魔界神様への転生 (ツィール)
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0:魔界神とステータス的な何か。
一応最新話まで見ていればネタバレはあんまりないはず……。
名前:神綺
種族:神
性別:女
年齢:■■億歳
主な能力
・『
・『
その真髄は、《物体の創造》。
【
ありとあらゆる物体を創り出す能力。とても便利だ。
・『
その真髄は、《現象の創造》。
様々な現象を創造することが可能になる、戦闘向きの門である。
・『
その真髄は、《空間の創造》。
【
【■■■■】……第三門を開くことによって使えるようになる能力。詳細不明。どうやら虚剣に関係しているようだが……?
・『
その真髄は、《■■■■■》。
【■■■■■】……第三門、第四門を開くことによって使えるようになる能力。詳細不明。どうやら虚剣に深く関係しているようだが……?
・『
これにて
その真髄は、《■■■■■■■■》。
・『■■門』……今はまだ、知ろうとするのも憚られる。
・主な装備品
・『
使用すると目が紅く染まり、魔法陣が刻まれる。
・『虚剣【■■■■】』……今はまだ、知ろうとするのも憚られる。
概要:本作「魔界神様への転生」の主人公。地球で暮らしていた元一般人男性が神綺様の身体に憑依しちゃった感じ。多分理由はない。
全世界最強かも。でも余り本人は気にしてない。
まだ明かされていない部分は多いが、圧倒的なチート能力の持ち主なのは間違いない。
ちなみに彼女は元厨二病であるが、現在は違うため、技名を厨二チックに決めたことにかなり後悔している模様。
最近の悩みは、魔界人達に慕われているか分からなくなってきたこと。
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CHAPTER:1 東方怪綺談~魔界で過ごす憧憬の日々
Prologue:魔界神とメイド
では、どうぞ。
「ハァ、ハァ……くそっ!」
男は利口だった。狡猾な手を使い続けることにより、生き延びてきた。
それに加えて、男は幸運でもあった。かつて弱者だった筈の男が今生きていられている理由は、持ち前の運が占めているところが大きかっただろう。
「クッソがぁ!なんで、なんでここが……よりにもよって『アイツ』の世界なんだよォ!」
だが、それも今までの話だ。
『彼女』の統治する世界に手を出した。その瞬間、男の命運は尽きたも同然だったのだ。
(いや、まだだ、ここで一旦逃げ切ることができればまだチャンスは……ッ!?)
振り向いた男の視線の先に、『彼女』はいた。
整いすぎている芸術品のような顔。
銀色の艶めかしい髪を靡かせ、燃え盛るように赤い服を着ている少女の美しさは、とてもこの世の存在とは思えなかった。
男は『彼女』とは初対面だ。しかし、『彼女』に関しては、伝説、或いは逸話という形で嫌という程知っている。
──曰く、宇宙にも等しい広大な世界、通称【魔界】を1人で創造した。
──曰く、今現在沢山の世界に存在する【魔法】という概念を創りあげた。
──曰く、目をつけられたもので、生き延びた者はいない。
挙げればキリがない。恐るべくは、これらが全て純然たる事実ということだろうか。
男はかつてこの話を聞いた時、盛りすぎだと失笑した。だが、『彼女』の無機質な瞳で睨みつけられている今ならば分かる。理解出来てしまう。
──これ程の存在なら、決して出来てしまっても何らおかしくないと。
(チッ、もう見つかった……逃げることは、……出来ねぇな。やるしかねぇ)
男は覚悟を決めた。勝率が絶望的な、無量大数すら生ぬるい程の力の差がある相手に向かって。
強く拳を握り締める。
「ウウゥゥオオオオオオオオオオォォォォォォラァァァ!!」
だが。
その決意すらも、『彼女』の前では塵芥と同じだった。
(ァ────?)
パチン、と。
『彼女』が指を鳴らした。ただそれだけで。
男の意識と存在は、この世から消滅した。
───────────────────
いやー、最近は侵入者が多くて困っちゃうわ。
あ、どうも。何故か神様の身体の中に憑依?しちゃった元一般人です。なんちゃって。
だっていきなりだぞ? いつものように東方Projectの原作をやってたら、いつの間にか寝落ちしちゃったんだ。そして目が覚めたら荒地のど真ん中?
流石にビビるわ。しかも性別変わってるし、見た目完全に東方Projectのキャラの1人である神綺様だったし、俺の推し神綺様だったし。
なんでそうなったか考えてみた時もあったけど、今はもう考えてない。
別に考えても分かる気がしないからな。
それに元の世界に居たって楽しいことなんて数える程しかない上に、家族も皆あの世に逝っちまった。
元の世界に未練などあるはずがなかったのさ。
それに、望んだことがある人も、もしかしたらいるんじゃないのか?
──推しに、憑依転生することを。
かく言う俺もその1人だった。だからこの身体に転生したと理解した瞬間は、それはもう狂喜乱舞したものだ。
さらにこの身体はスーパーハイスペックだった。振るった拳は岩をも砕き、ジャンプすればその高さは15mを越える。後は、羽根を生やして空を飛ぶことすらできる。
挙句の果てには、なんでも創造できるとかいうチートの極みみてーな能力よ。
こんな能力貰ってもすぐには使いこなせねーわ。具体的なイメージが必要とか、日常生活でいちいち具体的なイメージしないから、な?
……まぁ、流石に何十億年もこの身体で生きてたらな。能力使いこなせるようになったし、圧倒的美少女(自画自賛)の身体にも慣れた。
え?この身体で何をするかって?……そりゃもちろん原作介入一択でしょ。
原作キャラに憑依して原作介入……ヲタクなら1度は憧れるシチュエーションだね!
ただ、神綺様を汚したくはないんだよなぁ。
自分のせいで旧作キャラのなかでも人気トップクラスの神綺様の魅力が損なわれることは、決してあってはならないよなって。
……とりあえず、怪綺談までは原作の流れをなぞっていって、そこから先は、展開次第で自分の立ち振る舞いを決めようかな。
つまりこれは、何十億年と生きたガワだけ美少女()が、原作キャラとなんやかんや仲良くなって、なんやかんやする話ということ。
なんてね。
コンコン。
「失礼します」
お、来たね。
入っていいよ~。
今、俺の部屋に入ってきた彼女は夢子ちゃん。
金糸のようなサラサラな髪とつり目がチャームポイントの美少女やね。
そして原作である東方怪綺談の5面ボスでもある。
さらには俺のことを慕ってくれているらしい。まぁそうじゃないと原作をなぞるなんて夢のまた夢だもんね。
────ん、あれ?
……ジーー。
「神綺様。間もなく会議が始まりますので、ご用意を…………も、申し訳ありません。何か、粗相をしてしまったでしょうか?」
いや、そうじゃなくて……。
目に隈が出来てる……大丈夫、疲れてない?ちゃんと休息は取らないとダメだよ?
「…………ご心配、ありがとうございます。大丈夫です、しっかり取っておりますので。──では、失礼しました」
そう言うと、彼女はそそくさと部屋を出ていってしまった。
……あれ? 今返答までに間があったんだけど。
やばい、ほんとに慕われてるか分からなくなってきた……。
これで原作ブレイクとか勘弁だよ?
ね、慕ってくれてるんだよね?ね?
───────────────────
魔界のメイド、夢子にとって。
神綺とは憧れであり、尊敬であった。
いや、或いはそんな陳腐な言葉では表せないほどか。
それほど大きい感情を持っていたのだ。
夢子が生まれたのは、数億年も前。
まだかつていた場所(後に地球と呼ばれることとなる)に知的生命体がほとんどいなかった頃だった。
そう、夢子は神綺によって、1番最初に創られたのだ。
神綺は、夢子を、他の魔界人たちを創造した理由を語らない。
しかし、ある程度予想はついている。
かつて、気が遠くなるほど昔に、夢子はこう聞いた。
『神綺様、なぜ私たちを創ったのですか?』
神綺は最強であった。
どんなに強大な相手でも、危なげなく屠る力があった。
神綺は万能であった。
1つの世界を、そこに住む民を、たった1人で創造できる程度には何でもできた。
故に、夢子は当時自分の存在意義が見いだせなかったのだ。
何をしても主以下である自分など、いらないのではないかと。
ずっとネガティブ思考に悩まされてきた。
だから夢子は聞いた。
すると、神綺はこう言ったのだ。
『夢子、まだお前には早い話かもしれないが、な』
多分分かんねぇだろうな……。
と前置きして、
『生き物っていうものは、退屈する生き物なんだ。確かに私は強い。それは間違いない。油断さえしなければまず負けないだろう。だけどな、そんな私でも、退屈には殺されちまうんだ』
薄く笑みを浮かべ、続ける。
『おかしな話だろ?でもな、そう言うもんなんだ、神生って言うのは』
夢子は、言葉が出なかった。
退屈というものを理解出来なかったからだ。
当時数十年程しか生きていなかった夢子に取って、神綺が生きた歳月の長さはとても計り知れるものではない。
(だけど、今なら理解できる……何億、何十億という長い年月をたった1人で過ごすなんて、気が狂ってもおかしくない)
どれほど辛いだろう、永い時を生きるのは。
どれほど苦しいだろう、1人で生き続けるのは。
だから、仲間が、一緒に居てくれる人がいて欲しくて、自分たちは創られたのだと夢子は考えている。
傲慢で、それでいて不敬な考え方かもしれないが。
(だとしたら、私たちはとても幸運なんだろう)
あの偉大なる神に創ってもらい、外敵から守ってもらい、更には孤独を感じることすら殆どない。
(ほんとに恵まれすぎ……って!!)
「やばい、神綺様を呼びに行かないと」
時刻は既に会議開始30分前を切っている。
足を速めて、神綺の部屋へと急いだ。
先ず、ノックを鳴らす。
コン、コンと、小さく2回。
「お、夢子か?いいぞ入ってきて」
「失礼します」
中に入って最初に目に入るのは神綺の顔。いつもと変わらない、不敵な笑みを浮かべている。
──とりあえず今日の会議の時間が迫っていることを伝えないと。
「神綺様、間もなく会議が始まりますのでご用意を……?」
夢子は、困惑した。
いつも余裕綽々な神綺が、険しい顔をして己をずっと見つめていたからだ。
(え……私何かやっちゃった?と、とりあえず謝らないと……)
「も、申し訳ありません……何か粗相をしてしまったでしょうか?」
「いや……」
私の勘違いならいいんだけどな、と小さく呟き、続ける。
「夢子、お前ちゃんと寝てるか?休息はしっかり取らないと身体に悪いぞ。それに敬語も、堅苦しいなら全然外して構わないんだぞ?」
「────ッ」
──夢子は、後悔した。己の主である神綺に対して、そのような気遣いをさせてしまったことを。
思わず羞恥で顔が赤くなる。
「ほら、ちょっと見せてみろ」
しかし神綺は意に介さずに、夢子の顔を覗き見る。
「あーほら、やっぱり目に隈が出来てるじゃないか。寝られないのか?なら私が寝かせてやるが」
にやりと笑みを浮かべる神綺にとっては、少し戯れてやろうという心持ちだろうが、夢子にとってはそれどころではなかった。
(あ……ち、近すぎ……い、いい匂いが──じゃなくて!)
ただでさえ熱かった顔が、まるで茹でダコのように熱を帯びるのを、夢子は感じていた。
──このままじゃ羞恥心が限界を超えて動けなくなる。
「…………ご心配、ありがとうございます。大丈夫です、しっかり取っておりますので。──では、失礼しました」
そう告げると、逃げるように立ち去った。
他人に見つからないよう自分の部屋に駆け込み、ため息1つ。
「はぁ……」
(神綺様に心配させてしまった……それでいてあの不敬な態度……穴があったら入りたい)
彼女にとって、先程の自身の態度はとても許容できるようなものではなかった。
ドアにもたれ掛かるようにして崩れ落ちてしまう。
──私が居なくなったら、神綺様は寂しいのかもしれない。それでも……。
「本当に……私が生きている意味ってあるのかな」
夢子たち魔界人にとって、神綺の役に立つことは至上の喜び。
しかし、彼女はかつての喪失感をまた感じてしまっている。
なにせ夢子は神綺のただ1人のメイド。
神綺の役に立つことが出来ないならば、生きる意味を見失ってしまっても仕方がないのかもしれない。
ふと、自分の部屋を見やる。
白を基調としたシックなつくりの己の部屋は、赤が基本色となっており、煌びやかな部屋である神綺のそれとは全くと言っていいほど異なる。
(はぁ……あれ?)
部屋を見回したところ、机の上に見慣れない何かがあるのを発見した。
気になって近づいてみる。
(これは……なんだろう?)
ピンクのリボンと白い袋でラッピングされたものが、そこにはあった。
ラッピングを丁寧にはがすと、1枚の手紙と剣が……。
(手紙?それに剣も……一体誰が)
『夢子へ 神綺より』
「ふえぇっ!!??」
驚きで思わず大声を出してしまった。
魔界神のメイドにあるまじき失態だと、無理やり心を抑え込む。
(それにしても一体何故……剣? まさか……これで自害しろ、とか?)
嫌な想像が脳裏に浮かんでしまい、冷や汗をかく。
(いやいや、流石にそんなことは……しない、よね?でもさっきの失態を考えると……)
どれだけ消そうとしても、悪い考えが頭から消えない。
とりあえず中身を見てみようと、手紙の封を開く。
(怖いけど……ええい、ままよ!)
────あー、なんて言うかだ。手紙でも恥ずかしいなこれ……。
とりあえず、いやお前にとっちゃ唐突かもしれんが、いつもありがとな。
お前、よく自分のことを卑下するだろ?もしかしたらこの手紙を渡した時も、落ち込んでたりするのかもな。
だけどな。間違いなく私にとってお前は大事だ。いや、お前だけじゃない。全ての魔界人が、大事なんだ。
なんでかって?お前らは私の子供のようなものだ。逆に、私が我が子たちをいらないもの扱いするように見えるか?見えてたならすまないが……。
とにかくだ。お前たちを本当に大切に思ってると伝わってくれればいい。
ところで夢子、どうせ何も気づいてないんだろ?なんで私が突然こんな手紙を送ったのか。
それはな。お前が10億歳にちょうど今日でなったから、その祝いに……ま、まぁ、祝っていい事なのかはわからないが、とりあえずそういうことだ。
一応誕生日?プレゼントとしてその剣を送っておく。どう使うかは自由だが、出来れば大事に使って貰えると嬉しい。
こんな不甲斐ない主である私にいつも仕えてくれてありがとな。
そして、これからもよろしくな!
「うぅ……えっ、ひぐ……」
涙が止まらなかった。目が滲んで、前を見ることすら叶わない。
(こんなにも、神綺様は────)
嬉しかった。こんな己でも求めてくれる主に恵まれたことを。
誇りに思った。このような主の元に仕えられたことを。
そして何よりも。
(私たちを自分の子供だと、そう言ってくれた)
その事が、喜ばしくて。
目から雫が、零れ落ちて止まらなかった。
思い出すは、気が遠くなるほど昔の記憶。
あの時のことは、何故か覚えてる。
『あーもう、またイタズラしやがって』
『えへへ』
『悪い子にはこうだ!』
『あはははははは!!やめてよお母さん、くすぐったいぃあひゃひゃひゃ!』
(お母さん、か……無礼なのは分かってる。それでも、もう1度だけ)
「ありがとう、お母さん。大好きだよ」
その呟きは、誰にも聞こえることなく。
溶けるように消えていった。
「さて、涙を拭いて、と……もう行かないと、時間がない」
そう言いながら部屋を飛び出した彼女の笑顔は。
過去に類を見ないほどに綺麗だったという。
夢子はもう、
意志を持って進む、1人の立派な従者であった。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
☆旧作を知らない人用解説
神綺……東方怪綺談6面ボス。銀色のロングヘアーに加え、アホ毛がぴょこんと立っている美少女。ゲームシステム的に夢子より弱いと言われることが多いが、決してそのようなことはない。
彼女は、魔界の全てを創った神。その設定は、この作品でも再現してある。
怪綺談……東方Projectシリーズ第5弾、東方怪綺談のこと。旧作最後の作品と言うだけあって、素晴らしい作品だと思う。特に曲が良い(個人的)。
夢子……東方怪綺談5面ボス。最強クラスの魔界人。5面ボスの割にめちゃくちゃ強い。長めの金髪に、赤と白のメイド服を着ている。また、彼女の得物は剣である。
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Ⅱ:魔界神と幼い魔法使い①
次はもっと早く投稿できるように頑張ります!
魔界会議。
数百万年前から始まったそれは、不定期開催だが今もなお続く魔界特有の行事の1つだ。
かと言って、会議を開く目的までそのまま、という訳ではないんだよね、これが。
かつては、会議という名に恥じない──魔界の防衛や治安維持、その他問題の解決方法──について話し合う場のはずだったというのに、今では雑談するだけの、宴会みたいになっちゃったしな。流石に飲食するやつは居ないけど。
さて、そろそろ会議室に着くかね?創造の能力使えば簡単にどこでも行けるけど、やっぱり自分の足で行かないと見えるものも見えないからな。
「あ、神綺様、こんにちは。相変わらずお早いですね」
お、やっほーサラ。久しぶりだな、元気か?
「もちろん。元気いっぱいですよ。私のような者まで覚えていて下さるとは──」
うーん、この魔界人特有のネガティブ思考。
はぁ──お前たちいっつもそうだよなぁ……自己評価が低すぎるんだよ。
そもそも俺が創った奴らのことを忘れるように見えるのか?──見えちゃうんだろうな。
そうだな、俺ももっと信用されるように頑張らないと。
ところで聞きたいんだが、今日の会議もまた雑談なのか?まぁ十中八九そうだろうが……。
「今日の会議ですか?それが驚くことに、なんと議題があるらしいんですよ!しかもまともな。ルイズ様に聞いたんですけど……」
え???いや、マジかよ。
まともな議題がある会議なんて何万年ぶりだ?
「確か……あの地獄の女神の時が最後だから……大体8万年くらい前じゃないですかね、最後にまともな会議したの」
あー、あの時からやってないのか……まぁ確かにあの時は大変だったからな。
「フフ、そうですね。……あ、着きましたね」
たわいない話に花を咲かせながら移動していたら、いつの間にか到着していたようだ。
「私は身分的にここから先は入れないので、これで失礼しますね」
そうか、まぁサラは一応一般市民扱いになっちゃってるからな。
俺の住む城までは入れるほどの信頼を獲得していても、一部の貴族と俺しか入れない会議室までは入れないよな。
仕方ないか……話し相手になってくれてありがとな。
「いえいえ!頑張ってくださいね」
ああ。頑張ってくるぞ!
さて、行くか。
扉を開いて、たのも~!
おや、もう結構集まってるな……。夢子ちゃん居ないけど。珍しいね、夢子ちゃんが遅いの。
会議室の中は、うーん、なんて言えばいいのか……魔王の側近である四天王がよく会議とかする場所とかあるやん?色々な作品で。あれをそのまんま持ってきたみたいな禍々しい感じかな。
魔界の会議室って言われたらそれしか思い浮かばんもん……創造は俺のイメージに左右されちゃうのが難点。けど便利だからね、仕方ないね。
1番奥にある玉座みてーな椅子に座ってと……ちょっと?皆、俺が来たからって静かにならなくていいのにな。リラックスしてくれよ、俺大勢の前で話せないコミュ障だからリラックスしてとか言えないけど。
そもそも、俺ってそんなにっていうか全然偉い立場好きじゃないんだよなぁ。もっとこう、他の東方二次創作SSとかでよくある家族みたいな感じ。そういう関係でいたいんだよ、魔界人の皆とは。
でも現実はこう。難しいよね、理想をそのまま叶えるっていうのは。どれだけ強い力を持っていてもそれだけは簡単にならないんだな。
ままならないものだねぇ。
「……どうやら私が最後のようですね。神綺様、遅れてしまい申し訳ございません」
お、夢子ちゃんも来たね、これで全員揃った……え?あれ?
いつも仏頂面の彼女が、なんであんな満面の笑みを浮かべてるんだろな?
うーん、思い当たる節は無いな……ああ、ひょっとしてあれを見たのかな?もしそうだとしたら──喜んでもらえたのか、嬉しいな。
───────────────────
魔界神のメイド、夢子は非常に上機嫌だった。
その理由は明白で、神綺からサプライズプレゼントを貰えたことにあるのだが、ここに居る面々が知る由もなく────
一同、普段笑顔を見せることが少ない彼女の満面の笑みに驚愕、畏怖していた。
ただ1人、魔界人の統率を担当している貴族、ルイズを除いて。
「遅いですよ、夢子さん」
「ごめんね、色々事情があって」
「もう、気をつけてくださいね。いつもならまだしも、今回の会議は緊急なんですから」
そう言ったルイズは、ふと神綺が怪訝そうな顔をしていることに気づく。
「あれ?神綺様、ひょっとして……夢子さんから、今日の会議について聞いていないんですか」
「……あぁ。私は何も聞いていないが、今回は何について話すんだ?」
あぁ、やっぱり伝わってなかったのか、とルイズは天を仰ぐ。
「……今回の会議は、魔界に攻め込んで来た2人組についてですよ。……ところで、夢子さん?」
ゾッとさせるような笑顔と声で夢子に話しかける。
夢子は逃げるように顔を逸らすが、当然逃れられるはずもない。
「私、言ったはずですよね?神綺様に伝えてって」
「……はい」
「それじゃあ一体なんで伝わってないんですか?全く……仕方ないですね。夢子さんがいつも頑張ってるのは分かってますし、ここはひとまず流します」
だけど、と繋げ、
「代わりに、他の者の復習も兼ねて、ここでしっかりと丁寧に説明してくださいね?」
「……はい」
夢子はルイズの背中に般若を幻視した。
ここは逆らわないようにするのが吉だろう、と神綺に向けて口を開く。
「神綺様、大変申し訳ございませんでした。これから説明させていただきます」
「あぁ、頼む」
「外界と魔界の門番からの報告によると、幻想郷と言われている余り有名でない世界から、2人の侵入者が現れたようです、名は確か……」
────靈夢、そして魔理沙と名乗っていたようですね。
「靈夢の方は紫髪の巫女、魔理沙は金髪の魔法使いであるという情報も。更にはどちらも生粋の人間であると。現在は、グリモワール・オブ・アリスを用いてアリスが交戦しているようです」
「靈夢、魔理沙……」
「そうか……ついにか……ッハ、ハハハハハハハハハハ!」
狂ったように笑う神綺。魔界人たちはその異様な光景にまたもや驚かされる。もちろん神綺以外の者は何故神綺がここまで笑っているのか理解が出来ない。しかしそれも当然の事であろう。
──神綺の思考は理解できるはずもない。『原作』という知識を、こことは違う世界で作られたゲームの知識を完全に信じ込み、その知識に存在するストーリーに参加することを目標にしてきた者の思考など、誰も分からない。当たり前の話だ。
俗に言えば、狂人の思考をまともな者が読むことは出来ないということである。
「し、神綺様……神綺様は、その2人を知っていらっしゃるのですか?」
そう聞く夢子の声は、多量の動揺を含んでいた。
彼女の瞳が震える様は、2人の事、いや幻想郷という世界のことすら全く聞いたことがないということを何よりも雄弁に物語っている。
「知っていると聞かれれば知ってはいる。だが、会ったことはない。個人的に知っているだけだ。──ちなみに、この後はどう対応するんだ?」
「既に戦ったものから聞いた話では、確かに強い。アリスでは恐らく勝てないが、私には劣ると。ですので、私が始末しようと、私個人としては思っています。もちろん、この会議で出た結論次第ではありますが……」
「そうか、」
説明を聞き、思考を巡らせているかの如く目を瞑る。
しばしの沈黙を破り、神綺が言った。
「今回の対応は、私に任せてくれないか」
「……?もちろん問題ないですが」
「あぁ、ありがとう。……」
一瞬間を置き、告げる。その瞬間、
「今回の侵入者の対応は、私1人で行う」
空気が、凍った。
「……は?」
誰かが漏らした理解不能という意を含んだ1文字。
それを気にとめていないのか、それともあえて気づかないフリをしているのか、言葉を続ける。
「更に、私は侵入者を殺さない。いや、わざと負けるといった方が正しいか」
その言葉が皮切りとなり、会議室はにわかに騒がしくなった。
「なぜですか!」
「負ける必要はないのでは!?」
「1人で行うのは一体どういう理由で!?我々のこともお頼りください!」
口々に魔界人たちが告げる。
その言葉には純粋な心配、或いは不安という想いが含まれている。
──パン!
「ハイ、そこまで。皆さんが神綺様を心配して話しているとはいえ、少々無礼が過ぎますよ?何よりここは【魔界会議】ですからね?」
「あ、あぁ……」
「む……申し訳ない」
ルイズが手を叩き、一喝する。
たったそれだけで静かになる魔界人たち。この光景は、彼女と彼らの力関係を強く表していた。
「ルイズ、ありがとう。……でも、納得出来ないやつもいるだろうから、説明はしておくか」
「まず、私が1人で対応するというのは、そのままの意味だ。お前たちは一切手出し無用」
「そして、負けるというのもそのまま。手加減して奴らに負けるということだな」
「なぜ、負けるのですか?殺される危険性などは、無いのですか」
夢子が問う。その声は、震えているように思える。
果たしてそれは恐怖からか。
「なぜか?それは、向こうの神がうるさいからだ。向こうの、幻想郷の神は龍神ってやつなんだが、あいつがうるさくてかなわん。すげー短気だから、向こうが侵攻してきた癖して、多分殺したらキレられる。しかも無駄に強い、最悪地獄の女神クラスの力持つから目を付けられたらめんどくさい」
あいつホントめんどくさい性格してんだよな──と嘆息する。
「かと言って、殺さずに気絶させて……とかはそれこそめんどくさい。また来られても困るしな。だからあえて負けて、遺恨が残らないようにするんだ。とまぁ、長々と説明して来たが、要するに──めんどくさいから、負けたことにして早めに終わらせたいっていう私の我儘だな」
魔界人たちは、無意識のうちに自分勝手な考えを口にしていたことを知った。
彼らは恥じた。身勝手な考えで、己の主に負担をかけようとしていたことを。
彼らは戒めた。二度とこのような事が起こらないように。
しかし、夢子には疑問がまだ残っていた。
「……あの、神綺様。無礼を承知で、発言をお許しいただきたいです」
「ん、なんだ?」
「そのやり方では、相手の目的次第では通用しないのではないでしょうか?それに、逆に神綺様が殺されてしまったら──神綺様ならありえないとは思いますが、それでも傷つけられる可能性はあると思います。どうするのですか?」
「前者においては恐らく大丈夫だ。……実は、龍神から昨日『お前らの世界からなんか人が勝手にこっち来てんだけど、何とかして?』みたいな感じで苦情が来たんだ。だから多分だけどそれ絡みだし、私を負かしたら満足するだろ。後者も、前者の通りの目的なら殺すまではされないはずだし、それに……」
少し言い淀む。
「
「────」
──そうじゃない。私は、貴女に死んでほしくない。痛そうにしている姿をもう見たくない。ただそれだけなのに。
視界が滲む。悟られないように慌てて目線を下げる。
「えぇ、知っています……そうですね」
魔界人たちが訝しむ。なぜなら理由を知らないから。神綺が、自分の事を死んでも大丈夫だと言った訳が分からないから。
「あぁ。だから私は問題ない。それに、今回は
虚剣。あの忌々しい剣。神綺の切り札にして、最恐の武器。
それを使わないという神綺の言は、夢子の心をほんのちょっとだけ安堵させた。
「よし、これで今回の会議は終わりでいいか?」
「……はい、いいよね、ルイズ」
「そうですね。私も特に問題はないです」
「分かった。──みんな、今日も集まってくれてありがとう。これで会議は終わりになる。お疲れ様」
そう言い残すと、神綺は素早く立ち上がり、足早に会議室を去っていく。
神綺が先程まで座っていた椅子を、夢子はじっと見つめていた。
───────────────────
ルイズは、夢子の部屋に来ていた。
先程の会議で出てきた気になるワードについて聞くためだ。
「入りますね」
「どうぞー」
扉越しに軽いやり取りを交わし、部屋に入る。
「いらっしゃい。はい、紅茶よ」
「ありがとうございます」
夢子は紅茶を差し出す。
ルイズはカップを口につけ、1口飲む。
「流石夢子さん、やはり美味しいですね」
「あら、ありがとう」
ほんの少しの間、ほんわかとした空気に包まれる。
しかし、その空気は直ぐに霧散した。
「ところで、本題に入りたいんですが」
「聞きたいことよね、何?」
「『死んでも大丈夫』という神綺様の発言と、『虚剣』とやらについてです」
そう、ルイズにとっての謎はその2つだった。
「この2つについて教えて欲しいのですが」
「言っておくけど私もあんまり知らないよ」
「もちろん、知っていることだけで大丈夫です」
ルイズの疑問は尤もだった。
だからこそ、夢子は話さなくてはならない。
「分かった。まず、神綺様は死んでも蘇ることができる」
「……急に来ましたね」
ルイズはそれを聞いて少し驚いたが、こちらについては予想自体はしていた。
死んでも大丈夫など、蘇る以外に何が想像できるだろうか。
「ただ、それ以上の詳細は私も教えられていない。秘密だって」
まぁそりゃそうですか、と納得する。
自らの死に関する情報など、容易く教えられる訳がないだろう。
「それはまぁ、何となく予想してました。しかし、問題は『虚剣』とやらです。夢子さん、その剣の話を神綺様がした時、凄い顔してましたよね。それは一体なんなんですか?」
「『虚剣』は一振りの剣だけど、それについても、詳しいことは伝えられていないんだ。ただ、その剣を神綺様が創ったとき……私は死にかけ、神綺様は死んだ」
「……は?」
創るだけでそのような大惨事になるなど、どんな剣なんだと、ルイズは顔を引き攣らせる。
「それを振ったら、どうなるんでしょうか」
「そうね、神綺様によると……」
ここからの話は、到底。
「その剣をたった1回振るだけで、魔界、地獄、天界等の世界達が全て滅びてしまうと」
ルイズにとって、信じられないものであった。
───────────────────
アリスは負けず嫌いな、魔法を扱う者という意味においての魔法使いだ。決して種族が魔法使いという訳ではない。
そして、負けず嫌いという性質は、魔界人や神綺の中の誰よりも強いと言える。
だから、貪欲に力を欲してきた。
魔界人たちに、夢子に、そして神綺にすら。
勝つ気で必死に特訓してきた。その甲斐あってか、もはや本気を出せば夢子と神綺以外には勝つことができるようになった。
神綺は分からないが、夢子ならば時間をかけて鍛えれば勝利を収めることができる可能性がある。
故に、アリスは自分の強さに自信を持っていた。己の強さは誇りであった。
あの2人以外なら負けることは無いと、そう信じていた。
ならば、この状況はなんだ?
目の前には外界の人間2人。陰陽玉を浮かばせ、自身も亀に乗っている紫髪の巫女。もう1人、己と同じく魔法で空に浮かんでいる、金髪の魔法使い。いかな巫女と魔法使いが相手だとしても、外界の人間ごときに負ける道理などない……はずだ。
しかし、現実として今自分は追い詰められている。
理解が出来なかった。
「なんで、当たらっ、ないの!」
炎が、水が、様々な属性の魔法が放たれる。グリモワール・オブ・アリスと呼ばれる究極の魔導書。それを使っている己の魔法は滅茶苦茶なレベルの威力にまで昇華されている。矮小な人間など一撃当たれば消し飛ぶであろうそれが、次々に避けられている。
──なんで?なんで?なんで?
彼女の頭の中は疑問で埋まってしまった。思考を停止するという、戦闘において最も行ってはいけないことをやってしまったのだ。
そのツケは、致命的な隙という形で払わされることになる。
注意力が散漫になった一瞬。それを見逃さなかった巫女らしき人間は、素早く陰陽玉を投擲する。
(……!しまった!)
慌てて防御魔法で防ぐ。ギリギリ間に合った。が、
「魔理沙!」
(魔理沙……まさか!?)
巫女が発した言葉を聞き、嫌な予感が頭に思い浮かぶ。慌てて振り向くが、しかしそれはあまりにも遅すぎた。
(な、近……!)
いつの間にか魔法が迫ってきていた。当然、魔理沙と呼ばれた魔法使いのものだろう。
──防御は間に合わない、ならば己の身体で受けるしかない。
魔法が己に届くまでの僅かな時間でそう判断し、左腕を前に差し出す。
最悪腕が飛んでも、防げればいいと。
(ッッ!……あれ?)
だが、その覚悟に反して、左腕は吹き飛ばなかった。
それどころか、あまり大した痛みを感じなかったのだ。
訳が分からない。しかし、五体満足で切り抜けられたなら僥倖だと、魔法を放とうとしたが。
──腕が、動かない……!?
否、腕だけではない。全身が石のように固まっている。
まさか、さっきの魔法は、攻撃系統ではなく──
「ま 、ひまほ、う」
口が震える。言葉を上手く発することが出来ない。
麻痺魔法。ただ痺れさせるだけだと言うのに、その反動で放った本人がしばらく魔法が使えなくなる初級の魔法。
熟練の魔法使いならば1対1でまず使わないそれは、この場においてこれ以上ないくらい有効だった。
なぜなら2人で戦っているから。1人で戦っているアリスとは違い、魔法使いは巫女と一緒だから。しかし当然、もしアリスが麻痺魔法を防ぐことが出来たなら、巫女との1対1になってアリスが有利になる。
だが、結果としてあの魔法使いは命中させた。上手く巫女と連携することによって。
──悔しい、悔しい、悔しい!
己はもうすぐ死ぬだろう。動けない獲物を見て、狩らない獅子は居ないだろうから。
例えそうだとしても、この敗北感は、屈辱は、如何ともし難い。
この期に及んで、アリスはようやく自分が知らぬ内に傲慢になっていたことに気がついた。
未知の世界から来た人間を、
最初からグリモワール・オブ・アリスを使わなかった。
魔法に関してもそうだ。麻痺魔法を、
巫女が陰陽玉を放つ。魔法使いたる己の肉体は貧弱であり、恐らく一撃で吹き飛ぶだろう。
時間の流れが緩やかになる。走馬灯というやつだろうか。
こんな形で生涯を終えることになるとは夢にも思わなかった。
目の前に陰陽玉が迫る。
──あぁ、
強い衝撃を最後に、意識が遠のいていった。
次に意識を取り戻した場所は、ベッドの上だった。
とても柔らかく包み込んでくれる布団。染み付いた匂いが仄かに香り、ホッとさせてくれる。
しかしだ。
(私は死んだはず──)
あの人間達に完膚無きまでに叩き潰された後だと言うのに、生きている。
その理由が知りたかった。
身体を起こし、周りを見渡す。
そこは、間違いなく神綺の部屋であった。
「おっ。アリス、目が覚めたのか?」
声をかけられた。とても聞き覚えのある声だ。
「ぁ──マ、マ」
不安そうにアリスを覗く神綺がそこにはいた。
会いたかった。死ぬ前に会って礼を言いたかった。その相手が目の前に居る。果たしてこれは夢?それとも──
「現実、なの?──ママ、私生きてるの?」
神綺はアリスを安心させるように薄く微笑む。
「あぁ、生きてるよ。大丈夫だ、もう安心だからな」
「──そう、か。良かった……けど、なんで生きてるんだろう。私は負けたはず……」
あの2人が、自らを見逃したのだろうか?
そのような甘い性格には見えなかったが。
「それについてだが……すまん、アリス」
そう言いながら神綺は頭を下げる。
「ちょ、どうしたの!?ママ!」
酷く狼狽する。この母が他人に頭を下げるところなど、初めて見た。
もしやなにかあったのだろうか、と尋ねる。
「いや、もしもあの2人が、アリスを殺していたらと思うとだな……申し訳ないことをしたと」
「私が自分から挑んだんだから私が悪いよ、ここはそういうところでしょ」
そう、魔界とはそういう場所なのだ。
侵入者が居たとして。そいつに自分から攻撃したら、例え死亡したとしても自己責任となってしまう。
このような暗黙の了解がまかり通ってしまうのが、魔界なのだ。
「それでもだ。お前はまだ子供だろう。本当にすまなかった」
子供だからといってあのルールが適用されない訳では無いのに。
例え齢11程のアリスであっても、決して例外とはならないのに。
それでも律儀に謝ってくる。
「あーもう!分かった!分かったから!大丈夫だから、ね?」
なぜ自分は目覚めて早々こんなことをしているのだろう。
とアリスは遠い目をしながら考えていた。
「あぁ……ありがとう。そうだ!アリス、腹減ってるだろ?今お粥作ってるから待っててくれ」
創造で造ると味の質が悪くなるからな、と頭を掻きながら笑う。
確かに、そう言われてみたら腹が減っている気もする。
「私って、どのくらい寝ていたの?」
「あー、そうだな。2日間くらいか?」
「え?」
そんなに寝ていたとは。それは確かに腹が減る訳だ。
「あっ、そうだ!あの2人ってどうなったの?」
「ふむ……よし、この前の事件の顛末について話すから、お粥を食べながら聞いてくれ」
こうして神綺は語る。あの日の事について。
ここまでお読み頂きありがとうございます!
今回は設定暴露会でしたね!(ほんの少しだけ)
☆ちょびっと解説:貴族(拙作オリジナル設定)
貴族とは、魔界人の中でも神綺の手によって直接創られた魔界人である。貴族は20歳付近まで神綺に育てられ(今はアリスが育てられている)、その後神綺の手を離れ生活することになる。
貴族とはいっても、普段は他の者より権力が大きい、なんてことはない。貴族としての肩書きが役に立つのは魔界会議を含む魔界のイベントの時である。
貴族の中でも上位貴族と下位貴族があり、それぞれ神綺によって任命される。(決め方などはまたの機会に)
そしてその上に魔界人を統率するルイズと、魔界神の従者である夢子が入る。
夢子とルイズは、魔界会議に神綺と会話することが許される等、別格の権限を持つ。
要するにイベントにいっぱい参加できる!すごーい!みたいな権利だと思えばいいってこと。
☆旧作を知らない人用解説②
ルイズ……東方怪綺談2面ボス。原作ではただの観光客でしか無かった彼女は、何故か本作で大出世。魔界の重鎮の一人になってしまった。
ちなみに東方怪綺談の4面中ボスは、ルイズと非常に酷似している。
アリス……東方怪綺談3面&EXTRAボス。原作に再登場している数少ない旧作キャラの一人である。原作アリスと比べて立ち絵がロリっぽく、話し方も原作アリスほど大人びていないため、ロリスという愛称で親しまれている。
サラ……東方怪綺談1面ボス。幻想郷と魔界を繋ぐ門の門番である。それ以外に殆ど特筆すべきところは無い。
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Ⅲ:魔界神と幼い魔法使い②
では、どうぞ。
靈夢は、第15代目博麗の巫女だ。
『博麗の巫女』とは、幻想郷と呼ばれる楽園の管理者の1人である。
博麗の巫女の役割としては、『博麗大結界』の管理や、幻想郷の秩序を維持することなど、多岐に渡る。
博麗の巫女は幻想郷における抑止力とならなければならない。幻想郷にて暴虐の限りを尽くす神、妖怪エトセトラ。
それらを退治し、大人しくさせる程の力がないといけない。
しかし、15人目の博麗という肩書きを背負った靈夢には、博麗の巫女としての才がある訳ではなかった。
博麗の巫女が持っていなければならない才は、空を飛ぶ才と、陰陽玉(博麗の巫女が代々受け継いでいる武器)を操る才の2つである。
靈夢は、陰陽玉を操る才はしっかりと持っていた。それこそこれ以上ないほどに。
ただ、空を飛ぶことは出来なかった。
幻想郷では、大抵の神や妖怪は空を飛ぶ。
だからこそ、そいつらを退治する必要がある博麗の巫女には、空を飛ぶ力がなければならないというのに。靈夢にはそれがなかったのだ。
靈夢は考えた。どうすればその才の無さを埋めることができるのかを。
考え、考え、考え────その果てに、一匹の妖怪亀と出会った。
玄爺──そう名乗った亀は、空を飛ぶことが出来た。その上、話すことも可能であった。
この亀が一緒ならば、自分も博麗の巫女としての責務を果たすことができる。そう知った靈夢は、歓喜した。本来退治するはずの妖怪を使ってもいいのか、とは思ったが、本人(本亀?)が温厚な性格で且つ協力的であったこともあり、結局背中に乗せて貰うことにした。
結果、激的に妖怪や神等の退治が楽になった。
宙を浮く人外共に接近しやすくなったことや、対等な高さで戦うことができるという恩恵の有難みは計り知れない。
それからというものの、様々な存在を退治した。
悪霊、未来人、悪魔……。一瞬たりとも気が抜けない程の強大な力を持った相手だった。それでも、勝利を収めてこられたのは、玄爺と、そして──。
「靈夢、どうしたの?」
かつて悪霊の弟子であった、この魔法使いのおかげだろう。
「いや、別に。少し昔のことを思ってただけよ」
「あら、そう?」
まぁしかし、本人には言わないが。彼女の性格的に、直ぐに調子に乗ってしまうだろうからと。
──しかし、それにしても。
「人が居ないわね。さっきの魔法使いを倒してから誰とも会ってないわ」
靈夢は疑問に思う。まさか先程の魔法使いがこの世界──【魔界】の主ではあるまいし。
確かに強かったが、アレには世界の創造主たる威厳がこれっぽっちも感じられなかった。
「なんだろう、まさか罠かしら」
「そうかもしれませぬ──注意してくだされ、御主人様」
玄爺が警戒する様に吠える。
靈夢もそれには同意だ。
「もちろん、分かってるわ」
警戒する理由として、『勘』が反応しているということが大きい。
博麗の巫女は、皆超常の力と呼べる程の精度を誇る『勘』を持っている。
それは最早未来予知に近い領域にあり、その勘が警戒しろと言っているのだ。
(……む?あそこに誰か居る?)
故に、一番最初に人影に気づいたのは靈夢だった。
「魔理沙、誰か居るわ。戦闘に入る準備をしておいて」
「うん。分かったわ」
場に緊張が走る。相手も気づいたのか、静かにこちらに近づいてくる。
「ほう、お前らが私の世界に侵入した不届き者か」
威厳に満ちた声が響く。靈夢の眼前の銀髪少女から発せられたものだ。
魂が揺さぶられる。今すぐ平伏し、許しを乞わなければならない。そういった思考すら出てきてしまうほど、その声と姿は神々しいものだった。
「私の世界って、あんたは何者なの?」
動揺を鎮めながら靈夢は尋ねる。
「あぁ。私の名前は神綺。この魔界の全てを創造した神だ。そういうお前らは何者だ?答えろ」
「私は靈夢。博麗神社の巫女よ」
「私は魔理沙。ただの魔法使いね」
神綺はニヤリと笑う。嗚呼、ついに来たかと言わんばかりに。
「なるほど……お前らが、か」
靈夢の頭に疑問符が浮かんだ。神綺のセリフが思わせぶりだったからだ。
「全く、訳が分からないわ。──それより、あんたがここの神なら、話がはやいわ。魔界の者に言っておいてよ」
「何をだ?」
「あんまり、
「ほう、分かった。後で言っておいてやろう」
「後じゃなくて、今すぐに!」
神綺は、困り顔だ。
「そうは言ってもだな。お前らもここで散々暴れてくれただろ?魔界で暴れた罪は大きい。許すはずもない」
「やるつもり?」
呆れたように魔理沙が言う。
「だから言ったでしょ。これだけ暴れたのに許されるはずがないって」
「そうですぞ、御主人様!……イタッ!」
とりあえず玄爺ははたいておいた。
「うるさいわね、言わないと分からないでしょ」
とは言ったものの、和解の道が消えたというのは非常に辛い。
これ程の敵と戦わないといけなくなってしまった己の不運に、思わずため息をついてしまう。
「まぁいいや、始めましょ」
もうどうにでもなれーと、靈夢は成り行きに任せることにした。
「ふん、傲慢だな。巫女など所詮神の犬だというのに。──まぁ良い。始めるとしよう」
「
天地を揺るがす程の力を持った詠唱が紡がれていく。
「
神綺の澄んだ白銀の瞳が、両方とも朱に染まっていく。
更に、瞳の中に幾何学模様の魔法陣が刻まれる。
「さぁ!お前らの可能性を見せてみろ!
魔法陣が輝き、その中から大量の弾幕が放たれる。
ここに、戦いの火蓋が切られた。
(……やっぱり、強いわね)
靈夢は、何度も迫り続ける弾幕に辟易としていた。
どれだけ避けても、終わりが見えない。
濃い密度の弾幕は、1度食らってしまうだけで大ダメージを受けることは間違いないだろう。
逆に、こちらが陰陽玉から出す弾幕は幾ら当ててもダメージが入らない。いや、入っていないということはないのだろう。それでも、このまま倒し切れるかと言われたら。
(まぁ、まず無理でしょうね)
そう、絶対的に火力が足りていないのだ。
どれだけ当てても敵を倒すことができないこの状況。
(……ふざけるな)
有り体に言って、靈夢はキレていた。
──なぜ自分たちは大量に弾を当てているというのに倒れないんだ。なんでこっちは一発食らうだけで危険なんだ。
理不尽なまでの身体の性能差は、靈夢を酷く苛立たせた。
しかし、このままだとジリ貧だ。ならば、賭けに出るしかない。
「魔理沙!」
「何よ、靈夢?」
答える魔理沙の額には、汗が滲んでいる。
靈夢は、自分の策を伝える。
「ふーん、確かにそれなら行けるかもしれないわね」
魔理沙は納得した。現状においてこれ以上ない策かもしれないと。
「話し合いは終わったか?」
「あら?律儀に待っててくれたのね?お優しいこと」
靈夢が軽く煽る。しかし神綺は意に介さず、
「ふん、話し合っている最中に攻撃する程、余裕が無いように見えるか?──別にどうでもいいが。失望させてくれるなよ」
(機会が来るまで待たないと……危なっ!)
チャンスが来るまで2人は耐えないといけないが、如何せん弾幕の数が多い。
少しでも気を抜けば被弾してしまう。そうなれば、待っているのは死だ。
両側から迫り来る大弾を避け、上に飛翔する。神綺を見れば、目の中にある魔法陣の光がほんの一瞬だけ消えているのが分かる。
(魔理沙!)
(分かってるわ!)
アイコンタクトで合図を送り、2人とも神綺に向かって近づく。
「今来るか!だが、全て被弾せずに私のところまで来るのは不可能だ!」
(そんなこと、分かってるわよ)
そう、自分の力は自分が一番理解しているに決まってるのだ。
避けながら進んでも神綺のところにたどり着くことが出来ないということも、遠くから攻撃してもダメージが入らないということも分かっている。
(だから、ここで切り札を切る……もう使えなくなるけど、仕方がない)
思い出す、
『この力は、3回しか使えないんだ。3回使ったらそれっきり。もう使えなくなっておしまいさ。だから、ここぞという時に使いなさい』
──その力の名は霊撃。1人につきたった3回だけ敵の全ての攻撃を打ち消す、博麗の切り札だよ。
(ここで使わなくていつ使うのよ。もう使えなくなる?そんなの関係ない。私は勝つ!だって私は、
そこまで考えて、ふと気がついた。
己が、博麗の巫女という称号を疎ましく思っていた自分が、いつの間にかそれを誇りに思っていたことに。
思わず自嘲めいた笑みを浮かべてしまう。
「ハアアァァァ!」
霊撃を放つ。靈夢から白いオーラのようなものが吹き出て、周りの弾幕をかき消していく。
もう靈夢は過去に2回霊撃を使っている。つまりはこれが最後の霊撃だ。
もちろん躊躇いが無かったと言えば嘘になる。それでも、ここで使うべきと判断したのだ。
「ハハッ、それが霊撃とやらか!素晴らしい、素晴らしいじゃないか!」
(なんで知ってんのよ!しかもホントなら敵自体にもダメージ入るはずなのに、ほんとデタラメなやつ!)
相変わらずの神綺の無茶苦茶さに呆れる。しかし、神綺でも流石に霊撃を貫通する弾幕は出せないようだ。
2人は神綺に近づいていく。天から靈夢達を見下ろす神に向かって。
しかし、たどり着くことは出来ずに、霊撃の効力は切れてしまった。
(くぅ、やっぱり無理だった!)
「たどり着けると思ったか?残念だったな。──さぁ、フィナーレと行こうか。これを乗り越え、
「神魔法『魔神賛歌』」
魔神を賛美する歌を、お前らは超えることが出来るか?
そう問うかのように、神綺は不敵な笑みを浮かべた。
波打つ大量の鱗弾を、靈夢達の周りを取り囲むように展開する。逃がさないようにするためだろうか。
更に、紫色の大弾を出し、こちらにゆっくりと飛ばしてくる。
(狭い……)
鱗弾と大弾の間隔は非常に狭い。速度こそ遅いものの、くぐり抜けるのは至難の業だ。
「ほっ、ふっ──かはっ、ぐぅ」
少しかすった。ただそれだけで、強い痛みが全身を駆け巡り、進むのを止めてしまいそうになる。玄爺が動いている以上止まることはないのだが。
横の魔理沙を見てみれば、向こうも苦しそうだ。それでも、靈夢が提案した作戦を遂行する為に必死に食らいついている。
「私たちも負けてられないわね!玄爺!」
「了解ですぞ!」
玄爺を更に加速させる。上に、横に、下に。避け、避け、避け避け避け避け──
大弾の発生速度が上がる。それでも変わらず避け続ける。
弾幕にレーザーが追加される。それでも変わらず避け続ける。
(遂に来た!あと少し……)
彼我の距離は後2mもない。
これならあと少しで届く。
だが、弾幕が出て来なくなるという訳ではない。
目から弾幕を放出している以上、近づけば必ず被弾してしまうだろう。
かと言って、接近しないと恐らくあの神を降すことは不可能だろう。
だから。巫女は言った。
「魔理沙ッ!──お願い!」
『私が、霊撃を使って全力で近づく。でも到達することは出来ないだろうから。
──合図した時、全力で撃ってね。大丈夫、私は死なないから』
(靈夢──私には倒し切る術がない。だから頼んだわよ。死なずに、あの神を倒して!)
「マスター、スパァァァク!」
魔理沙の手から大量のエネルギーが放出される。一条の光が、靈夢と神綺を包み込む。
神綺はダメージを受けなかった。しかし、靈夢はダメージを受ける。
「ア゛ア゛ア゛!」
苦しい。呼吸が出来ない。気を抜いたらそれこそ一瞬で意識が飛びそうだ。
魔理沙の放ったそれは、以前食らった時より洗練されていた。
しかし、これは決して無駄な攻撃だという訳ではない。
神綺の瞳の中の魔法陣が、放たれていた弾幕が、掻き消される。
「──なッ!?」
神綺の目が見開かれる。まさかそのような方法を取ってくるかと驚愕した。
自らを犠牲にしてまで敵を斃そうとするとは──
「──見事だ」
目の前にお祓い棒を突きつけられながら、神綺は賞賛した。
ボロボロになった靈夢が神綺の眼前にお祓い棒を突き付ける様は、傍目から見たら勝者と敗者が逆に見えるものであったが。
「私の負け、か。……あぁ、楽しかったな」
神綺はそう言うと、フッと小さく笑った。
───────────────────
「後は2人と色々話して──って感じかな。それでようやく一件落着って感じだ」
話を聞いたアリスの頭に、一つの疑問が浮かんだ。
「ねぇ、ママ」
「ん、なんだ?」
「ひょっとして、手加減した?」
笑顔のまま固まる神綺。
「なんで分かったんだ?」
「だって、私に苦戦していたやつら如きに、本気で戦って負ける訳がないもん」
それ程アリスと神綺の差は隔絶したものなのだ、とアリスの言。
神綺は否定しなかった。代わりにアリスに諭すように告げる。
「確かにそうだ。私は手加減した。もし勝ったら面倒くさいことになるのが分かってたからな。──でも、楽しかった。血肉沸き立つ楽しい戦だった。……私が戦いを楽しめることなど、殆ど無い」
それは強すぎるが故の孤独である。しかし、アリスにとっては理解出来ない考えでしかなかった。
「なんで……負けて悔しくないの?私は悔しい。もう、負けたくない。教えてよ、ママ。どうすればいいの?」
悲しみを帯びた声で必死に問う。
神綺はアリスの頭を優しく一撫でする。
「そうだな……負けて悔しいっていうよりかは、戦って楽しいっていう感情が先に来るんだよな、私は。でも、アリスは悔しいっていうのが先に来てしまうのか……じゃあ、良いやり方を教えようか」
「本気を出さなければいいんだ」
「……え?」
──何を言っているんだ。本気を出さなかったらそれこそ負け……
「本気を出さなければ、負けたとしても負けにならない。少なくとも己はそう思える。だって本気を出したら勝てたかもしれないからな。そしてその影で鍛えて、強くなり──ぶっ倒せばいい。な?最高だろ?」
「ァ……確かに……」
本当だ、そうすれば。
「だからさ。アリス、そこまで気を張るな。お前はいつも抱え込みすぎなんだよ」
嗚呼、本当にこの母は偉大な神だ。
「う、ん……うん!」
意図せず笑顔が零れた。
母の手が、アリスを包み込む。
(温かい……)
彼女の手の温もりを感じながら、アリスは言った。
「ねぇ、ママ。──魔法使いに、種族としての魔法使いになる方法を教えて?」
アリスはもう迷わない。生きる道は、既に決めたのだから。
魔理沙さんは勝手にマスタースパークとか使うし神綺様は厨二病だし……やだ、この小説ヤバすぎ……!?
いつも感想、評価、お気に入りありがとうございます!これらのお陰でモチベが保てますし、更新速度も上げられます。いやまじで。
次回は神綺様のステータス的ななにか()と、旧作キャラの解説でも出してから書きますかぁ、頑張らないと。
話は変わりますが、小説用のTwitterアカウント作りました!この小説に関する情報ツイートするので、是非フォローよろしくお願いします!
リンク→ https://twitter.com/Makaishintensei
☆旧作を知らない人用解説③
靈夢……旧作の主人公。旧作霊夢等と言われる場合もある。話し方が随分と乙女っぽい、紫髪の巫女。霊夢と違い、空を飛ぶことが出来ないため、亀(玄爺)の上に乗って飛ぶ。
旧作魔理沙……旧作の相棒枠。東方封魔録(東方Projectシリーズ第2弾)の誤字をとって、魔梨沙と呼ばれることもある。うふふだったりきゃははだったり言ってるので、よくそれをネタにされていじられる。ちなみに旧作ではマスタースパーク(らしきもの)は全く使いません。
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IV:魔界神と地獄の女神
新学年になったことによるゴタゴタが落ち着くまで少し時間が必要でしたが、ようやく落ち着いたので投稿再開出来そうです。
靈夢や魔理沙とドンパチやったり、アリスと色々した(意味深)あの日から1ヶ月。
「ア゛~」
──俺は腐っていた。
いや仕方ないやん。ようやく、永い時を経て原作の主人公達と会うことが出来たんだから。しかもめっちゃ楽しかったしなぁ、アイツらと戦うの。あー、やる気が起きない……何もかもやりたくない……このままベッドと1つになるぅ……。
「神綺様。お客様がお見えでございます」
えー、誰だよ……。俺に会いに来るやつなんて、誰かいたっけ?
「……誰だ?一体何の用だ」
「
「へカーティアか。なに、友との友情を深めるのは大事なことだからな。気にするな」
なんだ、へカーティアだったのか。彼女は永く生きた者特有の自分勝手な嫌いがあるものの、親友である俺や魔界に危害を加えるような存在ではないからな。一安心一安心っと。
「それじゃ、行くか」
「……あの、神綺様」
「ん、なんだ?」
「その……着替えはして下さいね?」
「……あ」
寝間着のままだったの忘れてた✩
「よし、んじゃ行ってくるわ」
「はい、行ってらっしゃいませ」
着替え終わり、へカーティアの所へと向かう神綺。
彼女の背中を眺めながら夢子は思う。
(何故……アレを、へカーティアを親友と呼べるの?)
仲が良いのは理解している。どちらも卓越した力を持っているからなのか、それともウマが合ったのかはイマイチよく分からないが、普段から仲良く話している姿をよく見かける。
だが違う。夢子が言いたいのはそんなことではないのだ。
──なにせ、へカーティアはかつて神綺と夢子、そして魔界に住む全ての魔界人達を虐殺しようとしたのだから。
当然、夢子は激昂した。そんな理由で自分が、主が、命を狙われてたまるか、と。
結果として神綺が勝利し、直接的な被害こそ受けなかったものの──だからと言って仲良くなれるかといったら無理に決まってる。
『私と友達になってくれないかしら?』
へカーティアの発した言葉を聞いた時、夢子は己の耳を疑ったものだ。
自分が殺そうとした相手に、どうしてそんなことを言える!
ふざけるな!──そう夢子は吠えた。
しかし、主は友達になった。なってしまった。この瞬間から、夢子にとってへカーティアは『敵』から主の友人という立場になってしまったのだ。
魔界人にとって神綺は絶対。なればこそ、その友人たるへカーティアも敬わなければならない。
思わず唇をかみしめて、血が流れる。
「へカーティアは……」
悪いやつではないのだ。決して悪意を持っている訳では無い。
ただ、持つ力の総量が多すぎるからこそ、自らの行動が及ぼす影響を予測しきれないだけなのだ。
それは分かっている。それでも、この屈辱は如何ともし難い。
「……お茶を出す用意をしないと」
へカーティアと会いたくはないが、もてなさない訳にはいかない。
相反する二つの思いを胸に、夢子は深く溜め息を吐いた。
(どうか、二度と
地獄の女神──へカーティア・ラピスラズリ──は、魔界に訪問していた。
その目的は、
本来、神綺と会うには、へカーティアは格が足りない。魔界のトップである神綺と理由無しに会うことは、地獄のNo.3であるへカーティアでは不可能なのだ。
そこで、彼女は理由は会うための理由を無理やり作り出した。『別の世界から侵略を受けた魔界の様子を確認する』という理由を。
「すまん、へカーティア。少し遅れた」
「もう、遅いわよ」
へカーティアは、遅れて来た神綺に対し悪態をつく。しかし、その言葉とは裏腹に、思わず口元が緩んでしまう。
「積もる話も色々あるが……とりあえず、久しぶりだな」
「えぇ、そうね。──何年ぶりくらいかしらん?」
「さぁな。永く生きすぎて、もう分からないな」
はは、と小さく笑う神綺の笑顔には、長命な者によく現れる諦観の色は見えなかった。
「ところで、その服……ホントにいつもその服で生活してるのか?」
「え?当たり前でしょう?」
そう答えるへカーティアは、『Welcome♡Hell』と書かれた黒のTシャツに、色とりどりのスカートを履き、頭と両手の上に地球、月、異界をモチーフにした球体を乗せている。
その姿は、お世辞にも普通の格好とは言えなかった。
「なぁ、言っちゃ悪いがその格好……変だぞ?」
「あら?でも、部下達は似合ってるって言ってくれるわよ?」
「おう、そうだな。部下が上司に本音を言うかを念頭に、少し考えてみてくれ」
似合ってないのかしらこの格好、と呟く。
しばらく、他愛も無い話を続けた。久しぶりに会った2人の会話は弾み、笑顔も溢れていた。
「ははは!それは面白い……ん、入っていいぞー」
「失礼します」
その中途、夢子が紅茶を持ってくる。慣れた手つきで2人の目の前にカップを置き始めた。
「あら、ありがとう……ねぇ、夢子ちゃんでいいのよね。私と友達にならない?」
「いえ、それには及びません。私は神綺様の従者であります故に」
「むぅ……」
さりげなく拒否され不貞腐れるへカーティアを尻目に、夢子は退出する。
「では、失礼しました」
彼女が出ていき、しばらく沈黙が支配する。
「ははっ。……へカーティア、お前嫌われてるなぁ」
「──まぁ仕方ないわよん。私がしたことを考えれば、ね」
へカーティアは己がしでかしてしまったことをしっかり理解していた。それこそ誰よりも。あの日の、あの行動を後悔しなかった時は無い。
ふと、気になったことがある。
(なんで彼女は、神綺は私と友達になってくれたのかしら)
へカーティアは傲慢不遜のように見られるが、その実意外と繊細なのである。加えて彼女は、気になったことは聞かないと気が済まないタイプでもあった。
「ねぇ、なんで……」
「ん?」
「なんで、私と友達になってくれたのかしら?」
紅茶を飲んでいる時に急にそのようなことを言われ、神綺は一瞬きょとんとしたがその後直ぐに破顔した。
「ブッ、ハハハハハハ!」
「ちょ、どこがおかしいのよ」
「いやぁ、すまんすまん。お前がそんなことを言うとは思わなくてだな、ハハハ!」
「失敬な。私だって悩むことくらいあるわよ」
「そうだな……うん。私は──なんでなんだろうな?……てかさ、そもそも友達になるって、ハッキリとした理由なんて無くても良くないか?何となく気が合うとか、一緒にいると落ち着くとか……そんな、ありふれた理由っぽいなにか──があれば十分な気がするけどな」
(……確かに)
神綺が言った答えに、納得したへカーティア。
確かに、自分も特別な考えがあって神綺と友達になった訳では無い。
ただ何となくである。何となく仲良くなりたいと思ったのだ。
(しかし、あの事件を私が起こした後に友達になるとか……)
彼女自ら、魔界に侵攻したあの事件。その後に仲良くなった親友を見て言う。
「……ホント、狂ってるわよね」
「ん、何がだ?」
「自分を殺そうとした相手と友達になるとか、頭おかしいでしょ」
それは、聞く人によっては怒り狂うような暴言。しかし、神綺はその言葉の意味をハッキリ理解していた。
深く頷き、答える。
「そうだな……でも、殺そうとした相手に向かって、友達にならない?と言ったお前も中々狂ってると思うけどな?」
「ふふっ……それもそうね」
「そもそも、こんな長く生きてて頭おかしくなかったら、そっちの方がヤバいだろ」
「確かにそうね。……ん?」
と、ここでへカーティアの方から音が鳴り響く。
「あー、地獄からの連絡かしら?ちょっと待ってて。……もしもし、ピース?……え?ホント?じゃあ今から帰るわ。……ごめん神綺。私、帰らないといけなくなっちゃったわ」
律儀に謝るへカーティア。自分から訪問したのに勝手に帰ってしまうことに、申し訳なさを感じてしまう。
「そうか。もう少し話したかったが仕方ない。──じゃあ、最後に聞くが……私以外の友達は出来たか?」
神綺は、自分以外に友が存在しないへカーティアを酷く心配していた。その強すぎる力が故に、他人と仲良くなれない彼女を。
「大丈夫、出来たわよ……あなたにも、後で紹介するわね」
「ん、そうか……良かったな」
「心配してくれてありがとうね。それじゃ、帰るわ」
「あぁ。またな」
部屋を退出するへカーティアを見送った後、彼女に出されたティーカップを見る。
「そんなに夢子と仲良くなりたかったのか?紅茶を出されてからそこまで時間がなかったのに……」
そのカップは、既に空であった。
決して適わぬ親友の願いがそこに表れているのを知り、神綺は呆れたように肩をすくめた。
感想、評価等でモチベが上がるので、どうかよろしくお願いします!(乞食並感)
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V:魔界神と魔法使い達
へカーティアが来てから更に50年が経った。
急に時間の流れが速くなったように思うかもしれないが、本来長命である神の時間の感じ方なんてこんなものだ。
寧ろあんな濃密な時間を過ごしていた50年前がおかしいのだ。多分。
ただ、そろそろ原作──旧作を除く、東方紅魔郷から東方鬼形獣まで──の始まりが迫ってきている。その事が手に取るように分かる。
さて、ここ最近と来たら、俺がしたことはごろごろしたり、夢子をからかったりぐらいだ。仕事らしい仕事と言えば、稀に来る侵略者を爆✩殺✩することしかしてない。しかもここ10年程は来てないので、ガチで何もしていない訳だ。
──これは由々しき事態だ!何故なら、ニートだと思われてしまうからである!
一応言い訳させて頂くと、決して働いていないということではないのだ。「君臨すれども統治せず」を目指している俺。魔界の政治は、基本的には魔界人達で行うことになっている。魔界会議とかは俺も介入できるけどな。
だから、俺が魔界のトップとして存在していること自体が仕事みたいなものなのだ。
ただ、流石にここまで何もしていないと罪悪感が凄いし、何より原作が近い。原作が始まったら、原作介入するために魔界は離れないといけないし、少しは仕事しようかな。
明日からだけどな!!
明日と言ったのは理由がある。べ、別に働くのがめんどくさいとかじゃないんだからね!勘違いしないでよね!(ツンデレ風味)
……需要無いな、やめよ。だってこれでも一応何十億年も生きている爺(婆?)だからね。
とにかく、今日は用事があるのだ。それは、アリスの魔法の鍛錬を手伝うこと。42年程前に成人した彼女は、既に俺の庇護下を離れている。
そして彼女は、成人した瞬間俺にこう言ってきたのだ。
──幻想郷に行きたい、と。
原作再現キタァァァァァァ!と荒ぶる内心を抑え、行く為に達成しなければならない条件を一つつけた。それは……とある魔界人二人を相手にして勝つこと。
その魔界人の名前はユキとマイ。そう、東方怪綺談四面ボスである魔法使い達だ。
常に強気で、仲間思い。裏表が無い金髪の少女、ユキ。
一見無口で気弱に見えるが、一人になると豹変し、口調が荒くなる。孤高を好む銀髪の少女、マイ。
彼女達は熟練の魔法使い。一人一人がかつてのアリスに匹敵する程の猛者だ。ましてや二人が連携して戦う時の手強さと言ったら、筆舌に尽くし難い。
魔界人最強である夢子であっても「油断したら負ける」と言わしめる程だ。
だから俺は、魔界人が魔界の外に出る条件を『この二人に勝つ』というものにした。
それから結構な時間が経ち、かなりの魔界人達が挑んでは敗れていった。
未だ、外に出た者は殆ど居ない。
だが、アリスならもしかしたらと思った。その目論見通り、アリスはあと一歩で倒せるという所まで行ったらしい。
俺の今日の役目は、その最後の一押しだ。
これでも、俺は一応『魔法』という概念の創造主である訳で。
『魔法』に関してはちょっぴり自信があるのだ。
「神綺様、久しぶりです」
俺にそう言ったのはアリス。悲しいことに、敬語を使うようになってしまった。育ててた子達が敬語使い始めると、何故か凄い悲しくなるの俺だけかね?
アリスは年齢こそ50を超えているが、20歳少し前辺りで種族としての魔法使いになったので、見た目はそのくらいのままだ。
これは原作設定の復習となるが、魔法使いとなるには、二つの魔法を修める必要がある。
一つ目は、不老になる魔法──捨虫の魔法。
そして二つ目に、食事・睡眠が必要無くなる魔法──捨食の魔法。
アリスは、これらを習得している。
だから、別に焦らなくてもいつか強くなればいいのだが……。
「魔法の腕前が上がらなくなってきて不安になるんです」
とのことらしい。分かるわーそれ。俺も前世でスポーツやってた時、全く成長しない自分が見てて嫌になったものだ。
と言うことで、協力することになった。
まずは、アリスの今の腕前を見せてもらうことにした。ユキとマイ、二人と戦ってもらうことにより。
「すみません、神綺様!遅れました~」
「……ごめんなさい」
お、二人も来たね。先に言葉を発したのがユキ、その後に続いて謝ったのがマイだ。
ふむふむ、二人とも概ね外見の印象通り、前見た時と変わってないね。ただ、マイとかこの儚げな見た目の癖して、「足でまといが!」とか言っちゃうからね。女子って怖ぇ……。
ヨシ!それじゃ頑張ってくれ!Ready──Fight!!
──少女観戦中──
「ハァ……ハァ……」
「ふぅ、危なかったなぁ」
「……やっぱり強い」
俺の眼前には、倒れ伏すアリスと、肩で息をしつつもしっかりと両足で身体を支えているユキとマイが居た。
彼女らの姿を見れば、勝敗は一目瞭然だろう。
「ユキ、マイ。お疲れ様。今日はもう大丈夫だぞ」
「え!?ホントにいいんですか?」
「……やった」
とりあえず俺がこの場を引き継いで、二人には帰ってもらうことにした。
だって二人とも忙しいもんね、多分夢子ちゃんと同じくらい忙しいんじゃない?
連日、外の世界に出ようと目論んでいる魔界人達の対応……文句一つ言わず(本当に文句が無いのか、それとも我慢しているだけなのかは分からないけど)行ってくれてるのは有り難いからな。
上機嫌で帰っていく二人を見送り、倒れているアリスを見る。
俺が見ているのに気づいたのか、無理して立ち上がろうとするのを制した。
「……しん、き、さま」
「あぁ、無理すんな無理すんな。──うーんと?魔力が足りないのか、少し待ってろ」
俺の中にある魔力を、アリスのそれと同質に変換する。そして変換した魔力を、アリスの体内に注入した。
「あっ、魔力が……凄い……」
凄い?そうか?確かに今のアリスじゃ出来ない芸当だが、もう50年もすればアリスでも出来るようになるレベルの技術でしかないけどな。
ま、とりあえずさっきのバトルを見てのアドバイスだな。
「よし、ある程度良くなったか?じゃあ、早速だが。……アリスは今の戦い、どうして負けたと自分で思っている?」
「それが、負けた理由が分からないんです……」
ふむ、敗北の原因が分からないのはマズイな。それを直さない限りは勝つのは難しいか。
「アリス、お前の魔法の実力は凄まじい。それこそ、あの二人を相手にしても勝ちうる程に。──だが、魔力の制御がまだまだ甘い。だから魔力が切れて二人に負けるんだ」
先程の戦いは、実力者どうしの勝負であったのでとても見応えがあった。
そのレベルたるや、身体のスペックに胡座をかき、チート俺TUEEEEをしている俺が恥ずかしくなる程だ。
ただ、魔力制御が甘いというのは致命的だ。魔力を魔法に変換する時のロスが大きくなり、魔力切れを起こしやすくなる。
「……成程。確かにそうですね」
懇切丁寧にそれを伝えれば、どうやらアリスも納得したようだ。
ただ、魔力制御は案外練習するのが難しい。魔力を操って放つ魔法は、基本的に周囲に影響を与えるものが多いからだ。
……まぁ、遣り様はあるにはあるのだが。
「
「【
そう唱えると同時、俺の手に光が収束する。眩い光が螺旋状に連なり、やがて一つになり──眩しさが消えた時、俺の手には一つの人形が握られていた。
「わぁ……」
アリスがその幻想的な光景に見蕩れている間。
俺は悶えていた。
ぐうぅぅぉぉぉ!恥ずかしい!恥ずかしすぎる!
何が【
はぁ……はぁ……ガチの黒歴史はアカンて……(絶望)
俺、昔に戻れるとしたらこの技名を無難なものに変えるんだ……だからよォ……止まるんじゃねぇぞ……(キボウノハナー)
「こ、ここれを使うといい。この人形を自由自在に操れるようになれば、まぁかなり上達したということになるだろうな」
くそ、思わず動揺しすぎて噛んじまったよ……。
ただ、俺が今言ったこと自体は多分正しいと思う。実際、人形を使うことは有効な鍛錬方法の一つなのだ。
人形を自分の思い通りに動かすには、相当緻密な魔力操作をする必要がある。両手両足を、人形が壊れないように魔力で縛り、あやつり人形の要領で動かすのだ。
当然、かかる精神への負担も莫大なものになる。
「分かりました!ありがとうございます!」
ただ、笑顔で人形を受け取るアリスは全く物怖じしていなかった。寧ろ、未知への挑戦へと心を昂らせている様にすら見えた。
これを見ると、成長しても彼女の根本的な部分──活発で、好奇心旺盛な性格──は全然変わっていないようだな。すごいな。驚きだわ。
「ん、そういえばその人形、名前つけてないな。──アリス、付けるか?」
「いえ、神綺様が創ったものなので、神綺様がつけてあげてください」
うーん、そう言われてもなぁ……あっ、閃いた(ゲスい笑み)
「じゃあ、上海なんてどうだ?」
「し、上海ですか?……いえ、いい名前ですね」
あー!折角名前つけたのになんだその微妙そうな顔は!……確かに、明らかに西洋風の人形に上海なんてつけるのはおかしいかもしれないけど。
それにしてもアリスの敬語は違和感がすごいな。他の相手だとそこまで違和感なかったのに。──前世に存在した二次創作の影響かな?まぁ考えても仕方ないけど。
「あ、あの、神綺様……そんな、急に子ども扱いしないでください。私はもう大人ですので」
はっ!?ち、違うんだ……ちょっと寂しくなってアリスの頭を撫でたくなっただけなんだ!(確信犯)
「なーに言ってんだ。私からしたらアリスも夢子も、他の魔界人達もまだまだ子どもだよ。──恥ずかしがる必要なんてないんだ。私は、お前達にあまり親らしいことをしてあげられなかったからな」
「そんなことは……」
いーや、これは間違いないね。俺はアリスや夢子、ユキやマイ、ルイズ、サラ、他の魔界人達に何も出来なかった。本当に申し訳無い。
「別に……私達は、神綺様に創られて良かったな、と思ってますよ。誰に聞いてもそう言うと思います。──ありがとうございました。それでは、早速鍛錬して参りますので」
そう言って自分の部屋へ向かう彼女を見て思った。
──俺は本当に魔界の外に出て良いのか。魔界に居て、魔界人達を見てやるべきじゃないのかと。
「……愚問だな」
彼ら彼女らは、既に俺の制御下を離れている。だからこそ、俺が居なくなってもやって行ける様にしないとならない。それが親の責任というものだろう。
それに、今更原作介入の為に生きてきた俺が、生き方を変えられるはずもないのだ。
アリスがユキ、マイの二人を倒したという報告があったのは、一連の出来事からおよそ一年後のことであった。
まさか、本当にこんな短時間で倒すとは……。
いや、確かにアリスなら行けると思ってたけどね?最低5年、長くとも15年というのが俺の見積もりだったんだよ。アリスの才能と執念には驚かされたよ。
そして今俺は、幻想郷と魔界を繋ぐ門の前に来ていた。アリスを見送るために。
「それじゃあ、神綺様……行ってきます」
「あぁ。気をつけて行ってこい」
少し寂しげに、笑顔を浮かべるアリス。……そうだな。抱きしめてやろうか。
「わふっ!?」
「ほら、よしよし。寂しくないからな。……そうだ、しばらく経ったら様子を見に行くとでもしようか」
「べ、別に寂しくないですし……でも、ありがとう。ママ」
「ん、何か言ったか?」
「いえ、何も」
よし、じゃあ行ってこい!頑張れよ!
「行ってきます!」
そう言ったアリスには、既に寂しさは無かった。あるのは、未知への渇望だけ。
彼女が、かの世界で何を為すのか。それは、原作を知っている俺ですら知らないことだ。
未だ原作は始まってすらいない。
東方紅魔郷。
東方妖々夢。
東方花映塚。
東方風神録。
東方地霊殿。
東方星蓮船。
東方神霊廟。
東方輝針城。
東方紺珠伝。
東方天空璋。
東方鬼形獣。
整数作品ですらこれだけある幻想の世界の物語。それがようやく、始まりを告げた。
──CHAPTER:1 END──
★次章予告
──彼女は、幻想に居た。
彼女は青い空を見た。
彼女は美しい大地を見た。
彼女は──幻想の少女達を見た。
彼女は涙した。それは、故郷への想いか、それとも幻想への感動か。
そして、幻想に迫るは濃密な悪意。
悪意が彼女に牙を向いた時、とある少女は虚なる剣を振るう。
次章 CHAPTER:2 吸血鬼異変~幻想世界の少女達
お楽しみに。
★実績達成!
『創造』の一部情報が解禁されました!
0:魔界神とステータス的な何か。から確認可能です!
☆旧作を知らない人用解説④
ユキ……東方怪綺談4面ボス、その片割れ。常に強気でいる魔法使い。
マイ……東方怪綺談4面ボス、その片割れ。弱気なことが多い少女だが、ユキがやられると豹変し、イケイケで来る。女子って怖いね。
ちなみに強さ的にはユキの方が強い。
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CHAPTER:2 吸血鬼異変~幻想世界の少女達
Prologue:幻想郷へLET'S GO!!
興奮の余りどこかミスってそう(震え)
「はぁ……」
【楽園の素敵な巫女】博麗霊夢は、おもむろにため息を吐いた。それに反応する金髪の女性が一人。
「霊夢、ため息はつくものじゃないわ。幸せが逃げてしまうじゃない」
「うるさいわね、紫」
霊夢は、彼女自身が紫と呼んだ女性に対し悪態をつく。
八雲紫。「境界を操る程度の能力」という神にも近い強力な能力を持ち、幻想郷の誕生や管理に尽力している神出鬼没のスキマ妖怪。
ただ、霊夢に言わせれば、紫はお節介が過ぎるのだ。すぐ何処からとも無く現れ、要りもしない助言を与えてくる。
そもそも紫は妖怪、己は人間。幾ら二人が「幻想郷の管理」と言う目的においての意志が一致しているとは言っても、余りに立場が違いすぎる。その二人が深く関わってしまうと、幻想郷に良くない影響が起こる可能性がある。霊夢が紫に育てられている以上、既に手遅れかもしれないが。
「てか、あんたは妖怪じゃない。神社に来てんじゃないわよ、それとも退治されたいの?」
遠回しに神社に来ないよう忠告しても、紫は飄々とした態度を崩さない。それどころか、この状況を楽しんでいる気配すら感じる。
「あら、相変わらず冷たいわね。育ての親だというのに」
「……」
イラッとして思わず御札を投げるも、歯牙にもかけない紫。
余裕綽々な姿を見て更にイライラが募っていく。
「はぁ……全く。んで、何の用よ」
「何がかしら?」
「とぼけんじゃないわよ。幾らあんたでも用が無いのに来るほど暇じゃないでしょ。……まさか本当に?」
「えぇ、霊夢と会いたくなっちゃって」
呆れたと言わんばかりに白い目を向ける。氷の様に冷たい視線に、流石の紫も少しばかりたじろぐ。
「はっ、そんな訳ないでしょうが?あんたが私と会いたい?笑わせないでよ。……じゃあ、用がないならあんたに聞きたいことがあるんだけど」
「霊夢が私に何か聞くなんて珍しいわね、一体どうしたの?」
「今日、嫌な予感がするのよね……いや、完全に嫌な予感って訳じゃない気がするんだけど」
なかなか要領を得ない霊夢の話を聞き、怪訝な顔を向ける紫。
ただ、それでも『何か』が起きるということは伝わった。
「それは……『博麗の巫女』としての勘ってことでいいのよね?」
「うん」
「それは、マズイわね──ッ!?」
瞬間、霊夢と紫は察知する。神が操る力──神力を。
霊夢は神をその身に降ろせるが故に。紫は神に等しい程の凄まじい力を持つが故に。
気づくことが出来た。だが、これは……
「本当に神力、なの?」
「えぇ、恐らくは。──行ってくるわね、神力の発生地点に」
「ちょっ、紫!私も連れて……」
言い切る前にスキマを開き、その場から消えてしまう紫。
「チッ……あんのスキマ妖怪!!」
霊夢は思う。あれ程莫大な量の神力を出すのは、生半可な神では出来ない所業だ。
下手すると、紫や己より圧倒的に強い存在かもしれない。
「クソっ……死ぬんじゃないわよ」
確かに紫は霊夢にとって過保護でうざい妖怪であるが、それでも決して死んで欲しいという訳では無い。
かの神力の発生源となった存在が、幻想郷や紫に敵愾心を持っていないようにと、霊夢は祈った。
「アリスが行ってから、30年か……」
自室にて、俺はそう呟いた。この30年間、魔界では特別な出来事は無かった。だが、その平穏な日々にも終わりを告げる時が来た。
それは何故か。それは、幻想郷に住むアリスからこんな連絡が来たからである。
──博麗の巫女が代替わりした。新しい巫女は、名を博麗霊夢というと。
これを聞いた瞬間、遂に来たか!と感動したものだ。
そして俺は、どのようにして幻想郷に行こうかと考え始めた。
何の理由も無く幻想郷に行きたいと言っても、当然却下されるに決まっている。自由に動き回るには、余りにも魔界の神という立場は重すぎた。
だが、幻想郷に行けなかったこのもどかしさから、遂に解放される時が来たのだ。
そう、魔界人達を説得するに足る理由を発見することにより!
さぁ、そうと決まったら善は急げだ。早速夢子の部屋へと向かおう。夢子ちゃんさえ納得させられれば実質勝ちだからな。ルイズは……まぁ何とかなるでしょ(適当)
ゆめエモ~ン、幻想郷行ってきていい?
「え?幻想郷ですか?………………良いですよ」
ファッ!!??え、ちょ、軽くない?どうしちゃったの?
「それが、今までなら止めていたのですが……ルイズから、“夢子さん、少し心配しすぎではないですか?神綺様は最強なのですから、何もそこまでする必要はないでしょう”と言われてしまいましたので……」
ルイズぅぅぅぅぅ!お前ってやつはァ!ホント最高だぜありがとう!
いやー、理由を用意したのは無駄になっちまったが、まぁ細かいことはいいか!
「そうか、ありがとな。──ただ、魔界に侵略者が来た時が困るな……」
「侵略者など!私が退治いたしますので……」
うーん、夢子は強いんだがなぁ。流石にへカーティアレベルとかが来ちゃったら勝てないだろうからねぇ。
「そうだな……じゃあこれを置いていこうか」
そう言いながら俺が懐から取り出したのは携帯電話の形をした物体。ただ携帯電話と違うのが、ボタンが二つになっていること。
「あの……これは一体なんでしょうか?」
「これは通話装置だ。右の青いボタンを押せば、私と通話出来るようになっている。──そして、左の赤いボタンは、通報機能だ。これを押したら、即座に私に連絡が来るようになっている。もし魔界が危険になったらこれを押すといい。……私に迷惑がーとかは考えなくて良いからな。魔界が消えてしまう方が私は悲しいんだから」
「──はい」
「あともう一つ渡しておこう。これはルイズ用だ」
二つあればまぁ大丈夫だろう。
……いつからかね。俺にとって、魔界が大事な存在になったのは。
全く、創った当時はここまで愛おしくなるなんてこれっぽっちも思ってなかったのにな。人生(神生?)は分からんものよ。
「後は……大丈夫か?……すまん夢子、迷惑をかけるな」
「そのような事、神綺様が考える必要はありません。そもそも私達を見捨てたとしても、神綺様に文句を言う訳がありませんので。……ですから、気にしないでください。私は、神綺様に託されただけで幸せなんですから」
この子ホントに人間が出来ている……(歓喜)
なんで俺からこんな良い子が創られたんでしょうね、わけがわからないよ。
「そうか。困ったことがあったら遠慮せずに言え。──じゃあ、またな」
「行ってらっしゃいませ」
恭しく礼をする彼女に背を向けながら、唱える。
「
「【
俺の眼前の空間が捻じ曲がる。やけにあっさりした別れだが、いずれまた会う以上、しんみりする方が嫌だろう。彼女にとっても、俺にとっても。
数秒後、既に俺の姿はそこには無かった。
………
……
…
「ルイズは、知らないから言えるのよ」
「私だって神綺様の行動を妨げたくないに決まってる」
「それでも言うのは、
「あの時の悲劇を、覚えているから」
一面青い湖に、世界を覆う蒼穹。
それが、俺がこの世界に来て一番最初に見た景色だった。
そして、周りに漂う妖精。
「きゅうにでてきた!」
「きゃー!」
「にげろー!」
あっ……逃げちゃった。
って、妖精が居る湖か……ってことは、ここは霧の湖かな?霧が出てないし紅魔館が無いから一瞬分からなかったぜ。
と、空間が歪む気配がした。その方向を向くと、そこにはかつて夢中になっていた原作で見慣れたスキマが一つと、その中からこちらを覗き込む女性が。
「貴女は誰?名前は?」
「人に名を尋ねるならまず自分から名乗るべきじゃないか?……と言いたいところだが、唐突に現れた私を警戒するのは分かる。──私の名前は神綺。魔界から来た一般人だ」
「魔界?……あぁ、アリスと同じ出身なのね。私は八雲紫。ここ幻想郷を管理する、妖怪の賢者よ」
おっほー!生ゆかりん!生ゆかりん!あぁ、お麗しい……。原作の胡散臭さも健在だァ!流石、儚月抄が出るまで最強クラスのキャラと言われていただけはあるぜ!
「なるほど……じゃあ、ここで暮らすにはどうすれば良いんだ?」
「とりあえず、博麗神社に行きましょう。『博麗の巫女』と呼ばれる人間がそこには居るわ。彼女に許可を貰ってからね」
「分かった。じゃあ、連れてってくれ」
紫は“うふふ”と扇子で口元を隠しながら笑い、スキマから手招きしてくる。
導かれるままにスキマの中に入ると、視界が急激に変化する。
「ここが博麗神社よ」
着くの速すぎ!待って、心の準備がまだ……!
「霊夢~、帰ったわよー」
「あー、生きてたのね。……んで、そいつ誰?」
ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙!
【2021年4月24日 日間ランキング55位達成!】
皆さんの応援のおかげです!本当にありがとうございます!
正直旧作というマイナー作品メインのこの小説が入れると思ってなかった……(戦慄)
いつも評価や感想、お気に入り登録してくれる方もありがとうございます!
これからも拙作をよろしくお願いします!
★実績達成!
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Ⅱ:いずれ邂逅する少女らは
「んで、そいつ誰?」
れっ、れれれれれ霊夢さん!?
ちょっ、目の前に主人公様が、あぁ──
「彼女はお客さんよ。……例のね」
「ふぅん、まぁいいや。とりあえず中に入って」
掃除の手を止めた霊夢に案内されて入ったのは、博麗神社の境内。
“適当に座って”と言われ、畳の上に静かに腰を下ろす。
手際よく用意されたお茶を啜りながら、彼女の話を聞く。
「それで、名前は何よ?」
「神綺と言う。魔界から来たただの人間だ」
「はぁ……はぁ?アレだけの神力を出せる人間が居る訳……ちょっと待って、しんきって名前、どう書くの?」
「ふむ……神に綺麗の綺と書いて、神綺だ」
「……マジかぁ」
なんか露骨に落胆されたんだけど、なぜ?
「霊夢、何か知ってるの?」
「知ってるも何も、魔界の創造神じゃない、神綺って。先々代の巫女の日記に書いてあったわよ……物凄い嘘つきね」
あっ、先々代って靈夢かな?日記書く様なマメな性格だったんだね。もう少し大雑把なタイプだと思ってた。
「知らなかったなんて言わせないわよ。アレだけの神力を発していたんだもの」
「うふふ、知らなかったわ」
「あぁ。私も知らなかったな」
「なんで本人が知らないのよ!!……あーもう!こいつら!」
地団駄を踏んでぷりぷり怒る霊夢を見ていると、ちょっと楽しくなってきたが自重しよう。……ていうか神力って何だ?まぁ字面からして神が持つ力~とかそういう感じなんだろうけど。
「それじゃ少し真面目な話に戻ろう。──私は、ここに……幻想郷に住んで良いのか?」
「え?あー、別に良いんじゃない?幻想郷を滅ぼそうとしなければね。──私としては、強い力を持つ存在が幻想郷に居るだけで、面倒が起きる可能性が高くなるからやめてほしいけど」
「そうね。幻想郷は全てを受け入れるのよ。それはそれは残酷な話ですわ」
お、ゆかりんの名言だ。尚、幻想郷に受け入れられなかった総統娘の天人さん……w
好き勝手やりすぎたからね、仕方ないね。
俺も美しく残酷にこの大地より往ね!されないように気をつけないと(戒め)
「うむ、ありがたい」
「でも、衣食住の保証はしないわよ。それだけの力を持ってるなら問題無いと思うけど」
「それは流石に分かってるさ。……ふふっ」
つい楽しくなって、笑みがこぼれてしまう。それを見て、怪しげな顔をする霊夢が更に面白く。笑いが止まらなくなってしまった。
「ハハハハハハ!」
「なーに急に笑ってんのよ……気持ち悪いわね」
「凄い笑い様ね」
「いや、なんだ……こうやって普通に話せる相手が魔界には居なかったもんでな。──楽しくなってきちまった」
ついつい声が弾んでしまうのを抑えきれない。霊夢は自分の茶を飲み干し、机の上に置いた。紫はまだスキマの中に居る。なぜ出てこないのか。
「へー、じゃこの世界は良いんじゃない?自分勝手なやつが多いし、神だからって敬うのなんてそれこそ殆ど居ないしね」
「まぁ霊夢とか巫女なのに神を敬ってないしね」
大体あんたのせいよ、と言うことによる口撃を見事にスルーする紫。
扇子で口元を隠しながら、相変わらず胡散臭い笑みを浮かべている。
「……じゃあ、そろそろ良いかしら?私も結界のチェックを手伝わないといけないしね」
「あんた、まさか藍に任せてるの?冬眠してないのに。……うーわ、藍カワイソー」
「あぁ。私は大丈夫だ。──二人とも、ありがとな」
「良いけど、今回は特例だからね。──次に来る時は、お賽銭を奉納すること!分かった?」
「了解した。次は持ってくるとしよう。では、またな」
あぁ、楽しかった。これからもっと様々な原作キャラと会うのか。楽しみだけど、俺の心臓持つかな……。
神綺が去ったのを確認して、霊夢はふぅっと息を吐いた。
「全く、紫。来るなら来ると言いなさいよ。驚いたじゃない」
「ごめんなさいね。でも霊夢、楽しそうだったわよ?」
は?何言ってんだこいつの目は節穴なのかと霊夢は思い──
「すごいウキウキしてて、いつもと違う雰囲気だったし」
「……」
「途中から当たりが強くなったのも気が合うと思ったからでしょ?」
「…………」
「それに、やけに懇切丁寧に説明してたわね」
「………………」
「挙句の果てには“またね”と言われた時のあの笑顔!あぁ、博麗の巫女としては失格だと、私の立場だとそう言わないといけないんだろうけど!育て親としてはとても嬉し……ちょっ、霊夢?」
霊夢は幽鬼の様にふらふらと立ち上がり、紫の方に近づく。
こいつだけは殺さないとダメだと、そう言わんばかりに。
「ね、ねぇ霊夢?顔が怖いわよ?ほら、笑顔笑顔」
「……」
「わ、私、笑顔って大事だと思うの?ね、ね、笑いましょ?ほら~にっこり!」
そう言いながら慌ててスキマで逃げようとする紫を捕まえる
「──問答無用!」
その日、博麗神社付近から女性の叫び声が聞こえたという。
一人の人間が他の者の制止を振り切って神社に近づくと、そこにはボロ雑巾の様に倒れているスキマ妖怪が居た。
その人間は、人里に住む他の人間たちにこう言ったそうだ。
──博麗の巫女が、あの悪名高いスキマ妖怪を退治したと。
二人が、そんな漫才を繰り広げていた頃。
魔法の森に存在するとある民家に置いて、これまた二人の魔女が、楽しく魔法談義をしていた。
魔法の森は、幻想郷の中でも余り人妖が寄り付かない場所。何故なら、幻覚を見せる茸がそこら辺に生えているからだ。
だが、その茸は、魔法使いにとっては魔力を増強させてくれるものであるが故に、ここで暮らす魔法使いは多い。
そんな魔法の森に住む彼女らもまた、魔法が好きであることは言うまでもないだろう。
「アリスー、これはどうするんだ?」
と言ったのは霧雨魔理沙という名を持つ少女。人間でありながら魔法を使う、種族でない『魔法使い』だ。金糸の様な髪を揺らしながら魔法を学ぶ様は、どこか小動物を思わせる可愛らしさがある。
「えっと、これは──」
そう答えるのはアリス。彼女は、適切な手段を以て『魔法使い』という種族へと至った元人間である。少女というには大人びた雰囲気を持つ彼女は、魔理沙に魔法のアドバイスをしている最中であった。
「魔法陣のこの部分」
「おう」
「ここを繋げてると、魔力の循環が上手く行かないから……」
「あ、ホントだ」
「ここをちょっと改良すれば……よし、出来た」
「おぉ!サンキュー!」
魔理沙からの純粋無垢な好意を受け、少しばかり気恥しくなってしまう。
そもそもアリスは彼女に何も教える必要はないのだ。かつて敗北を喫した者とよく似た相手に教える必要なんて、これっぽっちも。
それでも教えているのは、気紛れか。それとも別の何かか。
「そういえばさー」
「え?何?」
魔理沙の唐突な話題転換に困惑するアリス。
「アリスって、魔界ってとこ出身なのか?」
その困惑が、驚愕に変わったのはほんの一瞬だった。アリスは直ぐに平静を取り戻し、聞き返す。
「……どうやって知ったの?」
「いんや、あのスキマ妖怪が言ってたんだよ。だけど、あいつって信用ならないよなと思って、じゃあ本人に聞けば良いと思った訳さ」
「……なるほどね。──確かにその通りよ。私は魔界出身の元人間現魔法使いね」
アリスは落胆した。魔界出身等と言われたら、普通の人間は距離を置くだろう。だが、彼女は忘れていた。魔理沙は、普通の人間という枠に収まる常識人では無いことを。
「へぇ……じゃあ、魔界にしかない魔法とかって何かあるのか!?魔界って言う名前からして、魔法とか凄そうなんだが」
「……へ?」
魔理沙は、魔法バカである。幼い頃に、魔法に憧れて実家を飛び出したくらいには。負けず嫌いなのに、他人に教えを乞うくらいには。
魔界ですらも、魔理沙にとっては好奇の対象でしか無かった。
あっけらかんとした魔理沙の態度に、呆れながらも口角がつり上がる。
「ふふ、そうね……魔界は良いところよ。少しばかり退屈だけど、血の気があるやつらもいっぱい居るし、魔理沙なら楽しめるかもね」
「おー、なんか凄そうな所だな……」
「それに、強い魔法使いも沢山居るわよ。一人だけ私より圧倒的に強い方も居るし」
自分とかなり力の差があるアリス。その彼女より圧倒的に強いと言われる存在を知り、魔理沙は身震いする。
「アリスより圧倒的に強い?なんて名前だ?」
「……神綺。私の母親よ」
「へぇ……は、母親?まじか……母親居たのか」
「別にそこまでおかしいことじゃ無くない?」
「そう言われれば確かにそうだが……」
なんか違和感を覚えるんだよな、と魔理沙。
「あ、ちなみに母さんは魔界を創った神ね」
「は!?世界を創った神を母親に持つとかまじかよ……」
「ついでに言うと、『魔法』という概念を創ったのも母さんよ」
「……ちょっと、情報の整理が追いつかないぜ」
やれやれ、と首を横に振って理解出来ていないことを伝える。
ふぅ、とため息一つ。魔法使いたるもの、精神を安定させることは必須の能力だ。
「すまん、落ち着いた」
「じゃあ続けるわよ。──だから、正確に言ったら魔法使いじゃないのよね、母さんは。だって魔法を使わない方が強いもの。ただ持つ力が大きすぎて、魔法で戦っても強いだけなのよね」
「それは……無茶苦茶だな。会ってみたいような、みたくないような」
敵に回したくないな、と魔理沙は憂う。
と、ふと時計を見る。
「ん、そろそろ帰らないとな」
「ちゃんと帰れるの?」
「おいおい、普通の魔法使い様を舐めるなよ、アリス。当然帰れるに決まってるだろ」
「分かった。──気をつけてね」
魔理沙が帰った後、アリスは一人。部屋の中で本を開く。
ペンを取り、さらさらと何かを書いていく。
数分後、書き終わったかと思うと、表紙を一撫でし机の引き出しの中へとしまった。
彼女が何を書いたのか、それは彼女以外、誰も知らない。
次回は旧作キャラとかの解説をそれぞれの話に入れて投稿するから少し遅れるかもしれません……
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Ⅲ:とっても大人なけーね先生
幻想郷で生活する為に必要な事と言ったら何だ?
食料?違う。神である俺にとって、食べ物はただの嗜好品。娯楽であり、煙草や酒と変わらない。
衣服?違う。別にこの一着だけでも十分だし、そもそも同じ服など幾らでも創れる。
ならば何か。そう、住居だ。
住居が無いということは、野宿をしなければならない。俺にとってそれは、何よりも嫌なことの一つだ。
実は昔、野宿をしてみたことがあるのだが……虫は寄ってくるわ、寝心地は悪いわで、とてもじゃないが出来るものではなかった。
ということで、3分クッキングならぬ3時間ビルディングのお時間です!
場所は人里の近くの平原!用意するのは、『
……うーんこのチート。でも使っちゃう、便利だもの。便利なものを手放すことは不可能だって、はっきりわかんだね。
「
「
ヌゥゥゥゥゥゥンン!!ハァァァァァ!!(大迫真)
……まじで!いやまじで!厨二臭すぎ!ホント恨むわ昔の俺。
確かに技名発声しなくても発動自体は出来るんだけど、効果落ちちゃうし。流石に技名言わないで家を建築出来るかは分からないからな。
さぁ、回復したし早速創っていこうか。
どういう風に創ろうかな……和風か洋風か……。
──少女建築中──
「ふぅ、出来た……」
開始からきっかり3時間後。何とか完成させることが出来た。
一言で表すなら『白』とでも言うべきだろうか。とにかく真っ白な家であった。
外観的には、軽井沢の別荘とかにありそうな感じの家にした。
全体的に洋風で創ったのは、俺自身が和風より洋風の方が好きだからだ。日本人でも洋風好きは多いし、仕方ないよね。
内観も、しっかり家具類は創造してある。建築家にでも見せたら鼻で笑われそうな家だが、まぁ良く出来たんじゃないのかと思う。
早速、部屋のソファで寝っ転がる。普段魔界でこんなこと出来なかったから、なんか久しぶりだわ。あー、なんか眠く……なって……。
小鳥の囀りが聞こえる。カーテンの隙間から光が差し込み、俺を起こそうとしてくる。
ソファから身を起こし、身体を伸ばす。
「うぅーっ」
……どうやら寝てしまっていた様だ。色々な出来事が一度に起こりすぎて、疲れてしまっていたのかもしれない。またソファに倒れてそのまま二度寝したい衝動に駆られるが、鋼の精神で踏みとどまる。
さて、このままここでゆっくり暮らす……というわけには行かないだろう。そもそも原作介入する為に幻想郷に来たのに、ゆっくりしてたらいつの間にか原作始まってましたではお笑い草だ。
と、思案していたところ。
「おや?」
小さく二回、ノックの音が聞こえた。誰だろうな?とぼやきながら玄関を開くと。
何故かボロボロになっているスキマ妖怪さんが、笑顔を浮かべながら立っていた。しかし、彼女の後ろに般若が見える気がするのは気の所為か。
「こんにちは」
「あぁ、こんにちはだ。……一体、何の用だ?」
「勝手に建てたわね?この建物。ここは人里の近くだから、こう一夜にして建物が立つと、騒ぎが起きるのよ。やれ妖怪の仕業だ、やれ恐ろしいとね」
「……確かにそうだな。次は報告するようにしよう」
「そうして頂戴。説明するの大変なんだから。他の所ならともかく、人里の近くでは騒ぎすぎてはダメよ」
怒られちゃった☆
ゆかりんは正論で殴ってくるタイプやな……頭も良いし、正直敵対したくないわ。
力はこっちの方があるけど、どんなことをされるか分からない恐怖は余り馬鹿にならない。
あ、そういえばだ。
「なぁ、紫」
「何かしら?」
「幻想郷の地図とか無いのか?」
地図は欲しいよな、正直。求聞史紀に書いてなかったことを考えると望み薄ではあるが、もしあるなら是非入手しておきたい。前世の知識だけじゃそれぞれの場所の具体的な位置までは分からなかったからな。
「あるにはあるんだけど……」
「お?本当か」
「えぇ。けど、今は人里にあるのよね……自分で取ってきてくれない?」
これゆかりんサボりたいだけでしょ。まぁこっちが我儘言ってるんだし文句はいけないよな、うん。
「分かった。じゃあ、直ぐに行動するとしよう」
「頑張ってねー。人里の守護者に話はつけておくから、多分大丈夫だと思うわよ」
そう言ったゆかりんは、スキマの中へと消えていった。
そのスキマで連れて行ってくれればいいのに……(贅沢)
てか、人里の守護者……?あっ、けーね先生こと上白沢慧音か。
彼女は真面目だからな……ゆかりんと相性悪そー。
ま、良いかー。人里の場所は既に知っているから、今すぐ行こうかー。
はい着いた。ここまでの道のりはカットね、需要ないでしょ?
別に歩いてくるだけだったしね。余程の物好きでない限りは、そんなもの聞きたくないはず。
さてと、どうやって入ればいいのかな?このまま入ったら騒ぎになりそうだし。
またゆかりんに怒られちゃ~う☆
「む、お前が例の……」
出たァ(某ネコ型ロボット並感)
我らが先生、けーね先生!凛とした表情がよく似合う、銀髪の女性だ。
寺子屋で人里の子ども達に勉強を教えているのだが。堅苦しい授業が祟ってか、余り人気が無い先生だ。阿求にすら「私の方がもっと良い授業出来る(意訳)」と言われてしまう始末。可哀想……。
「あぁ、妖怪の賢者から話は聞いている。お前が神綺とやらだな?私は上白沢慧音。半分人間、半分獣人。ワーハクタクだ」
「なるほど。──では、知っているだろうが改めて。私の名は神綺、魔界の神だ」
そう言うと同時、彼女の目が限界まで見開かれる。
あれ、なんか地雷踏んだ?
「神、だと?……聞いてないぞ、あのスキマ妖怪め」
やっべ、まじ?じゃあ言う必要無かったなこれ。
神だから人里入れないとかないよね?オナシャス!センセンシャル!
「ん、大丈夫だ。神でも、別に人里に入ることは出来る」
「そうか。それは有難い」
セェェェフ!ん、あれ?何でこんな必死になってんだろ……?大体ゆかりんのせいじゃね?処す?処す?
「ただ、用が済んだら直ぐに出ていってくれないか。人里は余所者に厳しくてな、ましてやそれが神となると……非常に虫のいい話ではあるが、頼む」
「……いや、入れてくれるだけで十分さ」
──これは当然の処置だろう。
人里の人間からすれば、神という存在は力の象徴だ。人間が定めた道理すら容易く捻じ曲げ、簡単に奇跡と呼ばれる現象を引き起こしてしまう。
そのような存在が人里に入る。即ちそれは、核爆弾のスイッチを握る者が人里の中に紛れ込むことに等しい。
だから慧音の対応は至極真っ当だ。寧ろ門前払いされなかっただけ有難いと思うべきだろう。
「そうか、そう言ってくれると助かる。──では、行こうか。手短に済ませてしまおう」
彼女の言葉を皮切りに進み始める俺達。
人里の中はとても賑やかだった。喧騒の声が響き渡り、昼から酒を飲んでいる者も多い。
だが、俺が近づいた途端に静まりかえる。やはり余所者は冷遇される傾向にあるのか……悲しいなぁ。
「……すまないな」
と、唐突に話しかけてくる慧音。
「何がだ?」
「こうなると分かっていてお前を里に入れたことだ。私が地図を持ってくれば良かったというのに、私は……」
「それは違う。私が、地図を手に入れる為に来たのだ。だから私が行くべきであり、慧音がそれを気に病む必要は全く無い」
下を向いていた慧音は、ハッとしたように顔を上げる。
しかし、彼女は本当に真面目だ。全く言う必要が無いことまで言ってしまうのは、さぞかし生きづらいだろうに。
だが、嫌いではない。
「そうか……」
再びの沈黙。だが、辛くはない。何だか妙に心地良い。
コツコツと、地面を蹴る音のみが響く。
「着いたぞ。ここに置いてある」
慧音がそう言い指を差した先には、和風の建物が。
ここが寺子屋か……?地図がここにあるのか、なんか慧音先生らしい置き場だな。
「あ、けーねせんせーだ!」
「けーねせんせい、わかんないとこあるんだけどおしえてくれねーか!」
「せんせー、そのひとだれ?」
中に入ると、沢山の子ども達が慧音を出迎えるかの様に騒ぎ出す。
というか、なんだ。慧音、全然好かれてるじゃん!誰だよ、人気が無いとか言ったやつ!(俺)
「ハイハイ、お前達、落ち着け。今日は自習と言っただろう。大人しくしないと……」
「ずつきこわーい」
「けーねせんせいのずつきいたいからやだー」
けーね先生の頭突きはもはや観光名所(?)
俺も食らってみたいけど痛いのも嫌だからなんとも言えん……。
「全く、ほら行くぞ神綺」
「分かった」
擦り寄ってくる子ども達を引き剥がしながら向かうは慧音の部屋。
少し歩けば、直ぐに着いた。
「ここが私の部屋だ。……さてと、どこにあったかな?」
慧音は部屋を漁る。彼女の部屋は綺麗に整頓されていた。
なので必然、直ぐに発見出来る。
「あぁ、あったあった。はい」
「ありがとう、慧音」
チラッと見ると、その地図はかなり詳しく書かれている。
一体誰が書いたのかは分からないが。
「さて、これで大丈夫だよな?」
「もちろん。助かった」
「じゃあ」
「あぁ、直ぐに出ていくさ」
そう言うと、俺は彼女に背を向け、部屋を出ようとする。
「……神綺!」
「……私は!もし人里が人外に慣れることが出来たのなら──お前を歓迎しよう!」
「またな!」
……そうか。やはり慧音は良い奴だ。
俺は振り返らない。ただ静かに、彼女に向かって右手を振った。
「さて、どこに行こうか」
人里から出た後、俺はそう言った。だが、既に行き先は決まっている。
アリスが住む、魔法の森だ。
評価のバーが赤からオレンジに変わってモチベ低下中_(:3」∠)_
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Ⅳ:再会
大学に合格して、新生活にも慣れてきたので久々の投稿です申し訳ありませんでした!
……まぁもう誰も見てないと思いますが(笑)
何も、誰も辺りに気配を感じない。
ただ、自らの足音のみが響く。
草木の感触が身体に染み渡る。今世初の感覚に、俺は感動していた。
魔界にこんなにも自然豊かな森は創ってなかったしなぁ。
──そう、俺は今、魔法の森に来ている。
我が最愛の娘、アリスちゃんに会うために。
「〜〜〜〜〜♪」
鼻歌交じりに森の中を進む。
森に生息するキノコの瘴気や幻覚は魔法の祖たる俺からしたら何の痛痒も感じない。
しかもこの森、魔力の促成作用があるっぽい。なるほど確かに、魔法使いからしたらここは最適な住処だろうな。
「……ん? お、これは珍しいキノコだな。見たことがない。あっちにもこっちにも。拾っていくか」
珍しいキノコをたくさん広いながら着実に進んでいく。するとすぐ近くに生命反応があることに気がついた。
この懐かしい反応は……間違いない。アリスだ。──うーん、会いに来たとはいえ、いざ顔を合わせるとなると妙に緊張してしまうな。どういう風に声をかけるべきか……偶然を装うべきか、それとも会いに来た風にするか。想像してみることにする。
「久しぶりだな、アリス。幻想郷に住むことになったから会いに来たぞ!」
「え、ママ!? 久しぶり! ……幻想郷に住むの!?」
「あぁ」
「やったー! これでママともいっぱい話せるね。えへへ」
うーん、我が娘ながら想像の中でも可愛いなぁ。
これで行こうか、ヨシ!(現場猫)
ーーーーーー
アリス・マーガトロイドは、外に出ていた。
特に目的もなく、ぶらぶらと。今日も友人である魔理沙と魔法談義をするという予定がこの後にあるので、その暇つぶしでもあった。
しかし、しばらく歩いていると己のそれとは別の足音が聞こえた。魔理沙の音でもない。というより、森に歩き慣れていないような音なので、ほぼ確実に森の外から入ってきた者だろう。
(珍しいわね。こんなところに外から入ってくるなんて。外来人かしら)
この魔法の森は、茸が幻覚を発したり強い魔力が漂っていたりして、大妖怪レベルの存在や魔法使いなどでない限り気分が悪くなり、耐性がない者は最悪死に至ることすらある魔境。
故に外から何かが入ってくることはほとんどない。ただ、ごく稀に外来人が入ってくることがあるので、それかなとアリスは推測する。
(うーん、でもそこまで慌ててなさそう? じゃあ違うわね。一体……?)
外来人はたまに幻想郷に来るが、その全員がとても慌てていた……らしい。アリス本人も一度だけ魔法の森で外来人を拾ったことがあるが、その慌て具合はひどいものだった。まぁいきなり知らないところに居たら錯乱してしまうのは無理もない。
そうなると、足音の正体としてアリスの脳裏に思い浮かぶのは妖怪の賢者や、彼女に匹敵する存在である大妖怪。それらに遭遇したら、例え本気を出しても無事に生き残るのは難しい。
魔法発動の用意をして待機する。そして出てきたのは──
──銀髪の少女だった。見覚えのあるその顔、容姿。
思考が一瞬停止する。なんたってそれは、間違いなく己の母のもので。
「久しぶりだな、アリス!」
「な、なんで、ここに?」
口が震え、声が上擦ってしまう。
本来神綺という女神は、ほとんど常に魔界にいるのだ。友人に会いにたまーに地獄へ行くくらいがせいぜいであり他の世界に来ることは絶対……とまでは言わないもののほぼ無いと言っていいくらい。
彼女の存在自体が一種の抑止力のようなものであり、動くとそれだけでありとあらゆる世界が震撼するほどの絶大な影響力を持っているというのに一体どうして……と、アリスは疑問に思う。
「まぁ、そうだな……色々苦労したけどな。お前の成長を見たかったんだよ」
「そ、そうなの……」
「ま、こう見るだけでも成長は感じ取れるがな。私よりでっかくなって」
「母さんは魔界の人の中でもかなり小さい方だもんね」
思わず口元が緩んでしまう。
まさか自分をここまで見てくれようとしていたとは思わなかった。とアリスは思う。
「ところでお前が普段どんな生活をしてるか見てみたいんだが、家に行ってもいいか?」
「え、うーん……」
考える。今日は魔理沙が来る。彼女に何も話してない以上、本来なら連れていくのは良くない。
けど幸いにも、彼女はこの母親のことを知ってる。それに、神綺は魔法の祖。何か、魔理沙の成長を促す教えを与えてくれるかもしれない。
「……友達がいるんだけど、彼女に許可取ってからでいい?」
「もちろん。……そうか、友達がいるのか。なら私も挨拶させてもらわないとな」
「え」
「ダメか?」
「うーん……分かった。じゃあとりあえず行こう?」
「そうだな」
そう言って、神綺はアリスの手に自分の手を絡ませる。アリスは顔を熟したリンゴのように真っ赤にして、
「ちょ、わざわざ手を繋がなくても」
「む、嫌か? すまん」
「…………別に、嫌じゃないけど」
口を尖らせて言う。そう、アリスは別に嫌ではないのだ。ただ、ちょっとばかし恥ずかしいのと、子ども扱いされているのではないかと不満を感じているだけで。
ここからアリスの家までは近い。数分歩けばすぐに着くであろう距離。恥ずかしがりながらも、ギュッと神綺の手を強く握った。
ーーーーーー
アリスの家は、こじんまりとした木造建築だった。
神綺はそれを一目見て呟く。
「……ほう。少し壁に触ってもいいか?」
「良いけど……なんで?」
「あぁ、少しな」
ぼかしながら彼女は家の壁に触った。そのまま数秒。
「……綺麗な術式だな」
「んぇ?」
「この家にかけられている魔法のことだ」
アリスは驚いた。まさかこんなに短時間で見破られると思っていなかったからだ。
彼女の言う通りこの家には魔法がかけてある。自分の身を守るために何年も時間をかけて作り上げた、今の自分にとって最高の魔法を。
更にそれを隠蔽する術式も加えてあるため、並の魔法使いでは魔法の存在にすら気がつかない。現に魔理沙も気がついていない。
それなのにこの母は一瞬で見抜くだけではなく、術式を解析したのだ。もし自分がこの術式を知らなかったら解析に丸三日要すであろう複雑怪奇な術式を、数秒で看破したのだ。
(すごい……)
これが魔界神。これが魔法の創造主。
自分がこの領域にたどり着くまでどれだけかかるのだろうかと、アリスは考えてしまう。
「──ぉーい? アリス? どうしたんだ?」
「え、あっ、なんでもないわよ?」
心ここに在らずといった状態でボーッとしていたアリスだったが、神綺の一声でなんとか戻ってくる。
気を取り直して、神綺に告げた。
「じゃあ、ちょっと伝えてくるから。待ってて」
「あぁ、ここで待ってる」
神綺を家の前に待たせて、アリスは自分の家の扉を開ける。
玄関を駆け足で通り過ぎて、リビングへと向かう。
そこには既に家の中にいて、椅子に座っている魔理沙が。
「お、アリス。帰ってきたのか」
「えぇ、ただいま。じゃなくてね!」
「?」
「驚かないで聞いてね? その──」
アリスはここまでの経緯を話した。魔理沙は椅子から転げ落ちた。
「──うぉい! マジかよ! お前の母親が来てるのかよ」
「えぇ、そうね。……いきなりだけど、魔理沙。貴女にも会いたいって母さんが言ってたんだけど……」
「え、私にか!?」
魔理沙は驚き飛び跳ねる。あたふたと慌てて本を落とした。
「おいおい、なんで私に……」
「貴女に挨拶したいらしいわよ。……でもいいじゃない?」
「え?」
「だって母さんは魔法を創ったから。魔理沙は、確か今魔法についてで悩んでいることがあるんでしょ? あの人ならわかると思うわ」
「うーん、でもなぁ……それを製作者に聞くのってなんかズルい気がしてこないか? 答えを聞くのはちょっと違うんだよなぁ……」
「じゃあ、ヒントだけでももらえば?」
それなら大丈夫でしょ? とアリス。魔理沙はポン、と手を叩き、
「それだ!」
確かにそれくらいなら、今の状況を打破するきっかけにもなるかもしれないと目に見えて上機嫌になる魔理沙。アリスは思わず苦笑いがこぼれる。
「……じゃあ、会ってくれるってことでいいのね?」
「おう!」
「母さん、入ってきていいわよ」
魔理沙から了承を得たアリスは、一度外に出て神綺を呼び寄せた。神綺は驚いた顔で、
「いいのか?」
「えぇ。了承、得られたわよ」
「そうか。それは助かる」
「でも次はちゃんと事前に伝えてね?」
私も暇じゃないんだから、とアリスは不満を漏らす。バツが悪いのか、目を逸らす神綺。
「あーその、すまん」
「ふふっ、いいわ。ありがとね、来てくれて」
アリスは小さく笑った。
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