LASだと思う、知らんけどw (かの存在完全に消滅す)
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サキエル〜ラミエル戦(序章みたいなモノ)
Second death


昔々ある特務機関で働いていた少年が居ました。

彼は好きな人がいました。強く、優しくて、そして誰よりも繊細な少女。

 

でも、彼女は少年の前で喰い散らかされてしまいました。

 

少年は、助けられたかもしれなかったのに、と自分を責め、絶望し、何もかもどうにでも良くなって、神となって世界を滅ぼしてしまいました。

 

 

世界は少年の他に誰もいなくなりました。

 

 

しかし、寂しさに耐え兼ねた少年は世界の再生を望み、滅ぼした世界を元に戻そうとしました。

 

結局、最後に残ったのは紅く染まった大地と海。そして、満身創痍の赤き少女と絶望した少年だけでした。

 

少年に少女はこう言い放ちました。

 

 

 

 

気持ち悪い、と。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「正体不明の物体、海面に姿を現しました!」

 

「映像、メインモニタにまわします!」

 

「…15年ぶりだな」

 

「ああ、間違いない。使徒だ!」

 

 

警報の音が人気のなくなった街に響く。

『緊急警報、緊急警報をお知らせします』

駅の前に人影が一つ。

 

「…またあれに乗らなきゃいけないのか……もう嫌だよ、母さん…」

 

少年が力無く呟く。

熱で揺らぐアスファルトの上に蒼髪の少女が見えたが、少年が目を離した瞬間に姿を消した。

 

「…綾波…」

 

少年の頭上を巡航ミサイルが飛んで行き、黒い”ナニカ”に命中する。だが、それは何事もなかったように進み続け、宙に浮いていた重戦闘機を腕からの槍のようなもので撃墜する。

 

蹲る少年を現実に連れ戻すかのような轟音ともに少年の目の前に墜落する。しかし、仲間の仇とでも言うように黒い生命体への攻撃は続く。

 

瞬間、周りが橙色の光に包まれ生命体は飛び立った。

そして、自らが撃墜した重戦闘機に着地し、踏み潰された重戦闘機は爆発。蹲った少年と爆発の間に青い車が滑り込み、閃光と爆炎の盾になる。

 

そして勢いよくドアが開いた。

 

「ゴメーン、お待たせ!」

 

 

特務機関NERV、その司令塔で…

「目標は、依然健在。第3新東京市に向かって進行中。」

 

「航空隊の戦力では、足止めできません!」

 

苛ついているように見える軍人達が指令を出して行く。

「総力戦だ!厚木と入間も全部上げろ!」

 

「出し惜しみは無しだ!なんとしてでも目標を潰せ!」

 

パキリ、と苛立ちのあまり軍人は鉛筆を折る。

次々と命中するミサイル群。

しかし、全く効果がない。

 

「なぜだ!直撃のハズだ!」

 

「戦車大隊は壊滅、誘導兵器も砲爆撃もまるで効果ナシか…」

 

「駄目だ!この程度の火力では埒が開かん!」

 

「やはりA.Tフィールドか?」

 

この場で最も歳をとっているであろう老人がサングラスの男に尋ねる。

 

「ああ、使徒に対し通常兵器では役に立たんよ。」

 

赤い固定電話から電話が掛かって来る。軍人のひとりが受話器を取った。

 

「…わかりました、予定通り発動致します。」

 

 

場所は変わり街外れの道路上…

 

「ちょっとまさか…N²地雷を使うわけぇ⁉︎」

 

「N²爆雷…大穴…ウッ…」

 

少年が口を押さえて吐くのを必死に耐えている。

 

「伏せて!」

 

その直後閃光と爆風が彼らの車を襲った…

 

再び、NERV本部…

 

「やった!!」

 

軍人のひとりが歓喜の声をあげる。

 

「如何やら君たちの出番は無かったようだな。」

 

もう一人の軍人がサングラスの男に言う。

 

「だーいじょうぶだったぁ?」

 

「…」

 

「碇シンジくん?大丈夫か聞いてるのよ?」

 

「…」

 

「そんな蹲ってないで車を押すの手伝ってよ…女一人じゃ厳しいから、さ。」

 

「…」

 

「…」

 

「その後の目標は…?」

 

「電波障害のため確認出来ません!」

 

「あの爆発だ…ケリは付いてる。」

 

軍人達は勝ったことを確信している様である。

肩を竦める老人。

 

「‼︎! 爆心地にエネルギー反応!?」

 

「なんだとォ⁉︎」

 

動揺する軍人達。

 

「映像、回復します。」

 

そこには、傷付きながらも生きている使徒の姿があった。

 

「わ、我々の切り札がァ…」

 

「なんてことだ…」

 

「バッ、バケモノめっ!」

 

 

ドゴン、と音を立てて車が体勢を立て直す。

 

「ふぅー、案外一人でも出来るもんねぇ。」

 

「…」

 

「さ、シンジくんも乗って!」

 

「…はい」

 

(なーんか目が死んでんのよねー。それだけ父に会いたくないってことなのかな?………しっかしローンが33回も有るのにもうベッコベコン…最悪だわ。)

 

シンジの乗る車が地下に入っていく。

 

「お父さんの仕事、知ってるー?」

 

「…サードインパクトを発生させる為の組織…ですよね。」

 

「へー良く知ってるわねぇ特務機関NERVがサードインパクトを未然に防ぐ為の組織ってこと。」

 

(サードインパクトを発生させる為って聞こえたけど…気のせいよね…?)

 

「葛城さん…」

 

「ミサト、でいいわよ。」

 

「じゃあミサトさんは、本当にサードインパクトを阻止すると心から思っていますか?」

 

「当たり前じゃない、やーねぇ。」

 

「復讐したい、の間違いじゃないんですか?」

 

「…!」

ミサトの顔が歪む。

 

「図星ですn…」

 

視界が急に明るくなる。

 

「み、見えたわ。世界再建の要、人類の砦となるところ、ジオフロントよ!」

 

 

 

 

 

 

「今から本作戦の指揮は君に移った。お手並みを見せてもらおう。」

 

軍人がサングラスの男に言う。

「了解です。」

 

サングラスの男が返す。

 

「碇君、我々の兵器が目標に対し有効でない事は認めよう。」

 

軍人が続ける。

 

「だが、君なら勝てるのかね?」

 

「…その為のNERVです。」

 

 

 

 

 

 

(…また迷ってる)

 

ミサトがおっかしいわねーだかリツコはどこ行ったのかーだか言いながら道に迷っている。

 

シンジは前史でも迷っていたことを思い出した。暇なのでミサトがくれたNERVのパンフを読んでみている。

 

前史では緊張して内容が頭に入らなかったが、やっぱり頭に入らない。

 

シンジの頭の中には自分の隣で最期まで寄り添ってくれた赤い少女の事しかなかった。

 

かちゃん、と音がして目の前のエレベーターの扉が開く。

 

「…びくぅ!あ、あらリツコ…」

 

扉から入ってきたリツコと呼ばれた女性、水着に白衣というなかなか際どい格好をしている。

 

「…何やってたの?葛城一尉。人手も無ければ時間もないのよ?」

 

「ご、ゴメン!」

 

「ふぅ…例の男の子ね。」

 

シンジの方を向くリツコと呼ばれた女性。

 

「そ。マルドゥックの報告書によるサードチルドレン。」

 

「宜しくね」

 

正直言ってこの人はあまり好きではない。

 

「……」

 

 

 

 

 

 

「冬月、あとを頼む。」

 

サングラスの男…碇ゲンドウが司令塔から降りて行った。

 

「…3年ぶりの再会か…」

 

冬月が静かに呟いた。

 

 

 

 

 

 

リツコ、ミサトにボートに乗せられ、三人を乗せたボートは、水面を走り出す。

 

向かう方向は第七ケイジ。

 

「それで…N²地雷は使徒には効かなかったの?」

 

「ええ、表層部にダメージを与えただけ。依然進行中よ。やはりA.T.フィールドを持ってるみたいね。」

 

「………」

 

ボートが第七ケイジの入り口に辿り着く。

壁に巨大な紫の左腕がはめ込まれている。

 

「…着いたわ。ここよ。」

 

第七ケイジの中に入ると、暗闇で何も見えない。

リツコがスイッチを入れると、照明が付き、紫の巨人の頭が現れる。

 

「…人の創り出した究極の汎用人型決戦兵器、人造人間エヴァンゲリオン。これはその初号機よ」

 

「出撃。」

 

「!」

 

「父さん!」

 

初号機の上のガラス張りの部屋から父、碇ゲンドウがいた。

 

「出撃!?レイはもう戦えないでしょ!?どうやって⁉︎」

 

「わかってますよミサトさん。」

 

「?」

 

どうせ…僕が動かなければ世界は滅びる。

 

でも、今の僕なら出来るかもしれない。

やるしか、やるしか無いんだ!

僕が!もう一度エヴァに乗って!

サードインパクトを止める!

 

そして、アスカを…みんなを幸せにするんだ!

 

それしかないんだ!

折角、チャンスがあるんだから!

 

「やります!僕が乗ります!」




余りにも駄文だったので改定。
本来、レイの乗る初号機がサキエルと戦うエピソードがありますが、書き忘れていました。

でもあえてそのままにしてます。
決してメンドくさい訳ではありません。本当です。(震え声)


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見知らぬ、天井

-1947よりクムラン洞窟で死海文書発見-キリスト教を根底から覆す可能性があった為、ゼーレによって押収
-1999第一使徒”アダム”発見
-2000セカンドインパクト
-2001世界人口の半分が死亡
-2002第ニ使徒”リリス"発見
-2015第三使徒”サキエル”襲来





「…またこの天井だ…」

 

眼が覚めると病室に居た。

 

「これで…何回目だろう。」

 

蝉の鳴き声が鼓膜を麻痺させる。

この独特な青い光…

自分の手すら青く見える。

 

病室…青い光…右手…

 

赤い彼女の…裸身

 

『最低だ…おれって…』

 

病室を出る。がらがら、と運ばれてくるもう一人のチルドレン。

 

「…綾波…」

 

綾波…リリス…人類補完計画…サードインパクト…

 

ストレッチャーが自分の前を通り過ぎて行った。

 

 

 

『シンクロ率 …4%です!このままでは歩くことさえ…』

 

『構わん、発進だ。』

 

『しかしっ!』

 

『葛城一尉、命令に従え。』

 

『くっ…エバンゲリオン初号機!発進!!』

 

エヴァが勢いよく射出され、強烈なGがかかる。

 

『…エバンゲリオン初号機、リフトオフ…』

 

『シンジ君!先ずは歩く事だけ考えて!』

 

『こんなシンクロ率で出来るかわかんないけど、やるしか無いんだ…』

 

しかし、4%というシンクロ率は余りに低すぎた。

結果、一歩も歩けず転んでしまう。

 

『うっ…うぅ…はっ!』

 

そしてサキエルに頭を掴まれた。

 

『シンジ君避けて!』

 

当然避けれるわけもない。

サキエルは、最初に初号機の左手をへし折った。

 

『ぐあっ!!!!!!』

 

『シンジ君!!』

 

次に、サキエルの槍が、初号機の頭を貫き、初号機は吹き飛ばされる。

その時シンジの頭をよぎったのは固められた初号機ケイジで聞いた、ロンギヌスの槍で貫かれたあの少女の叫び。シンクロ率は低かったので、体は殆ど痛くなかったが、精神が折られてしまった。

 

『うあああああああああ!!! もうやめろォ!ミサトさぁん!!はやなみぃ!かあさぁぁぁぁぁん!!アス…!!』

 

 

 

そこから先の記憶はない。

 

 

そういえばトウジの妹はどうなったんだろう。

また、怪我をしてしまったのだろうか。

そうなんだろうな…また僕はヒトを傷つけてしまった。

 

「…ンジ君」

 

「シンジ君!」

 

気づいたら後ろにミサトさんがいた。

 

「ミサトさ…ん」

 

 

「一人で暮らすの?」

 

「ええ。気楽ですから。」

 

「本当にいいの?お父さんと暮らすとか…」

 

「いいんです。」

 

そうだ、僕は一人で暮らしたいんだ。

 

「人を不幸にするだけですから…」

 

ミサトさんとの間に沈黙が流れる。

 

「…暗い」

 

「え」

 

「その性格私が直したげる」

 

「ちょっまっt…」

 

「リツコ〜シンジ君あたしんちで暮らすことになったからよろしく〜」

 

勝手にリツコさんに電話で話を通している。

 

「ダイジョーブよリツコ!未成年に手ェ出したりしないから〜オホホホホ〜」ピッ

 

「ちょっとミサトさんそんな勝手にッ」

 

「あんた上官に逆らう気?」

 

(め、目がすわってる…)

 

こうしてシンジはミサトの家にズリズリと引きずられて行った…

 

「…あの、ミサトさん。」

 

「ん?」

 

「この前の戦闘で怪我をした人っているんですよね?」

 

「…知りたいの?」

 

知りたくはない。でも逃げる訳にもいかないから。

 

「はい。」

 

「あなた随分と変わってんのね…そうね、詳しい事は言えないけど怪我人は出てるわ。幸い重死傷者はナシ。」

 

(重傷者がいない…のか…)

 

「けが人を出したのはシンジ君の責任じゃないわ…寧ろ、避難を徹底出来なかった私達NERVや日本政府の責任よ。」

 

「そう、ですか。」

 

西の空が紅く染まっていく…

辺りも暗くなっていった。

 

「ここがあなたの家になるのよ!」

 

コンフォート17のミサトの家。

見慣れた扉だ。

 

「…ただいま。」

 

「え?あっお帰りなさい…」

 

家の中に入って行く。二周目だからもしかするとミサトのズボラさがなくなっちいて家は少しでも片付いているかと微かに期待したが…

 

「ちょっち散らかってるけど気にしないで〜」

 

全く変わっていなかった。期待したの僕が馬鹿だった。そりゃそうだここに関しては何も干渉してないんだから。

 

「ぷっハァーー!くう〜〜ッ毎日の数少ない楽しみだわぁ〜〜!」

 

相変わらずビールをバカ飲みするミサトさん。不健康になりそうだがどうでもいい。どうせ不健康になる前にL.C.L.になるんだし。

 

いや、ミサトさんは自衛隊に殺されたのかもしれないな。

 

ともかく、あの時のミサトさんが瀕死の状態だったのは間違いない。口の中に広がる苦い鉄の味を思い出して食欲が失せる。

 

「あら?箸が止まってるわよ?もしかして…カレー、苦手?ダメよ好き嫌いしちゃ。」

 

「いや…そうじゃなくて、ちょっと…」

 

「ちょっと?」

 

「気持ち悪くなっちゃった…てゆうか…」

 

「そうねぇ…食欲が無いなら風呂入ってきなさい!風呂は命の洗濯よ!」

 

「…はい。」

 

バスルームへ向かう。

そこに、ペンギンが一匹。

 

(あ…ペンペン…)

 

「グワァ!」

 

「あーその子はね、温泉ペンギンのペンペン!今では珍しい鳥なのよ〜。」

 

「……」

 

(こいつ…大飯食らいなんだよな…)

 

懐かしい、幸せだった頃の思い出が蘇る。

目頭が少し熱くなった。

 

 

 

 

 

 

(風呂、か…前からそうだったけど風呂って悪い事思い出す方が多いよな…)

 

『私は多分3人目だと思うから。』

 

『死ぬのはイヤァァァ!!!』

 

『コロシテヤルコロシテヤルコロシテヤルコロシテヤルコロシテヤルコロシt…』

 

『もう嫌だ!!やめろおおおおお!!』

 

『……気持ち悪い』

 

(嫌なことばかりだ…この記憶を無くせたらいいのに…)

 

(そういえばまだ綾波は二人目なのか……学校に行ったら会えるかもしれない…)

 

(もう一度…二人目の綾波に会いたいな…)

 

学校に行く事を決意した。

 

 

 

 

つづく




うーん微妙。改善点等感想に書いてくれると嬉しい。


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熱中症、そして

「ぐはっ…」

岩のような拳で殴られ、右頬が痛い。

「すまんな、転校生。ワシはお前を殴らないかん。いや、殴らな気が済まへんのや。」

ジャージの少年がそう言う。

「悪いね、この前の戦闘であいつの妹、怪我しちゃってサ。」

眼鏡の少年が続ける。

(やっぱり怪我しちゃったんだ…)

「妹の美脚を如何してくれとんじゃ!」

(美脚⁉︎前は確か頭だった…なんで変わったんだ?)

ジャージの少年が教室に戻っていく。
シンジは、疑問を抱えながら、呆然としていた…



「あのっ綾波!」

 

窓際の真ん中、ファーストチルドレンである綾波レイに話しかける。

 

(ネェネェ碇君が綾波さんに話しかけてるわよ!)

(口説くつもりかしら⁉︎)

 

周りの女子が変な事を言っているが気にしない。

 

「…なぜ私の名前を知っているの?」

 

「え…⁉︎」

 

しまった。ここは前の世界ではないのだ。なのにうっかり綾波という知らない筈の名前を言ってしまった!

 

「ク、クラスメ…じゃなくてっ。と、父さんから聞いたんだよ!」

 

「?…そう。」

 

「そ、それより綾波!今日放課後…っ…一緒に話をっしてもいいかな⁉︎」

 

「…いいわ。予定、無いもの。」

 

(キャーッ!ホントに口説くつもりよーーッ⁉︎)

(まさかの肉食系⁉︎肉食系なの⁉︎)

 

 

 

 

「…碇。今日はダミーのデータを取る日では無かったのか?」

 

「シンジのシンクロ率がこう低くてはエヴァの操縦もままならんだろう…」

 

「それは理由になっていないぞ?」

 

「レイとシンジを接近させて精神を安定させる。シナリオを進めるには必要だ。」

 

「しかし、どうするつもりだ?」

 

 

ファーストチルドレン綾波レイは不思議に思っていた。

放課後誘う予定だった相手があちらから誘ってきたのだから。

 

(碇司令の言っていたことと違う…不思議…)

 

……それは昨日のこと…

 

『レイ。初号機パイロットに近づき、親睦を深めてくれ。』

 

『親睦…?…どうすればいいんですか?』

 

『放課後にどこかに誘い、話し合うだけだ。』

 

『どこか…?』

 

『何処でもいい…お前になら出来る。』

 

『…分かりました。』

 

 

 

サードチルドレンである碇シンジは、綾波レイに話したいことがあった。それは、

・自分が逆行してきた事。

・NERVが、いや碇ゲンドウがサードインパクトを目論んでいる事。

・ダミープラグ制作に加担しないで欲しいという事。

 

この3つであった。

流石に一人で抱え込むのは辛いと思った結果である。

 

「じゃ、17時公園で!」

 

 

きーんこーんかーんこーん

 

「…碇君…遅い。」

 

現在時刻16時48分。

集合時刻17時00分。

 

「私が来てからもう1時間は経ったと思うわ…」

 

待ち合わせをする時は相手より早く来る事が礼儀であると本で読んだ…が。

14年間の人生で待ち合わせを一度もした事がないので、加減がわからなかったりする。

 

「おーい。綾波ー!」

 

シンジが駆け足でやってくる。

 

「…遅いわ碇君。待ち始めてもう1時間も経ったわよ。」

 

シンジがギョッとする。

 

「えっ⁉︎こんなに暑いのに⁉︎熱中症になっちゃうよ!」

 

「碇君…」

 

「水あげるから飲んで!涼しい所に行こう!」

 

「…碇君…ぼやぁっとする…」

 

綾波が汗を大量に流しながら言う。

 

「綾波⁉︎」

 

その瞬間、綾波の意識は消えた。

 

「ファーストチルドレンが倒れた!指示を乞う!」

 

黒服の男が木陰から通信機に向かって話す。

 

 

 

 

「碇!ファーストチルドレンが倒れたそうだ!」

 

「原因は?」

 

「熱中症だそうだ!サードチルドレンが応急処置をしている!」

 

「…ならば放っておけ。シンジがいるならば放っておくべきだ。」

 

「碇…!」

 

「聖なる補完計画の遂行のためには、シンジと接近させるべきなのだ、冬月。」

 

 

 

 

木陰に綾波を背負っていき、手を冷やしてから脇と首を冷やす。

手から冷やすのはただ脇と首を冷やすだけでは熱が逃げるのを脳が食い止めてしまうらしいからだ。

 

「綾波!大丈夫か!綾波!」

 

「…碇…君…これはLASな…のよ?」

 

「何言ってんのか全然分かんないよ⁉︎」

 

 

結局、この日は何も話すことが出来なかった。

 

 

「ぷはーっ!やっぱフロ上がりのビールは最高だあね」

 

「どーう?シンジ君もひ・と・く・ち・だ・け❤︎」

「…未成年なんでやめときます。」

 

アホくさいことを言うミサト。とはいえ、恵比寿を12本飲んだので当然といえば当然なのだが。

 

「あっそうそう明日シンクロテストだから宜しく〜!」

 

「…分かり、ました…」

 

 

翌日、NERV本部実験場。

 

 

モニタにシンクロ率が出る。

 

「シンジ君のシンクロ率…38%です!」

 

「随分と上がったわね。」

 

「なんか変なもんでも食ったのかしら。」

 

「シンジ君?お疲れ様!」

 

『あっはい』

 

スピーカーからシンジの声。

喜ぶミサト達の後ろで、シナリオ通りとばかりにニヤリと笑うゲンドウの姿があった。

 

 

 

 

「碇君、シンクロ率上がったの?」

 

「うん。自慢できる数値じゃないけど。」

 

「そう、良かったわね。」

 

(珍しいな、綾波が話しかけてくるなんて。)

 

きーんこーんかーんこーん

 

「きりつ!れい!ちゃくせーき!」

 

「えー今から15年前…」

 

セカンドインパクト。

第一使徒 アダムの魂と肉体を切り離す際、人間の遺伝子をつかった結果起こった大災害。南極大陸は消滅。地軸がずれ、20mの海抜の上昇。各地で勃発する紛争や内戦で世界人口の半分が死亡した。

 

国連は南極に隕石が落下したと虚偽の発表をした。

 

(アダム…)

 

あの大災害の時…カヲル君が生まれたのか…

 

(カヲル君は…今、何処にいるんだろう…)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

少し未来の出来事。

月面、静かの海。

 

無数の棺が円のように並べられている。

その中の三つが開いた状態にあり、中身は既にない。

 

4つ目の棺が開く。中から銀髪の少年。

 

「…分かっているよ。あちらの少年が目覚め概括の段階に入ったんだろう。」

 

空気がないはずの月面で声を発する少年。

 

宙に浮くモノリスが応える。

 

「そうだ。死海文書外典は掟の書へと業を移した。契約の時は近い。」

 

少年は立ち上がり、地球を眺めてこう言った。

 

「また三番目とはね。変わらないなぁ君も。会える時が楽しみだよ。」

 

「碇シンジ君。」

 

 

 

つづく




中身がにゃい


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頂点眼、襲来

ミサトの住むコンフォート17で…

「金魚を飼いたい⁉︎」

「ええ。日々の癒しと思って…」

「うちにはペンペンがいるでしょ?」

「別種の可愛さなんですよー。」

シンジは見つけてしまったのだ。
綾波と図書室に行った時に。

「この本、読んだんです。」

「どれどれ、ブッ⁉︎」

「どうしたんです?ミサトさん。」

ミサトがシンジの差し出した金魚のカタログの金魚の一つを指差して、

「いや、だってこれ…」


 

「碇君…非常招集。早く行きましょう。」

 

空を見上げているシンジに紅眼の少女が告げる。

 

「…あ、うん…」

 

 

 

 

眼鏡をしているオペレーター、日向が、主モニターに映る新たな使徒を睨みながら、作戦部長であるミサトに話しかける。

 

「前は15年のブランク、今回は僅か3週間ですよ」

 

「コッチの都合は御構い無しか…女性に嫌われるタイプね…」

 

(ミサトさんは女性の都合を考えてくれる男がタイプか…ふむふむ。)

 

「しっかしあの上向きの目玉…金魚の頂点眼にそっくりねーw」

 

「頂点眼?何ですかそれ。」

 

とロン毛の男オペレーター、青葉。

 

「中国産の金魚ね。気になるならYahooで調べ(ヤフっ)たら?」

 

リツコが補足する。

 

「金魚の名前なんてよく知ってますねミサトさん」

 

と日向がミサトを褒める。

 

「えへへー、そーでしょ日向君。シンジ君に見せてもらった本に載ってたのよ〜。」

 

「…あの、私も知ってるんだけど…」

 

日向にスルーされて落ち込むリツコ。

 

「戦闘中なのに全く緊張感ありませんね。」

 

と潔癖症の女オペレーター、マヤ。

 

「ゲンドウさ…いえ、碇司令が居ないからね。」

 

「マダオはホントに人類の敵よね〜。」

 

「真面目にやらんか。」

 

と副司令が小言。

 

 

 

 

第四の使徒。光の鞭を持つ中距離特化型の使徒である。別名ドウモシャムデース…じゃない、シャムシエルである。

 

 

 

 

 

「シンジ君!訓練通りにやるのよ!いいわね!」

 

「はい!」

 

「エバンゲリオン初号機!発進!」

 

 

 

 

シェルターの中で眼鏡の少年がビデオカメラを見て顔をしかめる。

 

「ちっ、まただよ。」

 

「なにがや?」

 

ジャージの少年、鈴原トウジが返す。

 

「見ろよほら」

 

第三新東京をバックに『特別非常事態宣言が発令されました』がどうとかの文字が書いてある。

 

「僕ら民間人には何にも見せてくれないんだ。こんなビッグイベントだっていうのに…」

 

 

 

 

「うおおおおおお!!!」

 

パレットライフルが爆煙をあげる。

弾が次々と使徒に命中し、爆裂する。

すると、爆煙で使徒が見えなくなってしまった。

 

「煙で敵が見えない!ミサトさん!指示を!」

 

「オーケー、分かったわ。いったん退いて、後で隠れながらナイフで攻撃するわよ!」

 

「分かりました!」

 

 

 

「ウオーッ凄い大迫力!」

 

町の外れの神社でカメラを回す眼鏡の少年。

 

「碇…あんな気色悪いもんと戦っとったんか。」

 

碇の乗るロボットが銃を撃つのをやめ、ビルの陰を利用しながら使徒から離れて行く。

 

 

 

 

シンジはしゃがみながら機会を待つ。

 

(あと少し…)

 

使徒との距離が50mを切ると、ミサトが合図する。

 

「……今よシンジ君!」

「うぉぉぉぉぉ!!!!!!」

 

勢いよく地面を蹴り、シャムシエルに肉薄する。しかし、シャムシエルは突然の奇襲にも対応して光の鞭で初号機を叩き飛ばす。

 

 

「!? こっちにくるでぇ!」

「うっそおおーー!!」

 

「「ぎゃああああああああ!!!」」

 

轟音。初号機に押し潰された木々がポキポキと音を立てて折れていく。

 

「アンビリカルケーブル断線!活動限界まで残り5分!」

 

「シンジ君大丈夫⁉︎シンジ君⁉︎」

 

「だ、大丈夫です…」

 

「! ミサトさん!民間人がッ」

 

初号機の左手、人差し指と中指のあいだに泣き目のトウジと眼鏡の少年、ケンスケが頭を手で守っている。

 

「シンジ君のクラスメイト⁉︎何故こんなところに!…はっ!シンジ君起きて!」

 

見上げるとシャムシエルが目の前にいる。

その時シンジの頭によぎったのは、エヴァは使徒のコピーであることだった。

 

「一か八かッ!」

 

閃光が起こる。初号機から発せられた光は、シャムシエルを貫いた。

 

「⁉︎」

 

「今だ!」

 

初号機の右脚がシャムシエルを突き飛ばす。A.T.フィールドを失ったまま吹き飛んだシャムシエルは、尖ったビルにコアを貫かれて爆散した。

 

「…パターン青…消失しました…」

 

「…ねぇリツコ…」

 

「………」

 

「エバーってあんな事も出来たの?」

 

「…流石にあれは計算外…」

 

「…まじすか…」

 

 

 

 

 

 

太陽が真上にある時間の学校の校舎裏。

 

「ぐはっ!」

 

トウジが倒れ伏せる。

 

「す、済まんかったな碇、けどこれで貸し借りなしやっ!」

 

「うん。ありがとう。」

 

「なんで礼を言うんや!」

 

「生きてて、くれたから。」

 

「なーんか気持ち悪いなぁ。」

 

ケンスケが何気なく言った一言。だがこれがシンジのメンタルを抉った。

 

”気持ち悪い”

 

「ウッ…アス…ッ」

 

「あっごめん碇!そんなつもりは…ッ」

 

「なんで泣くんや碇〜!」

 

「大丈夫?碇君…」

 

素早くレイが駆け込んでくる。

 

「あやなみぃ…」

 

「「は⁉︎あの綾波が心配しと(て)る⁉︎」」

 

「…心配?…それはなに?」

 

 

 

 

 

つづく




今回いつもより雑。
なので改訂しておきました。
結局シンジ君は金魚の飼育許可をもらえなかった模様。

残念だったなシンジ君。


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レイ、心の目覚め


『笑えば、いいと思うよ。』

「!」

無機質な部屋。掃除すらされておらず、唯一の装飾品は割れた眼鏡。
野戦病院に置いてあるようなベッドの上で、月明かりに輝く紅い目がふたつ。

「…なに?今の夢……碇君?」


 

体育の授業。男子はソフトボール、女子はプールだ。

だが、男子の大半は真面目にソフトボールなんか全くやる気は無く、女子の水着姿を覗き見をしている者ばかりである。

 

「おーう、センセもスケベェやなぁ〜誰見とんのや?洞木か?おっ綾波きゃ?おたくシブいねぇ。」

 

綾波がなんと無く気になって見ていたところを、トウジにからかわれる。

 

「ち、違うよ。そんなんじゃない。」

 

そう、本命は綾波では無いのだ。

いくら感情が見えるようになっても、

ぜった…多分惚れはしない。

 

そう、多分惚れはしない、しないんだ。

 

 

 

 

第六ケイジでシンクロテストが行われ、今日は綾波も参加した。

 

「レイ…明日はいよいよ零号機再起動実験だな」

 

「はい。」

 

「怖いか?」

 

「大丈夫です。心配ありません。」

 

「そうか…」

 

(父さんと話すと心なしか嬉しそうだな…でも父さんが見てるのは綾波じゃない。母さんの面影なんだ…)

 

帰り道…

 

「碇君。次の土曜日、NERVのプール、一緒に行きたい。」

 

「え?どうして?」

 

「今日のプール、気持ち良かったから、碇君にも気持ち良くなってほしい。」

 

「でも僕泳げないよ?」

 

「水深が浅ければ大丈夫の筈よ。」

 

確かにそうである。

でも怖いもんは怖いのもまた事実…

 

「じゃあ断る理由も無いし、そうするよ。」

 

綾波の願いは断れない。だって可愛いんだも…ゲフンゲフン…感情を活性化させる為だもんね仕方ないね。

 

コンフォート17のミサトの家

 

「シンジ君〜これ、本チャンのセキュリティカード。」

 

ミサトさんに渡される。

 

「あ、ありがとうございます。」

 

「あとコレ、レイの更新カード。」

 

綾波のカードも渡される。

 

「リツコが渡し損ねたらしいから、明日渡しといて。」

 

「分かりました…」

 

そういえば綾波は明日の朝はシャワーを浴びてた筈だ。もしこの世界でもそうだとしたらまずいことになる。

 

男子としては見たい気持ちもあるが…理性でそれをなんとか抑え込む。

 

(…家を出てくるまで外で待とう…)

 

 

 

 

綾波レイは朝のシャワーを浴びていた。

 

「笑う…笑うってなに…?」

 

本では何回も見た事のある表現。

嬉しい時や楽しい時に使う感情表現。

 

「嬉しい…嬉しいってなに…?」

 

わからない。

そのままバスルームから出て、着替えはじめる。

 

「碇君…いっしょにいるとぽかぽかする…離れていると…碇君に会いたくなる…」

 

だからプールに誘った。

 

「ぽかぽかする気持ちが…嬉しい?…分からない…」

 

早くNERVに行って碇君に会おうと準備を急ぐ。

ドアを開けると、そこに会いたい人がいた。

 

「あっ…綾波!」

 

「碇君⁉︎」

 

突然の遭遇に心臓が高鳴る。

 

(まただ、またぽかぽかする気持ち。)

 

「これ、新しいカード。リツコさんが渡しそびれたからって…」

 

シンジがセキリュティカードを差し出す。

 

「…ありがとう」

 

カードを受け取る。少し汗ばんだ手が自分の手に触れて、胸が少し熱くなったように感じる。

 

「綾波、NERV行くんでしょ?一緒に行こうよ。」

 

「う、うん。」

 

(なんだか…ぽかぽかして…ちょっと胸の中が熱い感じ…)

 

顔を赤くしながら、廃墟のようなマンションを出た。

 

 

 

 

 

 

『これより、零号機再起動実験を行います。』

 

「レイ、準備はいいか?」

 

ゲンドウがレイに話しかけている。

 

『はい。』

 

ゲンドウ達の後ろで零号機の再起動実験を見守るシンジ。

零号機の再起動実験が順調に進んでいることに安堵しながら、思考の海に入る。

 

(綾波…今はいつもの綾波だけど…さっきはなんだか調子がおかしかったな。なんだったんだろう…)

 

「…ルスおよびハーモニクス正常…」

 

(そういえばこの実験は中止になるんだっけ。)

 

(たしか、使徒が現れて…それから…)

 

着信音が鳴る。受話器を手に取る冬月。

 

「…分かりました…碇!未確認飛行物体が接近中だそうだ!」

 

受話器を置くと、ゲンドウに対してそう言った。

 

「テスト中断!総員第一種警戒体制!」

 

 

 

 

 

 

零号機エントリープラグ

 

「…使徒⁉︎」

 

反射でガラス越しのシンジ達の方を見るレイ。

 

(如何して…如何して…このタイミングで使徒が!?)

 

動揺。

 

(…今回も碇君の手助けが出来ないのね…)

 

落胆。

 

(…嫌な…感じがする…)

 

不安。

 

 

レイ本人が気づかない内に感情は目覚め始め、そして再び第3新東京市に最強格の敵が迫っていた。

 

 

 

つづく




これは本当にLASなのだろうか…
てか一気に感情目覚め過ぎです綾波サン。


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かなり、人間らしく

「あら〜随分芸術的な使徒ね…」

第五使徒ラミエル。正八面体。

『ミサトさん、エヴァを出すより先に先ずは敵の出方を見ましょう。』

シンジの助言。

「そうねー12式自走臼砲なんかで様子見てみましょーか。」

12式自走臼砲が使徒に攻撃すると、加粒子砲で反撃を受け、蒸発。


「…あらま」

「これは近接戦闘は無理ね。」

「じゃどうするんです?白旗でも上げますか?」
と日向が言う。

「ナイスアィディア!でもその前に、やれることはやっておかなきゃね。
…後悔はあの世でしても仕方ないわ。」


学校の屋上。

ビデオカメラが放送を流す。

 

『今夜午後11時30分から明日未明にかけて…全国で大規模な停電があります…皆様のご協力を宜しくお願い致します…繰り返しお伝えします…』

 

「うるさいなあ、そう何べんも言わなくてもわかったよ。」

 

眼鏡の少年、相田ケンスケがビデオカメラの放送を切る。

 

「おいケンスケ、ほんまにこの時間なんやろな、もう避難せなあかん時間やで。」

 

「…パパのデータこっそり見たんだ間違いないよ。」

 

ケンスケの父はNERV勤めである。

 

「おい!ケンスケ!」

 

「うん…」

 

ハッチが開き、エヴァ初号機が出てくる。

 

「出てきた、エヴァンゲリオンだ…!」

 

続いて、零号機も出てくる。

 

「凄い〜〜零号機も出てきた〜〜!く〜〜最高!」

 

「綾波も一緒か。おお〜い!頑張れよ〜〜!」

 

 

 

 

ラミエルの出したボーリング・マシンが地面を抉っている。

 

「敵ブレード第17装甲板を突破‼︎」

 

「本部到達まであと3時間55分!」

 

「九州および四国エリアの通電完了!

各冷却システムは試運転に入ってください!」

 

 

 

 

「いい? これからの説明をよく聞いて。」

 

「これがポジトロン・ライフル。戦自研で開発途中だったものをNERVが徴発し組み立てたもの…間に合わせだけどね。計算上ではこの長距離からでも敵のA.T.フィールドを貫くに足るわ…

もとが精密機械のうえ、急造仕様だから野戦向きじゃないのが難点だけど。」

 

「そこでこの盾。こちらも急造仕様だけどもとはスペースシャトルの底部で、超電磁コーティングされている機種だし、敵の砲撃にも17秒は耐えるわ。」

 

「シンジ君は初号機で防御を担当。

レイは零号機で砲手を担当して。」

 

「「はい。」」

 

「これは、レイと零号機とのシンクロ率の方が高いからよ。今回はより精度の高いオペレーションが必要なの。」

 

「レイ、陽電子は地球の自転・磁場・重力の影響を受け直進しません。

その誤差を修正するのを忘れないでね。」

 

リツコが念を押す。

 

「はい…」

 

「時間よ、2人とも準備して!」

 

「「はい。」」

 

 

「綾波は…如何してエヴァに乗るの?死ぬかもしれないのに…」

 

前史でも聞いた質問を綾波に聞く。

答えが変わっていることを期待したからだ。

 

「…絆…だから。」

 

答えは変わってはいなかった。

 

「父さんとの…?」

 

「いいえ。」

 

答えが変わった⁉︎

 

「碇司令だけじゃなくて、葛城一尉も…赤木博士も…碇君とも…」

 

「え…?」

 

「私は、絆を守る為に戦うわ…」

 

「…綾波…」

 

「時間よ、行きましょ。」

 

「あ…うん。」

 

「さようなら…」

 

時計が0時を指す。

 

「時間です。」

 

「レイ、日本中のエネルギーあなたに預けるわ。」

 

「はい…」

 

「ヤシマ作戦スタート!」

 

 

 

 

 

つづく




今回頑張りました。
あと非ログインユーザーでも感想を送れるようにしました。どしどし送ってくださいね!


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血戦、第3新東京市!

「電圧上昇中、加圧域へ!全冷却システム出力最大!陽電子流入順調!」

 

「第二次接続問題なし‼︎」

 

「全加速器運転開始!強制収束機作動‼︎」

「全電力二子山造設変電所へ!」

「最終安全装置解除!」

 

「第三次接続!」

 

「撃鉄起こせ!」

 

「地球自転誤差修正、プラス0.0019!」

 

盾を構える。前史では綾波の乗る零号機が装備していた盾。前史では大きく見えた盾が、実際に持ってみるとなんだか小さくて不安に感じる。

 

(これで…あの加粒子砲を耐えるのか…)

 

弱音を吐きそうになる口を押さえ付けて、遠方のラミエルを見据える。

 

「第7次最終接続!全エネルギーを陽電子砲へ!」

 

節々から火花が散る。

 

「発射まであと10秒!

9.8.7.6.…」

 

「目標に高エネルギー反応!」

 

使徒の中心が光る。身構える初号機。

 

「くっ、気づかれたか!しかしやつより先に撃てば…勝機はある!」

 

ポジトロンライフルのエネルギー充填が完了。

 

「撃てっ」

 

零号機が引き金を引き、ポジトロンライフルから陽電子ビームが発射されるのと同時に、ラミエルから加粒子砲が発射される。

 

ビームが互いの影響を受けて軌道を逸れる。

 

(外した!)

 

「敵ボーリング・マシン、ジオフロント内に侵入!」

 

「第二射急いで!」

 

「ヒューズ交換!」

 

「再充電、銃身冷却開始!」

 

「レイ!移動して!時間を稼ぐのよ!」

 

「はい!」

 

「目標に再び高エネルギー反応!」

 

再び光るラミエル。

 

「不味い…!早すぎる!」

 

ラミエルが加粒子砲を再び放つ。

 

光が零号機に迫る。

 

「レイ‼︎‼︎」

 

ミサトの絶叫。

 

その時、初号機が加粒子砲を放った。

初号機とラミエルの加粒子砲が激突する。

 

「うおおおおお!!!!」

 

「碇君!」

 

出力は圧倒的にあちらが上なので徐々に押されていく。

そして、とうとう押し負けた。

加粒子砲を盾で受ける。

 

「碇君!…早く!まだなの⁉︎」

 

盾がみるみる溶けてゆく。

 

「盾がもたない!」

 

リツコの叫び。

 

「まだなの?」

 

「あと6秒!」

 

(早く…早く!碇君が死んじゃう!)

 

「うああああああ!!!」

 

盾が遂に溶けきった。

胸が焼ける。だが、ここで逃げるわけにはいかない。

 

(綾波が撃つまで…っ!耐えろっっ…!!あの時の綾波も耐えたんだからッ…!)

 

「碇君!!」

 

ピーッ、と照準の終わった音。

 

「今よっ撃って!!」

 

発射された光は真っ直ぐラミエルのコアを貫いた。

 

「やった!」

 

「敵ブレード本部の直上にて停止!完全に沈黙しました!」

 

 

 

 

 

「碇君!待ってて、今助けるから!」

 

初号機のプログナイフでシンジの乗るエントリープラグを取り出す。

 

「碇君!」

 

零号機から滑り降りて、プラグの扉に手をかける。

 

「碇君大丈夫⁉︎」

 

扉を力任せにこじ開ける。

 

「うぅっ…くうっ…きゃあっ!」

 

開けた扉からL.C.L.が洪水のように飛び出す。だが構わず中に入る。

 

「碇君!」

 

「綾波…」

 

(生きてた…良かった…)

 

シンジに抱きつくレイ。

 

「えっ…ちょっと…綾波…?」

 

「うっ…ひっく…うぅ…」

 

「…えとー、綾波さん?」

 

自分の眼から冷たいものが流れ落ちるのを感じて、これが涙なんだと認識。

 

「泣かないでよ、ほら。」

 

シンジの温かな手が、自分の涙を拭う。

そして、自分の体からポカポカした気持ちが溢れ出して…

 

表情が、緩んでいく。

 

目が、細くなっていく。

 

(今なら分かる…これが…この気持ちが…)

 

「これが…嬉しい…なのね、碇君。」

 

「……そう…だね。綾波…」

 

その日は満月が出ていた。

 

 

 

つづく

 

 

 

おまけ:NERV本部のプールにて

 

「碇君、泳げないのね。」

 

荒息をたてているびしょ濡れのシンジ。

 

「じゃあ、また最初から練習しましょう。」

 

「も、もう勘弁してぇ〜〜」

 

 

 

 

 




やりたかったことをやりました。
次回!アスカ、来日
3月16日1時30分公開。


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ガギエル〜ゼルエル戦(本編)
アスカ、来日


新横須賀沖 PM3:00
国連海軍太平洋艦隊

『テンペスト沈黙‼︎』

『状況報告はどうしたぁ!』

『くそう!何が起こってるんだ!?』

短魚雷が4本発射され命中するが、海中のナニカに効いた様子は無かった。

『魚雷を4本も食らってなぜ沈まん⁉︎』

『目標、後方輸送船に接近!』

輸送船が爆沈する。それと同時に布を被った赤いエヴァが輸送船から飛び出す。
赤いエヴァは護衛艦を足場にして空母に降り立つ。
プログナイフを構えると、海中から飛び出した使徒を切断した。


シンジ、トウジ、ケンスケ、レイの四人でゲーセンに向かう。

 

「なんや、綾波はゲームやったことないんか。」

 

「ええ。」

 

「そんならワシが教えたる!」

 

大船に乗ったつもりで任せろと言わんばかりのトウジ。

 

「言っとくけどトウジはあんまりゲーム上手くないからね?」

 

と、自分が教えるとばかりのケンスケ。

 

「いい。碇君に教えてもらうから。」

 

「「ええ〜〜ッ」」

 

「よろしく、碇君。」

 

「あ、うん。」

 

「ちくしよーッいいなー碇ばっかしッ!ミサトさんのような美人と暮らしてるだけでは飽き足らないとでもいうのか〜〜。」

 

「なんかおごれよオラッ!」

 

「なんでそーなるんだよ!」

 

「それは話の筋が通っていないわ鈴原君。」

 

「おいトウジ!みろよ!」

 

ゲーセンの中のクレーンゲームに熱中している黄色のワンピースを着た金髪の少女。

 

アスカ、だ…

 

「うおーっ激マブ!」

 

「チョーー好み」

 

「…」

 

「碇!お前は見るな!」

 

「ああーっなんでだよぉ!」

 

うあっ見えそう見えそうとアスカのスカートの中を見ようとし始めたバカ二人。

 

ぼとっ、とクレーンからヌイグルミが落ちる。

 

「ぐあっ!Scheiße! なによこの機械壊れてんじゃないの⁉︎」

 

そういいながらゲームの機械を蹴る。

 

「……あかん!ごっつ性格悪そうや。」

 

たしかにあそこだけ見れば性格が悪そうだ。しかし、本当のところは自分を受け入れて欲しいだけの普通の女の子だと言う事を僕は知っている。

 

ずっと一緒に戦い、共に過ごし、憎み合ったからわかる。

 

「…ちょっとぉ!あんた達さっきからなに見てんのよ!」

 

「「あ、いやあのべつにッ⁉︎」」

 

「わ〜〜❤︎話しかけられちゃった。」

 

「…」

 

「100円ちょーだい。」

 

「へ?100円?」

 

「ゲーム代無くなっちゃったのよ。安いもんでしょ一人100円ずつ。パンツ見たでしょ。見物料よ!」

 

「なっ…まだ見とらんわい!」

 

「ワーイ カツアゲだ★」

 

「だめよ。」

 

「は?なによ100円くらいいーじゃない。」

 

「碇君と私は関係ない。」

 

綾波が僕の前に立つ。

 

「碇…?どっかで聞いたことあるわね、ああ、七光りのサードチルドレンか。」

 

「って事はあんたは綾波レイ?へぇー、ダッサい格好してるわね。」

 

「あなた、何者?」

 

「セカンドチルドレン、エヴァ弐号機専属パイロット、惣流アスカラングレィ。」

 

「こんの茶髪女!言わせておけば〜〜」

 

「お おいトウジっ!」

 

「ちょっとカワイイからってなチョーシこいてんやないぞ!」

 

「ギャーッ気安くさわらないでよっサルサルサル!放して!」

 

アスカの肘がゲーム中の大男の背中に当たり、大男の操作していた飛行機が爆発する。

 

「OH!NO!!」

 

「あ ゴメン。」

 

「ごめんで済むかいせっかく最終画面まで行ったんやぞ!どうしてくれるゥ!オーッ⁉︎」

 

「やめろよ!大人気ない!!」

 

「し、シンジ?」

 

「あぁ?なんだトォ?」

 

「あっ…」

 

不味い。うっかりやっちゃった。

 

「泣かしたろかっ!」

 

「あ…あう…ッ」

 

ゴキッ!

 

アスカの回し蹴りが男の腹を直撃する。

 

「がっ…あっっ」

 

男が倒れ込んでしまう。

 

「ダッサ。それでもチ○ポコ付いてんの?」

 

あ、あれ?アスカってこんなに口悪かったっけ⁉︎

 

「げ、ケーサツ!逃げるわよ!」

 

警察のサイレンの音が近づいてくる。

 

「お、おいシンジ、ボサッとしてないで、逃げるで!」

 

「あ、うん。」

 

 

 

翌日

 

 

 

「しっかし凄い女やったなぁ…オレらは2度と会うことあらへんだろうがセンセは仕事やからしゃーないわな。同情するで」

 

とトウジが言う。

 

「……………」

 

「僕は羨ましいけど」

 

ガラッ…と教室のドアが開く。

綺麗な金髪に白い肌…蒼色の瞳がこちらを見据える。

 

「うわああああああっ!」

「うひょぉぉぉぉー!!」

 

絶叫するトウジに歓喜の声をあげるケンスケ。

アスカが教室に入ってきたのである。

 

「あら、あなた達3人とも同じクラスだったの?」

 

黒板にサラサラと名前を書いて、

 

「惣流・アスカ・ラングレィです。よろしくお願いします。」

 

「なんやあの外面の良さは…」

 

 

 

つづく




拙い
次回は今日の7時19分に投稿します…
それと、タグの大幅な変更を行いました。
初心者なものですので…
読者博士!お許し下さい!


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アスカ攻撃(アタック)

紅い世界の夢を見た。
と言うより毎晩見ている、と言うのが正しい。

紅い海の上、綾波がいる。
だが、瞬きをする間に消える。

「…あんたのこと…あたし大っ嫌い……」

アスカが倒れたまま苦しそうに言う。

「大っ嫌いだけど…ずっと…側に居なさいよ…」

アスカが死んだのはその翌朝だった。

「アスカ…」

死んだアスカを砂浜に埋める。
唯一紅くなっていない、白い砂浜。

シンジの心はその日一時的に破壊された。

見兼ねたリリスはシンジが立ち直れるように、トラウマを”そんな事があった”程度に変えようと、励ましの言葉をかけた。その甲斐あって、少しばかりトラウマは軽減された。
だが、シンジの目は死んだままだった。


 

特務機関NERV、そのカフェテリア。

 

「紹介するわ。惣流・アスカ・ラングレィさん。今日から弐号機で参戦してくれます。」

 

「よろしく!」

 

「よろしく…」

 

綾波は何も返さず黙っている。

 

「第六使徒との戦いぶり、録画でみせてもらったわ。流石噂に聞くセカンドチルドレンね。」

 

前史とは違い、ミサトさんもシンジも太平洋艦隊にアスカの迎えには行っていない。歴史が変わったのだろうか?

 

「そんなァ、それほどでもないですぅ。あたしなんかまだまだ勉強しなきゃいけない事ばっかりで…」

 

そういえば前史は猫を被ってたりして無かったから違和感しかないな。

 

「やっ、なっ誰よ!やめて!」

 

ビールを飲むミサトさんを背後から抱き寄せる無精髭の男。てか勤務中にビールって大丈夫なのか?

 

「加持さん❤︎」

 

アスカが頬を赤らめて無精髭の男の名を呼ぶ。

 

「え…⁉︎」

 

「あいかわらず朝っぱらからビールか…腹、出っ張るぜ。」

 

加持 リョウジ。ミサトさんの元カレ。三重スパイの末、前史ではゼーレに消された男。

 

「なななんであんたがここにいんのよ⁉︎」

 

「アスカの随伴でね。ドイツから出張さ。」

 

アスカが「どこに行ってたんですかぁ?」と加持さんに抱き付く。少しイラッとした。

 

「そりゃご苦労様だったわね。用が済んだならさっさと帰んなさいよ。」

 

「残念でした!当分帰る予定はないよ。」

 

加持さんが僕の方を見る。

 

「碇シンジ君て君かい?」

 

「え?ええ。」

 

「君は葛城と同居してるんだって?」

 

「はい…」

 

「こいつ寝相悪いだろ?」

 

ミサトさんとアスカに衝撃が走る。

確かにミサトさんは寝相が悪い。今日の朝なんてブリッジのポーズをしていた。

 

「何言ってるんです?ミサトさん寝相は普通ですよ?」

 

ミサトさんの保身のため言っておく。

 

加持さんが居なくなった後、ミサトさんが「ありがとう」と言ってくれた。

まあアスカにも綾波にもバレバレだと思うが。

 

 

 

 

警報が鳴る。

『警戒中の巡洋艦「はるな」より入電。紀伊半島沖にて巨大な潜航物体を発見。データを送る。』

 

「パターン青!使徒です!」

 

「総員、第1種戦闘配置だ!」

 

第3新東京市はラミエル戦で大破した為、上陸直前の使徒を零号機と初号機、弐号機で迎え撃ち、水際で叩く、というのが今回の作戦だ。

 

『アンビリカルケーブル送電開始!』

 

水面下から使徒が迫る。

 

「あたしが先に行くわ!ちゃんと援護するのよ!」

 

弐号機が使徒に突入する。零号機と初号機はパレットライフルで後方から援護。

 

「どォりゃあああああ!!」

 

ソニック・グレイヴが使徒を捉え、一撃で使徒を真っ二つにする。

 

「ナイスよアスカ!」

 

「どって事ない敵でしたわね。」

 

オホホホ、と高笑いするアスカ。

確かにサキエルならばこの方法でも倒せただろう。

 

「まだ動いてるわ、弐号機の人!」

 

「え…⁉︎」

 

使徒が二体に分かれる。

 

「嘘〜〜!なによこれ!こんなのインチキ!」

 

『気をつけて!来るわ!』

 

3対2で前史よりは有利なので、綾波と片方の使徒に集中する。

しかし、いくら攻撃しても敵はニ身一体のため修復されてしまう。そこで、零号機に使徒を押さえてもらい、コアにプログナイフを突き立てる。

 

「アスカ!コアに攻撃して!」

 

こうする事でユニゾンなしでコアに同時攻撃をする事を可能にする。

 

だが、そんな簡単にはいかなかった。

 

「きゃあ⁉︎」

 

使徒が零号機に対してゼロ距離でビームを放ち、零号機の左腕が飛ぶ。

 

「綾波⁉︎…うわっ」

 

解放された使徒に掴まれ、投げ飛ばされる。

 

「だめ!全然効かない!…って七光り⁉︎…あっ!やだ、離してよォ!」

 

弐号機も使徒に捕まって投げ飛ばされる。

そして空中で初号機と衝突した。

 

 

 

 

『本日午後3時58分52秒第七使徒甲と乙の攻撃によりエヴァ零号機と初号機弐号機共に活動停止。』

 

「…ブザマだな。」

 

「申し訳ありません…」

 

冬月に謝罪するミサト。

 

『午前4時05分、新型NN爆雷により目標攻撃。』

 

NN爆雷か…嫌な響きだ。

前史でジオフロントの天井に大穴を開けた兵器だ。そして大穴の向こうからやって来た量産機に、アスカは心を殺された。

思い返すだけで絶望はもうしないが…

陰鬱で嫌な気分になる。

 

「パイロット3名!君たちの仕事は何が分かるか?」

 

前史では冬月が言った言葉をゲンドウが言う。

 

「エヴァの操j」

 

「使徒を倒すためです。」

 

アスカの回答を遮って綾波が答える。

 

「そうだ、こんな醜態を晒すために我々NERVは存在しているワケではない。」

 

 

 

 

アスカがシンジの足を踏む。

 

「いっ!」

 

「なんであたしまで司令にあんな事言われなきゃなんないのよ!あんたたちのせいでせっかくの日本でのデビュー戦がめちゃくちゃじゃない!」

 

「なんで私達のせいなの?」

 

「だってそうじゃない!あんた達がグズだからあんなとこで使徒に捕まっちゃってさ!」

 

「それはあなたも同じでしょ。」

 

綾波が不機嫌そうに反論する。

 

「あたしは違うもん!七光りがやられたから集中が切れただけだもん!」

 

「!…私は良いけど碇君のせいにしないで…ッ」

 

綾波の顔が怒りに満ちている。

 

「いや、良いんだ綾波。僕のせいだから。」

 

どう考えても自分があんな事を綾波に指示したからこんな事になったのだ。

両方に責任があった前史とは違う。

確かに今のアスカの態度はイヤな感じだけど。

 

「おいおい、こんなとこで喧嘩かい?」

 

「加持さん❤︎ 違いますよォ喧嘩だなんて碇君達が一方的に絡んで来ただけですぅ」

 

変わり身早っ!

 

「メシでも食うか?3人とも晩飯まだだろう?」

 

「やった やった!加持さんとごはん ごはん〜〜❤︎」

 

 

 

 

再びNERV本部カフェテリア。

 

「加持さんは分かってくれますよね、あれはあたしのホントの実力じゃないって…綾波さんはどうだか知らないですけど。」

 

「…」

 

「まぁ3人ともそう気を落とすなよ。勝負はまだこれからさ。」

 

「でもォ エヴァは壊れて修理中なんですよ?これからっていつなんですか?」

 

ぴーんぽーんぱーんぽーん

 

『エヴァ初号機パイロット及び弐号機パイロットの両名は至急第二作戦会議室に集合してください。』

 

「ほーら早速お呼びだよ頑張っておいで。」

 

シンジとアスカは第二作戦会議室に向かい、綾波だけが残される。

 

(…弐号機の人と碇君が一緒…なんだか胸が苦しい感じ…)

 

 

 

 

「シンジ君、アスカ!こっちよ。」

 

「どこ行くんですかぁ?ミサトさん。」

 

アスカがどこかダルそうに聞く。

 

「次の作戦の準備よ。」

 

「…次の作戦?」

 

「MAGIによるコンピュータシュミレーションの結果、二つに分離した第七使徒はお互いがお互いを補っていることがわかったわ。

つまりエヴァ二体によるタイミングを完璧に合わせた攻撃よ。

そのためにはあなた達の協調、完璧なユニゾンが必要だわ。」

 

ミサトさんについて行くと、ツインのベッドルームに辿り着く。

 

「なあに?ここ…?」

 

「あなた達にはエヴァが修理し終わるまでの五日間、ここで一緒に暮らして貰います。」

 

「…えええ〜〜⁉︎」

 

アスカの絶叫。

とゆーか前史はミサトさんの家だったのに⁉︎という意味のシンジの驚きの声も混じる。

 

「時間がないのよ、命令拒否は認めませんからね。」

 

「困ります!五日間も2人で暮らせだなんて!私達女子と男子なんですよォ!」

 

「これはね、次の作戦には必要不可欠なことなのよ。2人の息をぴったり合わせるにはお互いを知ることは勿論、

体内時計も合わせといた方がいいの。

明日の起床は6時半よ。

何かあったら内線で連絡すればいいわ。

じゃっおやすみ!」

 

そう早口で畳み掛けてミサトさんは居なくなってしまう。

 

「悪夢のような現実…いくら使徒に勝つためとはいえ…ああ〜これが七光りじゃなくて加持さんだったらな〜」

 

「あっあのッアスカ!先にシャワー浴びて貰っていいかな?」

 

緊張して上手く話せない。ミサトさんがいるかいないかでこんなに緊張度合いが変わるとは。

 

「なんであんたにそんな事指図されなきゃいけないのよ!」

 

「そっ、その本当は僕が先にシャワー浴びたいんだけどレディーファーストかなと思って。」

 

「ふーん、そうなの。七光りにしては気がきいてるわね。」

 

「う、うん。」

 

「覗かないでよ!いいわね!」

 

「わっ、分かってるよ。」

 

アスカがシャワーを浴びている間、

テレビをつける。

 

『ニガテンカードマーンッ!!』

 

アスカ、アスカか…

 

”あんたが私のコトオカズにしてんの分かってんだからね!"

 

"キス、しようか”

 

”あんたが 全部あたしのモノになんないならあたし何も要らない”

 

”もう、無理しちゃって”

 

”あんたあたしの事分かってるつもりなの⁉︎それこそ傲慢よ!”

 

「七光り。」

 

回想をしているとアスカがバスタオル一枚でバスルームから出てくる。

 

「お・ま・た・せ、上がったわよん❤︎」

 

「わーーーーーーーっ⁉︎」

 

「うふ❤︎」

 

「んなんだよそのカッコは!」

 

「どお?あたしのボディ❤︎」

 

「さっき覗くなとか言ってたくせに!」

 

「興味ないみたいな事言われるとプライド傷つくのy」「良いからなんか着てよ!僕、見ないからッ!」

 

「ふっ…ふふふっ。」

 

「…な、なんだよ…」

 

「…なんちゃって!」

 

アスカがバスタオルを取ると、中にちゃんと服を着ていた。

 

「…からかうのもいいけどさ…多分監視カメラかなんかでミサトさん、僕たちの事見てるよ。」

 

「えっ!うそっどこにあんのよカメラなんて!」

 

シンジの読みは当たっていた。だが、肝心のミサトはモニタの前でグッスリである。

 

 

 

 

深夜、隣のアスカのベッドから泣き声が聞こえた。

 

「…ママ…」

 

(寝言…?)

 

「ママ…如何して死んじゃったの…」

 

アスカのことが急に愛おしくなったので、起き上がって頭を優しく撫でてみる。

 

「…ママ…あのね…あたし…頑張ってるよ…だから…ぎゅーして…おねがい…」

 

そうだ。アスカは普通の女の子なんだ。か弱さを隠しているだけで…

思えば、アスカは常に誰かに認めてもらいたがっている。

それは、前史から変わっていない…アスカらしいところだ。

 

結局、心の奥底にあるモノは、いくら猫を被っても隠せないんだなぁと、そんな事を考えながらシンジはベッドの上で眠りについた。

 

 

 

 

 

つづく




やっとLASらしい事できた気がする。
次回、瞬間、心合わせて
3月17日 0時公開。


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瞬間、心合わせて

NERV本部、トレーニングルーム。

「いい?今 目を通してくれたのがこれからトレーニングするダンスの振り付けよ。これを徹底的に体に覚えさせること。」

「ダンスですかあ?」

「こんなカッコで?」

アスカとペアルックの格好をしているのはなんか恥ずかしい。

「もう!うっるさいわねェ
日本人は形から入るモンなのよ!」

「因みに選曲と振り付けはオレだから。」

ひょこっと加持さんが出てきた。

「加持さん❤︎」

アスカが黄色い声を上げる。

「あたし1人で大丈夫なのに…」

「いーからいーから」

「じゃ振り付け通りやってみて。
しっかり聞いて、音楽に合わせるのよ。」

音楽が流れる。
しかし、人は慣れないことを急にやってもできないものだ。

「どう?」

「う、う〜〜ん。」

「うわっ!」

つまずいて転ぶ。

「題して鶴と猿の小躍り…」

「思ったより時間がかかりそうね…」



「朝からぶっ続けで3時間…疲れた…あ〜〜あ 昼食べたらまたやんのか…」

 

「何言ってんのよ、トレーニングがハードになるのはあんたがドンくさいからでしょーが!あたし1人なら既に完璧なのに!」

 

昨日の夜とはうって変わって、ツンツンしたアスカに戻っている。

昨日寝てる間はあんなに可愛かったのに…

 

「…あ…」

 

自分たちの反対側から、NERV司令の碇ゲンドウがやって来る。

 

「あっ、司令!」

 

ゲンドウを確認したアスカが素早く猫を被る。

 

「どうだね調子は?」

 

「はいっ順調です!」

 

本当は僕が足引っ張ってんだけどな…

 

「四日後の決戦では必ず勝ちます!」

 

「そうか、期待している。」

 

そう言ってゲンドウは仕事へ戻って行った。

 

 

夜、アスカがまた泣いて寝言を言っている。

 

「…うぅ…ママぁ…」

 

頭をまた撫でる。優しく、優しく。

 

「…今日はね…七光りが…ぐすっ…全然あたしに合わせてくれないの…」

 

人は夢の中で記憶を整理するというのがわかった気がする。

 

「…ママ?…」

 

「アスカ…ごめん…合わせられなくて…」

 

起こさないように呟く。

 

 

 

 

 

 

 

 

(……ん…誰か…あたしの事、撫でてくれてる?)

 

「…ママ…?」

 

いや違う。ママはもうとっくの昔に死んだ。

 

(じゃあ誰?加持さん…?)

 

うっすらと目を開ける。

 

(⁉︎ 七光り⁉︎)

 

目の前にいたのは、自分のことを撫でている少年。

 

(七光りがあたしの事を撫でてる?いやそんな訳ないわ、きっと夢よこれ。

そう、夢なのよ多分!それにしても変な夢ねぇ、ははは…)

 

「アスカ…ごめん…合わせられなくて…」

 

(なによこれ、七光りなんかに撫でられてんのに気持ちi…悪くない気分だわ…)

 

自分の頭をシンジに委ねる。

とろーん、と眠くなっていく。

 

(…ふふっ たまにはこういう変な夢もいいわね。)

 

意識が沈む。

すると、シンジが撫でるのをやめる。

(え…どうして撫でるのをやめるの?やめて、独りにしないで!)

 

 

 

 

 

 

 

 

(泣き止んだからもう僕も寝よう。)

 

「いやぁ…もっと…もっと撫でてよ…」

 

「…!」

 

「あたしを…独りにしないで…ひっく…誰か…あたしを抱き締めて…」

 

アスカの心の中からの声。

アスカが完全に泣き止むまで、そこから2時間かかった。

 

 

翌日

 

「あら?シンちゃんクマできてる。夜ふかししたの?駄目よアスカと生活リズム合わせなきゃ。」

 

「すいません…」

 

(…? じゃあ昨日の夢ってもしかして…いや、そんな訳ないか。)

 

「じゃ、昨日の続きね。ミュージックスタート!」

 

 

 

 

ゲッソリ。

例えるならそんな顔をしているシンジ。

 

「ねぇ七光り…」

 

「うん…?どうしたのアスカ…」

 

「あんた昨日あたしが寝てる間に頭、撫でてたでしょ。」

 

「えっ…なんで知ってるの⁉︎」

 

「えっ…ホントに撫でてたの マジ⁉︎」

 

「鎌かけたのアスカ⁉︎」

 

「…作戦中なんだからあんまりそういう事しないでよ!生活バランスを揃えなきゃいけないんだから!」

 

「ごめん…」

 

「そういうのは気持ち悪いからぜった…あんまりしないで!いいわね!」

 

 

 

 

使徒との決戦まであと1日。

しかし、ユニゾンはバラバラのままだった。

 

「アスカ!何度言ったら分かるの?自分だけとばすんじゃなくてもっとシンジ君と合わせなきゃいけないのよ!」

 

「でも、碇君に合わせて自分のレベル下げるなんて…合わせるのは碇君の方じゃないんですか?

それに、どうしてさっきからずっと綾波さんが見てるんですか?なんだか集中できないんですけど。」

 

(アスカの競争心煽る為にちょっちやってみるか…)

 

「レイ、アスカの代わりにちょっとやってみて。」

 

「…はい。」

 

綾波とやると、アスカの時より緊張しないし、綾波も合わせてくれるので、

簡単に息が合った。

 

「おみごとだわ。零号機が修理中でなかったら迷わずレイとシンジ君を組ませるところね。」

 

褒められた綾波は少し誇らしげな顔をする。

でもそんな事をしたらアスカが…

 

「…そんなんだったらあたしの弐号機に綾波さんが乗れば良いじゃないですか!」

 

アスカが部屋から飛び出す。

その後を追うシンジ。

 

「アスカ!」

 

 

 

 

 

ジオフロント内のNERVの巨大庭園。そこでアスカが足を止める。

 

「…なによ、なんでついてくるのよ…」

 

「なんでって…アスカが心配だから…」

 

「……なんであたしの方が怒られるの?あたしは完璧にやってるわ、あんたがグズでドンくさいから上手くいかないのに…」

 

「なのになんで⁉︎」

 

「…ごめん…僕も精いっぱいやってるんだけど…」

 

「バカね…そもそもあたしとあんたじゃ相性が悪いのよ…」

 

「アスカ…」

 

「元から無理だったのよ…知りもしない奴と合わせるなんて…」

 

「出来るよ、アスカ。」

 

「…出来ないわよ!」

 

「……確かに出来ないと思ってれば出来ないと思うよ…」

 

「…どっか行って!」

 

「…うん。先に戻ってる。でも、もしアスカが戻ってきたら、僕も全力で合わせ続けるから…」

 

 

 

 

 

「うーん、戻ってこないわね、アスカ。」

 

「思い切ってレイと弐号機とのシンクロテスト至急やってみる?」

 

「…いやその決断はまだ早すぎるよ、リッちゃん。まだ一晩あるんだ…」

 

この男、実は先程のアスカとシンジの会話を隠れて聞いていた。

 

 

 

 

 

 

アスカが全然帰ってこない。

余計な事言っちゃったかな…

 

シャコッ!

 

扉が開き、アスカが入って来る。

目が少し赤い。

 

「…アスカ。」

 

「…ッ!そこだっ!」

 

アスカが飛び蹴りを天井についている監視カメラに喰らわせる。

 

「な、なにをするつもりだよアスカ!」

 

「決まってんでしょ!特訓よ!」

 

 

 

 

「なによこれ!急に映んなくなっちゃったじゃない!…ちょっと行ってくる。」

 

「まあ待てよ、今お前が行ったら野暮ってもんだよ。」

 

ミサトを加持が止める。

 

「こっちはこっちで楽しもうじゃないか、折角2人っきりなんだしさ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

「違う!もっと高く跳ぶのよ!それに入りが半テンポ遅れてる!」

 

厳しい指導だ。まるでスパルタ。

 

「…ありがとう…アスカ、戻ってきてくれて。」

 

「ふん!そんなことより、いい?シンジ、何が何でも明日までにユニゾンを完璧にすんのよ!そんでもってミサトやエコヒイキを見返してやんだからね!」

 

「わかった、もう一度最初からやってみよう。」

 

全力を尽くす。せっかくアスカも揃えようとしてくれているのだから。

 

全力を尽くす。せっかくシンジも揃えようとしてくれているのだから。

 

 

そして決戦の日の日の出まで残り4時間となった…

 

 

 

 

 

 

 

NERV本部の廊下を疾走するミサト。

「もう!何やってんのよあの2人は!

シンジ、アスカ!決戦よ用意はいい⁉︎」

 

ドアの先でミサトが目にしたのは、床に寝そべり熟睡するアスカとシンジ。

 

「ギャーッ⁉︎ ちょっとォなんでまだ寝てんのよ! 警報鳴ったでしょうが! ほら!早くプラグスーツに着替えて出撃よ!」

 

普段シンジに起こされる立場の為、起こすのに苦戦するミサト。

 

「ねみゅ〜〜い」とアスカ。

 

「んもう!お願いだから起きてェ…!」

 

 

 

 

 

発射台にセットされている初号機と弐号機。

 

「あ〜〜!先が思いやられる、今朝の早朝訓練もできなかったし…」

 

頭を抱えてるミサトさん。

 

「大丈夫よミサト!心配しないで!

ユニゾンは既に完璧よ。」

 

「え?」

 

「いいわねシンジ、最初からA.T.フィールド全開、フル稼働最大戦速で行くわよ。」

 

「わかってる。内部電源が切れるまでの62秒でケリをつける。」

 

「?…なんなの?あの子達のあの自信…」

 

『外電源パージ!発進!』

 

勢い良くエヴァが射出されると、その勢いで大きく跳ぶ。

 

音楽が流れる。高い位置からの落下の力を活かした膝蹴りを使徒に放つ。そしてそのまま着地。

 

「すごい!息がぴったり!」

 

「いける!」

 

地下から出て来たライフルを持つと、

一斉射。

すると使徒がビームを放ったのでライフルを捨てバク転で退避。

退避した場所から壁が出て使徒の攻撃を防ぐ。

壁にあった追加のライフルを使徒に放つ。

すると、使徒が予想外の動き。A.T.フィールドを展開し、空を飛ぶ。

ちょうどサキエルが飛んだ時のように、壁の前に降り立ち壁を斬る。

 

しかしここでミサトさんの支援。

 

「援護射撃!弾幕張って!」

 

誘導ミサイル弾が使徒に次々命中して使徒に隙ができる。

 

「シンジ!」

 

「うんっ!」

 

飛び上がり空中で一回転するエヴァ二体。

 

「うおおおおおおおおお!!!!」

 

「どりゃあああああああ!!!!」

 

二体のエヴァの踵が同時に使徒のコアに突き刺さる。

 

そして、使徒は爆散した。

 

「やった、やった!バンザーイバンザーイ!」

 

ミサトの歓喜。

 

「…あのう、エヴァ両機起き上がりませんけど。」

 

「え⁉︎」

 

「…最後着地の瞬間、外しちゃったわね ごめんシンジ。」

 

「いいよ…僕もミスったしごめん…」

 

「ふあ…眠くなっちゃったわあたし。」

 

「昨日27時までやってたもんね…」

 

「おやすみ、シンジ…」

 

「うん、おやすみアスカ…」

 

 

 

 

 

「なんか2人とも中で寝ちゃったみたいなんですけど。」

 

「わからん…今回だけはどーなってんのかさっぱり…」

 

 

 

 

 

 

 

つづく

 




時間がないので更新は金曜になると思います。
次回、安らぎを求めしもの


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安らぎを求めしもの


殺風景な部屋だ。だが1週間前までは少し歩くだけで足が埃で白くなるほど汚かったが、今は掃除が行き届いている。
掃除をしたのはこの部屋の主、綾波レイである。

(…夢…)

先程までレイは夢を見ていた。
シンジが自分の部屋を掃除している夢を。

(そんなことある訳無いのに…)



 

学校の帰りの道。

綾波とシンジ、トウジ、ケンスケが

一緒に帰っている。

 

「明後日からの中間テスト、どうしたらいいんだろうな…」

 

「ワシは腹をくくる事にしたわ…」

 

「…碇君には私が教えてあげる…」

 

「いいよ!綾波!自分でやるから!」

 

正直、綾波は前のプールの時もそうだったが、教えるのが上手くない。

 

「よ〜〜し、こうなったら碇んちで作戦会議や!」

 

「賛成!」

 

「?どうして碇君の家なの?」

 

綾波が疑問符を浮かべる。

 

「「ミサトさんに会えるから」」

 

即答するバカ2人。

 

「…そんな事だろうと思ったよ…」

 

歩いているうちにシンジの住むマンション、コンフォート17に辿り着く。

 

「多分ミサトさん仕事でまだ帰ってないよ。」

 

「「それでも待つ!」」

 

「…碇君、こういうのを"すとーかー"と言うのね。」

 

「多分違うと思うよ、綾波。」

 

ドアの鍵を開けようとすると、

 

「あれ?鍵開いてる。」

 

「まさか!」

 

「ミサトさんが⁉︎」

 

「「お邪魔しまーす!」」

 

「…お邪魔します…」

 

嬉々として家に入り込んでいくバカ2人に、綾波も続く。

 

「…なんやこの段ボールの山…」

 

シンジの部屋に荷物が大量にある。

 

「…あっ…(察し)」

 

前史通りだ…てことはアスカが…

 

「あっシンジ!ようやく帰ってきたわね!ここあたしの部屋になるからあんたの荷物物置に運んで!そこにまとめといたから。」

 

「で、出たああああ!!」

 

トウジが腰を抜かす。

 

「なによ、の◯太のバトルドームも出たー!みたいに言わないでよ!」

 

なんでそのネタ知ってんのアスカ?

 

「ほら、早くしなさいよ!ただでさえ狭い部屋なのに、あんたの荷物があると余計場所がとられるんだから!…全く日本の部屋ってどーしてこんなに狭いのかしら!」

 

「…なぜあなたがここにいるの…?」

 

「何でって…あんたには関係ないでしょ!それにシンジ、勘違いしないでよ!ミサトに言われただけであたしの意思じゃないんだから!」

 

すこし頰が赤いような気がするけど気の所為だろう。

 

「シンジ、お前…惣流とナニしたんや…」

 

「あぁ…ひとつ屋根の下に美少女と美女の2人と暮らせるなんて…俺はお前が羨ましいよ碇…!」

 

 

 

 

たっだいまー!とミサトさんが帰って来る。

 

「葛城一尉、なぜ二番目の子が?」

 

「アスカが自分で来たいって言ったのよ、よっぽどシンちゃんと暮らした五日間が楽しかったのねぇ…」

 

「惣流と五日間暮らしたやとォ⁉︎」

 

「なんかイヤーンな感じ…」

 

「…! ミサトさん昇進されたんですねおめでとう御座います!」

 

「え…ええ、そうね。」

 

「どうして分かったんやケンスケ…」

 

「気付かないのかね諸君!葛城さんの襟章の線が二本になっていることを!一尉から三佐に昇進されたんですよ!ネッ!」

 

「あ、有難う…」

 

「そんなの気付くの相田君だけだ

わ…」

 

珍しい綾波のドン引き。

 

(この子ちょっち怖い…)

 

「よっしゃあ、そうと決まれば!」

 

「葛城さんの昇進及び、惣流様のお引越しを祝して…カンパ〜〜イ!」

 

「…なぜ焼肉パーティなの?」

 

「知らないわよ、メガネバカが勝手にやり始めたんだし…」

 

「そこ!何ヒソヒソやってんの?さあ食べて食べて!」

 

強行される焼肉パーティ。

 

「嫌よ。肉、嫌いだもの。」

 

「試験の作戦会議はどうなったんだろう…」

 

「やっぱワシはさっき言ったように腹括ったでェ…」

 

(この際飲めれば何でもいいか…オゴリだし…)

 

「綾波、もしかして油っこい物が嫌い?」

 

「ええ。」

 

「ここの部位とか油少ないから試しにちょっと食べてみてよ。」

 

そう言って一口サイズに肉を切る。

 

「碇君がそんなに言うなら…はむっ……!…美味しい…」

 

「でしょ?」

 

ぴーんぽーん

 

「あのう、お邪魔します。」

 

「な!何でいいんちょーがここにくんのや!」

 

トウジの顔が赤くなる。

 

「来たわねヒカリ!あたしが呼んだのよ、むさ苦しい男共がいるから。とくにあんた。」

 

「何やとォ⁉︎」

 

赤い顔が怒りの赤さへ。

アスカにそっと耳打ちする。

 

「…実はトウジと委員長は両片思いなんだ。」

 

「…それマジ?」

 

「うん、トウジの方は間違いないよ。」

 

「…へーぇ、でも何で今?」

 

彼等に幸せになって貰うにはアスカの協力が欲しかったので、目の前に丁度トウジと委員長がいるこのタイミングが言いやすかった。

 

「くぉら!何コソコソ話しとんのや!」

 

「アスカホントに碇君と住むんだ…」

 

「そ。作戦上仕方なくね。」

 

ぴーんぽーん

 

「!まだ呼んどるやつおんのか⁉︎惣流!」

 

「いや…?」

 

「よ!葛城!松代の土産、買って来たぞってあれ?人口密度が随分高いな?誰かの誕生日(バースディ)か?」

 

「加持さん!」

 

「げ…バカジ!」

 

突然家に入り込んでくる加持さん。

 

「アスカの引っ越しとあたしの昇進祝いですけど!あんたなんかだーれも呼んでませんよーッ!」

 

「つれないなぁせっかく土産のわさび漬けと桜肉持って来たのに…」

 

「あたしは?あたしにはお土産ないんですかぁ?」

 

くねくねと腰を動かして土産をねだるアスカ。やっぱちょっとイラっとする。

 

「アスカにはこれさ!」

 

「わーい、嬉しい!ありがと加持さん!」

 

「…おまえこの兄さんにはアカラサマにワシ等と態度が違うな…」

 

トウジが猫を被るアスカに一言。

 

「当たり前でしょ、月とぞーり虫に同じ態度がとれるわけがないわ。」

 

「…草履虫ってワシのことか?」

 

「そうよ、あんたがぞーり虫で相田がミトコンドリア。シンジは…よく言ってスッポンね。」

 

「あんさん騙されたらあきまへんで、この女カワイイ顔してホントはとんでもない女なんや。」

 

トウジが加持さんにアスカの本当の性格を伝えようとする。

 

「ちょっと!加持さんになんて事言うのよ!」

 

「意地は悪いわ、口は悪いわ、暴力的だわ…」

 

トウジに対して、やめてよ!とアスカが止めようとするが構わず続ける。

 

「オマケに裏表の激しさと言ったら、そらもうこんな性根の腐った女は後にも先にも…」

 

「そろそろやめなよトウジ!」

「やめてってば!」

 

シンジがトウジを止めに入る。

同時にアスカがトウジを殴ろうとする。

 

ドカ!!

 

見事に止めに入ったシンジの左頬にぶち当たる。

 

「あっ…ごめんシンジ!大丈夫⁉︎」

 

「いや…大丈夫だけど…」

 

「え?…はっ!」

 

状況に気づいたアスカ。

 

「……へ、変ねぇシンジは…ちょっと小突いただけで倒れるなんて…」

 

「…よーやく正体表したな惣流!」

 

綾波が、碇君…大丈夫?と心配してくれている。

 

「知ってたわよ薄々とね。」

 

「アスカの演技はまだまだ甘いよ…」

 

「…演技なんか…っ」

 

「…アスカ…もう育ててくれた義理の両親の前じゃないんだから…無理していい子でなくてもいいのよ…」

 

「…無理なんか…してないわよ!」

 

「アスカ…」

 

「なによ…シンジ。」

 

「かわいいね。」

 

ぼんっ、とアスカが真っ赤になる。

こんなことを言ったのは、ただ言いたかっただけでなく、この場の雰囲気を良くするためである。タダイイタカッタダケジャナイヨホントダヨ。

 

「ななな、なに言うのよ突然!」

 

「イヤーンな感じ…」

 

「シンジ君⁉︎」

 

「なんか変なもんでも食ったんか⁉︎」

 

「……」

 

「碇君…すごいわね…突然すぎだわ。不潔よ不潔!」

 

「碇君がそういうことすると、むかむかする…」

 

おかしくなったのかという心配をするみんな。

 

夜は更けてゆく。

 

 

 

 

「みんな寝ちゃった…ミサトさんは加持さんと一緒に外の風あたりに行ったし…せめてみんなにバスタオル掛けて冷えないようにしよっと…」

 

ケンスケにバスタオルをかける。

綾波にも。

トウジと委員長は一緒に。

 

そして最後はアスカって…起きてるし。

 

「シンジ…風呂沸いてる?」

 

「あ、うん。」

 

「じゃ入ってくるわね…」

 

 

 

 

 

シンジも風呂に入って今や布団の中である。アスカも布団に入ってはいたが、興奮で眠れなかった。

 

『かわいいね。』

 

「…シンジのばか。」

 

すると物置のドアが開き、トイレに行く音。

 

そしてその音の主はトイレの後アスカの部屋に入ってきて、布団に侵入する。

 

(…⁉︎ シンジが入って来た⁉︎)

 

悪い気はしない、が理性がシンジを追い出そうとする。

だが、結局シンジを追い出すことはしなかった。

 

(…こう見ると可愛い顔ね…)

 

心臓の鼓動が、早くなっていく。

 

(少しくらいなら…いいよね…?)

 

唇を触れさせる。自らが殴ってしまった左頬に。

 

(キス…しちゃった…寝てるから…バレてないわよね…?)

 

「…かあ…さん」

 

「!」

 

少年が寝言で母を呼んでいる。

 

「…もしかしてシンジとあたしって案外似てるのかもね…」

 

頭を撫でる。抱き締めてもあげる。

 

「これ…気持ちいいのよね…」

 

自分のされて嬉しい事を全てシンジに与えてみる。

不思議と自分も多幸感に包まれる。

 

「…何だかシンジのお母さんになりたくなって来たわ…」

 

 

 

 

なんだか、いつもの朝と違う匂いがする。

慣れない匂い…少し甘くて…酸っぱいような…

 

手が温かくて柔らかいものに包まれている感覚。

 

(…ん?あったかい?ペンペンかな…まさかミサトさんが酔っ払って…)

 

目を開けて確認する。

 

(金髪…?ミサトさん染めたのかな…)

 

起きたてで頭が上手く動いていない。

 

(…あれ?金髪…?…まさか…いやそんなバカな…)

 

 

全く予想外、アスカだった。

 

 

「ほ、ほわあぁぁぁぁぁぁ⁉︎」

 

「あっ…起きたのねシンジ…」

 

 

 

 

 

 

つづく




ゆわーい!
次回、受け止めろ!重力攻撃


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静止した闇の中で

アスカの部屋。昨日の昼までシンジの部屋だったトコロ。

「ほ、ほわあああああ!!!⁉︎」

「あらシンジ、起きたのね。おはよ。」

「ななななんで僕の部屋にアスカが⁉︎」

「逆よ、あんたがあたしのベッドに入って来たんじゃない。」

「え…⁉︎」

周りを見渡すと昨日アスカの部屋になった場所。

「ごごごごめん!」

「別にいいわよ…寧ろいつも一緒に寝たいくらいだし…」

「え?今なんて?」

「あーもう!今のナシ!さっさと朝ご飯と弁当作りなさいよ!」

「うわわ⁉︎」

部屋からシンジを追い出す。
アスカの顔がみるみる赤くなる。

「…なんでこんな恥ずかしい事言っちゃったのよ、あたしのバカ!」



地面に突き刺さる火球。爆発し抉れる地面。

 

「第六サーチ衛星より、目標の映像データの受信を確認‼︎モニタに回します!」

 

モニタに映ったのは巨体な目玉の使徒が衛星軌道上に浮かぶ映像。

次に抉れた地面が映される。

 

「…たいした破壊力。流石A.T.フィールドといったところかしら。」

 

「とりあえず初弾は太平洋に大ハズレしましたが、2時間後の第二射がそこで後は確実に誤差を修正してます。」

 

(学習してる、ってことか…)

 

「次、来るわね多分…」

 

「ここに本体ごとね。」

 

「エバー三体の配置は?」

 

「既に完了しています。」

 

 

 

 

 

おかしい…この時点では次の使徒はサンダルフォンだったハズ。

なぜサハクィエルなのだろう。

でもまあ今の戦闘に集中するしかないのか…前の世界と必ず同じという訳じゃないんだろう。ジェットアローン(JA)事件も無かったし。

 

 

 

 

 

それぞれ離れた場所に一体ずつ配置されているエヴァ三体。

 

「まったく…ミサトも無茶を言うわね…落ちて来る使徒を直に受け止めるとか……ね、シンジ。」

 

「うん…でも受け止めるって言うけどさ…支え続ける必要あるのかな?ただ受け止めた後に上からコアを破壊すればいいと思うんだけど。」

 

「…確かに…その方が安全ね…後で作戦部長に提案してみましょうか…」

 

「そうね、支え続けながらコアを破壊するのは大変だもんね!」

 

『アスカ?シンジ君?レイ?作戦の詳細を伝えるわ!目標が確認出来たらこの円の部分、落下予想地点の中の何処かに走ることになるわ。そしてA.T.フィールド最大でこれを受け止めるのよ。』

 

「待ってくださいミサトさん。支え続ける必要はないと思いますよ。」

 

『え?どして?』

 

ミサトさんに作戦を伝える。

 

『あーじゃそれでいきましょ!』

 

それで良いのか作戦部長。

 

『目標を最大望遠で確認!距離およそ二万五千!』

 

『おいでなすったわね!エバー全機スタート!エリアB-2にとりあえず肉眼で捉えるまで走って!』

 

「外部電源パージ!」

 

一斉に走り出すエヴァ三体。

 

大地を疾走する青の機体。

ビル街の隙間を通る紫の機体。

電線の上を飛び越える真紅の機体。

 

『距離あと九千!』

 

音速に達したエヴァ初号機から衝撃波が発生し、辺りのものが吹き飛ぶ。

 

雲を割って来る使徒。

 

『あと九千!』

 

「…A.T.フィールドッ、全開!」

 

初号機がA.T.フィールドを展開。

使徒を受け止める。

 

『シンジ君!落下エネルギーは殺せたわ!急いで使徒の下から退避!』

 

「はい!」

 

端を今到達した零号機と弐号機で支え、初号機の脱出の手助け。

初号機が脱出し、支えが無くなった使徒。そのままゆっくりと地面に激突。

 

「エコヒーキ!シンジ!」

 

「ふおおおおお!!!」

「……ッ!!」

 

A.T.フィールドを上からこじ開け、プログナイフで使徒の上面を剥ぐ。

その絵面、まるで集団リンチ。

 

「出たな目玉オバケのコア!」

 

露出した使徒のコアを3人で突き刺す。空からやって来た使徒はいとも簡単に爆死した。

 

前の苦戦はなんだったんだろう。

 

 

 

 

「シンちゃん、ご苦労さま!」

 

「あ、はい」

 

「今回の作戦、かなりよかったわ!」

 

「ありがとうございます…」

 

「今日は特別にみんなにご飯作ってあげるわ!楽しみにしてなさい。」

 

「それは別に要らないです。」

 

 

 

 

ロッカールームに向かうミサト。

 

「よ、葛城!随分嬉しそうだがそんなに使徒退治が面白かったか?」

 

「そんなんじゃないわよ、加持君。子供達が成長してて嬉しいだけよ!」

 

「そうか、よかったな。」

 

「ちょっと、なんでついてくんの?」

 

「俺もこっちに用があるんだよ。」

 

加持と一緒にエレベーターに乗る。

順調に降りていくエレベーターだったが…

 

「あら…?なんで止まんの?」

 

続いて電気も消える。

 

「…あんた なんか変なボタン押した?」

 

「いや…別に。」

 

 

 

 

「ちょっと…なんで急に暗くなるのよ…!」

 

「…停電かしら…停電なら5分以内に復旧するはずだけど」

 

まさか加持さんが動いたのか?

とゆーか停電が起こったのはマトリエルの時だったよな…

 

「……」

 

「……」

 

「……」

 

ぎゅっ…

暖かくて柔らかいものが右腕にくっつく。

アスカだ。

 

「…アスカ…怖いの?」

 

「んな!な訳ないでしょ⁉︎この超絶エリートのあたしが!」

 

「それもそっか。」

 

「……」

 

「……」

 

停電の復旧を待つ。

しかし全く復旧する気配はない。

 

「…復旧、しないわね…」

 

綾波が沈黙を破る。

びくっ、と驚くアスカ。

 

「ちょっと、暗闇で急にボソッと話さないでよ!」

 

「…とりあえず発令所行こうよ。」

 

「そうは言うけどどうやって行くのよ?」

 

「わたしはここの構造もう体が覚えてるから、私についてこればいいわ。」

 

こういう時、綾波は頼りになる。

 

 

 

 

「ダメです。予備回線、応答しません!」

 

「生き残ってる電源は全てMAGIとセントラルドグマの維持に回して!」

 

指揮をとるリツコ。

 

「しかし、それでは全館の生命維持に支障が…」

 

「仕方ないわ。最優先よ!」

 

「青葉君は故障箇所の確認、日向君はパイロットの3人を頼むわ!」

 

「「はい!」」

 

懐中電灯を持ち、ケイジの方向に走り出す日向。

発令所を出た瞬間、誰かとぶつかる。

 

「わっ!」

「きゃ!」

 

「いったぁ〜っ」

 

ぶつかった相手を懐中電灯で照らすと、そこにアスカがいた。

 

「ゴメン、君たち自力で来たの?」

 

「はい。綾波に協力してもらって。アスカ、大丈夫?」

 

ぶつかって転んだアスカを助け上げながら、日向に返事をするシンジ。

 

「赤木博士、一体何が起こっているんですか?」

 

「それが…全く分かんないのよレイ。」

 

「正・副・予備の三系統の電源が同時に落ちたってことは考えられないわ……となると…」

 

「ブレーカーは故意に落とされたと考えるべきって事ですよねリツコさん。」

 

「そうねシンジ君。ところで途中ミサトに会わなかった?そっちに向かったハズなんだけど。」

 

現在、ゲンドウも冬月も南極にいるのでミサトが今は臨時の責任者なのである。

 

「あ…そういえば。」

 

「…入れ違いになったのかしら。」

 

「そういえば加持さんはどこ行ったんですか?」

 

「停電前に廊下2人で歩いてるところ見ましたけど…」

 

「!」

 

「あの2人この暗闇で…まさか⁉︎」

 

自分の妄想で動揺するアスカ。

 

「シンジ、2人を捜しに行くわよ。ついてらっしゃい。」

 

「言うと思った…」

 

 

 

 

 

「ふう…かれこれ1時間経過か…」

 

「非常電話も繋がらないし…一体いつまでこの中にいれば良いのかしらね…」

 

「それにしてもあっつい…」

 

「暑けりゃ上着くらい脱いだらどうだ?」

 

「……」

 

雰囲気が大人の空気になっていく。

 

「加持君…」

 

「葛城…」

 

 

 

 

「ねーシンジ?」

 

「うん…」

 

「どこよここ…」

 

「迷っちゃったね。まさしくミイラ取りがなんとやらか…どーする?」

 

「司令塔に戻れるならとっくに戻ってるのに……」

 

実際は2人きりで少しばかり嬉しいと思う自分がいる。

 

「ねえシンジ、あんたエコヒーキと付き合ってんの?」

 

「…別に僕と綾波はそんな関係じゃないよ…」

 

「じゃキスとかもまだなんだ、まっトーゼンよねあたしもした事ないんだから。」

 

エコヒーキとシンジが付き合ってなくて少し安心したのはヒミツ。

 

「じゃ、あたしとしてみよっか。」

 

「え?」

 

「目、閉じて。」

 

「んむぅ⁉︎」

 

唇と唇が触れる。頰が真っ赤になっていく。しかもアスカ、抱きついてきた。それほど大きい訳でもないが、柔らかな胸が自分の胸に押し当てられる。心臓があり得ないほど速く鳴る。

 

瞬間、停電が復旧した。

 

 

 

 

 

気まずい雰囲気。

 

狭いエレベータの中に男女が2人。何か起きる訳もなく。

 

停電が復旧する。

 

 

 

 

「…ぷはっ…やっぱり遊びでやるもんじゃないわね。ここは、第13エレベータ前か。」

 

照れる心を誤魔化すように、話を変える。

かちゃーん、とドアが開く。

 

「あっ!ミサトさん!」

 

「加持さん!」

 

「…仲がいいね君たち?」

「…シンちゃんおめでと」

 

「「え?」」

 

我に帰ると、アスカとシンジは互いに抱きあっているままだった。

 

「…あっあの…これは…その…」

 

「うわああああああ⁉︎」

 

恥ずかしさで真っ赤になる2人。

ミサトさんたちはそんな僕らをニヤニヤ見ていた…

 

 

 

つづく




疲れたあああ!
次回 墓標、魂の場

ツウィキ(追記)
おかげさまでお気に入り登録100突破しました。

さらにツウィキ
評価ありがとうございます。
たとえ2でも嬉しいです(泣)
ま、良い評価してくれる人が大半ですが。
ありがとうございまあああああす!!


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墓標、魂の場

シンジの部屋、ついこの間まで物置だったトコロ。

「…ふにゃ…」

現在、朝の7時半。本来であればシンジは起きている時間だったが、布団の中で熟睡している。
なぜならば 暖かくて柔らかい、心地いいものがひっついていたからである。

「起きなさいシンジ君!弁当作ってもらわなきゃ困るのよ!」

ミサト、人生2回目の人を起こす行為。

「…え?ミサト…さん?いま何時ですか?」

「7時半よ。」

「ゑ?」

驚愕。そして布団の中に暖かいもの。
シンジは起きられなかった理由を見つけた。布団の中にアスカがいる。

「うわああああああああ⁉︎」

二つの意味が混じった絶叫が朝の街に響いた。



「赤木博士。」

 

紅い目を持つ水色髪の少女、綾波レイ

がリツコに質問する。

 

「碇君と一緒にいると、ポカポカするのは如何してですか?」

 

「⁉︎」

 

予想外の質問。まさかレイが恋愛をするようになるとはっ…!

 

「…それわね…あなたがシンジ君の事を好きって事なのよ。」

 

「好き…?」

 

「そうよ。それが恋。」

 

「好き…はじめての感情…」

 

「もっとシンジ君と一緒にいたい?」

 

「…!なぜ解るの?」

 

「そりゃあ私だって恋をした事ぐらいあってよ。」

 

「…じゃあ碇君ともっと一緒にいるにはどうしたらいいんですか?」

 

「…そうね、付き合うのが最適解よ。」

 

「どうやって?」

 

「例えば人気のない屋上とかに呼び出したりとかして、好きって事を伝えて付き合ってと頼むのが一番よ。」

 

「分かったわ…やってみる。ありがとう赤木博士。」

 

ありがとう…だと⁉︎

だが私は博士、動揺してはいけないのだッ。←脳内謎テンション

 

「礼には及ばないわ、レイ。」

 

「韻を踏んでる…」

 

「それから、私のことはリツコと呼んで頂戴。」

 

「分かりました。赤木博士リツコ。」

 

天然ボケ、炸裂。

 

「どこをどうしたらそうなるの…」

 

「?」

 

「リツコさんと呼べばいいわ。」

 

「分かりました。リツコさん。」

 

「それでよし。」

 

 

 

 

 

「碇君、5時間目の休み時間に屋上に来て。話がある。」

 

「え…うん。」

 

話の切り出し、成功。

 

(綾波さん告るつもり⁉︎)

 

(まさか!あの綾波さんが⁉︎)

 

「…エコヒーキ何するつもりかしら。」

 

不安そうな顔をするアスカ。

 

そして、5時間目の休み時間の屋上。

 

「話ってなに?綾波。」

 

「……」

 

(怒ってんのかな綾波…僕なんかしたかな…)

 

屋上に上がる階段からこっそり盗み聞きしているアスカ。

 

(もう!何してんのよエコヒーキ…ホントに告るつもりかしら…)

 

不安感に狩られる。

 

「あのっ碇君!」

 

レイは昔ゲンドウに読まされた恋愛小説を思い出す。

 

『好きです、付き合ってください』

 

あの小説を手本に。

 

「…私は碇君が好き。付き合ってください!」

 

言った、言ったわ!

 

「ごめん、好きな人がいるんだ!」

 

「え…」

 

「え…⁉︎」

 

綾波の顔が悲しみに染まる。

 

「だから、付き合えない。ゴメン。」

 

失敗、した。

 

「…分かったわ…でも私、待ってるから。今とは違う返事。」

 

「綾波…」

 

「また後で!」

 

階段の方に走ってくる綾波の足音。

 

「やばっ!」

 

急いで隠れるアスカ。

バレずになんとかやり過ごすことに成功。

 

「ふーっ危ない危ない。」ドキドキ

 

隠れた場所から出て、階段を降りていく。

 

告白、失敗か…ま、あたしはシンジなんてどーでも良いし、この前のキスも遊びだし。

 

「うわっ!」

 

シンジの声が後ろから。

振り向くとアスカに落ちてくるシンジ。

 

「きゃああああ⁉︎」

 

どさっ

 

シンジの目の前に純白のもの。

 

「…昨日洗濯したやつ…」

 

「ば、バカシンジのえええ、えっちぃ!!」

 

スカートに突っ込んでいた頭にアスカの膝が命中。

 

「ぐは!」

 

「…み、見ないでよスカートの中なんか…」

 

「…ゴ、ゴメン。転んじゃって…」

 

「…そんなに見たきゃ、幾らでも家で見せてあげるから…」

 

「え…?」

 

言葉の意味を理解した瞬間、頭がショートする。

 

「」

 

「ちょっとシンジ大丈夫⁉︎シンジ⁉︎」

 

 

 

 

「…保健室の天井だ…」

 

「起きたわね、ばかシンジ。」

 

フラッシュバックする純白のモノの映像。息子の熱膨張を感じる。

 

(だめだシンジ、僕はもうアスカをオカズにしないって決めたんだ!)

 

(そうだ!父さんの顔でも思いうかべよう!)

 

収縮。

 

「帰るわよ、もう5時だから。」

 

「アスカ…いてくれたんだね。ありがとう。」

 

「…そうね。」

 

 

 

 

女子の部屋とは思えない程殺風景な部屋。

 

(かなしい、これが悲しいなのね。)

 

初の失恋を体験したレイは、ぽろぽろと涙を流しながら枕に突っ伏す。

 

(胸に…大穴が開いたような気分…)

 

「碇君…うぅ…っ」

 

「ううう…っ…ひぐっ…」

 

「…んうっ…ひっく…」

 

泣くのが止まらない。

 

「…これが…ひぐっ…玉砕…っ」

 

 

 

 

 

「あれ?どこ行くのシンジ、そっちは方向が違うわよ?」

 

「うん、ちょっとお墓参りに行くんだ。」

 

「あたしも付いてって良い?」

 

「え…?良いけど。」

 

墓地に向かう道。

 

「誰のお墓参りに行くの?」

 

「母さんだよ。第八使徒襲来の三日前、その11年前が母さんの命日だったんだ。」

 

「ふーん。」

 

墓地に到着。手を合わせる、意味は無いけど。形式上だけだ。

 

「碇 ユイ…これがシンジのお母さんの名前か…」

 

「うん。」

 

「ねぇシンジ。」

 

「うん?」

 

「あんたって誰が好きなの?」

 

「え?」

 

「いるんでしょ?好きな人。今日そう言ってたじゃない。」

 

「盗み聞きしてたの⁉︎」

 

「ええ、ばっちり聞いてたわ。あんたがエコヒーキ振るところ。」

 

「そそそれにアスカは関係ないだろ⁉︎」

 

「ま、そうね。じゃ、家帰りましょ!暗くならないうちに!」

 

「うん…」

 

 

 

 

つづく




ああ…モチベが下がる…
今日は文字少なめです
ああ…評価6.69(泣)
やめよかな←もろい精神


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違う世界

病室。

「…起きてよアスカ!またいつものように僕をバカにしてよ!」

ベッドの上で寝かされている少女を揺さぶる。

「ねえってば!」

服がはだけ、乳が露わになる。

手につく白濁色の液体。

「最低だ、おれって…」

終わる世界。
紅い世界にとけていく人々。

たった2人、生き残る。

少女の首を絞める少年。

少年の頰を撫でる少女。

少年の手から力が抜ける。

「…気持ち悪い…」

少年の願いを叶え、少年を受け入れる少女。

彼等は、ムードも何も無い世界で、二度目のキスをした。



がばっ…と起き上がる。

 

(久しぶりにこの夢見たな…)

 

今日は寝坊せずちゃんと6時に起きている。

 

(…またアスカに添い寝されてる)

 

すー、すーと穏やかに眠るアスカ。

布団を掛け、自分は朝ごはんの用意。

 

「弁当どーしよ?」

 

毎日悩む。好きな人に作るんだから当然だ。

 

 

 

「行ってきまーす!」

「行ってきます。」

 

「行ってらっしゃい。」

「グワッグワッ!」

 

ミサトさんとオンセンペンギンのペンペンに見送られて学校へ。

 

「ねーシンジ。」

 

「なに?」

 

「エコヒーキずっと学校来てないけどどうかしたの?」

 

「なんでアスカがそんな事聞くんだよ?僕が知るわけないだろ?」

 

「ま、そーよね。」

 

「お!また仲良く夫婦で登校か?」

 

「おはよう、トウジ!ケンスケ!」

 

「げ、ジャージバカ!」

 

「なんやとォ⁉︎」

 

トウジ達と合流。

 

「いいよなぁ、碇は。告白されたんだろ?綾波に。」

 

「うん、そうだね。」

 

「美人美少女と暮らし、女子にもモテモテ、羨ましすぎる!」

 

「あーっなんて無敵のシンジ様!なのに好きな人がいるんだから罪な男よねー!」

 

 

 

 

 

「どうしたのかしらねェ?アスカとレイ。シンクロ率がどんどん落ちてるわ。」

 

(無理もないわね…失恋したら…)

 

「おk。3人とも上がっていいわよん。」

 

バシュッ!と扉からゲンドウと冬月。

 

「どうだ?調子は。」

 

「司令!」

 

「お帰りなさい。エヴァ3機とも問題ありません。停電の影響も無いようですし。」

 

「そうか、ならばいい。」

 

 

 

 

特務機関NERV、ロッカールーム。

 

「ねーエコヒーキ。」

 

「…なに。」

 

「あんたいつまで落ち込んでるつもり?失恋したからって。」

 

「…落ち込んでなんかないわ…」

 

「あんたバカァ?見るからに落ち込んでるじゃない!あたしにだって分かるくらい!」

 

「あなたには関係ないわ…」

 

「あんた見てるとイライラすんのよ!いっつも碇君碇君ってさ!」

 

綾波の反論。

 

「それはあなたも同じだわ…」

 

「あたしとあんたは違うわよ!」

 

コンコン、と扉を叩く音。

 

『アスカ?着替え終わった?』

 

「あ、まだよシンジ!」

 

大声で返す。

 

『先帰っていい?』

 

「待ってなさいよ、今取り込み中だから!」

 

『…うん。分かった。』

 

プラグスーツを脱ぐ。

体を軽く拭いて、下着を穿いて制服を着る。

 

「…あたしはもう立ち直ったから、あんたも早く立ち直りなさいよ。」

 

「…なにか、あなたが傷つく事があったの?」

 

「…あのバカ好きな人がいるんでしょ?」

 

「バカ…?誰?」

 

「バカといえばバカシンジじゃない。」

 

『ぶえっくしゅっ!』

 

廊下でくしゃみをするシンジ。

 

「…碇君がどうしたの?」

 

「あたし…バカバカしいけど…多分あいつの事…好きなのよ…」

 

顔を赤くするアスカ。

 

「そう。」

 

「だから…あいつが好きな人がいるって聞いた…時…っ」

 

「…多分碇君はあなたの事が好きなんだと思うわ。」

 

アスカの顔が更に赤みを増す。

 

「…なによそれ、なんでそんな事わかんのよ…」

 

「…碇君…あなたと話す時…とても嬉しそうだから…」

 

「⁉︎」

 

「お似合い、だと思うわ。」

 

何処で知ったのかわからない言葉を発するレイ。

 

「…あいつがあたしをす…好きな訳ないじゃない!」

 

ロッカールームから飛び出すアスカ。

 

『あれ?どうしたのアスカ、顔赤いよ?』

 

『なんでもないわよ!行きましょ!あとあんたの事は好きでも何でも無いんだから!』

 

『え⁉︎』

 

「…これが"つんでれ"…」

 

 

 

 

暗い廊下。

立ち入り禁止の廊下を1人、歩く男。

 

かちゃん…

 

男の頭に銃が押し当てられる。

 

「…あなたは、特務機関NERV特殊監察部所属の加持リョウジでありながら、同時に日本政府内務省調査部所属の加持リョウジでもある訳ね。」

 

「…バレバレか、葛城。」

 

「NERVを甘く見ない事ね!今は私の胸の中だけに留めておくわ。でも、これ以上アルバイトを続けると死ぬわよ?」

 

「…まだいけるさ、碇司令はオレの正体に気付きながらも利用してる。」

 

ぴっ…

 

カードで奥の扉を開ける加持。

 

その先にあったのは、十字架にかけられ、紫の仮面を被った白い巨人だった…

 

 

 

 

 

好き。

すき。

スキ。

 

恋。

こい。

コイ。

 

愛。

あい。

アイ。

…哀。

 

 

失恋。

悲しい。

 

弐号機の人。

碇君が好き。

 

私。

どうしたらいい?

 

 

 

 

特務機関NERVの無駄に広い部屋。

将棋をする男二人。

 

「おおよそシナリオ通りか…」

 

「ああ、委員会には停電の事は事故として報告しておいた。」

 

「それで連中が納得するとは思えないがな。」

 

「かまわん、シナリオ通りで事が進んでいればいいのだ。」

 

「あの男の始末、如何するつもりだ?」

 

「今は泳がせておく。利用価値はあるからな。」

 

「ロンギヌスの槍は?」

 

「予定通り、作業はレイが行っている。」

 

 

 

 

蒼いエヴァが紅い二股の槍を構え、十字架にかけられた白い巨人に突き刺す。

 

「…私はエヴァの他に何もない…」

 

 

 

 

『あたし…バカバカしいけど…多分あいつの事…好きなのよ…』

 

『…多分碇君はあなたの事が好きなんだと思うわ。』

 

「…ホントにそうなのかしら…」

 

「グワッグワッ!」

 

「あらペンペン、どうしたの?」

 

「グワッ(メシくれ!)」

 

「ご飯…欲しいの?」

 

「くわっ!」

 

「ハイこれ。」

 

食べかけのハムを渡すと大喜びするペンペン。

 

「グワァ!グワァ!」

 

「動物はいいわよね…なにも考えなくていいから…」

 

また思考の渦に戻るアスカ。

 

(シンジも…ペンペンみたいにご飯あげたら喜ぶのかな…)

 

(ってなに考えてんのよあたし。別にばかシンジを好きな訳じゃ無いんだから。)

 

(料理…挑戦してみよ…今度…)

 

眠い。さっさと風呂入って寝よう。

服を脱いでバスタオルを用意。

 

(シンジってどういうのが好きなのかな…草食系っぽいしやっぱり道端の雑草を…⁉︎」

 

扉を開けた先の風呂にシンジがいた。

しかも両方なにも着ていない。

 

「ウワアァァァァァァ⁉︎」

「キャアァァァァァァ⁉︎」

 

忘れてた。風呂シンジが先入っていいって許可出した事。

 

「わわっご、ごめんアスカ!」

 

「あんたが謝る事じゃ無いでしょ!」

 

ドアで体を隠す。

 

「…間違えたの…あたしだし…」

 

(うわぁ…すごい…男の子の…はじめて見た…)

 

顔が熱い。

 

「その…お詫びに…背中…流して…いい?」

 

(なに言ってんのあたし⁉︎)

 

「う、うん。」

 

シンジも顔が耳まで赤い。

ショートしていて頭が動いていない。

 

 

 

 

まあ当然裸で洗う訳にもいかないので、水着を着ける。

 

「…」

 

「…」

 

ごしごし、と背中を洗う。

会話を探そうと必死のアスカとシンジ。

 

「「あの!」」

 

ここまでテンプレ。

ここからテンプラ(?)。

 

「…あ、シンジから…話していいよ。」

 

「うん…」

 

「実は…僕…サードインパクト起こしちゃってここにいるんだ。」

 

「え…?」

 

予想外のシリアスな話。

シンジはいろんなことを話してくれた。

エヴァ量産機の強さ。

エヴァの中の母。

人類補完計画とゼーレ。

今の世界より多い使徒。

サードインパクトの後に残された世界。

 

突然の情報量過多で事態が読み込めない。

 

だけど。

 

「…シンジ…あんたが何言ってのかよく分かんないけど…どうしてそんな事をずっと一人で抱えてたのよ!」

 

「え…?」

 

「あたしに話してよ!あたしじゃなくても、ミサトや加持さん、エコヒーキに話せば良かったのよ!」

 

「一度、綾波に話そうとしたけどゴタゴタで言うタイミングが掴めなくて…」

 

「でも…シンジだけがそんな事抱えてたら…辛いでしょ…?あたし、シンジのこと何でも受け入れるから…」

 

「…ごめん…サードインパクトを起こした張本人だって、アスカに軽蔑されるのが怖かったから…言ってこなかったけど…言って良かった。ありがとう、アスカ。」

 

シンジからの感謝の言葉がなんだかとても嬉しくて、顔を赤くしてしまう。それを何とか誤魔化そうと…

 

「ふん!別に元から軽蔑してるからこれ以上軽蔑する事がないってだけよ!バカ!」

 

「え、えぇ〜?そんなぁ…」

 

自身の濡れた髪の毛で顔を隠しながら、罵倒の言葉で開き始めている心も覆い隠した。

 

 

 

 

つづく




うおおおお!!
高い評価だあああ!
やる気出たあああ!
ありがとおおおお!!!
もう一度、書いてみます。(ちょろい)


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鳴らない、警報

2年A組の教室。

「今日の休みは綾波と満月か。」

(綾波…今日も休んでる…)

(エコヒーキ、大丈夫かしら…)

「…点Pはこの様に動いた事になります。まるで隕石の様ですね。隕石といえばセカンドインパクトで…」

「またあの話か…あのジジィ…」

「いい加減飽きたよな…」



歴史に残る大実験。

それがここ、北米NERV第2支部で行われようとしていた。

 

「…エヴァ四号機に復元したSS機関を搭載するのか…これさえ成功すればあの男を司令の座から引きずり下ろせるかもしれん…」

 

SS機関搭載型エヴァ。

ドイツで修復された使徒の生命機関搭載型のエヴァで、半永久的な活動時間や、回復速度の向上が期待されている。

 

「支部長!搭載準備、出来ました!」

 

「わかった…接続を開始しろ。」

 

「了解です、第一次接続開始!」

 

「各部冷却システム順調。」

 

「エヴァ参号機とのリンク完了。」

 

「第二次接続問題なし。」

 

「SS機関正常。」

 

「第三次接続開始!」

 

「⁉︎ 四号機よりパターン青!」

 

「なんだとォ⁉︎」

 

「制御、効きません!」

 

「電源外せ!」

 

『ヴォォォォォォ!!!』

 

四号機の雄叫び。

 

「停止信号送れ!何としてでも止めろ!」

 

「ダメです支部長!受け付けません!」

 

悲鳴に似たオペレーターの報告。

 

「冷却水を放て!四号機の回路をショートさせるんだ!」

 

水が噴射されるが、効果は無い。

 

『支部長!加粒子砲の反応が…ぐわぁぁぁあ!!』

 

四号機のビームで実験所が破壊されていく。

 

「奴を地上に出させるな!」

 

「四号機にエネルギー反応!」

 

「なに⁉︎」

 

「これは…まさか…自爆…⁉︎」

 

(俺様にはあの男を…碇のクソ野郎を超える夢が…ッ⁉︎)

 

暴発。

 

消し飛ぶ北米NERV第2支部。

ディラックの海に呑まれていく…

 

全てが、消えていく。

 

 

 

 

学校の帰り道、

綾波に渡す封筒を持って。

 

「シンジー、次の使徒は何?」

 

「僕のいた世界だと、イロウルっていう使徒だった。」

 

「いろうる?」

 

「NERV本部をジャックして、自爆させようとしたんだ。」

 

「どうなったの?」

 

「リツコさんが倒したみたいだけど。」

 

「ふーん。」

 

「その次の使徒は白黒マーブル模様の球体の使徒で、本体が影なんだ。」

 

「どうやって倒したの?」

 

「一回初号機が取り込まれたんだけど、中で暴走して倒した。」

 

「暴走か〜。結構確率に頼る事になるかもね。どうしたらいいかしら。」

 

「まあ、前の世界とはこの世界は違うから、現れない可能性もあるんだけど。」

 

「うーん、でも一応対策考えとかないとね。」

 

全くもって思い浮かばない。

暴走ってただのチートだからなぁ。

 

「着いたよアスカ。」

 

「へーここがエコヒーキの家…」

 

工事現場の音がうるさい。

壊れていると思われるインターホンを鳴らす。

 

ぴーんぽーん

 

ちゃんと音が鳴った。

 

『誰?』

 

スピーカーから綾波の声。

 

「碇だけど…入っていい?」

 

『…いいわ。入って来て。』

 

綾波の部屋に入る。アスカも続く。

 

「うわ!随分殺風景な部屋じゃない!なにこれ⁉︎」

 

「いらっしゃい、上がっていいわ。」

 

「お邪魔します…部屋、掃除したんだね。」

 

「うん。他の人がいつ来てもいい様に。」

 

この世界でも何回か綾波の部屋に来た事があるが、掃除されているのは驚きだった。

 

「紅茶、この前貰ったから…入れてあげる。」

 

「やり方、わかる?」

 

「分からない…けどやってみたい。」

 

「じゃああたしが教えるわ。」

 

「アスカ?」

 

「あたしだってそのくらいお茶の子さいさいよ!紅茶だけに!」

 

「…暑いのに寒いわ…」

 

「…心配だなぁ…」

 

「なによ!文句あんの⁉︎」

 

「ないです。」

 

アスカと綾波の入れた紅茶を飲んだら、とても苦かった。

 

 

 

 

「裸のままエヴァに乗るのォ⁉︎」

 

特務機関NERV、その実験場。

リツコに食い下がるアスカ。

 

「ええ、プラグスーツの補助無しで直接肉体でハーモニクスを行うのよ。」

 

「そんな、だって…!」

 

「エヴァのテクノロジーの進歩に合わせて、新しいデータも必要なのよ。大丈夫、カメラは赤外線カメラに差し替えてあるから。」

 

「気分の問題よ!」

 

「アスカ、我慢して。」

 

「…シンジが言うなら…」

 

プラグに入り、意識を集中する。

 

「どう?気分は。」

 

「…いつもと違う感じがするわ…」

 

「なんか…右手だけハッキリしてる感じであとはぼんやりしてる…」

 

(たしか前の世界ではこの辺りでイロウルが現れたはず。)

 

だが、現れる気配がない。

 

「OK、上がっていいわよ。」

 

(おかしい…なんで現れないんだ?)

 

やはり前とは世界が完全に違う。

 

 

 

 

帰り道。

 

「使徒…出なかったわね。」

 

「うん…」

 

「なんでかしらね。」

 

「…アスカ、僕のこと疑わないの?」

 

「疑うわけ無いでしょ!仲間の言うことなんだから。」

 

「そっか、ありがとう。」

 

夕日のせいか、赤くなるアスカ。

 

「……どういたしまして。」

 

 

 

 

 

暗い空間。吊り上げられている紅いエントリープラグ。

 

「…試作されたダミープラグです。

レイのパーソナルが移植されています。

ただ、人の心…魂のデジタル化は出来ませんので、あくまでフェイク。擬似的なものに過ぎず、人の真似をする只の機械です。」

 

ゲンドウに説明するリツコ。

 

「…信号パターンをエヴァに送り込む。エヴァがそこにパイロットがいると思い込み、シンクロさえすればいいのだ。…初弐号機にデータを入れておけ。」

 

「しかし、まだ実験中の問題が残っていますが…」

 

「…構わん、エヴァが動けばいい。」

 

「…はい。」

 

「参号機の輸送はUNに一任してある。週末には届くだろう。あとは君の方でやってくれ。」

 

「はい…起動実験は松代で行う予定です。」

 

「テストパイロットは?」

 

「ダミーはまだ危険です。現候補者の中に生理学的に持ち上げれば可能な子供がいます。」

 

「四人目か…」

 

「はい。」

 

「…任せる。レイ、上がっていいぞ。」

 

L.C.Lで満たされた透明な円柱型の水槽に、裸のレイ。

ゆっくりと瞼を開ける。

 

「…食事にしよう。」

 

「……はい。」

 

 

 

 

 

「遅刻しました!」

 

そう言って教室に飛び込んでくるトウジ。

心なしか嬉しそうである。

 

「鈴原君、どうしたの?何か良いことあったの?」

 

ほんのり頰を赤く染めながらトウジに話しかける委員長。

 

「おう!妹の怪我が治って、今朝退院したんや!」

 

「サクラちゃんが⁉︎良かったわね鈴原君!」

 

「良かったなトウジ。」

 

(トウジの妹…治ったのか。良かった…ってことはもう参号機のパイロット候補ではなくなったってことだよな…)

 

参号機。前史では多分コアにサクラちゃんが入ってたんだと思う。

 

(…じゃあ誰がパイロットになるんだろう…)

 

「…ンジ!シンジ!」

 

「あ…アスカ。どうしたの?」

 

「ちょっと付いて来なさい。ほら、ヒカリも!」

 

屋上に連れてかれる。

 

「ヒカリ!あんた鈴原のこと好きでしょ!」

 

「え⁉︎そんな、なんで突然⁉︎」

 

「少しは進展しようと思わないわけェ⁉︎」

 

「私は別に…このままの関係でいいし…アスカには関係無いでしょ…」

 

「いいえ!そのままじゃあたしが許さないわ!なんか進展する方法考えんのよ!」

 

「ど、どうしてそんなに…」

 

「ヒカリはあたしがエヴァのパイロットという最後の砦だって知ってるでしょ?あたし達がもし負ければ、世界に明日がない事も。」

 

「それが…それがどうしたっていうのよ…」

 

「あたしはヒカリに少しでも幸せに過ごして欲しいのよ。親友じゃない、私達。」

 

「!」

 

(アスカは中々いい演説をするなぁ)

 

そんなことを思うシンジ。

 

「伝えたい気持ちがあるなら、ちゃんと伝えとかないと!」

 

「…」

 

「シンジ!あんたも考えんのよ、アプローチの方法!あんた鈴原と仲良いからわかるんじゃない?」

 

「え…そうだなぁ…弁当作るとか?あいついつもパンとかだし…」

 

「いいアイディアだわ!それに決定!」

 

どんどん勝手に決めていくアスカ。

 

「明日までに弁当作って鈴原に渡す事!いいわね!」

 

「えぇ…?」

 

ぴーんぽーんぱーんぽーん

 

『2年A組 洞木、2年A組 洞木。至急職員室に来て下さい。繰り返します…』

 

「呼び出しだわ。行かなきゃ。」

 

職員室に走っていく委員長。

 

「なんの呼び出しかしら?」

 

「小テストで0点取ったとか?」

 

「ヒカリに限ってそれは無いでしょ。」

 

 

 

 

学校の客室まで案内されるヒカリ。

そこにいたのは金髪の女性。

 

「…特務機関NERV技術課所属、赤木リツコ。以後宜しく。」

 

 

つづく




高い評価をしてくれるのがホントありがたいです。
助けになってます。
割とマジで。

ツウィキ
お気に入りが200突破しました。
ありがとうございます。


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四人目の適格者(フォースチルドレン)

まえがき。

いつもは話に使っているこのスペースですか、今回はこのわたくし、だいふく・さんごのスペースとさせていただきます。

投稿が遅れてすんません。許してください何でもしますから(何でもするとは言ってない)

感想、高評価お願いします。描き続けるための燃料になりますので。

あと、改善点など提示してくれるとありがたいです。

さて、本題です。

アンケートってやらないべきですかね?
いつも楽しく作っているんですが、ネットでやらないほうが良いって意見を見つけまして…

どうしたら良いんですかね?



第12使徒、レリエル。

未だに対策が思い浮かばない使徒。

この世界だと第9使徒にあたるのか。

そんな事を思いながら授業を受ける。

 

「それでは、この問題を…綾波!解いてみなさい。」

 

「はい…」

 

ちゃんと綾波も最近学校に来ている。

行けるようになって良かった。

 

きーんこーんかーんこーん

 

「さーて、めしやめし!学校最大の楽しみやからなぁー!」

 

「あの…鈴原君…」

 

「ん?どした委員長?」

 

「これ…お弁当。良かったら食べて…」

 

「へ?急にどうしたんや委員長⁉︎」

 

「私…いつも弁当作る係だから…余ったやつ…」

 

委員長には二人の姉妹がいる。

紅い世界でヒカリとも溶け合ったので知っている情報だ。

 

「お、おお。ありがとな委員長!」

 

「ヒカリ、上手くやれたみたいね!」

 

「うん…アスカのおかげよ…」

 

(いやーホント良かった良かった。)

 

「ねーシンジ。」

 

「?どしたのアスカ。」

 

「ヒカリ…なんか元気無いような気がするんだけど。」

 

「そうかな?…そうとは思えないけど。」

 

「なんかあったのかしら?」

 

 

 

 

 

蝉の鳴き声。学校からの帰り道。

 

「参号機、日本に来るんだって?」

 

え?レリエルも来てないのに?

 

「参号機って…あの北米第1支部の?」

 

「知らないのか?松代の第2実験場で起動実験やるってウワサらしい。」

 

「何故あなたがそんな事を知っているの?」

 

「…パパのデータ盗み見たんだよ。」

 

「あんた…それバレたらお父さんNERVクビになるわよ…」

 

「ミサトさんオレをパイロットにしてくんないかなーッ!乗りたいんだよエヴァに!頼んでくれないか碇!」

 

「頼んだからってエヴァに乗れるとは思えないわ…」

 

「まーそうなんだろな。でも千載一遇のチャンスだからなー。四号機は欠番になったって言うし。」

 

「四号機?北米第2支部の?」

 

「何だそれも知らないのか?第2支部ごと吹き飛んだってパパのところは大騒ぎだったみたいって。」

 

…⁉︎ まさかレリエルもこの世界だと存在しないのか?

 

「ミサトからは何も聞かされてないけど?」

 

「…やっぱ末端のパイロットには直接関係ないからな。知らなくてもいいんだろ。」

 

「"末端の"は余計よ!」

 

「ああゴメン!」

 

 

 

 

 

空を飛ぶ全翼機。十字架に吊るされている黒いエヴァ。

 

『エクタ64よりネオバン400。前方航路上に積乱雲確認。』

 

『ネオバン400確認!積乱雲の気圧状態問題なし!航路変更せず到着時刻を遵守!』

 

積乱雲に入る全翼機。

黒いエヴァの目が一瞬紅く光った。

 

 

 

 

 

シャワーの音。アスカが風呂に入っている間、テレビで暇を潰しながら、思考の時間に入る。

 

『参号機、日本に来るんだって?』

 

『妹の怪我が治って、今朝退院したんや!』

 

『サクラちゃんが⁉︎良かったわね鈴原君!』

 

『オレをパイロットにしてくれないかなぁ!』

 

『2年A組 洞木、至急職員室に来て下さい…』

 

『ヒカリ…なんか元気無いような気がするんだけど…』

 

まさか、と最悪の可能性が頭をよぎる。

 

(参号機のパイロットが…実は委員長で…)

 

「シーンジ!」

 

風呂からタオル一枚巻いて出て来るアスカ。

 

「…またそんなカッコで出て来て…」

 

「あたしのハダカ、見てみない?」

 

そう言ってタオルを外していく。

そのパターンは知っている。

中に服を着てるんだ。

また僕をからかうつもりらしい。

 

「あたし、本気よ。」

 

ホントにタオル一枚しかなかった。

 

「う、うわあぁぁぁぁ⁉︎」

 

嗚呼、熱膨張。

 

「あたし…昨日ヒカリに好きな奴には…明日何起こるかわかんないから気持ち伝えときなさいって言ったけど…それはあたしにも言える事だって気付いたの…」

 

目を隠して見ないようにしている。アスカが何言ってんのかも全然聞こえない。なんつー大胆な。

 

「だから…あたしはシンジの事…好き。」

 

「え…?」

 

この言葉はしっかり聞こえた。

 

(嘘でしょ?)

 

意識が遠のく。あ、もうだめだ。

甘き死よ来たれ流れてるよコレ。

 

「えぇー⁉︎うっそぉーー⁉︎なんで倒れんのよ!フツーこの後あたしを押し倒してえっちするでs……」

 

そこから記憶はない。

 

 

 

 

「じゃ、シンジ君行ってくるわね!」

 

「…行ってらっしゃい。」

 

ミサトが起動実験に出発した。

バルディエルが現れなければ良いんだけど。

 

「…シーンジ!」

 

「おはよう…アスカ。」

 

昨日の事を思い出しそうになるが、ゲンドウの顔を思い浮かべて耐える。

 

「…これで二人っきりだねっ」

 

「うわわっ!ちょっとアスカ!」

 

抱きついてくるアスカ。

まじでなんなのこの可愛い生物。

 

そういえば参号機のパイロットはどうなったんだろう。

昨日恐ろしい仮説に辿り着いた気がするが、何だったかな?

 

 

 

 

 

松代、NERV第2実験場。

 

『参号機起動実験マイナス30分です。』

 

『主電源問題なし!』

 

『第2アポトーシス異状なし!』

 

『各部冷却システム順調。』

 

『左腕圧着ロック固定完了。』

 

『エヴァ初号機とのデータリンク問題なし!』

 

『Bチーム、作業開始!』

 

「思ったより順調ね。これだと即実戦も可能だわ…」

 

「ふーん、そう。良かったわね。」

 

「気の無い返事ね。この機体も納入されればあなたの直轄部隊に配属されるのよ?」

 

「…エバーを4機も独占か…その気になれば世界を滅ぼせるわね。」

 

『フォースチルドレンが到着しました。第2班は速やかにエントリー準備に入って下さい。』

 

「…ここがNERV第2実験場…?」

 

到着したヒカリ。

緊張してくる。

 

(なんであの時断らなかったんだろう。)

 

怖い。

 

 

 

 

『エントリープラグ固定完了。第一次接続開始。パルス送信!グラフ正常位置リスト1350までクリア。初期コンタクト問題なし!』

 

「了解!作業をフェイズ2に移行!」

 

『オールナーブリンク問題なし!リスト2550までクリア!』

 

『ハーモニクス全て正常位置!』

 

参号機のエントリープラグ内で静かに起動を待つ。

 

(…こんな所に乗ってたんだアスカ…血…血の匂い…やっぱりアスカは凄いなぁ…)

 

『絶対境界線、突破します。』

 

参号機の目が紅く光る。

けたたましい警報の音。

 

「なに⁉︎」

 

「中枢神経に異状発生!」

 

「実験中止!回路切断!」

 

射出されるアンビリカルケーブル。

しかし、参号機は動き続ける。

 

「ダメです!体内に高エネルギー反応!」

 

「まさか…使徒⁉︎」

 

爆発。

 

 

 

 

バルディエルが現れる可能性があったので、いつでもすぐに出撃出来るように学校をサボってNERV近くの公園に待機している綾波とアスカ、シンジの三人。

 

すると、電話から着信音。

 

「松代で事故⁉︎」

 

『とにかくすぐに来て!事故現場に未確認移動物体を発見したわ!恐らく使徒よ!』

 

オペレーターの伊吹さんから知らされる、衝撃の事実。

 

(やっぱりバルディエルが現れたんだ…)

 

 

 

 

「未確認移動物体は?」

 

「本部に向かい接近中!」

 

「パターンオレンジ、以前使徒とは確認できません!」

 

「総員、第1種戦闘配置。地・対地戦用意!」

 

「了解、エヴァ全機発進!」

 

射出されるエヴァ三機。

 

「迎撃地点に全機集中配置!至急リニアレールR132に連絡!」

 

「野辺山で映像を捉えました!主モニタに回します!」

 

モニタに映し出されるエヴァ参号機。

 

「…やはりこれか」

 

「緊急活動停止信号を発信!エントリープラグを強制射出!」

 

参号機のエントリープラグが射出されようとするが、粘液状のモノに押し留められる。

 

「ダメです!停止信号及びプラグ排出コード認識されません!」

 

「パイロットは?」

 

「呼吸、心拍共に反応はありますが恐らく…」

 

「………エヴァンゲリオン参号機は現時刻をもって廃棄。目標を第九使徒と識別する。」

 

「し、しかし碇司令!」

 

「予定通り野辺山で戦線を展開、目標を撃破しろ!」

 

 

 

 

 

「あれでしょ?なんか中に人が入ってるんだっけ?」

 

アスカと個別の音声回線で会話をする。

 

「うん、作戦としてはまず足と腕を破壊してからエントリープラグを引っこ抜く。以上。」

 

「なかなか厳しい戦いになりそうね。で、鈴原のバカが乗ってるんだっけ?」

 

「どうなんだろう…」

 

昨日思い付いた仮説がどうしても思い出せない。

バズーカを構える初号機の前を通る参号機。すると、その場で立ち止まる。

 

『⁉︎ うわあぁぁぁぁ⁉︎』

 

「シンジ⁉︎」

 

シンジの叫び。

 

「エヴァ初号機、アンビリカルケーブル、断線!」

 

「くそっ!」

 

強い、前戦った時より。

まるで、前が手加減していたような…

 

「碇君!」

 

参号機の背中に零号機のパレットライフルの斉射が命中。

 

『ヴヴヴ!』

 

零号機の方に跳ぶ参号機。

しかしそこに弐号機の跳び蹴り。

互いの両方の掌を掴み合う。

 

「エコヒーキ!援護射撃!」

 

「分かったわ!」

 

参号機の右腕に次々命中する弾。

 

「うおぉぉぉぉ!!!」

 

そこに初号機のプログナイフが突き刺さる。

 

ずちゃッ!

 

右腕切断成功。

それと同時に参号機の腹に弐号機の蹴りが決まる。

 

『…たい…』

 

「!」

 

(誰の声?聞いたことある様な…)

 

『痛いよ…やめてアスカ…』

 

スピーカー越しに聞こえる声。

 

「まさか…参号機のパイロットって…っ⁉︎」

 

悪寒が走る。アスカは、参号機のパイロットとして最悪の人物の名を口に出す。

 

「…ヒカリ⁉︎」

 

 

 

つづく




リアルが忙しかったんです。すんません。
感想、高評価、ここ好キックよろしく。


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(ダミー)と血溜

じぇんかいのあらしゅじ

しとしゃんにのっとられたしゃんごうきしゃん。

なかなかちゅおい。

しょごうきしゃんのけーぶるがきれちゃった。

どうなるんだりょう?


「…ヒカリ?」

 

「二番目の子!ボーッとしてないで次!」

 

参号機の左腕を撃っている、レイの焦った様な大声。

 

「…あんたに言われなくてもッ!」

 

初号機が両手で受け止めている参号機の左腕目掛けてナイフを突き立てる。

 

弐号機のナイフは深々と左腕に刺さり、切断する…かに思われた。

 

(!…斬れない⁉︎)

 

硬い?否。

 

(力が…入らない!)

 

『助けて…アスカ…』

 

またヒカリの声。手が震えて上手く動かない弐号機。

 

『初号機活動限界まで残り3分を切りました!』

 

「アスカ…ッ!」

 

「分かってる!分かってるけどッ!」

 

参号機が初号機の拘束を解き、零号機にタックル。

 

突き飛ばされる零号機。

600mほど飛び、地面に激突。

 

「…ッッ!!」

 

『零号機、活動停止!』

 

「エコヒーキ⁉︎」

「綾波⁉︎」

 

(…なんて馬鹿力…)

 

続いて、弐号機も飛ばされる。

 

「嫌ッ⁉︎」

 

「アスカ⁉︎」

 

落下する弐号機を受け止める初号機。

 

「くぅッ!」

 

(やだ、カッコいい…じゃなくて!)

 

参号機が走ってくる。

 

「くそっ!A.T.フィールド展開!」

 

参号機はA.T.フィールドの壁に阻まれ、足が止まった。

 

だが、すぐに中和して突破してくる。

そこに、初号機によるカウンターが綺麗に決まる。よろめく参号機。

 

「シンジ!ヒカリが…ヒカリが乗ってるの!」

 

「…!」

 

(そうだ、確かにそうだ。)

 

一瞬の隙。

参号機が立ち上がり、初号機を押し倒す。

 

「…これは!」

 

(前史で零号機が食らってたやつをやるつもりか!)

 

「そうは…させるか!」

 

初号機から放たれる加粒子砲。

吹き飛ばされ、倒れ伏す参号機。

その上から初号機が押さえつける。

 

「アスカ!ボーッとしてないで戦闘!」

 

「…ごめん…シンジ…でもね…」

 

「早く!」

 

「手が…手が震えて…動いてくれないの…」

 

「…ッ!」

 

(僕の時と同じだ…っ!やっぱり幾らアスカでも厳しかったんだ…!)

 

「…どうしよう…シンジ…?」

 

声が震えている。こんなアスカは初めてだ。

 

『エヴァ初号機、活動限界まで残り1分!』

 

参号機がまた立ち上がる。

いつの間にか斬り落とした右腕も修復されている。

 

『ヴオォォォォォォ!!』

 

参号機の怒号。

 

(僕が…僕がなんとかするしか無い!)

 

「うおぉぉぉぉ!!!」

 

『ヴオォォォォ!!!』

 

激しい格闘戦。

自分に向かって飛んでくる参号機の拳を左手で受け止め、右手に持ったプログナイフで目を潰す。

 

怯まず応戦してくる参号機。

目が見えないはずなのに的確に当ててくる。強い。この強さ…前史の三倍はある。

 

だが…所詮手負いの獣。

参号機の首を掴み、地面に叩きつける。

 

「うおぉぉぉっっっ…!」

 

(あとはプラグを引き抜けばっ)

 

邪魔な装甲を剥がしていく。

 

『痛い…痛いよ…碇君…!』

 

「…委員長⁉︎」

 

驚いた隙に蹴られ、拘束を解かれる。

 

『エヴァ初号機、活動限界です!』

 

初号機、大地に伏す。

 

「⁉︎…くそっこんな時に!」

 

初号機の頭を潰そうとする参号機。

そこに弐号機が立ち塞がり拳を受ける。

 

「…シンジには…手を出さないで…」

 

受け止めた手が痛い。

反撃は…震えて出来ない。

 

『レイとシンジ君の回収急げ!』

 

『…セカンドチルドレン、聞こえるか?もう残っているのは君だけだ、君が倒せ!』

 

(分かってる、分かってるのに…!)

 

(震えが…止まらないんだってばっ!)

 

『どうした!何をを突っ立ているんだ?』

 

参号機が跳ぶ。そして直立不動の弐号機を蹴り飛ばす。

 

四つん這いの戦闘態勢になる参号機。

剥がされた装甲部からエントリープラグが見える。

 

(…ヒカリ!)

 

参号機の右腕が地面に刺さる。

弐号機の足元の地面から現れた参号機の右手に首を絞められる。

 

「…ん…くぅ…っ」

 

振り解こうとするが、更に左手にも首を絞められる。

 

「くそ!アスカが…アスカがやられてるのに…僕はどうして見ていることしかできないんだ!」

 

悔しくて泣きそうなシンジ。

 

『生命維持に支障発生!パイロットが危険です!』

 

『いかん!弐号機のシンクロ率を60%にカットだ!』

 

『待て!セカンド!何故戦わない!』

 

「…あたしには…あたしにはッ…で…きないッ…分かっててもっ…戦わないと助けられないって…ッ…分かってても…ッ…できな…い」

 

『お前が死ぬぞ!』

 

「…そんな事…っ…言…われたって……出来ないもん…は出来ない…わよ!」

 

『…………』

 

アスカとの音声回線を開く。

 

「…だめだアスカ!戦わなきゃ…もっと傷つく事になる!」

 

「…どういう…ことよっ…ばかシンジィ…っ」

 

「このままだと…ダミーシステムがッ!」

 

瞬間、弐号機の目が緑から紅に変わった。

 

 

 

 

 

 

 

「こっちにもいたぞ!生存者だ!」

 

「救護を回してくれ!大至急だ!」

 

日が沈んでいる。

薄暗い空の下、煙を上げている巨大な爆発跡(クレーター)

 

ここは、松代NERV第2実験場だった場所。数時間前まで実験をしていた場所。

 

「第3班は807のデータを消去だ!急げ!」

 

(体中が痛い。生き残ったのね、私。)

 

目を開けるミサト。

徐々にピントが合わさって、加持が目の前にいる事を理解した。

 

「…加持…リツコは?」

 

「心配無い、君よりは軽症だ。」

 

その言葉で自分が寝かせられている事に気付く。

 

「エバー参号機は…?」

 

「…使徒、として処理されたそうだ。パイロットごと。」

 

「…シンジ君は?」

 

「…軽症だよ。問題無い。」

 

「アスカは…?」

 

「…使徒を…処理したのは…弐号機だそうだ…」

 

表情が暗くなる加持。

 

「…アスカが⁉︎」

 

 

 

 

コンフォート17のミサトの家。

ソファーに突っ伏すアスカ。

 

「…アスカ…」

 

「……うぅ…」

 

「委員長の事は…残念だったけど…」

 

「……………」

 

「いつまでもそうしている訳にはいかないんだよ。」

 

「……ッ…」

 

「前…トウジがパイロットされたけど…今回と同じ様にダミーシステムを父さんに作動させられて片足を失ったんだ。」

 

「……………」

 

「僕は父さんをこんなに憎んだ事はなかった。死んでしまえと思った。」

 

「……………」

 

「…アスカ、僕を殴ってよ。」

 

「っ!なんであんたを殴んのよ!」

 

「僕は…ダミーの事をアスカに教えなかったし…内部電源が切れて、見ていることしかできなかった。だからだよ。」

 

「…別にあんたは悪く無いわよ…あたしがあの時動けてればこんな事にならなかった…っ」

 

「アスカ、自分を責めないで。」

 

「全部あたしのっ…あたしのせいよッ!」

 

「自分を許してあげてよ。」

 

「あたしがあん時戦ってれば…ううぅ…ヒカリぃ…うわあぁぁぁぁん!」

 

子供の様に号泣するアスカ。

 

「アスカ。」

 

抱き締める。出来るだけアスカが暖かさを感じられるように。

 

「…ひくっ…しんじぃ…っ」

 

「大丈夫だよ、アスカ。幾らでも泣いたって。僕は怒らないから。」

 

「どうして…どうしてそんなに…優しいのぉ…っ」

 

アスカに必要なのは、人の暖かさなんだと思う。自分なんかで足りるか分からないけど。

 

「しんじぃ…しんじぃ…だいすきぃ…」

 

「僕もだよ、アスカ。」

 

「…おふろ…はいってくる…」

 

「うん。いってらっしゃい。」

 

 

 

 

 

 

ぴーんぽーん

 

「はい、葛城です。どちらさまですか?」

 

『碇君、私よ。』

 

「綾波⁉︎」

 

がちゃん、と客人を招き入れる。

 

「珍しいね、綾波がここに来るなんて。」

 

「…弐号機の人、心配だったから。」

 

「…あたしに何の用?」

 

部屋の奥から出てくるアスカ。

少しクマができている。

 

「洞木さん、一命は取り留めたって。良かったわね、弐号機の人。」

 

「…重症、なんでしょ?」

 

「死ななかっただけマシだわ。他の人は私と違って代わりがいないもの。」

 

「?」

 

「…なんでもないわ。」

 

「…エコヒーキ。」

 

「なに?」

 

「その…心配してくれてありがと…」

 

赤くなっていくアスカ。

 

「これから…エコヒーキのことはレイって呼んでもいい?」

 

「…急にどうしたの?葛城三佐の料理でも食べたの?」

 

「ミサトの料理がどーしたってのよ…」

 

「リツコさんから聞いたから…レトルトカレーにマヨネーズかける人だって。」

 

「うえ〜っ、なにそれ⁉︎」

 

この世界のアスカはミサトの料理を食べたことがない。

ある意味幸せである。

 

「…いいわ。代わりに私はあなたの事を…アスカ、と呼んでもいいかしら?」

 

「いいわよ、レイ。」

 

「ありがとう、アスカ。」

 

随分素直になったなぁアスカ。

委員長も…死なずに済んだのか…

トウジに怒られるだろうなぁ…

 

しっかり謝らないとな。

 

 

 

つづく




おやすみ。
暫く休止します。
作者が忘れない様に高評価、感想よろしく。

今回書いてて鬱になるかと思いました。


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布団。暖かい布団。
もぞもぞと何かが入って来て、更に暖かくなる。

「…シンジ、頭撫でて…」

「うん…?アスカぁ?」

「いいから、早く…」

「うん…」

やわらかいアスカの髪。触ってて心地がいい。

「…だいすき…」

しがみつくアスカ。昨日の参号機の事からずっとこんな調子だ。

「……」

時計が日付が変わった事を知らせる。

「もう遅いから…寝よっか。」

「うん、一緒に寝る…」


 コンフォート17の葛城家。

 

「ごちそーさん!」

 

「お粗末様でした。」

 

「え!別にシンジの料理はお粗末じゃないわよ!」

 

「違うよ、こういうもんなの。」

 

昼飯を済ませた後、アスカと作戦会議。

 

「次の使徒…明日来るんでしょ?」

 

第14使徒ゼルエル。

この世界における第10使徒の可能性がある使徒。

 

一言で言えば、最強。

 

「多分、そうだと思う。」

 

来ない可能性もあるが、来ると思った方がいい。

 

「A.T.フィールドが過去一固くて、おまけに中和しても攻撃が通らない。攻撃力も桁違いで、まともに食らったら一撃で戦闘不能にされる可能性大って言う話でしょ?」

 

「うん。前が初号機の覚醒で倒しただけに倒し方も分からない。」

 

「じゃあどうすれば良いのかしら?」

 

「う〜〜ん。三人がパレットライフルでコアを射撃すれば…」

 

「劣化ウラン弾では厳しいんじゃない?」

 

「だよね。となるとロンギヌスの槍?」

 

「なにそれ?」

 

「ええっと、アスカは知らないんだっけ。アンチA.T.フィールドで出来てる槍の事だよ。」

 

「アンチA.T.フィールド?」

 

「A.T.フィールドを一撃で貫くことが出来るんだよ。多分NERV本部の最深部にあると思うんだけど。」

 

「そんなのがあんの?それさえあれば無敵じゃない。」

 

「…問題は使えるかどうかなんだよな…」

 

「不完全な状態とかそゆやつ?」

 

「違う、単純に父さんの許可を貰えるかどうかがね。」

 

「あぁー。ま、無視で良いんじゃない?」

 

「えぇ…?」

 

ぴーんぽーん

 

「あら?誰かしら?」

 

『碇君、アスカ。私よ。』

 

「レイ?こんな真昼間にどうしたの?」

 

『…ちょっと話がしたくて。』

 

いつも通りの制服の綾波。だが、大きな鞄を持っている。

 

「…お昼、もう食べたの?」

 

部屋に入り込むと、アスカに話しかける綾波。

 

「食べたわよ。というかあんたちゃんとお昼ごはん食べてる?」

 

「食べてないわ…今までも食べた事なかったから…」

 

「じゃあ僕、軽い物なんか作ろっか?」

 

「…お言葉に甘えて。」

 

「で、なんで急に家に来たの?またあたしが心配だったとかないわよね?」

 

「…その通りよ。あなたが心配だったから来た。」

 

「…そう。」

 

「元気そうで良かったわ…」

 

「そう…かしらね?」

 

「…紅茶、入れる練習したの。アスカと碇君に…その…飲んで欲しい。」

 

「ほう。それは楽しみね。」

 

やかんにお湯を沸かし、茶葉を用意。

ポットとカップにお湯を注いで全体を温め、ポットのお湯を捨てて茶葉を投入。熱いお湯を勢いよく注いで、直ぐに蓋を閉め蒸らしておく。

 

「…できた。」

 

「あら、良い匂い。」

 

「ネットで…調べたから…」

 

「じゃあ、頂きます。」

 

ゆっくりと味わいながら飲む。

苦さは前より緩和され、暖かさが前よりある。

 

優しい味だ…

 

「…美味しいわね、これ。」

 

「そう…なら良かった。」

 

赤い紅茶に顔が写る。

 

(あれ?…あたし、泣いてる?)

 

「…!…どうしたの?急に泣き出して?」

 

「な、なんでもないわよ、目にゴミが入っただけ…っ」

 

ごしごしと目を擦る。

 

「…タオル、貸してあげる。」

 

「…ありがと…気がきいてるわね…」

 

レイの着ている制服。

ヒカリのものと同じ制服。

 

(やだ…なんであたし泣いてんのよ…シンジならともかくレイの前なのに…)

 

オロオロと困った顔のレイ。

 

「出来たよ〜!綾波〜、ってアスカどうしたの⁉︎」

 

台所から出てくるシンジ。

手にはピザのような食パンをのせた皿。

 

「なんっ…でもないわよ、ゴミが目に入っ…ただけだっつーの!」

 

皿を机に置き、アスカの頭を手で撫でる。最近こればっかし。

 

「碇君…私どうしたらいい?」

 

「大丈夫だよ、それ食べといて。アスカ、部屋行こうか。」

 

「うん…」

 

アスカの部屋に消えていくシンジとアスカ。

 

ぱくっとピザ(?)を食べる。

 

「…おいしい…」

 

 

 

 

「………」

 

シンジの膝を枕にして寝転ぶ。

すりすりと背中をさすられる感覚。

 

「…落ち着いた?アスカ。」

 

「あのねシンジ、あたし…」

 

「どうしたの?」

 

「レイの制服見てヒカリのこと思い出しちゃって…紅茶があったかくて……それで…」

 

「うん…」

 

「あーもう!なんて言うんだろ!わかんない!」

 

「温かい紅茶を飲んでたら悲しくなっちゃったの?」

 

「…そうじゃなくて、えーとなんか自分だけ幸せになってて、ヒカリに悪い気がして…」

 

「別にアスカが幸せなのは悪いことじゃないと僕は思うけど?」

 

「そうなのかしらね…?」

 

「僕はアスカに幸せになって欲しいと思うよ。」

 

顔が紅潮するのを感じ、シンジに見えないよう顔をシンジの膝に埋める。

 

「…ホント?」

 

「嘘は言わないよ。」

 

「…あたしの事、好き?」

 

「…そう、かもしれない。」

 

照れたような口調。

 

「ばか…男ならはっきりしなさいよ…」

 

この時シンジは、気持ちを、中途半端だが…伝えてしまったので頭真っ白である。

 

「と、取り敢えず綾波の紅茶、飲みに戻ろっか。」

 

「……うん。」

 

 

 

 

 

「碇君、これ美味しかった。今度作り方教えてくれる?」

 

「うん、いいよ。」

 

ピザ(?)は綾波の口に合ったようで良かった。

 

赤い紅茶を飲む。

とっくに冷めていたが、まあまあ美味い。

 

「…冷めちゃったから、もう一度入れ直した方がいい?」

 

「いや、これでいいよ。」

 

「あたしも…これでいい。」

 

「そう。」

 

日が地平線へと近づいていく。

テレビをボンヤリと観る。

 

『はぁーい、今日は以前にも紹介した算数の出来るワンちゃんがまた番組に来てくれました! 』

 

『ワン!』

 

『元気な鳴き声ですね!今日は以前より難しい問題です!』

 

『ワン!』

 

『それではいきます!√1×√1は?』

 

『ワン!』

 

『わー!とっても頭が良いですね!』

 

「…犬…可愛い…」

「なにこの番組…バッカじゃないの?」

 

「あ、あははっ」

 

がっちゃん!

 

「ただいま…」

 

ミサトさんが病院から帰って来たらしい。

 

「あっ…ミサトさんお帰りなさい!」

「お帰りミサト。」

「お邪魔してます葛城三佐。」

 

「あら、レイ来てたの。」

 

「はい、アスカと話しに。」

 

「へーえ。シンちゃんじゃないのね。」

 

「…変ですか?」

 

「いや、そゆわけじゃないけど…そうだシンちゃん、夕食のメニューは?」

 

「まだ決まってないですけど…リクエストありますか?」

 

「そーねぇ…レイもいる事だし無難なやつ…味噌汁とご飯ってとこかしらね。」

 

「わかりました。」

 

「じゃあ私はこの辺で失礼します。」

 

「あら?帰っちゃうのレイ?てっきりここで食べてくと思ったのに。」

 

「…良いんですか?」

 

「シンジさえ良ければ良いと思うわよ。」

 

「僕は別に構わないけど…」

 

「「じゃ、決まりね。」」

 

「…はい。」

 

 

 

 

「…これが味噌汁…」

 

白っぽいスープの中に人参や大根、豆腐が浮いている。

 

「「「頂きます!」」」

 

三人が先に食べ始める。

 

「ぷっはぁ〜〜!くぅぅう!1日の最後のビールが美味いッ!」

 

「程々にして下さいよ、ミサトさん。」

 

大怪我してるんだし。

 

「わかってるわよ!」

 

「さっすがシンジ、今日も美味しく出来てるわよ。」

 

「アスカにそう言う事言われると嬉しいな…」

 

「言って欲しければ幾らでも言ってあげるわよ!」

 

「ほんとシンちゃんとアスカは随分仲が良くなったわねぇ…キスとかもうした?」

 

「な、なに言いだすのよミサト!」

「な、何を言うんですかミサトさん!」

 

「うふふぅ〜赤くなっちゃって…もしかして、図星?」

 

「んな訳…ッ⁉︎………」

 

否定しようとするも、言葉に詰まってしまうアスカ。

 

「やっぱそうなんだ?」

 

「うるっさいわねミサトぉ!」

 

ミサトがアスカとシンジをからかう横で、レイは未知の料理を前にして、唾を飲み込む。

 

(綾波レイ、行きます。)

 

「…頂きます。」

 

高速でかき込む。口一杯に広がる味噌の味。

 

「…うっ…美味しい…」

 

ご飯も一緒に食べると、更に美味しい。

 

「はうぅ…っ」

 

食べれば食べるほどもっと食べたくなる味。

謎の中毒性が脳を支配し、この味を求める。

 

あっという間に空になってしまった。

 

「おかわりならあるよ、綾波。」

 

「食べたい…お願いします。」

 

「わかった、器貸して。」

 

楽しい時間は過ぎていく。

外は真っ暗になった。

 

「ぐぅぅぅぅ…」

 

「ほら、ミサトさん寝るなら布団で寝て下さい!」

 

「ほひゅ〜〜っ…加持ィ…赤ちゃん欲しい…」

 

ナンの夢見てるんだよミサトさん。

 

「…うーん…シンジ…だいすきぃ…」

 

「味噌汁…いっぱい…天国…」

 

「…これってどうしたらいいのかな。」

 

シンジ以外、全員寝た。

 

「…取り敢えず全員にバスタオル掛けておくか…」

 

カチ、カチ、と時計の音が静かな部屋に響く。

 

12時。とうとうこの日がやって来た。

 

「…使徒ゼルエル…絶対倒す…頑張るぞ…」

 

 

 

つづく




暫く休止すると言ったな…あれは嘘だ。
感想、高評価よろしく。


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使徒、吸収

 地表に降り立つ銀髪の少年。
紅い瞳に月が写り、呟く。

「…随分長い旅だった…もうすぐ会えるよ……碇シンジ君。」


 金色の頭に包帯を巻いている女性。

 

「…復旧は厳しそうね。」

 

独り言を呟く。

その後ろからもっと酷い怪我をした長髪の女性が近づく。

 

「…もう起きていいの?ミサト。」

 

「仕事ができれば問題ないわよ!」

 

「…この非常時に休んでられない、か。」

 

目の前の参号機の頭は原型を失っている。少し歩くと靴に血が付く。

 

「…アスカは大丈夫そう?」

 

「…前よりもシンジ君にくっつくようになった気がするわ。」

 

「…頼りにされてんのね、シンジ君。」

 

「甘えてんのよ、シンジ君優しいから。」

 

「あら、それは悪いことかしら?」

 

「別に悪いって訳じゃないけど。」

 

アスカはシンジに依存している様な気がするのだ。

 

少し危うい。

 

 

 

 

 

 

 

NERV本部第一発令所。

 

「総員第1種戦闘配置!地対空迎撃戦用意!」

 

「目標は?」

 

「現在進行中です。駒ケ岳防衛線、突破されました!」

 

空中に浮いている巨大な使徒、ゼルエルにミサイルが降りそそぐ。

 

しかし、強大なA.T.フィールドに阻まれる。目から熱光線を放つ使徒、十字架状の大爆発。

 

「第1から18番装甲まで損壊!」

 

「18もある特殊装甲を一瞬で…⁉︎」

 

狼狽える日向。

 

「エバーの地上迎撃は間に合わないわ!エバー全機をジオフロント内に配置!本部施設の直援に回してッ!」

 

ミサトの指示が飛び、発進するエヴァ全機。

 

「…まずは命令通り、パレットライフルの一斉射か…」

 

「使徒には効かないと思うけどね。」

 

「やれることをやってみるだけだわ。」

 

ジオフロントの天井が爆発する。

爆煙の中から姿を現わす使徒。

 

「いっけえぇぇぇぇぇ!!!」

 

A.T.フィールドを中和しながら三人でパレットライフルの斉射。

 

全弾命中、全く効かない。

 

「だめ、効かない!」

 

そして弾切れ。

 

「まだまだぁ!!」

 

お次はバズーカ。

しかしこれもダメ。

 

「やっぱりダメだ!全然効かない!」

 

不意に使徒が紙のような手を展開し始める。

 

(あれはッ…まずい!)

 

「⁉︎…なにあれ?」

 

「避けてアスカ!綾波!」

 

紙のように畳まれていた使徒の手が、勢いをもって迫る。

 

「あっぶな!」

 

アスカの持っていたバズーカが真っ二つになる。

 

「…なんつー斬れ味!」

 

使徒が熱光線を放つ。直撃を食らい、右腕を飛ばされる零号機。

 

「あぅっ!」

 

「レイ!」

「綾波!」

 

「…大丈夫…まだ…いけるわ…」

 

再び使徒の光線が自分達に襲いかかってきたので素早く避ける。

 

「同じ手は食らわないわ…っ!」

 

「ふっ、このアスカ様にかかればあんたの攻撃なんてお茶の子サイサイよ!」

 

しかし、避けた後の体制を立て直す一瞬の隙を使徒は突いた。

 

紫の頭が紅い血を撒き散らしながら宙を飛ぶ。

 

「………ガッ…ァ……」

 

シンジの言葉にならない絶叫。

 

「シンジィィィィ!!!」

「碇君!!!」

 

悲痛な叫び。

 

『初号機パイロットの心音微弱、いえ、停止しました!』

 

『パルス送信!心臓マッサージを!』

 

『救出班急いで!』

 

頭を失い倒れこむ初号機。

だが、使徒は容赦なく攻撃を続ける。

 

(くっ…シンジがやられるのは痛すぎる…これで暴走では倒せない!)

 

「…っ!」

 

使徒の攻撃を避けながらゲンドウとの個人回線を開くレイ。

 

「碇司令!」

 

『なんだ、レイ。戦闘中だぞ。』

 

「槍を…ロンギヌスの槍を使わせて下さい!」

 

『なぜだ。』

 

「このままでは…碇君…初号機パイロットが回収するのが困難で、死亡する可能性があります!」

 

『…黙れ、作戦に集中しろ。』

 

「⁉︎」

 

それでも、それでも碇君の父親なの?

 

「いやあぁぁぁ!」

 

「アスカ!」

 

使徒の攻撃が弐号機に突き刺さり、弾き飛ばす。

 

使徒の光線を避ける、避ける。

 

「くぅっ!」

 

(反撃が出来ない…っ!)

 

避けた光線が四角錐形の建物、第三基部に直撃する。

 

『第3基部に直撃!最終装甲板融解!』

 

『不味い!メインシャフトが丸見えだわ!』

 

「くっ…!きゃっ⁉︎」

 

胴が焼ける感覚。やられた。

 

「はあっ…っあ…っ」

 

倒れる零号機。発令所から聞こえる絶望の声。

 

『零号機、活動停止!』

 

『そんな!くそ!最後の頼りだったのに!』

 

『レイ…っ!』

 

『………』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あたしはまだやられてないわよ。」

 

完全な不意打ち。弐号機のプログナイフが使徒のコアに吸い込まれていく。

 

「残念だったわね…!」

 

発令所が沸く。

まだ弐号機が生きていた!

 

ナイフが刺さる瞬間、コアを守るように突如蓋が閉まる。

 

「…え?なにこれ…ぇあ゛っ⁉︎」

 

『アスカ⁉︎』

 

使徒の鉄拳。意識が遠のく。

 

「が…は…っ⁉︎」

 

(後少し、後少しだったのに…っ…)

 

発令所がさらなる絶望に包まれる。

 

『エヴァ弐号機…活動停止です…!』

 

使徒の光線が弐号機の胸部装甲を破壊する。剥き出しになるコア。

 

『…⁉︎ あれは…?』

 

驚くミサト。

使徒がコアを手で突き続ける。

 

「動いてよォ…お願い…だから…」

 

はっきりしない意識の中、必死に操縦桿を動かす。

 

ドクン…

 

エヴァの鼓動の音。

 

ドクン…ドクン…

 

早くなっていく。

 

『ヴオォォォォォォォォォ!!』

 

覚醒。弐号機の顎の拘束具が外れる。

 

「エ…エヴァ再起動…⁉︎」

 

ゼルエルを蹴り飛ばし立ち上がる弐号機。

 

「信じられません…弐号機のシンクロ率が…400%を超えてます…!」

 

「…やはり目覚めたのね…彼女が。」

 

『ヴオォォォォォォォォォォォォ!』

 

使徒の紙状の手が凄まじい速さで迫るが、簡単に弐号機はそれを引きちぎってしまった。

 

ゼルエルのA.T.フィールドが弐号機のA.T.フィールドに自身の体ごと斬られる。

 

『⁉︎⁉︎』

 

血を噴水の様に噴き出し、倒れる。

 

『ヴォ!ヴォ!』

 

獣の様な鳴き声の後、四つん這いで倒れた使徒に襲いかかる。

 

使徒も目から光線を出して反撃しようもするが、顔を潰される。

 

使徒の肉を引きちぎると、人類の脅威だったモノを喰いはじめた。

 

「使徒を…喰ってる?」

 

驚愕するミサト。

 

「…うぷっ…」

 

ハンカチで口を覆い、吐き気を抑える伊吹マヤ。

 

「エヴァ弐号機がS²機関を自ら取り込んでいるというの…⁉︎」

 

「うぅ…ゲェッ…」

 

「おい、大丈夫かマヤ!」

 

とうとう吐き出したマヤを青葉シゲルが心配する。

 

『グオォォォォォォォォォォォォ!」

 

弐号機の装甲が剥がれていく…

 

「拘束具が…っ」

 

「拘束具?」

 

「そうよ、あれは装甲板では無いの。」

 

「エヴァ本来の力を私達が抑え込むための拘束具なのよ…その呪縛がエヴァ自らの力で解かれていく…私たちにはもう、エヴァを止める事は出来ないわ…」

 

 

 

ジオフロント、加持の育てているスイカの畑。

 

「…弐号機の覚醒と解放…こいつはゼーレが黙っちゃいませんな…」

 

加持が呟く。

 

「これもシナリオのうちですか?碇司令。」

 

 

 

 

「…少し違ったこともあったが、全てはこれからだ…」

 

 

 

 

「エヴァシリーズに生まれ出ずる筈のないS²機関…まさか使徒を喰うことで自ら取り込むとはな…」

 

ゼーレの老人達の中核による会議。

 

「我らゼーレのシナリオとは大きく違った出来事だよ…」

 

丸眼鏡の白髪老人が云う。

 

「この修正、容易ではないぞ。」

 

眼鏡の黒髪老人が云う。

 

「碇ゲンドウ…あの男にNERVを与えたのがそもそもの間違いではないのかね?」

 

白髪の若めの老人が云う。

 

「だが、あの男でなければ全ての計画の遂行は出来なかった。」

 

キール議長が云う。

 

「だが事態はエヴァ弐号機の問題だけではない。」

 

鼻の高い老人が云う。

 

「左様。零号機と初号機の大破。」

 

丸眼鏡の白髪老人が云う。

 

「本部施設の半壊、セントラルドグマの露呈。」

 

眼鏡の黒髪老人が云う。

 

「被害は甚大だよ…我々がどれほどの時と金を失ったのか見当もつかん。」

 

「これも碇の首に鈴を付けておかないからだ…」

 

「いや、鈴はついてる。ただ鳴らなかっただけだ。」

 

「だが鳴らない鈴に意味は無い…」

 

「今度は鈴に働いて貰おう…」

 

「例え上手く鈴が鳴ったとしてもだ…あの男を使うのはもう潮時だろう。それに碇のことだ…それぐらいは推察の範疇かもしれぬ。」

 

銀髪の少年の入ったガラスの円柱型の水槽の前に立つゼーレの五人。

 

「そろそろ、正鵠を射る我々の切り札に目覚めて貰おう。タブリス、我々のシナリオの要よ…」

 

紅い瞳が開かれる。

 

「…どうだね、気分は?」

 

銀髪の少年が、ニヤリと笑った。

 

 

つづく




いやー最近体力の消耗が激しい気がする。
この作品は好きですか?(突然)
アンケートに答え宜しく。


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アラエル〜タブリス戦(本編2)
心のかたち、人のかたち


水中。全裸で立っている金髪の少女。

(…あたし、どうなったんだろう…)

(レイは…?シンジは無事かしら…?)

無数の魚が泳いでいる。

(あたしは…いつまでここにいるんだろう…)

目の前に全裸の長髪の女性。こちらも金髪。

『…ママ?』

『おいで、アスカちゃん。ずいぶん大きくなったわね。』

『何故…?如何してママが生きてるの?』

『ずっとここで生きてたのよ…貴女が此処に来るのは分かっていたからね…』

『ママ…?』

『これからはずっと…ママと一緒よ。』

『あたし…シンジのところへ帰らなきゃ…エヴァに乗ってみんなに認めて貰うの…』

『アスカちゃんはママが認めてあげる。だから此処にいていいのよ。』

『…ママ…!』

『大好きよ…アスカちゃん。』



 

「ケイジに拘束…大丈夫でしょうね?」

 

包帯を巻かれたエヴァ弐号機の前に立つミサト。

 

「内部に熱・電子・電磁ほか化学エネルギー反応無し。S²機関は完全に停止してます。」

 

日向による説明。

 

「…だと言うのにこの弐号機は二度も動いたわ…」

 

弐号機の暴走を止めたのは、対使徒要塞都市のシステム。

 

(もしかすると…最初からそのつもりの防護システムだったとしたら…?)

 

 

 

 

「…いやはや、この展開は予想外ですな。ゼーレの方にはどう言い訳するつもりですか?」

 

加持が質問。

 

「…これは不慮の事故だよ。弐号機は我々の制御下でなかったからな。」

 

冬月が答える。

 

「よって弐号機は凍結。委員会の別名あるまでは…だ。」

 

対応を答えるゲンドウ。

 

「適切な処置です。しかし、御子息の嫁さんを取り込まれたままですか?」

 

最高責任者をからかうやばい奴。

 

「……サルベージを急がせるか…」

 

 

 

 

 

「弐号機プラグの映像回路繋がりました!主モニタに回します。」

 

モニタに映るはプラグの中に浮く赤いプラグスーツ。

 

「…なによ…これ⁉︎」

 

「これが…シンクロ率400%の正体…?」

 

「アスカは一体どうなったの⁉︎」

 

怒鳴るミサト。

 

「エヴァ弐号機に取り込まれてしまったわ…」

 

「どう言うこと…?エバーって何なのよ?」

 

「発音が違うわ。エバーではなく、エヴァよ。」

 

「分かった、やってみるわ。エバァ、エブァ、イェバー…ってそんな事は聞いてなぁい!」

 

「そうね、私が悪かったわ。」

 

「で、エバーって何なのよ。」

 

「人の作り出した人に近い物体…ってとこかしら。」

 

「人が作り出した?あの時南極で拾った物をただコピーしただけじゃ無いの…オリジナルが聞いて呆れるわ。」

 

「ただのコピーとは違うわ。人の意思が込められているもの。」

 

「これも誰かの意思だっていうの?」

 

「或いはエヴァの…」

 

平手。破裂したような音が響く。

 

「酷いわね…母さんにもぶたれたことないのに…」

 

「そんな平和に呑気なこと言ってんじゃないわよ…なんとかしなさいよ。」

 

「作ったのはあんたなんでしょ!最後まで責任持ちなさいよ!」

 

「………」

 

 

 

 

目覚め。

白い肌が青く見える病室。

 

紅い瞳が記憶を映し出し、そこには覚醒した弐号機。

 

「…アスカ…」

 

「お早う、綾波。」

 

「…!」

 

ずっと自分の横の椅子で座っていたらしいシンジ。首に包帯が巻かれている。

 

「話したいことがあるんだ、ちょっと。」

 

「…なに?」

 

そして、シンジはレイに逆行を明かした。

 

 

 

 

 

 

「…アスカのサルベージ計画?」

 

「アスカの肉体は自我境界線を失い量子状態のままエントリープラグを漂っていると推測されます。」

 

「そう。彼女の精神…魂と呼ぶべきものと一緒に。」

 

「プラグ内の成分は原始地球の海水に酷似しています。」

 

「生命のスープか…」

 

「つまりアスカは私達の目では確認できない状態に変化しているという事よ。だからアスカの肉体を再構成して精神を定着させるわ。」

 

「そんな事ができるの?」

 

「MAGIのサポートがあればね。」

 

「理論上は、でしょ。でも今はその理論に縋ってやってみるしかないわね…」

 

 

 

 

 

作戦会議室。そこでパソコンと格闘しているミサト。

 

加持が突然入り込んでくる。

 

「何か用?」

 

振り向かずに質問。

 

「用がなきゃ来ちゃいけないのか?ここんところロクに寝てないし食ってないだろ?大丈夫なのか?」

 

「こんな時に呑気に寝たり食ったり出来ないわよ…」

 

「…シンジ君の学校、調べたわ。まさかあのクラスの全員がパイロット候補だったとはね…一体NERVの手は何処まで伸びてるの?」

 

「そんな堅い話はメシ食ってからにしろよ、ほらお前の好きなマックのハンバーガー。」

 

「あんたが簡単にペラペラ話すとは思わないけど…人を滅ぼすアダムが何故地下に保護されているの?」

 

加持がスパイをしていることを知ったあの日。そこに居たのは面を被った白い巨人だった。

 

「碇司令はあれで何をしようとしているの?人類補完計画って一体何なのよ?」

 

「葛城、一旦落ち着けよ。」

 

「アスカがあんな風になってるのに、何故司令もリツコもあんなに冷静でいられるの?」

 

「おい…葛城…?」

 

「ネルフの本当の目的は一体なに⁉︎」

 

ミサトの口を塞ぐ、勿論自分の口で。

 

「んむぅ⁉︎」

 

ミサトの動きが止まる。

数秒舌を絡ませた後、唇を離す。

 

「…落ち着いたか?葛城。」

 

「なに考えてんのよ!時と場合をッ…考えなさいよ…」

 

「ちょっとリラックスさせようと思っただけさ。」

 

「こんな事でリラックスなんか出来ないわよ!出てけバカジ!」

 

「分かった分かった、退散するよ。」

 

無言でミサトを1、2秒見つめる。

 

「な、なによ。」

 

「…葛城、オレの気持ちは8年前からずっと変わってないよ…オレはずっと君を…」

 

扉が閉まる。

部屋から消えた加持。

 

(口の中に異物…?これは…?)

 

 

 

 

 

綾波に話そうと思ったのは、弐号機が覚醒した以上、凍結される可能性が高く、アスカは動けなくなってしまう。となると一人でやらなくてはならなくなるのだが、一人はキツイ。だからである。

 

結果、綾波は泣いた。

 

「そんな辛い…ことが…ひっく…あったのね…」

 

「そ、そんな泣かなくても…⁉︎」

 

「…碇君が悲しんだなら私も悲しくなるのよ。」

 

「えぇ…?」

 

「…碇君、補完計画絶対止めましょう。」

 

「…うん、頑張ろう。」

 

「…次は何するの?アスカのサルベージのサポート?」

 

「サポートいるかなぁ?ま一応それで。」

 

「…任せて、リリスの力で余裕よ。」

 

「大丈夫かなぁ…?」

 

「なんとかするわ。」

 

病室を出る。やっぱりおどろきの青さ。

 

「…じゃあ、後でね綾波。」

 

「どこ行くの?」

 

「ちょっと用事。」

 

次の目的地に向かう。

 

病室の扉を開く。

 

「こんばんは、委員長。」

 

「…碇君!」

 

「ごめん…助け出してやれなくて。これ、お見舞い。」

 

「…アスカ、元気にしてる?」

 

「いや、一昨日の使徒戦で一時的な戦闘不能になっちゃったんだ。」

 

ぼかして言う。

 

「そう…怪我しちゃったのね…心配…」

 

怪我したとは言ってないけどね。

 

「なんとかなると思うべきだよ。」

 

ここはポジティブに行こう。

 

(碇君の手…震えてる…アスカの事がよっぽど心配なのね…)

 

「アスカの事より自分の怪我の心配した方が良いんじゃない?」

 

「…義足はNERV側から提供されるらしいし問題ないって話よ。」

 

「そっか…」

 

「アスカに私は大丈夫、って伝えといて。」

 

「うん、分かった。」

 

「アスカ優しいから…きっと思い詰めてると思うの。」

 

「確かにちょっと思い詰めてるかもね。」

 

✖️ちょっと ○ かなり

 

 

 

 

 

 

円柱形の水槽にL.C.L.が満たされ、中でレイが裸で佇んでいる。これは、レイがレイのかたちを保つための装置。

 

「レイ、上がって良いぞ。」

 

目を開け、水槽から出る。

バスローブをゲンドウに被せられる。

 

「碇司令、アスカはどうなるのですか?」

 

「それはまだ誰にも分からんよ…分かっているのはエヴァだけなのかもしれない。」

 

ゲンドウの右手がレイの左頬に触れようとする。

 

「やめて下さい…”せくはら”です。」

 

手を払いのけその場を離れる。

 

「…レイ…?」

 

 

 

 

 

『全探査針打ち込み終了。電磁波形ゼロ・マイナス3で固定されてます。』

 

サルベージの準備中、その時を柵の後ろで待つレイとシンジ。

 

「自我境界パルス接続完了。」

 

「…了解、サルベージスタート!」

 

弐号機からのアスカのサルベージが遂に始まる。

 

「第1信号送信します。」

 

「エヴァ信号を受信、拒絶反応なし。続いて第2第3信号送信開始。」

 

「対象カテクシス異状なし。」

 

(…アスカ…)

 

 

 

弐号機の中。

 

無数の爆発音。

 

背中が痛い。

 

『あたしは…此処に居ていいの…だから邪魔しないでよ…!』

 

アスカの前に舞い降りる服を着たミサト。

 

『アスカ、あなたはもうあなただけのものじゃないのよ…あなたはエヴァのパイロットなの…私達はあなたに未来を託すしかないの。』

 

後ろから現れる加持。

 

『戦うんだアスカ、逃げてはいけない、真実から目を背けるな。』

 

次々と現れる人々はアスカにエヴァに乗る事を強要してくる。

 

『使徒を倒し、』

 

『サードインパクトから世界を救えるのは、』

 

『エヴァンゲリオンだけだ。』

 

『いやよ!もう傷つきたくない!ずっと此処にいるの!』

 

アスカが悲鳴を上げる。

 

 

 

警報。

 

「ダメです、パルスがループ状に固定されてます!」

 

「全波形域を全方位で照射してみて!」

 

エラーの音。

 

「ダメです!」

 

「発信信号がクライン空間に捕らわれてる!」

 

「どういうことよ⁉︎」

 

「つまり…失敗。」

 

「‼︎!」

 

「エヴァ信号を拒絶!プラグ内圧力上昇!」

 

「不味いわ!作業中止、電源落として!」

 

「ダメです!プラグが排出されます!」

 

プラグから溢れ出すL.C.L.とアスカのプラグスーツ。

 

「「「アスカ!!」」」

 

レイとシンジ、ミサトが叫ぶ。

 

手を合わせるレイ。

弐号機に干渉を試みる。

 

(まだ…間に合う!)

 

 

 

頭を抱えたアスカの後ろから裸の姿のレイ。

 

『戻るつもりはないの?アスカ。』

 

『レイ…』

 

『碇君が悲しむわよ…アスカが大事だから。』

 

『だって…』

 

『どうするかはあなたが決めればいいわ…ただ、碇君はずっと待ってくれているわ…あなたの為に。』

 

『どうすればいいのよ…』

 

『自分の好きなようにするのよ…あなたはどうしたいの…?』

 

『……シンジと…一緒に居たい…』

 

『じゃあ戻りましょう…碇君の所へ。』

 

『待て!』

 

アスカとレイの間に割り込む四つ目の怪物。

 

『アスカちゃんは渡すわけにいかない、あんな辛い思いをさせる訳にはいけないからな…!』

 

『…あなたが弐号機ね。』

 

『アスカちゃんは傷ついてきた、これ以上可愛い娘を傷つけさせるわけにはいかない。』

 

『どいてママ!シンジの所に帰りたいの!』

 

『アスカちゃんはワタシが守る!』

 

『あなた…それが本当にアスカに必要なことなの?』

 

『そうに決まっている!』

 

『通して…ママ…』

 

『違うわ…それはあなたの自己満足。この小説のようなね。』

 

『何を言っているんだ?オマエ…』

『何言ってんのレイ?』

 

『あなたは成長の機会を潰すダメな母親よ。そうでありたくないなら道を開けなさい。』

 

『だが…ワタシがいなくて誰がアスカちゃんを守る?』

 

『僕が守りますよ。』

 

裸で舞い降りた少年。

 

『どうやって此処に来た?リリン。』

 

『こんにちは、惣流・キョウコ・ツェッペリンさん。』

 

『何故、ワタシの名を?』

 

『教えてもらったんです。母に。』

 

大嘘。

 

『此処に来れたのは、自分でもどうやったか分かりません。』

 

『そうか、アスカちゃんを守ると言ったのは?』

 

『僕はアスカが大好きです。他に理由がいりますか?』

 

『…いや、ない。』

 

『…シンジ…!』

 

『行こう、アスカ。…いいですよね?惣流さん。』

 

『……勝手にしろ…』

 

 

 

 

 

 

「人1人救えなくて…何が科学よ…」

 

赤いプラグスーツを持ち、泣くミサト。

 

 

パシャッ

 

 

水音。

 

L.C.L.から蘇ったアスカの裸身。

 

「…っアスカ⁉︎」

 

「先輩!アスカが……成功です!」

 

「………私の力じゃ無いわ、多分ね。」

 

 

へたへた、としゃがみ込むシンジとレイ。

 

「よかった…アスカ…」

「どうなるかと思ったぁ…っ」

 

 

 

 

 

 

NERVのカードを眺める加持。

 

(最後の仕事、か)

 

「まるで、血の赤だな…」

 

 

 

 

つづく




更新遅れました。すいません。
代わりに文字数多めです。
読者博士、お許し下さい!
高評価、感想よろしく。


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男の戰い

 コンフォート17のミサトの家。

「ぐうぅぅぅ…っ…」

いびきをたて、五月蝿(う る さ)く眠るミサト。

「…隙だらけですよ、ミサトさん。」

ミサトの持つ拳銃。それを手に取り部屋を出る。
ケンスケから貸してもらった銃のカタログを見ながら、拳銃の中身を確認。

「思った通り睡眠弾対応だ。これならいける…」




温かい…膝の上のモノ。

 

それが人だと認識する。

 

ベッドに横たわるアスカは、その人がシンジである事を期待した。

 

うっすらと目を開ける。

そこに居たのは水色の髪の少女。

アスカの膝の上で寝ている。

 

「…レイ?」

 

その少女の名前を呼ぶと、ゆっくりと紅い目が開かれる。

 

「…起きたのね。アスカ。」

 

「わ…っ⁉︎」

 

レイに抱きつかれる。

 

「無事で良かったわ…」

 

「あ、あんた急になんで抱き付いてくんのよ⁉︎」

 

「…ダメな事なの?」

 

首をかしげるレイ。

 

「西洋はそういう文化だってリツコさんに聞いたわ…」

 

「…間違ってないけど間違ってるわよあんた…」

 

「?…意味が分からないわ…」

 

「ま、良いわよ。で、あんたはなんともなさそうで良かったけど、シンジはどうなったの?」

 

「元気よ。」

 

「あの使徒はどうやって倒したの?」

 

「あなた、覚えてないのね。弐号機が覚醒したのよ。」

 

「かくせい?」

 

「暴走の上位互換的なアレよ。代わりにパイロットがエヴァに取り込まれるって言う欠点があるわ…」

 

「って事はあたしもエヴァに取り込まれてたって事ね?」

 

「そうよ。」

 

ベッドを出る。長い事寝ていたのか、起き上がると頭と足が痛い。

 

「お腹減ったわ、カフェテリア行きましょ?」

 

「いいわ…行きましょう。」

 

 

 

 

 

 

ジオフロント西の第八管区。

 

(…全く、今回の事に限っては委員会にも言い訳ができんな…碇はどうするつもりなのだ…)

 

思考に沈む冬月に後ろから迫る不穏な影。

 

「お早う御座います、冬月副司令。」

 

「…加持君か、どうしたのかね?」

 

「…ゼーレへ出頭願います。」

 

そう言って拳銃を冬月に突き立てる加持。

 

「成る程な…諜報部を撒くとは流石と言うべきか。」

 

逃げ場が無い。

ゼーレに消される覚悟を決める。

 

銃声が響く。倒れる加持。

 

「諜報部を撒けても、僕は撒けなかったみたいですね加持さん。」

 

「…サードチルドレン⁉︎」

 

「どうも、冬月副司令。」

 

「君、加持君を撃ったのか?」

 

「ええ、催眠弾ですけど。問題ありません、弾は身体の中で溶けます。」

 

「何故ここが?」

 

「偶然ですよ。」

 

「その銃は?」

 

「黙秘で。」

 

本当の事を言うと、一度諜報部の人達とも溶け合っているので、日付を知れたのである。そこで副司令を影から追う事で加持さんを撃つことが出来た。理由は勿論、加持を守る事でミサトさんとアスカのメンタルを守るためである。

 

「この事は、誰にも言わないで下さい。」

 

「…分かった…」

 

「有難うございます。」

 

加持さんを引きずり、人気のないところで縛る。

 

すると、後ろから銃声。

 

シンジの背中に直撃。

血が飛ぶ。

 

倒れるシンジ。

 

銃を持った者はその場から素早く離れた。

 

「…いてて…凄い衝撃…」

 

ま、シンジは昔ケンスケから貰った血糊とNERVから支給された防弾チョッキを身につけて居たので無事だが。

 

「これで…加持さんの目が醒めるのを待つだけだ…」

 

 

 

 

 

NERV本部カフェテリア。

 

「美味しい…」

 

ここのカレーを食べるのは何回めだろうか。そんな事を思いながらカレーを食べるレイ。

 

「うん、美味!シンジには負けるけど!」

 

カフェテリアの焼きそばを食べるアスカ。

 

「ここの料理、本当に美味しい。」

 

「シンジには負けるけどね!」

 

「碇君と言えば…見かけてない?」

 

「あたしが知るわけないでしょ?」

 

「お昼…一緒に食べたかったのに。」

 

「同感。」

 

 

 

 

 

 

 

「はっ!ここはどこだ!」

 

「NERV本部ですよ、加持さん。」

 

「シンジ君…?縄を解いてくれないか?やる事があるんだ。」

 

「ダメですよ、やることって副司令の誘拐でしょ?」

 

「まさか!そんな訳無いだろシンジ君。」

 

「ゼーレが仕向けたんでしょ?」

 

「バレバレか…なんで分かるんだそんな事が?」

 

「二周目だからです。」

 

「は?」

 

「だから、人生二周目だからです。」

 

「…どう言う事だ?」

 

「そうですね…この世界の真実を教えましょう。」

 

「…?」

 

「セカンドインパクトから…サードインパクトまで…」

 

シンジの口から出てきた情報には、加持の知りたかった情報が丸々あった。

 

「…何故そんな事を…」

 

「だから、逆行して来たんです!」

 

そこから15分の説明。

 

「加持さんの過去も知ってますよ、弟が居て、セカンドインパクトの所為で死んだんでしょう?」

 

この一言がトドメだった。

 

「分かった…信じよう。」

 

「ミサトさんの為に…スパイも辞めて下さい。」

 

「うん、良いだろう。」

 

こうして、加持が消される可能性は大きく減ったのであった。

 

 

 

 

 

「行方不明⁉︎副司令が⁉︎」

 

驚愕するミサト。

 

「はい、ジオフロント西の第八管区で消息を絶っています。」

 

「うちの所内じゃ無い…あんた達諜報部は何やってたの?」

 

「身内に裏切った者が…加持リョウジ、この事件の主犯と見られる人物です。」

 

「…っ⁉︎」

 

衝撃。

 

「……で、私の所に来たってワケ…」

 

「作戦部長を疑うのは同じ立場の人間として心苦しいのですが、これも仕事でして。」

 

「待ってください!」

 

「…シンジ君⁉︎…加持!」

 

扉から駆け足で向かって来るシンジと加持。

 

諜報部の2人が銃を構える。

 

「あの!副司令が拐われたみたいで!」

 

「何を言っている?誘拐したのはその男だろう。」

 

「はぁ…はぁ…加持さんは…さっきまで僕とずっと話をしてました…だから違います…」

 

「サードチルドレン、それは証拠にならんぞ。」

 

そりゃそうか。

 

「………ミサトさん…っ…」

 

「…加持を独房へ。シンジ君は家に帰りなさい。」

 

「…でも!ミサトさん!…」

 

「仕方ないよシンジ君。諦めよう…」

 

 

 

 

 

 

 

家に帰ると、アスカとレイがゲームで対戦している。

 

「どりゃあぁぁ!」

 

「くっ…必殺技!」

 

「ただいま…」

 

「あ、シンジお帰り!」

「碇君、お邪魔してます。」

 

「うん…」

 

前よりは良いかも知れないけど…加持さん捕まっちゃった…

 

「どうしたの?元気ないわね。」

 

「いや…なんでもないよ…」

 

「こっち向いて。」

 

「え…?」

 

アスカの唇が自分の唇に触れる。

 

「んん⁉︎」

 

「んっ…!」

 

「大胆…アスカ…」

 

「ぷはっ…これで元気出たかしら?」

 

「いや…⁉︎なんで急にキス…⁉︎」

 

「元気出たみたいね。なにかあったの?」

 

アスカに話すべきなのか…どうなんだろう…

 

「加持さんが捕まっちゃって…」

 

完全に僕が戦犯したんだけど。

あんとき頭が回らなかった。

 

「スパイだったから…とうとう捕まったってワケね。」

 

「あれ?あっさりしてる…」

 

「生きてるなら良いじゃない。死んだんじゃないでしょ?」

 

「まぁそうだけど…」

 

「なら前よりは良くなってるって事でしょ?それならあたしは良いと思う。」

 

「碇君、私も。」

 

「…ありがとう…」

 

「ほーら!元気出しなさい!」

 

頭をなでられる。

 

「わかった…!」

 

 

 

 

 

 

(散々だな…碇の息子に助けられたと思えば…ゼーレの2人目の使者に捕まるとは…)

 

思考の渦に入っている冬月の前にモノリス。

 

『久しぶりだな…副司令官殿。』

 

「キール議長…まったく手荒な歓迎ですな。」

 

『非礼を詫びるつもりはない。君とゆっくり話をする為の当然の処置だ。』

 

「相変わらずですね…私の都合は御構い無しですか?」

 

『質問は許されておらん。』

 

『S²機関を自ら搭載したエヴァンゲリオン弐号機…あれは理論上無限に稼働する半永久機関を手に入れたも同義だ。』

 

『絶対的存在を手にして良いのは神だけだ。』

 

『人はその分を超えてはならん。』

 

『ましてただの子供を神の子とする訳にはいかんのだよ。』

 

『碇ゲンドウ…果たして君の信用に足る人物かな?』

 

『よく考えてみたまえ。君が碇の側につくのか我々につくのか…どちらにしろ君の知る限りの事は全て話して貰うが…』

 

『その気になったら教えてくれたまえ…冬月先生。』

 

 

 

 

 

 

つづく




今回駄文です。だって時間が無かった。


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廃墟、寄り道した後

暗い空間。扉が開かれ、黒服の男達が雪崩れ込む。

「諜報部か…」

「副司令を発見。任務完了。」

『了解、副司令を解放し帰還せよ。』







加持リョウジ、ゼーレのスパイが判明、NERVの独房へ。

「死ぬよりマシ、か。とは言え暑苦しいな…」

思い出すのは停電で止まったエレベーター。

扉が開く。

「…葛城…」

「あなたの疑いが晴れたわ。」

「結局、誰だったんだ?」

「あなたに教える義務はないわ。」

「おいおい、諜報部の人間にも話しちゃいけないのか?」

「いいえ、あなたはクビになったのよ。」

「おや…とうとう俺も自宅警備員デビューか。」

「でも、あなたの監視はより強くなるから。じゃあね。」

「待てよ葛城。」

「なによ。」

「オレは…8年間ずっと…お前が好きだった。勿論今もだ。」

「…!」

「じゃあな…」

黒服に連れられそこから離れていく加持。

加持が小さくなった後、呟く。

「バカ…私もよ…」




「アスカのシンクロ率、高くなってるわね。」

 

「二日目なのに…安定してるわね。」

 

「シンクロ率は表層的な体の不調には左右されないもの。」

 

NERVによるシンクロテスト。

 

「というか、弐号機は凍結中なのにシンクロテストするんですね。」

 

「碇司令からの命令でね。」

 

「実戦では戦えないのに…」

 

「アスカー!上がって良いわよん!」

 

『はーい!』

 

 

 

 

 

 

「シンジ…もう寝よ?」

 

枕を持ち瞼を擦るアスカ。

 

「アスカ…まだ寝てなかったの?」

 

「一緒に寝たいんだもん…」

 

「そっか…じゃあ寝ようかアスカ。」

 

「うん!」

 

布団に入ると、お邪魔しますとアスカも潜り込んでくる。

 

すっかり慣れたが、他人から見れば14歳の男女が一緒に寝るのはいかがわしく異様な光景である。

 

「あたしたち…まるでこれからえっちしようとしてるみたいね。」

 

「急にナニを言いだすんだよ?」

 

「あたし、シンジとならやってもいいな〜って。」

 

「え?」

 

「あたしの処女、欲しい?」

 

「でも公式からポルノ関係の二次創作は禁止されたからダメだよ。」

 

「すっごいメタい事言うわね。ムードぶち壊しじゃない。」

 

雑談を続ける。

 

「次の使徒…アラエルだっけ?」

 

「そうだね、確かその筈。」

 

「前のあたしを精神崩壊させた使徒か…」

 

「怖い?」

 

「まさか、今のあたしなら大丈夫よ。」

 

「うーん、その事だけどアスカは多分出撃出来ないんじゃないかな。」

 

「あーっそっか、弐号機S²機関取り込んでるもんね。」

 

「アスカは多分見てる事しか出来ないと思うけど…僕と綾波で頑張ってみるよ。応援してて。」

 

「わかったわ…じゃあ応援してあげるからお腹さすってくれる?」

 

「え、良いけど急にどうしたの?」

 

「ちょっと…生理で痛くて…」

 

恥ずかしそうに顔を赤くする。

 

「わかった…この辺?」

 

「んん…もうちょっと下…」

 

「ここ?」

 

「そこは…ッ…下すぎるわよ…っ」

 

顔を真っ赤にして睨む。

 

「ごめん…じゃあここかな?」

 

「うん…そこよ…ありがと。」

 

痛みが少し楽になった。気休め程度だが。

 

「よーしよーし…」

 

シンジにさすられるのは新鮮な気持ちになる…そもそも他人にお腹を触らせた事すら無かったかもしれない。

 

(あ、でもママには撫でてもらった事あるかも…)

 

「よしよし…」

 

(ふふ…なんかシンジがママみたい…変なの…)

 

目を瞑る。そしてこの心地良さに身を委ねる。

 

意識が、静かになっていく。

 

 

 

寝息をたて始めるアスカ。

 

「すぅー、すぅー…」

 

(やっぱりアスカって可愛いよな…)

 

「ふにゃ…しんじぃ…」

 

(どんな夢見てるんだろう…)

 

「…あったきゃい…」

 

(見てるだけで癒されるなぁ…)

 

すりすり、とアスカのお腹をさすり続ける。

 

(僕も眠くなってきた…)

 

 

 

 

 

 

マグマと溶岩の違いってなんだっけ…

 

赤いマグマの中で考える。

 

上から降りてくる紫の巨人。

 

「ばか…無理しちゃって…!」

 

助け上げられ地上へ。

 

 

 

『あの頃は…楽しかった…』

 

 

 

 

 

「学校、行かないのシンジ君?」

 

「えと、僕も行きたいんですけどアスカが行きたくないからって…」

 

「ダメじゃない、数ヶ月も休んでるんでしょ?アスカは大学出てるからともかく、シンジ君は行ったらどうなの?」

 

「行かせないわよ。」

 

「アスカ…!」

 

「シンジはあたしの側にいるの!一緒じゃないと嫌!」

 

「はぁ…じゃあアスカ、あなたも学校行きなさい、シンジ君と一緒に。」

 

「…嫌よ…鈴原や相田になんて顔すればいいかわからないし…」

 

「アスカ、私はシンジ君を学校に連れていくのも仕事なの。だからわかって。」

 

「わかっては…いるのよ。」

 

「私が車で送ってもいいわよ。」

 

「そういう問題じゃ…っ!」

 

「大丈夫だよアスカ。委員長は怒ってないって話なんだから。」

 

「その話は聞き飽きたわよ…」

 

「ともかく行こうよアスカ。」

 

「仕方ないわね…」

 

渋々といった様子のアスカ。

 

「行ってきます!」

「行ってきます…」

 

「行ってらっしゃい!」

 

 

 

 

 

 

暗い表情をして、シンジの後ろを下を向きながら歩いているアスカ。

 

「…アスカ。」

 

「なあに?」

 

「すこし寄り道しよっか。」

 

「うん…」

 

 

 

とは言え、行くあてがある訳ではない。

 

適当に歩いて辿り着いたのは先の使徒戦で大破した繁華街。

 

「うえ〜っ酷いわねぇ…」

 

「!」

 

(なんだこれ…オルガンの音?)

 

「どうしたの?」

 

「ちょっと静かにしてアスカ。」

 

オルガンの音の発信源に近づいて行く。どうやら第九。

 

微かに聞こえる人の歌声。

 

「だーいくが仕事を放棄したーよー」

 

この声って…

 

「完成せーーずに放棄されーたよー」

 

オルガンの演奏を止め、こちらを向く銀髪の少年。

 

「歌はいいね、リリンの生み出した文化の極みだよ。」

 

ニコリ。素敵な笑みだ。

 

「あ、あんた誰よ?」

 

「僕はカヲル、渚カヲル。君達と同じ、運命を仕組まれた子供さ。」

 

「運命を仕組まれた…?」

 

「君は惣流・アスカ・ラングレーさんだね。宜しく。」

 

「⁉︎…なんであたしの名前を⁉︎」

 

「そして君は…碇シンジ君だね。」

 

「ちょっと!話聞きなさいよ!」

 

「以後宜しく。ところで第1中学校はどこにあるんだい?道に迷ったんだ。」

 

「…ついてこればわかるよ。」

 

「ありがとう。」

 

またもや素敵な笑みだ。

 

 

 

 

 

 

(このクラスもだいぶ人が減ったなぁ…)

 

2年A組の教室。人がほとんど疎開しいなくなっている。

 

プラモをいじりながらトウジと話すケンスケ。

 

「委員長…あれ以来、来なくなったね。」

 

「…いつ登校するつもりなんやろな?」

 

扉が開く。

 

「お早う。」

 

「……」

 

入ってきたのは2人の男女。

シンジと俯いているアスカ。

 

「碇!」

「惣流!」

 

席に着く。

 

「碇!委員長どうなったか知らんか?」

 

「知ってるよ。」

 

「頼む、教えてくれ!」

 

「参号機の起動実験の時、使徒に襲われて…それで…」

 

「ど、どうなったんや⁉︎」

 

悲壮的な表情のトウジ。

 

「左足を失って、今入院中だよ。」

 

「委員長…っ…」

 

「病室の場所は教えてあげるから、お見舞いに行ってやるといいよ。」

 

「言われなくても!」

 

「そう言えば惣流はどうしたんだ?さっきから元気ないけど。」

 

窓の外を眺めているアスカ。

 

「アスカは委員長を助けられなかった事で自分を責めてるんだ…だから放っておいてあげなよ。」

 

きーんこーんかーんこーん

 

「今日は転校生を紹介する。渚君、出てきたまえ。」

 

「…渚カヲルです。どうぞよろしく。」

 

 

 

 

 

 

帰り道。

お腹が痛いと言うアスカをおぶってNERVへ。

 

「あいつが最後の使者ってやつ?」

 

「うん、そうなんだけど。来る時期が前と大分違うな…」

 

アラエルとアルミサエルは現れないのか?

 

「やっぱり前とは違うって…事なのね…」

 

「うん。かなり違うよね。」

 

バスに乗ると貸切状態であった。

 

「シンジ…お腹さすって…」

 

「いいよ。」

 

痛みが強くなったらこれをする。

これだけで大きく気持ちが落ちつくのだ。

 

シンジの肩に頭を預け、姿勢を楽にする。

 

「アスカの髪、綺麗だね。」

 

「急に何を言うのよ。恥ずかしいじゃない。」

 

『次は〜NERV本部〜NERV本部〜』

 

 

 

 

 

 

 

「うーん、昨日より少し下がったわね。」

 

「学校に行かせたのが不味かったかしら。」

 

「まあでも、アスカは今の所戦力外だから問題ないわ。」

 

「レイとシンジ君は安定してますね。」

 

「でも、アスカには敵わないわね。」

 

「彼女、エリートの中のエリートだからね。」

 

「アスカ、レイ、シンジ君。上がって良いわよ。」

 

 

 

 

 

 

女性用トイレの洗面器の前で。

 

「はぁ〜。女だからってなんでこんな目に…子供なんて要らないのに…」

 

「気持ち悪いなぁ…うっ…また吐きそう…」

 

『アスカー、大丈夫ー?』

 

「ダイジョーブよ!心配しないで!今出るから!」

 

『わかったー!』

 

「…まったく…シンジは心配症ね。」

 

トイレを出る。

 

「さて、行きましょ。」

 

「うん。」

 

「あと、出来ればお腹さすってくれない?」

 

「全然良いよ。」

 

すりすり、とアスカのお腹をさする。

 

「ありがとう…シンジ。」

 

「いや、良いんだ。」

 

「……あ…」

 

ぐらり、と倒れるアスカ。

 

「アスカ⁉︎」

 

顔が真っ青だ。どうやら貧血らしい。

アスカをおぶって医務室へ急ぐ。

 

「あら?シンちゃん⁉︎」

 

「あ、ミサトさん!アスカが貧血起こしちゃったみたいで…」

 

「手伝うわ。」

 

「ありがとうございます。」

 

アスカをおぶってミサトさんと医務室へ。

 

「うぅ…」

 

アスカが呻く。

 

警報がけたたましく鳴る。

 

『総員、第1種戦闘配備。対空迎撃戦用意!』

 

「え⁉︎」

 

「まさか!」

 

「使徒⁉︎」

 

 

 

つづく




評価バーを赤色にしたいです。協力して下さいお願いします。感想も宜しく。


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奇跡の一撃

NERV本部発令所。

『目標は衛星軌道上に停滞中、映像で確認しました!』

「最大望遠にします!」

モニタに映るのは光を放つ使徒。

「これは…?」







「ごめんシンジ君!私発令所行かないと!アスカを頼むわよ!」

「えぇ⁉︎そんな急に…⁉︎」

『対空迎撃戦用意、エヴァ零号機及び初号機パイロット両名は緊急配置!弐号機パイロットは第五ケイジ内に待機!』

アスカをおぶってケイジに急ぐ。

(やっぱ重い…女の子が軽いなんて幻想だよ…)

「ん…シン…ジ…もう自分で歩けるわ…」

「え…でも…」

「あたしは待機なんだから…遅れることは問題無いけど…シンジは違うでしょ?」

「でも…」

「良いのよ…あたしが居なくてもあの使徒は倒せるって信じてる。」

「…分かった、ごめん。」

第三ケイジに走っていくシンジが見えなくなった後、アスカはゆっくりと第五ケイジに向かった。







第弐ケイジ…エヴァ零号機。

『エヴァ零号機のシグナル問題無し、VAの接続及び融合は正常…予定通りです。』

(碇君…まだ初号機に着いてないみたい…アスカも…ナニかやってたり…)

妄想で顔を赤くする。

『レイ、作戦内容を伝えるわ。』

ミサトの声が妄想の世界からレイを現実に連れ戻す。

「は、はい。」

『目標は衛星軌道上に居るわ、そこまで届く兵器は超長距離陽電子砲しか無いの。』

「はい…」

『そこで、レイに超長距離陽電子砲で衛星軌道上の使徒を撃って貰うわ。』

「…質問、良いですか?」

『いいわよ、何?』

「…本当にそれで敵のA.T.フィールドを貫けるんですか?」

『やってみないと分からないわね。』

「…N²航空爆雷は使えないんですか?」

N²航空爆雷が効かない→超長距離陽電子砲でも無理→降りて来るのを待つ…という作戦。

『戦自には残弾の残りがないからと断られたわ。』

「…そうですか…」

プランA、失敗。
だがプランBも考えてある。

「…降りて来るのを待つのはダメなんですか?…この距離だとA.T.フィールドを貫けない気がするんです。」

ストレートに頼む作戦。

「やってみないことには何ともね。」

プランB、失敗。

(やっぱり危険だけど地上から陽電子砲の効果の薄さを実演してからロンギヌスの槍で攻撃するしか無いのね…)

そもそもロンギヌスの槍を使えるかどうかも分からない。

『初号機パイロット、初号機に搭乗完了!行けます。』

『了解、零号機出撃!初号機もバックアップとして出撃して!』

そして、前史のアスカの仇を討つ戦いが始まった。




曇り空、夕立の予感。

 

綾波が超長距離陽電子砲を構える。

 

『陽電子砲、最終段階です!』

 

『地球の自転及び動誤差修正0.03、薬室内圧力最大!』

 

唐突に使徒が初号機にエネルギー波を放つ。

 

「うあっ…ッッ!」

 

頭が痛い。これが精神攻撃か…っ!

 

『シンジ君⁉︎』

「碇君⁉︎」

 

『敵の指向性兵器なの⁉︎』

 

『いえ、熱エネルギー反応はありません!』

 

『初号機パイロットの心理グラフが乱れていきます!』

 

『精神汚染です!』

 

(アスカは…こんなものを受けたのか…)

 

トラウマが掘り返されていく。

ゲンドウによる育児放棄、

レイの自爆、

サードインパクトの発動、

アスカの精神崩壊、

アスカの死。

 

(痛いっ…痛いぃ…っ)

 

「うわあぁぁぁ!!」

 

「碇君!」

 

『陽電子砲、全て発射位置!』

 

「くっ…いきます!」

 

発射される陽電子が使徒へ向かう。

しかし、使徒のA.T.フィールドがそれを弾く。

 

『ダメです!A.T.フィールドを貫くにはエネルギーがまるで足りません!』

 

しかし出力は最大。

 

『初号機、心理グラフシグナル微弱!』

 

『L.C.L.の精神防壁は⁉︎』

 

『ダメです、触媒の効果もありません!』

 

『レイ…!ドグマに降りて槍を使え、急ぐんだ!』

 

『碇司令⁉︎』

 

「は、はい!」

 

焦ったようなゲンドウの声と驚くミサトと冬月。

 

「碇…それは⁉︎」

 

「A.T.フィールドの届かない衛星軌道上の敵を倒すにはそれしか無い。」

 

「あれを使うのはまだ早いのではないか?」

 

「委員会はエヴァシリーズの量産に着手した。チャンスだ冬月。」

 

「しかし…」

 

「待ってください碇司令!アダムとエバーの接触はサードインパクトを引き起こす可能性があるんじゃないんですか⁉︎」

 

怒鳴るような質問をするミサト。

 

「……」

 

(…嘘…欺瞞なのね…セカンドインパクトの原因は使徒とアダムの接触では無いのね…)

 

 

 

 

 

 

痛い。頭が痛い。

痛い。心が痛い。

 

紅い世界。

自分の膝の上で冷たくなったアスカ。

 

『…どうして…死んじゃうんだよ…』

 

分かってるよ、僕が悪かったんだ。

 

アスカは何も悪い事してないのに。

 

冷たいんだ、さっきまで温かったのに。

 

きっと、怪我の治療も、ご飯と水分をあげることも、全部出来なかったからだ。

 

おなかが減ったのに食料はない。

 

でも、もう死にたいからいいんだ。

 

原罪は全部僕のものだから。

 

『う…うぅ…アスカぁ…』

 

嗚咽、そして発狂。

 

「うわぁぁぁぁあ!!!!!!!!」

 

シンジの目が紅く光る。

 

1秒だった。

 

頭を抱えて悶えている初号機から槍のようなA.T.フィールドが発生し、衛星軌道上にいる使徒を貫くまでの時間。

 

貫かれた瞬間、使徒が紅く光ったと思うと、自身のA.T.フィールドの中で血になり爆散した。

 

『『『⁉︎』』』

 

解放される初号機。

どよめきが起こる発令所。

 

「くはっ…ぁ…」

 

シンジはそのまま意識を失った。

 

 

 

 

「初号機パイロットの救出、完了しました。」

 

「状態は?」

 

「現在昏睡状態にありますが、心拍、呼吸、心理グラフ共に問題ありません。」

 

「精神汚染は?」

 

「大丈夫そうです。」

 

「OK、零号機の回収に取り掛かって。」

 

「はい。」

 

「赤木博士!」

 

プラグスーツを着たアスカが発令所に登ってくる。

 

「アスカ…あなた貧血起こしてんのに…体に悪いわよ?」

 

「大丈夫よ…ミサト。それより…シンジは…シンジはどうなったんですか⁉︎」

 

「…今は気絶しているだけよ。問題無いわ、心配しないで。」

 

「…そう、なんだ…」

 

ぐらり、と倒れるアスカ。

抱き抱え支えるミサト。

 

「アスカあなた絶対大丈夫じゃないわよ!医務室行きましょう。」

 

「ミ…ミサト…」

 

「大丈夫、これでもあなたを運ぶくらい余裕のよっちゃんよ。」

 

「ありがとう…ミサト…」

 

「あなたの健康管理も私の仕事よ、気にしないで。」

 

 

 

 

 

 

「…またこの天井か…」

 

何度も見たこの天井。

病室の天井だ。

 

(使徒はどうなったんだろう…ロンギヌスの槍を使ったのかな…)

 

いや、それ以外に方法は無いだろうな。

 

「…綾波…精神攻撃…受けて無いか心配だな…」

 

「シンジ!」

 

扉が開くと共に、心配したような想い人の声。

 

「…アスカ…」

 

「大丈夫なの⁉︎精神崩壊起こして無いわよね⁉︎」

 

「うん…大丈夫。」

 

「やっぱりそうなんだ…よかったぁ…」

 

安心したように抱き付いて来て、すりすりとシンジの頰に自分の頰を擦って来る。

 

温かい体を感じて、そして冷たい水が頰に付く。

 

「アスカ…くっつき過ぎだよ…」

 

「だって…シンジが何ともなくって嬉しいんだもんっ…」

 

(いや、アスカがくっついて来るのはこっちも嬉しいけど。)

 

「…その…貧血は大丈夫?」

 

「大丈夫じゃ…ないかも。」

 

「え⁉︎」

 

「だから…退院したらいっぱい看病してね…」

 

「……」

 

「ふふ…シンジ…あったかい…」

 

耳に温かい息がかかってくすぐったい。

 

「碇君…これ、食べ物。」

 

「ああ…綾波、ありがとう。」

 

アスカよりワンテンポ遅れて入って来た綾波。その手には食事を乗せたトレイ。

 

「さっきの使徒戦から…もう三時間たったから…お腹、空いてるでしょう?」

 

「うん、ありがたくいただくよ。」

 

その食事は質素なものだったが、まあまあ美味しかった。

 

 

 

 

つづく




感想欲死。

というわけで感想書いてくれ頼む。

なんでもいい、改善点、中傷、賛美。

頼むぜ同志ドクシャーリン。

あ、そうだお気に入り登録者300突破と評価者30人突破ありがとう。


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命の洗濯を

白い肌に注射器が刺され、薬物を注入する。

「リツコさん…」

「なに?レイ。」

「リツコさんは…碇司令のこと…好きですか?」

「…⁉︎」

「好き、なんですね。」

「なぜ分かったの?」

「前リツコさんが言ってた理由と同じです。」

『そりゃあ私だって恋をした事ぐらいあってよ。』

(まさかレイが人の恋を見抜けるようになるとはね…)

注射器を抜き、ガーゼを当てる。

「リツコさん、私夢があるんです。」

「ほう、聞かせて頂戴。」

「…碇君のお嫁さんがアスカになるなら…私は碇君の妹になりたい。」

「え⁉︎」

「そして…リツコさんには…私のお母さんになって欲しいんです。」

「…そう…私が母親に…」

「ダメですか?」

「いいわよ、全然OK。」

「…ありがとうございます。」



「アスカ、お風呂沸いたよ。」

 

「はーい、今行くー!」

 

使徒アラエルを倒した翌日。

食事の後、風呂の時間である。

 

「シンジー!お風呂一緒に入らない?」

 

「…水着着るのメンドくさいよ…」

 

「あら、水着は着ないで入るのよ?」

 

「え…どうやって…?」

 

「ハダカで入ればいいのよ!」

 

「えぇ⁉︎それは流石にダメだよ!」

 

「ふふ、ジョーダン!」

 

洗面所に消えていくアスカ。

 

「まったく…心臓に悪いよ…」

 

「ただいま。」

 

玄関からこの家の主人の声。

玄関に大喜びで駆けていくペンペン。

 

「ただいま、シンちゃん。」

 

「お帰りなさい、ミサトさん。」

 

「ごめんね〜遅くなっちゃって。」

 

「良いんですよ、ご飯出来てますから食べて下さい。」

 

「おぉ〜今日は豚汁なのね。」

 

「…前みたいにマヨネーズはかけないでくださいよ。」

 

「えぇ〜あれが美味しいのに…」

 

 

 

 

 

 

白く濁ったお湯に浸かり、考え事をするアスカ。

 

(シンジ…ホントにハダカで一緒に入りたいなぁ…)

 

少し本気だった。

 

(やだ、あたし変態みたい…これもHENTAIJAPANの文化のせいね…)

 

(…シンジ…シンジとえっちしてみたいなぁ…でも…えっちしたら子供デキちゃうかも…)

 

飛躍する思考。

 

(シンジとの子供か…いつか欲しい…いや、あたしじゃ無理よね…)

 

自分なら虐待してしまうかもしれない、と思うアスカ。

 

(あたしが母親…シンジが父親…あたしが母親なのはちょっと想像つかないかな…)

 

(母親…か…ママ…確かに弐号機の中で会えた気がする…)

 

弐号機に取り込まれた時、確かに会った気がする自身の母親。

 

(天才のママの卵子と天才科学者の精子によって試験管の中で産まれた天才…それがあたし…)

 

「ママ…あたし、ホントに天才なのかな…」

 

前史の自分が倒せなかった使徒を倒したシンジ。

 

(シンジの方が…よっぽど凄い。)

 

強くて、優しくて…素直で、かっこよくて…ちょっと可愛い。

 

(ちょっと…のぼせてきたな…)

 

赤くなった顔の汗を拭い、風呂から出る。

 

「あっつ…」

 

(なんか…目が…視界が黒い…)

 

風呂に浸かり過ぎたらしい。

バスルームから出ると、その場で座り込む。

 

すると突然、洗面所に入り込んでくるシンジ。

 

「アスカー!もうそろそろ出ないとのぼせちゃうよって…うわぁ⁉︎」

 

「⁉︎…いやぁ…見ないでぇ…っ…」

 

熱を帯びた桜色の肌と秘部が隠されず晒されている。嗚呼、熱膨張。

 

視線を一点に集中させながら硬直するシンジと頭が真っ白になって硬直しているアスカ。

 

そして、時が動き出す。

 

秘部を手で隠すとシンジと目を合わさないように言う。

 

「早く…出てって…」

 

「ご、ごめぇぇえん!!」

 

素早く洗面所から退散していくシンジ。

 

(…見られた…完全に…でもなんか…嬉し…)

 

頭に浮かんだ破廉恥な感情をぶんぶんと首を振って振り払う。

 

「……しんじの…ばか…」

 

 

 

 

 

 

(…凄いものを見てしまった…)

 

前にも見たことはあるが、今回のようにじっと見つめてしまったのは初めてである。

 

(…うぅ…でも僕はアスカをオカズにしないって決めたんだ…!)

 

バスルームでしたい気持ちをぐっと抑えて風呂に入る。

 

白濁色のお湯。

 

(…前から思ってたけどなんでこんなに濁ってるんだろう…空気がいっぱい入ってるのかな…)

 

なんとか思考を切り替えようと奮闘。

 

(アスカ…ちょっと毛が生えてたんだ……っじゃなくて!風呂は命の洗濯風呂は命の洗濯風呂は命の洗濯風呂は命の洗濯…)

 

邪念をなんとしてでも振り払わねば。

 

(こう言う時は父さんの顔を思い浮かべるんだ…っ…)

 

収縮。

 

(体洗おう…)

 

石鹸で体を洗っていく。

 

(…そういえばカヲル君来てたんだよな…来るのが前より遥かに早すぎるけど…)

 

(もしかして…使徒じゃないのかも知れない。)

 

(…そうだといいな…カヲル君は殺したくないし…)

 

体に付いた泡を洗い流す。

 

「はぁ…そろそろ出よう…」

 

 

 

 

 

 

アスカとシンジが寝静まった後、ミサトもバスルームへ。

 

(昨日の使徒…何故自爆したのかしら…シンジ君の中に…見てはいけないものでもあったと言うの…?)

 

リツコからの説明によると、使徒が人の心に耐えきれなくなったとの説明だった。

 

(そもそも、あれは本当に自爆なの?)

 

違和感が残る。

 

(…あの時、初号機から槍のような光が出ていたような気がする。)

 

(それに、人に耐えきれず自爆するんだったら前の参号機も自爆していたはず…)

 

(あれはやはり初号機の力?)

 

もう一つ気になることがある。

 

それは、マルドゥック機関を通さず委員会から直接送られてきたフィフスチルドレン。

 

(渚カヲル…生年月日がセカンドインパクト発生日と同一…)

 

なにか、嫌な予感がする。

 

(リツコは何を考えてんのかしら…エバーって何なのかしら…)

 

(加持のデータにあった人類補完計画って…なに?)

 

思い出すのは加持から口渡しに与えられたマイクロチップのデータ。

 

(セカンドインパクト…あれは何だったの?)

 

 

 

 

 

 

時は10分前に遡り、ミサトが恵比寿を飲みまくって「うぃ〜」とか言っている時。

 

シンジはトイレに行こうと、布団から出た。

 

トイレにはどうやら先客がいたらしい、灯りが点いているのがすりガラス越しに確認できる。

 

トイレに近づくと、アスカの湿っぽい声。

 

「ん…んぅ…ぁ…しんじぃ…んん…っ」

 

(これは…まさか…アスカが僕を想像して…⁉︎)

 

くちゅくちゅ、という音が微かに聞こえる。

 

聞いてはいけないものを聞いた気がして、高速で布団に戻る。

 

(…だめだ…僕はもう、アスカをオカズにしないって決めたんだ…心頭滅却心頭滅却心頭滅却心頭滅却心頭滅却心頭滅却心頭滅却心頭滅却心頭滅却心頭滅却心頭滅却心頭滅却心頭滅却心頭滅却心頭滅却心頭滅却心頭滅却心頭滅却心頭滅却心頭滅却…)

 

すると、アスカが部屋に入ってきて耳の近くで囁く。

 

「あたし…もう我慢できない…」

 

「…え⁉︎が、我慢出来ないってナニを…⁉︎」

 

「決まってんじゃない…あんたとヤリたいって言ってんのよ…」

 

「そ、そんな…ダメだよまだ僕らは中学生で…公式にも禁止されてるんだよ⁉︎」

 

「…商業目的じゃなきゃ問題ないわよ…」

 

「18禁タグなんか付けたくないよォ⁉︎」

 

まずい、学生層が読めなくなる!

 

「あなたたち、イチャイチャはそこまでにしてもう寝なさい!明日学校でしょ!」

 

「あ…はい。」

 

「…良いところだったのに…」

 

こうして、ミサトによって今作に18禁タグを付けずに済んだのだった。

 

 

 

 

 

翌朝、アスカは恥ずかしさで死にそうだった。

 

(なんで昨日シンジ誘っちゃったのよ…恥ずかしい恥ずかしい恥ずかしい死ぬ!)

 

目の前の寝ているシンジに顔を向けられない。

 

(……もうむり…なんか吹っ切れちゃいそう…)

 

リミッターが外れていく感じがする。

 

(シンジを…寝ている間に…)

 

ごくり、と唾を飲む。

 

「…やっぱあたしには出来ないや…」

 

服を脱がそうとしていた手でシンジを揺さぶる。

 

「朝よ、シンジ。起きて。」

 

「ん…アスカ…?お早う…」

 

(あたしには襲う勇気は無いけど…でも…!)

 

「んぅ⁉︎」

 

起きたばかりのシンジの唇にキスをする。

 

いわゆる”おはようのキス”。

 

口を離すと、精一杯の笑顔で。

 

「お早う、バカシンジ。」

 

「あ…ぁ…あ…⁉︎」

 

顔を真っ赤にして停止しているシンジ。

 

「朝ごはん作り、一緒にやりましょ?」

 

その日の朝のシンジはいつもより遥かに仕事の効率が悪かった。

 

 

 

 

つづく




アスカえっちぃ…
この話は下、メタネタ注意←遅い
UA三万超えましたありがとう!


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ネルフ、絶叫

ぴんぽーん

インターホンが鳴る。

「はーい、どなたですかー!」

『アスカ、私よ』

「あ、レイ。上がって良いわよ。」

「お邪魔します。」

コンフォート17の葛城家に1人の来客。

「…次の使徒戦の作戦会議しましょう。碇君、次の使徒の説明を。」

「 わかった…えーと、前史での次の使徒はアルミサエルって言って、零号機を取り込もうとした後、零号機のA.T.フィールドの中で零号機ごと自爆した使徒。」

「つまりはレイを殺した使徒って事ね。」

「えと、厳密には綾波を自爆まで追い込んだ使徒って言うのが正しいかな?」

「…つまり、侵食された後自爆すれば倒せるって事ね…」

「勿論あんたは自爆しちゃダメなんだからね!」

「ええ、わかってるわ。」

「で、策はあるの?」

「えーと、アルミサエルに効いた攻撃はプログナイフぐらいしか無かったから…基本的にプログナイフを使うのがいいと思う。」

「…ライフルは効かないの?」

「うん、効かなかった。ゼロ距離からでも効果なし。」

「新兵器のデュアルソーとかはダメなの?あれもプログナイフと仕組みは同じ筈だけど。」

「それならいけるかもしれない。」

「…全部効かなかった場合は…?」

「ロンギヌスの槍をどうにかして使うしか無いね。」

「…使えなかったら…?」

「人類滅亡。」

「ま、そりゃそうなるわよね。」


第一中学校、2年A組の教室。

 

「ケンスケ、なにしとるんや?」

 

「あぁ、写真の整理だよ。最近は買い手も少なくなったからね。」

 

盗撮した女子生徒の写真の整理。

その中にはヒカリの写真もあった。

 

「おお、委員長の写真やないか。」

 

「最近まるっきり売れなくてね。やっぱりああいう事があったからだよなぁ…」

 

参号機の事件。片脚を失ったヒカリ。

 

「あぁ…委員長…委員長が歩いとる…うぅ…今ではもう見れんのか…」

 

「…委員長…残念だよなぁ…」

 

「おい!今は私が委員長なんだぜ!いつまでもヒカリさんの事でめそめそしてたらみっともないのぜ!」

 

「げ…満月(みちげつ)…」

 

「『げ…』とはなんなのぜ!」

 

満月・アキナ・カブラスア。

ヒカリが学校に来れなくなった今、学級委員長を務めている。

 

「なんだよ…委員長が怪我したって聞いたら大泣きしたくせに…」

 

「うっるさい!」

 

「お早う!」

 

「お早う。」

 

「…お早う。」

 

シンジ、アスカ、レイが教室に入ってくる。

 

「お、碇!」

 

「お早う。トウジ、ケンスケ!」

 

「アスカ!お早うなんだぜ!」

 

「お早う…アキナ…」

 

「やあ、シンジ君。」

 

「あ、カヲル君…お早う。」

 

「アスカ、シンジ君とはうまく行ってるのぜ?」

 

アスカと話し始める満月。

 

「うん…そこそこに…」

 

「男子って押しに弱いって聞くぜ…?」

 

「押しは…してるわよ?…」

 

やり過ぎなくらい。

 

きーんこーんかーんこーん…

 

「こら、席に座りなさい。出席をとるぞ…」

 

 

 

 

 

 

「シンジ君、その弁当少し分けて貰ってもいいかい?」

 

「え?」

 

昼時、弁当を食べようとしていたらカヲル君が話しかけてきた。

 

「いいけど…どうして?」

 

「小腹が空いてね。」

 

「はい…どうぞ。」

 

「シンジ君は優しいね。」

 

予備の割り箸を渡し、カヲル君と弁当をつつく。

 

「シンジ、弁当頂戴。」

 

「ああ、ちょっと待って。」

 

鞄からアスカ用の弁当を取り出す。

 

「はい、しっかり噛んで食べてね。」

 

「ありがとう、シンジ。」

 

すると、レイがアスカの肩を触る。

 

「…アスカ…一緒に食べましょう。」

 

「あ、良いけどちょっと待ってねレイ。相田ー!ちょっといい?」

 

ケンスケの席に向かうアスカ。

 

「え…どうしたんだ?アスカがオレに話しかけてくるなんて珍しいな。」

 

「あんた、あたしの写真で儲けてたでしょ?」

 

「ぎくり」

 

「いや、別に怒りはしないんだけど。」

 

「え?」

 

「あたしの写真で儲けたお金の半分、ヒカリにあげて欲しいんだ。」

 

「別に…良いけど…」

 

「ありがと、相田。」

 

「…ゴメン…」

 

「だから、怒らないって。」

 

ケンスケに笑いかけるアスカ、ただの天使。

 

「お礼になんか一個叶えてあげる。あたしに出来る範囲だけど。」

 

「え?なんで?」

 

「もう、シンジもそうだけど日本の男の子って変に遠慮するわね。あたしがそうしたいだけなのに!」

 

「…じゃあ今度から『相田』じゃなくて、『ケンケン』って呼んでくれるかい?」

 

「はぁ⁉︎」

 

「ゴメン、ふざけ過ぎた。」

 

「…別にいいわよ、け…ケンケン!これでいい⁉︎」

 

顔を真っ赤にしているアスカ。

 

(おいおいまじかよ…)

 

「…じゃあ…委員長にはオレが渡しとくから…」

 

「ありがと!頼むわよ、け…ケンケン!」

 

駆け足でレイの元へ向かうアスカ。

 

「……碇は幸せ者だな…」

 

 

 

 

 

 

NERV本部に向かうため、バスに乗る。

 

(確か前史は今日、綾波が自爆する事になるんだ。)

 

でも、今回はそんな風にはさせない。

 

「ねぇシンジ。」

 

アスカがシンジの左耳に囁く。

 

「ん?どうしたのアスカ。」

 

「…なんで渚が付いて来てんのよ。」

 

「分かんない。多分フィフスチルドレンになったとかじゃ無いかな。」

 

バスがジオフロント入り口に着く。

バスを降りる4人のチルドレン。

 

「…なぜあなたが付いて来ているの?」

 

カヲルに冷たく質問するレイ。

 

「今日から僕は君達の仲間になったんだよ、フィフスチルドレン渚カヲル。知らされてなかったの?」

 

 

 

 

 

ミサトの車。

その中にミサトと日向の2人。

 

「今回の件、マルドゥック機関の報告書は非公開になっています。」

 

「やっぱり…ね。」

 

「今回ばかりはお手上げです。」

 

「MAGIも全力をあげて彼のデータを洗ってるのにも関わらず、未だ正体不明。…何者なの?あの少年。」

 

「⁉︎…葛城さん!」

 

車窓の外に浮遊する物体を見つけた日向。

 

それと同時にミサトの携帯が鳴る。

 

「はい。…ええ、分かってるわ。私もたった今肉眼で確認したから。」

 

蒼い空に白い光を放ちながら浮かぶ二重螺旋構造の円を描くモノ。

 

使徒だ。

 

 

 

 

 

 

発令所に入るミサトと日向。

 

「遅いわよ、何をしてたの?」

 

少し怒ったような声を出すリツコ。

 

「言い訳はしないわ、状況は?」

 

「目標は現在大涌谷上空まで接近、定点回転を続けています。」

 

「…!…あなたは…」

 

「フィフスチルドレン、渚カヲルです。どうぞよろしく。」

 

 

エヴァ初号機、エントリープラグ内。

 

「…やはり…来たわね…」

 

「作戦通り行こう。」

 

「あたし、応援してるから!」

 

地上に配置されたエヴァ零号機。初号機がバックアップに付いている。

 

弐号機だけ、地下で待機である。

 

『膠着状態ですね、まず敵の攻撃手段が読めない事には…』

 

『青からオレンジへパターンが周期的に変化しています。』

 

『…どういうこと?』

 

『MAGIは回答不能を提示しています。』

 

『答えを導くにはデータ不足という訳ね。ただ、あの形が固定系では無い事は確かだわ。』

 

『先に手は出せない…か。レイ、シンジ君!しばらく様子を見るわよ。』

 

「いえ、来るわ。」

 

使徒の形が二重から一本の触手に変わり、零号機に向かう。

 

「…ッ!」

 

零号機と初号機がパレットライフルを斉射、全弾命中するが、効いた様子は無い。

 

「く…!やっぱライフルは効かない!」

 

プログナイフを構え、零号機に襲いかかろうとしている使徒に突き立てる。

 

しかし、効かなかった。

 

「…⁉︎」

 

そのまま侵食されていくプログナイフ。

 

(…なんでだよ⁉︎前は効いたのに!)

 

初号機ごと侵食されても困るので、プログナイフを手放す。

 

「ミサトさん!この使徒、ライフルもナイフも効きませんよ!」

 

「デュアルソーを出すわ!シンジ君、Cの883まで走って!」

 

「分かりました!」

 

大急ぎで射出されたデュアルソーに向かって走る初号機。

 

初号機を追うように触手を伸ばす使徒、それを止める零号機。

 

デュアルソーを手に取る。

 

「これなら…どうだッ!」

 

零号機を襲う使徒にデュアルソーを振り下ろす。

 

しかしこれも効き目がない。

 

「これでもダメか…ッうわぁ⁉︎」

 

使徒に突き飛ばされる。

宙を待った後、地面に叩きつけられる初号機。

 

「碇く…きゃあっ⁉︎」

 

零号機を押し倒し、侵食を始める使徒。

 

『レイ!』

 

ゲンドウが叫ぶ。

 

「うっ…うぅ…んあっ…だめ…っ…」

 

「綾…波…ぃ…ッ!」

 

叩きつけられたばかりで痛い体を起こし、デュアルソーを使徒に突き刺す。

 

紅い血が流れ、使徒が悲鳴をあげる。

 

「⁉︎」

 

(さっきまでまで効かなかった武器が…効いてる⁉︎)

 

しかし、デュアルソーもあっという間に侵食される。

 

「くそっ!」

 

侵食されたデュアルソーを手放すと、使徒を手で引きちぎろうと両手で触手を掴む。

 

「千切れろ…ぉぉ…お…っ!」

 

触手から血が飛び出る。

瞬間、右足に鋭い痛み。

 

「⁉︎」

 

痛みの方に目を向けると、使徒の触手に操られていたデュアルソーが初号機の足を切断していた。

 

バランスを失い、倒れる初号機。

トドメを刺そうと、デュアルソーが初号機の首に向かう。

 

「う、うわあぁぁぁ!!!」

 

『初号機の神経接続を切って!早く!』

 

ザシュッ…と鈍い音。

 

紅い血とともに、紫の頭が転がる。

 

「碇…君…!」

「シンジィ!」

 

『初号機パイロットの救出急げ!』

 

「はぁ…っ…はぁ…っ…」

 

間一髪。神経接続が切れたお陰で助かった。

 

「う…綾波……!」

 

(また…自分は何も出来ないのか…)

 

『使徒が…積極的に一時的接触を試みているの?エヴァと…』

 

『危険です!零号機の生体部品が侵されて…すでに5%融合されてます!』

 

「うっ…くぅ…痛…い…」

 

「あ、綾波ィイィ!!!!」

 

 

 

 

 

 

(…だれ?私?…エヴァの中の私…いいえ、違う。私じゃない…誰?あなた誰?)

 

『使徒…私たちが使徒とよんでいるヒト?』

 

〈私とひとつにならない?〉

 

『いいえ、私は私。あなたじゃないわ。』

 

〈そう、でもダメ。もう遅いわ…私の心をあなたにも分けてあげる。〉

 

侵食されていくレイ。

 

『ん…ぅん…あぁ…』

 

〈ほら、痛いでしょ?心が痛いでしょ?〉

 

『痛い…いえ…っ…寂しい、のね…』

 

〈…サミシイ?わからないわ。〉

 

『ひとりで…っ…いるのが…イヤ…なんでしょ?…私たちは…たくさんいるのに…ひとりでいるのが…!』

 

〈それをサミシイというの?でもね、それはあなたの心よ。〉

 

『わたしの…こころ…そうね、そうだわ…っ…』

 

〈気づいていたでしょ?ずっと前から。でもあなたはそれに気づかないふりをしていた。〉

 

『…………!』

 

〈そして、もっと醜い心にも。〉

 

『…みに、くい?』

 

〈碇君を、自分だけのものにしたい心。〉

 

『ちがう…わたしは…いかりくんのいもうとに…っ…』

 

〈碇君が、アスカと仲良くしているのを見て、アスカとキスをしているのを見て、あなたはどう思った?〉

 

『ちがう…っ…』

 

〈イヤだと思ったでしょ?〉

 

『ちがう…ちがうっ…!』

 

〈アスカが憎いと思ったでしょ?〉

 

『ちがう、ちがう…ちがうっ…!』

 

〈自分だけを見て欲しいと思ったでしょう?〉

 

『ちがうちがうちがうちがうちがうちがうちがうちがうちがうちがうちがうちがうちがうちがうちがうちがう』

 

〈寂しいから、いつもそばにいて欲しいと思ったでしょ?それがあなたの心。悲しみと切なさと憎しみに満ち満ちている、あなた自身の心よ。〉

 

『い、いやあぁぁぁぁぁぁぁぁ

ぁ!!!」

 

『『「レイ!!!」』』

 

ミサト、アスカ、リツコが悲鳴に似た声をあげる。

 

使徒の肉が膨張し、エントリープラグ付近を覆う。

 

『エヴァ弐号機の凍結を現時刻をもって解除…出撃だ。ロンギヌスの槍を装備させろ。』

 

『……はい!アスカ、聞こえたわね?行くわよ!』

 

「……はい!」

 

 

 

 

 

 

「綾波が…っ…くそ!また僕は何も出来ないのか⁉︎」

 

あの時、油断していたせいだ。

デュアルソーを使徒に操られる事を想定出来なかったから…!

 

その時、ロンギヌスの槍を持った弐号機が地下から上がってきた。

 

「…今すぐ助けるから…待ってなさいよ、レイ!」

 

「…アスカ!」

 

「どぉおりゃぁぁぁぁあ!!!」

 

紅の槍が投擲され、真っ直ぐ零号機と半融合した使徒に向かって行く。

 

使徒がA.T.フィールドを展開する。

 

しかし、ロンギヌスの槍はそれを容易く貫き、使徒を崩壊させた。

 

十字架の大爆発が起こる。

 

パターン青は、完全に消え去った。

 

『ロンギヌスの槍は?』

 

『第1宇宙速度を突破、大気圏を離れます!』

 

『…回収は、不可能というわけだな。』

 

その頃、零号機エントリープラグ内。

レイは泣いていた。

 

「…私…こんなに…汚かったのね…うふふ…あはははは…は…」

 

 

 

 

 

「レイ!」

「綾波!」

 

レイのいる病室に駆け込むシンジとアスカ。

 

レイはベッドに寝かされていた。

 

「よかった…レイ、無事だったのね!」

 

「もう気がついてたんだ、綾な…!」

 

返事がない。

 

(この感じ…前にも一回…)

 

「…?…なんで返事しないのよ?あんたが冗談なんて珍しいわね?」

 

(まさか…いやそんなバカな…⁉︎)

 

「ねぇ!返事しなさいよ!シンジもなんか言ってやっ…⁉︎」

 

振り返ると、シンジの青ざめた顔。

 

後ろからミサトが暗い表情で病室に入ってくる。

 

「そっとしておいてあげなさい、アスカ。」

 

「…ミサト?」

 

「リツコによれば…助けるのが少し遅すぎた、らしいわ。」

 

「…え?」

 

「心の最深部まで…限界ギリギリのダメージを受けたから…元に戻るのは…難しいって…」

 

「そんな…嘘よね…?レイ…?」

 

「………」

 

「そんな…嫌…うわあぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!」

 

 

 

 

 

 

「…ファーストの精神崩壊か…」

 

全てが青く見える病院の壁に寄りかかりながら独り言を呟くカヲル。

 

「今までのどんな世界でもあり得なかったことだ…」

 

セカンドチルドレンの泣き叫ぶ声が聞こえる。

 

「……シンジ君…」

 

 

 

 

つづく




満月・アキナ・カブラスアの公式設定↓
https://m.youtube.com/watch?v=SdSlLehrPvc&feature=youtu.be

本小説の『満月・アキナ・カブラスア』の設定

本名は『満月(みちげつ)・アキナ』

イギリスからの転校生で、東方projectの大ファン。

国籍はイギリス、しかし両親は日本人。

日本語は東方のゲームで覚えた。

日本に来てからは、アスカと交友を深め、アスカの『ラングレー』を真似て『ラブアスカ』を並び替えて『カブラスア』を名乗っている。

シンジとアスカが一線を越えることを一番楽しみにしている。


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最後のシ者

…NERV本部、人口進化研究所跡。

「…レイ…」

無機質な部屋。壁紙の貼られて居ないその部屋に、薬や医療系のものと思われる機材が隅に放置してある。

「……ッ…」

目を擦るリツコ。

(どうして…っ…)

部屋を移動する。

ガラス張りの水槽が壁一面に広がっている。その中はL.C.Lで満たされており、魂の存在しない大量のレイが裸のまま浮かんでいる。

「…ごめんなさい…レイ…」

小型端末のボタンを押す。
水槽の中のレイがバラバラになり、レイの形を失う。

「うぅ…うっ…くっ…」

床に崩れ落ちるリツコ。

(…娘みたいに…思ってたのに…っ…)

以前はそうでもなかった。
しかし、シンジへの恋愛感情の告白や楽しそうに夢の話をするレイの姿を見て、そう思い始めてしまった。

「ううぅ…っ…ううっ!…」

リツコはそのまま1時間はそこから動けなかった。


レイが精神崩壊した日の翌日。

 

布団の中、自責の念に駆られる。

 

(…あの時…僕が油断してたからこうなったんだ…)

 

(どこか…なんとかなると思い込んでたんだ…)

 

(僕は…誰も救えてない…前と同じだ…)

 

(トウジの妹とトウジを幸せに出来たと思えば、委員長が怪我してみんなを不幸にしてしまった…)

 

(アスカの精神崩壊を防いだと思えば…綾波がやられてアスカを不幸にした…)

 

(全部、僕の責任だ。)

 

アスカの目が覚めたらしく、自分の背中をつつく感触。

 

「…シンジ…起きてる?」

 

「うん、起きてるよ…」

 

「…あのね、今日は学校行きたくないの。」

 

「え?」

 

「だって…レイがあんな事になったのに、あたし達だけ楽しく学校に行くのはダメだと思うから…」

 

「…はぁ…とりあえず起きよっか…」

 

部屋を出る。

 

「グワァ!グワァ!」

 

「お早う、ペンペン。今ご飯作るからね。」

 

「あたし、ミサト起こしてくるわ…」

 

朝のご飯の用意。

冷蔵庫にたいしたものは入っていないようだ。

 

「ミサト〜朝よ〜!って、いない?」

 

散らかったその部屋にはその部屋の主が居なかった。

 

「シンジ、ミサトまだ帰ってきてないみたい…」

 

「昨日の使徒戦の後片付けでもしてるのかな…?」

 

初号機は大破、零号機は運用不能。

ミサトが残業に追われていることは、容易に想像できる。

 

「…昨日…いろいろ…あったもんね…」

 

下を向くアスカ。

心配と絶望、哀しみが混ざり合ったような顔をしている。

 

昨日はとても疲れた。

肉体的にも、精神的にも。

 

綾波レイ。彼女が精神崩壊するなんて夢にも思って居なかった。

 

それだけ…心が…成長していたということでもある。

 

「…今日のご飯…ふたりっきりだね。」

 

「うん…」

 

シンジの胸に飛び込むアスカ。

少し震えている。

 

「…ねぇ…シンジ…」

 

「…なに?」

 

「シンジは…いなくならないでよ…?」

 

「……だいじょぶだよ…僕はいなくならないから…」

 

「…やくそくだからね…」

 

 

 

 

 

 

バスに乗る。

バスに揺られているうちに、アスカは僕に寄りかかって寝息を立て始めていた。

 

「やあ、シンジ君。」

 

「カヲル君!」

 

途中の駅で、カヲル君が乗車。

 

「学校は行かないのかい?」

 

「うん…アスカが行きたくないって。カヲル君こそどうして学校に行ってないの?」

 

『次は、仙石原高原西、仙石原高原西…』

 

「終点のNERV本部に用があるんだ。シンクロテストに行くんだよ。」

 

「シンクロテスト?カヲル君が?」

 

「…ファーストが零号機から降ろされたからね…今の僕はフィフスチルドレン、エヴァ零号機専属パイロット渚カヲルってことさ。」

 

「零号機の…?」

 

「そう。」

 

「そっか…」

 

「ところで、君はどこに行くんだい?」

 

「えっと、カヲル君と同じでNERVまでなんだけど…綾波のお見舞いに行こうと思って…」

 

「ファーストのところか…」

 

「僕が行ったってどうにもならないのは知ってるけど…アスカがどうしてもって言うからね。」

 

「…君はよっぽどセカンドが好きなんだね…」

 

「…え…」

 

「大切にしなよ…たとえどんな犠牲を払ったとしても…たとえどんな罪を背負ったとしても…」

 

「カヲル君…?」

 

『次は、ジオフロント中央入口、ジオフロント中央入口…終点です。お忘れ物のない様にご注意下さい。』

 

「次だね…」

 

「あ、そうだ…アスカ、起きて!次だよ!」

 

「う〜ん…まだ眠い…」

 

「…もう、だからあれ程夜更かしするなって言ったのに…」

 

「だって…眠れなかったんだもん…」

 

『終点です。お忘れ物のない様、ご注意下さい。』

 

 

 

 

 

 

暗い部屋。壁にNERVの紅いマーク。

 

中央に一つの椅子があり、そこに座るリツコ。

 

後ろからゲンドウが問う。

 

「…何故ダミーシステムを破壊した。」

 

「………」

 

「答えろ、赤木博士。」

 

「…レイを…あんな事に利用したくないだけですわ…」

 

「…あれは只の人の形をした肉塊だ。」

 

「いいえ…あれはレイ…紛れもなく…綾波レイ…」

 

「…君には失望した…」

 

「…最初から…望みなんて無かった癖に…」

 

扉の閉まる音。ゲンドウの気配がこの部屋から消える。

 

「レイ…うぅ…」

 

 

 

 

 

 

「シンクロ、スタート。」

 

リツコ抜きのシンクロテストが行われる。しかし、既に手慣れているのでトントン拍子で作業は進んだ。

 

零号機とカヲルとのシンクロ率がモニタに表示される。

 

「…⁉︎」

 

「このデータに間違いはないな?」

 

「はい、全システムは正常に作動してます。」

 

「MAGIによるデータ誤差も認められません。」

 

冬月の質問に青葉と日向が答える。

 

「ふむ…」

 

「でも信じられません!いえ…コアの書き換えなしに零号機とシンクロするなんて…システム上あり得ないです!」

 

「でもこれは事実なのよ…まず事実を受け止めてから、原因を探ってみて。」

 

 

 

 

 

 

レイのいる病室、330号室へ向かう。

 

「…レイ…」

「綾波…」

 

レイは目を開けたままベッドの上で停止していた。

 

「…やっぱり…昨日と変わらないわね。」

 

「うん…」

 

レイの頭を撫でるアスカ。

 

「…ごめんね、レイ…あの時、もっと早く来れれば良かったんだけどね。」

 

シンジも、レイの頭を撫でる。

 

「……綾波、僕は君が起き上がるの、待ってるからね。」

 

 

 

 

 

 

 

「…ダメだわ。」

 

霧の中にある石像に立つカヲルを、双眼鏡で盗み見ているミサト。

 

「なんか呟いてるみたいだけど、ここからじゃ唇の動きが読めない。」

 

それも当然、今ミサトが乗っている車はカヲルの位置からかなり離れている。

 

「それにしても独り言を言うためにこんな朝っぱらから散歩なんて、危ないやつね。で、彼のデータ入手出来た?」

 

「ええ、伊吹二尉から無断で借用したものです。」

 

データの入った媒体を渡す日向。

 

「すまないわね、ドロボウみたいな事ばかりやらせて……なにこれ?」

 

「マヤちゃんが公表出来ない訳ですよ、理論上あり得ない事ですから。」

 

「エヴァとのシンクロ率を自由に設定出来るとはね…しかも自分の意思で……そろそろはっきりさせないといけないわね、彼の正体を。」

 

「そう思ってちょいと諜報部のデータに割り込みました。」

 

「…あっぶないことするわね。」

 

「そのカイはありましたよ、リツコさんの居場所です。」

 

 

 

 

 

 

暗い部屋。壁にNERVのマーク。

 

中央に一つの椅子があり、そこに座るリツコ。

 

後ろからミサトが問う。

 

「聞きたいことがあるの。」

 

「…よく来られたわね…ここでの会話、録音されるわよ…」

 

「構わないわ。あの少年、フィフスの正体はなに?」

 

「渚カヲル…彼の生年月日がセカンドインパクトと同じなのは…たぶん、あの日、あそこで、最後に生まれた使徒だからよ。」

 

「…まさか…全ての使徒はアダムから生まれたというの?あの日、人はアダムに何をしたの?」

 

「人は、他の使徒が覚醒する前にアダムを卵にまで還元(も ど)そうとした。その結果があのセカンドインパクト…事前に引き上げられたあなたのお父さんの調査隊のデータの中に、何らかの形で人の遺伝子を使おうとした痕跡があったと聞くわ…もし、それが秘密裏に実際に行われていて、その時生まれた使徒が人の形をしていて、それを委員会が手に入れたとしたら…」

 

「…まさか…っ⁉︎」

 

「そうすれば、全ての辻褄が合うとMAGIは言ってるわ。」

 

 

 

 

 

 

エヴァ零号機を見つめるカヲル。

 

「…すまないファースト。少し借りさせてもらうよ。さぁ、行こうか。アダムの分身…そしてリリンの下僕。」

 

カヲルの体が宙に浮き、零号機の目が光る。

 

「……すまない…シンジ君…」

 

 

『エヴァ零号機起動!』

 

『どういうこと⁉︎レイは⁉︎』

 

『330病室です!確認済みです!』

 

『じゃあフィフス?』

 

『いえっ…無人です!零号機にエントリープラグは挿入されていません!』

 

『そんなバカな…⁉︎』

 

『セントラルドグマにA.T.フィールドの発生を確認!』

 

『零号機⁉︎』

 

『いえ、パターン青!使徒です!』

 

モニタに〈13th ANGEL〉の文字。

 

(…やはり…フィフスか…)

 

『目標は第五層を通過!尚も降下中!』

 

『ダメです!リニアの電源切れません!』

 

『目標は第十層を通過!』

 

『ターミナルドグマに続く全隔壁を緊急閉鎖!少しでもいい、時間を稼げ!』

 

冬月の指令が飛び、隔壁が閉じられる。

 

しかし、隔壁は零号機により簡単に破壊されていく。

 

『…まさか、ゼーレが直接送り込んでくるとはな。』

 

『老人達は予定を一つ繰り上げるつもりだ…我々の手を使ってな。だが、思い通りにはさせん。エヴァ初弐号機発進準備だ。』

 

ミサトにゲンドウが命令する。

 

『…はい!』

 

『装甲隔壁はエヴァ零号機によって突破されています!』

 

『目標は第二十六隔壁を突破!』

 

『シンジ君、アスカ!目標の最下層への侵入は絶対に阻止して!どんな方法を使ってもよ!』

 

「目標って…零号機のことですか?」

 

『いいえ、阻止するべきは零号機を操っている方よ。人の形をした渚カヲルという使徒を殲滅するの!』

 

「…カヲル君っ…」

 

『いいわね!』

 

「分かったわ、ミサト!ほら、行くわよシンジ!」

 

「うん…っ…」

 

セントラルドグマを滑り降りて行く初号機と弐号機。

 

『第十八層に到達!目標と接触します!』

 

「カヲル君!」

 

零号機の右手を切り落とし、左手を掴んで壁に叩きつける。

 

零号機は目の光を失い、停止した。

 

「…待っていたよ、シンジ君。」

 

「どぉうりゃぁぁぁぁ!!!」

 

弐号機のプログナイフがカヲルに向かう。

 

A.T.フィールドが展開され、弐号機のプログナイフを拒む。

 

「A.T.フィールド…っ!」

 

「…僕も使徒だからね。」

 

『エヴァ全機、最下層へ到た…』ブツッ…

 

発令所との通信が切れる。

L.C.L.の海に落下するエヴァ三機。

初号機のアンビリカルケーブルが切れる。

 

「シンジ!零号機はあたしに任せて渚の説得を!」

 

「うん!」

 

カヲルを捕まえようと手を伸ばす。

 

「待て!カヲル君!」

 

カヲルがヘヴンズドアのロックを外す。

 

開かれる扉。

とうとう使徒がここまで辿り着いてしまった。

 

「…やはりこの世界でもリリスか…」

 

「カヲル君!」

 

「…!!」

 

カヲルに向かって伸びた初号機の右手をA.T.フィールドが防ぐ。

 

「…ぐっ…」

 

「…シンジ君…少し話をしないかい?」

 

「…?」

 

「この世界の君とはあまり話せていなかったからね。」

 

「この世界…?もしかしてカヲル君も僕と同じ…?」

 

「…そうだよ…これは4周目だ。」

 

「4周目?」

 

「そう。使徒の数が18の世界を二回、使徒の数が14の世界が二回。」

 

「使徒の数が18…?」

 

(僕のいた世界と同じだ…)

 

「…さて、本題に入ろうか。」

 

「本題?」

 

「まず初号機はまだS²機関を取り込んでないだろう?」

 

「…うん。」

 

「じゃあ、僕を喰え。」

 

「え⁉︎そんなの…」

 

「エヴァ初号機と弐号機の両方がS²機関を取り込んでないと量産機には勝てないんだよ。」

 

「そんなの…やってみないと…」

 

「…僕が経験した世界では、初号機だけがS²機関を取り込み、内蔵電源の切れた弐号機を守りながら、量産機と戦った時は、セカンドを守りきれず君たち2人が死んだんだよ。」

 

「だから両方が取り込んでないとダメなんだ。」

 

「……う…」

 

「…セカンドを守る為に…僕を喰うんだ。」

 

「…でもっ…」

 

「いいんだ…また逢えるよ、シンジ君。」

 

「僕は…君を失いたくないのに…」

 

「…天秤にかけるんだ、セカンドと僕、どちらを選ぶか。」

 

「そんなの…選べないよ…」

 

「そうか…じゃあ、僕の好きな様にやらせて貰うよ。」

 

勝手に初号機の口の拘束具が外れ、口が開かれる。

 

「⁉︎…何を…⁉︎」

 

「…エヴァが心を閉ざしていなくても…少しくらいは操れるからね…っ…」

 

「カ、カヲル君!やめてよ!」

 

「…さようなら、シンジく…」

 

ぐちゃ…

 

口の中に、鉄の味と、肉の感触が伝わり、その感触は喉を通り過ぎていった。

 

「…うわあぁぁぁぁぁあ!!!」

 

活動限界の表示が消える。

 

「シンジ⁉︎」

 

ピクリとも動かなくなった零号機がL.C.L.に沈む。

 

「…カヲル君が…っ…カヲル君が…っ…」

 

手の中に遺されたのは、紅く染まった黒いズボンを纏った下半身。

 

「シンジ…?…ッ⁉︎」

 

初号機の右手の中のものを見て青ざめるアスカ。

 

「…なによ…これ⁉︎…ウッ…げぇ…っ…」

 

『パターン青、消失!』

 

『やっと繋がったわね…シンジ君、アスカ⁉︎』

 

「…ミサト…さん…」

 

『使徒はどうなったの⁉︎』

 

「…殲滅、しました…」

 

『そう…分かったわ…帰還して頂戴。』

 

「はい…」

 

紅く染まった紫の巨人の右手。

 

「…ごめん…カヲル君…うぅ…」

 

 

 

 

 

 

つづく




今話、少し駄文感。

遅れすぎだろって?
…大変申し訳ありませんでした。
お詫びに感想と評価下さい。←お前は詫びる側だろ

あと、残り2話を切りました。


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DEATH³【ASUKADaisuke…】
世界の中心で愛を叫んだモノ


暗闇に浮かぶ十三のモノリス。
『SOUND ONLY』と書かれており、それぞれに番号がついている。

「…タブリス…ヘヴンズドアを開いたまでは良かったが、最後の最後で我々を裏切ったか…」

「彼を責めるのは間違っている…最初からこれが筋書きであったと考えればな。」

「左様。彼が最後の使徒であった事は事実…だが生命の継承者である事は何処にも記されておらん…我々の死海文書の中にはな…」

「最早アダムや使徒の力は借りぬ…補完は我々自身の手で行えという事だ………神も人もすべての生命がやがてひとつとなる為に。」

「滅びの宿命は再生の喜びでもある。今度こそその時が来た。」

「だがその前に一つ忘れてはならぬ事があるぞ…碇ゲンドウ…我らに背き、滅びを拒み…そして自らの補完を目論む者。エヴァ初号機と弐号機を神の域に導き、ロンギヌスの槍を許可なく使用不能にした者。」

「…彼には、死をもって償って貰おう。」



 

なぜ、みんなを僕は守れないんだろう。

 

綾波も、カヲル君も、委員長も。

 

アスカだって傷ついてる…

 

全部…僕のせいだ。

 

 

「……ンジ!…シンジ!」

 

「はっ!」

 

「ようやく起きたわね。もう9時よ!」

 

目が覚めると、アスカが自分に馬乗りになっている光景。

 

「…え?そんなバカな…」

 

枕元の小型デジタル時計を見ると、9時を過ぎていた。

 

「…え⁉︎大変だ…ご飯は⁉︎」

 

「あたしが作ったのよ!凄いでしょ!」

 

自慢気に胸を張るアスカ。

 

「…なんで起こしてくれなかったんだよ…」

 

「むっ…あたしはちゃんと起こしたわよ!」

 

「あ…ごめん…」

 

「さぁ、もう冷めちゃってると思うけど、ご飯食べましょ。」

 

最早、シンジとアスカの共同の部屋と化したアスカの部屋を出て、テーブルにつく。テーブルにはラップで包まれた2人分の食事。

 

「…!…アスカまだご飯食べてなかったの?」

 

「…うん…シンジが起きてくれなかったから…」

 

「待っててくれてたんだ。有難う。」

 

「…あんたのせいで死ぬ程お腹減ったんだから!許すけど!」

 

冷めてしまった味噌汁を飲む。

 

「…おいしい。」

 

「ホント⁉︎」

 

目を輝かせるアスカ。

 

「嘘は言わないよ。」

 

アスカの料理の腕は遥かに上がっている。

 

「…これであたしのグレード大幅アップね!」

 

実に嬉しそうである。

 

「…うん…そうだね。」

 

「……?」

 

「………」

 

「…どうしたの?変なものでも入ってた?」

 

「いや…昨日のことちょっと思い出しちゃって…」

 

「……渚のことなら仕方ないわ…あれはあんたが殺したんじゃなくて自殺だから。シンジは悪くない。」

 

「うん…頭では分かってるんだけどね。」

 

昨日の出来事。

カヲルが初号機を操り、初号機に自身の体を喰わせた。

 

これにより初号機と弐号機の両機がS²機関を手に入れた事になった。

 

ぴーんぽーん…

 

インターホンが鳴る。

 

「…はい葛城です。」

 

『よう、アスカ!』

 

「…アキナ⁉︎」

 

『上がっても、いいか?』

 

「ああ、全然大丈夫!上がって来ていいわよ!」

 

『お邪魔しまーす。』

 

私服を着ている満月さんが、部屋に入ってくる。

 

「如何して急にここに?」

 

「集団疎開だってさ。しばらく会えなくなるらしいから別れの言葉を言いに来たんだぜ。」

 

「それは…寂しくなるわね。」

 

「学校も休校。急すぎて笑えないぜ…それより、シンジ君とは上手くやれてるか?」

 

「…え⁉︎」

 

赤くなるアスカ。

 

「…いや、その本人の前で言うことかなそれ…?」

 

「ダメなのか?」

 

「常識的には。」

 

「ちっ…」

 

「舌鳴らさないでよ…」

 

ぴーんぽーん

 

「また来客だ…」

 

『鈴原です。』

『相田です。』

 

「鈴原…?け、ケンケンまで…?」

 

「お邪魔します!」

 

「お、来たかニバカ!」

 

「…なんやとぉ⁉︎」

 

「ちょっと…抑えてお兄ちゃん!」

 

トウジの服を引っ張っている女の子。

もしかしてこの子がトウジの妹…?

 

「よう、碇!」

 

「お早う、ケンスケ。」

 

「俺たちが全員集団疎開するって話は満月から聞いてるよな?」

 

「うん…寂しくなるよ。」

 

「おい碇、最近学校来とらんかったが、よっぽど忙しいんか?」

 

「…そんなところかな…」

 

「…えと…もしかして…あなたが碇さんですか…?」

 

トウジの妹と思われる女の子が話しかけてくる。

 

「うん、そうだよ。」

 

「えっとぉ…その…お兄ちゃ…兄がお世話になってます…」

 

「君の名前を教えてくれるかな?」

 

「あ、はい!…碇さ…碇サク…じゃなくて!…鈴原サクラです…!」

 

なにか緊張しているのか、滑舌が良くない様子。

 

「…よろしくね。」

 

「はいぃ!」

 

 

 

 

 

 

「じゃあな、碇!アスカ!」

「さいなら、碇さん!あすかさん!」

「ほんじゃまたな、碇!惣流!」

「シンジ君と仲良くしなよ、アスカ!」

 

彼らはそう言ってモノレールに乗り、第三新東京市を去った。

 

駅から家へ帰る。

 

「そうそう、朝ミサトに言われたんだけど、明日から本部に泊まり込みになるから荷物まとめないといけないんだって。」

 

「…もうそんな時期なんだなぁ…」

 

「…遂に量産機と戦わなきゃいけないのよね…」

 

家の鍵を開ける。

 

「…この家ともしばらくお別れか…」

 

「はーあ…やだわホント…」

 

いつもはペンペンが出迎えてくれる玄関。

 

「…ペンペンもいなくなっちゃったんだよな…」

 

ミサトさんが昨日の夜遅くに、ペンペンを預け先の人に渡していた。

 

悲しそうな、全てを分かっているような顔で、引き取られていった。

 

リビングのテレビをつける。

天気予報がやっている。

 

「ねぇ、シンジ。」

 

「…なに?」

 

「あのさ…ミサト今晩帰ってこないから…」

 

「うん?」

 

なんか嫌な予感がする。

 

「…えっち…しよっか…」

 

「…え⁉︎」

 

「やらないかっていってんの!拒否権は無いわよ…」

 

顔を紅潮させ、シンジを押し倒すアスカ。そのまま、上半身の服を脱ぎ始めた。

 

「…え、えぇ⁉︎」

 

年相応の胸を晒し、シンジの体に押し付ける。

 

「ちょ、18禁タグつけるわけにはいかないんだって!」

 

「…直接、書かなきゃ問題ないでしょ…」

 

「…中学生だよ⁉︎」

 

「RE-T◯KEもやってんだから問題ないわよ!」

 

「14年前の作品だよ⁉︎」

 

「もーっ!ぐちぐちうるさい!シンジは寝てればいいだけなんだから!寝るだけなら楽でしょ!」

 

「楽とかそういう問題じゃないよ⁉︎」

 

今度はシンジのズボンが脱がされる。

 

「わーっ⁉︎本当にダメだって!」

 

「…いいから黙ってなさい…」

 

アスカの唇で口が塞がれる。

 

「…ん…んぅ⁉︎…」

 

「…………」

 

「んんん…っ⁉︎」

 

「ぷはっ……」

 

「如何して…急にこんなこと…」

 

「…ゼーレとの戦いで…あたしやシンジが死んじゃったらもうできないでしょ?そういう事よ。」

 

「…アスカは…僕が守るよ?」

 

「どうせあんたは自分を犠牲にしても良いとか思ってるでしょ?」

 

「…それはっ……そうだけど…」

 

「…じゃあ尚更今ヤっといた方が良いわ。」

 

「…わかった…頑張るよ…」

 

折れて、アスカに従うことにした。

一度こうなればアスカは止まらない。

 

「…頑張んなくていいのよ、あんたは寝てればいいの。」

 

 

 

 

 

 

テレビは、バラライカを流し始めた。

 

どうしても、あの曲が頭にチラつく。

 

これが、風評被害ってやつか。

 

何も着ていないアスカの動きが止まる。

 

そのままシンジの胸に崩れて、身を委ねる。

 

「はぁ…はぁ…ごめん…シンジ…」

 

「…いいよっ…別に…」

 

「シンジ…大好きだからね…」

 

「うん…僕もだよ…アスカ…」

 

シンジの体から離れ、タオルケットを自分の部屋から持ってくる。

 

「…今日は…ここで寝よ?」

 

「うん…」

 

テレビと照明の消えたリビングで、2人はくっつきながらぐっすり寝てしまった。

 

 

 

翌朝。

 

 

 

バスルームでシャワーを浴びる。

シンジに背中を流してもらい、自分もシンジの背中を流す。

 

2人一緒にバスルームを出て、同じバスタオルに包まる。

 

「…バスタオルが…小さく感じるね。」

 

「うん…そうだね。」

 

体を拭いた後、シンジはいつもの制服を、アスカは黄色のワンピースを身につける。

 

「ミサト、今から迎えに来るって。」

 

「そっか、じゃあなんかその間に軽い物でも食べよう。」

 

「昨日の晩御飯食べてないもんね。」

 

冷凍庫の中に冷凍うどんが入っていたので、それを食べることにした。

 

「これって軽いのうちに入るのかなぁ?」

 

「ま、育ち盛りなんだから1玉くらい軽い軽い!」

 

結果、2人ともつるりと完食。

 

「…冷凍うどんはやっぱりいいわね。簡単に作れて美味い!すばらしい食べ物だわ!」

 

「…こんなに美味しいのも、きっとアスカが作ってくれたからだよ。」

 

「んなっ⁉︎あ、あんたバカァ⁉︎」

 

真っ赤になるアスカ。本当に可愛い。

すると、家の固定電話が鳴ったので、アスカが電話に出る。

 

「もしもし…ミサト?………うん、今から行く………荷物はできてるから……うん、急ぐ。待っててミサト。」

 

受話器を置く。

 

「…それじゃ…行こっか…」

 

「うん、行こう。」

 

そして、2人は思い出の詰まった家を飛び出した。

 

 

 

 

 

 

「おはよ。シンジ君、アスカ。」

 

「お早う!ミサト!」

「お早うございます…ミサトさん。」

 

手荷物を抱え、車の後部座席に座る。

車がいきなり動き出す。

 

「ちゃんと歯ブラシ持ってきた?」

 

「僕が持ってます。」

 

「着替えは?」

 

「それも僕が。」

 

「カードキーは?」

 

「それも僕ですね。」

 

「……アースーカー?」

 

「ひぃ⁉︎…ごめんなさい…っ…」

 

「あはは…別に良いんですよミサトさん。」

 

「だめよシンジ君!女の子を甘やかしてもロクなことないわよ!」

 

「…ミサトだって女の癖に…」

 

「…今なんて?」

 

「なんにも…」

 

ジオフロント中央出入口からジオフロントに降りて行く。

 

(…暫く、地上には戻れないんだよな…)

 

少し名残惜しく感じる。

 

 

 

 

 

 

「本部施設への出入りが全面禁止?」

 

NERVの発令所、オペレーター三人衆。

 

「第1種警戒態勢のままか?」

 

「何故?最後の使徒だったんでしょ?あの少年が…」

 

青葉に質問する2人。

 

「ああ、全ての使徒は消えたはずだ。」

 

コーヒーを立ち飲みしながら答える青葉。

 

「今や平和になったって事じゃないのか?」

 

「じゃあここは?エヴァはどうなるの⁉︎…先輩も、今いないのに…」

 

「…NERVは恐らく組織解体されると思う。俺たちがどうなるかは…見当もつかないな。」

 

(…自分達で粘るしかないのか…補完計画の発動まで…)

 

 

 

 

 

 

NERVの病室、330病室。

寝かせられたレイの布団が乱れていたので、直す。

 

「…レイ…いつ元気になるんだろう…」

 

「分からない…こればっかりは…」

 

目の死んでいるレイ。

起きる気配は全くない。

 

「…大丈夫よ、レイ。あたし達で補完は何とかするからね。」

 

「そうだよ綾波。自分のペースでいいんだから。」

 

自分達で出来ることは、声をかけてやることだけだ。

 

「…さて、そろそろ部屋に戻ろっか。」

 

「うん。じゃあね、レイ。」

 

 

 

 

 

 

 

MAGIの膨大なデータが保管されている場所。

 

メモリとメモリの間の幅は約1m程で、人が長時間入れる部屋ではない。

 

そこで時折、缶コーヒーを飲みながら、MAGIのメモリに接続したノートPCを弄るミサト。

 

「そう…このためにエバーが13体必要だったのね…出来損ないの群体としてすでに行き詰まった人類を完全な単体としての生物へと人口進化させる補完計画、まさに理想の世界ね。」

 

(加持君の…リョウジの予想通りになったって事か…)

 

「その為にまだ委員会は使うつもりなんだわ…NERVではなく、あのエバーを。」

 

 

 

 

 

 

NERV第1発令所。

警報が鳴る。

 

『通信機能に異常発生!外部との全ネット情報回線が一方的に遮断されています!』

 

「左は青の非常回線へ切り替えろ!…そうだ、衛星を開いても構わん!」

 

「全ての外部端末からデータ侵入!MAGIへのハッキングを目指しています!」

 

「やはり目的はMAGIか…」

 

青葉のデスクモニタを覗き込む冬月。

 

「侵入者は松代のMAGI2号か?」

 

「いえ、少なくともMAGIタイプ5…ドイツと中国、アメリカからの侵入が確認できます!」

 

「…ゼーレは総力を挙げているな…彼我兵力差は1対5…分が悪いぞ…」

 

「第4防壁、突破されました!データベース閉鎖!」

 

「ダメです!侵攻をカットできません!さらに外郭部侵入!予備回路も使用不能です!」

 

「…まずいな…」

 

(MAGIの占拠は本部のそれと同義だからな…)

 

 

 

 

 

 

NERVからシンジに与えられた部屋。

アスカがシンジの膝に頭を乗せている。

 

「シンジ…」

 

「何?」

 

「頭…撫でて…」

 

「わかった。」

 

頭を撫でる。最近あまりしていなかった行為。

 

「…えへへ…」

 

とても嬉しそうな表情をするアスカ。

起き上がって両手をシンジの背中に回す。

 

「…あったかい…」

 

「アスカもあったかいよ。」

 

そう言ってシンジはアスカを抱き返す。

 

「ふふふ…」

 

幸せな時間。アスカと触れ合う、至高の時間。

 

「大好きだよ…アスカ。」

 

「あたしも…シンジが大好き。」

 

 

 

 

 

 

 

再びNERV第1発令所。

 

『状況は⁉︎』

 

受話器からミサトの声。

 

「先程第2東京からA-801が出ました!」

 

『801?』

 

「特務機関NERVの特例による法的保護の破棄、及び指揮権の日本国政府への委譲です。…最後通告ですよ。現在MAGIがハッキングを受けています。かなり押されてますよ!」

 

「伊吹です!今赤木博士がプロテクトの作業に入りました!」

 

背後からリフトエレベータの音。

振り向くと、それで上がってきたミサト。

 

「…リツコが⁉︎」

 

MAGI、カスパーの中。

 

「…必要となれば捨てた女でも利用する…エゴイストな男ね。」

 

PCにコードを打ち込んでいくリツコ。

 

「…なのに私…まだそんな男の言うことに従ってる…バカなことをしてるわね……」

 

再び第1発令所。

 

「…あとどのくらい?」

 

「間に合いそうです。120ページ後半まであと1分半、一次防壁展開まで2分半程で終了しそうです。」

 

「流石は赤木博士ですね。」

 

「安心してる場合じゃ無いわよ。MAGIへの侵入だけで済むような生易しい連中じゃ無いわ。」

 

「MAGIは前哨戦に過ぎん…奴等の目的は本部施設及びエヴァ三体の直接占拠だな。」

 

「MAGIへのハッキング、停止しました!Bダナン型防壁を展開、以後62時間は外部侵攻不可能です!」

 

 

 

 

 

 

暗い部屋、13のモノリスが浮かんでいる。

 

「…碇はMAGIに対し、第666プロテクトをかけた。この突破は容易では無い。MAGIの接収は中止せざるを得ないな。」

 

「できるだけ穏便に進めたかったのだが…致し方あるまい。本部施設の直接占拠を行う。」

 

 

 

 

つづく




あと1話の予定っす。
ここまで長かった…
一言付きで評価下さい。お願いします。
感想も欲しいっすね。(強欲)

アンケートの答えの理由を活動報告によろしく。
https://syosetu.org/?mode=kappo_view&kid=259573&uid=347391


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まごころを、君に

吸い込まれるような青い空。
空気を振動させる蝉の鳴き声。
人の気配のない第三新東京市。

それらを全て掻き消すかのように、
それが二度と元に戻らないかのように。

閃光。
都市が赤い光に包まれる。

抉られる大地。
遅れて、轟音と衝撃波。

24層の特殊装甲を一瞬で消しとばす。

ジオフロントに落下していく瓦礫。

空が見えるようになったジオフロント。

大量のミサイルが、ジオフロント底面に突き刺さる。

間髪入れず、大量の重戦闘機が山蔭から飛び出し、ジオフロントへ飛んでいく。


NERV発令所に響く轟音。

 

「…ッッ…何が起こったの⁉︎」

 

頭を押さえながら冷静に状況の確認を試みるミサト。

 

「…N²航空爆雷です!全装甲板消滅!」

 

「…来たわね…」

 

冬月が静かに指令を出す。

 

「総員…第1種戦闘配置。」

 

「戦闘配置⁉︎…相手は使徒じゃ無いのに……同じ人間なのに…」

 

『大観山第8から17までのレーダーサイト沈黙!』

『特科大隊強羅防衛線より侵攻してきます!』

『御殿場方面からも2個大隊が接近中!』

 

「…向こうはそう思っちゃくれないさ…」

 

 

 

 

 

 

突然、シンジ達の部屋に轟音が響く。

 

「…⁉︎…なに⁉︎」

 

すると、警報。

 

『総員、第1種戦闘配置。繰り返す…総員、第1種戦闘配置。』

 

「…戦闘配置⁉︎」

 

「戦自だ…!」

 

大急ぎでタオルケットから飛び出て、プラグスーツを着る。

 

「初号機は第七ケイジ…弐号機は第8ケイジだから…途中まで一緒に行けるわね。」

 

部屋を飛び出す。遠くから銃声と爆発音。

 

「もう上階に浸入されてる…急がないと!」

 

迷路のような廊下を走る。

 

「ここからだと第124番エレベータが近いわ!」

 

「でもそこはダメだ、多分止まってる!」

 

「なんで…?」

 

「上階のエレベータに繋がってるエレベータだからね……」

 

「そっか!…止まってないとエレベータから戦自が攻めれちゃうってことね!」

 

「そーゆーこと!」

 

ということで、第七、八ケイジに直接行ける非常用エレベータへ急ぐ。

 

ここからだとかなり距離があるが。

 

 

暫く走っていると、十メートルほど先の天井が膨らみ、爆発。

 

「まずい!戦自だ…!」

 

壁の裏に隠れるシンジとアスカ。

 

破壊された天井の穴から、戦自の隊員が3人現れる。

 

「…どうしよう…このままじゃ動けない…」

 

道は一本道。ここを通らないとこの階からはケイジに行けない。

 

(…前なら…ミサトさんがどうにかしてくれたんだけど…)

 

 

 

 

 

 

NERV第一発令所。

 

「シンジ君とアスカの捕捉急いで!奴らの目標がエヴァの占拠なら、パイロットが狙われるわ!第1層にベークライト注入、時間を稼いで!非戦闘員は第87経路にて第2発令所まで退避!グループ4を除く戦闘員は第7と第8ケイジ、第1発令所の防衛に集中!正面衝突は避け、止むを得ず戦闘をする場合はゲリラ戦で対応するのよ!」

 

冷静に正確な指示を出すミサト。

 

「グループ4はレイを零号機まで護送し、零号機に乗せた後、第8ケイジの防衛に回して!」

 

「しかし…操縦できる状態じゃありません!」

 

「構わないわ、匿うにはエバーの中が最適なのよ。レイの収容後は地底湖に隠して!すぐに見つかるけどケイジよりマシだわ!」

 

「…了解!パイロットの投薬中止、零号機発進準備!」

 

「52番のリニアレール、爆破されました!」

 

「…たち悪いな、使徒の方がよっぽどいいよ…」

 

(…無理も無いわ…みんな人を殺す事に慣れてないものね…)

 

 

 

 

 

 

330号病室。

 

プラグスーツを着せられたレイがストレッチャーに乗せられ、NERVの戦闘員に運ばれ病室を出る。

 

「第5ケイジだ!急ぐぞ!」

 

「了解!」

 

駆け足でケイジに向かう。

 

通路を曲がった所で、大柄な男に出くわす。

 

「碇司令…⁉︎こんな所で何を…ぐわぁ⁉︎」

 

銃声。先程まで生きていたものたちが赤く染まる。

 

「…行くぞ、レイ。」

 

「………」

 

ゲンドウがレイの手を掴む。

レイは抵抗せず、そのままゲンドウに引きずられていく。

 

 

 

 

 

 

「いたぞ、エヴァパイロットだ!」

 

「まずっ!見つかった⁉︎」

 

戦自に見つかる。

遮蔽物を利用して逃げるが、徐々に追い詰められていく。

 

「ッこんちくしょぉ!」

「くそ!」

 

アサルトライフルの銃弾が壁に刺さる。

 

「…まずい…もう逃げ込める所がないよ!」

 

「シンジ…っ…」

 

遮蔽物のない廊下。

あるものといえば死んだNERV職員と血溜まりだけ。

 

「もう…駄目なの…⁉︎」

 

戦自隊員がこちらに銃を向ける。

 

絶望。そして諦め。

 

終わりは意外とあっさりしているものだ…

 

ここまでやって、結局これで終わり。

 

 

それは…嫌だ。

 

 

 

「うおぉぁぁぁぁ!!!!」

 

「シンジ⁉︎」

 

突撃。

勝算なんてない。

ただ、感情だけの突撃。

 

戦自隊員が銃の引き金を引こうとしている。

 

 

せめて…アスカの逃げる時間だけでも稼ぐ…!

 

瞬間、戦自隊員の顔がひしゃげる。

 

 

パンッ…と乾いた銃声が響き、戦自隊員が倒れる。

 

壁に飛び散る脳髄と血潮。

 

「うわぁ⁉︎なんだこぃ…っ…」

 

銃声と共に全滅する戦自隊員。

 

「⁉︎」

 

「…よう、無事だったか?シンジ君。」

 

目の前に現れたのは、無精髭の男。

 

「「…加持さん…⁉︎」」

 

「…どうやら 酷いことになってるな、大丈夫か?」

 

 

 

 

 

 

「初号機、弐号機パイロットの所在位置を捕捉しました!」

 

モニタに映るのは、走っているシンジとアスカ、加持の3人。

 

「…加持⁉︎」

 

「所在位置はルート512です!」

 

「…なんで加持があんな所に…⁉︎」

 

どうやら2人を護衛しているらしく、戦自隊員を倒しながら進んでいる。

 

「!…第3層に浸入者、防御できません!」

 

戦闘はミサトに動揺する暇を与えない。

 

「なんですって⁉︎……っ…第3層までを破棄、全通路とパイプにベークライトを注入!」

 

「了解!」

 

 

 

 

 

 

エレベータが地球の核に近づいて行く。

 

行き先はターミナルドグマ。

 

ゲンドウに引きずられてここに来たレイは、エレベータの中でうずくまる。

 

ちん、と目的地に着いた音がして、扉が開く。

 

右手をゲンドウに掴まれ、強制的にエレベータを出る。

 

「立て、レイ。」

 

「………」

 

「立てと言っている。」

 

「………」

 

起き上がる。

 

「…付いて来い…」

 

 

カードキーを使い、リリスのいる部屋の扉を開く。

 

「…レイ、老人達は間違いなくここでサードインパクトを起こすつもりだ。いや、時は満ちた…起こさざるを得ないだろう。用意していたシナリオと多少違っていてもな。あとは、アダムとリリスの融合のみだ…」

 

 

 

 

 

 

「ようやく着いたな。」

 

第八ケイジ前に到着。

そこには、NERVの戦闘員が大量に待機していた。

 

「貴様…何者だ、所属は?」

 

加持に銃を向ける戦闘員達。

 

「えと、加持さんは敵じゃ無いんです!」

 

「サードチルドレン、それに根拠はあるのか?」

 

「彼はここまで僕らを護衛してくれました!」

 

「そうです!加持さんはあたし達を助けてくれたんです!」

 

「…わかった…通れ。銃は我々に。」

 

「はいはい。」

 

持っていた拳銃と装填用の弾を渡す加持。

 

ケイジの中に入ると、準備が整っている弐号機。

 

「じゃ、また後でね、シンジ。」

 

エントリープラグに乗り込むアスカ。

 

「うん、また後で。」

 

エントリープラグが弐号機に挿入される。

 

「加持さんはこれからどうするんです?」

 

「…考えてなかったな…」

 

「加持さんらしくないですね。」

 

「君達を助ける事で頭が一杯だったからね。」

 

「…じゃあ、ミサトさんの所に行ってあげて下さい。」

 

「え?」

 

「ここから直通で行ける筈です。」

 

「オレは部外者だぞ?」

 

「こんな非常時にそんなこと言ってられませんよ。」

 

「なかなかトンデモなことを言うんだな?シンジ君。」

 

「そうですかね?」

 

「…自覚ないのか…」

 

 

 

 

 

 

戦略自衛隊、臨時作戦本部。

 

「現在第3層と4層の黄色いやつは制圧下にあります。」

 

「紫のやつと赤いやつは?」

 

「防衛が堅く、部隊が壊滅してます。五分後に再度一斉攻撃をかける予定です。」

 

「…ちっ…」

 

「…おとなしく降伏すれば良いものを…」

 

「…!直下に高エネルギー反応!」

 

「なにぃ…っ⁉︎…」

 

閃光。

地面が膨れ上がり、破裂する。

 

消し飛ぶ臨時作戦本部。

 

十字架状の爆発が起こり、姿を現すエヴァ初弐号機。

 

『…!まずい、エヴァンゲリオンだ!作戦本部がやられた…!』

 

『慌てるな、戦力はまだ残ってる!』

 

重戦闘機がミサイルを放つ。

 

爆発で空気が揺れ、エヴァが見えない程の弾幕が命中する。

 

『どうだ⁉︎』

 

しかしエヴァにはA.T.フィールドがある。

 

『ぐわあぁぁぁぁ⁉︎』

 

弐号機に掴まれ、振り回された挙句、仲間の重戦闘機に衝突させられる重戦闘機。

 

爆発が起こる。

 

『くそ、何故効かん⁉︎』

 

戦車大隊が一斉射撃をするが、エヴァ初号機に踏み潰される。

 

『慌てるな…!赤のやつと違って紫のやつは無限に動けない筈だ!ケーブルがついてないなら残り5分で活動停止するは…ぐわぁ⁉︎』

 

次々と落とされていく重戦闘機。

 

地底湖に浮かぶ護衛艦が全火力を初号機に命中させるも、初号機のA.T.フィールドで真っ二つになり、轟沈する。

 

『退避ーッ!退避ーッ!』

 

空から巨大なミサイルが二つ、弐号機にぶつかる。

 

しかし、爆発しても一切効いた様子はなく、戦車大隊を破壊し続けていてる。

 

『何故だ…何故効かんのだ…⁉︎』

 

『第2戦車隊、全滅!』

 

『航空隊の増援を呼べ!今すぐだ!』

 

『ダメです、通信途絶!何者かにハッキングされています!』

 

『なんだと⁉︎例のスーパーコンピュータか⁉︎』

 

『いえ、これは…』

 

 

 

 

 

 

「…今頃戦自は焦ってるだろうな…」

 

小型の電子機器を弄る加持。

 

「ふぅ…これで少しは時間が稼げる…」

 

エレベータの扉が開く。

 

「よぅ!葛城、増援に来たぞ。」

 

「加持⁉︎なんでここに⁉︎」

 

「…加持君、君は部外者の筈だが?」

 

「いやぁ…これでも元NERV職員ですからね。」

 

「戦自からのスパイやってた癖によく言うわね!」

 

「………」

 

嫌な沈黙。

 

沈黙を破ったのは、爆発音。

 

「⁉︎」

 

「もう戦自がここまで⁉︎」

 

下を覗くと、戦闘班が爆発により壊滅していた。

 

「…なんてこと…」

 

 

 

 

 

 

「どうぉりゃあぁぁあ!」

 

弐号機のA.T.フィールドが、戦車隊を吹き飛ばす。

 

背後から迫った重戦闘機も、蹴り飛ばされ地面に激突、爆発する。

 

「こっちには…一万二千枚の特殊装甲と…A.T.フィールドがあるんだからっ!」

 

弐号機を大量の誘導ミサイルが襲うが、A.T.フィールドに阻まれる。

 

「あんた達にぃ…!負ける訳無いでしょ!!」

 

地を蹴り、空を舞う弐号機。

 

着地した先の自走式多連装ロケット弾発射機群を蹴散らしていく。

 

「どう⁉︎シンジ!凄いでしょ!」

 

「確かに凄いけど…戦闘中なんだから、僕より敵に集中した方がいいと思うよ?」

 

「…ごめん。」

 

 

 

ゼーレの最高責任者、キールが呟く。

 

「…忌むべき存在のエヴァ…またも我々の妨げとなるか…やはり毒は、毒を以て制すべきだな…」

 

 

 

箱根上空。

 

9つの全翼機にそれぞれ搭載されている白いエヴァ。

 

『KAWORU』と書かれた紅いプラグが、白いエヴァに挿入される。

 

そして、全翼機から射出されると、翼を展開してジオフロントへ滑空していく。

 

空を飛ぶエヴァ量産機を見上げる初号機と弐号機。

 

「…エヴァシリーズ!…とうとう来たわね…」

 

「…うぷ…」

 

「!…シンジ、大丈夫?」

 

「いや…ちょっと前の事思い出しちゃっただけだから…」

 

「そっか…でも今回は前とは違うわよ、S²機関を搭載した弐号機と初号機、前回よりは安定したメンタル!そして何よりシンジがいる!今のあたし達は最強よ!」

 

「うん…ありがとう。」

 

 

 

 

 

NERVの最深部、ターミナルドグマ。

 

「…お待ちしておりましたわ。」

 

「…赤木博士…」

 

「…!…」

 

ゲンドウに銃を向けるリツコ。

 

「レイを離しなさい、従わなければ殺すわよ。」

 

「…そのちっぽけな拳銃でかね?」

 

「…ええ。あなたには相応しい末路だわ。」

 

「残念だが…それは不可能だ。レイには計画に協力してもらわなければならないからな。」

 

「そう…では死になさい。」

 

引き金を引くリツコ。

 

しかし、弾丸は光の壁に阻まれた。

 

「⁉︎…A.T.フィールド!」

 

「赤木リツコ君。」

 

ゲンドウの左掌には、火傷と何かの眼。

 

「…アダム!人を捨てたのね!」

 

「…今まで君は、本当によくやってくれていた。」

 

「…ッ!」

 

「愛していた。」

 

銃声が響く。

 

「…撃った…わね…母さんにも撃たれたこと…ないのに…っ…」

 

倒れるリツコ。

 

「……ぁ…」

 

目を見開くレイ。

 

「行こう、レイ。」

 

「……レ…ィ……」

 

「………ぁ…ぁ…」

 

「………」

 

 

 

 

 

 

「…S²機関搭載型を9機全機投入とは…大袈裟すぎるな。」

 

戦闘音の響く発令所で、呟く冬月。

 

「…まさかアレをここで起こすつもりか⁉︎」

 

 

 

 

 

 

戦自隊員を踏み潰す白い足。

 

背中に羽が収容され、ニヤリと嗤う。

 

ウナギのような顔をしたエヴァ9機は、両刃の剣をそれぞれ装備している。

 

「作戦は確か、各個撃破でプラグを引っこ抜くのよね。」

 

「うん、僕は右の4体を、アスカは左の5体をよろしく。」

 

「りょーかい!」

 

アスカとは逆方向に駆け出し、自身の目標の頭を潰す。

 

「この!」

 

活動を止めたエヴァの装甲を剥がす。

すると、背後から両刃剣で突かれそうになる。

 

「!」

 

素早く躱すと、両刃剣が停止したエヴァを貫く。

 

「今だ!」

 

両刃剣が抜けなくなり、動けない量産機の装甲を殴り、破壊。

 

そのままの勢いでプラグを引っこ抜く。

 

すると、量産機の動きが止まる。

 

「よし!」

 

そして、両刃剣が突き刺さったまま停止している量産機のプラグも引き抜く。

 

「これで2つ!次!」

 

 

 

 

 

 

戦闘班が敵の数を減らしてくれていた為、発令所の十数人だけでなんとか捌けている。

 

「マヤ!ロック外して!」

 

「でも私…銃なんて撃てません!」

 

しかし、マヤは銃を撃てずにいた。

 

「訓練でやっただろ⁉︎」

 

「訓練の時は人なんて居なかったんですよぉ⁉︎」

 

「…バカ!撃たなきゃ死ぬぞ!」

 

「日向君、敵の増援は⁉︎」

 

「今の所…監視カメラには確認できません!」

 

「ということはあそこにいる奴らを倒せば勝ちね…!」

 

「葛城…オレの出番は…」

 

「あんたは部外者なんだから下がってなさい!」

 

「…はい…」

 

「あっちこっち爆破されてるのにここは手を出さないか…」

 

「当然ですよ、ここにはMAGIのオリジナルがありますからね!」

 

「連中も無傷で手に入れたい筈です。」

 

 

 

 

 

 

(何を、してるの…)

 

レイのプラグスーツが脱がされ、ゲンドウが囁く。

 

「アダムは既に私と共にある。ユイと再び逢うには…これしかない。アダムとリリスの、禁じられた融合のみだ。」

 

ゲンドウの左手が、レイの胸にめり込んでいく。

 

「A.T.フィールドを、心の壁を解き放て。不要な体を捨て、欠けた心の補完を…」

 

(…痛い…苦しい…何を…されているの…?)

 

「さぁ、私をユイのところへ導いてくれ…レイ。」

 

(何を…しているの…私は…)

 

腹にめり込んだゲンドウの左手を掴む。

 

(…こんな手…リツコさんを傷つけた手…そんなの…)

 

「いらない。」

 

「レイ…⁉︎」

 

銃声が響く。

ゲンドウの表情が、苦しみに満ちる。

 

「…っ…ぁ⁉︎」

 

撃ったのは、リツコであった。

 

ゲンドウの左手を自身の体から引きずり出すと、ゲンドウは床に崩れ落ちた。

 

「リツコさん!」

 

リツコに駆け寄るレイ。

 

「…レイ…治った、のね…」

 

「リツコさん!今助けを…」

 

「…構わないわ…どうせ私は…助からないもの…」

 

「そんなこと言わないで!」

 

「最期に頼みがあるわ…」

 

「リツコさんは死なない!私のお母さんになってもらうの!」

 

「…どうして…最期の時は…素直に聞いてくれないの…」

 

「だから死なないんだってば!」

 

子供のように泣きじゃくるレイをそっと抱き寄せる。

 

「…大丈夫よ…あなたの事は…天国で…いいえ、地獄かもしれないけど…」

 

「…えぐっ…うぅっ…」

 

「…ずっと…見守ってて…あげるわ…」

 

「…リツコ…さぁん…」

 

「…大好きよ…レイ…」

 

「うぅぅ…っ…ひぐっ…」

 

「だから…最期に…お母さんって…呼んで欲しいの…」

 

「…っ…おかあさぁん!」

 

「…なぁに?レイ。」

 

「…おかあ…さぁん!…」

 

「…ありがとうね…レイ…」

 

そう言って、リツコは息を引き取った。

 

「おかあ、さん…」

 

「………」

 

「…ぅぅぅう…」

 

 

 

つづく




…最終にしようとしたけど…文字量がエグくなるので…次最終という事で…

無様ですね、僕。


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REBIRTH²

NERV第一発令所の戦闘は、NERV側の勝利で終わろうとしていた。

 

「上の様子はどうなってるの⁉︎」

 

「えと、敵エヴァ量産機は4体が沈黙、初号機と弐号機は健在です!」

 

「なんとかなりそうね…」

 

銃声の数は、先程の三分の一程になっている。

 

 

 

 

 

 

「どぉうりゃあぁぁ!!」

 

ほとばしる血潮。

量産機の五体目を停止させる弐号機。

 

プラグを引っこ抜き、握り潰す。

 

「あと4つ!」

 

すると、残りの量産機が連携して弐号機に攻撃を始める。

 

「くぅ…!」

 

「アスカ!」

 

初号機が量産機の一体を殴り、大口から血を吐きながら停止する。

 

しかし初号機にはヘイトが向かわず、弐号機を攻撃し続ける量産機。

 

「ぐわぁあ゛ッ⁉︎」

 

量産機の剣が弐号機の胸を貫通する。

 

「アスカぁぁぁぁ!」

 

「…Scheiße!!」

 

量産機を蹴り飛ばす弐号機。

量産機は空高く飛び、地底湖に落下する。

 

フリーズし、一瞬動きの止まる量産機二体。

 

できた隙をシンジは見逃さない。

 

「うおあぁぁぁ!!」

 

量産機の一体の頭を潰し、停止させる。すると、最後の量産機が飛びかかってきたので、加粒子砲で焼く。

 

黒焦げになっても、動き続ける量産機。

 

口を開け、初号機の脚に噛み付くが、蹴り飛ばされて、頭の潰れた量産機に覆いかぶさるように倒れる。

 

 

 

量産機との戦いは、これにて決した。

 

「はぁ…はぁ…勝っ…た?」

 

「…どうやら…そうみたいだね…実感、無いけど…」

 

二体分のダミープラグを破壊する初号機。

 

「…なんだ…大した事…無いじゃん…」

 

時間にして、僅か四分。

意外と呆気なかった。

 

「勝ったんだ…あたしたち…」

 

「…ひとまずは、ね…」

 

倒れている弐号機の右の地面に座り込む初号機。

 

「戦自は撤退中みたいだね。」

 

「そうね。」

 

ボロボロになった重戦闘機がジオフロントを離脱していく。

 

空に吸い込まれていく重戦闘機。

 

青い空の頂上には熱い太陽。

 

「もう…昼時か…」

 

「お腹空いたわね。」

 

(…なにか…忘れてる気がする…)

 

先程まで戦闘に夢中だったため気づかなかった蝉の声が耳に入り込む。

 

(…歯磨きを…忘れた…?…いや違う…)

 

地底湖から巨大な水柱が立つ。

そこから現れる白の巨人。

 

「まずいっ!」

 

量産機を仕留め損なっていた。

初号機の体を起こす。

 

大剣を投げる量産機。

反射で初号機のA.T.フィールドでそれを防ぐ。

 

「⁉︎」

 

大剣の形が灰色の槍、ロンギヌスの槍に変わる。

 

「…ロンギヌスの槍⁉︎」

 

A.T.フィールドを破り、初号機の頭を貫く。

 

「ふぅっ⁉︎…ぎゃあぁぁぁぁあ!!」

 

「シンジ…⁉︎…シンジィイィ!!」

 

初号機が力を失ったかのように倒れる。

 

「イヤアァァァァァア!!」

 

 

 

 

 

 

銃声の鳴り止んだ発令所。

 

「エヴァ初号機!活動停止!」

 

「なんですって⁉︎S²機関を取り込んでいるっていうのに⁉︎」

 

「はい…活動限界です…」

 

モニタからはアスカの絶叫が聞こえる。

 

「…まさか…コピーしたロンギヌスの槍⁉︎」

 

「はい!パイロットの意識不明!」

 

「…シンジ君…っ…」

 

マヤのPCを覗き込み、青くなるミサト。

 

『………』

 

モニタを睨む加持。

 

『シンジィ!ゔわあぁぁぁぁぁ!!』

 

「…このままでは…アスカが持たない…」

 

 

 

 

 

 

(もう、誰も失いたくない。)

 

(もう、誰にもいなくなって欲しくない。)

 

(ずっと、一緒にいる。)

 

弐号機の背中の装甲が剥がれていく。

 

(シンジだけは…守る。)

 

「うおあぁぁぁぁ!!」

 

弐号機の背中から光の翼。

 

ジオフロントを光で包む。

 

(失わない…死なせない…)

 

「あああぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

 

 

 

 

 

「…羽⁉︎…あの時…(セカンドインパクト)と…同じ…!」

 

警報が鳴る。

 

「衛星軌道上より、接近する物体あり!」

 

「なんですって⁉︎」

 

「不味いな…ロンギヌスの槍か!」

 

苦虫を噛み潰したような顔をする加持。

 

モニタに映る、紅いロンギヌスの槍が剥き出しになった弐号機のコアの寸前で止まっている映像。

 

「「「「アスカ!」」」」

 

「…サードインパクトが始まる!」

 

 

 

 

 

 

「ロンギヌスの槍が月より還った。」

 

「遂に我等の願いが始まる。」

 

「だが弐号機パイロット…碇の義娘(むすめ)を乗せたままだ。」

 

「神が自ら時を選んだのだ…既に儀式は始まっている。」

 

「もはや引き返す事は出来ぬ…我々の意思でも…ましてや碇の意思でも。」

 

「箱舟の行き先はもう決まっている…裏死海文書、古代(いにしえ)より定められていた通りに……」

 

「些か数が足りんが…やむを得ぬ、エヴァシリーズを、本来の姿に…」

 

「我等人類に福音をもたらす真の姿に…」

 

「等しき死と祈りを以って人々を真の姿に…」

 

 

 

 

ダミープラグを失い、動けない筈の量産機が動き出す。

 

量産機の持つ大剣は、一本の槍に変化し、一本は弐号機の右手に、また一本は左手に突き刺さる。

 

量産機の羽が展開される。

 

十字に固定した弐号機を拘引しながら空に飛び立つ。

 

エヴァシリーズの羽の裏側に大きな眼の紋様が刻まれる。

 

 

 

『エヴァ弐号機、拘引されていきます。』

 

「…ゼーレめ、弐号機を依り代にするつもりか…」

 

 

 

「エヴァ弐号機に聖痕が刻まれた…今こそ中心の樹の復活を、我らが(しもべ)エヴァシリーズは、皆…この時のために。」

 

 

 

量産機の体が光り、青い空にセフィロトの樹を描いていく。

 

「エヴァシリーズ、S²機関を解放!」

 

「次元測定値が反転、マイナスを示しています!」

 

「観測不能!数値化出来ません!」

 

「…全ての現象があの時に酷似してる…!」

 

怯え、手が激しく震えているミサト。

震えている右手は、父の形見をしっかりと握り締めている。

 

「まさか…サードインパクトの前兆なの⁉︎」

 

 

 

 

 

 

最深部、ターミナルドグマ。

 

「…うっ…ふぅっ…ひっく…」

 

冷たい地面に座り、リツコの骸を抱きしめるレイ。

 

リツコの金髪は濡れている。

 

「…ひっく…うぅ…」

 

『レイ!』

 

「っ…んぅ…?」

 

『綾波!』

 

「…アス、カ…碇、君?」

 

リリスから自分を呼ぶ声が聞こえる。

 

「…行かなきゃ…」

 

足が地面から離れる。

上昇しながらリリスに近づいていくレイ。

 

「レ…イ……」

 

掠れた声でゲンドウが自分の事を呼んでいるが、無視する。

 

リリスの胸に飛び込む。

 

暖かい懐かしさが、そこにはあった。

 

「……ただいま…」

 

 

 

 

 

 

爆発。

撤退中の戦自ごと箱根の大地が抉れていく。

 

「作戦は失敗だったか…」

 

「こうなっては…もう…」

 

自分達の命を諦め、セフィロトの樹を見上げる戦自隊員。

 

彼らもまた、爆発に呑まれていく。

 

 

 

「…悠久の時を示す、赤き土の禊を以って…先ずはジオフロントを、真の姿に。」

 

 

 

警報が鳴る。

 

「直撃です!第1マルボルジェ融解!」

 

「第2波が本部周辺を掘削中!ジオフロント外殻が露呈していきます!」

 

『戦自主力大隊消滅!』

『エヴァ初号機、ロスト!』

 

「まだ物理的な衝撃波よ!アブソーバーを最大にして!」

 

「…遂に来たか、サードインパクト‼︎」

 

「分かっちゃいたが…ここまでとはな…」

 

モニタに映る、球状の巨大な黒い物質。

 

オペレーター達は言葉を失っている。

 

「人類の生命の源たるリリスの卵、黒き月…今更その殻の中へと還ることは望まぬ…だがそれも、リリス次第か……」

 

「!…ターミナルドグマより正体不明の高エネルギー体が急速接近中!」

 

「A.T.フィールド確認、分析パターン青!」

 

「…まさかっ…」

 

下を覗き込むミサト。

 

「使徒⁉︎」

 

「いや、違う!」

 

「ヒト!人間です!」

 

何も纏わないレイの形をした巨大な『ヒト』が床をすり抜けながら上へ上がっていく。

 

「‼︎」

 

発令所の天井をすり抜け、発令所からは見えなくなる。

 

「…あれは…レイ⁉︎」

 

 

 

 

 

 

海の、音がする。

 

潮の匂い、そんなものはない。

 

喉が苦しい、頬が濡れる。

 

右手が動く、包帯が巻かれている右手。

 

自身の首を絞めている者の頰を撫でる。

 

首にかかる負荷が消える。

 

『…気持ち悪い…』

 

口が動く。

 

知っている、目の前の少年はこの言葉が欲しいのだと。

 

『……アスカ…』

 

『…ん…』

 

唇同士が触れ合う。

 

舌と舌が口の中で接触する。

 

『ぷはぁっ…』

 

口を離すと、少年を抱きしめる。

 

『…あたしは…あんたのこと嫌い…でも、あんたはあたしのモノ。最期まで、一緒よ…』

 

嘘。嫌いではない。

 

寧ろ、赦したいという気持ちが大きい。

 

憎しみは、もう無い。

 

エヴァは無くなった。

 

憎しみの材料は、存在しない。

 

いつまでも少年に寄り添って居たいという欲求。

 

 

しかし、その欲求は死によって阻まれた。

 

少年は一人になった。

 

運動座りをして、顔を膝の間に埋めている。

 

泣かないで欲しい。

 

悲しまないで欲しい。

 

自分を傷つけるのはやめて欲しい。

 

すると、ファーストが現れた。

 

『…碇君、世界をやり直すわよ。』

 

は?…と思った。

 

何を急に言いだすのだ、こいつは。

 

『碇君に悲しんで欲しく無いの。』

 

『…綾波…』

 

『今から別の世界にあなたを飛ばすわ…』

 

『…もうエヴァには乗りたく無いのに…』

 

そいつを…死なせてやってよ…

 

エヴァから…開放してやってよ…

 

『…セカンドを取り戻すには…それしか無いわ。』

 

『…アスカを…?』

 

『ええ。』

 

何故…?

 

『………』

 

如何して…あたしを救おうとする…?

 

『…アスカ…』

 

『決まりね…行きましょう、碇君。』

 

『…………』

 

眩い光に包まれる世界。

 

自身の存在が、別の自分に吸われていく。

 

世界は、再構成された。

 

 

 

 

(これから、サードが起こるっていうの…?)

 

停止した弐号機の中で、考える。

 

(みんなは…どうなったの…?ミサトは…?加持さんは…?赤木博士は…?司令は…?シンジは…?…レイは…?)

 

穴の空いたように見える両手から視線を上げ、目の前の景色を見る。

雲の上に到達したらしい。

 

(…もうこんな高さまで…)

 

雲が盛り上がる。

姿を現わす巨大なレイ。

 

「綾波……レイ…?」

 

怖い。いや、気持ち悪い。

 

「…いやあぁぁぁぁぁあ!!!」

 

 

 

NERV第一発令所。

 

「エヴァシリーズのA.T.フィールドが共鳴!」

 

「更に増幅しています!」

 

「…レイと同化を始めたか…」

 

量産機の口から、レイの顔が生まれ出ていく。

 

『いやあぁぁぁぁぁあ!!もうやめてぇ!!』

 

絶叫するアスカ。

 

「心理グラフシグナルダウン!」

「デストルドーが形而下化されていきます!ソレノイドグラフ反転!」

「自我境界が弱体化されていきます!」

 

「アスカ…っ…」

 

日向のデスクモニタを見ながら青ざめるミサト。

 

「…これ以上は…パイロットの自我が持たんか…」

 

 

 

 

 

 

『これはあたしだ。』

 

〈あたしがあたしだ〉

 

『あたしはあたし。あんたじゃ無い。』

 

〈違う、あんたは偽り〉

 

『偽りじゃない!あたしは本物の惣流・アスカ・ラングレィよ!』

 

〈違う、あたしが本物の惣流・アスカ・ラングレーよ!〉

 

『本物のアスカはそんなにボロボロじゃない!』

 

〈本物のアスカはそんなに汚くないわ!〉

 

『このあたしが汚いって言いたい訳⁉︎』

 

〈ええ、本物はシンジなんかに処女を捧げることはしない…そんな汚い男に。〉

 

『シンジ”なんか”じゃない!汚くも無い!』

 

〈ふ…これを経験してもそう言える?〉

 

 

病室。

 

シンジが自分の体を揺さぶっている。

 

『ねえ、ねえ……アスカ……アスカ、アスカ!』

 

揺さぶりは強くなる。

 

『起きてよ!…またいつものように僕を馬鹿にしてよ!……ねえ!』

 

服がはだける。

 

胸が露出する。

 

シンジは顔を赤くすると、自分のモノを取り出し、擦りだす。

 

嫌悪感。

 

熱くべとべととした白い液体が、体にかかる。

 

『…気持ち悪い…』

 

〈ほら、やっぱり。〉

 

『それでも…あたしは…』

 

〈へぇ…まだあいつを擁護するんだ。〉

 

『…あたしは…シンジが好きだから…』

 

〈じゃあ、次もあるわよ?〉

 

『戦いは男の仕事!』

『良かったね、助かって。』

『動かないんだよ…』

『お手本を見せてあげるよ。』

『動かないから…どうしようもないんだ…』『ミサトさんも、綾波も怖いんだ。助けて……助けてよアスカ』『自分みたいで…?』『怖くなんかないよ!』

 

脳に響くシンジの声。

一つ一つが、自分を抉る。

 

『う…あぁぁぁぁぁぁぁぁあ!!』

 

〈ふん…ざまぁないわね…あたしのモノに手を出したからよ〉

 

 

 

 

 

 

ターミナルドグマの冷たい床。

 

「ユイ…」

 

目の前にいる女性の名を呼ぶ。

 

「私は…愚かだった…」

 

『…本当にね。』

 

「…ずっとユイは側に居たというのに…」

 

『ええ、そうよ。』

 

「ユイ…シンジのことは…済まなかった…」

 

『仕方ないわ…あなた、私がいないと何も出来ないものね。』

 

「許してくれ…」

 

『いいのよ。シンジは立派に育ったから。』

 

「ユイ…」

 

『あなた…』

 

パシャッ…

 

 

 

 

 

 

「パイロットの反応が限りなくゼロに近づいていきます!」

「エヴァシリーズ及びジオフロント、E層を通過!」

「尚も上昇中です!」

 

「…アスカ…」

 

浮遊する黒き月がモニタに映る。

 

「現在高度22万キロ!F層に突入!エヴァ全機健在!」

「リリスよりのアンチA.T.フィールド、更に拡大…物質化されます!」

「アンチA.T.フィールドが臨界点を突破!」

 

「…このままじゃ…個体生命の形が維持できなくなる!」

 

「…ガフの扉が開く…」

 

「世界の始まりと終焉の扉が遂に開くのか…」

 

「…!」

 

ミサトが目を見開く。

 

「お父さん…?」

 

虚空を眺め、呟く。

 

「葛城…?」

 

「お父さん…私、私…!」

 

「おい、葛城⁉︎」

 

パシャッ…

 

ミサトがオレンジ色の液体に変わり、床に飛び散る。

 

「葛城!葛城ぃ!」

 

背中を触られる感覚。

 

「…?」

 

後ろに居たのは、死んだ筈の加持の弟。

 

「…死んだんじゃ…なかったのか…」

 

パシャッ…

 

加持の形が崩れ、液体に変わる。

 

「葛城さん⁉︎」

 

動揺する日向。

 

「⁉︎」

 

すると、母がにっこりと微笑んできた。

 

「お袋…末期癌…治ったんだな…」

 

パシャッ…

 

椅子がびしょ濡れになる。

床に滴り落ちるL.C.L。

 

「…マコト…!」

 

目の前で消えた友の名を呼ぶ青葉。

すると、眼前に現れるエレキギター。

 

「…これは…オレが最初に弾いた…」

 

パシャッ…

 

 

「A.T.フィールドが…っ…みんなのA.T.フィールドが消えていく…」

 

「これが答えなの…?私の求めていた……サードインパクトの…」

 

自身の両手に別の人間の手が触れる。

振り返ると、そこにはリツコがいた。

 

「センパイ…」

 

「センパイ…センパイ…センパイ…!」

 

パシャッ…

 

 

 

 

 

 

初号機プラグ内…

 

「…サードインパクト…起きちゃった…」

 

「…止めれなかったのか…」

 

僕…やっぱり…駄目だな…

 

『シンジ君。』

 

現れる銀髪の少年。

 

「…カヲル君!」

 

『また、会えたね。』

 

「カヲル君!カヲル君!」

 

パシャッ…

 

 

 

モノリスが消えていく。

 

「よい…全てはこれでいい…」

 

満足した顔をしたキール。

 

「全ては…神の御心のままに…」

 

パシャッ…

 

 

 

空中から冬月に向かって飛んでくるユイ。

 

「ユイ君…」

 

ユイの手が、頰に触れる。

 

「全て…思い出したよ…」

 

「…何度も…ここで君と再会していた…」

 

「なのに私は…君が望んでエヴァに残った事を、ずっと碇に言わなかった…」

 

「許してくれ…碇…」

 

パシャッ…

 

 

 

 

 

〈思い知ったでしょ?あいつが如何に汚く、酷い人間だって事を〉

 

『はぁっ…はぁっ…』

 

〈だからあんたにはシンジは渡さないわ〉

 

『…シンジは…今のシンジは…違うもん…』

 

〈………〉

 

『違うんだもん…』

 

〈どこが違うってのよ?〉

 

『アスカが…2人?』

 

シンジが2人のアスカの前に降り立つ。

 

『!』

〈⁉︎〉

 

『シンジ!』

 

シンジに駆け寄る、傷のないアスカ。

 

『ねぇアスカ?どうしてアスカが2人いるの?』

 

〈…久し振りね…シンジ。〉

 

『!』

 

傷のあるアスカが、シンジを威圧する。

 

〈あんた…随分いい気になってるじゃない…〉

 

『もしかして…あのアスカなの?』

 

〈そうよ。〉

 

『あの時は…ごめん…』

 

〈謝って済むと思ってんの?あたしを見捨てた癖に。〉

 

『…ッ!シンジにそんなこと言ったらあたしが許さな…』

 

『いいんだ、アスカ。黙ってて。』

 

『でも…』

 

〈随分懐かれてるわね!偽物のあたしに好かれて楽しいの?〉

 

『偽物なんかじゃないよ。』

 

〈偽物よ!あたしの形をしてる偽物!〉

 

『違うよアスカ。取り消して。』

 

〈嫌よ!誰があんたの言葉なんか…〉

 

傷のあるアスカの両肩を掴む。

 

『アスカ…偽物なんかじゃないよ。』

 

〈だったら何よ!〉

 

『本物だよ。アスカは。』

 

〈じゃああたしが偽物って訳⁉︎〉

 

『違う。』

 

傷だらけのアスカを抱き締める。

 

〈ちょっ…〉

 

『ごめんね。もっと早くに気づいてあげられればよかったんだけど…』

 

〈…………〉

 

『今になって…ようやく気づいたよ。ずっと…アスカの中にいたんだね。』

 

〈…っ…〉

 

『僕がこの世界に来た、あの日から。』

 

〈………〉

 

『この世界のアスカの…魂として。』

 

〈…!〉

 

『君がアスカの魂で、こっちのアスカはアスカの心。』

 

『だから両方偽物なんかじゃなくて、僕の好きになったアスカなんだよ。』

 

〈シンジ…アンタって…ホンットバカね。〉

 

シンジを抱き締め返す傷だらけのアスカ。

 

アスカの傷が消えていく。

二人のアスカが融合する。

 

『シンジ…如何してここに来れたの…?』

 

『わからない…でも…』

 

『でも…?』

 

『アスカが…苦しんでる気がしたから…』

 

『そっか…』

 

抱き合う二人。

 

『…ありがとう…』

 

『いいんだよ…別に…』

 

『…アスカ。』

 

アスカの背後から声。

 

『…綾波…』

『レイ…』

 

『…何を、願うの?』

 

『え…?』

 

『あなたは今、神の領域にいる。願いは全て叶えることが出来るわ。』

 

『…じゃあ…世界を元に戻して。』

 

『…いいの?このまま溶け合っていれば、傷つかないのに…楽なのに。』

 

『だってここつまんないんだもの。ね、シンジ。』

 

『うん。』

 

『じゃあ、ここでお別れ。』

 

『…え?』

 

『私は人間じゃないもの。』

 

『ダメよ。』

 

『…!』

 

『レイも一緒に帰るわよ。』

 

『でも…』

 

『人間じゃないなら、人間になればいいのよ!』

 

『…!』

 

『行きましょ、レイ。』

 

『…うん。』

 

 

 

 

 

 

『アスカちゃん…』

 

…ママ?

 

『ありがとね、生まれてきてくれて…』

 

急にどうしたの…ママ?

 

『最後の話す機会だからよ…』

 

もう、逢えないの?

 

『…いつかきっと逢えるわ…』

 

あたし…これからどうすればいいの?

 

『それは彼と決めなさい…彼は良い人よ…心配しなくて良いわ…』

 

ママ…あたし、頑張ったかな?

 

『よく頑張ったわ。あなたは世界一の私の娘よ。』

 

…ありがとう…ママ…

 

『…さ、もう行きなさい。時間が無いわ…』

 

うん…さようなら、ママ。

 

 

 

 

 

 

電車に揺られる。

 

『次は、長浜…長浜…』

 

「ふぁ…」

 

欠伸をする赤眼の女性。

 

『お出口は、左側です。』

 

「んん…っ」

 

席から立ち上がり、ドアの前に立つ。

 

『扉が開きます、ご注意下さい。』

 

扉が開き、駅のホームに降り立つ。

 

「えーと、駅を出て左、駅を出て左…」

 

改札を通る。

 

「おーい、レーイ!」

 

「あ、アスカ!」

 

金髪の女性の方へ駆けていく。

 

「久し振り、アスカ。」

 

「もう2年だもんね…」

 

道を歩く。

 

「しっかしホント寒いわね…今マイナス2度だって。」

 

「相変わらず日本の8月(ふゆ)は寒くて…体が冷えて仕方ないわ…」

 

「アメリカどうだった?」

 

「その話は後でするわ。」

 

表札に『惣流』と書かれている立派な家に入る。

 

「お邪魔します。」

「ただいまー!」

 

「あ、レイ久し振り!」

 

台所から中性的な見た目の男性が顔を出す。

 

「ちょっとシンジ!『お帰り』は⁉︎」

 

「ご、ごめん!お帰り、アスカ。」

 

「それでいいのよ!」

 

「兄さん…可哀想。」

 

「わー!れいちゃんだー!」

 

とてとて、と部屋の奥から小さな女の子が走ってくる。

 

「あら、大きくなったわね。アカリちゃん。」

 

「そーよ、この子ご飯沢山食べるのよ。」

 

「アカリはね!れいちゃんとあそぶんだよ!」

 

「遊ぶー?何するの?」

 

「えっとね!えっとね!特殊相対性理論の矛盾とその理由であそぶの!」

 

「…へ?」

 

「あはは…アスカが英才教育仕込み過ぎちゃって…」

 

「えぇ⁉︎限度ってものがあるでしょ⁉︎」

 

「最初は止めたんだけど…」

 

「ゆぅ…?あそばないの?」

 

「あ、あそぶのはご飯のあとにしようか…っ?」

 

「はぁーい!」

 

 

 

 

 

 

「でさ、その大学の教授がね…」

 

「なにその人…最悪じゃない…」

 

「もーホント災難だったわよ。」

 

「そんなんで2年は辛いね…」

 

夜。アカリちゃんはもうぐっすりであるこの時間帯。

ビールを飲みながらくつろぐ三人。

 

「しっかし使徒との戦いからもう14年…早いもんねぇ…」

 

サードインパクト後、地軸の傾きが増し、紛争が再発するかに思われるも、ゼーレという共通の敵を見出した人類は、ゼーレに攻撃を集中。

数々の犠牲を払いながらも、なんとか勝利した。

 

「昨日の事の様に感じるわ…」

 

「NERVは解体されたから、エヴァの管理権は戦自に移ったんだもんなぁ。」

 

「なんか複雑な感じね…NERVの虐殺事件をやった奴等の所でミサトが働いてるなんて。」

 

「……時代は変わるって事だよな…」

 

「ええ…」

 

「…あ、シンジ、レイ!」

 

「「ん?」」

 

「雪降ってる。」

 

窓の外を見ると、白い雪が降っていた。

 

「こりゃ明日積もったらアカリが喜ぶわよ!」

 

「雪かきする羽目にならないといいけど…」

 

「ま、大丈夫でしょ!」

 

雪は、降り積もっていく。

 

三人が寝た後も、降り積もっていく。

 

外からは、蝉の鳴き声はしなかった。

 

 

 

 

 

 

終劇




終わった…長かった…
最初から最後まで駄文だったけど…
ここまで付き合って下さった皆様、本当にありがとうございました。
また修行して帰ってきます。

…てかカヲル影薄くね?


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いわゆる外伝。知らんけどw(途中でちからつきました)
憑。



お待たせしました。…え?待ってないって?

…知ってた…



 

 肉の、千切れる音がする。

 

 内臓が、食い破られる音がする。

 

 

 激痛、そして憎悪。

 

 

「殺してやる…殺してやる…殺してやる…」

 

 嫌になるくらい真っ青な空に、手を伸ばす。

 

 

 

 

 

 

 

 

 伸ばした腕が、二つに分かれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 自分に突き刺さる無数の槍を感じながら、死を悟る。

 

 最期に、自分が最も憎んでいて、最も愛している少年の幻影を見た気がした。

 

 

 

 

 

 

 自分は、どうやら死んでなどいなかったらしい。一度死を覚悟したというのに…なんだか拍子抜けだなぁ。そんな事を思いながら、瞼を開く。

 

 瞼を開いた先には、満天の星空が広がっていた。星空を見ていると、死ななくて良かったと少し思えた。

 

 体を起こしてみると、あちこちに激痛が走る。痛む右腕を見ると、包帯が巻かれていた。

 

 辺りを見回すと、自分の腰ほどの大きさの棒が紅い地面の上に乱立しており、目の前の棒にはカタカナで『アスカ』と彫ってあった。それが自分の墓であると理解すると、思い切り蹴る。木製の棒は、砕けて折れる。

 

 折れた墓から目を離し、再び周りを見渡す。

 

 暗闇のなか、不自然に真っ白な砂浜に仰向けになって寝転がっているあの少年を見つける。少年に近づく。彼は寝ているようだった。

 

 彼の左側に寝転がり、夜空を見上げる。いつかこんな風にこの少年と星空を見上げた事を思い出す。少年も目覚めたらしく、右耳に少年の起き上がる音が入り込む。

 

 少年が自分の上に乗り、自分の首を絞める。だが、彼になら殺されてもいいと思い、自分を殺そうとしている少年の頰を撫でる。すると、首にかかっていた圧力が消え、彼は泣き始めた。

 

「…気持ち悪い…」

 

 掠れたハリの無い声で、精一杯のいつもの様な罵倒の言葉を口にする。

 

「…っ…うぅっ…」

 

「………」

 

 少年を抱きしめ、震えている背中を撫でる。

 

「……あんたの事…あたし…大っ嫌いだけど…ずっと…側に居なさいよ…」

 

「……」

 

「…居るだけで…良いからぁ…っ…」

 

 気づけば、自分も泣いていた。

 

「…うっ…うぅ…ぁあっ…ひっく…うあぁぁ…っっ!」

 

 堪え切れなくなって、とうとう爆発してしまったのだ。今まで生きてきた14年分の…全てが。

 

 

 抱き付いた胸の中は、何処よりもひどく暖かかった。

 

 

 潮騒。

 

 彼の膝を枕にして浜辺に寝そべる。紅い波が、砂浜を紅く濡らすのをぼうっと眺めながら、温かい彼の膝に意識を向ける。

 

 ずっと求めていた心地よさ。誰かにもう一度与えて欲しかった心地よさ。

 

 母親が消えてから、二度と味わえないと思っていた心地よさ。

 

 潮騒の静かな音が、自分の瞼を重くしていく。寝返りをうちたくなったが、痛みが激しいのであまり動きたくない。

 

「…シンジ…」

 

 消え入るような声で少年の名を呼ぶ。

 

「………」

 

 彼はなんらかの言語障害が起きているようで、言葉を全く発さない。

 

「………」

 

「………」

 

 お互い何も話さない。世界に響く音は、潮騒だけ。

 睡魔が、疲れ切った自分を襲う。

 

「…おやすみなさい…ばかしんじ…」

 

 そして、自分は永き眠りについた。

 

 

 

 

 

 

 意識が戻った時、あたしはゲーセンにいた。日本にやって来て間もない頃、よく入り浸っていたあのゲーセン。

 

 体が全く言うことを聞かない。この感覚は…夢?いや、それにしては視界が明瞭すぎる。視界に見慣れた腕が写る。付けている腕時計から、間違いなく自分の腕だと確信する。

 

 これは所謂、走馬灯とやらなのだろうか?自分の体が自分の思ったことと違う動きをするので、頭が混乱する。

 

(ぐらぐらして…気持ちわるい…)

 

 ようやく体が動きを止める。どうやらクレーンゲームにチャレンジするらしい。

 

(あっ…これ、凄い難しいやつ…)

 

 コインを入れ、クレーンを動かす。ヌイグルミを掴むことに成功するが、取り出し口へ運ばれている途中に落ちてしまった。

 

(思った通り失敗…)

 

「ぐあっ!Scheiße! なによこの機械壊れてんじゃないの⁉︎」

 

 『自分の体』から勝手に発された声を聞いた瞬間、全てを思い出した。

 

(そうだ…アイツ…あの女の力を借りて、世界をやり直したんだった…)

 

『碇君、世界をやり直すわよ。』

 

 人形みたいなあの女の声が脳に響く。

 

(てことはこの体は再構築された、新たな『あたし』なんだ…)

 

「……あかん!ごっつ性格悪そうや。」

 

 背後から、聞き慣れた関西弁の声が聞こえる。この体も気づいて振り返ると、そこには3バカと…ファーストの4人がいた。

 

「…ちょっとぉ!あんた達さっきからなに見てんのよ!」

 

 再び声を発する新生のあたし。

 

「あっ⁉︎いやあの別にッ⁉︎」

 

「わ〜〜❤︎話しかけられちゃった!」

 

「「……」」

 

 何故、3バカとファーストが仲良く歩いているのだろうか。アイツとファーストは前の世界でも仲が良かったが、鈴原と相田とは仲は良いわけでは無かった。再構築された事によって世界が少々変化したのか?

 

 いや…それよりも一度神となったアイツが干渉した事による影響が大きいだろう。

 

「100円ちょーだい。」

 

 …え?ひゃ、100円…?

 

「へ?100円…?」

 

 鈴原が呆然としたアホヅラを晒している。もし今のあたしに顔があったとしたらあたしも同じ様な顔をしてるのかもしれない。

 

「ゲーム代無くなっちゃったのよ。安いもんでしょ?一人100円ずつ。パンツ見たでしょ?見物料よ!」

 

 なるほど、そういうことか。ん?…鈴原(コイツ)パンツ見ようとしてたか?

 

「なっ…⁉︎まだ見とらんわい!」

 

 見ようとしてんじゃないのこの変態が。てかさっきのデタラメ言ってたのに的中するとか…流石あたしとでも言うべき?

 

「だめよ。」

 

 ファーストが口を開いた。ファーストを軽く睨む新生のあたし。

 

「はァ?何よ100円くらい、いーじゃない!」

 

「私と碇君は関係ない。」

 

 後ろにいるオトコ…碇シンジを庇うようにあたしの…新生のあたしの目の前に立ち塞がるファースト。

 

 正直、気に入らない。苛々する。そこは本来あたしのいるべき場所なのに。

 

 弱いそいつを守るのはあたしの役目なのに。

 

「碇…?どっかで聞いたことあるわね、ああ、七光りのサードチルドレンか。…って事はあんたは綾波レイ?へぇー、ダッサい格好してるねぇ?」

 

 その制服、あたしも着ることになるんだけどな…そういえば日本に来た時は制服の概念理解してなかったなぁ…恥ずかしくて顔から火が出そうね。…今のあたしには顔なんかないんだけど。

 

「あなた、何者?」

 

「セカンドチルドレン、エヴァ弐号機専属パイロット、惣流アスカラングレィ。」

 

「こんの茶髪女!言わせておけば〜〜」

 

「お おいトウジっ!」

 

「ちょっとカワイイからってなチョーシこいてんやないぞ!」

 

 鈴原に左腕を掴まれる。触んな変態!…気持ち悪い。

 

「ギャーッ気安くさわらないでよっサルサルサル!放して!」

 

新生のあたしが、変態の腕を振り解こうと暴れると、右肘が背後の岩に激突。

 

…あれ?岩…?

 

「OH!NO!!」

 

 岩が…喋った?後ろを向く。そこにいたのは日焼けした大男。プレイしていたゲームがあたしの右肘がぶつかったせいで失敗したらしい。

 

「あ、ゴメン。」

 

 軽いな…あたし…

 

「ごめんで済むかいせっかく最終画面まで行ったんやぞ!どうしてくれるゥ!オーッ⁉︎」

 

 最終画面…それは本当にごめんなさい…あたしか弱い14歳の女の子だから許して〜

 

「泣かせたろかっ!」

 

 ツバ飛ばさないでよ汚い。

 

「やめろよッ!大人気ないッ!」

 

 …え?シンジ?

 

 動揺。シンジが大男とあたしの間に入ったのだ。あたしを庇うとは、いつの間にそんな格好良…生意気な事をする様になっているとは。

 

「シ、シンジぃ?」

 

 鈴原が目を丸くして間抜けな声を出す。ウザいから黙ってて欲しい。

 

「あぁ?なんだトォ?」

 

 大男がシンジを睨む。気迫に押されてシンジの背中が反るが、足はそこから逃げようとはしない。

 

「あっ…えと…その…」

 

 青ざめているシンジ。

 

(やめなさいよ…怖がってるじゃない…いい大人のくせに手加減ってものを知らないの?)

 

「泣かしたろかっ!!」

 

(やめろ、シンジに手を出すな。)

 

「あ…あう…っ」

 

「あぁ⁉︎」

 

(やめろッ!!!)

 

 その時、あたしの体では無いはずの肉体が、あたしの思った通りに動いた。

 

 あたしの細い脚から繰り出される回し蹴りは、大男の腹の中心を確実に捉えた。

 

「…がッッ…ああ゛」

 

 大男は蹴られた腹を抑えながら、真夏の熱いアスファルトに倒れこんだ。

 

「…ダッサ。それでもチン◯コついてんの?」

 

 その時、パトカーのサイレンの音が耳に入り込んだ。

 

(まずい、警察か…随分と早いお出ましね)

 

「げ、ケーサツ!」

 

 逃げなければ、と思ったがこのまま自分だけ逃げればシンジが巻き込まれてしまう。

 

「逃げるわよ!!」

 

 そう指示を飛ばして、その場から離れる。

 

(…あれ?今あたし自分で…この肉体のコントロールを乗っ取った…?)

 

 そう。たった数十秒間ではあったが、新生の自分の体を乗っ取っていたのだ。

 

(どういう…事なんだろう…)

 

 自分が何をしたのかよく分からないまま、肉体はゲームセンターから離れていった。

 

 

 

 

つづく





…なんか勢いではじめてまった…
短めで終わらせる予定ではあるが、なんか長くなりそうで不安。

本当につづくのかどうかもよくわからない。

とりあえず慣れない書き方は良く無いね。


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赦。

空白の16日間。
なんも言い訳が言えねぇ…



 

 …この世界にやってきて3日が経った。新生のあたしは前史のあたしと同じようにネルフの寮で一人暮らしをしている。

 

 食事は基本的にネルフのカフェテリアでとり、午前中は中学校に通って、放課後などの暇な時間はゲーセンに行ってクレーンゲームに再挑戦してみたり、エヴァの操縦の訓練をしているようだ。

 

 もちろん中にいるあたしも何もしていないわけではなく、自分が何をできるのか試してみた。

 

 この3日間で分かった事としては、

 

・新生のあたしが寝ている起きているに関係なく眠る事ができ、いつでも外の情報をシャットアウトできる。

 

・強く念じれば新生のあたしの思考にごく僅かな影響を与える事ができる。

 

 この程度のことだった。しかし分からないのは、3日前のあの時のこと。

 

 一時的に新生のあたしの体の主導権を奪い、自分の肉体として操れたのである。

 

 あの時のようなことはあれ以来出来なかったし、発生条件がまるっきり分からないので今もその事について考え続けている。

 

(…考えろ…あの時、あたしが何をしたか思い出せ…)

 

 この肉体のコントロールを取り戻せれば、シンジの手助…違う、あの憎っくき使徒共や、量産機を叩きのめせる。

 

(そうなれば、再びあたしが最強のエヴァパイロットになれる…そうすれば…みんなに褒めてもらえる…そうすれば………)

 

(何、考えてんだろ…バカらし…あたしらしくもない。)

 

 脱線した思考を強制的に完結させて、再び体のコントロールを奪取する方法を考える。

 

 新生のあたしが寝ている夜のうちは、あたし自身の思考の時間だ。外部からの刺激が無いので、考える事に集中できる。

 

 突然、視界が開けて思考が強制的に中断される。

 

(…もう朝か…早いもんね)

 

 新生のあたしが起き上がり、照明のスイッチを入れる。パジャマを脱ぎ捨て、気に入っているらしい黄色のワンピースに着替え始めた。

 

(あーあ、お腹減った…)

 

 新生のあたしとは感覚を共有しているため、早くご飯を食べて欲しいと思う。

 

 大量のダンボールが積み上げられている個室から出て、廊下を進む。

 

 体が向かう先は、カフェテリア。

ここからは少し遠い。早くご飯を食べたいのに、毎朝このカフェテリアまでの遠さに苦しめられる。

 

(ちょっとご飯の時まで寝てよう…)

 

 自分から何かを出来ない自分にとっての娯楽は、ご飯の味を楽しむくらいしか無い。

 

(でも…カフェテリアのご飯…そこまで美味しく無いのよね…)

 

 

 

 

 

 

「なんでも好きなもの頼んでね〜。ここじゃ大したもんないけど。」

 

 カフェテリアの前で新生のあたしがシンジやファーストに軽い自己紹介をした後、ようやく朝食が始まった。

 

(…ラーメンにしろラーメンにしろラーメンにしろラーメンにしろ…)

 

「ミサトさん、あたしこの塩ラーメンを食べたいです。」

 

(よし、うまくいった。)

 

「あら?朝からラーメンにするの?結構がっつりいくのね?」

 

「あー…それもそうですね。じゃああたしこの味噌汁とご飯にします。」

 

(おのれミサト。)

 

「じゃあ僕は牛乳と卵サンドで…」

「碇君がそうするなら私もそうする。」

 

「おっけー、シンジ君とレイは卵サンドね。」

 

(何が『碇君がそうするなら私もそうする』よ…相変わらず人形みたい。イライラする。)

 

 席に座ってご飯を頬張る。待たされに待たされた朝食のなんと美味い事か。シンジやファーストもかなりお腹が減っていたらしく、ぱくぱくと平らげていく。

 

「第6使徒との戦いぶり、録画で見せてもらったわ。流石噂に聞くセカンドチルドレンね。」

 

 『録画』という言葉が少し引っかかったが、世界が変わればその辺も少し変わってたとしてもおかしくはないか、と自己完結。

 

「そんなァ、それほどでもないですぅ。あたしなんかまだまだ勉強しないといけない事ばっかりで…」

 

「なんつーか、新米のシンちゃんとは実力が違うわ〜。」

 

 そう新生のあたしを褒めた後、エビスをごくこくと飲み始めたミサト。その背後から音を立てずに忍び寄る男が一人。

 

(…!)

 

 男はミサトの顔を両腕で覆い隠し、視界を奪う。

 

「やっ、誰よ!やめて!」

 

 ジタバタと暴れ拘束を解こうとするミサト。はっきり言ってみっともない。

 

 でも、そんな事はどうでもいい。私の意識は、ミサトを抱きしめている男の方に向いていた。

 

「加持さん❤︎」

「え…⁉︎」

 

 頰を赤らめその男の名を呼ぶ新生のあたしと、その名に驚愕するミサト。

 

「相変わらず朝っぱらからビールか…腹、出っ張るぜ?」

 

 加持はミサトの拘束を解き、そう言った。

 

「なななんであんたがここにいんのよ⁉︎」

 

「アスカの随伴でね、ドイツから出張さ。」

 

 加持さんの左腕に抱きつく新生のあたし。嗅いだ匂いは、間違いなくあたしが好きだった加持さんの匂いだった。

 

「そりゃご苦労様だったわね。用が済んだならさっさと帰んなさいよ。」

 

「残念でした!当分帰る予定はないよ。」

 

 加持さんがシンジの方を見る。

 

「碇シンジ君て君かい?」

 

「え?ええ。」

 

「君は葛城と同居してるんだって?」

 

「はい…」

 

「こいつ寝相悪いだろ?」

 

 ミサトと新生のあたしに衝撃が走る。そうそう、ホントミサトって寝相悪いのよね〜。

 

「何言ってるんですか?ミサトさんの寝相は悪くないですよ?」

 

「おっと、寝相は良くなってたのか。こいつは失礼。」

 

「ま、まーね…」

 

 嘘つけ。直せてるわけないでしょ、あの地獄みたいな寝相が。

 

「ね、寝相…」

 

 硬直している新生のあたし。頭の中が混乱とミサトへの嫉妬で、真っ白になっているらしい。

 

(混乱してないで早くご飯食べてよ…)

 

 

 

 

 

 

 うるさい警報の音で叩き起こされる。朝食の後の昼寝を邪魔されて不快だ。

 

『総員、第1種戦闘配置。繰り返す、総員、第1種戦闘配置。』

 

 あぁ、使徒か…随分懐かしい単語だ。まさかもう一度相見える事になるとは。

 

 自室でネットサーフィンを楽しんでいた新生のあたしは、すぐさま中断して赤いプラグスーツを着る。

 

(さて…生まれ変わったあたしの実力とやらを見せてもらおうじゃないの。)

 

 

 要塞都市は先の戦闘でで大破した為、上陸直前の使徒を零号機と初号機、弐号機で迎え撃ち、水際で叩く、というのが今回の作戦らしい。

 

 前史では修理中だった零号機が戦闘に参加していることもあり、今回の使徒戦が果たしてどうなるか、楽しみである。

 

 

 そして数分後、その期待はあっさり裏切られた。

 

 

「…ブザマだな。」

「申し訳ありません…」

 

 冬月に謝罪するミサト。まさしく無様だ。

 

(…3体がかりでやって2体の使徒にあそこまでやられるって…バッカみたい)

 

 スクリーンに映されている左腕を失った零号機を見ながら、そう思う。

 

『午後4時05分、新型N²航空爆雷により目標攻撃。これにより構成物質の28%の焼却に成功。』

 

「…パイロット3名!君たちの仕事は何か分かるか?」

 

 冬月副司令の質問。どうやらかなりお怒りらしい。おー怖い怖い。

 

「えと、エヴァの操じゅ…」

「使徒を倒す為です。」

 

 新生のあたしの言葉を遮り、ファーストが正解を答える。ファーストを睨みつける新生のあたし。

 

「そうだ、こんな醜態を晒すために我々ネルフは存在しているわけではない!」

 

 

 

 

 

 

(見事に作戦失敗か…やっぱりユニゾン攻撃しか無いのかしらね。)

 

 加持さんの奢りでカフェテリアで夕食をとる。やはりラーメンは美味しい。

 

「加持さんは分かってくれますよね、あれはあたしのホントの実力じゃないって…綾波さんはどうだか知らないですけど。」

 

 じろり、とファーストを横目に睨む新生のあたし。

 

「…」

 

 ファーストは澄ました顔でカレーを食べている。あ〜、イライラする。

 

「まぁ3人ともそう気を落とすなよ。勝負はまだこれからさ。」

 

「でもォ…エヴァは壊れて修理中なんですよ?これからっていつなんですか?」

 

 ぴーんぽーんぱーんぽーん…

 

『エヴァ初号機パイロット及び弐号機パイロットの両名は至急第2作戦会議室に集合してください。』

 

 呼び出し…あたしと…シンジか…ファーストだけ仲間外れ…ふん、いい気味ね。

 

「ほーら早速お呼びだよ頑張っておいで。」

 

 

 

 

 

 

 ミサトが第2作戦会議室の前で手を振っている。

 

「シンジ君、アスカ!こっちよ。」

 

「どこ行くんですかぁ?ミサトさん。」

 

 新生のあたしが気だるげに聞く。

 

「次の作戦の準備よ。」

 

「…次の作戦?」

 

「MAGIによるコンピュータシュミレーションの結果、2つに分離した第7使徒はお互いがお互いを補っていることがわかったわ。つまりエヴァ2体によるタイミングを完璧に合わせた攻撃よ。そのためにはあなた達の協調、完璧なユニゾンが必要だわ。」

 

(…やっぱりユニゾンか…こっちのあたしがちゃんとやれるのか心配だわ…)

 

 ミサトについて行くと、ツインのベッドルームに辿り着く。

 

「なあに?ここ…?」

 

「あなた達にはエヴァが修理し終わるまでの5日間、ここで一緒に暮らして貰います。」

 

「…えええ〜〜⁉︎」

 

 新生のあたしの絶叫。そりゃ同年代の男子と一緒に過ごせって言われたらそうなるのが普通である。

 

「時間が無いのよ。命令拒否は認めませんからね。」

 

「…そんなッ困ります!5日間も2人で暮らせだなんて!私達女子と男子なんですよォ⁉︎」

 

「これはね、次の作戦には必要不可欠なことなのよ。2人の息をぴったり合わせるにはお互いを知ることは勿論、体内時計も合わせといた方がいいの。明日の起床は6時半よ。何かあったら内線で連絡すればいいわ。じゃっおやすみ!」

 

 そう早口で畳み掛けてミサトは居なくなってしまう。ダメな大人を具現化したような人間だわほんと。

 

「悪夢のような現実…いくら使徒に勝つためとはいえ…ああ〜これが七光りじゃなくて加持さんだったらな〜」

 

「あっあのッアスカ!先にシャワー浴びて貰っていいかな?」

 

 舌噛みまくってるじゃない…緊張してんのかしら…顔真っ赤よ?

 

「なんであんたにそんな事指図されなきゃいけないのよ!」

 

「そっ、その本当は僕が先にシャワー浴びたいんだけどレディーファーストかなと思って。」

 

「ふーん、そうなの。七光りにしては気がきいてるわね。」

 

「う、うんっ。」

 

 バスルームの扉を開ける。3点ユニットバスか…悪くはない。ほんとは風呂とトイレ別にして欲しかったけど。

 

「覗かないでよ!いいわねっ!」

 

「わっ…分かってるよ!」

 

(…そんな真っ赤な顔で言われても説得力ないわよ?)

 

 まぁでもシンジにそんな度胸ないか…残念だけど。

 

 バスルームの扉を閉め、シャワーを浴びる。温かさで段々と眠くなってくる。

 

(そういえば今日は殆ど寝てないんだった…眠い…)

 

 今日は使徒戦の見物をしたりと色々あったので、いつものような昼寝の時間があまり取れなかった。夜、思考の海に入るには、昼間の内に寝ておかないといけないというのに。

 

(寝ておこう…今の内に…)

 

 

 

 

 

 ねえシンジ…あたし、シンジが助けてくれなかったこと、気にしてないから…

 

 ねえシンジ…あたし、シンジのやったこと全部許したから…

 

 ねえシンジ…あたしのこと、いくらでもオカズにしていいから…

 

 ねえシンジ…あたし、シンジのこと大好きなの…憎んでなんかないの…

 

 だから私を見て!

 私を褒めて!

 私を抱きしめて!

 私を…赦して!

 

 私を……助けて!

 

 痛いの!体のあちこちが!心のあちこちが!

 

 お願いだから…助けてよ…

 

 バカ…シンジ…

 

 

 

 

 

 

 …まったく、嫌な夢だ…

 

 あたしという存在はこの新生のあたしに移ったはずなのに、あたしの意識は存在し、悪夢も見る。

 

 よく考えれば不思議だ。

 

「うぅ…ひっく…」

 

(声がする…新生のあたしが夜泣きしてんのか。子供みたい…情けないわねぇ。)

 

「ママ…」

 

(ママ…ママ、か。)

 

 思い出すのは、エヴァの中にいた自分の母親。ずっと自分を守ってくれていた母親。

 

 無数のロンギヌスの槍に貫かれ、死んでしまった母親。

 

 いつもそうだ。居場所を見つけたと思ったら、直ぐになくなってしまう。

 

 居場所を加持さんの胸の中に見つけた後、ミサトに奪われてしまった。

 

 居場所をエヴァの中のママに見つけた後、エヴァシリーズに破壊されてしまった。

 

 居場所をシンジの膝の上に見つけた後、あたしは死んで、新生のあたしに奪われてしまいそうになっている。

 

 奪うのなら、何故神はあたしに与えるんだろう。

 

「ママ…如何して死んじゃったの…?」

 

 寝言を聞いているうちに、なんだか胸が苦しくなってきてしまった。

 

 その時、頭に温かいものが触れた。

 

(…え?)

 

 頭を…撫でられている?

 

(誰…?)

 

 この部屋には新生のあたしとシンジしかいない。よって自動的に。

 

(シン…ジ…)

 

 撫でて、くれてるって言うの?あのバカシンジが…?

 

 そう理解した瞬間、多幸感が私を包み込んだ。

 

(シンジ…!バカシンジ…!)

 

頭から伝わる心地よさが、私を思考から完全に切り離し、そして私は再び睡魔に身を任せた。

 

 

 

 

 

つづく




こんだけ時間かかった割には駄文すぎる…
精進しますわ…

予告
新生のアスカとシンジによるユニゾン訓練が行われる中、新生のアスカの中にいるアスカは疎外感を覚える。
2人の息があっていくのは、アスカを傷つけていくだけだった。

次回、『(アイ)。』
さぁてこの次も〜サービスサービスぅ!


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(アイ)


まーた投稿に時間掛かってるでねぇか
遅筆だべなぁ



 そうだ。私はこれでいい。

 

 たとえ新生のあたしにシンジを奪われたとしても。

 

 どうせ私は死人だ。こうして意識があって、生きているシンジを見れているということだけでもかなり幸運と言えるだろう。

 

 体を、新たな命から奪う必要はない。奪っていい筈がない。

 

 私は、所詮死人なのだから。

 

 だから、これでいい。

 

 このままで……

 

 

 

 

 

 

 

 新生のあたしとシンジの二人組によるユニゾン訓練。ネルフ本部の作戦室を今作戦の為だけにダンススタジオに作り変え、そこで訓練を行う。

 

 曲に合わせて2人で踊り、息をぴったりに合わせておくことで、2体に分裂した使徒のコアに同時荷重攻撃をすることを可能にする、という話らしい。

 

 しかし、これを5日間でやるというのはかなり無茶振りである。

 

 まずはダンスの振り付けを覚えることから始まった。新生のあたしはすらすら覚えているようだったが、シンジはちっとも覚えられていないようだった。

 

(これじゃ相当時間かかりそうね…)

 

 シンジがちっとも覚えられないので、ミサトは「振り付けはやりながら覚える」ということを提案し、早く優秀さを見せつけたくてウズウズしているらしい新生のあたしは、その案に賛成した。

 

 だがまぁ、当然うまくいくはずもなく、新生のあたしが綺麗に踊るのを真似しながらシンジが踊るので、どうしてもワンテンポ遅れてしまう。

 

 それを見物していた加持さんに、「鶴と猿の小踊り」なんて事まで言われてしまった。

 

(こら!バカシンジ!カッコ悪いわよ〜!)

 

 結局、シンジは振り付けは昼までになんとか覚えたものの、新生のあたしとはまったく合わせることが出来なかった。

 

 

 

 

 

 

 やっと訪れた昼食の時間。ぐったりと疲れている様子のシンジの手を新生のあたしが引っ張ってカフェテリアまで連れて行く途中。

 

 ネルフの総司令、碇ゲンドウと出くわした。

 

「あっ…司令!」

 

 シンジから手を離し、司令に話しかける新生のあたし。

 

「どうだね?調子は。」

 

「はいっ!順調です!4日後の決戦では必ず勝ちます!」

 

 司令に認められたい…いや、他人に認めてもらいたい新生のあたしは、そう嘘をついた。

 

「そうか…期待している…」

 

 そう言って去る司令。シンジは廊下を歩いていく司令を目で追っていたが、新生のあたしが「ほら、何してんの行くわよ七光り。」と手を引っ張る。

 

 それでも、シンジは司令が気になっているようだった。目には少しだけ憎しみが見えた気がした。

 

 

 

 

 

 

 昼食の後、変わり映えのしないユニゾン訓練の見物をしているのにも飽きてきた私は、昼寝をする事にした。

 

 今寝ておけば、夜中に目が覚めるはず。夜の間、またシンジが撫でてくれるかもしれない。そんな淡い期待を持ちながら意識を薄れさせていく。

 

(今度は…悪い夢、見ないといいな…)

 

 沈んでいく意識の中でおぼろげにそう思うと、私の意識は完全に消えた。

 

 

 

 

 

 

 

『ねぇバカシンジ。』

 

『…何?』

 

『今日の晩御飯、決まってる?』

 

『いや…なんかリクエストあるの?』

 

『…別に?ないわよ』

 

『…なんで聞いたの?』

 

『……なんとなくよ、なんとなく。理由は無いわ。』

 

『…?』

 

『ねぇバカシンジ。』

 

『うん…』

 

『…もっかい…キス、しない?』

 

『え⁉︎またやるの⁉︎』

 

『遊びよ遊び。』

 

『そんな…遊びでキスするのはどうかと思うけど…』

 

『昨日したくせに。』

 

『そりゃそうだけど…その…』

 

『なによ。』

 

『えと…キスっていうのは…好きな人にするものだから…』

 

『あたしがあんたを好きって言ったら…どうする?』

 

『え⁉︎…そ、そんなのわかんないよっ!』

 

『…ふーん…そう。』

 

『…アスカは…僕とキスがしたいの…?』

 

『んな⁉︎そ、そんな訳無いでしょ⁉︎ただの暇つぶしよ!キモッ!気持ちわるっ!信じらんない!!』

 

『そ、そんなに言わなくたって…ただの冗談じゃないか…』

 

『冗談でも言っていいことと悪いことがあるのっ!』

 

『ごめん…』

 

『ふんっ!もういいわっ!』

 

 

 

 

 

 

 懐かしい、夢を見た。

 あたしにとってはじめてのキスを、シンジにあげた次の日。

 

 キスをしたら、シンジが抱きしめてくれるかもしれない。そう思ってキスをした次の日。

 

 もしかしたら、と思ってもう一度キスをしようとした。

 

 だけど、シンジはそれを拒絶した。あたしはその時なんだか凄く寂しくなって。凄く恥ずかしくなって。自分の部屋のベッドの中に逃げ込んだ。

 

(その後…どうなったんだっけ…)

 

 古い記憶は、頭の中の引き出しに固くしまわれ、思い出すことができない。

 

 思い出すのを中断し、意識を外側に向ける。

 

 夜になったらしく、視界は瞼によって閉じられている。どうやら寝る前の目論見通り、夜間に起きることが出来たようだ。

 

(さて…なにしようかな…)

 

 体を奪うことを考えるのをやめたので、時間が大きく余っている。

 

(…………)

 

 静寂。微かにエアコンの音が聞こえるが、それ以外になにも聞こえないほど静かだ。

 

(…面白くないわね…)

 

 その時、頰に冷たいものが流れた。

 

(…また、夜泣きが始まったか…)

 

「うぅ…ママぁ…」

 

 新生のあたしが泣き出したということは、昨日と同じように、シンジが撫でてくれるかもしれない。

 

 そして、期待通りの展開が訪れる。

 

 頭を優しく撫でる温かい手のひら。その感覚はとても心地よく、もう十分寝たはずだというのに、その心地よさは眠気を誘う。

 

 頭に感じる優しさに集中していると、瞼がうっすらと開かれた。

 

(あっ…起きちゃった…)

 

 まずい。新生のあたしをシンジが頭を撫でている事がバレてしまえば、新生のあたしはそれを拒絶して、二度とこの心地よさを感じれなくなってしまう。

 

 そう危惧したが、予想は外れ、何故か新生のあたしは拒絶せず、瞼を再び閉じてシンジの温かい手に身を預けた。

 

(…なんだかよくわからないけど…どうやらバレなかったみたいね…)

 

 この心地よさが失われなかったことに安堵し、再び心地よさに意識を向ける。

 

 眠く、なっていく。だんだんと意識が消えて…

 

 また、私は寝てしまった。

 

 

 

 

 

 

「あら?シンちゃんクマできてる。夜ふかししたの?駄目よアスカと生活リズム合わせなきゃ。」

 

「すいません…」

 

 翌朝。朝食を済ませた後、再びユニゾンの訓練をするためダンスルームに集まるアスカとシンジの2人。

 

 昨日寝すぎたせいか、ぼうっとする。

 

「じゃ、昨日の続きね。ミュージックスタート!」

 

 音楽がスピーカーから大音量で流れる。鼓膜を大きく震わせる音楽は、朦朧とする意識を叩き起こす。

 

 音楽に合わせ、踊り始めるシンジと新生のあたし。新生のあたしは昨日よりも遥かに美しく踊り、シンジは相変わらずへなへなだった。

 

「シンジ君!もっと動きをこうバッ!バッ!とやるのよ!」

 

 全く参考にならないミサトを助言を懸命に聞き、生かそうとするシンジ。額には、大粒の汗が流れている。

 

 それに対し、新生のあたしはより一層ダンスを上達させることに努め、汗を殆どかかずにメキメキと上手くなっていく。

 

 誰の目から見ても、2人の息はあっていなかった。

 

 

 

 

 

 

ゲッソリ。

例えるならそんな顔をしているシンジ。

 

(あんたはよく頑張ってるわよ。)

 

 そう褒めてあげたいが、実体のないあたしにはそれが出来ない。それを少し残念に思う。

 

「ねぇ七光り…」

 

「うん…?どうしたのアスカ…」

 

「あんた昨日あたしが寝てる間に頭、撫でてたでしょ。」

 

(うわっ…バレてた⁉︎)

 

 動揺。

 

「えっ…なんで知ってるの⁉︎」

 

「えっ…ホントに撫でてたの⁉︎マジ⁉︎」

 

「鎌かけたのアスカ⁉︎」

 

(…やられた…)

 

「…作戦中なんだからあんまりそういう事しないでよ!生活バランスを揃えなきゃいけないんだから!」

 

(やっぱり…あの時拒絶しなかったのは…ただ寝ぼけてただけだっての…?)

 

「…ごめん…」

 

「もうっ!そういうのは気持ち悪いから、ぜった…あんまりしないで!いいわね!」

 

 そう言ってシンジに拳骨を食らわせる新生のあたし。

 

(終わった…拒絶された…もう、撫でてもらえないんだ…)

 

 

 

 

 

 

 2人の息がまったく合わないまま、ユニゾンの訓練も最終日になってしまった。

 

 私はシンジ達が使徒を倒せないんじゃないかと不安に思っていたが、どこか新生のあたしとシンジのユニゾンがうまくいっていないことに安心感を感じていた。

 

「アスカ!何度言ったら分かるの?自分だけとばすんじゃなくてもっとシンジ君と合わせなきゃいけないのよ!」

 

 ミサトが新生のあたしを叱る。その事にムッとして、ミサトに反抗する新生のあたし。

 

「でも、碇君に合わせて自分のレベル下げるなんて…合わせるのは碇君の方じゃないんですかぁ?」

 

 がっくりと肩を落とすシンジ。とても可哀想だ。撫でてあげたい。

 

「それに、どうしてさっきからずっと綾波さんが見てるんですか?なんだか集中できないんですけど。」

 

 ミサトの横には、優等生がいる。人形みたいな冷たい表情であたし…いや、新生のあたしを睨んでいるのが気に入らない。

 

 新生のあたしの言葉を聞いたミサトは、数秒間考えた後、ファーストに指示を出した。

 

「レイ、アスカの代わりにちょっちやってみて。」

 

「…はい。」

 

(…このパターンは見た事がある。)

 

 音楽が流れる。踊り始める優等生とシンジ。2人のダンスは上手いとは言えず、むしろ下手だった。だが、息はぴったりと合っていて、下手な筈のダンスがとても美しい。

 

 音楽が終わると、ミサトが2人に拍手を送る。再びムッとする新生のあたし。

 

「お見事だわ。…零号機が修理中で無かったら、迷わずレイとシンジ君を組ませるところね。」

 

 視界がぼやける。誇らしげな顔をしているファーストがどんどん見えなくなる。

 

「そんなんだったら…あたしの弐号機にファ…綾波さんが乗れば良いじゃないですかっ!!」

 

 部屋を飛び出す新生のあたし。目から生暖かい水滴が溢れるが、左手で拭う。

 

(やっぱこうなるわよね。しっかしこんな事で泣くなんて…こっちのあたしは脆弱ね。)

 

 走っていると、美しい庭園に出た。水のせせらぎの音が、耳を癒す。全力疾走をした為、息切れを起こしてしまった新生のあたしは、庭園の真ん中で座り込んだ。

 

 今にも目からこぼれ落ちそうになっていた悔し涙を再び左手で払う。

 

「…アスカ!」

 

 背後から聞こえるシンジの声。足音は段々と近づいてくる。

 

「…なによ、なんでついてくんのよ…」

 

 運動座りをしながら、顔は決して後ろに向けずにシンジに言葉を返す新生のあたし。

 

「なんでって…アスカが心配だから…」

 

「……なんであたしの方が怒られるの?あたしは完璧にやってるわ、あんたがグズでドンくさいから上手くいかないのに…」

 

「…………」

 

 どう対処していいか迷っているようで、黙り込んでしまうシンジ。

 

「なのになんで⁉︎」

 

「…ごめん…僕も精いっぱいやってるんだけど…」

 

「バカね…そもそもあたしとあんたじゃ相性が悪いのよ…」

 

「アスカ…」

 

「元から無理だったのよ…知りもしない奴と合わせるなんて…」

 

「出来るよ、アスカ。」

 

「…出来ないわよ!」

 

「……確かに出来ないと思ってれば出来ないと思うよ…」

 

「…どっか行って!」

 

「…うん。先に戻ってる。でも、もしアスカが戻ってきたら、僕も全力で合わせ続けるから…」

 

 庭園からシンジが去ったことを確認すると、新生のあたしは膝に顔を埋めて、愚痴を言いながら泣き始めた。

 

(まったく…弱虫ね…)

 

 

 

 

 

 

 泣き止んだ後、新生のあたしはおもむろに走り出し、ベッドルームに駆け込んだ。

 

「…アスカ。」

 

 少し驚いたような、分かっていたようなシンジの顔を横目に。

 

「そこだっ!」

 

 飛び蹴りを放つ。ネルフの監視カメラは衝撃でバラバラになり、床に音を立てて落下。

 

(…監視カメラを壊した…?何をするつもりなの?)

 

「な、何をするつもりだよアスカ!」

 

 その疑問はシンジも同じなようで、動揺しながら新生のあたしに質問する。

 

「決まってんでしょ?特訓よ!」

 

 

 

 

 

 

 

「違う!もっと高く跳ぶのよ!それに入りが半テンポ遅れてる!」

 

 新生のあたしの厳しい指導。シンジはそれを全力でやろうと必死である。

 

 しかし、その指導はミサトのそれより遥かに適切だった。

 

「…ありがとう…アスカ、戻ってきてくれて。」

 

「ふん!そんなことより、いい?シンジ、何が何でも明日までにユニゾンを完璧にすんのよ!そんでもってミサトやエコヒイキを見返してやんだからね!」

 

「わかった、もう一度最初からやってみよう。」

 

 2人の息が揃っていく。息が合っていくのが楽しいのか、備え付けの小さな鏡に映る2人の表情は徐々に明るくなっていく。

 

(…退屈…)

 

 だが、私は特に面白いわけでもない。昼間ずっと起きていたので、今は眠くて仕方がないし、シンジがあたしではないあたしと楽しそうにしている事があたしを苛立たせた。

 

 部屋に響く明るい音楽と、自分達を照らす暖かい光は、あたしの睡眠の邪魔をする。

 

(…お願いだから私を寝させてよ…もう寝たいのに…)

 

 結局、特訓は2人が疲れて寝落ちするまで続いて、私はそれまで眠る事が出来なかった。

 

 

 

 

 

 

 

「シンジ、アスカ!決戦よ!用意はいい⁉︎」

 

 ミサトの声で目がさめる。昨日新生のあたしが床の上で寝てしまった所為で、身体の節々が痛い。

 

「ギャーッ⁉︎ ちょっとォなんでまだ寝てんのよ! 警報鳴ったでしょうが! ほら!早くプラグスーツに着替えて出撃よ!」

 

 なんとかシンジと新生のあたしを起こそうとするミサトだが、疲れきっている2人を覚醒させるのは簡単なことではない。

 

「ねみゅ〜〜い」

 

 だらしない声を漏らす新生のあたし。

 

「んもう!お願いだから起きてェ…!」

 

 

 

 

 

 

 そこから先の戦闘は、見事としか言いようが無かった。

 

 息がぴったりとあっており、音楽に合わせて放たれる攻撃はどれも確実に使徒にダメージを与えていった。

 

 2人の戦闘(ダンス)は、とても美しく、輝いていた。

 

 発令所のオペレーター達は皆感嘆の声をあげ、ミサトは歓喜した。

 

 そして、2体のエヴァにほとんど満足に反撃も出来ないまま、僅か62秒で使徒は殲滅された。

 

 エヴァが活動限界を迎え、発令所から届く歓声を聴きながら、目を閉じて穏やかな眠りにつく新生のあたしの中で、私という存在だけが、孤独な不快感を感じていた。

 

 自分でもよく分からない、大きな悲しみが、私を包み込んでいた。

 

 

 

つづく




《軽いお願い的ななにか》
この小説(?)の改名案、あったらメッセージで送ってくれると嬉しい。

あと高めの評価も欲s(殴

《反省》
…アスカの気持ちが…分からない…
…実力不足ですんません…これでも全力でやってます。

《予告》
第七使徒の殲滅に成功した新たなアスカとシンジ!
そして、前史と同じ同居生活が始まる!
しかし、古きアスカの望む時間はそこに無く、自分のかたちをした人間とシンジの同居生活を見せつけられるだけだった。
自分が忘れ去られる不安を感じながらの虚しい生活が始まるだけだった。

次回、『撫。』

さぁてこの次も〜サービスしちゃうわよん!


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撫。

「ちゅーことで、アスカの住まいはここね。荷物は後で届く話になってるわ。」

 ミサトが地図を指差しながら、新生のあたしの住居の場所を説明する。

 体の中にいる私にとって、それは朗報だった。窓もない殺風景なネルフの個室から、アパートの一室ではあるが、まともな住居が提供されるのだ。

 それに、死人の私が生者に口出しする権利は無いとはいえ、あたしとは別の女の子がシンジと暮らしているのを見るのはこれ以上は御免だったので、前史のような同居生活では無い事にホッとしたのである。

「…あの…ミサトさん…」

「何?」

「…無茶振りかもしれないんですけど…あたし、シンジと暮らしてもいいでしょうか…?」

 そう来るとは思わなかった。

(おいバカやめろっ!シンジと一緒に暮らすのだけは絶対にダメだっ!)

「…やっぱ…ダメ…ですよね…」

(そうよっ!ダメに決まってるでしょ!)

「あっ、全然いいわよ〜。」

(おいミサトォォォオォォォ!!!)

「えっ?いいの?」

「アスカが望むならね。」

「でも…シンジがダメって言うんじゃ…」

(そうだそうだっ!同居生活は互いを傷つける事にしかならな…)

「ちょうどパイロット達の連帯力を高めたいと思ってたのよ〜。それに、アスカみたいなキレイな女の子、シンジ君もきっと受け入れてくれるわよ。」

(この呑んだくれアラサー女がぁぁ!!)



 ミサトの住むマンションに、新生のあたしの荷物が届いた。彼女は大量の段ボール箱を、先ほどまでシンジの部屋であった場所に運び込み、シンジの荷物は1つの段ボール箱にまとめられた。

 

 そこそこの広さがあった筈なのに、その部屋はみるみる狭くなっていった。

 

「ほんと…日本の部屋ってせっまいわね…」

 

 独り言を言う新生のあたし。声には疲れが見える。黙々と作業を続けていると、外の階段を複数人が上がっている足音が耳に届く。

 

 足音が止まったと思えば、玄関のドアが開く音。

 

「「お邪魔しまーす!」」

 

「…お邪魔します…」

 

 玄関から2バカと優等生の声。どうやら、学校からシンジが帰ってきたらしい。

 

「…ファーストの声?」

 

 新生のあたしは、シンジが2バカやファーストを連れて来た事に苛立っているようで、玄関の方を睨みつけた。

 

 まぁ、私には好都合なのだが。シンジ1人が帰って来るよりずっといい。シンジと外のあたしが2人きりなのはもう嫌だから。そんなことをずっと続けていたら、私は…どうなってしまうのだろう…

 

「…なんやこの段ボールの山…」

 

 鈴原が新生のあたしの部屋を覗き込んでいる。それに続くシンジと相田。

 

 シンジが部屋を覗き込んだ瞬間、シンジの前に飛び出す新生のあたし。

 

「シンジ!ようやく帰ってきたわね!ここあたしの部屋になるからあんたの荷物物置に運んで!そこにまとめといたから。」

 

「で、出たああああ!!」

 

 鈴原が腰を抜かす。マヌケな顔が非常に愉快だ。

 

「なによ、の◯太のバトルドームも出たー!みたいに言わないでよ!」

 

 新生のあたしは、ぼーっと突っ立っているシンジに再び目の照準を合わせる。

 

「ほら、早くしなさいよ!ただでさえ狭い部屋なのに、あんたの荷物があると余計場所がとられるんだから!…全く日本の部屋ってどーしてこんなに狭いのかしら!」

 

「…なぜあなたがここにいるの…?」

 

「何でって…あんたには関係ないでしょ!それにシンジ、勘違いしないでよ!ミサトに言われただけであたしの意思じゃないんだから!」

 

「シンジ、お前…惣流とナニしたんや…」

 

「あぁ…ひとつ屋根の下に美少女と美女の2人と暮らせるなんて…俺はお前が羨ましいよ碇…!」

 

 

 

 

 

 

「たっだいまー!」

 

 玄関から明るい声。ミサトがネルフから帰ってきたのだ。

 

「お帰りなさい。ミサトさん。今日は早いですね。」

 

「そうそう、今日は珍しく残業が無くて…って、レイ!シンジ君のクラスメイトも…」

 

「あ、はい上がらせてもろてます!」

「お疲れ様ですミサトさん!」

 

 緊張した顔をする2バカ。しかし、ミサトと目があった瞬間、にやけた顔に崩れる。

 

(無様ね…)

 

「…葛城一尉、なぜ2番目の子が?」

 

「ああ、アスカが自分で来たいって言ったのよ。よっぽどシンジ君と暮らした5日間が楽しかったのねぇ…」

 

 まあ、そうでしょうね。あたしは全然楽しくなかったけど!

 

「惣流と五日間暮らしたやとォ⁉︎」

 

「なんかイヤーンな感じ…」

 

 そう言うと相田は、元シンジの部屋をアスカの部屋へと嬉々として作り変えている新生のあたしに視線を向けた。

 

 目が合ったのに気づいた新生のあたしは、相田を睨む。すると、相田は視線をミサトの方に逃がした。

 

「…!ミサトさん昇進されたんですねおめでとう御座います!」

 

「え…ええ、そうね。」

 

「どうして分かったんやケンスケ…」

 

「気付かないのかね諸君!葛城さんの襟章の線が二本になっていることを!一尉から三佐に昇進されたんですよ!ネッ!」

 

「あ、有難う…」

 

「そんなの気付くの相田君だけだ

わ…」

 

 青白い肌をさらに青く染め、相田から離れるファースト。

 

「よっしゃあ、そうと決まれば!」

 

 

 

「葛城さんの昇進及び、惣流様のお引越しを祝して…カンパ〜〜イ!」

 

「…なぜ焼肉パーティなの?」

 

 ファーストが新生のあたしに質問すると、彼女は不愉快そうに返す。

 

「知らないわよ、メガネバカが勝手にやり始めたんだし…」

 

「そこ!何ヒソヒソやってんの?さあ食べて食べて!」

 

「嫌よ。肉、嫌いだもの。」

 

「試験の作戦会議はどうなったんだろう…」

 

(あぁなるほど。そういう事か。4バカが揃ってたのは。)

 

「やっぱワシはさっき言ったように腹括ったでェ…」

 

 チャイムが鳴る。「はい、葛城です。」と、ミサトが出る。

 

「あのう、お邪魔します。」

 

 玄関にいたのは洞木ヒカリ。旧世界での私の親友であり、あたしが壊れていた時の恩人でもある。

 

 まぁ、この世界のヒカリは所詮新しい命…悪く言えば偽物だ。本物のヒカリは、サードインパクトの時既に死んでいる。

 

 生き残ってこの世界に来れたのは、シンジだけなのだ。

 

「な!何でいいんちょーがここにくんのや!」

 

 鈴原の頬がほんのりと赤色に。

 

「来たわねヒカリ!あたしが呼んだのよ、むさ苦しい男共がいるから。とくにあんた。」

 

「何やとォ⁉︎」

 

 赤い顔が怒りの赤さへ変わっていく。茹で蛸のようで、非常に愉快である。

 

「アスカホントに碇君と住むんだ…」

 

「そ。作戦上仕方なくね。」

 

 またもチャイムが鳴る。

 

「!まだ呼んどるやつおんのか⁉︎惣流!」

 

「いや…?」

 

「よ!葛城!松代の土産、買って来たぞってあれ?人口密度が随分高いな?誰かの誕生日(バースディ)か?」

 

「加持さん!」

 

「げ…バカジ!」

 

 突然家に入り込んでくる加持さん。懐かしい顔だ。

 

 かつて、好きだと思っていたヒト。

 

 かつて、知らぬ間に死んでしまったヒト。

 

「アスカの引っ越しとあたしの昇進祝いですけど!あんたなんかだーれも呼んでませんよーッ!」

 

「つれないなぁせっかく土産のわさび漬けと桜肉持って来たのに…」

 

「あたしは?あたしにはお土産ないんですかぁ?」

 

 くねくねと腰を動かして土産をねだる新生のあたし。正直中の私からするとウザい。

 

「アスカにはこれさ!」

 

「わーい、嬉しい!ありがと加持さん!」

 

「…おまえこの兄さんにはアカラサマにワシ等と態度が違うな…」

 

 鈴原が猫を被る新生のあたしに一言。

 

「当たり前でしょ、月とぞーり虫に同じ態度がとれるわけがないわ。」

 

「…草履虫ってワシのことか?」

 

「そうよ、あんたがぞーり虫で相田がミトコンドリア。シンジは………よく言ってスッポンね。」

 

 はぁ、とため息をつくと、鈴原は顔の向きを加持さんへ。

 

「あんさん騙されたらあきまへんで、この女カワイイ顔してホントはとんでもない女なんや。」

 

 鈴原が加持さんに新生のあたしの本当の性格を伝えようとする。

 

「ちょっと!加持さんになんて事言うのよ!」

 

「意地は悪いわ、口は悪いわ、暴力的だわ…」

 

「や、やめてよ!なんてことっ!」

 

(…無様ね)

 

「オマケに裏表の激しさと言ったら、そらもうこんな性根の腐った女は後にも先にも…」

 

 鈴原が畳み掛ける。

 

 後になって思えば、私はシンジを奪おうとしている相手が追い詰められているのを嬉しく思ってしまっていたんだろう。

 

 私は高揚感を感じていた。

 

「…そろそろやめなよトウジ!」

「やめてってばぁッ!」

 

 鈴原を止めようと、鈴原に向かうシンジ。それと同時に、新生のあたしの拳が放たれる。拳は鈴原に真っ直ぐ向かっていき────

 

 射線上に出てしまったシンジの左頬に命中した。

 

「げふっ!」

「あっ」

 

 冷や汗が頬を伝う。倒れ込んだシンジ。

 

「ごめんシンジ!大丈夫⁉︎」

 

「いや…僕は大丈夫なんだけど…」

 

 ゆっくりと起き上がり、周りを見回すシンジ。

 

「え?…はっ!」

 

 気づけば、ミサトたちが新生のあたしを驚いた目で見つめていた。

 

(猫被りを破られた、か。)

 

「……へ、変ねぇシンジは…ちょっと小突いただけで倒れるなんて…」

 

「…よーやく正体表したな惣流!」

 

「正体⁉︎な、なんのことよっ!」

 

 大量の汗をかきながら、必死に言い訳をする新生のあたし。服の中がじめじめと蒸し暑くなっていく。

 

「…知ってたわよ、薄々とね。」

 

 ミサトが慌てる新生のあたしに声をかける。彼女が振り返ると、そこには優しい表情をした加持さんとミサトが立っていた。

 

「アスカの演技はまだまだ甘いよ。」

 

「…演技なんか…してないわよ…」

 

 顔を反らす新生のあたし。

 

「…アスカ…もう育ててくれた義理の両親の前じゃないんだから…無理していい子でなくてもいいのよ…」

 

「…無理なんか…してないわよっ!」

 

 肩に冷たい手が置かれる。バカシンジの手だ。

 

「アスカ…」

 

「なによ…シンジ。」

 

「かわいいね。」

 

(…は⁉︎)

 

 ぼんっ、と聞こえた気がする。顔が熱い。

 

(???)

 

 他人の体の中でただ混乱するしかない私。

 

(シンジって…こんな積極的な奴だっけ…⁉︎)

 

「ななな、なに言うのよ突然!」

 

 仰け反る新生のあたし。

 

「イヤーンな感じ…」

「シンジ君⁉︎」

「なんか変なもんでも食ったんか⁉︎」

「碇君…すごいわね…突然すぎだわ。不潔よ不潔!」

「碇君がそういうことすると、むかむかする…」

「グワーァ…」

 

「あ、あはは!」

 

 シンジも恥ずかしそうに顔を赤くする。

 

(だめ…共感性羞恥で死ぬ…)

 

 

 夜は更けていく。私も、眠る時間が近づいていく。

 

 

「すぅ…すぅ…」

「ぐうぅぅうぅぅ…」

「すぴー…」

 

 皆眠ってしまったようだ。新生のあたしも寝息を立てている。

 

(ふう…なんとか今日は乗り切れた…)

 

 そして、思考を始める。

 

 とにかくデータが足りない。

 

 どうすれば、体を取り返せるだろうか。

 

 どうすれば、バカシンジに抱きつけるだろうか。

 

(強く念じると新生のあたしの思考に影響を与えられる、か…)

 

 それを練習し続ければ、体を取り返せそうではある。しかし、膨大な時間を要するだろう。

 

(でも、今はそれをやるしかないか…)

 

 試しに、「瞼を開ける」という事に集中してみる。

 

 うっすらと、瞼が開いた。

 

(ナイスナイス!!できた!)

 

 なんともあっさりと成功してしまったことに驚きと喜びを覚える。

 

(なんだあ、寝ている間だったら動かし放題だったのね!今まで考えてばっかりだったのがバカみたいだわ!)

 

 次は、「手をついて立ち上がる」ことに集中。

 

 体が重く、うまく動かない。

 

(うぐぐ…動いて!)

 

 体が震えながら起こされていく。

 

「あれ?アスカ起きてたんだ。」

 

(えっ⁉︎)

 

 シンジに話しかけられた。予想外の事態に焦る私。

 

(どうしよう…なんて返そう…?)

 

 起き上がると、シンジと目が合う。

 

(と、とりあえず会話しなきゃ!)

 

 発声することに集中しながら、何を言うか考える。並行してものを考えるのはなかなか難しい。

 

「シンジ…」

 

「何?」

 

 名前を呼んでみたが…この先が思いつかない。

 

「おフロ…沸いてる?」

 

「あ、うん。」

 

 そして思いついた言葉がこれだった。いたって普通の日常会話である。

 

「じゃあ入ってくるわね…」

 

 とりあえず会話を終わらせ、バスルームに逃げる。

 

(会話…できちゃった…)

 

 緊張の糸が切れ、体はそのまま床に崩れ落ちる。

 

 しかし、私はこれで満足だった。今はこれでいいと思えた。体を一時的に奪い返せた、それが嬉しかった。

 

(いずれ、シンジともちゃんと話そう。私も逆行してきていることを。)

 

(そしたら…今度は抱きしめてくれるかな…)

 

 幸福感に包まれたまま、私は眠りについた。

 

つづく




過去一間が空いてしまった…申し訳ありやせんした。

次回予告はめんどいんでやりません。(飽きてきたなんて言えねぇ)


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