四番隊は今日もゆく (yuzuna*)
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ぷろろーぐ

はじめまして、唯羽と言います。



こうして投稿するのははじめてなので、未熟な点はございますが、誤字訂正や質問等、教えてくださると嬉しいです。

ガバ設定にはならないように頑張っていきますが、ガバになったらごめんね。教えてくれたら手直しすると思います。



一応のあらすじはできているのですが、執筆する時間がなかなかないために不定期投稿となります。

一話一話、出来上がり次第上げていきます…。



どうぞよろしくお願いします。


 

 

 

白に薄いピンクが入った少し長めの髪を揺らしながら、(トモシビ)は足を進める。

 

 カツンカツンという無機質な音はさっきまで歩いていた雪の上よりもなにか寒気を感じさせる。

 

 このような異様な緊張感を感じているのは自分だけではないはずだ。

 

 今日、燈達は最近発見された山の調査任務に出ていた。

 

 そして、その調査中に、山の斜面に金属の重厚感がある扉を見つけ、司令官の命令のもとで、その扉の内部へ進入した。

 

 扉をぶち抜いて入ったために入り方は正攻法とは言えないし、かなり脳筋プレイであったことは否めないが進入成功は成功であった。

 

 

 そこは不思議な空間で、この山の周辺では大小さまざまな敵と衝突し、他の部隊ではつい先ほどまで戦闘が繰り広げられていたというのに、扉をぶち抜いた時も進入を始めてからも戦闘も、敵の姿すらもなかった。

 

 金属の壁、金属の床、そして金属の天井と金属に包まれたこの空間は何かの施設のようで、山の地下ということもあって外の光もなく、燈達は暗闇の中を進むこととなった。

 

 暗闇なのになぜ施設内を進めているのかという質問については、炎の脳力を使用していると答えておこう。

 

 能力については後々話をするが、この施設に入ったのは燈が所属する四番隊の4人と八番隊の5人である。

 

 その中で四番隊には2人、八番隊には1人の計3人が炎の脳力を持っている。

 

 その3人が放つ炎の光を頼りに施設を進む。

 

 

 この施設は広いようだ。長々とした廊下にいくつもの部屋が繋がっている。

 

右へ行ったり左へ行ったり、施設内にはどのような敵が潜んでいるかがわからないので、念のためはぐれないように一団となって進んでいる。

 

 階段を途中で見つけ、それを降りて奥へと進む。

 

ちなみに、自分たちが入った階から上へと続く階段はなさそうであった。

 

 

 

 階を下ること四、五階だろうか。

 

 「(カガリビ)、ユエリナ様達もここの入り口に無事ついたみたいよ」

 

 直線を進んでいる一団であったが、後方から紫と白が交錯するロングヘアーを揺らしたシエルが上がってきた。

 

 彼女は八番隊の隊長である。後方から上がってきたのは四番隊の面々を先頭にして進んでいるからである。

 

 彼女は、はきはきとした物言いと負けず嫌いな性格の持ち主である。自身がライバルと認定している四番隊の隊長、燎に負けたくない一心で実力をつけてきた人物だ。

 

 実際のところ、燎に勝てたことは一度もなく、どこかひねくれて…というかふてくされている部分が多いのだが。

 

 そして、彼女が今話しかけた相手がその燎である。燎とシエルが競い合うのを見て仲がいいと勘違いした司令官はよく四番隊と八番隊を一つの部隊にして戦場へと送り出す。皮肉なものだ。

 

 燎は四番隊の隊長である。燈とは幼いころからの親友であり、戦友でもある。熱い性格で、脳筋である。その保有する力も詳しいことは時が来たら説明するが、脳筋に似合う馬鹿力であり、攻撃力は半端じゃない。ちなみに、扉ぶち抜いたのもこいつだったりする(ため息)

 

 「ほう。四番隊の無線機を入口に置いておくという俺の考えは完璧だったわけだ」

 

 燎が赤い髪を揺らしてイケボで答える。こういうところがシエルは苦手だそうだが…。

 

 模擬戦にてシエルを負かせた後でも、「悪くない。2年後にお前をまつ」とか謎の言葉をイケボで決められ続けていたら嫌いにはなりそうだ。

 

 

 「あんたじゃなくて(アヤギヌ)の案でしょ。脳が筋肉みたいなあんたにこんな柔らかい考えはできっこないわよ」

 

 シエルは少し顔を引きつらせ、言葉に棘をもたせてそう言った。

 

 そう、この案は四番隊の脳、綵の入れ知恵である。各部隊には隊長に一つずつ無線機が配布されている。各隊はそれで連絡を取ったり、司令官本人から戦況に応じて指示を受けたりする。

 

 その無線機には位置情報を知らせる機能も付いているため、入口の位置を後続が断定できるように、四番隊の無線機を施設の入り口に置いてきたのである。(四番隊は八番隊と行動を共にするため、八番隊の無線機一つがあればいい)

 

 「ばれたか、、」

 

燎は苦笑いをこぼした。

 

 「あんた、敵いないからって気を抜かないでよね。四番隊なら多少の強敵相手に無理がきくだろうけど、私たちには無理だから」

 

 燎の様子にツッコミを入れるシエルであったが、やっぱりちょっとなにかを拗らせているような言葉である。

 

 現実を見ているということでもあるのかもしれないが、少なくともかなりの強敵でなければ八番隊でも十分戦えるだろう。

 

 それに確かに四番隊は火力でいえば一番隊にも引けは取らず、突破力においては軍トップといってもいい。実際強敵の討伐の編成には必ず組み込まれる隊であるし、場数も踏んでいる。

 

 その上で八番隊は無理だからと卑屈に感じる言葉を並べるシエルが、後方へと戻ろうと振り向き、髪をたなびかせた。

 

その時、

 

 「大丈夫だ、」

 

燎が言う。

 

 「そん時は必ず守る」

 

 自信満々であるが、その声はしっかりと地に足を付けているようであった。

 

 そんなかっこいい?シーンであったが、言った相手はシエルである。

 

 「…守られなくとも私たちだって戦えるから」

 

 後方へと戻るシエルに、でました、負けず嫌い。と思う燈であった。

 

 

 

***

 

 

 

 その後も敵が現れることはなく、ただただ広く長い無機質な空間を進んでいった。 

 

 何も起こらなさ過ぎて緊張がゆるみつつあるのか、後方の八番隊に所属するシエルを含めた五人からこのような会話が聞こえてきた。

 

 「シエル~(スズメ)怖いよ…雀にはこんな狭いところ似合わないよ…」

 

 灰色と茶色の髪を編み込んでいるいつもなら快活な女の子、雀がシエルへと少ししょんぼりとした様子で呟く。

 

 小柄なため庇護欲が湧いてくるが、雀は軍に入る前の防衛学校を首席で卒業したかなりの強者である。

 

 「あら、可愛い雀ちゃんは狭いところにしまっちゃいますよ~」

 

 黒の髪を雀と同じく編み込んでいる女の子、杏子(アンコ)が会話へと入り込む。満面の笑みでその声色は嬉々と、そして手をわしゃわしゃさせて忍び寄る。

 

 「ひっ…」

 

 雀の悲鳴が漏れ、すぐに杏子から距離をとった

 

この2人防衛学校時代からの付き合いだそうで、杏子は雀はありふれんばかりの好意?を向けているが、雀へのアプローチ方法を常にミスっている。

 

 「杏子、雀をいじめないの」

 

 シエルが杏子をなだめる。

 

 「シエルちゃん…いいじゃない少し怖がらせるぐらい…」

 

 まぁ、杏子に悪気はなく、大好きが故のものなのだ。

 

それもどうかと思うのだが…。

 

 

そしてそんな八番隊3人のさらに後方から、

 

 「シエルさん、杏子さん…日和(ヒヨリ)が怖いです…」

 

 黒上ロングをハーフアップにした女の子、千景(チカゲ)が気まずそうに声をかけた。

 

 彼女はしっかり者であり、八番隊の常識枠と言えば彼女であろう。

 

 その千景の目線の先には

 

 

 「はぅぅぅ…燈さん…燎さん…かっこよすぎりゅ…」

 

 オレンジ色のボブの女の子、日和がいた。

 

 彼女もまた曲者である。日和はユエリナ軍に入る前より燎、燈に憧れを抱いており、2人の近くにいるとオタク…と言われるような限界化したハッピーな頭の持ち主になってしまうのだ。

 

 この3人の共通点とは、炎の能力の持ち主であることだ。

 

先程の暗闇を照らしている3人とは燎、燈、日和の3人のことであった。

 

 まぁ、このような作戦中にオタク化してしまう子がいるのに四番隊と八番隊で未だに組むことができているのは、日和自身が「お二人から離れるのだけは…死ぬまでこの特等席は離せません!!!!!!!!」と、司令官の前では意地でも表情を崩さないようにしているからである。

 

 

 さて、現状、八番隊付近の光はこのハッピーモードな日和の炎に頼っている。

 

そのためシエルは、

 

 「日和…いつものオタクモードね…。千景、日和の炎は大事なんだからしょんぼりさせちゃだめよ」

 

 と、日和を止めることをやめ、逆に千景へと注意を促した。

 

 

 「この状態で放置ってことですか…。」

 

 千景は、日和をものすごい目で見た後、諦めのため息をついた。

 

 千景はもちろん前方からこの様子を眺めている燈としても日和の状態を直してほしいのだが…。

 

 致し方ない。

 

 その千景の様子を見て少し悪い気がしたのかシエルが口を開いた。

 

 「…しかたがないでしょ。日和はあの二人に惚れてるんだか…「惚れじゃありません!結婚とかじゃないんです!!!推しです!!私は眺められればいいんでずぅぅぅぅ!!!!!!!」…そうね。」

 

 が、シエルの指摘を日和が遮りながらも大声で食いつき、その興奮のあまり操っていた火の大きさが数倍大きくなったため、シエルは適当な相槌を打つこととなった。

 

 

 「あちょ、日和ち(オオトリ)ゃん火デカすぎ!!!!!燃える。私燃えるって!!!日和ちゃん!?!」

 

 その火は隣にいた千景を燃やすかような勢いで千景もまた大声で日和へと叫ぶのであった。

 

 シエルは、より千景を苦しめた。

 

 

 

 

 その会話を聞いていた人が燈以外にも1人、

 

 「八番隊のガールズトークは良いわねぇ……私も混ざりたいわぁ~」

 

 一人の妖気を含んだ女の子のような声が響く。

 

 

 

 「綵、まだ戦場だからな、我慢してな…。」

 

 四番隊の脳、綵である。綵もまた少し変わっている。

 

白と毛先にかけて緑になる綺麗な髪を長く伸ばし、口調も服装も女っぽいのだが彼は男である。そう、男である。

 

 ガールズトークが好きなため、気を抜くと女の子との会話に花を咲かせそうな綵を、四番隊の中でも綵と行動する率が高い、黒髪の(オオトリ)が止める。

 

 鳳は八番隊での千景のような四番隊での常識枠だと燈は認識している。燈だけでは燎、綵を止めることはできないので、鳳がいなくては四番隊は回らないとまで考えてほどだ。

 

 「綵、シエルのいるときに混ざるのはやめとけ、すごい目で見られるぞ」

 

と、前から後ろへ振り向いた燎がいうが、

 

 「そういうのも一興なのよねぇ…?」

 

…と、綵は天才の回答をしたのであった。

 

 何が一興だ。と燈は思ったが、

 

 「行っておいでよ。」

 

 と、今回は綵に五番隊のもとへ行くのを進めた。

 

 

 「あら、いいの?」

 

綵はいつもなら止めるはずの燈の勧めにすこしキョトンとする。

 

 

 

 

 

 

 「いまなら燃えれる。行け。」

 

後方では日和の炎が燃え盛っていた。

 

 

 

***

 

 

 

 少し緩みつつあった燈たちの空気ががらりと変わったのはいつであったか、突然であった。

 

 微かな音、なにかのいる音、いや、雰囲気を感じた。

 

 全員が息を潜め、いざという時のために臨戦態勢をとる。

 

 かくゆう燈も、しっかりと警戒をしながら隊の先頭を進んでいく。なぜ燎という隊長ではなく燈が先頭なのかは、それぞれの得意不得意という部分であろう。燈は守ることを得意としているからである。能力については後々(以下略)

 

 

 少し進んで行くと、ほのかな光を感じた。

 

この暗かった空間内に、自分たちの発していない光がある、となるとさらに緊張が膨らむ。

 

 燈は意を決して、腰に下げている刀に手をかけながら、するりとその光の発光源である部屋を覗き込んだ。

 

 

言葉が漏れた。

 

 「機械…?」

 

 その部屋には筒状のカプセルが大量にあり、その周りを一台の機械がこまごまと動いていた。

 

 動いているだけで危険性を感じない。そう判断できるほど無機質な動きであった。

 

 光も本当に淡い光で、その機械の行動範囲を照らせればいいかのようである。

 

 

しかし、安全なのではないかとより近くに行こうとする燈を

 

 

 「待て」

 

と、燎が止めた。

 

その声は真剣そのもの。燈を制したその手には、行くな、といった少し強めの力が込められていた。

 

 

 

そして、

 

 「…あんなかで腐ってんの、人だ」

 

燎が告げた言葉に全員に強い緊張が走った。

 

 確かに、機械の透明で部分から覗けた中には確かに腐敗した人のようなものが見える。

 

 

 「ここは、なんだ?」

 

 燎の声が淡い光の中に消えていくようだった。

 

一気に不気味な雰囲気がこの空間に漂った。

 

 

 

 

 「大丈夫よ…。勘だけど、あいつが攻撃してくる可能性はないから」

 

 綵が唐突に言った。

 

 その口調が前半は女っぽいのに、後半にかけて男のようになっている。勘とは言うが、これは真面目な綵だ。

 

 「勘って、お前の勘はよく当たるけどよ…」

 

 鳳が呟く。

 

 

 そんな中で、後ろから隠れるように機械を注視していた雀がとあることに気づいた。

 

 「ねぇ、あの機械、あそこの二つのカプセルを中心に動いてないかな。それにね。あのカプセルの中の人間、腐ってないと思うの。」

 

 全員が注視してそのカプセルを見る。

 

 流石の洞察力である。確かに機械は二つのカプセルを起点として常に動いている。そして、中の人間は…?

 

 

 

 

 「…これは、ユエリナ様が来るまでここで待機だな。周囲に危険物がないかだけ確認しよう。」

 

 燎の一言に全員が頷いた。

 

ユエリナとは彼らの司令官の名前である。

 

 司令官の命令を待つ、それが最善だと四番隊隊長が判断した。

 

 

 

これが彼らとの出会いだった。

 

 




結構時間使う・・。読むのも大変でしたでしょう?

読んでくださりありがとうございました。

素人なので、こうしたらいいかもとかがあれば、優しく教えていただけると嬉しいです。


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副長の執務室

今回はあまり進まない。


 あの施設の発見から二日が経った。燈は道場を模した訓練場にて日課の早朝訓練を行っていた。

 

 

 4年前から持ち始めた刀の鍛錬である。

 

木刀を振りながら、ふと二日前に見つけたもの、或いは人のことを考える。

 

 

 あの場で待機し、ユエリナ様と今回の作戦で本隊を務める二番隊と合流した俺たちは、あの施設から腐っていなかった二人の人間と思わしき生物と、その付近で動いていた一台の機械を回収した。

 

 カプセルの回収はカプセル自体がその空間と完全に組み合わさっており、回収は不可能と判断された。

 

 カプセルの中の生き物はカプセルの端にあったボタンを綵が押してしまった(この場合むしろ好奇心により押したと思われるが…)所、カプセルが開き、幸いにして生きている状態が確認された。

 

 しかし、衰弱こそ見えないものの、筋力の低下が予測され、起きたところで歩くことすらままならないし、声を出すことも難しいだろうというのが現状であった。

 

 それらはリハビリとサポーター、薬の服用でどうにでもなるが、まだ目を覚ましていないので薬の服用のみに留まっている。

 

 また、回収した一台の機械は回収した後から動かなくなってしまった。電気を流してみると一応反応するのだが、動きはしない。

 

 そのため、その機械は南大陸進行軍の総司令本部へと戻り解析されるまでは、このユエリナ軍本部飛行艇の倉庫にて眠ることとなった。

 

 

 「燈、ユエリナ様が呼んでるってよ。」

 

そんなことを考えていたら燎が後ろから燎の声が聞こえた。

 

 「二日前のことについてかな。総長へは連絡したんでしょ?」

 

 燈は上に振り上げていた木刀を下へと下ろし、振り返って問う。自分が今、司令官に、もといユエリナに呼ばれるとしたら二日前のことについてが最も確率として高いだろう。

 

 総長というのは、ユエリナ率いるユエリナ軍が所属している南大陸進行軍という軍全体の司令官である。南大陸進行軍ではユエリナは副長というポジションである。

 

 二日前、回収を終えた後に、ユエリナは口外禁止をユエリナ軍全体に命じ、総長へと連絡をとったらしい。

 

 「あぁ、なんでもそれは支部に帰った時にカランさんも含めて会議を開くってよ。今のところはやっぱりまだ内密な話だな。」

 

 そう言うと燎は、とりあえず来い、と燈を連れてユエリナの元へ行った。

 

 

 

***

 

 

 

 「四番隊 燎、同じく燈、入室します。」

 

 ドアの前に立ち、燎が隊長として入室の許可を待つ…。

 

はずだったが、燎は一方的に言った後、返事を待たずにドアを開けた。

 

 

 「返事…は…いらないっか…笑」

 

 ユエリナは入ってきた燎をみて、ふふっと笑みをこぼしてそう言った。

 

 ユエリナは外見や顔立ちが相まってまだ十代に見える司令官である。

 

 実際、彼女は20代前半であり、それは編成されたばかりで10代から30代の軍人が集うこのユエリナ軍の中でもなかなかに若い部類である。

 

 ではなぜ、彼女がこのユエリナ軍のトップであるのか。それは彼女もまた天才であるからということであろうか。

 

 司令官レベルでは最年少という若さでありながらも南の最前線を突き進む南大陸進行軍という軍の副長にして一つの軍をまとめる地位に立った彼女。その過去については追々触れられていくことだろう。

 

 ユエリナがいる執務室に入るとソファの上にいた綵があくびをしながら手を振ってきた。その頭には寝癖をつけている。

 

 そしてその隣には燈と同じく朝から鍛錬をしていたのであろう少し疲れてそうな鳳がソファに腰を掛けている。

 

どちらもだらけた体勢でソファに座っていたため

 

 「お前らなにそんなにくつろいでんだよ…。」

 

 つい燈は言葉を漏らした。

 

 「ユエリナ様これで四番隊揃いました。」

 

燎が綵たちの向かいに座っているユエリナへと声をかける。

 

 

 「はい、燎了解。…燈はそう怒らないでよ。この部屋には私たちしかいないし、砕けててもいいじゃない」

 

 ね?とばかりにその紫の髪を揺らすユエリナに燈は、はい、と答えるしかなくなった。ソファの上では綵がいぇーいとか怠けた声を出しているが、

 

 「まぁ、それでも今からちょっと真面目な話をするんだけどね」

 

 少し茶目っ気をいれてユエリナは話を始めるべくソファに座り直した。

 

 「今回の件、彼らは人間なのか。そして、どこから来たのかとか、なにがあったのかとか…彼らの存在は考えれば考えるほど不思議なの。

 

 私たちの国にはカプセル内で人を育てる実験をするような技術力があるとは思わないし、そもそも、南大陸の北端にある私たちの総支部から500㎞も離れた場所へとあの人数をこの飛行船もなしに運ぶのは無理難題よ。」

 

 話の前半については当たり前だ。あの施設自体、未だに何かがわかっていないのだ。検討すらつけられない。

 

 そして後半部分、燈たちの国というのは一つの大陸であるが、この南大陸の北端に位置する総支部から、海峡を挟んで対岸である。まず、巨大生物や肉食獣など危険が潜む海の上を移動するには空を行くしか手段はなく、飛行船を使う、もしくは風の力を持つ者が運ぶなどの方法しかない。飛行艇もなしに風の力で大人数を運ぶのは時間もかかるし、体力がいるので非現実的だ。さらに海を渡った場所から陸を500㎞も移動するなんて無茶である。さすがに力のある軍を一つ投入しても道中に死人が出ることは避けられないだろう。

 

 「と、なると考えられるのはもう一つのみ…。南には他の人類が生きているということ…。そしてその人類はすさまじい技術を持っている。これはさ…なんか、やばくない?情報を掴んで、他の人類と出会ったりなんかしちゃったら新発見というかもはや革命…だよね…」

 

 ユエリナが体を少し前に乗り出して最後の方を謎にじっくりと言う。

 

 多少の語彙の足りなさはあったが、ユエリナが言いたいことはわかる。そして乗り出したことからもわかるように少し興奮?しているようにも思える。

 

 この説通りであればかなり新発見、いやそれ以上に何か大きな影響を国や人々にもたらす事案であることは、直感的に誰もが予測できたため、仕方がないなかもしれない。

 

 「問題は今回見つけた人たちがその技術を知っているのかもしれないってことね~…」

 綵がさらっと言う。

 

 「そう、かなり重要で重大、その上危険な拾いものよ。」

 

 ユエリナは少し乗り出していた体をソファへと戻し、綵の方は指を向け、神妙な顔をして言った。

 

「知っているだろうけど、このことはユエリナ軍の全員と南大陸進行軍の総長副長レベルにしか伝えてないわ。それに絶対的な口外禁止も言いつけた。けど、この先彼らが目を覚まして私たちの国で生きていくのであれば、彼らの情報を得た誰かしらに追われるのは必然でしょうね。」

 

 新技術を欲しがるのは人間の性だろうか。

 

それに違う土地に生まれしもの、しかも南大陸での人間となれば興味は尽きないだろう。

 

 燈は少し、見つけてしまった自分たちが彼らを守らなくてはならないなという気持ちを感じた。

 

 いずれにせよ、ユエリナは新発見になりうる存在を手放す気はなさそうだが、

 

 「さて、そんなこんなでさ。彼らを守れる都合のいいところはどこだとおもう??」

 

 なぜ、ここを質問形式にしたのだろう。先ほどからところどころ茶目っ気を入れたりしてきている気もしなくもないが…

 

 「もうすでに全員が知っているユエリナ軍ってところなのか」

 

 燎が答えた。ユエリナもご名答、それに一番信用できるしねと次は燎を指差して答えた。

 

 この流れでこの会話が進んでいると言うことは、ほぼ確定でユエリナは彼らをこのユエリナ軍で引き受けようとしているのであろう。

 

 「それで俺たちを呼んだってことはもうなにか動こうっていうのか?」

 燎が続けて問う。

 

 彼らの身柄を引き受ける件については、おそらくユエリナがどうにかしてくるのであろう。

 

 彼女のことだ、引き受けることを見越して早速何か動き出そうとしているのだと燎は考えた。

 

 「まぁね。四番隊にはもう一度研究所に行ってもらおうと思っててさ。一応一旦このまま北上して総長たちと直接話し合いをしたり、機械を見てもらったりしてからだけどね。これからこの二人の護衛を四番隊に任せようと思って。一番隊を当てるわけにもいかないし、半端ない攻撃力があって、防御もこなせて、遠距離もお手の物で、高速で動ける部隊なんてなかなか見ないし~」

 

 ユエリナがあからさまに媚びた声でこちらへ言う

 

四番隊の面々は思った。こいつは今回の件が面倒ごとになる予感がしていて、それで尚その自身の興味のために、2人の人間のことを一任してもらおうとしているのではないかと、

 

そして、

 

そのための茶目っ気か…!!と

 

 

 ただ一人、

 

 「任せろ。うちは精鋭だからな!」

 

と快諾する燎を除いては。

 

 

 「じゃあ、そんな感じで固めていこうかな。あなたたちに護衛を任せて、起きてからしばらくの補助は11番隊に任せているから。よろしくね!」

 

 隊長が言うなら引き受けるしかないし、まぁ、もともとユエリナの頼みであれば、命令であれば、引き受けないことなんて絶対にないが。

 

 

 うんうんと頷くユエリナを横目に

 

 「はい(よ)」

 

 と四番隊の面々は各々了解の言葉を言い、ユエリナの部屋を出るためドアノブへと手をかけた。

 

 

 

 

 

 「頼りにしてる。

 

 先代のようにあなたたちと戦えなくても、私は私のやり方で進むから」

 

 決意に満ちた。それでいて凛とした声が背後から聞こえた。

 

 振り返ったその場には、窓から外に見える大きな空を見つめるユエリナの姿があった。カリスマというものなのか、どこかその後ろ姿は勇ましく見えた。

 

顔に笑みを浮かべる四番隊。

 

相対する彼女は立派な司令官である。

 

 

 

 

 

 

 

小さいけど…

 

 

 

 

 

 

 

 

新発見になりそうって興奮してたけど…

 

 

 

 




ありがとうございました。


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副長の執務室(2)

世界観伝われええ~~~


 

 

 少し前の話をしよう。人類が再び南大陸へと帰るまでの話だ。

 

ーーー 人類は新人類へと至る中で新たな力を手に入れた。

 

 

 

 この言葉は常に親から子へと受け継がれてきた名文句だ

 

その力を持っていないとされる者もいるが、その力があったからこそ、今のクニエダ王国とその国民は混沌と化した長い年月を生き永らえてきたといえる。

 

その力とは、11個に分かれている。

 

「水」、「炎」、「草」、「風」、「土」、「雷」、「竜」、「星」、「花」、「氷」、「血」。

 

その能力を有する人口は「水」、「炎」、「草」、「風」、「土」、「雷」がほとんどで、「竜」、「星」、「花」、「氷」は大変少ない。

 

特に「星」や「氷」の力を持つ人材は本当に貴重である。最後に王のみが持つ能力が「血」である。

 

 

 

各種別に能力を少し詳しく説明しよう。

 

「水」、「炎」、「草」、「風」、「土」、「雷」、「氷」はその力や物質を創造し操ることができる能力ですぐに想像がつくだろう。

 

 

他の三種の「竜」、「星」、「花」については、

 

「竜」はこれは外見から変わっているのだが、竜のような角、尻尾、翼を持ち、力が強く、空も飛ぶことができる能力である。体内で作られているエネルギーはほかに比べてすさまじく、その膨大なエネルギーを蓄積し、体から放出することができる。(口から出す者もいる)

 

「星」はものすごい爆発力を持った力であり、その力に耐えれるように体も大変丈夫である。この国の貯水池は「星」の力を持つ者が手を振り落として一瞬で大きな穴を作ったという。

 

「花」は手から防御壁を張ることができる能力である。その防御壁は能力者の鍛錬にもよるが自在に操ることができる。その防御壁が手から花のように広がることや、能力を発揮する際、体の周囲を花びらのようなエネルギーの欠片を放出することから「花」と名付けられた。

 

最後に、「血」は王家の血に代々流れている特殊な力である。その力は奇跡の力と呼ばれ、あまりよくわかっていないことも多いが、その時の王たった一人しか使用することはできない。それは新王の戴冠式の際に次代の王へと先代の王から力が渡されているからであって、ただ一人の王のみが持つ力である。

 

 

 

 

なぜ、これらの力が人類に備わったのかはわかっていない。

 

しかし、人が世界を牛耳ることができていた時代が2030年代周辺に突如として終わり、直後の新種族の誕生や自然の猛威にさらされた人類が生き残るために進化したと考える者が多い。

 

 この王国の王は力を最初に発言させ、人類を守りながら北の大陸にたどりついた人物の末裔である。現在の北の大陸全域を領土とするクニエダ国を建設したのは現在の王から3代前の3654年6月4日のことである。

 

 とはいえ、その領土から完全に危険な存在が排除されたのはつい最近のことだ。

 

現在の王であるシュナヴ・クニエダは4年前の建国記念日に大陸の制覇と人類文明の復活を宣言した。

 

 なぜ4年前であったのか。それは今が3760年であるから3756年のことである。国の建国から人類は大陸の東西南北へと国の支配を広げ、3755年には人類に対して危険を及ぼす生物を大陸の南西部に追い込むことに成功していた。

 

 

 

 そしてきたる3756年4月7日、人類は南西部の巨大生物掃討作戦に乗り出した。

 

 その戦闘は思いもよらない超常的な生物の登場によって、地獄のような状況に陥り、戦闘が全体で約1か月の間も続いた。

 

 当時までは18歳以上とされてきた国の軍隊に、まだ軍隊学校に通っていた16、17の少年少女が徴収されたほどに多くの戦死者を出した。

 

 結論から言うと、その戦闘は王の奇跡の力によって終結した。王が戦乱の中に飛び込み、大きな光とともに、彼らを消滅させたのだそうだ。

 

 その光を見たものの多くは激しい攻防が行われた最前線であったために、重度のけがを負っており、その後の治療が間に合わず死んでしまった。しかし、息も絶え絶えに伝えた者や、遠くからその光を見たものが大勢いたため、王の力であることの確証を得たとしている。

 

 そうして、大陸全土の人類による完全支配を成し遂げたのであるが、その掃討作戦後に南の海を見た者が新大陸、私たちが言う南大陸を発見したのである。

 

 その後、多数の負傷者や死傷者を出した軍は16歳以下へと軍への志願年齢を下げ、軍の立て直しへと入った。北大陸の防衛を行う防衛府。国内の治安を守る中枢府。そして、南大陸の調査、進行を行う専攻府である。その専攻府の軍、南大陸進行軍の中の一軍隊がユエリナ軍であり、非戦闘員の隊を除くと12の隊によって編成されている。

 

 さて、長々と人類が北大陸へと逃げた後、力を手に入れ再び南大陸を発見するという歴史の流れを説明してきたが、最後になぜユエリナが南大陸進行軍の副長となり、ユエリナ軍の隊長となっているのか軍のちょっとした歴史とともに説明しよう。

 

 まず、理由としてはユエリナの父親が軍再編成前の王国軍総隊長をしていたというのもあるが、それだけでは最年少にして軍をまとめる立場にはなれない。あの掃討作戦の地獄と言われた戦況の中で、その手腕を発揮し、大きな功績をあげたことによる特別昇進が表向きの理由であるが、南大陸という危険な所にユエリナを左遷したというのが本命であろう。

 

 あの地獄の状況を見てしまったのであれば、大体の王国軍のお偉いさんは中枢府へと安寧を求めて異動したのも頷ける。

 

 先ほど、ユエリナ軍が12の隊といったが、専攻府はなかなかに人数が少ないのも事実である。防衛府、中枢府、専攻府のすべてが新興であり、またもともと多くはないクニエダ国の多くの兵や民を掃討作戦にて失ったために全体的に軍へと入れる人口が少ないのはあるが専攻府の南大陸進行軍はユエリナ軍も合わせて3軍しかない。新たな南大陸の占領地は中枢府、防衛府にも軍の派遣や負担を負わせてはいるものの最前線で戦うのはたったの三軍のみである。

 

 ではなぜ、そのような状況下で南大陸への進行と占領を行うのか。その大きな理由は、資源の確保のためである。小さな理由としてはほかの人類との交流などもあるが、なにせ北大陸にある資源は有限なのである。その資源の枯渇が危惧されていたことに加え、北大陸制覇の立役者である王が南大陸へ興味を示したことでこの少人数の精鋭による南大陸進行軍が編成された。その際、国に安寧をもたらした偉大なる王の命令であればと、その南大陸進行軍の維持のためにお金や食料を払う国民も快く受け入れたほどに王の威光はすさまじかった。

 

 

 

 

 

ユエリナは4番隊が出ていった扉に背を向け、窓の外を見ながら一人、言葉を漏らす。

 

 「ここから面倒なことが起きるかもというのは勘。これが外れてくれればいいけど…。だけど…面倒ごとであっても…、この2人はきっとそれ以上の何かを持っているはず。ここから先は慎重に、確実な一手が必要。私には武力はない。あるものを大事に使う。それで、勝つ。」

 

間違ってでも誰も失うことがないように。

 

 

 




伝わったかな…


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神の落とし子(1)

 

 

 ユエリナの執務室を出た後、四番隊は予定通り、食堂へと来ていた。

 

 食堂は軍の非戦闘員である補給隊の働き場でもある。彼らはいつも五種類の献立を用意し、飛行艇内の食を賑わせてくれる。

 

 本日のメニューは、

 とんかつ定食、味噌カツ定食、かつ丼、カツカレー、チーズカツカレーの五つである。

 

 

 「お、あんたら今日はみんなで朝食かい?」

 

 カウンターの前に並び、どれを食べようかと四番隊が悩んでいると、奥の調理場からおばちゃんが出てきて、声をかけてきた。

 

 「そうだぜ! あ、おばちゃん!今日俺味噌カツね!」

燎が答え、朝食の注文をする。

 

 

 割とそれぞれが個人的な訓練を朝は行っており、四人でまとまって朝食をとる機会は少ない。

 

 まぁ、綵とかいう男は朝遅くまで寝てるだけなのだが…。

 

 「なかなかに久しぶりだねぇ、それで燈あんたは何食べるんだい?」

 

 おばちゃんは嬉しそうに頷きながら、燈にも注文を聞いてきた。

 

 このおばちゃんはこの飛行船にユエリナ軍が乗り、活動し始めた時から食堂にて注文を受けてくれている。

 

 今ではユエリナ軍にとって母親のような存在だ。

 

 「じゃあ、カツカレーかな。今日はカツの日なの?」

 

注文のメニュー欄にカツを用いる料理が多いことに燈も気が付いたため、おばちゃんに質問を投げる。

 

 

 「そうさ。大量にカツを揚げてるからさ。おかわりもして、たんと食べてくれよ」

 

 おばちゃんはニカッと歯を見せて笑うと綵と鳳の注文を聞いた。

 

 「ふ~ん。」

 

 燈がちらっとみた厨房の奥では大きな炎が上がっていた。

 

 

 

 

***

 

 

 

 「今日はここら辺に座るとするか~」

 

 燎が決めた席を中心に四番隊は次々と席についた。

 

 食堂はとても広く、壁が一面窓となっている部分がある。

 

 ここは空を飛ぶ飛行船であるから、窓からは広大な空と自然が見える。

 

 朝の陽ざしを浴びながら食べたいということで、燎は窓際に席を決めたのだ。

 

 席関係は燈が燎の右横に、鳳は燎の前、その横にして燈の前に綵である。

 

 

 燎は味噌カツ定食、燈はカツカレー、綵は「朝はそんなに入らな~い」だそうで、カツカレー少なめ、鳳はチーズカツカレーを頼んだ。

 

 「いただきます」

 

 と、燈がいい、カツカレーを食べ始めた。一口でわかる。これは大変美味なやつだと…。

 

 

 他の面々もそれぞれいただきますと言い、ご飯を頬張り始めた。…はずであった。

 

 「ごちそうさまでした。」

 「は?」

 

 食べ始めたばかりだというのに前方からごちそうさまでしたという言葉が聞こえ、燈は言葉を漏らしながら前方に向きなおした。

 

 

 見てみるとどうだろう。少なめであったとはいえ、一口では食べ終わらない、なんなら子どもが食べるなら十分な量であろうカツカレーが綺麗になくなっていた。

 

 「か、カレーも飲むんだね…」

 綵の横から鳳が声を絞り出した。

 

 「飲む!?」

 燈が声を荒げた。綵は、かなり食べるのが早いし、実はかなりの大食いである。

 

 しかしだ。それを知っていてもなお、今回のことは驚きが隠せない。

 

 「え、イモは?ニンジンとか、え?固形だよね?」

 

 そう、プリンであれば、まぁ飲むというのは想像ができるが、固形の入ったものを飲む…。

 

 「固形もあったけど?」

 それがどうしたの?と言わんばかりの返答に

 

おそらく綵が死んだとしたら、その死因は窒息だろうな。と燈は考えるだけでそれ以降思考するのをやめた。

 

 

 

***

 

 

 

 綵が優雅に紅茶をすするのを横目に、少しずつカツカレーを減らしていく。(さっきまでカレー飲んでたのに紅茶)

 

 

 すると突然、

 「わたし、、、、こっ、こ、ここに失礼してもいいですかっ!!!!!!」

 

オレンジ色のボブ娘が後ろから声がかけてきた。日和である。

 

 口は堅く結ばれており、頬が少し紅潮している、緊張…と言ってもいいのだろうか。多分そんな気がする。大体はわかる。燈と燎がいるために例のオタク状態になっているのだ。

 

 

 

 「日和~!プレート持って先に行かないでよ~」

 

 その後ろから声が聞こえた。

 

 千景が日和の後ろを追うように駆けてくる。その手に持つプレートの上にはかつ丼があった。

 

 「げっ」

 

 千景が俺たちを見つけ、しまった、と声を漏らした。

 

げっ、はないだろ。げは…

 

 「ご迷惑、おかけしてませんかこの子」

 

心配そうに確認を取ってくる。すいませんと何度も勢いよく頭を下げるため、プレートの上にあるかつ丼はカツが宙に浮いたりしている。

 

 「いや、別に困るものでもないし、日和ちゃんもそこ座っていいからね」

 

 少し苦笑いで返す。迷惑ではないのだ。視線は痛いが、、、

 

 日和が声をかけてきて、座りたそうにしていたのは燈と燎の後ろの二つの席であった。

 

 

 「はぅ、、、お二人を背に纏い、、、食事、、、あぁ、あぁ、あぁ!!!」

 

と、言いながら席に座りご飯を食べようとする日和、

 

 千景ちゃんはかつ丼かぁ…と燈はふと日和のプレートの上を見た。

 

 

 

 「多っ!!!!!?」

 

 そのプレートにはカツカレーと味噌カツ定食が置いてあった。

 

 「ぴっ!?」

 

 後ろからの燈火の声にすこしびっくりしながらも日和が振り向いた。

 

 「日和ちゃん…ちょっと…なんで二食分…?」

 

 この際だ。聞いてみようと思い、燈は疑問を投げかける。

 

 「え!!!!それはですね!それはですね!! よくぞ聞いてくれました!!それは!!!お二人が食べているものだからです!!」

 

 なぜこの子は恍惚とした表情をしているのだろうか。

 

 燈は少し顔が引きつった。

 

 「日和!!いいから食べて!!!」

 

 千景が「すいません!」と日和へ食事に専念するよう促していた。

 

 

 その後、案の定日和はご飯を食べるのが苦しくなり、綵が「あらあら」と助けにいくことになった。

 

 食べ物たちは綵に飲み込まれていった。

 

 ってか綵お前、朝はそんなに入んないんじゃなかったのかよ。

 

 

 

 

***

 

 

 

 「四番隊の皆さんおはようございます。」

 

 

 食事を進み、四番隊の残り三人が食べ終わり始めたころ、肩まで伸びる水色のパステルカラーの髪をふわりと揺らしながら、プレートを持った女の子が燈の隣の席へと座った。

 

 「おはよう。ラノ」

 

 隣に座ったのは、いまだ目を覚まさない二人の人間の補助を任されている十一番隊の隊員、ラノであった。

 

 「皆さんお揃いでなんて、珍しいですね。」

 

 「最近は忙しかったからね」

 

 おばちゃんとも交わした会話が始まった。

 

 ラノは「そうでしたね…」と相槌を打つと、おばちゃんからもらってきたカツカレーを食べ始める。

 

 ラノはかなり物腰が柔らかい人物で、十一番隊の中でも姉のような存在である。

 

髪同様にふわりとした雰囲気を持つが、一応、ユエリナ軍十一番隊所属の戦闘員であるため、戦闘力は中々のものだ。

 

 「ラノは今休憩中?」

 

 熱いのかはふはふと食べるラノに会話を投げかける。

 

見た目も性格もか弱い女の子のようだ。

 

 会話の内容は現在の任務であるあの二人の人間のことであるが、この場で直接的に聞くのはご法度かと燈は考え、遠回しに質問を投げかけた。

 

 ラノは喉からごくんという音を鳴らした後、

 

 「そうですね。先ほどまで待機していたのですが、なにもなくて、ラメちゃんと交代して朝食をいただきに来ました。」

 

 と言った。

 

 ラメというのはラノと同じく十一番隊に所属する快活な女の子である。十一番隊は4人で構成されており、ラナ、ラノ、ラテ、ラメの順で姉妹関係のような部隊である。

 

 さて、あの2人については、ラノの話から察するに、未だに目覚めておらず、何も変わったこともないということであろう。

 

 「そっか。」

 

 答えを聞いた燈は最後の一口を口に運んだ。

 

 

***

 

 

 

 

 「さて、食べ終わったし…このあとお前らなにすんの?」

 

 燎は食器を片付けに行くためにプレートの上を整理しながら、質問を投げかけた。

 

 「朝シャンでもしようかしら」

 

 日和の方から戻ってきた綵が、口元をナプキンでゴシゴシしながら答えた。そういやお前寝ぐせついたままだったな。

 

 「うーん。俺はまた訓練場かなぁ…」

 

燈も答える。今朝の訓練の続きでもしようかな…?

 

 「あ、燈、それ俺もついてっていい?一緒にやらない?」

 

 どんな訓練をしようかと考えていると、鳳が俺と訓練をしたいと言った。

 

 鳳も今朝訓練をしていたようだし、なにか新たな技を試したいのだろうか。

 

ならば…

 

 「いいよ模擬戦でもしちゃう?」

 

 鳳へちょっとニヤッとしながら返事を返す。

 

模擬戦というなの対人戦であれば剣術の練習として効果的であろう。願ったり叶ったりである。

 

 

すると、立ち上がっていた燎が

 

 「お、それなら俺も行きてぇな…体を少しでも鈍らねぇようにしておかねーと」

 

と、燈と鳳の訓練に参加したい事を伝えた。

 

燎が入るとは…かなり白熱した訓練…という名の戦になりそうだと燈は思い、少し顔が引き攣った。

 

 

 「じゃ!この後、四番隊は即移動! 綵も朝シャン終わったら来いよ」

 

 燎が移動を促した。四番隊で唯一参加するという答えを出していない綵を誘う。

 

 「なぜ、体を洗った後に汗をかかねばならないのかしら?」

 

 綵は呆れた顔と口調で返した。

 

 「ま、いくんだけどね?」

 

 綵は顔に笑みを浮かべた。

 

対称的に燈はますます顔をしかめた。

 

その理由は後々わかることだろう。

 

 

 

よし、四番隊全員で訓練だ!!!

 

と燎が一足先に席をたった。

 

 「じゃあ、ラノまた後で」

 

 燈は、まだカツカレーが半分近く残っているラノへと別れを告げ、席を立つ。

 

 「はい。頑張ってくださいね」

 

頬に米粒をつけたラノが少し微笑んで送り出してくれる。

 

 

 

その時、唐突に食堂に館内放送が流れた。

 

 

 『…四番隊、十一番隊は至急執務室まで、繰り返す、四番隊、十一番隊は総員、至急執務室まで』

 

 

 

彼らとの生活がもう始まるのかなと燈は直感した。

 

急な呼び出しに残りのカツカレーを慌てて口に放り込むラノを横目に、燈と考えていることが一致したのであろう四番隊は少し硬くなった表情で、これから始まるであろう生活に決意を固めた。

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 食堂を大慌てで出た後、執務室にて待っていた十一番隊の一人、茶色の髪をツインテールにしたラテという女の子から執務室から少し離れた部屋へと案内された。

 

 

 

 「入って」

 

 ドアをラテが二度たたくと中からユエリナの入室を促す声が聞こえた。

 

 

 「四番隊、燎、以下四名入室します」

 

 「同じく十一番隊ラノ、ラテ、入室します」

 

入れの言葉とともに、燎とラノが入室の挨拶をし、その部屋へと入る。続くようにぞろぞろと部屋に入る、

 

 

 すると、二人の男女が目を開けているのが見えた。片方は短い黒髪の清潔感のある顔立ちをした男で、もう一人は長い黒髪のおしとやかそうな女性である。

 

 部屋の中には11番隊が座っていたであろう椅子と、2人の男女が使用している質素なベットが二つ。そしてそのベットの隣には点滴が置いてあった。

 

 そこから栄養素や筋力増強剤を注入していたのだろう。

 

 「びっくりさせましたね。今入ってきたのが、あなたたちの安全を守る四番隊の四人と、先ほど紹介したラナ、ラメと同じくあなたたちの生活の手助けをしばらく担当する十一番隊のラノとラテです。」

 

 燈たちが入ってきたことで少しおどおどと萎縮していた様子の2人にユエリナが優し気な口調でみんなを紹介する。

 

 「四番隊隊長、燎だ」

 

 「燈です」

 

 「綵よ」

 

 「鳳です」

 

 四番隊と一括りに紹介されてしまったため、俺たちは各々自己紹介をする。

 

 その度に相手はほんの少しだけ動く首を動かして応えてくれる。悪い人ではなさそうだなぁと燈は考える。

 

 「ごめんね。彼ら二人はさっき起きたばかりなの。意思の疎通は取れるし、言葉もわかってもらえているんだけど、想定していたように筋肉量の減少が著しくてね。声を出すことや自力での移動がままならないのよね。」

 

 そうユエリナにいわれて、二人の様子をうかがうと、また少しだけの会釈をしてくれているように見えた。

 

 「彼らには回復を待ちながら、明日到着予定の南大陸支部で検査を受けてもらう予定よ。」

 

 ユエリナが淡々と状況を説明してくる。

 

 「二人にはちゃんと説明して承諾も受けました。」

 

 ユエリナの横に控えていたピンク髪をロングにした女性、ラナが補足をする。

 

 ラナは十一番隊隊長であり、しっかりとした性格であり、ユエリナの付き添い人の1人である。ラナの背が高いためラナがユエリナの母親のように見えることもあるが…

 

 「そうね。あとは、さっき聞ける範囲で質問はしたのだけど、収穫はあんまりってところよ。彼らが話せたり、文字を書けるようになったらもっと色んな質問をさせてもらおうと思ってるわ。」

 

 と言うと、ユエリナはとりあえず今回は顔合わせ程度かなと話を終えた。

 

 「それじゃあ、あなたたち二人もいきなり話を聞かされたり、人を紹介されたりで疲れたでしょう。私たちはお暇するわね。ラメ引き続きお願いね。ラノとラテもお願い。ラナはもう少し私と一緒に来てもらえるかしら。」

 

 ユエリナは2人にねぎらいの言葉をかけた後、十一番隊のそれぞれに指示を出す。

 

 「了解でーす!!」

 

 軽く頭を下げるラノの横で黄色い髪をツインテールにしたラメが明るく返事を返す。ラメはイケイケ風な元気っこであるが、幼い印象が強い。これが戦闘時には暴君のようになるのだから驚きものだ。

 

 「了解なのです。」

 

 ラテもラメの隣から返事を返す。

 

ラテは先程執務室でみんなを待っていてくれた子だが、一応大人しい性格の持ち主である。一応というのは、すこし性格は曲がっており、自分が認めていない人には多少雑な対応を取ったり、普段はおとなしめであるが自分が面白いそうと感じたら極限までいじるようなタイプであるので大人しいと一概に言えないのである。

 

 しかし。この癖ありな2人、二色のツインテール娘が並んでいる様は本当に双子のようである。

 

 

 「じゃ、行くわよ」

 

 ユエリナに続いて、四番隊、ラナはその部屋を後にした。

 

 

 

 

***

 

 

 

 部屋を出て、廊下を歩くユエリナ。

 

 

 

 「どうかされましたか?」

 

ユエリナの隣を歩いていたラナがユエリナの唇がきつく結ばれていることに気づいた。

 

 「いや、つくづく奇妙だなぁと思って…。神様がくれたかのような出会いよね」

 

ユエリナは深く考えるように、しかしどこか笑っているかのように答えた。 

 

 「ロマンチックね…」

 

 いつの間に横にいた綵が会話に参加してくる。

 

 「いや隣に並ぶなし」

 

 即座にユエリナは冷たく言い返したのであった。

 

 

 

 

 「…ってかアンタなんで寝癖直してないのよ。」

 

 綵は今朝の寝ぐせを直せていない。

 

くるくるとしているその頭を見ながら、ユエリナはため息を漏らす。

 

 綵は髪の一房をとり、手でいじりながら

 

 「天パってことで…「「「無理だろ」」」」

 

鳳と燈、ユエリナから食い入れ気味のツッコミが飛んだ。

 

 

 

 



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神の落とし子(2)

 

 

 

 

ユエリナは思う。

 

 

なぜ、彼らはそのままなのか。

 

 ユエリナ達が保護後に、彼らの意識がない中で体を清潔にしたことはあるが、思えば、最初から彼らは汚い装いをしてはいなかった。髭もすごく伸びたようなわけでもなく、男は髪も短かい。

 

 長い間寝ていたのではないのか?カプセル内に入れられてから日が浅かったのか。

 

 いや、そんなはずはない、回収時に腐ったり損傷している他の遺体や施設の状況を見たが、どう考えても一年二年じゃ説明のつかないほど劣化していた。

 

 

 

ユエリナは思う。

 

 

 

なぜ、彼らは私たちの言葉がわかるのか。

 

 彼らは確実に私たちの国からのものではないだろう。この前整理したように、距離的に無理なのだ。

 

 なら、他の人類か?北の大陸に逃げずに生き延びた人類がいる?

 

それに関しては今後の進行にて明らかになると考える。

 

 

 

ユエリナは思う。

 

 

 

 彼らは私たち人類には想像がつかない力を持っているのではないのだろうか。

 

 彼らを見つけた施設にはまだ何かがある。少なくとも彼らの謎を解くことで絶対に新たな発見が一つ、いやいくつもある。

 

 彼ら自身が起きてから教えてくれるのかもしれないが、興味が、疑問が溢れてくる。

 

 ユエリナとしては彼らの身柄は確実にユエリナ軍にて保護したいし、できれば、これを知るものは本当に限られた人、信用のおけるもののみに限定したい。

 

 「こんなに緊張のする会議は初めてかもね。」

 

 自身の要求を認めてもらえるかどうか、ユエリナはいつもより少し重厚な装いをし、南大陸支部の会議室へ繋がる扉を開けた。

 

 

***

 

 

 「二人とも、南下作戦第二段階。作戦遂行お疲れ様。ユエリナのとこは損害なし、カランのとこは五番隊(ユエリナ軍の五番隊は無事です。カラン軍の五番隊です)で負傷者三名。予期せぬ攻撃を受けたらしいが死傷者なしで乗り越えられたのは本当によかった」

 

 部屋にはたった三人のみ。

 

 三角形でそれぞれが向かい合うような形の机でユエリナの右側の席に座る南大陸進行軍の総長、シズイがそう言うので、ユエリナは会釈を返した。

 

 シズイの声色は低く、渋い。歴戦の猛者…の一歩手間ぐらいが丁度いい彼の表し方だろう。体型はほんの少し大柄だが、温厚で優しい性格の持ち主だ。

 

 そして、シズイにはユエリナの父に仕えていたという過去があるので、ユエリナにはより甘い性格である。

 

 「命が助かったので安心しました。万全を期して、討伐と周囲の制圧を行こうと思っています。今回、その際の話もできればと思います。」

 

 ユエリナから見て左側の席に座る南大陸進行軍副長のカランが眼鏡の奥の目を下に向けながら、申し訳なさそうに口を開く。この男は、目が鋭いのだ。伏せて言うとさらに目が細まり、どこか怖い印象が浮かぶ。実際、カランは自分に厳しく、他人にも少し厳しい性格で、怒ると論理的に責めてくる大変な相手だ。(ユエリナ談)

 

 この軍はシズイ軍、カラン軍、ユエリナ軍の全三軍で形成されているのだが、それぞれ別々の進路を取っている。

 

 南の大陸ではカランが東の海沿いを、シズイが西の海沿い、そしてユエリナが大陸の中央を分かつようにそびえたつ山際を担当していた。

 

 今回の話についてはカラン軍がユエリナ達からほぼ真東の海沿いの地点で旧都市街を見つけた際に、な偵察として様子を見に行った五番隊と追随した七番隊が海から出てきたドラゴンのような生き物に襲撃を受けたようであった。

 

 「そうへこむな。しかたがない損害もある。我々は最前線で常にあるのだ。そういった予知の出来ぬものをすべて読み取っていくのは無理であろう?」

 カランを慰めるようにシズイが言う。

 

 「そうですが…」

 カランはそれでも反省しているようだ。

やはり、自分に厳しい。

 

 シズイは追いかけるように言う。

 

 「大丈夫だ。討伐と制圧の手はずについてはこの会議で追々決めていこう。」

 

 シズイの柔らかな声色でカランを慰める様子は、ユエリナとまではいかなくとも若き指揮官の一人をどこか懐かしむようであった。

 

 

「そして…」と、シズイが少し生えている顎の髭を触りながら、ユエリナの方へ顔を向けた。

 

 「予期せぬこと、と言えば、ユエリナ。予期せぬ拾いものをしたようだな。今のところ口を開かないのは少し緊張してるのか?」

 

 この人にはかなわないとユエリナは思った。

 

 父が健在の時から、父の右腕のように戦っていたシズイはユエリナに甘いだけではなく、ユエリナのことを十分知っている。

 

 ユエリナが南大陸進行軍で軍を持つことになったときも、シズイがその軍隊の総長であったことがどれほど救いになったか。

 

 ユエリナが取り繕っていても、緊張しているのが彼には筒抜けだったのだろうか。

 

 「はい。今回の会議で最も話したい事です。」

 ユエリナはシズイの目を見て言葉を発した。

 

 この甘々な総長なら簡単にいけるのでは…?という作戦の下で見てみたのは内緒だ。

 

 「あぁ、ユエリナ。お前はどうしたい。」

 シズイの声色が少し硬めに変わった。

 

 この落とし子についての問題はシズイにとっても前代未聞であり、ユエリナが危惧したような点もいくつかすぐに思い浮かんだことだろう。

 

 やはり、簡単には認めてもらえたりしないのだろうか。

 

 「お二人には他言厳禁という言葉とともに二人の拾い物について伝えていますが、この件については念のため中枢府の大臣と王には話を通し、基本知る人間を制限したいと考えています。」

 

 「なるほど」

 シズイが頷く、何かを考えているような素振りもなくユエリナの言おうとしていることを待っているようだ。

 

「俺もその考えに賛成です。」

 カランは現時点で賛成してくれているようだが、ユエリナの心配している要素はこの続きだ。

 

 

 「そして、」

 ユエリナはどうかこの案よ通れと願いながら口を開く。

 

一つは自身の興味を満たすためではあるが、もう一つは人類の進歩に役立つためという真っ当な気持ちだ。

 

 「二人の身柄はユエリナ軍で保護し、二人についての調査もユエリナ軍に一任していただきたいと思っています。」

 姿勢を正したユエリナの凛とした声が響いた。

 

 

 ユエリナは二人の反応をうかがった。

 

 「そうか。」

 シズイが言った。

 

 「情報の提供は求めるが、基本的に二人のことに関してはユエリナ軍に一任しよう。」

 

 そんな考えるようなこともなく、まっすぐ見つめてくるシズイの目。

 

 こんなあっけなく認められていいのだろうか。仮にもユエリナは一つの軍の長とは言えど、南大陸進行軍で言えばその地位は副長、総長のシズイでもなく、一つの軍のただの副長であるユエリナがこの問題を担当してもいいというのだろうか。

 

 認めてもらうつもりでいたが、こんなに簡単に行くとは思ってもいなかった。

 

 

 しかし、シズイが認めた以上は、この会議ではユエリナの勝利である。 

 

 

 「実際にユエリナ軍ではもう全員が知ってしまっているのだろう?それであれば、そこ以上に安心のできる場所はない。」

 

 うむ、とカランも頷く。

 

 「中枢府と王には私が直々に報告に行こう。この会議で決まったことをそのまま認めさせてくる。悪いことにはせんから安心していろ」

 シズイは言う。

 

 しかし、中枢府と王。特に中枢府はかなりしつこいし、厄介である。

 

 そんなユエリナの不安さえもわかったのだろうか。

 

 「なにも心配するな。中枢府の奴らはあの地獄を見て中央に引きこもった腑抜けどもだ。容易い容易い。」

 

 地獄というのは3年前の北大陸統一時の掃討戦である。

 

 「シズイおじさん…」

 

 ついユエリナは公的な場でシズイをそう呼んでしまった。

 

 シズイは微笑み、

 「幸いユエリナ軍は戦果ともに信頼のおける軍であるからな。ユエリナ、南大陸進行の作戦も続行しながらであるが、二人の貴重な拾い物を失うなよ。」

 

 と、ユエリナへ告げた。

 

 「はい!!!」

 ユエリナは久しぶりに大きな声を出し返事をしたのであった。

 

 

 「して、二人の今後の扱いはどうするよて…「もう決めてあります!」…え?」

 

 ユエリナの食い気味の答えに少し抜けた声を漏らすシズイ。

 

 二人の扱いは四番隊と十一番隊。生活の世話も武力もかなり信頼のおける布陣と説明をする。

 

 

 「なら、二人は今どこに…「十一番隊と四番隊の護衛の下で身体検査を行っております!」…は?」

 

 シズイが少し困った顔で呟いた。

 

 

 「ユエリナ、お前は…ちゃっかりやってたな?」

 

 「一任していただけると信じていました!」

 

 緊張はどこへやら、苦笑するシズイに、ユエリナは先手必勝とばかりに笑って答えた。

 

 

 

****

 

 

 

 その後も会議は円滑に進み、次の作戦の決行日と配置、戦闘区域について大体をまとめた。

 

 例の落とし子事件(三人でこう呼ぶと決めた)については、ユエリナ軍が前回の調査作戦において無損害であることから、早急に南大陸支部を出発し、二人を発見した施設の再調査を行うこととなった。

 

 そしてその間、シズイも単身北大陸へと戻り、王都へと向かうことが決まり、それら二つの任務が終わり次第、カランの見つけた都市部へと乗り込む手筈となった。

 

 ユエリナはユエリナ軍の飛行船、そして自身の執務室へと帰り椅子へと座る。出発の準備だ。

 

 シズイはというと「2人の顔はまたの機会に確認しよう。彼らもユエリナのせいで疲れていそうだからな」と笑い、颯爽と王都へも向かって行った。

 

 

 「二人の検査結果はこちらです。」

 

 近づいて来たラナが二枚の髪を手渡してきた。

 

 「なるほどね。異常なしと、それに体の構造の違いはなしと」

 

 「はい」

 

 ふーんとみてみる。体の健康状態には筋肉量が過剰に少ないだけでなにか病気などを持っている様子はない。

 

 また、何かの研究に使われていたのかと体内の変化を見てもらったがそちらも変化はない。

 

 人と同じ…。では何を研究され、何のために2人はあの場にいたのだろうか。

 

 「ますます謎が深まるばかりねぇ…二人はもう船内に戻ったのよね?」

 

 「はい。起きていて、意思の疎通も図れています。少しだけ声を出したりもしていますが、会話レベルは難しそうです。」

 

 もう声が出るまで回復したのかと驚く。現代では、人材不足を補うために様々な薬やサポーターが出ているが、筋肉量の増加までもここまで早める物があるとは。

 

 「そう。ならもう一度名前でも聞いてこようかしら。あ、ラナ、ラナは戻っていいよ。お疲れ様。できれば、一番隊と二番隊の子に執務室に後で来るように声かけてもらえるかな。」

 

 「わかりました。」

 

 さぁて、と椅子から立ちあがったユエリナは礼をするラナを横目に彼らの元へ向かうべく、執務室の扉を開けた。

 

 



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落とし子は見た(1)

ここまでで、一旦止まります!
レポート期間終わったらちゃんとあげていきます。
まだ、序章すぎて、戦闘も日常もかけてない…レポート期間終わって書くのが楽しみです。がんばります…。


 

 見知らぬ空間、体も動かないし、声も出ない。

 

 

怖いという感情よりも、不思議すぎて、なにがどうなっているのかがわからなくて妙に冷静でいる自分。

 

 

 「目が覚めたらしいわね。安心していいわ。敵じゃないし、なんなら守ってあげるから」

 

 

声のする足元の方へ目線を少し向ける。

 

 

 

ちっちゃい少女が何かを言っていた。

 

 

 

***

 

 

 

 気が付いたらここにいた。

 

 俺が目が覚めたことに気が付いたのか、ドタバタしている音とドアが乱暴にあく音が聞こえたのちに黄色のツインテ少女と二人の女性がやってきた。

 

 しきりに安心させようとしてくるちっちゃい人はユエリナ、その隣に控えているピンクの髪の女性がラナ、そして黄色のツインテ少女はラメというそうだ。

 

 「そろそろ、あなたたちの名前を聞かせてくれないかしら?」

 

 俺たちを見つけた時のこと、味方であることを何気なく伝えてきていたユエリナさんが、ふっと息をついてから優し気に名前を聞いてきた。

 

 

 あ、はい。えっと名前ね…

 

 「…っ。……!」

 

 

 名前を言おうとするが、案の定声が出なかった。

 

ちなみに名前は梅津一朗太という。

 

残念。長男ではない。次男だ。

 

はて、なぜ?どうしてこうなったのだろうか。

 

 俺は寝ていたはずだ。家で、大学に入ってから始めた、一人暮らしの家で。

 

 どうしてここに来たのか、最後の記憶は大学のレポートを書きながら寝落ちしたような気がする。そうしたらこうなっていたのだ。訳がわからん。

 

 「声がでないのかしら。寝たまま閉じ込められていたし…予想通り、筋肉量の低下が深刻ね。自分の名前はわかるのかしら?」

 

 少し困った顔になったユエリナさんが不安そうに聞いてくる。

 

 

 本当にほんの少しだけ、俺は顔を揺らす。これしか動かないことに恐怖を感じたが、この揺れで伝わるだろうか。

 

 「そう、記憶障害はないのかな…?なら後々あなたの声で聴かせてね。そっちのあなたは?」

 

 ユエリナさんが俺の左側を見た。

 

 そっちのあなた???

 

 なんと俺は一人じゃなかったらしい。

 

 

 左の女性も名前はわかるようで、布の擦る音が聞こえた。

 

 「あなたもわかるのね。良かった…。それにしても二人同時に目覚めるのは何かありそうね。」

 

 顔を動かさずに左に目を凝らすと、女性がちらりと見えた。

 

 

 ユエリナさんは少し考える振りをして

 

 「その…少し顔を揺らすだけでいいわ。言葉はわかる?」

 

 ユエリナさんが聞いてくる。

 

いや、今の今までその言葉に反応してたやないけぇと俺は顔を揺らす。

 

 

 「あなた今、左の女の人を見たでしょうけど、面識はある?」

 

顔を揺らさない。

 

 

 「そう。あなたは?ちょっと目だけで見れる?」

 

 続いてユエリナさんは女性にも俺のことを見てみるよう告げた。

 

 「二人とも面識はなし、と…」

 

うむむ…と言わん表情でユエリナさんは少し口を強く結んだ。

 

 彼女も顔を揺らさなかったようだ。

 

 まぁ、俺が知らないので一方的にこんなしがない大学生を知っているわけがないと思うのだが…。

 

 「なんでこうなっているかわかる?」

 

顔を揺らさない。

 

 まじで、わかりません…。レポート何について書いてたんだか…。果たして書き終わったのだろうか。

 

 ここにいる時点でレポート提出は叶わなかったようだが…。落単やんけ。

 

おい、学期末の配点高いんよ…。

 

 

 「わからない…か。やっぱり記憶喪失の可能性も捨てられないのかなぁ」

 

 ユエリナさんがボソリとつぶやく

 

 「とりあえず…あなたたちは私の言葉がしっかり理解できているようだし、今後じっくりとお話しさせてもらうわね。ラナ、放送でラノと四番隊を執務室に呼んでもらっていい?ラメ、さっき読んできたラテに執務室でみんなを待ってからくるように伝えて?」

 

 そう言い始めたユエリナさんの顔は少し明るかなっていた。さっきまで悩んでいたのに、なんか…不気味なんですけどぉ…。

 

 「了解しました」

 

 「りょうかーい!」

 

 ラナとラメの返事をよそに俺は不安でいっぱいな状況を整理していた。

 

 

 

 そこから、俺と彼らの物語は始まった。

 

 

 

 

***

 

 

 

 目が覚めてから次の日に、俺が寝ていた部屋は空を飛んでいたらしいことを知った。

 

 四番隊と十一番隊にベットごと移動させられ、隣に寝ていた女性ともども隅々まで検査をされたのだ。

 

 外に降りた時はびっくりした。「え、これ飛行艇やん…」って。

 

 目が覚めて二日目だというのにこのところかなり騒々しい。

 

 だが、なぜかそれでも大丈夫である。点滴のおかげなのだろうか。何入れてんだか知らないけど。

 

 また、薄々感じていたことだが、降りてみて確信したのだが、この世界、オレ、シラナイ。

 

 かの巷で有名な異世界転移ですかぁ?これは、

 

 

 そして隅々まで調べられてる途中にやっぱり思ったわけだ。

 

 昨日は鵜呑みにしてしまったけど、この人たちは本当に味方なのだろうか。

 

 俺たちは動けないので黙って従うしかないのだが、おそらく女性もそんなことを考えているのだろう。

 

 うーん。考えたとしても、昨日の今日で何がわかったのかという話だが、丁寧にお世話をしてくれたし、返事もできないのに話しかけてくれる四人の女の子たちとか、たまに部屋に来る四番隊の子達を悪い人だとは思えない。

 

 一つに彼女らに親近感というか、なにか悪い人だと思えなくなった大きな理由がある。

 

 それは四番隊の燈という子が部屋に来て、ラノというパステルカラーの髪の女の子と話していった後のことだった。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 時刻は夕方、汗を少しかいた様子の燈が部屋を出て行った後だった。

 

 

 「ラノねえさん。よかったですね!お仕事頑張れるのです!」

 

 と、ラテがにこやかにラノに言う。

 

 その笑顔はやはり自分が面白いと思う、いじりがいのあるおもちゃが見つかったときのもので、おとなしい言葉遣いで盛大に爆弾を落としてくる。

 

 

 「え、いや!!ラテ…そんな急に…!」

 

 ラノは頬を紅潮させながらも平然を装おうとする。

 

 しかし、言葉は切羽が詰まったように力がこもり、なにか特別な感情があることがバレバレである。

 

 

 「燈さんとお話ですよ?普段なら任務で会うこともない時間に…。ラノねえさん幸せなのです」

 

 部屋の中で梅津たちの衣類を畳みながら「と、も、し、び、さ、ん、と」とラテは激しく強調してその言葉を繰り返す。

 

 

 「ラテちゃん!!!!お二人もいるのですよ!!言葉は謹んで!!!!!」

 

 ラノが梅津たち二人をチラチラ見ながら言い返す。声はかなり大きい。

 

 

すると、ラテは「はぁ」と息を吐き、ツインテールの片方をくるくるしながら呟く。

 

 「一応私たちは補助の任務中なんですけども…その中で好きなh…「ごめんね!!!ごめんねなさい!!!!」…ふふふ。」

 

 ラノの必死の謝罪に、ラテはその前までいじけたようにツインテールをくるくるしていたのに満面の笑みでよろしいと言う。

 

 ラテはラノより年下なのだが…。現在はラテが圧倒的に立場が上であった。

 

 二人はその後、ラテが主導で燈について話をしていたのだが、綵がしれっと会話に乱入してきたことで作業へと戻った。

 

 その際、ラテが恋愛話に混ざろうとする綵へ冷たい視線と共に「うるさいです」と言葉の刃物を突き刺し、

 

 「う…、これが、女の世界…恋愛とは…難しい…」

 

 と、苦しそうに、しかし恍惚とした表情で呟いた綵にラノが畳みかけていたシーツをぶち当てた事件はまたの話としよう。

 

 

 

***

 

 

 

なぁ???

 

 こんなかわいい子が悪い人なわけがない!!むしろ青春真っ盛りのただのかわいいこちゃんたちだわぁ!!

 

まぁ、俺はその後、少し息の乱れた綵からの「花持ってきたよ。この花見たことあるかな」とかいうロマンチック風な多分そんな感じの話を聞かされたのだけど…

 

 聞いてなかったけど…ごめん。綵さん。

 

 そんなことを思い返しながら俺は検査を終えた。

 

異常なしという結果を聞かされた時は安心したし、嬉しかった。

 

 

 

***

 

 

 

 さて、再び俺と女性が飛行船内の部屋に戻って二日が経った。

 

 ユエリナさんは、二日前の出発前に俺たちの名前聞き、俺たちに今後のことを話しに来てくれた。その時に、「あなたたちの質問はあなたたちが回復してから答えるから。いまは休むのに専念してね。」優しく言い渡し、これからよろしく。と言って部屋を出ていった。

 

それ以来ユエリナさんは来ていない。

 

 ちなみに隣に寝ている女性の名前は”ふじ とうか”というらしい。

 

 名前も案の定知らなかった。

 

 話は変わって、今、この飛行艇は俺たちを見つけた場所に向かっているらしい。

 

 ユエリナさんからは、少しだけその場所を見せるから、何か思い出したら今度教えてほしいと二日前に言われた。

 

 そうだ、あの人小さいけどかなり地位の高い人間だそうだ。

 

 不思議に思っていることは未だにわからないし思い出せないままだが、案外、この4日間は楽しいものであった。

 

 相変わらず、みんなが優しく、そして可愛い、青い子は青春をしているし(俺は関係ないけど)。

 

 とまぁ、こんなことを考えていられるほど、余裕もある。

 

 

 「「あ…」」

 

 左を見たら、左に寝ている女性と目があった。顔がお互い少しだけ左右に動くようになったのだ。

 

 毎日リハビリのマッサージを文句ひとつ言わずに十一番隊と綵さんがしてくれているおかげで動くようになってきたのだ。

 

 ちなみにだが、俺のマッサージが四番隊の男の娘、綵だ。

 

当たり前ではあるが、そうなった理由を振り返ろう。

 

 あれは、初日のことだった。

 

 

 

***

 

 

 

 初日。俺は尿意を感じ取った。

 

ピンチです。

 

 

 もちろん、それを伝えられないし、力が入らないので我慢もできず、少し嫌だったが履いていたおむつっぽいものに用を足した。

 

 俺は大学生だ。しかし、仕方がない、と割り切っての行動だった。

 

 すると、十一番隊の女の子ラメちゃんがそれに気づいた。

 

 「トイレ…しましたか??」

 

 と、両手を前で合わせて少し不安そうに聞いてきた。

 

俺が、うわ、なんか引かれたかも…?と思いつつ首を縦に振ると、 

 

 「わかりました!!!今ラメが変えてあげます!!」

 

と、笑顔で言い、俺のズボンを下げようとした。

 

 後々わかったことだが、不安そうだったのは尿をしたように感じたが、本当にしたかがわかんなかったからだそうだ。

 

 

 さて、ここでさ。

 

 …はい!ありがとう!

 

 

 とはいかないよな???

 

 俺は焦った。

 

いや、え?わからんけど、いい年してるはずの俺よ?その俺のおむつ替えをこの女の子がする?え?やばくない?

 

ズボンの次は…今変えますからねー、とラメがおむつへと手をかけた。

 

 「ちょっとラメちゃん!まって!!」

 

 おむつがオープンされる前に部屋にいたラノちゃんがラメちゃんがしようとしていることに気づき、焦ったようにストップをかけた。

 

しかし、

 

 「これはどうしよう…」

 

 止めたはいいがラノちゃんも完全に悩んでしまった。

 

恥ずかしいものは恥ずかしいので、男性を呼んできてはくれないだろうか

 

 どうして止めたの?と言いたげなラメちゃんの横でラノちゃんが思案していると、奥にいたラテちゃんが声を上げた。

 

 「こーゆー時は四番隊なのです!待っててください…!」

 

その答えにラノちゃんがなるほどと頷いたのもつかの間、ラテちゃんは廊下へと駆けて行った。

 

 確かに四番隊なら男が3人いたからな…お願いしよう、と俺も思ったので、股が少し気持ち悪いながらもラテちゃんの帰りを待った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 いや、でもさ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

確かに四番隊だけど。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

なんで、この人?????

 

 

 

 「はーーい。おむつ替えますよ~」

 

そう。彼女が連れてきたのは綵さんであった。え。四番隊ならダイジョブとかって言う話でしたっけ?

 

 いや、やばいよね?どうみたって女性やん?所属隊の過半数が男なら男とかいう世界線ですか?ここ。

 

 この時の俺は、まだ綵さんが男だということを知らなかったのでものすごく焦っていた。

 

しかし、抵抗する体はもちろん動かないので、しっかりとおむつを替えられた。

 

 

 

 そう、俺のおむつは替えられた。俺の何かを失わせて。

 

後々、綵さんが男だと聞いたが、失った心の破片はなぜか今も戻ってこない。

 

 

 

***

 

 

 

 「明日、現場に到着します」

 

 おむつ替え騒動について思い返していた梅津は凛とした声に現実に戻された。

 

いつの間にか入ってきていたユエリナがそこにいた。

 

 「調査する時に、写真を撮ったり、持ち帰れそうなものは持って帰ってくるけど、追々、二人が動けるようになったら、実際に一緒に入ってもらえたらと思うの」

 

 2人は頭を縦に揺らす。

 

 その場所を見れば何か思い出すのかもしれない。そして、眠った後に何が起きていたのかが知れるのかもしれない。と思うが故に梅津たちも自分たちが発見された場所について興味がわいていた。

 

 「それでその前に、ちょっとだけこの機械についてみてもらいたいの。」

 

 ユエリナがそういうと、ドアが再び開かれラナが一つの機械を運んできた。

 

 

 「調べてもらおうと思ったら、情報漏洩を防ぐためにお前らのとこで調べろって言われちゃって…。さて、これが、カプセル内にいたあなたたちを世話していたと思われている機械よ。」

 

 始めに梅津が持った感想はなんだこれはというものだった。

 

円柱状な胴体にアームがあり、突き出すようにカメラが搭載されている。

 

 あれ、でもこれ似たようなやつなら知ってるな…。なんだったっけな…。

 

梅津は再びその機械を凝視する。

 

 

 うーん。でもあれ、アニメだし…あ、ここもしかしてあのアニメの世界だったりする!?

 

いや、でもこんな世界観のアニメではないしなぁ…。

 

 と梅津が考えていると。

 

 「梅津さん、何か考えてそうだけど…なにか思うことがあったの?」

 

 二人と共に改めて機械を見ていたユエリナが梅津の様子に気づき、声をかけてくる。

 

 うーん。似てるだけだし、アニメだし…。これは関係ないことだよなぁ…。

 

 梅津はそう考え、首を横に振った。

 

 「そう、ふじさんはどうかしら?」

 

 梅津がわからないというのでユエリナは藤に尋ねる。

 

 梅津もふじが何かを知っているのかもしれないと横を向いたが、彼女は首を横に振った。

 

 「そう。また今度見てもらうけど、なにかわかったりしたときは教えてほしいの。ゆっくりいきましょう。」

 

 ユエリナは少し落ち込んだ様子で、口を結ぶ。

 

 そして彼女は、やっぱり、明日の調査でなにかを得るしかないのね。と、呟いてから、明日の詳しい予定とその時の二人の周辺の状況について梅津とふじに話し始めるのであった。

 

 

 



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施設調査へいざゆかん(1)

レポートが半分以上終わりました。

これより、漱石さんの小説を読ませていただきます…時間かかりゅ…。


☆お知らせです。☆

 7月26日現在(14時)にて、1話からこの話に前話までを書き直させていただきました。

 短時間で書き散らかしたのもあって、流れと描写表現があまりにも拙いものだったので書き直させていただいた所存であります。

 前よりはよりわかりやすく、読みやすくなっているのではないかと思われます。

一人称から三人称にしたりもしましたし…。話の内容はほとんど変わっていませんが、「神の落とし子(1)」の最後の部分のみ内容がまぁまぁ変わりました。

 今後も気に入らない点や読み直した際におかしく思った点は書き直させていただき、その都度ご報告させていただきます。

 いや、一回読み返して出すようにするけど、それでもさ…。な?

駄作ではありますがよろしくお願いします。ちなみにまだレポート溜まってます。殴ってください。



 

 

 「今日が決行の日よ」

 

 早朝、まだ日が完全に上がっていないころ。

 

 ユエリナ軍の十二部隊、非戦闘員部隊の全員が揃った食堂でユエリナが言う。

 

 飛行艇は今、落とし子を見つけた山の上空に位置している。

 

 前々から作戦実行の日となれば、各隊ごとに決められた隊服、そしてユエリナ軍である証として右の上腕に紫に白のガーベラの刺繡が入った腕章をつけて並ぶ。

 

 この集会では前日までに通知される各隊の役割の再確認と全体の指揮を挙げることが目的だが、総員の顔を見ることでユエリナ自身が覚悟を決めるためという隠れた意味も持っている。

 

 例の施設に前に訪れてから丁度一週間が経った。

 

ユエリナが口を開く。 

 

 「ちょうど総長から、情報提供を条件に中枢府も王も例の件をユエリナ軍に一任すると認めたと連絡がきました。この後控える制圧戦を前に、ユエリナ軍はこの調査を成功させます。」

 

 シズイは上手く中枢府と王を納得させたようだ。

 

ここもスムーズに進んだためにかなり驚いたのだが、なんでも王が快諾したために中枢府もごねるわけにはいかなくなったそうだ。

 

 「敵に出会った場合は各自の判断を基準に戦闘許可を出します。だけど、絶対にけがはしないように。危険を感じた際はその部隊全員で早急に戦線から離脱してください。」

 

 「確認ですが、四番隊、八番隊、九番隊は私とともに施設内に入ります。二番隊と七番隊は周囲の監視、また、施設内から運び出したものを適度に飛行艇内は運搬してください。

 

 その他全部隊は飛行艇内で待機ですが、一番隊、三番隊、六番隊を軸に飛行艇の守護、そして十一番隊を軸に例の2人の保護をお願いします。また、全部隊必要とあれば一番隊隊長の指示に従って出撃を要請しますので、常に戦闘可能な状態を維持してください。」

 

 淡々と詳しい動きの説明を始めるユエリナ。

 

 食堂にいたすべての人間が頷き、自身の役割やこれから行う調査についてを確認して行く。

 

 ユエリナは念には念を入れて作戦立案をするため集会は毎度長くなる。

 

 「では、皆さん。ただいまより作戦を開始します。本日の夜ご飯をまた全員で食べれることを期待しています。」

 

 今回もちょっと長めの話をした最後にいつもの名文句で場をしめる。

 

 遠回しの無事祈願だ。

 

 

 「解散!!!」

 

 ユエリナの解散の声に全員が揃って返事をし、各自の持ち場へと移動を開始する。

 

 もちろん燈たち四番隊も移動を開始した。

 

 今回も最前線である。施設内の安全を確認した後、深部の調査、主に前回落とし子の2人を見つけた場所の調査を行う予定だ。

 

 

 (あぁ、空から落ちるの…あんまり好きじゃないんだよな…。)

 

 燈は下降場と呼ばれる飛行船の後方最下部へと移動しながら考える。

 

 この飛行船から地上へ降りるには、風の力を借りて飛行船からダイビングをするしかない。

 

 地上に飛行船を近づけるのが危険だからだ。

 

 何度やっても好きにはなれないな、と燈は苦笑いをしながら腰につけた刀をきゅっと握った。

 

 

 

 

***

 

 

 

 「敵の気配なし、目視でも確認できないし、この付近にも敵はいないっぽいね。」

 

 周囲を見渡しながら、燈は綵に確認するかのように言った。階層ごとに敵がいないかを確認しているのだが、ここが最も下の階である。

 

 「燈もそう判断しちゃう?あとは、燎と鳳の見てる方だけど、ほんとにこの施設、敵というか生き物すらいないんじゃないかしらねぇ。」

 

 この空間に鳴り響くのは燈たち四番隊の無機質な足音のみ。燈は腰の刀を抜くこともなかったし、綵も右太ももの銃を持つことはなかった。

 

 あまりにも何もないので綵が少し眉間に皺を寄せた。

 

 さて、現在四番隊は施設内に敵がいないかを確認している。

 

 前回同様すんなりと施設内に入り込んだユエリナ軍は、早急に作業へと取り掛かった。

 

 八番隊と九番隊とユエリナは上の階からめぼしい物を回収している。

 

 四番隊は敵の有無の把握が第一目標だったので、確認をしつつとりあえず最下層まで降りたきたところだ.

 

 前回と違うところと言えば、腰付近からランプを下げていることであろうか。そのため燎も燈も炎の能力を使うことはなかった。

 

 なぜ前回付けていなかったのかというと、戦闘時に邪魔になるからと説明しよう。今回は敵がいないことを予測しての持参であった。

 

 

 カツンカツンと二人以外の足音が聞こえ、向かい側の通路から短刀を複数個装備した鳳となにももたない燎がやってきた。

 

 「こっちは相変わらず何もいなかったぜー!見た感じそっちもだろー?」

 

 まだ離れている位置から燎が大きな声で聞いてくる。

 

 「そのとおりよ~!」

 

 綵が手を振りながら返事を返した。どうやら本当にこの施設には敵も生き物すらもいないようだ。

 

 燎と鳳が燈達に合流した。

 

 燎は無線機を用いて、ユエリナ達に安全を伝えていた。

 

 「じゃあ、俺たちは後はここの調査だけ…っと。」

 

 燈はちらっと光の差す方向を見る。

 

 二手に分かれた四番隊が合流地点に選んだのは、淡い光が漏れる例の部屋の前であった。

 

 

 

 

 例の部屋の中に入った四番隊はその部屋の調査を開始した。

 

 めぼしいものや特徴的な物を写真に収め、回収する物を決めて行く。

 

 (これは…でかいな…。なんなんだろう。)

 

 燈は何層にも別れたマンションのように光っている大きな棚を見つけた。

 

 (持ち帰れないけど…写真だけ。)

 

 ランプだけでは全体を照らすには光が足りない気がするので、炎で周辺を照らし、片手で持ったカメラを使って写真を撮る。

 

 (相変わらず何に使われてんのかわかんないものばっかだな。)

 

 この部屋にはこの棚の他にも無数のスイッチと、ひたすらに点滅する柱、割れた水槽っぽいものなど不思議なものがたくさんあった。

 

 

 もう一度棚を見上げながら横へ足を進める。

 

 すると、足に何かが引っかかった。

 

 「これは…?」

 

 下を見下ろすと足元にはこの間持ち帰った機械と似たようなものが転がっていた。

 

 

 

 「あっ、これ…」

 

 燈がその機械を写真に撮ろうとカメラを構えたその時、

 

 

 「うーらーめーしー、やー♡」

 

 突如後ろから綵の声が聞こえ、綵が飛びついてきた。

 

 前半は例の如くお化けのように驚かせにきたのであろうが、それでは反応が期待できないと見るや後半は飛びついてくる衝撃で驚かせようとしてきている。

 

 「綵…燃やすぞ」

 「ごめんね」

 

 燈はお化けは得意とまではいかないが信じている訳でもない。

 

 「うらめしやなんて言って出てくるお化けなんていないでしょ…」

 

 このように冷静に考えてしまった結果、綵の攻撃は全く効くことはなかった。もちろん綵が男であることは知っているので飛びかかられてもなんとも思わない。

 

 

 「んで?燈はなにを見てたの?」

 

 綵がそそくさと話題を変えて、何を見てたのかを聞いてくる。

 

 そして、燈の足元を見て、あ、それって…と呟いた。

 

 「これ、この前持ち帰ったやつ解体するみたいだから、一個くらい予備持って行った方がいいかなぁって思って…」

 

 正直、ユエリナ軍単体での科学力はそれほどない。

 

 しかし情報漏洩防止のためにとユエリナ軍で任されてしまったので、解体でもなんでもやってみるしかないかとユエリナが言っていたのを四番隊は知っている。

 

 「あぁ、まぁそうだね…。私も持ち帰ったほうがいいと思うわ…。」

 

 綵もそれを思い出したのか、少し苦笑いをして持ち帰ることを推した。

 

 

 「とりあえず今は写真を撮っておきましょう。」

 

 そう言う綵に、いや、撮るの邪魔したのお前だからな?と思いながら燈は改めて機械を写真に収めた。

 

 

 「なぁ!」

 

 「「ん?」」

 

 写真を撮り終えると直ぐに背後から燎の大きめ声が聞こえた。

 

 「ちょ、この写真めちゃくちゃ心霊写真っぽく撮れちゃったんだけど、見てくんね?」

 

 ちょっと遠いところにいた燎が楽しそうにこちらへ走ってくる。

 

 「「ん〜〜〜〜???」」

 

 あれ、今って作戦中でしたよね。何やってるんですか隊長。

 

 燈と綵は珍しく心が一致したようで顔は笑顔であったが、何やってるんだこの子と不穏な雰囲気を醸し出した。

 

 綵、お前もさっき同じようにふざけてたの忘れてないからなと燈は綵をもそのような目で見ていたが。

 

 

 「燎…!!今作戦中だから!!!!」

 

 こちらも少し遠くで写真を撮っていた鳳が燈と綵の様子に気づき、声を上げた。

 

 

 だが、常識枠1人では四番隊は止められない。

 

 「何やってるの…?燎。」

 

 燈が少し低い声で燎に問う。

 

相変わらず顔は笑ったままだ。

 

 「?、いや、この写真なんだけどさ。あの持ち帰った機械の壊れたバージョンがそこにあってよ。それとカプセルを一緒に撮ったらさぁ。中の人間とマッチしちまって…。実際に存在してるから心霊写真じゃねーけどよ。このマッチ具合すごくね?」

 

 燎が写真を見せてくる。確かに燎の写真には、半分くらい胴体が抉れている機械とカプセル越しのもう腐敗が進んでいる人間が写っている。

 

 心霊というよりもはや事件後のリアリティ溢れる写真だ。

 

 「お前、普通に頭おかしい発言してるの気が付かない?」

 

 「全人類に嫌われそうね。」

 

 燈と綵のサラッと出てくる辛辣な言葉。

 

 全人類に嫌われなかったとしても、燈達からの好感度は確実に下がった燎であった。

 

 

 

 

 

 

 その後も順調に四番隊の調査は続いていた。

 

 カシャっと燈の後ろから音が聞こえる。綵がなにかの写真を撮った音だろう。

 

 「綵。なに撮ったの?」

 

 後ろに撮るものはあっただろうか、確か後ろには…と考えながら燈がカメラの音がした方へ振り向くと、そこにはカプセルに張り付くようにしながらカプセルの中の人の写真をカメラに収めている綵の姿があった。

 

 !?

 

 

 「なーにーをー撮ってんだーーー!!」

 

 燈は思わず綵へとドロップキックをかました。

 

 いやおかしい。なんか絶対にそうゆうことしちゃダメな気がするんだけど、

 

カプセル内の人泣いちゃうよ?俺なら撮られたくないね…。

 

 っていうこさっき燎を一緒に注意したよね!?

 

 燈は一瞬の間に様々なことに頭の中でツッコんだ。

 

 

 「痛いじゃない…本気じゃないのはまだ優しさね…。」

 

吹っ飛んでいった綵は、燈に蹴られた箇所を摩りながらゆっくりと立ち上がる。

 

 「な、な、なんで張り付いてカプセル内を撮っていたのですか…」

 

 さっき考えが一致したはずなのに、とやっぱり頭おかしい人第二号へと質問を投げかける燈。第一号は燎だそうだ。

 

 すると綵は

 

 「いや、梅津さん達に顔写真みせたら、なにか思いつくことあるかなぁ~って」

 

 と、あっけらかんに答えた。

 

 

 

 「「「確かに…」」」

 

 綵以外の声が重なった。

 

 

 「ってことは俺の心霊写真風のやつも良い写真ってことだな!!」

 

 「いや、無理だろ」

 

 「今回は一緒にされたくないわね。」

 

 先程の心霊写真の一件は許されない。

 

 便乗した燎には再び燈と綵の言葉が突き刺さった。

 

 その後、四番隊は手分けして一つ一つカプセル内の、またはカプセル外に出てしまっている遺体の顔写真を撮ったのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 部屋の中の調査が終わりを迎えかけていた時であった。

 

 「回収するものってここに集めたので全部?」

 

 燈の声が部屋に響く。

 

 「あぁ、回収物って言っても、そこの機械とカプセルとここらへんの銃くらいだろ?」

 

 燎がそう答えた。燈のもとにあるのは先程話に上がった予備用の機械と、前回持ち帰ることを断念した大きなカプセル。カプセルは部屋にくっついていたカプセルがどう頑張っても取れそうになかったので、適度なところで燈が地面から切り離したものだ。

 

 「その銃もこっち持ってきてー?」

 

 燈が回収物を一箇所に集めるために燎を呼んだ。

 

 燎の方には同じ形をした銃がいくつもある。銃を用いて戦う綵曰く、まだまだ使えそうな銃だと言うことで、研究ついでに使用することも考え、より多く持ち帰ろうとしている。

 

 燎が両手で銃を抱えてこちらに向かってきた。

 

すると、燎とは違う方向から近くに来た鳳が言う。

 

 「このカプセルとか重たいし、この施設を何周もして運ぶのは大変そうだな…。」

 

 たしかにそうだ。カプセルを運ぶのに少なくとも2人は必要であるし、燎が今持ってきている銃も2回に分けて持ってきて、やっと全部運び終わるといった感じである。

 

 これらを四番隊のみで全て運ぶとしたら絶対に2周はしないとならない。

 

 「燎、ユエリナ様達はまだまだ来ないの?」

 

 綵が2周目にして銃を運び終わった燎へと問いかける。ユエリナや八番隊、九番隊は徐々に下へと降りてきているはずだ。彼女たちと合流すれば一回で運び終わるかもしれないと綵は考えたのだろう。

 

 「一層ごとに見てきてるはずだからまだとは思うけど、連絡とってみるか?」

 

 燎は腰の後ろ部分につけてあった無線機を手に取った。

 

 「まぁ、できることなら、ここに地上までの穴貫通させるのが手っ取り早いかもなぁ!」

 

 鳳に風の能力で飛んで一気に地上まで運んでもらえばいいし!と燎は言い、ハハハと笑いながら無線機でユエリナへと電話をかけた。

 

 これはジョークである。こんな重要な施設に穴なんて開けられないし、かなり深いのでそんな穴を掘るのにそれまた月日がかかる。

 

 燎の力で山の斜面ごと吹き飛ばすくらいの覚悟なら直ぐ出来上がるのかもしれないがやることはないだろう。

 

 そんなことを考えているうちに無線が繋がったようだ。

 

 「ユエリナ様〜。こちら四番隊。」

 

 燎が呑気にユエリナを呼ぶ。

 

 

 

 「え?」

 

 しかし次の瞬間、燎はきょとんとした。

 

聞き返したのもあって何を言われたのかと燈達は不思議になる。

 

 なにかを上で見つけたのだろうか。それとも施設内に敵がいたとか?

 

 

 「なんて言われた?」

 

 たまらず鳳が未だ無線中の燎にその話の内容を聞く。

 

燈や綵も聞きたいため、黙って燎を見た。

 

 

 無線機から耳を外した燎が言う。

 

 「いや、なんか回避行動とれって」

 

 一瞬時が止まったかのように全員がきょとんとした。

 

 何故自分たちが回避行動を?あたりを見渡すもやはり敵どころか生き物もいない。

 

 

 

 何を回避しろというのだろう。

 

 「なんで?」

 

 燈が思ったことを口に出した瞬間、

 

 轟音と共に地下深くにいたはず四番隊へ大量の光が差し込んだ。

 

 

 燈と綵と鳳の前にして、彼らと相対していた燎の後方に瓦礫や土砂が大量に落ちてくる。

 

 突然の大量の光に少し視界がチカチカする。

 

 凄まじい振動がまだ続いている。土煙が舞い、パラパラと土や石が落ちる音に稀に大きなものが落ちることで大きな音を鳴らす。

 

 

 

 「は?」 

 

 なぜか大きく放たれた視界に、先まで鉄の天井だった場所が大空になっている視界に、

 燈の口から声が漏れた。

 

 ここは地下だ。しかもかなり深いところ。穴が空いて地上の光が差し込むなんてことは普通はありえないことである。

 

 先程考えたように燎並みの強大な力の持ち主が山の斜面ごと吹き飛ばすようなことをしなければ。

 

 

 

 

 

 ということは、これは…?

 

 

 「か、回避行動ぉぉぉぉぉ!!!!」

 

 「「「遅いわぁぁぉぁ!!!!!」」」

 

 崩れ落ちる施設の中でもう遅い回避行動を叫ぶ隊長に全員が反応した。

 

 

 

 




ありがとうございました。
次回からは戦闘…入るかな?


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施設調査へいざゆかん(2)

レポート地獄やら、部屋の整理が終わり、落ち着いた夏休みがやってまいりました。
まったり、投稿を続けていきます…。

そして今回からは三人称からではなく、誰かしらの一人称で物語を進めていきます。
大体、燈さんですね。



 

 

**=燈side

 

 

 

勢いよく空まで開通した穴。

 

そこから差し込む大量の光。

 

そして、それらを霞ませるようにパラパラと舞う土と石。

 

強い光が土砂の間を縫ってチカチカと突き刺してくる。

 

 

(視界、悪いなぁ…)

 

 俺は上に向けた右手の指の隙間から光の差し込む穴を見た。

 

 この穴を空けた相手が敵なのであれば、想定されるのは燎並み、もしくはそれ以上の存在。

 

 

 

(身動き取れないよなぁ…)

 

 強大な力を前にすると迂闊に動けなくなる現実にため息がでてくる。

 

 

 

 現在、俺は落ちてきた瓦礫の裏に隠れている。

 

回避行動を叫ぶ燎に突っ込む声は各方向へ飛んで行ったので、おそらく他の四番隊のみんなも各自で隠れていることだろう。

 

 さて、それでどうしたものか。

 

敵が何者か分からない上に山吹き飛ばすくらいの大物と来たもんだ…。

 

 

 上の階にいたはずのみんなや、飛行艇にいるみんなが心配だけど、はっきりと状況がわからない現状で俺が飛び出したところで不利だろう。

 

 

 

 …周囲を見渡してみるが、俺が隠れた位置から見える範囲には敵のようなものはいない。

 

 

 物理的に山の中にある施設に穴を開けたのであれば四番隊のいる最下層まで穴を開けた本人のその肉体が落ちてくるはずだ。

 

つまり、今周囲になんの影もないと言うことは、敵は物理ではなく、放出系の遠距離攻撃でここまでの穴を開けたことになる。

 

 

…と、推測する()

 

 

 

まぁ、推測できたところで安全に動けるわけでもないのだけどね…。

 

 

 (みんながどこにいるのかもわからないのに、出て行って(敵と)鉢合わせたらどうする? ってかなんでみんな別々に隠れたんだよ…。バカかよ…。)

 

 ほんとうにバカである。

 

自ら孤立して身動き取れなくしていくアホである。

 

俺はついさっきまで傍にいた四番隊の仲間を思い浮かべながら頭を抱える。

 

 

 (こうなったら燎とかが出てくるのを待ってから動くかぁ…?)

 

あいつ運すごい良いしなぁ…。あいつが出て来たら安全なんじゃない…?知らんけど…。

 

適当だけど燎の運は信頼に値すると思うんだよね…知らんけど…。

 

実際、外の状況を知れる無線機持ってるの燎だしな…知らんk…これは知ってたわ。

 

 

 

(うーん。でもなぁ…。このままここで待つのもなぁ…。)

 

 何が起こってるかわからないから迂闊に飛び出してはいけないのに、何が起こってるかわからないからこそもやもやする。そんなことはないだろうか。

 

 ここで待っている判断が正しいのか、飛び出して探索する判断が正しいのか全く分からない。

 

 

 

(様子を確認する感じで…)

 

 しばし悩んだが、結局俺の心はもやもやに押し通された。

 

様子を見るの大事なことだよね。状況把握大事だもの。

 

相手がちょっと危険すぎるかもしれないだけで…。

 

と、自分の行動を肯定化するべく顔をうんうんと揺らす。

 

 

 

…唐突だが、最初の山を貫通する大きな衝撃が来て以来、敵は静かだと思う。

 

揺れる振動も、舞う砂埃も、穴が空いたことによって建物と地面が崩壊しかけてるからであって、敵本体は近くにいないのではないか?

 

つまり、今が絶好の(外に出る)チャンスなのでは?

 

 

 「行くしか…」

 

…ん?今俺なんて言った?行く決心を固めようと思ったが、少し気になることを考えたような。

 

んと、この揺れは建物と地面が崩壊しかけてるから?

 

 

…崩壊するってことは?

 

 

 

え?このままいったら俺ら生き埋めじゃね?

 

 俺は自分が青ざめたのがわかった。

 

 「やば…《ズドン》…く…」

 

 生き埋めはやばいと思い、瓦礫から立ち上がった瞬間、

 

穴の開いた方から《ズドン》と大きな音がした。

 

俺の顔をさらに青くする()()がいた

 

 「…………ね……」

 

 やばいっす。全然やばいっす。

 

言葉を言い切る前に、目の前に降りさった一体の龍と目があった。

 

 

 

***

 

 

 

 汗が…汗が止まらない…。

 

やばいなんてもんじゃない。生命の危機だ。

 

龍と言うのは、軍一個じゃ絶対足りない生物なのだから。

 

 巨大生物掃討作戦の時に手間取った大型生物もこいつら龍と呼ばれる生物の中の一体だ。

 

 龍というのは弱い奴も強いのだ。何をいってるのわからないかもしれないので簡単に言えば、龍の中では弱い部類でも俺たち人間にとっては軍一個じゃまず足りないつよつよな生物なのだ。

 

 

俺は呆然としたまま龍と対峙する。

 

 目の前に降りさったその一匹の龍は純白で、鋭く尖る翼と呼吸に合わせて赤く膨らむ喉が印象的だった。

 

龍対俺。

 

…絶対無理。

 

勿体ぶらずとも待つのは死のみ、死あるのみ。

 

 

…ほんとにここで死ぬのだろうか。

 

助けなどは来ないだろうか。

 

一気に頭の中が冷静になった。

 

 

せめて、一人じゃなく四番隊であったなら…。俺は思案する。

 

それなら、勝算はある…。

 

燎の渾身の一撃をもろに決めればワンチャンある…かも…?

 

それはそれで勝てるかはわからないけど、一対一では絶対に敵わない。

 

俺は四番隊が全員集まるまで待てばいいのか?

 

っていうかそもそも、待てるのだろうか…。

 

 

ここまで思案するのにリアルな時間で約1秒。

 

超高速脳処理。

 

 

だが、1秒も有れば龍は俺を認識し、喉をさらに赤く光沢させ攻撃ブレスを放とうとする。

 

 

ブレス、受ける???受けれる?守れるのか?俺の能力で。

 

 

 

 

…さぁ、入りました高速脳処理。

 

 さて、人類の発展と再興と共に

 

私達には戦うための能力が備わりました。

 

火、水、雷、草、地、風、氷、竜、花、星、血です。

 

 その中で、()の能力は火と花。

 

2つの能力を併せ持つハイブリッド型である。

 

多くの人類は1つの能力しか有していないため、2つの能力を有するハイブリッド型は希少かつ強い存在とされているし、実際強い。

 

 ちなみに、最前線で戦うユエリナ軍には1つの能力を極めた者と、ハイブリッド型が集まっているために、ハイブリッド型の人間は珍しいものではない。

 

 

さて、俺の能力の話に戻ろう。

 

まず、火は想像通り、火を出せる能力。

 

そして、花は防御壁が張れるもので、

 

俺が四番隊の中で防御が得意というのは防御壁が張れる花の能力があるからだ。

 

 果たして、龍のブレスに俺の花の能力を使った防御壁は有効だろうか。

 

防御壁を破られてしまえば勿論俺はブレスをモロに受けるので良くて負傷、最悪は死。

 

 

 

…と、先程と同じく、ここまで約1秒、

 

超高速脳処理(なんとなく締めに使ってる)

 

 

現実に戻ってみると俺の目前では龍の光ながら膨張していた。

 

龍がブレスに使うエネルギーを貯めた証拠だ。

 

 

力の解放へ向けて、龍が口を少しずつ開ける。

 

その間、俺は動かずにいた。…動けずにいた。

 

 理由は二つ、一つは正直なところ怖いから、足がすくんだからだ。

 

だが、そんなマイナス要素もプラスに言い換えれる理由がもう一つ。

 

それは後ろにある破壊されずに残っている施設の保護を考えたからだ。

 

 

 人間、大変な時ほど色んなものが目につきやすくなるし、気にしてしまいがちになる。

 

ブレスが来ると思ったときにふと後方にある機械たちが目に入った。

 

 ここに来た目的は、施設の調査であり、気になったものを回収するためだ。俺がブレスを避けてしまっては、施設の破壊が進み、もしかすると大事な回収物を失ってしまうかもしれない。

 

 自分の動けない理由を正当化するように見えるが、守るしかないのだ。ブレスを真正面から受け止めるしかないのだ。

 

 

そう考え、覚悟を決めた俺は足を少し大股に開き、手を前に出した。

 

俺の周りを桜のような花弁が浮遊する。

 

それと同時に、龍の口が光った。

 

 来る!!

 

(受けとめろ。俺ええええ!!!)

 

俺の手から花の能力のエネルギーが防御壁を展開する。

 

 

龍が光を放った。

 

それはまた凄まじい閃光と張り裂けるような轟音を繰り出した。

 

高い位置から俺を目掛けて放たれた一発のブレス。

 

少し腰を落とす。後ろに吹き飛ばされてはいけないから、全力で踏ん張るために。

 

衝撃はすぐに届いた。

 

凄まじい光が目の前の防御壁へと当たってくる。

 

周囲を花弁が激しく宙を散乱し、それぞれの威力がすさまじいことを周囲に示す。。

 

 

 「ッ……‼︎んぐぐッ…んぐぅぅぅぅぅ!!!」

 

 思わず顔を背けた。

 

 衝撃の後は、押されて押されて、ひたすらに押される。

 

ブレスの勢いが…凄い。

 

 

…が、実はここでもう俺は勝っているのだ。

 

 最初の衝撃で防御壁を破られなければ、後はそれを維持するために粘るだけ。根性勝負だ。

 

 歯を食いしばり、足にさらに力を入れる。

 

 根性なら龍相手でも負ける気はしない。

 

防御壁は破られなかったのだ。耐えれば守り抜くことも、生き抜くこともできる。

 

その状態で根性を振り絞らない奴などいるのだろうか。

 

 

否、いないだろう。

 

 

花弁がその激しさを増す。

 

(これは…もらったぁぁぉぁぉ!!!!!!)

 

力を振り絞りながら、龍のいるであろう方向を睨みつける。

 

 「ぐッ……!!!!!」

 

 押される力が突然なくなったことで声が漏れ、桜の花弁が飛散した。

 

 龍がブレスを出し切ったのだ。

 

 それは俺がこの龍のブレスを受けきったということでもある。

 

 

 (俺が止めれるのなら完全勝利だって狙えないわけじゃない…) 

 

 俺が全て受け止めれば、誰も怪我をせずに、誰も失わずに勝てる未来がある。

 

龍というのは強い。だが、一つのブレスを止めたことで俺はそんな自信を持った。

 

完全勝利だって狙えるのだ。勝てないなんてことはない。

 

希望が大きく見え始めた。

 

 

 龍を見上げる。

 

ブレスは龍の貯めたエネルギーを多く使ったようですぐには動くことができないようだ。

 

しかし、それはこちらも同じ、かなり踏ん張ったために少し体に反動がきている。

 

 

…両者ただの睨み合いの構図だ。

 

 

 すると、突然左後方から強風が吹き抜けた。

 

吹き荒れる風に目を薄く閉じ、吹き飛ばされぬようまた少しグッと足に力を入れた。

 

 

 「このッ…風ッ!!!」

 

 それはビュゥっと吹き抜けて行ったのだが、

 

俺はこの風の()()を知っている。

 

 その風の正体はすでに龍の横をも通過したようで龍は一瞬怯んだ後、上を見上げた。

 

 

 おそらくこれは()の最高速度。

 

 

 「頼んだぞォ!!!鳳ぃぃ!!!!」

 

 後ろから聞き慣れた叫び声が聞こえる。

 

パッと思い浮かんだ風の正体は当たっていたようだ。

 

 鳳は風の力の持ち主だ。

 

風を操ることと風を放つことができ、上手く使えば空を飛ぶことも、誰かを飛ばすこともできる。

 

そして、当たり前ではあるが極めれば極まるほど、その飛行は速く、精密に行えるようになる。

 

 鳳はユエリナ軍四番隊の風の能力保持者だ。

 

その技量は凄まじく、今の風はこの鳳が最高速で飛んで行ったことによって放たれた風だろう。

 

 

 「燎、鳳をどこに飛ばしたの。」

 

 後ろから少しずつ近づく足音に、龍を注視したまま問う。

 

 「俺らのカメラと、見つけた銃を二つ、あとは壊れた無線機持たせて飛行艇まで」

 

 燎の声が後ろから聞こえてくる。

 

 なるほど、これからの戦闘を予想して鳳が一人で持てそうな軽くて重要なものを預けたと。

 

 「お前があいつと戦ってくれてたおかげですんなりできたぜ。またせたな。」

 

 少しだけかっこつけではあるが、得意げな顔をしてわざわざそういう燎に頼もしさを感じる。

 

 「…俺のカメラ持ってってもらえてないんだけど」

 

 そんなことは言ってやる気はないので、依然として俺の腰にカメラが下がっていることを茶化す。

 

 「いいだろ。お前のカメラ一個くらい、壊れたらドンマイなレベルだ」

 

 なんともないように言ってくる。俺の写真に価値がないと言うことだろうか。こいつの心霊写真もどき集よりは価値はあると思うんだが…。

 

 

 燎が横へと並び立った。

 

 「綵は?」

 

 「知らん。どっかで生きてる。」

 

 この場に未だ現れていない綵について尋ねるが、居場所がわからないらしい。

 

それをけろっと言い放つところに少し冷たい気もするが、これは信頼の上だろう。

 

 俺もあのひょうひょうとした綵がそう簡単に死ぬとは思わないのでひとまず龍との対面に集中する。

 

 「そう、それと無線機…」

 

 俺と離れている間、無線機で上と連絡を取ってはいないだろうかと無線機について燎に問う。

 

 「あぁ、壊れた。」

 

 ……?

 

 「壊したの間違いでは?」

 

 「いや、回避行動を取ったら尻に潰されてしまった。あの龍のせいで壊れたんだ。」

 

 「それ壊したって言うんだよね。あんたの尻ならあんたのせいでしょ。」

 

 頼もしさなど1ミリもなかったことにしたい。

 

 燎はなんともない風に言うが、燎はユエリナ様にあとでちょっと愚痴愚痴言われることになるだろう…。連絡手段を戦闘中に壊して失ったのは大きな痛手だもの。

 

俺は燎の後のことを考えて苦笑を浮かべた。

 

まぁ、それもこれも全部こいつ()を片付けてからなのだが…

 

 

 キュェェェェェェ‼︎‼︎‼︎

 

 

 突然鳴り響いた高音に俺も燎も思わず耳を塞いだ。

 

目の前の龍が鳴き、空を見上げている。

 

お前そんな鳴き声だったの!?

 

 「あいつ、鳳追う気じゃない?」

 

 俺はそう口にしながら、腰の刀の鞘に右手をかけた。

 

龍がもしも鳳を追うのであれば、それは絶対に止めなくてはならない。

 

回収品を失うばかりか、もしかすると飛行艇にまで危害が及ぶかもしれないからだ。

 

 

 「行かせねぇ!!」

 

 おそらく同じことを考えた燎が龍の懐へと潜り込むため地面を蹴った。

 

俺もそれに続いて、刀を抜刀し、龍の元へと進む。

 

 

が、

 

 

 龍がその大きな翼を地面に叩きつけた。

 

その風圧が俺たちを怯ませる。

 

 

 ギャエエエエ‼︎‼︎

 

再びさんざめく咆哮を上げた次の瞬間。

 

 

 「ぅ゛…!!」

 

再び凄まじい風圧を放ち、龍が空へと舞った。

 

 

 

 

 「行かせないッ!!!!」

 

 龍の頭上、空から一つの影が降ってきた。

 

 「綵!!?」

 

 

 綵であった。空から綵が降ってくる。

 

なんで空から!?と俺は思ったが止めてくれるならなんだっていい。

 

きっとあいつなら止めてくれるだろう。そんな信頼が心の中にある。

 

 

 綵は空中で構えを取ると、鋭い音を鳴らして銃を放つ。

 

彼が放った銃弾は一直線に飛んでいき、龍の首筋へとヒットした!!

 

 

 キュエエエエ‼︎‼︎

 

 ヒットした…のだが、龍は意に介さない様子で、浮上を続けていってしまう。

 

 空から龍とすれ違った綵がスタッと降りてきた。

 

 「硬い鱗にはやっぱり手も足も出ないわね。私。」

 

龍はそのまま地上へと翼をはためかせ進んでいく。

 

 

 「え、いま完全に止める流れだったよね。」

 

つい言ってしまった。

 

 「誰かさんが脳内で止められなくなるフラグを建てたからかしら。」

 

降りてきて最初に言った言葉がまた悲しい内容でしたね…。

 

 

 「俺たちも上へ向かうぞ。」

 

 燎が上を見上げたままで言う。

 

 「そうね。そろそろ地上での戦闘が始まるわ。」

 

 綵も上を見上げ燎に同意する。

 

続けて、

 

 「急がないとここも崩れるだろうし…」

 

と言った。

 

 

 あっ、そうじゃん。

 

俺もそれに気づいて動いたんだった…。

 

おそらく綵が上から降ってきた理由は綵も地上へ早く出ようと地上を目指して施設を登っていたのだろう。

 

…え、あれ俺さっき龍からその崩れる予定の施設を守らなかったっけ。

 

 

 「そうか。どうせ潰れるのか。」

 

 燎が噛み締めるように不穏な言葉を放った。

 

どうせ潰れるとはなんだろう。

 

どうせ潰れるのに俺はブレスを真っ向から受けに行ったのだろうか。

 

人間とは混乱すると状況の整理がつかなくなるのだろう。

 

あの行為は無駄だったのかもしれない。

 

 

あぁ、なんか喪失感。

 

 

でも、どうして今燎はどうせ潰れるならというような発言をしたのだろうか。

 

どうせ?どうせなら??

 

 

 「なら、すぐ出るいい方法がある。」

 

俺は少しだけ嫌な予感がした。

 

 

 「やるにしても聞いてかr…「それは、お前らを投げて俺も跳ぶ作戦だ。」…嫌ですね。」

 

 俺の言葉を遮って放たれた作戦内容はあまりにも嫌なものだった。

 

 燎が何をしようとしているのか、前にもあったのでわかるのだが、それは燎の馬鹿力を使った作戦だ。

 

燎が俺と綵を馬鹿力で空へぶん投げた後、馬鹿力で地面を蹴って自分自身も地上へ飛び出す算段だろう。

 

 おそらく自分が跳ぶ際に全力で地面を蹴ると、足元の地面を抉ってしまうことが今まで多々あったので龍が侵入した後であったが、施設内でその方法をとるのは躊躇していたのだろう。

 

 

 確かにこの方法は現状では最善で最速の脱出経路となるだろう。

 

 しかし、投げられる側が辛いのを燎は知らない。過去にも投げられた人しかわからない。この方法は

 

恐怖の塊である。

 

 かなりの勢いで高速で空へと飛ばされるのだから何かにぶち当たったりでもしたら……ぷちゅん…。

 

よくて大怪我、悪くて死。

 

飛ばされる側に操作性はないため、この馬鹿が力加減や投げる方向を間違えでもしたら、その瞬間お陀仏である。

 

 

 さ・ら・に!!!

 

 いつものように何もない空に飛ばされるのならまだいい。

 

だが、今回投げ出される場所は地下だ。コントロールが悪ければ地上に出る前にどこかの壁や土にぶちあたる可能性が大の大の大!!!

 

 

 その現実が恐怖を駆り立てる…。

 

ガシッ

 

 「…あの…燎さん…?嫌だって…」

 

最悪のシナリオを想定し、龍と目があった時のように青くなる俺の腕を燎が掴み、引き寄せる。

 

 「あの…いや、別の方法で…」

 

俺の刀を固定している腰のベルトへと燎の手がかかる。

 

 

 「よし、行くぞぉ!!!!」

 

 燎が自信ありげに言う。

 

 「え、まじでやるの?嫌だって言ってるんだけどこっちは!!!」

 

 「ウオラァァァァァアアアアアア!!!!」

 

燎の咆哮が聞こえ、身体が上へと持ってかれる。

 

ベルト…お腹…苦しい…!!

 

 

 「綵ッ…!!たすけっ!!!」

 

 最後に見えた綵の顔は青ざめていた。

 

…あ、もう…、

 

 「いやだぁぁぁぁぁぁぁあああああああ!!!!!!」

 

俺は絶叫とともに地上へ向けて放たれた。

 

 




とりま馬鹿力は最強卍


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VS龍 戦闘なんてすぐ終わってしまいますが…

やばい、いつもなら小説家になろうで書いた前書きとあとがきコピペして終わりなのにコピペするの忘れた…。

えっと。
夏風邪ひいて寝込んでいましたということと、それが大変だったといことと、世界が俺に小説を書くなと言っている的なことを書かせていただきました。
詳しくは忘れました。書いたの五分とかそれくらい前だけど…。
まぁ、小説読む分には差し支えない前書きですので。興味があればなろうの方で前書きを覗いてみてください。

あ、それとそろそろ一章の区切りになりそうです!
そのあとは物語も進めるけど、日常が書けるぜ…。

まぁ気長に地道に投稿していきますのでよろしくお願いします。

あ、あと久々に書いたら楽しくて字数多くなりました…。とりあえずこれで思い出せる範囲は書きました。大丈夫。


~~燈side~

 

 

 「し、死ぬかとお゛もっだ…」

俺は大の字に寝転がりながら空を仰ぎ、肩で息をしながら声を吐き出す。

 

奇声を発し打ち上げられた俺は、弧を描くように空を舞い、雪の積もった地面へと墜落した。

 

鼓動が早まり体温の上がった体を、冷たい雪が少しずつ冷やしてくれる。

あぁ、意識、飛ぶかと思った。

 

 

 「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

頭上から第二の被害者の叫び声が聞こえる。

 

 

 「へぶっ」

隣でバフっという音と共に大量の雪が空へと舞う。

 

 「しぬっ…もうい゛やっ…」

 

顔面から着地したのであろうか、尻を空へと高く向けた状態で綵が雪のついた顔をあげる。

 

 

綵は少し放心状態のようで、俺と揃って深いため息を吐いた。

 

 「よっこらぁせぇーーっとよぉぉぉ!!」

 

元気の良い声が聞こえる。

燎が穴の中から勢いよく飛び出し、俺と綵の間に影を落とした。

 

 

「着地ぃ!!!!」

 

どすんと両足で着地を取った燎だが、その落下地点は綵の顔の真前であった。

何も悪くない(というか被害にしかあってない)綵を地面から舞い上がった雪が襲う!!!!

 

「あぶぅ!!?」

 

綵の一瞬唖然とした表情はすぐに雪の中へと消えていった。

 

 「ふぃ〜脱出成功!」

 

燎が手をパンッパンッと叩き、着地の際に地面についた手から雪を落とす。

 

 「あの…、か、燎…さん…?」

 

あなた雪かけてますよーと綵が埋まった雪山をチョイチョイと指さす。

 

 「?なんだ?どした?無事に外に出てこれたよな?」

 

 まぁ無事でしたけども、確かに最速だよこの脱出方法。

燎は俺何かやっちゃいましたか顔でこれを言う。絶対こいつは自分が悪いことをしたことに気づいていない。

 

もう苛立ちが湧いてくることはなかった。ただ「ア、ハイ」と俺らが頷けばいい話だ。

 

 

 「…龍、どこにいるのかしらね」

その声の出所をみると、雪からのそりと這い出してきた綵が、死んだ目をして地面を見つめていた。

 

彼もきっと、「ア、ハイ」とただ頷く路線に舵をきったのだろう。

未だ地面に四つん這いであり、髪や背中から雪がポソリと落ちていく様が、諦めと哀愁を漂わせる。

 

 「鳳に追いつけるとは思わないが、探してんなら上空か…」

 

上を向いた燎に倣って俺も空を見上げるが、少し曇った空にその姿はない。

 

 

 「でも空以外は考えられないのだけど」

綵が周囲を見ながら言う。

もしも龍がこの周りにいたなら俺らが雪の上で茶番してる暇ないんだよね…。

 

 しかし、鳳を見失ったのであれば俺らのいるこの場に戻ってくるのではないだろうか。龍にだって知性はある。

 目的を見失っても尚、どこにいるのかが完璧にわからないものを探し続けるだろうか。それならば居場所がはっきりとわかる敵だと認識した者の位置に戻ってくるのではないだろうか。

 

 

そう考えたところでふと一つの考えが思い浮かんだ。

 「割と鳳に追いついちゃってたりして…」

 

龍が鳳を見失っておらず追いかけ続けているのであれば、この場に龍が戻ってくる理由はなくなるのだ。

そんなわけないよね、と思いつつも口に出してみる。

 

 「さすがにそれはないだろ」

燎がパシッと否定する。

 

 「まぁね。鳳はうちで、一番速いんだからそれと同等なのはちょっと困ることになるから、ないと考えたいわ」

綵も続けて否定する。

まぁ、ごもっともなんだが、

 

 「いや、俺もないとは思ってるんだけどさ…」

だとしたら何故龍はこの場にいないのだろう。

 

 「四番隊のみなさーん!!!」

快活な声が雪山にこだました。

 

 「やっぱりいた!!何されてたんですか!」

 「雀ちゃんどうしたの。」

綵が返事をしたその快活な声の主は八番隊の雀であった。

トテテと雪の上を走ってくる。

 

 「雀ちゃん〜!雪に埋もれないでくださいね〜!」

その後ろから杏子が髪を揺らして追いかけてくる。

 

 「そんなちっちゃくないよ!!!杏ちゃん!」

 「あら、埋もれたらそのまま持って帰るのに」

 「どこに!?」

 

 立ち止まった雀と追いついた杏子が元気そうにいつも通りの会話を始める。

今までみんながどうやっているのかがわからなかったため、この光景を見るだけで張り詰めていた心が少しの落ち着きを取り戻す。

 

 「他のみんなは?今まで二人は何してたの?」

だが、今目の前にいないみんなはどうしたのだろう。俺は雀へと問う。

 

 「九番隊とユエリナ様は二番隊七番隊と一緒に飛行艇に戻ったわ。龍が地下に行ったから立て直す好機と考えたんでしょうね」

その問いに対する返事は雀と杏子の更に後方から帰ってきた。

 

 「それで、私たちはあんた達と合流することを任じられたってわけよ。ピンピンしてるのね。」

答えたのはシエルだった。その背後には疲れ果てた様子の日和とそれを支える千景が着いてきている。

 

 「それで?そっちは何してたの?あんた達あの龍と接敵したんじゃないの?」

 

 「した」

 「したならなんでここに…!!」

 「龍が鳳を追いかけてった」

 シエルの問いに燎が淡白に返す。

接敵したと聞いて少し前傾したシエルだったが、その後の答えを聞いて留まった。

 

 「なら鳳は今どこに?」

 「俺らのカメラとか持って飛行艇に向かった。」

 「飛行艇!?なら龍も飛行艇まで行ってるんじゃ…」

シエル。驚きのオンパレードである。テンポよく前傾したり目を見開いたりしている。

確かにユエリナ様達が飛行艇へと立て直しに向かったのを知っていればより焦ることだろう。鳳を追っていった龍に飛行艇が襲撃されたとなればたまったものではない

 

 「まぁ龍は鳳にだいぶ遅れて飛んでったからまず見失ってんだろ。」

燎があっけらかんと答える。さっき俺らで話した内容だしな…。

 

 「それって推測の話でしょ?もしも龍がすごく速かったらどうするの?!」

四番隊をど正論が突き刺す!!

 

…そりゃそうなんですよ。

はい。そのとおりです。

 

 「でもユエリナ様からはなんの連絡も来てないんだろ?」

燎が起死回生の一手を放った。龍が飛行艇の近くにいるのであれば、飛行艇に向かったユエリナや飛行艇に残っているものから連絡が来ることだろう。

 

 「まぁそうだけど…。」

シエルは不安を拭い切れない表情だ。

 

 「なら、大丈夫なんじゃねぇか?」

ほれ見ろとばかりに燎が不安を取り除こうとする。

うーんとシエルが目線を外す。

 

 「…あ、ねぇ、あんたその言い方だと無線機ないみたいなんだけど、無線機…ある?」

一難去ってまた一難。

 「オゥ!?」

燎から変な声が聞こえた。

正論をぶっ刺された燎を第二の刃が襲う!!

 

 「まさか無くした…?」

 「オゥ…」

その反応を見てジト目で追い討ちをかけるシエル、燎も珍しく弱ったように答える。

シエルにバレるのは手痛いようだ。

 

 「いや、壊した」

俺はすかさず訂正した。

 「な、おまッ」

言った瞬間に燎はこちらを睨んできたが、さっき俺らを空へ飛ばしたことへとちょっとした仕返しだ。

ざまぁみろ。

 

 「壊した??」

やはりシエルが食いついてきた。

 

 「尻につけてて尻で壊した」

 「燈!?」

 「あーそゆことねぇ〜」

 俺の言ったことに燎が反応してしまったのでこれは真実となる(暴論)

さっきまで不安を帯びてたシエルの顔が一気にニマニマ顔へと変わった。

 「やっちゃったのねぇ〜あーあ」

煽れる素材があれば煽るそれがこの二人だ。

 

 「鳳さんじゃないかな?あれ」

そんな二人を尻目に雀が空を指さした。

 「あの大きさと速さは確かに鳳さんですね。」

その横から杏子が目を細め、その物体を注視してから肯定する。

 

全員が雀の指さす方向を見た。

 

 「じゃあ鳳さんの後ろにいるのが龍?」

 

ん?、と俺は思った。確かに鳳の後ろには大きな物体が同じような早さで飛行している。

 「あれはやっぱり追いつかれたんですかねぇ…」

杏子がそう言った。

 

 あれ、速くね?あのでっかい物体、速くね?

 

 「燎、追いつかれるはずがないんじゃなかったの…?」

シエルが唖然としながら言った。

 「いや、あの大きさであんだけ速いってもはやチートだろ。」

燎が応える。

この会話の最中にも二つの飛行物体は雲を裂いて空を高速で縫ってこちらへと向かってくる。

 

 「あれこっち来るわね」

綵も同じことを考えてたようだ。

 「ど、どうしましょうか…」

千景が日和を未だに支えながら問いかける。

 

それはやっぱり

 「迎撃するしかない…?」

俺は燎に向かって言った。

 

 「もちろん」

端的に燎が言う。

 「四番隊で正面から迎撃する。八番隊はカバーを頼む」

 「言われなくてもそうするわよ!」

シエル達八番隊が四番隊から距離を取っていく。

 

 鳳はもう俺らのことを見つけているだろう。そして四番隊が残り八番隊が散開していったことが意味することを彼は察しているはずだ。

 「こいつ速すぎるんだけどぉぉぉぉぉぉ!!!!!」

ものすごい勢いで一直線にこちらに向かってくる鳳が叫んでいる。

 

 「燈、鳳が通り過ぎたら”火柱”建てるぞ」

 「りょうかい」

この世界では連携を取ったり、後世へと伝えるために一定の概念や仕様が決まった技には名前をつけている。

”火柱”とは文字通り火の柱を建てることだが、燎も燈もかなりの手練れである。そして二人揃って出すのだからもはや火柱ではなく火の壁のようになる。

 

 「おねがぁぁぁぁい!!!!」

ものすごい風が吹きこんできた。

雪が舞い思わず顔を腕で覆った。

 

そして

 「いくぞぉ!!!!」

燎の声に合わせ

 「「火柱!!!」」

俺は燎とともに豪炎を編み出した。そして編み出された二つの火柱が合わさり地から生える炎の壁を形成する。

 

が、それが龍を止めることはなかった。

龍は俺らの火柱を高速で突き破って行ったのだ。

 

 「あ、止めれないやつだ…」

燎が少し驚いたように言う。

 「ちょっ!!止めろよ!!!!!」

鳳が高速飛行を維持し旋回しながら叫ぶ。

龍がその後を追って旋回を始める。

 

 「動き止めないと効くもの効かないわね。これは」

近くでしゃがんでいた綵が立ち上がり空を見上げながら近づいてくる。

 

 「低空で来たのを燈で受け止めるか?」

燎が言ったように花の力で受け止めて…

俺は頭の中でイメージしてみる。

高速でくる巨大な塊、かなりの質量であるし破壊力だろう。

 

…いや、

 「普通に破られて直撃パターンしか見えません」

 「だよなぁ」

俺が真顔で言った。

脳内で予測した結果の情景は燎も容易く想像できたようだ。

 

 「同じように低空で来たのを燎で打ち返すのはどうかしら」

 燎の馬鹿力で、もうここではっきりと言ってしまうが”星の力”で打ち返すのはどうだろうか。

燈と同じく炎の力を持ち、ハイブリットでその腕の一振りで大きなクレーターを作ってしまえる星の力を持つ燎であればワンチャンぶつかり合いで龍を制することができると綵は考えたのだろう。

 

 今度は燎が考える。

 「受け止めれても辺り全部ぶっ飛ばしそうだな」

 「「却下で」」

その答えに俺と綵は即却下を決めた。

 

 「ちょ、ねぇぇぇ!!!!!俺のこと忘れてませんかぁ!!!!!」

鳳が龍と共に永遠と上空を旋回している。

お陰でこの辺りは未だに風が吹き荒れている。

 

 「同等の力で止めんのは割とありだ。ただ、地上だと周囲が吹き飛ぶ。」

燎が鳳を見ながら言う。

 「じゃあ地上で受けるのはダメじゃん。」

地上がダメなら無理じゃん…どうするんこれ。

 「地上じゃなく空で受ければいい」

燎は鳳の後ろをついて旋回する龍へと視線をずらして続ける。

 

 「空でなんて受けれないわよ。こっちは踏ん張りが聞かないし、なによりも当てられないんじゃないかしら」

 あんな速いのにどうやって当てるというのだろうか、唯一の自由自在かつ高速で空を移動できる存在()は今もなお龍と追いかけっこしているのだし、

 

 「あー。まてよ。これ動きを止めればいいんだよな。」

燎が目を細め腕を組み、少し下を見ながら考えている。

 「あー。いけるぞ。これなら」

彼は何かを思いついたようだ。

 

 「え?まじで!どうするん?」

俺は解決策の登場についテンションがあがり聞いてしまった。

 

 「鳳ぃー!!!そのまま旋回!!!!!」

燎が俺の問いに答えないまま鳳へ指示を出す

 

 「りょうかぁぁぁい!!!!!!!」

 鳳は今もなお追われ続けており大変そうだ。今まで追われる経験がなかったからだろうか。追われても振り切れたり、対抗して潰せたりできていたのだが、この龍相手では追われるしかない。

 

 「鳳、大変そうだよな。」

燎がなにか呟きながらこちらへと歩いてきた。

 「そだね。それでどうするのさ」

俺は作戦内容を聞こうとする。

 「燈、当てれそうだと思ったら"リフレクション"な」

先程言ったのだが、概念として決まった技は作戦行動時の連携のために技名を命名することとなる。

 

 "リフレクション"とは花の力を持つものが使える超高威力の攻撃技だ。防御特化である花の力の唯一の攻撃手段でもあり、自分を中心にして大爆発をするという広範囲への攻撃であるため自己のエネルギーを多く使ってしまいその後は戦闘不能になることがしばしばある。

 余談ではあるが、爆発の際に多くの花びらが舞うのでやる側は辛いが見る側は綺麗なものを見ることができる。

 

 「え、俺もうそれ戦えなくなるかもよ?」

 「良いって良いって大丈夫」

燎が更に近づいてきて俺の腰ベルトへと手をかけた。

 「え、しかも当てれそうって言うのはどゆこと?」

俺は身体が浮いた感覚に戸惑いながらも燎へと問う。

 「鳳、大変そうだよな」

 「え?俺あそこまで行く感じ?え?投げようとしてない?は??」

燎が先ほど呟いた言葉を繰り返しながら完璧に俺を持ち上げた。

あれ?…これ。

 

 「よぉーく狙ってぇ〜」

 「え、ちょ、はぁ!?」

 「おらぁぁぁぁ!!!!!!」

鳳大変そうだからって流されるかぁぁぁ!!!という俺の意思とは関係なく、俺は空へと打ち上げられた。

 

もう「ア、ハイ」でいいんだ。俺はさ。もう…。

かなりの速度で空へと飛んでいく中で俺は投げやりに考えた。

これは当たるかわからないからこそ、大体の位置を狙って広範囲の高威力な技で龍の動きを止めようっていう算段だろう。

 

こうするから投げさせてとでも相談してくれたら嫌がらずに投げられたかもしれない。

知らんけど…、

飛び出した瞬間、岩陰に隠れていたシエルと千景が引いたような顔をしてたよ…。

 

先ほど投げられたように閉鎖空間ではなかったので少し心に余裕ができる。

それと龍との戦闘中であるということが俺を冷静な思考へと導いたのだろう。

 

鳳と龍を探す。あ、これはクリーンヒットですよ燎さん…。よかったですね。任せといてくださいよ…。

地上から俺が近づいてくるのを見つけたのか鳳が驚いた顔をしているのが見えた。

 「すまん!!!!!骨は拾う!!」

 

鳳が俺のそばを通過しながら叫んでいく。勝手に殺すなよ…。

そしてすぐに龍の軌道上へと俺が現れる。

ここだ。龍さん。こんにちは…。

 

 「リフレクショぉぉぉぉん!!!」

 

意を決した俺は全身を丸め力を身体の中心に集めてから一気に解放した。

瞬間鳴り響く爆発音とフラッシュする視界。

急激にくる脱力感。

周囲へと広がる衝撃と花吹雪を見てから俺はやり切ったことを認識した。

龍は、まだ飛んではいるがブレーキをかけたかのように身体を捻り速度を落としていた。

 

 

一方そのころ

 

燈が空へと飛び、龍にリフレクションを放つまでの間のこと。

 

 「か、燎…え、なにを…な、何をしているのでありんす…」

 「いや言ったらお前ら逃げるだろ?」

燎は苦笑いを浮かべて、言葉遣いが壊れた綵の方へと近づく。

 

 「燈で動きを止めて、その後は…?」

 「確実に動きを止める。」

 「ふ、ふぅん?」

燎の答えに焦りを含みながらと返した綵は空へと飛んでいく燈を見る。

 

 「だが燈だけじゃ止めらんねぇ。」

近づいてきていた燎に綵はガシッと肩を掴まれた。

 「デスヨネ~」

近づいてくる時点で予感はシテタワヨー、ヨカンハー。

というかお前ら逃げるだろ?って主語がお前らになっていた時点で私もなんだなってサッシタノヨ~

 

 「燈ですこし怯んだところ目掛けて投げっからあいつの体に半端ねぇ電気流してこい」

綵の能力は雷である。そしてユエリナ軍にいるだけあってその能力の威力も凄まじい。

 「アッナルホド~」

 

丁度空で燈が身体を丸め始めた時だった

 「多分あそこらへぇぇん!!!!!」

 「急すぎっ!!!!?」

綵は身体が浮いたかと思ったら一瞬のうちに空へと投げ出された。

 

 「イヤァァァァァァ!!!!!!!」

綵は奇声を上げながら空へと飛んでいく。

その奇声は燈の放ったリフレクションの爆発音でいい具合に掻き消されたが…。

 

しかし綵は飛んでいく途中に気づいてしまった。

龍がブレーキをかけたところが自分のたどり着く場所であることを

 

燈が…龍を怯ませた。そして燎は完璧な場所へと綵を投げ飛ばした。

ここまできたら私もやるしかない…。

 

綵は叫ぶのをやめ、龍の元へ手に雷の力を溜めながら近づいていく、

 「どうもおおおお!!ここで止まってくださるぅぅぅ????」

綵は龍の羽にぶつかった。そしてその瞬間を逃しはしない。

 「喰らいなさい!!!!」

全身から龍へ向かって放電を始める。

 

その時間は5秒ほどであっただろうか、綵は龍が完全に痺れていることを確認し、龍から離れた。

 (決めるんでしょうね。あんたが、燎!!)

綵自身も重量によって落下していく中で、綵は脱力して落ちていく燈を視界に収めながら燎を睨みつける。

 

 「上出来だ。お前ら…後は任せろ」

燎はニヤッと口を歪ませながらそう呟いた。

次の瞬間、地面を抉りながら空へと跳び出す。

地面にはクレーターができ、砂と土、雪が空へと舞った。

周囲の岩陰に隠れていた八番隊の悲鳴が聞こえなくはないが…

 

ものの数秒もかからず燎は燈や綵の間を縫って龍の元へと辿り着いた。

その右手に凄まじい星の力を宿して、

 

 「そんだけ速く飛びたいなら高速で飛ばしてやるよ。あの世までな」

燎は腰を回し、龍の腹へと拳を叩き込むべく右手を少し引いた。

 

 「じゃあな」

そしてしっかりと引き込み振りかぶった右手を腰を入れながら龍へと叩き込む。

その手は青く光っていた。

 

 「俺らの勝ちだ」

刹那、龍は反撃する暇もなく回転するかのように打ち込まれた燎の拳によって一気に山の上の高い高い上空から遠く離れた大地へと叩きつけられた。

空にはその勢いのためにできた衝撃波の風と地上にはその周囲にクレーターを残して。

 

 




長かったですね…。
ありがとうございました。


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