月の少年のSecret book (ゆるポメラ)
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記憶1 園田海未

ゆるポメラです。
海未ちゃん、誕生日おめでとう。

この度、新しい作品を連載する事にしました。
タグにもありますが、本作は誕生日回に毎回更新します。

また時系列は各作品と繋がってるようにしております。

それではどうぞ。



とある日の音ノ木坂学院(おとのきざかがくいん)の理事長室にて。

 

「……おつかいですか?」

「ええ。お願いしてもいいかしら?」

 

開口一番がそれだった。

遠目から見たら、少女にも見えなくもない中性的な少年、水無月悠里(みなづきゆうり)がそう言った。

 

「今度の週末、海未(うみ)ちゃんの両親の記念日なの」

 

買い物を頼んだ女性……というか悠里から見たら美女、(みなみ)理事長が悠里に説明する。

どうやら内容は、娘の幼馴染みである園田海未(そのだうみ)の両親についてだった。

 

ちなみに悠里も彼女達の幼馴染みである。

 

「……記念日って何のですか?」

「簡単に説明すると、2人が恋人になった日ね」

「それはまた」

 

なんとなく分かった。

しかし、理事長が悩んでる理由が悠里には見当がつかない。

 

「でも、なんで南先生がそんなに悩んでるんです?」

「……2人に渡すプレゼントを先週の休みに買いに行ったの。知人が経営してる少し遠めのデパートまで」

「なるほど」

「渡したいプレゼントを見つけたのはいいけど予約制だったの。まぁ……人気のあるお店だから仕方ないけど」

「……その気持ちは僕もなんとなく分かります」

「それで予約したプレゼントの受け取りに行く日が()()()()なの……」

「…まさかその書類のせいで、受け取りに行けなくなったんですか?」

「……(コクリ)」

 

悠里が机に置かれてる書類に視線を向けながら呟くと、溜息を吐きながら頷いた理事長。

 

なんでこんな時に書類を回すんだと言わんばかりの表情だった。

 

「そういうわけでお願いしてもいいかしら?」

「承りました」

 

というわけで、理事長のお願いを引き受ける悠里だった。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「すみません悠里君、待たせちゃいましたか?」

「…いや、僕も今着いたばかりだから気にしないで」

 

その日の放課後。

海未と悠里は一度家に戻った後、海未の家の前で待ち合わせという事になった。

 

ちなみに悠里が来るまでの間、着ていく私服を選ぶのに時間がかかってしまった事を悠里は知らない。

 

「…じゃあ行こっか。はいこれ」

「? ヘルメット……ですか?」

 

何故かヘルメットを悠里から渡された海未。

 

「頼まれたおつかいの場所が少し遠いから、コレで移動するよ」

「これって……バイクですか?」

 

目の前には何故か藍色のバイクが佇んでいた。

 

「うん。あ、ヘルメットの付け方とか分かる? 付けてあげよっか?」

「お、お願いします……」

 

ヘルメットを悠里に付けてもらう海未。

付けてもらった後、膝に付けるプロテクターを渡され、自分で付ける。

 

「…えっと……みーちゃんの荷物は積んだっと。それじゃあここに乗って?」

「は、はい……」

 

海未が乗ったのを確認した悠里は、自身もバイクに乗り、エンジンをかける。

 

「ちゃんと掴まっててね?」

「は、はい……(え…えぇ!? ゆ、悠里君と合法的に密着してる!?)」

 

内心では絶賛ドキドキしてる海未なのであった……

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「……」

「……」

 

目的地までバイクで移動してる最中は静かだった。

 

「……(悠里君の事を聞かされてから、まだ数日しか経っていないんですね……)」

 

ふと思った海未。

ほんの少し前に、悠里の中学時代を親友から聞かされた自分達。

 

今でも罪悪感がある。何せ、自分達は悠里の事を()()()()()のだから……

 

「……別に僕は気にしてないから」

「え……」

 

そんな事を考えていると、悠里が海未にそう言った……気がした。

 

「…いや別に。なんでもないよ。目的地が見えてきたよー」

「……」

 

なんかうまい具合に話を逸らされた気がすると海未は思った。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「ありがとうございましたー♪ 南ちゃん達によろしくねー♪」

「「ど、どうも……」」

 

お店を出る際に、店員が悠里と海未に笑顔でそう言った。

目的地であるショッピングモールに着き、理事長に頼まれた品を受け取りに来たのだが……

 

『すみません、南先生の代わりに予約の品を受け取りに来た者なんですが……』

『はーい♪ お待ちしており……どぅえっ!!? 藍里(あいり)ちゃん!!?』

『……の息子です』

『あーなるほど……藍里ちゃんの息子さ……って、息子ォォォォッ!!?』

『あの、大丈夫ですか?』

『ごめんなさい。少し取り乱し……うぇえっ!!? 園田ちゃん!!? ちょっと何! 髪また伸ばしたの!!?』

『……の娘です』

『あ、あらそう……園田ちゃんの娘さ……って、娘ェェェェッ!!?』

 

という店員が悠里と海未を見て、驚愕の表情をしながら取り乱しては落ち着いては、また驚愕の表情をするという出来事があった。

……そんなに自分達は高校生時代の母親達に似てるのかと思った。

 

「…さて。南先生から頼まれた品も受け取った事だし……どこかでお茶でも飲む?」

「え……えぇ!?」

 

唐突な悠里の提案に、動揺する海未。

 

「せっかく来たんだからいいかなーって思って。あ、もしかして今日、日舞の稽古とかあった?」

「ないですないです! お母様には悠里君とお出かけと……あっ!」

 

必死な表情で悠里に詰め寄ると同時に、うっかり余計な事を言ってしまい、両手で口を塞ぐ海未。

 

「……まぁ、あながち間違ってないけどね。行こっか?」

「あ……はい♪」

 

苦笑いしながら、海未に手を差し伸べる悠里。彼の左手を海未は嬉しそうに握り、手を繋ぐ。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

ショッピングモールに内にある案内板を頼りに、2人は3階のカフェエリアに来ていた。

とりあえず一周し、悠里は海未が行きたそうな場所を選んでもらった。

 

「いらっしゃいませ~、2名様ですか?」

「はい、2名です」

「それではこちらになります」

 

店内に入ると、女性の店員に迎えられ、悠里と海未は席に案内される。

 

「こちらがメニューになります。ご注文が決まりましたら、そちらのベルでお呼びください」

 

そう言うと店員は、持ち場に去っていった。

 

「みーちゃん、みーちゃん! シフォンケーキと季節のフルーツケーキがあるよ!」

「ふふ、そうですね♪ それにしても、こんなに種類が多いと悩みますね……(はしゃいでる悠里君、なんだか可愛いです♪)」

 

真顔だが、瞳の奥がキラキラと輝いている悠里を見て、海未は可愛いなと思った。

その証拠に、悠里の口調が微妙にはしゃいでる感じがあったから。

 

「うーん……よし。僕はシフォンケーキと紅茶のセットにしようかな。みーちゃんは?」

「そうですね……私は、抹茶のショートケーキセットにします」

 

注文する品が決まったので、悠里はベルを鳴らす。

 

「えっと……シフォンケーキと紅茶のセットが1つと抹茶のショートケーキセットを1つ、お願いします」

「かしこまいりました。少々お待ちください」

 

店員に注文をし、注文の品を待つ。

 

「それにしても……」

「?」

「……電車で来れなくはないけど、絶対に1時間以上かかるよね、このショッピングモール」

「そうですね。そういえば悠里君」

 

悠里が自分達がいるショッピングモールについて呟くと同時に、海未は訊きたい事があった。

 

「その、バイクの免許……いつ取ったんですか?」

 

そう。悠里のバイクについてだった。

 

「ああ……あれ? 高校1年生の時に取ったんだ」

 

気まぐれでだけどね? ……と悠里は言う。

なんでも、高校1年生の時に授業でバイクの教習所モドキが行われて、気がつけば、免許を取れてしまったらしい。

 

それを聞かされた海未は、悠里が高校1年生の時に通っていた学校はどんな授業をしてるんだ……と思った。

 

「お待たせしました。シフォンケーキと紅茶のセットが1つと抹茶のショートケーキセットになります」

 

そう思ってると、ちょうど注文した品を店員が持って来た。

 

「ごゆっくりどうぞ!」

 

店員は笑顔でそう言うと、再び持ち場に去っていった。

 

「わーい♪ シフォンケーキ♪ シフォンケーキ♪」

「……ふふ♪」

 

本当は他にも訊きたい事があったけど、悠里の嬉しそうな表情を間近で見て、そんな考えは吹き飛ぶ。

 

「(またこれから……悠里君と思い出を作っていけば……きっと……)」

 

そう思った海未だった。




読んでいただきありがとうございます。
こんな感じで、悠里と関わりのあるキャラの誕生日に投稿しようと思ってます。
本日はありがとうございました。

※主人公の簡単なプロフィールです。


水無月悠里(みなづきゆうり)


容姿イメージ:『らき☆すた』の岩崎みなみ

誕生日:12月12日、いて座

血液型:A型

一人称:僕


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記憶2 高咲侑

ゆるポメラです。
今回は侑ちゃんの名前が決まった日(実質的に誕生日)になります。
……多分、合ってるよね?
楽しんでいただけると幸いです。

それではどうぞ。


とある日の夜。

現在、個人的な諸事情により、昔住んでいた団地の家にて。

 

(ゆう)ちゃんの面倒……ですか?」

「そうなの……お願いしてもいいかしら?」

 

今晩の夕飯のメニューは何にしようか?と悠里が考えていたところ、お隣さんである高咲侑(たかさきゆう)の母が家にいらして今の会話に至る。

 

なんでも、侑が軽い風邪を貰ってしまったらしい。

 

「それなら歩夢(あゆむ)ちゃんに……というか明日、平日じゃん……」

「本当は見てあげたいけど、頼める人が歩夢ちゃんか悠里くんしかいなくて……」

 

もう1人のお隣さん、上原歩夢(うえはらあゆむ)に頼めばいいのでは?と思った悠里だが、生憎明日は平日で彼女は学校。

それに対して、悠里が通ってる学校は藍音学院(あいねがくいん)という、少し特殊な学校なので、明日は休みなのだ。

 

しかも侑の母は今日は看れても、明日は仕事で家に居ないのである。

 

こういう時の両親の気持ちも悠里は解っているので……

 

「分かりました」

 

二つ折りで返事をしたのであった。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

そして翌日。

必要な物が入ったリュックを持ち、玄関を出ると……

 

「あ! 悠里くん!」

「歩夢ちゃん、おはよ」

 

ちょうど今から学校に向かう歩夢と遭遇した。

 

「私も学校が終わったら、みんなで行くから、侑ちゃんをよろしくね?」

「連絡は聞いてたんだ? それは良かった。そうだ、歩夢ちゃんにお願いしたい事があるんだけど……」

 

そう言って悠里は財布から5000円札を取り出して、歩夢に手渡した。

 

お金(これ)を歩夢ちゃんに渡しておくよ。侑ちゃんや歩夢ちゃん達が食べれそうな物に使って?」

「うん、分かった。悠里くんは何か食べたいの……何かある?」

「……フルーツ寒天ゼリーで。白桃味と蜜柑味とぶどう味、1種類ずつあれば、それがいい……」

「あ、あはは……」

 

真顔でリクエストを言う悠里に歩夢は苦笑い。

ちなみに悠里が頼んだ寒天ゼリー、250g入りで値段は税込みで105円というデザートらしい。

 

そんなこんなで歩夢は学校に、悠里は高咲家に入るのであった。

 

「……(冷蔵庫の中に入ってる物は使っていいよって侑ちゃんママが言ってたけど……)」

 

人様の家の冷蔵庫を開けるのは、気が引けるなぁと思いながらも冷蔵庫を開ける悠里。

昨日、侑の母から預かった家の鍵をテーブルの上に置いておくのも忘れない。

 

「一応、侑ちゃんの様子を見ておこうかな」

 

そう思った悠里は彼女の部屋に向かう。

もしかしたら寝てるのかもしれないので、ドアを静かに開ける。

 

「……」

「…お邪魔しまーす……って、やっぱり寝てるね」

 

案の定、侑は寝ていた。

咳をしてない様子を見る限り、本当に軽い風邪なのだろう。

 

もしくは今朝、飲んだであろう風邪薬の効果が効いてきたのか。まぁ、悠里としては一安心である。

 

「ん……?」

「あ。起きちゃった?」

「あれ……悠里? なんで私の家に居るの……?」

 

タイミングがいいのか悪いのか、侑が起きてしまった。

彼女としては、なんで自分の家に悠里が居るのか疑問の方が強かったが……

 

「侑ちゃんママに頼まれて、侑ちゃんの看病をする事になりました」

「そう、なんだ…………え"っ!?」

 

悠里の言葉を聞いた侑は、納得したような表情をしたと思いきや、驚きの表情に変わった。

 

「…病人がそんな大きな声を出すんじゃないの」

「うう~~……」

 

そう言いながら、悠里は顔を赤くしながら呻いてる侑に布団を被せポンポンと叩く。

 

「今は少しでもいいから休んで、少ししたらまた様子を見に来るから。後で軽い食べ物を持ってくるね」

「うん……ありがとう……」

「気にしないで」

 

そう言って部屋を出ていく悠里、侑はベットに再び潜り込み寝転んだ。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「(そういえば小さい時も悠里が看病してくれたっけ……)」

 

ふと思い出した侑。

確か今と同じ感じで風邪をひいてしまい、悠里が付きっきりで自分の看病してくれた事を。

 

「侑ちゃん、侑ちゃん……大丈夫?」

「…悠……里?」

 

うつらうつらとしながら目を開けると、心配そうな表情で侑を揺り動かす悠里の姿があった。侑はゆっくりと身体を起こす。

 

「なんか魘されていたけど……怖い夢でも見たの?」

「ううん。ちょっと昔の事を思い出しちゃっただけ……心配かけてごめんね?」

「……そっか」

 

すると悠里は侑のおでこに手を当て熱を測る。なんかこの感じ懐かしいなと思うと同時に恥ずかしいなと侑は思った。

 

「熱はさっきよりは下がったみたいだね、お粥を作ったんだけど食べれそう?」

「これ、悠里が作ってくれたの?」

 

悠里が作ったと思われるお粥を見て、思わず目を見開いてしまう侑。彼が料理が得意な事は知っているが、なんというか……昔の時よりもグレードアップしてる気がした。そんな侑の考えてる事が分かったのか、悠里は微笑みながら答える。

 

「これでも料理はそれなりに作れるよ? でもまあ……お粥系の料理を作ったのは、久しぶりだから自信はあんまりないけど」

「この見た目で?」

「……うん。ちょっと待っててね? 小鉢に分けるから」

 

そう言って悠里は持ってきた1人分用の大きくもなければ小さめでもないくらいの土鍋の蓋を開け中のお粥を小鉢に分ける。分け終わり侑にスプーンと一緒に手渡した。

 

「はい。食べれなかったら残してもいいからね?」

「あ、ありがと……えっと、その……」

「?」

 

渡された小鉢と悠里をチラチラと交互に見る侑。

どうしたのかと思い、首を傾げる悠里だったが、直ぐに意味が解った。

 

「……しょうがないな。はい、あーん……」

「あ、あーん……」

 

やれやれと内心では溜息を吐きながらも、お粥を侑に食べさせてあげる悠里。

 

「も、もう一回……」

「…え? まだやるの?」

「……ダメ?」

 

上目遣いでお願いされてもなぁ……と困りつつも、侑は病人だしという思いのどちらかを考慮した結果……

 

「はい、あーん……」

「っ! あーん♪」

「……(まあ、このくらいの我儘ならいっか)」

 

ご満悦な表情をしてる侑を見て、悠里は今日くらいはいっかと思うのであった。




読んでいただきありがとうございます。
なんとか間に合って良かったです……(苦笑)
次回の投稿日は愛ちゃんの誕生日になります。
頑張りますので、よろしくお願いします。
本日はありがとうございました。


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記憶3 宮下愛

ゆるポメラです。
愛ちゃん、誕生日おめでとう。
短いかもしれませんが、楽しんでいただけると嬉しいです。

それではどうぞ。


とある日の虹ヶ咲学園(にじがさきがくえん)の学食にて。

 

「あ! いた! ゆうりん! デートしよ~♪」

「……はい?」

 

学食でお弁当を食べようかなと思った矢先、宮下愛(みやしたあい)に声をかけられてた言葉を聞いて、手が止まる悠里。

 

「あ、ここ座ってもいい?」

「うん、いいよ」

 

早速と言わんばかりに悠里の隣に座る愛。

 

「も~、ゆうりんってば、すぐにどっか行っちゃうんだもん。愛さんけっこう捜したんだよ?」

「……僕そんなにほいほいと何処にも行かないけど?」

 

まず虹ヶ咲(ここ)の生徒じゃないしと愛に付け足す悠里。

そもそも悠里が虹ヶ咲学園に出入りしているのは、ちゃんと理由があるからだ。

 

具体的には、悠里が通ってる藍音学院の理事長が書類を虹ヶ咲学園の理事長に渡してほしいという、お使いをよく頼まれるからである。

 

そして虹ヶ咲学園の理事長から『悠里くんなら、校内を自由に出入りしてもいいわよ♪』という許可を貰っただけである。

 

なので自分が虹ヶ咲学園の校内のどこかに居るとしたら、学食がある場所くらい。

 

「……というか、デートって何? そうなった経緯を知りたいんだけど」

「ふっふっふ~……知りたい?」

「乙女の秘密云々はあるかもしれないけど、経緯を知る権利くらいはあると僕は思うの」

 

そんな思わせぶりな笑みを浮かべてられても困るし、悠里としては経緯を知りたい。

 

「実は()()()()、それはそれはもう盛大なじゃんけんをしてたんだ~♪ さっきまで♪」

「……で、愛ちゃんが勝って今に至るって事?」

「そゆこと♪」

 

なんでも愛を含んだ2年生組の5人で悠里との放課後デートに誘う人を決める為に盛大なじゃんけんを先程までしていたと言う。

 

「おっ、ゆうりんのお弁当、今日は和風料理が多いね?」

「……実を言うとこれ、昨日作った夕飯の余り物。と言っても肉じゃがと里芋の煮物だけどね? ……食べる?」

「食べる食べる~♪」

 

愛がそう言うと、そこには煮物をこっちに向けている悠里の姿が。

 

「……えっと、ゆうりん? 何してるの?」

「何って食べさせてあげようとしてるんだけど?」

「~~~~っ!!?」

 

澄まし顔で愛の質問に答える悠里。それを聞いた愛の顔は真っ赤である。

 

「はい、愛ちゃん。あーん……」

「あ、あーん……」

「美味しい?」

「……(ちょっ、ちょっと待って。なんでゆうりんそんな平気そうな顔なの……愛さん恥ずかしいよ……)」

 

美味しいかと悠里に聞かれ、首を縦に振る愛だったが、正直に言って恥ずかしさのあまり、味なんて分からなかった。

 

余談だが、自分達以外にも生徒が居た事に後から気付き更に恥ずかしさを覚える愛なのであった。




読んでいただきありがとうございます。
なんとか間に合って良かったです……(苦笑)
次回の投稿は、穂乃果ちゃんの誕生日になると思います。
頑張りますので、よろしくお願いします。
本日はありがとうございました。


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記憶4 高坂穂乃果

ゆるポメラです。
穂乃果ちゃん、誕生日おめでとう。
楽しんでいただけると嬉しいです。

それではどうぞ。


とある日の音ノ木坂学院の廊下にて。

 

「(見回りも楽じゃないなぁ……)」

 

内心そう思いながらも小さく溜息を吐く悠里。

 

そう。今日は自分がこの学校に転入してから初の『秋の学園祭』なのである。

 

そして自分は何をしているかというと、自由時間兼見回りである。

 

「(縁日って……あの縁日だよね?)」

 

目に留まったのは、1年生が出してる『縁日コーナー』だった。

 

現在の時刻は10時5分。

ちょっとだけ興味があったので、中に入ると、多くの人で賑わっていた。

 

「やった!! ついにゲットォ~!!」

 

近くの射的コーナーで聞き覚えのある声がしたので、悠里はそちらに視線を向ける。

 

「もう~、これじゃあ一等の賞品が今日のうちに無くなっちゃう」

「無くなっちゃいそうって事はまだあるって事?」

「ほのちゃん、何してんの……」

「あ! ゆうちゃん!」

 

会話を察した悠里が声をかけると、大量の賞品を取った少女、高坂穂乃果(こうさかほのか)がライフル片手に悠里の方を振り返った。

 

一瞬、どこぞのスナイパーに視えたのは気のせいだと思う。

 

「……ねぇ。まさかこれ全部、ほのちゃんが取ったの?」

「……はい」

 

1年生にそう訊くと、彼女の口から案の定の答えが返ってきた。しかも穂乃果に大量の賞品を取られてしまったせいか、肩を落としながら項垂れていた。

 

「ねえねえ! もう1回やってもいい?」

「ダメです! 高坂先輩はもうタイムアウト!」

「ええ~!」

「これ以上狩られたら、赤字になってしまうので出入り禁止です!」

 

そのやり取りを見てた悠里は、そりゃそうだと思った。

 

「酷い……いくら穂乃果が射的の名手だからって大人げない」

「……どう考えても大人げないのは、ほのちゃんでしょ」

「痛っ!? うぅ~、ゆうちゃん痛いよ~!」

 

うるうるした表情で1年生に訴える穂乃果に、悠里が軽くチョップ。そして穂乃果は軽く涙目になり、頬を膨らませながら悠里を見る。

 

「とりあえず……ほのちゃんが取り過ぎた賞品はこれで賄えるかな?」

 

よいしょと悠里が何処から持って来たのか、大きめの袋を1年生に渡す。

 

「えっ!? 水無月先輩こんなにいいんですか!?」

「あれ? もしかして足りなかった?」

「いえいえ正直充分過ぎます! ほんとにいいんですか?」

「まあ強いて言うなら、その袋の中に賞品のチェックシートが一緒に入ってるから、取れた賞品の項目に印を付けてほしいんだけど……」

「しますします! 学園祭が終わったら、クラスのみんなで渡しに行きますので!」

 

悠里と穂乃果が射的コーナーを後にする時、1年生から何度も助かりました! と悠里は言われたのだった。

 

「むーっ……」

「……何?」

 

それも束の間、悠里をジト目で見る穂乃果。なんか機嫌が悪そうにも見える。

 

「ゆうちゃんと話してたあの子、楽しそうだった……」

「気のせいじゃないの?」

「そんな事ないもん! 楽しそうだったもん!」

 

両手に射的で取った賞品を持ってるのにも関わらず、器用に手をじたばたさせながら悠里に訴える穂乃果。

 

「もう! ゆうちゃんも少しくらいカフェのお当番を手伝ってくれたっていいんじゃない!? ゆうちゃんが呼びこみをすると人がたくさん来てくれるんだしぃー!」

「……そもそもカフェって言っても、ほのちゃん達μ's(ミューズ)がやってる()()()()()()()でしょ? 僕みたいな落ちこぼれ以下で、陰キャが居ても邪魔になるだけだし」

「そーんな事なーい!」

 

ぶぅーぶぅーと抗議しながら、悠里に訴える穂乃果。

ちなみにμ's(ミューズ)というのは、この学校で活動しているスクールアイドルの事で、メンバーは穂乃果を含めて9人。悠里は微力ながら彼女達を手伝ってるだけだが。

 

そもそも自分が手伝わなくても、彼女達だけでなんとかなったんじゃないか?と今でも思ってる。

 

だからこそ悠里はこうやって見回りをしているのである。適材適所と言う奴である。

 

「……というか、ほのちゃんって今は自由時間なの?」

「うん! お昼のμ'sのステージまではまだ時間があるし、カフェのお当番の時間もまだまだ先だから」

 

その理由を聞いた悠里は納得。

確かにお昼の時間帯に行うμ'sのライブ開始の時間までまだ時間があった。

 

「うわあああーん、ちぎれちゃったよぅ」

 

時間もまだあるし、折角だから2人でどこか回ろうかと思ってた時だった。

近くのヨーヨー釣りのコーナーで小学生くらいの女の子2人を見つけた。その内1人の女の子は欲しかったヨーヨーが取れなかったせいか、涙目になったいた。

 

「ユナ、これ絶対に欲しかったのに~」

「どうしたの」

 

穂乃果が声をかけると、ユナと呼ばれた女の子はぷいっと顔を逸らしてしまった。

 

「……どうしたの? このヨーヨー釣り、おかしいところでもあったの?」

「うん。このヨーヨー釣りおかしいの。さっきから全然取れなくて……何かきっとどこか壊れてるか、わざと取れないようになってるんだわ」

 

今度は悠里が姿勢を低くして、ユナと連れの女の子の視線に合わせながら訊くと、ユナが涙目になりながらポツリと口を開いた。

 

「……(まぁ、この子の言いたい事も解るんだけどなぁ)」

 

ユナの頭を撫でながら、悠里が受付をしてた1年生に視線を向ける。1年生は困りながら首を横に振っていた。

 

「じゃあさ、()()が代わりにやってみてあげるよ」

「え? ゆうちゃん、もしかして穂乃果もやるの?」

「……他に誰が居るのさ? それとももしかして、ほのちゃんはヨーヨー釣りは自信無いのかな?」

「むっ! そんな事ないもん! やるよ! ゆうちゃんをギャフンと言わせるんだから!」

 

悠里の一言に頬を膨らませながら、俄然やる気に満ちた表情をする穂乃果。

 

「……(ちょっと煽り過ぎちゃったな。ほのちゃんの目がマジになってるし)」

 

そう思いながらも悠里と穂乃果は、ユナの為にヨーヨーを取りまくる事に。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「わぁ、すごい! お姉さんとお兄さんもう5つ目よ」

「あっ!? ゆうちゃんそれ、穂乃果が狙ってたやつ!」

「……ふっふっふ。スーパーボール入りのやつは、そう簡単には譲らないよ」

 

代わりにそっちのヨーヨー狙っていいからと穂乃果に言う悠里。

最初こそは、軽く手を抜いてやろうかなと思ってた悠里だったが、何故か穂乃果があまりにも本気なので、自分も気付けば本気でヨーヨー釣りをしていた。

 

「あっちのピンクと黄色のアイスクリームみたいなやつも取って♡」

「お姉さんとお兄さん、すごいんですね。高校生になると、こんなにヨーヨー釣りが上手くなるんだ……」

「「えっ?」」

 

ユナと一緒にいたもう1人の女の子、モモカにそう言われて、思わず手を止める悠里と穂乃果。しかも周りの人達にクスクスと笑われてる気がした……

 

「そ、そんな。別に高校生だから上手くなったっていう訳じゃなくて」

「右に同じく。僕の場合は、元々ヨーヨー釣りが少しだけ自信があっただけだから……」

「「?」」

 

穂乃果と悠里の答えを聞いたユナとモモカは、よく分からなかったのか首を傾げるのであった。

 

「はい」

 

ある程度の取ったヨーヨーの内、ユナが欲しがってたピンクと黄色の柄のヨーヨーを渡す穂乃果。

 

「なんかバナナ&ストロベリーアイスみたいな色だね♪」

「……あー、言われてみれば確かに。そういえば、そのフレーバーって実質期間限定らしいよ? 一部のアイスクリーム屋にしかないんだよね。僕は好きだけど」

「お姉さんとお兄さんも好き? ユナも大好きなの!」

 

嬉しそうな反応をするユナ。寧ろ、アイスクリームが嫌いな子供は少ないんじゃないかと悠里は密かに思っていた。

 

「よくモモカと食べに行くんだ。音小からの帰り道……」

「ええっ!? あなた達って音小なの!?」

「あ、いえ、違います。私達は山の上小学校の生徒で……」

「……あー。あの学校の生徒なんだ」

 

なるほど。この子達は山の上小学校に通ってるのかと納得する悠里。てっきり自分や穂乃果と同じ音小かと思ってたが。

 

「そういえばさっき音小の帰りって言ってたよね。あれって?」

「ああ。それはモモカに誘われて、合唱クラブに入ってるんです。日曜日に音小の校舎でやってる合唱クラブ」

 

ちょっと気になった悠里が2人に訊くと、ユナがそう説明してくれた。

 

「あああ! それってことりちゃんがボランティアで手伝ってるやつじゃない!? (みなみ)ことりちゃんってボランティアのお姉さん。私とゆうちゃんの友達なんだけど」

「え、お姉さんとお兄さん。ことりお姉ちゃんのお友達なんですか!?」

「……友達っていうか、僕とほのちゃんの幼馴染みだよ」

 

自分の隣ではしゃいでる穂乃果を見て、さてどうしたものかと思ってた時だった。

 

「あああああ!! いた!! お姉ちゃん!!! こんなとこで何やってんの!?」

雪穂(ゆきほ)!?」

「……それと亜里沙(ありさ)ちゃん?」

「こんにちは」

 

振り返ると、穂乃果の妹の高坂雪穂(こうさかゆきほ)絢瀬絵里(あやせえり)の妹の絢瀬亜里沙(あやせありさ)が居た。

 

「はぁ……もうこれだから」

 

溜息を吐きながら呆れ顔の雪穂。まるでうちの姉はどうしていつもこんなだろうかと言いたげな感じが窺えた。

 

「今日はμ'sのステージあるから絶対見に来てって騒いでたのお姉ちゃんでしょ? 折角だから友達も誘って連れてきてあげたのに! ゆうり(にい)まで巻き込んで!」

「ゆうちゃん~、雪穂が穂乃果をイジメるよぉー……」

「いや、今回ばかりは雪穂ちゃんが正しいと僕は思う」

「ええ~!?」

 

よく見ると、雪穂と亜里沙の他に彼女達のクラスメイトらしき子がもう1人居た。3人で学園祭に来てくれたのだろうか?

 

「そんな事してないで、早く行きなって! もうステージまで1時間切ってるんだよ!?」

 

時計を確認すると、時刻は12時10分だった。

 

「……あっ、屋台の焼きそばとわたあめ食べ損ねてる。これは由々しき事態だよ」

「「そっち!?」」

 

悠里の一言に思わず突っ込んでしまう高坂姉妹。

 

「ほら、ほのちゃん。早く行かないと、みーちゃんに怒られるかもよ?」

「えー! それはやだよー! じゃあμ'sのステージ、あとで絶対見に来てね」

 

そう言うと穂乃果は悠里に先に行くねーと言って、その場を後にした。

 

「あのお姉さんがμ'sの人!?」

「ウソー!? 私達、街でポスター見て、μ'sのライブを見に来たのに」

 

ユナとモモカもまさか穂乃果がμ'sのメンバーだとは気付かず、急いでライブが行われる講堂に向かうのであった。

 

「やれやれ……」

「あ、あの……」

「?」

 

2人を見送った後、雪穂と亜里沙の友達が悠里に声をかけてきた。

 

「あ、あの。わ、私……水無月先輩のファンです! さ、サインください!」

「サイン? このCDにすればいいの?」

「は、はい……!」

 

サインして欲しいと渡されたCDには、『No.39』と右上に記されてあった。

 

「雪穂。悠里さんって、そんなに有名なの?」

「うーん、それがよくわかんないんだよねー。お姉ちゃんが、ゆうり兄が凄い人だったんだーとしか私も聞いてないから。なんかスクールアイドルに関係ある事って言ってたけど」

「ハラショー!」

「……(ほのちゃん、どんな説明をしたのさ)」

 

サインしながら雪穂と亜里沙の会話を聞いてた悠里だが、穂乃果が雪穂にどんな説明をしたんだろうと内心思っていた。

 

「…あっ、思い出した。確かいつもライブで、新曲の案をくれた子だ」

「っ! は、はい……!」

 

悠里に覚えてもらえてたのが嬉しかったのか、少女は笑顔で答えた。

 

「この前の新曲、凄く良かったです! CDに付属してた楽譜、私見つけてすぐに練習しました!」

「隠し楽譜、見つかっちゃったか……はい。サイン書き終わったよ」

「あ、ありがとうございます! 一生大事にします!」

「「……」」

 

それを見てた雪穂と亜里沙は唖然としていた。実は彼女、クラスではかなり控えめな子で、こんな感情豊かに話してるのを見たのが初めてなのである。

 

「じゃあ僕もみんなのところに行くよ。あ、それと……」

「「「?」」」

 

思い出したと言わんばかりに……

 

「μ'sのライブが終わったら、僕の気分次第だけど……()()()()()かも……ね」

 

意味深な表情で3人にそう言うのであった。

 

「あー! ゆうちゃんがまた楽しそうに話してるー!」

「お姉ちゃん!? まだ行ってなかったの!?」

「だってなんか嫌な予感がしたんだもーん!」

 

何故か戻って来た穂乃果を見て、まだステージ会場に行ってなかったのか……と思う悠里なのであった。




読んでいただきありがとうございます。
なんとか間に合って良かったです……(苦笑)
次回の投稿は、せつ菜ちゃんの誕生日になると思います。
頑張りますので、よろしくお願いします。
本日はありがとうございました。


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記憶5 優木せつ菜

ゆるポメラです。
せつ菜ちゃん、誕生日おめでとう。
楽しんでいただけると嬉しいです。

それではどうぞ。


とある休日の電車の中にて。

 

「発車時刻に間に合って良かったです!」

「……ギリギリだったけどね。その……待ち合わせ場所……なんかゴメン」

 

電車の発車時刻に間に合って良かった事に安堵する優木(ゆうき)せつ()に対して、ゴメンと謝る悠里。

 

「いえ! 私が分かりにくいところに居ただけですし、こちらこそごめんなさい」

「……柱の陰に居るなんて、誰も思わないもんね。普通」

「すみません……早く来すぎてしまったので、歩いている人の邪魔にならないような場所を探していたらあんなところに……」

 

なんとも彼女らしい理由だ。

 

「でも、お互い見つけなければならないんですから、もっと見つけやすい場所を探すべきでしたよね」

「そ、そうだね……(言えない。せつ菜ちゃんが柱の陰と同化していて、見つけられなかったなんて……言えない)」

 

それだけじゃなく、彼女の身長の低さも相まって、余計に見つけにくかったなんて口が裂けても言えない悠里。

 

「その、こうやって悠里さんと待ち合わせをした事があまり無くて、小さい頃以上に待ち合わせが下手になっちゃったと言いますか……」

「あー……そうだったんだ……」

「は、恥ずかしながら……」

 

ちょっと恥ずかしそうに答えるせつ菜。

 

「早く来すぎたって言ってたけど、何時くらいに来てたの?」

「ええと……忘れました……」

「僕もそれなりに早く来たつもりだったけど、せつ菜ちゃんはもう居たもんね」

 

せつ菜は何時くらいに来てたのか忘れたと言ってるが、実は悠里。彼女が実は1時間30分くらいから待ち合わせ場所に居たというのを知っている。

何故知っているのかというと、待ち合わせ場所周辺に住んでいる野良猫から教えてもらったのだ。

 

ちなみに悠里、野良猫だけじゃなく、一部の動物とも会話ができるのだ。これは昔からの体質なのだが。

 

「待ってる間、退屈じゃなかった?」

「そんなことないです! 向こうに着いたら悠里さんと何しようかなとか、一緒にパフェ食べたいなとか、あわよくば食べさせてもらえたりとか、色々と考えてたので待っている時間はあっという間でしたから!」

「……」

 

なんかとんでもない事を早口で言ってる気がしたが、気にしない事にした悠里。

 

「ちなみに今日の事ってもしかして……」

「はい! 昨日、みなさんとじゃんけんして決めました!」

「……(やっぱし)」

 

それはもう盛大でした!とドヤ顔のせつ菜。それを聞いてやっぱりかと思う悠里。

 

ついこの間も(あい)から聞いたが、せつ菜を含んだ2年生組の5人で悠里とのお出かけを賭けた盛大なじゃんけんが本人の知らないところで度々行われてる……らしい。

 

「(だいたい誰かは見当はつくんだけどなぁ……)」

 

まぁ、予想したところで今後も変わる事はないだろうと思う悠里であった。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「着きました!」

「そう! この日の為に、前日に銀行でお金をいつも以上におろしてきたぞい!」

 

着いた場所はアニメショップ。実を言うと、この2人は漫画やアニメが好きなのである。悠里に至ってはちょっとテンションがおかしい。

 

「あっ、最新刊ありました!」

「……あっ、限定版もこっちにあるけど、せつ菜ちゃんって両方買う系?」

「もちろん買います!」

 

キリッとした表情で悠里の質問に答えるせつ菜。通常版と限定版の両方を手に取りながら。

 

「…せつ菜ちゃんが買う今回の新刊、気づいたらもう8巻か。僕も集めてるから買うんだけど。かなり面白いし」

「ですよね! ですよね!」

 

せっかくなので、限定版を手に取る悠里。

ちなみにどんな物語かというと、平凡な高校生活を送っていた少年が異能力者でツンデレでメロンパン好きなヒロインとの出逢いを発端とした、日常生活と戦いの日々を描いた物語である。

 

帯には『アニメ化決定!!』の文字が。

 

「あとは確か……僕が読んでる漫画の各章新刊が同時発売の筈……せつ菜ちゃん、このレーベルを探してるんだけど……」

「あ、それでしたら、そのレーベルはこっちの方になりますね!」

 

せつ菜に場所を案内してもらい、目的のコーナーに着いた2人。

 

「あったあった。第1章の解答編である第6章の3巻、第2章の解答編である第5章の4巻。ちゃんと最新刊発売を調べておいて正解だったよ」

「それ知ってます! 確かサウンドノベルが原作ですよね!?」

「そうそう。社会現象にもなったし、ゲームも出てるし。なんだったらアニメ化も……」

 

ペラペラと早口で悠里は喋ってるが、せつ菜はちゃんと解ってるようで、相槌を打ったり自分の推しはこの子ですね!と傍から見たら、仲の良いオタク仲間にしか見えない。

 

「っ! 悠里さん、あそこに置いてあるの……伝説の『奇跡のスーパーベルンちゃん人形』じゃないですか!?」

「そんなわけ……ほんとだ!! あれは紛れもない、『奇跡のスーパーベルンちゃん人形』! しかも『絶対のスーパーラムダちゃん人形』も置いてある!」

「対象商品をペアで一緒に買うと、クジ引きが行えますって書いてますね……っ! わ、私の好きな作品のクジ引きもあります!」

「……クジ引きをやりますか? やりませんか? さあ、せつ菜ちゃんはどっち?」

「やります!」

 

そこから2人の行動は早かった。

まず悠里が対象商品の1つである『奇跡のスーパーベルンちゃん人形』と『絶対のスーパーラムダちゃん人形』を手に取り、せつ菜も自分が好きな作品のグッズをいくつかピックアップ。そして2人はレジに向かうのであった。

 

「それでは対象商品がございましたので、お客様、クジ引きをどうぞ♪」

「はい! それでは……」

()()()()()、頑張って~」

「っ!? なっ……あ、あの、その呼び方は……」

 

店員がクジ引きの箱を差し出す。

さて、お目当ての景品を当てようといざ行おうとしたせつ菜を昔の渾名で呼び始めた悠里。突然の事にせつ菜は口をパクパクしながら、顔を赤くしていた。

 

「はぅ! 照れてるなーちゃん、かぁいいよー! おっもちかえりぃ~♪」

 

せつ菜の動作が悠里の琴線に触れたのか、某お持ち帰り少女と同じ固有結界状態になっていた。

 

「えーっと……そ、それではお客様? こちらがお客様が選んだクジ引きになります。頑張ってくださいね?」

「よーし! なんか当てるんだよー♪」

「……(こ、これは所謂、役得というやつですよね!? ふにゃ~~!? わ、私だけこんな……!? み、みなさん……悠里さんを独り占めしちゃって、すみませ~ん!)」

 

ズボッっと、クジ引きの箱に手を突っ込む悠里。一方でせつ菜は悠里の腕の中で混乱していた。

 

「おめでとうございます! シークレット賞になります! こちらの『尊厳なる観劇と戯曲と傍観のアウアウローラ様人形』になります!」

「はっう~♪ なーちゃんパワーで手に入れた『尊厳なる観劇と戯曲と傍観のアウアウローラ様人形』、かぁいいよー! なーちゃんも一緒におっもちかえりぃ~♪」

「ええ!? そ、そんな事……む、寧ろ……わ、私は……してほしいですけど……

 

その光景を目の前で見ていた店員は、見方を変えれば、せつ菜が完全に悠里の景品に視えるなと思ったそうな。




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記憶6 南ことり

ゆるポメラです。
ことりちゃん、誕生日おめでとう。
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とある休日のショッピングモール内の喫茶店にて。

 

「こんなに可愛いノートが買えて、よかったぁ♪」

「……(10冊近くのノートを買うのって、普通……なのかな?)」

 

目の前の上機嫌な幼馴染み、(みなみ)ことりの横に置かれているノートの量を見て、女の子にとってはこれが普通なのか?と疑問に思った悠里。

 

「今日は、付き合わせちゃってごめんね。ゆーくん、疲れてない?」

「んー? 大丈夫だよ。今もこうやって休憩してるわけだし」

 

そう言って、注文してたレモンティーを優雅に飲む悠里。なんか様になってるな~と思ったことり。

 

「最近、考え事をすることが多かったから、たまにはのんびりゆーくんと過ごしたくて……♪」

「……そっか」

 

ふぅ、と注文してたミルクティーを飲んで一息つくことり。

 

「そういえばさ? 今日は雑貨屋しか回ってないけど、洋服は見ていかないの?」

「あ、でも……()は、お洋服は見なくてもいいかな」

「……」

 

ショッピングモールに来てから、雑貨屋しか回ってない事に疑問を感じた悠里は、ことりが好きな洋服は見てかなくていいのかと訊いたが、ことりは遠慮がちに今はいいかなと言った。

 

「……まあまあ。ファッションの流行とやらは、変わっていくんでしょ? 今日も一応見ておこうよ」

「わ、わわっ。ゆーくん待って~っ」

 

柄にもない事を言ってるなぁと思いつつ、悠里はことりを連れて喫茶店を後にするのであった。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「来たのはいいけど、どのお店に入ればいいかな……って、あれ? ことちゃん?」

 

ショッピングモール内の洋服コーナーに移動した2人。さてさて。どのお店に入ればいいのかと思い、悠里はことりに訊くが彼女の姿がない。はぐれてしまったかと思ったが……

 

「わあああっ……!! このお洋服かわいいっ♡」

 

その心配はなく、彼女はすぐ近くの洋服屋に居た。

 

「前のシーズンは、淡いパステルカラーだったのに、新作はこんなにビビッドな色を入れるなんて! それなのにこっちはシックなモノトーンで纏めてる……バランス感覚が凄いんだ」

「ことちゃん、見つけた」

「アクセサリーはボリュームがあって……ふむふむ、なるほど~!」

「……」

 

ことりに声をかけるが、どうやら洋服に夢中なようなので、彼女が気づくまで、()()()をしている事にした。

 

「あっ!」

 

ここでことり。悠里が隣に居る事に気づいた。

 

「ご、ごめんね、私一人で夢中になっちゃって……」

「気にしないで。ついさっきまで、ことちゃんの楽しそうな表情を写真に収めていたから」

 

我ながらよく撮れてるでしょ?と、少しドヤ顔でスマホをことりに見せる悠里。そこには洋服を見て幸せそうな表情をしてることりの姿が写っていた。

 

「へっ……? は、恥ずかしいから、消してよ~!?」

「ほのちゃんとみーちゃんしか見せないからさ。……ダメ?」

「それもダメ~!」

 

穂乃果と海未にしか見せないからと悠里は言うが、ことりからしたらたまったもんじゃない。悠里の事だから、自分の母にも見せそう。母にからかわれるのだけは絶対に嫌だった。

 

「……じゃあこの写真は僕が()()()に楽しませてもらうとするよ」

「こ、個人的に……!?(ゆーくん、な、何に使うんだろう……も、もしかして……×××(ピー)な事とか!?)」

「……ことちゃんが何を考えてるか想像つくけど、違うからね?」

 

顔を真っ赤にしながら悠里をまじまじと見ることりを見て、悠里はことりが何を考えてるのか解ったのか、違うと言い切った。

 

「な、何の事かなあ……? あ、ゆーくん見て、あそこ……」

「?」

 

話を逸らすように、ことりは人混みの方を指を差した。なんか微妙に騒がしい。少し気になった2人は行ってみる事に。

 

「いいじゃん、俺らと一緒に遊ぼうぜ」

 

騒ぎの正体は、5人の男達がことりと同じ159cmの少女をナンパしていた。

 

「────」

 

白いワンピースに白い帽子を深く被ったその少女は、表情こそ見えないが、遠目から見ても嫌がってるのは明らかだった。

 

「おいおい、周りの奴らが見てっけどいいのか?」

「平気だろ! この子、意味わかんない言葉使ってるし、俺らに刃向かってくる奴がいれば、俺らでボコればいいだけだし?」

「ははっ! 確かにな!」

「しかもお前んとこの親父さん、お偉いさんなんだろ?」

「そう言うお前もだろ? 俺らは()()()()って事だ!」

 

男達の会話を聞く限り、周りの人達も少女を助けてあげたいが、()()()の事が怖いのか、誰も助けようとはしなかった。

 

「ゆーくん、どうしよう……このままじゃ、あの子……」

「……」

「ゆーくん?」

「……ごめん、ちょっと行ってくる」

 

ことりが不安そうに悠里を見るが、悠里はナンパされてる少女を目を凝らしてジッと見た後、怪訝そうに呟いた後、早足で現場に向かった。

 

「────!」

「おい、何逃げようとしてんだよ」

 

なんとか隙を見て逃げようとした少女だが、腕を掴まれてしまった。

 

「退屈はさせないからさ、な?な?」

「そうそう。俺らと楽しい事しようぜ?」

 

男達の目は、変な事を期待している目だった。もうどうしようもないのかと思ったその時。

 

「…僕の連れに何か用?」

「!!」

 

声が聞こえた方に顔を向けて見ると。

そこには、少女も予想していなかった人物、悠里が立っていた。

 

「なんだテメェは!」

「陰キャは引っ込んでろ!」

 

文句を言う男達に悠里は静かに溜息を吐きながら……

 

「あ"?」

「「「「「ひっ……!」」」」」

 

腹の底から低い声で男達を威圧した。男達は情けない声を出しながら後ずさった。

だがこういう輩は脅したところで意味はない事を悠里は知っている。まして3()()()()()()()なら尚更だ。

 

なので……

 

「…お前らの親が上級国民だろうが、僕はそんなのどうでもいいよ。()()()()()()()()()()()()()()しね。それよかお前ら、この子に謝ってくれない? てか謝れ」

「はっ! なんで陰キャのテメェの言う事なんか聞かなきゃいけねえんだよ!」

「おい、この子を人質にすれば、その陰キャも大人しくなるんじゃね?」

「可愛いじゃん! しかもかなり上玉じゃね!?」

 

脅してみたが、なんと1人の男が近くに居たことりを人質に取ったのだ。ことりの容姿を見て、ウッヒョー!と歓喜になる男達。

 

「ゆ、ゆーくん……」

「……」

「という事で陰キャ! 怪我したくなかったら、その子を渡せ。ま、素直に渡したところで、お前がボコられるのは変わんねーけど!」

「…………」

「あれれ? 急に黙っちゃってどうしたのかな? もしかして、怖くなっちゃったとか?」

「…………」

「言い返せないって事は図星じゃね?」

 

ギャハハと笑いながら、悠里を煽る男達。

 

だが次の瞬間……

 

「……お前ら、少し頭冷やそうか」

 

顔を上げるとそこには、瞳のハイライトを消し、ドスの利いた声と殺気さえ含んだ眼で男達を見る悠里が居た。

 

周囲の人達は悠里の事を知っていたのか、男達を憐みの目で、しかも合掌までしていた。子連れの親は自分の子供に『あなたは人を見下したりしちゃダメよ?』と注意していた。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

その後はもう大騒ぎで、少女の連れと思われる黒服達が惨状を見た瞬間、慌てて飛び出して悠里を抑えていた。

その時の悠里の表情はことりも少し怯えるくらい怖く、例えるなら"悪魔か死神"に近かった。ことりは今後、悠里を絶対に怒らせないようにしようと誓った。穂乃果と海未にも教えておかなきゃと。

 

「クソ! この縄を解けよ!」

「そうだそうだ!」

「無礼者! 誰に向かって口を訊いている!!」

 

縄に縛られ騒ぐ男達を黒服が黙らせる。他の黒服達は周囲の人に聞き込みと何処かに電話をしているのが確認できた。

 

()()()、この者達の処遇はいかがしましょうか?」

「だからそう呼ばなくても……」

「いえ。そう言う訳にはいきません」

「?(悠里様……?)」

 

黒服が悠里の事を『様』付けで呼んでる事に首を傾げることり。

 

「まあいいや。多分そいつら全員、○○○中学出身だと思うから、僕としては手間が省けたよ」

「「「「「っ!!?」」」」」

「なんで俺らの出身校を知ってるんだよって顔してるけど、2()()()からマークしてたからね? ちなみに今通ってる高校についても調べはついてるから」

 

淡々と話す悠里に男達は徐々に顔を真っ青にした。

 

「それで処遇だっけ? うん、()()()()()()()で。他にも悪事を働いてると思うから、身辺調査も忘れずに。それが終わり次第、最終処遇を決めるから」

「はっ!! おい、連れて行け! お前とお前は俺と残れ」

「「はっ!」」

 

悠里が命令すると黒服の1人が他の黒服達に指示し、男達を連行して行った。

 

「あの、悠里様……こちらの方は?」

「…幼馴染みの南ことりちゃん」

「は、はあ……し、しかし私も話は聞いておりましたが、()()()の度を超えてますね……」

「えっと……」

 

悠里の言葉を聞いた黒服は、ことりを戸惑いの表情で観察していた。しかし瓜二つというのはどういう意味なのだろうか?

 

「悠里様、この度は()()を助けて頂きありがとうございます。ことり様、ご迷惑をおかけして申し訳ございません」

「あ、いえ。怖かったけど、ゆーくんに助けてもらいましたし……え? 姫様?」

 

黒服が頭を下げて悠里とことりに謝罪した。そしてことりは気になる単語を聞いて首を傾げた。

 

「あー……ミナ、帽子を脱いでもらってもいい?」

「……」

「!!」

 

悠里がそう言うと、ミナと呼ばれた少女が深く被っていた帽子をゆっくりと脱いだ。その正体を見たことりは驚愕の表情になった。

 

何故なら、彼女は()()()()()()()()()()()()()()だったのだから。

 

「それでミナ? 護衛も付けずにショッピングモール内を1人でうろつくのはちょっと頂けないんだけど……」

「その、弁明とかは……」

「内容によるね」

 

なんと声も自分と同じだった。ことりから見れば、自分のそっくりさんが悠里に小言を聞かされてるように見えるという、複雑な光景だが。

 

「ここじゃなんだから、どっかの喫茶店で()()()()()()()()()()()()()?」

「ぴ、ぴぃ!? あ、えっと……その……はい」

「ことちゃんもそれでいいよね?」

「え? う、うん!(ふえ~ん、ゆーくんの目が笑ってないよぉ~!)」

 

笑顔だが目が笑ってない悠里を見て、2人は頷くしかなかった。

 

そして自分と瓜二つの少女、ミナとの出逢いが後に悠里の運命を変えられる大事な選択の機会を得られる事を、ことりはまだ知らない。




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記憶7 鐘嵐珠

ゆるポメラです。
ランジュちゃん、誕生日おめでとう。
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とある休日の遊園地の広場にて。

 

「遊園地って楽しいわね! ランジュ、朝からずっとワクワクしてるわ!」

「…それは同感。個人的にはお土産屋を見たり、園内の装飾を見るのも遊園地の醍醐味だしね」

 

鐘嵐珠(ショウ・ランジュ)の言葉に、それは同感だと言う悠里。

 

「ええ。悠里との()()()だもの、完璧にしなきゃね」

「遊園地に来るのは久しぶりだから、誘ってくれたのは嬉しいけど。時にランジュ? まさか今日の事って……」

「ええ! みんなとじゃんけんして決めたの!」

「……(もう、突っ込むの止めようかな?)」

 

笑顔で質問に答える嵐珠。予想してた答えに、もう訊くの止めようかな?と思い始めた悠里。

 

そしてやはりというか、嵐珠を含んだ2年生組の5人で悠里とのお出かけを賭けた盛大なじゃんけんが本人の知らないところで度々行われてる……らしい。

 

「園内の事は調べ尽くしてあるから、ランジュに何でも聞いてちょうだい!」

「あー……だから、移動の時もスムーズだったんだ。納得だよ」

 

こう見えて嵐珠は計画的な所がある。

休日の遊園地は人が多いので、混むことは予想してたのだが、嵐珠が効率よく園内を回る方法を調べてくれたお陰もあって、今に至るのだ。

 

さて。次はどこに回ろうかと悠里は考えてたのだが……

 

「ヘイ! ()()()2()()()()()()()()。俺らと遊ばない?」

「「……」」

 

確かに嵐珠は美少女だ。そんな事は幼い頃に出逢った時からそう思ってるし、性格の善し悪しも含めてだ。だから彼女がナンパされるのも仕方ないし、嵐珠も慣れたくないが慣れてるらしい。

しかし、しかしだ。性別が男である筈の悠里までもが、ナンパされた、となると話は別である。

 

「は? 僕は男ですけど?」

「え……す、すみません……」

 

冷ややかな視線で悠里がそう伝えると、男達は去って行った。

 

しかし、ここからが問題だった。

 

その後も何故かナンパされたのである。2回目は嵐珠のお陰で切り抜けた。3回目は悠里がドスの利いた声と殺気も含んだ眼のハッピーセットで追い返した。4回目は……悠里がキレた。当然マジギレである。

 

「このゲロカスがっ!!! 今日はランジュと遊園地を回るっていうのに、お前ら目玉と腸をぶちまけられたいのっ!? ナンパしてると見境がなくなんのか!! ああ"っ!?」

 

その後はもう大騒ぎで、何処に隠れていたのか、謎の黒服達が慌てて飛び出して怒り狂う悠里を抑えた。

そしてナンパしていた男達は顔がぐちゃぐちゃになるくらい泣きながら、『ごめんなさいごめんなさいごめんなさい……もうナンパなんてしません……』と何度も言いながら黒服達に連行されて行った。

 

「……(世の中の女性がナンパされる気持ちが解った気がする。)」

「ねえ悠里、次はコーヒーカップに乗りましょう!」

 

そんな悠里に気を遣ってか、嵐珠がコーヒーカップに乗ろうと誘ってきた。

 

「……うん、乗ろうか」

「それじゃあ行くわよ!」

「(あれ? そういえば何か忘れてるような気が……ま、いっか)」

 

この時、悠里は思った。何か重大な事を忘れているぞと。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「思いのほか、空いてるね……」

「早く乗りましょ!」

 

関係者に案内され、コーヒーカップに乗る悠里と嵐珠。カップの中心にある円盤を悠里は握り、ゆっくりと回す。すると、その動きに連動してカップが回転を始める。

 

「おー、回る回る……」

「悠里、今度はランジュも回してみたいわ!」

「ほいほい……」

 

この後、悠里は後悔した。何故この時もっと早く思い出さなかったのだろう、と。

 

「……(うわー、回るのが速過ぎて景色が見えないやー)」

「楽しいわ! もっと早く回すわよー!」

「ちょ! まっ! ランジュ! これ以上は流石に……ぎにゃあああああああ!?」

 

話をしよう。想定外の腕力というものをご存知だろうか? 女性といえど、生まれつきや練習次第で鍛えられた腕力は並みの男性を上回る事がある。

その腕力を全力で駆使して、コーヒーカップを嵐珠はこれでもかと回す回す。

そして他のカップに座っている客は、一台だけその異常的な速さに圧倒され、ただただ茫然と超高速で回り続けるカップを眺めるだけだった。

 

「強度も硬度も特注品なのに、どうやったら壊せるんだい? 君達は?」

「す、すみません……彼女も楽しくなって悪気はなかったんです。ほんとにすみません……(そういえば、ランジュにコーヒーカップを回す時の力加減をするのを言うの忘れてた)」

「ご、ごめんなさい……」

 

軽く現実逃避しながら、悠里と嵐珠は関係者に謝り続けている。

その理由は、嵐珠がカップを回し過ぎて緊急停止装置が作動。慌てた関係者達が点検をしたところ、悠里と嵐珠が乗ってたカップは取り換え決定の判断が下されたのだ。

 

弁償も悠里は覚悟していたのだが、関係者がコーヒーカップの設計を変えるから、弁償はしなくてもいいと苦笑いしながら言ってくれた。

 

「ランジュ、楽しくてつい回しすぎちゃったわ……」

「確かに楽しんでたもんね。うう、なんかちょっとだけフラフラする……」

「少し休みましょ。悠里、ランジュの腕に掴まって」

「大丈夫、大丈夫。ちょうど落ち着いてきたから」

「そう? それならいいけど、無理そうだったら早めに言いなさい」

 

ほんとはまだちょっとだけフラフラするが、嵐珠に余計な心配をさせたくなかった悠里は大丈夫だと答えた。

 

「……気遣ってくれてありがとね。ランジュ」

「当然でしょ! 悠里はアタシの()()()()なんだから!」

「……(そういうところなんだよなぁ)」

 

笑顔でそう言いながら、悠里の右腕に腕を絡ませてくる嵐珠。そんな彼女を見てなんかズルいなと悠里は思った。自分は嵐珠には絶対に言わないが、幼い頃に彼女の笑顔に救われた事がある。だから自分だけの秘密なのだ。

 

「それじゃあ気を取り直して、次はどのアトラクションに乗るの?」

「それなら、次はあれに乗りましょう♪」

 

そう言った嵐珠が指差した先を見ると、ジェットコースターだった。

 

「やっぱり遊園地といえばジェットコースターよ!」

「…ジェットコースターか。鉄板だね。うん、いいよ。乗ろっか?」

「それじゃ、決まりね! 早く行くわよ! 悠里と二人っきりの忘れられない思い出、もっともっと作るんだから♪」

 

そう言うと嵐珠は、悠里の手を引きながら早く早くと連れて行くのであった。

 

余談だが、ジェットコースターには自信があった悠里だが、予想以上に速すぎた為、終わった後に気絶してしまい、目が覚めるまで嵐珠に膝枕されて介抱されるのは別の話。




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記憶8 上原歩夢

ゆるポメラです。
歩夢ちゃん、誕生日おめでとう。
今回は他の2年生組も一緒に入れてみました。
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とある日の虹ヶ咲学園の学食にて。

 

「「「「「…………」」」」」

 

普段は昼食の時間になると賑やかな学食だが、ある一箇所のテーブル席だけは暗い雰囲気が漂っていた。そこには5人の少女が座っていた。

 

上原歩夢(うえはらあゆむ)高咲侑(たかさきゆう)宮下愛(みやしたあい)優木(ゆうき)せつ()鐘嵐珠(ショウ・ランジュ)の5人である。

 

「「「「「…………」」」」」

 

5人はこの世の終わりのような表情になっている。通りかかる他の生徒の中には5人のあまりの暗さにビクついている者もいた。

 

では何故、現在進行形で5人がこのような表情になりつつ、暗い雰囲気を出しているのか? それは数十分前の出来事である……

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

遡る事、数十分前。

 

「やっと終わったー」

「そうだね。席が混まない内に早く行こっか」

 

午前中の授業が終わり、お昼休み。

歩夢と侑は昼食を食べる為、学食に向かっていた。ちなみに2人共、今日はお弁当である。

 

「あ! 愛ちゃんだ」

「せつ菜ちゃんとランジュちゃんも」

「歩夢、ゆうゆ」

 

学食に着くと、ある一箇所のテーブル席に見覚えのある3人を見つけた。歩夢と侑が声をかけると、愛が2人に返事をした。

 

「「……」」

「せつ菜ちゃんとランジュちゃん……どうしたの?」

「せっつーとランジュ、お弁当を忘れてきちゃったんだって。……ま、愛さんもなんだけどね? その事に気がついたのは、ほんとについさっきなんだけど……」

「あ、愛ちゃん……?」

「……あ、大丈夫、大丈夫。…ちゃんと持って来たつもりだったんだけどなぁ……」

 

暗い表情をしながら、侑の質問に答える愛。

なんでも2人がお弁当を忘れてきてしまったので、愛が分けてあげようかと思ったのだが、自分もせつ菜と嵐珠と同じ状況になってしまったらしい。

 

「うう、私とした事が……不覚です……」

「自信作だったのにぃ……」

「「……((な、なんて声をかけてあげればいいのか、分からない……))」」

 

表情こそ見えないが、せつ菜と嵐珠の声からして、落ち込んでいるのは確かだった。何せ2人が作る料理は独創的な為、歩夢と侑からすれば正直言って複雑だった。

 

「じゃあ私のお弁当を分けてあげるよ! 実は作り過ぎちゃってさ」

 

落ち込んでる3人にそう提案し、鞄からお弁当を取り出す侑だったが……

 

「…………あ、あれ?」

 

鞄の中を何度も探すが、弁当箱が見当たらないのだ。何かの間違いかと思った侑は、鞄ごと中身を広げるが、出てくるのは教科書や筆箱等、授業で使う物だけであった。

 

「……ごめん。3人共。私もお弁当……忘れちゃったみたい。最悪なんだけど……」

「……」

 

あれだけ自信をもって言ってた自分が恥ずかしいと呟きながら落ち込む侑。そして慰めるかのように彼女の肩を無言でポンポンと叩く愛。

 

「みんなそんなに落ち込まないで? 私のお弁当、分けてあげるよ」

 

落ち込んでる4人に元気を出してもらおうと歩夢は鞄の中から、弁当箱を取り出そうとしたが……

 

「…………あ、あれ?」

「「「「歩夢(さん)……?」」」」

 

何やら様子がおかしい歩夢を見て首を傾げる4人。そんな4人をよそに歩夢は必死に鞄の中にある筈の弁当箱を探すが見当たらない。

 

「……ごめん。私も忘れちゃったみたい……」

「「「「……」」」」

 

それを聞いた4人は何も言えなかった。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

という出来事が起こったのが数十分前。

 

「「「「「…………」」」」」

 

偶然にも5人全員がお弁当を忘れてきてしまったのである。

 

「……おーい。5人共、生きてる? もしもし~?」

 

すると聞き覚えのある声がしたので、5人は振り向く。そこには藍音学院の制服姿の悠里が居た。何やら呆れた表情をしているが。

 

「悠里ぃ~~~!」

「悠里、聞いてよぉ~~!」

「ちょ、ちょっと何!? どうしたの!?」

 

半泣きになりながら悠里に抱きつく嵐珠と侑を見た悠里は驚きながらも2人を落ち着かせた。

 

「……お弁当を忘れた?」

「う、うん……そ、その、私も持ってくるのを忘れちゃったみたいで……」

「……(それはもう、天文的確率だと思う)」

 

歩夢から理由を聞かされた悠里は、5人全員がお弁当を忘れるのは天文的確率だなと思った。

 

「…今から買いに行くとかは? 購買もあるんでしょ?」

「悠里さんは私達に荒れ狂う購買に行けと言うのですか? 装備なし状態で激昂金獅子を狩りに行けと言ってるのと同じですよ?」

「……ごめん。僕が悪かった。ちなみに僕は最近、その狩りゲーはやってないよ?」

 

虹ヶ咲学園の学食には、購買もあるので、そこで買えば?と提案した悠里だが、せつ菜の言葉を聞いて直ぐに謝った。確かにお昼時に混んでる購買に買いに行けというのも酷な話である。

 

まぁ……せつ菜の例えもどうかと思ったが。

 

「「お~にゃ~か~しゅ~い~た~!」」

「ヤバい。ゆうゆとランジュが壊れた……」

「あ……悠里さんの右肩に、フレンチトースト……」

「せつ菜ちゃん、あれは陰謀だよ。誘惑に負けちゃだめ! …あ……でも悠里くんの左肩にチョコチップスコーンが大盛り……」

「……歩夢ちゃんも何言ってんの?」

 

語彙力がおかしくなってる侑と嵐珠を見た愛がなんとか落ち着かせるが、せつ菜も正直言ってヤバい。何だったら歩夢もヤバい。

 

「……このままだと5人が空腹のあまりに野生の本能目覚めそうだなぁ。持って来て正解かも」

 

そう言うと悠里は、鞄の中からカラフルでお洒落なお弁当を5つ取り出す。そしてそれを歩夢、侑、愛、せつ菜、嵐珠の5人に渡した。

 

「はい。これ食べて午後の授業も頑張ってね?」

 

そう言って悠里は用事が済んだのか、よいしょと言いながら席を立つ。

 

「あ、でも悠里くん、お弁当箱は……」

「ん? 返さなくていいよ。そのお弁当箱も元々5人にあげようと思って持って来た訳だし。お礼みたいなもんだから気にしないで?」

 

歩夢の言いたい事が解ったのか、返さなくてもいいよと言う悠里。

 

「それじゃあまたね」

 

そう言い残し、悠里は学食から去っていった。

 

「「「「「…………」」」」」

 

とりあえず渡されたお弁当箱を開ける5人。それぞれが違う中身だった。

先ずは歩夢。桜でんぷんがかけてある米や玉子焼き、蛸さんウインナー、極めつけは兎の形をした林檎があった。次に侑。歩夢のお弁当と似た感じだが、こちらは卵をふんだんに使った料理が多く入っていた。

愛のは、彼女が和食が好きな事もあってか、煮物やだし巻き卵が入っていた。

せつ菜はなんと俗に言うキャラ弁だった。某狩りゲーに出てくる『眠鳥』のアイコン風の海苔、飛竜の卵的な形をした茹で卵等、マニアしか解らないものばかり。そして最後に嵐珠。肉が好きな事もあってか、スタミナ系のお弁当だった。栄養バランスも考えてか野菜もキチンと入っていた。

 

「た、食べようか。悠里くんが作ってくれたんだし……」

「「「「そうだね(ですね)(ね)!」」」」

 

歩夢の言葉に早速と言わんばかりに悠里の手作りお弁当を各々が口にすると……

 

「「「「「お、美味しい(です)……」」」」」

 

あまりの美味しさに5人は、なんか一瞬、天国が見えたぞと同時に悠里の料理スキルが高すぎではないか?と思うのであった。




読んでいただきありがとうございます。
なんとか間に合って良かったです……(苦笑)
とりあえずこれで2年生組の誕生日回、全員1周目が無事に終わりました。
次から2周目になります。
次回の投稿は、海未ちゃんの誕生日になると思います。
頑張りますので、よろしくお願いします。
本日はありがとうございました。


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記憶9 園田海未

ゆるポメラです。
海未ちゃん、誕生日おめでとう。
今回から2周目になります。オリキャラも出ます。
2周目の誕生日回は、悠里の秘密や人物関係等もちょろっと出そうと思っています。
楽しんでいただけると嬉しいです。

それではどうぞ。



とある休日の駅にて。

 

「喫茶店に同行してほしい、ですか?」

「うん。友達がこの間かな? その時に偶然見つけた喫茶店みたいなんだよ」

 

園田海未(そのだうみ)の疑問に答える悠里。

 

「……と言っても僕も場所しか教えてもらってないから行くのは初めてなんだよ」

 

苦笑いしながら答える悠里。

これから行く喫茶店の場所を教えてくれたのは、高咲侑(たかさきゆう)であり、軽くパソコンで調べてたところに海未から電話があり、今週の休日は空いてますか?と連絡があったので、二つ折りで返事をした。

 

そして今に至るという訳である。

 

「あの、今更ですが私でいいのでしょうか?」

「みーちゃん……?」

「その、自分で言うのもなんですが、私は穂乃果(ほのか)やことりのように話し上手なわけではないので、悠里君を退屈させてしまうのではないかと心配です」

 

寧ろそれ、僕のセリフだと思うんだけど?と言いかけそうになった悠里だが、海未に余計な気遣いをされてしまうと思ったので……

 

「僕は、みーちゃんと2人で行けて嬉しいよ?」

 

誘ってくれて嬉しいと正直に言った。

 

「えっ! わ、私と2人で……。そ、そうですか。あの、ありがとうございます」

「……これでいざ喫茶店に行って、入れませんって言われたらどうしよう? 万が一の事も考えておこう

「? 悠里君、どうかしましたか?」

「あ。何でもないよ。行こっか」

 

何やら悠里の様子がおかしいなと思った海未だが、当人は何でもないよと言っていたが、少し気になった。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「あ! いらっしゃいま……せ……?」

「……」

 

目的地の喫茶店に着き中に入ると、悠里と海未の同年代くらいと思われる女性店員が2人を出迎えるが、店員は悠里の顔を見るなり固まってしまった。よく見ると悠里も表情が固まっている。

 

「……あのー、()()()()()()()()、入っても大丈夫でしょうか?」

「いや、喫茶店をなんだと思ってんだ。こらこら、お前だけ帰ろうとすんな! お連れのお客様、申し訳ないんですけど、悠里を連れて行くの手伝ってくれませんか?」

「えっ! あ、はい」

 

シュンと落ち込みながらもちゃっかり帰ろうとする悠里に店員は突っ込みながら、悠里とお連れのお客様はこっちねー?と見晴らしの良い席に案内した。海未にも手伝ってもらいながら。

 

「は、入れた。き、奇跡だよー!」

「いやだから喫茶店っていうのは、誰でも普通に入れるんだからな?」

「えっと……あの、貴女は?」

 

席に案内してもらった悠里と海未。女性店員の悠里への態度が気になった海未は店員に訊く。

 

「あー、えっと……門月晃(かどつきあき)です。つか、なんだよ、この自己紹介は? こんなんありなのかよ……」

()()()()はね? 僕が月ノ丘高等学院(つきのおかこうとうがくいん)に在籍してた時の高校1年生の時のクラスメイトなんだよ。だよ♪」

「俺の意見、聞いてねーし……」

「は、はあ……(あ、あっきー?)」

「ちなみによく勘違いされるんだけど、あっきーは()なんだよ。だよ♪」

「え、ええええええっ!?」

 

悠里の口から衝撃の事実を聞いて驚く海未。

信じられず思わず晃を何度も見てしまう。どう見ても女性にしか見えなかった。悠里が彼を呼ぶ時の渾名も驚いたが、晃が男だという事が一番の驚きだった。

 

「ま、悠里もだけどな」

「あ~……」

 

その一言を聞いた海未は納得してしまう。否、納得してしまった。そういえば悠里も遠目から見たら、女性にも見えなくもない中性的な外見をしてる。それと同じ理屈らしい。

 

「あっきー。ここでバイトしてるの?」

「いや、臨時バイト。ここの喫茶店、未柚(みゆ)ちゃんとこの神無月(かんなづき)グループの傘下なんだと」

「流石は世界大企業グループ」

「んで、俺は未柚ちゃんに頼まれて、ここで臨時バイトをさせてもらってるって訳。今日はどういう訳か、お客さんはお前ら2人だけみたいだけど」

 

メニュー表を持ってくるなーと言って、晃はお冷とメニュー表を持ってきた。

 

「あっきー、ハッピー・スペシャルを1つ。他って何がオススメなの?」

「注文早えよ。つか、メニュー見ろや」

「はい、みーちゃん。これメニューね? あっきー、シナモンロールオアシナモンロール♪」

「ビーフオアチキンみたいに言うな。シナモンロール一択じゃねーか!?」

「……(なんていうか、悠里君、はっちゃけてますね)」

 

メニュー表を見ながら海未は、悠里がはっちゃけてるように見えた。何はともあれ注文を終えた2人は頼んだ品が来るまで待つ事に。

 

「悠里、藍音学院での学校生活はどうだ?」

「それなりに楽しんでるよ。想定外な事もあるけど」

「そっか」

 

ふと思い出したのか、晃が悠里に訊く。それなりに楽しんでると悠里は答えた。

 

「そういや悠里、お前スカウトされたって聞いたけどマジなん?」

「スカウト? 悠里君がですか?」

「はい。噂ですけどね? 俺もこの前、ダチから聞かされたばかりなんで」

 

話は変わり、晃の口から悠里がスカウトされたという話題に。海未も興味があった。

 

「あー……その話? 藍音学院の理事長先生と一緒に、とある有名な音楽学院の理事長先生に書類を届けに行った時にね。理事長先生同士が話してる間、そこの副生徒会長ちゃんとボードゲームで遊んでた時の帰りに、その子と理事長先生から誘いを受けた」

「それをスカウトって言うんだぞ? つか、なんでボードゲーム?」

「ボードゲームを通して、相手の人間性を観察するのが趣味なんだって。その時はチェスだったんだけどね。お互いにいい勝負だったよ。なんとか勝ったけど」

「……(悠里君がチェスをしてる姿、あんまり違和感がありません)」

 

その話を聞いて、寧ろ似合ってるなと思った海未。

 

「あとね? 才能開拓をモットーにした芸術学校にお使いに行った時になんだけどさ、成り行きでバーベキューをした」

「成り行きでバーベキューって、どういう経緯なんだよ……」

 

晃がそう言うと、悠里はどこからか兎のお面を取り出して顔に付け……

 

「そこで昔馴染みの子と久しぶりに会って、特撮やアニメの話で盛り上がってたら、とんとん拍子でバーベキューってなったんだよ。だよ」

「お面を付けつつ、ポーズを決めながら説明すんな。つか、それ……なんのポーズ?」

「え? だいぶ昔、2人で考えた幻のうさフィン仮面3号のポーズ。あっきー、知らない?」

「知らねえよ!?」

 

晃の突っ込みに悠里は兎のお面をぶーぶーと言いながら外す。

 

「お待たせしましたー! ハッピー・スペシャルになりまーす!」

「なっ……!?」

 

そう言って別の店員が悠里が頼んだと思われるハッピー・スペシャルを運んできた。それを見た海未は驚きながら顔を真っ赤にした。

 

「ゆ、ゆ、悠里君、あ、あ、あ、何故、その……2()()()()()()()()()()()を使うのでしょうか……しかもハート型!」

「あ、ほんとだ。もしかして2人分なのかな? かな? みーちゃんも一緒に飲も?」

「いえ、そうではなくてですね。このストローを使うと、必然的にお互いの顔がとても近くなるわけで……」

「……(なんだこの会話。見てて面白いんだけど。……あの子に実はこれ、カップルメニューみたいな物だって教えたら、余計にややこしくなりそうだから、黙っておくか)」

 

悠里が頼んだ品……というか、ドリンクが実はカップルメニューだという事を海未に教えてあげようかと思った晃だが、テンパリながら悠里に説明している彼女の反応を見てか、黙っておく事にした。

 

「そ、その、顔が近くなるという事は、至近距離から見つめ合うという事になるわけでして……っ、そ、その……っ、ううっ……」

「あ、じゃあ、みーちゃんが先に飲みなよ。どうぞどうぞ」

 

ここで海未が何を言いたいのかを察した悠里は、ドリンクを彼女に勧めた。

 

「ああああの、私は別に気になるとか、そういうマイナスな気持ちは全くありません! 寧ろ悠里君と飲めるから、舞い上がってしまって、そそそその、緊張してしまって」

「……(やべえ。すーげ早口で悠里と一緒に飲めるってとこまでしか聞こえなかった……)」

 

顔を赤くしながら早口で言う海未の言葉を聞いて、ちょっとドン引きする晃。悠里は悠里で気にしてないようだが。

 

「で、ですから……飲みます」

「うん♪」

「! で、では氷が溶ける前に飲みましょうか! さあ!」

 

海未が飲むと言った瞬間、悠里が笑顔になったので、自分の表情が多分にやけてる事を悠里に悟られないように海未は誤魔化す。

 

「早く一緒に飲も、みーちゃん♪」

「あっ、やっぱりもう少し待ってください! 精神統一をしますから……あっ! 悠里君、先に、ストローをくわえないで! 待ってくださ~い!」

「あっきー、みーちゃんとの記念写真が欲しいから、僕のスマホで写真撮ってー?」

「あー、いいぞ」

「えっ、しゃ、写真!? この状態で撮るんですか!? ちょっと待ってくださ~い!」

 

誰かとの記念写真が欲しいと言う悠里は珍しいので、カメラマン役を晃は引き受けた。

 

余談だが、海未が自宅に帰宅する際に買い物から帰宅中の母に、悠里との写真を見られてしまい、海未がからかわれるのは別の話。




読んでいただきありがとうございます。
なんとか間に合って良かったです……(苦笑)
次回の投稿は、侑ちゃんの誕生日になると思います。
頑張りますので、よろしくお願いします。
本日はありがとうございました。

※最後にオリキャラの簡単なプロフィールです。


門月晃(かどつきあき)


容姿イメージ:『Summer Pockets』の野村美希

年齢:16歳

誕生日:10月12日、てんびん座

血液型:A型

一人称:俺




神無月未柚(かんなづきみゆ)

容姿イメージ:『のんのんびより』の宮内れんげ

年齢:13歳(スリーサイズですか? 挽き肉にしますよ?)

誕生日:8月8日、しし座

血液型:A型

一人称:未柚


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記憶10 高咲侑

ゆるポメラです。
侑ちゃん、誕生日おめでとう。
楽しんでいただけると嬉しいです。

それではどうぞ。


とある日の平日の虹ヶ咲学園(にじがさきがくえん)の校門前にて。

 

「あれ? 悠里?」

 

珍しく1人で帰る事になった高咲侑(たかさきゆう)が校門を出ると、見覚えのある後ろ髪と制服姿が確認できた。

 

「……(どこか出かけるのかな?)」

 

学校を出た途端に悠里を見かけるのが珍しいと思った侑。同時にどこか寄り道でもするのかな?と思った。

 

しかしその割には、彼の歩くペースがおかしくないか?と首を傾げる侑。

 

「……(なんか気になるな~……でも平日の帰りに悠里を見かけるなんて滅多にないし。でも、このまま帰ろうかな~?)」

 

だけど帰っても暇だしな~と悩みながらも、好奇心に負けた侑は見つからないように悠里の後を追いかけるのであった。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「……(どうしよう~!? 気になっちゃって悠里を追いかけてきたけど、私ストーカー紛いな事をしてるよね!?)」

 

見つからないように悠里を尾行する侑。そして同時に、これってストーカーにならないよね!?と今更ながら不安になってきた。

 

「……え?」

 

横断歩道を渡ろうとした悠里のある姿を見て、ポカーンとしてしまう侑。

 

「ゆ、悠里が……ベ、ベビーカーを……お、押してる……!?」

 

それは悠里が()()()()()()()()()()光景だったのだ。あまりの衝撃的な光景に状況整理ができない侑。そして横断歩道を渡り終えた悠里は、近くの公園の中に入って行った。

 

「はっ! 悠里を追いかけないと」

 

未だに信号が青なのを確認した侑は、車に気を付けつつ、横断歩道を渡り悠里が入って行ったと思われる公園に向かうのであった。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「(あっ、いた!)」

 

公園に入った侑は、悠里を捜す。すると彼はあっさりと見つかった。ベンチに座って休んでいた。

 

「何してるんだろう……?」

 

そう思っていると、侑のスマホが鳴った。

 

『そんなところで隠れて何やってんの?』

「あっ……」

 

なんと送り主は悠里だった。まさかと思い、ベンチの方に視線を向ける。そこにはジト目でこちらを見る悠里がいた。

 

「えっと、その……いつから?」

「侑ちゃんが尾行を始めた時から気づいてた。……まぁ、最初からだね」

「うう……」

 

悠里の隣に座りながら侑が訊くと、彼はそう返した。それを聞いた侑は項垂れてしまう。

 

「あうー」

「あ、起きちゃったか。よいしょっと……」

 

するとさっきから……というか、悠里を尾行してた時から気になってたのだが、ベビーカーから可愛らしい声が聞こえた。赤ちゃんだった。そして悠里はよいしょと言いながら赤ちゃんを抱っこする。

 

「ま、まさか……ゆ、悠里の子供……」

「んな訳ないでしょ。バイトだよ」

「バイト? なんの?」

「ん? ()()()でバイトだけど……」

「えっ!?」

「そんなに驚く事かな……? 高校に入学した時からずっとやってるんだ。それで今日はこの子の面倒を見てた」

 

未だに驚愕の表情をしてる侑に悠里は彼女に懇切丁寧に説明する。

いつも通りバイト先の幼稚園に行ったら、件の赤ちゃんの両親が半泣きになりながら、園長先生にお願いしていたという。それで悠里が代わりに引き受けたと言う。

 

ちなみに悠里がバイトしている幼稚園は保育園も兼用しており、そこに通ってる園児達はみんな変わった子達ばかりだと言う。簡単に言うと()()()()()が多いとの事。

 

「まだ1歳だから、他の園児のみんなも一緒にこの子の面倒を見るのを手伝ってくれるんだ。ねー?」

「あー♪」

「(か、可愛い……! 遊んであげる悠里も可愛い!)」

 

キャッキャッと赤ちゃんと戯れる悠里を見た侑は、その場で悶えていた。

 

「抱っこしてみる?」

「え、でも、泣いちゃわないかな……」

「大丈夫、大丈夫。はい、こうやって抱っこしてあげてね?」

 

自分が抱っこしたら泣いてしまわないかと思いながら恐る恐る赤ちゃんを抱っこする侑。

 

「あーうー!」

「か、可愛い~! この子、持って帰っていい?」

「いやダメだから。侑ちゃん、サラッと危ない事言ってる」

 

あまりの可愛さにベタ惚れになってしまう侑。

 

「さて。もう少しで親御さんが駅に着く頃かな。はーい、それじゃパパとママのお迎えに行こうねー?」

「あー♪」

 

しばらく3人で遊んだ後、スマホで時間を確認した悠里は赤ちゃんをベビーカーに乗せた。侑も一緒についていく事に。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「あらあら、もしかして()()さん? 可愛い赤ちゃんね」

「え……!?(し、ししし……新婚さん!? 悠里がパパで、わ、わわわ……私が……)」

 

3人で駅に向かう途中、1人のお婆さんに声をかけられた。新婚と言われて顔が赤くなる侑。

 

「いや違いますよ。そもそも1歳児の新婚学生がどこにいるんですか? 彼女は幼馴染みです」

「ほっほっほ。冗談よ。違和感がなかったからついね?」

「それは知ってましたけど」

 

どうやら、このお婆さんは悠里の知り合いらしい。

 

「これからこの子の両親の迎えに駅に向かうところなんです」

「あらそうなの? 他に頼める人はいないの?」

「どうやらタイミングが悪かったらしくて。僕としては会社に託児所とかを設けてもいいじゃないかって思ってて……」

「その会社ってどういう場所なの?」

 

そう聞かれた悠里は、赤ちゃんの両親が働いている会社について話す。隣で聞いていた侑は首を傾げていたが。

 

「そういう事なら任せてちょうだい」

「お願いします。これ、証拠のリストです」

「おや、察しはついていたけど、やっぱりこいつらなのね。私の会社で鉄の掟を破るとはいい度胸してるわねえ……ほっほっほ」

「多分こいつら、バレてないと思ってると思いますよ? あとこれ、ボイスレコーダーです」

「おや、ありがと。これなら言い逃れもできないねぇ……」

「ええ♪ そうですね♪」

 

お婆さんとも別れた後、駅でそわそわしながら待っていた赤ちゃんの両親に子供を無事に引き渡した。両親は泣きながら何度も悠里にお礼を言った。

 

そして悠里と侑は帰路についていた。

 

「赤ちゃん……いいなぁ……(チラッ)」

「そうだね、赤ちゃん可愛いもんね(侑ちゃんから熱い視線を感じるのは気のせいだよね?)」

 

さっきから侑の視線が気になるが、気のせいだろうと思いつつも質問に答える悠里。

 

「(むう~……悠里、ガードが硬い。せっかくの二人きりだから、悠里に手を繋いでほしいってお願いしてみる……とか? でもそれだと他の4人に悪いし……間を取って、頭を撫でてほしい……とか?)」

「侑ちゃん、顔が赤いけど……どうしたの? 具合でも悪い?」

「そ、そんにゃことないよっ!?」

 

結局、自宅に着くまで何も考え付かなかった侑なのであった。




読んでいただきありがとうございます。
なんとか間に合って良かったです……(苦笑)
次回の投稿日は愛ちゃんの誕生日になります。
頑張りますので、よろしくお願いします。
本日はありがとうございました。


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記憶11 宮下愛

ゆるポメラです。
愛ちゃん、誕生日おめでとう。
楽しんでいただけると嬉しいです。

それではどうぞ。


とある休日の街中にて。

 

「やっぱ並んでるね~。もうちょっと、早く来ればよかった」

「そうだね~」

 

宮下愛(みやしたあい)の言葉にのほほんとした表情で答える悠里。2人が来たのはテレビや雑誌でも話題になっているクレープ屋だった。

 

「そこまで混んでないみたいだし、お喋りしてたらあっという間かもね。言うの遅れたけど……愛ちゃんの私服、似合ってるね? 可愛いよ」

「あははっ、ありがと♪(ま、待って!? 急にそんな事言うなんて……昨日の誘い方といい、ゆうりんズルいよ……)」

 

悠里にそう返すが、実は内心では焦っている愛。

 

どうして愛がこんなに焦ってるかについては理由がある。それは昨日の放課後が原因だった……

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

スクールアイドル同好会に所属してる愛は部室で宿題をしていた。何故かというと、他のメンバーがまだ来てないので暇だったからである。

 

「よーし、今日の分はこれで終わりかな~」

 

シャーペンをテーブルに置き、背伸びをする愛。

 

「失礼しまーす……」

「あれ? ゆうりん?」

 

そこに珍しい来客がやって来た。藍音学院の制服を着た悠里である。

 

「どしたの? ゆうゆ達ならまだ来てないけど……」

「そうなの? それはそれで残念。今日は愛ちゃんに用事があったから立ち寄ったんだけど……」

 

てっきり他の2年生組に用があるのかと思った愛だが、まさかの自分だった。

 

「愛ちゃん、急なんだけどさ? 明日ってなんか予定とかあったりする?」

「んー、明日? 特に予定とか入ってないけど……」

 

それがどうかしたの?と愛が訊くと彼はこう言った。

 

「愛ちゃん、明日デートしよ?」

「オッケー♪ じゃあ明日は、ゆうりんとデートね。いやー、愛さん楽しみだな~♪ ゆうりんとデー……ト?」

 

ここで愛。悠里との会話の違和感に気づく。

 

「ゆ、ゆうりん……ちょ、ちょっと待っ……」

「僕この後バイトだから。また後ほどね?」

 

呼び止めようとした愛だが、悠里は詳しい事は夜にね~と言い残して部室から去ってしまった……

 

バタンと扉が閉まる。

 

「……あ、あんな誘い方……ズルいじゃん。ゆうりんのバカ……」

 

顔を赤くしながら呟く愛なのであった。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

という事があり今に至る。

家に帰ってからの夜、今日の為にどんな服を着ていくか迷っていた。友達と遊びに行く以上に迷った。

 

……まあ、悠里とデートという嬉しすぎる1日があるからだが。

 

「待ってる間にメニューでも見ようよ」

「賛成~。愛さん、昨日寝る前に考えたんだけど決まらなくってさ~……」

 

これは本当で、昨日の夜は悠里とのデートの際に着ていく服をずっと考えてたので、考える暇がなかったのである。

 

「ゆうりんは、もうどれにするとか決めてる?」

「愛ちゃん」

「ふえっ!?」

 

悠里の言葉を聞いて、思わず声が裏返ってしまう愛。

 

「ここのクレープ屋ね? 裏メニューがあるんだ。種類も何種類かあるんだって。まぁ……ごく一部の人しか知らないんだけどね……」

「そ、そうなんだ……(ど、どうしよう~!? ゆうりんの前で変な声出しちゃったから、恥ずかしいよぉ~……)」

 

不意打ちもいいところである。

 

「って言ってる間に、もう順番来た! わわっ、どれにするか決めないとー!」

「迷ってるなら、僕がいつも頼んでるアップルシナモンにする?」

「じゃあそれにしよっかな~……」

 

何を頼むか未だに迷ってる愛を見て、自分がいつも頼むアップルシナモンを彼女に提案する悠里。ちょうど迷ってたので、それにする事にした愛。

 

「いらっしゃいませ。ご注文は何になさいますか?」

「……(じー)」

「? ゆうりん、どしたの?」

 

注文の順番が来たのにも関わらず、悠里は愛をじーっと見た。どうしたの?と愛が首を傾げながら訊くと……

 

「えっと……アップルシナモンが1つと()()()()()()()()()()()を1つ」

「~~~~っ!!?」

「かしこまいりました~♪」

 

いつもの澄まし顔で店員に注文。裏メニューと思われる品は愛を見ながらである。

 

「な、なななな……!?」

「それにしても裏メニューのネーミングも洒落てるよねー? アイシテル・スペシャル。なんか愛ちゃんみたいな名前だよねー? ()だけに。略して、愛ちゃんアイシテル」

「も、もう! 恥ずかしいから、人前でそういう事言わないで!」

「……愛ちゃんが照れてる。個人的に楽しみたいから、写真撮ってもいい?」

「と、撮らなくていいから!」

「愛ちゃんアイシテル」

「も、もう、そ、そういうの反則だよぉ~……」

 

ちなみに、クレープを作りながらその光景を見てた店員は、愛が悠里にからかわれているように視えたと同時に、愛の方も言われて満更でもない表情をしてるなと思ったそうな。




読んでいただきありがとうございます。
なんとか間に合って良かったです……(苦笑)
次回の投稿日は、穂乃果ちゃんの誕生日になります。
頑張りますので、よろしくお願いします。
本日はありがとうございました。


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記憶12 高坂穂乃果

ゆるポメラです。
穂乃果ちゃん、誕生日おめでとう。
楽しんでいただけると嬉しいです。

それではどうぞ。


とある冬の休日。和菓子屋、穂むらの前にて。

 

「ふふっ、こんな感じかな~?」

 

店の前で積もってる雪で試行錯誤をしながら、高坂穂乃果(こうさかほのか)は何かを作ってる最中だった。

 

「うん! この辺りで一番可愛い雪だるま! なんか可愛すぎて、ことりちゃんと海未ちゃん、ゆうちゃんもびっくりしちゃうね♪」

 

それは雪だるまだった。なかなか可愛らしい出来映えに幼馴染みの表情を想像する穂乃果。

 

「確かに可愛いですね」

「わあっ!? 海未ちゃん、ことりちゃん!」

 

聞き覚えのある声に思わず驚く穂乃果。そこには海未とことりが居た。

 

「もう! 私がびっくりさせたかった~! さっきメッセしたばかりなのに、来るの早すぎだよお。…あれ? ゆうちゃんは?」

「ゆーくん? 穂乃果ちゃんからメッセを貰った時には、もう先に着いてるって連絡きてたよ?」

「ええっ、そうなの!?」

「はい。穂乃果が楽しそうに雪だるまを作ってると連絡があったので……」

 

ことりはそう言うのだが、穂乃果は件の悠里の姿を見てない。しかも海未によると自分が雪だるまを作り始めた時に一度、彼から写真付きのメッセージが送られてきたとの事。

 

「この写真なんですが……」

「あれ? 私が雪だるまを作り始めた写真だ……」

 

写真をよく見ると、角度的に自分達が立っているすぐ傍の玄関の斜め脇から撮ったようだ。

 

「にゃ~」

「わあ~♪ 猫ちゃんだ~♪」

「可愛い~♪」

「確かに可愛いですね。それにしてもなんだか悠里君に似てますね」

 

そこに1匹の猫が現れた。体の色はミントグリーン色で、瞳の色は青紫色だった。どことなく雰囲気が悠里に似ていた。

 

「それは光栄だね。まあ本人なんだけど?」

「「「へ?」」」

 

すると猫が喋ったのだ。突然の事に目が点になる穂乃果達。

 

「こんな毛並みの色をした猫なんて、滅多にいないし……冬だからバレないからいいかなって思って、この姿になったけども」

 

しかも聞き覚えのある声……口調しかり、ちょっとだけ表情がぽやーっとしてる感じ、なんか悠里っぽい。

 

「もしかして……ゆうちゃん?」

「ピンポーン♪」

 

穂乃果がそう言うと、猫はそう言いながら、瞬く間に猫から人の姿に変わった。それは紛れもなく悠里だった。

 

「…びっくりした?」

「え、ええっ!? な、なんで!? ね、猫ちゃんが……ゆ、ゆうちゃんに……!?」

「あ、あわわ……」

「ことちゃん、大丈夫? 手を貸そうか?」

 

驚きのあまり、うまく口が回らない穂乃果。ことりに至っては腰を抜かしてしまってる。

 

「みーちゃん、そんなに驚く事かね?」

「誰だって驚きます。私だってびっくりしたんですからね? もう……」

 

反応が遅れてただけらしく、海未も驚いていたようだ。

 

「ほのちゃんって、昔から雪が降るたびに、雪だるまを作るでしょ? しかも『作るならこの辺りで一番可愛いのを作りたい』なんて言って、熱中し過ぎた結果、毎年風邪をひいてたもんね?」

「む~。だから今年も一番可愛い雪だるまを3人に見せようと思ってたんだよ~」

 

悠里の言葉に頬を軽く膨らませる穂乃果。

 

「今年は風邪ひかないようにね?」

「ひかないもん~!」

「何故でしょう……また毎年のように穂乃果が風邪をひく未来しか見えません……」

「海未ちゃんまで酷い~!」

 

海未にまでそう言われて地団駄を踏む穂乃果を宥めることり。

 

「じゃあ穂乃果ちゃんが作ってくれた雪だるまにお友達を作ってあげよっか♪」

「穂乃果、作るなら手抜きはしませんよ!」

「それなら僕は雪うさぎでも作ろうかな」

 

そして4人は穂乃果のリクエストで『穂むらの看板雪だるま』を作るのであった。

 

余談だが、雪だるまを作り終えた後、穂乃果が悠里に先程の猫状態にもう一回なってよ~とせがまれ、仕方なく悠里が変身してあげた結果、彼女達のアニマルセラピーになってしまうのは別の話。




読んでいただきありがとうございます。
なんとか間に合って良かったです……(苦笑)
次回の投稿日は、せつ菜ちゃんの誕生日になります。
頑張りますので、よろしくお願いします。
本日はありがとうございました。


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記憶13 優木せつ菜

ゆるポメラです。
せつ菜ちゃん、誕生日おめでとう。
楽しんでいただけると嬉しいです。

それではどうぞ。



とある日の虹ヶ咲学園(にじがさきがくえん)の家庭科室にて。

 

「ええと……あっ、なるほど。これを入れるんですね」

「分量は……5グラム。はい、せつ菜さん」

「ありがとうございます」

「……(うんうん。今のところ、順調みたいだ)」

 

予め決められた分量が入った調味料を優木(ゆうき)せつ()に渡す少女、天王寺璃奈(てんのうじりな)。それを見守る悠里。

 

どうして悠里もこの場に居るのかと言うと……せつ菜に捕まってしまったからだ。

 

何故か目を輝かせながら。

 

ちなみにその時に何故か彼女の頭に動物の耳やら尻尾が見えてしまったのは、きっと大いなる幻だと悠里は思いたい。

 

「次はこちらを……20グラム」

「20……。はい、どうぞ」

 

そして次の調味料を璃奈から受け取り、鍋の中に入れるせつ菜。

 

「うふふっ、お料理って、実験みたいで楽しいですね!」

「……実験かぁ。僕も気持ちは分からなくはないかも」

「うん。分量計るの、楽しい。混ぜるのお願いしちゃって、ごめんね。璃奈ちゃんボード『ぺこりん』」

「気にしないでください! 私はこういうの、やりたいほうなので」

「せつ菜ちゃん、こういうのは好きだもんね」

 

何より、せつ菜が楽しそうにやってるのが良い証拠である。

 

「えっと、次は……あれ?」

「璃奈ちゃん、どうしたの?」

「分量が書いてない。『少々』ってだけ……。『少々』ってどのくらい?」

 

なんと次の工程は決められた分量が書かれていなかったのだ。しかも人にとって意味が異なる『少々』だ。

 

「うーん……こういうのは……」

「…あ、少々っていうのは……」

 

悩んでるせつ菜に悠里が『少々』の意味を教えようとした時……

 

「その時のインスピレーションですよ!」

 

笑顔でぶっ飛んだ発言をするせつ菜。

 

「そーれ! 美味しくなってくださーい!」

「せつ菜ちゃん、ちょっと待っ……!」

 

悠里のストップも聞かず、『少々』と書かれてた調味料……塩をこれでもかというくらいに鍋にぶち込んだのだ。しかも笑顔で。

 

「あっ、あっ……」

「…大丈夫だよ、璃奈ちゃん。まだ修正は効く範囲だから」

「ほ、ほんと?」

「……多分」

 

とりあえず味付けの修正をする為に悠里は脳をフル回転させる。

 

「このくらいですかね」

「う、うん。結構、入った……」

「結構じゃないよ。かなり入ったよ」

 

悠里と璃奈が見た感じ、明らかにせつ菜は塩の分量を大さじ一杯くらい入れてたのが確認できた。

 

「おまけですっ! えいっ!」

「あ、ああ……」

「ハザードオン! アンコントロールシーゾニング! ブラックセツナソルト! ヤベーイ!」

 

そして更に塩を追加するせつ菜。璃奈はそれ以上は止めてな表情、そして悠里に至っては、ハザードなトリガー起動音の声真似をしてしまう。

 

「私の、美味しくなって欲しいという気持ちの分だけ入れました!」

「へ、へえ……オーバーフローなくらい入れたね?」

「はい! これを()()()()()()()()に食べてもらうのが楽しみです!!」

 

笑顔で恐ろしい事を言うせつ菜。

 

「…璃奈ちゃん、僕がせつ菜ちゃんの気を逸らしておくから、このメモに書いておいた分量の蜂蜜を鍋に入れておいて。これで相殺できるから」

「う、うん。分かった……」

 

とりあえず危険回避の為に、悠里は璃奈にせつ菜が入れた塩を相殺する分量の蜂蜜を鍋に入れておくように指示しておくのであった。

 

余談だが、せつ菜の料理を同好会のメンバーに食べてもらった結果、大好評だったので、何も知らないメンバーに璃奈が真相を教えてあげたところ、涙目で悠里に感謝する事になるのは別の話。




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次回の投稿は、ことりちゃんの誕生日になると思います。
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記憶14 南ことり

ゆるポメラです。
ことりちゃん、誕生日おめでとう。
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とある休日。南家、ことりの部屋にて。

 

「海未ちゃん、ゆーくん、新しい衣装を作ったの。見てもらえないかな?」

「もちろんです」

「うん、いいよ」

 

(みなみ)ことりが、幼馴染みである園田海未(そのだうみ)と悠里に自分で作った新しい衣装を見てほしいとお願いしてきた。

 

ちなみにもう1人の幼馴染みである高坂穂乃果(こうさかほのか)にも見てほしかったのだが、彼女は和菓子屋の店番があり都合がつかなかった為、残念ながらこの場には居ない。

 

「これなんだけど」

「!? こ……これは!?」

「…こりゃまた……」

 

そう言って彼女が海未と悠里に見せたのは、ちょっと丈が短い衣装だった。どうかな? と笑顔で感想を求めることり。

 

「…………ことり、この上着、丈が短くありませんか?」

「うん。いつもより少し短めにしてみたんだ。おへそが見えるようになってるの」

「…スカートもちょっと短すぎなのも何か理由があるの?」

「足が綺麗に見えるバランスを考えると、これくらいがいいかな、って」

 

海未と悠里の質問に答えることり。

 

「いけません! おへそは隠れるように、スカートは膝丈くらいまでにしないと! これでは風邪を引いてしまいます!」

「みーちゃん。それは最早、学校制服の基準だってば……」

 

真面目に答える海未に突っ込む悠里。

 

「でもこれ、スクールアイドルの衣装だよ?」

「スクールアイドルだからと言っても、限度があります。これは流石に短すぎです」

 

それに何より、これでは、あまりにも恥ずかしすぎます! と答える海未。なんとも彼女らしい意見だ。

 

「そうかなぁ? 海未ちゃんなら似合うと思うんだけど」

「僕も似合うと思うんだけどなぁ……」

「そ、そう言われましても……」

 

はてさて。どうしたものか。そんな時だった。

 

「ねぇ、海未ちゃん。お願い!」

 

ことりが上目遣いでお願いしてきたのだ。

 

「海未ちゃんを思って作ったんだ。だから、一度でいいの。袖を通してくれないかな?」

「うっ……」

「ねぇ、だめ?」

「……(あっ、みーちゃんが動揺してる。これはもしかしたら、もしかすると……?)」

 

このまま押し切れば、もしかしたら海未は袖を通してくれるんじゃないかと悠里は感じていた。昔もだいたいこんな感じだったしと思いながら。

 

「もう、ずるいですよ、ことり……!」

「え? じゃあ……」

「今回だけですからね」

「やったぁ!」

 

結局、海未が根負けする事になったのであった。

 

「あ、その衣装に袖を通すなら、これも袖を通してくれないかな? ことちゃんにも袖を通してほしいんだけど」

「「?」」

 

そう言って悠里は持ち込んできた大きめのケースを取り出し、ケースの中を開く。

 

「これなんだけどさ」

「わあ~♪ 可愛い~♪」

「こ、これは……」

 

ことりと海未に見せたのは、3着のドレスだった。オレンジ、青色、白の3色で、装飾もそれぞれ違っていた。

 

「3人に似合うかなと思って、作ってみたんだ。ほのちゃんも居れば良かったんだけど……」

「え? これ、ゆーくんが作ってくれたの?」

「うん。仕上げ前だから、とりあえず袖を通してもらえると嬉しいかな」

 

なんでも悠里曰く、先週あたりにピアノが上手で現在は知人とバンドをしてる衣装担当の幼馴染みから、次の衣装を考えてるんだけど、どんなのがいいかな?と連絡があり、一緒にショッピングモールにある生地屋に行ってきたのが切っ掛けらしい。

 

「それで、そこの生地屋でいい感じの色の生地を見つけてさ。それで作り始めたって訳」

「先週って言ってたけど……作るのにどれくらい掛かったの?」

「深夜テンションで作った時もあったから覚えてない。……嫌だった?」

「もう。それを言われたら、断れないじゃないですか……」

「……む~、ゆーくんにお話したいけど、ひとまず許してあげます」

 

そんなこんなで、ことりと海未は悠里が作ったドレスに袖を通す事になるのであった。

 

余談だが、穂乃果に自分が作ったドレスを着たことりと海未の写真を送信したところ、『穂乃果には~!?』と予想通りの反応が返ってきたので、ことりの家に彼女を呼んで軽い騒ぎになるのは別の話。




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記憶15 鐘嵐珠

ゆるポメラです。
ランジュちゃん、誕生日おめでとう。
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とある平日の放課後。虹ヶ咲学園(にじがさきがくえん)の空き教室の一室にて。

 

「ねえ、宿題終わりそう?」

「……あと少しだけ待ってて」

 

鐘嵐珠(ショウ・ランジュ)の言葉に、藍音学院から支給されてる特注のノートパソコンを操作しながら答える悠里。

 

「ええ、分かったわ」

 

ちなみに悠里が何故、空き教室を借りて作業してるのかというと、虹ヶ咲学園の理事長……嵐珠の母親が自由に使っていいよと許可してくれたからである。

 

「……(ほんとに僕が終わるまで待つ気だな……)」

 

嵐珠の言葉を聞いて、退屈しないかな?と思いながらも作業を進める悠里。

何せ、空き教室を借りて作業を開始しようとしたら、嵐珠に捕まってしまい、悠里が終わるまで待つと彼女が言い始めたので、今に至る。

 

……とりあえず今は手を動かすかと、悠里は作業の続きをするのであった。

 

 

 

 

「どう、そろそろ終わる?」

「うん、ちょうど9割近く……って感じかな。って、もうこんな時間?」

 

教室に備えてある壁時計に目をやる。どうやら、作業を始めてから1時間近くが経過していたようだ。

 

「ランジュ。もうちょっとだけ時間かかりそうだから、先に帰っててもいいよ?」

「嫌よ、今日は悠里と一緒に帰るって決めたんだから」

 

これ以上、彼女を待たせては悪いと思った悠里が嵐珠に提案するが、嵐珠はその案を却下した。

 

「えー、でも……」

「ランジュが大丈夫って言ってるんだから、大丈夫なの。それに……」

「それに?」

「ランジュ、悠里と帰るの楽しみにしてたんだから、それを取り上げないでよう……」

「……」

 

傍から見れば、嵐珠が不服そうな表情をしてるように見えるだろう。だが厳密には、嵐珠のこの不服そうな表情の意味は『寂しさ』も含まれているのだ。

 

……まぁ、彼女の心理なんて、ほんの一部の人間にしか解らないのだが。

 

「なるべく早く終わらせるから、一緒に帰ろうか」

「ふふっ、そう言ってくれればいいの。待っててあげるわ♪」

 

悠里がそう答えると、嵐珠はご機嫌になった。

 

「…仮にあと15分ちょっとで終わるとしたら……うん、寮までは近いし暗くならない内にランジュも帰れそうだね」

「……確かに」

「どしたのランジュ?」

 

その表情はまるで肝心な事を忘れてたと言わんばかりだった。

 

「……やっぱり悠里、宿題もうちょっとゆっくりやりなさい」

「いや、なんでさ……」

 

思わず突っ込む悠里。さっきまで早く一緒に帰ろうって流れだったのにどうしたのだろうか?

 

「だって……」

「だって?」

「宿題終わったら、帰らないといけないじゃない」

「うん、そだね」

「虹学から寮まではそんなに距離がないから、すぐに着いちゃうでしょ」

 

確かに嵐珠が下宿してる虹ヶ咲学園の寮までは、そんなに距離がない。歩いて5分くらいだった筈。

 

ちなみに悠里は他校の生徒なので、あんまり長居はできないが。

 

「そうしたら、悠里と一緒にいられる時間が減っちゃうわ……もっと一緒にいたいの。わかってよ!」

「ランジュ、拗ねないでよ」

「す、拗ねてないわよ!」

 

やれられそういう事かと思いながらも、現在進行形で軽く頬を膨らませながら拗ねてる嵐珠をどうやって宥めるか思考を巡らせる悠里なのであった。




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記憶16 上原歩夢

ゆるポメラです。
歩夢ちゃん、誕生日おめでとう。
楽しんでいただけると嬉しいです。

それではどうぞ。


とある休日の駅にて。

 

「悠里くーん……って、あれ? この辺りで待ってるって言ってた筈なのに……」

 

待ち合わせ場所に件の人物が居ない。上原歩夢(うえはらあゆむ)が周りをキョロキョロと見渡す。

 

「あ、スマホにメッセージが来てる。えっと……『ふえぇが口癖の方向音痴で迷子の幼馴染みに道を聞かれたので案内してきます』……それなら仕方ないよね。待っていよう」

 

すると悠里からメッセージが送られてきた。

急がなくていいからね?とメッセージを送る。それにしても具体的な例えだなと歩夢は思った。

 

「歩夢ちゃーん」

 

20分後。件の悠里がやって来た。

 

「ごめんね、待たせちゃって……」

「ううん、大丈夫だよ。それにしても、時間が掛かったね、道案内。そんなに遠くだったの?」

 

歩夢の疑問に悠里は苦笑いしながら理由を話す。

 

「ここに来る途中、お婆さんの荷物運びを手伝ったり、子供が飛ばしちゃった風船を取ってあげたり、落し物捜しを手伝ったり……」

 

更に迷子の女の子がいたから交番に連れていったのはいいが、一緒にいてと泣きつかれてしまったそうだ。

 

「あ、あはは……なんていうか大変だったね……」

「まぁ、すぐにその女の子のお母さんが迎えに来てくれたんだけどね。お兄ちゃんも連れて帰るって言われた時は流石にびっくりしたけどね……」

「ええっ!? またなの!?」

 

ちなみにその現象は一度や二度ではない。

迷子の子供を悠里が助けると、何故かその子供から『お兄ちゃんも連れて帰る』って言われるのを歩夢は今でも覚えてる。

 

「時間的にお昼ご飯になっちゃったね」

「その辺はほんとにごめんね。歩夢ちゃん、どこで食べよっか?」

 

さて。歩夢を待たせてしまった手前、どこで昼食を食べようかと考えてた時……

 

「ヘイヘイ!()()()2()()()()()()()()。俺らと遊ばない?」

「え、えっと……」

「……」

 

歩夢は美少女だ。だから彼女がナンパされるのも仕方ないと悠里は思う。しかし、しかしだ。性別が男である筈の悠里までもが、ナンパされた、となると話は別である。

 

「は? 僕は男ですけど?」

「え……す、すみません……」

「……つか、お前ら遊園地で僕とランジュをナンパしてきた奴らだよね?」

 

なんとナンパしてきた相手は、以前遊園地で嵐珠(ランジュ)と悠里をナンパしてきた男達だった。遊園地という単語を聞いた男達は顔が徐々に真っ青になる。

 

「あ、いえ……その時どうも……」

「…あ"っ?」

「す、すみませんでした! 他意はなかったんです!」

 

悠里の声が怖かったのか、あろうことかその場で土下座をし始めた男達。

 

「僕は今お腹が空いてるんだ。今はそんな怒る気になれない。歩夢ちゃんに謝って、早くこの場から失せろ」

「は、はい! すみませんでしたー!」

 

歩夢に綺麗な土下座を決め込んだ男達は、走りながらその場を去っていった。

 

「……歩夢ちゃん、僕はそんなにナンパされやすい外見をしてるかね?」

「そ、そんな事…………ないよ? 悠里くん、カッコいいし、さっきのもほら、偶々だと思うよ」

「そう言ってもらえるのは嬉しいけど……今の間は何?」

 

がっくりと肩を落としながら落ち込む悠里を必死に慰めながら、歩夢は美味しそうなカフェにでも行こうかと言うのであった。




読んでいただきありがとうございます。
なんとか間に合って良かったです……(苦笑)
とりあえずこれで2年生組の誕生日回、全員2周目が無事に終わりました。
次から3周目になります。
次回の投稿は、海未ちゃんの誕生日になると思います。
頑張りますので、よろしくお願いします。
本日はありがとうございました。


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記憶17 園田海未

ゆるポメラです。
海未ちゃん、誕生日おめでとう。
今回から3周目になります。早いもんだんなぁ……。
3周目の誕生日回は、複数での絡みにしようかなと思っています。
楽しんでいただけると嬉しいです。

それではどうぞ。


とある夏の休日。上原家にて。

 

「お邪魔します」

「いらっしゃい海未ちゃん!」

 

上原歩夢(うえはらあゆむ)が来客である園田海未(そのだうみ)を部屋に迎え入れる。

 

「今日はお招きいただき、ありがとうございます、歩夢」

「ううん、こっちこそ来てくれてありがとう。ゆっくりしてね」

 

暑かったでしょ?と言いながら、冷たいお茶を海未に渡す歩夢。

 

「ありがとうございます。では、いただきますね。……ん、美味しい!」

「えへへ、お気に入りの紅茶をアイスティーにしてみたの。喜んでもらえて良かった」

「この美味しい紅茶を飲みながらなら、夏休みの予定を決めるのもはかどりそうです」

 

そう。海未が歩夢の家に来たのは、夏休みの予定を決める為である。

 

「それじゃ、早速だけど、始めようか」

「はい! パンフレットもたくさん持ってきました。一緒に探しましょう」

 

そもそも何故、この2人がこんなに親しいのか? それは1週間と3日前まで遡る……

 

 

 

 

ある平日の放課後。

海未は幼馴染みである高坂穂乃果(こうさかほのか)(みなみ)ことりの3人で少し遠い場所にあるという、噂のファミレスに向かっていた。

 

なんでも、ただのファミレスではないらしい。

 

クラスメイトから聞いた話なのだが、色んな有名人が来たり、通常のファミレスでは取り扱ってないメニューがあるとの事。また有名人が来ると厨房が暑苦しい程、騒がしいとか……

 

当然それを聞いた穂乃果は……

 

『今日の放課後、早速行こう!』

 

そして海未とことりは当然の如く巻き込まれたのである。特に予定もなかったので構わなかったのだが。

 

「いらっしゃいませー。お客様何名様でしょうか~?」

「3人です」

「3名様ですね。禁煙席と喫煙席のほうはどうされますか?」

「禁煙席でお願いします」

「かしこまいりました」

 

海未の答えに店員は空いてる禁煙席を確認してきますので、お名前を書いてお待ちくださいと言って席を確認しに行った。

 

「こちらの席へどうぞ」

 

案内された場所には、10人は普通に座れそうな珍しい席。ご注文がお決まりになりましたら、そこのボタンでお呼びくださいと言って店員はその場から去っていく。

 

「普通のファミレスですね」

「そうだね……」

「海未ちゃん、ことりちゃん見て見て! ウルトラジャンボいちごパフェだってー!」

「全く、穂乃果は……」

「あ、あはは……」

 

メニュー表を見てはしゃいでる穂乃果に対し、海未は溜息、ことりは苦笑い。

 

「……『許してちょーよ的な道化なフランスパンセット』ってなんでしょうか?」

「海未ちゃん、こっちには『キュートで虚言でナーンテネッ!なマカロンセット』って書いてあるよ……」

 

何故か軽食の欄に、やけに目立つ個性的なメニューを発見してしまった海未とことり。

 

「うおー! こここ……これはあのアニメのコラボメニュー! こっちも捨てがたいですね!」

「『禁断のアイスクリームステーキ』って何かしら?」

「見た事がないメニューがたくさんあるねー? 愛さんはこの『星型の王子のクレープ』が気になるかなー?」

「たこ焼きもある。歩夢、ここってファミレス……だよね?」

「私もそう思いたい……かな?」

 

すると海未達の隣の席に座ってた同年代くらいと思われる5人の女子高生の内の2人が、メニュー表を見て自分達と似たような事を言ってるのが聞こえた。他の3人は普通だと思ってるようだが……

 

「ねえ、穂乃果ちゃん、海未ちゃん、あれって、ゆーくんじゃないかな?」

「「え?」」

「ほら、あそこ」

 

ことりが指差す方に視線を向けると、確かに悠里の姿があった。彼は藍音学院の制服を着てるので、かなり判りやすい。

 

「あ! ほんとだ! おーい、()()()()()()!」

「「え?」」

 

悠里の姿を見つけた穂乃果が手を振りながら声を掛けると同時に、悠里だけでなく、隣の席に座っていた黒髪のツインテールで毛先が緑色の少女までもが反応した。

 

ちなみにこの後、軽い修羅場化したのは言うまでもない。

 

 

 

 

という事があり、今のような仲に至る。

 

「海未ちゃん、ここはどうかな? おっきいプールができたんだって」

「いいですね! 5種類のプールに4種類のウォータースライダー……! 見ているだけでわくわくします!」

「でしょ! 他には~……」

「歩夢、見てください。来週、秋葉(あきば)で夏祭りがあるそうです」

 

そこには確かに『秋葉で夏祭り』がパンフレットに記されていた。

 

「わぁ! 楽しそう!」

「悠里君も誘ってみんなで行きたいですね」

「うん。悠里くん、お祭り自体は昔から好きだから」

 

なんとなく『……お邪魔じゃないなら行きたい』と遠慮気味に答える悠里の表情が浮かび、歩夢と海未は思わずくすりと笑う。

 

「あ! 小さい頃に悠里くんと(ゆう)ちゃんと私の3人で夏祭りに行った時のアルバムがあるんだけど、見る?」

「是非見たいです!」

「じゃあ紅茶のおかわりも淹れてくるね? えっとアルバムは確か、この辺に……」

 

この後は完全に小さい頃の悠里の写真の観賞会になり、数分後に新作のスイーツの差し入れをしに歩夢の家にやって来た悠里が巻き込まれ、更に彼が徹夜で色々とやってたとうっかり口にしたところ、それを聞いた歩夢と海未にお小言を言われるのは別の話。




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記憶18 高咲侑

ゆるポメラです。
侑ちゃん、誕生日おめでとう。
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ある日の放課後。

 

「えっと……この道を真っ直ぐみたいだね」

「うん。そうみたい。でもどんなファミレスなんだろう?」

「けっこう噂になってるみたいだからね~」

「どんなファミレスなのか楽しみです!」

「ランジュも楽しみだわ!」

 

高咲侑(たかさきゆう)上原歩夢(うえはらあゆむ)宮下愛(みやしたあい)優木(ゆうき)せつ()鐘嵐珠(ショウ・ランジュ)の5人で少し遠い場所にあるという、噂のファミレスに向かっていた。

 

なんでも、ただのファミレスではないらしい。

 

クラスメイトから聞いた話なのだが、色んな有名人が来たり、通常のファミレスでは取り扱ってないメニューがあるとの事。また有名人が来ると厨房が暑苦しい程、騒がしいとか……

 

そんな事を考えてると件のファミレスに着いた。

 

「いらっしゃいませー。お客様何名様でしょうか~?」

「5人です」

「5名様ですね。禁煙席と喫煙席のほうはどうされますか?」

「禁煙席でお願いします」

「かしこまいりました」

 

侑の答えに店員は空いてる禁煙席を確認してきますので、お名前を書いてお待ちくださいと言って席を確認しに行った。

 

「こちらの席へどうぞ」

 

案内された場所には、10人は普通に座れそうな珍しい席。ご注文がお決まりになりましたら、そこのボタンでお呼びくださいと言って店員はその場から去っていく。

 

「うおー! こここ……これはあのアニメのコラボメニュー! こっちも捨てがたいですね!」

「『禁断のアイスクリームステーキ』って何かしら?」

「見た事がないメニューがたくさんあるねー? 愛さんはこの『星型の王子のクレープ』が気になるかなー?」

「たこ焼きもある。歩夢、ここってファミレス……だよね?」

「私もそう思いたい……かな?」

 

メニュー表を見ると軽食の欄に、やけに目立つ個性的なメニューを発見してしまった侑と歩夢。一方でせつ菜、嵐珠、愛は興味津々だが。

 

「……『許してちょーよ的な道化なフランスパンセット』ってなんでしょうか?」

「海未ちゃん、こっちには『キュートで虚言でナーンテネッ!なマカロンセット』って書いてあるよ……」

 

すると侑達の隣の席に座ってた同年代くらいと思われる3人の女子高生の内の2人が、メニュー表を見て自分達と似たような事を言ってるのが聞こえた。もう1人ははしゃいでいるが。

 

「ん? あれって、ゆうりんじゃない?」

「「「「え?」」」」

「あそこ」

 

愛が指差す方に視線を向けると、確かに悠里の姿があった。彼は藍音学院の制服を着てるので、かなり判りやすい。

 

せっかくだから声を掛けようかなと侑が思った時……

 

「あ! ほんとだ! おーい、()()()()()()!」

「「え?」」

 

隣の席に座っていた橙色のサイドポニーの少女が手を振りながら声を悠里に掛けたのだ。同時に自分の名前も呼ばれた気がしたので、うっかり反応してしまう侑なのであった。

 

ちなみにこの後、軽い修羅場化したのは言うまでもない。

 

例えば……

 

「海未ちゃんだけずるーい! 穂乃果もその日、一緒に喫茶店に行きたかったよー!」

「その日は店番があるって言ってたじゃないですか!?」

「悠里、どこの喫茶店?」

「…侑ちゃんが前に教えてくれた場所」

 

更にプライバシー保護の為に伏せておくが、修羅場が収まった矢先、店員に案内されていた『とびだせエゴサーチ』と『迷宮のジェリーフィッシュ』、『慈愛の女神』と『不動のスキルマ』の4人に声を掛けられた悠里が普通に返事をした途端、8人の少女に再び問い詰められるのは別の話。




読んでいただきありがとうございます。
なんとか間に合って良かったです……(苦笑)
次回の投稿日は愛ちゃんの誕生日になります。
頑張りますので、よろしくお願いします。
本日はありがとうございました。


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記憶19 宮下愛

ゆるポメラです。
愛ちゃん、誕生日おめでとう。
楽しんでいただけると嬉しいです。

それではどうぞ。



とある休日にて。

 

「いらっしゃ~い、って、あっ! 2人とも来てくれたんだね! サンキュー♪」

 

実家のお店のお手伝いをしてた宮下愛(みやしたあい)。見知った客の顔を見て笑顔になる。

 

「来るに決まっているじゃないの。練習後に新作もんじゃの詳しい説明をされたら食べたくなっちゃうでしょ」

(はるか)ちゃんの為に、美味しいもんじゃの研究をしてるの~。今日は愛ちゃんちのもんじゃの秘密を暴くよ!」

 

それは同じスクールアイドル同好会に所属してる朝香果林(あさかかりん)近江彼方(このえかなた)だった。

 

「うわっ、せっかくうちのもんじゃのアピールが上手くいったのに、同時に秘伝を盗まれてしまう危機とは! 困ったもんじゃ……もんじゃだけに」

 

2人を席に案内しながら、いつものダジャレを披露する愛。

 

「ふふふ~、覚悟してよ~♪」

「秘伝のもんじゃっていうの、楽しみにしてるわよ♪」

「おっけーおっけー! とにかくまあ、来てくれてすっごく嬉しいよ~!」

 

そんな事を話していると……

 

「いらっしゃいませ。こちら、お冷になります」

「あら、ありがと…………って、悠里?」

「びっくりした~」

「どうも。果林さん、彼方さん」

 

1人の店員がお冷を運んできた。その店員はなんと悠里だった。まさかの人物に驚く果林と彼方。

 

「ここでバイトしてるの~?」

「正確には臨時バイトですね」

「いやー、ゆうりんが手伝ってくれて、愛さん達も助かってるよ♪」

 

なんでも愛曰く、店の外の雰囲気を見て忙しくなるのを察した悠里が手伝うと立候補したらしい。愛の家族も悠里の事は昔から知ってる為、了承してくれたそうだ。

 

「すみませーん、ちょっといいですかー?」

「はーい、ただいまお伺いします。愛ちゃん、氷のストック、今新しく作ってるから。もし注文受けたら、10分くらい待つって言っておいて」

「オッケー」

 

他の客に呼ばれたので、悠里は愛に用件を伝えると呼ばれたテーブルの方に向かった。

 

「なんか悠里、手慣れてるわね?」

「ほんとに臨時バイト~?」

「他のお客さんにもよく言われるよ。ゆうりんが臨時バイトだって事を知ってるのは、昔からの常連さんくらいかな?」

 

果林と彼方の疑問に答える愛。なんだったら悠里が臨時でバイトに来る時は、お客が通常の1.5倍くらい来るらしい。

 

「あ、そうだ! 新作だけじゃなくて、他のおすすめもんじゃも用意するね!」

 

そして思い出したとばかりに、新作以外にも当店のおすすめもんじゃも用意すると言う愛。

 

「あら、そんなにたくさんあるの?」

「そりゃね! うちの自慢はたくさんあるから。全部制覇してほしいくらい♪」

「全部か……食べきれるかな?」

 

彼方が割と本気な眼をしてたので、慌てて愛は、通って、少しずつ制覇してってよと付け足す。

 

「制覇したら、何か特典があるのかしら?」

「特典欲しい~♪」

「特典があったら通い甲斐があるわよね」

 

果林と彼方がそんな事を言うと……

 

「ちなみに僕からの特典は、果林さんと彼方さんが()()()()()()()()の事をお教えします」

「「っ!?」」

 

先程のお客の注文を受け終わった悠里が通りすがるように、果林と彼方に言い切った。それを聞いた2人はなんで知ってるんだ!?とばかりの表情をしていたが。

 

「え? 何それ? カリンとカナちゃんって好きな人いるの!? 初耳なんだけど!?」

「ちょ、ちょっと愛。声が大きい……」

「さ、さすがの彼方ちゃんも、恥ずかしいな~……うう~……」

 

ちなみに悠里からその話を詳しく聞いた愛が、色んな意味で張り切ってしまうのは別の話。




読んでいただきありがとうございます。
なんとか間に合って良かったです……(苦笑)
次回の投稿日は、穂乃果ちゃんの誕生日になります。
頑張りますので、よろしくお願いします。
本日はありがとうございました。


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記憶20 高坂穂乃果

ゆるポメラです。
穂乃果ちゃん、誕生日おめでとう。
楽しんでいただけると嬉しいです。

それではどうぞ。


とある平日。和菓子屋、穂むらにて。

 

「…こんにちは」

「いらっしゃいませ……って、わ、ゆうちゃんだったの!?」

「…ん。先程の練習終わりぶりだね。ほのちゃん」

 

店に入ってきた珍客……悠里の姿を見て、驚く高坂穂乃果(こうさかほのか)

 

「びっくりした。今日はどうしたの?」

「ちょっと近くまで来たから、バンドメンバーの友達にお土産を買っていこうかなって。今もライブハウスで練習を頑張ってると思うから」

「そうなんだ」

 

来てくれた理由を聞いて納得する穂乃果。

 

「でも、ほのちゃんがいるとは思わなかった。……家のお手伝い偉いね」

「そうでしょ! と言いたいけど、ちっとも偉くないの」

「? どういう事?」

 

実際こうやって家の手伝いをしてるのではないのか?と首を傾げる悠里。

 

「小テストの結果がアレで……罰として店番させられてるの」

「でも今日の練習終わりに、のんびりするって言ってなかったっけ?」

「…家に着いた矢先、お母さんに小テストの結果を聞かれちゃったの……」

「……(ああ、ほのちゃんの目が……)」

 

現に今も軽く遠い目をしてる穂乃果。母に聞かれる姿が容易に想像できた悠里。

 

「ちなみに何点だったか訊いてもいい?」

「いや、そんなに悪くないってば~! あはは……そ、それよりお土産どれにする?」

 

話を逸らされた気がするが……この様子だと、穂乃果の小テストの結果は、お察しだったのかな?と思う事にした。

 

「…『ほむまん』と『季節の3色団子セット』は絶対に買うとして……他になんかオススメってある?」

 

ちなみに『ほむまん』というのは、正式名称は『穂むら饅頭』という饅頭であり、この店の名物だ。『季節の3色団子セット』は悠里が昔から好きな季節の団子の事である。

 

「全部美味しいから、なかなか決めにくいけど……季節のフルーツが入った大福はどう?」

「…何それ。季節のフルーツ入り大福とか絶対美味しそう……それじゃ……」

「あ、でも待って! 最中(もなか)の皮も最近ちょっと変えて前より美味しくなってるんだ~!」

「……」

「そういえば! 栗どら焼きの栗も今回入荷したやつは大粒だって言ってたから絶対お得……羊羹も二層、三層になってるのがあって見た目が可愛いし味も最高なんだよね」

「…………」

「え~っと、それにね……」

 

確かにオススメを穂乃果に訊いたが、予想以上の数だった。流石は和菓子屋の看板娘である。

 

「せっかくだから、ほのちゃんが今オススメしてくれた和菓子、5()()()を買わせてもらうよ」

「ええ!?」

 

悠里の注文量を聞いて思わず驚きの声を上げてしまう穂乃果。

 

「そうだ。袋とか別で分けて欲しいから、それもお願いしてもいいかな?」

「うん。じゃあちょっと、お母さん呼んで来るね? お母さ~ん!」

 

自分1人でも大丈夫だと思うが念の為、穂乃果は母を呼びに行ったのであった……

 

 

 

 

「え~っと……1、2、3、4、5……お母さん、全部入れ終わったよ~」

「はーい。それじゃあ『ほむまん』12個入りが5つ、『季節の3色団子セット』6串入りが5つ、『季節のフルーツ入り大福』6個入りが5つ、『最中』6個入りが5つ、『栗どら焼き』6個入りが5つ、『羊羹』1棹が5つ。お会計が全部で×××(ピー)円になります」

「端数分のお金あるかな……あ。あった……すみません、これでちょうどだと思います」

「はーい♪ ほんとしばらく見ない内にカッコよくなっちゃって~♪ 領収書かレシートはどうする?」

「両方、お願いします。ほのちゃんと同じ高校2年生ですからね。色々と変わりますよ……」

 

悠里が注文してくれた和菓子を穂乃果は袋に入れ、母はお会計をしながら世間話を悠里としていた。合計金額を穂乃果は母の隣で聞いてしまったが、気にしちゃいけない。

 

この場に居ない幼馴染みである園田海未(そのだうみ)(みなみ)ことりも、悠里が買った和菓子の合計金額を見たら絶対にびっくりするに違いない。

 

「……」

「(あ、お父さんもこっち見てる……)」

 

厨房から父が悠里を覗きこんでいた。なんだったら注文を受けた父が一番驚いてたが。

 

「こんなに買ってくれるのは、うちとしても嬉しいけど……悠里くん、お小遣いとか大丈夫なの?」

「全然大丈夫ですよ。ここの和菓子は美味しいし、バイトもしてますし、昔稼いでた分の貯金もあるんで。それに可愛くて素敵な看板娘も居ますし」

「え、ええ!? そ、そそそ、そんな事ないよ~」

「あらあら♪」

 

悠里に『可愛い素敵な看板娘』と言われ、顔を赤らめる穂乃果。そして娘の反応を見て面白がる母。

 

「それじゃあ僕はこれで。ほのちゃん、店番頑張ってね」

「う、うん。ゆうちゃん、また来てくれる?」

「お店の近くに寄る機会があったら、また来るよ。知り合いにも宣伝しておくから」

 

そう言って悠里は注文した和菓子の袋を手に持ち、店を後にするのであった。

 

余談だが、次の日から『お嬢様のお知り合いである、悠里様から美味しい和菓子屋がある』と紹介された他校の女子高の学生……の黒服の女性3人が来たり、母から聞いた話だが『才能開拓をモットーにした芸術学校』に通ってるという、日本人とドイツ人のハーフの少女が午後くらいにやって来て『悠里がよく買ってる和菓子を5人分ください』と言って、同じ学校の友達の分を購入していったと聞いた穂乃果は、悠里の交友関係はどうなっているんだ?と疑問に感じたという。




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次回の投稿日は、せつ菜ちゃんの誕生日になります。
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記憶21 優木せつ菜

ゆるポメラです。
せつ菜ちゃん、誕生日おめでとう。
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とある休日の公園にて。

 

「…1人だけで来て、って……せつ菜ちゃん、どうしたんだろう……悩み事でもあるのかな?」

「お待たせしてしまってすみません」

 

そんな事を悠里が考えてると、呼び出した件の人物、優木(ゆうき)せつ()が急ぎ足でやって来た。

 

「ううん、僕もちょうど今来たところだよ。それより今日はどうしたの? ()()()1()()で来て、って……」

 

早速、絶対に1人で来てほしいと念押しをした理由をせつ菜に訊く悠里。

 

「特訓に付き合ってほしいんです」

「……え? 特訓?」

 

彼女は『特訓』に付き合ってほしいと言った。思わず反応に遅れてしまう悠里。……まぁ、深刻な悩み事じゃないだけマシかもだが。

 

「…もちろん付き合うけど、それなら公園じゃなくてレッスン室に行ったほうがいいんじゃ……」

「いえ、学園ではいけないんです」

「……?」

 

その言葉に悠里は首を傾げる。せつ菜が通ってる虹ヶ咲学園(にじがさきがくえん)では無理だと言うのだ。

 

「えっと……どういう事?」

「その……特訓というのは、とある戦隊ヒーローの変身ポーズなんです」

「変身……ポーズ……?」

「はい。同好会のPR用の写真なんですが、そこに変身ポーズを追加したいと思っていまして……」

「……(そういう事ね)」

 

この時点で、せつ菜が学園では無理という理由を悠里は瞬時に理解した。

 

「すっごくすっごくカッコいいポーズなので、私がうまくできればみなさんを説得できると思うんです!」

「うーん……なるほど?」

「はい! だから、みなさんを説得できるだけのカッコいいポーズを、この身体に叩き込みたいんです!」

 

どうか特訓に付き合ってください!!とズイっと笑顔で悠里に近づきお願いするせつ菜。

 

「…分かったから。なーちゃん、近い……」

「へっ? あ、あわわわ……す、すみません……あ、あああ、あと、今その呼び名はズルいです!」

 

頬を膨らまし、ぷんすかと悠里に訴えるせつ菜。……全然怖くない。

 

「……ところで、戦隊ヒーローの変身ポーズって言ってたけど、何期の戦隊ヒーローシリーズ?」

「むっ! 話を逸らしましたね! ……まぁ、いいです。えっと……こういう変身ポーズをする戦隊ヒーローなんですが……」

「…一瞬、『気力転身』か『超力変身』を使う戦隊ヒーローに見えかけたけど、そっちの方ね。人数が多い戦隊ヒーローか」

「悠里さんはどんな戦隊ヒーローが好きなんですか?」

「…『電磁戦隊』と『未来戦隊』。ライダー系だったら、『目覚めろ、その魂!』と『クロックアップ』。あぁ……『忍風戦隊』と『ノーコンティニュー』も捨てがたいね」

「ふおおおおおおお♪」

 

目をキラキラさせながら、悠里を見るせつ菜。

……今の単語だけで解ったのだろうか? しかし戦隊ヒーローまたはライダーといっても、歴代のものを含めればたくさんある。

 

「とりあえず昔馴染みに今の戦隊ヒーローの変身ポーズについて訊いてみるよ、その子もアニメや漫画、特撮好きだし」

「私と同じ趣味の方が、お知り合いにいるんですか!?」

「…まあね。今日は多分……非番な筈。ついでに最近部屋で撮ってみた幻のうさフィン仮面3号のポーズも送って、意見を聞かせてもらおっかな……」

 

未だに興奮してる彼女の相手をしながら、悠里は昔馴染みに例の戦隊ヒーローの変身ポーズのガチ系再現動画か、やり方のコツとかある?とメッセと動画を送るのであった……

 

 

 

 

「はあ、はあ……。もう1回です……」

「せつ菜ちゃん、休憩しよう」

「いえ、私はまだまだできます!」

 

気づけば、もうすぐ夕方。

昔馴染みから返信……というか、なんとビデオ電話があり、変身ポーズの厳密なやり方や自分はこのアニメや漫画が好き等、軽いサークル活動になってしまった。

 

せつ菜とも意気投合してたので、悠里が『今度オフ会でもする?』と冗談交じりに言ったら、『それもありですね(だね)!』となったのは余談である。

 

「でも、最初に比べて、動きは鋭くなってるけど手の角度が下がってきてるよ」

「そんな……! レッドソルジャーは最初の手の角度が重要なんです!」

「うんうん、そうだね。ついでに言うと、変身アイテムの付け方も疎かになってきてるけどね?」

「はうっ!」

 

悠里が笑顔でダメ出しをすると、謎の波動でも喰らったのだろうか、せつ菜は変な声を上げながら倒れかけた。

 

「少し休んでから、続きをしようよ。そこのベンチで膝枕してあげる」

「ひ、ひひひ……膝枕っ!?」

 

困惑してるせつ菜をよそに、悠里は近くのベンチに座り、慣れた手つきで彼女に膝枕をしてあげた。

 

「ちゃんと休まないと身体に悪いからね。一生懸命な事はいい事だけど」

「あ、あう……(や、柔らかい……!? 悠里さんの膝枕、柔らかいです! ふおおおおおおおっ!?)」

「? なーちゃん、聞いてる?」

「は、はいいいっ!!!」

 

ちなみに休憩後のせつ菜のやる気は、凄まじく、変身ポーズもかなりキレッキレに感じた悠里なのであった。




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次回の投稿は、ことりちゃんの誕生日になると思います。
頑張りますので、よろしくお願いします。
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記憶22 南ことり

ゆるポメラです。
ことりちゃん、誕生日おめでとう。
今回は、ある方から『列車で旅行する話を書いたらどうでしょうか』というメッセージを頂いたので、その後のやり取りで登場キャラと旅行回の設定を送って頂きました。
……なので、今回ばかりは注意事項を。
列車で旅行回は初めての試みですので、至らない点が多々あったり、色々とおかしくね?という点もあるかもしれません。そこは温かい目でよろしくお願いします。

あと今回は、あのオリキャラも出ます。

それではどうぞ。



とある日の夏休み。音ノ木坂学院(おとのきざかがくいん)の屋上にて。

 

「……旅行?」

「うん!」

「…いや、うんじゃなくて……」

 

高坂穂乃果(こうさかほのか)に電話で呼び出された悠里。着いた矢先の開口一番が『一緒に旅行に行こう!』これである。

 

「穂乃果ちゃん、ゆーくんが困ってるよ……」

「そ、そうだよ? 悠里さんに説明とかしないと……」

 

そう言ったのは、(みなみ)ことり、1年生の小泉花陽(こいずみはなよ)

 

「ゆうちゃんの学校も夏休みだよね?」

「……まぁ、そうだけど……」

「じゃあ行こう!」

「……」

 

うん。会話になりそうで会話にならない。

 

「えっとね? 穂乃果ちゃんの家が和菓子屋さんなのは、ゆーくんも知ってるでしょ?」

「うん」

「そこの常連さんから、札幌の観光フリーパス?を貰ったんだって」

 

ことりが悠里に説明する。彼女曰く、和菓子屋に通ってる常連さんが『札幌の観光フリーパス』なるものをくれたらしい。

 

「それで……そのフリーパスの期限が夏休み期間までなんです……」

「なるほどね。花陽ちゃんも今聞かされた感じ?」

「あ、あはは……」

 

花陽が悠里の質問に苦笑いしながら返す。どうやら2人も今聞かされたばかりらしい。

 

「…特に夏休み期間は予定も入ってないし、行くのは構わないけど……」

「ほんと!?」

「……というか、ほのちゃん、夏休みの宿題とか進んでるの?」

「…………」

 

夏休みの宿題と悠里が言うと、穂乃果は目を逸らした。

 

「…まぁ、宿題云々は置いておいて。みーちゃんや他の人達も行くんでしょ?」

海未(うみ)ちゃんと3年生のみんなも誘ってみたけど、急な事だし、予定も入ってる日が多いから行けないんだって」

「私も(りん)ちゃんと真姫(まき)ちゃんも誘ってみたんですけど、予定が合わなくて……」

 

ここには居ない園田海未(そのだうみ)、他の1年生や3年生にも声をかけたが予定が入っており、断られたそうだ。

 

「……で、ここに居る3人が旅行に行く……と?」

「そう!」

 

つまり言い出した穂乃果、ことり、花陽の3人である。そこに悠里という感じらしい。

 

「旅行って言ってたけど、何日くらい?」

「えっと、穂乃果ちゃんと花陽ちゃんと話したんだけど……とりあえず……4日くらい?」

「…みーちゃんがこの場に居たら、無計画って言うだろうね……」

「あ、あはは……」

 

悠里の言葉に苦笑いすることり。確かに海未ならそう言うのが想像できた。

 

「あ、あの……」

「…花陽ちゃん、どしたの?」

「札幌って事は、北海道ですよね……交通費とか……どうしましょう?」

「あー、その辺は大丈夫。交通費くらい、僕がなんとかするから」

 

花陽が遠慮がちに言う。仮にも北海道まで行くのだ。しかしそこは悠里が大丈夫だと言った。

 

「…あ、僕の学校の後輩1人、連れてってもいい? 主に花陽ちゃんがリラックスできるように」

「え? 私?」

「うん。当日、楽しみにしててね?」

 

首を傾げてる花陽に悠里はそう言うと、自前のノートを取り出して、さっそく旅行に行く予定を4人で立てる事に。

 

 

 

 

「……という訳なんですよ、南先生」

「あらあら。また急な話ね~」

 

場所は変わって理事長室にて。悠里はことりと一緒に、彼女の母が居る理事長室に訪れていた。

 

「それで? 穂乃果ちゃんと小泉さんは?」

「2人は準備とかを優先してもらって、先に帰らせました」

 

そう。穂乃果と花陽には旅行の準備等で先に帰ってもらっているので、ここには居ない。

 

「仮にも旅行とはいえ、北海道に行く事には変わりないので、親の許可がやっぱり必要かなと思って……」

「旅行に行くのは、私も反対しないわ」

「え? お母さん、いいの?」

 

意外にもあっさりと許可を出す母を見て、ことりは思わず聞き返してしまう。

 

「ええ。悠里くんが一緒なら安心できるし。ちなみに4人で行くの?」

「…いえ、僕の学校の後輩1人も連れて行こうかなと。なので、5人ですね」

「悠里くんの後輩……という事は、藍音学院(あいねがくいん)の生徒かしら?」

「そうですね。僕にとっては弟ような子です。こんな事もあろうかと藍音学院の在校生の資料があるので、見ますか?」

「あら。用意がいいわね。お願いしてもいいかしら?」

「……(ゆーくん、いつも持ち歩いてるのかな?)」

 

鞄の中から資料を1枚取り出す悠里を見て、持ち歩いてるのか?と、ことりは思った。

 

「……」

「今見ていただいてる資料の子を、今回の旅行に連れて行こうと思ってます。……というか、連れていきます」

「……悠里くん、いくつか質問いいかしら?」

「はい。なんでしょう?」

 

渡された資料を読んでいた母は、真剣な表情で悠里に質問を求めた。

 

「この子、あの明星(みょうじょう)家? 養子とかの間違いじゃないわよね?」

「養子じゃないですよ。(すい)はれっきとした、明星家の血を引いてます。藍音学院がどういう学校なのかは、南先生もご存知でしょう?」

「……そうよね。昔、藍里(あいり)が『明星家とは家族ぐるみの付き合いなの♪』なんて言ってた事があったから、最初は冗談半分かなと思ってたけど……今の言葉を聞いて納得だわ」

「…母さんのドヤ顔が目に浮かびます」

「それには凄く同感ね……」

 

いつも以上の溜息を吐く母を見たことりは、正直状況が追いつかなかった。

 

「ことり。相手が年下だからって、明星家の人に失礼のないようにね?」

「え!? う、うん……(お母さんの目が怖い……)」

 

表情は穏やかだが、目が完全に鋭い目状態になってる母に、ことりは内心ビビりまくっていた。

 

「そういえば、交通費はどうするの?」

「その辺は大丈夫です。僕がなんとかするので……」

「それはダメよ」

 

めっ!と悠里に指摘する母。流石にそこは看過できないのだろう……

 

「えっ、だって……列車で行く訳ですし、値段が値段なので、流石に僕が払いますよ……」

「絶対ダメよ。それに関しては私が許さないわ。交通費は私が出します!」

 

ちなみにそこから数時間、ことりの母にお小言を言われる悠里なのであった。

 

 

 

 

そして迎えた旅行当日。某駅にて。

 

「すみません~! 遅れました~」

「あ! 花陽ちゃん、こっちこっちー!」

「ま、間に合った……」

 

待ち合わせ場所に居た穂乃果とことりを見つけた花陽。走ってきたのだろうか、肩で息をしていた。

 

「ことりと穂乃果ちゃんも今着いたばかりだから、大丈夫だよ? お茶飲む?」

「あ、ありがとう……」

「あ! ゆうちゃんから連絡きたよ! もう駅に着くって!」

 

花陽がことりからお茶を受け取ると、穂乃果が悠里から連絡がきたとの知らせが。

 

「…あ。いたいた。みんなおはよー」

 

すると件の悠里がやって来た。

 

「ゆうちゃん、おはよう!」

「おはよう、ゆーくん」

「お、おはようございま…………え?」

 

悠里に挨拶した花陽は、彼の隣にいる人物の姿を見るなり、目が点になり……

 

「……ん、おはよ、花陽ちゃん。あと遅れたけど、ただいま」

「す、すすす……(すい)ちゃん!? な、ななな……なんで!?」

「……ん、悠里兄(ゆうりにぃ)に一緒に行こうって誘われた。花陽ちゃんにサプライズもしたいからって」

「はぁあああああ……!!」

 

顔を真っ赤にして驚きの声を上げてしまった。

彗と呼ばれたハネた茶髪のショートヘアが特徴のその人物は、未だに顔が真っ赤な花陽の様子に首を傾げてるが。

 

また夏だというのに、何故か長袖の黒いブレザーとプリーツスカート、白のカッターシャツ、赤色のネクタイを着用しており、黒タイツも履いていた。上着を着崩しており、ネクタイも緩めてる為か少しだらしない印象にも見える。

 

「初めまして。今日は旅行に誘っていただきありがとうございます。明星彗(みょうじょうすい)です……」

「高坂穂乃果だよ! こっちこそ、よろしくね!」

「南ことりです。よろしくね?」

 

ペコリと丁寧に穂乃果とことりに自己紹介と挨拶をする彗。

 

「…とりあえずみんなで窓口に移動して、受付の人に一応確認やら何やらしてもらおっか」

 

今回乗る予定の列車は、寝台特急カシオペアだ。

 

「……ん、乗車中に変な人やめんどくさい人に絡まれなきゃいいけどね」

「…余程じゃない限り大丈夫だと思うよ。基本的に電車好きの人達は、優しい人が多いから」

「……ん、それは言えてる」

 

もし何かあったら、悠里と彗でなんとかするつもりだ。

 

「…それじゃあ行こっか?」

「「「「はーい」」」」

 

とりあえず今は時間厳守……という訳ではないが、余裕をもって行動する事にしようと決めた5人なのであった。




読んでいただきありがとうございます。
なんとか間に合って良かったです……(苦笑)
この話の続きは、来年の穂乃果ちゃんの誕生日回に乗車中の話と続き、ことりちゃんの誕生日回に次の目的地等を、再来年の穂乃果ちゃんの誕生日回に続く……といった感じで何回かに分けて投稿予定です。
……自分の文才力がもっとあればなぁ(遠い目)
次回の投稿は、ランジュちゃんの誕生日になると思います。
頑張りますので、よろしくお願いします。
本日はありがとうございました。

※最後にオリキャラの簡単なプロフィールです。


明星彗(みょうじょうすい)


容姿イメージ:『艦隊これくしょん』の若葉

誕生日:12月18日、いて座

身長:157cm

血液型:A型

一人称:僕


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記憶23 鐘嵐珠

ゆるポメラです。
ランジュちゃん、誕生日おめでとう。
楽しんでいただけると嬉しいです。

それではどうぞ。


とある日の虹ヶ咲学園(にじがさきがくえん)の家庭科室にて。

 

「ちょっと狭いけど、虹学の家庭科室もなかなかの設備ね」

「…ランジュが言ってる『ちょっと狭い』の範囲が予想つかないけど、僕からしたら設備も充分過ぎだよ」

 

家庭科室の広さと設備について言う鐘嵐珠(ショウ・ランジュ)。一般的な意見を彼女に述べる悠里。

 

どうして悠里もこの場に居るのかと言うと……嵐珠に捕まってしまったからだ。

 

何故か目を輝かせながら。

 

ちなみにその際に似たような感じの捕まり方を前に経験したような気がしたのは、悠里の気のせいではないだろう。

 

「…それで急に家庭科室に行きたいだなんて、どうしたのさ?」

「何言ってるのよ、キッチンに来たらする事は1つしかないでしょ!」

 

家庭科室に入った際、嵐珠がエプロン姿で髪型をポニーテールにしてる時点で悠里は察してはいたのだが……

 

「うーん、僕と……にゃーにゃーしたいとか?」

 

とぼけた表情で、一部の幼馴染みしか解らない『わにゃん語』で嵐珠に言ってみる事に。

 

「っ!!? ち、ちがっ……くないけど……もー! 違うわよ! 今日はアタシが悠里のために特製のスムージーを作ってあげるの!」

 

顔を赤くしながらも嵐珠が悠里に訂正する。ちなみに今のは『僕といちゃいちゃしたいの?』という意味だ。

 

「そうなの? 僕もスムージー作り手伝おうか?」

「ダメよ、悠里のために作るんだからアタシだけで作らなくっちゃ♪」

「……(なんか心配なんだよねー)」

 

手伝いを悠里が申し上げるが、笑顔で断る嵐珠。そして悠里が心配な理由としては、嵐珠は家事ができないのだ。

 

特に料理は酷い……というより、どちらかというと彼女は危なっかしいのだ。

 

「じゃあランジュが作ってるところを隣で見ててもいい?」

「いいわよ! アタシのクッキングテクニック、しっかり見てちょうだい♪」

「そうさせてもらうよ」

 

そんなこんなで、早速作り始める嵐珠。

 

「えーっと、まずはベビーリーフを洗って、水気をよくきる……っと」

「……(あー、良かった。レシピ本を見ながら作ってくれてる)」

「次はフルーツをひと口大に切って……と」

 

レシピ本を見ながら料理してるので、安心してたのも束の間、早速危なっかしい場面が。

 

「ラ、ランジュ! そのまま切ったら左手が危ないよ、左手は猫の手。ね?」

「アイヤー、そうだったわ」

 

言わんこっちゃない!とばかりに悠里は左手を猫の手にするんだよと嵐珠に教える。

 

「…うん、ランジュ上手」

「当然よ! アタシは1人で料理だってできるようになったんだから! それじゃあミキサーにフルーツと牛乳、ベビーリーフを入れて……スイッチオン!」

 

用意していたミキサーの中に指定の材料を入れて、スイッチを押す嵐珠。

 

「…色が凄いね……」

「身体によさそうな色よね! やっぱり身体作りには摂取するのにも気を遣わなきゃ!」

「それは一理ある」

「特に悠里は摂取しなきゃダメよ?」

「……(ランジュの視線が痛い)」

 

遠回しに自分の食生活について指摘される悠里。嵐珠がジト目でこちらを見てるので、これは勘づいてるなと悠里は心の中で溜息を吐く。

 

「さあ、ミキサーで混ぜたらいよいよ盛り付けよ!」

 

そんなこんなで、グラスに輪切りしたフルーツを貼り先程のスムージーを注ぐ。

 

「最高のドリンクの完成よ!」

「グラスの中に貼ってあるフルーツがおしゃれでいい感じだね」

「でしょでしょ! 味もすっごく美味しいから悠里も飲んでみて!」

 

嵐珠からグラスを受け取り、ドリンクを飲む悠里。

 

「…い、いただきます。……ん、飲みやすくて美味しい。ランジュが僕に作ってくれたからってのもあるけど」

「きゃあっ! 嬉しい♪ それじゃあ明日も悠里に作ってあげるわ!」

 

その言葉が嬉しかったのか、嵐珠は悠里に抱きつきながら、明日も作ってあげると言い出した。

 

「うーん、明日は来れるかは未定だけど……ランジュ、何かしてほしい事とかある? ドリンクを作ってもらったお礼になるか分からないけど」

「……っ! なんでもいいの!?」

「…流石になんでもは無理だけど……とりあえず言ってみて」

「…………」

 

悠里がそう言うと、未だに抱きつきながらも真剣な表情で考え込む嵐珠。正直、抱きつくか考えるかどっちかにしてほしいと思ったが、本人の好きにさせる事にした。

 

「明日も悠里は来てくれるの?」

「…まだわかんないって。決まったら言う感じ?」

「そうね。たくさんありすぎて決められないから、とりあえず悠里に抱きつく事にするわ」

「何それ……」

 

さっきより強く抱きついてくる嵐珠を見ながら答える悠里なのであった。

 

余談だが、次の日。虹ヶ咲学園の廊下で2年生組の5人と遭遇し、嵐珠が『悠里にアニマルセラピーをしてほしいわ!』と言い出したので、その意味を悠里と他4人が理解するのに時間がかかったのは別の話。




読んでいただきありがとうございます。
なんとか間に合って良かったです……(苦笑)
次回の投稿は、歩夢ちゃんの誕生日になると思います。
頑張りますので、よろしくお願いします。
本日はありがとうございました。


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記憶24 上原歩夢

ゆるポメラです。
歩夢ちゃん、誕生日おめでとう。
楽しんでいただけると嬉しいです。

それではどうぞ。


とある日の平日の金曜日の夜。上原家にて。

 

「んん~! 歩夢の用意してくれた紅茶とクッキー、すっごく美味しい!」

「勉強したあとですから、余計に美味しく感じますね。歩夢さん、ありがとうございます!」

「ふふ、このクッキー、悠里くんと侑ちゃんの3人で昨日買いに行ったんだ。とっても美味しいから食べてもらえてよかったよ」

 

宮下愛(みやしたあい)優木(ゆうき)せつ()の言葉に、上原歩夢(うえはらあゆむ)が答える。

 

ちなみに現在この場に居ないが、高咲侑(たかさきゆう)鐘嵐珠(ショウ・ランジュ)、悠里の3人は少し遠めのコンビニまで出かけているので、歩夢と愛、せつ菜はお留守番だ。

 

「なになに~? それってデート?」

「ち、違うよ! もう、愛ちゃん、からかわないで! ……でも、結果的にデート?になる……のかな……」

 

ニヤニヤしながら歩夢をからかう愛。あの時は侑も一緒だったとはいえ、悠里とのデートになるんだろうか?と逆に呟く歩夢。

 

「歩夢さんと侑さんが一緒の時の悠里さんって、普段どんな事をしているんですか?」

 

せつ菜にそう聞かれ、自分や侑と居る時の悠里について考える。

 

「どんな……って、昔と変わらず自由気ままだよ。一緒に遊んだり、買い物に付き合ったりするくらいだもの。優しいところも変わってないし、心配症過ぎるところも」

「あー、確かに。家の手伝いで肩が凝った~って愛さんが言った時も、ほら言わんこっちゃない! 肩揉んであげるからそこに座って!ってすごい勢いでやってきたよ」

「私も目が疲れているかもって言ったら、僕も人の事あんまり言えないけど、目を休ませた方がいいよ、と心配してくれました。よく効く目薬まで教えてくれたんですよ」

 

悠里は意外と『心配症』という言葉を聞いて、愛とせつ菜も心当たりがあるのか、2人もその時の事を話す。

 

「ふふ、悠里くんらしいなあ。昔っからそうなんだよ。自分の事より人の事なんだよね」

 

この前、2人でお出かけした際に、待ち合わせ場所の駅で20分遅れて来た悠里が道中で困ってる人を助けてた事を愛とせつ菜に話す歩夢。

 

「ゆうりんって、子供に好かれやすいからね~。赤ちゃんを連れたお客さんが来た時に、その赤ちゃんが泣いちゃったんだけど、ゆうりんが遊んであげてたんだよねー♪ 店の中、和んでたよ」

「悠里さんが幼稚園でバイトしてるって、侑さんから聞かされた時は驚きましたが……愛さんの話を聞くと子供に好かれる理由も納得ですね」

「あはは……」

 

その話を侑から聞いた時、4人が驚いたのは今でも憶えてる。試しに想像してみたが、違和感はなかった。

 

寧ろ、似合ってるというより、似合いすぎと2年生組の5人が思った程。

 

「でも、悠里くんの優しさに触れちゃうと、私も侑ちゃんもつい甘えちゃうんだよね」

 

特に歩夢は悠里のさり気ない優しさが好きなのだが。

 

「チョー分かる! ……あ~もう! あのさ、やるべき勉強はしっかりやったしさ、今日はここで終わりにして……3人が帰ってくるまで、ゆうりんトークといこうよ!」

「あはは、それいいですね! 私も話したい事がたくさんあります!」

 

愛の提案にせつ菜も乗り気なそうだ。

 

「じゃあまずは……残りが少なくなった紅茶のおかわり、だね!」

 

そう言いながら歩夢は早速、紅茶のおかわりを用意するのであった。

 

余談だが、悠里達がコンビニから帰ってきた際に、侑と嵐珠が『悠里の猫状態がすっごく可愛かった』と聞かされ、説明するのが面倒になった悠里が変身してあげた結果、誰の膝に乗せて悠里を愛でるのかで盛大なじゃんけんが勃発するのは別の話。




読んでいただきありがとうございます。
なんとか間に合って良かったです……(苦笑)
とりあえずこれで2年生組の誕生日回、全員3周目が無事に終わりました。
次から4周目になります。
次回の投稿は、海未ちゃんの誕生日になると思います。
頑張りますので、よろしくお願いします。
本日はありがとうございました。


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記憶25 園田海未

ゆるポメラです。
海未ちゃん、誕生日おめでとう。
今回から4周目になります。もう4周目かあ……。
4周目の誕生日回は、去年の誕生日回の続きや、その他諸々の話にしようかなと思っています。
楽しんでいただけると嬉しいです。

それではどうぞ。


とある冬の休日。園田家、海未の部屋にて。

 

「悠里君、お待たせしました。お餅、焼けましたよ」

「わ、美味しそう……」

 

園田海未(そのだうみ)が焼いた餅を持ってきた。

 

ちなみに何故、悠里が海未の家にお邪魔しているのかと言うと、お土産を持って行ったら、彼女の両親に上がったら?と言われたのである。

 

尚、その時の海未の慌てっぷりは凄まじかったが……

 

「味は何にしますか? お醤油、きな粉、あんこ、色々用意できますが」

「…悩ましいね。せっかくだし最初は、何もつけないでそのまま食べるよ」

 

割と本気で悩んだ結果、悠里は何もつけないで餅を食べる事に。

 

「…あ、美味しい。みーちゃんが焼いてくれたからかな? かな?」

「うふふ。褒めても、何も出ませんよ?」

「…えー……ほんとなんだけどな~……」

 

実際のところ、悠里に褒められて嬉しい海未。彼の前なので、顔に出ないように平静を保っているのが精一杯だ。

 

「ところで……この餅、もしかして手作り?」

「分かりますか? 実はμ's(ミューズ)のみんなでついたんです」

 

食感が市販の餅と違うなと思ったが、やはり手作りの餅だったようだ。

 

「ですが、たくさんつき過ぎてしまって……どうやって食べ切ろうか、困っていたんです」

「そんなにつき過ぎたの?」

穂乃果(ほのか)がこの量だと足りないよと言い出して……」

「…あー……」

 

悠里君が来てくれて助かりましたと話す海未。なるほど。あの幼馴染みなら確かに言いそうだ。

 

「そうだったんだ。僕は餅は好きな方だし、毎日でもいいけどね」

「私も好きです。でも、お餅はカロリーが高いので」

「え? そんなにカロリー高かったっけ?」

「高いんですよ。あれでも」

 

餅はカロリーが高い事を知った悠里。後でネットで調べてみようと思った。

 

「最近は毎日お餅、お餅で……もう私がお餅みたいにまん丸になってしまうんじゃないかと心配で」

「…そんな心配ないと思うけど」

 

心配し過ぎな海未を見て、悠里が相変わらずだな~と思いながらも言う。

 

「人前に出る以上、常に体型には注意を払っておかないと。私のちょっとした油断で、もしもの事があったら……」

 

すると徐々に海未の表情は曇り始め、真っ青になっていく。

 

「ああっ、もうお嫁にいけません!」

「…まさかと思うけど、そうなった時を想像しちゃったとか?」

「…………(こくり)」

 

悠里がそう訊くと、何も言わないが首を縦に小さく振った海未。自分が餅のようにまん丸になってしまった場合を想像してしまったのだろう……

 

「大丈夫だよ。みーちゃんにどんな事があっても、僕はみーちゃんの事、()()()だよ」

「はうっ……!!」

 

そう言うと、今度は顔を赤くする海未。

 

「…どしたの?」

「胸が……苦しくて……」

「……え? もしかして餅が詰まっちゃった!?」

 

餅が詰まってしまったのか!?と思った悠里は慌てて海未の背中をさするが……

 

「ち、違いますっ! 悠里君が、突然恥ずかしい事を言うからですっ!」

「…えー、ほんとの事を言っただけなんだけどなぁ……」

「も、もうっ……!!」

 

一切の悪気のない表情で返す悠里を見て、海未は何も言えなかった。

 

余談だが、海未の母がお茶菓子を持ってきた際に、先程のやり取りを聞いてもらったところ、『あらあら~♪ それは照れてるだけよ~♪』と教えてもらうのと同時に、海未が慌てふためくのは別の話。




読んでいただきありがとうございます。
なんとか間に合って良かったです……(苦笑)
次回の投稿は、侑ちゃんの誕生日になると思います。
頑張りますので、よろしくお願いします。
本日はありがとうございました。


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