公子様に過労死寸前まで酷使されたので転職します (きのこの山 穏健派)
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詳細設定(仮)一部解放

原神のキャラ詳細及び武器詳細を元にした
フライスィヒのステータスです。
多分、後々項目が増えるかも。


プロフィール

 

 

 

[ファデュイ所属 特殊部隊]

元 デットエージェント『フライスィヒ』

現在 冒険者兼傭兵『ファウル』

 

本名 ⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎・⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎

 

⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎は、今は亡き貴族『⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎』家の1人息子である。幼少期に両親が『事故』で亡くなり、とある名家に養子として迎えられ、貴族としての礼儀や振舞い、勉学などを叩き込まれた。

 

成人を機にファデュイに志願、そして数々の優秀な成績を残し、特殊部隊『デットエージェント』に配属される。配属された後も成果を出し続け、『債務』処理が優秀なことから精鋭部隊『首狩り』に異動する。

 

しかし、ある事をきっかけに私情に流された⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎は『債務』処理を放棄し、あろうことか『債務』の逃亡を加担した。『首狩り』の隊長ファ⬛︎⬛︎トの判断により『債務』と⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎の処理を実行するが⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎の激しい抵抗により精鋭部隊『首狩り』は⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎を除いて全滅する。

 

後に、捕縛された⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎は軍法会議にて極刑を言い渡されるがファトゥスの11人の1人『公子』と『⬛︎⬛︎』が擁護し、結果として精鋭部隊全滅事件は闇の中へと葬られた。

 

その後、璃月支部『公子』の支配下に配属され役目を果たしていたが業務に耐えられなくなり失踪した。現在はモンドにて『ファウル』と名乗り、冒険者兼傭兵稼業を務めている。

 

 

 

使用武器

 

 

 

・フライスィヒの刀

数多くの任務と『債務』を処理した武器。毎日欠かさず手入れされたこの武器は『債務』を苦痛なく処理出来る。

 

・スローイングナイフ

フライスィヒが自作した投げナイフ。たかが小さいナイフと笑ってはいけない。この研がれたナイフはダーツをボードに投げるように簡単に、例え鎧を着込んでいようと突き刺さり命を刈り取る。

 

・ファイバーワイヤー

短い非金属で作られ、両端に小さいハンドルが付いているワイヤー。正しく行えば音を立てずに『債務』処理が出来る恐ろしい武器。背後に細心の警戒を怠ることなかれ。

 

・味方殺しの刀

元の主と共に切磋琢磨した仲間達の命を⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎した武器。道を踏み外したことに気付くのが、もう少し早ければ背負うことはなかった。この武器を手放してはならない、手放せば真の意味で『味方殺し』となる。

 

 

 

ボイス一覧

 

 

 

▶︎初めまして

 

冒険者兼傭兵、ファウルと申します。今日から栄誉騎士様の護衛として同行しますので何卒宜しくお願いします。

 

▶︎おはよう

 

おはようございます。今日の御予定はどうされますか?

 

▶︎こんにちは

 

もう少しで食事の準備が出来ますので少々お待ちください。お手伝いですか?それでは食器の準備をお願いします。

 

▶︎こんばんは

 

どうかされましたか?え?私ですか?見張りをしていますが。ええ、何時如何なる時に襲撃されるか分かりませんので。

 

▶︎おやすみ

 

おや?もうそんな時間でしたか。それでは御自宅までお送り致します。

 

▶︎世間話・仕事

 

さて。ジン様への報告書はこれで....後はリサ様の書庫整理と依頼の確認...と。ふむ、これならば午後の3時までには終わりますね。

 

▶︎世間話・非常食

 

ふむ。栄誉騎士様といつも一緒にいるパイモン様をどう調理したものか....血と内臓を抜いて干物にするべきか、あるいは燻製にするべきか...迷いますね。おや?此方にいらしたのですかパイモン様?ところで距離がとても離れているのですがどうかされましたか?

 

▶︎世間話・鍛錬

 

ご希望でしたら、いつでも申してください。私が持っている全てをお教えしますので。

 

▶︎雨の日

 

雨は好きです。『債務』処理が雨音に掻き消されて気付かれることがありませんので。

 

▶︎雷の日

 

雷はどちらかと言えば好きな方ですね。以前、『債務』が雷に当たって処理されたので。まぁ、偶々だと思いますが。

 

▶︎雪の日

 

雪は好きです。雪の中に身を隠し『債務』を待ち伏せ出来ますので。

 

▶︎風の日

 

風はどちらかと言うと嫌いですね。纏めた書類が幾つか吹き飛ばされ、何処かへ行ってしまったので、ええ.....あの時は本当に焦りました。

 

▶︎興味のあること

 

ふむ....そうですね。挙げるなら死者を蘇生させることでしょうか?確か、何処かで『女神の雫』という物を死者に垂らすと息を吹き返すとの、伝承を聞きまして...文献を調べましたが一つもそのような事は書いてありませんでしたが、いつか見つかることを祈っています。

 

▶︎シェアしたいこと

 

そうですね....何事も落ち着いて行動し、私情に流されないようにしてください。さもないと取り返しが付かなくなりますので。

 

▶︎ ファウル(フライスィヒ)の趣味

 

趣味ですか...最近ですと非常食作りにハマっています。何かしら起こった時に備えて。

 

▶︎ ファウル(フライスィヒ)の悩み

 

悩みですか....特にありませんね。時々、思い詰めた顔をしている?いえ、大丈夫ですよ。ご心配をおかけしました。

 

▶︎好きな食べ物と嫌いな食べ物

 

特にはありませんね。

 

▶︎ ファウル(フライスィヒ)自身について・⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎

 

私は、もう道を踏み外しました。これも任務だと己を偽ることが出来ず、私情に流され....仕事仲間達を⬛︎してしまいました。時々思うのです、私は....生きていて良いのかと。

 

▶︎ ファウル(フライスィヒ)自身について・懺悔

サージ..ア⬛︎シア...⬛︎フト....隊長.....申し訳、御座いません。あの時、私情を抑えていれば.....。

 

▶︎ジンについて

 

ジン様ですか。あの方は私の恩人です、ええ。しかしこの前、仕事量を減らせと言われてしまいましてね。何でも仕事をし過ぎだと....ジン様の言う通りですか。いやでも確かに私がまだ新入りだった頃はこんなに仕事を多くしていなかったような...はて?仕事量はいつからこれくらいが普通になったのでしょうか?

 

▶︎ガイアについて

 

ガイア様ですか。あの方は...そうですね、自由人と言いますか、マイペースと言いますか。まぁ良い人であるのには変わりありませんが掴みどころが無い方ですね。あと偶にですが一緒に飲みに行ったりします。内容ですか?殆どは仕事の話ですが色々と私の心配をしてくれる優しい方です。

 

▶︎リサについて

 

リサ様ですか。そうですね、本気で怒らせてはいけない方かと....いえ、心優しい方なのですが、その、ガイア様がお仕置きされているところを見てしまいまして、ね。

 

▶︎クレーについて

 

クレー様ですか...クレー様ですか。いえ、その、何と言えばいいでしょうか....子供特有の無邪気さが可愛らしいと言いますか、危険と言いますか。素直で良い子ではあるのですが、その、魚を爆弾で取るのはどうかと。

 

▶︎アンバーについて

 

アンバー様ですか。一言で言えば普通ですね....いえ、良い人なのですが、その。この前、また飛行免許をアンバー様が剥奪されまして...ええ。その後ですか?また飛行免許を取得し直しましたね.....もう数えるのは諦めました、はい。

 

▶︎ディルックについて

 

ディルック様ですか....ハッキリ申し上げますと嫌われているかと。いえ、多分私の思い違いだとは思うのですが、その....会う度に睨まれて怖いです。

 

▶︎バーバラについて

 

バーバラ様ですか。とても心優しい方であり、叱る時は叱る...母のような方ですね。一応、言いますが()()()と似ているという訳ではなく....そうです。言葉の綾の意味で母のような方と、ええ。忠告致しますが、母のような方だとバーバラ様に申し上げますと「私はまだそんな歳じゃないわよっ!」と教会から追い出されてしまうので、ご注意ください。そういえば、最近顔がかなりやつれていたのですが何があったのでしょうか。

 

▶︎栄誉騎士()について

 

栄誉騎士様ですか。そうですね...基本的に無口ではあるのですが、その、行動が大胆と言いますか...以前、仕事で誓いの岬に赴いた時にですね、その....無相の雷を討伐されている最中を見かけまして...ええ。「プリズム寄越せや!糞キューブ!!」と言いながらボコボコにして.....私の見間違いだと思うのですが無相の雷が怯えていたように見えて、可哀想に思いました。その後ですか?「次はクソ精霊○るぞ!着いてこい!!」とおっしゃって、そのまま何処かへ...はい。同行していたバーバラ様と、私がお会いしたことがない方達を連れていたのですが顔が死にそうになっていました....過労で倒れなければ良いのですが、大丈夫でしょうか。

 

 

▶︎パイモン(非常食)について

 

パイモン様ですか。非常食ですね、ええ。以前、栄誉騎士様に頼まれまして調理しようとしたのですが、顔をグシャグシャにして「オ゛イ゛ラ゛は゛非゛常゛食゛じ゛ゃ゛な゛い゛!!」と....その、泣き付かれまして。流石に止めましたが栄誉騎士様から叱責を...はい。

 

▶︎公子について

 

公子様ですか。あの方は....私を救ってくれた方であると同時に私を⬛︎してくれなかった方ですね。心優しくも冷酷な顔を見せる、仕事に私情を挟まない素晴らしい方です。唯、公子様の補佐になってからは...その、無理難題を出されると言いますか.....いえ、最初の頃はこの様な事にはならなかったのですが、気付けば...はい。恐らく、かなり私を信頼されているが為に、こうなってしまったかと。

 

▶︎ミハイル・ジャバートについて

 

私の友人であり、仕事仲間で....私の失態を唯一知っている方達です。彼等は私の失態をどうこう言わず、ただただ私の隣に居てくれました。もし彼等が居なければ私は...私自身で終わらせていたかと。

 

▶︎モナについて

 

モナ様ですか。あの方は私が今まで会ってきた占星術師の中で1番実力が優れている方だと思いますが....ごく偶にモナ様の家から栄誉騎士様とモナ様と、その.....何と言いましょうか。()とは言えませんが声が聞こえて...いえ、何でもありません。忘れてください。

 

▶︎洗脳姫・⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎について

 

お前は絶対に許さない殺してやる何処に行こうと追い詰めてやる殺してやる何がなんでも探し出してやる殺してやる例え片腕が無くなろうと息の根を止めてやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる頃してやる頃してやる頃してやる頃してやる頃してやる頃してやる頃してやる頃してやるころしてやるころしてやるころしてやるころしてやるころしてやるころしてやるころしてやるころしてやるころしてやるころしてやる



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第一話 失踪

原神にハマったので投下。
続くかは反応を見て考えます。

追記 誤字報告ありがとうございます。
更に追記 加筆及び修正しました。


私はファデュイ所属の特殊部隊、デットエージェントである。名前は....規約により教えることは出来ないが「フライスィヒ」と呼ばれている。何でも、とある大国の言語で『勤勉な者』という意味らしい。

 

さて。本来なら、我々デットエージェントに課せられる任務は金銭関係や『汚れ』仕事なのだが、私は常日頃からどんな些細な事であろうと真面目に取り組んでいたのが実を成し、今では公子様の秘書兼護衛に抜擢(ばってき)された。

 

そう、抜擢されたのだが....

 

 

「フライスィヒ、ちょっとこの書類纏めといてくれない?」

 

「・・・・あの、公子様? 私の目に狂いが無ければ机を覆う程の山積みされた書類があるのですが」

 

「うん、頑張ってね。 因みにそれ、午前中までに終わらせといてね」

 

「午前中....?」(現在の時刻09:00)

 

「それが終わったら、今度はモンドにいるミハイル達の仕事の進捗と情報の共有、それと七星の動きについて纏めた報告書を頼むよ」

 

「・・・・公子様、其方(そちら)については何時頃に提出すれば良いでしょうか?」

 

「ああ。今日中に頼むよ」

 

「」

 

「一応、言っとくけど重要性が高いから君1人で頼むよ。『勤勉』な君なら、このぐらい大したことはないでしょ?」

 

「ハイ、ソウデスネ」

 

「じゃあ大変だろうけど頑張ってね。僕はちょっと外の仕事に行ってくるから」

 

「ワカリマシタ、オキヲツケテコウシサマ」

 

 

・・・・・・抜擢されたのだが

 

 

「フライスィヒ、ちょっと頼み事があるんだけど」

 

「はい、何でしょうか公子様」

 

「今から琥牢山に行って石珀を掻き集めて来てくれない?」

 

「・・・・今からでしょうか?」

 

「うん、ちょっと取引役から連絡があって明日石珀を200個納品予定だったんだけど、保管役の計算違いで100個しか無かったそうだ。だから石珀を100個ほど頼むよ」

 

「イマカラ...ヒャッコ....?」(現在時刻02:35)

 

「ああ、因みに明日もとい今日の午前8時に取引するから最低でも午前7時くらいまでに頼むよ」

 

「」

 

 

・・・・・抜擢というより公子様の無茶振りに耐えられる仕事を押し付けられたような気がする。

 

だが、待って欲しい。

最初の時は公子様のスケジュール管理や公子様の仕事の補佐から、ここまでに達したということは実質公子様に認められているのではないか?

 

そう一時期考えていたのだが、どうやら公子様の前任者は任務に耐えられず身も心もボロボロになり、今では清掃係になったらしい。

 

・・・・そういえば前に一度見たことあるのだが、まだ若いであろうはずなのに目は虚ろになり、髪は(主に頭頂部が)薄くなっていた。

 

もしや自分も前任者と同じ運命を辿るのではないかと、不安と危機に駆られた私は自身の少ない荷物を纏め、私の部屋の机の上に辞職届を置き、ファデュイから退職(脱走)した。

 

 

 

 

そしてアレから3ヶ月が経ち....

 

 

 

 

「さて、と。此奴(こいつ)で全部か」

 

 

今、私はモンドで冒険者となり『ファウル』と名を名乗っている。最初は冒険者協会の受付嬢キャサリン様に「何で此処にデットエージェントが!?」と叫ばれ、西風騎士に御用されかけたが、必死に私の話を聞いてくれるや否や直ぐ解放してくれた。中には「大変だったんだな」と泣きながら慰め、食事を奢ってくれた騎士もいた。

 

幸いにもミハイル達はモンドに滞在しておらず、西風騎士団にも私がいることを黙っていて欲しいと伝えると西風騎士団の団長代理のジン様から絶対に厳守すると契約書を書いてくれる程、手厚くして貰った。

 

その際に私は少し泣いてしまったが、この恩は一生を懸けて報うつもりだ。現に、西風騎士団に世話になっているばかりだ。私が住んでいるこの部屋もジン様名義で貸して貰っているのだ。

 

だから冒険者としての責務を働きつつ、西風騎士団の仕事も一部任されている。というより、任させて貰っている。

 

とはいえ西風騎士団の仕事の一部といえど、ほぼ雑用なものだが。書類整理に、リサ様の書庫の管理、後はモンドの住民からの依頼の消化ぐらいだ。

 

公子様に任される任務に比べれば赤子の手を捻るよりも簡単なものだ。

 

ただ1つだけ...いや2つほど不満があるのだが、何故休まなければならないのだ? 別に私は少しの休息が取れればそれだけで十分だというのに。

 

それに何故朝8時から最低でも夜の20時までしか働けないのだ?自慢するほどでもないが私は最大でも7徹は可能だぞ?

 

そうジン様に報告したのだが「もういい...もういいんだ....」と私の両肩を掴まれ、1週間程の休暇を言い渡され、リサ様からは心身の疲れを癒す貴重なハーブを、ガイア様にはその夜に酒を奢って貰った。因みにクレー様からは花冠を渡された。

 

もしや私がおかしいのかと考え、この事を受付嬢のキャサリン様に相談すると....

 

 

「・・・普通に考えてればその仕事量はおかしいと思います。第一、3徹ならまだしも7徹なんて出来ませんからね普通は...貴方、本当に人間?一体どんな過酷な職場でそうなるのか逆に聞きたいのですが??」

 

 

どうやら私がおかしかったらしい。それはそうと化け物扱いを受けるのはやめて欲しいが。

 

しかし休暇といえど何をすれば良いのか考えたことがなかった私は取り敢えず、大聖堂にいらっしゃるバーバラ様のお手伝いでもしようかとしたのだが

 

 

「手伝うことはないかですって? あなた休暇中でも仕事をする気?!」

 

 

その後休暇とは何かを説かされ、教会から追い出された。少し心が傷付いたのはここだけの話。

 

うーむ、困った。

趣味の1つや2つ見つけて楽しんでこいと言われても特にないのだが....どうしたものか。

 

 

「だーかーらー、オイラは非常食じゃないって言ってるだろッ!」

 

 

ふと声がした方を見ると、宙に浮いている白い小人と背中に剣を背負った少女が話していた。確か、モンドの栄誉騎士様とマスコット様だったか。

 

その時、頭の中の電球が光った。

そうだ、非常食を作ろう。

 

(いつ何が起きても大丈夫に準備するのも趣味の1つだろう。思い立ったが吉と言うし、早速取り掛かるとしよう)

 

第三者からすれば、それは果たして趣味と言えるのだろうかと疑問に思うだろうがファウルがその事に気付くのは休暇明けにジンに指摘されるまで分からないだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・・ん」

 

 

 

窓から日差された光にファトゥスの公子....タルタリヤは目を開き、大きく背伸びをし、軽く顔を洗った後いつもの服を着る。

 

今日も今日とて、また新しい仕事があるだろう。されどタルタリヤの右腕....フライスィヒがいれば、どんな問題であろうと彼が時間内にかつ完璧に終わらせてくれる。

 

ふとカレンダーを見たタルタリヤは最近フライスィヒを休ませていない事に気付き、そろそろ休みを取らせねばなるまいと考える。

 

しかし、いかんせん彼が休んでしまうと仕事が回らなくなるほどではないが、深夜まで業務が掛かってしまう。

 

いつか彼に休みを取らせないと、と思えど先延ばしになってしまう事が多々あった。

 

振り返ってみれば彼に最後に休みを取らせたのは半年前だった筈だ。幾ら文句を言わずとも彼は人間だ。無理をして身体を壊されては此方も困る。

 

幸いにも、ここ最近は忙しくなく珍しい日々が続いている。今日、明日は彼は休ませようと考えたタルタリヤはフライスィヒの泊まっている部屋に訪れ、ドアをノックをした。

 

 

「フライスィヒ、いるかい?」

 

 

ノックをするが返事はない。

普段ならタルタリヤがノックをする前にフライスィヒが気配を読み取り、ドアを開けるのだが、まだ寝ているのだろうか。

 

 

「フライスィヒ、まだ寝ているのかい?」

 

 

もう一度ドアをノックしてみるが返事はない。何かがおかしいと異変を感じたタルタリヤはドアノブを回してみると鍵は掛かっておらず、彼の部屋へと招かれた。

 

 

「フライスィヒ? 具合でも....」

 

 

部屋へと入った瞬間、タルタリヤは目を疑った。フライスィヒの部屋には何もなく、元からあったベッドと机、棚以外もぬけの殻だった。

 

一体何が起こっていると困惑したタルタリヤの目にポツンと置かれた1枚の手紙が映った。

 

慌てて手紙を取り、表を見ると『辞職届』という文面が書いてあった。額からダラダラと冷や汗が流れ落ち、気持ち悪く感じながらも震える手で手紙を開いた。

 

 

 

 

 

ファトゥスの11人の1人...公子様へ

 

この手紙を読まれていることは私はもう此処には居ないでしょう。この様な行いをしてしまい、大変申し訳ございません。

 

ですが、もう私1人では任務を遂行出来ないことを考え、お力添え出来ないことを理解し、この度、公子様の秘書兼護衛を降りさせて頂きます。誠に勝手なことをして大変ご迷惑をお掛けします。

 

しかし、私よりも素晴らしい人材がいることには変わりありませんので、余り気に思っていただかなくて大丈夫ですので、どうかお身体だけお気を付けてください。

 

追記 

私を探さないで頂けると幸いです。

 

 

『元』ファデュイ所属 特殊部隊

 デットエージェント フライスィヒより

 

 

 

 

 

「・・・・・・・・」

 

「・・・・・」

 

「・・・」

 

「」

 

 

内容を読み終えたタルタリヤは辞職届を懐にしまい、早足でオフィスに着くと部下はいつも通りに業務を当たっていることを確認した後、一時業務を中断させ、部下全員を集めると重くなった口を無理やり開かせた。

 

 

 

「・・・・フライスィヒが辞職した。この事を知っている者は居ないか?」

 

 

 

それを聞いた瞬間、時が止まったかの様に空気が凍り付いた。ある者は理解出来ず混乱し、またある者は仕事に支障が来す事を知り青ざめ、またある者はとうとう起きてしまったかと悟り目を伏せた。

 

部下の表情から察したタルタリヤは重く閉ざされた口を再び覇気を纏わせながら言った。

 

 

 

「フライスィヒが何処に行ったか情報を集めろ。見つけた場合はどんな手を使ってでもフライスィヒを....彼を連れ戻してこい」

 

 

 

後に、この事件は『公子の右腕の失踪』と呼ばれることになる。そして、ファデュイとモンドとの一触即発の危機に陥るのは遠い未来ではない。

 

 



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第二話 あの人は今

意外と反響があったので続編投下
更に反応を見て続けるか考えます。


ジン様から休暇を言い渡された3日目の朝。

今日も空は快晴であり、肌触りの良い風が吹いているモンドにて場違いな服装(少し変わったデットエージェントの服)を着ている男....ファウル(フライスィヒ)はベンチに座り、天を見上げていた。

 

 

(・・・・暇だ)

 

 

アレから趣味と称した非常食作りをしていたのだが2日も経たない内に終わってしまい、モンド内をフラフラと歩き彷徨(さまよ)っていた。西風騎士団の仕事が出来ないのであれば、モンド内の住人の手伝いをすれば良いと思い当たったファウルは住人達に何か手伝えることはないか聞き回っていたが.....

 

 

「おはようございます!『鹿狩り』へようこそ!!.....あら、ファウル様じゃないですか? 珍しいですね。お食事に来たのですか?」

 

「え?何か手伝えることはないか??.....申し訳ありませんファウル様。今は特にありません...ですが、ファウル様は今休暇中ですよね? ファウル様が仕事熱心なのは皆知っていますが幾ら何でも休暇中に仕事をするのはどうかと思いますよ??」

 

 

・・・・聞き回っていたのだが

 

 

「ん? おおファウルか。なんだ?新しい武器の鋳造依頼か??」

 

「何か手伝えることはないか、だと?....悪いが今は必要ないな。それに今は休暇中だろ? ゆっくり羽を伸ばしたらどうだ」

 

 

・・・・・・・いたのだが

 

 

(なんじ)、心身を休息せよ」

 

「ご、合成台が心配する程って日頃からどれだけ仕事してるんですかファウルさん....」

 

 

住人達を手伝うどころか、逆に休息しろと注意されてしまった。何故私が休暇中だというのを知っているのか聞くと、私が休暇中でも仕事をするだろうと予測したジン様が既に手をうち、休暇に集中出来るようモンド内の住人に広めていたようだ。

 

・・・・・複雑な気分だ。

恐らくジン様が良く休めるように善意でやっているようだ....が、私には仕事をさせないよう行っているように見えるのは気の所為だろうか。

 

 

(いや、ジン様のことだ。私が休息出来るよう、配慮してくれているのだろう。それを疑うなど恩を仇で返すようなものだ)

 

 

ファウルは何も証拠がないというのにジンを疑ってしまい、己を恥じたと同時にジンに対して敬服した。まさか、そこまでして頂けるとは思いもなく少し涙腺が緩んでしまった。

 

実際の所どうなのかと問われればそのとおりなのだが。何故ジンがモンド内の住人達を巻き込む程、徹底したのか....それには唯一つの理由があった。

 

困っている人がいれば、平然と助ける。

 

そう只これだけなのだが、これが大問題であった。

 

曰く、壊れた屋根の修理を手伝った。

曰く、落とし物探しを手伝った。

曰く、商人の護衛を手伝った。

曰く、迷子の子供を保護し親探しを手伝った。

 

などなど上げればキリが無い。一見、ただの善人に見えるだろうが上記全てなんと無償でやっていたのだ。中には、騎士団に依頼されたものまで混じっていた。しかもファウルが手伝ったのは全て彼が休日の日に。

 

この報告を聞いたジンは「彼奴(あいつ)の頭の中には仕事しかないのか!?」と嘆いた。余談だが近くで聞いていたリサは(それ貴方が言えること?)と、お前も同類だろと言わんばかりの視線をジンに送っていたが気付かれることはなかった。なお、ガイアに関してはそのやり取りを見て笑っていた模様。(後にリサにシバかれていたが)

 

更に遅れてやってきたクレーがリサにシバかれているガイアを見て、ドアをそっと閉じ、

自分は何も見なかったと暗示をしながら(現実に目を背けながら)魚を取りに行った。

 

 

 

閑話休題

 

 

 

ともかく、たった2日でやることが無くなってしまい、どうしたものかと悩んでいたが気付けば日は落ち、辺りは暗くなっていた。どうやら長く考え過ぎていたようだ。

 

ファウルはベンチから立ち上がり、軽く身体を(ほぐ)し帰路に着いた。

 

 

(・・・・こうも退屈だとあの時が懐かしく感じるな)

 

 

公子様に無理難題を突き付けられ、それを何とかこなし、毎日2、3時間程の睡眠を取っていた日々が思い浮かぶ。

 

 

(・・・・いや、アレはアレで命の危険を感じるが、まぁ多少忙しい方が性に合っているな)

 

 

ふと頭に『元』上司の公子様が思い浮かぶが元気にしているだろうか。私が居なくなり、仕事に支障は来していないだろうか。

 

 

(あのお方のことだ。今頃、私よりも良い人材に巡っているだろう。)

 

 

こうして、ファウルの休暇3日目は特に何もしないまま1日を終えた。明日に趣味が見つかることを祈りながら。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方その頃

 

 

 

 

「公子様!本国から報告書はまだかとのお怒りの連絡が!!」

 

「公子様!幾ら何でも明日までに夜泊石150個の納品は無理です!もう少し期日を!!」

 

「公子様!モンドに滞在しているミハイル達の連絡が取れません!どうすれば良いでしょうか!!」

 

「取り敢えず報告書は出来たからそれを送ってくれ!納品に関しては交渉してみるが死ぬ気で集めて来い!ミハイル達は知らん!探して来い!!」

 

「ハッ!」

「り、了解しました!」

「い、今からですか...もう深夜の3時なn、何でも御座いません!行ってきます!!」

 

 

 

「・・・・・」

 

「公子様」

 

「ああジャバートか。大丈夫だよ、これくらいなんてことないさ」

 

「しかし今日で3徹で御座います。少し仮眠を取った方が宜しいかと」

 

「いや僕は大丈夫だ。それよりもジャバート」

 

「ハッ、報告します。璃月全体を蟻一つ見逃さず捜索しましたが残念ながら....」

 

「そう、か」

 

 

フライスィヒが辞職もとい失踪してから3ヶ月経った今、彼が居た有り難みが痛い程わかった.....わかってしまった。

 

彼が今まで1人で行っていた机を覆う程の報告書の作成は常人ではたった半日...いや、それよりも短い時間で終えることが出来ないこと。

 

短時間で鉱石を100個以上...しかもそこから品質の良い鉱石を探し集めることが出来ないこと。

 

その他にもあるのだがこれ以上は割愛させて頂く。現状としてファデュイが失った1人の人材で仕事が回りにくくなってしまう程。

 

何故仕事が回りにくくなってしまったのか。答えは単純だ。フライスィヒが仕事の中心に立ち、回していたからだ。無論、タルタリヤもその1人なのだがフライスィヒと比べれば量が違った。

 

簡単に言ってしまえばフライスィヒ1人に任せ過ぎてしまっていたのだ。

 

 

「僕達は彼に少し...いや、かなり頼ってしまっていたようだ」

 

「公子様....」

 

「・・・・仮に彼が見つかったとしても戻って来てくれる保証はない」

 

「公子様、その時は我々が無理やりにでも」

 

「駄目だ」

 

「し、しかし」

 

「そんなことをしてみろ、彼が絶対戻らなくなっても良いのなら」

 

「・・・・・」

 

「ともかく彼を見つけ次第、僕に報告するように。命令があるまで手を出さないように、ね」

 

「・・・・・ハッ、了解しました」

 

 

腑に落ちないまま、部屋を後にしたデットエージェント『ジャバート』は失踪した『元』同僚を思い浮かべた。

 

 

(・・・・・失踪、か。)

 

 

やがて外に出たジャバートは懐から古びた懐中時計を取り出した。これはフライスィヒの部屋から見つかった唯一の物であり....ジャバートが彼に誕生日の贈り物として渡した物だった。

 

 

(・・・・・何も言わず消えやがって...馬鹿野郎)

 

 

今夜は誰もが綺麗な満月だと口を揃えて答える程であったがジャバートには余りにも歪に見えて仕方がなかった。

 

フライスィヒが消えてから3ヶ月...未だに目撃情報は何一つなかった。



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第三話 友として

執筆中に感想が来て確認したら
執筆内容をドンピシャで当てた方が居て
思わず後ろを振り返ってしまったので投下。


誰も居ないよね?



残りの休暇日数が後半に差し掛かった4日目の昼。趣味が全く見つからず、昨日と同じようにモンド内をぶらぶらと歩いていたファウルは....

 

 

「ほんじゃま、乾杯」

 

「乾杯」

 

「・・・・か、乾杯」

 

ミハイル達とモンドの酒場『エンジェルズシェア』にて酒を飲んでいた。何故こうなったか、それは数時間前に遡る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・・食材がない」

 

 

カーテンの隙間から漏れ出た光に目を覚まし、ベッドから起床して簡単な朝食を作ろうと食料庫を確認しに行くと(ほこり)以外、何もなかった。

 

それもその筈、食料庫にあった食材は全て非常食に使ってしまったのだ。非常食作りに夢中になってしまい、食材を買いに行かなければならないことをすっかり忘れていた。

 

 

「・・・しかたない。鹿狩りで食べるか」

 

 

取り敢えず寝間着からシンプルな服装(シャツと長ズボン)に着替え、外へ出た。

 

未だ軽い眠気に襲われながらも欠伸をしながらツカツカと道を歩いていると角から人が現れたことに気付かず、そのままぶつかってしまった。

 

 

「うおっ」

 

「おっと、申し訳ありません。大丈夫ですか?」

 

「ああ大丈夫だ。」

 

「だから、ちゃんと前を見ろと言っただろうミハイル」

 

「!」

 

 

ミハイルと呼ばれた名にファウルは眠気が吹き飛び、僅かに冷や汗が額に流れる。

 

不味い。今は仕事着を着ていないからバレていないだろうが、あまり話していると自身の素性が露わになってしまうのも時間の問題だ。

 

 

「それでは私はこれで」

 

 

ここからさっさと逃げるのが正解だと判断したファウルは足早に立ち去ろうとしたが...

 

 

「あ、待ってくれ。私が前を見ていないせいでぶつかってしまったのだ。せめて何か詫びをさせてくれ」

 

「お気持ちだけ頂きます。それに誰しも良くあることですから」

 

「いやいや、そう言わずに詫びをさせてくれ......

 

 

 

 

 

なあ、()()()()()()

 

「・・・ッ」

 

 

既に遅過ぎた。

 

 

「・・・・人違いでは無いでしょうか?私はファウルという名の者ですが」

 

「ほー...そうかそうか、それなら仕方ない。今まで報告してこなかったが、そう言うからには公子様に連絡しないとな」

 

「・・・・・・何時頃から気付いていたのですか?」

 

「いや気付くも何もお前、仕事着(デットエージェントの服)でモンド走り回ってりゃ嫌でも分かるだろ」

 

 

ミハイル曰く、私がモンドに移住して1ヶ月経った頃に戻ってきていたようだ。その際に、親とはぐれ迷子になってしまい、泣いている少女を肩に担いで歩いていた私がミハイルの目に入り、私が少女を誘拐しようとしていると本国に連絡しようか迷っていたらしい。

 

 

「一応、聞いておくが拉致しようとした訳ではないよな?」

 

「誤解です。その子が両親と、はぐれていたのを私が保護し探していただけです」

 

「・・・・ま、そうだよな」

 

「今の絶対分かってやっていただろうミハイル」

 

「おっとバレたか」

 

 

リュドミラに突っ込まれ、クククッと笑い仮面を上げ直したミハイルは、ふと思い出したかのように両手を叩いた。

 

 

「そうだ、多分会うのは初めてだよな? 紹介するのを忘れていた。こっちは仕事仲間のリュドミラだ」

 

「どうも初めまして、リュドミラだ。お会い出来て光栄だ。『公子の右腕』殿」

 

「・・・その呼び名はやめてくださいリュドミラ。それに私は」

 

「『元』ファデュイだもんな。それはそうと今日空いてるか?」

 

 

私の言葉を切るや否や、いきなり予定を聞いてきたミハイルに少し腹がたったが今日も特に何もなく、無駄に時間を浪費する予定だった。

 

 

「・・・まあ、空いてるには空いていますが」

 

「なら、エンジェルズシェアに行かないか? 色々と話したいし聞きたいこともあるからな」

 

「先に言っておくが別に公子様に報告はしないから安心してくれ」

 

 

果たして本当に公子様に報告していないのだろうかと疑問を抱きつつもミハイルの言う通りなら彼に礼を言わなくてはならないと考えたファウルは渋々了承しミハイル達と共に酒場『エンジェルズシェア』へ向かった。

 

 

 

 

 

そして現在に至る。

 

 

「・・・・成る程ねぇ、公子様の業務に耐えられず逃げ出したってとこか」

 

「まぁ私達から見てもかなりの激務だったからな。致し方ないだろう」

 

「・・・・・・責めたりしないのか?」

 

 

何を聞かれるかと思いきや、私がしていた仕事の内容と辞めた理由を聞いてきたミハイルとリュドミラは意外にも私を責めることはなく、同情してくれていた。

 

 

「いやまあ、突然辞めちまったのには驚いたが辞めて当然だと思うぜ?」

 

「私としては234連勤して心身共に壊していないことに驚いているがな」

 

「・・・・ミハイルはともかく、リュドミラは私を何だと思っているんですか?」

 

「人間の形をした遺跡守衛か遺跡ハンター?」

 

 

どうやら私はゴーレムの類だと思われているようだ....普通の人間なのだが。

 

 

「まあそれ程、お前が異常ってことだよ。普通の人間は7徹もしたら死にかけるだろうが」

 

「そうですか? 別に5時間ほど仮眠を取れば大丈夫ですが」

 

「「・・・・・・・・」」

 

「何故黙るんですか」

 

 

言いたいことはわかりますが、取り敢えず私をバケモノを見るような目で見るのはやめて頂きたい。とても心外だ。

 

 

「あー....んんっ! ともかくお前が元気そうで何よりだよ」

 

「話を逸らさないでください」

 

「フライスィヒ、このモンド風焼き魚美味しいぞ?」

 

「いやですから、ムグッ」

 

 

私に有無を言わせんとばかりにリュドミラが私の口に料理を突っ込んできた。美味しいのは分かりますが何故2本突っ込んだんですか。

 

 

「さて。じゃあお前の話を聞いたところで....こっちの近況を話そうか」

 

 

ミハイルはグラスを煽り一気に飲み干し、テーブルに置くと、コトンとグラスから音色が鳴り響いた。

 

 

「まずはお前が居なくなった後だが....かなり荒れたな」

 

 

ミハイル曰く、私が居なくなったことで大騒ぎになり、今までより何倍も仕事が回りにくくなってしまったようだ。その所為もあり、現在璃月支部は私を見つけるべく血眼になって大捜索しているらしい。しかも何故か私の首には賞金が掛けられていた。

 

 

「賞金ってなんですか...」

 

「それだけお前が必要とされてるってことだ。因みに賞金を受け取れるのは生きている状態のみだとよ。良かったな」

 

「全く良くないんですが」

 

 

まさか其処までされるとは思わず、ファウルは頭を抱えてしまう。

 

 

「そう気に病むな。ここ(モンド)にいれば大丈夫だ」

 

「・・・・・本当ですか?」

 

「まあ、お前が居なくなった翌日に璃月支部からこっちのモンド支部にも協力要請されたが」

 

「」

 

「ミハイル!」

 

 

モンドならまだ情報は行き渡っていないと思いきや、ファウルがモンドに着く前に広まっていたようだ。

 

詰んだ。そう悟ったファウルは私が必死に身を隠しながらモンドへと逃げ延びたのは時間の無駄だったのかと思い詰め、口から魂が抜けた。

 

 

「す、すまんフライスィヒ! 確かに協力要請されたが俺達(モンド支部)は別にお前を捕縛するつもりはないからな!!」

 

「そ、そうだぞ! それどころか逃げ出したのはどう考えてもあっち(璃月支部)が悪いと答えて要請拒否したから大丈夫だ!!」

 

「・・・・・ほんとうか?」

 

「「本当だ!!!」」

 

 

口からフヨフヨと浮いていた魂は瞬時に身体へと戻り、ファウルは我に返った。

 

 

「それなら最初に言ってください。驚きの余り放心してしまったじゃないですか」

 

((放心どころか魂が抜けていたんだが))

 

 

そう言おうとしたがギリギリで言葉を飲み込んだミハイル達は誇っていいだろう。

 

ふとファウルが時計を見ると気付けば針は深夜を差し掛かっていた。どうやら長い間話していたらしい。時間が経つのは早いものだ....それにしては店内が静か過ぎるが。

 

そう感じたファウルは店内を見渡すがこの店のマスターとミハイル達以外誰も居なかった。おかしい。本来なら、この時間帯は賑わっているはずだが。

 

 

「ミハイル。今気付いたんですが何故私達以外居ないんですか?」

 

「ん? ああ、それなら此処を貸し切ったからだ」

 

「・・・・いつの間に」

 

「それはそうと、そろそろいい時間だしお開きにするか」

 

「そうだな」

 

「すみませんマスター、お会計を」

 

「フライスィヒは払わなくて大丈夫だ」

 

 

ポケットから財布を取り出そうとしたがミハイルに支払わなくていいと言われたファウルはもしや自分の稼ぎが少ないと思われているのでは?と感じた。

 

念の為、言っておくが確かにファデュイにいた頃と比べれば少ないが平均的な冒険者の収入よりもかなりの額を稼いでいる。

 

無論、この程度なら余裕で支払えると口を開こうとしたがリュドミラの言葉によって口を閉ざされた。

 

 

「ああ、そういえば忘れていた。この後客人が来るんだったな、確かファデュイ関係者の奴が」

 

「・・・・・」

 

「しかも何処かの誰かさんを探していたような気が」

 

「すみません、お先に失礼します。ミハイル、リュドミラ、この件は後でお礼させて貰いますよ」

 

「へいへい、ほんじゃまた」

 

「楽しみにしているぞ」

 

 

ミハイル達にニヤニヤと笑われながら店を出たファウルは次会った時に目に物見せてやると決意し帰路についた。

 

余談だが、そういえばまた明日の予定を考えていなかったと嘆くのは家に着くまで気付くことはなかった。

 

 

 

 

 

 

 

ファウルが酒場を出てから数分後。

先程まで笑っていたミハイルの顔は打って変わり、悲しげな...それでいて安堵した表情をしていた。

 

それもその筈、フライスィヒが失踪したと聞いたミハイルは別の仕事仲間の言った言葉が理解できず、冗談を言うのは止めろと憤慨した。周りが必死になって取り押さえるほど。

 

今頃かなりやつれているのではないかと考えていたが、実際に会ってみれば元気そうで安心した。お陰で数年分の寿命が縮んだ気がする。

 

 

「・・・・なあ、ミハイル」

 

 

そう物想いに更けているとリュドミラが話しかけてきた。顔を見ると具合が悪いのか深刻そうな表情をしている。

 

 

「なんだ?」

 

「その、本当に奴がフライスィヒなのか?」

 

「ああ。それがどうかしたか?」

 

「いや、その、なんだ。今から言う言葉は決して深い意味はないんだが.....

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

本当に奴があの『()()()()』のフライスィヒなのか?」

 

 

それを聞いたミハイルは口につけていたグラスをそっと置き、どう説明したものかと考えた。

 

 

「・・・・何処で聞いた」

 

「前に上層部に報告書を持っていた際にな....味方殺しのフライスィヒが失踪したと言って上層部の連中が慌てていてな」

 

「・・・・・・・上層部は何と言っていた?」

 

「見つけ次第、処刑すべきだと言っていたが処刑する前に此方が返り討ちに遭うのが目に見えている、と」

 

「・・・そうか」

 

 

重いため息を吐いたミハイルはリュドミラにどちらを話すべきかと思考する。表に出ている情報(カバーストーリー)を話すべきかそれとも....

 

 

「なあ、一体何があったんだ?」

 

「・・・・悪いが此処では話せん」

 

「・・・・・いや、此方こそすまない。私はただ...奴がそんなことをする人間ではないと見えてな」

 

「・・・・・・・」

 

「・・・・先に帰らせて貰うぞ。代金は」

 

「俺が払う」

 

「・・・かなりの額だった筈だ。払えるのか?」

 

「大丈夫だ、それに」

 

 

視線をリュドミラから逸らし出入り口へと向けたミハイルは()()()()()()()()()、リュドミラへと戻した。

 

 

「客人が来たからな」

 

「・・・・・・・分かった。では、また」

 

「ああ、良い夢を」

 

 

席から立ち上がったリュドミラはマスターに会釈した後、酒場から出て行き、マスターも明日の仕込みがあるのか奥へと行ってしまった。1人となったミハイルは(ぬる)くなった酒を飲み干すと()()()()()()()2()()()()()()()()

 

 

「出てきていいぞ。今此処にいるのは俺とお前だけだ。

 

 

 

 

 

 

()()()()()

 

 

すると階段からカツカツと下りてくる音が店内に鳴り響き、黒を基調とした服を着込み、顔を仮面で隠した男が現れた。

 

 

「ミハイル....」

 

「ほら突っ立ってないで座ったらどうだ?ほら一緒に飲もうぜ」

 

「・・・・・」

 

「おいおい、まさかとは思うが任務中だから飲めないって言わn」

 

「ミハイル」

 

「・・・・・冗談だ。それで? 会った感想は?」

 

 

ミハイルの真正面に座り、温くなった酒をグラスに注ぎ、ジャバートに渡すと仮面を少しズラし一気に飲み干した。

 

 

「・・・・何も変わっていなくて安心した」

 

「俺もだ....それでどうするんだ? 連れて帰るのか?」

 

「・・・・・・分からない」

 

 

任務遂行の為に連れて帰るか、それともこのまま元気に暮らしてやるべきか....ジャバートは迷った。

 

公子様直々の任務だ。もし見て見ぬ振りをし続けていたとしてもいずれ何処かでバレる。なら、いっそのこと無理矢理にでも連れて行くべきかと思考するが今度こそ心身共に粉々に破壊され自殺してしまうのではないかと考えてしまう。

 

公子様が言うには、もし彼が帰って来たら仕事量を調整し分散させると誓っていたが、本当にしてくれるのだろうかと不安になる。

 

何せ、何度も公子様にフライスィヒの仕事量が違い過ぎる、せめてもう少し分散させて頂けないだろうかと頭を下げに行っていたのだが返ってくる返答はいつも「彼なら大丈夫だ」....この一言だけだ。

 

故に、ジャバートに迷いが生じていた。

 

 

「・・・・・答えが出ないんなら、もう少し考えてみるのも手だぞジャバート」

 

「・・・・」

 

「それに聞いたぞ。お前、彼奴の代わりに公子様の補佐をしてるんだって?」

 

「・・・・出来た穴は誰かが埋めなくてはならないからな」

 

「・・・・・・そうか」

 

 

ミハイルは空になったお互いのグラスに酒を注ぎ足し、一気に飲み干した。ジャバートも同じく、仮面を横にズラし一気に煽る。

 

 

「ふー....俺達(モンド支部)はフライスィヒの味方になるがジャバート...お前はどうするんだ?」

 

「・・・・・」

 

「答えが出ないんなら、ひとまず様子見...見て見ぬ振りでいいだろ」

 

「・・・・・・そう、だな」

 

「決まりだな」

 

 

ミハイル達は、そう今後の話をしていると気づけば朝日が上り、外にいる小鳥達がさえずっていた。まるで彼らに女神の加護があることを祝福するように。




ルーキー日間にてランキング入り
及びお気に入り登録数100件を超えました。

まさか数日でここまでいくとは思いもしませんでした。今後ともこんな駄文ですがお付き合い頂けると幸いです。

追記
デッドではなくデットでは?と報告があり、
確認したらその通りでした。
今回のガバを反省し、リサにフィッシュルの服を
着させることでケジメをつけましたので
次からはこのようなことがないよう
気を付けていきます。

うわきつと思ったそこの貴方、後で
痛い目を見るので覚悟してください。

まぁ私もその歳でそれは無いと思いますgうわ何するやm


更に追記
フィッシェルではなくフィッシュルだったことが判明。
今回2度目のガバを反省し、ディルックの旦那に
バニー服を着させることでケジメを付けましたので
今度こそ、このような事態にならないよう
気を付けていきまsあ、ちょたすk


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第四話 過去の罪

このまま落としていくか
上げて落とすべきか迷ったので
投下します。

追記
近い内に加筆、場合によっては再投稿します。
次話はもう暫く、お待ちください。


 

頭痛がする。

身体が酷く重い。

意識が朦朧(もうろう)としている。

 

 

『フライスィヒ!貴様、自分が何をやったのか分かっているのか!?』

 

 

何故隊長が目の前にいる?

 

 

『⬛︎⬛︎⬛︎ッ!⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎ッ!目を覚ませ!!』

 

 

⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎が叫んでいる。

何故私の仕事仲間の2人が

血塗れになっている?

 

 

『フライスィヒ....お前、よくも、よくも⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎を!俺はあの子ともう直ぐ結婚する筈だったのに.....お前だけはッ!!』

 

 

⬛︎⬛︎⬛︎?

私が何をしたというのだ?

それに⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎?

身体中の至る所にナイフが

刺さっているではないか。

何があった?

 

 

『ガハッ.....クソッタレ....俺はお前を永遠に恨み続ける...お前だけ、能々と生を全うするなど...俺が、俺達が....絶対に、許さない....!』

 

 

⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎?

何を言っているのだ?

 

 

「私が何をー」

 

 

問い掛けようとした瞬間、グチャリと何かを踏んでしまった音が聞こえ、足元を見るとブヨブヨの....()()()()()()があった。

 

足元だけではない。辺りを見渡せば至る所に散乱している。草木には血がこびり付き赤黒く変色している。

 

不意に右手に固い物を持っている感触がし、目を向けると小さい肉片が纏わり付いているナイフを握り締めていた。

 

 

これは何だ?

 

 

ガタガタと腕が震え、右手の力が緩み、段々と手からナイフが滑り落ちていき、血溜まりに埋もれていった...()仕事仲間達の血と共に。

 

 

私はー

 

 

頭痛が激しさを増し、頭を抱えたフライスィヒはヨロヨロと後ろに下がるが何かに躓き、転倒した。

 

 

「グウ....!」

 

 

フライスィヒは震える腕を押さえながら立ち上がろうと、頭を上げた。すると...

 

 

「隊長....?」

 

 

頭を上げた視線の先には崩れた石壁に寄り掛かっている上官の姿を映した...心臓に刀が深々と突き刺さった状態で。

 

 

わたしはーー

 

 

ふと刀の柄の頭にぶらぶらと何かが垂れ下がっているのに気が付いた。以前、⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎から受け取った羽ばたいている鴉の形をした飾りだ。

 

 

ワたシはーーー

 

 

つまり....深々と突き刺さっているあの刀はフライスィヒの得物だ。

 

 

 

 

 

ワタシハーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーイッタイ、ナニヲシタ?

 

 

 

 

 

「ゲホゲホッ! ハァハァ、ハァ.....!」

 

 

ベッドから飛び起き、頭を右手で抑えながら呼吸を整えようとするファウル(フライスィヒ)。身体中の穴という穴から汗が噴き出し身体中から気持ち悪い感触に襲われる。

 

 

「ウッ....!」

 

 

次第に吐き気が増し、食べた物が喉元まで出掛かり急いでトイレに駆け込んだ。

 

 

「ゲホッゲホッ....ハァ、ハァ.....」

 

 

吐き出したことで少しスッキリしたが未だ吐き気に襲われ、フラフラと歩きながらキッチンに向かい、コップに水を注ぎ一気に飲み干した。

 

 

「・・・・また、あの夢か」

 

 

キッチンから寝室に戻り、腰をベッドに下ろして呼吸を整えるファウル。外はまだ暗く、時計を見ると針は2時を刺していた。()()()()から数年が経ち、今の様な悪夢に襲われることが時々あったが、モンドに住み始めてからは毎日の様に襲われていた。それも全てファウルが犯した...犯してしまった所為だが、こうも頻繁に悪夢を見るようではまるで....

 

 

「また....私は道を踏み外してしまうとでもいうのか」

 

 

お前は一生『⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎』だと消えぬ烙印を身体に刻まれたかのように....そしてお前はまた誤ちを繰り返すと宣告されているように感じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

残り休暇日数2日となった5日目の朝。

ファウルは、アレから眠れずそのまま朝を迎えるまで起きていたのだが、寝不足に陥っていた。このまま家で寝ていても良かったのだが、何もせず1日を潰すのはどうかと思い、モンドの外に出たのだが.....

 

 

「もう二度とこの様な事をしてはいけませんよ?」

 

「」「」「」「」その他大勢

 

「・・・・気絶してしまいましたか」

 

 

外に出た数分後宝盗団に絡まれ、非武装の一般市民相手に多数で取り囲むのは人としてどうなのだろうかと思いながら、千切っては投げ千切っては投げを繰り返し、やっと片付き一息つこうとしたがファウルはあることを思い出した。

 

 

「そういえばモンド周辺に出没している宝盗団掃討の依頼があったような....?」

 

 

ファウルは休暇中なのに仕事をしてしまったと焦るが気絶している宝盗団以外、誰もこの場には居なく、取り敢えず近くの木に縛り付けて立ち去ろうとしたが....

 

 

「あ!ファウルおじさん!ここで何してるの?」

 

「ッ!.....お、おはようございます、クレー様」

 

 

行動に移した時にはもう遅かった。しかも....

 

 

「あら?あらあら?こんな所で何をしているのかしらファウル?」

 

「」

 

 

この状況で一番遭遇したくない人物(リサ様)に出会ってしまった。

 

 

「き、奇遇ですね、リサ様....それでは私はこれで」

 

 

ファウルは無理矢理にでも逃走(敵前逃亡)を図ろうと背を向け足を踏み出した瞬間、目の前に雷が落ちた。

 

 

「何処へ行こうとしているのかしら?」

 

「ヒェ」

 

「ひとまず、状況説明くらいはお姉さんしてほしいな?」

 

「イ、イエコレハアノ」

 

「説明しなさい」

 

「ハイ...」

 

 

絶対にお前を逃がさんとばかりに覇王と見間違えるほどの形相をしたリサを見たクレーは生まれた小鹿のように震え、本人のプライバシーの為、ナニとは言わないが少し漏れてしまった。

 

数十分後、リサからの事情聴取を終えたファウルは厳重注意で済まされ、そのまま家へと帰った。例え知り合いだろうと容赦しないリサへの軽いトラウマを負って。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そうか。モンド周辺の宝盗団は彼がやってくれたのか....念の為、聞くが本当に偶然なんだな?」

 

「あら?私が嘘をつくとでも?」

 

 

ファウルと別れた後、リサとクレーはジンに今回の仕事の報告をしに団長執務室へと向かったが、執務室前まで来るとクレーはリサにちょっと忘れ物したから取りに行ってくると別れ、自分の部屋を目指した。新しい衣服に着替える為に。

 

 

「いや、そういう訳ではないのだが....もしこのリストに載っている名前が本当なら....単独かつ無傷で、しかも全員無力化までしたことが信じられなくてな」

 

 

リサから受け取った宝盗団のリストを確認したジンは目を疑った。リストに載っていた者達はテイワット大陸中で指名手配されている要危険人物ばかりだった。中には、連続殺人・強盗犯など一度は名前を聞いたことがある者達がいたのだ。

 

 

「気持ちは分かるわ。まさかモンド近くに潜伏していたなんて夢にも思わないわ」

 

「違う、そういうことじゃない....」

 

「?」

 

「私が驚いているのは、この凶悪犯達をファウルが1人で無力化したことだ。武器も持たずにだ」

 

 

もしその場にいたのがファウルではなく、ジンやリサ、ガイアなら全員の無力化は無理だ。最悪、重傷を負ってもおかしくない程。

 

 

「・・・・それは」

 

「そうだろう?」

 

「でも彼は元デットエージェントよ?そのくらいなら」

 

「無理だ。以前、ファデュイの連中が奴等を捕縛しようとしたらしいが返り討ちに遭ったそうだ」

 

 

それどころか何人か瀕死に追い込まれ、危うく壊滅寸前だったとのことだ。

 

 

「・・・・」

 

「本当に....彼は何者なんだ」

 

 

すると執務室のドアがノックされ、失礼するよと言葉と共に眼帯を付けた男が入室した。

 

 

「こっちの仕事は片付いたよ...おや?どうかしたのかい?」

 

「ああいや、少し、な」

 

「ええ」

 

「ふーん」

 

 

ガイアはジンに報告書を渡すと同時に懐から折り畳まれたある紙を渡した。

 

 

「そういえば、少し面白いものを見つけてね」

 

「これは?」

 

「見てみれば分かるさ」

 

 

ジンは疑問に思いながらも折り畳まれた紙を開いてみると、どうやら古い書類の一部の様だ。内容から察するに()()の記録のようだが所々文字が掠れて解読出来なかったが、以下の様な文が書かれていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

精鋭部隊『首狩り』

 

隊長 ⬛︎ァウ⬛︎ト

[⬛︎⬛︎状況 上半身に掛けて多数の⬛︎⬛︎⬛︎による⬛︎⬛︎⬛︎を確認。⬛︎⬛︎に⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎と予測]

 

   アー⬛︎⬛︎

[⬛︎⬛︎から⬛︎に掛けて⬛︎⬛︎⬛︎による多数の⬛︎⬛︎⬛︎を確認。出血もしくは⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎死亡と予測]

 

   フ⬛︎⬛︎スィ⬛︎

[生存]

 

   カフ⬛︎

[⬛︎⬛︎⬛︎もしくは刀により⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎大量⬛︎⬛︎による⬛︎⬛︎と予測]

 

   ジー⬛︎⬛︎ス

[⬛︎によ⬛︎腹⬛︎の⬛︎傷により⬛︎⬛︎と予測]

 

   ルク⬛︎イ⬛︎

[⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎を飛ばされた後、心臓に⬛︎を刺され⬛︎⬛︎と予⬛︎]

 

   シュタ⬛︎⬛︎⬛︎

  [⬛︎を斬り⬛︎ば⬛︎⬛︎死⬛︎と予⬛︎]

 

   サージ

  [⬛︎⬛︎から左腿に⬛︎⬛︎切り⬛︎⬛︎れ⬛︎亡と予測]



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第五話 嵐の前の静けさ

加筆及び修正すると言った手前、
面倒だから諦めて更新をとった輩がいるらしい。

私です(白目)
それはそうと明けましておめでとうございます。
今年も頑張って原神をプレイしていきます。

甘雨ちゃんの挙動が可愛すぎて
控えめに言ってマジリボルケイン。


 

 

時刻 14:34 ファデュイ璃月支部にて

 

 

「何? 行方不明??」

 

 

書類仕事の最中(さなか)、公子の元に一件の報告が上がった。霊矩関にて展開された分隊との連絡が突如として取れなくなったのだ。

 

 

「ハッ。現在、先遣隊と蛍術師の混合隊で捜索が行われておりますが、未だ見つからず....」

 

「・・・・交戦した痕跡は?」

 

「それが()()()()()、捜索は難航しております」

 

「何一つ? そこで生活していた痕跡はあるだろう??」

 

「・・・いえ、公子様。それが生活していた跡さえ....何一つなかったのです」

 

 

ーーーまるで()()()()()()()()()()()()()()()かのように。

 

 

報告を聞いた公子は眉を(ひそ)め、霊矩関にて展開した部隊の名簿を手に取り、視線を移す。名簿には、先遣隊・重衛士が2名、先遣隊・遊撃兵が4名、先遣隊・前鋒軍が3名そして全員の経歴が記載されていた。

 

 

(遊撃兵4人の内1人は此方に来て1年程経っていない新兵だが、他は全員ベテランか....交戦の跡がないとなると奇襲され拉致された可能性があるが、ほぼ全員歴戦の猛者だ....そう簡単にやられる筈はないが)

 

 

公子は顎に手を添え思考するが、仮に奇襲されたとしても返り討ちに出来る戦力だ。そう易々と一筋縄ではいかない筈なのだが歴戦の猛者達が消息したのは事実であり、戦力の損失がかなり痛手である。

 

 

(・・・・ともかく捜索は続行させるとして問題は)

 

 

名簿を見終えた公子は机に置き、長い溜め息を吐く。この件を本部に報告となるとまたネチネチと説教を喰らう羽目になるが、無視できる問題ではなかった。何せ、兵士を9名も失ったのだ。最悪、本部から何かしら命令が来るだろう。

 

 

(ああ、フライスィヒがこの場に居れば....)

 

 

以前にもこの様な事は過去に1件あったが、彼が捜索に赴き、無事発見出来たのだ。とはいえ、内容は連絡役の1人が宝盗団と交戦している最中、崖から転落し負傷してしまい身動きが取れなくなっていただけだが、今回はそれ以上どころか過去に起きた事が無いものであった。

 

 

(・・・・ははっ、何を考えているんだ俺は)

 

 

(フライスィヒ)に甘えていた自分を自嘲する。

未だこの場に居ない彼に頼ってどうする。

いい加減、甘ったれるのは止めろ。

 

そう言い聞かせるが、それでも尚彼に頼ってしまう。もはや彼に任せるのは日常の一環となっていた。

 

 

(彼奴を使い潰した張本人が何を言ってるんだか)

 

 

乾いた笑いをしながら自虐する公子は席を立ち、窓の外を見つめた。外は人盛りで活気があり、商売に勤しむ者や観光する者、元気に走り回っている子供達がいた。

 

ふと以前、彼と琉璃亭に食事をしに行ったのを思い出した。あの時は本当に笑いを堪えるのに大変だった....何せ、普段の口調が崩れ、声が震えていたのだ。遠慮する彼を無理やり入店させ、目の前で豪勢な料理を出された時など「こ、公子様。わ、わ、私は何か失態をやって致しましたでしょうか?」と、身体は震え、仮面を被っていた所為で表情は分からなかったが恐らく青ざめていただろう....とにかく面白おかしくなっていたのだ。

 

 

(アレは本当に面白かったなぁ.....)

 

 

気付くと過去の思い出に浸っていた自分を律する。今、思い出に浸っている時間はない。気持ちを切り替えた公子は再び仕事に向き合いながらも彼は今どうしているだろうと頭に過ぎる。

 

 

(なぁフライスィヒ....お前は今何をしてるんだ?)

 

 

公子は届くはずのない思いを彼に聞くが返答は来る筈も無く、カリカリと書類に記載している音だけが部屋に響き渡った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方その頃

 

 

 

拝啓 お元気にお過ごしでしょうか公子様。お身体を壊しておりませんか? 太陽の日差しが強くなってきた今日この頃、私は今ーーー

 

 

 

「あっはは、たーのーしー!」

 

「クレー様! 舌を噛んでしまうので余り喋らない方がいいです!!」

 

「ちょっと貴方!? もう少し女性の扱い方を如何にか出来なかったのですか!!?」

 

「モナ様! 今この状況で言えますか!!?」

 

「「「「待てや、ゴラァァァァァ!!!」」」」

 

 

クレー様とモナ様を抱えて宝盗団に追い掛けられております。

 

どうしてこうなった。

 

それは2時間前に遡る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「魚取り....ですか?」

 

 

休暇が残り1日となり、時計は昼時を示していた今日。

特にやる事が見つからず鹿狩りに食事でも行こうかと、家を出て数分後、クレー様とモナ様にバッタリ会った。するとクレー様はこれから魚取りに行くそうで私も一緒に如何かと誘ってくれたのだ。

 

その優しさが身体に染み渡る。

しかし邪魔して良いのだろうか?

 

クレー様の隣にはモナ様が立っており、私を睨みつけていた。まるで親の仇を見るかの様に。

 

 

「あー....申し訳ありません。ご一緒したいのは山々なのですが今日h」

 

「良かったですねクレー! ファウルも来てくれるそうですよ!!」

 

「えっ私はまだ何m」

 

「何を突っ立っているのですか? 時間は有限なのですよ??」

 

 

私が断ろうとした瞬間、モナ様が私の言葉を被せる様に何故か私も同行する流れになっていた。かなり食い気味だったのですが何事ですか?嫌な予感しかしないのですが??

 

 

「ほんとっ!?」

 

「ええ、ファウルも行きたいと駄々を捏ねていますので3人で行きましょうか」

 

「うん!」

 

 

何でしょう....3人という言葉だけ覇気があったのですが、本当に何をやるつもりなんでしょうか。

 

ともかく彼女達に着いていくことにしたファウルは何事も起きないことを祈る。

 

 

 

 

その思いが届くことはなかったが。

 

 

 

 

 

 

 

1時間後、モンドから離れ星落としの湖へとやってきたファウル一向。クレーは湖に着くと鞄を漁り始めた。恐らく、魚を取るのに釣りでもする準備だろう。その間はファウルは何故自身を連れてきたのかモナに質問した。

 

 

「あの、モナ様?」

 

「何ですか社畜」

 

「(社畜....)んん、いえその....私も着いてきて良かったのでしょうか?」

 

「良いも何もありません。ただ監視役がもう1人欲しかっただけです」

 

「か、監視役ですか?」

 

「ええ....何ですかその目は」

 

「い、いえ」

 

 

監視役と言葉を聞いたファウルは何を言ってるんだ此奴と思ってしまい、モナに睨まれるがこれに関しては致し方ない。何せ、()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

「・・・まさかとは思いますが、これから何をするか知らないのですか?」

 

「? 魚を釣るのではないのですか??」

 

 

そう言った瞬間、モナの目からハイライトが消え去った(光が消えた)。まるでお前も私と同じに目に遭うなと確信したかの様に。

 

 

「モナ様? 大丈夫ですか??」

 

「アーウン、ダイジョウブデスヨー」

 

「モナ様、目が死んでいます」

 

「シラナイノデスカー?センセイジュツシハ、ミンナメガシンデイルンデスヨー」

 

「モナ様、占星術師に偏見をお持ちにならないで下さい」

 

 

これは本当に何かあるなと察し、モナに聞こうとしたその時

 

 

 

 

BOOOOOOOM(バゴーーーーーーン)

 

 

 

 

爆発音が聞こえ、数秒後空からザーと雨が降って....いや、水が落ちてきた。それも魚と共に。

 

 

「わーい!大漁だぁ!!」

 

「・・・・モナ様」

 

「・・・・・・・」

 

「こっちを向いてください」

 

「ワタシシラナイ、ナニモミテナイ」

 

「・・・・・」(イラッ)

 

ひょ、ひょうひょくはんひゃい(ぼ、暴力反対)!」

 

 

少し頭に来たファウルはモナの頬をムニッと掴み、無理やり此方に向かせた。さては知っていながら巻き込みやがったな此奴と思いながら。掴まれた頬を摩りながらモナは謝りもせず、それどころか悪びれた。

 

 

「わ、私は悪くありませんよ? ええ、そうです。知っていない方が悪いんです」

 

「・・・・・・」

 

「・・・・あ、あの、ファウル...さん」

 

「・・・・・・」

 

「え、えーと.....」

 

「・・・・・・」

 

 

無言のままジッと見続けるファウルにモナは(これ、メチャクチャ怒っているのでは?)と冷や汗をかき始め、謝ろうとしたが....

 

 

「す、すみまs「みてみてファウルおじさん!こんなにお魚取れたよ!!」・・・・」

 

 

途中でクレーが戻ってきて最後まで言う事が出来なかった。視線をモナからクレーへと向けたファウルはクレーと同じ目線になる様にしゃがみ、クレーが持っている籠の中を覗いた。中には確かに大量の魚が入っているが所々焼き焦げていたり、中には頭が無くなっている物もあった。

 

 

「本当ですね。凄いですクレー様」

 

「えへへ〜」

 

「ところでクレー様」

 

「なぁに?」

 

「いつもこの様な捕り方をしているのですか?」

 

「? なんで?」

 

「いえ、独特な捕り方だと思いまして」

 

「どくとく?」

 

「・・・・凄いと言う意味です」

 

「ふふーん! 凄いでしょ!!」

 

「ええ....ではそろそろこの辺で帰りましょうか」

 

「うんっ!」

 

 

タタタッとクレーが側から離れた瞬間、ファウルは勢いよくモナに視線を戻した。後々首が痛くなるのではないかと思わせる程。

 

 

「モナ様」

 

「な、何ですか」

 

「後でお話がありますのでくれぐれも逃げないで下さい」

 

「いっ、一体何のk「良いですね?」ヒエ」

 

 

取り敢えずモンドに戻り次第、少し☆O☆HA☆NA☆SHI☆が必要だと考えたファウルは逃げない様釘を刺し、クレーが戻るのを待った。

 

 

「ファウルおじさーん」

 

 

呼ばれている事に気付き、後ろを振り向くと此方に走ってくるクレーがいたーーー

 

 

 

 

ーーー武装している宝盗団と共に。

 

 

 

「!?」

 

 

一瞬、驚きの余り思考が停止するが急いでクレーを脇に抱え、モナを肩に担ぐや否や、すぐさま逃げ出す事に専念した。

 

後に知ったのですが、魚取りをしている最中クレー様の投げた爆弾が勢いよく投げた所為で遠くまで飛んでしまい、偶々近くを通っていた宝盗団に当たってしまった様です。

 

そんな事があってたまるかと思いましたが、事実は小説よりも奇なりとも言いますので何とも言えませんが。

 

 

 

 

 

そして時は戻りーーー

 

 

 

「あっはは、たーのーしー!」

 

「クレー様! 舌を噛んでしまうので余り喋らない方がいいです!!」

 

「ちょっと貴方!? もう少し女性の扱い方を如何にか出来なかったのですか!!?」

 

「モナ様! 今この状況で言えますか!!?」

 

「「「「待てや、ゴラァァァァァ!!!」」」」

 

 

アレから十数分経ちますが未だに追い掛けられています。しかも気付いたら宝盗団の人数が5人から30人以上に増えています。誰でも良いので助けてください。

 

 

そんなファウルの悲痛な思いが通じたのか、空から何かが降ってきた。アレは隕石かそれとも鳥か、否全て違う。アレはーーー

 

 

 

 

 

「突破素材寄越せぇぇぇぇぇッッ!!!」

 

 

 

 

 

 

ーーー我らが栄誉騎士(欲望に呑まれたプレイヤーの末路)だ。

 

 

 

その後、栄誉騎士様の活躍により宝盗団は全員捕縛する事が出来たのですが道中.....

 

 

「はあぁぁぁぁ!!? アレだけブッ倒して金鴉マークたったの5枚!? オラァ!まだ持ってるだろ!?身体検査じゃあ(そのたわわな果実触らせろ)!!!」

 

「きゃあああああ!!?」

 

「お、おい旅人!? 何してんだ止めろよ!オイラ怒るぞ!!」

 

「うるせえ非常食兼ぷに穴! お前は薄い本で『んほお♡』してろ!!」

 

「んほお♡ってなんだよっ!!!?」

 

 

一悶着ありましたがジン様が栄誉騎士様を眠らせ(物理)、その場はガイア様とリサ様が指揮して何とかなりました。

 

ところで『んほお♡』とは何でしょうか。

そう疑問を抱いていたのですが、リサ様が私の肩に手を置き

 

 

「世の中には知らない事の方が良いこともあるのよ?」

 

 

バチバチと雷を鳴らしながら私に警告をするとジン様達と一緒に宝盗団を連行して行ってしまいました。

 

・・・・取り敢えず、さっさと彼女達を送り届けて寝よう。

 

こうして長い1日が終わりました。

そういえば何かを忘れている様な...気の所為でしょうか。

 

 




モナ「何か忘れてくれたからヨシッ!」



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第六話 亀裂(きれつ)



お待たせ致しました。



 

 

 

時刻 18:05 モンド城 団長執務室にて

 

 

「さて、皆集まったな?」

 

 

日が落ちかけ、辺りは薄暗くなり、街灯に明かりが(とも)し始める時刻に差し掛かる。本来ならこの時間帯まで書類仕事や依頼などはやらず、夜間警備や明日の依頼の確認及び整理をして1日が終わるのだがそうはいかなかった....否、()()()()()()()()

 

団長執務室にいる面々の雰囲気は重い空気が漂っていた。

 

 

「ええ、今居るのはこれで全員よ」

 

「ん?アンバーとクレーがいないぞ?」

 

アンバー(飛行免許剥奪常習犯)なら団長が情報収集と捜索及び警戒に行ってるって聞いてないのパイモン(非常食)クレー(無自覚テロリスト)は分からないけど」

 

「・・・・なあ旅人、今ルビに悪意感じたぞ」

 

「それはそうと何があったの?」

 

「オイラを無視するなあっ!!」

 

 

栄誉騎士()は自身の頭をポカポカ叩くパイモン(空飛ぶ非常食)に目も呉れず、ジン団長に緊急召集された理由を聞く。

 

 

「つい先日、冒険者協会から行方不明者の捜索依頼が来た。行方不明者の名前はカルロス。冒険者歴は7年だそうだ」

 

「冒険者歴7年....ベテランじゃないか!」

 

ちょっと静かにパイモン(黙らねぇと喰っちまうぞ非常食)

 

「ピッ」

 

「・・・ごほん、ジン団長続きをどうぞ」

 

「あ、ああ....カルロスはヴァルベリー納品依頼を受けて望風山地に向けて出発したらしい。普段通りなら3時間と少しで帰ってくるそうなんだが....時間を過ぎても来なかった」

 

「・・・・・」

 

「翌日、一向に帰って来ないカルロスを心配したキャサリンがちょうど近くに行く冒険者に依頼したそうだ。結果カルロスの姿は無く、見つかったのは彼の私物の手帳だけだ」

 

「ヒルチャールとか宝盗団の襲撃を受けたの?」

 

「それが分からないんだ。だから今アンバーn」

 

「失礼します、偵察騎士アンバーです」

 

ジン団長が話そうとした時、扉がノックされる音が響き渡った。どうやらアンバーが戻ってきたようだ。

 

 

「ああ、入ってきてくれ」

 

「失礼します。ジン団長、望風山地での情報収集が終わりました」

 

「そうか、では状況報告を頼む」

 

「わかりました、ジン団長」

 

 

この場にいる全員がアンバーへ一言たりとも逃すまいと耳を澄ませた。普段の会議では考えられない....否、普段の会議でもそれ程騒がしくなく静かに行われていたが、この部屋には誰も居ないのではないかと錯覚してしまうほど静まり返るのは初であった。

 

 

「それでは、報告をさせて頂きます。まず望風山地ですが異様なほど静かでした」

 

「異様な?どういうことだ?」

 

「はい、普段であれば野鳥の囀り声や野生動物の鳴き声が聞こえる筈なんですが.....全くと言っていい程聞こえず、姿も見えませんでした」

 

「・・・・・そんな訳がないだろう。あそこには確かヒルチャールも」

 

「それがヒルチャールもいないんです」

 

「・・・なんだと?」

 

「しかもヒルチャールの生活跡すらもないんです....無論、行方不明者の生活跡も」

 

 

ーーーーーまるで初めから此処には誰も居なかったと思う程不気味でした。

 

アンバーの報告を聞いた面々は鳩が豆鉄砲ならぬボンボン爆弾を喰らったように驚いていた。驚くのも無理はない。なんせあそこには、かなりのヒルチャールがいたのだ。それが一瞬にして消えたと言われれば冗談でも言っているのではないかと思われてしまうのも無理はない。

 

若干一名はヒルチャールが居なくなったと聞いて「素材畑が消えた..だと!?」と別の意味で驚き嘆いていた。

 

 

「本当なのだな?」

 

「はい」

 

「・・・・他に変化はあったか?」

 

「いえ、特に何もありませんでした。周辺も(くま)なく探してみたのですが....すいませんジン団長」

 

「そうか...ご苦労だったな、アンバー。少し休憩して来るといい」

 

 

そう告げ、ジン団長はアンバーに休ませようとした時、アンバーの髪に何かがキラリと光った。

 

「あら?アンバー、いつの間にリボン以外の髪飾りを着けるようになったの?」

 

「え?なんのこと?」

 

「おいおい、こいつは驚いたな。とうとうアンバーにも春が来たってのかい?」

 

「? 今は夏だよ?」

 

「ガイアが言ってるのはそういう意味じゃないぞ旅人....」

 

「え?え??」

 

「アンバー、少し触るぞ」

 

「あ、はい」

 

 

ジン団長がアンバーの髪に触れると小さく硬い何かが手に触れた。そっと摘みだすと、それはーーーー

 

 

「ひっ!?蜘蛛!!?」

 

 

ちょうど人差し指にチョコンと乗るほど、とても小さく腹に赤い宝石が埋め込まれている蜘蛛の形をした装飾品だった。

 

 

「成る程。これが光を反射したのか」

 

「え?そうなんですか?」

 

「ああ、ところで此れに見覚えは?」

 

「ある訳ないじゃないですか!こんな悪趣味なもの付けたりしませんよ」

 

「そ、そうか」

 

「ええー....いつの間に付いてたんだろ」

 

 

まだ似たような物が付いていないか、髪を溶かすしながら確認するアンバー。ともかく彼女の物でないのなら紛失品として預かっておくべきかとジン団長が考えているとリサが近づいていき、手にしている蜘蛛の装飾品をじっと見つめていた。

 

 

「ん?なんだリサ?もしかしてお前のなのか?」

 

「いえ、そうじゃなくて....何処かで見た記憶が...」

 

 

「うーん、何処だったかしら」と首を傾げていると突然、扉が勢い良く開かれた。

 

 

「ハァハァ....すいませーん、ジン団長。遅れました!」

 

 

息が荒く、服装が所々乱れているクレーだった。恐らく、急いで来たのだろう。

 

 

「ハァ....クレー、何処行ってたの?」

 

「ううっ.....ごめんなさい」

 

「全く.....いい、クレー?貴女はn」

 

「あっ!!」

 

「ちょっと!クレー!!」

 

 

リサが叱責しようとしたがクレーはそんな事お構い無しにジン団長に駆け寄って行った。

 

 

「ジン団長、それ何処で見つけたんですか?」

 

「これか?まさかクレーの物なのか?」

 

「ううん、クレーのじゃないよ」

 

「なら何故知っている?」

 

「えーとね」

 

 

するとクレーはリュックを降ろし、アレでもないコレでもないと探し始めた、周りを散乱させながら。

 

 

「ちょっとクレー!話はまだおわt」

 

「あった!これだよジン団長!!」

 

 

クレーが取り出したのは『ヒルチャールでもヤバイ(本能的に)と分かる呪具大百科 〜特級編〜』と大々と書かれ、表紙のヒルチャールが某有名画のように両手を頬につけ、叫んでいるであろう本だった。

 

 

「・・・・・なんだこの巫山戯ている本は?」

 

「えっとね、その本にね、ジン団長が持ってるのと同じのがあったの」

 

 

そう言いながらパラパラと本を捲り、お目当てのページを見つけたクレーはジン団長に本を見せた。

 

 

「これだよジン団長!」

 

「・・・・・っ、これは!?」

 

 

本の内容は以下のように書かれていた。

 

『もしこの蜘蛛を見つけたから周囲を警戒せよ。()()が君を監視しているだろう』

 

『もしこの蜘蛛が自身の身体に付いていたならすぐさま振り払い、全力で逃げよ。()()が君の隙を狙い、連れ去るだろう』

 

『もしこの蜘蛛が髪に付いていたなら今すぐ踏み潰せ。さもなければ()()の忠実なる奴隷となるだろう』

 

『もしこの蜘蛛が瞳に宿っているなら手遅れだ。既に()()の勤勉なる奴隷となっているだろう』

 

『もしこの蜘蛛が()()に変身したならば、もはや逃げることは出来ない。大人しく()()の勇敢なる奴隷となり生涯を終える他ない、死にたくなければだが』

 

 

危うくアンバーが何者かの奴隷となる寸前だったと、理解したジン団長は持っていた蜘蛛の装飾品を外にも響き渡る勢いで踏み潰した。ジン団長以外の面々はビクリと驚き、硬直してしまっていた。

 

他に何か情報がないか一心不乱に読んでいると....己の目を疑うほどの()()()()()()が記載されていた。それを見たジン団長は驚きの余り....いや、()()()()()()()と否定していた....ワナワナと身体が震え、現実を、意味を知りたくないと。

 

 

「・・・・・どういうことだ」

 

「じ、ジン?貴女、震えt」

 

「なんでーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

   ーーーーーーファウルが載っているんだ」

 

 

 

 

洗脳姫と名前が記されている少女の隣に、まるで彼女を守らんとする騎士のように佇んでいる赤黒いデットエージェントの服を着たファウルの姿であった。

 

そして()に対してこう記されていたーーー

 

『洗脳姫の守護者にして“元”ファデュイ精鋭部隊『首狩り』の1人。もし彼に遭遇したのなら命は無いと思え。例え誰であろうと....仮に元仲間であろうと容赦なく処刑するだろう。故に洗脳姫からは、こう呼ばれていた』

 

 

ーーーーー愛しの処刑人、と。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

時刻不明 ???? にて

 

 

 

 

「La〜La〜La〜LaLaLa〜La〜♪」

 

 

日が暮れ、夜のとばりを歓迎するかのように白髪の少女が、月明かりに照らされながら歌っている。側から見れば年相応のあどけない....守ってあげたいと思わせる姿だが、その必要はない。

 

少女の後ろに何十人もの護衛(奴隷)がいるのだから。

 

 

「La〜La〜LaLaLaLa〜La〜♪」

 

 

今宵は美しい満月が雲一つない星空に浮かび上がっている。まるで少女を祝福する(呪う)かのように。

 

 

「LaLaLa〜La〜♪....ふふっ」

 

 

歌い終えた少女はポケットからある物を取り出す。それは少女が持つには余り似合わない()()()()()()()だった。

 

 

「もう少し...あともう少しすれば会えるから待っててね。そうすればずっとあなたを愛し(壊し)続けてあげるから、ねぇ」

 

 

 

 

ーーーー私の愛しい処刑人(人生を奪った偽善者)

 

 

 

 

そして再び少女は歌う。

この胸に秘めた想い(復讐)をのせて。

 

 

 

 

 

 

 






『ヒルチャールでもヤバイ(本能的に)分かる呪具大百科』シリーズは初級編、中級編、上級編、特級編となっております。

初級編:対象の体調が多少悪くなる程度もしくは少し不幸が起きる(犬のフンを踏む等)。悪戯程度のレベルを引き起こせる呪具。

中級編:対象の体調が悪くなる程度もしくはそこそこな不幸が起きる(財布や家の鍵を紛失する等)。軽症レベルを引き起こせる呪具。

上級編:対象の体調をかなり悪化or簡易催眠もしくはかなりの不幸が起きる(強盗や事故等)。重症レベルを引き起こせる呪具。

特級編:対象の完全な隷属化or死に至らしめる程の体調悪化もしくは凶幸が起きる(殺傷や拉致監禁洗脳等)。死そのもの引き起こせる呪具。


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第七話 悪夢再来

注意事項
・シリアス君が全力を出し始めました。
・一万字を超えました。
・キャラの口調がおかしいかも

以上のことが大丈夫でしたら
本編をお楽しみ下さい。

追記 
タイトル名が仮の名前のままだったので修正しました。
更に追記
刻晴ファン及び原神ファン、この作品を読んで頂いている方々にご迷惑をお掛けしました。つきましては活動報告もしくは下記のURLを読んで頂けると幸いです。
https://syosetu.org/?mode=kappo_view&kid=267155&uid=247187





時刻 17:26 ドラゴンスパインにて

 

 

「ブエックショイ!」

 

「・・・大丈夫かミハイル」

 

「これが大丈夫に見えるか? クソ寒いにきまってるじゃねぇか!!」

 

「本国よりかは寒くはないだろう?」

 

「そりゃそうだが、寒いのは寒いわ! なんでお前は平然としてんだフライスィヒ」

 

「慣れてるからな」

 

「そうかよ....にしても薄気味悪いな」

 

 

ファデュイモンド支部から数人行方不明者が出た。

翌日ファデュイモンド支部から正式な指名依頼をフライスィヒに頼み、ミハイルと同行及び協力を要請し、捜索(そうさく)しに来ているのだが未だ誰1人発見出来ていない。

 

 

「そうだな....警戒を怠るなよ」

 

「分かってるって、こんなとこで凍死したくないしな」

 

 

吹雪が舞い、視界も3m先が見えなく、気温が更に低下しつつある極寒環境の中での捜索は極めて困難であった。この状況下では痕跡(こんせき)どころか足跡さえも雪で埋もれているだろう。これは発見出来そうにもないと思い、一度吹雪が止むのを待つかと考えていたが、不意にあるものを見つけた。

 

 

「・・・・ミハイル」

 

「なんだ?」

 

「足跡がある....他に誰か捜索している奴はいるのか?」

 

「いや、確か西風騎士団も捜索する筈だがまだ準備してる頃だ」

 

「何? 私達以外にも行方不明者がいるのか?」

 

「ああ、何でもアッチも行方不明者が出てるしな」

 

「・・・・・そうか」

 

「だから今回に関しては西風騎士団との協力も考えてるそうだ」

 

 

ミハイルの情報通りだとすれば、我々以外にも捜索している者がいるか()()()()()()が此処にいると予測できる。一先ず、フライスィヒ達は足跡を追うことに決定した。フライスィヒは何故か嫌な予感がするが何事も起きないように祈っていた。しかしーーー

 

 

「おいフライスィヒ」

 

「どうした?」

 

「血痕だ」

 

「・・・・・なに?」

 

 

足跡を追っていくにつれ、薄暗い洞窟へと辿り着き、ミハイルは所持していたランタンを灯した際に壁を見ると、横へズルズルと引かれたような手形の血痕が壁に染み付いていた。

 

 

「どうだ?」

 

「・・・・・まだ新しい....恐らく1時間も経過してない」

 

「となると、厄介ごとに巻き込まれそうになるな」

 

「臨戦態勢にしておけ」

 

「了解」

 

 

やはり嫌な予感が当たってしまったかと思ったフライスィヒは刀を抜き、先頭に立ち歩いた。ミハイルも護身用のナイフと短銃を懐から取り出し、周囲を警戒しながら2人は洞窟の奥へと進んでいった。

 

それから数分経った頃だろうか、暗影の中で見えたのは瓦礫か何かかと思えば、人影が見えたのは。

 

近付くにつれ、人影に見えたそれは2人のよく知る人物だった。

 

 

「おい、あれ.....ジャバートじゃねぇか?」

 

「・・・・・」

 

 

背を向けたジャバートが無言のまま振り返る素振りもなく、ただただ立ち尽くしていた。()()()()であるならば此方に気付き、何かしら接触してくるだろうが、微動(びどう)だにせず立っているだけだった。異様とも言える雰囲気を(まと)いながら。

 

何かおかしいと感じたフライスィヒは、ミハイルに注意しろと伝えようとしたが、既にミハイルはジャバートに近付き、肩に手を置こうとしていた。

 

その時。

 

 

「おーいジャバート! お前も「避けろミハイル!」は?うおっ!?」

 

 

突然声を荒げたフライスィヒに背中を引っ張られたミハイルは体勢を崩し、地面に尻餅をついた。そのせいでランタンが手から離れ落ちてしまったが幸運にも壊れることはなくミハイルは安心した。これは備品なのだ。壊れても経費で落ちるが、あまり物を粗末にしたくないのだ。

 

 

「何すんだ! フライ....スィヒ?」

 

「ミハイル下がれ。様子がおかしい」

 

「ふ、フライスィヒ?」

 

「それと援護頼む」

 

 

いきなり背を引っ張ったフライスィヒにミハイルは文句を言おうとしたが、何時になく真剣な表情をしているフライスィヒに何も言えず、不意にジャバートを見ると、刀を横凪(よこなぎ)に振っていた。丁度そこにミハイルが立っていた場所に。もしあのままフライスィヒが背を引っ張られていなければ首が飛んでいたかもしれない。

 

己の最悪な状況を理解出来た....いや理解してしまった。ブワッと噴き出す汗に嫌悪(けんお)感が増すが、それ以上に同僚(どうりょう)が己に刃を向けたことに信じられなかった。

 

だが、これは始まったばかりだ。

刀を握り締めたジャバートがフライスィヒ達に襲い掛かる。

 

 

「おいおいマジかよっ!!?」

 

「クソッ!」

 

 

ミハイルに向かって来たジャバートをフライスィヒが庇う形で迎え討ち、刃と刃がぶつかり、ガキンと火花が散る。受け止めた力加減からして確実に殺しに来ていると感じ取ったフライスィヒは弾き返し、腹部に回し蹴りを放つ。どうにか距離を取ろうとするも避けられてしまい、刃がフライスィヒへと振り落とされる。咄嗟に防御し何とか持ち堪えるが隙が全くと言っていい程無いに等しかった。

 

 

「ジャバート!俺だ!ミハイルだ!何が目的だ!!」

 

「......を」

 

「あ?」

 

「邪魔する...者には....死を.......」

 

「・・・・これは」

 

 

ミハイルはジャバートに呼びかけるが予想する返答とは違うものが聞こえ、困惑した。いつから此奴は痛い奴になったんだと一瞬考えたが直ぐに振り払い、恐らく混乱状態にあると分析した。

 

だがフライスィヒにとっては()()()()()()()()()()()()()()()()

 

それと同時に力が弱ったのを感じ取り、再び弾き返して今度は頭部に蹴りを放った。勢いよく放った蹴りはそのまま頭部に直撃しジャバートは地面へと倒れ伏した。殺されかけたとはいえ、同僚の頭を蹴ってしまい、慌てて生死を確認するも息をしていた。

 

どうやら気絶したようだ。もし打ち所が悪ければ、死んでいただろう。

 

 

「・・・・気絶したのか?」

 

「ああ」

 

「にしても、いきなり襲い掛かってくるとはな」

 

「・・・・・」

 

「助かったフライスィヒ.....お前がいなけりゃ消されてたぜ」

 

「・・・・・」

 

「フライスィヒ?」

 

 

一先ず安堵したミハイルはフライスィヒに礼を言うが、無言のままジャバートを見つめていた。すると何を思ったのかジャバートの仮面を外し、短く声を(うな)った。

 

 

「やはり.....だがまだ軽症か。これならどうにかなるな」

 

「? どういう意味だ?」

 

「ミハイル、酒とセシリアの花、清心はあるか?」

 

「・・・・清心は無いがそれ以外ならあるぞ」

 

「構わん、貸せ」

 

 

ミハイルは背負っていたバックパックからセシリアの花と酒を取り出し、フライスィヒに渡すとセシリアの花を細かく刻み、酒に入れていった。またフライスィヒも腰のポーチから清心とヴァルベリーを取り出し、同じように細かく刻み込んで酒に入れ、蓋をし振り始めた。

 

 

「何するつもりだ?」

 

「調合して解呪の薬を作る。これである程度は治せる筈だ。後はジャバートの自我が呪いを克服すれば良いのだが」

 

「呪い?」

 

「・・・・ジャバートの目を見てみろ。但しあまり直視するなよ」

 

 

何故呪いという言葉が出たのか不信に思い、仮面をそっと外しジャバートの目を見ると、中心に蜘蛛が映っていた。ミハイルはなんだこれは?と考えたが、ふと()()()()()()()()()()

 

 

「・・・・これは」

 

「そうだ、()()()()()()()()()()()

 

「ッ.....以前聞いたが、そういう意味かフライスィヒ」

 

「ともかく、余り時間がない。先にジャバートを」

 

 

もしフライスィヒが話した通りなら時間は余り残されていない。急いで下山しなければ間に合わなくなる。倒れているジャバートを担ぎ立ち上がろうとしたその時、奥から足音が聴こえてくる。それも1人や2人ではない....何十人もの足音が聴こえている。

 

 

「なあフライスィヒ、これ」

 

「ああ....一度退くぞミハイル、かなり不味いぞ」

 

 

どうやらこの洞窟は()が拠点としている場所だった。余りにも迂闊だった。さっさとジャバートを連れ、急いで逃げるべきだった。

 

だがもう遅い。奥からゾロゾロと歩いてくる。

ある者は剣を持ち、又ある者は長銃を持ち、又ある者は金槌を持って、ユラリユラリと此方に詰め寄ってくる。まるで亡者の行進だ。

 

 

「おいおいおい....いつから此処はパーティ会場になったんだ」

 

「ミハイル、お前はジャバートを連れて逃げろ」

 

「はあっ!?正気か!?この人数相手だぞ!!?」

 

「・・・・私が目当ての筈だ」

 

「チッ....くたばるなよフライスィヒ!」

 

 

フライスィヒの言葉を理解したミハイルは舌打ちをしジャバートを担ぎ、洞窟の外へと走り出した。己の不甲斐なさを感じるも、そんな場合ではない。時は一刻を争う。

 

出来ることといえばフライスィヒに健闘を祈ることだけだ。

 

 

 

「さて、悪いが貴様達は少しばかし私の相手をして貰うぞ....」

 

 

その言葉を境に、金属音と発砲音が洞窟内に響き渡る。

 

 

(.....ッ!.......すまん、フライスィヒッ!)

 

 

振り返る暇は無い、今は唯逃げる事だけを考えろ。

そう己に暗示させ、洞窟の外へ向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「クソッタレ! 一体全体何が起きてやがんだ!?」

 

 

急斜面の中、ジャバートを抱えながら急いで下山するミハイルだが、前よりも吹雪が強くなり始め、もはや前が見えなくなっていたがそれでも進むことしか出来なかった。一刻も早く此処から逃げる為に。

 

 

「・・・・・・ぅ」

 

「ジャバートッ!? 起きたか!? 何があった!??」

 

「・・・・洗...姫.....奴が........めた」

 

「何だって? 吹雪で聞こえねぇよ!!」

 

 

幸運にも呪いを克服したジャバートが目覚め、ミハイルに何かを言っているが全て吹雪で掻き消され、耳に届かなかった。ミハイルは何とか聞き取ろうと意識を集中させたが、それが災いしたのか背後からの発砲音に気付くのが遅れてしまった。

 

 

「ヤッベッ!?」

 

 

数発放たれた弾丸の内、一つがミハイルの左脚に擦り痛みが身体中に響き渡った。

 

 

「ガァッ!!?」

 

 

身体が前のめりに倒れ、ジャバートと共に急斜面を転げて行った。視界が何度も反転し受け身を取れず、そのまま転げて行き、気付けば背中に激痛が走った。恐らく背中から、岩か何かにぶつかったのだろう。

 

ミハイルは全身に痛みが生じる身体を起こし、辺りを見回すと1m離れた先にジャバートが仰向けで倒れていた。もしジャバートがミハイルの方に来ていたのなら、ぶつかって骨の一本二本折れていただろう。不幸中の幸いであった。

 

 

「あー....痛ってぇな、チクショウ」

 

 

なんとか立ち上がり、仰向けで倒れているジャバートに近付き、手を肩に回して抱えようとしたが、背後からザクザクと雪を踏む音が聞こえてきた。

 

ゆっくりと振り返ると、長銃を此方に向け、今にも引き金を引こうとしている先遣隊・遊撃兵の姿だった。まさか最期が()()()()()()()者に殺されるとは思いもせず、不意に笑いが込み上げて来た。

 

 

(あーあ、詰んだなこりゃ。 悪りぃなフライスィヒ)

 

 

フライスィヒを囮にしてまで逃げる事が出来ず、何の役にも立たなかった己を恨めしく思ったが、もはやどうでもいい。此処で終わるのだから。そして両手を上げ目を閉じ、死を覚悟したーーー

 

 

「悪いけど、殺されてもらっては困るわ」

 

 

ーーーが、その必要は無かったようだ。

ミハイルの横を紫雷(しらい)が横切り、遊撃兵を一閃し、そのまま倒れた。

前方から雪を踏み歩く音が聞こえてくる。一難去ってまた一難かと思いながら振り向くと以前、報告書で見た事がある人物だった。

 

 

「其処の貴方、大丈夫かしら?」

 

「あ、あんたは.... 璃月七星の一人の」

 

「刻晴よ。怪我は?」

 

「ない様に見えるか?」

 

 

何故此処に璃月七星の1人「玉衡」こと刻晴がいるんだ。まさかアイツらと同じく仲間なのかと思ったが、目をよく見ると蜘蛛は映っていなかった。

 

となると、此処に用事があって来たのだろうと判断し、何とか助かったのかと溜息を吐いたが、フライスィヒを1人残して逃げ出したのを思い出した。

 

とにかく今は猫の手だろうが何だろうが何でも良いから手を借りたい状況だ。あまり頼みたくはないが事が事だ。

 

ミハイルは璃月七星にフライスィヒの

救助及び助力を頼もうとしたが

 

 

「貴方は確かミハイルだったかしら? モンド支部ファデュイ使節団の」

 

「俺もとうとう有名人の仲間入りか...情報の伝達が早いこって。そうだ、それがどうかしたか?」

 

「フライスィヒ....いえ、今はファウルだったかしら?彼を知っている?」

 

「・・・・・何の話だ?」

 

 

何故此奴がフライスィヒの名前を知っている。

何故今フライスィヒの名前を出した。

睨みながら聞いてくる刻晴に

ミハイルは警戒度を引き上げた。

いやそれだけじゃない、何で自分の名前まで...ましてや所属まで知っているのか。確実に裏があると判断し、刻晴を睨むが背中に冷や汗が流れる。

 

ハッキリ言って、もし目の前の刻晴がミハイルに武力行使をすれば10:0で負かされるが、大事な同僚を....友人を売れる筈もない。

 

いや、売って堪るか。

 

互いに睨み合い、数秒経っただろうか....刻晴がふぅと息を吐き、ミハイルに対してこう言い放った。

 

 

「そう....ではこう言えばいいかしら?『愛しの処刑人』と」

 

「・・・・・は?」

 

 

一体何を言われるかと思えば、予想だにしなかった応えが来て、素っ頓狂な声が出てしまった。いやそもそも愛しの処刑人とは誰のことだ?とミハイルの頭の中に疑問が現れる。

 

またミハイルの反応を見た刻晴は想像していた反応と違い、もしや話さなくていいものを聞いてしまったのでは?と考えが刻晴の頭の中に浮かび上がる。

 

詰まる所、お互い頭の中は????の状態になっていた。

 

 

「あら?違うの?」

 

「いや待て、話の意図が分からないんだが」

 

「彼が呼ばれていた異名の話よ」

 

「・・・・そんな名で呼ばれたことないぞ」

 

 

何だそれ初めて聞いたぞと、この場に居ないフライスィヒを今すぐに問いただしたいが自分の代わりに囮となり、逃してくれたフライスィヒに聞けるわけもなく、後で調べるかと頭の隅にメモをしておく。

 

かたや一方、あっこれ完全にやらかしたと内心苦虫を噛んだようになるが表情に出ないよう、ポーカーフェイスを保とうとする。

 

 

「“そんな名で呼ばれたことがない”ね....ふーん、別の名で呼ばれていたのかしら」

 

「こっちとしては、そもそも初耳だ」

 

 

やっべ、これ凝光に後でネチネチ言われる奴だと目が死にそうになりながらも任務を遂行するべく情報の収集もとい尋問を行う刻晴であるが、表情筋は死を迎え真顔になり若干青褪めていた。

 

なお、それを見ていたミハイルはまるでまだ新人だった頃の自分を見ているようで、ホッコリしていた。

 

閑話休題

 

それにしても此奴は只事じゃなくなって来たなと背後をチラリと見た。後ろには十数人はいるであろう千岩軍の兵士がミハイルを取り囲むように並んでいた。

 

 

「それで、天下の璃月七星様が此処に何しに来たんで?」

 

「無論。行方不明者達の捜索と、彼と話をしに来たのよ」

 

「にしては、人と装備(千岩軍)がガチガチに固められてるじゃないか」

 

「当たり前じゃない。何が起きるか分からないからね」

 

「・・・・何が目的だ?」

 

「何度も言わせないでくれないかしら?それとも貴方はトリ頭n」

 

「そういう意味じゃない。()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

そう言うと刻晴の目が細くなりミハイルを睨みつけた。これ以上詮索するのであれば、それ相応の対処をする事になるぞ、と。

 

 

「さっき言ったじゃない、私達は行方不明者達の捜索と()()()()()()()()って」

 

「・・・・・・・信用ならないな」

 

「それはお互い様じゃない?」

 

 

此奴は使えんとお互いに判断し刻晴はフライスィヒを探しに、ミハイルはジャバートを連れて下山しようと、互いの任務を終わらすべく動こうとしたが、誰かが急いで雪を踏みしめて走ってくる音が聞こえてきた。

 

 

「ん? あれは.....」

 

「フライスィヒ!」

 

 

服はボロボロになり、所々血が付着しているフライスィヒの姿だった。まさか、あの洞窟から逃げて来れるとは思わず、ミハイルはあまりの嬉しさにフライスィヒに近付いて行った。

 

 

「無事だったか!?全く無茶しやがっt「退けッ!!」グッ!何...を....?」

 

 

突然、フライスィヒに突き飛ばされ、ミハイルはナイフを抜いてしまったがその意味が分かった....分かってしまった。

 

フライスィヒの肩に矢が深々と刺さっていたのだ。フライスィヒは刺さった矢を無理矢理抜き、ポーチから止血布を巻きながら逃げて来た方向をじっと見ていた。

 

すると、遠くからザクザクと雪を踏みしめて歩いてくる音が聞こえてくる。

 

 

「チィ.....流石に振り切れなかったか」

 

「フライスィヒ!大丈夫か!?」

 

「唯のかすり傷だ、問題ない」

 

「すまん、フライスィヒ。今のは俺g」

 

「ミハイル、話は後だ。逃げるぞ」

 

 

時間がない。さっさと此処から逃げなければ。

フライスィヒはジャバートを担ぎ上げ、急いで逃げようとしたが刻晴と千岩軍がフライスィヒ達を取り囲んだ。

 

 

(こんな時にッ!!)

 

 

フライスィヒは沸々と湧き上がる苛立ちを抑え、ジャバートの救助を優先すべく早口で捲し立てた。

 

 

「貴女は確か瑠月七星の刻晴様ですね?後で訳を話します。今は此処から離れt」

 

 

だが、もう遅かった。

ザクザクと何十人もの雪を踏みしめる音が聞こえてきた。

 

 

「な、なんだ?」

 

「おい、コイツら、行方不明になってた冒険者じゃないか?」

 

「ファデュイの奴等もいるぞ、どうなってんだ?」

 

「ちょっと待て!そこに居る彼奴は俺の後輩じゃねぇか!?」

 

 

やってきた者達の中には、冒険者や千岩軍、ファデュイ関係者などがいた。職や歳、所属は皆バラバラであったが1つだけ共通しているものがあった。

 

それは皆、目に蜘蛛を宿していた。

 

臨戦態勢をすべく、フライスィヒは刀を抜こうとしたが腕に蜘蛛が張り付いていた。何故雪山に蜘蛛がいると考えたがよく見ると()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

「・・・・・遅かったか」

 

「ちょっと!遅いとはどういう「La〜LaLa〜LaLaLa〜LaLaLa〜」....歌?」

 

 

何処からともなく歌が聞こえてくる。まるで生きる者全てに祝福するように(呪いを掛けるように)

 

すると、さっきまでユラユラと立ちひしめき合っていた者達は一列に並んでいき、首を垂れ膝まづいた。

 

まるで主を迎えんばかりに。

 

ザクザクと1人雪を踏みしめて歩いてくる音が聞こえてくる。

 

そうしてやってきたのは赤く細長い線が縦に入った黒い死装束を身に纏う白髪の少女だった。

 

 

「久しぶりね、私のフライスィヒ(愛しの処刑人さん)♪」

 

「・・・・・」

 

「あら、相変わらず素っ気無いわね。でも大丈夫!そういうところも愛して(壊して)あげるから♪」

 

「・・・・何故生きている?」

 

「酷いわね、私がせっかく愛を囁いて「答えろッ!!」....せっかちなんだから、もう」

 

 

少女はニコニコと笑いながら、フライスィヒに近付いてくる。まるで久しぶりに再開した家族のように。

 

かたやフライスィヒは少女を睨み、怒号を発した。それ以上近付くのであれば首が飛ぶぞと言わんばかりに。

 

 

「えーとなんで生きているか、だったかしら?」

 

「そうだ」

 

「そうね、言うなれば....愛故に、かな?」

 

「・・・・・・・るな」

 

「ん?何かしら?あ、もしかして恥ずかしくなったりしt」

 

「巫山戯るなッ!貴様ッ!!」

 

 

フライスィヒは刀を抜き、少女の首目掛けて勢いよく刀を振るうが届く事はなかった。唯、火花が散った、それだけだった。

 

少女の片手にはいつの間にか黒い剣が握られていた。

少女はニコニコと笑いながらフライスィヒの刀を防ぎ、ジッと見つめていた。まるで成長した子を(いつく)しむ母のように。

 

 

「あらあらあら、前より強くなってるじゃない?もしかして私の為に?私、嬉しいわ♪」

 

「誰がッ!お前のような輩にッ!!」

 

「・・・・これが俗に言う照れ隠し(ツンデレ)ね!」

 

「戯言をッ!!」

 

 

あらあらと言いながら、フライスィヒを手の掛かる子供のように見ていた少女はフライスィヒの刀を弾いた。

 

 

「けど、ごめんね?私、受けるより攻めたいんだ。だからさ」

 

「なっ!?ガッ!!?」

 

「次は私からいくね♪」

 

 

態勢を崩したフライスィヒの右肩に刺突し、血飛沫(ちしぶき)が舞い散る。少女の純白の顔に血が付着するが、少女は笑顔のまま今度はフライスィヒの心臓目掛けて剣を突き刺そうとしたが、横から紫雷が割り込み、少女の剣を防いだ。

 

 

「・・・・・貴女は誰かしら?」

 

「悪いけど、彼を虐めてもらっては困るわ」

 

「赤の他人風情が私と彼の邪魔をしないでくれる?」

 

 

ギリギリと剣が軋み合い、若干刻晴が圧されていたが表情には出さず、白髪の少女に煽り返した。

 

 

「あら?そういう貴女は彼と()()()()()()()()でもないのに、よくそんな事が言えるわね?」

 

「ッ! 刻晴様!!」

 

 

すると少女の顔は蒼白になり、身体から赤黒い煙のようなものが出始めた。

 

 

「え....うそ...だって......」

 

「くっ!?」

 

 

突如、少女の身体から出ていた煙が勢い良く増し、まるで爆発したかのように少女を包み込んだ。

 

暫くして煙が散り始めた頃には其処に少女の姿はなく、成人男性の何倍もある体躯を誇り、顔は管状の器官が何本も生えており、何とも表現しがたい化け物がいた。

 

 

「嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘」

 

「何よ...これは.....」

 

「刻晴様、危険です!撤退を!!」

 

 

形容し難い何かは....少女は身体を揺らしながら壊れたレコードのように発していたがピタリと止まった瞬間、刻晴を見つめた。

 

 

「そっかぁ...全部あの女が貴方を惑わせたのね?」

 

「刻晴様ッ!!」

 

 

刻晴目掛けて振り落とされた触手をフライスィヒが受け止めるが、フライスィヒが刻晴を守った姿を見て少女は怒り、振り落とされた触手の力は増していった。

 

 

「ねぇ、何であの女を守るの?なんで?」

 

「早く行けッ!!」

 

「・・・・お前ら!逃げるぞ!!」

 

 

ガタガタと震えながら立ち尽くし使い物にならない刻晴を見たミハイルはジャバートを運ぶようパニック状態に陥りかけた千岩軍に指示し、自身は刻晴を米俵を運ぶように担ぎ上げた。

 

 

「フライスィヒ、すまん」

 

「ちょっとッ!ミハイル!貴方に何の権限があって「いいからさっさと逃げるぞ!」あ、ちょっ、何処を触って!」

 

「テメェら、行くぞ!」

 

 

担ぎ上げられた刻晴が暴れるがミハイルは無視し、千岩軍と共にその場から逃げていった。フライスィヒは振り落とされた触手を何とか弾き、態勢を整えつつ、逃げる様子を見ていた。

 

段々と逃げて行く姿が小さくなり始め、これなら大丈夫だろうと判断し少女に相対した。

 

 

「これでやっと「ねぇ」・・・なんだ?」

 

「なんで...私を心配してくれないの?愛してくれないの?」

 

「・・・・・」

 

「ねぇ何で?私悪いことした?何もしてないよ?」

 

「・・・・・」

 

「どうして黙るの?私が嫌いなの?こんなにも貴方のことを愛してるのに?」

 

「・・・・・」

 

 

幾つもの管状の器官が生えている隙間から赤く輝く眼がフライスィヒを見つめるが、無視し刀を握り締め、少女に向ける。今度こそ息の根を止めてやると言わんばかりに。

 

 

「そっか.....私のこと、無視するんだ」

 

「・・・・・」

 

「わかった。なら私も」

 

 

突然、少女は触手を地面に突き刺し何かを引き抜いた。

引き抜かれた触手の手には錆びだらけで形状がボロボロの剣のような何かだった。剣のような何かを持った少女はそのまま天高く振り上げ、交差させた。

 

すると、高音の金属音がなり吹雪が強くなり始め、少女の姿を隠した。吹雪が止み、視界が晴れた時には触手が持っていた剣は青く輝き、青白い何かを放っていた。

 

ふと空を見上げれば、雲一つない快晴になっていた。

 

だが、フライスィヒはある事に気付いた。

 

 

 

 

 

(何故、月が出ている?)

 

 

 

 

 

今夜は新月の筈だ。それが何故見えている。

何かがおかしい。

本能が警鐘を鳴らすがもはや手遅れだ。

 

 

 

 

(いや、それよりもーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーー()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

 

 

 

 

「貴方と一緒に居れなかった分、愛して(壊して)あげる。だからーーー」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーー私を受け入れてね(壊れないでね)




行き過ぎた愛は憎しみとなり
憎しみは恨みへと変わる。
だが、それに少女は気付くことはなかった。
時は満ちた。
次こそ少女は永遠の幸せを手にするだろう。


トロフィー獲得
『憎しみに溢れた愚者の愛』


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第八話 今宵は神の祝福(呪い)があらんことを



仕事が忙しく、かなり時間が空いてしまい本当に申し訳ない。恐らくこれが今年最後の投稿になります。次回投稿は未定ですが来年も何卒宜しくお願いします。


 

時刻 00:06 ファデュイ璃月支部にて

 

 

夜空は雲で覆われ月光が遮られた璃月は深夜であるにも関わらず、街は明るく、そして賑わい、その存在を浮かび上がらせていた。

 

ただ本来と違う点を挙げるならーーー

 

 

 

 

ーーー街の周辺が火に包まれていた事だろう。

 

それだけでなく悲鳴や助けを求める声、爆発音が璃月に鳴り響く。

 

まるで宴のように。

 

 

 

「公子様! 璃月周辺にて何者かの無差別による襲撃が発生しています! 指示を!」

 

「公子様! 現在璃月北橋にて先遣隊が交戦中! なんとか防衛に成功していますが重傷者及び敵多数! 増援を要請しています!」

 

「公子様! 千岩軍から伝令です! 璃月南橋で展開している千岩軍が交戦を開始されました! 此方も抑え込むのに成功していますが重傷者及び敵大多数! いつまで持ち堪えれるかは不明とのこと! もはや時間の問題です! 救援を!!」

 

 

深夜に突如として始まった奇襲、ファデュイ璃月支部は慌ただしく荒れていた。時同じく千岩軍、璃月七星も迅速な対応に追われているが璃月全体が混乱に陥り、一部の機能が麻痺してしまい、更に混乱の歯車が掛かる。

 

だが、それを今心配してはならない。

我々(璃月)は刻々として王手を掛けられているのだから。なんとしても阻止せねばならない。

 

 

「くっ....しかたない! デッドエージェントは璃月北橋の加勢に向かえ! 蛍術師及び先遣隊の混合部隊は璃月南橋の救援に向かい戦線を後退させろ! 最悪、橋を破壊しても構わない! 残った者は民間人の救助及び避難させろ! なんとしても奴等を璃月に入らせるな!!」

 

 

「「「了解(しました)!」」」

 

 

公子タルタリヤもまた、迅速かつ的確な対応に追われ指示を出し続ける。些細なミスが一瞬の命取りだ。公子の頭の中で民間人と部下の命が天秤に掛けられる。ほんの僅かでも間違えれば終わるコンテニュー無しの戦略遊戯(ゲーム)だ。

 

 

「クソッ! 一体全体何が起きている!? 璃月七星との連絡はまだつかないのか!!?」

 

 

悪態を吐くが無理もない。よりにもよって情報の伝達機能が麻痺しているのだ。人手が足りない。突破されるのは時間の問題。応援も無し。連絡途絶。生きているのは最前線で文字通り死に物狂いで守り抜いてる部下達の伝令のみ。

 

璃月が火に包まれ灰になるのは少しずつ近付いている。

 

公子は脳をフル回転させ、最適解を導き出そうとするが扉を勢い良く開けた部下により思考が乱れ苛立つが、様子が尋常じゃない。()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

「公子様!」

 

「今度は何だ!?」

 

「そ、空が」

 

「空がなんだっ....て......」

 

 

ふと外を覗き見ると雲で覆われていた空が幻だったかのように霧散してーーー

 

 

 

 

ーーー紅く輝く月が嗤うように空に現れた。

 

 

冷や汗が背中に流れる。

なにせ()()()()()()()()()()()なのだから。

 

 

「・・・・おいおい、まさか」

 

「公子様! 璃月北橋から伝令が!!」

 

「何!?」

 

 

公子に嫌な予感が膨れ上がるが、それはまだ膨らみ続けた。バタバタとやってきた部下は見るに堪えない姿だった。腹そして肩に深くナイフが刺さり、血塗れになった部下が肩を支えられながら伝令に来たが呼吸は浅く、もはや風前の灯火であった。

 

 

「おい! しっかりしろ!!」

 

「ガフッ...こ、こうしさま.....」

 

「至急医者を呼べ! おい、何があった!?」

 

「ゆくえ...ふめい、しゃ....が」

 

「チッ! 出血が酷い! 布でも何でもいい! 早く止血させろ!!」

 

「しゅうげきして...きた、なかに.....」

 

「口を動かすな! 安心しろ大丈夫だ! いいか!絶対に目を閉じるなよ!!」

 

 

急いで止血させるが、どう見ても血が流れ過ぎている。自身が血で汚れるのを構い無しに応急処置を施すが意味の無い行為だろう。脈も弱くなり始め、呼吸もゆっくりしてきた。

 

だが彼は、最後の力を振り絞り、己の仕事を全うさせた。

 

 

「れいくかん、に...てんかいされて、いた....ものが、てき、に......」

 

「・・・・・・嘘だろ」

 

「ほかに、も、ゆくえ....わか...い」

 

「おい!駄目だ!目を閉じるな!!」

 

「....あ...おね..し.....ま、す......」

 

 

最後にそう告げて彼は息を引き取った。

動かなくなった部下に公子は爪が肉に食い込み血が流れる程、拳を握っていた。

 

 

「公子様.....」

 

「・・・・・」

 

 

ーーー公子様!お茶をお持ちしました!お熱いので気を付けてください!!

 

 

「・・・・るな」

 

 

ーーー公子様!本部から報告の催促が来ましたが、どうされますか?え?ほっておけ?いやいや公子様、面倒かと思いますが仕事しましょう!?

 

 

「・・・・けるな」

 

 

ーーー公子様!璃月周辺に戦闘が発生しております!どうなさいますか!え?公子様?武器を持ってどちらへ?公子様自ら?いや何をおっしゃっているんですか!?ちょ!?公子様!??おい!公子様が殺り合う気だ!何がなんでも止めるぞ!!

 

 

「・・・・巫山戯るな」

 

 

ーーー公子様!後は我々がやりますので休憩をお取りになってください!え?我々もですか?いやいや公子様、我々は大丈夫ですから。ちょっ!?公子様!?お前達がキリ良いところまで待つからお茶の準備をしておく?いやほんと勘弁してください!?上に知られたら不味いです!!じゃあ早く終わらせろ?分かりましたから!お茶の準備をしようとしないでください!!

 

 

「一度足らず二度までも...()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()とは.....どれだけ腐っていやがる」

 

 

 

 

 

「この恨み....是が非でも報わせてやる。俺の部下の為にも、俺自身の為にも」

 

 

 

ーーーそしてフライスィヒの為にもな。

 

 

 





誰かにとっての正義は悪となり、
誰かにとっての幸福は不幸となる。

ーーーもうすぐ一緒に、ひとつになれる。
   待っててね?処刑人さん♪









ーーー私と一緒に深く暗いところまで堕ちようね。


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第九話 忍び寄る悪意

失踪していたので初投稿です。

仕事が...人が足らねぇ....

追加の人員はまだなのか.....


 

 

璃月が何者かにより襲撃を受けた同時刻

 

モンド城 正門前桟橋にて

 

 

「耐えろッ!奴等をこれ以上先に行かせるなッ!!」

 

「耐えろって言ったって数が多過ぎるッ!!」

 

「クソッ!一体全体何が起きてる!?」

 

 

天高く登った満月が()()()()()()()()()()()()

モンド城下町は混乱が起き始め、住人の不安を解消するべく西風騎士団は住人たちを落ち着かせていたが、突然、何処からともなく集まって来た宝盗団の襲撃にあった。

 

西風騎士団はすんでのところで正門前から桟橋半ばまで押し返すことに成功したが、その代償は少なくなかった。

 

腹からおびただしい出血をしている者、

鈍器で頭を殴られ意識を失っている者、

手や足を折られ動けずにうずくまっている者....

 

負傷者を運び出そうにも宝盗団の猛攻により、

西風騎士団は対処出来ずにいた。

 

 

「全員、なんとしてでも侵入を許すな!押し返せッ!!」

 

 

最前線にて、ジン団長が他の騎士達に激励しながら

宝盗団の攻撃を掻い潜り反撃しているが一向に数が減る気配はない。

 

 

「ジン団長ッ!幾らなんでもこの数は.....ッ!!」

 

「怯むなッ!奴等の侵入を許せばモンド城が地獄と化すぞ!!」

 

「増援は来ないのですか!?」

 

「先程、アンバーにガイアと栄誉騎士を呼び戻す様には伝えた!

 もう少しの辛抱だ!耐え凌げ!!」

 

「「「「はいッ!!!」」」」

 

 

死に物狂いで西風騎士団は反抗していた。

しかし戦況はジワジワと此方が押され始めていた。

 

 

「ガアッ!!?」

 

「ユージン!?この野郎ッ!!」

 

「グゥッ!!?」

 

「アルッ!?クソッ!よくもアルを!!」

 

 

また1人また1人と倒れ伏していた。

このままでは侵入されるのも時間の問題であった。

 

 

(不味いッ....早く来てくれ)

 

 

正面から目掛けて剣を振り落とした宝盗団と鍔迫り合いをしながら

ジンは神にも縋る思いで増援が来ることを願っていた。

しかし戦場で...敵の目の前で意識を逸らすのは

やってはならないことだった。

 

現にーーー

 

 

「団長ッ!!!」

 

 

ーーー宝盗団から後方から放たれた手投爆弾に 

   気付くのが遅れてしまった。

 

 

「っあ.....」

 

 

まさか味方諸共爆破させるとは思わず、意識外からの攻撃に

ジンは見ている事しか出来なかった。

 

 

(ここまでか....皆んな、すまない)

 

 

ジンは衝撃に備え、身体を強張らせるが衝撃が来ることは無かった。

 

 

何せーーー

 

 

「ジン団長ッ!御無事ですか!?」

 

「おいおい....アンバーから聞いたが、

 こんなにいるとは思わなかったぞ」

 

 

アンバーが放った矢に弾かれ、空中で爆破したからだ。

ガイアもまたジンと鍔迫り合いをしていた宝盗団を

背後から切れ伏していた。

 

 

「2人ともッ!無事だったんだな!!」

 

「はいッ!道中足止めをされましたが、なんとか!」

 

「栄誉騎士はどうした!?それにどうやって前方から!??」

 

「ああ、それなら....ほら」

 

 

ガイアは自身の後ろを指差すと、そこにはーーー

 

 

「オラァッ!素材寄越せッ!!なあッ!素材寄越せよッ!!!」

 

 

剣を振り回し返り、血に塗れながら宝盗団を

屠っていた栄誉騎士がいた。

 

時には、剣を一閃し切り伏し....

時には、胸倉を掴み頭突きを喰らわせ....

時には、倒れていた宝盗団を肉盾にし....

 

多彩な攻撃で宝盗団を殲滅していく姿が

其処にあった。

流石は我らの栄誉騎士(栄誉騎士の称号を貰った者の姿か?)と言ったところだろう(これが??)

 

なお、ジン団長は少し引いた。

 

 

「・・・・言いたいことはあるが、

 このまま奴等を押し返すぞ」

 

「そうですね、それとジン団長」

 

「なんだアンバー?」

 

 

「栄誉騎士のことを深く考えちゃ駄目ですよ」

 

 

そう言うとアンバーは目のハイライトが消え、

微かに背後から黒いオーラが現れているような...

何かを悟り諦めた(考えるのを止めた)表情をしていた。

 

これにはジン団長も苦笑い....いや、ドン引きしていた。

 

 

「・・・・すまない」

 

「とりあえず私とガイア先輩で負傷者を運ぶので、

 後はお願いします」

 

「負傷者を運び終わり次第、俺達も戦闘に加わる。

 とはいえ....栄誉騎士が全部片付けてくれそうだがね」

 

「・・・・は?何を言っている?どう考えても、あの人数を

 単騎で相手するのは....」

 

 

ジンは2人から目線を外すと、

両脇に倒れ伏した宝盗団の山を築きあげていた

栄誉騎士の姿があった。

 

ん????

かなりの数がいたんだが????

おかしいな????

幻覚でも見ているのか????

 

目の前の出来事を理解出来ない....いや、したくない。

ジン団長の脳内は頭宇宙猫状態だった。

 

どうやら栄誉騎士(プレイヤー)団長の想像よりも強かった(素材に貪欲だった)

 

現に残り数人となった宝盗団相手に

首の骨を鳴らしながら迫り寄っていた。

 

 

「ほら、来いよ。もっと素材寄越せよ、なあ?」

 

 

側から見れば、少なくともどちらが

悪かわかったものではない。

 

その光景を目撃したジン団長は....

 

 

「・・・・後は栄誉騎士に任せて私も負傷者を運ぼう」

 

「「了解です(あいよ)」」

 

 

深く考えるのを止めた(何も見なかったことにした)

 

 

「いよっしゃああああっ!!これで突破出来るぜ!!!」

 

 

背後から栄誉騎士の声が聞こえて来たが

多分気の所為だろう。

 

こうして後に宝盗団襲撃事件と呼ばれる戦いは終わりを告げた。

 

幸運にも、死者が出なかったのは不幸中の幸いだろう。

 

しかし西風騎士団は少なくない代償を支払うことになった。

 

あの事件から心のキズを負い、西風騎士団を辞めてしまう者が後を断たなかった。

 

それもそうだろう、極小規模ではあるが人との戦争(殺し合い)を体験したのだから。



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