異形の英雄──歪んだ瞳に映る物── (バルシューグ)
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第一話 ある英雄

一話

 

 

 

 

ヒーローとは?

 

 

 

 

 

 

 

 

貴方にとって『ヒーロー』という存在は何ですか?

 

 

 

 

 

人を超える力・知識・技術を持つ者

 

 

 

悪を倒す正義の者

 

 

 

人を救う者

 

 

 

 

 

 

と、考えるのが普通なのかもしれません。いや、もしかしたら別の考えを貴方は持っているのかもしれない。ですが、それだけが英雄(ヒーロー)という存在なのですか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

───否

 

 

私は思います。

英雄という者はその身に大きく強靭な野望、欲望を持ち、それを行動に起こした者の事を言うと私は考えます。

 

 

たとえ殺戮を繰り返す悪だとしても、何か計り知れない別の大きな物の為にした行動であれば…

ある別の視点からは英雄となる。

 

 

 

 

 

悪と正義は紙一重なのです。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

と、ある者は話した。

 

 

 

 

 

が、ある者はその意見に反対した。

 

正義は正義、悪と悪、それはちがう!と…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺は思う。

正義だの悪だのどうでもいいと。

 

他人がどう思おうが、どう考えようが、大きな被害を受けようが俺に影響がない限り関係ない。

 

 

 

所詮、他人は他人でしかないのだから。

 

 

 

俺は思うがままに生きる。

手に持つ力を自分の為だけに使う。

 

 

 

 

 

 

と、中二病的な事を考えながら俺はある町のある場所にて座っていた。

 

 

静かで長閑な高台に俺は腰を下ろしていた。

 

ここはいい。

何か有ればすぐにわかるし、ゆったりと過ごせる。

俺は平和主義では無いが静かな場所は好きだ。

矛盾しているかもしれないがそんな事さえどうでもいい…

 

俺は俺、どう考えようが俺なのだから。それを否定するのは誰であろうと無理なのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

男がそんな風に思考していたその時、突然町に大きな火災が起きた。瞬く間に被害は大きくなり、町全体を覆い始めた。

 

 

 

 

 

「……」

 

 

男は静かにその重い腰を上げる。

 

 

そしてあり得ない速さでその被害の中心へと向かい始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

男はヒーローである。

 

この世にはヒーローを名乗る事が出来る。

ヒーロー協会という所にてヒーロー名簿に登録出来れば誰であろうと英雄(ヒーロー)になる事が出来るのである。

 

ヒーローには実力ランキングや人気ランキングなども存在し、世間では常にヒーロー達の話題で盛り上がっているわけだ。そのため、ファンクラブを持つヒーローも少なくない。

 

 

ヒーローは戦闘能力や社会貢献度からS・A・B・C級にランク付けされている。

この男はその並ならぬ戦闘能力と怪人の撃退数からA級に位置していた。

他のA級ヒーローに比べると多くの者が知ることは無いが、知る人ぞ知る英雄として知られるこの男の名はーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

───宮谷(みやたに) 鵞仙(がせん)と言った。

 

 

 

飛べず、飼い慣らされた鵞じゃなく、常識にとらわれない仙のように非凡な物を持ち、自分を貫いて欲しいと付けられた名である。

 

男はその名で苦労し、またその意味を知って頑張る事が出来た。

 

 

更に鵞仙にはヒーローネームがあった。ある程度の力を持つとヒーローネームを名付けられる。

 

そのヒーローネームは『漆黒の殺戮者』といった……

人によっては(笑)を付けることもある。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「潰れろぉォォォォ!!!俺の力の前になァ!!」

町を破壊する異形の存在がそう叫ぶ。その怪人の災害レベル…いわゆる脅威度は『虎』

 

神・竜・鬼・虎・狼の順にランク分けされ、その怪人の災害レベルはまだ弱いレベルの『虎』だ。

が、『虎』であろうと多くの人命の危機が予想されるレベルであり、C級のヒーローでは倒すのは難しいだろう。

 

既に立ち向かったであろうC級ヒーロー数人が辺りに倒れている様子から伺える。

 

 

 

 

 

「何だァ?てめえは?またこのクズどもみたいにやられに来たのかぁ?このダイルアンガー様にな!!」

ダイルアンガーと名乗る異形の怪人は立ちはだかる鵞仙に威張り、そう言った。

 

 

「あ、あれは…鵞仙さんだ!漆黒の殺戮者が来てくれたぞ!」

まだ残っていた住民がそう叫ぶ。

首を傾げる者も居たが、残っていた住民の八割が歓喜をあげていた。

 

鵞仙はA級ヒーローの中で順位は14位、かなりの高さである。

しかし、知名度は低く、救われた者たちが多大なる支持を起こしているようだ。

 

 

 

「……消え去れ、愚物よ」

 

「あぁ!?」

鵞仙の言い放った一言にダイルアンガーは苛立ち、構える。

 

「調子こいてると死ぬぞォォ!!

おにいさんよォォ!」

ダイルアンガーはそう叫び、殴りかかる。鋭く、直線に放たれたその拳は鵞仙の身体を貫こうと迫る。

 

その一撃を見据えて紙一重で躱す鵞仙。

 

 

そのまま拳は地面に突き刺さり、辺り一面を崩壊させる。

その威力はヒーローでも当たればタダでは済まない程で有る、が、

 

 

「愚物よ…

その程度で威張り散らすか?

その程度の力で過信するのか?」

鵞仙は信じられないといった様な顔で呟く。鵞仙にとってはその程度レベルだった。

 

 

「強者で有るならそれ相当の風格と気品を持て…

貴様のその汚らしい物など塵でしかないぞ?こう言う私も大層な気品など持ち合わせていないがな」

当然のように言い、余裕の表情を見せる鵞仙。

 

 

 

「ッッッ貴様ァ!!!もういい!

シネエェェェ!!」

怒り狂ったダイルアンガーは鵞仙に襲い掛かるが、

 

 

「…この程度、か。

所詮は愚物。期待する事自体が馬鹿だったのだ」

と、溜息をつくと飛び掛かるダイルアンガーの胴体を殴り潰す。

 

 

その衝撃はダイルアンガーの内蔵と骨格を粉々に潰し、その巨体を垂直に吹き飛ばした。

更にダイルアンガーとの間合いを瞬時に詰め、頭部を叩き、完全に破壊する鵞仙。

 

 

 

決着はものの数秒でついた。

ダイルアンガーを圧倒的な力で鵞仙が叩き潰す結果で…

 

 

 

 

 

「………」

鵞仙はその死体を汚物を見るかの様に数秒眺めると、高台の方へと歩いていった。

 

 

「おおォォォーーー!!!

さすが鵞仙さんだ!もう終わったぞ!!!」

住民たちの歓喜の声の中をスルリと抜けながら歩く鵞仙…

 

 

 

その様子を眺めながら住民たちは喜んでいた。

待ち望んだ英雄が自らが住む町に居ることを…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、黒き英雄を讃えながら…

 

 

 

 

 

 

 



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鋼鉄の英雄
第二話 鉄の英雄


二話

 

 

「沙耶ちゃん、今日もお疲れ様!

いつも真剣に頑張ってるねー!」

B級ヒーローのマテリアルマンという男が、沙耶という名のC級ヒーローの女の子に向かってそう言った。

 

「ありがとうございます!

いつもすみません…お兄ちゃんの代わりに私の訓練をしてくれて…」

汗だくになり、肩で息をしながらも笑顔でマテリアルマンにお礼の言葉を告げた。

 

「いやいや、気にしなくていいよ!

何たって君のお兄さんは私の命の恩人だからね!こんな事なら幾らでもするよ!」

マテリアルマンは笑いながらそう呟いた。その表情の裏には感謝の気持ちが見え隠れしていた。

 

「それに彼…スチールフィンガー君はB級ヒーローの中でもトップクラスじゃないか!そこには多大なる努力の結晶がある!」

友の力を誇らしげに語るマテリアルマン。

 

「そうなんですけど…

最近は帰るのも遅くて心配で…

いつも頑張ってるのは知ってるから中々言えなくて…」

しかし、沙耶の表情は暗く、俯きながらそう言った。マテリアルマンが誇らしげに語る姿を嬉しく思いながらも脳裏に映る兄の疲れきった姿が心配で仕方がなかった。

 

「ふむ、なら私から言っておこう。

何、私もB級ヒーローだしね!大丈夫だよ!」

その思いがマテリアルマンにはうっすらと伝わった。その兄想いの妹の姿に感心をしながら頷いた。

 

 

「本当ですか!?

ありがとうございます!一言でいいんです!お願いします!」

 

 

「ああ…では、家まで送るよ」

 

 

二人の男女は訓練所から出口に向かって歩いていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「アイアンフィンガァァァァ!!」

怒号の叫び声と共に轟音が鳴り響く。鉄の西洋鎧を身に纏う男が放つ拳、アイアンフィンガーを受け止める同じく西洋鎧を身に纏う一人の男…

 

姿の違いは鎧の頭部でしか見分けが付きにくく、他に見分けるとするならば鎧の色も若干であるが少しの違いのみだった。

 

 

「まだまだだな…

見せてやる!!本当のスチールフィンガーを!」

そう叫ぶとスチールフィンガーという名のヒーローは天高く腕を掲げ、腰辺りに腕を構えて力を込め始める。

 

一秒経つごとに熱を帯び、赤く輝き始めた。

 

 

彼…スチールフィンガーの技を受け止めようと弟子のアイアンフィンガーが構える。

 

「行くぞ!!!

鉄を貫き、岩を砕く鋼鉄の拳‼︎

スチィィィルッッッ、フィィンガァァァァ!!!」

掛け声と共に放たれた(くれない)の鋼鉄拳はアイアンフィンガーが構える場所に一直線に貫かれる。

鉄を身に纏うアイアンフィンガーのガントレットを砕き、その身体に直撃する。

鉄と鋼鉄という違いだけのはずなのにも関わらずその威力は明らかに違った。

 

 

「グアアァァァァ!!!」

 

アイアンフィンガーはその身に起こる苦痛に叫び、体は吹き飛ぶ。

 

そのまま地に落ちた弟子の元に駆け寄り、スチールフィンガーは弟子を抱えて立つ。

 

 

「し、師匠。やっぱ強いですね…

まるで歯が立たないや…」

アイアンフィンガーは弱々しく呟き、笑う。まだ敵わない事に悔しさを覚えながらも笑った。

 

「だが、以前よりも強くなっているぞ、アイアンフィンガー!

その拳は俺に小さくともダメージを与えた…確実に強くなっている!

これからも頑張ろう!俺たちで上を目指すぞ!」

スチールフィンガーはその感情を知ってか励ましの言葉を言い、熱く語る。

 

「は、はいッ!!」

 

 

アイアンフィンガーは地に足を付け、立ち上がるとスチールフィンガーと手を組む。

がっしりと掴んだ手は二人の決意を表していた…

その姿は一種の天才を表していた。

 

 

 

 

 

 

「では妹が家で待っているし今日はここまでだ!

さあ、帰るぞ!」

 

「はい!明日また会いましょう!」

 

「おう!」

 

 

暑苦しい男2人組は走り去って行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ただいま!妹よ、帰ったぞ!」

 

「おかえり、お兄ちゃん!

今日もお疲れ様!」

 

「ああ、今日も遅くなった…

すまないな…」

 

「無事ならいいよ!

でも、出来るだけ早く帰ってきてね!」

 

「もちろんだ!努力はしよう!」

 

ハイスピードテンポで繰り広げられる会話と行動…

生活でさえ無駄な行動が少ないという徹底した動きに一般人ならば違和感を感じるだろうが、二人の間ではこれが当たり前だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

とある場にて一人の怪人が腰をかけていた。

人間に近い姿をしているがその身体から流れ出るオーラは人に出せる物とは掛け離れている。

瞳を閉じ、静かに座り続けているその姿は生きているのかさえわからない程動かなかった。

 

「時は…満ちようとしている。

もう…後少しで我の出番が来る。

我の力が…必要とされる時が…!」

 

鋭くも威厳のあるその声は辺りに響き渡った。木々は葉を揺らし、風が辺りを吹き散らす。

身を潜めていた虫達はその身を蠢かせ、騒ぎ始める。

 

 

 

 

 

その日、天候は晴天から雷雨へと変わった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さて、今日もパトロールを始めるかな!」

西洋鎧を身に纏い、町の中を歩くアイアンフィンガー。

 

町中ではその姿を知る者が度々サインやら写メを申し出たりするも、アイアンフィンガーは全て受け持ち、

やり遂げた。

 

 

自分が担当する町中はだいたい見終わった頃に突然、遠くから叫び声が響く。アイアンフィンガーは声が響いてきた場所へと駆け出し、向かう。同じくヒーロー達が数人向かうのを横目に確認しながら怪人が現れたであろう場所に辿り着いた。

 

 

 

人々の叫び声と泣き叫ぶ声が辺り一面に響き渡り、まるで地獄絵図の様な破壊と殺戮が怪人によって引き起こされていた。

怪人達は全員で8、1人は奥の方に頭らしき怪人がおり、

其奴の指示で行われている事が確認出来た。近くに居た数人のヒーローは既に怪人に組み付いており、ある者は必死に殴りかかり、ある者は為す術もなく散った。

 

 

頭に立ち向かったC級ヒーローはたった一撃で腕を引き千切られ、頭部を握り潰されて息絶えた。

辺りに血が飛び散り、真紅に彩られる。その様子を満足そうに眺める頭と歯を食いしばりその部下を倒すヒーロー達。

今までヒーローの死に直面する事が無かったアイアンフィンガーはただただ震えて佇んで居た。

自分よりも弱いはずのC級ヒーロー達が果敢に立ち向かい、そして死んだ。その事実が深くアイアンフィンガーの心を抉った。

息が荒くなり、頭の中身が整理されていく…手が小刻みに震え、体を奮い立たせた。

 

アイアンフィンガーが辺りの様子を再び眺める頃には敵の部下は死に、

ヒーローの3分の2が動かぬ肉片と化していた。

 

「び、B級ヒーロー…

あ、アイアンフィンガー参上!」

腹に力を込めて大声で話したはずの言葉は小さく、震えていた。

が、その場にいたヒーロー達が奮い立つのには充分だった。

 

同じ様に名乗り上げるヒーロー…

アイアンフィンガーの様に恐怖で引きつりながらも己の正義を貫こうとする者、屈指の精神で死んででも敵を倒すと覚悟を持つ者、その場には様々なヒーローが立っていた。

 

 

怪人の頭はそんなヒーローを眺めながらニタリと笑みを浮かべ、

「おいおい、楽しくなってきたねぇ

これならあの方を呼ぶことも出来る」

とその口を開き、不気味な声で呟く。

 

 

 

 

「さあ、掛かって来いよ…

ヒーローさん達?君らの覚悟と強さをみせてもらうよ!」

 

怪人が手を広げ、歩を進めた事が合図となり、ヒーロー達が一斉に立ち向かった。

その中にはアイアンフィンガーの姿も確認された。

 

 

 

 

一方、マテリアルマンとスチールフィンガーの二人も向かっていた。

別の町へと居たが故郷の危機と聞き、その場に居たA級ヒーローの

ポンチドリラーと共に3人で向かっていた。

救援を求める報告には最悪の事態が予想された。

『多数のヒーローの死』

この事実は数ヶ月振りの事だった。

 

その死人の中に弟子が居たら…

と僅かに心配がスチールフィンガーの中に産まれたが、昨日の交わした想いがそれを否定した。

心の中でその心配を振り払い、二人よりも数歩先を走った。

 

その様子を眺め、マテリアルマンはスチールフィンガーに駆け寄り、肩を叩いた。

その行動でスチールフィンガーは落ち着きを取り戻し、焦りが消えた。

 

 

その様子を後ろから暖かくポンチドリラーは見守り、

「先を急ぐぞ」

と、呟いた。

 

 

 

 

 

 

 

 




少し暗い雰囲気を漂わせてしまったか?と思いますがこんな感じでいきます。


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第三話 鋼鉄の英雄

三話

 

 

 

 

 

 

 

 

ああ…

 

人々の祈りが通ずる事は無い…

 

死はすぐそばまで来ている…

 

助かるためには戦う他無い…

 

拳を握れ…

 

銃を持て…

 

剣を構えろ…!

 

助かる為に命を刈り取れ…!!

 

死を遠ざける為に死で対抗しろ!

 

 

 

 

─────???の言葉

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「B級ヒーロー、

マテリアルマンただ今参上!

悪は滅ぼす!」

 

皮の鎧を身に纏い、身軽さを追求し仮面を付けたヒーローがある怪人と対峙していた。

 

辺りには怪人の死体と肉片、同じくヒーロー達の肉片と死体が散乱していた。

自分達の他にも数人のB級ヒーローや1人のA級ヒーローが向かったと聞いたが…それらしき死体も辺りには転がっていた。

 

血の生臭い臭いと炎が燃え上がる音が辺りに鳴る。

町は完全に地獄と化した。

 

 

 

 

 

「ふーん、マテリアルマンねぇ…

雑魚そう」

一見、人間の様に見えるがその額には大きな角が生え、鍛え上げられた筋肉はがっしりとしながらも細身だ。

 

「この鬼地外(きちがい)の相手ではないな」

 

災害レベル 『虎』

多大なる人々の危機が迫る程に強い怪人…しかし、この1人の怪人は明らかに『虎』のレベルを超えていた。

 

 

 

 

B級ヒーローでは歯が立たない怪人

 

 

 

 

だが、このヒーローには負けない自信があった。

勝てる事は無くとも時間を稼ぐ事が出来る自信があった。

それは隣にいる2人組のヒーローの存在である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「し、し、師匠…

お、おれ、やり、ました、よ…

敵を、『虎』レベルの、ーー戦え、ました…よ」

片脚と片腕を無くし、息がたえたえになりながらもスチールフィンガーに微笑むアイアンフィンガー。

体から流れ出る赤く紅く朱い液体は今も流れ、その身体を冷えさせた。

残った傷だらけの腕を上げ、自分の師の手を掴み、語る。

 

「俺にも、出来ました…

頑張れ、ば、でき…る、のは、

本当、で…した」

 

「もういい、もう話すな!

辛いだろう!話すことも、目を開けることさえも!」

スチールフィンガーは自分の弟子がだんだんと冷えていく感触と、生気を失っていくその姿と、震えながらも話すその健気さに感動し、眼からは涙が溢れてきた。

自然に流れたその涙は顔をつたってアイアンフィンガーの頬に落ちる。

 

「な、泣いて、るん…ですか?

やめ、て、下さい…どうせ、なら、

笑顔で、見送って……ください」

もう目も見えない、感触すら感じられないはずなのにその師のオーラから感じ取った。

 

「ああ…!

後は任せろ!人々の平和を脅かす者は俺が倒す!」

弟子が命を削ってまで願った祈りを叶えるとスチールフィンガーは誓った。クソッタレの神に…

 

笑ってアイアンフィンガーの手を握った。

 

「………あり、が…とう………

ござ……いま………」

 

静かに微笑んでアイアンフィンガーは息絶えた。

最後まで命を輝かせて…

 

その笑みは今まで見たことのない程に美しく、儚く、綺麗な物だった…

 

 

 

 

 

 

「………………生存者はゼロか?」

 

「…ああ」

スチールフィンガーとポンチドリラーの間に起こった会話…

それは絶望を意味する言葉。

 

最終的にその数は数十人にも上る数が集まったというのに全滅した。

 

その己の志を貫き、鮮やかに散っていったヒーロー達の冥福を祈り、そしてその誇るべき英雄達がやり遂げようとした人々を守る事をこの肉体が血肉の一片になるまでやってやる事を誓った。

 

 

 

「……貴様ら人間も、友情とやらがあったのかよ…泣かせるねぇ

ま、俺には友情なんてものは存在しないけどね!」

不気味に嗤い、キチガイは構えた。

 

 

「さあ、来いよ?

俺たちの間に言葉はいらない、そうだろう?」

 

 

その言葉に反応し真っ先に動いたのはスチールフィンガーだった。

 

鋼鉄の鎧を揺らし、間合いを一気に詰める。自らの身体が煮えたぎる様に熱く、技を発動していないのに熱を帯びていた。

それを肌で感じ、キチガイの腹部を殴りつける。

しかし、腹筋だけでキチガイはその拳を受け止めた。

が、その強い衝撃と今迄に感じたことのない痛みと、拳に宿る熱に驚き、歓喜した。

身体を突き抜けた衝撃波は辺りのビルを破壊する程の威力を兼ね揃えていた。

 

 

キチガイの口から血が垂れ、内臓にはダメージがあるにも関わらず、

 

「ほう……人の身でそれ程までの力を持つとはな…

やるじゃねえか!」

と、軽口を叩いて余裕まで見せた。

 

まだ力が足りない事に苛立ちを感じ、キチガイの懐から距離を置き、

構えるスチールフィンガー。

が、その瞬間に腹に一発蹴りを入れられ、腹部の鎧は崩れ落ちた。

更に口からは血が噴き出し、腹の内部に違和感を感じた。

 

 

それでも…

 

足りないならば…

更に上の物を出す他ない…!

 

 

 

スチールフィンガーはその痛みを堪えた。そして再度構える。

 

 

 

また同じく構えるキチガイ。

 

 

「へッ!必殺対決といこうじゃないか!」

両者ともに拳を強く握り締めた。

 

 

その様子を眺める二人のヒーロー。

スチールフィンガーの気持ちを理解していた二人は身構えつつもその戦いに手を出さなかった。

手を出すことがあの熱きヒーローと、死んでいった弟子を侮辱する事になるから…

命よりも使命を優先するあの男自身から頼まれない限り、倒れない限り怪人倒しに手助けはしないと決めていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「赤く…!紅く燃え上がれ!!

「灯せ、青白き猛火よ!!

「誓った想いを乗せて敵を砕けッ!

「全てを焦がす猛火よ、敵を燃やせ

『スチールフィンガァァァ!!/バーニングフレアッ!』

 

放たれた拳と拳がぶつかり合う。

その腕に纏われた猛火は両者の肉体を焦がし、焼き、燃やした。

神経は悲鳴を上げ、スチールフィンガーの鎧は完全に潰れて消えた。

キチガイの纏っていた衣類は燃え焦げて消え、その肉体を直接焼き焦がす。その猛火は辺りの建物さえ焦がし、消し飛ばした。

 

しかし、両者共に引かなかった。

退く事は無かった。

力を緩めることは無かった。

 

 

 

が、優ったのはキチガイ…

僅かに力が上だったのが功をなし、スチールフィンガーを吹き飛ばした。だが、キチガイも倒れ、身体を震えさせるだけだった。

二人の横で眺めていたヒーローはスチールフィンガーを抱き抱え、その傷は酷くともまだ助かることを確信した。

 

 

「ふ…ふふふ、ハハハハハハハッ!

最期を飾るのには最高の殺し合いだった!スチールフィンガーとやら、貴様は更に強くなれる…!

せいぜい頑張ることだな!

 

 

預言者が死に、危機が訪れ、それを乗り越えた時にあの方が蘇る…

ああ……見たかったなぁ」

そう呟くとキチガイは息絶えた。

 

死んだ事を確認したパンチドリラーは手でマテリアルマンに合図し、

本部へと向かった。

 

 

 

 

 

 

その手にはあるヒーローが撮った映像を手にして…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後、キチガイはその圧倒的な力から災害レベルを『虎』から『鬼』と判定され、それを倒したスチールフィンガーはA級ヒーローに認定された。その映像を見た者は語る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──あれ程の災害は今まで見たことはない、と

 

 

 

まだヒーロー協会が始まって一年と数ヶ月、その浅い年月の間に大きな事件が起こった事はこの先に伝えられていくだろう…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その映像はA級ヒーロー達には語られ、スチールフィンガーを一目置かれる存在とさせた。

 

 

 

 




怪人の強さはこれでいいのだろうか?と少し気になりますがもう少し直したほうがいいということがありましたら是非教えて欲しいです。お願いします!


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閑話 鬼の記憶

短いですがちょいと何を考えて何を思っていたのかを表してみました,、分かりやすくないのはワザとです。
正直、意味がわからないと言われても仕方ないレベルですがサラーと読むぐらいでいいと思います。
本編に読まなくとも大きな影響は無いので…


 

 

 

 

 

 

 

 

「強くなりたい!」

 

子供の頃、俺はアニメを見てそう感じた。心からそう思った。

 

その為に俺はどうすれば強くなれるか考えた。

考えて考えた結果、俺は強くなる為に怪人になることを決意した。

 

 

 

怪人になれば簡単に強くなれる!

 

 

 

子供の緩いオツムならそんな単純にしか考えていなかった。

 

そして強さを求め続けた結果、俺は怪人となり、強くなった。

 

 

 

が、それと同時に人間としての人生を失った。

初めの頃は辛くて涙が溢れてきたり後悔の気持ちが込み上げてくることばかり…

 

でも、段々と襲いかかるヒーローを倒す事に快感を覚え、それからは俺は強くなることだけを望んだ。

 

 

 

 

過ぎていく日々と共にヒーローもより強力な者となり、俺を喜ばせた。

 

 

 

 

 

そして人間の脆さが儚く感じた。

強くなる為には寄り強力な敵が必要だ…

その為には此方も強くならなければならない…!

 

 

こうして俺は封印されたある怪人について研究をしていった。

 

 

 

 

数ヶ月掛けて調べた結果、封印に関わったある預言者の死と大きな災害が数度に渡り起こることが必要だと判明した。

 

俺の表情は明るい物となった。

どれも俺自身が起こすことの出来る物だったのだ…

 

 

 

 

そして俺は選りすぐりの子分を選び出し、町に攻撃を仕掛ける事にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

瞬く間に町は火と死で満たされていった…まだ足りたい。

まだ災害が足りないと俺は直感で感じたその時、目の前にヒーローが現れた。C級ヒーローが数十、B級が4.5人程度の数だけの集団だったが我が部下を殺すのには十分の戦力だったようだ。

 

 

 

 

その様子を眺めていると1人のヒーローが俺に飛び掛かった。

 

そいつの身体が邪魔で見えなかったので、俺は殺す事にしてその腕を引き千切り、頭を潰した。

 

辺りに血が飛び散った時には俺のテンションは最高潮へと達していた!

 

 

 

 

 

 

だが、それを目の前で見ながらも1人のヒーローが名乗りを上げたのだ。

 

「び、B級ヒーロー…

あ、アイアンフィンガー参上!」

 

アイアンフィンガーとやらの名乗り上げに乗り、他のヒーローも名乗りを上げ始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──面白い…!

 

 

脆く儚き生物が強い生物に挑んで来たのだ、これ程愉快な事は早々ない!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「────さあ、掛かって来いよ…

ヒーローさん達?君らの覚悟と強さをみせてもらうよ!」

 

俺は煽り、増援として新たに加わったヒーローもろとも戦った。

 

 

C級ヒーロー共は一撃で死んだがB級ヒーローはそうもいかなかった。

 

 

 

肉体の腕やら脚やらが吹き飛んだのにも関わらず立ち向かって来たのだ。

 

 

 

特に根性が備わっていたのがアイアンフィンガーという男だ。

 

 

 

彼奴は身体が動かなくなるまで俺に立ち向かって来たのだ!

 

 

 

他の連中はA級ヒーローが俺の手で破壊された時点で希望を失い、なすがままだったのに其奴だけは諦めない。1人で果敢に立ち向かってくるその姿に俺は敵ながら感動すら感じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アイアンフィンガーが倒れたすぐ後に新たな増援が来た時、俺は感じ取った。1人の男の殺気を…

 

 

その姿はアイアンフィンガーと似ており、どうやら奴の師だった様だ。

並の人間なら気絶するレベルの殺気に俺はゾクゾクと鳥肌が立つ。

 

 

 

ーー歓喜した…!

 

 

 

 

まだ強者(つわもの)がここに居たことに!

 

 

 

 

 

 

 

 

奴は身体に熱を帯び、その怪力で俺と渡り合った。

今まで感じた事のない痛みが俺を奮い立たせ、悦びの渦へと巻き込んだ。

 

 

 

 

 

その時、俺はもう強さなどどうでも良くなっていた。

 

俺はこのひと時を感じる為だけに生きてきたとすら感じた。

 

 

スチールフィンガーという名の男が必殺技を放とうとした時、俺も必殺技を放とうと思った。

これで死ぬことになろうとどうでもよかった。ただただこの最高のひと時を味わいたかった…

 

 

 

ぶつかり合い、殺し合い、俺は技で勝てたが勝負には負けて倒れた。

 

 

 

 

 

死に際にこれから起こるであろう事を言っておいたがどうなるかはわからない。ただ一つだけ言えるのはもう彼奴と戦えないという事だ。

 

 

もうすぐに俺は死ぬ。

 

 

奴らが去って半刻が過ぎた。

もう目も見えねぇし、体も動かねえし感覚もねぇ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ああ…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

本当に、見れないのが残念で仕方がないなぁ……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

もうちょい、味わいたかったなぁ…



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シャープインサニティ編
第四話 隣町にて


四話

 

 

 

 

 

 

 

ビルが建ち並び、人の波が渦巻く街道の中を道行く男が居た。

 

 

男の名は鵞仙…

 

 

ヒーローである。

 

 

 

彼が纏うは漆黒なる衣と真紅の衣類、そして手足には黒く輝き、強い艶を持つガントレットと重装歩兵が身につけるような大型のグリーヴを付けていた。

たった一人、ポツンとその様な姿でいる為に目立ったがこの世界にはヒーローが身近に存在するおかげで本の一瞬覗く様に見るだけで済んだ。

 

しかし、奇妙な物を見るかの様な視線を四方から受けているというのにも関わらず気にする素振りすら無く、歩き続けているのは彼が持つ異様な感性からだろう。

 

 

 

 

そんな鵞仙が何故、町中を歩いているのだろうか…

 

 

理由は単純だ。

 

 

 

食料(めし)の調達である。

 

 

生物として当たり前の行動だ。そこに疑問など起こるはずがない。

幾ら強い生命体であろうとエネルギーが必要なのだ。

 

 

 

 

 

 

ー可笑しい事など何一つ無い筈、何を奇怪に感じる?ー

 

 

 

 

 

鵞仙の周りに対する考えはその一点のみであった。地図に記されている道を歩きつつ、視線を忌まわしく思うのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そこから幾らか離れた場の道中にて人集りが出来ていた。

 

我先にこの光景を目に刻もうと集まる理由はヒーローと怪人の戦いである。

 

ヒーローはB級24位紫電丸、

対する怪人は災害レベル狼の雑魚、話にならない程に実力は開いていた。だからこそ一般人も見れるわけだが。

 

 

 

 

 

 

結果を言うとヒーローの圧勝である。怪人の渾身の一撃を逢えて受け、自らの強さをアピールする程にヒーローが強く、怪人は弱かった。

これがもし『狼』の中でも『虎』に近い存在ならば勝負と言える物となっていただろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その様子を数メートル先から数秒だけ見て、そのまま歩いていく鵞仙。

彼の興味を引くほどの事ではなかったのだろう。

 

 

 

 

 

だが、B級ヒーローこと紫電丸の眼にはしっかりとその姿が映し出されていた。

 

 

「おい、そこのヒーロー!

今すぐ歩くのを止め、何をしていたか話せ!」

紫電丸は鵞仙を指差し、問いただすように言った。

紫電丸の写真撮りで眼中だった周りの一般人達もその言葉でようやく鵞仙の存在に気づき、一斉に視線を動かした。

 

 

「…めしを作る為の材料と昼食を買う為に歩いていたのだ」

 

「ほう…だが貴様、ヒーローだろう?」

鵞仙の答えに少し眉を顰めながらも新たに問いかける紫電丸。

 

「ああ…」

何故そのような事を聞くのかさえ分からない鵞仙だったが無表情で返した。

 

 

「ならば…何故、助太刀に来なかった!?私が戦う間も自分の目的の為に歩いていたのか!?守るべき人々を守ろうとせずに!」

突然、声を荒げて言い放つ紫電丸にわけがわからないという表情で

「貴様の実力ならば私の助太刀は必要ないだろう。

それにあれほどの力の差ならば充分に守れると判断した、それだけだ」

と返す。

 

 

「たとえそうだとしてももしもの時の為に近くにより、声を掛けるべきだろう!」

 

「ほう…だが声を掛ければ気が散り、危険を生み出す。

 

…それ以前に一つ忘れているぞ、今までの言葉を聞く限り、危険だと言いながら何故貴様は一般人に向かって離れろと言わなかった?」

 

 

「うぐ………

確かにそれは俺のミスだ。

それにお前を言う事は確かに筋が通っている。

だけど、もし怪人に特殊能力があり、俺の隙をついて人々に襲い掛かっていたらどうするんだ!!

俺のミスに気付いていたのなら余計に近くに駆け寄るべきだろう!」

痛い所を突つかれた紫電丸は言い訳の様な事をいい、自分の態度と言葉の姿勢を崩そうとはしなかった。

 

その事に苛立ちを感じ始めた鵞仙だったが冷静に考え、何を言っても無駄だと判断して引き下がろうとした。が、

 

「いや、待てよ…

お前、そんな姿だけどC級ヒーローの新米だな!それならわかるぞ!

か弱いお前が戦闘を避けることぐらいな!まったく勇気の欠片もないな……立ち向かう事も出来ないなんて情けないにも程がある!

あー、悲しいな…こんな惨めでか弱いお坊ちゃ…間違えた、男がいたなんてな!」

紫電丸はいやらしく嘲笑いながらそう言い放った。

その言葉に納得したかのような表情を浮かべた人々。

 

 

その時、鵞仙の中で何かが切れる音がした。

 

自分よりも程度の低く、弱い者からの侮辱と貶す言葉、力量すら測れないというのにも関わらず決めつけて

嗤う行為…

 

 

自分にプライドを持つ鵞仙だが、何時もならば怒りで顔を歪めながらも引き下がるだろう…

 

しかし、腹が減っているのにも関わらず町の高台より少し上に位置する家から下り、辺りの店を回りに回ったが近い店はある町の支援の為に品揃えが悪いという事で仕方なく隣町まで歩いてきたのだ。

その道中も迷いに迷って、やっとの事でここまで来れたのだ。機嫌も悪いこの状況でそのような事を言われた鵞仙は静かに誰かが悟らないようにキレた。

 

 

 

「………そこまで言うのであれば貴様のような愚か者でも相手をしてやろう!!貴様が誰に挑んだのかを思い知らせてくれる…!」

ニタリと笑みを浮かべ、風で棚引く衣と共に手を広げて鵞仙は声を響かせた。

 

「ほう…!

言うじゃねえか!雑魚がな!

皆、下がっていてくれ!

此奴が口先だけのクソッタレな男だと俺が証明してやる!」

 

 

周りにいた人々は後退し、二人の戦う場を作る。

 

 

鵞仙と紫電丸は中心まで足を運び、接触までの距離が数メートルという所で足を止めた。

 

両者共に堂々と胸を張っており、自分の勝利を確信して疑わなかった。

 

 

 

 

 

 

「さあ、始めようか…

貴様が心体共に粉砕する哀れな決闘をな…!」

 

「ヘッ!そっくりそのままの言葉を返してやる!」

 

 

 

 

 

こうして決闘は二人の合図によって人々の歓声の中で始まりを告げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第五話 歪んだモノ

五話

 

 

 

 

 

「雷斬拳!」

 

紫電丸はの必殺技、雷斬拳は加速した体の速さと、

己の至る所に設置されたプラズマ発生装置で作り出したプラズマを腕に

纏わせて放つ必殺拳…

その威力は『虎』クラスの怪人ならば弾け飛ぶ程の強さを持つ。

 

 

直撃した瞬間、プラズマが弾け飛ぶ音と共に肉体を打撃する轟音と感触が紫電丸に伝わる。しかし、紫電丸は直様その場から離れた。

 

 

 

(駄目だ……これでは奴を倒す程の威力は期待出来ない…!)

 

 

 

彼はいきなり必殺を出した訳ではない。数分前の戦闘開始後は何度も持ち前の速さと腕力で挑んだが全て躱され、見切られていた。

だから紫電丸は全力で挑む事にしたのだ。自らが出し切れる最高の力でこの勝負を制す為に…!

 

 

 

が、彼の予想していた通り、鵞仙には傷一つ付けることが出来なかった。

 

「貴様…唯の雑魚では無かった様だな…雑魚でも多少は出来るようだ」

鵞仙は歯を食いしばり、拳を深く握りしめている紫電丸を見つめながらそう呟いた。

 

「だが、力の差を見抜く事が出来ない貴様など私にとって赤ん坊に等しい。精々足掻くがよい」

鵞仙は挑発するかの様に踏む寄っていった。

 

「うおおおおおおおお!!!」

紫電丸は眉を顰め、力強く立ち上がって雄叫びを上げ、体に組み込まれた機械に合図を送る。

 

 

 

 

 

 

ーーリミッター解除

 

 

 

 

 

 

彼は自らの肉体の限界を超えて鵞仙に挑んだ。いや、足掻いた。

 

 

 

以前よりも、数分前よりも数倍早く拳を放ち、鵞仙を殴り倒そうとする紫電丸。

しかし、それを余裕の笑みで躱し、反撃すらしない鵞仙。

その表情や動きからは舐め切っている事が伺えた。その事が紫電丸の癇に障った。

 

 

 

 

 

 

一方、辺りにいた人々にはあまりの速さで何が起こっているのかさえ判断が難しかった。

 

 

 

「ふむ、この程度か。

中々楽しめたぞ、小僧…

齢17.18程度でその強さは見込みがある。貴様ならばA級でも通じる力を持っているだろう…

だが、次、私に挑む時は更に力を付けて出直す事だな」

鵞仙は、怒りで表情が歪む紫電丸の猛攻を躱しながらそう言うと手を握り締めて紫電丸の顔面を殴り飛ばした。

 

 

 

 

 

「ッ───!!」

声にならない悲鳴を上げ、地面に叩きつけられた紫電丸は薄れゆく意識の中、鵞仙の言葉とこの痛みを体と頭に刻み込み、完全に意識を失って倒れた。

 

 

 

 

「じゃあな…小僧」

鵞仙は満足そうに笑みを浮かべ、

去り際にそう呟いた。

 

 

周りにいた人々は慌てて救急車を呼び、一部の者はあの男の強さに戦慄していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

この一件で鵞仙の知名度は大幅に広がったのであった。

鵞仙が言った通り、B級ヒーローの中でも実力はA級に通じると評価を受けていた紫電丸を擦り傷一つなく一撃で倒した鵞仙は良くも悪くもその存在がより知られる事となっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そんな事など眼中に無く、食料を買えた事に満足している鵞仙の姿を人々が目にしたのならばまた違った印象を受けていたに違いない…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「大佐殿、とうとう奴を見つけました。遂に我々の出番が回って来たのです!同志の無念を果たす時が!」

少し黒が混ざった紫色の軍服を着た男が同じ様な服に赤いマントを付けた男にそう告げた。

 

 

 

マントの男は高笑いし、手を天高く上げて叫ぶ。

 

「時が満ちた!!!

奴を葬る時が来たのだ!

今こそ同志の無念を晴らす時…!

我等、シャープインサニティは今この時をもってして再び動き出すことこの我輩、大佐の名にて誓う!!!

さあ、行くぞ。諸君…!

青空に登る日が照らす地上へ…!」

 

その宣言にて周りの男達は一斉に雄叫びを上げる。

力強い歓声は施設中に響き渡り、反響した。

 

 

 

「誰にも…

我々の歩を止める事など出来ない。

誰にも、邪魔などはさせない…!

奴を殺し、再びシャープインサニティの力を世に轟かせてやる!」

歓声の中、大佐は満面の笑みで呟いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…久しいな。

この感触……

この、夜風の心地良さは…

漆黒の空に輝く月と星々、やはり真夜中の夜空という物は良い物だ」

空を見上げ、眺めながら鵞仙は呟く。その穏やかな表情は別人の様に感じさせた。

 

 

「この、時ばかりは町も良い物だと感じられる。この時ばかりは、な…

……だが、果たして護るべき存在なのだろうか…?私にはわからぬ。

人、という存在は護るべき存在と今だに思えぬ…心からな」

鵞仙にはわからなかった。ヒーローとして生きている自分だが、本当に護るべき存在なのかがわからなかったのだ。彼の家族は命を掛けて戦ったが、その事に心から感謝する者は少なかった。

あるヒーローが命懸けで戦い、人々を…皆を逃がしたというのに倒せなかっただけでヒーローに暴言を吐き、功績を認めようとしない者が居た。それを見て、彼は悩んだ。

護る価値が有るのかを……

 

 

 

 

 

 

 

 

「私は…何がしたいのだ?

私は……本当に護ろうとしているのか?それとも…何となくなのか?………いや、今はいい。

結論はまだ、出さなくても良い。

時間はある。時間は有限だが、まだ決めるまでの時は有る。

そうだ、まだ……まだ時間は有る」

鵞仙はそう呟きながら立ち上がった。そのまま家に向かって歩き出し、中に戻る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

しかしその表情は歪み、哀しみに包まれていた。

まるで己の心を表すかの様に…



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第六話 絶望と希望

六話

 

 

 

 

 

 

 

その日

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一つの町が怪人によって滅びた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ヒーロー同士の決闘から数週間後、

ある町が怪人の軍団により滅亡した。その時の怪人の数、約5000体である。

 

 

怪人達の纏まった動きに圧倒的な強さ、更に脅威的な幹部の存在によって怪人軍団の蹂躪に為す術もなく町のヒーローは倒れていった。

 

 

 

総勢、C級ヒーロー41人、B級ヒーロー13人、A級ヒーロー7人の者が死亡し、更に近くにいたS級ヒーローの金属バットが重傷で逃げ帰って来る事が精一杯であった。彼は気を失う前にこう言った。「怪人を…率いるトップの怪人は…俺では…歯が立たなかった」と……

 

 

その異常な事態にヒーロー協会はB級の上位陣、A級、S級のヒーロー全てを派遣して潰そうと考えた。

弱き者ではすぐに嬲り殺しになる為にC級ヒーローや、B級ヒーローの下位の者などは一般市民と共に避難を告げられた。

更にT市と滅ぼされたU市をシールドで囲み、逃げ出せないようにした。

中に残る市民はT市の端にあるヒーロー協会の地下シェルターに避難となった。

 

 

 

 

 

 

 

しかしどの道怪人軍団の向かう先はただ一つ、T市だけである。

そしてその町こそが鵞仙が住む町であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どういう事だ!!

あの集団は…シャープインサニティは滅んだ筈だぞ!」

ヒーロー協会のとある一室にてある男が叫ぶ。

 

「残党がいた…という事だろう」

また別の男がそう言った。

 

「一体どうするのだ!?

当時、奴等をたった二人で壊滅に追い込んだ宮谷一族の当主とその妻はその戦いで敵のトップと相討ちで死んでいるんだぞ!更にあの滅ぼされた町では封印を守る預言者が殺されたと聞いた!

第一、それに何故ここには我々、二人しか居らんのだ!!」

怒り狂った顔で男は叫ぶ。

 

「他の奴等は避難だとよ…この作戦が失敗した時の為にとか言ってな…

馬鹿だと言いたいな!!この作戦が失敗すれば死ぬしかないのに…!

まあ、とにかくムカつくが、今は何とかするために考えるしかないだろう。俺たちだけでな。

それにまだ宮谷一族は居る。当主の息子がな…

更に以前よりも戦力は有るんだ!

残党ぐらい何とかなるだろう!!」

男は声を荒げながら言った。そうでもしなければ恐怖で潰れるからだ。

 

「しかし、S級ヒーローの一人が敵のトップにやられたのだ!!

もし、敵の本陣を叩くならばS級ヒーロー3人は必要だぞ!!」

 

「それでもやるしかないだろう!!

下手をすれば人類が滅びるぞ!」

 

「ならばここは─────!」

 

「────────────」

 

 

 

 

二人の男は数十分間、互いに意見を出し合い、

纏めた。その結果、最低限の戦力となる者で敵を抑え、その時にS級ヒーロー三人で本陣を叩く事にした。

 

 

「一刻も早く伝えるぞ!

間に合わなくなる前にな…!」

 

「ああ…!我々は勝たなければならないのだ!何としてでも…!」

 

たった二人しかいないというのにその一室に広がる緊迫感は計り知れないものであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『心して掛かれ!!

油断すれば死、有るのみだ!!!

生き残る為に怪人を殺せ!

何としてでも殺せ!!!

我々、人類が助かる道はそれしかないのだ!!!命を掛けて戦え!

俺たち二人も逃げない!!

もし作戦が失敗したのならばこの場で死ぬ!!』

 

ヒーロー協会から告げられた言葉は死を覚悟しろということと、今回の作戦リーダーの覚悟だった。

 

 

 

 

S級全員、A級、B級の一部の物以外はただ震え、恐怖で立ち尽くしていた。その中、S級ヒーローや、一部のヒーローはただ落ち着き、敵を倒す為に集中を研ぎ澄ましていた。

しかし、想像すら出来ない緊張感と死を覚悟しなければならないというプレッシャーに少なからず恐怖を感じていた。自分の力が果たして通じるのかもわからないのだ、恐怖しない者など存在しないだろう。

しかし、作戦に不満を言う者は誰一人居なかった。何故ならば作戦リーダーも命を掛けているからである。

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、鵞仙はーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

「おい、私を先に行かせろ……!」

 

一人、町に行こうとする鵞仙をヒーロー協会の役員が止めていた。

 

「一人では無理です!無駄死になってしまいます!どうか作戦決行までお待ちを!」

役員が必死に説得するも、

 

「だからなんだというのだ…!

私の住む故郷が…家が…家族の墓が今も破壊されようとしているのだぞ!!」

抑える事は出来ずに鵞仙を離してしまった。

 

「待って下さい!!」

役員の叫びは届かず、鵞仙は自分が住む町に走り行くのだった。

 

その姿を眺める鋼鉄の英雄もまた同じように鵞仙の後を続くのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

燃え盛る町、半壊するコンクリート、消し炭となる逃げ遅れた人々。

怪人が歩を進める音が炎が周りを焼き尽くす音と共に響き渡る。

そこには殺戮と死の臭いが充満し、僅かに生き残っていた人々は絶望して息絶えていった。

怪人達は逃げ惑い、殺されていくその姿を嘲笑い、歓喜の雄叫びを上げて招福した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いやああああああ!!!」

齢11.12程の少女が幼き弟と妹を抱いて近づく恐怖の存在に叫んだ。

怪人はその叫びに笑い、歓喜していた。その腕には少女たちを庇い、死んだ父親の死体を掴んで…

手に持つ死体を投げ捨て、そのまま少女の腹を槍で貫き、抜いた。

少女は口から血を吐き出し、倒れる。

 

 

「逃げ…て…」

 

それでも少女は二人の為、頬に涙を流して必死にそう叫んだ。しかし、まだ幼き兄妹はただ泣き叫ぶ事しか出来ず、ただただその光景に小さな体の中に復讐心を抱いた。

それしか出来なかった。

 

少女が二人を庇おうと力を振り絞るもそのを怪人が片腕を踏み潰し、その身体を持ち上げて壁に向かって投げつける。

 

「かふっ!……や…めて」

少女は壁の下で倒れながら力無く叫ぶも怪人は聞く耳を持たない。

「ひゃあハハハハハハハハ!!!

死ねえ!死ねえ!死ねえ!

消えろ!消えろ!消えろ!消えろ!

絶望の中で死ねえええ!!」

絶望と怒りに包まれる兄妹にそう言い、高笑いする怪人。

 

その姿を眺める少女の心は壊れかけていた。

その様子を横目に観察し、満足気に頷く怪人。

そして震える兄妹に向かって怪人が槍を振り下ろそうとしたその時、

 

 

 

 

「ゴミ屑が…!

地獄へと落ちて死ぬが良い!!」

鵞仙によって阻止された。

槍の矛先を掴み、腕力で潰すと怪人の脳天を殴り潰した。

 

その後、直様少女に駆け寄り、懐に用意していた薬にて傷を治した。

 

「大丈夫か…?

意識は有るのか?

他に傷はないのか?」

鵞仙はオズオズと少女に語りかける。少女はゆっくりと鵞仙の顔を見上げて、

「ありがとうございます!!

本当にありがとうございます!!

傷もありません!!」

と泣き叫んだ。

それに合わせて二人の兄妹も鵞仙に向かって抱き着き、同じように泣き叫んだ。

 

「お、落ち着くのだ…!

奴等が集まってくるぞ!

それに二人は怪我はないのか?」

と、落ち着かせて兄妹にも怪我がないか尋ねた。

 

兄妹は頷き、鵞仙の足にただ抱き着くのだった。

 

 

「そうか…

ならば三人共、この傷薬と小型護衛マシン八体を渡そう。

それを使ってこの地図の通りに行くんだ、いいな?」

 

「でも……怖いです。またあの怪人みたいなのが…」

少女は瞳に涙を貯め、そう呟く。

鵞仙は少女の頭を優しく撫でてこう言った。

 

「大丈夫だ。このロボットは一体で奴等二体を相手に出来る。

ただ、親父が作った最後のロボだからもう製造は出来ないがな」

鵞仙は三人に微笑む。

 

「でも………」

 

「…私は今から敵を倒しに行く。

だから此方の方が安全だ。

それにもう少しでヒーローが来る。

大丈夫だ…心配するな…!

生きる意思が有るのならば大丈夫だ」

鵞仙はそう言い、兄妹の頭も撫でる。

 

「さあ行け…!

私もそろそろ行かねばならぬ!」

鵞仙はそう言うと歩き出した。

 

 

「また…生きてたら会えますよね?」

少女は振り返り、背を向ける鵞仙に問う。

 

 

「ああ…生きていたら必ず逢える。

私が会いに行こう…」

と呟き、走り去った。

 

 

 

少女は鵞仙の姿が見えなくなるまで見送り、地図の通り、兄妹と共に歩き出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

まだ、希望は町に残っていた。

鵞仙という希望が……!

 



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第七話 馬鹿と天才は紙一重

七話

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「包囲しろ!!全員でやるぞ!」

怪人の怒号の声と共に数十の怪人が鵞仙を取り囲む。

一人、また一人と雄叫びを上げて槍を振りかざすも舞うように躱し、受け流されて黒く輝く指先の刃で切り裂かれていく。

それも急所を確実に狙い、当てていく為に怪人達は一撃で仕留められていった。

 

 

「脆い…!

脆すぎるぞ…!人を超越する者ならば、私を倒してみせろッ!」

鵞仙は怪人達を見回し、そしてニタリと嗤う。

 

「いや、所詮は残党か…

私の知るシャープインサニティはこの程度では無いだろう?

見せてみろ…!本当の力を…!」

怪人を一撃で葬り、余裕の表情で呟いた。

 

ーその笑みは人の笑みならずー

 

血が掛かった顔はより凶悪さを引き立たせていた。

 

 

「ば…化物め!!

何がヒーローだ!貴様のようなヒーローがあってたまるか!」

怪人は吐き捨てるようにそう叫ぶ。が、

「化物、か……

強ち間違えでは無いかも知れぬぞ。

だが、貴様に英雄を語る資格など有りはしない。無に帰れ、怪人」

鵞仙はそう言うと取り囲んでいた最後の怪人を殺し、ガントレットに飛び散った血を振り払った。

 

 

 

「弱過ぎる……

本当に奴等なのか…?

奴等の振りをする怪人集団ではないのか?…いや、それではあれ程までに被害が出るとは思えん…

どういう事だ?」

 

 

「こういう事さ!!」

 

 

鵞仙の呟きに突然、何者かが答えて斬撃を放つ。

紙一重で躱し、斬撃が放たれた方向を見る。

 

 

「貴様は…少尉スレンか?

生きていたとはな…」

その姿を視界に入れた瞬間、鵞仙は顔を歪め、スレンジを睨みつける。

 

 

「あ〜らあらあら!覚えてくれてたんだね、嬉しーーよ!!

僕も忘れた事なんか一度も無いからねー!!」

スレンは舞い踊るようにして喜び、微笑む。

 

「黙れ……愚物。

貴様のその穢れた顔面を苦痛で歪ませてくれる…!」

鵞仙は歯をむき出して呟き、静かに構える。

 

「いやーん!!

そのまま僕を同人誌みたいにするんでしょ!?幾ら可愛くてもそれは許さないよー!」

体をくねらせて笑うスレン。

鵞仙はその様子に苛立ち、更に顔を歪ませる。

 

 

 

スレンが可愛いと自画自賛した理由は実際に可愛いからである。

顔は少女を思わせる愛らしさを持ち、身体は華奢で小さい。

その為に彼女が持つ剣は細く、小さい。が、それでは何処が怪人だというのだろうか…?

 

理由は彼女にある頭部の鋭利な角にある。

 

 

 

 

 

ーースレンは鬼である

 

 

 

 

 

 

彼女の華奢な体もその細く、小さい手足も凝縮された筋肉が有る。

しかし、彼女は鬼族でも上位の種族であり、その種族間では力は弱くとも中位の鬼達では敵わない力を持つ。

 

 

 

 

故に強い。

 

 

 

故に強大。

 

 

 

故に少尉。

 

 

 

 

侮れば死が己に迫る。

それ程の者なのに彼女は所謂変人だった。それもドがつくほどに…

 

 

 

 

「………まあ良い。

貴様を切り刻めばよい話だ。

その憎たらしい踊りも頭にくる笑いも出来なくしてくれる…!」

鵞仙は苛立ちながらも頬を緩ませ、そう言った。

 

「あっ!笑った!今笑った!

僕を見て笑った!やったぁー!

やっと僕の魅力に気付いたんだね!

よし、今抱きついてあげる!」

しかし、スレンが着目した事は頬を緩ませたことであった。

 

鵞仙は話にならないと何とか怒りを抑えて理解した。

 

 

一気に距離を詰め、指先を伸ばし、

彼女の首を突こうとするも、

 

「いきなりなんて酷いよ〜!

でも許しちゃう!!こうして僕に会いに来てくれたから!」

と言いながら軽々と躱し、鵞仙の体に抱きついた。

ソレを振り払おうと切り裂くも剣て受け止められ、間合いを取られる。

 

「だーめ‼︎もっと速くしなきゃ当たらないよ?ほらほら僕を痛めつけて殺すんでしょ?もっと力強く頑張らなきゃ!!それとも僕が好きなの?」

と、笑いながら挑発する。

 

 

「巫山戯た野郎だ…!

貴様に抱くのは苛立ちと殺意だ。

他の感情など抱く価値すらない…!」

鵞仙はスレンを睨みつけ、吐き捨てるようにそう呟いた。

しかし、スレンはその鋭き眼光を見て惚気な表情を浮かべる始末である。

 

鵞仙が再び構えようとすると

 

「ヒーロー、スチールフィンガー参上!!助太刀に来た!」

と、隣から鎧を纏うヒーローが現れた。

 

 

鵞仙はその姿を横目に眺め、

「なんだ貴様、この燃え盛る火の中をその姿でやって来たのか…?」

と、呆れた表情で見る。

 

「この俺が操るのは炎、これくらい屁でもないぞ!!

と、どうやら苦戦している様だから助太刀に来た!」

と、スチールフィンガーは叫ぶ様に言った。

 

「声を抑えろ…

貴様の声は頭に響く…

だが、私一人では確かに少々時間が掛かる。良い時に来たな」

と、少し微笑みながら言った。

 

「当たり前だ!

俺は鋼鉄の英雄、スチールフィンガー!人々を守る為に力は惜しまん!」

高らかに叫ぶスチールフィンガー。

 

「そうか…

ならば、此奴は貴様に任せる。

苛立ちで相手をする気すら失せるからな。頑張れよ」

と、鵞仙は笑いながら呟き、走り去った。

 

「………え?

 

なっ!待て!

俺一人で倒せと言うのか!おい!

…………いや、待てよ!

彼奴は俺を信用したということだよな?そうだ、きっとそうだ!!

よし、ならばやってやろう!」

スチールフィンガーは自己解釈をし、スレンに向き合う。

 

 

 

 

対するスレンは…

 

 

 

 

「お前、僕と鵞仙君の会話を…

殺し合いを邪魔したな?

僕と愛しき鵞仙君の……

しかも、鵞仙君の笑顔を見たな?

 

 

 

よくも…よくも……

 

 

死ね、死ねよお前。

死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロス」

 

 

と、狂ったように無表情で呟き、剣を構える。

 

「な、なんだ?

邪魔などしとらんぞ!

俺は鵞仙に任されたのだ!!

ヒーローとしててめえを倒す事を!

よくわからんが人々を殺戮する貴様は許さん!此処で討つ!!」

スチールフィンガーは少し困りながらもそう言い、構える。

 

 

「お前になんか負けない。

お前になんか絶対に…

殺してやる。剣で突き刺して切り刻んで手足を捥いで殺してやる!

お前が生きる資格なんてねえんだよ!!」

スレンは目を黒く光らせてスチールフィンガーに怒鳴り叫び、殺気をスチールフィンガーに向ける。

 

 

「生きる資格が無いのはてめえだ!

この手でその殺戮を断つ!!

覚悟しろ!怪人!!」

スチールフィンガーも負けじと言い返し、全身に力を込める。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

厄介ごとを押し付けられた(勘違いで信用と思っている)ヒーローと同じように勘違いしている怪人の

殺し合いが始まろうとしていた。

 

 

 

 

 

 




あれ?
想像してたのと違う…!?
もっと、こう………
と、文才のなさに頭を抱える作者ですがアドバイス、感想をお待ちしております。


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第八話 拳と剣

八話

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……やむを得ない。

S級ヒーローの出撃を許可しよう」

今作戦の指揮官に当たる男が目を閉じ、静かにそう告げる。

その額からは冷汗が流れ出ていた。

 

 

「最初からそう言えばいいのよ!」

 

腕を組み、眉を顰めながら誰かが指揮官に怒鳴る。

彼女は黒いドレスコートを身に付け、緑色のくるりとしたパーマネントなヘアースタイルが特徴的な小柄の女性。

 

 

彼女のヒーローネームは

『戦慄のタツマキ』

”S級ヒーロー二位”であり、ヒーローの中で最も強い実力者の一人である。

 

 

「何を言うか!全く…

幾ら強くても限界があるというのに一人で行こうとするなんて正気の沙汰ではないぞ!?」

指揮官は呆れた表情で呟く。

 

「うるさいわね!

だから仕方なく他のS級ヒーローと一緒に行くわよ!あんたは黙ってそこから見てなさい!」

タツマキは指揮官の言葉に反論するかのように一方的に怒鳴りつけるとその場から立ち去って行った。

 

 

 

 

「はぁ……何故、あそこまで自分勝手なんだ…

それにまだB級、A級ヒーローは大多数が恐怖で震え、戦えない状況。

それに加えてA級ヒーローのある二人はもう突撃しているし…

今度はS級ヒーローの今いる全員で出撃とは…何故待てないのだ!」

指揮官は困り果てた顔で苛立ちを感じていた。

その自分勝手で我儘な行動を悩ましく思った。

なまじ、圧倒的な力を持つ為にソレに従うしかない自分の非力さも彼の苛立ちを増長させていた。

 

 

 

「指揮官殿!!

町の方から生き残りの者が歩いて来ました!!どうやらあのA級ヒーローが守ったそうです!」

 

 

「なにぃ!?」

 

突然、扉を壊す勢いで部屋の中へと入ってきた数少ない部下。

その口から告げられた事実に驚愕し、席を勢い良く立ち上がると指揮官は部下の方に駆け寄った。

 

 

「…その者の体は大丈夫なのか?」

 

 

「はい、どうやらヒーローが手当をしていたようで…」

 

 

「そうか…」

指揮官は部下の返答に何か考える素振りを少し見せると、

「S級ヒーローは全員行ったのか?」

と、部下に問うた。

 

「はい、現在、この場に来ていた者全員が戦慄のタツマキの後を追いました。たった十三人で作戦を決行するようです」

 

「…わかった。

A級ヒーロー達の中でも動けるものを集めてくれ、一時間後に第二陣として出撃させる」

 

「了解しました」

部下は返事を返すとそのまま立ち去った。指揮官は椅子に座り、考え込み始めた。

 

自分の考えが間違っていたのかと、考え始めていた。

 

 

 

もう町に生き残りは居ないと考えていたが、実際はもっと早く出撃していれば救えた命があったのかもしれない。

 

 

彼の中ではこの事実が深く刻まれた。判断を誤るリスクの大きさと責任の重さを…自分が抱えているモノの価値を…

長年の人生の中で得た知識と経験を持ってしてもソレは彼には重過ぎた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ガフッッッ!!」

口から声が漏れるほどの一撃をくらい、スチールフィンガーは地面にゆっくりと倒れた。

頬にコンクリートのザラザラとした感触を味わいながらも立ち上がろうとするが、

「あらあらあらあら、まだ足掻くの?まだ僕に足掻くと言うの?

馬鹿なの?死ぬの?殺されたいの?

まあ、そっちの方が好都合だけどね」

 

スレンがソレを貶すような視線で眺める。

 

「なんと…言われようとも…!

諦めないぞ!!」

スチールフィンガーは立ち上がり、

握り拳を掲げる。

腰に腕を構え、力を込める。

 

その様子をスレンは眺めながらまた小細工でもするのかと思い、剣を前に突き出す。

 

「鉄を貫き、岩を砕く!!

正義の鉄槌を今ここに…!

スチールッ!フィンガアアアア!」

高速でスレンの懐まで潜り込み、突く。

「!?」

(しまった!?油断した!)

 

スレンは直様剣を構え、対応しようと動く。

 

 

が、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

────その鉄拳(スチールフィンガー)、魔剣に届かず

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

みぞおちを狙った一撃は直線に叩き込まれたかに見えた。

しかし、接触僅かの所で体を揺らし、接触地点を変える。更に拳の流れに乗るように体を動かす事で威力を最大限に抑えたのだ。

スレンは技で隙が出来たスチールフィンガーの腹部を蹴り上げ、吹き飛ばす。

 

「残念…!

君の拳を真面に受けたなら危なかったけど半減されたモノなんて怖くないよ!まあ、掠れた部分が衝撃波でちょいと痛いけどね……

さて、お遊びはここまでだよ!

シネ」

 

 

地面に降り立ったスチールフィンガーは猛攻でボロボロに欠けた鎧を身に付け、至る所に出来た傷で血みどろにながらも不敵に笑み、スレンに宣言する。

 

 

 

「俺たち『ヒーロー』は貴様ら怪人には負けん…!!絶対にな!!!」

 

 

 

 

 

 

 

町を…

 

 

 

人を…

 

 

 

生命を燃やし尽くす猛火を背景にスチールフィンガーは立つ。

 

 

その思わず目を逸らすような傷を負った身体で…!

己の持つ力では傷を負わし、

弱らせる事しか出来ない程に強い怪人を前にして恐れを見せる素振りすら見せずに……

 

 

 

 

「あっそ。

 

 

まあ、あんたは僕に殺されて負けるわけだけどね。

 

さあ、僕の剣技を前に平伏し、息絶えるといい」

スレンはスチールフィンガーの前に立つと剣を振り上げ、軽口を叩いた。その眼からは完全に興味を失われていた。

 

 

 

 

それも束の間、無慈悲にも鋭き刃で切り裂いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

コンクリートの地面を

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「良くやった。

 

よく耐えた、A級ヒーロー

『鋼鉄の英雄』

お前が切り裂かれていた時間は無駄では無かった。お陰で何とか助太刀に間に合ったからな…」

 

日の丸の国に古くから伝わる者の風貌をした男が彼を抱きかかえ、助けた。腰には刀らしき物を差し、その身に漂う雰囲気は強者のオーラを醸し出していた。

 

 

 

「さあ、鬼の嬢ちゃん。

こっからは選手交代だ……

俺が相手をしよう」

腰から刀を抜き出し、スレンに向ける。その様子を笑いながら眺めるスレン。

 

 

「へぇ〜、おじさんが相手をするの?まあいいけど。

同じような武器同士だし僕の剣技の強さを確かめられるから丁度いいかな!!」

スレンは堂々と仁王立ちし、余裕の表情で侍を挑発する。自分の勝利は揺らがないものと信じて…

 

 

「嬢ちゃん…

あんまり俺を舐めて見てると痛い目に合うぜ?」

侍は眉を顰め、彼女に呟いた。

彼は背後のスチールフィンガーに下がっていろと合図を送ると、刀を構えた。スレンもまた剣を構える。

 

 

「俺はS級ヒーロー四位、

『アトミック侍』だ。

お前を殺す為にここに来た」

 

「僕はスレン少尉。

貴方たち人間を抹殺する為にここまで来たよ」

 

 

互いに覇気を纏い、殺気を醸し出す。その緊迫感は辺りを震えさせるかの如く強さだ。

S級ヒーローと災害ランク鬼以上の対決…

勝者は誰にも予想が出来ない実力者同士の戦い。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さて、殺り合おうじゃねぇか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

S級ヒーロー…

ここに見参。



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第九話 復活

九話

 

 

火の粉が空を舞い、煙と共に消え去っていく。辺りに充満する匂いは炎に焼かれ、焦げた臭い。

生臭い臭いは無く、ただただモノを焦がした臭いがこの街を包んでいた。

 

 

 

人々の死体が散乱するある場所では今まさに封印が解かれようとしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なあ、ダソード、ルルガ。

お前達にはアレが何に見える…?」

2m強の身長と屈強な肉体を持つヴァンパイアの男が、隣に控えている人間と大差ない体格の男女に問う。

 

 

「鬼…のように見えます。

しかし、鬼にしては…」

 

男は額に汗を滲ませ、驚愕していた。隣に立ち竦む女も口には出さぬだけでその姿からは驚きを隠せずにいた。

 

 

 

 

()()が知る鬼という存在と、この封印されし鬼という存在は似ても似つかぬモノで有った。

 

 

 

鬼のように凶悪な顔をしている。

が、奴の顔から連想されるモノは龍のようなモノ。

鋭く太く鋭利な牙、天高く登りゆくように強靭な角、赤く紅に輝く鋭い眼光、一つ一つが針のように尖り逆立つ髪……

鬼であり、鬼で無い。

三メートルは優に越す鍛え上げられた肉体。更に肉体を覆うかの如く大きく力強い筋肉。

ソレを物ともしない屈強な極太の骨。

その肉体を彩る肌は血で染めたように赤い。

 

 

 

二人に興味すらなく、視線を向けられていないというのにも関わらず肌に震え伝わる恐怖の波長。

 

ソレからは濃密な妖気が漂っていた。

 

生物の生命を奪い取る死の覇気を…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「汝が我の封印を解きし者か?」

脳裏に響き渡る程に鋭く低く威厳のある声が辺りに拡がる。

 

 

「ああ、我輩が解いた」

ヴァンパイアの男、レグレイ大佐

が答える。

 

「ほう…

我を前にして震えと恐怖を見せぬとは…唯の小童ではないようだな。

 

何故(なにゆえ)、ヌシは我の封印を解いた?」

鬼は吸血鬼に問う。

器を測り、見定めるようにして…

 

 

 

 

「人間を滅ぼす為にだ…!」

満面の笑みを浮かべてレグレイは言った。その笑みは少年が見せる笑いと近いモノであった。

 

 

「…では、何故に人間を滅ぼす?」

鬼は目を細め、再びレグレイに問う。

すると笑は嗤となり、語り始めた。

 

 

 

「我輩は何故、怪人が支配者として君臨していないのかが疑問だ。

力でも、知識でも、圧倒的に我々怪人が上だと言うのにな」

レグレイは鬼にだけでなく、近くで控える部下にも告げるように堂々と宣言する。

 

「これまでも多くの怪人が人間と戦ったが、被害を出そうとも数日という内に人間に殺されていった。

不思議に感じた。人間に有って我々に無いもの、ソレを探してきた。

その結果がシャープインサニティだったのだ。初代総帥はこう言った。

奴等が団結するように我々も団結し、戦おうと……

誰もが上手くいくと思っていた。

肌で、体で、心で信じて疑わなかった。だが…!

人間はそれ以上に団結し、決死の覚悟で挑んできた!!

惨敗…とまでは言わないが、組織の壊滅は間逃れなかった…

僅かの幹部を残して同胞達は亡骸と化した。

我輩は気付いた。

生命を捨てて戦う者の強さを…!

だからこそ、我々、真・シャープインサニティの怪人達は人間を命懸けで殺すモノのみだ!!

これで奴等に劣るモノは消えた…!

後は貴様が我がシャープインサニティに入れば絶対に成功する!

だから封印を解いた…!」

レグレイから語られた言葉を聞き、鬼は口元を歪ませるように笑うと

呟いた。

 

「ならば……志半ばで息絶えようとヌシの人間殲滅という野望が叶えば構わないのだな?」

不気味に微笑み、レグレイを見下ろして鬼は問う。

 

レグレイは頷き、その眼で鬼を貫くように見返す。

 

 

 

 

 

ただ、感じる違和感に首を傾げて…

 

 

 

 

 

 

鬼はその様子を満足気に眺めるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

甲高い金属音が辺りにこだまする。

数度に渡り、響く音は暫くすると炎で掻き消された。

 

 

 

 

「おいおい、嬢ちゃん…お前の力はこんなもんか!」

アトミック侍の怒号がスレンを斬撃と共に襲う。

それをただ受け止める事しか出来ず、唇を噛み締める。

 

 

 

 

 

(この私が…押されている!

今は互角だけど、このままでは…)

 

 

 

スレンの脳裏に浮かんだのは自分の首がこの男の手により、落ちる瞬間である。

 

 

 

 

 

 

──ならない!

それだけはあってはならない…!

 

 

 

 

 

もし、仮にも殺されるならば鵞仙、と心から決めていたスレンは浮かんだ情景を振り払い、抗い、足掻く。

 

(…まだ、部隊が近くにいるのならば助けを求めるしかない。流石にこのレベルのヒーローは早々いないでしょ)

彼女に残っていたプライドを捨て、

腰から特殊な音を鳴らして援護要請を辺りに放った。

 

 

「無駄だぜ、嬢ちゃん」

鍔迫り合いの中、滲む汗を垂らしながらもアトミック侍は言い放つ。

 

「フンッ…何が無駄だと言うのだい?」

ソレに眉を顰めて問うスレン。

 

 

「当たり前だ、今頃俺の仲間が潰しているだろうからな」

ニマリと笑みを浮かべてアトミック侍は呟く。

 

 

「ッ………!」

男から告げられた言葉に歯軋りし、剣に力を込める。

 

一瞬の隙も許されない緊迫感の中、

それなのにも関わらず、自分と対峙するアトミック侍の勝利を信じて疑わない表情に苛立ち、体の奥底に殺意を膨れ上げるのであった。

 

 

 

更に、辺りから響く援護要請の音にアトミック侍の言った事が事実だと理解し、ソレが彼女の苛立ちを上昇させていくのだった。

 

 

「ブッッ殺す…!

お前は僕の手で殺してやる!!」

 

 

「ヘッ!やってみろよ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あれ?

何だこのバリアみたいなの?

…まあ、いいや。

害は無いみたいだし。それより腹減ったから飯食いにいこ」

中で起きている激戦の差中、バリアの前ではそんな呟きがあった…

 



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第十話 下準備は終えた…!

十話

 

 

 

「これは…

まさか私より先に援軍が来たというのか?」

鵞仙は走り去る道に転がった怪人の死体をチラリと眺め、呟く。

 

 

 

 

確かヒーロー協会の指揮官の話ならばまだ突撃命令を出さない筈…

 

 

 

 

しかし、鵞仙の瞳には数多くの死体が不自然な死に方を晒していた。

 

 

まるで…何か大きな力に拗られたかの様に身体が千切れているのだ。

 

 

 

「……今は考えても仕方が無い」

 

 

何者がコレを起こしたのかが今は重要ではない。味方ならば強力な戦力となる。

この事態の中ではそれが鵞仙にとって重要だった。

 

 

「とにかく、今は奴等の頭を潰すほかないだろう」

 

 

 

目的地はシャープインサニティの仮本部【陣道神社】

 

 

 

 

 

鵞仙の記憶では大妖怪が封印されし場所だと告げられていた。

 

 

 

「奴等の目的がもし妖怪だとするならば…厄介としか言い様がない。

アレの準備をしておかなければ」

 

一瞬ギラリと光った鵞仙の眼には爛々と輝きが灯っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ッ!しつこいわね!

サッサと死になさいよ、裸マント!」

 

「そう言われて死ぬ奴はここにおらん!それに我輩の衣服を切り裂いたのはお主だろうが!!」

 

 

 

 

陣道神社の内部ではシャープインサニティとS級ヒーローのトップの戦いが繰り広げられていた。

 

 

S級ヒーロー2位『タツマキ』は超能力を使い攻撃を繰り出すが、シャープインサニティトップのレグレイ大佐は吸血鬼の再生能力と身体能力を使い躱す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その戦いの中、レグレイ大佐の直属部下ダソード、ルルガの二人組はタツマキと共に神社へ侵入した二人のS級ヒーローと戦い始めた。

 

 

 

 

 

が、ダソードとルルガは敵の強さと異様さに驚きを隠せずにいた。

 

(ま、まるで歯が立たない…!

何なんだあの黒光り男は!

剣の刃が弾かれてしまう!)

 

ダソードは渾身の力を込めて剣を振り下ろすが、黒光り男──

超合金クロビカリと呼ばれる男相手に擦り傷一つ付けられなかった。

 

 

「中々良い太刀筋だと思うよ!

でもやっぱりアトミックさんに比べたら…ね」

微妙という表情で自らの力量を評価され、怒りを抱くが何度攻撃を繰り返そうと弾かれるだけだった。

 

 

「おっ!やっぱりゾンビマン君の再生能力は凄いなぁ。

あれだけの傷が何事も無かったかの如く治るんだし」

 

それどころか脅威と認識さえされていない屈辱と悔しさでダソードの太刀筋は荒くなる一方だった。

 

 

 

「うーん。随分待たせたみたいだし…さて、そろそろ仕掛けるか!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「な、何で再生するの!

首を切って肉体の骨という骨を折って急所もついたのに何故…!」

 

ルルガが相手にしているのはある者の手によって創り出された男、ゾンビマン。

彼の最大の強みはただ一つ。

 

 

 

 

 

 

───怪人をも凌駕する再生能力である。

 

 

 

 

 

 

 

頭を潰されようが、急所を突かれようが、腕や足を切り落とされようが忽ち再生する。

 

そのために彼が負けることはあり得ないのである。

時間を掛ければ大抵の怪物を葬る事が出来るその能力は他人からすればチートと呼ばれても可笑しくないだろう。

 

 

「……弾が当たらん」

 

 

 

が、本人は他のS級ヒーローに比べると身体能力は低く、泥試合と呼ばれるものとなることが多い。

 

 

 

だが、この状況化ならばヒーローの有利である事には変わりない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふむ。戦いの途中ですまないが主ら、我がまだ居る事を忘れてもらわれては困る」

 

 

 

が、しかし、まだ残っていた妖怪が居た。恐らくシャープインサニティのトップよりも強力な力を持つ者が…

 

その存在を忘れていたヒーローだったが今更気付こうとも運命は変わらないだろう。

 

 

 

 

 

「下準備は終えた…

後は計画を実行するのみだ。

ヒーロー共よ…果たして我の計画を止める事が出来るか?」

 

 

 

不吉な呟きは戦闘音の中に消え、

鬼は一歩ずつ歩を進めていくのであった。



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