才能無くて首吊ったら美少女に憑依したけどこいつも才能無くて首吊ってた (小中高校道徳の成績5でした)
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俺才能無いし首釣ろ

あらすじは後日変更します。


当たり前にあるもの。斬新でブームになったもの。革新的なもの。

 

どれにも必ず一人いる。()()()()と呼ばれる人物が。

 

例えば合成音声で作られた歌。誰もが最初は青い歌姫を思うだろうが実際は違う。火付け役が使った合成音声がたまたまその歌姫だっただけに過ぎない。当時種類は少なかったが。

 

それでも原点と呼ばれた合成音声への憧れから俺も例外なく使い曲を作った。けれど、既にブームは去っていたからか、それともありふれた曲だったからか、俺の作った曲は全て陽の目を見ることは無かった。

 

動画投稿サイトに投稿した曲はざっと50曲以上。どれも1万もいかない再生数。

 

最初は再生数なんて気にしてなかった。初めはこんなもんだろうと。純粋に作る過程や完成した曲を聴くのが楽しかったから。

 

だけど今は再生数ばかり考える。どうすれば人目を引くか。どんな曲が受けるか。流行りは何か。

 

 

 

 

どれも失敗に終わる。

 

 

 

嫌でもわかる。音楽の才能が無いと。50曲と聞けば多い方に聞こえるが実際は流行りに寄せた似たような歌。あえて曲同士に繋がりを持たせリズムを使い回せる手抜きだったり。いやどれもこれも何かにインスピレーションを受けて何かに似てる歌で、それでもなお孤立してる歌があるとしたら

 

 

片手で数えられるぐらいしか無かった。

 

 

嫌でもわかる。才能がない。

 

 

 

 

人気が欲しい。

 

沢山の人に褒められたい。

 

コメント欄が称賛の嵐で埋まってほしい。

 

世間が歌う曲が俺の曲であってほしい。

 

 

膨れ上がっていく欲。増えない再生数。

 

 

 

 

なんで?

 

 

 

 

もっと斬新なモノが欲しい。

 

 

誰もが目を引くような事がほしい。

 

 

今までにない発想がほしい!!

 

 

 

 

 

無理だ。どう足掻いたって俺には無理だ。プライベートの時間を注ぎ込んでも、睡眠を削っても、友人関係を断ってでも。親の縁を切ってでも。

 

 

 

才能が無い

 

 

それ一つで誰も注目しなかった。

 

 

才能が無い俺がどうすれば注目される? 何を注ぎ込めば新しい曲が作れる? 今俺には何がある?

 

 

 

 

 

あるのは己の身一つだけ。

 

 

 

 

「はは」

 

 

自嘲気味に笑う。

 

 

 

最後の手段で仕事を辞め貯金を使って新たな発想を得ようとした。それでも無理だった。

 

 

もう無理だ。諦めよう。音楽なんて。死んだら元も子もない。バイトしよ……………

 

 

 

 

発想が口から溢れた(悪魔は囁いた)

 

 

 

絶望から救われる。人目を引く方法が。人気を得る方法が。

 

 

思い立ち椅子に座りパソコンに向かう。

 

 

今までにないぐらい手が進む。今までにないぐらい思いつく。一つの発想を中心に渦巻く感情がキーボードを打つ音と呼応して画面に現れる。

 

 

画面に黒い所が表示される度に酷く窶れた笑顔が映りそれを見るたびに楽しみで仕方ない気持ちが思考を支配し曲が99%完成する頃にやっと自分が飲まず食わずの2日間で作り上げたことに気がついた。

 

 

あと少しで自分は人気者になれる。あと少しで俺は奇跡の一曲を作り上げる。

 

 

最後の仕上げだ!

 

 

「これで、これで!!! 俺は人気者だァァァ!!!!! ハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!!!!!!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

とある格安マンションの一室。近隣住人がこぞって玄関前に集まっていた。理由は一つ。煩いと注意しに来たのだ。

 

 

しかしいくらインターホンを押しても返事はない。

 

一人が鍵がかかってない事に気づく。そっとドアを開けた。

 

 

 

机は乱暴に端にどかされ真ん中には倒れた椅子。

 

ギイギイと音を立てながら、その上で縄が音を奏でる。

 

 

 

 

キャーーーーーーーーーーー!!!!!!!

 

 

 

一人の女性の響き渡る悲鳴。

 

 

それを引き金にその一室を借りていた男性は有名になった。彼の作った最期の曲は瞬く間に再生数を10万、100万と伸ばしていく。

 

 

彼の目論見通り人気者になった。

 

 

テレビでも取り上げられ、ネットニュースで一位になった。動画サイトでも話題になり彼関連の動画がアップされる。だがどれも同じ事を喋っていた。

 

 

 

 

 

『彼は自分の命を使って曲を完成させた』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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起きたら女の子になってたんだけど

眠い。


ゆっくりと目を開ける。椅子の脚が縦に見える。足から肩まで床に張り付いている感覚がする。と言うことは見えてる椅子は倒れているんだな。

 

当然か。俺が倒したから。

 

 

頭痛がする。首から下が軽く痺れている感覚がある。立ち上がれない事はない。上を見る。

 

 

天井に貼り付けられている紐は垂れ下がってはいるが途中で切れていた。

 

「………あ〜〜」

 

新品なのにクソみたいな耐久性だな。おかげで人気者になれなかった(死にそこなった)。もう一度買いに行かないと。今度はもっと頑丈なやつ。

 

 

 

 

 

…………今声おかしくなかったか?

 

 

 

「あ〜、あ〜〜〜」

 

発声練習をする。明らかにおかしい。声が女の子みたく高い。首吊った影響で喉仏が上にいったか?

 

酷く喉が乾いた。なにか飲もう。とは言っても冷蔵庫の中は殆ど無かった気が、麦茶ぐらいはあるだろ。

 

痺れで違和感ある体を起こす。

 

 

 

 

俺の部屋じゃない?

 

 

椅子と天井しか見えてなかったが壁にはビッシリとアイドルらしきポスターが所狭しと貼ってある。よく見たら天井にも何か貼った跡があった。ポスターに混じってむしろ白い紙に黒い大きな文字が目立つ。

 

【目指せアイドル!!】

 

 

近くにあったパソコンを開き黒い画面を鏡に自分の姿を見る。思った通りだ。俺は俺じゃなくなってる。映ってるのは女の子だ。

 

 

心からおかしく思うよ。小説と同じ事が起きるなんて。だけどつまり俺は無事に曲を完成させることが出来た証明でもある。時間が経っているなら確認の機会が得られることは喜ばしい事だ。

 

 

早速確認したい所だがどうせパソコンにはロックが掛かってるだろうから付けるだけ付けて部屋を物色するか。

 

 

引き出しの中、カバンをひっくり返し、ベッドの下やタンスの奥に何か隠してないか引きずり出す。目に映るモノ全てに目星をつけて部屋中に撒き散らしともかく漁る。

  

見つけた学生証やらでこいつの事がわかった。都立弗愛高校(とりつどるあいこうこう)2年【菜野乃至(さいのない)】女。B型7月7日生まれ。なんだよ弗愛って、アイドルかよ。そんな高校あんのかよ。 

 

 

まあいい。こいつの素性はわかった。次はこいつの生活だ。

 

 

 

 

【日記】

 

こいつ(今の俺)の日記だろう。これで誰だかよくわかる。数冊あるから続けてるのだろう。マメなやつだ。

 

 

 

 

丸月罰日

 

 

今日から本気でアイドルを目指す! だから日記もつけることにしました! まずは体力づくりから! と、思ったけどスマホじゃ動画見にくいな。仕方ない。頑張ろう。夢に向かってファイト! オー!

 

 

 

「中学のときからはじめたのか」

 

如月缶日

 

アイドル目指して今日で丁度一年! 頑張ってるね。お父さんも応援してるよ。て、パソコンを買ってくれた! パスワードは私の好きなグループの【消した跡がある】! と、書いちゃ駄目だ。これで大画面で練習ができる!

 

 

「死ね。俺はバイトして買ったぞ」

 

 

三日月王我日

 

初めてのオーディション! 〇〇事務所で受けた! とっても緊張したけど楽しかった! 受かってるかな〜。

 

 

嘘月火日

 

オーディション落ちちゃった。悔しいけど「良かったよ。後少しだった」と言われた! ようし! 次も頑張るぞ!  

 

 

  

望月茄子日

 

 

オーディションまた落ちた。これで5回目。何が駄目なんだろう。どこも後少しだったって言ってくれるけど、何が後少しなの?

 

 

〜ここからネガティブが続いた〜

 

 

韓月反日

 

 

わからないわからないわからないわからない! 何が駄目なの? どうして受からない? どれだけ頑張っても、どれ程受けても、何一つ成功しない! どうして? ダンスだって下手じゃない。先生から太鼓判を押されてる! 歌だって音程も完璧だった! なのになんで!

 

 

終月輪日

 

後少し、何か足りないって言われた。だから聞いてみた。これだけ頑張っても足りないならどうすればよいか。

 

 

そんなに頑張ってこれなら残念だけど才能ないよ。

 

 

そっか、私、才能無かったんだ。

 

 

 

何日

 

 

一緒に目指した友達は全員、どこかの事務所に所属がきまった。私だけだ。

 

 

なん日

 

夢を追いかけるのが辛い。でも辞められない。だって、私はアイドルになりたいから。才能が無くても。

 

何にち

 

母親からついに諦めることを提案された。受け入れたくない。でも、私を受け入れてくれる所はない。

 

私には才能がないから。

 

無い分何かで埋められれば。

 

 

なんにち

 

 

どうすれば足りないものを埋められる? どうすれば? どうすれば? 誰に聞いてもわからない。

 

 

 

 

 

 

 

 

まだ途中だがもう充分だ。こいつ(今の俺)が何故自殺したかわかった。

 

才能が無くて、代わりを見つけられなくて絶望したんだ。

 

 

だがそんな事はどうでもいい。それよりも重要な事が書いてあった。

 

 

 

有名、大手のアイドル事務所が複数日記に書かれていたがどれも聞いたことがない事務所だった。

 

 

 

 

「ざけるな」

 

 

 

【消された跡】からパスワードを拝借してパソコンに打ち込む。無事にログインできたので検索エンジンで色んな事を調べる。

 

 

 

 

 

結論から言えばこの世界は俺の知ってる世界じゃなかった。

 

 

 

 

ふざけるな。俺の曲はどこにいった。ここが別世界ならそんなものは最初っから存在しない。それどころか合成音声の歌すら存在しない。

 

 

 

アンノイズ(俺の前世の活動名)】と検索しても俺に関する情報は一切無かった。

 

 

 

俺はまた無名だ。俺の曲は消え去った。

 

 

そんなのは許さない。

 

 

 

 

 

 

  

 

 




菜野乃至。

才能無いから考えた名前。


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おめでたい世界

更新は不定期です。あとL4D2やってました。


「は?」

 

 

菜野乃至(今の俺)のパソコンを弄くり回す。まるで大掃除でもした後のような整理整頓された部屋でマウスのクリック音だけが響いていた。

 

この世界は俺の知っている世界じゃない。だから前世の俺の曲は存在しない。作り直すしかない。しかし

 

「音楽ソフトが、ない?」

 

俺の全てだった合成音声ソフトが存在しないのだ。いや、存在はする。しかし、それはあくまでロボットに搭載されているような無機質な声。音階など設定できない。【歌姫合成音声ソフト】ではない。いわゆる【調教】が存在しない。

 

 

動画サイト、検索サイトで調べる。当たりだ。この世界では機械に曲を歌わせる文化は無い。

曲を歌わせる文化は無い。

 

 

 

アイドルが根強いから機械の歌と言う発想がない。と言う訳じゃない。それだけでその発想にたどり着く奴がいなくなる訳じゃない。

 

なら複数の理由がある筈だ。仮説は立てた。確認だけだ。

 

 

パーカーを着て家を出る。首周りに跡が残っているのでチャックを上限まで閉める。

 

 

マップアプリで現在地を確認しながら自分の世界と差異を見つける。

 

 

住宅街はそんなに変わらないようだ。

 

だが駅周りは明確に違う。

 

街にある看板のどれもこれもが美男美女を広告イメージキャラクターとして起用している。美肌用品とかならまだわかるがゲームショップ、本屋、文房具店、サイクルショップまで、その全てに人が掲載されている。

 

 

それだけじゃない。歩く人々殆どが顔が良い。

 

顔面偏差値が高めなんだ。乃至の顔はどうだろうか。俺自身は可愛いと思う。美少女だ。だが特徴があると聞かれたら、あまりない。美人だがぱっとしない。モブに混じってても違和感は無いだろう。

 

 

街を見渡すために上がった歩道橋。不意に子供の泣き声が聞こえる。

 

「うえええん!! 風船が飛んでっちゃったァァァ!!」

 

 

歩道橋を渡った先の所の木に赤い風船が引っかかっていた。それだけの事。なのに、歩行者が数人足を止め、どうやって風船を取るか会議していた。

 

たかが風船一つ、また買えばいいだろ。

 

「うええええん!!」

 

「大丈夫! お姉ちゃんが取ってきてあげるから!」

 

笑顔で言う金髪のポニーテールの少女は一緒に立ち止まっていたお兄さんの一人に肩車を提案し、少し高くなった景色から精一杯に手を伸ばす。それでも風船には届かない。

 

「も、もうちょっと」

 

後少しで届きそうで片腕を肩に乗せてアンバランスになってもギリギリまで伸ばそうとする。他の人は彼女が落ちたときの為に受け止める準備をしていた。

 

たかが風船一つの為に随分な人数だな。それほどお人好しが多い平和なのか。

 

 

気になって手すりにもたれ掛かってスマホで治安を検索する。思った通り、何か事件が起きる度に大々的に取り上げられている。一つ一つの事件が少し過剰じゃないかと思うぐらいに騒がれている。

 

それほど平和なんだ。平和で悪い人が少ないから顔を晒すのに抵抗が薄い。容姿が良い人が多いからアイドルも必然的に多くなる。素性を隠す人が圧倒的に少ない。知らない人同士でさえすぐに協力できる程円滑な世間観。どれもアイドル文化を後押しする世界事情だ。

 

軽く検索したがどの国も前世と比べて治安がいい。

 

 

なんともめでたい世界だ。平和賞をこの世界にあげたいぐらいだ。ボカロPがいないのも納得が行く。 

 

 

「そこの人! すみませ〜ん! 歩道橋にいる人!」

 

巻き込まれた。反応して下を見る。

 

「この子の風船が木に引っかかってしまったの! そこから届きませんか!」

 

「届かない」

 

即答する。そもそも取る気もない。だから届かない、取れないと事実を答えた。

 

「自撮り棒かなにか持ってませんか!」

 

「持ってない」  

 

財布とスマホ程度だ。 

 

俺に何を期待していたのか、ションボリする。

 

「風船…………」

 

風船がいまだ取れてないことに子供が諦め始めたのか静かになって俯いた。

 

「だ、大丈夫! 絶対に取るから!」

 

金髪の子は笑顔で言うが取る算段が無く困った表情で辺りを見渡す。他の人も一緒だ。背の高い同士で肩車しても届かない。

 

「向こうで風船配ってるからそれは諦めて貰ってきたら」

 

歩道橋の高さから視野が広い事を良いことに遠くで風船を配ってる人を見つけて伝える。

 

「それじゃあだめなの! この子、赤いのが好きで赤い風船が今引っかかってる一つしか残ってなかったの!」

 

色とか知ったことか。どうせ萎むんだ、どうでも良いことにこだわって……………

 

 

 

こだわり過ぎた俺が何を思ってるんだか。

 

 

「…………持ってて」

 

「え?! ちょっ! とと」 

 

 

スマホを金髪に投げてその場から離れる。軽く跳んでから手すりの上に登って助走をつけて跳ぶ。

 

木の横を通り過ぎるように、風船を掴んでそのまま地面に足から落ちて着地できるはずも無くあちこち擦って倒れる。

 

「…………ッ」

 

 

いってぇ。

 

風船が無事なのを確認すると子供に渡す。跳んで風船を取ったのがヒーローに見えたのか目を輝かせてた。

 

「お姉ちゃん凄い! もしかしてヒーロー?!」

 

「残念ながら違うね。風船、もう離すなよ」

 

「うん! ありがとう!!」

 

そう言って子供は嬉しそうに歩いていった。

 

金髪は俺の方を見てあ然としてた。

 

「スマホありがとう」

 

そう言ってスマホを取って俺もその場から離れようとした。

 

「ちょっとまって!」

 

腕を掴まれた。

 

「理由がない」

 

「私にはある! 擦り傷だらけよ貴女! 血だって出てる! 近くに私のいる事務所あるからそこで手当てを」

 

かなりの剣幕で俺の腕を引っ張る。

 

「いらない」

 

「だめ!」

 

「離してくれなかったら嫌いになりそう」

 

「なら嫌いになってもらうから! 早くこっち来て!」  

 

そう言って引っ張られる。こいつ嫌いだ。

 

 

 

 

 

    

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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宮坂智秋

不定期です。


パイプ椅子に座らせられ、ズボンをたくし上げられて消毒液を吹きかけたガーゼが貼られる。擦り傷に染みる。

 

「風船を取るためでもあんな危険なことはしないでください」

 

「あれ以外方法が思いつかなかった」

 

「だとしてもです!」

 

「じゃあ君は取れたの?」

 

「ゔっ!」

 

叱りたいが叱りきれず、怒った表情に困惑が混じる。

 

数カ所あった擦り傷はそれぞれにあった絆創膏がはられていく。上半身はパーカーを着てたこともあって対した傷じゃないから腕を捲くる程度で済んだ。脱げとか言われたら全力で逃げる。こんなお人好しに首を見られたら面倒だ。

 

「傷なんて作ったらせっかく可愛い顔が台無しだよ」

 

そう言われて右頬にも絆創膏がはられた。

 

「それよりもいいの、部外者の…私を勝手に入れて」

 

「怒られるのは私だから大丈夫です」

 

この子はやると決めたら意地でもやるタイプの人だな。

 

そんな子に連れてこられたのは【シキセツプロダクション】と言うアイドル事務所だ。そういう場所に入った事はないが、ゲームで見たのと大体似てる。おそらくPのと思われる書類の置かれた机。近くで見なければわからない小さな書き込みのあるカレンダー。大雑把な目標や予定の書かれたホワイトボード。廊下には階段があるからそこを登れば練習する場所でもあるのだろう。

 

 

 

「……ありがとう」

 

 

「何もしてない。それに私のセリフです」

 

 

「私のセリフでもあるよ。私じゃあの風船は取れなかった。数人いたから出来ること沢山あったのに、取れる方法が思いつかなくて、なのに貴女は一人で風船を取っちゃった。おかげであの子に嘘をつかなくて済んだの。だからありがとう」

 

申し訳無さそうにしながら救急箱を片付ける。

 

「あ、でも私が取ってあげるって言ったから結局は嘘だった!」

 

救急箱を元あったであろう場所に戻す。置く音だけが事務所内に響いた。

 

俺が怪我したことに責任を感じていると解釈する。だから嘘だと少し自嘲気味に思考が進んだのだろう。

でもお人好しな彼女にはそれは慣れてないかもしれない。救急箱を置いた場所から動かない。次の言葉を用意してなかったのか、俺の返答を待っていたのか。どちらかはわからないがえっと、と彼女の目は気まずそうに泳いでいた。

 

 

「元々風船を取る気はなかった。君に言われたから仕方無しに取っただけ。だから私に声を掛けた君も風船を取る手助けをした。直接触れてはいないけど、風船を取った一部は君の功績でもあるよ。そして数人いたにも関わらず一人で勝手にとったから怪我は私の責任」

 

 

そういえば用事は手当だけだ。もう済んだから帰ろう。いや、パソコンのスペックがクソだったから秋葉にでも寄るかな。あ、でも金が無いか。小遣いは貯めてるみたいだがオーディションの交通費やらで沢山あるわけでもない。

 

事務所を出る。

 

 

「ありがとう。気を使ってくれて…………て、あれ?!」

 

 

彼女は何か言ってた気がするが互いにもう用はない。この世界の交通費はどのくらいか? 

 

 

「ま、待って!」

 

 

金髪の子は慌てて追いかけてきた。振り返ると困惑気味に驚いた表情で俺をマジマジに見る。そんな目を見て気づいた。

 

彼女の目は紅い。透き通った紅だ。そんな目に見とれた。

 

「私! 宮坂智秋(みやさかちあき)って言うの!貴女、弗愛高校の生徒でしょ!」

 

なんでそんな事、ああ、スマホの待受か。友人らしき人物と一緒に撮った写真。制服を着てるからわかったのか。  

 

「その弗愛高校に転校するんです高校2年で!」

 

「2年、私と一緒だね」

 

「本当?!」

 

同じ学年と言う事が彼女を笑顔に変える。

 

「私の事嫌いって言ってたけど、私は貴女と友達になりたいです! だから名前を教えて下さい!」

 

言ったな。

 

友達とか。俺が人気になるためにはある時間全て曲につぎ込んで、才能無い部分を埋めなきゃいけない。なのに友人なんて増やしたらその分俺は俺の夢から遠ざかる。

 

 

「菜野乃至。どうせ同じ学年なら教えても教えなくても変わんないし」

 

 

「さいの、ない。さん?」

 

「私のなまえ。でも宮坂さんのこと嫌いだから友達になる気はないよ。あとこんな初対面で敬語使わない同級生なんて常識ないでしょう。そんな子と仲良くするなんて嫌でしょ。それじゃ、私は帰る」

 

俺はスタスタと早歩きでその場から離れる。

 

「え? まってくださ……………」

 

無視して帰る。流石に追ってくることは無かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

金髪。いや、黄色って言ったほうが似合うかな。紅葉したような紅い目。智“秋”。ぴったしな名前だな。

 

 

 




友達いらないのが菜野乃至(前世男)スタイル。


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低スペックだけど仕方ない

乃至のパソコンはノートパソコンです。


帰ったあと。世の中の仕組みは大体把握できた。幸い今弗愛高校は春休み。ならばすべき事はただ一つ、

 

パソコンを睨みつける。所詮は安物、どんなに効率化しようともその処理能力は俺が求めているものには到底届かない。

 

ドラム、ギター、ピアノ、効果音、ベース、その演奏達を音楽ソフトで作っている。

 

しかし、それを再生すると彼らの音が同時に重なる所で処理落ちが起きて演奏は雑音へと変わる。 

 

それらを防ぐには出力をしてその演奏を保存すれば良いのだが、一度の出力にかかる時間はざっと5分以上。しかも一度保存した奴は調整も変更もできず、するには再度出力する必要がある。 

 

それだけじゃない。出力された音はあまりにも規則正しく一定すぎる。この世界ではボカロPの文化が無いために音楽ソフトも大した調整ができない仕様になっている。用途としてせいぜい作曲するときに演奏する為の基盤程度の用途でしか無い。音階や音量は設定できても強弱はつけられない。 

 

ピアノなんかは一つの一音に一つの弦が用意されてるので単体で鳴らせる。

 

しかしギターとかは弦は6つしかないので指で抑えたりピックで揺らしたりで音を変えている。しかし、この世界の音楽ソフトは一つの音に一つのプログラム。単体で音が出る仕様なのでピアノなら一つ一つの音が独立しても違和感はないがギターとかはそうは行かない。音が独立してしまえば音階が繋がらないのだ。

 

 

ドからレに、ミからファに、まるで切り取って貼り付けたような演奏になる。 

 

 

ならどうするか。

 

 

否。何もしない。 

 

何故なら逆に言えば音が独立した演奏ができるからである。それがつくる違和感、不気味さは初期の合成音声作品においてよくある事だから。そして、それを世界観に落とし込めて作品に仕上げる事がボカロPの腕の見せ所。あちらでは技術が発達してその限りではなくなったが。

 

だが強弱は必要だ。

 

全てが一定な曲を聴いたことがあるか? 少なくともそういう意図が無い限りそんなものは存在しない。BGMならあるがこれはあくまでもVocalが要る。サビでの盛り上がりは絶対に必要だ。転調するのもあるが。

 

今の音楽ソフトじゃ強弱はつけられない。何度も思う。苛つく。だけど方法はない訳じゃない。

 

別の編集ソフトで音を直接弄る方法だ。MADとかでキャラクターの声などを使って演奏したり歌わせたりするときによく見る方法だ。それで無理やり強弱をつける。

 

とは言っても任意の音階はあるのでたいして音は崩れない。むしろ電子音が良い味を出してくれる。

 

 

だがあまりにも手間だ。

 

複数のソフトで一度出力したモノを無理矢理弄って再度出力するものだから低スペックのパソコンじゃ時間かかるし途中で止まるし。

 

 

 

 

死ね! 

 

 

 

 

 

最初っから完成形が頭に入ってなかったら一夜漬けじゃ済まなかっただろう。

 

カ〇リーメイトとウイダーインゼリ〇を胃袋に流し込みながら音楽をきく。最終確認だ。

 

だがこれだけでは終わらない。曲が完成したら次は映像だ。電子音による世界観は実写じゃ合わない。絵を動かした映像がよく使われる。

 

 

出来た。

 

そんなもの世界観にあった一枚絵の静止画で良いや。そんなもん作る技術も外注する金もない。動画作る時間が無い。一枚目で曲の全てを説明する程の絵にするしかない。幸い絵は練習してた時期があった。

 

 

ペンタブ無いから書きづらい。

 

 

後は歌だけだ。しかし合成音声ソフトが無いから自分で歌うしかない。だが幸い自分の歌は何も見なくても完全に頭に入ってる。しかし家じゃまともなのは撮れない。

 

レコーディングスタジオを借りよう。乃至の俺がどれだけ声が出るかわからないが日記を見る限り相当努力してきた筈だ。

 

すぐにノートパソコンを手に取り出かける準備をする。低スペックだが唯一の利点は持ち運べることだ。

 

 

 

レコーディングスタジオに着いて受付を済ませる。

 

 

「3時間で15000円です」

 

「たっけぇ!?」

 

高校生の財布事情じゃ大金だよ!

 

 



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初めてのレコーディング

誤字報告ありがとうございます。


高そうなマイクが目の前に設置された密閉された部屋。たった数メートルにも関わらず室外と室内の言葉を繋ぐには機械を経由しなくてはいけない。真横には大きな窓がありそこから女性が一人営業スマイルで俺を見ていた。

 

 

 

 

「初めてのレコーディング、緊張しますか?」

 

「いいえ、緊張はありません。ただ、言うとおりどれも初めてで、一人でできれば良かったんですけど」

 

「高校生には厳しい値段ですからね。スタジオが初めてでしたら一度収録する前に発声練習と、好きな歌を歌うのはどうでしょうか? カラオケとは感覚が違って最初は上手く行かない方が多いですので」

 

「わかりました」

 

カラオケ機能があるようだ。だけど感覚が違うのは確かだろう。まず雰囲気や目的が違う時点で心づもりが違う。それは歌に影響するだろう。

 

にしてもレコーディングスタジオって録音エンジニアがいるんだな。ありがたい。キレイなお姉さんだ。女性の歌声の感覚はよくわからないから色々教えてもらおう。ついでにセルフでできるようになろう。金が無い。

 

「あ〜、あ〜あ〜あ〜あ〜あ〜」

 

v〇vyと同じ発声練習をする。意外と透き通る。声が良く出る。強く、弱く、高く、低く、音域が広い。とても強弱がつく。アイドルを目指すうえで努力してきた賜物だろう。

 

「よし」

 

カラオケ機能で好きな歌を歌う。

 

「……………」

 

この世界の曲、知らないや。

 

「アカペラで歌います」

 

「アカペラで、ですか?」

 

「はい。演奏が入ると、カラオケ気分になってしまいそうですから、私が歌いたいのは自分の、世に出す曲なので。自分の歌だけを聴かせたい気分で行きたいです」

 

「わかりました」

 

俺の好きな歌。電子の世界に囲まれた、自分もその世界に立ちたいと思えた歌。無機質で囲まれた世界。でも、命が吹き込まれた音楽。

 

【初〇ミク〇消失】

 

ブレスをする。

 

「【楽曲コード書くの面倒なので頭の中で再生してください】」

 

とても早く良い滑舌を要求される歌なのに自身の耳で自身の声を、一字一句聞き取れた。歌いきった。自身の歌は自分でも歌うからたまにカラオケに行っていたが、それを含めてもここまで完璧に歌えたのは初めてだった。気持ちが良い。ビブラートもコブシも出せるだろうがあえて使わない。ただ音階をなぞった歌い方は自身でも無機質さを感じる。

 

合成音声ソフトでは調教して人が歌っているようにする人もいるが俺が好むのはその無機質さだ。まるでロボットみたいで、不気味さが残る。でも、強弱のある歌い方はまるで心があるように。機械に命を吹き込むイメージ。

 

 

「すぅ、はぁ」

 

一度深呼吸をする。歌いきったところで空気の行き来を活発にして酸素の少ない肺が安心するかのように腹の力が抜ける。

 

 

今ので乃至()の歌の感覚は掴んだ。今度は自身の歌だ。録音エンジニアのお姉さんに曲を流してもらおうと横を向くとポカーンとしていた。

 

 

「あの、曲を流すのをお願いしたいのですが」

 

「え、ああ。ごめんなさい。初めて聴く曲でしたので、あと、何というか、失礼な事ですが、人が歌ってないというか、そんな感覚に襲われたというのでしょうか」

 

「それが聞けて嬉しいです」  

 

ぽかんとした顔は変わらず理解はしきってないが少なくともそういう歌い方を俺はしたんだなと言うことは理解してもらえた。

 

お姉さんは一度首を振って切り替えて営業スマイル。ではなかった少し楽しみにするような顔で準備OKですか? と聞いてくる。俺はOKですと返す。

 

 

曲が流れる。その演奏はまるでただ鳴らしているだけ。いや、音を置いているだけと表現したほうが正しいのだろうか。繋がらない独立した音達が集まって一つの演奏を作り出す。一つ一つが独立してはいるがその音が入るタイミングは一寸の狂いもなく完璧で繋がっているようで繋がってない、音楽だというのに楽が感じられない無機質と言う違和感が耳に妙に残る。

 

そこにまるでただ音階をなぞって歌っている少女の声がその無機質感をさらに加速させ、まるでロボットのようだった。でも歌声だけは音が独立してなくて繋がっており、演奏してる機械達に囲まれて歌っている少女の姿が見えてくる。

 

 

 

 

 

少女は機械に音楽を教えられた。だから音階をなぞることしか知らない。それでも楽しくて、つい気持ちが高まって、その歌声には強弱が生まれる。その強弱を機械たちは学習して演奏に強弱をつけ始める。

しかし、その機能に限界があるのか強弱を付けるたびに音の一部が不穏な電子音に代わりその演奏は異質に感じる。それでも少女に取ってはそれがおかしいとは思わず楽しく歌い続ける。

 

少女はビブラートもコブシもフォールもしゃくりも知らない。機械は音と音の代わり、繋ぎをすることはできない。

それなのにその歌は楽しそうで無理矢理強弱をつけてる機械には心があると感じる。

 

 

そんな奇妙なライブは無機質なのか、感情豊かなのか、どちらなのか、もしかしたら両方なのかもしれないとその矛盾を聞いてる人たちは抱えるだろう。しかし、少女はきっとそんな事を知らないで次の歌を歌うだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

残り時間約20分。take20以上。納得のいく歌が出来上がった。

 

 

 

題名

 

【誰も知らない音楽会】

 

 

 




前世からの曲ですかスペック不足が原因で結構無理矢理な演奏になってますがむしろ世界観にあっていたので乃至本人は出来に満足してます。


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アンノイズ

今回は宮坂智秋視点です。  

坂と阪で間違うことがありますが気にしないでください。

誤字報告ありがとうございます
誤字報告ありがとうございます
誤字報告ありがとうございます
誤字報告ありがとうございます
誤字報告ありがとうございます


私の名前は宮坂智秋(みやさかちあき)

 

駅近くにあるアイドル事務所。シキセツプロダクション。そこでは日々アイドルとして歌ったり踊ったり、トーク力を高めたり。本番に向けて汗を流している。

 

これは個人的な意見だけど今やアイドルは飽和状態にあると思う。都会の駅近くには必ず事務所が一つはある。激戦区である秋葉原なんかは凄いことになってる。

 

テレビをつければバラエティ番組一つにつき一人は必ずいる。その為、アイドルは陽の目を浴びやすい。たくさんいるからたくさん浴びる。私も例外なく浴びる。

 

でも、誰でも浴びると言うわけではない。それは必然か、偶然か、光に影あり、因果の法則と自然の摂理。どうしようもないと呼ばれる現象。

 

必ずいる。だから努力する。笑顔で、綺麗に。何度も訪れる一度きりのエンターテイメント。

 

 

 

 

 

 

 

 

「しぬぅ!! 死んじゃうよぉ! どうして春休みなのにレッスンを入れるのさぁ! このままじゃ小春、入学式には枯れちゃうよ」 

 

「仕方ないでしょ。貴女が一番の時期なんだから。桜花小春(おうかこはる)なんて今が旬でしょ」

 

ピンク髪のショートヘアの背の低い女の子は床に寝そべって転がりながら水筒を取って愚痴とスポドリを交換する。

 

「休みなのに増える出勤、小春なのに大なる期待、青春一瞬今絶旬! チェケラ!」

 

「ラップ歌える余裕があるなら平気そうね」

  

「絶旬て何?」

 

「えぇ、」

 

YOYO! DJをやりながら口を尖らせる。絶旬て自分が言ったのに自分でもわからないって………ただリズムに乗りたかっただけなのかな。

 

 

絶旬て何?

 

 

「流石に休憩しようよ。小春、最近疲れ溜まってるのぉ。と言うか、冬華と夏美はどうしたの? 来てなくない?」

 

「仕方ないでしょ。春休みは家族間でも忙しい時期なんだから。私だって昨日いなかったわよ。転校関連で」

 

「仕方ないかぁにしても奇跡だよね。名前で春夏秋冬揃うのって」

 

「ユニット名にもなっちゃったしね。珍しいって人気も出てきたし」

 

 

4Season's(四季)】それが私のユニット名。シキセツプロダクションのオーディションを受けに来たとき、合格した四人が私達だった。それが奇跡的に名前に春夏秋冬が集まり、すぐに意気投合してプロデューサーもそのまま私達でユニットを組んだ。まだ2年目と言う新人ではあるものの順調に仕事は増えている。それでも人気かどうかと言ったらそうじゃない。

 

「珍しくて人気と言ったらこれ見てよ」

 

小春のいつもの長く休憩する為の話題振り。いつもだったらすぐに話を切るが今回ばかしはその限りではなかった。

 

投稿日昨日。再生数1万。

 

 

 

 

 

【誰も知らない音楽会】

 

小春がスマホの音量を上げて一本の動画をみせてくる。いや、動画と言ったが画面は常に一枚絵のみで動かない。    

 

空には雲がかかり不十分に明るい。

世界が荒廃したのか、瓦礫が沢山あり、その上にひび割れた機械が置かれていた。明かりがついていることから起動している事がわかる。そして、その機械たちに囲まれているように汚れた白い一枚服を着た少女。瓦礫の上に座り足をぶらつかせながら楽しそうにしていた。

 

 

引き込まれた。

 

 

そこから流れる音楽。少女は歌が上手いのか下手なのか、本人はそんな事全く気にしてない。一人で生きてきたのか、何も知らないのか。  

 

機械たちから鳴る不穏な電子音。それが当たり前かのように少女はそれに合わせて歌う。機械もまた、彼女に合わせて演奏する。楽器なんてない。マイクも無い。ステージすらない。誰かを気にしてる訳でも、誰かの為に歌っているわけでもない。

 

機械が演奏してくれてるから、楽しく歌う。それが伝わってきた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「作詞作曲、編集、絵、演奏、歌、全て一人でやってるんだって。すごいでしょ? 絶対に伸びるよこの人!」

 

「え!?」

 

信じられなかった。作詞作曲、歌、演奏、私達四人でやってきたこと。そこに録音、編集まで加わったらと思うと。そう考えたらすべて一人でやっていることは不可能だと言いたかった。しかし、動画の概要欄をみると全ての項目が同じ名前で埋め尽くされていた。

 

 

【アンノイズ】

 

どういう意味なのか知らない。だけど、確かに一人で出来る。演奏は実際に演奏してるわけじゃない。ソフトを使ってる。不穏な電子音はそこからきている。

 

「いったいどこの誰なんだろうね! こんなに不思議な気持ちになるの小春初めて!」

 

小春は興奮気味に興味を示しており概要欄にあるソフト等を検索していた。

 

私も気になって検索してみる。

 

 

 

 

 

何もわからなかった。使用されているソフトは全て無料で配布されているもの。アンノイズと言う名前はその動画以外使われていない。どんな人物かもわからない。

 

顔も、年齢も、何もかも不明。明かされているのは歌声のみ。女性と予想できる。でも、それ以外本当に何もわからなかった。

 

 

今やアイドル戦国時代。顔も、趣味も、身長も明かし見た目と実力と個性で勝負するのが当たり前。にも関わらず、その真逆をやっているアンノイズにたった4分で釘付けになってしまった。

 

他の人もそうなっているのか、気になるのか、再生数の100分の1と言うコメントの割合の高さが見て伺える。

 

 

なにもわからない。不思議な感覚。でも、その不思議な感覚に何故か覚えがあるような気がする。  

 

前に会った誰かに似てる気がする。でも、誰なのだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 




明日は投稿しません


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弗愛高校始業式

始業式を今までしゅぎょうしきと読んでた。しぎょうしきだった。

誤字報告ありがとうございます
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弗愛高校始業式。別に特別なことじゃない。よくある始業式だ。生徒会長の話は長いしなんかアイドルの話するし、この高校はアイドル活動が盛んで、部活が複数あるようだ。正確にはユニット別にあるみたい。

 

その辺りはラブラ○ブとは違うようだ。ラブラ○ブ見てないけど。

 

ここまでアイドル活動が盛んだと本当に別世界にいるんだなと実感できる。

 

それはそれとしてまさか2回目の高校生活をするとは思わなかった。しかもこの問題児、一体なにをやらかせば教師から「春休みなにもしてないよな!?」と疑いの目をかけられるんだ。日記読んだ限りじゃ真面目だったぞ。  

 

 

いや不真面目だったわ。なんか徹夜なれしてるし(徹夜しても平気だったし)アイドルに関しては異常な執着心持ってたけど、春休みの宿題真っ白だったし、おそらくだけど勉学に関しては一夜漬けでなんとかしてそれ以外の時間を全てアイドルに捧げてるやつだわ。 

 

 

おい学生の本分勉強だろ。

 

教室に行くと女子の割合が高い。アイドルに力を入れているから当然ちゃ当然か。

 

「それでは転入生を紹介します」

 

 

先生からのおめでたい話を聞いたあと転入生が来ると伝えられる。

 

皆誰だろうと期待するも俺はわかっていた。一人心当たりがある。

 

 

金髪に紅い目。茶色のフリフリゴムで束ねられたポニーテール。

 

「宮坂智秋です! 好きな食べ物はたこ焼き! よろしくお願いします!」

 

元気良い笑顔で頭を下げる。さらに可愛い事からも皆からは好印象で拍手が贈られる。

 

「もしかして4Season'sの智秋さん!?」

 

クラスメイトの一人が知っていたようで何人かは彼女が本業のアイドルということを知りおお! と盛り上がる。 

 

 

知られていたのが嬉しいらしく顔に出てなおかつ少し照れながらはい! と答える。

 

「えっと、智秋さんの席は………乃至さんの隣ね」

 

「え?」

 

「ない?」

 

俺の隣を見る。人がいない。正面に向き直ると自然と目が合う。互いに固まる。

 

 

「もしかして、知り合い?」

 

 

「はい、一応」

 

 

「じゃあ丁度良かった! 乃至さん! ホームルームが終わったら学校案内お願いね!」

 

先生が笑顔で嬉しそうに言う。は? ちょっとまって? 俺この学校来るの初めてだからむしろ案内されたい側なんですが?

 

「春休みに校内の施設忘れました」

 

「そんなんだから毎度赤点ギリギリなんでしょうが」

 

一夜漬けでどうにかなってるのも考えものねと付け加えられた。皆には何だいつもどおりかとスルーされている。

 

どうやら案内係は避けられないので仕方無しに生徒手帳の地図を血眼になって暗記する。 

 

「よ、よろしく」

 

隣りに座った智秋はちょっと引き気味にそう言った。

 

 

 

 

 

 

 

ホームルーム終了後、各々が目的を持って散開する。部活の為、久し振りにあった友達と遊ぶ為、新入生と交流を深める為、その中で案内する為に散開するのは俺たち二人だけだ。

 

 

すれ違う人達から声をかけられる智秋。転入生だからと言うことだけじゃないだろう。誰に対しても笑顔で接する彼女は少し楽しそうだ。

新しい場所に緊張や抵抗を持つ訳ではないそれは、アイドルとして挑んできた賜物だろうか。それとも性格からくる天性のものなのだろうか。

 

どちらであってもアイドルとしては適した性格だろう。

 

 

 

 

「ここが音楽室……いざ全体を回ってみると本当に広い」

 

地図を見たときから、いや校外から見たときからずっと思ってた。下手したら大学並にあるんじゃないか?  

 

「流石は強豪校、音楽室だけでも複数ある……レコーディングスタジオもある……」 

 

設備の良さに感動し、ちょっとだけと扉に手をかける。

 

中はよくある音楽室だ。あくまでも授業用。楽器は端においてあるか準備室に。その中でもピアノだけは定位置にある。

 

 

 

 

俺はもう何十年もの間弾いてない。

 

 

 

 

「流石に準備室は入れないか。乃至ちゃん、鍵持ってる?」

 

探検隊の子供みたく目を輝かせながら普段入れない所に入ろうとする。案内という名目から堂々と躊躇なく張り紙のない扉に手をかける。鍵は持ってないと伝えるとちょっと残念そうにする智秋。

 

「授業で使う場所は大体こんな感じだよ」

 

「事務所にもこんなに広い防音室がいくつもあれば最高なのに。一室しかないから個々で違う曲練習するときなんか大変なの。違う曲に引っ張られて振り付け間違えたりタイミングがズレたり」

 

「そう。次は部活動の案内って言いたいけどそっちは後々部活動紹介があるから、案内はこれで終わり。解散」

 

さっさと帰ろうと階段に足を向ける。しかし速攻で手首を掴まれた。

 

「ちょっとまって!」

 

「案内するところもうないよ? それともわからない所でも」

 

「アイドルブースに案内して!」

 

「……それも部活動紹介で後々」

 

「今すぐ!」

 

「地図見れば」

 

「乃至ちゃんも一緒!」

 

「…………」

 

本業のアイドルだ。アイドル活動に力を入れて強豪校であるこの弗愛高校のアイドルブースに興味がないはずが無い。いや、あの目はマジだ。興味の他にも目的がある。何かはわからない。本業を疎かにする訳には行かないのでアイドルブースのどこかのユニットに入る訳では無いだろう。

 

となると文字通り見学か。

 

多種多様なアイドルが必然的にいる。しかも秋葉原とかと違って金もかからないし同じ学校の生徒。距離も近い。学ぶ所は沢山ある。

 

そうなると俺はいらなくないか? 本当の目的がわからない。前にあった時から思ってたが少し頑固な所があるな。

 

 

「わかった」

 

笑顔になった。

 

「所で前は敬語だった気がするけど」

 

「乃至ちゃん私のこと嫌いって言ってたし自分のこと常識無いと言ってたから、だったら私もフランクに接すればお友達になれるんじゃないかって思ったの!」

 

我ながら完璧とドヤ顔をされた。本人は自信満々のようだ。

 

「………はぁ」

 

「た、溜め息!? そんなに嫌い!?」

 

はぁ

 

「さらに大きい!?」

 

これは予想外と驚いた顔で1歩引いている。いや嫌いなやつに無理矢理距離縮められてるんだから至極真っ当な溜息だ。

 

「良くそれで友達になれるなんて啖呵切れたものだよ」

 

「アイドルというのはね! 皆と友達なの!」

 

「スゥ……ムグ!」

 

大きく息を吸ったら口を手で塞がれた。

 

「乃至ちゃん! 私は絶対に諦めない! だから溜め息はしちゃだめ!」

 

「…………」 

 

 

真っ直ぐな目だ。その惹かれるような紅い目。また目が離せない。

 

 

口から手が離れる。

 

 

仕方無しにアイドルブースに案内した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




前の4Seasonは誤字です。

次回は短めにする。長すぎた。


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アイドルの世界

誤字報告ありがとうございます×116




弗愛高校アイドルブース。何故【部】ではなく【ブース】と名称が使われるのか。その理由はそこに足を踏み入れれば誰もが納得する。

 

一棟丸々アイドル活動の場として与えられている。それだけじゃない。外や屋上にはステージが用意されていた。

ふと落ちていた去年の文化祭のパンフレットを見てみれば、2つ並んでいる体育館は連結できる作りになっており大きなステージになる。

 

 

 

見に行くことはあるのだろうか。

 

 

 

「ここが見学できる場所だよ」

 

 

仮ステージ室と書かれたその場所は開けば都会の体育館程の広さがあり、出入り口がある面以外の壁が鏡張りになっている。その中で複数のユニットが音楽とともに汗を流す。

 

俺達と同じ鏡のない面にはギャラリーが出来ており、ただのファンなりに必死にメモ帳にペンを擦りつけたり、休憩に水筒を片手に座り込む人達もいる。

 

その人達が見ているのは同じ生徒でありながらその温度差は凄まじくこちらに熱気を飛ばすほどに本気で踊って歌っている、アイドルをやっている人達。

 

観客がいる中での練習。自分達の必要な音以外の雑音がよく交じる空間で、彼女達の感じる空気はユニット別に用意された部屋とは全く違う。ミスをしたらなかった事には出来ない。

 

そのガラス張りに映る自分達と他の人達(別のユニットとギャラリー)は自分たちを見る観客。ライバルも、ファンも、全てが同じ空間でいるなか自分達の世界を作り出す。

 

仮とはいえステージに立つ者として神経が研ぎ澄まされ、その集中力と完成度は高く、他の音楽は一切聞こえてないのか動きに全くブレがないのが見て取れる。

 

 

繰り返されるリハーサルのような空間でまた一人感化されて、今までの笑顔が消える。彼女のその目は文字通り炎が宿ったように紅く、彼女達の世界を真剣に見ていた。唯一彼女達と立場が違う人間。

 

 

その一人がただそこに立っていた。それだけでこの空気を一点に集めてしまう。

 

偶然俺の隣にいた一人がその紅い目に気づいて呟いた。

 

「4Season'sの智秋さんだ」

 

様々な音楽が飛び交う中でその【言葉】は囁かれたにも関わらず一つのユニットの音楽を止めた。

 

「……本当に智秋さんだ」

 

音楽を止める原因となった足を止めた一人の生徒が一瞬にして足の自由を奪われたかのようにこちらへと歩き出す。

 

彼女のファンだ。

 

「あの、智秋さん、ですよね。どうしてうちの学校に」

 

「今日転入してきたの。ごめんね、レッスン中だったのに」

 

自分の為に中断させてしまった事に対して申し訳無さそうに言う。しかし、彼女のファンだと告げる一人が自身のメンバーに彼女のことを伝えるとその申し訳無さを消すほどに目を輝かせた。

 

 

ここのユニットは言わば学校と言う安全圏にいる代わりにマスメディア露出もあまりない。悪く言えばアマチュアアイドル。しかし智秋だけは違う。社会と言う人生の根幹に関わる所で活動している言わばプロアイドル。

 

当然質問攻めが始まる。何故ここに、ファンです。アドバイスお願い。そういった内容。

 

 

「あの、本物のアイドルってどんなふうに歌ってるんですか? 見てみたいです!」

 

一人が思い切った要求をする。必然にも空いている場所がある。失礼承知で深々と頭を下げる女の子。期待するメンバー達。 

 

何も言わず智秋は笑顔で横を通り過ぎた。

 

 

「このCDプレイヤー借りますね」

 

自身のスマホと接続して音楽を流す。そして彼女が歩き出した瞬間、その場にいた全員の目を奪った。

 

 

 

 

 

 

 

 

何かを失って何かを悲しみ、それでも幸せが目の前にある。楽しくて、時間が流れる。

 

彼女の表情は確かに楽しそうだ。しかしどこか物寂しげで、真っ直ぐ前を向く姿はどこか光にすがるようで、少し角度がずれれば寂しく、何かを探していた。

落ちていく葉っぱ、色づいた紅葉たちは季節早しと変化を続ける。

 

アイの歌。

 

そう歌詞が聞こえる。誰かと過ごした日々。幸せが風のように流れ枯れ葉を飛ばし髪飾りの様に頭に残る。

 

 

急いで走っても、どこへ行っても、音を立てて少しずつボロボロになっていく葉っぱは時間が経つに連れ薄れていく思い出に重なる。

 

しかし、その葉っぱの名前を覚えている限り忘れることのない記憶。

 

どこかで秋霖のように激しく流れる感情が漏れ叫ぶようにその歌を歌う。

けれどもたどり着いた場所の紅葉は燃えるように赤い。それは美しい物で、いつか落ちると分かっていても、彼女の心を埋めるものでは無くとも、少なくとも今は明るい色だってことを教えてくれた。

 

 

(あい)の歌であり(あい)のうた。

 

 

 

秋のように景色の変わり続ける、感情の表れ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

歌が終わっても、仮ステージ室は暫く彼女の空気のままだった。

 

全員が智秋の歌から感情を貰っていた。それは俺も例外では無かった。

 

 

 

 

 




なおこの後直ぐに智秋を置いて帰ったもよう。

はあ短くなんなかった次回こそみじかくする。


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衝動と感化

誤字報告ありがとうございます×18




肩掛けしてるカバンも、息も、足も荒く、慣れてない帰り道も目まぐるしく景色を変える。

 

バタン! 

 

玄関を勢いよく開ける。限界まで開ききった反動でひとりでに閉まる。

 

靴を脱ぎ捨てて階段を駆け上がり突き当りの右にある扉も勢い良く開ける。

 

真っ先にパソコンの電源ボタンを押すとカバンを下に置きまだ暗い画面に映る自分を見る。

 

自身の胸に触れる。荒い息遣いに反応して鼓動が早まっているのか、衝動が早めているのか、どちらにしろ原因はおなじだ。

 

「…………凄い」

 

久し振りだ。あんなにも驚いたのは。感化されたと言ったほうが正しいのか? 

 

智秋の歌声に一瞬にして呑まれた。一瞬にして見る世界が変わった。聞く音は全て彼女の声の為に集中された。

 

あれがプロなのか!? 踊りも、歌も、別人なんかじゃない。確かに智秋だった。

でも、あれは歌の世界に立った智秋。まるでその世界の住人かのように自然で、でも周りに魅せるように魅力をばら撒いて。

 

 

見惚れた。聴きほれた。

 

 

 

やっと起動した画面に映るソフト。直接打ち込まれる歌詞と楽譜。

 

もしも一瞬にして空間を奪う程の衝動を落とし込むことができれば。

 

画面の先にいる誰かを物珍しさではない。言葉をも奪うほどに釘付ける曲を作ることができれば!

 

 

だけどどうやって奪う? 歌詞自体は思いつく。問題は楽譜、演奏の方だ。それと歌声。

 

自論ではあるが言葉が漏れるのは歌詞に惹かれたとき。言葉を失うのは音に惹かれたとき。

 

先程学校で体験した事を脳内で再生する。

 

 

沢山の歌があの場所にあった。なのに声だけであの場を飲み込んだ。違いは硬さ。柔らかい、ではない自然さ。

 

では自然さ、とは何か?

 

世界観に従う? 自然じゃない。“曲に合わせた歌“だけ。

 

なら自然とは何か。どうやって。 

 

 

      

【不確定】

 

 

 

これが自然さの正体。

 

音楽と言うものは楽譜と言うものに縛られている。音階も、強さも、そして言葉も。

 

 

なら縛られてないのはどこか? 

 

【感情】

 

これだけは縛られていないのだ。

 

感情を乗せる。その力は偉大だ。人というのは感情論に生きる。世論も、法律も、その全てが感情からきているもの。

 

 

 

あのときの智秋は哀と愛の感情を込めていた。本意かどうかわからないがそう感じた。そういう俺の感情。

 

 

 

そうでなければ【感化】と言う言葉は使われない。

 

それは縛られている言葉や音階には宿らない。

 

 

【歌声】に宿る。

 

これだけは確定していないからだ。だからこそ歌う人によって感じる感情は変わる。

 

不確定だからこそわからない。だからこそ言葉が出ない。

 

 

 

 

 

前の俺なら絶対にありえない歌だった。

 

だが菜野乃至(今の俺)なら歌声を持つ。

 

どんな感情か。孤独ぼっちの世界に取り残される悲観。ただ電子音にすがって生きてきた。でも孤独ではなかった。合成音声達の声はいつもヘッドフォンを満たしていた。でも今は俺一人の声しか耳に届かない。

 

好きだった声も、姿も、無くなった。本物の孤独。

 

 

乃至を知るものはいても俺を知るものはいない。そう考えると、認めてくれなかった人が沢山いた前の世界にも

 

 

少しは寂しい感情も覚える。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




自論。


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【感情】と言うテーマから外れた感情

誤字報告ありがとうございます×9  

いきなり10日間経ってますが乃至が動画作成の為に絵を書いてました。

ちなみに徹夜です。爆速で仕上げて昼間学校で寝てました。なので今回寝不足でテンション高めです。


あれから10日後。

 

「3時間コース。お願いします」

 

「はい! わかりました!」

 

レコーディングスタジオ。満面の笑みで録音エンジニアのお姉さんに案内される。

 

「今回はどんな曲なんでしょうか!」

 

明らかに楽しみにされてる。セルフコースにしようと思ったが前回のテイク数を考えるとまだいてもらったほうが良い。

 

お姉さん絶対にアンノイズの歌聞いたな。

 

嬉しい。ありがとう。求められたらサインあげちゃう。

 

「これです」

 

スマホを渡す。

 

二度目の密閉空間。周りの音が消える。まるで耳を塞いでないのに塞がれたように何も聞こえない。無音が逆に集中力を削ぐ。

 

前回もあった事だけど、何故か今回はそれが嫌に思う。

直様ヘッドフォンをつけ耳に何かつけている安心感を得る。前世から変わらないこの感覚は集中力を一瞬にしてあげる。

 

「流します」

 

「お願いします」 

 

 

 

耳を澄ます。音楽が流れる。ディスプレイには映像が流れる。

 

 

 

 

「スゥ、」

 

 

 

 

 

 

 

誰もいない街を歩く少女。大都会の筈なのに、車一つも走っておらずいつも見ていた筈の道路にいつもの倍の広さを感じる。

 

看板で笑顔を飾る女性。真剣な顔で立ち向かう勇姿が流れるビルの巨大ディスプレイ。なんか漫才を多重にも見せてくる電化店のガラス。人の声とBGMが耳の中に妙に入る。

 

賑わう一人世界。

 

近くの案内所で最新のAIに話しかける。誰かいないか、誰もいないのか。

 

 

ふと思う。誰も居ないのなら何しても怒られないと。

 

始まる彼女だけのミュージカル。 

 

照らしだす太陽は彼女を歓迎し歩く道に影一つ作らない。

 

まずは道路を歩こう。逆走しながらバク転。破天荒にも赤信号を無視。みんなで渡れば怖くない。残念、一人でも問題無い!

 

 

次はアイスクリーム屋さん! 甘いバニラも食べ放題! 3段4段いや7段! 今日のオススメはなんですか? 今日は何と全部オススメ好きなだけ食べましょう!

 

美味しいな、嬉しいな。

 

つぎはボウリング! ガーター? 違うマナー違反で歩いてボールは私の手! ストライク300点! ただいまキャンペーン中でピンキーホルダー!

 

 

 

少女は好きなだけ楽しむ。好きなだけ。

 

 

 

 

好きなだけ。好きなだけ。好きなだけ。好きなだけ。好きなだけ。好きなだけ? 好きなだけ? 楽しんだ? 楽しんだ? 次は何? 次は何? 次は何? つぎは? 

 

 

 

 

 

 

あれ?

 

 

 

 

疲れたとき気づいた。ライブ会場に行っても好きなアイドルは踊らない。

 

駅に行っても電車は走らない。

 

観光地に行っても活気はない。店はがらがら。

 

げーむを、やってもそろぷれい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい

 

 

 

 

いやだいやだ! 帰りたい帰りたい!

 

どうして誰もいないの! どうして叫んでも返事がこないの!

 

 

少女がどんなに嘆いても、どんなに泣いても、返ってくるのは電子音のみ。

 

朝も夜も繰り返す。

 

 

楽しかった少女の心は寂しさで満たされ、まぎらわす為に再度歌い出す。踊り出す。

 

 

その歌はとても酷いものだった。もし楽譜を見れたらわかるだろう。明らかに震えている。明らかに音程がおかしい。

 

 

「La〜…………La〜〜…………」

 

もはや歌ではなかった。まるで壊れたラジオのようにまともに動かない音声。

 

彼女の心は壊れる。言葉が出ない。きっと今の少女の感情を理解することは誰であろうと無理だろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

収録が終わる。

 

 

 

「…………………ッ!」

 

我慢できない!

 

 

「あはははははははははははは!! スゥ、はあ!」

 

 

何が寂しいだ! 何が一人ぼっちだなんだコレ! 俺すらも体験してない事で感情を込めたところで一つもわっかんねえわ! 確かに言葉すら出ねえわ! 理解できねえもん! つーかよくよく考えたら他人と関わってこなかった俺が俺以外の感情なんて知るかっつーの!

 

「あー! すっげえ笑える! ほんっとさいっこうだわ! もうめちゃくちゃ! すみません今の再生お願いします!」

 

録音エンジニアのお姉さんに出来の確認を促すとなんか思考停止したように驚いて固まったままの表情で時間差ありにボタンが押される。

 

先程歌ったばかりの自分の歌を聞く。

 

楽しいときは楽しく歌ってる。寂しいときは寂しい気持ちがちゃんと伝わる。ただ起伏が激しすぎて前半と後半で全く別の曲のように感じてもうめちゃくちゃだ。曲として成り立ってない。

 

というか最後のLa〜ってところ本当は歌詞あったのに笑いこらえる為にただ発しているだけになってるし!

 

でもなんだろう。すっごく満足する出来だ。うん! これで良し! 

 

 

題名

【ヒトリキリ】

 




前回あれだけ自然やら感情やら考えてたのに全部ぶっ壊しました。主人公らしさが出て書いてて楽しかった。



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壊れた世界に沢山の観客

お気に入り1000行きました×7
誤字報告ありがとうございます×7

前回曲の題名書き忘れましたので編集して追加しました。
【ヒトリキリ】


4月の春休み。動画サイトに突如として投稿された曲。動画を再生しても画面は動かず静止画だとわかる。  

 

崩壊した世界にヒビ割れた機械たちに囲まれた少女が足をぶらつかせているだけの一枚絵。

 

曲も変わり物だった。演奏などしておらず音楽ソフトで作られた音には強弱が無く物足りなさを感じる。歌もだ。ビブラートも無いし上手くない。 

 

 

筈なのに何故か音楽を止める気にはならない。

 

後半になるにつれて電子音で無理矢理作られた強弱。上手くないが楽しそうに歌う少女。   

 

わかった。この歌は上手くなくて良いんだ。演奏もあえて音楽ソフトなのが伝わる。 

 

今までアイドルの歌ばかりを聞いていたけど、手の届かない身近な存在が歌っているのとは訳が違う。

 

 

文字通り別次元の歌を聴いている。

 

 

いつの間にか聞き終わっていた。

 

 

不思議な感覚だ。普通じゃない。

 

活気のある曲じゃない。美しい曲でもない。静かで、聴く相手なんていないんじゃないかと思ってしまう。一枚絵の少女はただ歌っているだけ。そう考えると、この歌にのめり込んでしまう。

 

脳が聞くだけに集中しない。その世界を想像してしまう。

 

 

「下手ってわけじゃないけど、上手くもないね」

 

「引き込まれました! なんというか、なんだろう。絵の少女が凄い好きです!」

 

「不思議な世界観。メルヘンとかそういう感じじゃない。現実なんだけど、現実じゃない?」  

 

「すみません! 誰が歌っているのでしょうか?」

 

「全部一人とかすご!?」

 

皆似たような反応だ。確かに誰が歌っているのだろう?

 

 

【誰も知らない音楽会】

 

【アンノイズ】

 

概要欄

 

作詞・作曲・編集・Vocal・絵  

 

アンノイズ

 

使用ソフト   

 

------------------

 

 

すべて一人!? すご! コメントにもあったけど、なんかすごい人を見つけたな。登録しとこ。

 

 

 

 

 

約2週間後  

 

 

 

 

【ヒトリキリ】

 

 

 

お? 新しいのがでた。ヒトリキリ? 聞いてみよう。

 

 

 

今回は動画だ。絵が少々荒いけど……楽しそうだ。確かに誰もいなくなったらしたい放題だ。ちょっと羨ましい。  

 

 

ん? ちょっと不穏に

 

 

 

ひっ?!

 

 

 

 

なにこれなにこれなにこれ?! 怖い! 怖い怖い怖い怖い! さっきまでの楽しそうなのはどこに行ったの!? 

 

………一人ぼっちってこんなにも怖いの? 嫌だなぁ。

 

 

ん? 静かになってきた。

 

「へ?」

 

 

表示されている歌詞と歌われているのが違う? 間違えたのかな? いや、La〜って、わざと言っているのか。

 

 

 

……………………………………笑ってる? 

 

 

笑いを堪えてる? え? おかしくね? いやいやいやいや。なんで笑いこらえてるの? 声震えてるし。

 

 

 

普通笑わないよね…………この歌は普通じゃなかった。だから笑ったのかな。

 

 

 

 

 

 

「最後の所歌詞と違う」

 

「ちょっと怖いけど誰もいない世界を体験した感じ」

 

「ちょっと体験したいかも。ちょっと(ここ大事)」

 

「こんな世界観を作れるなんてすごい」

 

「また全部一人!? ええ!? マジで何者!?」

 

 

カタカタカタカタカタカタカタ

 

 

「最後笑いこらえてる? ともかく普通じゃない。全部。アンノイズって何者?」

 

 

「いや怖くて震えてる風に歌ってるだけじゃないですか?」

 

 

「いや本当に笑いこらえてる。どんな気持ちでうたってんだろ?」

 

 

 

「確かに不明すぎる。この声に覚えある人いない?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アンノイズって何者?

 

 

 

 

 

世はまさにアイドル時代だけどこれはアイドルには出せない

 

 

性別は女性? 経歴、年齢、全て不明。本当に誰なんだろう。

 

 

誰かわからない人の世界に引き込まれてる。なんかずっと頭に残る。

 

 

有名人の誰かじゃないの?

 

 

声似てる人………〇〇かな? いやでも機械苦手って公言してるし。

 

 

少なくとも歌手じゃないでしょ。歌が上手くない。

 

 

上手くないけど、意識しないとそう感じれない。それぐらい曲が作りこまれてる。

 

 

なんか結構不気味じゃない?

 

 

確かに怖い。口直し? にラブマスターの聞いた。

 

 

その不気味さがちょっと癖になる。

 

 

私はあまり。でも何者なのかは気になるところ

 

 

本当。アンノイズってだれ?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アンノイズは人間じゃない

 

 

 

 

 

 

 

 

 




コロナのせいで暫く出社できなくて暇です。


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内心嬉しん

誤字報告ありがとうございます×5。減ってる。悲しい。

長くなった。まあ、パピー視点だし。特別


4月の下旬。

 

「父さん。話があるの」

 

いきなりの事だった。娘がそう切り出したのは。とは言ってもたまにある事なのでいつものようにアイドル関連の話だろうと身構えずに真面目に聞こうとする。

 

だけど今回ばかりは身構えてしまう。

 

まるで娘が別人に見えてしまったからだ。

 

いや、それは今に始まったことじゃない。いつからか、そう春休みに入ってからだ。あんなにもアイドルアイドル言っていたのに、一切その話をしなくなった。まるで、()()()()()()()()()()()()かのように。

あんなに元気で落ち着きが無かったのに、今は静かで、落ち着いている。

 

「な、なんだ? 」

 

「アンノイズって知ってる?」

 

「え? ああ。なんか最近話題になってるな」

 

「あれ私」

 

「はへ?」

 

てっきりアイドルの話かと思ってた。だが切り出されたのは会社でも話題になってた謎の……なんて言えばよいのだろうか? 音楽活動家? の話だった。確か一切の情報開示がない謎に包まれた存在。私も一回聞いたが自分には合わなかった。だけどどこかで聞いた感じがしてするっと頭に入り忘れられなかった。

 

親しみを覚える違和感があったが、あっさりとその正体がわかってしまった。

 

「…………最近パソコンに齧りついていたのは」

 

「うん。曲を作ってた。今3曲目を作ってるところ」

 

「いやまて待って。作ってるって、そんなノウハウどこから」

 

「独学。春休みに徹夜で勉強したらなんか行けた」

 

「なんかって………」

 

「でも編集ソフトもパソコンのスペック自体も性能が低いから行き詰まってる。お金もないし。だから、有料音楽サイトで配信してお金を稼ぎたい。でも親のサインが必要だから」

 

「待て待て待て待て!! 話が全くわからない。アイドルはどうした? あんなに頑張ってただろ?」

 

「頑張ったからわかる。私にはそんな才能が無い。嫌でもわかる。仮に何とかなってもそれは最初だけ。周りに置いてかれるだけ。ならソロ活動したほうがまだ希望はある」

 

 

まるで簡単にアイドルの道を捨てたように淡々と述べる娘を見て言葉を失う。

 

 

『お父さん! オーデション! 頑張るね!』

 

『お父さん……落ちちゃった………悔しいよ』

 

『諦めない! 絶対にアイドルになる!』

 

『パソコンありがとう! よおし! アイドルを研究するぞ!』

 

『父さん! 弗愛高校に受かったよ!』

 

『父さん! 初めて一次審査受かった! やったよ! 』

 

『ちょ!? 父さん研究ノート見ないでよ! え? ………それ5冊目』

 

『また落ちちゃった………でもあと少しだって言われた。少しずつだけど成長してるんだ! ラストスパート! 頑張るぞぉぉ!』

 

 

 

 

「アイドルは諦める。私じゃ足掻いても無理」

 

 

その目はアイドルに一切の希望を見ていなかった。絶望も見ていなかった。

 

 

 

 

春休み前。娘は確かに絶望していた。もう無理なのかな……と。娘の努力は知ってる。熱意も。行動力も。私は娘を応援していたからだ。努力は必ず報われると。だからかける言葉が見つからなかった。

 

 

早霧()は言葉が見つかったみたいで声をかける。たび続く落選に別の道を提案していたから。それに成績の事もあった。

 

だから娘が本当に諦めた時、どうすれば良いかわからない。頑張れとは言えないし、他の道は? と言う権利もない。

 

だが今日切り出された話は母親に言われた道でもなければアイドルでもない全く違うモノだった。

 

活動期間が僅かにも関わらず、アイドルを目指していたときよりも成果を既に上げている事実。

 

 

「家にお金も入れる。今まで迷惑かけたし。勉強もちゃんとする。これ見て、この前の小テストの満点」

 

苦手の筈の数学で百点!? 

 

「ごめんな」

 

衝動で言ってしまった。

 

乃至はアイドルを諦めて勉強した。曲を作った。乃至は努力の全てをアイドルに注ぎ込んだ。なのに上手く行かなかった。その努力が別の方向に向いていたら、こんなにも才能があった。

 

私は乃至の父親として夢を応援したかった。でも、一人の父親として現実も少しは言うべきだった。本当に折れてしまった時、フードを深く被って顔を誰にも見られたくないほどに思い詰めて。

 

なのに言葉一つ……今だって別の道を進む決意をしているのに言葉が出ない。

 

 

父親として強く言っていれば。高校2年じゃない、もっと早く選択肢をあげられてた。

 

 

違う。もしかしたら過剰な応援が、乃至をあそこまで追い込んだのかもしれない。   

 

 

「私は父親失格だ」

 

乃至は驚いていた。そりゃそうか。いきなりそんなこと言われたから。

 

「どうして?」

 

「お前を知らずしらずに追い込んでいたかもしれないからだ」

 

「いや、今まで気づかない私がバカだっただけだよ…………………そう、気づかないぐらい、父さんの支えがあった………だから今まで頑張れたんだよ。むしろ、それで駄目だった私のほうが親不孝」

 

私を気遣うように、ある間が言葉を選んでいた。娘にそんなことさせるなんて、私は駄目な父親だ。

 

「ねえ父さん」

 

乃至がちょっと不安そうな顔をしていたが直ぐに取り消して真剣な目で見てくる。

 

「わがままだけど、私はまだ本気でやりたい。アイドルは無理だったけど、アンノイズとして。その為に、今の私だけじゃ限界がある。だから、お願いします」

 

その場で膝をついて床に手をつき頭を下げる。

 

『おとうさん! わたしのゆめはアイドルになって皆をえがおにすることです!』

 

娘は現実を見てる。夢も見てる。本当はやめてほしい。でも、やっぱり応援したくなるのが父親なのかな。

 

「わかった。ただし、次の中間テストで全教科80点以上を取ること!」

 

また乃至は驚いた顔をしていた。それはテストに対してじゃない。わかる、オッケーを出したことに対してだ。

 

ずっと乃至の父親をしてきたからわかる。これを断っても、説得を続けて諦めない。だけど、それを理由にはしない。

 

 

 

「成長したな。乃至」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




乃至「前の父さんなら、ぶん殴ってでも俺を止めたんだろうな」


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今日の歌の女神は、私だけにチュウする。

遅くなった理由。

流石に完全見切り発車は限界が来たので8割見切り発車になりました。

2度ほど書き直してます。


たまには生き生きした主人公でも 

題名流行りにのってみた


「あ、録音エンジニアのお姉さん」

 

「は!? 貴女はアンノ………菜野さん!」 

 

お使いの買い物の途中、スーパーの食品売り場でばったりと出会った。何故だろう、何かとんでもない目で見られている気がする。

 

「偶然ですね」

 

「そうですね、私、近所で一人暮らししてるんです」

 

「それは大変ですね。あ、おからオススメですよ。味さえ考慮しなければ安いし体にも良いです」

 

「な!? それは良いことを聞きました! ありがとうございます! もしかして菜野さんもですか?」

 

「いえ、私は違います。ただ、知識はあった方が良いでしょう」

 

「はぅわ! 勉強熱心。流石です!」

 

「所でさっきからオーバーリアクション気味ですが」

 

「そりゃ、ファンですから」 

 

なるほど。俺も推しと話す時があったら多分嬉しくてそうなる。にしても、そんなファンがいてくれるなんて嬉しい。

 

「ありがとうございます」

 

笑みが溢れる。そうそう、この感じ。認められている。

 

 

 

その後、買い物しながら談笑する。特に盛り上がったのはパソコンの話だ。やはり収録と言う音楽データを扱う関係上音楽ソフトに物凄く詳しい。前の世界の知識との差異が埋まっていく。

 

なるほど。演奏に強弱がつけられないと思ったら強くする所だけ別途に作って音量を変えると言う方法もあるのか。代用だが為になる。

 

だが

 

 

「ありがとうございます……ですが中々難しいですね」

 

「どうしてですか?」

 

「現時点ではスペック不足が深刻でして、今作ってる曲なんてデータ容量が大きすぎて、まさかの出力不能なんですよ」

 

「それは、大変ですね」

 

「実は音声ソフトを作ったんですが機能も最適化も全くの駄目で、このままでは今度買い換えるパソコンのスペックでもきつい状況なんです」

 

 

店を出る。

そう、俺がこの一ヶ月何故自分の声で収録していたかというと、一番の理由は合成音声ソフトがこの世界に存在しないからだ。だから編集ソフトのプログラムを基盤に自分で作ったがこれがあまりにクソ。

 

試しに自身の声を録音して音階を軽く変えるだけでも何故かデータ容量が増えてしまいビブラートでもやろうものなら最悪十倍まで膨らむクソ仕様。  

 

しかもほかのソフトと互換性がないから重いしそもそも出力出来ない事なんてザラ。

 

だからお姉さんが音声ソフトに詳しいと知ってアドバイスを貰おうと思ったんだが

 

「私、プログラミング、得意です」

 

「え!?」 

 

今…………なんて………言った?

 

 

「えっと、プログラミング、得意です。編集ソフト系が」

「お金できたら依頼してもよろしいでしょうか」

 

天使か? 天使がおるぞ? 俺のファンに天使がおるぞ? これは嬉しい誤算。最悪自分で試行錯誤して作るつもりだった。でもこの人ならきっと…………

 

「え、ええ!? と、それは例の音声プログラムですか?」

 

「はい!」

 

「どうして、歌声を機械で作るのでしょうか?」  

 

この世界じゃもっともな疑問だ。いや、前の世界でも持たなきゃいけない疑問なのだろう。演奏と言うのは音程だけなら別の楽器でもできるし、別バージョンが作られていることからも成り立つことがわかる。それが物差しでも、ピアノOnlyでも。

 

しかし、歌声だけは人間しか出せない。言葉を持つのは人間だけだから。【言葉に感情】、これは人間の特権。だから曲も人の声が加わると【歌】と言う専用の言葉が使われるのだ。

 

それを機械で作るということは、どれだけ感情のあるように歌わせても決めた感情しか込められない。

 

Liveが沢山あるアイドル時代では到底理解できないだろう。

 

だけど俺の返答は全て関係無い、無視する解答。

 

 

「私の描く世界に必要だから」

 

 

自分の描く世界()に理由など無い。自分の理想の形。そこには疑問などない。ただ描きたい。だから必要。それだけ。

 

 

お姉さんは目を見開いて動かない。だが口端が角度を上げる。

 

「是非作らせてください」

 

「え? あの、まだちゃんと依頼してないのですが」

 

「今日から作り始めます」

 

「あの、お金が」

 

「その代わりと言うか、欲しい物があるのですが……サインをもらえないでしょうか?」

 

……サイン…………だけ?

 

 

「それだけ、ですか?」

 

 

「はい! だって、作れば貴女の本気の作品を聞けるじゃないですか! 録音エンジニアにとって、最高の歌は一番の報酬なんですよ」

 

 

 

 

 

女神だ! 目の前に女神がいる! そうか、俺はこの人と出会う為にセルフコースを選ばなかったんだ! 

 

 

 

 

「ありがとうございます! 」

 

あまりの嬉しさにお姉さんの手を取って思いっきり振る。

 

「はわわわわわわわわ、アンノイズが私の手を……幸せぇ」

 

 

 

 

 

暫くして俺はソフトの詳細を伝える。前世のまんまだ。

 

手に入る。合成音声ソフトが手に入る! ああ、まさかこんなにも早く手に入るとは。

 

ありがとうございます! 録音エンジニアのお姉さん!

 

まだ名前知らないけど!

 

 




おからは美味しくない。でもマジで節約には強い。

私はパソコンが苦手です。


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菜野乃至と言う人物

智秋視点です。


「菜野、ちょっといいか」

 

それは中間テストが終わってから次の週の月曜日。何度も誘ってやっと乃至ちゃんとお昼ご飯を食べる事ができてから一週間ぐらいの事だった。

 

難しい表情の先生に呼ばれる彼女。大丈夫です。と表情一つ変えずに立ち上がる。

 

「また乃至が先生に呼ばれてる」

 

「あれ? でもここ最近は呼ばれてなかったような」

 

「ここ最近どころじゃない。始業式から呼ばれてなかったな」

 

周りからそんな声が聞こえてくる。彼女は前々から問題児だと最初知ったときビックリした。

 

いつも元気で、暇さえあればアイドルの事ばかり。自習と言えば研究ノートを見直してテストがあれば一夜漬けで赤点回避。

 

その行動力は留まることを知らず、色んな事務所にオーディションを受けてはその書類関係や無断欠席には親や教員は頭を悩ませ、親が交通費を出さなければバイトしてたと言う人もいた。何よりその証明が持久力で彼女はシャトルラン100回を超す記録に持久走も4分切るに近いタイムを叩き出す。

 

それを聞いたとき、あまりに静かな彼女からは想像が付かなかった。

 

だから皆口を揃えて言う。 

 

 

『乃至は別人になったよう』

 

口を開けばアイドルしか喋らない。なのに、今の乃至ちゃんからは自らはアイドルを口にしない。

 

真逆だと。

 

乃至ちゃんの研究ノートはアイドル部の皆に取っては物凄く為になるものでマネージャーに良く誘われていたらしい。最新人気上昇中のこの学校一番の学生ユニット【レインスター】も彼女がいたからこそそこまでいけたとマネージャーに何度も誘っていたとの事。

 

 

 

でも、そこまで頑張ったのに自身がアイドルになれた話は一つも無かった。

 

どうして? と聞くと

 

「組んでもどこか合わない」

 

「乃至に釣られるとオーバーワークを起こしそう」

 

「レインスターぐらいだと実力不足」

 

「本人がプロにアイドルとしての魅力が足りないと言われてた」

 

 

 

「悪く言っちゃうと、才能が無いの」

 

 

 

信じられなかった。乃至ちゃんに魅力が無いなんて。だって、私はあんなにも目を惹かれてるんだもの。

 

 

 

 

蓋が閉じられた食べかけの弁当2つ。椅子が引かれた状態で次第に冷えていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「菜野、中間テストなんだが、いや、カンニングを疑っている訳じゃないんだ。ただ、今まで赤点ギリギリだったお前がいきなりほぼ全ての教科で満点を取るなんて、その、確認というか」

 

本当に不正を疑ってるわけじゃないのだろう。けれども完全には信じられないのもあってか複雑な表情で普通にしている乃至ちゃんを見る。

 

ただバレそうなので直ぐに顔を引っ込めた。

 

「勉強しました。2週間」

 

「数学はちゃんと途中式まで書いて解けてるし、英文も長文問題を理解して書いてる。だから信じられるが、今までのお前からはどうも想像ができなくてな」

 

「アイドルを諦めた分時間が出来たんです。余裕でした」

 

「そ、そうか………す、凄いな。歴史以外満点なんて。どんな勉強をしたんだ?」

 

「公式も決まりも暗記しました。幾分時間はあったので、特に歴史は丸暗記するだけなので一夜で十分でした。間違えて覚えて点数は落としましたが」

 

「…………」

 

え!? 2週間でほぼ全ての満点! この学校のテストってムズいって噂で聞いてたし、噂通りだったのに!?

 

「………どうして諦めたんだ? あんなにも努力してたのに」

 

「努力したからです。才能が無いとわかりました。届きません。ならそんな物はさっさと捨てて別の道を進んだほうがよっぽど良いです。私を見てきた人なら誰だってわかります。そんな事は、むしろ今まで気づかなかった自分がどれだけおめでたかったのか」

 

「………正直才能が無いことは私も思っていた。だけど、努力している菜野を見て、そんな酷な事は言えなかったし、もしかしたらと思っていた。まだ一年ちょっとしか見てないが、長い間見た気分だ…………」

 

「ご迷惑をおかけしました」

 

「いや、教師として当たり前の事をしたまでだ」

 

「ありがとうございます」

 

「話を変えるが、2週間でここまで点をあげられるなんて、勉学の才能がある。どうだ? 別の道を探すためにも大学に行くのは」

 

「いかないです。もう見つけました」

 

「そうなのか!? それは」

 

「秘密です」

 

「秘密かぁ、気になるがまあ、まだ問いただす時期でも無いな。わざわざ昼休みにありがとう。本題のテストからも随分と離れた事を聞いてすまなかった。お詫びと言っちゃなんだがさっき自販機で当たりが出た奴だ」

 

「ありがとうございます。失礼しました」

 

 

乃至ちゃんが職員室から出ていく。私は壁越しに隠れて聞いていた。バレるかどうか不安だったけどバレずにすんだ。

 

「あ」

 

疑われる前に戻らなきゃ。

 

「どう思います? 乃至さんのこと」

 

先生方の乃至ちゃんの話題が気になって足を動かせない。

 

「……別人を相手にしてるみたいだった。諦めたって言うよりあれは無関心だ。落ちついたって言うより冷静だ。正直返ってくる返答の違和感が凄すぎて不気味に感じて何度も話題を変えたくなった」

 

 

 

 

………足を動かす。誰も彼も乃至は別人に変わってしまった。そう答える。

 

 

私には前の乃至ちゃんがどうだったか分からないが、多分想像しているのとは別人なのだろう。

 

 

 

 

 




歴史満点を逃した理由は世界が違う分世界が歩んだ歴史もまた違う。似てはいるが。


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大きなチャンス

またまた智秋視点です。時系列は少し遡ります。

アイドル要素を出しておかないと設定殺しになる。


「ラブマスターと共演!? ですか?!?」

 

「そう、あのラブマスターだ!」

 

ラブマスターと言ったら今ナンバーワンのアイドル! 総勢11名からなる時代を代表する先鋭達。知らない者などいないだろう。全員のダンスの完成度は高く、以心伝心、共鳴一帯、一切の乱れがない。いや、嘘をついた。乱れはある。だけど、それに釣られて感情が爆発してしまうぐらい、与えられる感動、喜び、楽しさ。まさに完璧。誰もが憧れて、私も憧れる。  

 

「これは、恥の無いようにいつも以上に全力で挑まなければいけませんね」

 

「小春、ちゃんとしなさいよ」  

 

「そうだぜ小春。全てはお前にかかってる!」

 

「なんで小春!? 夏美だって怪しいよ!」

 

「えぇ!?」

 

 

【4season's】

 

桜花小春。風凛夏美(ふうりなつみ)。宮坂智秋。涼清水冬花(すずしみふゆか)。  

 

 

それが私達。季節のメンバー。奇跡的に出会った仲間達。まだまだ人気じゃ無いけど、いつかアイドル達の夢の舞台、レインボーステージに立つことを誓った。

 

「でもどうしてそんな凄いユニットと共演が!?」

 

すると真面目な顔だったプロデューサーが呆れた顔で小春を見る。

 

「小春がやらかした」

 

「へ?」

 

私も含め豆鉄砲をくらったような顔をした。小春を見ると何故か顔をあらぬ方向に向けて誰も見ようとしない。え? 何をやらかしたの? 

 

「小春? どういうこと?」

 

「……この前、春休みの小春の仕事、覚えてるか?」

 

「えっと、確か遅めの桜の満開が訪れて、お花見イベントの出演。でしたよね」

 

 

 

春のイベントで多忙になって、駄々こねた結果お花見と言う休暇も混ぜたような仕事になった。そう言えば遊んで後日怒られてたような。

 

「そして近くでラブマスターのバラエティ番組の撮影も近くであった事も覚えてるよな」

 

「おぼえてます。小春だけ間近で見れていいなぁって」

 

「そう、間近だったんだよ。バラエティ番組で休憩中に立寄った所が偶然にもお花見会場だったんだ」

 

プロデューサーが小春の方を再度見る。

 

「私はあのとき『少しは羽目を外しても良い』と言ったんだ。小春らしさも出るから。だが小春。お前はあのときどのぐらい羽目を外した?」

 

「ビクッ‼…………少しよりもちょぉっと羽目を外したかなぁ〜」

 

顔が見えないのに汗ダラでまずいって表情をしているのが良くわかる。

 

「ほう、散った桜を集めてダイビングスライディングで潜り込み黒ひげ危機一髪のように飛び出すことが少しか」

 

「えぇ、何やってるの」

 

いつもなら小春らしいと呆れたりするが今回ばかしは引いた。小春の保護者のような立場の我らがリーダー冬花でさえ絶句している。

 

「も、盛り上がったから良いじゃん」

 

「おまけに泥だらけ。まだ撮影があるのに」

 

「ヴッ!」

 

「そして立寄ったラブマスターの一人が驚いてその場で尻もちをついて服が汚れる」

 

「ぐはっ!!」

 

「しかもそのままメンバーと話し込んで休憩時間すぎて撮影を遅らす」

 

「ドゥエ!!」

 

「さらに! 休憩中とはいえ向こうがカメラを回してる眼の前で場をわきまえずアイドルらしからぬ行動を晒す!」

 

「グシャ!」

 

「スタッフの皆さんが優しかったから笑ってくれたが、本来なら始末書じゃ済まないぞ。」

 

「………………」

 

言葉のオーバーキルで死んだフリをする小春。物凄くやらかしてた。

 

「…………それは流石に、擁護できない」

 

「………むしろ謹慎処分が無いだけマシな気がする」

 

「…………小春は暫く私と勉強しましょう」

 

死体が勉強と言う言葉に反応してミーティングルームのドアに飛びつこうとするも丁度入ってきた事務員が開けたドアの角に顔をぶつける

 

「………自業自得ね」

 

「………自業自得だな」

 

「………自業自得だね」

 

「………自業自得?」

 

唯一状況がわからない事務員さんはオロオロとして謝るも全員口を揃えて謝らなくて良いです。と言った。

 

 

 

「所でそれがなんで共演することになるのですか?」

 

「そうそう、さっき話し込んだと言っただろう? ラブマスターのメンバーの数人が江戸村で開催される日本の昔の文化を体験することができるイベントの開会式に出るのさ。そこでTV向けに一年を通して昔の人はどう過ごしたかの紹介で丁度4season's(四季(一年))の我々に白羽の矢がたったわけだ」

 

「おお!」 

 

「その原因が小春がラブマスター(休憩中)側のカメラの前でその話を聞いて『春夏秋冬!? 私達と一緒だぁ!』と言ってそのまま我々4season'sの話をしまくった」

 

 

熱 い 手 の ひ ら 返 し !

 

 

「ありがとう小春!」

 

「流石小春やるなぁ!」

 

「私は小春を信じてたわ」

 

小春が作り出してくれたチャンス、無駄には出来ない。多くの人たちがラブマスターを見に来る。その人達が私達も見てくれるように頑張らなくちゃ!

 

「今からでも緊張するね」

 

「そうね」

 

「うう、小春、頭悪いから歴史勉強しなきゃ。したくないけど」

 

「皆で私の家で勉強会しましょう。ついでにテスト勉強も」

 

『おおー!』

 

皆で意気込む! 夢への大きな一歩。絶対に失敗なんてするものか!

 

 

 

 

 

収録はテスト後と言うこともあってやることは沢山あったけど、皆で意見を出し合ったりしてこう紹介したほうがわかりやすい、こうしようああしよう。こうすれば江戸村の魅力を伝えられる。

 

今までで最高に楽しみな時間を過ごした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

プロデューサーは頭を抱えていた。




個人的に小春はお気に入りキャラです。

ちなみに大失敗します。


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憧れてと

誤字報告ありがとうございます×16



今回は会話多めなので地の文は少なめです。


「…………ズズ」

 

「乃至ちゃんって良く食べるよね」

 

「運動してるからね。これでも量を減らしてる」

 

「それってアイドルを諦めたから?」

 

「うん」

 

教室の一角。俺は嫌いと宣言した相手と食事を共にしていた。

 

諦めが悪いことは俺が良く知ってる。智秋はまだ俺と友達になるのを諦めていない。だから数日で折れて一緒に昼の弁当を食っている。

 

もっとも学校が終われば無視して帰るが。

 

智秋の目を見る。少し不安な目をしていた。おそらくアイドル関連だろう。

 

私がアイドルを諦めた事が周知の事実になるにはたかが数日だ。そのタイミングでも一度切り出された。

 

だからその話は終わった。なのにまた切り出されたと言う事は理由は俺ではなく智秋自身。アイドル関係の何かの不安がその単語を出させたのだろう。

  

だけど俺には関係無い。だから適当に話を合わせる。

 

「でもまあ、全てを捨てるわけじゃない。今やってることは少なくとも経験が生きてくるからね」

 

乃至が残してくれたものは結構ある。体力。運動能力。周りに対しての行動力。声。アイドル研究ノート。ありがたく使わせてもらう。

 

「経験……か。そう……」

 

「そう」

 

「そう。それで、仕事で何かあったの?」

 

「え!?」

 

「図星だね」

 

「……うん。よく、わかったね」

 

「明らかに落ち込んでるからね。いつもの元気がない」

 

「…………ちょっとね」

 

「ちょっとだったら隠しきれないぐらい落ち込まないよ」

 

「ごめん。結構、かなり」

 

顔が下を向く。手に力が入って箸が少し曲がる。これ以上力を入れたら折れそうだ。

 

「それで、どうしたの?」

 

「実は、この前の仕事で大失敗しちゃって、全員で」

 

全員。4season'sの四人が失敗したって事か。まだ学生とはいえTVにでるプロのアイドルが一気に失敗するなんて、相当な事があったんだな。

 

前言撤回、興味が出た。 

 

「今日放送する、江戸村の番組なんだけど、その文化紹介コーナーで出演したんだけど」

 

「間違えたとか?」

 

「ううん、皆で勉強して、リハーサルもして一個も間違えなかった」

 

一箇所も間違えなかった。それなら成功はしていただろう。なら何故失敗したと言うのだろうか。

 

「いや、練習の時点で失敗してた。それに気づいたのが収録時」

 

 

智秋の口からは大して悲惨じゃなさそうな事が語られる。

 

 

しかしそれは客観的に見てだった。直ぐにわかる。

 

 

 

 

 

 

どんな事でもマイナスなのは致命的になる。しかし、アイドルの場合はプラスでないと致命的になる。

 

 

普通では駄目なのだ。

 

 

それはアイドルをやる上で誰でもわかる。筈だった。

 

憧れは心において人の原動力になりやすい。なりやすいと言う事は影響を受けやすいと言うこと。

 

目標のレインボーステージに立っている存在であるラブマスターは彼女らに取っては当然憧れの対象だ。

 

対決なら全力以上を出せるだろう。共闘なら実力以上を出せるだろう。

 

だが共演だけは違う。  

 

圧倒的上の存在であるラブマスターを前に憧れを持つ彼女らは、失礼のないように動こうとする思考が強くあるだろう。

 

紹介の説明はわかりやすく。下手に過激にせず安定に。安心に。憧れを前に空回りして恥を晒したくないと。

 

どの基準にもラブマスターに対する憧れが強く影響した。

 

強く強く。

 

 

それは緊張に表れた。 

 

客観的に見ればラブマスター相手に緊張して固くなるもわかりやすく紹介してくれる頑張る子に見えるだろう。

 

失敗してないように見える。

 

だがそんな評価はアイドルじゃなくても得られる評価だ。

 

アイドルはキャラが立って初めて覚えられる。可愛く、美しく、華麗に、かっこ良く。『凄い』と思わせて初めて人目につく。そこでファンになるかどうか選択するのだ。人柄など、ファンを続けるかどうかに関わるだけ。

 

普通じゃないからこそ凄い。アイドルは輝く存在でなくてはならない。

 

 

 

安心安定を取り固くなってキャラが立ってない人を誰が覚えようとするのだろうか。

 

彼女たちはアイドルとして輝けなかった。僅かに出せた個性などラブマスターの前では意味もなく。

 

 

それを収録を終えた彼女達は、映像を見なくてもわかっていた。

 

 

 

 

 

プロデューサーはそれがわかっていたから恐れていた。だからこそ断ろうと思っていたが小春の悪目立ちがラブマスターのメンバーやプロデューサーに強く印象づけられ断れない状況を作り出してしまった。

 

だから頭を抱えていた。

 

勿論助言をする。

 

「あまりラブマスターに気を取られるな」と

 

しかし、無意味だった。それがこの結果だ。

 

収録が終ったあと、プロデューサーに頭を下げられた彼女達はただ、それ以上に頭を下げる事しか出来なかった。

 

 

わかっていたはずなのに防げなかった、策を練れなかった事に。

 

助言をもらっていた筈なのに、無意味にして大失敗した事に。

 

 

互いに不甲斐なさをぶつけても、反省の感情が大きくなるだけだった。

 

 

 

 

 

 

「ごめんね、嫌な気分にさせちゃって」

 

申し訳無さそうにする智秋。興味はあったが、俺に取ってはあまり関係無い内容だったので、適当に流すことに決めた。

 

しかし話が流れそうに無いので弁当の卵を箸で掴んで智秋の口に入れ込む。

 

「ムグ!?」

 

「話長い。食べないと昼休み終わるよ」

 

「ご、ごめん?」

 

俺の玉子焼きを食べる智秋はあることに気づく。

 

「この玉子焼き、何を混ぜたの? 甘くない」

 

「カツオ節のダシ汁」

 

「おいしい」 

 

智秋は自身の弁当を見る。止めてた箸を動かして食べる。

 

「こっちの玉子焼きも甘くて美味しい」

 

自画自賛だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




この回は元々10話辺りで投稿する予定だったけどやめてほったらかした奴なので半分ぐらい

ちなみに小春だけは説明のために脳内の殆どをもってかれキャラが完全に死んでました。


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無意味な失敗

コロナ二人目……家内感染……オキシなんちゃら使用……悪化しない様に看病頑張らないと。

と言うわけで遅れました。

あと短い


失敗。それを体験したばかりの智秋は落ち込んでいた。誰か()に話したことで多少は立ち直れたみたいで残りの負の感情はプロとしての技量と集中とやる気で押し潰す。

 

しかしその事を俺は知らない。彼女の職場に、俺の立つ意味は無いのだから。

 

俺が知ることは失敗の可視だ。言葉だけでも充分に伝わるそれはTVをつければ想像以上の物だった。

 

失敗と言われれば失敗だった。だが、指摘されなければ他人は失敗だと気づかない。

 

本人は失敗だとわかっていた。見れば一目瞭然。カリスマ溢れたラブマスターの人達に惹かれ、わかりやすく堅い説明しかしてない彼女らの事など印象に残らない。それどころか、その説明に画面映えのするリアクションを示したラブマスターの方に意識は全て持っていかれていた。

 

彼女らの事なんかアイドルと言うことすら忘れられた。

 

失敗に気づきすらしないぐらい、何も感じなかったのだ。

 

安全安定を取った結果、それすら評価されないぐらい何も残らなかった。

 

 

 

 

 

見終わったテレビを消す。父さんは友人(嘘ついた)と俺から聞いてたので智秋の事は記憶に残ったが、残りの3人は忘れていた。

 

部屋に戻ってパソコンを起動する。まだ黒い画面に自分が映っていた。

 

 

 

自分の前の顔、なんだっけ? ああ、あんな感じだったな。

 

 

【失敗】と書かれた顔を見て思い出す。

 

 

『kem○が好き』

 

『○兆年と○夜物語とかね』

 

『俺が好きなのはアンノイズかな』

 

『誰それ知らね』

 

『俺はかいりき○アが好き』

 

『同じく』

 

『MADで知ったけどすっげえハマった』

 

『バル○ンもあるよね』

 

『Let’s go now far awaywwwwwwwwww』

 

『それサ○ルwwwwwwwww』

 

 

俺の知名度なんてこんなもんだ。トゥイッターとか(前の世界のSNS)がある時代、才能マンが埋もれるなんてことはなく簡単に発掘される。だからこそ才能無き者は名前が出ても直ぐに忘れ去られる。

 

誰の記憶にも残らないのが失敗だというのなら、俺の殆どの人生は【失敗】となる。

 

 

 

そもそも失敗の基準はそれぞれ異なる。

 

 

智秋達は()()()()としての失敗。

前の俺は()()()()としての失敗。

 

 

結局酷いモノだ。

 

安心安定の失敗など、その場に踏みとどまるだけで何も学べやしない。

 

才能の無さゆえの失敗など、どう学ぼうとも意味がない。逸脱した発想や奇抜な考えを手に入れないと成功は手に入らない。

 

無意味な事。ただの茶番。

 

 

 

パソコンが起動したのでソフトを開く。知り合いから貰った世界で一つのソフト。

 

 

だからこそ、俺はこの世界に来たことを嬉しく思う。何せ、死ぬことでしか手に入らなかった逸脱した発想が合成音声ソフトで手に入るのだから。 

 

 

このチャンスを逃すわけには行かない。たとえ後続が来たとしても、永遠に忘れられないような人気を手に入れてやる。

 

今度こそ。今度こそ、夢を叶える。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




そういや生理の回やってないな。


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アンノウンとノイズ

生理回は待ってね。話し勧めたい。




日曜。3回目のレコーディングスタジオ。普段だったら編集する時間も確保するため土曜に行くところだったがその日にはいない。

 

女神のお姉さんが。

 

「お待ちしておりました! 今日はどんな歌でしょうか!?」

 

ああ、目がキラキラしてる。良い笑顔だ。俺に向けられてる。最高。

ファンって、良いよね。

 

ついつい笑みを零しながらもいつも通り曲のデータを渡す。

 

「……あれ? 2曲ですか?」

 

「はい。とはいっても歌うのは一つだけですが」

 

「ではもう一つは……例の曲ってことですか!?」

 

お姉さんのテンションが上がり続ける。

 

例の曲。合成音声ソフトが歌う曲。

 

そう。まだ曲。声はまだ刻まれていない。

 

何せソフトはあっても声がまだ存在しないのだ。サンプル程度にお姉さんの声は登録されているが。

 

だから俺は自身の声を収録する。

 

この世界で初めて電子の歌姫は作り出される。

 

 

 

V○CAL○ID。前の世界でそう呼ばれていた。初音○クと言う電子の歌姫。

 

夢みる者に道を作った。

 

挫折者に希望を与えた。

 

成功者に時代を刻ませた。

 

 

俺には別世界を見せてくれた。

 

 

「お願いします」

 

「はい。お任せください」

 

レコーディングスタジオに入る。歌うわけじゃない。一つ一つの声を機械に与える。

 

 

この世界に来て、俺はどこか空っぽだった。別世界を見させてくれた存在がいなかったからだ。惑星AR○Aから来たと言う設定の髪の長い少女。俺の一番好きな存在。

 

画面越しではあるものの、彼女と一緒に作業していた事が、歌を作り出していたことに幸福を見出していた。    

 

もう二度と会えないけれど。

 

 

 

「『あ』から行きます」

 

そして、今俺は彼女らと同じ存在を作り出そうとしている。俺では歌えない歌声を歌う為に。俺ではない存在を。

 

だからこそ、【俺】は込めない。【声】をこめる。

 

 

 

 

………………ああ。どう声を出そうか迷ったら、幻聴が聞こえる。『あーーー』と。幻覚の合成音声達が。

 

初音○クが電子っぽい声を。

 

I○は美しく透ける声を。

 

結月ゆ○りは静かで華麗な声を。

 

さとうさ○らは可愛いく柔らかい声を。

 

つ○みは涼しくミステリアスな声を。

 

東北ず○子はおしとやかな声を。

 

Vfl○werは強く癖のある声を。

 

彼女達は手本を見せてくれた。俺は自身の声にイメージを付け足した。

 

 

ブレスをする。

 

する度に俺自身は人間なんだと自覚する。

 

声を出す度に別の存在を感じる。

 

目の前に新しい幻覚が見えた。人だ。声を、新しい声を入れるたびにその姿は明確になって行った。それは凄く見覚えがあって、別人に見えなくて。いややっぱり別人に見えた。

最後の声の収録を終えたとき、その姿は完全となり、はっきりと見えた。

 

 

 

目の前に立っていたのは【菜野乃至】だった。

 

俺? いや、俺じゃない。目の前にいる乃至は、きっと『私』と言うだろう。

 

いや、言う。断言できる。

目の前にいる子は明るくて、何でもかんでも突っ走って、努力家で、研究熱心。

 

そういう設定(キャラクター)なんだ。これ以上にない、ピッタリな設定だ。 

 

 

俺も【菜野乃至】だが、それとは全くの別人。

 

 

『貴女は誰?』

 

乃至は話しかける。いつの間にか他の合成音声達の幻影はいなくなってた。

 

「俺は…………菜野乃至(アンノウン)。これからよろしく。菜野乃至(ノイズ)

   

 

 

 

 

 

正体不明の存在(アンノウン)である俺。人では無い機械の声(ノイズ)を操る者。

 

 

アンノイズは今、復活した。

 

 

 

 

 

 

 

 

収録が終わった。 

 

「これで、完成ですね……私は今、音楽業界の新たな歴史誕生の瞬間に立ち会っている。いや、作り出しました」

 

感動のあまり泣いているお姉さん。

 

「ありがとうございます。本当に」

 

「いいえ、私こそありがとうございます!! 全てが機械で作られた音楽、私は! 私は! アンノイズファン第一号になれて幸せです!」

 

「私こそ、貴女に出会えて良かったです」

 

 

 

もう、客と店員の関係じゃなくなっていた。

 

 

暫く感情に浸っていた。 

 

 

 

 

気分が完全に落ち着いたとき、もう一度マイクの前に立つ。

 

「さて、歌いますか!」

 

「準備OKです!」

 

「「よろしくおねがいします!!」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




ついにソフト完成です。

ちなみにテストで全教科ほぼ満点取ったために音楽サイトへの登録の許可と親として娘の夢を応援すると新しいパソコンを買ってもらいました。書こうと思いましたがカットしました。


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始まりの姿

コロナ死ね。


この世界に来て、俺は変わったと思う。

 

それを自覚するのにさほどきっかけなど無かった。前世と違う体に生まれ変わったことから、自然と客観的に見ていたからだ。

 

最近、歌う事への認識が変わっている。前はただ研究する為、ストレス発散の為。

 

今、そこに自分の歌を歌う為が加わった。だから、自分が歌うために曲を作っている。合成音声ソフトを手に入れた以上俺の声はもうお払い箱のハズ。なのにそうはならなかった。

 

………宮坂智秋。

 

彼女の歌声に惹かれたあの日を思い出す。すげぇと思った。感情が揺さぶられた。俺もあんなふうになれたら、昔に捨てた子供の頃の夢を今になって見つけて拾ってしまう。

 

「…………恵まれないな。乃至も、俺も」

 

夢を追い続けて、駄目で、諦めて。希望を見いだせなくて、捨ててしまって、道を断つ。

頻繁に見返す乃至の日記が事実を語る。鏡写しとも言えるその本は今や間違っていると誤認するほど今と合わない。

 

死んでしまった乃至はもう乃至じゃない。かと言って死んだ俺がこの体に憑依して乃至になったかと言われたらそうじゃない。

 

 

俺は俺。だけど皆は乃至と呼ぶ。

 

気にしてなかった。気にしてる。

 

捨てた人との関係、乃至になって拾ってしまった。

 

………納得がいった。

 

どうしてあのとき、合成音声ソフトが完成したとき乃至の姿が見えたのか。

 

乃至と俺を切り離したかったんだ。心の一つの決まりとして。

 

俺がアンノイズ。彼女がノイズ。明確に、別の存在として認識できるように。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

作詞・作曲 アンノイズ

 

ボーカル ノイズ

 

 

【始まりノ歌】

 

前奏、

 

少女は目が覚める。どこか知らない海に。口から空気が漏れるも窒息する様子もない。少女はそれを気にしていなかった。

 

海面に上がる。陸地が見えたから上陸する。

 

 

 

そこから歌が始まった。

 

 

 

何故海にいたのか、もしかしたらそこから生まれたのかもしれない。紛れもなく人間のはず、だが少女の歌声。

 

 

 

人の声でありながら人の声でなかった。

 

 

 

なんの疑問も無く、砂浜で踊りながら歌う少女はまるで歌姫のようだった。

 

森を抜け、山を越え、草原を歩き、街につく。

 

 

 

間奏に入る。

 

 

 

一人が少女を目に止めた。直ぐに立ち去った。

 

一人が少女を目に止めた。立ち止まった。

 

一人が少女を目に止めた。近くの椅子に座り込んだ。

 

一人が少女を目に止めた。無視した。

 

 

あまり見ない顔の少女が気になったのだろう。

 

 

 

少女は何故か人に見られるほどに、歌いたくなる。使命を感じた。何故そう思うのか。当たり前だった。

 

 

 

少女は歌う。誰かに向けた歌声が観客たちの耳に届く。声に交じる、いや一体になってる電子音が頭の中で乱反射し、一度聞けば歩く人も含め、全員が同時に耳を傾ける。

 

 

その後の反応はバラバラだ。だが少なくとも、

 

 

 

耳を傾け続けている者は少女の歌声に魅了された人達。それが少なくとも、多くても。

 

上手いかなんてわからない。下手かなんてわからない。存在しない、いや存在しなかった歌声など、誰が評価できよう。

 

誰も評価できなかった。だからこそ、少女を歌姫たらしめる存在の証明………それは。

 

 

 

 

 

 

 

声を聴くもの、そのものの数だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




コロナ死ね。


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unknown

ウマ娘にハマりました。バルファルク師匠早く実装してください。


「どう歌ったらこうなるんだ?」

 

「編集じゃないのか?」

 

「編集でここまでなるものか。歌い方の問題だ」

 

「機械混じりな声ってどう出すんだ?」

 

「やっぱ編集じゃないかな」

 

「でもここまで編集したら声潰れない? 発音まではっきりと聞こえるよ」 

 

「編集するいみってある? それに最初っから機械声じゃないと無理」

 

「でもそんな声って、そんな人いた?」

 

「長文失礼。そもそも電子音なんてどう出すんだ? 出せる人はいるけど、歌声じゃないし。ロボットじゃないんだよ。なんて言えばいいかわかんないけど、ちゃんと声があるっていうか、人の声なんだよ。機械だけど」

 

「言いたいことはわかります」

 

「今までの歌はアンノイズが歌ってたけど、今回はノイズって人が歌ってる……アンノイズってもしかして2つの単語を合わせているのかな。アンなんちゃらとノイズって。そんで二人組で」

 

「それなんだけどアンノイズとノイズって、声が似てるんだよね」

 

「ふたごかな? でも声質は全く違うし」

 

「速報:過去の曲のボーカル表記が変わった。アンノイズからアンノウンになった。」

 

「と言うことは、アンノイズ、アンノウン、ノイズの三人組? いや、二人で作ってるからアンノイズて合わしてるから二人組か?」

 

「まてまてまて、おかしいおかしい。チャンネル説明欄を見てみろ。全部一人でやってますって書いてあるぞ」

 

「え? え? え? え? アンノウンとノイズは同一人物ってこと? おかしくね? いや声は似てるけど」

 

「似てる……歌い方を変えてるとか?」

 

「そんな次元じゃない」

 

「よく見たらノイズのほうのボーカルになってるときは編集ソフトが一つ多い」

 

「そこで声を弄ってるのかな?」

 

「機械っぽいから違和感なく聞いてたけどそもそも編集するって珍しくないか?」

 

「確かに。編集=歌が下手って言われてるぐらいだし」

   

 

 

 

 

「もしかして機械が歌ってたりして」   

 

 

「…………やべえ、マジで納得した」

 

「いやいやいや、流石にそれはないだろ………ないよな?」

 

「一つ気になる。ノイズの時の編集ソフト。1つだけ不明だよな」

 

「本当だ。全てフリーソフトなのに1つだけ聞いたことないやつがある」  

 

「AnotherVocal? 別の歌手?」  

 

「これもう確定だろ」  

 

「AnotherVocalと言うソフトがノイズの声で歌ってるって事か」

 

「え? それってつまり、マジで機械が歌ってるってこと?」

 

 

 

数時間後

 

 

「速報:ノイズは機械のボーカル。アンノイズ自らコメントした」 

 

「本当なら大革命だぞ。そんなソフトがあるなんて、どこかの大企業かなにか?」

 

「いや、チャンネル説明欄に個人活動って書かれてる」

 

「じゃあ企業は関わってないってこと? 何者なの?」

 

「わかんない」

 

「何者?」

 

「誰?」

 

「企業側からはなんの発表もコメントもない。本気で無関係かも」

 

「アンノイズって、いったいどこの誰なんだ?」

 

「謎すぎて気になりすぎる」 

 

「だから人前で歌わないのか」

 

「いったい誰なんだ」

 

「今までの情報を整理しても全くわからない。女性の疑いがあるぐらい」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ピ。

 

パソコンの電源を落とす。アイドル以外の音楽スレはほぼ全てアンノイズの話題で持ちきりだった。   

 

存在を知るものは例外なく正体を知りたがった。

 

その正体を知るものは………現時点で二人。本人と協力者。だが近いうちに、もう一人増えるだろう。

 

 

 

 

金髪の紅い瞳の少女の目に映る。ずぶ濡れで、手が血で染まって、殺意に満ちた瞳をした彼女の正体を。

 




 


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掴み

何故か設定が出来上がってるはずの智秋のキャラが安定しない。なんで?

馬グレよんでオグリキャップ推しになりました。


「ふんふんふふーん、ふんふんふふんふふーん」

 

「なんの歌なの?」

 

不意に声をかけられる。振り向くと智秋が気になるご様子でこちらを見ていた。俺の顔が見れたのか笑顔でおはようと言ってくる。

 

良いテンションが一瞬にして下がった。

 

「おはよう」

 

「聴いたことない曲だったけど、題名何?」

 

「○y ○ode。好きな曲」

 

「マイコード、うーん、同じようなタイトル結構あるから短いフレーズしか聞いてないし検索しても見つからなさそう」

 

「ならよかった」

 

「えぇ………にしても、乃至ちゃん機嫌良いね。いつもそんな感じじゃないし」

 

「良いことがあったからね」

 

「どんなこと?」

 

「企業秘密」

 

「企業!?」

 

どんな良いことかと期待して返ってくる言葉を聞こうとしたが教えてあげない。秘密だと。だがそれよりも企業と言う言葉を優先的に反応する。

 

企業って事はバイト? と新たに生まれた疑問をぶつけられる。そんなもんだと返す。

 

朝から練習するアイドル部のなにかのユニット。短い時間の朝練はブースより外のほうが都合が良いのだろうか。何かの曲が流れる。

そのうちの一人がこちらに気づくと智秋さんに声をかける。

 

本場の声を聞こうとするなんてご苦労、努力家な人達だ。

 

「乃至ちゃんもいいかな」

 

「は?」

 

どうして俺に? いや乃至か。

 

乃至に声をかける理由が見つからな………いや、研究ノートの執筆者である乃至はアイドルの知識だけはいっちょまえだ。乃至によって実力を上げたユニットも複数存在する。

 

当然無視しようとしたが、智秋に襟を掴まれる。彼女を睨むと困った顔で、申し訳無さそうにしている。

 

はあ、このやろう。

 

 

仕方無しに練習する子たちの方へ向く。ユニット名は【トウメイダイバー】。結成してから数回学園内で活動を行っていたが、今度初めて一般客(学園外の人)の前でライブをすることになったらしい。それに当たり、より自分達らしさを知ってもらう為にユニット名と同じ曲名を披露したい。だから何か意見を貰えないかとの事だった。

 

 

ようするに【トウメイダイバー】を歌いたいってこと。

 

「うーん、ちょっと難しいわね」

 

智秋の4Season'sは四人の個性が割れている事もあり四季の題材の歌は明確に四人に役割がある。【トウメイダイバー】は全員が全員透けるような歌声の似たような声質なのだ。

 

つまり、自分達を覚えてもらう歌なのに、このままではユニットでしか覚えてもらえない。

 

彼女達は本気で悩んでいた。ユニットらしさは出せても自分らしさを出せないことに。

 

ユニットの個性=一人の個性になる智秋からしてみればなかなか答えづらい。考える仕草をする。

 

「ユニットとしても、個人としても覚えてもらう為の歌………」

 

智秋は考える。期待と緊張を込めた眼差しで見る彼女たち。

 

 

 

答えが返ってくる。予想外だった。

 

「ちょっと欲張りじゃないかな」

 

「欲張り、ですか?」

 

「うん。前提としてその歌はユニットを覚えてもらう。一人ひとりを覚えてもらう。ってことだよね」

 

「はい」

 

「後者は無くすべきだと思う」

 

「ええ?!」

 

彼女達は困惑する。それもそうだ。そもそもの根底が崩れた返し。たとえそれが最善策だとしても、それについて本気で悩んでいた者からすれば酷い理由で、反論もしたくなる。

 

智秋はそれを許さない。

 

「言わば一曲めに聴いてほしい曲。掴みの曲。文字通りにとらえてみて。両手で掴めるモノには限度がある。それなのに一人一人の事も分かって欲しいなんて言ったら、余裕で掴み溢れる」

 

反論できない。できる方法は一つ。それでも覚えてもらいたいと強欲を晒すこと。

 

「なら何を掴ませるか。それはユニットそのものの存在」

 

「そのもの………」

 

「そう、だからこそ一人一人は後回し。ユニットと言うものを大きく見せて、両手で掴んでもらう。名前なんて、後で覚えてもらえばいいの

 

 

相手は何も知らない。どんなユニットか、どんな歌を歌うか。誰なのか。だからこそ、アイドルにとって看板とも言えるのは全体像。その全体像に惹かれて初めて相手はファンになる。ファンになって深く入って初めて名前を知るの

 

いきなり目に入った看板を見ても、店名は覚えられても一緒に記載されている店長の名前なんて覚えられないでしょ」

 

「…………」

 

彼女達の悩みは弾けた。解決したからではなく無くなったから。弾けた先に見つける答え。その道はまだ作られていないが、それは彼女達の技量次第だ。

 

 

「ありがとうございます! 私達は客観的に、考えてませんでした! ファン目線で考えられても、初めての人達の気持ちになれてませんでした! ありがとうございます!」

 

【トウメイダイバー】は頭を下げる。示し合わせた訳でも無いのに声も下げるタイミングも合っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

掴み…………か。

 

看板になる歌。そう言えば俺はまだそう呼べる歌を作ってない。一番最初に作らなきゃいけないのに。

 

いや、人気になり始めた、話題になり始めた今こそ必要な歌だ。だがそうなるとなかなか思いつかない。俺………アンノイズを背負う歌。

 

 

 

 

 

 

丁度よい。この子達には少し実験に付き合ってもらおう。俺も案を出して、上手く採用されれば俺の作曲の参考になる。

 

幸い、乃至のおかげで話はよく通るみたいだしな。

 

 

 

 

 

 

 

 




オグリキャップを愛でるので投稿頻度落ちます。



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聞く側

推しのウマ娘は

オグリキャップ
ツインターボ
ライスシャワー
ゴールドシップ
ミホノブルボン 

です。



【掴み】。【トウメイダイバー】を覚えてもらう為の最初に聞いてもらいたい歌。彼女達はそれを目的に作詞作曲する事に決まった。とは言っても、既に悩み悩んで7割程度出来ていて改正、残りの3割を考える程度。

 

それでも7割はできてるので軽く歌ってもらった。

 

 

 

 

 

「!?」

 

 

 

 

全員が一斉に、同じように歌い出す。確かに綺麗だ。声が透き通っている。耳にすっと入る。ユニット名が彼女たちを表している事が良くわかる。 

 

 

まるで海底まで見える海に飛び込んだような錯覚が襲ってくる。

 

一瞬にして彼女達の声に吸い込まれた。耳に声の波が襲い掛かる。

 

 

 

海の中で浮いている。澄んだ海は太陽の光が届いていてその美しさから目が離せない。歌詞や音程が変わる度に揺られる海中。その流れは強く、一箇所から一方通行に自分を襲う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

耳が痛い。歌を止めさせた。

 

「……………」

 

「……………」

 

智秋も俺もあまり印象が良くないといった顔をする。それを見た彼女達も少し暗い顔になる。けれどまだ未完成、すぐに問題点が気になったようでどうでしたかと聞いてくる。

 

「多分だけど、全員同じように歌うつもり?」

 

「い、いいえ、元々一人一人を覚えてもらう為にソロパートはあります」

 

「聞き方を間違えた。全員が同じ音程?」

 

「は、はい」

 

「……逆効果だよ」

 

「え? と、どういうことですか?」

 

「今はただの生声だけど、さらに音を大きくするマイクを使えば確実に耳が痛くなる。全員が透き通る声が合わさって過剰に一つの音が大きくなりすぎる。それじゃあむしろ無視どころか聴きたくなくなる」

 

「えっと、でも、誰かが歌わないって言うのは、そういうパートでも無いですし。それに今までそういう事は言われたこと無かったです」 

 

困惑する。全員で歌うパートで全員で歌うと駄目。だからといって誰かを仲間外れにして歌わせない訳にも行かない。アイドルは全員で歌うパートがあるからこそ輝く。なのにそれを逆効果と言われた。

彼女達は素人であっても初めてじゃない。数回学園内でライブを行っている。今までやって来たことに良くないことはあったものの悪い事を言われたことは無かった。

だから反論した。彼女達は自身のしてきた事を否定されたと感じて……………すぐに反論の余地が無くなることも知らずに。

 

 

 

俺は口を開く。

 

 

「一般人とアイドル(ここ)は一緒じゃない。この学校(弗愛高校)は全員が全員色んな大きな音に慣れてる。だってアイドルだから。だけど一般人は違う。これを聞いてみて」

 

「はい?」

 

俺はイヤホンを渡す。耳につけてもらったところで、一つの音を重ねたものを聞いてもらう。

 

俺は問答無用で音量を上げた。

 

「キャッ!?」

 

いきなり耳にくる程の音量になって咄嗟にイヤホンを外す。すぐに外さなかったら確実に耳を痛めてたであろう俺の行動に先程の不満もあって少し怒りの感情を含んだ声を出す。

 

「いきなり何するんですか!」

 

「次これを聞いてみて」

 

「無視!?」

 

「聞かないの」

 

俺はある音楽を流す。彼女は渋々付け直す。言うことを聞く辺り乃至の言うことには必ず理由がありそれが自分達の為になるとわかっているのだろう。それ程の事を積み上げてきている。

 

それは置いといて音楽を聞いている彼女はそれに集中していた。

 

音楽を切る。

 

「さっきと今、どっちがうるさいと感じた?」

 

「さっき」 

 

「どっちも同じ音量だよ」

 

「え!?」

 

彼女は困惑した。それを見る他のメンバーも連鎖的に困惑する。同じ音量であるはずの音に全く違う反応を示していたのだから。

 

「なんなら音の数は後の方が多い。なのにどうして前の方がうるさいと感じたと思う?」

 

「………同じ音だったから」

 

「そう、全員が同じ音を出すと言う事はそれだけでうるさくなる。拍手と一緒」

 

核心を言う。

 

「一般人が普段聞くのは自分にあった音量の音楽。だから最初の一つの音が重なった音を聞いても音量を小さくするだけ。だけどライブは違う。聞く側は音量を選べない。うるさい前提だけど、同時に慣れてない。【トウメイダイバー】は透き通る声が強みだけど、音が強すぎるとかえって耳が痛くなるだけ」

 

全員がはっ!? となる。

 

この学園ではライブをする側も見る側も同じく()()()()()()が混在する。なまじアイドルと言う感覚に慣れているのだ。完全な一般人の観客はこの学園に存在しない。評論できるやつはいるが。

 

だけど同時に彼女らはまだアイドルの世界に憬れている学生でもある。自覚すればほぼ一般の観客になれる。

 

彼女達は智秋から【なんの為の歌】かを教わり俺から【聞く側】を教わった。後は彼女の頑張り次第で伸びるところまで伸びるだろう。 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「だからさ、こんなのはどう?」

 

俺は【トウメイダイバー】の新曲に提案をする。全員が耳を傾けてくれた。さっきのおかげで俺の言葉全てが目からウロコなのだろう。おかげでなんの疑問も不満も持たずに聞いてくれた。

 

おかげで俺が【トウメイダイバー】の声を聴いて思いついた曲を、彼女達の作詞作曲を上書きする形で作り上げることができた。

 

 

 

 

後日、【トウメイダイバー】初の一般観客ライブが開催された。

 




智秋もこの場にいるから扱いどうしようかと思ったけど、ほったらかした。

ほったらかし温泉てよく言ってたんだけど、道が整備されすぎて沢山人が来るようになってから行かなくなった。
前は地元の人でさえ知らない秘境だったのになぁ…………


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Dive to voice

クリスマスオグリ当てました。
ついでに背走サンタも。

あと設定が生えました。


弗愛高校にあるアイドルブースの一角、音響設備が整った屋外ステージ。一般客の出入りが一部可能である。というのもそこは校外の人向けへのライブ会場である。他のステージ、例えば学園内部だけのステージは基本屋内で行われる。ユニットの多さから月何回かライブが行われる。流石にそんな頻度で爆音を流されたら近所迷惑。その為屋内でのライブがほとんど。

 

その為殆どの学生ユニットは屋外でのステージの場数は少ない。元々屋内コンサートが主流だが。

 

【トウメイダイバー】はこの屋外ステージで初めて学園外の人に向けて歌う。本番で歌う。

 

何故初めてで慣れてない屋外なのか。 

 

いくら練習、リハーサルをやってもその疑問は残るだろう。当然俺も疑問に感じた。

 

歩く一般人。部外者に開放されている施設は割と広く、CDプレイヤーを置いて一般人相手に慣れる練習をしているユニットもステージから離れればちらほらいる。足を止める人、聞き流す人、応援しに来た人、アイドル志望の人。

 

ショップもありちょっとした観光地だ…………

 

疑問は解消された。 

 

 

学園内、動画でしか活動してない学生相手に金払って(チケット買って)足運ぶ人がいるか? ()()? つまりは歌って集客しろってこと。ここにいる誰もが少なくともアイドルに対して何かしらの興味を持った人間。良いと思わせれば自然とステージに集まるだろう。

 

 

 

 

 

【トウメイダイバー】に実力が無ければ集まらない…………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

目の前には少ないがお客さん(ファン)、一部の生徒。こっからどう変わるか、それとも変わらないか………。

 

 

 

 

少女達は息を吸う。

 

 

 

 

 

【Dive to voice】

 

 

 

 

一瞬呼吸を止められた。まるで水に飛び込む前の人のように。透けるような声が複数耳に入るよう、いや、水が流れてくるように聞こえてくる。ハミングの音の重なりには歌詞が無く、ただ聞こえる音が優しく、美しく聞こえる。

 

呼吸さえしそこねる程に耳を傾けてしまう。

 

 

それは、目の前に広がる海へ一歩進むような物だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

少女は澄んだ海の上に立っている。あたり一面の凪は一歩歩くごとに水音がする。その音の居心地良さに耳を傾ける。海には2つの大きな影が泳いでいた。何かはわからないが何故か美しくと感じ少女は大きく息を吸う。

 

澄んだ、トウメイのような海にダイブする。

 

 

バックコーラスと主旋律の2つの音は海に流れを作っていた。まるで全身を優しく押すように、その流れは少女を沢山の小さな魚達とともに運び、サンゴ礁、貝、色とりどりに太陽の光が射して幻想世界を作り出していた。

 

 

少女は泳ぐ。

 

二重奏から生まれた2頭の鯨は少女の周りを祝福するように泳ぐ。すごく大きな鯨は他の生物のどんな美しい姿よりも少女の目を奪い、惹かれていった。話しかけようと思ったが鯨は行ってしまい泳ぐのが早く追いつけそうにない。なのでイルカの上に乗って追いかける。

 

イルカは水面を泳ぎ時には飛んで潜ってまた飛んで潜って、二部合唱で現れたもう一頭のイルカとシンクロして飛んだり、交互に飛んだり、時には交差したり、空と海を行き交う少女は楽しそうだった。

 

鯨に追いつきそうになった時、鯨は一度潜ったと思ったら大きく飛んで空中に舞う。

 

着水した影響で大きな津波が起きるも少女は飛ぶであろうもう一頭に指差して津波に突っ込む。

 

するとイルカは大きな津波を登り、まだ舞い上がっている水飛沫とともに鯨よりも高く高く飛ぶ。水濡れた少女を太陽が照らし出す。

 

そこに飛んできたもう一頭の鯨の背中に向けて跳ぶ。

 

無事背に乗った少女は鯨と共に海へ潜る。

 

潜った衝撃により海は沢山の気泡で少女を包み込む。何も見えなくなった少女は目を覚ます。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

どこからか聞こえる歌声、一般人はステージの方へ向く。澄んだ声は少し小さく感じ水が緩く足首の高さで流れるようだった。

 

気になった人達はその足を同じ方向へ進める。

 

歌が近づくたびに水は水位をましてステージへとたどり着く。歌って踊る少女達へとその目を向けたその瞬間、彼らもまたトウメイのような海へとダイブするのであった。 

 

 

 

 

 

【トウメイダイバー】の初の一般客ライブは成功で幕を閉じた。

 

 

 

 

 




イルカをイクラと5回ぐらい書き間違えた。


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この作品はお蔵入りだ!

放置しすぎて内容完全に忘れて読み直し。おかげで二次創作書いてる気分。


「んああああ!!」

 

 叫ぶな近所迷惑だ!(深夜2時)と言ってもしょうがない。いくら時間があるとはいえアニメーションを描くのはやはりきつい。ノートパソコン一つじゃ作業効率は低すぎる。

 

 一向に進まない作業、いや進んではいるが量が多すぎる。絵のクオリティを上げれば完成しないし下げれば納得できない。

 

 【誰も知らない音楽会】は一枚絵だし【ヒトリキリ】と【始まりノ歌】は絵のクオリティを下げてフリー素材と合わせて文字の演出で誤魔化した。

 

限られた演出じゃ限られた音楽しか作れない。

 

『観る』は大事だ。その歌のイメージ世界、伝えたいこと、演出。歌は音だけに宿らない。ライブなんかそうだろう。観客がいなければ『盛り上がらない』感化、興奮、情に浸る。目に映る光景が二番目にくる。だからこそ、歌詞の光景、補完、そして重複。

 揺さぶられる感情は大きくなる。記憶に残る。思い出せる………忘れられる事が少なくなる。

 MV(ミュージックビデオ)なんか特にそうだろう。間奏に映る光景は物語が進んでいる、歌詞はなくとも音に込められた思いが伝わりやすい。

 

 

「………やっぱり金ないのきついなぁ」

 

 絵師とかに委託しようにも金銭面に問題がある。音楽販売サイトでお金を稼ごうにも無条件という訳にも行かない。実績があれば審査は簡単に通るが俺はまだ3曲、総再生回数も10万いってない。無条件もあるにはあるがシェア率が低い。条件付きということは最低限保証があるから皆そっちに行く。

 

 条件達成にはおそらくあと一曲。この一曲は過去3曲と違い物凄く大きい。勝負に出るならここだ。

 既に一部の小さな界隈で【アンノイズ】は話題になってきている。が、オススメに出している人は少ない。『偶然知った人』と『なんか話題になってるな』の2種類だ。『オススメする、される人』『拡散する人、それを見る人』は掲示板等を見てもほぼ皆無。インパクトが足りない。だが今のソフトじゃ歌に限界がある。

 

 『映像』だ。歌にのめり込み、感情を揺さぶり衝動を与えるほどの、ライブには『踊り』があるように、落語には『演技』があるように、今回の一曲には絶対に欠かせないものだ。

 

「………くそ!」

 

 今回ばかしは体力によるゴリ押しが通用しない。一曲目じゃないんだ。『話題に上がる期間』がすぎる前に出さなければ一気に再生回数は伸ばせない! なのにアニメーション作業が終わらない! 

 

 焦りすぎてマウス操作のミスを連発してしまう。絵が乱れれば描いた意味は無い……仕方ない。一回休憩して冷静になろう。

 

 

 

 

 

 この前の【トウメイダイバー】のライブは成功したおかげで地元では人気者になっていたな。弗愛高校のファンには広まって話題になっていた。それこそ『オススメする人』は現れないがそこそこ大きなコミュニティに名が知れた。何か一曲、でかいのをぶつければ一気に有名になる。そうなれば次は不特定多数も見るMV作成に挑んだほうが良いとアドバイスしたが、そこはプロの智秋。ビデオ撮影のコツを伝授してくれた。

 

 「これはMVに限らずドラマや映画にも共通することだけど撮影した映像を全て使うって訳じゃないの。リテイクの繰り返しとかNGを一切切り捨ててもね。一つの『指標』を決めてきっちり演出まで決めて撮影したり、リアルタイムで変わる状況に合わせて良いと思ったらある程度自由に撮影して、結果的に動画の何百倍もの『使う予定』の動画が取れる」

 

「そこからいらないものを編集で削ぎ落としてやっぱり使って削ぎ落として、足りないのがあったら『追加撮影』どれぐらいかもわからない程の時間をかけて完成させたものが初めて『映像』になる。あれこれ使いたいがたくさんあって繋げたら何倍もの時間になって、削りきれなくて、いっそ大胆に削って削って削って、納得行かなくてやり直し」

 

「撮影は『足し算』時に固定概念を捨てて時間オーバー上等。編集は『引き算』思い入れを残す考えではなく消す」

 

 

 

 このアドバイスは本当に為になった。とはいっても俺は絵だから何通りもの動画を作る余裕は無い。だが脳内で作る映像を気分のままにしたり歌通りにきっちり決めて考えたり、時にはすっちゃかめっちゃかにしたり、そこから満足した映像を絵にしている。

 

 だけどどうしたらいい。今の作業効率じゃ絶対に間に合わない。どうすればどうすれば…………

 

 

………………?

 

『固定概念』? 

 

『引き算』?

 

 

「……はは」

 

 

 ああ、そうか、何をやっていたんだ。間に合わないならさっさと消してしまえばよかったんだ。ありがとう智秋。思いついた……思いついたんだ! たった今! 

 

 

 俺はパソコンのカーソルを動かす。それは今まで書いた絵のファイル。そして音楽のファイル。それを

 

 

 

消した

 

 

いま作ってるやつは(この作品は)いらねぇ!(お蔵入りだ!)

 

すぐに新規作成をクリックする。そして一つの『指標』を元に時間の限り音楽を作成する。

 

 




この小説自体がお蔵入りかと思った? 残念だったな! 


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MV撮影

正直この話はかっ飛ばした良かったんだけどねぇいや本当に。無くても成立するし。
ちなみにですが菜野乃至は合成音声を使っているつもりですが使ってないんですよね。
まずソフトの作り方自体間違ってるもん。作中で指摘できる人いないのがなぁ……

ちなみに残業平均3時間です。助けて労基引っかかってる


 土曜日、ポケットに財布、スマホ片手に朝から走り出す。まずは買い物だ。まずは撮影の準備。カメラはスマホだ。金が無い。自撮り棒のスタンド機能付きを購入。照明、無し。金が無い。マイク。金が無いが今回はいらん。

 

 後は顔バレ防止に………仮面を買う。口は出なくても良い。狐の面でいいや。衣装は金ないから……普段着なさそうで『指標』に近い奴を買う。

 

 

 初めてのMV撮影。絵による映像が間に合わないのなら撮影すれば良いじゃないか! 思い立ったら吉日。仮面のおかげでメイク必要なし! クマもできているが関係ない。

 

 さて、どこで撮影するか。今回の『指標』の関係上どこでどう撮っても成り立ちやすい。出来栄えの良さを無しに考えればだが。

 

 早速公園を見つけては撮影を開始する。

 

 仮面をつけてただただ歩いているだけ。規則正しく。姿勢もきれいに。

 

 歌うアンドロイド。人々の為に指定の位置に待機し指定の位置に立って歌う。付けた仮面は一切の表情を変えない。だが胸に手を当てて動作だけは歌っている。耳につけたイヤホンに音楽を流しそれに合わせて思いつく限り回数を重ねる。時にはカメラワークを変え朝を良いことに朝日に照らされながらも歌うふりをする。自分は映らずに公園や朝日だけを取ったりした。

 

 確認してみると何か違う。いやまあカメラの性能の問題もあるし撮影者もいないから固定だし、とにかく思いつく限り。

 

 撮影場所も河原とか空き地など多分法に触れない場所に移動して時にはアンドロイドらしくない行動をする。リテイクを繰り返しては確認する。

 

 

 

 簡単に一日が過ぎた。帰ってパソコンで映像を見る。

 

 

「まあこうなるかぁ……」

 

 

 全てが固定カメラで撮影されたもので試しに映像を作ったらまあ代わり映えしないわ変化が無いわあると言ったら場所と時間による光の当たり方だけ。クソみたいなMVもどきができるわけです。

 

 終わってやがる。知ってた。さてどうしようか。良さそうな物が朝に撮った序盤の数十秒だけで後は全部いらない。そもそも固定カメラが生きているのが殆ど無い。こういう時一人って大変だな。

 

 やっぱりこういうのってどっかに依頼するんだろうなぁ………

 

 外を見る。夕方。逢魔時まであと少し。それを見て思う。進捗よりも圧倒的に早く流れる時間。間に合わないんじゃないかと、あっという間に時間切れで全てが駄目になる。努力も何もかもが全て、全て、全て、

 

 前世の雀の涙ほどの功績さえ失った時のように。

 

 考えるたびに怖くなる。焦る。また上手く行かないんじゃないかと希望が見えなくなって絶望の一色に染まるあの時間がまた……

 

「乃至〜ご飯よ〜」

 

「………………いや、まだある。俺には無くても乃至にはあるものが」

 

 希望は近くにある。一人なら固定カメラしか取れない。または自撮り風。

 

「はは、本当に良い関係を築いて羨ましいよ」

 

 金なんて必要ない。後は運だけだ。都合のよいという運。早速立ち上がる。部屋を出て階段を降りる。ドアを開けるとそこには回鍋肉に味噌汁、白米、サラダ、ハッシュドポテト、地味に変な組み合わせの夕飯とそれを囲む今の父と母がいる。

 

「「「いただきます」」」

 

 

 それから数分おいて父に話しかける

 

「父さん……明日暇だよね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




仕事キツすぎる。残業と夜勤でかなりかさ増しした給料見てると思うよ。何故同じ給料でも月の残業ほぼ無しと45時間以上の税金って一緒なんだよ。頼む、長く働いているから少しぐらい安くしてくれ。残業長くて体に負担かかって治療費とか重なるんよ。


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菜野透の無語

たまには明るい主人公でも。

ちなみに【4Season's】のプロデューサーは仕事が忙しいほど楽しそうにしてます。依頼が多いのは彼女らの人気の証。

何気に父親の名前初登場だな。今何話目よ。


「もう少し左によったほうが良いんじゃないか?」

 

「わかったー」

 

 仮面を付けた乃至をビデオカメラで追いかける。一面草原のどこか、車じゃないと行けない距離。表情が見えないのに楽しそうなのがよくわかる。それでもカメラを回した瞬間、一瞬時が止まったかのように感じ、すぐにまるで誰もいないかのように振る舞い、草種と舞う。

 その集中力は何度も見た。一度やると決めたらずっと突っ走る性格は乃至の努力の原動力。それは変わっていなかった。昔からずっと、そして今も。

 

 アイドルになる夢は諦めた。でも夢は新たな姿になり追いかけ続ける。それはきっとこれからも続くのだろう。努力しているときの乃至の姿は、凄く楽しそうだ。輝いて見える。

 

 

 

 

 

 土曜日の夕飯、娘に唐突に聞かれた。何事かと一瞬思った。最近別人のように変わってしまってから明らかに減った食事中の会話。決して無いわけじゃない。だが基本的にこちらから話しかけないと会話は始まらなかった。こうやって乃至から話しかけることはあまりない。

 

 内容は『MVの撮影を手伝ってほしい』だ。

 娘に頼られるのは嬉しいことだが今は複雑な気分だった。絶望してなお、また努力の道を進んでいるのに。

 

 乃至が曲の販売の同意を得ようとしたとき、話し合った。売れなかったらどうするのか、何か算段はあるのか。

 

「今知り合いに頼んで機械のボーカルソフト作ってもらってる」  

 

「…………は?」

 

 

 詳しく聞けば今はアイドル(生歌唱)時代。そこにあえて編集だらけの機械に歌わせ動画サイト事に載せる事で話題と独自性をえるということ。歌って踊るアイドルと一線を画す事ができ需要あるものからの顧客を独占することができる。それなら多少人気が出なくても食っていけるとのこと。

  

 その時は言いくるめられたがよく考えればそれは自分の夢に『自分』を切り捨てる行為なのではないかと思っていた。過去の夢(アイドル)とは打って変わって人前に立たない。自分の声で歌わない。

 

 そして完成した曲は乃至の言ったどおり一部で話題になっていた。圧倒的にアイドル人気には劣っているがそれでも一個人の人気としては素人目で見ても凄いほうだ。もし何か一曲、アイドル達にも話題になる曲があれば、乃至は夢に向かう大きな大きな一歩を踏める。

 

 父親としては何が正解かわからない……だけど、少なくとも支え続ける。それだけは正しいと思いたい。

 

 

 

  

「どうだった?」

 

「バッチリ撮れてる。もうちょっと右に動きながら撮影したほうが良いかもしれないな」

 

「確かに、他でも良くやっている画角だけど定番は大事だしね」

 

 音楽に真剣に向き合い、試行錯誤、当然一日で終わらない。来週の土日も付き合う事になった。

 

「どうしていきなり草原に?」

 

「強い風が吹いてる! 夕方! ラスサビにピッタシなの!」

 

 別の場面に移ろうと室内に移動しようとしたらいきなり言い出すものだからびっくりした。自然の気まぐれは最高の舞台にしてくれるらしい。

 

 夕日に照らされながら靡く風。少ない時間ギリギリを使い撮影する。何だか娘が遠くにいるように見える。挫折して夢を諦めた俺と、夢を変えてでも諦めない乃至。その差は何なのか、若いか若くないか、いや、何か決定的な何かか違う。けれど……わからない。

 

 

 

 より一層強い風が吹く。つけていた仮面が外れ飛ばされる。乃至は走り出した。ここは草原だ。地面に落ちれば草花が邪魔でそう簡単に飛ばない。歩けば良いのに。そう思いながらも追いかけ…………

 

 乃至は飛ばされている仮面をキャッチしては直ぐに付け直し演技を続けた。

 

「………ああ、そっか」

 

 娘は、乃至は諦めないんじゃない。止められないんだ。止まり方を知らないんだ。どんなに変わっても、どんなに挫折を味わっても、走るのを止められない。もしも神がいるのなら、止まることを知らない魂には止まらなくても耐えられる体を与えたのだろう。

 

 だとしたらどんな言葉を綴っても意味はない。乃至は一生努力を続ける。だとしたら俺は父親として間違っていても……背中を押さなければいけない。

 

 

 

 

 

 数時間後撮影は終わり、その翌日にはMVが公開されていた。

 

 

 

 




忙しいのにかける時間がある理由? 不眠症だからさ!(今日からお薬)


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自由の無冠に

父「ドローン借りてきた」
娘「飛ばすのにも許可取ったの?」
父「飛ばすのに許可は必要ないだろう?」
娘「そうだっけ」

まあ民度良い世界だからドローンに対する新法ができなかったんでしょう。


 6月のある日、夏に入り日向は暑い。それでも月曜日は学校の日。登校する日。そんな日の朝、突如としてとあるMVが公開された。その歌は他のMVとは違い異質で、異様で、だが綺麗で忘れられない。

 

 そのMVのすべてを乃至自身知っている。何せ自身の曲だから。作業終了したその直後、見直す。編集作業で本来使わないところも含めて何回も見ているはずなのに完成したその作品を見れば懐かしい思いにぶつけられた。仮面を付けた自分が歌うふりをする動画。昔の時、学生だった頃を思い出す。何者かになろうとして、何者にもまだなれていない、目指していた頃。

 移りゆく景色は全てが美しく見える。だがそこに大人になった『今』を付け足すと一瞬にして代わり映えしない何もないただの景色に見えた。何かをしても、がむしゃらに、無邪気に。そんなことはもう、ないのだろう。

 

 この曲を聞いたからと言ってそんな感情に浸るのは俺だけだ。たまたま過去と照らし合わせてしまった。ただそれだけ。

 

パソコンで動画サイトを開きカーソルを合わせる。ちゃんとアップロードできているかの確認も込めてその動画をクリックする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 風なびく景色、ゆらゆらと水面に映る町並みは歪む。地面の上にいる仮面の少女は揺れてなかった。歌い始める。胸に手を当て、時には激しく動き、時に踊る。されど仮面の少女の喉は動いていなかった。

 

 その歌声には生気がない。強弱も、何も無い。ただ音程に合わせられて淡々としている機械声。歌っているふりにも思える。その違和感はきっと少女が人間ではないと思うことで辻褄が合う感覚を得る。

 

 公園で、河川敷で、スタジオで歌う。時には路上ライブをする。されど変わらない。その姿はミュージシャンを真似ているようで、まるで仮面の少女は人間のふりをしているようで……

 

 時間の流れで変わりゆく景色。人々は皆変わってゆく。固定カメラが映し出す少女の姿はどこにいても、何時にいても変わらない。

 

 次の日も少女は歌う。草原の上で……雨が降る。明るかった空は一瞬にして暗くなる。それでも歌うことをやめない。最初と同じ動き、変わらない演出。だがその雨は少女の体を濡らし、そして転ばせる。歌が途切れた……………演奏も、全てが止まり雨の中を映し出す静寂だけが一瞬と2秒を支配する。

 

 仰向けになりながら、歌を再開する。続けようとする。

 

 転ぶのは想定外のことだったのか、動かない。ただ仰向けで空に向いている。カメラは空に、広がる草原に小さくなる少女。無気力、虚無、遠ざかる程に強くなる。意味なく終わる……… 

 

 

 日が差した。演奏は強くなる。

 

 

 近くの固定カメラは少女は手を空に伸ばす瞬間を映し出す。空に消えていく何かに縋るように立ち上がり、空に向けその顔を向け、演技を再開する。

 

 雨によって濡れた少女の体は日によって照らされ、夕焼け色に染まり始める。より激しく手を広げより激しく舞い踊りより激しく………ならない歌声。

 

 空高く飛ぶカメラは照らされる草原全てを映し出す。しかし一点、動く光があった。それは小さくて認識できないものだったがあの一点には何があるか容易に想像できる。

 

 仮面の少女だ。無機質で、人間のふりをする顔のない少女は輝いていた。それを追うようにカメラは下に降り近くによる。

 

 その瞬間、強い風が吹き仮面を吹き飛ばす。演奏はより激しくなる。

 

 

 仮面の下にあるモノは映らず露わになることはなかった。

 少女は仮面を追いかける。続く歌、演技を放り走り出す。その姿は自由で手を伸ばす姿は人間のよう。

 濡れて重い髪も強風に煽られ夕焼けに輝きながら靡く。その瞬間だけは人間よりも美しかった。

 

 仮面を取った少女は即座につけ直す。

 

 曲はもう終わり。歩き始めると同時に演奏も弱くなる。

 

 歌唱はもう無くなり終演だけが静かに鳴り響く。

 

 

 

【自由の無冠に】

 

 

 

 

 

 




ここ数話話進んでないから次回から一気に進めるか。



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今年の新曲を語るスレpart2525

初めて掲示板やったけどめんどくさすぎない?


今年の新曲を語るスレpart2525

 

 

6:名無しの歌聴き ID:iqW0cI1Bf

 毎度思うがアイドルスレとこのスレ伸びすぎじゃね?

 

 

 

11:名無しの歌聴き ID:3pyxrMlNc

わかる

 

 

17:名無しの歌聴き ID:yPYeT8yDV

今はアイドル戦争時代だし、音楽業界も盛り上がるさ

 

 

27:名無しの歌聴き ID:WloftFTDa

新曲一つにつきどれだけスレが埋まると思ってる。ラブマスターの曲一つでスレ半分は埋まるぞ

 

 

34:名無しの歌聴き ID:nK1k9xwrx

デイライトもやな。

 

 

35:名無しの歌聴き ID:jtfEf0/m3

そういや最近デイライトの新曲出てねえな

 

 

37:名無しの歌聴き ID:6I16ymFQw

あそこはまあ、しょうがない。そろそろ歳だし

 

 

47:名無しの歌聴き ID:bhlNkbmDl

>>37は? デイライトは皆17歳だろ? 

 

 

52:名無しの歌聴き ID:5SOGqaDu3

>>47流石にそれは無理がありすぎる何年前だと思ってやがる。バイオハザ○ドと同い年だぞ?

 

 

62:名無しの歌聴き ID:NxE1wrClI

何故にバイオハ○ードで例えたと思ったらそういや名前の元だったな

 

 

68:名無しの歌聴き ID:Go0l48OG2

>>62まじかよホラゲ好きなのはそれが理由か 

 

 

75:名無しの歌聴き ID:VpXRnX1RP

お前ら新曲の話しろ

 

 

82:名無しの歌聴き ID:lTP/XS/Iz

>>75サーセン。新曲と言えば弗愛高校の新曲凄かったな。

 

 

88:名無しの歌聴き ID:OOH4+4B36

>>82どのグループだよ。多すぎてわからん。

 

 

93:名無しの歌聴き ID:DmLCtXXkw

>>88トウメイダイバー。曲名はDive to voice

 

 

97:名無しの歌聴き ID:YW0rXgaHD

知らないなぁ。学校のグループをわざわざ好んでるあたり通ってるな。

 

 

101:名無しの歌聴き ID:aae2vnHay

この前のライブで一際目立ってたグループやね。動画も上がってたぞほれ。URL

 

 

106:名無しの歌聴き ID:5Erf/X97f

>>101サンクス。聞いてみたけど声綺麗やわな

 

 

114:名無しの歌聴き ID:fRE1m7tO9

>>106嘘つくな聞くの早すぎるだろ。俺は会場にいたから聴いたぞ。確かに凄かった。全員の声が透き通って邪魔してないというか。聴いてて声の海に飲まれるというか

 

 

118:名無しの歌聴き ID:o3lZ1tCBQ

すげーわかる。個人的にはシンデレラスイートのアイスラも好き。

 

 

125:名無しの歌聴き ID:udWtq/Z5L

良いよねシンデレラスイート。曲名もスッキリしてて歌いやすいし、カラオケに出るのが待ち遠しい。

 

 

131:名無しの歌聴き ID:EUpd/Tude 

次はアイスガが出るのかな?

 

 

132:名無しの歌聴き ID:dVFOtohOB

ダークアイスガ、デスアイスガもでそう

 

 

134:名無しの歌聴き ID:O8/iZCkRK 

テレレレーテーテーテッテレー

 

 

143:名無しの歌聴き ID:eMto4mxY4

お前らそうやってすぐに脱線する。俺は好きだぜ。

 

 

152:名無しの歌聴き ID:al1RZdUhh

どうせおれらがすぐに戻すからな。LISAとか良いよね焔。

 

 

156:名無しの歌聴き ID:jRnpCEqsV

>>152なんだろう。何故か怒られる気がする。消されそう

 

 

164:名無しの歌聴き ID:0DYJRUXTH

>>156お前は何を言っているんだ? 

 

 

169:名無しの歌聴き ID:ja/W+XWuB

>>152そうだよ。怒られる要素なんてどこにもないだろ。良い曲だし。

 

 

178:名無しの歌聴き ID:LYKfREHiB

俺はアンノイズの自由の無冠かな。

 

 

185:名無しの歌聴き ID:8K3DGd8Tc

また知らんグループ名が来たな。

 

 

192:名無しの歌聴き ID:H7v5SYk4U

>>185アンノイズはグループじゃなくアーティスト………アーティストなのか? あれは

 

 

197:名無しの歌聴き ID:Y0mH/XTCq 

>>192アーティストでもアイドルグループじゃなければ何なんだ。歌い手か?

 

 

201:名無しの歌聴き ID:woqmmaU/h

>>197いや歌い手でもないんだよ。一応本人も歌ってるっちゃ歌ってるんだけど、メインは機械に歌わせてるんだよ。

 

 

207:名無しの歌聴き ID:1jvpJXnuo

>>201は? 機械? なにいってんだお前。機械に歌わすなんてあるわけが………マジ?

 

 

216:名無しの歌聴き ID:3D0uD8u8P

あー、別スレでも話題になってたやつか。あれまじでどうやってるんだろうな。機械に歌わせてるって、声帯構造のある機械でも作ったのか?

 

 

226:名無しの歌聴き ID:pOy1YpQmF

機械に歌わせるソフトを使ってるみたいやで。ほらチャンネルのURL

 

 

230:名無しの歌聴き ID:BeEWUu10T 

ほんまや。いやいや待て待て、ほぼ全てフリーソフトじゃん。一つだけ異質感すごいぞ

 

 

239:名無しの歌聴き ID:ybQWQm6nc

ちょっとだけ聴いてみたが確かに機械って一発でわかるわ。どんな技術だよ。

 

 

 

249:名無しの歌聴き ID:ovjY7dns5

それなすぎる。すげー気になるわ。少ないし一回全曲聴いてみる

 

 

253:名無しの歌聴き ID:M4F8LXP9P 

俺も

 

 

 

259:名無しの歌聴き ID:tBxcRbUeI

おいどんも

 

 

264:名無しの歌聴き ID:ZY/KU3zxq 

わちきも

 

 

265:名無しの歌聴き ID:VfYvoxnUX

アンノイズが広まり初めて嬉しいような悲しいような、とりあえずヒトリキリから聴いてみて

 

 

267:名無しの歌聴き ID:hpE9xm6SG  

>>265新規ファン獲得させる気無いの笑うwwww

 

 

273:名無しの歌聴き ID:skwaFsKv6

自由の無冠って何か滅茶苦茶違和感ある。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

601:名無しの歌聴き ID:/3+nJ/4eN

アンノイズの曲聴いたけど発想がすげえわ。何でMVで声を出す素振り出さないんだよ。でもそれが機械と合っててつい聴き入る。

 

 

605:名無しの歌聴き ID:po+mDOIIE

それな。作者コメント見たら撮れた映像に合わせるために後半曲を作り直しましたとか労力やばいだろ。

 

 

611:名無しの歌聴き ID:HeLiGB6m4

お前らいつまでアンノイズの話ししてんねん。俺はそろそろ4Season'sの空白の話したいんだけど

 

 

617:名無しの歌聴き ID:l2MqK52/H

せやけどこんな革命的なモノ簡単には話おわんないやろ。話したい事たくさんあるし

 

 

625:名無しの歌聴き ID:312R2fRn2

たしかに、みんなの感想とかすげーききてーし。誰かがソフトスレに教えに行ったせいであっちはもう2つスレ埋まったぞ

 

 

627:名無しの歌聴き ID:Cerrce8i9

そろそろ3つだ

 

 

636:名無しの歌聴き ID:00qs0BK81

うわ……普段一つ埋まるのに7日はかかってるのに半日で………

 

 

643:名無しの歌聴き ID:pSWJsqeHB

それほどのものだったって事だろ? 俺さ、音楽ソフトを扱ってる会社に勤めてるから早めに知ったけど連日この話題が必ず飛び交うで……どこかのライバル社が作ったのか?

 

 

649:名無しの歌聴き ID:3WZJW0Fy9

俺も勤めてるけど、どの会社も作った、開発したって話は聞かないよ。ていうか作ったら大々的に発表するでしょ。

 

 

657:名無しの歌聴き ID:xaboYl0UG

いやいや君たち、チャンネル紹介欄に書いてあるだろ。個人活動。知り合いに作ってもらいましたって。

 

 

667:名無しの歌聴き ID:nChnCy06/ 

それが信じられないからこんな話になっとるんや

 

 

670:名無しの歌聴き ID:/EN1baAgm

確かにすごいけどでもなぁ………自由の無冠を聞いたときに思ったけど、周りが壮大になっても歌声が一定すぎて場違い感がすごいというか、あまりその………ねえ

 

 

675:名無しの歌聴き ID:rfZfeEZ1S

確かに。機械すぎてなんか気持ち悪い。でも何で気持ち悪いのかよくわからない。

 

 

677:名無しの歌聴き ID:iu+hQ3RDK

わかる。良いっちゃ良いんだけどなんか気持ち悪い。なんと言うか聴いてて息苦しくなるっていうか

 

 

686:名無しの歌聴き ID:avxLVgdr8 

なんだろうね。

 

 

695:名無しの歌聴き ID:aogC2DCqH

ブレスがないからじゃね?機械だし

 

 

703:名無しの歌聴き ID:ES97GUGVQ

>>695それだ! 確かに! 集中して聞いてるとブレスのタイミングで息吸うときあるから!

 

 

708:名無しの歌聴き ID:e00IMRYZj

そんなやつがいるのか………

 

 

717:名無しの歌聴き ID:jSKr6ubCZ

いやわかるぞ。俺もある。でも音楽聞いてて息苦しくなるってそれはそれで意味わからんな。いやわかるんだけども、経験者にしか伝わらないって感じというか

 

 

726:名無しの歌聴き ID:zN8vq5HP/

でも機械、というか編集だからこそ雨で転んだときのぶつ切りは良かっただろ。あれはライブでは絶対に味わえない

 

 

735:名無しの歌聴き ID:wcS+GUpOk

わかる。あれびっくりするよね

 

 

741:名無しの歌聴き ID:emM4PxdAW

すげえな脱線しまくってたのが自然に戻ったぞ。

 

 

746:名無しの歌聴き ID:U11c9Gig2

>>741まさにぶつ切りの瞬間だな

 

 

749:名無しの歌聴き ID:zkHci+X/V

>>746うますぎワロタ

 

 

757:名無しの歌聴き ID:/En2RCcai

>>746確かにうまい。

 

 

766:名無しの歌聴き ID:c7eBS6+x9

新曲って訳じゃないが最近ではあるし言うけどヒトリキリ怖すぎるだろ。前半の楽しい部分が状況一切変わってないのにホラー曲とかするんだぞ?

 

 

769:名無しの歌聴き ID:3wa7bIPlT

わかる。>>265こいつは許さない。最初に聞いたときすげー怖かった。

 

 

772:名無しの歌聴き ID:NAxqwIHiu

まあいいじゃないか。にしてもMVにしては映像が悪いというか、安っぽいといか。

 

 

775:名無しの歌聴き ID:A6x5ca2hq

>>772撮影者父だってよ。別にカメラマンでもないみたいだし。雇う金がなかったのかな?

 

 

781:名無しの歌聴き ID:juVix4M3K

Another Vocal に持ってかれたか。あれ絶対高えって。

 

 

788:名無しの歌聴き ID:JGRhBokxq

ああ、金が無いから曲を配信するのか。

 

 

794:名無しの歌聴き ID:TVKvxq4H2

確かに。M(マイ)M(ミュージック)W(ワールド)で配信決定とか発表してたし。俺もう早速買ったわ。

 

 

796:名無しの歌聴き ID:J3nlD4wz3

こりゃ有名人になるな

 

 

806:名無しの歌聴き ID:v9I3A1rPg

いやきついでしょ。いくらソフトが革命的でもアイドルブランドが使えないし。アーティストはアイドルに曲提供することもあるけど機械が歌ってるってことはできないし。やっても個性が消えるだけだし。

 

 

810:名無しの歌聴き ID:2kWZUJ2e5

確かにアイドル層を掴むのはむずいよな。

 

 

820:名無しの歌聴き ID:sfuyY+13N

でも話題性はあるし今のところ唯一無二だから一定のファンは獲得できるな。

 

 

825:名無しの歌聴き ID:HKkQtXhlm

まあこれからに期待だね。

 

 

 




文字数多くなるし自然と時間かかる。試しにやったが今後やるかなぁ……でも掲示板人気だしなぁ。掲示板タグ使えるの強いし。
パート数適当だけどアイドルがずっとあること考えるともっとあるんだろうな。
所で一応オリジナル作品だけど【VOCALOID】タグってつけて良いのかな? 作中単語はだせないけど、似たようなソフトは出てるし。物語が進めば同じのでるし。


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うへへふへへへ

一気に話は進まなかった。だが夏休み直前まで時を飛ばした! キング・クリムゾン! 前書きと後書きって好き放題かけるから本当に好き。いっぱい書いちゃう。


 夏休み前の7月。暑い。皆半袖の夏の制服を着る。どこもかしこも見ても皆ダルそうだ。しょうがない。いきなり暑くなったもん。俺だって暑い………暑いのに意外と平気なんだよね。なんでだろう。

 

「うへー、暑いよ〜」

 

「アイドルがそんな顔しちゃだめだよ〜」

 

「そういう香菜だってしてるじゃん〜」

 

「いきなり暑くなるんだもん。こんなんじゃ体力持たないよ〜」

 

 そういやこの体体力おばけだったな。

 

「そうだ。昨日見た? デジアイチャンネル」

 

「見た見た。なんかアンノイズ? てチャンネルを紹介してたよね」

 

 聞き耳スタンバイOK。

 

「普段アイドルしか紹介、解説しないのにアーティストを紹介しててびっくりでさ〜」

 

「わかる〜。それでそのアンノイズにもびっくりだよね」

 

 うんうんうんうん! 話題になるのは良いことだ! にしても紹介されてたのか。見逃したな。後でチャンネル登録しとこっと。俺への許可は? と一瞬思ったが文化が違かったわ。勝手に善意の紹介は基本的にOKだったな。極偶にやめてくれっていう人もいるけどそういうのは予めチャンネル概要欄に書いてあるし。

 

 いやーにしても俺の話題が続くって嬉しいなぁ。一生その話してて良いんだよ? 

 

 歩きスマホをしてデジアイチャンネルを見てみると確かに紹介されている。

 

「…………!?」

 

 こいつすごいぞ!? チャンネル登録者数150万!? 有名なチャンネルが結構登録してる! そして見る余裕が無いが感想欄を見るだけでわかる! こいつ! 音楽に対して【愛】がある! しかしそんなチャンネルが何故俺を!? みたい! 今すぐ見たい! だが今は登校中だ! 見るわけにはいかない!

 

 

 にしても俺も有名人になってきたのかぁ……活動初めてして3ヶ月でこれ……かなりのハイペースじゃない? こっちの世界の基準でも。掲示板でもかなり話題になってたし。それにもうすぐ夏休み。それを利用して曲を作りまくる。さらに人気者に! 億万長者! スタジオのお姉さんにソフトの進化を依頼! さらに良い曲を作ってさらに高評価! 有名人に!

 

「うへへ、ふへへへ」

 

 そして収入も安定すれば学校退学してさらに時間が増える……

 

 不意にスマホを取られた

 

「歩きスマホは危ないよ」

 

「あへ?」 

 

 横を見ると智秋がいた。ちくしょうついに通学路バレたか。結構被ってたからわざと時間変えてたのについに被ってしまったか。

 

「すごく嬉しそうだったけど、何か良いことでもあったの?」

 

「まあね、物凄くね」

 

「そうなんだ……デジアイチャンネル。私も見てる。いいよね。色んなアイドルグループを詳しく解説してくれるしわかりやすいし。【4Season's】も紹介してくれないかなー」

 

 すげえ自然に会話になってしまった。まあいっか。

 

「売れればしてくれると思うよ? スマホ返して」

 

「はい。歩きスマホしないでね。やっぱ売れなきゃいけないのかな〜。でも最近は仕事増えてきたし。順調なの……かな」

 

「あ、増えてたんだ」

 

「増えてるよ?! 確かに殆ど休んでないけど、私は秋が旬だから、今は夏美さんがメインなの」

 

「季節関係だと個人の出演依頼が多いの?」

 

「そうだよ、私達の中で一番人気がある小春が多いかな」

 

「へー、どんな仕事?」

 

「それは企業秘密。流石に放送後しか喋れないよ」

 

「それにそろそろ忙しくなるのはわかってるしね」

 

「なんで?」

 

「学生のいるアイドルは長い夏休みが一番自由になれるから勝負どころなの」

 

「言われてみれば」

 

 俺も勝負どころだな。家に引きこもって沢山曲作って…………

 

 そう思ったが、ここ最近の数曲を振り返る。この世界に来て感化されたこと、感じたことが曲に生かされていた。【ヒトリキリ】なんか前世じゃ絶対に作らなかった曲だろう。【自由の無冠】も。発想できたかどうか、乃至になったからこそできた曲だし、自由ならむしろ色んなものに触れてみるべきか。何かインスピレーションを受けるかもしれないし。体力おばけならいけるだろう。

 

「……どっか行きたいなぁ」

 

 前は金が無かったから旅行にも行けなかったし、今は親もいるから旅行とかもいいな。

 

「確かにどこかいきたいね。アイドルっていっても休日はあるし」

 

 この世界の住人はなんの曲を好むのか知るのも研究だし、ライブ行ってみるか。

 

「あ、そうだ。ラブマスターのライブチケットあるんだけど一緒に行かない?」

 

「え? あれって倍率1000倍以上なかったっけ? それを二人分も?」

 

「実はこの前の共演で………そう、共演の時に貰ったの。全員がペアチケットを」

 

 自分で言って自分で落ち込む。自爆したなぁ。親が申し込んでたけど「また外れた〜」って嘆いてたし。俺は動画サイトでしか見たことないから見てみたいな。

 

「わかった。良いよ。それっていつ?」

 

「やった! これはちょうど夏休み初日だね! 場所は………」

 

 

 

 こうして【ラブマスター】のライブに行くことになった。俺は運がいい。

 

 

 

 

 

 

 

 




ちなみに智秋は乃至の事完全に友達だと思ってます。遊びにも誘うし断られてません。
乃至が断らない理由? プロアイドルとお近づきになれるなんてそうないから、カラオケとか一緒に行って参考にしてるんじゃないかな? 職業柄普段の行動にもでると思うし。


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ラブマスターの世界事情

ちなみに自由の無冠は無感、無観の意味もある。
久々に桜花小春。風凛夏美。宮坂智秋。涼清水冬花。再登場。そういやチケットコイツらももらってたな。


「暑い………やっぱり夏はいつになっても慣れないなぁ……」

 

「わかる」

 

「何で乃至は汗一つしかかいてないの」

 

「体力には自信あるからね」

 

「羨ましいな」 

 

「会場は入れば涼しいと思………」

 

 人、人、人。どこもかしこも人だらけ。多すぎる人たち。埼玉ハイパーアリーナに近くなる度にどんどん人が増える。軽く一万人はいるんじゃないか? まだついてないぞ? 皆がラブマスターのファンだと予想はつくが……入り口の駐車場にはいったい何人いるのだろうか。

 

「流石に多すぎない? 収容人数限られてる筈なのに」

 

「ライブには見に行けなくてもグッズ販売とかあるからその人達も多いよ。前々回も見に行けたけどその時よりはマシかな」

 

 これでマシって、コミケより少し少ない……博○例大祭レベルだぞ。流石は現No.1アイドルグループ【ラブマスター】まさかここまでとは。それにしても…

 

「………?」

 

 暑い暑い言ってるし汗かいてるのにだるそうにしてないし姿勢は良い。プロアイドルは普段もちゃんとしてるって事か………いや、智秋が姿勢良いだけか。アイマスにも滅茶苦茶な奴いたし現実でもちょくちょくやばいのいるし。

 

「あ、智秋だー!」  

 

 不意に後ろから元気な声が聞こえる。桜色の髪の毛。ボブのヘアーが揺れている。勢いよく手をふる。思いっきり目立っている。あんたら仮にもプロアイドルなんだからもうちょい隠れろ。智秋だって帽子被ってるし。

 この世界髪色十人十色過ぎて帽子被っただけでもだいぶ目立たなくなるのな。

 

「小春!」

 

 智秋も笑顔で振り返る。その視線の先には小春が一番に見えるだろうけどその後ろに帽子を被った、おそらく【4Season's】のメンバーがいた。あとそれぞれのお連れ様。小春が勢いよくこっちに駆けてきた為に全員が後ろをついてくることになった。

 

「智秋もライブに来たんだ!」

 

「もちろんだよ。だってあの【ラブマスター】のライブだもん! 冬花さんも夏美も一緒なんだね」

 

「さっきそこであった!」

 

「こら小春、勝手に走り回らない。貴女は智秋のお友達でしょうか? こんにちは」

 

 冬花にチョップされ頭を押さえる小春。それを無視して俺に挨拶をする。

 

「こんにちは、菜野乃至と言います。今日はライブに誘われたので同行してます」

 

「流石智秋、もう友達ができてる〜、私は風鈴夏美。よろしく!」 

 

 夏美はそう言って手を出してくる。俺も手を取る。何故か智秋が不服そうにこっちを見てる。それに気づいた夏美はニヤニヤする。

 

「智秋、もしかして嫉妬〜?」

 

「………初対面時の態度が全く違う」

 

「初対面からこんな感じだったよ」

 

「うそうそ、嫌いとか言ってきた」

 

「図々しい頑固意地を通すゴリ押し幻想主義アイドル脳巻き込み魔」

 

「………てへ」

 

 誤魔化す表情で目をそらす。

 

「どんな出会い方をしたんだよ………」

 

「「出会い方………」」 

 

 夏美の言葉に智秋と目を合わせる。

 

「「跳んだ」」

 

「は?」

 

 そんな腑抜けた返事が帰ってきた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「座席までは一緒ってわけじゃないんだね」

 

「元々用意されてなかったのを愛さん……あ、愛さんはラブマスターの一人なんだけど、その人の好意で急遽用意してくれたから、バラバラのペアチケットを貰ったの」

 

「だから各々一緒に行きたい人を連れてきたんだ」

 

「そう。あ、そろそろ始まる」

 

 会場が暗くなる。そして始まる。【ラブマスター】のライブが………………

 

 

 

 ステージが、照らされる。全員がポーズを取っていた。よく見る、よくある光景だ。だけど流石はトップ。全員が綺麗に止まっている。まるで時がまだ流れてないようだ。

 

 

 

 「……………スゥ」

 

 

 

 全てが飲み込まれた気分だった。さっきまで別のアイドルグループと一緒にいたのに、一瞬にしてその記憶を吹っ飛ばされた。センター一人の強気な語り部のような歌い方から始まる。

 

 次に右に、左に、別の人が歌う度に目で誰かを追ってしまう。既に夢中になっていた。全神経が研ぎ澄まされる。彼女らの音楽を聴くために、見るために、感じるために。

 

 耳は一人一人の声を聞き分けるかのごとく、生まれるハーモニーを全て受け入れ、流れる音楽は声と一寸の差もなく、ただの一度もズレを起こさない。起きない。たった一度も崩れない。

 

 目はそれぞれが舞い踊る一人一人、全員の姿を捉える。音楽と合わせるその動きは芸術で、歌詞に合わせて動かされる口でさえ計算されているかのように錯覚し、瞬き一つ許されない。

 

 肌は盛大に波のように押し寄せてくる音楽と歌声に触れビリビリと震える。まるで体を支配されたかのように内側の心臓でさえ掴まれている気がする。 そのさらに内側の心にさえ響き渡り興奮が抑えられない。

 

 俺という存在(菜野乃至)は今、目の前の存在(ラブマスター)を求める。だから、音楽に合わせて手を動かす。他のファンと一緒に振る。そうすれば彼女らと一体になっている気になれるからだ。本能がそうさせる。

 

 そんな幸福が一曲じゃない。5曲、7曲、10曲続いた。永遠にも感じられる時間は一曲終わるたびに確実に進んでいる。

 

 いずれ終わりが来る。ずっと感じていたいそんな感情も、いざ終われば満足感が支配する。疲れも同時にくる。それは黄金の体験のようで、ただただ笑顔だった。楽しかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一体何年ぶりだろう。こんなに何も考えず楽しんだのは。最後は前世のいつ、高校生ぐらいか。それから〇〇年………

 

「流石はトップアイドル。全部が凄かった。それ以外の言葉はいらない……私達もいつか!」

 

 智秋は興奮気味に言う。俺もだ。俺もいつか、ラブマスターのような世界を作り出したい。そんな音楽を世に放ちたい。色々とインスピレーションが湧いたが今やるべきことはそれじゃない。今は…

 

「CDを買わなくては!」 

 

 当たれ! その中にある握手券! あと次のライブにはうちわとペンライト持ってくから!

 

 

 

 

 

 

 

 




長くなったが4Season'sの全員と絡ませられたしラブマスターの歌をきけたの2つを達成できたので良しとしよう。
  
 オマケ 
小春→お父さん
夏美→親友
智秋→友達(俺)
冬花→兄 

と一緒にライブに来てました。


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下地

そういやボカロにおいて滅茶苦茶重要な事を忘れてた。


【ラブマスター】のライブは凄かった。本当に、凄かった。凄かった!(大事な事なので2回言いました)

 

 それに圧倒的存在感! 一人一人が目立ちキャラクター性がある。なのにその全てが調和し、完璧にマッチしていた! 複雑な歯車全てが噛み合うように! 

 

「………………は!?」

 

 そうだ……なぜ忘れていた。【キャラクター】だ! 俺は【アンノイズ】として活動しているが皆が皆unknown。謎の存在として認識していた。ミステリアスな存在だと。だがしかし! ミステリアスな【キャラクター】としては認識していない! 

 

 

 過去の曲を全て確認する。

 

少女

 

女性

 

実写

 

 ともかく見た目に一貫性がない。ましてや歌ってるのは【アンノウン】【ノイズ】と2種類に別れている。これじゃあアンノイズのイメージはわかない。だからこそひと目にわかる【デザイン】が必要なんだ。

 

 盲点だった……いや違う。既に完成したかと思っていた。【デザイン】は既に終わっていたかと思っていた。そもそもまだやっていなかった。例えばVtuberにも【デザイン】はある。本間ひま○りは声を聞いただけでその性格、姿、プレイ画面の様子が目に浮かぶ。それは既に完成しているからだ。想像が容易い。

 

 だがアンノイズはどうだ? 声を聴いてどんな姿を浮かべる? 画面を見てどんな歌声で歌う? 名前を見てどんな奴だと思う? わからない。ミステリアス……とは違う。あれはあれで【デザイン】がある。イメージがある。

 

よし早速! ………………………………

 

 

 

 

 「……………まずは絵……ペンタブほしいな。んー」

 

 財布の中を確認する。良いやつが買えるには買える。だけど買ったら手持ちが無くなる。ノートパソコンは新しいのを買ってもらったから前のを売るという手もあるが大した値段にならないのが現実。MMWで販売している曲は6月分振り込まれたが殆ど売れてない(中旬から販売した)から足しにも心もとない。7月分はまだ先だし。どうしようかな。

 

 まずは金銭問題か。いつかはピアノも欲しいし(弾ける)

 

 そろそろ表現の幅を広げたいがこれじゃあスローペースだ。せっかくの夏休み。宿題は課題研究以外終わらせた(徹夜)し。この期間で何とか次に行きたい………

 

 

 

 

 

 

 

「というわけで相談しに来ました。あ、これ次の曲です」

 

 

「はい! わかりました! 時間一杯、いえ! 時間過ぎても次のお客様が来るまで全力を尽くします!」

 

「ありがとうございます」

 

 いつものスタジオのお姉さんに相談することにした。【Another Vocal】を開発してくれるときに連絡先を交換した。定期的にアップデートしてくれる。この前なんか下手に音程を弄りすぎると発音が潰れるのを直してくれた。

 

「そうですねー、フリマアプリとかどうですか? 中古でしたら安いですし」

 

「一応探し回りましたけど、めぼしいものは………」

 

「そうですか、確かにペンタブって自分に合う一式揃えるとなるとむずいですからね……」

 

「それがないとまずデザインを考えるも何も無いですから」

 

「むしろパソコン一つで完結させていた今までが凄いですよ」

 

「んー」

 

「んー、すぐにお金………楽器系はまだまだ先でも良いですが編集環境は真っ先に揃えないと行けないですからね……」

 

 二人で考える。スタジオのお姉さんは腕を組んで頭を上に向けたり指で頭を押して何かアイディアを出せと自分に発破をかけているように見える。

 

 するとお姉さんは疑問符を浮かべた。

 

「ん? いつかピアノを買うつもりでいるんですよね」

 

「はい。そうですが」

 

「なら今すぐに弾きましょう!」

 

「………へ?」

 

 持ってないものを? この場に無いものをすぐに? いや、と言うより随分後のはずのピアノ? 

 

「今すぐにお金が欲しいんですよね。なら手っ取り早くストリートライブをすれば良いんですよ」

 

「ピアノで!?」

 

「ピアノで!!」

 

「どうやって!?」

 

「楽音通りというストリートライブが盛んな通りがあるのは知ってますよね」

 

「はい。一応」

 

 この世界の事を知るために調べまくった時に、アイドル業が盛んな影響かストリートライブも同時に盛んなのだ。楽音通りには文字通りで楽器が買えない人でも借りられるからできるし習える店が沢山ある。ピアノも設置してる。それで食っていってる人もいる。けれどそれはどれも有名人だ。ペンタブ代を短期間で稼ぐって事は簡単にはできない。

 

「むずくないですか?」

 

「はい。どれ程の腕前にもよりますが……廊下に出て奥から二番目の部屋に電子ピアノがありますのでそこで一度引いてみましょう。本当は地下にあるちゃんとした奴が良いですがあっちは完全に予約制で私の一存じゃ無理なので」

 

 あったんだピアノ。

 

 それはともかく一度ピアノを弾くことにした。

 

 ピアノか、弾くのは数年ぶりだな。元々ボ○ロ+生演奏というのは俺の好きなボカ○Pが自分で演奏してたから。やりたくなった。だから弾いた。それでも駄目だったが……

 

「よし」

 

 感覚を取り戻す為に軽く弾く。

 

 今回はストリートライブ……その強みは【自由】な点だ。著作権もクソもない。つまり有名な曲も行けるということ。

 

「借りるぞ……」

 

 そう独り言を呟く。ズルいが、ルールほぼ無用なストリートライブ。だから今回ばかりは使わせてもらう!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




30話以上もあったのにこいつ未だに編集環境整ってねえんだけど。


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楽音ストリート

なんやこの世界音楽脳すぎるだろ。ちなみにストーリーは卒業時に完結させる予定です。今は2年の夏休み。


「……日本………?」

 

 楽音通り。通称【ジュエルストリート】と呼ばれるそこは、音楽の街だ。半分テーマパークにいる気分になる。左右を見渡せば楽器が売っている。レッスン教室。窓から見える店の中、ヴァイオリンを引いている。表通りは本当に大きい。車は通らない。通行禁止になっているからだ。裏通りを通っている。大きな通りではそこらでストリートライブをやっている。色んな知らない曲が飛び交う。ここには歌が殆ど無い。演奏がメインだ。

 

「ジュエルストリートに初めて来た人は皆そう言いますね。石レンガで作られた道、木造もあればレンガの店もあります。どこも防音完備! ストリートライブは予約優先ですが基本的に飛び入りでも充分。一番良い場所は流石に無理ですが。ここには沢山の音楽の原石が集まることからジュエル(音楽の宝石)ストリートと呼ばれてますね。宝石と演奏(ジュエ)という意味のダブルミーニングになっています。外国人にも大人気で」

 

 ジュエルストリートの事を教えてくれる。ネットで調べた事よりも現地で詳しい人の説明のほうが圧倒的にわかりやすい。お姉さんは興奮気味にどんどん知識を披露してくれる。なのにわかりやすい。聴いてて心地が良い。前から思っていたけど本当に良い声しているな。流石は音楽スタジオに勤めていることはある。

 

「所で仕事の時間にこんなところに来て大丈夫なんですか?」

 

「まあ大丈夫です。次のお客様が来る前に戻れば。今日は二組しか予約してませんので」

 

 俺を除けば一組か。なるほど。それ儲かってるの? スタジオの相場とか知らないから何も言えないけど。それ以外にも仕事はあるだろうに。ソフトとか平気で作れてるしこの人滅茶苦茶優秀だなぁ。尊敬する。 

 

「着きました。ここですね。今は並んでないので、今の人の演奏が終わればすぐに交代できますね」

 

 ピアノが置いてある所についた。外に、しかも石レンガの上に置いてあるなんて新鮮味がある。前世では動画でしか見たことないが、写真とろ。

 

 

 

 ピアノを弾く音が聞こえる。すごく上手い人だ。俺よりも上手い。凄いな。聴き惚れる。オルゴールを聞こうとすれば必ず耳を澄ませるように、この音には聞こえれば強制的に耳を澄ませるような心地良さがある。楽しく、美しく、澄んだ音色が聞こえる。高貴な音、とでも言おうか、上品とでも言おうか。弾く姿は真っ直ぐに美しい。これ程の演奏がタダで聞けるなんていいな。

 

 

 演奏が終わると拍手喝采。大いに手を叩いた人達はお金を各々の値段で籠に入れる。その籠も動画でよく見るサイズよりデカく、演奏者の自信、実力が見て取れる。小銭だけじゃない。札も当たり前のように入っていく。中には万札を入れるものまで。特に外国人が入れる割合が多い。

  

 成る程、つまり外国人向けに演奏しなければいけないということか。だとすりゃどうする? 

 

 

 

 決まった。

 

 

 

 いける。そう思いニヤける。仮面をつける。不思議そうな顔をするお姉さんをその場においてピアノに向かう。さっきの演奏者のおかげで客は集まっている。チャンスだ………そして同時に通行人の足も止めさせる曲。一瞬でも良い。聴くきっかけを掴めばよい。

 

 椅子に座り、与えられる十分。最初はピアノにゆっくりと手を乗せ………ない。叩くように強く演奏を始める。

 

 強く始まったその曲に客は驚いて一瞬足を止めた。

 

 その曲は力強く、早く、疾走感のある曲。どちらかといえばエレキギター向けの曲だ。明らかにピアノで引く曲ではない。それもそのはず。本来ならバンド(複数人)で演奏する曲だからだ。前世から大好きだった曲。俺が目標にしてきた歌。伝説のボ○ロの曲。

 

【○本桜】

 

 ………これが小説や漫画なら説明不要表現無しで伝わるだろう歌。例え違う世界であっても、その魅力は通じる! 

 

 通行人も足を止め始める。間奏のピアノも、その後のギターも全て弾き切る。久し振りに弾いた曲に俺自身も興奮し始めさらに激しくなる。

 

  

 あえて2番を飛ばす。何故なら3曲の予定だからだ。それでもその曲の魅力は伝わった。

 

 演奏が終わった瞬間、拍手は起きない。まだ持ち時間が七分ぐらいあるからだ。あえて間を起き今までの激しさはどこいったか静かに引き始める。ゆっくりと、少しずつ早めて本来の曲の速度に戻す。

 

【H○pes and Dre○ms】

 

 

 大好きなゲームの曲。希望を感じさせる曲、決意を感じさせるような曲。一曲目を聞いた人達からすればまさに第二幕の盛り上がり。そして一段落の静かな曲調。片手で弾く。眠くなるような音に皆より耳を澄ませる。本当ならもうちょい続くがそこで終わらせた。

 

 

 静かな演奏で終わらせ客の集中力を高めた状態にし、あえて口に出す。

 

「皆さん、知らない曲を聴いてくださりありがとうございます。耳がつかれたでしょう。最後にカノンを引いて終わろうと思います。そのまま集中してお聴きください」

 

 足を止めて集中して聴いている人にしか聞こえないように言う。そして最後は前2曲と全く違う曲調を奏でる。

 

【カノン】

 

 ピアノで奏でる美しき四重奏。ピアノ一台と一人の人間で奏でる。それはこの世界でも誰もが知っているパッヘルベルの曲。まさにヴァイオリンを演奏するために作られた曲。それをピアノで再現することは決して叶わない。だが、その美しさはピアノの弦にはあっている。【ピアノ】と言うたった一台からなるその音は何も拒まれず耳に入る。それは高貴なようで、癒やしのようで、静かな時間。

 

 ストリートで演奏しているはずなのに、意識はその音のみに集中して、静かに聴いている。吹く風は音楽の美しい街並みを旅するかのように錯覚させ、感情という演奏を感じ、心のなかで自分だけの五重奏が響き渡る。それはホールでは絶対に聴くことのない思い出となる。

 

 一人十分の制限をオーバーした。しかし文句を言う人は誰一人としていない。順番待ちの人でさえもだ。演奏を終え立ち上がり深々とお辞儀をする。その瞬間、ポツンとした手を叩く音を始めとして拍手の音が届く。そこにストリートではよくあるはずの言葉はない。ただただ拍手の音が響き渡る。

 

 

 そこにあえて横に置いておいた箱を持って客の前に置く。再度深々とお辞儀をする。

 

「ご静聴、ありがとうございました」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




ちなみに主人公はピアノの才能はとんでもないです。何故なら前世でボカロと同時にピアノもやっていました(電子ピアノ)。カゲプロで有名なじんさんも演奏は自身でやっていましたので憧れからです。あとまらしぃさん。私も大好きです。  

〜追記〜

上記の後書きを修正しました。友人いわくキーボードとピアノは似ていると言っていたがよくよく考えたらサッカーでもスタメン取れるような奴だから感覚派なんだろうな……イケメンになりやがって羨ましい!


楽曲コード
131-0188-9
004-6473-2
7E5-0472-3


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