流行らない居酒屋の話 (ノイラーテム)
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閑古鳥の鳴く店

 遠くでガタンガタンと列車が往来する音が聞こえる。

 締め切られた居酒屋には客が居らず、相談する二人の男がいるだけだ。

 

「これは?」

 六席あるカウンターの一つに座った男はテーブルに並べられた料理を眺める。

 丼が一つ、お茶とみそ汁が据えてあった。

 これが二人分用意されており、食事しながらお話という事である。

 奥に一卓だけある小上りは、考案されたメニューの品書きが悲しそうに積み上げられていた。

 

「昨日使わなかったマグロで作ったヅケ丼。上下で味を変えてある」

「豪勢だな。喰わなきゃ捨てるしかないってのが笑えねえが」

 店主の説明に男は丼の蓋を開きながら苦笑いを浮かべた。

 生の醤油に漬けたマグロが載っており、おそらくは飯の中ほどにも埋まっているはずだ。

 

 残り物で作ったにしては工夫が凝らしてあるが、ちっとも褒める気にはならなかった。

 何しろマグロと言えば刺身のメインを張れる王様である。

 他の料理に使えることもあり、こんなに残っていてはいけない代物だった。

 

「お前さんがオレに奢れるほど成功してるとは思えねえ。やっぱ人が来ねえのか?」

「ああ。腕は悪くないつもりだが……何が悪かったのかねえ」

 若い生醤油はいかにもと言った醤油の味がする。

 もろキュウに使うもろみの味だな。なんて男が思いつつ深い所まで食べていくと、埋まっているマグロは言われた通り別の下味で漬けられている。まろやかな煮切りの醤油に味醂やら使って濃い味付けに調整されており、上のマグロは生醤油を愉しむためのもの、挟まれている方は漬け込まれたマグロを愉しむ為の物だろう。

 

 途中でお茶を一口含むと、味の対比を確認しながら残り三分の一まで食べ進んだ。

 その段階でお茶との相性を考慮されていることに理解は及んでいるので、お茶漬けにして味の変化を愉しむことにした。

 

「何が悪いって何もかもだよ。沿線とはいえ支線も良い所でベッドタウンがあるわけでも娯楽施設があるわけでも無し。オマケに過疎化が進んで周囲はシャッター商店街と来た」

「叔父さんは此処で上手くやってたそうなんだがなあ」

 ここの店主とは昔馴染みだが、伝奇小説よろしく『叔父さんの遺産を受け継いだ』とか言って、働いていた店を円満に辞めた後で此処に店を開いたのが半年ほど前のことだ。

 以来、お客はまばらで閑古鳥がすっかり泣いている。

 男はコンサルタントをやってることもあり相談を受けたのだが、僅かとはいえ客の前でやるわけにもいかず、昼間から一緒に豪勢な残り物を片付ける事に成った。

 

 それはそれとして正式な依頼ではないのでまだ調査まではしていないが、この界隈には他にも否定すべき事案がある。

 郊外なのに工場は無い、オフィスはない、オマケにライバルにも仲間にも成れるコンビニまで少し離れた場所にあると来た。

 

「よほど上手くやってたんだろ。つーか、そもそもまだ半年だぞ? そのくらいは赤字上等なんだよ。第一、叔父さんに紹介受けたわけでも『暖簾分け』したわけでもないんだろ」

「そりゃまあそうだが……」

 店主は元から料理人だったが最初から独立狙いだったわけではない。

 良い立地と悪い立地の区別など知らず、ノウハウも持ってはいなかった。

 物覚えは良く小器用にこなす方だったので、場所に合わせて居れば何とかなると思っていたらしい。これが叔父さんの引退で入れ替わったのならば、もう少し客も居ただろう。

 

 ここから更に落とすのは簡単だが、男は良い面も口にする事にした。

 依頼料は出世払いとはいえ、依頼人には違いないし長年の友人である。

 やる気を削ぐのはどうかと思うし、改善するならばするべきなのだ。

 

「まあライバルは居ねえんだ。大通りは離れてるとはいえ沿線でバスも通る道の前、ライバル自体が居ないとそこだけ聞けば好立地なんだ。客さえつかめばどうとでもなるよ」

 まだ過疎化が進み切ったわけでもない。

 周囲もベッドタウンではないとはいえ、開発が進む可能性がゼロではないのだ。

 コンビニの立っている大通側ばかりでこちら側はそうならない可能性もあるが、大規模な投資をしたわけでもなく受け継いだだけなのだ。経験を貯めつつ場所を変更するとか、傷が深くない内にさっさと見切りをつけるとかやりようがあるだろう。

「具体的には? とりあえず色々なモンを並べてみたけどそれ以前の段階だったよ」

「そりゃな。家でも飯は食えるのに、良く知らない店で創作料理とか出されたらゾっとしねえしな。まずは定番の品に絞って、そいつがあれば安心して呑めるようにして見ろよ。お客の懐にも店にも優しい鳥料理とかサラダお勧めな」

 男はそう言いながら店主の差し出したお品書きを分類し始めた。

 食べたことがあって美味いとはしっているが、ガーリックチャーハンみたいな腹を満たす料理は除外。そういう意味ではこのヅケ丼も論外かもしれない。他にも呑み屋でよく見かける料理をことごとくサイドメニューと書き綴って分けてしまい、品書きは幾らも残らなかったのである。

「頼めばサイドメニューや裏メニューが出てくるのはいいけど、呑み屋の本命は酒。そして酒の進むアテだぜ?」

「判ってるよ。もう少し考えてみる」

 わずか数枚のメニューを見て店主は人生を否定されたような気がしてガックリと来た。

 繰り返すが彼は小器用な性質であり、一品にのめり込む性質では無かったのだ。

 これぞ! と鼻息荒くするような料理はついぞ覚えがなく、何を作ろうか迷うのであった。

 

「後はそいつを中心に据えて、飲み方に合わせたセット価格にしとけば人は来るさ。一杯ひっかけて帰る客、本腰入れる客、ダチと騒ぎたい客。みんな違うだろ?」

「だな」

 場所が場所的に席料を取るのは難しい。

 お通しは不要な客も居るだろうし、間に合わせで出すなら低価格で。

 酒を呑んだらお通しはタダということにすれば、一杯だけなら安価に見える。

 そして本命は小鉢のセットで、あとはそいつの数を出すか、それとも酒を付けるかの差でしかない。

 

 以上が友人の出した改善案であり、店主は夜までメニューの推敲に頭を悩ませるのであった。




 ふと思い立って、お試しで書き始めてみました。
キャラの個性とかは次回から。もしかしたら順番が変わって先に来るかもですが。

なお背後は別に料理屋とかやってませんし、ツッコミどころはあると思います。
何処かでみた料理ばかりに成りそうですが、笑ってスルーしていただければ幸いです。


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庭には二羽ニワトリが居る

 居酒屋の新米店主である、小沢健は頭を悩ませていた。

 絞りに絞ったメニュー造りに加えて、セットメニューの価格帯を納得するまで決めろと言われているからだ。

 

『いいか? この先、どっちも正解でどっちを選ぶかは人それぞれなんて幾らでも出て来るんだ。どっちにするかは自分の答えを見つけねえとな』

 そういって渡されたメモ書きには、『小鉢のサービスセット1000円』と書かれている。

 ただし小鉢が幾つなのか、何をサービスするのかも書いてはいない。

 友人曰く。小鉢三つで1000円なのか、それとも二つで酒を付けるのかで狙いが変わってくるという。

 

 仮に小鉢一つが400円、頼まれ易いビールや日本酒も400円くらいと仮定して……。

 どちらを選んでも200円のお得というのは変わらないのだが……。

 

 三つをセットにした場合は腹が膨れ、満足するまで酒を注文してくれる可能性がある。

 仮に定番のメニュー二つに三つ目の小鉢を店主が選ぶとすれば、余裕のある(余りがちな)食材を消費することもできる。逆に原価率の高い商品を中心に据えて、味で満足してもらう事も狙えるだろう。

 しかし馴れて来ればともかく最初から三つも欲しがる客が居るかを思えば、酒を含めて1000円を超えることもあって少々注文までの敷居が高い。

 

 一方で二つの場合は酒と料理のセットという意味では完結している。

 1000円払えば最低限の満足を得られるとあれば、客足自体の改善に繋がるだろう。

 だが逆にお客の注文はそこで止まる可能性が高い。

 この店に客が訪れない現状で心配するのは噴飯物だが、料理の味がよほど良くなければ、『この店は1000円消費して帰る店』であると発展の余地がそこで止まる可能性すらあった。

 

「……やめやめ。どっちを選んでも料理の腕を上げれば済む話だ。先にメニューだな」

 友人だってどっちでも同じだと言っていたではないか。

 健は小器用で何でもこなせる反面、この手の突き詰める作業が苦手だった。

 だからこそ友人も『まずは自信をもって進められる定番料理だけに絞って習熟した方が良い』と言ってくれたのではないのか? そう思ってメニューに向き直ることにした。

 

「まずはオススメの鶏肉として……。山賊焼きの男焼きと女焼き辺りにしてみるか。丁度良いサイズがあったっけ」

 健が用意したのは小ぶりのモモ肉だった。

 骨が付いたままの足をスパイスに漬けて焼くという流れは同じモノだ。

 物語に登場する山賊が、ガブリとやってる姿を思い浮かべて欲しい。

 

 そして一からジックリと焼くのが男焼き。

 軽く煮込んでから、表面をパリっとさせるために焙るのが女焼きと呼ばれている。

 元居た店の師匠に聞くと、お伊勢参りの途中で出て来る焼き物の魚を参考にしたらしい。

 お伊勢参りではお客が山の様に来る時がある為、時間がない時は煮込んでから表面に焦げ目だけを付けるそうだ。

 

「タレとスパイスの配合は当然変えるとして……。いっそのこと片方は骨のない肉にしてみるか。豪快な方と食べ易い方って分けれるしな」

 元の店とまったく同じことをするわけにもいかない。

 レシピを変化させつつ、途中で蜂蜜を塗ってみたり粉を振って揚げてみたりする。

 しかし最終的に辿り着いたのは、煮込む方には骨を付けないというだけの変化だった。スパイスの配合や色合いを変えておけば問題はないだろう。

 

「んー。この味付けって手羽先にも使えるかな? 片方はシンプルに塩と胡椒にして、もう片方は照り煮にするとか」

 片方は季節によって柚子胡椒だったり、抹茶を混ぜたりする。

 もう片方は食べ易さ重視でホロホロと崩れるまで煮込むか、いっそのこと圧力鍋を使ってから持ち込むのもアリかもしれない。

 他にも味噌を使ったりニンニクを自家製の黒ニンニクにしてみたりと、細かい変更をして、あくまで同じ傾向の料理だけに絞ってみた。

 そうする内に、他愛のないことだと思っていた問題に気が付いた。

「今時……男焼きも女焼きもないよなあ。それに……セットにするなら、コレと合わせる料理を用意するのか」

 名前の方は適当に付ければいいとしても、合わせる料理の方は難題だった。

 一つはサラダを組み合わせれば良いとしても、他にも幾つかないと駄目だろう。そうなって来ると味付けの微妙な差にどう合わせるのかも変わって来るのではないかと思われた。

 

「一つ考え終わるとまた新しい面倒が出て来るな。……確かにこいつはたくさん用意するより、得意分野に絞った方がいいわ。時間がいくらあっても足りそうにない」

 そう言って友人が作ってくれた簡単な看板にメニューを張ってみた。

 それは四角い板に柿渋を塗って、赤茶色に染め上げた物だ。

 その上に白い紙が載せれば鮮やかに目立つし、色合い自体は渋いので郊外の店にも似合っている。

 コレを店の外に出して目を引いておき、中で開くメニューはもっと目に優しい色にするという具合であった。

 

 そして最後に思い至ったことが一つ。

 今までは色んな料理に手を出して来たが、こだわった料理も悪くない事。

 そして作った料理を人に勧めてみて、喜んでもらうのも悪くないと思えてきたことだ。もちろん今は客が居ないからこそ、寂しかったり時間を余らせているのもあるだろうが。

 

「となるとセットメニューは小鉢三つの方だな。客に選んでもらうのと、俺がお勧めする一品くらいで行くか」

 後はどんな料理をメインに売っていくか?

 一つ課題を終わらせながら、残る課題に思いを馳せるのであった。

 

『お通し』

 200円。酒を頼んだら無料。

 

『セットメニュー』

 小鉢三つで1000円。定番メニュー二つと店主のおすすめをどうぞ。

現在は鶏の山賊焼きや手羽先の唐揚げを用意しております。

 

『大皿』

 1500円。大盛りは2000円。




 という訳で第二話はニワトリの話です。
書き始めとあってパっと書けたので、サクっと二話目になります。
料理はできても新米店主だった男が徐々に成長していく感じ。

主人公『小沢健』、そのうち出て来る妹は『美琴』。
死んだ叔父さんは『小渕猛』で名前の読み方が同じなので割りと仲が良かった。
『小崎丈』という親戚も居るとか居ないとか。
たぶん曾祖父あたりにタケルという名前のエライ人でも居たのでしょう。


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三回目はそっと出し

 まばらな客足というのは変わらないが、看板の効果が少しはあったのか徐々に増えはしてきた。

 どうしてこれだけのことで変わるのか悔しく思うが。

 たったそれだけのことを思いつけなかったのかという疑問の方が、より比重は大きい。

 

「いらっしゃい。今日は何のセットにします?」

 その日も数少ない常連の一人がカウンターに座る。

 秘かにカッパさんと呼んでいるのだが、決して頭に皿などない。

 くたびれた帽子を必ず脱ぐのだが、もちろん生え際は後退などしていなかった。

「もろキュウとキュウリのタタキ」

「あいよ」

 理由としてはその客が必ずキュウリを頼んでいくからだ。

 常連であり安価なキュウリで済ませてくれるという非常にありがたい客なのだが、心の中だけとはいえついカッパさんなどと呼んでしまうのも仕方あるまい。後光がさしているなら拝んでも良いくらいだ。

 

 ともあれ早速の注文なので取り掛かろう。

 キュウリのタタキは棒で叩いてから刻んだニンニク他と和えたもので、ニンニクの強烈な臭いが良いらしい。一度お試しで自家製の黒ニンニクを出してみたが、臭いが薄いのと甘くなるので首を振られてしまった。仕方ないので黒ニンニクは後日チーズと合わせることにする。

 

「キュウリのタタキ、おまち。日本酒で良かったですかね?」

「ああ」

 時間が掛からないこともあり先に一品出しておいて、オススメの鶏肉に取り掛かる。

 スローペースで舐める様にキュウリを少しずつ食べるので、余裕を持って間に合うはずだった。最初のキュウリが尽きた頃に、もろキュウを用意するのがこの人に対するルーチンと言えるだろう。

 

 ただそれだけでは惰性に成り果てる。

 二種のキュウリのうちどちらでも良いのに、あえてタタキの方を先に出したのには理由があった。叩いている分サイズに差ができるので、カッパさんがどの程度のサイズが好きなのかを見測る為だ。

 適正サイズを測ってから、もろキュウに使うキュウリの厚さを変化させることにしていた。

 

(不揃いのキュウリで作った浅漬けをサービスしてみるのも良いか。原価は安いもんだしな)

 鶏の骨付きモモ肉をタレに漬けてジックリと焼いていく。

 サービスというだけならば、少し大きめの肉でも良いのだが、これだけキュウリが好きなら浅漬けの方が喜ぶかもしれない。

 もっとも客が居ない事に同情して安いキュウリばかり頼んでくれているかもしれないので、油断は禁物なのだが。あるいは最初に出したのもこの山賊焼きなので、タレの甘さと喧嘩しないキュウリを選んだだけという可能性すらあるのだ。

 

 勝手な思いで折角の常連客の気分を害しても逆効果だろう。

 キュウリが好きなのか、他に意味があるのかも観察していたが、焼き上げの中でも気を付けうところに差し掛かったので考えを中断した。

 

「山賊焼きの男や……。っとワイルドです。もろキュウはもう少し後で出しますね」

「そうしてくれ。それと、次はぬる燗で」

「あいよ!」

 骨があってジックリ焼く男焼きはワイルド、骨なし肉を軽く煮込んでから焼く女焼きはマイルドと名称を変更。

 どっちも出したことがあるが、カッパさんはワイルドの方を気に入っているらしく、早速ガブリとやってから残った冷酒を呑み切りに掛かっていた。

 

 ぬる燗を供した所で、キュウリを縦に割っていく。

 横に切っても縦に切っても良いのだが、骨付き肉を喰らいながら箸休めにするならこちらだろう。醤油を作るときに出る『もろみ』を分けてもらっているので、これをベースにした物を掛ければ完成だ。友人は素人でも美味しくできる料理は厳禁だと言っていたが、コレばかりは別だと言っていたくらい酒との相性も良い一品である。

 

「今日はスティック型にしてみました。良ければ余りで作った浅漬けも一緒にいかがですか? お通しと同じでサービスしときますよ」

「もらおう」

 即座に応える辺りよほどキュウリが好きなのだろうか?

 もろキュウの瑞々しさで鶏肉の油でも流してるのかと思う程に、パクバクとキュウリを食べていく。それはそれとしてオマケで出すとはいえ、浅漬けなんかジップロックに入れて漬け込めば家庭でもできるのだが、不思議なものである。

 あるいは酒好きで好きでたまらず、時間を掛けてつまめる上に、もろみを肴にして呑めるのを好んでいるだけかもしれない。実際、指先に付いたもろみ(・・・)を舐めて酒を流し込む姿は、小説で出て来る戦国武将を思い出さなくもなかった。

 

 そんなことを思いながら昨日の残りで作ったキュウリの浅漬けを取り出す。

 料理にも使っている生の醤油を使った物で、日が経っておらず若い状態であることもありツンと香りが漂った。

 これをまずはお通し様の小皿に入れて様子を見る。

 他の料理を作った時に出る手屑で作った場合は、この程度の分量が丁度良いだからだ。

 

「気に入ったら教えてください。小鉢で用意しますんで」

「その時はもう一本付けてくれ」

 ぬる燗の入った御銚子を振りながらカッパさんが答えるが、その時になってようやくミスに気が付いた。

 もろキュウも浅漬けも生醤油と同じ味わいである。

 どうせ進めるのであれば、キュウリのタタキと前後して出せばよかった気がする。それならば山賊焼きを挟んで、味が変化するからだ。

 

 まだまだ未熟だなと思いつつ、そろそろ次の客が来ないかなと心配をし始めていた。

 ついこの間までは常連の一人でも付けば大切にすると言っていたのに、この有様とは我ながら浅ましいものである。




 という訳でわずかばかり改善。
といっても常連と言えなくもない客が現れ、少しずつ客足が出た程度ですが。
おそらくちゃんと宣伝してれば居てもおかしくない人たちが来てるレベルだと思いますが。


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四月には四月の肴を

 朝の魚市へ早めに顔を出し、人手が足りてない所で二時間ほどアルバイト。

 金でもらう方が多いのだが、今日は現物でもらう事にした。

 普通の料理屋では使わないサイズの小さなやつを選べば、それほど高くないのでお互いにウインーウインである。

 

「今日は煮付けにしてみるかな」

 健は最近になって気が付いたのだが、客の中には後味を引く肴で一杯やる者が少なくない。

 場合によってはチビチビとつつきながら、お気に入りの料理をアテにして酒をかっ喰らう。

 いや、酒飲みはそういう物だと頭では知っていたのだ。

 しかし以前勤めていた店は呑み屋遣いできるとはいえ料理屋であり、酒に合わせるなら味を濃くしろだとか、腹にたまる物は勧めない方がいいというコツの方が重要だった。

 

 そして友人が数あるメニューの中から、定番に入れても良いと残した中に魚の煮つけが幾つかあった。それは『ブリ大根』に『カレイと豆腐の煮つけ』、普通に人気のあるメニューだったから気にもしなかったが……。あれはもしかして、酒の肴としてピッタリという意味ではなかったのだろうか?

 

「この季節ならメバルだよな。押し付けられたタケノコと合わせてみるか」

 魚市なので小ぶりな魚だと驚くほどに安い。

 ちゃんと売れてくれれば赤字は出まいと思いつつ、念のために豆腐を多めに購入しておいた。煮付けと共に煮込んだ豆腐はトロリと軟らかく、これまた味が染みて美味しいのだ。もちろん盛り過ぎたら他の料理が売れなくなるが、そこは適当に見極める事にした。

 なにより酒が売れてこそ居酒屋なので、最悪、日本酒が出るなら料理には目を瞑るべきか。そういう意味で豆腐は万能なのでありがたい。

 

 そういえばこの手の魚の煮つけ。

 家庭でも十分可能な料理なのだが、最近になって難易度が上がっているらしい。家で料理をしない人が増えたからではなく、安売りの醤油で煮こんでも色合いが変わらないし味も付きにくいのだ。もちろんスーパーで買える値段としては奇跡の価格帯であり、日本人に欠かせない調味料としては素晴らしい品と言えるのだが。

 

「醤油と言えばコイツも手早く使い方を決めないとな」

 生醤油は美味しいし薫り高いが、最初の味わいが持続しない。

 消費期限は一年以上保つのだが、ピンと際立った風味は最初の一カ月だけ。それ以降はゆっくりとまろやかな味わいに成ってしまう。

 徐々に客足が改善されているとはいえ、売れ行きが底辺である以上は消費しきれないのは間違いあるまい。

 

 いっそのこと煮切って自分流の味付けまでやってしまうか?

 そんなことを思いながら健は、下処理を終えたメバルの調理に取り掛かった。

 

「しかし……。必要性に合わせて作るのは面白くないな。赤字が何とかなったら、俺が作りたい物でも作ってみるか……」

 健は小器用で教えられたことであれば大抵の料理は作れる。

 しかしコツが重要だったり、深みが重要な物になると経験が足りないのだ。

 今は赤字路線が少しだけ改善されているだけで、黒字経営にはまだ遠い。もし自分だけでやっていくのではなく、アルバイトなり雇うとしたら再び赤字に真っ逆さまだろう。

 

 だが目標が無ければモチベーションが保てない。

 そう思って作業の合間に何を作りたいかを考え始める。ある程度冷ましながら仕上げをする時など、その空白の間に余計なことばかり考えていた。もしこれが試食用でなければ、ベストのタイミングを逃していたかもしれない。

 

「俺のことだしどうせ迷うんだ。あとでゆっくり考えるか。さてと……どれがいいのかな」

 健が用意したメバルの煮付けはおおむね三種類だ。

 メバルだけを味わうため、その風味を豆腐に移した物。

 大量に採れるタケノコを押し付けられ、処分も兼ねて一緒に煮込んだ物。

 そしてタケノコも豆腐も一緒に煮込み、崩さないようにまとめて盛り付けた物になる。

 

「うーん。豆腐もタケノコも良いが、どっちかだけにした方が良さそうだ。味の濃さなら豆腐、歯応えの対比ならタケノコかな」

 メバルの味を引き出しつつ濃く味付けた後、豆腐に吸わせる形にした物は味わいが深い。

 味の濃さは鯛のカブト煮やブリ大根に劣らぬほどで、喉を焼きそうな甘辛さがたまらない。

 一方でタケノコの方は二つの素材を調整する為に、やや薄味にしあげてある。もっとも煮つけなので他の料理に比べたら濃いのは間違いないので、好みといえば好みだが(豆腐とタケノコを両方入れた物は、調整が面倒なので止めた)。

 どちらも似たような物なので悩むところだが、この日の健は判断基準を持っていた。

 

「やっぱりこっちかな。作る過程が豆腐の方がシンプルで良い。タケノコも作るけど、消費すんのはまた別か」

 一応両方作って用意はするが、多めに準備したのは豆腐の方だ。

 タケノコに合わせて調整しなくて良いのは助かるし、何より酒のアテとして見たらどっちが喜ばれるか……を想像して健は判断したのだ。

 濃い味の写った豆腐を箸で千切る様にして口に入れ、喉を焼く甘辛さをそれ以上の熱さを持つ酒で流すようにして楽しむ。

 タケノコの方も悪くはないが、どうしても歯応えを愉しむ料理になってしまいそうな気がする。

 山ほど盛ってパクパクとやるには悪くないが、酒を愉しむには豆腐の方が楽に愉しめそうだと考えたのだ。サービスで煮凝りを提供するのも面白いかもしれない。

 

 そしてその決断が、健に新しい発想をもたらしていた。

 

「濃い味付けか……。日本酒以外にビールに合わせるとしてローストビーフとソーセージに凝ってみるのも良いかもな」

 ビールの美味くなる夏前には、赤字から脱出したいと思いながら残りのメバルの下味を付けに掛かった。




 という訳で短い話と合って既に四話目です。
今回からようやく主人公に、何を判断基準にするかが決まって来ました。
自分の店の独自性を見つけるのは、まだ先に成りそうですが……。


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思わぬ誤算

 努力することが好きなら創意工夫という物は良いものだ。

 健はこれまでメニューを豊富にすることを第一にしてきたが、ひとまず深みやそのバリエーションに力を注ぐことにした。

「今日のオススメは何?」

「こいつです。煮凝りはオマケですがね」

 まずは器を三つ切りに分けた物を用意し、三種類のお通しを並べた。

 いずれも同じ料理を一口大に絞り、三形態のバリエーションで用意した物だ。

 

 一つ目は魚の煮凝り。

 二つ目は魚の味を移した豆腐の欠片。

 三つ目は魚と共に煮込んだタケノコの薄切り。

 

(豆腐が一番売れると思うんだが……。まあ今の客数だとタケノコの方でも問題ないかな)

 昼間に仕込んだメバルの煮付け。

 これを豆腐と煮込んだ物と、タケノコと煮込んだ物を用意した。味のしない豆腐の方を濃くしており、タケノコの方はもう少し抑えてある。酒に合うのは豆腐の方だとは思うが、他にも歯応えがまるで違うので後は好みの問題である。

 そし相手の利き手の位置へタケノコ側を、煮凝りを挟んで豆腐を逆手の側に置く。そうすることで味の濃い順番に食べることができる。

「お好きな方を後でお出しします。もし煮凝りがお好きな場合は、適当な食材を指定していただければ上に掛けてお出ししますよ」

「それなら熱いご飯が欲しいわね。はしたないけど最後の一杯に丁度良さそう」

 この返答を聞いて健はままならぬものだと思った。

 常連のカッパさんには『メバルは良いからタケノコだけ山ほど欲しい』なんて言われてしまった。解せぬ。やはり自分が好きな傾向の物を自分が好きなペースでつつきながら、酒を愉しむアテにするのが酒呑みなのだろう。

 

「お酒は日本酒にするとして後はそうねえ。ナムルとお刺身ちょうだいな。ナムルはもやしよね?」

「そうですね。あれが一番手が掛かりませんから。刺身とナムル一丁!」

 ナムルというのは茹で野菜にたれを絡めたサラダ系の料理だ。

 此処では生醤油と出汁醤油を適量で混ぜることで、香りの強さと甘みを調整している。今日に限ってはお勧めがメバルの煮付けで甘辛いと判っているので、出汁醤油は控えめで代わりに酢を入れてサッパリさせてあった。唐辛子とニンニクを入れてパンチを聞かせ、同じ醤油系でも甘露醤油を多めに使った煮つけとは違った辛さにしてある。

 

 そして刺身の盛り合わせをナムルの少し後に出す。もちろん丁寧に処理したメバルも入っているので、煮つけとは違った楽しみ方だ。他にはイカと貝類の中でその日の市場で手に入り易かった物を盛ってある。最後にメバルの煮つけを小鉢で出してから、飯を茶碗によそって煮凝りは別の小鉢で付けた。

 

「今日は薄味のものばかりね。こうなるとこないだのシラウオも欲しく成って来るけど」

「すいません。今日は手に入らなかったので」

 煮付けのような濃い強い料理と、味の強い赤身の刺身は並び立たない。

 もちろん酒やお冷で口を洗ってしまえば別だが、それならばいっそ最初から薄味の白身魚の方が良いだろう。その中でもメバルを刺身と煮つけの対比で演出しているので、後はイカや貝類でまとめた形になる。刺身醤油としては生醤油と甘露醤油を用意しているが、この日ばかりは生醤油がメインだ。長持ちしない生醤油の消費を測りたかったのも事実だが。

 

 最近偶に寄ってくれてるこの女性がナムルで口をサッパリさせているのを見ながら、温野菜のバリエーションを考えてみた。茹で野菜はよく使うので味の変化が欲しい。山ほどメニューを並べるなとは言われているが、定番料理としてナムルと差し替えにするのは悪くないだろう。妥当なところでチーズあたりだろうか? 野菜に合わせたチーズを選び、そのままと茹でたバージョンで……いやチーズも焼いた物の組み合わせもあるな。ニンニクは無理だろうがそういう時こそ自家製の黒ニンニクの出番かもしれない。ナシの様にシャリシャリとした歯応えと、プラムみたいな甘さを持つ黒ニンニクなら温野菜のサラダに合うはずだ。

 

「あら? 顔に何かついてる?」

「いえいえ。今度は温野菜とチーズのサラダを用意してみようかと思いまして、酒は何があるかな? とか思ってただけです」

 人の顔色をうかがうのは悪い癖だが、嬉しそうな反応を見るのは好きなので止められない。

 適当な答えで返しつつどんなバリエーションが用意できるかを考えていく。歯応えが欲しい人には切り取ったチーズを、軟らかいのが好きな人には焙ったチーズを用意する。それだけならば大した手間ではないし、常連ならば好みに合わせて予め準備することも可能だろう。

「それは嬉しいわね。完成したら教えて頂戴? 試させてもらうわ」

「その時はお通しで出しますよ。酒を呑んでくれるなら無料にしますんで、気に入ったら小鉢で頼んでください」

 愛想よく言っているだけの可能性もあるが、できれば常連になって欲しいものだ。

 そんな風に考えていた時期もあったのだが後日、臭いが薄いのに生よりも健康的であると知って、この女性が持ち帰りまで検討する程に黒ニンニクを気に入るとは思いもしなかった健であった。




 書き始めてはや五話目。
ようやくながら、ちょっとずつ傾向が見えてきた感じです。
同じ料理の細かい調整を客の好みに合わせて少しずつ変化させる感じ。
複雑なのは人数が多いと無理ですが、それは追々簡単にしていく感じで。


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偶には洋風で

 小さな瓶で1000円近くする健康食品として効用の高い黒ニンニクや黒ラッキョウ。

 ニンニクやラッキョウ特有の悪臭がせず、しかも甘さが出るとあって物凄い変化を遂げるのだ。

 幾つかの欠点を覚悟すれば、実は自宅で作れてしまう。古い炊飯器を捨てずに再利用すれば実に簡単である。

 

「もっとも、こいつが一番の難点なんだがな」

 発酵させながら悪臭の元を抜くので、当然ながら異様な臭いがする。

 判り易いのは黒ラッキョウで、ラッキョウ酢を作った時の臭いを鼻から深呼吸すると言えばどれほどの悪臭か判ろうものである。

 それでも健が自家製にハマったのは、生よりもニンニクやラッキョウの効用が強く成る事。そして悪臭が消えて甘くなるという劇的な変化が大きいことがあった。また叔父さんから受け継いだ店舗に住処を移し、元の自宅で放置して発酵させれば良いというのも大きかったろう。

 

「よし。チーズも温まって来たぞ。こいつをこうしてっと」

 チーズをアルミホイルで包んで温めていたのだが、口を開いて中にナイフを入れてみる。

 すると僅かな抵抗で刃が沈み、バターの様に使う事が出来た。

 ナイフの先で一部を持ち上げ、茹で揚げた野菜に載せて早速試食する。

「うまいうまい。ハムや茹で卵にも合うな。黒ニンニクも中々良い感じだ。クリームチーズの方が合いそうな気もするが……っと。今度は塩っ気が欲しくなるな」

 まろやかなチーズと茹でた野菜の相性は抜群だ。

 薄切りにしたハムや輪切りの茹で卵に着けてもなかなかで、ワイン辺りと相性が良さそうだがビールでも良いだろう。

 しかしチーズがまろやかなのは良いが、少しばかりまろやか過ぎる。

 

「ソーセージの研究はもうちょっと先の方が良いとして……。とりあえずはしょっぱい系のソースと……オーリーブ辺りでバランスとってみるかな」

 赤字の内から冒険する訳にもいかない。

 そもそもこの料理は万能型の野菜と組み合わせる為のバリエーションでしかないのだ。ここで更なる冒険を重ねるだけの余裕などないと言っても良い。その点、塩漬けのオリーブをおいておくのは簡単で良いだろう。香辛料を混ぜたソースはそのままだとキツイので、トマトのピューレ辺りと混ぜるのも良いかもしれない。

「いや、まてよ? オリーブでバランス取れて……ハムとも相性良いんだよな。スモークサーモンやアレも悪くないな」

 さすがにスモークサーモンの買い置きなど置いてはいない。

 だが同じような食べられ方をする食材なら用意してあった。元から研究しようと思っていた料理であり、メインディッシュにも酒のアテにもなるすぐれモノだったからだ。

 

 健が取り出したのは牛の赤身を切り出してローストしたものである。

 ほどよく寝かせて置いた物だが、その内の一ブロックを取り出して切り分け始めた。そして用意しておいた二種類のソースを個別の皿に入れて、ちょこちょこと味わう事にしたのだ。

 

「思った通りローストビーフに合うな。ソースはまあ本格的なのも良いけど、和風ソースもなかなかだ」

 肉汁と赤ワインをベースに玉ねぎやニンニクを摺り下ろしたグレイビーソース。そして醤油にワサビを溶いた和風ソースを用意していたのだ。グレイビーソスの中に醤油を入れるパターンもあるが、和風ソースと一緒に選べるようにしておくので、今回はその方法は使用していない。

 

 そしてこれらを温野菜とチーズと一緒に並べて、大皿に盛ればそのままパーティ料理の一つとしても違和感がなかった。何よりも素材がどれも万能型というのが素晴らしい。これならばいつも用意する素材を利用して、その場で客の要望に合わせることができるだろう。

 

「チーズの甘さとグレイビーソースや醤油に合うのはまあ当然だよな。問題は……硬いままのチーズや茹でてない野菜と組み合わせるかどうかだ」

 温めてない硬いチーズと茹で野菜や、ローストビーフが合うのは当たり前のことだ。

 しかし生野菜とチーズであったり醤油と相性はどうだろうか? もちろんお勧めの組み合わせは決まっているが、そうでない組み合わせを好む客もいる。最初から好みのままつき通す者には問題ないが、どちらとも判らない者に『合うのか?』と聞かれた時に咄嗟に応えるくらいはしておきたいものだ。その答が例え『悪くはないが他に良い組み合わせがある』というものだとしても。好物に合わせたいと言うものはそれなりに居るのである。

 

「ここまで来ると、後は盛り方だよな」

 色々試した後で、健は同じ組み合わせを色々な皿に盛り直してみた。

 最初は大皿にまんべんなく並べていたが、それを積み上げる様に山形にしてみる。温野菜を最初に敷いて、その上にチーズ、その上に別の温野菜やハム。そしてローストビーフをドームの様に盛り上げて。あるいはいつもの小鉢に少量ずつ盛ったり、お通し様の小さな器。あるいは深皿というのもあるだろう。ガラス製の皿というのもあるか。

 

「んー。やっぱり平皿とは別に用意した方がいいかな」

 硬いままのチーズなら、チーズの上にハムや卵を載せれば済む。温野菜をその中間に置いても、スティック状にして並べたって良い。だが溶かすとどうも居心地が悪いのだ。溶けたチーズで絵を描けるような絵心がないのもあるだろう。しょっぱいソースを一緒に出す場合も、やはり個別に並べる必要があるというのも大きいが。

 

 いずれにせよ、温野菜とチーズの組み合わせは定番の一つに加わってくれるだろう。




 という訳で第六回にして洋風の料理が出てきました。
茹でた野菜にチーズ(+@)を組み合わせただけのモノですが、食べ易く飽きない味です。
個人的には青物でもポテトでも合うので結構好きですね。

ローストビーフの方は研究中の一つが軌道に乗ったと言った感じですね。
シェラスコやアサードに変化させられれば理想的なのですが、そこまでの機材が無いのが残念です。


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カイゼン

 縁が二色で彩られた真新しい紙にメニューを書き記す。

 柿渋をイメージした赤茶色の枠と、ジーンズのようなインディゴ・ブルーの枠。

 そこに記載するのは新しいオススメであるローストビーフだ。

 グレイビーソースと和風のソースの二つの味が楽しめると締めくくった。

 

「これでよしっと。本当はお通しで新メニューを試すことも書きたいんだが……」

「んな事したら内容が取っ散らかるだろ。好評だと判ってからメニューを書き直せ。こういうのは具体的で、マメさが伝わる方がいいんだよ」

 健が書き記したメニューに日付を追加してクリア・ファイルに入れる。

 バインダーの新しい場所に放り込み、古いお勧めは別のバインダーに移動させた。

「もう少し客が増えたら、表に小さい方の机を置いてメニューを置いとくぞ」

「今からやっても同じことじゃないのか? どうせなら早い方が……」

 店主である健の友人、コンサルをやってる月見里・豊(やまなし・ゆたか)は首を振って人のいない寂れた通りを顎でしゃくった。

 

「誰も通らない時に近くの中坊が『うちの中学舐めんな!』とか言って振り回しても責任取れるか? まあそんな馬鹿は今時いないと思うがね。机も客を呼び込むギミックさ。見る奴もいないのに置いて置くほどの意味はねえな」

 豊が言うには机が突き出て目を引いて、その上にあるメニューへ視線が移るとか。

 しかし人が通りもしない、それが当たり前の状態ではゴミにしか見えない。場合によっては視線を反らしすらする。だが時折客が訪れて、目を通していく光景が当たり前になってからなら意味があるという。

「そんなもんかねえ。……取りあえず食ってくだろ?」

「そりゃな。せっかくだしローストビーフを和風ソースで。もう一つはコロッケを頼むわ」

「あいよ」

 指定されたローストビーフとコロッケを用意し、オススメとしては茹で野菜とチーズを用意する。

 フライングではあるが、オススメであるローストビーフを指定したのだ。

 あえてこうなるように頼んでくれたのだろう。

 

 大き目の平皿にレタス・ポテト・オリーブ・茹で卵・黒ニンニクで輪を描くようにチョコチョコと盛っていく。その真ん中から少し逸れるようにローストビーフを載せておいた。そして二つある小鉢の片方に溶かしたチーズを入れて、もう片方には和風ソースを入れる。

 最初はワインのグラスを取り出しかけたが、次に取り掛かるのはコロッケだ。ビールの方が良いかと思い出してジョキを取り出した。

 

「茹で野菜とチーズ、ローストービーフになります。コロッケは後ほど出しますね」

「おう! 美味い所を頼んだぜ!」

 芋を潰して作るコロッケに美味い場所などあるはずもないが、健の作るコロッケには存在した。

 正確には中に入れる出汁の影響だと言えるだろう。

 健がいつも作るのはポテトコロッケなのだが、出汁を入れることで甘さを加えている。

 魚市場で食べたコロッケを真似て、芋も衣に使うパン粉も荒く挽いて歯応えを演出していた。

(……チーズに和風ソースを混ぜんな! って言いたいところだが、こればっかりは客の勝手だからなあ。しかし同じ野菜でも好みがあるんだろうな。カッパさんにはレタスじゃなくて春キャベツを入れてみるか。後はアスパラガスとか)

 豊の様子を眺めているとチーズにソースを混ぜて独自の味付けに替え始めた。

 オマケに黒ニンニクを潰してチーズへ混るほどで、確かにそういう食べ方もあるのだが、先に言ってくれればこちらでやるのに……と思わなくもなかった。

 しかし茹で野菜自体は気に入ってくれたようで、自分好みの味付けてパクパクとやっている。

 その後はローストビーフを食べたり、野菜と重ねたりしながらビールを楽しんでいた。

 

 その頃には油が温まり始めたので、コロッケを二つばかり投入して片方は実験に使う。せっかく融通の聞く友人がいるのだ、試しておいて損はないだろう。そして奥の方から買っておいた秘密兵器……ちょっとした玩具を持って来る。

 

「お待ちどうさまです、コロッケを用意しました。もう片方は試作品の無償提供ですので、ご賞味いただければ幸いです」

「……お? スポイド!?」

 どちらも出汁を利かせたポテトコロッケには違いない。

 だが片方にはスポイトを突き刺し、中に秘密兵器を入れておいたのだ。

「中に入ってるのは出汁だよ。黄色い方は辛子を混ぜてある。好みで調整しとくれ」

「あー。前に漫画でみたアレか!」

 出汁が染みた方が好きな客の為に、ちょっとした思い付きを試してみたのだ。

 豊が言う通りとある漫画で見た手法で、スポイトの中には出汁が入っている。

 これを突き刺して行う事で、コロッケの皮を湿らせさせず、また量産したコロッケの味を変えずに自分好みの調整ができるようになっているのだ。

 

「おもしれえなあ。……なあ、これってチーズは?」

「無理。もう試したけど流石にコントロールできねえよ。上手く調整できるなら使い捨てにしても良いんだけどな」

 スポイトの中に入れるモノは、ビネガーやらソースやらいろいろ試してみた。

 しかしながら溶かしたチーズを入れて、上手くコントロールすることは難しい。

 それこそ熱したチーズと、熱に弱いプラスチックの仲は犬猿の仲だ。温度が低ければ注入できず、かといって高ければプラスチックも溶けかねない。なかなか上手く行かないものである。




 という訳で友人の名前が決まりました。
月見里と書いて『やまなし』と読み、演技良さそうな感じで豊。
きっと先祖は平原部の農村にでも住んでいたのでしょうか。

ローストビーフや茹で野菜とチーズは前回の話で出したので、今回はポテトコロッケを追加。
芋とタマネギのみで作ったコロッケに、出汁を染み込ませた物になります。
万能のジャガイモを中心に使いつつ、出汁は他の料理に使う物なので原価はお安いのに、独自性が出せる感じ。
今回はとある漫画で出て来た手法をパク……オマージュすることにしました。


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足りたモノと、欠けているモノ

 頑迷な人間という物は存在する。

 その日もカッパさんはキュウリを頼んだ。いっそ清々しいまでにいつものペースである。

 お通しに出したチーズもキュウリに漬けて、『悪くはないがいつものが良いな』とのたまう始末であった。

 それはそれとして今夜の本命は、こないだの女性客だ。

 

「このお通しを小鉢に盛ってもらえる? まずは溶かした方で一皿、後で溶かさないのを野菜をできるだけ変えてもう一皿」

「問題ありませんよ。欲しい野菜や肴があれば入れ替えられますので」

 茹でた温野菜とチーズの組み合わせをスタンダードに提供し、茹で卵をオイルサーディンやハムに変えたりできる。もちろん全部野菜が良ければそれも可能だし、チーズを溶かすパターンと溶かさず切っただけのパターンも可能だ。

「それならアーモンドかクルミがあれば嬉しいわね。あるなら自家製サングリアを合わせたいところだけど」

「流石に市販のだけですね、すみません。ナッツ類は用意してありますのでちょいとお待ちを」

 今回は溶けてる方と溶かさない方を同時に頼まれたこともあり配分を考える。

 ポテト・黒ニンニク・茹で卵は前者、指定されたアーモンドやナッツは後者だ。しかしオススメにローストビーフを合わせるつもりだが(向こうもその予定だと思うが)、この組み合わせならばローストビーフよりもアサードを出したくなる。

 

 アサードというのはスペイン・アルゼンチン辺りの料理で、サラマンデルというグリルで焼く豪快な肉料理だった。ローストビーフと同じ赤身を使って作る料理でもあり、シェラスコも含めて作れるので同じ肉から作れるバリエーションとしては悪くない。問題なのは機材の方で、現時点で拡張する余裕など一切ないのだが。どうしてこんなことを思うかというと、サングリアというのがやはりスペインやアルゼンチン辺りで呑まれている果実入りのワインだからだ。

 

「臭いは薄いんで黒ニンニクを試してください。甘いからチーズに合いますよ。それと大勢で大皿を頼まれる場合は、分量または肉類をサービスさせていただきますね」

「あら、嬉しいわね。今度、友人を誘って飲みに来ようかしら」

 今のところ大皿で頼む客は一人も居ないが、うちは大皿で頼む場合は量を多めにする予定だし、パーティ-前提なら大盛りが指定できる。大皿だと1500円で大盛りは2000円だが分量は小鉢を等倍したよりも遥かにリーズナブルに設定してあった。

 だが何事にも計算違いという物はあるし、例外だの予想外という言葉は存在する。

 黒ニンニクの味と効用を気に入り、通販で仕入れたら一瓶で1000円を超えることを知って、後に大皿で頼んだり持ち帰りができないかと相談を受ける事に成った。流石に『家庭で作れますよ?』と伝えてみたのだが、『家で臭いをまき散らすわけにはいかない』とのことである程度は融通を利かせる必要が出たのは言うまでも無かった。

 

 人は相変わらずまばらではあるが、こうやって常連客が増え、一過性の客の中にも以前に見たことのあるリピーターが出て来る。こうなってくると頭の隅を横切るのがソーセージ辺りを試してみたいなという欲望とアルバイト……というか女性店員が必要かという考えだ。

 

(店自体は一人で回せるんだがな……。いかんせん俺も豊も男だからなあ。客に聞くわけにもいかんし、女性目線が気になるんだよな)

 できるだけ小綺麗にしたり、今日みたいにおしゃれっポイ料理も考慮したりと考えてはいる。

 だがそれは手前勝手な理屈でしかない可能性もあるのだ。目が行き届いていない場所や、もっと根本的な問題があるかもしれない。男性客に愛想を降らせる必要はないが、女性客から見て男ばかりの呑み屋というのは気が引けるかもしれないからだ。こればかりは俺がいくら気を付けても対処できるはずも無かった。

 

(しかしなあ。赤字が減って来たってのも俺一人だからだしなあ。人なんて雇ったらとんでもないことになるぞ。魚市でバイトしたって釣り合う訳がない)

 SNSで広めたりポップを可愛く飾ってみたりしても、所詮はおっさんたちの集団だ。

 こんな狭い場所におっさん連中が屯していて、気軽に入って来れる訳がない。むしろ目の前でサングリアを傾ている女性客の方が例外だと言えるだろう。健が前の料理屋に務めている時にだって、酒でストレス発散に来て居る女性客がいないわけではないかったが、愉しみに来ている人が多かったわけでもない。それだって大将の奥さんが居なければどれほど居たかは不明である。

(まともに店を構えたら必ず使う出費だと割り切るか、それとも非常手段に訴えるか、考え物だぞ)

 場所代を払って良い場所に出店するか、それとも妥協して郊外のもう少し良い場所にするか。

 その条件で店を構えた場合は、確実に女性スタッフを雇っただろう。そして豊が言うには半年は赤字覚悟が当然なのだとか、税務上は三年くらいみてくれるらしい。ならば今から人を雇って更なる赤字に似合っても、必要な投資だと言えるだろう。

 

 そしてもう一つ方法が無くはない。

 豊にコンサル費用を出世払いにしてもらっている様に、何らかの条件で身内を呼ぶという事だ。ただし無給という訳はいかないし、何らかの代用手段で相殺するとしたら誰でも良いわけではない。ということはかなり無茶な条件を飲んでもらう必要があるし、向こうも自分に対して無茶を要求して来るだろう。

 

(うちの妹に声かけてみるか。あいつも将来に店を持ちたいと言ってたしなあ……)

 その実験をこの店でやって良い。

 そう言えば乗ってくるかもしれないし、ダメでも女性視点での意見位は聞けるだろう。

 そんなことを思いながら、ついこの間までは思いもしなかった悩み事で頭を抱えるのであった。




 という訳で軌道に乗り始めましたが、それでも一人ゆえです。
女性視点が足りないと不安でいっぱい。
どれだけアレかというと、一昔前のゲームセンターやパチンコに女性客がどのくらい居たか?
そういうのを想像していただければ幸いです。


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助っ人交渉

 当たり前ながら少ない給料で人を呼ぶのは難しい。

 ついでに言うと労働のきつい飲食業なら猶更だ。

 仮に今は楽だとしても、将来に厳しくなるから人を増やすのである。

 

「兄貴。やりがい詐欺って知ってる?」

「詐欺は酷いな。……あまり反論は出来ないけど」

 健は料理学校に通っている妹の美琴にアルバイトの話を持っていった。

 正直に話しをしたこともあり、アッサリと否定されてしまう。

「もう少しお客が来て最低限の賃金は払えるようになってから言ってもらうとして、そのレベルじゃ普通人は来ないよ? どんな魅力があんの?」

「おお! お前なら話を聞いえもらえるとは思って居たぞ!」

 とはいえ兄妹であり、妹も進む気であった料理の道ゆえに話くらいは聞いてくれる。

 もちろん健としては幾つか首を縦に振る条件を予想しており、見込みが無かったわけでもない。そういう意味で性格が透けて見える分だけ兄妹というのは相手に理想など抱いていないとも言えた。

 

「まず料理のコツと、俺が聞いた商売のコツはみんな教えるよ」

「足りない。少なくとも月見里さんに兄貴のツケで、私がしたい商売のアドバイスを聞いてくれること。もちろんキッチンを練習に使わせてくれることも含めてね」

 ここまでは最低限の条件だ。

 情報を共有し、兄のツケで伝手を利用させてもらう。店の経営にさし障りのない範囲で食材と機材を使って、自分がしたい料理の特訓をするというのも当然のことだ。

「でもここまでならありえる範囲だよね。他には?」

「せっかく機材と食材を使うんだ。俺が使わない昼間に弁当でも作って、売ってみるってのはどうだ? 味は見てやるし何だったら俺が調理しても良い。店を出す練習になるぞ」

 うっと美琴が唸るのが聞こえる。

 兄妹で性格が似ていることもあるが、チャンスに弱いのは美琴も同じだった。

 いつか自分の店を出したい、その練習がしたいというところまでは当然として……。まさか商売の練習までさせてくれるとは思っても見なかったのだ。

 

「マジ?」

「もちろん味の保証ができた上でだがな。俺が調理するというのも、その最低限がクリアできなかたら。量が必要な時に手が足りない場合もか。……なんだったら俺が仕入れている業者や農家で必要な素材を仕入れてきても良いぞ」

 ここで重要なのは、妙な物を作るとせっかく向上している店の評判が悪くなるという事だ。

 だから下手な物を店で売って良いなどとは言わないと思っていたのだ。

 あまりにも都合が良過ぎたことで馬脚を現したともいえるが。

「……先に月見里さんへ相談したでしょ? 他に何の条件があんのよ。ここまで言ったんだし、先にいっちゃいなさいよ」

「判るか? とりあえず俺が満足できるレベルを前提として許可を出す事。免許類は俺のを使う事。そしてこれが何より重要なんだが……」

 健にここまで譲歩する頭があるはずもない。

 最初から友人である豊に、どうしても必要な『女性視点』を借りるために、何かアイデアはないかと聞いていたのだ。

 すると店が関わっているとして恥ずかしくないだけのレベルになるまでは面倒を見る事や、商売上どうしても必要な免許類の都合を健が担えばよいと伝えたのである。こればかりは美琴にできるはずがない。

 

 そして何より重要な事がもう一つ。

 

「お前、車の免許はもう取ってたよな? 仕入れ用に使ってる車で移動販売するんだよ。そしたら最低でも店の名前に傷はつかないからな。客の傾向だって事前に選ぶことができる」

「あっ! その手があったか!」

 夜間営業が基本の居酒屋が、昼間に店舗をシェアする方法は確かにある。

 だが別に店舗を使えるからと言って、必ずしも場所を同じ所でする必要はないのだ。

 特にこの居酒屋は郊外の中でも悪立地で、周囲にオフィスも工場も無いのである。こんな場所で弁当屋をやっても売れるはずがあるまい。

「よーするに、移動販売に必要な何もかもを兄貴に任せるって事ね。さすがは月見里さん、よく考えてるう」

「味の保証もな。レシピだって工場で働いている人向けなら直ぐにでも使えるはずだぞ」

 居酒屋のレシピは酒で口を洗い、酩酊することを前提にしているので味が濃い。

 そして売れ易い弁当の傾向には二種類があり、肉体労働向けの味の濃いメニューと、オフィスワーク向けの軽食のような食べ易さ向きの料理に分かれていた。

 

 居酒屋メニューの味の濃いものは工場向けの弁当用に参考にできる。

 逆にオフィス向けの軽いものは、むしろこれから居酒屋に必要な華やかな物があればお互いの参考になるだろう。その料理を作るのはこの店なので、ここへ入り浸りたいと思えるほどに環境を改善しなければ意欲の方も改善はされないだろう。

 

「そういうことならOKよ。直ぐには今のバイトからシフト減らせないし、さっきも言ったように最低限の給料が出るまで待つことにするわね。最初の意見代代わりに、何かサラダで面白い物作ってくれない?」

「ちゃっかりしてるな。ま、丁度いいちゃいいか」

 話は決まったがあくまで将来の話だ。

 今は人が居ても過剰なだけだし、必要なのは女性視点でのアイデアである。

 だからそのアイデアの料金として参考にできそうなメニューを教えろと言っているのだ。

「うちの店は同じメニューでも、出す人や要望に対して微妙に変えてある。ベーコンで言うとカリカリにまで焼くのは同じだが、厚みに差があるとかな」

 ベーコンを焼くならその脂でも良いかもしれないが、前もって軽くあぶって臭みを抜いたサラダ油を使用する。カリカリにまで焼く間、徐々に油を抜いていくが少しでも臭いを減らすためだ。その上で薄いベーコンを細切れにカットし、同様にベーコンステーキ用の厚切りベーコンをサイコロ状にカットする。

 

「面白いといえば良くある手法としては、クルトンの代わりにチップスや駄菓子の麺を使う事かな。学校のメンバーで飲み歩いたりは?」

「兄貴……あたしまだ二十歳前なんだけど。お、ベビースターって太いのもあるのね」

 それもそうかと言いながら、健はポテトチップスや駄菓子の袋を取り出した。

 棒で軽く叩いた後、袋の上からもみ解していく。

 そして薄切りベーコンの方にはポテトチップスを砕いた物、サイコロ状にした暑い方には味付け麺の方を混ぜ合わせた。

 もちろん野菜の方も微妙に違うので、トータルで言えばかなり感触の違うサラダになるだろう。

「一応はドレッシングもチーズも同じものだ。時間があるなら隠し味くらいは入れてもいいかもしれんが、客の前でする程のことじゃないな。やるなら予約の段階でやる」

「まだ予約客なんか来ないけどね? まっいーんじゃない。ドタキャンの心配も無くてさ」

 笑いながら二人は二つのサラダを小鉢に分け、それぞれ感想を言い合いながら小腹に収める事にした。




 今日は色々あって1時間ほどずれました。
妹に相談する前に、友人に口説き落とすアドバイスを聞いた感じ。

なお、最初から店先で売らせる気がないというのがポイント。
店の評判を下げるし、健自身が認めたくないでしょう。
しかし移動販売を前提として、キッチンや免許を貸す程度ならば許容範囲。
もちろん食中毒やら問題があるので、監督する必要もありますが。

ちなみに兄妹の仲は普通。
「可愛い妹に格好良い兄?」
「「そんな奴はいねえ!!」
とハモる程度には。


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予約客

 フラグという物は時折に当たるものだ。

 予約なんか当分ないだろうと言ったのに、翌日には予約が舞い込んだ。

 もっとも二人で楽しく飲むから、問題なさそうな肴を用意してくれと言われただけだが。

 

「……外国の方ですか? 英語なんかできませんよ? もちろん他の言葉も」

「そこまで期待してはしないわよ。先方は日本語できるから問題ないわ」

 新しい常連である女性客が予約の打ち合わせに来た。

 予定している日は開店しているのかという確認と、メニューを調整して欲しいというものだ。

「なら構いませんがね。希望というか……むしろ使ったらダメな物は?」

「宗教での問題とかアレルギーとかは特にないはずよ。あえていうなら、日本食初心者だけど興味津々というくらい」

 厳しい注文ではないが難しい内容だ。

 変な物を出して日本を嫌われるのも困るが、下手に遠慮してチキンと思われるのも期待外れだろう。

 

「では大皿でこないだの茹で野菜とチーズ、これにスモークサーモンを入れます。その上で一品ほど対比させましょう。例えばそちらにカツオのタタキを、先方にはローストビーフを」

「……なるほど。よく似た組み合わせで安心させて、興味をそそらせるのね」

 茹で野菜の大皿に載せる中に、欧州が本場のスモークサーモンを入れておく。

 依頼した女性には刺身としてカツオのタタキを用意し、もう一人には作り方のよく似ているローストビーフを対比させる。食べ慣れたローストビーフを口にしてもらうが、似ているから興味がそそられたら一切れ二切れくらい食べるかもしれない。要するに少しずつ興味を引くわけだ。

「盛り合わせだとしたら他に何を用意するの? 一品だけでも良いけど」

「判り易く行くならマグロと焙りマグロですかね。生の残し方をかなり減らすこともできますから。後は……」

 健は肩をすくめながら、だし巻き卵とポテトコロッケを用意した。

 

「だし巻き卵は名前の通り出汁を使います。うちのコロッケにも出汁が入ってますよね。これをそのまま出しても良いし、オムレツとクロケット辺りと対比させても構いません。正直な話、無理に刺身を勧めることもないと思うんですよ。食べたいと思えば別ですが」

 幾つかの料理を対比させて、同じようでいて全く別物を用意しても良い。

 だが日本食の面白さを語るならば、別に食べ易い物でも良いだろう。

「うちは見ての通り余裕があるわけじゃないんで、不要な物は用意し難いですがまあ、オムレツくらいなら問題ないですよ。クロケットも予約があって確実に食べきるなら一応は」

「用意だけしてもらっておいて食べないというのもどうかと思うから、その場合はお持ち帰りにしてくれる?」

 実のところコロッケの原型であるクロケットなんか思いついたのは、妹の美琴が最近チャレンジしているメニューだからだ。

 コロッケをそのまま出すのではなく、蟹クリームコロッケよりも細長く仕上げていた。

 だからそれを指導する延長で、当日のオススメにクロケットを用意することもできなくはないのだ。単にこの店の定番商品に、出汁入りのポテトコロッケがあるからやり難いだけで。

 

 それともいっそのこと定番のコロッケも、その日ばかりはクロケットの盛り合わせに入れてしまうのも良いかもしれない。細長く仕上げたクロケットを三本か四本くらい並べて、出汁味・カレー味・チーズ味などと食べ比べるのだ。その上で出汁味を多めに作っておけば問題ないだろう。

 

「せっかくのご予約ですし、その辺は数を抑えるなりセットメニューを考慮するなり工夫するなり何とかしますよ。後は唐揚げや竜田揚げまで用意するかどうかですね」

 フライドチキン・唐揚げ・竜田揚げ。

 これらもよく似た別の料理だ。日本食へ導く初歩としては悪くないが、やはり問題は鶏肉の扱いが被ることだ。用意しておくには無駄が大きくなるし、その場で揚げるには手間ばかり増えてしまう。

「んー。そこまで頼んだら悪いわね。彼女が気に行ったら次も予約させて貰う事にするわ」

「では先ほどのメニューを用意してお待ちしますね。ご予約ありがとうございました」

 正直な話、彼女の方もそこまで責任が持てるわけではない。

 縁があって居酒屋で楽しく呑むことに成っただけで、できるならば日本食を知りたいという要望に応えただけだ。必ずしも用意した料理を気に入るわけでもないだろうし、何もかも中温して消費するという訳にもいかない。客としても店主としても、お互いに重い責任を持つほどの間柄ではないのでこんなものだろう。

 

 お互いに楽しくやれる範囲で、適当な努力をするということでお勘定に成った。

 健はこの後、直ぐに妹に連絡して女性客用のアレンジやら気を付ける事を聞き出すことにした。




 という訳でフラグというか、ネタを思いついたので予約の話を。
外国の方がやってきて、日本食を食べていくという話です。
なお、「●●デース!」みたいなわざとらしい話にはならない予定。


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カイゼン2

 環境改善第一のステップは、席の配分を変える事だった。

 どこを重視するかにもよるのだが、カウンターが五席から六席。

 二・三人掛けの小さなテーブル二つかまたは大きなテーブル一つ、小上りも同様の構成だ。もっとも同じスペースを分割するので、大抵は何処かに無理が来る。

 

「やっぱり店の中がどうなってるか分かんないのは怖いもんね。外から見え易くしようよ。暫く一人って言うなら小上り無しでテーブルも減らせば随分印象変わると思う」

「まあ俺一人ならカウンターだけの方が助かるしな」

 上記に書いた席数は最大限に詰め込めば可能という程度でしかない。

 移動経路もさることながら……テーブル席と小上りはモロに競合しており、片方を二つにすればもう片方が狭くなる。間仕切りを無くして更にカウンターを減らせば何とかなるが、それだってトイレに行くたびに肘付き合わせることになるのだ。

 

 ゆえに改善点として最大人数を大幅に見切ってしまう。

 どうせ暫くの間は客数の増加が見込めないし、プライベート空間の為に間仕切りでただでさえスペースを分割する必要はない。間仕切りを最初から取り除きカーテンもシンプルで控えめな物に変更。それだけでスッキリとしたビジュアルに仕上がって見える。

 

「テーブルは外に出すなりすればいいが、小上りはどうする? その日だけなら予約席として誤魔化せもするが」

 畳敷きで一段高い小上りは座敷席の小型版である。

 ないなら無くても良いのだが、段差を作ってしまっている分だけテーブルの様に動かせない。かといって荷物置きにするのは別の心配が出て来てしまう。せっかく見渡しを良くしたのに手狭に見えるし、テーブルや椅子の予備を置くのは汚く見える。

「枠で囲んで子供の隔離スペースにしちゃお。実際にママさんが来るかは別にして、空けておく理由になるしこういうのがあれば安心できるもんね」

「そのくらいなら簡単だし、小上りを使いたい人にも見てもらえるか……」

 予約客の外国人は日本文化に興味を示しているらしいので、小上り自体は気になるだろう。

 しかし当日は足を延ばせるテーブル席の方が良いだろうし、他に客が居なければカウンターの方がリラックスできるかもしれない。

 

「あと椅子の回りも何とかしたいかな。当面は荷物入れる箱でいいけど」

「そういえば最近はそういう店が多いな。やっぱりあった方がいいか」

 カウンター六席にして入り口近くは少し広げておく。

 おかげで他に問題が出てしまうのだが、小上りを無くしてテーブル席は小さいのを一つのみ。

 これで何とか折り合いがつくのと、おそらくカウンターも満席にならないから十分だろう。テーブル席や小上りを使う様になったら、六席から五席に戻すのも良い。

「トイレはあたしが何とかしとくから、兄貴は当日のメニューを盛ってみてよ」

「やっぱり弄らないとダメか?」

「ダメよ」

 かわいらしい小物を置いたりポップでオススメメニューなどを紹介。

 以前より可愛くなっていくトイレを見て、健は居心地の悪さを感じた。カーテンや間仕切りが変わろうと何とも思わないが、滅多に行かないトイレが様変わりするといたたまれなくなるのだ。

 

 とはいえ任せると言った以上は口出しできない。

 大皿に当日使う予定の料理を盛ることで自分を誤魔化すことにした。

 

「大皿は……平皿じゃなくて少し変わってるのがいいかな」

 茹で野菜と温めたチーズをのせる皿は、白く楕円形で歪んで見える皿を選んだ。

 単純な丸や四角に盛り付けるのではなく、楕円の歪みに合わせて野菜を盛っていく。

 そして中央には大きく間を空けて、主菜として選んだ肉料理や好みのソースをタップリ載せられるようにしておく。

「ふーん。絵画で使うパレットを意識してるの?」

「まあな。小鉢のセットだったら懐石を参考にしたっていいんだが」

 懐石料理は盛り方が決まっている。

 何種類かあるが、定形が決まっているからこそ料理に合わせて参考にできる。

 しかし今回のメインは茹で野菜とチーズをつつきながら、延々と酒を呑むことを前提にしていた。

 

 その上で興味が載ったら小鉢で幾つか頼むという構成である。

 洋風料理で見られるような洒落た盛り方をするよりは、シンプルに全体が見渡せて余ったスペースを客が自分で左右できる方が良いのではないかと思うのだ。

 

「ちょっとちょっと兄貴! なんでカニカマにカマボコなんて載せてんのさ!」

「良いんだよ。こっちの皿は安心感を盛って食べれるように、馴染みの品を盛ってある。海外じゃ『スリミ』と呼ばれて人気の定番食材なんだ」

 茹でた野菜とチーズにハム・卵なんてものは欧米で幾らでも食べられるだろう。

 その安心感の延長上にカニカマとカマボコ、そしてスモークサーモンを載せてある。

 そしていよいよ小鉢の方にカツオのタタキを用意し、もう片方にはローストビーフを盛ってあった。外国のお客がローストビーフだけをつつくか、それともカツオの叩きに手を出しても良い。

「それよりもクロケットの方は大丈夫なんだろうな?」

「モチのロンよ。むわーかせて」

 美琴は細長く仕上げたクロケットを横に三本並べ、その上に一本斜めに立てかけた。

 まるで葉巻を並べた様な感じだが、それぞれに色合いが違うので別物だと判る。

 これにソースでも掛かって居ればもう少し洒落ているのだろうが、この店はソースが選べるのでやってない。

 

 最後にそれらをテーブル席に載せ、写真を何枚か撮ってノートパソコンで確認していく。

 もちろん店の外から中、中から外も映して置き、全体の印象を見比べていくのだ。

 

「一応はこんなもんかな。後で定番のレビューをでっちあげて印刷するから、他の店のページと比べて見ましょ」

「了解。なんとかなるといいな」




 という訳で、今回は前回とあんまり変わってません。
ストックしていた料理とか書く内容も切れて来たので、少しUPが送れています。

店の印象が改善されたか確認しつつ、ちゃんと紙に落として他の店とも見比べる感じです。
やはり紙の資料でみると違いますしHPに載せるのではなく、参考にするだけなら
でっちあげの記事で問題ないですしね。
この状況で確認して「あ、胡散臭すぎる」とかでなければまあまあ改善されたという所でしょうか。
やはり頭の中だけでは信用ならない物で、可能ならば第三者に見てもらうのが一番なのでしょうけど。


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杞憂と経験

 頑張った結果が通用することもあれば、残念ながら意味がない事もある。

 それでも諦めず精進して居れば、その過程も何かの役に立つことがあるだろう。

 それに悪評が立つことに比べたら努力が無駄だったというのはマシな方だ。経験値に成ったと笑えばいい。

 

「アメリカの方ですか。なるほど」

「はい。ずっと日本のことは聞いていました。カレーとラーメンはそれぞれ三回くらい連れ回されました」

 何というか予約で連れてこられた女性は大柄で、体格に比してまったく物怖じしない人だった。

 土曜の18時から始めて20時から21時に早めに切り上げると聞いていたので、てっきり留学生なのかと健は勝手に思っていた。

 そういう訳で女性目線とか気にしなくても、それほど問題なく愉しんでくれただろう。

 もちろん体格が大きかろうと気にする人はするし、他の女性の為に前回の改善は役に立つと思うので無駄足ではないと信じよう。それと間取りを広くしたことはとても役だったので意味はあったと思っておく。

「これはお通しというアミューズグールですのでお代は頂きません」

「スリミですね。聞いていた通り二種類あります」

 新しく予約客もお通しは無料に成った。

 酒を頼んだら無料というルールだったが、予約客ならば殆ど酒を呑むだろうという流れだ。ならば最初からそう言っていた方が、色々とサービスしているという証拠になる。

 

 今回用意したお通しはカニカマを変化させたものだ。

 一つは蟹足のような形状のまま焙ってタルタルソースを付け、もう片方は解して和風ドレッシングをまぶしてある。最初は大皿に盛ろうとしたのだが、写真に撮った時にいまいちだと思ったのだ。ならばお通しとして出してしまった方が良いという事に成った。

 

「頼んでいた物はあるかしら?」

「はい。こちらにご用意させていただきました」

 予定通り茹で野菜に温めたチーズを載せたものを用意。

 カニカマの代わりに用意したのは、基本に立ち返ってクラッカーである。

 安心して飲んでもらえる肴にするならば、余計なことはしない方が良いという判断だ。興味を引くのは次の皿で良いのだから。

「適当な所で次の皿を御持ちしますね。メニューや他のお客の注文で気に成った物があれば、おっしゃっていただければその都度にご用意します」

「その時はお願いするわね」

 カツオのタタキとローストビーフは予定通り、クロケットに関してはチーズ味が消えた程度だ。

 茹で野菜にチーズが付くからチーズ味が消えたというくらいで特に意味はない。もし残念なことがあるとすれば、クロケットよりも普通のコロッケの方が食べ応えがあって評判が良かったくらいだ。これはこれでまた別の場所で役に立つことだと思っておくことにした。

 

「そういえばラーメンのスープはどうしてあんなに美味しいのでしょうか? 全て飲むのは健康的ではないと判っているのですが」

「……フランス料理のソースみたいなものですね。アレを大量に欲しいという人は世の中に大勢居られるでしょうけど、やはり健康的ではないかと」

 偶に判断に困る質問もあるが、料理人に料理のことを聞く程度の会話なので困ることは無かった。

 日本語に流暢なのも周囲に在日米軍の友人が大勢いたから覚えておいたという事で、やはり何度も聞いて覚えるのが一番だと逆に教えてもらった。漫画やアニメでよくあるような怪しい外国人というのはあまりいないそうだ(発音的な物は別にして)。

「なるほど。自分のこだわりが重要……と」

「そうですね。カレーも美味しいと思いますが、辛さや揚げ物を自分の欲しいだけ追加できるのが一番です」

 当事者が居るなら聞いてみたかったのが、どうして某カレーチェーン店が人気なのかだ。

 確かにチェーン店は味の保証がされているが、健としては町の有名カレー店の方が美味しいのではないかと思っていたのである。

 

 いや、そういう意味ではまだまだ健は甘かった。

 あるいは日本の常識は世界の非常識という言葉を知らなかっただけとも言える。

「そもそも同じチェーン店で同じ味で、メニューと同じ物が出てくるのは日本だけですね。ステイツでは美味しい店は美味しいですが、ひどい店は形も味もまったく違います」

「……ははっそれは凄いですね」

 聞きたくなかった事実だが、有名ハンバーガー店でもそうらしい。

 マニュアルとかどうなってんの? と聞きたくなったが料理人ならぬ人に聞くのも野暮だろう。

 

「タケル。質問ですが、この店でカスタムのオーダーは可能ですか? オリジナルの料理は難しいでしょうけれど」

「味なら可能です。量ですと割増料金を頂きますが」

 小鉢は400円均一にしているので量を増やすならば割増料金だ。

 もちろん大皿ならば最初から量は大目だし、追加料金でかなりお得な追加をしている。

 それはそれとして味の強弱を修正したり、洋風・和風のアレンジなどは問題ない。

「量なら数を頼むので問題ありませんね。日本はチップなどがありませんのでランチでノーマルな料理なのに2000円を軽く超えるとかはあまり見ませんでした」

「その辺りは料理と地価によりますかね」

 なんでも欧米ではカレー店やラーメン店で2000円を超える事が普通らしい。

 日本だと1000円を超えると犯罪的とまで言われているのに対照的である。

 そういった例でも、やはり地価や人件費の問題がメインらしいので仕方がないのかもしれない。

 

「注文なのですが唐揚げをもう少しスパイシーにして、大皿の大盛りでお願いします」

「……も、持ち帰りですか?」

「持ち帰りOKならもう少し頼んでも良いかもしれませんね」

「持ち帰りOKなの? じゃあ私は黒ニンニクを中心に持ち帰ろうかしら?」

「器の用意がありません。勘弁してください」

 最終的にこんな笑い話に成って、そのお客は21時にならない内に切り上げた。

 理由としては簡単で、門限はもう少し余裕があるのだが緊急呼び出しがあれば一定時間内に戻らないといけないそうだ。

 電車では間に合わないのでバスで無ければならず、この辺りは郊外なので21時にはバスが終了するという理由だったらしい。

 新しい張り紙に交通機関の時間表を張っておく事にした。




 という訳で案件は無事に終了。
色々改善されてきたので、ちょっとずつ客足も増えるでしょう。


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閑話休題

 アメリカから来た客は基本的に土曜日くらいだそうだ。

 おかげで『次』まで間があるので、案件に関して相談し熟考する余裕があった。

 

「外国産の酒は手に入るレベルでいいとして、持ち帰り販売は無しの方向でいいか?」

 健は問屋にある在庫を注文しつつ、何が手に入るかその値段を確認しておいた。

 幅だけならある程度の余裕があるのだが、配送してもらうと高くつくが取りに行くと安くなる店を選んでいるので、流石に全てが揃う訳ではない。

「そうしとけ。手広くやってるわけじゃないしな。やったとしても『食中毒の心配が少ない季節に、食中毒の可能性が少ない物に限ります』って言い訳が先に必要だろ」

「となると瓶・缶に放り込めて、常連に頼まれて断り切れない物とかかな」

 コンサルタントである豊に相談すると、幾つかの面で反対された。

 居酒屋として客が増えつつある中で、テイクアウト販売に踏み切って利益が上がるかどうかが不明なこと。下手をすると来る予定の客が酒を呑まずに持ち帰って宅呑みにしてしまう可能性があるのだ。

 

 もちろん周囲にロクな店が無いため、潜在的な需要が低いわけではない。

 だが居酒屋としてそれなりに軌道に乗るまでは、手を出すべきではないし、やるとしても移動販売に併用する程度だと忠告されたのだ。

 

「それによ、在庫は受注生産で良いとしてもだ。ザっと瓶やら蓋で100円として、数百個用意したのが元採れんのは何時だよ」

「そいつを言われると頭が痛いな。いくつかは卓上調味料にしても良いんだが」

 実際にはそこまで高くないが、ラベルやら消毒やら面倒くさいことになる。

 加えて言えばもう一つ別の企画を実行中であり、安く抑えるにしても『手間』の方は増やしたくなかった。

 素人が短いサイクルで頻繁に更新するには、できるだけ作業は簡便な方が良いと言われたのだ。

「ほいよっと。簡単な内容だがホームページできたぞ。お前さんがやる更新内容はメニューだけ。あとはその都度に美琴ちゃんにでもやってもらえ」

「すまんな。ここへのアクセスとかは……おお。助かる!」

 豊に頼んで店のホームページを作ってもらっていたのだ。

 日記などは極力省き、店の外観や内装そしてメニューの一覧。

 一番重要なのはメニューを登録すると、一番新しい物は判り易いページに更新されるという項目が、素人の健でも気楽にできる事だ。

 

 後は他の店のHPと比べてみたり、料理の詳細解説をどこまでやるかの問題だった。

 その辺りの手間は暇な時にするとしても、これから暇でなくなるように努力すべきだし……。

 現在進行形で地図と外観は最重要、美琴が言う女性目線を気にするならば、内装が薄汚れておらず見通しが良いのが判ることも重要だろう。

 

「これでようやく一人前の店になれたってことか」

「そういうのは黒字に成ってから言いやがれ。まあお前さんだけでなく、美琴ちゃんも雇うなら当面先だがよ」

 まだまだ未熟ではあるがメニューにHPに内装にと、いろいろ手を尽くして来た。

 食材の廃棄を含めた、料理に関する原価率も以前よりも遥かにマシに成って来ている。

 酒の方は利益率の高い酒があまり出ているわけではないが、その辺は今後の課題と言えるだろう。

「……うーん。そいつを言われると厳しいな。そろそろソーセージの開発もしたいから、食べ歩きを復活したいところだし」

 ソーセージは簡単な様で、奥行きの広い料理だ。

 いろいろなソーセージがあるのは当然ながら、どう味付けするのかどう調理するのかなど千差万別で広すぎる。

 

「それならクラフトビールの味見もついでにやろうぜ。昔と違って色々あるからな」

「そういえば手に入るなら色々頼むって言われてたな。ここは逆に考えて、まずは気に入ったクラフトビールにあったソーセージを考えてみるか」

 クラフトビールというのは単純に言うと、地元で造られた地ビールだ。

 酒税法などの色々なルールが少しずつ変わって来て、大手メーカー以外も製造できるようになってきた。とはいえ利益が出る場所だけではないので、『職人がこだわって作ったビール』という触れ込みでごく少数が売れているに過ぎない。様々な努力で徐々に売れ行きが広がり、あるいは淘汰されて消えてはまた起業しているともいえる。

「なら幾つかコレはっ! ってのを作ってみろよ。そういうのが無いと基準に出来ねえだろ?」

「そういうと思って用意しておいた。香辛料でギリギリを攻めたチョリソと妥協点、あとは猟師さんに分けてもらった猪のクズ肉と良い所の二本立て。最後に豚で作ったオーソドックスなやつな」

 スペインやアルゼンチン辺りで食べられる極太のソーセージが二本。

 色合いの濃い獣肉のソーセージが二本、これは豚で作った物と比べて黒いというかこげ茶色というべきか。

 最後に市販品が何本か並べられて、茹たり煮込んだりしながら試食することに成ったのである。




 という訳で第一部的な完?
客足が増えてきたところで、アルバイトを増やすかそれとも色々冒険するか。
そういうのを悩めるという事は、経営が改善されてきたなあ……。という感じです。

この後は続けても良し、適当に話を作って続けても良いというところになります。


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味の双生児

 試作したソーセージは微妙だったが、目安には丁度良かった。

 美味しい物を目指したというよりは、アタリを付けて『どんな方向の改良にすべきか』を図るための物だったというのもあるだろう。

 

「猪の肉は微妙だな。良い部位は美味いが流石に指定して調達はできん。かといってクズ肉はちょっとな……」

 健は硬い猪の肉をミキサーにかけて処理していた。

 香辛料を多めに入れて獣臭さを調和したのだが、柔らか過ぎて違和感がある。

「近所の農協なりそういう所と契約して、地域おこしのイベントか何かの時に調理・納入を担当するくらいかねえ?」

「お前、よくそんなの思いつくな。俺は弁当には向かないと思ったくらいなのに」

 豊はコンサルタントなのでアイデア勝負だ。

 幾つかの腹案を用意した上でジビエ料理とか、猪駆除をした生命を無駄にはしていないというアピールに使えると提案する。自分の所の売りにするのではなく、他の団体に下請けを申し出るというのがキモだ。ウリになるかは分からないが、健が挑戦したりするのには悪くないと判断したのだろう。

 

 続いて普通のソーセージを何本か試した後、本命のチョリソに移る。

 チョリソは香辛料が強めで肉のイメージが強いソーセージだ。

 健が本命に選んだのも味が強い分だけ酒に合い、出汁のようにスープなどに使うと聞いて試してみたくなったのである。

 

「丸まる食べると流石に喰い応えがあんなー。つかスライスしたやつで十分に肴になるぜ」

「それだけに思ったほど味が強くないな。強烈だと思った方が意外といけてる」

 この間のアメリカの陣の客を意識して、かなり太目で主菜になるサイズを作ってみた。

 挽肉に混ぜる脂も強かったせいか、限界を攻めたつもりの香辛料でも悪くないレベルに収まっていた。いきなり店に出すほどの完成度ではないが、自家製ソーセージとしては十分だろう。もちろん酒があることを前提にしての評価なので、レストラン用としてはかなり味が強過ぎるのは確かなのだが。

「先のも悪くは無かったが、こいつを喰っちまうとマジで『普通』だな。商品にするにゃちと不安しかねえ」

「あの辺は美琴の弁当用にサイズとレシピを改良してくよ」

 普通のソーセージや妥協レベルで作ったチョリソは悪い味では無かった。

 しかし強烈なスパイシーさと比べては分が悪いだろう。では酒と合わせずに使えば……なんて考え始めると、いくら考えても時間が足りない。おそらくどう調整すれば納得できるかだけで随分悩んでしまうだろう。

 

「とりあえずこいつの残りで色んな調理法で試して、そこから再調整だな」

 健は軽く茹でてからもう少し茹でた物と、引き揚げて焼いた物を並べた。

 それがオーソドックスな食べ方だが、パンに挟んだりスープに入れたり、あるいは餃子の皮で包んでも良いだろう。パンと合わせるにしてもチーズを載せてピザのように食べても良い。その上で自分の店で出す時に、どんな調理が良いのかを考えて味の調整をしようとしていた。

「何か食いたいモンあるか?」

「ホットドックとスープってとこだろ?」

「あいよ」

 健はスライスしたチョリソを鍋に入れ、トマトやタマネギを煮込み始めた。

 豚に豚を重ねても判り難いだけなのでオーソドックスにチキンスープを選び、チョリソの味を追加する形式だ。その間にパンをオーブンに掛け、丸一本を載せてマスタードだけで味を付ける。ここまで来たらトマト・ケチャップなど余計だろう、酸味が欲しければスープに入れている方を愉しめばよいのである。

 

 そして健は途中でスープを二分する。

 片方はそのまま鍋で煮ていき、もう片方は片手鍋に入れて具材を追加する。

 ただしコンニャクやタコノコなどソレそのものは味が薄く、だが歯応えのある物を足していったのだ。さらにその半分を小鉢に分けると一応の仕上げ、残りにチーズを入れて煮詰め過ぎないように調整していく。

 

「まずはホットドックをどうぞ。その間にこちらを仕上げておきますので」

「おー? マカロニでも入れたらグラタンみてえだなあ」

 ホットドックをかじりながらスープを三皿用意する。

 一つはそのままのトマトスープ、一つはタケノコやコンニャクを追加した物、最後にさらにチーズを加えた物であった。

「ホットドックの方はアレだな。この味付けだとパンが負けてんな」

「チョリソの方を調整するが……味の強いパンを用意した方が面白いだろうな。スープに関しては予想の範疇だが」

 チョリソは元もとスパイシーだが、今回のはさらに強めに仕上げてある。

 ゆえにホットドックはパンが強烈さに負けていた。ここまで来るとチョリソをマイルドにするよりは、より一味を引き立てながらパンの方を良くした方が良いだろう。

 

 そしてスープの方は想定通りの味に仕上がる。

 一つ目はオーソドックスに、二つ目は歯応えが追加され、最後の一つはかなりマイルドな味わいに成った。どれが好みかは人それぞれだが、味の傾向自体は変わらない。もしいつものように二種類の差を付けるのであれば、もっと大胆な味付けが必要だろうと思われたのである。




 という訳で今回はチョリソ回です。
カラオケのマイクくらいの太さがあるチョリソを茹でて、ごろごろ焼いた感じ。
とてもスパイシーに仕上げたつもりだけど、味の深みに嵌って思ったよりも普通だった模様。
ただ食べ応えは気に入ったので、ビールにも合う事だしマイルドではなく質を高める方向へ。
合わせる具材を追加しつつ、もっと良いものを目指すことにしたようです。


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敗北の味

 最終的に健はチョリソに敗北した。

 今のところという限定はつくのだが、自力で二種類の味付けを用意することが難しかったのだ。

 そこで仕方なく昔ながらの方法で用意する事にした。

 

「トマトやタマネギを使った酸味の強いソースはこれで良いとして、甘いやつか……」

 素直に検索してデータを集めると、手元にある材料で何とか代用していく。

 トウモロコシを中心にした甘いソースである。これをそのまま使ったり、マヨネーズを追加したコーンマヨなど幾つかソースを作ってみた。

「言われてみればコンビニで売ってるパンにこういうのがあったな。合わない訳はなかったんだ」

 そんな感じで二系統のソースを用意して、ワサビ醤油を念の為に並べて置く。

 これでチョリソ自体の味付けはそれなりに選べるだろう。

 

 そして残るはホットドックに対する逆襲だ。

 少し遠出して買えるレベルのパン屋で集めたパンを使って試食になる。

 自家製のパンを安価に用意するような設備はなく、この辺りは妥協点と言えた。

 

「とはいえ前回の失敗は判ってる。出汁代わりに使えると聞いて脂身とか多く入れ過ぎたんだよな。それで限界まで行ったはずのスパイシーさも少しまともになった」

 一つ目は脂身やパプリカを減らして、香辛料もかなり減らした物を用意。

 もう一つ香辛料だけを減らして、出汁替わりにする為のジューシーな物を作っておいた。

 前者の配合率を変えた物を素直に二種用意しても良かったのだが、どうしても出汁替わりに可能という言葉が頭を離れない。それにジューシーさで攻めるのも悪くないと思えたので、前回のまま香辛料をマイルドにした物を比較対象にしたのだ。

「この辺のパンに合わせるなら脂身も香辛料も減らした方だな。無難だがチョリソ自体の味が強いから丁度良い」

 強すぎる風味と、強すぎるスパイシーさを抑えたので美味しいホットドックが出来上がった。

 もし残念なことがあるとすれば、この味なら専門店の方がよほど美味しい。もしかしたら通販で購入した品を素人が調理した物にも負けるかもしれない。

 

「味わいで言えばこっちの方が美味いんだが……やっぱりこのパンでもダメか」

 香辛料だけを減らして強烈なスパイシーさを削り、強烈な風味だけを残す。

 その辺りのパン屋で購入した、多少味の強いパンでは少し物足りないのだ。

 先ほどよりも食べてみたいという気持ちは強くなるがまだまだ微妙である。

「パンを特注できる店を探すか、それともチョリソのサイズを小さくするか。あるいはこの形式のホットドックは諦めてソースを足すか……」

 店を探す場合は近場で注文できるか判らない。

 相手の店にも都合があるし、それこそ健の居酒屋のように割に合わないからやってない可能性もあるだろう。そしてソースを使うパターンは最も簡単だが、なんだか負けた気がして選択したくないのだ。

 

 一方でサイズを小さくするのも簡単な部類だが、食べ応えが大きく減ってしまう。

 長さを大きくしたとして満足感というか、この店じゃないと近隣では頼めなさそうだというイメージが湧かないのだ。実際には他の店でも可能だと思うが、やはり独自性というものは目指したかった。

 

「せっかく小さめのハムみたいな食べ応えなんだし、このまま活かしたいよな。どうにかして……ん? そうか、ハムだと考えれば良いのか」

 健は何事かに気付くと、壁を見て表を見て最後にメニューの方を眺めた。

 そこには彼自身が調理した料理の写真があり、どんな物だったか思い出せる。

 当然ながらハムであったり、似たような味付けの食材や、似たような形状の食材もあるのだ。

「なんだ……。味付けは問題ないんだから、風味が丁度良くなる程度にスライスすれば良いだけだよな。悩んだ分だけ馬鹿みたいだ」

 太さにこだわったのはソーセージと比較しての話だ。

 極太のチョリソを全部使わずとも、スライスした肉で十分にパンは美味しくなる。

 あえていうならばホットドックの形状に引き吊られてしまったというところか。

「とはいえ絶対に、こういうパンが現地にあるだろうな。まあいいか」

 ともあれこれでパンを妥協しても問題は無くなった。

 次に遠出した時に特注できるかや値段を確認するとして、無理ならこのスライスしたバージョンで出せばよい。ホットドックに限りなく近い味わいを用意した上でなら、別にソースを使ったタイプを作っても問題ないのだ。

 

「この味を基準にしてクラフトビールも探してみるかな。まあその前にこいつを使った小鉢を工夫したいところだが」

 ここまで考えて笑える話だが、小鉢の400円に合わせるとスライスしたチョリソで妥当な金額である。食べ応え重視で丸一本のチョリソがあっても良いが、これに色々混ぜた料理もあって良いだろう。あまり創作料理に傾き過ぎない程度に、何か面白い料理はあったかなと新しく悩み始める健であった。




 という訳で個性的に負けてしまいました。
戦闘物やコンテスト物と違って、負けても良いのが日常物の良い所ですね。
別に食材と勝負して負け、検索機能に頼っても恥でもなんでもないので。


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お代わり

 狙ってない時に妙な当たり方をするものである。

 健はクラフトビールを探して右往左往する時に、妙な物を手に入れた。

 ダメもとで普段はいかない酒屋に顔を出し、とあるブツを手に入れたのである。

 

「甘いけどトウモロコシじゃないですね……何の香りでしょう」

 土曜日に訪れた例のアメリカ人の女性客が訪れたので、さっそくチョリソを丸一本出した。

 その時に赤いサルサの他に、黄色い物を用意したのだがこれはトウモロコシを使用していない。

「多分、酒粕じゃないかしら? 珍しい組み合わせね」

「御名答。クラフトビールを探している時に、とある酒屋が分けてくれたんです」

 日本酒の酒造メーカーがついでにビールを作っていることもある。

 そこであちこち顔を出してみたら、その内の一つがこれを分けてくれたのだ。もちろん気に入ったら継続購入してくれという事だった。

 

 そこでそれほど多くは無いが定期購入させてもらい、色々な料理で試している。

 今までの料理の中でも、幾つか変更した物があった。偶に買う程度ではこうはいかない。

 

「そのままじゃあ少し合わないので、味を繋ぐのにバターと味噌を使っています」

「これが日本酒のサケカスですか。廃棄処分の滓ではなく、独特の商品?」

「そうよ。あそこで食べてる『もろみ』と似たような物ね」

 視線の先にはいつも通りキュウリを食べているカッパさん。

 話題に上っても我関せずとポリポリ食べながら酒を呑んでいる。

 見渡すと常連しか居ないこともあり、せっかくなのでお通しの実験用という名目でサービスしておくことにした。

「少しずつですが、みなさんどうぞ。普通に焙ったものと、砂糖をまぶしたものです」

 二種の味を試すための器に盛り、砂糖をまぶした方を少なめにしておく。

 甘いのもいける者もいるが、あえて甘味を多くする必要はあるまい。

 

「これで何か作ってくれ」

「いいわね。私もお願いするわ」

 それはそれとして関心を覚えたのか、女性客もカッパさんも何か作ってくれと返して来た。

 おそらくはサービス料の代わりに小鉢を追加することでソレに替えたのであろう。

「ではタケノコの酒粕煮と、煮つけの酒粕バージョンを用意しますね。少々お待ちください」

 カッパさんは歯応えがある物が好きなので、タケノコを酒粕で煮込んで味を付ける。

 逆に女性客の方は、真っ黒で地味なイメージの魚の煮つけを酒粕を使ったお洒落な色合いに替えてみた。

 もちろん両方とも練習して問題なく造れることは判っている。酒粕の定期購入を決めた時点で、バリエーションとして再構築した料理だった。

「こちらにも何かお願いします。そうですね……コレと同じような、似てる物は作れますか? 二品でOkです」

「……? あ、ああ。トウモロコシのソースとさっきの酒粕ソースみたいな感じですね。ちょっとお待ちください」

 色々作る為に鍋を面倒見ていると、アメリカ人の御客が悪戯っ子ポイ顔で提案して来た。

 最初は何のことか良く判らなかったが、よく似ている料理で別物は作れないかというジョークだろう。

 

 普段ならば少し考えるところだったが、どっちを用意するか悩むことがあったので丁度良い。朝の魚市で貝が安く手に入ったので何を作るかの候補が絞れてなかったのだ。

 

「この香りはオリーブオイル……片方はアヒージョですか?」

「はい。もう片方は酒蒸しにします。付け合わせのパンの方は一つだけならサービスにしときますね」

 アヒージョというのはオイル煮のことである。

 たっぷりのニンニクを一緒に煮込んで強烈なパンチを効かせて食べるのだ。キノコの他に色々な魚介類を使うので、その日に安く手に入る物を選んで放り込むには向いている料理である。

「いいですね! ではパンも小鉢としてください。チョリソのお代わりも」

「……わ、判りました。ご注文ありがとうございます。チョリソはスライスしますが、一本で欲しい場合は言ってください」

 まるで今から食べ始めるかのような分量だ。

 うちは後から三皿になってもサービス料金にしているが、まさか二巡目が来るとは思いもしなかった。とはいえチョリソも頼むという事は、パンに挟んで食べもするのだろうと今回はスライスしておくことにする。

 

 この日はこうして好評のうちに終わり、後日もお客によっては直接に酒粕を楽しむ人も出て来た。意外だったのは、妹の美琴がチーズケーキに混ぜたことである。とにもかくにも、今は面白い食材が手に入るようになったと喜んでおこう。




という訳で、思いついたのでもう一回分。
やはり一回が身近いのと、エピソードを混ぜると作り易いので輪数が増えますね。
まあ長い話を作れば良いのでしょうけど。


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