白銀さん、そこ代わって!

 

 

 

851:エリンギ

 

 

無茶を言う。なに? 狂った精霊がいない? その前に空気過ぎて皆に気づかれなかったって・・・・・。

 

 

 

852:イワン

 

 

そんな精霊もいたのか。うわぁ、里は凄いな。天空にある足場の上に住んでいるのか。下をみたら行けない場所だ。

 

 

 

853:アメリア

 

 

あの双子はどうやって手にいれるんだろ? 結晶は?

 

 

 

854:オイレンシュピーゲル

 

 

 

「今なら安いからお買得だよ」「販売してるんかい!」って、白銀さんが精霊の長にツッコミを入れるシーンを見ることになるとは。

 

 

856:ウルスラ

 

 

白銀さんが私財をなげうってレア度1の光結晶120個を買って、タラリアで私達に譲ってくれる・・・・・ですって?

 

 

857:オイレンシュピーゲル

 

 

1つ30000Gはするのに3600000Gを支払って俺達に無償でくれるなんて・・・・・あざーす白銀さんっ!

 

 

 

858:アメリア

 

 

私達は白銀さんを心から感謝しますっ!

 

 

 

859:ウルスラ

 

 

 

どこかで会ったら感謝の抱擁をしてあげるわっ! ステキ! 抱いてっ!

 

 

 

860:イワン

 

 

いい人だ・・・・・。

 

 

 

861:エリンギ

 

 

お前ら、感動するのはいいがもう結晶はなくなったぞ。タラリアから去った白銀さんの後に100人以上のプレイヤーが凄い勢いで情報と光結晶×6個まで購入したからな。結晶を買えなかったプレイヤーの絶望と阿鼻叫喚が凄い。

 

 

 

862:オイレンシュピーゲル

 

 

ええっ!? ひ、光の精霊ちゃんとの出会いがもうできなくなったってのか!? それじゃあ、高騰した結晶をプレイヤーから買う羽目になるじゃん!

 

 

 

863:エリンギ

 

 

―――安心しろ。白銀さんの気配りの優しさに胸を打たれた俺がお前達の分まで用意してやった。行こうか、更なる精霊のもとへ

 

 

 

864:アメリア

 

 

エ、エリンギ~~~っ!!

 

 

 

865:ウルスラ

 

 

エ、エリンギ~~~っ!!

 

 

 

867:オイレンシュピーゲル

 

 

エ、エリンギ~~~っ!!

 

 

 

868:イワン

 

 

エ、エリンギ~~~っ!!



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闇霊の里 解放

「おはよー」

 

「おはよーう」

 

学生が登校する穏やかな朝の日。学園長の椅子に腰を落とし、右足を左足に乗せながらタブレットでNWOの情報をチェックする日課から朝が始まる。

 

(昨日の今日でもう光霊の里の攻略情報が増えて来たな)

 

どうやらあのあみだくじのダンジョンには隠された秘密があり、モンスターの最後の名前に繋がる名前のモンスターを倒せばエーテルの宝が連続で手に入れるらしい。

 

(・・・・・だから半日かけても集まらなかったのかぁ)

 

なお、途中から名前が続くモンスターを倒せば手に入るらしいとかいう情報に肩を落とす王だった。そして、ダンジョンのしりとりアスレチックの最後、つまりゴールには5つあるそうだ。ダンジョンのボス、ランダムでアイテムが手に入るボックス、スカ、双子のエーテル(ユニーク)、転移魔法(試練の扉前)。

 

(双子のエーテル。ペガサスに案内されたあれはなんだったんだ?)

 

なお、白銀さんが連れていた赤いペガサスの存在は確認できず、何かしらのギミックの可能性がある模様。

 

(んー・・・・・? 宝を30集めた状態だったから、何てことはないだろう。幻獣を連れてたから? しりとりのモンスターを倒してなくペガサスに繋がったから? ・・・・・しりとり?)

 

もしやリポップするモンスターもランダムで現れるのかも? 王も倒したモンスターがいた場所は違うモンスターになっていたし、ペガサスを始める幻獣が・・・・・。

 

『待たんか貴様らァ~~~っ!!!』

 

『追いつかれるよ雄二!?』

 

『あそこだ明久っ!』

 

授業中のはずが聞こえてくる騒音に王は顔を上げた瞬間に勢いづけて開きだした扉が、許可を得ず入ってきた二人の生徒の手で閉ざされた。

 

「ここは鬼ごっこの避難所ではないんだが?」

 

「すみませんね学園長。この馬鹿が鉄人に追い掛けられる馬鹿なことをして馬鹿に巻き込まれたんで」

 

「馬鹿に馬鹿って言われたくないよっ!」

 

「良い成績とは言えないクラスの代表とそのクラスの生徒が何を言ったところで、俺からすればどっちもどっちだぞ」

 

呆れる王に生徒達は気にもしないで王と対面する。

 

「まぁ、うちの蒼天学園の生徒でも教師に追い掛けられて、学園長室に逃げ込む生徒は一人もいないから新鮮だがな」

 

「そいつは誉め言葉として受け止めさせてもらうぜ」

 

「おう、純粋に誉め言葉だ。馬鹿やって学校生活を楽しめ少年達」

 

「僕たちが知ってるババア長と違いますね」

 

「あいつはあれでも蒼天の開発技術のトップのひとりだったんだがな。やはり年波には逆らえないようだな」

 

一枚の写真を机の収納箱から取り出し、それを見せつける。

 

「因みにこいつがお前らと同じ頃のカヲルだ」

 

「これがあのババアだと・・・・・?」

 

「若い頃の学園長って、以外と美女の子だったなんて・・・・・。というか、王様も今と変わらない若さですよね」

 

「俺は人間じゃないからな。歴史の教科書に載ってるだろ」

 

今さらな、と言いたげな王は二人の反応を気にしないで自ら茶菓子を用意しだした。

 

「ここに来たなら丁度良い。生徒とコミュニケーションをしようか。蒼天が開発したゲームの感想を聞かせろ」

 

「学園長がそんなことしていいんですか? 普通追い出すんじゃ」

 

「お言葉に甘えてそうさせてもらおうぜ明久」

 

ソファーに座り出す生徒達と王は飲食しながらゲームの話をし、和気藹々と後に二人から聞かされる大和達は、それに対して心底羨ましがったのは別の話。

 

「そうそう、近いうちにアメリカに向けてNWOに次ぐゲームの体験版が日本にもできるぞ。予約しとけよ」

 

「違うゲームだと? 今度はどんなゲームで?」

 

「広大な宇宙を開拓しつつ、宇宙船やロボットを駆使して遊ぶのと、アメリカの漫画をベースにしたヒーローとヴィランが戦う格闘ゲームだ」

 

「へぇ、何だか凄そうだね雄二」

 

「俺は格闘ゲームが興味あるな。明久をゲームの中で殴り放題なんてよ」

 

「言ったなぁっ!! 僕が雄二を殴り倒す!!」

 

「おー上等だ。何度でもそのバカ面に拳を叩き込んでやるぜ」

 

青春だなぁー。と茶柱立つすぐ飲める温度の茶を口に付けて、せんべいを食べる王の耳に授業が終わるチャイムの音が聞こえた。

 

「終わったようだな。ほれ、教室に戻れ」

 

「そうだね。もう鉄人はいないだろうし」

 

「そんじゃ、お暇するか」

 

一緒に立ち上がって生徒を送る王の目の前に開かれた扉の先に、腕組む鉄人がそこに立っていた。

 

「やっと出てきたな貴様ら~~~」

 

「「・・・・・」」

 

「それじゃ、残りの授業はしっかり受けるんだぞ。補習も兼ねてな」

 

閉じられた扉と一緒に、二人は大きな手に顔面を鷲掴みされて捕獲された。

 

「今から地獄の補習タイムだ。覚悟しろ!!」

 

「「ぎゃああああっ!!?」」

 

 

 

その日の夜―――。

 

ゲームにログインした俺は布団から起きて、すぐにネコバスで常闇の神殿に向かった。

 

『闇霊の祭壇に闇結晶を捧げますか?』

 

「捧げる」

 

神殿の中に入り、聞こえるアナウンスに応えて最後の結晶を捧げれば目の前の床が音を立てて地下階段の入り口を開く。そこに入り降り続けると。

 

「こんばんわ。初めまして解放者さん」

 

濡れ羽色の右目が隠れるほど長い髪を流す精霊が小さく笑って出迎えてくれた。スタイル抜群の身体の輪郭が浮き出る黒と金を基調にした深いスリットを入れたナイトドレスで身に包み、金色の眼を俺に向けてくる女性の精霊がいた。

 

「初めまして、俺は死神ハーデスだがそっちの名前は?」

 

「闇の精霊、名前はないわ」

 

「そうか。じゃあここは闇霊の里で合ってる?」

 

「そう、私達の隠れ里でもあるし世界の一部でもあるわ。世界が闇に閉ざされた時、私達は闇の神の祝福を受けて閉ざされた里を解放できる」

 

「じゃあ、日の出の時にここに訪れても門は開かないのか?」

 

「ええそうよ。他の精霊達と違って、私達は影と闇の中にしか動けない。光の中で生きようとすれば力の殆どが発揮できなくなるから」

 

くるりと踵を返して闇の精霊の長は歩きだした。

 

「いらっしゃい。案内するわ」

 

《プレイヤーによって、最後の精霊門が攻略されました。最後の精霊門の解放を祝い、ゲーム内で48時間後にイベントが発生します。開催場所は、始まりの町となります》

 

『光霊の門と闇霊の門を含め、全ての精霊門を開放したプレイヤーには称号「神話に触れし者」が与えられます』

 

そんなワールドアナウンスが流れても気にせず先に歩く長の背中についていくだけだった。闇霊の里、紫色の世界に松明の炎で間隔等に灯りをともしている。建物は西洋の造りで精霊達は皆、目がぎょろっとしてる骸骨の仮面をかぶって全身は黒いマントで包み隠す、まるで死神の出で立ちをしていた。そんな仮面に・・・・・。

 

「仮面か? だったらほしいなぁ・・・・・」

 

「売ってるわよ?」

 

「是非とも買わせてくれ!」

 

道具屋で本当に売っていたので購入した。闇精霊の仮面・・・・・ほう、暗視のスキルが付いているのか。それに360度の視覚が見れるとは普通に便利では? 黒いマントも買って装着する。

 

「似合っているわ」

 

「ふはははっ!! 体で名を表す物が手に入って嬉しいからありがとう!」

 

里にいる間はこれを付けていよう。お? なんか闇の精霊達が集まって来たぞ。

 

「あなたのことが気になったようだわ」

 

「おおー、そうかそうか。おいでー」

 

性別は分からないけど頭を撫でたらぴょんぴょんと跳ねた。他の精霊も、次もそのまた次も撫でると嬉しいのか兎のように飛んで跳ねる・・・・・なにこれ面白い。

 

「ぴょんぴょん!」

 

「ヤミー!」

 

あ、声が高いから女の方か。身長はゆぐゆぐと同じぐらいだけど顔と身体が隠されてて判別できないからな。それからしばらくぴょんぴょんしてた精霊達は解散、俺はもう一度道具屋のアイテムを見た。仮面とマント以外にもなかなか興味深いものが売られていたからだ。

 

ゴーグル型の暗視カメラ、ガンナー用の暗視スコープ、赤外線カメラ、赤外線暗視カメラ、世界の裏側を見るゴーグル。

 

主に暗闇の中でもはっきりとみられる道具が他にも幾つもあるのだが、世界の裏側を見るゴーグルってなんだ。昼夜問わず幽霊を見ることが出来るのか? 気になってしまったから思わず買ってしまったよ赤外線暗視カメラと一緒に。

 

次は待望のホームオブジェクトを販売している店だ。ここは昆虫を誘き出す餌の罠やマスコットではない純粋な動物扱いのフクロウと鈴虫やコオロギ、カエルが買える。これをホームに使うとランダムで夜に鳴くらしいようだ。いいね。日本家屋の夜にピッタリじゃんか。お、レンタルフクロウなんてものもあるのか。試しにレンタル購入(10000G)するとフクロウが俺の肩に止まって「ホー」と鳴く。

 

「この里にも試練はある?」

 

「あるわ。挑戦をする?」

 

「ああ。でも、狂った精霊はいるのか?」

 

「いないわ。でも、試練をするならヒントだけ教えるわね。何があっても絶対に後ろを振り向いちゃダメ。これがヒント」

 

後ろを振り向くな? 何だか怪談話に出て来そうな気になるヒントだな。

 

「あと試練をする時はこれを身に着けててね」

 

長がマントにある物を付けた。中身がない透明なフラスコのようなガラスだ。

 

「これは?」

 

「試練の扉の先は闇。闇は静寂を好むの。だから静かに移動してね。じゃないと闇そのものがあなたを襲うわ」

 

襲われたらフラスコに変化が起きるのか? 襲われたら闇耐性が手に入れられるのかな? なんて思う反面、闇の精霊を仲間にしたいと口にしたら長は蠱惑的な笑みを浮かべた。

 

「闇に気に入られたら、仲間になってくれると思うわ。頑張って?」

 

「いいね。闇に気に入られるって単語は嫌いじゃない。ああ、そう言えば名前がないんだよな他の精霊と一緒で」

 

「精霊に名前は必要ないの」

 

「じゃあ、勝手にこう呼ばせてもらうよ。闇の精霊の長に対して―――その満月のように綺麗な金の瞳から決めた『ユエ』とな」

 

「・・・・・ユエ」

 

手を触れて自動的に開く黒い大きな扉の中へ潜る。一寸先は闇とはよく言ったもので、仮面を外すと闇霊の里のダンジョンは本当に真っ暗だ自分の身体も足元も全然見えない。だから道具屋で売られていたのか暗視と赤外線のカメラとスコープ。

 

「どれを付けるか」

 

静かにと言われたから意識して声を殺し、購入した赤外線暗視カメラと世界の裏側を見るゴーグルを決めかねる。・・・・・まぁ、名前で気になってたこっちにするか。

 

「・・・・・おおう」

 

世界の裏側を見るゴーグルを装着したら、ゴーグル越しで見る闇の世界に煌びやかな商店街が目に飛び込んできた。そしてその商店街を闊歩する闇の住人達というべき存在。全員実体を持っていそうな異形のお化けだらけだ。完全にここはお化け屋敷、ホラーが苦手な人間じゃなくても怖がるだろこれ。

 

「・・・・・とにかく行くか。どこに目指せばいいのか分からないけど」

 

「ホー」

 

出来る限り闇の住人達とぶつからずに歩き始める。攻撃したら一斉に襲い掛かってきそうだなぁ・・・・・と後ろに振り返ないよう周囲を見回す。飲食店に道具店、得体の知れない何かの店から出入りする異形達。不気味な声を上げてざわざわと賑やかな商店街はまるで歌舞伎町にいるかのような錯覚を思わせる。

 

ぐいぐいっ。

 

観光気分でそれなりに歩いていると、後ろから誰かに引っ張られる。振り向―――は出来ないから俺が後ろに下がって、後ろにいた誰かを視界に収めた。目玉がなく眼窩の奥が真っ暗で腕が異様に長い不気味な子供だけど、服装はズタボロでとてもじゃないが裕福な暮らしをしているような感じだ。何か用なのかな? と小首をかしげると物乞いをする風に両手を突き出した。え、何が欲しいの? 金か?

 

「・・・・・これでいい?」

 

100000Gのお小遣いを渡すと異形は口の端を大きく吊り上げて笑みを浮かべると、俺の腕を掴んでどこかへと連れて行こうとする。一緒について行くと商店街の路地裏へ入り込み、狭い通路に潜っていくと円状の袋小路に段ボールやシートで作った簡易の家があった。ここ、ホームレスのたまり場? 異形がホームレス? 俺をここまで連れて来た異形はその内の小さな家の壁を叩くと、家主がぬぅっと現れる。いやいや、待て待て。物理的法則を無視しちゃダメだろ。タコならまだましも3メートル超えの異形が出てくんなよ! 家の方は1メートルもない小さい段ボールの家なのに!

 

「’&%”=”+*‘{}?<>=)(」

 

「=&(%#)=(=?><}‘*=~|」

 

異形の言葉で話し合い始め、俺が上げた金の事を教えているのか? 黙って見ていると巨大な手が物乞いする風に伸ばして来た。えー・・・・・金を払わないといけないのか。

 

「・・・・・これで」

 

1000000Gを渡すと大切そうに持ち、感謝してるのか頭を一度垂らした。異形も金に困っているってどうなってんのこの世界、と思っていたら・・・・・。

 

「<L*‘(%”&(=(」

 

「?<++‘|=)’%%(」

 

「><L‘~)(’&%$」

 

「>?L*{P‘~(’%$#+>*」

 

「><*L‘~(&%(‘+」

 

ホームレス異形達が続々と現れ四方八方から物乞いする両手を伸ばしてきた!! いや、これは俺でもちょっと怖いよ!?

 

「・・・・・列、真っ直ぐ」

 

並んで欲しいと全身で必死に伝える。俺のその行動が3メートル超えの異形が他の異形達に何かを話しかけると、俺の前に長蛇の列が出来上がっていた。しかも数が多っ!?

 

「・・・・・これで」

 

100000Gを渡し続けた。貰えて感謝か、異形達は貰うたびに頭を下げて自分のホームに戻らず商店街へと向かって行く。1日で使い切らないよな? 一抹の不安を覚えながら結局1千万以上消費したところで長蛇の列が無くなり懐がちょっぴり寒くなった。

 

「)(&$&(’%$~」

 

デカい異形が手を伸ばしてきた。また欲しいのかと思ったら、何か持っていた。木札のようなもので壱と書いてある。それを受け取ると異形は袋小路の中心に指を差す。中心に何が? と思いながら近づいてしゃがんでみると何かの差込口があった。この木札を? 差し込んでみると俺を中心に足場が落ちていく・・・いやこれ、沈んでいる? あ、木札が消失した。

 

「)&’%#=~(!!!」

 

「(~)&%(・・・・・」

 

上にいる異形達が手を振っている。ここで別れなら手を振って返す。フクロウも翼で振る。そして降下し続ける足場は・・・・・熱狂が沸く地下闘技場への入り口のようで凄く盛り上がっている。おい、闇は静寂を好むんじゃなかったっけ? しかも俺が降りたところはよりによってステージだし、既に俺の相手が目の前にいて戦う気満々でいる。6本の腕の持ち主で筋骨隆々の顏なしの異形だ。周辺には先頭の痕跡・・・・・異形の死骸が所狭しと散らばって赤やら青やら緑の液体が床を汚していて清潔感が全然ない。

 

「)&’%#”’~!?=+<>*」

 

「・・・・・?」

 

「‘+L<>*+~=(%)&$#」

 

何言っているのか分からないから反応に困る。でも、戦いのコングが鳴り出したら異形が手を伸ばして飛び掛かって来た。身体を限界まで前に倒して地面すれすれに移動し、異形の足を両手で掴み、足腰に力を入れながら勢いよく異形を振り回し、振り回し、振り回し、振り回し続けること3分間。

 

「<+P‘=)(%&$//・・・・・・」

 

息はしてるが振り回されてグロッキーな異形は白旗を手に持って振った。降参の合図として受け取った運営側はゴングを何度も鳴らし試合終了。これで終わりかと思いきや、上から巨大な影が落ちてきて降参した異形を踏み潰さんとするので手を掴んで後ろの方へ放り投げた。次の相手と思しき異形は・・・・・肉塊の一言で尽きる。肥え太り過ぎて身体の大半が脂肪たっぷりな腹部で、頭は申し訳程度についているだけだ。

 

「<*‘? *‘)%’$!!’(」

 

「・・・・・?」

 

異形の言葉は分からないってば。また試合開始のゴングが鳴ると、肉塊が身体を前に倒してくる。フクロウを上に避難させてから敢えて潰されてやることにした。そして―――。

 

「【悪食】」

 

潰されながら肉塊を一撃でポリゴンと化して見せた。会場にいる異形達は息を呑んだような雰囲気を作り静まり返った。そんな連中に挑発するように手を動かした。

 

「・・・・・次だ。こい」

 

 

・・・・・。・・・・・。・・・・・。

 

・・・・・。・・・・・。

 

・・・・・。

 

 

50から数えるのを止めた。なんだかんだで挑戦者が増え続けるもんだから全員を相手に倒したからな。

うん、フラスコも異変がない。俺が騒がない限りは変化しない仕組みかもしれないな。

 

「(’&$~=>?*+}{‘|・・・・・」

 

「ん?」

 

執事服を身に包んだ異形が脂汗みたいなのを肌に浮かべて腰を折って深々とお辞儀をしながら両手に持ってる木札を差し出して来た。それには弐と書かれていた。壱ど同様にどこかへ差し込めばいいのか、でもどこに? を悩んでいると最初に相手をして助けた異形が俺の前に来てこっちに来いと手を招いた。フクロウが肩に戻り、闘技場の出入り口に続く通路を歩かされその先に鎮座している鎖で縛られた扉があった。その鎖の鍵穴が木札の形と同じだったので嵌めたら、錠が開いて鎖を解くと扉が開きだした。木札も消失する。

 

「=&’%$”%)!!」

 

手を振る異形に手を振って返して先へ進む―――。扉から出た先は商店街だった。今度はどこに行けばいいんだかな。後ろを振り返らずまっすぐ歩きふらふらと彷徨ってるとバットと野球ボールの看板を見つけたので遊んでみることにした。中は・・・・・バッティングセンターのまんまだった。お、景品があるし最高得点の景品は木札の参だ。やらないとなこれは!

 

「最高得点は100点。打ちまくるぞー」

 

でも俺は気付きもしなかった。このバッティングセンターは悪意があることに。機械で自動的に投げられてくるボールそのものが異形で、飛ばそうと振り抜くバットの直前に剥き出しにする凶悪な牙で噛み砕かれるまでは。

 

「なっ・・・・・」

 

砕かれたバットに目を見開いてみたら、笑い声のような声が聞こえてくる。右を見れば隣でバッティングしているこっちを見てばかにして笑ってる異形の手の中にはバットではない棘付きの金棒、左を見れば隣でバッティングしている同じく笑ってる異形の手の中にはフライパン、フライパンンンンンッ!? あれで打てるのか! あ、金属音を鳴らしてホームランかよ! え、バット以外なら何でもいいのかここ! だったら―――アルゴ・ウェスタさんの出番!

 

―――一時間後。

 

破壊不可の物を噛み砕くことが出来ないままボールは100回目のホームランの成績を残して飛んで行った。一時間をかけてようやく最高得点を叩き出して木札の参を獲得した俺は、バッティングセンターを後に木札をどこかに開けることもなく雷門のような大きい門に近づき、閉ざされてる門の番人と目が合い手を伸ばしてきた。ここで使うのかな? 木札参を提示すると番人が小さい方の扉を開けてくれて顎で中に入れと催促した。小さい扉を潜ったら閉められて後戻りが出来なくなったところで前方の光景を視界に入れた。

 

 

あっは~ん♡

 

 

遊郭、風俗、ラブラブなホテルが軒並みに建ってる場所には美幼女、美少女、美女、美熟女の人間NPCが水着やドレス、メイド服、チャイナドレス、ナース、スケスケ服、下着、中には全裸も当然な布一枚で局部を隠してるだけの姿で闊歩して異形じゃない人間相手に商売している光景を目にした。頭に二本の角を生やし腰辺りにコウモリの羽と尻尾がある。サキュバスかな?

 

「・・・・・ええ」

 

NPCのサキュバスの腰に紐で括った肆の木札がある。それも目の前にいるサキュバス全員の腰に。どれが本物? 全部本物ではあるまい。

 

「フフッ♪」

 

眼前の光景に悩んでいた俺の横から、桃色の長髪のサキュバスが妖艶な笑みと豊かな胸を揺らしながら抱き付いてきた。このサキュバスも木札肆を持っており、本物か偽物か疑心暗鬼してたら路地裏に連れ込まれ、逆壁ドンされた。もう逃がさないと獲物を狙う捕食者の顔つきになってるサキュバスが、俺の首筋に顔を埋めてかぷっと牙を立てた。

 

「エナジードレイン?」

 

HPが減っている。精気を吸ってるつもりなのか? ・・・・・待てよ? モンスター相手に食べる行為をしてきたが、吸う行為はしてなかったな? 俺もそう試そうと考えに至った矢先。フクロウがサキュバスの頭に嘴で突っつき始めた。食事の邪魔をされてご立腹なサキュバスは怒り心頭でフクロウに手を伸ばすが、そうはさせない。その手を掴む俺に驚いてる彼女の身体を押し退け、今度は俺が壁ドンをする。

 

「お前で検証させてもらうぜ?」

 

「―――!?」

 

彼女の首筋に歯を立てて、ダメージ判定が出てるポリゴンを確認するとチューと吸い立てる。俺の想像は現実となりサキュバスのHPがゆっくりと減っていった時、声にならない声を上げて身体を打ち震わすサキュバスは気付かない。熱で浮かれて恍惚な表情を浮かべ、目の奥にハートマークを浮かべてることに。

 

『スキル【精気搾取】が取得しました』

 

おっ、スキルキター!

 

吸血行為をやめて確認した。

 

 

【精気搾取】

 

触れる対象のHPをドレインする。

 

 

取得条件:HPドレインする対象にHPドレインすること

 

触れるって手で? これは使い勝手が悪そうだな。

 

「あっ、ありがとうなお前」

 

腰が抜けて立てないのか、座り込んで呆けた顔で目を向けてくるサキュバスの額に唇を落として路地裏を後にした。

 

「・・・・・なんでこうなった?」

 

「フフッ!」

 

本来の目的を達成しようとあちこちに歩き札を見ていたら、身体に軽い衝撃が襲って頬に顔を摺り寄せてから背中に張り付いて離れようとしないさっきのサキュバス。木札肆を見付けたいのに邪魔なんだが。

 

「・・・・・次の場所に行くための木札肆が欲しい」

 

「アハッ♪」

 

こいつからもらえないかと訊ねた。笑う彼女が背中から離れては、俺の手を引っ張ってどこかへ連れていこうとする。そこは、利用するだけでも高い料金を払わないといけなさそうなホテルだった。サキュバスはその中に入り、どんどん中を移動するととある一室の扉を開けて中に招かれた。

 

「・・・・・おおう」

 

赤い敷物、赤いソファー、アンティークな家具などあって圧倒されはしないが、一部・・・・・全裸なNPCの男性の背中に腰掛けてる蠱惑的でボス的なサキュバスがいた。

 

人を色気で惑わすタイプのサキュバスと正反対な獰猛な獅子を思わせるサキュバスだった。その美貌は凄みを感じさせ、マフィアの女ボスを彷彿とさせる。右手の人差指には、黄金製の指輪をはめている。いわゆる印台リングだ。印台の部分には家系の象徴なのか、その紋章が刻まれている。ゆるかなウェーブを描く髪は、淡い金色。別命輝白金、オーロ=ビアンコ。左右の耳たぶには、ハートを象った装飾品ピアスを吊り下げている。グレーのスーツを端正に着こなしているが、その肉体の曲線美は隠しようがなく、モデルも顔負けのプロモーションである。見るからに悩ましいが、その眼光が鋭過ぎるため、あまり色香は感じられない。一睨みされただけで、人は全身が縮み上がってしまうかもしれない。他のサキュバスと違うのはこのホテルのオーナーのNPCだからだろうか。しかし彼女の腰にも木札肆が括りつけられていた。

 

「ウフフ♪」

 

「フゥン?」

 

俺に笑顔で指差すサキュバスがこの男、超イイ! と言って相槌を打つボスサキュバスのふぅん、本当? と言うやり取りしているのが何となくわかる。椅子代わりにしていたNPCの男から立ち上がり近づいてくるボスサキュバスは、品定めする目つきで視線を下から上に動かした後に首筋に噛みついてきた。回復したHPが減る。視界に移るサキュバスがサムズアップする。思いっきりやっちゃえ! って言ってる気がして―――【精気搾取】。

 

かぷり。

 

ボスサキュバスの首筋に噛みついて得たばかりのスキルを使うと、彼女は一際に全身を震わした。俺の首から顔を上げて抵抗しようとするが、サキュバスが後ろから抱き着いて阻止する配下のまさかの反抗に目を剝くボスサキュバス。そんな彼女の顔を覗き込みこう言った。

 

「配下のサキュバスとお前を攻めてやろう。覚悟しとけ」

 

「―――っ!?」

 

「アハッ!」

 

そしてお前の木札肆をもらい受ける。これはそういう戦いなのだ!! ・・・・・多分。

 

 

・・・・・・三時間後。

 

 

「・・・・・♡ ・・・・・♡ ・・・・・♡」

 

広い高級ベッドの上で全身を痙攣しながら荒い息を断続的に吐いているボスサキュバスがいた。【精気搾取】とHP回復を繰り返しながらサキュバスと一緒に快楽の饗宴を堪能した結果、息絶え絶えで瞳にハートマークを浮かべ、熱で浮かれた顔が赤いボスサキュバスが出来上がった。

 

「ウフフ!」

 

サキュバスの彼女も俺に【精気搾取】されたけど、肌が艶々になってる。そんな彼女がボスサキュバスの上着を剥ぎ始め、腹部を見せつけて来る。臍下辺りに伍の文字が掛かれた悪魔的なハートマークのタトゥー、紋様が浮かぶように刻まれていた。

 

「アハッ」

 

これを見て何をしろと? サキュバスはボスサキュバスの木札肆をいつの間にか手に取ってタトゥーにくっつけたら、ピンクの輝きを放ち肆から伍の文字に変わったのだった。こんな仕様・・・・・誰も気づかないんじゃないのか? ともあれこれで先に進める。

 

「ありがとう」

 

「ウフフ!」

 

どういたしまして、と笑って手を振るサキュバスから受け取った木札伍を手に入れた瞬間。木札が光り輝きだして俺は向かうべき場所へと転送されたのだった。

 

気付けば俺は闇霊の里の試練の扉の前に立っていて、長が目の前に佇んでいた。

 

「お帰りなさい。楽しめたかしら?」

 

「色々と凄かったのは確かだった。あ、フラスコの方は変化ないままだけど」

 

「そのようね。持ち主の心拍音や声の声量でフラスコが記録するのだけれど、一ミリも変化していないのは凄いことだわ。因みに、解放者が買った道具にはグレードがあるの」

 

グレード?

 

「ゴーグル型の暗視カメラ、ガンナー用の暗視スコープ、赤外線カメラ、赤外線暗視カメラ、世界の裏側を見るゴーグルの順に難しさが変わるの。特に世界の裏側を見るゴーグルの難易度は5。試練をクリアできる確率は3%未満」

 

「低ッ!? え、普通にクリアできてしまったぞ?」

 

「・・・・・世界の裏側の住民達を視て驚かなかった? 無茶振りに自棄にならなかった? 必要以上に倒さなかった? 闇の住民に気に入られた?」

 

ん・・・・・? ん・・・・・?

 

「驚きはしたが声は出してない、無茶振りって何のことだかわからないし、必要以上に殆んど倒してしまったけど、異形を殺していない意味でだ。あと気に入られたからここに戻ってこられたと思う」

 

「・・・・・なるほど、だから闇の住人に気に入られているのね」

 

俺じゃない何かを視ている目な闇霊の長ユエ。ここなら振り返ってもいいだろうと後ろを向いても何も見えず、ゴーグルを付けたら・・・・・うわっ、半分開いている試練の扉から今まで関わってきた異形達が顔を出して手を振ってるし!

 

「なぁ、もしも異形が住む場所に後ろを振り返ったら俺はどうなっていたと思う?」

 

「それはグレードが低い道具を使って試練に挑んだ時だけ解放者を襲っていたわ。難易度5だけは後ろ向いても大丈夫だったの。その分、ここに戻ってくるのが難しいのだけれどね」

 

・・・・・マジかぁ・・・・・。間抜けじゃん俺ェ・・・・・。

 

「また試練を挑戦する時は最初からやり直すのかな」

 

「やり直す必要はないわ。闇の住人と触れ合うことが出来るもう一つの世界なのだから。最高難易度をクリアできたあなたは闇の住人達に認められた。だから試練をするまでもなく交流目的で入るなら歓迎されると思うわ」

 

お? じゃあ俺的には新しいエリアに入れるようになったってことなのなら嬉しいな。

 

「仮に俺以外の解放者と一緒に入ったら?」

 

「試練をクリアした特別な者以外は同じ世界に入る事はできないわ」

 

・・・・・頑張れ他のみんな。お前達ならできるぞ。

 

「じゃあ、フラスコの記録の結果と難易度が高い試練を乗り越えた解放者には闇の精霊を仲間にすることを許すわ。どの子がいいか選んでいいわよ」

 

「うわ、それは本当難易度が高すぎるな。フラスコのどの辺りまでなら溜まっていい許容範囲?」

 

訊くとフラスコの底から1の目盛までだと言われた。

 

「フラスコの目盛が超えたら試練が失格となってここに戻る仕組みになってるわ」

 

「わかった。後、精霊を複数以上仲間にしたい時は?」

 

「他の難易度の試練をクリア出来たら増やすことできるわ」

 

五体までか。それ以上は出来ないのかな、と思いつつユエを問うた。

 

「精霊を仲間にしていいなら、ユエに任せていいか?」

 

「構わないわ。あなたに相応しい特別な娘を選んであげる」

 

歩き出すユエを追いかけ、街中を歩く闇の精霊の一人を捕まえて引き合わせてくれた。骸骨の仮面は他の闇の精霊が付けている仮面と同じだしローブも同じだ。見た目が同じだから特別な闇の精霊と区別がつかない。

 

「この娘を仲間にしてあげて」

 

「どの辺りが特別? 骸骨の仮面?」

 

「それは女の子の秘密よ?」

 

そう返されると聞けなくなるなぁ・・・・・。ユエを信じるしかないじゃないか。闇の精霊と視線を合わせる為に跪く。

 

「俺の仲間になってくれるか?」

 

「ヤミー!!」

 

テイムは問題なく成功した。

 

 

 

名前:ベンニーア 種族:アストラル

 

 

契約者:死神ハーデス

 

 

LV1

 

 

HP:35/35

 

MP:25/25

 

 

【STR 15】

 

【VIT 9】

 

【AGI 10】

 

【DEX 11】

 

【INT 25】

 

 

スキル:【熟成】【夜襲】【光耐性】【引力】【状態異常付与】【闇魔術】

    【闇の福音】【重力】【影移動】【異形召喚】

 

装備:【闇霊の髑髏仮面】【闇霊のローブ】【闇霊の首飾り】

 

 

 

【熟成】夜間のみ使用可能。植物の栽培速度を大幅に上昇させる。

    栽培した植物の品質を僅かに上昇させる。

 

【夜襲】夜間のみ必ず奇襲を成功する。

 

【引力】対象を引き寄せる力。

 

【状態異常付与】対象に様々なデバフを一定時間付与する。

 

【闇の福音】夜間のみ使用可能。契約者にランダムで一つ付与する。

 

【重力】対象の動きを一定時間停止させる。

 

【影移動】影から影へ移動することが出来る。

 

【異形召喚】夜間のみ使用可能。10分間召喚された異形を操作することが可能になる。

 

 

・・・・・ほほう、ほほう・・・・・? これはこれは・・・・・お化け屋敷に向いてるスキルばかりではありませんかねぇ・・・・・?

 

「ベンニーア、仮面を外して顔を見せてくれる?」

 

「ヤミ!」

 

頼んでみると、髑髏仮面に隠されたベンニーアの顏は金の瞳では肌は少し青白い。それでも美少女なのは変わりなく、あらやだ可愛いと思うぐらいギャップがあるのでこの手の愛好家プレイヤーは欲しがるんじゃないだろうか?

 

「さて、闇結晶を買ってまたタラリアに情報も提供しに行くか」

 

「ヤミー!」

 

あ、映像の確認もしなくちゃ・・・・・あれ、真っ暗だ。



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レイドイベント前

ヘルメスside タラリア―――。

 

「今日も精霊門の解放のアナウンスが聞こえたんだけど情報はー?」

 

「やっぱり白銀さんが解放したんでしょ? 情報の公開はないのか?」

 

「新しい結晶の無料提供は!?」

 

情報を欲しさに西の大通りの露天に集まるプレイヤー達に私だって欲しい情報なのにまだ彼から連絡もメールも来てないんだから分かるわけないでしょ! って言いたい自分を抑えてタラリアも未確認だから公開は出来ないって何度も繰り返して説明する。3時間前からずっとこの調子でさすがの私も辟易してきた。もうログアウトして休んじゃっていいかしら・・・・・早く姿を見せてハーデス!

 

「―――はいはーい、上失礼するぞー!!」

 

そんな叫び声がどこからともなく聞こえ、夜空から巨大な化け猫が空中を走って私の真上に止まった。そして待望の待ち人が私に手を伸ばす。

 

「遅れて悪いなヘルメス。取り敢えず中に入れ」

 

「もう、遅いわよ!」

 

その手に伸ばした手ががっしりと掴み合って、巨大猫の体の中へ引きずり込まれるように招かれた私はすぐに気付いた。毛皮の座席に全身黒いローブで隠している顔が骸骨の存在に。

 

「ハーデス、何て言えばいいのか分からないけどあのモンスターが精霊?」

 

「骸骨の仮面を被ってる闇の精霊な。名前はベンニーア。ベンニーア、仮面を外してくれ」

 

「ヤミー」

 

本当に骸骨は仮面だった。外された仮面の奥には青白い肌に金の目の可愛い女の子の顏が、フードもどかされ一本に編まれた薄紫色の長い髪が見えるようになった。

 

「やだ、可愛いじゃない!」

 

「ふふ、判るかヘルメス。俺もそんな反応をしたよ。さて、時間がないから情報を提供しよう」

 

「今回は長い攻略だったわね。闇霊の里の試練はそんなに大変?」

 

「凄く大変。トップクランや前線組のプレイヤー達でも絶対てこずる。強さだけで攻略できる内容じゃないぞあれ」

 

強さが強みのプレイヤーにとって大変な試練? 中々興味深い情報を、爆弾情報を抱え込んできたのは間違いなさそうね。毛皮の座席にいるハーデスの隣に座って話を聞く姿勢に入る。

 

「まず闇霊の里を開放する場所は『常闇の神殿』っていう場所に行く必要がある。知ってた?」

 

「いいえ、知らないわ。後でその場所を教えてね」

 

「次は試練の詳細だ。これは道具屋で売られてる五つの商品だ」

 

「ゴーグル型の暗視カメラ、ガンナー用の暗視スコープ、赤外線カメラ、赤外線暗視カメラ、世界の裏側を見るゴーグル? 夜間の時に使う道具ばかりね」

 

「これらは試練の時に必要な道具で試練の難易度を定められてる物でもある。俺が使ったのは世界の裏側を見るゴーグルで、闇の住人・・・異形達が夜の歌舞伎町を闊歩している世界が見えたんだ。動画も撮影してたんだが同じ視点は見れないようで始終、映像は真っ暗だった」

 

動画の情報は提供できないと彼は言う。実際に見せてもらったけどハーデス自身も映らない真っ暗な映像だったので私もこれは使えないと納得した。

 

「どれぐらい難しかったの?」

 

「それが俺にもよくわからないんだよなぁ。まぁ、試練を挑む時は絶対に声を上げて驚かない事、世界の裏側を見るゴーグル以下の道具を使う時は絶対に後ろに振り向いてはいけないことだ。振り向いたら何かに襲われるんだってさ。試練に挑む際、闇の精霊の長から判定機のフラスコを付けられる。判定機の目盛が超えたら失格で試練の扉の前に転送されるそうだ」

 

ふむふむ、今までの精霊の里の試練とひと味違うわね。光霊の里の試練もそうだけど闇霊の里の試練もだいぶ変わっている。

 

「しかも、試練をクリアしないと精霊と契約できない仕組みだ。世界の裏側を見るゴーグルで試練を挑んで目盛の判定1以下じゃないとユニークの闇の精霊をテイムできない」

 

うわ、それは凄く難易度が高い。

 

「付け加えるならば、俺が挑んだ試練をクリアできる確率は3%未満だったそうだ」

 

「たったの3%未満!? そんな試練が本当に存在するの?」

 

「だからクリアした俺自身もそんな難しかったのかと不思議に思ったんだ。ただまぁ、あれだ。耐久値が高い武器を何十も必要な場面もあった。それがないと多分試練をクリアできない」

 

その理由は、景品としてある次のステージに必要な木札が手に入るバッティングセンターで最高得点を叩き出さないといけない。でも、ボールが武器破壊の特製があるようで、木製のバットでは絶対に打ち返すことが出来ないとか。

 

「他に木札を手に入れる方法やイベントがあるかもしれないけど俺が体験したのはそれだ。他は分からない」

 

「聞いているだけでも確かに厄介な試練ね。難易度が高いのも頷ける」

 

「最後の試練も中々だ。NPCのサキュバスがわんさかいる風俗とラブラブなホテルのステージで、サキュバスから木札を手に入れなくちゃならなかった」

 

「ど、どうやって・・・・・? サキュバスってあれでしょ? エッチな悪魔的な・・・・・」

 

「その認識で間違いないけど、性的行為はないから安心しろ。首に噛みつかれてHPを減らされるだけだ」

 

「それも安心できる? 逆にハーデスはどうやってクリアできたのか気になるんだけど」

 

「あー、サキュバスに気に入られる必要があるようで、そんなこと知らず逆に俺もサキュバスを倒さないようエナジードレインした。それで気に入られて木札を欲しいと願ったらサキュバスのボスに会わされて一緒に攻略したことで試練をクリアできた」

 

な、中々ハードな試練ね・・・・・確かに強さだけじゃ絶対にクリアできない試練の内容だわ。

 

「あと抜けたけど、序盤は物乞いする異形達に多額の金を渡したあとに、地下闘技場で何十回も連続で異形達を殺さずに倒す必要があったよ。金額は1000万以上も払った」

 

「試練のクリア率が3%なのは絶対それでしょ」

 

「1000万も支払う必要ないかもしれないぞ? もう試すことできないからわからないけど」

 

理由を聞けばクリアした試練は新しいエリアになるらしく、ハーデスがまた難易度が高い試練をすることは無くなったらしい。へぇ、里の中で新しいエリアが増えるなんて不思議だわ。

 

「それと闇霊の里を解放できるのは曜日もそうだけど夜の時間帯じゃないと駄目だってさ」

 

「ああ、だから光霊の里が夜になると入れなくなったのね? そう言う話が私の方に何度も届いたわ」

 

ハーデス君はそれを知らなかったようで、そうなのかと相槌を打った。

 

「他の試練もクリアしたの?」

 

「いやしてない。後は他のプレイヤーによろしくやってもらうさ。俺は届けに来ただけからさ」

 

闇結晶×120とゴーグル型の暗視カメラ、ガンナー用の暗視スコープ、赤外線カメラ、赤外線暗視カメラ、世界の裏側を見るゴーグルを譲ってくれた。

 

「そうそう、ベンニーアの情報もいるか?」

 

「是非とも欲しいわね」

 

提示してくれたベンニーアちゃんのステータスの内容も興味深かった。日中に使えるスキルは少ないけど夜間に使えるスキルは強力じゃないかなって思える。特に【熟成】は品質を僅かに上昇させることが出来るって、ファーマーが喉から手が出るほど欲しがる【栽培促成ex】の効果と同じじゃない?

 

「こ、これは売れるわ・・・! ファーマーやそうじゃないプレイヤーでも確実に美味しい精霊だわ!」

 

「それは何より、それじゃ情報と結晶は確かに提供したから俺は行くぞ」

 

「ええ、この機に未払いで溜まっていた支払いも完済して見せるわ!」

 

こうしちゃいられない。夜の間ってことは今は22時、残り2時間しかないから急いで売りさばかないと! 地上に降りた私は、ホームへ駆け走るネコバスに大きく手を振ったあと、私を獲物として見る私から見れば情報を買いに来た非捕食者に対して大胆不敵な笑みで返してやった。

 

「さぁ! たったいま白銀さんからホットな情報を手に入れたわ! 完全な情報じゃなくても構わないならば情報と闇結晶×120を買ってねー!」

 

うわあああああああああああっ!!

 

情報欲しさに群がるプレイヤー達を今度は違う意味で説明を繰り返す。ふふっ、今凄く楽しい気分だわ!

 

 

 

 

 

「おー、いるなフクロウ」

 

ホームの畑に二羽のフクロウがいることを確認し、ホームオブジェクトとして購入した鈴虫とコオロギ、カエルの鳴き声がますます日本家屋らしくなってきたことに満足する。

 

「あ、ハーデス君、おか―――」

 

「ただいまイッチョウ」

 

「・・・・・どうしたのその仮面」

 

おっと当然気付きますか。

 

「闇の精霊がいる里で購入した。暗視スキル付きで俺の名前にピッタリな装備だ」

 

「四六時中、付けないよね?」

 

「ホームの中では流石に外すぞ」

 

「外でも外しておいてちょうだい。不審者のそれだから」

 

「ちゃんと死神の格好をすれば不審者じゃないだろ」

 

ゲームを始めた時から待っていた装備だったんだ。これから戦闘時でもつけるぞ。死神ハーデスの名を轟かせるのだ!

 

「で、新しい精霊も死神なんだね?」

 

微妙に俺に対して呆れてる彼女の視線は俺の隣にいるベンニーアに向く。

 

「顔は可愛いぞ」

 

「骸骨は仮面? 見せてみせて」

 

仮面を外すベンニーアが「可愛い!」と評価を受けた。

 

「これで全属性の精霊が揃ったねぇー。まさかあの時貰った結晶が本当に使う時が来るなんて」

 

「俺とイッチョウだけだったもんな、二つの結晶を貰ったのは」

 

「もう、だったら誘ってくれたってよかったのにー。まぁ、別行動していたから文句言えないけど」

 

そう、イッチョウは別行動していたようでそれなら一人で攻略することにしたんだ。

 

「何か収穫とかあった?」

 

「ふっふーん。スキル【超加速】を手に入れたよん! 【AGI】が+50増えるスキルだって」

 

「いいなそれー、俺も欲しいなー」

 

「ふっふっふ、じゃあ情報交換しようか、のぅ越後屋よ」

 

「へい、わかりましたお代官様」

 

唐突なノリをしてくるイッチョウに乗りで返す俺達は情報交換をしあったのだった。

 

「あ、【マグマ無効化】だけ取得できるならイッチョウも自力で行けるな」

 

「話に聞いたマグマの中にある未知のエリア?」

 

「そう、行ってくれないか?」

 

「旦那様のお誘いを断るわけないじゃない。待っててね必ず私も到達して見せるから」

 

と言う彼女は後日、本当に自力で水晶のエリアに辿り着きラプラスも彼女の行動力を認め独占できる人数が一人増えた。そして俺も【超加速】を手に入れたのである。

 

 

・・・・・。・・・・・。・・・・・。

 

・・・・・。・・・・・。

 

・・・・・。

 

 

「おーい、鳳凰」

 

ゲーム内の翌日、鳳凰を呼ぶ。鶏もどきは鶏らしく庭を歩いていたところ呼ばれたからこっちに来てくれた。

 

『資格ある者よどうした』

 

「そろそろお前の片割れを探しに行こうかと思うんだが、心当たりとかないのか?」

 

『残念ながらない。我は今までずっとあそこにいたので外界のどこにいるのかわからないのだ』

 

「そうか。なら、ネコバスに案内できるか訊いてみるか」

 

鳳凰を抱きかかえ、スキル【変化】と【縮小】で小さな猫になって縁側で寛いでいるネコバスの下へ寄る。

 

「ネコバス、こいつの片割れのところに行きたいんだが案内できるか?」

 

「ニャーオ」

 

俺の願いは叶うらしい。大きくなったネコバスの方向幕が鳳凰(オス)に変わり、俺と鳳凰を乗せて空を駆けて行った。

 

「鳳凰、片割れが見つかったらそのまま一緒に過ごすか?」

 

『それも選択の一つだろう。しかし今の生活が気に入っている。鳳と一緒に住んでみたいと思っている』

 

「それも選択の一つだな」

 

移動中のネコバスの中で左右に揺れながら停止するのを待っていると、森が多いエリアに移動しているのが判り風のように高速で走り、森の中を抜けるときは木々が脇によけて道を空ける。こんなのところに神獣がいるのか? と顔だけ中から出して眺めているとネコバスが急停止した同時に、コケー!? と聞き覚えのある鳴き声が聞こえた。

 

「今の鶏の声はお前か?」

 

『我は鶏ではない! いや、先ほどの声は!』

 

忙しなく窓から飛び出す鳳凰に続いてネコバスから降り追いかけた。そして視界に入る光景は―――。

 

―――鳳凰と瓜二つな鶏もどきと白鶏と言うたくさんの鶏のモンスターに交じっていた。

 

なるほど、木を隠すなら森にだな。理解できなかったけどようやくわかったわ。こういうことだったんだな。

 

『鳳ー!』

 

『お、凰!?』

 

久しぶりの再会を果たせた雌雄の鳳凰は感動に浸る、その瞬間を見られると思っていたんだが・・・・・頭に怒りのマークを浮かべる凰が怒りで眦を裂いて雄の鳳凰に飛び蹴りを食らわした。

 

『我以外に雌鳥にうつつ抜かすとはどういうことなのだァー!!』

 

『コケェー!?』

 

見事な飛び蹴り、吹っ飛ぶ雄の鳳凰。そしてギロリと白鶏達が雌の鳳凰を睥睨したことに「あ」と漏らし、この後の展開が読めたのでネコバスの影に隠れた。

 

『なんだ貴様等! 我の番を囲って我に喧嘩を挑む気か? ならばかかってこいやぁー!!』

 

「「「「「コケーッ!!」」」」」

 

鶏と鶏もどきの女の戦い? が勃発した。自分用にこの光景を撮影してたのは別の話だがな。

だけどおかしいな? マップで見れば第2エリアにいるようだけど、白鶏って、第2エリアで出現するピヨコというひよこ型モンスを進化させた先にある、コケッコーというモンスのはずだ。それが一塊でいるのは異様だろ。

 

「おい鳳凰。話の収拾がつかないから喧嘩は後でしてくれ。―――じゃないと全身の羽毟るぞ」

 

『それだけは止めろ資格ある者よ!?』

 

冗談抜きで嫌がる鳳凰は白鶏と喧嘩するのを止めて木の上に避難した。白鶏も落ち着きを取り戻したがネコバスの存在に恐れてるのか、一塊になって恐れ戦いている。

 

「これで話が出来るな雄の鳳凰」

 

『あ、ああ・・・・・我の番を止めるとは資格ある者に間違いないようだな』

 

「どういたしまして。それで、どうして他の鶏と一緒にいたんだ? 俺みたいな存在と出会い、他の神獣達に報せる役割を担っているって聞いているんだが」

 

『その通りだ。しかし、資格ある者の不在の間は眠りにつく他の神獣達と違い我は、再び資格ある者と出会うその日まで眠らず待ち続ける使命があるのだ。我の番も同じ使命を担っているのだが・・・・・はぁ』

 

溜息を吐く鳳凰(雄)曰く、あのマグマの中では資格ある者でも気づいてもらえないのが関の山だと言うのに、真の資格ある者ならば必ずここに来てくれる! と聞かず押しても引っ張っても動かない鳳凰(雌)に仕方なく自分だけ地上で比較的に見つかれ易い場所で待つことにしたそうだ。

 

『それ以降、番の方が一向に出会わず我が資格ある者と出会い恩恵を授けるようになった。それまではこうして魔物と暮らして寂しさと退屈さを紛らわしていたのだ』

 

「・・・・・」

 

これは・・・どう考えてもどっちが悪いのか一目瞭然だわ。

 

「でも、あの鶏達は本来ここに存在しないのに、ヒヨコのモンスターがいないのは?」

 

『我が身を粉にして育て上げたのだ。今じゃこの森の中では負け知らずの立派な魔物になっている』

 

「だから勝てずとも負けじと鳳凰と張り合えたのか。根性と度胸が凄すぎるだろ」

 

『ふふん、育て方を熟知した我に抜かりはない』

 

胸を張ってドヤ顔する神獣がモンスターを育てていたなんて、誰がこの事実を信じてくれるんだろうな?

 

『だが、ここ最近の人間達が育て上げた我が子当然の魔物を狩っていく。主に魔物と毛色が違う我に愚かにも襲ってくるが撃退するも一向に数が減らないで困っている。そろそろ安息の地に移動せねばなるまいと思っているところだ』

 

悩みを抱えていた神獣にピンと来たので提案を持ち出してみた。

 

「お、じゃあ俺のホームに来るか? 神獣の麒麟と黄龍が居座ってるから襲われないだろう。元々お前を迎えに来たから丁度いい」

 

『麒麟と黄龍が資格ある者の傍にいるだと!? それは誠なのか!』

 

『誠であるぞ鳳よ。そこにいる神獣もまた我と麒麟、黄龍が創り上げた新しい神獣でもあるからな』

 

木の上から肯定する鳳凰(雌)に鳳凰(雄)は数秒呆けた。今までそんなことしなかった神獣とそんな資格ある者はいなかったんだろう。

 

『本当にそこ安全なのだな?』

 

「七人の精霊もいるし、なんなら幻獣フェンリルとペガサス、樹精だっているホームに好きこのんで荒らしに来る輩はいないだろ」

 

『我等も住まわせて欲しい資格ある者よ!』

 

翼を広げて土下座の姿勢で懇願する神獣って・・・・・。

 

「いいけど、白鶏をテイムしないとな・・・・・」

 

『我から言い聞かせる。どうか信じてもらえないか』

 

「テイムしなくて済むならいいぞ。テイムしてはならないならそれでも構わない」

 

『感謝する』

 

こうして雌雄の鳳凰が揃い、数十匹の神獣に育てられた白鶏をホームに招くことになった。モンスターの白鶏は鳳凰(雄)がテイムした形になっていたので間違ってもプレイヤーから襲われることはないだろうと思う。神獣がモンスターをテイムできるのか、そうかぁ~・・・・・。

 

数時間後―――。

 

『資格ある者よ。家賃として我が子達が産んだ卵を献上するぞ』

 

「はやっ、え・・・・・これ食用?」

 

『資格ある者よ。我らの卵も産んだ。不老長寿の霊薬の材料になるらしいから好きに使うがよい』

 

「はっ!?」

 

とんでもないアイテムを手に入れてしまったためにラプラスに相談したところ。

 

「神獣鳳凰の卵だと? 錬金術で使用して良いものなのか・・・・・」

 

凄く悩まれた。

 

「不老長寿の霊薬の素材の一つらしいけど、賢者の石の素材のオリハルコンと組み合わせるとどうなる?」

 

「わからない。鳳凰の卵など見聞したことが無い幻の卵だ。他の素材との組み合わせを研究しないことには手の出しようがない。三匹目の鳳凰として孵化する気はないのだな?」

 

「ないというかできないのが現状。完全な霊薬の素材の卵だ」

 

「そうか・・・・・ならばしばし所有してみてはどうだ。ひょんなことから必要になるかもしれないぞ」

 

「ハーデス、いるー?」

 

今にいる俺達のところにイズとセレーネが揃って入室してきた。何やら大きな塊を傍に置いて相談している様だと察したか、それはなに? と聞かれた。

 

「鳳凰の卵。完全な素材のアイテムになってるから使い道に困ってた」

 

「神獣の卵? 凄く激レアじゃないの? それとその人は誰?」

 

「そう言えば二人は初見だったか。聞いて驚け、神匠の職業と同じ神の名がついた魔法使いの最高位職業、『魔神』の存在で賢者の石を完成させた賢者であるラプラス先生だ」

 

「この家に居候させてもらっているラプラスだ。こちらは古から私に仕えてくれている初代征服人形(コンキスタドール)のゼロだ」

 

「以後お見知りおきを」

 

二人の紹介に、二人は呆けた表情を浮かべた後で自分達も名乗り上げた。

 

「奇麗な人ね。ハーデスは本当にモテるわね」

 

「言っておくけどラプラスは骸骨だからな? あの顔は魔道具を使ってみせている幻想だ」

 

「ふふっ、その通りだ!」

 

「ひゃっ!?」

 

仮面を外すことで晒される白骨体の姿なラプラス。セレーネの驚愕の声に満足そうなラプラスは仮面を再びつけると別人の女性の顔になった。

 

「さっきとは違う顔になった。それが錬金術で作成した道具?」

 

「如何にもその通りだ。賢者の石を完成させた私に不可能なことはないに等しい」

 

卵をインベントリに仕舞い、訪れた二人から話を訊く。

 

「それで二人してどうしたんだ?」

 

「うん、ハーデスが発生させた二つ目のイベント、参加するならパーティーに入れて欲しいかなって」

 

「それか。いいぞ? ただチームになるけどそれでいいなら」

 

「なら私もいいよねー!」

 

自分が大トリとばかり現れるイッチョウ。トリなだけに鳥が現れたか。

 

「なんか、変なこと考えてない?」

 

「いや?」

 

「凄く普通に否定する辺りが不自然じゃないのが逆に・・・・・まぁいいや。じゃあ後はハーデス君の従魔枠ってことでいいね? 誰を連れて行くの?」

 

当然サイナだろ。サイナにはオルト達を使役して欲しいからな。後は・・・・・。お茶を淹れてくれたリヴェリアを視界に入れる。

 

「リヴェリア、力を貸してくれるか?」

 

「あなたのためなら喜んで」

 

微笑んで了承してくれたリヴェリア。彼女はNPCである以上、HPが吹っ飛んだらそのまま死亡扱いになる。本人は弱くないがいつもより守りの意識をしないとな。



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三回目のイベント

いよいよ二つ目に発生させたレイドボスが始まる日となった。始まりの町で開始するならどこだっていいだろう。ホームの中でその時を待つの考えをするプレイヤーは俺だけじゃなかった。

 

「この魔茶葉、凄く美味しいしMPを増加だけじゃなくて消費MPも30%カットだなんて。ハイエルフ直伝の消費MP20%カットする料理も食べたら魔法スキル使いたい放題になるよ」

 

どっちも飲食してるフレデリカ。持続効果は短くても何か食べたくなったとドラグに釣られてペインとドレッド、昨日からいるイッチョウ達と皆で食事会が始まった。

 

「あーい」

 

「お、茶か。ありがとうよ」

 

お手伝いスキル発動中のマモリから魔茶葉の茶を淹れた湯飲みを受け取るドラグ。

 

「リヴァイアサンレイドも近いってのに、別のレイド戦を発生させるとはなハーデス」

 

「狙ってやったわけじゃない。そっちこそ何か進展とかあったのか。白虎とか」

 

「何度も敗北した末に辛勝だったがやっと白虎に認めてもらったぜ」

 

「むっ」

 

それは凄いな。

 

「どんな恩恵を貰えたか教えてもらっても?」

 

「スキルは【疾風怒濤】。走っている間は【AGI】と【STR】が最大50上昇するよ。止まったら効果が無くなるけど」

 

フレデリカに教えてもらったスキルは意外と重戦士には難しい? 0に何を足しても0だから・・・・・いや、あのスキルと合わせればそうでも・・・・・?

 

「どーやら、私達の知らないところで新しいスキルを手に入れた感じかな」

 

「味方ならいいの。味方なら」

 

「ペイン、ハーデスと全力のタイマンで勝てるか?」

 

「彼の強みは超越した防御力と多種多様なスキルだ。それを攻略できればね」

 

「できなければ勝てないってことか。ああ、俺はもう諦める。フレデリカのサポートあっても勝てそうにないわ」

 

なんか失礼なこと言われたがそろそろイベントの時間だ。

 

「イベントが終わったら俺も白虎と勝負しに行こっと」

 

「こうして神獣に勝ってまたスキルを手に入れて、手に負えなくなっていくんだねハーデス君」

 

「一度もダメージを受けていないっていうイッチョウもこちら側に片足踏んでるようなもんだが?」

 

「嘘でしょ!?」

 

心外だと驚くイッチョウ。闇霊の里で購入したローブと骸骨の仮面を装着したところで運営からのアナウンスであった。

 

『レイドボスイベント、開始5分前となりました。これから特設フィールドに転送します』

 

目の前に参加するかどうかの問いが表示される。俺は迷わずYESを選択した。すると、目の前の景色がウミョウミョと歪み始める。そして、暗転した。驚く間もなく、目の前に広がる景色が変化する。森の中に転移させられたらしい。

 

雑木林にぽっかりと空いた、小さな広場のような場所であろう。ただし、光の壁が周囲を囲っており、そこから出ることができないらしい。パーティを組んだ状態で一緒に転送されたイッチョウが触れて確かめたからだ。

 

「サイナ、全員いるな?」

 

「はいおります」

 

「ムム!」

 

「キュイ!」

 

「クママ!」

 

「―――♪」

 

「キュー!」

 

「ヤー!」

 

「ヒムヒム!」

 

「フマー!」

 

「フム!」

 

「モグモ!」

 

「グルル」

 

「メェー!」

 

「ヤミー」

 

「ピカッ」

 

「ピィ」

 

『―――』

 

《―――》

 

「ブルル」

 

『にゃ?』

 

ベンニーア、エンゼとルーデル、セキトにウッドとクリス、そしてフレイヤもいる。うん、全員いるし可愛いなー。神獣使いって無限の可能性を秘めていたとは・・・・・。

 

「おや? もしや・・・・・白銀さんですか?」

 

「うん? ああ、コクテン?」

 

振りむいた先にいたのは、イベントなどで世話になった前線プレイヤー、コクテンだった。彼のパーティメンバーたちの姿もある。

 

「お久しぶりですね」

 

「ああ。コクテンたちも参加してたんだ」

 

「レイドボスですからね」

 

そう言えば、コクテンたちはモンスターとの戦いを楽しむためにゲームをやってるって話だった。彼らにとってレイドボスバトルは、見逃せない大イベントなんだろう。

 

「見ない間に新しい従魔を集めたようですね。白銀さんの話題で皆盛り上がってますよ」

 

「そうなのか。まぁ、ゲームを楽しんでいる証だと思ってくれ」

 

「そうとしか思えませんよ。それより、明らかにパーティ枠がオーバーしているのに連れて来られているので?」

 

「テイマー、サモナーの最上位職、神獣使いという職業になったからな。神獣使いになると従魔編成枠が無限に解放されて、御覧の通りテイムしたモンスターを全員連れて来られるようになってる」

 

コクテンと話してると他のプレイヤーたちが恐る恐る話しかけてきた。

 

「あ、あのー? 白銀さんと、モン狩り部の部長さんですよね?」

 

「モン狩り部? コクテンのことか?」

 

「ああ、そうです。私たちのクランが、モンスター狩猟部という名前なんです。私がクラマスやってます」

 

「へー、クラン作ったのか」

 

「はい。白銀さんもどうですか? 加入条件は社会人であるということだけですよ?」

 

さらっと俺が社会人であると確信を持たれているな。まあ、俺もコクテンは社会人だと思っていたけど。今さらリアル情報が社会人だとばれるかどうかなんて、気にはしない。その程度の情報、軽く話してればポロッと口にする人もいるだろうし。俺はバレてはいけない方だが・・・・・。

 

ただ、俺はお断りすることにした。

 

「いや、自分のギルドを作ることにしてるから」

 

「はは、白銀さんのギルドですか。従魔関係で凄く集まりそうですね」

 

「それが懸念して悩んでいるところなんだよ。ところで何で部長呼ばわりされてる?」

 

素朴な疑問をぶつけてみたら、コクテンは経緯を教えてくれた。

 

「クランの名前からか、部長と呼ばれるようになってましてね」

 

「なるほど」

 

どうやらプレイヤーが30人程まとめて、フィールドに飛ばされて来たらしい。その中で、一番格上なのがコクテンなのだろう。いつの間にかコクテンを中心に、プレイヤーが集まってきた。この分なら、主導権争いでギスギスすることもなさそうだし、そこは安心できそうだ

 

『イベントの説明を行います』

 

「お、始まるか」

 

ま、いいや。考えても仕方ないし。このままイベントを楽しもう。

 

『現在、参加者プレイヤーは30名程度のグループに分かれ――』

 

説明を要約すると、この場に集められた30名はランダムで、パーティごとに適当に分けられただけであるらしい。そして、これから3時間後に、岩山の麓にボスが出現するという。そのボスは出現地点からゆっくりと南下するコースを取るので、倒して阻止しろという内容だった。

 

ボスが設定されたラインを越えてしまった場合、イベント失敗である。

目印の岩山はすぐに分かった。今いる場所からでも、まるで塔のように細長い岩山が見えるからだ。

普通に向かえば10分ほどで着くだろう。ただ、ここでわざわざ広い森林フィールドが用意された意味が出てくる。

 

このフィールドにはイベント限定の素材が用意されており、それらを使うとボス戦で有利になるアイテムを作成できるらしい。それ以外だと、岩山から少し南下した場所に廃砦が用意されており、そこを拠点として使えるそうだ。だが、廃砦というところがミソで、修理しないと使えないだろう。つまり木材も必要になるということだ。

 

そしてイベント開始が合図され、周囲の障壁が消える。さて、素材集めをしたいところだけど、この森にモンスターはいるのか? まぁ、いようがいまいが構わない。

 

「素材集めを頑張ってみるか」

 

「もうやること決めたの?」

 

イズが森に向かう俺についてくる。イッチョウとセレーネ、サイナ達もだ。

 

「何時ぞやの防衛戦と似たことすると思うぞ。廃砦とイベント限定の素材がキーワードみたいだし、修理しないとボスが設定されたラインを超えたらイベント失敗ならさ」

 

「早い情報整理だけど、素材がどこにあるのかわかるの?」

 

「それを探すのが俺達だよ」

 

森の方へ向かうと丁度モンスターが沸いていたらしく、こっちに迫って来た。投擲武器の砲弾をインベントリから取り出してモンスターの真っ赤な体色のコモドドラゴンに向かって投げた。ヒュボッ! とトカゲの顔面が吹っ飛んでドロップを残してポリゴンと化した。

 

「え、一撃で・・・・・?」

 

「さて、ドロップはどうなってるかな?」

 

イベント中、経験値が入らないことはすでに告知があった。モンスターを倒すうまみはドロップだけになるんだが――。

 

 

名称:イベント用鉄鉱石

 

レア度:1 品質:10

 

効果:素材。イベント終了時に、消滅する。

 

 

「ほら、イベント限定アイテム」

 

「じゃあ、目の前にある樹木を伐採したり、採掘すれば自ずとイベント用の素材が手に入るのね」

 

そうだろうな。首肯する俺を後からついてきたコクテンが声をかけてくる。

 

「白銀さん、何か出ました?」

 

「ああ、こんなのが」

 

「なるほど・・・・・。廃砦の修復に使うんでしょうかね?」

 

「かもな」

 

「白銀さんはこの後どうします?」

 

「素材を集めてボス戦に有用なアイテムってやつを作るかな」

 

「なるほど」

 

「コクテンたちはどうするんだ?」

 

「いやー、我々だと採取はあまり役に立ちそうもないので・・・・・。モンスターを狩る感じですね」

 

そうやってコクテンたちと話していると、何故か他のプレイヤーたちも集まってくる。

 

「あのー、白銀さんモン狩りさん。俺たちってどうしたらいいでしょう?」

 

「は?」

 

いや、もう自由に行動していいと思うんだけど・・・・・。何で聞く? それに、全員が自主的に行動しないって、自己主張の弱いタイプのプレイヤーさんが固まってしまったか? だとすると、トッププレイヤーであるコクテンの指示を聞こうと考えるのもおかしくはなかった。

 

俺に声をかけてきたのは――今モンスターを倒したからか? それか、コクテンに直接話を聞くのが怖いのかもしれない。強そうな鎧に身を包んだコクテンたちは、いかにも上位プレイヤーな感じで見た目の迫力が凄いのだ。話してみれば、腰の低い良い奴なんだけど。

 

「俺は採取がてらこの辺を回るつもりだけど」

 

「え? お、俺たちは?」

 

「別にこのグループで行動しろって言われているわけじゃないし、自由に行動していいと思うぞ?」

 

どうも、彼らはこのランダムで集められたグループで行動するつもりだったらしい。どうしようかね。もしイベントでどう動けばいいのか分からないのも理解できる。

 

「で、でも・・・・・」

 

やはり不安げにしているプレイヤーたち。そんなに俺の顔色をうかがわなくても・・・・・。あ、そうか! 完全に頭から抜け落ちていたが、このイベントは俺たちが発生させたんだった!

 

このレイドイベントに参加するプレイヤーはそのことについて知っている人が多いらしいし、このプレイヤーたちもそうなのだろう。

 

そして、俺がイベント参加プレイヤーたちを仕切っていると勘違いしているに違いない。そう考えれば、わざわざ俺の指示を仰ごうと考えた理由に説明も付く。

 

「じゃあ、戦闘と生産が出来るプレイヤーはそれぞれ協力しあってさ、イベント用の素材集めて、集めた素材を何かしらの形に作って欲しい。モンスターを倒すのが得意プレイヤーが一か所に集まったら効率が悪いからな。自分が出来ることを積極的に行動してくれ」

 

「それだけですか?」

 

「このイベントに参加してるプレイヤー全員もそうしてる筈だ。それに、自分達も活躍したいなら格上の相手の顔色を伺ってばかりだとゲームは楽しくないだろ。もっと、思うがままにゲームを楽しめ。それがNWOじゃないのか?」

 

俺の言葉を受け止めてくれたプレイヤーは、最終的にはコクテンがまとめてくれた。さすがクラマスをやってるだけある。

 

「白銀さんって説得力あると言うより、人を導くカリスマ性があるとしか思えませんね」

 

他のプレイヤー達を連れて砦へ向かうコクテンが最後にそんな言葉を残した際、イッチョウが同意する風に頷かれたが、笑って流して皆と別れて森の中を歩きだしたんだが、すぐに見慣れない草を発見できていた。

 

 

名称:鳥除け草

 

レア度:1 品質:10

 

効果:鳥が嫌がる効果がある。採取から30分経過で、ゴミになってしまう。イベント終了時に、消滅する。

 

 

鳥除け・・・・・か。今回のレイドボスは鳥型のモンスなのだろうか? もしくは、敵が鳥? 

 

「まあいいや。もう少し採取をしてみてみる」

 

「調合と錬金は私達で試すわ」

 

「助かる」

 

その後、俺たちは歩きながら鳥除け草を採取しまくっていた。群生している場所もあったりして、もう10個は手に入った。

 

「そろそろレシピを確認してみてくれるか」

 

イズとセレーネが調べてみると、鳥除け草3つで、鳥除け剤・水薬というアイテムを作ることができるそうだ。

 

 

名称:鳥除け剤・水薬

 

レア度:1 品質:10

 

効果:触れた鳥にダメージを与える。イベント終了時に、消滅する。

 

 

液体で、鳥にぶつけるとダメージを与えることができるらしい。

 

「これを大量に作ればいいのか?」

 

鳥にぶつけるってのが難しそうだが・・・・・。まあ、他にやることもないし、ガンガン作っていこう。

 

道中で他のプレイヤーたちとすれ違うが、知り合いはいない。ほとんどのプレイヤーは廃砦に向かっているようだな。

 

そのせいで、逆に向かう俺が目立ってしょうがなかった。メッチャ見られているのだ。まあ、仕方ないけど。

 

そのまま歩き続けた俺は、程なくしてイベントフィールドの端にまで到達していた。イベント開始から15分くらいかな?

 

そこがフィールドの端だと分かったのは、そこに透明な壁が存在していたからだ。森を抜けると、青々とした平原が広がっていたんだが、そちらに足を踏み入れることができなかった。

 

 

「見えない壁があるか」

 

「ピカッー!」

 

「ピィピィ!」

 

「そう怒るなって。運営だってわざとやってるわけじゃないんだからさ」

 

「ピカ!」

 

「ピィ!」

 

「はいはい、鼻を打って痛かったな~」

 

「ピィ~」

 

先頭を意気揚々と進んでいたエンゼとルーデルが、壁に衝突してプンスカポーズで怒っている。

それにしても、ここで行き止まりか。意外と狭いな。いや、レイドボス戦にだけ使うフィールドと考えたら、むしろ広いか。もしボスが逃走するタイプだったら、結構面倒になるかもしれなかった。

 

「モグモ!」

 

「お? どうしたドリモ?」

 

「モグ!」

 

平原を見つめていると、ドリモが呼びにくる。何か発見したらしい。俺の手を引っ張っている。

 

「ハーデス、採掘ポイントあったわー!」

 

「お? どこだー?」

 

イズも呼びにくる。何か発見したらしい。手招きするので行ってみる。ドリモと彼女についていくと、森の木々の合間から黒々とした何かが見えた。さらに近寄ると、岩石の塊であると分かる。

 

岩塊の高さは周囲の木よりも少し低いくらいで、直径は5メートル程だろう。何かイベントが発生するかと思ったら、単なる採掘ポイントであったらしい。

 

「はっ! えいっ! よいしょっ!」

 

「モグ! モグ!」

 

ドリモとセレーネが一心不乱に不壊のツルハシを振っている。インベントリを確認すると、こちらでもイベント限定アイテムが入手できていた。

 

 

 

名称:鳥除け石

 

レア度:1 品質:10

 

効果:鳥が嫌がる効果がある。採掘から30分経過で、ゴミになってしまう。イベント終了時に、消滅する。

 

 

名称:鳥除け鉱

 

レア度:1 品質:10

 

効果:鳥が嫌がる効果がある。採取から30分経過で、ゴミになってしまう。イベント終了時に、消滅する。

 

 

鳥除け石は鳥除け剤・粉薬というアイテムになるな。鳥除け剤・水薬の粉バージョンだ。でも、飛んでいる相手に投げつけるなら、液体よりは使いやすいかもしれない。

 

鳥除け鉱は俺には使えない。どうも、製錬などの鍛冶系技能が必要であるらしかった。イベント用鉄鉱石と同じである。

 

「これ、インゴットにできるわよね?」

 

「前回の村のイベントと似通ってるな。三時間以内にできるだけ集めインゴットにした方がよさそうじゃないか?」

 

「だよね? じゃあもっと探そっか」

 

「他にも採取できる物があるかもしれないし、できるだけ歩き回ってみよう」

 

「フム!」

 

「そうだなー、川か湖でもあれば、ルフレも活躍できるんだけどなー」

 

「フムム!」

 

「分かった分かった。探すから! 引っ張るなって!」

 

自分も活躍したいルフレに先導されること20分。俺たちはフィールドの縁を時計回りに歩いていた。採取、採掘ポイントはそれなりにある。

 

しかも、ルフレ念願の水辺に辿りつけたぞ。まあ、小さい泉であるが。泉に近づいていった。そして、2人で泉の淵から中をのぞいてみる。結構深いな。底が見通せない。

 

「泉っていうか、ちょっと広い井戸? それでも潜るしかないかないな」

 

「フム!」

 

ルフレがやる気満々だ。ただ、ちょっと狭いから、慎重に行かないといけないだろう。

 

「サイナ達は、周辺の探索は頼む」

 

「わかりました」

 

「ルフレ、行くぞ」

 

「フム!」

 

そして、俺はルフレとともに泉に飛び込んだ。一応、壁面にも何かないか調べながら、少しずつ潜っていく。結局、底に辿り着いてしまった。特に何もないか?

 

「フーム、フム・・・・・フム!」

 

俺が何も発見できずにいると、ルフレが俺の肩をトントントントンと勢い良く叩き始めた。そして、あそこあそこって感じで、泉の底を指差している。

 

よくよく観察してみると、なにやら白い石のような物がいくつか埋まっていた。それらを掘り出して、上に戻ってみる。

 

 

名称:鳥寄せ石

 

レア度:1 品質:10

 

効果:鳥の注目を惹く効果がある。採取から30分経過で、ゴミになってしまう。イベント終了時に、消滅する。

 

鳥除けではなく、鳥寄せだった。なるほど、こっちは鳥を集める効果があるみたいだった。

 

「これで作れるのは――鳥寄せ餌? 薬じゃなくて、鳥を誘き出す餌になるみたいだな」

 

まあ、採取に苦労したし、きっと有用なアイテムなのだろう。

 

「ハーデス、できたわよ」

 

なにが? と思うなかれ、イズのところに寄り彼女の手には、加工したのだろう手に入れたイベント用の鳥除け鉱をインゴットだった。

 

「一つでできたのか」

 

「鉄鉱石があればアイアンインゴットができそうなのよね」

 

「3時間しかないのは悔やまれる」

 

なので先を急ぐため別の場所へ足を運んだ。

 

そうやって歩いていると、イズが何かを発見したようだ。不意に足を止めた。

 

「どうした?」

 

「伐採ポイントよ」

 

「え? あ、本当だ」

 

そういえば今日初だった。伐採ポイントはあまり数がないんだろうか?俺たちは交互に斧を打ち込んでいく。入手できたのは、もうおなじみとなってきた、鳥除けという効果と名前が付いた、木材だ。

 

「ふむ・・・・・。数を集めれば建材にもなりそうだけど、伐採ポイントが少なすぎる?」

 

「だよな。あれだけ歩き回って、初だぞ」

 

「だね、木工で加工するのが正解かも。鳥除け効果のある装飾品などにすれば身に着けれるよ」

 

「おお、それは確かに!」

 

試すべくゆぐゆぐに事情を説明して、木材を渡した。ゆぐゆぐがその場で木材を削り、丸いブローチのような物を作り上げる。

 

 

 

名称:鳥除けのブローチ

 

レア度:1 品質:7 耐久:228

 

効果:【VIT+7】、鳥が嫌がる効果がある。イベント終了後に消滅する。

 

 

防御力は低いが、やはり鳥除け効果を発動している。

 

「いいなこれ」

 

「うむ。どう考えてもこのイベントでは鳥が重要であるようだし、あって損はないと思う」

 

「ゆぐゆぐ、ウッド、クリス、ある分は取りあえず加工してくれるか?」

 

「――!」

 

『―――!』

 

≪―――!≫

 

それにしても、鳥か・・・・・。どんなボスなんだろうか。ゆぐゆぐ達加工終了を待っていると、誰かが近づいてくるのが見えた。俺たち以外にも、砦に向かわずに動いているプレイヤーがいたらしい。

しかも、かなり強いっぽい。そのプレイヤーの目の前に2匹のコモドドラゴンが飛び出したんだが、瞬殺であった。

 

最初の奇襲をバク転のような動きで躱す同時に、武器装備の剣で一刀両断。さらに、木を使った三角跳び――いや、2回木を蹴ったから、四角跳びを利用した飛び蹴りで、もう1匹を仕留めていた。モンスターを片付けたことで周囲を見渡す余裕ができたのか、そうやって見ている俺達を、向こうもこっちに気付いたらしい。明らかに一直線に向かってくる。そして、互いの距離が近づくと、何故か驚きの表情を浮かべた。

 

どうしたんだ?

 

「銀色の狼・・・フェンリル、まさか白銀さんか?」

 

「ん? ああ、この格好じゃあ気付かないか」

 

フードと仮面を外す俺の素顔を見て向こうはやっぱりと言った表情を浮かべた。

 

「あ、あー・・・・・どうもお久し振り」

 

「久しぶり・・・・・?」

 

「覚えてもないのは無理もないか。四つの属性結晶とミスリルのことで訊いた以来、顔合わせたことが無いから」

 

あ、あー! 確かにいたな。すっかり忘れていた!

 

「ハーデス、知り合い?」

 

「イズとミスリル鉱石を採掘から戻った時にな。本当にあの時以来だから忘れていたわ」

 

「逆に白銀さんの話題は事欠かさないから覚えていたんだが、従魔がいなかったら死神の格好をしたプレイヤーだって認識で白銀さんだとは気付かなかった」

 

特徴的な銀髪が隠れてるから気付かれにくかったってことか。

 

「ところで質問いいか? どうしてそんなたくさんの従魔を従えられるんだ?」

 

「テイマー、サモナーの最上位職の神獣使いの効果で、無限に編成できるようになったから」

 

「最上位職、神獣使い・・・・・大盾使いの方は?」

 

「まだ初期職ですがなにか」

 

愕然とするプレイヤー達。驚くことなのかなと首を傾げる。

 

「ハーデス、少なくとも他のプレイヤー達は次の職業に転職してる状態なのよ」

 

「俺もしてるんだが?」

 

「多分、トッププレイヤーと遜色ない強さなのに大盾使い、重戦士の職業がまだ初期職なのを驚いていると思うわ」

 

イズの話通り、そうなのか? と眼前にいるプレイヤーに尋ねると一人残らずその通りだと言わんばかりに頷き返された。



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イベントは鳥モンスター関連

その後、話し合いの末にメタルスライム一行のパーティも加わった俺達はさらに先に進んだ。すると、今までとは違った光景が目の前に現れる。

 

「あれって、どう見てもゴリラか?」

 

「結構デカくね?」

 

「ボスってことか?」

 

俺達の視線の先には、森の中をのしのしと徘徊する、茶色の毛のゴリラがいた。しかも前かがみの状態でも、2メートル近い高さがあるだろう。メタルスライムがボスという推測を口にしたが、どうだろうか? ボスなら徘徊するのかという疑問が残る。

 

「まあ、結局、戦うか逃げるかの二択になるわけだが、どうする? 俺はどっちでもいいぞ?」

 

「うーん、私としてはハーデス君次第かな」

 

「私も」

 

「うん」

 

「マスターの指示に従います」

 

「どちらでもいいですわよ」

 

うちのチーム女性陣は判断を丸投げしてくる。

 

「メタルスライム・・・・・略してメタスラって呼んでいいか。短く呼びやすいから」

 

「あ・・・うん・・・いいぞって、おいお前等、笑うなよっ」

 

「だ、だって・・・ははっ」

 

「掲示板でも一時略されて、今度は目の前で略されて呼ばれる日が来るとは思わなくて」

 

「よし、白銀さん命名で今日からお前はメタスラと呼ぶわ」

 

「よろしく、メタスラ!」

 

面白がられ、からかわれる対象になったプレイヤーは、仲間に対して本気で怒ってはいないが怒りながら追いかけ回しだした。話は逸れたものの結局、俺の強さを見てみたいというメタスラの要望により倒すことになったゴリラに近づいて行った。

 

「ウホホホホ!」

 

「ウホッホホ!」

 

1匹いたゴリラが2匹に増え、こちらに向かって駆け寄ってきていた。まぁ・・・・・。

 

「全然攻撃が通じないからなぁ・・・・・」

 

「ウ、ウッホゥ・・・・・」

 

「ウホゥ・・・・・ウホゥ・・・・・」

 

2分間も好きに攻撃させて逆に拳を痛めるゴリラ2匹。

 

「【パラライズシャウト】」

 

「「ウホッ!?」」

 

「【悪食】【生命簒奪】」

 

麻痺して動けないところでモンスターに触れて一撃確殺。ポリゴンと化して得られる容量オーバーのHPとMPは蓄積され結晶として体内に蓄えられた。

 

「うーん、なんか弱いから俺の強さを知る相手として不足だな。せめてベヒモスじゃないと伝わらないだろ俺のレベルじゃあ」

 

「・・・・・因みに、白銀さんの今のレベルは?」

 

「90だ。うん?」

 

「「「「・・・・・」」」」

 

メタスラ一行だけじゃなく、イッチョウ達まで愕然の面持ちになった。

 

「ハーデス君、それ私達も聞いてない」

 

「そりゃあ別に言わなくてもいいことだから教えてないし。ほら、先を行くぞ」

 

雑談を終えた俺たちは、周囲の探索を再開することにした。

すぐにゴリラに出くわすが、こいつが本当に見掛け倒しである。リックが1対1で楽勝だったのだ。

 

「この辺、木が他と違うぞ」

 

「うむ」

 

ゴリラがいるエリアは、どうやら生えている木の種類が違うらしい。今までが針葉樹林だったのに対して、このエリアだけは広葉樹が並んでいる。ただ、それに何の意味があるのか分からなかった。何せ、伐採ポイントもない。それどころか採取ポイントもないし、ゴリラのドロップはコモドドラゴンと同じだ。

 

「どうする? 時間的にはそろそろ廃砦に向かったほうがいいと思うが。だが、ここに何かがあることは確かだろう」

 

「今、廃砦と真逆にいるから、そろそろ行動しておいた方がいいかもだが」

 

何でそこで俺を見る? いや、一応、俺がこいっつらも誘った訳だから、リーダー役は俺か?

 

「そうだな・・・・・。でも、このエリアは回っておきたい」

 

「じゃ、そうしますかー」

 

「うん。異論はないわ」

 

「じゃ、パパッと見て回るか」

 

そうして再び先に進んだ俺たちは、一際大きな巨木を発見していた。

背の高さが他の木と変わらないせいで遠くからは見付けられなかったが、近づいてみるとその幹の太さに圧倒される。それこそ、他の木の5倍はあるだろう。しかも、根の中に大きな石を抱き込んでいるようで、自然の神秘のような物も感じさせた。まあ、ゲームだから本物の自然じゃないんだけどね。

迫力もかなりある。古木や老木という形容詞が相応しい、強烈な風格と存在感を漂わせていた。

 

さらに、その古木の前には、直径10メートルほどの泉が存在している。日の光を反射してキラキラと輝く清浄な泉と、雄大な古木が並ぶ光景は、いつまでも見入っていたくなるほどに美しかった。

 

これ程の場所が、イベントに無関係とは考えられない。そう考えて俺たちは周囲を回ってみることにした。

俺は最初に、泉の周りを調べることにする。だが、周囲を歩いても、特に何も見つからない。中を覗き込んでみるが、採取できそうな物もなかった。

ルフレはすでに泉に飛び込んで、探索中だ。

 

「ルフレ、どうだ?」

 

「フム~?」

 

上がってきたルフレに聞いてみるが、どうやら何もないらしい。首をフルフルと横に振る。魚の姿も見えないし、本当にただの景色に過ぎないのか?

 

メタスラ達は、木の根に巻き込まれた大岩を調べている。根っこをかき分け、採掘ポイントなどがないかを探しているようだ。しかし、目立った成果はないらしい。だが―――。

 

「採掘ポイントがあったわ!」

 

イッチョウも同様で、木に登ったりしているんだが、何も発見できていないみたいだ。枝の上に腰かけて足をブラブラさせながら、「なにもないー」と嘆いている。しかし、イズだけがそうじゃなかった。

 

皆がその声に反応して向かうと彼女は、木の根に巻き込まれた大岩の前に立っていた。そこを一目見た俺も採掘ポイントが表示されていた。

 

「おっ、本当だ。よく見つけたなイズ。オルト、採掘だ」

 

「ム?」

 

ん? なんだその不思議そうな顔、見えるだろ? あそこだ。

 

「ムー?」

 

「・・・・・採掘ができるように見えない?」

 

「ム」

 

頷かれた。え、見えてない?

 

「どこに採掘ポイントがあるというんだ?」

 

「何も見えないけど?」

 

「え? いやいや、ここにハッキリと伐採ポイントがあるだろ?」

 

「どこだ?」

 

「どこ?」

 

オルトだけの話ではないようだ。セレーネも含めて他の皆はこの採掘ポイントが見えていないらしい。イズと顔を見合わせた俺は取りあえず嘘ではないと証明するために、イズとここで採掘をしてみることにした。

 

「よいしょー」

 

「はっ!」

 

不壊のツルハシを取り出し、ポイントにカーンと打ち込む。

 

ほら、きちんと採掘できたじゃないか。

 

「えーっと、入手できたのは――」

 

 

名称:鳥殺しの殺生鉱

 

レア度:1 品質:10

 

効果:加工することで鳥を引き寄せない。イベント終了時に、消滅する。

 

 

俺がそのアイテムを確認した直後だった。広場が白い光に包まれた。よく見ると、周辺を光の壁が覆っている。

 

「見覚えがあるな」

 

「ボスフィールドだ!」

 

俺の呟きに、メタスラが律儀に応えてくれた。やっぱそうだよな。タイミング的に、俺達の採掘がトリガーになったことは間違いない。

 

「ゴガアアアアアアア!」

 

そして、広場の中央に出現したのは、黒い毛皮が禍々しい巨大ゴリラだった。この森を徘徊してたゴリラとはサイズが違う。高さは5メートル以上あるだろう。しかも、顔は鬼の血でも混ざっているのかと思うほど、凶悪である。

 

下あごから上に突き出た牙。血走った目。よく見たら角まである。名前は、オーガコングとなっていた。本当に鬼が混じってた。

 

「白銀さん、今度は俺達が戦っても?」

 

「お願いする」

 

メタスラ一行が先頭に立ち、こちらを睨むオーガコングと対峙する。

 

「ウゴゴゴゴゴゴ――」

 

両手で胸を叩くドラミングも、普通のゴリラとは迫力が段違いだった。強そうだ。さて、どんな攻撃を仕掛けてくるのか。メタスラ一行は、最初は様子を見る姿勢で行く様子のようだ。

 

「――ゴゴゴゴゴゴ」

 

「ドラミング長いな」

 

周囲には、未だにドラミングによる重低音が響き続けている。

 

「――ゴゴゴゴゴゴゴ」

 

「というか、ドラミングが終わらないな!」

 

オーガコングは、ずっと自分の胸を叩き続けている。すると、オーガコングの黒い体毛が段々と赤く変色し始めたではないか。ドラミングと無関係とは思えない。放っておいていいのか?

 

「ど、どうする?」

 

「ドラミングによって、何らかの強化が入るのか?」

 

「とりあえず、一発いっとく?」

 

結局、メタスラ達は作戦を変更して動き出す。相手の攻撃を待つのではなく、こちらから先制攻撃を仕掛けることにしたのだ。

 

「王将頼む」

 

「りょーかいりょーかい」

 

メタスラパーティの切り込み隊長っぽいプレイヤーが双剣を持って攻撃を仕掛ける。速度はドレッドよりやや遅いぐらいだが、それでも速く素早くオーガーコングの足を一筋のダメージエフェクトを発生させた。

 

「ゴゴゴ――ウゴ!」

 

オオ、ドラミングが止まった。ただ、赤くなった体毛は元に戻らない。

 

直後、オーガコングが一気に跳び上がった。

 

「くるぞ!」

 

「ウゴオオ!」

 

オーガコングが跳躍の勢いのままに、王将に向かって右の拳を振りおろす。小指側を下に向けた、いわゆる鉄槌打ちって奴だ。

 

ドゴオオオオオ!

 

「【カバームーブ】! 【カバー】!」

 

王将を守る大盾使いのプレイヤー。瞬時に王将の前に移動して大盾で防いだ凄まじい衝撃音が響き渡る。受け止めるには受け止めたのだが、大盾使いが王将を巻き込んで吹っ飛ばされてしまった。しかもかなりダメージを受けている。軽減しきれなかったダメージが、彼に通ってしまったのだろう。

 

装備は最高レベルの筈だ。何せ、彼等は俺なんかよりもっと先で攻略して活躍してるんだからな。しかも、盾スキルのレベルも相当高かいと思う。そんなプレイヤーが受け止めきれない?

 

となると、今の攻撃は相当な威力があったと見るべきだろう。

 

「おいこいつ、結構な威力の攻撃だ! エリア6のボス以上の威力があるぞ!」

 

「まじ?」

 

「マジだ!」

 

「それでこの人数でそれはきつくない?」

 

「白銀さん達も協力してもらう?」

 

「いや、まだ始まったばかりだ。もう少し戦って様子見るぞ」

 

そうだな。まだ序盤なのは同意見だメタスラ。それにそれから見て判ったが、どうやらオーガコングはそこまでの化け物ではないようだった。連続して繰り出してきたオーガコングの攻撃を、大盾使いがあっさりと弾き返したのだ。オーガコングはシールドによるカウンターを食らい、仰向けにひっくり返っている。

 

その理由は一目瞭然であった。

 

「毛の色で、攻撃力が変化するのか!」

 

「黒い時は大したことないな」

 

「なら今がチャンス!」

 

1撃目の攻撃を放った後、赤みがかっていたオーガコングの体毛が黒に戻っていたのだ。そして、攻撃力が一気に下がったらしい。

 

「ウゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ!」

 

「また始めやがった!」

 

「うるさっ!」

 

オーガコングが再度ドラミングをし始める。同時に、毛皮の色がまた赤く変化し始めていた。

どうやら、ドラミング→攻撃力アップ→攻撃で元に戻る→ドラミング、を繰り返すのがこいつのパターンであるらしい。

 

「コウチン!」

 

「わかってるって!」

 

「桜麗もやれ! 一発当てるだけでも妨害できるかもしれない!」

 

「わかった!」

 

メタスラの推測通りだった。どんなに弱くても一発攻撃が入れば、ドラミングを中断させられるのだ。それを数度繰り返せば、強化が不十分なままで攻撃を仕掛けてくる。

 

それを大盾使いのアーノルドが弾き、皆で攻撃を叩き込むと言うことを繰り返せば、ほぼ完封であった。ほぼというのは、オーガコングが数度に1度、巨木の上に逃げて、そこでドラミングを行うからだ。

 

その際は弓使いの桜麗が遠距離攻撃を仕掛けなくてはならない。だが、鬱蒼と茂る枝葉に邪魔をされて、中々攻撃を届かせることができなかった。結局、前衛のアーノルドが何度かダメージを受けることになってしまったのである。

 

「これで終わりだ!」

 

「ゴガアアア・・・・・!」

 

メタスラのオーバーヘッドキックでHPゲージを吹き飛ばされたオーガコングが、目の前でポリゴンに変わっていく。

 

「意外と弱かったなー」

 

「いや、最後の狂化はかなりやばかったぞ。メタスラのおかげですぐ倒せたがな」

 

王将は結構危ない橋を渡っていたらしい。自分の盾の耐久値をチェックして唸っている。

オーガコングは残りHPが1割を切ると狂暴になって暴れ回るタイプのボスだった。毛が真っ赤に染まり、角が倍くらいの長さになって、動きも相当速くなっていたように思う。

 

ただ、王将はダメージを食らっても自己回復系のスキルですぐに回復していたし、直撃はなかったので、彼にとっては大したことはないと思ってたんだが・・・・・。

 

「攻撃力はドラミング最大時と同じ、速さも2段階は上がっていた。サッキュンの仕掛けがもう少し遅かったら、俺ももっとダメージを受けていただろう」

 

ボスだけは弱いわけではないが10分ほどで倒せたので、HPは低かったらしい。だが、攻撃力は前線のボス級という、アンバランスな設定だったようだ。

それからオーガコングのドロップを見せてもらった。石だった。黒くテカテカした、一抱えもある石塊だ。

 

 

名称:鳥食い鬼猩々の胆石

 

レア度:1 品質:10

 

効果:置くことで、鳥を遠ざけることができる。ただし、種類によっては積極的に攻撃を仕掛けてくる場合も? イベント終了時に、消滅する。

 

また鳥だ。しかし、ボスのドロップなわけだし、そこらで採集できるアイテムよりも効果は期待できるだろう。

 

さらに、ボス出現前にゲットしたアイテムもチェックしておく。

 

 

 

名称:鳥殺しの殺生石

 

レア度:1 品質:10

 

効果:加工することで鳥を遠ざけることが出来る。イベント終了時に、消滅する。

 

 

こっちはこっちで、面白い。鳥除け系のアイテムに似ているが、煙だったら大量の鳥相手にでも効果を発揮するだろう。これらは俺等が使い道ないのでイズとセレーネに後で渡した。

 

「お疲れさん。とりあえず、少し休憩するか?」

 

「なんならその間に私達が盾の耐久値を万全な状態にしてあげるわよ」

 

「え、あのトップクラスの超一流の生産職の二人の手ほどきが受けれる!? お、お願いします!!」

 

「しかも無償で? 凄いラッキーだな俺達。これもサスシロ現象? いや、この場合はサスメタスラ現象?」

 

「変な言い方するな」

 

「じゃあ、わた―――ボクはノームちゃん達とスクショ撮っておこっと、白銀さんいいかな?」

 

桜麗というプレイヤーの願いに了承して、工房が使えないセレーネのために『神匠の黒衣』を装着して【工房召喚】する。

 

「え、なにこの古ぼけた小屋」

 

「鍛冶師職の『古匠』のNPCから譲り受けた工房だ。いつでもどこでもこうして召喚できるから鍛冶職のプレイヤーにとっては大金詰んででも欲しがる装備だろうなこれ。安全地帯になるっぽいし、中には簡易的なキッチンと寝室もあるからホーム扱いにもできる」

 

「なんだその装備のスキルは。このゲームにはそう言うのが存在するのか」

 

「一国の王様と交流して好感度MAXになるよう頑張れば、似たような装備やスキルが貰えるようになるんじゃないか?」

 

無理だっ!! とオルト達とスクショしてる桜麗を除いてメタスラ達に異口同音で言い返された。

 

「『古匠』のNPC鍛冶師が始まりの町にいるから仕事を貰えばいいじゃんか」

 

「・・・・・できるのか? 忙しい筈だろ」

 

「前線にいるなら素材欲しさに頼まれると思うが? 俺が口添えしてみてダメだったらダメってことで」

 

「わかった。じゃあそれで頼む」

 

任されたところで装備の整備を終えた二人が工房から出てきた。見事に耐久値が戻った装備を抱えてイズとセレーネに感謝の言葉を述べるメタスラ達。

 

「じゃあ、廃砦に向かうか」

 

「ああ」

 

「さんせー」

 

ボスが出現する予定の岩山の横を抜けて、一気に南下するルートだ。

 

素材の採取もそこそこに、皆で一気に駆ければ廃砦まではすぐだった。20分もかからずに、廃砦が見えてくる。

 

「へー、結構大きいな」

 

「ムー!」

 

「――!」

 

オルトたちも、廃砦の想像以上の大きさに驚いているらしい。手を目の上にかざして、大きな建造物を見つめている。もう少し小さい物を想像していたんだが、小さめの小学校くらいの大きさがあるだろう。高い外壁を備えた3階建ての、本格的な砦であった。そこに何百というプレイヤーが取り付き、補修や改造を行っている。しかし、それを見たメタスラが俺の感想とは真逆の言葉をつぶやく。

 

「小さいな」

 

「理由は?」

 

「このイベントに大規模な数のプレイヤーが参加してるんだ。あのサイズでは、到底全員が篭ることなどできる筈がない」

 

「あー、そう言われてみれば」

 

無理してギューギューに詰めれば3000人くらいは入れるかもしれないが、それ以上は無理だろう。そもそも、満員電車状態ではまともな戦闘になどならない。イッチョウが指摘する。

 

「サーバー分けしてるんじゃない? イベントの時は特殊サーバー使うことも多いしさ」

 

「多分それだろうな」

 

メタスラとイッチョウの言葉に、以前のイベントのことを思い出した。メタスラ一行も思い出した様子だ。

 

「ああ、そういえば、前のイベントもサーバー分けされてたっけ」

 

「となると、アレがあるかもな」

 

「アレ?」

 

「サーバー順位だよ。前もあっただろう」

 

確かに、サーバー内だけではなく、サーバー対抗の順位も発表されていたな。

 

「となると、俺達は運がいいぞ」

 

「あっ、そうだね!」

 

メタスラ一行、イズとセレーネ。イッチョウもなぜそこで俺を見る? サーバー対抗の順位・・・・・俺がいたサーバーは確か一位だったな。そんで俺も・・・・・あ。

 

「・・・・・一緒にいたサーバーのプレイヤーの皆の団結力があったからだと言わせてもらうぞ」

 

「今回はそれ以上の団結力が発揮すると断言する。賭けてもいい」

 

先行くメタスラ一行の後に付いて廃砦に入ると、見知った顔が出迎えてくれた。

 

「やーっときたか!」

 

「スケガワ。あなたもここのサーバーだったの?」

 

エロ鍛冶師のスケガワだ。最初は違和感があった異名も、今では普通に感じるから不思議だ。妙に疲れた顔で、階段の上から俺たちを見下ろしている。

 

「そうなんだよー。しかも鍛冶師のとりまとめみたいなことを任されちゃってさー。だからイズとセレーネがくるの、ずーっと待ってたのさ!」

 

スケガワが鍛冶師のリーダー。大丈夫なのか? いや、鍛冶系のプレイヤーは女性が少ないと聞くし、平気なのか。ここにいる二人以外にもいるらしいが会ったことないからしらないけど。それに、やる時はやる男だからな。きっと何とかなるだろう。多分。

 

「にしても、スケガワは、イズとセレーネが同じサーバーだって知ってたのか?」

 

「イズとセレーネ、、白銀さんが一緒に行動してて、目立たない訳がないじゃん。目撃情報はたくさんあったから、そのうち来るだろうと思ってたんだよ」

 

なるほど。まあ、うちのモンスたちは最近有名だし、イズとセレーネも有名プレイヤーだ。俺たちが一緒に行動してれば、そりゃあ目立つか。

 

「イズとセレーネ! 早速手伝ってくれ! あ、イズと白銀さんのユニークサラマンダーもいるな! 白銀さんサラマンダーを貸してくれ!」

 

「いきなりだな?」

 

「鍛冶師がぜーんぜん足りてないんだよ! 大工系のプレイヤーがいるから補修作業は何とかなると思うんだけど、肝心の建材が不足してるんだ!」

 

イベント用のインゴットのことだろう。生産職たちがイベント用鳥除けインゴットから釘などを作り、砦の補修に利用しているらしい。だが、鍛冶師が少ないせいで、釘や鉄板の生産に遅れが出ているという。それは確かにまずい。

 

「ほら! 早く!」

 

「わかった! 分かったから急かさないで! ああっ、カルラの手を掴まないで!」

 

「ひ、人が多い・・・・・」

 

イズとセレーネとはここでお別れか。だが、スケガワのターゲットは二人だけではなかった。俺が了承するとヒムカとイズも連れて行くので従魔のカルラの手を掴んでスケガワに引っ張られていく。

 

「今思えば、最初のイベントのサーバー、メタスラ一行も同じだったんだな」

 

「今更だな。まぁ、それを主張する理由もないから言わなかっただけだが」

 

「ということは・・・・・いるだろうなぁ」

 

周囲を見渡せば、やはり見知った顔があった。

 

「メタルスライム達もやっと到着したところ悪いけど、キミ達はこっちだね」

 

「コクテンさん」

 

「先に確認しておくけど、メタルスライム達は砦の防衛に協力してくれるってことでいいんだよね? 白銀さんはあとで砦に来るって言ってたから、問題ないと思うんですけど」

 

「それは当然だ」

 

「ああ。ここまで来て、協力しないなんてありえないだろ? そもそも、レイドボスイベントだぞ」

 

俺たちが答えると、コクテンがホッとしたような顔で苦笑いを浮かべた。

 

「意外とスタンドプレーに走るプレイヤーも多くて。最初にここに辿り着いたプレイヤーなんか、自分たちが占拠したんだから他のプレイヤーは入るなとか言い出したんですよ?」

 

馬鹿じゃないかそいつら。レイドボス相手なんだから、協力しなきゃ勝てるわけないだろうが。・・・・・俺がそう言っても説得力ないだろうけどさ。

 

「まあ、他のプレイヤーたちから罵声を浴びまくって、泣き顔でどこかに行ってしまいましたが」

 

「自業自得だ」

 

「ともかく、そんな困った人たちも少なからずいるのです。白銀さんとメタルスライム達は過去のイベントでも積極的に協力プレイをしてくれてましたから、少し遅れているだけだろうとは思ってましたけどね」

 

「色々あってな」

 

「へえ? まあ、その話は後で詳しく聞きましょうか。とりあえず、メタルスライム達は私と一緒に来てもらおうかな? 戦闘職で集まって連携を確認しているので」

 

「わかった」

 

「白銀さんはどうします?」

 

「前回と同様なことになりそうだから一緒に行く。ペイン達もいるんだろ?」

 

コクテンは「この砦に二番目に辿り着いてからずっといますよ」と答えてくれた。あいつら、行き急ぎすぎやしないか。



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ヒッチコック

廃砦に辿り着いた俺達は、簡易的な作戦本部として決めた他のプレイヤーの邪魔にならない砦の隅っこに向かい、そこに集まる前回の悪魔討伐時の作戦会議に集まった顔触れとほとんど同じプレイヤー達。何故か俺の顔を一目見るなりざわめついた。

 

「なんだ」

 

「白銀さん、仮面を取ってください」

 

「・・・・・仮面付けただけで相手が判らなくなるとは不便じゃんか運営ェ・・・・・」

 

コクテンに言われてフードと仮面を取り外せば「白銀さんだったのか」とどこから聞こえて来た。

 

「では役者が揃ったので、第二回レイドボス攻略作戦の話し合いを始めたいと思います。時間もないと思いますのでこのまま進行させていただきます。よろしいですか」

 

誰もがリーダーを決め合いたいのではなく、レイドボスの攻略を達成を目指す同志たちの集まり。異論はないと無言で頷いたり、沈黙を保って成り行きを見守るプレイヤーからの雰囲気を感じ取ったコクテンは口を開く。

 

「今回の勝敗はアナウンスの放送を聞いた通り、この砦に設定されたラインをボスモンスターによって超えさせない防衛戦でもあり、ボスモンスターを討伐するこそが勝利条件だと皆さんも察しているでしょう」

 

「ああ、ボスモンスターは恐らく鳥型のモンスターだろう。俺達は砦に辿り着く前、白銀さんと少しばかり採取とモンスターの討伐をして、鳥型のモンスターに対する効果がある素材アイテムを手にしてきた」

 

「そうですか。貴重な情報をありがとうございますメタルスライム。では次に推測として白銀さんの意見を聞かせてもらえますか?」

 

「俺かよ? んまぁ・・・・・廃砦の大きさと大人数による防衛戦のこのイベントを考慮すれば、最初の村のイベントと二回目のエルフの里の防衛戦の内容を合わせた感じだろう。ボスモンスターは恐らく大型の鳥型のモンスターだ。それと可能性として小型の鳥モンスター多数も襲撃してくると思う」

 

どうしてそこまでわかる? と質問された。推測つったろうが。

 

「見たことあって被害に遭ったプレイヤーがここにいるか分からないけど、三大天災の鳥型のモンスターのジズだったらイベント用の鳥に関する素材に効果あると思うか? 逆に効果が通じるモンスターと言えば大体小型が定番だ。リアルでも害鳥対策が施されてるぐらいなんだからよ」

 

「なるほど! では、小型の鳥モンスターはこうしている間にも襲ってくると?」

 

「運営は襲ってこないとも言ってないぞ。HPが低かろうと軍隊蟻のように数の暴力で襲ってくると思って、一点に集めて大規模な魔法攻撃で大量に倒す方法を考えた方がよさそうじゃないか?」

 

おおー、と感嘆の息を吐かれても・・・・・誰でも思いつくことだろうこれ。

 

「イベント用の素材もそのためにあると。ならば生産職の皆さんにはその製作をしてもらう必要がありますね」

 

話し合いの要点が大体浮かんできたところで、焦燥の色を浮かべてこの場にやってきたプレイヤーが報せに来てくれた。

 

「しゅ、襲撃だ!! 小型の大量の鳥モンスターがプレイヤー達を襲っている!!」

 

「コクテン!」

 

名も知らぬプレイヤーが叫ぶ。

 

「皆さん応援に行きます!」

 

応っ! と気合の入った声を上げて砦の隅っこから城壁へと駆けこんでいくコクテン達。俺は―――。

 

「ハーデス、行かなくていいの?」

 

ペイン達と動かず一緒にいた。

 

「いや行くぞ。ただ、従魔の編成を考えてた」

 

どんな組み合わせをしようか、とな。

 

「誰かボス戦時にミーニィかセキトの背中に乗るか?」

 

「ペインがいいだろ」

 

「強力なスキルを空中で与えられるならペインだな」

 

「以下同文だよー」

 

「だ、そうだがどうする」

 

「乗らせてもらうよ。その時はハーデス、一緒に翼を奪おう」

 

ジズの時にはできなかったことをしようとするんだな。いいだろうその誘い、乗ってやる。

 

「んじゃあ、メリープ。【発毛】と【羊雲】」

 

「メェー!」

 

膨張する羊毛のままメリープがぷかぷかと天に浮かびながら空一面に金色の羊雲を形成していく。

 

「オルト、ゆぐゆぐ、リック、ファウ、ルフレ、クリス、ウッド、フェンリル、サイナは広間にいる皆の応援と鳥モンスターの警戒と襲撃から守ってくれるか? 必要だった時は必ず呼ぶ。それまではサイナの指示に従ってくれ」

 

「ムムー!」

 

「かしこまりました」

 

「残りの皆は俺と一緒に来てくれ」

 

「モグモ!」

 

やる気を漲らせるドリモはツルハシを肩に担ぎ、先頭をきって駆け出した。配置場所が違うペイン達と別れ階段を登って、城壁に上がってみる。すると、金色の空を覆い尽くす、黒い無数の点が目に入ってきた。城壁の上には、ダメージを受けた多くのプレイヤーたちがいる。ただ、襲ってきたという鳥たちは、すでに城壁付近にはいない。

 

「状況は?」

 

「おお! 白銀さん!」

 

俺はすぐ近くにいたコクテンに声をかける。簡単に説明してもらったところ、鳥たちはヒットアンドアウェイを繰り返してくるらしい。群れで一気に襲いかかってきて、しばらくすると上空に退避し、再び降下してくる。

 

「1羽1羽は弱いんだ。それこそ、こっちにぶつかって、その衝撃で死ぬくらいに」

 

コクテンのパーティーのプレイヤー曰く。ただ、数が多すぎるのが問題だった。1羽から1点のダメージしか食わらないとしても、何十羽もの鳥が一斉に襲いかかってくれば大ダメージである。しかも、全方位から攻撃が来るため、防ぎきることも難しかった。

 

「軽装の奴は、かなり厳しい」

 

「鳥どもが来るぞ!」

 

空を覆い尽くしていた数万羽の鳥の群れが、まるで一個の巨大な生き物のようにうねりながら、こちらに向かってくるのが見えた。以前、空を飛ぶムクドリの大群を見たことがあるが、あれに似ている。こっちの方が、規模が数倍大きいけどな。

 

「メリープ、【雷雲】!」

 

上空に向かって叫ぶと、金色の雲が黒く染まりゴロゴロと雷鳴を轟かせた直後。無数の雷が地上に降り注ぎ、数多くの鳥モンスターに直撃する。だが相手は万の個体。数割の数を減らしたところで微々たる結果で終わるだろう。

 

「ふっふっふっ、だがな。俺にはとっておきのスキルがあるんだ。【身捧ぐ慈愛】!」

 

スキルを発動する。銀髪が金髪に目の色が青―――これは変わらないな。背中から純白の翼が生え、頭上には輝く輪が出現する。

 

「―――白銀さんが、天使になった?」

 

「すげー! なんだそのスキル、初めてみたぞ!?」

 

他のプレイヤーが俺の姿を見て色めき立つよそに、ドリモとベンニーアを背中に背負いエンゼとルーデルを抱えて【飛翔】で空を飛び―――。

 

「ベンニーア、目を瞑れ! エンゼ、ルーデル! 【閃光】!」

 

「ピカ!」

 

「ピィッ!」

 

数万の鳥モンスターに向かって両手を突き出す二人から大光量の閃光が放たれた。至近距離で真っ白な光を見てしまった以上、視界を数秒も奪われてしまう鳥モンスターの群れは面白いほどに地面に落ちて行き―――。

 

「ベンニーア! 目を開けて地面に落ちる鳥モンスターに【重力】!」

 

「ヤミヤミー!」

 

両手に黒い靄を発生させると、落ちていった鳥モンスター達が更に勢いよく地面に叩きつけられてポリゴンと化して消え去っていく。さらに上空から稲光と共に雷を降り注ぐメリープ。

 

「ドリモ、群れに突っ込むぞ! そのツルハシで叩き落せ!」

 

「モグモ!」

 

まだ残っている群れの中に突っ込み、すれ違いざまに一心不乱とツルハシを振り続けるドリモ。反撃されないかって? 【身捧ぐ慈愛】は周囲のパーティの味方に俺の防御力分のカバーが働くから、俺を倒さない限りはへっちゃらなのさ! ・・・・・貫通攻撃を除いて。おっと、そろそろ戻らないとMPが無くなる。

 

「ミーニィ【巨大化】! セキト、鳥の群れに【浮遊】【高速移動】【赤き閃光】【超突進】!」

 

「キュイ!」

 

「ヒヒーン!」

 

巨大化したミーニィが迎えに来てくれて俺達を背中に乗せる間に。全身を赤いエフェクト出纏い、高速移動しながら空を駆け鳥モンスターの群れに突進する。その威力は空中に赤い軌跡を残すほど速く、瞬く間に数を減らし駆逐していった。

 

「ミーニィ、【ホーリブレス】!」

 

「グオオオオオオッ!!」

 

口から極光の帯状の光線を放ち、更に数を減らすと城壁に戻る。

 

「後はよろしく」

 

「あ、はい・・・・・もう一人で倒しちゃう勢いで出番がないかと思いました」

 

「はっはっはっ、数が多くてもHPが低いんじゃあっという間に倒してしまう事実は認めるがな」

 

【羊雲】を解除して落ちてくるメリープをミーニィに回収してもらった。すると城壁にいるプレイヤー達の人垣を掻き分けながら離れていた者と再会した。

 

「ヒムヒムー!」

 

「おお、ヒムカ。お前無事だったのか」

 

「そりゃあ、白銀さんから借りてた従魔なもんで。鳥の襲撃の時スケガワから絶対に守れと他のプレイヤーに言い触らしてました」

 

「そうなのか。でも、それぐらいはしてくれないと怒ったな。サラマンダーファンのプレイヤーを焚きつけてスケガワを追い詰めさせていたところだ」

 

ふふふ、と朗らかに笑ってるだけなのに話しかけて来たプレイヤーが俺の言葉にゾッと戦慄した表情を浮かべていた。別にお前が恐れる理由はないのにおかしいな。HPとMPポーションで両方を回復するとヒムカを見る。

 

「この際だ。お前を進化させるか」

 

「ヒムム!」

 

一応、進化情報は見る。

 

「正当進化のサラマンダー・クラフトマン、特殊進化のヒトカゲ、ユニーク進化のサラマンダー・チーフか」

 

サラマンダー・クラフトマンは、槌術、火魔術が特化に変わり、ガラス細工が上級に変化するようだ。さらにスキルを2つ選べる。鍛冶や錬金、精製など、火に関する生産特化であった。

 

ヒトカゲは槌術、火魔術、製錬が上級になり、鍛冶・刀剣特化、研ぎ師というスキルを得ることができるらしい。もしかして、刀鍛冶的なことか? 

 

最後はユニークであるサラマンダー・チーフだ。やはり凄い。ステータス上昇率が最も高いだけではなく、スキルもバランスがいい。ガラス細工、製錬が上級になり、火魔術は特化。追加スキルには逆襲者となっている。もう1つはこちらで選択可能だな。

 

「やっぱユニークのチーフだろう」

 

「ヒム!」

 

名前:ヒムカ 種族:サラマンダー・チーフ レベル25

 

契約者:死神ハーデス

 

HP:73/73

MP:69/69

 

【STR 23】

【VIT 19】

【AGI 11】

【DEX 20】

【INT 14】

 

スキル:【ガラス細工・上級】【金属細工】【製錬・上級】【槌術】【陶磁器作製】【火魔術】【炎熱耐性】【食器作成】【火精陣ⅩⅩ】【逆襲者】【鍛冶】

 

装備:【火精霊の槌】【火精霊の服】【火精霊の大仕事袋】

 

 

スキルには鍛冶を追加しておいた。イズのカルラにあって、うちのヒムカにないなんてそんなの何時までも甘んじるわけにはいかないのだ。逆襲者のスキルは、思ったよりも攻撃的だった。

発動中は挑発効果があり、相手のヘイトを集めやすい。そして、攻撃してきた相手に対して、拳や魔力の衣でカウンターを行うという能力であった。

生産特化の精霊たちには珍しく、ダメージを与えることが可能な能力だった。

 

「まあ、それよりも何よりも、外見の変わりようが凄いんだが」

 

「ヒム!」

 

「デカくなったな」

 

まず重要なことは、身長が伸びて150センチ近くになったことだろう。次の進化で完全に抜かれるかもしれん。赤い髪の毛のツンツン度合いがさらにアップだ。黒いバンダナのような物を額に巻き、可愛い少年から、ちょっとヤンチャな少年にチェンジしたらしい。

 

衣服の形もちょっと変わった。体にぴったりフィットした黒いインナーの上に、丈の短い小さめの赤いジャケット。下もカーゴパンツのようなダボッとしたズボンに変わっている。ズボンは基本が黒地なのだが、赤で炎のトライバル模様がデザインされていた。

 

仕事袋のサイズは見た目は変わっていないが、名前が大仕事袋となっているからには、内容量が増えたのだろう。

 

「ヒムカ。進化していきなりボス戦だけど、大丈夫か?」

 

「ヒム!」

 

進化して見た目はヤンチャになっても、性格は変わっていないな。二カッと笑い、両腕をブンブン振り回してやる気をアピールしてくる。

 

「おお、ユニークのサラマンダーの生進化を見られるなんてラッキーですね」

 

コクテンがいつの間にかいて進化したてのヒムカを見て言った。

 

「スキルも面白いぞ。【逆襲者】ってのがある」

 

「【逆襲者】? シビア過ぎて大盾使いのプレイヤーを挫折させてきたあのスキルが?」

 

・・・・・ちょっと、その話を詳しく教えてくれませんかね。俺も大盾使いなんだけどそんなスキル、プレイヤーも習得できちゃうの? ねぇ?

 

「俺、まだ初期職のままだけど、どの大盾使いの二次職ルートにすれば手に入る?」

 

「え、冗談でしょ? 白銀さんがそんなプレイしている筈が・・・・・」

 

「・・・・・」

 

とあるプレイヤーはドン引きした。あんなに強いのにまだ初期職でプレイをしているプレイヤーがいるなんて信じられないと。

 

《時間となりました。ボスが出現します》

 

あれから大量虐殺劇をしたその後、俺を抜きでまだ残っていた鳥モンスター達を連携して倒していたころにアナウンスが聞こえた。

 

「ボスが出ましたか・・・・・」

 

コクテンが渋い顔で呟く、本来ならもう少し早めに出撃して、ボスを出現地点である岩山の手前で迎え撃つつもりだったのだろう。しかし、鳥たちの襲撃によって廃砦に釘付けにされ、ボスに対する防衛線を敷く前に出現時間となってしまったのだ。

 

「コクテン、どうする」

 

「戦闘班が向かうしかないでしょう」

 

「俺も賛成だ」

 

「ペイン」

 

ペインとは配置場所が離れていたため、戦闘する姿は見れなかったが、結構活躍したらしい。

 

「生産班とか、補修班から人を回してもらわなくていいのか?」

 

「私もその方がいいとは思うんですが、補修班は人手が足りていません」

 

廃砦の補修班も、鳥に襲われたせいで作業が遅れている。生産班の作るアイテムは今後も絶対に必要な以上、そちらから人手を割いてもらうのも気が引けるらしい。

コクテンやペインたちが話し合っていると、砦の中から生産班の面々が姿を現した。

 

「コクテンさん、俺たちも参戦するぞ!」

 

「それはありがたいですが、大丈夫なのですか?」

 

「もう、アイテム作りは8割方終わっていますので」

 

「残ったやつらで問題ない」

 

最悪、ボスが廃砦に到着するまでに加工が終わっていればいいという考えなのだろう。

彼らも交えて、コクテンたちが今後の動きを相談している。

 

「鳥が消えましたし、砦の守りは減らして、打って出たいと思いますが・・・・・。どう思いますか?」

 

「え? 俺か?」

 

「はい」

 

何でそこで俺に聞く。

 

「それでいいと思うぞ。遅かれ早かれ戦うんだし、好きにすれば? どうせ相手は空の上にいるから倒せ切れなく最終的にこの砦で待ち構えて倒すことになるだろうし」

 

俺の話を聞いたコクテンたちが、何やら真剣な顔で協議をし始める。いやいや、あくまでも俺の妄想だから。そんな真面目に協議しなくても。え? 俺の予想も一理ある? 防衛戦力はしっかり残す? まじで?

 

なんか、ボスに向かうのは半数ほどということになってしまった。

 

「いいのか? みんなで向かった方がよくない?」

 

思わずそう言ったんだが、コクテンたちの決意は覆せなかった。

 

「ボスの能力を偵察もせずに、戦力を差し向けるのは確かにリスクがありますから」

 

「ならいいけどさ」

 

結局、鳥が出現した時のために備えて、最初のイベントの時と同様、半数を残すことになったのだった。

 

あとは、鳥の群れが苦手というプレイヤーたちだな。中には生理的に無理という人や、恐ろしくて仕方がないという人もいるらしい。

 

「がんばれよー」

 

「廃砦のことはお願いしますね!」

 

「来たらソッコーで倒してやる」

 

だがコクテンさんよ。まるで俺が残留組のリーダーみたいに言わないでくれるか。

 

まあいい。どうせやることは決まってる。

 

砦の補修を皆で手伝って、コクテンたちから要請があれば出撃する。ただそれだけだ。

 

「じゃあ、ボスが来るまでの間、俺たちは砦の修理だな。ヒムカ、ここでも頼むぞ?」

 

「ヒム!」

 

今回はヒムカ大活躍になりそうだな。

 

「じゃあ、ヒムカはこっちで鍛冶を手伝ってもらうか」

 

「ヒムム」

 

ヒムカにはイズとセレーネが仕事を与えてくれるだろう。俺たちは建材の運搬作業だ。大工系技能を持つ人は少ないらしいから、雑用はできるだけ引き受けないと。

 

「よーし、そっち持ってくれ」

 

「フムム!」

 

広場にいてもらったオルト達を総動員させる。俺はルフレとともに、一抱えもある石のブロックを運ぶ。これは石工たちが加工した、鳥除け効果のあるイベント用ブロックだそうだ。女型の樹精には結構重い。ただ、オルトやドリモは1人でも運べているな。

 

「ム!」

 

「モグ!」

 

「キキュー」

 

リックは――邪魔かな? そんな一仕事した的な顔されても。お前はぶら下がってただけだからな?

俺はリックをつまみあげて、自分の頭に乗せた。

 

「お前はここだ」

 

「キュ?」

 

そうやって運搬業務に精を出していると、生産班のプレイヤーが城壁に駆け上がってくる。その顔には焦りの色があるように思えるが、気のせいであってほしい。

 

「白銀さん!」

 

「どうした?」

 

「それが、クリスタルに異変が! 急に光り出して!」

 

俺は他のプレイヤーに断り、大広間に向かう。すると、生産班からの報告通り、クリスタルが青白く輝いていた。

 

「最初はもっと光が弱くてさ、気のせいだと思ってたんだ。だけど、段々光が強くなってきて」

 

初めてみるがやはり単なるオブジェクトではなかったらしい。しかし、何の意味があるのか、誰にもわからない。

 

「オルトたちは分かるか?」

 

「ムー?」

 

「――?」

 

「まあ、わからんよな」

 

「とりあえず、もう少し観察して――」

 

「白銀さん! 大変だっ!」

 

「今度はなんだ?」

 

大広間に飛び込んで来たのは、運搬作業を担当していたプレイヤーである。

 

「また鳥が出た!」

 

「デカい?」

 

「いや、小さい!」

 

じゃあ群れの方か再び鳥が出現したと聞き、俺は大慌てのプレイヤーの後に続いて城壁の上に戻った。目に飛び込んできたのは、廃砦の周囲を飛び回る鳥の群れだ。

 

さっきと同じように、鳥が砦を襲撃している。ただ、先ほどと違う点がいくつかあった。

1つが鳥の色だ。先程は黒一色であったのに対して、今回は赤い鳥が混じっているのである。その数は全体の2割ほどであろうか?

 

漆黒の嵐の中に、赤い線が混じって見えた。新種だが、何が違うのかは分からない。もう1つ違うのが、鳥の密度だ。

 

「あっちとこっちじゃ、鳥の数が違うな」

 

廃砦の補修がかなり進んだからであろう。鳥避け効果のある建材により、鳥たちはその動きをかなり制限されていた。これは、赤でも黒でも、同じであるらしい。その分、鳥が何ヶ所かに集中してしまっているのだ。

 

「あれって、チャンスなんじゃないか?」

 

範囲攻撃を密度の高い場所に叩き込めば、相当鳥の数を減らせそうだった。しかし、襲われたプレイヤーたちは鳥に囲まれて視界がクリアではないため、密度の違いに気づいていないらしい。もしくは、気づいていても反撃する余裕がないのだろう。特に密集地帯のプレイヤーたちだ。

 

大盾使いのガードスキルがあっても、ガリガリとHPを削られてしまっているのが群がる鳥の隙間からも見えた。

 

「し、白銀さん、どうしよう」

 

「うーん」

 

やることはだいたい決まってるんだがな。

 

「俺がまた空飛んで今度はヘイトでたくさん集めるからさ、俺に群がるモンスターに集中攻撃してくれるか?」

 

「そんなことしたら白銀さんがダメージを食らうんじゃあ・・・・・」

 

「問題ない。遠慮なくやれ。それとそのことを他のプレイヤーにも伝えてくれ。アイテムも使ってできるだけ鳥を減らせると思う」

 

「わ、わかりました」

 

他のプレイヤーに声をかけて、皆でアイテムを使用して被害を抑えれば、なんとか持ち堪えることができるだろう。【身捧ぐ慈愛】のスキルの効果を発動し、そのままミーニィの背中にヒムカと連れて来たクママ、フレイヤと一緒に乗りながら―――。

 

「【挑発】! クママ、【芳香】。ヒムカ【逆襲者】。フレイヤ【魅了】と【恐怖】【霊魂搾取】」

 

「クマー!」

 

「ヒムム!」

 

『おいらに畏怖するんだにゃー!』

 

俺は現在鳥が最も集中している、城壁の西側に向かって駆けた。スキルを使用し近づくごとヘイトに反応する鳥の数が増え、視界が悪くなっていく。そして、ありったけヘイトで集めたら周囲が完全に鳥に覆われた。

 

「チチヂチチヂヂチチチチチヂ――」

 

「うるさいなー!」

 

鳥たちの発する大音量の鳴き声のせいで、自分の声しか聞こえなくなった。

 

「ヒムヒム!」

 

微かに聞こえるヒムカが意気揚々と逆襲者を発動させている。鳥たちはヘイトの増減に対して異常に敏感であるらしく、俺達の作戦に見事に引っかかる。そしてそれは―――外からの攻撃もしやすくなっている意味合いでもある。集まった鳥たちに攻撃が当たる魔法は、一瞬だけ穴が開き城壁にいる魔法使いや遠距離攻撃持ちのプレイヤーが鳥の塊に攻撃を繰り返す。攻撃を受けたらヘイトは移り変わるのは当然だが。

 

「俺達は引き寄せ役だ。鳴き声は五月蠅い承知で頑張れお前等!」

 

「クマー!」

 

『後でご褒美を要求するにゃー!!』

 

「ヒムー!」

 

 

 

イズside

 

「白銀さんがヘイトで引き寄せている間に攻撃しろー!」

 

「クママちゃん、今助けるわ!」

 

「ヒムカちゃんを助けてみせる!」

 

「フレイヤちゃん、待ってて!」

 

「ミーニィちゃんを守る!」

 

赤と黒が入り乱れて球状を形成してる光景を見てしばらく呆けて見てしまった。聞こえてくる声はハーデスがヘイトで集めまくったから鳥モンスター達に閉じ込められているらしい。でも、作戦的にはあんな風にしている間に城壁にいる私達が攻撃して数を減らすのが彼の目的みたい。

 

「イズ、ハーデス以外の大盾使いの人だったら・・・・・」

 

「即死ね。彼だからできる作戦だから行動をとったのよ。はい」

 

「・・・・・爆弾、投げても平気だよね?」

 

「鳥モンスター達に囲まれているから直撃することはないと思うわ。ぶ厚い層になっていればの話だけど」

 

結構デカい球状の的だからどこに投げても当たる私特製の爆弾は一羽でも当たれば数十羽も巻き込むことが出来る。セレーネも投げてそうする。こうやって倒せばいいのよねハーデス。

 

「なかなかの威力の爆発じゃないか。だが、私の方がさらにそれを凌駕する!」

 

「え?」

 

カラフルなアフロに鉢巻を額に巻いて祭り衣装の法被を着た女性生産職の子が、大筒を脇に抱えて鳥モンスター達に照準を定めた。

 

「―――爆発は芸術だぁっ!」

 

 

ドンッ!! ヒュ~~~・・・・・・ドッカァァァァァァァァンッッッ!!!

 

 

「「ちょっ!?」」

 

私が製作した爆弾より確かに数倍の威力があった。だから、巨大な赤黒の球状の半分以上も巻き込む爆発力があるアイテムを生み出すこの子に二重の意味で驚かされた。

 

「待って待って!? 白銀さんも従魔ちゃん達も巻き込んじゃってない!?」

 

「絶対に怒られるよ~!!」

 

彼女のフレンドらしき女の子たちが慌てて制止するも、スイッチが入ってしまったように高笑いしながら何発も砲弾を撃って鳥モンスター達を木っ端微塵にしていく。

 

「ハーデス、怒らないかな・・・・・」

 

「きっと予想外な展開だと思うわ」

 

爆炎と黒煙で鳥モンスター達の残存が確認できなくなってしまっている。だから手出しできなくなった私達は、ただ唖然と見ているしかできなくて・・・・・。

 

「―――いい加減に攻撃やめろ馬鹿野郎ぉおおおおおおおおおおおっ!!!!!」

 

彼がいた中心に大竜巻が発生して、砲弾は爆発するも暴風の壁で防がれた。そして聞こえてしまった彼の怒号。大竜巻が消失した頃には黒煙も晴れていて・・・・・天使の姿の彼の顔が凄く怒っていた。

 

「攻撃しろと言ったのは俺だ。俺の従魔達へのダメージも甘んじて寛容して受け入れた。でも、状況を把握しないまま攻撃するな! 何度も当たったぞこっちは!! ―――ちょっと怖かったぞマジで!!」

 

「「ご、ごめんなさーい!!」」

 

「・・・・・ごめんなさい」

 

「狙うならこれから来る大型のモンスターにしろ、いいなっ!!」

 

怒るのも短くて厳重注意するだけで城壁に戻るハーデス。とにかく、長く怒鳴り散らすようなことをしなかったのは安心した。

 

「作業に戻りましょうか」

 

「そ、そうだね・・・・・」

 

怒られてしょんぼりしちゃっている彼女達をフォローしつつ、ボスモンスターに備えて修復作業に取り掛かる。鳥達もさっきので殆んど倒せたから安堵し、皆が喜んでいるのも束の間、鳥たちに再び異変が訪れていた。再び襲いかかってきたわけではない。

 

むしろ、北に向かって飛び去って行く。その方角を見る私達の目に、あるものが飛び込んできていた。

 

巨大な赤黒い何か。それが空に浮かんでいる。

 

「あれは・・・・・鳥?」

 

「大きな鳥ね」

 

それは、赤と黒の二色の羽根を備えた、巨大な鳥であった。多分、その翼長は25メートル以上はあるだろう。

 

どう考えても、アレがボスであった。

 

確実にこちらに近づいてきている。

 

「ついに来たかー」



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前回と同様ではない

「白銀さん!」

 

「スケガワもきたのか」

 

「ああ。ここからは生産班も防衛に加わるから、よろしく」

 

これは心強い。生産職だって戦闘ができない訳じゃないからな。ただ、城壁に上がってきていきなりボスを見たことで、混乱してしまっているようだ。

 

「とりあえず生産職を入れてチームを組もう! 全部のチームにタンクを組み込んで防御重視で―――」

 

「ダメだ! チームが組めない!」

 

「え?」

 

誰かの悲鳴が聞こえたので慌てて確認してみると、確かにチームが組めない。というか、パーティそのものが解除されていた。代わりに、レイドパーティに組みこまれている。

 

どうやら通常のレイドボス戦と同じように、レイドパーティでの戦いに変わったらしい。むしろこちらの方が当たり前なんだが、急にシステムが変わったため、各所で混乱しているようだった。

 

さすがにこのままボスと戦うわけにはいかないだろう。スケガワもそう思ったのか、焦った表情で駆け寄ってきた。

 

「白銀さん、このままじゃまずい! みんなをなんとか落ち着かせないと!」

 

「そうだな」

 

「俺に考えがある。ちょっと手伝ってもらっていいか?」

 

「お前の頭の中はスケベなことしか考えられなかったんじゃ?」

 

「辛辣だな白銀さん! 大丈夫、真面目な考えだから!」

 

スケガワがパンパンと手を叩きながら、大声を張り上げた。

 

「みんな! 注目! 白銀さんから話があるぞ!」

 

「え? ちょ、スケガワ? 何言っちゃってくれてんの?」

 

手伝うってそれ、俺に全部丸投げしてるよなおい。

 

「いやいや、ここで何か皆を落ち着かせる一言を頼むよ。ささ」

 

「やっぱりお前は女とスケベしか頭にないじゃないか! 真面目な考えだからと言ったくせに能無しか!」

 

「この混乱してる状況を鎮めるための演説を白銀さんにしてほしいんだよ!」

 

「結局他力本願だろうが! お前自身が言動する考えかと思ったよ!」

 

こいつに期待しても無駄なのか・・・? スケガワに声をかけられた周囲のプレイヤーたちが、一斉にこちらを見ているし・・・・・しょうがないな。

 

「あー、ここにいるメンバーでボスを倒す。その機会と言うチャンスが巡って来た。普段目立って輝かしい功績を上げて注目している攻略組とトッププレイヤーの戦闘班に泡を食わせるチャンスでもある。特に生産職プレイヤーにとってはそういう連中を支えているのは誰なのか思い知らしめるチャンスでもある」

 

「そうだ!」

 

「普段モンスターを戦うのに使っている装備は? 生存率を高めているアイテムを製作しているのは? ただ黙ってアイテムを作っているだけのプレイヤーではないことをこのイベントで示してやるんだ」

 

「そうだ!」

 

「故に戦闘班が戻るのを待つまでもなく俺達だけでボスを倒すぞ。はい、コクテン」

 

「ここで活躍すれば、メチャクチャ目立てるぞ! MVPも夢じゃないぞみんな! ―――何より白銀さんの従魔、ノーム達が俺達の活躍を見ててくれる絶好のチャンスだ!!」

 

『―――――ッッッ!!!』

 

人の従魔をダシに使うとは、後で高い支払料を請求してやる。

 

「そうだな・・・・・うん、俺もMVPを獲得するかもしれないが、この中でMVPになったプレイヤーには二日間うちのホームで従魔と過ごす権利を与えようか」

 

そんな提案を告げた俺の話に耳を傾け、聞いていたプレイヤー達が不自然に静まり返った。静寂の束の間、そして次の瞬間。砦内から凄まじい熱気が溢れ返ったのだった。

 

 

うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっっっ!!!!!

 

 

声音、騒音、熱狂、絶叫、歓喜、狂気・・・・・腹の奥から吐き出す彼等彼女等の気持ちが、想いが廃砦を文字通り震わせるほど凄く伝わってくる。

 

「生産職でも戦えることを教えてやるぜぇー!!!」

 

「MVPは私のもの!!!」

 

「俺だぁー!!!」

 

「絶対に手に入れてやる!!!」

 

「憧れの白銀さんの従魔と触れ合えるこのチャンス!!!」

 

「うおおおおおおおおおおおっ!!!」

 

うーん、凄い士気の向上。死を恐れない兵隊になったんじゃないかこれ?

 

「流石白銀さん、人をその気にさせる才能は凄い!」

 

「はいはい。迎撃の準備を急がせろよ」

 

「応! そらみんな! MVP賞を欲しかったら準備をするんだ! 陣形を組もう。まずは防御重視で様子見だ!」

 

「そうだな! みんな、白銀さんの指示通り、隊列を組めー!」

 

「タンク、城壁の前に出て構えるぞっ!」

 

「魔法使いは一番後ろだ!」

 

「ハリーハリーハリー!」

 

ノリノリなのは分かるけど、少し聞き分けが良すぎじゃないか? いや、俺にリーダーを押し付けた手前、従ってくれているのかもしれない。そうして、隊列が組み上がった直後であった。

 

突如、不快な金切り声が俺たちを襲った。砦に接近してきたボスの鳴き声だ。

 

ただ不快な声というだけではなく、音波攻撃のようなものであったらしい。陣形の前に並んでいた盾職のプレイヤー、俺にも、僅かにダメージが入っている。

 

しかも、人によっては恐慌の状態異常に陥っていた。これは、恐怖を感じている相手に対してスキルや魔法の発動速度低下、命中力低下という、地味に辛い状態異常だ。

 

即座に周囲の人間が治したので今は問題ないが、限界ギリギリの戦いになった時に状態異常にされると面倒かもしれない。

 

ただ、恐慌の状態異常は、うちの子たちのようなNPCにはより大きな脅威であった。

 

実は、恐慌という状態異常に陥っても、本当に恐怖心を感じる訳ではなく、怯えるようなこともない。いくらこのゲーム世界がリアルに近いと言っても、人間の感情や精神を操るような技術は未だに完成していないのだ。

 

そもそもそんな真似できたら、ゲーム内にいる人間を外部から洗脳したりできそうだしな。

 

恐慌や錯乱という状態異常に陥った場合は視界が震えたり、体の動きを阻害することで、疑似的にその状態を再現しているだけである。

 

しかし、NPCの場合は違う。どうやら、ちゃんと精神的にもその状態に陥ってしまうらしいのだ。他のテイマーの話だが、恐慌状態に陥ったモンスが逃げ出してしまい、陣形が崩れて死にかけたという話を聞いたことがある。

 

「対策はしてあるけどな」

 

「ム?」

 

「――?」

 

俺は所持していた状態異常耐性を上げる魔法薬をモンスたちに振りかけた。これで、10時間は状態異常への抵抗にボーナスが入る。

 

まあ、確実に防げるわけじゃないが、確率は大分減らせただろう。

 

そうして音波攻撃への対策を施していると、ボスがさらに近づいてきているのが見えた。凄まじい速度であるようで、俺たちの想像以上に早く、この砦に辿り着くだろう。

 

「く、くるぞ! 防御主体! 反撃はヘイトを散らすために、魔術で一斉攻撃だ!」

 

「「「おう!」」」

 

現れた大型は赤と黒の羽根に身を包んだ、巨大な鳥である。顔はフクロウっぽい平面な感じなんだが、体は細くてまるで燕のようだ。

 

「アンドラスっていう名前か」

 

確か悪魔の名前だったかな。以前、イベントで戦闘したグラシャラボラスと同じ、ソロモン72柱の悪魔だったはずだ。イベント系のボスは、その辺からの出典なのだろうか?

天空から砦を見下ろしていたアンドラスが、甲高い鳴き声をあげると、その翼を大きく羽ばたかせ始めた。

 

「クオオオオ!」

 

「おぉ? 風か」

 

アンドラスの翼によって起こされた強風が、砦全体を襲い始める。

体が吹き飛ばされるほどの威力ではないんだが、無視できるほど弱くもない。立っている最中も、多少踏ん張っていないとバランスを崩してしまいそうだ。

 

「ピカァー!」

 

「ピィ!」

 

「エンゼ、ルーデル!」

 

「クマ!」

 

いや、エンゼとルーデルにはかなり厳しかったらしい。風邪の影響で飛ばされかけていた。クママが身体を張って助けるのがもう少し遅かったら、どこかに飛ばされていただろう。ベンニーアは俺の足元の影に身を潜めていたから吹っ飛ばされずに済んだ。

 

「よくやったクママ」

 

「クママ!」

 

「ピカァ・・・・・」

 

「ピィ・・・」

 

もふもふの腕の内に抱えられた二人が、「助かった~」という表情で安堵の溜息を漏らす。その間にも、風が少しずつ圧力を増している。どのプレイヤーも軽く腰を屈め、風に耐えていた。

すると、そこに何かが飛来する。

 

カンカン!

 

反射的にが掲げた大盾に弾かれたそれに目をやると、黒い羽根だった。羽根手裏剣的な攻撃なのだろう。風に乗せて一斉に放つことで、範囲攻撃が可能であるようだ。しかも、アンドラスの行動は当然ながらそれだけでは終わらなかった。

 

「クウウオオオッ!」

 

アンドラスの叫びに呼応するように、黒く輝く小さい魔法陣が出現する。城壁の上だけなのだが、30ヶ所はあるだろうか。

 

「攻撃のモーション中に攻撃するなってルール、俺には通用しないんで。ベンニーア【重力】」

 

「ヤミ!」

 

両手に黒い靄を発生させたベンニーアの直後、アンドラスの顔面に大爆発が。ダメージを受けたアンドラスは堪らずといった感じで魔方陣をキャンセルして離れていったが、ただ後退したわけではなかった。

 

「うわ! 風が!」

 

「ちょ、羽根が飛んでくるぞ!」

 

アンドラスの引き起こす強風と、その風に乗せて放つ羽根手裏剣で攻撃を仕掛けて来た。

 

「白銀さん! どうしたらいいと思う?」

 

「スケガワか。さてどうするか」

 

空にいるアンドラスには、魔法使いや弓使いで対処するしかない。しかし、ただでさえ、戦闘部隊と砦防衛部隊でプレイヤーを分けているのだ。ここでさらに魔法使いが抜けたら、アンドラスを倒すまでにどれだけ時間がかかるか分からない。

 

だったら、片方に集中した方がまだましだろう。

 

「クオオオォォ!」

 

「うわっ! やばいやばい!」

 

「皆避けろー!」

 

アンドラスがその巨体を一気に下降させてきた。翼長が25メートルを超える超重量のボスが真上から迫ってくる様子は、凄まじい迫力があった。

 

そして、アンドラスは迫力だけの相手ではない。

 

「ぐあぁ!」

 

「くっ! ヒール! ハイヒール!」

 

アンドラスの急降下攻撃を食らったタンクが、一発で死にかけていた。何とか回復が間に合ったようだが、一撃でタンクを瀕死に追いやる攻撃力は恐ろしすぎる。

 

「こ、攻撃チャンス――」

 

「クオオオ!」

 

だが、これは攻撃をする絶好の機会だ。俺たちは誰に言われるまでもなく、一斉にアンドラスを取り囲もうとしたんだが――。

 

アンドラスは即座に翼を羽ばたかせると、そのまま上昇していってしまった。慌てて駆け寄ろうとした者もいたんだが、激しい風に邪魔されて、攻撃をすることはできなかったようだ。

 

「クオオオオオ!」

 

「またくるぞ!」

 

「構えろー!」

 

わずかに場所を変えたアンドラスが、再び急降下してきた。まるで巨大な鎌のように見える足の爪が、今度はプレイヤーではなく砦を大きく抉っている。その攻撃だけで、城壁の一部が崩れてしまった。どう考えても、大ダメージである。

 

「プレイヤーに当たれば最低でも瀕死。皆が攻撃を躱すと、砦にダメージってことか?」

 

長期戦は、砦がもたないだろう。砦のライフがゼロになってあのクリスタルが砕けた時、どんなマイナス要素があるかも分からない。

 

となると、プレイヤーで攻撃を受け止めつつ、なんとか奴にダメージを与えなくてはいけないんだが・・・・・・。アンドラスが無防備になる魔方陣を展開するのを待つか?いや、それだけでは絶対にイベント終了までの討伐は間に合わない。

 

「つまり、急降下攻撃にあわせて、攻撃を叩き込むしかないってことか」

 

これは、かなり危険な戦いになりそうだ。

 

「ミーニィ、フレイヤ。サイナとリヴェリアとフェルをここに呼んでくれ」

 

「キュイ!」

 

『行ってくるにゃー』

 

「白銀さん、何を・・・・・?」

 

これから何かしようとする俺にスケガワが不思議そうな顔で伺ってくる。俺はこれからすることを言おうと口を開き、アンドラスの急降下攻撃に合わせて、攻撃を仕掛けようと、準備をしている最中だった。

 

「キュアアアア!」

 

「うぉ?」

 

アンドラスの目が青白く輝いたかと思った瞬間、俺の体に軽い衝撃が走り、視界がグニャリと歪む。

 

 

え?

 

 

なんだ? 体が全く動かん!

 

 

身じろぎしようとしても、どうにもならなかった。体が固まった――というよりも、何か硬い物で全身を包まれているようだ。それに、この歪んだ視界はなんだ? なんと言えばいいか、レンズが歪んだメガネ越しに世界を見ているような感じだ。目を閉じてステータスウィンドウを呼び出してみると、脳内で問題なく確認できる。その画面を見たことで、ようやく自分がどんな状態に陥ったのか理解できた。

 

 

氷結という状態異常になっている。

 

 

どうやら、アンドラスから何らかの攻撃を受け、氷漬けにされてしまったらしい。氷に全身を覆われて、身動きが取れなくなっているのだろう。ステータスには、氷結時間が解除されるまでの時間が赤いバーとして表示されている。

 

この減り方だと、3、4分くらいはかかるか? 誰かに解除してもらうことは期待できないだろう。アンドラスの対応で忙しい筈だ。氷越しでも、黒い影が動いているのが分かる。他のプレイヤーたちがどうにかしようとしてくれているみたいだが、特に成果は上がっていないんだろう。

 

リアルでこの状態だったら寒い程度では済まないのだろうが、ここはゲームの中。寒さで死ぬようなことはないが、段々と体の熱が奪われ、体中の関節が固まるような感覚がある。これが酷くなったら、凍傷という状態になるらしいが、その前に状態異常が解けそうだった。

 

それにしても、さっきの謎の氷結攻撃はあまり攻撃力が高いものではなかったようだな。俺のHPが半分以上残っている。こちらの動きを制限するための能力なんだろう。

 

強風&羽根手裏剣、音波攻撃、氷結攻撃と、動き阻害系ばかりだな。そうして動きを止めて、急降下攻撃で仕留めるってことか。

 

不意に効果時間を示す赤いバーの減りが急に早まったのが分かった。

先程までの倍近い速度で、バーが減っていく。目を開けて確認すると、俺の眼前にユラユラと動く赤い光と真っ白な光が見えた。なるほど、誰かが炎の魔法か何かで、氷を溶かしてくれているらしい。

 

そうして、ジリジリとしながら何もできずに待っていると、ついに氷結状態が解除された。パリーンという効果音と共に、体の周りを覆っていた氷が砕け散る。

 

「初めて氷結状態になったなぁー」

 

「ヒムムー!」

 

「ピカッ!」

 

「ピィー!」

 

「おお、氷を何とかしてくれたのはお前達か。ありがとう」

 

「ヒム!」

 

「ピカ!」

 

「ピィッ!」

 

うちの精霊モンスたちは戦闘中に魔術を使えないという固定観念があったが、攻撃に使えないというだけで、それ以外のことには使用できるようだ。ヒムカとエンゼとルーデルがいれば、氷結からはすぐに脱出できそうだな。

 

「白銀さん! 大丈夫か!」

 

「ああ、なんとか」

 

「そろそろアンドラスの急降下がくる! 気を付けてくれ! 白銀さんが死に戻ったら、戦線が崩壊する!」

 

大げさな。まあ、うちの子たちのファンのテンションは確実に下がるだろうから、あながち的外れではないんだけどさ。

 

ただ、今の氷結による拘束攻撃を食らって、思いついたことがある。

 

「なあ、スケガワ。下りてきたアンドラスに拘束系魔術やスキルを叩きこんだら、地面に引きずり下ろせないかな?」

 

「拘束系? なるほど・・・・・」

 

うちのパーティだと、俺やリヴェリア、ゆぐゆぐとウッゾにクリスの樹魔法だな。ああ、四人のの鞭にも、相手を拘束する技がある。

それらをプレイヤー全員で使ったら、どうにかならないだろうか?

 

「確かに、試す価値はあるかもしれないな。俺たちの攻撃力じゃ、どうせ大したダメージは与えられないんだし」

 

「だろ? やってみないか?」

 

「そうですね!」

 

スケガワが声をかけてくれると、すぐに賛同の声が上がり、使えそうなスキルや術を持っている人間が集まってきた。ただ、その数は意外に少ない。二十人程だろう。

 

そもそも樹魔法がマイナーだし、鞭を使っているプレイヤーも少ない。このサーバーにはいないようだった。プレイヤー以外だったら・・・俺の許にやってきたリヴェリア達ぐらいだ。

 

「あなた、私は何をすればいいのかしら?」

 

「俺があの鳥を砦に落とす。リヴェリア達の樹木魔法をあそこで拘束してくれ。サイナは他のプレイヤーに間を空けるよう頼んでくれ」

 

「わかりました」

 

「フェル、それまでリヴェリア達を守ってくれ。アンドラスを落としたら狩り時だ」

 

「グルル・・・・・」

 

そう皆に言っている間にも事態は止まらない、進展していく。

 

「みんな、くるぞ!」

 

「よし! こっちに来る!」

 

そもそもこの作戦は、アンドラスが降りてくる場所が離れすぎていると、失敗である。準備していた魔法などが届かないからな。だが、俺たちの願いがゲームの神様に届いたらしい。アンドラスは、俺たちのすぐ近くに急降下してきてくれた。

 

盾ごと吹き飛ばされるタンクを横目に、俺たち拘束班が一斉に魔法やスキルを放った。そのほとんどはアンドラスによって弾かれ、効果を発揮はしてくれない。

 

だが―――。

 

「来るの待ってたぜ! 【覇獣】!」

 

こっちも城壁から飛び出しながらベヒモスと化した俺に、ホバリングした後、遠ざかろうとするアンドラスの片足に噛み付き捕まえることが出来た。空中を8回跳んで大きく間が空いてる広場に目を配る。

 

「いくぞ、リヴェリア!!」

 

勢い付けてアンドラスを前肢で叩き付けながら下へ落とす。錐揉みしながら落下するアンドラスは、地面に墜落する直前に体勢を整えたのは称賛する。が、しかしだ。その行動を取った時には既に魔方陣を展開、極太の蔓を操作していたリヴェリアに両足を拘束され、地に引きずり下ろされたのではな。

 

ベヒモス化を解いて【身捧ぐ慈愛】を発動、空からリヴェリアの傍に降り立って彼女を俺の防御力+カバーする力場に入れる。

 

「今が好機! 総員突撃だ!!」

 

うおぉおおおおおおぉぉぉおおおおおおおおおっ!!!

 

戦闘員と生産しかしてなかったプレイヤーが雄叫びを上げながら積極的に攻撃する。オルト達も果敢にその中に加わる。みんな頑張れー。

 

「オルトちゃん見てて!」

 

「ゆぐゆぐちゃんは俺が守る!」

 

「リックちゃんに手出しさせないわよ!」

 

「クママちゃんと共闘なんて感激!」

 

「メリープちゃあああん!」

 

「ミーニィちゃんの分も戦うわ!」

 

「ファウちゃんを傷付けるやつは許さねぇ!」

 

「ヒムカくんの頑張りを無駄にしない!」

 

「アイネちゃん、俺の勇姿を見ててくれ!」

 

「ルフレちゃんの笑顔のためなら俺は・・・・・!」

 

「エンゼくんとルーデルちゃんの敵は俺の敵だぁ!」

 

「ベンニーアちゃんの尊顔を見るためにぃ!」

 

「フレイヤちゃんの肉球を触るために戦う!」

 

「この戦いを終えたらクリスちゃんと抱き締め合うんだ!」

 

「ウッド様の微笑みと膝枕が俺を待っている!」

 

・・・・・あいつら、外してはいけない理性と言うネジが全部吹っ飛んでしないか?

 

「サイナ、全力で倒せ」

 

「マスターのお望み通りに」

 

片翼を集中攻撃するサイナによって、アンドラスの片方の翼は破壊された。空に飛べなくなったが、巨体の脅威は健在だ。足を拘束してるとは言え、まだ動かせる自由が残ってるから、鋭い爪で貫かれるプレイヤーは少なくない。時おり羽の手裏剣が飛んでくるが、リヴェリアを完全防御で守り通してしばらく時が経った頃。

 

「戦闘班が戻ってきたぞぉー!!」

 

砦に駆け込んでくるコクテン達が、地面に縫い付けられてるアンドラスに目掛けて攻撃体勢に入った。戦う気はあるのはわかるんだけどな?

 

「あー・・・・・悪い。もう終わった」

 

フェルがアンドラスの喉笛を噛み裂き、セキトがアンドラスの脳天を踏み抜いたダメージは大きく、今回のレイドボスがポリゴンと化して唖然と立ち尽くすコクテン達の前で吹っ飛んだのだった。

 



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神獣にも魔獣にもなれるペンギン

「もどってきたぞー」

 

「ムムー!」

 

「いやー、今回のイベントも大変だったねぇ」

 

「本当ね」

 

「修復作業は楽しかったかな」

 

「今回もボスにしてやられたねー。ボス戦、まったく活躍できなかったよ」

 

「ハーデスを連れてくれば俺達が倒せただろよ」

 

「まさか、俺達をスルーして砦に向かわれるとはな」

 

「こういうこともあるだろう」

 

レイドボス戦を終えた俺たちは、始まりの町にあるホームへと戻ってきていた。あのフィールドから帰還する際、各地の転移門を選ぶことができたのだ。事前に決めあったわけでもなく、イッチョウ達も俺のホームに戻るつもりで始まりの町に選択したようで、途中合流した。

 

「ウニャー」

 

「ワンワン!」

 

「お、ダンゴにナッツ、出迎えてくれるのか? 可愛い奴らめ!」

 

右手に仔犬の腹。左手に子猫の腹。どっちもフニフニで至高の手触りだ。これほど贅沢なおさわりがあるだろうか?

 

微妙に違う手触りのダンゴとナッツを1分堪能していたら、イッチョウに催促された。

 

「さて、ボス素材も手に入ったし、これからどうするか」

 

レイドボス戦でゲットできた報酬は、アンドラスの羽根×3、アンドラスの爪、アンドラスの尾羽、アンドラスの剛嘴の4種であった。羽根や尾羽は、何かに使えるんじゃないかと思う。剛嘴は、杖はなんだろう?

 

あとは、サーバー順位が1位だったので、その報酬としてお金がもらえた。最終的に全サーバーでアンドラスを撃破できたため、どこでも報酬にそれほどの差はなかったようだ。

 

ピッポーン。

 

『MVPの集計が終了しました。第1サーバーのMVPに選ばれたので、報酬をお送りいたします。獲得票数、第1位でした』

 

MVPに選ばれた? はい? まじ? しかも1位って・・・・・善戦してたみんな、ゴメンネー(棒読み)。

 

だって、戦闘で―――いや、今回はちょっと活躍したな。アンドラスを地上に下ろしたのは間違いなく俺だし。そこを評価してくれたのかもしれない。あと、イベントを発生させたご祝儀的な意味もあるのかもな。

 

「ま、もらえる物が増えたんだから、ラッキーって思っておけばいいか」

 

追加報酬は、アンドラス退治MVPという称号と、お金とボーナスポイント。そしてアイテムだった。称号は効果なしの名誉称号だ。まあ、これはいい。

 

問題はアイテムだろう。アンドラスの剛嘴と、アンドラスの魔眼から選ぶことができるようだ。この2つがアンドラスのレアドロップなのだろう。

 

「むー・・・・・ここは魔眼一択だろ」

 

剛嘴はあるし、魔眼を手に入れたら全素材コンプリートになる。インベントリに追加された魔眼を取り出してみる。目と言ってもグロテスクな物ではなく、青みを帯びた丸い水晶玉って感じだった。陽に透かすと、非常に美しい。

 

「あいー!」

 

「おっと、マモリか。どうしたんだ慌てて?」

 

「あい! あーいー!」

 

縁側に座って成果を確認していたら、そこに座敷童のマモリが突撃してきた。どうやら、俺に何かを訴えたいらしい。

 

「バケー!」「カパッ!」「モフフ!」「テッフ!」

 

「なんだなんだ? マモリだけじゃなくて、お前らもか?」

 

焦った様子のマモリに他の妖怪マスコットたちも加わり、俺の周りはあっという間に人外の者たちで囲まれてしまった。

 

「あい!」

 

どうやら、今出て来たばかりの転送扉に向かっているようだ。まあ、マスコットたちが行ける場所は、ここ以外は畑しかないが。

 

「なんだなんだ?」

 

まあ、ついて行ってみれば分かるだろう。そのままマモリに先導されるままに歩くと、どうやらマスコットたちは俺を納屋に連れてきたかったらしい。因にだが、イッチョウ達は転送扉を通れないから留守番だ。

 

「一体何が――おおぉ? まじか! これを教えてくれてたのか?」

 

「あーい!」

 

リックとファウの卵にヒビが入ってた。孵化する直前だ。というか、孵化する! 急いでそれを抱えてホームに戻りみんなの前に置いた直後、ヒビが大きくなり、卵の内側から眩い光が溢れ出した。いつもの演出だ。

 

「うわっ!」

 

「きゃっ」

 

「なんだ!」

 

「まーぶしー!」

 

「あーいー!」

 

マモリも両手の平で目を覆って眩しさに耐えている。

 

「しかし、失敗したな~。リックたちを呼んでおくべきだった!」

 

モンス達に親子の感情があるか分からんけど、一応リックとファウの間に産まれた卵だからな。

 

「マモリ、リックとファウを呼んできてくれ」

 

「あーいー!」

 

マモリが居間を出て言った直後、光が完璧に収まり、そこには新たなモンスが――。

 

「あれ? いない? なんだこれ。光の球?」

 

後には白い光の球がフヨフヨと浮かんでいた。

 

ウィル・オ・ウィスプのような光の精霊っぽいのかと思ったが、どうも違うようだ。マーカーが出ていないのだ。

 

俺が首を傾げていると、ウィンドウが自動で立ち上がった。

 

「えーっと、なになに・・・・・? 未分化の力が渦巻いています? アイテムを捧げて、力の方向性を決めてください? どういうことだ?」

 

「あっ、私知ってるよん。確かテイマーのトッププレイヤーの情報じゃ、発生する条件は解明されてないけど、卵が孵化する時に極稀に起きる現象であるらしいよ?」

 

イッチョウの説明は続く。手持ちのアイテムをいくつかこの光の球に捧げることで、普通とは違うモンスが生まれてくる場合があるそうだ。灰色リスになったこともあるらしいので、絶対にレアモンスになるわけではないそうだが。

 

「選択できるアイテムは3つか・・・・・」

 

モンスターの素材から、武器や道具まで、色々なアイテムを選ぶことができる。とりあえず、俺は動画配信をすることにしてみた。

 

「久し振りの死神の宴だ。みんな来てるかなー」

 

 

『いえーい、一番乗りー。随分と久し振りの配信だね白銀さん』

 

『今回はどんな情報を教えてくれるんだ?』

 

『なんか奥にペイン達もいるし! え、どこにいるの?』

 

 

「今、俺のホームに集まって寛いでるところ。そんな時にうちの獣魔が産んだ卵が孵化したとも思ったらアイテムを捧げることで力の方向性を選ぶことが出来る未分化の力という現象が発生したんだ」

 

 

『それなに? アイテムを捧げると具体的にどうなるって?』

 

『アイテム次第で新しいモンスターを手に入れることができるんじゃないか?』

 

 

「うん、その認識で間違ってないと思う。ということでみんなもその瞬間を見て欲しい配信でーす」

 

 

『おお、もしかするととても貴重な瞬間を見られるのか? ありがたい』

 

『テイマーは興味ないけど、白銀さんのファンとして見させてもらいます』

 

『どんなモンスが生まれるのか楽しみです』

 

 

ということで、インベントリの一番上にあるアンドラスの魔眼を選択してみた。

 

「ふむふむ。アイテムを選択すると、それに合わせてここの数値とか、種別が変化すると」

 

ウィンドウには3つの項目があった。格、潜在、種別だ。アンドラスの魔眼を選ぶと、格が5、潜在が3となり、種別の欄には、鳥7、悪魔4、氷結5と表示されている。

 

次いで、アンドラスの剛嘴を選ぼうとしたんだが、「同種族のモンスターの素材は1種類しか選択できません」と表示されてしまった。全部アンドラス素材を選んで、レイドボスをゲット! とはできないらしい。

 

次に、白鶏の卵を選択してみる。格が7、潜在が4に増え、鳥や悪魔の種別は消えなかった。そして、新たに、鳥が5も増えている。試しにアンドラスの魔眼の選択を解除してみると、格2、潜在1に減少し、種別は鳥だけが残っていた。

 

「格、潜在は加算方式。種別は、選択した素材に含まれている属性的なものが表示されるのかね?」

 

次は水晶樹の木を追加で選択する。すると、格8、潜在6、樹木6、精霊7、草花2と変化した。どうも種別が被った場合も、その種別ごとに数値が加算されるらしい。

 

多分だが、種別の種類が多けりゃいいってもんじゃない気がする。だって、鳥で悪魔で樹木で精霊で草花で氷結属性も持っているって、意味が分からん。そんなのキメラですらない。

 

だとしたら、種別の中でも最も高い数値が反映されるとか、一定数値に達している種別が反映されるとか、そんな形になるだろう。だとしたら、格、潜在が高いうえに、種別の値が高くなる組み合わせを発見せねばならない。

 

「制限時間があるのか。でもまだ50分以上ある。じっくり調べてみるかな」

 

『口答で教えてくれるのはありがたいけど、本人しかわからないことみたいだからわかったら教えてね』

 

わかってるよ!

 

光の球に捧げるアイテムを選んでいると、マモリがリックとファウを連れて戻ってきた。

 

「あーいー」

 

「キキュ!」

 

「ヤー!」

 

「おー、お前らの卵、孵化したぞー。そしたら未分化の力って奴が出てきてなー」

 

「キュ?」

 

「ヤ?」

 

「あい?」

 

マモリも一緒に首を傾げている。これだけじゃ分からんか。とりあえず俺は、未分化の力や、それにアイテムを捧げると、改めてモンスが生まれてくることを教えてやった。

 

「キュー!」

 

「ヤヤ!」

 

「あい!」

 

話が難しすぎるかと思ったんだが、全員理解できたらしい。まあ、元々知識としてはあるってことなのかもしれんが。

 

「キュー?」

 

「ヤー?」

 

「そうだ、今アイテムを選んでるんだよ」

 

右肩にリック、左肩にファウが乗ってきた。やはり自分たちの卵から生まれたものに対しては興味があるんだろうか?

 

「2人はなにか希望はあるのか? このアイテムを使ってほしいとか?」

 

そう聞いてみたんだが、リックもファウも首を横に振っていた。こだわりはないらしい。

 

「となると、やっぱり数値的なものを優先して選んでいくか」

 

いくつものアイテムを選択しては解除、選択しては解除を繰り返していくうちに、段々と理解できてきた。

 

まず、レア度が高いアイテムや、品質が良いアイテムの方が、格、潜在、種別の値が高い。そして、1つのアイテムに含まれる種別は最大で3つまでであるようだった。

 

そして、使用するアイテムの候補を決めていく。とりあえず第一候補は、鳳凰の卵である。特にレア中のレア、希少素材だろう。

 

鳳凰の卵は、格10、潜在10、鳥10★、神獣10★、火炎10★だった。

 

格10というのは、他にない数値だ。さすが神獣の素材。

 

「ふむ、だがこれの意味するものは・・・・・?」

 

鳥と神獣と火炎10という数値の横に、★マークが付いていた。

 

「数値が10を超えたからか、という考えだったら妥当なんだろうが10以上にすればユニークなモンスターが手に入るかな?」

 

どうやら、特別な効果が期待できるようだ。もしくは、★マークが付いていなければ反映されないと言うことだろうか? しかし一番の問題は、種別倍化という不思議な項目だった。これは、鳳凰の卵を選択した際に、他の素材のもつ種別の値を1つ選び、その数値を倍加できるというものだったのだ。

 

制限としては、鳳凰の卵がすでに所持している鳥の種別は選択できなかったが、他はどれを選んでも自由だった。そこで、倍加すると10に届く項目を選んでみると、見事に★が1つ付いてくれたのだ。

 

「じゃあ、これらは?」

 

ジズの素材を調べてみたら・・・・・。

 

鳥帝の大黒羽 格10、潜在10、鳥9、魔8、雷8

 

鳥帝王の嘴 格10、潜在10、鳥8、魔8、貫通10★

 

鳥帝の鋭爪 格10、潜在10、鳥8、魔9、力7

 

ジズの帝尾羽 格10、潜在10 鳥7、魔7、風8

 

ベヒモスの素材だったら・・・・・。

 

ベヒモスの豪皮 格10、潜在10、獣9、魔9、防御10★

 

ベヒモスの牙 格10、潜在10、獣8、魔8、炎9

 

ベヒモスの爪 格10、潜在10、獣9、魔8、貫通9

 

ベヒモスの鬣 格10、潜在10、獣7、魔7、防御8

 

ベヒモスの角 格10、潜在10、獣8、魔9、地7

 

ベヒモスの尾 格10、潜在10、獣7、魔7、鞭6

 

「・・・・・」

 

な、悩む―!? と頭を抱えて天を仰ぐ俺に声が掛かる。

 

「ハーデス、レアな素材だけ使ってみたらどう?」

 

「ベヒモスとジズの素材も希少で色んな項目の数値が7以上で高くて悩んでるんだよ。獣の項目と魔の項目を足すと数値が10も超えてフレイヤみたいな魔獣が生まれる確率が高いんだ」

 

「それじゃ駄目なの?」

 

「発生する条件が解明されていない極稀な現象だぞ? 同じ種族のモンスターは出来れば被りたくない。この機会にまだ未確認のモンスターを手に入れたい」

 

火・水・風・土・木・光・闇属性のモンスターは揃っている。だとすればそれ以外のモンスターを生み出したい。ラヴァ・ゴーレムの熔鉱炉ならば格7、潜在6、溶岩8、岩石7、マグマ8だ。黄金林檎だったら草花の項目・・・・・これ、樹精が生まれてくる要素だよな。却下だ。なら初体験した氷結か・・・・・? 鳥に氷結・・・・・氷。

 

「配信を見てるプレイヤー諸君。氷に鳥を連想できる?」

 

 

『氷に鳥? 氷属性の鳥? そんなモンスターはまだ未確認だな』

 

『リアルを持ち出していいなら氷がある場所に住んでいる鳥としては何種類かいるよな。主に可愛いペンギン』

 

『ペンギンかー。北海道の動物園にもいるよな』

 

『このゲームにペンギンのモンスターいるかな』

 

『白銀さんの従魔として生まれるなら存在の確認が取れるんだが』

 

 

なるほど、ペンギンか。じゃあ、氷結に獣が10以上するとホッキョクグマかアザラシ辺り出て来るかな?

 

「よし、氷結の項目があるアンドラスの魔眼と神獣の鳳凰の卵、三大天災の鳥帝ジズの嘴の素材で試してみよう。非常に氷結と獣属性の組み合わせで、ホッキョクグマとモフモフなアザラシが生まれそうなのに後ろ髪を引かれるがな」

 

 

『待って? 神獣の卵とジズの素材を使うってマ?』

 

『白銀さん、希少な素材を大量に抱えてる説が浮上したな』

 

『というか、そんな素材を選んで生まれるモンスターってどんな?』

 

『トップテイマーのアミミンを超える・・・・・いや、もう超えてるか』

 

『この結果でテイマーも未分化の力の現状を狙うようになるな』

 

『はよはよ、やっちゃってくださいな白銀さん』

 

 

皆に催促され最終結果はこんな感じである。

 

格25、潜在23、神獣10★、鳥25★★★★、悪魔12★、火炎10★、氷結10★、貫通10★

 

格と潜在は10を超えても★は付かないようだが、種別は15で★★になるようだ。実際、20を超えると★★★★になってるからだ。

 

「神獣に悪魔、火炎と氷結を併せ持つモンスター? はは・・・不安しかないぞこれ」

 

 

『二つの属性を持つ神魔の鳥型モンスター? ドラゴンだったら格好いいと思うけど』

 

『これは別次元のモンスターだろ。どんなモンスターになるのか逆に気になる』

 

『これが最後ってわけじゃないんだから試してみたら? 今回が失敗しても次に活かせばいいし』

 

 

確かにそうだけど・・・俺はドキドキしながら決定ボタンを押した。インベントリから選択したアイテムが失われ、光の球が案の定輝き出す。俺はどんなモンスが誕生するのかて目を瞑りながら考える。鳥であるのは確定だ。しかも、アンドラス、鳳凰と、ジズの素材を投入しているのだ。予想では、猛禽系の戦闘もこなすモンスではないかと思っている。

 

「ペペン」

 

「?」

 

なんだ、今の気の抜ける変な音は?

 

ペタペタペタペタ。

 

え? なになに? このビーチサンダルでプールサイドを歩いてるような音は? モンスの足音?

 

「ペン?」

 

「・・・・・えっと」

 

目を開くと、未分化の力が浮いていた場所には何もなかった。だが、分かっている。分かっているのだ。俺の足下に何かいるのは。

 

視界の端で、青い何かが動いている。俺はゆっくりと視線を降ろした。

 

「ペン」

 

「ペ、ペンギーン!」

 

 

『おおおおおおおー!!』

 

『すげー!』

 

『初ペンギンの登場生シーンいただきましたぁー!』

 

『か、かわいい・・・・・っ!』

 

 

そこにいたのは、紛れもなくペンギンであった。腹は白く、背中や首から上が青い。ただ、青一色の顔の中にあって、目の上だけが少しだけ白くなっている。背中に背負ってる感じに蒼い炎がメラメラと燃えてる。

多分、大きさ的にはコウテイペンギンという奴だろう。まあ、リアルにいるのは白と黒で、こいつは白と青だが。

 

「た、確かに鳥だけど・・・・・」

 

「ペン」

 

「お前が、新しいモンス、なんだよな?」

 

「ペペン!」

 

ペンギンが、その通りとでも言っているかのように、右手をパタパタと動かした。うむ、可愛い。これが神獣であり悪魔の属性を持つモンスターか・・・・・。ペンギンの存在は実証されたが、俺が選んだ素材から産まれたこのペンギンはいないと思うぞ。恐らく唯一無二、オンリーワンだろう。

 

「ペン?」

 

「キキュー!」

 

「ヤヤー!」

 

「ペペーン!」

 

リックとファウが、ペンギンさんに抱き付いている。いや、腹にしがみ付いているという方が正しいだろうか。そのフカフカの羽毛に埋もれて、満足げである。羨ましい。ペンギンも嫌がる素振りはないので、そのままにしておこう。

 

考えてみたら親子の対面なのだ。まあ、しんみりした雰囲気はかけらもないが。やはり、親子関係という括りには当てはまらないんだろう。リックたちにとっては新しいモンス仲間って感じだった。

 

「さて、ステータスの確認――の前に名前だな!」

 

「ペン!」

 

「ペンギン・・・・・ペンペン・・・・・スイカ・・・・・。ペンカ――少し発音し辛いか? なら・・・。よし、決めた。お前の名前はペルカだ」

 

「ペペーン!」

 

「よしよし、喜んでくれてるな。じゃあ、次はステの確認だ!」

 

「ペン!」

 

名前:ペルカ 種族:ハイウェイ・ペンギン レベル1

 

契約者:死神ハーデス

 

HP:30/30 MP:18/18 

 

腕力10 体力12 敏捷8

 

器用4  知力7  精神5

 

スキル:【嘴撃】【高速遊泳】【採集】【耐寒】【耐熱】【跳躍】【突撃強化】【氷耐性】【炎上耐性】【氷結纏い】【火炎纏い】【ペンギンハイウェイ】【落下耐性】【漁師】【三角撃】【漁火】【氷炎操作】【神魔転換】

 

装備:なし

 

かなり強いぞ。初期値は報酬卵から孵ったドリモとほとんど変わらない。孵卵器のボーナスのおかげだろう。そして、スキルが18個もあった。

 

俺がリックとファウの卵に使ったのは、火属性付加戦闘技能孵卵器である。戦闘スキル、火属性スキル、火耐性の3つが加わっているはずだ。これは、三角撃、漁火、炎上耐性だろう。採集がリックから遺伝したブラッドスキルかね? 採取の上位スキルで、広い範囲から採取をしてきてくれるスキルだ。ペルカなら、水中から色々なアイテムを拾ってきてくれることだろう。

 

その他のスキルも興味深いものばかりだ。

 

 

嘴撃:嘴で攻撃するためのスキル

 

高速遊泳:水中を自由自在に泳ぎ回る

 

耐寒:寒い環境に強くなる

 

跳躍:高く飛び上がることが可能

 

突撃強化:移動攻撃時に、ダメージボーナス

 

氷耐性:氷結系魔術、氷結属性に耐性

 

火炎纏い:一定時間、行動に火炎属性付与

 

氷結纏い:一定時間、行動に氷結属性付与

 

落下耐性:高所からの落下時にダメージ軽減

 

漁師:様々な漁、生産を行う際にボーナス有り

 

三角撃:壁などを蹴って、勢いよく突進する

 

漁火:水中で消えない灯。一部の魚等が寄ってくる。

 

炎上耐性:火炎系魔術、火炎属性に耐性

 

氷炎操作:全てを凍てつかせる炎を操る。

 

これらはまあ、調べれば効果がすぐわかるスキルたちだった。データを確認しても、ペルカ以外にも所有者がいる。漁師や漁火のおかげで、釣りがより捗りそうなのがうれしいね。

 

だが、ペンギンハイウェイと神魔転換、これだけは、完全に未知のスキルである。掲示板でも一切語られていないし、データにも所有者はいない。完全にユニークスキルであった。種族名がハイウェイ・ペンギンであることからも、種族固有スキルなのだと思われる。

 

しかも、鑑定しても効果が意味不明だ。

 

ペンギンハイウェイ:ペンギンは行くよ、どこまでも。その歩みは誰にも遮ることができない。

 

神魔転換:神獣にも魔獣にもなれる唯一無二のペンギン。世界全ての獣の頂点を目指せる。

 

 

「分かるか! もっとちゃんと書いてくれ!」

 

ユニークスキルだからか? まあ、いい。使って見れば分かることだ。

 

「ペルカ。ペンギンハイウェイをここで使うことはできるか?」

 

「ペン!」

 

ペルカは嬉しそうに頷くと、部屋の端にトコトコと歩き始めた。いったいどんなスキルなんだ?この言葉自体は知っている。確か、ペンギンの群れが巣と海を行き来する際に使う、ペンギンの生活道路のことを指す言葉だったはずだ。

 

その名前のスキルとはいったい……。

 

「ペペン!」

 

部屋の角でこちらを振り向いたペルカが、片手をピッと上げると、そのまま腹ばいになった。そして、次の瞬間、驚くべき光景が繰り広げられる。

 

なんと、ペルカの体が軽く光ったかと思うと、その眼前から光の帯がミョーンと伸びたのだ。幅50センチ程の光の帯が、ペルカから俺の前まで山なりに敷かれている。

 

「ペペーン!」

 

「おおお! ペルカが飛んだ!」

 

光の帯は、正にレールであった。そのレールの上をペルカが滑り、かなりの速さで移動する。気付いたらペルカが宙を飛び、俺へと飛び込んできていた。

 

「おっと!」

 

あぶねー! 受け止めれたからよかったけど、失敗してたら俺もペルカもぶっ飛んでたぞ? 意外と思い切りがいい性格であるらしい。

 

「今のがペンギンハイウェイか」

 

移動系のスキルっぽいな。しかも、ただ地面を滑るのではなく、宙にレールを敷くことで、疑似的に空を飛ぶことさえ可能だ。

 

なんと、ペルカはペンギンでありながら、空すら飛ぶことができるのである!

 

「すごいなペルカ!」

 

「ペッペーン!」

 

俺が褒めると、嬉しげな表情でふんぞり返る。お調子者でもあるらしい。

 

「ふむ……」

 

「ペン?」

 

抱きかかえたペルカの手触りは、簡単に言えば至福であった。背中側の短い羽毛は、いくらでも撫でていられそうなほどに滑らかである。もっとツルツルしているかと思ったんだが、意外と柔らかい。

そして、腹側のフワモコの羽毛はうちの動物系従魔たちとはまた違う、鳥類特有の温かさがあった。しかも皮下脂肪がプニプニで、無限に揉みしだいていられるのだ。

 

断言しよう。ペルカの体は人を堕落させる魔性の肉体であると同時に人を癒す神性の肉体の持ち主だ。

 

「ペン?」

 

「はっ・・・! やばい、マジで手が止まらないところだった。残念だが、とりあえずスキンシップはこれくらいにしとこう」

 

次は、ペルカのお披露目かな。

 

「よーし、うちの子たちに紹介するからな」

 

「ペン!」

 

「キキュ!」

 

「ヤー!」

 

と―――思ったんだが。

 

「ハーデス君」

 

おっと、俺の肩を掴むイッチョウ以外にも女性陣がいつの間にか近くにいらしていた。ただならぬ気配を放って俺を見つめてくるその視線から鬼気迫る何かを感じさせる。

 

「触らして?」

 

「はい」

 

この有無を言わさぬプレッシャー・・・・・逆らえる男がいたら見てみたいものだ!



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モグラ叩き(まだ叩かない)

ヘルメスside

 

「うみゃーっ!!?」

 

な、なんなのこの爆弾映像はぁあああんっ!? 未分化の力の現象でペンギンを生み出すなんてとんでもないことしてくれたわねぇえええっ!!!

 

『それと、未分化の力のなら確実に樹精が手に入ることが判明したかも。素材を選んでる最中にだが、木材を確認したらさ精霊と草花という項目があってさ、この2つを10★にすればゆぐゆぐみたいな樹精が手に入る可能性があるぞ』

 

な、なんですと・・・・・? 彼の言葉が本当ならみんなは未分化の力の現象を狙って木材を集めまくるわよ。

 

『ペンペーン!』

 

『あ、それと見てるだろうヘルメス。未払金を完済するまでうちのペンギンの情報売らないからなー』

 

「ぐふぅっ!?」

 

は、早く完済しにゃいと・・・・・っ。どんどん彼が情報を蓄えて私達の知らない秘密の宝箱化しちゃうぅぅぅぅ。

 

 

 

 

 

イッチョウ達がモフり終えるまで待っていると、「素晴らしい光景を見せてくれた」とか言うラプラスがいつの間にかいてその後日後。ラプラスが小遣い稼ぎに未分化の力の現象に備えて素材の項目が判別できるモノクルを作り出した。その素材は水晶で作れるから費用はほぼ無料、これをプレイヤー達に売って欲しいと頼まれたので自動販売機にセットしたら。用途が判ったプレイヤー達から大量発注を求むほど大人気商品となった。

 

 

 

配信を止めてからすぐ、ヘパーイストスのところに寄ってみようとしたら、ホームの前でメタスラ一行がいた。呼んだ覚えはないんだが、はて・・・・・?

 

「来るの待ってた?」

 

「あんな配信されたら誰でも一目みたいだろう」

 

「じゃあ、思う存分触ってみろ」

 

「ペン?」

 

ペルカとルフレだけ連れていこうとする俺の許可を得て、メタスラ一行は触り始める。

 

「ペンギンの身体はこういう感じなのか・・・・・」

 

「ふわぁ、初めてペンギンを触れた~」

 

「このお腹辺りが何とも・・・・・ずっと触れる顔を埋めたくなる・・・・・」

 

「背中の炎は熱くないな。ダメージも入らないのもまた不思議だ」

 

しばらく触り心地を堪能する彼等の姿が視界の端に入れながらメタスラから訊かれた。

 

「これからどこかに行くのか?」

 

「イズとセレーネとヘパーイストス、古匠のNPCのところにな。一緒に来るか?」

 

「邪魔でなければ」

 

「よしウェルカムだ。行くぞ」

 

再びメタスラ一行達と行動することとなり、ペタペタと歩くペンギンの姿が多くのプレイヤーに見られながら武具店の裏口から入る。

 

「おい、正面からじゃなくて裏口から? 怒られないのか? プレイヤーをデストロイするNPCがいるんだぞ」

 

「マブダチだから問題ないぞ。まぁ、仕事中は静かにしててくれ」

 

カウンターにいるヴェルフに軽く手を振って挨拶を交わし、鉄を打っておらず燃え盛ってない炉の前で陣取り座り込み、腕を組んで考え込んでいるヘパーイストスの姿に珍しく感じた。

 

「ヘパーイストス、今暇ー?」

 

「おお、お前か。嬢ちゃん達も久しぶりだな」

 

「はい、お久し振りです」

 

「こんにちは」

 

イズ達のこともしっかり覚えてくれている。これなら自分達だけで鍛冶師のクエストが発生できるかな?

 

「で、なんか悩んでるみたいだけどどうした?」

 

「ちぃっと次はどんな武器を作ろうか悩んでたところだ。『古匠』に至れてもやることは変わらないからな。こう、他にはないオンリーワンな物を作りたくてよ。でも、それがどういうのかは定まれてないんだわ」

 

おっ? クエストの予感がするな・・・・・。

 

「アルゴ・ウェスタとアグニ=ラーヴァテインみたいな武器を作ってみたらどうだよ。古代の鍛冶師の技術の結晶が目の前にあるというのに、それを触れず新時代の鍛冶師・・・ヘパーイストスが作らないでどうするんだよ」

 

「む・・・」

 

「過去を振り返って未来を切り拓く何かを見聞し手に入れる。ヘパーイストスの先祖もそうして鍛冶をして来たんじゃないのか? ヘパーイストス自身もそうしていたはずだぞ」

 

彼に素材の更なる詳細が把握できるモノクルを手渡す。

 

「なんだこの片メガネは」

 

「素材の表面だけじゃなくて内面も分かるアイテムだ。ベヒモスの素材をそれで通して見てみろよ」

 

「それで一体なん―――・・・・・なんだこれは? 格、潜在、獣、魔だと?」

 

「素材の未分化が把握できるモノクルだよ。色んな項目が見えるだろ? 今度はそれで素材を見ながら武器作ってみたらどうだよ。案外、思わぬ物が作れたりするかもよ?」

 

モノクルで通して素材の未分化を見てから唖然とするヘパーイストス。

 

「・・・・・素材にはこんな可能性が秘められていたのか。ただの素材として見て様々な物に造り替えて来たが、本当の意味で素材を活かせることが・・・・・」

 

「できないのか? 古匠の鍛冶師の癖に。それならユーミルに鞍替えしちゃおうかなぁー、あっちの方が古匠の上位、神匠だしもっと凄いの作ってもらえるしな」

 

にへら、と小ばかにするとヘパーイストスが獰猛な獣のように俺を睨んで、ニヤリと口の端を吊り上げた。

 

「・・・・・言ってくれるじゃねぇか坊主。ガキの挑発にノるつもりはねぇが、鍛冶師がナメられるだけは許しちゃならないことを骨の髄まで教えてやるっ。俺の腕に懸けてな!」

 

―――ここに来て新しいクエスト、EXクエストが発生した。内容は・・・・・ヘパーイストスを神匠に至らすことだ。

 

「あのクソッタレ師匠と同じ神匠になりゃあ結果で黙らせる。まずは坊主、古匠の鍛冶師しか扱えない素材を集めてもらうぜ」

 

「はいよ」

 

千年鉱石のインゴット×1、『大地の生命の源』

 

「用意周到すぎるぞお前」

 

「当たり前じゃん。古匠程度で終わるヘパーイストスじゃないのはヴェルフの次に俺がよーく知っているんだ。いつかこの時が来るのをわかってるのに用意しないはずがない」

 

「・・・・・じゃあ、古代の武器も用意・・・いや、持ってたな」

 

「持ってますねー。風化した刀のこれとか籠手とか他にも幾つか」

 

取り敢えず、刀を繋ぎにしてもらうことにした。アルゴ・ウェスタとアグニ=ラーヴァテインのような感じになるのが一週間後、楽しみだわ。

 

「あ、そうだヘパーイストス。これ手に入ったぞ。これもつなぎに使ってくれるか」

 

「あん? なんだこの鉱石ヒヒイロカネ? ・・・ヒヒイロカネ・・・・・だと!?」

 

「「えっ!?」」

 

そこでイズとセレーネも反応してしまわれるか。

 

「こ、これが伝説の鉱石、ヒヒイロカネ・・・死ぬ前に見て触れることが出来るなんて・・・・・!」

 

「緋色の炎が燃えているかのように鉱石が紅い・・・・・」

 

「綺麗・・・・・」

 

「おおお・・・・・」

 

ヴェルフ君も交じってヒヒイロカネを見つめる。

 

「鉱石喰いってモンスター知ってる?」

 

「そいつはぁ、知ってる。地龍と鉱石を好むモンスターだ。・・・・・まさか、出たのか?」

 

「地龍の骨を喰らいにドワルティアに出現したんだ。その時は出なかったけど、宝饗水晶巣っていう地龍と鉱石喰いが好む場所に出現してな。漁夫の利で手に入れたんだ」

 

「宝饗水晶巣?」

 

鸚鵡返しをしたヘパーイストス。どこかで聞いたことがあるような、と腕を組んで脳内で思い出そうとする彼は工房を後にしていなくなった。でもすぐに戻ってきた。古い羊皮紙を持ってきて。

 

「死んだ爺さんから受け継いだモンの中にそんな名前を聞かされたことがあった。そこには同じ世界にあるとは思えない水晶と宝石だらけの場所で、採掘しようにも水晶系のモンスターが津波の如く襲い掛かってくるもんで逃げるしかなかったってな」

 

「マジでか。ヘパーイストスの爺さん、どうやってそこまで行ったんだ? 俺はマグマに潜って行ってるっていうのに」

 

「そいつの答えはこれに書かれてある」

 

羊皮紙をテーブルの上に広げる。俺達はテーブルを囲んで見ると、ドワルティアと火山の全体図が描かれていて町に入らずぐるっと半周した先にバツ印が書かれてあった。

 

「言っておくがこいつは爺さんが受け継いだ情報だ。爺さんが直接行ったわけじゃないからな」

 

「あ、そうなのか? ヘパーイストスは行かなかったのか?」

 

「当然行った。が、穴も空洞も何もなかったから探さなかった」

 

何もなかった? おそらくラプラス達はこの穴から入ったと思うけど・・・・・魔法で隠蔽しているのかな。

 

「ところでどうして名前を知ってるんだ? 俺しか知らない情報だぞ」

 

「あー、確か爺さんを助けた恩人が住んでるらしい。多分、その恩人から聞いたんじゃないのか?」

 

・・・・・ラプラスだな。後で聞き出そう。

 

「ヘパーイストスも行ってみたいと思うか?」

 

「先祖が通った道を辿れる範囲内ならな。ウチは代々子孫を残さず弟子に全てを受け継がせる鍛冶師だからよ。ヴェルフも俺のように全てを受け継がせるつもりだ」

 

「師匠・・・・・」

 

冒険者は自力以外なら許すと言ったけどNPC相手なら問題ないかな。出来れば子の二人にもあの光景を見せたいと思っていたところ、手紙を銜えた鷹が解放された窓から入って来た。ヴェルフが手紙を受け取りヘパーイストスに手渡す。

 

「・・・・・おい坊主。ドワーフ王がお前を呼んでるぞ。依頼した武器が完成したってよ」

 

「おっ、そうなのか!」

 

「それと俺も来るようにってお達しだ。こいつはあのクソッタレ師匠だな。今度こそモグラを叩きに行く、馬鹿弟子も来いって王の手紙と混ぜて送ってきやがった。坊主のことも誘ってんぞどうする」

 

モグラを叩く? モグラ・・・・・いや、まさかな?

 

「誘われてるなら協力するよ。戦力が欲しいって言うなら俺が色んな冒険者に声をかけるが」

 

「ああ、そいつは助かる。なんせモグラ野郎は長年ドワーフを悩ませる因縁の敵だ。坊主は知らないだろうから教えるが、俺がまだクソッタレ師匠の許で修行していた頃でもモグラの問題は続いてたんだ」

 

「問題?」

 

「ドワーフの鉱山に住み着いちまってな。討伐隊を組んで鉱山を取り戻そうとするドワーフと徹底抗戦をするモグラ共の戦いも数百年ぐらい続いているって話だから、最初は俺も信じられなかったが・・・・・モグラ共、マジ強すぎる。竜に化けるんだからな」

 

・・・・・あ、それ、知ってます。モグラに竜ね。

 

「ちょっと待ってくれ」

 

―――数分後。

 

「モグラってこいつのこと?」

 

「モグ?」

 

ドリモを連れて尋ねたら当然のように頷かれた。

 

「ああ、そいつだそいつ」

 

ドリモールかよ! ドワーフ達がてこずるのも納得だわ!

 

「よし、だったら俺は協力する。イズ達はどうする?」

 

「乗り掛かった舟だからね。ドワルティアの鉱山って興味があるし行ってみたいわ」

 

「私も協力するね。どんな鉱石があるのか気になるよ」

 

「俺達も是非協力させてもらう。クエストではなくこんなイベントみたいなのが起きるのかと思えば、参加しないわけにはいかないからな」

 

ここにいないペイン達も誘ってみるか。

 

「あ、ヘパーイストス。イズとセレーネに砥石を見せてくれないか?」

 

「あれをか? 別に構わないぜ。元々はお前から譲ってくれたんだからな」

 

金の光沢を放つ延べ棒状の厚い塊を仕舞っていたところから持ってきてくれた。名前はまだないけどそれを二人に見せる。

 

「これが砥石・・・・・?」

 

「初めて見るね。あの、実際に使っているところを見せてもらっても?」

 

「見たいのか? 少しだけだぞ」

 

ようやく見せることが叶った。謎の物質で出来た砥石を使うヘパーイストス。一度砥石に武器でなく包丁で研ぐと砥石から金色の星屑のような粉が舞って、俺達を魅了する。何となくその粉を掌に集めたら・・・・・アイテム化になった。

 

 

『宇宙の星片の粉』

 

暗黒物質でできた星が稀に破片となって宇宙から落ちて来る物。宇宙の星、それはこの世界の誕生と共に生まれた物であり、暗黒物質を操る闇神が世界の誕生に祝福に生み出した物でもある。世界の闇を照らし輝く物を手に入れた者の願いを叶える物質故に、使用者が望み続ける限り不変と化する星の粉に不思議な力が宿っており、様々な素材の用途に一度だけ使用できる。

 

 

「はっ!? なんだこの設定!」

 

「ど、どうしたの?」

 

「なんだ坊主いきなり声を上げやがって」

 

「・・・・・それ、砥石じゃなくて闇神が暗黒物質で作った宇宙の星って鑑定に出た」

 

「宇宙の星だと!?」

 

アイテム化した『宇宙の星片の粉』をインベントリから出してみんなにも鑑定させたら、同じ情報を見たようで仰天した。

 

「不変って、一生変わらずってことだよね?」

 

「そうだ。ヘパーイストスがこれを砥石だとずっと思っている限りは、一生使える万能の砥石になるんだ」

 

「なん・・・だと・・・・・。そんなこと気付かずに坊主から貰って、俺はずっと使い続けていたのか」

 

粉の方は『宇宙の星片の粉』って名前が表示されたから鑑定も出たんだろう。地神の次は闇神のアイテムが手に入ってしまったな。他の神に関わるアイテムもあるのかもしれない。

 

「ヘパーイストス。物は相談だが、その宇宙の星屑出る粉は自分用にも集めていいから俺の分も集めてくれないか?」

 

「ああ、わかった。俺にも粉を使わせてくれるってんなら坊主の分も集めておくぜ。ありがとうよ」

 

思いもしなかった真実を知ってしまった俺達。他にも同じアイテムがあるのか首を長くして探してみよう。

 

「宇宙のアイテムってことは世界で一つしかないんじゃあ・・・・・?」

 

「リアルにも小さい隕石なら何回も落ちてるから一つだけじゃないと思うぞ。地面に埋もれてるか誰かの手の中にあるのかもしれない。名前が『???』って表示されてるから鑑定すれば判る」

 

「じゃあ、俺達も見つけたら何かに使えるか?」

 

「願いを叶える物質だから、何かに使えるのは間違いないじゃない?」

 

宇宙という属性の武器が作れたりしてな。あ、そう思うと俺も欲しくなってきた。絶対見つけよう。うん。

 

「ともかく、ヘパーイストス。もうちょっと粉を集めさせて?二つ分ほど」

 

そうお願いした俺はそれを手にしたらイズとセレーネに譲った。生産職の二人に使ってどんな効果が出るのか知りたいからだ。俺から事情の説明を受け止めた二人は了承してくれて、分かり次第教えてくれると約束してくれたところで、準備を済ませてから利用料を払って転移魔法でドワルティアに向かった。集合場所はヘパーイストスに報せたのか、俺達を先導するよう先頭に立って先に歩く。

 

「おう、来てやったぜ」

 

「・・・・・連れて来てくれたな」

 

「協力させてもらうよ。人数も多い方がいいと思って他の冒険者も連れて来た」

 

「・・・・・助かる」

 

鉄火の花場から東寄りに離れた先には横穴があるそこには、武装したドワーフの集団が間隔的に並んで集まっていた。ユーミルもモグラ叩きに参加するようで大きなハンマーを二つも背中に差していた。既に鉱山に兵を送り込んで戦闘が行われている様だ。対して俺が連れて来たメンバーはペインパーティ、メタルスライムパーティ、俺とイッチョウ、イズとセレーネにサイナ、リヴェリア、ドリモ、フェルだ。ルフレは留守番をしてもらってる。

 

「鉱山の地図は?」

 

「・・・・・これだ」

 

木製のテーブルの上に広げてもらった。広い、とてつもなく広い。東京ドームが10個分あるんじゃないのか?

 

「モグラが占拠してる範囲は?」

 

「・・・・・3分の2ほど」

 

めっちゃ広くございませんかね? そしてどれだけいるのモグラ。

 

「モグラの代表的なボスの存在は?」

 

「・・・・・一度も確認できていない」

 

となると、かなり奥にいるなこれは。明らかにこれは未知の冒険に挑む戦いになるな。

 

「今まではどんな風に戦って?」

 

「・・・・・ドワーフよりモグラの方が数も多く、叩く度に強くなっている。装備の質はこちらが勝っているが、この強さは圧倒的に向こうが上手」

 

「いつもどの辺りまで進んでいた?」

 

「・・・・・ここだ」

 

曰くそこは古戦場とも呼ばわれるようになった場所。ドワーフは取り戻した鉱山と未だ占領中のモグラの境界線から半径400メートルも離れた位置でドワーフ兵士を配備しているらしい。しかし、それは向こうも同じようにしていて、戦いは別の場所―――古戦場で行われ進退、攻防戦が続き古戦場で勝利した側が、敗者側の占拠してる鉱山の一部の領域を手に入れる決まりがいつかできたのだとか。

 

「ドワーフとモグラの戦いにそんな歴史があったのか・・・・・」

 

「・・・・・だが、今回はひと味違う。ドワーフの心の友、協力してくれる」

 

「あ、はい。頑張らせていただきます」

 

期待されちゃあ応えないと好感度下がりそうだ。

 

「・・・・・これを渡す」

 

ユーミルがそう言うのを待っていたかのように、兵士達が大事そうに四人がかりでそれを乗せた台を運んで来てくれた。一言で言うならばトライデントと大盾を一体にしたような水晶の塊と盾に剣が生えた水晶の塊だ。金晶戟蠍の剣のようなトライデントに黒晶守護者の素材を甲殻のように乗せた大盾、緋水晶蛇の素材は大剣となったようだが黒晶守護者の大盾に生えた感じになってる。

 

「・・・・・付属品、という要望は応えられなかった。代わりにそれらのモンスターの特徴を最大限に活かした大盾にしてみた」

 

「ほうほう・・・・・モグラ相手に試させてもらうよ」

 

スキルもなかなか面白い。何より【破壊成長】【破壊不可】【破壊不能】ではなく、この装備には瞬時に耐久値が戻る【増殖再生】なのだ。だから何だと言われたらお終いだが・・・・・まぁいい。結果で見せるだけだ。

 

「弟王! 準備が整いましたか? 王が早く来いと催促されておられます。モグラ共、他のモンスターまで使役して我等を蹂躙せんと嗾けています! ありゃあ岩蛇とバジリスクでした!」

 

「・・・・・わかった。今度こそ叩く」

 

「はっ!」

 

バジリスク。猛毒と石化の状態異常攻撃のモンスターで有名なのがモグラに使役されてるって・・・・・。

俺の疑問なんて些細だとばかりみんなは進軍を開始する軍隊とユーミルについていく。



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群れと戦う時はキングを狙うのが一番

鉱山の中は昔から鉱石を求めて掘り続けたドワーフの歴史を物語らせていた。ライトや天盤を支える木材、鉱物を運ぶレールやトロッコが今でも使われているのか、使用している痕跡が残っている。俺達が向かう古戦場はモグラが占領している鉱山の中心にあり、他の場所と繋がっている坑道が幾つもあるが、ドワーフとの戦いの際は背後から狙わない決まりになっているそうだ。

 

「わぁ、あちこちに採掘ポイントが・・・・・」

 

「この戦いに勝ったら掘らせてくれないかな?」

 

イズとセレーネが鉱山の中に点在する採掘ポイントにそわそわする。モグラ叩きに来なかったら喜んで採掘してただろう。

 

「鉱山の中って、結構広いんだな。ベヒモスの身体でも届かないぞ」

 

「・・・・・掘り続けた結果だ。上を掘り尽くしたなら掘っていない下の地面に掘ることになった」

 

「じゃあ、今歩いている坑道は下を掘っている最中ってことか」

 

上が駄目なら下にって視野を変えた昔のドワーフ、頭がいいな。そんな場所にモグラが住み着くとは。そもそもモグラは鉱山のどの辺りに掘って入って来たんだろうな。そして古戦場までの道のりは長い・・・・・1時間以上も歩いてようやく道半ばで、二時間以上も歩いてようやく古戦場に辿り着いた。

 

だがそこは、先に戦っていたドワーフ達の死屍累々の光景が俺達を待ち受けていた。いや、言葉の綾だ。地獄絵図とかグロテスクは用意されてないけど武器と防具だけしか残ってないのと、数十人ほどのドワーフがエレンを守るため、壁に背中を預けて一か所に集まって防衛陣を構えていたのだ。

 

「・・・・・間に合ったか」

 

「おおっ! 来てくれたか兄者、ドワーフの心の友よ!!」

 

エレンが大声で叫ぶためこっちに気付いた相手―――喧嘩上等! という黄色い作業用ヘルメットを被り、目の部分が小さくて丸いサングラスを鼻頭に乗せている。さらには紺色のオーバーオールに、でっかいツルハシを構えてるドリモールの軍勢が一斉に振り返って気付き、あいつらで最後だ! とばかり大挙してツルハシを掲げながら押し寄せて来た。その中には目隠しされている蛇と岩石の長い身体のモンスターまでもいる。

 

「・・・・・行くぞ。兄者を救出する」

 

『おうっ!』

 

ドワーフ達も数倍の差の数に恐れもせず前へ駆け抜け、あっという間にドリモール達と衝突した。そんな様子を見ても俺は動かなかったのでペイン達も動かなかった。

 

「ハーデス、戦いに行かないの?」

 

「考え事してる。うーん・・・・・」

 

単純に戦って勝てばいい話でもなさそうだからな・・・・・。うん、こうしようか。

 

「リヴェリア、サイナ。あのモンスター達を誰にも倒されないよう拘束しておいてくれ。モンスターに目隠しをして使役しているように見えないからな。ドリモール達も出来るだけ倒さずドワーフ達の助けになってやってくれ」

 

「わかりました」

 

「了解しました」

 

俺の指示にメタルスライムが疑問をぶつけて来た。

 

「ドリモール達を倒しちゃダメなのか?」

 

「普通に戦っていいぞ? 他のパーティのやり方に口出ししないから自由に戦ってくれ。これは俺個人がしたいことをしようとしているだけだから」

 

「何しようとしているのかなハーデス君」

 

まーた何かやらかそうとしているなこの人、そんな眼差しを向けてくるイッチョウに古戦場の奥へ指差す。

 

「ドリモール達のボスと会ってこようかなと。この戦いの終止符を打つためにな」

 

「それがこのイベントみたいな戦いを終わらせる方法なのか?」

 

「さて、それは実際誘拐してドワーフの王様と話合わせてみないことには何とも言えないな。と言うわけでイッチョウ、フェル。リヴェリアの護衛を頼んだぞ」

 

「グルル・・・・・」

 

「はーい」

 

足に力を込めて跳躍しかけた時、背中に衝撃が襲った。振り返ればドリモが飛び乗ってくっついていた。

 

「モグモ!」

 

「一緒にか?」

 

「モグ!」

 

同じドリモールのモンスターとして思うところがあるのかな。ドリモの想いを無下にしたくないので、一緒に行くことにした。跳躍して高く飛んだあと、ドリモール達の真上で【覇獣】に変身した。地面に着地しながら多くのドリモール達を薙ぎ払ってから奥へと移動する。ベヒモスでも余裕で通れる行動って凄すぎじゃないか?

 

 

イッチョウside

 

ドリモールのボスを誘拐してくると言ってこの場から離脱したハーデス君。そんな存在がいるのか分からないけれど、これだけはわかる。

 

「モ、モグ~!」

 

「モグモ! モグー!」

 

「モグモ!!」

 

「ドリモール達が焦ってる?」

 

「ハーデスを追いかけに離れていくな」

 

まぁ、突然巨大なモンスターが現れて鉱山の奥へ行っちゃったから戦いどころじゃないのかもね。ドワーフの人達もポカーンと呆けちゃってるし。でも全員が全員じゃない。

 

「数が減ったぞ! 今こそ好機っ、攻め立てるんだぁ~!!」

 

おお~~~!!!

 

戦線を維持するドリモール達もいるからドワーフ達も気を緩めない。手持ち沙汰にならずに済む私達もドワーフの勝利に貢献する。

 

「ジャァアアアアアッ!!」

 

「グオオオオオンッ!!」

 

リヴェリアさんの魔法でハーデス君の望み通り蔓で拘束されてる二匹のモンスター。目隠しを外したらさらに暴れまくるだろうから外せないし・・・・・あっ、蔓を攻撃してる竜化してるドリモールがいる!

 

「させないよん! ウィンドカッター!」

 

「モグゥッ!?」

 

数が減ってもまだたくさんいるから本当にキリがないね! なにより竜化したドリモールは本当に強い! ドワーフ達がてこずって負けちゃうのも頷けるかな!

 

 

 

「モグモ~!!」

 

「モグゥ!!」

 

「モグモ!!」

 

横の行動から現れ続け、通り過ぎる俺の背後から追いかけて来るドリモール達の声が止まない。ユーミルに見せてもらった地図の最奥までの道は、ほぼ直進だったので迷うことなく走り続けれた。そしてどれだけ走ったのか思い出すのも放棄してようやく鉱山の最奥に辿り着いたのだった。

 

まだ整備の手が入っていないくり抜かれた洞穴。明かりに照らされているドリモールは小さくなく、逆に数倍大きいドリモールがそこにいた。黄色い作業用のヘルメットには王と書かれていた。うん、わかりやすい。

 

「お前がボスだな? 突然で悪いが一緒に来てもらうぞ」

 

「モ、モグモ~!?」

 

な、なんだと生意気な!? とボスが言い返したのかと思ったんだが・・・・・ボスとは思えない逃げ腰で近寄る俺から後退する。壁とぶつかって俺から離れなくなったらその場で土下座をして何かを乞うので首を傾げる。

 

「・・・・・お前、ドリモールのボスなのに戦えないのか?」

 

「モ、モグモ!」

 

「それでよくボスになれるな。どうなったらボスになれる?」

 

ボスのドリモールは精一杯背伸びをする。体の大きさで次のドリモールのボスになれると。

 

「なるほどな。だが、俺はお前を誘拐することは決定事項だ。お前達ドリモールとドワーフの戦いを終わらせるために話し合いをしてもらいたいからだ」

 

「モ、モグ?」

 

「断るなら喰うぞ」

 

凶悪な牙を覗かせ迫れば、何度も首を縦に振る。俺に誘拐されることを選んだようだ。ならば話が早い。そのままボスの身体を銜えて踵を返すと、来た道には大量のドリモールで詰まっていた。

 

「どけ、お前等のボスがどうなってもいいのか?」

 

「モ、モグ~!!!」

 

「モ、モグ・・・!」

 

戦えない王様でも配下からの信頼はあるようで、俺が前に進むと道を開けてくれる。

 

「モグモ!」

 

頭の上にいたドリモが声を上げた。俺の顔を滑り、鼻先で停まるとツルハシでどこかを差す。ドリモが訴える何かの方へ向ければ、鉄の籠が一つあり小さなモンスターが閉じ込められていた。あれは・・・・・。

 

「助けろって?」

 

「モグ!」

 

手にドリモを乗せて俺の代わりに助けに行かせる。籠ごと運んでもらいまた鼻の上に乗せて移動した。

後ろから攻撃してくるドリモールはいない様子だったからゆっくりと戦いを終えていたエレン達のところへと戻れたのだった。

 

「あっ、ハーデス君が戻って・・・・・何かを銜えてるぅっ~!?」

 

「うわ、大きいドリモール・・・?」

 

「あれがボスなのかしら?」

 

「でっけぇなおい」

 

「・・・・・白銀さんがいつもどんなプレイをして来たのか、少しわかった気がする」

 

なんか驚かれてるがボスを皆の前で解放させると俺もドリモを降ろして元の姿に戻る。古戦場にまた大量のドリモールが現れるが直ぐに襲い掛かってくることはなかった。

 

「エレン、ドリモールのボスを連れて来た。こいつと話し合ってくれ」

 

「長年、見る事すら敵わなかったモグラのボスをこうもあっさり・・・・・」

 

「・・・・・この者ならばそれぐらい容易い」

 

エレンとユーミルがドリモールのボスに近づく。

 

「だが、何を話し合えばよい。ドワーフとドリモールの間にできた溝は深すぎるぞ」

 

「取り敢えず、どうしてこの鉱山に住み着いたのかの原因からで」

 

「・・・・・それでどうなる?」

 

「少なくともお互い話し合えば理解でき合うだろ? まだ戦いを今後もしたいのか?」

 

そう訊ねられたエレンとユーミルは押し黙り、俺の提案を呑むことにしてくれた。

 

「お前達はどこからやってきた?」

 

「モグ、モグモグモグモ・・・・・」

 

「・・・・・む」

 

まぁ、モンスターとNPCが話し合っても言葉が通じないのは当然だわな。さて、どうしたものか・・・・・と悩む俺の前でドリモールがヘルメットを外して隠していた何かを手に取った。それを口の前で・・・・・。

 

「こ、これでわかるか?」

 

「なっ!? 翻訳できるのかその石!」

 

「た、たまたま見つけて面白かったから重宝してた」

 

うわぁー、それ欲しいなぁ・・・オルト達と話が出来るじゃん。

 

「それで話し合いができるなら早い。もう一度聞くが、お前達はどこから来た?」

 

「お、おいら達はこの中に昔から住んでだ。でも、おいら達の住処におめーらが掘ってできた所と繋がってしまっただ。しかもおいら達の住処まで掘ろうとしたから追い返した。でも、その日から毎日、何度も掘りに来るおめーらを止めてもやってくるんだ。おいら達はもう怒って、おいら達の住処とつながったここを、おいら達の住処にする事にしたんだ」

 

「・・・・・俺達が生まれる頃の前の話になるなそれは」

 

「そうなるな兄者。これを聞かされると俺達の方が悪いように聞こえてしまうわぃ」

 

すまないが俺もそう思うわ。

 

「だからおめーら。二度とおいら達の住処に入らないでくれ。もうおいらの子分を戦わせたくないんだど」

 

「そう言われてもここはお前達が住み着く前に俺達ドワーフが掘り続けた場所だ。ここにはドワーフが必要な物が眠っている。それがないと俺達はいけていけないんだ」

 

あ、こいつは話し合いの平行線になる。即座に察した俺は間に入った。

 

「なら、エレン達が妥協したらいいんじゃないのか?」

 

「俺達の方が妥協だと? ここは元々俺達ドワーフが掘り続けた鉱山だ。モンスターの住処にさせておくわけにはいかんのだぞ」

 

「それでも別の場所で掘れていたんだろ?」

 

「む・・・・・そりゃあ、他にも鉱石が眠っている場所はいくつもある。地龍が現れるまではそこで掘ってはいたが・・・・・」

 

「納得していないのは承知の上だけど、ドリモール達の方にも妥協してもらってお互い納得する方法を見つけないと解決しない問題だぞ。どっちも種族の王としていいのかそれ」

 

むっ・・・と唸るエレンとドリモールのボス。

 

「エレン達ドワーフは鉱山に眠る鉱石が求めてるだけだから鉱山そのものはいらないだろ? 鉱石が枯渇したらただの洞窟になるだけだし、ドワーフは鉱石のない洞窟や山なんか興味あるのか?」

 

「・・・・・興味ない」

 

「これ兄者!」

 

「逆にそんな洞窟で暮らせるドリモール達は・・・・・いつも何食べてる?」

 

「に、人間が食べている物だど。硬い石は不味くて興味ない」

 

うん、だったら解決できるだろこれ。

 

「エレン、ドリモール達は鉱石を食べない。それどころか発掘が出来るモンスターだ。ドワーフ達の代わりに鉱石を採掘させて家賃代わりに集めさせてもらったらどうなんだ」

 

「モンスターと共存しろと、そう言うのかドワーフの心の友よ」

 

「利害関係を築いてくれって言ってるんだ。仲良くするかどうかはお前達の自由だし別の問題だ。鉱石だけ欲しいドワーフと鉱山の中で暮らしたいドリモール達。お互い利害出来る共通点だけ見出せば解決できる問題は解決できるんだ。そこは王として柔軟な対応をしてくれないと、この先も大量の戦死者が出るぞ。それが王として望んでいることなのか?」

 

「「・・・・・」」

 

口を閉ざし押し黙るドワーフとドリモールの王達。先にこの沈黙の空気を破ったのはドリモールの王からだった。

 

「か、硬い石はいらない。欲しいなら集めてくれてやる。そ、その代わりにおいら達の住処に来ないでくれど」

 

「・・・・・ここまでドワーフの心の友にお膳立てされて、無下にするのもいかんことぐらい俺だって頭ではわかっている。だが、心までは納得できん俺と同じく他の者共も簡単に納得できん。それはそっちも同じはずだドリモールの王よ」

 

「だ、だったらどうする・・・・・戦うのか」

 

弱弱しくファイティングポーズを取るドリモールの王に釣られて子分のドリモール達が一斉にツルハシを構え攻撃態勢に入った。次の言動で決まるが、ふかーい溜息を吐いたエレン。

 

「王同士、この鉱山のことについて会談をしよう。後日また俺はここに来る。お前も必ず顔を出せ」

 

「・・・・・わ、わかったど。それで戦わずに済み、おいら達の住処に来なくなるならい、行ってやる」

 

「ああ、そうしろ。後これだけは言わせろ。お前、王の癖になんだそのへっぴり腰の態度は。王なら王らしくもっと胸を張っていろ。そんなんじゃ部下に情けない所ばかり見られるぞ。うちの兄者なんかなぁ・・・王の務めを弟の俺に全部丸投げして押しつけて、自分だけ鍛冶をしているとんでもない頭の中まで鍛冶でいっぱいな大馬鹿なんだぞ。ちっとぐらいは王の仕事をしてくれたり俺の手伝いをしてくれたってもいいぐらいなのに面倒事は全部俺にやらせるんだ。俺より鍛冶の技術の腕があるってのに・・・・・あー今思い出すとやっぱり腹立つことばかりが頭の中で沸く! おい愚兄!! 長年積もりに積もった俺の我慢をぶつけさせろやぁっ! とりあえず、その鍛冶馬鹿な頭と脳みそをカチ割らせろぉおおおおおっ!!!」

 

「・・・・・断る!」

 

何故か兄弟喧嘩もとい追いかけっこをはじめだし、放置される俺達は困惑する。

 

「モグモグ!」

 

ドリモが俺の脚を叩き、籠の存在を主張する。あーそうだったな。

 

「ドリモールの王。こいつを開放してもいいよな」

 

「お、おいら達がいなくなった後にしてくれ。い、言うこと聞かせるためにおいら達の住処にやってきたそいつらの子供を捕まえて大人しくさせてるんだど」

 

「じゃあ、今すぐ奥に引っ込んでくれるか? それとその翻訳できる石ってまだある?」

 

「な、ない・・・・・見つけたならあ、あげる」

 

「ありがとう。あともう一つ。この鉱山に人間達が押し寄せてドリモール達を仲間にしたいと来るかもしれないがどうする?」

 

「て、抵抗する。お、おいらに攻撃するならおいらの本気を見せてやる」

 

これだけデカいから、竜に変身したその姿も爽快だろうなぁ。

 

「そ、それとおいらの仲間・・・・・これからも仲良くしてやってくれると、おいらは嬉しい」

 

「勿論さ。個人的にはお前とも仲良くしたいな」

 

「お、お前は怖いから嫌だ・・・・・」

 

振られたぁ!! 四つん這いになって落ち込む俺にドリモがポンポンと背中を触れて慰めてくれる!

 

「・・・・・食べ応えありそうな身体だよなお前」

 

「ひ、ひぃいいいいい!! く、喰われるぅ~!!!」

 

全力で逃げ出すドリモールの王。巣穴の奥へと引っ込む王に続き、ドリモール達も古戦場からいなくなった。

 

「モンスターをビビらせるプレイヤーがいるってマジか」

 

「あいつが臆病すぎるだけだ。ドリモ、開けていいぞ」

 

「モグモ!」

 

ツルハシを振るい、ガッ! と籠を破壊するドリモが解放した小さなモンスターを抱え、リヴェリアが拘束し続けているモンスターの方へと運ぶ。

 

「サイナ、目隠しを外してくれ。その後はリヴェリアを石化させないように頼む」

 

「了解しました」

 

ビームサーベルに変形した指で目隠しを切断したサイナ。視界がクリアして二匹の前に小さいモンスターの後ろにいる俺とドリモに対して、二匹は自分達を拘束していた蔓が解かれるとすぐさまに我が子と触れ合う。

 

「シャァアアアアア・・・・・!」

 

「グオオオンッ」

 

「ビィー、ビィー」

 

さて、この後どうなるか。自分達を使役してたドリモールが目の前にいて俺も目の敵にされるか? ドリモールを盾の陰に隠して伺ってれば岩蛇が顔を突き出して来た。

 

「グオン・・・・・ペッ」

 

岩蛇が何かを吐き出した。足元に落としたそれは・・・・・金色の光沢を放っていて凄く見覚えがある物だった。一方バジリスクの方は顔を近づけて俺の額に鼻先を押しつけて来た。

 

『バジリスクが死神ハーデスと契約を結びました。一日に一度だけの召喚が可能になります』

 

あ、こっちがお礼なの? ありがとう。こっちに尻尾で振ってお礼する子供のモンスターをバジリスクが口の中に入れさせると、地面に頭から突っ込んで穴を掘り始める岩蛇に続いてバジリスクも追いかけた。今度は誰にも捕まらない場所で過ごすんだぞー。

 

「あの二匹のモンスターを倒してたらどうなってたんだろ?」

 

「きっとテイムするしかないと思うな。でも、それよりも凄いのを得たから俺は満足だがな」

 

「うん、それってあれだよね?」

 

―――宇宙の星。その破片がこんなに早くまたゲットできるとは思いもしなかったな。やっぱり地中に埋まっているのかね?

 

「ドワーフの心の友よ」

 

追いかけっこを中断した二人が戻ってきたか。あれだけ走り回っても息を乱さない辺りはドワーフだからなのだろうか。

 

「此度の協力に深く感謝する。お前が居なければドリモールの王と会わず今後も戦いに明け暮れていただろうからな。話し合う機会も与えてくれたことに、これからはあの弱腰の王と鉱山のことで決め合う会議に力を注ぐ」

 

「フェアな話し合いをするんだぞ。一方的な不平は無しだ」

 

「わかってる。俺は絶対にそんなことはせん。俺を信じろ」

 

なら信じる。手を伸ばす俺にエレンも手を伸ばして強く握り締めた瞬間。ドワーフの兵士達が歓喜の歓声を上げた。今回の戦いで彼等の苦労が報われるといいんだがな。王として民を満足と納得させるのは中々に苦労するんだよな。いや、本当に・・・・・。

 

「城に戻るぞ者共! 今夜は祝杯だ!」

 

王の言葉にドワーフ達は歓喜し、お互い肩を組んで鉱山を後にしていく。俺達もそうして城に戻るとエレンの計らいにより鉱山奪還の協力の報酬として、神匠ユーミルへの武器の依頼を無償で受けられることと、称号『ドワーフの協力者』を獲得し、賞金1000万Gもくれた。

 

「おお、称号だ! しかもこんな大金も手に入るなんて!」

 

「やった!」

 

「これが白銀さん現象か・・・・・凄すぎるだろ!」

 

こらそこ、変なこと言うんじゃないよ。

 

「ドワーフの心の友よ。重ねて礼を言う。ありがとう」

 

「どういたしまして。だって言っただろ、友達になったらお前の為に協力するって」

 

「ああ、本当にそうなったな。あの時の言葉が偽りではなかった実感が湧いた。だからこそ今度はお前が困ったことがあれば俺達に協力を求めろよ。いの一番に力になってやる」

 

「信じるよその言葉。頼りにしてるぞエレン、ユーミル」

 

「・・・・・ドワーフは借りを返すのが当然」

 

その日の夜。ドワーフの宴会にも参加してドワーフとの友好度を更に高めた。もうドワルティアで俺を知らないドワーフはいないようで、俺は引っ張りだこな状態であちらこちらに酒を飲み交わされる。解放された時は全員が酔いつぶれた時だった。

 

「うおお・・・・・て、酩酊耐性が大になるほど飲まされるとは」

 

「とっかえひっかえ、しかもお酒を直接浴びさせられちゃって」

 

「リアルじゃなかったことだけは幸いだね」

 

絶対アルコールの臭いで染みついていただろうな。そして吐いていた。フェルの背中に仰向けで乗せてもらいながらホームへと帰還する。

 

「今日は満足のいくプレイをしたわね」

 

「メタルスライムさん達も凄く喜んでいたもんね」

 

「ペインさん達もどうでした?」

 

結局一緒にホームへ戻りについてきた一パーティのプレイヤーに尋ねるイッチョウ。

 

「とても有意義な時間を過ごさせてもらったよ」

 

「お前等と一緒にいると実りある事ばかりだな」

 

「その中心にいるのがフレデリカの夫だしよ」

 

「ドラグ、それいま関係ないでしょ」

 

関係あるんだよなーそれが。それを口にしたら何を言われるか分からないから言わない。俺は空気を読む男なのだ。

 

「ところでハーデス。ドリモールの居場所を他の人達に教えないの?」

 

「ああ、まだな。というか、教えたら採掘どころじゃないと思うぞ」

 

「「あっ、確かに」」

 

「こんな反応をする二人だからしばらくは教えない」

 

あそこの鉱山は今後行き来できるようになったし、あとは二人が満足するまで堀りに行かせればいい。

 

「そもそも二人はノームとドリモールをテイムしないのか? 採掘スキルがあるのに」

 

「いつかすると思うけれど、今はしないわ。鍛冶に集中できなくなりそうだから」

 

「うん、もっといろんな物を作る集中する時間が欲しいからね」

 

俺と違って生粋な生産職のプレイヤーはブレないな。

 

「いよいよ近日はリヴァイアサンレイドだな」

 

「船を造るなら、私頑張るよ?」

 

「素材集めはハーデスに任せちゃうわね」

 

その代わり最高の船を造ってもらうからな?

 

「さて・・・・・次はどんな風なイベントになるか楽しみだ」



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始まる前途多難なイベント

ついにこの時が来た。始まるリヴァイアサンレイド! 同時この日は第二陣の新規のプレイヤー達が参入してくる。

 

「ほー、これは中々凄いじゃないか」

 

「フマー」

 

「ヒムー」

 

ホームの布団で目覚めた俺は、そのまま始まりの町の中央広場にやってきていた。布団に群がっていたマスコットたちを退けるのにちょっと時間がかかったが。広場に来たことに明確な目的があるわけではない。第二陣を野次馬しにきただけである。

 

キャラメイクを終えた新規プレイヤーたちが、どんどんとログインしてくる様は中々壮観だ。世界中に第二次出荷分が5000万本だったかな? 全員が今日インしてくるわけじゃないだろうが、それでも数万規模だ。一気にプレイヤー数が増えるだろう。

 

蒼天の技術革新のおかげで、1000万人が同時にインしてもストレスなくプレイできる。このゲームでも、サーバー分けされるのはイベントの時などだけだ。前からそうするつもりで町やフィールドエリアが広かったんだろうな。

 

「この広場だけでも1000人以上はいそうだもんな」

 

初心者たちがその場でステータスチェックをしている姿を見ていると、初期の頃の自分を見ているようでホッコリする。

 

「それに、テイマーの数も結構多いんじゃないか?」

 

俺がテイマーなので、従魔連れのテイマーが目に入ってしまうだけかもしれないが、割合的にはそこそこ居る気がする。

 

「お、あの子は初期モンスがリトルベアか。あっちの子はピヨコ?」

 

「モグ」

 

「ヤー」

 

どれもこれも大事に育てていけば、いつか信頼に応えてくれる日がくるのである。若人よ、ゲームを楽しめってな。なんてことを考えながら一端のプレイヤーぶっていたら、広場で微かなざわめきが起きた。

 

「なんだ?」

 

広場のプレイヤーたちが同じ方を向いている。すると、俺の隣にログインしたのだろう一人の少女と、小さい少年が立っていた。少女は身長140センチ程で、超ロングの金髪だ。髪の長さが膝裏ぐらいまである。しかも彼女は、大盾使いようで初期の短刀と大盾を持っていた。

 

だが、プレイヤーたちが注目しているのは少年の方だ。緑の髪の毛の、クワを背負った少年。そう、ノームだったのだ。

 

初心者と言っても事前に情報を仕入れているプレイヤーが多いのだろう。そのノームに気付いているプレイヤーたちが注目しているらしい。それにしても初期で大盾使いでノーム。俺と一緒か。

 

彼女も事前情報で仕入れてのログインだろうな。だが、戦闘ができるモンスターではないノームだったら、キャラ再作成しちゃうかもな。残念だけど、それは個人の自由。だが、ノームの姿を見た少女は、満面の笑みでノームに抱き付いていた。

 

「やった! ノーム!」

 

お? 反応からするともしかしてノーム狙い? いや、初期モンスは狙ってどうこうなる問題じゃないし、欲しいモンスの一種類だったってことか?

 

まあ、喜んでいるならいい。同じノームテイマーとして応援しよう。まあ、陰ながら。

だって、ここで声かけたりしたら完全にナンパだぞ? 同じテイマー職であるということを利用して、小さな美少女に声をかける社会人。はいアウト!

 

「ムムー」

 

「ムム?」

 

オルトォオオオオッ!!! そこでどうして話しかけたぁっ!? 俺も話をしないといけなくなったじゃないか!

 

「あれ、ノームがもう一人・・・・・?」

 

「おーオルト、後輩ができてよかったな」

 

「ふえっ!?」

 

オルトに話しかけたのになぜか驚かれた。解せん・・・・・。

 

「悪いな。すぐ傍でログインしたプレイヤーが俺と同じノームを手に入れたところを見てたからオルトが話し掛けたかったようだ」

 

「は、白銀さん・・・・・ですか?」

 

「そう呼ばれてるな。でも、プレイヤー名は死神ハーデスだから覚えてくれ」

 

コクコクと頷く彼女を見下ろす俺にオルトが見上げてくる。つぶらな瞳が何かを訴えている。それだけでも可愛いぞお前。

 

「オルト?」

 

「ムム、ムムームムー」

 

もう一人のオルトの手を掴んで俺のホームに指をさす。

 

「そのノームをホームに連れていきたい? 畑を見せるためか?」

 

「ムム!」

 

その通り! と胸張って頷くオルトさん。もしや自慢したいのかな?

 

「先輩風を吹かせたいのか」

 

「ムム!」

 

「怒るな怒るな。頑張ればここまでできるぞって教えたいんだろ」

 

「ムムー」

 

頷くオルト。

 

「あーそう言うわけだがお前はどうだ?」

 

「あ、あの・・・・・お邪魔してもいいんですか?」

 

「これからイベントに行くけどまだ時間はある。オルトが連れて行きたいならそうさせたい。そっちの都合がよければの話だが」

 

「だ、大丈夫ですっ! よ、よろしくお願いします!」

 

なら行動開始だ。フレンド登録する。名前はイカル、ノームはエスク。

 

今言ったがリヴァイアサンレイドに参加する俺達と違い、第2陣ログイン記念で、イカル達用の何かイベントがあるらしい。開催日はリアルで8日後。戦闘職も生産職もモンスも楽しめる大イベントだそうだ。お、コールだ。それも同時とは。

 

「おはようペインとイズ。イベント日和だな」

 

『おはようハーデス』

 

『いまキミのホームにいるんだがどこにいるのかな?』

 

「わかった、客を連れてすぐ戻る」

 

通信をきったあと、イカルとお互いのノームの可愛さを誉め合い、話し合ってればわが家へ着いた。畑の前で佇んでいる数名のプレイヤー達のところへ向かう。

 

「広場は第二陣のプレイヤー達で溢れかえってたよ」

 

「俺達初期のプレイヤーはあんまりこの町には寄らないだろうか狭くならないだろうさ」

 

「というか、第二陣のプレイヤーに先越されない? 第三エリアから全然進んでないじゃんハーデス」

 

「それも全プレイヤーの中で唯一な」

 

あーあーあー! 何も聞えないなー、俺は何も聞えてないぞー!

 

「ハーデス、もうそろそろ先に進まない?」

 

「進まないでいるのが何が悪い! 俺は思うがままにプレイをするんだい! と言うか今、生産で忙しくなっているからしばらく活動しないぞ」

 

「何してるの?」

 

「次のオークションに向けてラプラスとうちのオルト達の木彫りの等身大を製作している」

 

そんなのなかった? バカめ、ホームのアイテムボックスにあるんだから飾っていないに決まっているだろう。

 

「ラプラス先生の力もあって凄いリアル感がある。木彫りなのに本物そっくりなんだからな。確実に売れるぞあれは」

 

「そこまで言うほど? ちょっと見てみたいかも」

 

「リヴァイアサンイベントが終わってからなー。そろそろ始まるぞ」

 

今回フェルを敢えて連れてこない。相手はリヴァイアサンだから海上での戦いになるだろうから泳ぐことも飛ぶことも出来ない。笛を呼んで召喚できるからいざって時に呼ぶつもりだ。

 

「で、その子は誰?」

 

「第2陣のプレイヤー。眺めてたらすぐ傍でログインしてな、しかも俺と同じ初期からユニークのノームだったから、オルトがこのノームに自分の畑を見せたいっておねだりされた」

 

「凄く想像しやすいやり取りだわ」

 

「そうだね~。さっそく見せさせているみたいだから本当のようだよ」

 

実際、ほら、オルトがノームのエスクを畑の方へ連れて行ったからイッチョウ達も納得してくれた。

 

「わぁ・・・・・っ」

 

イカルの目も凄く輝いてる。畑を見て、うちの従魔を見て、ホームを見て。

 

「ハーデス君と同じ大盾使いなんだね? それにテイマーでノームだなんて凄い偶然じゃん」

 

「狙えるようなもんじゃないだろ。他にも大盾使いでテイマーはいたがノームは彼女イカルだけだった」

 

「本当に凄い偶然なんだな」

 

感心するドラグ。同感だ。

 

「そんじゃイカル。質問いいか?」

 

「なんでしょう?」

 

「どうしてその職業の組み合わせをしたんだ?」

 

彼女はこう答えた。

 

「私も、死神ハーデスさんの影響受けてますよ」

 

「え? でも、イカルは第二陣だよな」

 

「はい。第一陣に落選して、それでも諦めきれずにネットの動画をいっぱい見て・・・・・。それで、オルトちゃんに心を奪われたんです!」

 

なんと、ゲーム開始前からオルトの動画を見ていたらしく、ノームを狙っていたそうだ。オルトのようなノームを手に入れて、痛いのは怖いから大盾使いを選び、テイマー半ファーマープレイをしたかったのだという。

 

うむうむ、オルトは可愛いからね! その気持ちは分かるよ!

 

「だから、私もなんですよっ!」

 

「そうか。嬉しいよ」

 

それって、俺の影響っていうよりはオルトの影響じゃないか? そう思わなくもないが、オルトは俺の従魔だからな。

 

「ハーデスに影響?」

 

「もう一人のハーデスが誕生しようとしてるのか?」

 

「ちょっと、あの娘が心配になってきたわ」

 

・・・・・アルゴ=ウェスタを装備。

 

「今、人のこと悪影響を及ぼすと思った連中は顔を出せ。こいつでその口を刺すからさ」

 

さっと俺から顔をそらす数人は、後でマグマ風呂の刑に処す。

 

「死神ハーデスさんは凄い人ですよ?」

 

「心に染みる言葉をありがとう。因みにイカルはすぐに強くなりたい方か? それとものんびりと俺みたいにファーマーをしながらゲームを楽しむ方?」

 

「のんびりとファーマーをしながら楽しむ方です!」

 

ふむ、だったら今のうちにあの称号が手に入るな。

 

「よし、なら俺の強さの秘密を伝授してやろう。ある称号を手に入ったら他のプレイヤーより三倍の強さを手に入るぞ」

 

「本当にですか!? お願いします!」

 

それを教えようとするとイッチョウが問いかけてくる。

 

「教えるって、あの称号でしょ? いいの?」

 

「イカルだけだ教えるの。それに今頃新規のプレイヤー達は仕入れた情報通りに動いてるだろうからイカルもそうするだけだ。強さよりもゲームを楽しむ姿勢は本当みたいだし、俺は困らない」

 

まず彼女に教えること、それは―――。

 

「一週間。モンスターと戦わず町からも出ず、NPCのクエストと始まりの町の探索をしてみろ。それである称号が手に入る筈だ。もして手にはいらなかったら、一緒にレベル上げをするよ」

 

「分かりました!」

 

「それと、ステータスはどう振ってるんだ?」

 

これが聞きたかった。俺に影響してるって言うもんだから・・・・・まさかな? イカルは純粋無垢な瞳で俺に答えた。

 

「死神ハーデスさんと同じ防御力極振りです!!」

 

「「第二のハーデスが生まれるだとっ!? 止めろぉっ!!」」

 

アグニ=ウェスタァアアアアアアッ!!

 

「「ちょ、おま―――ウワアアアアアッ!!」」

 

「これまた、凄いプレイヤーを発掘したことになるのかな?」

 

「それは彼女次第だと思うよ」

 

そうだ、彼女次第だ。アイテムが充実していれば俺みたいになるだろう。愚か者二人をノしたので話に加わる。

 

「動画を見ていたってことはリアルで掲示板も?」

 

「はい。色々と参考に遊ぶつもりでした」

 

「なら、移動の時だけはAGIを増やすアイテムを装備するんだな。俺も普段そうしてる」

 

「だから歩くのが速かったんですね」

 

「それと、防御力極振りだからって攻撃手段は絶対に増やすこと。今じゃあ貫通攻撃という、天敵のスキルがある以上は防御力極振りだけで勝てない。せめてユニーク装備を手に入ればいいんだがな」

 

ユニーク、ですか? と不思議そうに言うイカルはまだ知らないようだった。

 

「破壊不可、破壊不能、そして破壊成長という装備が絶対に壊れないスキル付きのレアな装備のことだ。俺の装備もまたユニーク装備だ。ダンジョンで単独、それも初戦闘でボスモンスターを倒せばユニーク装備が手に入るのさ」

 

「じゃあ、私もチャンスがあるんですね?」

 

首肯する。既に発見されているダンジョンにユニーク装備はないが、未発見のダンジョンなら可能性はあるな。

 

「そろそろだな。リヴァイアサンとの戦いはどうなることやら」

 

『―――リヴァイアサンか。資格ある者よ心して掛かれ』

 

身体を小さくしてる黄龍が浮いた状態で話しかけて来た。

 

『いつの世代の魔王が生み出したのか忘れてしまったが、もはや理性を失った魔獣は厄介だ。戦闘力においては亀と張り合えるからな』

 

「理性を失った? 失う前の時期があったんだ?」

 

『うむ。もう見ることが叶わぬ美しい色を誇っていたおり心優しいものだった。しかし、魔王の手によってもはや見るも無残な姿に変貌し海に住まう生命までも凶暴化してしまった』

 

落ちても無事では済まないってことか。そうだ、これも聞いておこう。

 

「ベヒモスとジズが倒れたら魂の状態になるんだがリヴァイアサンもなるんだよな?」

 

『その通りだ。故にリヴァイアサンの魂もどうか解放してほしい資格ある者よ。その後のことは我々に任せてほしい』

 

黄龍から意味深に頼まれた後、リヴァイアサンレイドの開始時間となり運営から俺達に一斉にメールを送って来た。それぞれメールの内容を見る。

 

「今回のイベントは皆も知ってる通りのレジェンドレイドボス戦だな。凶暴化したリヴァイアサンのせいで海は腐海と化してしまい海に住むNPC海人族達にも被害が出ている。移住して無人となった彼等の島を舞台に船を用意して討伐せよ―――船、用意しなくちゃならないのか?」

 

「先にイベント用の場所へ転移することも出来るらしいね」

 

「それとイベント限定なのかしら、生産職だけ造船のスキルとレシピが手に入ったわ」

 

「素材の数とレア度と品質によって船の性能と強度が違ってくるみたいだよ」

 

見させてもらうと、本当に二人のだけメールにそう記載されていた。だけど今回のレイド戦はどんな感じなんだ?

 

「そもそも討伐って早い者勝ちなのか? それとも集団で?」

 

素朴な疑問を口にした俺に何を当たり前な、と風にドラグとドレッドが口を開く。

 

「レイドだから集団だろハーデス」

 

「そうだぞ。他のプレイヤーと一緒に戦うんだからレイドなんだ」

 

「いや、たった一回で終わるのかそうでないかの話だ」

 

「あっ、ハーデスの言いたいことが分かったかも。だとしたらどうなるのかしら?」

 

イズが手をポンと叩いて納得の面持ちの後に疑問を抱く。他はあんまりピンとこないようだが。

 

「うーん、悩むのは後にしない? 船がなくちゃ海に出られないんでしょ?」

 

俺は飛べるし泳げるがな!

 

「船造りは必然的にイズとセレーネに任せる形になるけどいいか?」

 

「うんいいよ! あ、でも・・・私の趣味を詰め込んだら駄目かな?」

 

「逆に詰めれるのか? 大砲とか?」

 

「素材があれば出来るよ!」

 

出来るのか―。イベント期間はゲーム内で3日間。だから急がないとすぐに終わりかねない。

 

「じゃあ、これは重要としてパーティを組むかそれぞれ独断で動くか決めないか?」

 

「もうここに集まったから皆でレイドしようよ。というか、リヴァイアサンを討伐するために私達も船が必要だからお願いする立場なんだよねー」

 

ペインとドレッド、ドラグを見るとこっちのお世話になる気満々のようで視線を送ってくる。でもなぁ・・・・・。

 

「正直、船なんていらない俺は一人でも飛べれるし、腐海の海でも泳げそうだがな」

 

「まぁまぁ、そんなこと言わずにハーデス君。一緒に遊ぼう? ね?」

 

「うんうん、ハーデスには素材を集めるのにお願いしたいかなー」

 

「できれば、高品質とレア度が高いのが欲しい、かな?」

 

詰め寄ってくる美少女と美女。最後にセレーネはちらりと畑にある世界樹へ視線を送った。いや、あれは伐採できませんから物欲しそうに見ないでくれ。

 

「はぁ、わかったわかった。チームを組もう。ただし、勇者の称号とスキル狙いで2パーティ以下でだ。イッチョウはペイン達のところにな。船造り担当のイズとセレーネは俺と一緒で。レイドだからパーティ解除されるかもだけど12人以内で倒せば獲得できると信じよう」

 

「うん、いいよ。でも残りの枠は?」

 

「まだ入れない。素材集めをしなくちゃならないからな。実際、どれだけ素材が必要なんだ? 造船のレシピ的には」

 

「えっと、木造の船の場合は最大1000本は必要ね。鉄製の船に使う鉱石の数も同じだわ」

 

「・・・・・多くない? 買った方が早いレベルだぞ」

 

船を用意しろとメールに書かれてる。が、一から自力で造って用意しろとは運営も鬼ではない。メールと一緒に船を購入できるシステムも用意してあったんだ。

 

 

 

筏・・・・・0G、1人用。

 

小型帆船(木造)・・・・・10.000G、1~10人用。

 

中型帆船(木造)・・・・・80.000G、1~50人用。

 

大型帆船(木造)・・・・・200.000G、1~100人用。

 

小型魔力帆船(鉄甲)・・・・・100.000G、1~10人用。

 

中型魔力帆船(鉄甲)・・・・・800.000G、1~50人用。

 

大型魔力帆船(鉄甲)・・・・・2.000.000G、1~100人用。

 

大型蒸気魔力船(鋼鉄)・・・・・10.000.000G、1~100人用。

 

 

 

「1000万も払うプレイヤー、絶対にいるだろう。一人10万も払えば届く金額だ」

 

「100人も乗れるなんて、今回のレイドはそれ以上も参加できるってこと?」

 

「ハーデスが疑問を抱いていたのはこういうことだったんだ?」

 

もうこうしている間にも船を買ってるパーティかチームいるだろうな。

 

「イズとセレーネの希望で俺達は造船した船で挑むが本当にいいんだなペイン達。お前達だけでも船を買えるんだから俺達と一緒にプレイする必要はないぞ」

 

「構わないよ。俺達はハーデスと一緒にレイドしたいからね」

 

「・・・・・物好きなプレイヤーだな。そこまで言うなら素材を集めて来る。二人とも、俺が知る限りの集められる最高の木材と鉱石はこれだけどいいか? 世界樹の木材は無理だから」

 

水晶樹の木材と水晶を一目見た二人は黄色い声を上げた。

 

「凄い、見たことのない綺麗な木材だよ!」

 

「魔水晶? へぇ、魔法を蓄えてるから抵抗力が備わっているのね。リヴァイアサンの攻撃にも防げれるんじゃないかしら」

 

どちらにしろ水晶の船を造ることになった。なので一週間町に留まるイカルはクエストをしに、一足早くペイン達はイベント用のフィールドへ移動した後、サイナに相談を持ち掛けた。

 

「人数が足りない。どうにかならないか?」

 

「問題ございません。私にお任せください」

 

断言する彼女と再び宝饗水晶巣へ足を運んだ。綺麗な水晶が至る所にあるが、期限内に1000本を集めるのは骨が折れる。サイナはどうするのか?

 

「少しの衝撃でも与えたら水晶のモンスターが現れるぞ」

 

「かしこまりました。これよりドローンを放ちます」

 

ドローン? サイナが創造したドデカい機械の箱が両開きすると、クワガタムシとカブトムシとそれにハチ型の機械が数多に森の奥へと飛んで行った。

 

「あれは?」

 

「採取用のドローンでございます。独自でマスターの手が足りない時を想定して少しずつ用意しました」

 

「自分の考えで行動するようになったか。真の知性(インテリジェンス)に一歩近づいたと断言しよう」

 

「えへん」

 

・・・・・ただなぁ。

 

 

ドドドドド・・・・・ッ!!

 

 

「どーやら水晶系のモンスターを連れて来ちゃったから知性(インテリジェンス)ポイント-10点な。最高は100点」

 

「くっ・・・・・不覚です」

 

だが、サイナの取ったこの作戦はとても効率的だった。クワガタムシが伐採、カブトムシが発掘、ハチが運搬役に分かれて集めてくれたおかげでわずか1日で目標数が揃った。それでも三つ巴の戦いを勃発させてしまって大変だったがな。素材はありがたくもらうよ。

 

 

「あー、またハーデスがレベル上げたね」

 

「ということはもう船造りの準備も整ってきたってことか?」

 

「仕事が早くていいじゃないか」

 

「だな。こっちもそれなりの情報を集めておこうぜ」

 

「ハーデス君のように上手くいくといいけどね」

 

 

・・・・・。・・・・・。・・・・・。

 

・・・・・。・・・・・。

 

・・・・・。

 

 

「採って来たぞー。サイナのおかげで水晶樹の木材と水晶の鉱石×1000集まった」

 

「お疲れ様!」

 

「任せちゃってごめんね? すぐに取りかかるから」

 

「ここでか? 造船所でしないのか?」

 

「うん、だから無人島のところに行こう? イッチョウちゃん達が待ちわびているわきっと」

 

「ちょい待って。念には念をアイテムを大量に補充したい」

 

小休止する暇もなくルフレ、ペルカ、フレイヤをパーティに加え、アイテムの補充も済ませたらイベント用のエリアへ転移する俺達。1日遅れで参加した俺達の目の前は先に参加したプレイヤー達の姿が町中を闊歩していた―――。

 

「ちくしょう! どんだけいるんだこのモンスター共は!?」

 

「倒しても倒してもキリがない!!」

 

「あ、あいつ死に戻ってしまったぞ!?」

 

「誰か、回復をしてぇー!」

 

ではなく、リアルでも気持ち悪い腐った魚が人の身体を得たような姿でプレイヤーに襲い掛かっていて、無人の島は戦場と化していた。

 

「え、この状況になってたの!?」

 

「昨日は何もなかったって・・・・・」

 

二人も知り得なかった現状らしい。情報が欲しいな。パーティは・・・・・。

 

「あれ、パーティ組めなくなってる。イベント用フィールドに来た時点でもうレイドパーティ?」

 

「嘘、あ、本当だわ」

 

「ど、どうしようっ?」

 

やることは決まっているがな。アルゴ・ウェスタとアグニ=ラーヴァテインを装備して、戦っているプレイヤーの横やりに入り腐った魚人を焼き切る。

 

「失礼するぞー」

 

「なっ!? あ、は、白銀さん!」

 

「一日遅れで来たから状況が把握できてない。情報が知りたいから教えてくれ【身捧ぐ慈愛】」

 

半径10メートル内にいるプレイヤーにカバーが働く光を展開、天使の姿になったらイズとセレーネが入って来た。

 

「この状況は何時からだ?」

 

「わ、わからない。寝ていた空き家から出た途端にこんな状況になってたんだ」

 

「リヴァイアサンは?」

 

「まだ誰も倒せてない。そもそもレイド戦に参加したプレイヤーが所有している船は皆大破しちまって、修理しないと海に出られないんだ」

 

何でしないんだ? と言う疑問を浮かべながらイズとセレーネに目を配る。

 

「こいつの装備を簡易的でも修理できないか?」

 

「ハーデスの工房を出してくれるならできるわ」

 

「りょーかい」

 

『神匠の黒衣』を装着して工房を召喚する。名も知らぬプレイヤーを中へ招き、消耗している装備の修理を始める二人。

 

「はい、終わったわ」

 

「おお・・・・・簡易どころか完璧に耐久値が回復してる。えと、お代は・・・?」

 

「情報料から差し控えさせてもらうから実質タダでございます」

 

「マジで!?」

 

「マジマジ、ということで幾つか質問するから答えて?」

 

何度も頷く彼から情報を得ていく。リヴァイアサンはどこに、船を修理する場所はどこに? 死に戻るプレイヤーはどこで復活するか、リヴァイアサンの攻撃手段は? と答えてもらうと工房の建物に他のプレイヤーが入って来た。

 

「え、こんな道のど真ん中に・・・・・工房?」

 

「おっと、すまん。仕舞うから出てってくれないか?」

 

「仕舞う? できれば装備を修理してもらえないかって思ってたのに・・・・・」

 

ん~・・・・・そう言われるとな。

 

「イズとセレーネ。どうする? これ後が絶たなくなるぞ」

 

「お代が割高でいいなら請け負うわ」

 

「だ、そうだけど」

 

「背に腹は代えられない。お願いするよ」

 

いいんだ。本当に鍛冶をする環境がない島なのかここは。そして俺の懸念は現実となり、戦闘中なのに未知のど真ん中に不思議な建造物が、中に入ると鍛冶の工房があり建物の中に入っている間は安全地帯、セーフティーゾーンと化するこの建物の中に入って金を払えば、装備を修理してくれる話がプレイヤーの間で知れ渡り、大量のプレイヤーが押しかけて来た。流石に二人だけで捌きれる人数ではなくなったところ、プレイヤーの人垣を搔い潜って割り込んでくるプレイヤーが現れた。順番を守らない迷惑千万な、と思う者はこの場にいなかった。何故ならレイド戦で必要な職業のプレイヤーであることを周知されてるある意味有名なプレイヤーだったからだ。

 

「おおーい、白銀さん! 俺も手伝うから工房を借りれるか? 工房がないのに何度も修理の声を掛けられちゃって困ってたんだ」

 

「グッドタイミング、スケガワ! というかお前も来てたんだな」

 

「鍛冶職のプレイヤーもイベントに参加するさ!」

 

そう言えばアンドラスのレイド戦にもいたな。

 

「じゃあ許可する。頑張ってくれ」

 

「おお、ありがとう! さぁさぁ、俺も修理してやるから遠慮なく声をかけてくれ! 女性プレイヤーにはサービスしちゃうぞ!」

 

人の工房で変わらないサービス業をするエロガワ以外、工房が使えると聞き付けてやってくる鍛冶師職のプレイヤーが増えたおかげで、イズとセレーネの負担もかなり減った。だが、問題が一つ。

 

「全然動けない。リヴァイアサンにも挑めないぞこれ」

 

「外にいるモンスターはまだ減ってないみたいよ」

 

「今日も含めて残り二日しかないのに、このままじゃ失敗に終わっちゃうね」

 

肝心のリヴァイアサンも未だ倒せていない。というか挑んだプレイヤーが所有している船が全部大破して乗れない状態らしい。ランクを下げても結局は船が大破して死に戻るだけだと挑まなくなったプレイヤーが殆どが、大量のモンスターと戦わされている始末だ。

 

「鍛冶師・・・・・ヘパーイストス達が来てくれると凄く助かるんだけどなぁ」

 

無駄だと分かってても猫の手も借りたい思いでヘパーイストスにSOSメールを送った。NPC相手にもメールが送れるこのゲームは不思議だと思いながら、修理を求むプレイヤー達を一日中見る羽目になった。



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出発 水晶の船

イズたちが6時間の睡眠をした後、スケガワ達が眠る番となりイズたち鍛冶師プレイヤーが頑張る番となった。結局3日目最終日となってしまったイベントは、外へ出れば相変わらず魚介類のモンスター達の襲撃が続いていた。このスタンピードを止める術が見つからないものかね。海に出れば分かりそうな感じだが、他のプレイヤーがそうする気配がないし、していても見つかっていないか。

 

「修理をお願いしまーす!」

 

「急いで修理してくれ!」

 

「修理を頼む!」

 

何千人のプレイヤーが求めて来る。あの時の判断は失敗したなぁ、と痛感してるとイッチョウからコールが届く。

 

『ハーデス君。まだ動けなさそう?』

 

「全然だ。寧ろ金ばかり稼げてしまって何しに来たって感じだわ。そっちは?」

 

『私達がいるところはどうやらセーフティーゾーンらしくて、他のプレイヤーもここで休んではいるんだけど、やっぱりスタンピードが発生しているのは海底からみたい。海から大量のモンスターが出て来てるよ』

 

リヴァイアサンと戦えなくなった弊害か? プレイヤーは海に入ることが出来ない、というか入ったら入ったでモンスターの餌食になって即死するらしいから、誰も海に入ってスタンピードの原因を探れないのが現状だとか。うーん、八方塞がり・・・・・。

 

「おい! 巨大なクラーケンがここに迫ってるぞ! 修理が済んだ奴から迎撃にあたってくれ!」

 

「クラーケンだと!? あのモンスターは海にしか出てこないんじゃないのかよ!?」

 

「知るかよ! 来てるもんは来てるんだから急いで来てくれよ!」

 

剣士のプレイヤーが工房に入ってきては他のプレイヤーに叫びながら要請した。気になって外へ出てみれば、黒いエフェクトを纏っている山並に大きいタコが複数ある足を駆使して、モンスターとプレイヤーを薙ぎ払ってゆっくりとこっちに迫ってきているのが火を見るより明らかだった。・・・・・うん? 胴体に見慣れたもんが刺さっておりますが・・・・・。いや、冷静に見ている場合じゃない!

 

「白銀さん、何とかしてくれないか?」

 

俺に何とかしてもらいたいプレイヤーに懇願された。てか、もう目と鼻の先だから避難しなよ。と思ってももう遅いか? 夜のように周りが暗くなった。クラーケンが極太の巨大な一本の足を俺達に目掛けて叩き潰さんと振り落として来た。あ、工房って壊れない?

 

『タコ相手に手間取っているのか資格ある者よ』

 

「え?」

 

不意に聞こえてくる声と、タコ足が見えない何かに弾かれて潰されずに済んだ。だけどそれだけでは終わらなかった。

 

「放てェー!!」

 

「突撃ィー!!」

 

暗雲の空の下で大量の矢が雨の如く降り注ぎ、プレイヤーと戦っていたモンスターにだけ当たって倒していく。さらに武装した多くのNPC達が雄たけびを上げながらモンスターへ突っ込んで大剣や戦斧、槍に大鎚を叩き込む。な、何事だ!?

 

「あなた!!」

 

「え、リヴェリア?」

 

待て、今回は連れてこなかったリヴェリアがどうやってここに!? あれーオルト達もいるし! というかよく見ればあれはドワーフだし、ドワーフと交じって格闘術で戦ってる筋骨隆々はエルフだし、どういうことだ!?

 

「よう坊主。助けに来てやったぜ」

 

「ヘパーイストス!? ヴェルフも・・・本当にどうやって? いや、そもそも何でここに?」

 

「お前が鍛冶師が足りなくて困ってるって、手紙を寄こしたから駆け付けて来たんだよ。俺達だけじゃ足りないだろうから、クソッタレ師匠にも声を掛けたら暇人なドワーフ達までついて来やがったのさ」

 

「えええ・・・・・?」

 

まさか、NPCが駆け付けに来てくれるとは思いもしなかったぞ。この展開にもなるとも想像もしてなかった。

 

「でもどうやってここに? ここには来られないんじゃあ?」

 

「私が神獣に助けを乞いました」

 

「リヴェリア、お前が?」

 

『その通りだ資格ある者よ』

 

上空から黄龍と麒麟が降りて来た。麒麟の背には鳳凰達もいる。

 

『宿主の番の誠意に応えました。彼女のあなたを想う心の強さに感嘆し一度だけ協力を応じたのです』

 

麒麟・・・・・。

 

「ありがとうリヴェリア。でも、他のエルフとドワーフ達はなんで?」

 

「娘から頼まれたからだ娘婿殿!」

 

「・・・・・ドワーフの恩を返しに来た」

 

「その通りだドワーフの心の友よ!」

 

ハイエルフの長とエレンとユーミルが俺の前に現れて、どちらも互いに見つめ合った。

 

「ドワーフ王においては初めまして相まみえましたな」

 

「融通の利かんハイエルフの長と会うのは初めてだな。最近のエルフは身体を鍛えるのが流行りなのか?」

 

「ふっふっふっ。よくぞ聞いてくれたドワーフ王よ。そちらも逞しい肉体の持ち主で気が合いそうだ。娘婿殿の助けが終えた後、一緒にお話でもいかがかな? おのれの肉体の美しさを語り合おうじゃないか」

 

「・・・・・身体を自慢したがるエルフなど初めて聞いたぞ」

 

ドン引きするユーミルだった。

 

「喧嘩だけはしないでくれよ」

 

「出会い頭で喧嘩するほど俺達は短気ではないぞ」

 

「その通りだ。寧ろドワーフと良き交流を図りたいと思っている」

 

「ほう? ではエルフの秘宝であるオリハルコンを少なからず提供してくれてもよいのだぞ」

 

「そちらも風の噂で聞いた、魔力を蓄えている不思議な水晶を提供してくれるならば、考えてもよいですな」

 

そう言い合う二人は無言で手を握り合った。んと、交渉成立かな?

 

「ドワーフの心の友よ。ドワルティアの鍛冶師を全員連れて来た。これならば何千の人間の装備を整備、修理することが出来る」

 

「私達はドワーフ達の護衛としてモンスターを駆逐しよう。娘婿殿はまずあの怪物を頼まれてくれまいか」

 

んー・・・・・そういうことなら、頑張ってみるか。

 

「リヴェリア、行ってくる。来い、フェル!」

 

「グルル!」

 

フェルの背中に跨りクラーケンへ目指して走ってもらった。目と鼻の先まで来ているからすぐ懐に飛び込めて、振り下ろすタコ足を何度も躱し、地面から飛び出す巨大な蔓に助けられながら胴体へ連れて行ってもらった。断崖絶壁を登っているように駆けるフェルのおかげで、巨大な黒い棘があるところまで辿り着けた―――。

 

「よくぞここまで来たな宿敵勇者。この私―――」

 

「邪魔だ【悪食】!」

 

「ぶべらっ!?」

 

黒い棘から出て来た悪魔っぽい誰かの顏をフェルの背中から飛び出した勢いで殴り、棘も【悪食】で貫きダメージを与えた後は。

 

「【エクスプロージョン】!」

 

「ぐああああああああっ!? まだ私は名前すら言ってないのにぃいいいいい!!」

 

零距離から爆裂魔法をぶっ放した。巨大な棘だが、内側からの爆発は絶え切れまい!

実際に棘は真っ二つに分かれ、はみ出ていた方はクラーケンから離れながら黒いポリゴンと化して消滅した。一方のクラーケンは白目を剥いてその場で崩れ落ちた。支配されていたモンスターだから直に目を覚ますだろう。地上に落ちる俺を拾ってくれたフェルが、足場になっている巨大な蔓へ落ちながら地上に降りて行き、リヴェリアのところへと戻った。

 

「ありがとうリヴェリア。助かった!」

 

「力になれたのならばよかったです」

 

「うむ、鮮やかに見たことのない大きさの怪物を無力したな娘婿殿」

 

「わっはっはっ! やるではないかドワーフの心の友よ!」

 

「・・・・・見事」

 

悪魔がいたけど気にする事でもないかな。取り敢えず長とエレン達が駆け付けてくれるなんていい意味で凄い誤算だ。麒麟達の力でこの場所に連れて来てくれたんだろう。リヴェリアには本当に感謝しかない。

 

 

これで俺達もリヴァイアサンを倒しに行ける!

 

 

スケガワ達が起きた頃を見計らって、工房を仕舞わせてもらった。修理は鍛冶師のドワーフ達が請け負ってくれていることを説明したら信じられないと目を丸くした。

 

「NPCが助けに来てくれた? くっそ、そんなシーンを寝ている間に見逃していたなんて!」

 

「俺もびっくりだったが、船を修理する場所を教えてくれないか? レイド戦のイベントもそろそろ終わりに近づいているからさ。確か昼の12:00までなんだろ?」

 

「おう、そうだった。確かにレイドイベントをクリアしたいな。こっちだ、案内するぜ」

 

ペイン達と合流先は造船所がある場所だ。それを初日に見つけたペイン達は流石だと思う。スケガワに造船所の場所を教えてもらいながら待ち合わせ場所として指定したペイン達の姿とともに・・・・・見るも無残な破壊尽くされた造船所に唖然とする。ドックはゲートが開きっぱなしで腐海で溜まっている。納屋や漁業する者の集まっていただろう建物がドックに崩れ落ちていて漂っている。それも五つもだ。その場には多くのプレイヤーが屯っていた。どうにかして修理できる環境をしたいという作業をしているのが見受けれる。でも、ドックに浸水している水は触れたくない感じだ。

 

「あっ、来た!」

 

イッチョウが声を上げ、ペイン達と一緒に来た。

 

「これが造船所? 船造れないなこれじゃあ」

 

「リヴァイアサンが破壊したって話だよ。それにこの島の海域一体全部、リヴァイアサンの縄張りの海に船を出すと凶暴化した魚のモンスター達が襲ってきて壊されちゃうんだって」

 

「だから船の購入システムがあったんだね・・・・・それでリヴァイアサンの討伐の方は?」

 

「なかなか困難らしいぜ。船を出せばすぐに魚型のモンスターや大型のタコとイカの襲撃に遭って船の耐久値も減らされるようだ。仮にリヴァイアサンが待ち構えている海域に辿り着いたらついたで、戦った連中の話じゃあ大嵐に大津波、大渦で船を大破、プレイヤーには水のブレスで薙ぎ払われて海に落とされるってよ。落ちたらモンスターの餌食で死に戻りするしな」

 

まさに天災・・・・・ベヒモスとジズの方が可愛げあるように思えて来たぞ。

 

「壊れた船はどうなる?」

 

「修理が出来るようだけど、それをするための場所がアレだよ。また買い替えることも出来るけどリヴァイアサンのところまでまた同じ目に遭います」

 

ループか。

 

「海に触れたら? 海に入ると?」

 

「HPと装備の耐久値が減るし、まるでピラニアみたいにモンスターが落ちたプレイヤーを襲い掛かるんだって。それはもうホラーばりの恐怖感があるらしいよ」

 

「航海の道中、何かないのか?」

 

「多分無いんじゃないかな。皆リヴァイアサンばかり夢中で島があったとしても気にしないと思う」

 

うーん・・・・・情報はここまでかな。

 

「わかった。取り敢えずこの荒れた造船所をどうにかしよう」

 

「モンスターの方は? 結構ヤバいんじゃないのか」

 

「今まで関わったエルフとドワーフ達が俺のSOSに駆け付けて来てくれてスタンピードを押し返す勢いだ」

 

「え、そっちではそんなことが起きてたの? ハーデス凄い」

 

俺は助けを呼んだだけだがな。

 

「造船所がここしかないってんなら、使えるようにしないとダメだろ。そもそもここを改善していないのが気になるんだが?」

 

その疑問はすぐに解消された。

 

「今も見ての通り挑戦している。手を入れた時間の分、装備の耐久値が減ってそれ以上にHPが一分で100も減少してしまうことが判ってしまってから消極的になってしまったが。この島には鍛冶師が利用できる工房がないから修理もできない。」

 

「【毒無効化】を持ってる私達でも腐海の海を触れたら減少しちゃうから、毒じゃないみたいだよ」

 

さりげなく毒対策されていることを聞かされ微妙な気持ちになりつつ、納屋はどうしようもないけど漂っている木材は回収できるだろう。【覇獣(ベヒモス)】に変身して熊の如く手でひっかくように陸に救い上げていく。一部でもごっそりと取れるな。それをオルト達が離れた場所へ運んで一か所に積み上げていく。

 

屯っていたプレイヤー達も俺の行動を見て活発的に動き始め出す。

 

「・・・・・その方が確かに早いんだけどよ。早いんだけどすげーシュール」

 

「右に同じく」

 

「俺達も動こう」

 

「でもさ、溜まってる腐海の水ってどうやって抜き出すの?」

 

「リアルだと造船所に排水機能があるんだけど、それは機械でしてるから。ゲームの中じゃあ確かにどうやってしてるんだろう?」

 

それから粗方廃材を救い上げた時、手にがぶりと噛まれた感じがしたのであげてみると腐ったゾンビのような巨大魚が大きな口で指に噛みついていた。見た目的にウツボかな?

 

「【悪食】」

 

それを噛み砕きながら【悪食】で倒す。【水中探査】でドックに潜むモンスターの魚影は・・・・・無しだな。すると・・・・・。

 

「あ、おいハンドル車が光ってるぞ!」

 

「あれって硬すぎて誰も回せなかったんじゃねーの?」

 

「こっちも光ってるぞ!」

 

「もしかしたら動かせれるんじゃ?」

 

他のプレイヤー達が何かに気付いた様子の声が聞こえて来た。何となく見ていると、ハンドル車を掴んで回し始めてドックのゲートがゆっくりと動き、ガコンと聞こえた重低音と一緒に完全に閉じた。そして腐海の水が渦を巻きし排水口があったのか、そこへ吸い込まれてあっという間に無くなった。

 

「ははーん。なるほど?」

 

「もしかすると、さっきハーデスが倒したモンスターがトリガーになっていたのかもしれないな」

 

おお~!! と歓喜の言葉を発するプレイヤー達。綺麗になったドックの本来の姿を取り戻しビフォーアフターをやり遂げた俺達。海水を抜く方法が分かったことで他のプレイヤー達もやる気を出した。

 

「白銀さん、もういっちょお願いします!」

 

「俺達も手伝いますんで!」

 

「よぅし任せろ」

 

残りのドックも同じ方法でしてみた。

 

「釣れたぞ! お前等が倒せ!」

 

「任せろ!」

 

「おりゃー!」

 

「よし倒した!」

 

「ハンドル車が光ったぞ! 回せー!」

 

「おうよ!」

 

廃材除去とモンスターの排除、排水をしたことで全てのドックの使用が可能になったアナウンスが島中に流れた。

 

「さっきから出てくるモンスター。もしかしたら中ボスのモンスターじゃないのか?」

 

「かもな。対して強くなさそうだったけど。そじゃあ、イズとセレーネ。船造りを頼んだぜ」

 

「任せて!」

 

「皆のおかげでドックが使用可能になったもの。最高の船を造ってみせるわ」

 

他のプレイヤー達も大破した船を修理する。最初にドックを使わせてもらえるのも非常にありがたい。両手を翳して渡した船の素材で造船する鍛冶師プレイヤーの二人。最大1000も必要な船の出来上がりを見守る俺達はついに自分達の船を手に入れることが出来るところで―――。

 

「急げっ、船を修理するんだ! 時間がない!」

 

「早く修理してリヴァイアサンに再チャレンジするぞぉー!!」

 

大破した船を修理できなかったプレイヤー達が怒涛の勢いで駆けこんできた。その中には当然知り合いもいた。

 

「あ、白銀さん! もしかして造船所を使えるようにしたのは白銀さんのおかげですか?」

 

「ここにいるみんなと一緒にな」

 

「凄く助かります! 俺達じゃあどうやってやればいいのかわからず、手を付けれずにいたんで放置するしかなくて・・・・・」

 

だろうな。モンスターが潜んでいたことも知らなかっただろう。

 

造る方も修理する方も時間が掛かるようだな。次に修理する番を決める為にじゃんけん大会が勃発しているほどだ。

 

さらに10分ぐらい経過した時。待望の瞬間を迎えることが出来た。セレーネの「完成したよ!」と歓喜の声が耳に届くものだから、他のプレイヤー達もドックを見て驚嘆と感嘆の念の籠った声を発した。

 

主にサイナが集めた水晶の樹木と鉱石の素材が様々な色を放っている。大きさは大型だな。100人ぐらい余裕で乗れそうな水晶の大型船は購入欄にあるどの船にも当てはまらない。帆船でも魔力帆船でも蒸気魔力船でもない。完全なオリジナルの魔力船として創造されたのだ。

 

「水晶の船。実際どんな感じかと思ったが、悪くねぇな」

 

「性能の方はどんな感じなんだ?」

 

「乗ってみればわかるさ。そうだろうハーデス」

 

「ああ、早速試運転を兼ねて乗るぞ野郎ども。出航だ!!」

 

「あいあいさー!」

 

「ムムー!!」

 

他のプレイヤーにゲートを開けてもらい、浸水する船に乗り込む。

 

「ほんとデカいな。全部注ぎ込んだんだっけ? 船と言うより艦だろこれ」

 

「余すところなくね。ハーデスが集めてくれた素材の数と品質が多かったから、他のプレイヤーにお願いして調べさせてくれた大型蒸気魔力船より何倍も性能が高いわ。しかも面白いことに能力付きよ。操縦するプレイヤーのステータスと装備と一部のスキルが船に反映するんですって」

 

「ほほう・・・・・? つまり鋼鉄よりも硬い船になれると? 壊されるたびに防御力が増える船になると?」

 

「あ、ハーデス君が適任だねこれ」

 

他のプレイヤーからの視線を浴びながら甲板を見回す。船を操作する舵輪がある場所は艦橋の方か?

 

「動力は? 蒸気も帆でもないんだろ?」

 

「当然魔力ね」

 

「セレーネ、趣味を詰め込めれた?」

 

「うん。大砲と大型バリスタを備え付けたよ。 弾は水晶で威力は低いけど貫通力が高いの。それに水晶には魔力を吸収して拡大、大きくなるから持続ダメージが発生するよ」

 

「凄く有能じゃん。後で見に行くわ」

 

セレーネの案内で艦橋甲板に入ると茶色の水晶樹の舵輪があった。こういうところまでこだわる二人の職人気質は本物だと感心して舵輪を握ると、水晶艦の耐久度が表示され、艦のステータスが俺のステータスと同調した。

 

「さて行くか。名前は水瓏(スーロン)だな」

 

「どんな意味があるの?」

 

「特にない思い付きで決めた。水の王の龍としてリヴァイアサンに下剋上しに行くんだ」

 

艦を発進させる。手動か自動で艦の操作を決めれるようだが手動を選んで動かす。

操舵室から海を駆ける姿が見れる光景は絶景でなかなかいい眺めだ。

 

「セレーネ、通信手段とかないのか?」

 

「隣に刺さっているのがそうだよ」

 

これか? 床に刺さってる青い水晶を視界に入れる。どうやって使うのかと訊けば手を触れて話しかけるだけで出来るそうだ。これと同じ水晶は甲板と大砲がある砲撃管制室に複数あるとか。

 

「よく思いつく。前から考えてた?」

 

「もし船を動かして戦うイベントだったら~って思ったら考えが止まらなくて」

 

「それが現実になってセレーネの考えも実現したってことか」

 

「それだけじゃできなかったかな? ハーデスが凄い素材を発見してくれなかったら購入していただろうし、そっちでも私は人混みが嫌で戦いに参加していなかったかもだし」

 

何だかセレーネがギルドに入る想像が浮かばないな。

 

「そんなセレーネがイズとはゲームの中で知り合ったんだっけ?」

 

「鉱石を掘りに行ったらバッタリとね? お互い同じ生産職を選んで物作りのこだわりの会話が嚙み合って、同じ同性もあってすぐに仲良くなれたよ」

 

「想像しやすい展開だな」

 

俺は依頼でイズと出会ってそこからの付き合いだからその前なんだな。思った以上に速度を出していたか、島からだいぶ離れていた。水晶に手を触れる。

 

「皆、海に異変は?」

 

『・・・これは通信機なものかい? 今のところモンスターすら現れてないよ』

 

『後部甲板も異常なーし!』

 

もっと沖に出ないといけないのか? 出ないなら出ないでいいが。

 

―――しかし、俺達は気付いていなかった。運営の思惑に。

 

購入可能な船は筏以下になるとモンスターが積極的にプレイヤーと船の耐久値を減らしに襲撃するシステムになっていることに。そして偶然にもイズとセレーネが青い水晶と白い水晶を船底に使ったため、海の色に溶け込んで海面に進む大きな影は透明化しているように見えるモンスター達から発見されにくくなっていることも。



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最大最強のモンスター

沖に進むにつれ海の荒れ具合がどんどん強く、暗雲は黒雲に移り変わって黒い雷を放電していた。大波を幾度も超え、大渦は流れに逆らわず勢いで突破し、超巨大なハリケーンが迫ってきて全速力で回避―――。

 

「滅茶苦茶シビアなッ!!!」

 

「他の連中はこんな海の中を進んでいたってのかよ!!」

 

「その割にモンスターは一切襲ってこないのが不思議だね」

 

「船を買わず造ったからじゃない?」

 

「それが理由なら多分、船に使った素材が良かったと思うよ?」

 

「そうだといいんだけど、リアルだったら命懸けの航海ねこれっ」

 

まったくだっ! 皆、艦橋に避難して激しい波と揺れに備えている。おっと、デカい波だ!

 

「【超加速】!」

 

「はっ!?」

 

プレイヤーのスキルが反映する船。中々良いじゃないか。水晶の船が更に速度を上げて100Mもある高波をギリギリ何とか乗り越えてくれた。ふぅ~危ないな今のは・・・・・。

 

「お、おいハーデス・・・・・【超加速】のスキルを取得しているのか?」

 

信じられないと目を丸くしているドレッド。もしかして、このスキルを取得していると思わなかったのかな?

 

「一定時間【AGI+50】増える便利なスキルですねー」

 

「・・・ヤバい、防御力だけじゃなくてさらに速くなってるだと? もしあのスキルも手に入られたら俺の存在意義が・・・・・」

 

「んー? もしかして【超加速】の上位互換みたいなスキルが御有りなのかなドレッドさん? もしよければ教えて欲しいな」

 

お願いしてみるとドレッドから拒否の言葉を飛ばして来た。でもそれはサ・・・・・。

 

「・・・・・黙秘権を行使させてもらう」

 

沈黙は是だというのに、そうかそうか・・・・・あるのか。

 

「このイベントが終わったら探してみよっと。予想だと【音速】か【神速】がありそうなんだがなー」

 

「・・・・・」

 

俺に背中を向けるドレッド。まぁ、お前がそれでも面白そうに笑みを浮かべるドラグと、どうなっちゃうのかな~? という楽しそうに顔を緩ましているフレデリカがいるので、そう言うスキルは存在しているのだと教えてくれるから無意味なんだよな。・・・・・お? あそこだけ黒雲がないな。

 

「セレーネ。砲撃ってどこでやるんだ?」

 

「船の中でやるよ」

 

「じゃあ、砲撃の準備をしててくれ。たぶん、もうリヴァイアサンがいるところに着いたと思う」

 

「あそこだね?」

 

ペインも広く晴れている海域を認知していた。他の皆も前方を見て自然と気持ちを引き締めた表情をする。そこで疑問をぶつけた。

 

「今回のイベントもサーバー分けされてると思うか?」

 

「そうじゃないかな? ドックが五つしかないのもおかしいし、サーバー分けされていても前回より人数を増やされている感じだよ」

 

「最大100人も乗れる船を購入できるからね」

 

それでも俺達8人だけで挑もうとしている無謀者だがな! そんな俺達はとうとう辿り着いたのだった。天から光が差し込んで降り注ぐ海域に、その中心にいる巨大な存在とご対面を果たした。でもすぐ光の海域の中に入らず回りながら全体を把握しようと船を動かす。

 

「お、大きい・・・・・」

 

「ベヒモスとジズよりは確かにな。そんで体色はやはり黒と」

 

「今度は海上戦だから、俺達プレイヤーが直接攻撃できないのが厄介だぜ」

 

「だから他の連中は船で戦い、大破させちまったんだな」

 

イズとセレーネが砲撃の準備すべく艦橋から降りた。MPポーションで回復し万全を整える。

 

「HPバーが見えないな。戦闘をしないと見えないか」

 

「こっちを凄く見てるっぽいけどね。うん?」

 

イッチョウが目を細めて何かを凝視する。

 

「・・・・・リヴァイアサンの喉仏、なんか刺さってるような?」

 

「なんですと?」

 

不意に、リヴァイアサンがぐるりとこっちに振り返った。イッチョウの視線に気づいたのか反射的に舵輪を強く握り、ペイン達が臨戦態勢の構えに入った。くるか・・・・・? 警戒する俺達に窺わせる頭の一部が盛り上がり、人間の上半身の形に作った。

 

『我は魔王様の盾と矛の存在であり水を司る悪魔族最高主力の一柱、四魔の一角。名はレヴィアタン。今世の勇者よ。戦う前に問おう。汝らは何のために戦う?』

 

悪魔から理由を聞かれることになるとは。ペイン達を見れば答えを決めかねていた。

 

「理由は、ないかな」

 

『何故ない』

 

「勇者なんて回りが勝手に呼称しているだけの肩書だ。俺達にはそんな肩書が関係なくても、周りは俺達の戦いぶりから勇ましい者として認知してしまってるから勇者と呼ぶ」

 

『・・・・・』

 

「だけど、戦う明確な理由がなくても俺達は自然と自分の為に誰かの為に戦っている。理由がなくちゃ人間は生きてちゃいけない道理あると思うか?」

 

レヴィアタンは俺の答えに対して沈黙を貫いた後。言葉を飛ばして来た。

 

『過去の勇者たちと違う。あの方が仰っていた通りの人間だな。血塗れた残虐の勇者よ』

 

「それを言うな!? というか、お前達悪魔達の間で俺はそんな呼ばれ方されているのか!?」

 

『ふっ、その通りだ。そしていずれその名を持ち時期魔王に成り得る素質がある勇者を見たのは汝で二度目でもある。その力、我に見せるがいい』

 

「待て、二度目だと? どういうことだ?」

 

俺の疑問は攻撃で返された。リヴァイアサン/レヴィアタンの口から鉄砲水なんて比じゃない、海の規模の大砲が襲ってきた。

 

「躱せハーデス!」

 

「いや、もう間に合わない! でも安心しろ。スキルが船に反映されている。イズとセレーネ、衝撃に備えろ!」

 

次の瞬間。水瓏が海に呑み込まれ何度も凄まじい衝撃を受けながら横に回転した。普通の船なら最悪、真っ二つにへし折れていただろうが俺が舵輪を握っている間は【絶対防御】と【破壊成長】【水無効化】で絶対に壊れない。なので俺と一体化してる船が壊れはしなかった。

 

「ほらな」

 

「・・・・・お前がいて心底よかったと思った日が今日ほどないな」

 

「喋っている場合じゃなさそうだぜ。リヴァイアサンがもう迫ってきている」

 

ならさっさと浮上するか! 船を動かして逃げるように海面に出た俺達を追いかけるリヴァイアサン。

 

「海場は奴の独壇場だ。誘き寄せるぞ」

 

「どこに―――まさか、ハーデス」

 

はっと俺の思惑に気付いた様子のペインに不敵の笑みを浮かべる。たぶんこれが正攻法何だと思う。

 

「二人とも、蛇行しながら動く。大変だろうけど砲撃は任せる」

 

『わかった!』

 

ということでリヴァイアサンから逃げるように蛇行を始める。

 

『我から逃げる気か? だが、お前達の敗北を見届けるまでは逃がさぬぞ』

 

そぅら来た来た! 俺達勇者を倒す目的を優先に動いているようだなリヴァイアサン/レヴィアタン!

 

 

ドッパァアアアアアアンッ!!!

 

 

「海水を大砲のように撃ちやがってきやがって。マジでハーデスがいてくれて助かったぜ」

 

「だが、お互い倒すのに決定だが足りていない。どうするハーデス」

 

「どうするもなにも、残り少ない時間で決着をつけないと駄目だろ。幸い、ドックがあった場所は俺達が足止めされていた場所と島の反対側だ。そこで戦って勝つぞ」

 

「さんせーい! 船の上より陸の方が動きやすいしね!」

 

「ハーデス君、大砲が来るよ! 大きく右っ!」

 

任せろっ! おらぁっ!

 

こうして島までリヴァイアサン/レヴィアタンとの追いかけっこが続き、何度も攻撃を食らうも【古代魚】を進化させた【水無効化】でやつの攻撃はほとんど効かないが、衝撃だけはどうしようもなかった。そして、俺がこの舵輪から離されたら一貫の終わりだがな。

 

「あっ、前から船が大量に・・・・・」

 

「遅れて来やがった連中か。どうする」

 

「擦り付ける理由がない。躱す―――」

 

舵輪を回し続け大きく船を迂回しようとした時、前部甲板に何かが直撃した。

 

「んなっ」

 

「目の前からの砲撃? 流れ弾に当たっちゃったみたいだよん」

 

「リヴァイアサンを連れて来てるこっちのことお構いなしか」

 

「ハーデスじゃなかったら今の一撃は大破に近いダメージだったよ!」

 

「わざとじゃないだろうが、やってくれるな味方じゃなかったらこっちが沈めていた」

 

そんな気持ちを肩代わりにぶつけてくれたのがリヴァイアサン/レヴィアタンだった。他のプレイヤー達が乗る船に海大砲を横凪ぎに払って一撃で軒並みに沈ませたのだ。せっかく修理できたのにまた修理しなくちゃいけないとは・・・・・。

 

「・・・・・俺、今日ほど防御力特化でよかったと思わなかったな」

 

「「「「うんうん」」」」

 

そしてこの船を造った二人に心から感謝だ。蛇行した瞬間に水晶の砲弾を撃ってリヴァイアサンの身体に当てては貫いている。そこからゆっくりと水晶が浸食しているのが蛇行した瞬間に見えた。だったら・・・・・。

 

「【飛翔】」

 

海面から離れた船は、空飛ぶ船と化した。魔力は俺自身のではなく船の魔力で空を飛ばしている。三分ぐらいは飛べそうだな。

 

「イズ、セレーネ。あいつの口を狙えるか?」

 

『やってみる』

 

『数秒だけ船を止めてくれるなら!』

 

リヴァイアサン/レヴィアタンの顏の高さまで高く飛び上がり・・・・・あることを考えた。

 

「どうせだったら食べられに行くか。体の中なら攻撃し放題だし」

 

「「「「え?」」」」

 

「なるほど、合理的だね」

 

ペインも納得したから問題ないな! はい、ということで全力突進!

 

『自棄を起こして突っ込んできたか?』

 

海大砲を放つ奴の攻撃を真正面から受け止めながら突き進み―――海大砲を突破したところで、リヴァイアサン/レヴィアタンの開いた状態の口が視界一杯に飛び込んできた。

 

「嘘だろ!?」

 

「マジかよ!」

 

真剣と書いてマジだ! おらぁあああああああああああ!!!

 

『むごぉぅっ!?』

 

水瓏が口の中に飛び込んだ勢いでリヴァイアサン/レヴィアタンは思わず呑み込んでしまったようだ。文字通り口の中にな。

 

「おわぁああああああっ!?」

 

「きゃああああああああああっ!!」

 

「あっはっはっはっはっはーっ!」

 

ジェットコースターに乗っている気分になるほど、すごい速さで食道の中を走る水瓏。凄い狭く、艦全体が押し潰されてもおかしくはないが生憎この展開は経験してるから問題ない。っと、胃袋に到着だな。

 

胃液に着水する水瓏。とても広くてこの艦が何十隻分も呑み込めるだろう胃袋の中は俺にとって宝探しの場所だ。

 

「こ、ここがリヴァイアサンの中?」

 

「胃袋の中な。海水だと思ってるだろうけど胃液だからな?【毒無効化】を持ってないと即死するかもよ」

 

「っておい、どうやって脱出するんだよ?」

 

「この中から攻撃するだけだが? サイナ召喚」

 

俺と同等のスキルを有してるサイナを喚び、代わりに舵輪を握ってもらった俺は艦橋から飛び出して胃液のプールに飛び込んだ。

 

「ちょ、ハーデス!?」

 

「ベヒモスより広いなぁ! ははははっ!!」

 

「・・・・・嘘でしょ。装備がダメージを受けてるのがわかるのに平然と泳いでる」

 

「防御力特化と【毒無効化】のプレイヤーがなせる業、ということか。参考になるね」

 

「するなペイン! お前までハーデスのようになってくれるなよ!?」

 

「大体こんなところで油売っていいのかよ?」

 

なにか言っているが、気にしないで俺はアイテムを手にいれまくる。予想通り、こいつの腹ン中にも眠っていたわ。宇宙の星もだ。

 

「おーい、風化したユニークの装備があるぞー! サイナ、こっちに寄せてくれ!」

 

「・・・・・ユニーク装備、杖だったら欲しいかも」

 

「斧、ねぇかな」

 

「短剣のユニーク装備は欲しいところだぜ」

 

艦が寄ってくるのを見ながらさらに奥へと泳いだら。胃液のプールの上に浮かぶ澄んだ水色の光の塊があった。

 

「ハーデス、これもアイテム?」

 

「わからない。アイテムではない感じもするが」

 

甲板に戻る俺と呼んだイズとセレーネ、ペイン達と囲み触れてみると、ドクンッと鼓動のように脈を打った。

 

『・・・・・私だった私を、どうか倒して・・・・・』

 

「え、誰・・・・・?」

 

『・・・・・最後に残した、この力、で、・・・・・どうか、勇敢なる者、お願いし、ます・・・・・』

 

光が淡い泡と化して俺達の胸の中に入ってくる。

 

『スキル【リヴァイアサン】を取得しました』

 

この展開、機械神を思い出すな。

 

「何だこのスキル?」

 

「【リヴァイアサン】のことか?」

 

不意に疑問の声を上げるドラグを尋ねると違うと否定された。

 

「いや、俺は【土石流】ってスキルだ」

 

「私は【海大砲】だよ。あんな水魔法を使えるなんて・・・・・」

 

フレデリカも得たスキルを口にするとそれを皮切りに他の皆も告ぐ。

 

「俺のスキルは【水分身】。レベルを上げたら実体あるもう一人の俺を増やせる良いスキルだ。ペインは?」

 

「【海神の祝福】だ。これならリヴァイアサンと直接戦えるよ。水場限定だけどね」

 

「私も【水分身】だよ」

 

なお、鍛冶師のイズやセレーネは俺が持ってる【海王】だった。

 

「これ、ランダムで水に関するスキルが手に入るやつだったみたいだな。基準は保有してるスキルかステータスが反映してるのかわからないけど」

 

「さっきの声は、リヴァイアサンなの?」

 

「麒麟が言っていた、理性を失う前のリヴァイアサンだったんだろうな。とにかく、ここから脱出するぞ」

 

異議なし!

 

サイナと操舵手を変わってもらい【機械神】を使った。

 

 

 

『ぐああああああっ!?』

 

ベヒモスと同様に身体の中から攻撃されているリヴァイアサンは悶え苦しむ。寄生虫のように身体の中に侵入されるだけでなく、ウィルスのごとく身体にダメージを与えられてはいかにリヴァイアサンとでもどうしようもなかった。

 

『お、おのれ勇者よ! わ、我の身体の中で好き勝手に攻撃するなど、それでも勇者がする戦い方か!?』

 

返事はない。聞こえていたら「知るかボケ。口を開けていた方が悪いんだよバーカ」と中指立てて言い返していたかもしれない。

 

『がああああっ!? ぐううっ! こ、こうなったらかくなる上は・・・・・っ!』

 

リヴァイアサンは海に顔を突っ込んでハーデス達を追い出す実行を始めた。

 

 

 

「大変! 海水が流れ込んでくるよっ!?」

 

「リヴァイアサン、相当堪えたようだな。胃袋を海水で満たして溺死させようとしてる。イズとセレーネも艦橋に戻るぞ」

 

急いで扉を閉めて海水が入ってこられない環境にする。それから流れ込んでくる海水の方へ進みながら、戦艦のように生えた無数の砲身からレーザーを撃ち続ける。ミサイルと魚雷もありますよー? 水晶の砲撃も忘れてませ~ん。もう胃袋は成長してる水晶だらけになってきている。

 

「もう、この艦は何でもありね。ハーデスのように」

 

「味方ならいいの。味方なら。うふ、うふふ」

 

このまま攻撃しながら外、海中に出られると思っていた俺達だが海水が流れ込むのが止まってしまったことに不思議に思った。

 

「倒した?」

 

「いや、俺が一人でベヒモスに勝ったときは数時間も掛かったぞ。こんな早く倒せるはずが・・・・・」

 

口にした予想を否定した時だった。艦橋の中でも聞こえる重低音。ゴゴゴゴ・・・・・ッ! と轟く音響に嫌な予感を覚えさせるドレッド。

 

「もしかして俺達ごと海大砲を放つつもりか?」

 

「・・・・・待って、それってつまり・・・・・」

 

嫌な汗が頬に伝わり、予想していたことが現実になった。食道にいるだろう俺達を乗せる艦は・・・・・流れに逆らえず上へと押し出され。

 

『出てこいっ、勇者共ぉっ!!』

 

リヴァイアサンの放つ海大砲と一緒に俺達は外に出された。だが、最悪なことにぶつかる先は海ではなく島だった。

 

「サイナ、イッチョウたち女だけ守れっ! 【飛翔】【身捧ぐ慈愛】!」

 

海大砲から脱出を試みるが、圧力をかける水圧によって閉じ込められたまま、地面と直撃してしまった衝撃で皆は前の方へ吹っ飛んで水晶のガラスや壁にぶつかった。

 

「どわぁああっ!?」

 

「きゃあっ!!」

 

身体から伸びる四つのアームで四人の身体を掴み、衝撃に襲われない場所で宙に浮いてイッチョウ達を守ってみせたその知性は称賛に値する。ペイン達はそうでもないが、ダメージは一切ないので目を瞑って欲しい。

 

「し、死ぬかと思った。さすがに・・・・・」

 

「本当にこの艦で助かったぜ・・・・・」

 

「ど、どういたしまして・・・・・」

 

「う、うん・・・・・」

 

傾いたままの艦はどうやら地面に突き刺さったようだ。前に進まないなら後退するまでだと思うが、そう問屋は卸してくれなかった。

 

『忌々しい人間の道具め。我の一撃をもってしても破壊できぬとはっ・・・!』

 

すぐ近くまでリヴァイアサン/レヴィアタンが来ているようだった。このままじゃあ甚振られるだけだが、海から上がったのならば好都合だ。

 

「フレデリカ、舵輪に触れて【海大砲】ができるか調べてくれ」

 

「え? うん、わかった」

 

サイナのアームから解かれて傾いたままの舵輪の前に降りる彼女が触れると、使用可能だと教えてくれた。

 

「よし、じゃあ撃て」

 

「撃つの!?」

 

「逆噴射できるならそれで脱出できるはずだ」

 

「あ~なるほど! でも壊れない?」

 

その懸念は確かにあるが、このまま突き刺さっている場合でもない。

 

「壊れたらまた素材を集めまくる。サイナが9割で俺が1割でな」

 

「それ、殆ど他力本願じゃあ」

 

「素材集めの数に負けてるんだよ。実際に見れば俺の言うことが正しいと思うだろうよ。ということでやれフレデリカ」

 

「どうなっても知らないよ。【海大砲】!」

 

次の瞬間。艦は後ろに向かって飛び上がった。地面が【海大砲】を受け止められるだけの硬い地盤でよかった。瞬時で俺に舵輪を変わってもらった直後、ズドン!! という激しい衝撃が艦の上から襲ってきて俺達は床に叩きつけられた。艦の場合は地面だろうな。

 

『逃がすか。このまま地面の奥深く埋まるまで叩き潰してくれる』

 

「―――サイナ、お前が舵輪を握っていた時に使えたスキルは唯一無二のスキルも使えたか?」

 

「肯定。可能でした」

 

よーし、それじゃあ反撃といこうか! サイナに変わった途端に機械化した舵輪の中心に開く穴へ鍵を差し込んだ。

 

 

 

リヴァイアサンが陸に上がった。どうして海ではなく陸に来たのかプレイヤー達は理由など知る由もない。しかし、プレイヤー達が最も力を発揮できる場にレイドボスが来てくれた以上、こちらも存分に戦えると自分達をそっちのけで何かに意識を向けているリヴァイアサンへ集結する。

 

「うぉおおおっ!」

 

先に辿り着いたプレイヤー達が巨大過ぎるレイドボスの身体に一撃を入れる。

 

『無駄なことを。羽虫ごときがいくら集まろうと我に敵うはずがないだろう』

 

ちょっとでも長い身体を動かせば、数多のプレイヤーのHPバーを吹っ飛ばした。ダメージは通っているも、HPバーが三本もある怪物にプレイヤー達の武器やスキルでは雀の涙程度でしかないだろう。ハーデス達が身体の中から攻撃したためHPバーの三つの内の一つだけ半分まで下がったが、それでも脅威の生命力と言うHPは健在であった。

 

「攻撃を続けろ!」

 

「俺達も活躍するんだ!」

 

「おりゃあああ!」

 

初めてレジェンドモンスターと戦えるプレイヤーからすればどんなに驚異的なモンスターでも、戦って勝ちたい思いが一つ。勝って素材を手に入れたい、称号を手に入れたい、有名になりたい、様々な思いを抱いて続々と現れ続けるプレイヤー達が反撃に遭いながらも、絶え間なく攻撃をしたことでHPバーの一つが消し飛んだ。

 

『勇者以外にも骨のある人間がいるようだな。だが、それもここまでだ』

 

大きく息を吐くリヴァイアサン。警戒する全プレイヤーに向かって吐いたのは、鼻から出る霧だった。リヴァイアサンの身体から下は濃霧で覆われてしまい、プレイヤー達は互いの姿を見失っていた。更に付け加えると・・・・・。濃霧から見える異形の影を見つけたプレイヤーが攻撃を仕掛けた。

 

「モンスターか! 【ソードスラッシュ】!」

 

「うわっ!?」

 

「え、プレイヤー!?」

 

「この野郎! モンスターの癖に不意打ちとは! 【パワーアックス】!」

 

「ま、待て俺はプレイヤー―――うわぁあああっ!?」

 

「は? なんだと? 今のプレイヤーか? 一体どうなってんだ?」

 

モンスターかと思い攻撃をしたらプレイヤーであり、相手がプレイヤーだと知らず攻撃したら今度は自分がモンスターに見えて攻撃される。怒声と悲鳴と困惑があちらこちらから湧き、気付いた頃には少なくない数の多くのプレイヤーが同士討ちをしてしまった後である。

 

『我が秘術、「蜃気楼・幻魔」は味方を惑わす。愚かな人間共を減らすには丁度いい』

 

何の感情もなく同士討ちを勝手にするプレイヤー達を見下ろしていた視線は、勇者に戻す。

 

『ただし、我からも見えなくなってしまう難点があるがな・・・・・む?』

 

違和感を覚えた。放った霧が異質な霧に混じったような気がしたリヴァイアサンは霧に凝視した。

 

カッッッ!

 

刹那の閃光。それは霧と共に現れた。リヴァイアサン並みの巨体ではないもの、輝きを放つ光に包まれながら、水晶で出来た水瓏並みの人型が機械の装甲を纏って姿を見せた。姿形は長い髪を腰まで流し、水晶の巨大な剣と大盾を持ち、腰辺りに長い尾を伸ばした乙女の存在にリヴァイアサンは驚きながらも感嘆の念を抱いた。

 

『過去に見えた今までの勇者達とは一線を越え、逸脱している。そのような芸当をした勇者は見たことが無い。面白い、面白いぞ勇者達よ・・・っ』

 

高揚感を覚えるリヴァイアサン。

 

「いやいや、なんだよこれ!? 流石の俺もこれは想像してなかったんだが!」

 

「あはは、これ、テレビで放送してる戦隊シリーズに登場する人達と巨大ロボットみたいだねー」

 

「俺達が同じ場所で剣と盾を持って立っているってことは、操作しろってことか?」

 

「このゲーム、趣向が判らなくなってきたな」

 

「運営ー!!」

 

「フレデリカ、運営に文句を言っても仕方がない時もあるさ」

 

「船が、大きな人型になるって・・・・・」

 

「ア、アハハ・・・・・」

 

当惑、動揺、唖然のハーデス達。

 

『黄龍、あの姿は・・・・・』

 

『懐かしい。リヴァイアサンとそっくりだ。・・・・・託したのだな。この世界の未来を』

 

『勝つがよい資格ある者達よ!』

 

『掴み取れ勝利を!』

 

勝負の行方を見守る神獣達。

 

「おい、師匠。ありゃ・・・・・」

 

「・・・・・この地に新たな伝説が生まれようとしている」

 

「その通りだな兄者」

 

「すげぇ・・・・・」

 

「勝て、勇者達よ!」

 

「あなた・・・皆さま・・・・・」

 

未来を見据えた確固たる確信を抱き、応援する者達。

 

いよいよ最終決戦が始まるのだった。



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最終決戦 水晶の乙女VSリヴァイアサン

まず落ち着こう、一先ずっ。

 

「イズ、セレーネ。こんな状態になったけど把握できるか?」

 

「えっと、待ってて・・・・・」

 

「・・・・・これ、皆で息と動きを合わせないとダメだって」

 

それは何となくそうだろうなと思っていた。横並びに並んで水晶の剣と盾を持っているんだからな。

 

「この状態のロボットだと、ステータスとスキルが反映されず、設定されたステータスとHPとMPで戦わないといけないみたい。しかもスキルは剣と大盾、ロボット自身に3つしか付与できないみたいだから、慎重に選ばなきゃね」

 

「マジで?」

 

「そういうことだったら、大盾はハーデス君のスキルが適任だよん?」

 

「剣はペインのスキルだな」

 

あっさり多数決で決められた感じで俺とペインのスキルから選ぶことになった。

 

「俺は剣に【断罪の聖剣】を付与する。ハーデスは?」

 

「【悪食】でする。攻撃と魔法、ありとあらゆるものをMPに変換する攻防一体のスキルだからな」

 

「えげつなっ!? そんなスキルだったの!?」

 

「そのスキルを本当に盾に付与されたら・・・・・勝ち目なくね?」

 

だから付与できるのにしてこなかったんだよ。運営から規制されるのが目に見えているんだから。

 

「じゃあ残り一つは?」

 

イズからの指摘にお互い、相手のスキルがいいんじゃないかとみて・・・最終的に俺の方に視線が集まる。サイナの一言で確定する。

 

「マスターの保有する【勇者】がよろしいかと」

 

「「「「「「「【勇者】」」」」」」」

 

「大盾の奥義になるけど? いや、俺が剣士にチェンジすればいいか。防御力が反映されないなら問題ないだろ」

 

ちゃっちゃとメインを剣士に切り替えた。ステータスは0のままだけど、ロボットがステータス持っているならそれも問題ないだろう。念のために全部10ずつ振ったけどな。

 

『準備は整ったようだな勇者よ』

 

あ、待ってくれてた? 敵ながら律儀だな。感謝するぜ。剣を前に構える俺に皆も同じ姿勢になった。

 

「これ、一人だけ違うことしたらどうなるかな?」

 

「限定的なものじゃなかったら後で試そうぜ」

 

「そういうことだ。それじゃ、皆戦おうか」

 

「どういう動きをするか、ハーデス君が声を出して私達に指示出してね」

 

え、マジで? しょうがないなぁ・・・・・。

 

 

 

 

勝負の合図はない。海大砲を放つリヴァイアサンに地面を蹴って高く飛んで莫大な海水の塊から回避し、上段から水晶の剣を振り落とさんとする。素早く長い身体を駆使して斬撃の軌道を見極めた動きをし、尾で叩きつけるリヴァイアサンも巨大な口を開けて噛み砕かんと迫った。尻尾で盾を持ち、叩きつけに来る尾をガードして、空いた手で剣を両手に持ちリヴァイアサンの牙に向かって振るう水晶の乙女。

 

『器用な真似をする。だが、これは受け止められまい』

 

口内から窺える燃え盛る火の粉に、水晶の乙女は怪物の顎を下から蹴り上げて喉に刺さっている黒い棘のような結晶に【断罪の聖剣】の一撃を与えたら、グンッとHPバーが4割も減った。弱点部位に攻撃すれば高いダメージを与えられるようだった。

 

水晶の乙女を閉じ込めんとリヴァイアサンは大型台風を召喚した。それによって濃霧に惑わされていたプレイヤーまでもが巻き込まれて全滅に帰した。【断罪の聖剣】で台風を切り裂きながら飛び込んできた水晶の乙女も無傷とはいえず、構えた盾で体当たりしてリヴァイアサンを吹っ飛ばした。

 

『海大砲!』

 

至近距離からの攻撃に身を縮めて盾に隠れる。海大砲が盾に衝撃を与えながら呑み込まんとするが、粒子となって盾に吸い込まれていく。そのまま一歩、一歩とゆっくりとした歩調で前に進む相手にリヴァイアサンは攻撃の手を止めて長い身体で弾こうとする。その盾で凹ませて地面に這いつくばって、長く巨大な鞭と化した一撃を回避に成功した水晶の乙女が駆けだす。迎え撃つリヴァイアサンは再び台風を喚び起こした。暴風の壁で見えなくなっても風を切り裂きもう一度突破する水晶の乙女の目の前には、あの巨大なリヴァイアサンの姿が見当たらなかった。四方八方、身体と首を動かして周囲を見回しても見当たらない。それもそのはず―――。

 

ドゴンッ!!

 

相手は台風の流れに乗って上空へ飛んでいたのだから。勢いづいた長い身体による叩きつけは水晶の乙女の身体に罅を入れさせた。地面に叩きつけられた身体を起き上がろうとするその様子を見守る優しい相手ではなく、何度も水晶の乙女の背中に叩きつけるリヴァイアサンも続かない。振り上げた瞬間を狙って、横に寝転がり前に構えた大盾に当たった尾の一部が消し飛んでしまったのだ。

 

『むっ!? おのれっ!!』

 

既に見切ったとばかり飛んでくる海大砲から紙一重で躱し、巨体故のリスクを知っているかの如くリヴァイアサンの身体に剣を刺しながら、前に走る水晶の乙女と一緒に斬撃を走らせると二つ目のHPバーが弾け飛んだ。

 

『勇者ぁあああっ!!』

 

それに呼応するレジェンドモンスターの目が怒りで血走った。リヴァイアサンが自分の身体が燃えようと厭わない炎を吐き出す。赤々と大気を焦がし水晶の乙女を照らす業火に対して剣を振るい炎も切り裂く、その瞬間を狙っていたかどうか定かでないリヴァイアサンが、鋭く突っ込んできてガチンッ!!! と凶悪な牙で噛みついてきた。

 

『―――これで盾は持てなくなったな』

 

見せつける風にリヴァイアサンの口から零れ落ちる水晶の片腕と大盾。それらは巨体で弾き破壊されてしまったために、水晶の乙女は隻腕の剣士となった。戦力が激減した相手に最早恐れることが無い。リヴァイアサンは一気にケリを着けんと回避を繰り返す水晶の乙女を追い詰めていく。徐々に、ゆっくりと水晶の身体を痛めつけられていく水晶の乙女は、死に体でもう全身に罅で繋がってボロボロだった。

 

『くくく・・・・・我をここまで追い詰めたのは後にも先にもお前だけだ。中々強かったぞ?』

 

胴体に巻き付け締め上げる水晶の乙女を称賛の言葉を送るも、優越感を隠そうとしなかった。もう勝敗は決したとばかりの口ぶりで言い続ける。

 

『だが、最後に勝つのは我レヴィアタン。それは絶対揺るがない。貴様のことは魔王様に願い―――』

 

「ムー!!!」

 

「―――!」

 

「キキュー!」

 

「ヒムー!」

 

「ヤー!」

 

「フマー!」

 

「フムー!」

 

『―――!』

 

勇者と最大の怪物の戦場に割り込む様々な声。振り返ったリヴァイアサンの顏に鋭い突きが刺さって締め付けていた水晶の乙女を開放してしまうほど大きく殴り飛ばされた。

 

『なん・・・・・っ!?』

 

「メェー!!!」

 

今度は上から。見上げた先は金色の雲が暗雲を覆い隠していて、放電する雷がリヴァイアサンに直撃する。

 

『アバババババッ!?!?!?』

 

『にゃはははー!! 焼き魚は大好物にゃー!!!』

 

黒い獣の形をした光のオーラがリヴァイアサンを呑み込み、主なステータスを一定時間奪った。

 

『魔獣ヘルキャットだと? どうしてここに・・・・・!!』

 

「ガルルルアアアアアッ!!!」

 

「クマー!」

 

≪―――!!≫

 

「ペンペンペー!!」

 

「ヒヒーン!!」

 

「グオオオオオオオオオオオ!!」

 

「モグ~!」

 

長い身体を何度も飛び移って喉元にある黒い結晶にダメージを与える赤い閃光と熊の斬撃とツルハシ、銀色の斬撃と打撃、光の帯に乗って突っ込んだ光るペンギン、白いドラゴンのブレス。

 

「ピカ!」

 

「ヤミー!」

 

「ピィ!」

 

最後に光と闇が同時にリヴァイアサンを襲う。

 

『な、何が起きている・・・ッ!?』

 

自分の身に何が起きているのか理解しきれておらず瞠目するリヴァイアサン。一番存在感を放っている方へ視界に入れると。

 

「ターコタコタコタコタコタコォッ!!!」

 

数本の触手を使って鋭いパンチを繰り出すクラーケンが、非力な精霊達を胴体や触手に乗せながらリヴァイアサンに敵意を向けていたのである。

 

『クラーケン!!? 勇者たちに倒されていたのではなかったのか!? 我が部下のみ倒して支配を解くとはッ・・・・・グゥッ!! 魔獣だけでなくフェンリルまでいるとは誤算だ!!』

 

俺を忘れるな! そう言いたげなセキトが【超突進】してリヴァイアサンの横顔にど突いた。だが、その気持ちを訴えていたのはセキトだけではない。

 

「オルトちゃん達が頑張っているのにッ、テイマーの私達が頑張らないでどうするんじゃーい!!」

 

「サモナーも強いってことを教えてやるぜおらぁっ!!」

 

「うおおおおー!! やられても直ぐ復活して戻ってくるゾンビ殺法っー!」

 

「こんな熱い戦いを眺めているだけなどあり得るか、なぁ兄者!?」

 

「・・・・・否!」

 

「戦う鍛冶師の力を思いしやがれ海蛇野郎!」

 

「娘婿殿が、勇者殿達だけ戦わせはしない! 我が筋肉の強さと素晴らしさをその身で知るがよい!」

 

「必要ですかそれ?」

 

復帰したプレイヤー、自分達じゃあ役に立たないからと参戦していなかったプレイヤーが、駆け付けてくれたNPCが、無人島にいるもの全てがリヴァイアサンの許へと集う。

 

『・・・・・並みの気配ではない覇気を感じる。この我を倒さんとする者達の力が収束しつつあるか。しかし、我はそれを凌駕する』

 

全てを薙ぎ払わんと台風を喚ぼうとするリヴァイアサンが天に意識を向けた矢先。体内から突き破る巨大な魔水晶が顔を出して来た。それもリヴァイアサンの胴体の半分以上も占めた。プレイヤーとNPCが怪物の異変に気にすることなく攻撃する。

 

『グガッ!? こ、これは・・・・・? 我の魔力を吸収して、大きくなっているのか・・・・・っ!? 体内から攻撃していたのはこのためだったというのか・・・・・!!』

 

今になって気付いたことに最早どうすることもままならない。未だ沈黙を貫いていた水晶の乙女がこの時を待っていたかのように水晶の破片を零しつつ剣を杖代わりにして立ち上がった姿に、リヴァイアサンは心から称賛した。

 

『勇者よ・・・・・見事だ・・・・・我の魔力が尽きればこのまま死するだろう。だが、我はただで死を迎えんぞっ!!!』

 

天を轟かせる咆哮を上げる。全員、動きを強制的に停止させられてリヴァイアサンの次の行動に見守るしかなかった。

 

『我が最大の技で我の死に様をお前達のその身に刻む! ―――アクア・ラグナ!!!』

 

島全体が激しく揺れ出し、遥か海の彼方からこの島を軽々と覆い包む高さの高波が迫って来た。リヴァイアサンだけ倒してもその次は自分達の死が待っている。NPCが死ねば二度とゲームの世界に現れないシステムになっている以上、高波をどうにかするしかない。

 

 

水晶の剣を天に掲げる水晶の乙女。その剣が極光の粒子を一身に集めて輝きを強めていく中でリヴァイアサンは牙を覗かせる笑みを浮かべた。

 

『勇者の奥義・・・・・それを見るのもたった二度目だ。我が最期に相応しい技―――来い、勇者! その一撃で我を屠ってみせよっ!!!』

 

成長し続ける水晶で貫かれて鈍重になってしまった身体を引きずってでも前に進み、自ら死を受け入れんと水晶の乙女に手を伸ばすレヴィアタン。その表情は純粋な子供のようにとても楽しそうに笑みを浮かべていた。

 

「「「「「「「「「勇者奥義(剣)エクスカリバァアアア!!!」」」」」」」」」

 

9人の声が異口同音に重なった叫びと共に極光の斬撃が放たれた。リヴァイアサンの身体は真っ二つに分けた斬撃はさらに奥から迫る高波まで届き、天を衝く極光の柱が立って島を呑み込むはずの高波を打ち消し、その他の高波は島の両脇を通り越していった結果にプレイヤーとNPCは歓喜の雄叫びと歓声を沸かせた。

 

そして―――。

 

水晶の乙女が最後の力を振り絞ったが如く崩壊を始め、乗っていたハーデス達が落ちて来た。

 

「あああー!!? 艦が壊れたぁあああああああああ!!! 凄く気に入ってたのにぃー!!!」

 

「また集めてくれたらセレーネと作るわよハーデス」

 

「今度は2倍の数の素材で・・・・・ふふ、楽しみ」

 

「高いところから落ちていることに危機感を覚えないのかなこの3人はー」

 

「本当だよ全くー」

 

「いや、お前等もそうだからな?」

 

「俺達もだドラグ」

 

「そうだね。ドレッドの言う通りだ」

 

「救助要請不要」

 

地面から生える巨大な蔓がハーデス達を受け止め、ゆっくりと降ろされた矢先にリヴェリアがハーデスを強く抱きしめ感極まっている様子で一目があるのに唇を重ねたので女性人達が「あー!」と叫んだ。

 

「信じていましたあなた・・・・・」

 

「リヴェリアのおかげで助かったのが大きい。お前がいてくれて本当によかった。ありがとうリヴェリア」

 

「ふふっ、妻として当然です。私もあなたのために役に立ちたかったですから」

 

「ムゥウウウウウ!」

 

「うお、オルト。今の叫びは聞いたことが無い―――待てお前等!! 一気に抱き着こうとするな!! 前回の二の舞ぃいいいいい!!」

 

数多の従魔達による飛びつきに押し潰されもみくちゃにされるハーデスに、そんな光景を見て堪え切れず笑うイッチョウ達。

 

「ドワーフの心の友よぉっ!」

 

「坊主ー!!」

 

「娘婿殿ー!」

 

後にNPC達も交ざり更に混沌と化した。胴上げもされて恥ずかしい思いをしていたが不意にある言葉を零した。

 

「なんでアナウンスが流れない?」

 

『あ』

 

リヴァイアサンは討伐したはずだ。勇者奥義で真っ二つに斬ったのだから倒したのでは? その疑問はイッチョウ達も同じのようである場所へ駆け走った。

 

『・・・・・ぅぅぅ』

 

リヴァイアサンの頭部。そこに埋まっているレヴィアタンがまだ息をしていたのだ。しかもその悪魔の傍に―――魔王とハーヴァの姿が。

 

「リヴァイアサン/レヴィアタンの繋がりだからレヴィアタンも倒さないと戦いは終わらないようだな」

 

「っ!?」

 

「血塗れた残虐の勇者・・・・・」

 

「それを言わないで頼むから!?」

 

酷い二つ名に悶絶するハーデスは、周囲を見回してスキル【濃霧】を発動した。今この場に魔王がいることを知られたら他のプレイヤー達が襲い掛かる可能性を考慮し、秘密裏に片づけなければいけない。

 

「最後に魔王ちゃん達が介入されると困るんだが。俺達とレヴィアタンとの死闘に横やり入れる事はどういう意味なのか分からない筈だ」

 

「・・・・・」

 

「申し訳ございませんがレヴィアタンは我が魔王軍において最高戦力の一柱を担っている大悪魔。そう易々と失うわけにはいかないのです。それでも命を狙うなら私がお相手致しましょう」

 

眼光を鋭く戦意を放ってくるハーヴァ。魔王はレヴィアタンを守ろうと背後に隠す位置でハーデス達と対峙する。

 

「ハーデス君、どうする? 戦う・・・・・?」

 

「俺はまだ戦えるよ。ロボットを操作するのと違って今はスキルも使える」

 

訊いてくるイッチョウと戦意を示すペインに挟まれるハーデス。悪魔側は悪魔を助けんとする気持ちを訴え、助けられるなら戦闘も辞さないと身体で示している。これ以上の戦いに意味があるのか? 脳裏で過るその答えを求めた結果・・・・・。

 

「レヴィアタンはリヴァイアサンのおまけつきだ。レヴィアタンを倒しに参加したわけじゃない」

 

インベントリから黄金林檎を取り出し、それをハーヴァに投げ渡す。

 

「俺達はリヴァイアサンを倒した実績が欲しいだけだ。悪魔なんて最初からいなかった。それでいいだろ」

 

「・・・・・ハーデス君がそれでいいなら、私もいいよん。正直、疲れちゃったから戦いたくもなかったんだよねー」

 

ダガーを手放して戦闘意思のなさを示すイッチョウ。ペインも無言で剣を鞘に納め、フレデリカ達も構えを解く。

 

「・・・・・敵をみすみす見逃すとは、勇者とは思えない言動をするのだな」

 

「今回は友達の魔王ちゃんの顔を立てて見て見ぬふりをするだけさ。だけど、次もするかどうかはわからないからな?」

 

「・・・・・ありがとう優しい勇者」

 

リヴァイアサンの頭ごと冥界に繋げてあるゲートへ引きずってレヴィアタンを連れて行った魔王に続き。

 

「魔王様のお父上は回復に至りました。これにより魔王代理として務めていたお嬢様は代理の任から外されますでしょう。これから人間界に魔王軍は本格的に侵攻することになります」

 

「そうか、それは何よりだ。真の魔王と会える機会を楽しみにしているよ。お茶を用意して待っている」

 

「・・・・・そのお言葉、魔王様にお伝えしましょう」

 

ハーヴァもゲートに潜り、悪魔達は完全にこの島からいなくなった瞬間・・・・・。

 

 

 

カラーン、カラーンと荘厳な鐘の音が鳴り響く。ログインしている、イベントの参加している全プレイヤー、第二陣のプレイヤー達は初めて聞くアナウンスに思わず動きを停めて耳を傾けた。

 

 

 

『ニューワールド・オンラインをプレイされている全てのプレイヤーの皆様にお知らせ致します』

 

『現時刻を持ちまして、レジェンドレイドモンスター「皇蛇リヴァイアサン」の撃破を確認いたしました。三大天「覇獣ベヒモス」「鳥帝ジズ」「皇蛇リヴァイアサン」の三体が撃破されたことで―――新大陸が1ヶ月後に実装されます』

 

『なお、第二陣の新規プレイヤーのログイン記念で各ギルドで「覇獣ベヒモス」「鳥帝ジズ」「皇蛇リヴァイアサン」のレイドクエストが常時可能になります。どうぞ挑戦してくださいませ』

 

【濃霧】を消しながら聞くアナウンスに少なからず驚いた。既に倒したベヒモスとジズがレッサーではなくなり、ハーデス達が倒した元の怪物の強さのままでクエストを受けれるようになったからだ。

 

「わぉ、前線組や攻略組が喜びそうな内容だったね。そんなプレイヤーのペインさん。今のお気持ちを是非」

 

「ハーデス、今から一緒にベヒモス討伐クエストをしないかい」

 

「すっごい笑顔! え、今から!?」

 

「まっ、ジズとリヴァイアサンは倒してベヒモスはまだだったからな。どんだけ強いのか俺も興味あるぜ?」

 

「俺もだ。ベヒモスの素材を落としてくれるか気になるし」

 

そう話しているとハーデス達の前に青いパネルが表示された。

 

 

『おめでとうございます。レジェンドレイドモンスター「皇蛇リヴァイアサン」を討伐しましたプレイヤーには称号【勇者】を獲得しました』

 

 

『死神ハーデス様は既に称号【勇者】を所持しています。死神ハーデス様はスキル【勇者】を獲得しました』

 

『死神ハーデス様は既にスキル【勇者】を所持しています』

 

『おめでとうございます。「覇獣ベヒモス」「鳥帝ジズ」「皇蛇リヴァイアサン」の三体撃破された死神ハーデス様はレベルキャップの解放がされます。上限レベルは500。称号【空と海と大地の救済者】を獲得しました』

 

『あなたの功績が世界に轟きます。この世界の神話の神々が死神ハーデスの行跡に讃え祝福を捧げます。称号【七天八祝】を獲得しました』

 

 

【七天八祝】

 

 

闇神:夜間のみステータスが2倍になる。無属性の攻撃と魔法の効果が2倍になる。

 

戦神:炎系の攻撃と魔法、回復効果が2倍になる。

 

海神:水系の攻撃と魔法、回復効果が2倍になる。

 

樹母神:樹木系の攻撃魔法、回復の効果が2倍になる。

 

天神:風系の攻撃と魔法、回復効果が2倍になる。

 

地神:土系の攻撃と魔法、回復効果が2倍になる。

 

光神:日中のみ経験値取得が2倍になる。光属性の攻撃と魔法、回復効果が2倍になる。

 

幸運:全ての確率が上方修正される。

 

 

「・・・・・」

 

ドサッ。

 

「え、ハーデス。いきなり倒れてどうしたの?」

 

「・・・・・倒れたくなる衝撃的な称号を手に入れてしまったからだよ」

 

「え、なにそれ聞くのが怖い」

 

「俺達もそれを手に入れる王手を掛けているってのに、変なこと言わないでくれるか」

 

「いい称号、なんだよね? そうだよね?」

 

「良すぎる称号だったんじゃないか?」

 

「あり得るね。俺達も【勇者】スキルを手に入れた以上、更にその上を行く称号を手に入れられるのも不思議じゃない」

 

「私もまた【勇者】を手に入れちゃった・・・・・」

 

スキル、称号の確認の後はドロップアイテムの確認である。

 

「よし、リヴァイアサンの素材が手に入ってる。オリハルコンもまた手に入ったぜ」

 

「わ、私も手に入ってる!」

 

「リヴァイアサンを直接倒したプレイヤーのみ手に入る仕組みかなこれは」

 

「素材はみんな同じか? ちょっと確かめ合おう」

 

「・・・・・うん、みんな一緒だね。あ、レベルの方は?」

 

「私、ハーデスと【英雄色を好む】の効果で増えてるからレベルが90も超えたよ」

 

「フレデリカとハーデスのレベルにまだ追いつけないな」

 

「俺も90を超えた程度だぞ。スキル【勇者】のレベルダウンの代償に10レベル払ったんだからな」

 

払っていなければレベル100になっていたかもしれない。そう告げるハーデスに神妙な面持ちを浮かべるイッチョウ。

 

「このゲームのレベルの上限って100?」

 

「ああ、ベヒモスとジズにリヴァイアサンの三体を倒せばレベルキャップが500に解放されるらしいよ」

 

「レベル500も増えるの? もしかして新大陸のモンスターって100レベル以上のモンスターがわんさかいるってことなのかしら」

 

「新大陸、どこから行けば行けるんだ?」

 

そりゃあ、とハーデスは大海原に差した。

 

「この島から行けるんじゃないか? ドックもあるんだから船で航海して新大陸に行けって意味だと思う」

 

「なるほど~納得できるねそれ」

 

「ということでイズとセレーネには寝室と調理場の増設をお願いしたいところだ」

 

「任せて。腕に寄りをかけて新しい船を造ってあげるわ」

 

「その代わりまた、水晶の素材を集めて欲しいかな? 今度は4000個」

 

「・・・・・サイナ、助けてくれ。お前の力が必要不可欠な数を請求されちまったよ」

 

「ふふっ、かしこまりましたマスター」

 

和気藹々と会話の花を咲かせているハーデス達がいる島を覆っていた暗雲は久しぶりに晴れ、腐海の大海原は美しい青色を取り戻し海中では様々な魚介類が再び住み着くようになった。支配から解放されたクラーケンもオルト達に大きく触手を振りながら海へ帰って行った。

 

「よし、戻るか始まりの町に」

 

「うん! 今日はハーデス君のホームで祝勝会でもする?」

 

「やるなら、このメンバーだけでな。各自料理を作って持参だ」

 

「「「フレデリカ、よろしく頼む」」」

 

「もーっ! 私だけ作らせるなよー! ハーデス、この三人だけ除外して!」

 

「ふふ、あんなに激しい戦闘をしたのに元気ね」

 

「私達もまだ元気だよイズ。もっと凄い船の設計を考えよう?」



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語りの時間

【リヴァイアサンレイド】雑談を語るスレPART1【みんなお疲れ様】

 

 

789:名無し大剣使い

 

 

とうとうペイン達もあちら側に足を踏み込んだらしい件について。

 

 

790:名無しの弓使い

 

 

そりゃあ、一緒にいたらそうなっちゃう案件でしょうに・・・でも正直、凄く胸が熱い展開であった。

 

 

791:名無し大盾使い

 

 

みんな同じサーバーだったか?

 

 

792:名無しの魔法使い

 

 

そうでしょ? 俺も水晶の巨大な人型がリヴァイアサンを倒したところを見かけたし。高波を防いだところもまだ鮮明に記憶に残ってる。

 

 

793:名無しの槍使い

 

 

・・・・・俺、リヴァイアサン討伐失敗したんだが。

 

 

794:名無しの弓使い

 

 

え、複数サーバーあったのか?

 

 

795:名無しの大盾使い

 

 

やっぱりそうか。こっちはリヴァイアサンを倒せずイベント終えてしまったからおかしいと思った。船が大破して海にいけず、島に現れる大量のモンスターと巨大ダコに蹂躙されました。

 

 

796:名無しの魔法使い

 

 

もう遅いけど、船を修理するにはドックに潜んでいる中ボスを倒さないと駄目だったぞ。廃材を全部撤去してからじゃないと出てこないみたい。白銀さんがその方法を見つけたからドックが使えるようになった。

 

 

797:名無しの槍使い

 

 

ま、まじか・・・・・そんなギミックがあっただなんてぇ!!

 

 

798:名無しの弓使い

 

 

ま、修理して海に出たところであっさり船がまた大破されて俺達は死に戻ったがな!

 

 

799:名無しの大剣使い

 

 

いえーい、大破されましたー!

 

 

800:名無しの魔法使い

 

 

いえーい!

 

 

801:名無しの大盾使い

 

 

でも、リヴァイアサンを陸に誘き出す方法とは考えなかったなぁ・・・・・。

 

 

802:名無しの槍使い

 

 

てっきり船の大砲で勝つのかと・・・・・。

 

 

803:名無しの大剣使い

 

 

絶対運営の罠だろあれ。戦えそうな大砲を積んだ船を買わせるシステムに俺達は騙されたんだ。積んだ大金は腐海の海に消えてしまった・・・・・おのれ、運営絶許。

 

 

804:名無しの弓使い

 

 

白銀さん達は調達した素材で船を造ったから、実質労力だけ費やして運営の罠には引っ掛からなかったか。あの水晶のような素材はどこで手に入るんだろうか。購入した船より凄く速かった。

 

 

805:名無しの大盾使い

 

 

で、船が大きな女の人型になるって? 意味わからん。

 

 

805:名無しの魔法使い

 

 

大丈夫だ。当人達以外誰も意味が分からないでいるから。どうやったら船が装甲になって、水晶が巨人みたいに変形できるのかわかりませんわー。

 

 

806:名無しの槍使い

 

 

だけど間近で見てみたかったな! その戦闘シーンの動画配信を見てるけど、凄く熱い戦いだね!

 

 

807:名無しの大剣使い

 

 

見所はそこだけじゃなかったがな。リヴァイアサンに追い詰められる水晶の巨人を助けに行くクラーケン。白銀さんの従魔がクラーケンに話しかけて助けに行ったらしいけど、それが皮切りに他のプレイヤーも雄叫びを上げながらリヴァイアサンに挑むところも・・・・・うらぁー!

 

 

808:名無しの弓使い

 

 

やってやるぜぇー! レジェンドモンスターがなんぼのもんじゃーい!

 

 

809:名無しの魔法使い

 

 

俺達はまだ戦えるぞっ! うぉー!!

 

 

810:名無しの大盾使い

 

 

ああ、うん。そっちは凄く盛り上がってたのは伝わったぞ凄く。

 

 

811:名無しの槍使い

 

 

いいなー、物凄く楽しそうだなー

 

 

 

運営side

 

 

「初回のイベントに参加したプレイヤーの全サーバーを三つに分けた内の一つのサーバーだけ、討伐成功しましたね」

 

「主に白銀さんの活躍でな。まさか神獣達がNPC達をイベント用のエリアに連れて来るとは思いもしなかったぜ」

 

「本来そんな行動を取らないNPCのエルフのおかげでスタンピードを抑え込みましたし、ドックのギミックにも気づいたのも中々でしたね」

 

「個人的にはリヴァイアサンを陸に誘うところが度肝を抜かされたがな。一応、船で倒せる設定はしたんだよな?」

 

「ええ、購入する船ではなく素材で作った船ならば、と言う設定はしましたとも。ですが、三日と言う期間が短すぎたためか、造船に使う素材も2000個も集めないといけない労力を費やそうとするプレイヤーは白銀さん以外いませんでしたがね。流石にこの設定は厳しすぎたのでは?」

 

「100人が10個程度で集めれば直ぐに造れる簡単な設定もんだぞ? それをしなかったのは、そこまでしようとしないプレイヤー達の言動と考えが足りないか甘いかだ。ドールで一日費やして集めさせた白銀さんにも通用しない言葉だぞそれ」

 

「確かに・・・・・ドールも日々成長しているのも事実。プレイヤーのように独自で動くようになっておりますしね」

 

「ああ。ただ、水晶の素材で船を造るまではいいんだが、船を擬人化にするまでは俺達の想像の斜め上いったよな?」

 

「私達の悪戯の設定を暴かれる瞬間は少し楽しみになっていますがね」

 

「はははっ! 確かにな! あれをみたプレイヤー達からの受けは大変好いようだし、ドールを使いこなそうとするプレイヤーも増えてくるだろう。何よりあんな熱い戦闘をしてくれた白銀さんのおかげで新規のプレイヤーが増えてきている」

 

「忙しすぎて帰宅できませんがね」

 

「・・・・・言うなよぉ」

 

 

 

 

【第二陣プレイヤー】全力で楽しもうスレPART5【いらっしゃーい】

 

 

249:ピンクー

 

 

うわぁ、このゲームってあんなことが出来るんだねー。私もあんな風にプレイできてみたーい

 

 

250:パルテール

 

 

大きいモンスターだと口の中に入れて、【毒無効化】と防御力特化じゃないとすぐに倒されちゃうのか。勉強になるな白銀さんのプレイ。真似をするかどうかは別として・・・・・。

 

 

251:ペンペン

 

 

ペンギン可愛い! どこで手に入るかな? 絶対に欲しいな!

 

 

252:ヘスティー

 

 

完全に人離れしてるよなトップのプレイヤーの人達。俺達も何時かあんな風に出来るのか?

 

 

253:ゼッター戦士

 

 

第二陣の俺達が先のこと考えてもしょうがないだろ。今はゲームを楽しむことに集中しようぜ! 自然と俺達も強くなって先人達のように凄いプレイヤーになれるって!

 

 

254:白銀さん

 

 

俺はまず形から入るがな! 白銀さんのように防御特化しながらたくさんのスキルを集めまくってやる! 最強の職業は防御特化の大盾使いだ!

 

 

255:ヘイン

 

 

同士がいたかここに。俺もペインさんのように格好いい剣士のプレイヤーになってやるんだ。

 

 

256:キン先生

 

 

君たち、いい度胸してるね。周りから酷い言葉を受けてもめげちゃダメだよ?

 

 

257:ギャルギャル

 

 

そう言えば、大盾使いでノームを連れてる子が町中でゴミ拾いしているのが見掛けるんだけどー?

 

 

258:ピンクー

 

 

噂じゃあ白銀さんも初めてクエストしたのはゴミ拾いじゃなかったかな? その子なら私も見かけたよ。ノームちゃんも可愛かったなー。

 

 

259:白銀さん

 

 

俺も三日間のゴミ拾いをしてるぜ!

 

 

260:ヘイン

 

 

俺はもう狩りで外にいる。出遅れても知らないぞ。

 

 

261:ヘスティー

 

 

噂じゃあトッププレイヤーの白銀さん。第三エリアから進んでいないって話を聞くけど本当かな。

 

 

262:キン先生

 

 

それはありないでしょうね。何せトッププレイヤーです。前線組のプレイヤーだと言われても疑わないプレイをしているのですからね。

 

 

263:ギャルギャル

 

 

もし本当なら爆笑もんだケドー! 今まで何してんだって笑うんですケドー!

 

 

264:ゼッター戦士

 

 

そう言えば、リヴァイアサンレイドのイベントが終わってるから始まりの町にいるんじゃ?

 

 

265:白銀さん

 

 

あっ! あの人に会えるチャンスが!? ちょっと行ってくるぅー!

 

 

266:ヘイン

 

 

狩りをしている場合じゃない。俺も会いに行きたい!

 

 

267:ペンペン

 

 

ペンギンさん会えないかなー!

 

 

268:パルテール

 

 

おい無遠慮に会おうとするな! 噂の白銀さん見守り隊が始まりの町中にいるらしいんだから! 変な真似したら即通報されるか目を付けられるぞ!?

 

 

269:キン先生

 

 

もう行ってしまわれたようですね。困った子達です。相手の迷惑を考えない生徒は先生が注意しに行きましょう。

 

 

270:ギャルギャル

 

 

そもそも何でそんな名前にしたのかイミフメー! マジ教師ならゲームの中でもリアル持ち込んでほしくないんですケドー、マジウザイ意味で。

 

 

271:ピンクー

 

 

あなた、近い内にBANされるよそんな調子じゃあ・・・・・。



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様々な変化

イベント用フィールドから戻った俺は長らく待ち望んだクエストの達成を完了するべくヘパーイストスの鍛冶屋に訪れた。扉の前に閉店の看板を掛けたヴェルフが俺とヘパーイストスの傍に立ち見守る姿勢に入った。

 

「それじゃ、ヘパーイストス。長く借りていた物を返すよ」

 

『古代鍛冶師の指輪』と『鷹の羽衣』を受け渡す。特に指輪は本当に助かったことが多い。これ無しじゃあだめだった戦闘も何度もあった。それが手元から無くなる虚無感は凄く感じて来る。

 

「おう・・・・・久しぶりに見るぜ。こいつはお前の助けになったんだよな?」

 

「俺の半身と言っても過言じゃないぐらいにな」

 

「へっ・・・だったら俺はそれ以上の物を報酬としてお前に作らなきゃあいけないな。おう、最高の素材を用意できてんだろうな?」

 

力強く頷き、オリハルコンを始めベヒモスの素材とジズの素材、手に入れたばかりのリヴァイアサンの素材をすべて出す。

 

「この中から選んでくれるか?」

 

「いいぜ」

 

俺の目の前で幾つか手に取っては素材の未分化を把握できるモノクルで調べ、使う素材を選抜して残りは俺に返した。

 

「これらでお前が望む装飾品を作ってみせる。期待して待っていろ坊主」

 

「期待しないで待っているさ。なんせ俺の手の中にある物は俺が望んでいた以上の物が、ヘパーイストスから手に入る未来を待ち受けているんだから」

 

「・・・・・はっ、そうかよ。なら、早速作業に取り掛かるぜ。ヴェルフ、付き合え!! 古匠の俺がこいつの為に最高の物を作る最初の大仕事だ!! 十分過ぎる腹ごしらえをしたら不眠不休は当然覚悟しろ!! 一週間以内はあの刀と完成させる!!」

 

「うっす師匠!!」

 

後は二人に任せるとして俺はこの場を後にする。おお、久々の【AGI 0】の足の遅さが・・・・・。

 

「・・・・・探した」

 

「いつの間に」

 

何故かユーミルが店の前に佇んでいた。さっきいなかったよな? どうしてここに?

 

「・・・・・三大天の素材、装備に作る」

 

「え、頼んでないけどいいのか?」

 

「・・・・・俺がしたい」

 

あ、そう言うことですか。リヴァイアサンを間近で見て素材が手に入ったら作ってみたい衝動に駆られたかこの神匠のドワーフさんは

 

「じゃあ、残ってる素材で作ってくれるか? この風化した籠手と2つのオリハルコンも使ってさ」

 

「・・・・・大盾ではなく、格闘系の装備を?」

 

「ああそうだ」

 

「・・・・・わかった。最高の物を作ってやる」

 

「ありがとー!」

 

んふふ、武器と盾もいいけど直接殴る戦いもしてみたいんだよなー。カワカミー100に手合わせでも願おうか。いい練習相手になるだろ。素材を受け取ってドワルティアに帰るドワーフを見送りながら今後の楽しみを考え笑みを浮かぶ。

 

第二陣記念イベントまでには完成するだろう。それまで楽しみな俺はホームへと戻る。

 

「あ、おそーい。やっと帰って来たね」

 

「しょうがないだろ。今の俺の【AGI】は0だぞ。足の遅さなめんな」

 

「え。どうして? 指輪で数値上げてるんでしょう?」

 

「それを返しに行ったんだ。元々借り物だからな。その代わり一週間ぐらいしたら作ってもらっている俺専用の指輪を取りに行く」

 

「次のイベントまで8日もあるから、間に合うわね?」

 

「また新しい装備もな。神匠に三大天の素材で装備を作りたいと強請られたし・・・まぁ、この話は別にいいか」

 

桜の花弁が舞う畑で待っていた皆の輪の中に加わり、サイナから飲み物を受け取って音頭を取る。イスとテーブル、ゴザも用意されていてオルト達も持っていたグラスや湯飲み、コップを上に掲げる俺と一緒に持ち上げた。

 

「そんじゃ祝勝会を始めよう。リヴァイアサンレイドイベントのクリアに祝い、乾杯!」

 

「「「「「「「「「「乾杯!」」」」」」」」」」

 

「ムー!!!」

 

「―――!」

 

「キキュー!」

 

「ヒムー!」

 

「ヤー!」

 

「フマー!」

 

「フムー!」

 

『―――!』

 

「モグ!」

 

「メェー!」

 

『にゃ~ん!』

 

「オォ~ンッ!」

 

「クマー!」

 

≪―――!≫

 

「ペンペンペー!」

 

「ヒヒーン!」

 

「キュイ~!」

 

「ピカ!」

 

「ヤミー!」

 

「ピィ!」

 

 

「あい~!」

 

「テフテフ!」

 

「カパパッ!」

 

「バケバケ!」

 

「モフフ!」

 

「ホゲー、ホゲゲ―!」

 

「ポコ、ポン!」

 

「チョウチョウチ~ン!」

 

「ケケケ!」

 

 

「ワオーン!

 

「ニャ~!」

 

 

うん、従魔とマスコットに妖怪だけで十分宴会する人数が揃うなこれ。

 

『賑やかでよいな』

 

『そうだな。かつての資格ある者達でもこうはしなかった』

 

『今回の資格ある者達はとても愉快だな麒麟よ』

 

『見ていて微笑ましい限りです』

 

『にゃ~お』

 

神獣達も交ざり大いに盛り上がる。大いに盛り上がり過ぎて畑の外から物凄い視線が向けられてくるのが気になってしょうがない。

 

「な、なにあれ・・・・・従魔とマスコットと妖怪だけで大宴会じゃないっ」

 

「う、羨ましい~・・・! 中に加わりたい~」

 

「何かのイベント、ってわけじゃないよな?」

 

「リヴァイアサンレイドを攻略した祝勝会だろ? 俺もその場にいたんだけどな~、その場にいたんだけどな~!」

 

「お~い! 俺も参加させてくれないか~!」

 

「一緒に戦ったのに自分達だけ楽しむ気かー?」

 

・・・・・ホームでするべきだったか。桜の下でしたいがために畑ですることを決めてしまったからなぁ。

 

『資格ある者よ。少々野次馬が多いようだがよいのか?』

 

「こうなることは予想ついてたからしょうがないと割り切るしかない」

 

『承知の上、ということか。ならば勝手にさせてもらおう』

 

黄龍さん? 一体何を―――視界が真っ白に染まり出して、目の前が何も見えなくなったのはたったの一瞬だけ。視界が晴れた頃には俺のホームで、畑にいて、ユグドラシルの隣に桜の木と小社までもあった。

 

「え・・・どうなった?」

 

『無遠慮な視線が煩わしかったので我が転移させてもらった。ここなら視線を気にすることもない』

 

「め、滅茶苦茶な・・・・・こんなことも出来たのか」

 

『黄龍ぐらいですよこんな事できるのは』

 

ちょっぴり呆れてる麒麟がそう述べるので納得するしかない。畑にいたプレイヤー達もおっかなびっくりしてるだろうなぁ・・・・・関係ないけど。ま、ありがたいがな。黄龍の粋な計らいに受け入れた俺達も祝勝会を続けた。神獣達も場の雰囲気に酔い楽しむぐらいだ。2羽の鶏もどきの求愛ダンスやコケッコーたちの目を張るダンスの披露に拍手喝采。お前等、モンスターなのにいつの間に仕込まれていたんだ?

 

 

そんな祝勝会or大宴会は程なくして終わり俺は一足早くログアウトした。昼食の準備をしなくちゃならんからな。ハードギアを外してベッドから起きて直ぐに作り始めると程なくしたら、燕と瑠海もログアウトしてLDKに顔を出しに来た。

 

「今日はなんですかー?」

 

「ヘルシー&甘いデザート」

 

「あの戦いのあとで甘いものが食べたかったから嬉しいわ」

 

擬人化した水晶の乙女を操作するのは中々ハードだったからな。マジでリヴァイアサン/レヴィアタン、強すぎた。ベヒモスとジズの方が倒しやすい方だったかも。完成した料理を皆で食べ終えた後、俺はログインしなかった。

 

「ゲームしないんですか?」

 

「レイドボスとかイベントのような戦い以外、長時間プレイ+寝たっきりはあんまりしたくない。身体が訛るから今日は止めておく。プールで泳いでくるわ」

 

「プール? この季節に?」

 

「あ、瑠海さんはまだ知らなかったね。地下にプールがあるんだよ?」

 

「え、嘘でしょ?」

 

本当だとも。だから俺は片づけを燕に任せて、地下に続くエスカレーターに乗って下へ降りて行った。地下に広がるプールは25mと大きな円形状のプールの二種類あり、温度を上げて温水プールにする事も可能だ。

 

「はぁ~気持ちいぃ~」

 

息を止めて5往復泳いだ後に水面から顔を出し、全身の力を抜いて浮いた。全身の筋肉を使う運動は水泳が気持ちいなやっぱり・・・・・。このまま寝ても問題ない・・・・・。

 

「本当にプールあった」

 

「瑠海か」

 

視線をずらすと興味津々に俺を見下ろす彼女の視線と絡み合った。

 

「気になって来たか。本当だったろ」

 

「蒼天の王様はこんな施設も用意できる経済力があるのね」

 

「伊達に長く王を勤めてないぜ」

 

水面に手をやって、地面に触れている感じで手と腕に力を入れて飛び跳ねるように体を起こし水面に立つ俺の様子にあんぐりと瑠海は口を開けた。

 

「なんで水の上に立てちゃうの? スキル?」

 

「ミステリーだろ?」

 

身体は濡れたままだけど。椅子に掛けたタオルを取りに近づき濡れた身体を拭く。その間の俺を瑠海の視線は凝視と言ってもいいぐらい見つめて来る。

 

「どうした?」

 

「こうして傍にいるのに不思議な人だなって思っちゃって」

 

それこそ不思議な感想だなと俺も思う。

 

「他者の俺を見る感覚はわからないな。実際にこうして言葉を交わして触れ合うことも出来ているんだ、それだけじゃ物足りないかね」

 

「あなたは普通の人間、ううん・・・人間じゃないでしょうから余計に不思議なのよ。特に怖い存在でも畏怖する存在でもない。傍にいるのが当たり前みたいに自然体で居られる私も不思議なの」

 

そう思っているのはお前だけの話じゃないな。俺を恐れる人間以外は遠からずそんな感じだ。

 

「なら、これからも俺の傍で自然体でいればいいさ。その方が好ましい。俺を蒼天の王として接してくるよりも、お前が安心できる異性の人間として接してくれよ」

 

「・・・・・それ、燕ちゃんにも言ってる?」

 

「燕は敬意を抱きながらも元からフレンドリー精神で接してくるぞ。たまーにあの子娘は生意気な言動もするし」

 

「そ、それは私にはできないわね・・・・・でも、そっか・・・・・それがいいなら、これからもそうするね?」

 

おう、しろしろ。と首肯する俺と瑠海の間の距離は短くなった気がした。

 

「変なこと聞いてもいい? 燕ちゃんとは恋人の関係じゃないのよね?」

 

「ゲーム内では結婚しましたけどなにか?」

 

「・・・・・現実で身体を重ねてないわよね?」

 

「流石に控えてるわ」

 

向こうはその機会を窺ってる気配を滲ませてるけどな。燕の癖に獲物を狙う鷹の如く。

 

「じゃあ・・・・・燕ちゃんとゲーム内で初めて会った時の言葉、覚えてる?」

 

「誰が言った言葉だ?」

 

「あなた」

 

俺が言った言葉・・・・・あれか。

 

「手を出すならイズのような女性、だっけ」

 

「うん、あれって本心?」

 

「未成年と肉体関係になろうとも責任は絶対に取るつもりだし、本心から言ったぞ」

 

真っ直ぐ告げられた瑠海は、熱で浮かされたように瞳を潤わせて顔を朱で染め始めた。

 

「・・・・・私のような女性ってことは、私に手を出したいって意味で捉えていい?」

 

言葉の確認を、俺の気持ちの深意を知ろうとする女性は後ろに手を組み恥ずかしげで。

 

 

「私、あなたのことが好きになっちゃった」

 

 

俺に好意の告白を告げたのだった。

 

 

・・・・・。・・・・・。・・・・・。

 

・・・・・。・・・・・。

 

・・・・・。

 

 

瑠海からの告白受けて3日目が経過した。彼女に対する返答は保留だ。

 

『返事は言わないでいいわ。あなたを好きな私の気持ちだけ知ってくれればそれでいいし、燕ちゃんには宣戦布告してるから。あなたなら燕ちゃんの好意を気付いているだろうし、これから私もあなたの恋人になれるように努力する。でも、結婚式は蒼天でしましょうね? 一夫多妻の結婚が出来るんでしょ?』

 

もはや結婚前提で変わらない交流をするような気がしてならない瑠海の発言以降、燕にも知れ渡り。

 

『ふーん、そうですかそうですか。蒼天で結婚する事には大賛成ですので私的にオールオーケーですよん。私がゲームをしている間に肉体関係になっていたら・・・・・襲ってたかもですし?』

 

『じゃあ、私も予行練習したら・・・・・』

 

『私もあと何回か予行練習をしたら、そうですね・・・・・』

 

不穏な発言の気配を感じて耳栓して聞こえないようにしたので、俺は何も聞えなかった。聞きもしなかったので何だかさらに仲良くなった二人を見ても気にもならないでいられたのであった。

 

「水晶の素材(木材と鉱石)×2000、集めたぞ」

 

「わぁっ、ありがとうっ」

 

「これでさらに水瓏の強化ができるわね」

 

新大陸の実装はまだ先でも、イベント用のエリアの行き来は第一回と二回目の村とエルフの里のようにできる無人島で船を造れることが出来る。なのでイズとセレーネが再び船を造りに行ったのだが。

 

「「・・・・・」」

 

何故か戻ってきた二人の顔が酷く疲れ切った表情になっていた。

 

「拘り過ぎて造るのが疲れた?」

 

「ち、違うの・・・・・」

 

「無人島に海人族のNPCがたくさんいて、リヴァイアサンを倒した私達を神様のように崇めてくるの。いつの間にかリヴァイアサンを倒した場所に私達専用のホームが建てられていたし、島の至る所に私達の銅像が・・・・・どうやって修復したのか分からない水瓏の擬人化の像まであったわ」

 

い、行きずらい・・・・・。そんな島に行くのが躊躇してしまうレベルで・・・・・。もう伝説や神話が語り継がれる島になってるじゃんか。

 

「イッチョウ達には黙っていよう。船は完成したんだよな?」

 

「ええ、ハーデスの要望通り生活が出来る環境も増設したわ。そしたら船がホームになってびっくりしちゃったけど、どうやら寝室とキッチン、部屋とか設けると船がホームになるようだわ。おかげで一週間以上の旅中でもログアウトできるようになったし、前回の反省も兼ねて座席とシートベルトも作ったわよ。プレイヤーのステータスとスキルが反映されるのも確認できたしね」

 

「ただ、船を買わず一から作るとどうなるか色んなプレイヤーの人達から質問されちゃって、教えちゃったけど良かった?」

 

教えて困るような秘密はないと思うがな。問題ないと言い返すとセレーネは安堵で胸を撫で下ろしながら息を吐いた。居間に入って来るサイナとリヴェリアが淹れてくれた茶とお菓子を受け取り、二人に渡す。茶を飲んで一息を吐く。

 

「というか、船を買えるシステムがまだあるのか?」

 

「海人族がいる島のドックに行けば、購入するか造船するかの選択ができるようになってたの。購入する船の性能は変わってないって教えてもらったわ。ハーデスの読み通り、新大陸は航海しないといけないみたいね」

 

「なら、俺達は南に行くとしよう。ペンギン探しの旅は他のプレイヤーもそう考えているはずだ」

 

「北極と南極、あるのかな? 防寒用のアイテムを作らなきゃ」

 

先を視て動くことは嫌いじゃないぞ?

 

「ところで、私とイズは【海王】ってスキルだけど、ハーデスの【皇蛇(リヴァイアサン)】ってどんなスキル?」

 

「私も気になってた。やっぱりベヒモスみたいに変身できるの?」

 

「あー・・・・・【皇蛇(リヴァイアサン)】は変身できるけど、モンスターにはならないんだ」

 

どういうこと? 不思議そうな二人からそんな気持ちを目で訴えてくる。

 

「論より証拠。百聞は一見に如かず、だな。【皇蛇(リヴァイアサン)】」

 

ホームの中なのにスキルを発動する俺の前身は青と水色、白の光のオーラに包まれ・・・・・頭から珊瑚のような角が生え、腰から異形の長い尾が伸びて胸が豊かに膨らみ、骨格も細くなって体つきも女性となっては顔も女になった。銀髪も青色に変色してしまった。

 

「え? ・・・・・へ!? ハ、ハーデス・・・・・なのよね?」

 

「ああ、俺だよ。【皇蛇(リヴァイアサン)】のスキルはモンスターじゃなくて、女に性転換してしまう意味不明なスキルだこれは」

 

「・・・・・(ポカーン)」

 

姿だけでなく女の声にまで変わってしまった俺。セレーネがそんな俺を見て目と口が開いたまま放心してしまい、微妙な空気が漂う・・・・・。

 

「何か言ってくれない? 気まずいのだけれど」

 

「い、違和感がない・・・・・! 体は大丈夫なの・・・・・?」

 

「胸がずっしりとする以外は何とも」

 

持ち上げる女の象徴に二人の目は釘付け。本物? という疑心の目が伝わってくる。

 

「顔、触っていい?」

 

「胸を触るならそっちの胸も触るからな」

 

「だ、大丈夫。触らないよ?」

 

了承すると、二人はこちらにより顔や髪に角、二の腕や尻尾を触診するように触れて来る。

 

「私達と同じアバターの感じね。角と尻尾が生えてるのはどんな種族なのかしら?」

 

「たぶんだけど、NPCが言っていたリヴァイアサンじゃないかな? 水晶の像の姿とそっくりだよ」

 

「スキルの名前も【皇蛇(リヴァイアサン)】だから? 何だか安直ね」

 

この姿で海人族がいる島に行ったら大騒ぎなるだろうな。なるべくそうしないようにしとこう。そうなるようなことはしないと思うが。

 

「それでその姿にならないと使えないスキルってあるの?」

 

「さぁ? でもこの姿になる以外のスキルは他にもいくつか包容されてるな。その内の一つのスキルの効果が凄い。水や海、俺が潜れるような場所に対して操作することが出来るんだ。具体的に言えば海水を動かしてぽっかりと穴を開けられるよう操作ができる。それとこの状態だと水の魔法の与ダメージが10%、被ダメージ減少が20%になるようだぞ」

 

「なるほど? ハズレってわけでもないのね。でも、水と海の操作スキルの方はあまり使い道がないんじゃない?」

 

ふふん、それこそそうでもないんだよな~。

 

「二人が潜れないマグマも操作できるんだぞ? つまりは、俺がいつもそこで採掘している場所を二人も出来るってことだ」

 

「「・・・・・」」

 

おっと、わかりやすく目の色が変わったぞこのお二人さん。

 

「スキルの話はここまでな。さて、俺はもう一度ドワルティアに行くよ」

 

「何か用事が?」

 

「ドリモール達の住処で採掘をちょっと」

 

言った瞬間。二人がインベントリを整理し始め、不壊のツルハシを取り出す。待て待て気が早いぞお前達・・・・・。

 

 

 

 

イカルside

 

 

憧れの人からのアドバイスで、町からでないでクエストをたくさんして、貯まったお金でランクは低いけど畑を買えた喜びは忘れられない1週間目の今日。あの人が私に手に入れさせたかった称号はこれなんだと、知った。

 

『おめでとうございます。初ログインからモンスターを倒さずレベルも1のまま一週間プレイしたイカル様に称号と報酬をプレゼントいたします』

 

称号:出遅れた者。

 

取得条件 初ログイン後、モンスターを倒さず一週間レベル1の状態で始まりの町を過ごす。

 

効果 レベルアップ時のステータスポイント取得量が3倍。

 

運営からの報酬:賞金10000G(ガンバレー!by運営♪)経験値 スキル熟練度UPスクロール×3

 

 

や、やったー!? やりました死神ハーデスさん! 称号を取りましたー!!

 

「やったよエスク!」

 

「ムー?」

 

首を傾げるエスク可愛い! お金も貰えたからこれでグレードの高い畑か種かどっちか買える。うーん、どっちがいいかなー? そうだ、死神ハーデスさんに教えないと! 畑エリアから出ようとしたら、これから会いに行こうとしたプレイヤーの人が畑から出てきた偶然に凄く嬉しかった。

 

「死神ハーデスさん、お久し振りです!」

 

「おー、イカルとエスク」

 

「ムー」

 

「ムー」

 

オルト君とエスクが挨拶をするところを死神ハーデスさんと一緒に見た。話し合う2人はとても微笑ましくて可愛い。

 

「可愛いですねー」

 

「1日中見ていられそうだ」

 

「わかります」

 

今度二人でそうしたいなぁー。

 

「あ、イベントお疲れ様でした。えと、凄かったとしか言えません。掲示板では死神ハーデスさんがいたサーバーしかクリアしていないようでしたよ?」

 

「それはそれは、優越感が湧くなぁ・・・・・。俺達自身も驚くことがあったから色々大変でもあった。そういえば、取れたか?」

 

「はい!」

 

忘れていなかった憧れの人からの質問にさっき取れたばかりの『出遅れた者』の称号を見せた。

 

「おし、これがなくちゃ誰よりも強くはなれないからな。これでイカルはプレイヤーの三倍も強くなれる秘訣を得た。あとは防御力の真髄ともいえるスキルを取得するだけだ」

 

「それってどんなスキルです?」

 

「これはもう一人にも教えたがウサギと一時間戯れてみろ。でも、一切の攻撃をしちゃいけないし、ダメージを受けてもダメだ」

 

防御力極振りだと攻撃力が低すぎて、倒せないし足が遅いし倒されやすいって、極振りプレイはオススメできないって情報だけど死神ハーデスさんは唯一成功してる極振りプレイヤーの人。頑張ってみよう!

 

「これからアイテムを取りに行くけど一緒にどうだ?」

 

「一緒に行かせてください!」

 

「よし、なら行こう」

 

 

 

 

ということで、イカルとエスクを連れてヘパーイストスの店に訪れた。アイテムできてるかなー? 期待感を胸に膨らませて裏口から入ると・・・・・。

 

「「・・・・・」」

 

全て出し切った。魂までも。全身真っ白な鍛冶師二人が満足げな表情を浮かべながら眠りについて・・・・・。

 

「へ、ヘパーイストスゥー!? ヴェルフゥー!?」

 

不眠不休とまともに食事もしていなかったのかこいつら!? 慌てて作りおきの料理を出して、無理矢理にでも口の中に突っ込んだ。

 

 

30分後。

 

 

「飯を食う暇もなく心血注ぎすぎて、魂も捧げてしまいかけたぜ」

 

「助かった・・・・・」

 

出した料理を全部食べ尽くした二人に心底呆れる。

 

「いくらなんでも頑張りすぎだ。飯も食え飯も。聞くけど完成したのはいつ頃?」

 

「昨日だ」

 

「そのまま、燃え尽きたってことか」

 

訪れたのが遅れていたらこの二人は空腹で死んでいたってことかよ危ないな。

 

「ところでその嬢ちゃんは?」

 

イズとセレーネでもないプレイヤーを連れて来た俺に尋ねる。

 

「これからこの店にお世話になるだろうから二人に顔を見せようかと思って。名前はイカルだ」

 

「そうか。なら、ヴェルフに頼んでもらえよ。こいつはまだ匠の鍛冶師だが、俺の弟子だ。嬢ちゃんのレベルに合う装備を用意してくれるだろうよ。俺は坊主専属の鍛冶師みたいなもんだからな」

 

「よ、よろしくお願いします!」

 

「ああ、こちらこそ」

 

これでイカルも鍛冶師のクエストを受けられるようになったかな? そして、いつ俺の専属鍛冶師になったんだ?

 

「坊主、お前と出会ってから今日まで待ちに待ったあの時の報酬を改めて渡すぜ。受け取れ!」

 

ヘパーイストスが突き出す両手に刀と指輪が収まっていた。それを受け取り鑑定する。

 

 

三天破【レジェンダリー】

 

【破壊不可】

 

空欄空欄空欄

 

HP+300 MP+200【STR+150】【VIT+150】【AGI+150】【DEX+150】【INT+150】

 

 

空と海と大地を支配するモンスターの力が宿りし指輪。この指輪の持ち主は伝説の三体のモンスターを討伐した者の証として、後世でも語り継がれる歴史的価値がある唯一無二の至宝。ただし、強い生命力がある三体のモンスターが1つになったことから、強い自我が芽生えており、至宝の指輪自身が所有者を選ぶ。【空と海と大地の救済者】の称号を持たない者以外が装着しようとすれば、所有者に牙を剥くだろう。

 

「・・・・・ヘパーイストス、先代を越えたんだな」

 

「お前のお陰でな。そして、俺自身もこの刀を甦らせたことで『神匠』の鍛冶師に至れた!」

 

 

『原初の赫灼』

 

【AGI+15】

 

【DEX+15】

 

【灼熱地獄の誘い】

 

【破壊不能】

 

スキルスロット空欄

 

【灼熱地獄の誘い】

 

対象に必死効果を付与するスリップダメージを与える。

 

 

・・・・・すごくすごい、じゃありませんかこのスキル? 即死効果のスキルもありそうだなこの分だと。いつか見つけ出したいもんだ。見た目も格好いいな。溶岩をくり抜いて刀の形状にした感じでさ。刃の部分が赤熱しているし、全てを焼き切る印象を伝えて来るじゃないか。

 

「気に入ったありが―――」

 

感謝の言葉を送ろうと口を開きかけた俺の真横から何かが通り、ヘパーイストスの顔面に突き刺さった。

 

「へっ!?」

 

絶句するイカル。でも俺は一度見たことがあるから内心驚く程度で済ませれる。

 

「・・・・・若造が神匠に至ったか」

 

正面の扉を破壊して入ってくるは、ドワーフの神匠、ユーミルその人だった。

 

「・・・・・完成した」

 

「わざわざ届けに? こっちから顔を出そうと思ってたのに」

 

「・・・・・鍛冶師の勘が告げた。ここに来いと」

 

すげー勘だな。ユーミルが作ったユニーク装備を受け取るや否や、用件を済ませたと言わんばかりに店から出ようとする。

 

「ユーミル? 何か話しかけなくてもいいのか?」

 

「・・・・・成長したひよっこに掛ける言葉はない。餞別、くれてやる」

 

もう自分から飛び出した弟子を一人前として認めたって意味かな。遅れて起き上がるヘパーイストスは顔面に突き刺さったそれ、ユーミルが持っていた鎚を掴んで睨みつける。

 

「何が餞別だあのクソッタレ師匠がっ。店の扉を壊しやがって!」

 

「俺が初めてユーミルと出会った時も工房の扉を壊していなかったか?」

 

「あれは壊した内に入らねぇよ!」

 

「じゃあ、ユーミルからすればヘパーイストスと同じ気持ちなんだろうよ」

 

似た者師弟、と言ったら舌打ちするだけで何も言い返さなかった。言い合いをしたりそっけない態度をとっても、お互いのこと理解し合っているところが師弟の絆を窺わせてくれるな。

 

「報酬は確かに受け取った。ありがとうな」

 

「礼を言うのはこっちの方だ。坊主と交流すると神匠に至れるとは思いもしなかったからな」

 

はは、人生は何が起きるか分かったもんじゃないな。

 

「自慢な師匠の弟子として腕を磨けよヴェルフ」

 

「ああ、勿論だ。俺も神匠になってやる。険しい道のりだろうが絶対にだ」

 

「おう、俺達も協力するよ。それじゃ、失礼するよ。また遊びに来る」

 

「いつでも来い! 坊主にだけ無償で依頼を受けてやるからな!」

 

マジで? ユーミルより破格じゃん。嬉しい! そんな気持ちを抱いて裏口から店を出てイカルの前で『三天破』の指輪をはめた。前の指輪より数値は低いが、逆になかったHPとMPも強化されたから文句はない。

 

「す、凄い会話でしたね。NPCの人達ってあんなに過激なんですか?」

 

「あの二人だけだ。他は普通だぞ。でも、このゲームの世界で最強なのはプレイヤーの俺達じゃなくてNPCじゃないかって思う」

 

「そうなんですか?」

 

「いつかその理由が判る時がイカルにもくるさ。さて、一週間も待たせたイカルにも【絶対防御】のスキルを手に入れさせる。頑張れよ?」

 

「はい!」

 

俺は50%の確率で逃げられてしまうからイカル一人に頑張ってもらうしかないんだよな。

 

「そう言うわけでラプラス。モンスターが集まるアイテムって作れる?」

 

「その程度なら直ぐに作れるさ。その材料も畑にあるからとっても構わないかな?」

 

「いいぞ」

 

後に錬金術師であり魔神のラプラス製アイテムを受け取ったイカルは、一人で森に入り一時間以上もウサギと戯れた結果・・・・・。

 

「取れました、取れましたよ死神ハーデスさーん!! 凄い、私にピッタリな【大物喰い】と【絶対防御】がぁー!!」

 

ホームまで走ってきたイカルが全身で喜びを表現して報告してくる。おおっと? そこまで教えていなかったが大物になるなイカル。

 

「毒耐性は?」

 

「中です。大きなハチで怖かったですけど、何とか倒せましたぁ・・・・・」

 

「これから行かせる毒耐性必須のダンジョンはそれ以上に大変だからな」

 

「ダンジョンですか?」

 

俺は頷く。

 

「初期のその装備じゃあヒドラって言う毒の竜の攻撃で腐って壊されるんだ」

 

「ええっ? それじゃあ、どうやって死神ハーデスさんは倒したんですか?」

 

懐かしき過去の自分を思い出しながら遠い目で語ってやった。

 

「【毒耐性中】よりヒドラの毒は強いからダメージは受ける。だからまずはHPを回復しながら毒耐性を【毒無効】まで進化させる」

 

「はい」

 

「ヒドラは毒の攻撃しかしないモンスター。だから【毒無効】を手に入れたら楽に倒せるようになる。でもそれは装備があったらの話だ」

 

「なかったら、どうなっちゃうんですか?」

 

「お互い倒せなくなる。毒の攻撃しかできないモンスターと防御力特化で【毒無効】を手に入れたプレイヤーの永遠に終わらない戦いになる」

 

あの時は本当に苦労した。その想いを溜息で吐いてイカルに伝える。

 

「でも、プレイヤー側に装備以外の方法でモンスターを倒す手段が残されていた」

 

「どんな方法ですか?」

 

「―――モンスターを食べてHPを減らす行為。HPドレインっていう方法だ」

 

えっ!? と驚くイカルに同情する。

 

「しかもボスモンスターをHPドレインで倒すには五時間も掛かる」

 

「五時間も!?」

 

「しかもモンスターにはそれぞれ味があって、ヒドラはピーマン味だった」

 

「うえぇぇぇぇ・・・・・」

 

あ、苦いのが好きじゃないな? 凄く顔を顰めたイカルの頭に触れる。

 

「でも、HPドレインして得られるものはちゃんとあるぞ。それを得てから様々なスキルも手に入るようになる。それを見せてやろう」

 

フェルに背中を乗せてもらいイカルと西の第2エリアへ移動し、【毒竜】と【エクスプロージョン】を披露した。

 

「・・・・・格好いい・・・・・!」

 

お気に召したようで何よりだ。ふむ、逆な方法で試させてみるか?

 

「イカル。『不殺』の称号あるか?」

 

「ありますよ?」

 

「なら・・・・・ヒドラのHPを1にしてからHPをドレインすれば、五時間なんて時間を掛けずにクリアできるようにやってみるか? それで得られるかは分からないし失敗するかもしれないが」

 

「お願いします」

 

圧が凄い。

 

「じゃあ、爆発テントウムシを食べに行こうか。パチパチするお菓子みたいで美味しいぞ」

 

「食べる事には、変わらないんですね・・・・・」

 

「寧ろモンスターをHPドレインすることで得られるスキルが沢山ある。その魅力に魅かれると思うぞ?」

 

「そうなんですか? ・・・・・見た目が美味しそうなのだったら、挑戦してみます」

 

頑張れ若人。そんな彼女にテントウムシを四苦八苦させながら食べさせ、数時間かけさせて俺と同じスキル【エクスプロージョン】を得させたのだった。その後、大量のHPとMPポーションを持たせ作戦を授けて挑ませた結果―――。

 

「死神ハーデスさーん!! ピーマンの味を一回食べるだけで終わりましたぁー!! あと死神ハーデスさんと同じ装備も手に入りましたぁー!!」

 

第二の死神ハーデスの誕生の目論見通りになったのであった!! これで誰も彼女を止められはしないだろうフハハハハハ!!

 

それから夜までイカルと畑に育てるアイテムを採取したり、【植物知識】を取得させたり様々な体験をさせた。夢中になっていたら時が経つのは早く、辺りが暗くなるほど日が完全に落ちた。太陽の代わりに町はともる街灯で明かりを確保していき、食らい町中でも歩きやすくなった。しかし、それ以上の光量が広場から発せられた。

 

ホームにいた俺は気付かなかったが、広場ではプレイヤーもNPCも関係なく大勢の人間が眩い光を放つ巨大樹の前に集い見上げていた。何かのイベントの前触れか、と佇んで見つめているプレイヤー達の目の前でカッ! と閃光が一点から迸り、次に光とともに姿を現す絶世の美女。ウェーブが掛かった緑色のロングストレートヘア、透明感が高い淡い黄緑色のドレスで身に包み身長は150cmほどの女性が空中に浮きながら最初に微笑んだ。

 

『初めまして。私はこの町を守護する大樹の精霊です』

 

神秘的な登場をした精霊に驚きを隠せれない第二陣のプレイヤー達は唖然として、最初からゲームをしていた上級者達は見覚えある展開に驚いた。

 

『この度は、異界から新たに来訪せし者達が現れて丁度一週間となりました。この町を守護する者として皆さんの行動をずっと見守っておりました。その中で町に貢献した者に贈り物を授けましょう』

 

大樹の精霊が夜天にむかって手を掲げ、手の平に浮かぶ球体が複数散らばるように弾け飛び、その一つが一緒にホームにいたイカルの胸に飛んできた。

 

「わっ? な、なんですかこれ?」

 

「モンスターの卵だ。しばらく温めてると新しいモンスターをテイムできるぞ」

 

あれ、でもどこかで覚えのある・・・?



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第二陣記念イベント開始

夏―――神月学園は長期の夏季休暇に突入した。長い休暇を学生として青春を謳歌しようと、この機に更なる勉学を励もうとする学生の中に、NWOを毎日できると帰宅した学生はすぐにハードギアを手に取ってゲームの世界へと飛び出した。

 

同日。

 

イベント当日。何だか一緒にこの瞬間を迎えようとするイッチョウ達やペイン達と一緒にいることになってきたこの日。

 

「準備も万端。あとはイベント開始を待つだけだな」

 

「ムム!」

 

「――!」

 

縁側でのんびりと待っていると、イベント開始が告知される。

 

『ただいまより、第二陣歓迎イベントの説明をいたします』

 

「よし、きた」

 

「どんなイベントになるだろうねー」

 

「お、メールが来たな」

 

確認すると、前半はいつも通りの注意事項だった。画像の取り扱いとか、ハラスメントについての注意などである。そしてこれは重要だろう。内容は・・・・・。

 

「第一陣プレイヤーの皆様は一時間以内に最低一人でも、必ず第二陣のプレイヤーとパーティーを組み、転移先のフィールドに散らばる銀のメダルを集める、か。なお、歓迎記念として第一のプレイヤーのスキルは第二陣のプレイヤーに反映し、第二陣の全プレイヤーにはメダル1枚プレゼント致します。これを十枚集めることで金のメダルに、金のメダルはスキルや装備品にアイテム、ホームオブジェクトに交換出来ます?」

 

そうアナウンスが流れステータス画面が勝手に開き表示されたのは、金と銀のメダルである。

 

そのうち金のメダルに俺は見覚えがあった。

 

金のメダルは俺が初回イベントの記念品で手に入れたあのメダルだった。このためのものだったとはな。

 

『初回イベントに参加して得た方の中には、銀メダル10枚分ある金のメダルを既に一枚所持しています。倒して奪い取るもよし、我関せずと探索に励むもよしです。金のメダルの所持者の位置は常時マップに表示されています。最後まで頑張って下さい』

 

幾つかの豪華な指輪や腕輪などの装飾品、大剣や弓などの武器などの画像が次々に表示されていく、全てこれから行くフィールドの何処かに眠っているのだ。

 

勿論大盾もあった。

 

というか、俺の事か? 俺以外にも金メダルを持ってるプレイヤーがいるのか? 俺だけ表示されるのは嫌だぞ?

 

『死亡しても落とすのはメダルだけです。装備品は落とさないので安心して下さい。メダルを落とすのはプレイヤーに倒された時のみです。安心して探索に励んで下さい。死亡後はそれぞれの転移時初期地点にリスポーンします』

 

取り敢えずは一安心である。

 

装備品を奪われないのならばある程度は気楽に出来ることだろう。

 

探索も全力を出せる。

 

『今回の期間はゲーム内期間で一週間、ゲーム外での時間経過は時間を加速させているためたった二時間です。フィールド内にはモンスターの来ないポイントが幾つもありますのでそれを活用して下さい』

 

つまり、ゲーム内で寝泊まりして一週間過ごしても現実では二時間しか経っていないと言う訳だ。

 

「なんていうか不思議な感じだね」

 

「一度ログアウトするとイベント再参加が出来なくなるって、だから最後まで参加するにはログアウトは出来ないね。後は・・・・・パーティーメンバーは同じ場所に転移するってさ」

 

俺達はステータス画面に流れてくるのを目で見て、相談した結果ログアウトはしない方向に決めた。

 

「という事は、これからここにいる皆とは敵同士に成り得るかもしれないってことか」

 

「私は参加しないわ」

 

「うん、戦闘は得意じゃないからね」

 

イズとセレーネはイベント参加を拒否か。それも自由だろう。ペイン達は? と愚問な質問を飛ばした。

 

「装備の方はともかく、メダルを集めりゃあスキルが手に入るってんなら参加しない手はないな」

 

「この機にお前を倒せそうなスキルを見つけておきたいし」

 

「魔法使いが欲しそうなスキルもあるかもだから参加するよ」

 

「もしどこかで会ったら勝負しようハーデス」

 

「うーん、もう一人のお前等と化する初心者と勝負は骨が折れそうだ」

 

いや、お前の方が骨が折れる!! とドラグとドレッドに突っ込まれてしまうお約束を頂戴してしまった。すると、メールが届いた。

 

「そんならさっさとパートナーを見つけてこいよ」

 

「ハーデスは?」

 

「向こうからお誘いを受けた。了承のお返しをしたからここに来るだろう」

 

それは誰なのか、イッチョウ達は「あの子か」と言った表情をしているので察したようだ。

 

 

十数分後。

 

 

「一緒にイベントを参加してくれてありがとうございます!」

 

「よろしくなイカル。メダルをたくさん集めて、この機に新しいスキルを手に入れよう」

 

「はい!」

 

パートナー探しに出かけたイッチョウ達と入れ替わるよう、俺のプレイとオルトに憧れて第二陣のプレイヤーとしてNWOにログインした金髪の少女イカルと相棒のエスク。そして俺が連れて行こうとする従魔は・・・・・。

 

「ペルカ。一緒に行こうか」

 

「ペペン!」

 

戦えはしないが、これから送られる先に水場がないとは思えないので、水中行動が出来る従魔を連れてくことに決めると、敬礼で返してきた。

 

「可愛い」

 

イカルと気持ちが一つになった。イベント開始までまだ時間があるから、イカルにはオルト達と遊んでもらい俺は木彫りを専念することにした。次はエンゼとルーデルだな。

 

 

一時間後。

 

 

俺達の体は光となり、ホームから消えていった。

 

「着いたみたいですね」

 

足に伝わる砂の感触し・・・・・そして。

 

「・・・・・海だな」

 

「海です・・・・・」

 

俺達にパラダイスをさせようとしているのか定かじゃないが、見慣れた景色をしばらくボーと眺めてた。その先に見たものは真っ白い砂浜と、雄大な海だった。透き通った海の底には色とりどりの魚達が楽しそうに泳ぎ、美しい珊瑚が花が咲いているかのように海の中を彩っていた。遠くには一つの小島が見える。

 

「少しこの辺りを調べてみよう」

 

「わかりました」

 

イカルは森側、俺は一体しか連れてこなかったペルカと海側へ手分けして探すことにした。

 

「一時間後、集合はここで。エスク、イカルを頼むな」

 

「はい!」

 

「ムー」

 

「行くぞメダル探しに」

 

「ペペンッ!」

 

海の中へ早く入りたいと背中を押すペルカに催促されながら、海中探索を始めて直ぐに色鮮やかな海底のカーテンの光景を目にする。本物と遜色のないゲームの世界だとは思えない作りにしばし観光気分で遊泳をしていたら、群れで泳ぐ魚の体に銀メダルがくっついていたのを見逃さなかった。ペルカに指示すると、大空を飛ぶ鳥のように海中を俊敏に泳ぎ、波に揺さぶられることなく嘴で鋭く突く。

 

俺も俺でそんなペルカ以外に宝石のような魚達に見とれていた。

 

それ程に綺麗な光景だったのだ。

 

しかし、ずっと見とれている訳にもいかない。珊瑚の隙間や海底の砂の中を調べていく。スキルが無ければかなりの時間がかかる作業だが、俺のスキル構成ならば素早く、手際よくやる事が出来る。

 

息継ぎする限界ギリギリまで潜る必要も無いため、珊瑚の隙間が深くまで続いている場所がいくつかあり、先程のメダルもそこにあったの発見することが出来たのだ。

 

ペルカとそこを重点的に探索する。メダルや装備があるとすればそういう場所だからだ。浅瀬はこれから探索するから、深い部分を見つけて探る。

 

その結果、もう一枚メダルを見つける事が出来た。

 

「ふぅ・・・・・後は・・・あの島かな? 行くぞペルカ」

 

「ペン!」

 

砂浜から見えてた島に向かって泳いでいく。砂浜から大体百メートルの距離に位置するその島は小さく、中央に地下へと続く階段がある以外はヤシの木が一本生えているだけだ。

 

「取り敢えず・・・行ってみよう」

 

「ペン」

 

俺は慎重に階段を下りていく。百段ほど下った先にあったのは普通の木製の扉だった。

 

封印されているようでも無ければ、鍵もかかっていない。慎重にそれを開ける。

 

そして、中の光景に驚いた。中は綺麗な半円のドームだった。

 

そしてその中央には。

 

古い祠が魔法陣と共に静かに佇んでいた。

 

 

一時間後。 

 

 

砂浜に戻ったら二人がいて、結果は無しと残念そうに二人は肩を落としてた。こっちは二枚手に入ったメダルをイカルに譲渡する。

 

「い、いいんですか?」

 

「十枚集めないとスキルが手に入らないからな。俺はもう持ってるし、イカルの分を集めなきゃな」

 

「あ、ありがとうございます!」

 

「ムー」

 

エスクもお辞儀する。眠たげな目をしてるが、確り者だな。二枚のメダルを見て喜ぶイカルを見つつ、小島の件を話しかけた。

 

「イカル。小島に・・・・・」

 

「【ウィンドカッター】!」

 

「ペギァー!?」

 

突然の奇襲がペルカに直撃して、進化前の低いHP故に一撃で倒されてしまったことに気づいた時は、ポリゴンと化したペルカが消えかけ時だった。

 

「あっ、ペルカちゃんが!」

 

うちのペルカを倒した者へ顔を向け、臨戦態勢の構えをした時。

 

「バ、バカヤロウ!? なんでいきなり攻撃したんだお前ぇ!! 相手は白銀さんだぞ、しかもペンギンを倒しちまいやがってぇー!?」

 

「え、だってプレイヤーを攻撃するなと言われてないし」

 

「相手を選べ!? 白銀さんがどんなプレイヤーなのか知らないのか!」

 

「はい。知っていても攻撃しますよ」

 

「ノォオオオオ!!」

 

うーん、ちぐはぐな二人組のコントを見てもしょうがない。

 

「まぁ、そこの新人君の言う通りだ。相手が誰であれ、戦う姿勢はとても大事だ。メダルの争奪戦と探索が趣向の今回のイベントに、そいつは間違ってはないぞ?」

 

「ほら、あの人もああ言ってるじゃないですか」

 

「・・・・・でも、俺のことを知らないのは無知じゃないかな? 自慢じゃないが従魔関連でそれなりに名を挙げてるぞ」

 

顔を青ざめる知らない上級プレイヤーには悪いが、落とし前を付けさせてもらいたい。

 

「【召喚】」

 

初めてバシリスクを喚び出す。長く巨大な蛇が身体で俺達を守るようにどくろを巻き、前方の二人に威嚇の声を発する。

 

「は、白銀さん・・・・・こいつのメダルをあげるんで許してもらえないですか?」

 

「俺は怒ってないぞ。単に攻撃されたから攻撃する。その程度の感じで俺も攻撃するだけだ。安心しろ、これは勝負だ」

 

「安心できねぇー!?」

 

「攻撃しますよ! いいですよねっ!?」

 

「や、やったらぁー!」

 

もう自棄になったプレイヤーの言動で、本格的に戦い出す。ま、バシリスクが一人を丸のみにして倒し。

 

「【ダブルスラッシュ】!!」

 

「わわっ」

 

瞬時で二連撃を与えるスキルに防御力だけで受け止めるイカルに絶句する初心者の剣士。

 

「ダメージ、0? 嘘だろ、どんだけ防御力上げてるんだお前!」

 

「ぼ、防御力特化だから高いよ!」

 

「なら攻撃力は0ってことだ!」

 

確かにそうだけどそれを補うのがスキルってことで。

 

「イカル、俺のスキルがお前に反映しているからそれを使って見ろ」

 

「あ、わかりました。えーと・・・・・【機械神】?」

 

おっとぉ、いきなりそれか。

 

「【全武装展開】」

 

静かに呟いたイカル、その身に纏う再生する黒い装備。

 

それらから、夜空を切り取ったような黒い武装が次々と展開される。

 

大盾を持つ腕の部分からガシャガシャと音を立てて銃が現れ、背中からも木の枝が伸びるようにしてイカルの体と比較すると大きすぎる砲身が空に向けられる。

 

短刀を持つ方の腕は同様の黒い刃が伸ばされ、それらを支える足腰は機械を纏い強靭になった。

 

胸から腹部にかけては大小様々な歯車が回転しており、顔の右半分から首にかけては歯車や配線が複雑に覆っていた。

 

「はっ!? な、なんだよそれ!!」

 

「わ、わわっ!?な、なにこれっ!?」

 

驚いて全身を覆う武装を眺めていたイカルだったが、やらなければいけないことを思い出す。

 

静かに呟き武装全てを向けた。

 

「【攻撃開始】」

 

爆音と共に全ての武装が火を吹く。あれらの武装は装備に見えるが装備ではない。同じスキルを持っている俺だから分かる。代償により威力が決まっているスキルである。

つまりそこにイカルの【STR】値は一切関与しないのだ。ただ、一発一発の威力はそこまで高くなく連擊に偏った武装だった。そう、今回のところはな。

 

「・・・・・」

 

見たことのない、ド派手過ぎるスキルは初心者プレイヤーを凌駕する。というか、まだ8日間しかプレイしていない相手に【機械神】は強すぎたのか、恐るべし・・・・・。あっさり勝負は終わり、メダル一枚手に入ったのだ。

 

「あっという間に、勝っちゃいました・・・・・」

 

「同じ時期のプレイヤー同士だったらこんなものだろうさ。それに【毒竜】を使おうとしても【毒無効】のスキル持ちの相手だったらこんな簡単には終わらないぞ」

 

「そうですよね。やっぱり死神ハーデスさんを知ってる人は対策を考えてますよね」

 

そ、だからこいつみたいに相手が知らないスキルを手に入れる必要があるのさ。

 

「バシリスク、短い間けどありがとうな。また頼むぞ」

 

「シャアアア」

 

岩蛇と子供がいる住み処へと戻りに行ったバシリスクを見送ったあと、改めて小島のことを教える。

 

「どうする? どこかの場所に転移するか、ボスと戦うことになるかだけど、イカルはどうしたいか教えてくれ」

 

「えっと・・・・・まだ、探索してないところがありますから、全部は無理ですけど、1日はこの辺りを探しませんか? ・・・・・という感じでもいいですか?」

 

「おう、勿論だ。あーペルカが初日でやられるとは。今頃しょんぼりしてるだろうな。帰ったら慰めなきゃ」

 

「私もしますね」

 

「ムー」

 

 

今度は三人で探索することにして俺達がさらに歩くこと二時間。

長い間横にあり続けた森は姿を消して、苔むし、古びた石レンガで出来た廃墟が右手に姿を現した。見るからに何かがありそうな地形だ。

廃墟から伸びた石レンガの道は二人の前を横切って海の方に突き出た崖の先端にまで続いている。そしてそこには幾つかの石が突き立ち、中央にある台座を囲んでいた。

 

「何かありますよね?」

 

「既に探索されてなければな」

 

三人で廃墟の方に足を踏み入れる。ボロボロになった建造物の中を片っ端から探索していくが何も見つからない。それでも隠し部屋などがあるかもしれないと探索を続けていた俺達に遂に変化が訪れた。

 

「あ、本があります」

 

無造作に崩れた石レンガに放置されてる古びた本を発見した。イカルが手に取って大きな石レンガに腰掛けて本を覗きこむ。

 

ボロボロになっていてどのページもまともに読み取ることは出来なかったが、パラパラと捲っていると途中に一ページだけ、読み取れる部分を見つけた。

 

「【古ノ心臓】、湧水ニ導カレ、淡イ光ノ中、ソノ姿ヲ現サン。勇敢ナル者ヨ、魔ヲ払イテ、青ク静カナ海へ・・・・・どういうことでしょうか?」

 

「【古ノ心臓】に湧水が関わってて・・・・・それがあればダンジョンに行けるのか? 戦闘もありそうな感じ」

 

「・・・・・湧水っていうくらいだし・・・・・噴水とか?」

 

俺達三人が探索した結果廃墟群には四つの噴水があった。廃墟の中央に大きな噴水があり、そこから離れた所に小さな噴水がある。噴水の頂点は菱形の赤い水晶で出来ていて綺麗だった。といっても水の気配はなく枯れてしまっている。

 

「取り敢えず真ん中の大噴水で試してみようか」

 

「はい」

 

少し歩いて大噴水にたどり着いた。

 

「水をこの中に入れるんでしょうかね?」

 

「やってみようか。【古代魚】」

 

一つの受け皿を満たしていく。それと共に噴水が淡く青色に輝き始めた。

 

「おおっ!」

 

「どうだ?」

 

しかし、その光は次第に薄れていく。受け皿に溜まっていた水も噴水に吸い込まれるようにして消えていった。耳を澄ましてみるものの、何かが作動したような音はしなかった。

 

「んー・・・・・何も起こらない?」

 

「・・・そうみたいですね。でも、この噴水は何かあると思いますよ」

 

「うん、俺もそう思う。他の噴水でも試してみよう」

 

意見が一致したので他の噴水でも同じようにしてみたところ、どの噴水も淡く輝いたが、それ以上の変化は起こらなかった。

 

「一つだけ駄目なら四つ一緒に、ってことですかね」

 

「同時か・・・・・。・・・・・イカル、絶対に水じゃないと駄目ってことあると思うか?」

 

「え? えっと・・・すみません。わかりません」

 

「だよな。それじゃあ、物は試しにということでやってみようか」

 

 

 

「【毒竜】!」

 

そう、一人だけ駄目なら二人で・・・と、イカルにも水と言う液体がある。

ただしそれは、頭が3つある毒竜が放つ毒液だ。

それぞれが別の小さな噴水に向かっていき受け皿ごとどっぷりと飲み込んだ。

水でないと駄目なのかは俺達には分からなかった上に、同時かどうかにも確信は無かった。しかし、それでも試さなければならなかったのである。俺も【古代魚】で残りの受け皿に水で満たした時だった。

 

「うわっ!?」

 

「眩しいっ」

 

三つの噴水から眩い光が大噴水に向かって伸びてくる。

大噴水の光はどんどんと強くなり、赤い結晶の部分が宙に舞い上がる。

その結晶は月明かりを集めて光を増すと赤い光を振りまいて砕けた。

同時に俺達が光の粒になって消えていく。

 

「し、死神ハーデスさ~ん・・・・・」

 

弱弱しく不安そうな呼び声が聞こえる。視界に入る目を瞑ったまま、両手を突き出してフラフラと宙を彷徨わせるイカルの姿。その小さな手を握り、目を開けていいぞと言えば恐る恐ると両の眼を開けて俺を見てホッとし、次に周囲を見回す。

俺達がいる場所、というより中は半円状のドームで明るい。直径五十メートルはありそう。天井までも高いし明るい光の原因は海だった。

 

そこだけは時が進んでいないかのように明るい真昼の海。

魚が楽しげに泳ぎポコポコという泡の音が聞こえる。

暗い深海を跳ね除けるように広がる海は不安になったイカルの気分を変えてくれた。

そして、その海の中を貫くように珊瑚で出来た階段が伸びている。

 

その先には珊瑚に彩られた大きな扉がある。何度も見てきたボス部屋の扉で間違いなかった。

 

「【魔ヲ払イテ】か・・・・・戦闘準備は出来てる?」

 

「はい! いつでも!」

 

イカルは大盾を構えて準備万端だとアピールする。俺は勢いよく扉を開いた。

二人で部屋に飛び込む。俺とイカルは大盾を構える。エスクもクワを構える。

 

「・・・・・上から来るぞ!」

 

「はい!」

 

バシャンと大きな音を立てて天井から何本かの触手が伸びてくる。

 

俺達にはそれはイカの触手に見えた。いや、実際そうだった。水の天井を泳ぐ巨大イカが触手だけを伸ばして攻撃してきていたのだ。

 

「大きい!?」

 

「確かに。ははっ、食べ応えありそうだな!」

 

驚く二人を他所に巨大イカは攻撃してくる。

 

イカルの身長ほどもある触手が彼女に向かって振り抜かれた。

 

「【毒―――」

 

「待てイカル!」

 

「ふえっ!?」

 

エスクと一緒にイカルを腕で抱えて遅れて襲ってきた触手から守った。

 

「【毒竜】はエスクの邪魔になる。床に散らばった毒液がしばらく残って、触れると仲間にもダメージを与えてしまうフレンドリーファイアになる。俺みたいに【毒無効】のスキルを持っているプレイヤーなら問題ないが、エスクは持ってないから毒のダメージを受けて死に戻りしてしまうぞ。毒以外の、HPが消費しないスキルを使え」

 

「わ、わかりました。ありがとうございます! 【機械神】!」

 

「イカ本体を狙え。それと【身捧ぐ慈愛】だけは使わないでくれ。イカルが死に戻りしてしまうのHPを消費するスキルだから」

 

迫る触手に悪食でイカの触手を飲み込んだが、遠くに見えるイカのHPバーは減っていない。体力が多いのではない。全く効いていないのである。

 

「やっぱり本体に攻撃しないと駄目か!」

 

「じゃあ、当てますっ!」

 

「俺も直接本体狙いで行くか!」

 

俺達の頭上で泳ぐイカの姿をチラッと確認して、二人でそれぞれ行動する。イカの方はそんなことは気にも留めずに安全圏から二人に襲いかかろうとしていたのだった。

 

「【覇獣】」

 

巨大な獣に変身し、あっちが出来るならこっちも出来るだろうと海の中へズブリ、と潜り込んだ。

 

 

イカルside

 

 

「す、すごい・・・・・」

 

死神ハーデスさんのスキルで攻撃してる私よりもイカに直接攻撃してるあの人に集中してて、大きなライオンとイカの戦いをみてる気分になる。身体にイカの足が巻き付かれても、HPをどんどん減らしていく死神ハーデスさんの足手纏いにならないよう攻撃を続けていく。

 

「わっ、魚が・・・・・」

 

「ムー」

 

イカのHPが半分以下になった頃、空中に魔方陣? みたいなところからたくさんの魚が出てきた。海の中じゃないのに空中で泳いでるところを見て、思わず攻撃を止めて眺めた。

 

バシャッ!

 

「キャッ!」

 

「ムー!?」

 

魚から水みたいなのを掛けられた! でも、何ともない? ダメージも無いみたいだけどなんだろ?

 

「ム、ム~」

 

「あ、エスク?」

 

なんだか、何時もより遅く動いてるエスクちゃんが一番魚に水を掛けられちゃってる。砲撃で倒しても魔方陣から魚が増え続け、また水を掛けられた。

 

「リアルじゃなくてよかったかも」

 

服が濡れたら身体に張り付いて気持ち悪いし! それに私の身体が・・・・・。

 

「ううう、もう、いい加減にしてー!」

 

死神ハーデスさんのスキルで、水を掛ける魚に攻撃! エスクにも水を掛けないでぇー!

 

 

 

HPが一割になった途端。イカが赤いエフェクトを纏い始め、俺から離れて、イカル達のところへ突進を仕掛けた。まだ初心者の、彼女が躱せるはずもなく、イカの突撃をもろに食らってHPが一割以下になってしまった。俺の【不屈の守護者】のスキルが発動したか。安心するまもなく、また反対側から突進するイカはエスクを狙い定めて大きな身体でぶつかろうとした。

 

「だ、だめー!」

 

身を呈してエスクを庇い、イカの攻撃を受けるイカル。・・・・・死に戻りしない? あ、もしかして? 空気あるフィールドに戻り【カバームーブ】で二人のところへ瞬間移動して寄ると同時にイカも突撃してきた。

 

「【生命の樹】【身捧ぐ慈愛】!」

 

地面から出てきた巨大な大樹の光でイカルのHPを回復、天使の姿になった俺を中心に光が広がって、俺の防御力がイカルにもカバーするようにした。

 

「イカル、【悪食】だ!」

 

「はい!」

 

向こうから突っ込んでくるイカに対し、二人で手を突きだして飛び出す。二人分の【悪食】は・・・・・胴体を大穴空けるほどの威力で、イカは俺達の背後でポリゴンと化しながら爆発したのだった。



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第二陣記念イベント一日目

イカを倒してすぐ目の前には深い青色の魔法陣が現れた。

 

「乗る?」

 

「報酬は?」

 

「んー・・・・・あそこに乗ればあるかもしれないが、海の中探してみるか?」

 

「うーん・・・いいえ、行ってみましょう。なかったらなかったで諦めます」

 

イカルの考えの同意した俺は、俺達はまさか魔方陣に乗って転移先が水中だということを予想すらしていなかった。

 

「い、息が!ど、どうしましょう!?」

 

「ん、ん? 息が出来なければ喋れもしないぞ」

 

「え!? あ、あれ? 本当だ・・・・・」

 

言葉も問題なく発することが出来る。水の感触はあるものの窒息するようなことは無いようだ。

 

「不思議な場所・・・・・」

 

「ここが【青ク静カナ海】?」

 

「ムー・・・・・」

 

イカルの言うように俺達のいる場所は静かだった。二人で黙ると泡の音だけが断続的に聞こえる青い海。

海の底にいるようで、それでいて水面に近いようで。今にも眠ってしまいそうになるような、落ち着く青に支配されたその空間には、珊瑚に包まれるようにして青い宝箱が置いてあった。

 

「開けるぞ」

 

中にはメダルが二枚と巻物が二つ。イカルはメダルをしまい込む。俺は巻物を手に取って情報を見る。

 

「それはなんです?」

 

「スキルを取得できる巻物だ。NPCの店にも販売されているぞ? で、これには【古代ノ海】水系のスキルを持っていることで取得出来て・・・・・さっきの青い光を纏った魚を呼び出せるってさ」

 

俺の言うさっきの魚とはイカとの戦いでイカルが嫌という程見てきたあの魚達だ。

 

俺が読み上げたところ、イカル達が浴びされ続けたあの液体にはやはり【AGI 10%減】の能力が備わっていた。イカルにとってはあまり使い所のないスキルではあったが、俺ならばより戦略の幅を広げられるだろう。

 

「・・・・・・【毒竜】じゃ駄目です?」

 

「流石に水系ではないと思う」

 

「ですよね」

 

一応試してみたもののイカルは習得することが出来なかった。イカルはメダルを二枚受け取らせる代わりに俺の知り合いに渡してほしいと巻物を渡して来た。取り敢えず今は保留にしてインベントリに巻物をしまい込む。

 

宝箱を閉めるとすぐに地上へ戻らずはこの光景を見たく寝転がった。俺達を包み込む静かな海は、今までで最も心地よい寝床になった。

 

「記念にスクショでも撮ろっと」

 

「あ、いいですね。海の中にこうしていられるのは今しかできないですから」

 

「エスクには待ってもらうことになるが、【海王】っていうスキルは潜水時に溺死しなくなる効果だから、こうしてのんびりすることができるぞ?」

 

「本当ですか? スキルって色々あるんですねー」

 

そうだな。

 

 

 

 

 

あれから小休止と、海の中で過ごしてた俺達は、魔法陣に乗って転移した先はあの崖の上だった。

振り返ると廃墟が見える。

 

「よし、じゃあ砂浜で潮干狩りもといメダル狩りを一時間だけしてみよう。もしかしたら埋まってる可能性がある」

 

「わかりました!」

 

「ムー」

 

俺の提案に賛同してくれる二人と再び砂浜へ戻る。途中他のプレイヤーと遭遇することはなくとんぼ返りした砂浜に―――。

 

「それからイカル、メダル探しつつ俺のスキルを感覚で覚えて欲しいからここで使ってみてくれ」

 

「はい、じゃあ【大嵐】!」

 

砂を大量に巻き上げる大嵐。太陽の光で反射した何かを見つけて【飛翔】で空中に飛び上がり掴み取った。

メダルゲット。ここだけで六枚手に入って残り三枚で集まるな十枚。イカルが俺のスキルを把握すること十数分。

 

 

両腕で卵を抱えるイカルと森の方面に足を運びつつ、草の根を掻き分けてメダルを探しているものの発見には至らなかった。

 

「見つからないですねー」

 

「どっちもな」

 

プレイヤーも見つからない。俺達を転送したこのフィールドは思った以上に広いのか? あるいはすぐ傍にいて、俺だと知って逃げられてしまっているか・・・・・ふむ。

 

「イカル、ちょっと俺は姿を変える」

 

「え? はい」

 

「【皇蛇】」

 

そのスキルを発動すれば俺はサンゴの角を生やし、腰に異形の尾を生やした麗しい女性に性転換した。装備も外して初心者用の短刀と大盾に持ち帰る。

 

「し、死神ハーデスさんが女の人になった!」

 

「使わせなかったけど【皇蛇】ってそういうスキルなんだ。イカルが使うとどうなるか分からないけれど」

 

「声も女の人だ・・・・・」

 

ふふん、見た目だけなら俺が死神ハーデス/白銀さんともわかるまい。知っているイズとセレーネが参加していない以上、正体がバレることもない。イッチョウ達ならイカル達の存在で察するだろうが、会うまでは誰もが俺であることをすぐに見破れまい。

 

「しばらく口調を変えてこの姿でいるからよろしくね?」

 

「は、はい・・・えと、綺麗です。私も使ってもいいですか?」

 

気になるから許す。イカルも【皇蛇】を使うと俺と似た姿に変身した。

 

「おおー、そうなるのか。私に性転換せず俺と見た目が似るんだ。凄く可愛い」

 

「か、可愛い・・・・・! あの、死神ハーデスさんもとても綺麗です!」

 

「ありがとう。それと、私のことはお姉ちゃんって呼んでくれる? 私のこと白銀さんってバレないようにしたいの」

 

「わかりました。お姉ちゃん!」

 

うん、可愛い。ハグしちゃおう。ギューッ。

 

「はわわ・・・・・///(死神ハーデスさんのや、柔らかいよぉっ・・・!)」

 

 

 

 

とあるプレイヤーの記述。

 

 

金メダルの所持のプレイヤーと距離が近かったため、初心者のプレイヤーとNWOをやり始めてから組んでいた四人の仲間と森の中を彷徨っていたら、凄く綺麗な美女と美少女のプレイヤーがいてユニークのノームがいた。

 

「ユニークのノーム? 白銀さんか?」

 

「白銀さんは男だろ。きっと第二陣として後からテイマーを選んで得たノームの筈だ。」

 

「いやでも、白銀さんが装備してるのと同じだぞ? 白銀さん以外あの装備を手に入れたプレイヤーは見たことねぇって。もしかしてスキルか何かで性転換したか、キャラクターの姿を変更できる課金アイテムでイメチェンしたのかも」

 

「だとしても、凄く綺麗で可愛いな」

 

「あの姿はまだ未発見な海人族か? 白銀さん転生したのか? あとで情報を流すつもりだ披露してるのかな。サスシロだぜ」

 

「情報を公開したがらないプレイヤーはいるからなぁ。くそ、片方が男でも女同士の睦まじい所は本当に絵になる。ちょっと羨ましい・・・・・」

 

「金メダル持ってるのはあのプレイヤー達のどっちかだ? って白銀さんだよな十中八九よ」

 

「戦うんですか? しないんですか?」

 

プレイヤー達は襲うか襲わないか、判断をしかねた。金メダルの所持者はおそらく白銀さんこと死神ハーデスだ。簡単に倒せる相手ではないとも話し合った末・・・戦闘を回避する方針に決めた。

 

しかし、そう問屋は卸させてくれなかった。

 

「こんにちは」

 

っ!?

 

いつの間にか綺麗な初心者の女性がこっちに気付いたのか話しかけて来た。その後ろから白銀さんが来ている。ヤバイッ、やられる!

 

「は、白銀さん。悪いけど俺達を見逃してくれないか? イベントは始まったばかりだから初日から負けたくないんだ」

 

「え、えっと・・・私、白銀さんではありませんっ」

 

「え、冗談だろ。その装備とユニーク個体のノームが特徴的なプレイヤーは白銀さん以外いないって」

 

「白銀さんのオルトちゃんと私のエスクは似てるけど違いますよ! ほら、私のエスクの目元を見てください!」

 

「ムー?」

 

言われてもユニークじゃないノームでも皆は同じ顔に見える俺は、ジリジリと仲間と距離を置く。白銀さんと戦いを避けたい一心だ。そこで白銀さんに女性が助け船をだしてきた。

 

「あの、イカルちゃんは本当に白銀さんではありませんよ? 海の方でこの子と同じ装備をしていた銀髪の男の人なら見かけましたが。初心者の人を抱え、海の上を笑いながら走って」

 

「・・・・・本当に出来そうだから判断が迷うっ」

 

「じゃあ、本当に白銀さんじゃないならその装備は?」

 

仲間の言葉に俺も何度も頷く。白銀さん? は素直に答えてくれた。

 

「死神ハーデスさんから教えてもらいました。単独で毒竜を初めてダンジョンに挑戦して初めてボスを倒したら、同じユニーク装備が2つまでもらえるって」

 

「「「「「なっ!?」」」」」

 

そんな情報、白銀さんは隠し持っていたのか!? だとしたらこの子が同じ装備をしていることも納得できる話だ!

 

「イカルちゃん。、それって教えても大丈夫なの?」

 

「え、あう、ダメでしたか? し、お姉ちゃん・・・・・」

 

「約束をしていなかったのなら仕方のないことだと思うけれど、教えても大丈夫なことと、教えてはいけない話を自分でわからないと、迷惑をかけちゃうかもしれないわよ?」

 

「ううう・・・・・ごめんなさい」

 

・・・・・恐らく問題ない。仲間にこのプレイヤー達はどちらも白銀さんではない、仲間と視線でそう交わし合い頷いた。

 

「あーイカルちゃん、だっけ? 間違えて悪かったな。だけど、相手が違うならこれも本当に悪いけどメダルほしいから倒させてもらうよ」

 

「白銀さんから貰った金のメダルもですか? 初心者の私達のために十六枚も譲ってくれたのに」

 

「あの人はそんなこともしていたのかよ。優しすぎるだろ!」

 

それが本当だということを証明するようにインベントリから金メダル一枚、銀メダル六枚を取り出して見せつけて来る。くそ、心が痛いっ・・・・・! 光結晶と闇結晶を数百万分の数を買って他のプレイヤーに無償で配布してくれた白銀さんの優しさ受けた一人として、俺達と同じように恩を受けた彼女達から奪おうとする俺達が、他のプレイヤーに知られたら炎上・・・叩かれないか?

 

「そんなに集めていて初心者の二人に渡すなんて、変なプレイヤーもいたんですね。でも、奪われちゃ間抜けもいいところだ。これはゲームだから恨まないでね【ダークネスボール】!」

 

俺の不安な気持ちを知らずな初心者のプレイヤーがスキルを使った。俺達が戦う姿勢に入ったから戦いを始めるんだと認識したからだ。女性が【ダークネスボール】を大盾で受けた瞬間。更に近くに寄って来たイカルちゃんが・・・・・。

 

「【エクスプロージョン】ッ!!」

 

「なっ!?」

 

白銀さんしか確認できてない爆発のスキルが零距離で放たれて、迎撃体勢してなかった俺や仲間のHPがぶっ飛んだ。強すぎだろ【エクスプロージョン】って!? いつか俺も白銀さんから教えてもらいたい!

 

 

 

 

「見逃すつもりが見事に星空となってしまったわね」

 

「本当に気づかなかったですね?」

 

「これはこれで都合がいいわ。死神ハーデスだって疑ったプレイヤーを見たでしょう? 私だったら逃げようとするからメダルを手に入れるためにもしばらく姿はこのままでね?」

 

「はい、お姉ちゃん!」

 

 

 

 

その日、俺達の快進撃? は続いた。リックを召喚してアイテムを探してもらい森の中で一枚手に入れることが出来た。時間をかけて森の中を抜けた先は広大な砂漠で、オアシスがないか調べたら砂中に引きずり込む巨大なアリジゴクのモンスターに遭遇。

 

「あ、甘いクリームの味がするわ」

 

「クリーム・・・・・」

 

【パラライズシャウト】で麻痺状態にしたままHPドレインをする。アリジゴクの味が気になったか、カプリとイカルもHPドレインをして、味が美味しかったのか無言でモンスターを食べる行為に入った。

 

『スキル【渦流】を取得しました』

 

「わっ、新しいスキルが手に入りました!」

 

「へぇ、離れた対象を引き寄せるスキルみたいね? これなら逃げようとするプレイヤーとモンスターを逃がさないようにできるわ」

 

「遅くて追いかけられない私達にとっていいスキルですね!」

 

続いて景色と同化するモンスターと遭遇して見えない相手との戦いには四苦八苦したもの。

 

『スキル【色彩化粧】を取得しました』

 

「何とも言えない味、不味くなかったけれど」

 

「味がない料理を食べた気分でした。【色彩化粧】って・・・スキルで攻撃する瞬間まで周囲の風景に溶け込むスキルみたいですよ?」

 

「いわゆる透明人間っぽくなるわけね。【色彩化粧】」

 

「わっ、お姉ちゃんの姿が見えなくなった! あっ、でも・・・そこにお姉ちゃんがいると意識してみると、透明なのに身体の輪郭が判っちゃいます」

 

「じゃあ遠くからだと見えなくなるのかもね。だとしてもいいスキルを手に入れたわ。これでイカルもちゃんも不意打ちできるし」

 

なるほど! と納得したイカルは自分なりに戦い方を頭の中で考え、組み上げる様子に微笑む。

 

「身体を透明化したままエスクを持ち上げたら空飛んでいるように見えない?」

 

「あ、思います!」

 

ということで俺が実行してみると、イカルから見ると本当にエスクが一人で空を飛んでいるように見えて、スクショしても俺の姿が写っていないという方法次第では、面白いことが出来る改めて好いスキルを手に入ったと思った。

 

そして・・・・・。

 

「あ、戦闘音が聞こえる」

 

「行ってみましょう」

 

何度も砂丘を越えて進んでいると、聞こえてくるプレイヤーの気合の声と怒声にぶつかり合う金属音。餌で引き寄せられる魚みたいに【色彩化粧】で透明化になってから向かうと、プレイヤー同士が戦っている光景を目撃した。

 

「激しく戦っていますね」

 

「そうね。でもそれだけじゃないみたいよ? 他のところを見てみて」

 

辺りは砂丘が多い。なので、俺達のように姿を極力隠すようにしているプレイヤーは少なくない。うつ伏せになって漁夫の利を得ようと、静かに戦いの様子を見ているだけなプレイヤーのパーティは少なくとも3つ確認できる。

 

「他にもたくさん人がいるんですね」

 

「何千万のプレイヤーがいるから同じ場所にいるのは不思議じゃないからね。イカルちゃん、メダルを集めるチャンスだから観戦しているプレイヤーを倒しましょう」

 

「わかりました」

 

砂丘から降りて他の砂丘の影にいるプレイヤーのところへ向かい、漁夫の利を狙っているのかまだうつ伏せで見ていたパーティの背後に【飛翔】でイカルを抱えて空から奇襲する。

 

「「【悪食】」」

 

「「え―――?」」

 

三人のうち二人を撃破し、透明化が解けた俺達を呆けて見ている残りのプレイヤーに【パラライズシャウト】で麻痺状態にする。

 

「えいえい!」

 

「ぐはっ!?」

 

短刀で何度も突き刺しダメージを与える懸命なイカルの攻撃は、やっと最後の一人を倒しメダルを一枚手に入った。

 

「倒しました!」

 

「どんどん行くわよ」

 

この勢いは止めてはならない、と思ったところで戦闘音が聞こえなくなった。砂丘から顔を出すと戦っていたパーティが一つ減っていて、勝利とメダルの獲得に喜ぶパーティだけしかいなかった。そして、そんな勝利を浸っている間に別のパーティが砂丘から姿を現し、疲弊しているだろう勝ち残ったパーティに襲い掛かった。

 

「木乃伊取りが木乃伊になる場所ね」

 

「どうします?」

 

「勿論、メダルを貰いに行きましょう? イカルちゃん、【緋水晶蛇(ヨルムンガンド)】Ⅲをお願い」

 

「はいっ、【緋水晶蛇(ヨルムンガンド)】Ⅲ!」

 

緋色の巨大な水晶の蛇が二匹も砂漠に召喚されて、戦闘を始めようとしていた4パーティに向かって襲い掛かり蹂躙をする。彼等も一時共闘することにして迎撃をするが。

 

「どこから湧いて出て来たこのモンスター!?」

 

「ダメだ、ダメージが入らない!」

 

「う、うわぁああああっ!!」

 

上級者もいるのにこうも倒してしまうとは・・・・・やっぱり打撃系以外は効かないのね。

誰もいなくなり静寂に戻った砂漠。六枚のメダルが砂に埋もれてる光景を見つつ他人事のように考えた。

 

「やりました、これで二四枚ですね!」

 

「イカルちゃんの分も集まったことだし、今度はもっと集めに行きましょう? のんびりと探検しながらね」

 

「そうですねお姉ちゃん」

 

不意に青いパネルが表示された。

 

『六時間が経過しました。現在のメダル取得者のランキングを発表します。上位10位までのプレイヤーの位置が一時間マップに居場所を表示されますのでご覧ください』

 

六時間ごとに居場所を把握されるのか嫌だなぁ・・・・・。イカルとランキングを確認すると、ダントツ一位はやっぱり俺達二四枚でその次にペイン一行の九枚、更にその次はミィとかいうプレイヤーが七枚、それから下は六枚で一枚ずつ少なくとも所持している感じだ。

 

「・・・・・よかった、ペイン達とはかなり離れた位置にいるようだわ」

 

「やっぱり、強いんですよね?」

 

「最悪、イカルちゃんとエスクが死に戻りして私だけ生き残ることになるほどにね」

 

だから安心した。問題なのは居場所が把握されたことだけ。

 

「これからたくさんのプレイヤーが襲ってくるから覚悟してね」

 

「お姉ちゃんと一緒ならどんなことでも頑張りますよ」

 

やっぱり可愛い。ギュー。

 

「お、お姉ちゃ~ん・・・っ(柔らかいのが当たってるよぉ・・・・・)」

 

 

 

フレデリカside

 

 

「やっぱり、ハーデスがメダルをたくさん持ってるし。金のメダルも持っていたみたいだね」

 

「金メダルを持っていたことは予想外だったが、必ず頭ひとつ飛び出してくるのはわかってたことだなペイン」

 

「彼は何時だって俺達の予想を越える。今回もそうさ」

 

「距離はかなりあるようだし、メダル獲りに行くのは難しいか」

 

ハーデスとメダルの奪い合いを臨むつもりだったペイン達は、私も含めてメダルを奪わんとする複数のパーティーからの襲撃を受けてる最中。話し合いながら圧倒的な強さで倒していく。ぶっちゃけ、ハーデスと過ごした私達は全プレイヤーの中では頂点に立っていると言っても過言ではない。

 

「これで十枚だね。皆の分を集めるのにまだまだ足りないや」

 

「これから向こうからわんさかとくるんだから待ってればいいじゃね

 

「居場所を知られるリスクはあるがな」

 

「構わないさ。それぐらいのリスクがなくては面白味がない。―――へイン、しばらくはこの状態が続くからよろしく頼む」

 

「ペインさんとなら、どんな困難でも喜んで」

 

ペインに憧れてキャラクターを選ぶ時にペインに似せたプレイヤーのへインが、真っ直ぐ言い返した。そんな彼とペインの話し合いをしている横で私達は見ていた。

 

「ハーデスに続いてペインに憧れて見様見真似するプレイヤーがいたとはな」

 

「ま、二人目のペインにはならねぇだろうがよ。ハーデスの二人目は、いそうだが」

 

「末恐ろしい事実だぜ」

 

今頃、とんでもない成長をしてるのかも。私達も少なからずハーデスの影響を受けた事実あるし、このイベントが終わったらあの子どうなってるのやら。

 

「ハーデス? 白銀さんのことですか?」

 

「そうだ。有名だから名前ぐらい知ってるだろ」

 

「知ってます。けど俺はそこまで興味がないんで」

 

「憧れる程度でいいさ。お前がペインに憧れるようによ」

 

「いえ、白銀さんに憧れの感情がないんで」

 

きっぱりと言い切ったよこの初心者の子。ドレッドとドラグもこれに苦笑するし。

 

「ペイン、一番弟子を可愛がってやれよ」

 

「俺は弟子を取る気はないよ」

 

「ハーデスも言いそうな台詞だな」

 

「その当人はどうしてるんだかな」

 

・・・・・なんでこっちを見るのかな?

 

「なにさ」

 

「近況情報の確認をしてくれねぇかな?」

 

「自分ですればいいじゃん」

 

「夫の浮気が気にならないか?」

 

無言でドラグに杖を突き付けて【金炎の衣】の炎のエンチャントが付加された魔法攻撃をした。・・・・・でも、気になっていないのは噓になる。後でこっそり連絡してみよ。

 

 

―――その日の夜。

 

 

『神匠の黒衣』を装着して【工房召喚】で喚んだ工房の中で一夜を過ごすことにした。モンスターが入ってこない代わりにプレイヤーが入ってくるので、周囲に毒々しい罠と召喚したサイナの機械式落とし穴を張っておいてもらったそんな時。イカルが慌てだす。

 

「お、お姉ちゃん! 卵に罅が!」

 

「おー生まれるのか」

 

「ムー」

 

「キキュ?」

 

テーブルの上に置いてもらい、イカルの新しい従魔が得る瞬間を見守らせてもらった。俺の場合はピクシードラゴンのミーニィだったから、イカルはどんな従魔なんだろうか楽しみだ。罅が全体へ蜘蛛の巣のように行き届き、光が強く弾けるとともに卵も弾け飛んで―――。

 

「キィ!」

 

大きな耳としっぽ、大粒のエメラルドのように美しくつぶらな瞳が特徴的。

大きさはリックとほぼ同じで、イカルの両手に抱えられるほどに小さい。

また虎のように黄金色に焦げ茶色の縞の入った体毛が生えている。

 

「わぁー・・・・・!!」

 

「おー・・・・・」

 

これはこれはまた可愛い。なんだか大きな肉食獣を可愛く小型にした感じだ。

 

「死神ハーデスさん! 死神ハーデスさん! 可愛い、この子とっても可愛い!!」

 

「落ち着いて、落ち着いて? 興奮しちゃう程可愛いと思う気持ちはわかるけど」

 

呼び方が戻っちゃってる、戻っちゃっているから。すっごく顔を輝かせて自分の二体目の従魔を見つめるイカルがステータスを見るようになるまで5分も掛かった。

 

 

テトラ

 

LV1 種族キツネリス

 

HP 35/35

MP 50/50

 

【STR 12】

【VIT 11】

【AGI 18】

【DEX 13】

【INT 15】

 

スキル:【警戒(大)】【採集】【風魔法】【土魔法】【跳躍】【登攀】【危機感知】【巨大化】【索敵】【影分身】【分身】【毒耐性】【必殺噛みつき】

 

 

種族がキツネリス? キツネとリスを融合すればこんなモンスターになるってことか? キツネを見つけたらもう一匹リスをテイムして融合してみよっと。

 

「へぇ、【巨大化】のスキルがあるなんてラッキーだな」

 

「身体が大きくなるんですよね?」

 

「どの程度になるかはわからないが、うちの小さなドラゴンは数人ぐらい背中に乗せて飛べるぐらい身体は大きくなる。そっちはどのぐらい大きくなるかな」

 

「試してみますね。【巨大―――「待ったぁ!!」ひゃっ!?」

 

危ない! 俺の予想が正しかったらこの工房が内側から破壊されるかもしれない!

 

「外でやってくれ。中でやられると、この工房を超える大きさだったら絶対に窮屈になる。最悪壊れる可能性があるしさ」

 

「あっ、すみません・・・・・そこまで考えてませんでした」

 

しゅんと落ち込むイカルを慰めた後、外に出ようとした時だった。

 

「ウウウ~!!」

 

毛が逆立ち外に向かって牙を剥いて唸り声をあげるテトラ。

 

「テトラ、どうしたの?」

 

「マスター、センサーに無数の反応を感知しました」

 

「サイナもがそう言っているなら間違いないな。イカル、キキは敵の存在を【警戒心(大)】と【危機感知】のスキルで気付いた様子だ」

 

「そうなんですか。テトラ、ありがとうね」

 

ただ、毒沼に囲まれているこの工房にどう入ろうか考えているのかな?

 

「迎撃しますかマスター」

 

「近づいてくるならな。できないなら去るだろう。朝までいるなら話は別だが」

 

「かしこまりました、迎撃態勢を維持します」

 

ありがとう、とサイナに感謝してイカルとその晩ベッドで抱きしめ合いながら添い寝したのだった。



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第二陣記念イベント二日目

二日目の朝―――。

 

顔が胸に挟まれた形で寝ていたイカルと起床、朝食を食べながらサイナに訊ねた。

 

「まだ周囲に誰かいるか?」

 

「はい。数も30は軽く超えております」

 

「寝ている間にもうそんなにか。5、6ぐらいのパーティがいるのかな?」

 

「お、多いです・・・・・。大丈夫でしょうか?」

 

まぁ、問題ないと思う。だって、俺には殲滅できるスキルがあるし? 余裕だし?

 

「毒の領域が間もなく消失しますマスター」

 

最大メダル保有数プレイヤーの相手は俺だと分かってている相手なら、絶対レベルは50、60以上のプレイヤーだろう。今でも潰し合いをしていないのは、連携をしようとしてるのかな

 

「サイナ、リックとエスク、テトラを上空に避難させてくれ。イカル以外巻き込んでしまう」

 

「かしこまりました」

 

「イカル、準備を整えたら【色彩化粧】で一度姿を消す。別々で一塊になっている他のプレイヤーの傍に近づいて奇襲しよう。攻撃は自分の判断でしてくれ。ただし派手に攻撃してくれよ?」

 

「わかりました、お姉ちゃん」

 

「それと、こういうこともしててくれ」

 

俺はイカルにあることを告げた―――。

 

 

とあるプレイヤーの話。

 

20枚以上のメダルを持つプレイヤー、白銀さんと呼ばれている奴が張っただろう毒の結界がポリゴンと化して消えていくのを見届けたその後、古びた家屋がメイド服を着た女がノームとリス、見たことのないモンスターを抱えて空へ飛んで行った。

 

「逃げたか!」

 

「いや今のは違う。白銀さんのドールだ」

 

「でも、肝心の奴が見当たらないぞ」

 

毒耐性がないため毒が消えるのを待ちに待った俺達は、相手が相手なために周囲を警戒しながら探す。俺達と同じ考えで集まって来た他のプレイヤー達も、山分けをする条件で共闘してくれる。レイド戦ができる数まで膨れ上がってしまったが、白銀さんに対して優秀な功績を残したパーティには10枚のメダルを得る決まりをしたから不満はない筈だ。

 

「・・・・・静かすぎる。本当にいないのか?」

 

「いやいる筈だ。マップ上じゃあ確かにここから離れていない」

 

念のために俺も確認してみるが、金のメダルを持つ所有者だけ常時居場所を把握できるようになっているからすぐにわかる。だから俺から見ても白銀さんの居場所は俺達がいる場所とほぼ同じ位置で・・・・・。

 

「うん?」

 

何となくマップの画面を拡大続けた。最大にすると金メダルのマーカーがゆっくりと動いて、俺達のマーカーの目の前に止まった・・・・・。

 

「目の前?」

 

家屋が消えた場所へ視線を向けたその直後―――。黒い鎧を着こんで金髪の少女が何もない所から突然現れだした。

 

「【エクスプロージョン】!」

 

「なっ!?」

 

回避も防御もする暇もなく。目の前が突然と暗転した。急な事態に何がどうなってしまったのか分からず、俺は・・・俺達は、最初に転移された場所へ送り戻されたあともしばらく唖然としていた。

 

 

 

また別のプレイヤーの話。

 

「現れたぞ! 白銀・・・さん?」

 

「え、女の子・・・・・? それに何だあの姿・・・・・」

 

同じ装備をしていた相手が違う性別のプレイヤーだったことに困惑する。どうなっている? 髪の色も顔も、性別とまったく違うじゃないか。バグか?

 

「えっと、あの、白銀さんですよね?」

 

「違います。私はイカルです」

 

「でも、その鎧は白銀さんが装備しているのと同じだし・・・・・」

 

「見た目だけ同じ装備ならこのゲームにならたくさんあるんじゃないですか?」

 

「・・・・・まぁ、確かにそうだけど」

 

唯一無二の装備はほぼ無いと思うが・・・・・それでも今の爆発は間違いなく白銀さんのスキルだし。

 

「じゃあ、白銀さんじゃないって証拠はあるのか? ステータスを見せてくれよ」

 

「私だけ見られるのは不公平だと思います」

 

「あー・・・」

 

確かにそれもそうか。でも、どうしようか・・・仮に人違いでも倒さないとメダルを手に入れられないし。この子の正体が気になるのもまた事実だし・・・・・。

 

「おい、白銀さんじゃなくても倒すべきだろ」

 

「・・・そうだな。倒すか」

 

防御力極振りのプレイヤーでもないだろうし、俺でも倒せれるだろう。武器を振り上げる俺に大盾で構えるだけの彼女は戦闘に慣れてない様子にそう確信した。他の仲間も横から攻撃を仕掛けに行った。

 

「防御だけじゃ勝てないぜ!」

 

「いや、待て。確か今回のイベントは初心者に第一陣のプレイヤーのスキルが反映されているんなら・・・・・」

 

仲間の一人がこの子もそうじゃないのかと指摘して、俺もそれに気付いた時には―――。

 

「【金晶戟蠍(ゴール・D・スコーピオン)】Ⅲ! 【黒晶守護者(ダーク・ゴーレム)】Ⅲ! 【緋水晶蛇(ヨルムンガンド)】Ⅲ!」

 

なんか凄いのを召喚しやがったんだが!? 巨大な蛇と蠍にゴーレム、水晶の身体をしたモンスターだと!?

 

ドォオオオオオオオンッ!

 

「うわぁあああああああっ!!」

 

「だ、誰だおま―――ぐはぁっ!」

 

別方向から聞こえる。共闘している他のパーティのところだ! そっちへ思わず振り向くと、目の前にいる少女と似た姿の女性プレイヤーが初心者の格好で次々と味方を倒していっているじゃないか!

 

「くそ、やっぱりこっちが白銀さんかよ!」

 

「私はイカルです! お姉ちゃんはあっちです!」

 

「何訳の分からないことを言っている!」

 

「【パラライズシャウト】!」

 

悪態吐きながら攻撃しかけようとした矢先に、背後から聞こえた女の声と一緒に身体が痺れだして動きが・・・・・っ! それはどうやら俺だけでなく少女の横にいた仲間も少女の放つ、おそらく相手を麻痺状態にするスキルでやられたあと、一撃で倒されて見ているしかできなかった俺だけ残されたようだ。

 

「見た目に判断して、惑わされた時点で負けだぜ?」

 

そして次に後ろから聞こえたのは男の声。これは、この声は・・・・・!

 

「その声・・・白銀さんかっ。じゃあ、目の前にいるのは・・・・・!」

 

「正真正銘、初心者のイカルだ。装備に関しては二つ目のユニーク装備を着ているだけだから」

 

同じ装備ならある、ちくしょう・・・本当に嘘じゃなかったのかっ。いや、たとえ信じても勝負を挑んだ俺達の負けは必須だったか。

 

「まさか二人の初心者(・・・・・・)に翻弄されるとは情けねぇ話だっ」

 

 

 

なーんか、盛大に勘違いされたっぽいな。でもま、いずれ気付くだろう。

 

「イカルお見事。注意を引きつけてくれたおかげで、こっちも奇襲が出来た。イカルだけでも倒せてきたな」

 

「おね、死神ハーデスさんのスキルのおかげです」

 

「それを使いこなせるイカルもゲームに慣れてきている。全力で楽しもうな」

 

「はい!」

 

メダルも六枚手に入ったこの調子でどんどん集めていきたいものだ。

 

 

 

 

【メダルをザクザク】テイマー同士で近況報告を語るスレ【そっちどぉ? PART1】

 

 

170:エリンギ

 

くそぉー! あいつら絶許!

 

 

171:オイレンシュピーゲル

 

まったくだ!

 

 

172:イワン

 

どうしたの?

 

 

173:エリンギ

 

オイレンと組んでるんだけど、テイマーの俺達を見てメダルが楽に獲れるカモだと言い抜かして、しつこく粘着してくるプレイヤーがいるんだよ! しかも俺達のモンスだけ痛めつけるだけで痛めつけて、倒したら俺達を倒さない代わりに誹謗中傷の言葉を言ってくるんだよ。無視して離れようと逃げようもしても、現在進行形でニヤニヤとムカつく笑いをしながら追いかけてくるし! あいつらとの距離は3メートルだぞ? 完全に悪質なストーカー行為だぜ。

 

 

174:オイレンシュピーゲル

 

あいつ等と組んでいる初心者も可哀想だよ。上級者のプレイヤーに逆らえないのか無理矢理同じ真似をさせてるようでさ、ついさっき通報してやったからもう粘着する真似はしないと思うけど。

 

 

175:ウルスラ

 

そういうプレイヤーもいるってことを初心者プレイヤーも知らないよね。ところで二人だけ組んで初心者のプレイヤーと一緒にいるのよね? 職業は?

 

 

176:エリンギ

 

初心者のプレイヤーはテイマーだから、俺達のスキルを反映させているんだ。だからプレイヤー三人、モンス三体の編成。で・・・・・。

 

 

177:オイレンシュピーゲル

 

他のプレイヤーに狙われやすい対象にされているんだよ。いや、ジョブはちゃんと戦闘職にしてるんだぞ? でもメインはテイマー故にちゃんと育てていないんだ。

 

 

178:ウルスラ

 

テイマーにとって今回のイベントは厳しいってことなのね。実を言うと私もアメリアと初心者のテイマー組んでて、一体しかノームちゃんを連れて来られない非常に残念な思いを抱いてるの。

 

 

179:アメリア

 

ウサぴょんかノームちゃん、どっちを連れていこうかあんなに悩んだことは一度もありませんでした!

 

 

180:赤星ニャー

 

こっちが戦闘しないでメダル集めたいのに、向こうは実質一体しかいない狩りやすい格好の標的を連れているから、倒せばモンスター頼りにしてるほぼ戦闘力がないに等しいテイマーしか残らない俺達もまた、戦闘職にとっては格好の餌食なんだニャー。

 

 

181:エリンギ

 

その口振りからしてメダルを奪われたか?

 

 

182:赤星ニャー

 

俺だけ初日で速攻。しかも従魔の宝珠で召喚できる回数があるじゃん? 倒されたモンスは日を跨がないともう一度召喚することができないじゃん? 他にいてもまだ従魔の心を貰えるまで親密度が高くないから呼べないじゃん?

 

 

183:イワン

 

あ・・・(察し)

 

 

184:オイレンシュピーゲル

 

あ・・・(察し)

 

 

185:エリンギ

 

あ・・・(察し)

 

 

186:ウルスラ

 

まさか、あなた・・・・・。

 

 

187:アメリア

 

そんな、酷い・・・。―――パーティから追放されちゃった?

 

 

188:赤星ニャー

 

違うなニャー!!! 俺の樹精ちゃんと一緒にいたいっていう戦闘系の二人を、初心者のテイマーを誘ってた時に誘われて入れてるから問題ないし!!!

 

 

189:エリンギ

 

そいつら、白銀さんのゆぐゆぐちゃん代わりにしてるだろ。

 

 

190:赤星ニャー

 

だとしても! 戦闘職がいてくれるだけで、こっちは助かっているから問題ないニャー。だというのに、俺の樹精ちゃんを倒した奴ら絶許!!! 次も出会ったら全員でボコってやるニャー! 

 

 

191:オイレンシュピーゲル

 

なんだ、心配して損した。

 

 

192:イワン

 

だけども探索&争奪戦イベントは、テイマーにとって不遇職になり兼ねないのは事実だ。白銀さんみたくメインを戦闘職にすれば長く戦い続けられるんだろうな。

 

 

193:アメリア

 

このイベントにも参加してるんでしょ? どんな初心者なプレイヤーといるのかな。

 

 

194:赤星ニャー

 

俺の予想だと人伝で聞いたことがある、初日でユニーク個体のノームを手に入れた初心者とじゃないかなって思ってる。

 

 

195:ウルスラ

 

そのプレイヤーのことならちょっとだけ私も聞いたことがある。

 

 

196:アメリア

 

今後その子も有名になるかもね!

 

 

197:イワン

 

白銀さんみたいに未知のモンスターをテイムしたり、未到達のエリアを先んじて見つけたり、凄い成長を遂げそうな想像が安易に思い浮かぶのは俺だけ?

 

 

198:エリンギ

 

今回の第二陣プレイヤーの歓迎イベントで、第一陣プレイヤーのスキルが反映されてるから・・・・・。

 

 

199:赤星ニャー

 

一緒にいるから白銀さんの影響も反映されてもおかしくないニャー。

 

 

200:アメリア

 

こ、言葉に不思議と力が宿っている・・・・・! もしかして私達も白銀さんと一緒にいたら・・・・・?

 

 

201:赤星ニャー

 

可愛い従魔ちゃんと巡り合える機会が増えるニャー?

 

 

202:オイレンシュピーゲル

 

神様仏様死神様白銀様! どうか俺にも影響力をちょっとだけくれぇー!!!

 

 

203:赤星ニャー

 

絶対に入れてはならない二文字が入ってるニャー。

 

 

204:イワン

 

でも気持ちはわかる。例のユニーク個体のノームを連れた初心者のプレイヤーは、必ず白銀さんと接触していそうだし、したらしたでその影響を受けて成長することが出来てるなら拝みたくもなる。

 

 

205:アメリア

 

白銀さん神社があるなら毎日、参拝する!

 

 

206:ウルスラ

 

私も! 可愛いモンスターと出会えるようになるならお金を出し惜しみしないわ!

 

 

207:アメリア

 

幻獣種の可愛いモンスターが欲しいです白銀さん!

 

 

208:ウルスラ

 

私達に新しい出会いを下さい!

 

 

209:オイレンシュピーゲル

 

お願いしまーす!!

 

 

210:エリンギ

 

切実な願いの、思いの強さが伝わってくる。

 

 

211:赤星ニャー

 

流れ星が落ちきる前に三回願い事を言うジンクスみたいにかニャー

 

 

212:オイレンシュピーゲル

 

あっ、あいつらまた性懲りもなく襲ってきやがった!? 

 

 

213:赤星ニャー

 

粘着してくる奴らかニャー? 運営から警告受けなかった?

 

 

214:エリンギ

 

「お前等だろ!! 運営にチクった奴は!!」 「俺達は遊んでいただけなのにふざけるんじゃねぇよ!!」 「ブチ殺してやる!!」 「テイマーなんて戦闘職の中じゃ雑魚だろうが!!」 「メダルを奪った後でも追いかけ回してやるからな!!」って言ってくるから絶対あいつらの完全な八つ当たりだな。

 

 

215:オイレンシュピーゲル

 

ちくしょう! あいつらは腐っても本当に強いから俺達のモンスじゃ勝てない!!

 

 

216:赤星ニャー

 

あっ、オイレンを見つけた。って俺達を倒したプレイヤーだしそいつ等ぁ!! テイマーを雑魚呼ばわりするとはいい度胸ニャー!!

 

 

217:オイレンシュピーゲル

 

あ、赤星ニャー!! 来てくれて助かるー!! ・・・・・待って、なんかお前の後ろに巨大な影が迫ってきてる・・・って、何を連れてきたんだお前っ!!?

 

 

218:イワン

 

巨大な影?

 

 

219:赤星ニャー

 

後ろ? ・・・・・何だあれ? ・・・・・ベヒモス? 

 

 

220:アメリア

 

ベヒモスって言ったら・・・・・白銀さんじゃない?

 

 

221:ウルスラ

 

まさか、願いが通じたの・・・・・?

 

 

222:イワン

 

颯爽と駆け付ける巨大なモンスターの正体は白銀さん、だと? なんて偶然なんだお前達。

 

 

223:オイレンシュピーゲル

 

は、白銀さん!! 助けてぇー!?

 

 

 

 

 

なんか助けを呼ばれてるな。俺のこの姿を知っているのは当然だとしても・・・あ、見覚えのあるプレイヤーが何人かいるな。

 

「どいつだー!!」

 

「俺の目の前にいる連中を倒してぇー!! できれば初心者のプレイヤーだけは倒さないで!?」

 

「どいつなのかわからないから、自分で助けろ!」

 

指差す方に目を向け、俺達を見て驚愕しているパーティの真上に飛び上がった。上空からの―――必殺、覇獣(【悪食】)パンチ!

 

 

ズドォオオオンッ!

 

 

【STR】0故に倒せはしないが、スキルで倒せることできるから問題なく倒すことを望まれたプレイヤー達を振り上げた手で叩き付けた。それから手を動かすとプレイヤーがおらず、手形が残った指の間に立っていた二人のプレイヤーが固まってた。

 

それからしばらくして~・・・・・。

 

「おお・・・・・初めてベヒモスを触れるニャー」

 

「ベヒモスの手って以外ともふもふするんだな」

 

一パーティーを倒した後になって、花見で知り合ったプレイヤーと便乗するプレイヤー達に触りまくられてる。一体何なんだこの状況?

 

ベヒモスの鬣から頭に乗せたリックと飛び降りたら、誰だこいつはという目をする2パーティーのプレイヤー達。

 

「え、どちら様?」

 

「俺だ」

 

【皇蛇】を解除して、元の姿に戻るとまた驚かれた。

 

「ええっ!? こっちが白銀さん!? じゃ、こっちのベヒモスは・・・・・」

 

「イカル、解除していいぞ」

 

エスクとテトラはサイナに抱えられ、ベヒモスがポリゴンと化すればイカルが元の姿に戻り、俺の後ろに隠れてしまった。

 

「ま、まさか・・・・・初心者の女の子の手を触ってましたニャー?」

 

「それはもう。柔らかかっただろ? 知らなかったとはいえ通報されてもしょうがないほど、これでもかとベヒモスで介して堪能してたよなぁ?」

 

「「「「「「・・・・・」」」」」」

 

酷く顔を青ざめて自分達がしたヤバさに危機感を覚えたか、トレードでメダルと恐らく全額のGが送られようとしてきた。

 

「いや、いらんから」

 

「いやいや!? 俺達は本当に女の子とは思わず触ってしまったから謝礼させてくれ!!」

 

「もし、こんなこと他の皆にバレたら誹謗中傷の嵐に遭ってゲームが出来なくなるので、どうか穏便に済まさせてほしいです白銀さん!」

 

「「「ごめんなさい、許してください!!」」」

 

俺に謝るなと言う前に、イカルに触った全員がその場で土下座をする。彼女に対して謝罪してるのか?

 

「イカル、どうする? 許すか?」

 

「・・・・・死神ハーデスさん、後でいっぱい私の手を触ってください」

 

「それぐらいなら毎日でもいいぞ?」

 

「じゃあ、メダルをくれるなら許してあげます」

 

すぐさまオイレンシュピーゲルからメダルを貰い、赤星ニャーからは。

 

「俺のメダルは白銀さんが倒したパーティーにメダル取られたので、そのまま譲りますニャー」

 

「ああ、これか。三枚あるから残りの一枚は・・・・・」

 

オイレンシュピーゲルが助けたプレイヤーに向かって指で弾く。反射的にメダルを受け取った初心者と思う彼は瞬きをした。

 

「え?」

 

「倒したパーティーとイカルへの慰謝料代わりのメダルを貰った以上、それ以上のメダルは受け取る気はない。初心者のお前のメダルだ。返す」

 

「で、でも・・・競い合う相手からメダルを返してもらうなんて。それに今俺だけしかいないからすぐに倒されて奪われるだけだし」

 

「だったら、今のパーティーから抜け出してこいつらのどっちかに入れてもらえばいいさ。それがダメだというルールは無いはずだぞ。パーティーに入れないならチームで組んで一緒にいさせてもらえばいい」

 

なるほど、と納得した声を漏らすオイレンシュピーゲル達。残された初心者に誘いの声をかけたら、2パーティーと共に行動することに決めたのだった。

 

「ところで白銀さん。質問してもいいですかニャー」

 

「構わないぞ」

 

「彼女の頭の上に乗っかってる小さなモンスターって何ですかニャー」

 

当然の質問にイカルへ教えてもいいかと尋ねた。俺が教えるならいい、と言うことでテトラの詳細を教える。

 

「イカルの新しい従魔で名前はテトラ、種族はキツネリスだ」

 

「キツネリス・・・・・あ、図鑑にも載って・・・ぇぇぇ、幻獣ですニャー」

 

そうなんだよな。俺もそれを知った時には唖然としたもんだわ。

 

「案外、キツネとリスを融合したら手に入るのかなーって考えてるんだ。あり得ないけと思うけどさ」

 

「な、なるほどっ。ペガサスだったら馬と鳥を融合したらそうなってもいいじゃないかって思うし、レベル上げして進化させるだけじゃニャいってことですニャー?」

 

「ふむ、もしも仮説が正しいなら・・・・・雌型のモンスターと魚のモンスターの融合なら人魚か? 雌型のモンスターと鳥のモンスターならハーピィかもしれないな。蜘蛛だったらアラクネだな」

 

「「「「・・・・・」」」」

 

テイマー達が雷の衝撃を受けたように硬直した後、俺の手を掴んできた。主にオイレンシュピーゲルと赤星ニャーが。

 

「「白銀さん。是非ともご協力をお願いします」」

 

「雌型のモンスターを見つけてこい。話はそれからだ」

 

見たこと無いがなそんなモンスター。逆も然り。

 

「死神ハーデスさん。行きませんか?」

 

「ああ、そうだったな。そろそろ行こうか」

 

「どこに目指しているんですか?」

 

「なんか、このイベントに隠し要素があるらしくてさ。メダルを三十枚ほど集めてから、このフィールドの中心にある建物に招待されたんだ。そこへ行く途中にお前達と鉢合わせた」

 

彼等はマップで見るも、自分達のは建物が表示されてないと言う。なら、チームで組んでみるとどうだ?

 

「あっ、俺のマップに建物が表示されてるニャー!」

 

「マジか、白銀さん俺も! ・・・・・おお、本当だ! この建物に何があるんだろう?」

 

「それを知るために向かっていたんだ。何なら、一緒に行ってみるか?」

 

【呼応】スキルでネコバスがホームからここイベント用フィールドにまで来てくれて、体を変形させて中に入れさせてくれる入り口を作ってくれた。

 

「ネ、ネコバスだぁー!?」

 

「ニャー!! マジで乗せてくれるんですか白銀さん!」

 

「いいとも、乗りたい奴は乗れ」

 

ひゃっほーいっ!! と大はしゃぎしてネコバスの身体の中に乗り込むオイレンシュピーゲル達が、中でも騒いでとても楽しそうだ。イカルを横抱きに抱えて俺もネコバスの中へ乗り込む。

 

「イカルも乗るのは初めてだったな?」

 

「はい、ふわっ、これ毛皮ですか? 凄くふわふわして温かいです。布団より柔らかい・・・・・」

 

「ふふ、そうだろう。俺も出来ることなら一日中この中で過ごしてみたい時があるよ」

 

全員を乗せたネコバスは駆け出す。風を切り、プレイヤーを通り過ぎ俺達を目的の場所まで送ってくれる。その間は足上に座らせてるイカルの手を優しく触ってやると、背中を預けてきてそのままくっついた。後ろから抱き締める形でしばらく俺達はネコバスに揺らされながらのんびりと過ごしたのだった。ただ、あいつ等はしゃぎすぎだ。うるさい。



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第二陣記念イベント二日目~三日目 カジノで荒稼ぎ

ネコバスに揺れて数十分。普通に歩いていたら数日は掛かっていただろう距離を走り切って止まったネコバスに感謝して降りた。俺達は目的地の出入り口前に着いたのだ。

 

「・・・・・これが建物の正体か」

 

「まんまカジノだニャー」

 

「行ったことないけどラスベガスに来た気分だ」

 

建物の中に入り階段を下った先には無人のカジノが俺達を迎えてくれた。運営しているNPCもいるようだが、第二陣のプレイヤーを歓迎するイベントにしては何というか拍子抜けだな。

 

「あ、パーティーが解除されてる。チームもだ」

 

「なるほど。この中だけ戦闘行為は禁止されてる場所か。外で集めたメダルをここで遊んで使えってことかね」

 

「だとすると景品はなんだろう白銀さん」

 

だな。それが気になるところ。なので手分けして景品を探すことにした。

 

「スロット、ルーレット、カード・・・競馬まであるのかよ」

 

「他にもたくさん種類がありますね。ここでメダルを増やしてスキルを手に入れるんでしょうか?」

 

「・・・・・もしかすると、そうなのか?」

 

イカルの素朴な疑問に合点した。イベント終了時に選ぶんじゃなくて一定数のメダルを集め、ここまで来てメダルをさらに増やして何かを手に入れるイベントならば、納得できなくはないな。となると、手持ちのメダルで遊ぶにしても心許ないな。

 

しばらくカジノ中を歩いてた時、静寂に支配された場所なら良く聞こえる叫び声へと走って行ったら他の皆も遅かれ早かれ走って同じ場所に集い、オイレンシュピーゲルに話しかけた。

 

「見つけたか?」

 

「ああ、見つけた。見つけたんだがこれを見てくれ!!」

 

突き差すオイレンシュピーゲルの指先へ目を向けた俺の視界には・・・・・。

 

幻獣 メダル×100000

 

従魔 メダル×1000~10000

 

スキル メダル×10~1000

 

ホームオブジェクト メダル×100

 

各種装備 メダル×10~1000

 

アイテム メダル×10~1000000

 

メダルと交換できる景品の青いパネルにそう表示されていた。幻獣まで交換できるのか? ・・・・・グリフォンとヒッポグリフ、ペガサスにユニコーンだけか。他の皆もこの事実に凄く色めき立っている。

 

「メダルを千枚集めれば樹精ちゃんが手に入るなんて!?」

 

「待つんだオイレン!! 他の従魔もよく見てみるんだニャー。白銀さんのペンギンやモグラも、他にも図鑑にすら載っていない未知のモンスターが大量に景品としてあるニャー!!」

 

「やべー! なんだここ、不可能を可能にするための夢のようなカジノかよ!」

 

・・・・・本当に見たことが無いモンスターが乗っている。お? ピクシードラゴンと普通にドラゴンまで交換できるのかー。ふむ、キツネもいるとは・・・・・。

 

「イカル、少しばかり遊ばせてくれ。お前の分は絶対に使わないから」

 

「大丈夫ですよ。どれからしますか?」

 

「その前にカジノと言えば運・・・・・召喚オルト!」

 

「ムー!」

 

【幸運】持ちのオルト君を召喚。どうしてこのタイミングで召喚したのかと答えれば、オルトにやらせたらどうなるか試したいためだ。メダルを増やすために探していたスロットへ赴く。

 

「どれが当たりそうだと思う?」

 

「ム? ムー・・・」

 

色んな台があり、オルトは首を傾げて悩む姿はイカルと「可愛い」と漏らしてしまった。台を見て悩みながら選んでもらっている俺達に、初心者のテイマーが寄って来た。

 

「凄いスロットがあったんですが」

 

「どんなスロット?」

 

「100面ぐらいありそうなのです」

 

なんだそれ、と思いながら案内してもらうと・・・・・百メートルは優にある巨大スロットマシーンがカジノの奥に鎮座していたのだった。

 

「いや、なんなんだこのスロットマシーン。こんなの誰が同じ絵を揃えられるのかって話だぞ」

 

「運営の悪ふざけと悪意が滲み出ているぜ・・・!」

 

「最高倍率は・・・100万か。銀メダル1枚だけでも100万枚は手に入るぞ。全部揃えたらの話だけどニャー」

 

なら、試しに金メダルをチップにしよう。イカルのメダルを除けばまだ数枚のメダルは残っているからな。

 

「全員、息を殺してこれから黙っていてくれ。スロットに集中したい」

 

「あのー、動画配信していいですかニャー?」

 

「失敗すると思うがそれでもいいならな」

 

沈黙するイカル達の纏う雰囲気が是として応じてくれた。投入口に金メダルを入れてスイッチを入れると、最初はゆっくり回っていたがそれから一気に絵が霞んで見えなくなるほど速く回り出す。こんなの、圧倒的な動体視力の人間じゃないと一つも絵を揃えることが出来ないだろう運営め!

 

「・・・・・まぁ、俺は見えるがな」

 

「・・・・・ぇ?」

 

手元のモニターでもスロットの絵を確認しつつスイッチで止められるようだが、見ながらの方がやり易そうだ。ルーレットへ見上げながら親指でダンダンダンと押し続け、スリーセブンの絵を揃えていく。右に向かって止めていく度に回転数が速くなるよう設定している様だけど、止まって見えるぞ?

 

―――ダン。

 

最後の100面のスリーセブンの絵を揃えた瞬間、ファンファーレが鳴り出してスロットマシーンの口からメダルが1000万枚分も流れ出て来た。

 

「はっはぁー! 運営この野郎、度肝抜かしてやったぞ!!」

 

「マジでぇええええええええっ!?」

 

「ヤベェ、リアルだったら鳥肌が立ちまくってる瞬間を見てしまったぞ!!」

 

「動画配信しててよかったニャー!」

 

だがしかし、ここで一同はある考えが過った。1000万枚のメダルでまた100万倍率を狙ったら? と―――。

 

「は、白銀さん・・・・・? もう一度チャレンジしたいなー・・・とは思いませんか?」

 

「全額で? いいだろう、再チャレンジしてやるよ」

 

「これでもし、また100万倍率の絵を揃えたら・・・えっと?」

 

「10兆枚になるだろうなー」

 

「じゅっ・・・!?」

 

小さな投入口からでは時間かかり過ぎるから、NPCに1000万枚相当の一枚のメダルに換えてもらった。プラチナのメダルだ。それを記念にスクショしたり、動画配信のカメラに見せつけた後でもう一度巨大ルーレットをした。

 

ダンダンダンダン・・・・・ダンダンダン・・・・ダンダンダンダン・・・ダンダンダンダン・・ダンダンダンダン・ダンダンダンダン―――ダンッ!

 

 

ファンファラ~♪ ファンッファンッファラ~♪

 

 

「イェーイ! スリーセブン揃えたりィー!」

 

ヒャッハァアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!

 

ぶっ壊れてるんじゃないかと彷彿させるスロットマシーンのメダル出入口から、膨大な枚数の金メダルが滝のように溢れ出て来た!! ふはははっ!! 最っ高ー!!

 

「ほ、本当に十兆枚も稼いだぞあの人・・・!」

 

「マジでスゲェ・・・・・ッ!」

 

「このゲームでそんなことが出来るのと、不可能を可能にしたプレイヤーがいることに夢でも見ているのかと思うよっ・・・!」

 

「死神ハーデスさん、すごーい!!」

 

リアルじゃあこれぐらい当然さー! 出禁になり兼ねないから極力控えてるけどー! 全部のメダルをインベントリに・・・・・おし、全部回収できたぞ。

 

「次はオルト。お前の幸運を試す番だ」

 

「ムム!」

 

任せろ! とばかり自分の胸に叩くオルトを連れてルーレットへ向かった。ルーレットはすぐに見つけられた。静かに佇むNPC兎人から説明を聞くと、リアルのルーレットのルールは変わらないようだ。

 

「オルトの幸運に賭ける。一兆枚を賭けるがオルト、何色がいい?赤と黒を選んでくれ」

 

「ム!」

 

「赤だな? じゃあ赤で」

 

「かしこまりました。それでは回します」

 

赤―――回転盤(ホイール)ポケットの半分を占める最も低い配当で賭けに出た。シートに賭札(チップ)が豪胆にも一億枚分のメダル、一枚の金色と赤色を基調としたメダルが置かれたのを確認すると、兎人(ヒュームバニー)進行役(ディーラー)は慣れた手つきで回転盤(ホイール)を回転させ、(ボール)を投げ入れる。見物するイカル達を含めて賭札(チップ)の追加や変更がないのを受け、進行役(ディーラー)は賭けの打ち切りを宣言した。オルトとカジノ側の一騎打ちだ。どこかの地中で採掘された鉱石を使用しているのか、磨き抜かれた紅玉が不可思議な光を放ちながら高速回転する回転盤(ホイール)の上で踊る。俺達が見守っていると、かたんっ、と音を立てて(ボール)は1のポケット―――赤へと転がり込んだ。

 

「わっ、凄い当たりました!!」

 

「一気に一枚のメダルが二億枚になった!」

 

「どんどん賭けに出ていくニャー!!」

 

「当然だ。じゃあ次オルト。今度は好きな数字に選んでみてくれ」

 

「ムム!」

 

「キキュ!」

 

手元に返ってきた賭札(チップ)を今度は更にデカい配当で勝負をするべく、数字の縦一列に切り替える俺は返ってきた賭札(チップ)を全額で賭けに出た。

 

賭札(チップ)二億枚、横二列(ダブルストレート)数字六つ賭け。配当六倍―――的中。

 

「次」

 

「ム」

 

賭札(チップ)一二億枚、横一列(ストレート)数字三つ賭け。配当十二倍―――的中。

 

「次」

 

「ム」

 

賭札(チップ)一四四億枚、線上(スプリット)数字二つ賭け。配当十八倍。―――的中。

 

「これで最後だ。―――全てを賭けろオルトォオオオオオオ!!!」

 

「ムゥウウウウウウ!!!」

 

高速回転する回転盤(ホイール)の上で踊る球。オルトが指定した数字に入る確率は極めて低い。結果がどうなろうと俺達がカラカラと踊るように回り続けてた球が、見守っている目の前でついに、かたんっ、と音を立てて枠に収まるように落ち、結果・・・・・。カラン・・・と狙っていた数字のポケットに球が入った。

 

「―――奇跡を起こしやがった。うちのオルト君、マジ幸運の精霊さんだぁああああああっ!!!」

 

うぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!?

 

高額賭札(チップ)二五九二億枚、一点(ストレート)数字一つ賭け。配当三十六倍。―――的中。

 

9331億2千万枚のメダルを手に入れたオルトに感嘆と驚愕が混濁した雄叫びを上げるオイレンシュピーゲル達。これにはさすがの俺も一緒に雄叫びを上げる側だ。皆でオルトを胴上げして喜びを分かち合った。全部で10兆8331億2千枚も稼いでやった!

 

「スゲー! マジでスゲー! ノームを信頼する白銀さんも賭けに勝ち続けたノームもマジでスゲー!」

 

「皆見てたー? 見てたよねー? 白銀さんとノームのコンビは伝説を作ったところを。絶対本体が鳥肌が立ったぜニャー! こんな瞬間はもう二度と見られないニャー!」

 

「死神ハーデスさんとオルトちゃん凄いです!!」

 

もう一度やってみてくれと言われてもこの奇跡はもう起きないだろう。後で赤星ニャーに映像を貰うとしてこの幸運を皆にも分けてやろう。自分達にも分けてくれないかなーって思ってるだろうし。

 

「オルト、こいつらにお前が稼いだメダルを分けてやってもいいか?」

 

「ムー」

 

構わないと首を縦に頷いたオルトにイカル以外のプレイヤーがギョッと目を丸くした。本当におこぼれを貰えるとは思いもしなかったんだろうか。

 

「ほ、本当にくれるんですか・・・?」

 

「オルトに感謝と自分の幸運にありがたみを抱けよお前等。全員、十億枚のメダルを授けてやる。これで幻獣を手に入れられるだろう? 」

 

「じゅ、十億枚も!? 俺、これから白銀さんとノームの為に一生懸命働くし!」

 

「俺も! 白銀さんのために色んな事するよ!」

 

「めちゃくちゃ感謝するニャー!」

 

他のプレイヤーも、幸運すぎるイカル以外の三人の初心者も、十億枚のメダルを受け取って早速景品交換所へ駆けて行った。

 

「イカルにも十億枚な。使い切れなくても今後また使う時があるだろうから保管するように」

 

「大切に使いますね!」

 

そして俺も景品交換所へ向かい、和気藹々と盛り上がっている連中の隣で様々な景品と交換していくのだった。

 

「やっと、やっと念願の樹精ちゃんを手に入れた、やったぁあああ!! やったぁあああああ!!」

 

「幻獣、GETニャー! これでテイマーが弱いだなんて言わせないニャー! おっ称号『幻獣使い』? 称号もGETォオオオオオオッ!!!」

 

「まだ初心者なのに、こんな強い幻獣やモンスター達を手に入れることが出来るなんて・・・・・」

 

「やばい、実感がじわじわと湧いてくる・・・・・」

 

「噂の白銀さん現象を目の当たりにできるなんて、夢みたいだ・・・・・」

 

狂気過ぎて近寄りがたい連中を他所に、俺も景品を眺める。ホームオブジェクト・・・・・おっ、水場がある!! でも、マーオウにお願いしちゃったんだよなぁ・・・・いいか。これから水系のモンスターを増やせば無駄じゃなくなる。ん? 巨大クスノキ? 夜にしか現れない不思議な動物が住んでいる。出会うといいことがありそう・・・・・交換しよう。オルト達でも遊べれる遊具も大量に交換だ! アイテムは・・・・・オリハルコン、あるのかぁ・・・・・。おっ、こいつは久しぶりに見たな。ラプラスの土産として交換しとくか。ほうほうこんな物までも・・・・・。

 

 

 

イッチョウside

 

 

「ハーデス君、またとんでもないことをやらかしたね」

 

「知り合いなんです?」

 

「リアルでも友達だよん。だから裏技的なのを使えるんだよね」

 

白いリボンを付けてポニーテルにした女の子と黒髪で小柄な可愛い女の子の初心者とメダル集めの最中、掲示板を見てたら凄い配信がされていることを知って、見たらハーデス君が関わってました。今回はオルト君が主にしたみたいだけど、そうさせたのは間違いなくハーデス君なので・・・・・。

 

「ちょっと待っててね?」

 

「はい」

 

「はーい」

 

コールするとすぐにハーデス君と繋がった。

 

『メダルだけ欲しいならネコバスを寄こすぞ』

 

「おや、なんだか意味深な言い方をするね」

 

『お前みたいにフレンドからメダルが欲しい! って連絡が来るんだよ。自力で来たら考えてやることにしているから面倒事は起きてないがな』

 

考えてることは同じか。十兆枚も使い切れないなら少しでも譲って欲しいプレイヤーは必ずいるよね。

 

「じゃあお願いねー」

 

『ペイン達も向かわせに行かせてるから時間かかるぞ』

 

先を越されたか。早いねー。でも、私達も向かうつもりだった建物に予想よりも早く辿り着けれるからラッキーだね。

 

「これからハーデス君が寄こしてくれるモンスターに乗って建物に行くよ二人とも」

 

「モンスターに乗るんですか? もしかしてあれのことで?」

 

ポニーテールの女の子が指差す先には巨大な猫がこっちに近づいてきた。こっちも速いね!

 

「うん、あれ」

 

「うわぁー・・・・・!!」

 

「でかっ、しかも速い」

 

待たずに済んでよかったよん。さて、いざ行かんカジノへ!

 

 

 

運営side

 

 

「なぁ、当たる確率はかなり低い筈だよな? 俺達の悪戯と悪意のスロットだって絶対に揃えないよう調整したよな?」

 

「百億円の宝くじ並みの確立にはしましたし、あんなスロットを見たら誰でも揃えないと思うぐらいの100のタテ面とヨコ面、100種類の絵に設計しましたよ」

 

「なのに思いっきり百億円の宝くじを当てた感じになっているんだが!? 二度目以降から何回もあの悪戯と悪意のスロットの絵を揃えてるんだが!? こんなことになるなら100万倍率なんて設定しなかったぞ!?」

 

「白銀さんとノームには幸運の称号とスキルがありますからねぇ。それが後押ししたことで当てたんでしょう。チートやバグの要素を調べましたが一切の不正はありません」

 

「マジか・・・・・運強過ぎだろ」

 

「幸運が三つも揃えば豪運ではないでしょうか?」

 

「他のプレイヤーが白銀さんからメダルを貰う動きをしてるし、調整しないといけないだろこれ」

 

「メダルを一定数所有してからではないと見る事すらできない設定しているので問題ないのでは?」

 

「白銀さんが外に出て他のプレイヤーが、その一定数所有しなくてはならないメダルを貰ったら入られるだろうが。参加しているプレイヤー全員に行き渡るメダルを持ってるんだぞ?」

 

「確かに・・・・・いまさら譲渡不可はできませんからやはりカジノの場所を変更しますか?」

 

「いや、メダルの一定数を三十枚じゃなく五十枚に変更。白銀さんにもメールを送るんだ。今回のイベントの趣向が違う行為をしないようにと。それと集め過ぎたメダルは一部残して全てGに換金する通達もだ」

 

「納得してくれますか?」

 

「そこは納得してもらわないと困るんだよ。運営側から幾つかのアイテムをプレゼントも送ってでもな」

 

「わかりました。すぐにしましょう」

 

 

・・・・・。・・・・・。・・・・・。

 

・・・・・。・・・・・。

 

・・・・・。

 

 

ペイン達やイッチョウ達がカジノに来て一億枚のメダルを渡し終えてしばらくし経った時、運営からメールが届いた。どうやらメールの内容は違うだけでイッチョウ達にもメールが届いたようだ。一斉に青いパネルを表示されたからだ。

 

「あー、自力でメダル集めないとダメだって運営から注意されちゃったよ。貰って使ったメダルと手に入れた景品はそのままでいいみたいだけど、イベントが終わったら一部のメダルを残して全部Gに換金するって」

 

「ズルはいけないってことみたいだね。ハーデス君の方は?」

 

読んで把握したことをそのまま告げる。

 

「俺も同じだ。大量に得たメダルはイベント終了後に一部残し、ほかは全部Gに変換するってのがな。それ以外だとイベント中、パーティー以外のプレイヤーにメダルの譲渡を厳禁された。ああ、イカル以外のプレイヤーがパーティーに加わってメダルを貰うのも厳禁。破ったら双方一ヵ月のアカウント停止だ」

 

「運営の本気が窺えるな」

 

そうだな、とイカルに保有してるメダルの半分を送ってやった。

 

「となれば、イカルのメダルが十億以上のGを貰えることにできるわけだな」

 

「そ、そんなに貰えるんですか!? 貰ってもいいんですか!?」

 

「ええんよ。貰っておけ。イカルも今後大金が必要になるだろうし、その時に使え」

 

「あ、ありがとうございます。大切に使いますね」

 

他にもいくつかプレゼントを贈られてきたんだがな。プレイヤーと従魔の経験値取得増加のスクロールとか、Gの取得量増加のアイテムとかありきたりなのが。それはそうと、あっちでは・・・・・。

 

「俺のドラゴニュートちゃん、可愛いー!」

 

「樹精ちゃんの他にもセイレーンちゃんやラミアちゃんにハーピィちゃん。使役できる限界まで女型のモンスターを手に入れたぜ!」

 

「まさかジブ○のキャラクターまで手に入るとは・・・・・君たちはどうよ」

 

「俺はパンダも選んでみました。迎えたら抱きしめたり一緒に遊んだりしてみたいので。お前は?」

 

「種族が電気ネズミのモンスターを選んだ。○ケモ○のアレほど可愛くないけど、電気と雷系の攻撃が好きだから。そっちのお前は?」

 

「虫が好きで・・・ジ○リに登場する昆虫の王×5を手に入れた。タンク系の虫のモンスターが欲しかったから手に入れることが出来てよかったよ」

 

「おっ、君も虫好きのテイマーかっ。俺も虫系のモンスターをテイムしてるから、今後も一緒に遊ぼうぜ」

 

「こちらこそよろしくお願いしますっ」

 

何だか薄っすらと寒気を感じたのは俺の気のせいか・・・・・? ともかく、十万枚分のメダルで色々とモンスターを手に入れられたようで何よりだ。

 

「イカルももっとモンスターを手に入れてみよう。図鑑にも載ってないモンスターは何時手に入るか分からないからな」

 

「好きなのを選んでいいでしょうか?」

 

「それは個人の自由だ。イカルが選んでいいんだぞ。ただ、幻獣を使役できると『幻獣使い』って称号が貰えた従魔編成枠が+1増える。その為にはテイマーが二次職に転職できるレベルまで上げて、『秘伝の書』で特殊職業のコマンダーテイマーにならないといけない」

 

「秘伝の書・・・あ、ありました。これですね?」

 

そうそれだ。イカルにそんな話をしていたら、オイレンシュピーゲルがジッとこっちに視線を向けて来る。

 

「白銀さん、今の話はタラリアにはもう?」

 

「うん? ・・・あー、そう言えば『幻獣使い』の情報は提供してなかったな。お前等にとっては初めて知る情報か。丁度いいからなってみれば幻獣使いに。そうすれば何時か『神獣使い』になれた時、使役と従魔編成枠の制限が無限に解放されるようになるし」

 

「「「「「「―――っ」」」」」」

 

それと神獣使いになると、従魔と結婚が可能になるらしいから頑張れよ・・・・・なんて言えるわけもなく、心の中に留めておく。次に初心者を含めこの場にいるテイマー達はこぞって『秘伝の書』を交換したのは言うまでもないがな。

 

「あ、大盾使い用の『秘伝の書』も忘れちゃダメだからな」

 

「はい」

 

ゲームを楽しむためには強さも大切だ。この機にできるだけ彼女を強化していこうか。あっ、またあの巨大ルーレットでメダルを増やしてみよう。目指せ、百兆枚!

 

 

三日目。

 

 

『カジノにご利用を始め二十四時間になります。プレイヤーの皆様は速やかに退出するようお願い申し上げます』

 

イカルとあれからカジノで過ごしたからか、退出の催促をするアナウンスが流れた。長居が出来るしようじゃなかったかこのカジノは。出て行かないと強制退場されるだろうと察し動く。

 

「次はどこに行きましょうか」

 

「そうだなぁー」

 

入口へと向かう俺達に追従するイッチョウのパーティとオイレンシュピーゲル達のパーティも催促されたようで、入口へ一緒に足を運んだ。ペイン達は昨日の内に一足早く出て行ったからカジノの中にはいない。俺達も遅れて出たら・・・・・片手では数えきれないパーティのプレイヤー達に出迎えられた。今までカジノに入ってこなかったのは三十枚もメダルを集めていなかったからか?

 

「あ、出て来たぞ白銀さんだ!」

 

「白銀さんメダルをください!」

 

「一人じゃ使いきれないんでしょう? 俺達も協力しますよ」

 

「僕達にもください! そこにいるプレイヤー達だけ贔屓するのはズルいですよ!」

 

おおう・・・・・説明する暇もないとはこのことか。いつぞやのミスリルの件を思い出させる。あの時も事情があって説明してもまだ知らないプレイヤーとか、採掘できる場所を追求されてばかりでどうさそようもなかった。今回もそうなるかと、思っていた俺がいたんだが。

 

「赤星ニャー」

 

「エリンギ」

 

「オイレンシュピーゲル」

 

「「「やるぞ」」」

 

次の瞬間。

 

「ラウナ、目の前の連中にお前の力を見せつけてやれニャー!」

 

西洋のドラゴンもとい腰辺りから伸びる尻尾と背中にドラゴンの翼を広げ、赤色のツインテールの頭に二本の角を生やしたドラゴニュートの少女が咆哮した後、口内から放つ灼熱の火炎放射でプレイヤーを焼き払い。

 

「赤星に負けるなイリル!」

 

オイレンシュピーゲルもドラゴニュートの少女を使役して戦わせて。

 

「ムカス、俺達を乗せて移動してくれ!」

 

〈―――――〉

 

エリンギの命令で複数の碧い目を持つ巨大なダンゴムシが突然と現れ、俺達を前脚から伸びる黄色い触手で背中に乗せると、まるで山が動いているかのような迫力で多くのプレイヤー達を巻き込んで移動していった。お前のモンスターが凄すぎではないか? そして問いたい。

 

「お前ら、渡したメダル何枚使った。怒らないから言いなさい」

 

「「一割」」

 

「俺もですね。白銀さんが恵んでくれなかったら、泣く泣く諦めていたところです。いや、まさか昔してみたかったことがこのゲームで叶うとは人生わかりませんね」

 

巨大ダンゴムシの甲殻を撫でるエリンギの表情はどこか嬉しそうだった。乗ってみたかったのか? この虫の上に?

 

「ムカス、だっけ? 今までどこにいたんだ?」

 

「普通のダンゴムシみたく手のひらサイズまで小さいんですよ。ここまで大きくなったのはスキル【超巨大化】で」

 

【巨大化】の上位互換ってやつか。軽くベヒモスを越えたから唖然しちゃったぞ。

 

「でも、急にどうして攻撃したの?」

 

「そりゃあ、白銀さんに迷惑千万なことをする連中が許せなくて」

 

「困っていたから助けるのは当然のことニャー」

 

「俺達しか知らないメダルの件をあんな大人数に教えていたらキリがないし、教えても文句言いそうな奴もいたら面倒だろうし」

 

「「「早い話。強行突破して逃げた方が勝ちでしょって結論に至ったから」」」

 

イッチョウの質問に三人の行動の理由が明らかになった。後ろに振り返ると運良く災難から免れたプレイヤー達はその場に留まっていた。追いかけてくるし気配は無し。イカルは不思議そうに吐露した。

 

「追ってきませんね?」

 

「このモンスターに轢かれて死に戻ったプレイヤーが落としたメダルでも集めてるんじゃないか?」

 

「軽く数十人いたし、多くて二十枚ぐらいメダルが落ちてるんじゃないかニャー」

 

「それにそのメダルを持ってるパーティーが他にもいるし、戦い合うのも時間の問題だろう」

 

「残りの数日まで倒されないように気を付けないと」

 

・・・・・狙われる側になると面倒だなぁ。

 

「白銀さん。どこまで行きますか?」

 

「いっそのこと、他のテイマーの皆と手を組んで白銀さんを守ることもできるかと」

 

「どうしますかニャー?」

 

三人からの提案に俺は・・・・・。



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第二陣記念イベント 掲示板2

【テイマー】ここはNWOのテイマーたちが集うスレです【集まれPART30】

 

 

 

新たなテイムモンスの情報から、自分のモンス自慢まで、みんな集まれ!

 

 

 

・他のテイマーさんの子たちを貶める様な発言は禁止です。

 

・スクショ歓迎。

 

・でも連続投下は控えめにね。

 

・常識をもって書き込みましょう

 

 

 

:::::::::::::::

 

 

 

4:アメリア

 

羨ましぃ~!!!

 

 

5:ウルスラ

 

あんたたち、羨ましすぎるにもほどがあるわよ!

 

 

6:イワン

 

そうだそうだ!

 

 

7:宇田川ジェットコースター

 

処すか? 新大陸実装後に処すか?

 

 

8:人間ブラック

 

ンギギギギ・・・・・!!

 

 

9:オイレンシュピーゲル

 

やれやれ、スレが立って入った瞬間に嫉妬の文字とは・・・・・。

 

 

10:赤星ニャー

 

君達ぃ~、白銀さんみたく心が広くなくちゃダメだニャー

 

 

11:エリンギ

 

そうだそうだ! 俺達が白銀さんに強請ったわけじゃないことを動画配信で証明されてる!

 

 

12:アメリア

 

うー、白銀さん! どうしてこの三人なの! 私達も可愛いモンスちゃんとの出会いが欲しかった!

 

 

13:ウルスラ

 

時間を戻せるなら変態達がいる場所に直行してやるわ!

 

 

14:エリンギ

 

おい、俺まで変態の一括りにするな!

 

 

15:赤星ニャー

 

そうだニャそうだニャ!

 

 

16:オイレンシュピーゲル

 

異議を申し立てるぞ!

 

 

17:人間ブラック

 

いや、オイレンは否定できないだろ。それで? どんな従魔を交換したのか白状してくれるよな?

 

 

18:イワン

 

景品交換所にどんな従魔がいたのか詳細求む。

 

 

19:エリンギ

 

百種類はいたから全部は言えないぞ。流石に覚えきれない。でも、白銀さんの従魔・・・フェンリルと魔獣以外のモンスは全部いたのは確かだった。白銀さんが前言ってた、アザラシとホッキョクグマのモンスも確認できたぞ。やっぱりどこかにいると思われる。

 

 

20:ウルスラ

 

アザラシ・・・・・!!

 

 

21:アメリア

 

シロクマちゃん!

 

 

22:宇田川ジェットコースター

 

白銀さんと一緒にいた金髪の子の肩にいたモンスターは? 白銀さんの?

 

 

23:赤星ニャー

 

あれ、初心者の幻獣。図鑑にも載ってるから分かってると思うけど種族はキツネリスだって。白銀さんはキツネとリスを融合したら手に入るのかなーって気になっていたニャ。やっぱ想像通り、白銀さんと一緒にいると凄い影響力が得るみたいだニャー。

 

 

24:アメリア

 

リスはすぐに確保できるけど、キツネはどこにいるのー!?

 

 

25:ウルスラ

 

まだ未発見なのよね。キツネ、どこにいるの? ドリモールちゃんも未発見だしぃ~。

 

 

26:人間ブラック

 

白銀さんより先に可愛い従魔を手に入れた初心者か。ただ者ではないな?

 

 

27:オイレンシュピーゲル

 

マジでただ者じゃないからな。装備も同じで白銀さん曰く、「第二の死神ハーデス」だと認知したから。

 

 

28:エリンギ

 

白銀さんがもう一人増えると思うと・・・・・末恐ろしい。あの子、白銀さんの弟子だと言っても過言じゃない成長を遂げるぞ。

 

 

29:アメリア

 

私も弟子になる!

 

 

30:ウルスラ

 

どうすれば入門できるのかしら? 大人の魅力で?

 

 

31:イワン

 

不純すぎる・・・・・。

 

 

32:宇田川ジェットコースター

 

その手に引っ掛かるのは初心な少年だけだろ。

 

 

33:赤星ニャー

 

ウルスラの魅力なんて絶対に通じないニャ。寧ろ木乃伊取りが木乃伊になる的な?

 

 

34:オイレンシュピーゲル

 

花見の時もそうだったけど、人を惹き付ける雰囲気が凄かった。・・・・・性転換した白銀さんも。

 

 

35:イワン

 

性転換した? 白銀さんが? ちょっと詳しく説明を。

 

 

36:オイレンシュピーゲル

 

 

白銀さん、どうやら性転換できるスキルを身に着けたらしくて。姿だけじゃなく声までも女でさ、最初は誰? って思ったほど凄く美人で長い青髪に珊瑚の角が生えて、尻尾があるんだ。

 

 

37:エリンギ

 

完璧に見た目は女だから白銀さんだと言っても最初信じられないだろうな。多分、ウルスラ女としても負けるぞ。

 

 

38:赤星ニャー

 

同感。

 

 

39:ウルスラ

 

な、なんですって・・・・・!?

 

 

40:アメリア

 

オイレンはともかく、赤星とエリンギも認めちゃう程美人さん? 逆に気になっちゃう。

 

 

41:人間ブラック

 

おい、大変だ! 白銀さんが新しいマイホームの動画公開をしてるぞ!

 

 

42:イワン

 

なんだと? 日本家屋以外でも買ったのか?

 

 

43:人間ブラック

 

しかも、不動産屋の購入リストにも載ってないホームだ! 白銀さん、マジヤバい。5つも購入した内の3つがジ○リのホームで、もう1つは海に囲まれたリゾート島、最後は名作映画の魔法使いのハリーさんが通ってた魔法学校だ!

 

 

44:オイレンシュピーゲル

 

うおっ、本当だ!! え、どうやって購入できたんだあの人!?

 

 

45:エリンギ

 

まぁ、あれだけ100万倍率のルーレットで稼いだから俺達と個人の資産はもう天と地の差だって。

 

 

46:イワン

 

因みにどれぐらい稼いだ?

 

 

47:赤星ニャー

 

一極。

 

 

48:宇田川ジェットコースター

 

・・・・・一極? 兆からそれ以上知らないけどどのぐらい凄い?

 

 

49:アメリア

 

なんか、聞くのが怖いけど聞いてみたい・・・・・。

 

 

50:ウルスラ

 

とんでもない額だってぐらいは何となく伝わってくるのだけれど、一極って文字だけじゃ漠然過ぎてよくわからないわね。

 

 

51:赤星ニャー

 

エリンギが言ったとおり、天と地の差の数だニャー。数字の1と0が48個もある数だしニャ。後でネットでも調べてみろニャ。

 

 

52:イワン

 

0が48個・・・・・? はは・・・・・。

 

 

53:宇田川ジェットコースター

 

・・・・・・(硬直)

 

 

54:アメリア

 

ぇぇぇぇぇ・・・・・?

 

 

55:ウルスラ

 

1、10、100、1000、10000・・・・・0が48・・・・・?

 

 

56:オイレンシュピーゲル

 

分かる、その気持ち。

 

 

57:エリンギ

 

白銀さんもやり過ぎたって苦笑いしたほどだしな。都市を余裕で購入できる額だろうし、運営からもメダルを稼ぎ過ぎだからってルーレットを停止させたぐらいだぞ? しかも運営からメッセージが来て一部のメダルだけ残して残りのメダルは全部Gに換金するって。

 

 

58:イワン

 

つまり? 1極のGがそのまま白銀さんの所持金になってると?

 

 

59:オイレンシュピーゲル

 

ホームを5つも購入した時点でもう明らかでしょ。1極じゃなくなっても0が一つだけ減っただけの程度で、未だ不動の数を保っているのはまず間違いない。

 

 

60:アメリア

 

は、白銀さんが超大金持ちなんて言葉がおこがましいほどのGのお持ちでいらっしゃる・・・?

 

 

61:宇田川ジェットコースター

 

く、靴を舐め差し上げればお小遣いくれるのか?

 

 

62:ウルスラ

 

い、いいえ! 私の体を自由に使ってもらうぐらいじゃないともらえないわ!

 

 

63:赤星ニャー

 

おい、止めろォッ!!

 

 

64:オイレンシュピーゲル

 

純粋な白銀さんを穢そうとするんじゃない!!

 

 

65:エリンギ

 

見守り隊が黙っちゃいないぞっ!!

 



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第二陣記念イベント三日目~四日目

 

「おっ、あそこに行ってみようぜイカル」

 

「はい、死神ハーデスさん」

 

途中で降ろしてもらって皆と別れてから、うっすらと見える雪山へ目指すことにした俺達。マップで俺達の位置情報を知られる問題があるも、目と鼻の先まで雪山に歩いてもプレイヤーとは遭遇しなかった。

 

「雪、冷たいですね」

 

「砂漠はそうでもなかったが、耐寒性のスキルがないせいか? ここで氷結耐性のスキルが得られるかも」

 

「じゃあ、頑張ってスキルを手に入れましょう!」

 

やる気だなイカル。でも・・・・・。

 

「エスクとオルト達が寒すぎてダメージを受けないか?」

 

「あっ・・・・・」

 

「「ムー・・・・・」」

 

「キュ?」

 

「キィ?」

 

今は大丈夫そうだが、長時間も寒いところにいたらどうなるかわからない。

 

「エスクを畑に送還してスキルを取得出来たらもう一度召喚する手もあるがどうする?」

 

エスク用の従魔の宝珠はあの一週間の間で手に入れている。そうすることも出来るようになっているイカルに提案を持ち掛けた。彼女は少し悩んで、スキル狙いは諦めていた登山をすることに決めた。

 

「・・・・・」

 

満腹度を確認しつつ雪山を登ること一時間。寒いと思える体感はリアルと合わせていたようで、プレイヤーにここまで気温を感じさせるとは・・・・・吐く息が白く、肌が冷たくなっているのが判ってしまう。

 

「し、死神ハーデスさん・・・・・さ、寒いです・・・・・」

 

イカルの顏が林檎のように真っ赤になって、涙目で俺に訴えて来る。オルト達もお互い寄せ合って寒さを凌ごうとしている。現在雪山の山頂に歩いているところだが、山頂に辿り着いてから雲行きが怪しくなっているのも無視できない。

 

「休憩するか」

 

装備を変えて工房を召喚する瞬間。スキル【耐寒】と【氷結耐性】が取得した。それは俺だけの話じゃないようだ。

 

「・・・・・あれ、寒く感じなくなった?」

 

「イカルも寒さに強くなるスキルが手に入ったんだな」

 

「スキルが? ・・・あ、本当です。【耐寒】と【氷結耐性】が取得してました」

 

それでも小休止するべく中へ招いて椅子に座らせる。

 

「オルトはこの先厳しいか。明らかに動きが鈍ってきている。リックは論外だな。冬眠に入りかけてるし」

 

「エスクも寒がってましたし、防寒着なんて持ってきてませんから」

 

「そもそも雪山があること自体、想定してなかったからな。オルト、リック畑で休んでてくれ」

 

「エスクもありがとうね」

 

二人のノームが畑に送還され従魔は木製のテーブルの上で体を丸めてる、イカルの新しい従魔のテトラだけとなった今。用意した温かいお茶と料理を出してしばらくのんびり過ごすことにする。

 

「はわー・・・・・美味しいです」

 

「口に合って何よりだ。イカル、レベルはどのぐらいだっけ?」

 

一口すると顔を緩ます少女は答えてくれた。

 

「18です。死神ハーデスさんは?」

 

「うんと91になってるな。それとフルネームで呼ばなくてもいいんだぞ? ハーデスでいい」

 

「わかりました、ハーデスさん。91・・・凄いですね。レベル上げのコツとかあります?」

 

コツ、コツかぁ・・・・・。

 

「経験値を増加するアイテムを使ったり、経験値取得量が2倍になる称号を得ることが大事だな。レジェンドモンスターのレイドボス、ベヒモスとジズ、リヴァイアサンを倒して称号【勇者】を得ることが大切だ」

 

「リヴァイアサン・・・・・あの大きなモンスターに勝たないと駄目なんですか」

 

「強大なモンスターと戦って勝つのがゲームの醍醐味だ。一人じゃなくて皆と協力すれば勝てないモンスターは例外を除いてないから、負けても何度も挑戦して勝ってみろ。というか、イカルだけでも勝てそうなんだよな」

 

微妙な気持ちと一緒に笑って言う俺に「む、無理ですよぉ~!!」と否定するイカル。まぁ、そう思うのは仕方がないにしても、スキルを集めに集めた今後のイカルが俺の次に凄いプレイヤーになりそうなんだよな。インベントリを開きながらそう思う。

 

「・・・・・結構集まったなぁ」

 

メダルと交換できたアイテムは全種類。消費したメダルも数億枚はくだらない。オリハルコンだけでもかなり使ったぞ。魔王ちゃんに渡した世界樹の葉と世界樹の枝、世界樹の雫も大量に手に入ったし、今回の第二陣記念イベントは実りあるものだな。ほくほくとした笑みを浮かべていた俺にイカルから指摘される。

 

「楽しそうですねハーデスさん」

 

「インベントリが収まり切れないぐらい数の景品を手に入ったからな。改めてみると感慨深くなるさ」

 

「収まり切れなくなったら持てなくなるのでは?」

 

いい質問だねイカル君。インベントリから腕輪を取り出す。

 

「この『征服人形(コンキスタドール)格納鍵(インベントリア)』が全てを解決してくれるのさ」

 

説明も加えて教えるとイカルが感嘆の念の息を吐いた。

 

「ドールと契約したら今後の生産活動が楽になる。いつかイカルも契約してみたらどうだ?」

 

「お手伝いさんみたいなことをしてくれるんですか?」

 

「寧ろそれ以上のこともしてくれる。一緒に冒険をしてくれたり、サポートしてくれたり、もう一人プレイヤーと居るかのような言動をしてくれる。経験値は必要としない存在だから、装備を整えるだけで自分の代わりに倒してくれる」

 

景品としてあったそれを一つイカルにトレードして譲渡する。

 

「俺に憧れて俺と同じスタイルでしようとするなら、イカルも契約したドールにこれを渡すんだ」

 

「貰っていいんですか?」

 

「構わないさ。戦闘を楽しむつもりじゃなくて、のんびりとゲームを楽しむならこれは必要不可欠だ。知り合いのファーマープレイヤーでもドールを契約してるぐらいだからな」

 

素直に受け取ったイカルもドールに何時か渡す日が来るだろう。そしてロボットを操縦する時でもある。

 

「それじゃ、少し休んだことだし行こうか」

 

「はい」

 

閉めた扉を開けた瞬間。

 

 

ビュオオオオオオオオオオオオオオッ・・・・・!!!

 

 

「「・・・・・」」

 

山の天候まで再現したのか運営。凄い吹雪だぞ。まだ日の出が出てる時間帯なのに、曇り空で目の前が暗くも真っ白な外に手を突っ込んだら、手先だけ霜だらけになって状態異常が氷結・小の状態になった。

 

「・・・・・止むまで待ちませんか」

 

「そうだな」

 

おそらく長時間も吹雪に見舞われたら氷結状態となって身動きが取れなくなったところ、モンスターに襲われるかもしれない。

 

 

うわぁあああああああっ・・・・・!! 助けてくれぇぇぇぇぇぇっ・・・・・!!

 

 

「っ!?」

 

どこかにいるプレイヤー達の悲鳴が聞こえ、身体を委縮させてビビるイカル。扉を閉めてベッドで寝て過ごすことに決め合ったのだが、おずおずとイカルが寄って来た。

 

「あの・・・・・一緒に、いいですか?」

 

「ん? いいぞ。あ、装備を解除してくれ」

 

俺の言う通りに装備を外した後で掛布団の中に入ってきて同じベッドに寝転がる。

 

「怖いものは苦手か」

 

「好きじゃないです。他の人の悲鳴もあまり慣れません」

 

「恐怖と悲哀の籠った悲鳴が好きな人間の性格はヤバいから。それが当然だ」

 

亀のように縮こまった背中を掛布団越しに撫でて落ち着かせる。しばらくそうしていると、さらに距離を縮めてきて俺の胸に頭を押し付け、身体をくっつけて来るので小さな身体に腕を回して抱きしめた。

 

「ハーデスさん、温かくてこうしていると落ち着きます」

 

「イカルも温かいぞ」

 

互いの温もりを感じながら穏やかに眠れる。その方がイカルにとって安心できる時間が過ごせる。なのだがそう問屋は卸してくれなかったようだ。扉を強く何度も叩く打撃音が聞こえだして、イカルが身体を強張らせ俺にしがみ付いてきた。

 

流石にこれはどうにかするべきだと、イカルと一緒に扉の方へ向かい開け放つと複数の影が転がって来た。当然それはプレイヤーであり・・・・・。

 

「あれ、グラニュートゥ?」

 

「その声は・・・白銀さん?」

 

魔王ちゃんに爆破されて以来の再会だ。そして見知らぬプレイヤーはパーティのメンバーだろう。扉を閉めながら久しぶりと挨拶する。

 

「さっきの悲鳴はもしかしてお前達だったりする?」

 

「聞こえていたんですか。吹雪に紛れてきたイエティの群れに襲われたので対応してたんですが、初心者のプレイヤーとタンクと魔法使いの仲間が倒されてしまい、逃げた先にこの家があったので藁にすがる思いで・・・・・」

 

可愛い外見をしたモンスターじゃなさそうだな。白い毛がモフモフしてそうではあるが。

 

「一応、この家は装備のスキルで召喚した工房だからな。戦闘行為はできないし、不用意な真似をしない限りは吹雪が止むまでいていいぞ」

 

「助かります」

 

横になれるベッドはありますか? と当然の質問に首肯して場所を教えるとグラニュートゥの仲間の二人が先にベッドで横になりに向かった。

 

「相当疲れているんだな」

 

「恐怖と戦っていたようなものでしたからね。昔の戦争で夜襲をされた人達の気持ちが少しだけ分かったかもしれない経験をしました。暗視のスキルやアイテムがないと、戦いがあんなに不便になるとは思いもしませんでしたよ」

 

「リアルでも夜間での雪山や山の活動は危険だからな。運営はそのへんも再現したんだろうよ」

 

苦笑するグラニュートゥ。椅子に座る俺の隣に椅子を運んで座るイカル、目の前で座るグラニュートゥに特製のホットドリンクを渡す。

 

「辛いけど温まるぞ」

 

「ありがとうございます。いただきます。―――本当にからぁっ!?」

 

「トウタカ、唐辛子を原料にした飲み物だから当然だな。でも、耐寒のバフが付いた筈だ」

 

「耐寒のバフが? ・・・本当だ。30分の耐寒が付与されている・・・・・あの、まだ在庫にあるならば買い取らせてくれませんか?」

 

「10個しかないけどそれでいいなら」

 

3000Gもゲットしたぜ!

 

「でも、【耐寒】と【氷結耐性】のスキルを取得したんじゃ?」

 

「それでも精神的に温かい物が欲しくなるんです。これはかなり辛いですけど」

 

「あー納得」

 

気持ちはわかる、と微苦笑する。グラニュートゥが求める香辛料の激辛さじゃなくて、ホッとする温かさが欲しかったか・・・・・。

 

「こっちがお望みだったのなら申し訳ないな。はい、イカルも」

 

「豚汁ですか。いただきます・・・・・はぁ~・・・・・」

 

「・・・・・温かいです」

 

心から安堵した表情になる二人。

 

「白銀さんが雪山に来てくれて本当に良かった。せっかく集めたメダルも落としてしまうところでしたから」

 

「知っているとは思うけどカジノに行けば稼げれるぞ」

 

「見てましたよ配信。三十六倍のルーレットで稼いだノームが凄すぎでしょう」

 

「その後、運営から稼いだメダルを他のプレイヤーに譲渡してはならない警告を食らったがな」

 

グラニュートゥにもそのメールを見せると少し残念そうに苦笑した。

 

「残念。あわよくばメダルを分けてもらおうかと思ってたのに」

 

「来るのが早ければ渡せたんだがな。俺を倒す以外メダルは手に入らないぞ」

 

「やはり大量に景品と交換したので?」

 

「ユニーク装備の素材になるオリハルコンを×多く交換したのが原因の一つ。イベントが終わったら販売機に出すつもりだから。一つ1000万Gぐらいで」

 

「すぐに買われない額なんですね。他にも何か交換したので?」

 

興味津々に訪ねて来るグラニュートゥにイカルとも話を交えながら教えていった。時間も見計らって寝たもしたから雪山で召喚した工房の中で一日過ごすことになってしまった。

 

 

四日目―――。

 

 

吹雪が止んだ早朝。グラニュートゥ達が死に戻った仲間と合流するため一足先に出発した。俺達は更にその30分後経ってから出発した。

 

「うーん、見渡す限り雪山が見えるな」

 

「雪の世界、って感じですね」

 

「雪と氷系のモンスターがいる話を聞いたし、用心して進もう」

 

空飛んで行った方が早いだろうけど、何かの出会いがあるかもしれないから徒歩で移動する。

 

「ハーデスさん、どうしてあの人達は戦わないで行ってしまったんですか?」

 

「俺が相手だと負ける可能性があるからだ。ただ負けてもいいなら戦っていただろうが、苦労して集めたメダルを落としてしまうことになるのは誰だって嫌だからな。でも、他の仲間に渡せば一対一で戦うことも出来るけどあいつはそれすら避けた」

 

どうしてだと思う? イカルに訊ねた。

 

「えっと・・・・・ハーデスさんが勝って減っちゃった仲間が危ない、からですか?」

 

「それも正解だろう。あのパーティの主軸、中心はグラニュートゥだ。あいつがいなくなったら残された仲間だけで数の暴力に抗うことはほぼ難しい。本人達もおそらくその状態を避けたいから仲間と合流することに優先した」

 

他にも理由があるだろうけれど、グラニュートゥの主な気持ちはそれだと思う。世話になった俺に戦いを挑むなんて失礼だと思っているかもしれないし、メダルを持ってなくフルメンバーだったら戦いを仕掛けに来たかもしれない。

 

―――他のプレイヤーの気持ちを考えてもしょうがないか。意識を切り替えよう。

 

「雪山にもプレイヤーがいることがわかったし、襲ってきたら戦うぞ」

 

「はい!」

 

気合を入れるイカルとユキを掻き分けるように踏んで雪山を移動する。が、実際プレイヤーと出会うと。

 

「白銀さんだ!」

 

「白銀さんだ!」

 

「白銀さんだ!」

 

「あ、有名の・・・こん―――」

 

「「「逃げるぞっ!!!」」」

 

「ええええっ!?」

 

俺を見て一目散に逃げてしまう。

 

「やろう・・・人を化け物みたいな言動しやがって」

 

「あははは・・・・・ハーデスさん、強いですからしょうがないですよ」

 

大量のメダルを積んで勝負しろと言っても強く拒絶されるのが目に浮かぶレベルでだぞ? 俺が強いのは否定しないけど、反応が遺憾なんだ。

 

「こうなったら、職業と装備を変えてやる」

 

ユーミルから受け取った装備の試運転も兼ねてな。重戦士から格闘士に転職して・・・・・【侵略者】と【絶対防御】の効果は強力すぎるあまりに使用条件まで付いてるからな。【STR】と【VIT】以外の能力値に振ってみるか。『三天破』の指輪無しでもこの装備なら戦える。

 

 

死神・ハーデス (格闘士)

 

LV1

 

HP 25/25

 

MP 12/12

 

【STR 0】

 

【VIT 0】 

 

【AGI 0】

 

【DEX 0】

 

【INT 0】

 

 

 

 

 

装備

 

 

 

頭【鳥帝の羽冠】

 

体【海羽衣の帯】

 

右手【覇壊の豪牙】

 

左手【覇轟の豪牙】

 

足【海皇蛇の路】

 

靴【比翼連理】

 

 

 

飾りとして、髪に挿した二枚のジズの黒羽。透き通った海のような青を基調として、羽のように腰に巻かれた帯。全てを噛み砕かん、呑み込まんとする表現をした手の甲から伸びる鋭利な三本の牙、手の平に獣の口を彷彿させる生え揃えている牙。素足を包み込むは皇蛇の鱗と皮で作られたインナー。足の横に備わっている今にも大きく羽ばたきそうな小さな黒い片翼。

 

要点を言えば頭に羽飾りを付けた、上半身裸でズボンを青く透明な羽衣で縛り、スパイク付きのナックル、足の甲と足底に布を巻いてる素足に片翼を付けた感じだな。

 

 

 

【鳥帝の羽冠】

 

【AGI+30】【HP+100】【破壊不可】

 

スキル【神避】

 

【海羽衣の帯】

 

【DEX+15】【AGI+10】【破壊不可】

 

スキル【反鏡水華】

 

【覇壊の豪牙】

 

【STR+30】【DEX+20】【破壊不能】

 

スキル【武器破壊】

 

【覇轟の豪牙】

 

【VIT+10】【HP+30】【破壊不能】

 

スキル【全呑】

 

【海皇蛇の路】

 

【INT+10】【MP+100】【破壊不能】

 

スキル【海渦】

 

【比翼連理】

 

【AGI+10】【DEX+20】【破壊不能】

 

スキル【縮地】

 

 

レジェンドモンスターの素材で神匠が創った装備は凄いな。全装備にスキルが付加されてる。

 

 

スキル【神避】

 

対象される攻撃を10秒間すべて回避する。再使用待機時間十分。

 

スキル【反鏡水面】

 

一日に一度だけ水鏡を生み出し、モンスター、プレイヤーの一撃を二倍にして反す。

 

スキル【武器破壊】

 

十%の確率でプレイヤーの装備の耐久値を百%削る。

 

スキル【全呑】

 

ありとあらゆる全てを吸収して糧に変える力。容量オーバーの力はHPとMP、ステータスに蓄えられる。

 

スキル【海渦】

 

全ての攻撃や魔法を受け流す。再使用待機時間五分。

 

スキル【縮地】

 

直径十メートル以内の空間の中で瞬時に距離を縮める。

 

 

ポイントを振らなければ【AGI+50】【STR+30】【VIT+10】【INT+10】【DEX+55】【HP+100】【MP+100】が今の俺のステータスになるわけか。第一陣の戦闘職プレイヤーの中で低い方か? 【大物喰い】が変動しそうな数値だな。

 

「・・・・・」

 

格闘士に職業を変えて装備を変えてる辺りから物静かなイカルだったけど、なんだか顔が赤くなって熱い視線を向けてくるのはなんでか? 上半身裸でいる俺を見るのが羞恥心でおられる?

 

「女になった方がいいか?」

 

「ふぇうあっ!?」

 

「なんて?」

 

言葉にならない驚きをしたないま? でも、まだ上半身だけでも男の裸を見慣れてるわけでもないから女になった方がいいか。

 

「【皇蛇】」

 

「あ、あそこにプレイヤーがいるぞ」

 

「よし、やっと見つけた相手だ。勝ってメダルを奪うぞ!」

 

「いや待て、あの人もしかして・・・・・」

 

スキルを発動した直前に向こうから一パーティが駆けて来た。同時に俺の身体が、男から女に性別が変わると共に変化して女体化になった―――。

 

ぷるん。

 

「うん・・・・・? これ、運営側のミスじゃないか?」

 

「きゃあああッ!? ふ、服を着てくださいお姉ちゃん!! 見えちゃってます、思いっきり見えちゃってますよぉ!?」

 

女体化になるとこうなるのか。上半身裸のまま、しかも豊かな胸の桜色の突起物まで晒してしまったぜ。イカルはさっきより別の意味で顔を真っ赤にして騒ぎ出すし、眼前のプレイヤー達は人の身体を見てガン見して・・・・・あっ、イカルも気づいた。

 

「―――お姉ちゃんの身体を見ないでください! 【エクスプロージョン】!!」

 

ドッカアアアアアアアアアアアアンッ!!!

 

「「「「「「あ、ありがとうございましたぁあああああああああっ!!!」」」」」」

 

お星様となったプレイヤー達はメダルだけ落として消失した。いや、いらないけどなもう。



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第二陣記念イベント四日目~途中離脱

怒りの【エクスプロージョン】が炸裂したその後、イカルが運営に抗議のメールを送った数分後。帯が胸を覆い隠す動きをした時に運営から俺宛のメールが届き、謝罪の文書とランダムボックスとランダムスキルスクロールが贈られてきた。運営に抗議したイカルにも届いたようだ。何もない祠を見つけてその前で使ってみることにした。

 

『海神の水苗木』

 

『宝石の肉』

 

「わっ、大きい肉の塊が輝いてます!」

 

「本当に宝石みたい輝いてる肉だから『宝石の肉』ってアイテムなのか。俺の方は・・・・・植えた場所が『神水』とやらが採取できるようになる苗木みたいだな。その水の効果はどうなのか・・・・・」

 

100tはありそうな肉塊と神話に登場する海神の名前が連なってる苗木。

 

「えっと、いります? 私じゃ扱えないアイテムですので。料理のスキルもまだ取得してないですし」

 

そんな提案をしてくるイカルに拒絶の意を示した。

 

「スキルのことなら今後取得すればいいさ。今すぐ使う必要がないアイテムなら、使いたいその時までとっておくべきだよ。というかイカル、ここでお知らせがあります」

 

「なんでしょうか」

 

イカルの肉塊の隣に、同じ肉塊をインベントリから取り出した。景品交換所で見つけたから交換したものだ。

 

「俺も持っているんだよ。百万枚のメダルと交換してな」

 

「持っていたんですか?」

 

「料理に使って見ようかと・・・・・1万個も」

 

「多すぎです!?」

 

10兆・・・いや、今はそれ以上もあるからできるだけ減らしたかったからなんだ。それでもまだ切り崩せれないこの数にさすがの俺もドン引きだぞ。

 

「他にも畑に植えるアイテム全種類一万個揃えてるし、他のファーマーの交換用もあるからしばらくは品切れにならずに済むな」

 

「交換用?」

 

「俺、他のプレイヤーと違って第3エリアの東西南北の町から全然進んでいない」

 

「ええっ!? レベルが91なのに!?」

 

そうレベル91なのにだ!

 

「他のプレイヤーはもう第10エリアまで行ってそうだけど、一人除いて俺よりレベルが低いんだ」

 

「・・・もしかして、スキルで他の人達より3倍も強くなるから進まないでいるんですか?」

 

「いや、単に進む必要ないと感じてるだけ。いまじゃあレベル上げに最適な狩り場があるし、オルト達と一緒に過ごすのが楽しすぎて他のエリアに行こうと思えなくて」

 

どこか納得した面持ちで頷く少女は肉塊を仕舞って肩に乗っていたテトラを抱えた。

 

「私もそうなるかもしれませんね?」

 

「なると思うさ。イベントが終わったら精霊の里に行くか? ノームを増やして畑を豊かにするのもいいぞ」

 

「いいですね! ムームーと言いながらエスクと他のノームちゃんが畑作業しているところに私もお手伝いしたら楽しそう!」

 

満面の笑みを浮かべるイカル。複数のノームと畑作業をする光景が脳裏に浮かんだようだ。俺もそれは楽しそうに思えて来た。

 

「そうなると従魔と使役のスキルをカンストする必要があるな。レベルが偶数ごとにイカルも15ポイント、毎10時に総計90ポイントも手に入るから重戦士とテイマーでなら直ぐに両方のスキルをカンストできる」

 

「テイマーのレベルも上げれば直ぐですね! 頑張ります! それとさっきの肉はハーデスさんに食べさせたいので頑張って料理を覚えますね」

 

ええ子やで・・・・・次はランダムスキルスクロールだ。

 

【反逆心】

 

【一方通行】

 

「【反逆心】? ・・・・・対象がダメージを受ける度に【STR】が最大100上昇する、か。イカルは?」

 

「強い、です。プレイヤーとモンスターの攻撃の100%で反射して返すスキルです」

 

・・・・・マジで強くない? 貫通攻撃も反射できるならほぼ無敵じゃないのかそれ。

 

「これ、装備に付与していいですか?」

 

「どの装備に?」

 

「大盾です」

 

大盾か・・・・・うーん。

 

「常時発動するスキルなら、無敵になってしまうけど回数制限は?」

 

「一日十回ってなってます」

 

制限付きか。それなら一方的な戦いにならない。人差し指を立てて提案する。

 

「イカル、大盾にじゃなくて鎧にしてみるのはどうだ? 大盾だと何でもかんでも反射してしまって、直ぐに回数制限になって使えなくなる可能性がある。鎧にだったら頻繁にダメージを受けることはないし、大盾でカバーして回数を調整できる上に、いざって時にわざと相手の大技を受けて反射でダメージを与えるぞ」

 

「な、なるほど・・・! 回数制限があるスキルは鎧に付与するべきなんですね!」

 

「全部する必要ないからな? 【悪食】だって大盾に付与したら今はなくても強すぎるあまり、運営に回数制限を設定されてしまう。そうならないよう戒めて一日数回か使わないでいるよう心掛けるんだ」

 

はい! と元気よく返事をするイカルだった。なお俺も装備に【反逆心】を付与しようか悩んだが、持ち前の防御力に対して相手からのダメージはほぼ通らないだあろうと悟りしなかった。

 

そして再び歩き始めること一時間・・・・・。

 

「暇だ・・・・・」

 

「暇、ですね・・・・・」

 

雪山から降りて荒地で移動していてもまったくプレイヤーと遭遇しない。何千万人、もしかすると一億人ぐらい同時接続しているかもしれない人数なのに何なんだこの出会いの無さは? こっちは100万倍率のルーレットに何度も挑戦して成功した―――1極枚の持ち主ぞ? 国を10個買おうがGが有り余る持ち主の俺の位置情報はマップに表示されているはずなのに・・・いる場所が他のプレイヤー達と遠すぎるか?

 

「ちょっと運営に聞いてみるか」

 

メールで質問を送った。数分後、運営から届いた。

 

「・・・・・あー」

 

「運営さんに何て質問して返事がきたんですか?」

 

イカルの質問に運営からのメッセージを教える。

 

「俺とイカルはすぐにでもログアウトしてくれても構わないと、長々な文章が・・・・・要約すれば―――死神ハーデスさん、一極枚も稼ぎすぎるから! もう本当にこれ以上このイベントに参加しても意味がないから! 換金してあげるから早急にログアウトしてイベントから抜けてくださいお願いします! by運営全員・・・って」

 

「・・・ハーデスさん、凄く楽し気にあの大きなルーレットを何度もしていましたからね」

 

「途中で出来なくなったのが不思議だったんだよな。あれ、運営の仕業だったなやっぱり」

 

どこまで増やせるか挑戦したかったのに、残念だわ。

 

「と言うわけでどうする? おそらく運営側が俺達の位置情報を消しているから、他のプレイヤーと遭遇することがかなりなくなっていると思う。このままのんびりと自然を見ながらの探検をするか、イベントから抜け出してのんびりと過ごすか、イカルが決めていいぞ」

 

「・・・・・じゃあ、イベントを抜けましょう。実を言うと、交換した畑に植えられるアイテムを早く使ってみたかったんですよ」

 

「焦らされていた楽しみを早く堪能したいってことだな? じゃあ、運営にそう伝えるぞ」

 

再び運営にメッセージを送ると、俺達はもといた場所に戻された。日本家屋の縁側に立っていて加速していた時間の流れも元通りだ。

 

「さてさて、メダルの方は・・・・・うん、ちゃんとGに換金されて一垓以上のGと金メダルが一枚だけ・・・いや、一枚だけかよ! 記念に十枚は欲しかったな!」

 

「ハーデスさん、称号手に入りました。【億万長者】です!」

 

「ん? それなら俺も・・・手に入ってるな。他にも【カジノの神様】なんてふざけた名前の称号もあるし【富豪】【大富豪】【富裕層】【資産家】【大資産家】【トリオネア】【ガジリオネア】って金持ちに関する称号と最速の称号コレクターⅣも手に入れたか」

 

他のプレイヤーより進みが遅い分、称号の獲得数がハンパなくないか?

 

 

 

 

 

死神・ハーデス

 

LV91

 

HP 40/40〈+600〉

MP 12/12〈+400〉

 

【STR 0〈+150〉】

【VIT 1245〈+6161〉】 

【AGI 0〈+150〉】

【DEX 0〈+150〉】

【INT 0〈+250〉】

 

 

装備

 

頭 【空欄】

 

体 【黒薔薇ノ鎧:覇獣(ベヒモス)/滲み出る混沌】

 

右手 【新月:毒竜(ヒドラ)

 

左手【闇夜ノ写】

 

足 【黒薔薇ノ鎧:覇獣(ベヒモス)/滲み出る混沌】

 

靴 【黒薔薇ノ鎧:覇獣(ベヒモス)/滲み出る混沌】

 

装飾品 【生命の指輪・Ⅷ】【三天破】【白妖精(ハイエルフ)の指輪】

 

 

称号:万に通じる者 不殺の冒険者 出遅れた者 白銀の先駆者 毒竜の迷宮踏破 大樹の精霊の加護 幸運の者 ユニークモンスターマニア 三代目機械神 聖大樹の精霊の加護 最速の称号コレクター 勇者 魔王の戦友 絆の勇士 村の救援者 幻獣種に認められし者 血塗れた残虐の勇者 エルフの良き隣人 世界樹の守護者 世界樹の加護 英雄色を好む 最速の称号コレクターⅡ ドワーフの心の友 神獣に認められし者 地獄と縁る者 マスコットの支援者 妖怪マスコットの保護者 宵越しの金は持たない ドワーフの協力者 神話に触れし者 ミリオンダラー 最速の称号コレクターⅢ ミリオネア トリオネア ガジリオネア 空と海と大地の救済者 億万長者 カジノの神様 富豪 大富豪 富裕層 資産家 大資産家 最速の称号コレクターⅣ

 

スキル

 

【絶対防御】【手加減】【逃げ足】【体捌き】【瞑想】【挑発】【極悪非道】【シールドアタック】【大物喰らい(ジャイアントキリング)】【咆哮】【毒竜喰らい(ヒドライーター)】【爆弾喰らい(ボムイーター)】【植物知識】【大盾の心得Ⅹ】【悪食】【受け流し】【爆裂魔法Ⅹ】【エクスプロージョン】【体術】【テイム】【採取】【採取速度強化大】【使役Ⅹ】【従魔術Ⅹ】【八艘飛び】【伐採】【伐採速度強化小】【機械神】【機械創造神】【宝石発見】【刻印・風】【水中探査】【侵略者】【破壊王】【背水の陣】【不屈の守護者】【古代魚(シーラカンスイーター)】【溶岩喰らい(ラヴァイーター)】【カバームーブⅠ】【カバー】【生命簒奪】【アルマゲドンⅠ】【海王】【勇者】【大嵐Ⅰ】【大竜巻】【稲妻】【飛翔】【生命の樹】【金炎の衣】【雌雄の玄武甲】【反骨精神】【身捧ぐ慈愛】【精気搾取】【皇蛇】【耐暑】【渦流】【色彩化粧】【耐寒】【氷結耐性小】【反逆心】【念力】【フォートレス】【不壊の盾】【決戦仕様】【料理50】【調理50】【調合50】

 

 

称号ももう40個か・・・・・。そんなに称号の獲得は難しいものか? 心の中で小首を傾げた時、サイナが現れて話しかけて来た。

 

「マスター、お客様です」

 

「客? 誰だ?」

 

「マイホームを売買する者と名乗り、マスターと商談をしたいとのことです」

 

あの不動産のNPCが? 何で今になって訪問をしに? 応接間に通してくれと頼み、リヴェリアには茶菓子の用意をお願いしてから少しして、先に待っていた応接間にあのNPCが入ってきて俺にお辞儀をしてからテーブルを挟んで正面に腰を落とした。

 

「突然の訪問にも拘らずお会いしていただき感謝します。本日はお客様にご紹介したい物件がありまして、もしよければお目通しを」

 

「紹介したい物件?」

 

カタログを手渡され、目を通すと・・・・・えええ?(困惑)

 

「・・・これは、凄い。でも何で俺に新しい物件を?」

 

「はい、これらの物件は大富豪の方や富裕層の方のみにご紹介させていただいております物件でございまして、お客様は一定以上の資産をお持ちになられています故に、是非ともこちらの物件にもご紹介したく参った所存です」

 

今ホームにしているホーム兼ギルドホームよりも凄いホームが勢揃いしている。ちょっとこれ、なんなの? 語彙力が足りないホームが多いわ!

 

「この物件、島が丸々ホームなのは?」

 

「これは別荘付きのリゾート島でございまして、辺りは海で囲まれており島には自然豊かな植物とその島にしか生息していない動物も住んでおり、富裕層の方から人気を得ております」

 

「この洋風の城は?」

 

「そちらはその昔、若い魔法使いを育成するための元学園だった建物です。生活が可能な環境が整っております物件だったので本日紹介させてもらいました」

 

「この鉄と機械のホームは?」

 

「一部のコアの方の間では人気がありますホームですね。ホームを警備する機械仕掛けの鉄の人形が幾つも配備されており、ホームの中も様々な機械仕掛けが施されております」

 

「これ・・・・・浮いてない?」

 

「世にも珍しい天空の城でございます。巨大な樹木の根が城を包み込み、古の錬金術師達が生み出した『飛行石』により永遠に浮いておられているのが最近の調査で判明した物件です。広い庭園もあり、警備する機械仕掛けの人形が多数配備されております」

 

「・・・・・これ、ホームが動くのか?」

 

「とある冒険家が世界中を歩けれるホームが欲しいと依頼したのが始まりでして、古代の魔法使い達が魔法で動く城を作る流行りがあったそうです。今ではこの城を造る者、修理や整備が出来る者がおらず歴史的価値とアンティークとしての価値がございます物件の一つです」

 

「この物件は?」

 

「旅館の物件です。中は数多な温泉と部屋がございまして、宴会をなされるのであればこの物件が最適でございます」

 

なんか色々とホームがあるんだが、どれもこれも普通じゃないホームばかり紹介されていくな。その中でこんな物もあるのかという物件もあった。

 

「これは、商売ができるホーム?」

 

「ええ、その通りこの物件はショップとホームが兼ね備えております。ここホームエリアではできませんので中央区画の一等地にご用意させております」

 

店舗型のホームか。しかも店舗はスーパーマーケット並みに広く、畑の前の自動販売機よりも数も種類も豊富に出品できるのか。

 

「・・・・・」

 

他にもいくつか紹介してもらったが、気になった物件は複数あった。一極Gを保有している今の俺なら問題なく購入できる額だ。これで一極ではなく載になるがな。値段? 総計で兆と億も掛かったぞ。複数もホームなんて必要ないと思うが、使える時は使っちゃおう。

 

「じゃあ、これとこれさらにこのホーム等を全部一括で購入するよ」

 

「お買いいただき誠にありがとうございます。複数のホームをご購入いただきましたお客様には特典をプレゼント差し上げます。きっとお客様にとってお役に立つかと思われます」

 

黒い封筒を手渡された。中身は何なのか開けようとしたが封を開けない。

 

「それは招待状でございます。ここから遠い先にある都市で私めの同業者がおります。その者にそれを見せればお客様の融通自在に動いてくださるでしょう」

 

「どういう意味でだ?」

 

NPCにそう訊ねても微笑んで一礼するだけで答えてもらえず、トランスポーター買わせるだけ買わせて俺の前からいなくなった。不動産NPCがいなくなった後は、イカルのところへ戻り、リヴェリア達を呼び集めて5つの転送扉をホームの前にセットした。

 

「新しいホームを買ったから皆で見てみよう。まずは動く城からな。古代の魔法使いが作ったホームでラプラスが興味を抱くと思うんだ。というか、作ってたりしてた?」

 

「動く城・・・・・ああ、あれか。何とも不格好な形のホームを作った仲間が昔いたよ。なんだ、あれはまだ現存していたのか? 今となっては懐かしい遺物に等しい魔道具だな」

 

どうやら既知だったようだ。それなら話が早い。彼女に説明をしてもらおうか。そう決めた俺は皆と一緒に転送扉を開いて新しいホームへと足を踏み込んだのだった―――。

 

・・・・・。・・・・・。・・・・・。

 

・・・・・。・・・・・。

 

・・・・・。

 

リアルで2時間がった頃にイベントに参加していたプレイヤーが戻ってきたのを、イッチョウ達がメールを送ってきたのでわかった。全員、何故かホームに集合して問い詰めて来た。

 

「イベントの途中で抜け出したの?」

 

「運営から懇願されて途中退出したんだよ。まぁ、あれだけメダルを稼いだらいてもしょうがない事実は否めないけど」

 

「じゃあメダルは?」

 

「金メダル一枚だけ残してGに換金されたぞ。・・・・・今の所持金、どれぐらいか知りたい?」

 

「もう兆から先は数えてないけど実際どのぐらい?」

 

不敵な笑みで1と0が48ある、そう言ったら全員沈黙した。おや・・・・・反応が薄いな?

 

「・・・・・それってどのぐらいなわけ?」

 

「命数法って知っているなら最初の一から数えて、十六番目の極のところまでだけど・・・一兆の数字の0の数が12個あるからその四倍だと言えば想像できるか?」

 

「「「「「・・・・・」」」」」

 

また沈黙する五人に何とも言えない気持ちで見つめた。

 

「・・・・・ハーデス君、やりすぎ」

 

「うん、自覚してる。おかげでNWOの世界の中で一番の資産家になったぜ。金持ちに関する称号も幾つか手に入ったしな」

 

「だろうね! 私達もハーデスからメダル貰っちゃったから文句言えないけどさー!」

 

「落ち着けよフレデリカ」

 

「俺達の懐も温かくなったんだから別に悪いことじゃないだろ」

 

「ハーデスのおかげで新しいスキルも得たんだ。感謝はしなくてはならないさ」

 

そうだぞー、俺に感謝しろよー。

 

「で、先にイベントを抜け出して何かしてた?」

 

「ああ、あれから不動産屋のNPCがホームに現れて大富豪と富裕層の称号と一定以上の資産を持っている俺だからこそ紹介したい新たなホームの話を持ち掛けて来たんだ」

 

「そんなことがあったの? それでどんなホームを紹介されたの?」

 

「というか、六つぐらい買った。総額兆と億も掛かったけどな」

 

「それでもGが残っているってんだからすげー額だな。それで、どんなホームを買ったんだ?」

 

論より証拠、百聞は一見に如かずと五人を引き連れて新しいホームに連れて行った。配信動画した状態でな。

 

「白銀さんの新しいマイホームその一。まずはここ、リゾート島! 海に囲まれたこの島は豊かな森林と大きな木造の別荘があります! 綺麗な白い砂浜と青く澄んだ海は超綺麗! 海で泳ぐのもよし、ビーチで遊ぶのも良しだ!」

 

「フムー!」

 

「ペンペンペー!」

 

「なお、海にはルフレとペルカが楽しそうに泳いでおりまーす。ついでに言えば食用の海の魚が沢山いるから釣れるぞ!」

 

「白銀さんの新しいマイホームその二。温泉旅館! 色んな温泉と宴会用の広間がたくさんあって数百人も余裕で収まるぞ! 温泉は男女別、混浴も可能! 」

 

「白銀さんの新しいマイホームその三。天空の城! どこかの空に浮いているこの城は、巨大に成長した大樹を軸に作られた古代の建造物で、木々が茂るここ庭園部はドーム状の建物に覆われ、外部からは普通の外壁に見えるが、内部からは透明で日光の入る特別な物質で出来た壁によって造られてるそうだ。ここもとりわけ凄く広いから探検できるぞー! 畑もたくさんあるから植えられる!」

 

「白銀さんの新しいマイホームその四。動く城! 古代の魔法使い達が造ったという動くマイホームだ。このホームの見た目、本当に不格好でも中で過ごす快適は最高! いまどこのエリアにいるかわからないけど、分かり次第教えるなー!」

 

「白銀さんの新しいマイホームその五。旧魔法使いの学園城! 昔の魔法使い達の学園として使われていた城の中は本当に魔法で満ち溢れていて楽しいぞ! 動く足場、魂ある絵画に飛び交う幽霊! 魔法の扉や様々なオブジェクトがあって、魔法の世界に入り込んでしまったかのようだ!」

 

―――以上、説明終わり!

 

「何か言いたいことは?」

 

ツアー気分で一緒に新しいマイホームを見て回ったイッチョウ達は神妙な表情を浮かべてた。

 

「ハーデス、ホームを全部活用する気あるの?」

 

「ぶっちゃけ、ない! ただの興味本位で買っただけだし、なんならギルド設立したら加入した連中に活用してもらうまでだ」

 

「合理的だね。だけど、さっき六つも買ったと言ってなかったかい?」

 

最後のホームも紹介しないのか? と問われたのでそれに答えようとしたらイッチョウが不自然な変化を指摘した。

 

「・・・ハーデス君、空曇り出してない?」

 

「雲?」

 

一度も天候が変わったことが無いこの町の空が? 全員で見上げれば本当に雲一つない晴天が灰色の雲に覆われ、やがて黒雲となった。まるで闇に支配された雰囲気を醸し出す演出に見ているしかできない俺達の目の前で雲が人の顔の形に具現化した。男か女か分からない顔から重低音の声が聞こえてくる。

 

《我は魔王。魔王軍統括者にして冥界の王―――よく聞くがいい人間共、そして異邦の世界から来た異物共よ。我が生み出し三体の魔獣を屠ったその功績、見事なり。しかし、貴様等が新大陸の地に踏み込むことは容易くはない。そこから先は貴様等がいる大陸のモンスターと違い、一体一体が凶悪なモンスターが跋扈している》

 

「・・・・・新大陸の説明?」

 

「意外と親切な魔王ちゃん? いや、別人か」

 

《その地に踏み入れた者共よ。亡き者になれば全てが失われる覚悟しろ。隣にいる者が仲間だと平和ボケしているなら死期を速めるだろう。新大陸は、仲間を殺してはいけない理性から解放され、無法地帯の新大陸では欲望のままに生きるこそが自然の摂理。その者を倒せばその者の全てが倒した者の物になる。培った経験もだ。自然によって死んだ者も例外ではなくその場で財貨を落として悔やむだろう》

 

「え、キツくない?」

 

「ユニーク装備もロストするのか? 試すのが怖いな・・・」

 

《特にリヴァイアサンを倒した勇者を倒せば培った経験の10倍は手に入れられるだろう》

 

「あ、あくどい! あくどいよあの魔王!」

 

「俺達をダシにしたな。より襲わせやすくしやがって」

 

「向かってくるなら倒すまでさ」

 

「へっ、上等だ。暴れてやるぜ」

 

ドラグと同意見だ。襲ってくるなら容赦しないぞ? その覚悟があって襲ってくるんだろうからな。

 

《我からの話は以上だ人間共よ。貴様等のゾンビのような様を高みの見物にさせてもらおう》

 

魔王さんは言いたいこと言ったあと、雲の顏は霧散して黒雲が晴れて元の青い空に戻ったのを見届けた後で、俺は腕を組んで首を傾げ疑問を口にする。

 

「何で俺達ゾンビ?」

 

「死に戻りしても直ぐにプレイヤーはゾンビのように復活するからじゃない?」

 

「なるほど? つまり俺達プレイヤーはある意味新種のゾンビってことか。これは一本取られたな、ハッハッハッ」

 

「気持ち悪い例え止めてくれ」

 

でも、事実だから否定できないでしょうに。



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第二陣記念後

その日の内に店舗型ホームに訪れ商品を売る準備を始めた。1極というメダルの数は伊逹でなく、全種類のアイテムや装備を交換できた。『宝石の肉』みたいなメダル×10万枚のアイテムは100万Gに設定し、メダル×10のアイテムは0を2つ加えた値段にしてみた。実際の価格は知らんし、利益の為に稼ぎたいわけでもないからな。でも、メダルでしか手に入らない物ならば買ってくれるか?

 

「ここもホームだからマモリも移動できるんだな」

 

「あい!」

 

開店前の店舗内にマモリもいて、お手伝いスキルで品出しに手伝ってくれている。さらに装備に関しては・・・。

 

「これは、能力的にこの値段でいいかしらね」

 

「凄いたくさんの装備、いいなぁ。色んな装備があって目移りしちゃう」

 

一流の鍛冶師&生産者の目利きを頼らせていただいている。いや、ほんと助かってる。お礼に好きなアイテムを提供するって言ったら凄いやる気を出してくれたんだからな。お陰様で夕方になる頃にはすべての商品の値段が決まり、白銀さんマーケットの開店が整った。

 

「二人ともありがとう」

 

「むしろこっちがお礼を言いたい方よ。イベントに参加しなかったのにメダルと交換しなくちゃ手に入らなかった物が何の苦労もせずに手に入れたんだから」

 

「これぐらいの労力はへっちゃらだよ」

 

今日中に終わるとは思ってなかったから、予想以上に早く終わったのだ。

 

「他になにか手伝うことある?」

 

「そうだな・・・・・じゃあオルト達の可愛い服を見繕ってくれるか? 今は夏だし和服、着物がいいな。イカルのエスクの分も頼む」

 

「任せて!」

 

「イズと相談しながら3日以内に完成させるね? ・・・・・ハーデスの制服もいる?」

 

「お願いするわ」

 

二人にお願いしたその後。メダルで交換したアイテムを畑にばら撒く時が来た。未だにイベント用のフィールドにいるだろうプレイヤーは多くても60枚は手に入っているだろうが、10枚で交換できる物があればそうではないものもある。他に交換する余裕がないから泣く泣く諦めるしかないだろう。この俺を除いてな!

 

「オルト、オレア、ゆぐゆぐ、ウッドとクリス集合! 新しい作物を植えて欲しい! 今回は大量だから気合入れろよー!」

 

蜜柑、サクランボ、メロン、スイカ、バナナ、パイナップル、キャベツ、サツマイモ、栗、松茸、椎茸とetc・・・百種類以上のファーマー用のアイテムがオルト達の手によって植えられていく間。ホームオブジェクトの設置をしていく。リゾート島を買った手前、海で泳げるのと巨大遊泳施設の落差が激しいな。どっちが楽しいのか気分の問題だろうか?

 

「いや、リゾート島に設置するべきか? 海に面してプールがある場所は外国でよくあることだし」

 

森の中ならばリックやクママも遊べそうだし・・・・・。・・・・・悩むなぁ。

 

でも結局・・・・・。

 

水路を畑に設置することにした。インベントリから取り出して使用したスクロールの羊皮紙から出てきたのは水路ではなく、1人のNPCであった。巨大なハンマーを担いだ、ドワーフである。ドワーフ、だと?

 

「今回は儂らの水路をお買い上げいただき、感謝するぞい。ぶはははは!」

 

何でドワーフが出て来る? ドワルティアのドワーフか?

 

「儂が呼ばれたということは、水路を設置したいのじゃろ?」

 

「ああ。あんたが手伝ってくれるのか?」

 

「うむ。儂に任せておけ! 儂の名はダイグじゃ」

 

「俺は死神ハーデスだ。頼む」

 

ドワーフというだけで頼もしさが違う。俺はダイグを連れて、水路の出発点である清らかなる池へと向かった。

 

「ここから水路を伸ばして、あっちの遊具の脇を抜けて――」

 

「ふむふむ――」

 

水路を通す経路を歩きながら、ダイグに説明をしていく。

 

「最終的には、ホームの畑の方まで繋がる感じにしてほしいんだけど」

 

「なるほど」

 

結構簡単なんだが、ダイグはそれで理解できたらしい。

 

「長さは足りそうかな?」

 

「問題ないぞい。じゃあ、仮設置しちまうか」

 

「仮設置?」

 

「まあ、どんな風になるかのお試しってことだ。仮設置の内は何度でも好きに変更できるから、安心してくんな」

 

「分かった。じゃあ、やってくれ」

 

「おう!」

 

ダイグが軽くハンマーを振るだけで、一気に長い水路が出現した。生産というか、魔法だよな完全に。

それとも、いつかプレイヤーもこんなことができるようになるのだろうか?まだ10メートルくらい余っているそうなので、その分少し経路を変形させたりしながら、仮設置は完了だ。

 

「でよ、細かい調整をしたいんだが、高さと材質はどうするよ? あと、デザインや色も選べるぜ?」

 

「高さはこれでいいかな」

 

俺の腰くらいの高さで、みんなが水遊びもしやすいだろう。問題は材質とデザインだ。

 

「今はレンガだけど、他には何があるんだ?」

 

「石も色々あるし、木材でも行けるぜ」

 

「そうなのか。ふーむ」

 

俺がカタログを見ながら悩んでいると、マモリが横から手を伸ばしてきた。そして、ウィンドウの一部を指さす。

 

「うん? これか?」

 

「あい!」

 

マモリが指しているのは、薄緑のタイル張りの水路であった。小さいタイルを白いモルタルのような材質の上に張り巡らせた、昭和レトロ風のデザインである。

 

ちょっと古めの銭湯とかにいくと、こんなお風呂あるよな。

 

「確かに、これなら日本家屋にも合うか?」

 

日本家屋に合わせて石にしようかと思ったんだが、こっちの方がオシャレかもしれない。

 

「じゃ、これで頼む」

 

「うむ。よかろう!」

 

ということで、水路の完成だ。ダイグは一礼して消えていった。

 

想定より完成までは早かったな。

 

「ペンー!」

 

「フムー!」

 

こいつらが水路に気づくのも早かったな! ペルカとルフレが、直ぐに水路を辿って現れていた。

 

「ペペーン!」

 

「おお、ペルカ――って、速過ぎじゃね?」

 

「ペーン!」

 

水しぶきを盛大に立てながら、凄まじい速度でペルカも泳いできた。いや、泳ぐっていうか、水面を滑っているような感じで、そのまま水路の向こうへと消えていった。

 

「いい感じだな。じゃあ―――ホームの周りを一周繋げようか」

 

同じホームオブジェクトを一つしか買ってないと誰が言ったかなー? 何度も日本家屋のホームに水路を繋げて高低と材質、デザインをちょくちょく変えて一周できるように繋げた後はリゾート島にホームオブジェクトを設置する番だ。リゾート島には海で円を描くように大型のプールを設置、それぞれのプールの中心に噴水を設置し、プールによって設置した遊具が異なる。

 

「ペンペー!」

 

「フムー!」

 

海に向かって伸びる架け橋からプールへ移動したルフレとペルカが早速遊び始めた。ジャングルジムだらけのプールの中を問題なく魚の如くスイスイと潜るのがとても楽しそうだ。

 

「ま、こっちもそうだがな」

 

砂浜にもプールを設置して、プールに飛び込めてもいいようブランコと滑り台を設置した。逆も然りだ。

オルト達はたくさんある遊具でそれぞれ遊び始め、ブランコに座っている俺の背中を押すクママとドリモに揺らされながらそう思っていた。

 

 

「おーい、フェルー」

 

リゾート島を後にして戻ってきた日本家屋にいる銀色の狼を呼んだ。のそりと寄って来た牛並みに大きいフェルに訊ねた。

 

「お前とペガサスのセキトは与えても何も食わないけど、好きな食べ物ぐらいあるだろ? 自分で狩りに行って獲物を捕らえて食べてたりしてる?」

 

「グルル・・・・・」

 

小さく頷くフェルを見て素朴な疑問を浮かぶ。人間が食べる物にはフェンリルの口に合わないか? そうならグルメな幻獣だ。だからこそ、これで確かめたい。

 

「なら、これは食えるか?」

 

100tはある宝石の肉を取り出すと、フェルは表情を変えないが千切れんばかりに尻尾を振り出した。あっ、口の端から涎が・・・・・。

 

「食えるなら食っていいぞ。まだまだたくさんあるからな」

 

「ガウッ!!」

 

あっ、食らいついた。おー、凄い勢いで食べていくな。一心不乱、無我夢中なフェルは見たことが無い。あんな大きな肉の塊を食って腹が膨れないんだ、と思わせるフェルの胃袋の中に納まっていく光景を眺めていった。そしてとうとう完食までしやがった。

 

「・・・・・グルッ」

 

「凄い満足した顔・・・・・」

 

満面の笑みを浮かべるフェルも初めて見たところで、好物が判った。

 

 

宝石の肉 レア度10 品質★10

 

 

古代のマンモスから剥ぎ取れる肉だが、強力な捕食者に狙われやすく極めて入手するのが困難であるため、手に入れた者は莫大な財宝と豪邸を約束される幻の肉。

 

 

強力な捕食者・・・・・絶対フェンリルも含まれてるだろ。

 

「美味かったか?」

 

「グルッ!」

 

「そうか。じゃあ、お前の仲間にもおすそ分けでもするか?」

 

きっと喜ぶだろう。そう思っての提案は、ネコバスに近づいて短く鳴いたフェルの言葉が判るのか、小さくしていた身体を元の大きさに戻したネコバスの方向幕が『フェンリル』になった。え、そういうのもありなのか!? 

 

1時間後。

 

いやー、凄かった。ネコバスに乗って送ってもらった場所はどこだかわからず、着いたら着いたで警戒されるしフェルがいなかったら噛みつかれていたかも(くそ、称号め!)。しかも宝石の肉をお裾分けしたら、一匹残らず用意した分を平らげてしまうんだからな。フェンリルの子供とも触れることも出来て満足な俺に、フェルからリーダーを継いだフェンリルからは感謝の印として卵を貰っちゃった。フェンリルが生まれるのかもしれないがフェルが親代わりになってくれるだろう。

 

 

日本家屋のホームに戻り次第、今度は巨大なクスノキを設置してみた。いやこれ、本当大きいんだが。エルフの里のユグドラシルほどではないが、購入した日本家屋に影を差すほど大きいクスノキを設置してしまった。そう思っていたんだがゲーム的好都合な設定をしているのか、全然暗くはなく畑全体に太陽光が届いている。かなり畑を何度も購入して大量のマスを費やしてだ。

 

「夜行性の不思議な動物がいるらしいんだけど、どんな動物なんだ? マスコットなのか?」

 

既にマスコット枠は全部埋まっているからそれはないと思う。動物と戯れるホームオブジェクトならいいんだけど・・・・・。

 

それからも夜になるまでホームオブジェクトをあちこちに設置する仕事を終えた後は、リヴェリアとサイナ、オルト達とのんびり縁側でのんびりと虫の鳴き声と夜中に浮かぶ満月を見聞して風流を堪能してた。

 

「―――♪」

 

身体を横にして俺の脚に頭を乗せるゆぐゆぐの髪を撫でて寛ぐ。そんなゆぐゆぐが羨ましいともう片方の脚に頭を乗せるウッドと俺の背中に背中合わせして座るクリスが来たのが今さっきの話。

 

「ヤ、ヤミー」

 

「モグモ・・・・・」

 

「クックマ!」

 

「ピカッ!」「ピィ!」

 

遊具として木工をする際に作った水晶樹のジェンガで遊ぶベンニーア達。ドリモが今、慎重に一本のブロックを抜いて一番上に積み重ねた成功に盛り上がってたが、駆け走り回ってたダンゴとフレイヤに巨体を小さくしたネコバスがそこへ飛び込んでしまいジェンガを崩してしまった。ガーン! とショックを受けた様子の5人は、三匹の猫に対して怒りながら追いかけまわるようになった。

 

「ムー?」

 

「ヒムヒム」

 

「フマ」

 

「フム・・・」

 

四大精霊のオルト達は教えたトランプ遊びで楽しそうだ。ババ抜きをしているようでオルトのカードを取ろうとするルフレにヒムカとアイネは見守っていた。あっ、ババを取ったか? しまったー! って感じに叫ぶルフレとドヤ顔をするオルトの対照的な言動が凄く伝わってくる。

 

フェルとメリープ、ミーニィにセキト、ナッツは特に何もせず縁側の下、俺の傍で寛いでいる。

 

「ランラ~♪」

 

ファウも俺の傍にいて思うが儘に音楽を鳴らす。他のマスコットたちもそれぞれ自由に過ごしているのをマモリが配信しているようで、同じように俺も動画配信して顔を出すユーザーたちから凄く羨ましがられていた。

 

 

『なんだこれ、なんだこれ』

 

『クッソ裏山!』

 

『いいなぁ、物凄くいいなぁ!』

 

 

ふふ、そうだろうそうだろう。もっと羨ましがるがいい。

 

「もう夏だけど皆の地域で夏祭りとかある?」

 

 

『そういう縁のない場所に住んでるので』

 

『あるぞー! ふんどし一丁のお祭りが!』

 

『それだけでどこに住んでいるのか絞り込めれるな』

 

『そういうお前は?』

 

『・・・・・男の下半身を象徴した神輿を担ぐ祭りがございますが何か』

 

『お、おうそうか・・・・・』

 

 

あれか・・・・・かなり勇気がいる祭りだよな。参加する方も見に行く方も。

 

 

「因みにこのゲームって音楽プレイヤーはいるのか? 楽器を装備したプレイヤーだ」

 

 

『いるにはいるらしい。リアルでもそっち方面の生業をしている人間とか、演奏を上手くできたいためにゲームで練習しているやつとか。このゲームでしているとリアルにも反映されるからピッタリな練習場だってさ』

 

『カナヅチで泳げない友達も今猛特訓中でーす』

 

『リアルでナンパが上手くできないからとゲームでナンパの練習をしまくってる友人がいます』

 

『通報されるだろそいつ』

 

『それが草が生える。見た目が女プレイヤーにナンパしたら、男を狙っていたオカマだったんだ。今そいつに貞操を狙われて地の果てまで追いかけられてるからナンパどころではない』

 

『www』

 

『見た目が女でも、中身がなw』

 

『姿を変えられても声まで性別を偽れないからなぁ。声真似とか声を変えることが出来るんならワンチャンあるだろうけどさ』

 

『ナンパされたオカマの声がどんな感じあのかちょっぴり気になる』

 

 

そうか。そういう類のプレイヤーもいるんだな。楽しんでいるならいいんじゃね?

 

 

「和楽器を使っているプレイヤーがいてくれたならいいのになぁ」

 

 

『何故に和楽器?』

 

 

「ゲーム内でも俺の従魔達と祭り気分を味わいたいからだがなにか? 演奏してくれるプレイヤーがいたらオルト達が楽しんでくれるだろうしさ。ゆぐゆぐ達も喜んでくれるかもよ?」

 

 

『・・・・・ちょっと和楽器の練習をしてくる』

 

『実は俺、小学校では笛の達人の二つ名持ちのプレイヤーです』

 

『太鼓なら任せておけ! フルコンボのタッちゃんの俺の腕が鳴るぜ!』

 

『太鼓を鳴らすのに腕も鳴らすのはどうだろうか?』

 

『腕がバチ?』

 

『やめっwww』

 

 

なんだろう。滅茶苦茶不協和音にしかならない気がする・・・・・。

 

 

「そうそう。オルト達の和服、浴衣の依頼を生産職にお願いしたから近日公開するな。楽しみにしててくれ」

 

『お―マジか!!』

 

『和服美人が見られるのは眼福』

 

『目の保養にもなりますありがとうございます』

 

『できればお近づきに・・・・・』

 

『見守り隊が近づけさせてくれないぞ』

 

『握手できるなら追放も受け入れる!』

 

『こいつガチ勢だ!』

 

 

いま膝枕をしているところを見ているなら血の涙を流していないだろうな?

 

 

『死神さん。和楽器でバンドプレイしている者ですけど、祭り気分を味わいたいなら何とかなるかも。ただ問題が一つだけあります』

 

 

「その理由は?」

 

 

『私、リアルでは音楽を生業に活動している一人で、NWOでも演奏ができると聞いて皆とゲームを始めました。リアルすぎて現実よりも、ゲームの中で仲間と演奏の練習をする方が楽しくてつい時間も忘れてしまうほど・・・・・』

 

 

「話が長い。本題に入ってくれないか?」

 

 

『一刀両断!』

 

『確かに前置きが長すぎるな。要点だけ言ってくれないかって思ったところだ』

 

『俺達も長い話は好きじゃないんで、単刀直入におしゃってくれませんかね』

 

『す、すみません。えと、私達第二陣のプレイヤーでお金とレベルが足りないんです。出来れば白銀さんに協力を得られないかと』

 

 

第二陣のプレイヤーだったのか。金の方はともかくレベルか・・・・・。

 

 

「皆とゲームをしていると言ってるけど何人だ?」

 

 

『12人です』

 

『12人の音楽に関わっている・・・・・あれ?』

 

『もしかして・・・・・全員日本女性?』

 

『あ、はいっ』

 

『・・・・・ウソダロ?』

 

 

視聴者さんもどうやら察したようだな。俺もそんな感じがして来た所だよ。

 

 

「12人かレベルはどのぐらい上げておきたい方?」

 

 

『・・・・・50は無理ですか?』

 

『第二陣のプレイヤーが数日でそこまで求めていらっしゃるとは、凄い欲深いな』

 

『他の第二陣のプレイヤーも大体20前後、ガチ勢と中毒プレイヤーだったら30手前だろ? それなのに軽々と超えるレベルを望むとは』

 

『そこまで上げるのに俺達ですらどれだけ掛かると思ってる? しかも12人だぞ?』

 

『明らかに白銀さんの時間を奪っちゃってますねこれ。見守り隊が動きかねないぞ』

 

 

50か・・・・・。

 

 

「問題ない。明日の9時から4人ずつでレベル上げに協力してやる。それでいいか?」

 

 

『い、いいんですか?』

 

 

「こっちが願う側だからな。願ってくれるなら労力は惜しまないぞ」

 

 

『やだ、カッコいい・・・(胸キュン』

 

『やっさしぃっ!』

 

『アンタ、漢だぜっ!』

 

『そして羨ましい。白銀さんとプレイできるのは一握りだけなんだからな』

 

『しかもハーレム状態? いや、寄生ハーレムだから羨ましくもない・・・?』

 

 

寄生は否定できないなそりゃ。願った本人も言われるのは承知の上だろう。

 

「和太鼓を叩けるメンバーはいるんだっけ?」

 

 

『はい、勿論』

 

 

よし、夏祭り気分に必要な条件は揃ってるぽいな。

 

 

「今何人の仲間がログインしてる?」

 

 

『全員います。白銀さんの従魔ファンなので』

 

『マジか!』

 

『現実で有名な演奏家を虜にする従魔ってマ?』

 

『ちくしょう!! 話が旨すぎるじゃんかぁっ!!』

 

 

確かになー。・・・・・ん? なんか聞えて・・・・・?

 

「笛、オカリナ?」

 

 

『オカリナ?』

 

『あ、本当だ。音楽が聞こえる。しかも上手い』

 

『しかもこれ、ジブ○の曲だよぉっ!』

 

 

オルト達もこの綺麗な音色に気付き、俺と一緒に音がする方・・・畑の方へ歩いた。奥に行くにつれ、どこに何が植わっているのかわかると見上げた。巨大なクスノキを。視聴者も見えるように調整すれば・・・・・毛色は灰色で、耳が槍のように尖って、猫のような長いひげ、胸から腹にかけて白い体長2メートルぐらいの生物が何かを持って音を鳴らしていた。

 

もう一匹の胸には灰色の模様がある大きな生物と毛は青く、灰色の生物と同じで胸から腹にかけて白い。胸には灰色の生物と同じ形で青い模様がある。

 

最後は子狸ぐらい小さい毛は白い生物がクスノキの天辺にいた。あれ、どうやって座ってるんだ?

 

 

『ト、トト○だぁああああああああああああああっ!!!』

 

『マジか、マジかよっ!?』

 

『本当にいたんだよ~!!』

 

『でっかい木だなと思ったらクスノキだったのかっ!!』

 

『白銀さん、どこで手に入れたのか詳しくっ!!!』

 

 

トト○? あの三匹の呼称か? 手を振ってみたらこっちに気付き演奏を止めてクスノキから落ちて来た。ズンッ! ではなく、落ちる途中で大きな駒を回して足場代わりに乗ってゆっくりと降りて来る。小と中の生物も大きな生物の腹にしがみ付いて一緒にだ。

 

「えっと、名前は?」

 

と訊くと「ドゥオ、ドゥオ、ヴォロー」という野太い声を上げ、返事してくれた。うん、聞こえなくはないな。

 

「ヴォ」

 

「ん? 葉の包み?」

 

どこに持っていたのか分からないものを受け取り、オルトに開けてもらうと中身は木の実がたくさん詰まっていた。

 

「くれるのか?」

 

「ヴォー」

 

「そうか。ありがとう。あー、名前はトトロって呼んでも?」

 

視聴者がそう騒いでいるもんだからリクエストではないが尋ねると笑顔で頷いてくれた。トトロは自分の腹にポンポンと触り出す。

 

「触っていいのか?」

 

「ヴォ」

 

「ん、違う? ・・・ああ、そういうこと?」

 

小と中のトトロがこうするんだと行動で教えてくれた。大きなトトロの腹にしがみ付いたので俺もそうすると、腕だけではしがみつけないと思うのにくっついた瞬間に俺が磁石のようになった錯覚を覚え、大トトロの身体から離れなくなった。物凄いフカフカで温かくて、モコモコで・・・・・。

 

「ヤバい、この腹の上で寝たくなる」

 

 

『いいなぁあああああああああああっ!!』

 

『クッソ裏山!!』

 

『白銀さん、俺の財産を上げるから交ぜさせて!』

 

『子供の頃の童心が甦るぅ!!』

 

 

視聴者も羨ましがるほどの生物か。と言うかこいつはマスコットなのか? 枠の方はどうなってる? まぁ、それは後で確認するとして・・・・・回し始めた駒の上に乗っかったトトロ―――あ、待って?

 

「オルト!」

 

「ム!」

 

もう一人ぐらいしがみ付ける腹にオルトも一緒にくっつかせてもらった。よし、夜のホームエリアの空へと飛ぶ体感を楽しもう。トトロを乗せた駒は空高く浮きだして自由に飛び始める。ホームから飛び出し、ホームエリアの上を飛んで俺達は風になってる。

 

「ヴォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!!」

 

トトロが叫んだ。小と中のトトロも叫ぶ。

 

「ムー!」

 

「オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!!」

 

釣られて俺とオルトも叫んだ! ヤバい、なんか楽しくなってきた!

 

「【飛翔】!」

 

オルトと一緒にトトロから離れ、トトロの手を掴んで横並びに楽しく飛ぶ。あ、小と中のトトロもお互い手を掴んで大トトロの手を繋いで俺達と同じことした。

 

「ははは! オルトー! 俺達風になってるなー!」

 

「ムゥー!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【新発見】NWO内で新たに発見されたことについて語るスレPART39【続々発見中】

 

・小さな発見でも構わない

 

・嘘はつかない

 

・嘘だと決めつけない

 

・証拠のスクショは出来るだけ付けてね

 

 

 

1:メタルスライム

 

とうとう見つけてしまったか白銀さん。

 

 

2:佐々木痔郎

 

すげー! ト○ロだ! ○トロが出たぁっー!

 

 

3:ヨイヤミ

 

小と中の生物も確認できた。

 

 

4:トイレット

 

「ヴォオオオオオオオオオオオオッ!!!」って叫び声が生で聞えた時は凄く感動した!! 白銀さんとノームの声も聞こえたけどとても楽しそうだった!!

 

 

5:アカツキ

 

う、羨ましい・・・・・っ。

 

 

6:ふみかぜ

 

サスシロ安定!

 

 

7:ロイーゼ

 

なぁ、あれってマスコットだったりするのかな。それともモンスだったりする?

 

 

8:ヨイヤミ

 

マスコットの線が強い。しかし、実際のところはまだ判明されていない。

 

 

9:トイレット

 

モンスターはないんじゃないかな。皆も知っているならトト○の設定は動物だし。

 

 

10:メタルスライム

 

クスノキから現れたとすれば、購入したクスノキのホームオブジェクトを設置すれば夜間のみ姿を見せてくれるだろうな。

 

 

11:ふみかぜ

 

どこでそのクスノキのホームオブジェクトを手に入れたのか詳しく知りたい!

 

 

12:佐々木痔郎

 

早速メールを送ってやったぜ!

 

 

13:ロイーゼ

 

手が早いな白銀さん追いかけさんは。結果はどうだ?

 

 

14:佐々木痔郎

 

・・・・・みんな驚け。まずクスノキのホームオブジェクトはメダルと交換しなくてはならないものだったらしい。マスコットかどうかは本人もまだ判らないようだ。

 

 

15:アカツキ

 

えええ~・・・・・無理、20枚しか集めれずパーティーの皆と相談し合って分け合ったから手元に10枚もないんだけど。

 

 

16:メタルスライム

 

待て、まだそう決めつけるのは早い。思い出せ白銀さんはメダルをどれだけルーレットで稼いだのかを。

 

 

17:ロイーゼ

 

ハッ・・・・・まさか、まさかなのか・・・・・?

 

 

18:ヨイヤミ

 

ありえるか? 光と闇の結晶を自腹で買って他のプレイヤーに無償で提供してくれたが今回も?

 

 

18:佐々木痔郎

 

―――白銀さん、クスノキのホームオブジェクトを六千万個も購入したそうだ。この意味、どういうことかわかるよな?

 

 

19:ふみかぜ

 

ろ、六千万個ォッ!? 新規参入したプレイヤーも手に入れるように確保したってのかあの人は!!

 

 

20:佐々木痔郎

 

その通りだ。確実に俺達も欲しがっているだろうと見越して、あの人は後日クスノキのホームオブジェクトを販売するから待ってろとメールに返事をくれた。

 

 

21:アカツキ

 

最高過ぎるだろう白銀さぁああああん!! 俺、白銀さんがギルドを立てたら真っ先に入りに行くよ! 恩返しをしたい!!

 

 

22:ヨイヤミ

 

俺もそれを狙っている。白銀さん、ギルドを設立してくれないか?

 

 

23:メタルスライム

 

するかどうかはわからないが。白銀さんは今、夏祭りの気分を味わいたいからと音楽系の第二陣のプレイヤーと協力しているからな。

 

 

24:トイレット

 

本当に本人達? ファンなんだよ。

 

 

25:ふみかぜ

 

音楽系の職業ってバフとデバフが主な攻撃手段しかない非戦闘職業だったよな?

 

 

26:ヨイヤミ

 

間違いない。しかも演奏中は動けず、演奏を続けなければバフとデバフの効果が発動しない設定になっている。俺も試した瞬間に直ぐ放棄した。

 

 

27:ロイーゼ

 

さては難しすぎるから演奏すらできなかったんだろ?

 

 

28:ヨイヤミ

 

・・・・・黙秘権を使う。

 

 

29:アカツキ

 

それはもう自分で認めてしまっているようなもんだぞ。

 

 

30:佐々木痔郎

 

センスと才能がないと扱えない道具だもんなアレ。とにかく、従魔と夏祭りの気分を味わいたいからとレベル上げに協力する白銀さんだ。絶対またやらかすに決まっている。

 

 

31:メタルスライム

 

同感だな。それじゃ、俺は抜けさせてもらう。仲間とダンジョンを探しに行くから。

 

 

32:ヨイヤミ

 

未知のダンジョンか? もしや、白銀さんと関わっていたりしてるな?

 

 

33:メタルスライム

 

・・・・・黙秘権を使う。

 

 

34:アカツキ

 

メタルスライムを捕えろ! こいつ、絶対白銀さんと関わって発覚した何かを隠しているぞ!

 

 

35:トイレット

 

待てぇー! メタルスライム! 俺達にも噛ませろー!

 

 

36:佐々木痔郎

 

白銀さんのように一緒に楽しもうじゃないかメタスラさんよ!

 

 

37:ふみかぜ

 

メタスラさん待ってよ! 俺達オ・ト・モ・ダ・チだろ?

 

 

38:ロイーゼ

 

どこだ! どこにいるのか正直に言うんだ!

 

 

39:メタルスライム

 

少なくとも始まりの町にはいない。

 

 

40:ヨイヤミ

 

・・・・・白銀さんと鍛冶師のNPCと一時だけ共に行動していたな? となれば鍛冶師関連で関わっているとすれば・・・・・ドワルティアの可能性が高いな。

 

 

41:佐々木痔郎

 

なんだと? じゃあ全員でそこに行ってみるか! まだいるなら直ぐに発見できる!

 

 

42:アカツキ

 

金属で逃げ足が速いスライム狩りじゃぁー!



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下準備と白銀座店

翌日。レベル上げの協力の約束の時間帯にホームの前に12人の女性プレイヤーがやってきた。リアルで活動している彼女達の顏とほぼ同じで、キャラメイクで設定せずそのままログインしたんだろう。

 

「今日からよろしくお願いします」

 

「こちらこそよろしくな。質問していいか? 何時もどこで練習をしているんだ?」

 

「始まりの町の小広場でしています」

 

「そうだったか。それじゃ、早速4人ほど俺とパーティに入ってくれ。あとはミーニィ」

 

「キュイ!」

 

俺の肩に乗るミーニィが俺の次に頑張ってもらわねばならない。

 

「今日は何度もお前の背中に彼女達を乗せるだけになる。疲れさせると思うが頑張ってくれ」

 

「キュイキュイ!」

 

任せろと頷くミーニィを撫でながら他のメンバーへ告げる。4人しかレベル上げが出来ないからな。残りはそれまで待機してもらうことになるし。

 

「残りの8人はこれからフレンド登録をしてもらって、俺のホームの中で待って夏祭りの曲の練習をしててくれ」

 

「いいんですかっ!?」

 

「当然だ。それなりにレベルを上げたら直ぐに交代するからな」

 

12人の第二陣のプレイヤーとフレンド登録し、パーティに入った4人を―――火山へ招待する。

 

「4人のレベルは?」

 

「まだ3です。モンスターもそれなりにチームを組んで一緒に倒しているんですけど、戦いが不慣れで」

 

音楽で食べてる人間だから戦い慣れないのも当然か。それにチームで戦えば貰える経験値も均等されてレベル上げもかなり苦労しているだろうに。

 

「よう久し振りラヴァ・ゴーレム。彼女達の経験値となってくれ」

 

ラヴァピッケルと不壊のツルハシを装備して、彼女達からのバフを受けながらラヴァ・ゴーレムの核を集中攻撃して倒したら、ダンジョンか町に戻る転移魔方陣が出てきて、俺達はダンジョン入り口前に戻る方に乗ること数度。

 

「す、凄い・・・・・レベルが20も上がったわ!」

 

「一日だけでもうこんなに? 上位職業への転職が出来る!」

 

「白銀さんって本当に強いのね!」

 

「ステータス、どう振ろっか!」

 

数十分で4人を30レベルまで上げたからミーニィのレベルも30上がったな。進化はまだのようだが今後が楽しみだ。

 

「あ、ステータスポイントを振る前に、転職する前にちょっとストップ。音楽系の職業の秘伝書を持って来たからそれで転職してみてくれるか」

 

4人分の秘伝書を譲渡し、俺の頼みを聞き受けてくれた四人は特殊転職してくれた。

 

「どうだ職業的に」

 

「悪くないですね。同じパーティーの人達に掛けられるバフの種類が更に豊富になりますが、その分ステータスの伸びが悪く、一次職と変わりません」

 

「まぁ、前に出て敵を倒す職業じゃないから当然じゃない?」

 

「逆にステータスの伸びが良くても戦えないし、音楽の真骨頂は音で人に魅了させることだしさ」

 

「戦闘職の人達より目立ったら変に絡まれるのは嫌だからこのぐらいがちょうどいいよ」

 

だけども、この調子なら夜まで50も上げれそうだ。お前達だけでも最初にそこまで上げてみるか。

音楽系のプレイヤーは戦闘力がほぼ無い。後方で演奏してパーティーやチームのプレイヤーにバフを与え続けるのが職業だ。モンスターにデバフも与えることも可能だが逆に言えばそれしかできない故、メインでするプレイヤーはいないそうだ。せいぜい副業でするプレイヤーがいる程度だとか。

 

「戦闘のBGMを聞きながら戦うのが面白そうなんだがな」

 

「それが出来たら嬉しいんですけどね。演奏中は動けないですし、自分の身も守れないんで副業にするしかないんですよ」

 

「音楽で戦うプレイヤーは片手で数えるぐらいしかいないみたいですよ?」

 

「装備する楽器の種類ごとで戦い方も変わるんですよね。攻撃的なのはエレキギター」

 

「攻撃方法はギターで殴るか演奏で攻撃するんです」

 

変わった装備の特徴を本職からまたラヴァ・ゴーレムへ挑戦するべく火山を登る。

 

「うーん、レイド戦なら結構役に立つんじゃないか? プレイヤーとモンスターにそれぞれバフとデバフを与えて戦局を変えられそうだ」

 

「レイド戦?」

 

「多数のプレイヤーと協力して、強力な一体のモンスターを倒す戦い方だ。音楽は聞く人の感情を動かすための物だ。それが出来るようになればどんな戦場でも他のプレイヤーの役に立てるはずだし」

 

「そうなれるよう、レベル上げも必要なんですよね。でも、戦いながら演奏をするのは難しいですよ」

 

「演奏中に攻撃を受けると中断されちゃうんですよ」

 

「だからパーティーに参加させてくれず、レベル上げも大変で・・・そんな時、白銀さんが夏祭りの曲を求めていたのが千載一遇のチャンスだと思いました」

 

藁にすがる思いでか? メインが音楽系だと苦労するんだな。

 

「ま、お互いメリットのある話だ。この機に音楽系のプレイヤーとしての魅了を伝えればいいさ」

 

「そうですね! 私達も頑張ります!」

 

おう、頑張ってくれ。俺もレベル上げの協力を励むからさ。でも、ただ踊るだけじゃ味気が無いよなぁ・・・夏祭りなんだから屋台も欲しい所だ。それが出来るとすれば始まりの町じゃ狭すぎるか? 絶対に他のプレイヤーも参加したがるだろうし。ま、それは後で考えよう。今は12人分のレベル上げだ。

 

「それじゃ、もういっちょ行くか」

 

「「「「はい!」」」」

 

そうしてレベル上げの作業を繰り返すうちにイズとセレーネとの約束の3日後があっという間に経った。12人のレベル上げは1日で何とか終わらせ、昨日からは1億Gを提供して楽器を購入させては、スキルの熟練度を高めさせている時にイズからコールが入った。衣装が出来上がったという事でイカルを呼びオルト達の神衣装に俺達は歓喜の声を上げた。

 

「可愛い~!」

 

「うん、本当に可愛いね」

 

「良い仕事をしてくれたよ二人とも」

 

「リアルでも写真に保存したいです!」

 

デザインと色が異なる和服や着物を身に包むオルト達。ミーニィとメリープ、フェルやセキトのような四肢の身体のモンスターは羽織る形で着させている。

 

「うーん、これは夏祭りの出店でも通用するな」

 

「私もそう思うわ。はい、ハーデスの分も用意したわよ。イカルちゃんのも」

 

「わ、私の分もですか!?」

 

「ハーデスとお揃いのね? きっと可愛いよ?」

 

お揃い、とな? 受け取った着物を見たら・・・・・。

 

「何で女物の着物なんですかね・・・? 俺は男なんですが?」

 

「だって、女の子のハーデスの方に着てほしかったんだもの」

 

「ご、ごめんね? でも、どうしても見たかったから」

 

・・・・・男の尊厳を何だと思ってるんだこいつら。

 

「マグマ風呂、決定だからな」

 

「「覚悟はできてる」」

 

するんじゃないよ! 最初から女物の着物で作る気だったな!

 

心底から遺憾でしぶしぶ受け取った着物を装備してみると、イズとセレーネが俺から視線ごと顔を反らす。【皇蛇】のスキルで女体化すればあら不思議。

 

「想像通りだねイズ」

 

「ええ、我ながら改心の出来栄えだと思うわ。ハーデス、とても可愛いわよ」

 

「素敵ですお姉ちゃん!」

 

鏡で介して自分を見ると、本当にそこには青く絢爛な金の意匠が凝った着物姿の青髪の美女がいました。

 

「へえ、本当にこれが私なのかと信じられないぐらいだわ。ほら、こうくるりと回ってみるとどう?」

 

「どこから見ても女の子にしか見えないわ」

 

「ハーデスで色んな服を作ってみるのも楽しそう」

 

「お姉ちゃんの服を作る・・・・・私もしてみたいです!」

 

着せ替え人形にされかねないな。遠慮させて貰おうか。

 

「ゆぐゆぐ、どう? 皆も似合うと思う?」

 

「―――♪」

 

とても似合ってる、とゆぐゆぐは満面の笑みを浮かべた表現をする。ウッドとクリス、ルフレやアイネ、ファウも拍手するほどだ。好評でなによりだ。なお、俺達の言動のやり取りは女子12人も見ていて・・・・・。

 

「うわ、凄く似合ってる。このゲームって性転換できたんだ」

 

「着物ととても合って綺麗。尻尾がなければあの珊瑚のような物は髪飾りとして見えるのに」

 

「私達のも、衣装を作ってもらう?」

 

「いつするか決まってないからできるかな?」

 

「じゃあ、お願いしよっか。もしもリアルでも通じる衣装だったらそのまま現実に持ち込んで着てみよ?」

 

「いいねそれ!」

 

黄色い声を上げて何やら話し込んでいたんだが、俺には関係のない内容だったので気にしないことにした。

 

「それじゃ、オルト達。今日は頑張ってね?」

 

「ムム!」

 

胸を叩くオルトを筆頭に他の皆も元気の良い返事をした。立て掛けの看板を持ち転送扉から向かった。店舗兼ホームの中でスキルを解除して服装も戻し、戸締まりしてる扉を開け放った。出入り口の扉の前で看板を置いて他のプレイヤーと目が合うも、気にせず中に戻りカウンターの所で待った。

 

 

とあるプレイヤーの話

 

有名な白銀さんと目が合ったけどすぐに建物の中に入ってしまった。あそこってプレイヤーが入れるのか? 気になったから足を運んで寄ってみると立て掛けの看板が扉の前に飾られてた。

 

男性プレイヤー 10:00~13:00

 

女性プレイヤー 15:00~18:00

 

※当店に働く従魔は一日限定の正社員です。みだりに(安易に)触れようとしないでください。社員の営業妨害をしたプレイヤーはブラックリストに扱い一生出禁にします。

 

男女別の入店の時間割? 従魔が正社員? なんだこれ・・・今はまだ12時前だから入れるんだよな? 扉を押して中に入ると。

 

「―――」

 

『―――』

 

≪―――≫

 

「ランラ~!」

 

「フマー!」

 

「フム!」

 

「ピカッ!」「ピィ!」

 

「ヤミー!」

 

『いらっしゃいませニャ! おいらを愛でてもいいニャ!』

 

「メー!」

 

「ペン!」

 

「キキュ!」

 

「いらっしゃいませ」

 

「あーい!」

 

精霊ちゃんと樹精ちゃん達が俺に頭を下げた!? 魔獣にドールに座敷童もいるしみんな可愛い着物を着てる!! ど、どうなってるんだここ!? 闇の精霊ちゃんの顏ってあんなに可愛いのかっ!

 

「白銀座店にようこそお客様」

 

白銀さんのドールが朗らかに話しかけてきた。え、どういうこと?

 

「こ、ここは?」

 

「マスターが新しく購入した店舗兼ホームでございます」

 

「新しいホーム? 五つじゃなくて六つだったのか? それが店舗型のホームだったのか」

 

「その通りでございます。当店は様々な品を揃えて販売しております。各品々につきお一人様お一つまでの購入設定されておりますのでご了承くださいませ」

 

「何が売ってるんで?」

 

「マスター曰く、前回のイベントでメダルと交換できた、従魔以外のアイテムと装備にスキルスクロールの全てでございます。」

 

マジで!? 白銀さんのドールから離れて商品を見てみると、メダルが集めれなかったから交換することもできなかった、数々のアイテムが・・・・・。

 

「す、すげぇー!!!」

 

目の前に大量に売られてるアイテムや装備。自動販売機以上にたくさんあるし売られてるし、中も広々としてる。スーパーマーケットかここは? ほ、他の奴らにも教えなくちゃっ―――あっ、こ、これはクスノキ! ホームオブジェクトも売っているのか! ト、トットロ~!

 

「フマー?」

 

白銀さんのルフレちゃんが、俺が買うのか買わないのか気になって来たのか? うくっ、可愛いっ。

 

「ルフレちゃん、これとこれ・・・・・あとこれを買うよ!」

 

「フマー!」

 

ありがとう! と言っているのか嬉しそうに可愛い着物姿で、両手を上げて笑ったはしゃぐルフレちゃん、マジで可愛い!!

 

 

サイナside

 

最初の客が呼び水となり、13時まで。男性プレイヤーが店に入ってきてはゆぐゆぐ達を見て興奮して、商品を見て驚いて買うというループが繰り返す。その後、女性プレイヤーの時間帯になろうとすれば。

 

「本当に白銀さんの従魔がいるー!」

 

「きゃー! みんな着物を着てる、可愛いー!」

 

「白銀さんの従魔がいると聞いて!」

 

「ヒムカきゅん! ヒムカきゅんの着物姿は見れますか!?」

 

「ペンギンを間近で見られるお店なんて! いくら払えばいいの!?」

 

店のガラス越しでも聞こえる女性プレイヤーの黄色い叫び声。この後の展開が読めるので―――。

 

「エンゼとルーデル、フェル。外に行って道を作りに行きましょう」

 

「ピカッ!」「ピッ」

 

「グルル・・・・・」

 

扉を開けて、店の前にいる女性プレイヤー達を脇に退かせたまま、13時まで・・・五分前に男性プレイヤーが一人も残らず退出してもらったその後。

 

「いらっしゃいませ」

 

「ムー!」

 

「ヒムヒム!」

 

「ピカッ!」「ピィ!」

 

「クックマ!」

 

「ペーン!」

 

「モグモ」

 

「メー!」

 

「キキュ!」

 

「キュイ!」

 

『いらっしゃいませニャ! おいらを可愛がるのにゃ!』

 

「ワン!」

 

「ニャー!」

 

「あーい!」

 

女性受けがいい従魔のみ入れ替えては女性プレイヤーを出迎えさせた途端。一部の者達が騒ぎ出しました。

 

「「「ぐはぁっ!?」」」

 

「え、衛兵! 衛兵はいないの!?」

 

「わ、和服のオルトちゃん、最高・・・・・!」

 

「クママちゃんの着物・・・・・!」

 

「ドリモ君が着物・・・・・合う!」

 

「ス、スクショは撮っちゃダメでしょうか!?」

 

・・・・・ファン心理、よくわかりませんね。スクショ?

 

「料金100Gで、スクショが可能な特別システムもございます。 ただし社員の妨害は絶対に厳禁、離れて社員の自然体で撮ることが条件付きであります」

 

「払ってやらぁー!!」

 

「払います!」

 

期間限定の従魔達の一日店員は今日まで。明日から顔を出さなくなる現実を受け入れるのでしょうか彼等彼女等は。ですが、マスターの狙い通りに事が運ばれているようで何よりですね。

 

 

 

 

【農業】農夫による農夫のための農業スレ31【ばんざい】

 

 

:NWO内で農業をする人たちのための情報交換スレ

 

 

:大規模農園から家庭菜園まで、どんな質問でも大歓迎

 

 

:不確定情報はその旨を明記してください

 

 

:リアルの農業情報は有り難いですが、ゲーム内でどこまで通用するかは未知数

 

 

21:つるべ

 

なぁなぁ、白銀さんが店舗型のホームを始まりの町の中央区画で構えっているって話知ってた?

 

 

22:ノーフ

 

なんだと? そんな話題はどの掲示板にも浮上してなかったはずだ。

 

 

23:つるべ

 

しかも一日限定で従魔達が和服と着物を着て接客してるって! くそー! 乗り遅れた!

 

 

24:チチチ

 

な・・・んだとっ!?

 

 

25:セレネス

 

あの可愛い従魔達の新衣装・・・・・見たかった!!

 

 

26:プリム

 

白銀さんが売っている物ってわかりますー?

 

 

27:つるべ

 

男女別に時間制限があったけど、あれは従魔達が接客する時間帯で店自体はまだ開いてたから入れた。俺も従魔達に接客されたかった・・・! 売っているものは数日前のイベントでメダルと交換できたものだって教えてくれた。従魔は流石になかったけど本当に全種類あるんじゃないかって思うぐらい種類が豊富だった。

 

 

28:ネネネ

 

自動販売機顔負け?

 

 

29:つるべ

 

顔負けどころか中の広さはスーパーマーケット並みだった。オリハルコンまで売ってたぞ? 

 

 

30:チョレギ

 

オリハルコンって本当なら凄いスーパーマーケットじゃないですか。いくらぐらいで売られて?

 

 

31:つるべ

 

1000万G。前線組と攻略組だったら何とか手の届く値段だった。

 

 

32:佐々木痔郎

 

どの掲示板もスーパーマーケットのことで凄く盛り上がってた。十枚もメダルを集めることも叶わなかったプレイヤーにとって福音的な感じだ。俺も見てきていくつか買って来た。アイテムの中にはファーマー用のアイテムもあったからラッキーだったよ。ホームオブジェクトもあった。

 

 

33:プリム

 

え、ファーマー用のアイテムもあるの!? だったら買いに行かなくちゃ! ネネネ、行こう!

 

 

34:ネネネ

 

私の分も買いに行ってくれない? ちょっと害獣駆除で取り込み中。

 

 

35:チチチ

 

害獣駆除? 猪か何かいるのか?

 

 

36:ネネネ

 

性懲りもなく私の苺を狙うピクシードラゴンと戦ってる。このっ!

 

 

37:ノーフ

 

うぉい!? レアなドラゴンを倒すんじゃない!!

 

 

38:プリム

 

ネネネ! ピクシードラゴンはテイムしない限り何度も来るみたいだから倒しちゃダメだよ!

 

 

39:佐々木痔郎

 

テイムしろテイム!

 

 

40:ネネネ

 

食べ物の恨みは恐ろしいことを教え込まなくちゃ!

 

 

41:セレネス

 

テイムしない限り食べ物の恨みが増えていく一方だと思うけど・・・・・。

 

 

42:イカル

 

あのー、ファーマーの掲示板はここであってますか? まだ初心者なのでわからない質問があります。 

 

 

43:ノーフ

 

お、新規さんか。いらっしゃーい。何か知りたいことがあるなら遠慮なく言ってくれ。

 

 

43:イカル

 

はい、ありがとうございます。あの、ピクシードラゴンってどうやったらテイムできるんですか?

 

 

44:プリム

 

スカイ・ストロベリーって苺を育てるとやってきて、苺をあげるとすぐにテイムできるよ!

 

 

45:チョレギ

 

この掲示板にいる皆は白銀さんの恩恵を得たファーマーばかりです。苺も白銀さんから物々交換してもらって手に入れました。

 

 

46:佐々木痔郎

 

今の俺達でいられるのは白銀さんも関わっているのが大きい。ファーマーなのにドラゴンをテイムできるようにしてくれたこともありがたい。

 

 

47:ネネネ

 

ドラゴンいらない! あー! また食べられたぁー!

 

 

48:チチチ

 

いい加減テイムしなよ・・・・・。

 

 

49:イカル

 

た、大変そうですね・・・・・。

 

 

50:ノーフ

 

単なる意地の張り合いだから気にしないでくれ。さっさとテイムすれば来なくなるのにな。

 

 

51:チョレギ

 

ピクシードラゴンが欲しいなら苺の苗を白銀さんに言えば貰えると思いますので、一言伝えましょうか?

 

 

52:イカル

 

ありがとうございます! でも、自分で言いますので大丈夫です。

 

 

53:プリム

 

もしかしてもう知り合ったり?

 

 

54:イカル

 

はい! 初めてログインした時にオルトちゃんと一緒にいた白銀さんと会いました! それから色々と教えてくれたり、第二陣プレイヤーを記念するイベントにも一緒に楽しみました!

 

 

55:佐々木痔郎

 

え・・・・・白銀さんのお隣にいたプレイヤーって、君だったの!?

 

 

56:つるべ

 

掲示板で噂されていた金髪のプレイヤーだったなんて・・・・・(驚愕)。

 

 

57:ノーフ

 

やべぇ、粗相なことしたら白銀さんに怒られっぞこれ! 怒らしたら怖いって評判だぞ? お前等、イカルさんを丁重に扱え!

 

 

58:イカル

 

白銀さんは怖くないですよ! お姉ちゃんにもなりますから!

 

 

59:セレネス

 

お姉ちゃんになる? まさか、白銀さんの中身は女性だったりする説が・・・・・?

 

 

60:死神ハーデス

 

イカル・・・・・?(怒怒ン!!)

 

 

61:ノーフ

 

ひぇあっ!? は、白銀さんんんんっ!?

 

 

62:死神ハーデス

 

ちょっと、ホームに来てくれる? お説教するから。

 

 

63:イカル

 

あうあっ!? ご、ごめんなさいハーデスさん!!

 

 

64:死神ハーデス

 

ノーフ達・・・・・。

 

 

65:ノーフ

 

は、はいっ・・・・・。

 

 

66:死神ハーデス

 

?なるかわ・・・・・ニコォォコニ(#^-^)ニコォォコニ・・・・・わかるな?

 

 

67:プリム

 

イ、イエッサー!

 

 

68:佐々木痔郎

 

イエスマム!

 

 

69:ノーフ

 

了解であります!

 

 

70:チョレギ

 

ゴンッ!!! ☆彡\(゜ロ\)ココハドコ? (/ロ゜)/アタシハダアレ?ミ☆ ナニモオボエテナイ。

 

 

71:死神ハーデス

 

・・・・・。

 

 

72:セレネス

 

・・・・・いなくなったか?

 

 

73:プリム

 

た、たぶん・・・・・。

 

 

74:佐々木痔郎

 

初顔出しがまさか恐怖付きだとは・・・・・

 

 

75:チョレギ

 

本当に気を付けましょう。優しい人ほど怒らしたら怖いと言います。

 

 

76:つるべ

 

怒らした奴は本当に馬鹿な奴だ。いないよな? そんなプレイヤー。

 

 

 

―――店番をしてもらってるサイナから、店の反響はよいと連絡を受け、ホームに来たイカルを説教してからそれなりに時間がたった頃だった。ゲーム内でアナウンスが流れだした。

 

《プレイヤーが特殊エリア『宝饗水晶巣』を開放しました》

 

―――メタルスライム達か!? それともまさかの他のプレイヤーか? とうとう他のルート、ヘパーイストスが見せてくれた地図の場所の入り口か、全く別の場所から入って独占していたエリアを解放してくれたのか。

 

「ハーデス」

 

ラプラスが音もなく背後にいて真剣な表情で話しかけた。

 

「念のために聞くが、自力以外で誰かを案内したのか?」

 

「それはない。マグマから行けるとは言ったが、その方法までは知り合いの一人と勇者達にしか教えていない」

 

「・・・・・そうか。となると、私が最後に通ったあの道から経由して見つけたのか。魔法で隠蔽したままで放置してたからな」

 

「そんな魔法で別の入り口を隠してたのかよ。お前が昔助けた人の子孫があの水晶の場所を見つけようとしても見つからないわけだ」

 

私が助けた? 思い出そうと思考の海に飛び込んだラプラスは、しばらくした後で「あー」と口から漏らした。

 

「いたような気がするな。モンスターから逃げ惑っていた誰だか知らないが助けてやった気がな。もはや覚えてもすらない相手の子孫がこの町にいるとは、不思議な縁を感じる。そうか、あの時の人間が手掛かりを遺していたのならば、発見されたのも納得だ」

 

納得したラプラスは、お気に入りの場所に入り込むプレイヤーのことは気にしない様子だった。

それでいいならこれ以上とやかく俺も言わない。それよりもようやく彼女達12人のレベル上げが終わったところで俺は解放された。残りの装備を買うG問題も、軽く一億も譲渡させて品質のいい装備を買いに行かせたしのんびりできるな。後は彼女達次第だ。準備が整うまで新しい卵を温めますかね。

 



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変化

 

宝饗水晶巣に直行してみた。マグマから行ってみると、誰かが水晶系モンスターと戦ってる音はないのは不思議だが、いないならいないで久しぶりにやってみたいことをしてみた。

 

その一 大量のモンスターを呼び寄せる

 

そのニ 防御力極振りにする

 

その三 わざとダメージを受ける

 

その四 HPを回復する

 

以上! ベヒモス戦で得た【背水の陣】と同じモンスターで【VIT】を増やす作戦だ! あの時は中断してしまったけど今度はしないぞ。結果が明らかになるまで検証を続ける。いや、凄いなこいつら。【生命の樹】で回復もしてるのに五桁の防御力でもダメージを与えてくるとか、攻撃力以外に何かあるな? それともレベルが90以上なのかな? ま、どっちでも構わないしどうでもいいことだ。

 

数時間後・・・・・。

 

『スキル【復讐者】を取得しました』

 

おっ? やっぱり続きがあったか。どれどれ効果は?

 

 

【復讐者】

 

効果:対象が受けた90%のダメージを反射ダメージとして与える。

 

取得条件:死亡回数が一度だけのまま十万以上のダメージを受けること。

 

 

「・・・・・え、つまり?」

 

水晶系のモンスター達が俺の疑問を教えてくれるように、俺が何もしなくても勝手に自滅してポリゴンと化していった。

 

「お、おおお・・・・・防御力極振りの真骨頂ではないかこれ?」

 

HPを回復するスキルがあるし、一日一度だけだが即死はしないし、反射ダメージで敵にダメージを与える。

 

もしくは【カバームーブ】で二倍になるダメージをわざと受けて90%のダメージを与えてみるのも悪くない?

 

でも、相手も【不屈の守護者】みたいなスキルを持ってるなら不発で終わりそうだな。にしても、うはははっ!! みろっ、モンスターが勝手に自滅していく様はまるで・・・・・っ!! 何だろうなシャボン玉か? あ、【受け流し】を付与したら二乗のダメージが与えられるんじゃ?

 

ピロン。

 

「ん? メタスラ・・・・・?」

 

フレンドコールで繋げてくるプレイヤーの名前に通話状態にする。

 

「どうしたメタスラ」

 

『いま、水晶系のモンスターと戦ってるよな? 手助けは必要か?』

 

「やっぱり、お前達だったか? 宝饗水晶巣の正規のルートから入ったのは」

 

『ああ、あの地図を見てからずっと捜索してた。塞いでいた水晶を破壊するのは大変だったが、最前線組すら見つけられなかった隠しダンジョンをようやくな』

 

「おめでとう。それでそっちも何か得たか?」

 

静かに動いて探索でもしていたのかもしれないパーティーの様子を知りたく訊いたら。

 

『モンスターが強すぎる。一気に群れで間も置かずに襲ってきてあっという間にミンチにされる』

 

「あっ、死に戻ってまたダンジョンに来たのか?」

 

『そうしたら、モンスターに囲まれてるのに平然と生きてる異常なプレイヤーを目撃した俺達の気持ち、わかるか?』

 

「あっはっはっ。誰だろうなーそんなプレイヤー。俺もそんなプレイヤーの顔を拝んでみたいところだ」

 

『・・・・・』

 

あっ、こいつ凄く呆れたな!? なんて失敬な奴!!

 

「お前らがいるならそっちに行くな。待ってろ」

 

『待て来るな!? 余計なものも連れてくるなこっちが死ぬ!!』

 

「大丈夫大丈夫、カバーしてやるからさ」

 

『安心できるか!! やばいっ、こっちにも見たことがない人型のモンスターが群れで来た!!』

 

あーそいつら。HPが高い方だから苦労するだろうな。ま、そういうことなら行かないよ。頑張れー。

 

『くっ、強すぎる! このダンジョンの情報の扱いはどうする』

 

「お前が流していいぞ。報酬は割り勘な」

 

『わかった!』

 

それが最後のメタスラの言葉となって、またパーティー全員死に戻ったぽい。さて、俺は俺でレベル上げでもしようかな!

 

 

 

 

フレデリカside

 

「・・・・・ハーデス、またやったね」

 

「今度はなんだ。夫婦の間でしかわからないことを言われると気になるじゃ「【多重炎弾】!」あぅぶねぇっ!?」

 

「またハーデスがレベルを上げたのかよ?」

 

その通りなんだけど、その通りなんだけど。

 

「私もそうなら向こうもそうなんだろうね。レベルが101になったよ」 

 

「なるほど。もしかすると宝饗水晶巣というダンジョンでレベル上げしているのかもしれないな」

 

「じゃあ戻るか? ハーデスの狩り場に俺達も行くためによ」

 

ペインの首が縦に頷いた。

 

「あの時のハーデスが召喚したモンスターがいる。ハーデスを除いて誰よりも早く倒すためにね」

 

私は倒せそうにないからドラグのサポートだね。何時も通りに。

 

「行くのは構わないが、せっかく第10エリアの直前まで来たのにか?」

 

「ハーデスが独占していた光景は、きっと今後誰でも行けるエリアよりも面白いと思うよ」

 

一緒に攻略していた他のプレイヤー達が先のエリアへ向かう姿と反対に、私達は来た後方のエリアへ向かう姿に数人のプレイヤーが話し掛けてくる。

 

「おい、ここまで来たのに入らずに戻るのか?」

 

「ああ、アナウンスを聞いただろう? 宝饗水晶巣の方が興味ある。タラリアに情報が売られている頃だろうし攻略しに行くよ」

 

「チッ、またあの野郎かよ。俺達より隠しダンジョンごとき見つけて調子にのりやがって」

 

「誰よりも先に進む方が面白いのにな」

 

「第2陣のプレイヤーも第3エリアまで進んでるんだろ? 何考えているんだかな」

 

「極振りだからナメクジより遅すぎて、新規のプレイヤーにすら置いていかれてんじゃね?」

 

「「それだ!」」

 

「レベルもせいぜい初心者に追い越されてないように応援でもしてやるか」

 

「無理無理! 後ろで寛いでいるだけの奴なんかに応援したって、今さら俺達のように70レベル以上も上げねぇよ!」

 

・・・・・ハーデスのこと何も知らないプレイヤー達の声がとても不快でしかない。顔は覚えたから新大陸で倒してやろうか、という気持ちを抱きながら有料のワープで始まりの町へ戻った。

 

情報は案の定タラリアに流されてた。でも、売ったのはハーデスじゃなくて別のプレイヤーのパーティーだという。ハーデスが見つけたんじゃないの? それとも譲った? 多分後者だろうけど、兎に角も他のプレイヤー未知のダンジョンへ向かうように私達も新発見されたダンジョンがあるドワルティアへ移動した。

 

そして、ペイン達が倒しきれなかったボスモンスターがいるダンジョンに辿り着くや否や、私達を歓迎する百以上のモンスターの襲撃に他のパーティーが遭っていた。

 

「な、なんだこのダンジョンはぁ!?」

 

「デカい上に速くて群れで全方位から襲い掛かってくるのかよ!!」

 

「ダメだ、武器が通じないぞ! 魔法もだっ!」

 

「ハンマーなら通用するぞ! こいつら、打撃が弱い!」

 

「打撃系の武器なんて持ってねぇよ!」

 

ぇぇぇぇぇ・・・・・・? 私達より先にダンジョンに入ったプレイヤーが、ボールのように吹っ飛んで行く様に( ゚д゚)ポカーンと見てしまう。私達がいるのは広い断崖絶壁の上で、大きな水晶の樹木を中心に広がる幻想的な水晶のエリアを眼下に見下ろせることが出来る。ダンジョンに入ってすぐモンスターに襲撃なんてされてなければゆっくり眺めていられたのにと思わずにはいられない。私達はダンジョンに繋がる出入り口から出てすぐに水晶の蠍に阻まれているから。高い壁の上から、断崖絶壁から、どこからでも現れる蠍のモンスターに悪戦苦闘に強いられている。

 

「ボスもそうならモンスターもそうだってのかよ」

 

「攻略組の連中でも歯牙にもかけれないってわけじゃないが、軒並みにやられているか」

 

「ハーデスの奴はどうやってこんなモンスターと戦っているんだ?」

 

持ち前の硬さと多種多様なスキルで、だろうね。【多重石弾】! あ、表面に罅が入った。でも、時間が立つと罅が消えて・・・治った? もしかしてダメージが回復したの?

 

「回復したっぽいけど、フレデリカの魔法でもダメージ与えられるのか? 」

 

「打撃系が通じるなら少なくとも物理系の魔法でもいけるでしょ。ほら、目の前にモンスターいるんだから倒す倒す! まだダンジョンの入り口から少しも進んでないよ!」

 

「そうだね。ハーデスだったら余裕で―――」

 

ペインが何か言いかけた時、激しい振動が地鳴りとなって段々それが大きくなるにつれ、何かが近づいているのが判った。それは私達から離れた遠方で爆発が起きて、水晶の天井に向かって吹っ飛んだ水晶と破片に被りながら現れたのは巨大な二体のモンスターで、その内の一体は見覚えのあるモンスターだった。

 

「えっ、何でここに鉱石喰いが現れるの!?」

 

「知ってるのかフレデリカ」

 

「ハーデスと一度ね。ドワルティアのドワーフ達と一緒に戦って倒しただけだから」

 

もう一体の翼を持ったワニと戦い始めだしたけど、正直ここで争わないで欲しいと思わずにはいられない。こっちまで巻き込まれたくないのと―――さらに巨大な爆発音とともに現れた、ハーデスが召喚した水晶の蠍とゴーレム、蛇のモンスターが水晶の壁から現れて、争っている鉱石喰いと土属性っぽい大型ワニに向かって襲ってはあっという間に倒したまま今度は残った三体が争い始めた。

 

「・・・・・強過ぎね?」

 

「あの二体のモンスターも弱くはないと思うけど、倒されるまで一分も掛かってなかったよ」

 

「そんなモンスターを倒したハーデスも異常だがな」

 

「倒し甲斐があるじゃないか」

 

「ペインならそう言うと思ったよ」

 

油断した。次にそう思った時は、背後から現れた蠍の鋏に横凪ぎに殴られて断崖絶壁から落ちていることが気付いた時だった。決して低くない断崖絶壁から落ちればどうなるか言うまでもなく、転落したダメージで死に戻りすることもある。【VIT】が高ければ生き残る可能性はあるけれど、私は魔法使い。そこまで防御力を上げてないから多分このまま即死するだろう。ドラグには悪いけど、私抜きで戦ってもらうしかないや。

 

「ここでハーデスに助けられたら惚れ直しちゃうかもね」

 

「―――そんじゃあ、天使が助けに来てやるぜ」

 

その声が聞こえた私の視界の端に、黒い鎧を着て純白の翼を生やした金髪で青い目をしたプレイヤーが飛び込んできて地面とぶつかるギリギリのところで私の身体を両腕で受け止めてくれた。

 

「よう、やっぱりお前達も来たか」

 

「ハーデス・・・? どうしてここに?」

 

「そりゃあお前、俺ですら解放できなかったダンジョンを正式に解放されたんだ。どんな奴が独占していた狩り場を公にしたのか、気になってくるに決まってるだろ。そしたらなんか賑やかになってる場所に気付いたからここまで飛んできたのさ」

 

そしたらお前が落ちたところを見かけた。と言って地面に降ろすハーデスが私の身体を優しく抱きしめて来る。

 

「で、俺の奥さんよ。惚れ直したか?」

 

「・・・・・だったらなにさ」

 

惚れ直した、なんて口では恥ずかしくて言いたくない。でも、ハーデスの胸に顔を押しつけて「したよ」と声を殺していった。そしたら私の耳元でハーデスが―――私が凄く恥ずかしくなることを言ってきた。だけど、惚れた弱みになっちゃったからか私は小さく頷いて・・・ハーデスと2人きりになる約束を交わしちゃった。

 

・・・・・。・・・・・。・・・・・。

 

・・・・・。・・・・・。

 

・・・・・。

 

断崖絶壁にいるペイン達とこのダンジョンにやってきた他のプレイヤーと合流する俺に驚かれるが、先に群がってくる蠍を対処しなくちゃな。

 

「ここのモンスターは打撃に弱いこと知ってるよな」

 

「ああ、だけど向こうの方が強すぎて前線組の連中も歯が立たないぜ」

 

「そりゃそうさ。俺の防御力を上回る攻撃力を持っているんだぞ? 推定レベルは80以上だと確信しているぞ俺は」

 

大盾で襲ってくる水晶蠍をノックバックして断崖絶壁から吹っ飛ばして落とす。

 

「武器破壊の特製もあるみたいだし、俺の【VIT】もうなぎ登りだ。ここは本当いい狩り場だよ」

 

「やべぇ、こいつの防御力を上げる格好の場所かよ。お前、今レベルいくつよ」

 

「んー? ・・・うんと、108になってるな」

 

「レベル108!? 冗談だろ!」

 

冗談ではないんだなこれが。

 

「ペイン、お前のパーティーに入ってもいいかー?」

 

「ああ、構わないよ」

 

「よし、そんじゃここで違う職業でレベル上げさせてもらうぜ」

 

格闘士にチェンジして上半身裸の三大天の装備を装着する。

 

「へぇ、それがハーデスが倒して来たベヒモス達の素材で作ってもらった装備か?」

 

「おう。極振りかHPとMP以外のステータスが10以下の相手じゃなきゃ、【大物喰い】の効果が発動できる状態だからステータスは低いがな。レベルも1のままだぞ?」

 

「それでも戦うという事は、強力なスキルがあるんだな?」

 

正解。とこっちに鋏を振り下ろす水晶蠍に向かってスキルを発動する。

 

「【反鏡水面】」

 

大きな水鏡が虚空に浮かび上がり水晶の鋏がその鏡を割った瞬間に水晶蠍の鋏がポリゴンと化して消失した。それでももう片方の鋏で突き出してくる相手に【海渦】と俺の目の前で渦巻く海流を横に動かして左へ受け流し、【縮地】で蠍との距離を縮め、零距離で左手装備の【覇轟の豪牙】のスキル【全呑】でもう片方の鋏を殴り消し飛ばした。残された武器で貫かんとする尾の奇襲にも無力化した。水晶蠍は最後に己の身体で轢き殺そうとして来るが、【咆哮】で動きを10秒間停止させた後に【悪食】で撃破して見せた。

 

「んはっ、凄いな。倒したら経験値がレベル36まで増えたぞ。やっぱ美味しいわここは」

 

「「「「・・・・・」」」」

 

なんかだんまりしちゃってるけど、大丈夫か後ろから来てるぞ? あ、流石に呆けてないかペインがすぐに反応して対応した。

 

「俺もスキルと新しい装備を手に入れたくなったな」

 

「ここから出たら始まりの町にいる神匠の鍛冶師に頼もうぜ」

 

「同感だ。オリハルコンの武器を手に入れてやる」

 

「なんか、負けてられなくなったなー」

 

ドラグ達も攻勢に出て、ゆっくりとだが確実に一体ずつ倒していく。俺も負けてられないと拳同士を打ち付けて笑みを浮かべる。

 

 

運営勢side

 

 

「おい大変なことになった」

 

「何が大変なんですか?」

 

「・・・・・あの九鬼家がスポンサーに加わるどころかNWOをスポーツ的な大会として開催しようって連絡が届いた」

 

「はぁ? なんですそれ?」

 

「どうせ人材不足な九鬼家の人材登用するための建前でしょ?」

 

「上の判断は?」

 

「まだだ。最終的に決断するのは中央区の王だから決定の賛否は決まってない。相手が相手だから慎重になっているだろう」

 

「個人的に九鬼家の介入は嫌っすね。ゲームも職業になった時代だと言え、俺達が築き上げたNWOをたかが大企業の人間に買収されるような真似はされたくないっす」

 

「だが、蒼天の名を広める機会でもあるのは事実だ。NWOは今では世界的にも有名な仮想現実ゲームとなって、その知名度は社会的にも貢献されてきている。第一陣として日本に在住している外国人達を贔屓的にゲーム参加させてから、今じゃその国のトップクラスのプレイヤーになっている人数も多くなっている」

 

「そうだな。中央区の王の読み通りになっていると言っても過言ではない。ゲーム内で得たGは現実世界の金銭に何割か差し引いても収入として得られるようにしてるから、外国人のログイン数と記録が増え続けている」

 

「その収入方法に魅かれて、NWOで稼ごうと遊ぶユーザーも現在一億人を超えましたね。数年以内で10億人も届きそうな勢いです」

 

「全世界の人間達にとって最高のエンターテインメントに成り得るか。九鬼家もそれを見越してのスポーツ的な大会を開催したいと言っているのかもな」

 

「でもそれは、王達だって気付いているはずですよね」

 

「だとしても、まだそうする時期ではない。NWOが正式にリリース開始されてからまだ三ヵ月だ。王達はどう判断を下す・・・・・?」

 

 

蒼天―――。

 

 

「面倒なことを提案してくるわね九鬼財閥も。国家対抗戦を開催しようだなんて」

 

「蒼天を介して九鬼財閥が美味しい思いをしたいんじゃないの?」

 

「うーん、でも・・・全世界の人達とオリンピックみたいに競い合って遊べるならいいんじゃないかな?」

 

「桃香さんの気持ちは分かりますが、いずれするつもりだったあの方の考えを日本政府や九鬼財閥が主管にさせてはどうかと思います」

 

「それにまだ早すぎるわよ。国外にもあのゲームを浸透させている段階なのに。日本政府も大変な時期に何を考えているのかしら・・・・・」

 

「九鬼財閥を無視できないから、話だけでも通したかったんじゃない?」

 

「仮に本当に国家対抗戦をしたら蒼天の知名度が高まらないかな?」

 

「ヘぅ・・・・・大会を日本で行い、NWOの世界で日本政府主管の国際イベントで開催すれば確かに莫大な名声と利益が得られる点は無視できません」

 

「なるほど? もしかすると日本政府の狙いはそれなのかもよ華琳」

 

「震災と津波の対応に日本国民が政府に対する支持率が下がった今、何とかしたい彼等の思惑に蒼天はダシに使われる? もしそれが彼等の狙いなら―――冗談じゃない話ね」

 

「逆に大きな貸しを日本に作れるんじゃない? 日本で蒼天の思い通りにしたい時にだけ絶対に逆らえないようにできるとか」

 

「ふぅん・・・? それは悪くないわね。でも、国家対抗戦をするならその昔、第一次と二次世界大戦時に彼が日本国内で蒼天の領土の一部にした場所の一つ・・・東京で行うわ」

 

「―――なら、決まりだなお前達」

 

「あら、来たの?」

 

「興味深い内容のメールが届いたんだ。そりゃ来るさ。九鬼財閥の思惑はさておき、国家対抗戦の件は蒼天が8割、日本が2割で取引して事を進めるぞ」

 

「ふふっ、随分とふんだくるのね?」

 

「蒼天のゲームを利用するんだ。日本はそのゲームを借りる形で国際大会を開催しようとしているならレンタル料は当然発生するよな?」

 

「言えてるわね。九鬼財閥がスポンサーになる件については?」

 

「大体あいつらの考えは読めてるんだよな。蒼天との深い関係、そして蒼天の中心たる王の俺達と繋がりを得るのが九鬼財閥としての狙いだ。スポンサーの件は保留。一度でも繋がりを得たらこの機にそれを理由にいらんことして来るだろうからな・・・・・はぁ」

 

「目の上のたん瘤ね。あなたからしてみれば」

 

「油断したら喰われるのは蒼天だ。九鬼財閥みたいな相手とは近すぎず遠すぎずな距離の関係で交流するのが一番だ。故に蒼天の舵を蒼天以外に握らせるような真似だけはさせるな」

 

「当然のこと言われるまでもないわ」

 

「ええ」

 

「はい」

 

「任せてください!」

 

 

 

 

「ところであなた、NWOをしているの?」

 

「仕事の合間にだが、それがどうした」

 

「いいえ。しているならしているで、あなたがゲーム内でもトップになってもらわないと国家対抗戦の時、蒼天の威厳を示せれないと思っただけよ」

 

「その時になったらとっくになっていると思うから気にする必要ないぞ」

 

「そう、それなら信頼しているわ。それとさらにユーザーを増やすために蒼天と日本国内でNWO用の報道機関を設立していいかしら」

 

「人材がいるなら構わない。華琳の手腕はそれこそ信頼しているからな」

 

「ふふ、ありがとう」



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再び常闇の町

音楽系のスキルの熟練度が高まるまで待つ他ない俺は久しぶりに、常闇の町に訪れた。ちらほらとプレイヤーは見掛けるが、最初に解放された時よりおらず閑古鳥が鳴いていた。第二陣のプレイヤーの姿はまだないようだ。

 

「ヤミー!」

 

それでも星の煌めく夜空に赤と青の二つの満月の下ではしゃぐベンニーアにとって、妖怪と闇の世界は過ごしやすい環境なのかもしれない。

 

「久々の探検だ。どこに行こうかベンニーア」

 

「ヤミ!」

 

どこにあるのか分からないのに行ってみたい場所へ指差すベンニーア。小さな手を繋いで散策する。動画配信した状態で多くの視聴者に見守られながら。

 

 

『ベンニーアちゃんの顔、初めてみた。凄く可愛いんだな』

 

『俺、闇霊の試練に挑戦したけどマジで怖かった。闇の中をただただ突き進むだけなのに、時間が過ぎていくと不安になるんだよな』

 

『わかる。好奇心で振り向いたらいきなりドアップでホラーゲームに出て来そうなモンスターに襲われて、凄い勢いで引きずられたあの時の恐怖が・・・・・ウッ!』

 

『判定機もシビアだよ。心拍音ってどうやって測ってんの思うぐらい増えて失格になっちゃうんだもん』

 

『単にお前がビビりなだけだろ』

 

『ア? じゃあテメェはクリアできたのかよ』

 

『・・・・・仲間が絶叫してくれたから失格扱いされたんだよ。目を瞑ってもらってもそいつの判定機が失格レベルまでメモリが溜まるから諦めた。それ以来、仲間の間で闇霊の試練は禁句状態になった上に気まずくてギスギスしてる』

 

『・・・・・なんかスマン』

 

『俺は死神さんみたく一気にハードな方を挑戦したけど、ほんとムッズ! 死神さんみたく乞食じゃなくて別の方法で異形と関わったんだけど、グロテスクな料理の大食い競争をやらされてクソ不味くて食べきれず札を貰えなかった』

 

『お前はそうだったのか。俺はパチンコで景品にされてる札を狙ったんだけど、全然玉が貯まらずリアルでパチンコしている気分だけで手に入らなかったよw』

 

『パチンコがあるのかよ! 俺なんて綺麗なおねーちゃんが働いてるキャバ嬢のお店っぽい所に入ったら、金をぼったくられた上に支払いが足りないからと強制労働させられたわ! ―――悔しいぐらい楽しかったけどさ!』

 

『ありがちな罠に引っ掛かったか。俺は客引きのバイトをして異形達を集めまくったら札を貰えたよ。でも、次のステージで詰んだ。バッティングセンター、ホームランを百回なんて俺には無理!!』

 

『成功率3%の試練はもしかして楽しい? 俺も次はそっちやってみよ』

 

 

賑やかな視聴者の話声を聞きながら手短な所にある店の中に入ると市販の装備を見て回る。

見た目が綺麗な防具や奇抜な形の武器など目を惹かれる物はあったが、俺の装備を上回るような物は当然なかった。

 

「金に余裕は・・・・・あるし何か買おうかな」

 

「ヤミー」

 

結局何かを買おうとすることなく広めの店内をぐるっと回って店員のいるカウンターの前に来た時、店員の後ろの壁に貼り付けられたポスターに装備を五点以上ご購入の方に特典と大きな文字で書かれていることに気づいた。

 

「なら買ってみようかな」

 

適当に安い装備品を五点購入すると店員から一つの巻物を受け取った。

 

「【クイックチェンジ】?」

 

誰でも使えて、既に情報も広まりつつあるスキルである。

 

 

【クイックチェンジ】

 

セットしておいた装備に装備を変更する。もう一度使うことで元の装備に戻る。

 

 

『お、白銀さんも見つけちゃった? それガンマーの間では重宝されてるスキルだぜ』

 

『別の銃に直ぐ切り替えて射撃する、という事が出来るのは本当に楽しいんだよな。そういうゲームをしてきたゲーマーにとって自分でやれるのがどれだけ待ち望んでいたことやら』

 

『二丁で撃った後で瞬時に別の二丁の銃で撃つ銃撃戦はたまりませんわー!』

 

『わかるー! だからガンマーの間でPK行為をしてでも遊んでいるんだよねー!』

 

 

「なるほど、なるほど。じゃあ俺も何時かガンマーで遊んでみようかな。聞いてて楽しそうだわ」

 

 

『いらっしゃい! 楽しく撃ち合いしようぜ!』

 

『できれば機械の町で撃ち合いができたらいいのになぁー。雰囲気的にもピッタリだしさ』

 

『本当にな』

 

 

サイナにそんなことできるのか念のために聞いてみるかな。店を出てすぐに訊ねた。

 

「他に何があるか知ってる視聴者さんはいるか? クエストしてみたいな」

 

 

『クエスト的な物は見つかってないよー。骨董品とかアイテムとかそういうのなら売ってるけど』

 

 

「骨董品か。日本家屋に置くのにピッタリだな。買いに行こう」

 

道を教えてもらい、次に向かったのは家具アイテムが並ぶ店だった。

 

奥に店主のNPCが一人座っている。古めかしい壺や掛け軸などから机などまで幅広く置いてある。ギルドホームの部屋の見た目を変えることが出来るアイテムである。

 

「おお、まさに和風の家具だ。買おう」

 

品定めしつつ幾つか購入していく。すると、奥で座っていた老人の店主が俺に声をかけてきた。

 

「お兄さん・・・・・もう一つ壺を見ていかないかね」

 

「壺? 見ようかな」

 

店主からの直々の誘いが気になったので見てみることに決めた。

 

「こっちに来なさい・・・・・」

 

店主は扉を開けて商品が展示されていないスペースへと俺を招く。俺がそれについていくとそこで手のひらに乗るほどの大きさの小さな蓋つきの壺を見せられた。

 

「これ? 何の変哲もない壺だな」

 

そう言った矢先に俺の前に青いパネルが出現する。

 

「ん? クエスト?」

 

 

『え? マジで? おい誰だ。クエストがないって言った奴。しっかりあるじゃないか』

 

『新発見じゃん! 試しに受けてみてよ!』

 

 

視聴者の要望に応えて【壺中の王】というクエストを受けた。

 

「それでは・・・・・最後の一匹になってもらおうかね」

 

店主が壺の蓋を取ると俺の体は壺の中に吸い込まれていった。

 

「えっ! わっ!? あっ! そういうクエストかぁー!」

 

一瞬の浮遊感の後・・・俺は足から地面に落ちた。

 

「っと、ここは?」

 

辺りを見渡す。そこは真っ平らなフィールドで遠くに高い壁が見えた。歩いて端から端まで歩こうとは思えないような広いフィールドである。ベンニーアがいない。ここはソロ限定か?

 

「・・・・・ん?何か来てる?」

 

聞えて来る何かに目を細めて遠くを見ると硬そうな紫色の甲殻を持った蠍や百足、さらには蜘蛛などまで本来持っていない甲殻を持ってして俺の方へと走ってきていた。なかなかの速度で走ってきており見る見る内に姿は大きくなってくる。

 

 

『いぎゃあああ! デカすぎるだろぉー!?』

 

『ゆ、夢に出て来そう・・・・・!』

 

『言うなよ! 眠れなくなるだろう!?』

 

 

阿鼻叫喚の視聴者たち。俺はそうでもないのでのんびりとした口調で【溶岩魔人(ラヴァ・ゴーレム)】となって待ち構える。

 

「飛んで火にいる夏の虫、まさしくこのことだなー」

 

自らマグマの塊に飛び込んではHPを自分で減らして自滅していく蟲毒の虫達。【金炎の衣】と【大嵐】で火砕旋風を巻き起こして虫達を滅却。火に包まれる虫達はそのまま焼失していく様は何とも言えない。

 

 

『・・・・・やっぱ、強過ぎだろ白銀さん』

 

『ほんと、耐性をつけないと勝てないわ』

 

『耐性つけても勝てるビジョンが浮かばないんだがな』

 

『まだ何かスキルを隠し持っていそうだもんなぁ・・・・・』

 

 

その予想は正しいと言っておこう。

 

「最後の一匹!」

 

溶岩パンチで最後のモンスターを仕留めた所で俺の視界は暗転し、気付けば元いた店の中へと戻っていた。

 

「店の人・・・・・いない? おっと!」

 

「ヤミー」

 

突然消えてしまった俺を心配していたかベンニーアが抱き着いてきた。同時に目の前にクエスト達成のパネルが現れる。

 

俺が得たものは一つのスキル。

 

「【蠱毒の呪法】? 何だろう?」

 

 

【蠱毒の呪法】

 

毒系統スキルに20%の即死効果を付与する。

 

「おー・・・・・おー? なるほど・・・・・一応【毒無効】も乗り越えられるんだ」

 

 

『え、今なんて?』

 

『信じられない言葉を聞いてしまったような』

 

 

【毒無効】や【毒耐性】を備えたプレイヤーやモンスターが今後増えて使い辛くなるだろう【毒竜】は、その範囲の広さで多人数の【毒無効】を持つプレイヤーを巻き込みその内何人かを倒し、対俺の情報を歪める力を手に入れた事実にほくそ笑む。

 

「そのうち試してみようかな・・・・・今はとりあえず・・・・・」

 

店主がいなくなった店を出ると次の店へ向かう。次は和服が売られてる店だった。その中に入りベンニーアが似合いそうな紫色の和服を購入して着飾らせた。

 

 

『おおっ! 可愛いベンニーアちゃん!!』

 

『こんな可愛い姿を見れるとわかってしまったら、闇の精霊を手に入れたくなるじゃないか!!』

 

『アップした髪型と髪に挿した簪で印象が変わるなー』

 

『骸骨の仮面は・・・・・夏祭りので店で売られてた物だと思えば可愛い? と思う』

 

 

和服姿のベンニーアのまま町中を歩くことにして、他にクエストがないか探し始める。

 

「他に何か珍しくもなくてもいいから見つけたものは無いか?」

 

 

『あー・・・じゃあ、鬼と戦うイベントならあるぞ』

 

『鬼・・・・・俺達を何度もコテンパンにして誰一人も倒せない最強のあの鬼のことか?』

 

『ソロ限定でKTKとペインすら倒せなかったあの白鬼さんを戦わせようって?』

 

 

え、ペインでも? KTKって誰のことかわからないが。

 

「どうして倒せない?」

 

 

『職業ごとに戦うスタイルが変わるんだよ白鬼。しかも一対一で戦わないといけないし』

 

『大体共通しているのは武器が薙刀で炎で攻撃してくることなんだよな』

 

『貫通攻撃もして来るから大盾使いのプレイヤーは大体それで即死する』

 

 

薙刀による貫通攻撃・・・・・短刀じゃリーチが違い過ぎるな。

 

「遠距離からは?」

 

 

『魔法すら弾かれて一刀両断で終わりですが何か』

 

 

「あ、そうなんだ」

 

「ヤミ!」

 

ベンニーアが何か見つけたようだ。屋台の方へ走って行き、炭火焼で食べ物を売ってるNPCのところへと待った。

 

「ヤミー」

 

「食べたいのか?」

 

「ヤミ!」

 

「あー・・・いらっしゃい。だけどすんません、売ることが出来ないんでさ」

 

ん? どういうことだ? 申し訳なさそうにばつの悪い顔をするスキンヘッドのNPC。

 

「何故だ? 目の前に美味しそうなものがあるのに」

 

「すんません。これは予約していただいたお客さんの物でして、材料はあるんですが肝心の炭が切らしてしまいましてこれ以上焼けないんでさ。炭を取りに行くにしても店を空けたままにするのもいかんので」

 

「そういうことか。じゃあ、代わりに炭を貰いに行こうか?」

 

「そいつは本当ですか? ありがてぇ。じゃあ地図と手紙を渡すんで炭焼き家に訪ねてくだせぇ」

 

御使いのようなクエストを受けた俺達は、炭焼き家がいる山の方へ向かった。途中漆色の鳥居を潜って、千段以上はある階段を上った先に家屋があった。

 

「すみませーん!」

 

大声で訪問者として呼ぶ。しかし、誰もいないのか返事もない。留守なのか扉の前に書置きがあった。

 

『今宵は火の神を祭るための神楽の舞いを行う故、用がある者はここから更に東に来たれし』

 

神楽の舞い・・・・・夜って今だよな?

 

「ベンニーア、掴まれ」

 

「ヤミ!」

 

舞の邪魔するわけじゃないが終わってから声を掛ければ大丈夫だろう。【飛翔】で夜の森の上を飛ぶと火による灯りを見つけたのでそこへ直行する。少し手前に降り立って近づいてみると和服の羽織を着て祭具を持ち、燃える火の中で舞い続けるやせ細った中年男性がいた。洗礼された舞い、無駄な動きが一切なく神に感謝を込めて捧げる舞いとして見る人を惹かせる何かを感じさせる。終わるまで待っているつもりだったが、男性が体勢を崩して倒れ込んだので、木の陰から出てきて介護した。

 

「大丈夫か」

 

「き、きみは・・・・・」

 

「屋台のおやっさんから炭焼き家から炭を貰って欲しいと頼まれた者だ」

 

「そうか、しかし・・・今は舞わねばならない大切な日だ。日が昇るまで舞わねば・・・・・」

 

青いパネルが浮かび上がった。EXクエスト『火之神楽』というクエストだ。受けると男性が懐から巻物と耳から外した飾り、手に持っていた祭具を渡してきた。

 

「これに、舞の全てが記されてる。朝日まで舞えるこの耳飾りで・・・・・」

 

そう言った男性はこと切れたように全身から力が抜けて・・・・・。

 

「死んだ?」

 

 

『殺しちゃダメでしょっ!』

 

『縁起でもないことを・・・・・』

 

『でも、忘れてないか? 白銀さんの名前は死神ハーデスであることを』

 

『あっ』

 

『ひ、人殺しぃ! 人殺しよぉっ!!』

 

『よくも殺したな!』

 

『瀕死のNPCの魂を奪おうとするな!』

 

 

お前らが縁起でもないことを言うんじゃないよ! あっ、時間が表示された。急いで耳飾りを装備して・・・・・嘘。

 

「満腹度が100%減少しないって」

 

 

『地味』

 

『いや、満腹度を管理しないとステータスが半減するんだぞ? 地味なのは否定しないが』

 

『お前も思ってるじゃないかよ。俺も思ったけど』

 

 

全員が思ってることだろそれ。とにかく舞を習得・・・・・。

 

 

 

祭具(七支刀に近い形状)を両手で握り、円を描くように振るう舞い。

 

祭具を円舞に高速の突進から斬撃の如く繰り出す。

 

祭具を両腕で握り、腰を回す要領で空に円を描く舞い。

 

祭具を両腕で握り振り下ろした後、素早く振り上げる舞い。

 

祭具を両腕で握り、肩の左右で素早く振るう舞い。

 

祭具を両手で握り、跳び上がって身体ごと垂直方向に回転して捧げる舞い。

 

高速の捻り祭具と回転による舞い。

 

祭具を両腕で握り、太陽を描くようにぐるりと祭具と振るう舞い。

 

祭具を右手で握り、その柄尻を左の掌(たなごころ)で押し上げるようにして、天に捧げる舞い。

 

暈(かさ、薄雲に映る光輪)の名の通り幾つもの円を繋いで、龍を象るように舞台を駆け巡りながら祭具を振るう舞い。

 

祭具を両腕で振りかぶり、揺らぎを加えた独特な振り方で降ろす舞い。

 

我が身を天に捧げるかの如く跳び、宙で身体の天地を入れ替えながら祭具を振るう舞い。

 

這う低さから伸びあがりながら、祭具で宙に螺旋を描く舞い。

 

 

「あー・・・・・これ、人間離れした動きをしなくちゃならない神楽舞いだわ」

 

 

『無理ゲーでは?』

 

『運営の悪意がここにもあったとは』

 

『白銀さんはできる?』

 

 

「取り敢えずやってみる」

 

でも、職業的には何がいいんだ? 神主とか巫女とかの職業は未発見なんだが・・・・・。重戦士のままでいいのか? この神楽・・・・・双剣か刀、格闘士と身軽な職業でやらないといけなそうな気がする。・・・・・ええい、ままよっ! メイン職業を刀使いに変更した状態で祭具を持ってるから神楽舞いを始める。13もある舞のパターンはスキルとして使えて、頭で覚えずに済むが同じ繰り返しを延々と繰り返さなければならない。その苦労は舞っている本人にしかわからない。

 

 

『頑張れー! あとどれぐらい踊るのか解らないけど!』

 

『応援しに行くぜ!』

 

『ベンニーアちゃんのことは俺に任せろ!』

 

『何を言う、俺に任せろ!』

 

『常闇の町に到着した! あれ、この辺りにあるはずだよな漆色の鳥居。見つからないぞ』

 

 

野次馬が来られない設定をしてるんだろうな。ありがたいことだよ。来られたら集中力が途切れそうだ。今は・・・舞い続けることに集中する!

 

 

・・・・・。・・・・・。・・・・・。

 

・・・・・。・・・・・。

 

・・・・・。

 

 

永遠に終わらないと思わせる神楽舞いをしてから・・・・・表示されている時間は残り1分を切り、常闇の町に朝陽が昇ってきた。長々と待たせてしまったベンニーアはずっと見守ってくれて・・・・・。

 

 

『10!』

 

『9!』

 

『8!』

 

『7!』

 

 

そして一緒に見守ってくれていた視聴者達がカウントを始める。一緒に神楽舞いの終わりを向かえようとしてくれて・・・・・。

 

 

『4!』

 

『3!』

 

『2!』

 

『1!』

 

 

―――0ォッ!

 

カウント0と同時に、最後に舞った円舞で身体の動きを時が止まったかのように停止させた。全身で息をしながら次の状況を待つ。お、踊りきったぞ・・・・・っ?

 

「・・・・・見事だ」

 

死んでたかに思えた男性が、ゆっくりと起き上がって。黒い目の眼差しを向けてくる。それは敬意が籠っているように思えた。

 

「火神の祝福を受けし者ならば、きっと私の継承者になってくれると信じていた」

 

「っ・・・どうして、そのことを」

 

「判るとも。私も火神の祝福の恩恵を与えられた者だ。これは偶然ではない。必然の出会いだ」

 

スキル【日刀】を取得しました。

 

「そして、最期にキミのような若者に出会えてよかった」

 

男性の身体が陽炎のようになって消えようとして行くので、耳飾りを返そうとしたが突きだされた手で制された。

 

「それは、火之神の神楽舞いを継承した者に受け継がれる証。キミが次の後継者を見つけるまで身に付けなさい」

 

「・・・・・名前は」

 

「―――」

 

最期に己の名を静かに言い遺し、俺の目の前から消え去ったNPC。炭を貰いに来ただけなのに大変なクエストをする羽目になったな全く・・・・・。

 

「ヤミー!」

 

「おー待たせて悪かったな。炭、どうしようか」

 

 

『お疲れ様ー!』

 

『数時間も踊り続けるなんてサスシロ!』

 

『何が得たのか教えて貰ってもいいですかー?』

 

 

「秘密で。精神的に疲れたからこのあと休むわ。配信もこれでおしまいってことで」

 

 

『ちょっ! 鬼退治の配信はお願いします!』

 

 

「えー・・・・・いいよ」

 

 

『断るかと思いきや、了承したし! ありがとうございます!』

 

『楽しみにしてまーす!』

 

『次回、白い死神VS白い鬼の激闘! 応援するぜ!』

 

 

勝手にネーミングを決められたし。もうどうでもいいや・・・・・。炭を探してクエストを終わらせないとな・・・・・そしたら寝よ。



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常闇の町 最強の鬼退治

 

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一休みを済ませて戻ってきた。スキル【日刀】を『始原の赫灼』に付与しようと思ったが、保留にして動画配信を再開するため戻った常闇の町では、ログアウトする前まではいなかったプレイヤーが何故か多く闊歩していた。

 

「視聴者の皆さんただいま。そしてこの状況は?」

 

 

『そりゃあ、まだ未確認のクエストがあると分かれば探しに来るのがプレイヤーだよ』

 

『死神さんの活躍を生で見たいプレイヤーもいれば、便乗orあやかりたいプレイヤーもいる』

 

『そこで白銀さんが活躍すれば他にも何かがあると踏んでやってくるさ』

 

『ちな、俺達もそうでーす!』

 

 

俺は客寄せする珍獣か何かですか?

 

「さて、鬼の場所はどこだ?」

 

 

『北の一番奥にある鳥居に行けばいるよ』

 

 

「あっちか。それじゃ、行ってくる」

 

北へまっすぐ進む俺の背後はゾロゾロとついてくるプレイヤーがついてくる。教えてくれた鳥居を見つけると建物があり足を踏み入れた。後ろの野次馬はこれ以上は行かないと階段前で立ち止まって手を振ったり声援を送ってくれる。

 

「このまま上まで行けばいいのか」

 

紫の炎に照らされた廊下と階段を上へ上を進んでいく。これといって入れる部屋はなく、警戒しつつも最上階を目指す。

 

「よっと・・・・・人は、いないな」

 

階段を上った先にはぴったりと閉じられた襖があった。何かがあるとすればその先だろう。俺は一つ深呼吸をすると襖を開いた。中は畳が敷かれているくらいで何の変哲もない部屋だった。

その一番奥に真っ白い袴と着物を着た白髪で額に二本の角を生やした妖が一人座っていた。

 

特徴としては鬼に最も近いが、ほんの少し前に瞬殺した四メートル近い筋骨隆々の鬼とはまた違った見た目である。恐らく彼がこの建物の主だろうと思い、次の動きに注意を払う。

 

「おぉ・・・・・?まさか人間が来るとはな」

 

鬼はそう言うと立ち上がりこっちへ歩いてくる。

 

二メートル程だろう身長が威圧感を強めている。

 

「ついて来い」

 

鬼は俺に背を向けてもといた場所へと戻っていき、地面に魔法陣を描くと消えていった。

 

「行くか」

 

気を引き締めて魔法陣に乗った俺が辿り着いたのは荒野だった。鬼も少し離れた場所に立っている。

周りを確認しても木の一本、大岩一つ見当たらない。

 

「・・・・・人間、俺から言うことは一つだけだ」

 

「・・・・・」

 

「俺を倒してみろ」

 

俺は疑問も抱くことも驚くこともなく構えた。

 

「さあ、やろうか人間」

 

その声が俺の耳に届いた直後、鬼の右手から白い光が弾ける。

 

鬼の手に握られていたのは刀だった。

 

「勝負だ!」

 

戦闘モードに入って鬼の方へと距離を詰めていく。鬼は俺との距離が離れているにも関わらずその刀を大上段から振り下ろす。その刀身がぐんと伸び、悠々と自分の位置まで届いたことを確認して横へ躱す。

 

「さて、初見だから攻撃パターンを把握させてもらおうか」

 

故に判明した鬼の薙刀による攻撃は―――。

 

真円に近い弧を描いて打ち下ろす。

 

日輪の様に円を描く太刀筋を縦に叩きつける。

 

太刀筋が∞の様な軌道を描き、左右対称の鋭い斬撃を広範囲に飛ばす。

 

激しい動きをして繰り出す高速の二回連続の回転斬り。跳躍中でもできる。

 

上空へ向かって飛び上がり、攻撃の威力を一点集中させて放つ突き。

 

龍が舞うような動きで高速接近し斬りつける。

 

豪雨のような鋭い突きを20回放つ技

 

鋭く力強い踏み込みと素早い薙刀の振り抜き。

 

相手の真上を飛んで背後に回り、空中から放つ。

 

薙刀の高速回転による円舞の上下二連撃。

 

 

大盾使いの場合。

 

真円に近い弧を描いて打ち下ろす。→薙刀の軌道を見切って躱すか、軽く後方へ跳躍する。

 

日輪の様に円を描く太刀筋を縦に叩きつける。→左右に避けて躱すか、後方へ下がる。

 

太刀筋が∞の様な軌道を描き、左右対称の鋭い斬撃を広範囲に飛ばす。→盾で受け流す、できないなら攻撃を誘導させて対処しやすくする。

 

激しい動きをして繰り出す高速の二回連続の回転斬り。跳躍中でもできる。→薙刀が振るう瞬間を見極めて懐に飛び込んでシールドアタック。ノックバックで攻撃を中断させる。

 

上空へ向かって飛び上がり、攻撃の威力を一点集中させて放つ突き。→よく見て躱す。

 

龍が舞うような動きで高速接近し斬りつける。→回避不可、できるなら躱せ。

 

豪雨のような鋭い突きを20回放つ。→俺なら躱せるが、そうでないなら相手の目を潰せ。※閃光手榴弾

 

鋭く力強い踏み込みと素早い薙刀の振り抜き。→条件反射がものを言う。

 

相手の真上を飛んで背後に回り、空中から放つ。→素早く前にスライディング、もしくは大きく左右へ躱す。

 

薙刀の高速回転による円舞の上下二連撃。→ダンスゲームの要領で薙刀の軌道を読み気合で躱すしかない。

 

「大体こんな戦闘スタイルで来ることが分かったけど、お前等いけるか―?」

 

 

『ノーダメージで躱し続ける白銀さんも凄いけど、他の職業で戦うと戦闘スタイルがまた変わるからなぁ・・・』

 

『大盾使いとしては凄くありがたい情報です。実行できるかは別問題ですけどね』

 

『でもそっか! また盲点だ、閃光手榴弾とか罠アイテムを駆使して戦うことも出来たな!』

 

『プレイヤーとかモンスターの動きを封じるスキルも存在しているから、俺達もイケるかもしれないな』

 

『だけど肝心の回復がする暇ないんだよなぁ。回復系のスキル持ってないプレイヤーからすれば厳しい条件なのは変わりないだろ』

 

 

回復が出来れば戦闘維持が保たれる・・・・・ふむ。

 

「じゃあ、こういうやり方ならどうだ?」

 

回復ポーションを大量に床へばら撒くばら撒く。そして拾ってもいいが―――試してみよう。こう踏んで、HPを回復してな? あ、できたわ。

 

 

『うっそぉおおおおおおおおおっ!?』

 

『ちょ、飲まずに踏んで? 砕いて回復する方法なんてあったのかよ!?』

 

 

「意外とできたな。始めて俺も知った」

 

 

『ぶっつけ本番かーい!! でも、凄い新発見でもあるぞこれぇッ!!』

 

『でも・・・飲まずにポーションの瓶を割って回復もできるんだ。そういうことも可能だったんじゃ?』

 

『あっ、確かに!』

 

 

視聴者達の間で大変な盛り上がりをしている他所に鬼の猛攻は止まらない。薙刀の刃を両手による真剣白羽取りで止めて膠着状態に持ち込む。

 

「そろっと俺も攻勢に出るぞ」

 

 

『俺達の仇を取ってくれぇー!』

 

『頑張れ白銀さん!』

 

『いっけー!』

 

 

「【咆哮】!」

 

十秒間の強制停止を受けた鬼は毒攻撃を受ける。

 

「【ヴェノムカプセル】!」

 

毒状態になるか分からないが、試してみようじゃないか。直径二メートル程の紫色の球体。俺は鬼を閉じ込めたその中にズブズブと沈んでいく。【ヴェノムカプセル】の消費MPは一回あたり20だ。10回以上は余裕で出来る。

 

「【ヴェノムカプセル】」

 

その声に応じて、俺達を包むカプセルはその直径をさらに四メートルまで大きくする。当然毒壁の厚さも増す。

 

「【ヴェノムカプセル】」

 

無慈悲な障壁強化。俺はその直径を六メートルに変えて厚さを増す。んー、ボス相手に即死はないか。

 

「おっと、やらせないぞ【咆哮】! 【ヴェノムカプセル】!」

 

即座に鬼の行動を縛り上げる。この行動の繰り返しによって俺は攻撃を受けることなく鬼のHPを削ることが出来るようになった。それ以降―――削る。ただひたすらに鬼のHPを削り取っていく。結果、完全に制圧した状態で鬼のHPを半分まで減らすことに成功した。

 

 

何度目かの強制停止と毒の牢獄の強化後、俺は鬼の変化を見て取った。

 

「人間・・・・・中々やるな!」

 

そう言い放った鬼を中心に白く輝く光が渦を巻いている。内側から強引に【ヴェノムカプセル】を突破してくれた風が吹き荒れ、その暴風の音を聞かせる。明らかな変化に大盾を構え、俺に様子を窺わせる鬼は地面から浮いているのが目視できた。

 

「さぁ・・・・・行くぞ!」

 

響く声と同時、鬼は宙を駆けた。そのまま白い光の尾を引いて俺との距離を詰めてくる。

さらに赤く光る薙刀を見たことで危険を察知した。

 

「(速いな!) 【金晶戟蠍(ゴール・D・スコーピオン)Ⅲ】! 【黒晶守護者(ダーク・ゴーレム)Ⅲ】! 【緋水晶蛇(ヨルムンガンド)Ⅲ】! 」

 

MPを回復した直後、最近公された新ダンジョンにいるボスモンスターの三体を召喚して壁代わりにする。

 

「【金炎の衣】」

 

全身が金色の炎のようなオーラに包まれたところで三体が紅く光る鬼の薙刀に両断されてしまう。え、マジで?

 

「【大嵐】!」

 

火砕旋風を放つ。炎上ダメージが食らってたらいいが、炎の壁を突き破って肉薄してくる鬼にヒヤリして【機械神】と【飛翔】で空へ飛んだ。鬼も光を纏って追いかけてくるように宙を駆けてくる。俺達は二つの光となり時折交差し、弾けて、赤い光を散らしていく。

 

「【咆哮】! 【全武装展開】【攻撃開始】!」

 

空中で動きを止めた鬼へ爆音と共に全ての武装が火を吹く。鬼が地面に叩きつけられようと攻撃の手は緩めず―――。

 

「【アルマゲドン】」

 

遥か空の上から巨大な隕石を落として鬼にぶつけるまではな。だけど、HPを残り三割としたところで鬼から衝撃波が発生し、隕石がポリゴンと化して無効化にされてしまった。空中に留まり俺から距離がある鬼の周りに白い光が集まっていく。

 

「まだだ、人間・・・・・!」

 

鬼の姿は大きくなり、真っ白い髪を揺らす大鬼となった。地上に降り立つ俺はジョブをテイマーから変えてる。ある武器を使うためだ。

 

「【クイックチェンジ】!」

 

青い光が俺を包み、一瞬で黒い装備が赫灼ものに変わる。再び【金炎の衣】を纏う。

 

「【紫外線】【溶解】」

 

鬼の身体が炎に包まれるだけでなく俺と鬼が立つ足場がマグマに塗り変わった。

 

「【超加速】」

 

その中でさらに走る速度が加速し、殴りかかって来る燃える鬼の拳に刀で斬りつけ、必死のスリップダメージを与えた。斬りつけた個所が赤く燃えだしてHPの減少が少し早くなった。拳のみで戦うようになった鬼の一撃は油断できないのでヒット&ウェイ戦法で戦う―――つもりはない。ガチンコ勝負だ! 【刀術】を使うまでもなく、何時間も繰り返し舞った神楽を素で舞う。炎のエンチャントが刀に付いている状態の今なら疑似的な【刀術】が出来る。祭具から刀に持ち替えるとこうなる。

 

 

【日刀】

 

満腹度を対価としてスキルを使用する。消費した満腹度が0になると回復しない限りスキルの使用不可。

 

 

日刀・一ノ型

 

真円に近い弧を描いて打ち下ろす太刀筋が特徴の技。消費満腹度10%

 

日刀・弐ノ型

 

日輪の様に円を描く太刀筋を縦に叩きつける技。消費満腹度10%

 

日刀・参ノ型

 

太刀筋が∞の様な軌道を描き、左右対称の鋭い斬撃を広範囲に放つ技。消費満腹度10%

 

日刀・肆ノ型

 

激しい動きをして繰り出す高速の回転斬り。消費満腹度10%

 

日刀・伍ノ型

 

上空へ向かって飛び上がり、攻撃の威力を一点集中させて放つ突き技。消費満腹度10%

 

日刀・陸ノ型

 

龍が舞うような動きで接近し、火炎を纏った刀で斬る。敵の回復量と速度を減少させる効果が付与されている。消費満腹度10%

 

日刀・漆ノ型

 

空中で反転した体制で剣を振るう。消費満腹度10%

 

日刀・捌ノ型

 

斬りつける瞬間、刀の刃先が陽炎のように揺らぎ敵の目を狂わせる。消費満腹度10%

 

日刀・玖ノ型

 

鋭く力強い踏み込みと素早い剣の振り抜き。消費満腹度10%

 

日刀・拾ノ型

 

相手の真上を飛んで背後に回り、空中から放つ技。消費満腹度10%

 

日刀・拾壱ノ型

 

残像を残し高速の捻りと回転による躱し特化の技。消費満腹度10%

 

日刀・壱拾弐ノ型

 

上下二連撃。消費満腹度10%

 

 

―――常に腹ペコキャラクターにさせたいのかと運営に疑うスキルなんですよねぇ。だからこの飾りが必要不可欠なんだ。

 

 

『日輪の指輪』

 

常時満腹度が100%。被ダメージ二倍。

 

 

常にスキルを使い続けれる分いいが、被ダメージがかなり痛い思いをする。今がその時だ。

 

「だけど、俺のフィールドの中にいる限りお前の負けは確定だ」

 

その言葉が現実になるまで10分もかからなかった。鬼と相打ち覚悟の攻撃を繰り出す。そこに回避はほとんど存在せずお互いが攻撃を攻撃で返し続けていく。赤いエフェクトが大量に舞い、貫通攻撃が付与された拳の一撃は俺の【VIT】を、越えあっという間に【不屈の守護者】を発動する直前まで減らされる。

 

「待っていた瞬間だ。【反骨精神】!」

 

全ての【VIT】の数値が【STR】に変換し、疑似日刀・壱拾弐ノ型と同じ上下二連撃を繰り出した。この瞬間火力だけ鬼より俺の【STR】の方が圧倒的に勝る。鬼の拳に一度受け止める風に打ち下ろした刀で返して下段から打ち上げ鬼の身体に斬りつけた。

 

「ぐはっ・・・!」

 

HPバーが消えた鬼は、鈍い音を立てながら仰向けになって倒れた。こんな強敵、ベヒモス達以来だぜ。俺もその場で胡坐掻いて座って息を吐くと、鬼は体を起こして口を開いた。

 

「ははは・・・・・! やるなぁ、人間!」

 

座り込んだまま鬼が笑う。鬼は体についた土埃をぽんぽんと払うとゆっくりと立ち上がった。俺も立ち上がる。

 

「ついてこい」

 

そう言って歩き出した鬼の後ろを俺がついていく。鬼が出現させた魔法陣に乗り、もといた四層の一室へと戻ってきた。

 

「さて、人間。俺に力を見せた褒美だ」

 

鬼の両手が輝き、朱に染められた盃が二つ出現した。鬼はそのうち一つを俺に手渡すと、また新たに出現させた大きな瓢箪から俺と自分の盃に液体を注いでいく。

 

「妖の酒は人には飲めん。酒は無理だが・・・・・まあ、兄弟の盃として形だけはな」

 

「そういうことか」

 

鬼と俺がそれを飲み干した。それから少し鬼が俺に氷と書かれた木札を渡しながら、話を切り上げてまとめに入った。

 

「気になるならそれを持ってこの中の奥にある扉の向こうに行ってみろ。だが、また喧嘩しようぜ。俺が死ぬその時まで・・・・・いつだって戦ってやる」

 

「わかった。もう一度しよう」

 

鬼へと手を振ってその部屋から出て襖を閉める―――鬼退治、終了!

 

「終わったぁー!」

 

 

『白銀さんお疲れぇー!!』

 

『どっちもギリギリの戦いだったな』

 

『こっちは凄い盛り上がりだよー』

 

 

「おーそうか。倒せる自信があるプレイヤーがいるなら挑戦してみな―」

 

 

『やってみようかなと思うんだけどさ、木札を貰ったようだけど、何の用途に使うんだ?』

 

『奥の扉に行ってみろって言ってたから、鍵じゃないか?』

 

『扉の向こうに何が・・・・・氷鬼とかいたり?』

 

 

どうなんだろうな。気になるんで確かめに行くことにした俺は、建物の奥へと足を運びここに来るまでなかったはずの大きく氷と書かれた木製の扉の前に停まり、木札を差し込む部分の穴に押し込んで見た。ガチャリと施錠された鍵が開錠した音の後に開けたら・・・・・。

 

「・・・・・」

 

扉の向こうは別の廊下に繋がっていただけだった。視聴者達から見た目は何も変わっていないと思うだろうが、俺が吐く白い息に気付けば違和感を抱くはずだ。完全に潜ると閉まり出し、扉の表面に炎を書かれた文字があった。紫の炎ではなく青白い炎に照らされた廊下を進んで行く。

 

これといって入れる部屋はなく、警戒しつつも建物から出てみた俺の視界には雪の世界が広がっていたのだった。雪によって積もった町の建物の数々。冷たい地面を闊歩するNPC達の姿が。どうなってるんだろうなここは。新しいエリア?

 

 

『白銀さん、取り敢えず動かない?』

 

『マジ話で氷鬼か? ちょっと会ってみてくれない?』

 

『散策してみよう!』

 

 

視聴者達に催促される。俺は―――建物の主を会いに踵を返して歩いた。

 

 

白い鬼がいる部屋と同じぴったりと閉じられた襖を開いた。中は畳が敷かれているくらいで何の変哲もないのも一緒な部屋だった。その一番奥に真っ白い袴と着物を着た白髪で額に二本の角を生やした妖が一人座っていたのもだ。

 

「おぉ・・・・・? まさかあの鬼を相手に勝ってここに人間が来るとは」

 

鬼はそう言うと立ち上がり俺の方へ歩いてくる。

 

「一応、持ってるか。ならついて来い」

 

鬼は俺に背を向けてもといた場所へと戻っていき、地面に魔法陣を描くと消えていった。

 

二回戦目に臨み気を引き締めて魔法陣に乗って辿り着いたのは雪が積もってる荒野だった。

 

鬼も少し離れた場所に立っている。

 

周りを確認しても木の一本、大岩一つ見当たらない。

 

「あっさり引き継がせてやろうかと思っていたが・・・・・人間、気が変わった」

 

「・・・・・」

 

「俺を倒せ、出来れば次の主の座はお前にくれてやる」

 

戦闘になる前提で考えていた俺は驚くこともなく刀を抜いて構えた。

 

「さあ、やろうか人間」

 

その声が俺の耳に届いた直後、鬼は握り拳を作って赤いエフェクトを纏う素手で戦う構えを取ったのだった―――。

 

 

・・・・・。・・・・・。・・・・・。

 

・・・・・。・・・・・。

 

・・・・・。

 

 

「さて、人間。約束通り俺の後を継げ。そのつもりで来たんだろう?」

 

最初の鬼とは違う繰り広げた二回目の激闘戦を終えたあの後。もとの部屋に戻ってもう一人の鬼と同様に、鬼の両手が輝き、朱に染められた盃が二つ出現した。

 

鬼からそのうち一つを受け取ると、また新たに出現させた大きな瓢箪から俺と自分の盃に液体を注いでいく。

 

「まさか人間が継ぐとは思ってなくてな。妖の酒は人には飲めん。酒は無理だが・・・・・まあ、形だけはな」

 

「おう」

 

鬼と俺がそれを飲み干したその時、俺にスキル獲得の通知が届いた。

 

『スキル【百鬼夜行I】を取得しました』

 

それから少し鬼の話を聞き、相槌を打っていた俺だったが鬼が話を切り上げてまとめに入った。

 

「行かなければならない所がいくらでもあるんだろう? また来いよ、歓迎するぜ? 俺が死ぬその時まで・・・・・あの野郎と同じくいつだって戦ってやる」

 

炎と書かれた木札を貰い部屋を出て襖を閉めた。さてさてスキルはー?

 

 

【百鬼夜行I】

 

一分間赤鬼、青鬼を呼び出す。

 

鬼のステータスはスキルレベルに依存。

 

その間使用者が持つスキル全ては【封印】状態になる。装備のスキルは【封印】されない。

 

 

両方の鬼の今のステータスを確認したところであることに気づいた。

 

「あー1って付いてる、上げ方は・・・・・」

 

このスキルの上げ方に心当たりが一つあった。

どっちの鬼も俺に対して【死ぬ時までいつだって戦ってやる】とそう言った。

・・・・・ならばスキルレベルの上げ方は一つ。

もう一度、もう二度。何度も二人の鬼を倒すこと以外にはありえない。

・・・・・水晶の方のレベルをカンストしよう。俺が楽するために

 

「さて、改めて散策しようかな雪の世界の町を」

 

NPCと触れ合ってみれば白い着物を着た美女、雪女や小さな女の子の雪ん子を始め昔の防寒着を身に着けてる人間もいた。店の中に入ればホームオブジェクト用のインテリアもあった。おお、和傘そこにいたのか。買おう買おう。お次は着物屋・・・んー白いのが多いな。でも、控えめや派手さ、絢爛な意匠の種類が豊富だ。うちの女子達用に買っておこうかな。少なくない数を購入した時、店主の女NPCが寄って来た。

 

「お客さん。良かったらこれも貰っといてくれるかい」

 

渡そうとするそれは白い着物を着た女の子の掛け軸だった。貰えるなら貰う主義でありがたく貰うとNPCはもとの位置へ戻って行った。続いては―――。

 

雪国に住む人間が欠かせない衣服と履物を転々と違う店ごとに購入した。氷結攻撃に対する装飾品もあったから今後の為に揃えておかないと・・・・・。

 

くいくい・・・・・。

 

「うん?」

 

手を掴まれて引っ張られる感覚。後ろを見ると視線は下に落ちた。

 

「ユ、ユキィ・・・・・」

 

ズタボロ・・・・・布と紐で結んだだけの貫頭衣の姿で物欲しそうに見上げてくる白髪で赤い目の幼女。というか、ユキって言ったから妖怪のNPC? 疑問を浮かべながら購入した着物と履物を出す。譲ってくれると思ったようでその場で着物を着込み、頭に温かくて雪だるまの顏の帽子をかぶり、靴を履く。NPCは満面の笑顔を浮かべて脚に抱き着いた後、俺に手を振りながら走って去った。

 

『雪ん子と友誼が結ばれました。一部のスキルが解放されます』

 

「なんだと?」

 

やっぱり妖怪の類だったかさっきの幼女。茶釜達と仲良くなったアナウンスが聞こえたし。

 

 

『どうした白銀さん』

 

『もしかして今の可愛い女の子と仲良くなっちゃった系?』

 

 

「・・・・・多分、さっきの雪ん子のNPCがホームに加わった。雪ん子の掛け軸をもらったからかも」

 

俺の予想は当たるかどうかわからないけれど、それでも視聴者達の異常過ぎる熱気が伝わってくる。

 

 

『待ってて雪ん子ちゃん! 鬼なんてすぐに退治して温かい着物と履物を用意するから!』

 

『鬼がなんぼのもんじゃーい!』

 

『くそっ、家来のキジとサルとイヌはどこにいる!? 我は桃太郎ぞ!』

 

『誰か手のひらサイズまで身体を小さくできるアイテムを持ってませんか!』

 

『鬼を滅する宿命を背負っている俺は刀使いだ! 全ての鬼を駆逐してやる!』

 

『なぁ・・・雪から生まれた妖怪が寒がるか普通?』

 

『バカッ! 寒がるに決まってるだろ! そうじゃないにしてもあんな格好で孤独に町中を彷徨う想像をしてみろっ!! 良心が痛まないのかっ!?』

 

『・・・・・雪ん子ちゃん、お迎えに行くからもうちょっとの辛抱だよー!』

 

 

・・・・・ノーコメントにしよう。そう簡単にあの強敵の鬼を倒せるプレイヤーがここに来れるとは思えないが、頑張ってくれ。



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雲の上の

『プレイヤーが初めて常闇の町のボスを突破したため町が本来の姿を取り戻しました。またこれによりアイテム、クエスト、モンスターが出現するフィールドが追加されました』

 

常闇の町に戻るや否や、アナウンスが聞こえて人ならざる者、ぱっと見て分かるような鬼などを始めとして物怪や妖怪と呼ばれるような者達が闊歩する姿が見受けるようになった。

 

「は~、あの鬼を倒したらこうなるわけね」

 

 

『さすが白銀さん! 攻略組以上に攻略してくれるね!』

 

『攻略組というか前線組って名前のプレイヤー集団でよくね? ボスを倒して攻略するのも大変なのはわかるけど、各町の隠しギミックを攻略せず前線で戦ってるだけだし』

 

『適材適所って感じだよなー。白銀さんが隠しエリアや隠しギミックを攻略して、トッププレイヤーの前線組は先に強力なモンスターの攻略をしてくれてる』

 

『・・・・・じゃあ、その中間にいる俺達はなんぞ?』

 

『シッ! それは言ってはイケナイ!』

 

『どっちつかずの中途プレイヤーですね。わかります』

 

『言っちゃダメだってばぁあああああああああっ!!』

 

 

賑やかで何よりだな。フィールドへ出ようとするプレイヤーの波を見つけると、俺もその波に身を任せて向かいついて行くとフィールドへと出られて、妖怪の類として出現するモンスターがプレイヤーと戦っている。倒したら次のモンスターを見つけに移動するプレイヤーがどんどん奥へと進むので俺も便乗する。

 

けれど、結局どこに行こうとも他のプレイヤーが多すぎて、モンスターと戦えず湖がある場所まで移動することになってしまい、それでも数多のプレイヤーも湖まで来ていた。

 

「・・・・・ここなら何かあるかな?」

 

他のプレイヤーは湖より先に行くか、何故か遠巻きで留まっている。何で留まってるんだ?

 

「ストーカーか何かか?」

 

 

『辛辣ぅ!!』

 

『出てみたものの、先にモンスターを取られて戦えず先に行ってもモンスターを取られて戦えずの繰り返しでここまで来てしまったプレイヤーと、フィールドでも何かやらかすんじゃないかもしれない白銀さんを追いかけに来たプレイヤーに、それに便乗するプレイヤーが3・3・3ですね』

 

『残りの1は?』

 

『純粋なストーカーですが何か?』

 

 

「ストーカーじゃん」

 

純粋ってのが性質が悪すぎる。言い換えればただの追いかけだから、通報もすることが出来ないじゃんか。

 

「じゃあ、暇だし湖の調査ぐらいはするよ」

 

スキルにより重力の鎖を引きちぎってふわりと浮かび、湖の真上までふわふわと飛んでいった。

湖の真上についた俺はそのまま空へ向かって上昇していく。俺が水面から五メートル程上昇した所で湖の水が柱のように伸びて目を丸くする俺を包み込む。しかし、それも一瞬のことで俺は光に包まれると、次の瞬間別の場所にいた。

 

「・・・・・俺、どうなった?」

 

 

『やっぱりしたぁー!』

 

『急に水柱が立って白銀さんを呑み込んだと思ったら、直ぐに湖に落ちて白銀さんがいなくなったよ』

 

『そっちはどこにいるの?』

 

 

どこ、だろう? 地面に降り立っている。いや、正確には地面ではない。

 

「ここ、どこ?」

 

俺が今踏みしめているのは土ではなかった。ふんわりと柔らかい雲だったのだ。

 

「すごい星・・・・・」

 

足下を確認した俺は今度は空を見上げる。

 

星々が眩しいくらいに輝いているのは、思わず見惚れてしまうような光景だった。

 

「・・・・・綺麗。星が降る夜ってこういう夜かな?」

 

しばし夜空を眺めていた。

 

「雲の上、星々の輝きが見える夜の天蓋の下にいるって感じだな」

 

 

『ポエムですか?』

 

『それ採用しちゃっていいですか?』

 

『具体的な説明をありがとうございます。俺達もそこに行く挑戦を試みるぜ!』

 

『先に進んでみてください白銀さん』

 

 

視聴者の提案に乗って、俺は雲の壁を乗り越え乗り越え先へと進んでいく。

そうして進んでいくとまっすぐに伸びる雲の道に辿り着いた。

ギリギリ二人が横に並べるくらいの道幅の道に足を踏み出した。その直後、空から雲道に光る物体が降り注ぐ。

それを気付きバックし、避難しつづけた。すると、雨のように降り注いでいたそれは止んだ。

俺降ってきたものに当たりをつけることができていた。

 

「本当に、星降る夜だった」

 

 

『物理的に降ってくるなんて思わないって・・・・・』

 

『どれくらいの威力なのかは分からないけど、白銀さんなら耐えられるから進めそうかな』

 

『頑張ってー』

 

 

送られる声援と共に再び歩き出した。降り注いだ星が素の俺に当たっては跳ねて落ちていく。

道には休むことなく星が降っている。躱して進もうと思えるような光景ではなかった。

そうして進んでいるうちに道の終わりが近づいてきた。

 

「結構大きい星も降ってきてるけど・・・・・到着っ!」

 

長い道を進んだ先には雲の壁、そしてそこにできた横穴があった。

ここまで来て入らないという訳にもいかないのでそこを慎重に進んでいく。

横穴はそこまで長くはなく、すぐに終着点がやってきた。

 

そこには煌めく光が注がれていた。

静かに、糸のように伸びる光。

それが天から雲で出来た器へと続いている。

 

「おお・・・・これ・・・・・」

 

器に近づいて、溜まった光に触れてみる。何かを触った感覚はなかったが、確かに一つのアイテムを手に入れた。

 

「『天の雫』?」

 

 

『天の雫』

 

空っぽな器。器を満たせば道は開かれる。

 

 

「・・・・・器を満たす。星でいいのかな」

 

来た道に戻り、今も降り注いでいる星に天の雫を掲げる。一つの星が空っぽの器に吸い込まれるように落ちては、消失して雲の器が淡く光った。

 

「なるほど、こうして集めればいいわけだ」

 

早速他の星も器に入れ続ける。その数は大きさに関係なく100個ほどだ。星のように輝くようになった器が俺の手元から離れ宙に浮くと『天の雫』があった横穴へ移動した。器は元にあった所へ戻ると魔方陣を展開したのだった。その魔方陣の上に乗ればまた光に包まれ―――さらに違う場所へ辿り着いた。

 

 

少し弾力があるふわっとした地面は一つの汚れもない白。そこは一面雲の国。天上の楽園だった。ただ、真っ白な雲の地面は所々出っ張っていたりへこんでいたりして走るには適さない地面である。俺と言えども全力の半分程の速度で走るので精一杯だ。それより速くしようと思うとバランスを崩したりさらには転んだりしてしまうだろう。

 

「・・・・・」

 

うずっ、と好奇心が擽られた俺は真っ白な雲に倒れ込むと、幸せな感触が顔や体を優しく包み込みながら受け止めてくれた。

 

「すっごくふわふわだ。マシュマロの上に乗っているかのような弾力だここは」

 

 

『なんだその幸せな場所は!』

 

『こちらチャレンジャーA。湖の上にいなくても湖の中心にいれば雲のフィールドにいけることが判明』

 

『星降るエリアは地味に厄介だ! 受けると【AGI】が減少するが直ぐに元の速度に戻るけど!』

 

『チャレンジャーBからの報告! 何とか星集めをしてるけど、他のプレイヤーとの争奪戦が激しいであります!』

 

 

「地上でおしくらまんじゅうしてるなら、空飛ぶアイテムで独占できないのか?」

 

 

『・・・・・そうしよう』

 

『・・・・・そうだな』

 

『・・・・・異議なし』

 

 

気付かなかったのかい。でも、案外早くやってきそうだな。ということで俺も動こう。でもどこに行こうかな。割と広そうだぞここ・・・・・よし、適当! と決めて歩き始めた。トラップもモンスターも待ち受けていない雲だらけのエリアは、とても静かで足からふかふかな感触が伝わってくるだけ。それ以外は何も発見できずにいたが。

 

「ん、とりあえず何か見えてきた」

 

俺の視界に映っているのは空高くまで伸びる雲だった。

 

夏空に浮かぶ入道雲のような存在感があるそれの下の方、つまり俺が今いる地面から続く所にその雲の中へと入っていくことが出来る道があった。

 

「入るか。うん、そうしよう」

 

入道雲の中へと入っていく。狭い入口を抜けると、ある程度の高さのある道が何本も伸びていた。さながら迷路といった構造に出会い頭の事故を警戒して一歩一歩進んでいく。

 

「お? 雲にHPバーが」

 

ようやく初めて見えた戦える相手。モンスターとして存在しているのかな? 刀を取り出してダメージを与えると、雲も攻撃してきた。軽く躱してまた斬って倒した。

 

「よし、次」

 

次の獲物を探しに雲の地面を歩いて彷徨う。視聴者達はまだ星を集められてない様子で話しながら歩いていると雷の音が聞こえ始め、前方の空が暗い雲に覆われているのが見て取れるようになってくる。

警戒して武器を抜き、ゆっくりと辺りを見渡しつつ進む。さらに近づいていくとそのエリアの光景は細部まで難なく確認することができた。その場所では青空は分厚い雲に遮られており、青白い電気の流れが断続的に地面と空を繋いでいた。あちらこちらで落ちる雷。

 

「わお、雷雨ゾーンか。当たったら麻痺状態になりそう」

 

 

もう一度言おう。絶え間なく稲妻が落ちる雲の大地である。それでも俺は意気揚々と雲海の上を歩いていく。ゴロゴロと音の鳴る中、何かしらの耐性がないプレイヤーが無事でいられるはずもなく、俺のいる場所に稲妻が一条落ちて直撃した。

 

「うおっ! ・・・・・んと。よし、なんともない」

 

雷に打たれてなお、HPは一ミリたりとも減少してはいなかった。そして、その体には麻痺が効くことも当然なかったのである。

 

「ふははは! 自然の猛威にも負けないぞ俺は!」

 

歩みを再開していく俺の体には数十回は稲妻が落ちているものの、その全ては例外なく弾けて消えていってしまう。―――だが、しかしだ。

 

「よっと、ほい、ふっ、はっ、とぅっ!」

 

無敵ムーブするのはいいが、それではつまらないので全身を駆使して稲妻に被弾しないステップを刻みながら進む。ふははは! 当たらん、当たらぬよ!

 

「雷を落とす鬼、雷神でもいるならもっと稲妻を落としてこいやっ! へなちゃこめ!」

 

ほら余裕でずんずんと進んで行ったその先には、雷雲ではなく、白く綺麗な雲海が続いているところに辿り着いてしまったぞ!

 

「抜けたのかな? ・・・・・何かあるといいな」

 

ステップを止めて、キョロキョロと周りを見渡しながら進んでいく。

 

しばらく進んだその時。俺は白い雲の上に立つ何かを見つけた。

俺は自身の身長の四倍はあるそれをぐっと目を凝らして見つめてみる。

 

「んー・・・・・椅子?」

 

白い雲の上、同じ白い色をして、しかしより輝いて見える、椅子と呼んだもの。

 

だがそれは、大きな玉座だった。

 

絶対に何かあると判断して玉座に近づくと、それに反応したのか白い光が玉座に集まってきて収縮していく。そして、それは大きい玉座に見合うだけの大きさの人型を形作った。

 

その頭には冠が輝いており、年老いた顔には光が形作った顎髭が揺れている。

身につけている豪華な服はまさに王族を思わせるものだった。

王の周囲には次々に魔法陣が展開されていき、玉座から広がっていく白い光は地面を這って進んでいく。

 

言葉を交わすこともなく。

そのまま俺に向かって、魔法陣から光でできた矢が撃ち出された。

足だけ動かして飛来する光の矢をことごとく紙一重で躱し、前に進む。

そうして玉座から広がる白い輝きに覆われた地面を踏み抜いた時、俺自身に目立った変化や異変がないので更に前へと移動する。光の矢は相変わらず撃ち出され続けて俺は避ける。刀が届く距離にまで縮めれたら座っているだけの相手に滅多切りをする。必死のスリップダメージが光の王のHPを削り始め、畳みかけるように【紫外線】と【溶解】でHPの減少を早めていく。

 

途中ボスの攻撃が激しくなったり、追加効果が増えていたりしたものの、それらを躱し弾き続けているのだからどうということはなかった。

 

ボスのHPが半分まで減少したところでボスの周りに二人の天使が現れた。

それらはふわふわと浮かび、こっちに向かって矢を放ってくる。

 

「油断大敵だろうな。あれを受けるなんて。だから躱す!」

 

射る・躱す・射る・躱す・射る・・・・・。

 

光の王から離れず二本の矢を躱し続けてたらついに、光の王の体を形作っていた光が霧散してキラキラと消えていく。それらは上から俺に降り注ぎ、それぞれにスキル取得の通知が届いた。

 

「よしっ。意外と手応えの無かったボスだったな、えっとスキルはなんだ?」

 

俺はスキルを確認した。

 

 

【天王の玉座】

 

スキル発動後、スキル解除または戦闘不能になるまで玉座に座っているものへのダメージを20%軽減。毎秒HPを2%回復する。

 

半径三十メートル以内にいる自分を含めた存在の【系統:悪】のスキルを使用不可にする。

 

 

 

「悪・・・? 【毒竜】とか【悪食】みたいなのが使えなくなるのか? 【溶岩魔人】も? うわぁー・・・・・【天王の玉座】」

 

それでも得たスキルの把握するべくスキル名を言うと俺の真後ろで光が収束し、あの大きな玉座と同じ意匠の、俺に合ったサイズまで小さくなった玉座が出現した。そこに座ると地面を這うように白い輝きが伸びていく。また、ほんの僅かではあるものの、体の表面を覆うように光の膜ができていた。

 

俺の背中の翼は光の王がそうだったように、するりと背もたれを通り抜けて後方で輝いている。

 

「おおー・・・・・いい・・・・・綺麗だ。でも、あ~・・・主要に使っているスキルが本当に使えなくなるのか」

 

にしても好き好んで封印されるようなスキルばかりを手に入れた訳ではないんだがなぁ・・・・・。

 

そんなスキル溢れる中、ただ純粋に綺麗なエフェクトと見た目を持ったこの玉座は、俺の中で使いたいスキルの上位に入ったのである。

 

 

それが攻撃性能を落とすとしてもだ。

 

 

 

 

【新エリアに集まれ!】新エリアで続々と新発見したものを語ろうスレ21【白銀さんに続け】

 

 

 

555:大言氏

 

常闇の町にモンスターが出るフィールドと雲の上に行けるギミックにフィールド。今日だけで白銀さんはどれだけ発掘した? サスシロ!

 

 

556:チョイス

 

玉座に座った光の王様っぽいボスの攻略方も配信してくれて俺達も戦いやすくなった。

 

 

557:ぽろろん

 

それに便乗しようとするプレイヤーで雲のエリアは満員電車に乗り込みに行く感じに人が多すぎる!

 

 

558:サタジリウス

 

空飛ぶアイテムを使って上に避難するプレイヤーも多くいるけどな。おいっ、それは俺の星だぞ!

 

 

559:デデーン

 

争奪戦も含まれてるから満員電車というよりバーゲンセールに集まるおばちゃん集団化してるし。

 

 

560:満〇

 

こっちはこっちで白鬼を倒そうと躍起になってるプレイヤーで溢れてるんだよなぁ・・・・・。

 

 

561:メイドは奥様

 

皆の状況を掲示板で分かってしまうぐらい凄い盛り上がりのようだね。俺はドールちゃんの強化で機械の町にいるけどさ。

 

 

562:最終兵器鬼嫁

 

相変わらず金を貢いでいるのか。

 

 

562:メイドは奥様

 

貢ぐ=着せ替えも出来るし強化も出来る。そうしていくと徐々に言動と反応、表情が変化していくドールちゃんを見れるのが堪らないんだ! 今じゃ俺の為にホームで「お帰りなさいマスター」と言ってくれるんだぜ? リアルで溜まった疲れが吹っ飛ぶわ!

 

 

563:最終兵器鬼嫁

 

そ、そうか・・・・・ゲームで癒されてるんだな。

 

 

564:デデーン

 

おし、星を100個集め終わった! 白銀さんの居る次のエリアへ行ける!

 

 

565:満〇

 

おー、やっとか。配信動画じゃあいま白銀さんはお前達がいる密集地帯に戻ろうとしているがな。

 

 

566:サタジリウス

 

え、こっちに? 町に戻ろうとしているのか。道を空けたいけど出来ないほど混雑してるからな。

 

 

567:チョイス

 

自分で何とか帰ってもらうしかないよな。すまん白銀さん!

 

 

568:大言氏

 

フレンドリーファイアに当たらないように気を付けて!

 

 

569:ぽろろん

 

当たってもノーダメージだよな絶対。

 

 

570:満〇

 

同じプレイヤーだぞ。ダメージは通るって。・・・・・多分。

 

 

571:チョイス

 

不安になるなよ! 気持ちはわかるけども!



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料理と勇者と魔王

「お、やっぱり。もういるんだ」

 

「ユキー」

 

ホームへと戻ってきた俺は、早速ホームへと出現した雪ん子に出迎えられていた。あの時はあまり見ることなくいなくなってしまったが、譲った衣服を身に包んでいる雪ん子は季節外れな帽子を外せば可愛らしい幼女となる。スキルは・・・・・マモリと同じお手伝いがあるな。他は雪ん子らしく氷を生成・・・・・氷を作れる!? 

 

でも、氷が必要とする料理って限られるんだよな・・・・・。デザートなら冷やす過程で使うけど・・・・・・。

 

「ユキ!」

 

「ん? ああ、名前がないんだったな・・・・・ハクレン、お前はハクレンだ」

 

「ユキー!」

 

白くて可憐な、って安直な名前だが喜んでくれてる。

 

「ハクレン、早速だけど氷を作ってくれるか? どれぐらい作れる?」

 

試して欲しい、とお願いしたら外へ飛び出し大型水路に向かっていった。何するんだ? 俺の疑問など気付かないハクレンは、水路の水に向かって冷気を放った。流れてる大量の水が凍りついて行くが10メートルほどで止まった。

 

「ユキィ・・・・・」

 

やりきった・・・・・。掻いてない額の汗を拭う仕草するハクレンに素直な気持ちで拍手を送った俺の足元を横切る影。

 

「ペンペンペーン!!!」

 

氷の上を凄い勢いで滑り出すペルカのテンションが、海で泳ぐ時と同じぐらいハイテンションになっていた。ああ、お前が反応しない方がおかしいわ。でも、途中で氷ってない水へ落ちてしまったから物足りないだろうな。

 

「ペーン♪」

 

また氷の上に飛び乗って、クルクルとバレリーナのように回って舞うペルカ。トリプルアクセル、だと。お前、そんな才能があったとはっ!

 

「ハクレン。水を用意すれば凍らせてくれるか?」

 

「ユキ」

 

首肯するハクレンの頭を撫でる。これから必要な時は頼らせて貰うぞ。

 

「料理系のプレイヤー・・・・・ふーかか」

 

フレンドリストから探し、特定のプレイヤーにコールしたら直ぐに応じてくれた。

 

『白銀さん? 私に連絡してくれるなんて始めてですね。どうしました?』

 

「ちょっと質問なんだが、氷を使う料理とかデザートを作れたりするか?」

 

『氷、ですか? デザートならパティシエの領分ですけど、まだどの料理人のプレイヤーは氷を手にいれて・・・・・もしかして、白銀さんは持ってるんですか?』

 

「持ってると言うより、水を凍らせることが出来る妖怪がいる。俺よりも進んでる料理人の知り合いと言えば、ふーかしかいないから気になってな」

 

『そうなんですかぁ。ご期待に添えず申し訳ないですけど、今のところ氷を確保できたプレイヤーもいないのでそれは凄いですよっ』

 

これから増えるだろうけど、今は俺だけなのか。先んじて開発してみるか?

 

『ところで白銀さん。こちら質問ありますけど。料理に関する食材はありますかね?』

 

「俺の店舗兼ホームのところに来れば売ってるぞ」

 

『あいや、他にも何か見つけてないかと思いまして』

 

そっちか。うーん、あえて売らなかった物ならいくつか・・・・・。

 

「宝石の肉という、宝石のごとく輝く肉なら」

 

『何ですかそれ? とても気になりますので今からそちらに向かいますね!』

 

一方的に連絡を閉ざされ、本当にくるのかと呆然とした。来るなら来るで作って貰おうかと待つこと数分後。

 

「来ました!」

 

「本当に来たな」

 

いらっしゃい、と声をかける。日本家屋の玄関前に顔を見せるふーかとは、最初のイベント以来に見てないなそういえば。そんな感想を抱きつつ彼女を中へ招きいれて実物を見せる。

 

「おおお~!? お、大きい肉の塊! 凄く綺麗!」

 

「フェンリルの大好物でもあるからな」

 

「これ、肉料理に使わせてもらっていいですか!? レア度の高い肉料理を作るクエストをしていたところなんです!」

 

許可する。お手並み拝見とさせてもらうか。キッチンへ案内して完成するまで待つと、フェルが現れる。肉を焼く匂いに誘われてきたな? 一緒に座って待つ俺達のところにふーかが皿を持ってやってきては、目の前に肉料理を置いた。

 

「どうぞお客様! お召し上がりくださいませ!」

 

レア度10 品質★10

 

『香草とガーリックの宝石ステーキ』

 

効果:一時間の間、満腹度が100%持続する。 三十分の間【HP+100】【STR+35】【AGI+50】上昇。一定時間スキル【HP回復速度強化】付与。

 

「おお、いい匂い。凄いバフ効果、それにスキル付きだと? これ量産できればかなり儲けられるんじゃないか?」

 

「私も自信作です! 難関だったレア度10の肉料理が作れて助かりましたよ。モンスター相手だと手に入りませんし、どこで手に入るのかタラリアでも扱ってないアイテムなものでして」

 

メダルでの交換だから、普通に手に入らないのは当然だ。味の方は・・・・・おおぅ、店に出してもいい美味しさだわ。高級料理として人気がでるだろう。

 

「美味い。フェルも食ってみるか?」

 

「グルルッ」

 

ガブリ、と残りの肉を咥えて咀嚼するフェル。次の瞬間には目を大きく見開かせ遠吠えするフェルの身体が輝き、口に従魔の心・フェルを咥えていた。

 

「おっ? 幻獣からも貰えるのか。やっぱり調理した方が好感度が上がるか」

 

「す、凄いッ。白銀さん、私、称号を貰っちゃいましたよ! 『幻獣に認められし料理人』です!」

 

突然のカミングアウト。料理人として認めたんかお前! あ、俺以外誰にも側に立たせなかったフェルがふーかに身体を擦り寄せて・・・・・っ(血涙)! なんか悔しいっ、俺も料理頑張るっ!

 

「ふーか、今のお前なら他のフェンリルを手懐けることができそうだな」

 

「え、白銀さんじゃないのに料理人でしかない私が幻獣を?」

 

「うちのフェルの反応を見りゃ一目瞭然だ。フェンリルが暮らしてる場所に連れていくことが出来るから挑戦してみたらどうだ? 小さいフェンリルもいるぞ」

 

「小さいのもいるんですか? じゃあ・・・してみます」

 

ということで、もう一度ふーかが肉料理を作ってからネコバスで案内してやった。大きい方は撒き餌として宝石肉を食べさせている間、子供のフェンリルに作った料理を食べさせるふーかを協力した結果。

 

「わっ! ほ、本当にテイムできちゃいました!? か、可愛いっ!」

 

テイマーでもサモナーでもない料理人ふーかが、幻獣を手懐けた事実はこのあと案の定話題になった。

 

「白銀さん、ずうずうしいのは承知ですけど、宝石の肉を譲ってくれませんか? 高値で買い取りますよ」

 

「欲しいなら譲るよ。ただし、定期的に肉料理を作ってもらえるか? 俺達用の同じアイテムの肉を渡すから」

 

「分かりました。最高の肉料理を振るいます!」

 

交渉成立! 固い握手を交わした後の俺達は始まりの町に戻って解散。

 

「そういやぁ・・・獣魔ギルド通ってなかったな」

 

幻獣・魔獣、神獣を連れてどんな反応するか見て来るか。ちょっとした悪戯心でフェルとフレイヤ、鳳凰を引き連れて久しぶりに獣魔ギルドに顔を出した。

 

「バーバラさん、おひさ―――」

 

「ようこそお越しいただきました神獣使い様」

 

気軽に入った俺に恭しく騎士の礼儀作法と似た姿勢でNPCが出迎えてくれた。

 

「・・・・・なに、その姿勢と言葉遣い」

 

「神なるモンスターを従えし偉大なる方に敬意を払うのが当然なのです」

 

あのモンスター大好きっ子な振る舞いはどこへいった!? 調子が狂うぞ!!

 

「クエストを受けに来たんだが」

 

「既に神獣を従えし御方の相応なクエストはございません。全てのテイマー、サモナーの神の頂に立つに至ったあなたにとってもはや児戯に等しいクエストですので」

 

まさかの門前払い? かと思いきやバーバラが服の内に隠し持っていた封筒を取り出して差し出して来た。俺に受け取らせようとするこれは何か、バーバラは言う。

 

「この大陸には様々な国が存在しております。軍事国家の帝国、打倒魔王の御旗を掲げる神聖国、亜人を排他するヒューマン至上主義の貴族国家、亜人と獣人族の国などが。その中で唯一、モンスターと共存共栄をしている国がございます。お受け取りした手紙の差出人はその国の王からです」

 

封を開けて中身を読む・・・・・(確認中)。要略すれば自国に神獣使いの俺を招待したい、以上。ふぅん、他のテイマーやサモナー、モンスターをテイムしたプレイヤーも連れてきていいのか。期日は書かれてないから無制限か。

 

「その国の場所は?」

 

「同封されている手紙の裏に魔方陣がございます。それを介して行き来することが出来ます」

 

これはもしかしてクエストに繋がるキーワードか? 今度は国の規模だとすれば・・・・・。

 

「バーバラ、ここに来ても利用はできないか?」

 

「クエストを受ける事はできませんが、設備をご利用されることは可能です」

 

「わかった。それじゃまた直ぐにく―――」

 

「お待ちを」

 

話を折るバーバラ。まだ何か説明する事でもあるのかと思いきや。だらしない顔で手を伸ばしてくる。久しぶりに見た、欲望に忠実な瞬間のこいつを。

 

「神獣使い様のモンスを触らしてくださーい!」

 

「貫け!」

 

 

獣魔ギルドを後にしホームへと戻る。フェルの背中に騎乗して

風のごとく玄関の前に着いた途端にフェルが「ウウウッ・・・!」と唸り声を上げた。

 

「どうした?」

 

『資格ある者よ。用心するといい。強大な魔の力が感じる』

 

鳳凰までそう言い出す強大な魔?

 

『とても落ち着く力を感じるにゃ!』

 

フレイヤは鳳凰と真逆な発言をする。もしや、魔王ちゃんがお忍びで来てるのか?

 

「ただいまー」

 

「告。お帰りなさいませマスター。お客様が訪問されました」

 

「鳳凰達が感づいた。魔王ちゃんだろ?」

 

「付け加える詳細が一つ」

 

玄関で出迎えてくれたサイナに居間へ導かれて進み、引き合わせようとする人物が―――。

 

「コラ、ゼロ。主人を立てようとする精神はないのかね! さっきからキミばかり勝っているではないか!」

 

「マスターが雑魚弱なだけでは」

 

「魔王たる僕が負け続けるなどあってはならない。負けた分の数以上に勝てねば気分がすぐれぬ!」

 

「お父様、頑張って!」

 

何だか楽しくテーブルを挟んでラプラス達と麻雀していた。リヴェリアは・・・? あ、茶葉を受け取りに故郷に帰った?

 

「ゼロが勝ってるのか」

 

「彼女は二番目、です」

 

「お前もやっていたんかい」

 

大方こいつが一番勝っているんだろう。透視の能力でチートしてないよな?

 

「楽しそうだな」

 

「おお、帰ったかハーデス。お前に客が来ているぞ」

 

「うん、別の意味で負けている客だな。初めまして死神ハーデスだ」

 

「来たか」

 

男は身体の向きと視線をこっちに変える。見た目は人間のNPC。黒髪に血のように危険な色の赤眼でゴスロリの服―――。

 

「・・・・・なんでその服」

 

「・・・・・気にするな」

 

訊いたら殺すぞ、という眼力で睨まれても怖くないので・・・・・ラプラスが面白半分に語る言葉に耳を傾ける。

 

「そいつは奥方の趣味を押しつけられてる現在の魔w王wだ。奥方に尻を引かれてる面白い魔王で、愛妻家で有名なんだよ。頭にリボンを付けさせられないでいるのは、もはや魔王としての貫禄がない威厳を少しでも損なわせぬようだろう。ぷくく、ゴスロリを着てる時点で恐怖を覚えるよりもおかしな変人に認識してしまうわw」

 

「黙れ!」

 

中性的な顔立ちの男だからゴスロリは・・・・・。

 

「魔王・・・・・魔王か・・・・・見えないな」

 

「ぐぅっ・・・僕だって、こんな服を着たくないんだ。でも、長らく勇者から受けた傷で寝込んでいたあまりに、妻の溜まりに溜まった欲求が、僕の完全復活と同時に爆発して・・・・・!」

 

愛妻家なら碌な反抗もままならいか。他人事のように聞こえないから同情してしまう。

 

「それで、そんな恰好をしてまでここに来たのは? 俺に会いに来たらしいけど」

 

「ああ、その通りだ。茶菓子を用意して待っていると愛娘から一言聞かされたので、賞賛と提案をしに来た」

 

提案? 魔王から何言われるかわからないぞ。

 

「まずは称賛だ。勇者に礼をする日が来るなんて想像もしなかったから、何がいいが側近と決め合ったこれを送ろう」

 

 

『宇宙の星の欠片』 スキル【反転再誕】 『血液捕食者の指輪』

 

 

最初のはわかる。俺も二つ持ってるから。二つ目のスキルはなんだろ。三つ目も気になる。

 

 

【反転再誕】

 

消費HP500 次に使う特定のスキル一つを指定された異なるスキルに変更する。効果時間五分。

 

 

へぇ! これは面白いかも。『血液捕食者の指輪』は? 吸血鬼を連想させるアイテムだな。

 

 

『血液捕食者の指輪』

 

効果:直径10メートル以内のプレイヤー、モンスターからHPドレインで奪い対象のHPを最大まで回復する。

 

 

・・・・・ヤバすぎじゃありません? 魔王が所持するもんだろこれ。・・・いや待てだとしたら何で俺に? 魔王の顔を見ると、中性的な顔立ちが悪戯っ子の笑みを浮かべだした。嫌な予感がする・・・。

 

「血塗れた残虐の勇者にはピッタリな装備の名前と効果だろう?」

 

「やっぱりそれが狙いかよこんチクショウが!」

 

ふざけんな! って言って指輪を叩きつけたい衝動に駆られただろうが!

 

「賞賛は終わったな。次に提案だ」

 

今度はなんだ・・・訝しい気持ちを表情に出しても魔王は気にせずに提案を口にした。魔王ならば一度は言う王道のあの言葉を!

 

「勇者よ、魔王軍に入るつもりはないか? 征服した暁に世界の半分をくれてやろう!」

 

「統治がめんどくさいからいらないです」

 

「そこは『断る! お前の思いどおりにはなるか!』って断るところだよ! 他の勇者達はそう断っていたのに!」

 

知るか。それこそお前の思いどおりにはなるか! だよ。

 

「王道を俺に求めるなら、俺も期待通りの言葉を貰おうか」

 

「魔王の僕に勇者の思いどおりになると? 笑わせてくれる」

 

姿勢を正しく魔王に向かって床に頭をつけるぐらいの土下座をする。

 

「―――娘さんを俺にくださいお義父さん!」

 

「誰がお義父さんだ! 可愛い娘を嫁にくれてやるなんて百年早いわー!」

 

怒りのちゃぶ台返しまでしてくれるとはノリがいい魔王さんだ! ラプラスが静かに言う。

 

「ハーデスの思いどおりになったから、ハーデスの勝ちだな」

 

「よしっ」

 

「ぐっ、条件反射で思わず・・・・・!」

 

悔しがる魔王。次に投げ飛ばした机をもとに戻し、散らばした玩具(麻雀)を片付けてもらった。

 

「で、本当の提案とやらはなんだ」

 

「魔王軍に加わる誘いは本気なんだが。まぁ、断られる前提で尋ねただけだからね」

 

「その話をノッた勇者なんているのかよ」

 

「いるぞ。そして軍に入ったら入ったで冥界の環境に堪えきれず死ぬか、降った振りをしてはた迷惑なことに罪のない者達を虐殺して僕達に殺されたか、軍の者達に暗殺されたとかで死ぬがな」

 

ブラック会社・・・・・いや、魔王軍だから黒も白も関係ないか。

 

「だが、例外が一つ。勇者であるにも関わらず、どんな理由であれ守る側の人間を大量に殺した勇者もいる。その者は恐怖の大王として冥界に逃亡せざるを得なく、他の悪魔族達から歓迎された後に幹部と結ばれ、紆余曲折を経てあり得ないことに魔王となった者がな」

 

・・・・・なるほど。つまり・・・・・?

 

「お前がその例外ってことか。先輩?」

 

「聡い勇者は嫌いじゃないよ。その鎧を身に付けてる意味も含めてこう言わせてもらおう。初めまして僕の後輩」

 

大盾使いの勇者、そしてこの鎧の元所有者がいまでは魔王だったとは・・・な。

 

「・・・・・待てよ? もしかして他の歴代の魔王も、なのか?」

 

「ふふ、そこも気付くなんて流石だね。だけど、僕も驚かされてる側でもあるんだよ」

 

そう言ってラプラスの方へ見る魔王だが・・・・・。

 

「彼女も魔王なんだよ。僕にお前が魔王になれって言っては、魔王の座から降りて忽然と姿を眩ました、魔神の領域に至った歴代最強の元魔王」

 

衝撃的な事実を明かされ、少なからず空いた空白の時間の後・・・・・。ラプラスの腕や足にプロレス技でキメに掛かった。

 

「おいこら、骨。どういうことか説明しろや」

 

「ま、待つんだキミ! 追求しながら技をかけるんじゃない! 骨から発してはならないミシミシと聞こえる、聞こえてるから!」

 

凄く大事な秘密を隠していた居候をシメ上げることから事情聴取をすることになった。

 

「お前が元魔王? 嘘だろ!」

 

「いや、事実だよ。そして私自身も元勇者だった。先代の魔王もやはり勇者であって、人間を大勢殺してしまった故に魔王となったそうだ」

 

・・・・・色々と気になることが増えてきたぞ?

 

「どの時代の勇者は必ず魔王になるのか?」

 

「そうらしい。歴代の魔王は全員が人間であり元勇者だ。この事実は必然的に何者かに仕組まれた運命としか思えない」

 

「仕組まれた?」

 

「ああ、おそらく神々だろう。でなければ勇者から魔王が輩出されるはずがない。魔王は恐怖と絶望の象徴。勇者は希望と勇気の象徴。それが絶対だ」

 

ラプラスは己の考えを口にする。勇者が人間を殺してしまう原因は・・・・・。

 

「魔王軍が人間を操って勇者と戦わせるから魔王になってしまうんじゃ?」

 

「それもあるね。でも、僕の場合は妻とお互い一目惚れしてしまって、勇者として許されないと教会から異端扱い、味方だった仲間や他の人達、世界が敵に回った。そんな僕を冥界へ妻が連れて助けてくれた」

 

・・・・・趣味がアレだけどな。微妙な気持ちの俺の心を読んだのか、魔王も神妙な面持ちで言った。

 

「・・・・・彼女は、初めて出会った時から可愛いものに目がなかったんだ」

 

「時間とは恐ろしいものだな。今ではすっかり抵抗せずに受け入れてしまった女装趣味になった元勇者が、魔王として再会した私の身になってもらいたいものだ。―――爆笑しすぎて死ぬかったというのに」

 

「うるさい! そう言うお前だって貧相だった身体が骨になって、ますます貧相さが拍車に掛かったじゃないか! 本当の意味ですっかり無乳になった気分はどうだ! 婚期も逃した色気ゼロ魔神め!」

 

次の瞬間。本能に従う俺は魔王ちゃんを抱えて、サイナとゼロと緊急離脱した次の瞬間。一部の部屋から爆炎と爆音が轟いた。

 

「あんなお父様、初めてみた・・・・・」

 

「歴代の魔王って愉快な連中ばかりなのか? というか魔王ちゃんよ。冥界にいる時のあの魔王は何時もあんな格好?」

 

「・・・・・周りが受け入れてしまうほどには」

 

その言葉で十分伝わりました。そしてあの二人、後でシバく。

 

「それと勇者よ。もう私は魔王ではない。これからは・・・・アカーシャと呼ぶがいい」

 

「それがお前の名前か。なら、俺のことも親しみを込めてハーデスと呼べよな」

 

「て、敵対している者と親しみを込めて呼べるか!」

 

だって、歴代の勇者と魔王を鑑みて俺とお前とも結ばれる可能性があるんだぞ。

 

 

 

 

運営side

 

 

「とうとう真のラスボスと出くわしたな」

 

「世界の真実の片鱗も知ったプレイヤーも彼だけですね。主任、もし死神ハーデスが冥界入りしたら今後のNWOはどう運営する予定ですか? 一人のプレイヤーがロストしただけの状況ではありませんよ。全プレイヤーVS魔王プレイヤーです」

 

「それはない。NPCを1000人も死亡させたらそうなるという告知をしただけだから、今後のイベントでNPCと戦うようなことは一切しない。・・・・・多分」

 

「不安なこと言わないでくださいよ! 万が一そうなったらNWOがどうなってしまうのか俺達ですらわからんですよ!? 死神ハーデスのマスクデータじゃ魔王と接触しただけで、いま神聖教和国が疑心暗鬼を目を向けてて、今後も魔王と交流したら待ったなしで指名手配、最悪全プレイヤーから討伐対象されかねないですよ!」

 

「死神ハーデス=白銀さんのファンは少なくともいますし彼の従魔はその何十倍います。魔王になったらステータスと装備以外すべて放棄しなくてはならないので、従魔達との絆も破棄になるようなことがあれば・・・・・」

 

「・・・・・か、考えたくないっ。連日連夜、白銀さんに関するクレームのメールが何万通も殺到する未来なんて想像したくもないっ。その対処するばかりじゃ運営どころじゃなくなるっ」

 

「主任、絶対にそんなことにならないようにしましょうよ!」

 

「今のところ死神ハーデスは第3エリアから先に進んでいないので、色々な問題なく・・・いや、進んでいなさすぎる。そろそろ先に進んでほしい」

 

「それなのに獣魔国からの招待状を受け取ってるんだよな。第10エリアの隠し国家のな」

 

「モンスターをテイムすらしてないプレイヤーは絶対に入れない国だ。あの国を解放するためには大勢のテイマーと人間至上主義の貴族国家と帝国から・・・・・―――ぁ」

 

「・・・・・主任、その『あ』って顔はなんですか? まさか、まさかですよね?」

 

「嘘だと言ってくれ頼む!」

 

「・・・・・どうしよう、戦争に勝つためにNPCを大量に倒さないといけないんだった。勇者/神獣使いのプレイヤーがいる想定なんてしてなかったから・・・・・」

 

「「「「「うわぁああああああああああああああああっ!!?」」」」」

 

「た、大変だ! 死神ハーデスが獣魔国に移動してしまうぞ!?」

 

 

 

 

「すまない。ホームをボロボロにしてしまった。これは僕からの詫びの印として譲るよ」

 

「おい待てやコラ。詫びるつもりはないだろ。なんだこの血の色のマントと禍々しい巨大な大鎌は。他者に恐怖の50%の効果が付いているじゃないか! 俺に恐怖の大魔王に成れってか!?」

 

「それは装備の効果だ。君自身がそうなるにはまた君自身の手で残虐的に人間を倒さないと駄目だから安心してくれ」

 

安心できるかぁー!

 

「私はこれで赦してくれるか?」

 

「薬・・・?」

 

「最高傑作の一つだ。大量に提供してくれたオリハルコンを素材にした新アイテム―――装備を素材として融合することができるアイテムだ。ユニークの装備でも融合できて、新しい姿とスキルが得られるだろう」

 

「ほうほう・・・・・? 元の素材となる装備のスキルは消えるのか?」

 

「いや消えない筈だ。ステータスはランダムで変化するかもしれない。試しに何かの装備と融合させてみるかね? まだ大量に生産したから数はあるぞ」

 

そう言われては試さずにはいられないものだ。『天地開闢・人災』と『黒薔薇ノ鎧』の鎧の二つをインベントリから出し、融合素材の秘薬を掛けた時だった。二つの鎧がそれぞれ光り輝きだし、引き寄せられ一つになった。

 

 

『黒陽ノ鎧Ⅹ:覇獣:滲み出る混沌』

 

【紫外線】

 

【踏ん張り】

 

【破壊成長】

 

 

【VIT+100】

 

 

鎧が黒一色ではなく赫灼なマグマの色となり、鎧の中心に咲いてた薔薇のレリーフも黒い太陽に変わってた。余りのスキルスロットの空欄も変化なしだ。【踏ん張り】というスキルと【VIT】が増加したぞやった!

 

「おおっ、格好いいな!」

 

「勇者時代に使っていた鎧が、新たな姿に変わったか・・・・・」

 

「時代の変化と同じ、物も変化していくものだ」

 

意味深な事を言う魔王たちの言葉を聞き流し、どんどん装備を融合していった。『闇夜ノ写』と『アグニ=ラーヴァテイン』の場合は。

 

 

『暁の境界Ⅹ』

 

【マグマオーシャン】【溶結】【溶熱】【ブラックホール】

 

【破壊成長】

 

【HP+200】

 

【VIT+60】

 

 

黒を基調として所々に鮮やかな赤の装飾が施された大盾が、複数枚の刃を備わっていた盾斧のアグニ=ラーヴァテインの姿に変化して盾の中心に燃え盛る炎を閉じ込めた結晶が飾られている。【ブラックホール】なんてえげつない名前のスキルがあるが、効果は如何ほどだ?

 

 

『日食Ⅹ:毒竜』

 

【溶断】【溶結】【トリアイナ】【灼熱地獄の誘い】

 

【破壊成長】

 

【HP+200】

 

【MP+200】

 

【VIT+45】

 

マグマを切り取ったような大剣のアルゴ・ウェスタと原初の赫灼の姿はどこへいったのか。美しく赤々と輝くマグマを閉じ込めたガーネットが埋められた、落ち着きのある漆黒の短刀、素材に使った『新月』の姿になり変わり、抜けば刀身がマグマの刃を隠していたのだった。しかも新スキルは大剣や刀、槍に変化するモノだ。相手の意表をつくことが出来るじゃないか? なるほどこの武器のデザインとスキル・・・日食とは、体で名を表しているとは面白い。

 

『天地開闢・地災』と『天地開闢・天災』は融合しようと思った。が、『黒陽ノ鎧』で足まで鎧になってるから足の装備になってしまうと装備出来ないなので―――その二つと闇霊の街で買った骸骨の仮面と融合を試みた。

 

 

『天外突破』

 

【融解】【終焉】【暗視】【妖眼】

 

【破壊不可】

 

【VIT+70】

 

 

赤熱した長い髪と二本の角が生えたフルフェイスの装備。三対六の横に並んだ眼窩の奥から妖しい光が孕んでいる。いいね、カッコイイじゃん。さて続いて―――【生命の指輪・Ⅷ】と【三天破】の指輪の番だが。

 

「あれ、『三天破』と融合が出来ない?」

 

「ユニーク以上のランクが高いのか? そんな物は見聞したことが無い」

 

「レジェンダリーの指輪だからか?」

 

「伝説級か! それならオリハルコンの素材で作った秘薬では融合など敵うはずもないか」

 

「等級の問題だね。オリハルコンは等級で言うとユニークだ。伝説的に話が語り継がれてるが実はそうでもないんだよ。古代ではオリハルコンなんてその辺に転がっている石ころのように世界中に存在していたけれど、オリハルコンや他の鉱石を食らうモンスターの餌として減少してしまったんだ」

 

オリハルコンが石ころのようにあった・・・・・? ユーミル達がこれ知ったら信じてくれなさそうだな。

 

「じゃあ、そのオリハルコンを食ったモンスターって討伐されたのか?」

 

「いや、生きている。キミ達で言う第10エリアのどこかにね。アレをどうにかできるのは同じオリハルコンで作った装備しかない。しかしいくらオリハルコンの装備でも切れ味が下がるから長期戦は避けておくがいい」

 

開いた空間から潜ってきたハーヴァが迎えに来たので帰ることになった。アカーシャも冥界へ戻りに魔王の傍へ。

 

「ちょっとの間だけど、僕の後輩と先代の魔王と話せて楽しかった。また遊びにくるよ」

 

「今度は嫁さんを連れてこいよ」

 

「その時はキミにピッタリな服を見繕ってもらうから覚悟するんだね。血濡れた残虐の勇者」

 

「うるさい、この女装趣味の女顔魔王。絶対顔で求婚されたことがあるだろ」

 

「100人は下らなかったな。笑えるぞ、9割が男からだぞ? こいつが男だと知った上で求婚してくるんだ」

 

「そこの骨魔神は誰にも振り向いてすらもらえなかったよ。―――アカーシャ」

 

魔王ちゃんもといアカーシャに話しかける魔王は次にこう言った。

 

「しばらく人間界で彼と暮らすんだ。次期魔王になるかもしれない男と寄り添って幸せに生きろ」

 

「お父様!? 何故そんなこと言うのですか! 相手は勇者で私達の敵ですよ!」

 

「元を例えれば僕も元勇者で冥界からすれば敵も当然の人間だったよ。ハーヴァとも何度も死闘を繰り広げたかつての敵だった。僕が魔族に転生したことで妻との間に産まれたキミも幸であって欲しい僕の親心だ」

 

それに、と―――とんでもない提案を娘に言う魔王は俺を見つめて来る。

 

「僕の後輩はきっと僕と同じ道を辿ると思えないからね。人間と悪魔族の共存の懸け橋となってくれるなら、僕的には愉快で楽しそうだから応援するよ。ただし、同じ世界を生きる者同士、悪魔族だからと一方的に迫害をする人間は容赦しないからね」

 

「襲ってこない限りは何もする気ないぞ。どこで暗躍しようと俺がいるところじゃなければなおさらだ」

 

魔王は不意に意味深な笑みを浮かべだした。

 

「なら、そんなキミに情報を一つ。獣魔国は知っているかな? そこは帝国と貴族国家に挟まれた国でね。僕の部下が帝国に潜り込んで水面下で長く暗躍した結果、王の直属の側近にまで上り詰めてね。色んな情報が得られるんだ。それが例え、貴族国家が傍らにモンスターや唯一悪魔族と共存できている国の存在を滅亡させようとしていることさえもね」

 

「そこで帝国の名前があるのは?」

 

「領土の奪い合いになり兼ねないからだよ。獣魔国は絶対の中立の姿勢を保っていた国なのに、もしも貴族国家の領土としてなってしまえば、帝国の喉笛に剣が突き刺さらん勢いに領土と戦力差が広がってしまう。帝国側はそれを良しとせず、逆に獣魔国を手中に収めるため巻き込んで貴族国家に牽制する目的で動く腹だ」

 

もしかして手紙を寄こしたのってそういうクエストを受けさせるつもりだったのか? 獣魔国の王とやらは。

 

「血塗れた残虐の勇者の名が更に高まる戦場となるだろう。獣魔国を助けたいなら、二国を相手にしなくちゃならないけれど、キミなら余裕だろうね。応援しているよ僕の後輩―――」



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動き出す出遅れた者

 

「私がいない間にそんなことが・・・」

 

「そっ、これからは同棲することになってしまった魔王の娘ことアカーシャだ。複雑だろうがよろしく頼む」

 

戻ってきたリヴェリアにアカーシャを紹介する。神妙な表情で魔王の娘を見下ろす妻と現在の状況を微妙に感じ、複雑な気持ちを顔に出してる魔王の娘が対峙する横でラプラスが助け舟を出した。

 

「アカーシャのことは私に任せてもらおう。もしも悪さをするようなことをすれば責任を以て対処するよ」

 

「そうですか。そこまで仰るならば私から何も言うことはありません。でも・・・」

 

これだけは譲らないとアカーシャに強い意志を孕んだ眼差しを向けるリヴェリア。

 

「私の大切なヒトの心と体を傷つけるようなら、絶対に許さない。全身全霊で魔王の娘でも倒します」

 

「面白い、受けて立つぞエルフよ。【魔王の権威】が使えずとも、魔王の娘としての力は健在だ。私の可愛い従魔と相手をしよう」

 

「偶然ですね。私も魔法以外の力を身に着けてるところなので簡単に負けませんよ」

 

二人とも、俺の目の前で気になることを言わないでくれるか? 特にリヴェリアは何時の間に修行みたいなことをしていたの?

 

「ああ、そうだ。ラプラスに聞きたいんだが、これ扱うならどうする?」

 

宇宙の星屑を見せてラプラスの意見を乞う。

 

「それか。なんでも一度だけ願いを叶えるような物であるから、武器にでも防具にでも、アイテムとして望めばいいさ」

 

「精錬できるか?」

 

「闇神が創造した暗黒物質故に生半可な技術ではできない。神の領域に至った匠に聞いてみればどうだ?」

 

アドバイスを受けたので早速ヘパーイストスに相談しに向かった。

 

「こいつを精錬か・・・・・どう扱えばいいか」

 

「精錬自体は出来ないのか?」

 

「はん、無用な心配をするんじゃねぇよ坊主。お前の協力があって神匠に至れた俺に、鍛冶の技術において不可能なんてもんはない。扱いを知らないまま無邪気に大切な素材を粗末にしたくないだけだ。それとお前の要望を聞いてないぞ」

 

カウンター越しで相談に乗ってくれ、早速仕事に取り掛かろうとしてくれるヘパーイストスに意思を持つ攻防一体の武器を複数、デザインは任せる旨を伝えた。

 

「ふむ、その要望でこの『宇宙の星屑』の大きさだったら・・・これ一つで武器の大きさ次第じゃ30個は製作できる。ただし、求めてる攻撃力にはならないと思うがそれでもいいか」

 

「構わない。攻撃用アイテムとして永遠に使える物に製作が可能ならお願いする」

 

「未知の金属に挑戦できるなら鍛冶師として本望だ。ヴェルフと完成してやるから待っていろ。三日以内に完成してみせるぜ」

 

「今度は燃え尽きらないでくれよな」

 

ヘパーイストスに背を向け歩き出すと来客を知らせる鐘が鳴り、複数の上等な防具を身に纏っているプレイヤー達が近づいてくる。依頼を頼んだから二人の店を後に出た途端。「なんでだよ!」って叫び声が聞こえた。面倒事になりそうなので―――猛ダッシュした。

 

「うーん。申し訳ないと思うが来るのが遅く、運が悪かった自分達に悔やんでもらうしかないな・・・ん?」

 

中央区画の広場で一部賑やかな野次馬の人垣が築いていた。顔バレは面倒なので―――ラプラスに依頼して複製してもらったフェイクマスクで別人の顔になるアイテムを使った。姿も初心者用の格好だから誰も気づかれないだろう。完璧な変装したままで騒ぎの原因を確認してみたら。

 

「お茶の間の皆さんこんにちは! NWOの中から生中継を送りすることになったニューちゃんです! 本日から蒼天と日本のテレビにNWOの世界の日常と数千万人以上のプレイヤーの皆様の活躍を放送します!」

 

へぇ・・・もう始めたのか華琳。

 

ゲームの世界はゲームをしているプレイヤー、ユーザーしか知らない。プレイをしている本人達しか、していない他の人間達に熱く語ろうと本当の意味で伝わらない。だからNWOの世界を伝えようと、リアルから架空の報道局の者達に楽しく語ってもらう。これで蒼天のテレビ局の視聴率も上がるだろうな。

 

プレイヤーの活動も放送するってことは、有名なプレイヤーと接触するよな・・・・・となれば。家屋から入らず、他の町の畑から帰るか・・・・・。

 

「そしてこれはNWOの運営本社からの正式なお知らせです。初期から参入したプレイヤー、第二陣の新規プレイヤー、更にこれからNWOの世界に飛び込むプレイヤーの皆様には今後世界から注目される存在となります。よってプレイヤーの皆様のランクの格付けが正式に行われます!」

 

格付けだって? え、マジで・・・・・?

 

「なお、ランクの格付けは任意ですので強制ではございません。その場合は世界各国から認識されませんので、注目を浴びることが興味のないプレイヤーの方はNWOをこれからも楽しんでください」

 

あ、安心した・・・・・いや待て、俺の場合はランキングに入らないといけないだろこれ。華琳からもそんな話をされたばかりじゃないか・・・・・っ! あーメンドクセー!

 

「・・・・・俺だけなんだっけ? 第4エリアにすら行ってない初期のプレイヤーって」

 

レベルとステータス、スキルや称号に所持金やアイテム、NPCとのパイプが潤沢でも他のエリアに進んでないのも問題か。皆呆れられてるし・・・・・。

 

「はぁ、イカル達第二陣のプレイヤーにも出遅れるのは癪だし、本腰を入れて俺も前に進むか」

 

まずは南から進もうか! と、思った時にフレンドからのメールが届いた。ヘルメスからか? ・・・おお? 遅れた支払いの完済の準備ができた? よし行こうすぐ行こう!

 

「来たぞヘルメス。早速払ってもらおうか!」

 

「??? 誰あなた? 声はハーデスだけど」

 

「ああ、変装したままだったな」

 

フェイクマスクを外す俺に目を丸くするヘルメス。

 

「変装アイテム? そんなアイテム聞いたことも見たこともないわ。どこで手に入れたの?」

 

「抱えてるNPCの錬金術師が作ってもらったんだ。いずれ錬金術師のプレイヤーも製作できるだろうさ」

 

「非常に興味深い情報を抱えているのね。とにかく今までの情報料を支払うことが出来るようになったから一括で渡すわ」

 

ようやく渡される多額のGに満足して―――ニヤァと邪悪な笑みを浮かべる。

 

「で、俺から情報が欲しいかな? それなりに持っているけどまた破産させてやろうか」

 

「ど、どんな情報を抱えてるのか単語だけでも教えてくれる?」

 

おいおいそんな小動物みたいに怯えた顔をしないでくれよ。意地悪したくなるじゃないか。

 

「そうだな。じゃあ、最初は・・・・・ドリモール達の住処を発見した」

 

「―――っ!?」

 

「次はこれだ。融合の秘薬。装備同士の融合を可能にする新アイテムだ」

 

「―――っ!?」

 

「そんで、サモナーとテイマーしか入れない獣魔国という国の存在が獣魔ギルドで示唆された。その国の存亡を懸けた大規模のイベントクエストが発生する可能性がでてきたけど、現状売れるのはドリモールの居場所ぐらいだな」

 

さて、どうする? 愉快な気持ちでヘルメスに訊く。プルプル震える彼女は酷く葛藤、追い詰められた人の顔で答えを口にした。

 

「か、買わせていただきますっ・・・!」

 

「毎度ありー」

 

まぁ、あの坑道へ行くためにはドワーフ王の絡んだ案件のクエストがある。早々簡単にドリモールの住処には行けんだろうがな。そのこともしっかり含めて教えて数百万の情報料を得たのだった。

 

「あの、ところで融合の秘薬って何の素材で製薬されてるかわかる?」

 

「数は知らないけどオリハルコンが素材になってるらしいぞ」

 

「・・・・・他のプレイヤーが作れないんじゃないの?」

 

「そもそも、秘薬を作れる段階までプレイしている錬金術師がいるかどうか知らんがな」

 

話を打ち切り、ヘルメスから遠ざかる足を南へと進ませた。

 

だからこそ前以ってタラリアから買った情報がようやく役に立った。

 

 

南の町のフィールドダンジョン、地下水路を抜けた先にある第4エリアには、黄樹の谷底というフィールドが広がっている。そこは、伐採してもアイテムにならない、黄樹という木が縦横無尽に繁茂した、植物の迷路とも言えるフィールドのエリアボスの名前はガルーダ。名前の通り、巨大な鳥のモンスターである。まず飛んでいることも厄介だが、それ以上にガルーダの羽がおこす風圧が厄介らしい。理由はこちらの敏捷が大幅低下するうえ、継続ダメージが発生するのだ。

 

「まあ、その前に門番だがさくっと倒そう」

 

門番というのは、ボス部屋の前に陣取る大型モンスターのことだ。ボスを倒さないと、毎回湧く迷惑なやつだった。

 

ガルーダの門番はストーンマン。まあ、体長5メートル程のゴーレムの1種だ。ただ、弱点が解明されており、樹属性、土属性が弱点だった。しかも、体の何ヶ所かにある採掘ポイントで採掘を行うと、大ダメージを与えられると分かっている。そんな情報を頼りに―――せず。

 

「【咆哮】!」

 

「グルァッ!?」

 

「へいへいへい!」

 

不壊のツルハシ、ラヴァピッケルのみで弱点ポイントに硬直10秒間以内に叩き込んでは20秒以内で圧倒した。【悪食】を使うまでもないわ! そしてお前もだガルーダ!

 

「はっはっはー! ツルハシとピッケルだけでガルーダを倒したプレイヤーは俺だけだろうな!」

 

【飛翔】でガルーダに近づき【咆哮】で動きを止めた隙に、両の目玉を穿ち片翼を破壊して飛べなくすればがら空きな背中で打ち下ろし続けたのだった。倒した報酬は巨大な卵とガルーダの部位の素材。今となっては使う道はないから卵は取っておくにしても他は売っちまおう。

 

「やあ」

 

「うん?」

 

誰かに声を掛けられた。身長が180センチほどもありそうな茶髪の男性だ。ヒョロッとした痩せ形なうえに微妙に猫背なので、戦闘力が高そうには見えないな。眼鏡の奥の瞳は細められ、口も柔和そうに緩んでいる。どう見ても善良そうだ。男はボサボサの頭をポリポリと掻きながら、ゆるい感じで声をかけてきた。

 

俺が入ってきたダンジョン側の入り口から、人が入ってきたのか? だがしかし、それはおかしい。エリアボスの部屋はパーティごとに作成されるので、戦闘終了しようがフレンドであろうが、基本的には他のプレイヤーは入ってこれないのだ。

 

「こんにちは、僕はトーラウスっていうんだ。よろしくね」

 

「俺は死神ハーデスだ」

 

トーラウスと名乗ったNPCは非常にフレンドリーであった。俺と握手した後は、聞き返して来た。

 

「死神ハーデス君・・・・・。ピスコっていう男性を知っているかい?」

 

「もしかして、木材屋の?」

 

「そうそう! やっぱり君がハーデス君か! 僕はピスコの息子なんだよ」

 

なんと、以前花見を一緒にしたNPC、ピスコの息子だった。向こうは厳つい外見だったのに、こっちはナヨナヨタイプか。全然似てないな。まあ、ピスコは外見は厳つくても、喋り方は紳士だったから、性格面では似ているのかもしれんけど。

 

「父がとても喜んでいたよ」

 

「そうか、俺も楽しかったから何よりだよ」

 

「父が言っていた通り、君は信用できそうな人だね・・・・・。ねえ、実は少し困っていることがあってさ、よければ手伝ってもらえないだろうか?」

 

「内容によるんだけど?」

 

「僕は植物の研究をしていてね、今は雑草の図鑑の編纂をしているんだけど、助手が実家の都合でしばらく町を離れてしまっているんだよ。そのせいで作業が進んでいなくてね。その手伝いを探していたんだ」

 

「なるほど」

 

どうやら戦闘系の依頼ではないか?

 

 

労働クエスト

 

内容:雑草の鑑定と仕分け

 

報酬:15000G

 

期限:7日以内

 

「返事は急がなくていいよ。僕はこの先にあるサウスゲートの町に住んでいるから、もし受ける気になったら訪ねてきてくれ。地図には、僕の家の場所を書き込んでおくから」

 

トーラウスがそう言った直後、マップが自動的に立ち上がり、青い点が打たれる。多分、この第5エリアの町、サウスゲートの地図なのだろう。ただ、俺はまだ行ったことがないので、外壁を示す円と2本の大通り以外は何も描かれていない真っ白の地図だ。そこにマーキングされても、訳が分からなかった。

 

「それじゃあ、また会えるのを楽しみにしているよ」

 

「ああ」

 

「またね」

 

手を振りながら去っていくトーラウス。このクエスト、どう考えてもチェーンクエストの続きだよな? だとすれば、受けないという選択肢はないだろう。

 

「まあ、急がなくてもいいって言ってたし。町を軽く見て回った後でもいいか」

 

 

・・・・・。・・・・・。・・・・・。

 

・・・・・。・・・・・。

 

・・・・・。

 

 

「ここが第5エリアの町、サウスゲートか」

 

第5エリアの町は、イーストゲート、ウェストゲート、サウスゲート、ノースゲートという名前だ。むしろ、ゲームはここからが本番で、魔境への門という意味なのではないかと言われている。

 

本当に今頃になってようやくたどり着いた俺って・・・・・。

 

第3エリアの町や精霊の街は幻想的で綺麗な、いかにもファンタジーな町だったが、第5エリアの町はまた違った姿をしている。

 

言ってしまえばリアル追求型? 海外旅行のパンフなどに出てくるような、世界遺産的な中世風の街並みって言えばいいのかね?綺麗な西洋風ではあるが、非現実的な雰囲気はなかった。

 

「うーんと・・・トーラウスの家は、町の外れか」

 

地図に付けられたマーキングを見ると、かなり奥まった場所にあるらしい。とにかくこの町のマップを埋めてからでも遅くはないだろう。

 

 

30分後・・・・・。

 

 

「ここだよな?」

 

裏町の細い道を通り抜けて俺たちがたどり着いたのは、一軒の民家だった。外見は、左右に建っている普通の家と変わらない。だが、地図のマーキングは確かにこの家を指し示していた。

 

「すいませーん」

 

呼びかけながら、軽くノックをしてみる。すると、すぐに扉が開いた。中から姿を現したのは、見覚えのあるヒョロ長の男性だ。

 

「おや、ハーデスさん。早速来てくれたんだね」

 

出迎えてくれたトーラウスに招かれて、家の中に足を踏み入れる。すると、そこには驚きの光景が広がっていた。まず、部屋が広い。多分、壁をいくつか取っ払っているのだろう。20畳くらいはありそうだ。その部屋の中には所狭しと、大量の草花が置かれている。いくつか置かれた木製の机の上は勿論のこと、壁や天井からもぶら下げられ、床のシートの上にもうず高く積まれている。

 

一応、入り口脇の壁際に置かれたソファ周りだけは無事なようだ。お客さん用なのだろう。というか、ソファ周辺以外は足の踏み場がない。しかも、この部屋に置かれている草、その全てが雑草であるようだった。植物学者で、今は雑草の研究をしてるっていう話だったが、これは凄いな。

 

「ささ、座ってくれ。お茶を用意するからね」

 

トーラウスは器用に雑草の間を抜けて、奥に消えていった。よくあの狭い場所を歩けるな。しかも雑草には一切触れず。何か特殊な歩き方でも習得してるのか? そうでなくても歩きなれた感じが強いな。

戻ってきたトーラウスが、俺にカップを渡してくれる。どうやらハーブティーであるらしい。さすが雑草博士。

 

「いただきます――おおっ? これ、ハーブティー?」

 

「ああ、僕の特製さ。どうだい?」

 

ハーブティーを口に含んだ俺は、驚きの余り思わず声を上げてしまっていた。

 

「この爽やかな香りはいったい?」

 

「ああ、レモンバームのフレッシュハーブティーなんだよ。乾燥させるよりも香りが楽しめるから、僕はフレッシュの方が好きなんだ」

 

なんだと? 今なんと言った? フレッシュの方が好き? 謎の爽やかさはレモンバームという未見のハーブだったとして、フレッシュハーブティー?

 

「つまり、フレッシュハーブティーが存在するんだな?」

 

「存在するねぇ」

 

「・・・・・どうやって作るんだ?」

 

「そうだねぇ。僕の手伝いをしてくれたら、作れるようになるかもよ?」

 

トーラウスはそう言ってにっこりと微笑んだ。これは、クエストを引き受けて成功させたら教えてやるってことだろうな。いいだろう。やってやろうじゃないか。その挑戦、受けて立つ!

 

「ぜひやらせてください。お願いします」

 

「うんうん。引き受けてくれて嬉しいよ。それじゃあ、最初の仕事だ。このテーブルの上に置いてある雑草を、仕分けてくれるかい?」

 

「これ、全部?」

 

ほぼテーブルを埋め尽くしている雑草を見た。

 

「ああ。採取場所から採ってきたんだけど、分別する時間がなくて。種類ごとに分けてもらえるとありがたいんだ」

 

「わかった」

 

早速鑑定を始めていく。仕分けの仕事は、最初はそこそこ面白かった。俺が知らないハーブがたくさんあったのだ。それらを鑑定しながら分別するのは、単純に勉強になった。鑑定した束の雑草を種別ごとに並べていく。

 

だが、それも1時間も経過すれば飽きてくる。2時間経てば、最早仕分けマシーンと化すしかなかった。

そして3時間後。ようやくテーブルの上に積み上げられていた大量の雑草の分別作業を終わらせることに成功していた。

 

「んー終わった」

 

凝っているわけはないんだが、腰や肩を思わず解してしまう。だが、俺は忘れていたのだ。労働クエストが、こんな短時間で終わるわけがないという事を。トーラウスが嬉し気に笑いながら、俺が分別した雑草を手に取っている。

 

「いやー、凄い早かったね。じゃあ、次はこっちのテーブルを頼むよ」

 

「え?」

 

「最初は様子見で少ない仕事を割り振ったけど、あの素晴らしい仕事っぷりなら問題なさそうだね。ぜひ頑張ってくれよ」

 

最初は少ない仕事? あれで? そうか。忘れていたが、これでこそ労働クエストだよな。

 

「・・・・・いいぜ。やったろうじゃないか」

 

1週間も先伸ばして最終日で一気に夏休みの宿題の消化に追われる学生みたいになりたくないからな。俺はその逆、全て初日で終わらせて残りは自由を謳歌する派だ。今日中に終わらせてやる!

 

 

そして日が落ちかける頃、全ての作業を終えた。

 

 

「終わったぞトーラウスー!」

 

「お疲れ様」

 

今日で何度目か分からない、時おりトーラウスが差し入れてくれるお茶を飲んでリフレッシュすることで、なんとか乗り切ることができたのだった。あと、作業の合間にトーラウスとの雑談も面白かった。植物系の質問をすると色々と答えてくれるし、発見もあったしね。おかわりを求めるとトーラウスがフレッシュハーブティーを出してくれた。

 

「助かったよ。本当にありがとう」

 

「いや、俺も色々と勉強になったから」

 

実はその作業の合間にした雑談の中にはトーラウスに籾の処理の仕方を色々と教わったのだ。専用の道具を用意しなくてはならないと思っていたんだが、石臼でどうにかなるらしい。

籾を石臼に入れておけば、後は放置でいいというのだから楽である。時間をかけ過ぎても、粉になるということもないそうだ。

 

籾はどうやっても玄米にしかならず、玄米や白米を長時間潰せば米粉になるらしい。いやー、風車塔を買っておいてよかった。あとは途中の工程で色々と工夫をすることもできそうだ。乾燥させてみたり、殻の剥き具合を変えてみたりね。・・・それは知らなかったがな。

 

しかもそれだけではない。何とクエスト終了間際に、新しいスキルを覚えたのだ。そのスキルの名前は『植物学』。というか、このスキルを覚えたからクエスト終了なんだろうか?

 

多分、雑草の鑑定数が関係していると思うが、鑑定する雑草の種類や品質なども影響するかもしれない。このクエスト以外でも習得可能かどうかも分からない。ともかく、これはかなり画期的なスキルであった。まず、鑑定できる植物がさらに増えた。なんと、今までオブジェクトだと思っていた一部の植物を鑑定し、採取、伐採できるようになったのだ。

 

例えば、サウスゲートにたどり着く前に通り抜けた黄樹の谷底。そこで迷路を形成していた黄樹である。トーラウスの研究所には伐採された黄樹の素材が置かれていたのだが、それも問題なく鑑定できるようになっていた。

 

「イエローウッドが実は黄樹だったとは・・・・・」

 

染料に使うための素材らしいが、未だに採取場所が分からず、NPCショップでしか手に入らないアイテムの1つだ。

 

「さて、それじゃあ報酬を渡さないとね。これを受け取って欲しい」

 

「1500Gだな。確かに」

 

安いけど、植物学スキルが報酬みたいなものだから問題ない。

 

「もう暗くなってるけど・・・・・。どうしようかな」

 

まずは植物学の効果を試してみるか。俺はサウスゲートの町から黄樹の谷底に戻り、フィールドを覆い尽くす黄樹の迷路を観察して歩いた。すると、今まで何もなかったはずの場所に、新たな伐採ポイントが出現していることを発見する。

 

普通の樹木は存在せず、今まではフィールドオブジェクトとしか思っていなかった黄樹の壁だ。あとは普通の伐採と同じ要領だった。トーラウスの家で見せてもらった、イエローウッドの欠片というアイテムが入手できている。

 

植物学のおかげで、新たな採取物が増えたはずだ。そしてまた新発見ができるな。

 

「いったんここでログアウトだな」

 

食事の準備をしなくちゃならんし、食べ終えたらもっかいログインして先に進もう。

そんな気持ちで俺はログアウトしたのだった。

 

数十分後―――。

 

ログイン。

 

「よし、行くか第二の地底湖へ」

 

既に他のプレイヤーの手によって攻略されているから、俺も楽勝で攻略できる。というか―――俺とイッチョウと攻略した地底湖と同じなんだよな。違いがあるのはユニーク装備が手に入るボスの有無だ。こっちの地底湖にはそんなボスがおらず、純粋に湖の中に潜んでいる中ボスを倒すだけだ。ウツボに似た魚型モンスター。陸にも上がっては蛇行して襲い掛かるどころか、湖の中にいる青い魚を捕食してHPを回復、赤色の魚は攻撃力上昇の赤いエフェクトを纏い、黄色い魚は麻痺状態を誘発させる状態異常の攻撃するというパターンを度々変えて数多のプレイヤーを迎撃してきた。俺もその一人になるが・・・。

 

「奇麗な湖を毒の湖に~」

 

時間をかけて湖をゆっくりと毒々しい紫色に塗り替えていく。回復を図ろうが、青い魚ごと毒殺すれば回復できまい。毒状態となって陸に上がったウツボは、赤いエフェクトを纏って突っ込んでくるも【溶岩魔人】に変身した俺に突っ込んで自ら丸焼きになった。

 

「はい撃破~」

 

倒したら地底湖は解放される。次に天井の穴へ潜り湿地帯に出れば地底湖の先にある第6エリアへ足を運び、直ぐにレイド戦を臨んだ。それも各フィールドの特殊ボスであるプレデター。俺は今回初めて戦うけどな。

 

その名もジャイアント・シルバー・クラブ。

 

要は、超巨大なカニである。銀色の装甲を持つ、体長20メートル超えのガザミだ。

月明りに照らされたその甲殻は美しくさえあるが、魔法のダメージを大幅に減少させる凶悪な効果を持っているそうだ。

 

「【金晶戟蠍(ゴール・D・スコーピオン)Ⅲ】【黒晶守護者(ダーク・ゴーレム)Ⅲ】【緋水晶蛇(ヨルムンガンド)Ⅲ】【百鬼夜行】」

 

五体の巨大なモンスターを召喚して嗾けさせた。蠍がトライデントの尻尾を伸ばして蟹を突き飛ばし、吹っ飛んできた蟹の甲羅を鞭のようにし鳴らせ振るう蛇が叩き返し、転がる蟹の巨体を蹴り飛ばすゴーレムからパスされた赤鬼は金棒で思いっきり青鬼へ打ち返し、青鬼も同じように金棒で打ち返す・・・・・完全にリンチですわこれ。五体の召喚時間が過ぎる頃にはプレデターなる蟹のHPは5割しかなく、残りの5割は俺が【覇獣】と化して美味しくバリバリとHPドレインでいただきました。

 

そして次は―――第7エリアへ直行する。そしたら北と東、西のエリアも第7エリアまで進んでみよう。



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お化け屋敷

4日後。

 

今の俺は、東西南北にある第7エリアの町まで開拓して到達できている。

 

東の第7エリアにあるのは、鉱山の町。ドワーフがたくさん住んでいる、谷間に築かれた石と鉄の町である。周辺の岩山には、ガーゴイルなどが出現するが、鉱石をゲットするには最適の環境と言えるだろう。

この先の第8エリアは2つに分かれており、片方が火炎樹の山。全身から炎を噴き上げる不思議な木が生える山である。火炎系のモンスターが大量に出現するらしい。更にその先のエリアに進めば皆が知っている火山のダンジョンがあるドワルティアだ。

 

もう片方が、俺静電気山。磁力や電撃による罠が多く、金属製の武器だと苦労するそうだ。静電気を防ぐ薬もあるが、それを全員に使っているとかなりお高くなってしまう。それゆえ、軽装の戦士などが重宝されているフィールドだった。

 

西にある第7エリアの町は、オアシスの町。周辺は砂漠である。

その先は、岩石が行く手を塞ぐ岩石砂漠と、蟻地獄のような罠が大量に存在する流砂の回廊に分かれている。流砂の回廊は、買い取った情報にあった海苔の採取できるフィールドだ。その内行ってみたい。

 

北は森林の町。その名の通り、森林に埋もれるように存在する、エルフの町だ。高品質な弓などが売っていることで有名である。そして更にその先のエリアを進めばリヴェリアの故郷のアールヴの里がある。

第8エリアは、アンデッドやゴーストの徘徊する闇の山や森、擬態植物に注意が必要な捕食の森であるらしい。ここは、ホラーが苦手なプレイヤーにとって正直どっちも行きたくないだろう。

 

南は水路の町。まるでベネチアのような、ゴンドラで町中を行き来する水上都市である。観光と探索に訪れるプレイヤーの数が多いらしい。先は、泥炭地帯と巨大川というフィールドに分かれているそうだ。

 

 

―――ということで今日、北の第7エリアの町の先の捕食の森へ挑戦する。

 

 

「えと? 退魔用品が必要不可欠、なんだけ?」

 

タラリアの情報を頼りに霊系モンスターを倒すことが出来るアイテムを売っている店に向かう。大通りに並ぶ店の内の一つを見つけて中に入ると、NPCがいない店内には紙に赤色のよく分からない文字と記号が書かれた札のアイテム、封魔の塩というアイテムや【破邪の大盾】と【破邪の短刀】があった。

 

短刀は霊系モンスターなどに対して短刀での攻撃ダメージを増加させる効果があった。

また大盾は同じく霊系モンスターなどからの、攻撃ダメージをカットする効果があった

 

「・・・・・いらない気がする」

 

ほぼダメージを受けない防御力とスキルがあるし、魔法が通じる相手に短刀は不要じゃないかな。そう判断を下した俺は大量に退魔用品を購入して捕食の森へ向かう。どっちが捕食者なのか確かめてやろうじゃないか。【飛翔】で空を飛び西へと向かった。しばらくして、青白い女性の幽霊や違う幽霊達が迫って来たので回避行動取りながら飛んでたら、眼下にボロボロになった大きな洋館らしきものが見え始める。その周りは他の場所に比べ霧が濃く、全体をはっきりと確認することはできそうになかった。そこへ降りて半開きになってる扉を潜った。

 

辺りを見渡した。

 

随分と大きな洋館のようで、今いるエントランスらしき場所から、入り口とは別に正面と左右に扉が三つ。

さらに階段があり、二階にも扉が見えた。天井にはボロボロのシャンデリアがある。

また、壁に取り付けられている燭台の上で小さくなった蝋燭がゆらゆらと小さな火を灯していた。

 

うん、まさにホラーに相応しい演出と雰囲気だな。

 

右の扉まで歩いていき扉を開ける。すると、少し埃が舞い上がった後で扉の向こうに伸びる廊下が見えた。

念のため警戒の意味で、耳に手を当てて廊下の向こうに聞き耳を立ててみるが、特に物音はしなかった。

 

なので廊下を進んでいく。長い廊下には左に曲がることができるところがいくつかあった。

またそれだけでなく、部屋につながっているのだろう扉もあって調べる場所は多そうだった。

 

「どこから行こうかな・・・・・うわっ」

 

足に違和感を感じて下を見る。すると、歩き出そうとした俺の足を、地面から伸びる無数の透けた白い手が掴んでいたのである。手は少しずつ伸びて体を掴んでくる。

 

そして、道中にもいたあの青白い顔をした女性の霊が壁からするりと抜けてこっちに近づいてくる。

 

「【クイックチェンジ】! まさかすぐに使う時が来るとはな!」

 

血のように真っ赤な大鎌―――【ハーデスの大鎌】を!

 

 

『ハーデスの大鎌』

 

【DEX+25】

 

【AGI+10】

 

【破壊不可】

 

【無双乱舞】【血纏い】【狂魂】

 

 

【無双乱舞】

 

【STR】依存の無数の防御力貫通攻撃。50の数値ごと斬撃を放つことが可能。

 

 

【血纏い】

 

HPを消費した数値分の【STR】が上昇する。

 

 

【狂魂】

 

攻撃に成功したプレイヤー・モンスターに状態異常を付与する。

 

 

しがみ付いてくる足元を切り裂き、女性の霊も両断。倒せた感じはしないものの幽霊はすっと消えた。

今度こそ歩き出した所で足元が鈍い青色に光る。今度はなんだと思いながら受け入れる姿勢で見守る中、光は大きくなり、視界が真っ白になって・・・気づいた時にはどこかの部屋だった。

 

扉が外れてしまったクローゼットに、埃の積もったベッド。シーツはボロボロになっており、床はところどころめくれている。

 

「転移トラップ? うーん、ここの情報はあんまり調べられてないから攻略方法もいまいちわからん」

 

外へ出ようとドアノブを掴むが、ひねってもガチャガチャと音がするだけで扉は開かない。鍵穴もなく、開かない理由は分からなかった。

 

「ん・・・壊せるか? 試してみようか」

 

大鎌の切っ先を扉に向ける。

 

その時背後でギシッと音がして、俺は振り返った。

 

すると、まるで夜闇を固めて形作ったようなどこまでも黒い影がのっそりと起き上がっているところだった。

 

「霊相手に物理は通用するはずもなく、退魔用品の出番だな。はいペターっと」

 

お札に書かれていた赤い文字が光り始め、霊の表面を白い光が伝っていく。

光が霊の体を覆うにつれて霊は嘆きの声を上げ始めた。

 

「もっと張るべきか。塩も追加だ」

 

札を数枚追加、塩を振りかけると霊はダメージエフェクトを一度も出すことなく、白い光に包まれて天に昇って消えていった。

そして影が消えていくとともに後ろでガチャリと鍵の開いた音がした。

 

「開いたのかな? 鍵穴はなかったけど」

 

扉に近寄りドアノブをひねる。すると先程とは違い、ドアはするりと開いた。

 

「さっきの霊みたいなのを倒さないとダメなのか」

 

判ったことを口にし、また閉じ込められないようにと急いで部屋から出た。

 

「た、助けてくれぁあああああっ!!!」

 

「どはぁっ!?」

 

横から何が飛び付いてきた何かともみくちゃになりながらぶっ飛び、転がる身体が止まったところでようやく原因が判った。

 

「いきなり誰だっ・・・・・て、カワカミ-100代?」

 

「その声、ハーデスか? お前でもいいから私をここから連れ出してくれ!? もう嫌だこんなところにいるのはぁっ!!」

 

首が絞まるっ。防御力が高くても首はダメ、首はっ・・・・・!

 

「理由を知りたいけど、兎に角離れてついてこい」

 

「いやだっ、離れたくないっ! 直ぐそこに幽霊がいるんだ!」

 

「あ~確かに・・・いるな。血塗れの子供が」

 

「言うなよぉっー!! ひいっ? 今触られたっ、触られたところが冷たいっ!!」

 

お札を張って退散!

 

「お前、アイテムないのかよ」

 

「持ってるけど使えるか! 相手は幽霊なんだぞ!」

 

「データ相手に怖がるなよな。武神のくせに」

 

「武神でも怖いものは怖いんだ! 殴れる相手なら怖くないっ!」

 

殴れないわな。だって相手は霊だもの。

 

「ほら行くぞ。離れてくれないなら前か背中にしがみつけ」

 

「な、何で前なんだ・・・・・」

 

「頭の後ろに目があるわけないのに、音もなく幽霊に近付かれても判るはずがないだろ。その時はお前の背中か顔を触ってくるんだぞ、文字通り背後から。逆に前ならお前が後ろから来ていることを教えてくれるならすぐに対処できる。どっちがいい」

 

カワカミ100ー代は、凄く悩む前もなくコアラのように前から俺の腰に両足を絡め、両腕を首に回して胸を押し付ける感じで零距離の密着を選んだ。

 

「こ、これでいいか・・・?」

 

「ああ、動きやすくなった。行くぞ【超加速】!」

 

素早く洋館の中を駆け巡る。前は俺が、後ろはカワカミ100-代が幽霊の出現を確認できるから直ぐに退魔用のお札と塩で撃退行動が出来る。

 

「き、来てるぞ! 黒いのっ! ああっ、台所の黒い方だったら楽なのにぃっ!」

 

「よし、倒す」

 

「何でわざわざぁっ!?」

 

「この先行き止まりだったからだ。悪霊退散!」

 

「わぁあああっ!? 女の幽霊が、子供の幽霊が壁から出てきたあっ!」

 

【飛翔】で宙を駆け出口を探す最中、素朴な疑問をぶつけてみた。

 

「そういえばさ、お前ログアウトしないのか?」

 

「出来ないから逃げていたんだっ!」

 

・・・あっ、ほんとだ。しようとも思わなかったから気付かなかったわ。でも、それもできるようになったぞ。

 

「だっしゅーつ!」

 

俺は覚えていた道を最短で帰って、とうとうログアウト可能な場所まで戻ってきた。洋館の外に躍り出た俺達の目の前に見覚えのある顔が揃ってるプレイヤー達が佇んでいた。

 

「外に出たぞ」

 

「あ、ありがとうハーデス」

 

「どういたしまして」

 

戻ってきたことを安堵する俺達二人。

そんな俺達の背後から、冷たい腕が伸びまとめて抱きしめてくることなど気付かないのも無理はないよな。

 

「ひっ・・・・・!」

 

「んっ」

 

驚き一瞬固まったところでスキル獲得の通知がきた。

 

「えっと・・・・・【冥界の縁】? アイテムの効果が二倍になるスキル? ほぉ~、こいつはラッキーだな」

 

偶然にも獲得したスキル内容を確認する。その場にへにゃっと座り込んだカワカミ100-代も、同じスキルを手に入れることができているようだった。

 

スキルに書かれているフレーバーとして、時折背後からそっと手を貸してくれる誰かとの奇妙な縁というものがあった。

 

「う・・・・・そんな縁いらないぞ」

 

お前はそうだろうな。

 

「ハーデスか? お前もこのエリアに来たんだな」

 

「まぁな。それで、お前達はどうしてここに?」

 

ナイスガイが答えてくれた。

 

「肝試しのつもりでこの洋館のを利用して遊んでいたんだ。カワカミ100-代と直江兼続が最初に入って、帰りを待っていたんだよ」

 

「まさか、直江兼続じゃなくてお姉さまとハーデスが戻ってくるなんて予想外だったわ。直江兼続はどうしたの?」

 

「俺は元々ここに一人で来たからあいつは知らんぞ。やられたんじゃないか?」

 

カズコ達はメッセージを送り確認したら、まだ中にいて俺の側にいる彼女を探してる、とのことだった。

 

「完全なるすれ違いだね」

 

「でも、どうして二人は離れてたの?」

 

「転移の罠でどこかの部屋に飛ばされたぞ」

 

「わ、私と舎弟もそうだった・・・・・」

 

彼女の言葉で納得した様子の直江兼続のパーティー一同。

 

「お前らもここに来るのは初めて?」

 

「そうよ! せっかくの夏なんだからゲームよりもリアルで遊ぶつもりで、ここで肝試しをしたらしばらくログインしないことにしてるのよ」

 

「なるほどな。俺もたまには蒼天に帰ってみようかな」

 

そんな何気ない一言は、どうやらこいつらを刺激してしまったようだ。京・D・ブルーが距離を縮めてきた。

 

「学園長、旅人さんも蒼天に帰った?」

 

「そりゃするだろ。この時期は外国に飛び回る忙しい仕事があるんだから」

 

「ねえねえ、アタシ達が蒼天に行ってみたいと言ったら、やっぱりダメかな?」

 

何時かそう言うだろうと思ってたよ。案の定、俺の予想を裏切らないなこいつは。

 

「それは王達が判断することだ。俺からはイエスもノーも言えない。ログアウトしたら聞いてみるが、期待するなよ」

 

「頼むぜハーデス!」

 

「蒼天には強い奴がいるんだったら、是非とも挑んでみたいな。特に蒼天の空の上にいる化け物達と!」

 

カワカミ100-代も予想通りなことを言ってくれる。

 

「話は終わったな? 俺は次に行くから」

 

「今度、一緒にチーム組んで遊びましょうね!」

 

「またなハーデス」

 

おう、と手を振って俺は先に町へ帰った。

 

 

・・・・・。・・・・・。・・・・・。

 

・・・・・。・・・・・。

 

・・・・・。

 

 

「もっかい掲示板を見よっと」

 

このエリアで手に入る何かを調べる。改めて確認すると、透明な足場を作って空を跳ぶ靴がこのエリアで入手できるようだ。うーん、一応は取っておくか。【飛翔】で目的の場所へ向かった。

 

 

「あー、やっぱり人が多いなあ」

 

上空から下を確認すると、魔法やスキルのエフェクトがあちこちで煌めいていた。狙うモンスターはいわゆる霊型モンスターであり、全身が白く輝く骨でできている。

 

すっと消えては現れてを繰り返し攻撃を躱してくるモンスターで、当然物理は効かない。

 

「うーん・・・・・この辺りじゃ俺だとやりにくいか」

 

俺のスキルは広域殲滅と至近攻撃のどちらかがほとんどであり、こういった場面においてちょうどいい射程のものはないといってもいい。装備を替えれば戦えないわけではないが、人気のないところでしたいな。

 

「別のところでも出ないかな?」

 

俺はここを避けて別の場所を探すことにした。

 

幸い、目的のモンスターはある程度上空からでも確認できるくらいの光を纏っているため、探すことは可能だった。

 

「いなかったらここに戻ってこよう」

 

MPを補給してから俺は別の方向へ向きをぐるっと変えると、広いフィールドを外へ外へ、町から離れるように飛んでいく。

 

「いないかなー・・・・・うーん、もうちょっと探してみよう」

 

ゆっくりと飛びながら下をじっと見る。そうしてしばらくいったところで霧が濃くなっている山の近くまで飛んできた。

 

「ここは下が見えない・・・・・頂上の辺りだけ確認しようかな? 他のプレイヤーがいなさそうだし、何かいるとしたらそこだよな」

 

そうと決めた俺は高度を下げると少し開けた場所に降りた。

 

辺りを見渡しつつ山を登っていく。

 

そうして少しいった所で、霧の中に透き通る赤い骨で出来た霊型のモンスターが俺の前に現れた。

 

「ちょっと違うが・・・霊は霊だ」

 

別モンスターなのだから目的通りでないことは確定的なのだが、気にせずとりあえず倒してみることにした。

 

「効くかな【挑発】!」

 

試しに【挑発】をすると近くからさらに数体同じ見た目のモンスターが現れる。

 

「おっ、ラッキー! かーらーの、悪霊たいさーん!」

 

霊にお札を貼り付けると、お札に書かれていた赤い文字が光り始め、霊の表面を白い光が伝っていく。

光が霊の体を覆うにつれてHPはじわじわと減少していき、霊は嘆きの声を上げ始めた。

 

「おおー効いてる効いてる!じゃあこの塩もどうぞ」

 

塩を振りかけるとHPはさらにガクッと削れる。

そしてHPがゼロになると、霊はダメージエフェクトを一度も出すことなく、白い光に包まれて天に昇って消えていった。

 

「よし除霊成功! 素材は・・・・・あれ、少ない? ええぇっ、経験値は貰えてないっぽい・・・・・」

 

掲示板の出番。お札と塩による除霊では経験値や素材のうまみは得にくいが、スピードと倒しやすさを得ることができる?

 

これを知った俺はどちらを取るか悩んだものの、一度体験したお札と塩の楽さには抗えなかった。

 

「いっぱい倒せばいいんだ。一応アイテムはドロップするみたいだし」

 

近づいてくる霊に塩をばらまいて次々にダメージを与えていく。

 

「この調子でいこう!」

 

寄ってくる霊を片っ端から昇天させる。一体当たりの消費が少ないこともあり、買い込んだアイテムには余裕があった。そうして一日中除霊に勤しんだところで、工房を出して中に入ってログアウトした。

 

そうして毎日除霊を続け、現実ならば山の霊を全て除霊しきってしまうのではないかというくらい除霊したところで、俺の前にぽとりと靴が落ちた。

 

「おおおおっ! ようやくきたっ!」

 

ドロップした靴を拾い上げる。それにはところどころ赤黒い染みが付いており、何故か少しひんやりとしているように感じられるものの、今のイッチョウのブーツによく似たものだった。

 

「名前は・・・・・【死者の足】? 呪われそうだけど・・・・・大丈夫かな。レアって書いてあるからいいものだよな、きっと」

 

ブーツをくまなく観察してみたが、血が垂れてきたり、本当に中に死者の足が残っていたりはしなかった。

 

「スキル確認・・・・・」

 

 

【黄泉への一歩】

 

スキル使用時、各ステータスを5減少させ空中に足場を作る。

 

20分後減少解除。

 

足場は十秒後消滅する。

 

 

「うん? 何か、違うんだけど。まぁ、いいか」

 

インベントリに靴をしまうと、また近づいてきた幽霊を最後に倒して今日は帰ろうと考えた。

 

「よし塩とお札を・・・・・あれ?」

 

除霊しようと構えたところで近づいてきた霊は今までと違った反応を示したのである。

霊は赤ではなく青い光を発し始め、さらに、俺に背中を向けて離れていく。

目を凝らすと少し遠くで止まっている青い光が見えた。

ゆらゆらと揺れる光は俺を呼んでいるようにも感じられる。

 

「行ってみようかな。イベントかもしれないし」

 

それでも警戒しつつゆっくり青い光のもとへと歩いていく。俺近くまで来ると、霊はまた俺を導くように先へと進む。

 

「山を登ってる・・・・・」

 

霊に導かれるままに山を登り、遂に山頂へと辿り着いた。山頂付近はより濃い霧に覆われており、もはや一メートル先すらまともに見えない状態である。

 

「どこに行けばいい? あ、これ・・・・・」

 

足元にコツンと当たったのは地面に刺さった、木で作られたボロボロの十字架だった。近くには既に朽ちてしまった花束の残骸が転がっている。

 

「十字架と花束? 墓っぽいな」

 

辺りを見回しても濃霧で何も見えず、赤い霊が来るまでもない。墓の周囲を一周しても何もなく、隠し階段のような物も存在しない。木で作られた十字架を抜こうとしても抜けない。

 

「・・・・・合掌すればいいのか?」

 

目を閉じて手を合わせる。そんな俺の足首を突然地面から生えた白い手が掴んだ。

 

「そっちかぁー!!? 流石に俺でも驚くわっ!!」

 

そのまま足を引かれ、あるはずの地面が消えてしまったような浮遊感を覚える。

 

 

どこまでもどこまでも落ちていくような感覚に俺は無抵抗で成り行きに身を任せるしかないのだった。



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それぞれ

どこまでもどこまでも落ちていくような感覚はやがて消えて、真っ暗な空間に着地した。

 

「ここは、墓の中か?」

 

周りを見渡していると、暗い闇の一部がぼうっと赤く光り始める。空間を裂いてずるりと姿を見せたのは、今まで何百と除霊してきた赤い霊が大きくなったようなモンスターだった。

 

上半身だけが空中の裂け目から飛び出しており、赤い腕は俺の体の数倍の長さである。

 

「これも利くかな」

 

その姿を一目見てこれは除霊できなさそうと思ってしまう。ただ、霊は俺を放っておいてはくれないようで、こっちに向かって腕を伸ばし俺を掴もうとしてきた。

 

「遅い」

 

走って逃げると腕の届かないところまで離れることができた。足を止め霊の方を確認する。霊は腕を伸ばしきるとすうっと消えて、裂けていた空間は元通りになった。

 

「なーんか嫌な感じが・・・・・やっぱりな!」

 

直感を信じてくるっと後ろを振り返るとそこでは今まさに空間が裂けていくところだった。

 

「俺の代わりに塩をどうぞっ!」

 

俺は現れた上半身に塩を投げつけると走って距離を取り、ダメージを確認する。

 

「おっ、効くんだ」

 

山にいた赤い霊と比べると効きは悪いものの確かにHPは減少していた。

それならなんとかなると、インベントリからアイテムを取り出して次の出現に備える。

 

「よーしこいこい。・・・んん?」

 

俺の構える前で裂けていく空間。ボス格の霊と裂け目の隙間からスルスルと山にいた赤い霊が現れる。

それらは山に出た時と同じように見るからに危険そうな、髑髏を背後に浮かばせて俺に近づいてくる。

 

「そっちは来なくていい! 【飛翔】!」

 

空へ飛んで直接ボス格の霊に接近してお札を貼り付け、全部使い切る勢いで他の赤い霊にも塩を振り撒く。

 

「フハハハッ! 俺を捕まえれまい!」

 

そんな俺にボスの手が迫り、魚のように躱してその手にお札を貼り付けてダメージを稼いでいく。

 

そうして得意げに除霊に勤しむ俺だったが、そうそう上手くはいかなかった。ボス格の霊も飛んできたのでMPポーションでMPを補給しつつ、ずっと飛んでお札と塩で倒そうとした。

 

しばらくして、ここで明確な変化が起こったことに気づいた。

 

今までは暗闇とはいえ自分の体は見えていたり、ボスは見えていたりと、表すなら月明かりのある夜といったような暗さだった。しかし現状、俺には自身の身体や霊の姿も見えていなかった。

 

目を閉じているのと変わらないほどの深い闇が俺を包んだのである。

 

「うわ、真っ暗・・・・・ゴーグルでも見えないか」

 

世界の裏側を見るゴーグルでも意味はなさない。自分の手元すら確認できない暗闇は変わらない。

 

「ランタンは?」

 

この暗闇に明かりをつけようとランタンのする。しかしその明かりは闇に包まれて、蝋燭の火が拭き消されるようにふっと消えてしまったのである。え、どうしろと? もう一度言おう。

 

「え、どうしろと? うわっ!?」

 

若干慌てる俺を背後から冷たい手が掴み上げた。

 

「くっ、む? 抜けられない・・・・・? 【STR】が?」

 

ステータスに影響を及ぼしてるだろう霊の手はそのまま俺をゆっくりと上空へ連れ去っていく。

 

「ダメージが・・・・・うそだろっ!?」

 

俺はダメージの予感に確認したらHPが全損して、【不屈の守護者】が発動し、地面に落とされてしまった。落下ダメージはないものの、もう一撃アレを受ければ俺も生き残れない。くそったれ、反射ダメージが全く働かない相手は天敵以外何物でもないな!

 

「んっ?」

 

感じ慣れてきた(したくもない)冷たい感触が足に絡みついた。右足を見ると、地面から伸びる白い手が足に絡みついているところだった。さらに俺の体を冷たい両手が包み込む。手によって地面に縫い止められているため、上昇はしないが・・・周囲から何かが近づいてくる=死は近づいていると察するまでもなく悟った。

 

「面倒くさいな、もう!」

 

俺は取り出した塩とお札を包み込んでくる手に向かって一心不乱に貼り付けていく。振り捲る。

次の瞬間にはやられてしまっているかもしれないという初めての不安を襲っていたのである。

しかし、俺のHPを奪われる前にパリンと音がして暗闇に眩しいくらいの光が差し込んでくる。

 

「は・・・・・?」

 

暗闇がガラスが割れるように外側から崩れ落ち割れた先からどんどんと光が溢れてくる。

そうして暗闇は完全に消えて、闇の中だった空間は白い部屋へと変わっていった。

 

「はぁ・・・・ははは、ありがとう」

 

俺は達成感からか背中からぱたりと倒れてそのまま上を見る。

そして、俺は自分を見下ろしている諸々に向けて力なく手を振ったのだった。それからすぐにがばっと起き上がるとインベントリから取り出したポーションを飲んでいく。HPを全回復させて、ゆっくりと立ち上がった。

 

「ふぅ・・・・・危なかったあ。なんだったんだろう? 即死?」

 

一息吐きながら辺りを見渡す。どこを見ても白一色で、空間の広さが分からなくなるような場所が俺の周りに広がっていた。

 

「何かない・・・・・あった」

 

見つけたものの方に向かう。

 

「これは上で見たのと一緒だな」

 

白い空間の中、ボロボロになった十字架が地面に突き刺さっており、その前に朽ちた花が置かれている。

しゃがみこんでそれをじっと見る俺にかすかな声が聞こえてくる。

 

「ありがとう・・・・・おやすみなさい・・・・・」

 

「誰?」

 

ばっと顔を上げた俺を舞い上がった光が包み込む。光は形を成し、俺の目の前に一瞬女性が現れたのを見た。女性はこっちに手を伸ばし、そして舞い上がる光とともにすっと消えていった。

 

「・・・・・あの幽霊だったのか? 除霊・・・成仏、させられたのか・・・・・ん?」

 

俺は首元に違和感を覚えて触れてみる。すると、首に何かがかかっていることに気づいた。

 

「んと、いつの間にロケットペンダントが? 中身は、んー・・・・・さっきの女の幽霊なのか? ボロボロでよく分からない・・・・・」

 

中身の写真は既に判別不可能なくらいに風化していたが、うっすらと女性の姿と花畑が写っているように見えた。ロケットを首から外すと手にとって名前を確認する。

 

「あ、アイテムじゃないんだ。装飾品・・・・・【救いの手】? あんなんで救ったのか?」

 

札と塩しか殆んど使っていない戦法で訳の分からない戦いを潜り抜けた。それ以外思い出せないものは仕方ないと、思いつつ俺は装飾品を詳しく確認する。

 

 

【救いの手】

 

装飾品。

 

右手、もしくは左手の装備枠を合わせて二つ増やす。

 

 

―――ほう?

 

確認した瞬間。俺の中で新たなスタイルの変革を確信した。これをもう二つ集めれることが出来るなら実に愉快なことになるだろうな。倒し方も何となくわかった。んよし、もう一度チャレンジしてみようか!

 

「あ、その前に受け取りに行かないと」

 

町へ戻り購入した畑の簡易ホームに設置したトランスポーターを介して始まりの町へ戻った。

 

 

同じ頃・・・・・イッチョウは第7エリアの水上都市―――海中で一人攻略を勤しんでいた。

 

 

 

 

「【ウィンドカッター】!」

 

素早く魔法で牽制するものの、風の刃は光でできた透けた体をそのまま通過してしまう。イッチョウは急いで回避を試み突進を避けるが、魚は再び向かってくる。今度はすれ違うようにしてダガーで斬りつけるが、手応えは全くなく、水中をダガーが通り抜けただけのように感じる。当然ダメージエフェクトもない。

 

ある程度体力や防御力があれば本当にモンスターなのかを確かめるために攻撃を受けることもできるが、イッチョウではそれはできない。そうして繰り返される突進を回避しつつ、どうしたものかと考えた結果一つの結論に達した。

 

「何か見つかるまでは避けながら行くしかないか・・・・・」

 

とりあえず現状は回避可能なレベルで留まっているため、一応何とかする方法を探すことも目的に加えて先に進むことにする。ただ、八層のモンスターと比べれば、突進以外の行動もなく単純であり、イッチョウには避けることを前提としているように感じられたのだ。

 

事実イッチョウほどの回避能力がなくとも、ここまでゲームを進めてきたプレイヤーならほとんどがこれくらいの攻撃は捌くことができるだろう。

 

「この感じだといよいよボスも変なのが出てきそうだねぇ」

 

イッチョウは回避しながらどんどん泳ぎ進んでいく。止まって避けるのではなく、前に進みながら最低限の動きで避けているため、タイムロスもほぼなく、ほとんどいないもの扱いである。

 

それを光弾を避けながら行なっているのは、流石にイッチョウだからなのだと言えた。

 

この横穴はかなり特殊な作りになっているようで、自動的に攻撃してくるトラップと光でできた攻撃不可能な魚がいるばかりである。ダンジョンとして作られているというより、水中に沈み、打ち捨てられたものの集まった場所という風に思えて、イッチョウは進めば進むほどボスはいないかもしれないと感じ始める。

 

「うわ、増えた・・・・・」

 

今も攻撃し続けてきている実態のない魚は一匹ではないようで、目の前で光が形を成して新たに二匹の魚が周りを泳ぎ始めた。

 

「増えていくならギミック解除もできそうだけどね!」

 

モンスターにしてはどこまでもついてきすぎなため、十中八九何かしらのギミックなのだが、解除方法は未だ分からないままである。分からないものを気にしていても仕方ないため、変わらず攻撃を回避するしかない。加速と減速を上手く使って、直線的な攻撃をスイスイと回避する。水中であることの利点を生かし、上下も使って自在に回避する様は、光でできた魚よりもよっぽど魚らしいと言えるほどだった。

 

上昇と下降を繰り返して、広い空間にいる魚達をどうにかする方法がないかも調べるが、変わらず手がかりはない。

 

「オッケー、仕方ないか」

 

ならば最奥にたどり着くまで躱し切ってやろうと腹をくくって、イッチョウはもう一度強く水を蹴って加速するのだった。

 

それからしばらくして、横穴の中では大量の魚を引き連れたイッチョウが泳ぎ回っていた。もはや小魚の群れのようになってどこまでもついてくるため、流石にゆっくり探索どころではない。

 

「もう何匹いるか分かんないね・・・・・!」

 

数が少ないうちに消滅させる方法を探せるだけ探したものの、それらしいものは何もなかったのだ。がしかし、第二陣記念イベント時にメダル交換で得た装備とスキルによって水中移動を強化していることもあり、回避はできているものの、イッチョウだからこそ何とか可能になっているだけである。

 

とはいえ、集中力もいつまでも保つわけでなため、サリーとしてもこの状況はよくない。さらに、ダガーで弾くこともできないため、回避の方法も限られているのが難易度をぐっと引き上げていた。

 

「隙間を作って・・・・・今!」

 

広い空間で周りを取り囲む実態のない魚群が突撃してきたことでできた隙間に体をねじ込んで、その勢いのまま通路を駆け抜ける。通路は狭いため立ち止まれば背後から突進してくる魚群を避けることは不可能だ。

 

そうして高速で泳ぐ中、通路の奥からは大量の光弾が飛来するのが見える。それは背後と同じように通路を埋めるほど、あるのはそれぞれが発射された時間の差から生まれたほんの少しの隙間だけだ。それでもイッチョウはそれで十分とばかりに減速なしで光弾の雨の中へ飛び込んでいく。

 

「ふぅっ・・・・・!」

 

周りの景色の流れが遅く感じるほどに感覚を研ぎ澄ませて、ほんの僅かな判断ミスも許されない中で完璧に隙間を縫っていく。イッチョウから逸れていっているように、まるで最初から当たらないことが当然かのように、何十という光弾はその全てが背後に抜けていった。今までしてきたことを今回もやるだけだと、イッチョウは全てを避けて通路を泳ぎ切る。意思なき光弾に初被弾をくれてやるわけにはいかないのだ。

 

「よし、抜けた!」

 

そうして通路を抜けた先、光弾が収まったことで、イッチョウの背丈を遥かに超える扉を視界に捉えることができた。

 

それと同時に今までしつこく追ってきていた魚群も消滅して、水中に静寂が訪れる。目の前のそれはボス部屋を示す扉であり、つまりここが最奥ということになる。

 

「ハーデス君なら凄く余裕でここまでの道中を潜り抜けそうだねぇ」

 

【海王】を取得した今のイッチョウには水中における残りの活動可能時間を気にする必要もなく、余裕を持って戦闘ができると判断したイッチョウはこのままボスを攻略することに決定した。

 

「初めて水中で戦った時よりは強くなれてると思うけど」

 

この先に何が出てくるか。イッチョウは一度目を閉じて再度集中力を高めると、ゆっくり扉に近づき、中を確認する。中は球体になっており、全体が水に沈んでいて、今までと同じように古い部品や用途の分からない機械が底に大量に転がっている状態だった。しかし、現状ボスと思われる存在はどこにもいないように見える。

 

「入ってみないと分からないか・・・・・」

 

不意打ちに気をつけながらイッチョウが中へと入ると、がらくたの山の上に傾いて乗っていたモニターらしきものが淡い光を放ち始める。イッチョウがそれを見て身構えると同時に、積まれた機械を押しのけるようにして、道中で見た光弾発射装置が突き出してくる。

 

しかし、それは本命ではないようで、部屋の中心に強い光が発生し、形を作っていく。光が収まると同時に、矛を持ち、上半身が人で下半身が魚になっている男が実体化し、その上にボスのHPバーが表示されたことでイッチョウは気を引き締める。

 

「実体も生み出せるってすごい防衛システム。手に入るなら是非とも欲しいよん」

 

ここまでたどり着いたが、それでもここからが本番である。装備のためにも、より大事な目的のためにもイッチョウは負けるわけにはいかないのだ。

 

ダガーを持ち直したのを見て、ボスの方も矛を握り直し、それを円を描くように振ると、その軌道上に並ぶようにして非実体の魚が出現する。また、突き出てきた銃口も合わせて光を纏い始める。

 

この後どうなるかを察したところで、道中そうであったように魚群と光弾がイッチョウに対して襲いかかるのだった。

 

「それはもう慣れたよ!」

 

イッチョウは素早くその場から移動して両方を回避しにかかる。光弾も魚も向かってくるスピードは速いものの、動きは直線的で今いる場所に飛んでくる。広い場所であればそれなりの速度で大きく動き回っている限り当たる心配はほとんどないのだ。それもイッチョウ程になればなおさらである。

 

本当に気をつけなければならないのは、避けるだけなのをやめて攻撃に転じる時と、他でもないボス本体の動きだ。

 

今までのボスがそうだったように今回もいくつかの攻撃パターンを持っていると考えられる。

 

時間には余裕がある。大事なのは敵の攻撃を見極め、ダメージを受けずに反撃できる機会を探ることである。

 

飛び交う攻撃を避けつつ、じっとボスの様子を窺っているとボスが動き出し、その手に持った矛を掲げ一気に振るった。今度は先程とは違い、召喚ではないようだが、イッチョウは直感的に何かを察して水を蹴って素早く移動する。そんなイッチョウのマフラーの端を掠めるようにして勢い良く何かが通過していく。

 

「水流・・・・・覚えてないとね」

 

ボスが操っているのは水の流れ。持続時間は分からず、人一人分なら容易に飲み込めるような太い水流が、球状のボス部屋を縦断するように発生したのだ。当然、巻き込まれた時に無事である保証はない。視認性も悪く、光弾を回避するため高速で泳ぐ必要がある現状では、発生した場所を覚える他ない。

 

「【水纏】!」

 

イッチョウは頭の中にボス部屋をイメージして、どこに水流が発生しているかを常に更新することで、自分が通るべきルートを構築すると、加速してボスに向かって急接近する。

 

水流が移動先を制限し、それがいつまで続くかどれだけ発生するか分からない以上、予定通り長い間観察に回るわけにもいかなくなったのだ。

 

飛び交う光弾をすり抜け、突進してくる魚群を潜り抜けて、最後にボスが迎撃とばかりに突き出してきた矛を片手のダガーで弾くと、その勢いのままに肩口を深く斬り裂く。

 

これだけ飛翔物があれば、レベル25に到達するまでノーダメージであることが条件のイッチョウの【剣ノ舞】は容易くイッチョウを限界まで強化してくれる。その一撃は見た目よりも遥かに重く、HPバーが目に見えて減少する。

 

「ダメージも入るようになった……ねっ!」

 

斬りつけていったサリーを追いかけるように新たな水流が生み出されるが、体を捻り下側へ潜り込むようにして回避する。すると今度は非実態の魚をさらに追加するのが見えた。

 

「いいね、やる気出てきたよぉっ!」

 

イッチョウはより集中力を高めると、大量の飛翔物に常に攻撃されながらも冷静にそれを捌いていく。イッチョウの回避技術は最初から高かったものの、戦いを重ねるにつれてさらに研ぎ澄まされていっているのだ。

 

敵が生み出す全てを回避し、隙間を縫うようにして接近して攻撃する。

 

ヒットアンドアウェイのスタイルは変わらずとも与えるダメージも攻防の駆け引きもかつて水中戦でボスを倒した時とは比べものにならない。

 

「ふっ・・・・・やあっ!」

 

上下左右からの攻撃を回避し、ボスを斬りつける。イッチョウに比べればボスの動きは鈍く、その矛はイッチョウを捉えるには至らない。物量、環境、その全てがボスに有利に働いているが、それでも押されているのはボスの方だった。

 

ボスの手数は時間とともに増えていくものの、人一人分の隙間がある限りイッチョウは必ずそこに滑り込んでいく。

 

スキルを使用せずとも高いダメージが出るようになったことも元々少ないイッチョウの隙を減らしていた。

 

そうして攻防を繰り広げていくうち、部屋は水流があちこちに網の目のように張り巡らされており、ボスサイドであるが故にそれの影響を受けないで向かってこれる魚群と光弾が絶えずイッチョウを攻撃してくるようになった。状況は悪くなるばかりだが、それでもイッチョウの集中力は切れることはない。

 

「もういっちょっ!」

 

イッチョウは攻撃の隙を突いて一気に水流の間をすり抜けるともう一度中央に陣取るボスを斬りに向かう。スキルは使わず隙のない動きで。徹底したその行動にボスは攻撃がうまく通らず、何度目か分からない深手を負う。

 

そうしてHPが半分を割った所で、再び距離を取ったイッチョウは次の行動を警戒する。ボスの攻撃パターンに変化が訪れるとするならここだからだ。

 

「・・・・・!」

 

イッチョウの予想通りボスの動きは変化した。光が集まり、新たな矛が実体化して二本になり、水流の中に光の塊が流れ始める。それにより水流の位置がはっきりしたものの喜ばしいことではないのをすぐに証明してくる。

 

光の塊はイッチョウが観察する中で突然水流を外れて飛び出してきたのだ。上体をそらすことで回避するが、それっきりでは無いようでまた別の水流の中へ入っていく。

 

「また嫌なことするね!」

 

流れる光の塊は不定期に射出されイッチョウを狙ってくるようだった。壁に設置された銃口から飛び出す光弾とは異なり、移動して様々な位置から攻撃してくる移動砲台である。それを避けるにはさらに神経をすり減さなければらないだろう。

 

ただ、イッチョウは強化方向が順当なものだったことに安心してもいた。

 

避けられれば、二本の武器をいなせれば、やることは何も変わらないのだ。そして、イッチョウにはそれができるという自信がある。イッチョウは再度水を蹴ってボスの方へと加速する。左右からは光弾、正面からは魚群、追加された分も合わせると針の穴を通すように隙間をくぐる必要がある。

 

「うん、もっとすごい弾幕知ってるよ」

 

イッチョウは誰にともなくそうこぼすと、一気に魚群の間を抜けていく。ボディコントロールには僅かなミスも許されないが、イッチョウにとって弾幕を避けるのはリアルである男からの模擬戦により、背後からの銃弾すら避けられるようになった今になって、正面からのものにぶつかるようなミスはしない。

 

イッチョウにとって、本来僅かなはずの隙間は確かに通ることができる安全なルートとして目に映っているのだ。

 

「何回やっても、同じだよ」

 

イッチョウはボスの懐に飛び込むと、素早くブレーキをかけて振るわれる二本の矛を僅か数センチの距離で回避し、水中であることを生かして立体的な動きでボスの胸を貫く。

 

弾幕で捉えられない相手を、二本になっただけの矛でどうにかできる道理はないのだ。

 

今のイッチョウには行かなければならない場所がある。達しなければならない強さがある。それによって限界まで引き上げられた集中力を生かしてなされる戦闘は今までのそれよりも遥かにどうしようもないものだ。

 

そのHPがなくなるまで、何度も何度も、ボスがするのと同じように標的へと真っ直ぐに向かっていく。より高い精度と殺傷力を持ってして。

 

「装備、スキル。置いていってよ」

 

光の雨のようになった弾幕の中を貫いて、青い影は変わらず真っ直ぐにボスへと到達すると、最後の一撃でその体を分かつのだった。

 



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海底神殿1

 

「ヘパーイストス、完成したかー?」

 

「おう、昨日の内に完成しといたぜ。こんな金属を扱わせてくれてありがとうよ。いい経験になったぜ」

 

裏口から入り宇宙の星屑を預けたヘパーイストスから受け取ったそれは大きな球体だった。どんな形に製錬してくれるのかと思ったら・・・・・。

 

「球状にしたのか?」

 

「そいつはぁ仮の姿に過ぎない。攻防一体でお前の意思で臨機応変に形を変え働いてくれるはずだ」

 

「耐久の方は?」

 

「問題ねぇ。俺の全力の一撃を受けても罅一つ入らなかったぜ。元々製錬する前でも同じ硬さだったかもな」

 

よし、それならいい。人の頭にたんこぶを作る男の【STR】は信用できる。

 

「攻撃力の方はお前が確かめてくれ」

 

「わかった。礼を言うよ。代金の方は?」

 

「必要ねぇよ。どうしてもってんなら連れて行って欲しい場所がある。そこに案内してくれればいいさ」

 

水晶の? と訊くと専属鍛冶師は頷いた。それなら今すぐ連れて行ってやろうと提案するとヴェルフと一緒にドワルティアへ赴きヘパーイストスの願いを叶えたのだった。

 

「おお・・・ここが先祖が辿り着いた場所か! なんて壮観な場所だ。本当に水晶だらけで美しいな」

 

「すげぇ、世界にはこんな場所があったのか・・・・・冒険者達がボールのように吹っ飛んでいるんだが大丈夫か?」

 

メタスラ達が見つけた正規のルートから入って来た俺達と同様に他のプレイヤーも入ってきては、場所的に蠍の縄張りに入り込んだ命知らずの愚か者であるプレイヤーに群れで襲い、鋏で両断したり巨体を活かした突進で吹っ飛ばすか轢き殺していく。そんな光景を連れて来たセキトの背中に乗せたヘパーイストスとヴェルフの横に飛ぶ俺と見下ろしていた。

 

「ヘパーイストスでも倒せそうか?」

 

「一対一なら何とかなりそうだが。ああも、一度に群れで来られるのはちと命を覚悟しなきゃならないな」

 

「流石の師匠でも無理か」

 

先祖もそんな感じで群れから逃げ続けたんだろうか。

 

「採掘は出来そうか?」

 

「一度の振動で襲ってくるぞ。あんな感じで。それでも体験してみるか? 守ってやるぞ」

 

「んじゃ、頼むぜ」

 

最初から採掘するつもりで持って来たツルハシを肩に担いで言う鍛冶師。ヴェルフもヴェルフで、俺なら大丈夫だろうという信頼でツルハシを握る手に力を込めたのが判った。手頃の採掘ポイントを探し、見つけたら二人の鍛冶師は思いっきりツルハシを一度打ち下ろしただけで、水晶の蠍が複数も周囲から現れてきた。

 

「ほら、あんな感じでな。【身捧ぐ慈愛】!」

 

「速っ! もうっ、逃げ―――!? ・・・・・あれ、攻撃受けてるのに痛みがない?」

 

「俺から離れない限り、俺の防御力が二人にカバーしてるから攻撃は届かないぞ」

 

「はははっ! こいつはいい! 先祖でもできなかったことが出来るなんてよ! あの世にいる先祖に自慢話ができるってもんだ!」

 

なお、貫通攻撃は受けてるが、反射ダメージのスキルでそれ以上に蠍もダメージを受けてるがな。気分良くしたヘパーイストスは他の場所にも採掘をしたいという要望をして、俺はそれに付き合った。先祖を超えた、さらに超えんとするヘパーイストスとその弟子のヴェルフの背中を、しばらく見守ったのだった。

 

 

「ユーミル、急で悪いけどオリハルコン製の大槌を八本お願いできる?」

 

「・・・・・理由はお前の後ろに浮いている、その奇妙な『手』か」

 

「うん、そう」

 

「・・・・・わかった。お前に相応しい装備を整えてやる。その代わりに教えてもらいたい。お前の身に着けているその鎧はなんだ」

 

「黒薔薇ノ鎧とユーミルが用意してもらった天地開闢・人災を融合した」

 

「・・・・・伝説の装備が融合? 錬金術による賜物か」

 

「そう」

 

「・・・・・古代の鍛冶師と俺の伝説の装備が一つにするとは恐れ多いことを。だが、同時に感謝する。神匠の技術だけでは不可能な装備同士の融合。強化とは異なる技法を俺も編み出してみたくなった」

 

 

ユーミルに製作をお願いしてもらった後、ドワルティアを後にして南へ向かった。

第7エリア、水路の町。まるでベネチアのような、ゴンドラで町中を行き来する水上都市である。

 

「水路か・・・水面下を覗けば当然の水没した建物の屋根に、次の建物が建てられることを繰り返しているか」

 

都市の端は海。きっと他のプレイヤーは海の方まで探索していなさそうだから未知の発見ができるかな? 掲示板では水系に関するクエストが主で【水泳】や【潜水】のスキルは必須で、そのスキルが付与された装備も購入・強化も出来るらしいが俺にとっては旨味の無いので何もしない。海の探検を集中的にする。

 

「おー? こんなところに意外な人がいるよん」

 

誰かに向けられた言葉のそれは、とても聞き慣れた少女の声であって、俺の後ろから前に来た黒髪のプレイヤーがにこりと口元を緩めた。

 

「ようやく、本当にようやくここまで上がって来たんだねぇハーデス君」

 

「ずっと後ろにいるわけにもいかないからな。このエリアの常連かな、イッチョウ?」

 

「知らないところはどこにもない、って言いきれないけど水上都市でスキルと装備が手に入る場所は把握してるほどにね」

 

「じゃあ、海はまだなんだな」

 

少女・・・イッチョウが俺を見る眼差しが奇異的になり、ほう? と漏らした。

 

「初めて来たばかりの町並みより海の方へ興味を示す理由は何なのか教えてもらっても?」

 

「深海があるなら、そこまで探しているプレイヤーは少ないだろうと思ってな」

 

「なるほど。地上より海中の方が見つかりにくい未発見な何かがあると踏んでるんだね?」

 

首肯するとイッチョウは意味深に微笑み、こう言い出した。

 

「じゃあ、ハーデス君の気が済むまでお付き合いをするよ。きっとその予想が当たりそうだし」

 

「んじゃ、海へ向かうとするか」

 

「泳いでいくんですか?」

 

その問いに対して俺の視線は水路で移動するゴンドラに向いた。漕ぐよりも引っ張ってもらった方が早そうだなぁー。うちの精霊とペンギンに協力してもらおうかな。

 

 

 

 

ゴンドラのレンタルはダメだった。町の水路からゴンドラで海に行くのは許してもらえず、専用の船でなくちゃダメだった。これは俺から目をそらすイッチョウも知らなかった事実だったので。

 

溺死もしない俺達は海底散歩をすることにした。ルフレとペルカも連れて水族館より水族館な海中に泳ぐ魚や綺麗な珊瑚礁を間近で見ながら移動する。

 

「フムー!」

 

「ペーン!」

 

楽しそうに空を飛ぶように泳ぐ水の精霊とペンギン。あまり遠くに行くなと釘を刺してるからか、見える範囲で自由気ままに遊泳する従魔達をよそに俺とイッチョウは雑談しつつ、モンスターを倒しながら何かを探す。

 

そうして数十分ぐらい海底を歩いていたら、透き通った青い水の世界に水に侵食され遺跡と言っていいほどに古びて、ボロボロになってしまった建造物群を見つけたのだった。

 

扉の有無関係なく中に入れることから手分けして探してみることにした。ところが、収穫はゼロという結果に肩を透かした。移動してさらに向こうの水底にある倒壊した建物の方へ向かう。残骸になってしまったかつての町並みの中を泳いで進んでいくと、ボロボロになった太い柱が積み重なった神殿跡が見えてくる。もう既に魚や貝などの住処になってしまっている場所だが、倒れた柱の隙間からは魔法陣の放つ光が漏れ出ているのが見えた。

 

「ボスがいそうな予感っ」

 

「久し振りだね。水中で一緒に戦うのは」

 

「他にもユニーク装備が手に入るダンジョンがあるかもしれないな」

 

「私がもらっても?」

 

「どうぞどうぞ。それじゃ行くか」

 

魔法陣に足を乗せた瞬間、いつもと同じように体が光に包まれていき、俺達はおそらく神殿内部へと転移した。

 

 

光が収まり、辺りの景色が見えるようになるとは俺がキョロキョロと周囲の状況を、ルフレとペルカも真似する風に確認する。

 

俺達がいるのは淡く青い石材を中心に作り上げられた広い空間だった。壁には様々な位置に別の部屋へと続く通路になっていると思われる穴が開いており、階段や水路が張り巡らされている。正解のルートを探すのも一苦労だろう。

 

さてどっちにいったものかと相談を始める。

 

「どうする? どっちに行くか」

 

「そうだねこの子達に任せてみる?」

 

ルフレとペルカに視線を向けるイッチョウの提案に頷き俺から訊いてみる。

 

「フム・・・?」

 

「ペン」

 

通路はあちこちに伸びており、行けるルートは多い。さらに俺達の場合はそれすら無視した空中移動も可能なため、選択肢は無限大である。

 

ただ、俺達は今回の所は空中移動はしないことにした。今回のダンジョンはぱっと見たときに順路が分かりにくく、変にショートカットをすると、解くべきギミックなどがあったときにスルーしやすくなるためだ。そうなると結局戻る必要が出てきてしまうので、最初から用意された通りに進もうというわけである。

 

そんな通路を目の前に方針を決定したルフレとペルカはまずは真っ直ぐ伸びる道を歩いていくことにしたようで、先に歩きだしていった。

 

二人が進もうとしていた通路の先、床に青い魔法陣が展開され、そこから水の柱が発生する。そうしてできた水の柱を掻き分けて、無機質な石材をベースにパーツを水で繋ぎ合わせたゴーレムが二体姿を現わす。

 

「神殿の衛兵ってところかな」

 

「おおー、守ってるんだね」

 

「じゃあやってみよう。【クイックチェンジ】」

 

イッチョウも覚えてたスキルを発動するといつもの見慣れた青い装備から灰色を基調とし、所々黄色いポリゴンが発生している見たことのない装備が切り替わる。

 

「お、新装備?」

 

「そうだよん。このエリアで見つけてね。スキルもなかなか面白いよ?」

 

「じゃあ、今回の戦闘で見させてくれ」

 

「いいよ? そっちも新しい装備みたいだし、どんなスキルが付与されてるか見させてね」

 

「ああ、これ。ユニーク装備同士を融合させたもんなんだよ」

 

は? と呆けるイッチョウを置き去りに俺は盾を構えつつ【身捧ぐ慈愛】を発動し、イッチョウを支援する体勢を整える。

 

「後で教えてね、装備の融合なんて気になる!」

 

「わかったが後ろから撃つのは任せろ!【全武装展開】!」

 

俺が前とは違う兵器を展開したのを確認してイッチョウは一気に前に飛び出す。それに反応してゴーレム達も距離を詰めてきたかと思うと、パーツが水で繋がれている特性を生かして、両腕を鞭のようにしならせて勢いよく伸ばしてきた。

 

「おっ伸びるんだ?」

 

「大丈夫!」

 

イッチョウを圧倒的に上回るリーチ、それも二体からの攻撃だが、イッチョウは足を止めずに真っ直ぐに向かっていく。一つ目の腕を身を屈めつつ短剣で弾くと、武器を槍へと変形させ、地面に突き立て支柱にして飛び上がり、素早く短剣に戻す事で二つ目を躱す。

 

「おおー」

 

俺が後ろで歓声を上げる中着地して、タイミングを遅らせて襲いかかってきたもう一体のゴーレムの腕を対処する。

 

「今の俺は絶対防御だぞ?」

 

受けたダメージの90%を反射ダメージにしてゴーレムのHPを削る。

 

「ペルカ! 脚を狙え!」

 

「ペン!」

 

一方イッチョウは武器を短剣をスキルで大剣に切り替え、そのまま振り下ろしてゴーレムの腕を叩き斬ると、次の腕を大盾にして受け流し、武器を元に戻して前にステップする。

 

「はぁっ!」

 

俺の援護射撃も貰いながら、腕の間をすり抜けて斬撃を叩き込む。

 

今まで短剣では受け止められなかった攻撃も巨大な大剣や大盾なら安全に対処できる。

 

イッチョウはそのままゴーレムの背後に抜けると体を回転させ、その勢いのままに大剣で横薙ぎの攻撃を叩き込み、バックステップで距離を開ける。

 

短剣と比べて遥かに長いリーチは今までにはできなかった二体同時攻撃を可能にしたのだ。

 

怯むゴーレム二体を俺とイッチョウで挟んだ結果、一体は俺の方に一体はイッチョウの方に向かって攻撃を始める。

 

ゴーレムの中心が青く光ったかと思うと、水がレーザーのように勢いよく放たれる。

 

「水攻撃は効かないぜ!」

 

敢えて胴体でそれを受け止めてもダメージはない。むしろお返しとばかりに放たれた反射ダメージと兵器のレーザーがゴーレムを焼き払っていく。逆サイドのイッチョウも俺の【身捧ぐ慈愛】に頼ることなく回避に成功し、一旦は開いた距離を再び詰めにかかる。

 

「ハーデス君! 左手展開お願い!」

 

「分かった!【展開・左手】!【手加減】!」

 

俺がスキルを発動したのを見て、イッチョウは水流を避けた勢いのまま、空中へと【跳躍】によって飛び上がりゴーレムの真上をとって左手を下へ向ける。

 

「【展開・左手】」

 

イッチョウがそう宣言すると首のチョーカーが光り、イッチョウの左手に俺のものと同じ巨大な黒い砲身が出現する。どういうこと!?

 

「【攻撃開始】【虚実反転】!」

 

イッチョウの発生に合わせてチャージされた真紅のレーザーは、当惑してる俺の気持ちを露知らず真下のゴーレム二体を飲み込み焼き尽くす。

 

それは、俺もよく知る威力でもって、俺が弾幕によって削った残りのHPを刈り取る。ただし―――。

 

「あれ、倒しきれてない?」

 

「悪いな。【超加速】! 【精気搾取】!」

 

ゴーレムの懐に飛び込み零距離で触れる手はゴーレムのHPをドレインすることで今度こそ跡形もなく吹き飛んだ通路にイッチョウが着地すると、役目を終えた左手の兵器は黄色いポリゴンになって消えていく。

 

そうしてスキルを取得出来た俺は彼女の元に駆け寄った。

 

「どういうことだ? 部分的とはいえ複製されるとは思わなかったぞ」

 

「でしょ。って言ってもしっかり戦ったのは今回が最初なんだけどね」

 

「どんどん武器が変わっていって、全部上手く使えてるし。どういうスキルなんだ?」

 

気になってしょうがない俺の気持ちを知っていても、イッチョウは「秘密でーす」とにこやかにスキルの内容を明らかにしてくれなかった。ぐおおっ・・・・・! 凄く気になるぅー!

 

「・・・・・まぁ、その新しい短剣のみで、自在に多種多様の武器へ姿を変えることができる、そういうスキルなんだろうな」

 

「あれま、もう把握されちゃった。でも、まだ100点じゃないよ。とにかく、対人戦があるまではこの武器の変形は隠しておこうと思ってる。突然リーチが伸びたらびっくりするでしょ?」

 

「うん、すると思う」

 

「それはそれとして練習もしておかないとね。大きい武器は大振りになって隙も大きくなりがちだから」

 

扱い自体は短剣なため、それらの弱点をカバーする武器ごとの専用スキルは取得できない。上手く使わなければ、デメリットをそのまま受けたうえで、短剣の手数の多さと小回りが利くことを生かしたスキル群が腐ってしまうことになるだろう。

 

「最後の【虚実反転】はクールタイムがかなり長いから次に試すにはまた時間がかかるけど、見た通り使ったスキルをその時だけ本物にする感じ」

 

「だけどよ、左手だけでよかったのか? 全部使っても大丈夫だぞ?」

 

「私は脆いから反撃を受けた時に身動きが取りにくい全武装展開は危ないかなって。体を捻って躱すとか難しくなるしね」

 

「そっか、それもそうだな」

 

棒立ちで弾幕を張ることができるのも俺の防御性能あってこそである。イッチョウの場合、反撃で魔法一つでもその身に届いた時点で死んでしまうのだ。

 

「じゃあ今度からは一部分だけっていうのも使っていこうかな」

 

「そうしてくれると使いやすいね。誰かが使ったスキルしか【ホログラム】で再現できないから」

 

「さりげなく教えてくれてありがとうな」

 

まだまだ神殿の中に入ったばかりなわけで、二人は奥を目指して再び歩き始めたのだった。

 

「今度は私も訊きたいけど、さっきゴーレムの攻撃を跳ね返したよね?」

 

「反射のスキルだ。受けた90%のダメージを反射で返す」

 

「うーわ・・・100だろうと90だろうとちょっとした誤差でしかないから、厄介すぎる上に誰もハーデス君を倒せないんじゃない?」

 

「できるスキルはあるだろ。俺の天敵は俺だからな。だから俺を越えるためのスキルを集めなきゃならん」

 

さっき得たスキルも面白い。スキル【連結】はスキルを連結することが出来る。

うーん、どっかで試してみたいもんだな!



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海底神殿2

水の流れる音を聞きながら、二人は神殿内部を進んでいく。戦闘は俺がルフレ諸共守りを固め、イッチョウとペルカが接近戦を行う布陣だ。ユニークシリーズによってステータスは上昇しているものの、手に入れたスキルの都合上、モンスター相手となると与えるダメージに大きな変化はない。

 

「すごいな、本当にいろんな武器を上手く使えるし」

 

「こればっかりは積み重ねかな……でも戦い方は人それぞれだと思うよ。得意なやり方があればそれでいいんじゃない?」

 

イッチョウは自分の得意分野が何か理解していることもあり、今のような戦闘スタイルになっただろうが、俺もそうであるとは言えないのだ。

 

幸いにもこのゲームはプレイヤーの技量でも、スキルの強さでも戦うことができる。それなら皆はそれぞれで戦うだけだ。

 

「ハーデス君は私より強力なスキルがあるし、一対多も得意だしね。持ち味を生かすってこと」

 

「それもそうだな」

 

「ハーデス君にしかできないことは多いよ。分かってると思うけど」

 

「ふふふ、自慢の防御力だからな!」

 

「うん。これからも磨いていってね」

 

俺の戦闘を支えているのはどこまでいっても防御力なのだ。攻防どちらも、たまにする爆破の反動を利用する都合上移動でさえその影響を受ける。普通のステータスを持つ者では真似できない戦闘スタイルであるのは間違いない。

 

「もしかしてだけど、他にも新しいスキルがあったり?」

 

「配信動画で見せたもの以外なら、あるかもな」

 

話しながら、ダンジョンを進んでいく。イッチョウが俺の隣にいれば突然の死は避けられるためダンジョン内でも気を張らなくていい。

 

そうして二人が現れるゴーレムを斬り捨てて進むうち、太い水流が横切って邪魔をして通路が塞がれている場所へとやってくる。水流にはかなりの厚みがあり、足を踏み入れて流されてしまうとはるか下まで真っ逆さまである。

 

「落ちてみない?」

 

「いきなりそんな発想を提案されるとは思わなかったよ。取り敢えずそれは無しで。向こうに通路の続きが見えるし、こういう時は不思議と怪しいギミックがあるかもしれないから探そうよ」

 

近くに何かないものかと見渡す俺は、壁に三つの出っ張りがあることに気が付いて、それに軽く触れてみる。

 

「押せそうだぞ」

 

「おー、言ってみるものだね。で・・・・・どれにする?」

 

どの突起も触れると押し込める感覚が伝わってくる。とはいえ、これ全てを押せばいいかと言われればそれはまた違ってくるだろう。

 

「どこかにヒントとかあったっけ? モンスターしかなかったぞ」

 

「今の所それらしいのはないかな・・・・・? これだけ広いし、通路のうちの一つを選んで歩いてきてるから、探したら別の通路の先にあるかもしれないね」

 

「確かにありそう」

 

「見に行ってみる?」

 

「そうしよう」

 

「おっけー、じゃあちょっと引き返そうか」

 

「端まで見て回ったら宝箱とかあるかも」

 

「そうだね。私もそれは調べてないし・・・・・あったら嬉しいね」

 

地道な探索も時には必要なことだと、俺達は来た道を引き返す。

先にあるのがアイテムなら進行の都合上は行かなくてもいいのだが、探索漏れがあるというのは気になるものだ。

 

「思えばハーデス君って屋内でするゲームとかしたことあったっけ?」

 

「実を言うと、何度かゲーム大会に参加して優勝したことがございます」

 

「いつの間に!?」

 

「住んでる国が国だから色んな実績が得る必要があるからな。因みにイッチョウが一緒にいた白いリボンで髪を結んだ少女とは顔見知りでもある」

 

何時かこのゲームでも会えそうな? そんな予感はしてたから本当に出会えたときは懐かしさが覚えたぜ。

 

「驚きの真実! でも、あの子はハーデス君に対して反応が薄かったのは?」

 

「顔隠し、ノーフェイスって名前で参加して変装もしてたから気付くはずもない。なお、変装時は死神ハーデスの格好です」

 

「ああ・・・・・気付かないねそれじゃ」

 

適当に話しながらルフレとペルカにも、探してもらいつつ歩いていると俺とイッチョウの前に壁画らしきものが見えてくる。それに近づいていくと、先ほどの水流と思われる絵と道中に見たゴーレム達が描かれていることが分かる。

 

「これかな?」

 

「多分。ほら、ボタンっぽいところが赤色で強調されてる」

 

壁画は描かれている場面が分けられており、適切な順番で突起を押した後に水が止まっている場面で締めくくられている。

 

「じゃあこの順番で押せばいいのかな?」

 

「恐らく。それでいってみよう。ただ、押した突起がもとに戻らないことを祈っとけ」

 

「その心は」

 

「押し続けないと水流が止まらない可能性があるからだ」

 

「・・・・・一時的なものだったら、すぐに戻らないと行けないね」

 

新たな情報を手に入れた二人はもう一度元の場所まで戻ってくると、見た通りに突起を押し込んでいく。すると、大きな音がして目の前を流れる水が止まり、奥へと進めるようになる。あるのは今まで水が噴き出していた大きな壁の穴だけである。

 

「おおーちゃんと止まったか」

 

「うん、当たりだったみたいだね」

 

「この穴の向こうも何かあるのなら気になる」

 

「うーん・・・・・入れる?」

 

イッチョウが尋ねると、俺は穴の方に足を踏み入れる。

 

「入れそうだ」

 

「なるほど? じゃあ、行ってみるのもありだね」

 

「そうだが、まずは様子見しないか?」

 

確かに、とイッチョウは俺の提案に乗って穴の中に入らず、座って待った。そうしてしばらく経ったところで、地響きのような音が聞こえてくる。

 

そしてその直後、凄まじい勢いの水が全てを吹き飛ばさんと穴から飛び出して水路はもとに戻った。

 

「・・・・・あの穴の中で鉄砲水に巻き込まれた想像しちゃたったよん」

 

「やっぱり落ちないか? 滝壺があるなら他の場所に行けるだろ」

 

「今の見て落ちてみたいハーデス君の精神がわからないよ! って、ひゃっ!?」

 

装備をインベントリに仕舞ってから、イッチョウをお姫様抱っこして水流に近づく。

 

「ルフレ、ペルカ。飛び込むぞ。いいな?」

 

「ペペン!」

 

「フム!」

 

ビシッと敬礼する一人と一匹に信じられないと反応をするイッチョウが一人。

 

「ちょっ! 何でこの子達も落ちる気まんまんなのかな! ハーデス君に似ちゃってるの!?」

 

「お前、それ言ったら産まれた俺の子供も俺に似るってことだぞ」

 

目を見開かせて俺を見上げるイッチョウと一緒に水流に落ちては、流れに逆らわず皆で滝壺へと流され落ちていくのだった。

 

激しい音を立てる滝壺の中で俺達は揃って無事だった。

 

「はっはー! いやー、リアルじゃ簡単にできないことができるゲームはやっぱり楽しいな!」

 

「死ねなくても絶対にしたくないよ! ハーデス君と冒険したら命がいくつあっても足りないって今悟った!」

 

「こうして無事だからいいじゃんか。できないことをして楽しむのが人生さ」

 

元に戻るのも今回はショートカットしてしまってもいいだろう。一度順当にそこまで攻略しているのだから、この先の楽しみを失うことではない。

 

さて再出発だとしたところで、ルフレが俺に触れながら水底へ指を差した。何か見つけたのだろうか、と視線を変えて見下ろすと何かが光っている。イッチョウにも教え俺達は更に下へ潜水するのだった。

滝壺は縦に深くなっており、水面から見ていた時には気づけないものの、水の中へ潜ってみると確かに何かが光っていることが分かる。

 

「まっすぐ沈むぞ」

 

「うん」

 

俺が変わらず【身捧ぐ慈愛】を発動させており、安全確保は問題ない。滝壺の底へと泳いでいく。特にモンスターがいるでもなく、無事に深くまで潜った二人が見つけたのは四方向に続く巨大な穴と、二人の身長と同じくらいのサイズの淡く光る真珠色の大きな鱗だった。

 

「光ってたのこれか?」

 

「位置的に多分そう。それっぽいことはきいてないし、ここはまだ見つかってなかったかも」

 

「ふふん。やっぱり落ちて正解だったな」

 

水中神殿の中盤の滝の底。穴の中に入って鉄砲水に跳ね飛ばされてなお生きているというのは基本ないパターンじゃないだろうか。安全にここに辿り着くにはギミックを解除して目の前に通路が開けたタイミングでわざわざ滝壺に飛び込むことだったのかも。ここに来ることができているプレイヤーが多いわけでもないため、まだ見つかっていない場所がある可能性は否定できない。

 

「こっちは普通のルートじゃないんだな?」

 

「そのはず。水中神殿だけどダンジョンなのはもう間違いないしね」

 

「奥見にいこう」

 

「うん、この先どうなってるか分からないし」

 

周りを取り囲む大きな穴にこれといって違いはないため、とりあえず一つを選んで先へ進んでいく。

 

「さっきの鱗大きかったね」

 

「この先に相当大きい何かがいるかもな。裏ボスか・・・・・うろついててもおかしくない」

 

入り口に鱗が落ちていたのだから、巨大魚のようなモンスターがいても不思議ではない。

 

「ペルカ、先行して警戒してくれ。ルフレは後方で頼む」

 

「私も慎重に、周りは警戒しておくから」

 

イッチョウが僅かに先行して何かが泳いでいたりしないかを確認し、俺は【身捧ぐ慈愛】だけ展開して、自分にできる限りの警戒をする。そうしてしばらく進んでいくとまさに水中神殿といったようなものがあったのか、既に砕かれて瓦礫となってしまった建物の残骸が転がっているのが目に入る。

 

「こっちが本当の水中神殿なのかも」

 

「ちゃんと水の中だもんね」

 

「って言っても壊された後みたいだけど」

 

建物は水の浸食などにより自然に風化し壊れていったというよりは、大きな何かが無理矢理通路を通ったことで抉るように破壊されたという方が正しい壊れ方をしていた。

 

「周りの壁も硬そうだし、すごい力なのかな?」

 

「明らかに人力ではないことは明らかだ」

 

未だ姿が見えない何者かは、入り組んだ水中神殿の中をめちゃくちゃに泳ぎ回っていたようで、残骸が転がる見た目の変わらない通路が右へ左へひたすら続いている。

 

「ふむ、どっちに行くのが正解なんだろう」

 

「かなり広いし目印になるものがあると思うんだけど・・・・・予想通り!」

 

少し先行していた俺は泳ぐのを止めてイッチョウを呼ぶ。そうして指差した先には入り口にあったものと同じ淡く光る白い鱗があった。

 

「おおーじゃあ合ってそうだね」

 

「ここは通ってるってことだ。どんどん探そう」

 

「うん。モンスターも出てこないみたいだし」

 

イッチョウの言うように、先程までのようなゴーレムはもちろんのこと、魚系のモンスターも全く見かけない。光る鱗が分かりやすいようにか、薄暗くなった水中に瓦礫だけが転がっており、動くものが何もいない様は少し不気味ですらある。

 

「探索に集中できるならそれに越したことはないけど・・・・・特にこれといって何もないからなあ」

 

特殊なものは鱗だけである。それも二人の背丈ほどあってこの薄暗い中光っているとなれば見逃すはずもない。

 

「イッチョウ底の方に何かあった?」

 

「全然ないよ。素通りしていい感じだね」

 

「とりあえず進むしかないか・・・・・何かあったら分かりやすく通路の雰囲気とか変わるだろうし。【海王】のスキルがなかったら酸素を気にしなくちゃならない広さだしさ」

 

「だね」

 

この後に水上に出られる場所が用意されているかは分からない。そして、道中に妨害要素がないのであれば、最奥に待ち受けるものがその分強力になっていても不思議ではない。

 

「細かいところは私がチェックするよ。結構進んだし違和感とか気づけると思う」

 

「任せた」

 

ここへ入ってきた時のように思わぬ場所に隠し入り口があるかもしれない。

俺達はそういったものに注意しながら、最奥にいるだろう何かの元へ向かっていく。

 



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海底神殿3

特段規則性があるでもなく、突然壁や地面に刺さる形で残された鱗を追って進んでいるうち、薄暗かった水中はさらに少しずつ暗くなり、見通しが悪くなる。

少し前からイッチョウはヘッドライトをつけて、言った通り細かな探索はイッチョウ中心になっていた。

 

「あ、また鱗あった」

 

「暗くなってもあれは見やすいからいいね。何も見えないってほどじゃないんだけど、何かあるかもっていつもより気を使うし」

 

イッチョウが少し先行したのにすっと追いつき、いつも通り鱗に何か特別なヒントがあったりしないか確かめていると、突然ズズっと地面に何かを引きずったような揺れを感じた。

 

「・・・・・ちょっと揺れた?」

 

「うん。気のせいじゃない」

 

下で何かが動いた気配。目的地はそう遠くはないようだった。

 

「周りも見にくくなってるし気をつけて。まずそうなら【身捧ぐ慈愛】は解除しても大丈夫」

 

「分かった。何かあったらいつでも声かけて」

 

「もちろん。頼らせてもらうよ。ペルカとルフレもな」

 

敵の気配に警戒を強めて更に進んでいく俺達は、周りが見にくいながらも、トンネルのようになっていた通路が終わり、広い空間に出たことを理解する。

 

「おー、暗い」

 

「・・・・・でも、何かいるね」

 

イッチョウが見ているのに合わせて、俺も下を向く。それに呼応してか、暗い暗い水の底で大きな黒い影が地響きと共に動いたのが俺にも分かった。

 

さあどうくるかと構える二人の前で水の底がぽつぽつと淡く光り始め、光は次第に影だった物を浮かび上がらせていく。

 

光り始めたのは道中にあったものと同じ鱗。と言っても抜け落ちた物などではなく、光の塊は水底からゆっくりと動き出す。

 

全身が淡く光る鱗に覆われたそれは魚と龍の混ざったような、数十メートルはあろうかという巨体だった。腕や足は小さく退化しヒレに近くなっており、触手や髭に見えるものが何本も伸びてうねっている。光る体が暗がりを照らす中、水底の砂を巻き上げながらそれは体を持ち上げた。

 

「おっきい!」

 

「何してくるか分からない、気をつけろ」

 

二人が戦闘態勢を取ったその時、水流と共にボスは一気に上昇する。その巨体に似つかない速度を見て、イッチョウは水を蹴り一気に加速する。

 

「【超加速】!」

 

「ついてこい!」

 

加速したイッチョウについていくことで直撃こそ免れるものの、ボスが移動することで引き起こした流れは俺達をそのまま押し流す。ボスと俺達の位置が反転する中、大きな尾ヒレが動いて、俺達の方に向き直るのが見えた。

 

「思ったより速い!」

 

「古代魚のように簡単には倒せないか。ここは水中で底がある・・・・・よし」

 

イッチョウに提案があると話す。信じる彼女は頷いてくれて、もしも突進が貫通攻撃だった場合は二人の役割が逆になる。再度突進してくるのを確認して、イッチョウは俺から離れて巻き込まれないようにして、確実に死角へ入り込みにいく。

 

「ルフレとペルカ。少しだけあいつの気を俺達から逸らしてくれ」

 

「フム!」

 

「ペペン!」

 

高速移動する2人は途中で枝分かれしてボスのすぐ横で弧を描き、非力で倒せずとも叩いたり嘴で突いては、追いかけられても互いがフォローし合って俺達の時間を稼いでくれる。

 

「【血纏い】! 」

 

短刀から大鎌に変えた俺は、HPを任意の数値まで減らし【STR】を高めた後、ボスへ真っ直ぐに突進していく。ルフレとペルカを追いかけるボスの横っ腹に【狂魂】を発生させた証としてか、禍々しいエフェクトを纏う大鎌から放たれた【無双乱舞】の効果と一緒に、複数に飛ぶ斬撃として【狂魂】が直撃する。

 

不自然に動きを停止したボスを一目見て再度動く。

 

「【クイックチェンジ】! 【反骨精神】!」

 

もう一度短刀に、今度は生命の指輪を日輪の指輪も変更してボスが何らかの行動の強制停止になっているのが成功しと把握し、【VIT】の数値を全て【STR】に変更。

 

「【展開・左手】! イッチョウ!」

 

「うん! 【虚実反転】! 【クイックチェンジ】! 【砲身展開】!」

 

イッチョウの背中に黄色のポリゴンが収束し、いくつもの砲身が出現すると、俺のそれと同じように火を噴いた。近距離から放たれた攻撃はボスを貫いて逆側に貫通し、ダメージエフェクトに混ざりつつ背中の武装と共に黄色い光に変わって消えていく。俺はようやく動けるようになったところ零距離で砲口をボスに密着させてレーザーを放つ。

 

「どうだ!」

 

赤い光がボスを貫くと、最後に一際強くボスの体が輝いて辺りを照らし、そのまま倒れる際の光が溢れその巨体は爆散するのだった。

 

「お疲れ。凄い、あっという間に倒しちゃったのはどうして? 防御力極振りなのに【STR】なんて1すら振ってないんじゃ?」

 

ルフレとペルカを抱きしめて褒めているところに訊かれるイッチョウの疑問に答える。

 

「【VIT】を【STR】に変換するスキルのおかげで物理的攻撃が可能になったんだわ」

 

「・・・・・防御力極振りが攻撃力極振りにもなれるってこと? うーわ、手の付けられない。数万の攻撃力のダメージが与えられるなんて」

 

【不屈の守護者】みたいな即死攻撃を無効化されちゃ、こっちもヤバいんだがな。ま、それは俺が持っていなければの話だがな。それと数万じゃなくて十万以上なんだよなぁ・・・・・。

 

「で、何かあるかな?鱗はすごい光ってるけど・・・・・」

 

ボスの死に際の光を受けて、残された鱗は綺麗に白く輝いており、薄暗かった水中もかなり見通しが良くなっていた。辺りをキョロキョロと見渡し持ち帰れそうな物を探すと、少し違った形で積み重なった白い鱗を見つける。

 

「これは持って帰れそうじゃないか?」

 

「本当だ。すごっいおっきいね」

 

「ボスがあのサイズだったからな。イズ達の手土産にしよう」

 

俺は落ちている鱗をインベントリにしまっていく。そうして光る鱗をどかしていくと、その下で何か別の物が光っていることに気がついた。

 

「何かある?」

 

「みたいだね。全部どかして確かめてみよう」

 

全ての鱗をインベントリにしまうと光っていた物の正体が明らかになる。

 

それは光の塊だった。特に実体があるわけでもなく触れると手はすり抜けていってしまうが、どうやらアイテムらしく、インベントリにしまうことはできるようだった。

 

「何だろうこれ?」

 

「レアアイテムかな?一つしかないみたいだし・・・・・」

 

「そうかも。じゃあイッチョウ」

 

「え、私? 私はいいよ、ハーデス君がもらって?」

 

「俺ばっかりもらってたら悪いって。鱗も貰っちゃったし」

 

これも俺のものとなると、イッチョウがこの戦闘で手に入れたのは少しばかりの経験値のみとなる。それでは釣り合っていないのではないかという訳だ。

 

「本当に私は何も貰わなくてもいいんだけどね。んー、じゃあさどんなアイテムなのかまず確認してみようよ。万一装備品とかなら考えるかも」

 

「分かった。じゃあ確認してみる」

 

光の塊をインベントリへと仕舞い込むと、それが一体何なのかを確認する。

 

「えっと・・・・・『天よりの光』だって。こんなに水の中なのに変な感じ」

 

「なるほどね? 説明分には何かある?」

 

「・・・・・以前の空の光とかなんとか。見てみる?」

 

「うん」

 

イッチョウもそれを見てみると、フレーバーテキストに位置するものが少し書かれているものの、装備品であったり、直接クエストに繋がったりはしないようである。

 

「ん-、やっぱりハーデス君が貰って。私はハーデス君に同行してここまで来た感じだからさ」

 

「そうか・・・じゃあ、代わりにこれをやるよ」

 

「ブーツ? 【死者の足】・・・・・【黄泉への一歩】。スキル使用時、各ステータスを5減少させ空中に足場を作る。20分後減少解除。足場は十秒後消滅する。ほう? もしかして幽霊が出て来るエリアで手に入れて来た?」

 

「もしかして持ってる口か?」

 

「ううん。何だか情報とは違うけれど、欲しいなーって思ってた装備が、ハーデス君が持っていただなんてね。ありがとう、これだったら喜んでもらうね」

 

喜々としてイッチョウは俺からブーツを受け取って装備した。

 

「因みに他にも何か手に入れた?」

 

これだな。装着すると俺の背中側から透き通った手が六本すうっと現れ、俺の斜め前の空中で静止する。

 

「手が増えた!? しかも六つも!?」

 

「装飾スロットを一つ使う【救いの手】という装飾品。右手、もしくは左手の装備枠を合わせて二つ増やすことができるんだ。今全部のスロットを使ってるから御覧の通り六つの手が浮いて六つの装備が持てる」

 

「こ、こんな装飾品があるんだねぇ・・・・・でも、装備のステータスとスキルって反映される?」

 

「するぞ」

 

「・・・・・ちょっと、私も欲しくなったから教えてくれるかな?」

 

首肯する俺は少女を闇へ案内するべく水中神殿を後にした。

 

 



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天の光

再び水中都市。

 

 

用途が判らないアイテムを調べるためルフレとペルカと一緒に海中探索を始めた現在、俺の視界に移り込むものを紹介しよう。目の前に広がるのは相変わらずどこまでも続く水と、眼下に連なる高い山脈。そして、その周りをまるで嵐のように取り囲む荒れた水流だった。

 

水の流れはエフェクト付きで分かりやすくなっているが、それは間をすり抜けるためなどでは決してなく、むしろ近づき滅茶苦茶に流されて死んでしまわないように付けられた目印かもしれない。

 

―――だって、ルフレとペルカとその水流に巻き込まれて実体験をした上での感想だもの。

 

そんな水流に乗って流される体感を楽しんだ途中で、【皇蛇】のスキルで海を操作して水流から抜け水底まで沈むと、そのまま山脈の麓の方まで進んでいく。元は地上だった位の高度にはあの強烈な水流は存在しないようで、問題なく近づくことができていた。

 

目の前には山の中へと続いていく洞窟があった。外から見える限りは完全に水没してしまっている。

 

「気を引き締めて行こうか」

 

「フム!」

 

「ペペン!」

 

こうして俺達は足並みを揃えて水中洞窟へ入っていく。中は明るさが調整されており、特段暗いということもなく、視界に問題はない。

 

ダンジョンやモンスターの様子がまだ分からないため、一旦【身捧ぐ慈愛】も使わないで奥へと向かっていく。

 

「フムー?」

 

「何かいる?」

 

「ペン」

 

「んー・・・いるな。ちょっと見にくいけど」

 

ふわふわと漂うように水中を移動しているのは、三体の全身が水でできたスライムのようなモンスターだった。輪郭がわかるように周りの水より濃い色をしていなければ、見つけることも難しかっただろう。アメーバの間違いでは?

 

「先手必勝。ペルカ、攻撃だ」

 

「ペン!」

 

高速遊泳するペルカが嘴撃で一気に攻撃する。

 

それは雑魚モンスター程度なら基本容易く吹き飛ばせる一撃だったが、今回はそうはいかなかった。

ペルカが迫ってきたことによって戦闘状態に入ったスライムは、その体を薄く広げていきペルカの嘴を受け止める。スライムの体を貫くことなく勢いのまま引き伸ばすと、限界になったところで元に戻って跳ね返ってきた。

 

「ペーンッ!?」

 

よもや、跳ね返されるとは思いもしなかったペルカが驚愕の悲鳴を上げてこっちに戻ってきた。攻撃を受けたことで戦闘態勢に入った模様のスライム等が、三体で力を合わせるようにして青い魔法陣を形成し、そこから大きな水の塊を放ってくる。

 

「【カバームーブ】!」

 

素早く跳ね返されたペルカの傍に移動。前に出てそれを受け止めると、水の塊は直撃と同時に弾けて衝撃を発生させる。ペルカはルフレの身体に受け止められて落ち着いたようだった。

 

「物理を無効化するモンスターだったか。なら、今度は氷結纏いで攻撃してくれ。ルフレは他のスライムから一体遠ざけてくれ」

 

「ペンッ!」

 

「フム!」

 

嘴に氷結を纏うペルカの攻撃。今度は跳ね返されずスライムの身体に直撃した上に一部氷結状態になった。ルフレはスライムに近づき、むんずと両手で鷲掴みに捕まえて思いっきり洞窟の奥へと投げ放った。残りの一体のスライムも俺が捕まえたまま【精気搾取】でHPドレインをして倒した。

 

あれからペルカも単独でスライムを倒し、ルフレが投げ放ったスライムも軽々と撃破。

 

「しっかし、水の中にもスライムっているのか。なんだか溶けちゃいそうなのにな」

 

地上で跳ね回っている姿はよく見るものの、水中での活動には向いてなさそうなボディであるスライムだ。クラゲみたいに移動できるように見えないし、今回は水の流れに乗って漂っていたところに出くわしたのか?

 

「んよし、この調子でどんどん探索して行こう。水の中はお前達だけが頼りだからな。不思議なもの、怪しいもの、気になるものを見つけて欲しい」

 

「フム!」

 

「ペン!」

 

さらに奥へしばらく進んでいると、スライムの他にも様々なモンスターが出てきた。ただ、それは鳥だったり獣だったり、水中より地上にいる方がらしいものばかりである。水中にいられるようにするためか、先程のスライムのような青いゲル状の体をしているのが特徴的だった。

 

ただ、水中で活動し、水の魔法を使って攻撃してくるが、魚系のモンスターのように素早く泳いで距離を詰めてきたりはしない。どのモンスターにも地上に適した能力のまま水中にいるようなちぐはぐさが見てとれた。それもあって、特に苦戦することなく進むことができていた。放ってくる水魔法は範囲も広く強力だが俺がいれば一切無意味であり、総じて脆いモンスターはペルカでも十分撃破可能な範囲である。

 

「お、レベル上がったなペルカとルフレ」

 

さすがに上がるか、他人事のように思いながら水中の通路をしばらく進んでいった俺達はいくつかの道に分岐していく広い空間を視界に捉える。慎重に一歩踏み入るものの、特に中ボスのようなものが出てくる様子もなく、分かりやすい分岐点というだけらしかった。まだ先は長そうだと、思った矢先に胸辺りが温かくなった気がした。

 

「・・・・・?」

 

気のせいか? 温かくなった感覚はもうなく、不思議な体感に首を傾げるも気にしては前に進めないと思い二人に尋ねた。

 

「どっちに行ってみたいか選んでくれるか?」

 

ルフレとペルカに選んでもらった道から行ってみようと考えた。直感、本能に従ってかどうかわからないが二人が選んだ道に、最初はペルカが選んだ道から進んでみたが、行き止まりだった。今度はルフレが選んだ一本の通路の前で立ち止まった―――また一瞬温かくなって首を傾げる。

 

「また? ・・・もしかして?」

 

隣へ移動するとまた同じ通路の前に戻ってきて意識を集中させる。すると三度目になってようやく確信した。胸が温かくなる方向に進めばいいのだと。

 

俺にだけ変化があるということは、その先には他にはない何かがあると察せられる。ここからは一度通路の前に立ってみて確認してから進む必要があるようだ。

 

「・・・アイテムか?」

 

インベントリから試しに一つずつ取り出して確認すると、同じエリアで手に入れた『天の光』が手の中で温かくなる変化を感じ取れた。これを元に通路を進むしばらく行くと、次の別れ道に続く広い空間に出る。また光の球で探ろうとしたところで、バチバチと光とも電撃とも取れる何かが中央で弾ける。

 

「構えろ。何か出て来る」

 

「フム!」

 

「ペン!」

 

ファイティングポーズの構えをするルフレとペルカの横で光の塊を仕舞い盾と兵器を構えるなか、激しい音と光は収まり、そこには沈むことなく静止している立方体があった。

 

石を組み合わせて作られているように見えるそれを観察していると、亀裂が走り幾つかのパーツに分裂し、内部には青い核のような輝きが見えた。

 

それと同時に上にHPバーが表示され、戦闘態勢をとったのかクルクルと回転し始める。

 

「材質的に、あの時のゴーレムにちょっと似てるな」

 

同じ石材というだけでなく、作りや色合いも似ていることには、あの水中神殿とこの場所の関わりを感じさせる。であれば、二人の目的地はこの先にある可能性は高くなる。

 

守っているだけあってただでは通さないと、同じように光が弾け先へと進む通路が石の壁で封鎖され、それに合わせるように立方体の周りに魔法陣が展開される。出方を見ていると、魔法陣の光に合わせて体がゆっくりと左へ流されていく。

 

「攻撃じゃない? あ、でも」

 

「フ、フムー!」

 

「ペーン!」

 

水の塊をぶつけられた訳ではなく、もっと大規模な変化がこの部屋全体に起こっていた。魔法陣の効果により、ボスの回転に合わせて水流が発生しており、問答無用で一定方向へと押し流され続けるのだ。

 

「【身捧ぐ慈愛】! ペルカ、この流れに逆らわずに乗るぞ。ルフレは俺の身体にしがみ付け」

 

「フム!」

 

俺達はペルカの身体にしがみ付く形で流れに逆らわずに加速すると円を描くように高速で距離を詰める。ボスもそれに反応して魔法陣から水の槍を生成するものの、ペルカの接近には間に合わない。

 

「【氷結纏い】! 【嘴撃】!」

 

「ペン!」

 

氷結を纏う嘴でボスに深い傷をつけるとそのまま水の流れと共に離れていく。

 

「よーしよし。この調子でガンガン行くぞ。ルフレも俺達の泳ぐ速度に合わせてコントロールしてくれ。今のお前が俺達の翼だ」

 

「フム!」

 

「ここで初披露の【勇者】スキル発動! 【従魔よ永遠に在れ】!」

 

テイマーの勇者奥義のスキル。従魔のステータスを何倍にも底上げして強化する効果だ。それでもプレイヤーには劣るが、何倍も強化された従魔は確かに強くなったのは間違いない。二人の身体が柔らかく神々しい光に包まれた。

 

「フムーッ!!」

 

「ペーンッ!!」

 

力が漲る―!! と言った感じなルフレとペルカの速さと力が、奥義を発動する前と比べて段違いだった。ジェットコースターの比じゃないスピードで水流に乗りながら駆け回り、【炎纏い】+【嘴撃】で攻撃に仕掛けるペルカと俺達を狙って放たれた何本もの水の槍が水流に乗って迫ってきた。

 

「フム!」

 

翼の役割となっているルフレが、横へ移動する風に水の槍から躱してペルカを補佐する。そのままペルカの一撃が直撃に成功した。

 

「おお~。威力も上がってる。流石だぞペルカ」

 

「ペンッ!」

 

「ルフレもこのまま頼むぞ」

 

「フム!」

 

でも・・・何だか翼の生えたペンギンになった気分だな。

 

それからもペルカを主軸にした攻撃により、立方体が跡形もなく消し飛んで消滅したのと同時に部屋全体の水流も停止し、元通りの穏やかな水中が戻ってくる。

 

戦闘終了後、反応がある方へと進路をとりつつ水中を泳いでいくと、モンスターが明らかに変化したのが見てとれる。今までは水でできたモンスターばかりだったのが、今度は無機質な石材や金属でできたゴーレム系統がほとんどになったのである。

 

それらは水中でも機敏に動き的確に攻撃してくるうえ、魔法も物理攻撃もこなす器用なモンスターだったが、攻撃を跳ね返してくる能力がなくなってしまったため、俺にとっては倒しやすくなっただけだった。

 

「【攻撃開始】!」

 

今もまた惜しみなく展開された兵器によって生み出された弾幕が近づいてくるゴーレムを一体光に変えていった。

 

与えられるダメージは変わらないため、階層が増えモンスターが強くなる度物足りなくなっていくことは確定しているものの、それでも正面からまともに弾幕に突っ込んで生き残れる者はまだまだ少ないのが現状だ。

 

モンスターは弱いというほどではないが、俺の脅威となるようなものでもなく、特に策を練らずとも正面から突破することができていた。

 

俺達は山々の内部を上へ上へと進んでいく。外に出ないため正確な位置は掴めないものの、緩やかに登っていることだけは確かである。

 

こうして、俺達は目の前に現れるモンスターを一体残らず撃破し、連なる山々の内の一つの頂上へと辿り着くと辺りを見渡す。

 

遠くから見た時はエフェクト付きの水流が邪魔でよく見えなかった山頂は、特に何かがある様子ではないものの、上から衝撃がかかったように平らで広くなっていた。

 

「うーん、あんまり山頂って感じじゃないけど・・・・・ここから直接別の場所へ移動していくのは無理だし、反応はど・・・・・う?」

 

『天の光』を取り出す前に俺の胸の辺りが発光しており、ルフレとペルカが慌てて無事かどうかを確認してくる。

 

「大丈夫だ。急に光りだしたけどな」

 

「フム?」

 

「ペン?」

 

「すごい反応してるってことだ。何かあるかもしれないし、手を繋いで歩き回ってみてみよう」

 

俺は見逃しがないように端から歩いて広い山頂を調べ始める。ルフレとペルカは俺の手と繋いでついていきつつ、何かあった際の緊急避難に備えていた。特に敵影もなく、問題ないだろうと予測していた矢先―――動かしていた足を一歩踏み出すと、見えない壁をすり抜けたように膝から先が見えなくなる。しかし、ダメージなどはなく見えないものの足の感覚もあり向こうで地面を踏みしめているのが伝わってくる。

 

不思議な現象だがそのまま前に歩いていき見えない壁をすり抜けると、そこでは眩しい光が降り注いでおり、水中との差に反射的に目を閉じるが、光に目を慣らすようにゆっくりと開いていく。

 

「これは・・・・・」

 

「フムー・・・」

 

「ペペン・・・」

 

目の前に広がっていたのは八層ではどこにもみられなかったような地上の景色だった。地面は草花に覆われ、動物が駆け回っている様子が見られ、鳥の囀りも聞こえてくる。そして何より違うのはこの場所は水に沈んでおらず、見上げればそこには遮るもののない空が見えた。

 

「完全に隔離された空間なのか? 転移したわけではないみたいだけど。俺達の後ろ辺りから外に繋がってるみたいだな」

 

動物達も敵対的ではないようで、俺達に気付いてこそいるものの攻撃してくる様子はない。あまりにも不思議な場所なので記念にスクショを撮り始める。

 

「で、それはそれとして・・・・・明らかに怪しいものがあるな」

 

他の層と変わらない地上の景色とそこに住む生き物達以外に、ここには見逃しようもないものが一つ配置されていた。

 

それはボロボロになってしまっているものの、確かにそれと分かる形を残す木製の大きな船だった。側面に大きな亀裂が入り、植物に侵食されてしまいすっかり動物の住処となっているが、飛び上がるなり亀裂に入るなりすれば内部も探索できそうである。

 

「また光が強くなった? ちょっと眩しい・・・・・」

 

「フムー」

 

「ペーン」

 

二人も眩しそうに手で目を隠す仕草をするぐらいだ。変化が起こっていることから何かに近づいており、明らかに雰囲気の違うこの場所からその何かまではもうそう遠くないことが予想できる。

 

「よし、あの船に行ってみよう」

 

「フム!」

 

ここまで来て探索を躊躇う理由はない。

モンスターがいないなら、急いで登らなくとも問題ないのだ。船に乗り込むためルフレとペルカを身体にしがみ付かせ【飛翔】で浮かび、そうして上昇していくと甲板部分が見えてくるが、そこにもモンスター等がいる気配はなく草花の絨毯の上で動物達が眠っているだけである。

 

甲板の高さまでゆっくりと高度を下げて、船へと移るとルフレとペルカを降ろした後、内部へ続く階段を下りて様子を窺う。ただ、外まで広がっていただけあって船の内部も植物で溢れており、本来あっただろう家具などは最早見る影もない。

 

「中もモンスターはいないみたいだけど・・・一応警戒はしておくように」

 

大きな船ではあるものの、探索できる場所は限られており、俺が反応の変化に合わせて移動していけば大きく迷うこともない。そうして、目的の場所は程なく見つかった。俺の胸元の光に呼応するように淡く光を放つのは、船の中心部にあったため未だ壊れずに残っていた壁のレリーフだった。

 

「ボス・・・・・って感じではないみたい。近づくぞ」

 

レリーフに近づいていき、それに手を触れた瞬間、俺の体から発せられていた光は一気に強くなって船室内を照らし出す。

 

それに合わせて地響きがして、今乗っているこの船が大きく揺れる。

 

どうやらそれは山が揺れているのではなく、船自体が未知の動力で動こうとしているためらしかった。

 

「フムっ!?」

 

「ペペン!?」

 

互いの姿も見えない程の光の中それぞれが体勢を整えて揺れに対処するものの、しばらくして光は収まっていきやがて船の揺れも完全に収束した。

 

『スキル【救済の残光】を取得しました』

 

そんなアナウンスが聞こえて来たのでアイテムを確認すると『天の光』が無くなっていた。

 

「『天よりの光』がなくなってて、代わりにスキルが・・・・・うん、一つ増えてるな」

 

それから効果を読んだ上で発動を試みる。

 

「【救済の残光】!」

 

スキルの宣言と同時、先程と同じような強い光が放たれ。俺の頭上に今まで見慣れたものとは違う尖った光が集まってできた輪が出現し、髪の色は金に目も青へと変わり、背には計四本の白い羽が生えて地面が発光し始める。思っていた以上の俺の変化にルフレとペルカは目を丸くしていた。

 

「【身捧ぐ慈愛】に近いな・・・・・それが進化したって感じか? 【身捧ぐ慈愛】」

 

試しに続けてスキルを宣言すると、もう二本白い羽が伸び、既にあった光の輪の内部に今まで通りの丸い輪が生成される。

 

効果は20メートル近くある光るフィールドを展開し、範囲内の味方の状態異常耐性の上昇と被ダメージの減少をさせ、徐々に回復させる・・・か。動ける【天王の玉座】みたいなスキルってことか。いいね。

それに【毒竜】みたいな感じでもう一つ内包されててあと・・・やっぱり【反転再誕】もできるんだな。

 

「お疲れ。今日は頑張ってくれたな。ホームに戻ろう」

 

 

 

 

 

 

誰もいない日本家屋の訓練場。ホームに戻って新スキルの把握を試みた。

 

スキルの試し撃ち用に設置されていた人形に向かってスキルを発動する。

 

「【救済の残光】」

 

スキルの宣言とともに周囲の地面が輝き俺の背に四本の羽が生え、今までとは違う天使の輪が頭上に出現する。

 

「【方舟】」

 

続いて内包されてるスキルの宣言と同時に地面を照らす光が強くなり、数秒して俺は光に包まれるとふわっと空中に浮き上がる。

 

 

【方舟】は【救済の残光】発動中にのみ使用でき、5秒の待機時間の後浮き上がって大量の水で攻撃するスキル。ただ、攻撃はあくまでおまけと言えるもので、20メートル近くある【救済の残光】の範囲内の任意の場所に効果を受けている味方と共に転移するというものが主なのかもな。

 

それでも、発生した水によってスキルの試し撃ち用に設置されていた人形をボロボロにする威力なら、防御力が低い相手には十分脅威になるだろう。【方舟】を使うと【救済の残光】の効果は切れてしまうものの、俺にとっては特に問題のないことだ。

 

「ノアの方舟のつもりか運営?」

 

さて、次は連結だな。

 

【連結】は待機再使用時間が一時間になる代わり、最初に選択したスキルの効果を他のスキルに反映することが出来る効果だ。つまり―――【連結】に【悪食】を選択したら他のスキルに【悪食】の効果が反映される。

 

仮に【反転再誕】を選択したらHP500の消費と使用時間五分という制限がなくなり、特定のスキルを異なるスキルに変更することが可能になる。

 

「【連結】【反転再誕】【届かぬ渇愛】【滅殺領域】【堕天王の玉座】」

 

【身捧ぐ慈愛】と【救済の残光】を同時に発動する際は、【身捧ぐ慈愛】で生える白い羽が二本生え、【救済の残光】で生える白い羽は四枚。頭上に浮かぶ光の輪は外部と内部に今まで通りの丸い輪が生成される。それらが反転したら―――?

 

宣言すると共に足元からは見覚えのある輝きではなく、黒い光が円形に広がっていく。そして、俺の背中からは黒い翼が生え、頭上には同じく黒く染まった天使の輪が出現した同時に、さらにまた背に二本の黒い羽が伸び頭上に赤黒い光を放つようになった既にある輪の内部に今まで通りの丸い輪が生成される。黒い光は装備の色すら黒く変化させていき、バチバチと赤黒いスパークが散る中、地面は二重に黒く染まりそこを同じ色の光が広く駆け回る。スキル名とエフェクトからして踏み込んだ者はただでは済まないことが分かる。

 

真後ろで黒い光が収束し、【天王の玉座】と異なる意匠の、俺に合ったサイズまで小さくなった玉座が出現した。そこに座ると地面を這うように黒い輝きが伸びていく。また、ほんの僅かではあるものの、体の表面を覆うように黒い光の膜ができていた。俺の背中の黒い翼は【天王の玉座】と同じようにするりと背もたれを通り抜けて後方で輝く。

 

「ん-ふふふ・・・・・我、堕天の王なりって台詞が似合いそうな感じになったな」

 

自分の姿をスクショした映像を見てそんな感想を抱くのも無理はないだろう。試し打ち用の人形が再出現したところで黒い光の領域の中で伝わる光により弾け、ダメージを与え続ける。

 

 

なお・・・・・これを実戦で見た皆の反応が。

 

 

「「完璧に魔王にじゃないか」」

 

「あの黒い光のゾーンに入ったらダメージが食らうし、離れたところから攻撃しようならば反射ダメージで食らうし」

 

「プレイヤーを引き寄せるスキルもあるから逃げられないよね」

 

「いったい、どうやってハーデス君を倒せばいいのかな?」

 

「ハーデスが味方なら頼もしいけど、敵だったら絶望ね」

 

「うん・・・・・」



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ギルド結成

水中神殿の一件以来。あれからイッチョウも三つの【救いの手】を確保できたある日のこと。NWOの運営側が正式に俺達プレイヤーの格付け、各職業と全プレイヤーに対する総合ランクが発表される。リアルで俺達三人はテレビの前に設けた横長椅子に座ってNWO放送局のニュース番組を見る。

 

『いよいよ発表されます全世界中のプレイヤーの皆様の格付けが! いやぁ、各国のプレイヤー達の誰が国の代表として公表されるのでしょうか楽しみですな』

 

『国の代表者として発表された上位10位内のプレイヤーは、オリンピック選手のような存在となりますからね。さらに各国のプレイヤーと切磋琢磨した中で頂点に上り詰めた総合ランク1位のプレイヤーは世界的にも有名になりますし、そのプレイヤーの出身国も大きな注目を浴びることになるでしょう』

 

『ゲーム内でも無視できない存在になるでしょうからね。しかし、NWOの運営側はどういった方法でランクを付けたのでしょうか?』

 

『それについて運営側からお知らせが届いております。一つはレベル。初期の頃からプレイをしておられる数千万人のプレイヤーの中で最もレベルが高いプレイヤーを選り抜きされます。もう一つは知名度。ゲーム内に存在するNPC達がプレイヤーの皆様の活動や貢献をどれだけ知っていることが重要になるそうです。そして最後は戦績。ゲーム内で様々なイベントやモンスターに対してより優秀的な結果を残したプレイヤーを選んだそうです』

 

『なるほど。わかりやすい格付けですね。今後も順位の変動があると思われますが、それとは関係なくプレイヤーの皆様には是非とも頑張りつつゲームを楽しんでもらいたいですな』

 

『そうですね。今後はプレイヤー同士の個人の戦いや集団での戦いもあるでしょうが、上を目指せる楽しみを加えてNWOで活動を続けて欲しいですね』

 

『さて、いよいよ全世界のプレイヤー達の中から各職業と総合ランクの格付けが発表されます! テレビで御覧なられてる皆様方には総合ランクの身をお伝えします。各職業の発表についてはネットや携帯でお調べしてください。それでは総合ランク10位のプレイヤーから発表されます!』

 

と―――発表されるプレイヤー達の中には当然のように知り合いの名前があった。

 

「イッチョウ、おめでとう上位10位内に入っていたとはな(職業ランク重戦士1位)」

 

「そういうハーデス君は堂々の1位だったねぇ。2位はペインじゃなくてフレデリカだったのは驚いたけど(職業ランク軽戦士2位)」

 

「レベルの差で決まったかもね。私は上位に入れなかったけど、職業ランクじゃ1位だったわ(職業ランク鍛冶師1位)」

 

鍛冶師プレイヤーの中で1位は凄いだろ。なので、媚びを売るように瑠海に土下座をする。

 

「これからもお世話になりますイズ様」

 

「どうか素晴らしいアイテムを作ってくださいイズ様」

 

「息ピッタリね二人とも」

 

『ここで運営側からイベントの発表が入りました。次のイベントはギルド戦、プレイヤーとプレイヤー同士の真剣勝負だそうです! これは熱くなるイベントになりそうですね。内容は以下の通りです』

 

 

ギルドごとに配備された自軍オーブの防衛。また他軍オーブの奪取。

自軍オーブが自軍にある場合、六時間ごとに1ポイント。

ギルド規模小の場合、2ポイント。

 

 

他軍オーブを自軍に持ち帰り、三時間防衛することで自軍に2ポイント、また奪われたギルドがマイナス1ポイント。

ギルド規模小に奪われた場合、オーブを奪われたギルドはマイナス3ポイント。

ギルド規模中に奪われた場合、オーブを奪われたギルドはマイナス2ポイント。

 

 

他軍オーブはポイント処理が終わり次第元の位置に戻される。

防衛時間三時間以内に奪還された場合、ポイントの増加や減少はなし。

 

 

同じギルドメンバーの位置と自軍のオーブの位置はステータスと同じく、パネルに表示されるマップで確認することが可能。

 

 

奪取したオーブはアイテム欄に入る。

ギルド規模が小さいほど防衛しやすい地形になる。

ギルドに所属していないプレイヤーは参加申請をすることで複数作成される臨時ギルドのどれかに参加可能。

 

死亡回数について。

一回。ステータス5%減。

二回。さらにステータス10%減。

三回。さらにステータス15%減。

四回。さらにステータス20%減。

五回。リタイア。

死亡回数四回時点、ステータス50%減。

 

プレイヤーが全滅したギルドからはオーブが発生しなくなる。

同じギルドから奪えるオーブは一日に一つきり。

 

 

「とうとうきたかぁ・・・・・どうすっかな」

 

「総合ランクでますます有名になっちゃったもんねぇ」

 

「ギルドを設立したら、絶対に入りたがるプレイヤーは1000人超えそう。そもそも何人まで入れるんだっけ?」

 

「確かギルドホームを持っている分・・・・・王様、どれぐらい入ります?」

 

「んー1000人以上。天空の城と洋風の城が数百人も入れる大規模のホームだったからな」

 

だけど、次のイベントに参加するかどうかは悩んでいる。ペインは絶対に参加するだろうが、一緒にやるかやらないかで決まりそうだ。

 

「ギルド作るなら名前は何にします?」

 

「蒼龍」

 

「さらりと言う辺り、前々から決めてたのね」

 

下準備は大切だろ?

 

「んじゃ、ログインしてペイン達と話をして来るわ。向こうもそうかもしれないし」

 

「じゃあ、私達もいこっか」

 

「ええ」

 

 

ログイン。

 

 

日本家屋の居間で起きた俺はペインがログインしていることを確認した。連絡を入れてみるとすぐに繋がった。

 

「総合10位内おめでとうペイン」

 

『そっちもおめでとうハーデス。お互い3位内に入ってたね』

 

「そこにいるだろうフレデリカにレベルの差で3位という結果だけど、ペインなら直ぐにランクを繰り上げて来そうだな」

 

『ランクに関しては興味ない、と言ったら嘘になるけど俺はまだまだ強くなるつもりだからね』

 

新大陸も実装される。そこで対人戦がもっと自由にできるからペインも更に強力になるのは必然的だ。

 

「それは俺もそうだ。一応な。で、ニュースを見たならギルド戦のことも知ってるよな」

 

『ああ、俺達はギルドを作るつもりだよ。ハーデスは?』

 

「ギルドを作る視野は入れてる。が、ペイン達と一緒に楽しむか強敵として楽しむかで悩んでいるんだよ」

 

『なら、勝負をしないかい? 俺は是非ともハーデスをギルドに引き入れたい。勝ったら俺のギルドに入ってくれないか?』

 

「俺が勝ったら俺の自由に、か?」

 

訊くと肯定するペイン。ここで勝負を申し込まれるとは思いもしなかったな。でも俺もその提案に了承してペインと戦う場のフィールドへと向かった。猫バスに乗って移動し、指定した場所へ赴けばペイン一行が待って佇んでいた。

 

「お待たせ―」

 

「いや、そんなに待ってないよ。流石に早いね神獣は」

 

「だろう?」

 

初心者装備から今現在の最高の装備を装着して、戦意を示す。ペインの目つきは変わり、俺の装備を注視するようになった。

 

「また新しい装備だね」

 

「これはユニーク装備同士を融合させた新しい姿の装備だ」

 

「装備の融合・・・・・君一人だけで何でもできてしまう勢いだね」

 

「流石に一人は無理だって。言っただろ、NPCの協力は不可欠だと。NPCの協力を得てるから今のおれが在る」

 

鞘から抜かれるペインの剣も、見知ったものではなかった。

 

「オリハルコン製か?」

 

「手に入れたオリハルコンを真っ先に剣に作ってもらったよ。ドワーフの神匠にね」

 

「ユーミルか。なら、気を付けなくちゃな。勝負は決闘で?」

 

「ああ、ここはモンスターが出る。ドレット達が対応してくれると言っても他のプレイヤーの目に入ってしまう。野次馬に邪魔をされたくないからね」

 

決闘の申請が送られ、承諾した俺はペインと共に決闘をする専用のコロシアムへと転送された。一対一の模擬戦。短刀と大盾を構える俺に開始の合図を待たずペインから攻撃を仕掛けに来た―――。

 

 

剣と短刀がぶつかり合う。刃の長さが違おうともハーデスは剣を振るうペインの動きを見切って対応していく。最初はどちらもまだ、スキルを使わず武器のみで戦っていたがペインが先に使いだした。

 

「【断罪ノ聖剣】!」

 

「【紫外線】! 【溶解】!」

 

ペインの身体が炎に包まれるだけでなくハーデスとペインが立つ足場がマグマに塗り変わった。そして敢えて胴体で受け止めたペインの技の威力の90%の反射ダメージを受けた。

 

「俺にもダメージが?」

 

「反射ダメージだ。お前が攻撃するたびにお前の攻撃が返るぜペイン」

 

「強力的なスキルだね。だけど、そんなスキルにこそ制限はあるんじゃないかな?」

 

「知りたくば確かめてみろ。ただし、それまでお前のHPが保っていればのはなしだがな」

 

ペインの身体から溢れ出る赤いエフェクトが俺の身体に吸収され、減らされたHPが満タンになっていく。

 

「【不屈の守護者】を持っていそうだし、二撃入れないと駄目だろうな」

 

「・・・そういうハーデスも持っているんだろう【不屈の守護者】を」

 

ハーデスが敢えて沈黙で返し、短刀を【トリアイナ】で大剣に変え、斧盾と結合する。

 

「因みに聞くけど、何て名前にするつもりだった? ギルド名だ」

 

「【集う聖剣】だよ。ハーデスは?」

 

「【蒼龍】だ」

 

聞くだけ聞いたハーデスはマグマ耐性を身に着けているペインへ【超加速】で懐に飛び込み、ペインもまた【超加速】で引き寄せられるようにハーデスへ飛び出して、二振りの剣が交差してぶつかり合った。

 

勝敗の結果は―――。

 

「まっ、ハーデスが勝つと思ったよ。一目見た瞬間、見ない間にまーた凄い経験をして来たんだろうなぁって悟ったもん」

 

「右に同じく」

 

「俺は勝敗関係なくいい線行くと思ったんだがよ、ペインを圧倒するほどだとは思いもしなかったけどな」

 

決闘から戻ってきた俺達を迎えたのは達観と驚嘆のフレデリカ達だった。

 

「いやいや、俺も【不屈の守護者】と回復効果のある装飾品アイテムがなければ危うかったのは事実だ。今度は装飾品アイテム無しで決闘してみるよ。というか、いつの間に【マグマ無効】のスキルを取得したんだ。割と驚いたぞ」

 

「ハーデス対策に色々と模索しているんだよ俺達。だけどハーデスは俺達の想像を軽々と超えたスキルを増やしていることも予想していたが、やはりまだまだ勝てそうになかったか」

 

ふふん。他にも色々とあるもんねースキル。これからももっと増やしていく予定だし?

 

「流石総合ランク1位のプレイヤーだな」

 

「総合ランク4位のドレッドさんに褒められちまった」

 

「ランクといやぁ、お前とイッチョウが蒼天出身のプレイヤーだとは思わなかったな。てっきり日本人かと思ったぞ」

 

「逆に俺とイッチョウ以外の上位10位内の殆んどが日本人だがな。蒼天のプレイヤー、他にも居る筈だろうに。ゲーム大国の日本には敵わないか」

 

「11位から下はちらほらと外国のプレイヤーがいるけど、日本人のプレイヤーが多いから総合ランクも日本人が多いのは必然的だよ」

 

むぅ・・・・・この事実、華琳はどう思うことやら個だけ優秀な結果は満足しないだろうな。

 

「で、ハーデスはどうする。ペインに勝ったんなら決定権はお前にあるぞ」

 

「ん? ああ、そうだな・・・・・。じゃあ、俺のギルドに入ってくれ。【集う聖剣】と【蒼龍】のギルドの名を足して【蒼龍の聖剣】にな」

 

・・・・・。・・・・・。・・・・・。

 

・・・・・。・・・・・。

 

・・・・・。

 

「ということで、ペイン一行を我が【蒼龍の聖剣】に加入することになりました」

 

「うん、予想してたよん。これからもよろしくねー」

 

「私とセレーネもハーデスのギルドに入ることにしたわ」

 

「よろしく、ね?」

 

セレーネもとは意外だった。でも大歓迎! これで8人!

 

「でも、なんでまだギルドを設立してないのさ?」

 

「した途端に一気に我先と加入したがるプレイヤーの対応をしなくちゃならんのだぞフレデリカ君。主に俺の従魔関連でだ」

 

「・・・納得。静かに人を増やすんだね」

 

「うん、主に生産職のプレイヤーをな。戦闘職のプレイヤーは正直いらん。絶対にではないけど」

 

「ハーデス君を頼りにしちゃうプレイヤーもいなくないだろうからねぇ。知り合いぐらいが丁度いいんじゃない?」

 

その通りだ。だからこれからある程度の知人友人に声を掛けに行こうと思うのさ。

 

「生産職のプレイヤーって・・・スケガワも誘うつもり?」

 

「一応な。性格はアレだが、鍛冶師プレイヤーとしての腕前は腐ってないから誘うつもりだ。仲良くしてくれとは言わないけど協力が必要な時は協力しあってくれ」

 

「ええ、それはもちろん」

 

「うん、ハーデスには色々とお願いすることもあるしね」

 

ならいいな。

 

「ねぇねぇ、ハーデス君。誘いたい子がいるけどいい?」

 

「いいぞ構わない。俺もイカルを筆頭に生産職のプレイヤーを誘うつもりだからな。ペイン達も誘ってみたい奴がいたら声をかけてくれ。できればエルフイベントで上位になったプレイヤーを探して誘ってくれ」

 

「わかった。いい返事を貰ったらメールでするよ」

 

「私達も同じ鍛冶師プレイヤーに声をかけるわね」

 

皆が強力的になってくれるので、その日はギルドメンバー集めに精を出すことになった。イカルは畑にいたので声をかけたら。

 

「私もギルドメンバーに? はい、ハーデスさんの力になれるなら是非とも入らせてください!」

 

「ありがとうなイカル。エスクもこれからよろしくな」

 

「ムー」

 

続いて、佐々木痔郎達はメールで伝えると二つ返事で送られてきた。他の生産職のプレイヤーにも声を掛けたいというメールもあったから内密に、そして他言無用で生産職のプレイヤーだけ声を掛けるようにお願いした。

 

「マーオウ。お前も入らないか?」

 

『自分のギルドに? 方針はどうなん?』

 

「自由かな? イベント参加も個々の自由で」

 

『そんなんだったらウチも入らせてもらうで。アイテムを作る方に集中できるんなら、大将のギルドだったら喜んでな』

 

身内も確保できた。

 

「ふーか。ギルドを作るつもりだけど入らないか?」

 

『白銀さんのギルドにですか? 戦闘は得意じゃないですけどいいです?』

 

「今色んな生産職のプレイヤーだけ誘っているから問題ないぞ。戦闘はしなくてもいい。個々の自由だ」

 

『でしたら入らさせてください! 因みに他のプレイヤーにも誘ってもいいですか?』

 

「俺がギルドを作ったことを生産職以外のプレイヤーに他言無用に釘を刺す上でならな」

 

こうして半日ほどで、初期からNWOをしてる大体の生産職のプレイヤーが後に設立した【蒼龍の聖剣】に集ったのであった。あの花火祭りのプレイヤーも含めてな。残りの2割は俺の知り合いで埋めた。

 

『うぉー! 待ってました白銀さん! 喜んで入ります!』

 

『これからよろしく頼む』

 

メタスラ達、テイマーのオイレンシュピーゲル達、俺の友人リストに入っているプレイヤーを中心に声をかけまくったおかげでジャイアントギルドが誕生したのだった。まぁ、生産職ほどいない戦闘系のプレイヤーだけど―――。

 

『ギルド【蒼龍の聖剣】のプレイヤーが100人以上になりました。領主クエストを受けることが可能になりました』

 

・・・・・んんー? なんだ領主クエストって。そんなのあるのかよ? 今すぐしなくてもよさそうだけど皆と相談した方がよさそうだな。

 

「領主クエストってなに?」

 

「あれ、そっちも通知が届いてた?」

 

「ギルド用のクエストはギルドメンバー全員に通知として送られるみたいだ。クエストするかどうかはマスターのハーデスが決めるようだね」

 

半日過ぎた現在。日本家屋に再び集結したイッチョウ達と合流して直ぐにクエストのことで話題になった。

 

「領主、国を運営するクエストでもあるのか。面倒だな。国同士の戦いのイベントもありそうで」

 

「勇者はNPCを倒しちゃいけないもんね」

 

「恐怖の大魔王になるんだっけか? だったら参加しない方がいいだろ」

 

「勇者じゃなきゃ、クエストを受けていたかもな」

 

「答えは語るまでもないわね」

 

「うん」

 

全員、満場一致でクエストは否と答えた。

 

「で、サブマスのイッチョウが誘いたいって言うプレイヤーはその二人なんだな?」

 

「うん。メイプルとサリー。皆も顔だけは知っているから誘ってみたくてね」

 

ギルドのマスターとサブマスターの権限で他のプレイヤーをギルドに勧誘することが出来る。サブマスにイッチョウを選んだから彼女は知り合った新規のプレイヤーを誘った。

 

「二人ともよろしくな。俺は白銀さんって渾名で言われてるプレイヤーだ」

 

「メイプルです! よろしくお願いしまーす!」

 

「サリーです。まだレベル的に弱いけどよろしくお願いします」

 

「ああ、レベルに関してはどうでもいい。これから上げていけばいいんだからな。サリーに関してはこの中で俺がお前の実力を知ってるし問題ない」

 

イッチョウ以外、小首をかしげる。知り合いなのかという奇異の視線のそれを向けて来る。

 

「私のこと知ってるの?」

 

「そりゃあ、現実のゲーム大会で優勝を争ったほどだぞ。忘れる方がおかしいだろ」

 

「っ! あなた・・・ノーフェイス?」

 

意味深な笑みを浮かべて頷く俺をサリーは信じられないと言った表情のまま、人の顔を見つめたその後。

 

「このゲームを遊んでいたのは予想していたけど。まさか総合ランク1位のプレイヤーがノーフェイスだったのは驚いた。今度リアルで私と勝負をしてくれない?」

 

「おう、いいぞゲーム界で一輪の桜花と渾名を付けられたサリーちゃん」

 

「それを言わないでくれるかなぁっ!?」

 

ほんのりと顔を赤らめて恥ずかしがるサリーの相棒からも「一輪の桜花って可愛いね」って言われ、ますます羞恥になった。

 

「ハーデス、リアルで知り合いだったの彼女と?」

 

「ゲーム大会には必ず顔を出して必ず優勝争いをする程度には。まぁ、俺が全戦全勝するもんだから一輪の桜花ちゃんからライバル視されてますけどねぇー」

 

「だからその二つ名を言わないでってば!」

 

「男だらけのゲーム大会に流星のごとく現れた可憐な少女が、優勝まで快進撃で上り詰めた事実は消せないぞ」

 

ああ、それじゃあ言われてもしょうがない敵な雰囲気が漂い、メイプルから「そんなことしてたんだ」という目でサリーを見つめられる。

 

「動体視力と反射神経も並みの人間以上だからすぐに頭角を現す。だから即戦力になるのも時間の問題だ」

 

「ふーん、ハーデスがそこまで買ってる相手なら、特に言うつもりはないけどね」

 

でもなんだかおもしろくなさそうな顔をしているフレデリカさんは、皆が見えないテーブルの下で俺に触れてくるのはどうしてでしょうかねぇ?

 

「納得してくれたようで何よりだ。でもってメイプルの方は、よもや防御力極振りのプレイヤーだったとはな。もしかしなくとも【絶対防御】のスキルを持ってる?」

 

「えっ。何で解っちゃったんですか?」

 

「俺も持っているからだ。【絶対防御】のスキルをな。今の俺も【VIT】の数値は五桁だからさ」

 

「おおっ! 凄いですね! あの痛くはありませんか?」

 

「いや? あんまり痛くないぞ」

 

ああ、イカルと同じ理由で防御力極振りにしたのかメイプルも。【破壊成長】の装備がもう手に入らない以上、彼女のプレイが苦労しそうだな。

 

「なぁ、ハーデス。装備同士の融合ってもうできねぇのか?」

 

「できるぞ。興味あるのなら実演してやろうか」

 

「興味あるからおねがーい」

 

ならば実演してあげようではないか。ここに用意する物は三つです。

 

「イズから貰った『生命の指輪Ⅷ』と魔王から貰った『血液捕食者の指輪』を用意します。続いてこれ、錬金術を極めたNPCの魔神が作成した『融合の秘薬』。これを二つの指輪にどぱっと振りかけます」

 

するとどうでしょう。二つの装飾品アイテムが輝き、光が一つになると新しい指輪に融合しました。その名も『真・生命捕食者の指輪』でーす。

 

効果は『血液捕食者の指輪』の時と同じHPドレインと【HP+200】に加えて新スキル【吸血者降臨】が増えた。いや待て、なんだこれ?

 

 

【吸血者降臨】

 

所有者のHP1000を対価に『真・生命捕食者の指輪』を媒体に真祖吸血鬼を完全召喚。HP1000の状態で召喚される真祖吸血鬼の存在の間は『真・生命捕食者の指輪』の効果は使用不可。

 

 

「本当に装備が融合しやがった。しかも新しいスキルが追加されたのか」

 

「ハーデスが強くなった原因の一つがこれだったんだねぇ」

 

「さっきの『融合の秘薬』ってのはまだあるのか? 俺も試してみたいな」

 

オリハルコンを素材に使うらしいからあまり数が・・・・・。

 

「イズ、お前のユニーク装備のスキルで作れないか? 新しいアイテムの製造が可能にするんだろ?」

 

「うーん。やってみないと分からないとしか言えないわ。出来たら教えるわね?」

 

よろしく頼む。出来たら遠慮なく頼らせてもらうな。―――同じ装備を身に着けているセレーネ共々な?

 

「秘薬は・・・・・最後の一本だけあるな。ほれドラグ」

 

「おっ、ありがとうよ。早速使わせてもらうぜ」

 

試してみたいと言ったドラグは二本の大斧を用意して本当に早速使った。大斧が一つになった姿は柄が短い方天画戟みたいなのに変わり、追加されたスキルは全ての攻撃に【ノックバック】が付与されるものそうだ。

 

「うわぁ、防いでも吹っ飛ばされるんじゃあ近づかれなくなるわな」

 

「ようは当たらなきゃいい話なんだ。だったら余裕で近づけるぜ」

 

「まぁ、究極的な話では確かにそうだけど。大盾使いの天敵になるなドラグ」

 

「それでも天敵にすらならねぇお前に勝てそうにないぜ。その指輪の効果がえげつないんだからよ」

 

ははは、何のことやら。

 

「でも、HP1000も対価にするって・・・ハーデスのHPってどのぐらい?」

 

「この指輪も含めて900以上になるな」

 

「アイテムの力でそこまで、ね。じゃあ、新しいスキルもしばらくはお預けかな?」

 

「いや、そうでもないんだよなこれが。日食か暁の境界のスキルで他のHPを高める装備を吸収して増やせることが出来る。それにイズに作ってもらった純白の装備はHP1000以上超えてるし」

 

「そうだった・・・本人の強さだけじゃなくて装備も強いんだった」

 

それが総合ランク1位のプレイヤーの強みでもあるのだ。俺のようになりたくば強力な装備とスキルを手に入れることが肝心だぞ諸君!

 

「ハーデスの強さなんざ今更なんだが、ギルドメンバーになった連中も濃くないか?」

 

「・・・俺の従魔達と触れ合うがためにギルドに入ったプレイヤーが大半だからなぁ」

 

「暴徒にならないのかそれで」

 

「他のプレイヤーより身近になれたと言えど、マナーだけは弁えているから大丈夫だ。この日本家屋のホームも俺が招いたプレイヤー以外入らせない厳命をしたし、破ったら即追放だとも伝えた。オルト達には日本家屋以外のホームにも自主的に足を運んでもらうように頼んでいるから、他のメンバーとも交流できるだろうよ」

 

その辺の配慮も忘れていない。だから今頃は・・・・・。

 

 

 

「クママちゃーん!」

 

「クマー?」

 

「うきゃー! 可愛いー!」

 

「オルトちゃん、一緒にお散歩しましょう?」

 

「ムー」

 

「ズルいわよ! 私もオルトちゃんと手を繋ぐ!」

 

「俺もゆぐゆぐちゃんと触れ合いたいっ。でも、でもぉっ・・・!」

 

「―――?」

 

「はぅわっ!? ゆぐゆぐちゃんから触ってくれている! や、柔らかい・・・!」

 

「メェー・・・・・」

 

「おお、凄いモコモコ・・・このまま抱きしめながら寝たいぜ」

 

『にゃはははー! 最高の気分にゃー! もっとおいらを愛でるがいいにゃー!』

 

「フレイヤちゃん可愛いー!」

 

「食べ物は何が好き? お魚を用意してあるわよ?」

 

「はぁー、綺麗な毛並みだわ。白銀さんにケアされてるのかしら?」

 

「おーおー、皆凄く満喫してるニャー」

 

「そりゃあ白銀さんのギルドに入れただけでも幸運なのに、白銀さんの従魔を触れ合うことが出来るんだ。この瞬間をレベル上げとかスキルの熟練度を上げて強くなるより、こっちの方を優先するって。俺達もその一人だがな」

 

「今こうしていられる俺はリアルで人生の全ての運を使い切ったような気分だ」

 

「俺達もそんな気分です!」

 

「凄い、ここがこれから俺達のホームの一つになるんだ・・・・・」

 

「白銀さんってこんなホームを手に入れるためにどれだけ費やしたんだろう」

 

「「「そりゃあ、億万長者だから数億Gだろう」」」

 

 

 

と、こんな感じでにぎわっているだろうな間違いなく。ホームに入り浸ることのないといいが。



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ノームの可能性

『ハーデス、僕らも【蒼龍の聖剣】に入ったよ。これからよろしくね』

 

「マジか。イッチョウから誘われた?」

 

『うん。本当はユージオをリーダーにギルドを作ろうと思ったけど、イッチョウさんからハーデスがギルドを作ったって聞いたからね。ユージオよりもハーデスのギルドなら強そうだから誘いに乗ったんだ』

 

「なるほどな。それなら今後とも俺のために働いてもらうぜ」

 

『お、お手柔らかに頼むよハーデス・・・。それと須川君達もハーデスのギルドに入ったからね』

 

「全員か?」

 

『うん』

 

イッチョウか。まぁ、好きにしろと風に言ったのは俺だから文句は言えないな。文句なんてないがまた濃ゆい仲間を・・・・・。

 

「なら、店舗兼ホームと日本家屋以外のマイホームに入らない説明は受けているな? それ以外だったら他のマイホームを利用していいからな」

 

『勿論わかってるよ』

 

そこで通信を切り、目の前の作業に集中し直す。本日は土曜の日―――ノーム狩りを始めようと土霊の里の試練の門へ足を運ぶ。

 

「そうだ。いい加減お前を進化させなくちゃな。とっくに25レベル越えてたし」

 

「ムー」

 

「という事で進化だオルト」

 

選んだ進化先はユニーク個体専用の進化ルートであるノームリーダーだ。

 

農耕、採掘の2つが上級になり、土魔術はやはり特化だ。追加スキルは守護者が確定。もう1つは植替え、育樹、栽培促成、水耕、土壌改良、農地造成、採掘変質、宝石発見から選ぶことができるようだった。やはり直接攻撃する能力はない様だな。だが、守護者というのが中々に面白いスキルだった。プレイヤーでも盾士などの転職先で覚えるらしい。

 

 

守護者:武器での受け、盾技能にボーナス。パーティメンバーが多い程、防御力上昇。守護者使用時、挑発効果あり。吹き飛ばし、ひるみ耐性あり。

 

「ムッムム~!」

 

オルトが光り輝き、進化を開始する。

 

 

名前:オルト 種族:ノームリーダー Lv35

 

契約者:死神ハーデス

 

HP81/81 MP92/92

 

【STR 26】

 

【VIT 25】

 

【AGI 25】

 

【DEX 24】

 

【INT 22】

 

 

 

装備

 

 

頭 【土精霊のマフラー】

 

体 【土精霊の衣】

 

右手 【土精霊のクワ】

 

左手 【土精霊のクワ】

 

足 【土精霊の衣】

 

靴 【土精霊の靴】

 

装飾品 【空欄】【空欄】【空欄】

 

スキル:【育樹】【株分】【幸運】【収穫増加】【重棒術】【土魔術・特化】【農耕・上級】【採掘・上級】【夜目】【栽培促成ex】【守護者】【水耕】

 

 

こんな感じだ。外見は――。

 

「あんま変わらないな。衣装は少しお洒落になったけど」

 

「ム?」

 

身長などは全く変わっていない。ただ、今までは農家の少年風の格好だったのが、商家の次男くらいにはなったかな? マフラーや服が小奇麗になり、ちょっとだけ刺繍などが施されている。

 

「調子はどうだね? オルトくん」

 

「ムッムー!」

 

おお、これまたちょっとだけお洒落な彫り物が追加されたクワを振り回す姿が決まってるね。ノリの良さも健在だ。進化しても性格などは今まで通りであるらしい。

 

「ノームリーダーになったことだし、お前の後輩を増やすぞオルト。」

 

「ムー!」

 

クワを掲げてやる気の意思を示すオルトと試練の門へ潜り一日かけて、五人の新しいノームをテイムしたのだった。最初から【水耕】を持っていたり【散水】【土壌改良】【農地造成】【育樹】のスキルを持っていたのは面白い。

 

「よろしくなお前達」

 

「ムー!」

 

「「「「「ムー!」」」」」

 

見た目が似ているから呼ぶ時がオルトの兄弟がたくさんだ。オルトーズの結成だな。

 

「ついでだ。ボスを倒しに行くか」

 

「ムー」

 

コクリと頷くオルトと新米のノームを引き連れ、既に攻略済みで情報公開されているボスは、俺にとってスキルひとつで勝てる相手である。そんな相手がいる隠しギミックもあっさりオルト達に解除してもらい、いざボスとご対面―――戦闘? 戦闘と呼べる戦闘なんてなかったけど? ボスがノームだろうと敵として襲ってくるなら容赦しないし。

 

「さてさてドロップアイテムは鉱石類と肥料・・・・・クワの素? 味の素みたいな名前だな」

 

銀鉱石や金鉱石の使い方は分かる。金鉱石は初めて見たけど、鉱石なのだ。

タラリアの情報だと土霊の肥料は、ボスから落ちるドロップアイテムの中で一番レア度の高い肥料らしい。他のプレイヤー、主にファーマー達も、これを入手するためにボスと戦うが何故か全滅するという曰くつき。帰ったら畑に撒いてみよう。

 

だが、クワの素ってなんだ? クワを作るためのアイテム?

 

「クワの素? タラリアの情報にも載ってないぐらい聞いたことがないな」

 

うーん、選択すると、使用するかどうか選べるな。選択先はオルト達か。

どうやら、ノームのクワを強化できるっぽい。でもこれはヘルメスの前で実演してみよう。

部屋の先へと歩き出す。ボスを倒したことで出現した広い通路を抜け、到着した先は狭い部屋だ。

そこには、大きな宝箱が置かれていた。開けると、中から光があふれ出し、部屋を包み込んだ。

予想していた俺は即座に目を瞑ったので問題なかったが、慣れないオルト達が悲鳴を上げている。

 

「ムー!」

 

「「「「「ムムー!」」」」」

 

目を開けると、オルト達は目を両手で押さえて悶えていた。まあ、放っておけばすぐに治るだろう。それよりも、報酬が気になる。確認してみると、インベントリに『土霊の試練突破の証』というアイテムが入っていた。これは、装備すると土属性耐性(大)の効果があるアクセサリーであるらしい。これがあると土霊の試練の周回効率が上昇するそうで、鍛冶師や採掘で稼ぐプレイヤーには人気があるそうだ。

 

ただ、譲渡、売却は不可能なので、他人に譲ることはできない。

 

インベントリを確認し終えると、宝箱が宙に溶けるように姿を消した。そして、その場所に大きな魔方陣が出現する。

 

帰還用の転移ポータルだ。

 

「目的も達成したし、戻ろう」

 

「ム!」

 

ポータルに足を踏み入れた。特に選択肢などは出現せず、自動で転送が行われる。

出現場所は、土霊の試練の最初の部屋だ。すると、その部屋に人影があった。

プレイヤーではない。ここのダンジョンは、パーティごとに分かれるからな。

 

「やあ、試練突破おめでとう」

 

そこにいたのはノームの長であった。あれ? 何かイベント発生した? 明らかに内心首を傾げる俺を見ている。俺に用がある? 何かのフラグを踏んだか?俺が悩んでいると、オルトがノームの長に駆け寄っていってしまった。足元にまとわりついて、何やら訴えかけている。

 

「ムムー! ムー!」

 

「うんうん。元気だね」

 

「ムム!」

 

まるで、仲のいい兄と弟のような姿だった。ノームの長も喜んでいるのか、オルトの頭を撫でてくれている。

 

「ちゃんと可愛がってもらっているね。いい主に出会えたようだ」

 

「ムー!」

 

オルトがこちらを振り返り、指をさしながらムームーと叫ぶ。悪口を言っている感じでもないから、きっと褒めてくれているのだろう。たぶん。

 

「そうかそうか。主が大好きか」

 

「ムムー!」

 

ピョンピョン飛び跳ねて笑うオルトと、それを見てにっこりと笑うノームの長。悪くない雰囲気だ。

 

「えーっと、どうしてここに?」

 

「君たちが試練をちゃんと達成したようだからね。祝福しに来たのさ」

 

「あ、ありがとう・・・・・?」

 

だがなぜオルトだけ? 他のノーム達に「行かなくていいのか?」と聞くが、ノーム達は遠慮するような感じで、その場から動かない。オルトのイベントであるということなんだろう。それにしても、どうして俺なんだ? 

 

オルトに関係がありそうだっていうのは分かるが、過去の攻略者の中でオルトだけが特別ってことはないと思うんだよな。ユニーク個体だって他にいるし、ノームリーダーだっているだろう。従魔の心だって、珍しくはないはずだ。

 

まあ、考察は後でいいか。とりあえず、このイベントを上手く成功させよう。

そう思っていたんだが、その後は特に大きな展開もなかった。

 

「オルト、これからも可愛がってもらうんだよ? 主とともに歩めば、きっと大きく成長できるからね」

 

「ム!」

 

「オルトの主よ。この子をよろしく頼む。これからも可愛がってあげていれば、君の役に立つだろうからね」

 

「ああ、わかってる」

 

「いい返事だ。それじゃあ、オルトとその主に幸多からんことを!」

 

え? それだけっていう感じだった。ノームの長が去って行ったあと、ステータスやインベントリを確認したが、特に変化もない。

 

「何だったんだ?」

 

「ムムー!」

 

あとでヘルメスに相談しに行ってみよう。俺は、その足でヘルメスの下へと向かった。

 

『称号「土精霊の加護」を獲得しました』

 

 

称号:土精霊の加護

 

効果:ステータスポイント2点獲得。土属性モンスターとの戦闘の際に与ダメージ上昇、被ダメージ減少

 

 

土霊の試練を出たところでゲットできた。だが、こっちはもう広く知られているものだから物珍しい称号ではない。気にせずヘルメスに気になることがあると言う旨を伝え、白銀座店の前で待ち合わせをする事にした。

 

「・・・・・ユニーク個体のノームをテイムしたのね」

 

「一日かけてな」

 

ヘルメスと合流した後にホームの中に入り、ホームとして機能している今の方へ招き座らせた。オルトにはテイムしたノーム達を日本家屋の庭へ連れて行ってもらい、作業をしてもらっている。

 

「それでも集めれないプレイヤーが多くいること知ってる?」

 

「他人の事情なんて知るか。こっちには幸運の精霊さんことオルト君がいるんだぞ?」

 

胸を張って誇らしげな顔を浮かべるオルトが目に浮かぶ。

 

「それで、相談に乗って欲しいってなにかしら」

 

「まずはこれ、『クワの素』ってアイテムだけどボスのノームから手に入れたんだ。テイムしたノームのクワ用に作用するものだと思うと推測してるけど、タラリアではこのアイテムのこと知ってたか?」

 

「いいえ。初めて見るアイテムだわ。『土霊の肥料』なら知ってたけれど『クワの素』なんて・・・・・」

 

初見のアイテムか。だとすれば何度でも手に入れるアイテムだよなこれ。

 

「知らないならしょうがないな。じゃ、この情報を買ってくれるか?」

 

「ええ、肥料よりドロップする確率が低いだけのアイテムなら誰でも手に入れるしね。買わせてもらうわ」

 

「それと、もうひとつ」

 

「え・・・・・まだ、あるの?」

 

急に不安そうな顔をするんじゃないよ。

 

「ノームの長の件だ」

 

そう言った次の瞬間。ヘルメスの「うみゃー」を堪能した後、俺たちは情報の確認に移っていた。

毎度思うけど、このあとに急に冷静になれるのはある意味すごい。ロールと素の使い分けが上手いんだろうな。

 

「土霊の試練を攻略したら、ノームの長が出現したってこと?」

 

「ボス倒して宝箱開いたら、ポータルが出現するじゃないか」

 

「うん。土霊の試練の最初の部屋に転移するやつね」

 

「それで転移した直後に、ノームの長に出会ったわけ」

 

詳しい状況を説明し、さらにノームの長との会話のログなども見せる。

 

「なるほど、そんなことが・・・・・。とりあえず、これは未発見情報ね」

 

「やっぱそうなんか」

 

「ええ。今のところ、同じような報告はないわ」

 

だろうとは思っていたが、やはり未発見のイベントだったか。

これは情報が高く売れるか? 発生条件とか全く分かってない情報だし、案外安いか?

俺の渡した会話ログを見ながら唸っていたヘルメスが、再び口を開く。

 

「このイベントの発生条件なんだけど――」

 

「何がトリガーだったのか、分からない」

 

ユニークで、従魔の心をもらえるほど好感度が高いっていうだけなら、他にもいるだろう。

クワの素か? ただ、クワの素が出た理由が分からなけりゃ意味がないけど。

 

「いえ、多分だけど、好感度じゃないかな?」

 

「好感度?」

 

「うん」

 

「でも、ノームの従魔の心をもらってるプレイヤーなんて、他にもたくさんいるだろ?」

 

第2陣の中にだって、早ければもう従魔の心をゲットしたプレイヤーもいるはずだ。それがトリガー?

 

「そもそもさ、好感度って見えないじゃない? だから、従魔の心を貰ったからって、それがMaxとは限らない」

 

「それは確かに」

 

俺がいない間にゆぐゆぐを精霊に会わせたサイナの時にも、好感度は上がったぐらいだ。現状で、最大値なのかどうか。

 

「ノームの長との会話ログを見た感じ、間違いないと思うんだよね」

 

俺もログを見返してみたが、言われてみると「可愛がってもらってる」とか「可愛がってあげてね」とか、好感度に関係ありそうなセリフが並んでいる。

 

「このゲームって、それなりに経ったじゃない?」

 

「リアルじゃ3ヶ月も経ってるな。中盤も中盤じゃないか?」

 

「それでもレベルもスキルも、まだまだ先がある。そんな中でモンスの好感度だけがこんな早くも中盤でMaxになるなんてあり得る? 終盤でなきゃあり得ないと思うのよ」

 

「頑張れば中盤じゃなくても初盤でもいけそうな気がするがな。でも、そうじゃないんだろ?」

 

「ええ。だから、私たちはこう考えてるわけ。好感度の上限が1000だとすると、従魔の心は100とか200でもらえるボーナス的なものなんじゃないかって」

 

「じゃあ、この先400とか500で、何か貰えるかもしれないと?」

 

「可能性はあると思うよ」

 

それは夢が広がる。それに、従魔たちを可愛がる甲斐もある。いや、何もなくても可愛がるけどさ。

 

「でも、好感度が高いっていうなら、それこそ他にもいるはずだぞ」

 

ノームは人気がある従魔だから、多くのプレイヤーがテイムしている。しかも、俺よりも余程可愛がっている人たちだっているだろう。ただひたすらノームを愛でるだけの動画とかもあるくらいなのだ。

 

だが、そう簡単な話ではないらしい。

 

「ノームは一番数が多い従魔だから色々と検証も進んでるんだけど、好感度を上げるには幾つかの方法があるみたいなのよ」

 

「好物をあげて、遊んであげるんじゃだめか?」

 

「それも必要だけど、畑が重要っぽいわ」

 

「畑・・・?」

 

「うん。畑の規模とか、育てている作物のレアリティに種類に品質。あとはノームが望んだ作物があるかどうか。いろいろな要素が絡んでいるみたい」

 

オルトも、畑に新しい作物を植えたりするときには楽しそうにしてるもんな。実際に、喜んでいるらしい。

 

「テイマーの中でも、ハーデスレベルの畑を所持している人はほとんどいないわ」

 

「まあ、初期から畑やってるし、運よく色々と手に入れてるし」

 

水臨樹に神聖樹、他にもレアな作物がそれなりに揃っている。米とかは水耕が必要だし、栽培している人は多くないだろう。

 

「どう考えても、オルトちゃんの好感度はノームの中でも一番だと思うの」

 

「じゃあ、やっぱり好感度が影響してるかね?」

 

「しかも、ノームの長の言葉をそのまま信じるなら、好感度が上がれば特殊な進化先が解放されるかもしれない」

 

「ん?」

 

「主とともに歩めば大きく成長できるとか、可愛がってあげてればいつか役に立つとか、それっぽいじゃない?」

 

「まぁ、言われてみれば。でもよ? ノームが畑を充実させればいいんなら、他の精霊たちはどうだ? 樹精にウンディーネ。シルフにサラマンダーの好感度を上げる方法は?」

 

「うーん、それがまだ確定じゃないのよ。ウンディーネに関しては、水関係の施設だとは思うんだけどね」

 

ウンディーネはノームに続いてテイム数が多く、こちらもそれなりに検証が進んでいるらしい。

 

「シルフ、サラマンダーは仕事場の充実に加え、それぞれの属性に関係あるものをホームに揃えることじゃないかとは言われているけど、確証があるわけじゃないわ」

 

「樹精は?」

 

「そっちはもうお手上げ。そもそも、絶対数が少ないし。ハーデスが知らないなら、私たちも知らないわ」

 

「そっか」

 

現在でも、樹精は全体で十数体程度しかおらず、激レアモンスとして皆の憧れとなっているらしい。

 

そこまで少ないとは思わなかった。二陣も入ってきたし、50や100はテイムされているものだとばかり思っていたのだ。

 

「というわけで、何か新情報があったら売りに来てね!」

 

「了解」

 

その後、称号の情報なども売ったんだが、ノームの長の情報が衝撃過ぎたせいか、ヘルメスはあまり驚いてはくれなかった。

 

「それじゃあ、精算に移らせてもらうわ・・・・・」

 

結構新情報を買ったはずなんだが、それでも700万Gもいただくことになってしまった。ノームの情報は皆が求めているため、非常に高いらしい。ゲームが進んで皆の所持金が増えたことで、情報の値段も上がっているんだろう。

 

「それで・・・もしかしなくても他にも情報とかあったりしない?」

 

「情報・・・・・全プレイヤーが手に入れられるアイテムなら一つ」

 

実演すると俺の斜め前に現れる白い手が六つも浮かぶのでヘルメスはぎょっと目を丸くした。

 

「え、なにそれ? 憑りつかれてる?」

 

「【救いの手】という装飾品アイテムだ。右手、もしくは左手の装備枠を合わせて二つ増やす効果があって、俺は三つ分も手に入れたから六つも装備を持てるようにできたんだ。装備のスキルとステータスは反映するが、操作は練習しないと実戦に使うのは難しいぐらいかな」

 

「なるほど・・・プレイヤーの強化に繋がる装飾品ね。メインとサブの違う職業の装備を六つも増やせるなら攻略も捗れるわ。それを入手する方法は?」

 

「第8エリアの食人の森の奥の山にいる赤い骨で出来た霊を全て除霊する勢いで退魔用品で倒す。その最中に青い光を放つ霊が現れるから、花束と木で作られた十字架の墓があるところまでついていく。そしたら地面に引きずり込まれた先で巨大な赤い骨の霊のボスと戦うことになるけど、最後は退魔用品で倒さないと【救いの手】は手に入らないから。それを三回繰り返せばこれだ」

 

黙って俺から話す情報に耳を傾けるヘルメスは、聞き終えると一息吐いた。

 

「ボスの強さは?」

 

「まず物理は絶対に通用しない。魔法が付加された物理攻撃なら通じるぞ。炎が一番かな? あまり長引くと自分の姿さえ見えなくなるほど周囲が真っ暗になって、色んな幽霊の手が襲ってくる。防御力極振りの俺ですらHPが1まで一気に減らされたから即死攻撃もして来る。パーティーで行くのが推奨だな」

 

「聞くだけでも中々手強そうな相手ね。というか、さらっと言ったけどやっと第8エリアまで進んだんだ?」

 

「・・・・・流石に行かないと、と思って」

 

遅かれ早かれ、結局は変わらないがな。やることなすことも含めてな。

 

「この情報は攻略組が盛んに幽霊退治しそうだわね。他の装飾品アイテムが装備出来なくなる点を瞑れば面白いアイテムだわ」

 

「攻撃力極振りのプレイヤーからすれば是が非でも欲しいだろうな。即死級の攻撃が八回もスキル無しで出来るようなものだし」

 

「確かに。何だかんだで極振りプレイヤーでもプレイが出来るようになってきたわね」

 

俺も疑似的に出来るんだけどな・・・・・黙ってよ。

 

「そう言えばドリモールの件はどうだ?」

 

「詰んでるわよ」

 

「む? テイムできてないと?」

 

頷くヘルメス。

 

「ハーデスの情報通り、ドワーフの鉱山の場所までは情報通りなんだけど。中に入るためには許可が必要でね。最近解放された水晶のエリアの様々な素材を採取・採掘して指定された数まで集めなくちゃいけないんだけど・・・・・」

 

「水晶の蠍とゴーレムに襲われて集めきれていないと」

 

「その通り。前線組や攻略組ですら歯が立たないモンスターの巣窟で足止めを喰らっているのよ。ドリモールが欲しいプレイヤー達は。うちのギルマスでも一気に群れで襲われて倒せなかったわ」

 

神妙な面持ちで視線を送ってくるヘルメスは、達観したような質問をしてきた。

 

「ハーデスなら余裕で倒せそうね」

 

「余裕どころか、あそこの水晶のモンスター達とはマブダチだぞ? 俺が壊れないボールとしてよく遊ぶんだ」

 

「・・・・・異常すぎるわよ。あなたの防御力」

 

「俺でも硬さだけでどうにかなる相手じゃないぞ。スキルも含まれてるんだ」

 

「そのスキル、他のプレイヤーでも手に入る?」

 

・・・・・フッ。

 

「今後もログインしてくる新規ならともかく、第二陣のプレイヤーでも無理だな。一回死亡して以降100万ダメージを蓄積しなくちゃならない鬼畜設定の条件で取得したものだぞ」

 

「・・・・・防御力極振りのプレイヤー以外無理なスキルね」

 

「単純な極振りだけでも無理だ。【破壊成長】っていう装備が破壊される度に【VIT】が増えるような装備のスキルがないと数年も掛かるぞ」

 

「なるほど、それがあなたの強さの根源なのね。因みに今の【VIT】の数値はどのぐらい?」

 

ヘルメスに秘密だと告げた後。話し合いを終えてお互い別れた俺はドワルティアの城に顔を出す。ユーミルに依頼した槌を受け取る期間が過ぎたかもしれない故に、顔パスしてユーミルと城の中で会いに行くと玉座でふかーい溜息を吐くエレンと会うことになった。

 

「どうした?」

 

「異邦の冒険者達に依頼した水晶の納品が一向に届かんのだ。冒険者が弱いのかモンスターが強いのか、あるいは両方なのか・・・とにかく納品が届かんのであれば仕事が溜まる一方だわぃ」

 

あー・・・・・そうなのか。でも、手助けしちゃ行けなさそうだよな。主に俺が倒して手に入れた素材を横流しにするような真似をだ。

 

「冒険者も弱くはないが、水晶のモンスターもまた強いのさ。俺も直接戦ってたからわかるぞ」

 

「むぅ・・・ドワーフの心の友も言うほどであるか。ならば、どうしようもないことか」

 

「依頼に出すほどだから水晶を求める依頼を他から受けたのか?」

 

「うむ、エルフからの」

 

あ、納得した。

 

「じゃあ、俺が集めてこようか? エルフ繋がりなら俺も手伝うよ」

 

「おおっ。頼まれてくれるか? ドワーフの心の友ならばすぐに集めてくれるな」

 

クエストが発生して、水晶の素材採取の納品クエストを引き受けた。

 

「・・・・・話が終わったな」

 

玉座の間に連れて来た張本人が静かに話しかけて来ては、俺に八本の赤と金色の二色の槌を渡してくれた。全てオリハルコン製だ。八本とも【STR+30】で【破壊不能】があり、八本中二本がスキル付きだった。

 

【破壊神の大槌】

 

【STR+30】

 

【大震】

 

【破壊不能】

 

 

【破壊神の大槌】

 

【STR+30】

 

【潰滅】

 

【破壊不能】

 

 

【大震】

 

30メートルの範囲内で対象を十秒間行動不能にする。再使用待機時間1分間。

 

 

【潰滅】

 

10メートル範囲内いるもの全てにこの装備の【STR】の二倍のダメージを与える。再使用待機時間1分。

 

 

「おお、強い! 水晶のモンスター相手にも通用すると思うぞこれなら」

 

「・・・・・また伝説の装備を融合する気か」

 

「ん? 多分すると思うぞ。」

 

「・・・・・ならば、もう一度作ってやる。その代わり、ここで融合する瞬間を見せろ」

 

ユーミルからの提案は取り敢えず了承して、ホームからオリハルコンを持ってきてもう一度頼んだ。

 

「そうだ。ユーミルも装備の強化が出来るんだよな? 強化に使う素材ってやっぱりオリハルコンだったりする?」

 

「・・・・・そうだ。望むなら強化する」

 

「じゃあ、また今度頼むよ。今はこの大槌で素材を集めに行ってくるから」

 

「頼んだぞ。ドワーフの心の友よ」

 

エレンからの言葉を背中に受けながら蠍とゴーレムを粉砕しに城を後にする。

 

 

宝饗水晶巣にはもう殆んどのプレイヤーの姿が見当たらない。モンスターが強すぎて倒せない原因で戦意喪失か心折られたプレイヤーは二度とこのエリアには行かないと宣言したと聞く。だけども、隠密で行動すればモンスターに襲われない発見をしたプレイヤーを筆頭に、音を立たせないよう行動するプレイヤーが増えたのだとか。しかし、今だけはそのプレイヤー達の事など知らない地龍と鉱石喰いが久しぶりに現れては暴れ回り、【金晶戟蠍(ゴール・D・スコーピオン)】と【黒晶守護者(ダーク・ゴーレム)】と【緋水晶蛇(ヨルムンガンド)】をその無数の配下を呼び起こしたせいで三つ巴の死闘が勃発してしまった。

 

「哀れ。観光気分で来たプレイヤー達」

 

助けなどもう間に合わないほど洗濯機の中で回る洗濯物の如く、モンスターの戦場の渦の中でポリゴンと化して死亡した運の悪いプレイヤーが何人も見かけた。

 

それに比べて俺という奴は・・・・・。

 

攻撃を受ければ反射ダメージを受ける。

 

大槌を振るえば簡単に吹っ飛んでいく。

 

溶岩と堕天使のスリップダメージを受ける。

 

ボスじゃなくても俺より巨体な水晶の蠍と人形に蛇の群れを相手に生き残って攻撃を当てるどころか倒しちゃっているんだよなぁ。俺が鎧を破壊されるダメージを受ける度にモンスターからHPをドレインしてくれる指輪の効果でさらに乗算ものだ。

 

『ジャアアアアアッ!!!』

 

「お、矛先を俺に変えたか。お前等がいると納品クエストどころじゃないからかかってこいやっ!」

 

緋水晶蛇が同族や水晶蠍と水晶人形を巻き込んで突っ込んでくる。迎撃態勢に入ってた俺は八つの大槌を力強く振るったのだった。

 

 

とあるパーティーの視点

 

「なぁ、白銀さんって防御特化のプレイヤーのはずだよな。なのに大槌を八つも持っているってどういうことだ? スキルか、俺達の知らないスキルなのか?」

 

「いま掲示板で白銀さんのこと書き込んだらさ、第8エリアで最大六つも装備枠を増やせる装飾品アイテムが手に入る話題で盛り上がってるぞ。そのアイテムを発見したのも白銀さんだ。攻略情報もタラリアに流されてる」

 

「マジで? あれ、スキルじゃないのか・・・・・どうする?」

 

「・・・白銀さんみたいに大槌を揃えてこのフィールドのモンスターを倒せるなら、ワンチャン狙いで手に入れるのもアリだな」

 

「大盾も八つ揃えて防御力を上げる・・・・・悪くないか」

 

「装飾品の装備が付けれなくなるぞ。せめて二つぐらい残そうぜ」

 

「戦術の幅が広がってくるなぁ。次の対ギルド戦の時まで模索しよう」

 

「その為には手に入れなくちゃならないぞ。行くなら行こうぜ。他のプレイヤーも現地で手に入れようとしているだろ」

 

「争奪戦に熱が入りそうだな。一つでも手に入ったら他のプレイヤーより有利になる」

 



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揃う極振りの矛と盾(大槌と大盾)

 

納品クエストを終えた。エレンからは大変喜ばれて少なくない報酬とステータスポイントを5も貰えた。

 

 

死神・ハーデス

 

LV111

 

HP 40/40〈+1000〉

MP 12/12〈+400〉

 

【STR 0〈+150〉】

【VIT 2065〈+6560〉】 

【AGI 0〈+150〉】

【DEX 0〈+150〉】

【INT 0〈+250〉】

 

 

装備

 

頭 【天外突破】

 

体 【黒陽ノ鎧・Ⅹ:覇獣(ベヒモス)/滲み出る混沌】

 

右手 【日食:・Ⅹ毒竜(ヒドラ)

 

左手【暁の境界・Ⅹ】

 

足 【黒陽ノ鎧・Ⅹ:覇獣(ベヒモス)/滲み出る混沌】

 

靴 【黒陽ノ鎧・Ⅹ:覇獣(ベヒモス)/滲み出る混沌】

 

装飾品 【真・生命捕食者】【三天破】【白妖精(ハイエルフ)の指輪】

 

 

称号:万に通じる者 不殺の冒険者 出遅れた者 白銀の先駆者 毒竜の迷宮踏破 大樹の精霊の加護 幸運の者 ユニークモンスターマニア 三代目機械神 聖大樹の精霊の加護 最速の称号コレクター 勇者 魔王の戦友 絆の勇士 村の救援者 幻獣種に認められし者 血塗れた残虐の勇者 エルフの良き隣人 世界樹の守護者 世界樹の加護 英雄色を好む 最速の称号コレクターⅡ ドワーフの心の友 神獣に認められし者 地獄と縁る者 マスコットの支援者 妖怪マスコットの保護者 宵越しの金は持たない ドワーフの協力者 神話に触れし者 ミリオンダラー 最速の称号コレクターⅢ ミリオネア トリオネア ガジリオネア 空と海と大地の救済者 億万長者 カジノの神様 富豪 大富豪 富裕層 資産家 大資産家 最速の称号コレクターⅣ 土精霊の加護

 

スキル

 

【絶対防御】【手加減】【逃げ足】【体捌き】【瞑想】【挑発】【極悪非道】【シールドアタック】【大物喰らい(ジャイアントキリング)】【咆哮】【毒竜喰らい(ヒドライーター)】【爆弾喰らい(ボムイーター)】【植物知識】【大盾の心得Ⅹ】【悪食】【受け流し】【爆裂魔法Ⅹ】【エクスプロージョン】【体術】【テイム】【採取】【採取速度強化大】【使役Ⅹ】【従魔術Ⅹ】【八艘飛び】【伐採】【伐採速度強化小】【機械神】【機械創造神】【宝石発見】【刻印・風】【水中探査】【侵略者】【破壊王】【背水の陣】【不屈の守護者】【鉱物知識】【古代魚(シーラカンスイーター)】【溶岩喰らい(ラヴァイーター)】【カバームーブⅠ】【カバー】【生命簒奪】【アルマゲドンⅢ】【海王】【勇者】【大嵐Ⅰ】【大竜巻】【稲妻】【飛翔】【生命の樹】【金炎の衣】【金晶戟蠍(ゴール・D・スコーピオン)Ⅲ】【黒晶守護者(ダーク・ゴーレム)Ⅲ】【緋水晶蛇(ヨルムンガンド)Ⅲ】【雌雄の玄武甲】【反骨精神】【身捧ぐ慈愛】【精気搾取】【皇蛇】【耐暑】【渦流】【色彩化粧】【耐寒】【氷結耐性小】【反逆心】【念力】【フォートレス】【不壊の盾】【決戦仕様】【植物学】【蟲毒の呪法】【日刀】【料理50】【調理50】【調合50】【復讐者】【反転再誕】【天王の玉座】【連結】【救済の残光】

 

 

「改めて見ると・・・ほんと5桁、いったなぁ」

 

天井知らずの俺の【VIT】はどこまで上り詰められるのだろうか?ステータスを見つつこんなに成長する前の自分の頃がとても懐かしく感じる。噴水広場に腰を落としていると、新規のプレイヤーか初心者の装備と格好の姿でログインしてくる日本人の他にも外国人も参入する姿が多い。上京した人のように仮想現実世界の風景を見回し、クエストか狩りをしに遅い足取りで歩き始める。

 

「うう・・・またパーティー参加を断られてしまった・・・・・やっぱり極振りって駄目なのかなぁ・・・」

 

「元気出してお姉ちゃん! ・・・まだそんなにやってないしデータ作り直そうか?」

 

「でも・・・・・」

 

右から聞こえたその声に、極振りという言葉に意識と視線をそっちの方向を見る。俺は立ち上がっていまだ話し続けている二人の少女に近づき声をかけた。

 

「こんにちは。ちょっといいかな? 極振りと聞こえたんだが」

 

声をかけると二人が同時に振り返る。二人は背の高さと顔と武器が完全に一致していた。誰もが双子という第一印象を持つだろう姿だった。違う点は励ましていた方のプレイヤーが白髪で励まされていた方のプレイヤーが黒髪な所だけだ。白髪の方のプレイヤーが俺に返事をする。

 

「えっ・・・な、何ですか?」

 

「ああ、ごめん。自己紹介から先だな俺は死神ハーデスだ。他のプレイヤーからは白銀さんなんて呼ばれてる」

 

「白銀さん? 私達、急いでるので・・・・・」

 

めっちゃ怪しまれて距離を置かれてる。こんな反応をされるのは初めてだ!

 

「単刀直入で言うが、俺のギルドに入らないか?」

 

「・・・・・え? いや、ありがたいですけど・・・あなた高レベルプレイヤーですよね?装備からしても・・・いいんですか?」

 

少女は俺に対してほぼ初期装備の自分達が釣り合わないと感じているようだ。何かとても新鮮だ!

 

「問題ない。極振りの楽しさを知らないままでキャラを作り直すなんて勿体ないと思ってな。俺のように防御力極振りじゃなくても、レベル上げとかスキルの取得ぐらいは手伝えるよ」

 

二人の少女は当惑の顔を見合わせ悩んでいる。話の続きはホームですることにして、居間のテーブルを挟んだ形で座る。

 

「因みに二人はどのステータスに極振りを?」

 

「【STR】です」

 

「おっ、それか! じゃあ、このスキルなら二人にピッタリだな」

 

【破壊王】と【侵略者】のスキルのステータスを見せる。

 

「【破壊王】と【侵略者】・・・・・どっちも【STR】がかなり必要なスキル、なんですね?」

 

「そうだ。これらのスキルを手に入れたら、一撃で弱いモンスターを簡単に倒すことができる」

 

「お姉ちゃん、これ、今の私達に必要なスキルだよっ」

 

白い少女が黒い少女に興奮気味で手に入れるべきだと促す。黒い少女は白い少女の言葉に同意する風に小さく頷いた。

 

「あの、ギルドに入ったら手伝ってくれるんですか?」

 

「入らなくても手伝うさ。言ったろ、極振りの楽しさを知らないのはもったいないって」

 

今度は黒い少女が白い少女と顔を見合わせて小さく頷き、こっちに顔を向けてペコリと頭を下げた。

 

「じゃあ、お願いします。死神ハーデスさん」

 

後に白髪のプレイヤーの名前がユイで黒髪のプレイヤーの名前がマイ。

レベルは二人共4でスキルは一つも持っていなかった。

二人の武器は大槌で、低身長の二人の1.5倍はあるハンマーであることがわかった。パーティーを結成して、二人を抱えて【飛翔】で素早く毒竜のいる部屋へ突入した。

 

「んと、二人にはあとでこれもあげるよ」

 

「【救いの手】・・・ですか?」

 

「右手、もしくは左手の装備枠を合わせて二つ増やす。つまりこれ一つで大槌をもう二つ装備できて、四本の大槌で攻撃することができる」

 

「すご過ぎませんか!?」

 

「凄いだろうな。だから全部揃えると八本の大槌をこんな風に」

 

ドガガガガガガガッ!

 

八つの大槌でポリゴンと化していく毒竜を瞬殺してみせた。しかも攻略時間が新記録更新だ。

 

「倒せる今の俺は大槌とアイテムで【STR】を390も強化している。【侵略者】の効果で二倍増えるから780になるが、二人は純粋な攻撃力極振りプレイヤーだ。今後俺よりも【STR】をもっと高めることができ強いプレイヤーになるよ」

 

「私達が・・・」

 

「強いプレイヤーに・・・・・?」

 

町に戻る転移魔法とダンジョン入り口の前に戻る転移魔法の二つが浮かび上がり、俺達はダンジョン入り口前に戻る方に転移した。

 

「よし、これをあと九回も繰り返すぞ二人とも。今度は二人も一撃を入れような」

 

「「はいっ! よろしくお願いします!」」

 

十回も毒竜君の犠牲になってくれたお陰で、マイとユイは一日でレベルが20も上がり【破壊王】と【侵略者】のスキルを手に入れられたのだった。

 

後日・・・・・。

 

「セレーネ。一級品の十六本の大槌を作ってもらえる?」

 

「え・・・なんでそんなに?」

 

「初心者のマイとユイって攻撃力極振りの双子の姉妹を勧誘したんだ。両手に二本、六本ずつ持てるアイテムをこれから俺が調達するからさ。それがこんな感じ」

 

「白い手だけ浮いてる・・・うん、わかった。初心者の姉妹なんだね? イズと紹介してくれるかな?」

 

「わかった」

 

イズとセレーネにマイとユイを会わせ、セレーネには大槌を任せてるからイズが防具を作る担当に任せてくれた。

 

「そうだ。イズ、ユーミルに頼んであるユニークの大槌とイズの大槌を融合させていい?」

 

「いいわよ」

 

装備も用意して初心者の双子はより強力なプレイヤーへと至っていくのであった。

 

「ユーミル。完成したか?」

 

「・・・・・人数が多いな」

 

「この二人にユーミルの大槌を譲ろうと思って連れてきたんだ。いいか?」

 

「・・・・・お前の物だ、構わない」

 

「ありがとう。じゃあマイとユイ。セレーネが用意してくれたメインに使う大槌を二本と、こっちの大槌の二本を選んで『融合の秘薬』を掛けてみてくれ」

 

「「は、はいっ」」

 

緊張気味で四つの秘薬を四本の大槌にかける二人のメインとなる武器が一つに融合し、新たな姿と力を得た。残りの大槌は俺も融合させたことで新たな姿と力を得てさらに強化した。

 

「・・・・・それがアレ?」

 

今日までの経緯、俺の話を聞いた上で、イッチョウが信じられないものを見る目で一人八本の大槌を持ち、二人で十六本の大槌を持って試し用の人形を吹っ飛ばす双子を指して言う。

 

「防御力特化が三人に攻撃力特化が二人って・・・・・このギルド、混沌と化していませんかね」

 

「混沌は生温いだろ。メイプルとサリーも俺が手に入れたスキルで強化したし、メイプル用にオリハルコンの装備の製作を専属鍛冶師にお願いしているから、魔の巣窟と化するぞ」

 

「その中に私も入っているんだねぇ・・・・・」

 

「未だノーダメージのプレイヤーはお前しか知らないんだが?」

 

「あ、はい。私も普通ではないことは自覚してます」

 

よろしい。自分だけ普通枠でいようとするのは俺が許さんからな。

 

「というか、お前もサリーを連れて強化を図ってるようだな」

 

「あの子と私ってば似てるからねぇ。今じゃ気が合う仲でいるよん」

 

「だったら俺はメイプルも強化しようかな。都合よく【破壊成長】みたいなスキルが手に入るはずはないけど」

 

そのはずなんだが・・・そのはずなんだが・・・・・。いざメイプルとヘパーイストスから装備を受け取りに向かうと・・・・・。

 

濡れ羽色を基調として所々に鮮やかな深紅の装飾が施された大盾。

 

重厚な輝きを放ち、薔薇のレリーフが目立ち過ぎずそれでいてしっかりとした存在感を持つ様に彫られたいかにも先程の大盾に合いそうな鎧。

 

そして、美しく輝くルビーが埋められている鞘を持つ落ち着きのある漆黒の短刀。

 

「ヘパーイストス、これって・・・・・」

 

「坊主が以前愛用していたもんと似せてみた。俺も神匠になったから古代の古匠や神匠の鍛冶師達のように後世に伝える伝説の装備を残してみたくてな」

 

誇らしげに語るヘパーイストスの話を聞く俺の隣で、装備を受け取ったメイプルがとても嬉しそうにはしゃいで、ステータスを確認している。

 

「装備一式、スキルあるか?」

 

「おうとも。鍛えれば育つようなスキルだぜ」

 

鍛えれば育つ・・・・・?

 

「メイプル、スキルはなんだ?」

 

「えっと、【鍛練熟成】! 装備にダメージを受ける度ステータスが+5増えるみたいです!」

 

「どのステータス?」

 

「全部です!」

 

「へ、へぇ・・・・・?」

 

オールラウンダープレイヤーの誕生しちゃうんですか。そうなんですか・・・・・。

 

「ダメージを受ける・・・・・となると、ステータスを上げる絶好の場所があるんだが行ってみるか?」

 

「どんな場所ですか?」

 

純粋無垢に場所を知りたがる少女に信じられない場所を教える。

 

「火山」

 

・・・・・。・・・・・。・・・・・。

 

・・・・・。・・・・・。

 

・・・・・。

 

イカルも誘いラヴァ・ゴーレムを倒しレベル上げと火山のマグマ風呂にてステータスを上げる日課となった。俺達以外の皆もそれぞれ次のイベントに向けての準備を始めてるが、イベントの三日前となったその日・・・メイプルとサリー、イカル、マイとユイも呼んで明日のオーブ争奪戦の会議を始めた。

 

「期間は五日間だから初日は転送先のフィールドのマッピングと他のギルドの位置の把握は当然だけど優先しよう」

 

「情報戦は大切だね。でも、意図的にテイマーとサモナー、生産職のプレイヤーが殆どな私達のギルドは人数が他のギルドより多いけど全体的に戦力は低い方じゃない?」

 

「低かろうが弱くはないんだ。危ないならカバーし合えばいい」

 

「それで、オーブを守る拠点防衛は誰で何人にするんだ?」

 

当然それはだな。

 

「初日は俺とイカル、マイとユイの防御と攻撃力極振りコンビでやってみたい」

 

「うん。私もそれでいいと思うよん。ハーデスほど凄い防御力特化のプレイヤーはまだいないし、イカルちゃん達もかなり強くなったからね」

 

「ハーデスさんのおかげです!」

 

「ですから私達も」

 

「たくさん敵を倒してオーブを守ります!」

 

物理的に死を振りまく姉妹・・・・・俺でも敵だったら近寄りたくない方だろうな。

 

「サリーは基本的にイッチョウと二人一組で組んで行動をしてくれ。メイプルは防衛に回したい」

 

「うん。最初はその方がいいかもね。メイプルは攻撃力ないからね」

 

「でも、【悪食】で何とかしてみるよ!」

 

おっと・・・・・? 教えてもないのにそのスキルを取得してしまわれたか?

 

「それ、装備に付与できたっけ?」

 

「大盾にできました! ・・・・・あれ、ハーデスさん。どうしたんですか? 凄く困った顔をしてますけど」

 

そりゃあ困るわな・・・・・

 

「・・・大盾に付与しちゃったか。いや、強いんだよ? 何でもかんでもMPに変換しちゃう最凶の攻防となるスキルだから。でも、それはパワーバランスを崩してしまうんだ。【悪食】だけ使ってると、後で絶対運営が【悪食】の使用制限の設定を変えるぞきっと」

 

「ええっ!?」

 

驚くメイプル。そこまで考えに至っていなかったか。

 

「まぁ、過ぎたことを気にしてもしょうがないよ。ハーデス君の必殺技の【悪食】は他のプレイヤーにはあまり知られてないでしょ? メイプルちゃんもそのスキルがあることはここにいる皆にしか知らない。思い切り目立ってもらおうじゃん」

 

それもアリだが、今回のイベント限定になるだろうな。

 

「そうだペイン。誰かギルドに誘えなかったようだな。見つからなかったか?」

 

「先越されてしまったんだ。炎帝のミィのギルドに誘おうとした大盾使いのクロムと刀使いのカスミをね。他にも聖女ミザリーとトラッパーマルクス、崩剣のシンもだ」

 

「炎帝か。他のギルドもこれから台頭してくるだろうから、状況の流れ次第で調べようかな」

 

そこで質問と挙手するセレーネ。

 

「ハーデス、テイマーの話だけど連れてくるモンスターは決まった?」

 

「最大五体までしか連れられないからなぁ。まぁ、ミーニィとフェルとフレイヤにベンニーアとエンゼとルーデルだな」

 

「光と闇の精霊も連れてくの?」

 

「ベンニーアは異形召喚ってスキルがあるから戦力を増やせるんだ。エンゼとルーデルはプレイヤーにすべての成功率に補正がかかるスキルや状態異常を回復するスキルがある」

 

納得した面持ちの皆の中で、メイプルとサリーにはミーニィの背中に乗ってもらうつもりだと言う。

 

「空からの奇襲だ。イズ達から爆弾なり何かしらのアイテムをもらって、相手を翻弄しながら戦ってくれ。用意はできてるんだよな?」

 

「もちろん! ハーデスから十億Gも寄付してくれたから新作のアイテム生産が凄く捗ったわっ!」

 

「まだたくさん残ってるから、出来上がり次第追加分を渡すね?」

 

「だ、そうだ。新人のマイとユイにもお小遣いあげるから、好きなもの買うもいいよ。リアルマネーに換金してもいいし」

 

「だな。俺達もハーデスのお陰でリアルじゃ億万長者だぜ」

 

「仕事止めてもこのゲームで稼げるからな」

 

それができるぐらいのメダルを分けたから当然の極み。

 

「いつかダメ人間になりそうだねこの二人」

 

フレデリカからの一言に、ならねぇよっ! と揃って異を唱えるドラグとドレッドだった。微苦笑浮かべる皆に手を伸ばす。 

 

「まっ、リアルの話はまた今度。集まったときはバーベキューでもしよう。その約束をする前提として、次のイベントで目指すは上位だ」

 

俺の言動を察して俺の手を重ねる皆が異口同音で言った。

 

「異議なし!」

 



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ギルド対抗戦1

ギルド対抗戦のイベント当日。集まった【蒼龍の聖剣】の戦闘員は100人も満たない。圧倒的に生産職のプレイヤーが多く知り合いの戦闘系のフレンドは、全体の一割ぐらいしかいないんじゃないかな。生産職でも戦えるプレイヤーはさらに少ない。だが、NWOがサービス開始からプレイしてる生産職のプレイヤーの三分の一が、俺が知らず俺を一方的に知ってるプレイヤーがギルドに入ってくれたので様々なアイテムの供給が潤沢だ。

 

―――別の話になるが俺とオルト達が育ててるアイテムを善意で回すようになってから、何故か農林水産大臣なんて変なあだ名をつけられる。

 

「さて、楽しく勝ちに行こうか」

 

光に包まれる俺達はイベント用のバトルフィールドへ転送された。

 

光が薄れ、八人の目の前に見えたのは緑色に輝くオーブとそれが乗った台座である。ここが自軍であることはすぐに理解出来た。

 

【蒼龍の聖剣】は大型のギルドなため、防衛には適さない上に身を隠せない崖に囲まれ、ミーニィに乗って確認してもらったイッチョウから告げられる切り分けられたホールケーキの地形にオーブがあるようだ。

 

「しかもね。多分バトルフィールドの中心にあるよここ」

 

「なるほど? 向こうからすれば、他のギルドと結託して一つのギルドに集中砲火を可能にする適した場所か」

 

崖の間を通りオーブがあるこの場にまで進まないといけないならば、それを防ぐ方法は一つしかないな。

 

「白銀さん。それなら俺達の従魔がここの拠点の出入り口を塞ぐことができますよ」

 

俺達の拠点の不利さをカバーできると名乗り出たエリンギと新規のテイマー。二人の足元には複数もガラス玉を埋め込めたようなダンゴムシが六匹いた。

 

「その虫、大きくなったな?」

 

「一度進化したら大きくなりました。防御力を高めるスキルも覚えましたので」

 

「あそこまで大きくなる虫に防御力も高まるのかよ」

 

「とはいえ、プレイヤーに倒されないわけではないので時間稼ぎにはなるかと」

 

周りをぐるぐる回ってもらって入り辛くさせるか?

 

「よし、自分の考えを実行できるなら他の皆もそうしてくれ。他にも東西南北の通路を一本ずつ残し、それ以外は毒とトラップで塞ぐ。どれだけのプレイヤーが毒の耐性と無効のスキルを持っているか分からないが、するのとしないのとでは違ってくる」

 

「そうですね! 私もそれがいいと思います!」

 

「【毒無効】じゃなかったら耐性を身に着けようとダメージは受けますしね!」

 

イカルとメイプル以外の皆も異論はないと、毒はこれから使わない道にばら撒くことも決定。当初の予定通り、オーブを守る担当以外のメンバーはオーブを奪取しに向かった。

 

「フレイヤ、フェル。お前達もこのオーブを探して見つけたらここに持ってきてくれるか?」

 

『自由に動いていいにゃん?』

 

「このフィールドにいる間でも自由に動いていいぞ。ただし、【蒼龍の聖剣】の仲間の手助けが必要だったら、見かけた時だけでいいから助けてやってくれ。ああ、夜になったら戻って来いよ」

 

「グルル」

 

『にゃ~ん、食べ放題だにゃー!』

 

単独でも強い魔獣と幻獣を野に放ち、防衛担当の俺達も準備万端にする。

 

「【毒竜】!」

 

「【毒竜】!」

 

「【毒竜】!」

 

メイプルも毒竜を・・・・・いや、何も言わん。毒で塗り潰し入る意欲を殺す毒々しい状態にしていく他、トラバサミやシビレ罠に落とし穴も設置した。踏めば爆発する、踏めば空に吹っ飛ばされる、踏めば・・・・・等々、毒と罠満載の俺達の拠点となった。

 

「「終わりました!」」

 

「よし、ここにいる間は毒がなくなったら直ぐに撒き散らすぞ。それまではのんびりとオーブを守ろう」

 

敵だろうと味方だろうと、誰かが来るまで俺達のゆとりの時間は続く。

 

 

イッチョウside

 

巨大化したミーニィの背中に乗ってサリーちゃんとマッピングする。姿を見られても直ぐに離れるから攻撃をさせないし、上から見下ろす私達はどこに他ギルドの拠点があるのか把握できる。

 

「イッチョウ、ノーフェイス・・・ハーデスと同じ学校に通ってるの?」

 

「うん、神奈川県の川神市にある学校でね」

 

「そっか。ならハーデスも同い年なんだ」

 

※100歳以上です

 

「サリーちゃんとハーデスが知り合いだったのは意外だったなぁ」

 

「個人的に一方的なライバル視をしているけどね。向こうは私なんか眼中無しでゲームそのものを楽しんでるっぽいし」

 

「対戦できる相手なら誰でもいいって感じじゃない?」

 

「それでもゲーマーとして眼中無しなのはアレなんでね。このゲームで私という存在を無視できなくさせてやる目標が出来たよ。ふふふ・・・・・強くなった私を驚かしてやる」

 

ゲームに対する闘争心が強い子だ。応援したくなるねぇ・・・・・。

 

「じゃあ、同じ装備を持つ先輩として私が知る限りのハーデス君のスキルの情報を教えるよん」

 

「そんなことしていいんですか?」

 

「教えても本人はアドバンテージにすらならない強いから。寧ろ伝授できるスキルがあるなら教える方じゃないかな。今のところ、なんとか行けそうなのはペインさん以外いなさそうだからね」

 

話している内にまた他のギルドの拠点を発見した。でも、そこはオーブを掛けた戦いが・・・・・。

 

「うわぁああああっ!? デカい狼だぁーっ!!」

 

「違う、こいつは白銀さんのフェンリルだ!! 近くに白銀さんもいるかもしれねぇぞ!!」

 

一匹の白銀の狼に中規模のギルドが翻弄され、全滅されはしなかったけれどオーブを奪われてしまい逃げる狼を追いかけるプレイヤー達の姿を眼下で見れた。

 

「テイマーってあんなことも出来るんですね」

 

「私も初めて知ったところ。サリーちゃん、あのフェンリルとハーデス君と同時に戦って勝てって言われたら勝てる?」

 

「無理です」

 

だよね。訊いた私も勝てる気がしない。

 

 

フレデリカside

 

 

「くそったれ! よりにもよってペイン達が来るのかよ!!」

 

適当に探して歩いた先は、何度も別のパーティーとして一緒にレイドボスと戦ったプレイヤー達がいるギルドだったらしい。四人しかいない私達相手にオーブを防衛している向こうは七人。

 

「ここは前線組・攻略組のギルドのようだな。顔見知りが何人もいるし、こりゃあお互い戦い方を知っている間だから簡単にはオーブを奪えないな」

 

何てというドラグだけど、負けない自信の表れを顔に浮かべてるから負ける気はさらさらないことがわかる。私達もそうであるけれど、向こうは数の利でも劣ると判断したのか逆の判断をした。

 

「オーブを持って逃げるぞ! 勝てない奴らなんかと戦ってステータスを下げる真似は避けるんだ! 生き残ることが重要だ!」

 

「【超加速】」

 

【AGI】を上昇するスキルを使うドレッドが、高く跳躍してオーブへ一直線に向かい、回収される前にこっちが回収してくれた。

 

「悪いが、こっちも手ぶらで帰るわけにはいかないんでね」

 

「返しやがれ!」

 

攻略組のプレイヤーの一人が剣のスキルを使って斬りかかる。でも、私の【多重炎弾】で牽制してドレッドの離脱をフォローする。

 

「【海大砲】!」

 

三つの大きな水色の魔方陣から膨大な水の塊が飛び出し、目の前の六人が呑み込まれつつ全身から溢れるエフェクトのポリゴンを残し倒れていった。

 

「まずは一つだな」

 

「私達なら取れないオーブはないけどねー」

 

「総合ランク上位の俺達が負けるなんてことあったら事が事だしな」

 

「このイベントで総合ランクの変動ってするのか?」

 

さぁ、するならするでどうでもいいし。私達はいつも通り楽しむだけだよ。

 

 

ラックside

 

 

「数はこっちが上だ。押せぇっ!!」

 

「「「「「おおおー!!」」」」」

 

ユージオの命令に動くFクラスの皆(一部を除く男子生徒のみ)。あっちは10人以下でオーブを守っているけれどこっちはその二倍の数の有利を活かして真正面から攻撃していく。

 

「で、僕等は何もしなくていいんだ」

 

「一人の相手に二人でかかれば余裕で勝つ。俺達の出る幕なんてないだろ」

 

「そうじゃな。ワシらは予想できないイレギュラーに対して警戒すればいいじゃろう」

 

「・・・・・他ギルドからの襲撃」

 

「この人数を相手に戦いに挑んでくる人っているのかしら?」

 

「たとえどんな人だろうと皆さんを回復しますね」

 

「ユージオを守るのは妻の役目・・・・・」

 

「・・・・・ハーデスのギルドを勝たせるのも妻の役目」

 

「結婚してないんだからまだ妻じゃないでしょ二人とも」

 

「アハハ、気合入ってるねー」

 

Aクラスのユーコさん、翔子さん、翔花さん、アイコさんも一緒にハーデスのギルドに入った今、僕達とオーブの奪取のため行動してくれている。確かにこの人数を相手に少数で挑んでこようなんてプレイヤーは、総合ランク上位のプレイヤーしか―――。

 

「【噴火】」

 

その時、どこからか声が聞こえたと思ったら目の前に迫る炎が僕の視界を赤く染めた・・・・・。

 

 

拠点の防衛をしてからそれなりに経った頃。拠点の周囲を動き回り続けるエリンギたちの巨蟲を掻い潜って、運よくトラップがない道から侵入してきたのだろう他ギルドのプレイヤー達が襲撃してきた。

 

「よし、ここは当たりのようだ。女の子が三人しかいないぞ」

 

「悪いなお嬢ちゃん達。オーブを貰うぜ」

 

【色彩化粧】を発動中の俺とイカルの存在に気付かないプレイヤー達はメイプル達へ攻撃を仕掛ける。

 

「【毒竜】!」

 

「上等! 毒状態なんて直ぐにHPがなくなるわけでもないぜ!」

 

それは襲撃してきたプレイヤー八人全員、同じ気持ちだろう。避けもせず自ら毒を食らいに突っ込んでメイプルに肉薄しかかる。

 

「【飛撃】!」

 

「【ダブルスタンプ】!」

 

「―――は? はっ!? お、大槌ぃっ!?」

 

なんで人の手で持てる数以上の大槌を装備してるんだっ! という気持ちを込めて叫んだプレイヤーが、メイプルに近すぎたために真上からの死を回避できず一撃で叩き潰された。

 

スキルにより光るユイの大槌から衝撃波が飛ぶ。それは必殺の一撃。それに直撃したプレイヤー達は軒並みに吹っ飛ばされ、メイプルの毒のダメージもあって死に戻りしたのだった。しかし、まだ生き残りのプレイヤーがいる。

 

「【パラライズシャウト】!」

 

「ぐっ!?」

 

「ま、麻痺かっ!」

 

「ちくしょうっ、数少ない相手に負けるなんて―――!」

 

「「ええい!」」

 

ドガンッ! とまた三人叩き潰されて、たった三人だけで勝ち残り八人のプレイヤーを倒した大挙に俺とイカルは拍手を送った。

 

「よくやったな。三人だけでも十分強いじゃないか。初めての連携も出来たし、この調子ならガンガン攻めても勝てるな」

 

「凄いです三人共!」

 

「いやー、それほどでも!」

 

「「ありがとうございます!」」

 

相手は三人、しかも小さい女の子という見た目で判断したプレイヤー達の敗因だ。ま、八つも装備できるなんて思いもしなかっただろうな。マイとユイの強さはそれと【STR】極振りだ。これを乗り越えるプレイヤーじゃなければ倒せないし勝てもしない。姉妹の前で地面を赤く染めるだけの結果になるだろう。(染まらないがな)。

 

「ハーデスさんとイカルさんも一緒に戦いませんか?」

 

「いいけど、イカルはともかく俺を一目見るなり他のプレイヤーが逃げ出しそうだからなぁ・・・・・」

 

「そうなんですか?」

 

「うん、前回逃げられたから。まぁ、対策はしてるけど・・・・・見る?」

 

「見てみたい!」

 

メイプルとマイとユイが頷く。なので格闘士の装備に変えた状態で【皇蛇】のスキルを発動する。性別が男な俺は、体つきと顔つきが女に変化したので三人は目を大きく見開いた。

 

「お、女の人になった!?」

 

「はい。ハーデスさんはお姉ちゃんになれるんですよ」

 

「スキルの効果でね? これなら私が死神ハーデスなんてこのスキルを知る人以外は気付かれないわ」

 

「声まで女の人に・・・・・」

 

「凄い、全然違和感が感じません」

 

でしょう? ほら、ギューッと!

 

「わわっ、身体も柔らかいっ」

 

「ハーデスさんに抱きしめられてるのに、女の人に抱きしめられてるって思ってしまいます」

 

双子を抱きしめ、女子だけの会話の花を咲かせている拠点で多くのプレイヤーが現れた。ただしそれは【蒼龍の聖剣】のギルドメンバー、味方であり―――全員が一回死亡した意味だ。

 

「み、皆さんどうしたんですか?」

 

「すまぬ。敵の奇襲に皆やられてしまったのじゃ」

 

「そうだったんですか」

 

「皆同時に? 相手は誰でした?」

 

「強力な炎を使う相手だったな。名前までは知らねぇ」

 

ユージオ達を一纏めに倒し退けたプレイヤーで炎使い・・・・・十中八九上位のプレイヤーだろうな。

 

「うん? なぁ、あそこにいるプレイヤーは誰だ。見掛けない顔だな」

 

「お姉ちゃんです!」

 

自信満々に断言したイカルの発言は、ユージオ達に首を傾げさせた。だが、他は目の色を変えて俺の前で瞬時に近づき跪いてきた。

 

「お美しいお姉さん。どうか、お名前をお聞かせくださいませ!」

 

「ハーデスだけど?」

 

「・・・・・は? ハーデス、だって? ふぁっ・・・!」

 

目の前にいるプレイヤーの顎を添えるように触れると、たちまち顔を朱に染めて初心な反応をした。それを愉快気に微笑み、二十メートルぐらい離れて俺は黒い翼を生やす堕天使の姿となり出現させた玉座に座る。王の足元まで近づくのは許されないばかりの赤黒く光るサークルの中心から語り掛けた。

 

「我は王、堕天の王ハーデス。私の使徒達よ、まだ戦う気力があるならば再び死地へ赴きオーブを集めて来なさい。一番集めた者には相応の報酬を約束するわ」

 

―――っ!!!

 

不敵な笑みを浮かべ死に戻りしたばかりの男性プレイヤー達に命令した。すると、何かに触発されたのか、骸骨の仮面と黒いマントを着用し、本来の武器ではなく大鎌を装着したのだった。

 

「我が主よ! 我が命を貴女様の為に捧げると今ここに誓います!」

 

「「「「「誓います!」」」」」

 

「ならば我が愛しき使徒達よ。その誓いを我がギルドの為に貢献をしなさい。敵をせん滅しオーブを全て夜までに私の元へ集めるのがあなた達の義務。期待、しているわよ?」

 

ウォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!

 

欲望に忠実な俺の使徒となったプレイヤーは興奮して雄叫びを上げると、死に戻ったばかりだというのにオーブを奪取しに走り出していった。彼等を見送った後は元の姿に戻って呆れる。

 

「あいつらアホだな」

 

「本当にお前だったのか! なんださっきの姿は!?」

 

「スキルの効果だけど何か? ほら、お前達もさっさと戦場に戻ってオーブを集めてこい。ここに戻るのは早過ぎるぞ」

 

「・・・・・新作入荷」

 

「したいならば結果を出せトビ。協力はしてやる」

 

ユージオ達ももう一度オーブを奪いに向かった。オーブを防衛する俺達は、その後も奪いに来る他ギルドに警戒する時間を過ごした。

 

 

・・・・・。・・・・・。・・・・・。

 

・・・・・。・・・・・。

 

・・・・・。

 

 

その日の夜。バトルフィールドの全体図のマッピングを終えたイッチョウとサリーが一度集結した皆の前で公開する。一日でよく調べ上げてくれた二人とミーニィに大きな拍手を送り、どこのギルドから奪ったのか教え合ってオーブを奪う順番も決めた。

 

「現在【蒼龍の聖剣】は早くも一位なのは幸先がいいな。皆お疲れ様ー」

 

「防衛の方も大変だったんじゃない?」

 

「そーでもない。動きが遅くとも攻撃と防御の極振りプレイヤーが集まれば多人数相手でも勝てたぞ。主にメイプルとマイとユイがな」

 

「ハーデスは何してたの? サボり?」

 

「・・・・・俺を見るなり逃げられるんだよ」

 

「ハーデスさんと戦っても勝てる筈がないーって言いながらです」

 

戦いすら起きなかったのは一度や二度だけではない。質問したフレデリカはイカルの言葉に物凄く納得した様子で、そっかと相槌を打った。

 

「テイマーの皆もご苦労だった。テイムしたモンスターも倒されやすいから戦闘面は苦労しただろうに」

 

「それを承知でイベントに参加したんだ。明日も頑張るぜ」

 

「このギルドの為にちょっとでも役に立ちたいからニャー」

 

「他のギルドには見かけなかったテイマーやサモナーが【蒼龍の聖剣】で活躍してるんだ。テイムしたモンスターと戦えることをこのギルドで証明してみせる! なぁ、皆!」

 

おうっ! とオイレンシュピーゲルの声に応じるサモナーとテイマーのギルドメンバー達。負けても勝つ意欲は変わらないのはいいことだ。俺やペイン達がいるから、どんなイベントでも上位になれるという期待感も含まれているだろうがな。

 

「さて、それじゃあイッチョウとサリーのおかげで明日の【蒼龍の聖剣】の動きを伝える。【蒼龍の聖剣】は小規模ギルドを絶対に一切手出ししない」

 

「それは何で? すぐに集めれるのに」

 

「その気持ちは他のギルドも同じだ。だから敢えて襲わない。その代わりに大規模と中規模のギルドのみ戦力を集中させる。そうすればオーブを奪われた後じゃなくて奪った後に、【蒼龍の聖剣】が奪える。敵を倒してもオーブがない空振りは時間と体力の無駄になるからな」

 

「なるほど、効率よく集めるならそれが一番かもね」

 

納得してくれてありがとう。

 

「そして標的のギルドは必ず一人も残さず全滅するぞ。四回も倒せばペナルティでステータスはかなり減るから俺達の敵ではなくなる。今の順位を固定するためにも相手にオーブを与えず消滅させたほうが楽だし」

 

「オーブを集めつつギルドを壊滅させてオーブを消滅させる、か。随分と面白い考えをするんだなハーデス? それは何日で出来ると予想しているんだ?」

 

ユージオの質問に対して指を四本立てた。

 

「四日、早ければ三日かな? ま、急いでやることじゃない。明日から【蒼龍の聖剣】は大規模と中規模のギルドのみを狙う方針は変えないがな」

 

「私達のオーブの防衛担当は誰に?」

 

「俺が持っていく。オーブがなければ他のギルドは奪えもしないからな。誰が俺達のギルドのオーブを持っているかなんてわからないし、皆が手に入れたオーブは俺が取りに行けばすぐに集まる」

 

「奪われたオーブは居場所をマップで表示するから・・・ああ、ハーデス君から奪い返すなんてほぼ不可能だねぇ」

 

理解したイッチョウを始め、ペイン達も同感だと頷きだす。

 

「ということで【蒼龍の聖剣】は総戦力で動くぞ。明日に備えて今日はゆっくり寝てくれ。寝ずの番は俺達がする」

 

フェルとフレイヤ、ミーニィに目を配らせ使えなくした道以外の三つの道へ待機してもらいに行った。

 

「白銀さん、一人で大丈夫ですか?」

 

「大丈夫だ。心配ならそっちはそっちで寝ずの番をしててくれ。フェル達も絶対ではないから、寝込みを襲われないようにそっちも気を配ってくれ。でも、明日は総戦力で行く。寝不足になるのは覚悟しろよ」

 

「わかりました。では、こちらはこちらで相談して決めますね」

 

エリンギと話し合った末に外と中の見張りをする事にして、俺はエンゼとルーデル、ベンニーアと一緒に残りの一つの道でオーブを奪われたギルドの侵入を阻む壁となった。



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ギルド対抗戦2

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ギルド対抗戦二日目。【蒼龍の聖剣】は拠点を放棄、他ギルドからオーブを10個集めるまでは回収しに行かないと旨も伝え、もしもの時はオーブを餌にして生き残るように言った。

 

「せっかく集めたオーブを捨てるなんて」

 

「何言ってるんだ? 向こうのオーブを返さない限りは得点にならないんだ。俺のように拠点のオーブを持って移動しているわけじゃないから、奪われても自分達の拠点にオーブがないんじゃあただの宝の持腐れだぞ」

 

「もしも奪ったオーブも返したら?」

 

「やることは変わらない。自分達じゃできないなら仲間を呼んで、もう一度敵をせん滅して奪い返せばいい」

 

【蒼龍の聖剣】出撃!

 

皆とは一緒に行かず単独で動く俺が最初に運んだ先は中規模のギルドがいる拠点だった。俺の姿を見るなり相手は絶望に打ちひしがれた表情を浮かべているが、慈悲はない。

 

「今まで新装備を使うまでもなかったが、ここは使わせてもらおうか」

 

水晶の大盾を二つ両手で持って装備する。

 

 

『魔水晶の大槍盾』

 

【VIT+20】

 

【INT+15】

 

【蛇腹槍】

 

【魔結晶】

 

 

『魔水晶の大剣盾』

 

【STR+20】

 

【AGI+15】

 

【蛇腹剣】

 

【魔結晶】

 

 

 

【蛇腹槍】

 

10メートルまで伸縮可能になる。

 

【蛇腹剣】

 

10メートルまで伸縮可能になる。

 

【魔結晶】

 

一日に一度。二対一対の大盾を結合することで使用者自身に新たな鎧となって装着した時、内包されている三つのスキルが使用可能。

 

 

二つの大盾と重ね合わせた状態で【魔結晶】を発動すると、大盾から溢れ出るように俺ごと水晶と化した。それから水晶の塊から出る俺はスキルの説明文通り、新しい鎧となった装備を装着して出て来た。三対六枚の水晶の翼を背中に生やし、水晶の鎧の姿を身に纏った姿で。・・・・・大盾の要素はどこへ消えた?

 

ふむ・・・・・元々装着していた装備のスキルも使えるのか。そして内包されてるスキルは・・・・・。

 

「まぁいい。倒そう 【連結】【エクスプロージョン】―――【咆哮】」

 

無差別ではなく【咆哮】の効果を受けたプレイヤーのみ確実に【エクスプロージョン】が直撃した。うわ、こんな応用も出来るのか・・・・・となるとマグマの海に動けばマグマが爆発できるようになるのか? この機に色々と試してみよう。オーブも回収っと。

 

「次、大規模ギルドに行くか」

 

 

セレーネside

 

 

「えい!」

 

「せやっ!」

 

中規模のギルドのプレイヤー達がいる拠点へ、イズと爆弾を投げて相手プレイヤーを爆破していた。一緒に来てくれてるメイプルちゃんとイカルちゃんの防御力があって、相手の攻撃を防いでくれるから安心安全で爆弾を投げられる。そんな私達の傍で花火の洞筒を構えて敵に向かって爆弾を放った。何だか、爆撃部隊になった気分・・・・・。いなくなった敵の拠点にはオーブがあって無事に回収できた。

 

「結構な人数だったけれど、何とか倒せたわね」

 

「イズさん達の爆弾の威力が凄かったです!」

 

「目の前で花火が見れるのも凄く新鮮でした!」

 

「まだまだ改良の余地はある。だから素材と製作に必要なお金は、ここで一気に解消できるって誘い文句を魅力的に感じて入ったんだけどな」

 

「私達もハーデスから資金援助を受けてるから気持ちはわかるよ」

 

生産職のプレイヤーはハーデスの恩恵、国家予算以上の有り余っているお金の援助を受けて現実世界でお金持ちになったって言う人が多い。でも、金の切れ目が縁の切れ目って諺があるから少し心配。

 

「次はどこに行きますか?」

 

「そうね。私達だけなら中規模のギルドと戦えるから・・・・・あら、メールだわ」

 

他の仲間の人からのメールかな。イズが読み終えるのを待つと、内容を教えてくれた。

 

「ここからそう遠くないところで味方が救援を求めてるわ。行きましょ」

 

「わかりました。ミーニィちゃん、私達を乗せてくれる?」

 

「キュイ!」

 

極振りの二人がいる私達は移動が遅い。ハーデスがその考慮をしてくれてミーニィを貸してくれたのは凄くありがたい。巨大化したミーニィの背中に乗って早く救援要請した味方のところへと飛んで行ってくれる。到着すると、相手は三人と戦っているメタルスライム達の姿が見えた。

 

「お待たせー! ってあら、クロムじゃない」

 

「イズッ、ってことは【蒼龍の聖剣】か!」

 

「知り合い?」

 

なんだか血塗られてて呪われそうな、大盾使い用の装備をしている男性プレイヤーとイズの仲が気になった。

 

「素材集めに何度も付き合ってくれてるフレンドよ。ところでクロム、私が作った装備はどうしちゃったのかしら?」

 

クロムという男性は気まずそうにイズから視線を反らして指で頬を掻いた。

 

「あ、あー・・・すまん。壊れた。代わりにこの装備で使ってるんだ」

 

「あらあら・・・・・私の装備を壊したこと何も言わず鞍替えしちゃったのねー?」

 

笑顔だけど、凄いプレッシャーを感じるっ。両手に持ってる爆弾が「私の作った装備を、許さない」って物語っているような気がするよ・・・!

 

「いやっ、それについては本当に悪いと思ってるっ」

 

「うふふ、ふふふ・・・・・っ! 爆死、確定ね♪ てやっ!」

 

「おわっ!? あ、あぶなっ!!」

 

大盾でイズの爆発を防ぐクロム。相当強そう、上位のプレイヤーなのは間違いないようだね。

 

「メイプルちゃん、イカルちゃん。防御お願いね」

 

「「はいっ!」」

 

「刀使いには気を付けててくれ。スキルで高速による斬撃が厄介だ!」

 

メタルスライムからの警告に長い黒髪の綺麗な女性プレイヤーが、こっちに振り返った。スキが無い。この人もトッププレイヤーの人だってわかる。

 

「ミーニィちゃん、空から援護お願い」

 

「グルル!」

 

「ドラゴンか・・・・・攻撃の届かないところから攻撃されるのは厄介だ。先に倒しておこう」

 

鞘から刀を抜いた瞬間。彼女の服装が変わった。腕と胸にサラシが巻かれて紫色の炎が灯し出した。

 

「ユニーク装備、かな」

 

「一目で見抜くとは。流石は生産職のランク2位のプレイヤーだけある」

 

「そういう貴方は確か、カスミさんだよね。刀使いの職業ランク1位のプレイヤー」

 

「【蒼龍の聖剣】にいる職業と総合ランクの上位プレイヤーの前では霞んでしまうさ。だがいつか、そちらのギルドマスターと刀で戦ってみたいと思っている」

 

・・・・・その刀は融合しちゃってるから今持ってないよ。なんて言ったらどうなるかな。

 

 

 

サリーside

 

 

イッチョウとマイとユイ、刀使いとファーマーの佐々木痔郎さんと一緒に中規模ギルドに襲撃を開始した。

 

「さて行くかね。レチム、火炎弾!」

 

「グオオオオッ!」

 

ピクシードラゴンに炎の塊を放ってもらって敵を倒すだけでなく分断もしてくれる。

 

「朧、【狐火】」

 

イベントで手に入れた白い毛並みの狐にも火炎を放ってもらい一部のプレイヤーを炎で閉じ込めた間。

 

「「【ダブルスタンプ】!」」

 

孤立した敵を強力すぎる一撃で以て倒し、イッチョウさんは生み出した水分身で炎の中にいるプレイヤーを攻撃させていた。佐々木痔郎も刀のスキルで斬り倒してしまった。私も相手からの攻撃を紙一重で躱し、素早く斬りつけて全滅させていく。オーブも私が回収済み。

 

「ハーデス君以外のピクシードラゴンを見るのは新鮮だねぇ。あっちは純白だけどこっちの子は水色なんだね」

 

「ピクシードラゴンは体毛の色次第で魔法の威力が違ってるっぽいようだ。俺のレチムは水色だから水魔法の威力が他の魔法より強いみたい」

 

「なら、ハーデス君のピクシードラゴンは白だから光魔法の方が強いのかな?」

 

「魔法の威力はどうであれ、もふもふで小さくも大きくにもなれるドラゴンを、俺も手に入れたのが嬉しいからな。白銀さんにはホント感謝だわ」

 

白銀さん=死神ハーデス。私にとっては馴染みのない名前のプレイヤーだけど、現実世界ではノーフェイスといういつか倒したい好敵手として私の中で一杯になっている。私の全力を前に悠々と風のように受け流して、大嵐のように激しく攻め立てる彼の腕前に何度も敗れ、リベンジに燃えているからだ。

 

「よし、みんな乗ってくれ。次のギルドに行くぞ」

 

「「はい!」」

 

生産職もしているのにドラゴンを手に入れる。なんて不思議だろう。他の人達もそうだけどね。

 

 

ノーフside

 

 

「ドラゴン部隊、下の連中に魔法攻撃!」

 

巨大化したピクシードラゴンの背中に騎乗した俺達ファーマープレイヤーは、こんな形でイベントを楽しめるとは思いもしなかった。ドラゴンの背中に乗って空から様々な属性の魔法を撃ち込んで攻撃していく。ピクシードラゴンをテイムしたファーマーは優に30人以上だ。そしてその人数が【蒼龍の聖剣】に所属している。【蒼龍の聖剣】の構成員の半分以上は生産職で占めてるのが何とも不思議なギルドだって思う。普通は戦闘職のプレイヤーが殆どで、残りは生産職のプレイヤーを抱えてるかそうでない。なのに白銀さんはその逆のことをしている。それも戦闘を両立しているかしていないプレイヤーを手当たり次第誘ってた話を聞いた時は、何がしたいんだろうと思ったけどな。

 

「いいねぇ、最高の光景だよノーフ。大規模のギルドって上位のプレイヤーもいるのに、非戦闘職のファーマーである俺達が倒しているなんてさ」

 

同じファーマーのつるべが手も足も出せないでいる大規模のギルドのプレイヤー達の姿を見て愉快そうだった。ファーマーの俺達が30体以上のドラゴンで一斉に襲撃しているから、いくら大規模のギルドでも空からの攻撃には防ぎようもないだろう。俺だったら絶望する。魔法や矢で迎撃してくるけれども、躱したり避けたり、地上に降りて魔法で牽制したりしているからか、まだ誰も倒されていない。

 

「オーブを奪い取ったぞー!」

 

「よし、殲滅次第次のギルドへ向かおう! 白銀さんの恩を勝利と共に返す!」

 

「わかったー!」

 

「今まで私の苺を盗み食いした分、働いてもらう」

 

「だからさっさとテイムすればよかったんだよ、ネネネよぉ・・・・・」

 

恨めしそうに俺達の説得を受け、物凄く渋々で結局テイムした黒いピクシードラゴンを見つめるネネネ。

女子の食べ物の恨みは本当に面倒そうだわ。

 

・・・・・。・・・・・。・・・・・。

 

・・・・・。・・・・・。

 

・・・・・。

 

今のところ、昨日みたいに大人数でやられたという仲間はいない様子だ。十個も集めた味方の方へ赴いたのも3回目。そして今俺は赤色を基調にした多くの敵がいる大規模のギルドのオーブを回収してても、居座るように大天使の姿で玉座に座って寛いでいる。

 

「どうした。もう終わりじゃないだろう。もっとかかってこい」

 

「・・・くっ!」

 

赤黒く光る円陣に足を踏み込めばダメージが入り、遠距離からの攻撃をすれば大したダメージを与えられず、攻撃した90%のダメージが反射して受ける。そして、HPが減少する度に相手プレイヤーからHPを自動的にドレインしてくれる指輪の効果で、常にHPはフルの状態を保つ。そんな俺の脅威の現実を目の当たりにした相手プレイヤー達は攻めることも近付くことすらしなくなった。金髪緑目の女性と白黒のマントを着ている男性も攻勢に出てきたが今では様子見をするようになった。

 

退屈になってきたので『暁の境界Ⅹ』のスキルを発動した。

 

「【ブラックホール】」

 

ガゴッ! と大盾の中心が口を開いて物凄い吸引力が発生した。このスキルの効果は―――無情にも相手のインベントリから全てのアイテムを吸収、消滅するものだ。敵から出て来る様々なアイテムが俺の大盾に吸い込まれていく光景は敵にすれば絶望的だろう。

 

「ヤ、ヤバいヤバい・・・何なのさアレッ・・・・・盾じゃない、絶対に盾じゃないよっ」

 

「困りました。ミィのMPポーションがすべてなくなってます」

 

ミィ? どこかで聞き覚えがある、とそう思った時に目の前で荒ぶる炎柱と一緒に、長い赤髪と赤い目、赤い衣装にマントを身に着けた女性プレイヤーが現れた。登場シーンが格好いいな!! というか彼女・・・・・はは~ん、なるほど。

 

「「ミィッ!!」」

 

「遅れてすまない。戦況は」

 

「ごめんなさい。手も足も出せないどころかMPポーションを全て奪われてしまいました」

 

「・・・・・最悪のようだな」

 

あれ、キャラ違くないか? まぁ、聞けばいいか。

 

「なるほどな。どこのギルドのところだと思えば【炎帝ノ国】だったのか」

 

消した玉座から立ち上がりミイに近づく。

 

「蒼天の出身、【炎帝】のミィ。同郷のプレイヤーと出会えて嬉しいねぇ」

 

「例え同郷の者でも今は敵同士だ。【炎帝】!」

 

「そうだな。悲しいことに同郷の相手と戦う事になるとは残念だ。それもリアルでお前と言う人間を知っている者として更に残念でならないよ」

 

飛んでくる火炎にひょいひょいと躱す俺の発言で、ミィの目が大きく見開いて動揺の色を窺わせてくれる。同じ蒼天の人間だから俺の言うことは嘘ではないと信じているようだな。

 

「・・・・・ゲームの中で現実世界の話を持ち込むな【炎槍】!」

 

「【悪食】! それもそうだな。じゃ、このイベントが終わったら二人きりで会おうぜ。ミィの本音を聞きたいからな。【金炎の衣】! 【大竜巻】!」

 

炎の槍をMPに変える悪魔のようなスキルで無効化した後、全身に淡い金色の炎を纏い、俺ごと火砕旋風と化した【大竜巻】の中に閉じ込められたミィ達のHPが減っていく。

 

「ははは! 炎使いが炎の持続ダメージを受ける気分はどうだミィ! 【炎上耐性】を持っていようとスリップダメージまでは俺と一緒で耐えられまい!」

 

「それならば、お前もダメージを・・・・・」

 

ミィ達から溢れる赤いダメージエフェクトが俺の指輪に吸収され、俺のHPが回復していく。

 

「自己回復の指輪があるからお前等が先にHPを無くす」

 

「~~~くそっ!!」

 

自棄を起こしたようにミィがこっちへ駆けだしてきて、懐に飛び込んできた。

 

「【自壊】! 一矢だけでも報いてみせる!」

 

そんなミィの体を炎が覆って天高く火柱を上げて俺ごと燃え盛った。

 

「自爆か? 悪いが爆発耐性を無効にするスキルがあるから通用しないぞ」

 

「―――は?」

 

呆ける彼女の身体を抱きしめ、耳元である言葉を囁いた。そしたらミィは愕然の色を顔に浮かべた最後に俺を残して散った。他の【炎帝ノ国】のプレイヤー達も成す術もなく死に戻った。

 

 

 

生き返ったミィは今でも耳朶を刺激するハーデスから告げられた言葉に身体を硬直させていた。

 

「(死神ハーデスが、あの方・・・・・? あ、ああっ・・・!? だ、だとしたら私は何て言動を!? とにかく、イベントが終わったらすぐに会いに行かないと!!)」

 

普通ならば信じる要素がないために聞捨てるのが当然である。しかしお互い蒼天出身のミィとハーデスしか知らない事実を囁かれてしまえば、彼女にとっては信じる以外できなかった。そんな頭を両手で抱え蹲る彼女の情緒不安定な姿に、生き返った【炎帝ノ国】のメンバーは今後の戦闘に悩んでいるギルドマスターに見えたのか、情けない自分達に申し訳なく感じ【炎帝ノ国】を持ち上げんと士気を密かに高めていた時、空は朱色に染まり夜の帳を下ろそうとしていた。

 

 

 

 

 

二日目も日が落ちた頃、総出で集めてくれたオーブは【蒼龍の聖剣】のオーブの中にいっぱいになっていた。

 

「自軍オーブが自軍にある場合、六時間ごとに1ポイントを得られる恩恵を捨てても、こうしてたくさん他のギルドから集めたオーブを三時間防衛すれば、それ以上の得点を得られるからメリットの方が大きいね」

 

「俺達のオーブを奪いに来たのに、オーブがないんじゃあ奪えるものは奪えないしな」

 

「私達が奪ったオーブは、常に動き回り続けるハーデス君のところに集まって、奪われたオーブの動きが判るからハーデス君を追いかけるプレイヤー同士が自然にぶつかって」

 

「衝突して戦闘に発展することで勝手に自滅してくれるってか」

 

「ここまで成功すると策士だよハーデス」

 

や、そこまで考えに至らなかったんだが・・・結果的にそうなるなら御の字だわ。

 

「それで、夜になったら全員ここに集まって防衛も万全にすると」

 

「他の人達が取り返しにやってきても、私達は負けないもんねー!」

 

「「私達も敵を倒します!」」

 

うん、それじゃあ頑張ってそうしてくれよ。今がその時だから。拠点の周りを動き回り続けてる巨蟲を駆使するエリンギから、俺達より上回る数の他ギルドの襲撃に遭っているそうだから打って出ないと。

 

「残り二時間だ。敵を押し返せ。イズとセレーネは崖の上でポーションの生産を頑張ってくれ。長期戦になりそうだ」

 

「ええ!」

 

「適材適所、だね」

 

ミーニィに二人を崖の上へと運んでもらい、俺はイベントに参加してもらった12人の音楽プレイヤーへ振り向き、演奏開始の合図として頷いた。音楽のスキルの効果範囲は演奏する音楽が聞こえるところまで。装備とアイテムが揃えば500M先にいるプレイヤーやモンスターにバフとデバフを付与することが出来る。それらの装備とアイテムはいま、全て揃えている。彼女達が演奏を始め出した途端、俺のステータスに様々なバフが付与された。HP自然回復速度・大、MP自然回復速度・大、ステータス10%上昇、状態異常耐性・大・他にも武器やスキルの攻撃・防御力の上昇やMPの消費が減少するバフとかも・・・・・。流石だな!

 

彼女達に歓心を寄せていた時、オーブがある台座で演奏している彼女達の傍にいた俺のところへ外の守りを突破した敵プレイヤーが襲い掛かって来た。防御の構えをして武器を打ち下ろした敵と一度の衝突後。敵の後頭部に矢が刺さって一瞬の硬直を見逃さず、短刀を大剣に変えて首を切り落とした。セレーネの援護であることを認識しても、次から次へと敵が一本の道から押し寄せて来る。

 

【連結】【悪食】の後に【溶岩魔人】で敵プレイヤー達と対峙する。

 

「あっ、汚いぞ!! 総合ランク1位のくせっ・・・!?」

 

セレーネの矢が再び刺さる。狙撃手がいると俺から目を反らした敵には【溶岩流】で逃げ道を塞いだ後に【悪食】の効果が付与された溶岩パンチを食らわせ、一撃で倒したのだった。

 

「静かにしろ。演奏中だぞ」

 

と言っても三度目の襲撃してくるプレイヤー達に言ってもしょうがないか。ほらもういっちょ、溶岩パーンチ!!!

 

 

3時間後。

 

 

俺達のオーブに集めたオーブが大体無くなった頃には、襲撃も止まり軽く反省会をした。

 

「で、確かお前等が担当していた方角だったよなユージオ達。一点突破されたか」

 

「すまねぇな。この馬鹿がバカなことしたから」

 

「僕だけのせいにするなよ! ユージオが戦ってる最中に翔花ちゃんと夫婦喧嘩している隙に吹っ飛ばされたから僕がカバーに入ったのに!」

 

「夫婦じゃねぇっ!! そういうお前も吹っ飛んできた女性プレイヤーに巻き込まれる形で押し倒されて、ヒルデガルドとキューレに折檻されて侵入を許しただろうが」

 

「あれは不可抗力だよ!?」

 

・・・ゲームの中でも変わらないなこいつら・・・・・はぁ。

 

「ユージオ、ラック、翔花、ヒルデガルド、キューレ。どんな理由や事情であれ、味方同士の喧嘩と攻撃は絶対に止めろ。それで負けることになったら場の空気が悪くなるんだから。これはお願いじゃなくてギルドマスターとして命令だ。イベントが終わったら好きなだけじゃれついていいから」

 

「ちっ」

 

「ごめんなさい・・・・・」

 

「わかったよ」

 

「何で私まで・・・・・」

 

「申し訳ございません」

 

遺憾だと不貞腐れるのと素直に受け入れる二つの反応に、他のメンバーたちは呆れと苦笑する。

 

「ハーデス君、明日も同じやり方でいいのかな?」

 

「うんや、見ての通り順位は俺達がダントツだ。少しだけやり方を変更する。内容は―――残滅作戦」



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ギルド対抗戦3

三日目の朝を迎えた他軍ギルド。攻撃班がオーブを奪いに人数を割けて行ってしまっている間は、残った人数で防衛しなくてはならないが、セオリー通り動かなけれなならないなのだ。

 

「くそ、昨日は散々だったぜ」

 

「【蒼龍の聖剣】に襲われるなんて運がないよな俺達」

 

「聞いたか? その【蒼龍の聖剣】は小規模ギルドを一切手を出さないで中規模と大規模のギルドにしか襲ってないって」

 

「中規模のギルドと大規模のギルドしか襲ってないって、なんでだ?」

 

「掲示板で情報が様々な憶測が行き交ってるけどよ。有力なの説じゃ小規模のギルドはオーブを奪われやすいから、奪った中規模ギルドと大規模ギルドを狙った方が集めやすいんじゃないかってさ」

 

「あー、俺等も何度か小規模のギルドに襲撃したけど既にオーブを取られた後だったもんな。だったらとっくに奪われてるだろうギルドよりも確実に集めてるギルドの方に襲撃すればオーブも集まるってことか」

 

「【蒼龍の聖剣】、よく考えたな。でもその分、奪われたオーブを取り返しに来たギルドから狙われやすいだろうに」

 

「俺達もそのギルドの一つだったろうが」

 

「そーだった。結果は失敗に終わってしまったな」

 

談笑しているところにガサッと藪が音を立てた。敵がオーブを奪いに来たと察知して警戒態勢に入って、向こうの出方を窺うと・・・・・。一人の男性プレイヤーが姿を現した。

 

「うげぇ!?」

 

「は、白銀さんんん!?」

 

「お、オーブを守れぇっ!!」

 

「人を化け物のように見た反応しないでくれるか。地味に傷つくぞ。せっかくこれをあげに来たってのに」

 

複数の目を持つ龍を彷彿させるフルフェイスで顔を隠すハーデスがインベントリから10個のオーブを無造作に相手ギルドに放り投げた。

 

「オ、オーブ・・・・・? しかもこんなに・・・・・な、何が狙いだ?」

 

「狙いはもちろんある。今まで通り行動をしてくれればいいだけだ」

 

「今まで通り動けって・・・意味が分からねぇ。そっちのメリットになるのかそれで」

 

「もちろん! お前達が無意識にしているこそが【蒼龍の聖剣】のメリットになる。それじゃ、頑張ってくれ。―――【飛翔】」

 

ハーデスは空を飛んでプレイヤー達の前からいなくなった。集めたオーブをそのまま残して。

 

「ど、どうする・・・・・?」

 

「オーブを取り返しに来る連中がここに押し寄せて―――あああっ! そういうことかぁっ!?」

 

察しのいいプレイヤーの叫びと同時に、オーブを奪われた複数のギルドのプレイヤー達が森の奥から現れ襲撃してきたのであった。ハーデスはその様子を上空から見下ろしていた。

 

「お前等、そっちはどうだ」

 

『作戦成功だよ!』

 

『こっちもだ。奪われたオーブを取り返しに他のギルド同士が交戦したぜ』

 

『こっちの被害を最小限に、敵の被害を最大限に。殲滅作戦を目の当たりにすると凄い効果ね』

 

大規模ギルドと中規模ギルドを中心に襲撃し、集めたオーブを自軍の得点にするのではなく餌として扱い他のギルドにばら撒いて敵同士を意図的に操り戦わせる。

 

「守り切れば大量のポイントが手に入り、手に入れば大量のポイントを得られる。どっちも得するんだ。俺達に感謝してもらいたいものだな」

 

『事の発端は【蒼龍の聖剣】だから恨まれるんじゃないかなー』

 

「酷い! 恨まれるようなことをした覚えはないのにっ!」

 

『本気で言っているならお前は飛んだ道化だぞ』

 

道化とは失礼な。

 

「とにかく、オーブを集めて他のギルドに渡せ。オーブ欲しさに勝手に自滅してくれるならこっちの負担が少なくなる。その間は俺達も他のプレイヤーを殲滅してギルドの数を減らしていくぞ」

 

『了解!』

 

『ひゃっはー! 殲滅だぁー!』

 

確実な勝利をものにしようと【蒼龍の聖剣】は総力で、全力で他のギルドに襲撃しにかかる。拠点を捨てて消滅させたギルドの拠点で休憩を挟みつつ夜になろうとも襲撃を止めなかった。

 

 

運営side

 

 

「・・・・・終わったなこれは」

 

「だな・・・・・【蒼龍の聖剣】を中心に他のギルドも便乗して、今の順位を固定するために他のギルドが消滅させられてオーブも奪わせなくしているし」

 

ゲーム外では運営陣が残りギルド数を表す表示を見つめていた。

 

「本当にこれは・・・・・もう終わっただろ」

 

明るく輝く数字は六という数字を浮かび上がらせている。

 

そしてそれらのギルドは全て現在十位以内であることが確認されている。

 

つまりもう十位以内に入るギルドは確定したということだ。

 

五日を予定していた今回のイベントは四日目の早朝には実質の終了を迎えていた。先程までは減り続けていたギルドの数表示は全く動きを見せなくなった。

 

「【蒼龍の聖剣】のプレイヤーはどいつもこいつも殺意高いなぁ!? おい!?」

 

「今回のイベントの見所編集して動画にするぞ。もうこれといったことは起こらないだろ」

 

男が周りに指示を出すと次々に膨大な量の録画データからこれはと思ったシーンが選び出されていく。

 

「五割近く【蒼龍の聖剣】が映ってるんだが・・・・・。死神ハーデスが思ったより目立ってないのが不思議を通り越して新鮮だな」

 

「できればそのまま大人しくしていて欲しいと願うのは我儘かな」

 

「無理でしょう。死神ハーデスですよ?」

 

「ダヨナー」

 

呟いた男の方に首だけを向けてそう言うと、呟いた男は額に手を当て椅子の背もたれに身体を投げ出した。

 

「まあ【蒼龍の聖剣】に引っかき回されたのがイベントが思うようにいかなかった原因か・・・・・」

 

「【炎帝ノ国】は十位だしな、順位予想もやってみていたんだが・・・・・まあほぼ当たらない」

 

【炎帝ノ国】は大規模のギルドだったために【蒼龍の聖剣】の標的の一つになっていた。初日からずっとオーブを奪われ得点を思うように稼げなかった上に全滅したのが原因だ。

ただ、密かにハーデスが何とか十位まで確定させる画策したので、生き残ることには成功していた。

 

「死神ハーデスの行動が読めるようになればなあ・・・・・」

 

それは多くのプレイヤーも思っていることだった。対策の立てやすい者ほど対処は容易になるからだ。

 

「無理なことを考えても無駄・・・・・それより次回の日数・・・・・考え直さないとな」

 

「だな、流石に丸二日余るほど加速するとは・・・・・」

 

プレイヤー達のやる気を読み切れなかったが故のミスである。

 

彼が次回のことを考えていたところで、思いついたというように一人の男が部屋の中にいる全員に聞こえるように言い放つ。

 

「なら一つ予想してみよう! お題は今の死神ハーデスが何をしているか! どう? 当たった奴には俺が一回奢るよ」

 

その提案にその場にいた全員が乗った。メリットしかないのだから当然である。

 

「少し前の録画データを見ればいけるか。オーブ周りしかないが・・・・・」

 

そう言って適当に選び抜いた【蒼龍の聖剣】の四日目の広間の映像を映し出す準備をし始める。

 

「なら、拠点にいないってのもありか?」

 

「いいんじゃね? それだと簡単に探せないからな・・・まあ多分拠点にいるとは思うが・・・・・」

 

「じゃあ予想開始! 思いついた奴は挙手!」

 

奢ると言い出した男が合図をすると早速何人かが手を上げた。

 

そして男が指示した順にそれぞれに予想を述べていく。

 

「ギルメン全員でかくれんぼ」

 

「機械神で空を飛ぶ練習」

 

「双子に人間お手玉をされている」

 

「【鍛冶】で作られた武器を齧ってスキルが得られないか試している」

 

「何だ、皆普通過ぎやしないか?」

 

「それもそうか・・・・・」

 

普通過ぎると言われたことで全員が死神ハーデスならばどんなことをするかと再び思考を巡らせた。

 

そうしてどんどん予想は混沌としていく。

 

「巨大化したドラゴンの口の中に入っている」

 

「何故かギルメン全員とPKで戦っている」

 

「いっそ巨大化した虫を齧る」

 

全員が口々に予想を述べていく。

 

そして粗方意見が出尽くして部屋が静かになったところで発案者が終了を宣言した。謎で妙な緊張感を抱きながら全員の意識はモニターへ注がれる。

 

「じゃあ・・・・・映すぞ」

 

「ああ」

 

一瞬の後、大きなモニターに【蒼龍の聖剣】が映し出される。

 

肝心の死神ハーデスは、【皇蛇】のスキルによる女体化+六対十二枚の堕天使の姿で音楽プレイヤーの演奏に合わせてライブをしていた状況だった。

 

それを見たところで動画はそっと閉じられた。

 

「あれも入れるか?」

 

「・・・・・ああ」

 

そのワンシーンはそっと見所集に加えられ、運営陣はそれぞれが何か理解を超えたものを見たことに対する処理へと移った。

 

 

運営がもう既に終わったと予想したのは正しかった。

四日目からゲーム内で戦闘は一切起こらずに平和に時間は過ぎていった。

そうしてランキングも特に変動することなく五日目を終えたハーデス達は通常フィールドへと転移した。

転移してから数秒後、各プレイヤーの目の前に青色のパネルが浮かび上がり今回の最終順位を表示する。

 

 

 

「今回も一位か」

 

「そう言えばハーデス君はエルフのイベントも一位だったね」

 

十位までならば報酬は変わらないためより上位を目指そうとはしていなかったが、大規模ギルドのオーブのポイントをまとめて手に入れることが出来たことが大きかった。そうしている内に最高ランクの報酬がパネルに表示される。

 

銀のメダルが五枚に木製の札が一枚。ギルドマスターである俺には全ステータスを5%上昇させるギルド設置アイテムも贈られた。

 

「『通行手形・梅』? 意味が解らん」

 

「どこかに必要な通行所のような物のことじゃないかな」

 

「それってどこなんでしょうかねぇ? これがないと通れない場所ってことだろ」

 

「意外と新大陸が第11エリアだったりして」

 

いやいや、それはないだろう的な雰囲気の最中。連絡が届いてきた。ノーフからだ。

 

「どうした?」

 

『えっと、あのさ・・・イベントで一位になったし白銀さんのギルドだから祝勝会でもしないのかってみんなが騒いで・・・・・』

 

「はぁ・・・・・何言ってんだそいつら? もちろんするに決まってるだろ。天空の城で祝勝会するつもりだから各自、夜の七時まで料理を5品を10人分用意しろと伝えておけ」

 

『わかった。皆に伝えておく』

 

暴走されちゃあ面倒だから祝勝会をすることになってしまったな。

 

「ということで料理できる俺達も用意しようか」

 

「いつもと同じだねー。じゃあ、ペイン達は食材集め頑張ってよね!」

 

「俺達の分まで作ってくれるってならしょうがないな」

 

「第10エリアのところで集めてみるか?」

 

「そうだね。それじゃあ行ってくるよ」

 

フレデリカに命じられて食材調達をしに日本家屋を後にするペイン達がいなくなると、俺だけ除いて他は女性だらけになってしまった。

 

「それにしてもハーデス君。ゲームの中で女の子になっちゃうなんて、どういう星の下で生まれちゃったのかな?」

 

「知るか」

 

「しかも凄く美人だし、なんか負けた気分だよ・・・・・」

 

何張り合ってるんだ?

 

「ハーデス君、イベント終わったし今後はどうするの?」

 

「精霊の数を増やそうかと思ってる。見ての通り庭園は豊かだし、他の生産も増やしてみたいから」

 

「賑やかになるわね。他のテイマーが羨ましがるんじゃない?」

 

寧ろうらやましがれと思っている。お前等には極めて難しいことだろうがなぁ? フハハハハッ!!

 

「その後は砂漠の方に行ってみたいかな」

 

「砂漠? ファーマーの人だったら海苔が採取できる砂漠エリアだけど・・・・・」

 

「海苔は他のファーマーと交換して手に入れて持ってるからいらない。純粋に行ったことないから行ってみたいだけだ。隠しギミックがあるなら見つけてみたいしな」

 

ピラミッドとか砂漠の迷宮とか。まだ何かあるかもしれない何かをこの手で解明してみたい。

 

「そんじゃあ、料理を作って祝勝会の準備でもしますかね」

 

 

 

 

 

【速報!】死神ハーデスは性転換者になる! PART1【TS発覚!】

 

 

122:プリンプリン伯爵

 

何度見ても美しぃ・・・・・姿そのものが完全に堕天使じゃないか。

 

 

123:お花畑

 

声もマジ好みなんですが。NWO、わかっていらっしゃる。

 

 

124:カマーバカン

 

性転換できるアイテムなら1000万だって払って手に入れたい!

 

 

125:カマンカマン

 

巨額を払うほどかよ? でも、気持ちだけはわかるよ。あの姿のフィギュアを売られているならホームで飾ってみたい。

 

 

126:ダークエンジェル

 

「我、堕天の王なり!」って出だしの声を聞いた時は心が震えたぜェッ・・・・・!

 

 

127:ブラックなエンジェルウーマン

 

あの人もこちら側かな? だったら是非とも誘いたいな。

 

 

128:††堕天使††

 

俺、この動画を見てあの人のファンになりました。本当に堕天使になれるなんて最高過ぎるこのゲーム。

 

 

129:ホワイトエンジェル

 

そもそも白銀さんって純白の翼を生やせるからな。そこ重要だぞ。

 

 

130:(堕)大天使

 

天使にも堕天使にもなれる・・・・・次は神になるつもりか?

 

 

131:ピッピチャン

 

噂じゃあ白銀さんは機械の神だとか聞いたけど。

 

 

132:エヴァンジェリオン

 

既に神であった・・・・・!?

 

 

133:コイチャン

 

最近の白銀さんは色んな属性があって個人的に次はどんな風になるか楽しみです。

 

 

134:バケバケ

 

ベヒモスにも変身できるもんなー。溶岩魔人にもなれるしー。次は神獣か守護獣的な変身をするかな?

 

 

135:ヌルンヌルン

 

・・・・・触手を生やせるスキル、無いかな。

 

 

136:プレインライン

 

おいそこ、変なこと考えるんじゃない。・・・・・ちょっと想像しちゃったじゃんか。

 

 

137:磯ノ巾着

 

ちょっと探してきます。

 

 

138:鍋奉行

 

おいどんも。

 

 

139:クラノスケ

 

クラーケンがいるから、俺はクラーケンをテイムしてきます。

 

 

140:ド変態ですが何か?

 

この変態共ォー!! (俺は装備と服を溶かすスライムを探すぜ!!)

 

 

141:オバップ

 

≫140 名前の時点でお前が言うな!!

 

 

142:アイドルオタク

 

見守り隊が動きかねない案件だぞ!

 

 

143:アイ・(LOVE)・ドール

 

≫140 心漏れてんぞ



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新エリア砂漠

()

 

ギルド対抗戦から早一週間が経った。予定通りノーム以外の他の精霊達も複数、それもユニーク個体をテイムしたことでホームは賑やかになった。特にギルドメンバーの連中が色めき立って騒ぎ出す。そんな連中を他所に俺は今―――西の第7エリアのオアシスの町にセキトを乗って来ていた。観光がてら町中を移動して物見遊山気分でいると・・・・・。

 

「ひぃっ!? 逃げろぉっ!!」

 

「うわぁ~ん!! うわぁ~ん!!」

 

「と、盗賊だぁ~! 噂に聞く砂漠の赤トカゲ団がやってきたぁ~!!」

 

・・・・・50%の確率で生じるNPCに対する恐怖で逃げられる始末だ。

 

「ちょっと待てっ!? 誰が砂漠の赤トカゲ団だよ!! 俺はそんなんじゃないしそんな連中がいるのか!!」

 

NPCが逃げてしまい、町の通りも閑古鳥が鳴いたように閑散してしまって俺のツッコミに誰も返してくれない。

 

「・・・・・」

 

 

『どんまい』

 

『初心者装備の格好でNPCに怖がれるプレイヤーってマ?』

 

『マジらしいな。プレイヤーを怖がるところ初めて見た』

 

『子供なんてガチ泣きだったもんな』

 

 

今回も動画配信で視聴者の協力を得ながら探索しようとした矢先にこれだ。・・・泣くぞ?

 

「砂漠の赤トカゲ団・・・知ってた?」

 

 

『そんな盗賊のNPCがいるなんて初めて知ったところ』

 

『砂漠ならではの存在だな盗賊って』

 

『でも、オアシスの町に来たことあるプレイヤーでも盗賊すらかすりもしなかったと思うぞ?』

 

『もしかしたらNPCを怖がらせる必要があるんじゃないか? じゃなきゃ盗賊の存在が明るみになったタイミングがおかしいし』

 

『PKのプレイヤーは今どれくらいいるのか分からないけど、白銀さんみたいにあからさまに怖がられるプレイヤーは絶対にいないだろ』

 

『もしや白銀さんはPKですかね?』

 

 

全力で否定させてもらった。

 

「そこのお前」

 

「うん?」

 

馬上から視線を落とせば横に何時の間にかいた褐色肌の女性と老婆と視線が合った。

 

「お前は、砂漠の赤トカゲ団ではないのか?」

 

「質問を質問で返す不躾を許してほしいが、何を根拠に俺がその赤トカゲ団だと言うんだ?」

 

「やつ等は砂漠に生息する大きな赤いトカゲや赤いモンスターを飼い慣らして、町という町を襲って金品や食料・・・奴隷に男や女を浚っていると聞く」

 

 

『赤いモンスター・・・・・』

 

『なるほど、白銀さんの馬は赤いから盗賊の一員と間違われたのか』

 

『別に白銀さん自身が怖がられていなかったのかな?』

 

 

そう言う理由だったら嬉しい反面、勘違いされてとても複雑な心境だぞこっちは。

 

「その盗賊団と間違われる真似をしてしまったのならば申し訳ないが、俺は異方からやってきた冒険者だ」

 

「冒険者・・・か。では・・・私の頼みを聞き受ける気はあるか?」

 

「頼み? 俺が出来る事ならば。教えてくれるか?」

 

「私の夫はこの砂漠に眠ると伝えられている、伝説の秘宝を探しに出かけてもう一月以上帰ってこないのだ。もしかすると砂漠の赤トカゲ団に捕らわれているのかもしれん。夫を救えたならばお礼は私の身体で払おう」

 

「いや、お礼はいらない。それでもと言うならば、手作り料理を一品用意してくれるかな? オアシスの町の料理はまだ食べたことが無いからさ」

 

 

『さらりと受け流しながら優しい要求をする白銀さんは紳士』

 

『私の身体が報酬、と言われてちょっと心がドギマギしちゃった・・・・・』

 

『断るなんてかなりもったいない気が・・・・・冗談だから最低とか言わないでくれよ』

 

『さいてー!』

 

『さいてー!』

 

『サイテー!』

 

『いると思った女の配信者から凄い非難の嵐が起きたな』

 

『いや、本当に女なのかも怪しいぞ』

 

 

個人的にはどーでもいいです。砂漠の赤トカゲ団・・・どこにいるかわからないかな?

駄目元で訪ねようと思ってみたら、ドドドドッ! と何かの足音が聞こえてくる。

 

「いたぞ、あそこだっ!」

 

振り返る間もなく馬に乗る武装した女性NPC達に囲まれた。

 

「貴様が砂漠の赤トカゲ団の輩だな! 大人しく拘束されるのだ!」

 

「人違い! 俺は冒険者だから!」

 

「問答無用だ! 捕らえろっ!」

 

「止めよっ!」

 

女のNPCが一喝。武装したNPC達が動きを硬直した瞬間に彼女が声を張り上げた。

 

「この者は私が依頼した異邦の冒険者だ。勝手な真似は許さぬぞ!」

 

「しかし姫様! いまこの輩は姫様に愚行を!」

 

「話し合っていただけなのにどこからどう見れば私に愚行したように見えるのだ脳筋どもめ!」

 

「お言葉ですが砂漠の赤トカゲ団ではありませんかこの輩は! 赤いモンスターに騎乗している人間は砂漠に置いてあの盗賊団以外おりませぬ!」

 

「砂漠の世界の外にも赤いモンスターなどいくらでもいるわ!」

 

それと姫様・・・・・だと? 重要的なNPCがこんなところにいたってことか?

 

「すまぬな冒険者よ。やはり正式に依頼をせねばこの者達のように融通も利かん結果になりかねないようだ。すまぬが私達の国まで同行してもらえぬか」

 

「えっと、了解」

 

「助かる。では・・・・・」

 

身軽な動きで、俺の後ろに乗り出す姫様とやら。兵士達の上官らしきNPCが騒ぎだすも、姫様の一喝で黙らされ恨めしそうに俺を睨む彼女が馬を走らせるので、セキトも追いかけてもらう。

 

「ふむ、我が国が保有する馬より乗り心地がよいな」

 

「ペガサスだからな」

 

「ペガサス? 馬の種族名か。翼がある馬など砂漠にはおらんから珍しいぞ」

 

「砂漠にいる珍しくない生物はいるか?」

 

「砂漠を滑るように移動する小動物がよく見かけるな。ペンペンと鳴き鳥のような見た目は愛らしいのなら」

 

 

『ペンペンと鳴く鳥のような生物?』

 

『ちょっと、気になりますねぇ?』

 

 

まさかの話だが、見られるなら見てみたいところだ。

 

「国とはどこまで進んだところに?」

 

「半日も過ぎる頃には着くだろう。その間まで退屈だな。・・・ふむ、男の体など見慣れてるが触れたことがないからいい機会だ。お前の身体で確かめさせてもらうぞ」

 

どんな機会だよ! おいこら、人の身体をまさぐるなくすぐったい!

 

「ほほう。鍛え過ぎず均等的に無駄に筋肉がない良い体つきなのだな。筋肉だるまよりもこれは私好みの体つきであるな」

 

「筋肉だるま?」

 

「この砂漠の世界に置いて私が統治する国と筋肉だるまが統治する国がある。筋肉だるまから求婚を強いられるようになって拒絶しているが、飽きもせず私に迫ろうとして来るのだ」

 

あの町にいたのは筋肉だるまと会わないためだった、と告げる姫様はげんなりとしていた。

彼女を見ている俺の視線と姫様の視線が合うと、少しばかりの見つめ合いを経て何だか悪い笑みを浮かべらっしゃる。・・・・・見なかったことにしよ。

 

 

 

 

セキトを走らせて半日も経つと本当に砂漠の国に辿り着けた。道中、何度かモンスターと遭遇し撃退。フィールドボスらしき『サバクサソリ』というモンスターをセキトと攻略して姫様達に実力を示した。

姫様の国は隆起した岩石の上に築かれていて、長い石造りの階段を登って行かなくちゃならないようだ。

 

「大きいなー」

 

「名前はルナマリア。私の自慢の国だ。宮殿に案内したら玉座の間で正式に依頼を・・・・・」

 

「お待ちください姫様。こちらに接近する者達が」

 

女兵士が言うように国から出発してきた大人数の人達が近づいてきた。誰かが判ると「また来ておったか」と心底嫌そうな低い声が後ろから聞こえて来た。

 

「おおっ、太陽より威光溢れ月より幻想的なその美しさは俺様の花嫁のシャルジャーザではないか! こんなところで会えるとはまさに運命だ!」

 

「誰が花嫁だ筋肉だるま」

 

「ふほほほほっ!! 我が鍛えしこの肉体美を褒めてくれるとはやはり俺様に気が合うようだなシャルジャーザ!!」

 

ムッキーンッ!! と褐色肌で上半身裸の筋骨隆々の大男が、筋肉を隆起して誇らしげに見せつけて来る。腰には双剣、両手には盾を装備していた。奇抜な戦闘をしそうだな。

 

「なるほど、言い得て妙だ」

 

「なんだ貴様。俺様の花嫁と密着しおって。この俺様でもされたことがないのにぃっ! 花嫁から離れろ!」

 

「ふん、貴様なんかの筋肉よりもこうして私の腕が回せる身体の方が好みなのだ」

 

姫様=シャルジャーザの腕が後ろから伸びて胴体に巻き付きながらさらに身体を密着させて来る。筋肉だるまはそんなことされる俺に対して酷く羨ましがり、癇癪を起こした子供のようにわめきだす。

 

「それと筋肉だるま。貴様は軍隊を率いてどうした。よもや、私達と戦争を起こすつもりであるか?」

 

「何を言う! 俺様の花嫁の国に戦争を仕掛ける筈がなかろう!? 他の国や町などは我がサンラクの領土にしてくれたが、大陽神に誓って戦争はせん!」

 

「では、私の領土に無断で押し入った理由はなんだという。ことによっては、ただではすまさないぞ」

 

筋肉だるまの男はシャルジャーザの問いかけから、苦虫を噛み潰したような苦い顔をした。

 

「・・・・・助けてほしい。我が国と領土は一夜にして滅ぼされた。大量のアンデッドを従わせる黒魔術師と黒い竜によって」

 

「黒い竜、だと? まさか、あの言い伝えは真だったのか!」

 

話が見えないけど、この後起きる展開は読めてくるな。シャルジャーザが天を見上だした。釣られるように俺も空を見上げると、燦々と暑い日差しを放つ大陽に陰り・・・日食が起きようとしていた。

 

「っ・・・よかろう、お前達を助ける。だが、馬のようにコキ使うから覚悟しろ」

 

「おおっ、感謝する俺様の花嫁よ!」

 

次いで俺に振り向く。

 

「すまないがお前の力も借りることになる」

 

「教えてくれよ?」

 

「理由は直ぐにわかる」

 

ボゴッ

 

ん? なんか這い出てきたな・・・・・骸骨、スケルトン? もう盾と剣を装備してる。

 

「行くぞ。直ぐに迎撃を整えねば筋肉だるまの国のようになる」

 

「お、おお・・・?」

 

倒さなくていいのかあれ、と馬を走らせる皆に遅れてはならない雰囲気に俺もセキトを走らせる。

 

 

 

宮殿内は慌ただしくなった。筋肉だるまが持ち込んだ情報は他人事ではないとルナマリアの全兵士を総動員して厳戒態勢に整えていく。

 

「サンラクが滅ぼされただと、何かの間違いではないか?」

 

「だが、物見の報告ではルナマリアの周辺にアンデッドが多数出現しているそうだ。サンラクが滅ぼされていようがいまいが、日食が起きてる時点でやることは変わらん」

 

「かの言い伝えが現実になるとは・・・・・」

 

「弱気になってはならん! 我らが黒竜を倒さねば砂漠の生命という生命が消えてなくなるのだ!」

 

玉座の間に集いし重鎮達が緊縛した空気の中で話し合っている様子を見せられていたが、シャルジャーザ隣に座っていた女の一言で静まり返った。

 

「静まれ」

 

静寂になった玉座の間は、誰も口を開かせない彼女が王として許さず話を切り出す。

 

「言い伝えなどどうでもいい。我等はルナマリアを脅かす驚異に立ち向かうことだけ意識すればよいのは誰でもわかること。サンラクの残存兵士と協力し、黒魔術師と黒竜を討伐せよ」

 

「女王、発言の許可を」

 

「許す。なんじゃ」

 

「この場に似つかわしかないこの者の対処は如何いたしますか」

 

重鎮の一人が訝し気な目でそう言いながらこっちへ視線を送ってくる。あっ、俺のことか? 女王も俺を奇異的な視線を向けてくる。

 

「ふむ、それもそうであるな。先ほどから私の視界に入り込むそなたはなんじゃ? 我が娘と仲睦まじく来たそうだが、よもや娘の伴侶の者か?」

 

「・・・発言の許可を」

 

「許す。答えよ」

 

答えますよー。

 

「俺は異邦の冒険者、死神ハーデス。世界から勇者の称号を承った神獣使いです女王陛下」

 

「ほう・・・・・風の噂で聞いた勇者とはな。随分と素寒貧な出で立ちであるが何故だ?」

 

「勇者である以前に俺は一人の人間、オアシスの町を楽しむため郷に入っては郷に従え、と砂漠に生きる者の格好をしようと思ったまでです」

 

「殊勝な考えをするのだな勇者とは。我が娘と出会いの経緯は?」

 

砂漠の赤トカゲ団の関する依頼を話し合っていたことと打ち明ける。女王は何だか期待外れだというつまらなさそうな顔を浮かべた。

 

「娘を拐かす勢いで禁断の恋愛をしていた者ではなかったかこの玉無しめ」

 

「・・・そこは止めるべきでは?」

 

「この私の娘ぞ? 恋愛も性行為も自由奔放なところも濃く受け継いでいるアマゾネスの者を止める理由はあるか? 止められることが出来るのか?」

 

「・・・・・アマゾネス?」

 

 

『アマゾネス?』

 

『アマゾネス!』

 

『アマゾネスゥ~!?』

 

『アマゾネス、キタァー!!』

 

 

まさかのアマゾネスだったとは。褐色肌は太陽で焼けたものじゃなかったんか。何という伏兵が潜んでいたものだ。気付かなかったぞ。

 

「アマゾネスとやらは砂漠に生きているのですか?」

 

「勇者はアマゾネスを見聞していないのか? まぁ、無理もないか。本来アマゾネスは砂漠に生きておらんからな。ルナマリアにいるアマゾネスは僅か100人しかいない。その昔、私達の先祖のアマゾネスが性奴隷としてこの国へ奴隷商人に売られたのが始まりだ。当時の国王がその時のアマゾネスを見初め、毎夜毎夜それはもう肉欲の宴を繰り返し、アマゾネスの子を多く作ったそうだ。その問い生まれた子供のアマゾネスの子孫は今この国にいるアマゾネスになる」

 

「そして一国の女王となっていると・・・・・凄い出世ですな」

 

「砂漠の世界に生きるには力が必要であるからな。王を決める武の大会において私が連戦連勝だ」

 

 

『どんだけ強いんだこの女王様は』

 

『その足で蹴られてみたい。踏まれてみたい』

 

『変態が湧き出て来たぞ』

 

『足を組み替える瞬間がいやらしいです』

 

 

変態は黙れ。

 

「であるから、シャルジャーザの恋愛は好きにさせている。どこの馬の骨とも知らぬ輩と恋愛をしようが性的行為をしようが構わん。それで痛い目に遭ったのなら自業自得よ」

 

「国同士の連携を図るため政略結婚とかは?」

 

「私以外の王だったらするかもしれんが、そういう政治的なものはアマゾネスが出来る筈がなかろう。私はこの玉座で退屈な時間を毎日過ごすのが仕事だからな。政治的な仕事は大臣達に全て丸投げだ」

 

「働けよ」

 

「だが断る。私は女王であるぞ? 勇者より立場が上であるぞ?」

 

 

『王に対してツッコミを入れる白銀さんパネッすわ』

 

『あっちもあっちで傲岸不遜だ』

 

『よく見たら白銀さんが「働けよ」と言った時のおっさんたちが思いっきり頷いてたぞ』

 

『同じ気持ちだったんだなぁ・・・・・』

 

 

「が、今なら政略的な仕事を私でもできそうであるな」

 

「うん?」

 

女王がニヤリと意味深に笑みを浮かべだした。娘の親なら親も同じ笑い方をするのだな。そして嫌な予感もするんだが。

 

「話を戻そう。勇者よ。その力を現在未曾有の危機に晒しているこの国の為に使う気はあるか」

 

「女王陛下の為にこの力を振るうことを誓います」

 

「私のため、か・・・・・ふふっ。若い燕が、可愛いことを言うではないか」

 

EXクエスト『黒竜討伐』

 

という青いパネルが出てきてクエストを受理した。

 

「ところで、噂では勇者は複数いると聞く。その者達の協力を得ることは可能か?」

 

「都合が良ければ力を借りることも可能かと」

 

「ならば、一時間以内にどのような手を使ってでも更なる戦力の増強をするのだ。敵は黒竜。アンデッドなど我らの敵ではないが、黒竜に当てる戦力はこの国にない。勇者達と冒険者達にやってもらう。異論はないな?」

 

「寧ろ、喜々として立ち向かってくれるでしょう。ただ、冒険者達に対する褒美をお願いします」

 

「私の目に留まるような戦果を挙げた者のみに褒美を授けることにする。そうだなぁ・・・・・私と一夜を共にする、というのも悪くなかろう」

 

豊かな自身の胸を組んだ腕で持ち上げつつ強調し、股を開いて艶やかに誘惑する女王に重鎮たちはすごく呆れ果てた。

 

 

『ファー!?』

 

『一夜を、と、とととともにぃ・・・!?』

 

『アレですか、アレなんですかぁー!?』

 

『うぉおおおおおおおおおっ!! 滾って来たぁー!』

 

 

「勇者にはオアシスの町から打って出て、サンラクから攻めてくるだろう西へ赴き敵を食い止めてもらう。黒魔術師は黒竜を封印から解き放とうが、黒竜を制御できるとは限らぬからな」

 

「理由は?」

 

「黒竜は生命という生命を食らう化け物で、かの魔王ですら危険視する怪物だったゆえに、敵も味方も関係なく黒竜を討伐・封印する連合を結成して膨大な数の犠牲をだしてやっと封印したときく。どんな優れた魔法使い・魔術師だろうと黒竜を支配下に置けるとは考えにくい」

 

となると、解放だけしておいて放置ってことか。はた迷惑すぎる黒魔術師だな。

 

「二つの国を滅ぼした後、黒魔術師にとって得する事とは?」

 

「何を得するかは分からぬ。特別な秘宝があるわけでもなく、過酷な砂漠で生きる私達は特別な人間でもない」

 

皆目見当がつかない女王だったが重鎮の一人が口を開いた。

 

「あります。秘宝」

 

「なに?」

 

「しかし、真実かどうかまでは・・・サンラクとルナマリアは元々一つだった王国から二つに分かれて築き上げられた国であると、王を除いて私達だけの間で語り継がれている言い伝えがございます」

 

自分だけでなくこの場にいる重鎮全員が自分達もそうだと一人の重鎮が打ち明けた言葉は女王から催促をかけられた。

 

「何故に王である私や歴代の王に語られておらなんだ」

 

「野心が強い王に秘宝を公にすれば砂漠の世界を支配しようとする危険な思考を持つからです。実際、他の世界も征服せんとしたサンラクの初代の王の子孫の暴走により黒竜は封印されたのです」

 

―――もしやすると、黒竜を封印から解いて敢えてサンラクとルナマリアを滅ぼさせ、秘宝を後で手に入れることが出来るならば支配下に置くことが出来るでしょう。

 

続けて語られた新事実に場は沈黙し、女王は眉間を険しく寄せ「秘宝はどこにある」と重鎮に問い質した。

 

「わかりませぬ。今となっては王を支える我々の先祖から継承され続け、後世の子孫のみに語られる言い伝えなのです。姿形すらもどういったものなのかも私達は見聞したことがございません」

 

黒魔術師とやらの狙いが輪郭に浮かび上がってきたな。

 

「敵の狙いは黒竜を支配下に置くことが出来る秘宝とならば、尚更それを阻止せねばならないということだな勇者よ」

 

「封印と言う生温いことはしません」

 

「当然だ。お前達勇者の活躍をこの目で確かめさせてもらおう」

 

 



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黒竜退治1

 

「へい、視聴者諸君。一緒にクエストしてみたくはないかね」

 

 

『本当に一緒に? 白銀さんと受けられるのか?』

 

『マジで? 嘘じゃないよな?』

 

 

「今だけオアシスの町にくれば参加人数は無制限で俺と同じクエストが共有できる。ただ、集合時間は一時間以内だ。クエスト内容はルナマリア国の死守。報酬は称号『砂漠の義勇兵』だ。そして正確な場所は把握できてないから長く移動するかもしれない。それでもいいならしっかり準備をしてからここに集まってくれ」

 

 

『場所はまだ特定されてないのか。でも、クエストは参加したい』

 

『称号もらえるチャンスだ。これは参加しなくちゃ』

 

『サスシロ! やっぱり白銀さんはすげーわ!!』

 

『今からそっちに行くぜ!』

 

『参加するよ白銀さん!!』

 

 

予想以上に集まりそうな勢いで視聴者からの参加要望が多数だ。ギルドメンバーにも個人の自由でいいから一緒にクエストをしないかと誘ってみるか。【炎帝ノ国】もどうかな?

 

 

「おいペイン。ハーデスが黒竜退治のレイドクエストをしないかって誘いのメールが届いた。今からオアシスの町に行かないと間に合わなそうだぞ」

 

「そうか。また面白くなりそうだね」

 

「じゃあ行くか」

 

「本当にハーデスはゲームを盛り上げてくれるねー」

 

 

「ふふん、ハーデス君からの誘いに断る理由はないね。メイプルちゃんとサリーちゃん、イカルちゃん、マイとユイも参加するならフィールドボスを倒す協力をしてくれかぁ・・・・・了解♪」

 

 

「メイプル、ハーデスからのお誘いどうする?」

 

「参加してみたいかな! サリーと一緒ならどんな相手だって勝てるよ!」

 

「そっか。でも、第7エリアまで行く道中はフィールドボスを倒さないといけないから。イッチョウに頼んでみるよ」

 

 

「エスク、砂漠に行ってみよう!」

 

「ムー」

 

 

「お姉ちゃん、ハーデスさんから誘われてるけどどうする?」

 

「私達で役に立てるなら頑張ってみたい」

 

「そうだね。じゃあ、イッチョウさんと一緒に行ってみよう」

 

 

「【蒼龍の聖剣】のメンバー全員に誘ってるのか。参加は個人の自由・・・参加する以外ないだろこれ」

 

 

「音楽プレイヤーの彼女達も参加する意思があるなら一緒に連れて来るように? わかったぜ白銀さん」

 

 

「・・・【蒼龍の聖剣】からレイド戦の誘いのメールが届いた。【炎帝ノ国】の力も借りたいと」

 

「【蒼龍の聖剣】でも苦戦するほどのクエスト?」

 

「きっと私達【炎帝ノ国】と合同でクエストを臨みたいのだと思います。私は参加してもいいと思いますよ?」

 

「俺も賛成だぜ。新大陸の実装までスキルの熟練度とレベル上げ以外することはないからな」

 

「私も同感だ」

 

「俺もだ」

 

「ならば、これより【炎帝ノ国】は【蒼龍の聖剣】とクエストを臨む。各自一時間に内にオアシスの町へ集まるように」

 

 

 

こうして初めて訪れたエリアで発生したレイド戦に備え、【蒼龍の聖剣】のメンバーも誘ったところ。一時間以内にオアシスの町に集まったプレイヤーの数は数千人も超えて・・・・・いや、集まり過ぎじゃないか? 運営の対応がかかってるぞこれ。

 

「死神ハーデス」

 

赤を基調とした集団を引き連れた赤髪赤眼の女性の炎使いミィが、道を空けだす野次馬の間を通ってこっちに来た。握手しようと伸ばした俺の手をミィも手を伸ばして互いの手が握り締め合った。

 

「一緒に参加してくれて嬉しいぜ」

 

「こちらこそレイド戦のクエストの誘いに感謝する。共にクエストを達成をしよう」

 

「急増のレイドパーティだから、不手際が生じるだろう。ギルドメンバーや他のプレイヤー達とは連携を出来るだけするよう頑張ろう」

 

「ああ、お互いにな」

 

 

運営side

 

「多すぎだろぉっ! あんなに集まるんじゃすぐにレイド戦が終わってしまうわ!」

 

「どうしますか? クエスト開始まで30分もないですよ」

 

「設定を変更だ! ボスの強さを大幅に改変! 五倍だ!」

 

「わかりました!」

 

「これでレイド戦らしくなるといいですが」

 

「白銀さんの影響がここまで凄まじいとは。今後はサーバー分けした方がいいな。今回それが判っただけで対応がしやすくなる」

 

「ですね。一度誘っただけで・・・あ、一万超えましたね」

 

「だぁー!! 人数設定すればよかったぁー!!」

 

 

―――一時間後。

 

 

運営がどうなっているのか知る由もない俺達は時間制限が過ぎた瞬間、オアシスの町に集まった数多のプレイヤー達と西へ行軍を始めた。自然と俺の周りにはギルドメンバーが集まって、まだ初心者の枠のイカル達も参加に間に合って、【AGI】が0のため砂漠の空に飛ぶミーニィの背中に乗っている。

 

西に向かって帰ってこなくなったというNPCの夫の情報しかない俺は、それを信じる他ないからひたすら西方に一万人以上のプレイヤーを、セキトに乗っている俺の後ろに乗ってもらったミィと一緒に引き連れる。オアシスの町から歩いて30分も経った時だった。砂漠の景色が一変した。赤い色の砂漠が俺達を待ち構えたのだった。しかもそれだけじゃない。目の前で巨大な赤い砂嵐が激しく巻き起こっていた。

 

「このエリアにこんな場所が・・・・・」

 

「来たことが無いのか?」

 

「ああ、赤い砂漠と砂嵐などあったらすぐに情報が広まっているはずだ。・・・どうする」

 

どうするも何も・・・・・決まってるじゃん?

 

「砂嵐の中が怪しいと思うからな。ちょっと偵察できるプレイヤーをあの中に突っ込ませたい」

 

「正気か? 何もなかったら無意味だぞ」

 

「調べもせずにただひたすら西に向かうよりは有意義だと思うがな? 一回だけ俺を信じてくれないか」

 

「・・・・・わかった。お前を信じよう。こちらにいる【VIT】の高いプレイヤーを募ろう」

 

「俺んところは、砂嵐の風力を調べてみたいから風除けできそうなプレイヤーに手伝ってもらうかな」

 

ということで、【蒼龍の聖剣】と【炎帝ノ国】からは巨蟲のテイマーのエリンギと第二陣のテイマー、トンボ。大盾使いのベテランのクロム、その他のプレイヤーから十数人に砂嵐の中の偵察をお願いした。

 

「エリンギとトンボの巨蟲で風除けが出来るか頼む」

 

「わかりました。では行ってきますね」

 

「朗報を待っていてください!」

 

「ん? 俺達も行くぞ」

 

「一緒にくるのかよ」

 

当然じゃん。多い方が越したことじゃない。という事で出発! ミィには、嵐の中で何か発見したら全員で来るようにお願いした。イカルとメイプルも同行してもらう【VIT】に自信があるメンバーで砂嵐の中に突入した。当然動画配信もしてるぞ。皆も把握できるよう配慮だ。

 

「うおっ!! こいつはすげぇッ。砂粒が勢いよくぶつかってくる!」

 

「前が見えないな! 前衛は大盾を構えて前進、それ以外は大盾を上に持ち上げて、横に構えながら砂除けの壁を作り一つに固まりながら前に進もう!」

 

「「はい!」」

 

ガッシリと偵察部隊の俺達は手に持っている大盾で壁を作り、巨蟲の巨大な身体の間にいても俺達を襲う突風と砂から遮って移動する。セキトはエリンギとトンボを乗せて前に進行してもらってる。

 

「予想していたが、やっぱり砂嵐の影響で【AGI】が減少してるな」

 

「「え、そうなんですか?」」

 

「一応、俺もそうだけどメイプルとイカルも【AGI】0の防御力特化だから変化はないぞ」

 

「・・・・・それで総合ランク1位? はは・・・・・」

 

防御力は絶大なりー! とアホな考えをしてるとエリンギとトンボが砂嵐の中で瓦礫を見つけたらしい。しかも表面は彫刻されているだとか。それを調べるべく寄り道する。

 

「これは、遺跡の残骸か?」

 

「NPCの夫は伝説の秘宝を探しているって話だから、もしかすると古代の遺跡とかあったりするんじゃないかな」

 

「古代の遺跡と秘宝? お宝があるんですかね?」

 

「あるかどうかさておき、それを手に入れられるか否かがこれから辿り着く場所で確認しよう」

 

「おお、ワクワクしてきた!」

 

再度歩き始めてからも赤い世界の中で大小の柱の残骸、その昔に人が住んでいただろう石造りの家などが多く見つけるようになった頃に俺達は・・・・・巨大な建造物の門に続く階段へ辿り着くことが出来た。砂嵐の中心か、風の影響がなく無風の空間にいるようだったので壁を解き周囲を見渡す。盗賊団のアジトらしき木造の家が軒並みに並んでいて、石造りの建造物を完成させようとしているNPCの多くが働いている。ただし、両手首と両足首に拘束具が付けられているので奴隷として強制的に働かされているようだった。

 

「本当にあった・・・古代遺跡!」

 

「誰だそこのお前達!」

 

「盗賊団のアジトもな」

 

早速見つかり、警戒される。槍と剣を突き付けられ取り囲まれてしまった。赤いターバンを頭に巻いたNPCの腕には赤いトカゲの刺青が彫られている。

 

「ちょっと俺に話を合わせてくれ」

 

「わかりました」

 

セキトを前に動いてもらい代表として俺が話しかけようとすると、何故か盗賊達が3歩も下がった。

 

「どうして下がるんだ」

 

「き、貴様は何者だ!? 我々砂漠の赤トカゲ団の者ではないな!」

 

「砂漠の赤トカゲ団? じゃあここは砂漠の赤トカゲ団の拠点で間違いないか?」

 

「だったらどうした! 貴様等は侵入者として―――」

 

「撤退。相手をする暇ないから帰るぞ」

 

そう切り返す俺の速さにNPCの盗賊とクロム達が呆気にとられた。

 

「いいのか?」

 

「黒竜を討伐しに来てるのに盗賊と戦っている暇ないんだ」

 

「まぁ、それもそうだが向こうは襲ってくる気満々だぞ」

 

俺達を逃がさんと取り囲んでくる砂漠の赤トカゲ団の盗賊達。さてどうしてくれようか・・・・・。

 

「・・・・・うん?」

 

対処に悩む俺やこの場にいる一同も伝わってくる激しい振動。地震か、と思っても当然な縦に揺れる地面に立っていられず、宙に浮くセキトに乗っている俺以外の敵も味方も関係なく倒れる。きっとミィ達のところにも伝わっているだろう震動がますます増して、古代遺跡以外の建物は倒壊する最中。赤い砂嵐の向こう側から巨大過ぎる影が浮かび上がり―――俺達の目の前にそれが現れた。

 

「・・・・・蛸?」

 

に見える風船のように膨らんだ手足と胴体がない竜の頭部から伸びる八つの首と頭部が竜。全身が黒色で山のように大きいため、俺達を丸呑みできる。奴の登場と同時に地震が治まったのでクロム達は眼前の怪物を視認できた。古代遺跡は怪物に覆いかぶさるようにして隠れてしまった。

 

「【挑発】! 全員、NPCの保護を優先!」

 

「は? NPCを助けるってなんで・・・」

 

「もう戦闘が始まってるんだ。今この場にいるNPCはただの背景だと思うのか? 奴の餌で強化するためのギミックだったら厄介すぎるんだぞ。盗賊達も助けてやれ!」

 

「わ、わかりました!」

 

「【挑発】が出来る奴は触手のような竜を出来るだけNPC達から意識を反らし惹きつけろ!」

 

イカルとメイプルはセキトに乗ってミィ達のところへ向かってもらう。【挑発】をかけたこっちにデカい頭の竜が口を開いて―――黒い墨みたいな液体を吐き散らして来た。

 

「全力回避! 装備の耐久が減るかもしれないぞ! できないなら頭を守れ!」

 

「そりゃあ大盾使いにとっちゃあ厄介だな!」

 

広範囲に赤い砂を黒に染め上げるそれを被ってしまった味方は、何ともなさそうに佇んだ。

 

「自分の状態の報告!」

 

「えっ、あ、はいっ。・・・えと【VIT】が一定時間0になるようです!」

 

嘘だろっ!? それが取り柄の俺じゃ二発で死ぬわ!

 

「ヤバい、大盾使いだけで来たのが仇になったっぽい! ごめーん!」

 

「だったらベヒモスに変身して他の連中が来るまで時間稼ぎをしてくれ!」

 

「それもそうだな。【覇獣】! 【八艘飛び】!」

 

クロムの言う通りにして空中ジャンプして黒竜へ飛び掛かった。デカい頭部の上に目掛けて近づかんとする俺に全ての触手の竜が迎撃態勢に入ったのか、こっちに振り返って迫って来た。

 

「【咆哮】! 【悪食】! 【生命簒奪】! 【精気搾取】!」

 

そして信じられないことに、ボスも含めて今までモンスターがしなかったことをこのモンスターはしたのだ。どす黒いバリアを本体に覆うように展開、触手の竜もバリアを展開しては最凶の一撃を食らおうと残りの数本が懐に飛び込んで体勢を崩されたところ、零距離から攻撃、それを受けた俺は光に包まれた。

 

 

イッチョウside

 

 

ハーデス君が八本の足のような竜からの黒い光線に呑み込まれた瞬間を目撃したところで、赤い砂嵐を突破した私達。

 

「ハーデス君?」

 

「白銀さんがやられた!?」

 

「嘘だろ! あの人がやられるほど強いのか!」

 

「ハーデスさん!」

 

困惑と絶望を貼り付けた私達に八本の竜はこっちに振り返り、ハーデス君を倒した黒い光線を放とうとするモーションに入った。頭のデカい竜も八本の竜よりも比べ物にならない光量を集束してる。

 

「よ、避けろぉおおおおおおおおおおおおおおっ!」

 

―――無理だ。二万人以上が集まっている状況では、絶対躱せるはずのない一撃が放たれようとしているんだから。運よく全滅が免れてもよくて半数、最悪八割しか残らない戦力で戦わないといけない。しかもハーデス君抜きでだ。

 

「避けられないなぁ・・・・・」

 

半ばそう諦めかけていた時だった。私の視界に巨大な炎の竜巻に続いて大嵐、さらには空から巨大な隕石が3つも落ちて来た。攻撃をしようとしていたボスは防御態勢に間に合わなかった様子で、大きな頭の竜ごと全身で隕石に当たってしまった。

 

ギュオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオンッッ!!?

 

大規模な爆発と衝撃波でこっちも少なくない人数が吹っ飛ばされる。隕石に直撃したボスのHPが二割程度減って勝てない相手ではないことを再認識された・・・・・ハーデス君がボスの頭の上に立っている姿と共に。

 

「うおおおおお! 白銀さんがまだやられていないぞー!」

 

「俺達も出遅れるな!」

 

「いけいけー!」

 

「本当の闘いはこれからだー!」

 

ハーデス君の姿を一目見ただけで士気が一気に高まり、ボスへ迫っていくプレイヤー達。【蒼龍の聖剣】も【炎帝ノ国】もこの流れに逆らわず攻めていく。ただ、不安要素がある。まだ私達はボスの能力を把握しきれていないことだ。

 

「お、おい! 黒い魔法陣が!」

 

誰かがそう叫んだ。それに気付いた時は私の横にも魔法心が浮かび上がっていて、武装したスケルトンが召喚されたっぽくてあちこちから阿鼻叫喚が聞こえてくる。スケルトンだけじゃない、ゾンビっぽいモンスターも交じっているようだね。



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黒竜退治2

勝手にやられていたことに遺憾だが、こっちはこっちで収穫あった。タコから降りて身体の隙間を掻い潜っては、古代遺跡の門の前に移動すると不意に松明が灯り出し、門を開くための神聖文字(ヒエログリフ)みたいな文字が発光現象と共に浮かび上がり書かれていたのが視界に入る。

 

『この絶望の厄災に太陽の祝福を』

 

いや短すぎるわ!! 意味が分からないし!!

 

しかも・・・・・ミルクパズルのような黄色一食のピースをはめて完成しなくちゃいけないギミックらしい。これ、何千個もあるんだ?

太陽・・・炎と熱? ・・・・・さっき俺が放ったスキルはどれも炎が付加されたもんだからダメージが通ったのか?

 

「だったら・・・・・。ミィ、質問だ」

 

『どうした』

 

「炎属性の攻撃でダメージが通ってるか確認できるか?」

 

『難しいな。四方八方から他のプレイヤー達が攻撃していてダメージを与えているから、どの攻撃が有効的なのか把握できない。それに召喚されたアンデットとも戦って確認どころではない。それがどうかしたのか』

 

「タコに関するギミックを見つけた。太陽の力で倒すことが出来るらしい」

 

『太陽・・・炎と熱のことか。ハーデスの疑問も納得だ。先ほどのスキルもお前が放ったものだとすれば、このボスモンスターは炎攻撃が有効ではないかと思っているのだな』

 

そういうことだ。と肯定しながらパズルのピースを組み立てていく。

 

『それで、ギミックとはどんな感じなのだ』

 

「黄色一色のパズルピース。これをはめて完成させなくちゃいけないらしい」

 

『・・・私では手伝いそうにないな』

 

「そうだな。ミィは歴史の点数がいつも赤点ギリギリだったしな」

 

『そ、そんなこと覚えないでくださいよ! あ、いやミザリー何でもないよ・・・っ!?』

 

あ、演技がバレたっぽいなすまんミィ。

 

「さてこっちはこっちで難解だな。一時間以内に終わらせないと」

 

パチパチと形が一致するパズルをはめていくが時間が掛かり過ぎる。記憶力がいいプレイヤーが数人欲しい所だな。

 

「やぁ、僕も手伝ってあげるよ」

 

「うん、どちらさんだ?」

 

癖毛のある赤髪と赤目。中性的な外見をしており、どこか掴みどころのない雰囲気を持つ少年が話しかけて来た。どうやってここに?

 

「僕はカナデ。【蒼龍の聖剣】のメンバーだよ」

 

「カナデ・・・・・ああ、名前だけはギルドメンバーのネームにあったな。俺が直接声を掛けたことが無いから、イッチョウか」

 

「そうだよ。僕はメダル争奪戦のイベントの時にメイプル達と友達になってね。メイプルが誘ってくれたんだよ」

 

それじゃ俺が顔を知らなくても当然だわな。後でイッチョウから俺の知らない他の誰かを誘ったのか訊きださないと。

 

「因みに聞くが、どうしてここに来られた?」

 

「今でも動画の配信をしてるよね。他のプレイヤーの人たちの声が『白銀さんがパズルを遊び始めてるぞ』って聞こえたから、ボクの得意分野なら手助けできるって思って、なんとか来たんだよ」

 

得意分野と断言するか。

 

「記憶力に自信は?」

 

「もちろんあるよ」

 

「んじゃあ頼む」

 

「りょーかい」

 

それから二人でパズルをはめていくようになってから作業のスピードが倍になった。始めに凹凸がないピースからはめて枠を完成させてたから、次のピースを見つけてはめていくだけの作業はカナデと一緒にやるとパズルはどんどんと埋まっていく。カナデが集中疲れで休憩を挟んでいる間にも俺は続けていたので、パズルは30分以内に完成で来た。

 

「よし、出来た! お疲れカナデ!」

 

「お疲れ様。凄い集中力だね。疲れない?」

 

「仕事で鍛えてるからな」

 

「そうなんだね。あ、門が開きだすよ」

 

パズルが太陽のように輝きだす現象に呼応したか、古代遺跡自体も閃光を迸り始めた。ただの光じゃない。熱も発していて、巨大な門も重低音を響かせながら開きだした。同時に蛸竜のボスモンスターが。

 

ギュオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッ!!

 

咆哮した。攻撃パターンが変わる兆候か。ここからじゃ状況の把握は出来ない。何が起きている?

 

「イッチョウ、状況報告」

 

『黒竜がモンスターとプレイヤーの皆を捕食してHPを回復してるっぽい! デカい竜も掃除機のように吸い込んで味方がどんどん減っちゃってるよん!』

 

「こっちはギミックを解除したばかりなんだが、変化はないのか?」

 

『なんか黒竜を貫く光の柱で赤い砂嵐を消しただけ!』

 

カナデと疑問符を浮かべる。開ききった門へ振り返り、中に入ってみると巨大な鏡が鎮座していた。

 

「鏡・・・・・?」

 

「これで太陽光を反射して当てろって?」

 

それも虫眼鏡だ。・・・・・ふざけてるのか運営?

 

「取り敢えず試さない?」

 

「黒竜に対する有効打になることを信じるか。乗れカナデ」

 

巨大な虫眼鏡を手に取り、背中に負ぶさるカナデと一緒に黒竜から離れて空へ飛ぶ。太陽に向かっていい感じの高さまで昇ると空中停止し巨大な黒い塊のボスに向かってカナデに虫眼鏡で太陽光と照準を合わせる。

 

「もっと右右、あ、ちょっと上かな。うーん、左下。十メートルぐらい一周してくれる?」

 

ただ、合わせるのが大変だった。でも、ぴったりはまると変化が起きた。光り輝きカナデの手から離れる虫眼鏡が太陽の光・・・紫外線を一点に集束した後、全てを焼き溶かさんと勢いの熱戦が蛸竜に向かって発射され直撃した。

 

ギュガアアアアアアアアアアアアアアアッッ!!?

 

太陽の光に焼かれ八本の竜が焼失した。本体のHPも一気に減って生き残った僅かなプレイヤー達は最後の接戦と攻撃を始め、役目を果たした虫眼鏡は割れて消滅した。

 

「いやー、手強かったボスだな」

 

「そうだね。虫眼鏡がなかったら勝てなかったんじゃないかな」

 

「それでも勝てたかもな。ただし、全滅必須だ」

 

HPが一割になり、本体だけとなったボスが最後の足掻きだと全身を赤く染め巨大な口から極太のビームを一点に集束したかと思えば、こっちに向かって跳躍してきた。

 

「って、最後はこっちかよ!?」

 

「あはは、結構なヘイトを僕達が稼いだっぽいね」

 

「にゃろう! 下の連中に倒されろよ! 【身捧ぐ慈愛】! 【イージス】!」

 

放たれるビームに数秒間だけ攻撃を無効化する光のバリアを展開し、ビームの一撃を乗り越えると今度は捕食行動を取った蛸竜に。

 

「【クイックチェンジ】【血纏い】」

 

大盾と短刀から『ハーデスの大鎌』に変更してHPを一割だけ残して【STR】に注ぐ。

 

「もう一度【クイックチェンジ】【反骨精神】」

 

全ての【VIT】の数値が【STR】に変換された状態で装備を戻した短刀を大剣に。迫る蛸竜から横へ躱し他直後。

 

「【連結】【エクスプロージョン】―――【溶断】!」

 

蛸竜の身体に突き刺した途端に爆発が起きて、斬りながら蛸竜の身体を一周すれば連続で起きる大爆発に包まれたボスモンスター自身も・・・大爆発して消滅したのだった。クエスト達成の青いパネルが浮かび上がり報酬も貰えた。

 

 

「よっしゃぁー!」

 

「白銀さんすげー!」

 

「称号もゲットだぜ!」

 

「死に戻りした連中も称号を手に入れたらしい!」

 

「ああ、そいつら無駄死にならずによかったよ」

 

「ヒャッハー! レベルも上がりまくり―!」

 

下の連中から聞こえる歓喜の雄叫びは、いい結果で終わったようだな。

 

「こっちはこっちで蛸竜の素材が多く手に入ったな」

 

「僕が虫眼鏡でHPをたくさん減らした貢献からなのか、太陽の眼鏡なんてアイテムが手に入ったよ。スキルとMPと【INT】のステータスをあげる効果付きだ」

 

スチャっと眼鏡を掛けるカナデはとても似合ってた。

 

「どこぞの子供名探偵っぽいな 」

 

「ふふふ、何でも問題を解決してあげるよ。フレンド登録してもらってもいいかな?」

 

「もちろんだとも」

 

イッチョウもいい人材と関係を結んでくれたな。今夜は好物を作ってやろう。にしてもこのアイテムはなんだろうか。

 

 

『月の石』

 

用途不明だが、石に闇の力が秘められている。

 

 

使い道が判らない石か。どんな力が秘められているのやらな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・作戦失敗の模様ですな」

 

「クソ! あれほどの戦力と個の強さだとは想定外だ! これでは俺様の野望が・・・何の為に国を滅ぼしたのだ!」

 

「―――やはり、貴様の仕業だったのか」

 

「うっ!?」

 

「確信はなかったが女の勘と言うやつか。お前からは何か怪しいと思えてならなかった」

 

「な、何故お前がここにいる!? 国にいるのではないのか! しかもたった一人だけとは!」

 

「お前と同じよ。勇者たちの戦いぶりをこの目で見届けるためだ。お前の兵士がここに向かうところを見掛け、後を追いかけて今に至る。さて・・・自国を滅ぼし私達の国をも滅ぼそうとしたお前は、死刑の極刑以外罰する罪はない。この場で死を以てお前の身勝手さで死を迎えた国民達がいるあの世へ向かえ」

 

「い、嫌だ! 俺様はまだ死ねない! お前達、俺様を守りあの女を捕まえろ! 相手は一人だ! 黒魔術師殿―――へっ、い、いない?」

 

「(鮮やかすぎる逃走だな)いや、死ぬしかないぞ。―――死霊術で召喚したお前の国で死んだ国民達の怒りを味わうがいい」

 

黒竜を討伐に成功した俺達の知らないところで、別の問題が幕を引いたのは知る由もなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

黒竜討伐に成功し、イベントに参加した皆は楽しんで称号も得て満足気に砂漠を後にするか何かに期待して留まる皆と離れ、俺は宮殿の玉座の間に招かれていた。

 

「封印することでしか無力化にできなかった古代の者達より遥かな強さと慧眼な手段を駆使し、よくぞ黒竜を討伐してくれた勇者よ。ルナマリアに住む者として、皆の代表して賞賛の言葉を送る。ありがとう、そなたはルナマリアの英雄だ。砂漠の赤トカゲ団と盗賊団に捕らわれていた無辜の民の救出も誠に見事」

 

「身に余る勿体なきお言葉です女王陛下」

 

「お前の戦いぶりは我が娘が見届けた。よもやこの者を信頼に値しない輩ではないことを、この場にいる者達もわかっているだろう」

 

重鎮たちは女王の言葉に頷く。

 

「では、この国の英雄である勇者には褒美を授ける。ルナマリアが代々大切に管理されている宝だが、なんの使い道のない私からすればただの石ゆえ、私では価値さえわからぬ。世界を跨いで冒険する勇者ならばいつかきっと見出してくれるだろう」

 

召使が柔らかく高級な敷物に乗せられた『月の石』と同じ小さな石を運んでくる。俺の前に差し出されるそれを感謝込めて受け取った瞬間、これが何なのか分かった。

 

『太陽の石』

 

用途不明だが、石に太陽の力が秘められている。

 

・・・・・これが報酬って雑ではないですか? いや、文句はありませんよ?

 

「そして勇者ハーデスはこの宮殿の出入りの自由を許可する。我が家のように空いている部屋を使って寝てもよし、食卓で私達と食事をするのもよし、男子禁制の女用の風呂に入っても構わぬ。断れば死刑だ」

 

「・・・・・」

 

『・・・・・(フイ)』

 

大臣達に「この女王をどうにかして欲しい」という懇願の視線を、顔を逸らされて助けてくれない薄情さに悪い意味で感嘆ものだ。

 

『プレイヤーが新エリア「ルナマリア」を解放しました』

 

ああ、このエリアも解放されたか。EXクエスト『黒竜討伐』

 

「あ、ありがとうございます・・・・・一つ確認を」

 

「なんだ?」

 

「宮殿に納屋と畑ってある?」

 

 

 

 

退屈だからと女王自ら案内してもらった場所は自給自足している宮殿の広い畑だった。外国の様々な植物を育てて、中にはコーヒー農園やサボテンまである。ドラゴンフルーツが食べられるのか。

 

「おお、こんなに見たことのない植物がある! いいな、欲しいな!」

 

「こんなモノに興味があるのか今時の勇者は」

 

「俺も多種多様の植物を育ててるから興味あるんだ」

 

「ほー? 砂漠にはない食用の植物があるのだな? 見られるなら是非とも見てみたいものだな」

 

見られると思うぞ。

 

「ここの畑も俺が使っても?」

 

「宮殿の畑は駄目だ。国外にある農園場に行くがいい。そこならいくら使っても構わぬ」

 

という女王様は行く気満々で、シャルジャーザと一緒に案内してもらうことになった。

場所はルナマリアから離れた東にある大きなオアシス。砂がなく広大に土があるここでないと育たない話だ。

 

「あれ、ここに管理者がいないんだな」

 

「こんな場所に人員を割ける必要はない。ルナマリアにいる農園主に畑を買えば済む話だ」

 

「・・・・・俺、畑買ってないんだが」

 

「案内してくれと言ったのはお前だぞ?」

 

コミュニケーション不足ぅっ!!

 

ルナマリアに戻り農園主に会って畑を購入する羽目になり、改めて自分の畑を手に入れた納屋にトランスポーターを設置した。これで砂漠のエリアと日本家屋のマイホームと繋げることが出来た。

 

「それはなんだ?」

 

「俺が拠点を構えている場所の家と繋げる道具だ。これで何時でもここの畑に行き来できるんだよ」

 

「奇怪な道具を持っているのだな。それはお前だけが利用できるのか?」

 

「試してみるか?」

 

最初に俺がトランスポーターを利用して日本家屋に戻って待っていると、女王とシャルジャーザ、召使と女兵士数人がやってきた。砂漠の世界と宮殿しか見たことが無い世界と一変して、木造の家と嗅ぎ慣れた空気と匂いではなく大変興味深そうに周囲を見回す。

 

「ここが、お前の家なのか」

 

「いらっしゃい。まぁ、見たことのないものばかりだろうから何でも聞いてくれ」

 

と言った手前。女王や王女達からの猛烈な質問責めは堪えた。初見の物は何でも興味抱き、些細な事でも詳細の質問をしてくる。草を煎じたお茶は好みではなかった。更に他のマイホームを見せたら「ここは摩訶不思議の楽園か!」と驚かれた。そしてこの後、リヴェリアがシャルジャーザと喧嘩するようなことになったがそれは別の話である。

 

「使い道が判らないままはなんか嫌だし、何となくここに戻ってきたものの・・・・・」

 

赤い砂嵐が消失し、虫眼鏡があった開きっぱなしの遺跡の扉の前に立っていた。けれども今となってはただの遺跡としか見受けれない。

 

「・・・・・」

 

小さい石、ビー玉ほどの大きさの太陽と月の石。手の平に転がるそれを見て俺は・・・・・。

 

「ははは・・・・・こうなるのか」

 

あの後、新スキルを二つ取得したことで太陽を彷彿させる後光を背負い砂漠にいくつもの大穴を作ってしまった。これほどの威力とは・・・凄いスキルだな。この【太陽神】。

 

もう一つは【月下美人】・・・・・夜間限定で女に性転換した状態まま月光を浴び続けることで、力を蓄積した分、魔法攻撃でも物理攻撃でもない無属性の攻撃を全放出。

 

【太陽神】も【月下美人】と酷似したスキルの内容だ。さらにどちらも二つのスキルが内包されているのだからEXのクエストの報酬としては悪くない。



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新たな出会い

黒龍討伐後・・・・・不動産のNPCから受け取った手紙に関わるクエストかもしれない可能性として11エリアの都市に来ていた。どこかに同業者がいると言われたから探しているんだが・・・いずこにいる? 手紙を出しながら広い都市の中を歩き回って、見つからなかったら別の都市へ移動、探しても見つからなかったらまた別の都市に向かう、という繰り返しをしてはもう時間帯は夜なので諦めかけた。

 

「お兄さんお兄さん。銀髪のお兄さん」

 

「ん?」

 

その時だった。振り返っても俺を呼んだかもしれない人物がいなかった。気のせい? と思って前に振り返ろうとしたら脚を叩かれる。

 

「こっちですお兄さん」

 

足元を見下ろせば栗毛の小さな女の子がいた。クリーム色のゆったりとしたローブを身につけ、深く被ったフードから栗色の前髪がはみ出ている。背には、その小さな体より一回りも二回りも、それ以上に大きい、大きなバックパックを背負っていた子供はNPCで名前はルルカ・・・か。

 

「どうした? 迷子か?」

 

「ルルカは迷子ではありません! これでも16歳です!」

 

「その割には身体が小さいな」

 

「小人族ですからそうなんですぅー!!」

 

小人族? エルフやドワーフと獣人族以外の異種族は久しぶりだな。でも、こんなNPCがいる情報はなかったが・・・・・?

 

「その小人族がどうしてここにいる?」

 

「ルルカ達はとっても大切なお客様の前にしか現れません。その黒い封筒はルルカ達ナヴィゲーションを雇う紹介状なのです」

 

「ナヴィゲーション?」

 

はい! と元気よく返事するルルカの一言はとても興味を惹く者だった。

 

「異邦の地から来た冒険者様方より、ルルカ達は一杯知っていることがあります! モンスターの生息地、秘境の地、ダンジョン、様々なアイテムやその他諸々!」

 

・・・ほう?

 

「小人族は世界の情報に長けた一族です。全てではございませんが、それでもルルカ達を雇えば他の冒険者様より活躍することは間違いなしです!」

 

「そうなのか。質問だが小人族を雇うには条件はあるか?」

 

「勿論あります。まずは誰よりも圧倒的な資金力があること。そして誰よりも一番出遅れている事。ナヴィゲーションである小人族のルルカ達を雇うお金はたくさん必要で、亀より出遅れた冒険者様こそナヴィゲーションを必要とする相応しいお方なのです」

 

「単に金持ちなだけではダメなのか」

 

「ダメですね。それではルルカ達のお役目が果たせません。ルルカ達は出遅れた冒険者様がこそ色んな世界に導くに値する存在なのです」

 

出遅れた冒険者・・・・・その称号がないと駄目なようだな。ということは、同じ称号を持っているイカルもか?

 

「招待状がないと雇えないか? 俺と同じ出遅れた冒険者が一人心当たりがあるんだが」

 

「申し訳ございません。小人族を雇うには招待状が必要なのです」

 

「その招待状を不動産の男から貰ったんだが、どうやって招待状を?」

 

「最低でも三つのホームを購入する事ですよ。ですが、出遅れた冒険者様以外の方がホームを複数購入しても招待状を貰えませんのであしからず」

 

本当に出遅れた冒険者じゃないと駄目なんだな。なお、小人族はこの辺りじゃないと探せないか?と訊いてみたら。

 

「いえいえ、封を開けてくだされば小人族から尋ねますので」

 

と答えが返ってきた。今まで探していた苦労は一体・・・・・。

 

「ルルカ達は、小人族の抱えている情報は大変貴重なものばかりですので、安易に公開できません。なので世界を冒険する者達の中で一番遅い方だけに素晴らしい体験と冒険をさせるのがナヴィゲーションの役目なのです」

 

「なるほど・・・大体わかった。最後だが、小人族を雇う金額とは?」

 

「10億です。それだけ見合う価値のある冒険を導かせてもらいます」

 

「それは個人? 団体でも可能か?」

 

「ルルカをパーティに加えてくだされば可能ですよ。いかがです?」

 

ふむ。稀に見る小人族。嘘だとしても交流して損はないかもしれないか?

 

「わかった。あー雇う期間とかあるか?」

 

「ありませんよー。冒険者様が雇った瞬間、ルルカは冒険者様のパートナーとなります」

 

「そうか。じゃあこれからよろしくな」

 

小さな手を握り握手する。10億の代金を支払うと『ルルカがあなたの仲間になりたがっています 仲間にしますか?』というメッセージが出て来た。仲間にすると正式にルルカ仲間になった。

 

「ありがとうございます! ではさっそくご案内いたしましょうか?」

 

「ああ、頼む。どこへ連れて行ってくれるんだ?」

 

「ここからですと・・・闇市場が近いです。行ってみますか?」

 

首肯するとルルカは裏通りに進み、おかしなことに建物の裏に扉があった。その扉を見張っているとばかりならず者風なNPCが立っていた。

 

「あ? なんだてめぇら・・・こっから先は立ち入り―――ひっ!?」

 

「なんだ、人を見るなり驚いて」

 

「い、いやっ・・・何でもねぇ・・・・・。お前、どうやらただ者じゃなさそうだな。特別に中へ入れてやる。だが、決して騒ぎを起こすんじゃねぇぞ」

 

「闇市場、だったか? 今何を売っている?」

 

「そいつは自分の眼で見てこい。それとこれを付けろ」

 

ならず者から仮装に使う仮面を渡して来た。ルルカの分までだ。

 

「中には絶対に知られちゃあならねぇ人間がゴロゴロいる。お互いの詮索は無しの暗黙の了解だ。いいな」

 

「無暗に関わらないようにする」

 

「ああ、そうしろ」

 

ならず者が扉を開けて俺達を中に招いてくれた。中は下へ続く紅い絨毯が敷いてる階段のみ。壁には等間隔で掛けられている暗闇を照らす蝋燭。ルルカと降りて進むと背後で扉が閉まる音がしても、地下へと赴く歩みは止めない。闇市場に通ずる入り口も長くなく、扉がない出入り口へと辿り着いた先には、舞台を見下ろす数多の階段状の座席がある会場だった。席にいる人間は全てNPC。そして全員仮面をつけて身分を隠していた。

 

「ようこそお客様。初めてお買い物にご参加する方々ですね?」

 

「ああ」

 

「では、こちらの番号の立て札をお持ちください。ご購入の希望の際はこちらを掲げで指定した金額をおっしゃり、またお客様のご希望した金額を上回るのであればさらに上乗せして、他のお客様と競り合ってください」

 

「わかった。ありがとう」

 

「どういたしまして。どうぞ、楽しいお時間をお過ごしください」

 

ヤギの骨を被った怪しい男から立札をもらって空いている後ろの席に座る。明るくあった会場は次第に舞台を残して消灯。舞台の陰から老紳士が現れた。

 

「お待たせしました。今宵のために素晴らしい品々が皆様の前にご覧いただけるようご用意させていただきました。お越しいただいた紳士淑女のお眼鏡に適い喜んでもらえると幸いです」

 

そう言って始まったオークション。蓋を開ければ表の世界では中々出せれないような品々が出品されていった。まずは前座とばかりポーション系のアイテムだった。でも、回復系じゃなくてデバフ系の方だったんだよなぁ・・・。無味無臭の麻痺毒、【毒耐性大】の解毒薬や装飾品アイテムじゃ効果がない高価な毒薬。次は強烈な幻覚効果の香りを放つ赤黒いバラ。育ててしまうと近づくもの全て喰らう絶滅危惧の植物の苗。どこぞの貴族から盗んだという絵画。他には希少なモンスターらしい素材に滅多に手に入らないだという素材、見たことのない道具屋、骨董品の類まで出品された。後半についてルルカに教えてもらうと使い道の判らない道具以外は全て既知で、絵画と骨董品は盗品であるから持ち主にバレた際が面倒だから買わないことを勧められた。

 

続いて中盤になると商品のグレードが上がった。装備類だ。数ある装備の中には名匠が打った武具がいくつかあるが、神匠の鍛冶師が作ってくれた物には負けるのでパスした―――。

 

「目玉商品はこれ―――数多の邪悪な龍を斬り捨てたために呪いを宿ってしまった魔剣グラムです」

 

魔剣、だと? 興味がある武器が出て来たな。見た目も中々呪われている。それに・・・・・。

 

「またか」

 

「あの剣だけは誰も欲しがるはずありませんもの。手にした者にも呪いが掛かり死に至る話は有名ですし」

 

「主催者側も懲りない。捨てればいいだろうに」

 

「捨てきれない理由でもあるんじゃないか? ま、今回も流すとしよう」

 

「ですな」

 

「命を奪う呪いの物など誰が手元に置くものか」

 

呆れ、嘲笑の客達の間でも呪いの剣は悪い意味で有名のようだな。あの剣は毎度売れ残る常連さんかな?

 

「・・・誰もお買い上げする方はいませんかな? 本日は100Gから始めます」

 

「やすっ」

 

「仕方がないです。見た目もそうですが所有者の命を奪う物なんて、厄介極まりない代物なんですよ?」

 

「なのにそれを売る奴も大概だな。しょうがない、俺が引き取ってやろう」

 

へっ? と変な声を漏らすルルカの隣で立札を上げた。

 

「100Gで買おう」

 

『っ―――!!?』

 

階段状の席に座っていた客達が一斉にこっちに振り返り、同時に恐怖した表情で歪んだ顔を晒す。

 

「所有者に死を齎す剣。面白い、気に入った。俺が剣の呪いに負けるか勝つか、勝負してやる」

 

「・・・・・他に、誰もいませんか?」

 

念には念をと尋ねる彼だが、誰も買おうとする勇者は名乗り上げなかったので魔剣グラムは俺の手に渡ったことで次の商品が出された。心なしか老執事は顔が晴れやかだ。

 

「続きましては―――『人種』でございます」

 

「・・・人種?」

 

「所謂、奴隷です。おそらく帝国か貴族の国から取り寄せたのでしょう。あの二ヵ国は盛んに奴隷を集めて制度を廃止にしないのです」

 

このゲームに奴隷なんてシステムがあるとは知らなかったな。微妙に冷めた俺の視界には、ズタボロな布切れとぶ厚い枷を着けている男女、それも異なる種族がたくさんだ。見たことのない種族もいるな? デカい人間もいる。

 

「ルルカ、あのデカいのは?」

 

「巨人族です。ルルカも初めてみました。誇り高き戦士が奴隷に捕まっていたなんて」

 

「なんかモンスターも捕まっているな」

 

「セイレーンとハーピィ、ラミアにアラクネですね。人種ではありませんが、見た目が人間に近いので捕まえたのでしょう」

 

節操がないな。・・・・・ある意味俺もないがそれはそれだ。

 

「全員、解放するぞ」

 

「そうしましょう」

 

ここから怒涛の競りが始まった。まぁ、敵ではないがな。一人につき数百、数千万、一億を叩き出せば俺と張り合おうとする人間はあっという間にいなくなり、独り相撲みたいになった。その中で―――。

 

「貴様、いい加減にしろっ!?」

 

「あん?」

 

異議を申しだてる客が立ち上がった。

 

「それだけの額を本当に出せるか疑わしい! 出まかせ言って商品だけ盗もうとする腹黒い考えではないのか!?」

 

「バカだなー。買える額があるから買おうとしているじゃん。買えないなら出しゃばらないよ」

 

「ほざけっ! そんなこと誰が信用するものか! 貴様が何者か知らないが、この場にいる全員を敵に回してもいいというのだな!?」

 

「ほう・・・・・この場の全員? えー、オークションに参加している皆様! 魔剣グラムの所有者となった俺と敵対したい人がいるならどうぞ立ち上がってください! この人がこの場の皆様が自分の味方だと仰っているのですかー! 皆さんはこの人の味方になるほど仲がよろしいのでしょうかー!? 仲がいい人はどうか立ち上がってくださーい!!」

 

大声を張り上げて会場全体にいるNPCを問うた。聞こえない筈がない。俺の問いかけに異を唱える男以外の者達から・・・・・彼を味方になろうとする者は、一人も立ち上がらなかった。

 

「ほほう・・・一人もいないとは、随分と人徳も人気もないと伺えますなぁ? 貴殿だけが俺の敵になるらしい」

 

「ぐぐぐっ・・・!!」

 

「誰だか知らないが、面倒事はよそう。せっかくのオークションを邪魔しちゃいけない」

 

手で隠す口元だけは盛大に吊り上げて嘲笑する。男は最後までこっちを睨みつけていたが、荒々しく席に座り直した。

 

「お騒がせしてすみませんでした!」

 

「では、気を取り直して最後のお一人をご紹介いたします。彼女は古の時代、人々に残虐非道の働きを行ったことで強大すぎるあまりに神の使徒数百名が犠牲を出してやっとのこと封印されたと伝承が残っております―――吸血鬼でございます」

 

大きな荷台で運ばれたのは十字架に縛り付けられている全裸な一人の美女。純白のロングストレートで豊かな胸の谷間に大きな白銀の釘が深く刺さっているのが判る。一体どうしたらあんな風になるんだ? 客達の間で感嘆の息が漏れた。

 

「なお、この釘を抜けば封印が解かれ世界中に災いが起こり得るとも伝承に残されております。くれぐれも扱いにご注意を。それでは500万Gから始めます」

 

そんな客達には申し訳ないけど、オークション最後の商品も俺が買わせてもらいましたw やぁ、実りのある時間だった。

 

「はい、代金だ」

 

「・・・・・申し訳ございませんが、この半分の代金でよろしいです」

 

客達が去る中で商品の受け取りをする。老執事に渡した全額の半分でいいと言われ何故だ? と思った。

 

「私達にとって最も厄介ものだった商品をお引き取りしてくれたのです。これで憂いなく生活が送れます」

 

「魔剣のことか。捨てるとかしないのか?」

 

「しましたとも。しかし、私が魔剣に呪われているのか。いつの間にか傍に戻っていたのです。もはやどうにもならないと諦め、オークションに出す他ありませんでした」

 

よくある話だな。

 

「魔剣で死んだって話は?」

 

「・・・呪いの剣となった話は事実ですが、実際この剣を持って死者が出たのか誰も見たことが無いのです。本当に呪いで死んだのか、もしかしたら所有者が別の死因で亡くなったのかもしれません」

 

「ふーん。鑑定は?」

 

「できません。鑑定を妨害する魔法が掛かっているのか、それとも呪いの力が強力すぎて並みの魔法が通用しないのか・・・・前回の所有者だった者以外知り得ません」

 

その所有者も今はこの世におりませんが。そういう執事はテーブルに置かれている魔剣を一瞥して俺に頭を下げた。

 

「どうか、この魔剣をよろしくお願いします」

 

「長く大切にするよ」

 

「ええ、ぜひそうしてください。では次に奴隷達の手続きですね」

 

買い占めた奴隷達が全員連れて来られる。なんか俺を見て怖がってるし、睨みつけて来るし、目線を下に落として絶望しているんだが。

 

「―――本当によろしいので? 彼等を手放すとは」

 

『っ!?』

 

「ああ、一時の自由だろうと解放するよ。帰る場所があるなら戻してあげたいからな」

 

「お優しいお客様ですな」

 

ただの偽善者に過ぎない。執事へ他人事のようにそう言い、奴隷達の枷が外されていくのを眺めた。

 

「そう言うわけだ。お前等を束縛するものはもう無くなった。もう自由だから安心してくれ」

 

「・・・・・本当に、自由なんですか?」

 

「二言はない。帰る場所があるなら、この執事が責任を以て送ってもらう話もつけてあるから。あー、そこの巨人さんは自力で帰ってもらうしかないが」

 

「構わねぇど。筏がありゃ故郷に戻って帰れる」

 

「筏? まさか海を渡って来たのか?」

 

「んだ。捕まったのが旅をしていたこの大陸でだ。俺は巨大な獣を倒すために来たんだど」

 

巨大な獣・・・・・アレしか知らないんだが、まさかな?

 

「だが、人間に捕まって奴隷にされちまうんじゃ戦士として失格。故郷に帰って鍛え直すつもりだ」

 

「そうか。いつかまた挑戦するなら頑張れよ。俺は死神・ハーデスだ」

 

「ア・ガルマだ。恩人よ、故郷に戻る前に礼をする。俺達巨人族の慣わしで相手に礼を尽くせねば戦士を名乗れなくなるど」

 

「礼か・・・・・じゃあ、友人になってくれるか? いつか巨人族の国に行ったら案内してほしい。それが礼だ」

 

手を伸ばして握手を求める俺にア・ガルマは俺の手を見て、親指と人差し指で握る代わりに摘まむ感じで挟んだ。

 

「わかった。ア・ガルマの友の死神・ハーデス。何時か俺の故郷に来たら案内しよう」

 

 

≪死神・ハーデス様が巨人族と友誼を交わしました。新エリア『巨戦士の国』が解放されました≫

 

 

あ、アナウンスが流れた。

 

ぐうううう~~~!!!

 

こっちは盛大な腹の虫・・・・・って、ア・ガルマ達からか!

 

「・・・・・すまねぇ。しばらく何も食ってねぇんだど」

 

「巨人族の食べ物と俺達人間の食べ物の大きさのスケールが違い過ぎるからな・・・・・」

 

始まりの町に戻れば宝石肉はあるんだが・・・・・。

 

「とにかくここから出よう。執事さん。案内よろしく」

 

「かしこまりました。ではこちらへ」

 

オークションで買い占めた商品もインベントリに仕舞って、俺達は地上へ出た。どうやって巨人族を連れて来たのかと思ったら隠し通路があったのか。

 

「皆空腹なら、一度料理を食べさせるか。丁度いいからルルカも俺のホームに来てくれ」

 

「わかりました!」

 

ということで【蒼龍の聖剣】の料理人達の力を借りる必要があるな。

 

 

 

フレデリカside

 

なーんか、またハーデスがやらかしたってアナウンスが聞こえたし、ギルドメンバー達が口を揃えて「白銀さんが始まりの町に巨人族を連れて来た!」とかメッセージが届いたから来てみたら・・・・・。本当に十メートル以上も身長がある巨大な人がこんがりと焼かれた肉をたくさん食べてるし。そんな巨人を見る為にギャラリーも遠巻きながら集まってて凄い行列が出来上がってる。

 

「マジ巨人だ」

 

「このゲームの世界に巨人族がいたのか」

 

「だとすれば、まだ誰も見つけていないエリアがどこかにあるね」

 

だよね。そう言うアナウンスが聞こえたし。ハーデスならもう知っているかも。というか、ハーデス以外にも料理を作っているプレイヤーって同じメンバーのだよね。巨人族以外にもNPCがたくさんいるし、モンスターもいるなんてどういうことなのかな? ちょっとペイン達と一緒に話を聞かせてもらおうじゃない。

 

 

イッチョウside

 

 

「すまない。飯まで食べさせてくれて。また礼を尽くさねばいけないど」

 

「あーうん、じゃあ・・・そっちの国に来たらア・ガルマ達が食べている料理を食べさせてくれ。同じ礼ならしやすいだろう?」

 

「それで礼となるなら、たらふく食べさせてやるど」

 

「たらふくは無理かなー。体の大きさが違い過ぎるぞ」

 

「むっ、確かにそうだった。しかし、礼は尽くす。これは絶対だ」

 

礼儀正しい巨人さんだねぇ。そんな巨人さんのお腹を満腹にしてくれたふーか達とも戦士の名に誓って礼をすると口にして、ラプラスが巨人族の国には一度行ったことがあると言うので彼女の魔法で送られた。魔神になれば私達プレイヤーもあんなことできるのかな?

 

「さーて、ハーデス? 一体どこで何を仕出かしたら巨人族とお友達になれるのかなー?」

 

「不可抗力と言わせてもらうからなこれは! 大体の原因は俺だろうとも!」

 

「んで、そのちっこいのは誰なんだ?」

 

「ちっこい言わないでください! ルルカは小人族なだけですからぁー!」

 

「さらっと俺達の知らない情報が言われたぞ」

 

「どうやらハーデスはまた新発見をしたらしいね」

 

巨人族と小人族のNPC? 凄い組み合わせだよん。それも含めてどんな出会いをしたのか私も気になるのでフレデリカと一緒に問い詰めてみよう。



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第11エリアヘ

「~~~ってことで、【出遅れた者】の称号と高い資金力、ホームが三つないと紹介状が貰えない設定なんだよ」

 

説明をせがまれて仕方なくと日本家屋で教えることになった。納得した様子なんだが・・・・・。

 

「それで、何で一緒にいるのかな?」

 

フレデリカのその言葉の意味は、当たり前のように俺の隣にいるNPCに指して言っている。

 

「ハーデス様はルルカの雇い主ですから当然です。ハーデス様をまだ知らない場所へ案内するのがナヴィゲーションであるルルカの役目であり義務なのです」

 

知らない場所? どこなんだとそんな表情な皆にわかりやすく教えた。

 

「俺達全てのプレイヤーがまだ未発見のエリアやダンジョンのことだ。小人族を雇うとそこへ案内してくれる話なんだ」

 

「え、そんな案内してくれるの? それって凄いことだよん」

 

「前線組と攻略組が黙っちゃいないぞこれは」

 

ドラグの言う通りだ。小人族の存在が知られれば誰もが欲しがるNPCだ。

 

「だが、俺達みたいに小人族を雇うことが出来ないなら諦めがつくだろう」

 

「仮に直接奪おうとすると、とんでもないしっぺがしが待っているもんな」

 

「うん、それすら分からないなら本当にバカだよん」

 

超がつくほどな。

 

「ハーデス【出遅れた者】って称号の効果はなんだ?」

 

「今なら言えるが、レベルアップ時のステータスポイント取得量が3倍だ」

 

「3倍かよ!?」

 

「あ、最初のイベントの時にそんなこと言ってたね」

 

「そう言えば確かに。もうあれから数ヵ月か」

 

そうなのだ。もうそんなに月日が経っているんだよな。早いな~。

 

「因みに、イカルも【出遅れた者】の称号を持っているからホームを3つと高い資金力があれば小人族を雇える」

 

「・・・本当に第二のハーデスになっちゃうんだね」

 

「【勇者】の称号とか他にも必要だが、何時かそうなるのが楽しみだ」

 

ここにいないきっと畑作業をしているだろう少女に期待して不敵に笑む。

 

「ログインして初日から1週間もモンスターを攻撃せず過ごすのは普通無理だよな」

 

「ああ、俺なんて速攻でモンスターと戦ったぞ」

 

「ゲームの楽しみ方は様々だ。モラルやマナーに関すること以外、何も間違ってはいないさ」

 

「だけど、やっぱり知らないことが明るみなれば驚かされることが多いぜ」

 

それもゲームの醍醐味だろうよ。それも悪くない。

 

「まぁ? 【出遅れた者】の取得方法は教えないけどな。今後ともこのゲームの世界に来る後輩達には自分で気づいてもらいたいし、パワーバランスが崩れるのを避けたい」

 

「いや、もう崩れてるだろ。お前とお前の弟子の存在で」

 

「二人ぐらい別にいいだろ。それに【勇者】の称号を得ればお前等の同類となるぞ」

 

「ハーデスには負けるよ。偶然手に入れた称号の時点でキミの一人勝ちが決定したようなものだ」

 

「滅茶苦茶苦労したけどな! 最初のヒュドラなんて毒が通じない武器がない状態で戦う羽目になったんだからな!」

 

何でないんだと素朴な疑問をぶつけられ、毒で腐食して使えなくなったからだと言ってやった。

 

「最初からVIT極振りだからダメージなんか与えられなかったから・・・しょうがなくHPドレイン、ヒュドラの身体を噛みついて食ってダメージを与える他なかったんだぞ。数時間もピーマンみたいな苦い味を感じながらの苦労・・・・・わかるか?」

 

一同、脱帽。

 

「あ、一番美味しかったのは―――」

 

異口同音で「言わなくていい!!」と突っ込まれてしまった。何故だ解せん・・・・・。

 

「教えるが、モンスターに対するHPドレインで習得したスキルはあるからな。【悪食】もその一つだ」

 

「名前の時点で納得だよ!? 悪食以外なんだってのさー!」

 

「落ち着けフレデリカ。話を戻すとして小人族の彼女の案内で闇市場、オークションに参加して何か手に入ったのかまだ聞いていないが、良ければ教えてくれるか?」

 

問題ない。魔剣グラムを始め、様々な道具のアイテムと封印された吸血鬼を公開する。

 

「ちょっ、なんで裸の―――これ、なんなの?」

 

「おいペイン。魔剣だってよ。触ったら呪われそうだな」

 

「でも魔剣があるのなら聖剣もあるだろうね。何時か手に入れたいものだよ。・・・・・鑑定が出来ない?」

 

そう言えばしっかりと調べていなかったな。どれどれ・・・・・。

 

 

 

『呪いの魔剣グラム』

 

 

【STR+500】

 

 

スキル【呪蝕】

 

スキル【龍殺し】

 

 

 

【呪蝕】

 

HP500を消費することで装備が出来る。その後装備している間は毎一分間HPが100減少する。

 

 

【龍殺し】

 

 

竜・ドラゴン族のモンスターに対する戦闘時のみHP・MP以外のステータス2倍。

 

 

・・・・・なるほど。ある意味呪いだなこりゃ。

 

「何が判った?」

 

「最初にHP500払ってからじゃなきゃ装備が出来ないうえ、一分間ごとにHPが100も減ることぐらいは」

 

「は? そんな武器として成り立つ物かよ?」

 

「数少ないけど竜・ドラゴン族のモンスターに対してHP・MP以外のステータス2倍だがな」

 

「それでも微妙だろ。限定した対モンスター専用の武器だぞ」

 

使い道は限られているが、強い武器であるのは間違いない。『ハーデスの大鎌』と融合すれば強力な武器になるぞ。

 

「まぁ、ハーデスがいいならそれでいいじゃないか。個人的にはあっちの方が気になる」

 

ペインの視線は封印されし吸血鬼に向いていた。皆も釣られてみる。

 

「あれは一体?」

 

「古代に封印された吸血鬼だって。胸の釘を取れば封印が解かれるらしいぞ」

 

「モンスターなのか?」

 

「さぁ? 実際どうなのか俺にも分からん。試してみるか?」

 

と提案したら、ペイン達は戦いになるならと受け入れルルカには待ってもらい、吸血鬼を城のホームに運んだ。誰にも迷惑が掛からない石壁に囲まれた広い無人の場所で置いて、剥き出しの銀色の杭を掴んだ。

 

「じゃあ、抜くぞ?」

 

一声かけてから力強く抜いた。手の中の杭が消失し、封印が解かれた吸血鬼の瞼が開き始め・・・・・白髪を揺らしながら上げた彼女の瞳は危険なまでの赤い、とても赤い。その目を見た瞬間。アナウンスが聞こえてきた。

 

《プレイヤーが三大悪の一つ、真祖の吸血鬼を復活させました。全フィールドのモンスターは夜の間、真祖の吸血鬼の恩恵を得てステータスが倍となります。モンスター・NPCの『ヴァンパイア』が出現します》

 

《新エリア『吸血鬼の隠れ里』が解放されました》

 

《吸血鬼の封印を解いた死神・ハーデス様は神聖教和国から異端者の扱いを受けます。魔王・悪魔族からは称賛の声が挙がります》

 

・・・・・なんだと?

 

「三大悪って?」

 

「いま聞いた吸血鬼、他は魔王か? あとは何だろうな」

 

「そうだね。ところで、吸血鬼の方は動きを見せないのが不思議だ」

 

「でも、警戒はしといた方がいいね」

 

色々と気になる情報が流れた。さて・・・これからどうするか。

 

「・・・・・」

 

お、吸血鬼が初めて口を開いた。第一声の言葉は?

 

「お腹が空いたわ。吸わせてもらうわよ。・・・・・あなたの血を」

 

身体がコウモリと化した吸血鬼。ペイン達も襲うが一番襲われてる俺はコウモリに囲まれた中、吸血鬼が背後からいきなり現れて首筋に牙を立てられた。血の代わりに赤いエフェクトが吸血鬼に吸われると俺のHPが下がっていく。黙って吸われるつもりはないが、身体が動かないっ・・・・。

 

「―――ぷは、美味しいっ・・・。あなた、様々な物を血肉にしたのね」

 

「は?」

 

「目覚めの食事が、こんな素敵なものだとは知らなかった。気に入った。それにその指輪・・・・・分け与えた私の血を宝石にした指輪ね。あなた・・・魔王とどういう関係?」

 

「男の方か? 女の方か? どっちも知り合いだからわからないぞ」

 

「男の方よ。いえ、男の娘と言うべきかしら。可愛い服を着た姿で会った時はおかしすぎて笑ったもの」

 

想像難くない光景だな。

 

「それ、現在も継続中だ」

 

魔王の話になると心なしか雰囲気が和らいだ気がする。吸血鬼は俺から離れて囲うコウモリを一瞬で霧散させるとペイン達の無事が確認できた。そして彼女の白髪だった髪がいつの間にか赤く染まってた。

 

「そう・・・会ったことがあるのね。ならあなたは次期魔王となる勇者かしら」

 

「なるつもりはねぇー。ところで自分が全裸なの気付いてるのか?」

 

「あら、そう言えば・・・・・」

 

今更気づいたらしい彼女は、血色のコウモリを無数生み出しては赤いドレスに体を包んだ。

 

「これでいいかしら?」

 

「おう。で、人の血を堪能した吸血鬼さんは俺達と戦う意思は?」

 

「ないわ。寧ろ封印を解いてくれて感謝の念を抱いている。攻撃してこなければ私の方からも何もしないわ」

 

「世界には大いに影響を与えているようですがねー?」

 

皮肉を言えば、肩を竦める吸血鬼。

 

「何もしなくても、存在するだけでそうなってしまうのが真祖の力よ。魔王軍も夜になればますます強くなれるでしょうね」

 

「・・・・・あれが弱体化してた状態だと? じゃあ、お前が封印されていたのは」

 

「察しの通りよ。私は不死身の存在、人の身では決して私を討滅することが出来ない。だから封印された。もうされるつもりはないけど」

 

禍々しいオーラを迸る彼女が俺の手を取って赤い指輪に口づけを落とすと、指輪が一瞬だけ妖しく煌めいた。

 

「封印を解いたお礼よ。それと・・・・・」

 

今度はまた首筋に牙を立てた。けれど甘噛みでドレイン行為ではなかった。何をされた?

 

「あなたの血は凄く美味しかった。魔王にも期待されている人間ならマーキングをしないとね?」

 

「は?」

 

そう言われた次の瞬間。身体の半身が焼き付くような痛みが覚えたあまり思わず跪いて、何が起きたのか分からずまだ気づかない俺の目の前の吸血鬼は物凄く満足した顔でオーラに包まれ始めた。

 

「いつか『吸血鬼の里』に来なさい。あなただけは私の屋敷に招いてあげる。魔王の娘に渡すのが何だか勿体ない気がするし」

 

「それってどういう・・・っ、あ、待て!」

 

気になることを言うだけいなくなってしまって、なんとも言えない気持ちにされたそんな俺は指摘を受けた。

 

「ハーデス、顔にタトゥーだが刺青なんだか知らないが、落書きされたような跡があるぞ」

 

「・・・なんですと?」

 

日本家屋に戻り大きな鏡の前に立って確認した。噛まれた首筋を中心に顔の半分まで広がっている何と形容し難い紋様。それはどうやら手の甲まで続いていて、この原因が判った。

 

 

称号 始祖の祝福

 

 

夜間のフィールドで遭遇するモンスターの確率が減少。NPC吸血鬼の好感度上昇。

 

 

夜間の時だけ・・・・・う、うーん・・・・・問題ないか? 絶対ではないならまだマシが。そういや、指輪の方は?

 

 

『始祖シルヴァーズ・ベアトリーチェの指輪』

 

【血液捕食者】

 

【吸血操】

 

【HP+200】

 

 

スキル【吸血操】

 

HPを消費することで血を操作する。またモンスター・プレイヤーにダメージを与えたHPの10%回復する。

 

 

指輪の名前の変更と新スキルが追加された。でも、始祖の吸血鬼を召喚するスキルが無くなってる。本人が封印から解放されたからか? 

 

「ハーデス、原因はわかったか?」

 

「ん? ああ、始祖の吸血鬼の祝福の証だ。夜間に遭遇するモンスターの確率が下がるぐらいの効果がある」

 

「うーん・・・微妙? ハーデス君。その顏の刺青は消せないの?」

 

ポリポリと書いてもシールの類ではないから剥がれもしない。

 

「・・・消せない、祝福=呪いって感じで無理だな。見えない分、気にしなくていいがな」

 

闇市場・オークションに参加しただけでまた新発見してしまった。吸血鬼の隠れ里はこの大陸のどこに存在しているだろうか。

 

「ペイン達。ちょいと模擬戦に付き合ってくれ。指輪の検証をしたい」

 

「構わないよ」

 

トレーニングルームにてペイン達と4対1で勝負して指輪の効果を確かめたところ・・・・・強過ぎない? HPを消費するスキルは、身体から大量の赤い液体が出て死角からの攻撃でも流動的に操作できる血液が性質を変え、攻防一体の性能を見せてくれた。自分の意思で血の形を変幻自在に変えることが出来るらしいな。ただ、このスキルを解除しない限りはHPがどんどん減っていく。さらに広範囲に攻撃しようとならばさらにHPを消費しなくちゃいけないらしく、今のHPで広げられる範囲は10Mが限界だった。

 

そしてこのスキルの弱点は魔法で特に水だ。【海大砲】で操る血が文字通り水に流されてHPを消費するだけの結果になってしまう。耐久もあるようで硬質化した血は一定以上の【STR】であれば破壊されることもわかった。

 

「ありがとう。把握できた」

 

「厄介すぎるわその指輪。反射神経も影響しているのか、俺の攻撃が一撃も当てれなかったぞ。お前が一歩も動かずにいたってのによ」

 

「本当だよ!」

 

「水属性の魔法がかなり効くね~」

 

「力越しなら何とか突破できるって感じか」

 

「だが、まだまだ応用が出来そうな感じだった。ハーデスがその気になれば、もっと奥深い方法を見つけるだろうさ」

 

そうペインの言う通りだ。こいつは応用が利く。今回は【吸血操】の把握をしたいから単純な攻防をしたが・・・・・。

 

「うん、密かにその方法を見つけて驚かせてやるさ」

 

「できれば人間を辞めないでよねハーデス」

 

「そいつはどういう意味でしょうかねフレデリカさん。俺は変身する以外は人間を辞めた覚えはないぞ」

 

ニコリと笑って身に覚えのない謂れに異を唱える俺を、フレデリカは神妙な顔つきでこう言った。しかもドレッドとドラグが同感する言葉だ。

 

「人間がする事じゃないことをしている時点で怪しいんだけど―?」

 

「「ああ、確かに」」

 

・・・・・くそ、思い当たることが多すぎて否定できないっ!!

 

「ハーデス。検証が終わったらこれからどうするんだい」

 

「んールルカにまた案内してもらうつもりだ。まだ第10エリアから進んでいないんだろう?」

 

「そうだな。何かしらの条件やギミックがあると皆が探し回っているよ」

 

「もしくは第10エリアまでしかエリアがなくて、これから新しく実装される大陸が第11エリア相当のエリアじゃないかって話も聞くよ」

 

ふむ。だったら彼女に聞いてみる必要があるな。ルルカのところへ戻る俺達は、彼女に未開のエリアがあるか尋ねたその問いの返事が・・・・・。

 

「第10エリアの先の? ええ、勿論ありますよ」

 

「やっぱりか。他の冒険者が先に行く道を探しているんだが見つかっていないようなんだ」

 

「ああ、見つからないのは当然ですよ。あの先は大きな山々しかなく第11エリアは、第2エリアの獣人の村から進まないと行けませんよ?」

 

あそこからだとっ!?

 

「「「「・・・・・」」」」

 

あ・・・・・ペイン達が面白い顔で固まっている。散々探していたプレイヤーの一人だから、大きく後ろに下がったエリアからじゃないと行けない事実に気付かなかったもんな。俺とイッチョウもそうだけど。

 

「でも、今は獣人族が利用していた交易路にモンスターが棲みついてしまって、通れなくなっておりますよ」

 

「そいつは、他の方角もか?」

 

「はい、その通りなのです。ご案内いたしましょうか?」

 

と言うルルカにペイン達を見れば、行こうという念が籠った頷きをした。

 

「ルルカ。四方の第11エリアへ進める場所を教えてくれ」

 

「かしこまりました!」

 

「なぁ、ハーデス。あのネコバスで行った方が早いんじゃね?」

 

話が決まった直後にドラグが尤もなことを言う。でも、それは・・・・・。

 

「うんや、無理だった。プレイヤーが既に足を踏み入れた場所じゃなきゃ送ってくれないみたいなんだよ」

 

「ということは既に足を運んだことがある獣人の里以外の場所にも?」

 

「そうだ。それに他の場所でも獣人の里なのかもわからないから、移動は俺の従魔で行くぞ」

 

セキト、フェル、ミーニィの久々の出番だ。

 

 

―――獣人の里

 

 

久々に来ました獣人族の里! 村長の羊の人に一言挨拶をしてこの辺りに棲みついたというモンスターのことを尋ねると、長は急に困った顔をしだした。

 

「ええ、私達もあのモンスターに困っておりました。今は自給自足で何とか生活をしておりますが、やはりあの洞窟が使えるのと使えない差の違いは大きいです。勇者殿、どうかよろしくお願いします」

 

頼まれてもクエストが発生しない。珍しいことだが、念のために場所も教えてもらい記録動画を取りながら離れていたペイン達と合流して―――第8エリア分の距離を移動した先にあった洞窟に辿り着いた。

 

「ここか」

 

「やーっと着いたよ~」

 

「こ、腰が・・・・・」

 

「俺も腰がつらい・・・・・」

 

「一休みするかい?」

 

ペインの提案に俺達は賛成した。小休止ついでに茶菓子を出して、ほのぼのと少しだけのんびりと過ごした。

 

小休止後・・・モンスターの奇襲に警戒しながら洞窟に足を踏み入れるが、そこは特に珍しいものがある場所ではなかった。このゲーム内であればどこにでもある、普通の洞窟だ。天井からは無数の鍾乳石が垂れ下がり、足元は湿っている。かなり歩きづらいが、戦闘不可能というほどではなく、横幅は3人が並べるくらいはあった。道中には採取、採掘ポイントが点在し、そこで様々なアイテムがゲットできる。まあ、物珍しい素材はないが。ただ、キノコや草類は大荒原で入手できる場所は少ないので、そこはお手軽でいいだろう。

 

「お、キノコだ」

 

見つけた採取ポイントでキノコを採っていると、フレデリカが警戒の声を発した。

 

「モンスターだよ!」

 

「ついに出たかっ!」

 

フレデリカの視線の先には、大きな蝙蝠と黒い鼠。そして、黒い闇のようなものをユラユラと立ち上らせた、バスケットボールサイズの球体が転がっていた。ブラックバットとダークラットは分かる。あの球体が、闇虫か? 戦闘態勢に構えた途端・・・不意にその場で止まったかと思ったら、来た道へ踵を返して逃げだして行った。

 

「何で逃げる?」

 

「もしかして、吸血鬼の祝福の効果じゃない? 夜じゃないけど洞窟の中は暗いから」

 

「50%の確率でモンスターが逃げる称号もあるしな」

 

・・・・・ここに来て、それが今発揮しますかね? まぁ、楽なのは悪くないけど釈然としないぞ?

 

それからも歩く洞窟は、思ったより複雑な作りではなかった。分かれ道は数度しかなく、試しに俺達が分かれてどのルートでも最終的に辿り着くか調べたら場所は一緒になっていることがわかった。収穫物や経験値を考えると、俺たちにとってはあまりいい狩場ではないかな? 敵が強すぎるのである。おそらくイカル級のプレイヤーがパーティを組んで、やっと適正って感じだと思う。

 

回復薬だけは十分にストックがあるのに、それを使わずのごり押しで何とか進んできた感じだ。

そして、3時間ほどの探索の末、俺たちは最奥部と思われる場所に辿り着いていた。

 

「ルルカ、ここで最後だな?」

 

「マップは全て埋めましたし、残るはこの扉の先だけです」

 

「そうか。なら、調べに行くか」

 

「そうだね。今回は、これがあるから」

 

ペインがインベントリから取り出したのは、小さなオーブだ。青い光を放っており、神秘的な外見をしている。このアイテムは、超脱出の玉。使用すると、ダンジョンから脱出できるアイテムだ。最近は普通に出回っている、脱出の玉の上位互換であるそうだ(俺は初めて見た)。

 

何が超なのかというと、なんとこちらはボス戦の最中でも、効果が発揮されるらしい。つまり、ボスの力を見るためにとりあえず挑んで、負けそうになったら使用するという使い方ができるのだ。

死に戻りのペナルティなしで、ボスの情報を集められるという訳だった。レイドボス戦では使えないなどの制限があるが、面白いアイテムだ。

 

自分では使おうと思わんけど。何せ、メチャクチャお高いのだ。第10エリアの町で売っているんだが、1つ50万もするそうだ。高い・・・そんなの買うんだったら、デスぺナを受ける方がマシだろう。

 

ただ、今回は良いアイテムを宝箱からゲットしてしまったので、使うことにしたようだ。一度外に戻ってアイテムを預ければいいんだけど、それだと時間がかかるから。

 

まあ、使った時は代金を折半するということで話はついているし、俺もボスには興味があるから今回は挑んでみるのもいいだろう。

 

「そんじゃあ、扉を開けるぞ」

 

「ああ」

 

俺とペインを先頭に、俺たちは扉の中へと突入した。

 

中は、巨大なドームのようになっている。天井の高さは優に30メートルを超え、広さも200メートル以上ある。薄暗くていまいち広さが分かりづらいんだが、場合によっては300メートル以上はあるかな?

俺は、このホールを見てある予感しかしなかった。それは、ペイン達も同様だったらしい。

 

「なあ、こんだけ広いってことはさぁ・・・・・」

 

「やっぱり、そう思う?」

 

「ああ」

 

ボスフィールドというのは、大抵そこに出現するボスのサイズに合わせて作られる。小さいボスならフィールドも小さく、大きければフィールドも広い。

 

最低でも、ボスの動きが阻害されない広さがあるのだ。これからもそうとは限らないが、少なくとも第10エリアまではそうだった。

 

では、これ程広いフィールドが用意されている場合は?

 

その答えは、すぐに判明した。

 

「おいおい! なんかいるんだけど!」

 

「首が三つあるライオン?」

 

そのフィールドを先に進むと、闇の向こうに巨大な影が見えた。さらに近づくと、その正体が見えてくる。

そこにいたのは、金色の体毛が闇の中でも輝いている、巨大なライオンだった。まだ寝そべっている状態でも、その大きさは理解できる。

 

立ち上がったら、全長30メートルくらいはあるかもしれない。

しかも、首が三つあった。ケルベロスのライオンバージョン? あの大きさだし、明らかに強敵だろう。

 

さらに、俺たちを驚愕させた事実がある。

 

まだ戦闘状態に入っていないのに、赤いマーカーとHPバーがハッキリと見えていたのだ。これは、レイドボスの特徴であった。

 

「超脱出の玉って、レイドボス戦だと使えないんだよな?」

 

「はい」

 

「・・・・・とりあえず、洞窟から脱出しようか」

 

「ルルカも賛成です」

 

他の皆も異論無くレイドボスを見て逃げ帰ってきた俺たちは、洞窟の入り口でグーっと伸びをしつつ体をほぐしていた。別にアバターの体がコリを覚える訳じゃないんだけど、狭い場所から出ると無意識にやっちゃうんだよな。

 

「いやー、気の抜けない洞窟だったな」

 

「ですねぇ」

 

ただし宝箱は魅力的なんだけどな・・・・・。こういった洞窟では宝箱はランダム配置で、帰りは1つも発見できなかった。行きで2つも発見できたのは、奇跡に近かったのかもしれない。でも、中に入っていたアイテムはペイン達はいらないと俺に押し付けるのはどうかと思うぞ。

 

「それで、どうする? レイドボスを見つけてしまったぞ」

 

「絶対強いよな?」

 

「間違いなくね」

 

「鑑定結果は、サーベラスライオン。参加可能人数は5パーティ、最大30人だってさ」

 

レイドボスというのは、初回撃破がメチャクチャ難しい仕様だ。1回倒されると弱体化するんだが、弱体化前はどのボスもプレイヤーを相当手こずらせるらしい。いや、問題はあのモンスターよ。

 

「三つ首のモンスターにサーベラスの名前・・・・・ケルベロスの変わりは間違いないから、おそらく炎属性の攻撃をしてきそうだな」

 

「一目見て判ったのかよ?」

 

「あくまで可能性だ。もしかすると頭が3つあるから3つの魔法を使ってくる可能性もあるし・・・いや、それだったらヒュドラも同じか。でも、ベヒーモスよりは楽そうではあるな。―――わざと食べられて体の中から攻撃さえできれば、の話だがな」

 

予測する言葉を聞いたドレッドとドラグが、まるで人を悪魔を見るような目で見て来るのが遺憾だ。

 

「さて、そろそろ他のエリアの第11エリアに繋がる場所へ行こうか」

 

「そうだな。ルルカ、よろしく頼む」

 

「お任せください! 冒険者の皆様!」

 

ルルカの案内で俺達はその日、東西南北に存在する第11エリアに続く洞窟の発見と調査を長時間費やした。本当に誰にも見つかっていないらしい隠れ里に住んでいたNPC達とも交流した。



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神獣 その名は青竜

「さて、四方にいるレイドボスの一体を挑戦するか―――【蒼龍の聖剣】」

 

おおおーっ!!

 

後日誘った戦う意思がある戦闘職、生産職のプレイヤー総勢30人が始まりの町から出陣した。その光景は他のプレイヤーの目にも留まり、なにか大規模な事をするに違いないとざわめきの声が聞こえてくる。

 

「さぁ、行くぞ。初の第11エリアへの進出は【蒼龍の聖剣】がもらう!!」

 

「皆、頑張るよー!」

 

なお、本当に移動距離が長いため全員に空飛ぶ道具を持参してもらった。俺は【機械神】で飛んで行くがな。そしてこれは、他のプレイヤー達ができるだけついてこられないようにする処置だ。故に俺達はそれぞれ空に飛んで獣人の里まで移動する。洞窟の前で降りて辿り着いた里を経由し、第10エリア分の距離をまた空飛んで長く移動する。

 

「ギルドメンバーでレイドボスは初めてだねー」

 

「そうだな。そしてこれからもあるさ。その時は大いに派手な戦いをしよう」

 

そう、例えば突如目の前で雷が帯びた竜巻が発生したみたいに―――えっ?

 

「全員避けろぉーッ!!!」

 

俺の叫びの疾呼にメンバー達が左右に分かれて竜巻を避ける。

 

「ちょっ、何で竜巻が発生しているんだ!?」

 

「まさか三大天災のジズ!?」

 

「それはあり得ない! あれは冒険者ギルドでしか依頼を受けれない設定だ!」

 

「じゃあ、あれは何かのギミックか?」

 

「白銀さーん。また何かやらかしましたかー?」

 

俺が何かした前提の話まで聞こえてくる。一切合切、何も身に覚えもございませんがねぇっ!? あ、竜巻が治まった。

 

『久しぶりだな。資格ある者達よ』

 

「せ、青竜・・・・・? なんでここに? いや、どうして突然現れた?」

 

『東方は私の持ち場です。そして大勢の下界の者達を引き連れて移動するならば―――私と否が応でもあなた達の力を示してもらう』

 

「ちょっと待ってー!? こっちのレイドボスをする心の準備ができてねぇー!!!」

 

突然の四神の一角である青竜の登場&奇襲に俺達は慌てふためいてしまう

 

「ハーデス、どうするの!? 青竜と戦うつもりはなかったでしょ!!」

 

「現れる事すら想定していなかったよ!! ―――【蒼龍の聖剣】!! 目標を青竜に切り替える!! 目の前の四神の一角を倒さない限り第11エリアへ行けないと思え!!」

 

うおおおおおおおお!!

 

『その心意気やよし!! 挑んでくるがいい・・・資格ある者達よ、異邦の者達よ!!』

 

雷と竜巻が同時に襲い掛かって来る。俺以外のメンバーは空飛びながら戦うスキルがないからどうしても青竜を地上に引きずり落とさないといけない。もう既に何人かが死に戻ってしまっている。

 

「青竜を地上に落とす!」

 

「どうやってっ!?」

 

「方法はある! ―――サイナ!」

 

ジズ戦の時と同じだ。相手の視覚を奪う! レイドボスのために連れて来たサイナは、肩に担ぐ長い砲身を青竜へ標準合わせていて俺の意図を酌んで光の弾を打ってくれた。

 

『私の視界を奪って身動きが取れなくなったところを一斉攻撃・・・・・幼稚過ぎるではないか?』

 

迫って来る光の弾をあっさりと躱し、遥か頭上で太陽よりも眩しい光量が弾けて青竜を照らすが、直視をしないよう下を向ているから失敗した―――と思うだろう?

 

『む? 資格あるあの者はどこに?』

 

―――ここだ。

 

「【太陽神】!!」

 

サイナが撃って外した光弾から背中に三対六枚の黄金の翼、背負う五重の円光と頭上に降臨を浮かべせている俺の登場に青竜は、首をこっちに振り替えて目を見開いた。

 

「【天照】」

 

『しまっ―――!?』

 

巨大な光の円が出現して、蛸竜に大ダメージを与えたあの虫眼鏡で太陽の光熱を放った。技の速度はこっちの方が早く直撃した青竜は呑み込まれ、HPを減らしたはずだ。でも、一割程度だろう。

 

『ぐぅっ・・・その姿は、砂漠の太陽神ラーの・・・!』

 

「見惚れている場合じゃないぞ青龍、【太陽結界】!」

 

青竜を逃がさんとする光の球状。中で破ろうと暴れ回るが敵わずにいる結界を地面に下ろして半球状のドームと化する。

 

「青竜の動きを封じた! 中からは出られないが外から入ることが出来る結界のこのスキルは、俺のMPが続く限り結界は継続する! その代わり俺はこの場から動けず攻撃も出来ない。お前達が倒せ!」

 

「わかった。キミの作ったチャンスは無駄にしない!」

 

「白銀さんが青竜を抑えている間に攻撃するぞー!!」

 

「「「「「うおぉおおおおおおっ!!!」」」」」

 

 

イッチョウside

 

 

地上に降りて太陽の結界の中へ侵入する。四神の青竜でも破れない結界って凄くないかな? でも、それ故に消耗するMPも凄い筈。ハーデス君がどれだけMPポーションを抱えているか分からないけれど、無くなる前に倒さないとね。

 

『してやられた。さすがは資格ある者達・・・・・いいだろう。限られた空間だろうと私はお前達の挑戦を受け入れる。挑むがいい!!』

 

お言葉に甘えて挑ませてもらうよん!! 空にいられるよりはだいぶマシになって攻撃が当てやすくなったしね!!

 

「【超加速】! 【トリプルスラッシュ】!」

 

「【断罪の聖剣】」

 

「【多重光砲】!」

 

「【パワーアックス】!」

 

「【超加速】!」

 

ペインさん達も限られた空間の中で積極的に攻撃する。同じ土俵に立つ相手となら彼等の戦闘力も発揮するねぇ~。生産職のプレイヤー達も戦闘職のプレイヤーに負けず頑張っている。何より―――。

 

「一番頑張ってくれた人は俺の従魔と半日間独占させる権利を与える! 頑張ってくれー!」

 

というハーデス君の言葉に他の皆のやる気のボルテージが臨界点突破した。

 

「オルトちゃんを独占!? 絶対に倒してやるぅうううううっ!!!」

 

「クママちゃんの身体を堪能するチャンスがキタァアアアアア!!!」

 

「ゆぐゆぐちゃんを半日でも独占・・・だと? うぉおおおおおおお燃えて来たぁあああああああっ!!?」

 

「「「「「あの子を独占!!!」」」」」

 

「「「「「絶対に手に入れてみせる!!!」」」」」

 

わぉ・・・・・欲望に忠実だねん。青竜も意味が判らないとそんな表情を浮かべながらも応戦しているし。

 

「おいフレデリカ。あいつがあんなこと言っているんだから、ハーデスを半日独占する権利を貰えばいいんじゃないか?」

 

「そうだね」

 

「ちょっ、何を言い出すのさー!?」

 

「仲間の夫婦愛を応援するってことさ」

 

・・・・・それ、いいかも? そう思ってしまった瞬間。私の中の彼への対する欲が強まって、彼の代わりに頑張ろうと思いで苛烈に攻撃を加えた。

 

 

セレーネside

 

 

彼の話を聞いて戦闘に参加するよりも彼のサポートした方が賢明かも。私は地上に降りてすぐハーデスの傍に寄り、MPに関するアイテムを生産し始めるとイズも遅れてハーデスの結界維持の為にMPポーションを作り始めた。この勝負は青龍を自由にさせない前提で始まった。結界が無くなると空へ飛んで行かれてしまえば、限られたプレイヤーだけしか攻撃が届かない。絶対に勝つために結界を解かせちゃいけない。

 

 

イズside

 

青竜との戦いからおよそ10分が経過した。窮屈な空間に閉じ込められてる青竜でも、私達にとっては広い空間なのは変わりないので魔法攻撃をすれば確実に届く距離。でも、それは相手も同じなわけで蛇のような横長の身体を少し動けば、半数以上の仲間達にダメージを与える。

 

「何人死に戻った」

 

「6人、まだ10人以下で留まっているわ。でも外から攻撃は出来ないの?」

 

「できるならピクシードラゴンを従魔にしてるノーフ達にそうさせてる」

 

実際、巨大化したピクシードラゴン達が青竜の周りを飛んで魔法攻撃をしている。MPポーションを補給してMP回復に努めるハーデスは、たぶん歯痒い思いをしているのかもしれない。

 

「ハーデス、どう思う? 何とか勝てそう?」

 

「玄武みたいに天変地異をしないならば勝率は2割かな」

 

「意外と低いね。理由は?」

 

「五行思想または五行説って知ってるか?」

 

五行思想・・・・・? セレーネと顔を合わせても私達は知らなくて首を横に振った。

 

「古代中国に端を発する自然哲学の思想五行って古代中国の・・・・・まぁ、噛み砕いて言えば火・水・木・金・土、それぞれ相生と相剋の話だ。他にも―――」

 

「相生・・・相剋?」

 

ごめんハーデス、そこまで勉強したことが無いから解からないわ・・・セレーネも同じ気持ちのようで難しい顔をしている。

 

「うーん・・・知らないのは無理もないか。ま、この話は長くなるから青竜に関する事だけ言わせてもらえば、見ての通り風と雷を操ることが出来る」

 

結界の中で竜巻と雷を駆使している青竜。確かにそうね。でもそれが?

 

「他の四神も八卦に例えて玄武は水、朱雀は火、黄龍と麒麟は山・地、白虎は天・沢と決まっている。そして玄武が言っていたように他の四神の力の一部が使える話だから・・・・・」

 

皆が戦っている青龍に変化が起きた。怒っているみたいに全身が赤く染まって炎を纏うだけでなく、攻撃手段として振るっていた風と雷にも炎が纏ってさらに【蒼龍の聖剣】を追い詰め始めた。

 

「もう解っているが相手は四神だ。三大天災より強いのは明らかだろ。俺が戦闘に加わっても4割程度だ。青龍が空に居座っている前提でな」

 

「じゃあ、地上にいたら?」

 

「5割・・・・・仲間もだいぶ減ったな」

 

ハーデスの言葉に30人もいたはずの皆が、もう10人しかいなくなっていた。外にいる私達も含めて14人、半分以下になった。

 

「しょうがない。自由にさせてしまうが俺も戦闘に加わる」

 

仲間の奮闘を無駄に出来ないとハーデス自身も動き出した。

 

 

フレデリカside

 

 

私とペイン達、イッチョウと生産職と戦闘職の五人しかいなくなってしまった。玄武と白虎の時もそうだったけど青竜もハンパなく強すぎる! こっちの土俵に引きずり込んだと思ったのに、その土俵にスリップダメージの攻撃をされちゃ回復が追い付かないよ! 唯一、イッチョウだけは一撃もダメージを食らっていないのが呆れるほど凄いけどさ!

 

『ここまで私と渡り合えただけでも称賛に値する。しかし、どうやら私を侮っているようだな資格ある者達よ』

 

「侮っている? どういうことだよ」

 

『お前達の事は知っている。勇者の存在に成ったのだろう。何故、勇者の唯一無二の攻撃をしない?』

 

「「「「・・・・・」」」」

 

勇者スキル・・・・・あっ。

 

『・・・・・よもや、自分がどんな存在か忘れていたわけではあるまいな? それとも四神たる私達に魔に対する攻撃を放つのが躊躇っているのか?』

 

えっと、前者の方だね・・・・・。普段使わないスキルなのもあるけれど、ペインの勇者スキルのデメリットはハーデスが証明した。安易に使えないスキルだよ強力なのは自他共に認めれるものだけれど。

 

『遠慮はいらん。お前達の全てを賭した戦いを私に示すがいい』

 

「じゃあ、そうさせてもらうぞ青龍!」

 

青竜の催促の言葉に応じた第三者の声。太陽の結界が突然消えだし、青龍の真上から落ちてくるようにハーデスが片手で持ち上げていた禍々しい大剣を青竜の燃える身体に突き刺した!

 

『ぐああああああああああああああああああああっ!!?』

 

「呪いの魔剣グラム、龍殺しの力の味はどうだ!!」

 

『呪いの魔剣、だと・・・!?』

 

私達じゃああそこまで悲鳴を上げさせることすらできなかったのに、ハーデスの魔剣がそうさせた。今のでもしかしてかなりHPを減らしたんじゃ? 見えないけどさ。

 

『資格ある者がそのような武器を持つなど信じ難いぞ! 身を滅ぼすぞ、それでも構わないのか!』

 

「心配してくれてありがとう。だが、その対策はしてあるんでな」

 

赤い指輪を見せつけるようにして、青龍から迸る赤いエフェクトが指輪に吸収されていく。

 

「呪いは決して悪いことばかりじゃないんだぜ? 呪いは祝福にも変わる表裏一体がある。魔剣の呪いは今の俺にとっては祝福も当然なのさ! お前を倒せる力が秘めているんだからな!」

 

『・・・・・私を倒すために敢えてその身に蝕む呪いを祝福と言うか。―――いいだろうッ』

 

青竜が空高く昇ってしまい、もう私達の攻撃が届かなくなってしまった。

 

『玄武には言えなくなってしまうが、資格ある者のその強い意志と覚悟に私も全力を以って相手をしてやらねばな!!』

 

何か仕出かすつもりの青竜からハーデスが離れた矢先。

 

『【フィールド・ダウン】【天変地異・海】』

 

・・・・・。・・・・・。・・・・・。

 

・・・・・。・・・・・。

 

・・・・・。

 

玄武と同じ、フィールドを消滅させる技を発動しやがった! この辺り一帯の地面が陥没した風に奈落の底へ落ちて行ってしまった。それから地面が無くなった代わりに、玄武の黒い海と違って青い海と化したフィールドで青竜は数多の超巨大なハリケーンを発生させた。

 

『さあ、お前達の全力を見せてもらおう』

 

現在残ったのは―――宙に逃れたサイナと俺とペインのみだ。奈落の底に落ちる皆を全員助けることが出来なかった。違う、ペインを俺にイッチョウ達が託したんだ。ドラグがペインの背後から斧でスイングして地面に落ちながらも俺の方へペインを吹っ飛ばしたんだ。

 

「ぜってー勝てよ!」

 

「いい報せを待っているよ!」

 

「私達の分も頑張ってね!」

 

「白銀さん、ペインさん。応援してまーす!」

 

そう言って地の底へと呑み込まれたように落ちていった皆。俺達はその声援を受け止め、スキルで海の上に立つ(性転換中)。

 

「ハーデス。皆に託された思いを必ず報いるよ」

 

「ああ、青竜を倒してな」

 

『ならば、かかってくるがいい』

 

言われなくとも!!

 

「サイナ、ペインに機械の翼を!」

 

「かしこまりました」

 

一足早く俺は【飛翔】で飛び青龍に接近する。手を動かしてハリケーンを操り攻撃と言う名の接近を妨害する青竜に、【アルマゲドン】を放った。複数の巨大な隕石が大海原に落ちてきて躱す青竜の姿を捉え、隕石の陰に移動しながら隠れつつ・・・・・。

 

「【クイックチェンジ】【血纏い】」

 

蛸竜戦と同じく短刀から『ハーデスの大鎌』に変更してHPを一割だけ残して【STR】に注ぐ。

 

「もう一度【クイックチェンジ】【反骨精神】」

 

全ての【VIT】の数値が【STR】に変換された状態で装備を大槌に変え、【三天破】以外の装飾アイテムを【救いの手】にし、計六つの大槌を装備した状態で。

 

「【超加速】! 【八艘飛び】!」

 

『むっ!?』

 

俺の存在に気付く青竜。口を開いて炎を放った直後、炎に呑み込まれながら大槌を振るった。

 

「落ちろッ!」

 

青龍に肉薄して近づき、最大火力で頭に大槌を深く突き刺す感じで叩き込んだ。

 

『ぐがあああああああああああっ!!?』

 

 

ペインside

 

ハリケーンに襲われながらも回避し続けて、ハーデスが空から叩き落してくれた青竜の姿に一日一度のスキルを放つ姿勢は出来ていた。

 

「【勇者】」

 

レベルが10も減ってしまうスキル。しかし、今この状況においていつ使う話になる。みんなに託された思いをこのスキルの一撃に注ぐ。天に掲げる剣が極光の粒子を一身に集めて輝きを強めていく。

 

「【エクスカリバー】!!」

 

『ッッ!?』

 

縦に振るった剣から極光の斬撃が放たれた。真っ直ぐ青竜へと向かっていくが、俺の一撃が身の危険を覚えたようで紙一重で惜しくも避けられた。―――だけど。上から極光の斬撃が俺の放った斬撃を巻き込んで落ちて来た。

 

「食らいやがれ!! 【連結】―――【勇者】【龍殺し】【悪食】!!」

 

俺の白い斬撃波とハーデスのどす黒い斬撃波が入り混じったそれが一つの塊となって青竜を襲った。俺と同じスキルを使ったという事は、ジョブを剣士に切り替えたのかあの一瞬で。あまりに大きいその一撃は俺も巻き込まれてしまうが、ハーデスのドールに救い出されて回避できた。一方青竜は・・・最後の足掻きと炎の大竜巻と膨大な量の水の壁で俺達の斬撃波にぶつけて対抗するも、突破され―――。

 

『・・・・・見事!!』

 

俺達の最大の一撃に呑み込まれながら海の底へと沈んで行った直後。リヴァイアサンが起こした高波を割った天を衝く極光の極太の柱が海中から立った。

 

『神獣の一角「青竜」を撃破しました死神・ハーデス、ペインは【勇者の光輝】を獲得しました』

 

『スキル【相乗効果】を取得しました』

 

「これが・・・・・」

 

白虎の時はもらえなかった物が青龍で得れた。ステータスが20%も上昇する装飾品アイテム。それに知らないスキルも手に入れた。

 

 

【相乗効果】

 

三つまでスキルをセットして同時に発動することが可能。使用したスキルは均一再使用時間1分。その間、他のスキルに変更可能。

 

 

取得条件:二人以上のプレイヤーが同時に複数の同じスキル系統+異なる攻撃でレイドモンスターを倒す。

 

 

「おーいペイン。やっと倒せたな!」

 

「そうだな。皆の仇も取れたよ」

 

「死に戻りはしたが・・・・・いや、野暮なことは言わん。でも、皆の苦労が報われただろうな」

 

全員の協力があってこそ、青竜を倒せた。ハーデスはそのことを深く受け止めている。同意して頷く俺が立っている海が、視界を一瞬奪われるほどの光量を突如放った。次に目を開けるときは元の地面のあるフィールドに戻っていて、横になっている青龍と。

 

『あなたまで何をしているのですかぁああああああああ!!!』

 

『ぶほっ!!?』

 

ハーデスのホームに居座っている麒麟が青竜の身体に凄い勢いでぶつかって吹っ飛ばした。ハーデスが大槌で殴り飛ばした比ではない。

 

『玄武だけでなく青竜までその気にさせてしまうほどの戦いは、見届けさせてもらったぞ資格ある者達よ』

 

黄竜も現れ俺達にそう告げる。

 

『しかしながら、下界の一部と言えど環境破壊をこうも立て続けに・・・・・今回の資格ある者達は神獣を本気にさせ全力を引き出す何かが秘めているとすれば世界が危うくなるのも事実。これは場を設ける他あるまいな麒麟』

 

『ええ、その方がよろしいかと。今までになかった事態なので対応を怠った私達の責任でしょう。朱雀、白虎、玄武と交えて相談するべきです黄竜』

 

『であるな。資格ある者達よ。先の残りの神獣達との戦いはしばらくできなくなるがいいか?』

 

「理由が理由なら構わないよ」

 

「ハーデスと同意見だ」

 

『すまない。感謝する。そして青竜を倒したお前達に―――おい青竜』

 

『わかっている・・・・・資格ある者達よ。また機会があればもう一度戦おう』

 

 

『スキル【東方風神】を取得しました』

 

 

【東方風神】

 

全ての攻撃に風属性が付与する。ダメージ量は【STR】の20%。

 

 

通常攻撃に属性のダメージも入るスキルか。フレデリカの【金炎の衣】みたいなスキルを得た俺に対し、ハーデスはなんだろうか?

 

『それと、あの者達にも授けよう。惜しくも敗れたが資格ある者ではない者達でも、私と渡り合える強さを見せてくれた。黄竜、あれが人間の力なのだな』

 

『その通りだ。資格ある者の言葉は誠だった。よって、これからは私達も認識と在り方を変えるべきだと思う』

 

『そのためにも他の者達と一度、話し合うべきです』

 

『わかった。では、行こうか。さらばだ資格ある者等よ』

 

青竜達は空の彼方へと飛んでどこかへ行ってしまった。残された俺達も一度、ホームへ戻ることにしたら。

 

「イエーイッ! 二人ともお帰りぃー!!」

 

「お疲れ様ぁっー! おめでとーう! そして、ありがとーう!」

 

「レベルアップと新しい称号が手に入ったぁあああっ!!!」

 

死に戻った彼等が凄く盛り上がっていた。理由は聞かずとも口々に言っているからわかる。

 

「ちなみに何て称号だ?」

 

「『青竜に認められた者』。効果は全ステータスが永久的に+10です! 10も何て凄すぎっしょ!?」

 

青竜と戦った者だけが得られた称号のようだ。それを含めてステータスが増えるなら喜ぶのは当然だろう。

 

「ペインとハーデスは何を手に入れたんだ?」

 

「俺は【東方風神】というスキルだ。ハーデスは?」

 

「スキル【青竜の逆鱗】だ。もらったスキルは違うようだな」

 

そうなのか。ともかく四神青竜との戦いは俺達の勝ちだ。

 

「ハーデス。これから改めて第11エリアへ向かうの?」

 

「みんなが良ければな。戦闘の直後だし」

 

立て続けにレイドボスを挑むことになる。ハーデスは今すぐでなくとも今日中に攻略するつもりであることを告げて、『蒼龍の聖剣』のみんなは消耗した装備とアイテムを補充してからという答えに、2時間後に再び向かうことになった。

 

 

そして・・・・・。

 

《獣人の隠れ里の交易路を攻略したプレイヤーが現れました。最初に第11エリアに到達したプレイヤーたちに、称号『新世界』が授与されます》

 

『第11エリアに到達しました。称号『突破者』が授与されます』

 

その日の内にログインしてる『蒼龍の聖剣』のほぼ全員が全プレイヤーより先に未到達領域に足を踏み入れた。

 



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掲示板

【新発見】NWO内で新たに発見されたことについて語るスレPART58【続々発見中】

 

・小さな発見でも構わない

 

・嘘はつかない

 

・嘘だと決めつけない

 

・証拠のスクショは出来るだけ付けてね

 

 

 

22:佐々木痔郎

 

 

俺達のギルマスとペインが青竜を倒したのは喜ばしいが待ってほしい。なに、呪いの魔剣って!?

 

 

23:メタルスライム

 

 

魔剣はともかく呪われている武器があるとは(疼)。

 

 

24:ヨイヤミ

 

 

自作か? それともどこかで入手したのかひじょーに気になるところ・・・・・。

 

 

25:トイレット

 

 

おーい、白銀さん追いかけの人。また訊き出せない?

 

 

26:佐々木痔郎

 

 

ちょっと待っててくれ。

 

 

27:アカツキ

 

 

この流れは一体何度目?

 

 

28:ふみかぜ

 

 

まぁ、凄くフレンドリーで情報公開してくれるから。そこ、重要的にありがたい。分からないことは全て白銀さんに聞くこと、これ習慣になってるし。

 

 

29:ロイーゼ

 

 

何でもかんでも質問責めはよくないけど。本当に知りたい事だけならタラリアにも介して教えてくれる白銀さんは心優しい。

 

 

30:佐々木痔郎

 

 

訊いてきた。

 

 

31:メタルスライム

 

 

早いな。

 

 

32:佐々木痔郎

 

 

結論から言うと。第10エリアの隠れた闇のオークションで偶然手に入った武器だってさ。武器の詳細も教えてくれた。

 

 

名前は『呪いの魔剣グラム』。

 

スキル【呪蝕】

 

HPを500払わないと装着できないうえ、一分ごとにHPが100も減る。

 

スキル【龍殺し】

 

効果は竜・ドラゴン限定でステータスが2倍になる。

 

 

設定されたテキストフレーバーだと、ドラゴンの素材で作った剣で斬った張ったした邪龍の恨みが宿ってしまったらしい。

 

 

33:ヨイヤミ

 

 

500のHPを持っていないと使えない武器は武器と言えるのか? 燃費と振便の悪さしか伝わらない。

 

 

34:アカツキ

 

 

武器を呪いの物にするには邪龍を倒さないといけないっぽい? これ、凄い情報じゃないか?

 

 

35:ロイーゼ

 

 

龍殺しなんてスキルがあるんだ。じゃあドラゴンスレイヤーは?

 

 

36:ふみかぜ

 

 

称号では? でもどっちも同じだから別の呼び名で手に入るかな?

 

 

37:トイレット

 

 

そもそもドラゴンを見つけなければ手に入らない称号であるが?

 

 

38:メタルスライム

 

 

ちらほらと見掛けるが、青竜ほどのドラゴンはまだ未発見だな。

 

 

39:ヨイヤミ

 

 

ピクシードラゴンは手に入るけどな。

 

 

40:佐々木痔郎

 

 

あれはもはやファーマー・テイマーの福音的なペット枠。入手方法が知らなかったら絶対に出会いすら出来ないちっこいドラゴンだぞ。故にマジ白銀さん感謝なワケだ。

 

 

41:ロイーゼ

 

 

サモナーは?

 

 

42:ふみかぜ

 

 

サモナー用のドラゴンはまだ未発見かも? 公にしていないで秘匿してるかもしれないし。

 

 

43:メタルスライム

 

 

情報公開は義務じゃないからな。そこは個人の自由だろう。

 

 

44:ヨイヤミ

 

 

白銀さんがオープンなだけ。新発見した情報は教えてくれるし。

 

 

45:佐々木痔郎

 

 

ファーマー用のアイテムも提供してくれるし本当に農林水産大臣。

 

 

46:トイレット

 

 

また呼び名が増えてるけど、本人は知ってる?

 

 

47:佐々木痔郎

 

 

「何で農林水産大臣なんだよ」って呆れておりましたが。

 

 

48:アカツキ

 

 

女性プレイヤーの間じゃあ「かわいもの生産プレイヤー」とか言われてる。

 

 

49:メタルスライム

 

 

かわいもの・・・・・ノーム達みたいなのか。白銀さんの知らないところで好きに呼ばれているな。

 

 

50:ふみかぜ

 

 

悪意で変なこというプレイヤーもいなくないだろうね~。

 

 

51:佐々木痔郎

 

 

そう言う輩は白銀さんが気付かない内で処理すればいいさ。主に見守り隊が。

 

 

52:ヨイヤミ

 

 

その見守り隊はギルドに入らないのか?

 

 

53:トイレット

 

 

それじゃあただのファン・・・いや、見守り隊はファンでもあるから変わらないか。

 

 

54:メタルスライム

 

 

【蒼龍の聖剣】は主に生産職のプレイヤーで構成されたギルドだこと忘れてないか? 

 

 

55:佐々木痔郎

 

 

それ以外は白銀さんと縁がある俺達のようなプレイヤーしか入っていないしな。あの人の性格が何となくわかるギルドになってる。

 

 

56:ふみかぜ

 

 

性格?

 

 

57:佐々木痔郎

 

 

生産職のプレイヤーが殆どだろ? だから攻略組と前線組のように誰よりも一番を目指さず、後方でのんびりと楽しむのが白銀さんの性格じゃないかって意味だ。

 

 

58:メタルスライム

 

 

その意見は否定しないが、後方にいながらも全プレイヤーのトップに立って誰よりも隠しエリアやダンジョンを発掘し続けた白銀さんだがな。

 

 

59:ロイーゼ

 

 

今回初めて白銀さんは攻略組と前線組より先に第11エリアに進出しましたがねぇ~。

 

 

60:佐々木痔郎

 

 

その直前に青竜と戦う羽目になるとは思わなかった!! 勝ったけど!!

 

 

61:メタルスライム

 

 

四神との戦いはあんなに激しいものだとは知らなかった・・・・・。白銀さんとペイン達はあんな相手をして来たのか。

 

 

62:アカツキ

 

 

絶対に強さの秘訣はソレでしょソレ。強い相手と戦った経験の意味で。

 

 

63:ふみかぜ

 

 

一ヵ月もしない内に単独でベヒーモスを倒した白銀さんは?

 

 

64:ロイーゼ

 

 

既に強者だった?

 

 

65:ヨイヤミ

 

 

いや、神だろ。【太陽神】ってスキルを使ったから青竜の動きを制限できたんだから。

 

 

66:佐々木痔郎

 

 

あ、言い忘れてた。因みに手に入れたスキルも公開してくれたよ。い、一応? 誰にでも手に入るスキルだけどな?

 

 

67:アカツキ

 

 

一応って何だ?

 

 

68:ふみかぜ

 

 

なんとなーく、手に入れる条件が判ったような気がする。

 

 

69:佐々木痔郎

 

 

だったら話は早いが・・・・・同じスキル系統で違う攻撃、魔法で言えばファイアーボールとファイアーアローのような感じのを、同時攻撃してレイドボスを倒すとスキルが手に入るらしい。

 

 

70:メタルスライム

 

 

もしかしなくてもその方法は、青竜を倒し退けた時のやつではないか?

 

 

71:ロイーゼ

 

 

同時攻撃って個別に? それとも個々の攻撃を一つに合わせて?

 

 

72:トイレット

 

 

どっちにしろ息を合わせないと出来ないな。しかもレイドボス限定は凄く難易度が高いのでは?

 

 

73:ヨイヤミ

 

 

手に入るスキルの効果は? それによっては頑張り甲斐があるんだが。

 

 

74:佐々木痔郎

 

 

スキルの名前は【相乗効果】。セットした三つまでのスキルの効果が融合した形の攻撃が可能で再使用時間は1分。その間は別のスキルに変えてセットできるって。

 

 

75:ヨイヤミ

 

 

想像以上に凄いスキルだった!? レイドボス限定なのも頷けるわ!!

 

 

76:トイレット

 

 

あ~・・・・・う~ん・・・・・。(悩)・・・・・・。

 

 

77:メタルスライム

 

 

これはしばらく、レイドボスの周回をするプレイヤーが確実に増えるだろうな。

 

 

78:佐々木痔郎

 

 

ついでに白銀さん曰く「他の方角の第11エリアへの道も把握しているから後日行くから」だってさ。

 

 

79:アカツキ

 

 

マジでぇえええええええええええええええ!?

 

 

80:トイレット

 

 

待って、待って? 本当に知っちゃってるの? あの人、どれだけ情報を抱え込んでるの?

 

 

81:ロイーゼ

 

 

タラリアより情報量が多いのではもしかして・・・・・。

 

 



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呪いと勇者と魔王

 

 

他の三つの未攻略の第11エリアへの道を阻むレイドボスを倒し退けた【蒼龍の聖剣】。その動画も公開して他のプレイヤー達もこぞって第11エリアへ進むために連日連夜、レイドボスを挑む日課になっている現在。俺は水晶蠍と戯れながら消費したレベルを上げ直していた。【勇者】(剣士)のスキル奥義は強力だがデメリットも高いんだよ。おいそれと使えないよまったく。

 

「おし、レベルが戻った!!」

 

いい狩場から後にし、ついでにドワーフ王に顔を出した時だった。

 

「おお、ドワーフの心の友よ!! 丁度お前さんに渡したいものがある」

 

「うん? 渡したいもの?」

 

「以前、ドリモールが使っていた石のことだ。それと同じ物が手に入ったそうで、お前さんに渡してほしいと預かっている」

 

っ!?

 

「これがそうだ」

 

ドワーフ王から受け取った何の変哲もない石。鑑定すると『翻訳石』というアイテム名が表示された。どんな言葉でも統一言語に聞こえるようになる希少な石でレア度は★10、品質は9だ。

 

「ありがとう。まさか本当に見つけてくれるとは」

 

「ドワーフの心の友のおかげで鉱山の問題が解決できたのだ。まだまだ礼は返せておらんからこれからも頼ってくれ」

 

「ああ、そうさせてもらう。そうだ、ついでにこういうのは見たことあるか?」

 

呪いの魔剣グラムを見せた途端。愕然とする彼は口唇を震わせた。

 

「お、お前さん・・・・・そいつはどこで手に入れた。呪われておるではないかっ!?」

 

「邪龍を倒したせいで呪われた剣になってしまったそうだ。邪龍は本当に存在しているのか?」

 

「・・・・・話を聞いた程度で姿は見たことないが、普段は冥界に棲息しておる。が、一匹だけでも人間界にやってくると世界に悪影響を及ぼす災いの龍だとか」

 

どう悪影響を及ぼす? と訊くとそれは凄まじいと答えられた。

 

「草木が腐り、土が死に、飛ぶだけで全ての生命を奪う風を起こし、邪龍がいた場所が向こう1000年はその土地に近づけなくなってしまうらしい」

 

「そいつは・・・聞いただけでも笑えないな」

 

「ああそうだとも。だからおそらくその呪いの剣は、太古の時代に人間界でその猛威を振る舞った邪龍を倒した者の剣で間違いない。神匠になった兄者ではなくとも解かる。龍殺しの効果があるのじゃろう?」

 

あると肯定するとエレンは畏怖する目で魔剣を見つめる。

 

「その効果はドラゴンにとって絶大。しかし、それに伴って所有者の命を蝕む呪いも掛かっている。そんな剣はこの世にあってはならん。破壊するべきじゃ。しかし・・・・・それも適わんな。ともなれば浄化をする他ない」

 

「呪いを? どうやってだ」

 

「協会におる聖女の力が必要になるな。彼女は神の子とまで称されるほどの癒しの力がある。どんな呪いでも浄化すると噂に聞くが、実際のところ本当かどうかわからぬ」

 

聖女ね・・・・・。と言うか協会自体、俺は近づくことが出来ないんじゃないか? 遺憾ながら異端者扱いされてる見出し。

 

「邪龍の恨みを宿す以外、呪いと化することってあるのか?」

 

「アンデットの素材のみを使えば呪いの物となるが、そんな物を作る者がいるとすれば呪術師か黒魔術師ぐらいだ。言っておくが、呪いの武器や防具が欲しいと言う輩がおるなら全ての鍛冶師が黙っとらんでな。お前さんも含めて変な気は起こすなよ」

 

「これは偶然的に手に入ったものだから、それ以外の方法で手に入れようとは思わないよ。神匠の友達に誓って」

 

「信じるぞドワーフの心の友よ」

 

・・・・・と、そう言ってみたけど。きっと後で誰かが気付いて作ってしまいそうだな。

 

そう思いながらマイホームに帰宅した。

 

「「お帰りなさい」」

 

速攻で鍛冶師二人に捕まった。さて、理由は何なのか判らない俺に説明を求める。

 

「非常に気になる武器を持っているらしいじゃない。ちょっと見せてくれない?」

 

「呪われてる武器ってハーデスしか持ってないから」

 

「あ、はい。じゃあ居間で」

 

見せる事しかできないがそれでも満足な様子の二人。テーブルに置くとすぐに顔を落とし、阻まれた鑑定に興味を持って観察している最中に話しかけて来たアカーシャとラプラスも加わって来た。

 

「ほう、呪いの魔剣とは珍しいものを持っている。この世界に存在していたのか」

 

「冥界に棲息している邪龍を倒したからだって聞いたけど、邪龍はいるんだな」

 

「いるとも。私の時もそうだが、悪魔族にとって邪龍は嫌われ者だ。何度も悪魔の住む町や都市、国などに襲ってくるのだからな」

 

「古代の時代にその邪龍が人間界に現れたって話は?」

 

「うーむ・・・・・それは私が魔王であった時のことではないな。つまり私が生まれる前の話になるだろう」

 

ラプラスの時代じゃないなら本当に相当前の話だな。それこそ1000年前になるぞ。

 

「・・・・・あの」

 

おずおず、と小さくアカーシャが挙手した。

 

「その話、冥界でお伽話になってるの」

 

「それを知っているってことは読んだことはあるんだ」

 

「悪魔なら誰でも一度は聞かされる話だから。嫌われ者の邪龍が勇者に倒された話だけれど」

 

・・・・・それ、この魔剣グラムと関りがあるんじゃないか?

 

「冥界に帰れば持って来る事はできるわ。どうする?」

 

「気になるからお願いする」

 

それに必要な指輪を渡してアカーシャだけ冥界に行かせた。待ってしばらくすると本を抱えて戻ってきた。

 

「初めまして~♪」

 

「・・・・・や、やぁ」

 

「「・・・・・え?」」

 

見知らぬ女性とピンク色のゴスロリ服とカチューシャを頭に付けた魔王と一緒に・・・・・。

 

「ブッ!? ハハハハハハッ!!! お、お前・・・・・ッッッ。なんだ、その恰好は!? アハハハハハハハッ!!! ヤ、ヤバい・・・・・・は、腹が痛いっ、ヒーハハハハハッッッ!!?」

 

ただ一人だけものすっごく爆笑して床に転げまわっていた。こんなラプラスは初めて見るが、俺達はそれどころじゃなかった。

 

「ハーデス、えっと、どちら様?」

 

「ゴスロリを着ている方はアカーシャの父親である魔王様だ」

 

「ま、魔王? ・・・・・本当?」

 

「俺も本当に疑うレベルの格好だよ・・・・・」

 

「あひゃひゃひゃひゃひゃ!!! ―――ぶっ!?」

 

「マスター、話が進みませんのでもう笑わないでくださいませ」

 

「こっちもこっちで本当に魔王だった人なのか疑うなぁ~」

 

自分のドールに足で頬を踏まれる元魔王。ようやく笑い声が止まったので静かになったところで。

 

「アカーシャ、そちらの女性は?」

 

「現四魔の一角にして私の母です」

 

「ルシファーです。娘がお世話になっております」

 

レヴィアタンに続いて四魔の一角と出会うとは・・・しかも現魔王の妻でアカーシャの母親? 

 

「勇者だった今の魔王と対立していた悪魔が四魔の一人だったのか」

 

「うふふ、あの頃は本当に運命的な出会いをしましたわ。男の子とは思えない可愛らしい勇者が目の前にした時、戦よりも恋の方が熱く燃え上がりましたから♪ あの手この手を尽くして・・・・・うふふ」

 

「・・・・・」

 

顔を赤らめる魔王。そうかこの勇者・・・・・。

 

「ベッドの上での寝技で魔王に堕ちてしまったんだな。淫欲の魔王様よ」

 

「ち、ちが・・・・・っ!? いや、無防備な時に襲われはしたけれど、敵味方の時は守ったよ貞操!!」

 

「今じゃどちらかと言うと彼の方が攻めて来て・・・・・・キャッ」

 

「・・・・・やっぱり淫魔王か」

 

「そ、そういうお前だって知っているぞ!? 妻を三人も娶っているじゃないか!! とっかえひっかえして随分と色欲を貪ってることもな!! この女に性転換できる勇者め!!」

 

「そこまでしていないわっ!!! というかプライバシー侵害だよなそれっ!!」

 

女装魔王と額を押し付け合いガン睨みすると、ルシファーが肩に手を置いてきた。

 

「彼からその話を聞いて今日の為に用意しました」

 

「・・・・・何をだ?」

 

「丹精込めて作った可愛らしい服です♪」

 

一体いつの間に持っていたのか・・・・・手の込んだ装飾のドレスを見せつけて来る。

 

「あ、可愛い」

 

「冥界で作った服、興味ある」

 

「あら、このドレスの良さが判る? じゃあ一緒にお話でもしましょ? 女性の勇者と趣味を語れるなんて初めてだわ」

 

イズとセレーネの慧眼にルシファーが好感を抱いたようで、三人で和気藹々と語り始め出した。

 

「・・・・・人類の敵なのか疑うんだが?」

 

「一応、そうしているつもりなんだよ・・・・・。でも、彼女みたいな悪魔はいるんだよ魔王軍に。趣味に走る悪魔とか」

 

なるほど。良くも悪くもそう言う類の悪魔がいるのか。ちょいと親近感が湧いてきたところでアカーシャから受け取った本の中身を読む。タイトル名は『お人好しの勇者の成れの果て』。

 

内容は魔王討伐の為に人間界と冥界を繋ぐゲートを発見した神聖国の協会が、勇者を単独で送ったことから始まる。

 

未開の地と世界に送り出された勇者は人類の天敵あるはずの悪魔族を殲滅せず、最初に立ち寄った村を襲う巨大で恐ろしい数多の龍を単身で倒し退け、村を守ったことから村の悪魔達に感謝された。しかし、勇者である自分は魔王を倒す宿命と義務がある。悪魔も例外ではない。しかし力なき悪魔族も殲滅して本当に平和になるのか? 人も悪魔も種族が違うだけで心と言葉が交わすことはできるのでは? そう思った勇者は魔王がいる王都に向かい、直接魔王と会った。

 

『問おう魔王よ。なぜ人類の敵となる?』

 

『それが世界が求めているからだ。善と悪の果てしない戦いを』

 

『世界が求めている?』

 

『逆に問おう勇者よ。悪を根絶して世界は本当に真の平和を得られるか?』

 

『・・・・・』

 

『大きな闇や悪は取り除けよう。しかしながら、国の規模による人間同士の戦争はお互い正義の主張をぶつけ合っていつも起こす。いつも流さなくていい血を流し、落とさないでいい人間の命を落とす。魔王が居ようと居まいが関係なしにな』

 

『では、お前達は一体何なのだ』

 

『神々に創造された必要悪。世界の一番の被害者よ。―――勇者だった私が魔王になってそのことに気付いた時は、この世界に絶望したものだ』

 

『なっ・・・・・!?』

 

『勇者よ。冥界に来てすぐ、なぜ民を殺さず邪龍を倒した? どちらも人類の敵であろうに』

 

『そ、それは・・・っ』

 

『ふっ、力なき者にはその勇者の剣が振るえんか。随分とお人好しの勇者であるな。故に断言しよう。お前は神聖国と教会によって勇者の称号と地位を剥奪され、人間界の全ての敵とみなされてしまうぞ』

 

『なぜだっ!?』

 

『一人も悪魔を殺さず、私とも戦わず殺さず人間界に帰還すれば魔王を倒せない勇者は用済みとなる。次の勇者の誕生には既に存在する勇者が邪魔なのだ。勇者は世界にただ一人のみ。私の言っていることはわかるか?』

 

『―――――』

 

『その表情を察するに理解したようだな。そう・・・・・勇者は死なない限り新たなる勇者が誕生しない。神聖国と協会は新しい勇者に鞍替えするべく、お前をあらゆる方法で殺しにかかるであろう。それが世界の法則であり、魔王が滅んでもまた次の魔王が誕生することも神々が定めた運命なのだ』

 

話し合いを経て、世界の真実を知ってしまった勇者はとてもではないが戦う意思を無くしてしまい、「せめて邪龍の首だけ持って行け。奴らは邪龍の恐ろしさを知ったばかりだからな。しばらく誤魔化せるだろう」

 

という魔王の助言の言う通りに数多の邪龍の首を持って人間界に帰還した勇者は、「ゲート付近にこの数倍の邪龍が迫っていた。魔王討伐どころではなかった」と報告し、神聖国と協会は邪龍を倒せるのも勇者だけなので、冥界側に駐屯させて邪龍の人間界への進出阻止を世界にたった一人だけしかいない勇者に命じさせた。

 

その後、嘘から出た実として一度だけ邪龍が人間界に繋がるゲートから現れた。神聖国と協会は勇者の言葉を信じたので、勇者の一生を人類の希望と平和の盾にし、二度と人間界への帰還を許さなかった。冥界で暮らすことになった勇者はお人好しにも邪龍を幾度も倒し、困っている悪魔を助け、悪魔族の女性と結婚して子を儲け、幸せな残りの余生を過ごしたことなど神聖国と協会は知る由もない。

 

「・・・・・」

 

お伽話の枠を超えてる内容だった。というか、勇者の血が悪魔族にも流れているのかよ。

 

「魔王、この本に綴られている内容がもしも本当ならお前等は・・・・・」

 

「皆まで言わなくていいよ。それが僕たち魔王と悪魔の歴史だ。初代魔王は純粋な悪魔だったらしいけれど、勇者に討伐され死に際で勇者に呪いを掛けたんだ」

 

「どんな呪いだ?」

 

「【反転再誕】という呪いだ。勇者が魔王になる呪いだよ」

 

―――あのスキル、そういう意味合いが込めてあったのかよ!!

 

「そのおかげで代々勇者は魔王になってしまう傾向が多くある。僕もその一人だし、キミもその一人になる可能性がある」

 

朗らかに言ってくれるよこの魔王様は。

 

「魔王、ゲートって一つしかないようだけど。幹部達はどこから人間界に来てるんだ?」

 

「うーん、それは獣魔国の問題を解決してから教えてあげよう」

 

「ああ、その国の地下にゲートはあるんだな」

 

「想像に任せるよ」

 

肯定も否定もしない辺り、怪しいんだよな。けどま、そろそろ獣魔国に行くとするかな。

 

「だけどそうか、この呪われている魔剣は絵本に登場した古代の勇者の剣の物だったんだね」

 

「勇者の装備は無いのか?」

 

「あるよ。不思議なことに剣以外なかった呪われてる装備がね。何故この剣だけが人間界にあったのか僕も分からないけど、勇者の手元にあるのは何かの因果を感じる」

 

魔王は少し考える仕草をした後に、娘と妻を置いて冥界へ戻ってしまった。

 

「・・・勇者。お釈迦に出ていた勇者の武器がこれなのか?」

 

「邪龍の恨みと呪いが宿っているからな。冥界しかいない邪龍を何度も倒したのは、この本に登場している勇者の剣だ。恐らく間違いないよ」

 

「わぁ・・・!!」

 

感無量。お釈迦ではなく本当に実在していた実話だったことに感動したアカーシャ。俺も少なからずこの出会いにありがたさを覚えた。

 

「ただいま」

 

お帰りと言ってやればハーヴァまで一緒に付いてきた。何やら押す台車に禍々しい装備が運ばれてくるのだが・・・・・。

 

「それがそうなのか?」

 

「ああその通り。代々の魔王が知っていても敢えて触れもしなかった代物だ」

 

そう言うラプラスがいう物だから間違いないんだろうな。でも、うん。外見上はグラムと同じ呪われ方をしているから間違いない。

 

「・・・・・うん、鑑定が弾かれた。装備しないと見れない感じなのはグラムと同じだ」

 

「何なら直に調べてほしい。なんせ幹部の悪魔達でもこの装備を着たがらないからね」

 

「え、そうなのか?」

 

「邪龍の呪いとは相当厄介なものだ。装着しただけで装備者を呪い殺すなら誰でも嫌に決まている。僕もそうさ」

 

まぁ、そりゃあそうでもあるか。それじゃあ試しに装着してみるか。【クイックチェンジ】で全部装備して・・・・・。

 

「・・・・・思いっきり勇者とは思えない風貌ですけど魔王さん」

 

「うん、もう呪われた暗黒騎士だね」

 

「ほう・・・・・素晴らしいです」

 

「格好いい・・・・・」

 

魔王以下の二人は何を感動しているんでしょうかねー? もう、赤黒くて禍々しいオーラが滲み出て揺らいでいる上、縦に開いてる鋭い一つ目の目玉がある胸部の鎧と大盾・・・ああ、説明してなかったがグラムにも目があるぞ。にしても装備してようやくわかったステータスがこれとは・・・・・。

 

 

『呪われた聖鎧』

 

【MP+200】

 

【解放】

 

 

【解放】

 

HPとMP1000を消費してHP1000の三頭の龍を召喚。最封印後、プレイヤーは三日間ステータスが0となる(装飾アイテムによる増加も含む)。

 

 

 

『呪われた聖盾』

 

【MP+120】

 

【HP+70】

 

【呪壊】

 

 

【呪壊】

 

HP100を消費する代わりにプレイヤーとモンスターにランダムの呪いをかける。

 

 

うーん、リスクが高いスキルだな・・・・・。【解放】なんて三日間もステータスが0になるなんて、ゲームが出来なくなるぞ。別に戦えなくはないけどさ?

 

「呪いって解呪する方法とかある?」

 

「ないことはないな。一つは協会の聖女に呪いを浄化してもらう事。まぁ、お前だけこの方法はほぼ不可能だろうな。勇者でありながら魔王と交流しているのだから、神聖国と協会に目の敵にされている」

 

「はた迷惑な事で極めて遺憾だ。他は?」

 

「邪龍と対なる存在、聖龍を見つける事だろう」

 

聖龍?

 

「僕も勇者時代に耳にした程度で本当に実在しているかは不明だ。でも、風の噂でもそんな龍の名が聞こえるんだからきっと存在していると思っているよ僕は」

 

「そうか。なら俺も探してみようかな」

 

「見つけたら教えてくれ。土産話として聞かせてくれよ」

 

「ああ、わかった。見つけたら話してやるよ」

 

そんで、あっちは終わったのかな? イズ達の方を見るとまだ話をしていて盛り上がっていた。もうしばらくは続きそうだな。

 

「・・・・・泊って行くか?」

 

「ははは、勇者が魔王に宿泊の誘いをするなんて前代未聞だよ。でも、たまにはそう言うのも悪くはないかな? ハーヴァ、時間になったら冥界の料理を用意してくれるかい」

 

「はっ、かしこまりました」

 

提案に乗った魔王によって、その日は日本家屋内で極めて異質的なことに魔王一家と勇者組の夕餉をしたのだった。冥界の料理、初めて食べたけど意外と美味すぎた。どんな食材で使っているのか気になる。

 

 

 

 

 

 

 

「―――そう言えば先輩。特殊職業ってなんだ? 」

 

一緒に部屋で寝ることになった魔王に尋ねた。スルーしていたが覚えのない転職の道に疑問を抱いた。俺の隣で今寝転がろうとしていた魔王は、胡坐を掻いて説明してくれた。

 

「僕は魔王。だがそれは職業ではなく称号という肩書を得た存在だ。勇者も例外じゃない」

 

「うん」

 

「勇者だった僕は剣聖のさらに上の剣神という頂を目指していた剣聖だった。しかし一度魔王になると、魔王に相応しい職業に転職できる。過去に魔王になった勇者が新たに得た力は、二つ」

 

二本の指を立てて言う魔王から口にしたその職業は・・・・・。

 

「一つは【闇の教皇】。これは神獣使いみたいなものかな? これは仲間を強化してくれる効果があるんだ。逆にその配下の数が多ければ僕自身も強化される優れものだよ」

 

「最後は【陰の君主】。こいつは今まで倒して来た人類とモンスターを闇影の兵士として召喚・使役できる。でも、一度召喚するか兵士が倒されると再度と召喚出来ない一度きりのだから、また召喚するためにストックの確保・・・モンスターを倒さないといけなくなるよ」

 

それでもその兵士の強さは召喚者の強さに反映するというのだから・・・? ほほう・・・・・。【闇の教皇】のスキルと合わされば強そうだな。

 

「【陰の君主】って専門の武器はあるか?」

 

「ないよ。だから倒した敵をスキルで召喚できるように集めるんだ。キミなら楽勝のはずだよ」



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誕生 恐怖の大魔王

 

 

獣魔国を解放する行動に出た俺は、獣魔ギルドから受け取った手紙を手に持ってー――封を開けて一通の手紙を出した。青いパネルが表示した。

 

 

獣魔国のイベントを開始しますか? YES NO

 

 

勿論YESを押した俺は―――光に視界が一瞬だけ奪われたその後にワールドアナウンスが放送された。

 

 

≪プレイヤーが隠し国家『獣魔国』の解放をしました≫

 

≪これより獣魔国の防衛イベントがゲーム内の時間で2時間後に始まります≫

 

≪参加条件はモンスターをテイムしたプレイヤーのみ≫

 

≪プレイヤーの皆様へどうぞお楽しみくださいませ≫

 

 

 

「絶対ハーデスだね」

 

「間違いなく白銀さんだろう」

 

「これ、テイマーとサモナー専用のイベント?」

 

「防衛イベントかー」

 

「テイムしないと参加できないのかよ!」

 

 

プレイヤー達の反応など露も知らない俺は準備に取り掛かる。その最中にフレンドコールが入った。

 

『ハーデス、キミがイベントを発生させたかな』

 

「そんなところだ。なんか問題があったか?」

 

『イベントに参加するためにモンスターをテイムしたいんだ。でも、俺達では加減が難しくてね』

 

「やっぱり参加したいのか。テイマーかサモナー、どっちにするつもりだ? テイマーならもう知っているだろうけど、サモナーはモンスターを召喚する間はMPが消費するらしいぞ」

 

『だとすれば、テイマーがいいかな。身体が小さいモンスターを見繕ってくれないかな』

 

そんなモンスターだと小動物しか思いつかないんだがな。

 

「構わないが、ちゃんと育ててやれよ」

 

『勿論だよ』

 

そんなペインからの要望に小さいモンスターのテイムに協力した。可愛げがあるリスをな。これでペイン達もイベントに参加できるようになったわけだが・・・・・。

 

『ハーデス君、私もイベントに参加するからモンスターのテイム手伝って?』

 

こんな調子で強いプレイヤーがイベントするためだけに、モンスターのテイムの手伝いを何度もすることになったんだ。

 

「えっと、ミーニィとセキト、フェルにメリープは当然だ。フレイヤ・・・・・うん、これが妥当か。エルフイベントの時の防衛線の経験を活かすならこの編成しかない」

 

道具の補充もしっかりしないとな。他のプレイヤーも二回目の防衛線イベントをするのだからそれなりの準備をするはず。ただ、第二陣のプレイヤーはそうじゃないだろう。だけど、前回と同じ感じになるとは限らないしな。

 

「さて、実際どうなるんだろうな」

 

畑で賑やかに遊んでいるオルト達を見て今後のプレイ活動を想い馳せた。今度の相手はNPCであることは何度も聞いた。勇者は人間を守る特別な存在。どんな理由でもNPCに攻撃することも倒すこともしてはならない。なら、今回のようなイベントに参加してNPCと敵対する行為をしたら・・・勇者の立場と存在意義はどうなる?

 

 

『防衛イベント、開始5分前となりました。これから特設フィールドに転送します』

 

 

しばらくするとモンスターをテイムしたプレイヤーのみイベント用のエリアに転送されるテイマー、サモナー。戦闘系職業のプレイヤーより少ない人数で挑まなければならないから、厳しいイベントになりそうだ。無事に転送された俺達も獣魔国の中に来て早々、青いパネルが目の前に浮かんだ。

 

『イベントの説明を行います』

 

「始まるか」

 

ま、いいや。考えても仕方ないし。このままイベントを楽しもう。

 

『現在、参加者プレイヤーは10名程度のグループに分かれ――』

 

 

 

説明を要約すると、この場に集められた10名はランダムで、ギルドやパーティなど関係なく適当に分けられただけであるらしく。

 

イベント内容―――。

 

 

獣魔国の防衛イベント。 

 

耐久値が減少すると防壁が崩れます。

 

勝利条件は敵NPCの撤退。もしくは敵拠点の破壊。 

 

敗北条件は獣魔国の耐久値が0に達すること。また協力者である獣魔国のNPCとテイムモンスターの全滅。

 

 

NPCも協力してくれるのか。敵拠点の破壊ってのも分かりやすい。場所はどこかな?

 

転送された場所は防壁の外側。後ろに振り向くと聳え立っている城壁の中に入れば獣魔国か? で、俺以外の9人のイベントに参加してるプレイヤーはというと。

 

「あ、白銀さんだ」

 

「うわ、あの白銀さんと一緒だ」

 

「すっげー、ラッキーだ!」

 

従魔を傍に置いている見知らぬプレイヤー達。うん、【蒼龍の聖剣】の身内じゃないな。そして俺達以外にも存在感を放っているのが10人のNPCとテイムモンスターだ。

 

「よく獣魔国の存亡の危機に駆け付けてくれた異邦の地から来た冒険者達! 私達の役割は敵拠点の破壊だ! 迅速的に移動し且つ電光石火の勢いで敵陣を突破し、敵拠点を破壊する!」

 

彼等は全員、騎乗できるモンスターの背中や身体に載っていた。そして俺達プレイヤーはランダムで適当に分けられても、全員騎乗できるモンスターをテイムしている組に分けられた感じだ。というか俺以外のプレイヤーは馬だ。NPCのテイムモンスターは、まだ誰もテイムしたことがない虎とライオン、赤いクマや巨大な蛇にサイ、猪、ユニコーン、ペガサス、グリフォン・・・・・なんか厳つい三つ首の犬もいらっしゃるのですが。

 

「質問いいか?」

 

「なんだね」

 

「他の組も役割が与えられてる?」

 

「その通りだ。直接敵を倒す組、敵の進行を妨げる組、万が一のための城壁を守る組と敵の拠点を破壊する組も含めて四つの役割がある。先ほど言ったように我々は敵拠点の破壊の役割を担っている。故に我々の武器は機動力! 敵が追い付けない速度と、破壊力がある突進で短期決戦を試みる!」

 

なるほどな。理解は出来たし納得も出来たんだが・・・・・やっぱり質問をしたい。

 

「そこの三つ首の犬ってもしかして・・・・・」

 

「地獄の番犬ケルベロスだが何か?」

 

「つよそっすね」

 

「実際に強いぞ。何せこの子は冥界産の魔獣で子供の頃から育て上げた頼もしいパートだ! 見たところキミも魔獣を育てているようではないか。ヘルキャットとは珍しい。かなり偏屈な方法でなければ孵化しない絶滅危惧種の魔獣だぞ」

 

へ、偏屈・・・・・。というか、冥界産って獣魔国と冥界が繋がっているのか。さっきから話しかけているNPCはケルベロスに跨っている。実質、この組のリーダー的かな。

 

「質問は以上かな」

 

「あ、最後に。俺達と同じ役割の組はどれぐらい?」

 

「我々も含めて10組だ。しかし、我々の敵は一国ではなく二国だ。さらに敵拠点を破壊するため半数に分けられている」

 

・・・・・少なすぎる! 敵の拠点の耐久値はかなり高い筈だぞ。目的地まで欠けずに来れるほど甘くはないからさらに攻撃力が下がる。だったら・・・・・。

 

「時間との勝負か」

 

「その通りである! 故に、遅れを取った者は置いていくと心得よ! 騎乗! 突撃!」

 

NPCに催促され、従魔の背中に乗る俺達。ミーニィにメリープを運んでもらうことで俺達は敵陣へと突っ込んで行った。もうイベントは始まっているということか。もう敵とは目と鼻の先まで接近している。

 

「どけどけぇ~!! 獣魔国の敵め、侵略者の分際で我らの地を犯すとは許さんぞぉっ~!!」

 

「「「うわぁ!!?」」」

 

「「「「ギャー!!!」」」」

 

その巨躯で弾き、三つの口から吐く火炎で敵を燃やし尽くしていくケルベロスに続き、他のNPCのモンスター達も突進の猛威を振るいながら道を切り拓いていく。

 

「ミーニィ、フレイヤ、フェル。援護だ」

 

全滅だけは避けたい俺の想いが伝わらなくても指示に従ってくれる。NPCの前に躍り出ては敵NPCを蹂躙して行く。

 

「おおっ、やるなっ!! 突き進みやすくなってきた!」

 

「油断するなよ! 貴族は魔法を使う!」

 

魔法を? 珍しくはないがそれも当たり前か。だったら―――。

 

「メリープ【羊祭り】!」

 

「メェ~!!」

 

久しぶりのスキルを使うことにした。メリープが高らかに叫んだ直後、真後ろから現れたメーアの大群が俺達より先に追い越して敵NPCに突っ込んで行った。

 

「うわ!! なんだこれ、羊の群れ!?」

 

「あっという間に囲まれた上に敵を弾き飛ばしてる!」

 

「ははは、すげー!」

 

驚き、興奮する味方プレイヤー。しばらくは距離も稼げるがまだ敵拠点までの道のりはあるようだ。

 

「むぅ、中々やりおる。だが、我等も負けておられんぞ!」

 

ガォオオオオオオオオオオオオオオ!!!

 

ケルベロスが咆哮を上げた。羊に負けられないと更に速度を上げだして行く、それは俺達を置いて行き兼ねないほど速く力強く。

 

「待て! 単独で行くのは危険だ!!」

 

「いつもの悪い癖が出てしまったかあのバカ!!」

 

「我等も速度を上げる! しっかりついてこい、置いて行かれるなよ!」

 

NPC達も速度を上げる。追従する俺達が増す。それに伴い深く潜り込むと敵の強さも増していくのが肌で感じ取れる。【羊祭り】で召喚したメーアの群れが放たれる魔法で吹き飛ばされるのが目立ってきた。それに俺達から距離を置いて誘い込む動きが・・・・・。

 

「―――しょうがない。先に行かせてもらうぞ!!」

 

「わかった! こちらのことは気にせず行ってくれ! 必ず追いついてみせる!」

 

強がりを・・・・・。フェル達に後れる味方を守るよう指示を出して、セキトには空を駆けてもらった。空から探せばすぐに見つかった。ケルベロスの足が止まることを知らず孤立していようとお構いなしに突き進んでいた。なんて猪突猛進な事をするんだと思いながらも、拠点の場所も把握できた。

 

「ケルベロスの道を作ってやるぞ! 【赤き閃光】【超突進】!」

 

「ブルル!」

 

急降下しつつ真後ろからケルベロスを追い越し、敵NPC達を撥ね飛ばし、一筋の道を作ってやった。

 

 

イッチョウside

 

 

防壁の守りの役割を任されプレイヤーは、怒号と絶叫・・・戦場の雰囲気に飲み込まれているかもしれない。初めてNPCと戦うイベントに、人型のモンスターではなく、人そのものに攻撃しているんだからゲームとはいえ躊躇しても仕方がないと思う。ハーデス君はどのあたりにいるのかな。目立った戦闘をしていないのは、NPCを倒しすぎると魔王になるリスクを抱えてるから、戦いを控えてるのかも?

 

「防壁守備隊、前進するぞ! 前線が崩壊しつつある! 我らで戦場の維持を補う! 諸君等の働きに期待するぞ!」

 

私達の出番か・・・・・ハーデス君、力を貸して!

 

 

 

ペインside

 

 

イベントが始まって敵の拠点に向かう大型のテイムモンスター、蟲に便乗して背中に乗せてもらっている。巨蟲の移動は山の如くであり敵NPC達を踏み潰していく。

 

「さすがだね。【AGI】は少なくともこの巨体と【VIT】ならば、敵の攻撃をものともせず何の障害もなく進める」

 

「頑張って育てましたからね! 白銀さんと出会ってこいつらを手に入れてから、周りから蟲王(ムシキング)なんて渾名を呼ばれるようになりましたし!」

 

「そうか」

 

彼はゲームを楽しんでいるようだ。こんな自由度の高いイベントなら彼のモンスターが尤も発揮できる。それは俺達にとっても心強いことだ。

 

「このまま敵の拠点まで移動するんですよね?」

 

「ああ。敵NPCの全滅は時間が掛かる。きっとハーデスも短期決戦を臨むために敵拠点の破壊をする筈だ」

 

「こっちにいると思いますか?」

 

「いるなら拠点の破壊が早くできるし、いなかったら同時に破壊できて効率よく勝てる。どちらも問題はないよ」

 

それが心からの本音だ。見えてきた敵の拠点を見据えてユニーク装備の剣を鞘から抜き、構える。

 

 

・・・・・。・・・・・。・・・・・。

 

・・・・・。・・・・・。

 

・・・・・。

 

 

「見えたぞ、あそこが敵の本陣だ!」

 

ケルベロスを使役するNPCとついに肉眼でも捉えた勝利条件の一つ。敵拠点の破壊を目的に来たが、大峡谷を塞ぐように築き上げられた巨大な門が聳え立っていた。それがいま開いていて門の向こう側からNPCが続々と出てきている。

 

「近くで見るとデカいな」

 

「強固に築き上げられている。生半可な攻撃では傷一つ付かないと思え」

 

「破壊するより、門を閉ざした方がこれ以上の進行を防げるんじゃないのか。その後に敵を全滅させてから門を破壊しても遅くはない」

 

「そうしたいのは山々だが、敵の全滅は時間が掛かる。我々は長期戦には向かないのだ。それにあれはただの門ではない。魔法による転移装置だ」

 

あ、それなら話は別だわ。破壊に専念しよう。

 

「今も有象無象が湧いて出て来るな」

 

「じゃあ、俺に任せてくれ」

 

「よかろう。景気いいのを一発ぶちこめ」

 

ここなら味方がいないし大いに暴れる。走ってる途中のセキトから降りながら【覇獣】を使った。

 

ガオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!!

 

「ベヒモス、だとっ!?」

 

「【金炎の衣】! 【相乗効果】【アルマゲドン】! 【エクスプロージョン】! 【悪食】!」

 

遥か上空から炎を帯びた巨大な隕石が門を中心に落ちていった。直撃した直後に大爆発が何度も連鎖しつつ、【悪食】の効果が付与しているからNPC達が消滅していった。

 

「す、凄まじい・・・!!」

 

爆発が治まった門周辺は敵NPCはおらず、門の耐久値も三分の一しか減ってない。

 

「あれだけかい!」

 

「魔法に対する耐性が高いと見た」

 

「だったら、物理的に破壊してやろう。【金晶戟蠍Ⅴ】! 【黒晶守護者Ⅴ】! 【緋水晶蛇Ⅴ】! 【百鬼夜行I】!」

 

計五体のモンスター達に門を攻撃開始させる。ガンガン削れていく耐久値は三分の二まで減り、そこで召喚したモンスター達が時間切れで消失した。

 

「結局は俺がやらないと駄目か~」

 

【悪食】が付与した手で門をガリガリとひっかき耐久値を削っていく。

 

「敵が来たぞ!」

 

「足止め頼む」

 

「引き受けた!」

 

俺も急いで破壊に専念する。【悪食】【悪食】【機械神】!

 

「ぐあああああ!」

 

悲鳴が聞こえて反射的に振り返ると、ケルベロスのテイマーが攻撃を受けていた。やっぱり多勢に無勢か。助けに動こうとした矢先。

 

「こっちに構うな! 破壊を急げ!」

 

「死ぬぞ!」

 

「元よりここを死地と定めていた! 獣魔国の未来はお前に託した! 血塗れた残虐の勇者よ!」

 

「―――やっぱりお前、悪魔かこの野郎ォッ!!?」

 

だったら助けてやんねー! って、思ってた俺の気持ちを知らず、現れた銀狼によって悪魔に群がっていた敵を全員屠ってしまったから九死に一生を得やがった。そんな結果に俺は大いに不満だが、門に八つ当たりすることに専念したことで―――。

 

 

≪貴族国家の拠点の破壊が確認されました!≫

 

 

後から来た、一人の欠けずに来た味方と皆とアナウンスを聞いた。そしてそれは同時に・・・・・。

 

 

「に、逃げろぉっー!!」

 

「本陣は何をしていたんだ!!」

 

「拠点を破壊されたら国に帰れないじゃないか!?」

 

「降参する! 降参するから命だけは助けてくれぇっー!?」

 

 

「ふざけるな侵略者共が!!」

 

「従魔国の平穏を壊したその報いだ死ね!」

 

「元からお前達に正義はなかった! 正義は我等にある!」

 

「一人残らず全滅するのだぁっー!!」

 

 

こっち側が貴族国家のNPC達と戦っていたことを初めて知り、戦場は濃く勝敗の色を窺わせていた。味方のプレイヤーからこの状況を肌で感じて訊いてきた。

 

「白銀さん、どうします? 敵のNPCの全滅も勝利条件に含まれてるんですよね」

 

「んー、逃げ惑う敵に追い打ちをかけるのは気がすすまないが、もう一つの拠点に行きながら倒すぞ。逃げる敵が何でかこっちに来るしな」

 

「わかりました!」

 

だからお前らは邪魔だ、どけ!! 

 

「【相乗効果】【咆哮】【エクスプロージョン】!」

 

【咆哮】の効果に爆裂魔法が加わる。効果を受けた敵NPCはその身体を爆発ポリゴンと化しながら爆散した。それも爆発が連鎖していって広範囲に広がって、爆発音を轟かせながら爆裂していく様は絶景だった。

 

・・・・・というか、どこまで【咆哮】の効果を受けたんだ?

 

「ま・・・【魔王の権威】・・・・・!?」

 

「【魔王の権威】?」

 

「あ、ああ・・・冥界の魔王様のみ受け継がれる魔王の証であり、どんな鎧でも防御魔法でも防ぐことができない最凶最悪の力のことだ」

 

魔王ちゃん、アカーシャがその力を振るっていた時は、プレイヤーの首を跳ね飛ばしたぞ? それを疑問にぶつけるとケルベロスのテイマーはこう言った。

 

「無慈悲の力は多種多様だ。突然、燃え上がったりもすれば凍り付くことも、さらには身体がゾンビのように腐敗するとも」

 

「ひえっ」

 

うーん、代々の勇者=魔王が受け継いだ能力は違うんだな。

 

「言っておくが、俺は魔王ではないからな。なるつもりもないぞ」

 

「・・・それはどうであろうな」

 

意味深に言ってくるが話は終わり! さぁ、さっさと次の拠点に―――!

 

 

 

『スキル【連鎖】を取得しました』

 

『プレイヤーが1000人以上のNPC撃破しました。一定以上のカルマ値が達しましたので称号【恐怖の大魔王】を称号を取得しました。この称号によりプレイヤーは自動的に種族が悪魔族【大魔王】に転生します』

 

 

【恐怖の大魔王】

 

特殊転職クエストが受けられる。

 

イベント・クエスト以外のNPCとの友好度が-100。

 

NPCの売店の利用不可。

 

【恐怖の大魔王】の称号を持つプレイヤーのみ場所問わず自他共にPK行為が可能。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

この瞬間。ワールドアナウンスが放送された。

 

『ニュー・ワールド・オンラインをプレイされている全てのプレイヤーの皆様にお知らせ致します』

 

『全プレイヤーの中で大魔王が誕生した現時刻を持ちまして、新エリア【冥界】が解放されます』

 

イベントの真っ只中だというのに突然の新エリア解放のアナウンスに驚愕するプレイヤーが多い。しかし、それだけでは終わらなかった。フィールドの空が急な悪天候となり、青空と太陽を覆い隠し暗黒の地上に蓋すると獣魔国から大勢の悪魔族や魔獣が出現して敵NPCのみ襲い掛かったのだ。

 

「新たなる魔王への供物を捧げろ!!」

 

「真なる大魔王様の誕生に血祭を始めろ!!」

 

「大魔王様の味方は守れ!! 大魔王様の敵は我らの敵、全て皆殺しだ!!」

 

魔王の誕生に呼応して冥界から武装した悪魔族のNPC達が参戦、戦力的に際どかった獣魔国側の助けとなって帝国側の敵NPC達の数を確実に減らしていった。中には大量の卵を抱えているだけのNPC達もいて、その卵に黒い靄が集まり、魔獣が孵化して誕生の産声をあげた。血液代わりの赤いポリゴンのエフェクトが至る所で咲き、戦場は混沌と化した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

え・・・・・これ、俺の原因・・・・・?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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魔王の選択

 

 

 

『敵NPCの全滅を確認しました。獣魔国防衛イベントは終了します』

 

獣魔国から出てきた悪魔族と魔獣の参戦によって、イベントはユルゲーとなった気分で勝利に収めた。一度元にいたフィールドに転送されるプレイヤーと別れて、俺は日本家屋の中に戻されたところでラプラスに話しかけられた。

 

「魔王になってしまったのだな」

 

「なってしまったもんはしょうがない。で、冥界に行く方法は獣魔国内にあるんだな」

 

「今更隠さないさ。そうだ、冥界と繋がっているゲートは獣魔国が蓋をするように閉ざして隠されているのだ。獣魔国の王もそれを認知している」

 

グルだったってことか。魔獣ケルベロスを使役していた奴もいたけど、まさかな話だな。

 

「今ならゲートを通って冥界へ行くことができるんだよな?」

 

「その通り。だがしかし魔王になったお前が一度冥界に入れば、しばらくの間はこの世界に戻れなくなるぞ」

 

「オルト達は?」

 

「残酷な事だが手放す他ないだろう。冥界の空気は人間界のモンスターにとっては毒だ。毒で死ぬか、魔獣に変貌するかだ」

 

・・・・・マジで?

 

「どうする。お前を魔王として迎えに来る使者が現れるぞ?」

 

「―――まぁ、その使者は僕なんだけどね」

 

空間に裂け目が出来て、そこから女装魔王とハーヴァが出てきた。・・・・・ドン引きすんぞおい。

 

「・・・・・魔王として、流石にその恰好はどうかと思う」

 

「仕方ないじゃないか!? 僕だって、僕だってこんな姿で来たくなかったよ!! キミと対等の立場で話をしたいのに、魔王としての威風堂々たる服を彼女が隠してしまったんだから!!」

 

一言で言えばバニーガールの出で立ちで現れた涙目の魔王。さすがにおれも同情を禁じ得ないぞそれは。

 

「ごめん、この姿で真剣な話をされても迷惑だよね・・・・・僕、魔王なのに・・・・・」

 

「・・・・・なんかごめん」

 

なんだこれ、なにこれ・・・・・微妙な空気は一体・・・・・。

 

「まったく、しょうがない奴だ。ほらこれを羽織ればよい」

 

ラプラスが気を利かせ、黒い大きな布を魔王に手渡した。それを羽織り首から下まで隠すことで、まぁマシになった。兎耳の装飾も外して座り、気を取り直す魔王が一つ咳を零す。

 

「改めて、話をしよう魔王に至った勇者死神・ハーデス。キミはもうこの世界にはいられない存在となった。キミ以外の全てが敵となった今、命が欲しければ冥界に逃げるしかない。だが、冥界も悪くない。当たらな魔王として誕生したキミを快く迎え入れてくれる民や部下達がいる。魔王としてキミが命令すれば部下達はその通りに動くし、たくさんの妻を娶ることも出来る。そして人間界の土地を支配することも出来る」

 

「・・・・・」

 

「僕は魔王になってから人間界の土地の支配に力を注いだ。もう一度人間界で暮らすためにね。支配せずとも暮らせる方法はあるだろうけど、魔王としての務めもしなくちゃいけないんだ。このやり方が間違っていようともね」

 

話を聞く姿勢でいる俺に魔王の言葉は止まらない。

 

「新たな魔王死神・ハーデス。キミはどっちを選ぶ。冥界で生き長らえるか、人間界で常に命を狙われ続ける恐怖に怯えて生き続けるか。二つに一つだよ」

 

「それは絶対か?」

 

「絶対だ。僕もその選択を突き付けられ、冥界で生きることに選んだんだ」

 

誰しも通る道ってことか。・・・・・うーん、だったら俺はこうだな。

 

「みんなと別れたくないからな。人間界で生きるよ。人間界の魔王としてな」

 

「人間界の魔王・・・・・?」

 

キョトンと不思議がる魔王に首肯する。

 

「そうだ。人間界にも悪魔族が生きているなら、魔王もいるべきだろ。冥界と人間界に二人の魔王がいりゃあ色々と融通が利きそうだしな」

 

「本気で言っているのか? 本気で出来ると思っているのか?」

 

「本気でやるなら、冒険者を活用すればいい。世界を跨ることが目的の異邦の人間達だ。お前が人間界で暮らすって望みも案外簡単にできるかもだぜ」

 

押し黙る魔王。静かに口を開くのを待っている間、俺も黙った。返答は如何に?

 

「・・・・・キミは、本当に変わった勇者だね。僕がまだ勇者だった頃にキミも勇者で僕と肩を並んで戦っていたら、人生は違っていたかな」

 

「いや、あのルシファーに狙われた時点でそう変わっていないと思うぞ」

 

「私も同感だ。あいつの可愛いモノ好きは今に始まったことではないからな」

 

ラプラスまでそう言うほどなんだから、魔王は心なしか肩を落とした。

 

「変えられない運命ってあるのか」

 

「「諦めが肝心だ」」

 

それから受け止めるのも気が楽だと思うぞ。抵抗感が激しくあってもな。

 

「・・・キミの選択はそれでいいんだね。後悔はしないかい」

 

「後悔したら人生やってられないぜ?」

 

「そうか。後悔の無い人生を送るのも人ということか。ちょっと、キミが羨ましいな」

 

立ち上がる魔王の背後にまた空間の裂け目が出来て、踵を返す魔王が言う。

 

「わかった。キミは人間界の魔王として生きろ。冥界に来てもキミを縛り付けない。自由に遊びに来てくれ。魔王城にもね」

 

「それを聞いて安心できたよ。また会おう先輩」

 

「魔王に至った今、人間界で暮らすのは不便だ。冥界の町や都市、国を利用するといいよ僕の後輩。それとこれは餞別だ」

 

アドバイスどうもありがとう。餞別にスキルをくれた魔王とハーヴァが、冥界へ戻って行く背中を見送ると空間の裂け目が閉じた。

 

「あの女装魔王の言う通り今のお前と接しようとしたい人間はおらんぞ。代わりの者を使うのがコツだ」

 

「それがゼロでサイナか」

 

「正解だ。だが、既に娶ったお前の妻のエルフはそうではないから安心するがよい」

 

それは本当に良かった。じゃなかったらショックでしばらく落ち込んでたぞ。立ち上がって畑が見える縁へ足を運んで腰を落とすとオルトが来た。

 

「ムー」

 

俺の手を掴んで引っ張ろうとする。畑の方へ連れて行かれる俺の周囲に他の従魔達も集まり、あっという間に騒がしくなった。いや、本当に騒がしいな!?

 

「なーんだ、ちょっと様子見をしに来たら相変わらずだねー」

 

「ん? イッチョウか。イベントお疲れ」

 

「はい、お疲れ様! いや、最後は凄かった。悪魔族に全部掻っ攫われてイベントが終わった感じで」

 

「今思えば、あのイベント自体がプレイヤーから魔王を作るためのモノだと思うぞ。勇者がNPCを倒しちゃならない設定だし」

 

「そうですね。私もハーデス君みたいな【血濡れた残虐の勇者】の称号を貰えずに済んだよ。他はどうか知らないけど」

 

教えたから大丈夫だろ。・・・・・多分な。

 

「それと知ってる? 今のハーデス君、指名手配されてるよ」

 

「うん? それは告知されてるのか? 知らないぞそんなの」

 

「じゃあ、ハーデス君だけ知らされていないのかな。冒険者ギルドでクエストとして受けれるようになってたし」

 

そう言うことか。それなら俺が知る由もない。

 

「懸賞金は?」

 

「ハーデス君が所持している金額とほぼ一緒」

 

「はっ? ぜってー倒されてやんねー!!」

 

「当然の反応だけど、そのクエストを受けたら場所を問わずPK行為が出来るみたい。だからホームの中でも畑の中でも安心できないよ?」

 

ほう、つまりはギルドメンバーでもそのクエストを受けられるということか。

 

「メンバーを脱退させてフレンド登録から消せばいいか」

 

「最初にその言葉が出てくるのは驚きだけど、ギルドメンバー以外のプレイヤーでも問答無用に出来る行為らしいから」

 

「マジか・・・・・だったら対策を考えないとな。魔王って不便だわー」

 

「実際、魔王になったら称号とかスキルを手に入れた?」

 

否が応でもな。イッチョウに手に入った称号とスキルを教える

 

「【恐怖の大魔王】の称号のことは教えたな。NPCの好感度が-100。全プレイヤーから討伐の対象になるって」

 

「うん」

 

「スキルは【堕天の王】。一日一度、解除しない限りこのスキルは光属性以外の全てを無効化する。物理と魔法もな。逆に被ダメージは3倍だ。それから魔王から餞別としてくれたスキル【魔王の権威】。一日一度、自分よりレベルの低い相手ならば即死効果の攻撃を放つ効果だ」

 

「うわ、ほぼぶっ壊れチートスキル」

 

「しっかり弱点があるが確かにそう言わしめる強いスキルだ。こんなスキルが手に入るなら魔王になってもいいプレイヤーもいてもおかしくない」

 

その反面、凄く困りごとが満載なんだがな!! 現に今だって・・・・・。

 

「あ、入れた・・・ここが魔王のホームか」

 

「あそこにいたぞ! 倒せば莫大な懸賞金が手に入るぜ!」

 

「この瞬間をどれだけ待っていたか! お前、今まで生意気なんだよ!」

 

「死ねや!!」

 

フレンド登録した覚えもギルドにも入れた覚えのない知らないガラの悪いプレイヤーが、無断で押し寄せてきた。あれか、これが魔王城に入って来る勇者を待ち構える魔王の感じなのか? 待て、だとしたら俺のホームが全部魔王の城みたいになるのか?

 

「―――まぁ、人の畑を荒らす輩は許さないがな」

 

『うむ、全くその通りだ』

 

『我らの憩いの場を荒らす者は許しませんよ』

 

叫ぶ俺の後、空から久しぶりに見る黄龍と麒麟が降りてきて俺を討伐しに来たプレイヤーの前に立ち塞がる。

 

「な、なんだよこのモンスターは!?」

 

「邪魔だよ、どきやがれ!」

 

『邪魔なのはお前達だ。この場所はどこだと思っている』

 

『彼と戦いたいのであれば、町の外で戦ってもらいたい。ここは私と黄龍の憩いの場所。無作法な戦いは禁じます』

 

「俺達に倒されるだけのモンスターなんかの言うことを誰が従うか!」

 

「ああ、そうだ! ったく、邪魔だなこの畑は! ファイアー!」

 

植えていた近くの作物に火魔法を放ちやがった。それに便乗する他の連中も・・・・・あ、雰囲気が変わった。特にオルト達がプレイヤー達の周りに集まった。

 

「ムー!!」

 

「クマクマ!」

 

「フマー!」

 

「―――!」

 

「フム!」

 

「ヒムムー!」

 

オール従魔達がプレイヤー達を囲い、こいつら許さねぇ! って気持ちを露にしている。うん、それは俺も同じなわけだ。大事な黄金林檎にも損害を与えてくれやがって・・・・・!!

 

「全員、そいつらを押さえつけろ!」

 

「ガルルルッ!!」

 

「ヒヒーンッ!!」

 

『おいらの前に平伏しがいいにゃん!!』

 

『グオオオオオオンッ!!』

 

ミーニィが巨大化までして抑えにかかった。さりげなくテイマーの勇者奥義を使ってオルト達の強化をした。

 

「うわっ!?」

 

「くそったれがぁああああっ!!」

 

「俺達より弱いくせになんだよこいつら!!」

 

「ちくしょう!」

 

全方位から攻撃されてボコボコに、ゆぐゆぐとウッドの蔓で縛られあっという間に無力化にされた。

 

「いや、雑魚すぎだろ。確かにお前等の方がオルト達より強くてもよ」

 

「うるせぇっ!? 正々堂々と戦えよ!!」

 

「人のホームに無断で入ってくる輩に、人の畑を斬った輩に礼儀してやる必要あるかな? あと俺は魔王だから卑怯な手も正攻法になるんで」

 

「この―――!!」

 

おー、ピーでピーな言っちゃいけない発言のオンパレードを言ってくれるな。俺、こいつらに罵詈雑言を言われるようなことした覚えはないんだがな。

 

「イッチョウ、俺もPK行為ができるんだっけ」

 

「できるよー」

 

よし、正当防衛が出来るなら快くやろう! こいつらを縛る蔓を一纏めに持って―――。

 

「黄龍、ちょっと俺を空高く運んで落としてくれないか?」

 

『資格ある者よ。鬼だな』

 

理解したか。そう言いつつも俺の身体を掴んで空へと昇ってくれる黄龍に釣られ、四人のプレイヤーも昇る。始まりの町の全容が見える高さまで昇ってくれたら、離してもらい四人と一緒に地上へと落ちていく。当然ながら、物凄い勢いでな。

 

「ぎゃああああああああ!?」

 

「う、うわあああああああああああああ!!?」

 

「お、お前、死ぬぞ!! こんな高さから落ちたら死ぬぞ!?」

 

「止めろ、やめてくれえぇえええええええええ!!」

 

「お前らと違って俺は一撃じゃあ死なないスキルを覚えているから問題ないんでな! 死ぬのはお前等だけだバーカ!!」

 

螺旋を描きながら垂直落下、人がいない空間に目掛けて四人を縛る蔓を両手で持って地面に向かって思いっきり振り落とした。―――ただし【身捧ぐ慈愛】のスキルを使った。

 

「地面とキスをしやがれ!!!」

 

「「「「っ!!?」」」」

 

ドォオオオンッ!!! と衝撃音と衝突音が聞こえるほど四人のプレイヤーは顔面から叩きつけられて―――も、HPは一ミリも減らずこいつらはただただ高い所から俺に叩きつけられただけの体験をしたのである。

 

「ふぅ、うん、スッキリッ!」

 

「「「「「「「「「「・・・・・」」」」」」」」」」

 

周りの視線は痛いがな!! スキルを解除するとようやく俺のことを気付いた様子のプレイヤーが話しかけて来る。

 

「は、白銀さんですか?」

 

「今じゃ魔王白銀さんですがなにか」

 

「あ、はい。えっと、空から落ちてきたんですか? その四人は一体・・・・・」

 

「魔王の俺を討伐するクエストを受けたプレイヤーで、人のホームに無断で不法侵入してきて、人の畑を滅茶苦茶にしてくれて、あと俺の可愛いオルト達にも攻撃しやがったから、空から思いっきり地面に叩きつけたところだ」

 

「え、あのクエストって白銀さんのホームに入れるようになるんですか?」

 

「みたいだな? 魔王の俺がいるところはゲームでよくある魔王の城になるっぽくて、ギルドメンバーでもないフレンドでもないのに入られるようになるのがわかったよ。―――こいつらのおかげでな」

 

ゲシッ、とプレイヤーを小突いた。

 

「他にも俺を討伐するクエストを受けたプレイヤーもいると思うけど、礼儀の良くないプレイヤーは悪逆非道の仕打ちで仕返しをするつもりだからよろしく。因みにお前も俺を討伐する口か?」

 

「い、いえいえっ!? とんでもない! 寧ろしたらゲームが出来なくなるから絶対に受けないあんなクエスト!」

 

「うん、出来ればそうして欲しい。これからもお互いゲームを楽しもうな。それじゃあ、こいつらをマグマに捨てて来るわ」

 

 

 

 

【魔王】とんでもないことになったあの人について語るスレ1【正直びびった】

 

 

 

1:大言氏

 

 

ビビった

 

 

2:デデーン

 

 

説明求ム。一体何が?

 

 

3:大言氏

 

 

いきなり天使が空からプレイヤーを四人地面に叩きつけた現場に居合わせてしまって、誰だと思ったら白銀さんだった。

 

 

4:満○

 

 

??? 経緯が全くわからない件

 

 

5:最終兵器鬼嫁

 

 

何を仕出かしたんだ? というかプレイヤーに攻撃したって認識でよい?

 

 

6:大言氏

 

 

もしかして知らないのか? 冒険者ギルドで懸賞金が懸かった白銀さんを討伐するクエストがあるんだ。それを受けると白銀さんに限りPK行為が可能になるんだ。居場所も把握できるそうだぞ。懸賞金額も莫大だ。

 

 

7:チョイス

 

 

マジで? ちょっと見て来る。

 

 

8:サジタリウス

 

 

運営からそんな話も告知も見聞していないけど本当か?

 

 

9:大言氏

 

既にタラリアにも情報が流されている。だからマジだから。

 

 

10:ぽろろん

 

 

現場にいた大言氏さん。何か情報はないのか?

 

 

11:大言氏

 

 

『魔王の俺を討伐するクエストを受けたプレイヤーで、人のホームに無断で不法侵入してきて、人の畑を滅茶苦茶にしてくれて、あと俺の可愛いオルト達にも攻撃しやがったから、空から思いっきり地面に叩きつけたところだ』以上、一言一句聞いた言葉をそのまま伝えたからな。

 

 

12:最終兵器鬼嫁

 

 

わかった!! 白銀さんに喧嘩売っちゃダメなのが良ーくわかった!! 同じ目に遭いたくない!!

 

 

13:チョイス

 

 

魔王の城=白銀さんの従魔の巣窟=フルボッコ=魔王の鉄槌だな。

 

 

14:満○

 

 

魔王の城=白銀さんのホーム=白銀さんの従魔の憩い=見守り隊+従魔ファン多数=あいつら誰だ? =魔王でも白銀さんと可愛い従魔に手を出した? =怒りの大爆発=追放。

 

 

15:デデーン

 

 

本当に怒らしてはいけないのは前者ではなく後者であったか・・・ッ!?

 

 

16:チョイス

 

 

確認してきた。本当にそんなクエストがあったし、試しに受けてみたら白銀さんの居場所がわかるマップが表示された。ある意味これ便利だな。それにマジで莫大な懸賞金・・・狙ってみようかな。

 

 

17:満○

 

 

おいよせヤメロ!? ちょっと掲示板を遡って見直せ! ゲームが出来なくなるぞ!!

 

 

18:最終兵器鬼嫁

 

 

これ、白銀さんを追いかける口実にもなってしまうんじゃないのか? 堂々とストーカー行為が出来るぞ。見えないところならな。

 

 

19:大言氏

 

そう思うよな? 運営は対処するのだろうか。

 

 

20チョイス

 

 

見た。ヤバい、見守り隊と従魔ファンに殺されかねないことになってるじゃん俺!?

 

 

21:ぽろろん

 

 

何もせず大人しくしていれば殺されずに済む方法だろう。破棄は出来ないのか?

 

 

22:チョイス

 

 

できないっ。失敗しても何度でも挑戦できるワールドクエストなんだよこれ!

 

 

23:サジタリウス

 

 

まじかー。

 

 

24:ぽろろん

 

 

挑む気がないならさっきも言ったようにすればいいだけだ。オーケー?

 

 

25:デデーン

 

 

逆に挑むプレイヤーが多そうだな。それで負けたら空高くから魔王の鉄槌がされるのがなんとも怖すぎだろ。

 

 

26:大言氏

 

 

ちなみにその四人のプレイヤー、マグマに捨てられたかもしれない。

 

 

27:サジタリウス

 

あ、悪魔・・・っ!! いや、魔王だったな!! 納得してしまう所業だ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【農業】農夫による農夫のための農業スレ54【ばんざい】

 

 

 

 

 

 

 

:NWO内で農業をする人たちのための情報交換スレ

 

 

 

:大規模農園から家庭菜園まで、どんな質問でも大歓迎

 

 

 

:不確定情報はその旨を明記してください

 

 

 

:リアルの農業情報は有り難いですが、ゲーム内でどこまで通用するかは未知数

 

 

 

 

 

 

78:チチチ

 

 

大変だ、魔王になってたあの人に早速挑んだプレイヤーが現れたらしい!

 

 

79:ノーフ

 

 

俺達のギルマスが魔王になってしまったこともまだ驚いているのにか。

 

 

80:チチチ

 

 

しかもそいつら、あろうことか白銀さんの畑を滅茶苦茶にしやがったらしい!

 

 

81:つるべ

 

 

な・ん・だ・と?

 

 

82:セレネス

 

 

あのファーマーの宝物庫でもある俺達の聖域を、滅茶苦茶にした?

 

 

83:ネネネ

 

 

イチゴも滅茶苦茶にしたって?

 

 

84:プリム

 

 

白銀さんのホームを不法侵入したってこと? どうやって入れたの?

 

 

85:チチチ

 

 

さらに大変なことに、白銀さんの従魔にも攻撃したって話題が湧いてて・・・・・その掲示板の住民とかプレイヤーがすんごい激怒してて、凄いことになってる。口に出すのも怖い。

 

 

86:タゴサック

 

 

そいつらの自業自得だ。白銀さんの従魔の人気ぶりを知らないわけでもないのに。よりにもよって白銀さんに限らずファーマーが大事に育てている畑を滅茶苦茶にするなんて許される筈がない。

 

 

87:チョレギ

 

 

知っていても関係ないのならば、手を出すんじゃないか?

 

 

88:つがるん

 

 

それは単にバカなだけだろ。自分の身を滅ぼす結果にならないと思っていないなら尚更だ。

 

 

89:佐々木痔郎

 

 

あー、やっぱりここもその話をしてたか。

 

 

90:テリル

 

 

白銀さん追いかけの人! 何か情報とかない?

 

 

91:佐々木痔郎

 

 

無いわけじゃないけど、どこもかしこも似た情報だからな。怒られる覚悟であの聖地に入ってみたら、本当に畑が滅茶苦茶にされてた。だからいまオルト君に許しを得て手伝っているところ。

 

 

92:ダイチ

 

 

おまっ、さりげなくなんて大それたこともとい羨ましいことをしてるんだ!?

 

 

93:佐々木痔郎

 

 

因みに俺だけじゃなくて・・・・・。

 

 

94:イカル

 

 

私も手伝っています!!

 

 

95:つがるん

 

 

あ、納得した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

運営side

 

 

「急遽、変更してよかったですね」

 

「問答無用の冥界入りじゃなくて選択肢の設定にすれば、白銀さんの従魔と別れずに済む選択を選べることができるっす」

 

「ああ、白銀さんも人間界の魔王としていてくれれば従魔達と別れなくなる。―――俺達の想いが伝わってくれて本当によかった! プレイヤーからのクレームも回避できたぞぉっー! イヤッハー!」

 

「ふぅ・・・ほんと、残業&徹夜した甲斐がありました。問答無用に身一つで冥界の魔王にさせたら、徹夜どころではなかった話ですってこれ」

 

「だけど、彼の今後のプレイがどうなりますかねー? NPCとの好感度が最初から-100ですよ? 0にするまでがかなり大変です。そこから+100にするのも、全部で一ヵ月以上は掛かります。一人のNPCに対してです」

 

「ちょっと、厳しくありません? 彼だけ影響が出ますよ」

 

「うぅむ・・・やっぱり?」

 

「逆に魔王だからこそできるプレイもありますけどね。それを差し引いても9割は大損です。直接やらないと駄目なクエストやイベントがあるんですから。不貞腐れてNWOから離れたら私達もそれなりに困るかと」

 

「白銀さんだけでなく全プレイヤーにもNPCに対して役立つ何かが必要かと。そうすれば公式的に白銀さんだけ贔屓していない救済処置として認識されると思います」

 

「度重なるクエストをこなしての好感度アップとプレゼントによる好感度アップ以外か?」

 

「魔王になってしまいましたけど、白銀さんってNPCの間ではかなり有名ですから。神々の祝福を受けた最初のプレイヤーとして」

 

「いっそ、その神々のクエストを設定する? 達成出来たら魔王でも好感度関係なくNPCとの会話が元の感じになるとかで」

 

「それ、全てのNPCがツンデレになりません? アリだけど無しで」

 

「寧ろ彼だけそのエリアの町と村、都市に国のクエストを全部こなせばNPCの好感度が0になる方がいいです」

 

「右に同じです」

 

「わかった。少しその辺りの設定を考えよう。他に何かあるか?」

 

「魔王になったプレイヤーは指名手配されて懸賞金が付きます。変更は?」

 

「それに伴い彼だけいつでもどこでもPK行為が可能になります。逆も然りですけど現状維持で?」

 

「一度誰かに倒されたらレベル1の状態に戻して魔王の称号を消去するのもアリでは?」

 

「一気に言うな! 変更は無しで現状維持だ! 最後はアリで! 倒せたら真の勇者と書いて【真勇】という称号をプレイヤーに与える設定をしよう!」

 

「了解っす。でも、他のプレイヤーが白銀さんを粘着しませんかね」

 

「そこはほら、見守り隊がいるから。白銀さんに迷惑行為をしようとするプレイヤーは即座に運営に報告するし、純粋な戦闘を挑むだけだったら白銀さんも応じるだろう」

 

「最後は他力本願ですね。わかりました」

 

「呆れた感じで言わないでくれるかな!? しょうがないだろ、事件や騒動の現場はゲームの中で起きるんだからさ! 運営の俺達が直接手を出せないし!」

 

「じゃあ、NPCの衛兵でも配置しますか? 悪さしたプレイヤーのところへ瞬間移動して牢屋にゲーム内で数日間も閉じ込める設定で」

 

「・・・・・それ、いいな?」

 

 



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ゼリーを求めて(他力本願)

 

 

マグマ風呂に押し付けたら、死に戻ったプレイヤー達の置き土産のアイテムを回収した後、ホームに戻るとなんかイカルと佐々木痔郎がいた。何でいるんだ? と思い話しかけて質問をすると、俺の一連の出来事が既にプレイヤー達の間で話題になってて、滅茶苦茶になった俺の畑の手入れの手伝いをしているのだとか。無断で入った謝罪を受けたので許した。それよりも情報が早いな。

 

「お帰り、遅かったね?」

 

「礼儀知らずの連中をマグマに落として来たからな」

 

「あ、そう。ま、自業自得だねん」

 

「慰謝料として奴らが持っていたGとアイテムを回収したが、PK行為も案外こういう楽しみ方もあるんだな」

 

「自重するんだよ?」

 

当然するさ。俺を討伐しようとするプレイヤー以外はな。

 

「まったく、人の畑を滅茶苦茶にしてくれたよあいつ等」

 

「ムーッ!」

 

「お前もそう思うかオルト。お前が一番頑張ったんだからお前が一番怒るべきだ」

 

他のノーム達とせっせと新しく苗と種を植え替え―――途端に急成長するのは何故かな!?

 

「おい麒麟か黄龍の力か? 成長が早過ぎるだろこれ」

 

『以前、この地に施した力です。私達がいたにも関わらず畑に損害を与えてしまったことに申し訳ないです』

 

『すまない資格ある者よ』

 

「謝れると何も言えなくなるじゃないか。お前達も止めてくれたのに。というか、話し合いは終わったのか?」

 

四神と集まって戦う場所について話し合うとか言ってた。それが終わったからここにいるんだろうけど。

 

『うむ、その通りだ。これから説明しよう』

 

麒麟と黄龍から用意した黄金の林檎ジュースを飲みながら俺とイッチョウは説明を受けた。

 

『四方のいずこかに玄武と白虎、朱雀に青竜が待ち構えている異空間に通ずる洞窟を設けることにした。その場所もわかりやすく印を施したので資格ある者以外にも挑戦が出来よう。異空間の中で全力の戦いをするがよい』

 

「わかった。ありがとう黄龍。因みにわかりやすい目印って?」

 

『私と黄龍があなた方に課した試練に含まれています。それを挑戦すれば自ずと辿り着けます』

 

「人数制限は?」

 

『お前達が青竜を打倒した人数と同じ30人までだ。しかし挑戦できない時もある。挑戦できる一体の四神と戦うがよい』

 

もう一度首肯して理解した。

 

「質問なんだが。俺は魔王になってしまった。それでも資格ある者なのか?」

 

『勇者であろうが魔王であろうが、私達は人間が定めた物事など関係ないのです。四神に挑戦するに値がある者のみ資格ある者と呼称しているのですよ』

 

『麒麟と同じ考えだ。しかし、勇者が魔王になってまで挑む資格ある者はお前が初めてのことだ。やはり時間と共に変化はあるものなのだな麒麟よ』

 

『ええ、これからも変化する人間達を見守りましょう』

 

なんか妙に照れくさい。ふと、視線を感じて横へ見るとイカルと佐々木痔郎がこっちを見ていた。

 

「どうした?」

 

「いや、凄い話をしていると思ってた。もっとレベルをあげなくちゃ白銀さんの足手纏いになるな」

 

「エスクと一緒に頑張りますハーデスさん!」

 

「ムー」

 

「ん、期待しているよ。自分のペースで頑張って強くなってくれ」

 

さてさて、獣魔国のイベントの報酬を見ようじゃないか。まだ確認をしていないんだよな。インベントリから報酬として得た宝箱を取り出し、開けると中身は―――。

 

 

『虹色の進化の種×5』

 

 

どんなモンスターでも一体に一つだけ進化を促す特別な実の種

 

 

虹色に輝くヒマワリの種のような形の種・・・・・これが俺の報酬か?宝箱の中身の報酬を見ていた俺に後ろから覗き込んでくるイッチョウ達。

 

「ハーデス君の報酬はそれ? 私は別のだったよ」

 

「俺もだ」

 

「私もです!」

 

という三人の報酬は、イッチョウが従魔用の経験値増幅の薬。佐々木痔郎が従魔の新しいスキルを覚えさせるスクロール。イカルは土属性の進化の実。報酬の基準は?

 

「たぶん、イベント内で活躍した成績じゃないかな?」

 

「拠点を破壊して1000人のNPCを倒したからか?」

 

「そんなに倒してたのか。虹色の進化の種が報酬なのも頷けるわ」

 

「凄いです、ハーデスさん!」

 

因みにオルトさん。これは育てることができる? あ―――できちゃうのか。

 

「「「できる!?」」」

 

『虹色の種か。大昔に群生していた懐かしい植物の実を実らせていたな』

 

『とても幸運ですね資格ある者よ。今となっては見かけなくなり絶滅したものだと思われていました』

 

神獣すら滅多に見掛けない実なのか。それなら育てて見る甲斐があるな。

 

「じゃあオルト、畑に植えてくれ」

 

「ムー!」

 

畑へ向かうオルト。完全に育つまでどのぐらい時間が掛かるんだろうな。実のるまでが楽しみだ。・・・・・いや待て? あの成長速度からして、案外すぐか? 気になってオルトを追いかける。オルトは空いている畑の畝に種を植えて水を与えていたところだった。

 

「終わったか?」

 

「ムムム」

 

五つ全部植えたようだ。オルトと一緒にちょっと見守ってみたが、特に何の変化が見当たらない。すぐには成長しないアイテムと判断し、背を向けた直後。オルトに引っ張られて後ろに振り向く俺の視界が上にずれる。これが、虹色の進化の実を実らす植物か? 思いっきり形が虹の樹にヤシのように生る巨大な果実で、形はトマトにも桃にも似ているがオパールのように七色に輝いている。いやあの、何といえばいいんだろうか? 現存している果実より大きくやないか? 野菜よりも大きいぞこれ。

 

「これが虹色の実? 従魔の進化を促すって実なのか」

 

「ムー」

 

オルトも驚いているっぽい。この実を丸かじりさせればいいのか? 扱い方が判らないんだが。

 

 

『虹色の進化の実』

 

 

品質10 レア度★10

 

 

太古の昔に群生していた幻の実。神獣への供物として捧げられていたが絶滅してしまった。一体に一つだけどんなモンスターでも進化を促す力が秘めている。そのまま齧るのも良しゼリーにするのも良し、人間の食用にもなる。

 

 

「何でゼリー? いや、あり得なくはないんだがな? ―――うん?」

 

すんごい視線の圧が感じたような・・・・・。気のせい―――。

 

『・・・・・資格ある者よ。一つだけでよい、我等に果実を分けてもらいたいのだが』

 

『懐かしい果実がまた食べられる時が来るとは・・・・・』

 

『おお、久しぶりに見たぞ凰よ』

 

『うむ、一体いつ振りであろうか』

 

じゃなかったです。はい。後ろに振り向きたくないぞこれ。

 

「うんと、生のままでいいなら、一人一つでもいいぞ?」

 

『『『『感謝するッ!!!』』』』

 

凄い食いつき。神獣達の供物にしていたってのは本当だったのか。その当の神獣達は、完全に熟成したと思われる果実に群がりかぶりついている。鳳凰が鶏じゃなくて大きな火の鳥に変化してまで食べている。

 

『にゃーお』

 

「ん、お前も食べたいのか」

 

『にゃーお!』

 

そう言えばこいつも神獣だった。ネコバスにも果実を取って目の前に置くと大きな口で齧って食べる。

 

「ハーデス君。これ、どういうことなの? 神獣達が凄く美味しそうに食べているんだけど」

 

「これ、古代の果実の実だ。神獣の供物として与えられていた絶滅した果実だよ」

 

「神獣の供物の果実? だからあんな美味しそうに食べているんだ」

 

「美味しそうです。私達も食べれるんですか?」

 

イカルの質問はイッチョウと佐々木痔郎も同じ気持ちのようで、俺の返事を待っていた。

 

「食べれるみたいだ。お勧めはゼリーらしいがな。生でもイケるらしい」

 

「ゼリーか、パティシエの出番だな。掲示板で調べれば直ぐにわかるぞ」

 

「よし探そうか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【料理】ここは料理について語るスレ【大好き】

 

 

 

未だに取得者の少ない料理の地位を向上させるため、皆で協力しましょう

 

 

 

今ならすぐにトッププレイヤーになれるよ!

 

 

 

・食材情報もとむ

 

・レシピの情報もね!

 

・失敗談でもオーケー

 

 

 

 

 

565:アスカ

 

 

獣魔国のイベントが終わって色々と情報が浮上してきてるよね。

 

 

566:石田

 

 

参加したのがテイマーとサモナーだけど、解放されてからテイムしていなくてもテイマーと一緒なら入れるようになったからな。

 

 

567:ウサミ

 

 

 

なので未知の食材を探しに行ったんだけど、従魔関連の食材しかなくてプレイヤーが食べられる食材は皆無だったのが残念。

 

 

568:エネルジー

 

 

私はモンスをテイムしたのでイベントに参加しましたが、報酬は従魔の好感度を上げる食用アイテムでした。

 

 

569:アスカ

 

 

やっぱりテイマーとサモナーのイベントだから報酬もそうだったんだね。

 

 

570:石田

 

 

料理系にテイマーって言えば子供のフェンリルをテイムしたふーかの衝撃が凄まじいな。これ以上の衝撃はないと思いたい。

 

 

571:ウサミ

 

 

白銀さんに関わると驚きの連発だからね。

 

 

572:エネルジー

 

 

その人の畑はファーマーの間では聖地だの聖域だの、凄い有名な場所ですけど実際どんな感じなんですかね。

 

 

573:アスカ

 

 

白銀さんを中心にファーマー達は希少なアイテムを育てているらしいからね。しかも、彼女ふーかさんは彼からレア度と品質共に10の肉のアイテムを無償で貰えたという事実に震撼したよ。

 

 

574:石田

 

 

しかも、その肉で作る料理のレシピが凄まじく有用な物ばかりで、料理プレイヤー界をまた震撼させた。

バフが付くことは判明していたけど、あれだけ効果の高いバフは初めてだった。

 

 

575:ウサミ

 

 

それだけ凄い食材アイテムがあるなら、他にも何かあったりして・・・・・。

 

 

576:アスカ

 

 

白銀さんだからあり得るね! スーパーでも売っているけどまだ売っていない物があるなら、是非とも売って欲しいものですなー!

 

 

577:オカーン

 

 

同じく同意。あの茶葉だって飲むと凄いMP関係で凄い効果がある。もっと集めて研究したい。

 

 

578:ウサミ

 

 

私も! 白銀さん、テイマーで大盾使いの重戦士なのに食材の発見が上手いんだろう?

 

 

579:オカーン

 

 

他のプレイヤーと逸脱しているのは確か。

 

 

580:石田

 

 

激しく同意。今じゃ魔王になってるけど。

 

 

581:死神・ハーデス

 

 

料理を語る掲示板はここであってる?

 

 

582:アスカ

 

 

一体どうやって魔王になったんだろう? 大丈夫かな白銀さん。

 

 

583:エネルジー

 

 

はい、ここであってますよ?

 

 

584:アスカ

 

 

え・・・死神・ハーデス?

 

 

585:死神・ハーデス

 

 

魔王になった白銀さんだ。ちょっと質問があって来た。

 

 

586:石田

 

 

白銀さんがここに顔を出して来ただと!?

 

 

587:ウサミ

 

 

え? え? 嘘、本物?

 

 

588:エネルジー

 

 

え、白銀さんなんですか?

 

 

 

589:死神・ハーデス

 

 

本当だけど、信用するかしないかは自由で。ここに集まっている料理人プレイヤーに尋ねたいんだが。

 

 

590:アスカ

 

 

な、なんでしょうか?

 

 

591:石田

 

 

ここに顔を出したってことは料理関連?

 

 

592:死神・ハーデス

 

 

そういうこと。実は古代の果実を育てたんだけどゼリーがお勧めらしく、パティシエがいるなら作ってもらえないかと。ゼリーを作れる前提で。

 

 

 

593:エネルジー

 

 

古代の果実・・・・・?

 

 

 

594:アスカ

 

 

ま、またとんでもない食材を抱えていたのこの人?

 

 

595:死神・ハーデス

 

 

因みにレア度と品質ともに10の奴。これスクショ。

 

 

596:ウサミ

 

 

ふぉおおおおお!! すごいっ、きれいっ、虹色のヤシの実みたい! こんな果実が存在しているなんて初めて知りました! 私パティシエでゼリー作れますよ!!

 

 

597:死神・ハーデス

 

 

おっ、作れるのか。じゃあゼリーを作ってもらえるか? 報酬はこの虹色の実を3つと一億Gでいい?

 

 

598:ウサミ

 

 

全身全霊で作らせていただきます白銀さん! やった! 欲しかった高い調理器具が買える!

 

 

599:オカーン

 

 

すごい羨ましい。

 

 

600:石田

 

 

白銀さん、板前のプレイヤーなんだけど古代の魚のアイテムってないかなーなんて。

 

 

601:死神・ハーデス

 

 

ボスモンスターとしてなら知っているが、アイテムはないな。見つけたら教えるよ。

 

 

602:石田

 

 

古代魚のボスモンスター? ちょっと詳しく教えてくださいお願いします。

 

 

603:死神・ハーデス

 

 

どっちかは教えないが、地底湖に潜るとボスに通じる扉があるからそこ行ってみるといいぞ。【水泳】と【潜水】を最大値まで高めることを勧める。

 

 

604:石田

 

 

情報感謝! ちょっくら探して捌いてきます!

 

 

605:アスカ

 

 

白銀さん、私はシェフですけどふーかさんに譲ったお肉ありますか? あったら売ってくださいお願いします!

 

 

606:死神・ハーデス

 

 

売ってもいいが、正規の値段が判らないぞ。だから少しだけ譲る。

 

 

607:アスカ

 

 

ふ、太っ腹・・・!?

 

 

608:オカーン

 

 

出来れば俺も・・・・・。

 

 

609:死神・ハーデス

 

 

―――いったん全員俺のホームに来い! 話はそれからだ!

 

 

610:エネルジー

 

 

わ、わかりました!! すぐに伺います!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「人のこと言えないが、ものすっごい強請って来たな。こいつらもギルドに入れるか?」

 

「入る気があるなら、な。にしてもこっちはこっちで凄いことになってるし」

 

「うん。お腹が膨らんでいる神獣、初めてみた」

 

「凄く幸せそうに顔が笑ってますね」

 

本当に腹が膨らんでいるから神獣の威厳がない。四神のみんなもそうなのか? 試してみたくなるな。

 

「取り敢えず、鳳凰達が食べ切れなかった果実を生で食べてみるか」

 

「いいのか? ゼリーを作ってもらえるまで待たなくても」

 

「それはそれ、これはこれだ。もしよかったら他のみんなにもわけよう」

 

「ハーデスさんは優しい魔王様ですね!」

 

「だからみんなの人気者なんだよん」

 

褒めるな褒めるな。というわけで早速実食してみたところ。

 

「あっまっ! うん? 味が変化していくなこれ?」

 

「お、おお? 噛めば噛むほどあらゆるフルーツの味が感じる」

 

「うわ、すっごい不思議な味だね」

 

「凄い、とても美味しい! こんなの初めてです!」

 

まさにフルーツの王様だ。糖分もかなり濃くて高いんじゃないかこれは。

 

「この味でゼリー・・・・・非常に興味深いな」

 

「白銀さんは作らないのか?」

 

「作れはするが経験がないだけ。それに作るなら自分用だ。他人に作ってもらった方が交流も出来る」

 

「コミュニケーション目的で敢えてそうするのか。世渡り上手の人なのか?」

 

ふふ、どうだろうな? それじゃそろそろ表に出ますか。



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オレアの進化

 

 

 

三十分ほど待つと俺に強請ったプレイヤーが全員集合した。フレンド登録もしてホームに招き、虹色の実の実物を見せれば感嘆の息を漏らし、賞賛の言葉を貰った。

 

「凄い、これが古代の果実ですか!」

 

「ヤシの実みたいな果実だ。それに他の畑で育っているアイテムも凄く充実している」

 

「レア度と品質がどれもこれも高そう・・・・・私達ファーマーの聖地に居るんですね」

 

「白銀さんの従魔もたくさんいるー! 可愛いー! ノームとサラマンダー、ウンディーネにシルフがたくさんいる・・・アレ全部ユニーク?」

 

すんごい目を輝かせているプレイヤー達を他所に実った虹色の実を採取してウサミというパティシエのプレイヤーに譲渡する。

 

「それじゃあゼリーを200人分頼めるか? 前払いとして5000万Gも渡す。時間が掛かっていいから出来上がったら連絡を寄こしてくれ」

 

「頑張ります! 最高で白銀さんの期待以上のゼリーを作りますよ!」

 

「期待してる」

 

ポンポンと彼女の頭を撫ででやった後、アスカに宝石の肉を30個も渡してオカーンは畑からいくつか欲しいものを選んでもらった。

 

「エネルジーは、何か欲しいモノとかあるか? 畑から選んでいいぞ」

 

「えっと・・・じゃあ、質問いいですか?」

 

「うん? うん、いいぞ」

 

「白銀さんのギルドって、まだメンバー募集中だったりします?」

 

欲しい物ではなくギルドの話を聞かされるとは思いもしなかったな。彼女の問いに首肯する。

 

「ああ、まだ一応な。生産系プレイヤーを中心に誘ってみているから入りたいプレイヤーがいるなら加入させるつもりだ。生産と戦闘の両方をプレイするプレイヤーでもな」

 

「あの、じゃあ、私も白銀さんのギルドに入らせいただいてもいいですか?」

 

お、自ら売り込んできた! 勿論大歓迎だ!

 

「いいぞ、よろしくエネルジー!」

 

「は、はいっ。よろしくお願いします!」

 

 

【蒼龍の聖剣】に新しいメンバーが加わった!

 

 

「「「・・・・・」」」

 

そして俺達の様子を沈黙して見ていたプレイヤーにも誘ってみると、三人も追加した。更にその後、自分だけハブられていたことを知り嘆いていた石田もお情けの感じで加わった。そしてウサミのゼリー完成を一週間も待った。

 

「お待たせしましたー!! 虹色の実ゼリーの完成でーす!! 料理系スキルの熟練度が凄く上がったー!!」

 

天空の城のホームにて、青空の下で実食しようとする【蒼龍の聖剣】のメンバー。今現在ログインしているメンバーだけ味わう。ログアウトしているメンバーは随時ゼリーを渡す決まりで先に俺達がいただくことに。

 

「それじゃあ、全員に行き渡ったな? では、食べていいぞー!」

 

おおー!

 

スプーンを掲げ、俺の促しの言葉に応じる面々は小さな虹色が掛かった七色に輝くゼリーを食べ始めた。

幻の果実、従魔の進化を促す果実のゼリーは・・・・・口に含んだ瞬間。

 

「はっ、凄いなこれ・・・・・全ステータスに永久的+10も増えるのか」

 

「それだけじゃないよハーデス君。一時的に【幸運】が付与して今なら成功率が100%だって!」

 

「ああ、そうだな。虹色の実が絶滅した理由が何となくわかった気がするよ」

 

古代の人間がこぞってゼリーにして食べ尽くしたからだろうな絶対。この効果を知った多くの生産職のプレイヤーが、いきなり立ち上がってホームから出ようと走り出す。成功率100%の時間を無駄にしたくないんだろうな。

 

「これ、数百万の価値があるんじゃないかな」

 

「あると思う。次のオークションにでも出品してみるわ」

 

「またNPCの貴族に掻っ攫われてしまうかも?」

 

あー・・・あり得るな。さて、俺はオルト達のところに行こうかな。その前に―――。

 

「ウサミ、期待以上の味だ。残りの報酬だ」

 

「ありがとございます! また欲しかったら作りますね!」

 

「おう、近い内にまたな」

 

報酬をウサミに渡してから日本家屋へ足を運び、自由気ままに過ごしているオルト達を畑に移ってもらいゼリーを配って食べさせた途端。

 

「うわ、ちょ、本当にレベル関係なしに進化か!」

 

三回目の進化を果たす従魔も含めて、どれにしようか選んで悩んで選択すること数十分。進化先を決め終えた。光合成で食事いらずな樹精達は食べてもらえなかったのが残念だ。オレアもそうだ。

 

「オレアの進化ってなんだ? 肥料か何かか?」

 

だとしても普通の肥料ではないと思う。うーん、タラリアに行ってみるか。

 

「特別な肥料? うーん、その情報はないわね。どの町も第10エリアの都市も高級肥料以上の特別な肥料は無いわ」

 

「うーん、そうか。じゃあ存在しないかな」

 

「そうとも限らないわ。単純な調合で多目的肥料の作製が出来るし、畑関連ならこれも単純な錬金で多目的栄養剤なんて物も作れるわよ」

 

お? どっちも使えるな。今の今まで高級肥料ばかり買って使っていたからその存在はすっかり忘れていた。それに調合と錬金・・・身近に相談できるNPCがいるじゃないか。

 

「もしかして、何か閃いた?」

 

「それに近いかな。相談できる相手の心当たりがある」

 

「じゃあ、全部終わったら情報をよろしくね!」

 

約束だと言い残してホームに戻り、真っ直ぐラプラスの許へ足を運んだ。

 

「ラプラス、相談がある」

 

「む? なんだ?」

 

彼女の自室・・・今となっては実験と研究室と化した大部屋に入って、ゼロと何か製作をしているその背中に質問を飛ばした。

 

「錬金と調合で特別な肥料と栄養剤を作れたりするか?」

 

「それぐらいは造作もない。魔化肥料と魔化栄養剤でいいなら、その素材はお前の畑に揃っているしな。冥界に行けばそれらも販売している」

 

え、そうなのか? 初めて知った。まぁ、未だ冥界に行っていないから当然だけど。

 

「自作をするつもりならレシピを書いてやるがどうする?」

 

「何時でもいいから頼む。まずは自分で作ってみたい」

 

「わかった。ゼロ、大魔王にレシピを渡してやれ」

 

ひ、否定したいけどできない歯痒さが堪えがたい・・・・・っ!! ゼロから受け取った二つのレシピ。

 

「久し振りの死神の宴だー! みんな、見てるー?」

 

 

『本当に久し振りだな! 魔王になっても変化はないのか?』

 

『おひさー! 今日はどんなことをするんでー?』

 

『何をしても爆弾情報だから、驚かないように見守るよ』

 

 

「魔王になったらかなり不便! NPCの好感度が-100に下がって話どころじゃなくなるし!」

 

 

『どんまい!』

 

『やっぱり魔王は魔王か』

 

『魔王になるといいことない?』

 

 

「1割だけある。まぁ今はそんなことよりも、畑に使用する肥料と栄養剤を作るところを見ててくれ。もう既知のアイテムを作ると思うが」

 

 

『どんなアイテムを作るんですか~?』

 

 

「魔化肥料と魔化栄養剤ってやつ」

 

 

『あー、知り合いの錬金術師がなんかボヤいてた。使い道がよくわからないって』

 

『そうなのか?』

 

『消費する素材の数も多いから微妙にコストが高いらしい。あまり使い勝手がいいとは言えない』

 

 

マモリの撮影もしてもらいながら動画配信をする。

 

「とりあえず、たまに映る俺の従魔を楽しんで見ていてくれ。主にうちのオルト君だがな」

 

 

『ノームよりもウッドちゃんを映してくれ!』

 

『クリスちゃんの尊顔を是非とも!』

 

『ゆぐゆぐちゃーん!』

 

『ルフレちゃんとアイネちゃんもよろしく!』

 

 

(無視)材料は、土と木材と水。あとは昆虫系素材に魚系素材だ。これらは簡単に揃うだろう。途中、調合レベル40で覚える濃縮スキルが必要なようだが、それも持っている。

 

さらに、作製するには育樹スキルか水耕スキルが必要とも書かれていた。特定のスキルを所持していないと、作製できないアイテムもあるんだな。

 

栄養剤のレシピの方は。これも、錬金レベル40で覚える液化のアーツが必要だった。

 

ホームの生産施設はみんなが使ってるだろうし、普通に生産セットを使って行えばいいだろう。

 

特別肥料の材料は土と木材と水。足りない昆虫系素材に魚系素材だ。

 

特別栄養剤の素材は、水と回復系素材に毒系素材、植物系素材、動物系素材である。

 

「まずは肥料から作ろう。土は・・・腐葉土が使えるか」

 

高品質の腐葉土に、神聖樹の枝。水も一番いいやつを使おう。虫系、魚系素材は、無いから集めに行かないと。それも初めての試みだから低品質素材で様子見だ。

 

―――数分後。

 

不足していた素材を集め終え改めて土と水を混ぜた物に、始まりの町周辺で手に入る素材を砕いてさらに攪拌する。で、普段ならここで調合を行うのだが、今回は調合の濃縮だ。

 

普通に調合した場合よりもできあがる数が減ってしまう代わりに、品質が上昇する。また、特定のアイテムの場合、違う物に変化することもある。

 

そして、今回の特別肥料の場合、アイテム名そのものが変化するタイプだった。

 

何度も実験をしてみたのだが、普通に調合した場合は多目的肥料。そして、濃縮した場合は魔化肥料というアイテムに変化した。

 

 

 

名称:魔化肥料 

 

レア度:5 品質:★2

 

効果:畑に撒くと、栽培効果を増加させる。効果は5日間続く。魔化栄養剤と合わせることで、一部の作物に特殊な進化を促す。

 

 

 

気になる文面が書かれているな。一部の作物に特殊な進化? どれのことだろうか?

オルトに聞けばわかるかな?魔化肥料の効果は気になったが、特別栄養剤も作らなきゃいけないから後でだ。

 

こっちも、色々と実験してみたが、基本は肥料と同じだった。

単純に錬金するだけだと本当に多目的栄養剤だが、錬金の液化を使うと魔化栄養剤に変化するのだ。

 

 

 

名称:魔化栄養剤 

 

レア度:5 品質:★2

 

効果:畑に撒くと、栽培効果を増加させる。効果は5日間続く。魔化肥料と合わせることで、一部の作物に特殊な進化を促す。

 

 

 

魔化肥料とほぼ同じだ。両者を併せることで、特殊な効果が発生するらしい。

しかも、凄いことを発見してしまった。

 

 

 

名称:水化栄養剤 

 

レア度:6 品質:★1

 

効果:畑に撒くと、栽培効果を増加させる。効果は5日間続く。水化肥料と合わせることで、一部の作物に特殊な進化を促す。

 

 

 

作成時、素材を全て水属性で固めてみたら、こんなものができ上ってしまったのだ。水は元々水属性だし、他の素材も水属性の魔獣から得た物ばかりを使った結果だった。まあ、本当に偶然なんだけどね。

何故か水化栄養剤ができてしまい、原因を調べたのである。

他の物でも色々と試してみると、土水火風はすべて作れてしまった。

 

5つの素材中、4つがその属性であれば作成可能であるらしい。5つ全てを属性素材で作った時に比べ、明らかに品質が下がるがな。

 

他に、聖化栄養剤というものも作れたのだが、聖化肥料が作成不可能だった。聖属性の素材が不足していたのだ。

 

聖化栄養剤の素材は、聖水に神聖樹の葉、神聖樹の枝、イベントの時の守護獣のインゴットの4種だ。

実は、イベント村で依頼をこなすと普通に守護獣のインゴットが手に入るようになるらしく、市場にそれなりの数が出回っていた。

それを知らずに、以前に露店で発見した時に貴重な品だと思って購入してしまったのである。まあ、思わず買ったけど、うちでは使い道がなくてずっと死蔵していたアイテムだった。

 

第二陣の中には、守護獣シリーズの愛用者も結構いるそうだ。序盤でも簡単に手に入るので、鋼鉄製装備に乗り換えるまでの繋ぎで使っている人が多いらしい。

 

聖属性の作物なんてメチャクチャ気になるし、肥料作成用の素材をぜひ入手したいところだ。プレイヤーズショップを覗くか、オークションで狙ってみるのもいいかもしれないな。

 

 

『普通に見たことのないアイテムだ。畑に使う専用のアイテムだとしても、これはこれで新情報だ』

 

『いやー作った奴もいるだろ。ただ、情報を公開せず秘匿していたと思うぞ』

 

『白銀さんみたくオープンじゃないし、自分で発見したモノは公開する義務なんてないしな』

 

『それでも自分本意で聞き出そうとするプレイヤーもいるんだよな』

 

 

視聴者のコメントを見ながら肥料と栄養剤を作りまくっていると、いつの間にかオルトがそばに近寄ってきていた。

 

「ム?」

 

「お、ちょうどいいところに。今作り終わったとこなんだよ。それ、魔化肥料ってやつなんだが、使い道分かるか?」

 

「ムー!」

 

「おー! さすがオルト! 畑の申し子! 頼りになるー!」

 

「ムム!」

 

オルトが胸を反らして分かりやすく調子に乗る。

 

「それで、どこで使える?」

 

「ムムー」

 

「そっちだと、薬草畑か」

 

「ム!」

 

オルトが小走りで向かった先は、やはり薬草を植えた畑だった。未だに薬草を大量生産して、日々ポーションを作ってはギルドで売っているから。

 

大金が手に入るわけじゃないけど、今までの経験からしてきっと無駄ではないと思うからだ。

 

「薬草が、何か他の物に変化するってことか?」

 

「ム」

 

「オルトが言うなら間違いないだろうし、ここの一角で試してみるか」

 

「ムー!」

 

オルトに魔化肥料と魔化栄養剤を渡すと、早速撒き始めた。オルトが両者を畑に使用し終えた直後、その一角が一瞬だけ青白く光る。

 

魔化セット1つでは、畑1面分にも足りていないらしい。光ったのは4分の1くらいだった。

 

「あと4セットあるんだがどこに使う? ああ、四属性のも揃ってるけど」

 

「ム!」

 

四属性の肥料と栄養剤は、低品質の物を合成して品質を上昇させたりしていたら、結局★4のものが3セットでき上がっていた。

 

「ここは微炎草が植わってるけど・・・・・?」

 

「ムー」

 

「火化肥料と栄養剤か。もしかして、属性が増すってことか?」

 

「ムー!」

 

その後、オルトは風耕畑に風化肥料と栄養剤を、水草の植わっている水耕畑に水化肥料と栄養剤を撒いていた。やはり、属性を強化してくれるようだ。

 

最後、土属性セットは赤テング茸の原木にぶっかけていたので驚いたが、これで問題ないようだ。

 

その後にオルトが向かったのは果樹園である。

 

「果樹の場合は1本に1セットか」

 

「ム!」

 

「緑桃だけでいいのか?」

 

「ム」

 

いいらしい。結局、魔化1セットと、属性4つを緑桃に使用していた。変化するのを楽しみにしておこう。

 

「ムーム!」

 

「お? どうした?」

 

肥料と栄養剤を果樹に撒き終えると、オルトが俺の手を引っ張り始めた。どこかに連れていきたいらしい。

 

そのままオルトと一緒に畑を歩いていくと、果樹園の中を通り抜け、すぐに足を止める。そこには、桜の木の傍で寝ているリックがいた。

 

「ムー」

 

「キュ・・・・・?」

 

オルトが、昼寝をしていたリックを揺すって起こす。ヘソ天で寝る姿は、野生の欠片もない動物はゲームでも同じか。

 

 

『野生はどこへいったw』

 

『あれ、姿がちょっと変わってない?』

 

『進化した?』

 

『可愛い寝姿をありがとう』

 

 

起こしたリックをオルトは自分の頭に乗せて、またどこかに移動する。今度はある小さい樹木の前であった。

 

「トリ?」

 

オレアの本体である、オリーブトレントだ。何をするつもりだ? 丁度オレアもいるし。

 

そして、オルトがリックとオレアに話しかけ二人が判ったと頷くと俺の前にやってくると、再び何かを訴え始めた。リックが両手を前に突き出し、尻尾がピーンと伸びている。

 

この姿、全然見覚えがないんだが。

 

「何がしたいんだ?」

 

「キュー!」

 

「リックしかできないこと?」

 

「キュ!」

 

となるとスキルか? えーとリックのスキル・・・・・。スキルが面白いから樹霊リスに選択したんだった。

 

樹霊リスは精神魔術と樹呪術が新しく覚える。

 

精神魔術の主な術は3種類あり、1つが敵を恐怖や怯懦状態にする精神異常系の術。相手のヘイトをあえて高めたりする術もあるそうだ。

 

そして、それらとは真逆の、仲間を精神異常状態から守るための術。仲間の精神耐性を上昇させたり、精神異常を回復させることが可能であるらしい。

 

最後に、言葉が通じない相手とのコミュニケーション用の術。念話や読心系の術が存在しているっぽかった。まあ、これは特定のNPC相手にしか使えないそうだが。

 

もう1つの樹呪術。これは、掲示板にも全く情報がないスキルだ。

ウィンドウで樹呪術を確認してみるも、詳しい情報は分からない。

 

 

樹呪術:樹木に関することに特化した呪術。

 

 

一応、呪術というものはある。長ったらしい儀式などを行い、普通の魔術よりも威力の高い術や、長期継続効果のある術を使うためのスキルだ。

 

フィールドというよりは、ホームや畑で使用し、効果を高めることなどができるという。

 

・・・・・もしかしてこれのことか?

 

「もしかして、樹呪術の儀式を行いたいのか?」

 

「キキュ!」

 

どうやら樹呪術のおねだりであった。

 

「樹呪術をオレアに使うのか?」

 

「ム」

 

「魔化肥料と魔化栄養剤は?」

 

「ムム!」

 

樹呪術と一緒に、魔化栄養剤も使うようだ。何が起きるのだろうか?

 

「オルトたちがやりたいならいいんだが・・・・・。対象はこのオリーブトレントなのか? オレアに問題はないのか?」

 

「トリ!」

 

「うーむ、オレア自身がいいなら、構わんか」

 

「ムムー!」

 

「トリー!」

 

ということで、ヘルメスを召喚。凄いものが見られるぞ、とメールを送ったら息を切らすほど5分以内に来てくれた。

 

「配信見てたけど、何をするつもりなの?」

 

「俺も知りたいところ。オルトに導かれてる形でいるから」

 

 

 

『タラリアの副マスだ』

 

『情報はもう筒抜けだから売れないなwww』

 

『情報を扱う側が扱えなくなる気持ちってどんな気持ちー?』

 

 

 

「うるさいっ!」

 

からかわれてるヘルメスを気にせず、樹呪術を早速使ってみることにした。

 

「どの呪術だ? この快癒の呪か?」

 

「ムム」

 

「違う? じゃあ、生育の呪?」

 

「ム!」

 

生育の呪か。まあ、生育って成長の意味だし成長させると考えるなら、妥当か。

 

「じゃあ、行くぞ。リック、樹呪術だ!」

 

「キュー!」

 

リックが尻尾を立てて、両前足を突き出す。すると、二重の五芒星がオリーブトレントを中心に浮かび上がった。

 

「で、捧げるアイテムの選択か。魔化肥料と魔化栄養剤を選べばいいのか?」

 

「ム!」

 

魔化肥料と魔化栄養剤。あとは四属性の肥料と栄養剤で、ちょうど10個である。

 

「おお、呪術が変化したぞ」

 

生育の呪がこれなら快癒の呪も何かしらの樹木に使えるかもしれないな。後で検証してみよう。リックが発動した生育の呪が『進化の呪』となっている。

 

戦闘でのレベルアップではなく、呪術による特殊な進化を行うってことなのか? こんな方法もあったんだな。知らなかった。

 

「オレア、いいんだな?」

 

「トリ!」

 

オレアが両手を上げた状態でピョンピョンと飛び跳ねて、喜びを表現している。むしろ、早く早くって感じだ。

 

「よし、肥料と栄養剤を捧げるぞ! 進化の呪、発動だ!」

 

「トリー!」

 

「キキュ!」

 

「ムッムー!」

 

Yesをポチッと押すと、魔法陣が輝いた。

 

オレアの本体であるオリーブトレントが、強い光に包まれる。目を瞑って発光が収まるのを待っていると、サワサワとこずえが揺れる音が聞こえた。

 

そして、アナウンスが聞こえてくる。

 

ピッポーン!

 

『オリーブトレントが、特殊進化可能状態となりました。進化を行いますか?』

 

アナウンスと共に光が収まり、俺の目の前にはウィンドウが表示されていた。進化を選ばずに、そのままでもいけるのか。

 

「じゃあ、進化させちゃっていいんだな?」

 

「ム」

 

「よし、それじゃあ進化を――って、すっげー量の選択肢が……」

 

「うわ、本当ね。ちょっと全部の詳細を見させて?」

 

自動ではなく、俺が選択できるらしい。ただ、その数が凄まじく多かった。

 

ハイ・トレント、ハイ・オリーブトレント、ファイア・トレント、アース・トレント、アクア・トレント、ウィンド・トレント、ファイア・オリーブトレント、アース――。

 

「トレント系がズラーッと並んでるな」

 

「これは新発見よ! オリーブトレントを進化させたプレイヤーはまだ誰もいなかったもの!」

 

トレント系は、現在のオリーブトレントからの正統進化だろう。能力が上昇し、スキルもほぼ変わらない。素材生産で入手できるものが少し増え、管理している農地の属性などを強化する力を得るようだ。

「エレメンタル・トレントっていうのが凄いな」

 

どうやら四属性全部を併せ持っているらしい。多分、属性特化型のトレントには及ばないだろうが、うちの様に色々な属性の作物を育てているなら有りだろう。

 

「まあ、畑を管理する力が上昇するならそれでもいいんだが……。多分、この呪術の本命はこっちだろうな」

 

トレントの後に、樹精が表示されていたのだ。ゆぐゆぐの様に、独立して動くことが可能になるらしい。

 

進化ルートの関係か、農地管理などもそのまま引き継いでくれるようだ。オリーブの樹精って形になるんだろう。これは、いいんじゃないか? 

 

 

 

 

 

名前:オレア 種族:樹精 レベル18

 

契約者:死神・ハーデス

 

HP:52 MP82

 

【STR 15】 

 

【VIT 12】

 

【AGI 9】

 

【DEX 14】

 

【INT 15】

 

スキル【株分】【光合成】【素材生産(オリーブトレントの実×3)】【精霊の枝(精霊の実)】【農地管理】【鎌術】【再生】【樹魔術】【忍耐」

 

装備:樹精の鎌、樹精の衣

 

 

 

 

分身や戦闘不可スキルが消える代わりに、鎌術、再生、樹魔術、忍耐などがゲットできる。これ、武器は鎌に固定みたいなんだが、なんでだろう? ランダムなのか?

 

ただ、レベルのわりにステータスも高いし、今まで通り畑を任せることもできる。完全に上位互換というか、デメリットはほぼないだろう。素材生産の内容も少し変化するが、上位の物に変わるなら構わないしな。

 

エレメンタル・トレントなら、今まで以上の畑管理能力。樹精なら戦闘力。どちらにせよ、悪くない。

 

「うーん。どっちがいいかな」

 

「トリ?」

 

「……オレアはどっちがいい?」

 

「トリー」

 

俺としては、本当にどちらでもいい。後はオレアの気持ちだろう。俺がしゃがんでウィンドウを見せると、オレアが腕を組んで唸り出す。だが、少しすると片方をビシッと指さすのであった。

 

「やっぱ樹精か」

 

「トリ!」

 

「よしよし、今度からはお前も一緒に冒険に行こうな」

 

「トリー!」

 

 

『え、いまなんて・・・・・?』

 

『樹精? いま樹精とおっしゃいましたか?』

 

『まさか、まさかの・・・・・?』

 

 

俺が樹精を選択すると、楽し気にジャンプするオレアの体が光に包まれる。さーどんな風に進化するのか、楽しみだ。

 

オレアの本体が光を放ってから、数秒後。

 

「トリ?」

 

「おー、こんな感じになったのか!」

 

「トリー!」

 

「可愛いじゃない!」

 

そこにいた子供は、今までのオレアとは全く違う姿をしていた。

身長は、オルトと同じか、少し小さいくらいである。

髪の毛はショートボブだ。基本は黄色が強めの黄緑で、前髪に一房だけ赤紫が混じっている。

 

以前はピ〇キオっぽい鼻をしていたんだが、今はちょっと高いくらいかな?服装は、ポンチョ風の外套と、その下にブカブカのシャツとハーフパンツという出で立ちだ。ポンチョは基本は白と緑で、背中には赤紫とこげ茶、深緑で、図案化されたオリーブの木が描かれていた。

 

足元はゆぐゆぐと同じサンダルだ。

 

「鎌はどこだ?」

 

「トリー!」

 

「おお、なるほど」

 

ゆぐゆぐと同じで、樹魔術で作り出すらしい。オレアが腕を一振りすると、瞬時に巨大な鎌が出現した。

 

「超デカ!」

 

「トリ!」

 

チャームの持っていた枝打ち鎌よりもさらに巨大だ。完全にデスサイズと呼べる大きさだろう。小柄なオレアがこの鎌を使い熟せるのか? そう思ったら、ブンブン振り回して、全く問題なさそうだった。

 

「はー、お前すごく変わったな」

 

「トリ!」

 

声はほぼ同じかな?ただ、問題が一つ。オレアって、女の子? 男の子?

 

体型は非常にスレンダーというか、幼児体型でそこから判断するのは難しい。非常にボーイッシュな美少女にも見えるが、美少女に見紛うほど可愛い男の子にも見えるのだ。

 

服装も、男女どちらでも許されそうな格好をしている。

今までは男の子だと思っていたけど、実は女の子だったパターンもあり得そうだ。

 

「うーん・・・?」

 

「トリ!」

 

「うん? なんだこれ?」

 

性別が分からず悩んでいたら、オレアが何かをさし出してきた。何かの果実っぽい。

 

 

 

名称:精霊の実 

 

レア度:6 品質:★5

 

効果:使用者の空腹を10%回復させる。使用者の魔法耐性を1時間上昇させる。クーリングタイム5分。

 

 

 

メッチャ強いけど魔法耐性を上昇? レア度も高いし。

 

「キキュー!」

 

オレアが進化したことによって、素材生産で手に入るようになったアイテムだ。精霊の枝、オリーブトレントの実もインベントリに入っていた。進化時、全部を入手できたらしい。前もそうだったっけ? ともかく、これは有難い。

 

素材生産で手に入るアイテムはランダムだが、時折でもこれが入手できるのはかなり有用だろう。

 

リックがフンスフンスと凄い勢いで匂いを嗅いでいる。目、逝っちゃってない? どうやら好物であるらしい。

 

でも、ダメだぞ。これ一個しかないんだから! 数が揃ってきたら、食べさせてやるから!

 

 

 

『うっそだろ!? あのオリーブトレントがあんな可愛い姿になんのかよ!』

 

『また白銀さんがやらかしたぞー! ものども、であえであえー!』

 

『知り合いの錬金術師にお願いしてくるー!』

 

『よっしゃー!! 念願の樹精ちゃんを手に入れられるぞー!』

 

『白銀さん、錬金術師の新しい風を吹かせてくれてありがとう。儲けてやるぜヤッハー!!』

 

『樹精ちゃんファンが歓喜の阿鼻叫喚がしてそうだぜ』

 

『急いでオリーブトレントをゲットしなくちゃ!』

 

『待っててオリーブちゃん!』

 

 

 

マモリと一緒に動画配信を止めた。オレアと精霊の実、枝の情報はヘルメスに伝える。

 

「これしか情報を扱えないけれど、いいものを見させてくれてありがとうね。新しい肥料と栄養剤の発見も大きいわ」

 

「そいつはよかった」

 

「ものはついでにだけれど、オルト君達のことも教えてくれる? 進化したみたいよね?」

 

「獣魔国の報酬で進化を促す実の種を手に入ったんだ。それで一斉に進化した」

 

「その実物、見せてくれない? 紹介料も払うわ」

 

まだ何か情報を抱えてるのね、そうなのよね。情報を吐きなさい全部今すぐ! そんな鬼気迫る圧を感じヘルメスをホームの畑に招いて虹色の果実を見せたのだった。



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一夜限りの祭りだワッショイ!

 

 

新大陸まで残り数日と迫ったある日。【蒼龍の聖剣】はある独自の催しの準備を進めていた。

 

「急いで祭りの準備をするぞー!」

 

「りょうかーい!」

 

「キャンプファイヤーに絶対必要な木材が水晶の樹木なんて贅沢ぅ~!!」

 

「料理班! 足りない食材は逐一報告だよー!」

 

「オルトちゃん成分が足りません!」

 

「ゆぐゆぐちゃん成分が足りない!」

 

「白銀さんに進言しなさい!」

 

「おーい、この辺りでいいんだっけー?」

 

集会場となっている天空の城のテラスで着々と進む祭りの準備は、お祭り騒ぎが出来ると積極的に取り組むメンバーがしている。組み立てる水晶の樹木を中心に外側は屋台で囲む、音楽プレイヤーが演奏するためのステージも完成間近だ。一方裏方では―――。

 

「ムー」

 

「おー、オルト。格好いいじゃないか」

 

「ム!」

 

生産職プレイヤーのコーディネートにより祭りにピッタリな衣装を身に包んだ俺の従魔達がいる。着れない従魔は羽織るか、鉢巻を巻いた姿だ。

 

「可愛いー!」

 

「白銀さんの従魔が私達の作った着物を着てくれるなんて感動だわ!」

 

「今日まで生産職でよかったと思ったことはないわ!」

 

「スクショしていい許可も貰ったし、たくさん撮る!」

 

オルト達に群がり黄色い声をあげる女性プレイヤーを他所に俺は絶望していた。二人の女性プレイヤーから突き出された夏の衣に対してだ。

 

「・・・・・イジメのつもりかおまえら?」

 

「え、えっと・・・・・」

 

「ハーデスにはこっちの方を着てもらいたいの! 女の子になって? 絶対に似合うんだから!」

 

「泣くぞ?」

 

何が悲しくて女用の浴衣を着なくちゃならないんだ。断固拒否し続ける俺としつこくねだるイズに第三者が介入してきた。

 

「ハーデス」

 

「うんぶっ!?」

 

いきなり口の中に何かを突っ込まれて、訳もわからないまま思わず飲み込んでしまった。こんなことするラプラスに目を丸くする。

 

「おま、いきなり何をっ。というか、何を飲ませた!?」

 

「新しい魔王の後輩のためのプレゼントが完成したのでな。それを飲ませただけだ」

 

「だからそれがなんなのか・・・・・ぁ?」

 

なんか、イズ達が大きくなったし俺の声が女みたいに高くなってないか? 待て、嫌な予感しかしないぞ?

 

「ふ、我ながら完璧だ」

 

「ハ、ハーデス・・・・・」

 

「・・・・・」

 

イズとセレーネが俺を見る目が変わる。無言で鏡がある部屋に移動して、自分の姿を確認した。

 

「えええ・・・・・」

 

鏡には床につく長い髪の半分が金と銀、真紅と蒼色の瞳のオッドアイ、そんな幼女が映っていた。いや、誰だよこいつ的な別人の幼女だわ。

 

そしてもとの部屋に戻り、ラプラスを問いだたす。

 

「元の姿に戻るのは何時だ」

 

「そういう変身のスキルだ。寧ろお前に得しかないぞ」

 

「なんでだよ」

 

「可愛い幼女なら誰にでも愛されるだろう?」

 

ふんっ! とラプラスの脛を蹴ろうとしたけどあっさりかわされた。くそ、身体的に足が短すぎて届かない!

 

「セレーネ。服の調整し直すわよ」

 

「大至急にだね」

 

やる気を出すな! くそ、変身スキルなら解除・・・・・。

 

「なんで解除できない?」

 

「一度死に戻らねば解除はできないぞ」

 

「おま、ふざけんなぁー!? 幼女に変身するだけのスキルかよ!!」

 

「そう悲観するな。その姿でなければ使えないスキルがある」

 

くそ、確かにその通りだよ! スキルの名前からして絶対に使いたくないけどな!

 

「それに、その姿ならば魔王として倒されても懸賞金は誰かの手の物にもならないぞ」

 

「・・・・・それ、本当だろうな」

 

「同一の名前などよくあることであろう?」

 

抜け穴を突いたってことか。さすが先々代の魔王様だよ。

 

「わかった。今は我慢するよ。サイナ、俺を守ってくれ。あっちの女冒険者達が俺を狙ってる」

 

「了解。マスターを守護します」

 

俺を抱えて安全な場所へと連れてってくれたが、肝心なことを忘れていた。

 

「ハーデス、できたわよっ!」

 

「今回だけ着てくれないかな?」

 

今日は祭りだったぁー!?

 

 

イッチョウside

 

 

フェンリルの背中に見たことのない浴衣を着た幼女が乗っかって来た。イズとセレーネが微笑んでいるのが気になるけど、まさかね?

 

「その子、誰? プレイヤーみたいだけど、年齢的ゲームを遊べないはずだよね」

 

「・・・・・俺だよ、ハーデスだよ」

 

「・・・・・今度は幼女になるスキルですか」

 

「・・・・・不意打ちでラプラスに変なものを飲まされて手に入れてしまったんだよ」

 

顔が暗い幼女のハーデス君の話を聞いて、同情してしまった。この人はよくとまぁ、ゲーム内でトラブルに好かれるなぁ・・・・・。

 

「でも、すごく可愛いね」

 

「うるさい! 嬉しくないよ! だから祭りの進行役はお前に任せるからな!」

 

「えー? その姿でやってくださいよー」

 

「リアルでお仕置きされたいか」

 

喜んでやらせていただきます。今のは幼女でも怖い。ガチの王様の顔と被った。

 

「イッチョウ、その子は誰ー?」

 

私と見知らぬ子と話してるから、気になってきたプレイヤーが集まった。なので教えてあげた。今日は祭り、無礼講だよねー!

 

「幼女になるスキルを手に入れたハーデス君だよー!」

 

「はいっ!? 白銀さんなのこの子!?」

 

「キャー! なにこの子、すっごく可愛い~!?」

 

「え、なに? どうした?」

 

「うお、めっちゃ可愛い子供がいるじゃん!!」

 

「幼女、だとッ!?」

 

「ロリの時代がついに到来か!?」

 

「・・・・・なんだ、この、胸の高鳴りは?」

 

「是非ともお名前を聞かせてくれないかな!」

 

「俺と一緒に写真を撮ろう!」

 

「いえ、最初は私と!」

 

あー・・・・・収拾か着かなくなった。ハーデス君から視線が痛いし。はい、何とかしますから許して。

 

「はいはい! 一番早く準備ができた人からお話でもスクショでもしていいから、早く祭りの準備をして!」

 

「わかりましたー!」

 

「待っててね幼女ちゃん!」

 

「お姉さんのこと待っててね!」

 

「うぉー! 急いで終わらせるぜー!」

 

群がってきたみんなが持ち場に戻り、ようやく落ち着いた。でも、背筋が冷たいのはなんでだろうか。

 

「・・・・・イッチョウ、覚えてろよ」

 

あれー!!?

 

 

 

イカルside

 

 

大きいお姉ちゃんじゃなくて、小っちゃいお姉ちゃんになったハーデスさん。とても可愛い! 可愛いったら可愛い! こんな妹がいたら毎日ぎゅーって抱きしめてるかも!

 

「お姉ちゃん、とても可愛いです!」

 

「・・・・・嬉しくないっ」

 

「えへへ、今度は私がぎゅーってしますっ」

 

私より体が小さいハーデスさんを抱きしめます! はー、柔らかいし好い匂いもします。スリスリしちゃいます。

 

「と、尊いっ!」

 

「天使、ここに二人の天使がいるっ・・・!」

 

「永久保存! これは永久保存だわ!」

 

「目に入れても痛くないってこういうことなのかな・・・・・」

 

「ああ神様・・・この出会いを巡らせたあなたに感謝します」

 

色んな人達が私達を見ていますけど、それよりもお姉ちゃんとこうしている時間が大切なので気にせず抱きしめていると、エスクとオルトちゃんが私達の真似をしてピッタリと抱きしめ合ったから、他の人達が凄く嬉しそうな声をあげた。

 

「お姉ちゃん、私のことお姉ちゃんって一回呼んでください!」

 

「・・・・・言わないと駄目か?」

 

「お願いします!」

 

物凄く言い辛そうに難しそうな顔をするお姉ちゃんでしたが、しょうがないと息を吐いてから言ってくれた。

 

「お姉ちゃん、お兄ちゃん、だーいすき!」

 

 

ドキューンッ!!!!!

 

 

小っちゃいお姉ちゃんがとても可愛い笑った顔で私のこと大好きと言いながらお姉ちゃんと言ってくれましたっ!! すごい、いま胸に何とも言えない感覚がしました。これ、なんですか?

 

「「「ぐっはぁあああああああああああああああっ!?」」」

 

「た、大変だ!! 少なくない数が幼女スマイルで気を失った!?」

 

「お、お兄ちゃんだーいすきなんて・・・・・!」

 

「お姉ちゃんだーいすきなんて・・・・・!」

 

「「これ以上の嬉しいご褒美の言葉はないっ(ガクッ)!」」

 

「「「我、もう一片の悔いなし(ガクッ)」」」

 

「え、衛生兵! 衛生兵はいないか!? これ以上は対応しきれない!!」

 

「ダメだ! その衛生兵も胸キュン死に戻りしてしまった!」

 

「なん、だと?」

 

な、なんか大変なことが起きてしまったみたいです。大丈夫でしょうか・・・・・?

 

 

 

フレデリカside

 

 

「で、場の収拾が付かないし騒ぎになるからと私達のところに来たんだね」

 

「・・・・・そういうことだ」

 

「お前、一体どういう星の下で生まれたんだ?」

 

「今度は幼女になるスキルかよ」

 

「退屈を感じさせないねハーデスは」

 

ドラグの肩に乗る形でいるハーデスは私達に言われて、とても遺憾そうに顔を顰めてた。今私達はどこかのフィールドを歩いていた。祭りに使う足りないアイテムの補充のため、行動をしているんだー。

 

「祭りが終わったら元に戻る協力をしてくれ」

 

「その姿のプレイヤーを攻撃するところをよ、他のプレイヤーに目撃されたらぜってぇー誤解を受けるだろ」

 

「ああ、間違いなくな。やるなら決闘システムでやろう」

 

見た目が可愛くても中身は大人の男の人。うん、知らない人だったら間違いなく誤解を受ける図が出来上がってしまうね。

 

「ところで、幼女になるだけのスキルなの?」

 

「それ以外にも内包しているスキルもあるぞ」

 

へぇどんなの? 教えて欲しいって言ったらすごく嫌な顔をされた。

 

「名前が恥かしいから嫌だ」

 

「恥ずかしいスキルの名前があるのか」

 

「逆に何だって―――おい待て、無言で髪を引っ張るな! 地味に痛ぇっ!」

 

「知らない方が身のためだってことか。ドラグでわかった、聞かないでやるさ」

 

「でも、その姿になるスキルの名前ぐらい教えて?」

 

ハーデスは渋々【幼齢期】と教えてくれた。

 

「逆にこっちも聞くけど。お前等は冥界に行ったか?」

 

「通じている場所を探しているんだけどね。まだ未発見なんだ」

 

「もうハーデスに頼るしかない状態だ。そう言うことで頼んだぜ」

 

「わかったよ。大体の目星がついているからすぐに見つけよう」

 

さすが。頼りになるねー。

 

 

・・・・・。・・・・・。・・・・・。

 

・・・・・。・・・・・。

 

・・・・・。

 

 

【蒼龍の聖剣】の祭りの準備が終了した。始まりのタイムリミットは残り一分も切った。

 

 

「10!」

 

「9!」

 

「8!」

 

「7―――!」

 

皆でカウントダウンを切り数えていく。

 

「3!」

 

「2!」

 

「1!」

 

―――0ォオオオオオオオ!!!

 

「夏祭りの始まりだ! 他の人の迷惑にならない程度で盛り上がれー!」

 

「最初は従魔達の盆踊り大会! 音楽プレイヤーの皆さんよろしくお願いしまーす!」

 

巨大な櫓の上に大太鼓を設け、そこに一人音楽プレイヤーが立っており最初に太鼓を叩いたらすぐに夏祭り風の音楽が演奏され始め、場の雰囲気も祭りらしくなった。

 

「ラランラ~♪」

 

「トリリリー!」

 

「ムム!」

 

「キュイ!」

 

「クックママ!」

 

「―――♪」

 

「キュー!」

 

「ヤー!」

 

「ヒムヒム!」

 

「フマー!」

 

「フム!」

 

「モグモ!」

 

「メェー!」

 

「ヤミー♪」

 

「ピカッー!」

 

「ピィ!」

 

『―――♪』

 

《―――♪》

 

『にゃははー!』

 

俺の従魔達が櫓の周りで踊り始め、他のプレイヤーの従魔達も交じり始める。そんな誰も見たことがない光景に俺達は色めき立ち、スクショが捗ったのは言うまでもない。完全に保護者のそれだ。踊りに参加していないフェルとセキトは俺を背中に乗せて護衛中だ。

 

「続いてプレイヤーの番! 燃やせー!」

 

組み立てられた水晶の木材に火が放たれて燃え盛る。青と白が入り乱れた幻想的な炎から火花のように舞い上がる燐光は、淡く祭りの会場を照らしていく。

 

「おお、これは凄い! まるでホタルのように火花が光ってる!」

 

「きれー! クリスマスイベントにぴったりじゃない!?」

 

今は夏なんだがな。そんな野暮なツッコミは誰もせず、大きく燃える炎を囲い思うが儘に踊り始める。それから少しして皆がテイムした従魔と入り混じって二重の輪となり踊る。

 

「屋台班! そろそろ忙しくなるから頑張ってねー!」

 

「「「「「「「「「「はーいっ!!!」」」」」」」」」」

 

設けた屋台の中に待機する料理人プレイヤー達。無論、俺も参戦だ。構えるのは休憩所だ。ジュースから酒も豊富に飲める場所を設けて気軽に腰を落とせて休ませる役割を確保したのだ。というか、屋台で販売したら俺の従魔目的で、こぞって集まってくる輩が必ず出てくる。その配慮としてみんなと決め合った役割の話をしたら盤上一致で認めてくれた。だけど、俺自身が幼女になってしまったのは予想外だったわ。

 

「白銀さんも踊りましょうよ!」

 

セキトの背中に乗っている俺に誘いが掛かった。

 

「いや、いまの姿で踊れないから。髪も長いし地面に引き摺って踊りにくい」

 

「そういうことなら!」

 

「私達に任せてください!」

 

「あ、お前達は!? ただでさえ不人気なのに敢えて不遇職の一つを選んだ姉妹プレイヤー!」

 

美容師と理容師の二人。将来の夢の仕事がゲームでリアルに近く出来るからと、不遇職として認識されてる職業で遊んでる未成年の姉妹。

 

「白銀さんの出資金のおかげで培えた経験をお披露目しますね!」

 

「せっかく長い髪だから切らずに、ゲームだからこそできる髪型にしようよお姉ちゃん」

 

「そうだね。そのまま白銀さんと従魔ちゃん達の協力で宣伝してもらおっか」

 

「「ということでよろしくお願いしまーす!」」

 

・・・・・もう、好きにしてくれ。

 

―――10分後。

 

クスノキを購入したのみ現れるトトロのオカリナの演奏で音楽プレイヤーと交代させて休ませ、彼女らも祭りの雰囲気を楽しんでもらってる。

 

「可愛く、仕上がってますね」

 

「ホントに可愛い!」

 

「外国のお人形以上の可愛らしさだよ」

 

ゲームだからこそできるという理由で、人の長い髪をポニーテール&花弁のように結ってくれやがった。そしてそれが却って頭を重く感じさせてくれるのだが、地面に引きずるよりはマシだと納得したし、本当に実現させた二人に驚嘆したわ。

 

「俺の要望通りにしてくれてありがとうよ」

 

「どういたしまして。私達も今日の為に頑張れたわ。本当に夏祭りを実現しちゃう凄い人だよハーデスさん」

 

「音楽があってこそ盛り上がれるのさ。今回の夏祭りの主役は音楽プレイヤーのお前達だ。もう一度やる時はお願いするよ」

 

「公私の都合がよかったら喜んで」

 

握手をし合うと後ろから抱き上げられて、俺を取り囲む彼女等に弄ばれた。ツーショットもさせられたわ。

でも、本当に大変なのはここからだった。

 

「すみません! オルトちゃん印のハチミツジュースをください!」

 

「ルフレたんの足踏みぶどうジュースを!」

 

「アイネちゃんから手渡しされたぁー!!」

 

「クママたんの真摯な立ち振る舞いが好きすぎるー!」

 

「三大樹精さまのスマイルが眩しすぎ・・・るっ!」

 

「ベンニーアちゃん、可愛いー!!」

 

うちのオルト達目当てに休憩所に居座るメンバーが多すぎて、目が回るほど忙しい。正直猫の手も―――。

 

「フレイヤちゃん、可愛いねー」

 

「ほらほらーここがいいかなー?」

 

「にゃははー! 最高にゃー! もっとオイラを愛でて欲しいにゃー!」

 

・・・・・あんのクソ猫、もっと愛でられて人を集めろ! こっちの負担を無くせぇえええ!

 

「中々愉快なことになっているね恐怖の大魔王」

 

「愉快どころじゃない―――って、何でいるんだ?」

 

途中で聞き覚えのある声の方へ振り返れば、浴衣姿の魔王とルシファーが紛れ込んでいた。そのルシファーの俺を見る目がアレで嫌なんだが・・・・・。

 

「とある魔王からここで面白い催しをしていると話を聞かされてね。遊びに来たんだよ」

 

「楽しむなら今の内だぞー」

 

「そうさせてもらうよ。それにしてもあのヘルキャット、中々幸せな生活を送っている様だね」

 

誰がどこから見てもそう見えるだろうよ。

 

「そーいえば、獣魔国の防衛の時に魔獣の卵を孵化させていたな」

 

「今まで貯まりに貯まった卵を孵化させて消化する千載一遇を、逃すはずはないだろう? おかげで魔王軍の戦力も大幅に増えてこっちは嬉しい限りだ」

 

「そいつはよかったな」

 

「だけれど、キミの方が心配だ。未だ一人も魔王の配下がいないじゃないか」

 

「俺が結成させたギルドが魔王軍みたいなもんじゃないか?」

 

「ふむ、そう言われると確かにそうかもね。教会も先の一件でキミとキミに従う彼等を、魔王軍として定める方針でいるようだ」

 

うわぁー、なんともはた迷惑な。

 

「故にどうだい。彼等の為に戦力を増やしてやろうか。恐怖の大魔王の仲間に弱者がいては僕もそれなりに心配だからね」

 

「その言葉をあいつらに言ってやれ。女顔の女装魔王に心配されたら喜ばれるぞ」

 

「完璧に性別を反転できるキミにだけは言われたくないかな!」

 

「お前も性別を反転させてやろうか。ラプラスなら今すぐにでも用意してくれるだろうよ。性別反転の薬とか。今の俺の姿はそれでこうなってしまったんだよ」

 

「あ、そうなの? じゃあ、私もお願いして―――」

 

その瞬間。凄い勢いで魔王がルシファーの手を掴んで一人にさせなかった。させたら最後、本当の意味で男の尊厳を消失してしまう未来を悟ってしまったからだろうよ。同情するよ魔王。

 

 

 

 

独自に始めた【蒼龍の聖剣】の祭りも終幕に向かっていた。何時までも楽しい時間は続くことなどなく、満足したら人はそれ以上を何も求めず、何もしようともしないし飽きが来る。ならばどうすればそれを維持することができる? 簡単だ新しい刺激を与えればいい。それも、己の欲望が一気に湧き上がるようなイベントを始めればいい。

 

「よし、これで準備完了。ありがとうセキト。戻るぞ」

 

「ブルル!」

 

セキトに乗ったままホームの至る所に移動し、準備をし回った。それが終われば皆がいるテラスへと舞い戻る。着いたら大太鼓を設置している櫓に待機してもらった音楽プレイヤーの一人に合図を出した。

 

ドドンッ! ドドドドンッ! ドンッ!

 

「はい、全員注目! これからイベントを始めるぞー!」

 

出来るだけ大声をあげて意識と注目を一身に集める。軽く見渡し、聞く姿勢になっている皆を確認した。

 

「このまま何もせずお開きになるから、俺独自に考えたイベントを始める! なお参加は自由だ!」

 

「イベントってなに?」

 

「白銀さんのことだから絶対普通じゃないと思う」

 

「身内同士の試合・・・いや、それはないか」

 

「それしたら誰が白銀さん以外ペインさんに勝てるって話だよ」

 

「ということはなんだろうね?」

 

まだ誰も教えていないイベントを考察する面々に詳細を伝える。

 

「一気にやると大変だから男女に分かれて始める! 内容はスタンプラリー争奪戦! ここ天空の城のホームの至る所に俺の従魔を模したスタンプを置いてある。これから配る紙に全てのスタンプを押した先着10名のみ――俺の従魔の木製人形かスタンプを一つプレゼントしてやろう!」

 

「「「「「「「「「「―――っ!!?」」」」」」」」」」

 

「そしてスタンプの場所にはオルト達がいるから、スタンプの無断所持はさせないからな。そしてルールは―――」

 

 

戦闘・妨害行為は厳禁。

 

テイマーとサモナーの従魔の使用は有り。

 

制限時間は3時間以内。

 

代理人の行使は禁止。直接本人のみスタンプを押してもらうこと。

 

スタンプを押してもらう際は必ず一列になって待機すること。

 

プレイヤーのスキルの使用は禁止。

 

全てのスタンプを押したらゴール地点であるこの場のテラスに戻ること。

 

 

「以上! 質問が無ければすぐに男女別に分かれてもらうぞー! 質問はあるかー!」

 

「はい質問です! 白銀さん手製の人形って選べますか!」

 

「ポーズも望むならそれも選べれる!」

 

「はい! 代理人の行使は禁止だけど、連絡を取り合っての協力はセーフですか!」

 

「セーフ! ルールの説明で言ったが、スタンプは必ず本人じゃないと駄目だからな!」

 

「質問です! 白銀さん自身の人形が欲しいんだけど! 特に今の幼女の姿!」

 

「あ、それなら俺は堕天使の白銀さんがいい!」

 

「・・・・・欲しければくれてやるよ」

 

うぉおおおー! と喜び出す一部の男女のプレイヤー。いや待て、そんなに欲しいのか? 言葉悪いが気持ち悪いぞお前等。

 

「あー、これ以上質問されると長引くから強制終了! それじゃ、イベントに参加したい人は男女別に東と西に分かれて! しない人は休憩所のところで待機!」

 

催促すればほぼ全員が男女別に分かれだす。

 

「三人共、頼んだからね!」

 

「いつになくフレデリカが積極的だね」

 

「言ってやるなペイン」

 

「ま、こういうイベントも参加して楽しもうぜ」

 

 

「キキ、お願いね!」

 

「キー!」

 

 

「サリーちゃん。よろしくね?」

 

「貸し一つだからねイッチョウ」

 

 

「頑張るぞー! うぉー!!」

 

「絶対に手に入れるぞ、ウッドちゃんの人形ぉー!!」

 

「ポーズのカスタムも視野に入れてくれるとか・・・どうしよう、どう作ってもらおうか悩むわ!」

 

「必ずオルトちゃんの人形を私の物にするわ!」

 

「テイマーとサモナーに負けるつもりはないが、従魔の使用がアリだと厄介だな」

 

「白銀さん、わかってるわ!」

 

「こんなイベントなら大歓迎だぜ!」

 

音楽プレイヤーの皆にも協力してスタンプラリー用の紙を配って回る。それを受け取れば東西に分かれる男女のプレイヤー。サイナに大きな機械のタイマーを作ってもらい3:00:00の数字が表示される。程なくしてスタートラインがない位置についた皆に告げる。

 

「それじゃあ、合図を出すぞ! 位置について―・・・・・よーい・・・・・開始!!」

 

 

うぉおおおおおおおおおおおおおおおおお!!

 

わぁあああああああああああああああああああ!!

 

 

【蒼龍の聖剣】のギルドメンバー達が一気に駆け出した。テイマーとサモナーは自身の従魔の力を借りて移動している。あっという間にこの場からいなくなった皆の姿を、休憩所で大きく映し出すサイナが創造してくれた複数以上のモニターに映し出される。なお、休憩所にいるのは参加の意思がない戦闘職のプレイヤーと音楽プレイヤー達と【AGI】が低くて走りと移動が遅いプレイヤーのみ。

 

「さーて、純粋に【AGI】が高い奴が先に集めるだろうが、簡単に集めることも出来ない」

 

「どうして?」

 

「簡単に見つかる場所に置いてない個所がいくつもあるからだ。特に体が小さい俺の従魔はよーく探さないと見つからない」

 

「ああ、じゃあ・・・3時間なんてあっという間?」

 

「うーん、長く見積もって設定したつもりだ。早くても一時間以内は見つかると思うよ」

 

 

 

 

運営side

 

 

「独自でイベントをするなんて凄いですね。参加してるプレイヤー達が白熱してます」

 

「これもゲームの醍醐味ってやつなんだろう。自分達で考え、更にゲームを盛り上げてくれるプレイヤーはこっちとしてもありがたい」

 

「それにしても可愛いですね。性転換した白銀さんをマスコットキャラクターにしたら人気出るんじゃないですか?」

 

「そうだな。テレビのCМにでも放送したら確実にそうなってしまうかもしれないな」

 

「いっそのこと、白銀さんに協力を求めては?」

 

「検討しよう」

 

 



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女だらけのクエスト

 

 

 

「あ~ん!? 何度やってもあのモンスター倒せないよ!!」

 

「もう強すぎ。せっかく見つけたクエストだって言うのに」

 

「どうする? 限定クエストだし他に協力してもらう人なんて限られてるし」

 

「う~ん・・・・・あ、あの人なら協力してくれるかも! この限定クエストも出来ると思うし!」

 

「え? 誰のこと?」

 

「今はまだ教えない。ちょっと待っててフレンドを介してお願いしてみる!」

 

 

 

「あのー白銀さん。お願いがあるんですけど」

 

「お願い? 困りごとか?」

 

「や、私ではなくフレンドの方で是非とも白銀さんの力が必要だと言うんですよ。ダメならダメでいいと言っているんで、話だけでも聞いてくれませんか?」

 

「ふーん、わかった。話だけならいいぞ。どこにいる」

 

「ドワルティアです」

 

 

 

と言うことで、ギルドメンバーの女プレイヤーの話を聞いてドワルティアに来た。ここに来るのも久しぶりだなと待ち合わせ場所のNPCが経営している店を探して、見つけると中に入れば。

 

「あ、白銀さんこっちです!」

 

「嘘、あの人に協力をしてもらうの?」

 

「ああ~・・・確かに出来るね」

 

見知らぬ少女達がこっちを見て反応する。彼女達か、と俺も思いながら寄った。

 

「お前達か、俺に協力してほしいことがあるって」

 

「はい! 私はミュウです! 双剣士とヒーラーをやってます!」

 

「初めまして白銀さん。私はネメシア。職業は格闘士と黒魔術師です」

 

「ワークスです。魔法使いとヒーラーをしています」

 

銀髪ツインテールの赤眼の軽装鎧姿のミュウ。両手足、胸に薄い装甲を装備してるネメシア。首から下の身体の肌の露出をローブで隠しているワークス。三人のプレイヤーの自己紹介を受けた。

 

「死神・ハーデスだ。知っての通り重戦士とテイマーをしている。よろしく」

 

軽くお互い挨拶を済ませて話に入る。

 

「で頼み事とは?」

 

「あのー、一緒にクエストをしてもらいたいんです」

 

「クエスト?」

 

「はい。偶然見つけたクエストなんですが、どうしても倒せないモンスターがいるんです! それで守りが硬い白銀さんの力がどーしても必要なんです!」

 

俺の力ね・・・・・なんで俺何だか・・・・・ふむ。

 

「なんかの限定的なルールがあるクエストか?」

 

「おー、よくわかりましたね! そうなんですよ。手伝って欲しいクエストは女性限定でして」

 

・・・・・女性、限定・・・・・?

 

「白銀さんが性転換できるスキル持ちの話題はもう有名ですから。まさに助力が欲しい私達にとってうってつけの存在です」

 

「しかも白銀さんほどの防御力極振りのプレイヤーは未だ一人しかいません。なのでどうか、私達を助けてください。もちろん報酬も渡します」

 

「・・・・・その限定クエストの報酬は分かるのか?」

 

「いえまだ何も。なのでそのクエストの報酬がアイテムだったら、私達の分を白銀さんに渡します。それ以外でしたら白銀さんのお役に立ちますのでギルドに入れさせてください」

 

・・・・・男の尊厳が、でもまだ公表されていないクエストか・・・・・うーん・・・・・。

 

「取り敢えず分かった。手伝いはする。どんな限定クエストか興味が湧いた」

 

「わぁ! ありがとうございます!」

 

「最強の防御力、ゲットだね」

 

「何度も辛酸を舐めさせてくれたあのモンスターを倒す時が来たわ」

 

何度もクエストを失敗して来たのか。どれだけ強敵なのだろうか?

 

「クエストを受ける方法は?」

 

「まず、女性の姿になっていくつかお使いのクエストをこなします。途中、力試しと称して火山のモンスターを倒して素材を集めます」

 

「その素材が集まったらNPCに渡すと最後にまた素材を集めなくちゃならないんです! その素材を持つモンスターが強すぎて勝てません! いまここ、私達が足止めを食らっているところです!」

 

なるほど、素材集めのクエストか。だったらもう二人呼ぶ必要があるな。

 

「人数制限がないなら、もう二人を呼びたいけど」

 

「大丈夫です!」

 

了承を得たので残りの二人・・・・・最高の破壊力を目指している二人を召喚する。そしてその二人と共にお使いクエストをこなしてミュウ達が足止めを食らっているクエストまで進めた。

 

「終わったわよ」

 

「「終わりました!」」

 

「え、早い。一時間も経ってないよ」

 

「さすが【蒼龍の聖剣】。凄く強い」

 

「女の人になった白銀さん凄くステキ!!」

 

伊達に俺達は極振りをしていないからな!! ユイとマイを呼んで正解だったな。

 

「さて、残り素材はどんな熱でも耐える『堅岩の塊』。マグマに入ってもその岩石自体が熱くもなく焦げることもないかなり貴重な石みたいね」

 

「そのモンスターから手に入るんですが、文字通り硬くて逆に装備の耐久値の方が保てなくなるんです」

 

「散々戦って攻撃パターンは把握しています。噛みつきながらの突進攻撃と尻尾での薙ぎ払い、地中に潜っての奇襲。HP一定値までが下がると攻撃パターンが変わります。全ての攻撃の速度が速くなっていきます」

 

「あとその辺の石を食べて回復します!」

 

マグマにも耐えれる突進なら、ラヴァ・ゴーレムよりも強いかもしれないな。

 

「でもー白銀さんなら楽勝だよ! なんたって一度倒したことがあるモンスターだし!」

 

「倒した? ここで?」

 

「ラヴァ・ゴーレムだっけ、あのモンスターにこれから倒すモンスターで叩いてたからね!」

 

・・・・・ああ、地龍か! 確かに倒したわ!

 

「じゃあ、これから行く場所は」

 

「うん、火山の頂上だよ! ということで早速行こう!」

 

ミュウが張り切って拳を天に衝きだした。それに見倣い俺もそうすると他の四人も拳を突き出した。

 

「でも判らないな? なんであのモンスターの素材が欲しいんだか。これまでの素材だって何に使うのかさっぱり理解できない」

 

「店の開店をするために必要な素材アイテムが欲しいって言ってただけだしねー」

 

「どんな店になるかは分からないけど、その店の初めての客が私達になるならちょっとした優越感だね」

 

「うん。だから挑戦してみる甲斐がある」

 

「私達も精一杯」

 

「頑張ります!」

 

いざ頂上へ向かう俺達。火属性と土属性のモンスター相手に難なく戦って倒し、作戦を考えながらあっさりと辿り着いた頂上に足を踏み込んだ途端。とっても懐かしい地龍さんが姿を見せてくれた。

 

「私がヘイトを稼ぐ。その間に思いっきり攻撃をぶちかませ! 【挑発】!」

 

「「「「「はいっ!!!」」」」」

 

突進しながら噛みついてくる地龍の攻撃を【受け流し】で反らし、他の皆の攻撃を当てやすくする。

 

「グルルルッ、ガアアアアアアアアアアッ!!」

 

「あはははっ!! 私を噛んでも噛み砕けれないぞ! ほらほら、もっと攻撃してきなさい地龍!」

 

手翼も使って攻撃して来るけれど、華麗なるステップで躱し続け【挑発】を続ける。時折俺が一番のヘイトを稼ぐ攻撃をしてユイとマイの八本の破壊の大槌を、ミュウ達の懸命な攻撃でHPを減らさせていく。

 

「凄い凄い! 攻撃が当てやすくなってる!? 私達だけでするより断然戦いやすいよ!!」

 

「手応え、ありだねっ」

 

「あの双子も凄い勢いでダメージを与えてるのも凄い」

 

「これだけ大きいと私達の攻撃も当てやすいねお姉ちゃん!」

 

「もっともっと頑張るよ!」

 

いい調子だ。このまま削れば攻撃パターンが変わるが、それも事前に決め合っている。

 

「攻撃パターンが変化するよ! 一ヵ所に集まって!」

 

ミュウの指示に従い、一ヵ所に集まったら俺が三割も削った地龍にダメージを与えた直後。咆哮をあげる奴がその場で大きく旋回して―――。

 

「【身捧ぐ慈愛】! 【生命の樹】!」

 

火山の地に巨大な樹木が育ち、淡い緑色のオーラの光が俺達を照らした。地龍の迫力と勢いある大振りの薙ぎ払いが俺達に直撃しようが、一切ダメージが無いどころかHPが回復する。

 

「つよっ!? ダメージ無効化のスキル!?」

 

「いや、単に私の防御力が今だけ皆の防御力になってるの」

 

「なにそれ、強すぎる」

 

「安定の安心感とはこういうことなのかな」

 

なので、ここから一方的なフルボッコの時間なんですよねー。動けない代わりにノックバックが無効。そして俺の最大防御力がミュウ達にも影響しているから、地龍がどれだけ攻撃してこようが俺の防御力を突破する攻撃力以外しなければならない。そういうわけで俺達は―――。攻撃パターンが変わろうが固定回復+絶対防御力のループを崩せずに時間を掛けて倒したのだった。

 

「はい、勝ち!」

 

「「勝ちましたー!」」

 

「う、うっそぉ・・・・・・」

 

「なんていうヌルゲー」

 

「防御力特化、バカに出来ないね」

 

因みに双子は攻撃力特化だぞ。と、教えると三人は信じられない物を見る目で双子を見たのだった。さてさて・・・・・うん、ちゃんと手に入っているな要求されたクエストアイテム。他にも地龍の素材が手に入った。

 

「それじゃ、皆で渡しに行こうか」

 

「「「「「はいっ」」」」」

 

これで限定クエストが達成! そう思いながらドワルティアに戻りクエストを発生させたNPCに『堅岩の塊』を渡すと。

 

「おおっ、ありがたい。よくぞ手に入れてくれた。これで営業ができる。お礼に最初の客として私の店を堪能してくれ」

 

「「「やったっ!」」」

 

さて、どんな店かな? NPCについて行くと・・・・・。

 

「さぁ、ここだ」

 

「「「「「「おー!」」」」」」

 

天然の洞窟内に立派な温泉旅館! 第一号の客として招かれた俺達は疲れを癒すために温泉へ―――。

 

「って、空気に流されてしまったけど私は男なんだけど」

 

「あ、そうでした!」

 

「女性としての立ち振る舞いをする白銀さんに違和感がなかったから、すっかり忘れていた」

 

「まぁ、身体はバスタオルで巻いているし、今の白銀さんの見た目は女性だから意識しなければ恥ずかしくないかな」

 

「そうですよね」

 

「ハーデスさんが男だと思わなければ・・・・・うん」

 

広い岩風呂の湯に浸かってのんびりと寛ぐ俺達。その間にステータスも変化が起きていた。

 

「ここの旅館の露天風呂、少し特殊みたいね。3時間の自動回復のバフと全能力値が一定時間+5なんて凄いわ」

 

「ということは、旅館の料理も期待できるんでしょうかね!」

 

「どんな料理が出るのかちょっと楽しみ」

 

「そうだね」

 

と、誰もがそう思っていたものの。ここの旅館は温泉を入るためだけの旅館で料理の提供はしないらしい。なのだが、別途で温泉卵が販売していたのでそれを買った。

 

 

温泉卵

 

【STR+8】

 

 

うん? これは食べれば増える奴か?

 

「ユイとマイ。ちょっと試しに食べてステータスを確認してくれ」

 

「わかりました。いただきますね」

 

「はむ・・・美味しいです! あ、【STR】が+8も増えてます。一時的じゃなくてどうやら永続的みたいですね」

 

「嘘ッ!? それ凄いことだよ!」

 

「これ、何個も食べたら増え続けちゃうのかな?」

 

「試してみよう」

 

俺はテイマーにジョブチェンジして食べてみた。おお、黄身がトロトロで美味しいな!

 

「うーん、どうやら最初の一個だけみたいだね。これ以上は上がらないみたい」

 

「ま、そういう美味い話はないか」

 

「あったら裏があって警戒するよ」

 

だな。だけどこれは本当に美味しい。温泉卵なんて作れないから皆の分も購入すると。

 

「こんなに温泉卵を買ってくれるなんて嬉しいねぇ! お礼にいいことを教えてあげるよお嬢ちゃん達」

 

「え、なんですかー?」

 

「俺は大の温泉好きだ。三度の飯よりも温泉が大好きだ。だから世界中の温泉があるところに足をよく運んだものなんだ。しかしその中で入れなかった温泉があったんだ。残念なことにそこは女性しか入れない男子禁制の島で、何でもその島にある温泉に入れば神様の祝福が受けられる話なんだ。どうだい、興味が湧いただろう?」

 

「神様の祝福!? そんな温泉があるなら入ってみたいです!」

 

「そうかいそうかい! じゃあ、地図をあげるから是非とも行ってごらん。もしもその島に辿り着いて温泉に入ることが出来たなら、温泉の感想を聞かせてくれ。お礼はするからさ」

 

 

『EXクエスト 女ヶ島を探せ』

 

 

というクエストが突然発生した。俺達は一度顔を見合わせ、問題が無ければ頷き合いYESを押した。NPCから地図を受け取り旅館を後にした。

 

「まさかのEXクエストを受けることになるなんてね」

 

「白銀さんが温泉卵を大量に買わなかったら、気付かないままでした!」

 

「しかも隠しエリアの探検が出来るなんて、私達運がいい」

 

「でも、どこにあるんでしょうか?」

 

「うーん・・・地図に書かれている絵がなんか変だし」

 

ユイの言う通り、何というか断片的なのだ。これだけではよく分からない。

 

「白銀さん。どうしましょ? 地図があっても見方が変わらないと探しようがないですよね」

 

「そうだね。でも、場所を知っていそうなNPCがホームにいるから訊いてみるわ」

 

「おおっ、さすが白銀さん。頼りになる!」

 

「あの、手伝ってくれた報酬ですけど。クエストが続いているなら報酬はどうしたら?」

 

「そうね。じゃあ、最後までクエストをしたらその時にでも貰うわ。フレンド登録していいかしら?」

 

「是が非でも。今後ともよろしくお願いします」

 

「「私達ともお願いします!」」

 

フレンド登録をしたら皆で俺の日本家屋に来てもらい、寛いでいたルルカに尋ねた。

 

「ルルカ、女ヶ島って知っている?」

 

「勿論知っております! ですが、あそこは特殊な場所で海を渡って行かないと駄目な上に、地図がないと行くにも行けませんよ?」

 

六枚分の地図を出すとルルカは受け取りテーブルの上に広げる。そしてパズルのように断片的な絵をくっつける。

 

「地図を揃えていたとはさすがです! 女ヶ島は―――この海域にありますよ!」

 

とルルカが解明してくれた女ヶ島が存在する海域の場所は―――。

 

 

『プレイヤーが新大陸の一つ【女ヶ島】の場所を明らかになりました。新エリアの解放は数日後です。プレイヤーの皆様、どうぞお楽しみくださいませ』

 

 

アナウンスが全プレイヤーに告知した。数日後に解放? まだ入ることも出来ないエリア? まさか実装される新大陸の一部に入っていたなんて驚きだ。

 

「ええ!? 新大陸!?」

 

「これは予想外過ぎる。新大陸の島の在り処を私達が先に見つけていたなんて」

 

「だけど、実装されたら私達しか知らない島に行けれる。他の人より先に未知の世界の島を見れるのは凄い楽しみ」

 

驚き、唖然、興奮と三者三様の反応を示す三人に対して俺とユイマイは新大陸の実装を楽しみに心待ちした。

 

「新大陸、楽しみだ」

 

「そうですねハーデスさん」

 

「まだ時間があるから。レベル上げも頑張ります!」

 

姉の言葉に妹のユイは同意と頷き、俺自身とオルト達のレベル上げを専念しようと考えた。

・・・・・あら、フレンドコール。

 

『ハーデス君って、性転換しているなんて珍しいね? もしかして目覚めた―――』

 

通信を切った。誰が目覚めたか!? って、また来たし・・・今度は。

 

『ハーデス、経緯を教えてくれないかな。新大陸の情報を求めてるプレイヤーが集まってこっちが知りたいのに!』

 

「私達も新大陸の情報が知りたいぐらいなの。だから教えることが何一つできないの。あ、温泉卵は美味しかったわよ?」

 

『うみゃあああああああ!!! また知らないところで何か見つけちゃってるぅうううっ!!?』

 

煩いので通信を切った。また来たし今度は・・・・・。

 

『ハーデス? あれ、なんで性転換してるの?』

 

「そう言うクエストだったから」

 

『ああ、女性限定的な? だから新大陸の新エリアを見つけたんだ。そこってどんな場所?』

 

「男子禁制の女しか入れない島らしいよ」

 

『あー・・・・・ペイン達が絶対に入れない島なんだね。性転換しない限りはどうしようもないねそれ』

 

そういうこと。だから諦めてもらうしかない。性転換・・・・・いや、出来るアイテムがあるな?

 

『わかった。ペイン達に教えておくよ。じゃーね』

 

彼女との通信が終わり、俺達もパーティを解散。ミュウ達はせっかくの俺のホームにいるのだから畑を見て見たいと言い出すので許可する。

 

「一度来てみたかった、直接見て見たかった白銀さんの畑だー! やっほーいっ!」

 

「私は従魔・・・・・皆とても可愛い。あ、クママたんがいた!」

 

「いいなー。ここでのんびりと寛いでいたい。白銀さん、いいかな」

 

「だったらギルドに入るかいっそのこと」

 

「「「お願いします」」」

 

うん、こうなると思った。三人を放置し、マイとユイも好きに過ごさせてラプラスのところへと赴いた。

 

「ラプラス。あの性転換の薬は大量生産できるか」

 

「できなくはないがどうした。たくさんの幼女を生産するつもりかお前。変な趣味を持っていたとは・・・・・」

 

「違うわ! 女ヶ島ってところは女しか入れないようだから知り合いにも入れるようにしたいだけだわ!」

 

「ああ、そういうことか。にしても女ヶ島の存在を良く知ったな。あそこにはアマゾネスが島を支配しているところだ。男が近づけば女の性奴隷として捕まり、一生島から出られなくなる危険な島であるぞ」

 

・・・・・マジですか? あ、本当にマジなんですか。

 

「だが、幼女ばかり女ヶ島に訪れるのは不審がられる。色欲の悪魔に頼めば性転換してくれるだろう」

 

「色欲の悪魔?」

 

「うむ・・・目に入れたくない姿をしておるが、あれも幹部クラスの悪魔だ。人間を男を女に、女を男に、性別が関係なくなる新人類を生み出す野望があり、その力がある。戦う相手としては実に面倒極まりないから気を付けるがいい」

 

会えもしない悪魔と戦う機会なんてあるのか? その気持ちを口にしてラプラスにぶつければ凄い溜息を吐かれた。

 

「アカーシャに頼めば飛んでやってくるだろうよ。性転換が出来る人間がいると知れば、興味を持たない筈がないからな」

 

「あ、そうですか」

 

「ついでに言うが、気をしっかり持てよ。でなければ対峙しただけで気が持っていかれる」

 

「どんだけ危険人物なんだよ色欲の悪魔って」

 

「魔王軍一の変態であるから仕方がないのだ」

 

変態なんですか、どうなんですか判りたくなかったなそれ・・・・・。



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新大陸へ

 

 

新大陸実装当日―――。メンテナスがまだ残り一時間と迫った時に俺は愕然としていた。それは運営側が提示した新しい情報の告知だ。

 

「あー・・・・・やっぱりこうなったー!! くそー! だから控えていたのにー!」

 

「控えていたってどれぐらい?」

 

「毎戦闘ごと10回以内だ」

 

「うん、これからもいつも通りになるってことね」

 

メンテナンス内容は一部スキルの弱体化とフィールドモンスターのAI強化。

対象となるスキルの名称はゲームの仕様上明かされてはいないため所持している者しか分からない。

そしてさらに残り一つ変わったことがある。

それは。

 

装備同士の融合成功率も修正された。まぁ、簡単に強力な装備に強化してしまうのは今後のプレイに影響してしまう可能性がないわけじゃないからしょうがないとして。

問題はスキルの方だ。

 

「まあ・・・目立ち過ぎればよくあることかな」

 

燕がドンマイドンマイと肩を叩く。

 

俺に関係する調整は主に一つ。

しかし、燕が言うには遠回しなのも考えれば三つ全てとのことだ。

まずスキル修正では【悪食】が修正された。

 

【悪食】の修正後の能力は一日十回の回数制限が付き、吸収出来るMPが二倍になるというものだ。

 

大盾に【悪食】を付与したメイプルで例えさせてもらえば、常時発動は変わらないため十回攻撃を大盾で受けた後は、闇夜ノ写は唯の大盾になってしまう。吸収できるMPが二倍になっているためある程度の魔力タンクにはなるだろうが弱体化しているのは間違いない。

 

次に、AI強化はモンスターが回り込んで攻撃してくるようになったり、場合により逃走する様になるというものだ。

 

これは俺達の再発防止だろうと燕は俺に話した。どういう意味か分からなくもない俺は溜息を吐いた。

 

「まぁいい・・・まだやりようはある。【絶対防御】のスキルが二度と手に入らないようにできなくしたわけではないからな」

 

「じぁあ参考に訊かせてもらえます?」

 

「簡単な事だ。絶対に逃げないモンスターと戦えばいいだけだ。例えば弱いボス相手にとかな。お勧めは毒竜だ」

 

「あー、なるほど!」

 

「さすがに運営もボスを逃走させるわけにはいかないからね。これはどうしようもないわ」

 

フハハハ、まだまだ詰めが甘いぞ運営ェー!!

 

「ふと毒竜で思ったんだが。瑠海、装備アイテムでデバフ効果が付くものって作れるか?」

 

「何でそんな物を?」

 

「簡単に耐性を進化させるお手頃な方法が出来ないかと思った」

 

「・・・・・なるほど。何かしらの耐性を得ることができる装備か、デバフ攻撃するモンスターを相手にして耐性を得るのが主流になってたけど、装備で敢えてデバフ効果を受けて耐性を得て、進化させる発想はなかったわ」

 

まだログインしてもいないのに生産職の顏になった彼女。

 

「ということで、試作品を作ってくれるか?」

 

「わかったわ! ふふ、楽しくなりそうー! まだ誰も生産していないデバフ装備を始めて作ったのは私だけなら思い切りたくさん作っちゃう!」

 

なお新大陸はやはり船で海を渡らないと行けないらしい。だが、その船を狙う海賊やモンスターとの戦闘は避けられないよう設定されている。そんなことが起きる場所は、予想していたリヴァイアサンレイドをしたあの無人島ではなかった。北の第12エリアだ。新大陸について運営側が記者会見をリアルで開いているらしい。俺たちはテレビの画面に注視する。

 

 

『NWOの新大陸はプレイヤー達にとって本気の戦いと遊び場になる。これから呼称されるようになる現プレイヤーがログインする旧大陸に存在する一部の隠しエリアと同等以上の強さのモンスターが跋扈しており、プレイヤーのスキルも新しい要素が加えられ、これまでとは一線を越えるやり込み感がプレイヤー達を刺激してくれるでしょう』

 

『質問です。新大陸と旧大陸の関係性はありますか?』

 

『あります。旧大陸は謂わば新大陸に向けの「ならし」です』

 

『「ならし」ですか?』

 

『「覇獣ベヒモス」「鳥帝ジズ」「皇蛇リヴァイアサン」のような三体のモンスターを越える最強種のモンスターが七体おります。そして世界の真実を解き明かす歴史や神話があります。これらと向き合うためにはEXクエストを発生させなければなりません。さらには新大陸にいる間、プレイヤーキラーが可能になり、プレイヤーに倒されると所持していた物が全てその場で落とします。当然、プレイヤーを倒した側にもデメリットが付き纏います』

 

『それはプレイヤーの間で問題が起きるのでは?』

 

『NWOはもう一つの現実世界であります。プレイヤーの問題はプレイヤーが解決してもらう方針ですが、過剰であればGMも介入します。その対策の一つとして、全プレイヤーの名前が頭上に表示します。それからプレイヤーを倒すPK行為したプレイヤーは名前の表示が赤くなります』

 

 

 

「だそうだけど、運営は凄いことをしてくれるな」

 

「そうねー。他にも新しい要素がたくさんありそうで楽しみだわ」

 

 

『なお、新大陸と旧大陸は全く別の大陸であるので旧大陸から持ち込めないモノは置いておくしかありません。マイホームや生産職のプレイヤーが利用している畑等が主にです』

 

 

「「えっ!?」」

 

「うわぁ、何となくそうだろうと思ってたけど悩みどころだねん」

 

 

『それでは、新大陸には文字通り一からプレイをする事になるんですね?』

 

『ええ、その通りです。旧大陸にはまだまだ解放されていないクエストや未確認のスキルなど数多くありますから、新大陸に行かず留まってプレイするのもプレイヤー達の意志で決めてもらいます』

 

『イベントの参加はどうなりますか? 旧大陸と新大陸に分かれたプレイヤー達はどちらかしか参加できませんか?』

 

『参加は可能です。しかし、どちらかの大陸に行き来しなければ参加は不可能なので全てのプレイヤーは大移動しなければなりません』

 

 

「大陸間での移動は大変だろ運営・・・・・」

 

「海を渡らないと行けないしその間の時間もかかりそうよね」

 

「新大陸にもホームを買って、旧大陸のホームとトランスポーターで行き来出来ないかな?」

 

出来たら嬉しいなぁ・・・・・。運営側の報告はそれからも続き、重要な報せはしっかりと訊いているとログインができる時間になってきた。

 

「どうする? 第12エリアに進んじゃう?」

 

「うんや、まだいいだろう。俺的にはこのタイミングを待ってた。リヴァイアサンレイドをしたあのエリアから南極を探してみたい」

 

「そっか、新大陸は一つだけとは限らないものね」

 

「うん、そうだ。だから水瓏でしばらく長旅をする。イズ、船の用意を頼む」

 

「わかったわ」

 

 

と―――話し合いながらログインし、イズと合流すると海人族が居るようになった無人島にあるドックへ向かい、青いパネルを操作する彼女が懐かしい水瓏を出してくれた。

 

「今更ながらなんだけど、こんな大型船でもインベントリに入れられるアイテム扱いされてる物か?」

 

「ちょっと違うわ。ほら、あそこ」

 

イズが指す方へ目を向ける。イベント中は何も直していなかった建物が新築に様変わりしていた。

 

「プレイヤーが作った船はあの中に保管できるようになっているのよ。今のところ私達【蒼龍の聖剣】だけ使用しているけど」

 

「そうだったのか。それは知らなかったな」

 

「素材を集めて一から作るとどうなるか、教えたから自前の船を持つプレイヤーが今後増えると思うわ」

 

イズの言葉に首肯する。水瓏に乗り込みサイナを召喚して彼女に船を動かすよう頼むと俺は自分の眼で船内の確認をしていく。

 

「素材全部で4000個分の船は二回り大きいな」

 

「ハーデスの要望通り潜水している時、海中の様子が判るようにしているわよ」

 

「ありがとう。新大陸実装に備えて、広い海中で新しい発見が出来そうだからな」

 

「生産用の素材アイテムが確保できるなら私達も万々歳だわ」

 

イズの案内で船内の構造が判明していく。ログイン・ログアウトできる個室と大広間。百人以上のプレイヤーに料理の提供ができる食堂と厨房。航海中に暇にならないよう遊具も備わってあって、何故かバーもあった。浴場も完備だ。船底では従魔達が退屈させないための解放された空間になっている。水晶だらけの空間ではなく緑の植物も育てられている。船の中で畑が耕せるなんてオルト達は嬉しそうだ。船底から二階のある部屋じゃあ水精霊のウンディーネ達専用の水場。流れるプールを中心に滑り台もありました! 波の出るプールや水場の遊具がたくさんあってプレイヤーも遊べちゃうらしいぞ!

 

「船なのにここまでできちゃうわけ?」

 

「できちゃったのよねー。だからこの時、セレーネと徹夜で夢中になって頑張っちゃった」

 

頭が上がらない思いになって感謝を込めて深々と頭を下げた。

 

「でも本当に探すつもり? 南極を。新大陸に行った方がいいんじゃない?」

 

「新大陸は商船しか行けれないなら俺は何時でもいいさ。それにこの船を手に入れた瞬間から行ってみたかったし、今探さないと何時探しに行くんだって話だ」

 

「一朝一夕で見つかる場所じゃないと思うわよ?」

 

「ふふん、百も承知だ! そんな俺に付き添ってくれるイズも優しいじゃんか」

 

そう聞くとイズは照れだした。

 

「だって、あなたと二人きりになれる機会だし一緒に居たかったから」

 

「・・・・・」

 

嬉しいことを言ってくれるイズを慣れた手つきで、お姫様抱っこして歩き始める。最初は驚いた彼女も直ぐに俺に身をゆだねて大人しく抱えられる。操縦しているサイナ以外、俺達しかいないため何時しか『そういう』雰囲気になった俺達は誰も知られない内に―――互いの想いが重なったことで結婚した。

 

ゲーム内で一週間。

 

南極へを目指す水瓏は寒い気候の海域に突入を果たした。サイナに呼ばれ艦橋から見えてくるのは白銀の世界の大地―――。

 

 

≪プレイヤーが新大陸の未開拓地【南極】に辿り着きました≫

 

≪最初に未開拓地【南極】を最初に訪れたプレイヤーに称号『南極海の海拓者』を授与します》

 

『初めて【南極】に辿り着いた死神・ハーデス様には、初回ボーナスとしてランダムボックスを贈呈いたします』

 

≪全プレイヤーに新大陸【南極】の位置を公開しますか? YES NO ≫

 

勿論YESをした。水瓏だから一週間も掛かったんだが、他の船ではそれ以上の時間になるかもしれないけど来たい奴は来るだろう。

 

「よーし、サイナ。俺は船から降りるぞ! 他の皆が来たら外へ案内してくれ!」

 

「了解しました」

 

ふははは! すでに他の新大陸に辿り着いているプレイヤー達よ、こっちはこっちで俺が一番乗りだぜ!!

そーれ、白銀の世界にダーイブ!

 

ぼふっ!

 

おおー、ふかふかの雪で冷たさが再現されているー! メダル争奪戦以来の雪の場所だ! つめてぇー!

 

「・・・・うん? 案の定の連絡だな」

 

しかも数が多い。一斉に通信状態にすれば相手はギルドメンバーばかりだった。

 

『ハーデス君 南極に辿り着いたかなー?』

 

「おー、ようやく辿り着いたぜ! 見渡す限りの白銀の世界! まだ何も見つけていないがこれから探索しに行くところだ」

 

『船で行かないと辿り着けない場所だよね?』

 

「俺の船、もとい【蒼龍の聖剣】の船である水瓏はホーム型だ。トランスポーターを介してくれば南極に停泊している水瓏の中に来れるぞ」

 

『おおー! マジっすかっ!? それじゃ今から俺も南極に行きます!』

 

『南極のモフモフや可愛いモンスターをゲットしてみせるわー!』

 

『【蒼龍の聖剣】が新大陸を全て攻略してみせるぜー!』

 

『でも、移動が大変そうだからスキーとかスノーボード、スノーシューズが必要じゃない?』

 

それもそうだな。俺は空飛べることができるから不便な足場は無視できるからいいとして。

 

「それと回復用のアイテムをたくさん持って来た方がいいぞ。ここ、スリップダメージが発生して現在HPと満腹度が一分過ぎれば10も減るわ、状態異常:氷結(小)になる。【AGI】が地味に減少するっぽい。専用の装備が必要になるな」

 

『うわ、それはキツイ。南極もそうなら北極もそうだよな』

 

『氷の耐性が付くまで耐えるしかないか』

 

『ギルマスー、更なる情報をお願いしますねー』

 

りょうかーい、と言って全ての通信を切った次はホットドリンクとポーションを飲んで、寒さ対策とHP回復してから配信動画ー。

 

「死神の宴を始めるぞー! 皆集まれー!」

 

 

『いえーい!』

 

『待ってましたー!』

 

『不定期に始まるこの宴は全裸で待ち構え続けないと見逃してしまう』

 

 

「いま南極にいるから全裸でいると凍死するぞー」

 

 

『南極!? さっきアナウンスを聞いたけど本当に実在していたとは!!』

 

『そこに何がありますかー?』

 

『めちゃんこ寒そう・・・・・』

 

 

「実際に寒い! HPと満腹度に【AGI】が減少する! プレイヤーとモンスターよりも極寒の大自然が脅威! まだ何も発見していないから皆で発見したいと思いまーす!」

 

 

『情報提供感謝』

 

『見たいモンスターは定番のペンギンとシロクマとアザラシ』

 

『シャチとクジラもいるかなー?』

 

『海洋生物はテイムできるのか?』

 

『出来ないモンスターは神獣ぐらいだろ』

 

 

「それじゃ、話はそこまでにして歩いてみたいと思う。しゅっぱーつ! 【覇獣】!」

 

 

ベヒモスとなって白銀の大地を宛てもなく爆走する。山もなければ谷もない、待ったいらな白銀の地平線が続く最中、数キロぐらいか? 走っていると途中で足場を失った。というよりも俺は雪で隠された落とし穴を踏み抜いたようで垂直に落ちてしまった。ただし、単純に落ちるものではなく、氷のロングスライダーに乗って縦横無尽に滑る状況に身を任せるしかなかった。

 

「うぉぉぉぉぉおおおおおおおおお!?」

 

 

『おおおー!?』

 

『目が回る―!!?』

 

『どこに行こうとしているんだー!?』

 

『やばい、凄く体験してみたい!』

 

『わかる』

 

 

途中、氷の滑り道が途切れスポーンと宙に放り出されるも次の滑り道に着地して滑る。

 

ドガンッ! ガガガガガガガッ!!!

 

「うん? なんだ?」

 

何か凄い衝撃音が迫って来てるのを気付いて、カメラを動かして実況してもらった。観ているプレイヤー達の声がすぐに阿鼻叫喚となった。

 

 

『な、なんだありゃあああああ!?』

 

『白銀さんもっとスピードを出せ! なんかのモンスターが口を開けて迫って来てるぞ!?』

 

『生物災害のゲームみたいな展開があるのかよ!』

 

『怖い! 怖い! 怖い!』

 

 

え、マジ? じゃあ【相乗効果】! 【超加速】! 【浮遊】! 滑るよりも飛んで移動する! それでも振り切れないようで、スキルの効果が切れるまで逃げるしかなかった。

 

 

ヴォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオンッ!!!

 

 

「んなっ!?」

 

身体が、硬直した・・・! これ、【咆哮】かっ!? 浮遊していたからだが氷の滑り道に落ちて、転がりながら滑る羽目になってしまい、何かのモンスターに追いつかれてしまうのは道理で、鋭利な何かに突き刺されただけで【覇獣】が解除されてしまい、俺はそのまま出口の先の天井が見えないほど高い空間に放り出された。故にモンスターの全容が明らかになった。

 

背面が白、腹面が白色の身体が全長は100メートル、形状はクジラっぽい。

 

ただし、顔、頭部にヒレの部分は鳥の翼に模した水晶のような雪の結晶が覆っていて、鋭利な刃物と化しているのが窺え鈍器にも扱えそうだ。そしてあのクジラのモンスター、氷の絶壁に挟まれたこの広い空間の中で海の中に入るみたいに泳ぐ如く飛んでいる。そして俺は雪の大地に着地した。

 

「わーお、クジラのモンスターみたいだけどさ。ボスの種類的にどっちなんだろうな?」

 

 

『エリアボス? じゃなさそうだからレイドボスか?』

 

『レイドボスが途中でプレイヤーを襲うか? エリアボスだろ』

 

『仮にエリアボスだとして、今いる場所はどこかに繋がっているエリアなんだな』

 

『迫力ある。シャチとクジラが合体したような感じだな』

 

『レイドボス級のモンスターとして仮定するなら、一人で勝てるはずがない。でも頑張って欲しい』

 

 

オーケー、俺、頑張る。とフェルを召喚しながら意気込む俺に対してクジラの方は・・・・・舞うようにゆっくりと地上に降りながらその巨体を活かして突っ込んできた。・・・・・ん?

 

「こいつHPが表示されていない!」

 

 

『あっ・・・(察し)』

 

『じゃあ、どうやっても倒せないですねソレ』

 

『一方的な理不尽による戦いの果てに何があるんでしょうかねぇ』

 

『死に戻り確定』

 

『だ、大丈夫だよ!? きっとこの後はいつものように白銀さんがやらかしてくれるはず!』

 

 

何をやらかすってんだこの状況で?

 

 

ヴォオオオオオオオオオオオオオオオオオオンッ!!!

 

 

だぁー!! また強制停止のスキルを使われたぁ!! あ、待って? そんな大きな口を開けて呑み込もうとしても俺は竜涎香にもならないってー!!?

 

「・・・・・あ、死んだ」

 

 

『お疲れ様ー!』

 

『でも、直ぐには死なないんじゃ?』

 

『内側から生のクジラ肉を食べられるって?』

 

『クジラ肉、美味しそう?』

 

 

呑気に言う視聴者のコメント欄を最後に見た瞬間。俺の目の前が真っ暗になり意識が一瞬途切れた。

 

―――否ァッ!

 

間一髪のところ、フェルに銜えられクジラから回避! その後すぐに俺の硬直化が解けて触り心地抜群な背中に乗らせてもらいつつクジラと距離を置く。

 

「逃げる! 出口を探してくれ!」

 

「グルルッ」

 

地面は雪と見え隠れしている石。壁は水晶のように透明な氷の壁。こんな場所に脱出口があるのかわからないが、とにかく探すしかない。

 

「フレイヤ召喚!」

 

飛べる猫も協力してもらおうとしたが、俺の予想を反する行動に出やがった。

 

『にゃあああー!? ご主人、アレは怖いぃー! おいら逃げさせてもらうにゃー!』

 

は? 何言ってんだお前? 主人を放って逃げ出そうとする猫の二股の尾を掴んで引き戻した。

 

「オイコラ、冥界最強がなにビビってんだ。しかも主人を見捨てるとはいい度胸してるじゃないか」

 

『勘弁してくれにゃー!? ご主人にはわからないにゃ!? アレは、聖獣の一種だにゃん!』

 

「聖獣?」

 

『魔獣と対なる存在が聖獣にゃん! アレは獣じゃないけど聖に属する存在! いくら冥界最強のおいらでも敵わない敵がいるにゃん!』

 

フレイヤの言い分を聞き、後ろに振り返る。おっと? 頭部か額かその辺りから極太の一本の角が、発光しながら生やしたではございませんか。あの角でベヒモス状態の時の俺を突き刺したのか。で、その角先が俺達を狙って・・・・・。

 

「聖獣って魔獣を許さない系?」

 

『おいらだって相成れないにゃ!』

 

 

―――ドンッ!

 

 

フェルが躱した場所に突っ込んだクジラが、角を自身を超える巨大にすると地面の中に沈んだ。いや、潜った?

 

・・・・・ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴッ。

 

「・・・・・もしかしなくとも」

 

『突っ込んでくるニャ』

 

言われずともフェルはわかっておらっしゃる様子で、走っている途中で一気に跳躍した矢先に地面からクジラが飛び出して来た。しかもその後はサメのように無い背びれを代わりに回転する角を見せびらかしながら迫って来る!

 

「とにかくフレイヤには俺達が出られる脱出口を探してきて欲しい!」

 

『そのままトンズラしてもいいかにゃん!』

 

「場所を案内してくれるなら先に行ってよし!」

 

高速で飛び、出口を探しに空へ避難するフレイヤを見送る。そうしている間にクジラはどんどん迫ってきていた。同時にこの洞窟の深奥にまで移動していたのか、壁が見えてきた。

 

「一か八かだ。フェル、ギリギリ誘き寄せて壁に穴を開けてもらうぞ。ぶつかった勢いで外に繋げてくれるかも」

 

「ガウッ」

 

方向転換してクジラへ振り替える。クジラはすぐ目の前だ。地面を削りながら迫ってくる。壁を背にしてタイミングを合わせ・・・・・3、2、1・・・・・。

 

「【念力】! 跳べぇっ!」

 

力強く跳ぶフェルが通り抜けるクジラの背中を越えて着地。穴を掘る音が途中で途絶え、風を切る音が聞こえてきた。気になったからクジラが通ってできた長い空洞の中を進み、周囲を警戒しつつ出口に向かえば外と繋がっていたのだった。それにここから見渡す限りの白銀の大地―――。白い球状が幾つも縦に積み重なった不思議なオブジェクトがある場所に出られた。

 

「んー? どの辺りに出たんだ? 取り敢えず、地中から抜け出したようなのは確かだが」

 

完全に迷子な俺はフェルに訊く。

 

「モンスターとかいる?」

 

「・・・・・」

 

前に進むフェルが徐に雪玉のオブジェクトへ近寄り前脚で強く押した時だった。地面に落ちた雪玉がモゾモゾと蠢き、真っ白な球に円らな黒い瞳が開いてこっちを見上げて来るじゃないか。これがモンスター? 優しく添えるよう両手で二匹の玉状のモンスターを持ち上げるとわかった。短い胸鰭と尾鰭が一生懸命動かす仕草にほっこり。鑑定すれば『タマアザラシ』というモンスターらしい。

 

「「アーッ、アーッ、アーッ」」

 

「可愛い」

 

 

『可愛い』

 

『可愛い』

 

『可愛い』

 

『可愛い』

 

『超かわいい』

 

『超絶可愛い』

 

 

視聴者のコメントが可愛いの流れで画面が埋め尽くされていく。気持ちは分からなくないぞお前らと思っていると、一際高く鳴いたタマアザラシ。それに呼応して雪玉のオブジェクトや周囲の地面からタマアザラシがポコポコと姿を見せると何故かこっちに飛びついてきた。あ、これは・・・・・。

 

「ヒムカ召喚!」

 

「ヒム? ヒムー!?」

 

タマアザラシに群がられ、俺を中心に白いモコモコの塊が出来上がっていると思うだろう。しかし中心にいるからこそ、タマアザラシのひんやりとした冷たさが何倍にも増え、俺の身体も冷えるどころか凍結してしまったのだ。

 

後に召喚したヒムカに凍結した身体を融かしてくれて助かった。

 

「なるほど、ミツバチで言う蜂球って集団攻撃を受けるんだな」

 

 

『何それ?』

 

『一匹のオオスズメバチに対して数十匹のミツバチが球状に群がって、自身の体温を高めて中心にいるオオスズメバチを熱で殺すことを蜂球と言うんだ』

 

『へぇー×6』

 

『へぇー×2』

 

『ヘェー×4』

 

『ちなみに、アザラシにおしくらまんじゅうされた感想は?』

 

 

「耐性を高めてからもう一度されたい」

 

 

『ところでテイムをしなかったのは?』

 

 

「新大陸で一週間、モンスターを攻撃しないで過ごしたらどうなるかなと思っていまして。だから攻撃もしないし倒さずに南極の全てを見つける方針だ」

 

 

『えー? そんなことしたら出遅れるぞ?』

 

『せっかくスタートダッシュの状態で誰よりも早く情報を独占できるのに』

 

『勿体ない』

 

『無欲な人やなぁ』

 

 

「情報の独占? なにそれ? この配信を見てる時点で独占できると? してほしいなら今日はここまでにするけどいい?」

 

 

『あっ、ハイ。情報提供心からありがとうございます』

 

『楽しいことは皆にも分かち合わないとね!?』

 

『でも、出遅れるのは本当。いいの?』

 

 

「出遅れることで称号とか貰えるからいいんだよ」

 

 

『あっ、確信犯だ! 何かの称号を持ってるぞこの人!?』

 

『もしかして、第3エリアから先に進んでいなかった時期があったのは・・・・・』

 

 

「いや、それは単純に称号とは関係ない。初期の頃はのんびりと楽しんでいただけだし」

 

 

『一ヵ月以上も第3エリアすら進んでいなかったのにのんびり過ぎるのでは?』

 

『その間に白銀さんは色々な新発見をして来たんだから、濃密なゲームプレイをしていたのも事実だよ』

 

『出遅れテイマー・・・出遅れ重戦士?』

 

 

どうでもいいと思う



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南極大陸1

 

 

 

♪雪やこんこ あられやこんこ♪

 

 

全てのモンスターを発見する勢いで南極大陸を駆けるフェルに跨って移動する。

 

 

♪降っては降っては ずんずん積もる♪

 

 

一週間かけてモンスターを探し出し、見つけ出す。

 

 

♪山も野原も わたぼうしかぶり♪

 

 

モンスターからの攻撃を受けて耐性を身に着けていく。

 

 

♪枯木残らず 花が咲く♪

 

 

不思議なオブジェクトもその道中にいくつか発見する。遠目で氷の城の造形物だ。確かめたいところだが、今は後回しだ。

 

 

♪雪やこんこ あられやこんこ♪

 

 

山を見つけたので登山したら大きな丸太に乗って滑る巨大な兎の群れとバッタリ遭遇。それから逃げると雪崩にも追われる羽目になっている。でも、雪に埋もれてしまった。

 

 

♪降っても降っても まだ降りやまぬ♪

 

 

雪崩に巻き込まれてしまったものの、何とか脱出。子供の兎のモンスターが雪に埋もれてしまった親を助けようと必死に掘り返している姿に、俺達も手伝った。

 

 

♪犬は喜び 庭かけまわり♪

 

 

埋もれていた親兎のモンスターを助けた。すると、助けてくれた礼なのか俺を背中に乗せるとどこかへ連れて行ってくれた。

 

 

♪猫はこたつで丸くなる♪

 

 

ドラム缶のような大きな山と人間が住んでいる町を見下ろせる場所に連れて行ってくれた兎のモンスターの親子と別れ、一週間目で新大陸に着いてから初めて町に辿り着く前に、まだ発見したことがない真っ白なリスを見つけた瞬間。

 

 

『おめでとうございます。初めて新大陸に到着してから一定のモンスターを発見、一週間プレイした死神・ハーデス様に称号と報酬をプレゼントいたします』

 

 

称号:南極大陸の観察者

 

取得条件 一週間以内にモンスターを攻撃せず一定のモンスターを発見

 

効果:一度見たモンスターの詳細が鑑定と判別できる

 

 

・・・・・? 詳細が鑑定と判別できる?

 

 

『白銀さん、目的達成しましたか?』

 

『何か貰えた?』

 

『とっても気になりますなー』

 

 

視聴者からの質問に今得た称号の詳細を説明する。

 

 

『一度見たモンスターの詳細が?』

 

『これ以上、モンスターの何がわかるんだ? 弱点?』

 

『それはそれで便利。弱点を看破できるなら戦闘が楽だわ』

 

『実際のところ、どんな感じ?』

 

 

「今調べてる。・・・・・ああ、これ。テイマーとサモナーの福音だわ。モンスター図鑑でモンスターの棲息している場所がマップで確認出来たり、目の前にいるそのモンスターの能力値とスキル、性格と親密度までわかってしまう」

 

 

『素直にそれは凄い!?』

 

『称号の効果でモンスターの内面を丸裸に?』

 

『というか、モンスターの生息地が判るなら俺も欲しい称号だよ!!』

 

『確かに。白銀さんの従魔を見つけやすくなるってもんだ』

 

『決めた、南極に向かう! 【南極大陸の観察者】の称号ゲットだぜ!』

 

『白銀さんがやらかすことを信じてギルドメンバーと南極大陸に向かっているけど、まだまだ着くまで時間が掛かりそうだわ』

 

 

「そっか。ガンバレー。俺は町で温かい飲み物でも飲んで寛いでいる」

 

 

『クッソ裏山!』

 

『そう言えば白銀さんのギルドメンバーはどうしてる?』

 

 

「さぁ? この町にいないならまだ辿り着いてもいなさそうだ。そもそも今までフェンリルの速度で移動していたんだから、一週間でこの町か他の町に辿り着くとは思えないし」

 

 

『それもそうか。白銀の先駆者の称号の所有者は伊逹じゃないな』

 

『今後の予定はー?』

 

 

「目標は一応達成したから死神の宴はこれにて終了! また今度宴を開くまで待っててくれ」

 

 

『わかりましたー。こっちはこっちで南極のモンスターが見れてよかった』

 

『絶対にタマアザラシを捕まえてやるんだから!』

 

『俺的には最後に見た白いリスが・・・・・』

 

『お疲れ様でしたー』

 

『次回の宴を待ってまーす!』

 

 

動画配信を停止してこの町の畑に足を運ぶ。マイホームも買えないかな? 雪道をザクザクと歩き見掛けたNPCに声を掛けようものなら。―――全員悲鳴を上げて逃げられてしまう始末。そうだ、俺は恐怖の大魔王だった!?

 

「・・・・・チクショウッ」

 

背に腹は代えられぬ! 建物の路地裏に潜って幼女になるスキルを使った。くそぅ、何で幼女にならないとNPCと会話ができないんだよ(泣)。

 

「畑ならこの先をまっすぐ進んで手前の右の曲がり角に行けばあるわよ」

 

「・・・ありがとう」

 

場所を聞き出して畑がある場所へ向かい、畑を管理しているNPCから畑をたくさん購入した。それからこの町でしか買えず育てられない作物を早速買った。

 

「おじさん。他にも畑で育てられる作物って何か知らない?」

 

「寒さに強い作物なら、ランクを上げていけばもっと種類が増やせて買えるようなるぞ」

 

「じゃあ、この町にとって珍しい作物の話は知らない?」

 

「知らねぇな。仮にあったとしてもモンスターがいる村の外だ。狩猟の連中なら何か知ってると思うぜ」

 

狩猟か・・・・・そのNPCの居場所を教えてもらい、尋ねに行く前に色んなNPCのクエストをこなしてみよう。何かの発見がありそうだ。

 

 

イッチョウside

 

 

先に町に辿り着いた彼の後を続くように【蒼龍の聖剣】の私達も、水瓏を介して新大陸『南極』の地に足跡を残して進んでいた。誘ったサリーちゃんとメイプルちゃん、イカルちゃんと最初はひたすら歩くだけで何もなかったけれど、彼が残した巨大な足跡は一時間経ってもハッキリと残っているから・・・・・。

 

「ここだね?」

 

雪だらけの大地を歩き続けて私以外の人達も足跡が途切れた、洞窟があるかもしれない場所に集まっていた。でも、その肝心の洞窟が見当たらない。ゲームのシステムで穴が塞がれたのかな?

 

「この辺だよな。白銀さんが落ちたのって」

 

「魔法で雪を融かしても全然穴が見つからないわ」

 

「もうちょっと進んだ先だったり?」

 

「白銀さんが残した足跡はここまでしかなかったんだから、この辺りの筈だ」

 

【蒼龍の聖剣】の皆もハーデス君が通った道に進んでみたいらしい。でも、その道が途絶えているから悩んでいる様子。私達よりも早く来ていただろうペイン達もいる。

 

「うん? あ、丁度いいところに来たかも!」

 

「フレデリカ?」

 

「イカルにこの辺りを吹き飛ばしてもらおうよ! 爆裂魔法で!」

 

そう言って私達のところに来るフレデリカの言葉に他の皆が一斉にこっちを見て来る。雪を吹き飛ばす発想はなかったなぁー。

 

「ペイン、どう思う?」

 

「悪くないと思うよ。それでもダメならフレデリカと俺も活路を拓こう」

 

「だな。任せるぜ」

 

場の雰囲気的にそうする感じになってしまい、本人の気持ちを確認したうえで行った。

 

「えっと、いきます! 【エクスプロージョン】!!」

 

彼女が放った爆裂魔法が炸裂。イカルちゃんの背後から窺える吹き飛んだ消失した雪の代わりに、大きく窪んだ空洞の口が。その発見と同時に歓喜の声が湧いた。

 

「おおっ、本当にあった!!」

 

「イカルちゃん、ナイス! よくやった!」

 

「よし、これで俺達も行けるぞ!」

 

最初に見つけた功労者としてイカルちゃんから滑ってもらう意見が一致した。なので、皆より先に私達が氷のロングスライダーを体験させてもらった。その最中に後ろを振り返れば他の皆も続々と滑ってきている。

一生に一度でも体験できない氷の滑り台で滑る私達はこの瞬間、凄く楽しんでいる。でも―――!!

 

 

ヴォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオンッ!!!

 

 

あ、あれー!? なんで前から来るのこのクジラはぁー!? ハーデス君の時で何か学んだの!?

 

「ちょっ!? クジラが目の前にぃー!!」

 

「嘘だろなんで!?」

 

「く、喰われるー!!」

 

阿鼻叫喚の悲鳴が上がるも虚しく、私達は巨大な口の中に吸い込まれる以外の運命に抗えなかったのだった。

 

EXクエスト【南極海の騒乱】

 

でも、暗い中で突然浮かんだ青いプレートに私は目を丸くした。え・・・EXクエスト? 取り敢えず受けるしか選択肢がないから受けたんだけど・・・・・。

 

 

『ランダムにより選出された特殊アバターでプレイしていただきます。EXクエストが終わるまで元のアバターに戻れません』

 

 

「・・・・・ええ?」

 

そのアナウンスが聞こえた後・・・・・私はその特殊アバターとやら・・・・・なんでかカニの姿になっていた。

 

「な、なんでぇえええええええええええええええええっっっ!?」

 

 

 

 

「うん?」

 

イッチョウの悲鳴が聞こえたような・・・・・気のせいか。

 

「ムー?」

 

「何でもないよオルト」

 

お使いクエストに集中しないとな。・・・・・よし、クエスト終了。

 

「待ちなさい」

 

「え?」

 

「小さな女の子がそんな恰好で歩いてはならない。温かい服を着なさい」

 

「でも、これしかないけど」

 

洋服店に届けるお使いクエストを終えた直後にNPCから注意された。寒さに対する耐性もここに来るまで上がったから寒くはないんだが。魔王の称号を得てから「自分の無害さをアピールするには?」と密かに考えた結論から、初期装備で行動してみようと思い至ったんだけど。

 

「・・・・・ちょっと待っていなさい」

 

そう言われて待つとNPCから防寒着のアイテムを貰ってしまった。凄い、モコモコだー! それに少しだけどスリップダメージも減って寒さの耐性も上がるのか!

 

「いいの?」

 

「ああ、キミみたいな幼い子供はこの町では珍しいからね」

 

珍しい? どういうことなのかキョトンと小首をかしげる俺を、洋服店のおじさんNPCがある方向に目を向けた。

 

「・・・あそこに城がある大きな山が見えるだろう」

 

ドラム缶みたいな山のことか。

 

「あの城には魔女が住んでいるんだ」

 

「魔女?」

 

「ああ、あの山に元々城はなかったんだがいつの間にか城があってな。城へ行くにしてもその方法と手段が探しても見つからないのに、魔女だけはこの町と他の町への行き来が出来るんだ。トナカイが引くソリに乗ってな」

 

ほうほう? 中々興味深いですな・・・・・。

 

「病気になった子供がいるとすれば魔女が城へ連れ去ってしまうんだ。それから二度と城から子供が戻ったことは一度もない。だから、成長するまで子供は外に出さない暗黙のルールが出来てしまったんだ」

 

子供に関係する謎めいた話か。これ、子供じゃないと聞けない話なのでは?

 

「温かい服を着ていないキミも魔女に連れ去られると思うと忍びない。城に連れ去られた子供達が今どうなっているのかそれを知る術もない。だから、キミも身体を大事にしなさい」

 

「うん、ありがとう!」

 

やはりNPCとの交流は大切だな。・・・・・幼女にならないと話がままならないのは極めて遺憾だけどな! でも、この町でやることが出来たな。魔女の城に行く目標がな。

 

でもその前に―――。マイホームの購入だ! フェルの背中に乗って不動産屋ではないけど、この町で家を管理しているNPCへ尋ねに赴いた。

 

「すみませーん。家を買いに来ましたー」

 

NPCに話しかけ、新大陸初の一番いいマイホームが購入できた。大きな畑と庭付きの合掌屋根の家だ。炭火で燃える囲炉裏の前でフェルとのんびりと寛いでいる俺は、ふーかお手製の肉料理を出してやった。器用に銜えて美味しそうに食べて喜ぶ従魔を見てふと気になった。フェルの親密度はどれぐらいなのか? と―――。思い至ったら吉、ということで確認した結果。

 

 

親密度110

 

 

お、100以上だったのかお前。よーしよし、嬉しいぞお前。もっと食べろ食べろ。これからもよろしくな相棒。

 

 

・・・・・。・・・・・。・・・・・。

 

・・・・・。・・・・・。

 

・・・・・。

 

 

新大陸に来て初めてイッチョウから連絡が入った。

 

「どうした。もう着いたか?」

 

『迎えに来てよハーデス君! って、女の子の声だけど性転換してるの?』

 

「え、まだ国に着いてすらいないのか? 後者に関しては聞かないでくれ。それで迎えに行く理由とは?」

 

『ハーデス君が滑って氷の道から向かってたらクジラに食べられて、今の今までずっとEXクエストをしていたんだよ・・・・・!』

 

「EXクエスト? ちょっと詳しく」

 

『話を聞きたいなら今すぐ迎えに来てくれない? クエストが終わらしたらしたで、ハーデス君がクジラに追いかけられてた場所にいるんだけど、出口が見当たらないんだよん』

 

「あの場所か・・・・・迎えには行くが、氷の壁を破壊してみたらどうだ?」

 

『わかった。やってみるよ』

 

クジラに食べられてたらクエストしてたって、何をしていたんだイッチョウ達は? にしてもフェルと一緒に皆がいるところへ戻る形に向かうことになったな。

 

―――数時間後。

 

タマアザラシの生息地を基にあの場所へ直行した俺だったが、辿り着くとクジラが開けた穴は完璧に塞がっていた。そりゃあいつまでも空いたままではないだろうがどうしようか? 【悪食】で触れようと凹ませるだけで貫通は出来ない。【エクスプロージョン】も似たような結果だ。ではどうする?

 

「【相乗効果】【溶岩魔人】【金炎の衣】【エクスプロージョン】」

 

 

フレデリカside

 

 

「クッソ硬いっ!!!」

 

「【STR】が低いからか、それともピッケルが品質低いからか?」

 

「イズさんとセレーネさんはどっちも高いからか掘れてはいるけど、全然進んでいないな」

 

「壁からアイテムが採れる度に喜んでるけれどな」

 

出口がない場所で閉じ込められた私達はハーデスからの助言で氷壁を破壊しているけれど、そう簡単に外へ出られるほど薄くなかった。最後の手段としてペインの奥義で壁をぶち抜くしかない。その前にハーデスが迎えに来てくれるのだから多分、何とかしてくれると思うんだよね。

 

「せっかくあのクエストをクリアできたのに、先へ進めれないのは嫌だね」

 

「まったくだ」

 

そんな話が聞こえてくる。本当にあのクエストは大変だった。ハーデスが悔しがる以上顔を見れるならこっちは優越感が湧くかもしれない。でも、どんな顔をするのか実際に見て見たいね。

 

「―――おい、氷の奥が赤くなってないか?」

 

「本当だわ。と言うことは・・・・・」

 

「全員、距離を置け! 白銀さんが突破しようとして来るぞ!!」

 

異変が起きた。氷壁の傍にいた仲間が急いで離れると壁が震動の音を立てるようになった。ハーデス、一体外から何をしているの?

 

ドッガァアアアアアアアアアアンッ!!

 

氷壁が大爆発しながら蒸発した! 融けた氷壁の奥から現れて私達を見下ろすラヴァ・ゴーレムの中心に幼女のハーデスが浮かんでいた。実に一週間ぶりの再会で皆は歓声に沸いた。

 

「幼女だー!?」

 

「幼女の白銀さん!」

 

「白銀さん、サンキュー!」

 

「これで外に出られるぜー!」

 

「この先にタマアザラシちゃんがいるのね!?」

 

「待ってて新規のモンスター達!!」

 

我先へとハーデスが融かして出来た道へ駆ける仲間達を視界に入れながらハーデスに近づく。

 

「よく溶岩で氷を融かせたな?」

 

「一応、何でも融かせるからな。出来ると思ったんだ」

 

「助かったよハーデス君。助けたついでに国まで案内してくれるかな?」

 

「悪いが俺は水瓏を回収しに行く。案内はフェルに頼んでくれるか? 船が無きゃこの大陸に放置したままになるからな」

 

確かに。あそこに船が置いたままだったら、また遠いところからこなくてはならないよね。ハーデスのフェンリルが遅れて現れて私達の傍に佇む。

 

「国までどれくらいで着くんだ?」

 

「フェルの背中に乗ってだと数時間だったな。そうでなきゃ多分一日だ。まあ、船を回収したら皆のところに戻って乗せて運ぶさ」

 

「その方が確かに早いわね。じゃあ、お願いするわハーデス」

 

「お願いね?」

 

ハーデスは頷いて私達と外へ出ると別行動を取った。私達は私達で、初めてみるモンスターとの戦闘を何度も繰り広げて―――。

 

「ちょ、待って? ここのモンスター強過ぎない!?」

 

「武器が凍った!! え、封印!?」

 

「皆避けろ、雪ゴリラが雪玉を投げて来るー!」

 

「うわぁー!? 大量のマンモスの群れが突っ込んでくるぅー!?」

 

「あの再来がここでくるのかよ!?」

 

何度も苦戦を強いられた。ハーデス、出来れば一緒に来てほしかったかな! あ、水瓏が飛んできた!! そこからハーデスが飛び降りて来て、ベヒモスに変身するとマンモスの群れに突っ込んで大きく跳ね返す!

 

「マンモスの肉ゲットー!」

 

「「「あっ!?」」」

 

今反応したのは料理系のプレイヤーだよね? ハーデスが倒したマンモスからドロップしたアイテムが肉だとわかると、目の色を変えた一部のプレイヤーが他のマンモスのモンスターに襲い掛かった。中にはテイマーがテイムを試みている。できるのかな?

 

「おっしゃー! マンモスゲットだぜー!」

 

「「「おおおー!!!」」」

 

あ、出来たみたい。ゾウ並みに大きいから騎乗してゆっくりと移動できそうだよね。水瓏が降下して私達は一度、船に乗り込んだ。ハーデスが先に着いた国まで向かうから。その間にハーデスが独自で調べた南極大陸の地図が公開されて、どこにどんなモンスターが生息しているのか、どんな場所があるのか教えてくれた。

 

「で、今度は俺から質問なんだが・・・EXクエスト、どうだった?」

 

と言うハーデスに私達は打ち合わせたわけでもないのに挙手をした。多分、ハーデスに自慢したいからだと思うね。そうしてお互いの情報を好感している間に南極の国に着いた私達は、各々探検をする。中には後で海中に潜るという猛者がいた。その中には当然のようにハーデスがいたんだけどね。



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南極大陸2

 

 

水瓏を南極大陸にある国の船着き場に置いた俺は【蒼龍の聖剣】の皆ともう一度国に戻った。ペイン達は早速NPCへ話しかけに行ったり町中を散策していく中、俺は―――寒中水泳を臨んだ。是非ともできるならテイムしたいモンスターがいるなら探すためだ。

 

「そう言うことだから、よろしくなペルカとルフレーズ」

 

「ペン!」

 

「「「「「フム!」」」」」

 

「ペルカとルフレは俺と行動だ。お前達は散らばって食材や他のモンスターを見つけてくれ。見つけたら俺に教えに来てくれ」

 

「「「「フム!」」」」

 

やる気を示してくれる六人と共に、いざ海へ飛び込んだ。うはっ、マイナス温度の海は冷たいぃー!! だというのにうちの従魔は冷たさを感じない元気な姿を見せてくれるな。さーて、もっと沖の方へ移動しないと会えないだろうな。国が見えない所までどんどん泳ぎ、海底遊泳していれば様々な生物やモンスターと出会えた。お、あれは桜のチェーンクエストで戦ったクリオネさんではないか。でもちっこい! よし、あれはゲット!

 

数分後―――。

 

「クリ~♪」

 

一番優秀なユニーククリオネを探し続けて、拘って選んだのをテイムに成功した。そして意外なことにこのクリオネさん・・・種族は(幼)天使なのだ。リアルのクリオネと同一させたか運営よ。お、あそこにもユニークのクリオネが・・・・・。ゲット!

 

「ペンペーン♪」

 

「フム~!」

 

おーおー、はしゃいじゃって。やっぱり広く泳げる場所は嬉しいんだろうな。

 

「フムー!」

 

お、一人のウンディーネが戻ってきた。モンスターを見つけてくれたのかな? 案内してもらうと結構泳いだ先には広く蠢く赤がいた。あ、あれはっ・・・・・!? 地底湖にもいたが、レア度が凌駕しているカニさんではないですか! しかも・・・・・

 

「た、大漁―――!」

 

是非ともたくさん収穫したい! いや、する! 他のウンディーネが来るまで乱獲祭だ!

 

 

南極ガニ

 

品質☆8 レア度9

 

 

全てのカニの王様。その身が美味であれば、宝石のような輝きを放つ強硬な甲羅は外敵から守り、長く生きた南極ガニは高額で売買される。

 

 

そんなカニ達をルフレが腕一杯に抱えて集めていく。ペルカは一匹だけども、一生懸命集めてくれる。

 

「フムフムー!」

 

また別のウンディーネが何かを見つけ報告をしに来たようだ。カニ漁を中断して遠くまで案内してくれる彼女について行くと・・・・・海底に奈落の底を彷彿させる割れ目があった。どうしてここに連れてきたのか分からないが、きっと何かを見つけたのだろう。

 

「この下か?」

 

「フム!」

 

頷くウンディーネ。そう言うことなら何があるのか確かめないとな。海溝に皆で潜り新発見を臨む。

どんどん潜ると光が差さらなくなる途中で壁際に顔を出す綺麗な青色の結晶を発見した。しかも採掘が可能なのだから無視はできないではないか・・・・・え?

 

 

アポイタカラ

 

品質☆10 レア度10

 

アポイタカラはヒヒイロカネを指すともいわれる鉱石。地上にはヒヒイロカネより出回らないため何時しか人類の記憶から消えた忘れ去られた幻の鉱石。

 

 

「・・・・・マジで?」

 

まさかこんな所で幻の鉱石を見つけられるとは。不壊のツルハシを装備しながら驚嘆する俺は、感激をツルハシに込めながら採掘を始めた・・・よし、アポイタカラゲットだぜ!!

 

「他にもこれがあった?」

 

「フム・・・」

 

見つからないと首を横に振られた。まぁ、そう簡単には見つからない物か。それでもここにあったという情報は凄いラッキーだ。

 

「よし、ペルカ達。他のウンディーネ達を呼んでここに連れて来てくれ。フリムは俺と一緒な」

 

「ペン!」

 

「フム!」

 

「クリ~」

 

この辺りに間があるかもしれないという思いで、もう少し探してみたくなった俺のお願いを、聞き受けてくれたペルカ達は直ぐに行動してくれた。戻ってくるその間、フリムと更に下へと進みながらアポイタカラを探すのだった。その途中―――。

 

 

『称号【ダイビングマスター】を取得しました』

 

 

なんか称号が手に入ったし。・・・潜水している間の泳ぎの速度が速くなる効果付きか。お、アポイタカラみーっけ!! お、これは見たことのない採取できる海草だ。おーこれも畑に育てられるのか?

 

「ペペーン!!」

 

ペルカ達が戻ってきた。でも何でか焦ってるな。こっちに来る従魔達を見つめてると、巨大な影が視界に飛び込んできた。ソレは、南極大陸でお世話になったあのクジラのモンスターだ。

 

 

ヴォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオンッ!!!

 

 

「またお前かぁー!?」

 

口を大きく開けて突っ込んでくるクジラと戦っても意味がない。HPバーが無いなら倒せないんだ。くそ、こうなったら・・・・・。逃げながら探索だ! ここまで来たんだからもっと下へ! 迫るクジラからもう一度逃走劇をしなくてはならなくなった俺達は深海へ目指した。どこまで奥深く潜ろうと追いかけて来るクジラ。これ、いつまでどこまで続くんだ? あのクジラはしつこいな! 喰われたらEXクエストが発生するって聞いたけど、今それどころではないというのに―――!

 

「フム!」

 

ルフレが俺の腕を掴んで深海にはあるはずのない、海中に浮かんでいる神殿に指した。明らかに隠しギミックですね~!

 

「ありがとうルフレ、あそこへ行こう!」

 

「ペン!」

 

さすがにあそこまで入ってこないと思うが、白亜神殿の中には何が待ち構えているかわからない。そうでなくても一難去ってまた一難だろうと倒せないモンスターから逃げ続けるよりはマシだ。もう目と鼻の先まで口を開けて迫るクジラの影に覆われながらも、全力で神殿まで泳ぎ進み、転がる勢いで開けた扉を閉めた直後。激しい衝撃の音が響いたものの、壊れることはなかったからクジラの追撃が止んだ事に深い溜め息を吐いた。

 

「疲れる・・・・・それにしてもここは?」

 

外見は白亜の神殿だった。中の方は大理石で敷き詰めた床と空色の大きな玉が浮かんでる台座のみ。

 

「ペペン?」

 

「クリー」

 

「フムー?」

 

ルフレ達もここが気になっている様子だ。他に何もないようだが、すごく怪しい。

 

「抜いたら戦闘モードになるかな」

 

玉を触れろもばかり、そこにある玉。逆なことをしようとすれば扉が開かずの扉と化している。ふー・・・・・わかったよ。

 

「みんな、戦うぞ」

 

「ペン!」

 

「フム!」

 

あ、クリオネさんは俺の懐にいな。みんなと一緒に台座へ足を運び、伸ばした手が玉を触れた瞬間。

 

『汝、試練を受けよ』

 

玉から閃光が迸り、その光の中からか、それとも玉からなのかどうでもいいが、出てくる山のごとく一匹の海の生物と闘わされるようだった。

 

「・・・・・最近、何かと縁があるな―――蛸と戦うなんて」

 

ただ言わせて欲しい。今回のタコはレインボー、虹色の足+白い足なのだ。頭部の方は桃色と運営の悪ふざけを感じさせてくれる。さて、この蛸さんは何を仕出かしてくるんだろうか?

 

「タッコゥー!」

 

ほうほう、最初は天井に張り付いた状態でタコ足を駆使して物理攻撃か。巨大な分、リーチの長さと攻撃速度が早くて回避が難しい。横凪ぎの払いをされたらさすがに受け止めるか、上に回避、来る前に本体へ近づいて逃げる他ないかな? でも単純な上からの突きで躱すことはできる。だが、ペルカ達はそうではなく。

 

「ペギャー!?」

 

「「「「「フムー!」」」」」

 

「お前らー! ごめーん!」

 

懐にいるクリオネさん以外、たった一回の触手の突きであっという間に倒されてしまった! ええい、先ずはタコ足を切断してやらぁ!

 

 

イズside

 

 

ハーデスが見掛けない。連絡にも繋がらないしログイン状態なのだけれどどこにいるのか皆も分からないらしい。唯一判りそうなサイナちゃんのところへ足を運んで尋ねて見たら・・・・・なんでそんなところにいるのだろうという場所を教えられた時は信じられなかった。

 

「マスターは現在巨大な蛸と戦っております」

 

「蛸・・・・・?」

 

「南極海の未知を発見してくる、と申しましたマスターが深海にて発見した神殿の中で試練を受けました。今は少々苦戦を強いられておるようです」

 

ああ・・・なるほど。海の中は盲点だったわ。でも、凄く冷たいだろうから覚悟が必要よね。耐冷のアイテムを作ろうかしら。・・・・・でも、巨大な蛸と戦闘だなんて想定外だわ。

 

「彼はどの辺りいるのかわかる?」

 

「申し訳ございません。分かりかねます」

 

「ううん、謝らなくていいわ。ところでサイナちゃんは寒さに平気?」

 

「問題ございません。マスターの【耐寒】スキルで常時活動できます」

 

「ハーデスのスキルがそのままサイナちゃんも使えるなんて強いわよね」

 

心なしか褒められて嬉しそうに「インテリジェンスですから」とドヤ顔を浮かべるサイナちゃん。ハーデスの防御力もあったら、もう確実にハーデスの分身と言っても過言じゃないわ。

 

「ハーデスの、ベヒモスに変身するスキルは使えないの?」

 

「当機は機械ですので生物上の肉体とは異なり不可能です。しかし、加えて言うならば機械の兵器を作り出すことは可能です」

 

「例えば?」

 

「採掘用の機械兵、海中の探査機、偵察機などほかにも様々な機械を生み出せます」

 

実際に彼女の掌から一振りの金属の拳銃が生み出された。一体どういう仕組みなのか少し興味があるところだわ。

 

「ところでマスターに何か御用のようですがどうしましたか?」

 

「あ、うん。ただ姿が見えないから気になって探しに来ただけなの。特に用って程じゃ・・・・・」

 

言いかけた私の声を遮るプレイヤーの声。その人の名前はペインだった。フレデリカ達もいる。でもフレデリカちゃんは寒そうね。

 

「やぁ、イズもいるということはハーデスのことを訊いているのかな」

 

「ペインもハーデスを探しに?」

 

「山に城があったから、その行く方法を探したいんだ。彼もしているなら一緒にか、情報を共有したいと思っている」

 

なるほど。合理的な理由ね。でも今の彼は・・・・・。

 

「マスターは現在、深海で巨大な蛸と戦闘中です」

 

「ハーデスの奴、何で深海でモンスターと戦うことになっているんだよ」

 

「あいつの行動はいつも俺達の思いもしないことをしてくれるぜ」

 

「それがハーデスでしょ? というか、一人で深海って大丈夫・・・だから行っているんだよね」

 

防御力極振り+溺死しない+満腹度が減らない彼だからこそできる深海の探索。正直言って羨ましいところがある。どんな環境にも左右されないなら自由に色んな場所へ移動できるから。

 

「ちょっと待って? どうして離れているのに、深海にいるってこともモンスターと戦っていることもわかるの?」

 

「開示:私とマスターを繋げるモノがございます。それを介して情報を共有しております」

 

「それってハーデスの言動が筒抜けってこと?」

 

「肯定:こういうことも出来ます」

 

そう言うサイナちゃんが立体的な映像を映し出す機械を作ると、戦闘中の彼とモンスターの姿が浮かび上がった。

 

「マスター、お話をよろしいでしょうか」

 

『は? なんでサイナの声が聞こえる!?』

 

「現在、マスターの姿を映し出す機械を創造しました。現状の説明をお願いします」

 

『説明って・・・八色の足を持つ蛸と戦っているところだよ。タコ足にダメージを与えたところで今は・・・あ、天井に張り付いていた蛸が降りてきたな』

 

その蛸のモンスターの姿は私達も見れた。リヴァイアサンより大きくはないけれど、巨大なモンスターであることは変わりない。深海でこんなモンスターがいるところにまで潜ったのねハーデスって。

 

『示せ、汝の生き様を』

 

「生き様を示せ?」

 

「なんだ? ハーデスは何かのクエストをしているのか?」

 

『あ? ドレッドとドラグの声が聞こえるけどそこにいるのか。てっことは、人が苦労しているところを観客気分で見ているのかー!』

 

ああ、そうなっちゃっているわね確かに。ごめんねハーデス。と内心謝ってたら、蛸の背後に五つほどの黒く渦巻くブラックホールのような魔方陣が浮かび上がって、そこから私達が見たことのない海の生物がたくさん出てきた。クジラやイルカ、シャチ、サメ、マグロやカツオにタコやイカにペンギンにオットセイやアザラシ―――なにこれ?

 

『なにこれ?』

 

「もしかして、南極海にいるモンスターとか生物とか全部召喚しているの?」

 

「南極にマグロはいないだろ」

 

「召喚されている魚は冷凍されたように白く凍っているみたいだね」

 

「案外、アイテムとして手に入れたりするのか?」

 

ハーデスを囲うように円を描いて宙を泳ぐ召喚された魚たち。それらが一斉にハーデスという一点へ集中して突っ込んで襲い掛かるけれど―――【相乗効果】でラヴァ・ゴーレム+ベヒモス+【金炎の衣】を一つにした姿である、溶岩とマグマで赤熱したベヒモスの姿になったハーデスの前で魚達が自ら焼かれて行く形で焼失していった。あの大きなクジラさえ、ベヒモスの爪の一振りで

 

「えっぐ・・・!」

 

「やべぇ、やべぇってこれ・・・・・」

 

「走ることができるマグマの獣って・・・・・」

 

「倒し甲斐があるよ」

 

どこまでもプレイヤーだねペイン。今のハーデスを見ても倒してみたいだなんて。私達をドン引きさせてくれる彼はその姿でタコ本体に直接攻撃を仕掛けダメージを与える。するとここで新たな展開が繰り広げようとした。

 

『汝、理不尽に抗え』

 

という音声が聞こえると白色の触手が蛸の胴体の部分を太鼓のように・・・・・。

 

『イヨ~イ、ポンッ!』

 

叩いた瞬間。ハーデスの姿が前触れもなく元に戻ってしまった。

 

『は?』

 

次に赤の触手が胴体を叩くと、その赤い触手でハーデスの身体を打ち払った。

 

『んなっ!? 今の一撃でHPが1まで・・・・・即死攻撃か今の!?』

 

次は青の触手が彼を、性別を変えた。

 

『あ、性別が戻った?』

 

『イヨ~イ、ポン!』

 

『・・・・・。・・・・・? 今度は何をされた? ・・・・・あ、ステータスか。って【VIT】の数値が【INT】極振りになってるー! いよっしゃ【エクスプロージョン】ッ!!』

 

『タコッー!?』

 

「なるほど。見るからにして、あのタコの八色の足はそれぞれ効果があるみたいだね。赤は即死攻撃、白はスキルの解除、もしくは無効化。青は性別反転。緑色はステータスのパラメータを変える」

 

「んじゃあ、残りの四色も効果があると言うことだな」

 

「私的には即死攻撃とステータスのパラメータを変えられるのは厄介すぎるよ。」

 

「そいつは全プレイヤーも同じだぞフレデリカ」

 

それからも私達は彼の戦いぶりを見守り続けた。さすがのハーデスでも九死に一生を得る場面もあって、見ているこっちがハラハラドキドキさせられる。それでも彼は笑みを絶やさず戦いを楽しんで、蛸のモンスターを戦っていた。そしてHPが一割になった蛸に対して―――ハーデスが胴体に噛みついて食べ始めた。

 

『あ、タコ焼きの味がするー!』

 

「「おいっ!!!」」

 

「・・・・・モンスターに味があるのって本当なんだ」

 

「そうみたいだ。少し興味が湧いてきたよ」

 

「あははは・・・・・」

 

タコのモンスターが倒れるまでモンスターの肉を食べるプレイヤーを、しばらく見ることになった私達は何とも言えない気持ちになった。けれど、そういうやり方でドレインした扱いになったみたいでタコのモンスターはポリゴンと化してハーデスの勝利という形でいなくなった。

 

「お疲れハーデス。何か手に入った?」

 

『ちょっと待って、確認中・・・・・なるほど』

 

「どういうのだ?」

 

『【八宝盤】という物が手に入った。八個の宝玉を埋め込む円盤でな、どうもこいつは何度も周回して八個の宝玉を集めれそうだわ』

 

「周回して集めるアイテムか。俺達もその蛸のモンスターと戦えるか?」

 

『深海に来れないといけない前提だぞ? でも・・・多分だが潜水できる水瓏なら来れるかも? これたとしても再戦できるかわからないし』

 

「サイナ、実際どう? 深海まで行けるこの船で?」

 

「肯定:可能でございます」

 

「俺達も挑戦できるといいんだがな」

 

「あ、そう言うことなら【蒼龍の聖剣】の皆も誘う?」

 

「あのタコのモンスターがレイドボスなら、そうするべきだろう」

 

『先に俺はここから離れているからなー。レイドボスの場所ならまだ残るはずだし』

 

それもそうか。残らなかったらレイドボスじゃないってことになる。まずはその確認をしなくちゃ。ハーデスが神殿の扉を開け深海へ出ると神殿は・・・・・1分経っても消えることはなかった。

 

「よし行こう、今すぐ行こう」

 

「規制されてもあの効果のアイテムが手に入るならなおさらな」

 

私達はすぐに行動を取った。ハーデスが手に入れたアイテムをレイドボスと戦えるかもしれない旨を皆に教えると、疑心暗鬼と驚きながらも是が非でも欲しいと言う返事が返って来て、全員が水瓏に戻ってから深海へ出発。時間をかけてハーデスが見つけた神殿を発見すると、疑問の声が聞こえた。

 

「そう言えば、深海って水圧が凄いんだよな。このゲームもその水圧の影響ってあんのかな」

 

「あー確かに。白銀さんは防御力極振りだし、水圧の影響を受けつけないから深海まで泳げたんだろうなぁ」

 

「・・・・・ってことは、そうじゃない俺達はどうなる?」

 

「・・・一瞬で死ぬわけ、ってことはないよな」

 

―――どうしよう、それは盲点だったわ!? ペイン達にこの事を教えると彼等も気が付かなかったようでサイナちゃんにも深海の水圧の影響はあるか訊いたら。

 

「影響はあるかと思われます。それに加えて水瓏は深海も潜航可能としますが、深海へ出るための空間設備はございません」

 

「・・・・・そうだった」

 

「ですが、問題ございません。あの神殿と繋がる水晶の通路を作り伸ばすだけで解決します」

 

舵輪を握るサイナちゃんが何かのスキルを水瓏に使ったようで、彼女から「繋げました」という発言を聞き本当に出来たのか場所を教えてもらい確認しに向かうと、誰もいない通路で本当に白亜の扉と繋がる水晶の通路が出来上がっていた。有能過ぎるサイナちゃんに感謝して皆を呼び集めて神殿の扉へ続く水晶の通路を歩き、私達もレイドボスに挑戦できる扉を開け放った。

 

中は大きな空色の玉しかない空間。彼はきっとアレを触ってレイド戦を始めたのよね?

 

「では、触るよ。準備は良いか」

 

ペインの確認の声に皆は頷いた。玉を触れるペイン。そして・・・・・。

 

『汝、試練を受けよ』

 

玉から閃光が迸り、その光の中からか、それとも玉からなのか、出てくる山のごとく一匹の海の生物と闘わされるようだった。―――だけど、ハーデスが戦っていたタコじゃなくて。

 

「ペン、ギンッ!!!」

 

ハーデスのペルカを10メートルほど巨大化させて、柔らかそうな身体をボディビルみたいな筋骨隆々にしたペンギンのモンスターが出てきた。

 

「・・・・・うわぁ、マッチョな巨大ペンギンが出てきたね」

 

「タコじゃないのかよ?」

 

「試練は一つじゃないってこと?」

 

「もしかすると試練を乗り越えたら、ランダムで別のモンスターと戦わされる設定かもね」

 

「もしくは、挑戦するプレイヤーの人数に応じてかも」

 

どちらにしろ、このモンスターを倒せば何かしらの称号かアイテムを貰えるかもしれない。そういう気持ちで私達はレイド戦の火蓋を切った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・・で、結果は辛勝だった?」

 

「あと一歩のところで小っちゃいボディビルのペンギンを大量召喚されて、足場がヌルヌルにする液体で塗りつけられて思うように動けず、結局ペインが倒してくれたんだけどね」

 

「当然のペインさんだったか。それで何か手に入ったか?」

 

「あなたと同じ【八宝盤】よ」

 

「そうか。なら次からは皆で挑戦しに行こう。出来る限り揃えておきたい」

 

「ええ、頑張りましょう」



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神獣 その名は白虎

新大陸『南極』での活動は様々なモノを発見した。一部渇望していたペンギンを発見すればギルドメンバーのプレイヤー達に情報を共有し、さらに俺達が見出したクエストも情報にまとめ上げていた中。

 

「お、来たかヘルメス。トランスポーターを利用して来たな? フレンド機能は便利なもんだな」

 

「こんな裏技めいた方法が出来るのは【蒼龍の聖剣】だけよ。早速だけれど南極の情報を全部買うから教えてちょうだい! お願いします!!!」

 

「ふふん、今回ばかりは立場が逆だな? 言い値でOK?」

 

「お、温情を酌んでくれると凄く嬉しいのだけれど・・・・・?」

 

小猫のように震えるヘルメスはとても可愛かったので温情を酌んでやった。数千万Gはするだろう情報を半分にしてやった。全ての情報を開示した時には2時間も掛からなかった。

 

「んで、俺達が離れている間は旧大陸の方で第12エリアまで誰か進めた?」

 

「そう簡単な話じゃないわ。まさか一旦後ろに下がって寄り道しないと先に進めないなんて信じられなかったんだから。プレイヤー達は第12エリアを必死に探しているわ」

 

「そうなんだ。じゃあ、南極を調べ尽くした頃には見つかってるかな」

 

「きっとそうだと思うわ。ところであなたも新大陸に行くつもり?」

 

「一度は行くつもりだ。ただ、旧大陸に放置する形のホームが恋しいから新大陸からでも行き来できる解決を模索したい」

 

切なる願望を吐露した俺に分からなくはないと同感するヘルメスは頷いた。

 

「見つかったら高く売れるわね」

 

「売れるか怪しいがな」

 

「確かにそうね・・・・・でも期待してるわよ」

 

応えられるといいがな。とまぁ、ヘルメスとの話は終わりその後俺達は水瓏を介して旧大陸に戻り各々の生産職の作業に精を出し、南極に戻って探索を繰り返してしばらく経った。

 

「第十回、レイド戦お疲れ様ー!」

 

おおおーっ!!!

 

【八宝盤】の完成に至った。参加したい、欲しい能力だけ求めた【蒼龍の聖剣】のプレイヤーたちと最大十回も深海の神殿でレイド戦をしてきた。いやー。長かった!! タコとペンギン以外に出てきたモンスターはシロクマ、シャチ、巨大鳥、狼、アンデット、最後に冬将軍が出た時は本当にヤバかった。冬将軍は強すぎた。あの薙刀を駆使する鬼と負けない強さで、繰り出す攻撃が一々広範囲or必殺+装備破壊だから仲間があっさり死なれていくもんだよ。

 

「最後のラストアタッカー、ナイスだった」

 

「どもどもー」

 

「ハーデスも無茶する。わざと貫かれた身体で刀ごと冬将軍の身動きを止めるんだから」

 

「しょうがないだろ。HPが三割になった途端に射程距離と反射能力、攻撃速度が鬼すぎて動きを止めないと倒せないじゃん」

 

「まぁ、そのおかげで何とか倒せたけれどね」

 

結果が良ければ全て良しだ。はー、濃い戦いだった。浮上して町の港へ戻る船の甲板から海を眺める。

 

「ハーデス、戻ったらどうする?」

 

「全部揃えたからな。旧大陸に戻ってまだやり残している事でもしようかな」

 

「やり残したこと?」

 

「倒していない神獣、四神を挑戦すること。白虎と朱雀だな」

 

話しかけて来たイズにそう告げたその後。水瓏が港に到着すると俺だけ旧大陸に戻って西へと進んだ。場所はクエストのシステムで教えてくれるから迷わずモンスターがいるエリアで祠を見つけた。見つけたんだけど・・・・・ずーと気付かない振りしていたんだが、流石に最後まで無視できなかった。

 

「ペインさん等、俺に何か用か?」

 

「白虎に挑むなら俺達ももう一度挑戦したくてね。例の『勇者の光輝』をまだ白虎から手に入れてないからさ」

 

「初めて挑むお前よりも何度も戦った経験がある俺達なら助言も出来るぜ」

 

「そんで一人よりも五人なら戦いやすくもなるさ」

 

「そうだよー、一緒に戦おうよハーデス」

 

パーティの申請も送ってくるし・・・・・ああもう、ソロで戦ってみたかったんだけど次の機会にするか。

 

「ほら、これでいいだろ」

 

「ありがとう。それじゃあ挑もうか」

 

祠に腕を伸ばし触れると祠の扉が開きだして放つ光に俺達は包まれた。視界がクリアして何も見えなくなったのも束の間。数秒後、目を開けると真っ白な空間に立っていたのは俺達だけでなく。巨大で真っ白な毛並みの虎が不敵にこっちを見て笑っているのか牙を剥いていた。

 

『おうおう!! 誰かと思えば俺を打ち破った資格ある者共じゃねぇかよ!! しかも今度は初めて玄武をその気にさせた資格ある者も連れて来るとは嬉しいねぇ!!』

 

「・・・・・テンション高いな」

 

「これが白虎なのさ」

 

しかも奴さん。毛並みを逆立てて放電(スパーク)してませんか?

 

『表の人間界じゃあ力を抑えないと何もかもぶっ壊しちまって黄龍と麒麟に説教を食らっちまうからよぉ、この中だったらそんなの気にせず戦っていいから・・・・・最初から全力で行くぜ?』

 

「っていうことは、ペイン達は手加減された状態で勝ったってことか」

 

「言っておくが、かなり強かったからな」

 

「だが白虎の全力は俺達も体験したことがない」

 

「じゃあ、私達の知っている白虎の助言は意味ない?」

 

「そうだったら悪いなハーデス」

 

おいっ!!

 

『行くぜ、【電光石火】!』

 

白虎が一瞬の火花を放った瞬間に稲妻の如くき―――はやっ!? 図体のデカさで踏み込みからの初動から一気にトップスピードで突っ込んできた白虎の頭がトラックを彷彿させてくれる。立っていた場所から飛び引いて白虎の突進から躱し。

 

「攻略情報!」

 

「白虎は見ての通り【STR】と【AGI】が特化している。だけど動きが停まると【VIT】と【INT】が高くなる。ダメージを与え続けるなら動いている最中でだ」

 

「それがわかってどうやって倒した?」

 

「ドレッドとドラグのスキルを私の【多重転移】でペインに付加したんだよ」

 

「結構ヤバかったがな、っと!」

 

「前にも言ったが白虎の攻撃は雷属性のスリップダメージがある。まともに食らうと厄介だから気を付けろよ」

 

情報提供感謝! 【トリアイナ】で短刀を大剣に変えて右前脚を振り下ろす白虎に合わせて下から打ち上げた。

 

「【連結】【灼熱地獄の誘い】と【紫外線】!」

 

一筋の赤いエフェクトが大きな猫の手から溢れる。同時に炎上して白虎の手が燃える。でも、攻撃後に一瞬硬直した俺の横から巨大な虎の肉球が俺を弾いた際、もう片方の足にも斬りつけてやった。

 

『やるじゃねぇか! しかも納得だぜ。玄武が絶賛するほど硬ぇなっ!』

 

両足が赤いエフェクトを漏らしても白虎はまだまだ余裕だ。

 

「ハーデス、まだ行けるか」

 

「もう一度白虎の肉球を触れたい!」

 

「うん、欲望に忠実しているなら大丈夫みたいだね」

 

「ははは、タンクがいるのといないのとじゃあ大違いだな」

 

「攻撃に集中できるってもんだ」

 

こっちもまだ余裕だ。お互いにらみ合い、一斉に距離を縮めて駆け出す。

 

「【挑発】!」

 

『のってやらぁ!』

 

俺に意識を向けている間にペイン達はそれぞれ動いていた。

 

「【水分身】」

 

ドレッドが三人に増え、同時にスキルを発動して白虎から赤いエフェクトを咲かせる。

 

「【海大砲】!」

 

「【土石流】!」

 

リヴァイアサンのより縮小してるが、人一人は軽く呑み込む膨大な水の塊に岩石が混じって白虎に迫る。当然の気付いて回避することはお見通しだ。

 

「【破壊の聖剣】」

 

『【雷斬】!』

 

回避した先にはペインが待ち構えていた。強力な一撃を振るったものの、雷の斬撃に防がれて白虎のしなる太い尻尾に真上から叩きつけられようとしていた。

 

「【カバームーブ】【八艘飛び】!」

 

瞬時でペインの傍らに移動、回収したまま空中を蹴って尻尾の叩きから逃れ、白虎の横腹に飛び込んだ。

 

「【悪食】!」

 

「【断罪の聖剣】!」

 

『遅いっ!』

 

ちっ! やっぱ獣は速くて難儀するな! 動きを止めさせようとしても【VIT】が高くなるようだし、あの巨体に乗っても攻撃するしかないか?

 

「【色彩化粧】【超加速】!」

 

「あん? ハーデスがドレッドの【神速】みたいに消えたぞ」

 

「あれれ、ドレッドのお株が奪われちゃったー?」

 

「そんなわけあるか!」

 

なんか聞えてくる会話だが、白虎の懐に潜り込めたところ【飛翔】で飛び上がり白くて大きな背中に乗れることに成功できた。

 

「防御力関係なくダメージを与える方法は他にもある。【精気搾取】【生命簒奪】!」

 

『ぬぅっ? 何時の間に背中に・・・降りろ!』

 

「はははっ! 白虎の毛皮はもふもふー! 絶対に離れないぞー! 全身で堪能してやろう!」

 

『なんか気持ち悪いから止めろォッ!!?』

 

巨大な暴れ牛の背中にしがみ付く格好になっている俺は、激しい揺れや背中と地面の間に押し潰されようと、尻尾で叩かれようと絶対に離れず白虎のHPを徐々に削って行く。―――そこ! ノミとかダニみたいなとか言うんじゃありません! 獅子身中の虫でもないからな!

 

「あんなことできんの、ハーデスだけだな」

 

「「同感」」

 

「だが、ハーデスばかり意識を向いている今ならこちらの攻撃の通り易くなっているのも事実だ」

 

攻撃の手を緩めないペイン達。ほぼ半ば一方的に白虎に攻撃を繰り返し、白虎は俺を身体から振り払うことに意識を集中してて、全力で駆け出そうとも決して離れなかった俺に対し。

 

『いい加減に離れろオオオオオオッ!!!』

 

全身の体毛を逆立て、自分を中心に放電しだしたので俺は雷の奔流に呑み込まれ感電してしまって、防御貫通の能力があるのかHPが減っていく。

 

「―――だがッ!」

 

俺も負けられん! 【悪食】っ! 【エクスプロージョン】っ!

 

『ぐあああっ!?』

 

悲鳴を漏らす白虎の背中に爆裂。その衝撃で俺は吹き飛んで離れてしまった。空中で体勢を立て直し着地して白虎を視界に入れる。

 

「ハーデス、大丈夫か」

 

「あの雷は厄介だ。本当の【VIT】だろうとHPが減ってる」

 

「白虎もそれなりに減ってるよ」

 

「だが、あいつはすばしっこくて攻撃が当たらねぇ」

 

「まずはどうにかして動きを封じるしかないがな」

 

動きをか・・・・・。

 

「よし、獣相手なら獣で行こうか」

 

「ベヒモスで?」

 

「そう言うことだ。だけど、あの二つのスキルが【相乗効果】であんな風になるなら・・・・・更なるアレンジができそうだぜ」

 

ニヤリと不敵に笑む俺を、また何かとんでもないことをする気だって顔をするドレットとドラグや期待の眼差しを向けてくるペイン。

 

「というわけで、俺が動きを止めたら最大の一撃をお願いするよ。フレデリカの【多重転移】で」

 

「わかったよ」

 

頷くフレデリカ。そして俺はスキルを口にしたのだった。

 

「【相乗効果】【覇獣】【溶岩魔人】【金炎の衣】!」

 

駆け出しながら溶岩の体を得たベヒモスと化した俺に突っ込んでくる白虎との距離はあっという間に縮まりお互いの額がズガンッ! とぶつかった。が、力は白虎が勝って押し戻されるも溶岩の体に触れたので綺麗な毛並みが燃え、炎熱のダメージが入った白虎が俺から飛び下がった。

 

 

フレデリカside

 

 

『ガアアアアアアアアアアッ!!』

 

『オオオオオオオオオオオオオオッ!!』

 

牙と爪、雷と炎が荒れ狂い幾度も交差し縦横無尽に動きながら攻撃する白虎とハーデス。まるで演舞を観させられている感覚になる。だけどいつまでも観客でいるつもりないのは私だけじゃない。ハーデスが白虎に首を噛まれた状態で組み敷かれてしまった。HPもかなり減らされていると思うのに、この瞬間を待っていたようなハーデスが白虎の脚を噛みついた。

 

「「―――――」」

 

ハーデスがこっちを見て、私たちは彼の視線の意図を察した。

 

「【神速】!」

 

「【バーサーク】!」

 

「【多重転移】!」

 

ドレッドとドラグのスキルをバフとして白虎へ駆けだしたペインに付与する。当然、ペインに気付いている白虎だけどハーデスが手足を使ってまで動きを封じる。

 

「【悪食】【生命簒奪】【精気搾取】!」

 

「【光輝の聖剣】!」

 

ペインの攻撃が白虎の顏に当たる―――!

 

『―――【雷神の怒濤】!』

 

ドッガアアアアアアアアアアアアアアアアン!!!

 

「「「!!!」」」

 

また白虎からすごい雷が発生してハーデスとペインを呑み込んだ。それどころか、ペインのHPがかなり減ったエフェクトが漏れてるし、ハーデスがマグマの獣から元の姿に戻ってる!

 

『面白ぇ・・・・今まで戦ってきた資格ある者と一線超えてんな。玄武と青竜が全力出した気持ちが判って来たぜ』

 

二人のもとへ駆け寄る私達に不適の笑みを浮かべる白虎。

 

「じゃあ、お前も【天変地異・海】を使うのか?」

 

『俺は空を飛べれねぇから使わねぇよ。泳げなくはないがそれじゃあ戦うことができねぇ。だから俺の全力ってのはよ・・・・・上を見ろ』

 

言われて見上げると、真っ白な空間の天井を埋め尽くす星の数の光が出現した。これ、全部攻撃の・・・?

 

『これが俺の全力―――【天川流星群】!』

 

天井の光が全部降り注いで私達のところに豪雨の如く落ちてきた。

 

「【大地の護り】!」

 

私達を護る巨大な岩壁が覆い被さるドラグのスキル。光弾の雨を防げたけど長くは保てなかった。絶え間なく聞こえてくる衝撃音と罅が入り、守りの岸壁が瓦礫と共に崩れた。

 

「【身捧ぐ慈愛】【イージス】【生命の樹】!」

 

第2の守りとしてハーデスもスキルを使った。天使の姿になって光の広範囲防御の結界の中にいる私達を光弾から守ってくれる。HPも回復しているから二人ともまだ前線に立てれる。

 

「【イージス】の効果時間は」

 

「ぶっちゃけ判らない。攻撃を無効化にするだけだし」

 

「もしかして余裕?」

 

「おいおい・・・とんでもねぇ防御スキルを持ってやがったのかよ」

 

ただ、とハーデスが漏らした。

 

「防御に徹している限りじゃあ倒せない話なんだよ」

 

「じゃあどうする? 二人の勇者奥義で倒せるような相手でしょ?」

 

「俺達ばかり働かせる気か。お前らも勇者奥義を使えよ」

 

「おういいぜ」

 

「ペインとドレッドもな」

 

ハーデスは? との指摘にハーデスも盾使いの勇者奥義を使う気でいる。

 

「タイミングは各々の自由で。OK?」

 

「「「「わかった」」」」

 

やってやろうじゃん。初めて使う勇者奥義、いつでもいけるよ!

 

「じゃあ、行くぞ。【勇者】【神ノ鏡盾】!」

 

思いっきり上に放り投げた大盾がまだ降り注ぐ白虎の流星群を吸収し始めた。白虎がその様子に驚いた声を上げ、私たちに降り注ぐ光弾の脅威がなくなった頃合いを見計らう。

 

『俺の技を無効化したか。勇者のみしか使えない技を見るのはこれで二度目だ』

 

「まだまだ見せてやるよ【大地の怒り】!!」

 

茶色の淡い光に包まれたドラグが巨大化した武器を床に叩きつけた直後。白虎程の巨体が沈むほどの穴が出来たのだけど、直ぐに穴から飛び出して宙に踊る白虎にハーデスが。

 

「おっと、穴が出来るんなら好都合じゃん?」

 

システムを利用して上に放り投げた自分の盾を回収していたハーデスが白虎に盾を突き出して叫んだ。

 

「【解放】!」

 

ハーデスの声に呼応して大盾から吸収した宙にいる白虎の光弾が放たれた。上からではなく下からの光の弾幕は白虎も躱すことは難しい。

 

『ぐぉおおおおっ!? お、俺の【天川流星群】だと・・・!?』

 

「フレデリカ!」

 

「いっくよー! 【勇者】【星の魔法】!」

 

私を中心に白虎のところまで広がる幾重の魔方陣。しただけじゃなくて上の方にも同じ魔方陣が展開していて白虎が着地しても私達に攻撃するためのスキルを使おうとしなかった。ううん、使えなくなった。神獣でも通用するんだねこのスキル。

 

『・・・・・俺の技を封じたか!』

 

「よそ見してていいのか?」

 

『ぬっ?』

 

白虎が落ちて来る地点を予測して佇んでいたドレッドが話しかけた。下にいるドレッドを見下ろした瞬間。

 

「【神速】【勇者】【暗技】」

 

姿が掻き消えるほどの速度で走り出しながら白虎の体に二本の短剣でダメージを与え、様々なデバフを発生させていく。白虎は自分の身に起きた状態異常に当惑した。でも、そんなこと光のエフェクトを剣に集めていたペインが気にする筈もない。

 

「【相乗効果】【断罪の聖剣】【破壊の聖剣】【勇者】【エクスカリバー】」

 

剣から解き放たれた極光の奔流が一本の剣のように白虎へと私の【海大砲】みたく迫って呑み込んだ。

 

『ぬぅあああああああああああああああああああああっ!!!』

 

決まったー!! さすがの白虎もペインの一撃の無視できないダメージを負ったはず!

 

『―――【破天荒】』

 

・・・え?

 

【エクスカリバー】をモロに食らった白虎が炎に包まれ白い毛並みを真っ赤に染まり、怖い意味で凄い顔つきになった。というか、スキルを封じているのになんで使えているの!?

 

『ガァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!』

 

これって、レイドボスモンスターが体力が低くなった時に見せるパワーアップ+凶暴化!? 今までより速度が上がってまず狙われたのがペイン。

 

「なっ―――く!」

 

「「ペイン!!」」

 

危険度が高いプレイヤーから狙い始めたのか、パンチとは思えない音を出して遠くに殴り飛ばしたペインに追いつき、その牙で噛み砕いた。

 

「【金晶戟蠍(ゴール・D・スコーピオン)Ⅳ】【黒晶守護者(ダーク・ゴーレム)Ⅳ】【緋水晶蛇(ヨルムンガンド)Ⅳ】【百鬼夜行】!」

 

ハーデスのスキル、三体のモンスターを召喚した。他にも赤と青の鬼も召喚して白虎に攻撃した。

でも・・・・・白虎は全ての召喚したモンスターを一蹴した後、流れるようにドレッドとドラグを爪で引き裂いた。

 

「ふ、二人とも!?」

 

「フレデリカ! 後ろだ!」

 

「っ!?」

 

倒された二人に意識を向けていたら白虎に背後を取られていて、ハーデスの声が聞こえた時はもう巨大な爪が迫っていた。私も三人に続くように負けて―――。

 

「【カバームーブ】【カバー】!」

 

そんな私の前に一瞬で移動したハーデスに大盾と身を挺して白虎の爪から守ってくれつつ、一緒に吹き飛んだ。ハーデスのHPが減るエフェクトに目を見張り、思わずと叫んだ。

 

「ハーデス!?」

 

「・・・は、はは・・・・・なんとか、ギリギリだ」

 

「え?」

 

不敵の笑みを浮かべているハーデス。視線は白虎の方で・・・・・。

 

『―――見事だ』

 

理性を失っていたと思っていた白虎から称賛され、白い毛並みに戻る最中で横に倒れた。

 

 

『神獣の一角「白虎」を撃破しました死神・ハーデス、フレデリカは【勇者の光輝】を獲得しました』

 

 

そんなアナウンスが聞こえても私達はその場から動けなかった。

 

「白虎、生きてるかー?」

 

『この程度でくたばるヤワな体じゃねぇよ』

 

何事もなかったかのように起き上がる白虎。だけど、どうやって倒したのかな。

 

「ハーデス、白虎に攻撃したんだよね?」

 

「ああ。【VIT】を【STR】に変換した上で大剣で突き刺した。おまけに反射のスキルが発動したから白虎を倒せた」

 

『肉を切らせて骨を切るってやつか。いい度胸じゃねぇか』

 

「そいつはどーも」

 

立ち上がるハーデスに釣られて私も立ち上がったら新しいスキルが手に入った。【天川流星群】だ。

 

「ハーデス、スキルが手に入った?」

 

「ん、中々使いどころが大変なのが」

 

私のスキルも敵味方関係なく巻き込んじゃいそうなスキルだから似たような感じかな。あとで試してみないと。

 

『楽しかったぜ資格ある者達よ。俺の全力を受け止めてなお倒したのはお前達が初めてだった』

 

「またいつか挑戦しに来るよ。あ、そうそう戦う前に渡そうと思っていたものだけど食べられるかな」

 

『なんだ?』

 

ハーデスがインベントリから取り出したのは古代の果実。あれ、ビャッコのようすが・・・・・?

 

『そ、それは・・・・・!?』

 

「黄龍と麒麟も絶賛した古代の果実。神獣の御供物らしいけど、白虎も食べ―――」

 

最後まで言わずとも巨大な虎が大きな果実に飛びついては、鼻息を荒くしてしっかり両手で掴んで果実の匂いを嗅いで猫のようにゴロゴロと喉を鳴らす。うわぁ、嬉しそうだし幸せそう・・・・・。

 

『懐かしい果実~!!! ああ、この匂いがたまらんにゃ~ん!』

 

「「にゃ、にゃん・・・・・」」

 

『・・・待て、黄龍と麒麟が絶賛? あいつらもこの果実を知っているのか?』

 

唖然としている私達に何か気付いて話しかけてくる白虎は果実を放そうとしなかった。まるでマタタビを与えられた猫のように。

 

「というか、果実を食べるために俺の家に留まっている方だぞ」

 

『はっ? ―――なんだそりゃああああああ!?』

 

白い毛並みが赤くなった! 白虎がすっごい怒っているー!? うわ、もしかしてこれ・・・・・。

 

「・・・・・波乱のよかーん」

 

「うん、そう思うよ」

 

予想は的中。―――後日、というかその日の内に。

 

『ここかぁあああああああああああああっ!!!』

 

『ぬおっ!? びゃ、白虎!? 青竜と朱雀、玄武も何故お前達がここに!!』

 

『てめぇらだけ古代の果実を好きなだけたらふくに食えるってのはどういうことだぁー!!』

 

『白虎から聞かされた事実を確認をしに来た。どうやら本当だったとは・・・な』

 

『眉唾物の話だと思っていたが、あの資格ある者と関わっているならば話は別でな』

 

『黄龍と麒麟、それに鳳凰・・・独占は許しませんよ?』

 

私とハーデスは他の四神のところへ駆けまわり黄龍と麒麟に直談判する光景を白虎の背中から見せつけられた。因みにこうなることを予測して空を飛べない玄武と白虎には体を小さくしてリアルのカメと虎並の大きさになってもらってる。日本家屋の庭に着くと、大きな果実を食べてる神獣達がいたから、現場を押さえた白虎達は問い詰めた。

 

『独占とは失礼な。これは対価として果実を得ているのだぞ』

 

『我々に黙っていたのは?』

 

『語るまでもないことであろう。語れば今のようにお前たちまでこの場に揃って来て資格ある者の迷惑をかけるからな』

 

『正論で語ろうと、神獣の供物をお前たちだけ与えられるのは許されんではないか?』

 

『『要は、揃いも揃って我々の環境が羨ましいから嫉妬しているのか』』

 

『てめぇこら鳳凰!!』

 

うわー、一触即発じゃん。ハーデスどうするのかな。

 

「・・・・・あー、白虎達も古代の果実を御供えするからここで暴れないでくれよ。はい、青竜と朱雀も身体を小さくする! 畑に入りきれないから!」

 

『むっ、むぅ・・・わかった』

 

『今回の資格ある者はこうも我々を集わせ従わせるとは・・・認めるしか得るまいな・・』

 

どっちかっていうと、果実を食べたいから素直に言うことを聞いているだけじゃないかな? それからハーデスが古代の果実を四神達に御供えをしたら、歓喜で食べ始め何度かお代わりも要求されて。

 

「果実のゼリーも食べてみるか?」

 

『ゼリー・・・・・?』

 

出された果実よりも小さくても、虹が掛かった甘いお菓子を見て神獣達は感嘆の息を吐き、丸飲みした途端。

 

『!?!?!?』×8

 

全員、絶句した。果実を好むなら、その果実で作った料理が美味しくないはずかないよね。

 

『し、資格ある者よ! こ、これは何と言うものだ!?』

 

「『虹色のゼリー』だな」

 

『これは、お前が作ったのか?』

 

「いんや、これを作るのに長けた人間に頼んだ。味の感想は聞くまでもないか」

 

『ああ・・・・・果実も美味であるが、我々に驚かせるさらに美味なるものに作り替えるとは』

 

あ、この展開って・・・・・。

 

『皆、異論はないな?』

 

『あったらおかしい方だ』

 

『では、決まりだな。資格ある者よ。虹色のゼリーを作った者をここに呼んでほしい』

 

「いいけど、相手も都合があるからこれなかったら次の機会な」

 

『うむ、構わない』

 

その後、神獣達の前に来させられたパティシエのプレイヤーが称号【神獣が認めしパティシエ】。職業【神の料理人】を得てしまった。

 

「お、神の名が付いた職業のプレイヤーが俺以外に増えたか! おめでとう!」

 

「え、えっとこれってどんな状況・・・・・?」

 

「簡単に言えば、古代の果実で作ったゼリーが神獣達を喜ばしたから新しい称号と、神の名がついてる最上位の職業にランクアップした。俺のテイマーとサモナーの最上位である神獣使いと同じだ」

 

「ふえええええええええええええええええ!!?」

 

うーん。ハーデスの傍にいると驚くことばかりが起きるね。



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先へ

新たな神の名が付いた職業に至ったプレイヤーの誕生を目の当たりにした後は、三匹のクリオネのレベル上げを(水晶蠍で)一日中続けたことで目的が達成した。進化先の項目を選ぶとき俺は目を疑った。

 

「・・・・・天使?」

 

え・・・人の姿になるのか? これがあれに? と。どれだけレベルが上がっても攻撃は【バッカルコーン】だけだったのに運営は何を考えているんだか・・・まぁいいか。取り敢えず進化だ。三匹が光に包まれ小さかった体が大きく人の形になり純白の翼を背中から生やした幼児が誕生した。

 

「おお、可愛い」

 

金髪と銀瞳の中性的な容姿の天使達が俺を見上げて来る。ステータスの方はどうだ?

 

 

ハレルヤ

 

LV5

 

HP 22/22

MP 26/26

 

【STR 1】

【VIT 6】

【AGI 5】

【DEX 4】

【INT 4】

 

装備

 

頭 【なし】

 

体 【天使の衣】

 

右手 【天使の笛】

 

左手 【天使の笛】

 

足 【天使の衣】

 

靴 【天使の靴】

 

装飾品 【空欄】【空欄】【空欄】

 

スキル:【バッカルコーン】【天使の祝福】【堕天】【守護の盾】【浮遊】

 

 

ヘイン

 

LV5

 

HP 22/22

MP 26/26

 

【STR 1】

【VIT 6】

【AGI 5】

【DEX 4】

【INT 4】

 

装備

 

頭 【なし】

 

体 【天使の衣】

 

右手 【天使の笛】

 

左手 【天使の笛】

 

足 【天使の衣】

 

靴 【天使の靴】

 

装飾品 【空欄】【空欄】【空欄】

 

スキル:【バッカルコーン】【天使の祝福】【堕天】【守護の盾】【浮遊】

 

 

ノイズ

 

LV5

 

HP 22/22

MP 26/26

 

【STR 1】

【VIT 6】

【AGI 5】

【DEX 4】

【INT 4】

 

装備

 

頭 【なし】

 

体 【天使の衣】

 

右手 【天使の笛】

 

左手 【天使の笛】

 

足 【天使の衣】

 

靴 【天使の靴】

 

装飾品 【空欄】【空欄】【空欄】

 

スキル:【バッカルコーン】【天使の祝福】【堕天】【守護の盾】【浮遊】

 

 

 

 

あーうん・・・・・進化先に【堕天使】があるな。だとしたら外見が変わるのかな? それはそれで楽しみでもあるわけで。

 

「ハレルヤ、ヘイン、ノイズ。よろしくな」

 

「「「・・・・・」」」

 

無言。でも、表情は笑顔。喋らないタイプか。よしよし、可愛いなお前達。さーて・・・・・お触れ込みしに行こうか。

 

「ということで、へーいヘルメス。新しい従魔を連れて来てやったぞー! 懐事情は大丈夫かなー?」

 

「!? !? !?」

 

宙に浮く天使達を見て声も出ないほど絶句するヘルメスを見て、意地の悪い笑みを浮かべる俺。

 

「そ、その子たちは・・・・・?」

 

「種族:天使の・・・モンスターと呼んでいいのか疑問だがな」

 

「て、天使・・・・・どこかでテイムできたの?」

 

「進化させた」

 

「進化!? ―――ちょっと、もっと詳しく!」

 

はいはい教えてあげるから落ち着きなさい。ほら、深呼吸して。うん、落ち着いたな?

 

「はい。これが3人のステータスだ」

 

「・・・・・。・・・・・ねぇ、スキルに妙なのがあるのだけれど? まさかだけど、進化前のモンスターって・・・クリオネだったりする?」

 

「それが証拠でもあるんだよなー」

 

「し、信じられない・・・! でも、現にこんなスキルが持っていそうなの一種類しかいないし・・・・・それにこの【堕天】ってスキルはもしかしなくても」

 

お気づきになられたか。無言で頷く俺にヘルメスも思考の海に飛び込み黙った様子。

 

「可能性を考慮すれば大天使、特殊進化先には熾天使がありそうね」

 

「それまでレベル上げが大変そうだー。クリオネから天使に進化させるのだって50まで掛かったんだからな。しかもそれまで使えるスキルはこれだったぞ?」

 

【バッカルコーン】を指して教える。

 

「実際、攻撃力はどのぐらい?」

 

「めっちゃくちゃ弱い。初期のどのモンスターよりもじゃないかってほど。苦行コースになる。俺は神獣使いだから早く進化させられたが」

 

「他のプレイヤーだと一週間やそこらで進化させるのは難しいわね。従魔の編成枠を一つ使い潰すみたいになるわ」

 

根気が必要になりますねこれは。でも、その分の価値はあると思いたい。

 

「とまぁ、三人の考察・情報はこれでお終いだ」

 

「・・・まだ何かある意味深なことを言わないでくれる?」

 

「ぶっちゃけ、抱えている称号とか神獣使いの情報は教えていないし」

 

「そうだったぁ・・・・・!!」

 

「それ以外にも教えていないことまだあるしなー」

 

「ほ、本当にもう・・・! もうあなたって情報の宝箱みたいになっちゃってぇ・・・・・!」

 

フハハハハッ!!! 優・越・感!!!

 

「教えてほしければそれなりの資金を用意してもらおうか」

 

「・・・・・分割払い、とかダメ?」

 

「一括だ」

 

魔王の断言の一撃で一人のプレイヤーが意気消沈した!

 

「というか、そっちはそっちで耳寄り情報とかない? 種類は問わないから」

 

「第11エリアの情報ならそれなりに集まっているわよ?」

 

「じゃあ、それで。何分こっちは南極にいるから」

 

長々と教えてくれた後、畑に戻り―――ルルカに訊いた。

 

「ルルカ、港がある第12エリアの場所は知っているか?」

 

「はい、ご所望のであれば喜んでご案内いたします!」

 

ネコバスで第11エリアまでひとっ飛び。買った畑の納屋を介して日本家屋にいるサイナやリリアにアカーシャ、全ての従魔を呼び一緒にルルカの案内で誰よりも紆余曲折でレイドボスを倒し、誰よりも早く先に先駆者として第12エリアに辿り着き・・・・・崖から大海原を拝んだ。

 

「海だー!」

 

「ムムー!」

 

そして眼下の先にはあそこが新大陸へ向かう港町か! 広くて港町らしく酒場のような店があるし、何よりデカい船がある!

 

「奇麗・・・・・これが海」

 

「見たことが無かったのか?」

 

「冥界には水源があっても海がないし、この人間界の大陸の端まで来た事がないもの」

 

「私もです」

 

「以下同文」

 

エルフと征服人形も同類だった。そんな彼女達を連れて崖から降り港町に足を運んだ。まぁ、俺は魔王なのでNPCに嫌われており新大陸向けの船の情報はサイナとリリアに頼まずともルルカに訊いたところ。

 

「ここから新大陸までの航海は現在不可能なんです。それでも向かうのであれば一年もかかります」

 

「ながっ!? え、何で不可能なんだ?」

 

「航海には危険が付きものなのです。悪天候に遭ったり、船乗りを魅了する人魚に襲われたり、幽霊船に出くわしたり、海賊に襲われたり―――大海蛇もといシーサーペントやクラーケンに船を壊されてしまいます」

 

幽霊船と海賊が存在しているのが凄く興味あります。

 

「ですので、もしもそれを承知して海を渡りたいのであれば最善と安全のため、大きく迂回して航海するのが船乗り達の決まり事なんですよ」

 

「なるほどなー。それらの問題を解決出来たら航海の期間は短縮される?」

 

「そうですね。おそらく一週間にまで下がりますよ」

 

一週間か・・・水瓏だったらどのぐらいかかるんだかな。というか、そろそろ南極から戻すべきか? 新しく船を建造してもらうのも手でもあるが。であれば取る手段は一つしかないというわけで・・・・・。

 

「イズ先生、セレーネ先生。また船の建造をお願いしたく存じます」

 

『はぁ~、もう第12エリアに着いたのねハーデス』

 

『新大陸に向かうためには船が必要なのはわかったけど、水瓏があるよね?』

 

「そうなんだがな。今絶賛ギルドメンバーが南極で活動中だろ? 新大陸に向かうためにまた船を戻さないといけないわけだから」

 

『そうね。私とセレーネももう少し南極の素材を見つけておきたいから、今船を戻させられるのは困るわ』

 

『鉱石類が全然見つからないなー』

 

「海底の絶壁にならアポイタカラってヒヒイロカネと同じぐらいレアな鉱石があるぞ?」

 

『『それを早く教えて!!』』

 

【海王】のスキルを持っているのにまだ海の中を泳いでいなかったのか。

 

『ところで港町に造船所はないの?』

 

「見て回ってNPCにも聞き込みしたが、造船所はないようだぞ」

 

『そうなんだ。それでハーデスは今何しているところ?』

 

何をしているか・・・チラッと壁に向かってクワを振るオルト達を見た。

 

「オルト達が第12エリアで見つけた鉱石を採掘している様子を見守っている」

 

『『ズルい!!』』

 

ズルいのか。それはそうと。

 

「新しい船を造ってもらう素材なんだが、オリハルコンはどうだ?」

 

『待って、待って? オリハルコンってそうポロポロと採掘できて採取できないんじゃなかったっけ? それ以前にオリハルコンを売っているわよね?』

 

「あれは売買用で、他にも自分用に十万個ぐらい抱えているんでまだ在庫は十分潤っている」

 

『だ、だからユニーク装備の融合を可能にする秘薬が作れちゃったのね・・・・・』

 

そういうことだから時間が空いた時だけお願いしたら了承してくれた二人に感謝。さて、俺達は俺達で砂浜を見つけたからそこで遊び始めた。海を見たことないのだからこの機に知ってほしいし。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【新発見】NWO内で新たに発見されたことについて語るスレ PART64【続々発見中】

 

 

 

・小さな発見でも構わない

 

・嘘はつかない

 

・嘘だと決めつけない

 

・証拠のスクショは出来るだけ付けてね

 

 

 

 

 

124:佐々木痔郎

 

 

白銀さんがまた何か発見した可能性がある模様。

 

 

125:ヨイヤミ

 

理由は?

 

 

126:佐々木痔郎

 

北の第11エリアにネコバスが現れたからだ。白銀さんが乗っていてもおかしくないから他のプレイヤーがこぞってネコバスを追跡してるが追いつけないだろう。

 

 

127:トイレット

 

予想してやろう。ズバリ、あの人は全プレイヤーより速く第12エリアに到達したと!!

 

 

128:ふみかぜ

 

新大陸に向かう船がある港町にか。他のプレイヤーはともかくあの人だった場合はその可能性も極めて高いな。

 

 

129:アカツキ

 

数々の隠しエリアやクエストを発見した有力プレイヤー! 疑う余地はない! むしろ―――。

 

 

130:ロイーゼ

 

白銀さんだから、またやらかした、サスシロ。が定番だから・・・・・。

 

 

131:佐々木痔郎

 

それから最近定番になって来た俺の聞き込みで白銀さんから教えてもらったぜ。

 

 

132:佐々木痔郎

 

予想通り、第12エリアに到着していた。

 

 

133:トイレット

 

あ、やっぱり? 定番のサスシロだー

 

 

134:佐々木痔郎

 

だけど、まだ情報を公開しないと言われた。

 

 

135:メタルスライム

 

公開しない? あの彼が情報を公開しないのはかなりレアだな。

 

 

136:ロイーゼ

 

最初に一番乗りしたエリアをしばらく独占したいからじゃないか? そこんとこどうだ? 理由も聞いてきたんだろう?

 

 

137:佐々木痔郎

 

抜かりなしだ。ほら、新大陸って船が必要じゃん。【蒼龍の聖剣】の船って今どこにある?

 

 

138:アカツキ

 

あ・・・・・(察し)

 

 

139:ヨイヤミ

 

南極に停泊しているな。そしてその船を戻すとなれば。

 

 

140:ふみかぜ

 

まだ南極にいるプレイヤー達が置いて行かれるか、二度とではないにしろしばらく南極に行けなくなるな。

 

 

141:メタルスライム

 

なるほど。先んじて辿り着いた第12エリアは船が必要だ。白銀さんはもう一隻の船を用意するための時間が欲しいから情報の公開をしないのだろう。

 

 

142:佐々木痔郎

 

しかもそれだけじゃない。航海中は自然やモンスター、NPCに襲われるようだぞ。明らかに船を所持していないと先へ進めない設定だこれ

 

 

143:トイレット

 

リヴァイアサンレイドで購入した諸々な船はー?

 

 

144:ヨイヤミ

 

あれはイベント限定のアイテムであってだな・・・・・。

 

 

145:アカツキ

 

あ・・・・・誰も自前の船が持っていない?

 

 

146:ロイーゼ

 

運営の悪意は極まっている。新大陸に行きたいなら自分で船を用意しろと。個人で作れるのは筏が精々ななんだよ。

 

 

147:メタルスライム

 

商人が乗っている船が存在しないのであればギルド独自に船を造らなければならない。

 

 

148:佐々木痔郎

 

つまり、白銀さんはそれを見越して自前の船を造ったと? 俺達は彼の努力と浪費の上で支えられていると?

 

 

149:アカツキ

 

いいなー。俺も【蒼龍の聖剣】に入りたーい!

 

 

150:ロイーゼ

 

羨ましい。新大陸に行くならギルドを結成、もしくは入らないといけないなんて。筏で海を渡るなんて無謀過ぎるから!!

 

 

151:トイレット

 

NPC用の船を探さなきゃ(謎の使命感)!!

 

 

152:ヨイヤミ

 

仮にあったとしてもプレイヤー全員を乗せることは無理じゃないか?

 

 

153:メタルスライム

 

乗船するための抽選がありそうだ。さて、乗り損ねたプレイヤーは一体どれだけ待たされるのやら。

 

 

154:佐々木痔郎

 

あー、白銀さん言ってたけどさ。さっきの海の事情でそもそも航海は不可能なんだって。それでも行くなら新大陸まで着くまで―――一年はかかるって。

 

 

155:アカツキ

 

ぎゃあああああああああ!?

 

 

156:ロイーゼ

 

待って、一年も!? そんなことあるはずがないよな!?

 

 

157:ヨイヤミ

 

あり得ないことだが、それに関するクエストを成功していけば期間が短くなるんじゃないか?

 

 

158:佐々木痔郎

 

そこまでは本人もまだ把握していないから俺も分からないぞ。だけど、白銀さん曰く「NPCの船がありそう」と漏らしていたのはしっかり聞いた。

 

 

159:トイレット

 

船があろうがなかろうが、結局は第12エリアの道の情報はしばらくお預けの形で公開されないから行くことも出来ないんだよ~。

 

 

160:アカツキ

 

しかも辿り着いたら着いたで船が航海できないしで新大陸に行くことができない状態じゃん!

 

 

161:佐々木痔郎

 

まぁ、他のプレイヤーはそうだろうな。

 

 

162:メタルスライム

 

なんだ、意味深なことを言う。他にも言うことがあるのか?

 

 

163:佐々木痔郎

 

【蒼龍の聖剣】のメンバーのみ、来たければ来てもいいぞーって感じで第12エリアの道を公開するお話がございます。ってことで俺はここいらでお暇しまーす! あ、同じメンバーのメタスラさんも来る―?

 

 

164:メタルスライム

 

そうさせてもらう。誘ってくれてありがとうな。

 

 

165:アカツキ

 

ちょ、待てぇえええええええええええええええええ!!?

 

 

166:ロイーゼ

 

急いで北の第11エリアに集まれ!!

 

 

167:トイレット

 

絶対に捕まえてやる!!

 

 

168:ヨイヤミ

 

逃がさないぞ!!

 



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JGE1

 

 

 

「王様、結局バラしてしまいましたね?」

 

「そらお前。他にも掲示板にプレイヤーがいるんだから隠せるようなもんじゃないだろ」

 

「元々教えるつもりだったの?」

 

「公開しないとは伝えたけど誰かには言わないわけじゃないからな」

 

話し合いながら海の幸をふんだんに使った鍋料理を囲って夕餉の時間を過ごす。南極も第12エリアも海があるから魚介類が食べたくなった。蟹の足を折って中身の肉をぷるんと殻から抜き取って吸い込むように口の中に入れて食べる。

 

「実際、港町はどんな感じなんです?」

 

「閑古鳥が鳴いてた。危険な海だから漁猟ができず、商売が上がったりで家の中に引きこもってる」

 

「なんだか、地龍の問題と似てるね?」

 

瑠海の言う通り。おそらく新大陸側の港町も似たような感じではないか?

 

「そう言うことだから、のんびりと待ってるよ二人とも」

 

「「わかった」」

 

そんじゃあ、ごちそうさまでした。片付けたら仮想現実に行きますかね。

 

レッツログイーン! あ、そのまえに・・・・・。

 

 

燕side

 

 

「話ってなに?」

 

王様が部屋に入って行ったのを確認するまで待って貰った瑠海さんに私はあることを言った。

 

「今月で夏が終わります」

 

「え? うん、そうね」

 

「私達学生は貴重な青春の時間を寝てゲームばかりしてよいのかと甚だ疑問なんです」

 

「つまり、彼と外出をしたいと」

 

話が早い瑠海さんに頷く。

 

「ぶっちゃけ、瑠海さんもリアルでも関係を進展させたいとは思いません?」

 

「・・・・・否定できないけど、私は居候の身だし恩人の王様相手にこれ以上のわがままはダメよ」

 

ふむ、遠慮してるんだこの人は。まぁ、気持ちはわからなくはないけどね。

 

「じゃあ、一緒に王様に言いましょう」

 

「何をだ」

 

うわっ、びっくりした!? 部屋に戻っていなかったの王様!?

 

「俺に何か言いたいことでもあるなら聞くぞ。俺も言いたいことがあるし」

 

「えーと、悪いことでもしましたか?」

 

「ほう? 無自覚に自分が何かしたこともわからないようだな?」

 

ま、待って、待って? 無自覚に私はお仕置きをされることしちゃった!? ヤバい、全然わからないよー!!

 

「冗談はさておき「冗談!?」明日予定がなければ三人で出掛けないか?」

 

「お出かけ? どこに?」

 

「そりゃあ祭りに決まってるだろ? 今は夏なんだしそろそろ家に籠らないで外出もしなくちゃ」

 

お、おおおー・・・・・王様も私と同じことを思っていたなんて、ちょっとどころかすごく嬉しい。

 

「はいはい! どこの祭りに行くんです?」

 

「悪いがゲーム関連の祭りだ。日本の国土の一部を蒼天の物にした場所で展示会や博覧会を建設した場所でNWO関連のJGE・・・・・正式名称はジャパン・ゲーミング・エキスポって名前の蒼天と日本のゲームを日本人向けに紹介する展覧会である。夕方までそこに遊ぶぞ」

 

「へぇ、初めて知りました。日本にそんな場所があっただなんて」

 

「ゲームに関して今年までほぼ蒼天と無関係だったからな。んで、俺は蒼天の王だから色々と知ることができるのさ。そこで様々な催しを体験すればNWOに関する景品がもらえるらしい」

 

「それはどんな?」

 

王様は質問した瑠海さんの顔を見ながら言った。

 

「わからん」

 

「「ですよね」」

 

ふとここである想像が頭に過った。

 

「NWOが関連しているなら、かなりの人が来るんじゃあ・・・?」

 

「だろうなぁー。右も左も、前も後ろにも行けず身動きが取れない状態で逆らえない人の波に身を任せるしかできないだろう。どれだけ広大な敷地を用意してもすぐにパンクする。蒼天から警備員を派遣するらしいが対応は常に後手に回るはずだ」

 

「・・・・・想像しただけで辟易するんですけど」

 

聞いてしまったら行く気がなくなった。なのにこの人は問題ないと断言した。ポケットからなんかゴールドカードを3枚取り出した。

 

「なんですかそれ」

 

「総合ランキングと職業ランキングで1位から1000位までのプレイヤーが予約するともらえる優待チケット。これがあれば最低二人まで他の人を招待できてかつ、チケットがある者だけ展覧会に入れる。持っていない人間はその翌日に地獄を味わう」

 

「はい? 何時の間にそんなチケットが予約していたんですか?」

 

「一ヵ月前だ。NWOの公式ネットに記載してたぞ。予約するために二人のIDとパスワードを勝手に拝借させてもらったがな」

 

私たちを驚かすためにあえて黙認した王様に呆れながらチケットを受け取った。

 

「今度から事前に言ってくださいよ」

 

「善処する。瑠海も大丈夫か?」

 

「えっと、あなたが問題ないなら」

 

「なんの問題がある? でもま、強いて言うなら・・・・・瑠海が着物姿になるなら、絶対に綺麗になるだろうからナンパする男達から守ることが多そうなぐらいだな」

 

あ・・・・・瑠海の顔がすごく真っ赤になった。この人はほんと、恥ずかしいことをさらっと言うんだよねぇ。

 

「王様、私は守ってくれないんですか? 可愛くないんですか」

 

「今さらなことを言ってもしょうがないだろ。あと、お前を守ることはない」

 

そう言いつつ私の手を握った。

 

「こうして手を繋いでやるから俺の傍にいろ」

 

「っ―――」

 

このっ、ギザったらしいことを言われて嬉しい自分がなんか悔しい! 

 

「あ、祭りに行くとき顔はどうするんです? まさか、死神の格好で行くつもりじゃないでしょうね」

 

「さすがに不審者扱いされるわ! 髪と目の色を変えるよ」

 

「ああ、もしかして死神・ハーデスに?」

 

王様はいたずらっ子のように笑みを浮かべた。

 

 

瑠海side

 

 

翌朝。私たちは早朝から家を出て他県へと移動した。長く長く乗り物に乗って目的地へ向かう。

 

「私、住んでいた県から違う県に行くのは学校以来だけど蒼天はどうなの?」

 

「蒼天も修学旅行には外国に行きますよ。蒼天からすれば日本も外国です。王様に関しては―――」

 

「仕事であれば世界一周はするが、燕さん? 外でその呼び方は止めろ(ビシッ!)」

 

「あいたぁっ!!?」

 

「あ、それって私も例外ではないわね。ハーデスって呼んでも?」

 

何故か私には頭を撫でで燕ちゃんにはデコピンをした。凄く痛いのか額を抑えて悶える燕ちゃんを見て思ったことを口にした。

 

「妙に当たりが厳しくない?」

 

「蒼天の重役がこんなところにいると思うか? 正体をバレたら色々と面倒なんだよ。なのにこの子ったら変なところでボロを出す。こっちが冷や冷やするんだよ」

 

「それならどうして彼女を選んだの?」

 

「日本人であり、相応の実力者、誰にでも愛嬌とコミュニケーションができる、場の雰囲気に溶け込むことができるから」

 

場の雰囲気に? 首を傾げて疑問形に呟いたら彼は教えてくれた。

 

「燕の顏は可愛いよな?」

 

「え? うん、そう思うわ」

 

「だがな。顔の容姿が以上に整っていたりプロポーションが良すぎると不用意に人を集めてしまうんだ。学生として身分と正体を隠し、俺のフォローをしてもらうのにそれは不必要。自然体で人の中に溶け込めるような学生を傍に置きたいのさ」

 

「うーん・・・・・あなた自身が今の姿で変装してもダメなの?」

 

「気付く奴は絶対に気付く。そしたらそいつに警戒心と好奇心、面倒なことに蒼天の重役の人物だからと接触してくるだろう。だから仮面を被ってでも変装するしかない。それなのに露骨に正体がバレるような言動を・・・・・」

 

ああ、燕ちゃんの当たりが強いのは何となく理解できた。それから同時に気になることも。

 

「燕ちゃんだからあなたとこうしていられるのは分かったけれど、そのことに他の人達は納得したの?」

 

「・・・・・ぶっちゃけて言うとだな。ものすっごい抗議をされたわ」

 

「え? もしかして他の4人の方々が?」

 

「だけじゃなく他の配下の連中もだ。俺と一緒に居たいがために駄々をこなれたわ。あいつらは絶対だめだ。仕事どころじゃなくなる。蒼天から出したら確実に注目されるんだからよ」

 

どんな人たちなんだろう・・・ちょっと気になるのだけれど。燕ちゃんも同感なのか頷いた。

 

「そうですよね。あの人達は色々と凄いですもん。本当色々と」

 

「そんなに?」

 

「うん、そうだよ。雰囲気が違うし、人を引き寄せる力があるのと堂々とした言動に蒼天のトップに立てる才能や見た目の容姿やスタイルも含めて本当に」

 

「因みにこういう奴が他にもいる」

 

ハーデスが携帯の画面を見せてくれた。綺麗な長い黒髪をサイドテールに結んだかなり可愛くて胸も大きい女の子。ハーデスとツーショットで撮られている写真なのだけれど名前も知らない女の子は嬉しいのか照れているのかほんのりと顔を赤らめてる。

 

「そいつは蒼天の王の配下の一人だ。そういうレベルがたくさんいる」

 

「因みにこの子の歳は?」

 

「はーい、同じです。信じられないですよねー?」

 

ウソデショ・・・・・。私、女として負けちゃってる・・・・・?

 

「この子を一緒に居させれなかったの?」

 

「無理無理。役職に就いているしそいつの代わりなんて今はいない。何より俺を崇拝しているもんだから燕のようなフレンドリーな接し方は出来ない。その点、燕は俺の条件に揃ってるから彼女を指名した」

 

「えへへ」

 

こっちもこっちで凄く嬉しそうね。でも、ボロを出したら当たりの強いお仕置きを受けるなら嬉しさ半分涙半分なのかしら。何となく画面を横にスライドして、色んな女の子たちの写真を見て・・・!?

 

「ひゃっ!?」

 

「「ひゃ?」」

 

な、なにこれ・・・・・全裸の女性が横になっている半裸なハーデスと写って・・・・・!!

 

「どうしたの瑠海さん。もしかしていかがわしい写真とかあった? ・・・・・あったね」

 

「は?」

 

横から覗いた燕ちゃんの目から光が消えて怖いけれど、何より彼と彼女の爛れた関係を物語った証拠の画像に私は硬直し、彼は怪訝な顔で私から携帯を奪っては・・・・・。

 

「・・・・・へぇ」

 

「「・・・・・・」」

 

わ、笑ってないわ! 目が笑ってない!? なんか、空気が重いし彼の目も光が無くなって燕ちゃんよりも怖い! 燕ちゃんも同じ気持ちのようで引き攣った顔だわ。

 

「ふふふ、あいつめ・・・・・俺の寝ている間に冗談では済まされない悪戯をしやがってたのか」

 

「・・・・・事実、じゃないんですよね?」

 

「あ?」

 

「すみませんでした!」

 

燕ちゃんが秒で頭を下げて謝った! しかも彼から「こいつ等もよ・・・」と呟いていたのは聞こえない、聞こえなかったわ!

 

「んと、まだ着くまで時間はあるから・・・・・二人とも、現地集合ってことでいいか?」

 

「「わ、わかりました」」

 

「悪いな。それじゃ」

 

ハーデスが座った状態で私達の前から光に包まれていなくなった後。

 

「彼、どうしたのかわかる?」

 

「十中八九、私にデコピンした以上のお仕置きをしに蒼天に戻ったと思います」

 

「デコピン以上って・・・・・」

 

「説教程度なら幸せです。だけど、お尻を叩かれるお仕置きならその日は地獄を味わいます。信じられないでしょうけれど、あの人の平手はその気になればスイカを粉砕しちゃうほどの威力があるんですよ?」

 

スイカを粉砕って・・・・・もしも本当ならその子のお尻、破裂しちゃうんじゃ・・・・・?

 

 

 

「―――よう、お前ら。呼びかけに応じてくれて感謝する。ううん? 何を見て怖がっているんだ? 単刀直入に言うが全員お仕置きをする事案が浮上してなァ・・・全員お尻叩きの刑は決定事項なんで」

 

「わ、私達が何かしましたか!?」

 

「そ、そうよ? ちゃんと仕事だってしてるしあなたのお仕置きを受けるような事は一切してないわっ」

 

「一方的な横暴と権力は配下の者達に不満を抱かせるだけよ。それだけのことをする理由と証拠があるのでしょうね?」

 

「はいこれ、何でか知らないが身に覚えのない全裸のお前らと事後の写真が俺の携帯に保存されていました」

 

「「「「「「あ」」」」」」

 

「俺が高度な寝相でお前らを無理矢理抱いたとしてもまずありえないし、俺の意思でお前らと○◦○○した後なら百歩譲って勝手にこんなことしたことは説教だけで済ませるがさ・・・・・さて、お前らの言い訳を聞こうか? この世間には公できない爆弾の写真を人の携帯で撮った理由をよ」

 

「「「「「「「「「「・・・・・」」」」」」」」」」

 

「あるなら一回だけで済ませる。ただし、俺を納得させれなかったら十回だ。何も言わず甘んじでお仕置きを受けるなら十回だ」

 

「それ全部で結局十回じゃないですかー!?」

 

「あー、悪い。言葉が足りなかった。言い訳で納得させれなかったら片方ずつ十回、全部で二十回もするつもりなんだわ」

 

「ひっ!?」

 

「・・・・・素直にお仕置きを受けたほうがダメージが少ないわねこれ」

 

「言い訳なんて彼が許すはずがないものね・・・・・というか今更気づいた彼も鈍いわよ」

 

「普段携帯を使わないから気付くのが遅かったのであろうなぁ」

 

「聞こえてんぞ? 生意気なことを言うなら倍にしてやろうか。その道連れで皆にも倍だ」

 

「「「「「やめてくださいお願いします!!!」」」」」

 

「とにかくお仕置きは決定事項、異論は認めないぞ」

 

その日、とある建物から何かを叩く音が絶えずしばらくして、涙目の幼女から熟女の女性達が出てきたのだが誰一人理由を頑なに言わなかった。

 

 

 

「待たせた」

 

「お、お帰りなさい・・・・・あのどうでしたか?」

 

「うん、不届き者を成敗した。悪戯もしなくなっただろ。久々に腕が鳴ったよ。お仕置きの回数が回数だからさぁー」

 

「そ、そう・・・・・お疲れ様」

 

なんか二人が俺を見て怖がっているのは気のせいだろうな? 二人に何かしたわけでもないし。まぁいい話を変えよう。

 

「さて、これに乗れば目的地だ」

 

「はい、そうですね」

 

「まさか、これに乗って行くとは思いもしなかったわ」

 

集合場所はバス停、そこに停車している三階建てのバスの一つに乗るのだ。

 

「ここってもう蒼天の領土?」

 

「そうだな。日本の法が通用しない。日本と共有しているが蒼天の領土であるから日本の警察も入って来られないぞ」

 

「それを知って悪い人がここに逃げ込んだら犯罪の温床にはならない?」

 

ははは、面白い冗談を言ってくれるなこやつめ。蒼天がそんなこと赦すと思うか?

 

「それはないだろう。その理由もしっかりとあるし」

 

「どんな理由?」

 

「それを語るのはまた今度だ。前が空いてきたぞ」

 

バスに乗り込む人々―――俺達と同じプレイヤー&一般人が少なくなってきた。ゆっくりと俺達もバスに乗り、一番後ろの三人まで座れる背中合わせの座席に腰を落とすと目の前の座席に座る三人の大人と子供。・・・・・おや、なんか見覚えのある子供ではありませんか?

 

「えっ!? ハーデスさん!?」

 

「ん? やっぱりイカルか?」

 

「うわぁー!!」

 

動物の尻尾があれば千切れんばかり振っているだろう少女の顏が喜悦で輝きだした。しかも予想が当たったみたく名も知らない子供=イカルとの出会いは俺も嬉しかった。燕と瑠海もイカルを知っているから二人も話しかけるが、素朴な疑問を抱いた。第二陣のプレイヤーである彼女がランキング外の筈なんだよな。となると・・・・・。

 

「初めまして白銀さん。この子の母親でプレイヤー名はフラワーナイツです」

 

「やっぱりプレイヤーだったか。ランキングは1000位以内だからか」

 

「噂の白銀さんより下の下ですが、毎日ゲームをしていたおかげで夫と娘とJGEに行くことができたんですよ。それといつも娘がお世話になってありがとうございます」

 

「いやいや、こっちもイカルとは楽しくゲームをやらせていただいています」

 

「それと娘に多額のお金をお渡しになった件についても大変申し訳なくありながら感謝しております。今の私達がこうして娘と外出できるようになったのは白銀さんのおかげです」

 

「それこそ気にしないでくれてほしい。俺がそうしたかっただけだから。現実世界でイカルを幸せにできるのはご両親だけだからな」

 

「はい。本当にありがとうございます。ほら、あなたも」

 

「あ、ああ・・・ありがとうございます白銀さん」

 

人見知りな人かな? バスが動き出した中でさらに話が盛り上がれば夫の人もNWOを始める模様。10億の大金が娘によって手に入ったので仕事をしなくても豪遊をしなければ生涯遊んで暮らせるからか。

 

「ハーデスさんもJGEに?」

 

「勿論だ。イカルとは別行動になるが楽しもうな」

 

「はい! 今度お母さんたちと一緒に遊びに行ってもいいですか?」

 

「いいぞ。一緒に遊ぼう」

 

「ありがとうございます!」

 

ええこや。リアルのイカルは微笑ましい。ゲーム内で遊ぶことを約束をした俺達は和気藹々と会話の花を咲かせた。夫の方は仕事が平凡なサラリーマンなのだが、フラワーナイツは意外なことに彼の会社の社長の娘さんだった。社内恋愛をして結婚後、イカルを産んでも退社せずに働いてたが会社の経営が傾いて倒産の危機まで迫ったところ、俺の10億が棚から牡丹餅の勢いで転がって来て会社が建て直せたのだとか。

 

「さしつかえなければハーデスさんのご年齢と職業を教えていただきますか?」

 

「え? えーとすみませんが秘密ってことで。何分、蒼天は良くも悪くも注目を集めているから」

 

「そうですか。不躾な質問をしてすみませんでした」

 

「いえいえ、国家に関する仕事をしている身なので。この見た目の若さも周りからよく詐欺だと言われることが多いから」

 

「あら、そうなのですか? てっきり二十歳以上なのかと思いました」

 

「ははは、若さを維持する方法がありますから」

 

嘘ではない。だからそんな疑心な目で見るのは止めてくれるか二人とも。

 

「今度、社にお越しください。父にもお礼を申し上げたがっておりますので。あ、これが我が社の名刺です」

 

「わかりました。今度時間があれば必ず」

 

お、この会社・・・・・華琳と一緒に訪問しようか。

 

 

 

それからバスは海の上で造られた人工島の前で停車した。彼の場所と繋ぐ道がない。

しかし海底に設置された油圧伸縮する柱が海上で開くことで橋を形成する浮上展開橋。海底から白波を引き裂いて現れた巨大な板が開脚するように開かれ、等間隔に現れた同様のギミックが次々に連結・・・・・海上の展覧会へとつながる長大な橋が完成する。そんな様子がバス窓を覗く俺達の視界に飛び込んだ。

 

「うわ、凄い。蒼天ってこんな大掛かりな仕掛けも作れちゃうんだ」

 

「本場の蒼天にはもっと凄いものがございます」

 

「本当なんですか!? 蒼天に行ってみたいです!」

 

「うーん、蒼天へ行くには条件が難しいからな」

 

輸送船にスパイが紛れ込んだからな。そのせいでさらに厳しくした。おのれ原因を作った九鬼家のクソ従者老人ども。また何か仕掛けてこようならばおホモ達の映像を世界中に轟かしてやるからな。

 

 

『Welcome to Japan-Gaming-Expo !!』

 

 

「ひゃっ!?」

 

イカルが可愛らしい驚きの声を上げる。それは俺の心情でもあって財布から声がした。 ジャパニーズツクモガーミ?

 

いや違う、喋ったのは財布じゃない。その中に入っている優待チケットだ。どうやらJGE会場に一定以上接近することで内蔵された何らかの機能が動き始めたらしい。財布から取り出したカード型チケットから小人サイズのぬいぐるみのようなドラゴンのキャラクターがARホログラムによって出現しており、愛想のいい笑顔で明後日の方向を向いていた・・・・・あ、向きを直せと、はい。

 

『オイラはドラぞう! みんながJGEにいる間はオイラが案内するドラ、よろしくね!』

 

「おお、地味なところに科学力が使われている」

 

『今日来てくれた優待チケットを持っている人数はなんと2541人だドラ! JGEに来てくれたみんなありがとうドラ! その中の1000人のプレイヤーには後でプレゼントがあるから受け取ってね!』

 

「今思ったんだけど、ペイン達も来ているってことよね?」

 

「あ、それもそうだね。ハーデスに続いてランキング上位だし」

 

「見つけ甲斐があるな」

 

何せこれから中に入る場所は東京ドームをドーナツ状に幾つも連結させたメガフロート。五万人は収容可能にする能力があり、優待チケットを持つ千人と二千人の一般人が闊歩しても問題の無い広さの敷地だ。これが他の一般人だったらゾッとする。

 

「ゲームで例えるなら俺達はクローズドベータのプレイヤーだな」

 

「あー、一般人は明日から公開されるだよね」

 

一時間待ちは当然だろう。先行してJGEを楽しめる俺たちは優待チケットを得れる環境に感謝と幸せ者だ。今日まで頑張った甲斐があると思わせてくれることがあると願いたい。

 

「展示場内をバスが通ってるのかこれ。とりあえずどこから行こうか? NWOのブースから行く?」

 

「うん、賛成」

 

「一緒にやっているゲームだもの。行かない理由がないわ」

 

「私達も行きます!」

 

イカルも当然行く模様だ。こうして彼女と一緒に居ると少々物足りなさを覚える。それは―――・・・・・。

 

「現実世界にオルトが出てきたら面白いな」

 

「エスクも一緒に歩けれたらとっても嬉しいです」

 

「うーん、流石にそれは難しいんじゃないかな。って、ハーデス君とイカルちゃん・・・私にそんな目と顔を向けないで、二人の楽しみを濁した私が悪かったから」

 

「イカルちゃん、そんな顔も出来てたのね。すっかりハーデスの影響を受けちゃってるわね」

 

将来が楽しみだよ。と、いうわけで優待チケット持ちの大半が向かっているNWOのブースに来てみたわけだが。

 

「AR凄いなオイ」

 

「え、ちょっと待ってあれって・・・・・」

 

「うわぁ・・・・・」

 

そう、NWOブースへと到着したバスを出迎えたのは巨大なメガフロート・サイトの天井まで届くような巨大な女の像。今尚記憶に新しいNWOに三体のみ存在するモンスターの一体、皇蛇リヴァイアサンと戦った剣と盾を持った水晶の戦乙女であった。尤も、単なるARかつあくまでも飾りとしての再現らしく、一人で動くはずがなかった。

 

「・・・・・これを見た途端、俺の中ですごーく嫌な予感が覚えたんだが」

 

「あはは、さすがに気のせいじゃないかな?」

 

「とりあえず前情報で見聞きしたNPC画集とやら、を・・・・・」

 

「あ」

 

瑠海の視線が物販コーナーへと向き、そこで固まる。瑠海の動作に気づいたイカルも同様に視線を動かして・・・・・そして瑠海が固まった理由に気づいたのか短く声をあげた。

 

話が変わるようで変わらないが、この手の画集を販売する場合・・・サンプルとして何枚かの絵を先に見せる、という手法がある。どうやらNWO画集でも同様のようで、ゲーム世界内の画家達の作品というのも間違いではなく、一枚一枚が明確に違う筆で描かれていることはわかる、のだが・・・・・。

 

「タイトルは『堕天の魔王』『皇蛇の乙女』『月と従魔と幼女』・・・・・」

 

 

 

えー、まぁ、はい、うん。一枚目はあれですね。

 

俺は見た事ないけど・・・・・激しく覚えがあるマイクを片手にスポットライトに照らされたステージの上に立つ六対十二枚の黒い翼を生やした女が描かれてますね。

 

 

 

うー、うん、あー、おう。二枚目はあれですね。

 

俺は見た事ないけど・・・・・、激しく覚えがある頭に珊瑚を生やし腰に尻尾を生やした女の絵ですね。

 

 

 

ははは、あーうん。三枚目はあれですね。

 

これも見た覚えがない・・・・・・・・・・、激しく覚えがある地面に引きずるほど長い幼女が色んなモンスターの従魔に囲まれている絵ですね。

 

 

 

 

「「「・・・・・」」」

 

サンプル画像から目をそらしたいのにできない。燕たちの視線がこっちに向いているし目が遭うとなんか妙な気まずい雰囲気になっちゃうもん。俺が上や下に顔を向けても現実は変わらない。

 

いや、だって俺じゃん! 一枚目はオーブ争奪戦イベントのやつだし、二枚目はリヴァイアサンレイドの時に取得したスキルだし、三枚目はギルドメンバーと夏祭りをした際にラプラスにしてやられた時の姿だし・・・・・

 

「こ、こんなことも、あるんですね・・・・・?」

 

「・・・・・いっそ笑え。俺はこの黒歴史を抱えて生きなければならなくなったんだ」

 

「き、気にしちゃダメよ。」

 

いやほら、サンプルはあと七枚くらいあるしこんな偶然もあるのかもしれないというか・・・・・うわぁ、「蒼夜天の襲撃者」ってタイトルのこの絵、凄く見覚えのある奴が描いてあるように見えるぞぉ・・・・・。

 

「燕ちゃん・・・・・」

 

「タニンノソラニ、ソラニデス」

 

他人の空似ですねはい。あーでもこの、「海割りて」と「聖女の祈り」とか普通にイラストとしてほしいなぁ・・・・・見覚えのある襲撃者についてはノーコメントで。

 

「・・・・・まぁ、画集ならこの値段も妥当か」

 

6000円・・・・・ちと高いが、買って損はない、購入!!

 

数枚の一万円札を渡す手になんの葛藤もない俺たち。お前ら、俺の買って記念品にする気だな?

 

さっそくジャパニーズ資本主義最強の切り札が一枚消えてしまったわけだが、元々出費は承知の上でこの日の為に束を二つ持って来てある。ふふ、大人買いを久々に楽しめるぜ。なのでもう一個の目玉である自キャラの肖像画ってのが気になる。なるほど、専用のマシンでログインして・・・・・へぇ、「背景」「ポーズ」「装備」諸々を設定して肖像画プロマイドにするってわけね。そんで、使えるのは自キャラが行ったことがある場所や遭遇したことのある敵、持ってるor持っていたことがある装備にテイマーとサモナーならテイムした従魔を・・・・・・面白い。

 

これをこうして、こうやって・・・・・こうすれば・・・・・ポーズはプリセットから・・・・・これか? これかな? いや、こっちの方がいいな・・・・・。

 

「出来た・・・・・力作だ」

 

背景はマイホームの日本家屋と桜の木。色んな所にのびのびと色んな従魔達が過ごしていたり従魔同士が遊んでいる構図だ。

 

「イカル見るがいい。俺の力作だ」

 

「うわぁー!! オルトちゃんや他の子達が楽しそうにしています!!」

 

判ってくれるか。これは俺の宝物にしよう。一回五百円だしもう一枚作ってもいいかな、後ろ並んでないし。次は最高額であるホログラムスタンド(一万円)を購入して力作だ。燕と瑠海も俺と同じことしてプロマイドを作ってるしな。

 



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JGE2

 

 

さて次はどこへ行こうか。ドーナツ状のメガフロートの中心にも広いドーム状の施設があるし三方向のどっちでも行ける。イカル達親子と別れた後にパンフレットを見て悩み、二人と相談し合う。

 

「NWO以外のゲームやグッズがあるのよね」

 

「他のゲームはやらないわねぇ~」

 

寧ろNWOが凄すぎて他のゲームでは物足りないというゲーマーが多いのでは?

 

「それでもNWOに関するものは殆ど占めてるから見て回ろうぜ」

 

「そうだね」

 

「うん」

 

「賛成だよん」

 

賛同するみんなの返事が肯定してくれた・・・・・ん? 返事が一つ多かったような。

 

「やぁ」

 

俺たちの輪に自然と入っていた人物に目を向ければ、NWOの中でかなり知った顔の金髪青目の青年がそこにいた。

 

「お、お前は・・・!」

 

「リアルでは初めましてだねハーデス」

 

「「ペイン!」」

 

動きやすい恰好、白いTシャツに長いズボンの出で立ちの男の朗らかな笑顔と挨拶に俺たちは驚いた。

 

「やっぱりいたか。見つけようかと思ってたんだがそっちから来てくれるとは」

 

「俺も同じ気持ちだったよ。ドレッドたちもどこかにいるだろうから一緒に見つけて見ないかい」

 

「そのままオフ会も悪くないかな」

 

「そうだね」

 

リアルのペインとまさかの合流を経て、NWOのブース内を歩き回ろうとした時。

 

『ガオー!』

 

ポケットから声がしたので何事かと優待チケットを取り出してみれば、ドラぞうがVの文字の金メダルを持っていた。俺たちが同じ場所に行ったために同じ現象が起きているらしく、3つの優待チケットからドラぞうの声がハモる。

 

『『『ヴィジットボーナスが追加されたよ! いっぱい貯めると最後にいいことがあるかもドラ!!』』』

 

「ヴィジットボーナス・・・・・あっ、スタンプラリーか?」

 

「ヴィジット・・・買い物したからポイントが貯まったってことよね?」

 

「最後までポイントを集めたら何がもらえるんでしょうねー」

 

「興味があるね」

 

じゃあペインさんや。あそこの商品を買ってみるといいぞ。自分だけのオンリーワンが作れるぜ。と俺は送り出した。

 

「ここでしか入手できないアイテムだったら欲しいかな」

 

「確かに。それが何なのか興味あるよん」

 

だったらやることは決まった。見て回るだけじゃなく遊んでグッズも購入する事だ。

 

「買って来たよハーデス。中々なモノが作れたよ」

 

「ほーどれどれ?」

 

最高額であるホログラムスタンドを購入したペインが見せてくれたのは金髪で青い剣士が周囲に剣を浮かべて佇んでいるモノだった。

 

「・・・俺は何時かお前がそんなスキルが手に入ると確信したぞ」

 

「複数の剣を従えて攻撃できるスキルがあるなら、是非とも欲しいよ」

 

「剣神になったらできそうだなー。ところで懐事情は問題なし?」

 

「問題ないよ。何よりハーデスから貰った大金がある」

 

じゃあ問題ないな。それじゃ動くとするかね。

 

「どっちのブースに行く? なんかベヒモスとジズとリヴァイアサンの顏が出入り口になってるんだが」

 

「すごいわね。今にも動き出しそうなリアル感が醸し出してるわ」

 

「うーん、じゃあハーデス君が最初に倒したベヒモスからで」

 

「俺はどちらでも構わないよ」

 

燕が提案した通りに動くことにした。命名ベヒモスブースに入るとARゲームが体験できるモノが多くあって、優待チケット持ちの人達は遊んでいる姿が見受けれる。

 

「ゲーム、遊んでハイスコアとか叩き出したら何か得られると思うか?」

 

「ゲーム会社が主催するモノだったらもしかすると?」

 

「でも、並んで待っている人はたくさんいるわね」

 

そうなんだよなー。どこかすぐに終わりそうなとこないかね・・・・・。そう思いながら歩き回った俺の視界に、大きなカプセル型の機械が複数鎮座してる場所を発見した。その周りには少なからず人だかりができている。みんなを呼んで一緒に見に行った。

 

「あ、業務用VRシステムだ」

 

「え、あれのこと?」

 

「ちなみにそれってなに?」

 

「ぶっちゃけるとヘッドギアより高性能でプレイヤーの動きがよりリアルになるってやつ」

 

「ヘッドギアも凄いと思うんだが」

 

そりゃあ現ゲーム業界の革命を起こした最新技術だからな。だけどそれ以上の高性能な物も作れるなら作るのが人の性ってもんだよペイン。

 

「というか、あんな大きい物を買う人がいるの?」

 

「買うんじゃない、購入できるかだ。―――買おうかな」

 

「買うの!? あれを!?」

 

「・・・・・一台だけでも数百万するのか」

 

その通りだ。ってことで俺はスタッフの人に購入希望を伝えた。契約書と住所と名前を書いてその場で一括で支払った。勿論カードで。『ガオー!』お、ヴィジットボーナスが貯まった。

 

「本当に買っちゃったよこの人」

 

「・・・・・俺も買おうかな。ハーデスの言う通りなら体験してみたい」

 

「こっちもいるわ燕ちゃん」

 

俺の後にペインもチェア型フルダイブVRシステムを購入したが残りの二人は買わなかった。まぁ、俺のを貸せば分かってもらえるか。

 

「ご購入して頂きありがとうございます。VRシステムをご購入した死神ハーデス様に特典をプレゼントを差し上げます」

 

「特典? それは元からそうすることになってた?」

 

「さようです。限定百個生産のチェア型フルダイブVRシステムをご購入して頂いたお客様のみ特典を与えることになっております」

 

スタッフが話しかけてきて特典を貰えた。ペインも何かの特典を貰って不思議そうに見てた。

 

「この特典って具体的になに?」

 

「NWOのアイテムコードでございます」

 

お? まさかそんな概念があったとは知らなかったな。

 

「だってよペイン。NWOで使えるアイテムらしい」

 

「ハーデス、アイテムは新大陸を網羅した地図とスキル、パラメータ改変薬、座標転移門らしいよ」

 

マジで? 地図に関しては探索に凄く助かるじゃん。タラリアより一歩も二歩も先を越しちゃってるよなこれ。

 

「スキルは?」

 

「ランダムスキルスクロール×5」

 

・・・・・微妙。だが座標転移門とやらは使い捨てか? 新大陸と旧大陸が行き来できるならすごーく助かる。燕たちにも教える。

 

「興味深いアイテムが手に入るんですか。だったら私も買おうかな」

 

「でも、あんな大きなもの家に入り切れないんじゃない?」

 

「そん時は俺が何とかするさ。二人が気にしなくていい。買うなら今の内だぞ?」

 

と催促してみたのだった。というか、門だから一つだけじゃ使えないと思うのは俺だけか? まぁいいや、二人にも買う気にさせたし検証はNWOの中でだ。

 

「あ、あっちのゲームができそうだわ。行ってみましょう?」

 

「どんなのだろう」

 

人がまばらで他のところよりは少ないそこに並んで待ってみた。後ろから見て見るとどうやらリズムに合わせて太鼓を叩く音楽系ゲームらしい。

 

「太鼓の天地人・・・・・ほうほう、色んなプレイヤーの名前がランキングに載ってるな。難易度とランキングが高いほど・・・NWOの中で使える様々なアイテムコードが手に入るらしいのと、設定したスコアを満たしたら豪華なモノがもらえるらしい」

 

「あら、そうなの?」

 

「やってみましょうか」

 

「最高難易度はEXか。ハーデス、試しにEXをしてくれないか」

 

いいぞ、と最初にさせてもらうことになった俺から始める。曲は・・・・・女性12人の奴にしようか。選択してゲームスタート! 画面に出て来る俺がタイミングを合わせて叩くべきコマンドが蛇の胴体のように隙間なく、絶え間なく連続で横に流れて来る。必然的に俺が持つ二本のバチが大きな太鼓に激しく叩き音が鳴り響く。

 

「手が、ハーデス君の手が見えないんだけど!」

 

「難しすぎるでしょこの難易度・・・・・次はペインもやるのよ? 人にやらせて自分だけやらないってのは無しだから」

 

「勿論挑戦するさ」

 

―――数分後。

 

『ミッションクリア! オールコンボ達成!』

 

ゲーム画面から拍手喝采の音声が聞こえてくる。最高難易度のランキングの順位が一気に1位に躍り出た俺の名前が表示され、レシートを出すような機械からアイテムコードが出てきた。

 

「リアルでも凄いよんハーデス君。一つも外さずに叩くなんて」

 

「見ながら叩けばいいだけだしな。へい、次はペインだぜ。行ってこい」

 

「わかったよ」

 

ペインもバチを持ってEXに挑戦した。まぁ、結果は惨敗だコンボを繋げた回数が50以上と頑張った方だが、一回ミスるとタイミング合わせて叩くのが大変だ。最後まで繋げて叩くことは適わなかったが他のプレイヤーより叩けた且つ、俺の下の順位に食い込んできたペインにもアイテムコードが手に入った。

 

「頑張ったな」

 

「ははは、とても難しかった。モンスターを倒す方が簡単だよ」

 

「そりゃあそうでしょうに」

 

「よーし、次は私!」

 

瑠海がやる気になって挑んだ。その次は燕だ。さすがにEXを挑むことはなく低い難易度で遊び始めた。なお、何を得たのか詳細は不明。コードを入力してからのお楽しみらしいな。そして、他のゲームを見て回り、並んで待っている人達を見て観戦してから次のブースへと向かった。

 

「ここはグッズのコーナみたいだねー」

 

「チケットから出て来るドラぞうの人形があるわ」

 

「いいね。それを買ってみよう」

 

買い物籠と台車を押してたくさんのグッズを集める。なんかNWOのモンスターのカードがあるしNPCのフィギュアもある―――はっ?

 

「ちょ、何で・・・・・」

 

「え、どうした・・・・・あ」

 

「・・・・・えーと」

 

美少女のフィギュアが並んでいる棚に目をやった時。そこには性転換した俺の等身大フィギュアが限定販売されてるゥー!? しかも、それを手に取ってウキウキ顔で持って行った若い層の男たちを目撃して・・・・・。あ、もう在庫が無くなって売り切れたらしく手に入れそびれた男たちの阿鼻叫喚が・・・・・。

 

「は、ははは・・・・・いっそ殺してくれ」

 

「ハ、ハーデスの目が死んでる・・・!?」

 

「き、気をしっかりハーデス君!!」

 

「VITは精神攻撃を防げないか」

 

わかってるじゃんペイン。性転換した俺を購入して何が嬉しいのかわかりたくない消費者の精神を目の当たりにしてしまった俺は、逆に他にも何かあるのかと探してみた。

 

「堕天の魔王のコスプレ衣装、Tシャツ」

 

「皇蛇の抱き枕」

 

「バスタオルにハンカチ、寝具のカバーまで?」

 

「ハーデスの従魔のグッズもたくさんあるね」

 

なんで俺ばかりのグッズが販売されてるんでしょうかねー!? しかも売れ行き良好なのが納得できない!

 

「あ、ハーデスさん!」

 

元気いっぱいな声が聞こえ、こっちに来る子供の後ろから男女の夫婦も寄ってきた。

 

「イカル、ここで買い物か」

 

「はい! ハーデスさんのオルトくん達をたくさん買いました!」

 

両親の手にある大きめな袋の中にあるのだろう。それを部屋に飾って過ごすのだから幸せな空間が出来そうだな。

 

「エスクは?」

 

「なかったです・・・・・」

 

「そうか。それは残念だな」

 

「はい。あ、でも、お姉ちゃんとお姉ちゃんが妹になった枕を買いました。これから毎日お姉ちゃん達を抱き締めて寝られると思うとすごく嬉しいです」

 

そ、そうかぁ~・・・・・うん、それはよかったなイカル・・・・・。

 

「俺もなにか買おうかな」

 

「あ、殆んど売り切れて何もなくなってきてますから急いだ方がいいですよ?」

 

「そっか。うん、ありがとうイカル」

 

「えへへ・・・・・じゃあ、またこの中で会いましょうハーデスさん」

 

微笑むイカル。両親と一緒にどこかへ向かう姿を見送るその後。その場で崩れ落ち四つん這いで心から叫んだ。

 

「墓に入りたい!」

 

「穴じゃなくて墓!? それ、死んじゃってるよん!」

 

「だって一般的に言うとネカマだぞ!? 俺のネカマ姿のグッズが日本全土に拡散されるんだぞ!? 恥ずかしさで爆死するわ!!」

 

「それでも楽しんでいるのは事実なのだから諦めた方がいいわよ」

 

「あの姿のハーデスが好みだからみんな買っているんだよ」

 

楽しんでるのは否定しないが、商品化されるのが嫌なんだ! こうして黒歴史が増えていく事実に悲観せずにはいられないんだ!

 

 

 

・・・・・次は蒼天が新しく開発したゲームを発表する特設ステージ。その前には何列にもたくさんのパイプ椅子が横並びに置かれ多くの人達が座ってステージの上に立つ実況者の言動を見聞している。

 

「へぇー、NWO以外のゲームをもう開発してたのね」

 

「アメリカンアニメを参考にしたヒーローズ&ヴィランズの格闘ゲームと宇宙を探索するゲーム。NWOのシステムを使っているなら結構リアルな体験の遊びができそうだよん」

 

「その体験版としてもう先に体験した人の感想を窺っているところか」

 

 

『それでは感想タイムです! どうでしたか、NWO以外のゲームを実際に体験した感想は』

 

『凄いとしか言えないな。無重力って平衡感覚をああも崩しやすいとは。本物の宇宙を行ったことがないから身体が今も変な感じがしてしょうがねぇ』

 

『このゲーム、マジで発売するのかよ?』

 

『発売しますよー! 具体的には来月からですが予約特典として抽選に選ばれた人しか遊べません。第二陣の抽選申し込みもありますからご期待ください!!』

 

 

 

「・・・・・あの人達って」

 

「ペイン、確保しに行こう」

 

「同感だ」

 

「楽しそうね二人とも」



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JGE3

 

へいお兄さんたち、ちょっと俺達とお茶をしようぜ? とナンパした末に確保した男=ドラグとドレッドを待っている燕たちの所へ連行したのだった。

 

「イッチョウとイズもいたのかよ」

 

「フレデリカは?」

 

「まだ見つけていない。偶然リアルのドラグさんとドレッドさんがインタビューを受けているところを見掛けたんだ」

 

「新しいゲームの感想を教えてくださーい。まずなにをしたのか特に」

 

「あー、廃棄された小さな宇宙船の修理をしなくちゃならねぇ。プレイヤーは最初にその船に乗って宇宙へ旅立つんだ。地球上の資源が枯渇したから宇宙や違う惑星から資源を集めて地球で売買し、売った金で宇宙船や装備を新しく買うか改造、強化する」

 

「俺達が体験したのはそのぐらいだ」

 

「生産系の仕事、作業はあるのかしらね?」

 

「そこまではまだわからねぇよ。気になるなら買って確かめな」

 

確か予約すれば抽選で手に入るって言ってたな。今日中に予約しておこう。

 

「二人とも、予定が無ければ一緒に行動をしないかい。せっかくリアルで出会えたんだ、オフ会を兼ねてどうだい」

 

「おー、俺は構わないぜ。なんならこの際メルアドを交換しようぜ」

 

ドラグの提案に異論はなくお互いのメルアドを交換したら、次へのブースへと足を進める。そこもグッズ販売をしていたが、ほぼ六割は俺の従魔達の物ばかりだった。

 

「ハーデス君の従魔達が人気だねー」

 

「おいこれ、押すと声が出るぞ。ハーデスは買わないのか? (ポチ)『ムムムー』」

 

「うーん、人形ぐらいならいいか」

 

「私も何か買おうかしら」

 

ある程度のグッズを買い込んでいれば昼時となり、メシを食べに行くことになった。数万人も収容できるフードコーナーの中なら満席にはならない。席を確保してから注文を向かいに行った燕たちを先に行かせ、留守番の俺。

 

「あの、すみません・・・・・」

 

「ん? 俺?」

 

「はい、失礼かもしれませんがもしかして白銀さん、ですか? 俺、佐々木痔郎です」

 

「お? あの佐々木痔郎か? 初めましてだな。白銀さんと呼ばれてる死神・ハーデスだ」

 

「うわ、やっぱり! リアルで白銀さんと会えるなんて感動だっ!」

 

リアルでは初見の男と挨拶を交え、会話をしてれば彼が俺のことを白銀さんと大きく言えば。

 

 

「白銀さん?」

 

「あっ、あの銀髪の男だろ。てか、マジで白銀さんか?」

 

「リアルだと身長がデカいのか・・・・・」

 

「リアル白銀さん! 握手しに行こう!」

 

「あの人が白銀さん? 会いに行こ!」

 

「美音ちゃん、ほら早く!」

 

「別に会いに行かなくても・・・わかったから押さないで引っ張らないでよ」

 

 

見知らぬ人達にあっという間に囲まれてキャラクターの名前を教えられ、同窓会みたいな展開になってしまった。あ、そこで他人のフリをしている5人! こっそりと安全地帯に移動しているのがバレてるぞ! 俺を置いて行くな!

 

『ガオー!!』

 

「うおっ!?」

 

「び、びっくりしたぁ・・・・・」

 

「また何かの報せか?」

 

プレイヤーが何十人以上も一堂に会する場でトラぞうの声が異口同音に聞こえだした。優待チケットを取り出せばトラぞうが告知を言い出す。

 

『イベントが始まるよ。みんな参加してほしいドラ!』

 

「イベント?」

 

『これからプレイヤーのみんなに配付されるARMMO RPGの体験ができる専用の道具を使って、現実に出現するたくさんのモンスターを倒すんだドラ。15時までに中央のブースにいるスタッフの人達から受け取ってね。ルールの説明はそれからするドラ』

 

・・・・・俺の知らないところで新しく開発したゲームがあったのか。飯どころじゃないな。

 

「気になるな」

 

「やっぱり白銀さんも興味あるんだな。道具を受け取りに行くか?」

 

「こういうのはスタートダッシュだろう? 飯はそれからでも遅くはない」

 

「言えてるな。そういうことだったら俺も道具を受け取りに行くぜ」

 

安全地帯に行ったペイン達とはここで分れる。他のプレイヤーも先に道具を受け取りに行くか飯を食べるかで二手に分かれた。

 

中央のブースは何十人の男女のスタッフが壁際に並んでいて幾つものの段ボール箱を横に置いて佇んでいた。ここジズの間(仮称)は何もなくただの通過点でしかなかったわけじゃなかったか。

 

既に道具を受け取っているプレイヤーがたくさんいて俺もしばらく並んで受け取った道具を眺めた。大きくはなく小さくそして薄いヘッドホン型。重さは大してなく頭を押さえるよう耳にはめ、目元まで伸びる―――ウェアラブル・マルテデバイスという道具の扱いの説明書にも目を通す。

 

・・・・・マジでございますか?

 

説明書通りならこれ、すごい革命的な発展に繋がらないか? 同じくこの道具を受け取ったプレイヤー達に視線を向けると早速デバイスを装備してシステムを弄っている。その中であるプレイヤーが私服ではなくNWOの初心者キャラクターの姿になって、周囲のプレイヤー達は驚嘆と感嘆の息を漏らした。

 

俺も装備して起動してNWOのキャラクターのIDとパスワードを入力すれば、俺も初心者装備で身に包めた。それだけじゃない。表示されるHPやMP、そして使用可能な俺のスキルが表示された。

 

ただし、現実のプレイヤーの身体能力以上の効果や影響を及ぼすスキルは使えないらしい。そのスキルは黒く染まっていた。例えば巨大な獣に変身する【覇獣】といったスキルだ。武器によるスキルのみしか・・・・・ちょっと待て?

 

「・・・・・なんで【皇蛇】が使えるんだよ」

 

現実世界で性転換が可能・・・だと? 何の冗談だよコレェ・・・・・。

 

「なーに黄昏ているのさハーデス」

 

遠い目をしていただろう俺に話しかけて来る声はとても聞き慣れたもので、視線を声のした方へ変えれば見慣れた顔の女性がいた。

 

「フレデリカか。リアルで会うのは初めましてだな」

 

「そうだねー。やっとハーデスと会えたよ。ブースの中を回りながら探してたけど見つからなかったし」

 

「こっちはフレデリカ以外合流したぞ」

 

「うわ、本当? ペイン達も来てたんだ。リアルの皆と会ってみたいなぁ・・・・・で、なんか困ったことがあったわけ?」

 

ぐっ・・・話を逸らせたかと思ったのに・・・・・。

 

「・・・・・性転換のスキルが何故か使えることに」

 

「ああ・・・・・そういうこと。実際どんなのか見せてくれる?」

 

「鬼かな? ・・・・・妻の頼みだからやってやるけど」

 

んなっ!? とリアルでは交際も結婚もしていないフレデリカの顔が朱に染まり、動揺している余所にスキルを使った。

 

「【皇蛇】」

 

身体的に影響はなく、ガワだけ変わったように見えるだろう。俺の視覚でも胸に大きな膨らみの形が視認できる。軽く触ってみれば・・・うわ、柔らかい。

 

「うわ、本当に外見が変わってるよ。身体に変化は?」

 

「全然・・・・・声も女のものだな」

 

「すごい技術。ハーデスのだけ特別使用じゃない?」

 

いや、そんな贔屓的なことをするような運営じゃないだろ?

 

「―――あ、お姉ちゃん!」

 

ぬぁあああー!? この嬉しくて弾んだ声ェー!! 金髪の女の子が俺の胸に飛び込んできた!!

 

「お姉ちゃんにも会えるなんて嬉しいです!!」

 

「そ、そう・・・・・喜んでくれて嬉しいわ」

 

「えへへ・・・・・お姉ちゃん」

 

「すごく嬉しいそうだねー」

 

スリスリと初心者装備の姿で甘えてくるイカル、微妙な気持ちの俺に、なんとも言えない表情を浮かべてるフレデリカ。

 

「ハーデス、尻尾は動かせれるの?」

 

「意識すればな。物理的にも触れることが出来るぞ」

 

故にほら、この豊かな胸だって持ち上げること出来るわけだが。

 

「は、白銀さんっ・・・・・!」

 

「ん? あースケガワじゃん。初めまして」

 

「は、初めまして。な、なぁ・・・性転換したら身体はどんな感じなんだ?」

 

人の胸を凝視することを隠そうとしないオープンな男に問われた。どんな感じもなにも、男の下半身の存在が主張してるからな。そう見えて感じるようにシステムとプログラムがしているんだろうよ。

 

「そうね・・・身体は男だけど、ちゃんと女の身体を触れることが出来るすごい再現力だわ。胸もこんな風に触れるし」

 

ばるんばるんと揺れ動かす人の胸をガン見するスケガワ+α共。・・・・・ん? あそこにいるプレイヤーって。

 

「あ、あなた。メダル争奪戦のイベント中で、雪山でイカルに吹き飛ばされたプレイヤーね」

 

「うぇ!? お、覚えて・・・・・!!」

 

「や、運営の設定ミスで胸が隠せなかった時に上半身が全裸だったところ、あなた達が丁度来て私の胸を見たその顔が今と同じだったから思い出したの」

 

「「「「「は?」」」」」

 

「ヒッ!?」

 

男達が悲鳴を上げたプレイヤーに振り向き、取り囲んでどこかへと連行されて行ってしまわれた。

 

その際。

 

「オイコラ、お前。うらやまけしからんじゃねえか。ちょっとその話を詳しく教えろ」

 

「カツ丼を奢ってやるからさ。だから、な?」

 

「ち、ちなみにその瞬間をスクショは・・・・・」

 

「え、えっと、あ、ある・・・・・」

 

「そ、そっかー・・・・・あるのかー・・・・・」

 

「こ、これは話し合うべきである! うんそうするべきである!」

 

「ソウソウ! オレタチ、トモダチダ!」

 

「メル友になろう! キミとは長い付き合いになりそうだ!」

 

「あ、ズルいぞ! 俺もメルアド交換しようぜ!」

 

 

・・・・・なんて話し声は聞こえなかったがな!!!

 

 

「・・・・・最低だね」

 

「スケガワもあっちに行ってしまったか・・・・・」

 

「お姉ちゃんの裸はもう見せません!」

 

 

 

男として欲望に忠実になるのは駄目ではないが、節度を持とうよ? 人間性を疑われたら終わりなんだからさ。なお、スキルを解除しようとするならばフレデリカが「しばらくそのままでいいんじゃない?」とか言い抜かすのだからイカルがヒマワリのような笑顔を浮かべられた。

 

「じゃ、じゃあ黒髪のお姉ちゃんも見て見たいです」

 

「それは・・・あー無理。【身捧ぐ慈愛】が使用不可になってる。HPを消費しないと使えないスキルだからかなぁ」

 

「そう言えば今の状態の私達のHPとMPって同じだよね。装備だって初心者の時のだし、普段戦っている時の装備は使えないのかな」

 

「使えたら能力値の優劣の格差が浮き彫りするよ。特に私とイカルは装備一式が無ければ」

 

「防御力極振りです!」

 

「あー、逆に攻撃力が0だから攻撃しても意味がない二人が出てきちゃうねそしたら」

 

そういうことだ。見た目だけの装備だったら来てみたいところである。

 

「さて、道具を受け取って性能も把握できたことだし改めて食べに戻ろう。イカルも両親が待っているだろうし」

 

「あぅ・・・・・お姉ちゃんと離れるのは残念です」

 

「よしよし、機会があったら一緒にモンスターを倒しましょうね」

 

金髪の頭を撫でつつ慰め、イカルの両親の所まで送り俺は一人で来たと言うフレデリカと一緒に食事をする事にした。燕達とは適当に合流できるだろう。

 

「そう言えばハーデスのグッズ、すごい勢いで売れていくところ見掛けたんだけどハーデスは何か買ったの?」

 

「小物用ならいくつか。あと大人買いもした」

 

「さすがお金持ちだね。私もハーデスから貰ったお金で色んなの買ったし」

 

「あれは?」

 

あれ? と鸚鵡返しをされて業務用VRシステムのことを言うと、思い出した風に口を開くフレデリカ。

 

「もちろん買ったよ。ここ最近大きい家に引っ越すつもりだから私の部屋の半分も占領されちゃうだろうけどね」

 

「フレデリカの新しい部屋が広いのか狭いのかよくわからないわね。そう言えばどこに引っ越しを?」

 

「東京の予定だよ。そっちは?」

 

「神奈川県、更に言うなら川神市よ」

 

「神奈川県の川神市・・・・・割と近い所に住んでいるんだね」

 

「お互いにね。何時でも会いに行けるわね」

 

そうだね、と言う彼女は質問をして来た。

 

「一人暮らしだっけ?」

 

「シェアハウス的な感じで他の人と暮らしているわ。イッチョウとイズと」

 

「は?」

 

ナニソレ、キイテナイ。的な反応されても今初めて教えたのだからしょうがないんだが。

 

「どうして二人と一緒に居るわけ?」

 

「私は今、学園長代理の立場でイッチョウと暮らしてるけれど、イズの場合は先の大震災で助けた被害者の一人で、行方不明になった両親の安否が判るまで一緒に暮らしている状態」

 

「イズ、大震災の被害者だったんだ」

 

「本人にから訊いてみるといいわよ。ごちそうさま」

 

フレデリカが食べ終わるのを待ってから一緒に空になった食器を片付け、燕達を探す。

 

「フレデリカは東京で仕事を?」

 

「というか、東京で住みたいから引っ越したいだけ。さっきも言ったけどハーデスからお金をたくさんもらったから働かずに生きていけれるしね。親にもお金を分けたから世界一周旅行して楽しんでいるよ」

 

最高の親孝行に恵まれたなフレデリカの両親は。

 

「・・・三人で暮らしているってことは、部屋も結構広い方?」

 

「治安は悪いけど、確かに広いわよ。空き部屋もまだたくさんあるし、もう一人増えても問題ないぐらいにね」

 

「そうなんだ・・・・・治安が悪い?」

 

空になった食器等を返却する食器棚に置き、燕達を探す。

 

「イズが一緒に住むことなって、イッチョウは反対しなかったの?」

 

「家主である私の決定に逆らえないから問題ないわ。あ、いたいた」

 

向こうもこっちに気づきようやく俺達は合流した末にAR専用デバイスの道具を取りに行く燕達に付き合った。そして俺達のように装着すれば初心者装備の姿になったのだった。

 

「随分と懐かしい格好だなこりゃあ」

 

「初心に戻るのも悪くないね」

 

「武器はまだ装備できないみたいだが、使えるスキルとそうじゃないスキルがあるんだな」

 

「さてさて、どんなイベントになのか楽しみね」

 

「そうだねー」

 

自然と中央ブースに人が集まりだしたので、壁際でイベントの時間になるまで待っていたところ、スタッフがこっちに来た。

 

「お尋ねしますが総合ランキング1位の死神・ハーデス様でいらっしゃいますか?」

 

「ええ、そうですが。私に何か?」

 

「はい、是非ともご協力をしていただきたく存じ上げます。間もなく開催されるイベントに特設ステージで死神・ハーデス様には実況進行兼ライブをしてもらい場を盛り上げてほしいのであります」

 

・・・・・ほう? ・・・・・うん? ライブ・・・・・?

 

「ライブ? 歌うの? 私が?」

 

「はい、NWO運営責任者から許可を得てもらいまして、特別に堕天使の姿のデータをこれからあなた様にリンクし、ライブしてもらいたいのですよ」

 

「・・・・・私、歌は素人なのだけれど」

 

「ご心配いりません。ゲーム内でライブした当時のように歌ってもらえれば問題ありません。なにより、この日のために彼女達12人を依頼し参加していただいておりますから」

 

「ウソでしょ・・・・・」

 

「さぁさぁ、時間が迫っておりますので話の続きは舞台の裏側でしましょう」

 

いや待て、誰も了承してないし引っ張らないでくれるか、この人、何気に力が強いな!?

 

「お、おのれ運営ィー!!」

 

これは抗議していいよな!? 弁護士を設けて裁判沙汰にしていいよな!?

 

 

 

 

 

燕side

 

 

ドナドナ的な感じで連れていかれた王様。会話に入り込めれなかつた私達は蚊帳の外にいたからどうすることもできなかった。だからイベントが始まる15時になる30分前で、優待券からドラぞうがプレイヤー以外の一般の人は示した外の場所へ向かう催促されて私達はブース内で待機した。いざイベント開始の15時になると。

 

『ガオー! イベントが始まるよ。みんなルールを教えるからオイラの説明をよーく聞いてほしいドラ』

 

イベントの告知が発表された。

 

『モンスターはJEGがある人工島内にランダムで出現するよ。プレイヤーの頭の上に倒したモンスターの数が表示してたくさん倒すのがイベントだドラ』

 

『一人で倒すのも良し、パーティで倒すのも良し。だけどパーティで戦う場合は常にお互い10メートル以内にいないと駄目だドラ。もしも一人だけでも遠くに離れるとモンスターを倒しても加算されないから気を付けてほしいドラ』

 

『パーティを組む際は、お互いの手の甲を重ねて「パーティ結成」って宣言してほしいドラ。パーティの人数は5人まで。それからプレイヤーの皆にはNWOのスキルが使えるよ。装備は職業から選択してね。ただし現実にいる都合上で一部使えないスキルもあるドラ』

 

『制限時間は一時間。約10分ごとにレイドボスモンスターがどこかに出現するから、プレイヤーの皆は積極的に探して倒してみてね。最後に倒せたプレイヤーには何と10ポイントも貰えるドラ。倒せなくても頑張ったプレイヤーにも点数が貰えるから頑張るドラ』

 

『ふぅ、イベントの内容とルールの説明はこれで終わりドラ。ポイントが一番高いソロのプレイヤー、パーティには金メダルを一枚プレゼントするドラ。それじゃみんな、いってらっしゃーい!!』

 

ルールの説明が終わった時。私達は既に武器を選び終えていた。当然私は魔法スキルが使えるよう短剣を選んだよ。NWOのキャラクターで使っている装備じゃないけれどね。これも初心者用の武器だった。

 

「はい完了!」

 

「同じく」

 

「話を聞きながら選んでたのは俺たち以外にもいるようだぜ」

 

「で、どうするんだ? 一人で行くか五人で行くか」

 

「私は戦闘が得意じゃないからパスするわ。ハーデスの所にでも行ってくるね」

 

「じゃあ、残った私達でパーティ組みません?」

 

異論はないと、手を振って離れるイズを見送った私達は手を重ねてパーティ結成の宣言をした。

 

「意外とよ、ハーデスをイベントに参加させないためだったりしてな」

 

「あー・・・・・なんか不思議じゃないかも」

 

「やらせたらすごい勢いで勝ち抜いていきそうだからな。ペインと同じぐらいによ」

 

「えっと、実際にハーデス君はリアルの方が物凄いんでその予想は当たっております」

 

「マジで?」

 

卒倒するだろうね目の当たりにしたら。人間じゃないから人間離れたことを平然とするし。私たちもやれって言われても無理ですから~!!

 

「取り敢えずモンスターを倒しに行こうぜ。他の連中も動いてるぞ」

 

「そうだね。それじゃいこっか」

 

いっぱい倒して誰よりも倒して1位になって、王様を羨ましがらせよう。



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JGE4

 

 

イズside

 

 

一般の人がいる場所は・・・・・。あ、楽器が聞こえる。

 

「えっと、ここかしらね」

 

人工島の海を背に設けられた特設ステージを見つけれた。そこには数百人以上の人がパイプ椅子に座っていて、司会進行の人ともう堕天使の姿になっているハーデスがステージの上でライブを行っている。十二人の女性たちの演奏にハーデスの歌唱力が見る人聞く人の意識を集めているに違いない。まさかリアルで見られるとは思わなかったわねー。―――録画しなくちゃ!

 

「きゃあああ~!!! お姉ちゃ~ん!!!」

 

「イ、イカルちゃん・・・・・」

 

姿が見えないけれど彼女の喜悦の声だけが聞こえた。あの子イベントよりハーデスに夢中ね・・・って。気付けば私以外のプレイヤー達がこの場に来ていて、私と同じように携帯のカメラで動画を撮り始めているし。

 

「あ、リアルのイズだ」

 

「スケガワ・・・・・あなたもここにいたのは意外だったわね」

 

その中には同じ鍛冶師プレイヤーのスケガワがいた。

 

「伊達に白銀さんのギルドメンバーじゃないってことで。セレーネはいないのか?」

 

「あの子はこういった催しが苦手らしいわよ」

 

「そりゃあ惜しいな。楽しいイベントなのに」

 

同感だけと彼女の性格上仕方がないわ。せめて楽しい雰囲気を伝えられるよう動画を収めておきましょうか。うーん、ハーデスったら様になっているわね。

 

「そういや、イズは掲示板を見ているか? 鍛冶師専用の掲示板じゃオリハルコンのモンスターが発見された情報が話題になってるぞ」

 

「オリハルコンのモンスター? 倒せたらオリハルコンが素材として?」

 

「いや、めっちゃ硬いらしくて攻撃しようがダメージを受けようが、装備の耐久値の方が早く削られて返り討ちにされるプレイヤーが多いぞ。まだ倒された話は聞いてない」

 

「となると、破壊不能の類の装備でなきゃ満足に戦えないかしら」

 

「その線で色んなプレイヤーが模索しているぜ」

 

ハーデスは知っているかしら。高く買うのと装備の代償―――どっちが安いかしらね。オリハルコンのモンスターの詳細をさらに訊けば、身長や人型に近いゴーレムらしい。

 

「白銀さんに攻略方法を探って欲しいところだぜ」

 

「私の方から頼んでおきましょうか?」

 

「頼むわ」

 

・・・まぁ、参考になるとは思えないことをするでしょうけれど。あ、ライブも終わった。

 

『ありがとうございましたー! とても素人とは思えないライブでした! 本当に歌手ではないのですか? VTubeの方で活動していらっしゃるのでは?』

 

『ええ、どちらもしていませんし別の職業を勤めております。あ、内容は秘密で』

 

『その手の活動すれば大人気でバズりそうなのに勿体ないですよ!』

 

『ハハハ・・・・・』

 

乾いた声で笑うハーデス。リアルまで性転換をする気はないでしょう。・・・個人的に実際になっちゃったらどうなるのか興味はあるけれど・・・・・。

 

『さて、ここからは死神・ハーデスさんに対する質問コーナーの時間です。死神・ハーデスさん、よろしいでしょうか?』

 

『あ、質問コーナーなんてあったんだ。構いませんけど』

 

『ありがとうございます。では最初の質問ですね。NWOでは職業・総合ランキング共に1位であり【蒼龍の聖剣】のギルドマスターですよね。世界ランキングで1位になれる秘訣とかありますか?』

 

『基本的に全てのプレイヤーと変わらない活動をするだけですね。強いて言うならば、やっぱり他のプレイヤーより一歩も二歩も先へ前に出ることができる可能性を秘めた称号の獲得と選り取り見取りなスキルでしょう』

 

『では、たくさんの称号を獲得する方法とかありますか?』

 

『積極的な行動力が大切です。退屈で地道な作業や苦行の活動を真摯に取り組むことで獲得できますし、時には自分でも思いもしなかった出来事でも称号が手に入ります。それと単純な運も。スキルもこれに含まれます』

 

『NWOの中で一番大変だったことはありますか?』

 

『あー・・・・・やっぱり防御力を極振りにしているので攻撃力がまったくなくダメージを与えられないことですね。武器がないとまったくモンスターを倒せないので。別の方法で何時間もかけて倒したのが一番大変でした』

 

『何時間もかけて倒した方法とは?』

 

『・・・・・(ニコリ)』

 

言える筈がないでしょう。モンスターを食べて倒すなんてそんな発想を思いつくプレイヤーは彼を通じなければその考えに至ることすらできないし。

 

「イズは知っているのか?」

 

「知らない方がよかったと思うわよ」

 

「マジで? 逆に気になるぞ」

 

直接本人に訊きなさい。私まで変な目で見られたくないのだから教えないはこの場では。

 

『え、えーと・・・巷では死神・ハーデスさんのことを「白銀さん」と呼ばれておりますが、死神・ハーデスさんと言えば何と言っても可愛いモンスターたちを集めているテイマーなのが世界的にも有名です。全てのテイマーの憧れの的と言っても過言ではありませんのに、テイマーの職業のランキングでは一番下の下位なのが不思議なのですが』

 

『ずっとサブ職として遊んでいるからレベル上げをしていません。なのに全てのテイマーのプレイヤーより弱いのに職業だけは最上位【神獣使い】になってしまいました。これが予想外の一つですね』

 

『【神獣使い】とは一体どのような能力がありますか?』

 

『まだNWOでも現実でも公表していませんが・・・・・テイムしたモンスターを無制限に戦闘に参加できることです』

 

『無制限?』

 

『無制限です。現状モンスターを連れて行けるのは七体までですが、【神獣使い】ではその編成枠が無くなります。無限にモンスターと一緒に行動が出来て一緒に戦うことができます』

 

『それは普通に凄くないですか? 10体も100体も連れて行動できるということですよね?』

 

『その通りですが、何事も美味い話はありませんよ。それだけの数でモンスターを倒せば経験値は戦闘に参加したモンスターにだけ与えられますから。そうなると【神獣使い】のプレイヤーは、ただただテイムしたモンスターを強化するための存在となりますしね』

 

【神獣使い】って凄い職業に見えてもそんな弊害もあったのね。イベントの時だけ全員連れて行っているけれど、手に入る経験値を度外視しているからなんだ。

 

『ですが、それを加味しても【神獣使い】は凄い職業だと思います。ボスモンスターも含めて全てのモンスターをテイムすることができ、神に進化する現象、神化したモンスターと結婚が出来るそうですから』

 

『モンスターと結婚、ですか? 本当にそんなことが可能なのですか?』

 

『まだ神化したモンスターがいないのでできませんが、いつか試してみたいですね。結婚よりも神化したモンスターの姿を見て見たい意味で』

 

その神化できるモンスターをハーデスは把握している? ちょっと後で聞き出さないと。

 

『次なる質問はズバリ、後進へのアドバイス的な質問です。初めてNWOにログインしたプレイヤーが最初にするべきこととは何でしょうか?』

 

『思い立ったが吉日』

 

『・・・あの、それだけですか?』

 

『千差万別なプレイヤーに対して私がアドバイスした結果が全て思い通りになるわけではありませんよ。逆に訊きますがゲームを始めて間もないプレイヤーに防御力極振り+防御力極振りに関するスキルのユニーク装備で、単独でレジェンド級のレイドボスモンスターを倒してこいっと言われたら納得すると?』

 

そう言われた司会進行の人が困ったように返答を濁した。

 

「スケガワ、あなたならどう思う?」

 

「絶対に無理だ。防御力極振りなんだろ? 【STR】が0のままでベヒモスを倒すことなんて実質無理だって」

 

「その不可能だと思われたことを彼は可能にしちゃってるのよねぇ」

 

「本当にどうやってソロで倒したんだって話だよな」

 

その方法には思い当たることがあるんだけど・・・・・彼ならあり得るわね。

 

『取り敢えず、もっと強くなりたいのであれば【勇者】の称号が必要不可欠ですね。それだけは確信をもって言えます』

 

『【勇者】にですか? その称号を獲得したらどんなことが起きますか?』

 

『それは【覇獣】ベヒモス、【鳥帝】ジズ、【皇蛇】リヴァイアサンを倒せばわかることです。ただし【勇者】の称号の獲得条件はソロか2パーティ以下で倒すことなので、簡単に手に入ることはできませんよ』

 

スケガワから「マジで?」と問われた私は無言で頷く。ハーデスやペインほどのプレイヤーじゃないと少ない数のプレイヤーじゃ倒せないでしょう。

 

『次の質問です。NWO内では有名人の死神・ハーデスさんはモテますか?』

 

『男女問わず慕われていますね。頼りにされているのが凄く伝わっていますけど、私の方も皆を頼りにしています。ゲーム内でも信用と信頼の関係を築くのは大切です』

 

『相手は人間ですからね。私も大切だと思います。さて次の質問は多く届いた内容ですが、死神・ハーデスさんと世界ランキング3位のペインさん。矛と盾の戦いをすればどっちが強くて勝つでしょうか?』

 

『一回だけ決闘をして私が勝ちましたー。しかし、防御力極振りのプレイヤーの天敵である防御力貫通の攻撃があるので、それが攻撃力極振りのプレイヤーに使われたらさすがの私も負けます。いや本当に』

 

『そんな死神・ハーデスさんは今じゃ【魔王】の称号を手に入れたことで魔王になってしまわれましたが、NWOの中で遊ぶことが大変になったのではありませんか?』

 

『殆どのNPCとの交流が極端に出来なくなったり難しくなったりしたり、逃げられることが多々にありますが・・・・・特に問題視はしていませんので大変とか思いません』

 

『そうなのですか?』

 

『寧ろ魔王として勇者に立ち向かう言動を出来るのがちょっとだけ楽しいので。さらに言えば条件を達成できれば複数以上のプレイヤーが【勇者】になれるけど、【魔王】は【勇者】の称号を得たプレイヤーが1000人以上のNPCやプレイヤーを倒さなければなりません。よって【魔王】は現状、私以外なり得ない唯一無二なので自慢であり誇りです』

 

「因みに次に【魔王】になってもおかしくないのはペインだと私は思ってる」

 

「説得力あるわー」

 

それからもハーデスに対する質問が続き、時には一般人から投げられた質問を答えていく様子を私は見守った。そしてその時が来た。

 

『死神・ハーデスさんありがとうございましたー! 質問コーナーはこれで終了です!』

 

『終わり? じゃあ自由にしてていい?』

 

『はい構いません。イベントの方も終わりましたし』

 

『・・・・・参加したかった!』

 

心から叫ぶハーデス。彼だけ参加できなかったもの、そう思ってもしょうがないわね。燕ちゃん達はたくさん倒せたかしら? 司会進行役の人が口を開く。

 

『それでは一般の方々は同伴したプレイヤーの迎えが来るまでしばらくここで待機してください! まだまだJGEは皆さんを楽しませる時間を終わらせません!』

 

さて、ハーデスと合流してブース内に戻りましょうか。私は二人きりの短い時間を過ごすため手を大きく振ってハーデスに気付いてもらう。

 

・・・・・。・・・・・。・・・・・。

 

・・・・・。・・・・・。

 

・・・・・。

 

優待チケットを持った俺達はあの後もJGEのブースの中で過ごした時間が気付けばあっという間で、帰宅する時間となった。大型バスに乗る際今度はペイン達と一緒で、JGEで購入した品は後日輸送される手筈となっているので他の優待チケットを持ったプレイヤーと一般の人もほぼ手ぶらで帰っている。

 

「このまま帰るのも勿体ねぇからどこかで飲まねぇか?」

 

「その前にペイン達はどこかで一泊してから帰るつもりか?」

 

「そうだよ。俺は静岡から来たからね」

 

「お、ペインはそっちか。俺は青森県だぜ」

 

「おれは京都だ」

 

「私は奈良県だけど、東京に引っ越ししようと思ってるとこ」

 

4人の住んでいる県を知れたところでオフ会は賛成した。ただし、どこかの店で飲食するのではなく―――。

 

その日の夜・・・・・。

 

某県某所の夏祭りへ全員浴衣姿で遊びに行くことにしたのだった。

 

「浴衣なんざ何年振りか着たぞ俺は」

 

「ある意味浴衣はお洒落だしな。普段着よりは特別感があるわけだし」

 

「ハーデスの言う通りだね。俺も祭りは私服で行くから浴衣は滅多に着ないよ」

 

「男の俺達が浴衣や普段着を着たところでどっちも変わらないって」

 

ならば、女性陣の方は?

 

「二人とも、着物姿が可愛いわー!」

 

「イズの着ている浴衣もいいじゃん。似合ってるよ」

 

「うんうん、アダルトだよん」

 

水色、桃色、黒の浴衣で身に纏う3人の女性が楽し気に会話の花を咲かせる。目の保養にもなるし可愛い花達と楽しく過ごせる喜びを感じない男は殆どいないだろう。

 

「おいハーデス。お前も性転換してあいつらと交じってくればいいんじゃねーの?」

 

「ふざけんな! そんなのゲームだけで十分だわ!」

 

「実際似合ってたがな」

 

「俺もそう思うよ」

 

この野郎ども・・・・・ゲーム内であったらこいつらにも性転換の薬を飲ましてやるっ。そう心の中で決意した俺を知らず多くの人混みの中へ入り込んで屋台巡りをしていく。

 

「ドラグ、肉ばかり食ってないで焼きトウモロコシも食ったらどうだ」

 

「そう言うお前は甘党だったんだなドレッド。何だよその手の中にあるリンゴアメとわたあめとか」

 

時には遊戯が出来る店にも遊びつくした。

 

「あ、ハーデス。射的にオルト君の人形がたくさん並べられてるよ」

 

「手に入れよう。てか、あれはJGEでしか手に入らないんじゃなかった?」

 

「あそこに行った張本人か、転売屋じゃないか?」

 

・・・・・それはイケナイなぁ?

 

「よぅし全部手に入れてやる。協力してくれ」

 

「いいよん」

 

「ふふふ、腕が鳴るわねぇ」

 

「私もやってあげるよ」

 

三回で500円か。じゃあ1万あれば十分だな。レッツチャレンジー!

 

射的の鉄砲の砲身に弾のコルクを詰めて商品に狙いを定めて引き金を引く。空気の圧に押し出されて放たれた弾がオルト君人形に当たり倒れる。まずは一つ目、燕達も何度か外して当てても倒れないこともあったが、それぞれ一個以上は倒した。その間に俺は棚のど真ん中を陣取る巨大なオルト君人形に挑戦しているが、コルク弾の威力と質量を上回る人形をどうやっても倒せないでいる。

 

「見てられねぇなー。貸せフレデリカ、ハーデスを援護する」

 

「あれだけデカいなら外すことはないだろうしな」

 

「一緒に倒そうハーデス」

 

「お、お前ら・・・っ!」

 

協力(?)な助っ人達が鉄砲を持って俺と並んで巨大な敵に立ち向かってくれた。

 

数分後~。

 

「ぐわぁ~!!? 大赤字だぁー!!!」

 

悲鳴を上げる店主を置いて離れる勝利した俺達。オルト君人形全覇できてよかったわ~。

 

「ハーデスの部屋が人形だらけになるのが目に浮かぶな」

 

「ていうか現実だろ」

 

「はは、確かに」

 

否定できないから口を閉ざしつつ大きなオルト君人形を抱えて動く。燕から提案を受けた。

 

「そろそろ花火が打ち上がる時間だから場所取りしない?」

 

それにはだれも反対しなかったが、アクシデントが発生した。花火を見に行く人達の波に身を任せた俺達の中で背が低く小柄なフレデリカと引き離されてしまった。

 

「燕」

 

「はい、待ってまーす」

 

抱えてた人形を亜空間に仕舞い込み、フレデリカのところへ近づく。

 

 

フレデリカside

 

 

あ~もう皆とはぐれちゃったよ。絶対探しに来てくれてると思うけど・・・・・。

 

「取り敢えず、この辺りで待ってよっと。何時見つけてくれるかわからないけどー」

 

特徴的な場所にいてもわからないだろうしね。花火が終わって手頃な場所の前に立って、電話で皆に向かえ来てくれればいい。大勢の人達や車が行き交う交差点と信号機がある場所を見ながら嘆息した。暇潰しに携帯でも弄ってようと取り出した。あ、ハーデスからメールだ。場所はどこ?

 

「かーのじょ。今暇ー?」

 

「・・・・・」

 

交差点と信号機がある場所にいるよっと。

 

「おーい、金髪の桃色の着物を着たキミー?」

 

「・・・・・なに」

 

「ああ、よかった。無視されてるのかと思ったよ」

 

「連絡を取りあっている最中に話しかけられても迷惑なんだけど。これから友達と会うからナンパなら別の人にしたら?」

 

「友達って女の子? なら、その子も一緒にどうよ」

 

「男友達が四人いるから行かないよ」

 

「へい、その一人が俺でーす! キミいいお尻をしてるね?」

 

ぬぅっと私に話しかけてきたナンパの真後ろから現れたハーデスが、ナンパの肩に腕を回しながら笑みを浮かべた。

 

「色男くん? うちのキャッチャーに引っ掛かってくれて嬉しいねぇ?」

 

「な、なんだよてめぇっ」

 

「なになに、祭りの夜は長いからさ? 裸の付き合いをするイイ男を探していたところなのさ。どうだ? 俺と一緒にラブなホテルで1日寝泊まりしないか? 忘れられない夜にしてやるぜ? 俺なしでは生きていられない身体に調教してやるよ」

 

うっとりとした目をするハーデスの手がナンパのお腹にイヤらしい手付きで触り、彼の発言を真に受けたのか顔を青ざめて情けない悲鳴をあげながらハーデスから逃げていった。

 

「こう言う言い方をすれば大抵の人間は逃げるわけだ」

 

「・・・・・それ、本気で望んだ人がいるならどーするの」

 

「適当なところで別れる。探したぞフレデリカ」

 

ハーデスと合流できたことに内心ホッと安心したけど、さっきのやり取りを見てなんか複雑な気持ちになってしまったよ。

 

「ペイン達は?」

 

「河川敷のどこかにいるはずだ。でも・・・・・」

 

ヒュウ~~~・・・・・ドンッ!!!

 

「花火が打ち上がったから、今から行っても遅い」

 

「ごめん。私がはぐれたからだよね」

 

「お前が誘拐されるよりはいいさ」

 

私の手を掴むハーデス。その手はとても大きく、温かく不思議と心地好かった。

 

「だからペイン達と合流するまでは俺達だけの時間だ。楽しもうフレデリカ」

 

「うんっ・・・!」

 

リアルで初めてハーデスと夏祭りデート。イッチョウやイズには悪いけど同じ屋根の下で暮らしているんだからこれぐらいいいよね。

 

「・・・・・ねぇ、ハーデス」

 

「なんだ?」

 

「仮に私もハーデスの家に同棲したいって言ったら迷惑?」

 

「問題ないぞ」

 

即答で言ってくれるハーデス。そっか、いいんだ・・・いいんだね。言質は取ったよ? 重ねて握っているハーデスの手をそんな気持ちを込めて少しだけ強く握って意思表示した。気付いてくれたか分からないけれど、私達は皆と合流するまでの間祭りを大いに楽しんだ。

 

―――後日談。

 

「と、いうわけで私もこの家に住むからよろしくねー?」

 

「どういうことなのかな? (よろしくねー)」

 

「説明してもらうわよ? (いらっしゃい、フレデリカ)」

 

「二人とも心の声と本音が逆になっちゃいないか?」

 

引っ越しの業者と大型トラックと共に親不孝通りの一番奥にある三人が住む家の前にやってきたフレデリカの登場に二人の乙女の心は荒れたのは言うまでもなかった。



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風間ファミリーと五人の王

「突然だが遊びに来たぞ鉄心」

 

「本当に突然じゃな。じゃが歓迎するぞぃ」

 

JGEから三日後のある日、手土産を持参して川神院に訪れた。縁のところでのんびりしていた老人の隣に腰を落とす。

 

「仕事の方はよいのかの」

 

「重要な案件はまだないからこうして遊び呆けられるのさ。平和なもんだよ」

 

「何事も平和が一番じゃよ。お主とこうして将棋をする時間もできるしの」

 

「さりげなく用意するのは良いが、お前弱いじゃん」

 

「やかましいわぃ。今度こそ勝ってみせるわ」

 

呆れつつも将棋に付き合う。盤上の駒を動かして鉄心の駒を取り除くこと数分。

 

「王手」

 

「待った!」

 

「別にいいが駒を巻き戻さない限りもう詰みだからな?」

 

そんなことを昼間で何度も繰り返したのだから本当に鉄心は弱い。あ、ルー。一緒に昼食? じゃあお願いしようかな。

 

「ただいまー!」

 

元気溌剌な女の子の声が聞こえだした。久しぶりに訊く声は相変わらず元気な様子だ。姉の方は帰ってこないようだな。鉄心と食事をする居間へと向かい、他の修行僧達と料理が出来上がるまで待った。

そして料理を配膳する赤よりの茶髪のポニーテールの女の子が鉄心の横に座る俺を見て目を丸くした。

 

「旅人さん!?」

 

「久しぶり一子」

 

「うわー! うわー! 遊びに来てたんだ!?」

 

「鉄心の顔を見に来たついでに将棋をしてたのさ。勝敗は言うまでもないがな」

 

「じゃあご飯を食べたら遊ぼうよ! お姉様達も喜ぶわ!」

 

いいぞ、構わないと頷くと一子は満面の笑みを浮かべた。うーん、純粋無垢な笑みは無条件で可愛いな。

 

「鉄心の孫娘も一子みたいだったらいいのに」

 

「まったくじゃわぃ。どこぞの幼女好きの旅人の影響を受けて可愛げない生意気に育ってしまったからの」

 

「どこかの耄碌したスケベ老人の育て方の影響に違いない」

 

「「なんだとこの野郎」」

 

「どうして急に喧嘩腰になるのー!?」

 

さてどうしてだろうか。俺は素直に褒めただけだったんだが? 鉄心もそれに同意しただけなのにとても不思議だ。続々と運び込まれる料理が全員分も用意されれば、合掌してお辞儀をした後に昼食を済ませ始める。俺の隣にちゃっかり一子が居座り食べている。

 

30分後―――。

 

食べ終えれば、俺を急かす一子の手によってあいつらがいる場所へと引っ張られるよう向かう。そこは廃墟のビルで毎週金曜日は何時もここで集会のように集まって過ごしている秘密基地だとか。いいな秘密基地。昔造った段ボール製の秘密基地よりしっかりしてて。

 

「皆、ただいまー!」

 

「おーワン子おかえ・・・・・」

 

「よう、お邪魔するぞ」

 

「―――た、旅人さんっ!?」

 

一子だけだと思ったか? 甘い、俺もいるのだよ! 俺の登場で一子以外の二人以外の少女以外の少年少女たちが吃驚した表情を浮かべたまま固まった。

 

「なんで旅人さんが一子と一緒に!?」

 

「川神院にいたからな。遊びに誘われるまでは一子と一緒に昼飯を食ってた」

 

「ワン子、なんて羨ましいっ・・・!」

 

「はいはい、嫉妬すんな京。ステイ」

 

「ワンワン!」

 

誰が犬になれと言った。脚の傍で跪いて胸を擦り付けるな。

 

「で、これからなにかしようとしてたか?」

 

「いやまだ何も。いつも通りここでのんびりと寛いでいただけだしな」

 

「というか、私的には旅人さんの話を聞きたい。蒼天のこととか」

 

「お、いいな!」

 

京の提案で蒼天に興味を抱き始めた風間翔一達。

 

「蒼天のことか・・・別にいいが面白味はないぞ」

 

「構わないって! 個人的に旅人さんといた美少女達のことが知りたいぜ!」

 

「あいつ等か。個人情報保護的な意味で教えられないなそれは」

 

「じゃあじゃあ仕事のこととかは?」

 

「それは・・・・・(♪~♪~♪~)ちょっと待て」

 

この着メロは蒼天の方だな。通話状態にして連絡をして来た王の一人と話し合う。

 

「仕事か? ・・・・・そうか、ああ、わかった」

 

俺に意見を聞きたい案件が挙がったらしく戻って来いとのことだった。ふと俺に集まる視線の元を見回し思い至った。

 

「仕事が入った。蒼天に戻らないと行けなくなったから帰るよ」

 

「王様の仕事って大変そうですね」

 

「前にも言ったが総理大臣のような仕事をしているからな。何なら来るか?」

 

「え、どこに?」

 

決まってるだろ、と付け加えてさらに言う。

 

「世界各国の総理大臣すら入ることを許されない俺の国『蒼天』にだよ」

 

さっきより仰天した一同は俺の誘いに耳を疑ったが最終的に同行することに。それじゃ、蒼天に案内してやろう。転移魔法発動!

 

 

―――蒼天。

 

 

とある海から高く高く、雲の上まで浮かんでいる巨大な岩石の塊。その上に文明が築いており、数千万人規模の人間が暮らしていて空からではないと入ることができない国は別名『空中都市』またの名を『神の島』。その島に住む人間達は世界各国から集められた貧民のみ。新たな新天地で新たな人生を送られる条件に名前も身分も何もかも捨てなければならない。そして犯罪を犯した者は国外追放される。法を犯さない限りは幸福な生活が約束される。

 

「ようこそ、ここが『蒼天』だ」

 

間隔等に並ぶ太い石柱と壁面を丸々占領する長方形の硝子。中心部には円卓と五つの席だけがある空間の中に転移した。見知らぬ場所へ不思議な方法で連れられた大和達は、窓際に立って見下ろした。

 

「た、たけぇええええええええ!?」

 

眼下を見下ろせば蒼天の全貌が明らかになるだろう。そのぐらい高く俺が創造したんだからな。

 

「お前ら、しばらく静かにしてくれ。これから会議をするからな」

 

「会議・・・?」

 

不思議そうに言い返された直後。扉も階段もないこの空間に四つの魔方陣が円卓の椅子の後ろに展開して、四人の少女と女性が転移した。

 

「あれ、初めて外国の人を招いたのですか?」

 

「会議の邪魔にならなければいいわ。邪魔したら責任はあなたに取ってもらうわよ」

 

「あら華琳。王に厳しいわね。構ってもらえないから焼きもちを焼いてるの?」

 

「へぅ・・・雪蓮さん、華琳さんをからかっては駄目ですよ」

 

朗らかに話し合いながら椅子に座る俺達。途端に仕事モードに切り替わり説明口調になった。

 

「それじゃあ報告だ。まずは華琳」

 

「また華中国から催促よ。私達の国に国民を観光させたいって」

 

「変わらず却下だ。一部とはいえマナーの無い観光客が必ずやってくるからな。毎度言っているが許可したら他の国からの観光客も許さないといけなくなる。大体蒼天はまだ狭いんだ。観光させる余裕はない」

 

「でしょうね。いつも通り断っておくわ。三人もそれでいいわね」

 

「私は観光させてもいいと思いますけどねぇ」

 

「そうもいかないでしょう桃香。まだ狭い土地に何万人もの観光客が来て許容オーバーするならやめた方がいいわ」

 

「はい・・・もともとこの国に住んでいる人達に圧迫、混雑を強いるのは心苦しいです。渋滞の際に怪我人が出たらその対応も遅れますし」

 

気持ちは分からなくはない、と雪蓮と月も否定的ではないにしろ現実をしっかり見て把握と先を見据えている。俺もそうだ。

 

「今は無理でも未来だったらきっとできているはずだ。そのために今現在土地を広げて住む家を増やしてたら、大震災の被災者に宛がうことになった。それでギリギリなんだ桃香。だからすまない」

 

「ううん、謝らなくていいですよ。王様の言う通りになるなら私はもっと頑張りますから」

 

ほほう、頑張るとな・・・・・?

 

「やる気になってくれてありがとう。だったら愛紗に頼んで仕事の量を増やしてもらおうか」

 

「ふえっ? あ、あの王様? 仕事は頑張るけれど増やされるとちょっと大変かな~って?」

 

「あら桃香。自分が言った言葉には責任を持たないとダメよ」

 

「ふふふ、桃香。口は禍の元よ」

 

「雪蓮さん。王様が意味深な笑みを浮かべて見てますよ・・・・・?」

 

やる気になってくれた桃香に禍とはなんだ禍とは。お前には後で冥琳に仕事を押し付けてもらうよう頼んでおくからな。

 

「華琳の意見はこれで終わりなら次は月だ。報告はあるか?」

 

「は、はい。そろそろ貯水槽の水量が半分以下になっており諸々の物資もいつもより早く減り始めております。震災の方々が増えた結果であると詠ちゃんが言ってました」

 

「わかった。それなら早めに補充しておこうか。雪蓮」

 

「仕事ね。請け負ったわ。じゃあ華琳も頼むわね」

 

「わかっているわ」

 

南区の王である雪蓮が率いる者達は漁業を担っている。輸送船を動かすのだって雪蓮達だ。各国から物資を受け取るのも彼女たちであって交易も強い。北区の王の華琳達と協力すればさらに心強い。

 

「桃香も報告はあるか?」

 

「えっと特に問題はありません。生産量も被災地から来た人達の為に今年から増やしたばかりなので。朱里ちゃん雛里ちゃんの予想じゃあ数年の間は物価が低下したり高騰したり、どこかにシワ寄せがして浮き彫りするだろうって」

 

「そこはどうしようもない。需要が高いものは相応の価値になるし生産の量を増やせばその分の価値が低下してしまう」

 

「幸福な生活が送られる『神の島』。一体誰がそんなありもしない吹聴をしたのかしらね」

 

「蒼天も他の国とは変わらないところがあるのにねー?」

 

「そうですね・・・」

 

本当だな。かなり特殊な国であって根元的には他の国と変わらない国でもあるのにさー。

内心溜息を吐きつつ会議は小一時間も掛からずに終わった。先に地上へ降り立った四人を見送ると壁際に待たせた彼等彼女等に話しかける。

 

「もういいぞー」

 

「会議は終わり?」

 

「ああ、今日はもうしない」

 

「なんていうか。会議って思ってたのより緊張感がない穏やかな感じだね旅人さん」

 

「緊張するのは何時だって現場が定番だ。今回は報告する形の会議だから緊張感はないようなもんだよ」

 

「そういうもんだっけ?」

 

うちではそういうもんだよ。さて・・・・・。

 

「日本に帰るか」

 

「えっ? 蒼天で観光とかさせてくれるんじゃなかったの!?」

 

「連れてきただけだぞ。観光させるとは一言も言っていないし」

 

「ちょっとだけでも駄目?」

 

「頼む旅人さん!」

 

「ダーメだ。ここに連れて来るだけでもお前達を特別扱いだぞ? 世界各国の大統領たちですら来た事のない蒼天の、しかも王同士の会議を生で静聴できたのはお前達が初めてなんだ。それだけでもマウントが張れる出来事なんだから我慢しろ」

 

それでも下に行きたいと駄々をこねる連中に深い溜息を吐いて・・・・・。

 

「ケツを叩かれたい奴は前に出ろ。出た奴だけ下に連れて行ってやる」

 

ビクンッ!!

 

過去に俺に叩かれた奴やその様子を見て恐れた奴らが肩を跳ねあがらせて押し黙った。

 

「み、皆さんどうしたのですか?」

 

「尻を叩かれた経験で旅人さんを怖いのか?」

 

「昔の皆はヤンチャしてたからね。その時の旅人さんのお仕置きは時を超えても忘れられない怖さと痛みなんだよ」

 

なお、何も知らないでいるまゆっちこと黛由紀江とクリスティアーネ・フリードリヒに説明しながら俺に向かって臀部を突き出しつつ近づいて来る京には。

 

「ヘイカモン! 旅人さんの愛のお仕置きは私にとってご褒美!」

 

「ふん!」

 

スパーンッ!!!(ハリセンで叩く)

 

「あっは~んっ(⋈◍>◡<◍)。✧♡!!!」

 

叩かれて赤くなった顔が恍惚の表情を浮かべる京に俺は嘆く以外の感情しか浮かべなかった。

だってそうだろ、何でこんな変態的な少女に成長してしまったんだ・・・・・!! 

一体何が原因でこんな・・・こんな・・・っ!!

 

「って、違う・・・違うよ旅人さん。私のお尻をあなたの手で叩いて!!」

 

「黙れこの変態!!」

 

仮にこいつと結婚したら爛れた生活を送りそうだわ。そうなった自分を想像するのが嫌すぎるので京の頭にチョップをかました。

 

 

「だから珍しく疲れた顔をしていたんですね」

 

「世の中にはいろんな人がいるんだね」

 

「えっと、お疲れ様?」

 

 

夕食時に帰った俺を労う三人によって精神的に回復。そのあとNWOにログインした。



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魔獣ヘルキャット

 

「そういや、冥界へ行くことができる場所を探していないな」

 

日本家屋の縁から畑を見てふと思い出した。冥界に行くことが可能なあの指輪と使おうとインベントリを開いた。使い方は俺が冥界に行くことを伝えたアカーシャから教えてもらった。

 

「えっと【ゲート】」

 

装着してスキルを発動すると目の前の空間が渦巻いてぽっかりと穴が開いた。この先に冥界に住んでいる魔王の城があるのかー。案内人としてアカーシャ、従者としてサイナだけ連れて穴に足を運んで潜るよう入ると別世界が俺達を出迎えてくれた。

 

赤紫色の空。朝なのか夜なのか判らない。空に浮かんでいるはずの太陽と月がないからだ。なのに明確に周囲の景色が見えるのは魔訶不思議だ。光源はどこに?

 

「アカーシャ。今は朝なのか? それとも夜か?」

 

「冥界にそんな概念はないわ。悪魔は眠りたい時は寝て、眠たくない間は起き続けるの」

 

「それで仕事が成り立つのか?」

 

「そんなの人間と変わりないでしょう? 起きている数が多いなら起きている者同士が仕事をしたり交流できるわ」

 

一理あるが、太陽も月もない世界は暮らし辛いな。体内時計だけが頼りになるぞこれは。

 

「ほら、魔王城に行くのでしょう? 案内してあげるわ」

 

冥界の景色に意識が向いていたので足を止めて、石造りの城壁の前に立っていた俺達は先に歩くアカーシャに続く。城門を警護していた悪魔達はアカーシャはもちろん、俺達を見て敬礼した。顔パスは楽でいいな、と思いつつ初めて俺は魔王が統治する国に入った。

 

朝と夜の概念がない冥界の国は大勢の悪魔達が賑やかな雰囲気を醸し出し街中を跋扈している。これが今起きている悪魔達なのか、数も多い。建物の傍で露店を開いて商売している悪魔や購入している悪魔がたくさんいる。

 

「賑やかだな」

 

「代々の魔王が統治しているもの。閑古鳥なんて鳴かせないわ」

 

「悪魔の寿命って基本的にどれぐらいだ?」

 

「確か・・・一万年だって聞いたことがある」

 

「マジか。じゃあこの国にいるのは古代からずっと生き続けている悪魔達か」

 

「平穏に暮らしていれば確かにそれぐらい生きている悪魔はいるわ。大体は下級悪魔がそう」

 

下級悪魔か。じゃあ、中級と上級、最上級の悪魔もいそうだな。

 

「魔王は、あそこに?」

 

「そうよ」

 

多分この国の中心部だろう。そこに聳え佇む崖の上に黒い巨城がある。あそこまで徒歩で行くのかと思えば乗り物を乗り換えていけば近くまで着くと言うが。

 

「この国の通貨持っているのか?」

 

「・・・・・」

 

提案した自分の落ち度に気づいた様子で小さく「持っていない」と呟いた。

 

「ま、魔王の娘だから無料に・・・・・」

 

「無賃はだめだろ・・・・・ん?」

 

「とうしたの?」

 

城を見ていたら蠢く黒い何が城から出てきた? まるで集団飛行してる鳥や蝙蝠みたいだ。

 

「報告:マスター、あれはヘルキャットの群れです」

 

「ヘルキャット? 魔王軍が孵化した魔獣か。よくわかったな」

 

「ていうか、こっちに来てない?」

 

ははは、何を言うんだ。そんなわけ・・・・・。

 

『『『『『にぁーっ!!』』』』』

 

おおおー!?

 

 

魔王side

 

 

「魔王様、ヘルキャット達が脱走し城下町に殺到しました!」

 

「た、たすか・・・・・い、いや町の状況は?」

 

「まだ沙汰かではありませんが、急いで捕獲のために衛兵たちを向かわせます」

 

「ヘルキャットの捕獲は簡単ではないよ。衛兵では弄ばれるだけだ。こう言う時こそ適材適所の彼女に任せる。ヘルキャットの産みの母親に要請するんだ」

 

「は、はっ!」

 

「報告ー! 町にヘルキャット達が一ヵ所に集まっております! 周囲への損害や被害は皆無と思われます!」

 

「なんだって? 理由は?」

 

「まだ未確認のことですが、ヘルキャット達は何かに群がっている様子でした。それもすごく興奮して」

 

「何かに興奮して群がっている? ・・・・・あ、もしかして」

 

「魔王様?」

 

「少し様子を見よう。もしかしたら落ち着くと思うから」

 

「は、はぁ・・・・・」

 

 

 

だぁー!? なんだこのヘルキャットの群れー!! どうして引っ付く、擦りついてくる、ゴロゴロと喉を鳴らす、甘えてくる、でもなんでこのタイミング!?

 

「フレイヤ召喚!」

 

『懐かしの故郷のにおギニャー!?』

 

あ、一瞬で猫の波に呑み込まれた。使えないやつだな。というかこれ、どうすればいい? 誰か教えてくれー!

 

『止めるニャー! お前達、散れ!』

 

その時、大叱咤の声が響いて俺達一同の身体を一瞬でも硬直させた。群れるヘルキャット達が蜘蛛の子のように四方八方へ散らばって俺から離れた。あ、アカーシャも群がられたのか。髪がボサボサになってら。

 

『すまニャイ。我が子等が迷惑をかけた』

 

「・・・・・」

 

語尾に猫語をつける相手はネコバスよりさらに大きい黒猫だった。いや、下手したら玄武並みでは?

 

「えっと、どちら様?」

 

『我輩はヘルキャットの長、ブニャック。以後お見知りおきを人間界の魔王殿』

 

「ヘルキャットの長だったのか。俺は死神・ハーデス。こっちは俺の征服人形のサイナだ。さっきのヘルキャット達は何だったんだ?」

 

ブニャックは申し訳なさそうに片足で頭に手を置いた。

 

『子供らはお主から発する濃厚な負の香りに気づいて興奮してしまったのニャース』

 

「負の匂い?」

 

『我輩等ヘルキャットは恐怖のエネルギーによって生まれ、恐怖のエネルギーに惹かれる。お主は人間界で数多の人間達から恐怖を抱かれている。故に人間達から向けられるその恐怖のオーラがお主の身体から濃く染み出ているのを我が子達は嗅ぎ取ったニャ』

 

・・・・・恐怖の大魔王に恥ずかしくない理由だったよくそがっ。

 

「ということは、お前も・・・・・?」

 

『ニャー、対象が違うニャ。我輩ほどのヘルキャットはもっと大きな生き物の恐怖のエネルギーを好むニャ。例えばベヒモスとか』

 

「え、あのベヒモス? 倒せるのか?」

 

『我輩のパンチにかかれば邪龍も軽く空まで吹っ飛ばせるニャー』

 

強いですね!? 冥界最強の魔獣、伊達じゃなかったか!!

 

『でも、そんな我輩でも悩みぐらいはあるニャン。我輩達が恐れられ過ぎて我が子の育児がままならないニャン』

 

「あー、その話は少しだけ聞いた。恐怖のエネルギーが必要なのに集まらずヘルキャットが生まれにくくて絶滅寸前だとか」

 

『その通りニャン! だから効率性を考えて魔王軍に加わったニャン。おかげでたくさんの我が子が生まれて万々歳ニャ! 我輩の決断は間違ってなかったニャン!』

 

うわーい、と両手をあげるブニャック。そのままこっちに振り落とさないでくれよ?

 

『魔王殿の娘と人間界の魔王殿のおかげニャン。我輩とても感謝感激ニャ。そこで人間界の魔王殿には折り入ってお願いがあるニャン』

 

「なんだ?」

 

『我が子は冥界ではなく人間界の方が生まれやすいようニャン。だからあれからまたたくさん産んだ我が子の卵を預けてほしいニャン』

 

『EXクエスト ヘルキャットの孵化』

 

・・・・・なんですと? あ、手が自然とOKしちゃった。その瞬間、肉球を掲げるブニャックの手から無数の光が。インベントリを確認する。

 

「・・・・・あのブニャックさん? 数が多すぎるのです」

 

『人間界の魔王殿ニャら楽勝ニャンよ。傍らに置くだけだお主から恐怖のオーラを卵が吸収するニャ』

 

「それなら冥界の魔王は?」

 

『ニャー・・・・・魔王殿は恐怖のオーラが薄すぎるから我が子が産まれにくいニャン。お主の方が格別に人間達を恐れさせる素質があるニャン』

 

そりゃ恐怖の大魔王ですからねー!!!

 

「孵化するまでどれぐらいだ?」

 

『順調に産まれるなら三日後ニャ』

 

「その後はどうすればいいんだ?」

 

『我が子を自由にしてほしい。冥界だけでなく人間界にも増やしたいニャ』

 

「それならいいが、ヘルキャットを仲間にしたい冒険者がいたら?」

 

『我が子を可愛がってくれるなら構わないニャ』

 

親がそう言うならそうしよう。だが、ふと思い付く。

 

「俺以外の人間が卵を渡して孵化させるとしたらどのぐらい掛かるものだ?」

 

『その人間が放つ恐怖のオーラ次第だニャ。どんな形でも同族を十人殺したら孵化するかも。それと人間がモンスターを倒した際に得られる強さの糧も吸収するニャン。でも、お主の方が最も早く生まれるからよろしく頼むニャン』

 

無言で頷き、ふと本題を思い出した。

 

「魔王城に行かなくちゃ」

 

『ニャ? 魔王殿に会いに行くなら乗せてあげるニャン』

 

「それはありがたい。二人とも。乗るぞ」

 

「ブニャックの背中に乗ることができるなんて・・・・・」

 

「催促:乗りましょう」

 

黒い大きな背中に飛んで乗り、ブニャックが翼を羽ばたかせて城まで連れていってくれた。おーあっという間に着いたな。

 

『では吾輩はこれで』

 

「ありがとうなー」

 

送ってもらったブニャックと別れ、アカーシャに招かれた魔王城の中は王座の間まで赤い絨毯が通路に敷かれ、剣士や重戦士の装備をした甲冑がたくさん立ち並んでいた。これは動くのかと訊けば防衛システムの一つで動くらしい。

 

「中身はゴーストだから光魔法以外の攻撃は効かないわ」

 

「えげつないな。装備が破壊されても問題ないのか」

 

「勇者を疲弊させるためだから。こっちよ」

 

どこに行っても甲冑の像が並んだ断っている。どれだけあるんだと数えて百体目のところで王座の間に続く扉の前で立ち止まった。それにしてもここに来るまで誰とも会わなかったな。そのことについて尋ねれば。

 

「城には最低限の人数しかいないわよ。何時だって勇者と魔王が戦うのはこの城の中だから、二人の戦いに巻き込まれるならいない方が安全でしょ?」

 

「それはそうだが、静かすぎて寂しい気もするな」

 

「この辺りだけよ。他の所に行けば衛兵ぐらいは多くいるもの。さ、入るわよ」

 

縦長の大きな扉に触れるアカーシャ。華奢な腕と手で一生懸命押して開けようとするから俺とサイナも一緒に押して開ける。中に入れる隙間ができると、体をねじ込んで王座の間に侵入した時。

 

「ようこそ人間界の魔王。冥界の魔王であるこの僕が皆を代表して歓迎するよ」

 

「・・・・・。・・・・・。・・・・・どうも」

 

・・・・・突っ込んでいいのか? アレを指摘したらダメなのか???

 

「告:冥界の魔王はイイ趣味をしているようですねマスター」

 

「・・・・・人が悩んでることを言っちゃったなサイナ」

 

「疑問:本当に目の前の人物は魔王なのか疑う以外あるのですか」

 

「・・・・・顔が顔だけに凄く似合っているんだよな」

 

ピンクと白の可愛らしいゴスロリと頭にカチューシャを付けてる魔王。俺でも可愛いと思ってしまうほど似合っているのだから魔王の妻=ルシファーの趣味は極まっている。もう魔王なんて止めて魔法少女になったらどうだ?

 

「聞こえてるよ?」

 

「いや、当然の疑問だから聞こえないように言ったわけじゃないし。大体魔王の椅子に座っているんだから男物の服ぐらい着たらどうだ。プライベート以外でもそんな感じなのか?」

 

「・・・・・妻に全部僕の服を捨てられて以来、彼女の趣味で造られた服しかないんだよ」

 

新しく買えば? もしくは依頼するとかと言いかけた言葉を喉から出ないよう留めた。そんなことしない魔王ではないだろう。それでもルシファーによって阻まれて女用の服を着せられているのだろう。

 

「魔王城にいるのに威厳の欠片もないなんて」

 

「・・・・・最近は先代の魔王に性転換の薬の作製の依頼をしたようで、僕に飲ませようとして来る始末なんだ」

 

「どっちが魔王ですかね?」

 

「僕もそう思ってきたところ・・・・・」

 

哀れ魔王。どんよりとした空気を背負う女装した彼(女)に同情を禁じ得ない。

 

「アカーシャが女として生まれてきてよかったな。男だったら目の前の父親と同じ末路を辿ってたぞ」

 

「複雑・・・・・」

 

母は強し。誰にも母親に逆らえない魔王一家の事情を垣間見た気がする。

 

「んっ! ヘルキャット達の件はすまないね。助かったよ」

 

「群がれていたのか?」

 

「いや全然。やっぱり僕より魔王の素質があるんだよ。僕の後輩は恐怖の大魔王って名前が広がるぐらいだしね」

 

全然嬉しくねー・・・・・。

 

「ヘルキャットの長に卵の孵化を頼まれたがな」

 

「そうなんだ。それなら成功した暁には長から感謝されると思うから頑張ってくれ」

 

他人事みたいに・・・いや魔王か。ああ、そうだった。

 

「魔王、冥界と人間界と繋げられないか? 俺以外の冒険者にも冥界に行きたがっていると思うから」

 

「その件か・・・人間界とそう簡単に繋げれないのさ。冥界と悪魔の敵、聖教和国の侵攻の糸口になり兼ねないから」

 

あー・・・・・そういうことなら無理な話だったか。だったらこの話はなかったことに・・・と思ったが、魔王の口が意外な事を言い出した。

 

「そうだね。丁度いい感じの試験を設けれそうだから、その試験をクリア出来たら冥界の名誉国民として冥界と人間界を行き来できるようにしてあげるよ」

 

「それは太っ腹だな。試験の内容は?」

 

と質問した俺に魔王はこう言った。それを聞いて思わず苦笑を浮かべた後にこんな提案を述べた。

 

 

 

 

「さぁ視聴者の皆さん。恒例の死神の宴の始まりだー! 暇人どもよ集まれェー!」

 

 

『ウェーイ!!』

 

『待ってたぜこの時をォー!!』

 

『今回も大爆発な予感がするぜ俺は・・・っ!』

 

『爆弾案件じゃなかったことあったか?』

 

『いや逆にそうでなければ汚い花火が打ち上がらないぞここは』

 

『さてさて今回はどんな情報が公開されるのですかねー』

 

 

「やー、相も変わらず出待ちしていた視聴者さんどうもありがとうな。早速公開するが聞く姿勢は整っているかな?」

 

 

『はよはよ』

 

『すでに全裸体勢で降ります』

 

『俺なんて眼帯と黒ひげで樽の中に入るぜ』

 

『何故に樽』

 

『あ、それは懐かしいな』

 

『知っているのか?』

 

『あとで教えるよ』

 

 

「そうだな。懐かしい玩具が出てきたところで発表しまーす。最初にこれ、なーんだ」

 

 

『???』

 

『黒い、卵?』

 

『モンスの卵?』

 

 

「大正解。ただこれ、通常のモンスターのじゃなくて冥界に住んでいるモンスターの卵だ。しかもヘルキャットの卵だ」

 

 

『あの美しいニャンちゃんの!?』

 

『うわ、図鑑に載ってないモンスターはレアすぎる。もしかして冥界と行き来出来るようになったとか?』

 

『まだじゃね? アナウンスを聞いてないぞ』

 

『ということは白銀さんだけ手に入れられるのかよ』

 

『なるほど、自慢話ですか』

 

 

「はいはい、まだ話の途中なのに決めつけないでくれよ。俺はこれだけとも言っていないぞ」

 

 

『ん? ってことは・・・・・』

 

『カメラの視点が変わって・・・・・んんん?』

 

『え、何あれ。黒い卵がたくさん・・・・・』

 

『まさか、まさかなの?』

 

『これ全部・・・?』

 

 

「イエス! 見えるこれら全部ヘルキャットの卵! 全部で一万個あるぞっ!!」

 

 

『はいぃいいいいいー!?』

 

『一万個のニャンちゃんの卵だと!?』

 

『マテマテ!! 嘘だろ? 』

 

『モンスの卵は普通、イベントでのメダル交換やオークション、従魔同士でしか手に入らない筈なのになんでそんなに持ってるの!?』

 

 

「絶滅危惧種のヘルキャットの長に預けられてな。俺なら三日で孵化することが出来るってことでEXクエストを受けたばかりによ」

 

 

『EXクエストなのか。その数を一人で孵化させるの大変だろ』

 

『そもそも、どうしてそんな話をするんだ?』

 

 

「冥界に行きたい人ー手を挙げて」

 

 

『はい』

 

『挙手』

 

『ばんざーい!』

 

『はーい!』

 

 

「そうだろ? そんなプレイヤーのために魔王に直談判したら条件を出してきた」

 

 

『魔王に直談判』

 

『恐れ知らずな』

 

『サスシロ!』

 

『サスシロ安定だけど、条件って?』

 

「俺の手伝いをしたプレイヤーには冥界の国に行き来することを許される【名誉国人】の称号が与えられるっぽい。称号なのかは不明だけど俺の手伝い、つまりはヘルキャットを皆の手で孵化してくれればお互いWin-Win」

 

 

『え、私達が孵化したらヘルキャットちゃんは?』

 

 

「卵をテイムするんだから皆の従魔になるだけだが?」

 

 

『ウソッ!? そのまま貰っていいの!?』

 

『しかも称号貰えて冥界にも行けるなら、こっちが特しかないじゃんか!』

 

『欲しいー!』

 

『白銀さんどこ、どこにいるの!?』

 

 

「予想通りの反応をありがとうな! だけど、何事もうまい話だけじゃないから!」

 

 

『ってことは俺達に何か大変な思いをすることになる?』

 

『金か? 金ならいくらでも払うぞ!』

 

『白銀さんは億万長者だから端金はいらないと思いま~す』

 

 

「説明するぞ! まずヘルキャットの卵は時間経過で孵化しない。必要なのは経験値だ。モンスターを倒した際に得られる経験値が卵に吸収されるらしいんだ」

 

 

『へー私達の経験値が必要なんだ?』

 

『それってどれくらいだ?』

 

『かなり必要だろ』

 

『そう言えば、白銀さんのヘルキャットは玄武を倒した直後に生まれたから・・・・・』

 

 

「かなーりの経験値が必要になるかな。でもって他にも方法があって・・・・・同族をどんな形でも十人倒せば孵化するかもと言ってた」

 

 

『それはつまりプレイヤー同士の戦いで十人倒せばいいってこと?』

 

『PVPを促すクエストだな』

 

『長々とモンスターを倒し続けるか、プレイヤー同士戦うか』

 

『PKもありならさらに大変だー』

 

 

「それを承知の上で欲しいなら卵をあげまーす。因みにその際は俺の従魔達から手渡して貰う予定だから」

 

 

『嬉しいさ倍増!』

 

『ゆぐゆぐちゃんと触れ合える機会!』

 

『クリスちゃんと握手できる場所はどこですか!』

 

『最近噂の天使ちゃんも会えますか!?』

 

 

「全員だ! この事は掲示板にも載せてくれよ。先着順から卵をあげるからなくなり次第終わりだから! 後から来ても渡せないから文句は言うなよ! それでも欲しいならヘルキャットの長と会えるよう頑張れ!」

 

 

『そのヘルキャットの長ってやっぱり猫なの?』

 

『というか、白銀さんはどこにいるんだ? 卵の方は建物の風景が見えたけど、今はなんか後ろが真っ暗なんだが』

 

『まだ冥界にいるんですかー?』

 

 

「いまマイホームにいるぞ。それと暗いのは・・・・・」

 

 

『・・・・・黒い物体?』

 

『大きいですねー』

 

『なんか、動いてないか?』

 

『黒いところにいたのか。でもその黒いのは?』

 

 

「この黒いの、ヘルキャットの長だ。おい、起きてくれ」

 

 

『は? このバカデカいのが猫なんて・・・・・』

 

『うわっ! 目が開いた!? いや目もデカいな!』

 

『待て待て、起き上がったその猫、山並みに大きいぞ!?』

 

『欠伸した口もデケーなオイ!?』

 

『うっそーん』

 

 

「はい、起きてくれたこの黒猫さんがヘルキャットの長で、なまえはブニャック」

 

『よろしくニャン。我が子を大事に可愛がって育てて欲しいニャン』

 

 

『喋ったァー!?』

 

『あ、はい。大事に育てて幸せにしますお義母さん』

 

『こんな猫がこの世に存在していたなんて・・・・・』

 

『まさかだと思うけど、ブニャックお義母さんをテイムしたのか?』

 

 

「ハハハ・・・ベヒモスをワンパンするほど強い魔獣だぞ? 出来ると思ってる?」

 

 

『アッハイ』

 

『トンデモ猫だった件について』

 

『最強のお猫様だったとは失礼しました』

 

『お供えは魚がいいですか?』

 

 

「ブニャック、お供えして貰うなら何がいい?」

 

『ニャ~・・・人間界の食べ物は食べたことがニャイ。人間達がくれるなら貰ってあげるだけニャ』

 

「だそうだ」

 

 

『よし、お猫様の初めては俺が貰う』

 

『ズルいぞ! 俺が先だ!』

 

『マタタビ入りのお水をあげよう!』

 

『あの巨体で酔わせてどうするんだよ!?』

 

『そこはほら、お触りがしほうだいで』

 

『絶対死に戻りする未来が待ち受けてるから止めておけ』

 

 

「まぁ、そう言うわけで明日から五日間。第11エリアに続く洞窟の前で一日先着順千人ずつ卵を朝9時~1時間、夜10時~1時間まで渡すから楽しみにしてくれ」

 

『よろしくニャー』

 

 

『はーい!』

 

『よし、先にスタンバイしてよう!』

 

『貰ったその後は適当なプレイヤーとタイマン勝負!』

 

『負けないぞー!』

 

 

「それと、絶対に混雑するだろうから順番待ちする時は列を作って喧嘩せずに並ぶように頼むよ。他のプレイヤーの邪魔にならないよう気を配ってくれ。俺一人じゃあ隅々まで把握できないから」

 

 

『お互い気を付ければ大丈夫でしょ』

 

『気を付けようとしても迷惑なやつは必ず出てくるからそうでもないだろ』

 

『列に割り込むやつとかいるよな』

 

『マナーのないやつも必ずな』

 

 

「うん。だからお願いするよ。それとその時、魔王ちゃんも手伝ってくれるから頼むよ」

 

 

『魔王ちゃん!』

 

『おおー噂の魔王ちゃんの手渡しもあるのか』

 

『是が非でも会いに行くぞ!』

 

『うわ、明日はイベント並みに盛り上がりそうだ』

 

 

「後そうだな。説得すればNPCの男の娘も手伝いをしてくれるかもな」

 

 

『ははは、NPCに男の娘がいるわけないでしょ』

 

『いや、だか白銀さんだぞ。何かしらの発見をするのが有名だ。最初にNPCのエルフを仲間にしているんだからさ』

 

『・・・・・あの、その男の娘は美少女で?』

 

 

「生まれた性別を間違えたんじゃないかってぐらい、可愛いぞ。当の本人は女の子の服しか着られない生活に嘆いてたが」

 

 

『どんな生活をすればそんなことに・・・・・?』

 

『うわ、興味津々だー』

 

『明日が楽しみだ!』

 

 

「それじゃ、死神の宴はここまで! 視聴者のプレイヤー達。明日はよろしくなー!」

 

 

『おおおー!!』

 

『あれ、第11エリアのどこに行けば?』

 

『それは明日見つけたプレイヤーが位置情報を教え合えばいいじゃん』

 

『そうだな』

 

『早速今から張り込みだ!』

 

『ブニャックお義母さんを生で会いたいなー?』

 

『わかる』

 



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次なるイベント

 

宣伝通り昨日の内に自動販売機や店舗型ホームに卵の提供準備を進めた。そして翌日の今日、ブニャックと一緒に3時間も早くネコバスで第11エリアに向かえばもうそこには多くのプレイヤー達が集まり出していた。いや早いな? それだけ期待しているのかよ。

 

「やぁやぁ、まだ朝の6時だと言うのに早いなお前ら。朝食は食わないのか?」

 

「貰うまで帰れナイン!」

 

「よっしゃー! 今日の運勢通りィー!」

 

「ここに白銀さんが来てくれて嬉しい!」

 

「白銀さん、約束の金だ。だから早く卵を・・・卵を・・・・・!」

 

「他の連中に教えてやろう!」

 

「うおおお・・・・・生で見るお義母さんデカ・・・・・・」

 

歓喜、喜悦の感情を全身で表したり早くと俺を急かすプレイヤー達。はいはい、今準備をするから。3時間前だがもう配るとするか。

 

「それじゃちょっと待っててくれ。オルト達、間隔を空けて並んでくれ!」

 

「ムー!」

 

それなりに時間を掛けて準備をするオルト達に卵を百個ずつ渡して預ける。ブニャックはその辺でのんびりと寛いでもらうけどな。

 

「それじゃあリヴェリア、アカーシャ、(小声)魔王。よろしく」

 

「・・・・・こんな格好で、人前で・・・・・(絶望感)」

 

もう腹をくくれよ魔王。隣にいる「頑張って作りました!」って満足気な顔をしている奥さんに逆らえない時点で運命は決まっているんだから。

 

「お待たせー! かなり時間は早いが先着1000人への卵の配付を始めるぞー! 好きな俺の従魔の前にきちんと列を作って並んで貰え! 一人一個だけだからなー!」

 

「はーい!!」

 

「うぉおおー! 魔王ちゃーん!」

 

「マジで男の娘がいる! キミ、名前は何て言うんだい?」

 

早速話しかけられた魔王。凄いなお前、人前に出てたらアイドルとして祀り上げられるんじゃないか?

そう思いながらプレイヤー達の手に黒い卵が渡って行き、受け取った彼等彼女等は満足してログアウトするか、この場から立ち去って行った。

 

「ルシファー、魔王のファンクラブを設立したら大人気の予感がするぞ」

 

「検討しましょう。私の夫の可愛らしさを全世界にアピールしたいと思っていました」

 

「止めてくれ!?」

 

ガチで本気に言う魔王。いや、本気で言ったわけじゃないからな? 寧ろ本気なのはお前の奥さんの方で・・・・・。

 

「せっかくですしあなたも夫とコラボしてみてはどうですか? 可愛い服を見繕ってあげます♪」

 

「・・・・・ごめん魔王」

 

「・・・・・いいんだ、わかってくれるなら」

 

何が悲しくて共通の悩みを抱えなくちゃならないんだ・・・・・。この機に魔王と親密な関係を築くぞ。

 

 

 

それから時間が経てばここのエリアに足を運ぶプレイヤー達がたくさん来るようになり、オルト達の前に誘導しながら卵を受け取ってもらった。貰ったプレイヤーは速やかに移動してくれているから混雑は少ない。おかげで卵を千個もスムーズに渡し終えれた。

 

「はーいっ! 本日の卵の受け渡しは終了だ! 今夜も卵を渡すから貰っていないプレイヤーはまた来てくれ! もしくはこれから始まりの町にある自動販売機や俺の店舗型ホームに一人一つの卵を100Gで販売しているから買いに来てくれ!」

 

貰えなかったプレイヤー達は残念な顔をしつつ、俺の話を聞いた後に急いで始まりの町へ戻って行った。しかし中には。

 

「なぁ、明日じゃなくても今日中に渡せるだろう? 俺今欲しいんだけど」

 

「確かにそうだが俺にもプライベートの時間があるんだが? ログアウトして飯を食いたいんだ。その間俺が居なくても卵が手に入るようにしたんだからいいだろ。ほらよ」

 

「あ、どうも」

 

不満を抱かせるより納得させた方が遺恨を残さずにすむ。他のプレイヤーも欲しがられる前にネコバスの中に乗り込み、オルト達とホームへ戻った。その途中に運営から告知届いた。お、久し振りのイベント。しかも・・・・・。

 

「おー、いつか予想してたアイテムコンテストとスクショコンテストか」

 

イベントの内容はシンプル。アイテムコンテストは様々な分野のNPC審査員達にプレイヤー達が用意したアイテムを選んで貰うことだ。評価された上位10位以上のプレイヤーは当然の報酬が貰える。ただ、よもや料理の審査もされるとはな。

 

スクショコンテストは、珍しい光景やモンスター、プレイヤーを写真に納めて撮ったスクショにランクがあるのは競争心を高めるためか。

 

提供したスクショは自動判定で1~5までランク付けされて、それに合わせた情報ポイントが得られるという訳か。ランク5が最高判定のようである。あ、簡単な説明書きがある。・・・・・なるほど、初期エリアより遠かったり秘境の地、またはレベルが高い敵が写っていればランク判定は高くなりやすいんだな。

 

基本的には1枚で情報ポイント1は最低限保証はされるけど、提供済みのスクショとほぼ同じ場所と同じ構図の連射のスクショは対象外になるのか。まぁこれは無駄に撮りまくってポイントの荒稼ぎを防止する目的みたいだな。

 

それに撮影に協力してもポイントが手に入るし、入賞したらさらに高いポイントも得るのか。

 

んースクショコンテストに参加だな。こっちの方が面白そう・・・・・。

 

 

 

 

 

【魔獣ゲットだぜッ!】もう孵化した? を語るスレ1【みんなも魔獣ゲットしたかッ!】

 

 

 

 

25:魔獣トレーナー

 

よっしゃ、10人抜き達成! 情報通り称号が手に入って貰った卵が孵化した!

 

 

26:魔獣トレーナー

 

裏山、でもおめでとう。どんなネコなのか教えてくれる?

 

 

27:魔獣トレーナー

 

25≫角はないし翼と紋様は一緒だけど金色に豹柄のネコが出てきた! うちのネコは格好いい!! 当たりだろコレ

 

 

28:魔獣トレーナー

 

豹柄って。まぁ、同じ猫科だからかな。こっちは白の長毛種。長い毛が柔らかくて触り心地が最高だぜぇ。

 

 

29:魔獣トレーナー

 

うちのネコちゃんはマンチカン! 短足で身体がちっこくて愛らしくてしょうがない! リアルじゃペット禁止だから飼えなくて・・・・・白銀さんありがとう!!

 

 

30:魔獣トレーナー

 

なんだか色んな猫が孵化するんだな。俺はまだだぜ・・・・・。因みに教えれる範囲でいいからスキルを教えてくれないか?

 

 

31:魔獣トレーナー

 

ネコパンチと流動体、それとネコを召喚するためのスキルぐらいは皆同じじゃないか?

 

 

32:魔獣トレーナー

 

そうだね。その辺りはこっちも覚えてるよ。

 

 

33:魔獣トレーナー

 

今ネコが孵化したんだけど・・・・・ハチワレ柄に尾曲がり、額に大判と小判がくっついている件について

 

 

34:魔獣トレーナー

 

めっちゃ縁起物の招き猫じゃんか!!

 

 

35:魔獣トレーナー

 

そんな冥界の魔獣がいるのか・・・・・? 因みにスキルは?

 

 

36:魔獣トレーナー

 

33≫戦闘系スキルが一切ないけど、幸運スキルに経験値とドロップアイテムにゴールド取得数が三倍に増える。俺のネコ、福を司るネコ神様のようだ

 

 

37:魔獣トレーナー

 

純粋に羨ましすぎる・・・・・っ!!!

 

 

38:魔獣トレーナー

 

なんだこれ・・・? 孵化したネコは姿とスキルがランダムだと?

 

 

39:魔獣トレーナー

 

どうやらそうみたい。私のネコ、等身大の大きさでさお手伝いスキルしかなかった。しかも何でかエプロンを着ている。試しにお手伝いさせてみたら私より上品質な料理を作る猫らしかぬ凄すぎる才能を見せられた

 

 

40:魔獣トレーナー

 

あ、よかった。等身大のネコは俺だけじゃないんだね。ようやく孵化させたらトラ並みの大きさだったからビックリしたよ。でも背中に乗って移動できるから嬉しい気持ち

 

 

41:魔獣トレーナー

 

うちは顔だけ貫禄ある風貌をしていらっしゃるが身体は巨大なおデブさんだ。なんと、お腹の上にダイブできる!

 

 

42:魔獣トレーナー

 

地味に羨ましいことができるデブネコか。こうなると毛が無い猫もいそうな気がするがまだいないかな

 

 

43:魔獣トレーナー

 

ちょ、【超巨大化】のスキルがあって試したら白銀さんのネコバスぐらい大きくなったんだが!?

 

 

44:魔獣トレーナー

 

それはそれで見てみたいかなー。ところで【名誉国民】の称号が手に入ったなら冥界に行った?

 

 

45:魔獣トレーナー

 

もう来ているぞ? 今、魔王の城下町の店を物色中。

 

 

46:魔獣トレーナー

 

クエストを探しているところ。おっ、採取クエストを見つけたぜ!

 

 

47:魔獣トレーナー

 

武器屋を発見。うわ、普通に凄い武器だらけじゃんここ。見た目も中々そそらせてくれますなー

 

 

48:魔獣トレーナー

 

サ、サキュバスのNPCを見つけちゃった!!! 今から接触しまーす!

 

 

49:魔獣トレーナー

 

なに、どこで見つけた! すぐに報告をするんだよい!

 

 

50:魔獣トレーナー

 

あ、出遅れてる? 俺も行かなきゃ!

 

 

 

 

【次のイベント】スクショコンテストを語るスレ1【対策を語ろう】

 

 

7:名無しプレイヤー

 

イベント総合のスレでよくない?

 

 

8:名無しプレイヤー

 

わかりみ

 

 

9:名無しプレイヤー

 

それはまたの次回でいいんじゃない? 今は語ろう。

 

 

10:名無しプレイヤー

 

じゃあまず俺から。イベントが始まるのはいいんだけど、今の内にスクショを集めて提供する準備した方がいいよね?

 

 

11:名無しプレイヤー

 

そうだろうな。こうなるとあるプレイヤーが入賞するのは間違いないだろう。何たってあの人は先に隠しエリアや未発見だったモンスターを発掘し続けたからな

 

 

12:名無しプレイヤー

 

なお本人は性別も変えることができるから撮影する側は需要があるという。誰かあの人に何か服を着させた状態で撮影の協力できないか交渉してくれない?

 

 

13:名無しプレイヤー

 

よしよくわかった。呪われたバニースーツを製作する!

 

 

14:名無しプレイヤー

 

どんなバニースーツでどうしてバニースーツなんだよ

 

 

15:名無しプレイヤー

 

13≫二度と脱げなく(※なお一定時間ボンバーする)なるやつ

 

 

16:名無しプレイヤー

 

それは地味に嫌すぎる。男だったら目が腐る

 

 

17:名無しプレイヤー

 

だが、性転換できるあのプレイヤーだったら? 本気で中身が男の事実を忘れる前提で

 

 

18:名無しプレイヤー

 

・・・・・アリよりのアリだな

 

 

19:名無しプレイヤー

 

顔を赤らめて恥じらう姿を窺わせてくれる女堕天使バニー様・・・・・イイのでは?

 

 

20:名無しプレイヤー

 

13≫ちょっと、冥界で頑張ってきます。全力で間に合わせて来る!

 

 

21:名無しプレイヤー

 

魔獣の卵を受け取ったプレイヤーがだったか。俺もそうだけどな。さて、女堕天使の水着バージョンでも作りに行こうかな。

 

 

22:名無しプレイヤー

 

あのー、スクショコンテストを語るスレですよね?

 

 

23:名無しプレイヤー

 

シッ! 一部の同類プレイヤーがいなくなればその話にだけなるから! 変態を見てはいけません!

 

 

24:名無しプレイヤー

 

自分、オープンスケベなので語るのですが。可愛い、綺麗、美しい幼女から美少女に美女なプレイヤー達をスクショできる正義を得られるのではないかと思います

 

 

25:名無しプレイヤー

 

Σ(´∀`;)

 

 

26:名無しプレイヤー

 

( ゚Д゚)

 

 

27:名無しプレイヤー

 

(@ ̄□ ̄@;)!!

 

 

28:名無しプレイヤー

 

Σ(・ω・ノ)ノ!

 

 

29:名無しプレイヤー

 

Σ(゚Д゚)

 

 

30:名無しプレイヤー

 

お、お前・・・・・天才か・・・・・ッ。

 

 

31:名無しプレイヤー

 

な、なるほど・・・・・このイベントの趣旨が判って来たぞ・・・・・!!!

 

 

32:名無しプレイヤー

 

変態が一気に湧いて出てきたんだが・・・・・大丈夫かこのイベント

 

 

33:名無しプレイヤー

 

変態しかいないイベントなんて俺やだよ・・・・・

 

 

34:名無しプレイヤー

 

私は男性プレイヤーをスクショできる口実が得れて満足ですがね。お尻のお触りもありなら垂涎ものです。あ、下の穴も可ですよ? 私のドリルで貫いてあげますから(ギュイイイイイイン!!)

 

 

35:名無しプレイヤー

 

ギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!?

 

 

36:名無しプレイヤー

 

イヤァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!?

 

 

37:名無しプレイヤー

 

へ、変態だァー!!!

 

 

 

【目指せ!】アイテムコンテストについて語るスレ1【全生産職一ィ!】

 

 

 

57:生産職プレイヤー

 

なんか、別のスレ板で爆発する装備を作らんとする変態が湧いたんだが

 

 

58:生産職プレイヤー

 

意味のない物を作って自ら防御力を捨ててどーするんだか

 

 

59:生産職プレイヤー

 

防御力極振りのあの人なら問題ないだろうな

 

 

60:生産職プレイヤー

 

ぶっちゃけ、あの人の【VIT】はどれぐらいよ。というか今回は生産職プレイヤーが主役なイベントで嬉しいよな

 

 

61:生産職プレイヤー

 

そうだな。問題はどうやって素材を活かすかだ。何を作ろうか苦悩中だよ。

 

 

62:生産職プレイヤー

 

基本的に真新しいアイテムを作るべきなのはわかっているが・・・うーん、もっと自分に想像力があればいいのに

 

 

63:生産職プレイヤー

 

レアと品質がいくら高くてもプレイヤー次第で宝の持ち腐れになるしな

 

 

64:生産職プレイヤー

 

プレイヤーの腕が高くても素材が手に入らないならどうしようもないのも同じですけどねー

 

 

65:生産職プレイヤー

 

例:水晶のステージ

 

 

66:生産職プレイヤー

 

思い出させるなー!?

 

 

67:生産職プレイヤー

 

目の前の光景に広がる美しい水晶の素材。未知の素材を求め未知のフィールドに足を踏み込んだ瞬間、全力で突っ込んでくる水晶モンスターとボール扱いされて死に戻りするプレイヤー光景が瞼の裏に焼き付いて離れませんですねー

 

 

68:生産職プレイヤー

 

あそこのモンスター、攻略は出来つつあるんだけど三体のボスモンスターの存在がさぁ・・・・・

 

 

69:生産職プレイヤー

 

 

前線組、攻略組のプレイヤーですら未だ討伐報告が挙がらない鬼畜モンスター。ボスモンスターの周囲には襲い掛かって来るモンスターの何十倍もの数がびっしりといるって話が・・・・・

 

 

70:生産職プレイヤー

 

ミキサーのように争っているボスモンスターと強すぎる取り巻きの中に巻き込まれて一瞬で死に戻りされるプレイヤーが後を絶たず・・・・・

 

 

71:生産職プレイヤー

 

だけど我々はこの目で見たり噂を聞いたことがあるだろう。【蒼龍の聖剣】ギルドは水晶の船を保有していることを

 

 

72:生産職プレイヤー

 

実は俺、少し前にフレンドから聞かされたんだけど。全方位から襲われてもピンピンしている白銀さんを見掛けたって。しかも逆にモンスターを倒しまくってる話も

 

 

73:生産職プレイヤー

 

・・・・・このゲームは防御力特化が最強だった・・・・・(呆然)?

 

 

74:生産職プレイヤー

 

めっちゃ防御力を高めればいいって問題ではありませんがねー?

 

 

75:生産職プレイヤー

 

やっぱりスキルですかね。それともアイテム? 装備?

 

 

76:生産職プレイヤー

 

全部でしょ。頼んだら集めてくれるかな・・・・・。

 

 

77:生産職プレイヤー

 

できたらできたで、報酬はどのぐらいにするべきか正直分らん

 

 

78:生産職プレイヤー

 

速報:白銀座店で魔獣の卵ゲット! (あ、ついでに水晶系の素材も)

 

 

79:生産職プレイヤー

 

はぁっ!? (@ ̄□ ̄@;)!!

 

 

80:生産職プレイヤー

 

忘れてた! 頼む前に売られているか調べるべきだった!!

 

 

81:生産職プレイヤー

 

 

78≫いやほんと偶然。他のプレイヤーが卵ばかり意識して目を向けてるからアイテムコーナーが誰もいないし、イベントに備えて何かないかと思ったら水晶系の素材が販売されてたんだ。はぁー・・・めっちゃ綺麗。モンスターの素材と鉱石、植物系の素材がたくさんあんぞ(うっとり)

 

 

82:生産職プレイヤー

 

まずい、出遅れる!!

 

 

83:生産職プレイヤー

 

たくさんあるって在庫処理か? だとしても手に入れに行かないと!

 

 

84:生産職プレイヤー

 

レア素材を手に入れるチャンスを逃してたまるかー!!



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スキルの検証

「それでは確かにお届けしました」

 

「ご苦労様です!」

 

JGEから5日後。それなりに大きい卵形の機械が玄関に運んでくれた業者に感謝の言葉を送って見送った。玄関ホールに鎮座する数百万の代物。

 

「で、どうやって運ぶの?」

 

「こうしてだ」

 

燕達も購入したので3つも魔法で浮かせてそれぞれの部屋に持っていく。どこに置くかは相談して置いたら最後に俺も置いてアイテムコードを入力、ゲームにログインした。

 

 

「さてさて、アイテムはっと」

 

メールで届けられてる数々の特典アイテムを受け取り、うきうきと閲覧していく。

 

 

『座標転移門』

 

各エリアに座標を登録した場所へ自由に移動できる。

 

 

おや、新大陸と旧大陸を跨ぐこともできる? わざわざ船で戻ろうとせずともろうとせずともいい感じ? リアルで数百万もした甲斐があったわー! あと、複数人同時に利用できるか気になるところ。次はーと。

 

 

『パラメーター改変薬』

 

使用すれば一度だけステータスポイントを全て初期化して、再分配することができる。

 

 

極振りのプレイヤーは必要ないアイテムだな。次は?

 

「スキルスクロール×5だったな。新大陸を網羅した地図も当たりアイテムだ。太鼓のやつのコードアイテムは何故か黄金の太鼓・・・・・」

 

 

『黄金太鼓』

 

叩いている間、半径100メートル以内にいるプレイヤー、テイムモンスターの数によってステータスが戦闘中のみ最大100%とバフ効果を付与する。

 

 

はへぇ・・・・・なんだこれ。アイテム? 音楽系プレイヤー専用の装備じゃなく? オルト達も強化されるのはありがたいけどさ、ただただ叩いているだけなのは五月蠅いだろこれ。はい次、ヴィジットボーナスで得たコードアイテム。

 

 

『テイム召喚の笛』

 

テイムした状態でランダムに一匹のみモンスターを召喚する笛。

 

 

これは運要素があるアイテムだな。さてさて、なにが出て来るかな? 笛を吹いてピー! と鳴らすと笛が光り出した。手を放すと笛が床で幾何学的な円陣を描きモンスターを召喚した。

 

「にゃん」

 

召喚に応じてくれたモンスターは猫だった。俺の腰に頭が届くかどうかの大きさの茶色の猫は、見事な二足歩行の立ち姿に銃士風の服をぴっちりと着こなした猫銃士とも呼ぶべき姿。腰にはレイピアと思しき細剣を佩いているが、何より目立つのはやはり長靴=ブーツだ。

 

他の装備が見た目よりも実用性を優先したものであるのに対して、ブーツだけが宝石や金属で派手派手しく装飾が施されている。

 

「フレイヤとネコバス以来の従魔の猫か。というか、宝石と金属の装飾の長靴って・・・・・」

 

詳細を確認すれば。種族は予想通りのケット・シー。

 

 

 

名前:ラミアース 種族:猫妖精

 

契約者:死神ハーデス

 

LV1

 

HP:50/50

 

MP:70/70

 

 

【STR 15】

 

【VIT 12】

 

【AGI 20】

 

【DEX 16】

 

【INT 17】

 

 

スキル:【一突旋風】【ディフェンスブレイク】【神風特攻】【パワースティング】【宝石加工】【風魔法】【地獄耳】【忍び足】

 

 

装備:【猫銃士のレイピア】【猫銃士の服】【猫銃士の高貴長靴】

 

 

中々面白そうなスキルをお持ちのユニーク猫だった。宝石加工なんてスキルもある。生産も出来るなら大歓迎だ。

 

「これからよろしくなラミアース」

 

「にゃーん!」

 

跪いて握手を交わす。うーん猫の手が、肉球がたまらなく柔らかい。さーて最後はランダムスキルスクロールだ。五つもあるから何が手に入る事やら。いざ、解放!

 

 

―――スキル『【全方目】を取得しました』

 

―――スキル『【地中探知】を取得しました』

 

―――スキル『【諸刃の剣】を取得しました』

 

―――スキル『【ファイアボルト】を取得しました』

 

―――スキル『【同調リンク】を取得しました』

 

 

・・・・・五つ中には「なんだこれ」と思うスキルが手に入ってしまった。取り敢えず確認だな。

 

 

【全方目】

 

360度の視覚が増え視界が共有する。

 

 

【地中探知】

 

地中に眠っているモノを探知する。

 

 

【諸刃の剣】

 

このスキルの所有者の被ダメージが3倍受けるようになる。

ただしダメージを受けた際、その攻撃の威力を常時3倍で自分の攻撃に乗せる。

 

 

【ファイアボルト】

 

炎と雷属性の複合魔法。

 

 

【同調リンクⅠ】

 

1日に一度のみ。このスキルの所有者と選択した他のプレイヤーが互いのスキルが反映し使用可能になる。

 

 

「・・・・・」

 

・・・・・なるほど、とそれしか感想が言えない俺は取り敢えず納得した。【諸刃の剣】は俺に更なる脅威を迫らせる魂胆なのはわかった。数万の防御力があろうがそれを上回る被ダメージが受けるとさすがにヤバい。だがそれを差し引いても【同調リンク】はありがたいかな。メダル争奪戦の時のように俺のスキルが他のプレイヤーに仕えるのは有用だ。

 

「【地中探知】・・・宝探しみたいでいいな。ラミアース、宝石は好きか?」

 

「にゃん!」

 

「じゃあ、見つからないと思うが宝石を探しに行こうか」

 

「にゃーん!」

 

採掘ということでノームズとテイムしたてのラミアースとマイホームを後にし、他のエリアへ向かう。

 

 

「おい、白銀さんだ。また新しいネコ系のモンスターを・・・・・」

 

「長靴をはいた・・・・・えっ? そっち系もいるのか?」

 

「可愛いー!」

 

「魔獣の件に続いて・・・・・どんだけ情報を抱え込んでいるんだよあの人」

 

「タラリアに情報を売るのか・・・?」

 

 

ざわざわと聞こえてくるプレイヤー達の声を聞き流し始まりの町を後にする。

 

「宝石といったらやっぱりここだろ」

 

宝饗水晶巣。久々に来たぜここも。水晶系モンスターが現れないうちに【地中探知】を発動するとしよう。

 

「【地中探知】」

 

スキルの名前を言うと地面に半径10メートルほどの青い光のサークルと横線が浮かび上がる。ソナーみたいな感じか?発動中はMPが減り続け、俺が動くとサークルも呼応して動き出す。ぐるぐると回って歩き続けてみたが、さすがにすぐにでは見つからないか。次のエリアに進んだ。ここもぐるぐる回りながら歩いたとき、横線が一瞬山なりになる変化を見逃さなかった。反応があった場所に動かすと横線の上下が激しく山なりになる変化を今度は確認できた。

 

「ここだ、オルト達! 掘れー!」

 

「「「「「ムー!」」」」」

 

掲げるクワで火山の大地を掘り始めるオルト達。地中に眠るアイテムを発掘は俺も参加して掘り起こした。

 

―――鉄鉱石。 イヤ、これかよ・・・・・。心なしかオルト達もしょんぼりしてて、今の発掘作業で水晶系のモンスターたちが湧いて迫ってくる始末だ。

 

「【身捧ぐ慈愛】」

 

オルト達にも俺の防御力が付与され、【血液捕食者】と【復讐者】のコンボで一方的にモンスター達が赤いエフェクトを自らまき散らしダメージを食らい自滅していく。

 

「まだ一つ目だ。次を探しに行こう」

 

「ム」

 

「にゃん」

 

なお、この後一日かけて探し続け採掘した成果は星の輝きを放つ水晶の中に眠っていた宝石や、今まで発掘した中でも極めてレアっぽい鉱石を始めモンスター達にリンチされながら数多くの宝石と鉱石を発掘して見せた。その間。ノームズやラミアースのレベルがかなり上がったのは言うまでもない。防御力も然り。

 

 

 

「はい、ラミアース。宝石だぞー」

 

「にゃーん!」

 

宝饗水晶巣からマイホームに戻りラミアースの好感度を上げた。ただ、ラミアースの好物は魚料理。宝石を貰い喜悦に大きなまん丸の目がキラキラと輝かせる猫の騎士に小さく笑っていると、数人の足音が聞こえてきた。

 

「やっぱりいたな」

 

「リアル以来だな」

 

「やぁハーデス」

 

「おや、紅一点がいない男達じゃないか」

 

フレデリカが珍しく不在のようでペイン達が自然と俺がいる居間に居座る。

 

「なんだその猫? またどっかでテイムしたのかよ」

 

「JGEで手に入ったアイテムコードの恩恵だ」

 

「なるほどな。ってことは、お前も新たなスキルが手に入ったわけだよな?」

 

「まーな。今日はフレデリカがいないんだな」

 

「引っ越しの準備をしているんだろ。数日はこれないってメールが来たぜ」

 

それは俺達の方にも届いた。ただ、俺のところにはそれ以上の文章が載っていたがな。

 

「ペイン、座標転移門の方はどうだ?」

 

「とても有用なアイテムだね。南極大陸から旧大陸まで移動ができたよ」

 

「人数制限は?」

 

「所有者以外は使用できないようになっている」

 

残念だな。でもま、複数以上の座標転移門を持つプレイヤーによって何千万人のプレイヤーを楽々と別の場所へ移動させるなんてこと運営が寛容するはずもないか。

 

「ということは二人を置いてけぼりにするしかないということか。可哀想に」

 

「あのバカ高い奴なら俺達も買ったんだが」

 

「思ってもないことを言うんじゃねぇよハーデス」

 

ん? それは知らなかった。へぇ、そうなんだ。あ、サイナ。お茶ありがとう。

 

「そんで、ここに来たのは休憩か?」

 

「それもあるし、ドレッドがハーデスに対して呟いていた言葉は俺も気になったから、直接聞きに来たのもあるよ」

 

「ドレッドが俺に? 教えられる範囲内ならいいけど」

 

「それじゃ訊くが、ハーデスのスキルに空中を蹴って移動するのがあるよな。アレは今も取得できるか?」

 

「【八艘飛び】か。うーん・・・・・」

 

八回飛べば取れるようなスキルとは思えないが・・・・・。

 

「俺の時は間隔的に離れた足場を八回飛んで手に入ったんだ。が、今その場は丸ごと別のエリアになってしまっているからできなくなってるんだよな」

 

「因みにそのエリアはどこだ?」

 

「お前らも一度は通った機械の町に繋がるエリアだぞ。あそこは倒すことができない巨大オオサンショウウオもどきとアンコウもどきのモンスターがいてな」

 

当時のことを詳しく聞かされたペイン達は興味を抱いたが、全く別のエリアになったエリアでは【八艘飛び】のスキルを手に入ることはできないな、と漏らした。

 

「お前、よく隠しエリアを見つけたな」

 

「なんかありそうだなー的な感じで探したら発見したんだよ。で、ドレッドは【八艘飛び】が興味あったんだな」

 

「ハーデスが初めて見せてくれた空中を蹴るスキル。割と俺も欲しいんだよ」

 

「ふーん。まぁ、他にも方法はないかと言われれば多分だがあると思うがな」

 

「あん? あるのかよ? 【八艘飛び】ってスキルを手に入る方法が」

 

「やってみないとわからないがな。どうするドレッド?」

 

「お前がそう言うなら試してみるのもアリだな」

 

というドレッドの言葉で俺達は実行した。場所を移して―――リヴァイアサンレイドで戦った場所、今は海人族が溢れ返ってる島に訪れた。そしてその島にいた八人の同士のプレイヤーにも手伝ってもらい、陸から海まで八つの筏を間隔的に配置させた。

 

「作戦名【八艘飛び】。当時の再現をしたがこれでスキルが手に入るといいんだが・・・・・」

 

「こんなんでスキルが手に入るのかよ?」

 

「最後の筏はそれなりに遠いから簡単に跳び乗れないぞ。取り敢えずドレッド、試しにどうぞ」

 

「スキルはありか?」

 

最初は無しの方向でと言った。ドレッドは自分のタイミングで筏に向かって走り出し、筏へ跳躍して難なく乗る間もなく次の筏へ跳びまた筏に乗ってまた跳ぶを繰り返す。都度8回目の最後、突然そいつが海中から現れた。7隻と8隻の間の空いた海面が盛り上がり―――凶悪な顎を開き鋭利で生え揃えた牙を覗かせる巨大なサメがドレッドを食らわんと海中から飛び出てきた。あいつはどうするのか俺達は見守るしかできない。

 

「【クインタプルスラッシュ】!」

 

お、初見スキル。イッチョウの【ダブルスラッシュ】より多い連続攻撃でサメにダメージを与え―――ることができずドレッドはサメの尾鰭に強く弾かれ砲弾の如くスタート位置にいる俺達の所にまで吹っ飛んできた。

 

「うーん・・・・・あのギミックは流石に予想外。足場を擬態したアンコウもどきではないけどサメが邪魔するとか」

 

「しかもHPがなかったぞ」

 

「破壊不能の類か。ドレッド、次は俺もいいか」

 

「お手並み拝見させてもらうぜ。お前が攻略する様を見させてくれれば俺も出来そうだからな」

 

次はペインが挑む。筏に跳び乗る繰り返しはドレッドと変わらずだが、最後の筏に乗ろうとするとまたサメが海から飛び出てきた。さてどうするペイン?

 

「―――ふっ!」

 

「お」

 

恐れ知らず。サメの歯を踏んで足場にしたペインが空へ高く跳躍した。自分を足場代わりにしたプレイヤーの邪魔をするかのように最後の筏をペインより先に落ちた衝撃で配置した場所からさらに遠ざけた。だが、あいつはインベントリから大きめの盾を取り出しては、その盾を足場代わりにして遠ざかった最後の筏へギリギリ着地することができた。というか、まんま俺の当時の再現をしてくれたなペイン。

 

「ドレッド、できるか?」

 

「ハーデス。ユニークじゃない盾あるか?」

 

あ、攻略する気満々だ。勿論ありますよー。さて、かなり離れたペインは手に入ったスキルで戻ってきた。空中を8回蹴って飛んで。

 

「お帰りペイン」

 

「ただいま。ハーデスの言う通り目的のスキルが手に入った」

 

「それはよかった。ドレッドもペインの動きを参考にするつもりだ」

 

もう再チャレンジをしているドレッドを見て言う。2度目の挑戦のドレッドにまた邪魔をする巨大なサメにペインと同じ動きをして乗り越え、盾を利用した動きもせずに最後の筏に乗ることが叶った。こっちに戻ってくる際はペインに倣って空中を蹴って戻ってきた。

 

「盾いらなかったか。ペインより【AGI】が高いからか」

 

「使おうか迷ったがな。返すぜ」

 

「おう」

 

貸した盾を返してもらったところで二人の目的が達成した。8人の同士にも感謝の言葉を送る。

 

「あ、あのー俺達も挑戦してみてもいいですかね?」

 

トッププレイヤー達が求む何かしらのスキルが、八艘飛びをクリアすれば手に入る。今まで一緒に見て理解して他のプレイヤーの代表に訪ねてきたプレイヤーに首肯する。

 

「サメに怖がらなければ自由だぞ? このことタラリアに報告してもいいし、掲示板に話しても構わないから」

 

「あ、あざっす!」

 

「よし、まず俺からだ!」

 

「おいズルいぞ。順番をジャンケンで決めようぜ」

 

「いいぜ」

 

「トッププレイヤーの動きを真似る以前にサメに対する怖さをどうにかしないとだな・・・・・」

 

「めっちゃくちゃリアルだったしな」

 

「白銀さんすら予想外だって言ってたほどだぞ。知らなきゃビビってた。いや、襲われること解っても俺ビビるかも・・・・・」

 

気持ちは分からなくはない。俺も足場だと思っていたら巨大なアンコウもどきに襲われた時は驚いたからなぁ・・・・・。

 

「ドラグはいらないのか?」

 

「足が遅いから無理だっての。なんだったら別のスキルが欲しいぜ」

 

「別のなぁ~・・・・・【悪食】とか?」

 

「お前みたいにできるか!!!」

 

強く否定されてしまった。悲しい・・・・・。

 

 

 

 

 

 

 

【スキル調査】カッコいいスキル、迫力あるスキルが欲しいを叫ぶスレ10【目指せスキルマスター】

 

 

 

456:スキール

 

ちくしょー! 【勇者】スキルが手に入らないぃー!!

 

 

457:天プラウダ

 

取得方法は公表されてるけど難易度が高いよなぁ~

 

 

458:シロップリン

 

ソロか2パーティ以下で倒せって無理ぃ・・・・・

 

 

459:ペンシル

 

どんな構成でいけば倒せるのかわからない。【勇者】スキルを取得するためにも初心に戻ってスキルを集めておくべきか・・・・・。

 

 

460:サガサイガ

 

スキルを集めたいなら白銀さんの店が一番豊富だよー。

 

 

461:勇者(漢女)

 

ソロでベヒモスを倒したあのイケメン、生きる伝説の人から直接レクチャーしてもらいたい

 

 

462:チョウセン

 

あのー【勇者】ってなんですか? 自分、第二陣のプレイヤーです

 

 

463:テンプカ

 

新規さんかいらっしゃい。【勇者】は死神・ハーデス=白銀さんというプレイヤーが持っているスキルのことだよ。詳細は不明だけどね。我々は色んなスキルを集めることに目的と趣味なプレイヤーで日夜、色んなスキルの発見に勤しんでいるのだ!

 

 

464:Oディーン

 

タラリアとその辺り連携しているから、他のプレイヤーよりは多分たくさんのスキルを抱えていると自負したい!

 

 

465:サガサイガ

 

ただし、取得方法が判ってても手に入らないこともある。【勇者】スキルが今まさにそれー

 

 

466:チョウセン

 

方法はなんです?

 

 

467:ペンシル

 

ここ旧大陸ではおそらく最強のレイドボスモンスターを倒すこと。三体もいるけどどれも勝てずに敗北を重ねている状態の俺達だ。

 

 

468:シロップリン

 

ベヒモス=攻撃するたびに威力が上がっているのが判明。

 

ジズ=元々空にいる相手とどう戦えと?

 

リヴァイアサン=陸で戦えるようになったもの、ベヒモスとジズより巨躯で潰されたり薙ぎ払われたり膨大な量の水の塊を放たれて直撃すれば死に戻りする。

 

 

469:スキール

 

このモンスター達を倒した猛者がいる。戦った経験上、ベヒモスなら何とか倒せそうな感じはするんだが倒せないプレイヤーが百人も超えているとか

 

 

470:チョウセン

 

無理ゲーでは?

 

 

471:天プラウダ

 

無理ゲーなゲームはゲームとして成り立たないから

 

 

472:ヨッシーツゥーネ

 

速報! 【蒼龍の聖剣】の主力プレイヤー達の協力要請によりスキルを判明した!

 

 

473:勇者(漢女)

 

マジで!? どんなスキル!?

 

 

474:Oディーン

 

詳しく!!

 

 

475:ヨッシーツゥーネ

 

た、大変だったぜ・・・・・? 海人族の島の海に並べて配置した筏を八回跳ぶ途中に邪魔してくる巨大なサメへの恐怖を乗り越えるのが・・・・・!!

 

 

476:ペンシル

 

サメ?

 

 

477:ヨッシーツゥーネ

 

詳しくは訊けなかったけど、白銀さんが前線組のペインとドレッドにスキルの取得方法を伝授する目的だったようで、そのために筏を八隻が必要らしく俺以外にもプレイヤー達を誘って目の前で見せてくれたんだ。本人から許可を貰って俺も挑戦したらこれが手に入った。

 

 

【八艘飛び】

 

AGI依存で数値が高ければ高い程に飛距離が長くなる。

 

最大八回まで空を蹴って飛ぶ。

 

 

478:テンプカ

 

おー! 一時的に空中移動ができるのか!? 使い心地はどうだった!

 

 

479:ヨッシーツゥーネ

 

 

どの戦闘系職業にも使えて空にいるモンスター相手にも戦えるようになったし、何より巨大なモンスターの体にも乗り移れるだろう便利スキルである事は間違いない

 

 

480:Oディーン

 

でかしたー!! 地味に空中移動系のスキルが欲しいと思っていたところだ!!

 

 

481:サガサイガ

 

これ、タラリアにでもない情報だよな。白銀さん、結構な情報を抱えて込んでいるとみた。

 

 

482:ペンシル

 

これは今すぐにでも取得するべきスキル!

 

 

483:スキール

 

これで憎きベヒモスを打倒してやる!

 

 

484:シロップリン

 

邪魔してくるサメが厄介だろうけど、ベヒモス達に比べたら小魚同様!

 

 

485:天プラウダ

 

 

のりこえてやらぁー!!

 

 

486:チョウセン

 

掲示板越しでも伝わる凄い熱気だぁ・・・・・。



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リヴァイアサン

スキルを取得したことで解散する感じだったが、せっかく海人族の島にいるということで観光がてら歩き回ってみた。海に囲まれた島で販売している物は海産物や漁に使う道具、こんな物まであるのかと水槽まであった。

 

「おいハーデス。水槽なんて買うのかよ?」

 

「食材用に保管、もしくは魚を一時的に入れてスクショするために」

 

「なるほど。陸だけが全てではないということか。俺も買ってみよう」

 

「スクショコンテストってバラバラで動くことになりそうだな」

 

その時はその時だ。うーん、一番大きいサイズだとアロワナぐらい大きい魚しか入らなさそう。生産職に頼めばもっと大きいの作ってもらえるか?

 

「クジラを観覧できる巨大水槽が欲しい」

 

「「とんでもないことを言ってくれる」」

 

「だが、それがハーデスだよ二人共」

 

妙に納得されているが俺に対する印象は何なのか敢えて聞かないぞ。視界の端に入り込む水晶の戦乙女の巨大な銅像。あの辺りはリヴァイアサンと激闘を繰り広げた場所だったな。

 

「ところで三人はくまなくこの島を探索した?」

 

「うんや、していないぞ。島を一周したが特に珍しいもんも変わったもんも見つからなかった」

 

「何か気になる事でもあるのか?」

 

「うーん、俺の勘が山の方に何かありそうって」

 

「ハーデスの勘か・・・隠しエリアやダンジョンを見つけた実績があるから確認してみるのもいいだろう」

 

乗り気なペインの発言で俺達は巨大な銅像の方へ向かって歩き始めた。辿り着くまでの道のりは迷うことなく進み、途中で隠れるように構えてる売店に寄ると『水々肉』という肉のアイテムがあって全部買ってみた矢先。

 

「・・・・・お客さん、そこまで買ってくれるあんたに折り入って頼みがある」

 

「うん? なんだ?」

 

「前まで別の島で過ごしていた時期があって、島の者達には内緒で世話していた家族と会えないでいた。今こうして戻れたんだが、もうわしは遠くに歩くこともままならなくなってしまった。悪いが代わりに見て来てくれんか」

 

店主からの頼み。クエストは発生せず。善意の行動で初めて発生するものなのか。

 

「よしいいぞ」

 

「すまないねぇ」

 

NPCの教えてもらった場所へ俺達は島の反対側の、海に面した断崖絶壁に口が空いている洞穴の存在を知った。

 

「こんなところに洞穴があったのか。中も相当広いな」

 

「採掘と採取ポイントがあんぞハーデス」

 

そうみたいだな。後でやるとして今はこっちだ。

 

「なんか、この丸みが帯びた空洞・・・リヴァイアサンの大きさと同じじゃないか?」

 

「自然に出来た物ではないことは確かだね。こう、内側から出てきたような感じがする」

 

足場があるとはいえ海水が足首まで入っている。この先は海水で溜まっているなら水中戦になるかも。用心して進む俺達は足を止める理由が出来てしまった。すり鉢状の洞窟の底でどくろ巻く見覚えのあるモンスターがいた。眼下から見下ろした俺達は軽く驚いた。

 

「マジで?」

 

「いや、サイズ的には小さいから・・・子供か?」

 

「どうするハーデス」

 

「家族を見て来てほしいって言われているだけだから、これで頼みは成立したと思うけれど」

 

あの店主が島の住民に内緒で世話していた理由も納得だわ。

 

「取り敢えず報せに戻ろう。進展があればまたここに戻ることになると思う」

 

「そうするか。んじゃ、戻ろうぜ」

 

ドラグが先に来た道に戻ろうとして歩いた時、背負っていた武器が壁とぶつかった。

 

キィーン・・・・・。

 

「「「「・・・・・」」」」

 

静かに洞窟中に響く音の音色。思わず俺達は息をひそめ静かにして不注意で音を鳴らしたドラグを見た。

 

「・・・・・あーすまねぇ」

 

「・・・・・それは何の謝罪だ?」

 

「・・・・・起こしちまったようだ」

 

こっちを、正確には俺達の背後を見て言うドラグ以外後ろへ振り返ると、体を伸ばしてこっちを見る体が蛇で頭がドラゴンのモンスター・・・・・リヴァイアサンが睨んでおりました。

 

『ギュォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!』

 

あーですよねー?

 

「ドラグ、後で性転換の処刑だかんな!!」

 

「ちょ、それは止めろマジで!!」

 

「今回は責任を取れ。このリヴァイアサン、HPがないから死に戻りする羽目になる」

 

「頑張ってくれドラグ」

 

ちっくしょうー!? と叫ぶドラグの声を聞きながら大盾を構えたところでリヴァイアサンが口を開けて【海大砲】を放ってきた。散開して2・2・でリヴァイアサンの周りを走る。あ、こっちを向いた。

 

「【挑発】って、うわっ!?」

 

体が小さい分、動きが早いリヴァイアサンジュニア。凶悪な牙で噛み付きながら突っ込んできた速度に間一髪避けた。というか、よく体を伸ばせるな? 水がないの・・・・・に?

 

ドドドドドドドッ!!!

 

リヴァイアサンジュニアがいた地底から大量の水が間欠泉のごとく出てきて、その中に体を沈めた状態のリヴァイアサンジュニアの姿が改めて知った。しかも俺達が入ってきた通路からも海水が流れ込んできて水が溜まり増え続けているじゃないか、

って、じゃないっ。ウォーターカッターみたいな圧力をかけた水の斬撃を体を

 

くねらせながら360度全方位に放ちやがってきた! 身を屈んで何とか回避する俺とドレッド、ペインとドラグは下に落ちてかわしたか。すり鉢状態だけど、滑らかじゃなくて少し段差がある壁だから蟻地獄のような脱出不可能なことにはならない。

 

「おーい! どうするこれから!?」

 

「どうしようもないだろこれー!! 脱出不可能な戦闘を強いられているんだからぁー!?」

 

あ、こいつ。蛇みたいに地面を這ってペイン達に襲っていきやがった!? HPがない相手と戦っても・・・・・くそ、ドレッドはもうペイン達のところに駆けつけてるがダメージは入らないだろう。事実、ペインとドラグがスキルを使っているがリヴァイアサンの子供だけあって防御力も高いか平然としている。まぁ、HPがないからだろうがな。なら、同じこれはどうだ。

 

「【皇蛇】!」

 

『ッ!!!』

 

グルンッ!! とペイン達から鎌首をこっちに振り向けてきたリヴァイアサン。

 

「うぉっ、すごい勢いでこっちに反応した? したよな?」

 

「リヴァイアサンのスキルに反応したかもな」

 

ドレッドがそう言う。スキルに反応するモンスターって。いや、そういや【身捧ぐ慈愛】関連のクエストをしていたら悪魔モンスターも女神の力を反応してたな。となると・・・・・?

 

「とう!」

 

崖下に跳び降りて着水する俺にだけリヴァイアサンが、先程の荒々しさと打って変わって大人しく顔を寄せて来る。こいつの世話をしていた店主の方法は多分・・・・・。水々肉を取り出してみた。

 

「こいつを食えるかー?」

 

脂だか水だか判らない肉から滴り落ちる液体を落としながら見せびらかす。お、リヴァイアサンが鼻をひくつかせて匂いを嗅いでいる。ゆっくりと至近距離まで顔を近づけてくるリヴァイアサンは少しだけ口を開けて凶悪な牙を覗かせる。えと、俺まで食おうとしないよな? なんて心配をしていたがどうやら杞憂だった。そのまま口を開けた状態で停止し何かを待つ姿勢のリヴァイアサン。その様子を見て胸中で安堵し、肉を口の中に放り込むと咀嚼して呑み込むリヴァイアサンがまた口を開けて、もっと食べさせろと目で訴えるかのように俺を見つめる。・・・・・よしっ。

 

「たくさんあるから食べろよー」

 

取り敢えず全部出して口の中に放り込む。ゆっくり与える暇なんてないからな。

って、一口で全部食べやがった。

 

『ギュオオオオオオオオオッ!!』

 

あれ、満足した? リヴァイアサンジュニアが通路に突っ込んで行ってしまった・・・・・いや、これはっ。

 

「お前らー! 今のうちだー! 【超加速】!」

 

「そうだな。ペイン、ドラグを引っ張りながらだ」

 

「わかった。耐えてくれドラグ」

 

「え? は? あ、待―――!」

 

先に脱出を図る俺の後にドラグを引っ張りながら【超加速】で通路を駆ける二人。後ろから悲鳴が聞こえてどんな顔をしてるのか気になるが、外へ脱出した俺達は洞穴の横道に出て安全な場所まで走った。

 

ダダダダダダタッ・・・・・!!

 

「ふぅ・・・・・この辺りでいいかな?」

 

「そうだな。ドラグがへばっているから」

 

「・・・お、お前ら・・・・・もっと・・・・・」

 

「生き残ることが優先だドラグ」

 

とにかく何とかなったかな? 大海原に飛び出たリヴァイアサンジュニアはこれからどうなるのかわからないが。目の前の海面からリヴァイアサンが出てきてこれからどうなるのかもわからないがな。

 

「えーと・・・・・あたっ」

 

綺麗な青い頭部を俺にぶつけるように、擦り付けてくる。甘えてるのかさておき、この大きさで甘えられるのは大変だ。リヴァイアサンジュニアを撫でてやると離れて、今度は舌で顔を舐められた。その後、リヴァイアサンジュニアは大海原へと目指して移動する姿を俺達は見送った。

 

「で、何か手に入ったのか?」

 

「今回はなにもないぞ」

 

「どっちもか? 珍しいこともあるんだな」

 

「そうだね。純粋な頼みを全うしたのかもしれない。さっきの店主の所に戻ってみよう」

 

ペインの提案に賛成する。来た道に戻る形で真っ直ぐ水々肉を売っていた店へと訪れる。

 

「店主、いる? いたな」

 

「・・・・・お、おおっ!?」

 

「え」

 

何故か【皇蛇】スキルで性転換したままの俺を見て店主の全身が打ち震えた。

 

「子供の頃以来です、お懐かしゅう・・・・よもや、また相見えることになるとは・・・・・海の守り神様っ」

 

混乱するこっちのことなど気付かない店主は滂沱の涙を流し目の前で跪く。

 

「あなた様との交わした約束を最後まで守れず申し訳がないっ。お預かりしていた大切な子供を最後まで守り切れず長い間島を離れてしまった」

 

「・・・・・」

 

あー・・・・・大体察したぞこれ。レヴィアタンに乗っ取られる直前かそれ以前か定かではないが、自分の子供を店主に預けて安全な場所で育てさせたのかもな。チラっとペイン達に目を配れば無言で頷かれた。そのまま話を合わせていけと。難易度が高い・・・・・アドリブでいくしかないだろこれ。それっぽく言って話を進めるしかない。

 

「・・・・・いえ、あなたはしっかり約束を果たしてくれました。私の子供は元気に大海原へと旅立った姿を確と見る事ができました。あなたのおかげです。私の代わりに育ててくれて感謝いたします」

 

「守り神様・・・・・!!」

 

「あなたの頑張りに報いることができない私をどうか許してほしい。私はもうこうする事しかできない身となりました」

 

店主を優しく胸の中に抱擁する。

 

「死した私はこの世におりません。しかし最期だけあなたに感謝の言葉を送れないことだけが心残りだった。今私はこの冒険者の体を一時的な依り代として顕現している状態です。ですのであなたに感謝の言葉を送らせてください。―――ありがとうございます。あの時の心優しい人の子。死しても私はあなたを見守り続けています。どうか幸せで・・・・・」

 

「守り神様・・・・・っ!!」

 

スキルを解除して本当にリヴァイアサンの魂が俺から離れた風に・・・・・うん? 店主の後ろに透明な女性が・・・・・。

 

(ありがとうございます。私の代わりに人の子に感謝を・・・・・我が子を独り立ちさせてくれて・・・・・)

 

リヴァイアサン・・・・・?

 

(これで心残りが無くなりました・・・・・あなたに大いなる水神のご加護があらんことを祈ります)

 

透明な女性が天へ昇って姿が見えなくなった。

 

 

『スキル【水神の加護】を取得しました。これにより【皇蛇】が【海竜神】に進化しました』

 

 

【水神の加護】

 

VIT異存の三つの水球が破壊されるまで水属性の全ての効果が二倍になる。

 

 

海竜神(リヴァイアサン)

 

 

一日に一度だけリヴァイアサンの力を意のままに扱うことが出来る。

MPを消費して水魔法を行使出来る。

 

 

・・・・・・おう、凄いのが手に入ってしまった感がある。また水々肉を大量に買い直すと店主と別れペイン達と少し離れたところで告げた。

 

「スキルが手に入った」

 

「よかったじゃないか。最後は思いもしないことになってたがな」

 

「幽霊が出てくるとは思わなかったぞ」

 

「あの女性はリヴァイアサンかな? ハーデスとそっくりだった」

 

そっくりかどうかはさておき、その通りだと教える。ペイン達にも見聞できていたようだな。

 

「ハーデス、どういったスキルなんだ?」

 

「うーんと・・・・・うん、それは秘密ってことで」

 

「そうか。まぁ、直ぐにわかるだろうからいいがな」

 

それはきっと正解だドラグ。その内に見せる機会がありそうだわ。

 

「んじゃ、寄り道しちゃったけど山の方へ行ってみるか」

 

「そういや、最初の目的はそれだったな。リヴァイアサンの存在で忘れてた」

 

ということでしゅっぱーつ!

 

再度山を目指し俺の勘であてもなく捜索した。上ったり下ったり、地面や木々など注意深く見て探しているとロッククライミングが出来そうな壁に辿り着いた。だがその壁には穴があった。

 

「気になる穴ではありませんか?」

 

「何とか入れそうな穴ではあるが・・・・・どうするよ?」

 

「中を覗いても真っ暗で何も見えやしねぇな」

 

「奥まで続いているのかもね。入ってみよう」

 

その意見には異論はなく、先ずは誰が最初に入るか決めるところだが。

 

「ドラグ、行ってこい」

 

「俺が最初かよ。【ⅤIT】が高いハーデスから行けよ」

 

「性別転換の罰を受けたいならそれでいいんだぞ?」

 

「あー・・・くそ! マジでやらされるぐらいならこっちのほうがまだマシだ!」

 

判断力と実行が速くて助かる。頭から穴の中に身体を突っ込んで潜るドラグを見守る俺達。身体の半分まで入ったところで動きが止まった。・・・・・うん?

 

「ドラグ? どうした?」

 

「・・・・・挟まった」

 

「挟まった? じゃあ、戻って来い」

 

「・・・・・動けね。引っ張ってくれねぇか」

 

頼んだ手前、何もせず突っ立っているだけなのは申し訳ないからドラグの両足を掴んで、思いっきり引っ張った―――。

 

「・・・あれ? んー!!!」

 

「ハーデス? 抜けないフリしてるのか?」

 

足腰に力を込めて踏ん張って引っ張っても抜ける気配が一切ない。何でだ? と思っている俺にドレットが訊いてきた。

 

「いや、本当に抜けない。ふざけているんじゃなくて本気で力を込めて引っ張っているんだが」

 

「俺も手伝うよ」

 

ペインも買って出てくれて、ドラグの片足を持って俺と同時に引っ張った。だけど、一緒に引っ張っても抜ける気配が微塵もない。

 

「・・・・・ハーデスの言う通り、ドラグが抜けないな」

 

「マジでか。じゃあこの岩壁を壊して抜いてみるか」

 

「ところがどっこい、破壊不能のオブジェクトなのでできません」

 

不壊のツルハシを用意して岩壁にぶつけても発掘が出来ない仕様になっている。

 

「じゃあ、装備を外せばいいんじゃね?」

 

「あ、その手があったか」

 

「・・・・・もうしてるがそれでも身体が挟まって抜けれねぇぞ」

 

と、ドラグからの返答に俺達は腕を組んで悩んだ。

 

「何かのイベントが起きる前兆かな」

 

「こんな間抜けな格好で起きるイベントって何だって話だがな」

 

「もう少し見守ってみよう。それでもダメなら運営に問い合わせしよう」

 

「マジかよおい・・・・・」

 

俺が催促したとはいえ、哀れな生贄となったドラグからげんなりとした表情を浮かべたのが脳裏に過った。

 

―――5分後。

 

運営に問い合わせたところ、バグではありませんのでプレイヤーのプレイに何らかの支障は生じません、と運営からの返答からしばらくした頃。

 

「お」

 

「どうした?」

 

「称号とスキルが手に入ったぞ」

 

5分も嵌った状態で称号とスキルが?

 

「そのスキルで出られるか? もしくは自力で?」

 

「ちょっと待て・・・自力は無理だな。―――【小型化】」

 

【小型化】? おー、ドラグの身体が子供サイズになって穴から出てきた。こっちに振り返ったドラグは・・・・・うん、身体が小さくて顔が大人のドラグだな。

 

「ドラグ、面白い姿になってんな」

 

「あ? 何が面白いのかよ」

 

「顔がそのまんまで身体が小さくなった感じになってるぞ。若返ったわけじゃなくてな」

 

マジかよ・・・・・と頭を垂らして落ち込むドラグ君。

 

「それで、称号は何て名前なんだ?」

 

「・・・・・【嵌る者】だよ」

 

「名前通りのまんまだな。【小型化】して何らかの影響とかある?」

 

「あー・・・・・【AGI】が+50に増えるが【STR】がその分逆に下がる。しかも解除しない限りはずっとこのままだ」

 

ドレッドが質問してドラグが教える光景を他所にペインが自ら穴に嵌りに行った。次はドレッドにして最後は俺だな。となるとプレイヤー用のスキル【大型化】か【巨大化】があるよなこれ? 【嵌る者】と【小型化】が並列して手に入るなら・・・・・身体を大きく求める振る舞いをすればいいのか? ということは・・・・・。

 

「おい、ハーデス。何をしているんだ?」

 

「スキルの検証!」

 

「・・・・・背伸びしてか?」

 

「単純な振る舞いや行動がスキル取得に繋がるかもしれないからな! ペインが【小型化】スキルを取るのと同時に試しても損はないだろう!」

 

背筋をピーンと伸ばして、両腕も上に伸ばしてそのままの姿勢を維持する俺。そんな俺に呆れの眼差しを向けるドレッドとドラグに気にせずペインが称号とスキルを取得するまで続けると。

 

『称号【大きさを望む者】を取得しました。スキル【大型化】を取得しました』

 

予想通り・・・・・!

 

 

【大型化】

 

使用する間はプレイヤーの身長が50cm伸びると共に【STR】が+50、【AGI】が-50になる。再使用時間は1日。

 

 

この説明を見て不敵な笑みを浮かべてしまうのは仕方がないだろう。

 

「ふっふっふ・・・・・手に入れたぞ、どっちも」

 

「「なん・・・だと・・・!?」」

 

「俺も称号とスキルとが手に入ったよ。ハーデス、なにが手に入ったのか教えてくれるか?」

 

「称号は【大きさを望む者】、スキルは【大型化】だ。効果はドラグの【小型化】の逆バージョンだよ。身長と【STR】が+50も増えるが【AGI】は-50も下がる。ってことで証明の為に―――【大型化】!」

 

取得したばかりのスキルをお披露目すると、身長が高くなった実感がした。

 

「なるほど。確かにハーデスの身長が伸びた。次は俺も試してみよう」

 

この瞬間、俺達は2つの称号と【大型化】と【小型化】のスキルを取得することになった。これ、イカル達にも教えておこっと。この島に来れるかわからないが、【大型化】はどこでもできるからすぐに取得できるからな。

 

 



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イベント開始 一から始める神獣使いの道

 

「ここまでくればいいかな」

 

ペイン達と別れ一人、南極大陸に来た。座標転移門にこのエリアの座標を登録したからこれで何時でも行けるな。さてさて、進化したスキルはどんな感じだかねぇ・・・・・。

 

「【海竜神(リヴァイアサン)】」

 

スキルを発動すると俺の視点がどんどん高くなり、しばらくすると自分の体がどうなったのか気が付いた。自分、巨大なリヴァイアサンの姿になっているではないですか。

 

「はっはっはー・・・・・うん、なるほどな」

 

納得したところで次だ。【毒竜】みたくスキルが三つも内包されている。一つはこれ、もう一つは【海竜人】。性転換する【皇蛇】とほぼ変わらないない。名前が変わった程度にすぎないな。最後は【雷雨】。半径20m以内の対象のAGIを30%減少し、ダメージを与えつつランダムで麻痺状態になるスキル。再使用時間は2分。

 

「せっかくこの姿になったんだから泳ぎつつ戦ってみるか」

 

地を這う大蛇、空を駆ける龍。海を遊泳する海竜。悪くない! スクショも映えるというもの!

 

ヴォォォォォオオオオオオオオオン!!

 

「あ、いつぞやの聖属性のクジラー!! 新しいスキルの最初の相手にとって不足はない!!」

 

空から現れるクジラとの戦いに臨み、俺も空を駆ける。勝てない相手だろうと今度は逃げずに戦ってやらぁー!!

 

 

 

 

 

「なぁ、あれってリヴァイアサンだよな。クジラに巻き付いているぞ」

 

「あ、これスクショのチャンスじゃね? とある有名なプレイヤーのスキルもしれないが、世にも珍しい空飛ぶ大型モンスター同士の戦いはこれが最初で最後かもしれないぞ」

 

「・・・撮りつつ生配信しなくちゃ」

 

「・・・掲示板の皆にも教えつつ自慢しなくちゃ」

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

イベント当日。

 

 

 

リアルの方でフレデリカが家に引っ越してきた以外は何事もないままこの日が来た。スクショをするプレイヤーとアイテムコンテストをするプレイヤーと別れてのイベントだ。【蒼龍の聖剣】メンバーは同じホームで運営からの告知を確認していた。

 

「スクショコンテストの方は追加されてるな。貢献度ってのがあるぞ」

 

「相手に撮られると情報ポイントが入るらしいね。雀の涙程度の1ポイントだけど」

 

「1ポイントの差で勝敗が決まることもある。バカにできないぞこの1ポイント」

 

「このポイントを集めたら色々交換できるみたいだよ」

 

「装備とアイテム、スキルスクロールに秘伝書とそれにモンスターの卵やメダルもあるね」

 

「ハーデス。今回ばかりは何億枚も集めることできないな」

 

「残念だけど代わりにポイントで集めてみる」

 

出来るのかよ。と言いたげな仲間達を無視して期間を確認する。

 

「ゲーム内で3日」

 

「戦闘が出来るみたいだから気を付けないとねー」

 

「プレイヤー相手だったらなおさらだ。襲ってくるとは思えないが第2陣のプレイヤー、イカル達が気を付けるように」

 

「はい!」

 

「ま、襲ってきたら倒すまでだよ」

 

「頑張るぞー!」

 

「「頑張ります!」」

 

「無茶しない程度にはね」

 

メンバー同士で話し合っているうちにイベントの時間となり、皆はホームを後にする。俺は日本家屋の庭や畑、オルト達を撮りまくった。まず最初は俺しか撮れないスクショを提供することだ。

 

各精霊達の敬礼のポーズをスクショしてみては提供すると、ランク3の判定をもらった。初見のものはランクが高いのか?

 

「じゃあゆぐゆぐ達可愛い樹精のスクショだったら?」

 

ランク5・・・・・。まだ極一部しかテイムしていない珍しい種族だからか? 今日はとにかく従魔のスクショに専念してみるか。

 

「あ、鳳凰。神獣の皆の写真を撮りたいから呼んでくれないか。虹のゼリーか虹の実をあげるからさ」

 

『わかったぞ資格ある者!』

 

『虹のゼリーは食べたい!』

 

巨大な火の鳥となって二手に別れて飛んでいった。食べ物で動く神獣って・・・・・。

 

数分後。

 

「よーしよし、これはいい。みんなありがとうな。約束のゼリーと虹の実を食べてくれ」

 

名付けて神獣祭! どの写真もランクは5だ。青竜と白虎の竜虎の対決の姿は中々の出来映え。こうなると三大天のベヒモス達が揃ったところも撮ってみたい。今ならジズの挑戦クエストで俺ともう一人が行けば叶いそうになるが。

 

『資格ある者よ。何やら思考の海に潜っている様だが相談ならば聞こう』

 

「いいのか? じゃあ、この大陸でここが絶景だと思う場所ってある? 写真を撮りたいんだ」

 

『絶景と思う場所か・・・・・どこだと思う』

 

『どこもかしこも似たようなところばかりだぜ?』

 

『白虎に同感だな。大地と水と森と砂に山しかないこの大陸だぞ』

 

『強いて言うならば大陸の向こう側、未知の大陸がいいのでは? 我々も踏み入れたことのない大陸です』

 

新大陸か。行けそうではあるがまだ行く気はしないから候補の一つに使用。

 

「そういえば、大昔に虹の実がたくさんあったらしいけどその場所は?」

 

『そこなら形骸化の状態で残っております。我等を祀っていた場所も保っております』

 

「お、古代の場所は興味ある。そこ案内できる?」

 

『古いモノにも興味があるのか資格ある者。ふむ、ならば途中で折れた巨大な蔓も興味あるか?』

 

「何それ知らない。巨大ってどのぐらいなわけ?」

 

『天を衝くほどの青竜の体が五倍ほど大きい蔓が成長していたが、落雷で折れてしまっているのだ』

 

そこまで長いとすれば・・・・・空に行けば何か見つかる? 興味深いことを訊いた。

 

「教えてくれてありがとう。まずは古代の場所に行ってみる」

 

『では送ってやろう。乗れ』

 

青竜が虹のゼリーを食べるために小さくしていた身体を元の大きさに戻し、空へと泳ぐように動く身体に失礼して乗せてもらった。地上にいるプレイヤー達が空を飛ぶ竜に驚きながらスクショしているな。

 

 

それもあっという間に俺を砂色の世界に入り砂漠エリアを飛ぶ青竜。砂漠の山を幾度も越え、大砂嵐に紛れたジズ並みの大きさの鳥モンスターに追い掛けられ、そして広大なオアシスと大森林が閉じ込められた場所を見つけると青竜は止まった。

 

『ここだ。前回よりも砂化が進んでいたか。この辺りは緑が溢れていたのだがな』

 

「そうだったのか。じゃあ、あのオアシスが名残か」

 

『そのとおりだ。そして、我等を祀っていた場所はあの中にある』

 

オアシスへ進む青竜によって、綺麗な大量の水のオアシスを囲む風に石段と祭壇のような巨大な台座を発見した。四つの台座のうちの三つは不思議なことに天へ伸びる光が柱のように立っていた。スクショっと。

 

「ここがそうなのか」

 

『今となってはただのオブジェとなってしまったが、三人の我々の力を借りた資格ある者達はここにきた』

 

四つの台座のうちまだ光の柱がない台座に下ろされた矢先に青いパネルが目の前に出てきた。

 

『現在のすべての職業のレベルとステータスをリセットすることで新たなエリアが解放されます。捧げますか?』

 

「・・・・・」

 

新しいエリアを解放? 三人の神獣使い達はここに来て捧げたのか? ・・・・・レベルよりスキルの方が大事だからな。また上げればいい。

 

「イエス」

 

次の瞬間。大盾使いレベルと数万のVITがユニーク装備と装飾アイテムを除いて1と0になった。数ヵ月分の努力と時間が一瞬にして消え去った気分を噛み締めていると、俺が立つ台座からも光の柱が立ち天へと昇っていった。

 

「これ、どうなる?」

 

『これから起きる事に身を任せろ』

 

その通りになるまで数秒後。目の前が突然真っ白に染まり、何も見えなくなったままワールドアナウンスが流れ出した。

 

『ニューワールド・オンラインをプレイされている全てのプレイヤーの皆様にお知らせ致します』

 

『プレイヤーが特殊エリアの一つを解放しました。そのエリアは徘徊するモンスターを倒すことで、様々なユニークのアイテムが手に入ります。なお、特殊エリアに進む条件はいずれかの四神の撃破とレベル100以上です。プレイヤーの皆さま引き続きニューワールド・オンラインをどうぞお楽しみください』

 

 

『聖教和国が「恐怖の大魔王」の弱体化を確認しました。この好機に聖教和国はこれより人間界の魔王を討滅することを世界に宣告されました。8月31日の午後22時までワールドクエスト、イベント〈恐怖の大魔王討伐〉が継続します』

 

『なお、【恐怖の大魔王】の称号を所有しているプレイヤーは自動的にイベント期間中は所属していたギルドから強制的に脱退されます』

 

『プレイヤーの勝利条件は「恐怖の大魔王」の撃破』

 

『※報酬は恐怖の大魔王の所持しているすべてが直接討伐に成功したプレイヤーに一部除き譲渡されます。またパーティで討伐した場合は分配されます』

 

『期間中に「恐怖の大魔王」の撃破が失敗した場合、冥界の魔王が全プレイヤーのレベルをリセットし聖教和国を滅ぼし第二の魔都になり、第二の魔都の存在により全てのモンスターが強化されます』

 

・・・・・なんですと?

 

なんかとんでもないアナウンスが聞こえた、と真っ白な世界にいながらそう思っていると三つの人の形をした輪郭が目の前で浮かび上がった。透明人間と言えばしっくりくるだろう。

 

《―――》

 

《―――?》

 

《―――》

 

「・・・・・?」

 

体を動かして何やら話しあっている? みたいな透明人間達の言っていることがまったくわからない。俺を囲んでじろじろと品定めする感じで顔を近づけてきたり・・・・・。

 

《―――》

 

《―――》

 

《―――》

 

あ、なんか同時に頷き合った三人がこっちに手を突き出して来た。攻撃とかじゃないよな?

 

『神獣使いの指輪』

 

『真テイマーの宝玉×1』

 

『スキル【同化】』

 

こっちか! 歴代の神獣使いから贈り物を貰っちゃったか! 先輩方ありがとうございまーす!! と心込めて感謝のお辞儀をすると透明人間達が俺に手を振りながら、頑張れよと風に親指を立てながら、腕を組んで頷きながら完全に白い世界に溶け込むようにして消失した。

 

『資格ある者よ。聞こえているか。資格ある者よ』

 

「―――お?」

 

いつの間にか現実世界、呼び掛けてくれた青竜が目の前にいた。

 

『しばらく見守っていたが、意識が無かったので呼び掛けた。何があった?』

 

「先代の神獣使い達と会った。人型の輪郭しか見れない透明人間だったけどな」

 

『そうだったか。彼等はここに四人目の神獣使いの者が来ることを待っていたのか。だが、今は話し合っている場合ではないぞ』

 

それはどうして・・・・・。ああ、わかった。砂漠の世界だったのにステージが様変わりしていて、夜天の空の下にいる。砂漠はどこにもなく万華鏡の中を覗き込んだような空間と草木がない荒れ果てた大地っぽいところにいる。そして何よりは・・・・・。

 

『カロロロロロ!!』

 

『グォォォ・・・・・』

 

『ギャアギャギャギャ!』

 

『ブウウウウウウ』

 

なんか、ベヒモス達より強いぞと風なモンスター達が俺達を囲んでいらっしゃるではありませんか。あ、そこにいるのはフェンリル・・・の原初の方ですか?

 

『こ奴らは・・・・・一匹でも人間界に放り込めばはすぐに滅ぶ力を秘めているな。私の姿を見ても臆さないとは、相当であるぞ』

 

「めっちゃダメじゃん! なんでそんなモンスターの巣窟に俺達がいるの!?」

 

『どうやらあの場所から転移されたらしい。神獣使い達はあの祭壇を介してここに来ていたようだな。我々四神ですら知らぬ領域・・・・・新大陸とは異なる場所に』

 

新大陸じゃない場所!? って・・・何か横に石碑がある。これは・・・・・?

 

 

―――世界は広い! モンスターを愛する同士よ! もっと視野を広げ!

 

―――全てのモンスターをテイムする者よ! ここからが真のテイマーのスタート地点だ!

 

―――テイマーを極めんし者よ! まだ見ぬモンスターを求め、渇望せよ!

 

 

「・・・・・」

 

先代の神獣使いの遺した文字だろう。ここがのどこなのか後で調べるとして今はこの場を乗り切る必要がある。

 

「旧大陸に戻る事って出来る?」

 

『後ろを見るがいい。転移魔方陣が未だ光を放っている。あの中に飛び込めば戻れるかもしれないが・・・・・お前は尻尾を巻いて帰るのが望みか』

 

「挑発をどうもありがとう。弱体化したとはいえ、戦えないわけではない。一匹ぐらいはテイムしてやる!」

 

『ふっ、流石は私の本気を受けてなお打倒した資格ある者。その心意気に称賛して一時の間だけ私の全ての力を貸そう』

 

全身が青く発光して光の奔流と化した青竜が俺の全身を包み、新たな姿と力を与えてくれた。

 

『ここは人間界ではない未知の世界の領域。旧大陸を守護する四神としての役割や義務を全うしなくても問題ないならば、私は個の存在として思う存分に暴れさせてもらおう』

 

「だったら楽しまなきゃ損ってもんだな」

 

さーて、どいつをテイムしてやろうかなー?

 

 

・・・・・。・・・・・。・・・・・。

 

・・・・・。・・・・・。

 

・・・・・。

 

 

青竜と力を合わせて俺が見初めたモンスターを九死に一生を得た気分で『真テイマーの宝玉』を使ってテイムに成功できた。このアイテム、どんなモンスターにも使用すれば必ずテイムできる物だったからステータスが初期化する前俺よりも強いモンスターを捕まえることができた。お披露目が楽しみだなーと思いつつ先代の神獣使い達から得たアイテムとスキルの詳細を確認だ!

 

 

『神獣使いの指輪』

 

神獣使い専用の指輪。装着の間は経験値が得られない代わりに所有者はモンスターのみダメージを受けつけないかつ、以下のスキルが包容されている。

 

【破輪】MPを消費してレベル以下のモンスターを破壊する

 

【再輪】MPを消費して倒したモンスターのドロップアイテムを介して再生する

 

 

スキル【同化】

 

テイムした従魔と同化することが可能になる。同化の状態は従魔の全ての力が引き継ぐ。

 

 

「・・・・・・」

 

マジですか・・・・・? これ・・・・・凄くイイじゃん!! でも喜んでばかりはいられない。はぁ・・・・・どこかでやり過ごさないといけなくなるのかよ。

 

 

死神・ハーデス

 

LV1

 

HP 40/40〈+1000〉

MP 12/12〈+400〉

 

【STR 0〈+150〉】

【VIT 0〈+425〉】 

【AGI 0〈+150〉】

【DEX 0〈+150〉】

【INT 0〈+250〉】

 

 

装備

 

頭 【天外突破】

 

体 【黒陽ノ鎧・Ⅹ:覇獣(ベヒモス)/滲み出る混沌】

 

右手 【日食・Ⅹ:毒竜(ヒドラ)

 

左手【暁の境界・Ⅹ:ブラックホール】

 

足 【黒陽ノ鎧・Ⅹ:覇獣(ベヒモス)/滲み出る混沌】

 

靴 【黒陽ノ鎧・Ⅹ:覇獣(ベヒモス)/滲み出る混沌】

 

装飾品 【真祖の指輪】【三天破】【白妖精(ハイエルフ)の指輪】

 

 

称号:万に通じる者 不殺の冒険者 出遅れた者 白銀の先駆者 毒竜の迷宮踏破 大樹の精霊の加護 幸運の者 ユニークモンスターマニア 三代目機械神 聖大樹の精霊の加護 最速の称号コレクター 勇者 魔王の戦友 絆の勇士 村の救援者 幻獣種に認められし者 血塗れた残虐の勇者 エルフの良き隣人 世界樹の守護者 世界樹の加護 英雄色を好む 最速の称号コレクターⅡ ドワーフの心の友 神獣に認められし者 地獄と縁る者 マスコットの支援者 妖怪マスコットの保護者 宵越しの金は持たない ドワーフの協力者 神話に触れし者 ミリオンダラー 最速の称号コレクターⅢ ミリオネア トリオネア ガジリオネア 空と海と大地の救済者 億万長者 カジノの神様 富豪 大富豪 富裕層 資産家 大資産家 最速の称号コレクターⅣ 土精霊の加護 砂漠の義勇兵 恐怖の大魔王 南極大陸の観察者 ダイビングマスター 最速の称号コレクターⅤ 大きさを望む者 嵌る者

 

スキル

 

【絶対防御】【手加減】【逃げ足】【体捌き】【瞑想】【挑発】【極悪非道】【シールドアタック】【大物喰らい(ジャイアントキリング)】【咆哮】【毒竜喰らい(ヒドライーター)】【爆弾喰らい(ボムイーター)】【植物知識】【大盾の心得Ⅹ】【悪食】【受け流し】【爆裂魔法Ⅹ】【エクスプロージョン】【体術】【テイム】【採取】【採取速度強化大】【使役Ⅹ】【従魔術Ⅹ】【八艘飛び】【伐採】【伐採速度強化小】【機械神】【機械創造神】【宝石発見】【刻印・風】【水中探査】【侵略者】【破壊王】【背水の陣】【不屈の守護者】【鉱物知識】【古代魚喰らい(シーラカンスイーター)】【溶岩喰らい(ラヴァイーター)】【溶岩魔人(ラヴァゴーレム)】【カバームーブⅠ】【カバー】【生命簒奪】【アルマゲドンⅢ】【海王】【勇者】【大嵐Ⅰ】【大竜巻】【稲妻】【飛翔】【生命の樹】【金炎の衣】【金晶戟蠍(ゴール・D・スコーピオン)Ⅳ】【黒晶守護者(ダーク・ゴーレム)Ⅳ】【緋水晶蛇(ヨルムンガンド)Ⅳ】【雌雄の玄武甲】【反骨精神】【身捧ぐ慈愛】【精気搾取】【耐暑】【渦流】【色彩化粧】【耐寒】【氷結耐性小】【反逆心】【念力】【フォートレス】【不壊の盾】【決戦仕様】【植物学】【蟲毒の呪法】【日刀】【料理50】【調理50】【調合50】【復讐者】【反転再誕】【天王の玉座】【連結】【救済の残光】【太陽神】【月下美人】【相乗効果】【青竜の逆鱗】【神風】【堕天の王】【魔王の権威】【全方目】【地中探知】【諸刃の剣】【ファイアボルト】【同調リンク】【水神の加護】【海竜神】【大型化】【小型化】【同化】



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百合と従魔

 

さぁ~て・・・・・この【同化】で遊ぶか。最初は誰にしてみようか迷うところ。

 

「う~ん・・・やっぱりここは、って誰だ?」

 

フレンドコールを受けて通信状態にしたら珍しくイカルだった。

 

「イカル。どうした?」

 

『ハーデスさん、オルトくんをエスクと一緒に撮らせていただけませんか?』

 

「スクショコンテスト向けにか?」

 

『はいそうです!』

 

ふむ、ノーム同士のスクショは今頃撮られているだろうがそれはそれだろう。本人は純粋に撮りたがっているだけだろうしな。

 

「いいぞ、遠慮なく撮ってくれ」

 

『ありがとうございます!』

 

「失礼しまーす!!」

 

「ってホームの前にいたのかい!!」

 

聞えて来る少女の声に思わず突っ込んでしまった。少し時間の猶予が生まれるかと思ったら、それすら待ち遠しい本人の行動力に脱帽した。少ししてイカル&エスクとキツネリスのキキが畑に入って来た。

 

「おーいオルト」

 

「ムー?」

 

俺の呼び声に応じるオルト。エスクと挨拶をする瞬間をイカルはすでに撮り始めている。許可はもうしてあるから好きなだけ撮るがいい。その間に俺は・・・・・。

 

「クママ、ちょっと来てくれるかー」

 

「クマー?」

 

黄色い大きな熊が傍に寄って来てくれた。

 

「ちょっと試したいことがあるから協力してくれ」

 

「クマ」

 

了承してくれたクママが頷いたので早速【同化】のスキルを使ってみようかな。えーと・・・指定する従魔と触れ合った状態でか。

 

「いくぞー【同化】」

 

クママの手と重ねた状態でスキル発動。おお? この感じは【覇獣】と同じ感覚だ。ふむ・・・身体はクママそのもので、プレイヤーの体格に合わせるのか。

 

「え・・・ハーデスさん?」

 

「イカル、どうだ?」

 

目を丸くして唖然としているイカル。彼女の視点からして俺はどんな感じでクママになったのか訊こうじゃないか。

 

「えええ!? ハーデスさん? 声が違いますしどうして従魔になっているんですか!?」

 

「あ、本当だ。自分の声じゃなくなってる。クママの声音で喋るのか。他の従魔達もそうならこれは面白いスキルだ」

 

「スキルなんですか!?」

 

「【同化】って名前のスキルだ。効果はテイムした自分の従魔と合体する形でこんな風に同化するみたいなんだ。それに同化した従魔のスキルも使える」

 

「そうなんですか!?」

 

そうなんですよ驚きっぱなしのイカル君。これ、本当に面白いスキルだわ。テイマーとサモナー専用のスキルだって言っても過言じゃないだろう。もしかするとそれらの職業をランクアップした先で覚えられるのかな?

 

「恐怖の大魔王クママの爆誕・・・・・いや、ないわー」

 

「じゃ、じゃあオルト君も出来るんですよね?」

 

「できる筈だ。どうなるかやってみようか。―――【解除】」

 

無事にクママと分離することができた。クママも何ともなさそうにしているし支障はないと判断。次にオルトと【同化】を試みたら・・・・・。

 

「ムー・・・・・体が大きいオルトになるのか」

 

「おおおー!!!」

 

イカルさん、興奮していらっしゃる。可愛いオルトが成長したらイケメンのオルトになっちゃったよ。

 

「はっ!? ハーデスさん、エスクの後ろに立って抱えてくれますか!」

 

「なるほど。エスクのお兄さんみたいに撮るのか。そういうことなら他のノーム達も呼んで撮ってみるか?」

 

「お願いします!!」

 

ということでユニークノームのみの撮影会が始まった撮影者はもちろんイカル。凄く興奮しながら撮る彼女を見ながらふと思い至った。ノーム好きのプレイヤーもこの場にいたら人間性を失うのではないかと。

 

「あい!」

 

「―――――」

 

あ、マモリ・・・・・まて、まさか同意していないのに生配信しているのか!? ・・・・・いや、今は別にいいか。困ることないし好きにさせよう。

 

数分後―――。

 

「ありがとうございましたハーデスさん!」

 

「どういたしまして。もう満足した?」

 

「はい! ログアウトしたら宝物に保存します!」

 

あんなポーズやこんなポーズをさせられつつ撮られた数は50も超えた気がする。満足したイカルは掻いてもいない汗を拭うように腕を動かす。

 

「そうか。それじゃ今度は俺に付き合ってくれるか?」

 

「勿論いいですよ。何をするんですか?」

 

「ふっふっふ。実はな【同調リンク】というスキルが手に入ったんだ。効果は互いのステータスの共有だ。ほら、第二陣のプレイヤーに対するメダル争奪戦のイベントがあっただろ? あの時と同じ俺のスキルがイカルにも使えるようになるんだ」

 

「本当ですか! あっ、私もエスクの姿になれる【同化】のスキルが使える!?」

 

「察しがいいなイカル。その通りだ。ということで【同調リンク】対象はイカルにしてっと。イカル、確認してくれ」

 

「はい! えっと・・・あ、ハーデスさんのスキルがまた私のステータスに入ってます!」

 

よし、ゲーム内で一日に一回しか使えないからな。その上、俺のスキル構成は極振りのプレイヤーしか発揮できないのもある。また俺のスキルが他人にも使える日の機会が来るとは思いもしなかったな。

 

「それじゃ、私もエスクと同化してみますね? ―――【同化】」

 

「・・・・・お、へぇ? これは珍しいな」

 

エスクは生物的には男だ。女のイカルが男のエスクとどうなるか気になったが・・・・・。

 

「ハーデスさん、どうですか?」

 

「イカルお前、女版のノームになってるぞ」

 

「へ?」

 

自分の姿が見れないから解からないだろう。日本家屋の部屋にある鏡まで連れて自分の姿を確認してもらったところ。

 

「あれ、エスクの顏じゃない!」

 

「イカルの顏でもないがな。なるほど、最初からこういう仕様なのならかなり珍しいぞ今のイカルの姿」

 

逆に俺が女型のゆぐゆぐ達と同化したら・・・・・いや、変わらないかもしれないなこれ。

 

「よし、その状態でオルト達と撮らせてくれ」

 

「わかりました! あの、その後お姉ちゃんになってくれますか?」

 

「うん? 別にいいぞ」

 

久々だから構わないと軽く了承した時、部屋を通り過ぎたラプラスが戻って来ては、今の俺達を興味深げに眼差しを送る。

 

「ほう・・・異邦人はモンスターと融合・・・いや、同化することも出来るのか。生まれて初めて見るケースだ」

 

「そうなのか。因みに錬金術でモンスターと同化する薬ができそう?」

 

「考えたことがない案件だ。試したことはないから何とも言えないな。だが、最近暇だったから試してみよう。モンスターと同化・・・・・ふむ、お互いを強く結べる素材があれば開発できそうだ」

 

「互いを結ぶ素材?」

 

「そうだ。それを証明できる素材があれば教えてくれ」

 

そう言うラプラスと話し合っただけなのにクエストが発生した。プレイヤーとモンスターが互いを結ぶ素材・・・・・あーなるほど。

 

「ラプラス。多分これが使えると思う」

 

従魔の心。オルト、ヒムカ、アイネ、ルフレ以外の同ユニークモンスター達から得た物だ。これだろうきっと。従魔と強く結ばれている証の素材ってのは。

 

「なんだ、もう持っていたのか。ではそれを預からせてくれ。必ず作り上げてみせよう」

 

頼んだーとラプラスに期待する。それから俺はイカルとオルトのツーショットを撮り、最後はノーム全員で撮った。

 

「それじゃ久々にやろうか。【海竜人】」

 

「あれ? 何時ものお姉ちゃんと違いますね」

 

「いつものスキルとは別になったんだ。うーん、初めて見たけど少し違ってる」

 

異形の要素が無くなって完全に人型。代わりに透明な水色の羽衣と局部以外は見えない透明のドレス衣装に変わっている。イカルも【海竜人】で別の姿に変身した。

 

「イカルとお揃いの姿でいるのは久しぶりね」

 

「はい! お姉ちゃん今日も綺麗です!」

 

「ふふ、ありがとうイカル。ほら、膝枕してあげるわ」

 

「わーい!」

 

膝を折って正座する俺の脚にイカルが頭を乗せる。マモリは俺達の様子を撮影し続けているが、どんな反応をしているのか視聴者は。

 

「えへへ~お姉ちゃん・・・・・」

 

(う~ん、レベル上げは次の機会にするかな)

 

 

 

 

【百合】尊い光景を見守るスレPART1【花園】

 

 

・急遽発覚した百合の花園の感想を語るスレです

 

・花園の蝶々は静かに見守りましょう

 

・相手を貶す行為は禁止です

 

 

 

 

 

21:私は蝶々です

 

何時までも見れます。この素晴らしき美しい光景はスクショして永久保存をするべき案件。

 

 

22:私は蝶々です

 

こんな癒しを待っていたんだ俺は!! ああ、荒れていた心が癒される~!!

 

 

23:私は蝶々です

 

ゲームの世界だろうとこんな堂々と動画にしているが、本人達は気付いているのか?

 

 

24:私は蝶々です

 

白銀さんは気付いているっぽい。でも、放置している感じかな

 

 

25:私は蝶々です

 

もう一人の方は完全に気付いていない。お姉ちゃんに甘えることに夢中だから。だが、それがいい

 

 

26:私は蝶々です

 

どっちも美女美少女でスケスケ衣装を着ている上にこの百合の展開・・・・・天国では?

 

 

27:私は蝶々です

 

いいなぁ~。私もあんな妹が欲しかった~

 

 

28:私は蝶々です

 

凄い幸せそうな顔をしちゃって・・・・・私もお姉ちゃんと呼ばれたい!

 

 

29:私は蝶々です

 

片方、中身は男であることを忘れずに

 

 

30:私は蝶々です

 

それを言ったら百合の花園が崩壊するだろうがぁああああああああ!?

 

 

31:私は蝶々です

 

≫29:お前誰も敢えて言わなかったことを言うなんて、さては花園に住む害虫だな?

 

 

32:私は蝶々です

 

≫29:害虫は駆除するべきです! Gだったら命ぁ潰すよ!

 

 

33:私は蝶々です

 

≫29:俺達の癒しの気分を台無しにしないでくれますー?

 

 

34:私は蝶々です

 

まぁ、気持ちは分かるがそんなことよりこっちを見ろ。百合が増えるようだ

 

 

35:私は蝶々です

 

おおっ、ゆぐゆぐちゃん達が集まって来て・・・あれ、どこに行くんだ?

 

 

36:私は蝶々です

 

あ、日本家屋から別のマイホームに移ったのか。ここは・・・・・旅館?

 

 

37:私は蝶々です

 

え、待って。旅館と言えば温泉だよね? ま、ままままままさか・・・・・?

 

 

38:私は蝶々です

 

い、いやいやそんなことあるは―――

 

 

39:私は蝶々です

 

ほわぁ~~~!?

 

 

40:私は蝶々です

 

うぇえええええええええええええええっ!?

 

 

41:私は蝶々です

 

ぼ、ぼいん・・・・ばるん・・・・・ぷるん・・・・・

 

 

42:私は蝶々です

 

ゆ、百合の赤裸々が目の前に・・・・・

 

 

43:私は蝶々です

 

タオルを巻いているとはいえ、隠されているとはいえ・・・この光景を動画に撮っていいのかぁ!?

 

 

44:私は蝶々です

 

あ、ありがとうございまぁーす!!!!!

 

 

45:私は蝶々です

 

そ、そうか!!? 俺も女に性転換すれば百合になれるんだな!!

 

 

46:私は蝶々です

 

≫45:お前・・・・・天才か!!

 

 

47:私は蝶々です

 

≫45:いや、御見それしました! ―――で、その手段があるといいな?

 

 

48:私は蝶々です

 

えっと、私のフレが【蒼龍の聖剣】にいてですね? 性転換が可能なアイテムを手に入れたと自慢された経験があります

 

 

49:私は蝶々です

 

【蒼龍の聖剣】の男プレイヤーほぼ全員が(漢女の)百合になれるだと!?

 

 

50:私は蝶々です

 

【蒼龍の聖剣】は実は(漢女の)百合の花園のギルドだった!?

 

 

51:私は蝶々です

 

やっぱり羨ましィー!!! (漢女の百合の花園は焼却処分すべきか!?)

 

 

52:私は蝶々です

 

おいこら!? 俺は【蒼龍の聖剣】のメンバーだがその認識はやめろっ!! 白銀さんが困るだろう!?

 

 

53:私は蝶々です

 

本当にメンバーの人かどうか私達はどっちでもいいんですけど、まぁ、確かにそう・・・あ

 

 

54:私は蝶々です

 

え・・・・・バスタオルって、取れる・・・・・?

 

 

55:私は蝶々です

 

み、みえ・・・・・みえ・・・・・!?

 

 

56:私は蝶々です

 

な―――――い!!! マモリたん! カメラを動かさないで! ってこっちも凄い光景ぃー!!

 

 

57:私は蝶々です

 

クリスちゃんの可愛いお顔とふ、深い谷間がですね・・・・・?

 

 

58:私は蝶々です

 

やばい・・・・・鼻血が出そう・・・・・

 

 

59:私は蝶々です

 

白銀さん、お色気と入浴シーンを見せてくれてありがとうございます・・・・・

 

 

60:私は蝶々です

 

今回も動画ランキングは座敷童の一位で確実だな・・・・・あ、動画が終わった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【テイマー】ここはNWOのテイマーたちが集うスレです【集まれPART35】

 

 

 

新たなテイムモンスの情報から、自分のモンス自慢まで、みんな集まれ!

 

 

 

・他のテイマーさんの子たちを貶める様な発言は禁止です。

 

・スクショ歓迎。

 

・でも連続投下は控えめにね。

 

・常識をもって書き込みましょう

 

 

 

59:オイレンシュピーゲル

 

 

なん・・・・だと!? おい皆、白銀さんが爆弾映像を投稿した!

 

 

60:アメリア

 

え、なになに?

 

 

61:イワン

 

いつものサスシロなのは理解した。今度は何だ?

 

 

62:エリンギ

 

また新しいモンスターをテイムしたのならばそこまで驚くことじゃないけど

 

 

63:ウルスラ

 

魔獣に長靴をはいた猫から短期間のサスシロなのにまた?

 

 

64:赤星ニャー

 

気になりますにゃー。オイレン、詳しく言ってくれ。

 

 

65:オイレンシュピーゲル

 

え、えっとだな! ありのままを説明するぜ!? 白銀さん、クママとノームと別々に合体したんだ!

 

 

66:エリンギ

 

合体? 従魔と合体だと? どんな風にだ?

 

 

67:オイレンシュピーゲル

 

ベースはどうやら従魔の方で体格はプレイヤーみたいだ。あー、皆が判り易く説明すると白銀さんがベヒモスになれるスキルを使った感じで従魔の姿になったんだよ!

 

 

68:アメリア

 

それってつまり、白銀さん自身がクママちゃんに変身できるスキルを手に入ったってこと!?

 

 

69:赤星ニャー

 

待って? それって自分の従魔と合体した状態で戦闘できるって感じ?

 

 

70:イワン

 

なんだと? だとしたらテイマー自身もかなり強化されるぞそれ!

 

 

71:エリンギ

 

テイマー界に新たな革命を起こすスキルに違いない!

 

 

72:オイレンシュピーゲル

 

だ、だよな? 美少女型のモンスターたちと温泉入っているけど、白銀さんどこでそんなスキルを手に入れたのか非常に気になる!

 

 

73:アメリア

 

私もその動画を今見ました。本当に白銀さんがクママちゃんと合体していて、身長が高くなってた!!

 

 

74:ウルスラ

 

【同化】ってスキルみたいだけど、手に入るなら私も欲しい!

 

 

75:赤星ニャー

 

モンスター関係の中で今日ほど驚いたことはないにゃー。

 

 

76:オイレンシュピーゲル

 

あと地味にスルーしたけど。白銀さん【同調リンク】ってスキルを使ってて、自分のスキルをイカルちゃんにも使えるようにしてた。これあれだよな。第二陣のプレイヤーに対するイベントの時と同じだ

 

 

77:イワン

 

第一陣のプレイヤーと同じスキルが使うことができるあの設定が?

 

 

78:アメリア

 

白銀さん、もう色々と凄すぎるー!!

 



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指輪を求めて

 

 

イカルと遊んでいたらゲーム内で1日が過ぎてしまった。残り2日間だから従魔に関するスクショを撮り続けた。鍛冶の作業をしているサラマンダー、魚料理を美味しそうに食べるウンディーネ、稲を刈っているノーム、手を掴んで輪になって飛んでいるシーフを初め、俺の従魔達の様子を中心にスクショしていたところにラプラスの一報が。

 

「完成したぞ」

 

「マジ? どんなの?」

 

「これだ。お前が望んだ物かはわからないが」

 

従魔の心を渡してラプラスの手で生まれ変わったアイテムが俺の手の中に収まった。・・・・・宝石が嵌まってる指輪になって。

 

 

【一蓮托生】

 

従魔の心を産み出したモンスターと合体することが可能になる。

 

 

とフレーバーテキストに書かれていた。

 

 

「どうだろうか」

 

「試してみないことには何とも言えない。すぐに試してみるがこれ、俺みたいな異邦人の冒険者でも作れる? というか指輪にしたあたり、装飾品も作れるんだな」

 

「悠久の時間を生きる私は器用貧乏を極めたと言っても過言ではない。おまえでも作れるかどうかの答えは、可能だろう。これは神獣使いのお前なら知っている従魔の心と宝石を錬金術で合成すれば出来上がる従魔の宝珠を―――」

 

ラプラスから指輪の作製の説明を受け、可能だという理由に納得した。で、それをだな―――。

 

「ヘ~ル~メ~ス~」

 

「・・・・・」

 

「情報を売りに来た」

 

彼女は俺の顔を見てすぐ両肘をテーブルについて、手を顔の前で組むポーズをしだした。

 

「・・・・・どんなの」

 

「俺が抱えているNPCの協力で発見した新アイテム」

 

「アイテム?」

 

あれ? と深刻そうな顔から不思議そうに首を傾げた。それに釣られて俺も一拍遅れて首を傾げる。

 

「思っていた情報と違ったか?」

 

「いつも核爆発並みの情報を持ち込んでくる自覚ある?」

 

「そこは綺麗な花火にしようぜ。誰でも見て喜んでくれる」

 

「喜ぶのは間違いないけれど、毎度それを扱わされる方の身にもなって欲しいわ」

 

「心臓に悪いって? じゃあ、これからは動画配信して見てくれるプレイヤーに教えるようにして情報を売らないようにするわ。お邪魔しました」

 

踵を返した俺の肩に手が置かれた。当然その手はヘルメスのもので、何が何でも絶対にこの手は離さないという意志が力強い握力で物語っている。

 

「誰も買わないって言っていないわ。というか、情報屋としてのお株が奪われかねないから止めてお願い」

 

「情報屋のお株を奪える気はしないんだが、そこまで言うなら売るよ」

 

インベントリからラプラスが作った指輪、『従魔の絆環』を取り出してヘルメスに見せた。

 

「この指輪が? ・・・・・え、何このスキル。あなた以外でも出来ちゃうの!?」

 

「やっぱりヘルメスもあの動画を見てたか」

 

「勿論よ。情報屋として見ない方がおかしいわ。で、聞くけれど・・・これ複数入手できる?」

 

肝心で本題の質問をして答えを求むヘルメス。

 

「できるぞ」

 

「それはどうやって?」

 

「凄く単純だ。従魔の宝珠を素材に使うんだよ」

 

ラプラスから得た情報をそのままヘルメスに教える。作製は可能だが。指輪に出来上がるまでの工程は当然苦労することも。

 

「それは・・・・・苦労が滲み出る作業ね。指輪にするにも細工師の上位職、宝石を扱う宝石匠のプレイヤーに頼まないといけないし、私が知る限り宝石匠のプレイヤーはいないわ」

 

「細工師はいるんだな?」

 

「テイマー程はいないけれどね」

 

うちのギルドにもいないプレイヤーでもある。・・・・・どれ、その手の掲示板はあるか探してみよう。

 

 

 

 

 

【不遇職】アクセサリー系生産職総合PART3【ジョブチェンしたい】

 

 

 

16:ジュエル

 

NWOを遊び始めてもう半年も経つのに進展も発展もままならないなー

 

 

17:宝石姫

 

全然宝石が見つからないー!!! 金属細工ばっかりの作業はもう飽きたぁー!!!

 

 

18:七宝神

 

色んな宝石を集めて手元で眺めたいがために細工師を選んだのに、肝心の宝石が・・・・・

 

 

19:フォーイッシー

 

発見は極めて稀、売買を求めているのに一向に宝石を売ってくれるプレイヤーは皆無、細工師に関するクエストをこなして手に入る宝石もクエストとかで直ぐに消化してしまう

 

 

20:カーバンクラー

 

ほんと生産職の中でも一番難しい職業だろォ・・・・・

 

 

21:ジュエリープリンセス

 

水晶のエリアなら・・・・・と思って向かった先が蠍と蛇とゴーレムの三つ巴地獄だったし

 

 

22:宝卿

 

無慈悲すぎる制裁が待っていた。どうやってあんなとこ攻略すればいいんだ

 

 

23:國生

 

完全攻略している人は唯一一人のままの件について

 

 

24:サイクリュー

 

攻撃力を捨ててどんな攻撃をも耐えうる防御力極振りなら宝石を見つけやすい・・・・・?

 

 

25:テイオー

 

生産職の理想プレイがカッチカチなプレイヤースタイル?

 

 

26:ゴルシオン

 

例のあの人以外の重戦士(大盾使い)のプレイヤーはボーリングのピン扱いされて死に戻ったんだが?

 

 

27:宝生覇王

 

いっそ、あの人に頼んで宝石を集めてもらう方が早い気がして来た

 

 

28:宝石姫

 

引き受けてくれるの?

 

 

29:フォーイッシー

 

そもあの人のギルドは殆ど生産職プレイヤーが多い。主にファーマーを中心に集めたっぽいし

 

 

30:宝卿

 

細工師も生産職なんだが・・・・・

 

 

31:ジュエル

 

ファーマーの人達と関りを持ってないから声を掛けられなかった時点で不運にして不遇よ

 

 

32:ジュエリープリンセス

 

その繋がりで!?

 

 

33:七宝神

 

今思えば俺達って他にフレンドいたりする?

 

 

34:カーバンクラー

 

自分・・・・・ぼっちなので・・・・・

 

 

35:國生

 

職業柄、同じ職業と言う身内しか・・・・・俺達、トモダチ、だよね?

 

 

36:ゴルシオン

 

顔すら見たことない相手とは学校で言う同級生的な感じであるからして

 

 

37:サイクリュー

 

話し相手としか認識していないんで

 

 

38:テイオー

 

早く上位職業にチェンジしたいなー

 

 

39:宝石姫

 

そのためにたくさん生産しているのに、それだけじゃダメみたいで、現状ジョブチェンジの方法がわからないじゃん!

 

 

40:宝生覇王

 

宝石が手に入らない現状よ。マジでこの職業は不遇でその内に細工師を遊ぶプレイヤーがいなくなるだろ

 

 

 

「嘆きの掲示板になっているぞ」

 

「それも過疎化が進んでいそうな感じだわね。因みに宝石持ってる?」

 

目的の掲示板を発見したものの、会話内容が行き詰って葛藤と嘆きが渦巻いていた。

 

「メダル争奪戦のイベントの時にたくさん交換したぞ。それに長靴を履いた猫の嗜好品だから集めてはいる。今はもう集めれなくなったけど」

 

「どうして?」

 

「諸事情でレベルとステータスが1と0にまで下がっちゃったから」

 

「え? へっ? 待って、何でそうなって・・・・・本当に?」

 

ステータスオープンして事実を突き付ける。ヘルメスの目は驚愕で見張って信じられないと開いた口も塞がらない。

 

「あなた、大丈夫? 狙われたらさすがにヤバいでしょ」

 

「装飾アイテムとスキルで補っているから一撃で死にはしないから問題はない。取り敢えず情報は提供したから決まった金額はメールで送ってくれるか?」

 

「構わないわ。それとまだ他に情報とかある? いえ、あるわよね?」

 

ヘルメスの中で確定しているらしい。確かにそうだが・・・・・。

 

「じゃあもう一つだけ。ヘルメス、時間はあるか?」

 

「時間? 情報を買いに来るプレイヤーが来ない限りだけど」

 

「なら、この場で実践しようか」

 

「ここで取れるスキル? 何かしら、どんなスキルなのか想像が浮かばないわ」

 

そりゃあそうだろうな。俺もあんな単純な方法で取得できるとは思わなかったんだからな。

 

「んじゃヘルメス。大きく背筋を伸ばして背伸びするように、バンザーイ!」

 

「バ、バンザーイ・・・・・」

 

「で、その状態を5分間維持な」

 

「このまま!? 待って、人前でこれは恥ずかしすぎるわよ!」

 

「いいから続ける! 途中でやめたら今後ここに情報を売らないからな!」

 

そんな脅しが効いたようでそれだけは困る! とヘルメスは羞恥心に苛まれながら五分間背伸びしながらバンザーイをした結果。あのスキルが取得できたことを教えてくれた。

 

「え、何か称号とスキルが取得できた・・・・・【大型化】? ・・・嘘、身長と【STR】が+50!? あ、でも【AGI】が-50も下がるのね」

 

こんな簡単な方法でスキルが・・・・・と思考の海に飛び込み潜りかけるヘルメスの肩に手を置いた。

 

「で、いくら買い取ってくれるかにゃん?」

 

「せ、精算させてちょうだい・・・・・」

 

どうしてか知らないが引き攣った笑みを浮かべるヘルメス。後日、誰でも簡単に取得できるということで1000万Gもくれたことをまだ知らない俺は再び掲示板を潜った。

 

 

 

 

111:宝卿

 

もうこうなったら【蒼龍の聖剣】の生産職を介してお願いしてみよう

 

 

112:宝生覇王

 

依頼する形だから報酬は何にしようか。俺達が用意できる範囲内のものでいいだろうか

 

 

113:死神・ハーデス

 

へい、指輪の製作の依頼をしてもいいか?

 

 

114:ジュエル

 

貴金属のアクセサリーで手を打ってくれるかあの人?

 

 

115:國生

 

え、死神・ハーデス? 誰だ?

 

 

116:死神・ハーデス

 

あれ、意外と知らない人がいるなんて新鮮な気分・・・・・どうも、【蒼龍の聖剣】のマスターです。白銀さんって言えばわかる?

 

 

117:宝石姫

 

ええええええええええええええ!?

 

 

118:ジュエリープリンセス

 

白銀さん!? え、何でここに来てるの!?

 

 

119:七宝神

 

・・・・・(呆然)

 

 

120:フォーイッシー

 

Σ(゚Д゚) はっ!? これは千載一遇のチャンス!! 白銀さん、宝石をお持ちではありませんかね!?

 

 

121:カーバンクラー

 

そうだ!? あるなら是非とも卸してほしい!!

 

 

122:サイクリュー

 

お願いします!

 

 

123:死神・ハーデス

 

えっと、質とレア度がお高いのを求めていないのであればメダル争奪戦の時に手に入れた宝石が・・・・・十万個ほど手元にあるんだが

 

124:テイオー

 

じゅ、十万って・・・・・なんでそんなに持とうと思ったの?

 

 

125:死神・ハーデス

 

リアルじゃできないことをゲームでしたいがために。宝石の海の中に飛び込みたい気分があってだな

 

 

126:ゴルシオン

 

わ、わかるその気持ち・・・・・!!

 

 

127:宝石姫

 

白銀さんもこっち側だった!! で、あの、宝石を売ってくれない!?

 

 

128:死神・ハーデス

 

こっちとしてはとある理由で指輪を作って欲しいから宝石の提供は惜しまない。無償でもいいし

 

 

129:國生

 

無償だと!? り、理由は何だ?

 

 

130:死神・ハーデス

 

テイマー関係で、従魔の宝珠を指輪に嵌めてもらいたいからだ。完成すると【一蓮托生】という従魔の心をくれた従魔と合体できるスキルがある指輪になるんだよ。他のテイマー達にもそんな指輪を手元にある環境にしたくて、アクセサリーを扱う職業のプレイヤーに協力をと

 

 

131:ジュエリープリンセス

 

いい人過ぎる理由だったよ!!? というか、テイムしたモンスターと合体ができるの!?

 

 

132:宝卿

 

マジ話だったら細工師職業に革命が起きんぞこれ! 主にテイマーのプレイヤーが黙っちゃいない!

 

 

133:フォーイッシー

 

白銀さん、あんたって人は・・・・・! あのついでに訊きたけどさ、まだプレイヤーを募集してたりする?

 

 

134:死神・ハーデス

 

生産職ならいつでもウェルカムな体勢だぞ。それで、指輪って作れる? 参考にこれ⊃(スクショ)

 

 

135:カーバンクラー

 

・・・・・従魔の絆環? これを俺達が作れるようになって欲しいんだな?

 

 

136:七宝神

 

えっと・・・・・宝石類なら、現状は無理。宝石を扱うための職業になっていないからだ

 

137:死神・ハーデス

 

逆に宝石を扱うNPCとはもう会っている?

 

 

138:テイオー

 

・・・・・どちら様?

 

 

139:死神・ハーデス

 

 

宝石匠のNPC。ドワーフの王様の話じゃドワルティアのどこかにいるらしい。存在してることだけはタラリアに教えたけど

 

 

140:宝石姫

 

ぜ、全然知らなかった・・・・・

 

 

141:ゴルシオン

 

さらっとドワーフの王様と会っていることをカミングアウトされたんだけどさ、どうやったら王様と会えるようになったんだ?

 

 

142:死神・ハーデス

 

鍛冶師のNPCのクエストをこなした=その鍛冶師の師匠、鍛冶師の最上位職『古匠』のNPCと出会ってNPCドワーフの鍛冶師達の存在意義を守ったことでドワーフの城の中に入れた

 

 

143:宝卿

 

存在意義って?

 

 

144:死神・ハーデス

 

鍛冶をするために必要な鉱石が、主に鉱石を食べるモンスターによって採掘できなくなったから、長らく鍛冶ができなかった。鎚を振るうドワーフから鎚を奪ったら残るのは酒だけだ

 

 

145:國生

 

た、他人事とは思えない事情があったのかNPCにも!?

 

 

146:宝生覇王

 

むしろ今の俺達と同じだろ。物凄く親近感が湧くし・・・・・

 

 

147:ジュエリープリンセス

 

それよりも、そのお城ってまだ入れる? 宝石匠のNPCの居場所は教えてもらえない?

 

 

148:死神・ハーデス

 

行ってみないことにはなんとも言えない。今の俺の種族は悪魔で魔王だから。手土産を持参していけばいいかな?

 

 

149:フォーイッシー

 

白銀さん、どんなプレイをしたら魔王になれるの? 普通はなれないと思うんだが

 

 

150:死神・ハーデス

 

称号勇者を得てNPCを千人単位もKILLしちゃったら、魔王にもなるわ

 

151:サイクリュー

 

そりゃそうだわな!

 

 

 



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指輪を求めてドワーフを会いに

一先ずは宝石匠のNPCを見つけなくちゃ話にならない。ドワルティアに赴き城に着くと渡橋を越え警備しているドワーフ達の横を・・・・・前と同じく顔パスが出来た。

俺が悪魔で魔王なのは知ってるはずだよな・・・?

何時ものようにドワーフ王がいる王座の間に向かい、そこでも警備しているドワーフに一言。

すんなりと謁見が叶い中に入った。

 

「久しぶりだな。見ない内に随分と様変わりしたじゃねぇか」

 

「それでも前のように通してくれたのはなんでだ?」

 

「俺が知っている魔王とお前さんは別人だからに決まってるからだ。人間やめて悪魔に成り下がろうともドワーフが受けた恩は忘れはしない。他の連中は俺と同じとは断言できないが、あいつらがもしもドワーフの心の友を忌避したり嫌悪感を抱いているなら許してやって欲しい」

 

「悪魔と魔王は悪の象徴だから仕方がないとしても、実際に接してみると案外付き合いやすい奴らが多いんだがな」

 

「ほう、そうなのか。俺が知っている魔王の話とはもう違うってことか」

 

顎に手をやって頷くと本題の話を持ち掛けてくれた。

 

「それで、俺に頼み事でもあるのか?」

 

「教えて欲しいことが一つな。宝石を扱うドワーフの居場所を教えて欲しい」

 

「そういうことなら教えるが、その先のことまでは面倒は見切れんぞ?」

 

「こっちで対応するからいいよ。それとこれお土産」

 

アポイタカラとそのインゴットを一つずつ渡すと、彼の目がキランと輝いた。

 

「こいつは見たことのない鉱石だな。どこで手に入れた?」

 

「深海だ」

 

「海かぁ・・・・・流石に潜ってまで採りに行きたいとは思わん。ドワーフの心の友に頼むしかない」

 

「潜ることがあった時は集めておくよ」

 

・・・ってユーミルいつの間に。アポイタカラのインゴットを凝視して、自分の弟から奪おうと動き出したし。

 

「・・・・・使う」

 

「バカを言うな! これはドワーフの心の友から俺にくれたものだ! 兄者にくれてやるつもりはないわ!」

 

その言葉に反応したユーミルが首をこっちに向け、掴んだインゴットを離さないまま問うてきた。

 

「・・・・・見たことのない鉱石、どこで見つけた」

 

「ずっと南に進んだ先にある極寒の大陸の深海だ」

 

「・・・・・寒いのは苦手だ。もっと集めてほしい」

 

「アポイタカラ、その鉱石で作った装備品を一つ」

 

「・・・・・交渉成立」

 

こう言う話し合いでの交渉をすればクエストも発生するわけか。

 

「取り敢えず、その手を放しなよ。ユーミルの分も集めるんだから。それで、宝石を扱うドワーフはどこに?」

 

「・・・・・わかった」

 

「ふぅ、助かったわぃ。あいつは自分の店を構えておるから城下町に行き、聞き込みをすればすぐに見つけられるだろう。だが、あいつもあいつで宝石に関しては五月蠅いぞ。念のために一筆書いてやるから渡して見せろ」

 

「ありがとう。それと宝石を扱いたい弟子入り希望の冒険者達がたくさんいることも、書いてくれほしいんだが」

 

そう言うとエレンの顔が難しい表情を浮かべた。

 

「弟子入りか・・・・・依頼するならともかく、あいつは誰かの面倒をみることはないぞ」

 

「納得させる技術を持ってないとダメ?」

 

「一言で言うならば頭の中まで鍛冶バカの兄者だと言えばわかるか」

 

「・・・・・同類?」

 

「さすがはドワーフの心の友。その通りだ」

 

堅物の職人気質ドワーフか。宝石に五月蝿いと言っていたのはそう言うこと。

 

「・・・・・俺が案内する」

 

「あ、知ってたんだ?」

 

「ぶっちゃけ言うと、その宝石匠のドワーフは俺達の弟でもある」

 

案内を買って出てくれたユーミルと同じって意味が納得だわ! 歩き出すユーミルと城を後に城下町へと繰り出した。街中を歩けば俺を恐れ道を開けてくれるNPC等が避ける。混雑していようと俺がそこを通れば、みんながみんな条件反射もとい本能で突き動かされている感じだ。

 

「・・・・・何時もか」

 

「うん、いつもこんな感じ」

 

「・・・・・苦労しているのか」

 

「それなりかな。でも、こうして歩いてくれるドワーフがいるから寂しくはないぞ」

 

「・・・・・こっちだ」

 

そう言うユーミルが曲がり角を曲がって100mほど歩いたら宝石のデザインの看板が飾ってある店の前に着いた。こんなところにあったのか、と前回散策した時はここまでこなかったことを思い出しながらユーミルと中に入った。

 

「いらっしゃい・・・・・」

 

がらん、と閑古鳥が鳴く店内。綺麗に清掃されていて、商品の宝石は品質とレア度が低いものから高いものまで揃ってる。加工された宝石は装飾品としても販売されている。この店の店主というと、ユーミルが話し掛けたら凄く驚いている。

 

「ユーミル兄? 何の冗談だ。ここに来たことは一度もなかったってのに」

 

「・・・・・鉱石ではない宝石は、興味ない。今も変わらない」

 

「そいつはこっちの台詞だ。輝かしくも美しくもねぇ石っころなんざ宝石の前ではゴミ同然だ」

 

「・・・・・その認識、いまここで改めさせてやろう」

 

「喧嘩を売りに来たってんなら買ってやんぞ。こっちは暇をしていたんだからな」

 

・・・・・腕の筋肉を盛り上げる店主と威圧を放つユーミル。このあとどうなるか興味あるが・・・・・。

 

「ふん、石頭の兄よりもこっちの客を相手をする方が有意義だが、その前に教えてくれるか? お前さんとこの鍛冶馬鹿とどういう関係だ? 弟子か?」

 

「弟子ではないが、心の友だよ。何度もエレンとも交流をしてるし装備も作ってくれた」

 

「・・・・・城の出入りを許されているのかお前。俺の知る限りじゃ、そんなこと許された奴は今まで1人もいなかったぞ」

 

脱帽した様子の店主は、俺を見る目が変わったように見えた。

 

「・・・・・実際、地龍とモグラの問題を解決してくれた」

 

「ユーミル兄がそう言うのならば、嘘じゃなさそうだな。そんなら、俺もお前のことを認めないわけにはいかんな」

 

店主は改めて名乗り出した。

 

「俺はデュアル。ドワーフ王のエレンとそこにいる鍛冶師のユーミル兄の弟にして、宝石匠だ」

 

「死神・ハーデス。今は魔王になってる」

 

「は、魔王? あの悪魔族の王の?」

 

「・・・・・この者はその魔王と別だ。この世界に生きる魔王だ」

 

「ってことは、魔王が二人もいるってことか? なんておっかない世界になったもんだよ」

 

いやぁ、それほどでも・・・・・。

 

「んで、その魔王を連れてきて何のようだ?」

 

「一応、エレンから紹介状を書いてもらった」

 

怪訝に俺から受け取った手紙を読み、口からため息を吐いた。

 

「理解はした。だが、俺のところに弟子入り希望の連中が来られても困る」

 

「理由は?」

 

「面倒くさいのが主だ。俺は大層な職人じゃない。宝石に囲まれて生きたいがために宝石匠になったんだよ」

 

「店まで構えてるのに?」

 

「宝石を手に入れるには金が必要だ。俺自身が集めた宝石を加工もして販売してるが・・・・・見ての通り買い手が来ないのさ。それどころか弟子入り希望の連中に指導する宝石すら余裕がねぇ」

 

デュアルの弟子をとらない理由が判明したところで、納得もしたし実行に移った。

 

「よし、ならこの店の宝石を全部買い取ろう」

 

「・・・できもしねぇことを言うんじゃねぇぜ。総額は億も越えるんだぞ」

 

「出来るから言ってるんだ」

 

次々と商品を大人買いしていき、時間をかけて面白い間抜け面を晒すデュアルの目の前で全て買い取ってみせた。

 

「バ、バカな・・・・・お前、どんだけ個人の資産を持ってるってんだ」

 

「ふふん、ドワルティアを買えるぐらいはあるぞ」

 

「はっ!?」

 

「なんなら、この店も買い取って俺がオーナーになってもいいぞ。宝石はさっき買ってたくさんあるからな」

 

これが金の力! マネーパワー!

 

「・・・・・宝石に囲まれる夢が、叶う・・・・・?」

 

宝石が大事なデュアルにとって元々叶えたい夢を実現させるのが目的。今の暮らしも幸せかもしれないが、更なる欲望を沸かせてみようじゃないか。

 

「囲まれるだけじゃなくて宝石のお風呂も、悪くはないぞ?」

 

「なん、だと・・・・・お前、なんて悪魔みたいなことを・・・・・!」

 

「想像してみろ。風呂いっぱいの多彩な色の宝石と様々な宝石がデュアルの身体を包み込むのを」

 

思考が停止したのをデュアルの目を見れば分かった。凍結したように固まったからな。そんな彼の耳元で甘言を囁く。

 

「囲まれるだけじゃなく、大好きな宝石に包まれながら眠るのも悪くはないだろう」

 

「・・・・・」

 

「ちなみに、俺の懐には十万個の宝石が眠っていてだな・・・・・」

 

「・・・・・」

 

「その内の一万個ほど、デュアルに渡しても構わないんだが、さっきの紹介状の件を引き受けてほしいんだが。もしも引き受けてくれるなら」

 

水晶エリアで発掘したレアな宝石を出して見せつけれび、デュアルはその宝石に目が釘付けだ。

 

「これもあげよう。どうかな?」

 

「・・・・・」

 

悪魔のような取引だったと、後でユーミルからそう言われた俺はデュアルの手がレアな宝石に向かって伸びてしっかりと握ったのを見てニヤァと悪い笑みを浮かべた。

 

「交渉成立だ。この店も買わせてもらうぜ」

 

「・・・・・好きにするがいい。俺はお前に一生ついていくだけだ」

 

ふふ、絶対に損はさせないぜデュアル君。さて、他のみんなにも教えなくちゃな。

 

しばらくして~~~。

 

掲示板で宝石店の場所を教え、待っていると店の扉が開き入ってきたプレイヤー達。店内を興味深げに見回しつつもカウンターに座っている俺のところに来てくれた。

 

「あ、どうも白銀さん。ジュエルです」

 

「ジュエリープリンセスです」

 

「宝石姫です」

 

「よろしく」

 

高レベルのプレイヤーらしい装備を身に纏っている風には見えない男女のプレイヤーと合流できた。同じ生産職のイズとセレーネみたいに攻撃手段があるとして、どんなスキルなのか興味がある。

 

「ところで、白銀さん。どうしてそこに座っているんだ?」

 

「この店の店主と店を全部俺が買ったから、事実上俺がオーナーになった」

 

「買い取った? まさかNPCの店を!? そんなことが出来るのかこのゲームは!!」

 

値段は億単位だったが、俺の懐はまだまだ暑いぜ。

 

「さて、話はここまでにしてここに来た細工師のプレイヤーは宝石匠から技術を学んでくるように。俺から頼んでおいたから弟子入りは可能だ」

 

驚く面々に不敵の笑みを浮かべる。そんな彼等彼女等の中で挙手をしながら尋ねた男が。

 

「それで・・・・・あのだな、宝石を譲ってくれるって話は・・・・・」

 

「おう、白銀さんは嘘を吐かないぞ。とりあえずは百個ぐらいでいいか? はいよ」

 

「じゅ、十分すぎる! って、わぁ・・・初めてこんなたくさんの宝石が私の手元に・・・・・!」

 

「品質もレア度も高くはないけども、念願だった宝石がインベントリにある・・・・・!」

 

「マジで感謝しかねぇ・・・・」

 

感動するプレイヤーの気持ちが伝わってくる。ここまでしたんだから是非とも頑張って欲しい。

 

「お膳立てはここまでだ。首を長くしているから頑張ってくれよ?」

 

「白銀さんから受けた恩は必ず!」

 

「本当にありがとう!」

 

「よしっ、さっそく作業に取り掛かろう!」

 

その意気だ頑張ってくれー。さてテイマーの掲示板の方はどうなっているかな。

 

 

【テイマー】ここはNWOのテイマーたちが集うスレです【集まれPART37】

 

 

 

新たなテイムモンスの情報から、自分のモンス自慢まで、みんな集まれ!

 

 

 

・他のテイマーさんの子たちを貶める様な発言は禁止です。

 

・スクショ歓迎。

 

・でも連続投下は控えめにね。

 

・常識をもって書き込みましょう

 

 

 

234:イワン

 

従魔と合体。その力(スキル)欲しい

 

 

235:ウルスラ

 

私も可愛い従魔の姿で活動できるなら試してみたい!

 

 

236:オイレンシュピーゲル

 

これで白銀さんがベヒモスになっている時の気持ちが共感できるというもの!

 

 

237:赤星ニャー

 

これで魚のモンスターと合体したら水中や海中を自由に泳げれるニャー

 

 

238:エリンギ

 

おお、確かに。じゃあ、マグマの中を活動できるモンスと合体できるのもアリだな!

 

 

239:宇田川ジェットコースター

 

それも白銀さんが体験していることなんだよなー。地中を潜る・・・モグラはアレだしできないか

 

 

240:アメリア

 

モグラ! 居場所は判明しているのにその場所に入るクエストが難しい!

 

 

241:人間ブラック

 

突っ込んでくる暴走トラックの相手をしなくちゃならないからな・・・・・。未だあそこのエリアは白銀さんしか完全攻略していないって噂だし

 

 

242:エリンギ

 

あの人はほら、防御力極振りだから耐えられるわけであって

 

 

243:人間ブラック

 

中には大盾使い+今までのプレイで溜まったポイントを【VIT】に注ぐ+今現在装備できる最高の防具で挑んだ猛者がいるらしいが、やはりサッカーボール如く吹っ飛ばされて死に戻りするそうだし

 

 

244:オイレンシュピーゲル

 

気持ちはわかるけど、白銀さんの場合はガチ勢だから

 

 

245:赤星ニャー

 

最高の防具ってユニークの防具でもないだろうしニャー

 

 

246:エリンギ

 

そもそも中途半端な防御力極振りは意味をなさないって話だろ

 

 

247:アメリア

 

防御力極振りでも駄目なモンスターってさ、結局今まで通りの戦い方で倒すしかないでしょ

 

 

248:ウルスラ

 

というか、今思いついたんだけど。あの人が従魔と合体したら物凄い硬いモンスターになるんじゃない?

 

 

249:オイレンシュピーゲル

 

た、確かに・・・・・!!

 

 

250:宇田川ジェットコースター

 

プレイヤーと従魔の力が一つになるんだから当然の結果だろう

 

 

251:死神・ハーデス

 

実際に楽しいぞ

 

 

252:アメリア

 

あ、白銀さん!?

 

 

253:オイレンシュピーゲル

 

おおー!! 初顔出し!!

 

 

254:赤星ニャー

 

いらっしゃいニャー!!

 

 

255:イワン

 

ここに書き込んで来てくれるとは。もしかして何か新発見があったりするのか?

 

 

256:死神・ハーデス

 

まさにその通り。今すぐではないけどこの装飾品が手に入れることを教えに来た。タラリアにも報告済み。これ、スクショな

 

 

257:ウルスラ

 

指輪のアイテム『従魔の絆環』・・・・・えっ、何このスキル?

 

 

258:人間ブラック

 

【一蓮托生】―――従魔の心をくれた従魔と合体できる!?

 

 

259:赤星ニャー

 

うっそだろぉおおおおおおお!?

 

 

260:死神・ハーデス

 

従魔の宝珠をスロット枠がある装備に付ければ召喚できるが、指輪なら従魔と合体できることをお抱えの魔法と錬金術を極めたNPCが作って発見してくれた。ちなみにプレイヤーでも作成可能

 

 

261:アメリア

 

プレイヤーでも作れる!? 指輪ってことは・・・・・あれ、どんな職業だっけ

 

 

262:イワン

 

細工師っていう職業だ。主に装飾品を作る生産職は少なからずいるぞ。ファーマーより少ないがな

 

 

263:宇田川ジェットコースター

 

じゃあ、そのプレイヤーに頼んで従魔の宝珠を指輪にしてもらえばいいわけだな

 

 

264:死神・ハーデス

 

ところがその細工師のプレイヤー達は未だ宝石を扱えないでいたから指輪が作れなかった。これから期待して待つ他ない

 

 

265:オイレンシュピーゲル

 

何で? もうとっくに二次職、三次職にジョブチェンジしていてもおかしくない期間じゃ?

 

 

266:死神・ハーデス

 

次の職業になるためなのが、宝石職のNPCの弟子入りと大量の宝石を手に入れるためだった。それが今日までどっちも見つからず出来なかったんだよ

 

 

267:エリンギ

 

それは・・・・・なんていう哀れな

 

 

268:ウルスラ

 

戦闘職は一定のレベルを上げれば簡単に転職できるけど、生産系の職業の転職ってそうじゃないのよね

 

 

269:アメリア

 

HPとMPの回復ポーションを作る錬金術師のプレイヤーには大変お世話になっております

 

 

270:人間ブラック

 

俺達は生産職の縁の下の力持ちで支えられていることを忘れがちになっているな

 

 

271:赤星ニャー

 

【蒼龍の聖剣】のメンバーは初期の生産職のプレイヤーが殆どだニャー

 

 

272:宇田川ジェットコースター

 

確か現在進行形でも生産職のプレイヤーをギルドに加入させているんだっけか

 

 

273:死神・ハーデス

 

掲示板のシステムを利用して生産職のプレイヤーを募集している。今回俺がお膳立てした細工師のプレイヤー全員も指輪の製作できた次第声を掛ける予定だ

 

 

274:ウルスラ

 

どんどん生産職のプレイヤーが集まって増えていくわね。強さを求めず物作りを楽しむための生産系ギルドにしたいの白銀さん?

 

 

275:死神・ハーデス

 

ありふれたギルドよりも生産系プレイヤーだけのギルドも面白いだろう? 全員が全員、生産系ではないが皆もゲームを楽しめるギルドにしたい

 

 

276:イワン

 

いい人だ・・・・・

 

 

277:死神・ハーデス

 

ということで、今年中には指輪の製作が可能になるだろうから首を長くして待っていてくれ

 

 

278:赤星ニャー

 

わかったニャー!

 

 

279:オイレンシュピーゲル

 

楽しみだなー。細工師のプレイヤー達、頑張ってくれ!

 

 

280:アメリア

 

期待して待ってます!

 

 

281:ウルスラ

 

テイマーの革命がすぐそこに来ているわね!

 

 

282:エリンギ

 

今回もサスシロ案件だったな

 

 

283:宇田川ジェットコースター

 

サスシロ案件繋がりで一つ質問。特殊なエリアを解放したのってやっぱり白銀さん?

 

 

284:死神・ハーデス

 

ああ、俺だな。レベルと各能力値を全て捧げたことで新大陸と旧大陸じゃない異なる世界に行けた。おかげですっかり弱くなったわ

 

 

285:イワン

 

捧げたって、いま白銀さんのレベルって・・・まさかレベル1なのか?

 

 

286:死神・ハーデス

 

いや、それなりにレベルは上がっている。でも最弱の魔王になってしまったからこれからレベル上げに専念しなくちゃならない。装備のおかげで一定の強さは保ってはいるがな

 

 

287:赤星ニャー

 

マジで大丈夫かニャー? 今なら白銀さんを倒せる絶好の機会だぜ? 他の連中が黙っているはずがないニャー

 

 

288:オイレンシュピーゲル

 

ま、まぁ白銀さんの強みは防御力特化だ。従魔だっているんだし狙われたとしても負けないって

 

 

289:アメリア

 

それで白銀さん。その特殊なエリアってどんなところ?

 

 

290:死神・ハーデス

 

ベヒモス達よりつよーいモンスター達が跋扈しているところだった。あそこにいるモンスターを倒せばユニーク装備が手に入るのも頷けるって感じに思えるほど。今はイベント中だからスクショは撮った。はいこれ

 

291:人間ブラック

 

うわ・・・凶暴で凶悪そうなモンスターが勢揃い

 

 

292:宇田川ジェットコースター

 

待って、待って? その場にいるのがあのベヒモスより強いモンスターかもしれないんだろ。何普通に群れているんだ!

 

 

293:ウルスラ

 

これ・・・普通に死ぬ。絶対に危険な場所だってぇ・・・・・



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指輪を求めた後

細工師達が指輪を作れるまで待つのみとなった今、【VIT】を増やすため火山エリアに駆け出し、マグマに飛び込んだ。短刀と大盾を装備した状態で【破壊成長】で【VIT】の増加を図る。その途中にある事に気付いた、そう言えばここから別のマグマだまりに移動できるかな? 通じてる場所があるなら探して潜ってみようと。

 

―――結果。通路を発見。

 

毒竜の時と同じベヒモスと戦った場所のような感じで、どこかに繋がっているのかな? と思いつつそれなりに長く泳ぎ、【水中探索】を利用して潜水していくと鳳凰がいて、水晶エリアに繋がっている空間とはまた別の空間に辿り着けた。

 

「うーん。また隠しエリアを見つけてしまったな。今のところ俺しか来れなさそうだが」

 

イズとセレーネなら問題ないだろう。ただ、本人達がここまで来たいか気持ち次第だ。

 

「いやいや・・・・・こんなのが火山にいるなんてな」

 

体を丸めて寝ていらっしゃるモンスター。それも大きな赤い龍、ドラゴン。こいつもレイドだろ。さて、別のところから来れる場所でもあるのか探してみようかな。【色彩化粧】と【飛翔】で姿を消して空を飛ぶ。

 

 

高いところから見ると、円形状の広い足場を囲むマグマ。天井は岩盤で塞がれておらず、空が見える。火山のどこかしらの斜面にいるっぽいなこれ。あの赤いドラゴンが飛ぶには窮屈ではない感じか、 うーん・・・・・。

 

戦いの余波で噴火しないよな?

 

まぁ、寝てるところを起こすのも悪いしお暇しよう。でも、帰る前にスクショを一枚。カメラを構えてパシャリと撮った次の瞬間。赤いドラゴンさんの瞼が開いて金色の瞳が窺えた。

 

もしや、スクショしたらモンスターは反応してしまう系? でもでも、透明人間になっているから気付かれない筈・・・・・。

 

「グルルル・・・・・」

 

・・・・・あー、こっちを睨んでるなこれ。イカルから透明な人の輪郭が浮かんで見えるって言ってたし、それ以外でも嗅覚で気付いて・・・・・プレイヤーに匂いなんてあるのかそもそも? って今そんなこと考えている時じゃないか、奴さんの口の隙間から火の粉が出ている。俺を燃やそうとしているのが火を見るよりも明らかだ。寝ているところを起こされたら怒る奴もいるだろう。ということで・・・・・。

 

「これで怒りを鎮めてくれませんかねぇ?」

 

姿を見せると同時に宝石肉をドラゴンの前に置いた。

 

「・・・・・」

 

フェンリルの好物の肉のアイテムにドラゴンは目をキョトンとしたと思う。次に匂いを嗅ぐふうに鼻をスンスンと鳴らすと、むくりと四肢に力を入れて起き上がった。そして肉に顔を近づけ舌でぺろりと味を確かめた後に凶悪な牙を覗かせる口が宝石肉に食らいついた。おお、ドラゴンらしくいい喰いっぷり。ここでどれぐらい眠っていたかは知らないが、当然腹も空いていただろう。あっという間に食べ尽くしたのだからそう思う。

 

「・・・・・」

 

宝石肉を食べた赤いドラゴンの眼がこっちにジッと視線を向ける。首を傾げる俺になんか不機嫌そうに唸り声をあげる。

 

「もっと寄こせと?」

 

「グルルル」

 

尻尾で地面を叩く赤いドラゴン。肯定したのか分からないがとりあえず宝石肉を複数置いたら尻尾がまたバシバシと地面を叩いた。え、まだ? さらに50個も置くと満足したようで首が頷いた。

 

・・・・・なんで俺、モンスター相手に貢いでいるんだ?

 

まぁ、これで満足してくれたんなら長居は無用だ。お暇させてもらおうと踵を返した人の胴体に尻尾で巻き付けて地面から持ち上げられた。そのままどこかへ歩き出すので大人しくしているとマグマを越えて空から見た限りじゃ発見できなかった、一部の岩の塊の前に止まり前の両足でどかし始めた。岩の塊で塞いでいたところに、これはまた王道的な・・・ドラゴンが集めてた山のような財宝がたくさん隠されてあった。その目の前に俺を置いてドラゴンが財宝を漁って一つだけ銜えて持ってきてくれた。

 

「・・・貰っていいのか?」

 

「グル」

 

「そうか。ありがとう」

 

財宝を受け取った俺はまたマグマに潜った。最後に振り返ったら宝石肉を宝物庫に入れる赤いドラゴンの姿があって、あの肉を宝物と認定したがために自分の財宝と交換したのだろうか。それにしても数が割に合わないと思ったのは内緒だがな。

 

にしてもこれは何だろうか。ドラゴンの手が金色に輝く宝玉を掴んでるアイテムを貰ったんだが。

 

 

『ドラゴン族の財宝』

 

ゴールドを別のアイテムに選択して変換することができる。またアイテムをゴールドに変換することができる。

 

 

「・・・・・」

 

ほほう・・・・・? これはイズのユニーク装備のスキルの上位互換のやつだな? ホームに戻ったら試してみよう。何が手に入るのか楽しみですなー。今は装備の【VIT】を増やすのが先だがな。

 

数ヶ月分の【VIT】は大変だなこりゃ・・・・・さて、ここから通ってきたから別の場所へ泳いでみるか。スイスイと移動していたら、見慣れたマグマだまりがある火山のエリアに出てしまった。しかも、見覚えのあるプレイヤーが複数人のプレイヤーに俺がいるところから離れてマグマにだまりに追い詰められているではありませんか。

 

 

イカルside

 

「一人でここに来ていたなんて危ないなぁー?」

 

「運がいいぜ。探していた例の人に近いイカルちゃんと出会えるとは」

 

「に、逃がさないぜ・・・・・へへへ」

 

変な人に話し掛けられてしまった。私を見る目付きがなんだかお姉ちゃんの胸を見てしまった人達にそっくりで、私は何時でも魔法を撃てるよう手を突きだしたら。

 

「イカルちゃん、折り入ってお願いがあります」

 

「お願い、です?」

 

「難しいお願いじゃない。ただ、俺が作ったこの服を着て欲しい」

 

絶対にしてもらいたい気持ちが伝わってくる知らないプレイヤーが両手で持って見せてくるのは、可愛い女の子の服だった。

 

「・・・・・それを着て欲しいんですか?」

 

「そうだ。だが、キミじゃない。白銀さん、死神・ハーデスさんにもこのメイド服を着てもらいたいんだ。その頼みをキミからしてほしい」

 

メイド服とやらを着てお姉ちゃん・・・・・うーん。

 

「お姉ちゃんは大人だからメイド服は似合わないと思いますよ?」

 

「いや、メイド服は大人も子供も着れる素晴らしい服なのだ。なんなら色を変えることもできるぞ」

 

「色も? すごいです」

 

「ありがとう。その言葉を聞けて今日まで頑張った甲斐があった。報われたよ・・・・・」

 

嬉しそうに笑ったプレイヤーさん。お姉ちゃんのために作ったってことは・・・・・。

 

「イベントのためにお姉ちゃんを撮りたいんですか?」

 

「「「その通り!!」」」

 

わっ、他のプレイヤーの人達が一斉に叫んだ。そ、そんなにお姉ちゃんを撮りたいなんて・・・・・。

 

「因みに、メイド服以外の洋服も用意してある」

 

「他にも作るほどお姉ちゃんを撮りたいんですか。・・・えっと、お姉ちゃんと相談してからでいいですか?」

 

「いいよ。明日まで待っててもいい。撮らせてくれるなら何時でも待つ」

 

そこまでなんですか・・・・・この人がどうしてそこまでお姉ちゃんに着させたいのか私にはよくわかりませんが、フレンドコール

でお姉ちゃんにこのことを教えようとしたその時。

 

後ろのマグマが大爆発した!

 

私達は驚いて爆発したマグマから黒髪に黒い十二枚の翼を生やしたお姉ちゃんが出てきたのを見て、またびっくりした!

 

「だ、誰だ!?」

 

「アホッ! 女堕天使になった白銀さんだぞ!!」

 

「うぉおおおー!! 格好いい登場ー!! スクショ!!」

 

「ス、スケスケの堕天使・・・・・いいですっ!!」

 

どうしてここにお姉ちゃんが、と思ったけれど防御力を上げるためにマグマの中にいたんだと気付いた。

 

「話は聞かせてもらった。私に服を着て欲しいのね。洋服次第で着てもいいわ」

 

「え、マジですか」

 

「本当。どれ?」

 

「これです!」

 

「・・・・・多ーい」

 

え、どのぐらいあるんですか? 洋服を受け取ったお姉ちゃんがさっそく着た姿が・・・・・さっき見せてくれたメイド服だった。

 

「「「「ふぉおおおおおおおおっ!?」」」」

 

「きゃあああああーっ!!」

 

す、すごいっ! お姉ちゃんのためにあるメイド服なんですね!! 可愛い、キレイ、すてき、ですっ!

 

「うーん、複雑」

 

私達を見て苦笑いするお姉ちゃんもイイ!!d(≧∀≦)b!!

 

「俺、今日のために頑張って生きたんだ・・・・・」

 

「お前、最高だよっ!」

 

「ありがとう、ありがとうっ」

 

「堕天使エロメイド・・・・・実現するなんてっ(感涙)」

 

「お姉ちゃん! このままの姿で今日だけでもゲームしてほしいです!」

 

「「「「それな!」」」」

 

「あはは・・・・・次着てみるね」

 

はっ、そうだった。他にもたくさんのお洋服があるみたいだから見なくちゃ!!

 

「白銀さん。バニーガールは死神の宴の時にだけ着て欲しいんですが・・・・・」

 

「何故に」

 

「ちょっと自分の欲望をこれでもかと注ぎ込めたんで、フレーバーテキストを見れば分かりますハイ」

 

「これでもかという時点でちょっとじゃないと思うけど・・・・・あなた、何て物を生み出したの。というか、よく作れたねと脱帽する」

 

「最初は無理だったけど俺の情熱に応えてくれたNPCの協力で完成できたんです」

 

NPCの協力で? お姉ちゃんみたくNPCと仲良くなったのでしょうか。

 

「NPC? 名前は?」

 

「ルシファーさんです」

 

その名前を聞いた瞬間、お姉ちゃんの顏が死にました。

 

「・・・・・ルシファー、どんなNPCかわかってる?」

 

「いえ。でも、結構裁縫系の技術力が凄く高いから生産系のNPCかなと」

 

「・・・・・冥界にいる魔王の妻だよその人。可愛い服を作ったり着させたりするのが趣味でもある」

 

「魔王の奥さん!? え、俺そんな凄いNPCと和気藹々しちゃってた!? 白銀さんが着てくれた服をスクショすることも約束しちゃったんだけど!」

 

空を見上げるお姉ちゃん。えっと・・・・・どうしたんでしょうか。何か困っているのかな。

 

「しょうがない。協力はするよ。どうして水着まで用意していたのか不問にします」

 

「あ、ありがとうございます」

 

それからお姉ちゃんは色んな服を着ては他のプレイヤーの人達に色んなポーズをしながら撮られました。私も一緒に撮らせてもらって、これは一生のお宝にします!



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天への挑戦

 

 

「白銀さん、すまないが倒されてくれ!」

 

「レベルをリセットされたくねぇんだ!」

 

「運営のバカやろー!! なんでこんなイベントを作ったんだよー!!」

 

「覚悟!」

 

 

「【エクスプロージョン】」

 

 

「「「「ぐわぁあああああああああー!!?」」」」

 

赤いドラゴンと別れ溶岩魔人に挑戦をして火山エリアに長居したら案の定、俺を襲うプレイヤーが後を絶たない。運営に対する気持ちは痛く共感するがな。

 

「はぁー、面倒。ホームと畑に被害はないのが幸いなんだけどやってくれるわ」

 

後で知ったことだが、〈恐怖の大魔王〉の俺の居場所が随時更新されて特定もされるのは当たり前。それから俺がいる場所は例え城の中だとしてもイベント期間中にだけ他のプレイヤーも入れる厄介さが加えられた。

 

しかも特定のエリアには3時間しか留まれないのが何とも面倒な。

 

「掲示板の情報通りいたぞー!」

 

「者共であえであえー!!」

 

そしてたかがレベルされどレベルのリセットされたくない必死なプレイヤー達は情報を共有してる模様。なお、魔王の俺は掲示板等の利用が出来なくなってる。あまつさえ本当にギルドから脱退扱いされてやがる。副マスのイッチョウには、しばらく頑張ってもらう他あるまい。

 

「面倒な・・・・・」

 

攻撃を仕掛けてくるプレイヤー達の目の前で【相乗効果】を介して溶岩のベヒモスに変身した。連中は目と口を大きく開けて呆然を晒す。

 

「やべっ!?」

 

「白銀さん本気になったぞ!」

 

「ムリムリ!! って、溶岩の塊がくるぞぉ~!!?」

 

「た、退避ぃ~!!」

 

フハハハ!! 見ろ人がゴミのようだ!! ・・・・・そうだ、どうせならコンプリートを目指してみるか。数多のプレイヤー達を引き倒しながら町へと目指した。弱体化した今、苦戦は否めないがそれでも倒せない相手ではない筈だうん。いざ挑戦だ―――待っていろジズ!

 

 

タラリア~~~。

 

 

「白銀さんは火山エリアから逃走中! 場所の特定を急いで!」

 

「こんな形でプレイヤーの大半が一致団結になるとはの」

 

「それもこんな状況下で逃げ回らなくちゃならないあのプレイヤーも不憫だね」

 

レベルのリセットをされたくないプレイヤー達に交じって私達もあのプレイヤーの特定に精を出す。今回は事が事だから倒す側になってしまうのも仕方ないと諦めて欲しいか許してほしいわね。

 

「【蒼龍の聖剣】は?」

 

「沈黙を貫いている。副マスのイッチョウさんからの話では、白銀さんが脱退していて理由を聞こうにも連絡が取れないらしい。〈恐怖の大魔王討伐〉の影響を受けてるかもしれない」

 

「イベントに参加は?」

 

「レベルがリセットされようとも構わない、白銀さんの味方の姿勢でいるぞ。あのギルドのほとんどは生産職業のプレイヤーだから戦闘系のプレイヤーよりも焦ってはいないな」

 

カルロの言い分を聞き私は脱帽した。生産職だろうとレベルが初期化されるのは同じだ。今まで積み重ねた時間と労力が泡と化するよりも個人を尊重する【蒼龍の聖剣】のメンバーの強い繋りを感じた。

 

「生産職の活動は育成と作るのが主だから、白銀さんの協力を得れば困ることは殆どないじゃな」

 

「〈恐怖の大魔王討伐〉のイベントで一番消極的なのは【蒼龍の聖剣】かもね」

 

他のギルドはその真逆。必死な形相を浮かべてあちこち走り回っている。えっと今の彼は・・・・・ギルドに入ってきて、え?

 

「ジズに挑戦してる?」

 

「なんじゃ?」

 

「ハーデスがジズ討伐のクエストをしてるって目撃者が」

 

「クエストで時間稼ぎをしてるんじゃ?」

 

「あり得るけれど、ハーデスよ? 別の思惑があるって私の勘が告げてるわ」

 

「勘、というより周知の事実じゃな」

 

後で水に沈めてようかしらこのカナヅチドワーフ。だけど、件の彼はジズを倒してまで何を得るつもり? まさかジズに変身するスキル・・・・・あああ!!?

 

 

 

フレデリカside

 

 

「お前ら、本当にいいのかよ! レベルがリセットされるんだぞ!?」

 

「【蒼龍の聖剣】も協力してくれれば倒せる」

 

「手伝ってくれよ頼むから!」

 

攻略組と前線組のプレイヤー達が私達に協力を求める話はこれで何度目だろう。ペインの答えは変わらないのにね。

 

「手伝わないと言ったが、ハーデスを倒さないと言った訳じゃない。ただ、協力して戦うつもりは今はないだけだよ」

 

「俺達も都合があるってんだよ。あいつを確実に追えることができるなら、俺達は今すぐ倒す必要ないと考えている」

 

「ハーデスが近くにいたら俺達で倒すから問題ないだろ」

 

「そーいうことだよ。私達だって予定あるんだからね。ハーデスを倒すのは二の次だし」

 

二の次にするとはいえペインでも勝てなかった相手が、レベルと【VIT】が初期化されたとイッチョウから聞いた時は私達は驚いた。今なら私でも・・・・・無理だよね。ハーデスの真の強みは数多くのスキルだし。スキルを封じるスキルが無ければ今のハーデスでも倒せない気がする。

 

「・・・まさかだと思うが、【蒼龍の聖剣】のメンバーだからってレベルのリセットの対象外だから焦っていないんじゃないだろうな」

 

「事実無根だなそりゃあ。同じギルドの奴じゃなきゃわからないことを勝手に決めつけてくれるなよ」

 

「あいつはギルドから脱退しているぞ。理由を訊こうにも連絡が出来ない状態になっているからこっちも分からず仕舞いなんだよ」

 

「時間はまだまだ残されている。今焦ってハーデスを倒すだけの時間を費やすより、今を楽しんだ方がいいよ」

 

「できるかよ! お前らみたいにお気楽でいられるか! プレイヤー全員のレベルがリセットされたら【蒼龍の聖剣】に責任を負わせてやるからな!」

 

「現実の方でも特定して徹底的に追い込んでやる!」

 

「お前、それは犯罪だろそれだけは止めておけよ」

 

悪態吐きながらどこかへと行くプレイヤー達の背中に向かって呆れ混じりの溜め息を吐いた。

 

「レベルが重要じゃないっての、わからないのかな」

 

「無理もないぜ。俺達とあいつらの違いはハーデスと関わっていることだ」

 

「一芸を極めればかなりの強敵になることを俺達は知っているからね」

 

「そもそもレベルが下がっても、ステータスのすべてまで初期化するわけじゃないだろうに」

 

したら憤慨ものだよ。

 

「さてと、クリアしておきたい大きなクエストがある。フレデリカ、イッチョウに伝言を頼めるか」

 

「なんて?」

 

「ハーデスに朱雀の討伐の誘いをだよ」

 

ペインらしい考えだね。その願いを断る理由がないからリアルでお願いすることになるけど問題ない。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

フッフッフ・・・・・目的のスキルが読み通りに手に入った。いやぁ、それまでの苦労がすごかったぜ・・・・・(汗)。だがしかし、俺は成し遂げてやったのだ。レベルが下がろうとステータスが下がろうと持ち前のスキルで俺は勝ったんだ!! さて、少しのんびりしてからホームに戻るか―――。

 

「ようやく戻って来たか」

 

「ウェルカ~ム」

 

「年貢の納め時だぜぇ~」

 

・・・・・・あっ。

 

ガシッと戻って来た所を狙われて他のプレイヤー達に捕まってしまった。直接手を握られログアウトもインベントリの操作もさせてはくれない。

 

「えっと、解放してくれるとありがたいんだが」

 

「そいつは無理な相談だ。俺達も譲れないものがある」

 

「レベルだけリセットされるぐらいならいいじゃん。俺なんて所有しているもの全てなんだぞ? たぶん、俺の従魔達も譲渡される可能性があるんだが」

 

「是が非でも樹精ちゃんが欲しいから望むところだ!」

 

「ウッドちゃんが俺のものに!」

 

「クリスたんが欲しい!」

 

・・・・・ダメだこいつら。目先の欲望で我を忘れている。

 

「せめて懺悔の時間を・・・・・」

 

「連行しろ」

 

「イエッサー」

 

「性転換する時間でも?」

 

ピタリと俺の手を握るプレイヤーが動きを止めた。俺を囲うプレイヤー達も例外ではない。ふむ・・・意外といけそうだ。

 

「【飛翔】」

 

「「え?」」

 

放してくれないならそれでいい。動きを止めた一瞬の隙を突いて空へと舞い上がった。

 

「フハハハハハ!!! このままお前らを地面に叩きつけてやるぜ!!」

 

「「ちょっ!?」」

 

どんどん空高く昇る。それに伴い減っていくMPはアイテムをショートカットで使用できるアイテム欄に設定した、イズ手製のポーションで相殺しながら太陽に向かって飛んだ。さて、そろそろこの辺りに落として・・・・・ん!?

 

「うわっと!」

 

「はっ!?」

 

「あぶっ!」

 

三人して太陽から放たれたと思しき光の矢を目にして、慌てて回避した。しかも一本だけじゃなく豪雨を彷彿させる大量の矢が太陽から落ちて来る。

 

「太陽から矢が撃ち込まれてくる!?」

 

「誰かがいるのか!?」

 

「誰か? 太陽・・・・・矢・・・・・あ、もしかして」

 

三つのキーワードを経て俺の中である人物が脳裏に浮かんだ。二人に提案する。

 

「へいお二人さん。ちょっと俺に付き合ってみないか? スキルが手に入るクエストができるかもしれないぞ」

 

「・・・まさかここで白銀さん現象が発生するとは。どうする?」

 

「どうするって・・・・・この高さから落とされるのだけは絶対に嫌だ。おれ、高所恐怖症なんだぞ」

 

あれま、それは悪いことをした。でもま、協力せざるを得ないようで付き合ってくれることになった。

 

「よし、そんじゃ奴さんのところに向かうとしようか! 【小型化】! 【超加速】!」

 

「は、白銀さんの身体が小―――うわ、速いっ、速いっ!!」

 

「しかもこんな鬼弾幕を躱すって・・・・・ところで誰がいるのか分かったのかよ白銀さん」

 

予想はしているがな。

 

「多分あれだ。アポロンだ。ギリシャ神話の太陽の神の」

 

「太陽の神って・・・・・神のNPCがいるのかこのゲームに」

 

「実際に中国神話の四神や、NWOの神話には複数の神々がいるわけだし他にいても不思議じゃないだろう」

 

そういうことだ。まぁ、実際にどうなのかは直接確かめなくちゃな。

 

「ところでお二人さんのご職業は?」

 

「重戦士だ」

 

「俺は軽戦士。こんな時に何だが、どうして身体が小さくなってるんだ?」

 

「そう言うスキルだ。見ての通り身長が小さくなって【AGI】が+50になる。その代わりに【STR】が-50になるがな」

 

「え、それって【大型化】の・・・・・あ、あのスキルも白銀さんが発見したものか!」

 

おおー、察しがいいな。大正解だ。って、そんなこと考えている場合じゃない。豪雨の光の矢の奥から何やら極太の光が・・・・・。

 

「あれ、どう見る?」

 

「完全に仕留めにかかってこうようとしている」

 

「貫通攻撃も備わっていそうだなぁー」

 

ですよねぇ・・・・・うーん・・・・・。

 

「避けられないなら、突っ込むか」

 

「マジか!?」

 

「俺的に攻撃で死ぬか落ちて死ぬかの違いでしかないなら攻撃で死にたい。この高さから落ちたくねぇ」

 

高所恐怖症もこの高さまでくると死も当然か。であるならば・・・・・。

 

「重戦士、【同調リンク】で俺のスキルをお前にも使えるようにするからコンボで生き延びよう」

 

「は?」

 

「疑問を抱いているヒマ無い! はい【同調リンク】! スキルを確認しろ!」

 

「わ、わかった・・・な、なんだよこのスキルの数!? 情報量が多すぎ!! ざっと50以上もスキルがあるのかよ!」

 

「え、何それ。俺も見たいんだけど」

 

「リンクできたなら、試しに軽戦士にも【同調リンク】をしてくれ!」

 

重戦士は指示通りに動き、【同調リンク】はどうやら他のプレイヤーにもリンクできる仕様らしい。軽戦士の驚きの声が聞こえたからそれが判った。

 

「は、白銀さんの強みは防御力じゃなくてスキルの方だった・・・・・?」

 

「・・・大量のスキルがあれば極振りでの活動が成功できる秘訣を知った気がする」

 

「唖然としている場合じゃないぞ。あのドでかい光の矢が、迫って来た!」

 

他の矢を呑み込んで俺達の所に落ちて来る極太の光の柱。

 

「相手の攻撃をHPに変換するのが【生命簒奪】、相手の攻撃をMPに変換するのが【悪食】だ。三人でやれば何とかそれで凌げるはずだ。仮にできなかったとしても【不屈の守護者】でHP1で持ち堪えられる」

 

「ちょっと待って、それエグいスキル!」

 

「あ、この【絶対防御】ってスキル・・・うわぁ、そうかそう言うことだったのかぁ」

 

何かを知られたが今は後回し! さぁ、乗り越えようか!

 

「三人でまず【生命簒奪】!」

 

「え!? わ、わかった!【生命簒奪】!」

 

「【生命簒奪】!」

 

手を突き出して光の極太柱を触れた瞬間。俺達は光の柱に呑み込まれた。だがまだ生きている。これだけ修正されなかったから使用制限は無制限である!

 

「お、おいっ。俺のHPが過剰して増え続けているんだけどどうなっている!?」

 

「問題ない! 後日修正されるだろうがな!」

 

「それって大丈夫な案件か?」

 

「個人的には問題だ! くそー! 強すぎるから使用制限がされないよう控えていたのに!」

 

そんな俺の悲しみをスキルに込めて光の柱を突破していく。時間にして何分も経ったか定かではないが、HPが3000も超えた頃に視界が見慣れた青空に突然切り替わった。

 

「よっしゃー!!」

 

「すげぇ・・・マジで突破で来た。死に戻りする覚悟だったのにまだ高い空に・・・・・」

 

「微妙な気持ちを抱えているところ悪いが、見えたぞ」

 

太陽の光に隠れて見えなかった、空に浮かんでいる光の足場。俺達は当然そこに近づき足を着いた。

 

「これ、太陽に向かって伸びているよな。というか燃えないのか俺達」

 

「スリップダメージはともかく、【マグマ無効】と【耐暑】のスキルがあるからダメージはないと思うぞ」

 

「大盾使いのプレイヤーの中で一番なのが理解させられるスキル構成だよ」

 

太陽に向かって伸びる階段の先に神がいるのか分からないまま、俺達は第一歩を踏んだその瞬間にHPが減ったのを気付いた。これ、階段を登るたびに減るのでは? 二人が足を戻して俺だけ一歩踏んだまま検証。結果、登ろうとする階段はスリップダメージが発生することが判明した。

 

「これ、一段越えて登ったらどう思う?」

 

「ちょっと試す・・・・・うん、ダメージ量は変わらないけど、問題なのはHPが持つかどうかだ」

 

「飛んで行くか?」

 

「それは反則だろ。反則判定で何されるか分からないから止めた方がいいと思うぞ」

 

ならば反則無しで登るしかないので俺達は―――。

 

「速さが命!」

 

「HP回復アイテムで回復しながら全力で走り抜く!」

 

「行くぞぉー!!」

 

【AGI】はバラバラ。【小型化】して俊敏力を強化して料理アイテムのバフをこれでもかと盛った状態で長い階段を走り登る。

 

「ちょぉー!! 後ろの階段が落ち始めたぞ!?」

 

「後には引けないな! 落ちたら真っ逆さまだ!」

 

「それは嫌だぁー!!」

 

うぉおおおおー!!! と気合の入った声をあげながら駆け上る。ここまで来るのにHPを強化したのが図らずともスリップダメージが発生する階段を突破するカギとなったもの、俺達を妨害する罠がしっかりあった。

 

「目の前の階段が一気に落ちたぞ!? 飛び越えられねぇぞ!」

 

「【八艘飛び】で宙を蹴って移動できる! 【AGI】の数値異存で高いほど飛ぶ際の距離が伸びる!」

 

「羨ましいスキルだぁー!」

 

ぴょーん! と三人で宙を蹴って向こう側の階段に飛び乗ってクリア。

 

「HPがある雲が塞いだぞ!」

 

「【悪食】で突破ァ!」

 

「了解!」

 

妨害ギミックを難なく突破。その後は落雷に突風、暴風雨、仕舞いには空を飛ぶ生物が襲ってきやがった。

 

「マジでぇー!!?」

 

「あれは反則過ぎるだろう!! ―――ドラゴンなんてっ!!」

 

「体の色的に聖属性なのか? 真っ白で綺麗だな」

 

でもそうか。こんなところにいたのか。ただ、今は邪魔でしかない。インベントリから笛を出して召喚する。

 

「来いフェル!」

 

俺の横に白銀の魔方陣からフェルが召喚された。【念動力】をフェルに付与してやり。

 

「襲ってくるあのドラゴンを頼めるか。俺達が階段を登るまでの時間を稼いでくれ」

 

「グルルルッ」

 

唸り声をあげて俺から離れ宙を掛けるフェルが白いドラゴンと衝突した。よし、今の内に登りきる!!



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天界

 

落ちる階段に追われながら駆け上る俺達はそれからも体力の続く限り登った。視界の端に白いドラゴンと戦う銀色の狼の戦闘が映り込むが足を止めている暇はないし余裕もない。太陽に続く階段は途中で螺旋状になり、俺達の傍に通り過ぎる白いドラゴンとフェル。焦燥に駆られそうになりつつ階段を登ると俺達は別のエリアに切り替わるエリアに足を踏み込んだ。

 

「ぜぇ、ぜぇ、ぜぇ・・・・・こ、ここってどこだ・・・・・」

 

「はぁ、はぁ、はぁ~・・・・・つ、疲れたぁ・・・・・」

 

このぐらいで疲れ果て・・・・・いや、日頃から運動していないからバテるのも早いだけ? とにかくこれ以上階段を登ることもなさそうだ。フェルがどうなったのかわからないが。

 

『プレイヤーが「天界」エリアに辿り着き解放しました』

 

アナウンスを聞いた俺達は首を傾げた。

 

「天界だってさ」

 

「え、天って・・・ええええ???」

 

「マジで神がいるのか?」

 

気持ちはわかる。何せ俺達は弾力ある雲海の上に立っているが人? が住んでいる町は見当たらないからな。

 

「さっき解放されたってアナウンスが聞こえたんだが、どうやって地上に戻れるんだ?」

 

「落ちるしかないんじゃないか? それか天界の原住民の協力を求めるかだ。俺、魔王だからできなさそうだなぁ・・・・・」

 

「と、取り敢えず休んでから行こう。ここでログアウトしても大丈夫だと思う?」

 

「問題はないだろ。ただ、モンスターがいる考慮をすればログアウトは安全な場所でしたほうがいい」

 

歩くよりもミーニィの背中に乗って探した方がいいしな。というわけでミーニィを召喚して【巨大化】のスキルで身体を大きくしてもらったその背中に乗る俺達。

 

「なぁ、最初からこのモンスターで行ったらよかったんじゃ?」

 

「途中で疲れて落ちるぞ」

 

「やっぱりか。で、どうして真っ白な装備に天使の姿になっているんだ?」

 

「原住民への第一印象をよくするためだ!」

 

「魔王の印象を無くしたいなら倒されればいいのに」

 

「アホ言え! そんなことしたら俺の所有しているもんが殆ど失うじゃんか! そしたら俺はもうこのゲームを引退するぞ、もうやってられっか! 的にな。しかもお前、従魔まで譲渡される形で俺から奪った後のことを考えろよ」

 

最後は忠告とばかりに重戦士にそう告げる。何のことだとばかり訳が分からなさそうに俺を見るので溜息を吐いた。

 

「俺から奪ったお前は、俺の従魔のファンを全員敵に回すことになり兼ねないぞ」

 

「「あ」」

 

「俺を倒すのがイベントだからしょうがないとしても、白銀さんの従魔を奪ったって印象を抱かれてもおかしくない状況だぞ」

 

「いやでも、正式な報酬だしそれは・・・・・」

 

「それで従魔のファンプレイヤーがニッコリ笑顔で納得してくれると思っているなら、現実を甘く見ない方がいいぞ。掲示板を見てみろ」

 

二人はその通りに掲示板を見て、従魔ファンのスレの会話内容を見て・・・・・青褪めた。

 

「ヤ、ヤバい・・・・・処される、これ、本気だ・・・・・」

 

「白銀さんを捕まえたところを見た? は? 従魔を奪ったプレイヤーの暁には晒してでもこのゲームから追放してやるって、白銀さんを狙うプレイヤーも全員晒すって・・・・・」

 

「な、そこまでするのかってぐらい本気なんだよそいつ等。さすがの俺もドン引きするわ。レベルのリセットを守るために俺を倒す代わりが、ファンからの壮絶な粘着執着行為をその身で受けることだ。ストーカー行為も喜んですると思うぞ。たかがゲームなのにでもだ」

 

そんな光景を繰り返すプレイヤー達を想像すると、うん、顔が引き攣るな。

 

「「すみませんでした」」

 

そして俺を狙った二人はミーニィの背中で土下座をして謝り出した。よし、説得成功だ。

 

謝罪を受け取ってからそれなりに時間が経った頃、雲海に聳え立つ山のような形をした雲に町が建っていた。ようやくNPCに会えると踏んだ矢先に俺達の目の前に閃光が飛んできて大盾で防いだ瞬間に爆ぜた。

 

「うおっ、なんだ!?」

 

「大丈夫か白銀さん」

 

「爆発の耐性は備わっているから問題ない。さて、ようやくお見えか」

 

空から降りて来る純白の翼を持つ白い衣を着たイケメンの男。その手には淡い光を纏った弓が握られている。

 

「私の矢をここまで掻い潜った且つ天界に踏み込んだ下人は初めてだ」

 

「あそこまで攻撃されちゃあ、どんな相手なのか気になるだろう。鳥みたいに簡単に射止められるほど甘くはないぞ」

 

「それは失敬。煩わしく飛ぶコバエでなく鳥のつもりでいたとは」

 

「そのコバエすら満足に撃ち落とせなかったな。手抜きにしては下手くそじゃないのか?」

 

「足掻く様を見てみたかったのだよ。中々楽しませてもらった代わりに今度は・・・・・む?」

 

こいつの性格がよーくわかったところで男は怪訝に目を細めた。

 

「・・・なんだそれは、とても信じられん。下人ごときが各主神の祝福を受けているだと?」

 

称号のことか。プレイヤーの称号を見抜くことができるNPCなんだな。

 

「ちっ、土足で天界に来れるだけの器の下人か。神獣と精霊とも深いかかわりを持っているのも気に食わん」

 

「言いたいことは何となくわかるが、ここ天界まで来れた実力も認めて欲しいもんだよ」

 

「ふん。だったら私と戦って―――」

 

「くぉらああああああああああああああああああああああああアーポローンッ!!」

 

野太くバカでかい怒声と共に雷が目の前の男を丸太のような太い腕でラリアットをかました。突然のことで俺達は硬直、ポカンと口を開けてしまった。

 

「こんのアホンダラ!! 地上にあれだけの矢を放ってからに!! 何やらかしてんだ!!」

 

「・・・・・」

 

「おい聞いてんのか!!」

 

今の一撃で白目剥いて口から白い塊が抜け出そうになっている男に怒鳴るのは、身長が5メートルもある巨大な人間。白髪と白い髭を蓄える筋骨隆々の老人とは思えない生気を感じさせる。

 

「・・・・・あの、そいつ、気絶してる」

 

「あん? なんだこの程度で気絶とかするのかこのモヤシめ。鍛え方がなっとらんな―――おん?」

 

今俺達に気付いたとばかりな反応をされた。こっちを始めて向いた老人は物珍しいものを見る目で見た後、不敵に笑みを浮かべた。

 

「ほほう、下人の者共か? よく天界まで来られたものだな! 今まで一人たりともこの天界に来なかったというのに!」

 

「ちょっとばかり神話に触れたから」

 

「なるほどなるほど・・・だがそれだけではないな。主神達の祝福を享け賜わっておるではないか。これまた珍しい」

 

アーポローンと呼んだ男を雲の上の町の方へ軽々とゴミのようにポーンと扱って投げ捨てた老人。

 

「天界へようこそ下人達よ。ここは神々が住まう下人達からすれば神聖な世界へ」

 

◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆

 

天界、神々が住んでいる下人・・・地上の人間、下界、人間界といくつも呼称がある俺達が活動していた世界と隔絶していた世界に運よく辿り着けたらしい。飛行能力があっても天界に辿り着くことは一部を除いて不可能らしい。その一部が太陽にまで伸びていた階段のことだ。あれは神々が人間界に降りるための階段で、広い世界の中で一つしかないらしい。しかもランダムで消えたり出現するだとか。

 

「がっはっはっはっ! そうかお前、人間界の魔王か! 魔王が天界に来るなど天界始まって以来の珍事だな!」

 

豪快に笑う老人に、名前はゼーウスについていく。雲の町中に入ることができた俺達は珍獣を見る目つきなNPC達の視線を一身に浴びる羽目になっている。

 

「ここまで来たんだ。地上に戻る前にゆっくりするがいい」

 

と言うお誘いを受けて町中に入らせてもらったが、聞けば天界にもモンスターの類の生物がいるほか、家畜の生物も存在しているとか。

 

「アポーロンがすまなかったな。天界は娯楽が少ないから地上から飛んで来る生物を射抜いて退屈を凌いでいたのだ」

 

「俺達を退屈しのぎで・・・・・?」

 

「とんでもねぇ・・・・・」

 

「じゃあ、そういう自分は何をして退屈を凌いでいる?」

 

「そりゃあお前、天界には別嬪の女神がいるのだぞ。わしのごんぶとの槍で毎朝毎夜貫いておるわ」

 

とんでもない下ネタが返され、この場に女性メンバーがいなかったのが幸いだった。

 

「神々は天界に降りることは?」

 

「ないな。一度下りたら最後、神の力を封印され下人と同程度の力しかなくなる。そういう世界を主神達が作ったのだ」

 

「不便・・・いや、天界で生きるのが飽きているなら不完全で不条理な世界を楽しむのも悪くないと思うんだがな。刺激で満ち溢れているぞ?」

 

「刺激・・・・・それは楽しいものなのか?」

 

さて、それは断言できないな。どう感じるのか本人次第だ。

 

「俺達も異方から来た身だ。個人的な感想を言わせてもらえば・・・楽しいぞ?」

 

「そうか、楽しいのか。主神達が創造した世界・・・・・この目で確と直で見てはおらんな」

 

「そうだったのか? じゃあ、いつか直接降りて見てみるといいぞ」

 

なお俺達は露店で売られている物を冷やかし&物色している。天界でしか育たない植物や作物は大変興味がございます。

 

「天界ではお金は?」

 

「G〈ゴット〉だ。地上から来たお前達は天界の金など無一文だろう。地上で得た物資を今持っておるならば買い取ってやるぞ」

 

「え、本当に?」

 

「インベントリに何があったっけな・・・・・」

 

軽戦士と重戦士が所持品を確認するように俺も手持ちのアイテムを見直す。

 

「うーん・・・・・宝石肉でもいい?」

 

「食材でも構わんぞ」

 

と言う承諾を得たので取り出した宝石肉の大きさにゼーウスは感嘆の息を漏らした。

 

「天界でもこの大きさの肉は見たことがないな。作ってもらえばさぞかし美味な肉料理となるだろう。100万Gで買い取ってやる」

 

「お、ありがとう!」

 

手に入った金で早速作物を売っている露天に足を運んだ。そこで店を構えているNPCが声を掛けてきた。

 

「いらっしゃい下人さん。天界でしか手に入らないものがたくさんあるよー」

 

「地上でも育てることができる?」

 

「うーん、それは実際に植えて育ててみないと私も分からないな。育てることが可能でも品質が下がるかもしれないしね」

 

「なるほど。でもせっかく来れたから記念に全種類を買いたい」

 

「毎度あり! じゃあ、ちょっとばかり色を付けるよ。あ、なんだったら地上の作物を持ってるならそれと交換でもいいよ」

 

物々交換が可能とは。うーん、作物か・・・・・逆に何があるのか調べないと交換はできないぞ。

 

「普通に買取でお願いする。天界の作物を全部知った上で交換がしたいから」

 

「慎重派だね。でも何でもいいからねー」

 

「被ってもいいのか?」

 

「たくさんは困るけど一個二個程度なら被ってもいいよ」

 

「そうか。じゃあこれで」

 

虹色の実と交換をお願いしてみるとNPCが驚きの声をあげた。

 

「おや、神獣達の為に用意させた虹色の実じゃないか」

 

「え、天界にもある?」

 

「元々は天界に群生していた植物だからね」

 

いいことを聞いた。地上でも育てることができるならたくさん買い占めたいところだが天界にもホームオブジェクトはあるかな? ゼウスに聞いたら。

 

「あるぞ。見に行くか」

 

「是非とも」

 

軽戦士と重戦士の二人もその後、武器屋を見てみたいと申した。ゼーウスの案内で目的の店に入ると、語彙力が失うほどすごいものばかりだった。

 

「なんだ、これ? 店主、これはなんだ?」

 

「そいつは『天の恵み』と言ってな。定期的にこの雲に水を吸わせりゃ自動的に降る雨が作物に水を与えるのさ。その水で育った作物はより美味しくなるぜ」

 

「この雲だらけは?」

 

「天界じゃ雲でしか育たない物もあるからな。雲畑と言うんだ」

 

「じゃあ、これは?」

 

「雲の道だ。足場がもふもふするだけじゃなく、量次第ではどんな形にも変えられる」

 

くっ・・・・・どれもこれも欲しいオブジェクトばかりじゃないか! 他にもここでしか手に入らない物がたくさんあって100万だけじゃ足りないっ。

 

「ゼーウス、お金が足りない。稼ぐ方法はないのか?」

 

「無いことにはないが下人に仕事を与える物好きな神はそうおらんぞ」

 

「それ以外では?」

 

「そうだなぁ・・・天界は娯楽が少ない。神でも予想できん娯楽が出来れば稼げるかもしれんぞ」

 

神でも予想外な娯楽か・・・・・。・・・・・ダメだ用意しようにも天界までの移動方法が確立できない以上どうすることもできないぞこれ。

 

「地上と天界が行き来できる環境だったらなぁ」

 

「それはさすがに無理だな。神々が住まう世界にお前達が来ただけでも奇跡的なのだ。今回は特別に案内しているが、本来は許されないのだぞ?」

 

「あー、そうなのか・・・・・じゃあ、さっきの肉をもっと買い取ってくれたりできる?」

 

「まだあるのか。それならこちらの言い値で買い取らせてもらうがよいか」

 

「ここにある商品を複数揃えて買える値段でも構わない!」

 

とゼウスと交渉した末に俺が望むだけの個数のホームオブジェクトを買い込めた。その後は予定通り武器屋に訪れると天界の神匠が作った品々はどれも凄かった。神の剣、神の盾や鎧など・・・・・待ってくれ、なんだ、この装備。軽戦士と重戦士もこの異様過ぎる装備を見て一緒に言葉を失ってた。

 

「ほう、それに目を付けるとは」

 

店主、この店を経営している神だがトンデモ装備を遠い目で見上げた。

 

「これはいったい、そもそも、なんでまたこんなものを作ろうと思った?」

 

「・・・・・若気の至りで作ったのが間違いだった。あの時の俺はどうかしていたんだ」

 

「・・・・・もしかして、他にも若気の至りで作ったものが?」

 

「あるにはある。俺の恥ずかしい作品がな」

 

なんだか興味が湧いたから見させてもらうと、うん、色々と突っ込みたい物が多くあった。

 

「なにこの、巨大な猫じゃらし・・・・・え、連続ダメージ?」

 

「まって、釘バットなんてネタ武作れるのか!?」

 

「血染めの巨大鋏・・・・・ウッ!」

 

「この武器、装備した1秒後に自壊って、なのにこの攻撃力・・・・・」

 

「なんで箒とデッキブラシにモップまで武器になってんだ!!」

 

「頭装備にバケツまであんぞ」

 

もう口に出さずにはいられない武器と防具がたくさん眠っていた。うーん、神匠なのに無駄な技術力を・・・・・。

 

「あのー、これって購入できる? 地上で使ってみたい」

 

「使う気なのか。正気か?」

 

特に多段ヒットする猫じゃらしを揺らしは、面白いの一言。彼は苦悩の表情でこう答えた。

 

「失敗作もいいところの作品を使いたい物好きが下人にいるとは」

 

「失敗作だろうと作られた瞬間、武器にも存在意義があるんだよ。これを見て下人の鍛治師達はビックリしながらも凝り固まっていた偏見や常識を見直す一躍にも買ってくれるよ」

 

「・・・・・失敗作でも、か」

 

そんな発想はしたことがないように店主は目を丸くしては、小さく笑みを浮かべた。

 

「面白い下人だ。神匠の俺に失敗作を諭す下人と出会えるなんて思いもしなかった。改めて自己紹介をさせてくれ。俺はファイタンだ」

 

「死神・ハーデスだ」

 

握手を交わしあったその時。神と友好を交わした称号が貰えた。

 

「そこまで物好きに使ってみたいなら、失敗作だから金はいらない。好きなだけ持っていけ。失敗作だが、性能だけは確かだ」

 

「わかったありがとう!」

 

ヤッホーイ! 失敗作の神の作品ゲットだぜ!

 

 

 

「会話で武器をタダで手に入れたぞあの人」

 

「コミュニケーションの怪物なのか」

 

「おーい、お前達も貰っていいってさ。失敗作限定だけど欲しい物があるならいまのうちだぞー」

 

「「え、俺達も? あざーす!!」」

 

 



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地上へ

イズside

 

スクショコンテストとアイテムコンテストのイベントはハーデスが不在のまま終わってしまった。三つの部門で選出される最初に公開されたモンスター部門では、1位だったのはハーデスの従魔が集合して和気藹々な光景、2位は空飛ぶ巨大なクジラとリヴァイアサンが戦っている写真、3位は神獣だらけのスクショ・・・・・全部ハーデスが関わっている物ばかりで何だか納得しちゃった。

 

ギルド専用のスクショ部門のコンテストは、ハーデスが強制的脱退させられたために本命が欠けた状態ではパンチ力がない結果となり入賞すら入らなかった。テイマーのプレイヤーが揃って「運営! 余計なことをするな!」って怒鳴っていたのが凄く印象的だった。でもほんと頑張ったのに残念な結果だわ。

 

 

個人部門では何故か性転換したハーデスが一位だった。なんなの、堕天使エロメイドって・・・・・。

 

 

一方アイテムコンテストでは・・・すごい、セレーネが一位だったわ! 私はその次の2位!

 

 

「おめでとうセレーネ。やったじゃない」

 

「あ、ありがとう。私が一位だなんて、今でも信じられない」

 

自分の得意分野には誰にも負けないという気持ちが強いセレーネと褒め合い、更に他の人のアイテムを確認した。

 

「あら、これは珍しいわね〈従魔の絆環〉って」

 

「うん、従魔と合体が出来るスキルが使えるなら、これからテイマーが増えるかもね」

 

しかも5位と割と高くランキングに食い込んだ。これ、ハーデスが関わってたりしているかしら?

 

「で、流したけど3位はNPCが作った装備同士を融合させる秘薬ね」

 

「NPCもコンテストに参加できるんだ」

 

となると、神匠の鍛冶師NPCが参加していたら負けていたかもしれないわね。

 

「4位は、へぇハーデスの従魔の木彫りじゃない。凄くリアルに塗装もされているわ」

 

「すごいね」

 

本職の木工プレイヤーのトップを差し置いて高いランキングに食い込んだハーデスに感嘆する。いつの間に彼はこんな作業をしていたのだろうか?

 

「さてさて、報酬は何かしらね?」

 

「うん、入賞したプレイヤーはメールでプレゼントが送られるって。あ、もう来てた」

 

私の方もそうだった。送られた報酬は『神秘の護符』。所持しているだけでアイテムを生産する際の個数が3つに増える上に全てのアイテムの効果が2倍になる・・・あらやだ、すごくいいじゃないこれっ。

 

「セレーネ、私はいいアイテムだったけれど貴女は?」

 

「えっと・・・テイムモンスターだった」

 

真っ白な光の玉から小さな翼が生えた、妖精とも精霊ともつかぬものが浮かんでいた。少し困惑した表情のセレーネに質問を投げた。

 

「へぇ、可愛いじゃない。どういったモンスターなの?」

 

「えっと・・・実際に見てもらった方がいいかも」

 

と言うからセレーネのテイムモンスター、フェイの凄さを拝見させてもらったら。凄く有用的なものだと知って、『神秘の護符』よりも彼女のテイムモンスターが欲しくなったのは言うまでもない。どこで、どこにいるのかしら・・・ハーデスに頼んで見つけてもらわねば!

 

 

 

 

 

 

ゾクリッ。

 

「どうした白銀さん?」

 

「いや、なんか殺意的な何かを感じたような気がした」

 

「殺意的なのは無理もないと思う。魔王だから狙われているし」

 

いや、そういう類とは少し違うような・・・・・ま、いいか。スクショとアイテムコンテストのイベントも終わったし、今は俺を狙うだけのイベントが残っている。天界に居座り続けるのもいいが、長居は出来ない感じのエリアみたいだからなぁ。

 

「そろそろ地上に降りるかー」

 

「そうだな。一度モンスターと戦わせてもらったが・・・・・ありゃあ無理だ」

 

「敵わねぇ・・・敵わねぇよ・・・・・何だよレベルが500って」

 

うん、そうだったのだ。神が住まうエリア外では化け物クラスが蔓延っていた。主に巨人で全員武装していた。しかも当たり前のように防御力を貫通する攻撃をされた日には俺もお陀仏にされた。ダメージを与えれたとしても一ミリもHPゲージが減っていないのが絶望の始まりに過ぎない。

 

「倒せたらよかったんだがなー」

 

「白銀さんが踏み潰された瞬間を見た俺達も絶望したけどな」

 

「弱体化しているって本当なんだな」

 

弱体化する前でも勝てる気がしないがな。レベルが高すぎるんだよあいつ等・・・・・。

 

「ま、色々とここでしか得られないものが手に入ったし個人的には満足だ」

 

「それな。みんなに自慢できるぅー」

 

「地上に戻ったら俺は自慢するんだ」

 

ということでゼウスに地上に戻ることを伝えると短く「そうか」と言った。

 

「短い間だが普段と違う時間を過ごせて楽しかった。お前達と出会えた今日を思い出にしよう」

 

「また来て会いたいところなんだけどなー。また天界に来れることできる?」

 

「お前みたいに主神達に見守られた下人ならば来れることはできるかもしれん。が、ここは神々が暮らす天界だ。今回だけ天に続く道が出現してそこから来たお前達は運が良かったが、天界は安易に来れないところだ。まずは主神達に認められるよう努力をするのだ」

 

「認められたら?」

 

「地上にいる神獣に頼めば天界に連れて行ってくれるだろう。が、その前に全員を実力で認めさせねばならないがな」

 

あ、意外と何とかなる。

 

「で、地上に戻る方法は・・・・・」

 

「そうだな。ないことにはないが、選択権を与えようか」

 

「選択?」

 

頷くゼウスは三本の指を立てた。

 

「一つは自力だ。まぁ、ここから飛び降りるか自分で飛ぶかだな」

 

「俺は出来るけどこの二人は無理だな」

 

「「できる方が大概なんだが」」

 

そう言うスキルがあるんだよ。

 

「もう一つはペガサスに乗って地上に戻る。これはお前達にとってかなり難しいだろう。棲息している場所は巨人どもが蔓延っている場所のさらに奥にいるからな」

 

「天界にいるんだペガサス。最後は?」

 

「自分達で翼を作る事だな」

 

翼を作るって・・・イカロスじゃあるまいし。

 

「どうやって作るのか教えてもらっても?」

 

「それこそ、ペガサスの羽を集める必要がある。どうするかお前達で決めるがいい」

 

相談タイム開始。

 

「自分で作るなら、空を飛べるアイテムかスキルあたりが手に入りそうな予感するぞ」

 

「それってなんの生産する職業なんだ?」

 

「作るにしてもレベルが足りないぞ」

 

「じゃあペガサス自体を狙う? 道中は巨人と絶対に戦うことになるんだが」

 

「「ムリムリ」」

 

であらば一つしか残されていないわけである。

 

「自由落下して地上に戻ることにした」

 

「そうか。だが、せっかく出会えた下人だ。これを送ろう」

 

不意にゼウスからそう言われた俺達はアイテムを貰った。

 

 

『タラリア』

 

装備中は飛行可能になる。

 

 

「え、こんなアイテム貰ってもいいのか?」

 

「構わない。それはあのアポーロンのバカが迷惑をかけた詫びだと思ってほしい」

 

そう言えばもう意識を取り戻してもいい筈なのに顔を見せて来なかったな。ま、また来た時に顔を出せばいいかな。俺達は有翼のサンダルを装着、穿いてみると小さなサンダルの翼が大きな光翼と化して展開した。

 

そして―――俺達は天界から飛び降りた。風邪を切る勢いで落ちながらもサンダルの翼が羽ばたき鳥のように俺達を飛ばしてくれる。

 

「いやっほうー!!!」

 

「きんもちぃー!!」

 

初めての飛行を体験する二人が地上に降りるまで楽しんでいたのは言うまでもない。MPを必要としない飛行できるアイテムはあるけど、移動しながら戦える点では『タラリア』の方が便利だ。イズとセレーネに頼めば量産できてしまうかな?

 

「それじゃお前ら、またどこかで会おう」

 

「今度は戦いに挑むからな!」

 

「今回は貴重な体験をありがとう白銀さん!」

 

二人と別れそのまま始まりの町まで飛んで行く。着くと俺は早速タラリアに足を運んだ。

 

「ヘルメス、売りたい情報があるんだけどいいかな?」

 

「・・・・・その、翼が生えたサンダルのことかしら」

 

「アイテムの名前は『タラリア』って言うんだ。見ての通り飛行能力が備わっている」

 

「な・・・・・!」

 

「ヘルメスがこのアイテムを持っていないなんておかしいよなぁ~? ヘルメスって名前を返上しなくちゃいけなくなるんじゃないか?」

 

ニヤニヤといやらしい笑みを浮かべながら天界の情報を売ったら、何故か涙目で今にも泣きそうなヘルメスを置いてマイホームへ戻った。

 

「オルト兄弟集合!」

 

「ムー?」

 

呼び掛けに応じたノーム達が集まってくれると、天界で得たファーマー用のオブジェクトと作物を出して早速取り掛かった。『天の恵み』は畑に設定すれば自動的に動いて畑に水を与えてくれるようになった。

 

「この雲畑なんだが、どこがいい?」

 

「ムー」

 

話し合いを始めるオルト達が出した結論はホーム以外の畑で設置することになった。

 

 

見守り隊side

 

 

「おい、白銀さんが来たぞ」

 

「スクショコンテストのモンスター部門では堂々の一位だったな。トップテイマーは伊逹じゃないか」

 

「ギルドの方は残念だったがな」

 

「【蒼龍の聖剣】が入賞すら逃したのは衝撃的だったよな」

 

「・・・・・なぁ、なんかわたあめみたいなのを畑に設置し出したぞ」

 

「ノームがそこに何かの種を蒔いて? 埋めて? みたいなことをしているな」

 

「???」

 

「白銀さん、今度は何をどこで見つけたんだ・・・・・気になってしゃーないぞ」

 

「待て待て、畑に雲を出したぞ。何で消えないんだ」

 

「あの雲に水をかけ始めて・・・は? 畑に水を撒き始めたぞ」

 

「お、白銀さん追いかけの侍風のプレイヤーが来たな」

 

 

 

「おーっす白銀さん・・・・・なんだその雲みたいなのは」

 

「新しく見つけたエリアで手に入れたファーマー用のオブジェクトだ」

 

「え、マジで? そのエリアって俺も行けれる?」

 

「絶対に無理だ。ベヒモスとジズ、リヴァイアサンを倒して勇者の称号とスキルを集めて、神話関係の称号を手に入れる。その上で四神を倒さないと行けないぞ」

 

「・・・・・白銀さんみたいな強いプレイヤーじゃなきゃダメなエリアって」

 

「そんなエリアの外にはもれなくレベル500のモンスターがいて、試しに挑んだら踏み潰されました俺です」

 

「レベル500!?」

 

「一蹴されたぞ。現時点で誰も倒せないや。でも、それなりに得た物がある。その一つがこれだ」

 

「えーと、それって俺達の分もあったりする?」

 

「勿論。欲しいなら売るぞ、物々交換でもいいからな」

 

「あざーっす!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

【農業】農夫による農夫のための農業スレ36【ばんざい】

 

 

 

:NWO内で農業をする人たちのための情報交換スレ

 

 

 

:大規模農園から家庭菜園まで、どんな質問でも大歓迎

 

 

 

:不確定情報はその旨を明記してください

 

 

 

:リアルの農業情報は有り難いですが、ゲーム内でどこまで通用するかは未知数

 

 

92:佐々木痔郎

 

 

今回も白銀さんから凄いものを交換してくれた俺からの報告だ

 

 

93:タゴサック

 

どんなすごいものだ?

 

 

94:佐々木痔郎

 

雲のオブジェクトだ。一つは『天の恵み』と言う雲を畑に設置して雲に水を雨雲になるまで与えると、自動的に畑に雨を降らして水を撒いてくれる。しかもその水で育った物の品質が高くなる

 

 

95:ノーフ

 

雲が水を撒いてくれるオブジェクト? それってどこで手に入る?

 

 

96:佐々木痔郎

 

ファーマーの俺達じゃ絶対に行けない。なんせ三体のレジェンドのレイドモンスターを倒して、四神も倒さないと行けないエリアだから。白銀さんはどうやらそういう正規のルートではなくて裏ルートから運よくそのエリアに行けた模様。

 

 

97:チョレギ

 

裏ルートって?

 

 

98:佐々木痔郎

 

空高く飛んでいたら太陽に続く足場を見つけたんだってさ。何とその先には神々が住んでいる天界だったのが驚きだ

 

 

99:セレネス

 

天界!?

 

 

100:つるべ

 

いやまぁ、冥界もあるんだし天界もあるんだろうとは思ったけど

 

 

101:チャーム

 

とうとう天国まで行っちゃったのかぁ・・・・・

 

 

102:つがるん

 

天国に行くには地獄を体験しろとは鬼畜かな

 

 

103:ダイチ

 

それで、他には何と交換ができたのか教えてもらっても?

 

 

104:佐々木痔郎

 

他は『雲畑』。地面の畑じゃなくて地面の代わりに雲が畑になる。その雲畑しか育たない作物があるから今植えているところ

 

 

105:プリム

 

天界の食べ物はありますかー?

 

 

106:佐々木痔郎

 

あるぞ。ただ、旧大陸の通貨と天界の通貨が違うらしくてな。手持ちの物と換金しても残念ながら全員分は買えなかったと嘆いておりました。

 

 

107:チチチ

 

揃えようとしてくれている辺りイイ人なんだよあの人は

 

 

108:タゴサック

 

天界の種はどのぐらいある?

 

 

109:佐々木痔郎

 

10種類以上はある。が、欲しいなら白銀さんではなく俺のところで交換してやるぞ

 

 

110:ネネネ

 

なんで?

 

 

111:佐々木痔郎

 

あの人ギルドから脱退させられた上に魔王として他のプレイヤーに狙われているだろ。のんびりとしていられないから頼まれたんだよ

 

 

112:タゴサック

 

ああ・・・無防備な所を狙われたくないからか

 

 

113:つるべ

 

運営もとんでもないイベントを始めるな。全プレイヤーのヘイトを一人のプレイヤーに集めるなんて

 

 

114:チョレギ

 

魔王だから、だろうね。魔王だから倒して当然みたいなアニメや小説、ゲームはありふれてるし

 

 

115:プリム

 

なんだか白銀さんが可哀想です!

 

 

116:ダイチ

 

そう言う同情的な意見も少なくはないだろうが、運営も予想外だったろうな

 

 

117:チャーム

 

その心は?

 

 

118:ダイチ

 

どうやって魔王になったのかは知らないけど、全プレイヤーが魔王討伐をするイベントなんてかなり難しい条件じゃなかったかなって。ほら、魔王の弱体化が確認されたってワールドアナウンスで聞いただろ?

 

 

119:ネネネ

 

あ~そんなこと言ってたような・・・・・?

 

 

120:セレネス

 

そうか。白銀さんが弱体化しなければイベントも発生することが無かったんだ

 

 

121:ノーフ

 

弱体化する条件もかなり難しい筈だった?

 

 

122:タゴサック

 

だが、死神・ハーデスは?

 

 

123:佐々木痔郎

 

白銀の先駆者であるからして、極めて難しい条件をも難なくクリアしてしまうサスシロな人だ

 

 

124:ダイチ

 

つまり、悪いことをしていないのに自業自得的な感じになっている状態

 

 

125:プリム

 

え、えっと・・・・・どんまいです!

 

 

126:チチチ

 

あの人、ギルドに戻ってくれるのだろうか?



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