人間がウマ娘に勝てるわけ……あれ? (賢さG)
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メジロマックイーン、出会う
問題があれば私とタマモクロスが腹を切ってお詫びします。
世界観としてはアプリ版準拠ながらリギルだのスピカだのも存在する感じ。特別移籍を見るに、各トレーナーも存在するみたいだし仕方ないね。
メジロマックイーンは激怒した。
今日、初の顔合わせとなる予定……だった、サブトレーナーが、約束の刻限から一時間も遅刻しているからである。
「遅すぎますわっ! 顔合わせのほかに、トレーニングの予定だってありましたのに……!」
メジロマックイーン。チーム『シリウス』のエース……もとい、チームに残った唯一のメンバー。名門チームであるはずの『シリウス』は、同じく名トレーナーであったチームの監督が老齢のため引退。
チームを組んでいないトレーナーの中に後釜を任せられる者はおらず、仕方なく
流石に薄情に過ぎる……が。さもありなん、ともメジロマックイーンは思う。なにせ、サブトレーナーに会ったことがあるウマ娘自体、ほとんど居ないのだから。
実力自体は確かだろう、何せトレーナー……『シリウス』の先代トレーナーの肝煎りで、フランスのトレーナー養成施設へ留学に行くほどなのだから。テレビ通話越しではあるが、度々マックイーンへ施された指導からもトレーナーとしての腕の程は窺える。ただ……それでも、顔も見たことがないサブトレーナー、という肩書きは、本場、海外経験者からの指導というメリットを引き合いに出してなお、重いものだったのだろう。
かのオグリキャップを始めとした名ウマ娘たちを育成してきたベテランならばともかく、そんな相手に競争ウマ娘としてのキャリアを預けられない、と言うのも無理はない。かく言うメジロマックイーンですら、『お試し』と称して彼……サブトレーナーと(通話越しに)引き合わせられ、顔や為人を知らされていなければもっと迷っていただろう――生来の人の良さを持つマックイーンならば、どんな場合でも『シリウス』とサブトレーナーを見捨てなかっただろう、という先代の思惑は、傍へ置いておいて。
ともかく。そんな、沈みかけの船もとい解散しかけのチームに付き合ってくれるウマ娘を置いての、一時間の遅刻である。人の良さと同時に、生真面目さを――
通話越しに顔を見、言葉を交わしただけの相手ではあるが、そこまで不誠実そうではなかった――もっと言えば、真摯かつ思慮深そうではあったのだが。
「……まったく! 遅刻など(ずしん)言語道断ですわ! 遅れるならばせめて理由くらい、連絡すべき(ずしぃん)でしょうに……! あれですの、海外の方は時間にルーズだと聞きますが、それに染まってしま(ずしぃいん)ったとでも!? ……あら? なんだか地響きが」
「――すまない、遅くなった」
「……! 遅くなった、じゃありませんわよ!? 約束の時間から一時間、何をしていればこん……な……に……」
メジロマックイーンは激怒していた。怒りのままに振り返り、そこにあるはずの男の顔へ恨み言のひとつでもぶつけてやろうかと振り返り――その視界に映ったのは柱だった。それも、自身よりも太く分厚かろう、二本の柱。
「こちらの落ち度だ。校内へ入るところで守衛に止められ、そこを過ぎれば理事長秘書? とやらに止められ、事情聴取を受けた。鞄から電話を取り出そうにも、怪しいものが無いかと取り上げられてな」
メジロマックイーンにとって、ほぼ
声に導かれるままに、顔を上げる。
――鋼のごとき、胸板があった。
「おまけに、それらから解放された直後……このウマ娘に捕まった。私から鞄を引ったくる速度と技は大したものであったが、それが原因で連絡が遅れたとあれば素直に賞賛も出来ぬというものだ」
メジロマックイーンは上を見上げた。何故なら、顔を上げてもまだ、相手の顔が見えなかったからである。首が痛くなるほどに上を見上げ、更に少し背を反りかえるようにしてもっと見上げ――ようやく、目と目が合う。
――ソレは、男であった。
――身長、253cm。
――体重、311kg。
修めた武芸は数知れず。身体に張り付いたTシャツから透ける筋肉は金剛石の如く堅く、体脂肪率は脅威の2%。
総身に満ちる力は限りなく、金に輝く双眸は鷹の如き鋭さ。
「ソレ」は神の創りたもうた奇跡。彫り上げた彫刻がごとき肉体。
「ソレ」は正しく神話の英雄。無双の勇者。……誰一人知らぬことではあるが、その姿はギリシャに曰く。神話上最も有名な
「どうした。私の顔に何かついているか――ああ。この芦毛は、私の鞄を狙ったものだ。追い回し、捕まえたのだが気を失ってな」
――そんな巨きな男が、肩に。白目を剥いて昏倒した、
「……な、」
大きく、巨きく、雄々きい。生物としての圧倒的な、存在感。ウマ娘という生き物は、人間に比べ「本能」に影響されるところが大きい。自身をより速く強靭に育て上げる「トレーナー」に対し、好意を抱き易くなるのも、これが一因であると言われている。
翻って、この男。見るだけで分かる――強い。理事長が扇子を拡げて、「最強ッ!」とでも叫びそうなほどに、強靭である。なるほど、守衛もウマ娘、理事長秘書――駿川たづなもまた。彼女らが彼を引き止めたのも、肩の問題児が珍しく
そしてそれは、正鵠を射ている。トレーナーがトレセン学園の門を潜り、校内を歩き、グラウンドに降り立ち、ターフにいるメジロマックイーンの下へ辿り着くまでに、彼を目撃したビワハヤヒデの眼鏡は割れ、トウカイテイオーは「ナンナノコノヒト-!?」と叫びはちみーを噴き出し、ミホノブルボンは宇宙ブルボン顔でフリーズし、そしてシンボリルドルフは思わず領域を展開させた。
メジロ防衛隊が出動しなかったのは、偏にメジロライアンの「あの筋肉を見れば、彼が悪人でないことは一目瞭然!」という鶴の一声があったからである。なお、彼女の目は輝いていたし、たまたま近くにいた桐生院トレーナーは卒倒した。
「……なっ、」
しかし、彼を目にしたウマ娘の中でも、メジロマックイーンは一味違う。彼女もウマ娘であるが、しかしながら『メジロマックイーン』である。その身に宿すウマソウルのうち、『メジロ』の部分……名家・名門としての格、あるいはゴールドシップの祖としての
ウマソウルのうち、『マックイーン』の部分……彼女個人に由来する部分が、「パクパクですわ!」「いやデカすぎますわ!?」「この人……人? をユタカの次の打者に据えれば勝ち確ですわ!」と囁き。
そして、それら全てを統合し、かつウマソウルが暴走しないように手綱を握る理性……ツッコミ部分は、一気に溢れる情報に手いっぱいとなり。
結果――
「……何が、どうなっていますのぉーーーーー!?!?」
――メジロマックイーンの叫びが、トレセン学園のターフとダートに、響き渡った。
◆ ◆ ◆
数分後。どうにか落ち着きを取り戻したメジロマックイーンは、改めて彼……トレーナーと相対した。
「お見苦しいところをお見せしましたわ。それで……確認なのですが、貴方がチーム『シリウス』の新たなトレーナーとなる方で、間違いありませんわね?」
「ああ、その通りだ。君とは少し、電話越しにではあるが言葉を交わしていたが……対面するのは、初めてだったな。これからは、サブトレーナーではなくトレーナーを務めさせてもらう」
折りたたみ式のテーブルを挟んで、メジロマックイーンとトレーナー。備品のイスは彼が座った瞬間に圧壊したため、トレーナーは地べたに座っているが、それでもイスに腰掛けるメジロマックイーンより目線が高いのは、流石と言うべきか。
メジロマックイーンは、平時の冷静さを取り戻して、トレーナーに声を掛ける。
「ええ、分かりました。では、これからはトレーナーさん、とお呼びいたしますわ。……遅刻に関しては、正当な理由がありましたので、今回は不問に。ところでトレーナーさんは
「すまない、寛大な配慮に感謝を。……先代から引き継いだチーム、私と君の二人になってしまったが……盛り返していけるよう、共に力を尽くそう。そして野球にはあまり興味はないな」
訂正。メジロマックイーンは、まだ混乱している。
「そうですか……残念ですわね。チームに関しては、メンバーを新たに集め直すところから、ですわね。並行して、私の次のレースへ向けてのトレーニングもお願いしたいところです。あとトレーナーさんは
「君の次のレース……先代からも聞いている。私もまた、把握している。『天皇賞(春)』……グレード1のレース。簡単なものではないが、君と私であれば獲れる冠だろう。そして野球の経験は、友人に誘われて数回程度と言ったところだ」
ターフを吹き抜ける風に、トレーナーの鬣のような豊かな髪が靡く。G1のレースを、難しいものではあるが勝てる――正確には、「お前ならば勝てるだろう」と言い切ったトレーナーのその言葉に、メジロマックイーンは知れず身を震わせた。不安はあった。あったが……それらがたった一言で、拭い去られたからだ。力のある言葉と無上の信頼は、ウマ娘を奮い立たせるものだ。故に、
「……ならば。そこまで期待されているのであれば、わたくしも。メジロマックイーンも、わたくしに課された使命を果たさねばなりませんね。……あなたをわたくしの、いいえ。『シリウス』のトレーナーと認めます――ともに、頂点を目指しましょう」
「無論だとも、メジロマックイーン。君は、頂点を射落とせるウマ娘だ。――ともに、頂点を目指そう」
メジロマックイーンの小さな手と、トレーナーの巨大な手――というか、指が結ばれる。交わされた約束とともに、栄光への第一歩目が今、踏み出され――
「ところでトレーナーさん。ビクトリーズに入団する気はございまして?」
「いきなりトレーナーを廃業させようとしないでくれ」
――踏み出された。
この大英雄シリウスTはアプリ版トレーナーの「その時ふと閃いた!」と大英雄の身体能力をどちらも併せ持った怪物です。
容姿はヘラクレス(弓)。身体能力もヘラクレス。技能もまた同様。
ビクトリーズに入団した場合、256km/hでバクシンし、百に分裂してバッターのバットを100%へし折る魔球をぶん投げることになります。マックイーンはパクパクが止まらなくなる模様。
短編だけど、できれば、ライスのブーイングライブを単身でぶち壊すところまで書きたいな。
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ゴールドシップ、沈没する
1/3で休みが終わるのでバクシンで次を書いてとりあえずぶん投げることとします(賢さG)(パワーC)
早朝のグラウンド。乱立する木の影に、巧妙に――本人視点では、だが――隠れる、長身芦毛のウマ娘がひとり。
「大丈夫、大丈夫だ落ち着けアタシ。なんも変わったことをする必要はねえ……そうだろ? パッと出てって挨拶するか、イチ、ニ、サンのステップで『わーい、わーい、とりゃー!』すりゃいいだけじゃねーか。百頭バのゴルベロスを冥界から引き摺り出すより楽勝だ……ゴルゴルアスのウマ小屋程度だ。よし、よし今だ行くぞ……いや待てもう少し様子を……」
明らかに掛かり気味のウマ娘。その視線の先には――
◆ ◆ ◆
ターフの名優メジロマックイーンと身長253cmの巨大トレーナーとの出会いから、明けて翌朝。トレーナーは、メジロマックイーンを伴って、とある用事のために学園の一室を目指し、グラウンドを歩いていた。時刻は始業よりも幾分か早い、午前六時三十分。
この時間であれば、朝練を行うウマ娘は居れど数はそう多くない。メジロマックイーンとそのトレーナーは、その『少ない』コンビであった。おそらく、変に注目を浴びるだろう――と危惧した、メジロマックイーンの英断によるものである。
その方策は、一応の成功を見た。現に、やたらと目立つこのトレーナーに突撃を行うウマ娘は、ここにはいない。――花壇の陰に隠れている、特徴的な被り物の芦毛を除けば、だが。
「それで、ですけれども。お話の前にひとつ、トレーナーさんに伺いたいことがございますの」
「私に答えられることであれば何でも、メジロマックイーン」
「ただ歩いているだけで、ターフとダートに深い足跡を残すのはどうにかなりませんの?」
「すまない。残念ながら不可能だ」
「即答ですわ!?」
まさかの『あきらめる』宣言。メジロマックイーンは溜息を吐いて、後ろを振り返る―― グラウンド中央から今いるこの場所まで点々と続く、10cmほどの陥没痕。トレセン学園に備えられたレース場は全国有数の質を有するものの、ウマ娘が全力で踏み込んだ際に耐えられるほどの強度を有している訳ではない。
即ち、トレーナーの一歩に耐えられる道理もない。
「まったく。側から見れば怪奇現象ですわよ?」
「そのようだ。昨日も、突然地響きが頻発するようになった――と、白衣を着たウマ娘が辺りを駆け回っていた」
「あなたねえ……気をつけた方がよろしいですわよ?」
そのウマ娘の名はアグネスタキオン。ターフに残された足跡を追い、トレーナーを発見し、興味と興奮――そして三徹の疲労の煽りを受け、その場で昏倒したウマ娘だ。なお、彼らはそのウマ娘の名も、昏倒した事実も認知してはいない――昨日一日で、トレーナーが各方面に与えた衝撃が、大きすぎるためだ。
『ちょっとした手伝い』と称して、トレーニング用のタイヤ(ダンプトラック用)を三つ肩に抱えたトレーナーを見て、目を……その後、己の正気を疑ったウマ娘は、十を下るまい。その姿はまるで、天を支える大英雄の如き勇壮さであったと言う――なお、桐生院トレーナーはその衝撃から未だ立ち直れず、本日は病欠である。
「……それで、話を戻しますが、トレーナーさん。チーム『シリウス』が存亡の危機である……というのは、確かなことですの?」
「ああ。百パーセントではないが、かなり高い確度でそうなるだろう。このトレセン学園の規定では、チームの発足に最低限必要なのは……トレーナーが
「そう、ですわね。仕方のないことではありますが……。ですが、トレーナーさん。それでは何故、そんなに落ち着いていられますの? あとなんで荷物搬入口から校内に侵入しようとしていますの?」
「入校のたびに正面玄関の扉を全て取り外す訳にはいかないからだ。……落ち着いている訳ではないとも、これでもな。ただ……駿川たづな殿、と言ったか。彼女には、師……先代トレーナーから、話が行っている筈だ」
トレーナーが、トレセン学園裏門付近、設備搬入用の大入り口から校舎に踏み入る――ズドン、と地鳴りがする。メジロマックイーンは、その後を追って軽やかに廊下へと着地した。
天井は高く、トレーナーが直立しても頭を擦ることは――辛うじてであるが――ない。ウマ娘用のトレーニング機材を運ぶためであるとか、
なお、同様の理由で、トレセン学園校舎は耐荷重、耐震能力も高い。トレセン学園は、広く、大きく、頑丈なのだ。
「ちなみにですが……許可は貰っていますのよね?」
「ああ。近いうちに扉を改修するから、それまでは此方から通勤するように、と。その代わり、君が授業に出ている間に、軽い手伝いを請け負うことになったが」
「それならば良いのです。下手に不法侵入などされて、トレーナーを廃業になられても――ああ、ビクトリーズに入団するために敢えて、と言うのならば涙ながらに見送りますが」
「君はレースと野球のどちらが大切なのだ……?」
「メジロジョークですわ」
メジロとは一体。
思わず真顔になるトレーナーを引き連れ、メジロマックイーンは打ち合わせの場所である、というトレーナー用のミーティング・ルームへと入室した。
◆ ◆ ◆
「ハチミ-ハチミ-ハッチッミ-、ア-ボ-クハテイオ-……ピェッ!? キノウノトレ-ナ-ダ!! ……ってあれ。ゴルシじゃん。
「やめろォ! おまっ、ちょっ、テイオーふざけんじゃねえぞバレるだろうが!!」
◆ ◆ ◆
ミーティング・ルームのテーブルを挟んで、片側に理事長である秋川やよいと、その秘書である駿川たづな。もう片側には、『シリウス』のトレーナーと、メジロマックイーン。トレーナーさん用に用意しました、と駿川たづなが持参した椅子は顔合わせの挨拶が終わると同時に粉砕したため、トレーナーのみ本日も引き続き床に直座りである。
駿川たづなの業務に、トレーナーに耐えうる椅子・机を用意する、というタスクが追加された瞬間であった。
「さて、トレーナーさんから問い合わせを頂いていた件ですが……理事長含め、様々な方へ問い合わせと確認を行いました。結果ですが……」
「……陳謝ッ! 君たちの責任では決してない、ないが……チーム編成の規則は規則ッ! このままでは解散も止む無し、という状況に変わりはないッ!」
駿川たづなは目を伏せ、理事長――椅子に座ってなお、床に座るトレーナーから見下ろされている――は、ばっ、と扇子を開く。でかでかと、達筆で『筋肉ッ!』と記された扇子を突き出す彼女の顔もまた、たづなと同様に暗い。
「……なるほど。厳しい状況ではありますが、決まっている規則を変えづらい、ということも理解はしております。なにせ、師の最後に担当したウマ娘は、『オグリキャップ』でした故に」
「……! 納得ッ! トゥインクルシリーズの、クラシック登録の件か……! だが、対策ッ! 『前例』があるが故に、我々も迅速に結論を出したッ!」
理事長の扇子が閉じ、また開かれる。彼女の扇子は、彼女の発言――正確には、発言時の内心とリンクし、その文字を変える。結論を出した、と胸を張る彼女の扇子には、これまたでかでかと『精悍ッ!』と記されていた。
「……ごほんッ! 結論ッ! チームメンバー集めに関しては、上期……六月の末まで猶予を設けるッ!」
「六月。であれば――彼女の、当面の目標までは、それを気にすることはない、ということか。それを、早くに知れたのは有り難い――感謝します、理事長。駿川殿」
「無用ッ! もっと融通を利かせられれば、良かったのだが……力不足だ、すまないッ!」
「私からも。出来ることがあれば、可能な限りお手伝いをいたします。……それと、私のことは駿川ではなくトキ……でもなく、たづな、と呼んでください」
トキ……? と首を傾げるメジロマックイーンをよそに、トレーナーは両手をテーブルにつき、頭を下げた。
「尽力に感謝いたします、御両人。そちらについては追々考えますが……今のところは、メジロマックイーンの使命を果たすことに、全力を尽くそうかと」
「それが良いと思いますよ、トレーナーさん。私の方でも、チームメンバーの件は考えてみますから。……あっ、名案が浮かびました!」
「名案、ですの? たづなさん、それはどのような――」
「私がメンバーとして加入しちゃいます!」
「何を仰っておられますの!?」
両手をぽん、と合わせ、にこりと笑うた駿川たづなと、目を見開くメジロマックイーン。どういうことなの、と言いたげなマックイーンをよそに、秋川やよいが横槍を入れる。
「静止ッ! たづな、流石にそれには無理があるッ!」
「理事長さん……! ええ、そうですわよね。いくらなんでも、たづなさんでは――」
「――お前だけではメンバーが足りないッ!」
「そういうことじゃありませんわ!?」
理事長の扇子が『承認ッ!』と切り替わる。
「あら……確かにそうですね。じゃあ、友達も呼びましょう」
「呼んでどうにかなるものではありませんわよ!?」
「そうですね……シンザンとセントライトにでも声をかければ大丈夫でしょうか?」
「
「……? ええ、ウマッターで呼べば。昔からの友人ですし、トレーナーさんの話をすれば確実かと。後ひと枠には……理事長、参加されますか?」
「うむッ! 楽しそうだッ! どうせならばアオハル杯も復活させ、チーム戦と行くかッ!」
「……どういうことですのぉぉ!?!?」
新生・チーム『シリウス』。メンバー、シンザン。セントライト。トキノ……駿川たづな。ノーザン……秋川やよい。そしてエースのメジロマックイーンと、大英雄トレーナー。
あまりにも、メジロマックイーンに辛すぎるチーム編成であった。方向性は違えど伝説、伝説、伝説、伝説、名優、そして伝説。いくらメジロマックイーンが将来的にそこへ並び得る優秀なウマ娘だとあっても、これではやけスイーツとユタカに逃避せざるを得ないというものである。
「うふふ、流石にたづなジョークですよ、マックイーンさん」
「その通りだ。気に掛けて頂いているのは有り難いが……依怙贔屓はよろしくない。我々にとっても、他のチームにとってもな」
「流石です、トレーナーさん! ところで今晩お暇ですか?」
「先日貸与いただいた部屋の備え付けのベッドが一夜で粉砕したため片付けをしなければならない」
「そうですか……それは残念です。マックイーンさんのトレーニングもありますし、無理は言えませんね」
「済まない。また時間があれば、近場の美味い店でも教えて頂きたい」
「……! はいっ!」
「スイーツですの!?」
「夕食だ」
わいわい、と俄かに活気立つミーティング・ルーム。それより数刻後、とりあえずの方針として、メジロマックイーンが軽く勧誘を行いつつ、当面はトレーニングに集中する……と決定したのだった。
◆ ◆ ◆
「それでゴルシー。いつになったらあのトレーナーに声かけるのさ」
「おま、ちょっ……こういうのはタイミングがだな。下手に飛び出したら轢かれるんだよ。見ろよあの筋肉、ロードローラーだぜ」
「でもあのトレーナー、もうどっか行っちゃったよ。ゴルシが下向いてぶつぶつ言ってる間に」
「……ウォァァァアッ!!」
「ワッビックリシタ-! キュウニサケバナイデヨ-!」
◆ ◆ ◆
「ところで、メジロマックイーン」
「なんですの、トレーナーさん」
「先程から木の影に、
「……ゴールドシップさん、ですわ。あの方、自己紹介もしてませんでしたのね……」
なお。余談ではあるがトレーナーは、シンボリルドルフから「ゴールドシップを調伏した」として、賞状とカフェテリアのスイーツ一週間パスを授与されたのだった。
ぱかチューブのゴルシとテイオーの回ほんとすき。
※9時くらいに投稿予定だったけどはちみーのうたのJASRACコード調べてたら遅くなったのはナイショ。おのれテイオー。
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メジロライアン、共振する
???「ちょわっ!? つまり、手癖で二回書けばよろしいのではっ!? またお悩みを解決してしまいましたねっ!! バクシンバクシーン!!」
だいたいこんな感じです。
寮の門限をとっくに越え、日も変わろうかという深夜。生徒の一人たりとも存在しない筈のトレセン学園敷設グラウンドに、ターフを駆ける足音がひとつ。
「はっ……っ、はっ……! もう、一本! 勝つためには、まだ……!」
メジロマックイーン。チーム『シリウス』唯一のメンバーであり――使命である天皇賞(春)が間際に迫った、ウマ娘。彼女が、鬼気迫る表情で脚を動かしている。
名家であるメジロ家のウマ娘らしく、お嬢様然とした――
ただし――今のこれは、明らかなオーバーワークだ。メジロマックイーン自身ですら、オーバーワークを半ば自覚しており、またトレーナーの指示を破っていることに対する罪悪感も覚えている。覚えていてなお、走らざるを得ないほどにプレッシャーを感じている。
「……ま、だ……っ、あうっ!?」
だが、無茶は長くは続かない。前に出そうとした脚が突っ掛かり、態勢を崩す。
「――危ないッ!」
夜闇を切り裂くトレーナーの大音量。メジロマックイーンが倒れながらも振り向くと、そこには慌てた顔で駆け寄ってくるトレーナーの姿が――
「……???」
――そんな可愛らしいものが映っているはずもない。
メジロマックイーンの視界……少なくとも、ターフを数周する際に視認できる範囲にトレーナーの姿はなかった。見落としている、という可能性はない。いくら夜が暗かろうと、253cmの巨体を見落とせる筈がない……その筈だったのだが、その男はどこからともなく現れ――メギョンッ、という形容し難い破砕音。
その音に従い、倒れながら目線を動かす――必要は、全く無かった。グラウンド脇、模擬レースの際に観客席として開放されるそこを蹴ったのであろう。蜘蛛の巣状に無惨な罅の入った、爆砕という単語も斯くやの状態となった観客席を背に、いや足に。
地面と並行になって、一直線にカッ飛んでくるトレーナーの姿。
メジロマックイーンの思考が止まる。
「――ぬゥんッ!!」
しかし、射出角――人間相手にこの表現も可笑しいが――からして、彼の飛距離はメジロマックイーンまでは届かない。ならば、とトレーナーはターフに着地すると同時、その大木のような脚を地面に深く深く突き立てる――震脚。
局所的に、大地が揺れる。トレセン学園校舎の窓ガラスがビリビリと振動する。踏み抜いた脚から指向性を持って、一直線にメジロマックイーンへと放たれたのは――そう。
衝撃波だ。
メジロマックイーンは生まれて初めて、『倒れながら浮かび上がる』という体験をした。貴重な体験であった。メジロマックイーンの真下で炸裂した衝撃波は、さながらゴムボールのように、159cmの身体を完全に浮かび上がらせる。疑似的な無重力状態。それが続くのは三秒か、その程度であるが……トレーナーにとっては、それだけあれば充分であった。一歩、二歩、そして最後の一足で、彼はコース上に落着するメジロマックイーンの下に滑り込み、その身を抱き止めた。
「無事か、メジロマックイーン」
「……トレーナーさん。どうして、ここにおられますの」
「私は、君のトレーナーだ。君が私に隠れてトレーニングをしていることも、君の調子も。分からない訳はない」
「……そう、ですか」
トレーナーは、人知れず息を吐いた。疲労は蓄積しており、暫く休養させるべきだが……怪我はない。それだけは、喜ぶべきことだった。
「ああ、そうだ。それに……君が倒れそうになったならば、必ず飛び出して支える。何処にいてもな。それが、人バ一体のトレーナーというものではないかね」
「……もうっ! ……分かりました、わたくしが……悪かったですわ。申し訳ございません、トレーナーさん」
メジロマックイーンは観念したように、こてん、と頭をトレーナーに預けた。少しばかり気恥ずかしい気もするが、今更だし……誰も見ていないのならば、と。
「さて。話し込んでも構わんが、まだ夜は冷える。部屋まで送っていこう」
「歩けますわ、降ろしていただいても……」
「今日はもう、無茶は控えておくべきだ。違うか?」
「……仕方ありませんわね。では、お願いいたしますわ」
トレーナーに横抱きに抱かれ、メジロマックイーンは運ばれてゆく。彼はマックイーンを部屋まで運び、少し会話をした後、彼女を眠らせ……その足で、駿川たづなの元へ出向いた。観客席を破壊し、震脚からの衝撃波で校舎の窓ガラスを爆砕し、最後の滑り込みでターフを抉り取ったことの謝罪のためだ。
一部始終を説明し、謝罪し。課された沙汰は――「それだけウマ娘のことを考えておられるならば、言うことはありません。次からは、気をつけてくださいね?」という言葉と、数枚の始末書のみであった。
それだけか、と問うトレーナーに、たづなは頷くだけ。その横に薄ぼんやりと現れたイマジナリー理事長も、『豪快ッ!』と扇子を広げ、呵呵大笑するのみであり、トレーナーは二人の好意に甘え、もう一度頭を下げるのであった。
余談ではあるが、大型の獣が暴れた跡のようになったグラウンド周辺は、夜のうちにメジロ防衛隊工兵科とトレセン学園工作部が修繕した。これが、これから長い付き合いとなる両者の、初めての共同工事であった。
一夜明けて、翌朝。大事をとって休養日とし、部屋にて休まされているメジロマックイーンと、その世話をしているトレーナーのもとへ、来客があった。爽やかな笑顔、ベリーショートの髪のメジロライアンである。
「いやあ……それにしても聞きましたよ、トレーナーさん。昨晩、凄かったらしいって」
「面目ない。トレセンの事務課へは謝罪と、感謝を伝えたのだが。君たちのお抱えには会えずでな」
「気にしないでください! 防衛隊のみんなも、マックイーンを怪我させないでくれたぶん、むしろ感謝してましたから。……驚いてはいましたけど。『こんな足跡、ヒトどころかウマ娘のものでも見たことがない』って」
ベッドにマックイーン、椅子にライアン。トレーナーは当然の如く、床である。礼儀として座布団は用意されているものの、完全に押し潰されたそれは最早、以後鍋敷きとしてしか使用できないだろうが。
「しかし、それにしても……トレーナーさん」
「何かね、メジロライアン」
「……また、キレが増しました? 特にその上腕と、肩の筋肉」
「わかるか。しかし、君もまた……仕上げてきたようだな」
「あなた達がなんの話をしているのか、わたくし、時たま分からなくなりますわ」
メジロライアンが、トレーナーの……無地に黒の筆文字で”メジロマックイーン”とだけプリントされたダサTから伸びる上腕三頭筋と、三角筋、僧帽筋を指して言い、対するトレーナーはメジロライアンの前腕とトモを賞賛する。
「上半身、下半身共によく鍛えられている。しかし特筆すべきはやはりトモか。筋肉として鍛えられてありながら走る為の機能を損なっていない――否、逆か。走るために最適化されているにも関わらず、君の全身の筋肉は優れたパワーも秘めている。強靭かつしなやか。柔らかいが、密度が高い。良い筋肉だ」
「あ、あはは……何か恥ずかしいですね」
「失礼。レディに向ける視線では無かったかな」
「ちょっ、レディだなんて、そんな……!」
顔を赤くしたライアンがぱたぱたと頬を扇ぎ、マックイーンは微笑ましげにそれを眺める。マックイーンの視線に気付いたライアンは、こほん、と咳払いして立ち上がった。
「いやー……慣れないです。マックイーンのトレーナーさんのことですから、冗談とは思えないんで……それは、嬉しいですけど」
「ならば良かった。世辞を言ったつもりはないからな」
「もう。……さて、私も次の用事があるんで」
「あら、もう行かれますの?」
メジロライアンはにかり、と明るい笑みを浮かべた。
「やりますか」
「うむ」
「……えっ?」
メジロライアンと、トレーナーが立ち上がり相対する。二人の間に敵意はない。ないが、集中力が高まってゆく。それが、最大に達したところで――
「――レッツ!!」
「――アナボリック!!」
「!?」
「ふんッ!」
「ぬんッ!」
メジロライアン――アブドミナル&サイの構え。
トレーナー――モスト・マスキュラーの構え。
メジロライアンのトモが光る。ウマ娘と言えば脚だろう、と言わんばかりのポージング。そこにボディビルが如き隆々の筋肉はない、と侮るなかれ。見るものが――ウマ娘のトモには一家言あると噂の有名人、沖野トレーナーなど――見れば、息を呑むほどの張りが、そこにはある。
「はぁ……ッ!」
基本的に、ウマ娘は人間よりも優れた種である……と言われる。そしてそれは、間違いではない。間違いではないのだが、その「優れている」にも程度がある。
瞬発力、筋力などは人間など及びもしないが……頑強さは、多少上、程度。ウマ娘という種族全体が、出力に対してハードが追いついていない。軽自動車にターボエンジンを載せているようなもの――端的に言えば、ウマ娘は全員ターボ師匠なのである。それ故に、ウマ娘の『仕上がった筋肉』の定義は、ヒトのそれとは異なる。
「ふん……ッ!」
対して、トレーナーの筋肉は、まさしく『筋肉とは此れ斯くあるべし』と言わんばかりの頑強さ。ヒトがヒトのままウマ娘と並び立つならばこうなるだろう、という想像を、そのままヒト型に彫り出したのが『シリウス』のトレーナーだ。最早ボディスーツと見紛うほどに引き伸ばされ、パツパツになったTシャツが、それを如実に表していた。
そんな二人が、方向性の異なる筋肉を引っ提げ、見合ったまま暫し硬直。ぎしり、と筋肉の軋む音が聞こえて来そうなほど、それは堂に入ったスタンディングであった。
「――???」
なお、二人の間に挟まれたメジロマックイーンはと言えば。トレーナーの肥大した大胸筋の上に横一文字に鎮座する、己の名前を見ながら……機能停止したミホノブルボンと同じ顔で、宇宙へ意識をやっていた。
「――……これまでか。やはり、見事なものだ」
「あ、終わりましたの? 二人して急にアナボリックしないでくださいな。混乱しますわ」
暫くしてトレーナーが、そしてライアンがポーズを解く。それに伴い、脳内でユタカへエールを送っていたマックイーンも、宇宙から戻ってくる。彼女の脳内に限っては、ビクトリーズに敗北はない。
「……ふうッ! ごめんねマックイーン。いつもやってることだからさ」
「いつもやっていますの!?」
いつもやっているのである。目と目が合えばポージング、先日は偶々居合わせた桐生院トレーナーがそれを目撃し、意識を失い医務室へ運ばれた……が、ヒトはともかくウマ娘にはウケが良かったようで、その際の写真が出回っているとか。
「それにしても……トレーナーさん。やっぱりとんでもないですね。トレーナーさんがもしウマ娘として生まれてたら、どんな娘だったのか気になっちゃいますよ」
「ふむ……そうだな。メジロマックイーン」
「? なんですの、トレーナーさん」
トレーナーは、至極真面目な顔をして担当ウマ娘へと向き直った。
「私もメジロムナイタとしてヒト息子デビューすべきだろうか」
「メジロブライトみたいなイントネーションで言うのやめてくださいまし流石のあの子も泣きますわよ」
「メジロジョークだ」
「あなたはメジロではありませんわよねえ!?」
メジロマックイーン、迫真のツッコミであった。
・余談そのいち
シリウスTのクソダサTは他にも「皇帝の肯定」「中山の直線」「ユタカしか勝たん」などがあります。なお、先日皇帝の肯定Tシャツを着ていたところカイチョ-と遭遇し一気に仲良くなった模様。
・余談そのに
前半のシリウスTが突っ込んでくるところはだいたい映画HFでヘラクレスが飛んでくるところを想像していただければOKです。最初はトレセンの鐘撞き塔から飛んでくる予定だったけど流石に変えました。
・余談そのさん
ライアンも若干掛かり気味です。
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メジロマックイーン、駆ける
評価も感想もここすきも沢山いただいて、有難い限りです……!!
全員書き出したかったのですが、ありがたい事に数が多かったので断念。ここでみなさまにお礼申し上げます!!
でももっと評価欲しいな!!!!(強欲)
※一話で何故か春天を天皇賞(秋)と書いていたのをサイレント修正。時系列ガバガバかよギリシャ神話か。
メジロ家の悲願にしてメジロマックイーンの使命である、天皇賞のひとつ……「天皇賞(春)」の開催が間近に迫った、とある日のこと。四月の風の吹き抜けるトレセン学園ターフコースを駆ける、一人のウマ娘とそれを見守るトレーナーの姿があった。
「――よし、そこまでだ。最後までスタミナ切れもなし、上がり三ハロンのタイムも上々。仕上がっている、と言うに不足はないな」
「はぁっ、はぁっ……当然ですわね。わたくし自身、以前に比べても遥かに手応えがあります。……無茶をしたことは反省していますが、結果、『無茶のしようがないほど』限界ギリギリまで追い込んでいただけるようになったのは……けほっ」
「座って息を整えなさい。しばらくは脚を休める必要がある」
ターフの端に――他のウマ娘の邪魔にならない位置だ――に広げられた、折り畳み式のテーブルとイスが二脚。うち、片方はキングサイズ――もちろん、駿川たづなの用意した、特注の、トレーナー専用のもの。
メジロマックイーンの着席を待ってから、トレーナーがそれに腰を下ろす――粉砕しない。たづなが素材を手配し、アグネスタキオン――どうしてもトレーナーのサンプル・データが欲しかったらしい――が耐荷重構造を設計した、特注品だ。対価として、たづなには食事一回、タキオンにはデータ収集一回が約束されているが……彼女らの努力が身を結んだ形となる。
なお。無事な椅子の横に山積みにされた無残な残骸と折り畳まれた複数の予備、そして更にその横で倒れているアグネスタキオンを見ればわかる通り、消耗品である。三回、あるいは連続五分以上の着席で、この椅子は爆発する。完成品のデータをウキウキで採取しに来ていたアグネスタキオンは、高笑いの末昏倒した。既に慣れきった二人は、彼女をそのまま寝かせてミーティングを続けている。
「まだ、走り始めてそこまで経っていませんが……それほどですの?」
「ああ。そこからもう一本走れば……そうだな。ラスト一ハロンに入る前には、『身を削る』域に入るだろう」
トレーナーは、眉間に皺を寄せて固い表情のメジロマックイーン……正確には、その脹脛のあたりを注視する。その射抜くような視線には、はっきりと……過度の熱を持ち
「疑うわけではありませんが。よく分かりますわよね? わたくし自身、自分の脚ですが、見たところで何も分かりませんのに」
「ただ単純に、表皮の上から筋肉の動きを見るだけだ。腕に力を入れて力こぶを作ったとき、小さな動きでも筋肉の収縮がわかるだろう。それと同じだ」
「流石に無理がありますわよ」
チーム『シリウス』トレーナー、あらゆる物事から「その時ふと閃いた!」ができる発想と観察眼、そして卓越した自身の筋肉の成せる技であった。
なお、この筋肉による判定は、やや過剰気味にトレーニングの抑制をしてしまう弊害はあるが――それ故に、ウマソウルに悲劇を抱えたウマ娘に対しては、その悲劇を未然に防ぐ手立てとなる。起こらないが故に評価されることも無いが、それは確かに偉業であった。
「……ところで。脚を酷使は出来ないが、それ以外ならばできる。故に尋ねたいのだが……ウイニング・ライブの準備は進んでいるか?」
「勿論ですわ。メジロ家のウマ娘たるもの、ライブを疎かにする訳はありません」
「ならば良いのだ。私も教えられぬということはないが、やはりメジロ家専属の指導員がいるというのは大きい」
「はい……はい? えっ? ライブ指導できますの?」
「出来るが」
メジロマックイーンは、思わず真顔になって聞き返した。返ってきた言葉に、それが聞き間違いではないことを理解した。
「いや、しかし、でも……えっ? トレーナーさんが、ライブ指導を……?」
「そもそも、だメジロマックイーン。地方については知らないが、この中央トレセン学園のトレーナー資格を獲得するためには、トゥインクル・シリーズで開催されるレースのウイニング・ライブ、その歌詞と振り付けを習得しておらねばならない」
「
「
メジロマックイーンは、知れずごくり、と唾を呑み込んだ。
己が、開けてはならない箱の蓋を開けようとしている、と予感したからだ。
「……ちなみに、ですが。サブトレーナーのみ可能な準二級から始まって、二級、準一級、一級……とライセンスがありますわよね?」
「うむ」
「……一級、となると、何を踊れなければならないのです?」
「全部だ」
「全部!?!? あの、それはつまり……」
「ああ。『Make debut!』に始まり 『うまぴょい伝説』、果ては『彩 Phantasia』まで、全ての振り付けと歌唱を習得している」
メジロマックイーンは、このトレーナーと会ってから何度目かになる大きな衝撃を受けた。トレーナーが踊っている情景は想像できない。至極当然であった。
「……し、信じられませんわね。しかし何故、そんなことに……?」
「なんでも、ウマ娘を育成し導く責務のあるトレーナーは、たとえレース外のことであっても彼女らから頼られ、信頼される必要があるため……だ、そうだ。私としても、これには賛同できる……現に、『リギル』の東条トレーナーなどは自身でダンスレッスンを担当していると聞く」
「……なるほど。わたくしとしても、あるいは一人のウマ娘としても。ダンスレッスンの相談が出来る相手がいる、というのは安心できますわね」
「あとは、同僚と二人でショッピング・モールにて実施されるウマ娘関係のイベントを担当することになり、そこで懇意の記者から半ば無茶振りで『うまぴょい伝説』を踊らされるような状況に陥っても対応できるように、だそうだ」
「そんな限定的すぎる状況設定が起こりうるはず有りませんわよね!?」
残念ながら、事実は小説よりも奇なり……である。
「……しかし、トレーナーさんが……ですか。……ふーむ」
「疑うのも無理はない。客観的に見れば、どうしてもな。……ああ、ならば証拠でも見せようか」
「……えっ?」
「ではゆくぞ。刮目するがいい――コメくいてー(でも痩せたーい)」
「うわっ」
筋骨隆々、強靭無比、天下無双の肉体を収縮させ、肩をすくめ掌は上向き、手は肩の横。少し斜めに沿った体幹は全身の筋力でがっちりと固定し、一切のブレなく上体を傾ける。少し浮かべた右脚やつま先、胸の張り方、どこをとってもお手本のようなポーズに――浮かべた表情は、迫真の『コメくいてー顔』であった。
ようやく意識を取り戻していたアグネスタキオンは、その顔を見て再度昏倒。たまたま同じグラウンドを使用していたマヤノトップガンは真顔で「マヤ分かんない」と呟き、駿川たづなは何処かへと駆け出し、桐生院トレーナーはやはり精神にダメージを負い、気を失い
「……こんなものか。どうであった、メジロマックイーン」
「びっくりしましたわ」
「驚くことではない。一級ライセンスを持っているトレーナーならば誰でもできることだ」
「誰でもですの!?」
「うむ。留学へ出る前、見送りの酒の席で先輩方……沖野トレーナー、黒沼トレーナーと三人でうまぴょいしたのは良い思い出だ」
その言葉を裏付けるように、トレセン学園資料室の持ち出し厳禁コーナーには、当時の映像が残っている。たづなが駆け出したのは、シリウスのトレーナーの話を聞いて駆け出したウマ娘達から、それを死守するためであった。
「……トレーナーって凄い職業なんですのね。わたくし、勉強になりましたわ」
「それがトレーナーというものだ。私たちは、君たちウマ娘の為ならば『なんでもする』……ならば、昔の話を持ち出して、君の強張りを和らげるくらいは、してみせるとも」
「あ……」
メジロマックイーンは、己の眉間から力が抜けていることを自覚した。そして少しだけ、ばつが悪そうに頬を染める。
「……緊張するな、と。仰って下さればよかったのに」
「君が力を入れるのも無理はない。理解はしている。緊張してはいけないのではなく、不要な力が入り過ぎるのが良くないだけだ――実力を発揮できれば、勝つのは間違いなく君なのだから」
トレーナーの大きな手が、メジロマックイーンの頭を優しく撫でる。それは少しの間の事であったが、その言葉は、彼女が最後の一押し、限界ギリギリのところでもう一度加速する力となり――
◆ ◆
――天皇賞(春)、その終盤。最終コーナーを回って、直線へ差し掛かろうか、と言うところ。
スタミナの切れかけたマックイーンの脳裏に閃いたのは、トレーナーと積み上げたトレーニングの日々であった。
確かに、あのトレーナーは色々と規格外ではある。冷静なように見えて、抜けているところも多い。何故か掛かっているウマ娘も多いようだが、それを跳ね除けて自分と二人三脚で、走ってくれる。
練習した通り、そこで前のウマ娘を躱せ。外に出たら一歩踏み込め。コーナーを曲がればあとは、と。だから、そう。
「――突き抜けろ、マックイーンッ!!」
聴こえる――貴賓席からここまで何
人バ一体。その一端を体感した気がして、視界の端に一瞬だけ映った貴賓席の方へ目をやる――ガラスは声の圧で罅だらけになっていたし、見学に来ていたらしい
ガラスの罅で心が繋がっていることを理解する、というのも締まらない。けれど、そんな彼にも慣れてしまいましたわね――そして。初めて、わたくしのことを『マックイーン』と呼んでくれましたわね、と。
「――や、ぁ、ぁあああああああっ!!」
ガラスの奥、腕組みをして仁王立ちをするその威容。トレーナーの応援を背に受けて。
ターフの名優、メジロマックイーンは、最終直線にて更に後続を突き放し、問答無用の一着を勝ち取った。
ドキドキってもっとファンタジア(重低音)(バリトンボイス)(キレ味抜群のダンス)
みなさんそういえば、やっぱウラライス好きみたいですねえ……ストーリーシナリオとは別だけど、ウララや他のウマ娘の登場も考えようかしら。
あ、次回はついに「例のあの人」が出ます。
2022/01/17:トレーナーの声が普通にマックイーンまで聴こえていたのを修正。確かに走行妨害だし……指摘くださった方、ありがとうございました!
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やべーやつら、出会う
遅い……ッ!!(スピG根性G賢さG)(G1苦手)(パワーC)
お待たせいたしました。例のあの人が出てきます。
天皇賞(春)が終わって、――つまり、『シリウス』のホープであるメジロマックイーンが盾の栄誉を手にした、その翌日。
チーム『シリウス』に貸与されたミーティング・ルームにて、メジロマックイーンとそのトレーナーは、一人のヒトと向き合っていた。メジロマックイーンとそのヒトは椅子に、トレーナーは椅子……のような何かに座って。
トレーナーが腰を下ろすそれは、まず四角かった。次いで、通常の椅子にはある脚がなかった。腰を下ろす座席の部分が、そのまま立方体になっていた。
これを用意したアグネスタキオンは、至極悔しそうな
ともかく……その尽力のお陰で、トレーナーだけ床に座る、という事態は避けられた。ギリギリで体裁が整った、そんな二人の前に座るヒトは、しかしトレーナーの巨体や奇妙な椅子など気にもかけないように口を開いた。
「改めまして。この度は天皇賞(春)の勝利、おめでとうございます。メジロマックイーンさん」
メジロマックイーンに向かって、そう祝いの言葉を述べる女性。ゆるく伸ばした濃いブラウンの髪に青色の目。目と同じ色のインナーに、白のスーツをばっちり着こなし、胸元にはワンポイント、蹄鉄型のアクセサリー。
美人、美少女揃いのウマ娘に勝るとも劣らぬ恵まれた容姿をして、その奇矯な振る舞いから付けられた渾名は『変人記者』。
そう、彼女こそ、
「ええ、ありがとうございますわ――乙名史さん」
トレセン学園のトレーナー一同曰く、『月刊トゥインクルのやべーやつ』。乙名史悦子、その人であった。
「トレーナーさんも。留学帰り、チームメンバーの問題、短期間に色々と難しいことが重なりましたが、この素晴らしい結果。おめでとうございます」
「ありがとうございます――ですが、この結果はすべて彼女、マックイーンあってのものです。私は、それを支えただけに過ぎません」
「……す……ッ!!!!」
乙名史記者は、何事か言いかけてぐっ、とそれを呑み込んだ。側から見れば、
す? と疑問符を浮かべるマックイーンを尻目に、乙名史記者によるインタビューは開始された。
「……こほん。失礼いたしました。それでは、まず――」
インタビューそのものは、順調に進んだ。勝因やトレーニング・メニュー、レースで他に注意していたウマ娘の名や次に目指すレース。はたまた、マックイーンにはレースの感想や調子、トレーナーとの信頼関係など。聞くべきことを丁寧に、礼を尽くして。しかし語りやすいように尋ねる乙名史記者は、成程確かに敏腕の名に相応しいものであった――時折、何かを堪えるように震える以外は。
それは乙名史悦子という記者の、天皇賞の覇者であるウマ娘とトレーナーに対する誠意と尽力であった。あったのだが、側から見ればそれは断続的な胸痛の発作を我慢する素振りにしか見えなかった。
そして――メジロマックイーンは、優しいウマ娘である。
名家メジロ家の御令嬢――分家の出ではあるが、十二分に貴門の出自と言って良い――であっても他者を見下さず。
銘菓メジロ家の御饅頭―― 天皇賞(春)の出走ウマ娘ポスターは、やや下から顔を見上げるアングルだったため、頬がもちもちしていると話題になった――だのと言われても親しまれるほどには気安く、優しい。
であるからこそ、メジロマックイーンは何度目かの
「あの、乙名史さん? 体調がよろしくないようであれば、後日に回しても構いませんけれど……。わたくし、時間は空けますので」
「いえ――いえ、いえ。……いえ、大丈夫です。お気遣いありがとうございます。ですが、問題ありません」
「息も荒いし顔も赤いし『いえ』って四回言いましたわよ」
「ああ。ご理解頂けると思うが、我々トレーナーがまず優先するのは彼女ら、ウマ娘のこと。軽微なものであっても、彼女らに……マックイーンに影響が出得るのならば全力を以てそれを――」
普段の乙名史記者を知るものであれば、この程度で済んでいるのは賞賛に値する、と口を揃えて言っているだろう――否、言って
「ウマ娘のために?」
乙名史悦子の身体の震えが、ぴたりと不気味に静止した。
「では」
そして、その身体が震え出す。ペンと手帳を持つ両手がそれぞれ固く握られ、脇はぐっ、と締められる。縮こまったその態勢に、マックイーンは「何か爆発する直前の爆弾のようですわね」、と的確な感想を抱いた。
「トレーナーさんは」
しかし、マックイーンに出来たのは、そう思うところまでであり――
「マックイーンさんのために、彼女の望む全てを叶える覚悟があるということですねッ!?」
「勿論、トレーナーとは、そういうものだと……」
彼女は、ついに限界を迎えた。
「――素晴らしいですっ!!」
「!?」
飛び上がるように背を仰け反らせ、虚空へ顔を向けながら叫ぶ。それは明らかな奇行であり、その顔は恍惚に染まっている。遅まきながら、メジロマックイーンは理解した――眼前のこの女性は、決して悪い人ではない。悪い人ではないが、たまに球場で見かける
「まさか……まさか、噂の『シリウス』のトレーナーさんが……ウマ娘の為ならば東奔西走っ!! 三日三晩であろうと寝ずに駆け回り、望むもの全てを直ちに揃えるっ!! 栄養バランスを考えた食事は全て五つ星ホテルのシェフに注文し、怪我を防ぐために毎日マッサージ!! 少しでも不調があれば、いつでも世界中の名医を招聘するということですね……ッ!!」
メジロマックイーンは、思わず乙名史記者から目を逸らし、トレーナーを見た。口には出さなかったものの、その目は『この方は何を仰っていますの?』という、内心を如実に映し出している。
トレーナーは、その視線を受けて大きく頷いた。当然、マックイーンとトレーナーの思うところは一致しており――
「それだけではない」
「それだけではない!?」
「それだけではない……ッ!?!?」
そんなことはなかった。
上から順に、トレーナー、マックイーン、そして乙名史記者の順である。
「乙名史記者。言うまでもなく、トレーナーというものは、ウマ娘のために存在するもの。彼女らがそれを望むならば叶えるまで。そんなことは、当たり前のことです」
「おお……なんと……!!」
「故に、私はフランスで知り合った百人の名医といつでも連絡を取れるようにしていますし、そのうち特に親しい一人――仮にAとしましょうか、彼には彼女の脚の負荷のかかりやすい箇所を洗い出すように依頼しています」
「そんなことをしていましたの!?」
「君の脚のためならば、労力など安いものだ。……ああ、勿論祝勝のご褒美も用意している。都内有名ホテルからスイーツを取り寄「スイーツ!?」……うむ。英気を養ってほしい」
さらりと言い放つトレーナーからは、確かな覚悟が感じられる。ウマ娘のために全てを擲つ――トレーナーの中でもごく一部しか抱えられないその意志を目の当たりにして黙っていられるほど、乙名史悦子は我慢強くはなかった。
全身から彼女の力が溢れる、即ち――
「おお……っ!! おぉ……っ!! なんと……これは……っ!! ……素晴らしいですっ!!」
――乙名史悦子(第二再臨)である。
「それほどまでにッ! マックイーンさん、そしてウマ娘のことを考えておられるのですね……ッ! 脚の負担を気にされるということはッ! 課題はスピード……いえ、パワーでしょう! それらを鍛える為ならば最高のトレーニング機材を自費で購入! 医学、薬学、バ体力学、すべての最新論文に徹夜で目を通し、常に知識をアップデートするだなんて……ッ!!」
「スイー……ではなく! 今の一連の流れでなんでわたくしの課題を見抜けておりますの!?」
流石の知識量と言うべきか、言葉尻のわずかな単語と天皇賞のレース映像から課題を割り出す。それが出来るほどには、乙名史悦子という女は優秀であった。優秀であったが、しかし。そのトレーナーにも引けを取らない知識量は、自身を客観視するという点に関して、何の役にも立たないものであった。
「……その、トレーナーさん? この方……」
「うむ、君が心配になるのも無理はない。だが、大丈夫だ。安心すると良い」
マックイーンはトレーナーに、この乙名史という記者は記者として大丈夫なのか、という意味を込めて問いかけた。とんでもない記事――それこそ、Vやねん、マックイーン! のような記事――を書かれては、たまったものではないからだ。
トレーナーは対して、大丈夫だ、と答えた。人バ一体、流石は天皇賞の覇者たるペアであった。トレーナーはマックイーンの不安を払拭するように、乙名史へ向けて――
「それだけではない」
「それだけではない!?」
「それだけではない……ッ!?!?」
そんなことはなかった。
トレーナー、二度目のコミュニケーションミスである。
(ああ、ユタカ――はこんなところに呼ぶのは可哀想ですから、テイオー! あなたのツッコミで、わたくしを助けてくださいまし……!)
トレセン学園のどこかで、『マックイ-ンハボクノコトナンダトオモッテルノ-!?』という、特徴的な悲鳴が響いたことを知らず、トレーナーは至極真っ当に頷いた。
「学園にある機材はいずれも一流。ですが、足りないものがあれば購入するのは当たり前。知識を常に更新するのもまた同様。それは当然のことです」
「ふおぉぉ……っ!!」
「ですが……私には、更にその先が許されております」
トレーナーは徐に立ち上がると、
「ぬんッ!!」
グッ、と全身に力を込めた。筋肉が膨張し、空気を圧し、パァン、と音が鳴る。金属製の扉はガタガタと音をあげ、窓ガラスはあわや粉砕する一歩手前であった。勿論、壊れなかったのは昨日、京都レース場貴賓席の窓ガラスに罅をいれたことを反省しているからであった。
「私はこの通り、身体が強い。故に、ウマ娘に役立つであろうと様々なものを試してきました。ヒト用の競争技術に加え、武道や格闘技、身体を使う様々な技術。……それらを統合させ、昇華させたものを、私は修めています」
トレーナーは、その場で右脚に力を込めた。『掛かり』を起こしたウマ娘が全力で暴れても耐えられる筈の床が大きく撓むほどの力。それでも、トレーナーの脚には、苦痛ひとつも発生してはいなかった。
「この中央トレセン学園には、アグネスタキオン、という生徒が在籍しています。賢い娘です。その彼女が言うには、私の身体は確かに頑丈であるが、それにしても頑丈に過ぎる。本来ならば私の身体も、私の全力には耐えられない筈だ、と」
「でしょうね」
マックイーンが思わず口を挟んだ。ウマ娘同様のパワーで、ウマ娘の六〜七倍の体重を支えて蹴り出すのだから当然である。トレーナーは、意にも介さず続ける。
「それはつまり、技術であると。意識的、無意識的なものも含め、いかに負担を掛けぬか、力を分散させるか。歩き方、走り方ひとつを取ってもその技術が含まれている……ならば、それを研究し、再現できれば。それを、彼女はプラン『M』と呼んでいます」
「なん、という……す、すッ!! すッ!!」
「例えば、ウマ娘のシューズや蹄鉄。勝負服のサポーター。その辺りに、負荷分散機能が搭載されれば。硝子の脚、と称されるようなウマ娘であっても、全力で走れるようになる。彼女であれば、それだけの成果を出してくれることでしょう」
余談ではあるが。将来その研究成果――即ち、プランマッスル――の完成形を引っ提げたアグネスタキオンが、チーム『シリウス』に合流することになるが、まだ先の話である。
先の話であるが、乙名史悦子はそこまでを想像、もとい妄想し――
「……素晴らしいですっ!!」
――乙名史悦子(第三再臨)である。
「つまりッ! トレーナーさんはウマ娘のためにその身を捧げているということッ!! 実験台になろうとなんのその、ウマ娘の為ならば『なんでもする』ッ!! 北の果てから南の果て、世界一周旅行だって当然のようにセッティングするッ!! そういうことですねッ!?」
「それだけではない」
「それだけではない……ッ!?!?」
順に、トレーナー、そして乙名史記者である。マックイーンはもはや、突っ込むことを諦めた。
「例えば、その旅行ですが。既に彼女が望めば出発できるようにしています。……極まったウマ娘が持ちうるという『領域』。それには、ウマ娘個々人が持つというイメージが肝要であると聞きます。であれば、より相応しい情景を整え、イメージを補完させるために尽力するのは当然のこと」
「そのッ!! 通りッ!! ですッ!!」
乙名史悦子がその妄想の中で旅行を例に出すことが多いのは、つまりそういうことであった。その想いが汲まれたのは、初めてのことであったが。
「私は、スピードはともかく、ウマ娘と比肩するほどのパワーを備え、彼女らを凌駕するほどの頑丈さと、そして巨大な体躯を持って生まれました。……ならば、私に与えられた力はどう使うべき、否、どう使いたいか。……私は、彼女たちに降り掛かる、不要な苦難と試練を引き受け、背負い、そして護りたいのです。小さく、しかし輝く彼女たちが大輪の花を咲かせられるように」
「ア……ッ、アッアッ……!!」
「その為ならば、私は天すらも支え、大地も砕き。如何なる試練をも踏み越えてみせましょう。それが、ヒトを超えウマ娘に迫る力を持った、私の使命でしょうから」
乙名史悦子は歓喜した。トレーナーというものは――彼女の視点ではあるが――全員、同じだけの信念を持っている。だが、それをここまではっきりと口に出す者はいない。それを実行するだろう、と確信させる程の者もまた、同様に。故に、彼女の感情はゆうに閾値を突破し――
「……■■■■■■■ーーッ!!!!」
――乙名史悦子(最終再臨)である。
事ここに至り、彼女は人語を忘れた。限界だったのである。
どこから出したのか分からぬ声は容易く廊下を駆け巡り、たまたま通りがかった桐生院トレーナーを昏倒させた。それは絶叫を通り越した、正しく魂の底からの咆哮であった。
「トレーナーさん、どうされました――ああ、なるほど」
「随分と理解が早いようで何より、たづな殿。しかし、どうして此処へ?」
「
「なるほどですわ。……悪い方では、ないと思うのですが……」
「ですねえ……」
耳をぺたん、と垂れさせたマックイーンを尻目に、苦笑いしたたづなが乙名史記者を肩に軽々と担ぐ。体幹一つぶれないたづなを見て、トレーナーは僅かに目を細めた。
「……さて! 乙名史さんのことは、私が運んでおきますから、トレーナーさんとマックイーンさんは解散していただいて構いません。本日もお疲れ様でした……それと、マックイーンさん!」
「はい、なんでしょうか」
「……天皇賞(春)、素晴らしい走りでした! テレビの前で見ていた私も、思わず熱くなってしまうほどに……! これからも、怪我のないよう、トレーナーさんと頑張ってくださいね」
「ええ、もちろんですわ。ありがとうございます、たづなさん」
たづなは一礼すると、乙名史記者と近くで倒れている桐生院トレーナーを回収し、保健室へ向かう。トレーナーとマックイーンは、マックイーンの知人ら――メジロの仲間やテイオー、ゴールドシップなど――を集め、盛大に祝勝会を催した。
その日のマックイーンは、一日、上機嫌であった。
なお。後日、発売された月刊トゥインクルのインタビュー記事は、非常によい出来だったという。
乙名史悦子(星3バーサーカー)
バーサーカー要素が少なかったので入れました。乙名史語、難しかったです(参考:ジル・ド・レェ(術))
それはそうと、この後はチームメンバー加入→マックイーン、期待で迷走の流れなんですが、基本アプリシナリオと変わりないんですよね。
なので、変わらないところは軽く抑えつつ、裏でこんなイベントありましたよー、みたいにチーム外のウマ娘とかトレーナーとの交流とか、イベントシナリオin大英雄Tとか書いてみようかなと。
以下、書きたいものand絡ませたいキャラ
・ウマネストin大英雄T
試作品・VRウマレーター0号機と接続した大英雄Tが幻想世界で暴れ回る!
魔王ゴルシがなんのその、一人だけ別ゲーを繰り広げ、ついに裏ダンジョンに隔離されてしまった!
頑張れエル! 頑張れグラス! ウマネストの平和は君たちに掛かっている!
「こんなの勝てるわけないデース!!!!」
・秋祭りイベと流鏑メの話
奉納神事にて流鏑メを行うこととなったシンボリルドルフ、ナリタブライアン。
弓に詳しいものを、とたづなに相談すると、紹介されたのは大英雄T。
「なるほど――私に弓を取れと言うのか、君は」
「あれルナまたなんかやっちゃいました?」
大英雄Tの本気、そして全力がトレセン学園を揺るがす!!
・ライス、ウララ
ウラライスの絡み。ウララに特訓をつける大英雄Tと、それをこっそり見ていたことがきっかけでシリウスに入るライスの話。
・タキオン、カフェ
プランマッスルを遂行するタキオンと大英雄T、それを呆れた目で見つつ、見えないものがダース単位で憑いてなお平気な大英雄Tに関心を寄せるカフェの話。
このへんかなあ。魅力的なウマ娘が多くてたいへんだ。
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ハルウララとライスシャワー、出会う
感想、ここすき、評価、などなどありがとうございます!! 嬉しいです!!!!
投稿はあんまり速くないけど、バクシン的思考で、長距離適性が伸びているものと考えます。
タイトルからして分かる通り、今回はライスとウララ。まあ私ライス持ってないんですけどね!!(ストーリーシナリオたくさん読み返してきた)(ウララはいます)(かわいいよね)
春の天皇賞を終えて暫く経ったころ。チーム『シリウス』には数人のメンバーと一人の破天荒ウマ娘が加入し、どうにかチームとしての体裁が整い出した。
尤も、メンバーが揃うまでに時間がかかったのは、純粋に走りを求めて加入を希望するウマ娘――即ち、マックイーンの走りに惹かれて集うであろうウマ娘をトレーナーが待っていたから、という面がある。
目論見は功を奏し、マックイーンを慕うウマ娘と、マックイーン『も』慕う芦毛の暴走船が仲間となった。各々の目標とトレーニングを洗い出し、エースであるマックイーンは六月初めの『宝塚記念』へ向けて調整を行う――そんな、ある日のこと。
梅雨にはまだ早い五月半ば。トレーナーは、季節外れの豪雨の中、水を吸って軟らかくなったグラウンドを駆ける一人のウマ娘の姿を目にした。
「えっほ、えっほ! はあ、はあ……まだまだ〜! がんばるぞ〜!」
桜色の髪をポニーテールに纏め、桜色の目を光らせ走る。人目を引く容姿に愛嬌のある笑顔を浮かべ……しかし、その走りはお世辞にも速いとは言えないもの。すわオーバーワークか、あるいは体調不良か、とトレーナーは彼女を注視するものの、その様子は見られない。
ならば重バ場特訓か、と考える。成程確かに、こんな大雨の中で走ることも無くはないだろう――それにしても、今日の雨模様は他のウマ娘が大人しく屋内訓練を選択する程のものだが。その上で、速度が遅いことを考えると、朝早くから練習でもしていたのかもしれない。
そう結論付け、『シリウス』のチームルームへ向かうトレーナー。昨日全員に追い込み特訓を行った関係で、今日は休養日だ。書類仕事でも片付けよう――時間をとって丁寧に片付けないと書類もパソコンも壊してしまう――と、その場を離れたのが午前七時。
「……えっ、ほっ! ……えっ、ほっ! はあ、はあ〜!」
そして、食事のためにチームルームを出たトレーナーが、より強まった雨脚の中で変わらずに駆ける桜色のウマ娘を見たのが、正午の頃であった。
そのウマ娘は、息も絶え絶えといった雰囲気で走っている。だが、止まる様子はない。これ以上は走り過ぎだ、と監督している筈のトレーナーを探すも、その姿はない。ならば自主練か。
「止めねば……いいや。まずは話を聞かねばならんな」
トレーナーはそう呟くと、床を思い切り……ではなく、破壊しない程度に蹴って走り出した。床は破壊されなかったが、残念ながら、床より脆い窓ガラスは伝播した衝撃により粉砕した。今日も今日とて、メジロ防衛隊工兵科の出動であった。
ところ変わって、雨中のグラウンド。もはやヒトのランニング以下の速度でへろへろと走る桜色のウマ娘の横に、ずどごむっ、という足音。視線を向けるより速く、巨大な特注の傘が差し出された。
「一旦、そこまでにしておくべきだ。その根性は称賛されるべきではあるが、休まねばトレーニングの効果も出まい」
「はあ……はあ……あれ? だれ……ふわー、おっきいねえ! すごーい!」
トレーナーは僅かに驚いた顔で目を瞬かせた。初見で恐れられることや思考停止されることはあっても、純粋な興味と称賛を向けられることは、今まで数える程しか無かったからだ。
「……そうか」
「うん! なんかね、どかーん! って感じ!」
トレーナーは僅かに相好を崩した。見るものが見れば驚くような表情かも知れないが、そんなことはつゆ知らず。桜色のウマ娘も、にへらと笑った。
「そうか……それで、君の名前は、なんと言うのだ。そして、担当のトレーナーも。……姿は見当たらないようだが」
「あ、そうだった! えっとねー、わたし、ハルウララ! トレーナーはね、まだいないんだー」
「……何?」
ハルウララは、へにょり、と耳と尻尾を垂れさせる。
「えっと、せんばつレース? っていうのに、わたしも出たんだけど……トレーナーたち、ほかのみんなのスカウトに行っちゃったんだー」
「成程。つまり、これは……」
「うん! 晴れの日だとほかのみんながコースを使ってるけど、今日は予約が空いてたんだ! だからラッキー! って、とっくんしてたの!」
トレセン学園裏の大コースの使用は、基本的に自由使用が可能である。強豪一チームだけが占有し、そのチームしか練習ができないということはない。しかし、実際問題コースは有限であり、また誰がいつ、どこを使用するかは安全管理の面からも記録としては残さねばならない。
トレーナーたちは故に自分たちの使用予定を予約、という形で残すのだが……その辺りの機微に関しては、トレーナーか、一部のウマ娘しか詳しくない、というのも事実。チームがコースを予約しているから今日はグラウンドで練習、のような認識のウマ娘が大多数であった。
そして、それはこのハルウララも同じであり、だからこそ普段はグラウンドで練習できない、と思っていたのだろう。
「その直向きさは非常に好ましいものだが、しかし走り過ぎるのが脚に負担をかけるのも事実だ。わかるな、ハルウララ」
「うん……楽しかったけど、止まったらなんだか胸がうえーっ、て感じだから、疲れてるのかなーって」
「全身の疲労だ。雨に濡れ過ぎるのも身体を冷やして、良くない。……休んでいる間、少し話でもしよう」
「えっ!? わたし、トレーナーとお話しできるの!? やったー!」
「ああ。二人ならば……む?」
トレーナーは、傘を片手に、もう片手にハルウララを抱えようとして、ふと視線をずらした。気配を感じる――観客席、ちょうど雨に濡れない位置になっている座席の影から、黒鹿毛のウマ耳がちょこんと覗いていた。
「二人ではなく、三人か」
「んぇ? トレーナー、見えないお友達がいるの?」
「そうではない。君のことを見ていた者がいるようだ……しかし、そうなると傘では収まらんな」
トレーナーは傘をハルウララに渡すと、すっ、と右手を掲げた。掲げ、その右手の親指と中指を擦る。ぱちん、という大音量が雨音を裂いて鳴り響き――
「ゴルシちゃん」
「応」
――
「お探しのものはコレかい、アンちゃん?」
「それだ。世話をかけるな」
「言いっこナシだっていつも言ってるだろ、おとっつぁん。アタシは働けるからさ」
「急に時代劇を始めないで貰えるか」
――誰が呼んだか暴走特急。芦毛の問題児、あるいは黄金の不沈艦……ゴールドシップ。端正な顔に人好きのする笑みを浮かべて、彼女は現れた――その手に、折り畳まれた状態のワンタッチテントを抱えて。
「えーっ、あれーっ!? どこにいたの!?」
「お、知らねえのか? ゴルシちゃんは遍在するんだぜ」
ゴルシちゃんは遍在する―― 誇張でも虚偽でもなく事実である。ターフで練習していたと思えば同時刻に動画を配信していた、同時に複数の箇所で見かけた、などの通報もとい報告は既に異常でもなんでもない。チーム『スピカ』の沖野トレーナーはこのチームメンバーの奇行を半ば諦めているし、チーム『シリウス』のメジロマックイーンもチームメイトの奇行に毎度ツッコミを入れている。
そう、もう理解できたことだろう……このゴールドシップというウマ娘。『スピカのゴルシ』も存在するし、『シリウスのゴルシ』も存在する。メジロマックイーンに至っては、フルゲート十八人のうち十七人がゴルシのレースに参加した、などと正気を疑うような経験をした――と言い張っている。
なお、学園側はこれらに関して完全な沈黙を保っており、沖野トレーナーと『シリウス』のトレーナーは会うたびに『うちのゴルシが世話になっています』とお互いに挨拶を交わす間柄である。国家機密級の出自と家族構成を含め、いろいろととんでもないウマ娘であるが、ゴルシ故致し方なし、というのが学園・トレーナー側の――この巨大な漢を除いてであるが――共通見解であった。
「へんざい? うーん……よくわかんないけど、すごいね!」
「……おいアンちゃん、こいつめっちゃいい子だな……あ、テント出来たぜ」
「うむ。……さて、ハルウララ。テントの下に入りなさい……そこの、黒鹿毛の君もだ。雨には当たらぬが、気になる事があるから、そんなところに居るのだろう」
声を掛ければ、ウマ耳がびくーん、と天を衝く。やや暫くして、観念したようにそのウマ娘も客席の陰から姿を表した。くるりと外はねの目立つ長髪に、片目を隠した前髪。濃紺の帽子と、目を引く青薔薇の色。
「あっ、ライスちゃん! どうしたの? あっ、ライスちゃんもとっくん!?」
「あっ、その……ウララちゃん……えっと、特訓じゃなくてね……?」
ライスシャワー。その未来、漆黒のステイヤーとして名を馳せる希代のウマ娘。現時点では、未だ『将来有望』程度の評価のウマ娘である。そのライスシャワーが、駆け足で簡易テントの下へ潜り込んだ。両手に抱えていたタオルとドリンクは、ハルウララのために用意されたものだろう。差し出されたそれらを、ハルウララは嬉しげに受け取った。
「どうやら彼女は、君のことが気になっていたようだ、ハルウララ」
「え、えっと……うん。ライス、ウララちゃんが一人でずっと走ってたから、心配になって……」
「そっか! えへへー、ライスちゃんが見てくれてたんだ! 嬉しいなー」
「え、えへへ……そ、それに、雨がどんどん酷くなってるのも、ライスのせいだし……怪我しないように見ておかないとって」
ライスシャワーの言葉に、トレーナーはぴくり、と反応した。側にいるゴールドシップは、面白そうなものを見つけた、と言わんばかりの顔をする。
「ふむ? ライスシャワー。それは一体、どういうことなのだ」
「ひゃっ、そ、その……と、トレーナーさん、ライスね、周りにいる人を、不幸にしちゃうから……」
――聴くところによると、どうやら、この豪雨はライスシャワーのせいであるらしい。元々大雨の予定ではあったが、ライスシャワーがハルウララのトレーニングを見に行った時から雨脚が強まった、と本人は言っている。
そんなものは気のせい、あるいは偶然だ――と、俄には言い難い。ウマ娘という種族は、時に人智を超えた現象を誘発するものだ、とトレーナーは思う。噂に聞く『幽霊の見えるウマ娘』然り、無いと断ずることは出来ない。本人の気質と思い込みが、実際に不運を呼び込んでいる、と言うことも無いではないだろう。
そう思い、ふとトレーナーは横を見る。どう思う、と問おうとした相手は、好奇心を抑えられぬといった表情で、尻尾を揺らしていた。
「どうした、ゴルシちゃん。随分と気が弾んでいるではないか」
「いやさ、だってアンちゃん。聞くだけで分かんだろ? ぜってー楽しいやつじゃん。無人島に何か一つ持ってけるならライス、ってのもあながち間違いじゃないと思うぜアタシは。十徳ライスだ」
「んー? よくわかんないけど、ライスちゃんと無人島にりょこう? ウララ、ライスちゃんがいるなら楽しいと思うな!」
「え、えぇ……? あの、そういうことじゃなくって……」
否定をするように手をぶんぶんと振りながらも嬉しそうな顔をしているあたり、本心はどちらにあるのか窺い知れるというものだ。不幸を呼ぶ体質、相手を想う優しさを持つが故に相手と距離を取り、しかし己を傷つける……なればこそ、シリウスのトレーナーは口を開く。ウマ娘を守ることこそが、使命であるが故に。
「ライスシャワー。君の体質である、不幸とやらだが」
「な、何? トレーナーさん……やっぱり、トレーナーさんもライスに近づかないって……」
「いいや。具体的にどのようなものか、私に教えてほしい。力になれることが――」
瞬間。横殴りに吹き付ける暴風が、折りたたみテントを横倒しに吹き飛ばした。捲れ上がるビニールの屋根、その向こうから飛来する――巨大な、倒木。
「トレーナーさんっ!! 避けてっ!!」
ライスシャワーは己を呪った。そして、自分の身長よりも大きな飛来物の直撃コース上にいるトレーナーをせめて助けようと飛び出しかけ、
「ぬんッ!!」
ライスシャワーの眼前を通り過ぎる、倒木よりも巨大な『何か』。轟音、風圧、裂帛の気合、そして無惨な破砕音。思わず目を閉じてしまったライスシャワーが目を開けると、
「えぇ……」
「わー! トレーナーすっごーい!!」
トレーナーの足元に散らばる倒木
「ね、ライスちゃんすごかったねー! トレーナー、ずどーんって!」
「う、うん……ライスびっくりしちゃった。まさか……っ! またっ!? トレーナーさ――」
「破ッ!!」
話の途中に飛び込んできた廃ベンチが真っ二つに叩き折られ、ターフの端に突き刺さる。無邪気に喜ぶハルウララと、うずうずと我慢を堪えきれなくなってきたゴールドシップ。ライスシャワーはと言えば、あまりの展開に目を白黒とさせていた。
「……ライス、夢でも見てるのかな」
「んなわけあるかよ。見ろよアンちゃんの丸太みてーな脚、あれじゃ多少の不幸なんて蹴っ飛ばして終わりだぜ――おっ、ゴルシちゃんレーダーに感あり! ほら来たぜライス!」
「ゴールドシップさん? 来たって?」
「おかわりの弾幕だ!」
「喜んで言うことじゃないよ!?」
迫る屋根瓦、屋根瓦、屋根瓦。その合間には大小様々な木片、石片。その不幸体質が引き起こすものか、局所的に巻き起こった
「ぬんッ! せいッ! おおおッ!」
「で、出たーッ! アンちゃんのゴルゴル⭐︎連打コンボ! カーッいつ見てもやるねぇ! っと次は上から来るぜ!」
「むぅんッ!!」
「わーっ! トレーナーすっごーい!!」
殴る、殴る、蹴る、踏みつける、吹き飛ばす。万が一にも破片が背後のウマ娘へと降り掛からぬよう、トレーナーは飛来するすべてを打ち壊す。それはまさしく、神話の再現であった。
「まだまだ! 次は後ろからアンちゃんがぶっ壊したイスの残骸がエントリーだ! これは硬いぜ!?」
「なんで嬉しそうなのゴールドシップさん!?」
「この程度ッ!!」
「ヒューっ一撃かよぉ! ……」
「……ゴールドシップさん?」
「――もう我慢できねぇぜ次はアタシだ! とりゃぁぁあいっ!!」
「ゴールドシップさん!?」
「甘いッ!!」
「ぐわぁぁぁぁあっ!?」
「ゴールドシップさーーーーん!?!?」
椅子の残骸へ裏拳。ゴールドシップのドロップキックへ……胸板を向け、衝撃を吸収し、そして吹き飛ばす。攻撃の衝撃をすべて吸収し切りゴールドシップの脚へダメージを残さない、それは完璧な受け技であった。
「へへ……流石はアンちゃんだぜ……次は何しよっかな」
「ダメだよ!?」
「おいおいライス、せっかくアンちゃんが遊んでくれるんだぜ? 乗るしかないだろ、この……あん?」
「トレーナーさん、遊んでるわけじゃ……えっ?」
「これは……!! 皆、退がれッ……ぬんッ!!」
吹き付ける暴風のなか、不意に暗い空が輝く。雷光、次いで雷鳴――着弾。寸前でトレーナーの震脚に吹き飛ばされたウマ娘達が見たのは、巨大な光の柱に呑まれるトレーナーの姿であった。
「と、トレーナーさーーーーん!?!?」
「おぉ……こりゃあやべえな……」
「あわ、あわわ……トレーナーだいじょうぶー!?」
いつの間にか、暴風雨は止まっている―― 濛々と立ち込める土煙。流石のゴールドシップでさえも動けない状況に、一般的なウマ娘である二人が動けるはずもない。戦慄したまま、暫し時が流れ……やがて、煙が晴れる。
――其処に立っていたのは、正しく神話の英雄であった。
雷霆を身に受けた影響か、活性化し膨れ上がった筋肉。
力強く大地を踏み締める脚、荒々しく逆立つ髪、輝く双眸――そして全身に纏う、未だ空気を焼く音を放ち続ける、稲妻。
「それで……ライスシャワー。君の『不幸』が、どうかしたかね」
その姿は、天の神、雷鳴の子が如く。天雷を完全に呑み干した、チーム『シリウス』のトレーナーが、泰然と――不幸ごとき、何するものぞ。君一人背負えぬほど、私は弱くはない、と。その立ち姿が、雄弁に語っていた。
「この程度、どうということはない。百聞は一見に如かず、と言うだろう、ライスシャワー」
「と、トレーナー、さん……」
「心配することはない。君も……そして、ハルウララ、君もだ。『シリウス』に来なさい。準備期間もあるから、直ぐにとはいかないがね」
「えっ……わたしもいいの?」
「ああ。……君の身体の頑丈さと、パワー。そして、何よりもその根性。目を見張るものがある。君の、君たちの夢を叶えられるよう、私に手助けをさせてくれないか」
「……っ、うん! えっへへー、うれしいね! ライスちゃん!」
「うん、うん……!」
花の咲いたように笑う二人。それを見守る、巨体がひとつ。――そして、無遠慮にそれに触るウマ娘もまた、一人。
「うわ、マジでビリビリしてるじゃねーかデンキナマズかよ……電気トレーナー。アリだな。おいアンちゃん? トレーナーに電気流すのはやっぱ止めといた方がいいか?」
「流石の沖野先輩も死んでしまうだろうから控えてくれ」
「しゃーねーな。アタシの
「む? ああ、流石に効いたな。いい具合に肩凝りが解れた」
「いやそうじゃねーだろ見てた他のトレーナーぶっ倒れてたぞ」
暴風雨の中に立つトレーナーとウマ娘たちを見かけ、傘とタオルを準備していた桐生院トレーナーは、いつの間にか保健室へ運ばれている。
つまり、そういうことであった。
余談そのいち。
今後の流れですが、トレーナー達との会話(夏合宿前後)→カフェ・タキオン話(秋天直前、話の最後に秋天描写)→晩秋イベント→ライス編開始、みたいな流れになるかなと。
ゲーム内で描写されているところと変わらないとこはスキップしつつ、ほかのウマ娘の話でも挟んでいけばと。
あとはどこかでエイシンフラッシュの話かな。見たいウマ娘の話があれば聞いてみたいけど、感想で意見募集は規約的にダメだった気もする。
余談そのに。
『シリウス』のチームメンバー、二人はおそらくそれらしい娘が判明してるんだけど黒髪ボブの子だけ不明らしい。この話で出すなら、どうなるかなあ。
・ヘアサロンで寝てる間に髪の毛をバッサリいかれた『マンハッタンカフェ』
・ギリシャから留学に来た、大英雄Tの海外での知り合いで妙なウマソウルを宿しているヒシ……ではなく『ヒッポリュテアマゾン』
・特にドイツ生まれでもない(自称)し親がパティシエとかでもない(自称)しスケジュールにこだわっているわけでもない(自称)し自分の理論を破壊しうるトレーナーの偵察に来たわけでもない(自称)、普通の覆面ウマ娘『サカエススムヒカリ』
この辺かなあ。
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トレーナーたちの夜会
ちょっとヒスイ地方までばんえいポケモンの調査に赴いていたらいつのまにかこんな時間に……
あとライアンとドーベルなんですが、原作でメジロ合宿に参加していて、トレーナーがついていないのかな、と思いきやレースに出てたりしてるので、どこのチームに入ってるのか分からないんですよね。
なので空いたところに突っ込みました。
チーム『シリウス』、夏合宿――メジロ家の所有する無人島、通称メジロアイランドを貸し切って行われる――を直前に控えた、とある夜。細心の注意を払ってデスクワークを完了させた『シリウス』のトレーナーは、戸締りをしてからチームルームを退出した。
時刻は既に、ウマ娘寮の門限近く。ギリギリまで部屋の片付けや資料の整理、レース映像――先日の、宝塚記念のものだ――を見返し、どうすれば勝てたかを研究していたメジロマックイーン以外は、既に寮へと戻っている。
「さて、マックイーン。忘れ物はあるまいな」
「勿論ですわ。わたくしを誰だと思っておりますの?」
トレーナーとマックイーンは並んで夜の校舎の廊下を歩く。二人の間で交わされる話は、専らトレーニングとレースのこと。スピードを上げるためにはどのように走れば良いか、どこを鍛えれば良いか。仕掛けのタイミングはどう図るべきか、レースの展開によって臨機応変に対応しなければならないことは何か。それは『シリウス』のトレーナーを見て掛かり気味になるウマ娘が多いことを鑑みれば、なかなかに珍しい光景であった。件の金色暴走船であれば、既に二度はトレーナーへ組み付き、五度は技を繰り出し、そしてその全てにおいて返り討ちにされていることだろう。
「つまりだ、マックイーン。ステイヤーである君がより加速を……最高速までいかに速く達するかを極めるのであれば、やはり腕や上半身も含めた強化が必要だ。加速は全身を使って――む?」
ふと、トレーナーが目線を廊下の曲がり角へ遣り、立ち止まる。――数瞬後、そこから顔を覗かせたのは一人の男性。後ろに一つ纏めとし、側頭部を刈り込んだ茶髪。トレードマークの棒付きキャンディを咥えながら現れたその男こそ、
「……おっ。こんなトコで会うとは奇遇だねえ、お二人さん」
チーム『スピカ』のトレーナー。普段のやや三枚目な言動、振る舞いとは裏腹に、癖のあるウマ娘を曲げないまま強く速く育て上げる敏腕にしてベテラン。本人の自己認識以上に、数多のトレーナー達から警戒されるトップトレーナーの一人。そして、ウマ娘のトモに関しては一家言あると言われているその人――沖野トレーナーが、いつもの笑顔でそこに立っていた。
「沖野先輩。お疲れ様です。いつもウチのゴールドシップが世話になっております」
「おう、お疲れ。こっちこそ、いつもウチのゴルシが世話かけてるみたいだな」
「トレーナーさん? この方がもしや……申し遅れました、わたくし、メジロマックイーンと申します。いつもゴールドシップさんがお世話になっております」
三者揃って互いに頭を下げる。なお、話に挙げられた件のゴールドシップは、現在金色の錨を片手にゴルシ流奥義の開発中であった。知らない方が良い事というものは、この世に在るものなのである。
「奇遇なのは其方もでしょう、先輩。何をされていたので?」
「ま、ちょっとな。……ん? おい、どうした?」
沖野トレーナーが訝しげに尋ねる。
尋ねられた側、トレーナーは沖野と話しながら自身の両手を背に回し、大腿部の裏側を覆い隠していた。メジロマックイーンもまた、トレーナーに倣い同じ動きをしている――その目は、「これでいいんですわよね?」とトレーナーに問いかけていた。それら一連の動作は澱みなく、流れるように行われた。
「? トモを触られないようにしているだけですが」
「お前俺のこと特殊な変態か何かだと思ってる?」
「ですが、前科をお持ちですよね先輩」
「ちょっ、おまっ! あれはお前も俺もみんな酒入ってた時だろ!? 黒沼サンが珍しくべろべろになって、全員揃っておハナさんに――って、ほら見ろマックイーンが凄い目で俺のこと見てるじゃねーか!!」
残念ながら当然である。マックイーンはおもむろにスマートフォンを取り出し、不審者の通報を発そうとして……珍しく、くつくつと楽しげに笑う己のトレーナーを目にした。
それだけで、聡いマックイーンは彼と沖野の仲を察した。互いに軽口を飛ばし合う、それでいて互いの間に確かな敬意のある仲であると。それはまさしく、レース史に名を残すような、強いウマ娘同士が抱く友情に似ていた。
それはそれとしてトモを触るのはどうかと思うが。
「で、こんな時間までどうしたんだ? お前さんは仕事だろうが……」
「ええ。私はデスクワーク、彼女はレースの研究です。宝塚記念で、してやられましたもので」
「へえ……で、どうだった。
「ええ、とても。……以前から彼女は強かった。けれど、それ以上に実力を伸ばしたのはあなたでしたのね」
沖野はにやりと笑い、その言葉への返事とした。
チーム『スピカ』所属、メジロライアン。第三コーナー……淀の坂の下りで並いるウマ娘を突き放し、マックイーンですら追いつけぬほどの豪脚で一着を勝ち取ったウマ娘。『シリウス』トレーナーの筋肉仲間でもある彼女は、宝塚記念にて躍進を見せていた。
「そ。あいつ、今度こそマックイーンに勝つって気合い入れてたからな。お前さんも凄かったが、今回ばかりは……ってことだ」
「……確かにその通りですわ。ライアンは強かった。ですが……次は負けません。わたくしは、メジロマックイーンですから」
「なるほど、こりゃ強敵だ……んで、そのライバルチーム、スピカのウマ娘まで纏めて夏合宿に連れてく予定のトレーナーがいるって聞いてるんだが。ついで……ってワケでもないが、おハナさんトコのドーベルまで纏めてな」
沖野は『シリウス』のトレーナーを見、トレーナーも沖野を見返す。険悪な様子はない。むしろ、沖野は半ば答えが分かっているかのように問いかけている節がある。
「少し早めの合同合宿のようなものです。我々とて、夏中すべてメジロアイランドで過ごす予定ではありません。其方……『スピカ』と『リギル』はいつもの浜でしょう?」
「ああ、特段変える予定もないしな」
「ならば夏季休暇の中、後半からはそちらに合流するでしょう。先輩とて、それまでの間にやりたいこともある。違いますか?」
沖野は、我が意を得たりとばかりに口端を吊り上げ笑った。
チーム『スピカ』に現在在籍しているのは、メジロライアン、ゴールドシップ、そして今年のクラシック戦線最有力ウマ娘――トウカイテイオー。将来加入するウオッカ、ダイワスカーレットもいない今、三名中二名を『シリウス』が引き取れば、ほぼ専属のような形でトウカイテイオーに注力できる。
それは沖野にとって、非常に大きな魅力であると言えた。
「どこのウマの骨とも知らねえ奴になら絶対に預けねえんだけどな。ま、お前になら任せられるだろ。それに……」
――運命とは、容易に変わるものではない。今から手を尽くしたとて、目前に待ち受ける悲劇を完全に打破することは出来ない……しかし、この夏。
「……テイオーに関しちゃ、ちと注意して見なきゃなんねえしな。トレーナーとして情けない限りだが、済まん。頼まれてくれ」
沖野がトウカイテイオーの身体作りに尽力したことで、彼女に待ち受ける二度目以降の悲劇は全て、未然に防がれることとなる。それを知るものは居るまいが、それは確かに、沖野の起こす奇跡であった。
ともあれ、未来を知らぬ沖野は言葉尻だけを、マックイーンにすら伝わらない程度の声量で呟いた。呟いて、自身の吐いたその言葉を掻き消すように明るく、顔を上げた。
「さて、長いこと引き止めちまって済まなかったな。そろそろ門限だろ? マックイーン、送ってってやりな」
「ええ、分かりました。では先輩、また」
「ご機嫌よう、沖野トレーナー」
去り際、沖野は腕を上げ指を曲げ、見送る風を装って奇妙なジェスチャーを行い、トレーナーはそれに応えて、同じく指を曲げ伸ばしする奇妙な応答を返し、沖野に背を向けて歩き出した。……果たして十数分後、『シリウス』トレーナーは沖野の元へと戻ってきた。片手には鞄が抱えられている。
「来たか。忘れてなかったみたいだな」
「忘れるものですか。先輩方には色々と世話になりましたので。良いことも悪いことも含めて、ですが」
ハンドサインとジェスチャー。ツーとカー、阿と吽。端的に言えば、二人の間で交わされたそれは、どちらかがどちらかを飲みに誘う際のサインであった。お互い担当ウマ娘のいる身、どことなく担当のいる所で大っぴらに飲みに誘うのが憚られた結果、編み出された技術の一つである。なお、これは南坂、黒沼と言ったトレーナーたちも習得している、中央トレセンに伝わる歴とした技である。
「お前さんがこっちに帰ってきてから、そういや行ってなかったと思ってな。世話を掛けちまう訳だし、今日ばっかりは俺の奢りだ」
「ほう。それは――」
瞬間。沖野と『シリウス』トレーナーの間に、
「あら、奇遇ですね」
「全力で割り込みに来てその誤魔化しは通じねえと思うぞたづなさん」
なんのことでしょう、と笑顔でシラを切るたづなに、さしもの沖野も真顔にならざるを得なかった。
「それで、お酒の話です? この時間からお二人で?」
「あー、いや……まあ、二人のつもりだったんですけどね。こうなったらもう、誘えるだけ誘っちまうか。お前もいいよな?」
「ええ、勿論。浮かれすぎて羽目を外さぬよう自重せねばなりませんが」
「お前マジで送別会の時みたいに酔っ払って弓を持ち出すのは止めろよ」
トレーナーは珍しく、口端を引き攣らせながら頬を掻き、そして誰を誘うのか沖野へ尋ねた。露骨な話題逸らしであることは明白であったが、沖野は笑ってそれを見逃す。
普段は超然としている癖に、酒が絡むと途端に失敗もするし、親しみも増す。そういう後輩であると、知っているからだ。
「誘うのは……まあ、黒沼サンは誘ったら来るだろ。南坂も今日なら行けるか。そっちは……ジョーンズか?」
ジョーンズ……カサマツ出身、ヒト息子キタハラジョーンズ――もとい北原穣。『シリウス』の前エース、オグリキャップのカサマツ時代のトレーナー。
オグリキャップが中央へ移籍した後に奮起し、遅れてではあるが中央のトレーナー資格を取得した彼は、『シリウス』先代トレーナーのもとで学びながらオグリキャップの専属
そんな訳であるから当然、同じ先代トレーナーを師と仰いだ同士として、あるいは似た立ち位置のサブトレーナー同士として、ジョーンズとトレーナーの間には面識も友誼もある。
「ええ。誘ったのですが、気分転換に参加したいと。また、タマモクロスの小宮山トレーナーも参加するそうです。……其方は、東条先輩へは声を掛けないので?」
「……わーったよ。おハナさんも誘う。だが、誘ったからって来るとは――」
ぴろん。
沖野の送ったメッセージに対し、瞬時に発せられた通知音。それが答えであろう。沖野は降参とばかりに、両手を天へ掲げた。
「あらあら。二次会以降は自由解散になりそうですね」
「ええ。その上どうやら、先輩の奢りは後日にした方が良いでしょうな」
「あー、もう……それで頼む。……んじゃ、行くとしますか、お二人さん」
東条、沖野、黒沼、南坂、北原、小宮山、そして『シリウス』トレーナーと駿川たづな。
見るものが見れば目を疑い、そして耳をそば立てるであろう、中央でもトップに位置するトレーナーたちの夜会は、夏合宿前の決起会、かつ夏季前半の合宿を受け持つ『シリウス』への慰労と感謝会……という名目で、しめやかに開かれた。
◆ ◆ ◆
なお、肝心のメジロアイランドでの合宿であるが、
「――何が、どうして、こうなりましたのーーー!?!?」
「ドーベル!? ちょっとしっかりして!! ドーベル!! ダメだマックイーン助けて!!」
「いやあ……流石のゴルシちゃんの目を以ってしても、終わった後に遭難して無人島に流されるとは思ってもみなかったぜ」
合宿終了後の帰路にて大時化に遭い、乗ってきた船――メジロシップ号――は転覆、遭難し。
「やべえ正直無人島超楽しい」
「ゴールドシップさん!?」
「ちょっと分かってきたかも」
「ドーベルまで!? ゴールドシップさんに順応しないでくださいまし!?」
無人島サバイバル生活を一週間ほど繰り広げ。
「ふう……最初はどうなることかと思いましたが思ったより充実してますわね……双眼鏡なんか持って何を見てますの?」
「そりゃアンちゃんがあれだけ魚取って来らぁな……ん? そりゃ船だろ。ありゃ……シンボリ丸って書いてあるから、我らが会長閣下が探しに来たんだと思うが」
「早く報告してくださいまし!? ……んん? トレーナーさん、弓なんか持って何を?」
なんだかんだで充実した延長戦を過ごし。
「気付いておらぬのならば、気付かせるしかあるまい。本気で弓を取る機会など、もう無いと思っていたのだが――な、ッ!!」
「やべえ余波で吹っ飛ぶぞ! 全員退避――ぐわああああっ!?!?」
「なんの爆風ですのーーー!?」
その果てに、ヒトの編み出した絶技を垣間見て。
「……『シリウス』のトレーナー、そして『シリウス』のメンバー各員と、メジロライアン、メジロドーベル。無事で何よりだ。だが一つ言わせてもらうならば、トレーナー」
「何かね、シンボリルドルフ」
「ただの矢文でシンボリ丸の甲板を破壊し余波だけで桐生院トレーナーを気絶させるのは辞めてくれ」
「……うむ。済まなかった」
「まあ、無事で良かった。遭難ともなれば、流石の私も『そうなんですか』と流すことは出来ないからね」
「うむ。……うむ?」
波乱のうちに、夏合宿前半を終えるのであった。
・おまけ①
旧シリウスのトレーナー構成
・トレーナー(元・先代)
・サブトレーナー(ジョーンズ)→オグリ専属
・サブトレーナー(大英雄T)→全体メニュー作成等、テレビ電話でマックイーン指導
こんな感じです。
・おまけ②
大英雄Tの名前ですが、設定してなかったんですがいつもいつも大英雄Tと書くのもな……と思ったり。
沖野Tの例に倣うなら、西前Tになるんでしょうか。
・おまけ③
すまん桐生院トレーナー、君の回は次回だ。
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