魔法少年リボルバースバル (飛鳥)
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第一話 

新暦75年、4月。

ミッドチルダ臨海第8空港近隣。

そこには破棄された市街地が今なお存在し、その一つのビルの屋上に二人の若者がいた。

 

一人はイヤホンを耳に着けたまま目の前の空間に向け拳を繰り出している。

そしてもう一人は、その後ろで拳銃型のデバイスを弄り時間をつぶしている。

二人ともやり方は違うが、これから行われることに向けモチベーションを着実に高めていた。

 

「スバル、あんまり激しくやってると本番でそのオンボロローラー逝っちゃうわよ」

 

「…………ッ!」

 

「スーバールー」

 

「ふっ……!」

 

「スバル・ナカジマくーん」

 

「ハッ!!」

 

「……ッ!!」

 

スバルと呼ばれた青髪の少年は呼びかけてきたオレンジ髪の少女の言葉に反応せず、ただ拳を前に打つ。

まさに『打つべし!打つべし!』といった感じだ。

そんなスバルの様子を見たオレンジ髪の少女は手に持ったデバイスを彼の足もとに向け引き金を引いた。

引き金と連動するように放たれた橙色の魔力弾がスバルの足もとにあったコンクリートの塊を打ち砕いた。

スバルは足元に撃ち込まれた魔力弾に驚いたように飛び退いた。

 

「何すんだよ、ティアナ!?

 あぶねぇだろうが!!」

 

「こっちのセリフよ!!

 いつまでシャドーやってんのよ!!

 もうすぐ時間だから声かけてやったってのに無視してシャドーやってた馬鹿にはいい薬よ」

 

「何するにしてもこれしないと気分が乗らないんだよ……」

 

「あら、なら私が相手してあげようか?」

 

「いえ、結構です……」

 

オレンジ髪の少女―――ティアナ・ランスター―――の言葉に反論したスバルだったが、彼の一言はティアナの構えた握りこぶし(青筋の見えるほどに握りしめられている)を見てすごすごと引き下がった。

余談だが、彼女の怒りの一撃はスバルが世界で二番目に嫌いなものだった。

 

 

大人しくイヤホンをデバイスの格納領域に収納したスバルを横目にティアナは右手にはめた時計型の情報端末を弄る。

すると、その端末から空中に小さなモニタが表示され、そこに現在の時間と、試験が開始されるまでのカウントダウンが表示された。

 

試験開始までの時間を知らせるカウントはあと数秒。

 

「時間ね」

 

ティアナの言葉とともにカウントダウンはゼロになり、同時にスバルのすぐそばの空間に銀髪の少女の映ったモニターが展開された。

 

それを確認した二人はすぐに横に並び姿勢を正す。

 

『おはようございます! さて、魔導師試験の受験者さん2名。揃ってますか?』

 

「「はい!」」

 

モニターに映った少女は二人の返事に満足そうにうなずくと手に持ったバインダーに目を移して言葉をつづけた。

 

『確認しますね。時空管理局陸士386部隊所属の、スバル=ナカジマ二等陸士と』

 

「はい!」

 

『ティアナ=ランスター二等陸士』

 

「はい!」

 

『所有している魔導師ランクは陸戦Cランク。

 本日受験するのは、陸戦魔導師Bランクへの昇格試験で、間違いないですね?』

 

「はい!」

 

「間違いありません」

 

少女の言葉に反応するように二人は互いを見て頷きそう答えた。

 

『はい!本日の試験官を努めますのは、私、リインフォース(ツヴァイ)空曹長です。よろしくですよー』

 

「「よろしくお願いします!」」

 

確認を終えた二人は、リインフォースⅡから試験の説明を受けるためにモニターの隣に映し出された地図に視線を移す。

地図には彼らのいる廃棄都市区画が映し出されており、そこには『START』と『GOAL』の二つの目印とその途中にある幾多ものマーカー、今回の試験において破壊するべきターゲットが光を放っていた。

 

『2人はここからスタートして、各所に設置されたポイントターゲットを破壊。

あ!勿論破壊しちゃ駄目なダミーターゲットもありますからね?』

 

「ダミー……」

 

「スバル、今面倒だなって思ったでしょ」

 

スバルの小声を聞き取ったティアナの言葉に当のスバルは肩をビクッと動かし下手な口笛を吹きながら視線を逸らした。

いちいちやり方が地味に古い少年であった。

 

 

『えっと……2人は妨害攻撃に気をつけて試験会場を移動しつつ、すべてのターゲットを破壊。

 制限時間内にゴールを目指してくださいです。

 時間は制限時間内ならば、例え残りがどのくらいであろうと合格判定には含まれません。ただし、ターゲットの排除が完全ではなかったり、ダミーターゲットの破壊などが認められた場合は減点になってしまいます。

もちろん、試験内で皆さんが危険行為を行った場合も減点対象になるですよ』

 

「はい。わかりました」

 

『それでは、以上で説明は終わりです。何か質問はありますか~?』

 

首を傾げるリインフォースがそう尋ねると、ティアナは隣に立つ少年を横目に見る。

相方の視線に気づいたスバルはその視線に答えるように頷いた。

 

「ありません」

 

「右に同じく」

 

『それじゃあ、スタートまであと少し。ゴール地点で会いましょう、ですよ』

 

二人の返事を聞き届けたリインがそう告げるとモニターは閉じられ、代わりにカウントダウン代わりのライトが現れる。

 

「作戦は?」

 

「事前に打ち合わせたとおりに、あんたが先行して中のターゲットを破壊。

 手早くね」

 

スタート前のストレッチ代わりに屈伸をしながらスバルは隣で腕を伸ばしていたティアナに尋ねる。

ティアナの返答に軽く笑みを浮かべ、すぐに顔を真剣なものにした。

ライトの数が3つから2つ、1つと減っていく。

 

「それじゃ、いっちょやりますか」

 

「レディ……」

 

タイミングを計りやすいようにティアナが声を出す。

その直後、ライトの光が消え、試験開始のブザーが鳴り響いた。

 

「「ゴーッ!」」

 

息の合った掛け声とともに二人は走り出した。

その目に闘志を燃やしながら。

 

 

 

 

 

 

 

 

「へぇ、やるもんやなぁ」

 

「うん、ナカジマ陸士のほうは中近距離特化型魔導師として完成に近づいてる。

 相方のランスター陸士の方もナカジマ陸士の欠点を補う能力の方で高い資質を持ってる」

 

試験会場の上空、管理局所属のヘリの中で二人の女性が手元に持った資料と、試験の様子を映し出したモニターを見ながら意見の交わしていた。

二人の女性―――八神はやて三佐とフェイト・T・ハラオウン執務官。

 

「いいコンビだね。

 武装隊としての経験はないみたいだけど、そこは実戦を経験していけば解決する問題だし」

 

「その前に、この試験をどう突破するのかを見せてもらおうか。

 この先にあるのは……」

 

フェイトの言葉を楽しそうに聞きながらはやてはモニターの端にあるアイコンを操作しもう一つモニターを映し出した。

 

「この受験者の半数がリタイアする難関。

 大型の狙撃型オートスフィア。

 これは今の二人にはちょっと厳しいやろうなぁ」

 

「どうやって抜けるのか、知恵と勇気の見せ所だね」

 

 

 

 

 

 

「スバル!右にスフィア、3つ!!」

 

「おうさ!!」

 

高架に入ったスバルとティアナは周囲に浮かぶオートスフィアの集団に対してスバルの機動力で攪乱、その隙にティアナがスフィアを撃墜、さらにそのカバーでスバルが彼女に狙いをつけたスフィアを叩き落とすといったコンビネーションで切り抜けていった。

 

「よし、全部撃墜」

 

「次は?」

 

「この上、上がったらすぐに集中砲火を喰らうから、オプティックハイド使ってあんたが瞬殺。

 いいわね?」

 

「了解!」

 

ティアナの確認に対してスバルは腕に装着したデバイス『リボルバーナックル』から空薬莢を排出し代わりのカートリッジを挿入しながら答えた。

二人はこれまでにないほどに絶好調だった。

 

 

 

 

しかし……

 

 

 

 

 

 

 順調に試験を進めていた二人だったが、たった一つ、されど致命的なアクシデントが彼らを襲った。

撃ち漏らしたスフィアからの攻撃を避けながら迎撃したティアナが足を挫き、これ以上の試験続行が難しくなったのだ。

だが、ティアナの放った魔力弾の一つが監視用サーチャーを破壊したおかげで即刻中止という措置は取られていないことは彼らにとっては幸運だったのだろうか。

 

「おいティアナ、大丈夫か!?」

 

「うっさいわね、これぐらい何とも……ッ!!」

 

挫いた左足を抱え込むティアナにスバルが駆けつけるとティアナは痛みを堪えて立ち上がろうとする。

しかし、左足から尋常じゃない痛みが彼女を襲い再び蹲ってしまった。

 

「……走るのは、無理そうね」

 

「ティアナ?」

 

「あたしが離れた位置から援護するわ。

 あんた一人ならゴールできるでしょう」

 

「ティアナ、それって」

 

「足手まといがいるとあんたまで不合格になるでしょ!

 あんたはこんなところで足踏みするつもりなの!?」

 

痛みを堪えながらティアナは立ち上がりスバルに背を向けてどなるように訴える。

そんなティアナの言葉に対しての返答は、デバイスを握りしめて振り下ろした拳だった。

要は、めちゃくちゃ痛い拳骨だった。

 

「ッ、何すんのよ!?」

 

「何すんのもくそもねぇ、とりあえず足診せろ」

 

頭を押さえながら涙目でスバルを睨むティアナ。

そんな彼女を無視しながらスバルはデバイスの格納領域からテーピングテープを取り出す。

 

「どうするにも、まずはお前の足の応急処置だ。

 生憎、俺はケガ人が目の前にいてそれを置いていけるほど薄情でもないからな」

 

「でも、時間ももうだいぶ押してるし……」

 

「いいから、ほら」

 

スバルの全く動きもしない様子に諦めたティアナは素直に彼の指示に従い、靴を脱ぐ。

スバルはすぐに左足の患部を見極め、手早くテーピングを施し彼女の左足首を固定した。

 

「なんか、手慣れてるわね」

 

「自分でさんざん練習したからな、前衛(フロント)は傷だらけになることがしょっちゅうだからな」

 

「そんなことよりも、時間!

 あんたまで不合格に……ふぎゃ!」

 

再び彼に自分を置いて行けというティアナに対してスバルはまた拳骨を落とした。

 

「お前を置いていけ?

 冗談じゃない」

 

「だけど……!!」

 

「お前は俺にとって必要なんだよ!!

 お前も知ってるだろ?

 俺は射撃魔法がほとんど使えない。使えても、直射のリボルバーシュートと砲撃のディバインバスターだけ。

 そんな俺がこれから一人で何ができる?

 何もできないんだよ。

 だから、俺にはお前が必要なんだ。

 お前は俺と違って射撃ができるし、幻影魔法だって使える。

 俺にはお前を置いていく理由がないんだ。

 俺たちは二人で一つのコンビなんだから」

 

「……スバル、あんた」

 

スバルの一見したら告白にも聞こえるセリフを聞いたティアナは顔を少し紅く染めていた。

 

「お前と一緒にいたら楽しいしな。

 お前からかうと面白いし」

 

「……ッ!!」

 

だが、次の発言で彼女の顔は別の意味で真っ赤に染まった。

 

「おい、待てファントムブレイザーはさすがに……ギャー!!」

 

乙女の純情を弄んだ罰としては妥当なところだとティアナは小さな声で呟いた。




お読みいただきありがとうございました。
評価、批評、誤字報告などがありましたらどしどし感想欄にて送ってください。
それでは、また!


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第二話

「それで、そこまで言うなら何か手はあるんでしょうね」

 

「作戦ってほどじゃないがな。

 ティアナ、お前って誘導弾一度に何発撃てる?」

 

 先ほどの砲撃に使った分のカートリッジを補充しながらティアナはスバルに尋ねる。

全身からブスブスと煙を上げているスバルはガシガシと頭を掻きながら立ち上がる。

 

「誘導弾?

 だいたい4~5、頑張れば6くらいかしら」

 

「この先にあるのは大型の狙撃スフィアだったよな?」

 

「えぇ、前に受けた先輩に聞いたから間違いないはず。

 あんたも一緒に聞いていたでしょ?」

 

 スバルの質問に答えながらティアナは首を傾げる。

 

「あぁ、確認したかったのはその二つ。

 お前が誘導弾をどれだけ操れるか、この後の目標は何か。

 これがわかればたぶん行ける」

 

「そう、ならあたしはどうすればいいの?

 言っとくけど、走るどころか回避運動すらままならないんだからね」

 

「あぁ、お前は―――」

 

 この時、ティアナの顔は今日一番の驚愕に染まった。

 

 

 

 一方、サーチャーからの映像が途切れたことで二人の様子を知ることができなくなったはやてとフェイトは高架から一筋の道が伸びたことで二人がまた動き出したことを知った。

 

「お、出てくるみたいやな」

 

「うん、でもあれって確か……。

 スバルの『ウイングロード』だよね、あの方向は……」

 

「もしかしなくても、大型スフィアに一直線やね」

 

 二人がどうするのか全く考え付かない二人だった。

 

 

 

 

 

 

 

「いい、残り三分ちょい。

 あんたがさっさとやらないとどっちにしろ不合格になる。

 やるからには一撃で決めなさい」

 

「わかってる、二人で合格するぞ」

 

 スバルはそういいながら展開したウイングロードの端により、クラウチングスタートの構えをとる。

それと同時にティアナはデバイスに魔力を流し込み、スバルの周囲に6つの誘導弾を浮かばせる。

 

「いい、誘導弾は6発。

 スフィアの弾を防げるのはその六回だけよ。

 それまでにあのビルの最上階から一つ下の階に辿り着きなさい」

 

「了解だ……」

 

その言葉を最後にスバルは大きく息を吸い、一瞬止めそして吐きだした。

 

「レディ……ゴーッ!!」

 

 そして、一つの弾丸が6つの供を連れ青空に駈け出した。

 

 スバルが飛び出しビルに向かう。

 ビルから魔力弾がスバルに向かって放たれる。

 だが、それをティアナの誘導弾が撃ち落す。

 

 ―――誘導弾、残り五発。 

 

 スバルの右腕のリボルバーナックルに二発のカートリッジが装填され右腕に魔力が集中する。

 二発目の魔力弾が誘導弾に弾かれる。

 

 ―――残り四発。

 

 右腕に集中した魔力が彼の拳に収束する。

 三発目、四発目の魔力弾、これをティアナはすぐさま撃ちぬいた。

 

 ―――残り二発。

 

 割れた窓にスバルが飛び込む。

 その隙を庇うように二発の誘導弾が先にオートスフィアに向かう。

 

 ―――残り零発。

 

「オオォォッ!!」

 

 スバルの握られた拳をスフィアの周囲に張られたバリアがその動きを妨げる。

 

「拳一つで、何かが変わるわけじゃないッ!

 だけど、拳一つで救えるものがあるッ!!」

 

 スバルは右手にさらに魔力を流し込む。

 

「どんなバリアでも……打ち貫くだけだッ!!」

 

 刹那、バリアに一筋の皹が走る。

 

「オォォッ!!」

 

 軽い音とともにバリアは粉々に飛散した。

 

「ジェットマグナムッ!!」

 

 ―――豪―――と先ほどの音と違い、重い音ともにスバルの拳がスフィアに叩き付けられた。

そして、彼の右手に収束された魔力が一気に放たれ、その奔流がスフィアを蹂躙し破壊した。

 

こうして、Bランク試験最大の難関は突破されたのだった。

 

 

 

 

 

ゴールまで続く一本道。

そこをスバルたちは全力で駆け抜けていた。

 

「時間は!?」

 

「あと30秒!!」

 

ただし、走るのは一人だけ、スバルのみだった。

ティアナは彼の背中に背負われ、片手で彼の体に回していた。

 

「最後のターゲット!

 外すなよ!!」

 

「わかってるわよ!!」

 

スバルの掛け声とともにティアナは右手に持ったデバイスから魔力弾を放ち、進路上にあった最後のターゲットを破壊する。

 

「しっかりつかまってろよ?」

 

「ちゃんと停止できるスピードでね!!」

 

スバルはラストスパートをかけギアを一段階上げた。

 

「5、4、3、2、1……!!」

 

カウントがゼロとなる直前、ゴールを一つの風が駆け抜けた。

ゴールから大きく離れた位置で回り込むような動きでエネルギーを消費し、何とか止まったスバルとティアナは息を荒げながらタイムを確認する。

 

「二人とも、ギリギリセーフ!」

 

空から降りてきたリインが体を使ってセーフを表現していた。

残り時間0.35秒。

 

「セーフ?」

 

「て、ことは……?」

 

「はい、二人とも試験は合格ですよ。

 あとは……」

 

「私たちが試験の内容を判断して、君たちがBランク魔導師に値するかを決定します」

 

その時、一人のバリアジャケットを纏い、手には魔導師の杖を持った女性が降りてきた。

 

「あ……」

 

「うん、ひとまず試験お疲れ様。

 リイン、ティアナさんの足を治療してあげて」

 

「はいです!」

 

その女性の言葉に従い、リインはスバルたちのもとに飛んでいく。

 

「ナカジマ陸士、彼女をゆっくりとおろしてほしいです」

 

「は、はい。

 いいな、ティアナ」

 

「えぇ、お願い」

 

ティアナがスバルの背中から降りたのを確認したリインはすぐさま治療を開始した。

スバルはすぐに先ほどの女性の方を向いた。

 

「た、高町一尉……」

 

「うん、久しぶりかな?

 四年ぶりだね。

 大きくなったね、スバル」

 

「は、はい。

 あ、ちょっと待ってください」

 

「うん?」

 

スバルは女性―――高町なのは一等空尉に断りを入れると何やら指を折りながら何かを数えていた。

 

「えっと、四年前、ってことは俺は11歳、で、なのはさんは……14、5ぐらいで……ひぃ、ふぅ、みぃ……」

 

「す、スバル?」

 

「どうしたですかー?」

 

スバルの様子を見ていたティアナとリインはどうしたのかと声をかけるがスバルはその言葉が耳に入ってないようだった。

 

「高町一尉、いや、なのはさん。

 一ついいですか?」

 

「うん?何かな?」

 

なのはは首を傾げる。

その動きにつられてツインテールの髪も揺れる。

 

「19歳でそのバリアジャケットはちょっとどうかと……」

 

瞬間、リインの顔は青ざめ、ティアナは呆れ顔。

そして、スバルの目の前には魔王が君臨した。

 

 

 

 

 

 

その後、試験が終了したはずの試験場で莫大な魔力の放出が確認され、遅れて桃色の魔力光で周囲が明るく照らし出された。

 

 

 

 

 




第二話です。
次回でこの小説の序章は終了です。
原作とは違い、ティアナには射撃で頑張ってもらいました。

そしてスバルには後ろからではなく、真正面からぶち当たってもらいました。
原作も中々にも無茶な作戦でしたけど、この作戦も、下手したらスバル撃墜されてしまう作戦でした。
まぁ、スバルはどこ行っても無茶なことを押し通すってことですね。
例えそれが男になったこの小説でも。
評価、批評、感想、誤字報告などありましたらどしどし送ってください。
それでは、また。


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第三話

今回は少し短いです。


管理局ミッドチルダ地上本部

 

管理局の本部であるこの建物の中庭に二人の少年少女が寝転んで空を見上げていた。

 

「はぁ……」

 

「まさか、新部隊のお誘いが来るとわなぁ……」

 

少年少女―――スバルとティアナは先ほどまで目の前に建つ建物の中にある一室での会話を思い出していた。

部隊長に戦闘部隊の隊長が二人。

ただのランクアップ試験だったはずなのだが、彼らの知らぬ間にとんでもないことが進められていた。

 

「あんたは、どうするの?」

 

「俺か?

 もちろん行くつもりだ。

 古代遺物管理部、機動六課。

 そこにいれば俺はもっと上を目指せるかもしれない。

 それに……」

 

「なのはさんは、あんたの憧れの魔導師だからねぇ」

 

ティアナは隣に寝ているスバルを呆れた表情で見る。

そんな彼女にスバルは苦笑しながら、「まぁ、危険な火災現場で助けられたからな」と答える。

 

「だけど、あの年であのバリアジャケットは……」

 

「それ以上は言わない方がいいわよ。

 また砲撃喰らいたいならいいけど」

 

ティアナの忠告を耳にしたスバルはつい数時間前の自分の失言とそれに対する制裁を思い出し顔を青くしていた。

 

「ちょっと、大丈夫なの?」

 

「いや、あのピンクの魔力はいかんわ。

 ちょっとしたトラウマになる……」

 

スバルは思い出したくないのか、身体を震わせながら話題を切り替えようとした。

 

「お前はどうするんだ?」

 

「あたしは、どうしようかな……。

 古代遺物管理部って言ったら高位魔導師ランクや特殊能力持ちがわんさかいるエリート部隊でしょう。

 そんなところであたしみたいな凡人がやっていけるのか……何よ、その顔は」

 

ティアナは話の途中で自分の方を呆れた表情で見るスバルを見て眉を顰める。

 

「お前、まだ自分が凡人だって思ってたのかよ……」

 

「だってそうじゃない……。

 あたしの魔力ランクは決して高くはない。

 今も使えるのは射撃魔法といくつかの幻影魔法だけ。

 そんなんでどうしろっていうのよ……」

 

「……」

 

スバルはその言葉を聞いてスッと立ち上がりティアナを見下ろす。

 

「何よ」

 

「帰るぞ」

 

「え、帰るって……ちょっと!?」

 

スバルはティアナを力尽くで起き上がらせると手を引っ張り歩いて行った。

 

 

 

 

 

陸上警備隊第386部隊

 

「はぁ?

 ランスターが凡人?

 寝言は寝て言え」

 

「お前が凡人なら俺たちは何なんだよ?」

 

「どこにBランク試験での大型スフィアの弾を撃ち落すやつがいるか」

 

「世の中の凡人に謝れ!!今すぐに!!」

 

 

 

 

「ほらな」

 

「何が、ほらな、よ!!

 あんたはいったい何がしたかったの!?」

 

地上本部から彼らが自分の部隊の隊舎に戻ってまずやったのは、「ティアナ・ランスターが自分のことを凡人だと言ってますが、どう思いますか?」という質問を片っ端から訪ねて回ったことだった。

そして、今はその隊舎の中庭で座り込み彼らは話し合っていた。

 

「だから、お前は自分が思ってる以上に優秀だってことだよ。

 だから先輩たちはあぁ言ったんだ」

 

「だけど、あたしよりも優秀な人はずっと多いし……。

 それに……」

 

スバルの言葉を聞いてもなお自分が凡人で優秀じゃないと考えるティアナ。

そんな彼女にスバルは大きなため息を吐く。

 

「あのなぁ、上を見たら優秀なやつが多いのは当たり前だろう?

 俺だってまだまだ上には上がいるってのは知ってる。

 だけど、それがどうしたって話だ。

 どう転んだって俺たちは俺たちだ。

 俺たちは俺たちができることを精一杯やるだけだ。

 そのためにはどうすればいいと思う?」

 

「……その上の人から技術を学ぶ、か……」

 

「そうだ、だからお前も一緒に来い。

 どうせ俺たちはまだ二人で一人前としか見られないんだ。

 まとめて引き取ってもらえるならそれに越したことはないだろ?」

 

スバルの「二人で一人前」という言葉に対して無性にイラついたティアナはスバルが見きれないほどのスピードで彼の後ろに回り込み両手の拳でコメカミを挟み込んだ。

 

「なんでどこに行ってもアンタといつまでたってもコンビ扱いされないといけないわけ!?」

 

「痛たた、ちょ、マジで痛い痛い痛い!!」

 

通称コメカミクラッシャー(命名スバル)を喰らったスバルは「うきゅ~」とうなりながら仰向けに倒れた。

 

「まぁ、いいわ。

 うまくいけばあたしの目標である執務官への近道になるし。

 あんたとコンビ扱いされるのは癪だけど。

 今回は乗ってあげる。

 決して、あんたに必要だからって言われたからじゃないから。

 勘違いしないでよ!」

 

見事なツンデレぶりにスバルは賞賛の声をあげた。

 

「ツンデレ乙」

 

「ッ、うっさい!!」

 

だが、その返答はその美脚による顔面踏みつけだった。

 

「オレンジか、中々似合ってるじゃないか」

 

「~~ッ!!」

 

どうやらこの少年はパートナーの顔を赤くさせるのが得意なようだ。

顔を真っ赤にしたティアナはこれまた見事な蹴りでスバルの顎を蹴り飛ばし彼の意識を刈り取った。

だが、彼はその意識が途切れる間際に見たティアナの真っ赤にした顔をその脳に記録していたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はい、わざわざご苦労様です。

 いえ、それでは失礼します」

 

場所は変わって地上本部。

その一室ではやてとなのはがこれからのことを話し合っていた時に、はやての通信端末にとある部隊の隊長から通信が入ってきた。

 

「はやてちゃん、なんだったの?」

 

「さっきの二人のいる部隊の隊長さんからやった。

 なんでも、さっき異動願いを出してきたそうやで」

 

はやては嬉しそうに言うと、なのはもまた喜びを露わにした。

 

「そっか、よかった。

 あの二人、鍛えれば結構なものになると思うんだ」

 

「うん、これでスターズ分隊も問題なしやね。

 ライトニングの二人も今日ミッドチルダ(こっち)に着くはずやから」

 

「ようやく、機動六課が本格始動に向けられるね」

 

なのはの言葉にはやては「私たちの目標やったからなぁ……。ここまで来るのに苦労したわ」と遠い目をしながら呟く。

ともかく、これから彼らの運命は大きく動いていくことが決まった瞬間であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ねぇ、はやてちゃん。

 私のバリアジャケットってそんなにアレかな……?」

 

「なのはちゃん、気にしとったんか……」

 

 




はい、この作品のスバルはどんどんやっていきます。
手始めにティアナの凡人という意識を改変させてしまいました。
まぁ、ハッキリ言って彼女優秀どころじゃないですからね(笑)。

今回からあとがきで登場人物の紹介をしていきたいと思います。
まず一番手はわれらが主人公スバル・ナカジマ君から。
それでは、また!



名前 スバル・ナカジマ(15)
性別 男(ここ大事、テストに出る)
デバイス リボルバーナックル、ローラーブーツ(自作)
趣味 機械いじり、ゲーム、読書(主に漫画、特に地球で出版されているものを好んでいる)


この作品を生み出すだけのために性別を変えられた原作スバルちゃん。
男になったことで原作の性格では誰得なことになるので結構変わってる。
思ったことをそのまま口にしてしまうのでトラブルに巻き込まれることも多く、訓練学校では問題児のレッテルを張られていた。
原作とは違い、母クイントが生きているころから魔導師を目指しており、シューティングアーツをかなりのレベルで修めている。
臨海空港での火災の際にはちょっとしたトラブルで避難することができずにいたところをなのはに助けられた。
その時から、彼女の魔法を参考にしたスバル流ディバインバスターのバリエーションを開発している。


スパロボ風精神コマンド
「直感」「加速」「熱血」「気迫」「魂」

スパロボ風特殊能力
「振動拳」:気力130以上で発動。格闘の攻撃力30%アップ

「戦闘機人モード」:気力150以上で発動。格闘、回避30%アップ、武装に「振動破砕」追加

スパロボ風エースボーナス
「戦闘機人モード発動に必要な気力が130に低下」


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第四話

突然ですけど、感想もらうとなんかやる気出てきますね。
でもたまに先の展開を予想してくれる人がいるんですけ、ヒヤヒヤものです。
何しろ書くか書かないかは別として一度は頭の中で考えたことを言い当てられるのは、ね(笑)。
ということで第四話です。
どうぞ。


月日は流れ、機動六課の稼働初日。

様々な部署から引き抜かれてた所謂エリート部隊は長い時間をかけようやく稼働に至ったのだった。

各部隊から将来性のある優秀な管理局員を引き抜いたため、部隊の平均年齢はほかの部隊に比べてかなり低いものとなっている。

そんな中、陸士訓練学校時代からコンビを組んでいるティアナとスバルは……。

 

『ヤバイヤバイ、マジ無理……!』

 

『ちょっと、このタイミングではそれこそ無理でしょ!!』

 

『無理だって、あと何分続くかわからない部隊長挨拶(これ)の間我慢するのは無理!!』

 

念話で言い争いをしていた。

どちらも顔には出さないところは流石と言いたいところだが、スバルの顔にはダラダラと冷や汗が浮かんでいた。

 

『……朝食った納豆がまずかったのか……?

 いや、納豆に入れた卵か……!?』

 

『とにかく、我慢しなさい!!

 こんな初対面の人が大勢いる中で抜けてみなさい、あんたはともかく、コンビのあたしまで笑われるわ!!』

 

『いや、もうまずいんだけど……。

 もう出口にまであと数分ってところなんだけど!!』

 

「長い挨拶は嫌われるんで、話はここまでにしたいと思います。

 以上、機動六課課長兼部隊長、八神はやてでした!」

 

『ゴーッ!!』

 

『ちょ、スバル!?』

 

部隊長挨拶が終わり拍手が鳴り響く中、一人の少年がその場から姿を消したのに気付いたのは隊長陣を含め極僅かの人だけだった。

 

 

 

 

 

「ふぅ~、ギリギリだった……」

 

「あんたって……。

 なんでこんなのとコンビ組んだんだろ……」

 

稼動式が終わり、スバルがトイレに駆け込んだ後、彼らはフォワード部隊の集合場所であるロビーに向かっていた。

 

「それにしても、俺たちのチームメイトってのはどんなのなんだろうな。

 年下ってのはあまり考えられないけど……」

 

「そうね……。

 こんな部隊だもの、少なくともあたしたちと同じくらいか、隊長たちの年代ぐらいでしょうね」

 

「あ、あの。

 スバル・ナカジマ二等陸士とティアナ・ランスター二等陸士でしょうか?」

 

二人がそんな話をしていると、ロビーの方から駆け寄ってきた彼らよりも年下の二人組の少年少女が二人に声をかけてきた。

 

「あぁ、そうだが。

 もしかして、君ら二人が俺たちのチームメイトってことか?」

 

「は、はい!

 自分はエリオ・モンディアル三等陸士、10歳であります!」

 

「私はキャロ・ル・ルシエです。

 えぇと、私も10歳であります。

 そ、それでこっちが白竜のフリードです」

 

赤髪の少年、エリオが元気に自己紹介をすると、その隣にいる少女、キャロと幼竜のフリードが同じように挨拶をする。

まぁ、フリードはキャロの紹介の後に一声鳴いたぐらいだが。

 

「まさか本当にあたしたちよりも年下の子がチームメイトって……。

 まぁいいわ。

 あたしはティアナ・ランスター。歳は16よ」

 

「俺はスバル。スバル・ナカジマだ。

 歳はティアナの一つ下で15だ。

 しっかし竜と来たか。

 話には聞いたことがあるが、本物を見るのは初めてだ。

 触ってもいいか?」

 

キラキラと輝く瞳のスバルはキャロに尋ねる。

というか、尋ねる最中でも手をワキワキとしてフリードにジリジリと近づいていた。

 

「えっと……、いいよね、フリード?」

 

苦笑しながら聞くキャロにフリードは肯定の意を示す鳴き声を一声上げる。

 

「おぉ……まさかここに来て本物の竜に触れるとは……!」

 

キャロがその意を伝える前にすでにスバルはフリードの頭を恐る恐る触っていた。

その様子を見たティアナはため息を吐き一言。

 

「竜なんて爬虫類の仲間みたいなものでしょ?

 どこがいいのか……」

 

その一言にスバルとフリードはピシッ!と固まってしまった。

すぐに立ち直ったスバルは竜の素晴らしさをティアナに一から十まで伝えようとするが、訓練開始の時間が迫っていることをエリオに言われて渋々と引き下がった。

 

 

 

 

 

後日、彼女(ティアナ)スバルとフリード(彼ら)に竜の素晴らしさを丸一日使って教えられるのだが、今はそのことを知るものはいなかった。

 

 

 

 

場所は移り男子更衣室。

そこではスバルとエリオが陸士の制服から訓練用の服に着替えているところだった。

 

「あの、スバルさんはティアナさんとは長いんですか?」

 

「ん?あぁ、そうだな。

 訓練校からコンビ組んで、前の部隊にも一緒に行って、今も同じチームだからな。

 結構長いな、3年くらいか?

 だけど、これからはお前とキャロ、それにフリードも一緒のチームだ。

 同じ前衛(フロント)としてよろしくな」

 

スバルはそういうとエリオの頭に手を乗せグリグリと撫でまわした。

いきなり撫でられ驚くエリオにスバルは笑いながら言葉をつづける。

 

「わわッ!?」

 

「ハハッ!なんか困ったことがあったら相談しろよ?

 同じルームメイトでもあるんだからな」

 

「はいっ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いや、これマジでシミュレーターなのか?

 触れるなんて驚きを通り越してもう何も言えないな」

 

訓練スペースに着いたスバルたち四人は技術職員のシャリオ・フィニーノ曰く『機動六課自慢の訓練スペース』を見て感心していた。

もはやシミュレーターの域を超えてるだろとスバルは呆れも交えたため息を吐く。

 

『よしっと、みんな聞こえる?』

 

「「「「はい!」」」」

 

未だに周りを見回していた四人に対して彼らの背後のビルの上にいるなのはから通信が入る。

 

『それじゃ、さっそくターゲットを出していくよ。

 まずは軽く8体から!』

 

なのはがシャーリーに指示を出すと、四人の前方に8つの魔法陣が現れ、そこから今回のターゲットが出てくる。

 

『私達の主な仕事は、捜索指定ロストロギアの保守管理。

 その目的の為に、これから戦うことになる相手が……これ』

 

魔法陣から出てきたターゲット―――ガジェットドローンと呼ばれる機械兵器のホログラムが8つ。

ホログラムといえども、周りの建物同様触れることのできるとんでもないものだ。

 

『自立行動型の魔道機械。これは、近付くと攻撃してくるタイプね』

 

「俺やエリオは必然的に攻撃されるわけだ」

 

「気を付けないといけませんね……」

 

スバルの言葉に同調するようにエリオが気を引き締める。

 

『まぁ、今回はお試し版だから実際のものとはちょっと違うけど、意外と攻撃は鋭いから気を付けて。

 一人で相手にするのは少し厳しいかもしれないからね』

 

「あんな気の抜けるようなデザインで手強いなんて……」

 

『まぁ、百聞は一見に如かずっていうからね。

 この魔道機械の手強さは、自分達で確かめてみて』

 

「「「「了解!」」」」

 

なのはの言葉を聞いた四人はそれぞれのデバイスを構え真剣な表情になる。

 

『それじゃ、第1回模擬戦訓練。

 ミッション目的、逃走するターゲットの捕獲、又は破壊。

 制限時間は15分。

 ミッションスタート!!』

 

 

 

 

 

 




さて、今回は六課の稼働初日をお送りしました。
やはりこのスバルは何か違う!と思えてもらえれば幸いです。
そして、やっとフォワード新人組がそろいました。
フリードを見た時のスバルの瞳はキラキラと星が出ていると思ってもらって結構です。

さて、今後のことなんですが……。
作者は大学に入りたての新入生。
だというのに再来週には中間テスト。
なぜだ、テストはもうないと思ってたのに……(ちくせう

というわけで、更新が少し遅れるかもしれません。
まぁ、少しはストックがあるのでいいですけど……。



さて、今回の登場人物紹介は、スバル(♂)のおかげで原作、何それおいしいの状態のメインヒロイン、ティアナです。
それでは


名前 ティアナ・ランスター
年齢 16歳
B/W/H (バキューンッ!)/(ズドーンッ!)/(頭冷やそうか)
最近の悩み スバルといういつ爆発するかわからない爆弾を抱えていること

主人公スバルによって原作から序盤だというのに原作以上のツンツンツン子になっている。
訓練校時代に彼とコンビを組み、学年トップを爆走した。
スバルの大事なブレーキ役として訓練校の教官たちには期待されていた。
兄ティーダの死をきっかけに執務官を目指すのは原作と同じだが、スバルの影響で原作とは違い、自分が今できることをしっかりやっていくという考えでいる。
六課に入ってからはスバルのブレーキ役となるのがほかにも増えた(主になのは)ためほっとしているが、いつの間にかそのブレーキ役もスバルのペースに乗せられ結局は自分がやらなければならくなっている現状に不満を持っている。
スバルの裏のない言動に惹かれているところもあるが、決して自覚しようとはしない。
しょっぱなにスバルが過小評価する癖を無理やり直したので、原作とは違い今のところは、そこまで機動六課にいることに焦りを感じてはいない。


スパロボ風精神コマンド
「集中」「努力」「必中」「攪乱」「直撃」「熱血」

スパロボ風特殊能力
「最強の凡人」:気力110以上で発動。敵ユニット撃墜につき経験値110%ボーナス

スパロボ風エースボーナス
「熱血が愛に変化。戦闘終了後得る経験値さらに50%アップ」


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第五話 

今回もスバルがやらかしますが、それがこのスバルクォリティです。
何をやらかすのかは本編を見てのお楽しみ。



『ティアナ、援護頼む!』

 

「わかってるわよ!」

 

訓練が開始されてからスバルたちはガジェットの動きに翻弄されていた。

デザイン上そんなに動きは素早くないだろうと思っていた前衛の二人は、その先入観のせいで完全に振り切られ分散し、後衛の援護を受けることができていない状態だった。

 

『エリオ、回り込め!

 ティアナがそっちに追い立てる!』

 

『はいっ!』

 

伊達に2年近くコンビを組んでいないスバルはティアナの狙いを理解し、エリオを先に行かせ、自分はガジェットを追い立てる役に徹していた。

 

「キャロ、威力強化お願い」

 

「はい、ケリュケイオン」

 

《Boost up. Burret Power》

 

キャロの補助魔法がティアナに掛けられ、ティアナの魔力弾の威力が上がった。

 

「スバル、援護行くわよ!」

 

『どんと来い!!』

 

「シュートッ!!」

 

『マグナム、シュート!!』

 

牽制目的のスバルのリボルバーシュートと本命のティアナのシュートバレットはガジェットに向かって飛翔する。

ガジェットとの間には遮蔽物はなく、威力強化を施したティアナの魔力弾は目標を貫く……かと思われた。

 

「なっ!?」

 

『掻き消えた……?

 バリアか!?』

 

「違います、たぶんフィールド系!」

 

二人の魔力弾はガジェットに直撃する距離まで迫った途端、何かに阻まれて空気に溶け込むように消滅した。

 

「防御じゃなくて、魔力を消滅させてる……?」

 

『そう。ガジェットドローンには、ちょっと厄介な性質があるの。

 攻撃魔力をかき消す、アンチマギリングフィールド。

 通称AMF、普通の射撃は通じないよ?』

 

『だったら……ッ!!』

 

なのはからの補足説明を聞いたスバルはローラーの出力を上げ同時にウィングロードを発動する。

 

 

「スバル!馬鹿、危ない!!」

 

『AMFを全開にされると……』

 

ガジェットが一際強く光ると、スバルが発動したウィングロードが途中で途切れ、スバルは空中に投げ出される。

 

『スバルさん!』

 

『なんとぉ!』

 

投げ出されたスバルは空中で体勢を立て直すと近くのビルに魔力弾を放つ。

魔力弾の直撃を受けたビルから人の頭ほどの大きさのコンクリート片がスバルの方に飛んでくる。

 

『そらよッ!!』

 

スバルはそれを蹴り飛ばしガジェットにぶつけ体勢を崩す。

その隙に着地したスバルはローラーと最短進路で体勢を崩したガジェットに接近し右腕でその丸いボディを貫いた。

 

『む、無茶苦茶だよ……。

 これはちょっと想像できないやり方だった……』

 

『なのはさん、あいつのやり方に一々驚いてたらキリがありませんから』

 

驚いた声をあげるなのはに対してティアナは諦めの意を込めた意見を念話で飛ばしておく。

 

「さっきのを見ると、物理攻撃は防げないみたいね……。

 エリオ、キャロ、あいつらの足止めできる?」

 

『やってみます!』

 

「わかりました!

 フリード、ブラストフレア!」

 

ティアナの提案にエリオとキャロはすぐさま行動に移した。

エリオは彼に与えられた槍型のデバイス『ストラーダ』を使い、ガジェットの進路上にある橋を切り裂き、進路を塞ぐ。

その隙にフリードの口から炎が吐きだされ、エリオの切り落とした橋の残骸に足止めを喰らったガジェットに直撃し破壊される。

残りの7体のうちその攻撃に巻き込まれなかった2体は進路を変更し逃走を続ける。

 

だが、その2体を追いかける人影があった。

 

「こちとら射撃型、無効化されたからって諦めるわけには……」

 

その人影―――ティアナは手に持ったデバイスを構えるとカートリッジを二発一気にロードする。

 

「いかないのよッ!!」

 

(フィールドの抜けるだけあればいい、それだけなら、今のあたしにだって……!)

 

ティアナは銃口に生じさせた魔力弾にさらに薄い魔力によるコーティングを行う。

 

「外殻……形成……!

 ヴァリアブルシュートッ!!」

 

そして、外殻が閉じた瞬間、ティアナは引き金を引いた。

放たれた弾丸はガジェットのフィールドをものともせずその本体を突き抜ける。

 

「ヤバッ! 

 コントロールが!!」

 

だが、残るもう一機に向かうはずの弾丸はティアナのコントロールを離れターゲットには向かわずまっすぐに突き抜けて行ってしまった。

 

「クッ!」

 

『か~ら~の~ッ!!』

 

だが、その先にいたのは彼女の頼れる(?)相棒だった。

(スバル)は弾丸を先回りしており、丁度彼はガジェットの直線状に立っていた。

そして、彼の右足にはプロテクションが展開されていた。

 

「スバル!?」

 

『もう一撃ィッ!!』

 

そして、彼の近くをティアナの多重弾殻弾を右足で蹴り飛ばした(・・・・・・)

 

「え……」

 

「あいつはまた……」

 

蹴り飛ばさられた弾丸は一直線にガジェットへと向かいそのど真ん中を突き抜けた。

 

『よしッ!』

 

『すごいです!!

 スバルさん、よくあんなことできますね!!』

 

キャロが信じられないものを見た、という表情を浮かべ、ティアナは大きなため息を吐いた。

もう彼女の幸運はなくなってるのかもしれない。

そんな彼女たちのことは知らずに、スバルはガッツポーズをとってるし、エリオはそんなスバルに向けて尊敬の眼差しを浮かべていた。

やはりなんだかんだ言ってもエリオも男の子なのだ、スバルのやることが格好良く見えるのは当然だろう。

 

『コラッ、スバル!!

 あんなことしたら危ないでしょ!!

 エリオも!

 あんなことはしたらダメだからね!!

 あなたが訓練で怪我したら私がフェイトちゃんに怒られるんだから!!』

 

まぁ、すぐになのはからお叱りをいただき、二人ともペコペコ誤っていたが。

 

 

 

 

 

 

 

「それで、新人達の方はどうだった?」

 

「まだ全員よちよち歩きのひよっこだ。

 あたしが指導するのはまだもう少し先だろうな」

 

稼働初日の夜。

機動六課の隊舎の屋上で話す二人は、機動六課の前線部隊『スターズ分隊』と『ライトニング分隊』の負隊長であるヴィータ三等空尉とシグナム二等空尉だ。

 

「しかもその中に一人とんでもないことしでかす問題児もいるときた。

 まったく、はやての人選に間違いはないと思いたいけど……」

 

「だが、面白い奴なのだろう?

 お前の言葉を借りれば」

 

「まぁな、特にスバルとティアナはいいコンビだ。

 互いの欠点を補いあってる。

 資料だとティアナは自分のことを過小評価しやすいって書いてあったけど、今はそんな風には見えねぇ。

 まぁ、大方相棒の方が何かやったんだろうけど……」

 

「そうか。

 ところで、その新人達は今どこに?」

 

ヴィータの言葉に静かに笑いながら返すシグナム。

シグナムの質問にヴィータは苦笑しながら答える。

 

「いきなり一日訓練(オール)だったからな。

 今は隊舎のロビーでグロッキーだ。

 あとでスバルとティアナは起こしてちびっこどもを部屋に運ばせないとな」

 

「ふっ……」

 

「あんだよ」

 

ヴィータの表情を見てシグナムはまた静かに微笑む。

その表情を見たヴィータはそんな彼女を訝しむ。

 

「いや、お前も教導には向ているのかもな。

 なんだかんだ言って面倒見がいいからな」

 

「うっせ!」

 

シグナムの言葉に対してヴィータは頬を紅めながらそっぽを向いた。

その仕草にもシグナムは笑みを浮かべるのだが、そっぽを向いていたヴィータはそのことには気付けなかった。

とにもかくにも、新部隊『機動六課』の稼働初日はこうして過ぎ去っていくのだった。

 

 

 

 

 




これがスバルクォリティwww
熟練の魔導師であるなのはですらも驚愕させる方法でガジェットを撃破しました。
何をやらかすかわからない。
それは敵にとっては厄介ですが、味方からすれば非常に厄介でしょうね。

そろそろ試験勉強しなければならないけど……、なんでこんな時に限って頭に話が浮かんでくるんでしょうね。
おかげで勉強が捗らねぇ。

今回の人物紹介はスバルによって初登場の際にいきなり魔王陛下を憑依させた原作主人公高町なのはさんです。

名前 高町なのは
年齢 19歳
職業 魔法少女(?)兼戦技教導官
悩み スバルが訓練中にやることなすことに対する対応

スバルによって場合によっては一番引っ掻き回されているかもしれないなのはさん。
彼の行動によって彼女の胃の中は荒れ始めて、最近では胃がキリキリと痛むらしい。
そして、一番の悩みはスバルに指摘されたバリアジャケットのことであり、最近バリアジャケットのデザイン変更を本気で考え始めたらしい。
スバルのおかげで簡単に魔王化することが可能となってしまった。(本人無自覚)

スパロボ風精神コマンド
「必中」「鉄壁」「不屈」「直撃」「気迫」「魂」

スパロボ風特殊能力
「不屈の心」:気力110以上で発動。毎ターン開始時に「不屈」がかかるようになる

「魔王化」:気力170以上で発動。すべてのステータスが50%アップ。武装に「クロスファイヤー」追加

スパロボ風エースボーナス
「魔王化に必要な気力150に低下」


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第六話 

午前5:00

日もまだ顔を出さない時間に一つの目覚ましが鳴り響く。

だが、その目覚ましはベッドから伸びた手を叩き付けられ、ベルを鳴らすのを止められる。

しかし、その後いくつもの目覚ましが立て続けに、かつさまざまなところから鳴り響く。

机の上、テレビの上、はたまた寝ているもののベッドの下、足元など全方位からの目覚ましで時計の持ち主はいやでも目を覚ました。

 

「ふぁ……」

 

「あ、おはようございます、スバルさん!」

 

「ん、おはよー……」

 

目覚まし時計の持ち主、スバル先に起きていたルームメイトのエリオに目覚ましを止めながら挨拶をする。

しかし、その動きはいまいちキレがなくまた目覚ましを止める最中でもうつらうつらしていた。

 

「スバルさん、牛乳です」

 

「ん……」

 

その様子に苦笑しながらエリオは冷蔵庫から取り出した牛乳瓶(500mL)を手渡す。

スバルはそれを受け取り、眠りかぶりながらも器用に蓋を外すと牛乳を流し込む。

 

「ふぅ……、目覚めバッチリ」

 

「あ、あはは……」

 

牛乳を飲むだけで先ほどまでのものすごく眠そうだった表情からキリッとした表情になるのを見て同室になって数日すぎてもなれないエリオは(なんでコーヒーじゃなくて牛乳であそこまで目が覚めるんだろう……)と考えていた。

仮に男子寮(ここ)にティアナがいたらこうエリオに告げるはずである。

 

「気にしたら負けよ。

 あいつはそういうものだって思わないとこっちがもたないから」

 

と。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はい、集合!」

 

午前の訓練、なのはの呼びかけにフォワード四名と一匹はすぐに彼女のそばに駆け寄る。

 

「うん、じゃあ本日の早朝訓練のラスト一本。

 みんな、まだ頑張れる?」

 

「「「「はいっ!!」」」」

 

四人の返事に満足したなのははレイジングハートを起動する。

その際、バリアジャケットは以前のものではなくなっていた。

ミニスカートではなく、足をほぼ覆い隠すほどの長さのロングスカートに変更され、髪形もツインテールではなく、サイドポニーと呼ばれる髪形になっていた。

 

「あれ……、なのはさんのバリアジャケット……」

 

「変わってますね……」

 

「「……」」

 

「あ~、うん。

 イメチェンだよ、イメチェン」

 

《…………》

 

彼女がバリアジャケットの変更を行った理由を知らないエリオとキャロは首を傾げ、その原因であるスバルとそれを知るティアナは目をそらし、当の本人は苦笑交じりに答える。

その本当の理由を知っており、なおかつバリアジャケットの変更する際にマスターが悩んでいたのを知っているレイジングハートはただ黙って話を聞いていた。

 

「そんなことより!

 最後はシュートイベーション、行くよ!」

 

《Axel Shooter. 》

 

なのはが愛機(レイジングハート)を構えると彼女の周りに20発の魔力弾が浮かび上がる。

 

「私の攻撃を5分間回避し続けるか、攻撃を私にクリーンヒットさせれば終了。

 ただし、誰か一人でも被弾したら最初からね」

 

「「「「はいっ!」」」」

 

「それじゃ、頑張っていこう!」

 

 

 

 

「このボロボロの状態で、なのはさんの攻撃を5分間、捌ききる自信ある?」

 

「無理」

 

「同じくです」

 

「じゃ、何とか一発入れよう!」

 

「「「了解!」」」

 

ティアナの言葉に他の三人は同時に答える。

 

「よし、行くぞエリオ!!」

 

「はい、スバルさん!!」

 

「うん、準備はオーケーだね。

 それじゃ、レディ……ゴーッ!!」

 

なのはが上にあげた右手を下げると5発の魔力弾が一斉に四人のもとに殺到する。

 

「全員、絶対に避けなさいよ!!

 三分で決めるわよ!!」

 

「「「おうッ!!」」」

 

四人は魔力弾が直撃する直前に四方に散開し姿を隠す。

隠したが……。

 

エリオ、キャロ、ティアナに向かった魔力弾の数―――合計4発(すでにティアナとフリードが迎撃済)

 

スバルに向かった魔力弾の数―――11発(内なのはの直接制御6発)

 

「なんでぇ!?」

 

これにはさすがのスバルも声をあげる。

 

「スバルにはお気に入りのバリアジャケットをコケにされたからね……。

 訓練にかこつけて嫌がらせを……」

(スバルは前線に出ることが多いからね。

 ここでこういったことを経験していればのちに生きるよ?)

 

《マスター、本音と建前が逆になってます》

 

慌てて直撃を回避するスバルを見ながら暗い笑みを浮かべるなのはをレイジングハートは呆れた声で言ってみたが、彼女にその言葉は入ってこなかったようだ。

 

 

 

 

 

 

結果のみを言うと、最後のシュートイベーションはクリアされた。

しかしこの訓練を終えた直後にスバルのローラーが完全にダメになってしまい、部品交換どころか、基礎から組みなおさなければならないとの診断を下されてしまった。

さらに、ティアナのアンカーガンもかなり消耗してきており、訓練の最中にも何度か動作不良が起こっていた。

 

「う~ん、皆訓練にも慣れてきたし……そろそろ実戦用の新デバイスに切り替えかなぁ?」

 

「新……」

 

「デバイス?」

 

「うん。

 だいぶ基礎の訓練もこなせるようになってきたでしょ?

 だから、そろそろ自分たちの適正にあった訓練をしていこうかなって」

 

なのはの言葉を聞いた四人は嬉しそうな表情を浮かべる。

 

「じゃあ、詳しい話は隊舎に戻ってからしようか」

 

 

 

 

 

 

機動六課隊舎ロビー

 

「はぁ、二人とも遅いな……」

 

「女のシャワーなんてそんなものだよ。

 ティアナも姉貴も、基本長いから」

 

ソファーに座りながら呟いたエリオに向かってスバルは苦笑しながらスポーツドリンクの入ったペットボトルを渡す。

エリオは礼を言いながらそれを受け取り一口飲む。

 

「そういえば、スバルさんはティアナさんとはどうやって知り合ったんですか?」

 

「ん?

 俺とティアナの出会い?」

 

スバルは口からペットボトルを離すと、頭を掻きながら答える。

 

「そうだな……。

 エリオは訓練校にはいってないんだろう?」

 

「あ、はい」

 

「訓練校では使うデバイスは支給されてたんだよ。

 ミッド式なら杖、近代ベルカなら剣か槍ってな。

 だけど、俺は見ての通りのやり方で、ローラーブーツとリボルバーナックルがあったし、ティアナはミッド式だけどカートリッジシステムを使いたいから自作したデバイスを持ってきてたんだよ。

 それで、訓練校では自前のデバイス持ちなんて目立ってな。

 その時からだよ、あいつとコンビ組んだのは」

 

「それで3年コンビ組んできているわけですね」

 

「まあな」

 

その後、二人はティアナとキャロが戻ってくるまで好きなものや苦手なものといった当たり障りのない話をしながら時間をつぶしていった。

 

 

 

後日、女性用のシャワールームの方でも似たような話をしていたことを知った四人はお互いに笑い、さらにチームの絆が深まっていった。

 

 

 

 




今回初めてなのはのバリアジャケット姿が出てきました。
まぁ、エクシードのデザインだと思ってもらえば結構です。
そして、やはりというか、当然というか、スバルに対してストレスの溜まっていたなのはさん。
爆発しちゃいましたね(笑)。

さて、今日まで連続で更新してきましたが、そろそろストックが切れそうなのとリアルがマジでパネェ勢いで忙しいので更新が遅れます。
ということで次は明後日水曜日とさせていただきます。
なにとぞご了承ください。

今回の人物紹介は、スバルという良き(?)兄を持つことのできたエリオ君です。


名前 エリオ・モンディアル
年齢 10歳
使用魔法体系 近代ベルカ式
最近の悩み どうすればスバルのような人になれるのか

原作と違い、スバルが兄貴分となり年上の男として彼に憧れを抱いてしまった。
彼という存在で甘えるという行為を自然にできるようになり、フェイトがふやけることが多くなったらしい。
訓練の際にスバルの真似をしようとしたところなのはに本気で止められ、涙目で怒られたことを疑問に思っている。(なのはが涙目になるのは当たり前)
スバルと同室ということで彼に借りて遊んだゲームに出てきた槍型の武器の機構をストラーダに積み込もうと本気で考えている最中でもある。

スパロボ風精神コマンド
「加速」「ひらめき」「集中」「気合」「熱血」「勇気」

スパロボ風特殊能力
「魔力変換資質」:気力110以上で発動。すべての攻撃力5%アップ

「Fの遺産」:気力150以上で発動。50%の確率で分身

スパロボ風エースボーナス
「魔力変換資質での攻撃力アップの値5%→10%」


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番外編 とある訓練校の教官の苦労話

すみません、今日もまた更新してしまいました。
しかしですね、昨日家に帰り着いたのが夜の10時。
ハーメルンを開いて日課の日刊ランキングを見てみたら、なんとこの小説が3位になってるではないですか。
私リアルで「ファッ!?」なんて言ってしまいました。
つい嬉しくて番外編を書いてしましました。
リハビリ作品でこれほどの評価をいただいて感無量です。
これからも応援よろしくお願いします。
ちなみにお気に入りも昨日より100以上増えてました。
ランキングの力恐るべし。


第4陸士訓練学校。

この建物の一室でとある一人の男がため息を吐きながら目の前の書類を処理していた。

彼はこの訓練学校でも一、二を争うほどの人気を誇り、そしてその人気を得るのも当たり前のように訓練の効率が良かった。

実際、彼の教えを受けた訓練生が卒業後、素晴らしい成果を修めたということはざらにあった。

さて、そんな彼だが、今彼の担当する訓練生の中に、とびっきり優秀で、ずば抜けた問題児がいた。

その訓練生の名前は『スバル・ナカジマ』。

彼はその名前を目にするだけで、最近さらに酷くなった胃痛をキリキリと感じた。

 

さて、そのスバルだが、過去、彼がこの訓練校で起こしたことを書いていこうと思う。

 

 

 

 

 

あれは射撃訓練の時だった。

その時は近代ベルカ式とミッドチルダ式の区別なく行っていた。

 

「うむ、よし。

 ランスター、射撃に関してはお前の右に出るものはいないな。

 これからも頑張れよ?」

 

「はい、ありがとうございます」

 

彼は自分の受け持つ生徒の中でも特に総合力でトップを走る女子生徒、ティアナ・ランスターに声をかけていた。

そんな彼の言葉にティアナはそんなこと当たり前だという表情で答えていた。

だが、そんな彼女の態度に彼は好感を抱いていた。

 

「よし、次!」

 

「はい!

 スバル・ナカジマ、行きます!」

 

彼の声に答えたのはこの時すでに彼の中で一際存在感を放っていたスバルだった。

 

「リボルバー……シュートッ!!」

 

ここで今回の訓練のおさらいをしておく。

今回の訓練は障害物に見立てた木を避けてターゲットを破壊する訓練である。

そして、スバルの放った魔力弾は障害物である木を見事に貫通(・・)してターゲットを破壊していた。

この後、スバルと彼のパートナーであるティアナが罰としてトイレ掃除を喰らったのは今でも語り継がれている。

 

 

 

 

また、格闘訓練の際には、こんなこともあった。

その時も先ほどの射撃訓練と同じようにベルカ、ミッド関係なしに行われた。

今回の訓練の趣旨は魔力の使えない場合の犯人確保という状況だった。

安全のため、犯人役には防御用のグローブを両手に嵌めさせている。

 

「スバル・ナカジマ、行きます!!」

 

「「「「「応ッ!!」」」」」

 

彼の目の前でスバルは思いっきり犯人役の教師陣を吹き飛ばした。

大の大人5人を、である。

ちなみに、この光景はすでに日常の中に溶け込んでおり、誰もが不思議には思ってはいたが、突っ込むものはいなかった。

すでにスバルはそのようなものとして周りに認知されていたのだ。

 

だが、今回の問題は彼ではなかった。

次の順番であったティアナが構えると、一人の男子訓練生がニヤついた顔をしながら彼女の目の前に立った。

 

「ティアナ・ランスター、行きます」

 

彼の目の前でスバルの相棒であるティアナがそう告げ、彼に向けて渾身の拳を放った。

足腰からロスの少ない伝わり方で右腕に力を伝え、回転をかけた拳は、相手の防御を突き抜け、その鳩尾に突き刺さった。

その衝撃で男子生徒は一発KO。

この場面を見ていた格闘に強い彼の同僚は彼女の拳を「見事なコークスクリューだ、あれは世界を狙える」と言っていた。

やはり、彼女もまたスバルの関係者ということだった。

 

 

さらに、こんなこともあった。

昼休み、彼は食堂へと向かっていた。

その日彼は運悪く、朝食を食べ損ねていたので食堂のメニューの中でも一番の量を誇る特盛の他にも何か頼むかと考えていた。

 

「あ、教官!

 昼食ですか?」

 

そんな彼に話しかける者がいた。

スバルである。

すでに問題児のレッテルを張られていた彼であったが、その素行は別段悪いわけではなく、真面目な生徒でもあった。

それが空回りしているのはいただけなかったが。

 

「あぁ、今日は朝食べ損ねてな。

 特盛の他に何か頼むつもりだ」

 

この時、彼にとって何が不幸だったのかというと、話しかけてきた相手がスバルだったことだ。

仮にこれがティアナだったら、「そうですか、ですが食べ過ぎには注意してくださいね」と言われる程度だっただろう。

だが、此処にいたのはスバルだった。

 

「そうですか……。

 なら、俺の頼むのと同じものにしませんか?

 俺のは食堂のおばちゃんに頼んで特盛より少し多くしてもらってるので」

 

「む、そうか?

 なら頼む」

 

「了解です!

 おばちゃん、アホ盛り二つお願い!!」

 

「あいよー!」

 

スバルの言葉を聞いた彼は「アホ盛り……?」と疑問に思った程度だったが、それが出てくると顔を引きつらせた。

スバルが台車を借りて運んできたものは、とんでもない量の料理の山だった。

なるほど、これはアホ盛りだと感心したのもつかの間、彼の隣にはしゃもじを持った食堂のおばちゃんが立っており、「お残しはゆるしまへんで~」と彼に向かってドスの利いた声で話しかけていた。

彼女のいいつけを守らなかったものはこの訓練校の食堂を出禁になるのはすでに知られていることだった。

彼はそうならないように完食目指して料理を口に運ぶのだった。

ちなみに、完食しきった彼はその日の夜、結婚5年目にして初めて妻の作った料理を一口も食べなかったそうだ。

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ、あいつらも今日で卒業か。

 なんというか、あっという間の三か月だったな……」

 

感慨深い彼のつぶやきはだれにも聞かれることなく空に消えていった。

だが、彼は知らなかった。

この後、彼の中に一番強烈な存在感を刻み込んだものが何かをしでかすということを……。

 

 




お楽しみいただけたでしょうか。
今回はスバルメインではなく、彼らのいた訓練校の教官にスポットを当ててみました。
彼はいわばなのはの前任者ですね。(主にスバルに苦労させられたりストレスを与えられたりと)
彼は今後登場するかはわかりません。
なので今回の登場人物は彼のことを書いていきたいと思います。

名前 キョウ・カーン
性別 男(28)
好きなもの 妻、妻の作った料理、生後3ヶ月の娘
苦手なもの スバル
期待している人 スバル、ティアナ
最近の悩み スバルによる被害者が増えていないか

本名が一切話に出てこないある意味かわいそうな人。
スバルによる被害者の一人。
スバルが訓練校に入ってから真っ黒だった彼の髪に数本の白髪が見かけられたとき、同僚の教官たちは彼に同情していた。
自分の名前を誇りに思い、またその職業にも誇りをもって仕事に取り組んでいた。
その誇りのみでスバルの暴走に3ヶ月も付き合ったのである意味すごい人。
実力もかなりのもので、AAAランク魔導師資格を持っている。
愛する妻と娘を持つリア充の一人。
これからも彼の送り出していく人はミッドの平和を守っていくことだろう。

スパロボ風精神コマンド
「必中」「ひらめき」「応援」「直撃」「気迫」「熱血」

スパロボ風特殊能力
「教導」:気力105以上で発動。周囲にいる味方ユニットの獲得経験値に10%のボーナス

スパロボ風エースボーナス
「熱血が魂に変更」


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第七話

おととい日刊3位だったのに……、昨日の早朝には1位ッてどいうこと………?
それに比例するようにお気に入りがあっという間に400超え。
まさか投稿してから一週間足らずでこんなにお気に入りに入れてくれる人がいるとは……!!
ランキングパネェ……
あと、昨日の番外編にポッと出のキャラだったキョウ・カーン、なんであんなに人気なんだ。
あれか、みなさん彼の再出演を望んでいるのか……?



機動六課メンテナンスルーム

ここに、フォワード新人四人とシャーリー、リインがそろっていた。

その目的はフォワード四人、特にスバルとティアナに対して作成された新デバイスの受け渡し。

その真っ最中だった。

 

「みんなの使うことになるこの四機は、機動六課前線メンバー、メカニックスタッフの技術と経験のすべてを注ぎ込んで作られた文句なしの最高傑作ですよ。

 スバルとティアナ、エリオにキャロのそれぞれの能力を十分に発揮できるように調整されているのです!」

 

そう話しながらリインは自分の周りに四機のデバイスを浮かべる。

 

「この子達は、まだ産まれたばかりですが、色んな人の思いや願いが込められてて、一杯時間をかけてようやく完成したです。

 ただの道具と思わないで、大切に、でも性能の限界まで思いっきり全力で使ってあげて欲しいですよ」

 

「うん。きっと、この子達もそれを望んでるから」

 

リインの説明を受けた四人は予想以上に自分たちの機体に手間暇かけていることに驚きを隠しきれていなかった。

 

「ごめんごめん、お待たせ!」

 

すると、メンテナンスルームになのはが急いで入ってきた。

 

「ナイスタイミングです、なのはさん。

 ちょうど機能説明をしようとしていたところです」

 

「そっか、四機ともすぐに使える状態なんだよね?」

 

「はいです!!」

 

 

 

 

 

 

 

その後、四人はシャーリーから新デバイスの説明を受けていた。

詳しいことは省いて、簡単に述べると、新デバイスの四機には出力リミッターが掛けてあり、四人の操作技術の向上とともに解除していく旨を教えられた。

 

その話の最中、六課隊長陣に掛けられたリミッターのことに話が移っていった。

六課の隊長陣には新人達と同様にデバイスに掛けられたリミッターのみならず、彼女たち自身にもリミッターが掛けられている言うことを知らされたスバルとティアナは念話で互いに意見を交換していた。

 

(これだけの優秀な魔導師をリミッターかけてまで集める理由……。

 なんだと思う?)

 

(何か大きなことが起きるのを未然に防ぐためってのが一番だと思うが……。

 これってどうよ……)

 

スバルは少し考えた後、手を挙げながらなのはに尋ねる。

 

「ん?

 何かな、スバル」

 

「いや、リミッターをかけてまでなのはさん達を集める理由が思い浮かばなくて……。

 ベルカ式のシグナム副隊長やヴィータ副隊長はまだリミッターをかけた状態でもあの人たちはかなりの腕なので問題ないでしょう。

 だけど、ミッド式のなのはさんやフェイト隊長、特に砲撃魔法主体のなのはさんにとってはリミッターはかなりの足かせになるのでは?

 そんな状態の魔導師を多く集めるってことは……」

 

「そうだね、今は詳しいことは言えないかな。

 この六課も遺失物管理部って名前だから、ロストロギア関係ってことしか教えられない」

 

スバルの質問に対してなのはは申し訳なさそうに答える。

 

「とにかく、今は隊長陣のことは頭の片隅に置いておいて、自分たちのデバイスのことを考えておいて」

 

「この四機はみんなの訓練のデータを基に調整しているから、いきなり使っても違和感はないと思うよ」

 

「午後の訓練にでもさっそく使ってみて微調整しようか」

 

「遠隔調整も可能ですしね」

 

シャーリーの言葉になのはは苦笑しながら「便利だよね、今は」と返した。

その返事を聞いたスバルは(その言葉は歳を感じた時に出る言葉みたいですね)と口に出そうとしたが、なのはの顔に浮かんだ笑みを見て背中に薄ら寒いものを感じ口を噤んだ。

 

その直後、隊舎全体に警報音が鳴り響いた。

 

「このアラートは!?」

 

「一級警戒態勢!!」

 

アラート音に反応したなのはは通信を指令室に繋ぎ、状況の確認を行う。

 

「グリフィス君!!」

 

『はい、教会本部から出動要請です!』

 

『なのは隊長、フェイト隊長、グリフィス君? こちらはやて』

 

『状況は?』

 

モニターに司令補佐のグリフィス・ロウラン陸尉映り、その隣にはやてとフェイトからも通信が届く。

 

 

『教会の調査団が追っていたレリックらしき物が見つかった。場所は、エイリの山岳丘陵地区。目標は、山岳リニアレールで移動中』

 

『移動中って……』

 

「まさか!」

 

「……なんでリニアレールなんかにロストロギア乗せてるんだよ」

 

隊長たちの話を聞いたスバルは小声で、呆れるような声を出した。

 

 

『そのまさかや、内部に侵入したガジェットのせいで、リニアレールのコントロールが奪われてる。

 リニアレール車内のガジェットは、最低でも30体。

 大型や飛行型の未確認のタイプが出てるかも知れへん』

 

(なぁ、これってまずいんじゃね?)

 

状況を聞いたスバルはティアナに念話で話しかける。

 

(そうね、ガジェットにコントロールを奪われて止まれない。

 つまり下手すると脱線。

 これがただの貨物車両なら山岳部ってのもあってそこまで重要視しなくてもよかったんだけど……)

 

(荷物がロストロギア。

 何が起こるかわからねぇからな……。

 ついでにこっちはぶっつけで慣らし運転なしの新型。

 かなりきついな)

 

 

『いきなりハードは初出動や、なのはちゃん、フェイトちゃん、いける?』

 

『私は、いつでも』

 

「私も!」

 

『スバル、ティアナ、エリオ、キャロ。

 皆もええか?』

 

「「「「はい!」」」」

 

『よし。いいお返事や、シフトはA-3、グリフィス君は隊舎での指揮、リインは戦闘管制。

 なのはちゃんとフェイトちゃんは現場指揮』

 

『わかった』

 

「うん」

 

『ほんなら、機動六課フォワード部隊……出動!』

 

『「「「「「「了解!」」」」」』

 

こうして、機動六課フォワード四名の長い一日は始まりを告げた。

 

 




すいません、連続更新はこれで最後です。
明日からはマジで試験勉強しなければ……。
レポートの提出もあるし……!
とにかく頑張ってやりきった後はこの小説の更新を頑張っていきたいと思います。
人物紹介は姉貴分がティアナのみになった代わりに竜好きのスバルが出てきたことで少し状況の変わってきたキャロです。
それでは!

名前 キャロ・ル・ルシエ
性別 女
年齢 10歳
使役竜 フリードリヒ、ヴォルテール
悩み フリードが自分のことよりもスバルの言うことを優先することがあること

エリオとともにスバルには妹と見られているキャロ。
そんな彼女だが、スバルのおかげでフォワードの四人で仲良くしていることが多く、周りの人たちからは本当の兄弟のように見られている。
初対面でフリードに触りたいと言ってきたのはスバルが初めてで最初はどのように接すればいいのかわからなかったが、一緒に過ごすことでどのような人間なのかを知り、最近では彼の部屋に行ってスバルとエリオともにゲームをして過ごしたりすることが多くなっている。
その際、やっているゲームに出てくる音で能力を強化するというところを魔法にして使用できないかと考えているらしい。

スパロボ風精神コマンド
「集中」「信頼」「鉄壁」「応援」「祝福」「熱血」

スパロボ風特殊能力
「竜魂召喚」:気力130以上で発動。ブラストフレアがブラストレイに変更。

スパロボ風エースボーナス
「信頼」が「友情」に変更。


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第八話

約一週間ぶりの投稿です。
今日の午後に最後のテストが終わるのですが、勉強の合間にぼちぼち書いていたので少しストックができました。
それではどうぞ!


「新デバイスでぶっつけ本番になっちゃったけど、練習どおりで大丈夫だからね」

 

ヴァイスの操縦するヘリに乗ってなのはとリイン、新人四人は現場へと向かっていた。

 

「はい」

 

「了解です」

 

なのはの言葉にティアナとスバルはそう返す。

彼らはこれが初めての出動というわけではないのだ。

緊張はしているが、それは程よい緊張というもので動きを阻害するほどのものではない。

 

「エリオとキャロ、フリードも、しっかりですよ!」

 

「「は、はい!」」

 

しかし、この実戦が初陣のエリオとキャロにとって、リインの言葉は逆効果となっていた。

特にキャロは目に見えるほどに顔が強張っていた。

 

「危ない時は、私やフェイト隊長、リインがちゃんとフォローするから。

 おっかなびっくりじゃなくて、思いっきりやってみよう!」

 

「「「「はい!」」」」

 

四人がなのはに返事をした後、スバルがちらっと横を見てみると、緊張しているキャロに心配するようにエリオが声をかけていた。

その様子を見たスバルは席を立つと、エリオとキャロの前に向かい、二人と目を合わせるように屈んだ。

 

「二人とも、緊張してるか?」

 

「ッ……はい。

 少しだけ」

 

「は、はい……」

 

エリオとキャロはスバルの質問に詰まりながらも答える。

その返答を聞いたスバルは二人の頭に手を乗せクシャクシャと撫でる。

 

「緊張するのは当たり前だ。

 俺も緊張してるし、ティアナもだ。

 だけどな、これだけは言わせてくれ」

 

スバルは頭をなでる手を止めると真剣な顔つきになる。

 

「二人はチームだ。

 だからな、互いを守る、そのことだけは忘れないでくれよ?

 何かを守る、その意志だけで人は強くなれるからな」

 

スバルは「それに」とつづける。

 

「エリオはその年でもう俺たちと同じ魔導師ランクをとれる勢いだし、キャロにはフリードがいる。

 自分の力とこれまでの訓練をやってこれた自分の意思を信じればできないことはないさ。

 自分のやれることを精一杯やれば結果はついてくるさ」

 

わかったな?とスバルが尋ねると二人は少し吹っ切れた表情で頷いた。

 

(ありがとうね、スバル)

 

スバルが席に戻ると目の前に立つなのはから念話で礼を伝えられた。

 

(いいですよ、別に。

 エリオとキャロは俺にとっては弟妹みたいなものですからね)

 

(それでもだよ)

 

なのはとスバルの念話で会話している様子を見ていたティアナはどことなく不機嫌な表情だったのだが、それを知るもの誰もいなかった。

 

 

 

 

 

 

『ガジェット反応、空から!?』

 

『現地航空観測隊、反応を多数確認!』

 

ヘリが現場に近づいていったとき、通信でそのようなことが聞こえてきた。

 

 

「空から? もしかして、航空型のガジェット!?」

 

「多分ね」

 

「どうします? なのはさん」

 

「私がフェイト隊長と出て、2人で空を抑える。ヴァイス君、いい?」

 

「うっす。なのはさん、お願いします!」

 

なのはとヴァイスがそのように言葉を交わすと、ヘリの後部ハッチが開き青空と地上がその光景を覗かせた。

 

「じゃあ、ちょっと出てくるね。一応通信で現場の指揮はとるけど、現場の判断はティアナにお願いするね」

 

「はい」

 

「それじゃ、皆も頑張ってズバッとやっつけちゃおう!」

 

「「「はい!」」」

 

「……はい!」

 

未だに緊張の残っていたキャロが少し遅れて返事をする。

なのははそんなキャロに近づき、顔を両手で優しく包み込んだ。

 

「……大丈夫。離れていても、通信で繋がってる。一人じゃないから、ピンチの時は助け合える。

 キャロの魔法は、皆を助けてあげられる、優しくて強い魔法なんだから」

 

「あ……」

 

「それに、さっきスバルも言ってたでしょ?

 自分の力を信じろって。

 自分の力ってのは不思議でね、信じない者には全く力は貸さないんだけど、信じて使う者にはしっかり応えてくれるから、ね?」

 

「はいっ!」

 

「うん、いい返事だね。

 それじゃ、行ってくるよ」

 

なのははそういって後部ハッチから身を空中に躍らせた。

そして、その光景を見ていたスバルは目をキラキラさせていた。

 

(また何かやらかす気か……?)

 

その顔を見ていたティアナは一応彼の行動に気をかけておくことにした。

 

「任務は2つ、ガジェットを逃走させずに全機破壊すること。

 そして、レリックを安全に確保すること……、ティアナ聞いているですか?」

 

「ッ、はい。

 大丈夫です」

 

「そうですか、ならいいですけど。

 続けますです。

 ライトニング分隊とスターズ分隊は、それぞれ前後に分かれて中央を目指します。

 レリックはここ、7両目の重要貨物室に置かれています」

 

リインはそういって空中に展開したモニターを動かす。

貨物室とあってその広さはほかのものよりもかなりの広さを誇っていた。

 

「スターズかライトニング、どちらか先に到達した方がレリックを確保するですよ」

 

「「「「はい!」」」」

 

リインはそこで、「そして……」と言葉を切ると、その身を光に包まれながら一回転。

そこにいたのは騎士甲冑を着込んだリインだった。

 

「私も現場に降りて管制をするですよ」

 

 

 

「さて、新人ども。

 隊長さん達が空を抑えてくれてるお陰で、安全無事に降下ポイントに到着だ。

 準備はいいか?」

 

「「「はい!!」」」

 

「いつでも行けます!!」

 

「よし、ならスバル!!

 一番槍もってけ!!」

 

「了解ッ!!」

 

その直後、スバルは後部ハッチから身を投げ出した。

 

「ヒヤッホォーッ!!」

 

どことなく楽しんでいるように見えるのは自分の見間違いかとティアナは思ったが……。

 

「スバルさん、楽しそうだね」

 

「そうだね……」

 

隣に立つエリオとキャロのそんな会話が聞こえてきた彼女は眉間を揉みながらため息を吐いた。

 

「ティアナ、あのバカのフォロー頼むぞ!!」

 

「あまりわかりたくありませんけど、了解です!

 スターズ4、ティアナ・ランスター行きます!!」

 

そして、彼女もまた相棒の後を追うべく勢いをつけて空中に飛び込んだ。

 

 

 

 

 

「行くぞ、マッハキャリバー」

 

『任せてください』

 

「そうこなくっちゃな。

 セットアップ!!」

 

ヘリから飛び降りたスバルは少しの間の空中遊泳を楽しんだ後、新しい愛機を展開する。

一瞬でバリアジャケットとデバイスの装着を終えたスバルは列車の天井部分に着地する。

少し遅れてティアナもバリアジャケットを展開し彼のすぐそばに降りてきた。

 

「あれ、このジャケットって……」

 

自分たちのバリアジャケットのデザインが変更されているのに気付いたスバルはその疑問を口にした。

彼の姿は、以前のものにプラスで白のロングコートに袖の部分には青色の装飾が施されていた。

 

『みんなのバリアジャケットはそれぞれの分隊長さんのものを参考にしているですよ。

 癖はありますけど、高性能なのです』

 

『特に、スターズの二人のジャケットのロングコートはある程度の攻撃を弾く魔法をオートでかけてるから、いざというときはそれで防ぐといいよ!

 あまり過信されても困るけどね』

 

リインとシャーリーからの通信を聞いた二人は来ているコートを感心しながら見つめる。

スバルのコートは袖があるタイプのものだが、ティアナのコートには袖のないノースリーブのものだ。

 

『限界を超えたら最後に防いだ攻撃を相殺するように爆発するようにしてあるから、吃驚しないでね?』

 

「いや、爆発って……」

 

シャーリーの口から聞こえた物騒な単語に流石のスバルも顔を青くする。

 

『本当に爆発するわけじゃないから、心配しないで!

 まぁ、衝撃はあるかもしれないけど……』

 

「できれば衝撃も消してもらえればうれしかったんですけど……「スバル、下ッ!!」……ッ!?」

 

ティアナの呼びかけに反応したスバルはすぐさまその場から後ろに飛び去る。

直後、スバルの立っていた屋根を内側からレーザーが撃ちぬいた。

 

「さて、無駄話はここまでってね。

 行くぞ、マッハキャリバー!」

 

『わかりました』

 

「こっちも行くわよ、クロスミラージュ」

 

『了解』

 

 

ティアナはクロスミラージュを構え、スバルはマッハキャリバーの出力を上げる。

彼らの戦いの幕が切って落とされた。

 

 

 

 

 

「スターズ3、ガジェットⅠ型群体を撃破、次の車両へと向ってください。

 スターズ4、車両内のガジェットを撃破。

 スターズ3との合流をお願いします」

 

 

「ライトニングF、障害排除。

 引き続き、ガジェットの排除を」

 

「スターズ1、ライトニング1、ガジェットⅡ型の撃墜、制空権の確保を完了。

 その場にとどまり監視をお願いします」

 

場所は移り、機動六課の作戦指令室ではオペレーターのルキノとシャーリー、予備のヘリパイロットのアルトがリニアレールとその周辺における状況の整理と現場への大まかな指示を行っていた。

そんな中、はやては部屋の中央に置かれた司令席に座りモニターを凝視していた。

 

(リニアレールに今のところ確認されているのはガジェットⅠ型のみ。

 だけど、Ⅰ型は正直言って彼らにとって油断しなければなんとでもなる。

 相手もそれはわかってるはずや……、恐らくは……)

 

「八神隊長、地上本部から直電です」

 

「地上本部……?

 こんな時にいったい誰や……?」

 

司令補佐のグリフィスからの知らせを受けたはやては首を傾げながらも司令席のパネルを操作する。

モニターの一つに通信をしてきた者の顔が映った。

 

『すまないな、八神三佐。

 作戦中だということは知ってはいたが、君に伝えなければならないことがあってな』

 

はやてはそのモニターに映った人の顔を見て、驚愕した。

地上……いや、管理局の人間ならば彼女(・・)の名前を知らないものはいない。

何しろ、彼女は……

 

「いえ、私が現場に出ているわけではないので。

 それで、何かご用でしょうか、レジアス中将閣下」

 

管理局の生きた英雄の一人とされる女傑だからだ。

 

 




ということで、スバルとは関係なしに物語の都合上TSなさったのはレジアス中将でした。
自分としてのイメージはとある北方の砦を守る女傑さんです。
それから、スバティアのバリアジャケットの見た目が変わりました。
原作のものの上をロングコートにしてます。

今回の人物紹介は、この作品では少し影の薄いフェイトさんです。
それから、各話のあとがきの最後にスパロボ風の精神コマンドなどを追加しました。
よろしければそちらもお楽しみください。

名前 フェイト・T・ハラオウン
年齢 19歳
B/W/H ボン/キュッ/ボンッ
最近の悩み 胸のサイズが大きくなり部隊長からの視線がきついこと

スバルとの絡みが少ないため、必然的に登場することが少ない不憫な人。
しかしちゃんと活躍はしている、焦点に合わないだけで。
スバティアとチームになったことでエリキャロが自分の我を通すことが増えてきたことには素直に嬉しがっているが、自分ではできなかったことを簡単にしてしまった二人に悔しい思いも抱いている。

スパロボ風精神コマンド 「集中」「加速」「ひらめき」「直撃」「気合」「魂」

スパロボ風特殊能力

「管理局の雷神」:気力130以上で発動。50%の確率で分身発動

「露出癖」:気力150以上で発動。攻撃力30%ボーナス

スパロボ風エースボーナス
「露出癖」の発動に必要な気力が130に低下


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第九話

『そちらも忙しいだろうからな、要件を伝えよう』

 

機動六課の作戦指令室は今までにないほどの緊張に包まれていた。

現場に状況を伝えるオペレーターの手と口は動いていたが、そうでもしないと管理局の女傑と最後の夜天の王の間に広がるプレッシャー的な何かに押しつぶされそうだったからだ。

 

『先ほど、リニアレールの周辺に配置していた特務一課のものから連絡があってな、ガジェットの他にレリックを狙う者がいたそうだ』

 

「……ッ!

 ガジェットの他にもですか!?」

 

『あぁ、恐らくガジェットを使っている者の下についている者だろうな。

 一課でもやり手の局員が捕縛しようとしたところ、何らかの能力で逃れられたらしい』

 

「……」

 

レジアスからの報告を聞いたはやてはその情報を頭の中で整理し、グリフィスに指示を出す。

 

「グリフィス君、ヴァイス陸曹に連絡をお願い。

 ガジェットだけでなく他にも注意するようにと。

 あのヘリは新型や、レーダーもここからのものよりも正確に出るやろうから」

 

「了解です」

 

グリフィスははやてに敬礼をしてすぐに空いている通信席に座りヴァイスへと連絡を送った。

 

「それよりも、レジアス中将。

 私に連絡も無しに特務一課……いや、あなた直属の部隊を動かした理由が知りたいんですけど……?」

 

『なに、簡単なことだ。

 ロストロギアという人の手には余るものを訓練を受けたとはいえ、ひよっこだけに任せる気はないということだ。

 いざというときは一課が処理をする。

 そのつもりで彼らを派遣した。

 これで十分か?』

 

「それは、私たち機動六課のことを信用していないということですか……?」

 

『馬鹿なことを言うな。

 貴様らを信用していないというなら最初から六課の設立なんぞ承認しない。

 私はミッドチルダの平和を守るためならなんだってする。

 そのために六課の設立を後押ししたのだ』

 

「だったら……!」

 

『話は最後まで聞け。

 いいか、地上の平和は恒久的なものでなければならん。

 そのために必要なのは私たちのような年増ではなく、お前たちのような若者だ。

 だからもしもの時には一課が貴様ら六課の代わりに犠牲になると言っているのだ。

 一課の人間は、良くも悪くも古いタイプの人間ばかりだからな。

 もちろん、何もないことには越したことはないがな』

 

レジアスの考えを聞いたはやては己の浅慮を恥じた。

彼女の覚悟は、己を信用している部下を捨てるほどのものだったということを知っていながら、はやてはレジアスのことを疑ってしまったから。

 

『まぁ、お前たちのような小娘にはまだまだ地上や世界を任せること気はないがな!』

 

「んな!?

 誰が小娘ですか!?

 もうすぐ20です!!」

 

『甘いな、お前らは私から見ればまだまだ小娘同然だ。

 どうせまだ生娘だろう?』

 

「ッ!?」

 

レジアスの言葉にはやてをはじめとした女性局員は全員顔を真っ赤に染めた。

その様子を見たレジアスはしてやったりといった表情で笑う。

 

『ふっ、そういうところがあるからまだまだだというのだ。

 女を磨けよ、小娘。

 そうしないと生き遅れ……、待てオーリス、その振り上げた人を殺せるような書類の束はなんd……』

 

「地上本部からの通信、途切れました……」

 

未だにだんまりのオペレーター陣の代わりにヴァイスへの通信を終えたグリフィスがはやての方を向きながら告げる。

だが、彼は彼女の方を向かない方がよかった。

そこには一匹の化け狸がいた。

 

「うがぁー!!

 なんなんや、あのおばさん!!

 自分が男見つけて子供産んで勝ち組のつもりかーーーッ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なぁ、ティアナ。

 なんか六課からの通信が来ないんだけど……」

 

『知らないわよ、そのうちなんか来るでしょう。

 それより、そっちの状況は……?』

 

場所は移りリニアレールの車両の中。

そこでティアナと別れて車両を進んでいたスバルは一つ大きな影を目の前に相棒に念話を飛ばしていた。

 

「あー、うん。

 なんかデカいのがいる。

 だから少し遅れる」

 

『了解、ならあたしがレリックを回収するわ。

 そのデカいのを抜いたらすぐに来なさいよ?』

 

ティアナからそう言われたスバルは指を鳴らしながら応える。

 

「わかった。

 そうだティアナ……」

 

『何?』

 

「抜けなさいと言ったが、別に倒してしまってもかまわんのだろう?」

 

『それ、言ってみたかっただけでしょ?』

 

「もちろん」

 

戦闘中だというのに、ティアナは大きなため息を吐きたくなってしまった。

 

 

 

 

 

「キャロ、お願い!」

 

「うん、エリオ君!!」

 

一方、ライトニングの二人の方にも、スバルの行く手を阻んだ新型ガジェットが現れた。

キャロはすぐさま強化の魔法をエリオに掛け、キャロの魔法の加護を得たエリオはストラーダの先端に魔力変換資質を生かし電撃を纏わせ新型ガジェット―――ガジェットⅢ型に切りかかった。

 

「クッ!

 固いッ!!」

 

だが、その巨体に似合った厚い装甲によってその刃は受け止められてしまう。

そして、Ⅲ型の機体から発せられるAMFの出力が引き上げられる。

するとエリオ自身に掛けられた強化の魔法やストラーダの先端に纏った電撃を含んだ魔力が霧散してしまう。

 

「エリオ君!!」

 

「クッ、ストラーダ!!」

 

《Blitz Action》

 

不利を悟ったエリオはすぐさまⅢ型の触手の範囲から逃れ、キャロの隣に降り立ち、彼女を抱きかかえるとすぐさま後ろへ飛び去る。

直後、その場所を真下からレーザーが撃ちぬき、車両の中からⅠ型が三機飛び出してくる。

 

「キャロ、アレどうにかできる?」

 

「うん……、でも……」

 

エリオの質問に対してキャロは答えを持っていた。

だが、それは未だかつて成功したことのない魔法だった。

竜魂召喚、フリードの真の姿である白銀の竜の姿と力を開放する魔法である。

だが、彼女はこの魔法を使うことに対して未だ少しの恐怖を感じていた。

 

「大丈夫だよ、僕も、フリードも」

 

そんな彼女にガジェットを警戒しつつもエリオは優しく話しかける。

その言葉に答えるようにフリードもまた大きく鳴いた。

 

「だから、君は自分の力を信じて。

 なのはさんも、スバルさんも言ってたでしょ?

 僕も君を信じる。

 だから、君も」

 

「エリオ君……、うん、わかったよ。

 行こう、フリード」

 

(そうだ、私は六課(ここ)に来て変わったんだ。

 フェイトさんには優しさを、なのはさんには戦い方とその心得を。

 そして、スバルさん、ティアナさん、エリオ君には、仲間の大切さを……)

 

エリオの言葉に頷き、キャロは胸の前に手を組み、祈りをささげるように目を閉じる。

彼女の脳裏には今まで自分に関わってきたすべての者が映った。

ルシエの皆、フェイト、なのは、六課のスタッフ、ティアナ、スバル、そしてエリオ。

 

(だから、私は守りたい。

 みんなを……!)

 

蒼穹(そうきゅう)を走る白き閃光。我が翼となり、天を駆けよ。()よ、我が竜フリードリヒ。竜魂召喚!」

 

キャロの足もとに一際大きな魔法陣が展開され、その魔法陣から、白銀の飛龍が飛び出す。

 

「これが、フリードの本当の姿……」

 

「エリオ君、乗って!!」

 

「あ、うん!」

 

キャロにそういわれ、エリオはフリードの背に飛び乗る。

 

「フリード、ブラストレイ!」

 

キャロの呼びかけにフリードは口に炎を溜める。

 

「薙ぎ払えッ!!」

 

そして、焔が放たれた。

フリードから放たれた炎はⅠ型を跡形もなく消し飛ばし、Ⅲ型をよろめかせる。

 

「ストラーダ!!」

 

《Exploxion》

 

Ⅲ型の隙を見逃さず、エリオはストラーダを構え、カートリッジを二発装填(ロード)する。

 

《Speerangriff》

 

ストラーダの穂からブースターがせり出し、エリオは一気に加速する。

 

「クッ!」

 

だが、それでもⅢ型の装甲を貫くことはできなかった。

 

「まだまだぁッ!!」

 

Hinzufügen(追加)

 

エリオの声に合わせてストラーダにさらに一発のカートリッジが装填され、ブースターから噴き出る炎がさらに増す。

 

「貫けぇッ!!」

 

エリオの声とともに、ストラーダがさらに加速する。

そして、その穂先がⅢ型の装甲を貫いた。

 

「やった……?」

 

Ⅲ型からスパークが走るのを確認したエリオはすぐに離れ、距離を置いたところで爆発しその機体を四散させた。

 

「ふぅー」

 

脅威が去ったことを確信したエリオはストラーダを肩に担ぎ、空を飛んでいるフリードの方へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「マッハキャリバー、どうだ?」

 

《相棒の予想通りです。

 やはりAMFの状況下では魔力は四散してしまいますが、消滅するわけではありません。

 それに……》

 

一方、スバルの方はⅢ型の攻撃を躱しながら牽制の魔力弾を放ちながら愛機とある一つの可能性について話していた。

 

《AMFは魔力の飽和状態になると機能を低下させるようです》

 

「つまり、その状況なら魔法の使用が容易になるわけだ」

 

《そうです》

 

「ならやることは一つだろ!」

 

《Load cartridge》

 

リボルバーナックルに二発のカートリッジが送られる。

それと同時にスバルはⅢ型に向け砲撃を放った。

 

「ディバインバスターッ!」

 

《Divine Buster》

 

その砲撃はⅢ型に辿り着く前に霧散してしまう。

だが、スバルはさらにもう一つの魔法陣を展開していた。

 

「もう一丁ッ!!」

 

《Divine Buster》

 

そして、もう一筋の砲撃がⅢ型に向かい、さらに魔力を四散させられる。

その時、マッハキャリバーが声をあげた。

 

《今です!》

 

「了解ッ!」

 

マッハキャリバーの合図とともにスバルはⅢ型に向かい走り出していた。

彼はⅢ型に接近すると同時に右手に魔力を集中さ、さらにそれを螺旋状に形状を変更し、回転させる。

 

「フィールドを抜けるッ!!」

 

《Revolver drive》

 

先の砲撃ですでに周囲の魔力は飽和状態になっており、Ⅲ型の高出力のAMFでさえも無視できない状態だった。

結果、スバルの右手の魔力はほとんど散らされることなくⅢ型に到達。

そのコアを打ち砕いた。

 

「終わりだ」

 

スバルの右手から魔力が消えると同時に彼の背後でⅢ型が盛大に火花を散らし、最後に爆発を起こした。

 

 

「マッハキャリバー、周囲にガジェットの反応は?」

 

《ありません》

 

「よし、ティアナ、こっちは終わった。

 そっちはどうだ?」

 

愛機からの報告を受けたスバルは警戒を解き、相棒に向け念話を飛ばした。

 

『今レリックを封印したところよ。

 できればこっちに来てくれると助かるんだけど』

 

「了解だ、すぐに向かう」

 

スバルはちらりと先ほど破壊したⅢ型を見て、すぐにティアナのいる車両へと走って行った。

Ⅲ型のカメラが起動していることに気づかずに。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふむ、やはりこの案件は素晴らしい!」

 

とある場所にある建物の一室に一人の男がいた。

彼は目の前に映るいくつかのモニターを見てそう声をあげた。

 

「それに……」

 

彼の視線の先には、フェイトとエリオの二人が映っていた。

 

「この二人、F計画の遺産がまだ生きて動いているとは。

 この二人を手に入れられるチャンスがそのうち来ると考えるだけでわくわくするよ……。

 しかし、セインには悪いことをしてしまったかな?

 まさか特務一課という生きた万国ビックリ人間博物館みたいな連中が出張ってるとはね……」

 

男がそう呟いているとき、部屋に一人の女性が入ってくる。

 

「ドクター、刻印ナンバー9、護送体制に入りました。

 追撃戦力を出しますか?」

 

「いや、やめておこう。

 ……あぁ、ウーノ、一つ聞いていいかな?」

 

ウーノと呼ばれた女性は男の言葉を待つ。

 

「なんでしょうか?」

 

「タイプゼロセカンドの少女はどこにいるのかな?

 この映像には彼女にそっくりな少年が映っているだけなのだが……?」

 

「……ドクター、タイプゼロセカンドの性別は女ではなく男です」

 

「…………」

 

ウーノの言葉にドクターと呼ばれた男はぴたりと動きを止める。

そして油の切れたロボットのように首を動かし背後を向き口を開いた。

 

「マジ……?」

 

「マジです、ドクター。

 てっきり彼のことを知ったうえでノーヴェを女性型にしたのかと思っていましたが、違ったのですか?」

 

「あ……」

 

その時彼は思い出した。

彼は大人である。

そして、大人である彼には研究以外にも趣味が一つあった。

それは酒を嗜むことである。

そして、その日彼はスバルの遺伝子データを見る前にお気に入りのワインを一杯飲んでいた。

たかが一杯、されどいっぱい。

大事な作業前に酒を飲んだ彼は一つだけだが決定的な失敗(?)を犯したのだった。

 

「……テヘペロ」

 

「…………」

 

「……うん、なんかごめん」

 

ウーノにゴミを見る目で見られた彼は素直に謝った。

だが彼は「おかしい、確かこういえば大抵は許してもらえるか怒るかの何らかのリアクションがあると書いてあったのに……」と呟いていた。

 

ドクター、またの名をジェイル・スカリエッティ。

稀代の天才科学者は一生に一度の大失敗を犯してしまっていたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




さて、この小説書いていて改めて思ったことを書かせてもらいます。
戦闘描写、なんであんなにムズイのか……。

はい、愚痴はこの程度で終えましょうか。

今回、最後に黒幕(笑)が出てきました。
皆さんも酒を飲んで作業するのはやめておきましょう。
取り返しのつかないことになりますので。

今回の人物紹介はレジアス中将です。
それではまた次回!


名前 レジアス・ゲイズ
性別 女性
年齢 【暗証番号を入力してください】
役職 管理局地上本部総司令
最近の悩み 娘のオーリスが婚期を逃しかけていること

この作品でスバルとは関係なしにTSなさったお人。
原作とは違い、美人さんである。
もう一度言う、美人さんである。
自分の容姿が優れていることを自覚し、自分の好きになった男と大恋愛を繰り広げたが、此処では省かせてもらう。
地上に勤務するものとして、地上の平和を守り抜くことを第一としており、そのためなら本部や教会とも協力することを厭わないという原作とは違う面を持ち合わせている。
彼女自身は魔力を持ち合わせないが、その身体能力だけで陸戦AAランクの魔導師を無力化することができるという出鱈目なお人である。
ミッドの地上で起きた大事件をたまたま居合わせた彼女が解決したことにより、『生きた英雄』と呼ばれるようになった。(リアルダイ・ハードである)
また、圧倒的なカリスマを持ち、彼女に心酔したものが多く所属する特務一課というほぼ彼女の直属の戦力も地上には存在している。

スパロボ風精神コマンド
「必中」「鉄壁」「気迫」「激励」「魂」「覚醒」

スパロボ風特殊能力

「生きた英雄」:気力130以上で発動。すべてのステータスに50%のボーナス


スパロボ風エースボーナス
「生きた英雄」が常時発動状態となる。


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第十話

今回から出張任務編です。
以前感想でやらないと書きましたが、物語の進行上やらないといけなくなったので書きました。
まぁ、いつも通りですけど。
それから、ストックが間に合わないので、これからは二日に一回の更新を目指して書いていきたいと思います。



第97管理外世界『地球』

この世界にある日本という島国の海鳴市という小さな町にある別荘の敷地に魔法陣が現れる。

 

「はい、到着です!」

 

その魔法陣が一際輝いた後現れたのは、なのは、スバル、ティアナのスターズ分隊。

フェイト、エリオ、キャロのライトニング分隊。

そしてリインフォースⅡだった。

 

「ここが、なのはさん達の故郷……」

 

「ミッドとほとんど変わんないでしょ?」

 

「空は青いし、太陽も一つだし……」

 

「山と水と自然の匂いもそっくりです」

 

周りの風景を眺めていたエリオとキャロの素直な感想を聞いたフェイトは微笑む。

 

「というか、スバル……。

 大丈夫なの?」

 

今の今まで静かにしていた彼の様子がおかしいことに気づいたティアナは少し離れたところで蹲っていたスバルに近づき尋ねる。

 

「だいじょう……ヴッ!?」

 

ティアナの呼びかけに答えたスバルの顔は真っ青だった。

 

「あちゃ~、転移酔いですね」

 

「スバル、きついなら中で休んでいてもいいんだよ?」

 

普段の彼からはあまりにもかけ離れた様子に流石のなのはも心配になって声をかける。

だがスバルはその提案を片手をあげることで拒否した。

 

「ここには仕事で来たんですから、休んではいられませんよ。

 それに、だいぶ良くなってきましたから……」

 

そういった彼の顔色はまだ少し青いが、先ほどまでのとてもひどい様子ではなかった。

 

「そう?

 ダメなときは絶対言ってね?」

 

「わかりました。

 それよりも、此処ってどこなんです?」

 

「なんか湖畔のコテージみたいですけど」

 

スバルとティアナの問いに答えたのはリインだった。

 

「この世界に住んでいる方の所有する別荘なんです。

 私たちの待機用の場所として、快く許可していただけたんですよ?」

 

その時、別荘の中に一台の自動車が入ってきた。

 

「自動車、こっちの世界にもあるんだ」

 

自動車から出てきたのは、金髪のショートヘアーでパンツスタイルの女性だった。

 

 

「なのはっ! フェイトっ!」

 

「アリサちゃん」

 

「アリサ」

 

「なによも~。ご無沙汰だったじゃない?」

 

「にゃははっ。ごめんごめん」

 

「いろいろ忙しくって」

 

「アタシだって忙しいわよ?大学生なんだから」

 

「アリサさ~んっ。こんにちわですっ!」

 

「リイン!久しぶりっ!」

 

「は~いですぅ~っ」

 

車から出てきた女性はなのは達の方に走ってくると親しげに話しかけていった。

フォワードの新人四名は除け者である。

そんな彼らのことを思い出したかのようにフェイトが彼女のことを紹介する。

 

「紹介するね。私となのは、はやての友達で、幼なじみ」

 

「アリサ・バニングスです。よろしくね」

 

「「「「宜しくお願いしますっ!」」」」

 

女性―――アリサが挨拶をし、四人が返事をする。

その掛け合いだけで、スバルは彼女からある一つのことを嗅ぎ取った。

 

(この人、なんとなくティアナと似た雰囲気だ)

 

だが、彼の思考はそこで止められた。

彼の足をティアナの足が踏み抜いたからだ。

ご丁寧に踵で、である。

 

その後、別の場所からこの世界に来ていたはやてたち八神ファミリーが合流し、この世界に来た目的である『ロストロギア探索』についての打合せを行い街中の探索となった。

 

 

 

 

 

 

「というか、ミッドのちょっと田舎の方と変わらないわね。

 魔法がないだけで、人の着ている服とか、建物とかはほとんど似ているわね」

 

「俺はこの雰囲気は好きだな。

 なんかのんびりして、時間がゆっくりしているというか」

 

「まぁね、この間初任務終えてからゆっくりした時間が取れなかったからこんな空気に浸るのもいいかもね」

 

打ち合わせの後、彼らはスターズ、ライトニングで分かれて街中を歩きながら探索を行うことになった。

こちらにはなのは、リイン、スバル、ティアナの四人がメンバーとなっていた。

 

「お、なのはさん、あれって何ですか!?」

 

「ん?

 あぁ。あれはね、たこ焼きっていうんだよ」

 

「たこ焼き……」

 

スバルが路上に開かれた店を見つけてなのはに尋ねると、なのはは懐かしいなぁと思いながら答えた。

タコを食べるという食文化がないミッドの住人であるスバルにとってたこ焼きとは珍しいものだったようだ。

すでに目的が何だったのかを忘れかけていた。

 

「スバル、遊びに来たんじゃないんだから」

 

「えぇ~……」

 

「まぁまぁ、落ち着いて。

 せっかく地球に来たんだし、ミッドじゃ食べられないものを食べるってのもいいかもよ?」

 

「なのはさんまで……」

 

いつまでたっても動きそうにないスバルをティアナがひっぱり動かそうとしているときになのはが間に入って止める。

なのはの言い分を聞いたスバルは目を輝かせ、ティアナは諦めのため息を吐いた。

 

「ただし、一番小さいのを分けて食べること。

 夕飯も食べないといけないし、一応任務中だからね」

 

「はい!」

 

なのはの言葉に、これまでにないほどにはっきりと返事をするスバル。

スバルはすぐに店の方に向かい、そして何かに気付いたのか、また三人のもとに戻ってきた。

 

「どうしたですか?」

 

「お金、たりませんでした……」

 

「そういやこっちに来る前に、両替してなかったわね」

 

「仕方ないなぁ、私が買ってくるから、みんなはそこで待ってて」

 

スバルのしょんぼりした姿を見たなのははそういって店の方に向かっていった。

少しして、たこ焼きを食べて顔を輝かせるスバルと、なんだかんだ言って美味しそうにたこ焼きを食べるティアナがいたそうだ。

 

 

 

その後、今回の依頼元である聖王教会からの連絡で、今回の目標には危険はないということが知らされ、探索隊の皆はほっと胸をなでおろしていた。

 

「ん~、この後フェイト隊長が迎えに来てくれるらしいけど手ぶらでってのもなんかな~」

 

なのははそう呟きながらポケットから携帯電話を取り出しどこかに電話を入れる。

 

 

「あ、お母さん? なのはです」

 

「「……へ?」」

 

「にゃはは、うん。お仕事で近くまで来てて。

 ……そうなの、うん。ほんとにすぐ近く。

 でね?現場のみんなに――」

 

(なのはさんの、お母さん……?)

 

(そりゃ、存在はしてるだろうけど……)

 

なのはの口から出たお母さんという言葉に過剰に反応する二人。

なのはも人間である以上、木の間から生まれるわけではないのだが、二人の頭にはどうしてもその単語と目の前で話をしている女性が繋げることができなかった。

 

「さて、ちょっと寄り道」

 

「はいです~っ!」

 

「隊長、今の電話って……?」

 

「私の実家だよ。うち、喫茶店なの」

 

「「えぇ~っ!?」」

 

「喫茶翠屋。お洒落でおいしいお店ですよ~」

 

リインのその一言に彼の目が光った。

そう、スバルである。

 

「なのはさん、翠屋のおススメは?」

 

「ん~、やっぱりシュークリームかなぁ?

 あ、それと一緒に出てくるコーヒーもおいしいよ」

 

「ほうほう……」

 

スバルはその話を聞くと、マッハキャリバーの中に入れてある貯金箱のうちの一つを取り出した。

中身を取り出すためには叩き割らないといけないタイプのものである。

 

「スバル、それ何?」

 

「貯金箱、小さいときにおやじに渡されたのを入れてる。

 主にこの世界の小銭とか」

 

「いや、なんでこの世界のって、そういやゲンヤさんのご先祖ってこの世界の出身だって言ってたわね」

 

「そういうこと。

 うまいシュークリームを食べるためならこの貯金箱を割ってでも……!」

 

「あ、あんたねぇ……」

 

そんな二人の様子を見ていたなのはは一つ思った。

 

(こんな往来の中で15、6の男の子と女の子が貯金箱を持ちながら話すのってかなりシュールだなぁ)

 

彼女の思ったことは決して間違っていないだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

「お母さ~ん、ただいまーっ」

 

「なのは、おかえり~」

 

(お母さん、若ッ!!)

 

(ホントね、年齢考えたらおかしいでしょ。

 どう見ても姉妹にしか見えないわよ、アレ)

 

その後、目的地である喫茶店翠屋に辿り着いたなのはたちは中へと入っていく。

そんな彼女たちを出迎えたのはなのはをもう少し成長させればこうなるだろうという容姿の女性―――なのはの母、桃子だった。

 

(ん?でも考えてみたらレジアス中将も似たようなものじゃね?)

 

(確かに、言われてみればそうよね。

 あの人の年齢詐欺っぷりはすさまじいからね)

 

そんな彼女を見て最初は驚いた二人だったが、身近に似たような存在がいたことを思い出しすぐに落ち着きを取り戻した。

すると、いつの間にかなのはと桃子の他に男性と、眼鏡をかけた女性が近くに立っていた。

 

 

 

「あ、この子達は、私の生徒なの」

 

「そう。お茶でも飲んで、ゆっくりしていってね?」

 

「……えと、あっ、スバル=ナカジマです!」

 

「ティアナ=ランスターです」

 

「うん、俺はなのはの父で士郎です。

 こっちが」

 

「姉の美由紀、よろしくね?」

 

「「よろしくお願いします!」」

 

「ところで二人とも、コーヒーとか紅茶とか、いけるくちかい?」

 

自己紹介が終わったところで士郎は二人にそう尋ねる。

 

「俺はコーヒーの方が……」

 

「あたしはどっちでも」

 

「なら、スバル君には俺がコーヒーを淹れるから、桃子は」

 

「ミルクティーね」

 

その後、出てきたコーヒーや紅茶を飲んでいると士郎がなのはの仕事ぶりを尋ねてきたので、スバルとティアナは彼女の人気っぷりと彼女の訓練の厳しさを話していた。

その話になのはが顔を紅くしたりしていたが、娘の話を聞けた士郎は満足してショーケースからあるものを取り出し二人に差し出した。

 

「これは……」

 

「翠屋名物のシュークリーム。

 話してくれたお礼だよ」

 

「おぉ……」

 

テーブルに置かれたシュークリームを見てスバルはその目を輝かせた。

いつぞやのフリードを見た時と同じような目だ。

 

「た、食べていいんですか?」

 

「ははは、食べ物なんだから食べたらダメなんて言わないよ。

 これはお礼だからお金もとらないし」

 

「「い、いただきます……!」」

 

士郎からそう言われた二人は恐る恐るシュークリームを口に運ぶ。

そして、一口。

 

「う~ま~い~ぞ~!!」

 

瞬間、スバルの目からビームが出る幻覚をその場にいたものは見た。

 

「これは、すごくおいしいです」

 

ティアナも同じようにおいしそうに食べるが、すぐに何かを考えていた。

 

「あぁ、でもこれカロリー高いんだろうな……。

 太りそうで怖い……」

 

「いつも動いてんだから、カロリーなんて考えなくてもよくね?」

 

ティアナの切実な言葉を聞いたスバルは彼女に告げた。

その直後、ティアナの顔に青筋が浮かぶ。

 

「あんたは、なんでそうデリカシーのないことを!!」

 

「痛ッ!

 脛蹴るなよ!?」

 

「うっさい!!」

 

「あがっ!?」

 

 

 

その様子を少し離れたところで見ていた士郎はすぐそばに座るなのはとリインに尋ねる。

 

「彼は鈍感なのかい?

 それともわざと?」

 

「う~ん、どっちかっていうと無頓着って感じかな?」

 

「いつもの二人ですぅ」

 

「あらあら、ティアナちゃんも苦労しそうね」

 

痛みに悶絶しているスバルと顔を紅くしつつもおいしそうにシュークリームを食べるティアナを見て士郎と桃子は穏やかな笑みを浮かべていた。

 

 




今回のスバティアでニヨニヨしてくださった方がいれば幸いです。
結局食い意地が張ってるというところは原作スバルと同じです。
また、ティアナも女の子なんで、甘いものには目がないと考えこう書きました。

今回の人物紹介はフェイトさんと同じくらい影の薄い八神はやてです。
それではまた次回。

名前 八神はやて
性別 女
年齢 19
趣味 親しい者の胸部測定
最近の悩み 自分の胸が小さいこと

機動六課課長兼部隊長のはやて。
そしてスバルの人間関係上そこまで親しくないため今まで活躍の場がなく、スポットを当てられなかった不憫な子(その2)。
地上本部と本局、教会の三竦みの中心の組織のトップなので胃のストレスがマッハ。
さらに最近なぜか教えたはずのないプライベートの端末に通信を繋げてきては上層部の愚痴を言うレジアスのせいで倍率ドン。
スバルと関係なしに胃が破壊されそうになる本当に不憫な子。
レジアスと絡むことが多いことでいつも彼女と顔を合わせればからかわれる羽目になり、その都度レジアスの娘オーリスから謝罪の言葉をもらっている。
そのせいでオーリスとの仲がかなり良くなり、地上本部での風当りもましにはなってきている。

スパロボ風精神コマンド
「必中」「鉄壁」「狙撃」「脱力」「激励」「熱血」

スパロボ風特殊能力
「機動六課部隊長」:気力130以上で発動。周囲にいる味方ユニットのステータスに15%のボーナス。

「最後の夜天の王」:気力150以上で発動。武装に「デアボリックエミッション」追加

スパロボ風エースボーナス
「最後の夜天の王」発動に必要な気力130に低下。
武装に「ラグナロク」追加


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第十一話

バニングス家所有の別荘でそれは起こっていた。

 

「肉いただきぃ……アレ!?」

 

「ふっ、スバル、状況判断がなってねぇぞ。

 フロント張るならこれくらいできねぇとなってぇ!?」

 

「ハハハ!

 甘い、甘いですよ副隊長。

 翠屋のシュークリームよりも甘いです!

 焼肉大会(ここ)はもう戦場です。

 口を開く暇があるなら得物(はし)を動かさないと!!」

 

「言いやがったな、スバル?

 わかった、ならば戦争だ!!」

 

「二人とも、少しは静かに……っ!貴様っ!

 私の焼いていた肉を全て取りおって!」

 

「甘いんだよシグナム。

 さっきスバルが言っただろうが。

 ここは戦場だってな」

 

急遽行われることになったバーベキュー大会。

その一角に大食いのスバルとヴィータ、負けず嫌いのシグナムが集まったことで勃発した第一次焼肉戦争。

すでに彼らの胃袋の中にかなりの量の肉が吸い込まれていっていた。

 

「なんというか、あの二人についていくあの子ってすごいわね……」

 

「なはは……。

 スバルはいっつもあんな感じだよ?

 おかげで最近胃がキリキリと痛んでね……」

 

「ちょっとあんた、大丈夫なの?」

 

「心配しないで、少し薬の量が増えるだけだから」

 

「いや、それをどう心配するなっていうのよ……」

 

一方、その様子を少し離れたところで見ていたアリサとなのは。

昔からの知り合いで、その気性を知っている二人についていくスバルに対して呆れと感心の視線を送っていたアリサだった。

しかし、彼女の隣でジュースを飲んでいるなのはの言うことを聞いて、なのはのミッドでの状態がどのようなものなのか非常に気になったアリサだった。

 

「いや、私はまだいいよ?

 スバルとずっとコンビ組んでるティアナの方が大変だから」

 

「ティアナって……あぁ、あそこで鶏肉焼いてる子ね」

 

「うん。

 何しろ、あのスバルとコンビ組んで今年で4年目だからね。

 たぶん胃の強さならこの六課一なんじゃないかな?」

 

「誰もそんな強さいらないわよ。

 少し話してみようかしら」

 

アリサはそういうと手にジュースを持ちティアナの元へと歩いて行った。

 

 

 

 

「はぁ……」

 

その時、ティアナはさらに乗った肉と野菜を一目見て、スバルたちの方に視線を向けた。

彼らのさらに乗った肉と野菜のアホ盛りを見てため息を吐いた。

 

「どこにあれだけ入るのかしら……?」

 

「まったくよね」

 

「あ、バニングスさん」

 

「アリサでいいわよ。

 隣、いい?」

 

「あ、どうぞ」

 

アリサは微笑みながらティアナの隣に腰を下ろした。

 

「ふぅ……。

 ねぇ、ちょっと聞きたいんだけど……」

 

「なんでしょうか……?」

 

ティアナが紙コップに入ったジュースを口に運ぶ直前、アリサが問いを投げかけた。

 

「あんた、スバルって子のこと好きでしょ?」

 

「ブゥーーーッ!?」

 

剛速球のど真ん中の質問を投げかけられたティアナは恥も外聞も無しに口に含んだジュースを吐きだしてしまった。

 

「な、何を言ってるんですか!

 あたしが、スバルのことを好き?

 冗談もほどほどにしてくださいよ!

 だいたい、なんであんな無茶苦茶で、大雑把で、女の子に対するデリカシーの欠片もない奴のことを……!」

 

「アハハ、やっぱり。

 あんたって面白いわ」

 

ティアナが顔を真っ赤にして反論しているのを遮り、アリサは声をあげて笑った。

 

「どうしてそう考えたんですか……?

 あたしがスバルのことを好きだって……」

 

「だって、あんた自分の言ったことを思い返してみなさいよ。

 最初は確かに成り行きでコンビを組むことになったかもしれない。

 けど、今のあんたはさっき言った程度にはあいつのことを見ているってことでしょ?」

 

アリサの言葉を聞いたティアナは先ほど口にした言葉を思い出し、また顔を紅く染めた。

その向こうでスバルは500mLのコーラのペットボトルをはやてに渡され「一気、一気!」と囃し立てられていた。

 

「それにね、その関係がいつまでも続くわけじゃない。

 現に、私たちは別々の道どころかまったく別の世界に分かれちゃってる。

 今はいいかもしれないけど、いつかはどうにかしないといけないわよ、自分の気持ちを」

 

「……アリサさんは、どうしてあたしにそんなことを……?」

 

アリサの言うことを聞いたティアナはその言葉を送った理由を尋ねる。

そして、その向こう側でははやてから渡されたコーラを一気飲みしていたスバルがコーラの噴水を作っていた。

 

「んー、昔の私にそっくりだから、かな?

 私もね、昔は自分の考えを素直に言えるような性格じゃなかったの。

 どこか捻くれた言い方というか、素直には認めなかった。

 まぁ、今私にいい人はいないんだけどね。

 そういうのってなんか嫌じゃない?」

 

「……」

 

「ま、悩みなさい。

 悩むのも若者の特権よ」

 

「アリサさん、その言葉は年増に片足突っ込む前兆だって言いますよ?」

 

「む、言うじゃない。

 言っとくけど、これでも私はミス・キャンパスになるほどよ。

 探そうと思えば探せるんだから!」

 

「じゃあ、またね」と言ってアリサはまた別のところに歩いて行った。

その後ろ姿をティアナはただ見つめるだけだった。

会場に大きく聞こえるスバルの咳き込む声と、はやての笑い声、ヴィータの怒鳴り声も今の彼女の耳には入らなかった。

 

 

 

その後、晩御飯の片づけを終えた機動六課+αはひとまず集まっていた。

 

「さて、サーチャーの様子を監視しつつ、お風呂済ませとこか」

 

はやてのその言葉に女性陣から歓声が上がった。

しかし、此処で一つの問題が起こった。

アリサがはやてに告げたことは、このコテージには風呂が無いということだった。

残りの選択肢は近くにある湖の水を浴びることだが、未だに夜は肌寒いこの季節に水浴びは勘弁ということだった。

 

「そうすると……」

 

「やっぱり」

 

「あそこですかね?」

 

「あそこでしょう」

 

すると、バーベキュー大会にも参加していた自称お姉ちゃんズのエイミィ・ハラオウン、フェイトの使い魔であるアルフ、なのはの姉の美由紀の三人になのはたちの親友である月村すずかと機動六課隊長陣とアリサが話し合い、一つの結論を出していた。

その様子を見ていたフォワード新人組は地理などはサッパリなので、蚊帳の外の状態だった。

 

「さて。機動六課一同。着替えを準備して、銭湯準備っ!これより、市内のスーパー銭湯に向かいます」

 

「スーパー……」

 

「セントウ……?」

 

聞いたことのない言葉に首を傾げるフォワード四人になのはが簡単に説明すると、ティアナとキャロが食いついた。

こと男性の少ないこの環境で、水浴びでも構わないと思っていたスバルとエリオは女性陣の言葉に口を出すことができなかった。

 

「は~い。いらっしゃいませ~。海鳴スパラクーアへようこ――団体様ですかぁ~?」

 

「えっとぉ……大人12人、子供4人です」

 

「エリオと、キャロと……」

 

「わたしとアルフですっ」

 

「あの、ヴィータ副隊長は……」

 

「あたしは大人だ」

 

場所を移し、スーパー銭湯のロビーで受付を済ませる機動六課+αの大所帯。

時間が中途半端だったのか、その日銭湯には一人も他には客がいなかった。

 

 

「広いお風呂だって。楽しみだね?エリオくんっ。」

 

「あ、うん。そうだね。

 ティアナさん達と一緒に楽しんできて」

 

「……えっ?エリオくんは?」

 

「えっ!?

 ぼ、僕は、その、一応、男の子だし……」

 

「うん……あ、でもほらっ。あれ見て?」

 

キャロが指差した先には、入浴施設の利用規定。

そして、そこに書かれている一つの文。

 

※女湯への男児入浴は、11歳以下のお子様のみでお願いします。

 

エリオは10歳。この利用規定によれば、女湯への入浴は可能である。

その文章を見たエリオは目に見えるほどに狼狽した。

他の女性が嫌がるだろうとキャロを説得するが、その頼みの綱である大人たちが面白がって許可したのでエリオは焦りながらも最終手段に出た。

 

「いや、あの!

 僕がそっち行くとスバルさんが一人になっちゃいますし!!」

 

「うん?

 別に俺は一人でもいいけど?」

 

「ほら、スバルもこういってることだし」

 

「スバルさんが一人だと何するかわかりませんよ?」

 

『…………』←キャロを除く女性陣営

 

「いや、なんで……?」

 

とたんに静まり返った風呂場の入口にスバルの声が寂しく響いた。

 

 

 

 

 

 

結局、エリオはスバルとともに男湯に入ることとなった。

だが、その前にエリオはスバルからお仕置きとしてティアナ直伝のコメカミクラッシャーを喰らってしまいぐったりとしていた。

 

その後、スバルとエリオは服を脱ぎ、タオルを腰に巻き付けると、その時彼らの耳にドアが開く音と聞き覚えのある声が聞こえてきた。

 

 

「は~い。どうぞ」

 

「ありがとうございます」

 

「「……は?」」 

 

あまりにも予想外すぎる声に二人して振り返る。

そこにはタオルで身を包んだキャロがいた。

 

「エリオ君!スバルさん!」

 

フリーズしていたスバルがその声を聴いて再起動したが、エリオは未だにパニックに陥っていた。

 

「キャ、キャキャキャキャロっ、キャロ!?」

 

「?」

 

「ふ、ふふっ、服、服っ!」

 

「うん。うん。女性用更衣室の方で脱いできたよ?エヘッ。だからほら、タオルを――」

 

「前を開こうとしない。

 はしたないぞ」

 

慌てまくって使い物にならないエリオに代わって、いきなりタオルの前を開こうとしたキャロの手をスバルが止める。

流石に他の客がいないとはいえ男湯でその行為をするのはどうか、フェイトさんの教育はどうなってるのかという疑問がスバルの頭をよぎった。

 

「あ、えへへ、ごめんなさい」

 

「それで?こっちは男湯だけど、どうして入ってこれた?」

 

「女の子も、11歳以下は男性用の方に入って良いみたいなんです。注意書きの方にも書いてありました」

 

「そう……か」

 

盲点だったとスバルは頭を抱えてしまう。

エリオが女湯(あちら)に行くのがOKなら逆もまた然り。

当たり前のことを考えていなかったスバルは一応フェイトに念話で連絡を入れておく。

 

(フェイトさん、スバルですけど)

 

(ん? どうしたの?)

 

(後でエリキャロの教育のことでお話がありますので、逃げないでくださいね)

 

(え……、スバル?

 なんか雰囲気が……)

 

スバルはそれだけ伝えるとフェイトからの念話を切ってため息を吐く。

すでにキャロはエリオを引っ張り風呂の入口まで歩いて行っていた。

 

「スバルさーん!

 早くいきましょう!」

 

「あ~、ハイハイ。

 今行くよ」

 

女の子のバイタリティ溢れる様子に感心しつつも10歳の子供二人でいつまでもおらせるわけにはいかないとスバルは今日二度目のため息を吐きながら風呂場へと向かっていった。

 

 




はい、今回はアリサとティアナの新旧ツンデレキャラ対談でした。
彼女のおかげ(?)で自分の心と向き合うことになったティアナのこれからにもお楽しみください。
それじゃ、今回の人物紹介は、スターズ分隊副隊長のヴィータです。

名前 ヴィータ
年齢 不詳
性別 女
好きなもの はやての手料理、アイス
最近の悩み なのはからスバルのことについての愚痴を聞かされること

ヴォルケンリッターの一人、「鉄槌の騎士」ヴィータ。
今ではなのはの補佐を主な業務とし、特にスバルに対する訓練相手を務めることが多い。
なのはと違い、スバルに対しては深く考えず、何かあった場合は鉄拳制裁で言い聞かせているため、胃へのダメージは少ない。
たまにスバルとのアイスについて口論を繰り広げているところを目撃する者がいるそうだ。

スパロボ風精神コマンド
「必中」「鉄壁」「加速」「突撃」「直撃」「魂」

スパロボ風特殊能力
「鉄槌の騎士」:気力130以上で発動。武装にギガント・シュラークが追加

「ヴォルケンリッター」:気力110以上で発動。同じヴォルケンリッターを持つキャラクターとの連携攻撃でボーナス15%

スパロボ風エースボーナス
「ギガント・シュラーク」の攻撃力アップ


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第十二話 

なぜだ、五千字オーバーだと。
戦闘描写なんてほとんどないに等しいのに……。
何気に最長記録。
まぁ、クライマックスになれば超えるかもしれませんが……
さて、出張任務最終話です。
あと今回の人物紹介にはちょっとしたネタを入れてみました。
わかった人は、感想にて「ファントムフェニックス」とお書きください。
それでは、どうぞお楽しみください。



「「おぉ~」」

 

「結構デカいな」

 

風呂場に足を踏み入れたスバルたち三人は目の前に広がる景色に目を奪われていた。

普段は六課の隊舎にあるシャワールームか風呂桶が一つしかない風呂場を見慣れていた三人は銭湯というものに見入っていた。

 

「さて、風呂に入る前にやることがある」

 

「やること」

 

「ですか?」

 

スバルの言葉に二人は首を傾げる。

 

「それは……体をきれいにすることだ!!

 というわけで、しっかりと綺麗にしてから入るんだぞ。

 それがこの国での公衆浴場での礼儀だそうだ」

 

「「はい!」」

 

 

その後、エリオの髪を洗い終えたスバルは身体を先に洗い終えたキャロを座らせ彼女の髪を洗っていた。

 

「スバルさん、なんか髪洗うのうまいですね」

 

「まぁな、小さいときに姉貴に無理やり風呂に入れられたときに洗わされたからな。

 自然にうまくなったんだろ」

 

シャンプーハットを付けたキャロがスバルに尋ねる。

スバルは彼女の髪を傷つけないように、されど洗い残しがないようにしっかりと洗いながら答えた。

 

「スバルさんのお姉さんも、局員なんですよね?」

 

「あぁ、俺の二つ上で今は陸曹だ。

 親父の108部隊にいるから、もしかすると会うこともあるかもな」

 

先に髪を洗い終え、身体を洗っていたエリオが思い出したように口にしたことに対して、スバルは軽く返事をする。

一通り洗い終えたスバルはキャロに目を閉じるように言うと、頭の上から温めのお湯をかけ、泡を洗い流した。

 

「よし、お前らは先に入ってていいぞ。

 身体冷やして風邪ひかれたら俺がフェイトさんに怒られる」

 

「あの、スバルさん」

 

「私たちが背中洗ってもいいですか……?」

 

まさかのエリオとキャロからの提案にスバルは微笑みながら了承の意を示した。

 

「なら、頼むかな。

 冷えてきたらすぐに言えよ?」

 

「「はい!」」

 

スバルの言葉に元気よく返事した二人はさっそくタオルに石鹸をつけ、彼の背中をタオルで擦りはじめる。

その背中を見て、エリオがポツリと声を漏らした。

 

「スバルさんの背中、なんか大きいですね……」

 

「……そうか?」

 

「なんとなくですけど、なんか安心できるというか……」

 

「あ、私もそう思います……。

 年上のお兄さんや、お父さんがいればこんな風なのかな……って」

 

キャロのお父さん発言にスバルは苦笑する。

 

「そうは言うけどな、俺だってお前らより五年早く生まれただけだって。

 エリオだってそのうちこうなるぞ」

 

スバルは背中から少し痛いくらいの感覚を感じながら言葉をつづける。

 

「そうだな、確かに俺も似たような経験はあるな。

 親父と一緒に風呂に入ったときとか特にな。

 俺の親父って魔力は持たないんだけど、なんかデカいんだよな……」

 

「あ、あの……スバルさん」

 

「ん、なんだ?」

 

キャロの恥ずかしがるような声にスバルが反応すると、キャロは顔を少し紅めながら口を開いた。

 

「一度だけ、お兄ちゃんって呼んでもいいですか?」

 

「……ハハッ。

 いいぞ、ほら」

 

スバルの許可をもらったキャロは一度息を吸い、その言葉を口にした。

 

「お、お兄ちゃん……」

 

「……ッ!」

 

「スバルさん?」

 

「な、なんでもないぞ。

 なんでもない……」

 

キャロの恥ずかしがる声とともに発せられたお兄ちゃんという単語に、スバルは鼻の奥から情熱があふれ出すのを感じた。

すぐに鼻を手で押さえ、それが出てくるのを間一髪防いだ。

その様子を見ていたエリオは不思議に思い、尋ねたがスバルの返答に首を傾げながらその話題を終えた。

 

「キャロ、今度ティアナにも言ってやれ。

 お姉ちゃんってな。

 たぶんあいつ顔真っ赤にするから」

 

「は、はい!」

 

「エリオ、お前もだ」

 

「えぇ!?」

 

「というか、お前らフェイトさんのこと普段なんて呼んでるんだ?」

 

スバルの質問に二人は互いの顔を見て、すぐに答えた。

 

「「フェイトさんです」」

 

「お前ら、まずフェイトさんをお母さんって呼んでやれよ……」

 

 

 

後日、機動六課隊舎にて、鼻血を出して倒れている金髪隊長と顔を真っ赤にしているオレンジツンデレ少女っが見られたそうだ。

 

 

 

 

「「「ふぃ~」」」

 

風呂に入った途端、三人の顔はこれまでにないほどにしまりのないものになっていった。

何気に一日中街中を歩き回った三人。

普段訓練をしているとはいえ、歩きなれない別世界の町ということで身体にも疲労がたまっていた。

それが風呂に入ることでゆっくりと抜けていくのを感じていた三人だった。

 

「あの、スバルさんは転移に弱いんですか?」

 

「ん~?

 あぁ、あれね」

 

ゆったりと湯船に浸かっていたキャロがスバルに尋ねる。

この世界に来た時のスバルの青い顔色を思い出し、エリオもまた興味深そうにその話に耳を傾けた。

 

「転移酔いする人ってなかなかいないですし、スバルさんの場合、酔いというには少し酷かったですよね」

 

「まぁな、ちょっとした原因があるんだよ」

 

「原因ですか……?」

 

スバルは少し遠い目をしながら口を開く。

 

「俺もさ、昔は転移装置使っても大丈夫だったんだよ。

 けど、ある日を境に………な」

 

そこでスバルは一度お湯を手で掬い顔に掛ける。

まるで気を引き締めるかのように。

 

「お前らも知ってるだろ?

 新暦71年の臨海空港の火災のこと」

 

「あ、あれですか」

 

「はい、うっすらとですけど」

 

「俺さ、あの現場にいたんだよ」

 

スバルの言葉に二人は驚きを隠せなかった。

 

「それも火の勢いが一番活発なところでな。

 その時はなのはさんに助けられて間一髪だったんだ」

 

「それと転移酔いに何の関係が……?」

 

「その時、俺は姉貴と二人で管理局の祭りに行く予定だったんだ。

 だけどその時姉貴とはぐれて、迷子になって、転移装置に乗り込んだら、次の瞬間周りは火の海。

 それからしばらくは、転移装置を使った転移はできなかった。

 転移装置見るだけで吐き気がしてな、そりゃもう酷かったよ」

 

今は我慢できるほどまで回復したけどな、とスバルはそういって話を打ち切った。

だが、エリオとキャロの纏う空気が少し暗くなってしまったのを感じたスバルはすぐに話を切り出す。

 

「よし、二人とも今度は別の風呂に行こうか」

 

 

 

※ここからは音声のみでお送りいたします。

 

 

「泡ぶろだと」

 

「空気を下から出してるんですかね?」

 

「入ってみればわかるさ」

 

「何か不思議な感じですね~」

 

 

 

 

「電気風呂……?」

 

「面白そうだな」

 

「「「あ”ぁ~~~」」」

 

「これ、六課に帰ってもできるな。

 エリオ、今度一緒に風呂入ったときやってくれないか?」

 

「僕は電池じゃありませんよ……」

 

 

 

 

「流水風呂……?」

 

「なんか……」

 

「流れてますね……」

 

 

 

 

「「「流されるーッ!?」」」

 

 

 

途中おかしなところがあったが、先ほどまでの暗い雰囲気はなくなっていた。

その後、一通り風呂を楽しんだ三人は先にキャロを上がらせ、少し遅れて男二人一緒に上がった。

 

 

 

 

 

 

 

 

そのころ、女湯ではティアナが尋問を受けていた。

 

「なぁ、ティアナ、どうかしたん……?」

 

「い、いきなりなんですか、みなさん……?」

 

「さっきからティアナの様子がちょっと変だったからね」

 

「そうだね、だいたいアリサちゃんと話し終えたあたりからだったかな……?」

 

ティアナは魔法少女(?)組に囲まれ逃げ道を塞がれていた。

そして、話題に上がるのは彼女が今もっとも気にしていることだった。

 

「な、なんでもありませんよ……?」

 

「うそや、声がひっくり返っとるで?」

 

「何か悩みがあるなら聞こうか?

 今は上司としてじゃなくて、人生の先輩として聞けるから、ね?」

 

フェイトの言葉にティアナは顔を引きつらせる。

今の彼女たちというか、はやてとフェイトの目は飢えた獣のそれと同じだった。

何がとは言わないが、彼女たちは欲していた。

そんな膠着状態の中、はやてが一つの爆弾を落とした。

 

「わかった、スバルのことやろ?」

 

「ッ!?」

 

はやての落とした爆弾は原爆レベルだった。

スバルという言葉を聞いたティアナの顔は一気に赤くなった。

 

「あ、当たり?」

 

「スバルと何かあったの?」

 

二人からの言葉にいい詰まらせるティアナを見たなのははさすがに放っておけなくなったのか、話に割り込んだ。

 

「はい、二人ともそこまで。

 気になるのはわかるけど、これ以上はダメだよ?

 聞きたいなら、ティアナが言いたくなってから」

 

「「えぇ~」」

 

「文句言わない!」

 

(ほら、ティアナ、今のうちに)

 

(あ、ありがとうございます)

 

(いいよ、大事な教え子が困ってるんだもの。

 だけど、本当に悩んでいるなら誰かに相談した方がいいからね?)

 

(はい、考えておきます)

 

 

なのはが作り出した隙を逃さずに、ティアナはその場を後にした。

 

 

 

「いいか、エリオ、キャロ」

 

「「はい、スバルさん」」

 

風呂から上がった三人は売店の自動販売機の前に立っていた。

その手にはコーヒー牛乳の入った牛乳ビンがあった。

 

「まずは蓋を開ける!」

 

「「はい!」」

 

備え付けられた蓋を取る棒を使いポンッと音を立てて外される。

 

「次、左手を腰に当てる!」

 

「「はい!」」

 

スバルの言うことに合わせて二人は腰に左手を当てる。

 

「そして一気にのどに流し込む!」

 

その言葉を合図に三人は同時に同じポーズでコーヒー牛乳を口に含み、一気に喉に流し込んだ。

 

「「「プハァ~」」」

 

「どうだ、これが風呂上りのコーヒー牛乳の飲み方だ」

 

「なんというか、不思議な感じですね。

 どこにでも売ってるものなのに、此処で飲むのは格別というか……」

 

「すごく、おいしかったです!」

 

「そうだろう、そうだろう。

 これはこの国の銭湯での伝統だそうだ」

 

顔を輝かせているちびっこ二人組に得意げにスバルが話していると、背後から彼に声が掛けられた。

 

「あんたら、何してんの?」

 

スバルが振り返るとそこには髪を下ろしたティアナが呆れた表情で立っていた。

風呂上がりだから、彼女の顔は少し赤らんでいた。(理由はまた別なのだが、スバルが知ることはなかった)

 

「見てわからないのか?」

 

「見てわからないから聞いてるの」

 

「銭湯での牛乳の飲み方の授業だ。

 ちなみに、コーヒー牛乳とイチゴ牛乳も可。

 お前もやるか?」

 

「やらないわよ」

 

ティアナはスバルが差し出した牛乳の入った瓶を受け取り、近くに置いてあったソファに座り牛乳を一息に飲み干した。

 

「あ、みんな~!」

 

そんなとき、彼らに声をかけながら駆け寄ってくる人がいた。

機動六課医務室室長のシャマルだ。

 

「シャマル先生、どうしたんですか?」

 

「うん、町に設置したサーチャーに微弱な反応が出たの。

 はやてちゃんたちも今急いで準備してるから、みんなは先に反応のあった場所に向かってちょうだい」

 

シャマルの言葉を聞いた四人はすぐに真剣な表情をして、手に持ったビンを回収ボックスに置いた。

 

「ロストロギアの詳細は?」

 

「向こうに向かう途中に話すわ。

 ひとまず現場に向かって。

 ポイントはクロスミラージュに送っておいたから」

 

「「「「了解!」」」」

 

 

 

 

 

 

その後、シャマルから知らされたポイントへ向かった四人だったが、彼らは目の前に広がる光景に口をあんぐりと開いたまま固まってしまった。

 

ポヨヨ~ン、ポヨヨ~ン。

 

「なぁ、あれがロストロギア?」

 

「え、えぇ。

 シャマル先生から送られたポイントは確かにここだけど……」

 

彼らのいる場所……銭湯からそう離れていない川の河川敷には彼らの目的であるロストロギアがあたりに散らばっていた。

 

「あれって……」

 

「スライム、ですよね……?」

 

その姿を見たエリオとキャロが思ったことを口にした。

そう、対象の姿は何とも言えない青色の粘着質な物体、有体に言えばスライムであった。

 

「あれ、どうすればいいの?」

 

「いや、とりあえず様子見だな。

 エリオ、頼む。

 危険性はないらしいけど、一応気を付けろよ?」

 

「はい!」

 

エリオはストラーダを構え、スライム、もといロストロギアに切りかかった。

だが、その刃がスライムを切り裂くことはなかった。

 

「弾かれた!?」

 

「物理攻撃は無効か。

 だとすると……」

 

「あたしの出番……ってことね。

 キャロ、ブーストお願い」

 

「はい!」

 

ティアナにキャロがブーストを掛ける間にティアナはスバルとエリオに指示を出す。

 

「スバルとエリオはこいつらをあまり広げさせないで。

 少しの間でいいわ」

 

「OK、任せろ!」

 

「わかりました!」

 

指示を聞いたスバルとエリオは広がり、群れを離れようとするスライムを誘導し、一か所に集める。

ティアナはそのスライムの群れをじっと観察していた。

 

そして。

 

「見つけた、クロスミラージュ」

 

《Sealing Shoot》

 

「シュート!」

 

ティアナの狙いに捉えられたスライムは、撃ち出された弾丸に貫かれた。

弾丸に込められた封印魔法が直後に発動し、周囲にいた他のスライムも消えていき、最後には封印されたロストロギアの核のみがその場に残った。

 

「封印完了。

 シャマル先生、終わりました」

 

(はーい、すぐに隊長たちがそちらに着くので、その場で待機しておいてくださーい)

 

「すごいな、なんで一発で仕留められたんだ?」

 

「ほかのスライムも核の反応出していたのに……」

 

シャマルとの通信を終えた後、ティアナにスバルとエリオが疑問をぶつけてきた。

事前情報で、今回のロストロギアは危機を感じたとき、分身体を作り出し本物は離脱するということを聞いていた二人は一発で核を持った本物を見抜いたことを疑問に思っていたのだ。

 

「簡単よ、ほかのと動きが違うのを見つけただけ。

 偽物は周りからある一点を隠そうと派手に動き回って、その場所にいるのは周りの様子をせわしなく見回してたから」

 

「なるほど……。

 やっぱお前すごいな。

 よくもまぁそんなことを」

 

「―――ッ、フン!

 当然よ、このぐらいできないと執務官になろうとしている身としてはおかしいわよ」

 

スバルの言葉を聞いたティアナは顔を紅くしそっぽを向きながらそう告げた。

 

 

 

その後、遅れて到着した隊長陣からほめられさらに顔を紅くしたツンデレ少女が一人いたそうだ。

 

 

 

 

 




隊長陣は風呂上りの後始末で間に合いませんでした(笑)
先に上がっていたシャマルだけが対処可能ってどういうことなんだ。
Σ(゚Д゚)まさか、これがキャラが勝手に動くというやつなのか……?
あと、ごめんよ、フェイト。
君の出番はなぜかギャグというかオチに使いやすいんだ……。(特にエリキャロ関連で)
あとさりげなくシャマル先生初登場。
次回から『魔法先生ポイズンシャマル』始まります(嘘)

今回の人物紹介は、われらがオッパイ魔神シグナムです。


名前 シグナム
性別 女性
年齢 不詳
趣味 木刀のカタログを見ること
最近の悩み はやてからのスキンシップが激しくなり、さすがに酷くなりすぎだと考え、レジアス中将に相談するかどうかを悩んでいる。

ライトニング分隊でなおかつ交代部隊という原作でも序盤はほとんど出番のなかったシグナム。
それはこの作品でも変わらなかった。
だが、スバルが休憩時間中に読んでいた漫画が彼女の琴線を刺激し、その漫画を借りたことで彼とちょくちょく話しているところを目撃されている。
特に最近では質量兵器ギリギリの木刀のカタログを休憩時間中に眺めているところもよく目にされている。
はやてのスキンシップにより、ある特定の部分がさらに成長したそうだ(プログラム体なのに……)。

はやて「なんでや!なんでシグナムは大きくなるのに私はならんのy……

スパロボ風精神コマンド
「必中」「鉄壁」「集中」「ひらめき」「直撃」「熱血」

スパロボ風特殊能力

「烈火の将」:気力110以上で発動。周囲にいる味方の気力プラス15

「ヴォルケンリッター」:気力110以上で発動。同じヴォルケンリッターを持つキャラクターとの連携攻撃でボーナス15%

「コードATA」:撃破されたとき周囲の敵味方関係なしに爆発に巻き込m(削除されました

スパロボ風エースボーナス
武装に「煌竜」追加


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第十三話

前回が最長なら、今回は最短記録です。



第97管理外世界『地球』への出張任務を終えた数日後、スバルは首都クラナガンのとある施設にいた。

その施設のロビーのソファに座っている彼に声をかけてくる人物がいた。

 

「すまないね、スバル君。

 待たせてしまったかな?」

 

「いえ、俺も来てすぐでしたから」

 

 

スバルは自分に声をかけてきたキツネ目に眼鏡をかけた白髪の男にそう答える。

 

「うん、ならさっそく始めようじゃないか。

 どこか気になるところがあったようだけど……?」

 

「あ、そのことで少し詳しく話したいと思うんですけど、時間は大丈夫ですか?」

 

「うん、僕の時間は大丈夫。

 やらないといけないことはさっき全部部下に押し付け(終わらせ)てきたからね」

 

「なんか変な副音声が聞こえてきたんですけど……。

 大丈夫なんですか、サカキ博士?」

 

サカキ博士、と呼ばれた男は笑みを浮かべながら大丈夫大丈夫と答え、その歩みを進めていった。

スバルは大きなため息を吐きながらここに来るまでのことを思い出していた。

 

 

 

 

「え、検査?」

 

出張任務から帰ってきた三日後、スバルはなのはのもとに来ていた。

 

「はい。

 どうも最近身体の調子がおかしくて……。

 なんか違和感があるので、一応」

 

「そっか、なら許可します。

 君の場合はその違和感がどうなるかわからないからね。

 先生にしっかり見てきてもらうこと。

 わかった?」

 

「はい、わかりました」

 

スバルの返事を聞いたなのはは頷きながらももう一度スバルに尋ねる。

 

「本当に、身体のどこかがおかしいわけじゃないんだよね……?」

 

「別にどこかおかしくなったわけじゃないですって。

 それに何かあったらすぐに言いますよ」

 

なのははいつまでも心配そうな顔で彼を見ていた。

 

 

 

 

 

「どうも右腕と左足にかかる負担が大きくなってるね。

 訓練メニューとか見せてもらえるかな?」

 

「マッハキャリバー」

 

『all right』

 

サカキはマッハキャリバーから端末に送られた情報を眺め、一つ大きく息を吐いた。

 

「ありがとう。

 うん、君の訓練官は優秀だね。

 ちゃんと君の限界を理解して、決してそれを超えない訓練量を組んでる。

 それに君の違和感はたぶん反射に身体が追い付いていないからだね」

 

「反射に身体が……?」

 

「そう。

 前の所属の災害担当では決して行われない量の訓練メニュー。

 それが君の反射を鍛え上げたとしか言いようがない。

 つまり、君の成長に身体が追い付かなかっただけだね」

 

サカキはそう告げると眼鏡を指で押し上げスバルに問う。

 

「さて、どうする?

 このままでもいつかは身体も成長してその違和感はなくなるけど?」

 

「調整する方向でお願いします」

 

「即答だね。

 だけど、了解したよ。

 それじゃ、あとは任せてくれ」

 

「はい、よろしくお願いします」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

場所は変わってとある辺境の研究施設。

そこにある一室に数人の男女が集まっていた。

 

「ドクター、今日はなんですか?」

 

「私、Ⅲ型改の調整で忙しいんですけどぉ?」

 

「まぁまぁ、落ち着き給え。

 今日は大事な話があって皆を集めたんだ」

 

部屋の中央に置かれた大き目の机に座った男―――ジェイル・スカリエッティは手を組み肘を机に乗せた。

所謂ゲンドウのポーズである。

 

「ドクター、なんですかそのポーズは。

 今はガジェットの量産と後期型の妹たちの調整に忙しいのですから手短にお願いします」

 

彼のすぐ隣に座るウーノから指摘され、スカリエッティは頷き話し始めた。

 

「先日、この研究所からあるものが紛失した」

 

「あるモノ?」

 

スカリエッティの言葉に三番―――トーレが反応する。

 

「あぁ、と言っても機密とは言えないものだがね。

 だが、それがないおかげで私の研究の進行度が下がってしまった」

 

「ドクターの研究の進行度ってそんなに高くもなかった気が……」

 

「クアットロ、それは言わない約束だ」

 

その言葉に四番、五番―――クアットロとチンクは小さな声で言い合う。

 

「前置きが長すぎます。

 結論を」

 

「うん、私が楽しみにしてたスーパーカ○プ(バニラ味)がいつの間にかなくなっていた。

 それをだれが食べたのか、それをここで明らかにしたい。

 食べた者は手を挙げなさい、お父さん怒らないから」

 

刹那、部屋の空気が死んだ。

直後、チンクは隣にいたトーレの腕をつかみ、トーレは自身の特殊能力(IS)『ライドインパルス』を使用し部屋から離脱。

クアットロも同じく固有武装『シルバーケープ』を使い身を隠し、静かに部屋から離脱。

その様子を見て首を傾げたスカリエッティはいつの間にか後ろにいたウーノに尋ねる。

 

「なぁ、ウーノ。

 なんでみんなこの部屋から出ていったのかな?」

 

その言葉の直後、彼の頭はウーノに鷲掴みにされていた。

女性と言えど、戦闘機人、しかもここ最近の激務で疲労とイライラの募った彼女の力は200%の力を出していた。

その力で繰り出されるアイアンクローは彼の耳に自身の頭蓋が軋む音を届けた。

 

 

「あなたは、今が忙しい時期だということを理解しながらも、そんな理由で作業を中断させ私たちを呼んだのですか?」

 

「そんな理由とは何だ、そんな理由とは!」

 

「アイスなど、買えば済む話でしょう!

 なぜこう、よりもよって忙しいときに集めるのですか!?

 私の胃を破壊したいのですか、ドクターは!?」

 

「いや、あのウーノ?

 とにかく頭を離してくれないかな……?

 先ほどから頭から聞こえちゃいけない音がががが……」

 

「問答無用!」

 

その後、その部屋から何かが砕ける音と一人の男の悲鳴が轟いた。

 

 

「なんだろう、なんかとてつもない罪悪感と恐怖が同時に……」

 

先日のリニアレールに向かう際に特務一課の局員に損傷を受け、その修理のために部屋に集合していなかった

六番―――セインは背筋を走った感覚に恐れを抱いていた。

 

「ま、いいか!

 さてと、今日のアイスは何かな~。

 ドクターは一週間おきにアイス変えるからな~。

 楽しみだなぁ~」

 

そんなことを彼女が呟いていたことを聞いている者はここにはいなかった。




博士です。
主人公にも博士キャラが来ましたよ。
モデルは……まぁ、名前とキツネ目でわかる人はわかると思います。

後半は、スカさん一家の登場です。
スカさんがポンコツ化かつやる気なし男街道一直線なのでウーノさんの胃がストレスでマッハ。
この作品のスカさんはやる気が起きなければ仕事すすみません。
実質、ウーノさんがいなければスカさん一家は成り立たないでしょう。
だから誰もキレた彼女に頭が上がりません。

人物紹介は今回登場のポンコツ博士ことスカさんと新キャラのサカキ博士の二人です。
それではまた次回。

名前 サカキ
年齢 49歳
性別 男
最近の悩み 対AMF用の武装を試作したが管理局にダメ出しを喰らわないように抜け道を探すこと

管理局でも有数の技術者であり、スバルの主治医。
自分の興味のある事情の研究に我を忘れるほどのめり込み食事を何日もとらずに研究し続けるというほどのマッドに片足突っ込んだお方。
原作スバルの担当は姉のギンガと同じくマリエル・アテンザさんだったが、今作ではスバルが男になっており、女性が男の身体をどうこうするのはまずいだろうということで彼が担当となった。
今の興味はスバルの成長そのものに向いており、スバルの行動を楽しんでいる。(要するに彼もまた周りの胃を壊しにかかる側の人間ということ)。
頭の良さは、スカさんよりは下だが、彼の研究資料を見て理解し、実践する程度にはある。
つまり天才と言ってもいい。
管理局から依頼され、対AMF用の武装を開発したが、地上本部はOKを出したが、本局が難癖をつけて試作機がそれぞれ一機ずつしか作られていないという状況に腹を立てていた。
スバルがいなければ彼がスカさんのようにもなっていたかもしれない危ない人。


非戦闘員なので精神コマンド等はなし



名前 ジェイル・スカリエッティ
年齢 不詳
性別 男
最近の悩み 長女ウーノが自分に冷たいこと

言わずと知れたラスボス。
だが、この作品ではラスボス(笑)と化している。
原作と違い、ポンコツな面も持ち合わせ、人間味が増している。
やる気が出ないときは何もしないというダメ男でもあるが、やるときにはやる、と思う。
作者が最も動かしやすいと言っても過言ではない人物でもある。
彼がポンコツ化したことによってウーノにそのしわ寄せがやってきて彼女のストレスが凄まじいことになっているが、彼は気にしない。
ある意味原作よりも強化された人物であるとも言える。
最近のマイブームはガリ○リ君(ナポリタン味)。

スパロボ風エースボーナス
「偵察」「集中」「攪乱」「鉄壁」「脱力」「覚醒」

スパロボ風特殊能力
無限の欲望(アンリミテッドデザイア)』:気力110以上で発動。敵ユニット撃破時、獲得経験値に50%のボーナス

『オレンジ卿』:おはようございました

スパロボ風エースボーナス
無限の欲望(アンリミッテドデザイア)』発動時、全敵ユニットの気力を5低下させる。


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第十四話

「ほな改めて。ここまでの流れと、今日の任務のおさらいや。

これまで謎やったガジェットドローンの制作者。及びレリックの収集者は現状ではこの男――違法研究で広域指名手配されている次元犯罪者、ジェイル・スカリエッティの線を中心に捜査を進めてる」

 

はやての言葉とともにモニターに白衣を着た男が映し出される。

紫の髪に金色の瞳。

そして、この男の出している雰囲気をスバルは敏感に感じ取り、さらにその雰囲気と似たものを持っている男を思い出していた。

 

(あ、この男、サカキ博士と同類だ)

 

「こっちの捜査は私が中心になって進めるけど、一応みんなも覚えておいてね」

 

「「「「はい!」」」」

 

「で、今回の任務の会場はここ。

 ホテル・アグスタ」

 

「骨董美術品オークションの会場警備と人員警護。

 それが今日のお仕事ね」

 

今回、機動六課のフォワード部隊はオークション会場の護衛に駆り出されていた。

その理由は、開かれるオークションに出され取引されるものがロストロギアだからだ。

そのロストロギアに反応してガジェットが襲撃してくるかもしれないということで六課に白羽の矢が立ったのだった。

すでに各分隊の副隊長であるヴィータとシグナムが先行していた。

 

 

「私達は内部の警備に回るから、皆は副隊長達の指示に従ってね」

 

「「「「はい!」」」」

 

 

 

 

 

 

(しかし、今日は八神部隊長の守護騎士団全員集合か……)

 

(あんた、確か結構詳しかったわよね?)

 

(親父や姉貴に聞いた程度の話だけどな)

 

ホテルアグスタでヴィータから指示を受けたスバルとティアナはそれぞれの持ち場で周囲の警戒をしていた。

だが、さすがにそれだけで時間を潰すのは難しく、二人は念話で世間話をしていた。

その話の内容は、はやてのデバイスは魔導書型で『夜天の書』という名前で、守護騎士(ヴォルケンリッター)は彼女固有の特別戦力で、全員がそろえば無敵だということだけだった。

 

(まあ、隊長達の詳しい出自とか能力の詳細は特秘次項だから、俺も詳しくは知らないけどな)

 

(レアスキル持ちの人はみんなそうよね)

 

(?ティアナ、何か気になることあるのか?)

 

(……別に、何もないわよ)

 

(そうか、じゃあまた後でな)

 

そうして彼からの念話がプツリと切れた後も彼女の胸の奥底には一つの疑問が残っていた。

 

(以前スバルが言ってたことだけど……。

 普通では考えられないほどの戦力を保有している機動六課。

 あの人がどんな裏技を使ったのか知らないけれど、隊長は全員オーバーSランク、副隊長でもニアSランク。

 他の隊員達だって、前線から管制官まで、全員未来のエリート達。

 それに比べて、以前よりは強くなったとはいえ、此処にいたらあたし霞んじゃうな……)

 

ティアナは大きくため息を吐いた。

 

「ため息吐くと幸せが逃げるっていうぞ?」

 

そこにヴァイスがお茶を持って現れた。

 

「ヴァイス陸曹、どうしてここに?」

 

「差し入れだ。

 お前らがいないとヘリは俺とストームレイダーだけだからな。

 いつもの騒がしい連中がいないと静かで寂しいんだよ」

 

ヴァイスはそういいながら手に持った紙コップをティアナに渡す。

ティアナはそれを礼を言いながら受け取る。

 

「ヴァイスさん、一つ聞いていいですか?」

 

「ん?なんだ?」

 

唐突にティアナがヴァイスに尋ねる。

 

「周りが優秀で、自分だけ少し劣るとき、ヴァイスさんならどうします?」

 

「なんだその質問」

 

ティアナの問いにヴァイスは呆れた表情で彼女を見る。

しかし彼女の真剣な顔つきを見てヴァイスは一つため息を吐き、渋々答える。

 

「たぶんスバルの野郎が言ってるかもしれんが、周りは周りだ。

 俺は俺のできることを精一杯やればいい。

 それで誰かを救えるんなら俺はそれで十分だ。

 お前は違うのか?」

 

「自分のやれること……」

 

「あと、周りが優秀ってのはいいことじゃねえか。

 自分のできないことを周りのやつらに任せちまえばいい。

 結果が大事だからな、その理屈ならどんな手を使ってもやり遂げるってのが一番かもしれんが」

 

ヴァイスはそう告げると紙コップに入ったコーヒーを飲み干し、「そろそろ六課に戻らねえとな、警備任務頑張れよ」と言って彼女の元から去っていった。

 

「自分のできることとできないこと……。

 周りを頼る……か」

 

ティアナはヴァイスに言われたことを口ずさみ、かつてスバルに言われたことを思い出していた。

そして、一度頬を思いっきり叩いた。

その顔は何か吹っ切れた表情を浮かべていた。

 

「なんだ、簡単なことだったんじゃない。

 スバルの言いたかったことってこのことだったのか」

 

自分の今やれることを精一杯やる。

スバルがかつて彼女に向かって言い放った言葉。

その真意をようやく理解した彼女はすぐにスバルに念話を繋げた。

 

(スバル、少しいい?)

 

(?なんだ?)

 

(あんた、前にさあたしに『自分が今やれることを~』って言葉、覚えてる?)

 

(あぁ、六課に来る前の話か。

 当たり前だろ?

 お前に言って自分が忘れてちゃ世話ないからな)

 

(うん、その言葉の意味、やっと理解できたわ。

 ありがと)

 

(……どういたしまして?)

 

なぜか疑問形の彼のセリフに吹き出してしまうティアナ。

そんな彼女にスバルは不満気に口を開いた(念話だが)。

 

(別に感謝されるつもりで言ったわけじゃないんだが……)

 

(あんたの言葉のおかげで、悩みの一つがなくなった。

 そのお礼よ)

 

(そうかい)

 

その後、二人の間に穏やかな雰囲気が満たされていた。

だが、彼らのその空気を引き裂くように通信が入る。

 

『来ましたっ!ガジェットドローン陸戦Ⅰ型、機影30、35……』

 

『陸戦Ⅲ型、機影2,3,4!』

 

(スバル!)

 

(今そっちに向かってる!)

 

通信が入ったことによって彼らの感覚が日常から戦闘のそれへと切り替わる。

直後、彼女の後方のテラスからスバルが飛び降りてくる。

 

『前線各員へ。状況は広域防御戦です。ロングアーチ1の総合管制と合わせて、私、シャマルが現場指揮を行ないます』

 

「スターズF、了解っ!」

 

『ライトニングF、了解!』

 

「シャマル先生、前線の様子を見たいんで映像回してもらえますか!」

 

『わかったわ、クロスミラージュに回線をつなぐわね』

 

シャマルからの通信が切れると同時にクロスミラージュから映像が映し出される。

映像の中ではすでに前線での副隊長の戦いっぷりが映し出されていた。

 

 




どうも、飛鳥です。
今回の話、ティアナとヴァイスの会話の部分はかなり悩みました。
入れるか入れないかで。
でも入れなければヴァイス君がめっちゃ影薄いキャラになってしまうと思ったので入れさせてもらいました。
さぁ、次回はいよいよ戦闘シーンです。
ちゃんと皆さんにわかるように書けるか心配ですけど、お楽しみに。


人物紹介
名前 ヴァイス・グラセニック
性別 男
年齢 24歳
最近の悩み 妹の誕生日に何を送るかということ

六課の足代わり、ヘリパイロットの24歳独身シスコン野郎。
原作と違い、過去に、妹のラグナ・グラセニックを巻き込んだ犯人の狙撃に失敗しておらずトラウマを抱えていない。
その代り、ラグナへの愛が溢れだし重度のシスコンと化した。
妹を心配させないという理由で武装隊からヘリパイロットへと転向した経緯を持つ。
シスコンの行動原理は妹第一。
六課ではスバルにとって数少ない年上の男性ということで兄貴分であり話の通じる友人でもある。
(歳は離れているが……)
また、休憩時間にはスバル、エリオとともに一狩りしているところを目撃されている。
この光景を目にしたとある女性局員が「ヴァイス×スバル、スバル×エリオ……」などと呟いていたようだが、彼らには聞こえていなかった。
後日その女性局員はとあるイベントでガッポリ小遣いを稼いだらしい。


スパロボ風精神コマンド
「集中」「必中」「加速」「狙撃」「直撃」「熱血」

スパロボ風特殊能力
「シスコン」:敵味方問わず、妹属性持ちユニットに隣接した場合、ステータスに30%のボーナス。

「バルキリー乗り」:お前たちが俺の翼だッ(`・ω・´)!!

「乙女座の男」:この気持ち、まさしく愛だッ(`・ω・´)!!(愛ッ(゚Д゚;)!?

スパロボ風エースボーナス
すべての武装の射程がプラス1


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第十五話

ガジェットをヴィータのハンマーが叩き潰し、シグナムの剣が切り裂く。

モニターの中に映るそれは戦闘ではなく蹂躙だった。

 

「うぉ、副隊長たち、すげぇな……」

 

「あれでリミッター付き?

 ベルカ式でリミッターはあまり足かせにならないと言ってもあれは……」

 

モニターに映る蹂躙劇を見てスバルとティアナは頬を引きつらせる。

 

『ケリュケイオンに反応っ!

 誰かが召喚魔法を使ってます!』

 

『クラールヴィントにも反応。

 でも、この魔力反応は――』

 

『大きい、何コレ!?』

 

モニターが切り替わり召喚魔法の魔力反応が映し出される。

そこに映った結果は、『推定Aランク』。

少なくともフォワード四人以上の魔導師があちら側にいるということになる。

 

『スターズF、ライトニングFと合流して、防衛ラインをお願い!』

 

「「はいっ!」」

 

スターズの二人はシャマルからの指示に従い、ライトニングの二人のいる正面玄関へと向かう。

 

「キャロ、召喚士は他になにかしてきてるか?」

 

「今のところは何も……でも、きっと何かしてくると思います」

 

「ならスバルとエリオがトップで、センターは私。

 キャロ、フルバックよろしくね」

 

「了解です」

 

「わかりました」

 

「背中は任せるぞ?」

 

「誰にモノ言ってるのよ。

 来るわよ!!」

 

その直後、目の前に魔法陣が展開される。

そこからガジェットが現れる。

Ⅲ型1機とⅠ型が10機だ。

 

「あれって、召喚魔方陣!?」

 

「召喚魔法って宅配便みたいに使えるんだ……」

 

「……優れた召喚士は、転送のエキスパートでもあるんです」

 

「スバル、今はそういったボケはいらないから」

 

スバルへの突っ込みもそこそこにしてティアナはクロスミラージュを構える。

 

「召喚魔導師がいるってことは援軍があるかもしれない。

 そこは注意していくわよ!!」

 

「「「おうッ!」」」

 

 

 

 

 

 

 

「これでッ!!」

 

最後のⅠ型をヴィータのハンマーが打ち砕いた。

 

「こっちは終わったぞ?

 そっちはどうだ」

 

『新人達は何とかやってるわ。

 でもちょっと余裕がないみたい。

 ヴィータちゃんはこっちに戻ってきてくれる?』

 

「おう、わかった」

 

シャマルとの通信を切ったヴィータはハンマー……デバイスであるグラーフアイゼンを肩に担ぐ。

 

「というわけだ、あたしは新人達のところに行く。

 さっきからガジェットの動きがよくなってやがるからな……。

 あいつらだけじゃやばいかもしれない

 ここは任せたぞ?」

 

「あぁ、任された、と言いたいところだが……」

 

「ここから離れたところから一つ、大きな魔力の動きを感じた。

 ホテルとは別方向に向かっているが……」

 

ヴィータの言葉にシグナムとザフィーラが答える。

その時、彼らの主から連絡が入った。

 

『そっちは追う必要はあらへんよ』

 

「主、どういうことですか?」

 

『実はこの任務の警備には六課の他にも特務一課の人が秘密裏についとったんやと。

 オークション前にレジアス中将から連絡があって、一課の第一目標が現れる可能性があるから~ってな。

 で、今一課の人から連絡があって、今移動しとる方は一課に任せてほしいってな。

 せやから、シグナムとザフィーラはそこで防衛線を張り続けとってな』

 

 

「承知しました。

 というわけだ、ヴィータ。

 新人達は任せたぞ」

 

「言われなくても」

 

シグナムから促されてヴィータはホテルの方へと向かう。

 

「さて、我々はここで連中を通さないようにするだけだな」

 

「守りこそ俺の生きがいだ。

 一機たりとも通さん」

 

 

 

 

 

 

 

「このッ!」

 

一方、ホテルアグスタ正面玄関前ではフォワード四人がティアナの指示によって、動きのよくなったガジェット相手に何とか戦っていた。

 

「エリオ、もう少し下がって!

 キャロ、スバルにブースト。

 スバルはエリオとチェンジ!」

 

「応っ!」

 

「「わかりました!!」」

 

《Boost Up Acceleration》

 

ケリュケイオンから補助魔法をかけられたスバルはエリオと入れ替わり前に出る。

その隙を抜けようとしたガジェットをティアナが魔力弾で撃ちぬく。

 

「ディバインバスターッ!」

 

《Divine Buster》

 

スバルの放った砲撃がⅢ型を包み込む。

キャロのブーストによって威力を底上げされた砲撃はそのままⅢ型を爆散させた。

 

「ティアナさん!」

 

「ッ!」

 

戦況を見極めようとしていたティアナの耳にエリオの叫び声が聞こえてくる。

その声のした理由を確かめる前に彼女は自分の直感を信じてその場を飛び退いた。

その直後、彼女のいた場所にガジェットの攻撃が突き刺さった。

 

「クッ!」

 

「ストラーダ!」

 

《Speerschneiden》

 

体制の崩れたティアナに襲い掛かろうとしたガジェットをエリオが一瞬でその懐に入り込み切り裂いた。

 

「大丈夫ですか!」

 

「え、えぇ。

 ありがとう、エリオ。

 助かったわ」

 

(だけど、このままじゃ……!

 何とかして数を減らさないと……)

 

『防衛ライン、もう少し持ち堪えて!

 ヴィータ副隊長がすぐに戻ってくるから!』

 

ティアナが状況の悪さを再認識し、その状況を打破するための作戦を考えているとき、シャマルから通信が入った。

 

「なら、副隊長が来るまでにある程度の数を減らします。

 スバル!」

 

「了解ッ!」

 

《Wing Road》

 

その一言で彼女が何をしようとしているのかを察したスバルはすぐさまガジェットの攪乱に向かう。

 

「エリオとキャロはフォローお願い!

 あたしとスバルで数を減らす……!!」

 

「「はいっ!」」

 

「クロスミラージュ」

 

《Load》

 

クロスミラージュから空薬莢排出された。

 

 

 

 

 

 

 

 

そこにある男がいた。

かつて陸にその男ありと言われるほどの男。

彼にかなう者など探せば片手で事足りるほどの男。

その男の名は……

 

「ゼスト・グランガイツ、二等陸佐」

 

「……」

 

「なんだ手前は!?」

 

かつてのストライカー級魔導師、ゼストは無言で男を見定める。

そんな彼に付き従う小悪魔のような容姿をしたまるで人形のような少女、アギトは目の前に立ちふさがる男を睨みつけていた。

彼らは、同行人である『ルーテシア・アルビーノ』が召喚魔法を使った後、その場を捕捉されそうになったため、ルーテシアのみを別の場所へ向かわせ、自分たちは陽動のためにホテル、ルーテシアの双方ともに別の方向へと向かっていた。

だが、彼らの目の前に一人の褐色の肌の男が現れたのだった。

 

「特務一課所属、レイニー・アイオス三等陸尉です」

 

「特務一課だぁ?そんな連中が……って旦那?」

 

レイニーの言葉に反応し、野次を飛ばそうとしたアギトをゼストが片手で制した。

 

「特務一課、レジアスの直属が俺に何の用だ」

 

ゼストはデバイスを握る力を抜かず、レイニーに尋ねる。

 

「あなたをあの人の元へ連れていきます。

 あなたと直接話がしたい、と」

 

「断る。

 こちらも聞きたいことがあるが、今はやらねばならないことがある」

 

「そうですか……。

 あなたとは戦いたくはなかったのですが……」

 

《Setup》

 

「来るか……。

 アギトは下がっていろ」

 

ゼストは槍を握りしめながら彼女にそう告げた。

 

「旦那、なんでだよ!?」

 

(俺たちの目的はあくまでルーテシアの離脱だ。

 あいつの離脱が完了したら、俺たちを呼び出す手はずになってるのを忘れたのか?)

 

「うっ、わかったよ……」

 

ゼストに諭されたアギトは大人しく彼の後ろに回る。

 

レイニーが自分のナイフ形のデバイス『ゼブラ』を構える。

それを認識したゼストは手に握った槍型デバイスをレイニーに向ける。

 

「武力をもって拘束させていただきます……!」

 

「悪いが付き合ってもらうぞ、特務一課……!」

 

地上本部所属特務一課随一の近接戦闘能力を持つレイニーと、かつてのストライカーがぶつかった。

 

 

 

 




はい、アグスタ編中編でした。
ティアナがどうするのか、それは次回!

そしてついに特務一課の隊員が初登場。
一課からは今回初登場したレイニーの他に二名が本編に登場予定です。
設定上は有能な戦闘隊員が多く所属する部隊ですけど、彼らを本編に本格的に参戦させられるだけの技量が私にないので、代表で三人ということにさせていただきます。
さて、今回登場したレイニー……というか登場予定の三人はどれも同じ漫画からイメージしたキャラです。(わかる人いるのかこれ?

今回の登場人物紹介は、番犬、もとい盾の守護獣ザフィーラと湖の騎士シャマルです。
どうぞ!

名前 ザフィーラ
性別 男(雄?)
年齢 不詳
最近の悩み 犬もとい狼の状態でいることが多いため、彼のことを番犬としか思っていないものが六課に多いこと。

盾の守護獣ザフィーラ。
原作では狼の姿でしか見られなかったが、この作品ではどうなることやら。
ほとんど原作とは同じだが、スバルにビーフジャーキーを与えられたりしている。

スパロボ風精神コマンド

「不屈」「鉄壁」「集中」「信頼」「激励」「熱血」

スパロボ風特殊能力
「盾の守護獣」:気力110以上で発動。援護防御時被ダメージを30%カット

「ヴォルケンリッター」:気力110以上で発動。同じヴォルケンリッターを持つキャラクターとの連携攻撃でボーナス15%

「番犬ザフィーラ号」:テオォアッ!!

スパロボ風エースボーナス
「盾の守護獣」が常時発動。


名前 シャマル
性別 女
年齢 不詳
最近の悲しいこと 医務室(自分の城)に来た人に出そうとしたクッキーをヴィータに砕かれシグナムに消し炭にされたこと

ヴォルケンリッターの参謀役(笑)。
原作ではほとんどいいとこなしの彼女。
作者ができるだけこの小説ではいい扱いをしてあげたいと思う人の一人。
医療関係の技術は素晴らしいものを持っているが、やはりある特定の技能だけは全く上達していない。
そのある技能のために着いた二つ名が「ポイズンガールシャマル」。
隙あれば勝手にキッチンを使い料理(という名の殺人兵器)を作成し振る舞おうとするある意味危険な人物。

スパロボ風精神コマンド
「集中」「信頼」「鉄壁」「友情」「祝福」「絆」

スパロボ風特殊能力
「湖の騎士」:気力110以上で発動。自軍ターン開始時に周囲の味方ユニットのHPを10%回復

「旅の鏡」:気力130以上で発動。自軍ターン開始時にすべての味方ユニットに必中をかける。

「ヴォルケンリッター」:気力110以上で発動。同じヴォルケンリッターを持つキャラクターとの連携攻撃でボーナス15%

「魔法少女ポイズンシャマル」:攻撃時に追加で5%のダメージを5ターン継続で与え続ける。

スパロボ風エースボーナス
「湖の騎士」による回復量が30%に上昇。


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第十六話

※注意!
今回の話を読む前に前回のラスト、レイニーとゼストの出会った場面をお読みください。
少し修正しましたので。
恐らくこれを読まなかった場合(。´・ω・)?となる場合がありますので。



雲一つない青空のもとで、二つの光が交差する。

槍を振りかぶるゼストとそれをナイフで受け流すレイニー。

そのお返しにと、大降りになったゼストの懐に飛び込みナイフの持ち味である手数でゼストに迫る。

だが、その攻撃をゼストは一瞬で引き戻した槍ですべて捌いた。

 

「槍であの攻撃をッ!?」

 

「いい戦士だ。

 だが、まだまだだッ!」

 

「しまった!?」

 

そして均衡が崩れた。

ゼストの一撃を受け流し損ねたレイニーは大きく後ろへ吹き飛ばされる。

彼が体制を立て直す前にゼストは槍を振りかぶり叩き付けようとする。

 

「ッ!」

 

だが、その槍はどこからともなく放たれた魔力弾に弾かられる。

 

「旦那……ッ!?」

 

二人の戦闘を少し離れたところから見つめていたアギトは彼のもとに飛び出そうとしたが、そんな彼女にも一発の魔力弾が襲い掛かった。

 

「クッ……!

 索敵範囲に反応がねぇ。

 スナイパーか……!」

 

アギトは魔力弾の飛んできた方向を中心に魔力反応を確かめるが、彼女の索敵範囲内にはその反応はなく、舌打ちをするだけにとどまった。

 

 

「バロスか、助かった」

 

『しっかりしろよ、ここで逃すと中将から愚痴を聞かされ(お仕置き)ちまうぞ』

 

 

 

 

 

 

『それはいやだな。

 仕方ない、援護頼む』

 

「任された。

 ナイフ使いのレイニーの腕、見せてやれ」

 

二人が戦っている場所から15km離れた場所で彼はライフル型のデバイスのスコープを覗きながら相棒の援護を行う。

彼の名前はバロス・フレイグ。

特務一課のエーススナイパーであり、一課の中では最年少の前線部隊員だ。

 

「さて、俺も愚痴を聞かされるのは勘弁だな。

 あの人の愚痴は長いから嫌なんだ……。

 今日は弟の誕生日なんだ、さっさと終わらせてもらう」

 

彼はそう呟き、引き金を引いた。

 

 

 

 

 

「スナイパーは厄介だな。

 少なくともかなりの距離からアギトを狙えるほどの腕なら……。

 来い、アギト!」

 

「応よ!

 ユニゾン・イン!!」

 

 

ゼストの呼びかけにアギトは快く答え、キーとなる言葉を叫ぶ。

刹那、アギトはゼストの中に吸い込まれる。

その直後、ゼストの焦げ茶の髪は金色に染め上がり、くすんだ銀色の鎧も鈍い輝きを放つ金に変わった。

 

「ユニゾンデバイスってマジかよ!?

 六課のやつ以外に現存してたのか!?」

 

『バーカ、こうなったらお前らに勝ちなんかねえんだよ!!

 やっちまえ、旦那!!』

 

「……」

 

自分たちの目的が時間稼ぎということを忘れている様子のアギトの言葉にゼストは小さくため息をこぼす。

だが、その意識は常に相対する彼らに向けられていた。

現に、今も彼を狙って放たれた魔力弾を紙一重で躱していた。

 

「ちょ、バロス!

 あたってないぞ!?」

 

『無茶言うな、居場所のばれたスナイパーの弾丸がこっちに意識向けてるやつに当てられるわけないだろうが。

 当ててほしいならお前がかき回せ!!』

 

「あぁ、もうこの役立たず!!」

 

レイニーはバロスにヤケクソ気味に叫ぶとゼストへ向かい飛翔した。

 

 

 

「まったく、役立たずとはひどい奴だ。

 なぁ?」

 

バロスは自分の得物(デバイス)に向かって話しかけるが返事はない。

当たり前でもある。

彼のデバイスは演算処理に特化し、人工知能を搭載していないタイプ、所謂ストレージデバイスと呼ばれるものだからだ。

 

「まぁ、このままじゃ帰ってからレイニーのやつに怒鳴られるな。

 仕方ない、セカンドフォーム」

 

バロスの声に反応し、彼のデバイスの銃身が二つに割れる。

 

魔力変換炉(マギリングコンバーター)、起動。

 魔力収束確認……」

 

バロスの言葉に合わせるように、別れた銃身の間に紫電が迸る。

彼の背後に置かれた巨大な装置が唸りを上げ、周囲の魔力をかき集める。

そして、銃身もとい、砲身に集められた魔力が送られ臨海寸前まで圧縮された。

 

「スナイプバスター、行け!」

 

《Fire》

 

バロスが引き金を引き、溜めこんだ魔力の奔流が解き放たれた。

 

 

 

 

 

「……ッ!」

 

ゼストと切り結んでいたレイニーにバロスから通信が入った。

 

『今砲撃撃ったからな、着弾まで3……2……』

 

「ちょ!?」

 

カウントダウンを聞いてすぐにレイニーはゼストの槍を足蹴にして彼から距離をとった。

 

「アギトッ!」

 

『おう!!』

 

距離をとったレイニーに迫ろうとしたゼストだったが、彼の長年の経験からくる勘が彼に危険を知らせる。

その感覚に従い、アギトに指示をだし、デバイスだからこそ迫りくる魔力の塊にいち早く気づいていたアギトが障壁を張る。

だが、その障壁に阻まれた砲撃はそのまま彼らを大きく吹き飛ばした。

 

『後は頼むぞ、こっちは魔力変換炉(マギリングコンバーター)の冷却待ちだ』

 

「了解!」

 

大きく体制を大きく崩したゼストにレイニーが接近する。

だが、それよりも早くゼストの足もとに紫色の魔法陣が浮かび上がった。

 

『旦那!』

 

「あぁ、こちらの勝ちだ」

 

「なッ!

 くそ!!」

 

その魔法陣が何の魔法を行うためのものなのかに気づいたレイニーは飛行速度を上げたが、その手が届く前に彼らの姿はこの場から消え去った。

 

「……すまん、逃げられた」

 

『これで中将の愚痴を聞かされるのは確定だな……』

 

『「はぁ……」』

 

雲一つない空のもと、二人の男のため息が風に流されていった。

 

 

 

 

 

 

「クロスミラージュ」

 

《Load》

 

ティアナの声とともに、クロスミラージュから三つ(・・)の空薬莢が吐き出される。

 

「砲撃で一掃するわ。

 スバル!」

 

「了解だ、一丁かましてやれ!」

 

先行するスバルに一声かけ、ティアナはクロスミラージュを両手に構える。

 

《Sight Open》

 

ティアナの眼前にオレンジ色の照準が現れる。

その中央に二つのカーソルが合わさったとき、彼女は引き金を引いた。

 

「ターゲットインサイト……!

 ファントムブレイザー、シュートッ!!」

 

《Phantom Blazer》

 

直後、二つの閃光がガジェットを飲み込んだ。

ティアナの捉えたガジェットはそのほとんどが砲撃に巻き込まれ、爆散し破片を撒き散らしていった。

 

「一機抜けた……!」

 

「任せてください。

 フリード、ブラストフレア!」

 

その砲撃を運よく抜けることのできたガジェットもフリードの火球に貫かれ四散する。

なれない砲撃魔法を使用した反動で、息を切らしている彼女の視界の中では残りのガジェットがスバルとエリオによって殲滅されている光景だった。

 

「なんだ、もうほとんど終わってるじゃないか」

 

「あ、ヴィータ副隊長……」

 

「おう、大丈夫か?」

 

その時、空から降りてきたヴィータがその光景を目にして、驚きの声をあげていた。

 

「ガジェットの粗方は片付いたと思いますけど……」

 

「おう、あとはあたしたちに任せとけ。

 なれない砲撃魔法であそこまでできたんだ、誇っていいぞ」

 

ティアナはヴィータの褒め言葉に顔を少しうつむきながら小さく「はい」と返事をする。

空に浮いていたヴィータは、彼女の顔が嬉しそうに唇が上がっていたことには気づけなかった。

 

「よし、スバルとエリオはそのままガジェットをスクラップにし続けろ!

 抜けた奴は気にすんな」

 

ヴィータはグラーフアイゼンを肩に担ぎ言葉をつづけた。

 

「あたしが全部片っ端から潰しやる」

 

その顔を見たスバルは、後に”すごく頼りがいのある笑顔だった。”と語ることになるが、此処にはそのことを知るものは一人もいなかった。

 

 

 

 

 

 

 

『すまないな、一課の者を配置したことを事後報告にしてしまって』

 

「いえ、あの時はこちらもいろいろと立て込んでましたから」

 

オークションの終了後、はやては地上本部にいるレジアスと通信でやり取りをしていた。

 

『そういってもらうと助かる。

 それで、そちらの被害はどうなのだ?』

 

「建物に被害はありません。

 副隊長とフォワードの四人が頑張ってくれたおかげで、正面玄関が少し散らかった程度です」

 

はやては「ですが……」とつづける。

 

「どうやら会場の中で密輸されていたロストロギアの一つが紛失したそうです。

 おそらく……」

 

『スカリエッティの手の者だろうな。

 そちらに関しては六課には責任はないだろう。

 ロストロギアの密輸の関係者に連絡をこちらから入れておく』

 

「……」

 

『どうした、何か気になることがあるのか?』

 

レジアスの問いにはやては一度咳払いをして口を開く。

 

「一つ教えてもらえないでしょうか。

 特務一課の目的というものを。

 こちらとしても、自分たちの仕事の場所に不確定要素を持ち込みたくないので……」

 

『……そうだな、お前には教えてもいいかもしれないな。

 特務一課の設立目的はある人物の拘束だ』

 

「ある人物……?

 凶悪犯、ということですか?」

 

はやての質問にレジアスは首を横に振り否定する。

彼女は一度深いため息を吐き、答えた。

 

『いや、ある事件のことに対する重要参考人だ。

 名をゼスト・グランガイツ。

 陸のストライカー級魔導師であり、私の夫だった者だ』

 

「……だった?」

 

レジアスの過去形の話し方に違和感を持ったはやては尋ねる。

 

「あの、どういうことですか?」

 

『ゼストはかつてある事件の際に作戦中行方不明(MIA)と認定された。

 だが、この数年、奴の目撃情報が何件か上がってきてな。

 もしかすると、というわけだ』

 

「……」

 

『……恐らくは、お前が考えている通りだろう。

 この件には、あの男が絡んでいる可能性が高い』

 

「ジェイル・スカリエッティ……」

 

 

 

 

 

 

 

「うん、後片付け終了。

 みんな、お疲れ様」

 

「ちゃんと帰ったら体休めとけよ。

 明日酷いことになるからな。

 特にティアナ、お前は一度医務室行っとけよ」

 

戦闘が終わり、なのはとヴィータの監督のもと、ガジェットの残骸の処理などの戦闘跡の修復を行っていたフォワード四人に対して彼女たちは労いの言葉をかけた。

 

「あぁ、そうだ。

 ティアナはこの後時間いいかな?」

 

「あ、はい」

 

「うん、じゃあみんなは先にヘリに行ってて」

 

「おう、こっちは任せとけ。

 おら行くぞ」

 

ヴィータがスバルたちを連れて離れたのを確認したなのははティアナの方を向いた。

 

「さて、ティアナ。

 あなたに話があります」

 

「は、はい」

 

なのはの改めた雰囲気を察して背筋を伸ばすティアナ。

 

「なんであの場で砲撃魔法を選択したのかな?

 砲撃は身体に負担のかかる魔法だってわかってるはず。

 現に今も身体中が痛むでしょ?」

 

なのはの言葉の通り、ティアナはただ立っているだけだというのに、彼女の体中の筋肉は悲鳴を上げていた。

 

「あの時は、ああするのが最適だと考えました。

 誘導弾(クロスファイヤー)を使ってガジェットをある程度の数まで減らすにははカートリッジは最低でも四発はロードしないといけません。

 でも、今のあたしにはそこまで魔力の運用は不可能です。

 三発でやったとしても、必ず打ち漏らしが多く出てしまう。

 なら、誘導弾ではなく、狙いをつけて打つだけだと考え、カートリッジを三発使った砲撃を使用しました」

 

「でも、ガジェットを減らさなくても耐えるだけでよかったんだよ?」

 

「ヴィータ副隊長があたしたちの場所に着いた時間を考えると、恐らくガジェットに突破されてました。

 あたしは、あの時の判断が間違っているとは思いません」

 

ティアナの視線を真正面から受け止めたなのはは、一度大きく息を吐いた。

 

「スバルもスバルだけど、ティアナも大概だね……。

 やっぱりコンビ組んでると、思考まで似通るのかな……?」

 

「な、あいつと思考が似ているなんてありえません!!」

 

「でも、二人とも見てると、『一撃必殺!』みたいな感じなんだけど?」

 

「うっ!」

 

なのはの言葉を聞き、否定できないティアナは口ごもった。

 

「まぁ、さっきの戦闘に関しては私からは以上です。

 これからはあんな無茶はしないように」

 

「はい……。

 ご心配おかけしました」

 

ティアナは少ししょんぼりした表情でなのはに頭を下げる。

そんな彼女の頭の上からある言葉が聞こえてきた。

 

「はぁ~、帰ったら訓練メニューの練り直しかなぁ~。

 砲撃を少しは経験できるようなメニュー作らないと……。

 今日は残業かな」

 

「……ッ!」

 

ティアナが顔を上げると、なのはの嬉しそうで、どこか悲しそうな相反する表情で彼女を見ていた。

 

「あ、ありがとうございます!

 あ、あの、お手伝いします!」

 

「ダメ、ティアナは明日は一日オールで休み。

 無茶すると、取り返しのつかないことになるんだから」

 

なのはは「ペシッ!」とティアナの額にデコピンを喰らわせ、ヘリポートに向かい歩みを進めた。

指に魔力を纏わせたデコピンで地味痛いモノだったため、ティアナは涙目になり、額を押さえながらなのはの後を追っていった。

 

 

 




前書きをお読みにならなかった方へ。
ぜひ前話のラストをお読みください。
アギトがちゃんと出てますので(笑)

さて、ホテルアグスタも今回で終了。
結局ティアナは無茶しました。
まぁ、誤射しないでなれない砲撃を撃って全身の筋肉が悲鳴を上げるということになりましたが(笑)。
そしてヴィータやなのはがしっかりとほめます。
彼女にとって隊長たちに褒められることは最高なことだと自分は考えているのであのような表現になりました。

さて、特務一課のメンバーですが、何気に元ネタを知ってる人がいてビックリです。
今回新たに出てきたバロスとレイニー、あと一課の戦闘部隊長の一人は『redEyes』という漫画に出てくる人物をモチーフとしています。
少なくとも十年前から今現在までずっと続いている漫画なので、みなさんの中にも本屋で見たことあるという方がいらっしゃるのではないでしょうか?

今回の人物紹介は先ほど話に上がったレイニー&バロスです。
それでは!

名前 レイニー・アイオス
性別 男
年齢 25
最近の悩み 相棒のバロスから聞かされる弟自慢がしつこいこと

特務一課戦闘隊の切り込み隊長。
ナイフ型のデバイス『ゼブラ』を使用した近接戦闘のスペシャリスト……だったのだが、ゼストに比べるとまだまだ経験が浅いため今回は軽く受け流されている。
だが、実際には一般局員が相手なら敵う者はいないほどの強さを誇る。
六課のリニアレールでのレリック回収任務の際に、リニアレールに近づこうとしていた戦闘機人No.6『セイン』に手傷を負わせたのは彼である。


スパロボ風精神コマンド
「集中」「ひらめき」「加速」「鉄壁」「気合」「直撃」

スパロボ風特殊能力
「ナイフ使い」:気力110以上で発動。格闘属性の攻撃力15%アップ

「苦労人」:気力130以上で発動。援護防御発動時に切り払いが発生。

スパロボ風エースボーナス
「ナイフ使い」の攻撃力アップが30%に上昇

名前 バロス・フレイグ
性別 男
年齢 24
最近の悩み 弟の誕生日に何を送るかということ

特務一課一のエーススナイパー。
かつては武装隊に所属し、ヴァイスとエーススナイパーの称号を奪い合っていた。
その腕前はデバイスの補助ありで11キロ先の直径115mmの穴を射抜くほど。
ヴァイスが武装隊からヘリパイロットになった際、怒りのあまり彼を殴り飛ばしたが、その理由を聞いてヴァイスに自分を殴らせたという話がある。
両親を幼いころに亡くし、たった一人の肉親である弟を大事に思っている。
恐らく女ならヴァイスと対になる存在だっただろう。
だが、男だ。

スパロボ風精神コマンド
「必中」「偵察」「狙撃」「集中」「直撃」「熱血」

スパロボ風特殊能力
「死神」:気力130以上で発動。射撃武装の攻撃がクリティカルになる。

「同類の友」:ヴァイスに対する援護攻撃時、攻撃力が50%アップ

「スナイパーの意地」:気力150以上で発動。撃墜されたとき、攻撃してきた敵ユニットを破壊。

スパロボ風エースボーナス
「死神」発動条件が気力110以上に低下


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第十七話

なぜだろう、ちょっとした繋ぎの回だったはずなのに六千文字になってしまった。
戦闘描写なんて全くないのに。
今回ちょっとしたゲストキャラがいます。
それではどうぞ!


ホテルアグスタでの任務の二日後。

スバルはクラナガンにある研究施設に来ていた。

恒例の定期検査のためである。

もともと機動六課では大規模な戦闘を行った後はフォワードメンバーを交代で休ませるようになっていた。

 

そして彼は、スバルの一日フルの休みだということをどこからか聞きつけたサカキ博士に呼び出されたのだった。

 

「到着っと」

 

スバルは六課から乗ってきたバイクを研究所から少し離れたパーキングに止め、かけていたゴーグルを外した。

実はこのバイク、スバルが今までの給料で部品を買って自分で作り上げたもので、然るべき場所で許可をとったものだ。

ちゃんと許可をとっているので、公道を走ることも可能というわけである。

 

「この間来たと思ったんだけどな。

 まったく、難儀な身体だよ……」

 

バイクに鍵をかけたあと、スバルは研究所に向かい歩き出した。

 

 

 

 

 

「あ……」

 

「おや、来たようだね」

 

「久しぶりね、スバル君」

 

スバルが研究所に入り、目的の場所である検査室のすぐ近くで出会ったのはサカキ博士と、彼の姉であるギンガ・ナカジマの担当であるマリエル・アテンザだった。

 

「お久しぶりです、マリーさん」

 

「ホント、二人の検査の日が重なる日って少ないからねぇ」

 

スバルのそばに駆け寄ってきたマリーは彼の身体を触り、一言。

 

「前に見たときよりも筋肉が増えたというか、密度がすごいことになってるね」

 

「えぇ、まぁ毎日鍛えられてますから……」

 

「あぁ、なのはちゃん厳しいらしいからね~」

 

スバルは身体中を触られる感触に少しむず痒さを感じながら口を開く。

 

「それよりも、どうして今日俺が休みだってわかったんですか?」

 

「うん、実は、六課の寮母さんいるでしょ?

 彼女にお願いしていたんだ。

 本当は別の日でもよかったんだけど、君たち二人の休日が重なってたからね。

 それに、君たちに合わせたい人もいるんだ

 できればすぐに始めようと思うだけど……?」

 

「あぁ、そういうことですか……。

 はぁ……、わかりました。

 それじゃ、着替えてきますね」

 

スバルがマリーと話をしていると、サカキが眼鏡を押し上げながら二人の話に割って入った。

スバルは彼の言葉に首を傾げながらも頷き、すぐそばにある普段から更衣室として使っている部屋のドアノブに手をかけた。

 

「あ、そういえば……」

 

そして、スバルがドアノブをひねり、ドアを開けようとしたとき、サカキは何かを思い出したかのように声をあげた。

 

「ん?」

 

「え……?」

 

「ギンガ君が中にいるから気をつけてねって言おうと思ったんだけどねぇ……」

 

しかし、彼の言葉がスバルに届くと同時に、ドアを開けたスバルの目に入った光景は……

制服を脱ぎ、身に着けている黒い大人っぽい下着(ブラ)を外そうとしていた彼の姉、ギンガ・ナカジマの姿だった。

 

すでに手遅れを悟ったサカキは指で頬を掻きながら苦笑いし、マリーは赤くなった顔を両手で覆っていたが、その指の間からしっかりとその顛末を己が脳に記録していた。

 

「スバル……」

 

「は、はい?」

 

「何かいうことは?」

 

一方、当の姉弟はというと……

にこやかな笑みで(スバル)に問いかける(ギンガ)と、(ギンガ)の目の笑っていない笑みを前にして冷や汗を滝のように流す(スバル)だった。

そして、スバルは覚悟を決め、心に浮かんだ言葉を口にした。

 

「黒い下着着ても姉貴には似合わな……グハッ!?」

 

その直後、彼は廊下の壁に叩き付けられていた。

その衝撃により、肺から空気が吐き出され呼吸困難になったスバルをギンガは無言で更衣室に引きずり込んだ。

あまりにも非常識な光景を目にしたサカキ博士とマリーは呆然としながらその様子を見ていた。

 

「わ、悪かった!!

 謝るから、その腕に体重かけるのやめて!!

 ただでさえかなりの重量あるのに……って肘はそっちに曲がらなぎゃあぁあーーーッ!?」

 

更衣室から聞こえてくるスバルの絶叫と何かが折れる音によって正気に戻ったサカキは更衣室に近づき、ドアをノックする。

 

「なんでしょうか?」

 

「あ~、あまりやりすぎないようにね?」

 

ドアを開き顔を覗かせたギンガを見てサカキは自分の頬が引きつるのを感じた。

何せギンガの顔には血がついており、その後ろにはモザイクが掛けられてもおかしくない状態のスバルがいたからだ。

 

「はい、わかってます」

 

「そ、そう?

 わかってるならいいんだけど」

 

ギンガが静かにドアを閉め、その中からさらに聞こえてくる悲鳴と打撃音にサカキとマリーはついに現実から目をそらしたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「あー、ひどい目にあった……」

 

ギンガによるスバルへの折檻もとい、躾を終えた後、いつも通りに検査を行った二人はサカキとマリーに呼び出され、サカキ博士の研究室にあるソファに座っていた。

 

「自業自得よ、まったく。

 誰に似たのかしら」

 

(だいたいガキの頃一緒に風呂に入ってたくらいなんだから今更って感じもしないが……)

 

「何か言ったかしら?」

 

ギンガの言葉に対してスバルは心の中でそっと考えたのだが、それを感じ取ったのか、ギンガは左手を握りしめ笑顔で彼に尋ねた。

 

「いえ、なにも」

 

即答だった。

少しギスギスした空気の中、サカキが見知らぬ男性を一人連れて部屋に入ってきた。

サカキはソファに座り、隣に男性を座らせた。

パッと見20歳前後というくらいの年齢の青年といってもいいくらいの男だ。

 

「すまないね、待たせてしまったかな?」

 

「いえ、大丈夫です。

 それよりも、そちらの方は?」

 

ギンガはサカキの隣に座る男の顔を見ながら尋ねる。

 

「あぁ、彼はね、僕の友人の助手をしている……」

 

「グランツ・フローリアンです。

 よろしく」

 

青年―――グランツは右手を差し出し、二人と握手をする。

 

「それで、フローリアンさんは私たちに何か?」

 

「彼は今、ある世界の環境汚染を浄化するための研究をしているんだ」

 

「環境汚染?」

 

スバルの言葉にグランツは頷き口を開く。

 

「あぁ、その世界は魔法と科学。

 その両方がある程度発達した世界だったんだ。

 だけど、ちょっとしたことが原因で、その世界……というよりかその惑星が人の住むのには厳しい環境になってしまったんだ。

 科学技術によって生み出された化学物質による汚染に、魔法の暴走によって先住生物が狂暴化したりしているんだ」

 

「科学と魔法の影響……」

 

「その光景を見て、僕はその状態から何とか回復させたいと思ったんだ。

 それで、その方法が……人型自立機械(アンドロイド)

 

グランツの言葉に反応する二人。

スバルは頭に浮かんだ一つの考えを彼に告げる。

 

「つまり、そのアンドロイドの製作のために、俺たちの稼働データがほしい。

 というわけですか?」

 

「あぁ、そういうことだよ。

 もちろん、君たちの同意を得られればの話だけどね」

 

グランツからその言葉を聞いたスバルは「どこから情報が漏れてるんだか……」と目の間を指で揉みながら呟く。

 

「それで、二人とも。

 どうかな?」

 

「私は構いません。

 スバル、あなたはどうなの?」

 

グランツにギンガは少し考えた後了承の意を示した。

彼女は隣に座る弟に尋ねる。

 

「俺も、データを渡すことに異論はありません。

 ただし、一つだけ条件があります」

 

「内容によるね。

 なんだい?」

 

グランツは静かに彼の言葉を待つ。

 

「俺たちのデータを利用して作り出したアンドロイドたち。

 彼ら……もしくは彼女たちを一人の人間として扱ってください。

 俺たちは替えの効く道具じゃないので」

 

「そんなことか。

 もちろん、そのつもりだ。

 あの子たちは僕が生み出す、つまり僕の息子や娘のようなものだからね。

 君の言う通り、彼らを道具扱いはしないということを約束しよう」

 

スバルは彼の言葉を聞き、彼の目を見つめた。

そして彼に向かって手を差し出す。

 

「あなたなら大丈夫そうだ。

 俺たちのデータ、役立ててください」

 

「ありがとう。

 感謝するよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

その後、グランツはすぐにその場を後にした。

現在も件の惑星で環境の改善に向けた研究を続けている最中に時間の合間を縫って彼らに会いに来たらしい。「今度娘たちが生まれたら連絡するよ!」と言って去っていった。

 

 

「スバル、本当によかったの?」

 

「グランツさんのこと?」 

 

サカキの研究室を後にしたギンガとスバルは研究所の食堂に来ていた。

 

「あの人は信用できる、と思ったからな。

 姉貴はそうは思わなかったのか?」

 

「ううん、でもスバルが自分でそう思って答えを出したならいいよ。

 それに……」

 

「それにって……うわッ!?」

 

ギンガは隣に座るスバルを抱きかかえ彼の頭をなでまわす。

 

「スバルがちゃんと成長しているみたいで、お姉ちゃんはうれしいから」

 

「ちょ、こんな公衆の面前で……!」

 

「ふふ、照れてるスバルもまた可愛いわね」

 

ギンガの可愛い発言にスバルは顔を紅くしながら言い返す。

 

「可愛いって、俺と二つしか離れてないくせに」

 

「たった二つでも私の方が年上なんだから。

 年上のいうことは聞くものよ」

 

ギンガのその言葉を聞いたスバルは諦め、抵抗するのをやめた。

スバルは、彼女の言葉に対して昔から刃向うことができなかったのだった。

 

「さてと、私はもう行くね」

 

「あれ、飯は食わねえのか?」

 

「この後局の友達と買い物に行く予定なの。

 というか、今度お父さんの誕生日だってこと、忘れてないでしょうね?」

 

「あれ?

 もうそんな時期だっけ?」

 

「はぁ……。

 スバル、自分の父親の誕生日くらい覚えておきなさいよ……」

 

スバルの様子を見てため息を吐くギンガ。

彼女は「それじゃ、またね」と言って食堂を去っていった。

 

「さて、しばらく時間があるけど……。

 久しぶりに俺も町に行くかな」

 

ギンガの姿が見えなくなり、彼は目の前にある昼ご飯を平らげると研究所の出口に向かって歩いて行くのだった。

 

 

 

 

 

 

「とは言ったものの、何もすることなく一日が終わってしまいそうだ……」

 

研究所を出たスバルは午後はクラナガンの街中をひたすらぶらぶらと歩いているだけだった。

これにティアナが一緒だったならば、まだ話は違っていただろうが、生憎彼女は今日は仕事なのである。

 

「仕方ない、どこかゲーセンにでも寄って……おっと!」

 

「あっ!」

 

スバルが大きく伸びをしながらそのようなことを呟いていると、横道から勢いよく出てきた眼鏡をかけた赤髪の少女とぶつかってしまった。

だが、スバルは普段から鍛えていたためか、その少女が倒れる前に、その手を掴む。

 

「すまん、ちょっと不注意だったな。

 大丈夫か?」

 

「え、あ、あぁ。

 こっちこそ飛び出したからな……ッ!」

 

その少女は謝りながらも、スバルの顔を見て少し表情を引きつらせていた。

 

「ん?

 俺の顔がどうかしたか?」

 

「あ、いや、そうじゃねぇ。

 てか、いつまで握ってんだよ」

 

スバルは少女の言葉で自分がまだ彼女の手を握ったままだったことを思い出し、「悪い悪い」と謝りながら手を離した。

 

「それじゃ、今度から気をつけろよ。

 俺だったからコケる前に掴めたんだ。

 ほかの人ならまず尻餅ついてただろうな」

 

「うっ、あぁ。

 気を付ける……。

 あ……」

 

スバルは少女の言葉に反応した。

 

「なんだよ、その今思い出した、みたいな声は」

 

「あ~、いや……。

 駅に行きてぇんだけど……、道がわからねえんだ……」

 

顔を少し紅くしながら呟く少女に対してスバルはため息を吐きながら応える。

 

「なら、駅まで送ってやる。

 これでも管理局員だからな、このあたりの地理は頭の中に入ってる」

 

「そ、そうか、なら頼む。

 待ち合わせてるやつがいるんだ」

 

なら急がねえとな、とスバルは言いながら歩き出した。

少女は置いて行かれないように彼の後を追った。

 

「それにしてもよ、きれいなもんだな」

 

「は?

 何がだよ」

 

しばらく二人で歩いていたスバルと少女だったが、スバルが彼女の髪を見ながらそう呟いた。

その呟きの意味を理解することができなかった少女は彼に尋ねる。

 

「いや、お前の髪の色さ。

 きれいな赤色だなって思ってな」

 

「そ、そうか?

 まぁ、べつに嫌いな色じゃないけどさ……」

 

スバルが彼女を見ながらそう答えると、彼女は自分の髪の色を綺麗と言われたことに対して顔を少し紅くしながらそう呟いた。

 

「俺の同僚にも赤色の髪のやつがいるんだけどな、あいつのが夕日みたいな赤色だとしたら、お前のは燃え盛る炎の赤だな、うん」

 

「プッ、なんだよそれ。

 お前って意外にポエミーなのか?」

 

「笑うなよ、俺も今のはないと後悔してんだ」

 

彼女が吹き出しながらスバルの発言に対してそう告げると、スバルは目をそらしながらそう答えた。

そうこうするうちに彼女の目的地である駅が見えてくる距離まで近づいていた。

 

「あそこだ。

 さすがにここからはわかるな?」

 

「あぁ、さすがにわかる。

 あとは自分で行ける。

 あ~、その、なんだ……」

 

「ん?」

 

少女は少し恥ずかしそうにスバルから目をそらしながら言葉をつづけた。

 

「さ、サンキューな。

 おかげで助かった」

 

「ま、これも仕事だしな。

 管理局員としては道に迷った可愛らしい女の子をほっとくわけにもいかないからな」

 

「か、かわッ!?」

 

スバルの発言にボンッと音を立てるかのように少女は顔を真っ赤にする。

そんな彼女を見てスバルは笑ってあるものを彼女に渡す。

 

「ッと、なんだよこれ」

 

「俺の連絡先、何か困ったことがあれば連絡入れてくれば何かできるかもしれないからな」

 

「おい、お前とあたしは初対面だろうが。

 そんな奴に連絡先教えるとか、馬鹿か?」

 

彼女の正論にスバルは頭を掻きながら答えた。

 

「なんとなく、かな。

 お前が気に入ったというか、なんというか。

 まぁ、連絡先つってもただの電話番号だけどな。

 さてと、そろそろ俺も時間だ。

 それじゃ、またいつかな!」

 

スバルはそれだけ言うと、彼女に背を向けて走り去っていった。

 

「いや、だから……。

 はぁ……」

 

少女は手に握られたメモ紙をポケットに突っ込み、かけていた眼鏡を外した。

その瞳は金の光を放っていた。

 

「あれがあたしと同じ遺伝子持ったタイプゼロ・セカンド……?

 信じらんねぇ……」

 

少女―――戦闘機人No.9『ノーヴェ』は認識阻害の術式のかかった眼鏡を腰につけたポーチにしまうと駅に向かう。

そのさなか、先ほどまで一緒にいたスバルのことを思い出していた。

 

「というか、馬鹿だろあいつ。

 初対面のやつに向かって髪の色がきれいだの可愛らしいだの……」

 

スバルに言われたことを思い出した彼女は自分の顔が赤くなっていくのを感じ、首をブンブンと振り彼のことを頭から追い出そうとする。

 

「なんで、あいつのことを考えてんだ、あたしは!

 あいつは敵なんだ、ドクターの計画を邪魔する……」

 

《何か困ったことがあれば連絡入れてくれば何かできるかもしれないからな》

 

ノーヴェはポケットにいれた手が、メモ紙に触れたことで彼の言葉をまた思い浮かべてしまった。

 

「困ったこと起こす側なんだよな、あいつにとって……。

 って、またなんで!!」

 

ノーヴェは再び彼のことを思い出してしまい、頭を抱える。

結局、彼女の待ち人であり、相棒の少女がその場に現れるまで彼女はスバルのことを思い出さないように首を振ったり、頭を抱えたりし続けていた。

 

この語、相棒にからかわれることになるのだが、それはまた別の話。

 

 

 




ここまでお読みいただきありがとうございました。
今回登場したグランツ・フローリアン。
ゲームの時点ではまだ生きていますが、そしてアミタとキリエを自力で開発するには結構時間がかかるのではと思い今回の話を書かせてもらいました。
まぁ、ある意味伏線ですね、此処テストに出ますよ(笑)

そしてスバル、ついにやっちゃいました。
姉の着替え現場に突撃、折檻のコンボです。

そして最後にはノーヴェとの出会い。
ノーヴェルートを作るための伏線と思ってくれればいいと思います。
というか、彼女らしくかけたかどうか不安で仕方ないです……。

今回の人物紹介はスバルの姉、ギンガ・ナカジマです。


名前 ギンガ・ナカジマ
性別 女
年齢 17歳
最近の悩み スバルとティアナをどうにかしてくっつけるための方法が思い浮かばないこと。

原作同様、スバルの姉であるギンガ。
彼の行動に対してすでに耐性ができており、ちょっとやそっとのことでは動じない鋼の胃袋を手に入れた。
スバルが妹から弟になろうとも、姉としての愛情は変わらず。
というか、若干スキンシップが激しいときもありあのスバルが振り回されることもある。
若干ブラコン。
その優れた容姿に惹かれる男性は少なくないが、彼女が『自分よりも弱い人と付き合うつもりはない』と断言してしまったので、今のところ年齢=彼氏なし状態が続いている。

スパロボ風精神コマンド
「直感」「加速」「不屈」「気合」「直撃」「熱血」

スパロボ風特殊能力
「戦闘機人モード」:気力150以上で発動。格闘、回避30%アップ、武装に「コードDNF(ダブルナックルフォーメーション)(スバルとの合体技)」追加

弟思い(ブラコン)」:スバルへの援護防御時、被ダメージ30%カット

スパロボ風エースボーナス
「戦闘機人モード発動に必要な気力が130に低下」



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第十八話

ホテルアグスタでの警備任務から二週間、此処機動六課ではいつも通りの日常が進められていた。

 

「スバル、準備はいいか!!」

 

「はいっ!」

 

訓練スペースに呼び出された林の中で、スバルは今回の教官役であるヴィータの声に合わせて防御魔法を展開する。

 

「おぅらッ!!」

 

「グゥ……ぅお!?」

 

スバルは小柄な体格からは考えられない力で殴りつけられたアイゼンを障壁で受け止めるが、勢いを殺すことができず尻餅をついてしまう。

その様子を見たヴィータは、一つ大きな息を吐きアイゼンを肩に担ぐ。

 

「障壁自体の強さは十分及第点だ。

 だけど受け方がまだまだだな」

 

「受け方……ですか?」

 

「おう。

 主に防御には二種類ある。

 一つは今お前がやったように真正面から攻撃を受け止める方法。

 これは相手とパワーに差がある状態で、相手が真正面からやってきたときにカウンターを狙いやすいという特徴がある。

 まぁ、勢いを完全に受け止めきれなければ今のお前みたいに体勢を崩すことになるから、あまりやらない方がいい。

 で、もう一つが……あ~、実際にやった方がいいな。

 スバル、一回あたしに打ち込んでみろ」

 

ヴィータの指示に従い、スバルはヴィータに向けて拳を放った。

だが、その拳はヴィータの拳に対して斜めに張った障壁に防がれていた。

 

「もう一つのやり方が、受け流すことだ」

 

「受け流す……、力をってことですか?」

 

「あぁ、そういうことだ。

 まぁ、受け流すって言っても体制が崩れている状態で受ければ受け流すときに自分も一緒に吹き飛ばされるのは同じことだ。

 まずはどんな攻撃を受けてもなるべく体制を崩さねぇようにすることだな」

 

ヴィータはそういって締めくくると、そろそろ時間か……と呟く。

 

「よし、午前の訓練はこれで終わりだ。

 一度戻るぞ」

 

「はい、ありがとうございました」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はい、ラスト15」

 

「ッ!」

 

スバルがヴィータから指導を受けているとき、べつの場所でティアナもなのはから指導を受けていた。

彼女の周囲には15発のスフィアが浮き、そこから彼女に向けて何発も魔力弾が放たれていた。

今もまた、ティアナに向かって放たれた弾丸を横っ飛びに避ける。

 

「ティアナ、また動いたよ。

 私たちセンターガードは、撃たれる前にどうにかする。

 それを一番に考えないと、チームの人も危険にさらすことになる」

 

「はいっ!」

 

なのはの忠告を聞きながらティアナは両手に持ったクロスミラージュのカートリッジを取り換えスフィアの迎撃をつづける。

そして、最後のスフィアが撃墜され、訓練は終了となった。

 

「うん、お疲れ様」

 

「お、お疲れ様でした……」

 

「アハハ……、まだこの訓練はちょっときつかったかな?」

 

息も絶え絶えなティアナの様子になのはは苦笑しながら尋ねる。

ホテルアグスタから帰ってきたなのははティアナの訓練メニューを大幅に切り替えていた。

センターガードとしての動きと、執務官を目指している彼女の要望に応えた近接戦闘訓練。

その二つを両立させるための訓練はこれまで以上にきついモノとなっていた。

 

「だ、大丈夫です……」

 

「うん、ならここでティアナにお手本というか、将来的にここまでできてほしい目標みたいなのを見せておくね。

 レイジングハート」

 

『All right』

 

レイジングハートの合図とともに、浮かんでいるスフィアから魔力弾が発射される。

それを故意に迎撃せず、なのはは片手に呼び出した障壁で受け止めながら空いている方の手で魔力弾を操作しスフィアを撃墜する。

そして、ものの数分ですべてのスフィアを撃墜し終えると、ティアナの方を向く。

 

「これがセンターガードの理想形。

 なるべく動かず、周りの状況を把握し、適切な選択肢を選ぶ。

 ティアナの最終目標が執務官でも、今はスターズのセンターガード。

 それに、執務官でも他人との共同任務もあるから自分のポジションは極めていくようにしないとね」

 

「は、はい!」

 

「うん、それじゃ、最後に一発いってみようか!」

 

なのはは微笑みながら左手に障壁を張る。

それを確認したティアナはクロスミラージュを構え、その銃口に魔力を集中する。

この訓練はアグスタでの任務の後から、訓練の最後に砲撃を行いティアナの身体に砲撃の反動を覚えこませるというものだ。

標的は、障壁を張ったなのは。

彼女の障壁をカートリッジなしの砲撃で貫けるようにするのが今のティアナの目標でもあった。

 

そして、林に橙色の光が輝いた。

 

 

 

 

「はい、みんなお疲れ様」

 

「「「「お疲れ様でした……」」」」

 

訓練を一通り終えた彼らは集合場所に集まり最後の連絡事項を行っていた。

 

「それで、ヴィータ副隊長、フェイト隊長。

 どうかな、さっき話してたことは?」

 

「ん、あたしはいいと思いますよ。

 スバルもだいぶ基礎はついてきたし、つけさせた」

 

「うん、私もヴィータ副隊長に賛成かな。

 そろそろ次の段階に進むべきだと思う」

 

なのはが後ろに立っていた二人に尋ねると、二人はその質問に肯定の意を示した。

 

「うん、そうだね。

 じゃぁ、みんなにちょっとしたお知らせがあります」

 

コホンと咳払いをしたなのはが言葉をつづける。

 

「みんなも初任務だったリニアレールでの戦闘から結構な数の訓練と戦闘をしてきました。

 特に、この間のアグスタでの戦闘はよく頑張りました」

 

なのはがフォワード、特にティアナに視線を向けて話す。

その視線の意味に気づいたティアナは苦笑する。

 

「そこで、みんなが自分たちがどれほどの実力をつけたのかというのを実感してもらうために、来週私たちとの模擬戦をしたいと思います」

 

「模擬戦……?」

 

「私たちと……」

 

「隊長たちで……ですか?」

 

「四対四でって勝ち目なくね……?

 あれか、自分たちの力は私たちに比べればまだまだだっていう自信を圧し折るイベントか?」

 

なのはの言葉に四人は小声で呟く。

特にスバルは捻くれた考え方をしていた。

まぁ、今まで基礎の基礎しかやってこず、先ほどまでヴィータから吹き飛ばされまくっていたことによってちょっとテンションがおかしな方向に向かっていたためだが。

 

「あぁ、うん。

 言葉が足りなかったね。

 正確にはスバルとティアナは私と。

 エリオとキャロはフェイト隊長と模擬戦だよ。

 ちなみにリミッターは一段階上げてあるから、全力で来ないとさっきスバルが言ったことになるからね」

 

なのはのその言葉を最後に、この日の訓練は終わりとなった。

 

 

 

 

 

 

 

「ふんふ~ふ~ん」

 

なのはから一週間後の模擬戦の話をさせられた翌日の夕方、スバルはこの時珍しく一人で行動していた。

エリオとキャロは今の時間はここ最近日課となったフェイトとの家族の時間を過ごしており、相棒のティアナは午後のデスクワーク以降会っていなかった。

 

「あれ……?」

 

視線の先にいた人物を目にしたスバルは疑問の声をあげた。

その人物は自分のデバイスに装着されているスコープを用い、何かを見ていた。

 

「何やってんですか、妹さんに言いつけますよ。 

 お兄(ヴァイス)さん、覗きしてたよ~って」

 

「ッ、馬鹿ッ!

 しゃがめ!!」

 

その人物……ヴァイスは声をかけたスバルの頭を押さえて姿勢を低くする。

その様子を疑問に思ったスバルは未だに片手で自分の頭を押さえ覗きを続けているヴァイスに尋ねる。

 

「何を熱心に見てるんですか?」

 

「あれだよ、アレ」

 

「アレ……ティアナ?」

 

ヴァイスはスコープをスバルに渡しながらその方向を指さした。

スバルがスコープを覗いてその先を見ると、そこには訓練着を着たティアナがクロスミラージュを持ち、周囲に漂うスフィアを撃ちぬいているところだった。

 

「あいつ……」

 

「かれこれ一時間はやってる。

 一時間前にここ通った時にはすでにああやってた。

 で、さっきここに戻ってきてみたら……」

 

「まだやってたと……。

 明らかにオーバーワークじゃねぇか……」

 

「あぁ、特に今日は午前の訓練半端なかったんだろ?

 だから……スバル?」

 

ヴァイスの言葉を聞き届ける前にスバルはスコープ彼に戻し立ち上がった。

 

「わかってますよ、相方の無茶止めるのも俺の役目ですからね。

 あとは任せてください」

 

「まぁ、わかってんならいいけど……。

 最近はいい感じだったんだがな、あいつ。

 なんでまたオーバーワークなんて……」

 

「そこも含めて聞いときますよ。

 それよりも、さっきアルトさんが探してましたよ?」

 

スバルがそう告げるとヴァイスは「ヤベッ!すっかり忘れてた!」と叫んでわきに置いていた荷物を手に取った。

 

「それじゃ、あとはお前に任せるぞ?」

 

「うっす、任されました」

 

スバルがそう告げるとヴァイスは一度頷きヘリを格納している区画に向かって走り出した。

そんな彼に背を向けスバルは大きくため息を吐き、足を進めた。

 

 




今回は特に大きな流れはありません。
スターズの訓練風景といったところです。
ちなみに、スバルの相手はヴィータとシグナムが交代でしています。
次もスバルがやらかしますよ。
お楽しみに。

名前 ノーヴェ
性別 女
稼動年月 6年
最近の悩み スバルのことが頭から離れないこと

スカリエッティによって生み出された戦闘機人。
その9番目の個体。
本来ならば男として生まれるはずだったが、スカさんがやらかしたおかげで女として生まれ、そのせいで悩みを抱えてしまった。
スカリエッティの彼女たち後期生産組の育成方針として町に出かけさせ、人間としての心も育てられているというところが原作との大きな違い。
そのせいで彼女の相棒といえる11番、ウェンディにからかわれてそんな彼女を追い回す姿がスカさんラボでよく目撃されている。
スバルのことははじめは自分の倒すべき敵だと考えていたが、彼との接触により、その考えが少し変わってきている。
もちろん父親であるスカさんはそのことに気づいているが、そんな彼女の変化を快く思ってもいる。

スパロボ風精神コマンド
「必中」「不屈」「加速」「ひらめき」「突撃」「勇気」

スパロボ風特殊能力
破壊する突撃者(ブレイクライナー)」:気力110以上で発動。 格闘、回避10%アップ

「地球軍最終防衛ライン・コードネーム723(ナツミ)」:このボケガエルゥッ!!

スパロボ風エースボーナス
「破壊する突撃者」が常時発動状態になる。



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第十九話

「おーい、ティアナ」

 

ヴァイスと別れたスバルはすぐに林の中で訓練をしているティアナの元に向かい彼女に話しかけた。

そんな彼の呼び声に反応したティアナは視線だけ彼に向けながら訓練を続けていた。

 

「なに、見たとおり忙しいんだけど……ッ!」

 

「いや、何もくそもお前、ちょっとオーバーワーク気味じゃないか?」

 

「別に、これくらい、大したことないわよ……ッ!」

 

彼女はスバルの話を聞きながらもクロスミラージュを操ることをやめない。

そんな彼女の様子にスバルは大きくため息を吐き、疑問に思っていたことを尋ねる。

 

「なぁ、なんでそんなに自分を苛めるように訓練するんだ?」

 

「決まってるじゃない、六課(ここ)で足手まといにならないようにするためよ」

 

ティアナは一度訓練を中断し汗をタオルでぬぐいとりながらスバルの問いに答える。

 

「足手まとい……?」

 

「えぇ、だってそうでしょう?

 隊長陣は全員Sランク以上、副隊長でもニアS。

 エリオはあの年でもうBランク魔導師資格を持ってる。

 キャロも特別な竜召喚というスキル持ち。

 あんたに至っては可能性の塊。

 ほかにも前衛だけじゃなく後衛のバックアップ要員まで未来のエリート揃い。

 この中で凡人は私だけだもの……」

 

ティアナは俯きながらそう答えた。

そんな彼女にスバルは先ほどよりも大きなため息を吐く。

 

「話にならないな……。

 まったく、お前、今どこ(・・)にいるんだ?」

 

「はぁ?

 あんたの目の前にいるじゃない……」

 

スバルの言葉に怪訝な表情を浮かべるティアナ。

そんな彼女を見てスバルは「ハッ」と鼻で笑った。

 

「幻影魔法じゃない方だよ、まったく。

 3年も一緒にやってきたんだ、見破れないわけないだろうが。

 身体(これ)はフェイクシルエットだな?

 というか、ここらへんにあるもの全部フェイク、で」

 

スバルが目の前にいるティアナに手を触れるとその手は彼女に触れることなく彼女の身体を通過する。

それを確かめたスバルはある方向に歩いて行った。

 

「あれだけの数を使いながら、自分の姿をオプティックハイドで隠すとなると……ここらへんか?」

 

スバルは林の中にある一本の木の前に立ち、徐に手を伸ばした。

そして……

 

―――フユン―――

 

「……ッ!」

 

「フユン……?」

 

彼は手のひらに伝わる感触に首を傾げた。

彼としては隠れているティアナの肩に触れたつもりだったのだが、どうやら違うところに触れていたらしい。

そう判断した彼はその手に納まる柔らかいものを特定するべく二度三度と手を動かした。

 

「あっ……ック……ちょッ!」

 

その感触を再確認した彼は記憶の中からそれと同じものを呼び出す。

 

(確か、お袋に抱かれてた時に……)

 

「ッいつまで触ってんのよ、この……」

 

それはいくつもの偶然が重なった結果だった。

オプティックハイドでティアナが姿を隠していること、彼の手にティアナのある部分が収まったこと。

そして、その感触を彼が記憶の中から引きずり出すことに夢中だったこと。

そのすべてが一致した故に……。

 

「バカスバルーーーッ!!」

 

「グハッ!?」

 

オプティックハイドをとき、顔を怒りとほかの感情で真っ赤に染め、片手で自分の胸を隠しながら放たれた渾身の右ストレートが彼の顎に直撃したことは偶然でしかなかった。

だが、その偶然にも彼の顎にぶち当たった拳から伝わった衝撃は彼の骨を通じ、そして、脳を揺らした。

所謂脳震盪を起こしたのである。

 

見事に直撃を喰らい、しかも脳を揺らされたスバルは仰向けにぶっ倒れたのだった。

気を失う直前に彼が目にしたのは顔を真っ赤にしながらも慌てて彼に駆け寄る相棒の姿だった。

 

 

 

「ん……?」

 

その後、スバルが目を覚ましたのは六課の隊舎のロビーだった。

 

「ここは……、ロビーか……?」

 

その時、彼は後頭部に柔らかさを感じていた。

彼が視線を上にあげると、端末を片手にモニターを弄っている相棒の姿が映った。

 

「あ、起きたのね」

 

「……いや、なんでこの格好?」

 

スバルは自分たちの格好……俗にいう膝枕の状態にあるのかを尋ねる。

 

「なんでって、あんた覚えてないの?」

 

「確か……、お前の幻影見破って、何かに触れたのは覚えてるんだけど……」

 

「あんた、いきなり倒れちゃったのよ。

 疲れでもたまってたんじゃないの?」

 

身体を起こしながらスバルは頭を掻き大きく伸びをする。

 

「いや、しっかり休んでるはずなんだが……。

 というか、なんかめちゃくちゃ顎が痛いんだが……」

 

「前のめりに倒れたからね。

 木にぶつけたのよ」

 

「いや、でもなんか柔らかいモノに触れた気も……」

 

スバルはそこまで口にして背後からの冷たいモノを感じ口を噤んだ。

 

「忘れなさい」

 

「え、いや……、でも……」

 

「忘れなさい」

 

「はい」

 

逆らってはいけない。

そう告げる何かが今のティアナにはあったと後のスバルはほかの人にそう言っていたらしい。

 

「それで、お前なにしてたんだ?」

 

「何って、模擬戦に向けた訓練よ」

 

「訓練?

 幻影魔法の?」

 

スバルの問いにティアナは首を縦に振った。

 

「ここ最近の訓練でわかったんだけど、今は射撃魔法の伸びしろが見当たらないのよ。

 何かきっかけがあればいいんだけど、模擬戦までには無理だと判断したから、あたしはあたしにしかできないことを伸ばそうと思ったの」

 

「それで幻影魔法ね……。

 で、俺が見破る前に幻影に言わせたあの言葉は何なんだ?」

 

ティアナは苦笑しながら口を開いた。

 

「あ、あれね。

 なんというか、夢の中で見たあたしが言ってたのよ……。

 なんか思いっきり思いつめた様子だったんだけど。

 あ、あとあんたがなぜか女だったわね」

 

「あ?

 俺が女、冗談はほどほどにしてくれよ……」

 

スバルは彼女の言葉に大きく肩を落としながらそう答えた。

 

「まったくよ、あんたと仕事だけじゃなくて部屋でも一緒なんてこっちの胃がいくつあっても足りないわよ」

 

「ヘイヘイ、わる~ございましたね」

 

「「……」」

 

なんてことない他愛のない話。

だが、彼らにはそれが非常に心地よかった。

 

「「プッ!」」

 

一瞬の沈黙の後、二人は同時に吹き出し笑った。

一通り笑いとおした後、ティアナはスバルに尋ねる。

 

「それにね、幻影の練習であんな風にしてたのは敵を欺くには味方からっていうくらいだからね。

 誰か騙されてた?」

 

「あぁ、ヴァイスさんが見事に騙されてた。

 というか、俺も近づかなきゃ気づかないぐらいのモノにはなってたぞ」

 

スバルの答えにティアナは「ならこの魔法はもう十分ね」と呟いた。

そんな彼女に向かってスバルは疑問をぶつける。

 

「それで、なんか作戦は浮かんだのか?」

 

「まぁ、作戦って言っていいのかわからないけどね。

 あんたにも結構負担がかかるけど、それでもいいなら話すわよ?」

 

ティアナの試すような視線にスバルはニヤリと笑い答える。

 

「どんと来い。

 できる範囲でやってやるさ」

 

「わかった、ならあんたは……」

 

その後、ティアナが話した作戦内容を聞いたスバルの顔は驚きに満ちていた。

奇しくも、作戦を聞いた側が驚きに表情を歪めるという関係は、二人が六課に入るきっかけとなったBランク試験の時とは逆のものだった。

 




スバルぇ……。
またやらかしました。
幻影を見破るのはコンビならではの出来事だと思ってやったんですけど、その先の話は勝手に彼が動き回ってしまいました。
ギンガの回といい、今回といい何かついてるんでしょうね、彼には。

今回はスバルとティアナのみの登場となりました。
登場人物が二名だけの話ってのは初めてのような気がします(笑)。
人物紹介は槍使いのあの人です。


名前 ゼスト・グランガイツ
性別 男
年齢 50代前半
最近の悩み 特務一課の追手がしつこいこと

槍使いのナイスガイ。
レジアスの旦那。
かつては首都防衛隊隊長としてブイブイいわせていた。
とある研究施設に突入する際、レジアスから突入を止められるが、違法研究者を逃がすことを良しとしなかった彼は部隊を率いて突入。
結果、戦闘機人やガジェットとの戦闘に陥り一度は命を落とした。
だが、スカリエッティによって蘇った後は、レジアスに突入の際、引き止めた理由を尋ねることを目的に日々を過ごしている(彼はレジアスが違法研究に手を出しているのではと思っている)。
ちなみに、レジアスとは結婚はしたが、籍を入れるだけで式もあげず名前すら変えていなかった。
理由は周りにそのことでからかうものがどちらにもいたので恥ずかしいということだった。

とある海の提督からは、親分と呼ばれたり、槍よりもでかい剣を持ってた方が似合うといわれたこともあるらしい。

余談だが、家庭内ではレジアスにほぼすべての選択肢を持ってかれていた。(拒否権なし)

スパロボ風精神コマンド
「不屈」「必中」「加速」「気迫」「直撃」「熱血」

スパロボ風特殊能力
「レリックウェポン」:気力130以上で発動。HPの5%を減らす代わりに攻撃力50%アップ。

「尻に敷かれるもの」:レジアスに対する攻撃50%ダウン

スパロボ風エースボーナス
「レリックウェポン」発動時にHPの減少がなくなる。


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第二十話

模擬戦です、ティアナの策のお披露目です。
それではお楽しみください!


「よーし、三人とも準備はいいな?」

 

六課の訓練スペース(廃棄都市バージョン)のとあるビルの屋上に立つヴィータがそのビルから少し離れた場所にいるスターズの三人に尋ねる。

 

『こちらスターズ1、準備OKだよ』

 

『スターズ3、4もオーケーです』

 

ヴィータは通信機から聞こえてくる返事に頷き、右手を高く上げ……。

 

「それじゃ、模擬戦開始だ!」

 

振り下ろした。

 

 

 

ヴィータの合図とともにティアナとスバルは動き出した。

なのははその様子を油断せずに観察する。

 

(さて、二人は何を仕掛けてくるのかな……?)

 

「スバル!!」

 

「応っ!」

 

《Wing Road》

 

ティアナの呼びかけに答えるスバルは返事とともに十八番のウイングロードを展開する。

だが、それは一般的な使い方である道としてではなかった。

 

「えっ!?」

 

なのはは展開されたウイングロードの軌跡に驚愕の表情を浮かべるしかなかった。

彼女はウイングロードをスバルが自分を囲むように(’’’’’’’’)球状に展開するとは考えてもおらず、対応が一瞬遅れた。

 

「レイジングハート」

 

《Allright.Accel Shooter》

 

なのはは予想外の出来事に対応が遅れるも、落ち着きその囲みを魔力弾で破壊する。

もともとの運用方法ではなかったウイングロードは魔力弾によって取り払われ彼女の視界を取り戻した。

だが、その一瞬の対応の遅れにできた時間でスバルとティアナは彼女の視界から姿を消していた。

 

「これは、中々に厳しいことになりそうだね……。

 気を引き締めていくよ、レイジングハート」

 

《もちろんです。彼女たちの力をここでしっかりと見極めていきましょう》

 

愛機の言葉に頷きながらなのはは周囲の警戒レベルを一段階上げた。

 

 

 

 

 

『よし、なのはさんはこっちの姿を見失ったわね』

 

「第一段階終了といったところだな」

 

一瞬のスキをついて姿を隠したスバルは、別の場所にいるティアナと念話で連絡を取り合っていた。

 

『えぇ、とりあえず第一難関は突破。

 あたしはこのままなのはさんの索敵範囲のギリギリまで離れるわ。

 あんたは……』

 

「隊長の注意をそらせばいいんだろう?

 しっかりやってやるさ」

 

『任せたわよ。

 それじゃ、第二段階(セカンドフェーズ)開始(スタート)!』

 

 

なのはがその音に気づいたのは、普段以上に周囲に気を張っていたからだった。

それは何かを蹴り飛ばす音、それも小石などの小さいものを蹴り飛ばす微小な音だった。

だが、それに気づいたなのははそちらに振り返り、そして障壁を展開した。

 

「クッ、……まずいッ!」

 

《Barrier Burst》

 

障壁を張った左手にかかった衝撃がいつも以上に大きいことに気づき、また別の感覚に襲われたなのははすぐに障壁を爆破し、その爆風に乗ってその場から離れた。

 

「今の感じ……」

 

《障壁を突破しかけてました。

 おそらく何らかの方法で速度を増したのかと》

 

「だよね、あの魔法はたぶん……!」

 

なのはは言葉を言い終える前にその場からさらに飛び去る。

その直後、彼女のいた空間を一つの魔力弾が過ぎ去った。

 

「スバルだと思うんだけど、障害物の使い方がうまいね。

 こっちからは捕捉できないように動いてる」

 

《すべてあなたの教えたとおりですね。

 ヒット&アウェイ、一撃離脱をスバルとマッハキャリバーが自分たちなりにアレンジした戦闘方法のようです》

 

「うれしいね、ちゃんと教わっただけじゃなくて自分なりに考えてぶつかってくるってのは」

 

 

スバルからの攻撃を避けながらも彼女は嬉しそうに笑っていた。

 

 

 

「おいおい、この状況で笑ってるよ、あの人」

 

《恐らく相棒の戦術を潰す作戦でも考え付いたのでは?》

 

そんななのはの表情を一目見たスバルは背筋に何か冷たいモノが走るのを感じた。

 

「物騒なこと言うなよ、マッハキャリバー。

 あの人だから本当にやりかねんだろうが」

 

《すみません。

 次、左です》

 

マッハキャリバーは謝りながらもスバルにルートの検索結果を伝える。

スバルはその指示に従い道を進んでいった。

 

今回の模擬戦、ティアナの考え付いた作戦は主に四段階に分かれている。

まず、最初のスバルのウイングロードによるなのはの視界を遮りその場から姿を隠す。

そしてティアナはなのはがウイングロードを排除するまでのごく短い間にある仕掛けを施しすぐにその場から離れる。

第二段階はスバルによるなのはの索敵を行わせないこと。

廃棄都市区画という障害物の多いステージが使われることをあらかじめ調べていたティアナによってその走るルートを決め、なのはをその場にくぎ付けにすることがこの段階の肝であった。

 

「ここで……!」

 

次の攻撃ポイントに到着したスバルは右足に魔力を溜める。

使用した魔法は、直射弾とソニックムーブ。

 

「ハーケンインパルスッ!!」

 

《Shoot》

 

スバルが足を振りぬき、右足に溜めた魔力弾を放つ。

スバルの脚力による一次加速と、ソニックムーブによる二次加速によって通常の4倍に達した速度の魔力弾はなのはの障壁を貫通するほどの威力を持つようになった。

それをビルとビルの間、崩れた橋などの攻撃に最適なポイントからなのはにむかって放っていく。

スバルはそれでなのはを撃墜できるとは考えてはいなかった。

現に今ではこの魔法はすべて回避されている。

だが、今はなのはに攻撃を当てることが目的はないのでスバルはすぐにまたビルの陰に姿を消した。

 

『スバル!』

 

「ついたか?」

 

『えぇ、作戦を第三段階に移行するわ。

 なのはさんを追い込んで!』

 

「了解!」

 

 

 

 

周辺の空気が変わったことをなのはは今までの経験から感じ取っていた。

そしてそれはデバイスであるレイジングハートも同様であった。

 

《マスター》

 

「うん、そろそろ仕掛けてくる

 (けど、さっきからなんなの、この感じ……。既視感みたいな……)」

 

そして、小さく聞こえていたマッハキャリバーの駆動音が次第に大きくなり、彼女はついに教え子(スバル)の姿を捕らえた。

そして彼の右手(’’)から魔力弾が放たれるのも彼女の目は捉えていた。

 

「リボルバーシュート!!」

 

《Revolver Shoot》

 

「レイジングハート!」

 

《Flash Move》

 

なのはは高速移動でその場から離れると同時に疑問を抱いた。

 

(さっきまでの魔力弾と速さが違う……!)

 

なのはがそのことに気づいたのと同時にスバルの口からある言葉が紡がれた。

 

別れろ(ブレイク)!!」

 

スバルの言葉とともに、なのはに迫っていた魔力弾が弾け、無数の微細な魔力の塊がなのはに襲い掛かった。

障壁を展開せずに回避に移行したなのはは広範囲にばら撒かれた魔力弾を防ぐために障壁を展開するが、多くの魔力弾を受け止めきれずにその衝撃で大きく後ろに飛ばされてしまう。

そして、それを確認したスバルが声をあげた。

 

「ティアナ!」

 

『了解、第四段階(フォースフェーズ)開始(スタート)!!』

 

 

 

 

体制を崩したなのはがそれを目にしたのは単なる偶然だった。

スバルの魔力散弾によって吹き飛ばされたなのはの目の前にいきなり魔力スフィアが姿を現したのだ。

 

「クッ!」

 

そのスフィアから連続で放たれる直射弾をなのはは紙一重で躱すとそのスフィアを撃墜しようと魔力弾を生成するが、その魔力弾を別方向から放たれた弾丸が撃ちぬいた。

 

「この射撃、ティアナ?

 だけど、どこから……!」

 

《マスター、後ろです》

 

なのははその射撃を放ったであろう少女を探そうとするが、愛機からの警告を聞き入れすぐにその場から離脱する。

直後にまた別の方向から彼女に向け魔力弾が放たれた。

 

 

 

 

 

「次、オプティックハイド解除、スナイプシューター、3番、4番起動」

 

そのころ、ティアナはなのはの様子を離れたところから設置したサーチャーから送られてくる映像で監視していた。

そして、第一段階で設置したスフィアに掛けていた幻影魔法『オプティックハイド』を解除し、彼女を狙撃していたのだった。

 

「スバル、少しコースが外れてる!

 修正頼むわ!!」

 

『了解!』

 

彼女が相棒に指示を出すと同時に映像の中のなのはに青色の砲撃が放たれ、彼女はそれを回避した。

だが、その回避方向はティアナが設置したスフィアの射程圏内だった。

 

「6番、7番起動!」

 

彼女がここまで幻影魔法の維持が可能なのは、彼女の幻影魔法に対する才能と、この一週間の努力の結果だった。

そして、なのはの教えたセンターガードとしての心得『戦況をよく観察する』ということをこなし、今はなのはをあるポイントまで誘導していたのだった。

 

「最後、15番!」

 

ティアナが最後のスフィアを展開しなのはに向かって魔力弾を撃つ。

そして、彼女がティアナのいる位置から直線上の場所に出てきた。

 

「行くわよ、クロスミラージュ」

 

《Load Cartridge》

 

彼女の両手に握られたクロスミラージュに込められた四発のカートリッジから魔力が放出する。

その魔力反応に気づいたであろうなのはが彼女の方を向くが、すでにティアナの準備は整っていた。

 

「今までの特訓の成果を……ここで……!

 ファントム、ブレイザーッ!!」

 

《Shoot》

 

そして、二つの橙色の閃光が空を切り裂いた。

 

 




続きはwebで(嘘
きりのいい終わり方が掛けなかったので、このようになってしまいました。
申し訳ありません。
さて、とりあえず模擬戦を書いたわけですが、この部分、原作とは全く違うため頭の中で浮かんだ戦いを文章にするという難しいことをやりました。
作家のみなさんのすごさを改めて実感しました(笑)。
読者の皆さんに伝わればいいんですけど………。
わかっていただけるかびくびくしながら書いていました(苦)。

さて、人物紹介と行きたいところですけど、ネタ切れです。
とりあえず今回はオリジナル魔法の解説を行いたいと思います。

それではどうぞ!


あ、あと感想も待ってます!

オリジナル魔法

名前 ハーケンインパルス
使用者 スバル
種別 直射型

スバルの考えたなのはの障壁突破用の魔力弾。
彼の強靭な肉体による脚力と、魔力弾そのものに掛けた加速魔法によって速度が異常に早くなったもの。
「障壁を抜けないならもっと早くすればいいんじゃね」という安直な考えのもと生み出された魔法だが、予想以上に強力なものとなった。

元ネタは『スーパーロボット大戦シリーズ』に登場する『雷鳳』から


名前 クレイモアシューター
使用者 スバル
種別 直射型(面制圧型)

スバルがなのはを追い込むときに使った魔法。
任意のタイミングで魔力弾を爆散させ、大量の微細な魔力弾を目標周辺にばら撒くという魔法。
所謂、指向性地雷、散弾と似た仕組み。
もとの弾丸に障壁突破の術式が掛けられており、四散した後もそれなりの貫通力を持っている。
(今回はなのはの障壁なので影響はなかった)

元ネタは『スーパーロボット大戦シリーズ』の「アルトアイゼン」


名前 スナイプシューター
使用者 ティアナ
種別 直射型

設置したスフィアからスナイプショットを放つという単純な魔法。
単純だがティアナように作戦によっては部類の強さを発揮する。
ティアナの総魔力量の関係から、一つ一つの弾丸に込められた魔力はそこまで多くはないが、すべてが螺旋回転をしており、貫通力はかなりある。
今回はなのはの誘導がメインの目的だったのでその威力は発揮されなかったが、ガジェット相手ならフィールドを突き抜けるほどの威力を持つ。




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第二十一話

どうやらこの回はやたらと賛否両論なようで、気分が悪くなる人もいるようです。
そのような人は見ない方がいいかもしれません。



「ん……?」

 

機動六課隊舎のある部屋で彼女(ティアナ)は目覚めた。

寝ていたベッドの上で身体を起こし周りを観察する。

 

「ここ……医務室……?」

 

《起きられましたか、マスター》

 

ティアナが声を出すと、その傍らに置かれたクロスミラージュが彼女に呼びかけた。

 

「え、えぇ……。

 というか、なんであたしここで寝てたの……?」

 

《そのことについては……。

 あぁ、お待ちください。

 たった今レイジングハートから通信が入りました。

 ロビーに集合してくださいということです》

 

ティアナは愛機の言葉を怪訝に思いながらいつの間にか脱がされていた訓練着を着て医務室を後にした。

 

 

 

 

 

「ナニコレ」

 

医務室からロビーに向かったティアナの視界に映ったのは何ともおかしな光景だった。

 

 

「なのはちゃん、反省してるの!?」

 

「は、はい~!」

 

めったに怒りの感情を見せない医務官(シャマル)分隊長(なのは)を正座させて説教をしている姿。

 

「本当にすみませんでした!!」

 

『いや、こちらも想定外というかだな。

 そちらにも悪気はなかったのだろう?』

 

「それでもお騒がせしてしまったのです。

 すみませんでした!!」

 

モニターに映るレジアス中将に頭を必死に下げている部隊長(はやて)

そんな普通ならあり得ない光景を見てティアナは……

 

(きっと疲れてるのね)

 

一度目をつむり目の間をしっかりと揉んで瞼を開いた。

そこには先ほどとまったく変わらない光景が映った。

 

「ナニコレ」

 

彼女の言葉を責める者はだれ一人としていなかった。

 

 

 

「あ、目が覚めたんだな」

 

「ヴィータ副隊長……。

 これ、どういうことなんですか?」

 

呆然としていた彼女に声をかけたのはヴィータだった。

そのすぐ後ろからフェイトをはじめとしたライトニング分隊の四人と相棒のスバルが歩いてきていた。

 

「あ~、そのな……かくかくしかじかで、まるまるうまうまということだ」

 

ヴィータの説明を聞いたティアナは確認のために自分の口から同じことを繰り返す。

 

「つまり、あたしの砲撃を躱したなのはさんが反撃に砲撃を撃とうとしたところ、ちょっと本気になってしまってあたしはその砲撃を防ぐこともできず、気絶。

 スバルもその後叩きのめされた。

 そこで、あまりにも魔力の量がリミッターかけられた状態ではないのでおかしいと気づいたフェイトさんが調べてみるとリミッターが外れていることが判明。

 急いで八神部隊長に報告に向かうと、レジアス中将から連絡があって八神部隊長はあのように謝りっぱなし。

 で、シャマル先生は教え子を気絶させるほどの砲撃を撃ったなのはさんをお説教と」

 

「そういうことだ」

 

「一ついいですか、副隊長」

 

「おう、なんだ?」

 

「なんでリミッターが解除されたんですか?

 この部隊作るのにかけられたものなんですよね?」

 

ティアナの問いにヴィータは頭を掻きながら口を開いた。

 

「あ~、機動六課の隊長陣、副隊長にリミッターがついてるのは知ってるよな?

 そのリミッターなんだが、地上のものをあたしたちは掛けられたんだよ」

 

「地上の……?」

 

「つまり、機動六課は本局の部隊でありながら地上に隊舎を持つ異例な措置をとってる。

 それもこの施設見てもわかる通り、新品のモノだ。

 そうさせたのが本局のお偉いさんで、その代りといっちゃなんだがリミッターは地上本部の方で掛けることになったんだ。

 まぁ、そのことに地上に文句言った馬鹿もいるみたいだけどな。

 そこにレジアス中将が皮肉たっぷりに言い返したところこうなったわけだ。

 で、今回のことなんだが……」

 

ヴィータは一度「ゴホン」と咳払いをし言いづらそうにつづけた。

 

「地上のリミッターが外れやすくなってたんだと。

 なんでもこれまたレジアス中将が指示出してて『いざというときに上からの命令を待っててリミッターを解除なんてしてたら手遅れになるだろう』ということらしい」

 

それがこんなことになるなんてな、とヴィータはため息を吐きながらロビーを見つめる。

 

「まぁ、リミッター云々は置いておいてだ。

 お前たちは高町に本気を出させたということだ。

 胸を張っていいぞ」

 

「そうだな、あの作戦はかなり良かったと思うぞ。

 なのはの好きにやらせないで終始躍らせっぱなしだったからな」

 

話が一段落着いたところでシグナムがティアナの肩に手を乗せながらそう言うと、それに続いてヴィータも模擬戦の内容を思い出しながらそう彼女に告げた。

 

「あ、ありがとうございます」

 

シグナムとヴィータは礼を言うティアナに背を向け、ロビーに向かっていった。

 

「なぁティアナ。

 なのはさんの砲撃受けてどんな感じだった?」

 

その後、スバルがティアナの元に寄ってきて彼女に尋ねる。

スバルに言われて模擬戦で、自分が気絶する直前の記憶を思い出そうとすると、なぜか身体が震えだしてティアナは両手で肩を抱いて蹲ってしまった。

 

「お、おい!

 大丈夫か!?」

 

「だ、大丈夫……。

 チョットすれば収まるから……」

 

「無理しちゃダメだよ、ティアナ」

 

震えているティアナの肩に手を置いて声をかけたのはフェイトだった。

フェイトはティアナの背に手を回すと子供を落ち着かせるように背中をリズムよく優しくたたいて声をかけた。

 

「怖かったよね、視界いっぱいに広がる桃色の光って」

 

「は、はい……」

 

フェイトの言葉に頷くティアナ。

そんな彼女の耳にフェイトはある言葉を告げた。

 

「でも大丈夫。

 ティアナよりも小さいときにあれよりもすごいのやられたから」

 

その直後、ティアナの身体の震えは止まっていた。

 

 

 

 

結局、レジアスからお咎め無しとなった六課。

仕方がないので、なのはのリミッターは後日地上本部で、今回のものよりも強めのリミッターを掛けることとなった。

そうポンポンとリミッター解除されてたら地上本部も大変だということだろう

ちなみに今回のことでなのはに責任はないということをレジアス自身が証明しており、はやてがほっと安堵していたことはだれも知らない。

 

その後、シャマルからの説教の後、はやてからやんわりと注意を受けたなのははフォワード陣で集まり、今後のことを話していた。

 

「今日はさっきの騒動の影響で、ライトニングの模擬戦はもう無理だから、ライトニングFとフェイト隊長の模擬戦は明日行うことにします。

 何か質問は?」

 

「質問というか、なのはが本気出さなければやれたんだけどね……」

 

フェイトからの指摘になのはは冷や汗を流しながら目をそらした。

 

「そ、それはほら!

 私に本気を出させたスバルとティアナが悪いってことで」

 

「教え子がしっかりと結果を出したのに対して責任を擦り付けるとは、さすがなのはだな」

 

「うぅ……反省してます……」

 

「それで、今日はどうするんだ?

 模擬戦は出来ねえかもしれないけど、時間はまだあるぞ?」

 

ヴィータの言葉になのはは頭を抱えた。

 

「とは言ってもねぇ……。

 もともと今日は模擬戦をやってその反省で一日使う予定だったから……」

 

「あ、なのは。

 あの話はみんなにしたの?」

 

「あの話……?」

 

なのははフェイトの言葉に首を傾げた。

そんな彼女にフェイトは微笑みながら答えた。

 

「なのはの訓練の意味。

 本当に今日のなのははボケボケさんだね」

 

「ボケボケ……!?

 酷いよ、フェイトちゃん!!」

 

「いや、今日の高町はボケボケだろう」

 

「そうだな、ポンコツもいいところだ」

 

「てぃ、ティアナー。

 みんなが苛める~!」

 

自分の周りに味方がいないとみると、教え子を引きずり込もうとするなのは。

そんな彼女に苦笑しながらティアナは口を開いた。

 

「なのはさんがポンコツなのはどうでもいいとして、訓練の意味って何の話ですか?」

 

「ティアナまで!?」

 

ティアナの発言になのはは涙目になる。

そんな彼女に一言。

 

「だって気絶させられましたから。

 別に何か危ないことしたわけでもないのに……」

 

その一言でなのはの中で何かが壊れたのか、なのはは「うにゃー!」といいながら顔を伏せてしまった。

そんな彼女を見たヴィータが「やりすぎたか」と呟いたが、そのつぶやきに突っ込むものは誰一人としていなかった。

 

 

 

余談だが、このリミッター解除騒動は地上本部どころか、本局にも長らく伝えられる話となるのだった。

その話を聞くたびになのはは気恥ずかしい思いになるのだが、それはまた別の話。

 

 




ということで、模擬戦はなのはの勝利(?)です。
まぁ、今回の場合、教え子のあまりにもの成長ぶりになのははうれしすぎて本気を出しちゃったということです。
それと、リミッターのことですが、いざというときに上からの指示を待ってるなんて悠長なことはしていられんというレジアス中将の独断で、制限を軽くしていたということです。
もちろん反対したものもいるだろうけど、そこはほら、ね?

それと、やったねフェイトちゃん!
オチ担当じゃなかったよ!!




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第二十二話

「あ~ゴホン!」

 

なのは弄りが終了して数分後、立ち直ったなのはは一度咳払いをして場の空気を切り替える。

 

「さて、さっきから話に出てきた訓練の意味って言葉だけど……。

 みんなは今までの訓練はどうだったかな?」

 

「正直な感想を言ってみろ。

 別に怒ったりしねえから」

 

なのはの問いに首を傾げ、ヴィータの言葉に納得するフォワード四名。

真っ先に答えたのは切り込み隊長であるスバルだった。

 

「めっちゃきつかったです」

 

「ホントに正直に言いやがったな。

 ほかは?」

 

「基礎の訓練ばっかりだなぁ、と思ってましたけど……」

 

「基礎の割に応用の訓練はあんまりなかったなぁと思います」

 

「言ってみれば、地味でしたかね」

 

スバル以外の意見を聞いたなのはは苦笑しながら頷いていた。

 

「やっぱりそう思うよね。

 地味できつい、応用もしないで基礎訓練ばっかり。

 みんな不満に思ってたんじゃないかな?」

 

なのはのその言葉に四人は躊躇いながらも頷いた。

 

「本当は私も応用の訓練もしっかりやっていきたいと思ってるんだけどね。

 その前にしっかりと基礎を固めないといけないって考えてるんだ。

 まぁ、その理由を今から話そうと思うんだけどいいかな?」

 

「理由ですか……」

 

「そう、私が今の訓練を行うきっかけになったこと。

 始まりはね……」

 

 

 

 

 

 

とある世界、そのとある国の小さな町に一人の少女がいた。

その少女はいたって普通―――実家が喫茶店をやっていて武道場があるのがふつうなのかはおいておいて―――の家の末っ子だった。

その世界には魔法なんて存在しない。

科学がある程度発達した管理外世界。

そんな世界に住む一人の少女が魔法の世界に踏み込んだとある事件。

今でいう「PT事件」。

とある研究者が自分の願いを叶えるために遺失物―――ロストロギア『ジュエルシード』―――を狙ったことから始まったこの事件は、件のロストロギアがばら撒かれた世界のとある少女と管理局所属の『アースラ』の魔導師で最悪の危機を脱した。

この事件を経て、少女は魔法という自分が自分でいられる証を手に入れた。

その後、その世界でいくつか大きな事件を収束に向かわせた少女は管理局に入り、日々任務に勤めていた。

 

 

 

 

 

「だけど、その女の子の身体はもうボロボロだった。

 碌に訓練もせずに魔導師になった女の子は、自分の限界を超えても休もうとはしなかった」

 

一人話していたなのはは端末を操作し、一つの映像を映し出した。

そこには茶色の髪をした幼い少女が砲撃魔法を放っている場面だった。

 

「あれって、砲撃魔法……!」

 

「あんな小さな女の子が……!?」

 

「そう、その女の子には幸か不幸か才能があった。

 その小さな身体では受け止めきれないほどの反動のある、砲撃に対してのね。

 砲撃魔法の反動の大きさは、スバルとティアナはわかってるよね?」

 

「はい」

 

「身を持って体感しました」

 

スバルとティアナの返事を聞いたなのはは言葉をつづけた。

 

「女の子は、自分の得意とする砲撃を何度も撃ち続けた。

 基礎のできていない身体にとってそれは自分をも傷つける諸刃の剣だということに気づかずにね」

 

 

 

 

 

やがて、その時は来た。

それはとある世界での遺跡調査隊の護衛任務だった。

少女はその日、少し体調が悪かった。

だが、彼女はその不調を無視して任務に向かった。

そして、任務終了直前に傷を負った。

 

 

 

 

「その時は陸から出向していた一尉の人に庇ってもらって事なきを得たんだけどね」

 

これがその時の女の子の様子、と言ってなのは映像を切り替えた。

すると、そこに映ったのは病院のベッドの上で身体中を包帯でまかれた少女の姿だった。

 

「この時、この女の子の身体にたまった疲労と、大小の傷、その治療のためにこんなになったんだ。

 女の子の身体には無茶し続けて傷ついた部分が多くあったんだ。

 そして、そんな傷ついた身体で砲撃魔法を撃っていたからね、それはもう反動が身体にすさまじい影響を与えていたんだ」

 

なのはは苦笑しながら続きを話す。

 

「それで、しばらくしてさっき話した女の子……、もうわかってると思うけど、私を助けた陸の一尉の人にね、怒られたんだ。

 『基礎もできていない未熟な奴が戦場(あそこ)に来るなんてどうかしてる。出てくるならしっかりと基礎を鍛えてからにしろ』ってね」

 

「「ん?」」

 

なのはの言葉にスバルとティアナは首を傾げたが、今は彼女の話を聞くことを優先した。

 

「もうね、その言葉を聞いて自分でも何をしたいのかってのが決まったんだよ。

 まずは自分の身体をしっかりとしたものに作り上げるってことが第一目標になって、夢が教導官になるってことになったんだ。

 私みたいに、無理して大怪我をしたりする子が少なくなるように、戦場から無事に帰ってこられるようにってね」

 

これで私の話はおしまい、というとなのはは手元に置いてあったお茶を口に含んだ。

 

「あの時は本当に大変だったんだ。

 私が助けてくれた男の人に怒られてるときにフェイトちゃんが来て、勘違いしてね」

 

「う、なのは。

 あの話はしなくても……」

 

「いいや、言っちゃうもんね。

 さっきボケボケとかさんざん言ったこと忘れてないからね」

 

フェイトが「そ、そんな……」と叫んでいるのを無視してなのはは話を続けた。

 

「それで、フェイトちゃんってばその男の人に『そこまで言うならあなたはどのぐらい強いんですか』って聞いちゃって、なんやかんやで模擬戦になってね」

 

「フェイト隊長と、その人がですか……?」

 

「うん。

 結局、フェイトちゃんの惨敗。

 指一本触らせてもらえなかったみたい。

 私の怪我が治った後に二人してみっちりしごかれたよ……」

 

あはは、となのはは苦笑いしていた。

そんな彼女にティアナが質問を投げかけた。

 

「あの、その男の人の言葉ってもう一度言ってもらえますか、一番印象に残ってるところを」

 

「ん?

 『戦場で生き残りたいなら基礎をしっかりと鍛えろ』……」

 

「「『そうすれば生きて帰ってこられる』」」

 

「あれ、なんで二人がその言葉を知ってるの!?」

 

なのはの言葉を遮り、スバルとティアナが口にした言葉を聞いたなのはは驚きの声をあげた。

そんな彼女にティアナは苦笑しながら尋ねる。

 

「なのはさん、その男の人って『キョウ・カーン』って人じゃないですか?」

 

「え!? 

 なんでティアナがあの人の名前知ってるの!?

 確かにある意味有名な人だけど、その言葉知ってるのってあまりいないのに!!」

 

なのはの驚きの声を聞きながらスバルとティアナは答えた。

 

「あ~、カーン教官、今は第四陸士訓練校の教官で……」

 

「俺たちの担当教官でした。

 さっきの言葉はあの人からいつも聞かされた言葉です」

 

「な、なるほど……。

 管理局に入ってから世界が狭いなんて考えたこと初めてだよ……。

 じゃ、じゃあ、あの人の教え子を私が教えることになったわけだね。

 なんだ、二人が文句言わなかった理由がやっとわかったよ」

 

「なのはは真っ先にスバルとティアナが文句を言うだろうねって言ってたからね」

 

「「なのはさん……」」

 

「あ、あはは……。

 ごめんなさい」

 

フェイトの告げ口を聞いた二人はなのはにジトーとした視線を向けた。

それに耐えきれなかったなのはは苦笑すると、すぐに謝罪の言葉を口にした。

 

「とりあえず時間も潰せたな。

 この後はどうする?」

 

「そろそろ解散にしないとな

 訓練時間はここにいていいけど、私たちも新人どもも仕事があるしな」

 

「そうだね、それじゃあみんな。

 今日は解散!

 デスクワーク、頑張ってね!」

 

「エリオとキャロは明日は模擬戦があるから早めに上がってもいいからね」

 

「はい!」

 

「わかりました!」

 

「それじゃ、失礼します」

 

「ありがとうございました!」

 

フォワードの四人はそれぞれロビーを後にした。

その後、シグナムとヴィータもそれぞれの仕事場に向かいその場を去っていった。

そしてロビーに残ったのはなのはとフェイトの二人だけとなった。

 

「それで、なのは。

 気になることって?」

 

「うん、今日の模擬戦のことなんだけど……」

 

「模擬戦で何かあったの?」

 

「スバルとティアナの作戦、どこかで見たような感じがしたの。

 知識としては知らないけど、こう身体が覚えてるみたいな感じで」

 

なのはは頭を指で叩きながらフェイトにそう伝えた。

 

「確かに、外から見ててもなのははティアナのスナイプシューターを紙一重で躱していたね。

 まるでそこにあるのがわかってるみたいに」

 

「うん。

 レイジングハートが警告してくれてすぐになんか身体が動いたの。

 いつもなら少し隙ができるはずなんだけど……」

 

「気になる?」

 

「ううん、ちょっと不思議に思っただけ。

 あの作戦はティアナが一から考えたって言ってたし、教本やほかの戦闘データを見てもあの戦術は乗ってなかった。

 確実に二人のオリジナル。

 だからそれを紙一重といっても躱しきった自分がなんか変に思えちゃって」

 

「まぁ、時間が経てば思い出すかもしれないよ。

 とりあえず今日の分の仕事しないと」

 

「そうだね、ごめんねフェイトちゃん。

 時間取らせちゃって」

 

なのはの言葉にフェイトは首を横に振って微笑んだ。

 

「別にいいよ」

 

「ありがとう、フェイトちゃん」

 

なのはは何とも言えない気持ちを胸に抱えながらも、教え子たちが自分の訓練の意味を理解してくれたことに対して嬉しさを隠しきれないまま、その場を後にした。

 

 

 

 




どうも、ちょっと批判的な感想をもらってモチベーションがダウンしてます。
いや、批判的な意見も大事だってことはわかるんですが、やっぱりそう言うことを感想で書かれるとかなりきますね。

ここでみなさんにちょっとお尋ねしたいことが。
前話での感想で『なのはの性格改変しすぎじゃね、アンチタグつけとけよ』的な意見があったのですが、つけた方がいいでしょうかね?
感想のついでに皆さんの意見をお聞かせいただければ幸いです。

あ、ちなみになのはとフェイトの最後の会話はフラグですよ?

最後に、二週間後にテストが始まるので、しばらく更新をストップさせていただきます。
それではまた次回


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第二十三話

お久しぶりです。
テスト勉強の合間にぼちぼち書いて一話完成したので投稿したいと思います。
なんか普段よりも筆の進む速さが早かった(笑)


スターズの模擬戦の翌日。

訓練場は先日と同じ廃棄都市区画でフェイトとエリオ、キャロの三人は向かい合っていた。

 

「それじゃあ二人とも、準備はいい?」

 

「はい!」

 

「よろしくお願いします!」

 

フェイトの言葉に力強く答える二人。

そんな彼らを見てフェイトは頷き、離れたところで待機しているシグナムに通信を送る。

 

「シグナム、お願いします」

 

『心得た。

 ……はじめ!!』

 

シグナムの凛とした声による開始の合図とともにキャロはある魔法を発動させつつ、昨日スバルとティアナに言われたことを思い出していた。

 

 

 

 

「いい?

 フェイトさんの一番の武器はその高速移動。

 いくらリミッターが掛けられているって言ってもアンタたちじゃまず捉えることは難しいでしょうね」

 

「そ、それじゃあどうすれば……?」

 

「一番の武器ってことはそれを使わせないようにすればいいってことだ。

 やり方はお前たちで考えるとして、俺たちから言えることは……」

 

 

 

 

 

 

「キャロ!」

 

「うん、エリオ君!

 フリード、ブラストフレア!!」

 

キャロの掛け声とともにフリードの口から炎の塊が連続で放たれ、それはフェイトに辿り着く前にその場から消え去った。

 

《後ろです!》

 

「ッ!?」

 

フリードの火球が消え去ったことを疑問に思ったフェイトに愛機からの警告が届く。

それを耳にしたフェイトは考えるよりも先にその場から飛び去った。

その直後、彼女のいた場所にフリードの火球が直撃し、周辺に炎を撒き散らした。

 

「なるほど、そういうことか。

 考えたね、キャロ」

 

フェイトは火球の飛んできた方向を向くとそこにはキャロの魔力光を放つ転移の魔法陣が浮かび上がっていた。

 

 

 

 

 

「ティアナ、スバル。

 あれはお前たちの入れ知恵か?」

 

「いえ、確かに『先制攻撃でペースをつかみ取れ』とは言いましたけど……」

 

「あれはあいつらが自分で考えた方法ですよ」

 

離れたビルの屋上で模擬戦の観戦を行っていたシグナムが隣に立つスターズの新人二人に尋ねる。

彼女の質問に対してスバルとティアナはどちらも驚いた表情で答えた。

 

「キャロのやり方は最適な方法だね」

 

「あぁ、フェイトの高速移動は別に瞬間移動しているわけじゃねぇ。

 必ず通る道ってのがあるからな。

 普通なら当たらない攻撃でも……」

 

「キャロの転送魔法ならその道を防ぐように攻撃を送ることができる」

 

「それだけじゃないだろうな、エリオも何かしらのやり方を持ってると見てもいいな」

 

 

 

 

 

 

「やるね、二人とも。

 だったら……!」

 

《Haken Saber》

 

「ハァッ!!」

 

キャロからの攻撃を避けながらも、フェイトの顔には笑みが浮かんでいた。

そして、バルディッシュの鎌の部分をキャロへと向けて放った。

 

「エリオ君!」

 

「任せて!

 ストラーダ!!」

 

《Load cartridge》

 

「プラズマビュート、行けッ!!」

 

フェイトの魔力刃が迫る中、エリオはキャロの前に立ちストラーダを構える。

構えた槍から薬莢が吐き出されると同時に、雷撃の鞭がやりの穂先から飛び出し魔力刃を絡め取った。

 

「うそっ!?」

 

「返しますよッ!!」

 

《Haken Saber》

 

エリオの魔力を付加された刃はその持ち主に歯を剥いた。

まさか自分の魔法をそっくりそのまま返されるとは思っていなかったフェイトはバルディッシュで刃を切り払う。

 

「ッ!」

 

「デヤァアッ!!」

 

だが、その隙を逃さずにエリオはフェイトに接近し切りかかった。

 

「いいタイミングだ。

 だけど!」

 

「クゥッ!」

 

フェイトは障壁を展開しストラーダの刃を受け止めた。

すぐさまその場から離脱しようとしたエリオだったが、フェイトの張った障壁にストラーダの刃が食い込み離れず、フェイトのかざした手から放たれた魔力弾を喰らってしまった。

 

「エリオ君!」

 

「大丈夫!」

 

魔力弾を身体に決められたエリオだったが、あたる直前に張った障壁に魔力弾を防ぐことに成功したエリオはフェイトの障壁を蹴り飛ばすことでストラーダを引き抜き、その場から後退した。

 

「キャロ、アレをやる。

 頼むよ」

 

「任せて、エリオ君。

 フリード!」

 

エリオの言葉に頷いたキャロはフリードにブラストフレアを発射させる。

先ほどとは違い、転移の魔法陣を利用せずに放たれた火球は彼女の近くのビルに直撃しその瓦礫でフェイトの視界から二人を隠した。

 

「我が求めるは、戒める物、捕らえる物。

 言の葉に答えよ、鋼鉄の縛鎖。

 錬鉄召喚、アルケミックチェーン!」

 

未だに視界の晴れないフェイトの耳に聞こえてきたのは鎖を引きずる音。

その音が聞こえた直後、彼女のいる空間の四方八方から彼女の退路を塞ぎ、捕らえんと鎖が放たれた。

 

「この鎖、キャロだね。

 でも!」

 

退路を塞がれたとしてもフェイトは慌てることなく自身に襲い掛かってくる鎖をバルディッシュで切り払う。

その様子を見ていたキャロの顔には笑みが浮かんでいた。

 

「エリオの攻撃が来ない……。

 この隙を逃がさずに来ると思うんだけど……ッ!!」

 

鎖を払いながらフェイトはエリオの気配を探っていた。

キャロの鎖に周囲を囲まれ動きを止めた今に仕掛けてこないということはないということを彼女はだれよりもわかっていた。

 

《マスター!》

 

「……ッ!」

 

そして、彼女は目にした。

彼女のいる場所からさほど離れていない距離にあるビルの屋上に立つ少年を。

 

 

 

「ストラーダ、行くよ」

 

《了解》

 

「カートリッジロード!」

 

ストラーダから魔力が溢れ、穂先から紫電が走る。

雷を纏った槍をエリオは構え、そして飛んだ。

 

「はぁぁあっ!」

 

《Speerschneiden》

 

エリオはストラーダの穂からブースターがせり出し、空中でさらに加速する。

それを見たフェイトはすぐにそちらへと意識を向けた。

 

「貫くッ!」

 

「バルディッシュ」

 

《Haken Slash》

 

魔力の刃でストラーダを受け止めたフェイトだったが、加速によって勢いのついたエリオを止めることはできなかった。

 

「……ッ!」

 

「キャロ!」

 

「任せて……!」

 

大きく体勢を崩したフェイトをさらにフリードの火球が全方位から襲い掛かる。

フェイトは障壁を張りながら、最大加速で火球群を突破する。

だが、その行動を見極めていたエリオが彼女の上をとっていた。

ストラーダによる加速を行い、紫電を右足に纏わせたエリオは、フェイトへと一直線に落ちてきた(’’’’’)

 

「ライトニング……フォールッ!!」

 

「クッ!」

 

エリオからの渾身の一撃を障壁越しに受け止めたフェイトはそのまま地面へと叩き付けられる。

フェイトが叩き付けられた衝撃で舞い上がった土煙で彼女の姿を見失ったエリオは思わずある言葉を口にしてしまう。

 

「やったか…!」

 

所謂、やられていないフラグである。

 

「うん、今のはよかったよ」

 

「なッ……!」

 

後ろから聞こえてきた声にエリオは驚きの声をあげる。

視界の端に金色の髪が通り過ぎたと感じた直後、彼は浮遊感を感じていた。

 

「クッ……!」

 

「エリオ君……!」

 

キャロは投げ飛ばされたエリオを受け止めるが、子供である彼女では同じほどの体格であるエリオを受け止めることはできず、大きく体勢を崩してしまった。

 

「これって……!」

 

「バインドッ!?」

 

体勢を立て直そうとする二人だったが、バインドをかけられ、ダメ押しに周囲にフェイトの射撃魔法である『フォトンランサー』が所狭しと展開されていた。

 

「二人とも、まだやる?」

 

「「こ、降参です……」」

 

フェイトの最後通告に顔を引き攣らせながら二人は両手を上げて降参を告げた。

 

 

 

 

 

その後、スターズ、ライトニングの模擬戦の映像を見ながらフォワード陣の反省会が行われた。

スターズについては特に問題はなかったが、ライトニング、特にエリオの戦い方については賛否両論であった。

賛成側であるシグナム、スバルの意見は「近接型は近づいてなんぼ。近づくためには多少の無茶はしょうがない」というものであった。

また、反対側であるなのはの意見については「小さいときからの無茶はダメだって」というものだった。

結局、今回の模擬戦で行われたエリオの『ライトニングフォール』についてはよっぽどのことがない限り使用不可、ということになった。

エリオは少し残念そうにしていたが、キャロと二人でフェイトに勝てたことをよろこんでいた。

そして、フェイトはそんな二人を見て嬉しそうに笑っていた。

 

 

 

おまけ

 

 

「さて、スバル。

 チョットお話しようか」

 

「え、ちょ、なのはさん?」

 

「エリオの技って絶対スバルから影響受けてるよね。

 そのことについてじっくりお話ししよう?」

 

「ティ、ティアナ!

 助けて!!」

 

「……スバル、あんたのことは忘れないわ!」

 

「は、薄情者ーッ!!」

 

 

そんな会話を聞いたヘリパイロットがいたとかいないとか……。

 




というわけで、ライトニングの模擬戦でした。
エリオとキャロの初見殺しの連携を経験でひっくり返したといったところです。
補足すると、エリオの技がフェイトの障壁にヒットし、地面に叩き付けられる直前に砂埃を起こしながら高速移動でエリオの背後にまわった……といった感じですね。
実を言うと、この話は最初はエリキャロの勝ちで話が終わったんですけど、フェイトに活躍の場というか、年上としてのかっこいいところがなかったのを思い出してこの形になりました。
そして、エリオの最後のライトニングフォールなんですけど、GODでアルフが同じ名前の技使ってまして、どうしようとなってしまいました(笑)。
次の更新はしばらく後になります。
それでは!


オリジナル魔法

名前 ライトニングフォール
使用者 エリオ
種別 魔力付与体術

管理局に保管されている戦闘データの中からフェイトの使い魔であるアルフの技を彼なりにアレンジしたもの。
ストラーダによる加速を用いて相手に電撃を付与した踵を叩き付け地面に叩き落とすという技。
ストラーダを加速装置として使うため、オリジナル以上の威力を持つ。
ただし、エリオの身体にかかる負担が非常に大きいために乱発は禁止ということになってしまった。

元ネタは『魔法少女リリカルなのはA's GOD』からアルフのフルドライブバースト『ライトニング』及び、『スーパーロボット大戦シリーズ』の雷鳳の技『ライトニングフォール』より




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第二十四話

とある研究施設にて、その少女は首を傾げていた。

 

「う~ん……」

 

少女こと、戦闘機人No.9『ノーヴェ』は先日であった彼女のオリジナルといってもいい少年、スバルのことで頭を悩ませていた。

 

「このなんか喉の奥に魚の小骨がつっかえたような感じ……。

 何とかなんねぇのか……」

 

そんな彼女の背後から近づく影が一つ。

ノーヴェの真紅とはまた違った赤色の髪をした少女、戦闘機人No.11『ウェンディ』だ。

 

「ノーヴェ、な~に悩んでるんッスか?」

 

「なんだ、お前か」

 

ノーヴェのその態度にウェンディは唇を尖らして抗議の声をあげた。

 

「なんだはないっすよ……。

 せっかく相棒が心配してやってるっていうのに……」

 

「え?」

 

「え……」

 

ノーヴェはウェンディの相棒という言葉に疑問の声を上げ、ウェンディは彼女のその態度に落胆の声をあげた。

 

「なんすか、今の『お前が心配、明日は雨でも降ってくるんじゃないか』みたいな声は!?」

 

「いや、明日はチンク姉のナイフが降ってくるんじゃないかとは思ったが」

 

「なお酷いっすよ~!!」

 

ノーヴェのあんまりな言葉にウェンディは涙目になりながらノーヴェに抱きついた。

そんな彼女の顔を手で押しのけようとするノーヴェだったが、どちらも戦闘機人として強化された肉体を持ち、結局はどちらからともなく離れることになった。

 

「それで、本当にどうしたッすか。

 いつのもノーヴェなら、『なんでもねぇ!』で済ませるのに」

 

「……お前にはぜってー言わねぇ」

 

「え~!?

 なんでっすか!?」

 

「だってお前口軽いだろ」

 

「軽くないっすよ!!

 面白そうなことならペラペラしゃべるッすけど」

 

「それでよく口が軽くねぇって言えるな!!」

 

「つまり、ノーヴェの悩んでることはあたしにとって面白いことってことっすね!!」

 

「あ、しまった……」

 

ウェンディの返事に、ノーヴェは自分の失言を悟った。

その様子を見たウェンディは自分の中でノーヴェの悩むことについて絞り出していった。

 

「わかったっす!

 今日の晩御飯の当番がメガ姉ってことが悩みッすね!!」

 

「ちげぇよ、なんであたしが晩御飯のことで悩まないといけねぇんだ。

 お前じゃあるまいし」

 

「酷い!?

 じゃぁ、チンク姉と喧嘩したとかっすか?」

 

「なんであたしがチンク姉と喧嘩するんだ。

 ありえねえだろうが」

 

「考えてみたらそうっすね。

 チンク姉大好きっ子なノーヴェがチンク姉と喧嘩するなんてありえないっすよね」

 

「非常に突っ込みたい発言があったが無視するぞ」

 

「あとは……。

 あんまり思いつかないっすね。

 せいぜいこの間あったタイプゼロの弟の方のことぐらいっすかね……」

 

「ッ!」

 

この時、ノーヴェは自分の犯した痛恨のミスを悔やんだ。

この喧しい相棒のような少女にその反応を見られたことだ。

 

「お、なんか脈ありッすか~?」

 

「な、何の事だか……!」

 

「知ってるッすか、ノーヴェって嘘つくとき右上の方を向くッすよね……」

 

「え、マジか……あ」

 

「むふふ~」

 

二度あることは三度ある。

ノーヴェは今日だけでウェンディに引っ掻き回されてばっかりだった。

 

「な、なんだよ……」

 

「諦めるっすよ、ノーヴェ。

 もうネタは割れてるッすよ。

 とっととゲロっちまった方が楽になるッすよ?」

 

ウェンディからの追及に耐え切れなくなったノーヴェはついに自分の胸に収めていた思いを吐露した。 

彼女の思いを聞いたウェンディは神妙に頷き、口を開いた。

 

「なるほど、そう言うことだったっすか。

 ここはあたしも一肌脱ぐッすよ!」

 

「いや、お前は別に何もしなくてもいいから」

 

「そう言わずに!

 まずはほかに意見を聞いてみるッす!!」

 

「はぁ!?

 ちょ、まてぇえー!?」

 

ノーヴェの制止を無視してウェンディは彼女の襟元をつかみ取ると、その場から走っていってしまった。

 

 

 

 

 

 

「ん?

 ノーヴェとウェンディが?」

 

『はい、何やらノーヴェがウェンディに悩みを打ち明けたところウェンディが暴走して……』

 

「ハハハ、彼女はどちらかというとセイン似になったのだろうね。

 いいじゃないか、あの二人はもともとコンビでの戦闘を行うのをメインにしている。

 仲がいいのはいいことだよ、姉妹としても、コンビとしてもね」

 

とある部屋でスカリエッティは長女ウーノから二人についての報告を受けていた。

ウーノの少し不満気な表情に対するスカリエッティの顔からは嬉しさが滲み出していた。

 

「ノーヴェがタイプゼロ・セカンド……いや、あえてスバル君と呼ばせてもらおう。

 彼と出会ったことは完全な偶然だったが、それはいい結果だったのかもしれないね」

 

『しかし、今のノーヴェには揺らぎが多すぎます。

 このままだと作戦に支障が……』

 

「それも含めていいんだよ。

 彼女のそれは人間としての心が育っているということだ。

 君たちは戦闘メカじゃあないんだからね。

 人としての揺らぎ、大いに結構。

 彼女たちがどのように育っていくのか、私はものすごく楽しみだよ」

 

スカリエッティのとても楽しそうな表情を見たウーノはそれ以上何も言わず、一つため息を吐くのだった。

 

 

 

 

 

 

 

「まずはディエチからッす!」

 

「いや、いきなり何の用?」

 

ノーヴェを引きずり回したウェンディは研究所の中にあるメカニックルームに来ていた。

そこには戦闘機人No.10『ディエチ』が自分の固有武装である『イノーメスカノン』をばらしていた。

 

「実は、かくかくしかじかで」

 

「それじゃ伝わらねえだろうが」

 

「まるまるうまうまということか。

 ゴメン、私もそれはわからないかな」

 

「いやなんで伝わってんだよ……!」

 

「そうっすか、まぁあまり期待はしていなかったっすけどね。

 それよりも、ディエチは何をしてるっすか?」

 

ウェンディはディエチに尋ねる。

そんな妹をちらりと見ながらディエチはイノーメスカノンの整備を再開した。

 

「前にドクターの手伝いをしてね、その時に言われたんだよ。

 『自分の使うモノは出来るだけ自分で整備した方がいいよ。

  その方がどんな調子なのかつかみやすいからね』って

 それでちょっと自分でやってみたら、いつも以上にやりやすくなったから、それ以来自分でやるようにしてる」

 

「なるほど……。

 確かにそうかもしれないっすね。

 それで、こっちのは何なんっすか?」

 

「これってガジェットⅠ型……?

 それにこっちはⅢ型改のデータも……」

 

ディエチの言葉を聞いて頷くウェンディと興味なさそうにしながらもしっかりと話を聞いていたノーヴェは彼女の机の端の方に置いてあった端末に目を向けた。

 

「あぁ、それはイノーメスカノン(これ)の整備中にちょっと考えたんだ。

 ガジェットは数をそろえるためのものだってのはわかってるんだけど、さすがにあれだけの数があって全部同じ装備ってのは見栄えがしないからね」

 

ディエチはウェンディから端末を受け取ると、あるページを開き、二人にも見せた。

 

「これはガジェットⅠ型改ってところかな」

 

「なんかゴテゴテつけてるっすね」

 

「重そうな機体だな……」

 

二人の感想にディエチは頷きながら言葉をつづける。

 

「これは言ってみればフルアーマーガジェットってところかな。

 確かに機動性は極端に落ちるけど、その代わりにこの後付装甲(イコライザ)に大量のエネルギー弾を詰め込める。

 一回で全部打ち切ればいいだけの話だから、撃ちきったらそれで終わりの機体」

 

 

「なんでそんなん考えたんだ?」

 

ノーヴェのもっともな質問にディエチは静かに答える。

 

「だってそっちがかっこいいじゃないか」

 

「「え……?」」

 

「フルアーマーは浪漫だって、これに書いてあったからね。

 それに、こっちのⅢ型改カスタムには私のイノーメスカノンの改良型を乗せて……」

 

「ちょ、ディエチ?

 どうしたッすか!?」

 

「なんかスイッチ入っちまったみたいだな……」

 

急に饒舌になったディエチに驚くノーヴェとウェンディだったが、彼女の話を聞き終えるまでの約一時間、ひたすら浪漫武器(いわゆる現実味のない巨大ロボの武装)について聞かされたのだった。

 

 

 

 

「うぅ~疲れたッす~」

 

「ディエチにあんな面があったなんて……」

 

その後、メカニックルームから退散した二人が次に来たのはトレーニングルームだった。

今、その部屋の中では四人の少女たちがいた。

トーレ、チンクの上位ナンバーの二人と、つい最近目覚めたばかりであるNo.8『オットー』とNo.12『ディード』の二人。

今は、トーレとチンクの二人が一対一で模擬戦を繰り広げている最中だった。

 

 

「ちょうどいいっす、あの二人に聞いてみるッすよ!」

 

「あの二人って……」

 

ウェンディの向かった先にいる二人を見てノーヴェはため息を吐いた。

 

「オットー、ディード、ちょっといいっすか?」

 

「はい」

 

「なんでしょうか、ウェンディ」

 

「実はノーヴェがかくかくしかじか~というわけなんすよ~」

 

ウェンディの言葉にオットーとディードはお互いの顔を見て一言。

 

「ウェンディ、そのような言葉では何を言っているのかわかりません。

 もし言語機能に障害が出たのなら検査することをお勧めしますが」

 

「う~ん、まだ二人には早かったっすかねぇ?」

 

「いや、この二人はまだ起きてから一月も経ってねえから」

 

ノーヴェの突っ込みにウェンディは「そうだったっすね、ならまだできなくて当然っす!」と呟いた。

そして、その言葉を聞いたディードがウェンディに尋ねた。

 

「ウェンディ、その技能は習得した方がよろしいのですか?」

 

「必要なら、僕たちも習得するように努力しますが……」

 

「そうっすね、まぁ二人はまだ生まれたばかりっすから、少しずついろんなことを覚えていく方がいいっすよ!

 そのうち教えてあげるッすから!」

 

ウェンディの言葉に二人は頷いた。

そうしているうちに、トーレとチンクがノーヴェたちのいる方に向かって歩いてきていた。

 

「なんだ、二人とも。

 来ているのなら声をかければいいものを」

 

「いやー、お二人があまりにも真剣な表情で模擬戦をしていたッすからね。

 声をかけるのをためらってたッすよ。

 二人は何であんなに真剣にやってたッすか?

 いつもなら軽く流す程度なのに」

 

「今日の夕飯、どちらが先に口をつけるかということでな。

 模擬戦で負けた方が晩御飯を誰よりも早く口をつけるということにしていたのだ」

 

トーレの答えにノーヴェたちは首を傾げた。

オットーとディードは無表情で、だったが。

そんな妹たちの様子を見て、チンクは苦笑しながら説明した。

 

「今日の晩御飯の担当はクアットロだっただろう?

 だから、何か仕掛けてくるだろうからな」

 

「あいつが担当の時の夕飯がどのようなものか、忘れたわけではないだろう?」

 

「ま、まさか!

 メガ姉が当番の時いっつも一番にトーレ姉とチンク姉が箸をつけていたのは……!」

 

「妹たちをクアットロの魔の手から守るためだ。

 どんなことものでも飲み込んで見せるさ」

 

「話が逸れたな。

 それで、ノーヴェはどうなんだ」

 

「……あたしたちはさ、ドクターの目的のために生み出されたんだよな。

 ドクターの夢、叶えてやりたいって思ってる。

 だけどさ、それと同じくらいにやりたいことができて……」

 

ノーヴェはそう答え、そして。

 

(それも、自分のオリジナル……あいつのことが頭から離れないないなんてな……)

 

他の皆には言わずに、心の中でそう呟いた。

 

「あたしはどうすればいいんだろうな」

 

妹の疑問に姉であるトーレとチンクは微笑みながら答えた。

 

「なら、とにかくやってみるだけだろう。

 自分のやりたいこと、なすべきと思ったこと。

 どうすればいいじゃない。

 やるかやらないか、だ」

 

「ちょうど、例のマテリアルの反応が出たらしい。

 ドクターに頼んでみたらどうだ?

 悩んでいるときには身体を動かすのが一番だ」

 

「いい、のかな……

 自分のやりたいことやって」

 

ノーヴェは姉の言葉を聞き、一人呟く。

そして、部屋の外へと向かって走り出していた。

 

「トーレ姉、チンク姉!

 サンキュー!

 ちょっと、ドクターに頼んでくる!!」

 

「あ、ちょっと待つッすよ、ノーヴェ!!」

 

「「やれやれ」」

 

二人が走って去っていったのを見届けた二人は苦笑しながら言葉を交わした。

 

「トーレ、さっきノーヴェに言ったこと、誰からの受け売りだ?」

 

「誰からでもない、これだ」

 

チンクの問いにトーレは懐から取り出した『友情、努力、勝利』を題目とする週刊誌をチンクに渡した。

 

「これは?」

 

「ある管理外世界の雑誌だ。

 中々に面白いものが多くてな。

 以前あの世界の近くに寄ったときに寄り道して買ってきた。

 それ以降続きが気になってな」

 

中々やめられんよ、とトーレは笑いながらそう呟いた。

チンクはため息を吐きながら隣に立つ姉に向かって口を開いた。

 

「私は近く、仕事が入ってくるはずだ。

 ノーヴェたちのことは頼むぞ、トーレ」

 

「あぁ、当たり前だ。

 特にノーヴェはドクターが許可するなら初の実戦だ。

 注意しておくさ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ドクター!」

 

「おや、ノーヴェ。

 答えは出たのかい?」

 

「なんでドクターが……ってそれはもういいんだ。

 マテリアルとレリックの回収、それにあたしも行っていいか?」

 

研究所に入ってきたノーヴェを認めたスカリエッティは手に持っていたコーヒーの入ったカップをテーブルの上に置きながら尋ねる。

ノーヴェはスカリエッティが自分が悩んでいたことを知っていたことに対して驚きを示していたが、すぐに気持ちを切り替えて、生まれて初めてのお願いをしていた。

 

「ノーヴェ、あなたの武装はまだ調整中よ。

 そんな状態であなたを出すことはできないわ」

 

「え……」

 

スカリエッティの隣に立つウーノからそう告げられて、ノーヴェはとても残念そうにうなだれていた。

そんな彼女を見ながらスカリエッティは笑う。

 

「ハハハ、ノーヴェも人間らしくなってきたね。

 そんなに行きたいのかい?」

 

「あ、アァ!」

 

「ふむ、決意は固い、か」

 

なら、と呟きながらスカリエッティは端末を操作しあるものを呼び出した。

部屋の壁の中からロボットアームを使い、あるものがスカリエッティの机の上に置かれた。

 

スカリエッティはノーヴェは近くまで寄らせると、それを彼女に渡した。

 

「ドクター、それは!」

 

「これって……」

 

「『プロトナックル』と『プロトエッジ』だ。

 君の『ガンナックル』と『ジェットエッジ』の試作型だけど、性能は保証するよ」

 

スカリエッティはそう言いながら散らばった資料の中から一枚を取り出し、ノーヴェに手渡した。

 

「その二つのマニュアルだ。

 一つ約束できるなら、その装備で出ることを許そう」

 

「ホントに!?」

 

「あぁ、だけど君はまだ実戦経験はないんだ。

 いざというときのバックアップに徹すること。

 それだけ約束してくれ」

 

スカリエッティは笑みを浮かべながらノーヴェの頭に手を置き、髪を撫でた。

その笑みは、普段の彼が浮かべるような悪人顔ではなく、ただ一人の父親としての笑みだった。

 

「わかった」

 

「よろしい。

 さて、では協力者にも連絡を入れておくとしよう。

 ルーテシアはともかく、アギトは私のことを信用はしていないだろうからね」

 

スカリエッティは肩を竦めながら部屋に置かれている通信機で通信を始めた。

 

「ノーヴェ、その二つの装備はドクターが作ったとはいえ試作品です。

 決して無茶をしないように」

 

「わかったよ、ウーノ姉」

 

ノーヴェはそう言ってその部屋を後にした。

その背中をウーノはどこか心配そうに見つめていた。

 

 

 

 

「ウーノ、チンクを呼んでくれないかな」

 

「チンクをですか?

 わかりました」

 

ノーヴェが部屋を出ていってからしばらくして、スカリエッティは眉間に皺を寄せて画面を睨んでいた。

 

「まさか、この私が出し抜かれるとはね……」

 

スカリエッティはそう呟くと、笑みを浮かべながらキーボードをたたき始める。

 

「いいだろう、ならば徹底的に潰させてもらうとしようか!」

 

彼の見つめる画面には『 type the end 』、『 type 5 』と映し出されていた。

 

 




どうもお久しぶりです。
ようやく試験が終わったのでとりあえず投稿です。

今回は完全にスカさんサイドのお話でした。
自分のやりたいことに悩むノーヴェ、相棒の悩みをどうにかしようとして引っ掻き回すウェンディ。
ナンバーズの別の顔を主に書いていったのですが、ちゃんと皆さんに伝わるか不安です(笑)。

さて、この作品のスカさんはほかのスカさんとは一味違うというところを次第に明かしていきたいと思っていますので、お楽しみに!



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ルート分岐

連続投稿!
今回は短めです。


スバルは薄く明かりの灯ったメンテナンスルームである作業をしていた。

彼の目の前に置かれたそれは、以前まで彼が使用していたローラーブーツ。

マッハキャリバーとは別に、彼にとっては思入れのある品だった。

 

『この子が私の先輩ですか、相棒』

 

「ん?

 あぁ、そうだ。

 そして、俺が初めて自分の手で一から作り上げた最初の相棒」

 

外装を取り外して内部をむき出しにしていたそれを見ていたスバルはマッハキャリバーの言葉に頷いた。

 

「やっぱり所々無理があったんだよな。

 まだまだだったってことだ」

 

懐かしむように呟きながらローラーブーツの部品を手に取って異常がないかを確認する。

 

『ですが、相棒ともに走り抜けてきた。

 今の私よりも、ずっと長く』

 

「なんだ、マッハキャリバー。

 嫉妬してるのか?」

 

スバルは愛機の言葉に苦笑しながら工具を手に取って部品を取り付ける。

 

『私たちデバイスに心があるのなら、そうでしょうね。

 なんとなくですが、この子が相棒と駆け抜けた日々は到底かなわない。

 それほどまで相棒とともにいれたことに対して羨ましいし、少し悔しくも思います』

 

あまりにも人間じみた言葉にスバルは目を見開き、驚き、そして相棒に声をかけた。

 

「まぁ、こいつは俺の魔導師としての毎日を一緒に走ってきたからな。

 まぁ、今の相棒はお前だ、マッハキャリバー。

 今まではこいつが俺の相棒だった。

 だけど今はお前が俺と一緒に走ってくれる。

 これ以上のことは考えられないよ」

 

『相棒……。

 わかりました。

 いつか、一番のパートナーだと言われるその日まで私はあなたと一緒に駆け抜けます』

 

「今でもそう思ってるんだがな……」

 

『私が自分でそう言える時までということです。

 それまで、よろしくお願いします』

 

「おう、これからもよろしく頼むぞ、マッハキャリバー」

 

スバルは愛機からの言葉をうれしく思いながらローラーブーツを見つめる。

 

「やっぱり、最後の部品が重要か」

 

本来、このローラーブーツはマッハキャリバーの予備として取っておいたスバルだったが、マッハキャリバーの頑丈性はピカイチであり、その必要性はないと感じていた。

そこで、彼は別の用法で再利用することを考えた。

 

『この子は相棒がまた使用するのですか?』

 

「いや、それはない」

 

マッハキャリバーの言葉を聞いたスバルの頭の中には一人の少女が映し出されていた。

愛機の言葉を否定し、外装を取り付けたローラーブーツを持ちあげる。

 

「まぁ、あいつなら扱えるだろうしな」

 

 

 

 

 

 

 

メンテナンスルームから出たスバルは、夜空の下、隊舎から寮までの道を歩いていた。

そんな彼にマッハキャリバーが声をかける。

 

『そう言えば、相棒。

 何時ぞやの眼鏡をかけた女性から連絡はあったのですか?』

 

「ん?

 あぁ、まだないな。

 どうしたんだ、急に」

 

『いえ、相棒の軟派な態度に対して少し思うことがあったのですが……』

 

もしも、マッハキャリバーが人間だったならため息を吐きながら出てきそうな言葉である。

そんな愛機の様子を疑問に思ったスバルはすぐに尋ねる。

 

「なんだよ、軟派な態度って」

 

『ティアナさんという女性(ひと)がいながらほかの女性に連絡先を教えるところですよ』

 

「いや、そこでなんでティアナが出てくるんだよ……。

 だいたい、あいつは仕事上のパートナーであって、そう言う関係じゃ……」

 

『では、相棒は彼女のことを誰かに取られてもいいと考えているので?』

 

マッハキャリバーの言葉にスバルは言葉を濁らせる。

 

『まぁ、此処から先は相棒が自分で決めることです。

 私は一切関与しませんので』

 

『それでは』といながらスリープモードに入った愛機を見ながらスバルは「なんなんだよ、いったい」と呟きながら頭を掻く。

 

 

 

 

 

 

寮までの道を歩きながらスバルはマッハキャリバーに言われたことを思い返していた。

ティアナのことをほかの誰かに取られてもいいのか。

その言葉を聞いたとき、スバルは彼女が自分以外の男と一緒に仕事をしている姿を思い浮かべてみると、自身でも考えられないほどにイラつきが生まれていた。

 

「なんかいやなんだよな、それって」

 

そして、いったんティアナのことを頭の外へたたき出すと、もう一人の少女のことを考える。

以前町で偶然出会った少女。

名前すらも聞いていないが、どことなく他人に思えないその少女のことを考える。

 

だけど、その途中で彼の頭に橙色の髪の少女がチラついた。

そのことに驚きを感じたスバルは二人のことを考えるのを意識してやめた。

だが、その後もずっと二人の顔のことが頭から離れなかった。

 

「あー、もう!

 なんなんだよ、まったく!!」

 

頭を掻きむしりながら大声を上げるスバル。

そんな彼の携帯端末が不意に音を立てた。

 

「こんな時間に誰だ?」

 

スバルは端末を取り出すと、そこに映し出された番号を見て目を見開きながらも通話のボタンを押した。

 

 



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ティアナルート 第一話

連続投稿三日目。
流石にこれで打ち止めです。
これ以降はいつも通りのペースで投稿していきたいと思います。


「さて、今日の最後の訓練は私との模擬戦ということだが、用意はいいな?」

 

「はい!」

 

いつもの如く、日課となっている早朝訓練最後の模擬戦。

この日のスバルの相手はシグナムだった。

 

スバルの返事を聞き、シグナムは愛剣『レヴァンティン』を構える。

 

「いい返事だ。

 では、来い!」

 

「行きます……ッ!」

 

掛け声とともに、スバルはその剣の間合いに飛び込んだ。

 

 

 

 

「はーい、今日の訓練はここまで!

 みんな、お疲れ様!」

 

「「「お疲れ様でした……」」」

 

「お、お疲れ様……でした……」

 

訓練後のミーティングで、なのはに返事をするフォワード四名だったが、みな疲れ切っており、返事にも元気がなかった。

特にひどいのはスバルだった。

彼の場合は、身体中小さな切り傷だらけで、膝はガクガクと震えており、今にも倒れてしまいそうな様子だった。

 

「ちょっとスバル、大丈夫なの……?」

 

「し、シグナムさん、パネェ……。

 こっちの攻撃全部切り払うし、逆に攻撃はこっちの防御ごと切り裂いてくるんだもん……。

 マジ死ぬかと思った……」

 

「なんというか、ご愁傷様?」

 

「「お、お疲れ様です」」

 

「あ、あはは……。

 シグナムさん、いったい何本模擬戦やったんですか?」

 

四人の中では一番体力のあるスバルがここまでへばっているのを不思議に思ったなのはは後ろに控えていたシグナムに尋ねる。

 

「ん?

 だいたい三本ほどだが?」

 

「シグナム相手に三本はきついよ……。

 スバル、よく頑張ったね……」

 

「相変わらず容赦ないな、お前」

 

「何を言う、私は二本目で止めたんだが、スバルがあと一本と言ってな、仕方なしに三本目をやったんだ。

 ちなみに、最後の模擬戦の時、中々いい一撃を喰らわせてもきたがな」

 

フェイトやヴィータの言葉に反論しつつも、シグナムはスバルのことをほめていた。

 

「とりあえず、スバルはもちろんだけど、みんな。

 今日の訓練は厳しくしたんだけど疲れたかな?」

 

「え、えぇ」

 

「実は言ってなかったんだけど、今日の訓練が第二段階の見極めのテストだったんだ」

 

なのはの告白に四人の顔は驚愕に染め上げられた。

 

 

「で、どうだったかな?」

 

「合格」

 

「「はやっ」」

 

なのはの問いかけに即答するフェイト。

あまりにもの即答ぶりにスバルとティアナは声をあげた。

 

「ま、これでダメならそれも問題なんだけどな」

 

「その時は、また私たちが鍛えなおすだけだが」

 

「「あ、あはは……」」

 

ヴィータとシグナムの言葉にエリオとキャロは苦笑い。

 

「というわけで、訓練の第二段階終了!

 みんな、よく頑張ったね」

 

「デバイスのリミッターも、一段階解除することになるから、あとでシャーリーのところに行ってきてね」

 

「明日からはセカンドモードでの訓練を中心にしてやっていくからな」

 

「はい!」

 

「って、明日……?」

 

ヴィータの言葉にキャロが首を傾げた。

 

「あぁ、訓練再開は明日からだ。

 まぁ、第二段階終了の褒美みたいなものだな」

 

「今まで一人一人の休みはたまにあったけど、みんなでの休みはなかったからね

 今日は私たちも隊舎で待機だから」

 

「今日はこの後はフルでオフだよ。

 街にでも行って遊んでくるといいよ」

 

教官たちからの言葉に新人四人が喜んだのは語らずともわかるだろう。

 

こうして、機動六課の休日は始まったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

「ティアナ、あれとってくれ」

 

「はい、これね」

 

「サンキュー」

 

「あぁスバル、それ貸して」

 

「はいよ」

 

「ん、ありがと」

 

ヴァイスは目の前の光景を歯ぎしりをしながら見ていた。

あれやそれという言葉でレンチやドライバーを貸し借りしているスバルとティアナを見て彼は、"お前らどこの夫婦だ!"と叫びたい気持ちにかられた。

 

「これで良しっと。

 ヴァイスさん、工具貸してくれてありがとうございました」

 

「お、おぉ。

 しっかし、いつ見ても見事なもんだよな。

 そのバイク、お前が自分で作ったんだろう?」

 

ヴァイスは目の前に置かれているスバルのバイクを見ながらそう尋ねる。

 

「正確には俺たちですけどね。

 訓練校時代に皆で部品代出し合って一台作り上げたんです」

 

「それで、最後に所有権巡っての大乱闘。

 参加者はみんなまとめて教官の鉄拳喰らって沈黙しましたけど、スバルがそれを勝ち取ったってところです」

 

「ある意味ホラーだな、それって」

 

たった一つのバイクを求めて全員が敵のロワイヤル、B級映画も真っ青な状態である。

 

「いや、あの時の教官の拳骨はめちゃくちゃ痛かった。

 全員が一撃でやられたからな~」

 

「あたしは参加してなかったけどね」

 

「な、なんというか、すごい人だな。

 お前らの教官ってのは。

 まぁ、お前らの昔話はいつでも聞けるからいいとして、早く行かねえと時間なくなっちまうぞ」

 

ヴァイスは手を振って二人を早く行くようにせかした。

二人は彼の言葉に従ってバイクにまたがり、そのまま六課の出入り口に向かって走っていった。

そんな二人の背中が見えなくなるまで見ていたヴァイスは一言。

 

「青春しんてんなぁ……。

 対して、俺には誰一人……。

 いいもんね、俺にはラグナがいるから!」

 

シスコン此処に極まれりといった感じの一言だった。

 

 

 

 

 

 

 

「二人とも、ハンカチは持った?

 忘れ物はない?

 困ったことがあったらすぐに連絡入れるんだよ?

 あと、お小遣いは大丈夫?」

 

「あ、あの、フェイトさん」

 

「私たちも、もうお給料もらってますので……」

 

「あ、そうだったね」

 

「まったく、テスタロッサの過保護ぶりもすごいものだな」

 

「あぁ、まったくだ」

 

隊舎の玄関でエリオとキャロの身だしなみのチェックを行っていたフェイトに背後から声をかけたのはシグナムとヴィータだった。

 

「あ、二人ともどうしたの?」

 

「いや、私はこれから聖王教会の方へな」

 

「あたしは108部隊の方へな。

 ナカジマ三佐が合同捜査の捜査本部を敷いてくれるって話でな。

 あと、108の魔導師連中の教導。

 まったく、教導官の資格なんて取るもんじゃねぇな」

 

「でも、いやってわけじゃないでしょ?」

 

面倒くさそうに言うヴィータに、外から戻ってきたなのはがそう尋ねた。

その問いにヴィータはそっぽを向きながら「ま、まぁな……」と答えた。

 

「あ、なのは。

 スバルたちはもう行ったの?」

 

「うん、スバルの運転するバイクにティアナが後ろに乗ってね。

 まぁ、あの二人だから大丈夫だとは思うけど、ちょっと心配かな」

 

主にスバルがティアナに何か言って途中で事故ったりしないかという方面で、となのはは心の中でつづけた。

そんななのはの胸の中にしまっている言葉には気づかないフェイトはエリオとキャロを送り出した。

 

 

 

 

 

「ひゃっほうッ!」

 

「やっぱり気持ちいいわね!

 こうガツンと飛ばすってのは」

 

人っ子一人通っていない道を、スバルたちを乗せたバイクは制限速度ギリギリオーバーで走っていた。

その速さで感じられる風をスバルとティアナは存分に浴びていた。

 

「なんかこのままずっと走っていきたい気分ね」

 

「なんならこのまま走っていくか?

 別にそれでも構わないぞ?」

 

「んー、今日はいいかな。

 久しぶりに買いたいものとかあるし」

 

「そうかい、なら少しスピード上げるぞ!

 しっかり捕まってろよ!!」

 

「ちゃんと止まれるスピードでね!!」

 

そしてスバルがスピードを上げたために、ティアナは体制を崩さないようにスバルの背中に密着する。

その時、彼の背中にとても柔らかい二つのものが感じられたが、今はバイクの運転に集中することにしたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

それから、約三十分走り続けたスバルたちは、目的の街へとたどり着いていた。

 

「うーん、やっぱりツーリングってのは最高ね。

 ねぇ、あんたもそう思うでしょ?」

 

バイクから降りてヘルメットを外したティアナは大きく伸びをしながらスバルに尋ねる。

 

「あ、あぁ」

 

それに対してスバルは少し顔を紅くしながら答えた。

少し様子が変だと思ったティアナは彼に尋ねる。

 

「スバル、あんた体調でも悪いの?」

 

「いや、ちょっとな」

 

ティアナの問いにはぐらかす様に答えるスバル。

そんな彼に少し心配したティアナは彼に近寄る。

 

「ホントに大丈夫なの?

 本当のこと言いなさい」

 

「わかったよ……」

 

ティアナの問い詰めに観念したスバルは一度ため息を吐き、そして思っていたことを言い放った。

 

「ティアナってさ、着やせするんだな」

 

その直後、ティアナの顔が真っ赤に染まり、スバルの頬を思いっきり抓った。

 

「あんたは!

 なんで!

 そんなセクハラ発言を!

 こんな公衆の面前でするの!!」

 

「い、痛い痛い!!

 すまん!

 謝るから抓るのやめてー!!」

 

そんな会話を周囲の人々は暖かい目で見ていたそうだ。

 

 



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ティアナルート 第二話

ティアナルート第二話です。
今回は皆さんの大好きなあの人が登場しますよ!
それではどうぞ!


「なに、横転事故……?

 どうしてそんな案件が私のところに回ってきたんだ?」

 

地上本部の総指令室でレジアスは娘のオーリスの持ってきた資料に目を通して、そこに書かれた事故のことを尋ねる。

 

「いえ、ただの横転事故ではないらしいです。

 現在108部隊の捜査官からの報告で、事故にあったトラックは缶詰などの日用品を運んでいたそうですが……。

 現場にガジェットと思わしき物体と、生体ポッドの残骸が放置されていたそうです」

 

「生体ポッドだと……?」

 

オーリスの報告にレジアスは眉を顰めた。

生体ポッドとガジェットの残骸。

この二つのものが関わる事柄など数える程度にしか存在しない。

 

「レリックがらみか……」

 

「そう考えるのが妥当かと。

 どうなされます?

 一課の人員を派遣しますか?」

 

「いや、この案件は108に任せよう。

 108の部隊長はナカジマ三佐だったな。

 彼なら六課との協力で何とかしてくれるだろうからな」

 

「では、そのように」

 

「あぁ、頼む」

 

レジアスが書類に必要事項を書き加えオーリスに渡すと、彼女は一礼して部屋を去っていった。

娘が出ていったのを確認したレジアスは机の引き出しからある一枚の資料を取り出す。

 

「聖王教会から盗まれた聖王の聖遺物紛失……。

 なぜ今頃になって地上(こっち)に渡してきた、上層部の老害どもめ……!」

 

レジアスは資料を見ながらそう呟いた。

 

 

 

 

『そうか、そっちもちゃんと楽しんでんだな?』

 

「はい!

 シャーリーさんから渡された『これさえあれば一日楽しめるガイド』にあるところを一つずつクリアしていくつもりです!」

 

『クリアって……。

 まぁ、何か困ったことがあれば連絡してくれ』

 

『そんなに離れてるわけでもないから、すぐに行けると思うわ」

 

「はい、ありがとうございます」

 

「その時はすぐにでも連絡しますので」

 

『わかった。

 じゃ、しっかり楽しめよ!』

 

街の公園のベンチに座って休憩していたエリオとキャロはスバルたちからの通信が切れたのを確認すると、互いに笑いながらベンチから立ち上がった。

 

「それじゃ、次のところに行こうか……ってアレ……?」

 

「どうしたの、エリオ君?」

 

歩き出そうとしたエリオは何か気になったのか、後ろを振り返った。

キャロはそんな彼にどうしたのか尋ねる。

 

「いや、今スバルさんにそっくりな人がいたんだけど……」

 

「スバルさんに?

 でもさっきまで通信してたでしょ?」

 

「そう、だよね。

 うん、見間違いだと思う。

 パッと見たときの髪の色も違ったし……。

 行こうか」

 

エリオはキャロの指摘に頷き、自分の中でも納得させた。

彼はキャロの手を握って、公園の出口に向かって歩いて行った。

反対側の出口に向かった二人組の少女に気づかずに。

 

 

 

 

「マテリアルはこの街で行方が分からなくなった。

 その現場を見たかったとこだけど、案の定管理局がいたから、このまま私は予定地点に向かう」

 

「あぁ、マテリアルにはレリックも一緒にあったんだろう?

 なら、例の部隊が来る可能性が高い。

 あたしはそっちが目的だからな……。

 ルーお嬢様には?」

 

公園を突っ切り、廃棄都市区画に入っていった二人は周囲に気を配りながら歩みを進めていた。

茶髪の少女―――ディエチは隣を歩ているノーヴェに答える。

 

「レリックの回収はお嬢様とガリューがやるらしい。

 ノーヴェはお嬢様の援護に入れる距離で待機だって」

 

「あまり近くにいすぎるとあの融合騎が喧しいからな……」

 

ノーヴェは協力者の一人である失われた古代ベルカの遺産『融合騎(ユニゾンデバイス)』である少女の顔を思い出しため息を吐いた。

 

「自分で行きたいって言ったのはノーヴェ。

 ちゃんと仕事はやる」

 

「わかってるよ」

 

ノーヴェの呟きにディエチは「そう」と答えると、それ以降口を開くことはなかった。

しばらく歩き続けた二人は分かれ道でそれぞれの方向に足を向けた。

 

「じゃぁ、私はこっちだから」

 

「おう。

 またあとでな」

 

「うん、また」

 

ディエチはそう言って背中に担いだ荷物を一度背負いなおしてから去っていった。

ノーヴェは彼女が背を向けたと同時に反対の方向へと足を進めた。

 

「はぁ……」

 

ノーヴェはここに来るまでの経緯を思い返していた。

相棒であるウェンディに本当のことを言えず、話がどんどん大きくなり、終いには自分が一番信頼している姉の一人にも本当のことを言わなかった。

 

「戦いたいってのもある。

 けど……」

 

ノーヴェは右手を一度握り込むと、自分の胸にあてる。

 

「あいつの戦いを見たいって思いが一番大きいんだよな……」

 

彼女の呟きはだれにも聞かれることなく風に流されていった。

 

 

 

 

 

「それにしても、こうのんびりした時間を過ごすなんて久しぶりだな」

 

「そうねー。

 いつも訓練で、休みをもらってもアンタは定期検査、あたしは遠出する手段がないから街に行くことはなかったしね」

 

一通り遊んだスバルとティアナは露店で売っていたフライドポテトをつまみながら多くの人がいる街を眺めていた。

 

「平和だな」

 

「そうね、事件とか起こってなきゃいいけど」

 

家族連れやカップルで楽しんでいる人々を見ながらそう呟く二人。

そんな二人に声をかける者がいた。

 

「まったくだ。

 せっかくの家族サービスの日に事件が起きられては敵わん」

 

「「……」」

 

突然、背後から聞こえてきた声に対して無言で振り向く二人。

二人の後ろに立っていた男性を見て、二人は驚きの声をあげた。

 

「「きょ、教官!?」」

 

「おう、久しぶりだな。

 ナカジマにランスター」

 

してやったりという感じの笑みを浮かべながら男性―――キョウ・カーンは二人の名を呼んだ。

 

「あ、あの。

 なんでここに……?」

 

「さっきも言っただろう、家族サービスだ」

 

「え、じゃぁそちらにいらっしゃる方が……?」

 

ティアナはキョウの言葉に反応し、彼の隣に立つ女性とその女性の後ろに隠れている4歳くらいの子供に目をやった。

 

「あぁ、妻のイリョウと娘のケイだ」

 

「妻のイリョウです。

 あなたたちのことはキョウからよく聞かされてたわ」

 

「ど、どうも」

 

「ほら、ケイも」

 

イリョウは自分の足にしがみついている娘を促した。

母に背中を優しく押された女の子は恐る恐る前に出て小さな声で自己紹介をする。

 

「け、ケイです……」

 

それだけ言うと、ケイは再びイリョウの後ろに隠れてしまった。

 

「あらあら、ごめんなさいね。 

 この子、少し人見知りだから……」

 

「いえ、可愛らしい娘さんですね」

 

「そうだろう、イリョウに似たんだと俺は思ってる」

 

自慢げにそう言ってきたキョウを見てスバルが驚きの声をあげた。

 

「教官が優しい笑顔を……!」

 

「お前は俺をなんだと思ってたんだ……?」

 

「え、あ、あはは……」

 

スバルの呟きを聞いたキョウは、教官としての射抜くような視線を彼に向ける。

三年ぶりのその視線に貫かれたスバルは冷や汗を流しながら目をそらした。

 

「ところで、お前らは確か機動課に配属になってたんじゃなかったのか?」

 

「あ、はい。

 機動六課の実戦部隊として配属になってます」

 

「毎日戦技教導官の訓練でしごかれてますよ……」

 

「機動六課の戦技教導官って言えば……」

 

スバルの言葉にキョウは何かを思い出す様に呟く。

 

「高町なのは一等空尉です。

 確か、教官と隊長は面識があるとか?」

 

「あぁ、思い出した。

 無茶して落とされそうになったあのチビッ子か」

 

キョウはティアナの指摘に手をポンと叩き合わせる。

チビッ子発言にスバルとティアナは苦笑いを浮かべた。

 

「じゃぁ、今日はオフってところか?」

 

「はい、ここのところ休みがなかったからって」

 

キョウの疑問にティアナが答える。

すると、意外な人物が爆弾を放り投げてきた。

 

「あら、じゃぁ二人は休みを利用してデートしに来たってところかしら。

 お邪魔しちゃったかしらね?」

 

「「で、デートッ!?」」

 

「あら、違ったの?」

 

爆弾を放り込んだイリョウは腕の中で眠ってしまったケイを抱きながら首を傾げていた。

デートという言葉に顔を真っ赤にするティアナとスバル。

特にスバルはティアナの女性としての特徴を先ほど(故意じゃないとしても)味わった感触を思い出して、頭の中の回路が一気にショートしてしまった。

 

「す、スバルとはただの仕事のパートナーで、べ、別に恋人とかじゃ!!」

 

「あら、予想外に食いついてきたわね。

 そんなに反論するってことは、彼のこと少しは意識してるってことじゃないの?」

 

「だ、だから!!

 あーもう!

 スバル、あんたからも……って!!」

 

「こいつなら今使いもんにならんぞ」

 

イリョウのからかいに翻弄されたティアナはスバルにも何か言うように彼の方を向いたが、先ほどのショートから未だに立ち上がっていないスバルを見て頭を抱えた。

 

「イリョウ、これ以上俺の教え子をからかわんでくれ。

 特にこいつは生真面目だから」

 

「あら、それじゃあ仕方ないわね」

 

キョウからの注意に本当に残念そうにイリョウはそう言った。

 

「えっと、ティアナちゃん?」

 

「……はい」

 

「そうブスッとしないの。

 せっかくの可愛らしい顔が台無しよ?

 はい、これ」

 

イリョウは頬を膨らましていたティアナに一枚のメモ用紙を渡した。

 

「これ、なんですか……?」

 

「私の連絡先。

 何か困ったことがあったら連絡ちょうだい。

 相談ぐらいなら乗ってあげられるから」

 

「じゃあさっそくお願いできますか?」

 

「あら、何かしら?」

 

「ここでショートしてるスバル(バカ)を再起動させたいんですけど、何かいい案ありませんか?」

 

ティアナはぶっきらぼうにそう尋ねた。

イリョウは「あら、そんなの簡単よ」と答えてケイをキョウに預けてスバルに近づき、

 

「おばあちゃん直伝。 

 斜め45度からのチョップ!」

 

「え……」

 

チョップした。

言葉通りにきれいな45度の角度から彼の頭に向かって軽い打撃を与えた。

 

「あ、アレ?

 俺何してたんだ?」

 

「うそ、あんなので治るの……?」

 

「案外人ってのはこうすることで正気に戻ったりするのよ。

 キョウが結婚式の時にフリーズしたときもそうだったし」

 

「ちょ、イリョウ。

 その話をこいつらの前で……」

 

まさかの妻から自身の恥ずかしい話をされるとは思っていなかったキョウはイリョウを止めようと彼女に近づいたとき。

 

『こちら、ライトニング4。

 緊急事態につき、現場の方向をします。

 サード・アベニューF-23路地裏にてレリックらしきケースを発見、ケースを持っていた5、6歳の少女を1人保護。

 少女は現在意識不明。目立った外傷は無し、指示をお願いします』

 

マッハキャリバーとクロスミラージュから緊急事態を告げる連絡が届いた。

 

「サードアベニュー……。

 ここから近いな」

 

「すぐに向かわないと。

 教官たちは……」

 

「俺たちのことは気にするな。

 自分たちのやるべきことをしっかりこなせ」

 

「二人とも、ケガしないようにね」

 

キョウは教官や父親としての顔ではなく、歴戦の戦士の顔で二人に告げる。

その横でイリョウは心配そうな表情で二人を見ていた。

 

「「はい!」」

 

スバルとティアナは二人に一礼するとすぐにその場から走り去っていった。

機動六課の短い休日は終わりを告げた。

 




はい、教官とその奥様と娘さんに登場してもらいました。
奥さんの方の名前はすんなりと決まったのですが、娘の方は中々決まりませんでした(笑)。
だってあの流れでつけられる名前って少ないんですもの。


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ティアナルート 第三話

機動六課指令室

 

「ゴメン、遅れた!

 状況は?」

 

「たった今、高町隊長とフェイト隊長、シャマル先生が現場に到着。

 保護した少女の検査を行っているところです」

 

「そうか、ありがとうな。

 シャマル、どないな感じや?」

 

指令室に飛び込んだはやては副官であるグリフィスから報告を受けると、通信機でシャマルにライトニングが保護した少女の容体を尋ねる。

 

『バイタルは安定してる……。

 危険な反応も無し……。

 大丈夫です!』

 

「そうか。

 なら、いったんその子とレリックをヘリに搬送してくれる?」

 

『はい!』

 

 

 

 

 

 

 

「さてと、みんなは現場検証をお願いね。

 本当は私たちが行くべきなんだろうけど……」

 

「私もなのはも、下水道っていう限定された空間での戦闘はあまり得意じゃないから」

 

シャマルが少女の検査を行っている最中に、現場に到着したなのはとフェイトはフォワード四人に指示を出していた。

 

「私は砲撃魔導師、フェイトちゃんは高機動魔導師だからね……。

 狭い空間では一人の方がやりやすいってタイプだから……」

 

「なのはちゃん、この子をヘリまで運んでくれる?」

 

「あ、はーい」

 

シャマルからお願いされたなのはは寝かせていた少女を抱き上げる。

 

「それじゃ、下のことは任せたよ。

 私たちもたぶん(うえ)で待機することになるから、頑張って」

 

「「「「はい!」」」」

 

 

 

 

 

 

 

「さてと、みんな。

 短い休みは堪能したわね?」

 

「切り替えていくぞ。

 しっかり仕事はしないとな」

 

「「はい!」」

 

『『『『Standby ready』』』』

 

「「「「セットアップ!」」」」

 

四人同時にバリアジャケットを展開。

路地裏の一角に一際明るい光がともされた。

 

 

 

 

 

「下水道ってだけに臭いな……」

 

「まだ臭いだけなんだから我慢しなさい。

 汚れはバリアジャケットのおかげでつかないんだから」

 

下水道に降り立った四人はその臭いに顔をしかめていた。

 

「レリックの予想位置は、此処かどれ位離れてるの?」

 

「そこまで遠くはありません……!

 動体反応、ガジェット来ます!」

 

「ッ、散開!

 各個に撃破!

 一分で片づけるわよ!!」

 

「「はいっ!」」

 

「おう!」

 

ケリュケイオンからの警告と同時にティアナが指示を出す。

ガジェットの姿が現れると同時に橙色の魔力弾が戦闘のガジェットⅠ型三機を貫き、爆散させる。

 

「フリード!」

 

ティアナに続くようにフリードの口から火球が吐き出され、装甲の薄いガジェットⅠ型は炎に包まれた。

そして、その炎を突き抜けたスバルとエリオが残されたⅢ型を捉えた。

 

「行くぞ、エリオ!!」

 

「はい、スバルさん!!」

 

『『Load cartridge』』

 

二人のデバイスから魔力が溢れだす。

スバルは暴れ出そうとする魔力を右足に集中させエリオの背中に蹴りを放つ。

そして、彼のすぐ隣を走っていたエリオは自分の背中に向かってくるスバルの右足を足場にする。

 

「行けぇ!!」

 

「はあぁーッ!」

 

右足に加速魔法を使用したスバルの蹴りによる加速と、ストラーダのブースターによる加速によって、エリオは駆け抜けた。

その速度は、Ⅲ型のカメラには捉えられず、Ⅲ型が自分の装甲に接触反応を感じた瞬間、機体は真ん中から真っ二つに切り裂かれ、崩れ落ちた。

 

「よし!」

 

「やりましたよ、スバルさん!!」

 

兄貴分であるスバルとの初めての合わせ技を成功させたエリオは喜びの声を上げ、二人はハイタッチを交わした。

その様子を見てティアナは一言。

 

「エリオの汚染が広がってる……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『こちらロングアーチ(ゼロ)

 みんな、聞こえる?』

 

『スターズ1、ライトニング1、聞こえてます』

 

「フォワード四名、オーケーです」

 

入口付近でガジェットを撃破した四人はレリックの予想地点に向かっている途中に、はやてからの全体通信を受けた。

 

『よし、ならちょっとした報告や。

 まず、なのは隊長とフェイト隊長はこれから沿岸部に向かってもらう。

 敵性目標……まぁ、ガジェットⅡ型の編隊が向かってきてるからそっちに向かってもらう』

 

『スターズ1、了解』

 

『ライトニング1、了解。

 でも、フォワードのフォローはどうするの?』

 

『そっちにはあたしが向かう』

 

フェイトがはやてに尋ね、その答えを告げる前に途中でヴィータが通信を割り込んできた。

 

『ナカジマ三佐が許可をくれた。

 それから……』

 

『陸士108部隊のギンガ・ナカジマ陸曹です。

 別件での捜査に当たっていたのですが、そちらとの関連性も有りそうなので協力させてもらいます』

 

「姉貴……?」

 

予想外の人物の参加に驚きの声をあげるスバル。

 

『了解や。

 リインはヴィータと合流してな。

 フォワード陣はギンガと一緒にレリックの捜索に』

 

『はいです!』

 

「了解しました。

 ギンガさん、こちらの位置をそちらに送ります。 

 準備はいいですか?」

 

『わかった。

 位置確認、どこに向かえばいいのかしら?』

 

「キャロ、レリックの予想地点までに合流できそうな場所は?」

 

「ポイントF92あたりなら大丈夫そうです」

 

ティアナはキャロの返事に頷き、ギンガにそのポイントの情報を送る。

ギンガは「なるべく最短距離で向かうわね」と言うと通信を切った。

 

「ギンガさんって、スバルさんのお姉さんなんですよね?」

 

「あぁ、年齢も階級も二つ上で、俺の格闘技の姉弟子ってやつだな。

 一回も勝てたことがないけど。

 まぁ、心配しなくてもいいぞ。

 たぶん二人とも可愛がられるから(いろんな意味で)」

 

「え……?」

 

スバルのボソっと言った最後の言葉を聞きそびれたキャロは首を傾げる。

そんな三人にティアナは注意を呼びかけた。

 

「ほら、こっちからポイント指定したのに遅れたら失礼でしょ。

 さっさと行くわよ」

 

「「はい!」」

 

「了解っと」

 

リーダーからの注意を受けた三人はスバルを先頭に下水道を走り抜けていった。

 

 

 

 

 

 

 




合体技、スバルとエリオの合体技です。
大事なことなので二回書きました。

この小説の一番の肝であるスバル(♂)を考えたときからやりたかったことでした。
エリオとの合体技、ようやく出せました(笑)

さて、次回の更新なのですが、お盆で実家に帰らないといけないため、
執筆時間が取れません(´・ω・)
ですので、次回の更新は月曜日ということにさせてもらいます。
それでは!


追伸、カーン家の人気凄まじいわ(´・ω・`)


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ティアナルート 第四話

久しぶりに執筆しようとしたら、思いのほか筆が進まなかった……(´・ω・`)。
これがスランプってやつか……。



闇を青色の道が切り開く。

 

「ぜぇえいッ!」

 

一筋の光となったスバルの蹴りがガジェットを吹き飛ばし、その先にいた数体のガジェットを巻き込み倒れる。

そこにスバルは容赦のない砲撃を撃ちこんだ。

 

「スバル、後ろ!」

 

「ッ……!」

 

ティアナからの警告に従い、すぐさま回避行動をとると、そこにⅢ型のアームが振り下ろされた。

下水があたりに撒き散らされる中、ティアナの弾丸がⅢ型のコアを撃ちぬく。

 

「イライラするのはわかるけど、集中しなさい。

 じゃないと……」

 

「……わかってるよ」

 

ティアナの注意にスバルはぶっきらぼうに答える。

彼がこのようにイラついているのは先ほど、ギンガからの報告にあった、ある言葉に対してだった。

 

ギンガはとある横転事故の現場検証に立ち会っていた。

その場にあったのはガジェットと、小さい子供程度の大きさのものが入る生体ポッド。

この二つの要因から導き出されるのは……人造魔導師。

 

「あんたの身からしたら、到底我慢できることじゃないってのはわかるけどね」

 

「……」

 

エリオたちが保護した女の子はその人造魔導師の素体として生み出された可能性が高いということだった。

そして、その言葉を心底嫌っている人物も多かった。

スバルもその一人。

 

「ティアナさん、こっちは終わりました!」

 

「よし、先に進むわよ。

 スバル!」

 

「わかった……とまれ!」

 

ティアナに促されて先頭を進もうとしたスバルだったが、すぐに他の三人に静止を呼びかけた。

 

「何か来る……!」

 

「何かって……ッ!」

 

スバルの言葉に首を傾げるティアナだったが、その直後に彼らの目の前の壁が崩壊した。

すぐに戦闘態勢をとる四人だったが、その奥から出てきた人物を見てすぐに警戒を解いた。

 

「姉貴…!」

 

「ギンガさん!」

 

「久しぶり、スバル。

 ティアナも」

 

壁をぶち抜いて彼らの目の前に現れたのはスバルの姉であり、今回の捜査協力者であるギンガだった。

その豪快な登場の仕方にエリオとキャロは呆然としていた。

 

「というか、局員が公共設備ぶっ壊してくるなよ……」

 

「え、だって最短距離で来るなら一直線に来た方が早いじゃない。

 それに、ここはもう廃棄都市区画だから問題なし」

 

「いや、問題ありすぎじゃ……」

 

「その前にスバルはギンガさんのこと言えないわよ」

 

壁を壊して進路を確保してきたというギンガにスバルが詰め寄るが、そんな彼にティアナは言葉を投げかけた。

 

 

「え……?」

 

「あんた忘れたの?

 前の部隊で火災現場で救助活動中に突入口がないからって壁に砲撃で穴開けたじゃない」

 

「……そうでした」

 

こういったとんでもないことをしでかすところはやはり姉弟だな、と思ったティアナは悪くないはずだ。

ギンガのことを不思議そうな視線で見ていたエリオとキャロに気づいたティアナは一度咳払いをして空気を切り替えた。

 

「ギンガさん、こっちの二人が今の私たちのチームメイトのエリオとキャロです」

 

「あら、ずいぶん可愛らしいチームメイトね。

 ギンガ・ナカジマよ、よろしくね」

 

「エリオ・モンディアルです、よろしくお願いします!」

 

「キャロ・ル・ルシエと、フリードリヒです。

 よろしくお願いします」

 

ギンガが微笑みながら二人に挨拶すると、二人は慌てて返事をする。

 

「ちなみに、俺のシューティングアーツの師匠でもあるから、かなり強いぞ。

 怒らせたらひどい目に合うから気をつけろよ?」

 

「あら、スバル?

 この間の続きをしたいのかしら?」

 

ギンガの笑顔の裏側に潜む怒気を感じ取ったスバルは冷や汗をダラダラ流しながら誤解を解こうとしたが、その前にティアナが疑問を口にした。

 

「ギンガさん、この間って?」

 

「前の検診の時にね……」

 

「―――ッ、動体反応来!

 ガジェット、来ます!」

 

ギンガのティアナに対して口を開こうとした直後、キャロの警告とともに突き当りの曲がり角からガジェットが飛び出してきた。

 

 

「姉貴!」

 

「話はここまでね。

 ティアナ、指示出してくれる?」

 

「わかりました」

 

ガジェットから放たれた攻撃を後ろに飛び退くことで回避する三人。

ガジェットの数を確認したティアナはすぐにギンガとスバルの二人に指示を出した。

 

「私がまず風穴を開けます。

 エリオはその隙に奥まで切り込んで。

 スバルとギンガさんはそこから穴を広げてください」

 

「「「了解!」」」

 

「キャロ、抜けてくる奴は任せるわよ?」

 

「はい!」

 

瞬時に出された指示に従い、前衛の三人はティアナの橙色の砲撃によってこじ開けられた風穴に突っ込んでいった。

 

 

 

 

「タアァッ!!」

 

ギンガの声とともに繰り出された蹴り落としがガジェットを地面に叩き付け爆散する。

 

「姉貴ッ!」

 

「ッ!」

 

その背中を狙っていたⅠ型のコアをスバルの右腕が貫き動きを止める。

二人はそのまま背中合わせで周囲を見回し、同時に同じ方向に駈け出した。

 

「スバル、TNF、行けるわよね?」

 

「もちろんッ!」

 

ギンガは横目で隣を走るスバルに尋ねる。

その返答は彼女が予想していた通りのものだった。

 

「「リボルバーシュート!」」

 

合図無しに同じタイミングで放たれる二つの魔力弾が彼らの標的とされたⅢ型の腕を吹き飛ばす。

腕を吹き飛ばしたときに周囲に撒き散らされた煙に紛れてスバルがⅢ型の上を飛び越し背後をとった。

 

「スバル!」

 

「ドンピシャッ!!」

 

Ⅲ型がギンガとスバルのどちらを排除するべきかの判断を下す時間を与えずに二人は拳をⅢ型に叩き込む。

 

「ナックル……」

 

「ジェット……」

 

叩き込まれた拳に魔力が集中し、彼らの腕に装着されたリボルバーナックルから二発の空薬莢が排出される。

 

「バンカーッ!」

 

「マグナムッ!!」

 

前後からの挟撃によって内部を蹂躙されたⅢ型は二人が拳を引き抜くと同時にその巨体を四散させた。

 

 

 

「「…………」」

 

そのあまりにもの手際の良さにエリオとキャロは驚愕していた。

 

「あぁ、エリオとキャロはギンガさんとスバルのコンビは見たことなかったんだっけ?」

 

「はい、スバルさんから聞いたくらいで……」

 

「まさかあそこまで息がぴったりだなんて、思ってもいませんでした……」

 

ティアナは二人の反応に苦笑しながら応える。

 

「ギンガさんとスバルのシューティングアーツの師匠って誰か二人は知ってる?」

 

「あ、はい」

 

「確かお二人のお母さんでしたよね?」

 

「そう。

 そのお母さんにシューティングアーツの模擬戦で勝てるように二人で考え出したのが、さっきのコンビネーション攻撃。

 二人は『(ツイン)(ナックル)(フォーメーション)』って言ってるけど」

 

ティアナは少し前の方で先ほどのコンビネーションの感覚を言い合っているギンガとスバルを一目見て、言葉を続けた。

 

「ま、ギンガさんとスバルの姉弟(きょうだい)としての阿吽の呼吸ってのもあるんだろうけど、あれだけのコンビネーションをやってのけるってのはすごいわよね」

 

ティアナの「少し悔しいけど」という呟きはだれにも聞かれることはなかった。

 




どうも、お久しぶりです。
実家に帰ってやることないのであたりを歩いていたら中学時代の同級生とあって、実家に置いてあったキューブのスマブラで大はしゃぎしてました。
いや、DXは最高ですね(笑)。

さて、今回はギンガの登場です。
スバルの行動に一番長い付き合いをしていた彼女。
原作以上に強くなってます。
このままじゃ三対一でも勝てちゃうんじゃ……(;´・ω・)


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ティアナルート 第五話

ティアナルート第五話です。
前回の投稿の際に、予約時間を間違えて夜の12時にしていたので、読んでいない方がおられましたら前話からお願いします。



「スバルさん、さっきのコンビネーションっていくつかパターンがあるんですか?」

 

ガジェットの集団を撃破した五人はキャロの指示に従ってレリックのあるであろう場所に向かっていた。

その途中で、エリオは先ほどのスバルとギンガのコンビネーションで感じた違和感を尋ねていた。

 

「どうしてそう思った?」

 

「えっと……なんとなくですけど、スバルさんやギンガさんの攻撃の選択肢がいくつか取れるように感じたから、です」

 

スバルはエリオの答えを聞くと、笑いながら彼の頭を乱暴に撫でまわした。

 

「わわっ!?」

 

「よく見てるじゃないか、偉いぞエリオ」

 

スバルはエリオの頭を撫でまわすのを止め、彼の頭を二度ポンポンと叩きながら彼の質問に答えた。

 

「さっきのはVer.38だ。

 ちなみにTNFは108式まである」

 

「えぇッ!?」

 

 

 

 

 

「そんなにあるんですか?」

 

スバルとエリオの少し後ろを走っていたティアナは隣に並走するギンガに尋ねる。

 

「さすがに108はないけど、50くらいはあるわよ。

 お母さんと模擬戦をするようになってだいたい二日に一回は新しいパターンを考えていたから」

 

「けど……」とギンガは苦笑しながら言葉を続けた。

 

「一回も勝てなかったのよね~。

 さっきやったのも、私とスバルの前後からの同時攻撃も軽く捌かれちゃったのよ」

 

「話を聞いて思ったんですけど、ギンガさんとスバルのお母さんってものすごい人なんじゃないんですか……?」

 

ティアナの問いにギンガは嬉しそうに笑いながら「えぇ、すごい人だったわよ」と答えた。

 

 

 

「キャロ、そろそろじゃない?」

 

「はい。

 この先にレリックの反応があります」

 

下水道を駆け抜けてきた五人は少し広い空間に出ていた。

 

「よし、なら手分けして探しましょう。

 この広さの空間でレリックを見つけるとなると大変かもしれないけど」

 

ティアナは周りを見回しながらため息を吐いた。

彼らのいる空間はそれなりの広さの場所だった。

砂漠から特定の砂粒を探すほどの難しさはないが、結構骨の折れそうだということは確かである。

 

「何があるかわからないから、気をつけろよ」

 

「「はい!」」

 

「ふふ、了解」

 

エリオとキャロはスバルの注意に頷き、ギンガは弟の成長を嬉しそうに微笑みながら答えた。

 

 

 

 

「はぁ……。

 なんで休日返上して下水道で探し物してるんだろうな……」

 

「しょうがないでしょ、それが仕事なんだから」

 

二つのグループに分かれてレリックの探索を行っていたスバルたちだったが、暗い下水道という環境で探し物をするというストレスに耐え切れなくなったスバルが愚痴を零した。

 

「探索魔法でも使えれば一発なんだけど……まぁ、無理か」

 

「レリックが反応したらどうなるかわからないから無理ね」

 

「「はぁ……」」

 

二人そろってため息を吐く。

 

「教官たちは今頃家族で楽しんでるんでしょうね」

 

「前から思ってたけど、教官ってどうやってイリョウさんと出会ったんだろうか……」

 

「案外、教官が若いときに入院してそのままゴールインって感じだったりして」

 

 

 

 

 

 

 

「「くしゅん!」」

 

とある店の中で男女が同時にくしゃみをした。

 

「誰か噂でもしてるのかしら?」

 

「イリョウは美人だからな。

 話題に上がっててもおかしくはないか」

 

 

 

 

 

「それより、あんた帰りに研究所によりたいって言ってたけど、どこか体の具合でも悪いの?」

 

「いや、例のパーツが出来上がったって博士から連絡があってな。

 それを受け取りに行く」

 

「それって……」

 

「あ、ありました!」

 

口を開こうとしたティアナだったが、キャロからレリックの発見の知らせが届くのを認めると、口を閉じてキャロの方へ足を運んだ。

 

「ん?」

 

彼女に続いてキャロの方へ行こうとしたスバルだったが、彼の耳に何かが地面を蹴りつける音が聞こえてきた。

 

「なんだ……?」

 

スバルは周囲を見回したが、彼自身はもちろん、ほかの誰一人として飛び跳ねたりはしていなかった。

そして、先ほどよりも一際大きな音が二度聞こえてきた直後、彼の視界の隅、正確にはキャロの背後の空間が歪んだ。

 

「キャロッ!!」

 

「え……きゃぁぁあ!?」

 

スバルが咄嗟に警告を飛ばすが、キャロがそれを理解する前に歪んだ空間から魔力弾が放たれ、彼女のすぐそばに着弾した。

 

「キャロ、大丈夫か!?」

 

「だ、大丈夫です……。

 でも、レリックのケースが……!」

 

キャロの視線の先にレリックのケースが転がっているのを見たスバルは舌打ちをしながらもキャロに攻撃を加えた何かがいる空間を睨みつける。

 

「でやああああっっ!!」

 

エリオが一気に加速し、その空間に入り込みストラーダを一閃。

そのまま距離をとってスバルとキャロの近くに着地した。

 

「クッ!」

 

だが、先ほどの一瞬の間にエリオの頬に一筋の切り傷が走っていた。

 

「エリオ君!」

 

「大丈夫」

 

エリオは駆け寄ったキャロを止めるように手を広げる。

スバルはエリオたちから少し離れたところでエリオが切りつけた空間に視線を向ける。

すると、歪みが次第に薄くなり、人型の何かが立っていた。

 

(スバル、少しでも動きを見せたら一撃決めるわよ)

 

(わかった)

 

人型の反対側にいるであろうギンガからの念話にスバルは了承の意を伝えた。

人型が姿を現してから数十秒、どちらも動かずに互いの動きに注視していた。

スバルとギンガは人型から発せられる気配を警戒し、人型は前後を挟んでいる二人を警戒していた。

 

だが、その均衡は崩れた。

 

「あッ!」

 

キャロがレリックのケースに近づく足音に気づき、そちらに駆け寄ったのだ。

レリックのケースに手を伸ばしたのは、キャロやエリオと変わらないであろうほどの年の紫の長髪の少女。

その少女は彼女の足もとにあるレリックのケースに手を伸ばそうとしていたキャロに手を向けた。

 

「邪魔……」

 

「ッ、きゃあぁあ!?」

 

単純な魔力放出。

だが、不意を突かれたキャロは咄嗟に障壁を張るが、圧倒的な魔力の奔流は障壁ごとキャロをたやすく吹き飛ばした。

 

「キャロッ!?……うあぁっ!!」

 

「ッ!」

 

「スバルッ!!」

 

吹き飛ばされたキャロを受け止めようとしたエリオだったが、衝撃を逃がすことができずにそのまま近くの柱に叩き付けられた。

 

そして、スバルは二人の方へ意識を傾けてしまい、その隙を人型が逃すはずがなかった。

人型がスバルに接近し、その腕から伸びる突起がスバルに迫る。

 

「こなくそッ!!」

 

「ッ!」

 

スバルの腕にめがけて突き出された突起を人型の懐に飛び込むことで、狙いをずらし逆にスバルの攻撃範囲に人型を捉えた。

 

「姉貴ッ!!」

 

「タァアッ!!」

 

突起が肩を霞めながらスバルは人型の腹に拳を叩き付ける。

スバルの拳をもろに受けた人型は後ろに吹き飛ばされ、さらに後ろから迫っていたギンガに壁際まで蹴り飛ばされた。

 

 

 

 

 

キャロとエリオを吹き飛ばした少女は足元に落ちているレリックの入ったケースを手に取ってその場を去ろうとした。

 

「ごめんね、乱暴で」

 

だが、彼女の首に橙色の魔力刃が突きつけられ動きを止めざるを得なかった。

少女が魔力刃の発生源を目で追うと、背後からティアナが現れた。

 

「でもね、これ本当に危ない物なの。

 渡してもらえるかな?」

 

ティアナは少女の動きに気を配りながら、そのように告げた。

何があってもすぐに取り押さえられるように。

 

「スターレンゲホイル!!」

 

刹那、彼女の視界は白く染まった。

突如として放たれた妨害魔法によってティアナをはじめとしたフォワードメンバーは視覚と聴覚を潰された。

 

「きゃぁ!?」

 

そして、視界を潰され、状況の把握すらも困難になったティアナは壁際から一気に接近してきた人型に蹴り飛ばされ少女との距離を離されてしまう。

ぼやける視界の中、クロスミラージュを構え魔力弾を少女に放つも、人型が身を挺して防いでしまい、その肩の甲殻を砕くだけという結果になってしまった。

 

「ティアナ、大丈夫か!?」

 

いち早く回復したスバルとギンガがティアナのそばに駆け寄る。

 

「えぇ、大丈夫よ。

 でも……」

 

ティアナはよろよろと立ち上がり、目の前の少女と人型に視線を飛ばす。

 

 

「ったくもー。

 あたし達に黙って勝手に出かけちゃったりするからだぞ、ルールーもガリューも」

 

その時、天井付近からの声とともに小さな影が降りてきた。

 

「アギト……」

 

「ホントに心配したんだからな」

 

ルールーと呼ばれた少女はその小さな助っ人の名前を呼ぶ。

小さな影―――融合騎アギトはスバルたちに背を向けて少女たちに話しかける。

 

「ま、もう大丈夫だぞルールー。

 何しろこのあたし!

 烈火のぉ、剣精!

 アギト様が、来たからな!!」

 

アギトの掛け声とともに彼女の周囲に縮小版の花火が上がる。

ただでさえ暗い下水道の中で光らせるものだから、スバルたちの方からでもその模様がきれいに見えていた。

 

「芸が細かいな、おい……」

 

スバルの言葉に突っ込むものは誰一人としていなかった。

 

「オラオラぁ!

 お前らまとめて、かかってこいやぁぁっ!」

 

「じゃぁ、遠慮なくそうさせてもらうわ」

 

アギトの威勢のいい啖呵の直後、ティアナが指を鳴らす。

刹那、アギトたち三人(?)の周囲に数十を超える魔力弾が姿を現した。

 

「備えあればなんとやら。

 さて、動かないでね?

 うっかりレリックに当たったりしたらこっちも洒落じゃすまないから」

 

ティアナはとても素晴らしい笑顔でそう告げた。

 

 

 




ティアナルート第五話をお送りしました。
最後にルーテシアたちを取り囲んだ魔力弾のネタはなのは戦でティアナがやったものと同様です。
一応補足として書いておきます。

この話書いてて、キョウとイリョウの出会いという番外編のネタが浮かんできてしまった(笑)
希望があればいつか書きたいと思います。


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ティアナルート 第六話

彼女(ノーヴェ)はそこでじっと待っていた。

光の通ることのない下水道の一つで。

 

『はぁ~い、ノーヴェちゃん。

 ちゃんとお仕事してるかしら~?』

 

「ちゃんとやってる」

 

彼女の耳にあまり聞きたくないタイプの声が聞こえてきた。

だが、自分から言い出したことなので文句は言わない。

 

『そう?

 ならいいんだけど……』

 

「あぁ、ちょっと待って。

 お嬢様たちが魔力弾に囲まれた」

 

彼女の目の前に一つのモニターが浮かび上がった。

ぼんやりと光るモニターを見つめたノーヴェが姉に指示を求める。

 

「どうすればいい?

 魔力弾(あれ)の大半は外側(かたち)だけのからっぽだ。

 だけど、お嬢様たちには」

 

『ま、わからないでしょうね~。

 こっちはディエチちゃんのサポートで動けないから、ノーヴェちゃんが助けてあげてね~。

 でも、ドクターに言われたことは』

 

「あくまでもサポートに徹する。

 わかってるさ」

 

クアットロは『それじゃあね~』と言って通信を切った。

通信が切れたことを確認したノーヴェはモニターも消し、再びその空間は闇に包まれる。

 

「IS発動『破壊する突撃者(ブレイクライナー)』」

 

呟くような小さな声で紡がれた言葉とともにノーヴェの足もとに魔法陣とは異なるテンプレートが展開する。

 

「エアライナー、展開」

 

ノーヴェが右手を振るうと同時にスバルたちのウィングロードと酷似した道が創られる。

ノーヴェは認識阻害用のマントとサングラスをしっかりと着用し、静かに駆け出した。

 

 

 

 

 

「クゥ……!」

 

大量の魔力弾に囲まれたアギトは悔しそうに唸り、ルーテシアもまた悔しそうに表情を歪めていた。

ルーテシアのそばに立つ人型―――召喚虫ガリューはどうにかして魔力弾を突破しようとするが、彼の足もとに彼らを囲んでいる魔力弾のうちの一発が撃ち込まれる。

 

「動かないでって言ってるの。

 そこの、召喚獣と同じなら人の言葉がわかるわよね?

 ご主人さまの安全のためには、動かない方が身のためよ?」

 

ティアナの言葉とともに一発の魔力弾がルーテシアの周囲に集められる。

それを見たガリューは構えを解いた。

 

「スバル」

 

「あいよ」

 

ガリューに戦闘の意思が無いことを認めたティアナは相棒の名前を呼び、スバルは彼女の言わんとしていることを察した。

スバルはすぐにレリックのケースを持っているルーテシアのもとに行き、ケースを手に取る、が。

 

「……」

 

「……」

 

ルーテシアはケースの取っ手をギュっと握っており、離そうとはしなかった。

そんな彼女の額に向けて左手を上げ、そして……。

 

「……アウッ!?」

 

デコピンを放った。

指先に魔力を込めた地味に痛い一撃だった。

 

「レリック確保ー」

 

「あ……」

 

決して後には残らないが手で押さえなければ痛いという非常に質の悪いデコピンを喰らった彼女からスバルは素早くケースを奪い取った。

 

「なんか弱い者いじめしてるみたいでいやだが、これも仕事なんだ。

 悪いな……」

 

ケースを手にしたスバルがルーテシアに背を向け、ティアナ達の方へ戻ろうとしたとき、ギンガの声が彼の耳に届いた。

 

「スバルッ!!」

 

「―――ッ!!」

 

その声に反応したスバルはすぐにその場から飛び退く。

その直後、彼のいた空間を黄色の道が貫いた。

 

「ウイングロード……!?」

 

ティアナ達のもとまで下がったスバルはティアナのばら撒いた魔力弾を砕いている道を見て目を見開いた。

 

 

 

 

 

「こいつは……!」

 

「エアライナー……。

 ノーヴェ……?」

 

スバルが離れた直後に彼のいた空間を貫いた(エアライナー)が彼らの周りに漂う魔力弾のいくつかを打ち砕いた。

その隙を逃さずに、ルーテシアたちは魔力弾の包囲から脱出した。

 

包囲から脱出した彼女たちのそばにエアライナーの上を駆けてきたノーヴェがマントを(ひらめ)かせながら降り立った。

 

「ドクターからの指示だ。

 お嬢様たちが危なくなったら助けるようにと」

 

「別にお前らの助けなんかなくたって……!」

 

「ありがとう……」

 

「る、ルールー!?

 ゼストのおっさんも言ってただろう!?

 こいつらにあまり関わるなって!!」

 

ノーヴェたちを嫌っているアギトはノーヴェに食って掛かろうとするが、ルーテシアがあっさりと礼を言ったために彼女に声を飛ばした。

 

「でも、あのままだったら捕まってた……

 アギトも……」

 

「うぅッ!」

 

ルーテシアの言葉に反論できないアギトは渋々といった感じでノーヴェに礼を言う。

 

「こっちにも目的があった。

 お嬢様たちはレリックの確保を。

 あたしはあの青髪と()るために来た」

 

「わかった。

 ガリュー、お願い」

 

ルーテシアの声に頷いたガリューが一足先に前に出た。

そんなガリューを押さえるためにギンガが拳を振るう。

それを見たノーヴェは向こう側でスバルが自分を警戒しているのを感じる。

 

「感謝する」

 

「さっきのお返し。

 あとはよろしく」

 

ルーテシアの言葉を聞いたノーヴェはスバルに目掛けて一気に加速した。

 

 

 

「てめぇ、いったい何者だ!?」

 

「……」

 

「だんまりかよ……!」

 

スバルは突然現れ、自分たちの妨害をしてきた目の前の人物に対してどこか既視感を覚えていた。

いつどこで見たのか彼自身にもわからないが、目の前の男か女かもわからない人物と彼は確かに会ったことがあるという確信を得ていた。

 

「シ……ッ!」

 

「……ッ!」

 

スバルの突き出した右手を、ノーヴェは難なく捌いた。

スバルの攻撃を捌きながら、ノーヴェはあることに気づいた。

 

(こいつ……、あたしを誘い込んでる……?)

 

スバルの攻撃を捌いた直後の一瞬の隙に、ノーヴェは周囲に視線を向ける。

自分よりも後方にいるルーテシアとアギト、そして自分と同じぐらい前に出てギンガと戦闘しているガリュー。

そのすべてがある一定の方向に向けてじわじわと進んでいることにノーヴェは気が付いた。

 

『いいわよ、スバル。

 このままひきつけて!』

 

『了解!』

 

『もうすぐヴィータ副隊長も来る。

 そしたら……』

 

『こいつらを止められるってことだな』

 

スバルはノーヴェに魔力弾を放ちながら、ティアナと作戦の確認をしていた。

そんな彼らの念話に割り込むものがいた。

 

『よし、中々いい判断だぞ。

 スバルにティアナ』

 

『『ヴィータ副隊長!』』

 

『私も一緒ですよ!

 状況を正確に把握した、ナイスな戦術です!』

 

 

 

(こいつは、そろそろ引く準備しとくか……)

 

一方、スバルとの拳打の応酬の中で、近づいてくる魔力反応に気づいたノーヴェは逃走を考え始めていた。

 

「ルールー! 何か近付いてきてる!!」

 

ノーヴェがそう考え始めたのと同時にアギトが声を上げた。

 

「魔力反応……でけぇっ!?」

 

「うおりゃあああああああっっっっ!!」

 

ミシミシと天井が軋む音を立てた途端に、その天井を何かが突き抜けた。

大量の瓦礫が落下し、周囲を煙が覆う。

そして、一拍置いて煙の中からリインが飛び出してきた。

 

「捕らえよ、凍てつく足枷!

 フリーレンフェッセルン!!」

 

リインが手をかざした先にいたルーテシアとアギトの周囲に風が巻き起こり、二人を一瞬で氷の中に閉じ込める。

ガリューは二人が閉じ込められたことにより、ギンガから意識を逸らした。

そして、その隙を逃すほど彼女は甘くはなかった。

 

「ぶっ飛べええええっっっっ!」

 

ギガントフォームのグラーフアイゼンをガリューに叩き付ける。

その力に押し負け、ガリューは壁まで吹き飛ばされた。

 

その様子を見ていたノーヴェはいち早く離脱を図る。

 

「逃がすかッ!!」

 

「……ッ!」

 

彼女を捉えようと接近しようとするスバル。

そんな彼の目の前で、ノーヴェは懐から取り出した円筒を地面に叩き付けた。

刹那、スバルの視界は閃光とノイズで埋め尽くされた。

 

(こいつ!?)

 

あまりにもの強さの閃光は、その場にいた全員の視界を奪った。

視界が回復するまでのわずかな隙。

だが、ノーヴェにはそのわずかな隙があれば十分だった。

スバルの視界が回復したときにはすでに彼女の姿はなかった。

 

(あいつ、俺や姉貴にジャミングを……。

 マジで何者なんだよ……)

 

スバルの疑問に答える者はだれもいなかった。

 




今回はかなり難産でした。
ノーヴェをこの話に食い込ませるにあたり、どのように絡ませるかがかなり難しかったです……。
ちなみに補足ですが、前回の終わりにティアナの張った弾幕がノーヴェに簡単に解析されてほとんどが外見だけのハッタリだと見抜かれたのは、彼女が戦闘機人が相手にいるとは想定していなかったためです。




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ティアナルート 第七話

「ちっ……」

 

地下に天井をぶち抜くというとんでもない登場の仕方をしたヴィータはガリューを吹っ飛ばした方を見て舌打ちしていた。

 

「こっちもです……」

 

その横をふわふわと浮かんでいるリインも悔しそうに声を出した。

ガリューが叩き付けられたであろう壁には何物もおらず、リインの仕掛けた拘束魔法はその役目を果たすことはなかった。

 

「逃げられた、ですね」

 

リインが拘束魔法を解除すると、そこには結構な大きさの穴が空いていた。

直後、地下の空間が揺れ始めた。

 

「……大型召喚の気配があります。

 多分、それが原因で」

 

「ちっ、天井に押しつぶされる前に脱出するぞ!

 スバル!!」

 

「了解ッ!!」

 

キャロの報告にヴィータは眉を顰めながらも脱出の指示を出す。

ヴィータに名指しで呼ばれたスバルはすぐに拳を地面に叩き付け、ウイングロードを展開した。

 

「スバルとギンガが先頭で行け! あたしは最後に飛んでいく!」

 

「はい!」

 

「了解!」

 

ティアナは螺旋状に展開されたウイングロードをスバルとギンガが上っていくのを横目に、レリックのケースを持つキャロに話しかけていた。

 

「キャロ、ちょっといいかしら?

 すぐすむから」

 

「はい?」

 

「ちょっとした嫌がらせをしてやるわ」

 

ティアナの顔には悪い笑みが浮かんでいた。

 

 

 

 

スバルたちが地上に向かっているとき、彼らが先ほどまでいた空間の丁度真上、そこに家と同じぐらいの大きさの甲虫が鎮座していた。

名を地雷王。

ルーテシアの使役する召喚虫の一つで、今もその名の通り雷を放電していた。

 

「ちょ、ダメだってルールー!!

 これはまずいって!!」

 

地雷王を見下ろすことのできる位置、近くのビルの屋上でアギトは地雷王を見下ろすルーテシアに呼びかけていた。

故あって管理局と対立している彼女たちだったが、彼らを殺すということはしたくはなかったアギトはルーテシアに必死に止めるように叫ぶ。

 

「埋まった中からどうやってケースを探す?

 あいつらだって、局員とはいえ潰れて死んじゃうかもなんだぞ!?」

 

「あのレベルなら、多分これくらいじゃ死なない。

 ケースは、クアットロとセインに頼んで探して貰えばいい」

 

「いや、確かにそう簡単に死にそうな奴らじゃなかったけど……ってそうじゃなくて!!

 あの変態博士やナンバーズと関わっちゃダメだって!!

 さっきノーヴェに助けてもらったけどさ!!

 ゼストの旦那も言ってただろう!?

 あいつらあたしたちに隠し事が多すぎ―――」

 

アギトがそこまで言ったとき、何かが陥没する音が響き渡った。

音のした方を見ると、地雷王のいる位置を中心に円状に窪み、地雷王の発していた電撃も止んでいた。

 

「あぁ、やっちまった……」

 

その様子を見てアギトは項垂れた。

先ほどまで戦っていた相手がかなりのレベルの魔導師だということを理解していた彼女は、彼らがそう簡単に死ぬとは思っておらず、その口調は軽いものであった。

 

「ガリュー、大丈夫……?」

 

ルーテシアの問いに、彼女から少し離れたところに立っていたガリューは静かに頷く。

だが、彼(?)の左胸からは血が流れていた。

そこは丁度、最初にエリオが切りつけた場所であった。

 

「戻っていいよ……。

 アギトがいてくれるから……」

 

ガリューは返答の代わりに頭を下げ、その身体が紫に輝きその場から消える。

そして、ルーテシアが地雷王の方にも戻るように指示を出そうとする。

 

「地雷王も……!」

 

言葉を続ける前に、異変が起きた。

地雷王の真下に桃色の魔法陣が浮かび上がり、そこからいくつもの鎖が飛び出し地雷王に巻き付き拘束する。

 

「なんだ……?」

 

「召喚……」

 

脱出はするとは思っていたが、此処まで早いとは考えてもいなかった二人は動揺した。

さらに、彼女たちに向けて二本のウイングロードとヴィータが迫る。

 

「ッ……!!」

 

「くそッ!!」

 

二人が何かをする前に、彼女たちの真正面にいつの間にか現れたティアナが魔力弾を放つ。

アギトは炎弾を、ルーテシアは虚空から呼び出したダガーを放つが、ティアナには躱され、ヴィータに対しては足止めにすらならなかった。

 

「……」

 

そのままルーテシアはその場から飛び退き、高架の手摺に着地、アギトもすぐそばまで飛んできた。

だが、その直後ルーテシアには接近したエリオの手に握られたストラーダの切っ先を突きつけられ、アギトの周囲には氷のダガーが浮かんでいた。

 

「ここまでです」

 

エリオに遅れて到着したリインが二人にバインドをかけながらそう告げる。

それを追うようにヴィータ、スバル、ギンガと到着し二人を包囲する。

逃げ道を塞がれたことを理解したルーテシアは俯き、アギトももがくのを辞めて地面に降りた。

 

「子供を虐めてるみてーで、いい気分はしねーが。

 市街地での危険魔法使用に公務執行妨害、その他諸々で逮捕する」

 

 

 

 

 

ルーテシアたちが拘束された頃。

廃棄都市区画の中でも一際高いビルの屋上に二つの人影があった。

 

一人は眼鏡をかけてケープを纏った髪を二つに纏めた女性。

もう一人はマントに身を包み、身の丈ほどの大きさの何かを抱え、髪を首の後ろで一つに纏めた少女。

二人の共通した特徴は、事情を知らない者が見たら痴女と勘違いするであろうボディースーツだ。

それぞれの首のところに『Ⅳ』『Ⅹ』と刻印された金属プレートが貼り付けられている。

 

「ディエチちゃ~ん、ちゃんと見えてる~?」

 

眼鏡をかけた女性―――クアットロがもう一人の少女―――ディエチに話しかける。

クアットロよりも少し下のところに立つディエチは空を見上げながら応える。

 

「あぁ、遮蔽物もないし空気も澄んでる。

 よく見える」

 

ディエチの見つめる先、そこにはヴァイスの操縦するヘリが存在していた。

普通の人間なら絶対に認識できないそれを、ディエチの眼は確かに捉えていた。

 

「でもいいのか、クアットロ?

 撃っちゃってさ。

 ケースは平気だろうけど、”マテリアル”は破壊することになっちゃう」

 

「ふふ、ドクターとウーノ姉さま曰く、あのマテリアルが本物なら……。

 本当に『聖王の器』なら、砲撃ぐらいなら死なないから大丈夫、だそうよ?」

 

軽く笑みを浮かべながら答えるクアットロにディエチは「ふぅん」と興味なさげにヘリを見つめ、そして物体にかけた布を取り払った。

すると、小柄な少女が抱えるにはあまりにも巨大な砲身がその姿を現した。

 

「さぁて、それじゃさっそく――『クアットロ』――ん?」

 

砲撃の指示を出そうとしたクアットロの目の前に一つのモニターが映し出された。

 

「どうしました?

 ウーノ姉さま」

 

『ルーテシアお嬢様とアギト様が捕まったわ』

 

「あぁ~。

 そういえば、例のチビ騎士に捕まってましたねぇ」

 

ウーノからの報告にどこか楽しそうに答えるクアットロ。

そんな妹に呆れたようにため息を吐きながらも報告を続けるウーノ。

 

『今はセインが様子を窺っているけど……』

 

「フォローしますぅ?」

 

どこか抜けたような口調とは反対に、クアットロの視線は鋭いものに変わっていた。

 

『お願い』

 

「了解で~す」

 

ウーノの短い返答とともにモニターが閉じられた。

クアットロは眼鏡の位置を直すと、様子をうかがっているという(セイン)に念話を飛ばす。

 

「セインちゃん?」

 

 

 

 

 

 

「それで、目的は何だ?

 何でレリックを狙った?」

 

場所は移り、高架の上では拘束されたルーテシアたちに対してヴィータが尋問を行っていた。

拘束したとはいえ、危険物であるレリックを強奪しようとした二人に対して、スバルたちは周囲を囲い込むように包囲し、ケースを抱えたエリオと戦闘能力に劣るキャロの背中を守るようにギンガが立っていた。

 

「……」

 

ヴィータが強い口調で尋ねるが、ルーテシアは一向に口を開こうとしなかった。

そんな彼女に、スバルやティアナも加わって尋ねるのだが、、まったく答える気配すらも見せなかった。

 

『はぁ~い、ルーお嬢様』

 

『クアットロ……』

 

そんな彼女の頭にクアットロの声が響いた。

予想外の人物からの連絡に少し目を見開いて驚いた彼女だったが、ヴィータたちはまったく気づいていなかった。

ティアナのみ、彼女の表情の変化に眉を顰めたのみだった。

 

『何やらピンチのようで。

 お邪魔でなければクアットロがお手伝い致します♪』

 

どこか楽しそうに提案するクアットロにルーテシアは再び瞑目し頷く。

 

『お願い』

 

『はい~。

 ではお嬢様?

 クアットロが言うとおりの言葉を、その赤い騎士に』

 

 

 

 

 

 

 

「見えた!」

 

「よかった、ヘリはまだ無事!!」

 

その頃、空に現れたガジェットⅡ型の迎撃に向かっていたなのはとフェイトだったが、あからさまな陽動に相手の狙いがヘリに積んだレリックと少女にあると判断した二人は全速力でヘリの護衛に向かっていた。

少し離れたところにヘリが滞空しているのを確認した二人はほっと胸をなでおろしたが、直後に廃棄都市区画の離れたところに現れたエネルギー反応に目を見開いた。

 

『砲撃のチャージ確認!

 物理破壊型、推定Sランク!』

 

ロングアーチからの悲鳴のような報告に二人の顔に緊張が走った。

 

 

 

 

 

 

 

 

「何かヤバイ……ッ!

 ストームレイダー、回転数上げろ!!」

 

同時刻、ロングアーチからの通信よりも早く、ヴァイスは背中を走る嫌な予感に従って自分のデバイスに指示を出す。

ヴァイスは操縦桿を握りしめ、後ろに乗っているシャマルに注意を促す。

 

「シャマル先生、しっかり捕まっててくれよ!!」

 

「え?

 きゃぁああー!?」

 

シャマルが安全ベルトをしているのを確認したヴァイスはすぐに操縦桿を倒しヘリを地上に向かわせた。

 

 

 

 

 

IS(インヒューレントスキル)・ヘビィバレル展開」

 

砲身の先に巨大なエネルギーの塊を浮かべ、ヘリを捉えたディエチが呟く。

それをディエチの後ろに立ち、眺めているクアットロが楽しそうに呟く。

 

『「逮捕はいいけど……」』

 

 

 

「『大事なヘリは、放っておいていいの?』」

 

「!?」

 

ルーテシアの言葉にその場にいた全員の顔が驚愕に染まった。

先ほどまでだんまりを決め込んでいた彼女が口を開いたと思えば、この言葉だ。

特にヴィータはその言葉に動揺していた。

 

 

 

『「貴女はまた」』

 

後ろでクアットロが何かを呟いているのを無視してディエチはカウントダウンを続ける。

だが、そんな彼女は目の前のヘリが動きを見せたことに驚いていた。

 

「気づかれた……? 

 でも、もう遅い」

 

『「守れないかもね」』

 

「発射―――ッ!」

 

刹那、凄まじい閃光とともにそれは放たれた。

物理破壊目的のエネルギー。

空を飛ぶヘリなど木端微塵にできるそれは、廃棄都市区画の空を引き裂き、そして轟音とともに空に爆炎を散らした。

 

 

 

 




今回の話はほとんどスバルが絡まないために、オリジナルの部分が出せませんでした(ちくせう

ただ、やっぱりディエチの砲撃のところなんですが、スナイパーだったヴァイスなら何かしら察することができるんじゃないかと思いまして、あのような感じにしました。


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ティアナルート 第八話

『砲撃……ヘリに、直撃……』

 

『そんな筈ない! 確認して!』

 

『ジャミングが酷い……精査できません!』

 

ロングアーチの声が響く。

ヴィータをはじめとしたフォワードメンバーも全員が呆然としていた。

 

「そんな……」

 

「ヴァイス陸曹と、シャマル先生が……」

 

「……っ!!

 てめぇっ!!」

 

エリオとティアナが呟いた直後、ヴィータがバインドで拘束されているルーテシアに掴みかかる。

その行為を目にして、スバルはすぐに我に返った。

今にも殴り掛かりそうなヴィータを後ろから羽交い絞めにして引き止めようとする。

 

「ちょ、ダメですってば、ヴィータ副隊長!!」

 

「うるせぇ!!

 離せ、スバル!!」

 

スバルの拘束を解こうともがくヴィータだったが、さすがに拘束した相手を殴らせるのはまずいと判断したスバルは全力で彼女を押さえこんだ。

 

「ッ!!オイッ!

 仲間が居んのか!?

 何処にいる!! 言えっ!!」

 

振りほどけないことを理解したヴィータは少しでもルーテシアに近づき、大声で怒鳴りつける。

今の彼女は冷静さを失っていた。

ふつう仲間のことを話すわけがないという単純なことすらも頭から消えていた。

 

「副隊長、少しは落ち着い―――「エリオ君、足もとに何かが!!」―――ッ!?」

 

ヴィータを何とか落ち着かせようとしたスバルだったが、彼の隣にいたギンガの鋭い声に反応し振り返る。

直後、地面を透過し(・・・)人影が飛び出してきた。

 

「うわッ!?」

 

「いただきぃ!」

 

その人影はすれ違いざまにエリオからレリックのケースを奪い、逆側の地面に沈み込んだ。

地面を砕くわけでもなく、まるで水に潜るように消えていった。

 

「くそッ!」

 

「逃がすかッ!!」

 

人影を追うようにスバルが飛び出し、スバルの拘束を解かれたヴィータも少し遅れて人影の潜った地面の方に向かうが、すでにその人影は姿を消していた。

 

「あんな奴もいたのかよ……」

 

「まるで万国人間ビックリショーね……ッ!

 スバル、後ろ!!」

 

消えていった人影の能力に驚きを隠しきれなかったスバルはそう呟き、ティアナも言葉を続けようとしたが、彼女の視線の先―――スバルにとって丁度背後―――に先ほどの人影が現れていた。

人影はルーテシアを抱えようとしていた。

 

「野郎ッ!!」

 

『HakenImpulse』

 

ティアナの声に反応したスバルは振り向きざまに魔法を放つが、一瞬遅く、ルーテシアごと地面に潜られてしまった。

 

「くそッ!!」

 

「あぁ!?」

 

「どうした、リイン!?」

 

攻撃が間に合わなかったことに舌打ちするスバル。

それと同時に、リインの声が響き渡った。

 

「逃げられたです……」

 

ヴィータがリインに尋ねると、リインは先ほどまでアギトを縛っていた拘束具を握りしめ、悔しそうに呟いた。

 

「反応は!?」

 

「ダメです……、反応、ロストしました」

 

「………くそぉ!!」

 

リインの報告にヴィータは地面を叩く。

ヴィータだけでなく、その場にいた全員が俯き拳を握りしめていた。

事件解決につながる重要な情報源を逃がしてしまったのだから。

 

「そうだ……ロングアーチ!!

 ヘリは無事か!?

 落ちてないよな!?」

 

 

 

 

 

「どぉ?

 ディエチちゃん、何か見える?」

 

「少し待って……あのタイミングで砲撃を察知されるとは思ってなかったから、吃驚したけど……」

 

同時刻、砲撃を行ったディエチとそれを観測していたクアットロは遠方の煙の立ち上るのを見つめていた。

そして、ヘリが撃墜されたのを確認……

 

「うそ~ん……」

 

「フルパワーじゃなかったとはいえ、あれを防ぐとは……」

 

できなかった。

 

 

 

 

「こちらスターズ1、ヘリの防衛に成功!!」

 

ヘリとディエチたちの間に立ちふさがるように桃色の防御魔法を発動させたなのはは全体通信で報告する。

彼女は間一髪、限定解除の申請が通ったことによりヘリと砲撃の間に潜り込むことに成功したのだった。

 

「犯人補足、フェイトちゃん!!」

 

『任せて!』

 

なのははレイジングハートを構えて、親友に位置情報を送る。

フェイトからの返答になのはは頷き、ヘリの方を向いた。

 

「ヴァイス君、ヘリは大丈夫?」

 

『何とか大丈夫っす。

 助かりましたよ、なのはさん』

 

 

 

 

 

 

 

 

その後、結果からいうと、犯人には逃げられた。

ヘリ砲撃の主犯である二人組―――クアットロとディエチ―――はフェイトからの追跡をクアットロのIS『シルバーカーテン』を用いて逃亡。

だが、その直後に聖王教会に訪問していたクロノ・ハラオウン提督と、全体通信に割り込みをかけたレジアス・ゲイズ中将によるなのはとはやての限定解除を用いた大規模魔法による捕縛を目論んだが、魔法の直撃の直前、何者かが二人を回収。

そのまま離脱を許してしまった。

 

「逃がした、か……」

 

ロングアーチからの報告を聞いたヴィータは苦々しい表情ではやてへの報告を続ける。

 

「ああ、こっちは最悪だ。

 召喚士一味には逃げられ、ケースは持っていかれちまった。

 逃走経路も攫めねぇ……。

 新人どものコンディションは最高だった、完全にあたしの落ち度だ……」

 

「あ、あのヴィータ副隊長……」

 

報告中のヴィータにスバルが話しかけるが、無言のままグラーフアイゼンを突きつけられ押し黙ってしまった。

 

「ヴィータ副隊長、少しよろしいでしょうか?」

 

「……なんだ!?

 報告中だぞ!」

 

怒鳴り声を上げる彼女にティアナが少し冷や汗をかきながら言葉を続ける。

 

「あのですね、言いそびれてしまってたんですけど。

 実は、レリックにちょっとした工夫をしてまして……」

 

 

 

 

 

 

 

 

「まったく、チンクに言われたとおりに遠くで見守っていなければどうなっていたんだ……」

 

「ごめんなさい、トーレ姉さま。

 おかげで助かりました~」

 

「面目ない」

 

スカリエッティのアジトでトーレ、ルーテシアをはじめとした七人は廊下を歩いていた。

 

「礼ならばお嬢様に言え。

 お嬢様の集団転移がなければ我々は全員捕まっていた可能性が高い」

 

「別にいい。

 それより、レリックの確認」

 

「あ、は~い!」

 

ルーテシアに促され、ケースを運んでいたセインが近くにあった土台にケースを置き、蓋を開いた。

 

「じゃじゃじゃーん……って、アレッ!?」

 

ケースを開いたセインだったが、そこにあるべきものがなかった。

空っぽならまだしも、本来レリックが収まっていたであろう場所に紙が貼り付けられていた。

 

『スカ』

 

「これはいったい?」

 

「セインちゃん、ちゃんと確認したの?」

 

「はぁ、こんなのが私の姉とは……」

 

「ちゃ、ちゃんと確認したって!!

 ほら、記録にもこんな風に!!」

 

姉妹からの視線に耐え切れなくなったセインは慌てて情報を開示する。

そこにはレリックの反応が確かにケースから放たれていた。

 

「この馬鹿者どもが!」

 

突如、彼女たちにトーレの怒声が叩き込まれた。

トーレは一つのモニターのある部分を指さし彼らに尋ねた。

 

「お前たちの眼は節穴か!?」

 

 

 

 

 

 

「こういうわけです」

 

ヴィータへ説明をしていたティアナはキャロの帽子をとった。

キャロの頭には、なぜか花がちょこんと咲いていた。

 

「ケースは間違いなく本物でした。

 私のシルエットって衝撃に弱いから、下手にシルエットで増やしても奪われた時点でばれてしまいますからね」

 

ティアナの説明を聞いているヴィータとリインはポカンと口を開けたまま彼女の話を聞いていた。

 

「ですから、一度ケースを開封して中のレリックだけに厳重に封印を行って」

 

「中身は、直接戦闘の機会が少ないキャロに持っててもらうことにしたんです」

 

「帽子の中ってのも、隠すにはうってつけだったので」

 

ティアナの説明を聞いて、ヴィータは彼らの手際の良さに驚きの声を上げながらも、部下の成長を確かに感じていた。

 

 

 

 

 

 

 

ところ変わってスカリエッティのアジト。

レリックの番号が目的のものではなかったことを確認したルーテシアとアギトはその場をすでに去っていた。

そんな中、トーレがノーヴェに尋ねる。

 

「お前はどうだったんだ?

 自分のやりたいことをやったんだろう?」

 

トーレの問いにノーヴェは答えずらそうに顔をしかめた。

 

「まだ、よくわからない。

 自分のやりたいこと、やらなきゃいけないことってのが……」

 

「ノーヴェちゃんってばまだそんなこと言ってたの~?

 私たちはドクターに創られた存在。

 なら、私たちの存在意義はすでに決まりきったことじゃないの」

 

ノーヴェの歯切れの悪い答えを聞いたクアットロが眼鏡の位置を整えながらそう告げた。

 

「そりゃそうだろうけど……」

 

「ふむ……」

 

妹の様子を見たトーレは一つの決断を下した。

 

「そろそろ、お前たちにも話しておくべきなのかもしれんな。

 ドクターが私たちを創りだした意味を」

 

「創り出した意味……?」

 

トーレの言葉にディエチが首を傾げる。

セインとノーヴェもまた、同じような反応を示していた。

 

「あぁ、チンク以降に稼働した者にはまだ話していなかったからな。

 丁度いい機会かもしれん」

 

トーレはそう言って彼女たちに背を向けて歩き出した。

 

「ドクターに許可を求めてくる。

 ノーヴェとディエチは先に部屋に行ってろ。

 クアットロとセインはそのケースを捨てておけ。

 中身のないケースは不要だからな」

 

トーレはそう告げてスカリエッティのいる部屋へと向かっていった。

 

「ドクターの目的って……?」

 

「チンク姉からも聞いてなかったな、そう言えば……」

 

トーレに言われたとおりにノーヴェとディエチはその場を後にする。

残されたクアットロとディエチはため息を吐きながらケースの方へと目を向けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「みんな、お疲れ様」

 

「特にティアナ、よくやったね」

 

「ありがとうございます」

 

高架に降り立ったなのはとフェイトがティアナをはじめとしたフォワードメンバーに労いの声をかける。

 

「この後の陸士401部隊への引継ぎは私たちでやっておくから、みんなの仕事はおしまい。

 報告書の作成は明日でいいからね」

 

「エリオとキャロはヘリに乗って帰るとして、スバルたちはどうする?」

 

「あ、帰りに研究所に向かうので結構です」

 

「そう?

 じゃぁ、気を付けて帰るんだよ?」

 

なのはとフェイトはそう言って現場検証を行っている部隊の方へと歩いて行った。

エリオとキャロ、あとギンガも一緒にヘリへと乗り込んでいった。

 

「さてと、帰るか」

 

「そうね、早くしないと駐車場の料金が馬鹿にならなくなっちゃいそうだし」

 

軽く伸びをしながらスバルは隣を歩くティアナに尋ねる。

 

「なぁ、どうせお前のことだ。

 ケースからレリック抜き取るだけじゃないんだろ?」

 

「あら、わかる?」

 

「何年一緒に仕事してきたと思ってるんだよ。

 それぐらいわかるさ。

 で、どんな嫌がらせしたんだよ?」

 

 

 

 

「あれ、なんか紙の下にある……」

 

「セインちゃん、どうかしたの~?」

 

すでに彼女たち二人しかいない廊下でレリックのケースに紙以外のものが入っていることに気づいたセインはその紙を一気に引っぺがした。

その際、何かを引き抜く音がしたのだが、とんでもな規模の魔法を浴びせられそうになったクアットロは気づかなかった。

疲れきっていても好奇心はあったために紙の下にあったものを覗きこもうとした。

 

刹那、膨大な光と音がその空間を埋め尽くした。

 

「「目が、目がぁ~!!」

 

 

 

 

「ちょっとした仕返し、ね」

 

 




今回、なのはたち隊長組の活躍はカットしました。
だってスバルが絡む要素皆無で原作とほとんど変わらないので……(笑)


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ティアナルート 第九話

「博士ー、部品取りに来ましたよー」

 

スバルはとある部屋の木製の扉をノックしつつそう告げた。

最先端の技術を扱う研究所に似合わない木製の扉が内側に開かれ、中から待ってましたと言わんばかりの笑顔でサカキが顔を出した。

 

「おぉ、スバル君、待っていたよ」

 

サカキはスバルに中へ入るように促す。

スバルが部屋に入ると、サカキは部屋の奥に置いてある本棚の本の位置を変える。

すると、カチッと何かがはまる音がして本棚が横にずれ、その場所に鋼鉄の扉が現れた。

 

「いや、いつ見てもすごいですね」

 

「そうだろう?

 やはり研究所というからには、こういった秘密の部屋の一つはあった方がいいと考えてね」

 

浪漫だよ、とサカキは楽しそうに言いながら扉を開いた。

 

 

 

 

「はぁ……」

 

スバルがサカキ博士のもとを訪ねているとき、ティアナは研究所の待合室で相棒の用事が済むのを待っていた。

先ほどの戦闘の報告書を書き始めるかとも思った彼女だったが、さすがに仕事場ではないところでそれをするのは不味いだろうと考え、結果やることがなくて退屈しているところだった。

 

「ねえ……」

 

「ん?」

 

そんな彼女に声が掛けられた。

声のした方をティアナが振り向くと、そこには一人の少女が立っていた。

その少女はツナギ姿で上半身はタンクトップという、ティアナからすれば同じ女としてその格好はどうよ、と思わずにはいられない格好だった。

 

「ティアナ・ランスターさんだよね……?」

 

「そうだけど……、あなたは?」

 

「私、サカキ博士の助手をしてるリツカ・クスノキっていうの」

 

少女―――リツカ―――は「ちょっと失礼するね」と言って手に持っていた荷物を床に置き、彼女の向かい側に座った。

 

「いや、なんかサカキ博士の部屋にいたら『これからちょっと男同士の話があるから』って言われて追い出されちゃったんだ。

 で、此処に来たらあなたがいたから声をかけてみたってわけ」

 

「サカキ博士って言ったわよね?

 なら、私のことも?」

 

「うん、スバル君から聞いてるよ。

 からかうと面白い娘だってね」

 

リツカの言葉に何時ぞやのスバルの言葉が重なって聞こえたティアナは額に青筋を浮かべながらも、初対面の人にどなるのは悪いとなんとか我慢した。

 

「アハハ、やっぱり面白い娘だ。

 あ、コーヒー飲む?」

 

「……お願い」

 

ティアナがむっとしながら答えると、リツカは笑いながら待合室に備え付けられてるコーヒーメーカーのもとへ歩いて行った。

 

「あ、そうだ、コーヒーに何いれる?

 ミルク、砂糖、塩があるけど」

 

「ミルクを……って塩なんて入れるの?」

 

研究所(ここ)じゃ当たり前だよ?

 糖分と塩分のどっちをとるかでいれるのを変えるんだ」

 

ティアナの問いに「やっぱりその反応がふつうだよね~」といいながらコーヒーを淹れはじめる。

 

「スバルの知り合いってどこか普通じゃない人ばっかりね……」

 

そう呟かずを得なかった彼女だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「これが……」

 

スバルの目の前には一つの部品が置かれていた。

 

「そう、以前から僕が開発していた魔力変換炉(マギリングコンバーター)の超小型版だ。

 試作型の大型版がとある戦闘に使用されてからその性能に目をつけた人がいてね。

 研究費用もそちらから出してもらえた。

 で、そのうちの正式生産型の第一号を君にね」

 

サカキは部品を手に取りながらそう告げる。

 

「大型ってどのくらいの大きさだったんですか?」

 

「一昔前の冷蔵庫並みの大きさ。

 とてもじゃないが機動戦には向かない代物だったよ」

 

我ながらよくあんなものを渡したものだよ、とサカキは苦笑しながら答える。

 

「この小型版は、性能は以前のものと変わらない。

 けど、小型化の影響から使用は一回限りだ。

 デバイスにかかる負担が尋常じゃないからね、使ったらその場でパージするように」

 

「わかりました」

 

サカキは手に取った部品をスバルに手渡す。

スバルはそれをじっと見てから、マッハキャリバーの格納領域にしまい込んだ。

 

「それと、これも渡しておくよ」

 

「ありがとうございます」

 

彼が部品をしまい込んだのを確認したサカキは近くの机に置かれた箱を手に取ってスバルに渡した。

 

「いきなり部品の他にも作ってほしいものがあるって言われたからね。

 リツカ君に頼んで作ってもらったんだよ」

 

「リツカが?」

 

サカキから手渡された箱をポケットにしまい込みながらスバルは首を傾げた。

 

「そうさ、君からの頼みだからって部品を作った直後だってのにすぐにとりかかってくれたんだ。

 あとで礼を言っておくのをお勧めするよ」

 

 

 

 

 

 

「なるほど、ティアナも苦労してるんだね~」

 

「そうなのよ……。

 まったく、こっちの気苦労も知らずにさ……」

 

研究所の待合室では、ティアナとリツカが互いのスバルに対する愚痴を零しあっていた。

以前からスバルによって様々な苦労を掛けられた二人。

初対面だというのにすでに長年の友言ってもいいほどに意気投合していた。

 

「でも、そんな彼だから気になってるんでしょ?」

 

「き、気になってなんか……ないわけでも……ないけど……。

 そ、そういうリツカはどうなのよ?」

 

「どうって?」

 

リツカの言葉に顔を紅くしながら反論するも、だんだんと声が小さくなっていくティアナ。

ティアナは自分がされた質問をそっくりリツカにそのまま返した。

 

「リツカだって、スバルとそれなりに付き合いあるんでしょう?」

 

「あぁ、そういった感情はないよ。

 あたしにとってスバル君は……そうだね、言い方は悪いかもしれないけど教科書代わり、かな?」

 

「教科書……?」

 

ティアナはリツカの言葉に首を傾げる。

 

「その言葉が一番しっくりくるんだよね。

 友達を教科書代わりってのも悪いんだけど、私の夢のための勉強をスバル君でさせてもらってるってところ」

 

「リツカの夢って……?」

 

「高性能な義手義足の開発。

 そのためには戦闘機人としての技術を利用するのが一番なの」

 

「立派ね」

 

「管理局員してるティアナも立派だよ」

 

リツカは自分のカップに淹れたコーヒー(塩)を飲み干すと、立ち上がる。

 

「ティアナの愛しいボーイフレンドも来たことだし、邪魔者は退散するよ」

 

「い、愛しいって!?」

 

ティアナの抗議を笑って躱したリツカは、部屋に入ってきたスバルのもとに向かう。

 

「やぁ、スバル君。

 希望したものを渡したんだから、しっかり頑張るんだよ」

 

「わかってますよ、リツカさん。

 ちゃんと稼働データは送りますんで」

 

リツカはスバルの当たらずも遠からずな答えに苦笑する。

 

「そっちだけじゃないんだけどなぁ」

 

「え?」

 

「あぁ、なんでもない。

 それじゃ、またね」

 

リツカは笑いながら部屋を出ていった。

スバルはそんな彼女の様子に首を傾げながらソファに座っているティアナを呼んだ。

 

「ティアナ、そろそろ帰るぞ」

 

「え、えぇ!

 チョット待って」

 

ティアナは焦った様子で答えると、荷物をまとめて部屋の出口に向かっていった。

 

 

 

 

 

「あ、そうだ。

 ティアナ、これ」

 

「ん?

 何よ、これ」

 

研究所を出て、駐車場に向かう途中でスバルはポケットの中から取り出した箱をティアナに手渡した。

箱を受け取ったティアナは首を傾げる。

 

「まぁ、開けてみろって」

 

「……。

 これって……!」

 

スバルに促されて箱を開け、中に入っているものを取り出す。

彼女の手には、橙色に彩られた星形ネックレスが握られていた。

 

「ほら、俺たちって結構長いことコンビ組んでたけど、こんなものは一つも持ってなかっただろう?

 だからちょっと博士に頼んで、作ってもらった」

 

スバルはそう言って自分の手に持つネックレスを見せた。

ティアナのものと同様に青色の星の形をあしらったものだった。

 

「あんた、タイミング良すぎよ……」

 

顔を紅くしたティアナはそっぽを向いてボソッと呟く。

 

「なんか言ったか?」

 

「なんでもない」

 

その後、二人はスバルのバイクのもとまでたどり着いた。

スバルが先に乗り、その後ろにティアナが乗る。

その時、ティアナがスバルの名前を呼んだ。

 

「その、ありがとうね」

 

横目で見た彼女の微笑みはスバルの脳裏に焼き付けられた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

場所は移り、スカリエッティのアジト。

 

「ふむ……。

 いい頃合いかもしれないね。

 いいだろう、トーレ。

 あとで皆を集めておいてくれるかい?

 そろそろチンクから定時連絡が入るころだから、それがすんだら始めるとしよう」

 

「わかりました。

 それでは」

 

スカリエッティの返答を聞いたトーレは一礼すると部屋を出ていった。

それを見届けたスカリエッティはウーノに話しかける。

 

「というわけだ。

 ウーノ、すまないが資料の準備を頼めるかい?」

 

「わかりました。

 どの程度のものを用意すれば?」

 

ウーノの言葉を聞いたスカリエッティは少しも考えるそぶりを見せずに答える。

 

「すべてだよ。

 私の生まれた理由から、私の計画まで」

 

「承知しました」

 

ウーノが先ほどのトーレと同じく一礼して部屋を出ていった直後、スカリエッティのいる部屋に一つのモニターが映し出された。

 

『ドクター』

 

「やぁ、チンク。

 どうだったかい?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『やぁ、チンク。

 どうだったかい?』

 

「ドクターの言う通りでした」

 

チンクは自身のいる部屋を見回しながら答える。

そこには様々なものがあった。

大型のコンピューター、モニター、検査用機器、そして、大型生体ポッド。

 

『やはりか、例のあれがあったんだね』

 

「はい。

 対戦闘機人用戦闘機人。

 タイプゼロ・ジエンド」

 

チンクの見つめる先、生体ポッド中には、タイプゼロセカンドと呼ばれているスバルや、彼女の妹の一人であるノーヴェと同じ顔をしたモノが浮かんでいた。

 

 

『起動はしているのかい?』

 

「いえ、これは外側だけです。

 まだ中身は完成はしていなかったようで。

 しかし、プロトタイプが数体起動しており、ⅴ型をすべて失うことになってしまいました」

 

そして、彼女の足もとには、生体ポッドの中に浮かんでいるモノと同じ顔をしたモノが五体、転がっていた。

すでにその目から光は消えていた。

 

『まぁ、ⅴ型はジエンド用の保険も兼ねていたからね。

 よしとしよう。

 それで、プロトタイプはどの程度のものだったんだい?』

 

「ガジェット以上、私たち未満といったところです。

 外側は我々と同じですが、頭の中が違いました。

 あれではただの機械と同じです」

 

『そうか……』

 

「あの、ドクターはどうやってこの施設を……?

 今まで見つけられなかったものを……」

 

チンクの問いにスカリエッティは微笑みながら答える。

 

『何、その施設を作った者は私たちのことを疎ましく思う者だということ。

 そして、その連中をさらに疎ましく思う者がいる、ということだよ』

 

「連中を疎ましく思う者……、まさか……!」

 

『おっと、それ以上は口にしない方がいいよ。

 何処で誰が聞いているかわからないからね』

 

チンクを遮ると、スカリエッティはすぐに指示を出した。

 

『では、その施設は破壊してしまってくれて構わないよ。

 というか、徹底的にやってくれ』

 

「いいのですか?」

 

『構わないよ。

 私はね、娘たちを傷つける存在を許すほど心は広くないのさ』

 

チンクは彼の言葉をうれしく感じていた。

 

「わかりました。

 それでは」

 

『うん、気を付けて帰ってくるんだよ』

 

スカリエッティはそれだけ言うと、通信を切った。

通信の切れたことで、薄暗かった部屋がさらに暗くなった。

そんな暗闇の中でチンクは一人呟く。

 

「悪いな、お前たちも目的があって生み出されたのかもしれんが、私とて自分を壊す可能性のあるモノを存在させるほどお人よしではないのでな」

 

 

 

 

 

 

 

この日、一つの山が地図から消えた。

 



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ティアナルート 第十話

廃棄都市区画での戦闘から一夜明け、六課隊舎の廊下をスバルたちは談笑しながら仕事場に向かっていた。

前日に戦闘を行ったために、今日の早朝訓練は中止となり比較的ゆっくりとした仕事開始を迎えた四人だったのだが……。

 

「さてと、報告書書かないと……」

 

「ある程度纏めたといっても、これをさらに報告書に仕上げるのは面倒よね……」

 

「まったくだ」

 

互いに隣り合わせに座るスバルとティアナは愚痴を零しあいながらも手を休めることはなかった。

だが、その進み具合には差があった。

頭を働かせて指示を出すティアナと、頭は悪くはないが、身体を動かす方が落ち着くと言って憚らないスバルだ。

仕事の進行度に違いが出るのは考えるまでもなかった。

そんな時、不意にティアナに通信が入ってきた。

 

「アレ、なのはさんからだ……」

 

ティアナはなのはからの通信に首を傾げながも会話ボタンを押す。

 

『あ、ティアナ、おはよう』

 

「おはようございます。

 あの、何か……?」

 

『うん。

 ちょっと、みんなで私の部屋まで来てもらえるかな?』

 

「なのはさんの部屋に?」

 

『そう、ちょっとお願いしたい事があるんだ』

 

「はぁ……あの、お願いって」

 

『あっ!

 ごめん、それはこっちに来てから言うから、急いで来てね!』

 

「あ、なのはさ……」

 

ティアナが言い終わる前になのはからの通信が途切れる。

なのはの慌てぶりを疑問に思いながらも隣にいるスバルや、エリオとキャロを呼んでその場を後にした。

 

 

 

 

 

「なのはさん、スバル以下四名来ましたよ」

 

『あ、ゴメン!

 今、手が離せないから入ってきて!』

 

「「「「失礼します」」」」

 

一言断って部屋へと入る四人。

すると、そこにはなのはと、彼女のスカートを握りしめている涙目の金髪の少女がいた。

 

「あれ、その子って……」

 

「エリオとキャロが保護した子だよな」

 

「うん、そうだよ。

 名前はヴィヴィオ。

 ほら、ヴィヴィオ、自己紹介しよう」

 

「……ヴィヴィオ、です」

 

なのはに促されておずおずとスバルたちを見て、小さな声で挨拶をする少女―――ヴィヴィオ。

 

「なのはさん、確かこの子ってまだ病院なんじゃ……?」

 

「そうなんだけどね。

 今朝、様子を見に行ってから離れてくれなくて」

 

なのはは苦笑しながら答える。

そして、その続きを念話で伝える。

 

(それに、この子の身辺警護もしないといけないし)

 

(あぁ、なるほど……)

 

なのはの言葉に、ヴィヴィオの特異性を思い出すスバル。

彼女のような小さな女の子が通るはずのない下水道を通り、レリックのケースを運んでいたこと。

さらに保護した彼女、もしくは同時に確保したレリックを狙ってヘリの撃墜未遂まで起こされる始末。

どこからどう見ても普通の少女ではなかった。

「私、今から少し出かけなきゃいけないんだ。

 だから、私が戻るまでヴィヴィオの相手をしてあげて欲しいんだけど……」

 

「え……」

 

なのはの言葉にヴィヴィオはこの世の終わりが来たかのような表情を浮かべる。

要は泣き出す直前である。

 

「やぁだあああっっ!

 いっちゃやだぁぁぁぁっっ!!」

 

「ああ、ごめんね。

 お願いだから泣かないで~」

 

わんわんと泣きはじめるヴィヴィオに困り顔のなのは。

スバルたちは目の前の光景に苦笑する。

 

”エース・オブ・エースにも勝てない者がいた”

 

四人の心が一つになった瞬間だった。

 

泣き止む気配のないヴィヴィオになのはがほとほと困りだしたとき、ティアナがスバルに目くばせし、スバルはそれに頷く。

ポケットから何かを取り出し泣いているヴィヴィオの口の中にそれを放り込んだ。

 

「ふぇ……」

 

「ほ~ら、甘いだろう?

 もう一個あるぞ?」

 

彼が取り出したのは一口サイズのチョコレートだった。

口の中に甘いものが入り込んだことで、泣き止んだヴィヴィオの前に彼はそれを持った手を右に左にと動かす。

その動きに合わせてヴィヴィオの視線も右に左にと動いた。

 

「ほらほら、もう一個ほしいなら、こっちに取りに来るんだよ~」

 

「ん~……」

 

なのはと離れることに不安を覚えるヴィヴィオだったが、一度知ってしまったチョコレートの味には抗えず、テテテ、とスバルのもとに歩いて行く。

 

「ヴィヴィオ確保~」

 

「わッ!」

 

スバルは近づいてきたヴィヴィオの両脇に手を入れて持ちあげた。

急に持ち上げられたことにビックリしたヴィヴィオは手足をバタつかせるが、小さい子供なうえに、日々鍛えているスバル相手には虚しく空を切るだけだった。

 

「う~!」

 

「あらら、ご機嫌ななめか……。

 なら、こうだ!!」

 

「きゃぁぁーッ!」

 

スバルはヴィヴィオをさらに高く持ち上げ、続けてその場をぐるぐると回り始めた。

はじめは怖がっていたヴィヴィオだったが、次第にその声は楽しむ声になっていき、スバルが彼女を下におろしたときにはもっととせがんでいた。

 

「な、なんかスバル、小さい子の相手に手慣れてる……?」

 

「救助部隊の時に、小さい子を落ち着かせるために勉強してましたからね、あいつ」

 

「「あ、あはは……」」

 

自分が手こずったヴィヴィオをいとも簡単に泣き止ませたスバルになのはは呆けたまま呟いた。

 

 

 

「じゃぁ、ヴィヴィオ。

 なのはさんが帰ってくるまでいい子にできるか?」

 

「いい子にしたらさっきのまたやってくれる?」

 

「おう、もっと面白いこともしてやるぞ」

 

「じゃあ、待ってる!」

 

ヴィヴィオはそう言って花のような笑顔を浮かべた。

その笑顔に安心したなのははヴィヴィオに手を振って部屋を出ていった。

 

 

 

 

 

 

「はぁ……」

 

ティアナ達がなのはの部屋に呼び出されて数時間後。

ティアナは一人ため息を吐いていた。

 

「なんで私が報告書全部やらなきゃいけないのよ……」

 

そう、現在ティアナはスバルの分の仕事まで請け負っていたのだった。

理由は単純明快。

ヴィヴィオがスバルから離れなかったからだ。

なのはが去った後、仕事に戻るためになのはの部屋を後にしようとしたスバルたちだったが、ヴィヴィオが涙目で彼らを見ていたのだった。

そんな彼女を見たティアナは一言、「あんたの分まで私がやっとくから」と。

 

「あんなこと言わなけりゃよかった……」

 

そう、ティアナは失念していたのだ。

戦闘、それもレリックを狙ったガジェットのみならず、敵対勢力までいることが判明した今回。

その報告書がいつも通りに済むはずもなかった。

30%増しの量を二人分。

明らかに普通なら終わらない量である。

だが、ティアナはデスクワークに限って言えばフォワード四人の中では一番効率よく終わらせることができる。

実際、すでに自分の分は終わらせて今はスバルの報告書に取り掛かっていた。

 

「それにしても、スバルと張り合うほどの格闘技能って、このマント野郎はいったい何者なのよ……」

 

ティアナはマッハキャリバーからパソコンに転送した戦闘データを見ながら呟く。

 

(あのマントは何らかのからくりがある。

 たぶん認識阻害系の何か)

 

モニターに映るマントを着込んだ人物を見ながらティアナは手を動かしながら頭の中で相手の手札をまとめていく。

彼女が、ノーヴェの纏ったマント(正確にはサングラスにもだが)に掛けられた認識阻害の能力を見抜いたのは、単に彼女自身の持つ幻術魔法の中に認識阻害系のものがあるからである。

 

(それに、あのウィングロードに似たアレ。

 スバルはウィングロードは先天性のモノだって言ってた。

 なら、あれは別物……?

 いや、それにしては使い方から何まで似すぎてる……)

 

そこまで考えたティアナは報告書を作る手を止め頭を掻きむしる。

 

「って、あたしがそこまで考える必要はないわね。

 こういったことは上に任せるとしましょうかね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ヴィヴィオ、いい子にしてるかなー」

 

「もう、なのはは心配しすぎだよ。

 エリオとキャロの話だと、スバルがずっと一緒にいてくれてるらしいから、大丈夫だよ」

 

用事を終えたなのはとフェイトは六課の寮の廊下を並んで歩いていた。

心配そうにヴィヴィオのことを話すなのはに、フェイトは苦笑しながらそう言う。

だが、その言葉を聞いたなのははさらに心配そうにフェイトに顔を近づけ口を開く。

 

「スバルがずっと一緒にいるから心配なんだよ!

 スバルがヴィヴィオに変なこと教えてたらどうするの!?」

 

「変なことって……」

 

「私やだよ!?

 ヴィヴィオがスバル張りに熱血な性格になったら!

 フェイトちゃんだって、エリオやキャロが熱血になったらいやでしょ!?」

 

「ん~。

 確かにキャロが熱血ってのは合わないかもしれないけど、エリオならあまり違和感ないかな……?

 それに、スバルと一緒にいるってことはいいことでもあるし」

 

「なんで?」

 

「最近エリオとキャロがわがまま言ってくれるようになったからかな?

 二人はスバルにもっとわがまま言うようにした方がいいって言われたからって言ってたけど。

 この間ちょっとスバルとエリオの部屋に行ったら何か作ってたし」

 

「フェイトちゃん、男子の部屋をこっそりのぞくのはどうかと思うけど……」

 

フェイトの親バカぶりに今度はなのはが苦笑しながら今度からは男子寮に入るのは遠慮するように告げる。

二人は、そんな話をしていると寮母のアイナからヴィヴィオがいると言われた部屋に辿り着いた。

 

「ヴィヴィオ~、いい子にして……『いくぞ、これが俺の全力全壊!』……え?」

 

なのはが部屋のドアを開け、声をかけるが胡坐をかいたスバルの膝の上に座ったヴィヴィオは彼女の声など聞こえていないようでテレビの画面に夢中だった。

 

『闇を切り裂く、閃光の刃……!』

 

『星よ集え、闇を切り開く刃となれ!』

 

テレビの画面に映っているのは少年たちがそれぞれの杖から必殺の魔法を放つ場面だった。

 

『プラズマ……セイバァーーッ!!』

 

『ハイペリオン……スマッシャァーーッ!!』

 

「ナニコレ?」

 

「アニメ、だよね……?」

 

「あ、なのはママ、フェイトママ!!」

 

「お疲れ様です、なのはさん、フェイトさん」

 

テレビ画面が魔法の表現でいっぱいになったときに呟いたなのはの声に反応したヴィヴィオが二人の存在に気づき二人に駆け寄った。

そんな彼女を受け止める二人に向かってスバルが声をかける。

 

「スバル、さっきのは?」

 

ヴィヴィオを抱き上げたなのはがスバルに尋ねる。

 

「あぁ、魔砲戦記マジカルバスターのことっすか?」

 

「何それ……?」

 

アニメの題名を聞いただけではわからない二人は首を傾げる。

 

「数年前にあったアニメですよ。

 とある世界で開発された強大な力を持った宝石が、魔法の文化のない世界にばら撒かれて、それを巡ってその世界のごく一般の少年と、宝石を使って大切な人を取り戻そうとする少年の物語ですよ。

 すごい人気で、放送終了後に映画化決定で、今度は実写版があるって話です。

 なんでも実際に起きた事件をもとに作ってるらしいですよ?」

 

「へ、へぇ~」

 

「すごいんだよ!

 こう、ドカーンってなってズバーンって」

 

(なんか聞いたことあるような話だな~)

 

ヴィヴィオの幼い子供ならではの擬音語を用いた会話に苦笑しながらそう考えるフェイトだった。

 

「さてと、なのはさん達が帰ってきたなら、俺は仕事に戻りますね」

 

「あ、うん。

 ありがとうね、スバル」

 

「いえ、ヴィヴィオと一日遊んで俺も楽しかったですし」

 

「スバルお兄ちゃん、もう行っちゃうの?」

 

ヴィヴィオの少し悲しそうな顔を見たスバルは彼女の頭を撫でながら優しく語り掛ける。

 

「お兄ちゃんは少しやらないといけないことがあるんだ。

 だから、今度はみんなで遊ぼうな」

 

「みんな?」

 

「そう、俺やなのはさん、フェイトさん、ティアナにエリオ、キャロ、ほかにもいっぱいの人とな。

 だから、今はなのはさん達と一緒に遊ぶんだぞ?」

 

「うん……!」

 

スバルの言ったことを子供なりに理解した彼女は笑顔で答える。

そんな彼女に背を向けてスバルは仕事場に足を向けた。

 

 

 

 

 

「ほら、あとはあんたが直接やらないといけないやつだけなんだから。

 まったく、大変だったんだから、感謝の一つぐらいはしなさいよ」

 

「うむ、褒めて遣わそう」

 

「調子に乗るな!」

 

 




ロリっ子です。
ロリっ子ですよ(大事なことなので2回ry
スバルの子供との付き合い方は必要なことなので勉強して修得したものです。

ストックが尽きたので、明後日の投稿はなしということにさせてもらいます。
それでは


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ティアナルート 第十一話

まさかのvividアニメ化!
これは自分にvivid編を書けということなのか!?
まぁ、まずはティアナルートの後にノーヴェルートを書き終えてからの話なのですけどね(笑)


にぎやか声、肉や野菜を焼く音、楽器を鳴らす音。

ミッドチルダ首都クラナガンに置いて、猛暑日となった今日。

ティアナは着慣れない浴衣を着てスバルとともに街中を歩いていた。

 

普段着なれない服装で、気をつけながら歩いていたティアナは、今までの経緯を思い出していた。

 

 

 

 

 

 

数時間前……

 

 

「夏祭り?」

 

普段通り、日課となっている早朝訓練を終えたフォワード四人となのは、フェイト、ヴィータは朝食の後にはやてに呼び出されていた。

はやてはなのはの言葉に頷きながら言葉を続けた。

 

「そうや、今日は管理局地上本部主催のサマーフェスティバルが行われるんや。

 で、本来ならその警備任務に駆り出される予定やったんやけど……」

 

はやてはそこで一度咳払いをする。

 

「さっきレジアス中将から連絡が入ってな。

 どうも地上本部(むこう)でも昨日の戦闘を見とったっぽくてな。

 で、しかもフォワード四人が休暇返上でレリックの確保に動いたことを知ったレジアス中将がな、

『若者が休みを潰して仕事をしていたのだ。

 だったら祭りぐらいは楽しませてやるのが上の仕事だろう』って」

 

「でも、レリックの反応があったときはどうすればいいの?」

 

「祭りの時はレリックの回収は特務一課が受け持つらしいで。

 あちらさんの目標が中々捕まらないから少しはいい息抜きになるだろうって。

 というわけで、うちらは今日の仕事は定刻通りに終了。

 みんなで祭りに行くで~」

 

はやてが言葉に合わせて右手を突き上げる。

それに乗ってフォワードの四人やリインも嬉しそうに手を突き上げていた。

 

「あ、じゃぁ久しぶりにあれが着れるね」

 

「ん、そうやな」

 

「じゃぁ、二人の分もあるの?」

 

「そうやなぁ……。

 キャロはうちらの小さいときのものを使えばいいだろうし、浴衣なんて子供用じゃなければほとんどの体系に合わせられるから大丈夫だと思う」

 

「決まりだね」

 

なのは、フェイト、はやては三人で着ていく服の話をしていたが、ミッドチルダ生まれのフォワード四人は何のことなのかサッパリだった。

 

「それじゃ、仕事が終わったらティアナとキャロは私たちの部屋に来てくれるかな?」

 

「え、あ、はい」

 

「わかりました」

 

なのはの言葉に頷く二人。

 

「それじゃ、祭りを楽しむためにお仕事頑張ろう!」

 

 

 

 

 

 

 

祭りのことを知らされたスバルとティアナはそれぞれの机で自分の仕事を淡々と、しかし猛然とこなしていた。

陸士訓練校を卒業して以来、祭りというものに縁がなかったという理由もあるが、それよりももっと大きな理由が彼らにはあった。

 

(祭りって言えばだれかと一緒に回るものだろうけど、誘えるのってティアナぐらいしかいない。

 というか、あいつ以外と一緒に回ってもそんなに楽しめなさそうだな。

 って、待てよ……女子(ティアナ)と一緒に祭りを見て回るって……)

 

(祭りって、誰かとワイワイしながら回るのがふつうよね……。

 誰かと一緒って、スバルしか誘う人いないわね。

 訓練校の時はあまりそういうことには頓着しなかったし……。

 それに、スバル以外と一緒に遊ぶってのが想像できないわね。

 アレ、ちょっと待って、男子(スバル)と一緒に祭りを見て回るって……)

 

((一般的にデートって呼ばれるものなんじゃ……))

 

二人は同じタイミングで同じことを考えていた。

意を決した二人は相方に話しかけた。

 

「なぁ」

 

「ねぇ」

 

「「……」」

 

同じタイミングで話しかけたことによって、二人の間に沈黙が広がる。

そして互いに相手に譲ろうと考え、少し待って再び口を開いた。

 

「あのさ」

 

「あのね」

 

「「……」」

 

二度あることは三度ある。

同じようなことを二回も繰り返した二人は恥ずかしさから互いに視線を逸らした。

 

「何してんだ、あの二人は」

 

その様子を離れたところから見ている者がいた。

なのはとヴィータである。

 

「青春してるね~」

 

「そうだな。

 というか、あの二人は以前から付き合ってたんじゃないのか?」

 

「あ~、うん、あの二人の以前いた隊の人から聞いたんだけど、二人とも互いのことを仕事上のパートナーとして考えてやってきたらしいよ。

 でも、数日前、というかあの休暇から隊舎に帰ってきてから様子がおかしかったんだよね」

 

なのはの言葉にヴィータは相槌を打ちながらようやく話し始めた二人を見て頷いた。

 

「とりあえず、一つわかったことがある」

 

「何がわかったの?」

 

ヴィータの意味深な発言に首を傾げるなのは。

そんな彼女にヴィータはズバっと単刀直入に告げる。

 

「お前、年下に先越されたな」

 

「……ッ!?」

 

ヴィータの言葉にハッとするなのは。

そんな彼女にヴィータはさらに追い打ちをかける。

 

「というか、下手したら相手がいないまま子持ちになるな。

 ヴィヴィオを引き取るんだよな、お前」

 

「うぅ……!」

 

「どうするんだ?

 下手したら相手がいないままあの二人の式に呼ばれたりするかもしれんぞ?」

 

「わ、私にはユーノ君が……」

 

「そう言うセリフはあいつをデートの一つにでも誘ってから言うんだな」

 

ヴィータの辛辣な一言になのはは祭りの前だというのにテンションが急降下してしまった。

だが、しばらくして、ヴィヴィオが彼女に祭りのことを尋ねると、なのはのテンションは一気にもとに戻ったらしい。

 

 

 

 

 

 

 

「う~ん、やっぱりキャロにはこっちの方がいいんじゃないかな?」

 

「そうだね、この花柄なんてのはどうかな?」

 

「お~、出張任務の時も思ったけど、ティアナって脱いだらすごいんやな~」

 

「八神部隊長、それセクハラです」

 

「アハハ、冗談や冗談。

 で、ティアナにはこっちの方がええかな?」

 

「どうだろう、あっちの方がいいんじゃないかな?」

 

「あ、ヴィヴィオこれがいいー!」

 

「わぁ、ヴィヴィオちゃんとってもかわいいです!」

 

※以上、女子更衣室内でのやり取りをお送りしました。

 

 

 

 

「長いな」

 

「長いですね」

 

「キュクル~」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「男子お二人さん、お待たせや」

 

ロビーで女性陣を待っていた二人と一匹ははやての声に反応して振り返った。

 

「エリオ君、どうかな?」

 

「え、あ、うん。

 似合ってるよ」

 

「えへへ……」

 

はやてに率いられてやってきたキャロとティアナがその浴衣姿を披露する。

ティアナは橙色のシンプルなもの、キャロは白地に桃色の花柄の浴衣を見に纏っていた。

 

「……何よ」

 

「いや、似合ってる」

 

「そう、ありがと」

 

エリオとキャロのコンビとは違い、はしゃいだ感じはないが、スバルは視線を逸らし、ティアナは頬をほんのりと赤く染めていた。

それを見たはやては一言。

 

「あ~、なんかうちらお邪魔みたいやね」

 

「お邪魔虫ですぅ」

 

 

 

 




お久しぶりです。
というわけで、夏祭りです。
リアルではすでに九月に入ってますが(笑)
着々と互いのことを意識し始めた二人。
ティアナとキャロの浴衣衣装は皆さんの頭の中で想像してください(何しろ自分は彼女いない暦=年齢なので……)
なんというか、二人の心の声を書いてて、お前らさっさと付き合えよって思っちゃいましたよ……


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ティアナルート 第十二話

今回、いよいよあの人が登場!


「焼き鳥いかがですかー!」

 

「ママー、あれほしい!」

 

「焼きパスタ、おいしいですよー。

 おひとついかがですかー!!」

 

「さぁさぁ、寄ってらっしゃい見てらっしゃい!!

 サマーフェスティバル限定の魔法ショーが始まるよ!!」

 

管理局地上本部主催のサマーフェスティバルは盛況を極めていた。

様々な世界を管理する管理局の地上本部があるため、様々な世界の食べ物や遊びの店が構えられていた。

そんな中を、スバルとティアナは並んで歩いていた。

 

「いやー、にぎわってるな」

 

「そうね、まぁ年に数回の祭りだしね。

 けど、こうしてみると結構いっぱいあるわね~」

 

すでに祭りが始まって一時間以上過ぎた時間帯。

メインイベントである花火までまだまだ時間があるが、すでに会場は人でいっぱいだった。

 

「けど何かしら、なんか視線を感じるんだけど……」

 

「確かにそうだな。

 誰か有名人でも近くにいるんじゃないのか?」

 

二人は周囲からの視線を感じながらも、それを無視しようとしたが、その視線の中から自分たちを見ているとはっきりとわかるものがあったため、周りを見渡した。

 

「今、誰か見てたよな?」

 

「えぇ、それも結構近くから」

 

「どうする?」

 

「あっちに行きましょう。

 ここよりも人が多いから撒けるはず」

 

二人は行く先を変えて人の多い方へと足を向けた。

そして、その背後をこそこそと隠れてついていく影が二つ。

 

「いやぁ、ビビったわ~。

 アレ、気づかれたとちゃうん?」

 

「ていうか、なんではやてちゃんはこんな尾行まがいのことをしてるですか?」

 

二つの陰―――はやてとリインはスバルたちから離されないように歩きながら小声で話していた。

先ほど、スバルたちが周囲から感じていた視線は、彼女(はやて)のものだった。

 

「だって、シグナムたちは六課で待機。

 なのはちゃんとフェイトちゃんはヴィヴィオと一緒に祭りを楽しんでる。

 だからと言ってほかに誘う人おらんやん」

 

はやてはいつの間にか確保していた焼き鳥を一本手に持ちながら言葉を続ける。

 

「だったらほかにやることなんてほかの色恋沙汰を楽しむしかないやろ?

 祭りを楽しみつつ二人がどんなところを回っていくのか、楽しみやしな」

 

「野次馬根性丸出しです」

 

はやての楽しそうな笑みを見たリインは呆れたように呟いた。

 

 

 

 

 

 

「さてと、何から食べるか」

 

「いきなり食べ物ってのがあんたらしいというか……」

 

「せっかくの祭りなんだ。

 楽しまないと損だろ?」

 

「それもそうね……ってアレ?」

 

スバルの言葉に頷いたティアナの視線がとある出店の一つを捉えた。

 

「ねぇ、あれなに?」

 

「あれ?」

 

スバルはティアナが指さした方に目を向ける。

そこには『冷やしカレードリンク』と書かれていた。

 

「冷やしカレードリンク?」

 

「なんだろう、この名前からして外れな気がするけれど興味引かれるのって」

 

「行ってみるか?」

 

「そうね、ちょっと怖いもの見たさってのもあるけど」

 

二人はそう言ってその店に足を向けた。

店に近づくにつれて、その店の店員の顔が見えてきた。

 

「あれ、サカキ博士?」

 

「ん?

 おぉ、スバル君じゃないか」

 

店にいたのは眼鏡をかけたキツネ目の男性、というかサカキだった。

 

「何やってんですか」

 

「何って、うちの研究所からの出店だよ。

 一応、うちも管理局に所属する施設だからね」

 

「この冷やしカレードリンクってのは?」

 

「リツカ君が考えた飲み物だよ。

 ほかにもおでんパンや小豆サイダーなんてものもあるけど、おひとつどうだい?」

 

スバルからの質問に答えたサカキは笑いながら尋ねてきた。

二人は互いに見あいながら頷いた。

 

「あたしは小豆サイダーを」

 

「冷やしカレードリンクとおでんパンを」

 

「毎度ありがとうございました」

 

二人から代金を受け取ったサカキは二人に「あとで感想を聞かせてくれるかな」と言って仕事に戻っていった。

そんな彼を見送った二人は買ったものを手に再び歩き出した。

サカキから勧められたものはいずれも普通に考えたらおいしくはないであろうものばかりだったが、二人は怖いもの見たさに買ってしまったというところだ。

 

「そっちはどうだ?」

 

「小豆味のサイダーね。 

 まずくはないわね。

 そっちは?」

 

「正直なんでこんなのに金を出したんだって感じ。

 冷えたカレースープ飲んでるみたいだ」

 

「おでんパンの方は?」

 

冷やしカレードリンクの入っていた缶を近くのゴミ箱に入れたスバルはティアナに促されてもう一つのブツを口に運んだ。

 

「おでんって確かなのはさん達の世界の料理だったわよね?」

 

「あぁ、俺も親父が作ってくれたのを一度食べたけど、白米とならあうけどパンとは……。

 おぉ?」

 

「なに、どうしたの?」

 

おでんパンを口にいれたスバルが驚きの声を上げた。

 

「いや、これ串が入ってるって思ったらゆでてないパスタの麺だった。

 なるほど、これなら丸ごとかじりつけるわけだ」

 

「串って、本場のおでんには串なんて刺さってるの?」

 

「家で食べる分にはわからないけど。串に具を刺して出すところもあるらしい」

 

二人はしばしの間、地球の料理のことを話題にしながら歩みを進めていった。

 

 

「邪道や!

 おでんをパンに挟むなんて邪道や!!」

 

「食わず嫌いはいけないよ。

 というわけでおひとつどうぞ」

 

「……うまいやん」

 

「おいしいです~」

 

 

 

 

 

「ねぇ、スバル、あれって……」

 

「あ」

 

サカキと別れてしばらくあてもなく歩いていた二人は驚きで目を見開いた。

 

「焼きそばいかかですかー!」

 

彼らの視線の先にはティアナと同じように浴衣を着て客の呼び込みをするギンガの姿があった。

 

「姉貴」

 

「あら、スバル。

 それにティアナも」

 

「どうもです」

 

彼女のことを呼んだ二人に気づいたギンガは嬉しそうに微笑んだ。

 

「何してんの?」

 

「あぁ、これ?

 これはね……」

 

スバルが彼女の浴衣姿に疑問を抱いていると思ったギンガは身体をクルリと回して浴衣を見せる。

 

「呼子ってのをやってるのよ。

 いわゆる看板娘ね」

 

「その浴衣、お似合いですね」

 

ティアナは彼女の浴衣を見て素直に口に出していた。

ギンガの着ている浴衣は、薄い紫に朝顔の絵柄がかかれたもので、彼女の髪の色とあって非常に似合っていた。

 

「ありがとう、ティアナ。

 これってお母さんが着ていたんだって」

 

「お袋が?」

 

「うん、だから似合ってるってのは褒め言葉だね。

 お母さんみたいな女性になってるってことだから」

 

そう言ってギンガは店の方に顔を向ける。

 

「お父さん、スバルたち来たよ!」

 

「え、親父?」

 

ギンガの呼び声に店の中から一人の男性が出てきた。

くすんだ銀色の短髪の頭にタオルを巻いた男、スバルとギンガの育ての親であるゲンヤ・ナカジマである。

 

「おう、久しぶりだな、スバル」

 

「何してんの」

 

「何って、焼きそば作ってる。

 何しろ今年の祭りで一番売り上げのよかった陸士部隊には臨時ボーナスが出るからな。

 その点、うちはギンガという看板娘がいるからな」

 

「……」

 

「あ、あたしもほしいものあるし」

 

ギンガが浴衣を着て呼子をしている理由を察したスバルが彼女の方を見ると、ギンガは目を逸らしながら小さな声で呟いた。

 

「まぁいい。

 とりあえずお前らもくってけ」

 

「え、親父のおごり?」

 

「バカヤロウ、管理局員、それも一部隊長が公私混同してたら部下に示しがつかねえだろうが!」

 

「さっきまで私欲にまみれた動機話してませんでしたかぁ!?」

 

親子、というよりも歳の離れた友人みたいなやり取りを見ていたティアナは、(やっぱり親子って似るものなのね)と思っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「なぁギンガよ」

 

「何、お父さん?」

 

スバルとティアナが去った後、彼らの後ろ姿を見ていたゲンヤは娘に尋ねる。

 

「あの二人、あれで付き合ってないのか?」

 

ゲンヤは先ほどまでの二人の様子を見て思ったことを尋ねていたが、その問いに対してギンガは言葉を濁した。

 

「はたから見れば、相性抜群のカップルなのにね」

 

「俺たちはどうやっても部外者だからな、隊も違うから毎日様子を見ることもできねえ。

 というわけで」

 

ゲンヤは店から出てくると、スバルたちの向かった方に行こうとしていた浴衣姿にサングラスというあからさまに怪しい女性―――もとい、はやてを捕まえる。

 

「き、奇遇ですね、師匠」

 

「人の子の後ろをつけてる子狸に手伝ってもらおうか」

 

 

 




通算38話目でようやくゲンヤ登場!
いや、主人公の父親だというのに未だに登場しなかった作品ってあったでしょうかね(笑)
しかも管理局の制服ではなく、祭りの服という異例。
まぁ、この作品のスバルとゲンヤならこんな感じかなと思いこうなりました


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ティアナルート 第十三話

ゲンヤたちと別れた二人は少し離れたところを歩く見覚えのある後姿を見つけた。

 

「あれ、なのはさん?」

 

「ん?あ、二人とも!」

 

「スバルお兄ちゃんだ!」

 

「おぉっとヴィヴィオ、楽しんでるか~?」

 

「うん!」

 

二人が見つけたのはなのはとヴィヴィオだった。

後ろから二人に声をかけられたなのはは二人に向かって手を振り、ヴィヴィオはスバルに向かって突進してきた。

スバルは幼女(ヴィヴィオ)の突進を軽く受け止めると彼女を持ち上げその場をぐるぐると回り、ヴィヴィオは嬉しそうに笑い声をあげる。

 

「あはは、ヴィヴィオはスバルに懐いてるね。

 私以上になついてるかも……」

 

「スバルが異常に小さい子供に好かれやすいだけですよ。

 あの性格が原因じゃないですかね?」

 

ティアナはスバルの誰にでも距離を感じさせずに接してくる性格が、小さい子供に限らず彼を慕う者が多い理由だと考えていた。

陸士訓練校然り、以前の部隊然り、機動六課然りと。

 

「あ、ティアナもそこに惹かれたんだね?」

 

「ふぁ!?」

 

ヴィヴィオと戯れるスバルを見ていたティアナはなのはの言葉に驚きの声をあげてしまう。

 

「な、ななななにを!?」

 

「あはは、隠せてると思ってた?

 女の子ってのは自分のこと以上に、他人の色恋には敏感なんだよ?」

 

なのははその視線を人ごみのほうへ向ける。

その視線が向けられた方にいる一人の背中がビクッとしたが、絶賛混乱中のティアナはそれに気付かなかった。

 

「それにね」

 

「……?」

 

「私たちがティアナぐらいの年の時は仕事ばかりで、ティアナたちみたいに青春してなかったから、二人にはしっかりと楽しんでほしいんだ」

 

「なのはさん……」

 

なのはの言葉に対して意外という表情を浮かべるティアナ。

そんな彼女の顔を見たなのはは笑顔でその言葉を投げかけた。

 

「だから、好きな子にはさっさと告白したほうがいいよ?」

 

「な、なのはさん!」

 

ティアナが赤面して叫ぶと、なのはは笑いながらヴィヴィオとスバルのほうへ歩いて行った。

 

「ほら、ヴィヴィオ。

 そろそろ行くよ」

 

「うん!」

 

「なのはさん、フェイトさんは一緒じゃないんですか?」

 

「あ~、うん。

 フェイトちゃんはね……」

 

 

 

 

 

「あぁ!?」

 

キャロの持ったポイに穴が開き、そこから金魚が下に落ちてしまった。

 

「あはは、キャロ、惜しいね」

 

「次は僕が!」

 

「お、ガールフレンドにいいとこ見せな、少年!」

 

店の親父からポイと器を受け取ったエリオはしっかりと狙いを定めて金魚を掬う。

一匹、二匹と順調に掬うことができたエリオだったが、五匹目で水でびちょびちょになったポイがついに破れてしまった。

 

「あぁ、破れちゃった……」

 

「惜しかったね、エリオ。

 おじさん、私にも一ついい?」

 

「おお、いいぞ。

 ほら、頑張りな」

 

二人の後ろで見ていたフェイトは二人が楽しそうにやるので、親父からポイと器を受け取る。

一度深呼吸したフェイトは真剣な目つきで目の前のビニールプールを見つめる。

そして……。

 

「ハァッ!!」

 

一瞬で器いっぱいにこんもりと金魚が盛られた。

目の前の自分よりも年下の年頃の女の子が一瞬でそんなことをしてしまったことに驚いた親父は顔をひきつらせていた。

 

「お嬢ちゃん、さすがに取りすぎだ」

 

「えぇ!?」

 

 

 

 

 

「エリオとキャロと一緒に祭を楽しんでるよ」

 

「あぁ、あの二人と一緒にいるんですか」

 

フェイトが金魚すくいでやらかしているとは全く思ってもいないスバルたちはそう言って笑いあった。

その後、スバルとティアナは去って行った。

それを確認したなのはは近くでイカ焼きを食べていたはやてのもとに向かう。

 

「はやてちゃん」

 

「や、なのはちゃん。

 奇遇やな」

 

「何してるの?」

 

「いやぁ、あのな……」

 

はやてから事の経緯を聞いたなのはは呆れたようにため息をついた。

 

「二人に気づかれるから、程々にしないとだめだよ?」

 

「わかっとる、わかっとる」

 

ほな、とはやてはリインを伴ってその場を去った。

そんな彼女を見ながらなのははひとり呟く。

 

「なんかスバルたちって本当に青春してるな~。

 今度ユーノ君を遊びに誘ってみるかな?」

 

 

 

 

 

 

 

「いやー、管理局の祭りって結構いろいろやってるんだな」

 

「そうね、さっき広場でやってたショー見た?」

 

綿菓子を片手に歩いていた二人は祭りの規模の大きさに感心していた。

 

「あぁ、魔法使ったヒーローショーか。

 めちゃくちゃ派手だったな、背後の爆発とか」

 

「あれ、幻影魔法を応用してたわ。

 結構高難易度の技術のはずなのに、それをヒーローショーに使うなんて……」

 

ティアナは自分では行使するのが難しい高難易度の魔法をショーに使っている魔導士がいることに対してため息をついていた。

 

「まぁ、魔法なんて使い方次第でどうにでもなるからな。

 そのいい例だな、さっきのショーは」

 

「フェイクシルエットとオプティックハイドを同時使用して、本物は姿を消して、シルエットのほうに砲撃魔法を叩き込んで、爆発のエフェクトと一緒に本物はその場を出ていくって。

 まぁ、子供にはそんなことはわからないんだろうけど、幻影魔法の同時使用って本当に難しい……「お、あれなんだ?」って、スバル!」

 

ティアナが一人でぶつぶつと呟いている途中でスバルが何かを見つけて彼女の手を引いて少し歩く速さを早くした。

 

「せっかくの祭りなんだから、魔法の考察は後にしようぜ。

 ほら、なんか面白そうな食べ物売ってるし」

 

スバルの言葉を聞いたティアナは呆れながらもそのとうりだと考え、彼の視線の先へ目を向けた。

その先には『揚げピザ』と書いた看板が立てられていた。

 

「いらっしゃいませ!

 何にしますか?」

 

「おすすめは?」

 

店員であろう少年が二人に気づき、注文を尋ねる。

メニューの中からおススメを聞くスバルに対して店員はすぐに答え、スバルはそれを注文しようとした。

そんな時、彼に声をかける者がいた。

 

「ナカジマにランスターか?」

 

「「教官!?」」

 

店の奥から顔を覗かせたのは、つい先日再会したキョウであった。

 

「なんで、教官がここに?」

 

「なんでもここは第四陸士訓練校の出してる店だからだ」

 

キョウの言葉を聞いたスバルは看板を見直した。

すると、その看板の隅に確かに彼らの在籍していた訓練校の校章が小さく刻まれいてた。

 

「確かに……」

 

「訓練校は毎年順番で店を出すことになっててな。

 今回は俺たちの番だったってことだ」

 

「あ、あの、教官」

 

「なんだ?」

 

スバルたちと話し込んでいたキョウに店員の少年が恐る恐る話しかけた。

 

「先ほどナカジマと仰いましたか?」

 

「ん、あぁ。

 そうか、お前らは初めて見るんだったな。

 こいつらがスバル・ナカジマとティアナ・ランスターだ」

 

キョウの言葉にその少年だけでなく、店の奥で作業していた訓練生の多くが驚きの声を上げた。

 

「本当ですか!?」

 

「あの”伝説の世代”の!?」

 

その異様な空気にティアナだけでなくスバルまでもが少し引き気味だった。

 

「伝説の世代って?」

 

「お前たち二人をはじめとしたあの時期に在籍していた訓練生のことを第四陸士訓練校ではそう呼ぶようになったんだ」

 

「なんで?」

 

スバルが首を傾げたとき、店員の一人が声を上げた。

 

「それはいくつもの伝説を刻み込んだからですよ!!」

 

「その伝説って?」

 

「曰く、初めての訓練の際の壁上りで相方を壁のはるか上まで投げ飛ばした」

 

その言葉にスバルとティアナはピクリと反応する。

それ、俺(私)たちのことだ、と。

 

「曰く、射撃魔法のシミュレータがカンストした」

 

「曰く、格闘訓練の際に相手を壁にめり込ませた」

 

「曰く、訓練校始まって以来最高額の修理費を叩き出した」

 

「曰く、一人の女を巡って男子訓練生全員で殴り合いの大乱闘に発展したとか」

 

他にもいろいろありますよ、という店員の言葉を聞いた二人は頬を引きつらせていた。

 

「ま、まぁバイクを女と見立てれば間違ってないな」

 

「確かにカンストさせてたわね」

 

自分たちのやらかしたことがまさか伝説になっていたとは思っていなかった二人はそう呟くことしかできなかった。

 

「まぁ、お前らは今日はお客さんなわけだが。

 おい、できてるか?」

 

「はい!」

 

頃合いを見て話を終わらせたキョウが奥にいる一人に尋ねると、袋に入れられた出来立てを持ってきた。

 

「それ食って、二人で楽しんで来い」

 

「あ、じゃぁお金を……」

 

ポケットから財布を取り出そうとしたスバルをキョウは手をかざすことで止めた。

 

「あぁ、金は要らねえよ」

 

「え、でも……」

 

「俺の奢りだ」

 

キョウのその言葉にスバルとティアナは胸を貫かれた。

 

「これが大人の格好よさなのか!?」

 

「やだ、なんかこの間の子煩悩な父親とは全然違う」

 

二人はキョウに頭を下げる。

 

「気にするな、日ごろ頑張ってる教え子にちょっとしたご褒美ってところだ。

 遠慮せずに食え」

 

「「はい!」」

 

「あぁ、熱いから……「「熱ッ!!」」……気をつけろよって言おうとしたんだが遅かったか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さてと、俺は少し休憩するがお前ら、ちゃんとやれよ?」

 

「はい!」

 

「任せてください!」

 

「サボってたら今度の模擬戦は倍の量やってもらうからな」

 

スバルとティアナが揚げピザを平らげて去っていった後、しばらくしてキョウは店にいる訓練生たちにそう告げた。

 

「おら、お前ら気合入れろ!!」

 

「模擬戦倍はいやだろう!?」

 

「おぅ!!」

 

「やぁぁあってやるぜ!!」

 

訓練生たちの気合が上がったことを確認したキョウは店の裏側へ向かった。

 

「ふぅ……」

 

「なんだ、意外と先生姿も似合ってるじゃないか」

 

店の裏側で一息つこうとした彼にとある人物が声をかけてきた。

 

「意外とは余計ですよ、レジアス中将閣下」

 

「ふん、お前にそう言われるのはなんか変な感じだ。

 以前と同じで構わん」

 

「変わってませんね、部隊長殿」

 

キョウの前に姿を現したのは、ミッドチルダでは知らない人はいないといっても過言ではない人物であるレジアスだった。

管理局の制服ではなく、普通の一般市民が着るような服を着ていたが、彼女自身のプロポーションがモデル並で、かつその身からにじみ出ているオーラで存在感を出していた。

 

「それで、今回は何のようで?」

 

「何、管理局主催の祭りだ。

 お忍びで楽しんでも構わんだろう?」

 

レジアスの楽しそうな表情を見たキョウはため息を吐く。

 

「相変わらずですね、オーリスさんがかわいそうだ」

 

「あと、もう一度だけ尋ねに来た。

 カーン、特務一課に来る気はないか?」

 

「……」

 

レジアスの勧誘にキョウはもう一度ため息。

 

「以前も断りを入れた上で、申し訳ありませんが、俺は特務一課にはいきませんよ」

 

「そうか」

 

「えぇ。

 今の俺は訓練生(あいつら)を育て上げることが一番の生きがいになってるんですよ。

 あいつらがどんなふうに育ち、活躍するのか。

 それを人づてに聞くのが楽しいんです」

 

キョウはそれに、とつづける。

 

「一課にはあいつがいるんです。

 俺は必要ないでしょう」

 

「まぁ、第四陸士訓練校最大の問題児コンビの片割れだからな」

 

「それは言わないでください。

 今でもそれで校長には弄られるんですので」

 

キョウの言葉にレジアスは声を上げて笑う。

一通り笑うと、レジアスはその場から背を向けた。

 

「もう行かれるので?」

 

「ここにはお前の言葉を聞きに来ただけだからな。

 それに、そろそろ帰らねばオーリスから怒られるからな」

 

「部隊長も、娘には勝てないのですね」

 

「まぁな」

 

レジアスはそう言ってその場を後にした。

そんな彼女を見送ったキョウは立ち上がり、店の方へと歩みを進める。

祭りを訪れている人々にとって夕食時のピークが迫っており、店員たちの罵声にも似た声が彼のもとにまで聞こえていた。

 

「さて、俺も一仕事頑張りますか」

 

 

 

 

 

 

 

 

それからしばらく、一通り祭りを楽しんでいたスバルとティアナは休憩所ともなっている広場で一休みしていた。

 

「いやぁ、いろいろ珍しいものがあって面白かったな」

 

「そうね~。

 はぁ、今日だけで結構カロリーとってしまった……」

 

広場にあるベンチの一つに座っている二人は既にだいぶ暗くなってきた空を見上げる。

そこには雲一つない星空が広がっていた。

 

「きれいだな」

 

「そうね」

 

二人は短く言い合う。

しばらく二人はお互いに口を開かずに祭りの喧騒をBGMにして星空を眺めていた。

その後、スバルがベンチから立ち上がる。

 

「何か飲み物買ってくる。

 ティアナは何かいるか?」

 

「じゃぁ、紅茶でも頼もうかしら」

 

「了解。

 すぐに戻るから」

 

そう言って去っていくスバルの背中を見送ったティアナは再び星空の観察という暇つぶしを再開した。

 

「ん?」

 

スバルがその場を去ってから数分後、ティアナは自分の方に歩いてくる人影に気づく。

彼女にはその人影に見覚えがなかった。

 

「よぉ、お嬢ちゃん。

 少し俺と遊ばないか?」

 

ティアナは露骨に嫌な顔をする。

見るからに関わり合いになりたくない人種である。

 

「お生憎様、人を待ってるの。

 わかったらどこかに行ってくれないかしら」

 

ティアナは不機嫌な表情を隠しもせずに言い放つ。

だが、男はまったく意に介さず彼女に近づく。

 

「そんなこと言わずに。

 君を待たせるようなやつ放っておいて、楽しいことしようぜ?

 いい子にしてたらちゃんと楽しめるからよ~」

 

男の顔が浮かべる笑みに背筋をこわばらせるティアナはベンチから立ち上がろうとしたが、此処で彼女にとって着慣れない浴衣という服装が仇になった。

うまく体制を整えることができずに尻餅をついてしまったのだ。

 

(しまっ……!)

 

「ほら、逃げるなよ~」

 

「……ッ!」

 

尻餅をついて咄嗟に動き出すことができなかったティアナに男の一人が手を伸ばす。

今の彼女にとって、それは今まで味わった以上の恐怖を抱かせるのには十分だった。

思わず悲鳴を上げそうになったが、何とかこらえたのは彼女の意地の成せる技だったのかもしれない。

 

(スバル……ッ!)

 

ティアナは目を閉じ顔を背ける。

その時、彼女の脳裏に浮かんだのは、相棒(スバル)の顔だった。

 

「捕まえ~た」

 

男の手がティアナに触れようとする。

 

「はい、そこまで」

 

だが、その手がティアナの身体に触れることはなかった。

横合いから伸びてきた手にその腕を掴まれたのだ。

 

ティアナはその声を聴いて目を開く。

そこには今まさに彼女が望んだ存在がいた。

 

「なんだ、てめぇ?

 邪魔すんなよ……!」

 

男たちは邪魔した存在―――スバルを睨みつける。

スバルは彼のことなど最初から認識していないかのように振る舞い、ティアナに話しかける。

 

「大丈夫か、ティアナ?」

 

「スバル……」

 

ティアナは目の前にスバルがいることに安心し、スバルもまたティアナがまだ何もされていなかったことに安堵の息を吐く。

 

「無視すんなよ、オラァッ!!」

 

そんな彼に無視されたと考えた男はスバルに掴まれていない方の手で、彼に拳を振るう。

だが、普段管理局員としてなのはの訓練を受け、一人の格闘家としてかなりの腕を持つスバルにとってチンピラの放つ拳は避けるにも値しなかった。

 

「なっ!?」

 

スバルは視界の外から放たれた拳を造作もなく掴み取る。

男はありえないものを見たといった感じに驚愕に顔を染めた。

 

「……ッ!」

 

スバルはその一瞬で男を地面に叩き付け、さらに腕を背中に回し身動きをとれないようにする。

 

「痛ぅッ!?」

 

「悪いな、俺って相棒が乱暴されそうになったからって許せるほど心広くないんだ。

 それに、お前みたいなやつがいると誰かが不幸になるからな。

 ここで逮捕してもいいんだぞ」

 

スバルは静かに、しかし確実に怒気を含んだ声で男に語り掛ける。

 

「す、すまなかった!

 もうしねぇから許してくれ!!」

 

スバルの言葉を聞いた男は大きな声でスバルに謝罪の言葉を投げかける。

 

「もうしないと約束するか?」

 

「する、するから!!」

 

男の言葉を聞いたスバルは少し考えた後、男の上から降りる。

スバルは男に背を向けて「もう二度とするんじゃないぞ」と言ってティアナを立ち上がらせようとした。

 

「へ、馬鹿がッ!!」

 

「ス、スバル!!」

 

その時、男が懐からナイフを取り出し、スバルに向かってその腕を伸ばし、それを見たティアナはスバルの名前を叫ぶ。

 

「……ッ!!」

 

「ガッ!?」

 

だが、男のナイフはスバルどころか、彼の服すらも切り裂くことはなかった。

ティアナがスバルの名前を呼ぶのと同時に、スバルは男の腕の下に肩を入れ、男の身体を背中で持ち上げ、そのまま地面に叩き付けた。

所謂、背負い投げである。

さらに彼は男の上に自分の身体を落とすことで、男の意識を完全に断ったのだった。

 

「馬鹿だな、お前みたいなやつが素直に帰るなんて思ってるわけないだろうが」

 

とりあえず現行犯逮捕ッと、といいながら男にバインドをかける。

その後、騒ぎを聞きつけた管理局員に男を引き渡すスバルの背中をティアナはじっと見ていた。

 

(こいつの背中って、こんなに大きかったっけ……)

 

「ティアナ?」

 

気が付くと、ティアナはスバルの背中に頭を当てていた。

彼女の行動を感じたスバルは疑問の声を上げたが、ティアナは「なんでもない」と言って口を閉じる。

 

「もう少しだけ、こうさせて」

 

「あいよ」

 

周囲から人がいなくなった広場で、二人はしばらくじっとしていたのだった。

そんな彼らを星空の光が優しく照らしていた。

 

 

 

 

 

「まったく、ヒヤヒヤものやな」

 

「スバルが間に合ってよかったですね」

 

「まぁ、飛び出そうとはしたけどな。

 でも……」

 

二人から離れたところでじっと二人のことを見ていたはやては彼らを見て言葉を続ける。

 

「なんや、心配いらんかったかもなぁ」

 

「いい雰囲気です~」

 

「ほな、うちらも戻ろうか。

 若いお二人の覗き見はここまでや」

 

はやてとリインはそっとその場を去っていった。

祭りは次第に終わりに向かっていた。

 

 




フラグを立てては回収していくスバル君。
今回のは危険なところを助けてもらうというベターなものですね(笑)。


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番外編 その二

久しぶりのキョウがメインの番外編です。



その日、彼は少し早目に仕事を終えられるようにいつも以上のペースで仕事をこなしていた。

現場での活動を主にしている彼にとって、デスクワークとは決して得意分野ではなかったが、彼には終わらせなければならない理由があった。

 

「よし、終了っと」

 

そして、今最後の書類を片付けたところだった。

 

「それじゃ、部隊長。

 お先に失礼します」

 

「ん?

 あぁ、もうそんな時間か」

 

男は部屋の奥にいる上司のもとへ挨拶に行き、仕事を終えたことを報告する。

報告を受けた彼女は彼の終わらせた書類を預かり、自分の机の引き出しにしまい込んだ。

 

「それで、例の少女の怪我はどんな具合なのだ?

 柄にもなく説教をかましたと聞いたが?」

 

「もともと疲労蓄積が原因のものが多かったために、ほとんどの怪我は完治しているそうです。

 それでも任務に支障が出るほど無理をしたのはいただけませんでしたが」

 

男は肩を竦めながら言葉を続けた。

 

「まぁ、リンカーコアに損傷はないので魔法の使用は可能なそうです。

 怪我が治るまでは使用禁止ということらしいですけど」

 

「そうか……。

 将来有望な若い魔導師が潰れるのは避けなければならないからな。

 お前のおかげで本局の方に借りを作ることができたな。

 その点は、お前に感謝してもいいな」

 

「感謝するぐらいなら給料増やしてください」

 

「却下だ」

 

彼女の即答に彼は苦笑する。

 

「それでは」

 

「あぁ、気を付けていけよ、カーン」

 

 

 

 

 

 

 

 

「怪我はだいぶ良くなったということでいいんだな?」

 

「はい、まだしばらく魔法は使っちゃいけないらしいですけど……」

 

隊舎を後にしたキョウは管理局本局の医療施設にいた。

彼の目の前のベッドには腕や足に包帯を巻いた少女―――高町なのはが座っていた。

以前、彼が参加した作戦に彼女も参加しており、その最後に彼女の撃墜の危機をカーンが身を挺して防いだというのがことのあらましだった。

 

「本当は早く魔法の練習もしたいんですけど……」

 

「医者のいうことは聞いておけ。

 さもないと痛い目にあうぞ」

 

なのはが俯きながら呟くと、キョウは神妙な表情をしながらそう告げる。

 

「キョウさんも、そう言うことがあったんですか?」

 

「まぁ、な……。

 取り合ず、医者のいうことは絶対に守ることだ」

 

「なら、その医者の検査に遅れないでほしいですね」

 

キョウは突然後ろからかけられた声にビクついた。

彼は目の前の少女が青くなっているのを見た後に、恐る恐る振り返った。

そこには、額に青筋を浮かべているキョウの担当医であり、なのはの担当医である女医が立っていた。

 

「いや、あの、それは……」

 

「言い訳は無用。

 早く来てください。

 彼女の方が重傷だったとはいえ、あなたも決して軽い怪我ではなかったのですよ」

 

キョウはその時、彼女の身体から一種のオーラのようなものを感じていた。

彼女は魔力を持たない。

だが、キョウは確実に彼女から重圧(プレッシャー)を受けていた。

 

「はい……」

 

「じゃぁ、なのはちゃん。

 またあとでね」

 

「あ、はい!」

 

女医はキョウの襟首を掴み、引きずりながら病室を出ていった。

その光景になのはは呆然としながらもキョウを片手で引きずっていった女医はいったい何者なんだろうと、入院してから何度も考えたことを、また考え始めたのだった。

 

 

なのはのいる病室から引きずられたキョウは、廊下でなのはを庇ったときに受けた腕の傷の検査の結果を聞かされていた。

 

「検査の結果ですが、ちゃんと言いつけ守ってるみたいでよかったです」

 

「まぁ、あんなことは二度とごめんなので……」

 

キョウは女医の視線から目をそらした。

そんな彼に対して女医は大きくため息をつく。

 

「それはそうよ、まったく。

 あの時、あなたが血だらけで運ばれたときはもうだめかと思ったんだから」

 

彼女は先程までの言葉遣いとは違い、フレンドリーな話し方でキョウにそう言う。

 

「血だらけって言うがな、あれほとんど高町の嬢ちゃんの返り血なんだが」

 

「だけど、心配したのよ。

 まったく、こっちの気苦労も知らないで……」

 

「すまない。

 だけど……」

 

女医はキョウの口に指を当てる。

 

「わかってる。

 あなたがそういう人間だってのは。

 それに、そういうあなただから私はあなたのことを……ね」

 

「イリョウ……」

 

キョウは女医―――イリョウの顔を見つめる。

二人はそのまま顔を近づけようとしたが、たまたまそこを通りかかった看護師がいたために一瞬で顔を離した。

まぁ、二人の顔がほんのりと赤く染まっていたために隠しきれてはいなかったが。

 

 

 

 

 

 

 

 

『それじゃ、三人とも。

 準備はいいかい?』

 

月日は流れ、なのはの怪我も完治し、晴れて退院できた次の休日。

キョウは本局の所有する模擬戦スペースに立っていた。

 

「オッケーだよ、クロノ君」

 

「こっちも大丈夫」

 

キョウの目の前にいる二人の少女が通信で聞いてきた男―――クロノ・ハラオウン執務官に返事をする。

 

『カーン二尉?』

 

「こちらもいつでも行けます」

 

クロノの言葉に静かに答えるキョウ。

すでに三人はバリアジャケットを見に纏っていた。

キョウのバリアジャケットは一般局員に支給されるものに彼が独自で組み込んだロングコートというものだった。

 

『なのはちゃん、キョウ。

 二人の怪我は一応完治はしたけど、無理は禁物です。

 こちらが無理だと判断した場合には模擬戦は中止させてもらいますが、よろしいですね?』

 

「はい!」

 

「よろしく頼む」

 

クロノから通信機を受け取ったイリョウが二人に釘をさす。

その言葉に肯定する以外の言葉は受け取らないという雰囲気を感じ取った二人は即答する。

 

『それでは、模擬戦開始!』

 

 

 

「さて、どう来るか」

 

クロノの合図とともにキョウはその手にデバイスを起動させる。

こちらもバリアジャケットと同様に一般支給されるものであった。

静かにデバイスを構える彼をなのはとフェイトは警戒しながら観察していた。

 

「なのは」

 

「気を付けて、フェイトちゃん。

 あの時、意識朦朧だったけど、あの人はとても強かった」

 

「……勝てる見込みは?」

 

「正直勝てる気がしないの」

 

なのはの言葉に眉をしかめるフェイト。

フェイトは彼女がそう言った弱気な発言は聞いたことがなかった。

そんな彼女がそこまで言う相手。

無意識に彼女のデバイスを握る手に力が入った。

 

 

 

 

 

 

「クロノ執務官、質問いいですか?」

 

「なんでしょうか?」

 

観戦ルームでイリョウは隣に立つクロノに気になっていたことを尋ねた。

 

「彼女たちとキョウの模擬戦を許可したことです。

 なのはちゃんたちとキョウの実力の差はわかりきっているはずですが……?」

 

「彼女たちに知ってもらいたいからです。

 世界にはまだまだ自分たちよりも(つよ)い存在がいるということを」

 

クロノの言葉にイリョウは首を傾げる。

それに対してクロノは目の前で行われている模擬戦から目をそらさずに言葉を続ける。

 

「すべては話せませんが、彼女たちはすでに何度か、とある世界の危機を救っています。

 ですが、今の彼女たちの戦い方は言い方は悪いですが力のごり押しで何とかというところです。

 まぁ、あの年齢であれだけの魔法を扱えるのは流石、としか言えませんが。

 それでもそれ以外の戦い方があるということを知ってほしい。

 そう思ったんです」

 

それに、とクロノは続ける。

 

「自分と似た戦い方をする地上のエースの戦いをこの目で見たかったというのもあります」

 

「それは執務官としてですか?」

 

「さぁ、それはどうでしょうね」

 

クロノのその言葉でイリョウは彼の思いを知り、その視線を模擬戦の方へと戻した。

 

 

 

 

 

 

 

放たれる直射魔法をデバイスから発生させた魔力刃で捌く。

キョウはその手応えから相手の力量を測りとる。

 

「なるほど、いいな」

 

そう呟くと、彼の顔には薄く笑みが浮かび上がっていた。

金色の直射魔法の合間に彼に殺到する桃色の誘導弾。

それを切り払いその場から離脱する。

それを追うように一筋の光が駆けた。

 

「速い、だが……!」

 

その光が彼の後ろを取ると同時にその手に握った鎌を振り上げる。

しかし、その鎌が振り下ろされることはなかった。

 

「なっ!?」

 

「確かに速い。

 俺が今まで見てきた中でもかなりの速さだ。

 だが、それだけなんだよ、君のは」

 

光―――フェイトは己のデバイス『バルディッシュ』にキョウのデバイスが当てられていることに気づいた。

 

「正確にいえば、素直すぎるんだよ君は。 

 攻撃も、機動も何もかも」

 

キョウはフェイトに語りながらデバイスに魔力を込める。

フェイトが離れられないように、そしてなのはが彼を狙い撃てないようにバインドを仕掛け、位置を調整しながら教師のように。

 

「まずは一人」

 

威力を弱めた速射魔法がフェイトに向かって至近距離から放たれた。

速射とは言え砲撃魔法を直に食らったフェイトは地面に叩き付けられた。

 

『フェイト、撃墜判定だ』

 

クロノの言葉が部屋の中に響く。

その報告を聞きながらキョウは右肩をちらりと見る。

そこには小さくない焦げ跡がついていた。

 

「あの一瞬で当ててきた、か」

 

キョウはそう呟くと楽しそうな表情を浮かべる。

そんな彼に向かって六発の誘導弾が迫る。

 

「コントロールは合格」

 

その誘導弾を回避する機動で飛翔するキョウだったが、誘導弾は彼の後を離れなかった。

 

「狙いも正確か」

 

回避することができないと判断したキョウはデバイスで六つの弾丸を切り裂いた。

爆発による煙の中から飛び出したキョウだったが、次の瞬間、彼の手足に強固なバインドが仕掛けられた。

 

「このタイミングでバインドか」

 

キョウは手を軽く引いてみるが、仕掛けられたバインドはビクともしなかった。

彼はバインドを仕掛けたなのはが次に何をするのかを目で追う。

彼の視線の先には、レイジングハートに魔力を集中させるなのはの姿があった。

 

「まぁ、定石(セオリー)通りにいくなら砲撃をズドンだろうな。

 その判断は正しいぞ、嬢ちゃん」

 

キョウは彼女の顔を一目見て、自分の周りに数発の魔力弾を生成する。

 

「え……!?」

 

直後、キョウの周囲に浮かべられた魔力弾が一斉に爆発。

広範囲に広がる煙が彼の姿を覆い隠した。

 

「…………」

 

なのはは彼の行方を見失わないように煙の方から目を逸らさなかった。

そして、煙の中から彼の羽織っていたロングコートの裾が飛び出した。

 

「シュートッ!!」

 

すでに臨界まで魔力を溜めていたなのははその方向に砲撃を放った。

だが、その砲撃はキョウの身体を捉えることはなかった。

 

「そんな、どこに……!?」

 

なのははすぐにキョウの姿を捉えようと周囲に気を配るが、彼の姿を捉える前に彼女の首筋に魔力刃が添えられた。

魔力刃を首筋に構えられたことにより、なのはは身動きすることすらもできなくなった。

直後、クロノによる撃墜の認定が下った。

 

「あ、あの。

 どうやって……?」

 

「狙いは悪くなかった。

 だけどな」

 

なのはは黙って彼の声を聴いていた。

 

「あの戦法がたぶん今のお前さんの切り札なんだろう?」

 

「……はい」

 

「だったら理由は一つだ。

 俺の方が引き出しの数が多かったってわけだ」

 

キョウの引き出しという言葉に首を傾げるなのは。

そんな彼女の様子を見たキョウは笑いながらその場を去っていった。

彼の言葉の真意を理解しかねている彼女のもとに、フェイトが飛んでくる。

 

「なのは、大丈夫?」

 

「フェイトちゃん……。

 最後、あの人どうやって?」

 

なのはは隣まで飛んできたフェイトに模擬戦の最後の攻防のことを尋ねる。

 

「なのはが撃ったのは、あの人が投げ出したコートだけ。

 なのはの注意がそっちに向いている極短時間の間に、ソニックムーブでなのはの後ろに回り込んでた。

 速度は私よりも遅いかもしれないけど、使うタイミングや最短距離を選べるのは経験からくるものだと思う」

 

「そっか……。

 やっぱり、私たちってまだまだだね」

 

「うん」

 

二人はキョウが去っていった方を見ながらそう言って決意を新たに固めていた。

 

今よりももっと強くなる、という決して折れない決意を。

 

 

 

 

 

 

 

「どうでしたか?

 あの二人は」

 

模擬戦を終えたキョウはクロノと二人きりで言葉を交わしていた。

 

「二人ともあの年齢であそこまでやれるとは、さすがとしか言えませんよ。

 もっとも、高町のお嬢ちゃんの方はまだまだ粗削りなところが目立ちますね」

 

キョウは先ほどの模擬戦のデータを呼び出しながら自分の考えをクロノに伝えていく。

 

「それに比べて、あなたの義妹さんは基礎がしっかりできてる。 

 かなり優秀な指導者がいたんでしょうね。 

 戦い方がすでにかなりの域に達してる」

 

キョウはそこまで言うと一度口を閉じる。

 

「ですが、二人ともまだまだ足りないものが多すぎる。

 あなたもそう思っていたのでは?」

 

「そうですね……。

 今回の模擬戦を見て改めて思いましたよ。

 あの二人にはもっといろいろなことを教えなければならないということを」

 

「なら、その指導者に丁度いい人を一人知ってます。 

 紹介状を書いておきますよ」

 

「それはありがたい。

 その人は誰なんですか?」

 

「ファーン・コラード三佐。

 私の恩師ですよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――ま、お―――さま」

 

「ん?」

 

キョウは身体をゆすられる感覚を覚え、目を開いた。

彼の視界に映ったのは一人の制服を着こんだ女性―――いわゆるCAと呼ばれる職種の女性だった。

 

「おはようございます。

 本機はミッド臨海空港に到着しましたので、お客様もお降りになってください」

 

「あ、あぁすみません。

 すぐにおりますんで」

 

背筋を伸ばしながら立ち上がったキョウは荷物を手に持ち急いでその場を後にした。

 

 

 

荷物を片手に発着ゲートをくぐったキョウは先ほどまで見ていた夢のことを思い出していた。

 

「また、懐かしい夢を見たものだな」

 

一月に及ぶ出張任務を終えたキョウは現在家で彼の帰りを待っているであろう婚約者であるイリョウのことを思い浮かべる。

 

「とりあえず二週間は休暇がもらえるから、イリョウと二人でゆっくり過ごすとするかな……」

 

最愛の人とのひと時を思い浮かべながら歩みを進める彼の耳にとある声が聞こえてきた。

 

「お兄ちゃーん!!」

 

「あぁ、もう泣くなよ。

 ほら、飴玉やるから、な!」

 

キョウがその声のした方に視線を向けると、そこには深い蒼色の髪をした少年と迷子であろう茶髪の少女がいた。

少年が少女にポケットから取り出した飴玉を渡し、一言呟いた。

 

「はぁ、俺も姉貴とはぐれたってのに……。

 でも、放っておけないからな~」

 

「ラグナ!」

 

キョウはそんな彼のもとに足を向けようとしたが、彼らの方に走っていく青年が視界に入ったのを認めるとそちらへ行こうとはせず、あとはその青年に任せることにしたのだった。

 

 

 

 

 

その後、彼がその蒼髪の少年が教師と教え子の関係になるとは知る由もなかった。




番外編でした。
どうでしたでしょうか?
今回の時点ではすでになのはに対してキョウが説教かました後のお話でした。
ちなみに、なのはの撃墜前にキョウとイリョウは出会っており、それなりの仲までいってます。

基本を極めたキョウはクロノと戦い方が似ているようで微妙に違っています。
クロノが基本を極めた戦いかたなら、キョウは基本の魔法を奇抜に使用するというやり方ですね。
違いが出せていればいいのですが……。

最後の少年が誰なのか、みなさんにはわかりますよね(笑)


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ティアナルート 第十四話

広い空間でモノを打ち付ける打撃音が響く。

その音を打ちだしている二人の人物は互いに拳や蹴りを繰り広げていた。

 

「ハァッ!」

 

「デヤァ!!」

 

二人の人物―――ギンガとスバルは管理局の制服ではなく、訓練の際に着る動きやすい服装で互いの攻撃を捌いていた。

 

ギンガの拳をスバルが肘を使い逸らせば、その隙を突くようにギンガの蹴撃が繰り出される。

 

「―――ッ!」

 

「なっ!?」

 

だが、スバルはその蹴り上げられたギンガの右足を手でつかみ、そこを支点に側転の要領で彼女の側面に回り込んだ。

スバルの予想外の行動に虚を突かれたギンガだったが、スバルが彼女に拳打を放つ前にその拳を蹴り上げた勢いに乗せた左足で蹴り飛ばす。

 

「これで……ッ!」

 

「まずッ!?」

 

拳が蹴り上げられたことによって体制を大きく崩されたスバルの脇腹にギンガの回し蹴りが見事に極まった。

スバルは蹴りの勢いのまま壁まで吹き飛ばされた。

 

「あ、スバル、大丈夫!?」

 

「な、なんとか……」

 

予想以上に勢いの乗った蹴りが入ったことに驚いたギンガが彼のもとに駆け寄る。

そんな彼女に対してスバルは痛みを堪えながらも蹴られた部分を彼女の見えるように腕をどかした。

 

「あ……」

 

そこには蹴りが極まる直前にスバルが咄嗟に張った防御魔法の魔法陣が浮かんでいた。

さて、今回なぜギンガが機動六課に来ているのかというと、部隊長であるはやてが戦力不足を感じ、それをレジアス中将に相談したところ、彼女から陸士108部隊に彼女の派遣の要請が下ったという理由だった。

 

「はい、二人ともご苦労様」

 

スバルが防御をギリギリで成功させていたことに安堵していたギンガのもとになのはをはじめとした隊長、副隊長が揃って近づいてきた。

 

「どうだった、ギンガ?」

 

「そうですね……。

 魔法の使用のタイミング、方法、体術。

 どれもが以前よりも巧くなってました」

 

ギンガは壁際でティアナから受け取ったスポーツドリンクをがぶ飲みしている弟を見ながらそう答える。

 

「正直、予想以上でした」

 

「まぁ、私たち相手に組み手をやって上手くなってなかったら、逆におかしなことだがな」

 

「特にザフィーラ相手にスバルはよく組み手してたからな」

 

ギンガはシグナムとヴィータの言葉に首を傾げた。

彼女も普段二人が剣やハンマーといった得物を扱う騎士だということを知っていたために、組み手をやっている姿がどうも思い浮かばなかったのだ。

 

そんな彼女の様子に気づいたシグナムは肩を竦めながら口を開く。

 

「私たちとて時と場合によっては徒手空拳で戦うときもあるさ」

 

「狭いところじゃ得物は逆に邪魔になるからな。

 そう言った時のことも考えなきゃならないんだよ。

 特に、なのはは近づかれたときのために結構スバル相手に格闘戦の訓練してるしな」

 

「そうなんだよね~。

 スバルって基本に忠実な格闘家としてもかなりの腕だから、訓練相手に持ってこいなんだよ。

 おかげで、シグナムさん達に接近されてもそれなりに相手できるようになったんだ」

 

「そ、そうなんですか……」

 

ギンガは、自分が記憶していたなのはの戦い方を思い出し、戦慄を覚えた。

砲台役としての魔力砲撃を放つなのはにとっての弱点の一つである接近戦。

それを古代ベルカ式の使い手であるシグナムたち相手に落とされないほどの実力を持つということがどういうことなのか、それを理解してしまったギンガは引き攣った笑顔を見せるだけだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さてと、今回の任務もこの間と同じよ」

 

数時間後、スバルたちフォワードメンバーは地下道の入口で簡単な作戦会議を行っていた。

出向したばかりであるギンガは今回は彼らのフォローという理由でこの場にはいない。

 

「この地下道の先にガジェットと、正体不明のエネルギー反応が確認されたわ。

 で、ロストロギアの可能性があるから、私たちがガジェットを叩いて可能であればブツを確保する。

 何か質問は?」

 

地下道の地図を広げていたティアナが周りの三人に視線を向ける。

スバルたちからの質問がないのを確認したティアナは地図を収納する。

 

「さぁ、さっさと終わらせるわよ」

 

「「「おう!」」」

 

 

 

 

 

 

 

「あらら、もう突破されたか~」

 

スバルたちが地下道のガジェットを相手にしているころ、その奥の方で彼女はモニターを眺めながら困ったように呟いた。

モニターの中にはⅢ型に四本の足を取り付けた改良型であるⅢ型改も数機映っていた。

 

「やっぱりガジェットたちじゃ相手にならないか~」

 

「Ⅲ型改もあっさりやられちゃってるっすねー」

 

水色の髪の少女と、特徴的なしゃべり方の少女―――セインとウェンディはモニターに映るガジェットのやられっぷりを見ながらのんびりとした会話を繰り広げていた。

 

「まさかお前の現地稼動試験の時に連中と出くわすとはね……。

 クア姉~、どうすればいい?」

 

セインが念話で別の場所にいるクアットロに尋ねる。

すると、彼女たちの目の前にクアットロの映ったモニターが映し出される。

 

『ウェンディちゃんにもしものことがあったらまずいから、帰ってらっしゃい。

 あ、Ⅲ型改は全部出しちゃっていいわよ~。

 どっちみち、生産ラインはもうできてるし』

 

「はいよ~」

 

「あー、メガ姉、メガ姉。

 ちょっといいっすか?」

 

セインがモニターを消そうとしたとき、ウェンディがクアットロを呼び止める。

 

『なぁに、ウェンディちゃん?』

 

「あたしも一当てしたいっす!

 せっかく外に出たのに、何もしないで帰るのは嫌っす!」

 

『ん~、なら一発だけならいいでしょう。

 一発撃ってすぐに帰ってきなさい。

 あなたたちをこんなところで失うわけにはいかないってことはわかってるわよね~?』

 

「やったーッす。

 ありがとうっす、メガ姉!」

 

ウェンディはすぐに自分の固有武装である『ライディングボード』を取り出し構える。

 

「さてと……ここっす!」

 

彼女の放った弾丸は遠く離れた、スバルたちと戦闘を行っているⅢ型改の背後に直撃する。

だが、直撃しただけで爆発は起きなかった。

 

「アレ、不発か?」

 

「違うッすよ~。

 信管を遅延型にしてるだけっす。

 そして……」

 

セインに説明するウェンディが手を『ボンッ』と開くと同時にⅢ型改の中にめり込んだ弾丸が周囲に衝撃波を撒き散らす。

 

「Ⅲ型改自身のエネルギーも全部一気に爆発させるっす。

 相手が並の魔導師なら行動不能になる範囲攻撃っすよ」

 

Ⅲ型改の爆発を確認したウェンディはライディングボードに寝そべりながらセインのもとに戻ってくる。

そんな妹を見ていたセインはモニターに映る光景を見て楽しそうに笑みを浮かべた。

 

「ウェンディ、やっぱり連中、並の魔導師じゃないみたいだな」

 

「ほえ?」

 

「ほら、蒼髪のやつが前面を覆う形で障壁張ってる。

 で、爆発の瞬間にチビ騎士とチビ竜、それにオレンジツインテールの魔力弾がこっちに向かってる」

 

「は~、やっぱやるもんすね~。

 さすが、ノーヴェがお熱なスバるんっす」

 

「ん?

 何か言ったか……?」

 

「いやいや、何も言ってないっすよ~。 

 ささ、さっさと帰るッすよー!」

 

ウェンディの様子に首を傾げながらもセインはその場から彼女たちを連れて地面に潜っていった。

エリオとフリードがたどり着いたときには、そこには誰かがいたという痕跡しか残されていなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「結局、今回ははずれだったってことか?」

 

任務を終え、機動六課の隊舎に戻ったスバルとティアナは二人で缶コーヒーを飲みながら並んで海を眺めていた。

 

「どうかしらね。

 エリオの話だと誰かがいた痕跡があるみたいだけど……」

 

「地下道だからな……。

 ホームレスなんかの可能性もあるし……」

 

スバルは缶の中に残ったコーヒーを一息に飲み干し、大きく息を吐いた。

 

「そうなのよね……。

 でも、最後の攻撃、自爆にしては様子がおかしかった……」

 

「確かに……ん?」

 

ティアナの言葉に頷いたスバルだったが、彼のポケットで端末が震えるのを感じた彼はティアナに断りを入れてその場から離れた。

 

「非通知……?」

 

端末の画面に映る番号に見覚えがなかったスバルは首を傾げながらも通話ボタンを押した。

 

「はい、スバル・ナカジマですが」

 

『……あたしだ』

 

耳にあてたスピーカーから聞こえてきた声に聞き覚えのあったスバルは驚きに目を見開いた。

 

「あぁ、あの時のメガネっ子か」

 

『眼鏡っ子って……。

 まぁいい。

 今いいか?』

 

「どうした?

 何か困ったことでもあったか?」

 

『いや、そうじゃない。

 ただ……』

 

「ただ、なんだ?」

 

スバルは相手の声が少し暗いのを感じ、ゆっくりと問いかける。

 

『こっちの事情でな、もう前みたいには会えない。

 何も連絡なしにはどうかと思って、連絡しただけ』

 

「会えない、か。

 まぁ、その事情とやらは聞かないでおくよ」

 

『すまねぇ……』

 

「まぁ、こういうこともあるさ。

 いつかまた、俺とお前の道が交わるのを祈るだけだな」

 

そう言ってスバルは一つ大事なことを聞き忘れていたことを思い出した。

 

「なぁ、名前は?」

 

『名前……?』

 

「次にあったときに名前知らなかったら不便だろ?」

 

『……ノーヴェだ』

 

「ノーヴェか、いい名前じゃないか」

 

『……あぁ、あたしも気に入ってる。

 碌に話もできなかったけど……、またな』

 

「またな、ノーヴェ」

 

時間にして数分の会話。

だが、その数分で相手がかなり悩んだ末での別れだということをスバルは直感で感じていた。

 

「出会い別れは人生にはつきものってことか。

 あぁ、あいつとは気が合いそうだったんだがな……」

 

一人呟くその声はどこか寂しさを感じさせるものだった。

 

 

 

 

 

「またな……か」

 

スカリエッティのアジトの周辺の森の中で彼女は先ほどまで使っていた端末を目に呟く。

そして、その端末を素手で握りつぶした。

 

「何を迷ってるんだ、あたしは。

 もう決めたんだろ。

 ドクターの夢を手伝うって」

 

ノーヴェは懐から一枚の紙切れを取り出す。

それは以前、スバルから渡された彼の連絡先が書かれたメモ用紙だった。

 

「さようならだ、スバル。

 もう、あたしとお前の道は交わらねぇよ……」

 

ノーヴェはそう呟き、メモ紙をバラバラに引き裂いた。

ふと不意に吹いた風にそのバラバラになった紙は吹き飛ばされ、空に巻き上がっていった。

ノーヴェはそれを見た後、森の奥に向かって歩みを進め、その闇に消えていった。

 




今回は少し短めでした。
さて、今回はギンガの六課加入とちょっとした戦闘、さらにノーヴェがスバルへのつながりを断ち切るという少し最後は重い感じになってしまった。
すまない、ノーヴェ。
君のヒロインとしての出番はノーヴェルートでしっかりと作るから。


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ティアナルート 第十五話

「はぁ、はぁ……」

 

機動六課の訓練スペースでギンガは息を荒げていた。

彼女の周囲ではエリオとキャロが座り込み、フリードもエリオの頭の上でぐったりしていた。

 

「ねぇ、スバル……?」

 

「ん?

 なんだ、姉貴?」

 

彼女の隣で水を飲んでいたスバルは彼女の方を見て首を傾げた。

 

「これって、いつもやってるの?」

 

「たまに、だけど結構な頻度でやってる」

 

ギンガの言うこれというのは、フォワード四人対前線隊長四人の模擬戦のことである。

先日ギンガが六課に出向になった後、初めてこの模擬戦が行われたのだった。

 

「もう一ついい?」

 

ギンガの問いにスバルと、彼の隣で汗をぬぐっていたティアナが頷く。

 

「なんで二人は息切らしてないの?」

 

「「慣れました」」

 

「え?」

 

「「慣れました」」

 

二人の息ぴったりでありながら棒読みな答えにギンガは「慣れたんだ」と呟くことしかできなかった。

 

 

 

 

「はぁ~、疲れた……」

 

「私は疲れたってレベルじゃないんだけどね……」

 

「大丈夫ですよ、ギンガさん。

 次第に慣れますから」

 

午前の訓練を終えた五人は汗をシャワーで洗い流し、その足で食堂に向かっていた。

その途中でスバルは後ろから自分の名前を呼ぶ声に反応して振り返る。

 

「スバルお兄ちゃーん!」

 

「ん?」

 

スバルが振り返ると、その視線の先には彼の方に走ってくるヴィヴィオの姿が映った。

それを認めると、スバルは走ってくるヴィヴィオを受け止める体制をとり、ヴィヴィオもそこに向かって走ってくる。

 

「おっと」

 

そしてスバルは、走って彼にぶつかってきた彼女を受け止めると、その勢いのままヴィヴィオの身体を持ち上げ、その場でぐるぐると彼女を回した。

 

「わ~い!」

 

ヴィヴィオの楽しそうな表情を見たギンガは微笑みながら口を開いた。

 

「小さい子に好かれるのは相変わらずなのね」

 

「えぇ、たぶんスバルがなのはさん達以外なら一番ヴィヴィオに懐かれてますしね」

 

その後、ヴィヴィオを追ってきたなのはとフェイトも交えて大人数で食堂へ向かうこととなった。

そして、食堂にて……。

 

「ヴィヴィオ、ピーマン残したらダメだよ?」

 

「う~、苦いのきら~い……」

 

「そんなこと言わないの」

 

「いや~」

 

ヴィヴィオの頼んだチキンライスの中にピーマンが入っており、まだ小さい子供であるヴィヴィオにとってピーマンの苦さは食べられるものではなかったようだ。

フェイトが何とか食べさせようとするが、ヴィヴィオは頑なにそれを拒む。

それに困った表情をしたなのはがスバルに尋ねる。

 

「ねぇ、スバル。

 何かいい手はないかな?」

 

「そうですね……」

 

なのはに頼まれたスバルは少し考えた後、自分がスープを口に運ぶために取ってきたスプーン(未使用)でヴィヴィオのチキンライスを一口分掬って彼女の口に近づける。

 

「ほらヴィヴィオ、あ~ん」

 

「い~や~!」

 

スバルがスプーンを近づけるものの、ヴィヴィオは顔を背けてしまう。

そんな彼女にスバルはため息を吐きながら、口を開いた。

 

「ほら、好き嫌いしてると、なのはさんやフェイトさんみたいな格好良くて綺麗な大人になれないぞ?」

 

「え……」

 

スバルの言葉に小さく声を出すヴィヴィオ。

彼女はすぐ隣にいるなのはとフェイトを見る。

 

「……食べる」

 

「ほら、あーん」

 

「あーん……にが~い……」

 

ヴィヴィオはスバルから差し出されたスプーンを口に含み、我慢しながらもちゃんとそれを飲み込んだ。

 

「よし、ちゃんと食べられたじゃないか~。

 偉いぞ」

 

「ヴィヴィオ、偉い……?」

 

ヴィヴィオはなのはの顔を見る。

そんな彼女に向かってなのはは頷きながら彼女の頭を撫でる。

 

「うん、偉い偉い」

 

「えへへ……」

 

微笑ましいひと時である。

そんな光景を見ながらティアナはぼそりと呟いた。

 

「ヴィヴィオが我慢して食べてるんだから、好き嫌いするような人はいなくなるでしょうね~」

 

「……」

 

ティアナの言葉を聞いた一人の少女の肩がビクついた。

その少女は隣の少年の皿に移そうとしていたニンジンを静かに引っ込めた。

 

「頑張ります……」

 

「よろしい」

 

 

 

 

 

 

 

 

「これがあぁなって、こうなって……」

 

午後、機動六課の隊舎でスバルは一人で苦手なデスクワークをこなしていた。

そんな彼のもとになのはがカップを二つ持って近づいてきた。

 

「やっほー、スバル。

 仕事捗ってる?」

 

「ぼちぼちです。

 いや、デスクワーク苦手で……」

 

「まぁ、今日はライトニングは現場検証、副隊長も別の部隊との共同任務。

 ギンガも一度108に戻って引継ぎの最終調整、ティアナも部隊長に連れていかれたしね」

 

「本局に、でしたよね?」

 

「うん。

 はい、コーヒー」

 

なのはから手渡されたカップを受け取りスバルは一口、口に含む。

一口、それだけでスバルはこのコーヒーがインスタントのものではないということに気づいた。

そして、そのコーヒーを以前飲んだことがあるということも。

 

「なのはさん、このコーヒーって……」

 

「あ、気づいた?

 そうだよ、翠屋のオリジナルブレンドコーヒー」

 

なのははカップを口に運び、一口飲む。

 

「まぁ、お父さんのに比べればまだまだなんだけどね?

 でもこれでも喫茶店の娘ですから」

 

「いや、それでもおいしいですよ。

 インスタントのものと比べるのは失礼なぐらいに」

 

「あはは、そう言ってくれるとうれしいな」

 

なのはとスバルはその後、他愛のない話をしばらくし続けた。

結果、スバルの仕事が進まなかったのは話すまでもないだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ミッドチルダのはずれにある森の中に巧妙に隠されたアジトの一室で彼は周囲に立つ娘たちに顔を向ける。

 

「さて、皆。

 報告を聞かせてもらえるかい?」

 

「は~い、まずガジェットの生産ラインの方はすべて全力稼動中で~す。

 でも、ⅴ型の生産はしなくてもいいんですか~?」

 

彼―――ジェイル・スカリエッティはクアットロの質問に首を縦に振って答える。

 

「あれは対ジエンド用に保険代わりとして開発したものだ。

 そのジエンドもない今、ⅴ型は必要ないよ」

 

スカリエッティから感じられる有無を言わさない雰囲気にクアットロは驚きながらも引き下がる。

 

「私をはじめ、全員のメンテナンスは完了しています」

 

「それは結構。

 ウーノ?」

 

「はい、先ほどドゥーエからの報告がありました。

 『掃除は完了した』そうです」

 

スカリエッティはトーレとウーノの言葉を聞き、目をつむる。

そして、その瞼を開いたとき金色の瞳が怪しく輝いた。

 

「では、先行潜入組の皆は出発の準備をしてくれ。

 目標は管理局、ミッドチルダ地上本部及び、聖王の器であるヴィヴィオ君、タイプゼロ・ファースト、ギンガ・ナカジマ君。

 特に彼女(ギンガ君)の方は可能な限り連れて帰るように」

 

スカリエッティはそこで言葉を区切ると、大降りに腕を広げた。

 

「さぁ、私の夢の懸け橋への第一歩への下拵(したごしら)えだ。

 皆、頼んだよ?」

 

ウーノを除いた10人は静かにその部屋を出ていった。

彼女たちを見送ったスカリエッティは一人呟く。

 

「もう、後戻りはできないな……。

 だが、もう迷ってはいられないのだ……」

 

ウーノが見た彼の目は、人が何かの覚悟を決めた目だった。

 

 




ちょっとした日常回でした。
次回から地上本部防衛編が始まりますよ~。


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ティアナルート 第十六話

9月11日

機動六課の隊舎ロビーにフォワードメンバーをはじめとした前線メンバー全員が集められた。

 

「というわけで、明日はいよいよ公開意見陳述会や」

 

整列した彼らの前に立つはやてがそう切り出す。

 

「明日14時からの開会に備えて、現場の警備はもう始まってる。

 なのは隊長とヴィータ副隊長、リイン曹長とフォワード4名はこれから出発、ナイトシフトで警備開始」

 

「みんな、ちゃんと仮眠とった?」

 

「「「「はい!」」」」

 

「私とフェイト隊長、シグナム副隊長は明日の早朝に集合入りする。

 それまでの間、よろしくな」

 

「「「「はい!」」」」

 

はやての言葉に返事をするスバルたちだったが、その中にギンガがいないことに気づいたスバルは首を傾げる。

 

「あの、姉貴は?」

 

「ギンガは一足先に現場に行ってもらってるよ。

 向こうで合流やな」

 

「そうですか」

 

何も知らされていなかったことに少し不満気に答えるスバル。

そんな彼を見ながらはやては一度ため息を吐き、その場にいる全員を見る。

 

「ほな、皆よろしく頼むな」

 

「「「「はいっ!」」」」

 

 

 

「おろ?」

 

スバルたちが屋上のヘリポートに到着すると、ヘリの近くには寮母のアイナとヴィヴィオがが立っており、ヴィヴィオのそばになのはが腰を下ろしていた。

 

「アイナさん、どうしたんですか?」

 

「あぁ、みんな。

 ヴィヴィオがね、ママの見送りするんだって聞かなくて」

 

ティアナが代表で尋ねるとアイナが困ったように笑顔で答える。

 

「あぁ、なるほど」

 

「確かにヴィヴィオが来てから夜間出動は初めてだったわね」

 

「アイナさん、ヴィヴィオのこと、お願いしますね」

 

「任せて、スバル君。

 みんなも、お仕事頑張ってね」

 

アイナからの言葉に頷いた四人はその視線をなのはとヴィヴィオに向ける。

 

「なのはママ、今日は外でお泊りだけど、明日の夜にはちゃんと帰ってくるから」

 

「……ぜったい?」

 

「うん、絶対に絶対。いい子にしてたら、ヴィヴィオの好きなキャラメルミルク作ってあげるからね」

 

「……うん」

 

「ママと約束、ね?」

 

「うんっ」

 

小指を絡めながらそう言葉を交わすなのはとヴィヴィオ。

二人は意図してはいなかったかもしれないが、そのやり取りはこれから任務に向かうフォワードメンバーの緊張を程よくほぐしたのだった。

 

 

 

 

 

「それにしても、ヴィヴィオ、本当に懐いちゃってますね」

 

「全く」

 

地上本部へ向かうヘリの中で、スバルとティアナが口を開いた。

なのはは二人の言葉に少し戸惑った表情をする。

 

「そうだね。

 結構、厳しく接してるつもりなんだけどなぁ……」

 

「きっとわかるんじゃないですか?

 なのはさんが優しい、って」

 

「そうかなぁ……。

 それを言うと、スバルだって結構懐かれてると思うけど……?」

 

「スバルに対しては年の離れたお兄ちゃんみたいな感覚じゃないですかね?」

 

「そうだよなぁ。

 なのはさんに向ける感情とはまた違うものだよな」

 

フォワードメンバーの言葉になのはは照れ笑いを浮かべた。

そんな中、その場にいる全員の思いをリインが代表して口にした。

 

「もういっそ、本当になのはさんの子供にしちゃうとか!」

 

リインの言葉になのはは首を横に振る。

 

「受け入れて貰える家庭探しは、まだまだ続けるよ」

 

「いい受け入れ先が見つかって、ヴィヴィオが納得してくれれば……」

 

「納得……しない気が」

 

「私もそう思います……」

 

「「うん、うん」」

 

「えぇ~」

 

なのはの言葉にエリオとキャロが答え、スバルとティアナも頷く。

 

「あれだけ懐かれてたら納得しませんよ。

 たぶん以前以上に泣きつかれるんじゃないでしょうかね?」

 

スバルの言葉になのはは苦笑しながら口を開く。

 

「そりゃあ、ずっと一緒にいられたら嬉しいけど……。

 本当にいいところが見つかったらちゃんと説得するよ?

 ……いい子だもん。幸せになって欲しい」

 

「今も十分幸せだと思ってると思いますけどね」

 

「そ、そうかな?」

 

「俺はそう思います。

 まぁ、ヴィヴィオがそう思ってなければそれまでですけど、あの懐きようからすると……」

 

「ま、まぁ……そんな家庭が見つかるまでは、私が責任持って育てていくよ。

それは、絶対に絶対」

 

「そのまま高町家の娘になりそうだな」

 

『うんうん』

 

「そ、そんな~」

 

ヴィータの言葉になのは以外の全員は頷いた。

皆のその行動になのはの悲鳴とともにヘリの中は笑いに包まれた。

 

 

 

管理局ミッドチルダ地上本部、その廊下をレジアスはオーリスを伴って歩いていた。

レジアスは少し後ろを歩くオーリスに尋ねる。

 

「警備の状況はどうだ?」

 

「現在は陸士36、91、106部隊をはじめとした局員が配置についております。

 シフトの交代は3時間後。

 すでに交代要員は待機しています」

 

「会の主な議題は確か、アインヘリアルと地上の防衛についてだったな?」

 

「はい」

 

「まったく……、アインヘリアル(あんな大砲)なんぞ地上で役に立つと思っているのか連中は……。

 私なら、あんなもの作る金があるなら局員の給与に回してやるというのに……」

 

「仮にアインヘリアルの建設費をすべて給与の増額に回すと、一人当たり30%のアップが見込まれますね」

 

手に持ったタブレットを操作しながらオーリスはスラスラと答え、その事実にレジアスは大きくため息を吐いた。

オーリスはため息を吐くレジアスに対して、一つ疑問に思ったことがあった。

 

「ですが、なぜここまでの警備を?

 地上本部(ここ)の防御は鉄壁を誇ります。

 中将はそれ以上の何かが来るとお思いで?」

 

「ふむ……」

 

オーリスの問いにレジアスは少し考えるそぶりを見せ、そして答えた。

 

「確かにここの防御は鉄壁だろうな、魔法に対しては。

 だが、此処を狙う者がそれ以外のものを使ってきた場合はどうなる?」

 

「まさか……」

 

「鉄壁ということを誇るのはいい。

 だが、物事は常に最悪を考えて行動しなければならんからな」

 

レジアスの答えに納得したのか、オーリスはそれ以上は何も言わなかった。

 

(すまんな、オーリス。

 本当はお前にも話しておきたいところだが、真実を知る者は少ないことに越したことはないからな……)

 

レジアスの胸中の思いはだれにも知られることはなかった。

 

 

 

9月12日 AM3:15

 

「うぅ、寒い寒い……」

 

地上本部の外周を警備していたティアナの元に、スバルがそう呟きながらやってきた。

季節は夏を過ぎ、秋に入りかけたというところであるが、この時間は存外冷える時期でもあった。

 

「ちょっと、どこに行ってたのよ……?」

 

「いや、差し入れだって言われてな」

 

スバルは手に持っていた紙コップをティアナに渡し、それに水筒の中身を注ぐ。

水筒からは温かいお茶が注がれ、湯気が立ち上った。

 

「温まるわね~」

 

「本当、感謝感激だな~」

 

冷える外で飲む温かいお茶は格別だった。

温かいお茶は冷え切った彼らの身体をゆっくりと温めていった。

 

「そう言えば、さっきの人……」

 

「何?」

 

「いや、これ渡してくれた人なんだけどな~」

 

ティアナは隣でお茶を飲むスバルの顔を見る。

スバルはそんな彼女の視線に気づくことなく話を続けた。

 

「かなり強そうな人だったな~」

 

「強そうね~。

 私たちが知ってる人と比べるとどのぐらい?」

 

「そうだな……。

 多分、教官ぐらい、かな~?」

 

「ふ~ん、それはすごいわね~」

 

寒空の下で警備任務という気の張る任務を行っていた二人は、差し入れのお茶を飲むことでその気が緩んでいた。

そして、その緩み故に気づけなかった。

なぜ、それほどの実力を持った人物が重役の護衛についていないのかという違和感に……。

 

 

 

 

 




前々話のスバルとノーヴェの電話での会話の部分を修正しました。
一応報告を


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ティアナルート 第十七話

9月12日 PM5:57

公開意見陳述会が開始されすでに数時間がたった。

すでに日も傾き、その姿を地平線の向こう側へ隠そうとしている。

そんな中、スバルたち四人とギンガ、ヴィータ、リインは南側のエントランスに集合して互いに報告を行っていた。

 

「とりあえず、異常なしか。

 だが、最後まで気ィ抜くんじゃねえぞ」

 

「「「「「はい!」」」」」

 

「残りの時間はそんなに長くないので、此処からは全員で一緒に警備するですよ!」

 

リインの言葉にティアナが疑問の声を上げる。

曰く、一か所で固まって警備しても意味がないのではと。

その問いにヴィータが頭を掻きながら答えた。

 

「ほかの陸士部隊の人がな、お前らが仕事してる中で休んでられるかって言ってきてな。

 で、こっちとしてもお前らが疲れていざというときに何もできないのは困るから、ありがたく手伝ってもらってる。

 もうすぐ公開意見陳述会も終わりだから、まぁ問題はないだろう」

 

ティアナはヴィータの答えを聞いた後に周囲を見回す。

すると、先ほどまで彼女とスバルが回っていたところあたりに、確かに別の部隊の局員が歩いているのを確認した。

 

「あぁ、ギンガ。

 ちょっと(向こう)側の方に報告してきてくれないか?」

 

「わかりました」

 

ヴィータの指示に従ってギンガは地上本部の中へと向かっていった。

そんな彼女の背中を見ていたスバルはなぜか、胸に突き刺さるような悪寒を感じていた。

 

 

 

 

 

「やぁ、マリー君。

 どうしたんだい?」

 

地上本部からさほど離れていない研究所の一室で、サカキは本局の第四技術部にいるマリーからの通信を受けていた。

 

『いえ、少し気になることがありまして……』

 

「気になること……?」

 

マリーの言葉に首を傾げる彼の端末にいくつかのデータが送られてくる。

それはつい先日、検査を受けたギンガの身体データだった。

 

「これは、ギンガ君のデータじゃないか。

 これがどうかしたのかい?」

 

『いえ、今送ったのはこの間の検査の時のものです。

 そして、これがその前のもの』

 

サカキの端末にさらにデータが追加で送られてくる。

そのデータを見たサカキは目を見開いた。

 

「これは……!」

 

『はい、ギンガの機械的な部分と生態的な部分。

 その一部の数値がずれ始めているんです。

 こんなこと今までなかったことだったので、サカキ博士の意見も聞きたいと思いまして……』

 

「ふむ……」

 

サカキは自分の頭の中で立てた仮説を彼女に話そうと口を開くが、その直前に彼の部屋が微かに揺れた。

その直後、彼の部屋に研究員の一人が飛び込んできた。

 

「博士!!」

 

「何事だい?

 そんなに慌てて……」

 

「それが……!!」

 

彼の口から出てきた言葉を聞いたサカキはマリーに断りを入れて、通信を切った後にすぐさま部屋を飛び出した。

 

 

 

 

 

「ナンバーズ、No.ⅢトーレからNo.ⅩⅡディードまで、全機配置完了」

 

スカリエッティのラボの一室。

そこでウーノは鍵盤の形をしたコンソールを叩きつつ、準備が整ったことを告げる。

 

『お嬢とゼスト殿も、所定の位置につかれた』

 

『攻撃準備も全て万全。あとはGOサインを待つだけですぅ~』

 

「ええ」

 

妹たちからの報告に頷き、ウーノは後ろに座っているスカリエッティに視線を向ける。

彼女の視線の先には椅子に深く座り、静かに目を閉じているスカリエッティの姿があった。

 

「ドクター、合図を。

 皆、待っています」

 

「あぁ……」

 

スカリエッティはゆっくりとその瞼を開いた。

そこには静かに燃える金色の瞳が鈍い輝きを放っていた。

 

「私のこの行いで、一つの歴史が終わる。

 それはある意味で愚かで、不適当な選択なのかもしれない……」

 

音を立てずに立ち上がったスカリエッティは通信を繋げている彼の娘たちに語り掛ける。

 

「だが、私はもう決めたのだ。

 さぁ、我々のスポンサー諸氏に見せつけてやろう。

 私たちの思いと、その覚悟を」

 

スカリエッティは大きく右腕を振り、そしてその言葉を言い放った。

 

「さぁ、奏でよう。

 崩壊への序曲を……!」

 

 

 

 

 

「むふふ~、さぁ電子の織り成す嘘と幻の銀幕芝居をお楽しみあれ~」

 

地上本部から離れた地点でクアットロはコンソールを叩きながら地上本部の中央指令室のサーバーを乗っ取り、そこの電子的な目をすべて潰していた。

 

『中央指令室制圧完了したよ~』

 

『こちら地下の電源室の破壊を完了した』

 

チンクとセインからの報告を聞いたクアットロは彼女たちに次の指示を出しながら、地上本部のカメラを乗っ取りその中の様子を覗いていた。

 

 

 

 

 

同時刻―――

地上本部の公開意見陳述会の開催場所となっていた部屋では先ほど襲った揺れの原因を一人の局員がレジアスに伝えているところだった。

 

「恐らくは……」

 

「そうか、始まったか」

 

局員から報告を受けたレジアスは立ち上がり部屋の出口へと向かおうとする。

すると、そんな彼女を呼び止める声が部屋に響いた。

 

「会を中止になさるおつもりですか、レジアス中将閣下」

 

その声を上げたのは所謂反レジアス派と呼ばれる派閥に属する少将だった。

 

「緊急事態だ。

 会なぞいつでも再開できるだろう」

 

「いえ、この会は日程の調整から準備まで多くの時間を費やしてきたものです。

 それを……」

 

男の言葉が続く途中で、部屋を一際大きな揺れが襲い、出口の隔壁が下ろされ、照明も非常灯を除きすべて消え、部屋から明かりが消えた。

 

「な、なんだ!?」

 

「はぁ、話が長いから閉じ込められたじゃないか。

 高々照明が落ちただけだ、びくびくするな。 

 それにすぐに元に戻る」

 

レジアスが目の前でおびえる男の様子にため息を吐きながらそう告げる。

彼女がそう言った直後に部屋の照明がすぐに復活した。

 

「ほらな」

 

レジアスは鼻で笑い、彼から背を向けて出口へと歩みを進めていった。

 

「ダメです、どこも開きようがありません」

 

「外では戦闘が起こってるっちゅうに……!」

 

彼女が手近な出口に辿り着くと、そこには六課の部隊長であるはやて、聖王教会代表であるカリム・グラシア。

彼女たちの付き添いで会議に参加していたシグナム、シスターシャッハが出口の前で苦虫を潰したような顔をしていた。

 

「どうした、小娘」

 

「あ、レジアス中将」

 

レジアスの声に反応した彼女たちはレジアスに向けて敬礼をしようとするが、レジアスがそれを手で制した。

 

「緊急事態だ、そう言ったことはやらないでいい。

 それで、扉がまだ開いていないのか?」

 

「はい。

 まだ、ということは開く手段があるのですか?」

 

カリムがレジアスに向けて尋ねる。

 

「あぁ、地上本部が外部からハッキングを受けた際に、カウンターを仕掛けるように別の施設に頼んでいたのだがな。

 まぁいい。

 そこをどけ、小娘」

 

はやてはレジアスの言葉に従ってその場から少し離れる。

扉を何とか開こうとする局員も下がらせたレジアスは懐から筒状の物体を取り出した。

 

「ふっ……!」

 

レジアスがそれを一振りすると、その筒状の先端が伸び、一振りの剣と同等の長さになった。

彼女はそれを扉に向けて一閃する。

 

「な……!?」

 

彼女が腕を振るった直後、扉が斜めに切り裂かれ、上半分が床へと落ちた。

分厚い扉が落ちる重い音が部屋の中へ響き渡る。

 

「ほら、出口ができたぞ」

 

「え、あ、あの、レジアス中将?

 それは……?」

 

はやては驚きながらも彼女の手に握られている棒を指さす。

それはかなり小さいが甲高い音を連続して出していた。

よく見ればその棒そのものが高速で振動しているようにも見える。

 

「私が作らせた。

 質量兵器と言われようが、物は使いようだ」

 

「作らせたって……「レジアス中将っ!!」……?」

 

彼女の言葉に呆れた表情をするはやてだったが、彼女の後ろから聞こえてきた怒鳴り声に驚き振り返る。

そこには先ほどレジアスが鼻で笑い飛ばした男が怒りの形相で詰め寄ってきていた。

 

「それは質量兵器ではないですか!!

 なぜそのようなものを!!」

 

「騒ぐな、そんなどうでもいいことを今は話している状況でもないだろう」

 

「どうでもいいこと……!?

 質量兵器を使用するという重大な違法行為をどうでもいい……!?」

 

「この戯け者がッ!!」

 

グチグチといつまでも言葉を連ねる少将にレジアスがついにキレた。

 

「いいか、我々のすることはなんだ!?

 ここで役に立たない大砲の話をすることでも、防衛計画の話をすることではない!!

 今、この場所を守らんとする局員の被害を押さえつつ、このバカ騒ぎを早急に終わらせることだろうがッ!!

 それすらも忘れたか、この馬鹿者がッ!!」

 

レジアスの怒声に続いたのは、痛いほどまでの静寂だった。

レジアスの怒気を直に受けた少将はその場でへたり込んでいた。

 

「いつまで突っ立っているつもりだ!!

 各々持ち場につけ!!」

 

彼女の雰囲気に当てられ動くことすらも忘れていた周囲の局員に指示を出す。

その傍らで、はやてに言葉を送る。

 

「行け、今こそお前たちの本領を発揮する時だ」

 

「はいっ!

 シグナム、行くよ!!」

 

「はッ!」

 

はやてとシグナムがその場を去っていくのを見届けたレジアスは会議の会場を臨時の指令室として地上本部の外で奮戦している局員の指示に向かうのだった。

 




なんかいつの間にか最後にレジアスさんがすべてかっさらっていった……。
この小説のレジアス中将はかなりまともな人格です。
原作では襲撃があったというのに会を中止させないって、トップがそれじゃいかんでしょって思いましてこうなりました(まぁ、結局最後には中止になってるんだけど)。



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ティアナルート 第十八話

「むふふのふ~」

 

クアットロは地上本部が見える位置で笑みを浮かべながら地上本部のハッキングを行う手を動かしていた。

空中に投影されたパネルを弾くように叩き、モニターに映る局員の混乱を見てさらに笑みを深くする。

 

「あら?」

 

だが、そんな彼女の手が一瞬だけ止まった。

彼女の奪っていた施設の機能の一部、正確には本部全体を包み込む魔力障壁の維持といった限定的なものだが、それらが奪い返されるのはもう少し後だと予想していた彼女にとって意外なものだった。

 

「シルバーカーテンの嘘と偽りのショーを見破ってくるなんて……。

 ドクター以外にも、面白い人がいたようね……」

 

クアットロはその奪い返されたところのコントロールを諦め、ほかの部分へとその手を伸ばそうとした。

だが、それすらも拒まれてしまった。

 

「予想以上にできるわね~。

 というか、これは……」

 

クアットロは取り戻されそうになっている施設の区画を見て、思わず舌打ちをする。

そしてすぐに姉のウーノへと通信を繋げた。

 

『どうしたの、クアットロ』

 

「ウーノ姉さま、少しお手伝いお願いできますか~?」

 

『あなたが手伝いを頼むなんてね。

 どうしたのかしら』

 

「例のタイプゼロ・ファーストを隔離した区画の隔壁のコントロールが奪われそうなんです~。

 ですから、そこは私が死守しますので、ウーノ姉さまにはとにかく連中を引っ掻き回してください~」

 

『タイプゼロ・ファーストの確保は陛下の確保と同レベルでの行動目的。

 いいでしょう、少し待ってなさい』

 

ウーノからの通信が切れ、直後に彼女に対しての対処が見るからに遅くなり、地上本部を囲む魔力障壁が薄くなる。

 

「魔法障壁減少。

ルーお嬢様、よろしくお願いします~」

 

『わかった……。

 遠隔召喚……』

 

ルーテシアの小さな声とともに地上本部の周囲にガジェットⅠ型、Ⅲ型、およびⅢ型改が大量に現れる。

 

「あとはお任せくださいな。

 お嬢様は礼の場所へ」

 

『うん』

 

クアットロの言葉にルーテシアは頷き、通信を切った。

モニターが消えるのを確認した彼女は再びその視線を地上本部に向けた。

 

「さぁ、ドクターの夢のために踊りなさい。

 ディエチちゃん、やってちょうだい」

 

『了解、ISヘビィバレル発動。

 バレット、エアゾルシェル……発射ッ!』

 

 

 

「ちっ、やっぱり陸士部隊じゃガジェットの相手は厳しいか……!」

 

「先ほど撃ち込まれた砲撃により、本部内にはガスが入り込んでいます。

 幸いにも、致死性のものではなく麻痺性のものです。

 今データを送ります」

 

ガジェットが本部周辺に現れたことを知ったヴィータたちはガジェットが集中して現れた正面玄関の方へと足を向けていた。

その途中で、本部内にガスが撃ち込まれたことを知ったリインによってすでにバリアジャケットを展開していたスバルたちへ防御データを転送されていた。

 

「なのはさんのところには俺たちが行きます。

 なのはさん達にレイジングハートたちを届けないと……ッ!」

 

「頼む!

 リイン、本部の指令室との連絡は取れねえのか!?」

 

「通信障害が酷いです。

 本部への通信(もの)と本部からの通信(もの)の両方が遮断されてます!」

 

リインからの報告に舌打ちをするヴィータだったが、そんな彼女にティアナが一つ気づいたことを尋ねる。

 

「ヴィータ副隊長、六課の方にはつながらないのですか?

 ロングアーチなら……!」

 

「そうか……!

 ロングアーチ、聞こえるか!?」

 

ティアナの提案をすぐに聞き入れたヴィータは機動六課に待機しているロングアーチに通信をつなぐ。

すると、すぐに反応が返ってきた。

だが、その声はどこか慌ただしかった。

 

『ヴィータ副隊長!

 今どちらに!?』

 

「地上本部の外にいる!

 部隊長に通信繋げられるか!?」

 

『無理ですよ!

 それより、今こちらのレーダーに反応がありました!

 そちらに接近する飛行物体多数!

 ほとんどはガジェットⅡ型のようですが、二つだけ魔力反応が高いものが!

 推定オーバーSです!』

 

「ちっ!

 そっちにはあたしとリインが向かう!

 地上はティアナ達に任せるぞ!」

 

「了解です!」

 

ロングアーチからの通信を切ったヴィータは後ろを走るスバルたちに向かって手に持っていたシュベルトクロイツとレヴァンティンをティアナに渡す。

 

「そいつらをはやてたちに渡してくれ」

 

「了解です!」

 

ヴィータの言葉を聞いたスバルとエリオもその手に握るレイジングハートとバルディッシュを強く握りしめる。

 

「よし、行け!」

 

ヴィータの声に従ってスバルたちは本局の内部に突入する。

それを見送ったヴィータは隣を飛ぶリインを呼び寄せる。

 

「リイン、最初からユニゾン行くぞ!」

 

「はいです!!」

 

ヴィータはポケットからグラーフアイゼンを取り出す。

 

「「ユニゾンイン!!」」

 

刹那、彼女たちを光が包み込む。

光が消えたとき、そこには白い騎士甲冑を纏い、髪の色も赤から白髪に変化していた。

 

「行くぞ、地上本部には一機たりとも近づかせねぇ!」

 

(はいですッ!!)

 

夜空を一筋の光となったヴィータが駆け抜ける。

 

 

 

 

 

「ダメだよ、なのは。

 何処も隔壁で閉鎖されてる」

 

「魔法の運用にも支障をきたすほど濃いAMFに本部に対してハッキングして通信を遮断か。

 並の魔導師じゃ封殺されちゃうね、これは……。

 それがこっちの混乱を効果的に引き出してる。

 呆れるほどに有効な組織的攻略法だね」

 

地上本部の上層部にあるロビーに閉じ込められたなのはとフェイトは現状の確認をしていた。

ため息を吐きながら周囲を見回す。

 

「やっぱり、あそこから出るしかないかな……?」

 

なのはは視線の先にエレベーターの扉を捉えながらそう呟いた。

 

 

 

数分後、なのはとフェイトはエレベーターの箱体(コンテナ)を吊るすワイヤーを掴み、一気に下まで滑り落ちていた。

 

「こんなこと、陸士訓練校での訓練以来だね」

 

「あまり好きじゃなかったな~、この訓練。

 魔力でコーティングしてるって言ってもなんか嫌だよ」

 

「そう言えば、なのははいっつもこの訓練の時嫌がってたね。

 でも、こんなこともあるから、いろんな訓練受けていてよかったよ」

 

「そうだね。

 緊急時の対応マニュアルはスバルたちも知ってるから、集合場所まで一気に行くよ、フェイトちゃん!」

 

 

 

 

 

 

「中将、陸士206部隊の鎮圧部隊がガジェットの排除を完了!」

 

「そいつらには一時の休息を与えておけ。

 空いた穴には91部隊を当てろ」

 

「了解です!」

 

 

外部の協力者の介入で、一方的に極近距離での通信を可能とした地上本部の公開意見陳述会の会場は臨時の指令室となっていた。

そこでレジアスが部下からの報告を受けて、それに指示を出していた。

 

「空の方はどうなっている?」

 

「本部に接近中のガジェットⅡ型の編隊を本局所属の航空部隊が迎撃に向かいましたが、苦戦中です。

 どうやら、戦闘機人が編隊に紛れ込んでいたようで。

 現在、機動六課所属のヴィータ三尉が迎撃に向かいました」

 

レジアスの問いにそばに控えていたオーリスが答える。

その返答にレジアスが頷き再び戦況を示すモニターに目を向けようとしたとき、部屋を大きな揺れが襲う。

 

「なんだ!?」

 

「本部直上に魔力反応、推定オーバーS!

 まっすぐにここに向かっています!!」

 

オペレーターの言葉と同時に部屋の天井を突き破り一人の金髪の男が部屋に降り立った。

 

「久しぶりだな、レジアス」

 

「時と場所を考えろ、この馬鹿者が……」

 

レジアスの後ろに立った男―――ゼストは静かに口を開く。

 

「お父さん……!」

 

「オーリスか、大きくなったな。

 だが、今は時間がない。

 レジアス、答えてもらうぞ」

 

ゼストの視線がオーリスに向けられるが、次の瞬間には目の前で背を向けているレジアスに向けられる。

 

「すまんが今は緊急事態だ、また別の機会にしてもらおう」

 

「―――ッ!?」

 

(下からッ!?)

 

レジアスが指を鳴らすと同時にゼストのすぐ真下の床から一人の男が彼を掴み上げ、そのままゼストの空けた穴から上空に押し出される。

予想外の対応にゼストと、彼とユニゾンしているアギトは驚きの声を上げる。

 

「むッ!?」

 

「……」

 

ゼストが槍を振るい、男を振り払おうとするが彼の手にした槍を男はゼストが力を入れにくいポイントを掴んでいた。

結局、ゼストは地上本部の上空まで押し上げられてしまう。

 

「お久しぶりです、ゼスト隊長」

 

「やはりお前か……」

 

本部を飛び出した直後に男から離れたゼストは男の顔を見て納得した表情を浮かべる。

そんな彼に対して男は静かにゼストに声をかける。

 

「久しいな、ミルズ」

 

男の名はイングレット・ミルズ。

金髪金眼の容姿と、その情け無用な戦い方から彼と敵対した犯罪者たちは彼をこう呼んだ―――金色の破壊神(ジェノサイド)―――と。

 

 

 

 

機体(からだ)の方はどうだ、セッテ」

 

「心配ご無用です、伊達に遅く生まれていませんから」

 

地上本部に向かうガジェットⅡ型の編隊の中で、トーレは隣を飛ぶ妹に声をかける。

戦闘機人No.7、セッテ。

スカリエッティの生み出した12人の戦闘機人の中でも最後発稼動組の一人である。

彼女は桃色のロングヘアーを風に流しながらトーレの問いに答える。

その声はどこか機械的なところが感じられた。

 

「そうか、何かあれば知らせろよ。

 姉としても、お前の教育係としても心配だからな」

 

「いらぬ心配です。

 トーレの方こそ私以上に高機動戦闘を行うのですから、身体の負担はあなたの方が上のはず」

 

「違いないな」

 

セッテの切り返しに肩を竦めるトーレ。

そんな彼女たちの耳に警告の声が響いた。

 

『警告だ、お前らの飛行許可は下りていない。

 ただちに停止しろ』

 

「素直に言われて止まるとでも?」

 

『なら、実力を行使させてもらう!』

 

警告の声とともに彼女たちの目の前の雲の中から数発の誘導弾が飛び出してくる。

トーレとセッテはガジェットのAMFの濃度を上げることでかき消そうとするが、誘導弾の周囲に張られた魔力を消すだけで、その中にある鉄球は速度を保ったまま彼女たちに襲い掛かった。

 

「実体弾……!」

 

「回避……」

 

それをすぐに見きった二人は左右に離れることで回避する。

鉄球は彼女たちのすぐ後ろを飛んでいたガジェットを貫き、爆発させた。

 

「今の魔法は……ッ!」

 

トーレがガジェットを貫いた鉄球を用いた魔法を使う魔導師をデータの中から検索し、弾きだしたのと同時に、彼女の背後から大槌を振り上げたヴィータが現れた。

 

「ギガントハンマァーーッ!!」

 

「IS発動、スローターアームズ……!」

 

ヴィータのグラーフアイゼンがトーレに直撃する直前、自らの固有武装『ブーメランブレード』を呼び出したセッテによってその攻撃は阻まれた。

攻撃を防いだ反動で互いに距離をとる三人。

 

「機動六課、スターズ分隊副隊長ヴィータと」

 

(リインフォースツヴァイです!)

 

「武器を捨てて投降しろ」

 

トーレは目の前に現れた人物がスカリエッティから聞かされていた、彼らの行動の要である部隊の所属であることを思い出していた。

 

「断る」

 

「なら、仕方ねぇな」

 

トーレの言葉を聞いたヴィータはグラーフアイゼンを構える。

それを認めた二人も互いの固有武装を構える。

 

「お前の初陣の相手がベルカの騎士とはな。

 不安なら下がってもいいぞ?」

 

「一人の時と、二人の場合での勝率の違いより拒否します。

 それに、先ほども言いましたが伊達に遅く生まれてません。

 私の力、どこまで通じるかいい機会です」

 

セッテのその言葉にトーレは小さく笑みを浮かべる。

その後、自然な形で戦いの幕は開かれた。

 

 

 

 

ギンガはその時、隔壁に閉鎖された空間から何とか脱出しようとしていた。

ヴィータたちと別れ、一人になった彼女だけを残し閉じられた隔壁。

どこからか脱出できる場所を探しているギンガのもとに彼女は現れた。

 

「タイプゼロ・ファースト、ギンガ・ナカジマだな」

 

その声に反応したギンガはリボルバーナックルを構える。

暗闇の中から現れたのは銀髪に眼帯という特徴的な姿をした少女、チンクだった。

 

「なぜ、っていうのは無駄かしらね。

 あなた、戦闘機人ね」

 

「話が早いな。

 ならば単刀直入に言おう。

 ギンガ・ナカジマ、ドクターのもとに来てもらおう

 こちらとしてはできれば手荒なことは避けたい」

 

「ドクターっていうと、スカリエッティのことよね」

 

ギンガの問いにチンクは首を縦に振る。

チンクの肯定の意思表示を見たギンガはカートリッジを一発装填(ロード)する。

 

「お断りするわ。

 私には帰る場所がある」

 

「来てもらう理由が、お前の身体の事に関してでもか?」

 

「えぇ」

 

「ならば仕方ない。

 穏便に済ませたかったが」

 

チンクはそういって両手の指の間にナイフを挟み構える。

 

「IS発動、ランブルデトネイター……!」

 

「はぁぁあっ!!」

 

誰にも知られることなく、二人の戦いは始まった。

 

 

 

 

照明の消えた通路を走るスバルたち。

 

「相棒ッ!!」

 

『protection』

 

先頭を駆け抜けるスバルは咄嗟に障壁を張る。

 

「うぉぉっ!!」

 

「―――ッ!?」

 

だが、その障壁は繰り出された蹴りの衝撃を逃すことができずにすべてスバルに叩き付けられた。

スバルはその蹴りの勢いに押されて壁に叩き付けられる。

 

「スバル―――ッ!?」

 

目の前で壁に叩き付けられる相棒を見たティアナが声を上げるが、そんな彼女たちの周囲にエネルギー弾が展開され、即座に爆発する。

間一髪、爆発に巻き込まれずに後退したティアナ達だったが、そんな彼女たちの耳に何者かの声が聞こえてきた。

 

「おい、ウェンディ。

 目的忘れてねぇだろうな?」

 

「当たり前っすよー!

 一番面倒な連中をここで足止めっすよねー」

 

暗闇の中から出てきたのはガジェットを引き攣れた二人の少女、ノーヴェとウェンディだった。

ガジェットに周囲を囲まれて舌打ちするティアナだったが、彼女の耳にスバルの声が届いた。

 

「前みたいに会えないってのはそう言う意味かよ……、ノーヴェ……!」

 

叩き付けられた壁から出てきたスバルの声はどこか悲しげな声音だった。

 

 

 

 




始まりました、地上本部迎撃戦。
原作との違いをちょっとまとめてみたいと思います。
①、地上本部の機能がすべては失われていない(外部の協力者のおかげ)
②、レジアス中将をはじめとした有能な指揮官の指揮が一方的にとはいえ、前線に伝えられる
③、ゼストがこの時点で地上本部に潜入済み(前の話でちょろっとそれらしい人物登場)
④、ゼストを追い出すことのできる特務一課の戦闘部隊長(この人が最後のオリキャラです)
⑤、ヴィータ&リインの相手がトーレ&セッテ

といったところでしょうかね。
これからシリアスなシーンばかりとなります。
戦闘描写難しいぜ……(;´・ω・)


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ティアナルート 第十九話

気がつけばこの小説もすでに40話突破してた(笑)
月日が経つのは早いですね。
それではどうぞ!


薄暗い通路で、ノーヴェは壁際に立つスバルを見つめていた。

 

「なんでって顔をしてるな―――ッ!」

 

「―――ッ!」

 

「ノーヴェッ!」

 

その視線の意味を感じ取ったスバルは、一気に加速してノーヴェをウェンディから引き離す。

スバルに押し流されたノーヴェを援護しようと、ライディングボードを構えるウェンディだったが、それを橙色の魔力弾が妨げる。

 

「この―――ッ!」

 

ウェンディは魔力弾が飛んできた方を見ると、すでにフォーメーションを組んだティアナ達が彼女に向かってきていた。

 

「エリオ、キャロ、脱出のタイミングまであの赤毛を足止めするわよ!」

 

「「はいっ!」」

 

先陣を任されたエリオがウェンディに向かっていくのを見ながらスバルの方へ視線を向ける。

 

(後でどういうことなのか聞かせてもらうからね、バカスバル!)

 

 

 

 

 

 

「最初にお前とあったときは、気のせいだと思った。

 俺の耳の聞き間違えだってな」

 

スバルはほかの四人が戦う場所からある程度離れた場所に辿り着くと、すぐ近くに顔があるノーヴェに語り掛ける。

 

「だけど、二度目。

 下水道で俺たちに襲ってきたマント野郎。

 その時にも、似たような駆動音が聞こえた。

 これで疑問に思った」

 

「――――ッ!」

 

接近し拳打蹴撃の応酬をしながらも、ノーヴェの攻撃を捌き続けながらスバルは口を閉じなかった。

 

「そして、さっきの蹴りだ。

 三度目、これで確信したよ。

 あの時のメガネっ子、ありゃお前だな、ノーヴェ」

 

「……あぁ、そうだよ」

 

互いに再び距離をとる。

スバルの言葉を肯定したノーヴェの表情は言葉に言い表せないほどに酷いものだった。

 

「前のようには会えないってのは、俺とお前が敵同士になるからってことか」

 

「あぁそうだよ。

 あたしとお前は敵同士だ、なれ合いなんてできっこないんだよ……!」

 

ノーヴェの悲鳴のような声とともに蹴りがスバルに向かって襲い掛かる。

彼女の足にはスバルのマッハキャリバーと酷似した武装、『ジェットエッジ』が装備され、ジェットエッジの推進器から得た推力によって彼女の蹴りは戦闘機人としての力以上の威力を持っていた。

スバルはそれを左腕に障壁を張り、受け止めるが、衝撃を完璧に逃がすことはできずに後ろに押し流される。

 

「もう、あたしは選んだんだ!

 ドクターの夢を叶える手伝いをする!

 だから、もうあたしとお前の道は交わらないんだよッ!!」

 

ノーヴェは叫びながらジェットエッジを駆り、加速の勢いを乗せた拳をスバルに向けて放つ。

 

「な―――ッ!?」

 

「道が交わらない……?」

 

その拳はスバルの障壁すらも張っていない左手に受け止められた。

だが、加速のついた戦闘機人の拳を魔法なしの素手で受け止めた左手の皮は破れ、スバルの左手からは血が流れていた。

それでも、スバルは痛みを堪えながら言葉を紡ぐ。

 

「どんな形であれ、道は交わってるだろうが……。

 敵味方だろうと、それは変わらねぇんだよ……」

 

スバルは魔力を込めた右手を振りかぶる。

 

「この……馬鹿野郎がッ!!」

 

そして、その拳はノーヴェが咄嗟に張った障壁を打ち砕き、彼女の身体を通路の端まで吹き飛ばした。

 

 

 

 

 

 

「ノーヴェ!!」

 

ティアナ達三人を相手に奮戦していたウェンディはノーヴェが吹き飛ばされたところを目にして、そちらに気が向いてしまった。

 

「エリオ、今!」

 

「はいっ!!」

 

「しまッ―――!?」

 

その隙を逃すエリオではなかった。

魔力変換資質によって生み出された雷を刃に纏わせ、ストラーダを上段に構え、高く跳び上がる。

 

「サンダー……」

 

「クッ……!」

 

ウェンディは周囲にガジェットを集めAMFの濃度を高めながら、空中でストラーダを振りかぶるエリオにライディングボードを向ける。

 

「レイジッ!!」

 

「う、うわぁ!?」

 

エリオの放った電撃はウェンディの攻撃を弾き飛ばし、さらに高濃度のAMFすら貫通して彼女にダメージを与えた。

 

「今よ、スバル!!」

 

「了解ッ!」

 

エリオの電撃がウェンディとガジェットにダメージを与えたのを確認したティアナは離れていたスバルを呼び寄せ、複数の通路が交わったところまで移動する。

 

「待つッすよってぇ!?」

 

ダメージから抜け出したウェンディは彼らを逃さないと視線をそちらに向けるが、彼女の視界には四人の姿がいくつも映っていた。

 

「幻影……ッて、サーモセンサーにも魔力センサーにも反応有り!?

 あのガンナー、戦闘機人のシステムを……!?」

 

ウェンディは構えていたライディングボードを立て掛ける。

 

「逃げられたっすね……。

 ノーヴェ、大丈夫っすか?」

 

ウェンディは吹き飛ばされた後、動く気配のなかったノーヴェが立ち上がったのを見て彼女のもとに向かう。

少しふらつきながらも立ち上がったノーヴェの顔には迷いが見えた。

 

「おろ?

 なんか、様子が変っすね。

 何か言われたっすか?」

 

「まぁ……な。

 敵味方だろうが、それも一つの道の交わり、か

 なんで、あいつはこっちを迷わせるんだろうな」

 

「なんのことっすか?」

 

「お前には関係ねーよ。

 それより、どうするかだな。

 追えるか?」

 

ノーヴェは視線をスバルたちが消えていった方へ向ける。

 

「無理っすね。

 ご丁寧にジャマーまでばら撒かれたっすよ」

 

「なら……?」

 

ノーヴェが口を開こうとした時、通信が繋げられた。

 

『ノーヴェ、ウェンディ。

 少しこっちを手伝ってくれ』

 

「いいっすよー。

 何すればいいっすか?」

 

通信から聞こえてきた声は、ノーヴェが一番信頼しているチンクからだった。

 

『今、ギンガ・ナカジマと戦闘中だ』

 

 

 

 

 

 

 

 

「IS発動、ライドインパルス……!」

 

「こいつ!?」

 

スバルたちがノーヴェ、ウェンディと戦闘中の一方で、ヴィータとリインはトーレとセッテのコンビネーションに苦戦していた。

 

(後ろです!)

 

「このぉ!!」

 

リインからの警告を聞いたヴィータは背後にまわり、手足に装備されたインパルスブレードで切りつけようとしていたトーレをグラーフアイゼンで迎撃する。

 

「ここ……ッ!」

 

「リインッ!」

 

(はいです!!)

 

トーレの攻撃をアイゼンで防いでいる彼女に、横から手にしたブーメランブレードで切りつけてくるセッテをユニゾン状態のリインが制御している魔力弾が牽制する。

セッテの攻撃がうまくいかなかったことを認めたトーレはすぐにその場から離れる。

 

「こいつら、コンビネーションのタイミングが息ぴったりだな、畜生め」

 

(それに、この膂力……。

 これが戦闘機人の力、ですか……)

 

彼女たちの戦闘を身を持って体験しているヴィータは舌打ちをしながらも冷静に判断する。

 

「ユニゾン状態の融合騎との連携……。

 適合率も練度もかなり高いのでしょう」

 

「さすがは、夜天の守護騎士といったところか」

 

「トーレ、一ついいでしょうか?」

 

トーレとセッテもまた、警戒を続けながらヴィータとリインの戦い方を振り返っていた。

そんな中、セッテがトーレに対して、一つの提案を上げた。

 

「あれを試してみたいと」

 

「まぁ、この膠着状態をどうにかするには仕方ないか……。

 援護は任せろ」

 

二人は互いに頷くと、トーレがその加速性を生かした突進をヴィータに仕掛ける。

ただまっすぐ突っ込んでくる相手とは思えなかった彼女はすぐに魔力弾による迎撃を試みる。

 

「何っ!?」

 

だが、その魔力弾はトーレの背後から飛び出した二本のブーメランブレードによって切り裂かれる。

さらにその二本の獲物は互いにぶつかり合い、ヴィータの視界を惑わせるように機動を変える。

 

「ライドインパルス!!」

 

「アイゼンッ!!」

 

『Panzerhindernis』

 

そして、トーレはそのブーメランブレードの不規則な機動に紛れてヴィータに接近し、腕のインパルスブレードを彼女に叩き付ける。

間一髪、グラーフアイゼンが張った障壁が彼女をその斬撃から守る。

しかし、トーレの背後からさらに二本のブーメランブレードが彼女に迫る。

 

「リインッ!」

 

(はいですッ!!)

 

トーレの攻撃を受け止めているヴィータに代わって、彼女の中にいるリインが二つの障壁を張ってブーメランブレードをやり過ごす。

だが、その直後、彼女に影が落とされる。

 

「後ろ……ッ!?」

 

「これで終わり」

 

(ヴィータちゃんッ!!)

 

トーレとの鍔迫り合いの直後、彼女の後ろに現れたのはさらに二本のブーメランブレードを手に持ったセッテだった。

上段からの振り下ろしは、リインが張った障壁を叩き割りヴィータを直撃。

そのまま彼女の身体を遥か下にあるビルの屋上に叩き付けた。

 

「目標の撃墜を確認」

 

「見事なものだな。

 相手はあの夜天の守護騎士、実戦経験なら我々以上のものだったはずだが。

 まぁ、いい。 

 行くぞ、セッテ」

 

「了解」

 

二人は撃墜したヴィータのことを無視してその場を飛び去った。

 

 

 

ビルに叩き付けられたヴィータの身体が一度光り、彼女のバリアジャケットが白色から通常の赤色に戻る。

その時、彼女の身体からはじき出されたリインが急いでヴィータのもとへ駆け寄る。

 

「ヴィータちゃん!

 しっかりしてください、ヴィータちゃん!!」

 

「ぅ……」

 

リインがヴィータの身体を思いっきり揺らすが、反応が小さく、さらに彼女の顔色も悪くなっていた。

 

「ヴィータちゃん、ヴィータちゃん!!」

 

夜の空に、リインの声が虚しく響いた。

 

 




スバル対ノーヴェの第一ラウンドはスバルの勝利ということに。
ノーヴェはスバルとの関係を断ち切ったと考えていたのですが、スバルの真正面からの言葉に再び迷いが出てしまいます。
これがどのような結果になるのか、お楽しみに!


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ティアナルート 第二十話

地上本部内部

エレベーターシャフトを降りてきたなのはとフェイトは、スバルたちとの集合場所に辿り着いていた。

 

「みんなはまだ来ていないみたいだね」

 

「結構早く行動に移したから、予定よりも早く着いたのは仕方ないよ」

 

二人は周囲の状況を確認しながらスバルたちを待とうとし、彼女たちの名前を呼ぶ声を聴いてそちらを見た。

 

「なのはちゃん、フェイトちゃん!」

 

「無事だったか、二人とも」

 

「ご無事で何よりです!」

 

「はやてちゃん!?」

 

「シグナムとシスターシャッハも」

 

二人は通路を駆け抜けてきたはやてたち三人を見て驚きの表情を浮かべた。

 

「どうやって隔壁を?」

 

「隔壁の方はレジアス中将が切り開いたんや。

 で、今会場は臨時の指令室になっとる」

 

「私たちは中将のお言葉に甘えてここまで来たのだ」

 

「そうだったんですか」

 

状況を把握したなのはとフェイトは、スバルたちがデバイスを持ってくるということを伝える。

その直後、その場所にスバルたちが現れた。

 

「なのはさん、フェイトさん!」

 

「アレ!?

 部隊長とシグナム副隊長、シスターシャッハまでいる!?」

 

集合場所までやってきたスバルたちは、なのはとフェイトがいることに安心し、はやてたちがいることに驚きの声を上げた。

 

「なのはさん、レイジングハートです」

 

「バルディッシュや、シュベルトクロイツ、レヴァンティンも一緒に」

 

「ありがとう、スバル、皆」

 

スバルたちが預かっていた隊長陣のデバイスを渡す。

なのはたちはすぐにバリアジャケットを展開し、デバイスを手に持つ。

 

「通信は?」

 

「ダメや、指令室とは連絡がつかへん。

 ロングアーチの方とは……つながった!」

 

ロングアーチとの通信がつながったことに喜びの笑みを浮かべるはやてだったが、向こう側からの通信の状況が悪いことに違和感を覚える。

 

『……ぶたい……う……』

 

「グリフィス君?

 どないしたん!?」

 

『襲撃……ろ……かの……、いま……応援……ッ!!』

 

「グリフィス君、グリフィス君!?

 ……あかん、切れた」

 

「はやてちゃん、六課がどうしたの!?」

 

はやてと六課の通信の様子を見ていたなのはは顔色を変えてはやてに詰め寄る。

そんな彼女をシグナムとフェイトがはやてから引き離す。

 

「わからへん。

 だけど、何かが起きているのは確かや」

 

「そうだ、姉貴……!」

 

なのはと同じく、はやての様子を見ていたスバルは一人でわかれたギンガの安否を確認するために彼女に通信を繋げようとするが……。

 

「どうしたんだよ、姉貴……!

 無事なら出てくれ……!」

 

スバルの祈るような声を上げるが、彼の通信機からはノイズしか聞こえなかった。

 

「マッハキャリバー、ブリッツキャリバーに直通で繋げろ!」

 

『無理です、通信障害が酷すぎます』

 

「くそっ!」

 

「状況がわからない。

 はやて」

 

「わかっとる。

 みんな、よう聞いて」

 

フェイトの言葉に頷き、はやては目の前にいるフォワードメンバーの注意をひきつける。

 

「これより、隊を分けます。

 足の速いライトニングは六課に戻って。

 スターズはギンガの安否確認と、本部に侵入した敵の排除。

 シグナムはヴィータの方に。

 ヴィータからの反応がさっきからないんや。

 心配やから、応援に行ってくれるか?」

 

「了解だよ、はやて」

 

「わかった」

 

「承知しました、主」

 

隊長、副隊長の同意を得たはやては頷き、彼女たちを送り出した。

 

「姉貴……、無事でいてくれ……!!」

 

 

 

 

 

 

「ておぉぉっ!!」

 

燃え盛る炎に囲まれた機動六課の隊舎を背にしたザフィーラの拳が彼の近くで障壁を張り続けているシャマルに近づこうとしていたガジェットを粉砕する。

 

「大丈夫か?」

 

「えぇ、でも……」

 

シャマルは息を荒げながら上空で彼らを見下ろす人物を見上げる。

戦闘機人No.8オットー。

少年のようにも見える彼女は無表情な顔で彼らを見ていた。

 

「はあぁぁっ!」

 

ガジェットを操っているであろうと考えたザフィーラは彼女に向かって跳んだ。

 

「ザフィーラ、後ろ!!」

 

「―――ッ!?」

 

「ISツインブレイズ、発動」

 

だが、その拳がオットーに届こうかという距離で、彼の後ろに現れたロングヘアーの少女―――戦闘機人No.12、ディード―――がその両手に持った二振りの剣を振り上げていた。

 

「ぐおぉぁ!?」

 

シャマルの声を聞いたザフィーラが後ろを見た瞬間、ディードが手にした双剣『ツインブレイズ』を振り下ろす。

間一髪で防御が間に合ったザフィーラだったが、その衝撃は空中では逃がすことなど叶わず、地面に叩き付けられてしまう。

 

「二人でよく防いだ」

 

地面に激突したザフィーラのもとに駆け寄るシャマルを見下ろしながらオットーは抑揚のない声で告げる。

 

「だけど、僕のIS、レイストームの前では無駄」

 

オットーが右手を六課隊舎に向け、その手のひらに緑色のエネルギーが収束する。

 

「―――ッ、防いで、クラールヴィント!」

 

シャマルが隊舎の周囲に障壁を新たに張りなおすが、オットーの放った砲撃に威力に押されてしまう。

 

「しぶとい……」

 

「ッ!!」

 

「……やらせはせんッ!!」

 

シャマルが障壁を張ったのを確認したオットーはさらに左手を彼女に向け、砲撃を放つ。

だが、その砲撃がシャマルに直撃する直前に彼女の前にザフィーラが立ち上がりその砲撃を受け止める。

しかし、彼らの奮戦もそこまでだった。

砲撃の威力を一人で受け止めたザフィーラは弾き飛ばされ、何度も地面と衝突を繰り返し、ようやく身体は止まったが、彼の意識はすでになかった。

そして、ザフィーラを吹き飛ばした砲撃の余波をモロに受け、近くの残骸に叩き付けられた。

彼女が意識を失いかけたことによって、砲撃を防いでいた障壁も消滅し砲撃はすべて隊舎に直撃した。

 

 

 

 

 

「グッ……!

 くそ、外はどうなってんだ!?

 シャマル先生や、ザフィーラの旦那は……!?」

 

隊舎を一際大きな揺れが襲ったとき、通路に築いたバリケードの内側でヴァイスは呻くように声を出した。

彼の前方には多くのガジェットの残骸が転がっている。

 

『マスター、次が来ます』

 

「ったく、少しは休ませろっての!」

 

ヴァイスは手に握ったストームレイダーからの忠告を聞きいれ、視線をバリケードの向こう側に向ける。

そこには先ほどから彼が撃ちぬいているガジェットⅠ型が三機迫っていた。

 

「…………ッ!」

 

だが、その三機はヴァイスが三回、ストームレイダーの引き金を引くことでその役目を果たせずにただの鉄屑と化した。

 

「今の俺は狙撃手(スナイパー)じゃなくてただのヘリパイなんだがな!」

 

『今ごろそのヘリは目の前のゴミと同様の姿になってるでしょうが』

 

「きっついこというなよ、相棒……」

 

ストームレイダーからの言葉を聞いたヴァイスは大きくため息を吐いた。

彼の操縦していた最新型のヘリは、すでに格納庫でガジェットによって破壊されている。

そのことを思い出した彼はやるせない気持ちを抱いていた。

 

「だいたいな……ッ!?」

 

さらに言葉を続けようとした彼だったが、狙撃手としての勘が彼に相棒を構えさせた。

そして、彼が覗くスコープの中に映ったのは、紫色の髪をたなびかせる少女―――ルーテシアだった。

 

「―――ッ!」

 

ヴァイスは、彼女が通路に現れた瞬間にその引き金を引いていた。

ただの子供が戦場に来るはずがない。

ならばあの少女は何者だ?

決まっている、目の前に広がっているガジェットの残骸(これ)と同じ敵だ。

刹那の間にそう結論付けた彼の判断は間違ってはいなかった。

 

「何ッ!?」

 

唯一の失敗は、彼女が一人ではなかったということ。

ヴァイスの放った魔力弾は、彼女の傍らに現れたガリューによって弾かれた。

ガリューが弾いた魔力弾に気づいたルーテシアはその手をヴァイスに向ける。

 

「邪魔……」

 

「ぐあぁッ!?」

 

彼女の手から放たれた魔力の塊に吹き飛ばされたヴァイスは背後の壁に叩き付けられ、バリケード代わりに立てていたロッカーが彼の足を挟み込んだ。

意識が途切れかけていた彼は、足から響いた何かが折れるような音と、直後に襲ってきた痛みによって意識を何とか保たせていた。

だが、ルーテシアの放った魔力の塊は彼の他にもガジェットの残骸までも吹き飛ばしており、彼の周囲は瓦礫に埋もれていた。

すなわち、機動六課における残存戦力のほとんどが無効化された瞬間だった。

 

 

 

 

 

 

 

「ぬぅッ!!」

 

「ハァァッ!!」

 

地上本部直上、空という広大な空間を使って、二人の男は互いの武器を叩き付けていた。

ゼストの持った槍と、ミルズの腕に嵌めた籠手。

二つの武具は、持ち主を勝利に導かんと相手に迫るが、互いに決定打を打ち込めないでいた。

 

「やるようになったな、ミルズ」

 

「貴方が俺を拾ってくれたからですよ」

 

互いに距離をとり、デバイスを構える。

そんな中、ミルズは小さく、だがしっかりとした声でゼストに語り掛ける。

 

「ストリートチルドレンだった俺を、貴方は拾ってくれた。

 今の俺は、貴方がいたからだ。

 その恩を、今返します」

 

ミルズは籠手を嵌めた手を握りしめる。

その籠手に魔力が満たされると同時に、その籠手の形がぐにゃりと、液状に変化した。

 

「来るか……!」

 

「ブレード」

 

『コピー、レヴァンティン』

 

次の瞬間、ミルズの手には一振りの剣が握られていた。

その姿は、シグナムの愛剣『レヴァンティン』そのものだった。

 

(武器が変わった……!?)

 

「来るぞ」

 

ゼストは自分の中で驚きの声を上げるアギトを落ち着かせ、目の前のミルズを警戒する。

 

「行きます……!」

 

「――――ッ!」

 

刹那、ゼストの槍とミルズの剣が交錯する。

互いに相手の攻撃を得物で弾き、その隙を何とか詰めようとする。

 

「ハンマー」

 

『コピー、グラーフアイゼン』

 

何度かの衝突の後、ゼストの攻撃の一瞬のスキを突いたミルズは再びその得物の姿を変えた。

 

(また変わった!?

 どうなってんだよ、あいつのデバイスは!?)

 

「あれがあいつのデバイス、『パラディン』だ。

 そう言うものだと考えなければ負けるぞ、アギト」

 

ミルズのデバイス『パラディン』。

それの正体は特殊な液体金属を用いた高性能デバイスだ。

デバイスの形態変形の礎となった技術を用いたデバイスであるが、液体金属の操作、コスト、出力調整の常時変化などの様々な要因から一機のみ製作された幻のデバイス。

それを彼は己が手足のように使いこなしていた。

 

「ふんッ!」

 

「グッ……!」

 

(くっそーッ!!)

 

ハンマーでの一撃は先ほどまでの攻撃とは違い、ゼストを防御ごと弾き飛ばした。

直後にミルズはさらにパラディンの形態を変更させる。

 

「バスター」

 

『コピー、レイジングハート』

 

ハンマーの形態から、杖に変わったパラディンの先端に真紅の魔力が収束される。

 

(あれはやべぇ!!

 旦那ッ!!)

 

「わかっている」

 

それを見たゼストは、アギトの力も借りて障壁を張る。

そして、閃光は放たれた。

 

 

 

 

「強くなったな、ミルズ」

 

「いえ、まだまだ未熟者です」

 

砲撃と障壁の衝突によって起きた閃光が晴れると、そこには互いの得物を相手に突きつける二人の姿があった。

ゼストの言葉にミルズは首を横に振りながらそう答える。

その時、ゼストは地上本部から大きな魔力反応のいくつかが出てくるのを感じた。

 

「ここまでか、悪いが引かせてもらうぞ」

 

(ちょ、旦那!?)

 

「構いません、自分の今の任務は貴方をここで止めることでしたので。

 それと……」

 

互いにデバイスを下げる二人。

去ろうとするゼストの背中にミルズは言葉を続ける。

 

「レジアス中将からの伝言です。

 すべての決着がつく日にすべて話す、と」

 

「……わかった、と伝えてくれ」

 

ミルズの言葉にゼストは静かにそう答えてその場を去っていった。

ミルズは去っていくその背中をいつまでも見続けていた。

 

 

 

 

 

「姉貴……!」

 

はやてからギンガの安否の確認の任務を言い渡されたスバルは全速力でギンガの信号が途絶えたポイントに向かっていた。

 

『スバル!

 先行しすぎよ!!』

 

「悪い、だけどッ!!」

 

ティアナからの通信に対しても碌に答えずにひたすら前に進む。

そして、彼の視線の先に通路を塞ぐ隔壁が映った。

 

「マッハキャリバー!」

 

『Load cartridge』

 

スバルの右腕から一発の空薬莢が排出される。

そして、青色の砲撃が隔壁を撃ち抜いた。

 

「姉貴ッ!」

 

隔壁にあいた穴からその中に飛び込んだスバルはギンガの姿を探す。

そして、彼の視線の先にそれは飛び込んできた。

 

「あね、き……?」

 

ひび割れた壁の下に倒れ込むギンガ。

その右手は粉砕されており、頭部からの流血によって、彼女の周囲は血で赤く染め上げられていた。

そして、彼女の周囲にいる三人の少女。

その三人の顔はどれも驚愕に染まっていた。

 

ガシャン……

 

その時、スバルは自分の中で何かが外れる音がしたのを感じた。

 

「――――ッ!!」

 

直後、スバルの周囲にある瓦礫を彼の身体からあふれ出すエネルギーの奔流が吹き飛ばした。

ゆっくりと下を向いていた彼の顔が上を向く。

 

「姉貴から、離れろ……」

 

その瞳は静かに金色に輝いていた。




機動六課襲撃と、ゼスト(&アギト)対ミルズでした。
この小説では、ザフィーラは通常時はともかく、戦闘時は人型がデフォです。
だっていn……狼の時のメリットがあまり感じられないので……。
いいじゃない、銭湯の時に人型になるザフィーラがいる小説でも(笑)
ミルズのデバイス『パラディン』についての補足を。
レイジングハートやバルディッシュといった代表的なデバイスは変形しますが、あまり原型を崩さないほどのものです。(バルディッシュは最後の方は二刀流になってますが……)
それを関係なしにやってしまおうという考えの元で生まれたデバイスがパラディンです。
これを扱うには、変形する形態の戦い方をある程度知っておかなければなりません。
なので、このデバイスを扱えるミルズは、それぞれの形態での戦い方を知っているということになります。
まぁ本物よりは弱いですけど。
使い手によっては器用貧乏となってしまうキワモノデバイスです。

もう一つ補足を。
最後のゼストとミルズの攻防は、ミルズが砲撃を撃った直後にゼストに接近、対するゼストはそれを予測していたというところです。


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ティアナルート 第二十一話

長かった夏休みも今日で終わり……。
というわけで、次回から更新が少し遅れますのでご了承を。


「スバル!

 先行しすぎよ!!」

 

なのはに抱えられ、スバルの後を追うティアナは通信で彼に呼びかける。

 

『悪い、だけど!!』

 

ティアナとなのはの遥か先を疾走するスバル。

彼へつないだ通信が切られたことに対してティアナは眉を顰めていた。

 

「仕方ないね……。

 こういった場所じゃ、スバルの方が速い」

 

「えぇ……」

 

「大丈夫、こっちがその分急げばいいだけの話だから!」

 

ティアナはなのはの言葉を聞きながら、胸に何かがつかえたような感覚を覚えていた。

 

(何か、嫌な予感が……!)

 

 

 

 

魔法少年リボルバースバル 『ティアナルート 第二十一話』

 

 

 

荒れ狂うエネルギーの奔流の中心でスバルは静かに、しかししっかりとした声で言葉を紡いだ。

 

「もう一度言う……」

 

スバルの言葉とともにリボルバーナックルに装填されている残りの五発のカートリッジが一気に排出される。

空薬莢が地面に落ちると同時にスバルの身体に扱いきれないほどの魔力が溢れ出す。

 

「姉貴から……」

 

『ディバインバスター』

 

スバルの周囲に六つの魔力の塊が生成される。

 

「離れろ……っ!!」

 

『リボルバーシフト』

 

直後、チンクたちに向けて六つの砲撃が斉射された。

 

「ノーヴェ、ウェンディっ!!」

 

「クッ!」

 

「ちょ、危なっ!!」

 

見え見えの砲撃は戦闘機人たる彼女たちにとって避けるのは造作もないことだった。

だが、彼女たちの前方に直撃した砲撃は大量の煙を巻き上げた。

 

「逃がすか……ッ!」

 

「チンク姉、下がってッ!!」

 

その煙の中からスバルが飛び出す。

加速をつけた彼を止めるためにノーヴェがチンクの前に出て、右手を前にかざす。

その右手にはめた固有武装『ガンナックル』から広範囲にエネルギー弾が放たれる。

 

「ハァーッ!!」

 

「なッ!?」

 

だがスバルはその弾幕を障壁すら張らずに突破してくる。

ノーヴェの放ったエネルギー弾によって白いバリアジャケットのいたるところが赤く染められるが、スバルは右の拳をノーヴェに放つ。

 

退()がれノーヴェ。

 今の俺は、手加減なんか出来そうもない。

 たとえ顔見知りであってもだ……ッ!!」

 

「……ッ!?」

 

その拳をノーヴェは右腕に張った障壁で受け止めるが、スバルの瞳が一際輝くと、その障壁すら粉微塵に砕かれ右腕に彼の拳が襲い掛かる。

スバルの拳が触れた途端に、ノーヴェは自分の右腕に生じた異常を認知していた。

 

「このぉッ!!」

 

その直後にノーヴェは跳び上がり、ジェットエッジの出力を上げスバルに蹴りかかる。

 

(どんな形であれ、道は交わってるだろうが……。

 敵味方だろうと、それは変わらねぇんだよ……。

 この……馬鹿野郎がッ!!)

 

彼の言葉がノーヴェの頭を横切った。

蹴りを放ったノーヴェだったが、その言葉とともに目の前のスバルの顔を見て、一瞬だが、身体の軸がブレた。

体制が若干とはいえ崩れた蹴りの威力は本来のそれをはるかに下回った。

そして、スバルはその蹴りを回し蹴りで相殺する。

タイミング、威力、そのほかすべての要素を打ち消されたノーヴェの蹴りはスバルに完全に止められた。

 

「邪魔をするな……ッ。

 どけぇぇッ!!」

 

「―――ぁあッ!!」

 

さらにスバルの力が上がり、ノーヴェは空中から地面に叩き付けられ、その勢いのまま壁際まで吹き飛ばされる。

 

「ノーヴェッ!!」

 

「ウェンディ、ノーヴェを回収してすぐに撤退しろ。

 あれは姉が抑える」

 

チンクは指に挟んだナイフをスバルの足もとに投げつけ、即座に爆破する。

スバルは爆発の勢いに押され、後ろに下がる。

 

「でも、いくらチンク姉でも……ッ!」

 

「行けッ!」

 

「――――ッ!!」

 

ウェンディはチンクのその声と同時にノーヴェを戦闘機人の膂力を活かして肩に担ぐ。

 

「ノーヴェ、しっかり捕まってるッすよ!

 IS発動、エリアルレイブッ!!」

 

「逃がさない……ッ!」

 

「行かせんッ!!」

 

チンクはISを発動したウェンディがノーヴェとともにその区画を離脱するのを見届け、さらにナイフを追加で投擲する。

今度はナイフがスバルに接近する前に爆発するが、スバルはそれを障壁を張ってやり過ごす。

 

「―――ッ、邪魔をするな……!」

 

「チィッ……!」

 

スバルの右手がチンクに迫る。

チンクは後ろに跳び下がることで、その拳を回避する。

目標を失った拳は彼女のいた場所に大きな亀裂を生んだ。

二人の戦いはまだまだ始まったばかりだった。

 

 

 

 

 

「うぅ……!」

 

「―――ッ、ノーヴェ。

 気づいたッすか?」

 

「ウェンディ……?」

 

ウェンディに担がれた状態で目覚めたノーヴェは周囲を見回し、そして、チンクがいないことに気づいた。

 

「ウェンディ、チンク姉は!?」

 

「スバルの足止めに残ったっすよ」

 

「そんな……!

 チンク姉……ッ!?」

 

ウェンディの言葉を聞いたノーヴェは身体を動かしてウェンディから離れようとするが、右腕を中心に身体中から不具合を示す痛みが彼女を襲った。

 

「ちょ、無茶しちゃダメっすよ、ノーヴェ!!

 右腕は完全に機能停止してるし、全力で壁に叩き付けられた衝撃で基礎フレームにも歪みが出てるんっすから!!」

 

「でも、チンク姉が!!」

 

「セイン姉に頼んで助けに行ってもらってるっす。

 私たちは先に戻るッすよ!

 今のノーヴェが行っても邪魔になるだけっす!」

 

「――――ッ!!」

 

ウェンディの言葉がノーヴェの胸に突き刺さる。

彼女の言葉を否定したくても、今のノーヴェにはその言葉に対する反論の言葉が出なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「む……!」

 

はやてからの指示通りにシグナムはヴィータたちの反応があった場所に向かっていた。

そのポイントよりも地上本部に近いところで多くのガジェットⅡ型を相手にしているヴィータとリインがいた。

だが、シグナムはヴィータの動きにキレがないことに遠目からでも気づいた。

そして、彼女の後ろから迫るガジェットⅡ型の存在にも。

 

「紫電一閃っ!」

 

「――――っ!?」

 

シグナムの放った一撃がガジェットを爆散させる。

それに気づいたヴィータは彼女の顔を見るなり驚きの表情を浮かべた。

 

「シグナム……、何でここに?」

 

「主から言われてな。

 お前たちの反応が一時的に消えたことを心配なさっていたぞ。

 それより、リイン、ヴィータに何かあったのか?

 動きがおかしかったが」

 

「聞いてください、シグナム!

 ヴィータちゃんさっきの戦闘で肋骨にひびが入ってるのに戦ってたんですよ!!

 怪我人だというのに!!」

 

「おい、リインっ!!

 ――――っ!?」

 

リインがシグナムに事情を説明していた時に、ヴィータが声を上げるが身体を走った痛みに中断せざるを得なかった。

 

「なるほど、事情は理解した。

 リイン、ヴィータをしっかりと治療してやってくれ」

 

「はいです!!」

 

「待てよ、シグナム。

 ガジェットはどうする……」

 

「私がすべて落とすさ」

 

シグナムはヴィータにそういうと、レヴァンティンを構える。

構えたレヴァンティンから空薬莢が一つ排出される。

 

「烈火の将、シグナム。

 推してまいるっ!」

 

 

 

 

ノーヴェとウェンディが去った区画で、スバルとチンクは未だに死闘を繰り広げていた。

だが、スバルの身体にはすでにかなりの傷が刻まれていた。

ノーヴェの放ったエネルギー弾によってできた傷、チンクのIS『ランブルデトネイター』によって起こされた爆発によって巻き上げられた破片によって切り裂かれた腕や頬などからは血が流れていた。

対するチンクはスバルの拳に当たらないように立ち回ったおかげで傷などはなかったが、その代わりに一撃で戦闘不能にされる可能性がある攻撃を避け続けるという精神的疲労を感じていた。

 

「ハァッ!!」

 

「クッ!!」

 

二人の撤退を支援するために殿となったチンクだったが、目の前で自分たち、機械の身体を持つ者の天敵と呼べるスバルの戦い方を、彼の攻撃を紙一重で躱しながら観察していた。

スバルの戦い方として牽制で小ぶりな攻撃を続けて相手の体制を崩し、機会を逃さずに大振りの攻撃を放つということをチンクはこの数分の攻防で確認していた。

 

そして……

 

(来た……ッ!)

 

その時が来た。

魔力弾による牽制。

チンクはそれを後方に飛び退くことで回避し、指の間にナイフをはさみ、彼の現れるであろう空間に投擲する。

そして、ナイフが何かに当たった手ごたえを感じたチンクはそれを爆破させる。

 

彼女の目の前に爆煙が広がる。

チンクとしては彼を追跡不能にする程度に負傷させるつもりだった。

正確にいえば、膝を壊すということだ。

だが、その考えが間違いだった。

 

『ディバインバスター』

 

「なに―――っ!?」

 

煙を引き裂く青色の砲撃がチンクを襲う。

間一髪、チンクは固有武装『シェルコート』に搭載されているAMF発生装置の出力を最大にして直撃を凌いだ。

だが、その直後煙から飛び出してきたスバルの右手が彼女を、障壁ごと吹き飛ばした。

 

「ば、馬鹿な……ッ!」

 

地面に倒れながらチンクはスバルを見た。

そこで彼女は気づいた。

彼の服装が先ほどまでと変わっていることに。

 

『魔力量危険域』

 

スバルは先ほどまで羽織っていた白いロングコートを脱ぎ去り、黒地に青いラインの入ったインナーの姿で彼女を見ていた。

 

なんとか立ち上がろうとするチンクにスバルは駆ける。

 

魔力弾を放った後、スバルはそろそろ自分の攻撃パターンをチンクが予測できるようになっているだろうと考えた。

そこで、彼はそれを逆手にとってこの膠着状態を打破しようとした。

煙の中にわざと踏み込み、コートの裾を前にあらかじめ翻しナイフを受け止める。

ここでナイフを攻撃と判断したバリアジャケットが自動的に爆発。

ナイフの爆発と同時だったために、スバルが予想していた以上の衝撃が彼を襲ったが、彼の作戦は一応の成功を見せた。

 

そして、ついにその拳がチンクを捉える。

 

 

 

 

「まだだッ!」

 

「――――ッ!!」

 

チンクは倒れたまま、接近するスバルの目の前に数多のナイフを召喚する。

スバルはそれをすでにかなりの傷を負っている左手で払いのけようとする。

だが、それよりも早く、チンクのISによってナイフが爆発した。

 

チンクは至近距離で起こした爆発の余波を受けて地面を転がる。

うつぶせになっていた彼女は爆発の起こした炎の中、立ち上がる一つの影を見た。

 

「―――ッ、呆れるくらい頑丈だな……!」

 

彼女の見たのは、傷だらけになりながらもその場に立っているスバルだった。

だが、一目見ただけでもすでに戦闘は無理だろうという有様だった。

ナイフを払いのけた左腕は肘から先が原型を留めないほどに破壊され、さらに魔力枯渇によって、バリアジャケットを突き抜けて彼にダメージを与えていた。

だが、彼の眼はいまだにチンクを捉えていた。

 

「チンク姉っ!」

 

「セインか、助かった」

 

彼が一歩足を進めようとしたとき、チンクの背後に地面から飛び出したセインが現れる。

妹の登場に安堵するチンクだった。

 

「よっしゃ、しっかりつかまっててよ?」

 

「あぁ、任せる」

 

セインの背に乗せられたチンクはちらりとスバルのほうを見るが、すぐに視線をセインの背に向けた。

 

「IS発動、『ディープダイバー』っ!!」

 

そして、セインとチンクはその姿を消した。

彼女たちが去った後にその区画に到着したティアナたちが見たのはは、壁際で倒れているギンガと、ゆっくりと膝から崩れ落ちたスバルだった。

 

 

 




スバル覚醒&戦闘回でした。
原作スバルとは違い、怒りで我を忘れるのではなく、怒りで逆に冷静(というほどでもないですが……)になってしまうというパターンでした。
流石に肉親が傷つけられた場合はぶち切れしちゃいますよね。


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ティアナルート 第二十二話

「酷いモノね……」

 

地上本部と機動六課が襲撃された翌朝。

ティアナは資料を持って崩壊した機動六課の隊舎の現場検証を行っていた。

 

(スバル……)

 

ティアナは今も病院で眠っているであろうパートナーのことを思う。

彼女は、昨夜のことを思い出すだけでも身体が震えそうになっていた。

 

チンクたちが撤退した後、倒れ込んだ彼をティアナが抱き起したときに、彼の身体のいたるところから血が流れて、彼の体温が低くなるのを感じた。

その時、彼女は言い様のない恐怖を感じた。

今まで一緒にいた者がいなくなるという恐怖を味わったティアナは一つの思いをその胸に抱いていた。

 

(ちょっと、気恥ずかしいけど、後悔は、したくない……)

 

 

 

 

 

スバルとギンガをティアナとなのはが回収してしばらくしてガジェットはその姿を消した。

地上本部及び機動六課における損害はかなりのものとなっていた。

地上本部側では、警備任務にあたっていた局員の三分の一が負傷。

死者が出なかったことは幸運と言ってもいいだろう。

 

そして、機動六課の方が損害率でいえば地上本部以上のものだった。

フォワードメンバーの四人のうち前衛を張るスバルが左腕損失といった重症。

エリオも六課付近における戦闘で右腕を負傷していた。

さらに、陸士108部隊からの出向扱いのギンガも右腕の破損及び頭部裂傷という具合。

六課の防衛についていたザフィーラ、シャマル、ヴァイスの三名の負傷。

最後に、六課で保護していた少女、ヴィヴィオを連れ去られるという最悪に近い形での敗北だった。

 

 

「酷くやられたな……」

 

「シグナム副隊長……」

 

現場を見回っていたティアナに遅れてきたシグナムが声をかけた。

 

「ヴィータ副隊長やリイン曹長は……?」

 

「幸い、回復魔法ですぐに完治できる程度の怪我だったらしい。

 二、三日は安静にしておかなければならないそうだが、すぐに戻ってくるさ。

 リインも一応検査を受けてはいるが、あいつは夕方にでも戻ってくる。

 負傷した六課所属の局員も全員峠は越したようだ」

 

シグナムのその報告にほっと胸をなでおろすティアナ。

普段スバルたちと一緒にいるとは言っても、同じ職場に働く者が一人も欠けなかったことはうれしい報告だった。

 

「それで、高町隊長はどうだ?」

 

「……中で検証中です。

 ヴィヴィオが攫われて、悲しいはずなのに、それを感じさせないで……」

 

「そうか……。

 その資料を渡してくれ」

 

ティアナはシグナムの言葉に首を傾げながらも手に持った資料を彼女に渡した。

 

「あとの仕事は私がやっておく。

 お前も、病院に顔を見せに行ったらどうだ?

 スバルも目を覚ましたとエリオから連絡があってな」

 

「―――ッ、はい!

 ありがとうございます、シグナム副隊長!!」

 

シグナムは、彼女に一礼して走っていくティアナの背中を見ながら微笑んだ。

 

「……あれが若さか」

 

彼女のポツリと呟いた一言はだれにも聞かれることはなかった。

 

 

 

 

 

「はぁ~、お前も無茶するなぁ、エリオ?」

 

病室で目覚めたスバルは、同室となったエリオと、彼の見舞いに来ていたキャロに先日の襲撃の報告を聞いていた。

その途中で、スバルはストラーダとケリュケイオンに記録されていた戦闘データを見てそう呟いた。

 

「あの時は、ちょっと頭に血が上ってて……」

 

「ま、お前にそれを言う資格は俺にはないか」

 

ヴィヴィオが攫われていくのを直接見たエリオは、乗っていたフリードの背から飛び出し、ストラーダの推進力のみで彼女を連れ去ろうとしていたルーテシアに追い迫ろうとしたのだが、ガリューとルーテシアの援護に回っていたディードによって、海に叩き落されたのだった。

その後、エリオを救出したキャロによって呼び出された真竜『ヴォルテール』によって六課を襲撃していたガジェットは一掃された。

 

うつむきながらそう答えるエリオを見て、スバルは自分の左肩に手を当てる。

今は病院から貸し出された病院服の上着を羽織っているために一目ではわからないが、袖の肘から先のところには何もなかった。

 

「「「……………」」」

 

三人そろって無言になったとき、カラカラと病室のドアが開いた。

 

「……なんでみんなしてだんまりなの?」

 

部屋に入ってきたティアナは暗い顔をしている三人に驚きの表情を浮かべながらスバルのベッドの横に置いてある椅子に座った。

 

「ほら、差し入れ。

 どうせまだ何も口にしてないんでしょう?」

 

「ん、サンキュー」

 

ティアナは手に持っていたビニール袋の中から缶ジュースを取り出しプルタブを開きスバルに渡す。

それを受け取ったスバルは一気に飲み干した。

 

「それで、二人には話したの?」

 

「あぁ、俺と姉貴の生まれから身体のことまで全部な」

 

手に持った缶を見ながらそう答える。

ティアナはちらりと隣のベッドに腰掛けるエリオと、すぐそばに立っているキャロを見て口を開く。

 

「ごめんなさいね、私から言うのを止めてたの。

 もうちょっとしたら言ってもいいかもって話をこの間してたんだけど……」

 

「いえ、そんな」

 

「それに、お話を聞いて、あぁそうだったんだって納得できましたし。

 ほら、スバルさんってどこか人間離れしたところがありますから」

 

「そ、それもそうだな……」

 

「言われてみれば、ね」

 

エリオとキャロの顔を見てスバルたちは苦笑いしながらそう答える。

そんな時、キャロがエリオの袖を軽くつまんで彼に念話で部屋を出ることを伝える。

それにエリオも頷き、ベッドから降りた。

 

「僕たち、ちょっと食堂まで行ってきますね」

 

「スバルさんも、温かい食べ物とか食べますよね」

 

二人はすぐに部屋を出ていった。

それはもう、スバルたちが声をかける間もないほどに。

 

「気使わせちまったかな?」

 

「まぁ、今のあんた見たらそう考えるのも無理ないわね」

 

二人が出て言ったことで部屋は静かになった。

 

「ギンガさんは?」

 

「まだ目覚めてないらしい。

 一応、修復は終えたらしいけど、右腕は……」

 

「あんたと一緒か」

 

ティアナはスバルの左腕を見ながらそう呟く。

 

「ケーブルとかなら取り換えるだけでいいけど、今回みたいなその部位を失った場合は、その部分を丸ごと取り換える必要があるしな。

 多分、俺も姉貴も腕は肩から取り換えることになる。

 それでもスペアなんてあるわけないから、しばらくは片腕だ」

 

「あんたは片腕でも戦うんでしょう?」

 

「まぁ、な」

 

ティアナの言葉に頷くスバルの頭に浮かんだのは一人の少女の顔。

考え込んでいる彼の顔を見たティアナが彼に指摘する。

 

「あの赤毛の子のことでしょう?」

 

「……あぁ。

 多分、あいつは自分がやらなきゃっていうことだけしか見えていないんだと思う。

 でも、一つだけのことだけしか見ないのは、ほかのことを見ないようにしているんだよな。

 その中には、大切なこともある」

 

スバルは空になった缶を握りながら言葉を紡ぐ。

 

「だからさ、どうにかして目を覚ましてやらないとって思うんだよ。

 それがお節介だったとしても」

 

ティアナはそんな彼の表情を見て一つ大きなため息を吐く。

 

「つまり、あんたは出会ってそれほど経ってない相手のために、片腕でも戦おうって言うのね?」

 

「…………あぁ」

 

ティアナはスバルを呆れた表情で見る。

スバルは彼女の視線から目を逸らす。

 

「まぁ、その方があんたらしいわよね。

 見ず知らずの人のために身体張って助けるっていうお人よしというか、なんというか」

 

ティアナは大きくため息を吐く。

そして、彼女がスバルに真剣な表情で話しかける。

 

「スバル、今からちょっと真面目な話しするから」

 

「え……?」

 

いきなりの雰囲気の切り替わりに驚くスバルだったが、目の前に座る彼女の顔を見て彼も自然と真剣な表情になる。

 

「スバル、あたしはあんたのことが好き」

 

「…………はい?」

 

いきなりの言葉にスバルは目が点になった。

 

「あたしは、スバル・ナカジマのことが好き」

 

「マジ…………?」

 

本気(マジ)よ」

 

スバルが呆然と答えると、ティアナは顔を紅くしながらもはっきりと答える。

 

「本当は、こんな時にいうことじゃないんだろけど、我慢できなかった」

 

「我慢って……」

 

「だって、昨日あんたが倒れたとき、あたし、怖くなったの。

 兄さんみたいに、あんたまでいなくなるのは、考えたくなかった。

 だから、後悔したくなかったから、あんたに伝えたかったの、あたしの気持ちを……」

 

「いや、けどなんで俺?」

 

「好きになっちゃったんだから、しょうがないでしょう!!

 あんたのことが全部、そのお人好しなところとか、一度決めたらやり通すところとか全部!!

 理解できないなら、何度でも言う。

 あたしは、あんたのことが大好き」

 

「え……、あ、う、うん……」

 

スバルは自分の口の中がカラカラに乾いているのを感じた。

 

「そ、そんなこと考えたこともなかったし、というか、今でも信じられないし、いきなりだし……」

 

スバルは手をわたわたと振り、しどろもどろに話す。

だが、それも仕方のないことだろう。

今まで仕事のパートナー兼仲のいい友達といった関係だと思っており、彼女のことを異性として意識し始めてすぐの告白である。

そんな彼に混乱するなと言う方が無茶であろう。

 

「返事は……その、今じゃなくていいから」

 

「え?」

 

「今返事もらっても、なんかあんたが弱ってる時に入り込んだみたいで、嫌だし。

 それに、今は大変な時でしょう、色恋沙汰で仕事に支障きたすのは不味いし」

 

それに、とつづけながらティアナは立ち上がる。

 

「今はあんたも休まないと。

 ほら、とにかく返事はこのゴタゴタを終わらせてからね」

 

「え、あ、あぁ……」

 

終始、スバルを置いてきぼりにしてティアナは部屋を去っていった。

部屋に残されたスバルはベッドの上で彼女が出ていった出口を見ながら一言呟いた。

 

「え、どうしろって言うんだよ……」

 

その後彼は、エリオとキャロが戻ってくるまでスバルは頭を抱えてベッドの上をごろごろと転がっていた。

 

 




すみません、私情によりしばらく更新できそうにありません。
恐らく一週間ほどだとは思いますが……。


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ティアナルート 第二十三話

ティアナがスバルの部屋から去って数時間後、すでに日も沈み空には星が瞬いていた。

そんな夜空のもと、当のスバルは病院の屋上で一人遠くに明るく浮かび上がる地上本部を見つめていた。

 

(あたしは、あんたのことが大好き)

 

もちろん、頭の中は昼間のティアナの発言でいっぱいだった。

気になり始めていた異性からの突然の告白。

彼女には休めと言われたスバルだったが、突然の告白によって混乱した頭では休むにも休めなかった。

 

「夢、じゃないよな……」

 

そう言いながらスバルは右手で自分の頬を思いっきり引っ張り、痛みを感じた。

頭の中を整理しようと外に出たスバルだったが、静かな病院の屋上ということで整理しようにも、少しでも彼女のことを考えると、先ほどの告白の言葉が思い出される。

 

「ここにいたか、バカ息子」

 

「……親父」

 

そこで、なんとかこの気持ちに整理をつけようとした彼がとった策は、経験者である父を頼ることだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「で?

 急に連絡よこした理由は何だ?」

 

冷える夜空の下で、スバルの隣に立つゲンヤは息子にそう尋ねる。

 

「えっとさ、親父とお袋はさ、なんで知り合ったんだ?」

 

「いきなりどうした?

 なんで俺らのことを聞きたがる?」

 

「ちょっと気になったから……」

 

ゲンヤはスバルの様子がいつもとは違うことに気づいたが、あえてそのことは指摘しなかった。

ゲンヤは手摺にもたれかかりながら思い出す様に口を開いた。

 

「そうだな、あいつとの出会いってのは仕事での付き合いからだったな」

 

 

 

 

 

 

その時、俺はまだ部隊長なんて立場じゃ無くてな、とある部隊との合同捜査のために部隊の代表としてクイントと会ったんだ。

まぁ、最初はこんな別嬪さんが捜査官だなんて信じられなかったさ。

だけどな、合同捜査ッてなだけに一緒に調べものなんかもするようになって、あいつがすごいってのはわかった。

そして、仕事の時だけじゃなくてプライベートでも会うようになった。

その時はわからなかったんだが、その時から俺はあいつに惚れてたんだろうな。

 

おっと、話が逸れたな。

 

で、公私問わずに会うようになった俺らだったが、それも仕事の打ち合わせがほとんどだった。

まぁ、たまに食事を一緒にする程度だな。

それで、無事に追ってた事件を解決して俺はあいつとの関係もおしまいだって思った。

 

しばらく時間が経つと、何をしてもつまらない時間ができた。

なんでかって考えると、たとえ仕事の関係だったとしてもあいつ……、クイントと一緒にいた時間がとても楽しかったからだってわかった。

 

 

まぁそこからはあれだ。

俺があいつに告白して今に至るってところだ。

 

 

 

 

 

「つまり、どういうこと?」

 

「誰かを好きになるのに特に理由なんざいらねえってことだ。

 俺だってなんであいつのことを好きになったかって聞かれたら、こう答えるな。

 『あいつと一緒にいるのが楽しいから』ってな」

 

ゲンヤは隣に立つスバルの頭に手を置き、笑いながらそう告げた。

 

「親父は、まだお袋のこと好きなんだな」

 

「おう、当たり前だ。

 俺が愛した女はクイントだけだからな」

 

「そっか……」

 

スバルの顔を見たゲンヤは優しい笑みを浮かべながら彼に話しかける。

 

「まぁ、なんで悩んでたかは聞かないが、答えは自分で出すんだな。

 何事も経験だ、経験」

 

スバルの頭から手をどけてゲンヤはその場を去っていく。

その背中を見ながらスバルは彼女のことを考えていた。

 

「俺は……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「メガ姉~、チンク姉はどうなんすか?」

 

スカリエッティのラボの一室で、ウェンディは隣でパネルを操作しているクアットロに尋ねる。

クアットロは指で眼鏡の位置を直すと、壁に並んでいる生体ポッドの一つに視線を向けながら答える。

 

「基礎フレームに歪みが見えるからね~。

 全部取り換えることになると思うわよ~。

 チンクちゃんだけじゃなくて、ノーヴェちゃんの右腕も同じ」

 

「…………」

 

クアットロの言葉を聞いたウェンディはチンクの入っているポッドの前に立っているノーヴェを見る。

ノーヴェの背中は見るからに落ち込んでいた。

 

「にしても、なんでチンク姉やノーヴェのフレームに損傷が?

 殴られるぐらいじゃ歪むようなものじゃないよね?」

 

ゼロセカンド(スバル・ナカジマ)のIS『振動破砕』は、私たちにとって天敵もいいところ。

 彼の四肢に直接触れたところから振動波を流し込まれたら一発でお釈迦になる代物ね~」

 

「まさに一撃必殺か」

 

クアットロとともにチンクのポッドの制御を行っていたセインはポツリと呟く。

 

「でも、そんなもの喰らってなんでフレームが歪むだけでスンだッすか?

 普通なら……」

 

「普通なら触れたところを中心に様々な破損が起きるわよね~。

 歪みだけじゃなくて、破断、膨張、エトセトラ、エトセトラ。

 今回は運が良かったって言うしかないわよ~」

 

「運?」

 

「そう、たぶんそれが彼にとっての最後の一線だったんじゃないかしらね~。

 スバル・ナカジマは、自分や姉であるギンガ・ナカジマを人間としてみている。

 なら、同じような存在である私たちも人間として認識していると思うわよ~。

 で、管理局員として、人として、人殺しはね」

 

クアットロの真剣な表情を見たセインとウェンディは驚きの表情を浮かべる。

そんな時、不意に一つのモニターが浮かび上がった。

 

『クアットロ、ドクターがお呼びよ』

 

「あ、は~い!

 セインちゃん、チンクちゃんの様子見ておいてね~」

 

「はいよ~」

 

「そいじゃ、行くっすね~。

 ノーヴェはどうするっすか?」

 

「あたしは、いい……。

 しばらくここにいる」

 

ノーヴェはウェンディの方を見らずにそう答える。

相方の返事を聞いたウェンディは、そうっすか、と頭を掻きながらその場を後にした。

 

 

 

 

 

「あたしは―――ッ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

「およ」

 

ノーヴェたちと別れたウェンディは少し先に立つその少女を見つけて声を上げた。

 

「ルーお嬢様!」

 

「……ウェンディ」

 

「およ、あたしのことご存じでしたっすか!?」

 

ウェンディは初対面であるその少女―――ルーテシアが自分のことを知ってたことに驚いた。

 

「ドクターが話してた。

 皆、自慢の娘だって。

 三時間ぐらい、話につき合わされた」

 

「あ、あはは。

 お疲れ様っす」

 

ルーテシアからの言葉を聞いたウェンディは引き攣った笑みを浮かべながらそう答えた。

よく見ると、ルーテシアの顔に疲れが見えた。

そんな彼女から目を外し、ルーテシアの視線の先を追う。

そこには多くの生体ポッドが並んでおり、その中にルーテシアをそのまま成長させたような姿の女性が入っていた。

 

「これ、お嬢様のお母さんっすよね?」

 

「うん、今はまだ眠ってる。

 ドクターの話だと、あと少ししたら目覚めるからって」

 

「一ついいっすか?」

 

「なに……?」

 

ウェンディは生体ポッドからルーテシアに視線を移し、一つの問いを投げかけた。

 

「お嬢様は何でドクターの手伝いをしてくれるッすか?」

 

「この人たちを助けてくれたから。

 この人だけ生きてても、この人が目覚めたときほかの人がいなかったら寂しいだろうから……。

 それで、この人たちを助けてくれたドクターには感謝してる……。

 だからドクターの手助けをする」

 

ルーテシアは少し視線を逸らし、ほかの生体ポッドに目をやる。

そこには多くのポッドが稼働しており、そのすべてに人が入って眠りについていた。

 

「そうっすか。

 ありがとうございますっす」

 

「……あたしはもう行くから。

 ウェンディは、どうするの?」

 

「そうっすね~。

 しばらくここにいるッすよ」

 

ルーテシアはウェンディに向かって「じゃあ、また」と言うと、転移魔法でどこかに行ってしまった。

ウェンディは一人になったその空間で一人壁に視線を向ける。

 

「ルーお嬢様のお母さん、メガーヌ・アルビーノ。

 そして、あの三人のオリジナルっすか。

 これも運命ってやつっすかね~」

 

彼女の独り言はだれにも聞かれることなく、小さく消えていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「本当にいいのかい、ギンガ君?」

 

「はい」

 

「しかし、お父さんや、スバル君にも言わないというのは……」

 

「お願いします、サカキ博士」

 

「……今の君は、平均台の上で水一杯のバケツを両手に持って振り回しているようなものだ。

 限りなく奇跡に近いバランスで何とか保っているんだよ。

 それこそ、いつその水がこぼれ、台から落ちるかもわからないような」

 

「…………」

 

「機械的な部分と生態的な部分。

 そのバランスが少しずつズレ、そしていずれは……」

 

 

 

 

 

「生きることもままならないことになるとしても、かい?」

 

 

 

 

 

 



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ティアナルート 第二十四話

長かった夏休みが終わってから、大学が始まり忙しくなってきました。
おかげで身体がついてこれず、半月経たずに熱でダウンしてしまいました(笑)。
これからも遅めの更新になりますが、ティアナルート完結、そしてノーヴェルートに進むために頑張っていきたいと思います。
それではどうぞ!


サカキは自分の部屋で頭を抱えていた。

 

「ここまで頭を悩ませた問題はいつ以来だろう……」

 

彼が頭を抱えることになった原因は、ギンガとスバルについてだった。

彼が一番の興味を持って接しているのはスバルだが、姉であるギンガに何かあればスバルが悲しむのは必定。

そんな彼をサカキは見たくはなかった。

 

そして、その最悪のことが起きようとしていた。

以前のギンガの身体の異常がついに許容できる範囲を超えた。

病室にいるギンガにとってもそれは耐え難い苦痛を与えるものだ。

少しの調整で、その苦しみを和らげることができる。

だが、ギンガはそれを望んではいなかった。

 

「まったく、ここまでそっくりだね、彼ら姉弟は……ん?」

 

大きくため息を吐いたサカキだったが、彼のプライベートのパソコンに一つのメールが届いているのに気付いた。

 

「こ、これは……!!」

 

その中身を確認したサカキはその部屋を飛び出していった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ、お、おはよう」

 

「お、おう」

 

その日、スバルが病室を出たとき、ちょうど部屋に入ろうとしていたティアナと鉢合わせしていた。

互いに昨日のことを思い出して顔を紅めていたが。

 

「ど、どこか行くの?」

 

「あぁ、姉貴が気が付いたって連絡が昨日の夜あってな。

 今からちょっと行こうとしたところだ」

 

「そう、ギンガさん、目が覚めたんだ」

 

ティアナはスバルの言葉にホッと息を吐いた。

部屋から一歩出て扉を閉めるスバル。

 

「あ~、一緒に行くか?」

 

「……うん」

 

 

 

 

ギンガが収容されている研究所まで、街の中を走るレールウェイの中で二人は無言だった。

だが、それは決して互いに喧嘩したとかではなく、どちらも話しかけようとしては中断するという感じで生じた無言だった。

 

「昨日のことだけどな」

 

「うん」

 

「返事は、お前が言った通り、このゴタゴタが終わってからする。

 終わらせて、それから、俺の気持ち、ちゃんと伝えるから」

 

座席に座りながらスバルは隣に座るティアナに語り掛ける。

 

「絶対に」

 

「……約束よ」

 

「あぁ、約束だ」

 

揺れる列車の中でティアナがスバルの肩に頭をコトンと当てる。

彼女の重みを感じながら、スバルはしっかりと頷いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「なんか、ちょっと見ない間に二人とも仲良くなってない?」

 

「な、何のことですか?」

 

ギンガのいる病室に着いた二人に向けられた彼女の言葉は、二人を狼狽させるのには十分な言葉だった。

彼女の言葉にスバルは目を逸らし、ティアナは引き攣った笑いを浮かべるしかなかった。

 

「なんとなく、ね?

 女の勘ってやつかしらね~」

 

ギンガのその言葉に二人は苦笑を浮かべるしかなかった。

 

「それで、傷の具合はどうなんだよ、姉貴?」

 

「右腕以外はほとんど直ってるわよ。

 頭切ってたから血が結構出てたけど、それももう修復終わったしね」

 

「こういう時に限っては、機械()の身体に感謝だな」

 

ギンガとスバルがそんな風に笑って言い合っているとき、部屋の扉がノックされた。

ノックの音が響いたとき、三人は互いに顔を見合わせ、ギンガが返事をする。

 

「あいてますよ」

 

「失礼するよ」

 

扉を開いて入ってきたのは、サカキだった。

彼はケースを手に持ちながら部屋に入る。

 

「おや、スバル君もいたのか。

 なら丁度いい。

 君を呼ぶ手間が省けたよ」

 

「何かあったんですか……?」

 

部屋にスバルがいたことに驚きの表情を浮かべたサカキだったが、すぐにいつもの笑みが浮かぶ。

そんな彼に対してギンガは首を傾げながら尋ねる。

 

「おっと、そうだったね。

 実はギンガ君とスバル君。

 君たちにいい知らせがあってね」

 

サカキはティアナが部屋の隅から持ってきた椅子に彼女に礼を言いながら座り、メガネの位置を直しながら口を開く。

 

「二人はグランツ君のことを覚えているかな?」

 

「フローリアン博士ですか?

 あの人がどうかしたんですか?」

 

「実は、ここに彼から研究資料用に送ってもらったものがある」

 

そう言ってサカキは手に持ったケースの蓋を開けた。

そこには二つの腕が収められていた。

 

「これは……」

 

「腕……?」

 

「そう、彼が開発したアンドロイド『ギアーズ』のプロトタイプの予備パーツだよ。

 ここからが本題だ。

 このギアーズの身体は君たちと同じ機械の身体だ。

 そして、彼らは君たち二人の身体をベースに作られた」

 

サカキの言葉にギンガとスバルは何かに気づいた顔をする。

 

「まさか……!」

 

「そう、そのまさかさ。

 この腕を少し調整すれば、君たちに取り付けることも可能だ。

 さて、この選択肢を差し出された君たちはどうする?

 もちろん、断ってくれてもいい。

 本来腕を失った君たちはこのまま負傷局員としてしばらく前線から離れられる。

 僕としてもそうしてくれた方がいいと思ってる」

 

まぁ、選ぶのは君たちだ、と言ってサカキはその口を閉じる。

そして、すぐに二人は答えを彼に伝えた。

 

「ありがたいです。

 これでちゃんと戦える」

 

「弟が戦うって言うのに、姉が寝ているだけってのは情けないですしね」

 

「うん、君たちならその選択を選ぶと思っていたよ。

 実はもう準備は始めているんだ。

 スバル君は先に研究室に向かっていてくれ。

 リツカ君がそこで調整を始めるから」

 

「姉貴は?」

 

「彼女にちょっと話があってね」

 

サカキの少し強めの言葉にスバルは戸惑いながらもティアナを連れて部屋を出ていった。

 

「さて、ギンガ君」

 

「私の身体のことですよね?

 もう時間が……」

 

サカキがギンガを見ると、彼女は先に彼の要件を言い当てる。

彼女は感じ取っていた。

すでに自分の身体が思うように動かなくなるということを。

 

顔を俯かせてそう言う彼女だったが、サカキは軽い感じで声をかける。

 

「まぁ、君の身体のことなんだけどね。

 まだ確証を得たわけでも、安全が確認されたわけでもない。

 だけど、一つだけ、それをどうにかできる方法がある、と言ったらどうするかい?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

燃え盛る草原。

すべてのものを焼き尽くす臭いだけが、彼の鼻に刺激を与えていた。

人も、建物も、森も、すべて。

 

 

男は心の中で呟いた。

 

―――これで、すべて終わりだ……―――

 

だが、それはだれにも聞かれることはなかった。

 

燃える、燃える。

すべてが燃える。

彼の生まれた街が、偉大な王が築いた城が、平和だった国が。

彼が作り出したあるもののせいで、この国、いや世界は狂ってしまった。

 

彼は所謂天災と呼ばれる者だった。

故に気づいてしまった。

自分たちが暮らす世界の他にも、人々が暮らす世界があることに。

そして、絶望を撒き散らすだけになったこの世界が、平和に暮らしている世界に(わざわい)をもたらすであろうことも。

 

そこからの彼の行動は早かった。

それは彼自身のケジメでもあった。

まともな思考を残した者はこの世界にはいなくなっていた。

そんな世界は、邪魔なだけ。

 

彼はその世界を滅ぼす魔王になることを選んだ。

 

 

「―――これですべて終わり。

 あとは……」

 

男は手に持ったそれをコメカミに向け、引き金に指をかける。

 

―――願わくば、この世界の跡を誰も見つけないでくれ―――

 

そして、一つの音が彼の耳を打つのと同時に、彼の意識は消えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――よし、成功だ……ッ!!」

 

「すぐに最高評議会に連絡を……ッ!」

 

そして、彼は目覚めた。

彼は長い夢を見ていたようにも感じていた。

 

「…………………」

 

徐々にはっきりとしてきた思考の中で彼は………。

 

 

 

 

 

 

 

 

「――クター、ドクター」

 

「…………ん」

 

耳を打つ自分の長女の声で彼、ジェイル・スカリエッティは瞼を開く。

視界の中には、ウーノ、クアットロ、ディエチが揃っていた。

 

「準備、整いました。

 いつでも始められます」

 

「あぁ、ご苦労様だ、ウーノ」

 

スカリエッティは固まっている関節をほぐす様に身体を動かす。

 

「久しぶりに夢を見たよ」

 

「夢、ですか?」

 

ウーノはスカリエッティの言葉に首を傾げる。

今までそう言った話をしたことがなかった彼が、唐突にそのようなことを言ったことを疑問に思っていた。

 

「あぁ、とても懐かしくて、クソッタレな夢だよ」

 

その時、彼の目はとても冷たいモノだった。

スカリエッティはウーノから受け取った白衣を羽織ると、寝台に横たわっている少女―――ヴィヴィオのもとに近寄る。

 

「さぁ、始めよう」

 

―――一世一代の大勝負を―――

 

 

 



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ティアナルート 第二十五話

今回はかなり短いです。


「それで、左腕の調子はどうなの?」

 

スバルとギンガがサカキからの提案を受け入れた五日後、無事に腕の装着を終えたスバルは怪我の完治も相まって病院を退院することになっていた。

 

病院を出るために廊下を歩いているスバルは、左腕を軽く回しながら答える。

 

「少しバランスが取りづらいけど、片腕の時よりはマシだな。

 それに、いざとなれば体感センサーの調整をすればすぐになれる」

 

「そう。

 ギンガさんは?」

 

「姉貴は俺よりも怪我酷かったからな。

 一応、後二、三日は様子を見るんだと」

 

スバルはそう言いながら自分の胸に手袋で包まれた左手を持っていく。

だが、そこにはいるべきである彼の相棒はいなかった。

 

「そういや、修理に出してたんだったな……」

 

スバルはマッハキャリバーを本局の技術部に出していることを思い出し、小さく呟く。

 

「結構ボロボロだったものね」

 

「ハァ~、ダメだな。

 いくら頭に血が上ってたとしても、あいつのことをまったく考えなかったからな……」

 

そう、地上本部での戦闘の際、彼の全力に堪え切れなかったマッハキャリバーはその機体(ボディ)に無数の損傷を受けていた。

そのため、マッハキャリバーは今、本局技術部に預けられているのだった。

 

「それでも、あんたを最後までサポートし続けてたんだから、ちゃんと謝りなさいよ?」

 

「わかってるよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

「酷いな……」

 

「隊舎をはじめとした施設はほとんど破壊されたわ。

 かろうじて寮は無事だったけど……」

 

病院を後にしたスバルとティアナは機動六課に足を運んでいた。

そして、変わり果てた職場を目にしたスバルは一言、口にした後、何も言葉にすることができなかった。

 

「ヘリやあんたのバイクがあった格納庫も、デバイスルームも全部やられてた。

 幸い、あんたのバイクは修理可能な範囲だったけど……」

 

「この状況でよく修理可能な状態だったな……。

 運がいいというか、なんというか……」

 

「ヴァイスさんの容体は?」

 

「意識は戻ってるらしいけど、まだヘリの操縦は無理らしいわ」

 

ティアナは破棄処分が決定しているヘリを見つめながらそう答える。

 

「あ、スバルにティアナ。

 こっちに来てたんだ」

 

「なのはさん……」

 

「お疲れ様です」

 

瓦礫の山となっている格納庫跡地を前で話す二人になのはが手を上げながら近づいてきた。

 

「あの、なのはさん。

 この間は、すみませんでした。

 単独先行して……」

 

「あれは仕方がないよ。

 スバルがトップスピードで行かなかったら、ギンガも攫われていたかもしれないんだしさ。

 ギンガが攫われるのを防いだ時点で、単独先行のことは不問です。

 でも、次は気を付けてね」

 

「……はい」

 

スバルはなのはに頭を下げるが、なのはは彼の頭を優しく両手で挟んで、頭を上げさせた。

 

「なのはさん、ヴィヴィオのことは……」

 

「助けるよ、絶対に。

 スカリエッティがなんであの子を攫ったのかはわからないけど、絶対に助ける」

 

なのははそう言って決意の籠った目を二人に向ける。

スバルとティアナはその目を見て、息を飲んだ。

 

「でも、その前に」

 

「「?」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ごめんな、無理言って」

 

「まったくだよ……。

 いくらはやてからの頼みだといっても、今回のことは骨が折れた」

 

時空管理局本局の艦船ドッグを見下ろせる通路ではやては一人の男と会っていた。

男―――ヴェロッサ・アコースは、窓の外を見ながら大きくため息を吐く。

そこには次元航行部隊の中でも古株と言ってもいいほどの船がその身体を休めていた。

 

「廃艦間近のL級艦船、アースラ。

 経年劣化により、長期任務に耐えられないってことで近いうちに処分されるからってことで回してもらえたんだけど……」

 

「これから先は、移動できる本部があった方がええ。

 まぁ、まさかアースラが回ってくるとは思っとらんかったけど」

 

「いやだったかい?」

 

「ううん。

 アースラは私にとってももう一つの家みたいなもんや、嫌なわけない」

 

ヴェロッサの言葉に対して首を横に振り、はやては窓に近づき手を当てる。

 

「おやすみ前に、もう一働き頼むよ。

 頑張ってな、アースラ」

 

 

 

 

 

「そうか、八神はアースラに」

 

「はい、六課の壊滅を受けて、クロノ・ハラオウン提督が手を回したそうで」

 

はやてがアースラをその目で見つめているとき、地上本部ではレジアスがそのことについて報告を受けていた。

今、彼女の娘であるオーリスは別件で司令室にはおらず、ここ数週間、オーリスの補佐を務めていた女性が代わりにレジアスに報告書を渡していた。

 

「まぁ、六課の戦力を無駄にすることは出来んからな。

 地上部隊の魔導師はハッキリ言ってAMFの中ではあまり戦えん上に、アインヘリアルなんて大砲の警備に戦力を裂かれてる状態だしな。

 あれの維持費にいくらかかるんだ?」

 

「アインヘリアルの維持費は、一般支給されているデバイスをアップグレードさせたものをほとんどの武装隊に配備させることができるほどですね」

 

女性の答えにレジアスは大きくため息を吐きながら歩みを進める。

 

「はぁ……。

 まったく、最近は問題が多すぎる。

 まぁ、こんな時に脳味噌連中から連絡がないのは助かるが……」

 

レジアスはここ二週間ほど音信不通になっている最高評議会の三人(?)のことを思い出すが、彼女にとって彼らの存在は邪魔でしかないのですぐに頭の中から消えていった。

レジアスは手に持った資料を見ながら廊下を歩いて行く。

だから、彼女が気づくことはなかった。

彼女の後ろを歩く女性が笑みを浮かべていることに。

 

 

 

 

 

 

 

 

「グッ、ゴホッ!!」

 

「だ、大丈夫かよ、旦那!?」

 

ミッドチルダから遠く離れた森の奥。

ゼストはそこで身体を休めていた。

だが、彼は木にもたれかかり、激しい咳を繰り返していた。

 

「……心配するな。

 少し休めば治る。

 アギト、すまないが薬を持ってきてくれないか……」

 

「お、おう!

 すぐに持ってくるから、座ってろよ旦那!!」

 

アギトはそう言って少し離れたところに置いてある荷物のもとにまで飛んでいった。

それを見届けたゼストは咳をしたときに口を覆っていた手を見つめる。

 

「さすがに、無理が祟ったか……。

 だが、もう少しだけ……」

 

彼の掌には真っ赤な血が、べっとりと付着していた。

 




お久しぶりです。
いや、一人暮らしで熱だしたら、なんとなく寂しいですね。
親の有難味というものをこの年齢になって初めて感じました……。
あと、休んだ講義のノートを友人が持ってきてくれました。
ありがたいんですが、野郎が部屋に大勢くるってのはなんか(女の子がよkry……


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ティアナルート 第二十六話

遅くなりました。
どうぞ!


地上本部及び機動六課がスカリエッティからの襲撃を受けて一週間。

六課の機能を移したアースラの会議室に機動六課の主なメンバーは集まっていた。

 

「みんな、そろっとるね」

 

その部屋に、そう言ってはやてはグリフィスを伴って入ってくる。

彼女が上座の席に座った後、フェイトが皆を代表してはやてに問いかける。

 

「はやて、六課の方針はどうなったの?」

 

「うちらの目的は最初と同じや。

 ロストロギア、レリックの回収」

 

はやてはそう言うと、手元のパネルを操作して部屋の中央にモニターを映し出した。

 

「そして、さっき地上本部から届いたのがこれや」

 

「これって……」

 

モニターにはミッドチルダの地図だった。

そこには二ヶ所のポイントが示されていた。

 

「地上本部と聖王教会が協力して探り当てた、スカリエッティがいると思われるポイントや。

 この二か所にもレリックがあると思われる」

 

「ということは……」

 

「その二か所に突入して、レリックの確保がこれから六課がやるべき仕事や。

 そのついでに、スカリエッティやその協力者の確保、攫われたヴィヴィオの救出もやっていくよ」

 

はやてからの言葉を聞いたティアナは誰にも気づかれることなく小さくため息を吐いた。

 

(屁理屈よね、それって……)

 

「でもはやてちゃん、そんなことしてほかのところから何か言われるんじゃ……」

 

「まぁ、理由は話したけど、どうやっても屁理屈なんやもんな~。

 でも、三提督やレジアス中将からのお墨付きや。

 文句は言われても邪魔はさせへんから」

 

はやてはそう言って席を立つ。

 

「出撃は明日に予定しとる。

 みんなはそれまで待機しといてな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

会議室でのミーティングを終えたなのはとティアナはアースラの休憩室でコーヒーを飲んでいた。

 

「ティアナ、スバルはまだ本局かな?」

 

「たぶん、そうですね。

 マッハキャリバーの受け取りと調整があるそうですけど、出撃までには合流できるそうです」

 

「そっか、準備は万全にしとかないとね」

 

 

 

 

 

 

 

 

時空管理局本局

その一室で、スバルはポッドの中に浮かべられたマッハキャリバーと向かい合って話し合っていた。

 

「すまんな、お前のこと、考えない戦い方で……」

 

『いえ、あれは私が悪かったのです。

 相棒の本気についていけなかった。

 貴方と走り続けると言ったというのに……』

 

マッハキャリバーの言葉を聞いたスバルは初任務のことを思い出していた。

確かに彼はマッハキャリバーにそう言っていたな、と苦笑した。

 

「それで、修復はどの程度済んだんだ?」

 

『ほぼ完了しています。

 あとはマイスターとの調整と……』

 

マッハキャリバーがそこまで言ったとき、スバルは部屋の扉が開く音に反応して扉の方を見る。

 

「シャーリーさん?

 怪我は大丈夫なんですか!?」

 

「みんな頑張ってるのに、私だけ寝てるわけにはいかないからね」

 

それに、とシャーリーは言葉を続ける。

 

「マッハキャリバーの強化プランについて、スバルに許可をもらおうと思ってね」

 

「強化プラン……?」

 

その言葉に反応したスバルはシャーリーが操作しているモニターをのぞき込む。

 

「そ、外部フレームの強化や出力アップといったところかな。

 すぐに終わる作業だけど、スバルにかかる負担が増えるからね」

 

「魔力消費量1.5倍、重量1.8倍……。

 重量バランス、フレームの変化……。

 大丈夫です、これぐらいなら」

 

「じゃあ、この方向で調整するね」

 

シャーリーがスバルの許可を得たとき、部屋の扉が開き、マリーが部屋に入ってきた。

 

「ごめんねー、ちょっと遅れたかな?」

 

「大丈夫ですよ、先輩。

 ちょうどスバルからマッハキャリバーの強化についての許可をもらったところです」

 

シャーリーとマリーが話しているとき、スバルは部屋に入ってきたマリーの後ろに立っている少女を見て驚きの声を上げた。

 

「あれ、ラグナちゃん!?」

 

「お久しぶりです、スバルさん」

 

スバルの驚いた表情を見て、白衣に身を包んだ少女―――ラグナ・グラセニックは笑みを浮かべながらそう答えた。

 

「え、なんでここに?」

 

「あれ?

 お兄ちゃん、言ってなかったんですか?

 私、しばらく前からここで働いていたんです」

 

「いやー、ラグナちゃん優秀で助かってるよ~。

 もの覚えもいいし」

 

二人の会話を聞いていたマリーがそう口を挟んだ。

 

「私には、リンカーコアはありませんから……。

 でも、私でも誰かのためになれるならって思って」

 

「そっか」

 

スバルは気になっていたことについて彼女に尋ねた。

 

「そう言えば、ヴァイスさんの見舞いには……?」

 

「行きましたよ?

 怪我も完治してないってのに六課の隊舎に行くって言ってたので、気絶させ(眠らせ)てきました」

 

彼女の発言に、スバルは頬を引き攣らせながら苦笑するしかなかった。

 

 

 

 

 

 

その日、彼女(レジアス)は朝から多くの人間と連絡を取っていた。

 

「あぁ、報酬は指定の口座に振り込んでおいた。

 いいか、くれぐれも他言はするなよ?

 何?

 したらどうなるかって?

 想像にお任せするさ。

 買ったものが親にばれても知らんがな」

 

手に持った受話器を下ろすし、大きくため息を吐く。

そんな彼女のいる部屋にオーリスが資料を持って入ってくる。

 

「今ので最後ですか?」

 

「ん、あぁ。

 全部で73人。

 我ながら、あんな連中と交渉なんてやれたと思っているさ。

 管理局公認(,,,,,)のハッカーなんてな」

 

レジアスは目頭を揉みながら大きく伸びをする。

オーリスは目の前で激しく自己主張する親の二つの双丘を白い目で見る。

そんな娘の視線などに気づきもしないレジアスは言葉を続ける。

 

「初めから地上本部のスタッフは予想外の事態には弱いとわかっていた」

 

「だから外部のハッカー達に対策を頼んでいたのですね」

 

「あぁ。

 だが、公式にそれをするのは不味いから、見返りは私のポケットマネーからだったがな」

 

レジアスはオーリスから資料を受け取り目を通そうとする。

だが、その時、彼女のいる部屋に警報が鳴り響く。

その警報を耳にした彼女だったが、すぐにそばに置いてある受話器を取り上げる。

 

「…………そうか、わかった。

 すぐに行く」

 

受話器の向こう側から事態を聞いたレジアスはすぐに立ち上がり、ハンガーに架けていた上着を手に取る。

 

「行くぞ、オーリス」

 

「何かあったのですか?」

 

部屋の出口に向かうレジアスの背中を追って歩き出したオーリスはその背中に尋ねる。

 

「アインヘリアルが落とされた」

 

「では……」

 

「あぁ、始まるな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「状況は!?」

 

「アインヘリアル一号機から三号機を戦闘機人およびガジェットが襲撃。

 すでに二号機と三号機は破壊され……一号機も破壊されました!」

 

同時刻、アースラのブリッジでもアインヘリアル襲撃の報が届いていた。

ブリッジに駆け込んだはやては、スバルとギンガとともに合流したシャーリーから報告を受ける。

 

「いやな感じで分散しとる……。

 隊長たちを出すわけにもいかんか……ッ!」

 

「戦闘機人、アインヘリアルから撤退していきます!!」

 

「動きが早いですね」

 

「あかんな、完璧に後手に回っとる。

 何とかせな……」

 

「ッ!

 アコース査察官から通信です!!」

 

「繋いでッ!」

 

はやての指示に従ったブリッジクルーはすぐにモニターを呼び出す。

モニターに映った人物、ヴェロッサはどことなく焦った表情で彼女に呼びかける。

 

『はやて、こちらでスカリエッティのアジトを発見した。

 だけど予想以上に敵の数が多くてね、今はシスターシャッハが叩き潰してるけど時間の問題だ。

 教会からも戦力の派遣を頼んだけど、そちらからも戦力を送ってくれないかな?』

 

「了解や、すぐに向かわせるから持ちこたえて」

 

『助かるよ……ッ!?

 なんだ、この揺れはッ!?』

 

「ヴェロッサ……!?」

 

「部隊長!

これをッ!!」

 

ブリッジのメインモニターにそれを映し出された。

 

「なんや……、これ……」

 

それは船だった。

アースラなどをはじめとする管理局所属の次元航行艦とは大きさが違いすぎる桁外れの船。

それがミッドチルダの、首都クラナガンからさほど離れていない森の中から浮かび上がった。

 

『やぁ、ごきげんよう。

 管理局の諸君』

 

 

 

 

 

 

 

「スカリエッティッ!?」

 

それは、アインヘリアルの襲撃の報告を受けて待機していたなのは達のもとにも聞こえていた。

 

『見えるかな、あの船が。

 あれこそが、古代ベルカの遺産であり、私の望む世界を作り上げる【聖王のゆりかご】だ!!』

 

画面に映る男、スカリエッティは身体全体を使い、その自身の心情を伝えようとしていた。

そして、さらに現れた別のモニターに映るその少女をなのはは見逃さなかった。

 

「あ、あぁ……ヴィヴィオ……ッ!!」

 

なのはの、血の繋がっていない、しかし最愛の娘は、まるで王の座る玉座のようなその小さな身体には不釣り合いな巨大な玉座に座らされていた。

そして、その玉座の背後からは幾本ものチューブが四方に張り巡らされ、何かを彼女から吸い上げている様子だった。

 

『これは、君たち管理局員に対する挑戦状と思ってくれたまえ。

 私の望みが勝るか、君たちの正義が勝るか。

 その時を楽しみにしているよ』

 

 

 

 

『戦闘機人、地上本部へ進行を開始しました!!』

 

『別ルートからも、オーバーSランク魔導師が、地上本部に向かっていますッ!!』

 

 

 

「スバル、あれッ!」

 

「ノーヴェ……ッ」

 

アースラのブリッジからの映像を見たスバルは、彼女の姿を見つけると、その拳を握りしめた。

 

 

 

 

 

 

 

 

『さぁ、終焉の始まりだッ!!

 フフフフ……、ハッハハハハハハ!』

 

 

 

 

 




どうも、あとはクライマックスまで走り抜けるだけです。
風邪が治ってさぁ、書くぞ!!というところで、台風直撃。
おかげで、台風対策、宿題、停電と執筆時間が全然取れませんでした。
なんでこんな時期に台風なんてくるンダヨ……(十年前ぐらいまではこの時期に台風が来るのは当たり前だったんですけどね)

とにかく、しばらく更新が遅くなることが多いですが、最後までお付き合いください!
それでは!!


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ティアナルート 第二十七話

『状況は予想していた以上に最悪な方向や。

 ジェイル・スカリエッティの思惑は何なのか不明。 

 だけど、あの巨大船が予想されるポイント、二つの月の魔力が満ちる場所に辿り着いたら、ミッドチルダの市民の安全が脅かされる』

 

巨大船、聖王のゆりかごが浮上してすでに数十分。

アースラでの緊急ブリーフィングのために、スバルたちは会議室に集まっていた。

 

「巨大船のポイント到達阻止のために次元航行艦隊も出撃してる。

 今も、航空部隊がゆりかご周辺に展開しているガジェットの排除に向かってるはず」

 

「ゆりかごだけじゃない、スカリエッティのアジトの制圧と、地上本部に向かっている戦闘機人の捕縛。

 やることはいっぱいあるけど、高濃度のAMF環境下での戦闘を行える魔導師はまだそんなに多くない」

 

『そこで、機動六課を三つのチームに編成する。

 まず本部に向かってる戦闘機人、それはスバルたちに任せる。

 別ルートから本部に向かっている魔導士……、騎士ゼストの方は、シグナムとリインが』

 

「アジトには私が、ゆりかごには」

 

「私とはやて部隊長、ヴィータ副隊長が行く……でいいんだよね?」

 

『そうや。

 もう時間がない。

 準備ができ次第、出撃頼むよ』

 

 

 

 

 

 

 

「みんな、準備はいい?」

 

「「「「「はいっ!」」」」」

 

出撃の準備を終え、格納庫に集まったスバルたちは、なのはとヴィータの前に並んで立っていた。

 

「今回の出撃は、今までで一番ハードになると思う」

 

「あたし等も、お前らのピンチになっても助けてやれねえ」

 

「でも、目を閉じて、今までの訓練を思い出してみて?」

 

なのはの言葉に従い、目を閉じるスバルたち五人。

 

「何度もやった基礎訓練、嫌って程磨いた、それぞれの得意技。

 痛い思いをした防御練習、全身筋肉痛になっても繰り返したフォーメーション。

 いつもボロボロになるまでやった、私達との模擬戦」

 

なのはの言葉とともに、スバルたちの顔がどんどん青ざめていく。

彼女の訓練を受ける期間が短かったギンガは比較的マシだったが、残る四人、特にスバルとティアナは今にも吐きそうな表情を浮かべていた。

 

「目、開けていいよ」

 

なのはは目の前に立つ五人の姿を見て、苦笑する。

 

「訓練メニュー考えた私が言うのもなんだけど、皆きつかったよね?」

 

「それでも、ここまで5人ともよくついて来た」

 

「特にスバルとティアナはよく頑張ったよ。

 私が教えてきた中で一番キツイ訓練メニューだったんだから」

 

なのはのその言葉に、スバルとティアナは頬を引き攣らせながら笑うしかなかった。

彼らは、彼女の考えた訓練メニューは彼女の教えを受けた者はだれでもこなしていると考えてやっていたために、その分の驚きも含まれていた。

 

「5人とも誰より強くなった……とは、ちょっと言えないけど。

 だけど、どんな相手が来ても、どんな状況でも絶対に負けないように教えてきた」

 

なのはとヴィータは、そう言いながら笑みを浮かべる。

 

「守るべきものを守れる力、救うべきものを救える力。

 絶望的な状況に立ち向かっていける力。

 ここまで頑張ってきた皆は、それがしっかり身に付いてる」

 

その言葉は、スバルたちの中に何の抵抗もなく入り込んでくる。

そして、それは彼らの中で自信となってその心を強くする。

 

「夢見て憧れて、必死に積み重ねてきた時間」

 

言葉を続けながら、なのはは拳を握りしめて前に出す。

 

「どんなに辛くてもやめなかった努力の時間は、絶対に自分を裏切らない。

 それだけ、忘れないで」

 

最後にそう言って、締めくくる。

浮かべていた笑顔は彼らの知る、なのはの、強くて優しいエースオブエースの顔だった。

 

「キツイ状況を、ビシッとこなして見せてこそのストライカーだからな」

 

「「「「「……はいっ!」」」」」

 

ヴィータは不敵な笑みを浮かべながら彼らにそう告げ、スバルたちも自信に満ちた顔で答えた。

 

「じゃあ、機動六課フォワード隊、出動!」

 

「行ってこい!!」

 

「「「「「了解!」」」」」

 

今までで一番の敬礼をなのはとヴィータに返して、スバルたちは踵を返して走り出した。

だが、ヘリに向かう彼らの中で、スバルだけが立ち止りなのはの砲に振り返った。

 

「なのはさん、ヴィヴィオのこと、頼みます」

 

「スバル……」

 

「あいつに、あげようと思ってたチョコ渡してないんで」

 

スバルのその言葉になのはは吹き出しながら答える。

 

「うん、任せて。

 スバルも、気を付けてね」

 

「はい」

 

スバルはもう一度、彼女に敬礼をして、今度こそヘリの方へと走っていった。

 

「スバルの奴、完全に兄貴になってるな。

 六課(ここ)に来てから、エリオとキャロ(チビども)の相手してたけどさ」

 

「うん、もう完全に下の子を思いやるお兄ちゃんだよね。

 ヴィヴィオにとっても、スバルはお兄ちゃんなんだろうなぁ」

 

走り去るスバルの背中を見ながら、なのはとヴィータはそう言葉を交える。

 

「さ、私たちも行こう」

 

「おう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「遅いぞ、スバル」

 

「ヴァイスさん……ッ!?」

 

ヘリの後部ハッチの前で彼を待っていたのは、今も病院にいるはずのヴァイスだった。

 

「なんでここに!?」

 

「お前らを無事に降下ポイントに連れてくためだよ。

 直接(やりあ)った訳じゃないが、無駄に消耗して戦える相手でもないだろ?

 途中までの露払いをしてやるってことだよ」

 

ヴァイスはそう言ってヘリの中へ入っていく。

スバルの眼には、その背中がとても大きく、頼りがいのあるモノに見えていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「フォワードのみんなは出撃()たんやね?」

 

「うん。

 シグナムとリインも一緒に出たよ」

 

「次はあたしたちの番だな」

 

スバルたちが出るのを見送ったなのはとヴィータは、アースラの下部ハッチのある区画にいた。

 

「…………」

 

「なのは……」

 

フェイトは、ここに来てなのはが一言も話さないのを気にして彼女に視線を向ける。

その視線に気づいたなのはは決意の籠った表情で答える。

 

「大丈夫だよ、フェイトちゃん。

 ヴィヴィオは絶対に助ける。

 スバルとも約束したんだし」

 

「……気を付けてね、なのは。

 私が言えることじゃないかもしれないけど、なのははすぐに無茶するから……」

 

「約束はできないけど、善処はするよ」

 

フェイトはなのはの言葉に額を押さえながらため息を吐く。

 

「そう言うと思ったよ、まったく……。

 なのは、ヴィヴィオは任せるよ」

 

「うん。

 フェイトちゃんも気を付けて」

 

『降下部隊、ポイント到着。

 お願いします』

 

「ほな、行こうか」

 

「「「了解!」」」

 

アースラの艦内アナウンスを聞いたはやてはその場でバリアジャケットを展開し、開かれたハッチから外に飛び出す。

彼女に従ってなのはたちもバリアジャケットを身に纏い、その身を空に投げ出した。

 

「久しぶりのリミッター無しの状態や。

 加減を間違えんようにな!!」

 

「大丈夫だよ、はやて」

 

「やることは変わらないから」

 

「そう言うことだ」

 

「心強いなぁ……」

 

はやてはなのはたちの返事に笑みを浮かべながら、その頼もしさをうれしく思っていた。

 

「フェイトちゃんはそろそろ……」

 

「うん、このままスカリエッティのラボまで一直線にいく」

 

「それじゃ、フェイトちゃん。

 またあとで」

 

「うん、なのはも。

 ヴィヴィオも一緒に」

 

フェイトはそう告げて三人と別の方角へとその進路を変えていった。

 

「さ、うちらも」

 

「うん……ッ!」

 

はやてに促され、なのはとヴィータはその高度を下げ、雲を突き抜ける。

その先には、巨大な船と、その周りに展開するガジェットとそれを押しとどめるために魔法を放つ航空魔導師部隊が激しく争っていた。

 

(ヴィヴィオ、待っていて……ッ!

 今、助けに行くからッ!!)

 

なのははその手に握るレイジングハートを構え、飛翔した。

 

 

 

 

 

 

 

「ゆりかごの方はどうなっている?」

 

場所は移り、地上本部の司令室。

そこでレジアスは後ろに立つ女性局員にそう尋ねた。

 

「高濃度のAMFが発生しているようで、苦戦しています。

 現在、機動六課所属の魔導師が三名合流しましたが……」

 

「まぁ、そう簡単には流れは変わらないだろうな」

 

だが……、とレジアスは言葉を続けた。

 

「規格外の魔導師ならほかにも当てがあるのでな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「まったく、あの人は人使いが荒いッたらないな」

 

男は靴紐を結びながらそうぼやいた。

そんな男に苦笑しながら二枚のカードを渡す女性。

 

「でも、行くのでしょう?」

 

「頭の上であんなデカブツが浮かんでたら、ケイが静かに眠れないからな」

 

男―――キョウは女性―――イリョウからカードを受け取る。

 

「お父さん……」

 

「どうした、ケイ?」

 

キョウは足にしがみついた娘を抱き上げる。

ケイはキョウの首に一度強くしがみついた。

 

「けが、しないでね……?」

 

「あぁ、お父さんは強いからな。

 ちゃんと帰ってくるさ」

 

キョウはケイを優しく抱きしめ、彼女をイリョウに受け渡した。

 

「そうだな、この騒ぎが終わったら、三人でどこか旅行にでも行こう」

 

「いいわね、それ。

 どこにするか決めておくから、ちゃんと帰ってきてね」

 

「あぁ。

 行ってくる」

 

キョウは住処を出る。

その顔は、優しい父の顔から、鋭い目つきの戦士のそれになっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おわッ!?」

 

「グッ……!」

 

揺れるヘリの中で、スバルたちは身体をぶつけないように手すりなどにしがみついていた。

 

「コラァ、アルト!!

 もちっと丁寧に操縦しろ!!」

 

『す、すみません!

 でも、あのガジェットたちしつこくってッ!!』

 

ヘリの中でヴァイスの怒声が響く。

現在、スバルたちを乗せたヘリはノーヴェたちの進路上に向かうコースを飛んでいた。

ガジェットⅡ型の追撃を受けながら。

 

「バカヤロウ!

 こいつは前の新型とは違うんだ!!

 以前の感覚で飛ぶんじゃねぇ!!」

 

『そ、そうか……!』

 

ヴァイスの言葉を聞いたパイロットのアルトはすぐに操縦桿を手前に引きその身をビルの上にさらした。

 

「スバル、腰のベルト掴んでくれ。

 絶対に離すなよ」

 

「了解ッ!」

 

ヴァイスはそう言うと、ヘリの側面のドアを開いた。

スバルが彼のベルトを握ったのを確認すると、ヴァイスはその身をドアから乗りだした。

その手には銃型の彼の愛機『ストームレイダー』が握られていた。

彼の視線の先には、彼らの乗るヘリを追ってきた二機のガジェットⅡ型の姿。

 

「ストームレイダー」

 

『いつでも撃てます』

 

「アルトッ!!」

 

『はいッ!!』

 

ヴァイスの合図に従い、アルトが操縦桿を左に思いっきり倒す。

ヘリの急旋回を認めたガジェットⅡ型はその進路を変える。

 

「狙い撃つ……ッ!」

 

『スナイプシューター』

 

進路を変更する際に、一瞬だけ二つの機影が一直線に並んだ。

その瞬間をヴァイスは逃さずに、引き金を引いた。

放たれた弾丸は、二機分のAMFを物ともせず、そのコアを撃ち抜いた。

 

「す、すげぇ……」

 

「スナイパーの名は伊達じゃないってな」

 

その様子を直に見ていたスバルは素直に、賞賛の声を上げた。

身体をヘリに戻し、ドアを閉めたヴァイスは、中で彼の腕に驚きの表情を浮かべている皆に向けてそう答えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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ティアナルート 第二十八話

空を悠然と飛ぶ船―――聖王のゆりかご。

その周辺はまさに激戦区にふさわしい様相を呈していた。

休む暇もなく襲い掛かってくるガジェットⅡ型。

空をも覆いつくさんばかりにゆりかごの砲門から放たれる紫の砲撃。

 

「航空魔導師隊、スリーマンセルで当たって!

 単独での戦闘は避けて、確実に、だけど迅速に撃ち落して!!」

 

そんな状況に内心舌打ちをするはやては、周囲の航空魔導師に指示を出しながら飛行するガジェットの編隊を撃ち落す。

だが、それだけやっても敵の数は減るどころか増えてきているように彼女には感じられた。

敵味方が入り乱れる乱戦状態のため、はやてが最も得意としてい広範囲殲滅魔法は使えない。

そんな状況に歯噛みしながらはやては一つの考えに至った。

 

「外からチマチマやっててもどうにもならん……。

 やっぱり、中から止めるしかないか……ッ!」

 

はやては目の前のゆりかごを苦々しい顔で見上げる。

その規格外の巨体には、はやての魔法でも致命傷を与えることはできないだろう。

ゆりかごを止めるためには、内部に侵入して動力炉を潰すしかない。

 

『24番射出口より、小型機多数!』

 

『南側の射出口からもⅡ型およびⅢ型の射出を確認!!』

 

「!」

 

はやての思考に割り込む形で、この戦域にいる魔導師からの念話がつながった。

その内容は彼女にとってかなり苦しいものであったが、はやてはそれを顔には出さずに周囲で彼女の撃ち漏らしを撃ち落していた魔導師に指示を出す。

 

「皆、落ち着いて!

 拡散されたら手が回れへん。

 叩ける小型機は空で叩く、潰せる砲門は今のうちに潰す!

 ミッド地上の航空魔導師隊、勇気と力の見せ所やで!」

 

『はい!!』

 

はやての激励に、魔導師たちは得物を構え、己が敵に狙いを定めた。

戦いはまだ始まったばかりだった。

 

 

 

 

 

 

「せぇいッ!!」

 

気合を込めた声とともに振るわれたグラーフアイゼンによって、一機のガジェットが空中で叩き潰され、スクラップと成り果てた。

ヴィータは返す刀で背後から接近していたガジェットⅠ型を、吹き飛ばし粉砕する。

 

「中に入る突入口を探せ!

 突入部隊、位置報告!!」

 

ヴィータはガジェットが密集する場所に向かって飛翔し、突入部隊への指示を出す。

そこから少し離れたところでは、なのはが密集したガジェットに向かって砲撃を放ち、その存在をこの世から消し去っていた。

 

「第七密集点突破、次ッ!!」

 

機械音とともに、レイジングハートから噴き出す蒸気を払いのけながらなのはは次の密集点に向けてその矛先を向ける。

今、彼女の手に握られているのは杖というよりも、槍と評した方がいい代物だった。

レイジングハート・エクセリオン、その全力稼動を示す形態『エクシードモード』。

普段のレイジングハートに比べて、攻撃的なデザインのそれは、彼女の覚悟の証でもあった。

最初から全力全開。

彼女には手加減するつもりも、出し惜しみするつもりもなかった。

 

(ゆりかごの阻止限界時間まであと三時間……ッ!)

 

なのはは新たな標的をその視界に認めると、即座に砲撃を放った。

まさに鎧袖一触。

今の彼女にとって、ガジェットは己の道を塞ぐ障害どころか、路傍の石と同じ存在だった。

 

「邪魔をしないでッ!!」

 

 

 

 

阻止限界時間まで―――後、二時間五十七分。

 

 

 

 

 

 

「烈風一陣ッ!!」

 

掛け声とともに、彼女の両手に握られたトンファーから二発のカートリッジが排出される。

排出が終わるとともに、彼女―――シャッハ・ヌエラは得物を回転させながら跳び上がる。

 

「切り裂け、ヴィンデルシャフトッ!!」

 

辿り着く先は、ガジェットの密集した場所。

その中心に降り立ったシャッハは間髪入れずにデバイスを振るい、ガジェットを文字通りに『切り裂いて』いく。

彼女の通った後には、スクラップと成り果てたガジェットの残骸が転がるだけだった。

 

「はああああっっ!!」

 

シャッハの戦っている地点から少し先に進んだところ通路では、大型のⅢ型が通路を塞ぎその触手(アーム)を伸ばし、弾幕を張っていた。

だが、その弾幕のわずかな隙間を金色の光が駆け抜けていく。

並の魔導師や騎士では通り抜けることすらできないであろう場所を金色の光―――フェイトは躊躇いなく駆け抜け、Ⅲ型の懐に飛び込む。

 

「せえええいっっ!!」

 

バルディッシュにカートリッジが装填される。

デバイスに魔力が充填されたのを確認し、フェイトは幅広の大剣を振り上げ、天井ごと目の前に展開するⅢ型の群れを押しつぶした。

 

すべてのガジェットを撃破したフェイトとシャッハは顔を見合わせ頷いた。

そんな彼女達の下に、二匹の犬が駆け寄ってくる。

ただの犬ではない。

その二匹の犬は、淡い緑色の光を纏い、その身体は透けていた。

この犬は、ここを突き止めた査察官ヴェロッサ=アコースのレアスキル、無限の猟犬(ウンエントリヒ・ヤークト)で生み出されたものであり、今はスカリエッティの居場所まで2人を案内する役目を担っていた。

 

『別働隊、通路確認。危険物の順次封印を行います』

 

フェイトと共に突入した部隊から、通信での報告が届く。

 

「了解。各突入ルートは、アコース査察官の指示通りに」

 

『はい!』

 

別働隊への指示を出した後、フェイトは隣に立つシャッハに微笑んだ。

「ありがとうございます、シスター・シャッハ。

 御二人の調査のお陰で、迷わず進めます」

 

「探査はロッサの専門です。

 この子達が、頑張ってくれました」

 

フェイトの言葉にそう返しながらシャッハは足元の二匹の犬の頭を撫でる。

そしてフェイトに視線を戻して力強く告げる。

 

「このまま奥へ。スカリエッティの居場所まで!」

 

「はい!」

 

そんなシャッハに頷いて、フェイトは先に進む。

この先に、あの男が。

フェイトが長年追い続けていた男―――ジェイル・スカリエッティがいる。

そう考えるだけで、彼女の手は相棒を強く握りしめていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ゆりかごが空を昇る空域から離れたところをゼストとアギトは高速で飛翔していた。

 

「旦那、もうすぐ地上本部だ」

 

「あぁ、わかっている」

 

アギトは隣を飛ぶゼストの表情を一目見て、今までずっと思っていたことを尋ねることにした。

何故かは彼女にはわからなかったが、この機会を逃すと二度と聞けなくなるという思いが彼女の頭をよぎったからだ。

 

「旦那、なんであのレジアスってやつにこだわるんだよ?

 何かあいつとあったのか?」

 

「…………」

 

ゼストは彼女の方をチラリと見て、少し間をおいて口を開いた。

 

「俺が以前、首都防衛隊にいたことは話したな?

 俺はその隊の隊長として、あいつは地上の指揮を執る頭としてミッドの平和を願っていた。

 だが、あるとき俺の部下が掴んだ違法研究所への介入をあいつは中止させた。

 はじめは何かの手違いだと思った。

 だが、それからも何度も同じようなことが続いた。

 俺はあいつに尋ねたが、終ぞ答えることはなかった。

 あとは、お前も知っている通りだ」

 

ゼストの率いる隊は、違法研究所に押し入り、そこでスカリエッティ一味との交戦、そして、彼を含んだ隊員の全滅となったのだった。

 

「俺は、あいつが何を考えて俺たちの行動を止めていたのか、それを知りたい。

 レジアスは理由もなくあのようなことをする奴ではないというのは知っているからな」

 

「旦那……」

 

アギトはゼストに対して、自分の胸に思い浮かんだ言葉を投げかけようとする。

 

「旦那ッ!」

 

「ム……ッ!」

 

だが、彼女たちに向けて大きな反応が高速で近づいていることを察知したアギトはすぐさまゼストに呼びかける。

彼女の声に反応したゼストがデバイスを構えた直後、彼らの上空の雲の中から一人の騎士がその手に握った剣を振るいながら飛び出してきた。

 

「ハァァァッ!!」

 

「……ッ!!」

 

剣と槍が触れ合った瞬間、爆発が起こる。

その爆発の衝撃を利用して騎士から距離をとったゼストとアギトは、間をおかずにユニゾンを果たす。

 

「防がれた、か……」

 

(あの融合騎が直前に知らせたみたいです。

 中々やりますです)

 

騎士―――リインとユニゾンしているシグナムは右手に持った愛剣(レヴァンティン)を構えなおす。

構えた剣は一瞬、彼女の紫の魔力光に包まれ炎を纏った。

 

(―――ッ、あの魔力光は……!?)

 

「どうした、アギト……?」

 

(な、なんでもねぇ!!

 一回で決めるぞ、旦那ッ!!)

 

「……あぁ」

 

(炎熱加速ッ!!)

 

アギトの驚きの声を聞いたゼストは彼女に尋ねるが、アギトはそれをなんでもないと答え、彼の槍に炎を纏わせる。

アギトが自分の身体のことを思っているということを理解しているゼストは、彼女の言葉に従いデバイスを構えた。

 

「すまないが、そこをどいてはくれないか。

 この先に用があるのだが」

 

「それはできません。

 貴方の目的がなんであれ、それは公務の妨害とみなされます、騎士ゼスト」

 

「俺のことを知っているか」

 

「えぇ、貴方は我々ベルカの騎士にとって模範とされる人ですから」

 

「―――退いてはくれないか……。

 ならば……ッ!」

 

「―――ッ!!」

 

時間にして一分にも満たない時間であったが、ゼストは目の前に立ちふさがる騎士がかつての自分と同じように職務を全うするべくこの場に来ていることを理解した。

 

「紫電……一閃ッ!!」

 

「ムゥンッ!!」

 

刹那―――、二人の剣閃が交わる。

そして、閃光が弾ける。

 

「クッ!!」

 

「アギト……ッ!」

 

(加速ッ!!)

 

剣と槍が交わった瞬間に起きた爆発に両者ともに弾き飛ばされるが、シグナムが体勢を整える間にゼストはその背中から炎を吹き出し、その推進力で彼女に迫っていた。

 

「速いッ!」

 

(緊急防御ッ!!)

 

その動きに回避することは不可能だと悟ったシグナムは左手に握った鞘を前に構え、それにリインフォースが氷の盾を付随させた。

 

「ハァッ!!」

 

「グッ!!」

 

だが、ゼストの一撃はその氷の盾ごとレヴァンティンの鞘を打ち砕いた。

その衝撃にシグナムは彼と地上本部を結ぶ直線からはじき出される。

 

(シグナムッ!)

 

「リイン、大丈夫か?」

 

(はい、でも……)

 

シグナムはゼストの去っていった方角―――地上本部の方を見る。

 

「さすがは、首都防衛隊のエースというところか。

 リイン、お前は主のもとに向かえ。

 本部には私が向かう」

 

(了解です!)

 

シグナムは砕かれた鞘を魔力を使って修復すると、レヴァンティンをその鞘に納めた。

彼女の指示に従い、リインフォースはすぐにユニゾンを解除する。

 

「それでは、シグナム。

 気を付けてください!」

 

「あぁ、お前もな」

 

リインフォースは彼女に一度敬礼をしてすぐにその場を後にする。

シグナムもまた、ゼストを追うために地上本部へその足を向けた。

 

 

 

 

 

 

 

「降下ポイントの安全を確認、アルト!」

 

『はいッ!

 みんな、頼んだよ!』

 

ヘリの側面のドアからガジェットの機影がないことを確認したヴァイスは操縦席のアルトに呼びかける。

アルトの返事とともに、ヘリの後部ハッチが開かれた。

 

「よし、行くか」

 

「先頭はスバル、頼むわよ。

 次にあたしが降りて、その次にエリオとキャロ。

 ギンガさん、最後お願いします」

 

「「はいっ!」」

 

「任せて」

 

ティアナの指示にスバルたちは頷く。

 

「六課フォワードチーム行きますッ!」

 

 

 

 

 

 

 

「キャロ、反応は?」

 

「ダメです。

 さっきまではあったのですが……」

 

地上に降り立ったスバルたちはレーダーに先ほどまで出ていた反応の方へと向かっていたが、そのレーダーには肝心の戦闘機人の反応が映っていなかった。

 

「―――ッ、フリードッ!!」

 

「お、おい、キャロ!?」

 

その時、スバルとティアナ、ギンガの後ろをついてきていたエリオと一緒にフリードに乗っていたキャロが突然速度を上げて先頭に踊り出た。

 

「あれって……」

 

「あの時のチビッ子か」

 

キャロの突然の突出に驚いたスバルたちだったが、彼らの丁度目の前の廃ビルの屋上に特徴的な紫のロングヘアーの少女が立っていた。

 

「向こうから出てきたってこと?」

 

「予定変更ね。

 先にあの子を捕まえるわ。

 ギンガさん、横の召喚虫を頼めますか?」

 

「わかったわ。

 ウイング―――」

 

瞬間、ギンガはその場から吹き飛ばされた。

 

「姉貴ッ!?」

 

「ギンガさんッ!!」

 

吹き飛ばされたギンガの名前を呼ぶ二人だったが、そんな彼らに向けて極太の砲撃が浴びせられた。

二人はその場から飛び退くことで何とか直撃を避ける。

 

「スバル、無事ッ!?」

 

「もちのロンッ!」

 

『スバル、ティアナ』

 

「ギンガさん!

 無事ですか!?」

 

追撃を警戒しながら、砲撃によって巻き上げられた砂埃の向こう側を凝視するティアナとスバルだったが、そんな彼らにギンガからの念話が届いた。

 

『何とか、ね。

 それよりも、こっちに戦闘機人を二人確認したわ。

 多分そっちにも……』

 

「来たみたいだ。 

 二人、反応のあった四つと数はあってるな」

 

スバルが砂埃の中から飛び出してくる二人の戦闘機人を認める。

その中に、彼が止めると決めた彼女もいた。

 

「ノーヴェ……」

 

「スバル、わかってるわよね?」

 

「あぁ、絶対に止める……ッ!」

 

「ならいいわ。

 あっちは任せるわよ」

 

「言われなくてもッ!!」

 

その言葉とともにスバルはマッハキャリバーを駆り、ノーヴェに向かって走り出した。

 

 

 

阻止限界時間まであと―――二時間四十三分。




気が付いてみれば、もう十月も終わりに近づいてますね。
そして、このティアナルートもあと数話で完結となります。
ここから最後まで、お付き合いお願いします。


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ティアナルート 第二十九話

「スバルさん!

 ティアナさん!!」

 

スバルたちがノーヴェ、ウェンディの二人と戦闘に入ったのを、フリードに乗って上空から見ていたキャロは二人に呼びかける。

 

『エリオ、キャロ、お前らはあのチビッ子を止めてこい!!』

 

『あたしたちは大丈夫だから!』

 

「でも―――ッ、エリオ君!?」

 

二人の言葉にキャロは躊躇うが、彼女の前に座っていたエリオはフリードの手綱を引き、フリードをビルの屋上にいるルーテシアに向かわせる。

 

「今はルーテシアを止める。

 あの子を手早く止めて、すぐにスバルさん達の方に向かおう。

 大丈夫、スバルさん達は強いから、僕たちが行くまで絶対に負けない」

 

「でも……」

 

キャロの不安そうな声を聞いたエリオは後ろを振り返って、彼女の震える手を握りしめる。

 

「大丈夫だよ。

 なのはさんも言ってたでしょ?

 僕たちは『ストライカー』だって」

 

エリオの中で、出撃前に言われた言葉がしっかりと根を張っていた。

そして、その枝はキャロの心にも伝わる。

 

「だから、きっとできる」

 

「うん。

 そうだよね。

 あの子の事情を聞いて、止める」

 

「行こう、キャロ」

 

「うん、エリオ君!」

 

 

 

 

 

 

 

 

迫る双刃をギンガは左手のナックルで受け流し、その勢いで回し蹴りを相対するディードに叩き込もうとするが、蹴りが彼女の身体に突き刺さる前にディードはその射程から逃れていた。

 

「ク……ッ!」

 

ギンガはディードへの注意をそらさずに、先ほど自分がこのビルの中に叩き込まれた場所に視線を移す。

そこには、大きな穴が開いていたが、その先にはビル全体を包み込むバリアが張ってあった。

 

「よそ見をしている暇はないですよ」

 

「―――ッ!!」

 

ギンガの耳に静かに聞こえてくる声。

彼女がその声に反応して視線を戻すと、そこには彼女の首に目掛けて振るわれた刃が迫っていた。

ギンガはその一撃を身体ごと後ろに倒れ込むようにして紙一重で躱し、地面につけた手でその身体を跳ね上げ、体制を整えると同時にディードに接近し双剣の間合いの中に飛び込んだ。

 

「ハァッ!!」

 

「………ん!」

 

超近接戦闘ではギンガの方に分があるが、ディードは彼女が放つ拳や蹴りの連撃を腕や足で受け流していた。

そのことに気づいたギンガは仕切り直しとばかりに、足元に魔力弾を放ち彼女との距離をとる。

 

「貴女、私の戦闘データを……」

 

「はい、私は完成してそれほど時間は経っていませんので」

 

ギンガの問いに、ディードは感情の乏しい声で答える。

彼女の言うことはつまり、ギンガとの直接的な戦闘は今回が初めてだが、以前の戦闘で彼女の戦闘データを蓄積したチンクたちからのデータを共有しており、そのフィードバックを受けているということだ。

ギンガにとってディードは初めての相手であるが、ディードにとってはギンガと戦うのは二度目ということになる。

 

その事実に、ギンガは舌打ちをすることを堪えられなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「オラァ!!」

 

ヴィータによって振り下ろされる鉄槌にガジェットが叩き潰され、爆発する。

爆発によって撒き散らされた煙を一振りで薙ぎ払い、すぐそばで砲撃を放ってガジェットの編隊を消滅させたなのはのもとに向う。

 

「数だけは多いな。

 このままじゃジリ貧だぞ」

 

「ロングアーチの方でも突入口を探してるけど、まだ見つかってないって」

 

なのははゆりかごの方を見ながらそう告げる。

だが、次の瞬間二人は背中合わせに周囲を警戒する。

 

「これは……」

 

「あっちも本腰入れてきたな」

 

ヴィータの言葉と同時に彼女たちの周囲に今までとは比にならない数のガジェットが現れる。

彼女たちが知る由もないが、同時にゆりかごの周囲でガジェットを破壊して回っていたエース級の魔導師の周囲にも同様にガジェットが現れていた。

それはゆりかごのシステムが彼女たちのことを脅威と認識したことに他ならなかった。

 

「どうする?」

 

「どうするもなにも……ッ!?」

 

『こちら第三突入部隊、ゆりかご内部への突入口を確保!

 現在、先発隊が突入を開始しています!!』

 

なのはがレイジングハートを構えようとした直前、彼女たちの耳に進入路の確保の報が届いた。

 

「突入口が見つかったか!」

 

「でも、この数を突破するのは……ッ!」

 

ガジェットから放たれる砲火を回避しながら魔力弾を放つなのはは歯噛みする。

突入口を確保したとあれば、あとは内部に侵入しヴィヴィオの救出と動力炉の破壊を最優先にするべきである。

だが、今もなお数を増やしつつあるガジェットを突破し、それを果たすとなれば些か厳しいモノがあった。

すでになのはの魔力は全体の七割強といったところ。

周囲にいるガジェットを破壊するのに、出し惜しみしなければ時間はかからないが魔力の残量をできるだけ保っておきたい。

 

「なのは」

 

「ヴィータちゃん?」

 

「行け」

 

そんな彼女の顔を見た、ヴィータは自然にその一言を口にしていた。

 

「でも……!」

 

「ヴィヴィオを助けるんだろうが!!

 ここで止まっていられる状況か!?」

 

「……ッ!」

 

なのははヴィータの声に顔を歪ませる。

彼女は任務の適正云々を抜きにして、ヴィヴィオを救出するのは自分しかいないと思っている。

だが、彼女は自分の中には、此処でヴィータを置いて自分だけで行くという方法に対して激しく反対している自分がいることも感じていた。

 

「クッ―――!?」

 

「なんだ、この魔力反応?

 速い―――ッ!?」

 

ヴィータの言葉に従い、ガジェットの中を突っ切ろうとしたなのはだったが、彼女のリンカーコアが一つの魔力反応を捉えた。

ヴィータも同じように、その反応を捉えたようで、その反応の持ち主がこちらに近づいているのを感じていた。

だが、その反応の移動速度が異常だった。

ガジェットの間をすり抜けるように、しかし最短の距離を移動し、すれ違いざまにガジェットが爆発していた。

そして、その反応をなのははどこか懐かしく感じてもいた。

 

「あ、貴方は……!」

 

「よう、久しぶりだな。

 高町のお嬢ちゃん」

 

彼女にとっての、教導官としての、先輩。

キョウ・カーンは彼女たちの上空からニヤリと笑っていた。

 

「あ、あんたは確か!」

 

「キョウ・カーンだ。

 前にも会ってるはずだが、昔話はあとにしよう」

 

彼の顔を見て、目の前の人物が以前なのはを救った局員だと気づいたヴィータは声を上げるが、それを制したキョウは周りを見渡してそう告げた。

 

「さて、実はお前さんたちの隊長さんから指示をもらったんだよな。

 お前さんらを援護するようにって」

 

「はやてちゃんが?」

 

「あぁ、だからここは俺に任せろ。

 助けなきゃいけない子がいるんだろう?」

 

キョウはゆりかごをチラリと見た後、なのはを見る。

 

「キョウさん、此処は任せてもいいですか?」

 

「ふっ、そのために来たんだ。

 こっちのことは考えなくてもいいぞ」

 

「では、お願いします!」

 

彼女の顔からは迷いはなかった。

それは、娘も同然の子供を救うという使命からか、それとも目の前の男に対しての信頼の証か、それはだれにもわからない。

だが、今は、彼女の中から一つの思いだけが表に出ているということが重要だった。

 

「道は開ける。

 あとはお前らがどうにかしろよ?」

 

「はい!

 ヴィータちゃん、すぐに行くよ」

 

「応よ!」

 

キョウの構えた杖から数十発の魔力弾が連射される。

高密度の弾幕は、砲撃を放ったかのようにガジェットの群れを叩き落としていき、彼女たちの前に道が創られる。

 

「今だッ!」

 

「行きますッ!!」

 

キョウの合図とともに、なのはとヴィータはトップスピードで道を駆け抜けていく。

それを見届けたキョウは、彼女たちを追おうとするガジェットに砲撃を叩き込む。

 

「悪いな、嬢ちゃんに言った通り、お前らには俺の相手をしてもらわないといけないんだよ」

 

もしも、ガジェットに感情というものがあれば、その機体(からだ)を震え上がらせていただろう。

それほどの圧力(プレッシャー)が彼から放たれていた。

 

 

 

 

 

 

 

「このッ!!」

 

ティアナは瓦礫の陰から身を乗り出して、目標(ターゲット)に向けて引き金を引く。

放たれた魔力弾はウェンディの乗ったライディングボードを捕らえることはできずに、彼女の後ろへと流れていく。

姿を現したティアナに向かってウェンディは手に持った(・・・・・)ライディングボードの砲口を彼女に向ける。

 

「もらいッス!!」

 

「クッ……!」

 

砲口を向けられていることを察したティアナはすぐにその場から飛び出す。

彼女が飛び出した直後、彼女が隠れていた場所はウェンディが放った砲撃によって瓦礫ごと撃ちぬかれていた。

 

「オプティックハイドッ!

 フェイクシルエットッ!!」

 

「おっ!」

 

瓦礫から飛び出したティアナは、煙が自分を隠しているうちに、自らの姿を消して、分身を多数放つ。

 

「残念、幻術(それ)については対策済みっすよ!!」

 

「嘘ッ!?」

 

だが、ウェンディは煙の中から飛び出してきた幻影には目もくれず、姿を消しているティアナに向かって迷わずに弾丸を放った。

ティアナとしては、自分の姿を見失ってくれれば御の字といった程度の思惑で使った幻影魔法であったが、迷わずに自分を狙い撃たれるとは思ってもいなかった彼女は身体を投げ出すようにその弾を回避した。

 

「かくれんぼは終わりにするっすよー!

 アンタの幻影魔法は役に立たないってのはわからないわけじゃないっすよね!!」

 

ウェンディのあたりに響く声ををティアナは横転したトラックの陰から聞いていた。

 

「ハァハァ……」

 

荒くなった息を静かに整えながら、頭の中で情報を整理する。

 

(あいつの攻撃はあのボードからの砲撃。

 移動も、あのボードに依存している……。

 でも、こっちの幻影は通じない上に、以前の戦闘データの時以上に砲撃の威力も増してる……。

 機動性でも火力でも負けてる、か……)

 

情報を整理する傍ら、彼女の耳はウェンディの足音を正確に捉えていた。

その持ち主が、徐々に自分のいる場所に近づいていることも。

 

(使いたくはなかったけど、そうも言ってられないか……ッ!)

 

彼女の手は、その胸にあるペンダントに伸びていた。

 

 

 

 

 

 

地下深くにある通路。

その両脇の壁には、ナンバーが刻まれたプレート付きの生体ポッドが所狭しと並べられていた。

フェイトとシャッハはその様子を見て、眉を顰める。

 

「これは……人体実験の、素体?」

 

「だと思います。

 人の命を弄び、ただの実験材料として扱う。

 あの男や、つながっている連中は、そう言ったことを平然と行うようなやつなんです……ッ!」

 

フェイトは、拳を握りしめながら答える。

自分や、エリオ、スバルやギンガといったような存在を生み出すために平然と、面白半分に人の命を弄ぶ。

それを行っていたであろうスカリエッティや、その研究を使っていた違法研究者たちへの怒りを彼女は感じていた。

 

「……1秒でも早く、止めねばなりませんね」

 

「ええ」

 

先へ足を進めようとする直前。

彼女たちのいるフロアを激しい揺れが襲う。

原因はすぐに判明した。

彼女たちのすぐ下の床が盛り上がり、そこからガジェットⅢ型が彼女たちに向けてアームを伸ばしていた。

すぐに飛び退いて回避しようとする二人だったが、シャッハが飛び退く直前、壁から飛び出してきた青髪の少女―――セインが彼女の身体に抱き付きその勢いのままさらに反対側の壁に飛び込んでいった。

 

「シスターッ!!」

 

(フェイト執務官、こちらは無事です、大丈夫。

 戦闘機人を一名、確認しました。

 この子を確保してからそちらに合流します)

 

フェイトはすぐさまⅢ型を二つに切り裂き、シャッハに通信を繋げる。

すると、返答はすぐに返ってきた。

安堵の息を吐くフェイトだったが、すぐに聞こえてきた手を叩く音に反応して振り返る。

 

「この区画に辿り着くまでの予想タイムよりも三分も早いとは。

 さすがだよ、フェイト・テスタロッサ・ハラオウン執務官」

 

そこいたのは、白衣を着た男。

このラボにいる人間で、傍らに二人の戦闘機人を連れているということと、彼女の頭なの中に記憶されている男の顔が一致した。

 

「ジェイル・スカリエッティ……ッ!」

 

「そうだ、私がジェイル・スカリエッティだ。

 以後、お見知りおきを」

 

恭しく一礼する男に対して、フェイトは警戒を強める。

 

「さて、こちらとしても君たちに話したいことが多くあるんだが……。

 お茶でもどうかな?」

 

「ふざけるな……ッ」

 

笑顔でそう誘うスカリエッティだったが、フェイトはその誘いを一蹴する。

 

「ふむ……。

 まぁ、私から出されたお茶など、普通なら飲むわけがないか。

 とりあえず、こちらも君たちに話しておきたいことがあるのだが?」

 

「ジェイル・スカリエッティ。

 貴方には逮捕状が出ている。

 話したいことなら、然るべき場所で話してもらう」

 

「こちらとしては、この場で直接話したいところだが……。

 致し方ないか……。 

 トーレ、セッテ」

 

「なんでしょうか」

 

スカリエッティが後ろの立っている二人に話しかけると、彼の左後方に立っていたトーレが彼に尋ねる。

 

「私はこの奥で最後の準備を進めておく。

 その間に、彼女の相手を。

 もちろん、全力でね」

 

「了解です」

 

トーレの返事に頷き、スカリエッティは通路の奥へ向かう。

そんな彼にフェイトは声を飛ばす。

 

「待て、スカリエッティッ!!」

 

「逃げる気はないよ。 

 私を捕まえたいのならば、そこの二人を倒してからにしたまえ」

 

スカリエッティは振り向きながらそうフェイトに投げかける。

 

「とはいえ、彼女たちの能力(ちから)は折り紙付きだ。

 君でも、本気を出さなければ負けるかもしれないねぇ」

 

「クッ……!」

 

彼の言葉にフェイトが苦虫を潰したような表情を浮かべるのを見て、スカリエッティは楽しそうに笑いながらドアの向こう側へ消えていった。

 

「そう言うことです、フェイトお嬢様」

 

「ドクターを捕まえるのならば、私たちを倒してから」

 

「……わかった。

 貴女たちを倒して、スカリエッティを捕らえる。

 バルディッシュ」

 

フェイトの声に続き、バルディッシュから薬莢が吐き出される。

高濃度のAMFの中で霧散していた魔力を補充するように、バルディッシュの刀身が一際輝く。

 

「それでこそですッ!!」

 

「ハァーッ!!」

 

飛び出すフェイトとトーレ。

トーレの援護のために、得物を構えるセッテ。

超高速の戦いの幕が、今切って落とされた。

 

 

 

阻止限界時間まであと―――二時間五分

 



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ティアナルート 第三十話

「シュートッ!!」

 

『Divine Buster』

 

ゆりかごの内部を飛翔するなのはは、前方に現れたガジェットの群体を砲撃で一掃する。

なのはは、ガジェットの爆発によって撒き散らされた破片の中を躊躇わずに突き抜け、煙の向こう側に出る。

 

「レイジングハート、ヴィヴィオのいると思われる場所までどのくらいかな?」

 

『この進行速度ならば十五分といったところです」

 

「なら、このまま行くよ……!」

 

レイジングハートからの答えに頷きなのはは前を向く。

その時、頬に鈍い痛みを感じた彼女は手でその部分を拭うと、血がべっとりとついていた。

先ほど、ガジェットの残骸の中を突っ切った時にできた傷である。

 

『マスター、治療は?』

 

「かまわないよ。

 この程度ならしばらくすれば傷口はふさがるから」

 

女としては、顔に傷が残るのはうれしくはないが、今はヴィヴィオを救うという最優先目標があった彼女にとって、頬の傷は気にするほどのものでもなかった。

 

「それに、ヴィータちゃんとも約束したしね。

 ヴィヴィオを助けるまで、無駄な魔力は使いたくない」

 

『了解です』

 

なのはは、ゆりかごに突入し、動力炉に向かったヴィータの言葉を思い出していた。

ヴィヴィオを救って、無事にみんなで六課に戻る。

その一つの約束を守るために、なのはは先を急いだ。

 

 

 

 

 

 

「クアットロ、高町なのはは予想通りのルートを来てるよ」

 

その様子をモニターから見ていたディエチは、部屋の中央に位置する玉座に眠るヴィヴィオのそばでガジェットへの指令を飛ばしているクアットロにそう告げる。

 

「あら~、やっぱり~?

 陛下(ヴィヴィオ)の準備はまだなのよね~」

 

「ガジェットによる足止めは?」

 

「今のエースオブエースにガジェットごときで足止めになると思う?」

 

「思わない」

 

即答するディエチにクアットロは苦笑しながら「そうなのよね~」と言いながらパネルを操作する。

 

「それじゃ、最後の追い込みに入るからディエチちゃんは予定通りに」

 

「了解。

 ちゃんとここまで来るようにすればいいんだろ?」

 

「お願いね~。

 しばらくは私はこっちに付きっきりになるから、ガジェットの援護は出来ないけど……」

 

「ガジェットはいても邪魔になるから丁度いい。

 それじゃ」

 

ディエチはそう言って足元に置いていたイノーメスカノンを担ぎその部屋を出ていく。

 

「さ~てと、それじゃあと少しで終わりますからね~。

 それまでゆっくりとおやすみくださいな、陛下」

 

玉座で眠るヴィヴィオを見つめるクアットロ。

その目はまるで―――だった。

 

 

 

 

 

ゆりかごから離れた空域で、フリードに乗ったキャロは、ガジェットⅡ型に乗って空を駆けるルーテシアを追っていた。

 

「シューティングレイッ!!」

 

「……ッ」

 

キャロの放つ魔力弾と、ルーテシアの魔力で構成されたナイフが衝突し、爆発する。

 

「なんで、こんなことするの……ッ?」

 

キャロの呼びかけにルーテシアは無言でナイフを射出する。

フリードが急上昇と急降下を繰り返し、誘導を乱されたナイフは互いにぶつかり、空に虚しい花火を上げる。

 

「何か、理由があるのならッ!!」

 

「――――ッ!!」

 

それでも呼びかけを続けるキャロだったが、ルーテシアはその言葉に応じることなくナイフを三度射出した。

呼びかけに集中していたキャロは、反応が遅れ、障壁を張るがナイフの爆発によってフリードの体勢が大きく崩される。

その隙を逃すルーテシアではなかった。

とどめと言わんばかりにこれまで以上に数を増やしたナイフをキャロに向けて放った。

 

 

 

 

二人が空中戦を繰り広げている少し下のビルの間でエリオは腕の突起を刃のように振るうガリューの攻撃をストラーダで捌いていた。

 

「ストラーダッ!!」

 

Beschleunigt(加速)

 

ガリューの刃を、後ろに飛び去ることで回避したエリオは、ビルの壁に張り付き、ストラーダのブースターを噴かせて一気に上昇。

 

「ハァッ!!」

 

体勢を立て直したフリードの背に乗り迫りくるナイフを一閃のもとに切り伏せた。

 

「エリオ君ッ!」

 

「キャロ、大丈夫?」

 

エリオは、キャロに怪我がないことを確かめると、ガジェットに乗ったまま自分たちを見つめるルーテシアを見つめる。

 

「どうして、こんなことをするんだ。

 君にだって、スカリエッティがしようとしていることはわかっているだろう!?」

 

「あの人のせいで、多くの人が傷ついている。

 なんで協力しているの?

 理由を話してくれれば、手伝えることなら私たちも協力するから!」

 

「「お願いだから、話を聞いて!!」」

 

ルーテシアには、わからなかった。

自分と同じぐらいの年齢で、管理局員として戦っている二人が。

以前の戦闘で、彼らのことを殺してしまうかもしれいないことをしていた自分と話しをしようとすることが。

そして、目の前の彼らのことを見ていると、胸の内に湧いてくるこの苛立ちが何なのか。

 

「……ッ!

 ガリュー……ッ!」

 

「―――ッ!」

 

ルーテシアの声に応じて、エリオを追ってきたガリューがフリードの背に立つエリオに向かっていく。

そんな彼(?)に対して、エリオもまたストラーダを構えて空を走る。

 

「―――ッ!!」

 

「なんで、何も話してくれないの……?」

 

残ったキャロに向けてルーテシアは魔力弾を放つ。

だが、その魔力弾は彼女に当たることなく、虚空から現れた鎖に砕かれた。

キャロは俯きながら、言葉を紡ぐ。

彼女の言葉とともに、フリードの周囲に桃色の魔力弾が生成される。

その数―――二十。

 

「言葉にして、話してくれなきゃ……わからないってばぁッ!!」

 

「クッ……!?」

 

桃色の光が、青空を切り裂いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――――ッ!!」

 

「クッ!!」

 

視界の外から放たれた刈り取るような蹴りをスバルは左腕を使い直撃を避ける。

ノーヴェは防御に入ったスバルに攻撃の隙を与えないために続けざまに回し蹴りを放った。

 

「―――ッ!?」

 

だが、その蹴りはスバルの左手に掴まれ彼女は彼の成すがままに投げ飛ばされる。

 

「おおぉッ!!」

 

「グッ……!」

 

体勢を崩しながらも着地したノーヴェはスバルが自分に向けて飛び込んできているのを認めると、すぐに彼に向けてエネルギー弾を放つ。

だが、狙いが正確なエネルギー弾はすべてマッハキャリバーが張った障壁に阻まれる。

 

「ハァァッ!!」

 

「……ッ!!」

 

懐に飛び込んだスバルはノーヴェに向けて拳を放つが、それをノーヴェは受け止める。

お返しとばかりに反対の塞がれていない腕でスバルに殴り掛かるが、迫りくる拳を、スバルはその腕を掴むことでノーヴェの動きを捕らえる。

 

「ノーヴェッ!!

 なんのためにまた戦うんだッ!!」

 

「そんなことは決まっている。

 ドクターの望みのためだ……ッ」

 

ノーヴェはスバルを蹴り飛ばし、距離が開いたところでエネルギー弾を打ち込む。

 

戦闘機人(わたしたち)は創られた存在だ。

 創造主のために戦うことの何が悪い」

 

エネルギー弾がスバルの周囲に着弾し、彼の姿が煙の中に消えていく。

彼をその場から逃がさないために、ノーヴェはさらに追加でエネルギー弾を放つ。

 

「このっ!」

 

スバルは自分に直撃するエネルギー弾を見極めて『リボルバーシュート』で彼女の攻撃を相殺する。

だが、ノーヴェの攻撃を撃ち落したときに生じた爆煙の中からノーヴェが飛び出し、彼の身体を蹴り飛ばした。

 

「ガ―――ッ!?」

 

「私からしたら、お前たちタイプゼロが異常だ。

 お前たちもまた、私たちと同じだ。

 創られた存在のはず。

 なのに、なぜ自分の意志で戦える?」

 

蹴り飛ばされた衝撃が抜けきる前に、ノーヴェはスバルの服の襟を掴み、何度も地面に叩き付ける。

二度三度と固いコンクリートの地面に叩き付けられるスバルだったが、何とか彼女の腕を掴み戦闘機人としての膂力で拘束を解き彼女の動きを止める。

 

「俺が、人間だからだ……ッ!

 確かに俺たちは創られたかもしれない。

 だけどなぁ……ッ!」

 

地面に叩き付けられたときに切った額から流れ出る血を気にすることもなく、スバルは目の前の少女に語り掛ける。

 

「創られた存在、戦闘機人の前に、一人の人間だ!

 心で考えることのできる、立派な生き物なんだよ……!

 例え創造主の望みだとしても、それを自分の意志で戦うならまだいい!!」

 

スバルはノーヴェの瞳を見つめて、言葉を放つ。

 

「今のお前は、ただの機械と一緒だ!!

 入力されたプログラムを実行するだけの、思考もできない一昔のコンピューターと同じなんだよ!!」

 

ノーヴェの視界にスバルの瞳に映る自分の姿が映り込む。

何日も、何日も思考の狭間で悩み抜いた彼女の頬は以前よりも艶も張りも失われ、その瞳は光を失っていた。

 

「悩んだのはわかるさ……。

 お前がなんで悩んでいるのか、わからない。 

 けど、なんでそんなになるまで抱え込んだんだよ……?」

 

スバルの瞳が悲しみの色を帯びる。

そんな彼の表情を見た、ノーヴェは自分の心が揺さぶられるのを感じた。

 

「なぁ、今からでも遅くない。

 戦うのを止めろ。

 なんで悩んでいるのか、教えてくれノーヴェッ!!」

 

「もう……遅いんだよ……ッ」

 

「なに……ッァ!?」

 

ノーヴェがぼそりと言葉を発したが、スバルがそれを聞き届ける前に、彼女は彼の身体を壁まで投げ飛ばした。

咄嗟に受け身を取ったスバルだったが、彼の目には、ノーヴェが辛そうな表情でいるように見えていた。

 

「もう決めたんだよ、あたしはッ!!

 あたしは戦闘機人として命を得た。

 だったら、あたしを生んでくれたドクターの夢を叶えるのが、あたしの戦いなんだよ!!

 だから、これ以上私を惑わせるなーーーッ!!」

 

ノーヴェは叫び声とともにスバルに突進してくる。

そんな彼女に対して、スバルは一言、言い放った。

 

「この……分からず屋が……ッ!」

 

『Gear third.

 Drive Ignition.』

 

刹那、スバルの周囲に魔力の激流が渦を巻いた。

瞬時にマッハキャリバーの出力が上昇し、リボルバーナックルに装填されている魔力カートリッジに込められた魔力すべてを一気に開放する。

そのあまりにものエネルギーの熱上昇によって、マッハキャリバーは赤熱化し蒸気を上げる。

そんな中でも、スバルは目の前に迫るノーヴェの拳を紙一重で躱し、彼女の腹を蹴り飛ばす。

 

「ガ―――ッ!」

 

「なんでそこまでこっちの話を聞かないかは知らんが、その考え方はダメだ、ノーヴェ」

 

蹴り飛ばされたノーヴェはすぐに跳ね起き、スバルに殴り掛かる。

だが、その拳は、人のそれではなく、本能で生きる獣のものと同じだった。

そして、本能で繰り出される拳ほど、スバルにとって見切るのは容易だった。

 

「な―――ッ!?」

 

拳を躱し、ノーヴェの懐に飛び込んだスバルは彼女の腹に拳を当てる。

すでにその拳には魔力の収束が完了されていた。

 

「少し頭冷やせ、この馬鹿野郎が」

 

ストライクブレイザー(Strike Blazer)

 

放たれた蒼き一撃は、ノーヴェの身体を呑み込んだ。

 

 

 

 

 

 




※補足です。
ノーヴェの戦う理由についてですが、スバルと戦いたくないという思いと、スカリエッティの願いを叶える手伝いをしたいという思いの間で悩んで悩んで悩み抜いた結論です。
二つの相反する思いの間で苦悩していたノーヴェの精神的余裕はほとんどないために、あのようにやつれていたと考えました。

オリジナル設定

・『ギアサード』
マッハキャリバーの新モード、というよりもマッハキャリバーがスバルのために強化プランの一つとしてシャーリーたちに提案し、採用されたもの。
スバルの戦闘力を全開で使用するためのモードだが、スバルが戦闘機人としての力を使わずに、魔力のみで全力を出せるようにするためのものとして設定された。
その実態は、マッハキャリバーの出力を強引に引き上げ、その負担をすべてマッハキャリバーが引き受けるというもの。
スバルが受ける負担をマッハキャリバーが引き受けるために、マッハキャリバーにかかる負担が半端ないものになるために使うたびにマッハキャリバーに無理を強いる諸刃の剣。


・『ストライクブレイザー』
ギアサード時限定の砲撃魔法。
砲撃魔法としているが、マッハキャリバーのギアサード状態および、フルドライブでの魔力運用能力にものを言わせて魔力を収束して放つという収束魔法の一種。
スバル自身に収束技術の適性が低いために、マッハキャリバーありきの魔法。


余談だが、この魔法を将来の格闘少女が参考にしている。



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ティアナルート 第三十一話

先に誤っておく。
ディエチ、ゴメン。
注意!
オリジナルのデバイスが出てきます。
オリジナル何て要らねぇって人は回れ右を。
オリジナル?バッチコイ!!な人はお進みください


「ほー、あっちも派手にやってるっすね~」

 

姿を隠したティアナを探していたウェンディはライディングボードを担ぎ、ノーヴェとスバルの方に視線を向けながらそう呟いた。

 

「さてと、あっちも決着つきそうだし、こっちもさっさと終わらせますかね~」

 

(スバルっちを倒した後のノーヴェのことも心配っすからね~)

 

ウェンディは待機させていた十機のガジェットⅠ型改を集める。

 

「さー、もういい加減に出てきたらどうっすか?

 今出てくる方がまだましな終わり方にできるッすよ~?」

 

彼女の呼びかけに、ティアナは答えず、返ってきたのは魔力弾のみだった。

誘導されて発射もとを読ませなかった弾をライディングボードで防ぎながらウェンディはため息を吐いた。

 

「頑固っすね~。

 まぁ、いいっすけど」

 

彼女の(カメラ)が、人特有の熱源を捉えた。

彼女がライディングボードをその熱源が隠れている場所に向けると、周囲のガジェットもその武装のロックを解除し、彼女の照準と同じポイントをマークする。

 

「それじゃ、おやすみなさいっす!!」

 

砲口に光が集まり、そして、弾けた。

ライディングボードの砲撃と、ディエチ謹製の改良型のガジェットによる飽和攻撃。

熱源(ティアナ)が隠れていた場所は、木端微塵に吹き飛ばされ、当たりには濃い煙が立ち込めていた。

そして、その煙を橙色の光が引き裂いてガジェットを貫いた。

 

「な―――ッ!?」

 

ガジェットが爆散する中、ウェンディは煙の中から道が伸びているのを見た。

そして、その道を駆ける橙色の弾丸を。

 

 

 

 

 

「間一髪、ってところね。

 クロスミラージュ、ウィングロードの制御は任せるわよ?」

 

『お任せください』

 

煙の中から飛び出したティアナはその脚で空を貫く道を走っていた。

『スターキャリバー』。

スバルが、彼女の力となるために、彼が使用していたローラーブーツをアップデートしたデバイス。

魔力量は並の彼女がウィングロードを万全に使用できるように最新型の魔力変換炉(マギリングコンバーター)を備えた、彼女の翼。

 

「さぁ、行くわよッ!!」

 

『Drive ignition』

 

ティアナの視線が、ウェンディを貫く。

彼女の思考を予測したクロスミラージュによって、彼女の走るべき道が創られ、彼女が走り去ると同時に道は霧散し、霧散した魔力はスターキャリバーのマギリングコンバーターによって新たな道となる。

 

「ちっ……!」

 

対するウェンディも、ライディングボードを上昇させる。

互いに銃口を向ける。

そして、その銃口から光の刃が放たれた。

 

「ちょ、今のを捌くっすか……!?」

 

ウェンディは背後に走り去ったティアナに驚きを隠しきれなかった。

彼女の腕に装備したライディングボードの銃口からは人の腕ほどの長さの光刃が伸びていた。

すれ違いざまにそれをティアナに叩き付けようとしたウェンディだったが、対するティアナは、両手に持ったクロスミラージュのうちの片方を即座にダガーモードに切り替えてその刃を切り払ったのだった。

 

「悪いけど、こっちもやられるわけにはいかないのよッ!」

 

「上等っすッ!!」

 

橙色と黄金の軌跡が空を駆ける。

二つの軌跡の間を、いくつもの光が行き交い互いにそれを避ける機動で駆け抜ける。

 

「しまった……ッ!?」

 

だが、それも終わりに近づいた。

ティアナの放った弾丸の一つが、ウェンディの乗ったライディングボードを撃ち抜いたのだ。

損傷によって飛行能力を失ったライディングボードは、失速し、次第にその高度を下げるしかなかった。

 

「悪いけど、終わらせるわよッ!!」

 

『Phantom Blazer』

 

「あぁ……ッ!!」

 

クロスミラージュから二つの砲撃が放たれる。

ウェンディはライディングボードを縦のように構えて、防ぐが、損傷したライディングボードの上では衝撃を逃すこともできずに、地面に叩き付けられた。

 

「クッ……!」

 

すぐに起き上がり、ティアナを見つけようとしたウェンディだったが、背後からの声が彼女の耳を叩いた。

 

「チェックメイト。

 まだやる?」

 

ウェンディが首を少し動かし、背後を見ると、そこにはクロスミラージュを構えたティアナが不敵な笑みを浮かべていた。

そんな彼女の顔を見たウェンディは大きくため息を吐き、ライディングボードを放り投げて両手を上げた。

 

「降参っす。

 まったく、とんだ隠し玉っすよ……」

 

スターキャリバーが光に包まれ、そして彼女の手に納まる。

ティアナはそれを首に掛けながらウェンディの呟きに答えた。

 

「そりゃそうよ。

 なんたって、あのスバルが作ったんだもの。

 隠し玉としては最高よね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「デヤァアァッ!!」

 

ヴィータは、雄叫びとともにグラーフアイゼンを振るい、目の前にいるガジェットⅢ型を叩き潰す。

Ⅲ型が爆散したのを確認するとともに、上がっている息を整えながらポケットの中から残っているカートリッジを取り出す。

 

「まだ、残ってるな……」

 

手のひらにあるカートリッジを握りしめ、顔を上げ、その先に続く通路を見る。

 

「ここまでくれば、あとは動力炉まであと少し……ッ!?」

 

と、そこまで呟いた彼女の背中を悪寒が走り抜けた。

自分の感覚に従い、身を投げ出したヴィータだったが、彼女の背中に一文字の傷が入る。

痛みを堪えながら、ヴィータはすぐにグラーフアイゼンを振るい背後にいた何かを粉砕した。

 

「くそ、何が……!?」

 

背中の傷から響く鋭い痛みを感じながらヴィータは響くような足音を耳にした。

音のする方―――動力炉に続く道の先に視線を向けると、そこには、鎌のような腕を持つ四脚の戦闘機械が群れを成して彼女に向かっていた。

 

「はは、そうかよ……。

 てめえら、あの時の奴の同類か……!!」

 

ヴィータの記憶の一つに、目の前のそれと合致するものが存在した。

数年前、なのはが撃墜された日。

その時、彼女の背中を貫いたそれ。

ヴィータの中で一つの感情が膨れ上がる。

 

「こんなところでまた会うなんてな……。

 全部、ぶっ潰す……ッ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「IS『ヘヴィバレル』発動

 最大出力」

 

ディエチは両手で砲を構え、人の眼では視認できない距離にある通路を見ていた。

ガジェットからの信号の途絶によって、彼女の目標である『高町なのは』の位置はわかっていた。

あとは、彼女に察知されるように砲撃を放つだけ。

そう考え、ディエチは視界になのはが映った瞬間、引き金を引いた。

 

 

 

 

 

『マスター』

 

「わかってる。

 レイジングハート、カートリッジロード」

 

同時刻、放たれた砲撃を察知したなのははレイジングハートを構え、カートリッジを装填する。

なのはは自分の勘がささやく言葉に従い、もう一つの言葉を発する。

 

「ブラスター1」

 

なのはの言葉とともに、彼女の身体から魔力が溢れ出す。

ブラスター、使用者とデバイスの限界を超えた強化を施す彼女の切り札。

それを彼女は躊躇いもなく使うことを決めた。

 

『blaster1,Drive ignition』

 

「ハイペリオンスマッシャーッ!!」

 

レイジングハートから放たれた魔力の奔流は、通路を彼女の魔力光で明るく照らし、ディエチの身体をも呑み込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ハァアァッ!!」

 

「チィ!」

 

フェイトとトーレの刃が交差する。

フェイトのバルディッシュとトーレのインパルスブレード。

自然、バルディッシュの方がトーレのインパルスブレードを押し返す。

トーレの体勢が崩れた瞬間を狙って切り込もうとするフェイトだったが、横合いから彼女を挟み込む機動で向かってくるブーメランブレードを避けるために後ろに飛び退く。

 

「…………」

 

フェイトは自分を間に挟んで立つトーレとセッテへの対抗策を頭の中で弾きだしていた。

 

(この先に、スカリエッティがいるけど、この二人を抜けないと。

 だけど、このAMFの中での戦闘は……。

 全力で行けば、抜けられるかもしれないけど、そうしたら、なのはたちの援護に……いや)

 

「バルディッシュ」

 

『Plasma Lancer』

 

フェイトの呟きと同時に、バルディッシュによって彼女の周囲に魔力弾が生成、即座に彼女の周囲で爆発し、その姿をトーレたちの視界から消した。

 

「クッ!」

 

「血迷ったか……?」

 

彼女の突然の行動に眉を顰めたトーレだったが、煙の中から彼女の羽織っていた上着が飛び出し、それに対してセッテが反応し、得物を投げつける。

 

「なに……!?」

 

だが、そこに彼女の目標はいなかった。

そして、セッテが己の得物を一瞬とは言え手放したタイミングを彼女が見逃すはずがなかった。

 

「フルドライブ」

 

『Riot Blade set』

 

突然の魔力の膨大にトーレは目を見開く。

そして、彼女の目の前でセッテが壁に叩き付けられた。

 

「セッテッ!!」

 

トーレが声をかけるが、壁際に倒れたセッテは返事をすることはなかった。

 

「意識を刈り取っただけ、命に別状はない」

 

「フェイトお嬢様……。

 本気というわけですか」

 

トーレは目の前に降り立ったフェイトを見て、笑みを浮かべた。

彼女の前に立つ者は、自分の全力をぶつける相手にふさわしいと改めて感じたからだ。

だが、フェイトは首を振った。

 

「まだ、本気じゃない。

 だけど、出し惜しみはしない」

 

(そうだ、私はここでスカリエッティを捕まえる。

 なのははヴィヴィオを、はやてはゆりかごを、皆はみんなのやるべきことを。

 だから、私は信じるだけ)

 

一度目をつむり、静かに息を吐く。

自分の中から、焦りや怒りといった余計なものをすべて吐き出す。

そして、一言。

 

「リミットブレイク」

 

『Riot Zamber Drive ignition』

 

バルディッシュの低い音声とともに、彼女の周囲にさらに魔力が溢れ出し、渦を巻く。

高濃度のAMFの中での魔力の奔流に姿を隠したフェイトが、新たな力を身にまとう。

その姿を見たトーレはさらに笑みを深くした。

 

「悪いけど、一瞬で蹴りをつける」

 

「望むところ、と言わせてもらいます。

 IS、ライドインパルスッ!!」

 

フェイトが両手に握った二本の長剣を構える。

トーレがその足元に金色のテンプレートを出現させ、その身体に力を溜めこむ。

 

「いざッ!!」

 

「……ッ!」

 

刹那、閃光が走る。

互いの位置関係を入れ替えたところで、勝負はついていた。

フェイトの持つバルディッシュの二振りの長剣の片方の魔力刃が砕け散る。

そして、トーレのインパルスブレードがすべて切り落とされた。

 

「さすがですね、フェイトお嬢様。

 どうぞ、先にお進みください」

 

「あとであなたたちにも話を聞かせてもらう。

 そのつもりで」

 

フェイトは、トーレの方を振り返らずにその場から走り去っていった。

彼女が去った後、トーレはその場に座り込み、先ほどの一撃を思い返す。

 

「まさか、片方の長剣で私の攻撃をすべて凌ぎ切るとは……。

 上には上がいるのだな……」

 

悔しそうに呟く彼女の顔は、嬉しそうな表情を浮かべていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ねぇ!!

 戦っている理由だけでも、教えて!!」

 

「あなたに話すことなんてない」

 

ガジェットに乗ったルーテシアの周りに魔力刃が浮かび上がり、正確にキャロへと放たれた。

 

「……ッ!!」

 

キャロは自分に向かって放たれたナイフを障壁を張ってやり過ごすが、障壁と衝突したナイフは爆発を起こし彼女の視界を潰した。

 

「ルーちゃん!!」

 

「……ッ!」

 

キャロの注意が自分から逸れたのを感じたルーテシアは乗っているガジェットから飛び降り、ビルの屋上に降り立つ。

そんな彼女の後を追うように、キャロも彼女のいるビルから少し低いビルに飛び降りた。

 

「どうしても、教えてくれないの……?」

 

「……私は、私のお願いを叶えてくれるドクターの手伝いをするだけ」

 

「そんなことのために……ッ!」

 

「そんなことなんかじゃないッ!!」

 

キャロの言葉に、初めてルーテシアが声を荒げた。

そんな彼女の隣に先ほどまでエリオと切り結んでいたガリューが現れる。

それと同時に、キャロの前にエリオがストラーダを構え、ルーテシアとガリューに視線を向ける。

 

「あなたたちにとっては、そうかもしれない。

 けど、私にとっては、大事なこと」

 

「それでも!」

 

「あなたたちは、隣に誰かいてくれたからそう言えるの!!」

 

「「――――ッ!!」」

 

「私には、ずっとガリュー達しかいなかった。

 ゼストやアギトもいつかはわかれるから……。

 でも、ドクターは、私の願いを叶えてくれるって、約束した」

 

ルーテシアの足もとに魔法陣が現れる。

それと同時に、ガリューの身体に力が漲り、周囲のビルの屋上に地雷王が現れる。

 

「それは……!!」

 

「そんな叶え方、間違ってるよ!!」

 

「うるさいッ!!」

 

エリオとキャロの言葉に、ルーテシアは耳を貸さず、その目に涙を浮かべながら言葉を紡いだ。

 

「私は、もう一人はいやなんだ!!

 だから……、あたしの邪魔をしないでッ!!

 白天王ーーッ!!」

 

「―――――ッ!!」

 

ルーテシアの叫びとともに、周囲の地雷王が雷を発し、ガリューが渾身の一撃をエリオに叩き込む。

そして、ビルの間を通る道路に巨大な魔法陣が出現し、そこから巨大な身体を持つ召喚虫が呼び出された。

 

白天王。

ルーテシアの使役する最大の召喚虫。

それ、この世界に呼び出された。

 

「クッ!!」

 

「エリオ君!!」

 

ガリューの一撃をストラーダで受け止めたエリオだったが、その力の差に徐々に押されていた。

彼は、駆け寄ろうとしたキャロを言葉で制す。

 

「キャロ、君はルーテシアを!」

 

「でも!!」

 

「あの子は、寂しいだけなんだ!!

 止めてくれる人がいないから……!」

 

キャロは彼の言葉で、彼が何を考えているのかを理解した。

彼女は、以前までの自分たちと同じ。

だから……。

 

「ヴォルテールッ!!」

 

彼女は、その名を呼ぶ。

最強の真竜を。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ここッ!!

 玉座の間!!」

 

通路を最大速度で駆け抜けたなのはは、ついにその場所に辿り着いていた。

彼女の目の前には、巨大な扉。

一人で開けるには大きすぎるそれを、彼女は砲撃で撃ち抜くことで無理やりこじ開けた。

 

「ヴィヴィオッ!!」

 

なのはが玉座の間に飛び込むと、その先には、幼い少女の身体には不釣り合いなほどの大きさの椅子に座り込んだまま意識のないヴィヴィオの姿があった。

 

「ヴィヴィオ、今助けるから……ッ!?」

 

『玉座の間に侵入者を確認。

 ゆりかごの安全確保のため、玉座の間にての戦闘行為を許可。

 聖王の鎧、インストール。

 《戦闘パターンS》発動』

 

なのはがヴィヴィオに向けて一歩を踏み出した瞬間、彼女たちのいる部屋のどこからともなく、機械の音声が響き渡った。

 

「レイジングハート、これは!?」

 

『わかりません。

 ですが、何かよろしくないことがあるのは確実でしょう』

 

相棒からの警告に苦虫を潰したような表情を浮かべるなのは。

だが、彼女のその表情も長くは続かなかった。

 

「うぅーーぅ……ぁぁぁあああーーーッ!!」

 

「―――ッ、ヴィヴィオ!!」

 

玉座に座るヴィヴィオの身体に、光が集まり、彼女の姿を包み込んだ。

そして、その光が砕け散ると、そこには少女の姿はなく光を失った瞳の女性が立っていた。

 

「ヴィヴィオッ!?」

 

「侵入者、確認……。

 これより、排除を開始する……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

限界時間まであと―――一時間四十二分。

 




どうも、お久しぶりです。
この一週間、忙しくてパソコンに触れることすらもできませんでした……。
大学の学祭って大変です。
チビッ子の相手があんなにつかれるとは……。
エリキャロや無印のころのなのはたちがいかにできた子だったのかよくわかります……。

さて、話の方ですが、それぞれの戦いは収束に向かっていきます。
今回は、ティアナ対ウェンディ、なのは対ディエチ、ヴィータの突撃、フェイト対トーレ&セッテ、エリキャロ対ルールー、そして、なのは対ヴィヴィオの開幕といったところです。
そして、ごめんよ、ディエチ。
君の活躍の場所が少なくて……。

オリジナルデバイス解説
スターキャリバー:スバルがティアナの夢のために作り出したデバイス。
元々、彼女のために作ることは決めていたスバルだったが、マッハキャリバーを使うことになったためそれまで使用していたローラーブーツをアップデートするという方針で作り上げた。
機動力アップを目的としたものなので、理論上はフェイト並みの高機動戦闘を可能とするが、ティアナの経験が足りないためにそこまでの変態機動はできない。



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ティアナルート 第三十二話

遅くなりました!
なんか最近忙しい上に、今回の話は難産でした。
それではどうぞ


『Shoot』

 

キョウのデバイスから撃ちだされた魔力弾がガジェットを貫き、さらに数体のガジェットのコアを砕いた。

爆発するそれらを傍目に次の標的に照準を合わせるが、その照準を躱すような機動を取ったガジェットに首を傾げる。

 

「なんだ……?」

 

ガジェットの動きの変化を疑問に思いながらも、すぐに修正し魔力弾を発射。

今までと同じように、狙いをつけたガジェットを撃ち抜くはずだったそれは、別のガジェットからの砲撃に叩き落された。

 

「何……ッ!?」

 

魔力弾を撃ち落す、などというただの機械であるガジェットがやったことに驚く。

魔力弾を撃ち落したガジェットを一発ではなく、三発の魔力弾で三方向からの射撃で撃ち落とし、周囲を見回す。

 

「どういうことだ……?」

 

彼の視界に映ったのは、今までの動きなどとは比べ物にならないガジェットだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「でぇぇいッ!!」

 

同時刻、ゆりかごの動力炉を目指して通路を進むヴィータもまた、ガジェットの変化に気が付いていた。

だが、今の彼女にはそのことを考えている暇も理由もなかった。

振り下ろされたグラーフアイゼンが、ガジェットⅣ型の鎌を打ち砕く。

 

(反応が早くなってやがる……がッ!)

 

「それがどうしたッ!!」

 

『explosion』

 

アイゼンに魔力が送られ、その姿を変え、後部にブースターが、先端にスパイクが展開される。

 

「悪いが、てめえらにこれ以上時間かけられねえ。

 速攻でぶち抜くッ!」

 

ヴィータは、雄叫びを上げながら、ガジェットの中へと飛び込んでいった。

 

 

 

 

 

「クッ……!」

 

迫りくる拳をレイジングハートで受け流す。

だが、ヴィヴィオは受け流された勢いのまま回し蹴りを放ってくる。

それを咄嗟に張った障壁で受け止めるが、魔力によって強化された蹴りはなのはの身体を容易く吹き飛ばした。

 

「ヴィヴィオ……!

 お願い……、目を覚まして……ッ!!」

 

「目標、依然抵抗の兆し有り。

 戦闘パターンSにて排除行動続行」

 

「ヴィヴィオッ!!」

 

 

 

 

 

 

「どういうことよ、これはッ!?」

 

彼女がそれに気づくのは必然だった。

ゆりかごの中心部、システムの根幹をなす部屋。

そこでクアットロはゆりかご内部と周辺のガジェットの操作を担当していた。

だが、それが彼女の制御を離れた。

具体的に言うと、なのはが玉座の間に突入した直後から。

 

ヴィヴィオ(陛下)の身体情報が更新されて……!

 システムエラーッ!?」

 

クアットロは鍵盤型のキーボードを目にもとまらぬ速さで叩き、様々な情報が映し出されるモニターを凝視した。

そして、一つの結論に至った。

 

「ゆりかごのシステムが、陛下の意識を操ってる……!?」

 

その考えに至った直後、彼女は自分のとるべき行動を始めていた。

 

「そう言うこと……!

 いいわ、やってやろうじゃないの……ッ!!」

 

彼女は、かけていたメガネを取り、目の前に浮かぶモニターに集中する。

クアットロの誰にも知られることのない戦いが始まる。

 

 

 

 

 

 

 

 

スカリエッティは椅子に座りながら、部屋の扉が叩き切られるのを見て笑みを浮かべ拍手を送る。

 

「スカリエッティ……ッ!」

 

「ブラボーだよ、フェイト・テスタロッサ君?

 僕の予想よりも数分早かった」

 

スカリエッティは扉を切り裂いたフェイトに向けてそう告げるが、フェイトはスカリエッティに警戒の視線を向けるだけで何も答えなかった。

そんな彼女に対してスカリエッティは肩を竦める。

 

「さて、せっかくご足労いただいたところ悪いけど、少し話を聞いてもらうとしよう」

 

「……話なら、然るべき場所で話してもらう!」

 

フェイトはバルディッシュを構えてスカリエッティに向けて飛び出すが、スカリエッティが指を鳴らすと同時に、彼女のすぐ真下から真紅のエネルギーで構成された縄が彼女とバルディッシュを絡め取る。

 

「私は話を聞いてくれ、と言ったんだよ。

 すぐに終わるから、そこでじっとしておいてくれ」

 

フェイトが縄をほどこうともがくが、さらに追加で彼女の身体に縄が巻き付く。

 

「くッ……!」

 

「さて、ようやく落ち着いて話すことができる。

 おっと、その前に……」

 

スカリエッティがモニターの一つをフェイトの方へと飛ばす。

フェイトは目の前に差し出されたモニターを怪訝な表情で見つめるが、そこに映っていた内容を理解すると同時にその顔には驚きが浮かんでいた。

 

「これは……!」

 

「さすがは現役の執務官。

 一目見るだけで理解するとはね」

 

「どういうことだ、スカリエッティ……ッ!」

 

フェイトは目の前に座る男と、今まで自分が追ってきていた人物。

その二つが同一のモノだとは思えなくなっていた。

 

「これに載っていることは……!」

 

「すべて、本当のことだ。

 この十数年、私が突き止め、潰してきた違法研究所の場所、研究目的、成果。

 そのすべてのデータだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「来たか、ゼスト」

 

「アポなしですまんな、レジアス」

 

一方、地上本部ではレジアスとオーリス、オーリスの補佐役である女性が来るべき来客を待っていた。

そして、司令室の扉がゆっくりと開かれ、ゼストとアギトが部屋へと入ってきた。

最も、レジアス自身が彼と会うつもりでいたため、ゼストたちは抵抗という抵抗を受けずにすんなりと司令室までたどり着くことができた。

 

「お父さん……!」

 

「オーリス、少し待て」

 

レジアスは、今にも飛び出しそうなオーリスを制する。

 

「オーリスは、お前の副官か?」

 

「あぁ、優秀だよ。

 それで、ここに来たということは」

 

ゼストはアギトを下がらせて、レジアスの前まで歩いて行く。

 

「俺が聞きたいことは一つだけだ。

 お前の正義は、どうなっている」

 

「私の正義は今も昔も変わらん。

 ミッドの平和を守る、それだけだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「少し、昔話をしよう」

 

 

 

 

 

 

 

 

ミッドチルダとは別の世界。

そこに一人の男がいた。

男は、一言でいえば天才だった。

一を聞くことで十を身に着ける。

そんな男だった。

そんな彼には一つの望みがあった。

 

『人の役に立ちたい』

 

ごく普通の願いだった。

そして、男はその願いを叶える。

初めて世に出したものは、所謂介護用の補助機械だった。

男は、自分の作ったモノが、人の役に立ち、喜びの声を上げさせることができたことがうれしかった。

 

男は、見ず知らずの他人の喜びの声を聞きたいと次々に新たなものを作り出した。

そして、そのすべてが多かれ少なかれ、笑顔を生み出していた。

 

だが、いつの世にも、人の笑顔を作れるものを悪用する者はいた。

男の創りだした介護ロボットは、自立兵器のもととなり、伝染病の予防のためのワクチンは、化学兵器へと転用された。

 

男の創りだしたものが、人々から笑顔を奪う。

それでも、彼はモノを創り出すことをやめなかった。

笑顔が見たいから。

それだけの理由で、様々なものを創り出す。

 

しかし、彼は知ってしまった。

自分のいる世界。

それとは別の世界があるということを。

そして、それを遠くない未来、この世界の人々が見つけるであろうことも。

 

すでに、彼の世界には破滅が広まっていた。

そして、その破滅の波は放っておけば、世界の壁を超える。

 

彼は一つの決断を下す。

 

多くの世界を守るために世界を壊すことを。

 

彼の目論み通り、世界は滅びへの道を一気に駆け降りた。

彼はその世界の技術が外へと漏れ出さないように、狭間を作り上げる。

そして、その罪を受け入れ、その生涯の幕を下ろした。

 

 

 

 

 

だが、人というものは彼の想像以上に欲が深かった。

彼が作り出した狭間を超えて、その世界に降り立つ者がいた。

そして、彼の遺伝子情報を入手し、新しい彼を創り出したのだった。

 

 

 

 

 

「まぁ、彼らにとって、予想外だったことは、彼の記憶にこびりついたものだろうね」

 

 

人の笑顔を守る。

現代によみがえった彼――――ジェイル・スカリエッティの根っ子にあるもの。

それだけが、彼を突き動かしていた。

 

「だが、私にも失敗はあった」

 

 

 

 

 

「お前たちが突入した違法研究所。

 あの時、その場所でスカリエッティの生み出した戦闘機人とガジェットの性能試験という名の研究所の破壊が行われていた」

 

「どういうことだ……?」

 

「私がお前たちの隊の行動を押さえようとしていたのは、お前たちが調べ上げた場所のほとんどが、スカリエッティが潰す予定の研究所だったということだ」

 

 

 

七年前、ゼスト率いる首都防衛隊の全滅。

その真相は、研究所での破壊活動を行っていたガジェットが、突入してきたゼスト隊の隊員を攻撃目標だと誤認したためだった。

攻撃を受けた局員は、すぐさまガジェットへの迎撃を開始。

だが、高濃度のAMFの中でまともに戦える魔導師はその当時はほとんどいなかった。

結果、ゼストをはじめとしたゼスト隊は、その時別任務での怪我の治療で隊を離れていたミルズを除き全員がMIAと判定された。

 

 

 

「じゃぁ、スバルやギンガのお母さんたちは……!」

 

「私のミスだ。

 彼らが突入してきた直後に、ガジェットの緊急停止を行ったが、間に合わず、命に関わるほどの傷を与えてしまった。

 今は、別の世界で治療し終えているところだ。

 もっとも、それで償いができるとは思っていないがね」

 

「…………スカリエッティ、いくつか聞かせてもらう。

 あなたの目的はいったい何だ?

 ヴィヴィオを攫い、ギンガを狙った理由は?」

 

「単純な話だよ。

 君たちが保護した少女。

 ヴィヴィオと言ったかな。

 彼女の身体が酷く不安定だったためだ」

 

「不安定……?」

 

「プロジェクトF。

 彼女はそのなりぞこないの研究で生み出されたんだ。

 だから、その身体は普通の人間以上に脆い。

 下手をすれば、十年も生きられない身体だったんだ」

 

「そんな……!?」

 

「だから、レリックと聖王のゆりかごが必要だったんだ。

 聖王のゆりかごは、その名の通り、聖王をコアとして起動する兵器だ。

 だからこそ、ゆりかごは聖王の身体を万全なものに整える機能がある。

 その機能を使えば、ヴィヴィオの身体も直すことは可能だった」

 

「それじゃあ、ヴィヴィオは……!」

 

「恐らく、高町なのはが救い出していれば大丈夫なはずだ。

 さて、次に、ギンガ・ナカジマの方だが。

 君は、彼女とスバル君が戦闘機人だということは知っているだろう?」

 

「あぁ……」

 

「なら、ギンガ君が始まりの戦闘機人だということは?」

 

スカリエッティの言葉に対してフェイトは首を横に振る。

 

「彼女は、戦闘機人として初めてまともに生きることができた初めての個体なんだ。

 スバル君をはじめ、僕の娘たちも彼女のデータを基に生み出された。

 だけど、それは裏を返せば彼女は……言い方は悪いかもしれないが、『試作機』ということなんだ」

 

「試作機……?

 それがなんでギンガを攫おうとした理由になる?」

 

「試作機ってのはね、どこか不具合がないかなどの問題点を見つけるために作られる物だ。

 そして、彼女にもごくわずかだが、その欠陥が見つかった。

 小さいものだが、それが原因でギンガ君の全身に負担がかかって、彼女の人としていられる時間はほとんど残されてはいなかったんだよ」

 

「なッ……!?」

 

フェイトは彼の言うことに、言葉を失う。

つまり、今も戦闘中のギンガは、無理しているということなのか?

そんな考えが彼女の頭に浮かんだとき、スカリエッティは静かに、だがしっかりと答えた。

 

「心配しなくてもいい。

 本当は彼女の身体を直接治療するつもりだったんだが、それは止められてね。

 腹案として考えていた、管理局で僕が一目置いていた人物にそれを頼んでおいた。

 彼が私の送ったデータをちゃんと見てくれたならば、彼女の身体については心配ないよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お前はなぜスカリエッティと手を組んだ?

 奴が、たとえ違法研究所を潰しまわっていたとしても、犯罪者として手配されていたことはお前も知っていただろう?」

 

「簡単なことだ。

 奴と直接会って、奴の目が嘘を言っていたなかった。

 それだけのことだ」

 

それに、と言葉を続ける。

 

「奴が昇華させた戦闘機人のシステムは、他にも応用が利く」

 

「どういうことだ……?」

 

「お前も地上の局員として働いていたなら分かるだろう?

 地上の戦力は本局に比べて少ない。

 それを無理して回しているんだ。

 局員の中から腕や足を失う者も多く出ている。

 そんな連中に、対してトップとしてやれるのはそう言うことだけだ。

 戦闘機人としてではなく、義手義足の代わりとして奴に作らせてもいる」

 

レジアスの言葉に覚えがありすぎるゼストは、彼女の答えを聞いて深くうなずいた。

彼女の言ったことは、彼にとってもどうにかしてやりたいと思っていたことでもあったからだ。

 

 

 

 

 

 

「スカリエッティ、貴方の目的はいったい……?」

 

「最後に聞かせろ、レジアス。

 お前の正義とはいったい何だ?」

 

 

 

 

「決まっているよ。

 人々の笑顔を守る。

 それだけだよ」

 

「ミッドの平和だ。

 私の正義は最初から最後までそれ一つだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(アレ……?

 そっか、あたしは……スバルに負けたんだ……)

 

ノーヴェは水の中にいるような浮遊感の中で、ぼんやりとした意識の中でそう考える。

 

(人として、か……。

 あたしは焦ってたのかな……?)

 

ノーヴェは一人、考える。

彼女にとっての、思い人である彼に言われたことを。

 

(まぁ、ドクターの目的はほとんど達成したも同然だし。

 ゆっくり考えていけばいいか……)

 

ノーヴェは、自分の意識が深いところから浮き上がるのを感じる。

そして、彼女の視線の先に、明るい光が照らし込む。

 

(まったく、スバル(あいつ)には気付かされてばっかりか。 

 帰ったら、礼ぐらい言わないと……)

 

そして、彼女はそれに手を伸ばした。

 

―――ドロリ―――

 

(―――ッ!?)

 

そして、彼女腕に、何かが巻き付いた。

それは熱く、苦しいという感覚を、ノーヴェの脳に直接叩き込んでくる。

 

(な、んだよ、これッ!?

 く、そッ!!

 離れろ……ッ!!)

 

ノーヴェは腕を振るい、それをはらい落とそうとした。

だが、それは彼女の腕から離れるどころか、腕を伝って、肩、胸、足と広がり、そして彼女の顔にまで達しようとしていた。

 

(熱い、苦しい、熱い、苦しい、熱い熱い熱いアツいアツい熱いアツイアツツアツ―――――ッ!!)

 

彼女の思考はそこで途切れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




ほとんどセリフでしたね……。
さて、今回はスカリエッティとレジアスの暴露話。
彼らの考えていることを全部出したんですが、どこか無理があるかもしれません。
まあ、そこは原作愛でってことで。

ゆりかごが聖王の身体を云々のところはオリジナルですので悪しからず。


そろそろクライマックスに向けて走り出したいんですが、リアルで忙しくなるので更新は少し遅くなるかもしれません。
ご了承ください。
それではまた!


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ティアナルート 第三十三話

静寂が部屋を満たす。

すべてを話し終えたレジアスと、彼女の決意を聞き届けたゼストはどちらも口を開くことはなかった。

だが、内線の呼び出し音が静寂を切り裂いた。

 

「私だ。

 ……あぁ、わかった。

 すぐに向かう」

 

受話器を少々乱暴に置き、レジアスは立ち上がった。

 

「レジアス……」

 

「悪いが、お前と話せる時間は終わりだそうだ。

 私はこれから地上の指揮を執る」

 

「そうか……ッ!」

 

「旦那ッ!」

 

レジアスが彼の傍を通り過ぎた時、ゼストの身体が大きくふらついた。

何とかデバイスを杖代わりに膝を着いたが、倒れるのを免れた。

 

「そんな身体では無理はできんだろうな。

 オーリス」

 

「は、はい」

 

「この馬鹿を医務室に連れていってやれ」

 

「レジアス……?」

 

レジアスの言葉に眉を顰めるゼスト。

それもそうだろう。

先ほどまで、彼は彼女たち管理局と敵対行動をとっていた。

そんな彼を拘束するわけでもなく、医務室に連れていくなど普通では考えられなかった。

 

「お前にはこの騒動の後にたっぷり働いてもらうからな。

 こんなところで潰れてもらっては困る」

 

「しかし……」

 

ゼストには彼女の言葉に素直に頷くことができなかった。

それも彼が騎士としての精神を持っているからだろう。

 

だが、レジアスはそんな彼にはお構いなしに彼の腕を掴み彼の身体を引き上げる。

 

「グダグダ言うな。

 今まで私とオーリスを心配させた罰だ。

 大人しく医務室で治療を受けろ」

 

「む、むぅ……」

 

彼女の、ゼストの妻としての言葉に彼は今度こそ折れるしかなかった。

そんな彼にオーリスは静かに肩を貸す。

 

「いいかオーリス。

 しっかりとつかんでおけ。

 今度は逃がさんようにな」

 

「はい」

 

オーリスは短く答えて、ゼストとともにその場を後にした。

そんな彼らの後を追ってアギトが飛んでいこうとしたが、彼女の身体をレジアスが掴んだ。

 

「ちょっと待て、ちんちくりん」

 

「なにすんだよ……!

 てか、ちんちくりんって何だ!!」

 

「お前にはやってもらうことがある」

 

アギトは彼女のいうことに心当たりがなく、首を傾げるだけだったが、その直後に司令室に入ってきた人物を見て、彼女の言わんとすることを理解した。

 

「ご無事でしたか、レジアス中将」

 

「無事も何も、危害を加えるために来たわけではなかったがな」

 

レジアスは、来訪者―――シグナムに向けてアギトを放り投げる。

放り投げられたアギトだったが、シグナムにぶつかる前に体制を整えた。

 

「お前は彼女と一緒にガジェットを落としてもらう。

 スカリエッティからの資料によると、お前と彼女の相性は抜群だそうだからな」

 

「……旦那は、どうなる?」

 

「アギト……」

 

「心配するな。

 ここの医者は優秀だ。

 しっかりと治してくれるだろうよ」

 

彼女の言葉に渋々ながらも頷き、アギトはシグナムの傍まで飛んでいく。

 

「来てもらってすぐですまんな、シグナム二尉。

 悪いが、そこのちんちくりんに言った通りだ。

 ガジェットの排除、頼めるか?」

 

「了解です。

 では、失礼します」

 

シグナムは、見事といえる敬礼をレジアスに向け、アギトを伴いすぐに司令室を後にする。

そんな彼女たちを見送ったレジアスは一度大きくため息を吐き、言葉を紡いだ。

 

「それで、お前はどうする?

 戦闘機人No.2、ドゥーエ?」

 

「お気づきになられてましたか」

 

「当たり前だ。

 私を誰だと思っている」

 

レジアスはそう言いながら振り向く。

その先には、金色の長髪を手で払いながら微笑む美女が立っていた。

 

「それで、どうします?

 私も逮捕しますか?」

 

「そうだな……。

 逮捕はあとだな。

 この騒動が終わるまでは、私の補佐を任せる」

 

試すような笑みを浮かべていたドゥーエは、彼女の言葉を聞いて目を丸くして驚いていた。

 

「悪いが、管理局は人手不足だ。

 優秀な奴を遊ばせる余裕はないのでな」

 

「はぁ、ドクターとはまた違うタイプの天才ですね、これは……」

 

ドゥーエの呟きは、誰にも聞かれることはなかった。

 

 

 

 

「私だ。

 今現在を持って、特務一課の任務を変更する。

 新たな任務は……」

 

 

 

 

 

 

 

 

「聞いたな、これより特務一課は任務を変更。

 ゆりかご周辺の掃除に向かう」

 

 

 

 

 

 

「蹴散らせ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ハァッ!!」

 

「てえぃッ!!」

 

拳と剣、斬撃と打撃。

閃光と爆音がビルを傷つける中、ギンガとディードは互いに紙一重の戦いを続けていた。

 

ギンガの拳をディードが肘を使って受け流す。

拳を放つという隙を突いたディードの剣がギンガの腕を掠める。

腕を走る痛みに顔を顰めるギンガだったが、即座に彼女の身体を蹴り飛ばす。

 

「ちっ……!」

 

「ハァ……ハァ……」

 

地面に剣を突きさし、勢いを殺したディード。

そんな彼女を見ながら、ギンガは己の身体に違和感を感じていた。

 

(やっぱり、まだ完調じゃなかったかな……。

 でも……)

 

「ふっ……!」

 

(負けるわけにはいかないッ!!)

 

一瞬でギンガを自分の間合いに捉えたディードは、両手の剣を横に振るった。

その一撃は、ギンガの意識を刈り取るほどの威力を秘めた必殺の一撃。

 

「な……ッ!?」

 

だが、その一撃はギンガには届かなかった。

横薙ぎに振るわれた剣は、ギンガの肘と膝に挟まれ、砕け散っていた。

戦闘機人としての、反射があればこその芸当だった。

 

「ごめんね、少し痛いかもッ!!」

 

『Knuckle Bunker』

 

ギンガの左腕のナックルから二発の薬莢が装填される。

距離を取ろうとしたディードの左腕を右手で掴み、動きを止める。

そして、魔力を纏った、一撃が放たれた。

 

 

 

 

 

「ハァ……ハァ……」

 

ギンガは、ちょうど反対側の壁に叩き付けられたディードが、起き上がらないのを確認して大きく息を吐いた。

ここ一番の大勝負に勝った。

その事実が、彼女からある一つのことを忘れさせていた。

そう、彼女の相手は、一人ではないということを。

 

 

『マスターッ!!』

 

「―――ッ!?」

 

緊張の糸が切れていたギンガは、ブリッツキャリバーからの警告に一瞬遅れて反応する。

そんな彼女の視界に映ったのは、緑色のエネルギー弾だった。

 

「クッ……!!」

 

エネルギー弾が爆発する直前にその場を飛び去ったギンガだったが、エネルギー弾は続々と彼女に迫ってくる。

そして、そのうちの一つが、痛んだビルの柱を吹き飛ばした。

それは必然だった。

 

先ほどまでの戦いで、彼女のいるフロアはいつ崩れてもおかしくない状態だった。

そんな中、柱の一つが砕かれたことで天井が崩落しギンガの左腕と脚を鉄筋が挟み込むのも必然だった。

 

「……ッ!」

 

「ようやく捉えた」

 

何とか鉄筋をどかそうともがくギンガだったが、そんな彼女の目の前にエネルギーを手のひらに集中させたオットーが舞い降りてくる。

 

「これで、終わりにする。

 ディードも助けないといけないし……」

 

オットーの手から閃光が放たれる。

だが、その閃光はギンガの右手に弾かれた。

 

「な……ッ」

 

「ねぇ、貴女。

 オットーって言ったかしら?」

 

オットーは即座にエネルギーを収束させるが、それよりも早く、ギンガの右手が彼女の方に向けられる。

 

「こんなこと、聞いたことないかな?」

 

オットーは、向けられた右手からの反応を捉えた。

だが、同時にありえないという思いも抱いた。

そのエネルギー反応は、どこまでも自分のIS(もの)と酷似していたから。

 

「できる女ってのはね……。

 隠し玉持ってるのよ……ッ!」

 

そして、オットーの顎を撃ち抜いた。

 

 

「痛ぅ……!」

 

オットーの意識を刈り取ったことを確認することすらも忘れて、ギンガは何とか抜け出した左手で右肩を押さえる。

押さえた右肩からは火花が上がっており、周囲に焦げくさい臭いを撒き散らしていた。

 

「やっぱり、ちょっと無理があったかな……ッ!」

 

そう、彼女がオットーに向けて行ったエネルギー放射は、本来の使い道にはないものだった。

そして、本来の使用方法にないものを使った場合のモノの末路は決まっている。

 

「この腕も、もうダメかな……?」

 

申し訳なさそうにギンガは呟く。

だが、彼女の表情は次の瞬間、凍り付いた。

彼女のいるビルが崩れ始めたのだった。

今まで周囲に結界を張っていたオットーが意識を失ったために、結界が消え去り、ビルの崩壊が始まったのだった。

 

「ク……ッのぉ……!」

 

片手で鉄筋を持ち上げ何とか抜け出そうとするが、鉄筋はビクともしない。

そして、彼女の丁度真上の天井が崩れた。

 

(ッ……!!)

 

崩れてきた天井、ギンガにはそれがゆっくりと映っていた。

頭を左手で庇おうと、掲げる。

 

(アレ……?)

 

死を覚悟したギンガだったが、いつまでたっても、天井が落ちてこないのを不思議に思い、瞑っていた瞼をゆっくりと開いた。

 

「間に合ったようだな」

 

そこには立派な褐色の筋肉があった。

天井を受け止め、彼女を救ったのは、立派な犬耳を持った男―――ザフィーラだった。

 

「ザフィーラさん……?」

 

「あぁ、間一髪といったところだったな」

 

ギンガの脚を挟んでいる鉄筋を持ち上げ、彼女を救い出したザフィーラは周囲の状況を確認する。

 

「これは、すぐに出ないとまずいな。 

 シャマル、戦闘機人とギンガの回収を頼む」

 

『わかったわ、座標の特定に少しかかるから、それだけ持ちこたえて』

 

「承知した」

 

念話での指示を受けたザフィーラは腕を交差させて、床に叩き付ける。

 

「縛れ、鋼の軛ッ!!」

 

彼の声とともに床や壁から拘束条が崩れかけていたビルを受け止める。

だが、すでに限界を超えていたため、揺れは少しずつ激しくなっていた。

 

「シャマルッ!」

 

『了解ッ!』

 

ギンガたちはその場から転送される。

彼女たちが去った直後、ビルは跡形もなく崩れ去った。

 

 

 

 

 

 

 

 

ガジェットの動きが変わった。

その報告を受けたキョウは、周りの魔導師を下がらせ、一人で周囲のガジェットを撃ち落していた。

しかし、ゆりかごも一人でかなりの数のガジェットを落としているキョウを外における最大級の脅威だと認識したのか、彼の周囲には彼が撃墜した以上の数のガジェットが集結していた。

 

「シュートッ!!」

 

今もまた、キョウの構えた杖の先から放たれた誘導弾が次々にガジェットのコアを的確に撃ち抜く。

それでも、ガジェットはひるむことなく彼に向けてレーザーやミサイルの嵐を放つ。

 

「くそッ、数が多すぎる……ッ!」

 

『警告、六時方向、敵機三十』

 

迫りくるレーザーの雨を隙間を縫うように回避し、ミサイルの嵐を砲撃で風穴を開けることで抜け出す。

だが、敵の攻撃を回避した彼の行動を予測したガジェットが即座に彼の背後から攻撃を仕掛けようとする。

 

「チィ……!」

 

振り向く暇がないと直感で感じたキョウは、左手の杖を脇に差し込み後ろへ砲撃を放とうとする。

 

「サイス」

 

『コピー、バルディッシュ』

 

だが、彼が砲撃を放つよりも先に、真紅の刃がガジェットを切り裂いた。

 

「教官生活で鈍ったか、キョウ・カーン」

 

「誰が鈍ったって、イングレット・ミルズ」

 

真紅の鎌を持って彼の前に現れたのは、特務一課の部隊長であり、訓練校時代の彼のパートナーであったイングレット・ミルズだった。

キョウはミルズの言葉に頬を引き攣らせながらデバイスを肩に担ぐ。

 

「お前だ。

 訓練校時代のお前ならこの程度、どうということはなかっただろう」

 

「言ってくれるなぁ……おい。

 だったら、此処で勝負つけるとするか?」

 

「いいだろう。

 お前との勝負は訓練校時代には決着がつかなかったからな。

 ここで白黒つけるか」

 

互いにガジェットの警戒をしながらも、二人は久しぶりに会えたパートナーとの会話を楽しんでいた。

 

「負けた方は奢りだ」

 

「いいだろう。

 どちらが多く潰すか、でいいな」

 

「おう」

 

二人は合図も無しに互いの背後にいる敵に突っ込んだ。

そして、彼らの前に立ちはだかるものはすべて叩き落され、切り裂かれ、撃ちぬかれた。

今の彼らにとって敵はこの場所にはいなかった。

 

 

 

 

 

 

そんな彼らの活躍を遠目に見て、はやては頬を引き攣らせていた。

 

「あれ、が特務一課かぁ……。

 なんや、皆化け物みたいに強いやないか……。

 歩くロストロギアが敵わんって思うのはどうかと思うで……」

 

彼女の目の前には次々にガジェットを落としていく特務一課の隊員の姿があった。

彼らの参戦によって、戦域からガジェットが抜け出すことはなくなった。

だが、それでもゆりかごから放出されるガジェットの数の方が多く、彼らがいてようやく膠着状態に持ち込んだといったところだ。

 

「これは、やっぱり中から潰さんとあかんな。

 行こうか、リイン」

 

「はいですッ!」

 

はやての言葉に、つい先ほど辿り着いたリインが頷く。

 

「「ユニゾン・インッ!!」」

 

はやての中にリインが溶け込む。

茶色だったはやての髪は白く染まり、瞳も青色に変わっていく。

 

『魔力安定してます。

 行けますよ!!』

 

「了解や。

 ロングアーチ00、これよりゆりかご内部に突入するでッ!!」

 

最後の夜天の主が、飛び立つ。

戦いは終局へと向かいだした。

 

 

 

阻止限界点まで残り――――一時間二十五分




一言。
ギンガの右手からエネルギー放射は『アイアンマン3』を見て必ずやりたいと思ってました。
彼女の場合、アイアンウーマンになりますけど(笑)


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ティアナルート 第三十四話

「さて、私の話はこれでお終いだ」

 

スカリエッティは大きく息を吐きながら、フェイトの身体に巻き付けていた鎖を消し去った。

 

「スカリエッティ……」

 

「おっと、同情ならやめてくれたまえ。

 確かに、私の目的は人の笑顔を守るというものだったが、そのために少数とは言え笑顔を奪っていたのも事実だ」

 

フェイトが言葉を発する前に、スカリエッティは手をかざしながら彼女に言い放つ。

 

「だから、君は私を犯罪者として扱うんだ」

 

「……わかった。

 ジェイル・スカリエッティ、貴方を大規模騒乱罪並びに諸々の罪で逮捕します」

 

フェイトの言葉にスカリエッティは満足そうに頷き、彼女に一つのメモリーを手渡す。

彼の掌の上にあるメモリーを手に取ったフェイトそれをバルディッシュの格納領域にしまい込んだ。

 

「さっき送ったデータと、私の研究資料のすべてだ。

 今のメモリーと、私の頭の中にしかないものだから、君が持っていてくれ」

 

「なぜ、私に?

 レジアス中将に渡すこともできたはずだが……」

 

「そのレジアス中将が、君に預けるように言ってきたんだよ」

 

彼の言葉に、フェイトは一度だけ会った地上のトップのことを思い出しながら大きくため息を吐くのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ここか……ッ!」

 

ガジェットの群れを突破したヴィータは背中の傷から血を流しながらも、ゆりかごの動力炉に辿り着くことに成功していた。

 

「行けるな、アイゼン」

 

『もちろんです』

 

「よし、アイゼンッ!」

 

『Zerstörungsform』

 

ヴィータは肩に担いでいたグラーフアイゼンを構え、カートリッジを三発装填する。

補充された魔力が、アイゼンからヴィータへと伝わり、アイゼンの姿を破城槌(ツェアシュテールングスフォルム)へと変化させる。

アイゼンのドリルが唸りを上げ、ブースターが火を噴いた。

 

「ウラァァアァッ!!」

 

ヴィータの小柄な体からは考えられない力で振るわれたアイゼンは、動力炉を守る障壁に阻まれるが先端に装着されたドリルが唸りを上げて障壁を削る。

短時間の膠着とともに、アイゼンと障壁の間で爆発が起こる。

爆発の衝撃によって吹き飛ばされたヴィータは体制を整えながら動力炉を睨む。

 

『危険な魔力反応を探知。

 防衛プログラムを作動、非戦闘員は動力炉へ続く通路から退避してください。

 繰り返します……』

 

「ちっ……。

 やっぱ簡単には行かねぇか……」

 

ヴィータは煙の中からその無傷の姿をさらす動力炉と、彼女との間に現れる防衛砲台を見て舌打ちを一つ。

その瞬間、彼女に砲口を向けた防衛砲台から砲撃が放たれた。

砲撃から生じた煙に彼女の姿がかき消される。

 

「だったら、何度でもやるだけだ!!

 アイゼンッ!!」

 

『了解』

 

「ぶっ潰すッ!!」

 

背中から感じる熱い痛みを堪えながら、ヴィータは砲台の群れの中へと突っ込んでいった。

 

 

 

 

 

 

 

「戦闘パターン、S34」

 

「ヴィヴィオ……ッ!」

 

ヴィヴィオの身体から虹色の魔力が溢れ出す。

その魔力は彼女の右腕に収束し、螺旋の回転を始める。

 

「あれは……ッ!」

 

「アクティブ」

 

彼女の右手の魔力を見て、なのはが目を見開く。

その直後、ヴィヴィオが静かな声とともに接近し右腕を突きだす。

だが、その一撃はなのはを穿つことはなかった。

 

『Restrict Lock』

 

「捕まえたッ!!」

 

螺旋回転する魔力の塊は、なのはの顔のすぐ横の空間を貫いていた。

間一髪、その一撃を避けたなのはは、レイジングハートが最速で発動させたバインドが解ける前にヴィヴィオの身体にレイジングハートを突きつける。

 

「シュートッ!!」

 

『Short Buster』

 

放たれた砲撃は、ヴィヴィオの身体を守る『聖王の鎧』に阻まれ彼女の身体に直撃することはなかったが、彼女となのはの距離は離れた。

未だにバインドをほどくことに意識を向けているヴィヴィオを警戒しながらなのははレイジングハートに話しかける。

 

「レイジングハート、あれをやろうか」

 

『身体への負担は?』

 

「ヴィヴィオを救うためだもの、考えていられないよ」

 

『了解です』

 

レイジングハートの言葉とともに、マガジンに残っているカートリッジのすべてを装填する。

愛機に魔力が充満したことを確認したなのはは、大きく息を吸って……

 

「ブラスター『ちょっと待ったーッ!!』ワンッ!?」

 

驚きの声とともに彼女の身体に魔力が流れ込んできた。

なのはは、いきなり大声で叫んできた彼女―――クアットロを睨みつけた。

 

『あらら~、ちょっと遅かったか~』

 

「貴女はッ!!」

 

なのはは目の前のヴィヴィオに警戒しながらモニターに映るクアットロに言葉を投げつけようとするが、クアットロが手をかざしてそれを止めさせる。

 

『すみません~。

 こっちにも時間がないので、簡潔にお話しします』

 

「……」

 

『沈黙は肯定と受け取るわよ。

 今の彼女、ヴィヴィオはゆりかごのシステムに囚われてる』

 

「囚われてるもあなたたちがッ!!」

 

『こっちにも想定外だった。

 だから少し時間をちょうだい』

 

「そう言われて信用するとでも……?」

 

『彼女の意識をシステムから切り離す。

 だけど、それだけだと確実じゃない。

 そこであなたに彼女を直接止めてほしい』

 

「……何分でできる?」

 

『五分……いや、三分でやれる』

 

「なら、早く。

 こっちにも余裕はないから」

 

彼女の言葉にクアットロは返事も無しにモニターを切った。

 

「さてと、ヴィヴィオを助ける算段も付いたし、もう一頑張りしようか」

 

『了解です、マスター』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

なのはとの通信を切ったクアットロは、ゆりかごの中枢で大小さまざまなモニターを映し出す。

 

「さてと、大口叩いたからには、ちゃんとやらないとね……!」

 

彼女は、そう言いながら鍵盤型のキーボードの上に指を置いた。

 

「まずはシステムの中枢に潜り込む……!

 抜け穴を探せ、どんなに頑強な城にも隙はある。

 抜け穴、抜け道、どんな隙も逃すな……。

 隙のできたところから一気になだれ込め……!」

 

目にもとまらぬ速さで鍵盤を弾く指と、すべてのモニターをしらみつぶしに見るために動く目。

その二つが、たった一つの、抜け穴を見つけた。

 

「見つけたッ!!」

 

その隙を逃すクアットロではなかった。

その穴を一瞬だけ広げ、システムの中に入り込む。

 

余談だが、システムの抜け穴の原因が動力炉の防衛へとリソースを割かれたためだった。

 

「さぁ、ここからが本番。

 クアットロの織り成す電子の嘘と幻のショーの開幕よッ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

廃ビルが立ち並ぶ廃棄都市区画で、二匹の召喚獣がぶつかり合う。

白い召喚虫―――白天王と、黒い召喚獣―――ヴォルテール。

二匹の規格外の召喚獣は、その余波を撒き散らしながら戦いを繰り広げていた。

 

白天王が腕を振るえば、ヴォルテールはその腕を受け止める。

巨大故に動きは緩慢だが、その行動だけで彼らの周囲のビルはその余波を受けて吹き飛ぶ。

そんな中、キャロは目の前のルーテシアに呼びかけていた。

 

「もうやめて、ルーちゃん!!

 あなたのその感情は、全部召喚獣(あの子)たちに伝わって、あの子たちまで傷つける!!」

 

「あなたたちには、守ってくれる人、大切な人が隣にいるからそう言える……!!

 私は、もう一人はいや……ッ!!

 寂しいのはもう嫌なのッ!!」

 

だが、キャロの言葉は、彼女の心には届いていなかった。

今の彼女の心を占めるのは、寂しい思いをしながら生きてきた記憶。

そして、その寂しさを埋めてくれる存在、母親であるメガーヌの目を覚まさせる邪魔をする彼女たちに対する怒り。

その二つが、白天王やガリュー、地雷王、インゼクトに伝わり暴走と言っていいほどの力を出していた。

 

「邪魔をしないでッ!!」

 

「ッ、ケリュケイオンッ!!」

 

『Boosted Protection』

 

キャロはルーテシアが放った魔力による衝撃波を障壁で防ごうとするが、彼女の想定以上の威力を持ったそれを完全に相殺することはできなかった。

衝撃波によって撒き散らされた土煙の中で、キャロは一つの決断を下すことにした。

 

「ケリュケイオン、行くよ。

 我が乞うは、疾風の翼。

 我に駆け抜ける力を」

 

『Boost Up Acceleration』

 

ケリュケイオンから桃色の魔力が彼女の身体を包み込む。

キャロはさらに言葉を紡ぐ。

 

「我が乞うは、城砦の守り。

 我に清銀の盾を」

 

『Enchant Defence Gain』

 

さらに桃色の魔力が彼女の腕に纏わり、桃色から赤く輝きはじめる。

 

「猛きその拳に、力を与える祈りの光を」

 

『Boost Up Strike Power』

 

ダメ押しとばかりに、ケリュケイオンが輝き、彼女の魔力が拳を優しく包み込んだ。

 

「行くよ、ルーちゃんッ!」

 

煙が晴れると同時にキャロはその場を駆け出した。

ルーテシアはそれに反応してダガーを射出するが、キャロは自己ブーストによって強化されたスピードでそのダガーの隙間を縫ってルーテシアに迫る。

 

(スバルさんに教わった、たった一つのこと……ッ!)

 

ダガーを凌いだキャロは防御の強化を行った腕を顔の前で構えてルーテシアの放った魔力放出の中に突っ込む。

 

 

 

 

 

 

『いいか、キャロ。

 後方支援(フルバック)と言っても、絶対に敵と真正面から戦わないなんてことはない』

 

『いざってときのために、接近戦で一番大事なことを教えておく。 

 相手も支援魔法を主軸にしている魔導士の時限定だが、何とかなるはずだ』

 

『大事なのは、飛び込みと、間合いと……』

 

 

 

 

 

 

「飛び込みと間合いと……ッ」

 

「―――ッ!?」

 

ルーテシアの放った魔力放出の波の中から飛び出したキャロが彼女の懐に飛び込む。

 

『「気合だッ!!」』

 

ルーテシアの間合いの内側に入り込んだキャロは、その拳を思いっきり彼女に叩き付ける。

キャロの拳が届く前に、ルーテシアは障壁を張ったが、強化を施されたキャロの拳はその壁を容易く打ち砕き、ルーテシアの腹部に辿り着いた。

 

「ケリュケイオンッ!!」

 

Magic absorption(魔力吸収)

 

キャロの言葉とともにケリュケイオンが接触部からルーテシアの魔力を吸い出す。

すでにかなりの魔力を消費していたルーテシアは、急激な魔力流出によって、その意識を深く閉ざした。

 

「ルーちゃん……」

 

意識を失い倒れ込む彼女の身体をキャロは優しく抱き、そっと床へと寝かせた。

そして、ルーテシアの意識が失われると同時に、白天王や地雷王、インゼクトは沈黙した。

 

「エリオ君は……!」

 

 

 

 

 

 

キャロとルーテシアの戦っていた場所から少し離れた場所で、黄色と紫の光が交差する。

 

「もうやめるんだ、ガリューッ!!」

 

「……………ッ!!」

 

ビルの上に降り立ったエリオはストラーダを構えながら目の前のガリューに叫び続ける。

だが、ガリューはエリオに向けてその腕の刃を向ける。

 

「クゥ……!」

 

「―――ッ!!」

 

ガリューからの攻撃を何とか捌くエリオだったが、彼はガリューの動きに違和感を感じていた。

先ほどからガリューの動きが鈍っている。

具体的には、周囲から聞こえていた雷の音が鳴りやんだころから。

 

「ガリュー、君はッ!」

 

「―――――ッ!!!!」

 

エリオがたどり着いた一つの可能性。

それは彼がルーテシアからの魔力を受け取っていないということ。

魔力による補助が無くなって、彼の動きは一瞬だけ鈍っていた。

だが、それをガリューは自分の命を削り取って身体能力を上昇させている。

 

「もうやめるんだ、ガリューッ!!

 このまま戦い続ければ、君はッ!!」

 

エリオが必死に呼びかけるが、ガリューはそれを聞こうともしない。

それどころか、さらに自分の身体から触手や刃を生み出し、雄叫びを上げる。

 

 

ガリューの胸の内には、一つの思いだけ存在していた。

主であるルーテシアの笑顔を自分では生み出せない。

それを彼は理解していた。

ならば、彼女に幸せを感じてもらうためには何をすればいいのかを彼は考えた。

はじめは彼女とほかの召喚虫だけだったために、一つも考えが浮かばなかった。

だが、ゼストやアギト、スカリエッティやその娘たちと出会ったことで彼の中で一つの答えが浮かび上がった。

 

自分では笑顔を与えてあげられない。

ならば、その笑顔を与えられるように彼女を支える。

彼女の邪魔をするものは、自分たちが取り除く。

その思いだけで今、彼は立っていた。

 

 

「ガリュー……」

 

エリオは、身体中から血を流しながらも戦う意思を見せるガリューにストラーダを向ける。

今の彼には、ガリューの思いが伝わっていた。

例え言葉を交わすことができなくても、戦うことしかできなくても、ガリューの戦う意味を知った。

そして、戦う意味を知ったからこそ、エリオは彼を止めると決めた。

 

「君の思いはわかった。

 けど、君が傷ついたら、悲しむ人がいる。

 だから、僕は君を止める……。

 ストラーダ、フルドライブッ!!」

 

『Drive ignition』

 

ストラーダから四発の空薬莢が排出される。

カランカランと薬莢が落ちる音が響く中、ストラーダの穂先から推進器(ブースター)がせり出し、切っ先が二つに割れた。

 

『ストライクフレーム展開』

 

二つに分かれた切っ先の間に黄色の魔力刃が生み出される。

エリオの魔力を使用したそれは、彼の電気変換の性質を受け継ぎ、ストラーダは雷を纏う。

 

「行くよ、ストラーダ」

 

『了解です、マスター』

 

「――――――――ッ!!」

 

エリオがストラーダを構えて、飛び出す。

彼に対してガリューもまた飛び出すが、彼の突き出した刃はエリオのいた空間を切り裂くだけだった。

 

「――――ッ!?」

 

エリオの姿を見失ったガリューはすぐさま彼の姿を捉えようとするが、その前にガリューの身体は衝撃に襲われていた。

 

「ハァッ!!」

 

「―――ッ」

 

ビルの屋上を何度もバウンドしていく彼は、直前まで自分がいた場所にエリオを見つけた。

だが、その直後彼の姿が掻き消え今度はガリューの真後ろに現れた。

何とか体勢を立て直そうとするガリューだったが、その前にエリオの振るうストラーダが彼の目に映った。

 

ガリューは振るわれたストラーダによって、その身体を上空に打ち上げられる。

打ち上げられた衝撃を逃すこともできない状態だが、彼の目にはすでに自分よりも上に跳び上がったエリオの姿があった。

 

「――――ッ!!」

 

「でぇいっ!!」

 

苦し紛れに放ったガリューの攻撃は、ストラーダで払われ、さらにエリオの踵落としがガリューの身体にめり込み、彼を屋上に叩き付ける。

だが、エリオの攻撃はそれで終わりではなかった。

 

「まだッ!!」

 

ガリューが立ち上がるよりも早く、彼の身体を再び上空に蹴り上げる。

そして彼を追う形で跳び上がったエリオは、ストラーダのブースターを吹かして彼を追い抜きざまに切り抜ける。

切り抜けた先には、黄色の魔力光の障壁。

その障壁に足を着け、方向を変えてさらに跳び上がる。

 

「もっと速くッ!!

 もっと、もっともっとッ!!」

 

何度もガリューの身体を切りつけ、蹴り上げ、叩き落とす。

彼の軌跡は、彼の魔力光と相まって、雷のように昇って行った。

 

「これでッ!!」

 

そして、十分な高さまで跳び上がったエリオはストラーダを上段に構え、遅れて打ち上げられてきたガリューに向けて振り下ろした。

 

「終わりだーーーッ!!」

 

「―――ッ!!」

 

叩き込まれた槍は、ガリューの刃を打ち砕き彼の身体をビルの屋上に叩き付けた。

その勢いはとても強く、ガリューの身体は屋上をぶち抜き、その下のフロアまでたどり着いていた。

 

「―――ッ!」

 

だが、ガリューはまだ立ち上がる。

すでに満身創痍と言ってもいい状態だが、彼にとっても負けられない理由があった。

そして、彼が顔を上げる。

その先には、落ちてくる勢いを乗せた斬撃を振り下ろすエリオがいた。

 

「紫電一閃ッ!!」

 

ダメ押しの一撃を受ける。

すでにボロボロだったガリューはその身体を横たえることとなった。

 

「おやすみ、ガリュー」

 

意識を失う前に、ガリューの耳に届いた言葉は、彼を気遣う言葉だった。

 

 

 

 




とりあえず一言。
「 や り す ぎ た 」

いや、キャロもエリオも六課襲撃の際の活躍を省いたんで、しっかり書こうとしたらこんなことに……。
キャロは格闘少女になっちゃうし、エリオはオーバーキル……。
なんか批判的な感想きそうだが気にしない!!
これがやれて私は満足です!!

あ、ちなみにエリオの技の元ネタはスーパーロボット大戦シリーズから雷鳳の『ライジングメテオ』からです。
気になる人は動画を見てください。
絶対熱くなりますから(笑)。


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ティアナルート 第三十五話

ゆりかご阻止限界点まであと―――一時間七分。

残された時間の中、ゆりかごの動力炉の防衛砲台をすべて破壊したヴィータはグラーフアイゼンを引きずりながら動力炉の前までたどり着いていた。

 

「―――ッ、アイゼンッ!!」

 

『了解』

 

ヴィータは身体中にできた傷から血を流しながらも、アイゼンを掲げて目の前にある標的を見続ける。

彼女の言葉とともに、すでにその機体に皹を走らせているグラーフアイゼンは、四発のカートリッジを惜しげもなく装填する。

 

「ふ……ッ!!」

 

アイゼンの姿が、基本形態である槌から、破城鎚へと姿を変える。

その直後、短く息を吸って止める。

そして、ヴィータは跳んだ(・・・)

すでに魔力が枯渇し始めている彼女は、飛行にも魔力を最低限しか回さず、すべてを一撃に回すという賭けに出た。

魔力による最低限の補助を受けた跳躍で、彼女の身体は動力炉の上まで踊り出た。

自分の真下に獲物があることを確かめるまでもなく、彼女はアイゼンを上段に振り上げる。

背中の傷が、彼女の神経を刺激するが、わずかに顔を顰めるだけでそのまま……

 

「ツェアシュテールングスハンマァァァッ!!!!」

 

振り下ろした。

振り下ろされたグラーフアイゼンのドリルと、動力炉を覆う障壁が削りあい、火花を起こす。

障壁との干渉で、グラーフアイゼンのドリルに走った皹がさらに広がる。

 

「ッ、ブチ貫けェェェッ!!!!」

 

彼女の咆哮とともに、パリンとアイゼンのドリルが砕けた。

 

「ッアァ……ッ!!」

 

アイゼンのドリルが折れるとともに、彼女の身体は障壁から起こった爆発で吹き飛ばされる。

すでに魔力を使いきった彼女は、体勢を整えることもできず、真っ逆さまに通路へと落ちていく。

朦朧とする意識の中、ヴィータは動力炉の障壁が健在であることを目にして、その目に涙を浮かべる。

 

「ごめん……みんな……!

 ゴメン……はやて……ッ!」

 

そんな彼女の涙で潤んだ視界の端を、黒い羽根が舞った。

ヴィータがそれを目にしたとき、真っ逆さまに落下していたヴィータの身体がふわりと何かに受け止められる。

 

「謝ることなんかない」

 

「……ぁぁ」

 

ヴィータは、潤んだ視界でもわかった。

自分を受け止めてくれた者が誰なのか。

 

「うちの自慢の騎士、鉄槌の騎士ヴィータと(くろがね)の伯爵グラーフアイゼンが、全身全霊で打ち込んだ一撃や。

 それで砕けんものなんて、この世界にあるわけないやろうが」

 

「はやてぇ……!」

 

ヴィータを受け止めた人物―――はやての目にはしっかりと映っていた。

砕けたアイゼンのドリルの先端が、障壁に食い込み、亀裂を生み出していることに。

そして、彼女が腕の中にいるヴィータに告げると同時に、そこを起点として、障壁は粉微塵に砕け散った。

 

「さぁ、ヴィータは少し休んどき。

 あとは」

 

「私たちがやりますからッ!!」

 

ゆっくりと通路に降り立ったはやては、ヴィータを壁際に座らせ、そう伝える。

ヴィータがその言葉を理解するよりも早く、はやての帽子にしがみついていたリインが飛び出してそう言い放った。

 

「さてと、いこかリイン」

 

「はいですッ!!」

 

「「ユニゾンインッ!!」」

 

ヴィータに背を向けてはやてとリインは、むき出しになった動力炉を前に一つになる。

リインがはやての中に入ると同時に、はやての茶色の髪は白く染まり、深い蒼色の瞳は、明るい空色へと変わっていく。

 

「出し惜しみはなしや。

 最初っからフルパワーでいくで」

 

『はいです!

 手加減容赦情け無用です!』

 

はやてが右手に持った杖『シュベルトクロイツ』を掲げ、左手に持った魔導書『夜天の魔導書』のページが勢いよく開いていく。

 

『魔力充填完了ですッ!!』

 

「よっしゃ、いくでぇ……!」

 

リインの言葉とともに、夜天の魔導書から白い光が溢れ出し、シュベルトクロイツの周囲に三つの高濃度の魔力収束体が生成される。

 

『「響け終焉の笛、ラグナロク!」』

 

紡がれたのは、破滅の言葉。

三つの収束体から放たれた魔力の奔流は、はやての目の前で一つに合わさる。

 

『「一点集中ッ!

  ブラストシュートォッ!!」』

 

神々の黄昏を意味するその一撃は、ヴィータによって障壁を失った動力炉を一瞬で吹き飛ばし、反対側の壁を突き抜け、ゆりかごに風通しのいい通路を一つ創りだした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『Time up.

Gear third.

Set off』

 

「ハァー……ッ!」

 

渾身の一撃を、ノーヴェに叩き込んだスバルは、マッハキャリバーの声を聴いてようやく大きく息を吐いた。

赤熱化していたマッハキャリバーから大量の蒸気が噴き出され、スバルもまた、リボルバーナックルから空薬莢をすべて取り出し、新しいカートリッジをセットしていった。

 

「稼働効率は……?」

 

『103%を突破しました。

 今まで一番の出来栄えです』

 

マッハキャリバーの言葉にスバルは苦笑を禁じ得なかった。

実際、マッハキャリバーのギアサードの状態での稼働効率は今までは低いものだった。

そんな結果しか出ていないものを使用して尚、最高の結果を実戦で叩きだせたことにスバルは驚きを隠せえなかった。

 

「とりあえず、ティアナの方に……『エネルギー反応増大ッ!!』―――ッ!?」

 

身体の異常がないかを確かめて、相方(ティアナ)の援護に向かおうとしたスバルだったが、マッハキャリバーの警告と同時に背中を走る悪寒を感じてすぐに振り返る。

 

「ノーヴェ……?」

 

そこには、先ほど彼が倒した、少女、ノーヴェがゆっくりと立ち上がる姿があった。

スバルはすぐに彼女の様子がおかしいことに気づき、呼びかける。

 

「――――――――――!!!!!」

 

だが、その呼びかけへの返答は、獣と聞き間違えるほどの咆哮だった。

 

「ノーヴェッ!?」

 

「――――――――――ッ!!!!」

 

スバルが声を上げるが、ノーヴェはその呼びかけには反応を示さず、ジェットエッジの出力を上げて彼に迫った。

 

「クッ……!」

 

「ァッ!!!」

 

ノーヴェの右手が突き出される。

動きは単調、だが、その速度が異常だった。

 

「なっ!?」

 

スバルは自分の頬に走った傷に驚愕した。

確かに彼女の攻撃を避けたはず。

だが、実際にはコンマ数秒の差でしかなかった。

 

「ォォォッ!!」

 

「くそッ!!」

 

スバルは、次々に繰り出されるノーヴェの攻撃を捌いていく。

だが、戦闘機人としての身体の反応速度を上回る攻撃は、彼の身体にいくつもの傷をつくる。。

頬、腕、脇腹、太ももと言った身体中に走る、鋭い痛みに顔を顰めながらスバルはノーヴェへの呼びかけを止めない。

 

「ノーヴェ!!

 正気に戻れ、このままじゃ……ッ!!」

 

「ガァァッ!!!」

 

『Protection』

 

スバルは苦虫を潰したかのような表情を浮かべながらノーヴェの目を覚まさせようと呼びかけるが、ノーヴェには届かない。

わずかな隙に繰り出されたノーヴェの拳を回避は不可能と判断したマッハキャリバーが障壁を張る。

スバルの障壁とノーヴェの拳。

押し合う障壁と拳の間から広がる火花の向こう側、ノーヴェの瞳を見たとき、スバルは息を飲んだ。

 

はじめて彼女と会ったとき、スバルはメガネの向こう側に見える彼女の眼がきれいな金色だったことを覚えている。

だが、今の彼女の眼は赤く染まっていた。

 

そして、均衡が崩れた。

ノーヴェの拳が障壁を貫いた。

 

「ヤバ……ッ!!」

 

「ゥゥォッ!!!」

 

障壁が砕け散る。

スバルはすぐに距離を取ろうとするが、ノーヴェの左手が彼のコートをガッシリと掴んでいた。

自分に向けられた拳が、どれほどの威力を持つのかなど考えるまでもなかった。

衝撃に備えて両腕を交差させて身体に力を入れて衝撃に備える。

 

『Reactive Purge』

 

「―――――ッ!!?」

 

だが、その衝撃は襲ってはこなかった。

拳が直撃する直前、マッハキャリバーがロングコート(外装)に使われている魔力を爆発させたのだった。

爆発の衝撃によってコートを掴んでいたノーヴェの手は離れ、拳の威力は失われる。

スバルは突然の爆発によって拳の直撃は避けたが、体勢を崩し、地面に倒れ込む。

 

「ガ―――ッ!?」

 

「――――!!」

 

すぐさま立ち上がろうとしたスバルだったが、それよりも早く、ノーヴェが彼の身体に馬乗りになり、彼の首を両手で掴んだ。

スバルは締め上げられる腕を、両手で掴み、意識が落ちるのを堪える。

 

「ノーヴェ……ッ!」

 

「――――――ッ、スバ……ル……ッ」

 

「―――ッ!!」

 

気を抜けば失いそうな意識の中、スバルは彼女の瞳に涙が浮かんでいるのを見た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『Protection EX』

 

「……ッ!」

 

迫りくる拳を桃色の障壁が阻む。

だが、目の前の少女―――ヴィヴィオは、お構いなしに拳を叩き付ける。

 

「戦闘パターンS13」

 

ヴィヴィオの口から機械的な言葉が紡がれる。

それと同時にヴィヴィオの拳に捻りが加わり、一撃で障壁に亀裂が走った。

 

「やっぱり。

 レイジングハート」

 

『Barrier Burst』

 

あと一撃で障壁が砕け散るというタイミングで振り下ろされたヴィヴィオの拳が障壁に触れる直前、障壁が爆発を起こす。

爆発の威力は『聖王の鎧』によって完全に防がれるが、爆風によってヴィヴィオの身体は大きく後ろに吹き飛ばされた。

体勢を崩さないように踏ん張ったヴィヴィオが次に見たのは、桃色の砲撃だった。

 

「シュートッ!!」

 

『Short Buster』

 

最速のタイミングで放たれた砲撃はヴィヴィオを直撃し、さらに距離を離すこととなった。

 

「レイジングハート。

 どうかな?」

 

『マスターの予想通りです。

 先ほどからの彼女の戦い方は、訓練の際にフォワードメンバーや、マスターたちの戦い方と同じです。

 特に、スバルの戦闘パターンが多くみられます』

 

「スバルの戦い方かぁ。

 それは悪手だよ、ヴィヴィオ」

 

砲撃によって巻き上げられた煙の中から六発の魔力弾とヴィヴィオが飛び出してくる。

その速度は、先ほど彼女たちが話題にあげたスバルよりも早かった。

だが、なのはは落ち着いて六発の誘導弾(アクセルシューター)を展開し、迫りくる魔力弾を撃ち落す。

 

「ごめんね、ヴィヴィオ。

 せっかく学んだ戦い方だけど……ッ!」

 

「―――ッ!?」

 

誘導弾と魔力弾が衝突し、爆炎を起こし、その中からヴィヴィオがなのはに向けて拳を突きだす。

岩をも砕くその拳をなのはは恐れることなく、レイジングハートでかち上げる。

勢いを乗せた腕を思いっきり上に叩き上げられたヴィヴィオは無防備に懐をさらすこととなった。

その隙を逃さず、なのははレイジングハートの切っ先をヴィヴィオの身体に向ける。

 

「ディバインバスターッ!!」

 

超至近距離からの砲撃。

流石の聖王の鎧でもこの攻撃を完全に防ぐことはできず、ヴィヴィオの身体は玉座の間の反対側まで吹き飛ばされる。

 

「スバルの戦い方は基本、一回きりの初見潰し。

 今のも模擬戦(1対1)の時にやられたからね。

 私には通用しないよ」

 

レイジングハートを構えながらなのはは教え子に教えるように優しく口にした。

その時、空中に浮いている彼女でも感じられるほどの揺れがゆりかごを襲った。

 

「レイジングハート、今のは?」

 

『恐らく、動力炉の爆発かと』

 

「そっか、ヴィータちゃんの方はうまくいったんだ。

 なら、こっちも頑張らなきゃね」

 

なのはの前には、破損した甲冑を再生し、なのはの元へと向かってくるヴィヴィオの姿があった。

 

 

 

 

 

 

 

「あのチビ騎士と夜天の主が動力炉を潰したようね……!」

 

一方、ゆりかごの中枢でシステムへの介入を試みていたクアットロは、激しい揺れを感じた直後、一時的にシステムがダウンした隙に、聖王(ヴィヴィオ)の意識の切り離しに取り掛かっていた。

 

「システムの復旧まであと一分。

 何、こんなのドクターのプライベートPCに入り込むのよりはずっと簡単……ッ!!」

 

システムの復旧まであと40秒。

 

「意識の切り離しと同時にシステムの破壊ウィルスの設定完了ッ!!

 これで……!!」

 

残り15秒。

 

「私の勝ちっ!!」

 

クアットロの指が、キーを押した。

 

「はぁーい、聞こえますか~?」

 

『聞こえてる。

 なんか、ヴィヴィオの様子が変だけど……』

 

クアットロはなのはに通信を繋ぎ、状況を確認する。

なのはは心配そうな表情でモニターとは別の方向を向いていた。

 

「システムから切り離した反動ですよ。

 すぐに収まります。

 けど、此処からはあなたの仕事。

 システムから意識は切り離せたけど、肉体の方は聖王の鎧が操作しているも同然」

 

『どうすればいい?』

 

「貴女の得意技。

 魔力ダメージによるノックアウトで、彼女はもとに戻ります」

 

『わかりました。

 協力に感謝します』

 

なのはのその言葉にクアットロは人をからかうような表情で尋ねる。

 

「あらぁ、いいのですか?

 私があなたをだましているかもしれないんですよ?」

 

『あなたのさっきまでの眼を見ればそれはないことはわかるよ』

 

「……それじゃ、あとは任せましたよ」

 

クアットロはなのはの言葉に面白くないといった顔で通信を切った。

通信が切れたことを確認した彼女は大きくため息を吐いた。

 

「まったく、私は肉体労働(こっち)は専門外なんだけど……ッ!!」

 

そう言いながらその場から飛び退く。

直前まで彼女がいた場所に幾多もの光線が降り注いだ。

 

「システムに介入し、聖王の意識を切り離したから敵対認定ってところかしらね?

 でも、遅すぎでしたね~?」

 

少し離れたところで膝をついていたクアットロは楽しそうに呟く。

 

「まったく、ウェンディちゃんから借りといて正解だったわね」

 

そう言ったクアットロの右手には、ウェンディの固有武装である『ライディングボード』が握られていた。

 

「さてと、あとはあの人が陛下を助けるまで粘るだけね。

 これでも戦闘機人、簡単にはやられませんよ~?」

 

 




どうも、お久しぶりです。
さて、クライマックスまであと少しのところすみませんが、暫く更新をストップさせてもらいます。
これから三週間ほど、試験やらなんやらでリアルがとんでもない忙しさになっているので……(´・ω・`)
次の更新は早くても22日以降となります。
それでは(´・ω・`)/~~


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ティアナルート 第三十六話

お久しぶりです。
ようやく試験のラッシュから解放されました。
それではどうぞ。



時間は少し遡る。

すべてを話し終えたスカリエッティは彼と、彼が潰してきた違法研究所の研究データをフェイトに渡した。

フェイトがデータの入ったメモリーをバルディッシュに収納するのを確認したスカリエッティは大きく息を吐いて口を開いた。

 

「これでもうやり残したことはない。

 さぁ、私を連れて行ってもらおうかな」

 

スカリエッティはそう言いながら両手を前に出す。

 

「こういうものは形式とは言えちゃんとやっておくべきだろう?」

 

「……ジェイル・スカリエッティ。

 貴方を大規模騒乱罪および諸々の罪で逮捕します」

 

フェイトは頷きながら彼の手に、バインドを仕掛ける。

金色の魔力の輪が彼の両手を拘束したのを確認したフェイトは外にいる別働隊へと連絡を入れる。

 

「こちらフェイト・T・ハラオウン執務官。

 主犯のジェイル・スカリエッティの確保しました」

 

『了解です。

 ですが、まだラボの外ではガジェットの多くがまだ稼動中でして戦闘が続いています。

 必要はないかもしれませんが、ラボの内部にも稼働しているガジェットがいるかもしれません。

 気を付けてください』

 

「了解、情報の提供ありがとうございます。

 これからジェイル・スカリエッティを……」

 

移送します―――と続けようとしたフェイトだったが、彼女の声をラボの内部に響き渡る警報がかき消した。

 

「なんだッ!?」

 

「これは……ッ!!」

 

突然の警報に警戒を示すフェイトだったが、彼女のすぐそばに立っていたスカリエッティは驚愕に目を見開いていた。

 

「スカリエッティ、この警報はいったい!?」

 

「……すまない、ハラオウン執務官。

 どうやら、私にはまだやらなければならないことがあったようだッ」

 

「なにを……!?」

 

彼の言葉に眉を顰めるフェイトだったが、次の瞬間、彼女の仕掛けたバインドを解除したスカリエッティはすぐさま壁際に設置されているモニターとパネルを起動させた。

 

「どういうことだ、いったい誰のが……ッ!!」

 

鍵盤型のパネルを、凄まじい速さで叩きながらモニターを凝視するスカリエッティ。

 

「何があった?」

 

「詳しく説明する暇はないが、簡単に言うと私の娘の誰かのリミッターが強制解除された」

 

「リミッター……?」

 

スカリエッティの言葉に首を傾げるフェイト。

そんな彼女に向けてスカリエッティはパネルを操作することをやめずに答える。

 

「機械の身体を手に入れた戦闘機人。

 その身体は普通の人間より何倍も頑丈で強力だ。

 だけど、いくら頑丈でもベースは人間。

 生身の身体を持っているんだ。

 機械としての100%の能力を発揮すれば、身体が持たない。

 だから私は彼女たちにリミッターを掛けたんだ。

 人としての身体を失わせることがないように」

 

ならば、なぜ彼女たちを戦闘機人として生み出したのか。

そんな言葉がフェイトの喉元まで出かかったが、一つの答えに辿り着いた彼女はその言葉を呑み込んだ。

 

「そうか、だからリミッターを……」

 

「君の思っている通りだよ。

 彼女たちには、この騒動を終えた後は自由に生きてもらいたかった。

 戦闘機人としてではなく、ただの人間として。

 一人の弱い人としてね」

 

スカリエッティは、そう答えると、それ以降、フェイトのことなど気に掛けることなく目と手を動かした。

そして、ついに見つけた。

 

「ノーヴェ、君だったのか……ッ!

 だが、なぜだ。

 彼女のリミッターは最高のものをつけていたはずだ……ッ!!」

 

ラボの内部で彼と行動を共にしていた四人、ウーノ、トーレ、セイン、セッテ、それから身体の修復途中であるチンクを除いた戦闘機人のバイタルデータを一からチェックしていたスカリエッティは、四人目でリミッターが外れているのが、ノーヴェだと断定した。

 

戦闘機人としての能力がトップクラスの彼女には最高級のリミッターを仕込んでいた。

それが外れている。

リミッターの解除にはスカリエッティのみが把握しているコードを入力するしか方法はなかった。

 

「まさか……ッ」

 

原因を探る時間はなかったが、彼は一つの仮説に思い至った。

それは、ここ最近の彼女の様子がおかしいと気づいていたからこその結果だった。

 

「心の揺らぎが、リミッターを解除したとでも言うのか……ッ!?」

 

戦闘機人としての自分(ノーヴェ)と、人としての自分(ノーヴェ)

その間を揺れ動いていた彼女の心は一つの鎖を引き千切った。

 

 

 

 

 

 

「スバルッ!!」

 

「あ、ちょ!!」

 

一方、スバルとノーヴェの戦いの近くにいたティアナは、膨大なエネルギー反応を感知すると、すぐさま駆け出した。

彼女によって拘束されていたウェンディはティアナが自分を放って走り去ったことに対して信じられないといった表情を浮かべていた。

 

「いや、スバルっちが心配なのはわかるけどさぁ……ん?」

 

『……ィ、聞こえるかい……。

 ウェンディ……ッ!』

 

「はいはーい、こちらウェンディっすよ……ってドクターッ!?」

 

ティアナが走っていった方向をじっと見ていたウェンディは、スカリエッティからの突然の通信に驚く。

 

「突然どうしたんすか?

 なんか今やばいことが起きてるみたいっすけど……」

 

『今すぐノーヴェの元に向かってほしい。

 詳細は省くけど、ノーヴェが危ない!!』

 

困った顔でそう答えるウェンディだったが、スカリエッティの言葉に彼女の顔から笑みが消える。

ウェンディは一度大きく息を吸うと、両手を拘束していたティアナのバインドを力技で砕き、両手の自由を取り戻した。

 

「それで、どうすればいいっすか?」

 

『まずはスバル君たちと合流してくれ。

 あとはその時に話す』

 

「了解っす」

 

ウェンディはスカリエッティからの通信を切ると、近くに立てかけていたライディングボードに乗ると、一気にトップスピードまで加速する。

 

「まったく、手のかかる姉っすね……ッ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ッ、ハッ……ッ!!」

 

「ウゥ……ッ、ス、バ……ル……ッ!」

 

ノーヴェに馬乗りにされ、首を締め上げられているスバルは、何度も意識を失いそうになるが、それを何とか防ぐ。

だが、彼の戦闘機人としての力をもってしても、今の彼女の両手を引きはがすことはできなかった。

 

「……ッ!!」

 

「ガァ……ッ!?」

 

だが、次の瞬間、ノーヴェの肩に何かが衝突する。

スバルには薄れている意識の中でそれが何かを確かめるほどの余裕がなかった。

それでも、これが彼女の拘束を解く最初で最後のチャンスだということは理解できた。

 

「……アァッ!!」

 

翠の瞳が、金色に輝く。

ノーヴェの力が一瞬弱まった瞬間、スバルの両手がノーヴェの手と首の間に隙間を作る。

開いた気道から新鮮な空気がスバルの身体に入る。

そして、さらにノーヴェの肩、腕、腰と、先ほどと同様に何かが衝突する。

その衝撃によってノーヴェの身体が揺らぎ、スバルはその隙に、彼女の身体を思いっきり蹴り飛ばした。

スバルはノーヴェの身体が地面と何度もぶつかり、反対側の壁に激突するのを見ながら、盛大に咳き込む。

 

「スバルッ!!」

 

「ガハ……ッ!

 てぃ、ティアナ……?」

 

スバルは、スターキャリバーを駆って自分のもとに向かってくる彼女の姿を、涙でにじむ視界に捉えた。

ティアナはノーヴェと彼の間に塞がるように立つ。

 

「大丈夫なの!?」

 

「……まぁな。

 戦闘機人の身体は伊達じゃない。

 ……来るぞッ!!」

 

スバルとティアナはノーヴェが自分たちの方へと向かっているのを見て、戦闘態勢に入る。

距離があるとはいえ、今の彼女のスピードなら彼らのもとに来るのは数秒だ。

その間に、スバルとティアナはアイコンタクトで作戦を伝え合っていた。

 

「落ち着くッすよ、ノーヴェッ!!」

 

だが、彼らのもとにノーヴェがたどり着くよりも先に、彼女の身体を遅れてきたウェンディがライディングボードで撥ね飛ばした。

 

「ちょ、あんた何やってんのよ!?」

 

「こっちにも事情があるッす。

 とりあえず、あんたたちに話がしたいって。

 その間、ノーヴェはこっちが抑えるから、早めにお願いするっすよ!!」

 

 

ウェンディはそう口早に告げると、一つのモニターを彼らの前に展開させ、すぐに立ち上がったノーヴェの元へと駆けていった。

そんな彼女の後姿を見ながら、スバルはモニターの中に映る男に話しかける。

 

「それで、あんたは俺たちに何をさせたいんだ?

 ジェイル・スカリエッティ」

 

『単刀直入に言うとするよ。

 ノーヴェを、私の娘を助けてほしい……』

 

「わかった。

 それで、俺たちは何をすればいい?」

 

スカリエッティの懇願するような声で発せられたその言葉を聞いたスバルは、ティアナの方をチラリと見て、すぐに答えた。

画面の中のスカリエッティは、彼らの返答の速さに言葉を失っていた。

 

『そ、即答だね……。

 先ほどまで、いや今でも私は君たちの敵対人物であることには変わりはないはずだ……。

 それなのに……』

 

「あんた、馬鹿だろ。

 誰かを助けるのに理由がいるのか?

 そこに助けを求める人がいるなら、手を差し伸べる。

 それが管理局だ」

 

スバルの言葉に、スカリエッティは目を見開き、そして静かに笑った。

 

『そうだね。

 誰かを助けるのに、理由なんかいらない、か。

 君の言う通りなのかもしれないな』

 

スカリエッティは一度頷くと、再び彼らに向けて言葉を投げかける。

 

『君たちには、彼女を止めてもらいたい。

 スバル君なら、わかるかもしれないが、今のノーヴェは不安定な状態だ。

 いや、暴走と言いかえた方がいいね』

 

「なんで私たちに頼むの?

 あなたの自慢の娘たちでは止められないということはないはずよ?」

 

そう、いくらノーヴェが暴走状態であっても、スカリエッティの生み出した戦闘機人が数人でかかれば彼女を止めることは容易いとは言えないが、可能だ。

しかし……。

 

『今、君たちの周囲で戦闘可能な娘はウェンディだけなんだよ。

 そのウェンディも、ノーヴェに比べれば戦闘機人としての力は一段も二段も劣る。

 今この時間を稼ぐだけで精一杯のはずだ』

 

彼らの周囲で戦闘を行っていたのは、ノーヴェ、ウェンディ、オットー、ディードの四人。

そのうち、ノーヴェと一対一(サシ)で対抗できるのは辛うじてディードのみ。

だが、オットーとディードはすでにギンガによって意識を刈り取られており、ウェンディだけが戦闘可能という状態だった。

 

「だから、俺たちに頼んだってことか。

 それで、具体的な案は?」

 

『幸か不幸か、ノーヴェの暴走はまだ始まったばかりだ。

 本来なら、意識がシステムに乗っ取られて、あんなふうに咆哮を上げることすらないはずだからね』

 

「つまり、彼女がシステムに抗っているってこと?」

 

『その通りだよ。

 そこでだ、彼女の肉体を魔力ダメージでノックダウンしてほしい。

 彼女の暴走の原因は肉体のリミッターが外れていることだ。

 だから、肉体の許容を超えるダメージを受ければ強制的に肉体の能力をシャットダウンすることが可能なはずだ』

 

スカリエッティの言葉に、スバルとティアナは頷き、了承の意を示す。

 

「そうだ、あんたの近くにフェイトさんはいるか?」

 

『スバル?

 どうしたの?』

 

スカリエッティはすぐに、そばに立っていたフェイトと場所を交代し、モニターにフェイトの顔が映る。

 

「いや、これからちょっと無茶するんで、なのはさんに謝るときに証人になってほしいかなと」

 

『無茶って……。

 今度は何をする気なの……?』

 

「ぶっつけ本番で新しいクロスシフトの実践です」

 

 

 

 

 

「クゥ……ッ!!」

 

ノーヴェから繰り出される攻撃をライディングボードを使って何とか受け流すウェンディ。

彼女が、時間を稼ぐためにノーヴェとの戦闘に入ってすでに三分が経過していた。

もともと、後方支援を主な仕事とするウェンディが、暴走状態のノーヴェとこれだけの時間、やりあえていたことは軌跡に近い。

 

「やっぱ強いっすね……ッ!!

 でも……ッ!!」

 

「うぇん……ディ……ッ!!」

 

「……ッ!?」

 

ウェンディがライディングボードの銃口を向けようとした直後、ノーヴェの蹴りがライディングボードを直撃する。

得物ごと吹き飛ばされるウェンディだったが、吹き飛ばされた直後に、彼女は体勢を整えるよりも先にライディングボードの銃口をノーヴェに向けた。

 

「もらいッス」

 

「……ッ!!」

 

ノーヴェがその場から飛び退くよりも先に、銃口から光が放たれた。

ノーヴェに向けて一直線に向かったそれはノーヴェの姿を呑み込み、周囲に煙を撒き散らす。

背中から地面にぶつかったウェンディは咳こみながら煙の方を見て、一言。

 

「やったっすか……!?」

 

だが、彼女の言葉とは裏腹に、煙の中からノーヴェが、身体中から蒸気を出しながら飛び出してきた。

背中から落ちた衝撃による痛みが抜けていないウェンディは咄嗟にライディングボードを盾にするが、ノーヴェが放った拳が、彼女の盾を砕き、彼女の身体を空中に打ち上げた。

 

「ガッ……!?」

 

「うぇん…ディッ!!」

 

身動きの取れない状態で、空中に打ち上げられたウェンディは、ノーヴェの追撃をすべてその身に受けた。

蹴り、拳、踵落としと続けざまに三連撃を受け、地面に叩き付けられる。

 

(あー、此処までっすかね……?)

 

叩き付けられた衝撃と、身体に蓄積したダメージによって薄れゆく意識の中、ウェンディはぼんやりと視界に映るノーヴェを見ながら来るであろう衝撃を覚悟していた。

 

だが、その衝撃は来ることはなかった。

 

「ゴメン、遅くなったわね」

 

「あとは俺たちに任せてくれ」

 

その代り、彼女の眼には、蒼と橙色の髪が映っていた。

 

「まったく、おそいっすよ……」

 

ウェンディは痛みを堪えながら、弱々しい声でそう答える。

 

「ティアナ、ウェンディを少し離れたところに移してくれ。

 時間は稼ぐ」

 

「はぁ、わかったわよ。

 目的は忘れないようにね」

 

スバルの言葉に従い、ティアナは倒れているウェンディを背負って彼女を運んでいった。

 

「……ノーヴェ」

 

「……ッ!!」

 

スバルが彼女の名前を呼ぶ。

その声に反応したノーヴェは、スバルに肉薄し、右の拳を突きだした。

だが、その拳をスバルは静かに受け止める。

 

「ゴメン、お前がそんなに悩んでるなんて俺にはわからなかった。

 でもな……」

 

「……す、バル……ッ!」

 

お前の親父さん(スカリエッティ)から聞いた。

 お前が今苦しんでいる理由を」

 

動きを止められた右手を引きはがそうとするノーヴェだったが、スバルの手はそれを許さなかった。

彼女を離さないように、自分の言葉を届けるために。

 

「お前が自分のことに悩んでいることも……ッ!」

 

「……がッ……ッ!!」

 

ノーヴェの蹴りがスバルの横腹を貫く。

だが、それでもスバルは離さない。

 

「悪いが、俺はお前じゃないから、お前の悩みに答えを教えられるわけじゃない。

 だけどよ……」

 

自分に迫る拳を、スバルはがっちりと掴む。

 

「一緒に悩むことはできるだろう?

 だから、俺はお前と一緒に話をするために、俺はお前を助けるッ!!」

 

「スバ……ルッ……!!」

 

「お前はどうなんだ、ノーヴェ!

 助けてほしいのか、ほしくないのか!?

 お前の親父さんはお前を助けてくれって頭を下げてまで俺たちに頼んできたぞ!!

 お前は、どうなんだ、ノーヴェ!!」

 

スバルはそう言いながら目の前のノーヴェの顔に自分の顔を突きつけ、彼女の眼を見つめる。

 

「……わ、たし……ハ……ッ!

 まだ……し…にたく……ない……ッ!

 助け……て、……ッ!!」

 

彼の瞳には、真っ赤に染まった瞳から涙を流しながら助けを求める一人の少女が映っていた。

 

「わかった、助けるさ。

 これからも俺たちが、いつでも助けてやる。

 だから、少し我慢しろよ……ッ!!」

 

スバルは、両手に力を込める。

先ほどの蹴りの痛みがまだ身体に残っているが、それを堪えながらノーヴェを投げ飛ばした。

それほどの勢いをつけて投げたわけではないため、ノーヴェは空中で体勢を整えて着地する。

 

「話は終わった?」

 

「あぁ、しっかりと聞いた。

 助けてってよ」

 

ノーヴェが着地した直後、ウェンディを安全な場所まで運んでいったティアナが戻ってくる。

スバルの返答に「そう」と短く相槌を打つティアナ。

 

「クロスシフトRS、行けるか?」

 

「ぶっつけだけど、やるしかないでしょう?

 それに、私を誰だと思ってるのよ。

 スバル・ナカジマのバディ、ティアナ・ランスターよ。

 この程度、やってのけないとね」

 

「そうだったな。

 それじゃ、行くか」

 

「えぇ」

 

スバルとティアナは互いに頷きそれぞれの愛機に命令を飛ばす。

 

「「フルドライブッ!!」」

 

『『Standby ready』』

 

二人の身体から、蓄えられていた魔力が溢れ出す。

マッハキャリバーから蒸気が噴き出し、スターキャリバーに装備された魔力変換炉(マギリングコンバーター)が唸りを上げる。

 

「ギア……」

 

「モード……」

 

「「エクセリオンッ!!」」

 

二人の声が、響き渡った。




スカリエッティは、人としての死、つまりただの殺戮マシーンになるのを防ぐために彼女たちにリミッターを取り付けていました。
ノーヴェの暴走はシステム的なものとも言えるし、感情の暴走ともいえるものです。

とりあえず年末までにティアナルート完結させたいと思っていますけど、いろいろと予定入ってくるからなぁ……。
あと少しで終わりますけどね。

それではまた次回!


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ティアナルート 第三十七話

まさかの連日投稿!!
今回は筆が進みました。
それではどうぞ!



「ギア……」

 

「モード……」

 

「「エクセリオンッ!!」」

 

『『Drive ignition』』

 

マッハキャリバーの外装の一部がパージされ、蒼き翼がその姿をさらす。

マギリングコンバーターによって、ティアナの周囲の魔力素をすべて彼女に適合する魔力へと変換され、余剰魔力が、ティアナの背から四つになって噴き出し、その勢いは、彼女の身体を空中へと浮かべた。

 

「行けるか?」

 

「えぇ、魔力の供給も安定してる。

 行けるわよ」

 

スバルは隣に浮かぶティアナを横目に見ながら尋ねる。

それに対して、ティアナは両手にクロスミラージュを持ちながら答える。

その視線は、静かにノーヴェを捉えていた。

 

「なら、行くぞ……クロスシフト、『ランページスターズ』ッ!!」

 

「……ッ!!」

 

スバルとティアナが同時に飛び出す。

陸と空に蒼と橙色の道が浮かび上がる。

道路を一直線に駆け抜けるスバルの周囲に六つのスフィアが展開される。

 

「ディバインバスターッ!!」

 

『リボルバーシフト』

 

六つの蒼い砲撃は、ノーヴェの周囲に着弾し彼女の視界を奪う。

舞い上がった煙はノーヴェの身体も隠してしまうが、彼女には見えていた。

 

「狙いは外さない……ッ!!」

 

『Cross Fire and Shoot Barret』

 

浮遊する魔力素を取り込むことで縦横無尽に空中を駆け抜けるティアナの目には、ノーヴェの身体から発せられるエネルギー反応がしっかりと映っていた。

その反応へと彼女の両手に握られたクロスミラージュから十数発の誘導弾と直射弾が発射される。

 

「……がッ!?」

 

弾速の速い直射弾がノーヴェの脚を射抜く。

脚を撃ち抜かれたノーヴェの身体がバランスを崩し、そこに追撃で誘導弾が連続して彼女の身体を空中に打ち上げる。

 

「スバルッ!!」

 

「わかってる……ッ!」

 

ノーヴェの身体が打ち上げられたのを確認したティアナはすぐさま相棒の名を叫ぶ。

彼女の声に答える前に、ノーヴェの後方に回り込んでいたスバルは空に向かって伸びるウイングロードを駆け昇る。

 

「打ち抜くッ!!」

 

『Knuckle Bunker』

 

硬質のフィールドに覆われた拳がノーヴェの身体に接触した直後、フィールドが弾け飛び、その衝撃がノーヴェの身体を貫き、彼女の身体を逆方向に吹き飛ばす。

 

「ブラストシュートッ!」

 

『Phantom Blazer』

 

ティアナが放った砲撃がノーヴェの身体の勢いを止める。

そこにスバルが飛び込み、彼女の身体をガッシリと掴んだ。

 

「逃がさないッ!!

 ティアナッ!!」

 

「了解ッ!」

 

ノーヴェを掴んだスバルは、そのまま上へ昇っていく。

そんな彼の周囲に膨大な魔力を溜め込んだスフィアがいくつも現れ、そのすべてがノーヴェだけに向けてピンポイントで砲撃魔法を放った。

 

「これで最後だ、ノーヴェッ!!」

 

 

 

「行くわよ、クロスミラージュ」

 

『了解。

 シフトチェンジ。

 ハウリングシフト』

 

スバルが自分と同じ高さまで上昇しているのを見たティアナは右手に握ったクロスミラージュを左手のものの前に添える。

すると、クロスミラージュの銃床が左手のものの銃口と合わさり巨大な一つのライフルへと姿を変えた。

 

『クロスミラージュ・エクセリオンモード・ハウリングシフト』。

彼女の最強の切り札の一つ。

それを今解放した。

 

 

「ティアナッ!!」

 

「わかってるわよ!」

 

すべてのスフィアの攻撃を受けたノーヴェを連れて、スバルがティアナの傍を通り抜ける。

彼女はスバルの声に反応して、すぐにその後ろを追いかける。

 

 

「ノーヴェ、これで助けてやるからな……ッ」

 

スバルはノーヴェの身体にリボルバーナックルを当てる。

その拳から六発の空薬莢すべてが排出され、魔力が充填される。

 

「準備はいいな?」

 

「当然」

 

スバルは隣に並んだティアナが自分と同じように、ノーヴェに銃口を当てるのを見て尋ねる。

ティアナの答えに頷くスバル。

そして、声をそろえた。

 

「「せーの……」」

 

 

「「行けぇぇぇぇぇッ!!!!」」

 

『Strike Blazer』

 

『Starlight Breaker』

 

蒼と橙色の砲撃が、ノーヴェの身体を包み込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

ゆりかご、玉座の間―――

なのはは自分の目の前で頭を抱えて声を荒げていたヴィヴィオが静かになったのを見て、名前を呼びながら近づこうとする。

 

「ヴィヴィオ……、ヴィヴィオッ!!」

 

「来ないでッ!!」

 

だが、彼女の行動はヴィヴィオから止められた。

頭を抱えながら片手で放った虹色の魔力弾がなのはの足もとで弾ける。

 

「ヴィヴィオ……!?」

 

「身体が、いうことを効かないの……。

 これ以上、なのはさんを傷つけたくない……ッ」

 

「どうしたの?

 ヴィヴィオ、いつもみたいに、なのはママって呼んでくれないの?」

 

ヴィヴィオの自分の呼び方が、変わっていることに気づいたなのはは彼女に尋ねる。

 

「思い出したの……。

 私が、このゆりかごの心臓の一つだった聖王のクローンってことに。

 小さい姿をしていたのは、優れた魔法技術と戦闘能力を持った人に守ってもらえるように。

 そして……、本当のママなんていないってことに……」

 

「ヴィヴィオ……ッ」

 

「だから、これ以上私に近づかないで。

 このままじゃ、少しの間だったけど家族だったなのはさんを……ッ!」

 

ヴィヴィオはその瞳に涙を浮かべながら叫ぶ。

自分から離れろ、もう自分に構うなと。

なのはは、そんな彼女に向けて言い放った。

 

「それがどうかしたの?」

 

「え……」

 

なのはの言葉が予想外だったのか、ヴィヴィオは驚きの声を上げるだけだった。

 

「たとえ、過ごした時間が少なくても。

 私はヴィヴィオのことを本当の家族だって思ってる。

 例え、血がつながってなくても、私たちは家族でいられるって思ってる。

 例え、ヴィヴィオが過去の人のクローンだからって、私がヴィヴィオを見捨てる理由にはならないよ」

 

「で、でも……!」

 

「でもじゃないッ!!」

 

ヴィヴィオの言葉を声を上げて遮るなのは。

彼女の剣幕に口を閉じるヴィヴィオ。

 

「それにね、約束したんだ。

 フェイトちゃんや、スバルと。

 絶対に連れて帰るって。

 みんな、ヴィヴィオの帰りを待ってるんだよ?

 ヴィヴィオが造られた存在だからって嫌う人なんていない。

 みんな、ヴィヴィオをヴィヴィオとしてみてくれる。

 だから、一緒に帰ろう、ヴィヴィオ?」

 

「………い」

 

なのはが手を彼女に向けて差し出す。

その手を見て、ヴィヴィオは俯きながら呟く。

 

「ほら、ちゃんと言葉にして言ってごらん?

 言葉は、自分の言いたいことを相手に伝える魔法なんだから」

 

「帰りたい……ッ!!

 帰りたいよ、皆のところに……

 だから、助けて……なのはママァッ!!」

 

ヴィヴィオの口から紡がれたのは、助けを求める声。

それに答えるために、なのは大きく頷いた。

 

「助けるよ。

 いつだって、何度でもッ!!」

 

『Limit break』

 

「ブラスター2ッ!!」

 

『Drive ignition』

 

レイジングハートの機械的な声とともに、なのはから膨大な魔力が溢れ出す。

高濃度のAMFに満ちたこの空間においても視認できるほどに溢れだす魔力の奔流は想像を絶するものだ。

 

「レイジングハート、狙いは一つ。

 わかってるよね?」

 

『ヴィヴィオの身体に埋め込まれたレリックを露出させ、封印。

 リスクの高い方法ですが、ヴィヴィオの身体とマスターの身体の負担を考えるならばこれが最良の選択かと思われます』

 

なのははレイジングハートを構える。

 

「行くよ、ヴィヴィオ!」

 

「……ッ!!」

 

なのはが飛び出すのに反応してヴィヴィオの身体に纏わりつく聖王の鎧が彼女の拳をなのはに向けて振り下ろした。

 

『ブラスターピット展開』

 

だが、拳がなのはを捕らえる直前、小型の遠隔操作機器『ブラスターピット』がバインドを展開しながらその腕を絡め取った。

 

「ちょっとだけ、痛いの我慢してね、ヴィヴィオッ!!」

 

『Load cartridge』

 

腕を絡め取った瞬間に、ヴィヴィオの懐に入り込んだなのははレイジングハートの切っ先をヴィヴィオに突きつける。

聖王の鎧がその進行を阻もうとするが、レイジングハートの切っ先が二つに分裂し、桃色の魔力刃(ストライクフレーム)が姿を現し、その障壁を貫く。

ヴィヴィオに届く道が開いたことを確認したなのはは装填されているすべてのカートリッジの魔力を放出させる。

 

「ディバインバスターッ!!」

 

「あぁぁぁァァァッッッ!!!」

 

桃色の砲撃がヴィヴィオの胸を貫く。

そして、その膨大な魔力の流れによって聖王の鎧は砕け散り、ヴィヴィオの身体(なか)から赤い宝石(レリック)がその姿をさらす。

 

「レイジングハートッ!!」

 

『レリックナンバー1、封印』

 

姿を現したレリックをなのはは片手で掴み取り、すぐに自分の魔力を流し込み、その活動を停止させた。

レリックからの魔力供給が途絶えたヴィヴィオは、その身体を虹色の光を放ちながら元の幼児の姿へと戻っていく。

 

「ヴィヴィオッ!!」

 

宙に浮いていたヴィヴィオの身体が静かに地面に降りていくのを、なのはは自分の身体で優しく受け止めた。

 

「ヴィヴィオ、大丈夫……ッ!?」

 

「だい、じょうぶ……だよ……」

 

「あぁ、ヴィヴィオッ!!」

 

ヴィヴィオが小さくとも、しっかりとした声で答えたことに、なのはは涙を浮かべながら彼女の身体を抱きしめる。

 

「あのね、なのはママ……」

 

「何、ヴィヴィオ?」

 

ヴィヴィオはなのはに抱かれながらも、彼女に伝える。

自分が、今一番伝えたい思いを。

 

 

 

「助けてくれて、ありがとう……」

 

 

 

 

 

 

 




今回は、スバル組となのはの方の決着がつきました。
スバルとティアナのクロスシフトは、まぁ知ってる人は知ってる『暴れまくり幽霊』をもとに作り上げたオリジナル戦法です。
なのはは原作とは違い、レリックを完全破壊ではなく、ヴィヴィオの身体から吐き出させた後に封印という方法で彼女を助けだしました。

さて、今年もあと数日ですが、ティアナルート完結目指して頑張ります!!


オリジナルモード紹介

『クロスミラージュ・エクセリオンモード』
スバルのマッハキャリバーのエクセリオンモードとの連携を前提に追加された機能。
全力稼動の魔力変換炉(マギリングコンバーター)が周囲の魔力素を取り込み、ティアナの使用する魔力へと変換するために、戦闘力が大幅にアップする。
取り込んだ魔力の内、ティアナの許容量を超えた魔力は彼女の背中から放出され、放出された瞬間に再び取り込まれるために、理論上では半永久的に魔力の運用が可能。
ティアナの身体にかかる負担が倍以上になるために、フルドライブ状態でいられる時間は少ない。

『クロスミラージュ・エクセリオンモード・ハウリングシフト』
クロスミラージュ・エクセリオンモードにおける最終形態。
ティアナが(補助ありだが)収束魔法を使用可能となる。
ただし、一度の使用でコンバーターが熱暴走を起こすため、ハウリングシフトを使用した後の戦闘能力はガタ落ちする。
ティアナにとってはまさに虎の子の切り札と言える形態。


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ティアナルート 第三十八話

三日連続ッ!!
イブだというのに一人で更新です。
メリークルシミマスッ!!


それではどうぞ!!


小さい振動が続くゆりかごの中を、はやてとリインは彼女たちが出せる最高速度で飛翔していた。

動力炉を破壊した後、応急処置を行ったヴィータを突入部隊に引き渡した後、彼女たちは玉座の間を目指していた。

 

「リイン、あとどのくらいや!?」

 

「玉座の間まであと300です!」

 

「なら、急ぐ……なんやッ!?」

 

はやてたちが曲がり角を曲がった直後、ゆりかごを今までで一番大きな揺れが襲った。

飛翔しているはやてたちまでもがその震動に驚き、動きを止めるほどの強い揺れだった。

 

「今のは!?」

 

「玉座の間からゆりかごの中枢に向けての大魔力砲撃です!

 多分……」

 

「なのはちゃんやろうな……!

 急ぐで、リイン!」

 

「はいですッ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なのはちゃんッ!!」

 

「大丈夫ですかッ!?」

 

玉座の間に辿り着いた二人は、扉をぶち抜いて中に突入する。

だが、彼女たちの目に映ってきたのは想像していたものとはかけ離れた光景だった。

 

「ちょっと、いきなりぶっ放すなんて聞いてなかったんですけど……ッ!」

 

「いや、でもあのタイミングじゃないと貴女に当たらないで全部撃ち落すことできなかったし……」

 

「だからって、あんな大出力じゃなくてもいいでしょう!?

 ほら、これッ!

 ウェンディちゃんに無理言って借りてきたのに粉々ッ!!

 帰ったら絶対文句言われますよ!?」

 

「あ、あはは~……(面倒くさいなぁ、もう……)」

 

まず目にするのは、壁にあいた巨大な穴。

そして、その近くでなのはに詰め寄るクアットロと、その傍で座って彼女たちの様子を見ているヴィヴィオ。

 

「な、なんやこれ……?」

 

「さ、さぁ?」

 

彼女たちの言葉にツッコミを入れる者は誰もいなかった。

 

 

 

 

 

 

浮かび上がる感覚とともに、ノーヴェは自分の意識が戻り始めているのを感じていた。

夢を見ているときのような浮遊感を感じながら、ノーヴェはゆっくりと目を開いた。

 

「ッ、ノーヴェ!!

 よかったっす、目が覚めたッすね!!」

 

「……ウェンディ……?」

 

意識が戻って最初に見るのがウェンディ(こいつ)か、とも思わないノーヴェであったが、彼女であったことはノーヴェにとってはありがたかった。

これがスバルだった場合には今までの想いと、先ほどまで自分の意識とは関係なしに彼を傷つけていた罪悪感で彼女の頭はぐちゃぐちゃになっていたとノーヴェは確信できていた。

 

「どうなって……?」

 

「スバルっちとティアナっちにボコボコにされたッスよ。

 で、肉体の方を強制的にシャットダウン。

 あとはノーヴェの意識が戻るのを待つだけだったってところっす」

 

「そうか……」

 

ノーヴェはそう言って起き上がろうとするが、彼女の身体を激しい痛みが襲った。

痛みに悶える彼女を見たウェンディは慌てて彼女を寝かせる。

 

「まだ寝てなきゃダメっすよ!

 さっきまで限界超えてたんだから!!」

 

「……そうだったな……」

 

ノーヴェのどこか気の抜けた返事にウェンディはため息を吐いた。

 

「ハァ……。

 そうだ、スバルっちから伝言っすよ。

 『まだ仕事が残ってるから、話はそれが終わってからだ』だって。

 それまでここで大人しくしてるッすよ」

 

「あとから、か……。

 わかったよ」

 

ウェンディから、スバルの言葉を受けたノーヴェは降下してくるヘリの音のする方に意識を向けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「スバルさん、ティアナさんッ!!」

 

「おぉ、エリオにキャロ。

 大丈夫だったか?」

 

「はいっ!

 お二人も無事だったんですね?」

 

「まぁね。

 さて、これからのことなんだけど……」

 

スバルとティアナは、フリードに乗って合流したエリオとキャロに今後のことを話そうとしたが……

 

「これがヴォルテールか……。

 映像では見たけど……」

 

「デカいな……」

 

フリードの後をゆっくりとついてきたヴォルテールに目を奪われて話どころではなくなっていた。

それもそうだろう。

魔導師としての経験はエリオたち以上の二人だが、ビルの高さよりもでかい竜など相対する機会等はなかったのだから。

いつまでもそのデカさにあっけにとられていそうな二人だったが、ヘリの音に意識を引き戻された。

 

「おう、新人ども!

 そろってるなッ!」

 

「ヴァイスさん、どうしたんですか!?」

 

ヘリの後部ハッチから飛び降りたヴァイスは彼らのもとに走ってくると、すぐに要件を口にした。

 

「ロングアーチからだ。

 なのはさんと部隊長、リイン曹長からの通信が途絶えたらしい。

 突入部隊の話だと魔力の結合が不可能なほどのAMFがゆりかごの中に張られたらしい。

 そこで……」

 

「私たちに白羽の矢が立ったってわけですか」

 

「その通りだ。

 それと、ライトニングの二人はスカリエッティのラボに向かってくれ。

 フェイトさんがスカリエッティの確保には成功したが、ラボの外にはガジェットどもがうようよしてるらしい」

 

「「はいっ!」」

 

二人が返事をした後、ヴァイスはまたすぐにヘリの中へ戻っていく。

 

「あの、スバルさん、ティアナさん」

 

「ん?

 どうした、エリオ」

 

エリオから呼びかけられた二人はエリオとキャロの方に視線を戻した。

 

「あの、ゆりかごの中で気を付けてください……。

 魔力の結合ができない空間では魔導師はほとんど無効化されますし……」

 

「大丈夫だ。

 俺はいざというときの戦闘機人モードもあるし」

 

「私たちの本職はむしろ救助活動(こっち)よ。

 アンタたちに言われなくてもわかってるわよ。

 それに、危ないって言ったらそっちも同じでしょ?」

 

「は、はい……」

 

むしろ直接戦闘が行われるというところではエリオたちの方が危険でもあるのだ。

ガジェットの数は不明、司令塔であるティアナと切り込み隊長であるスバルを欠いた状況での戦闘はライトニングにとっては少々荷が重いところもある。

 

少し緊張気味の二人を見たスバルは一息つきながら右腕をティアナの肩に腕を回し、左腕でエリオとキャロを近くに引っ張り込こむことによって、四人は顔を突き合わせる形になる。

 

「いいか、俺たちは今までずっと一緒だった。

 だけど、これからもずっと一緒ってわけにはいかない。

 今回はその練習だ。

 しっかりやることやって、全員でまた顔を合わせるぞ?

 今度はなのはさん達も一緒にだ」

 

「えぇ」

 

「「はいっ!!」」

 

 

 

 

 

 

緊張もほぐれた二人が、フリードに乗ってラボの方へと向かうのを見送ったスバルは、シャマルに肩を借りながらヘリを降りてきたギンガと話していた。

 

「姉貴、大丈夫なのか?」

 

「ちょっと無茶しすぎたかな?

 肩のジョイントが壊れちゃった……」

 

アハハと、苦笑しながら頭を掻くギンガ。

そんな彼女をスバルは心配そうな表情で見つめる。

 

「そんな顔しないでよ。

 ほら、スバルにはまだ仕事があるでしょう?

 これ持っていきなさい」

 

「は……?」

 

スバルは、ギンガの左手から渡されたものを見て驚きの声を上げる。

その手には、ブリッツキャリバーが置かれていた。

 

「姉貴、これ……」

 

「言っておくけど、貸すだけだから。

 ちゃんと帰って返しなさいよ?」

 

「……おぅ」

 

 

 

 

 

 

「よし、二人とも乗ったな。

 アルト、いいぞ!」

 

『了解ッ!』

 

二人が乗り込むと、すぐにハッチが閉じヘリが上昇を始めた。

上昇の際の揺れを感じながら二人はヘリの中にあるものを見て言葉を失っていた。

 

「あの、ヴァイスさん……?

 これは?」

 

「……お前さんの担当からの贈り物だと。

 ほれ、通信」

 

「わっ……!」

 

スバルは目の前のものを見て、頬を引き攣らせながらヴァイスに尋ねた。

それに対して、ヴァイスもまた呆れながら答え、彼に通信機を投げ渡した。

投げられた通信機を落とさずにキャッチしたスバルはそのモニターに映る人物を見てなるほどと納得してしまった。

 

「あの、博士。

 これは?」

 

『前に話したと思うけど、レジアス中将直々に却下された実験兵装だよ。

 よくできてるだろう?』

 

「博士、二、三言、言わせてもらってもいいですか?」

 

『なんだね?』

 

スバルはモニターに映る人物―――サカキに対して思ったことをぶちまけた。

 

「なんでハンマー……?」

 

『実益とロマンを兼ね備えた素晴らしいものだよ?

 何、ちょっとサイズが大きくて推進器付きの金槌さ。

 何の問題もないよ』

 

「ちょっと!?

 この人一人分はありそうな大きさがちょっと!?

 それにふつう金槌に推進器はついてませんよ!?」

 

『まぁ、まぁ。

 確かに推進器は不味かったね。

 だけど、今回はありがたいだろう?』

 

サカキの言葉に首を傾げるスバル。

理解していない彼に向けてサカキは事実を突きつけた。

 

『すでにゆりかごの突入口のいくつかは塞がれてる。

 幸い突入部隊の脱出は終えていたけどね。

 それで、今君たちがいる地点から、ゆりかごの内部に入るための入口はないんだよ』

 

「つまり、これでゆりかごに穴開けて入り込めと……?」

 

『その通り。

 ちなみにこの『ハイブーストハンマー』は、そう言ったことを目的に作られた面もあるから、ビンゴなのさ』

 

「ムぅ……」

 

彼の言い分にも一理あることを理解しているスバルは何も言い返せなかった。

そんな彼に向けてサカキは静かに語り掛けた。

 

『これは、君たちにちゃんと帰ってきてもらえるようにという僕からのお願いでもあるんだ。

 僕は君たちという星をまだまだ観察し終えていないからね。

 ちゃんと帰ってきてもらわなければ困るんだよ』

 

いいね?と念押しされるスバル。

いつもの彼と違い、真剣な表情の彼に対してスバルは頷いた。

 

『それと、それはもう今回だけの使用だから、ブッチギリの最大出力に設定しているよ! 

 注意してね』

 

「うおぃッ!?」

 

最後の最後でいつも通りのサカキの言葉に驚きの声を上げたスバルだった。

 

 

「あ、これすごく状態がいい……」

 

その頃、ティアナはそんな彼を放っておいて、ヘリの奥に鎮座していたバイクの状態を確認していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




畜生、なんでクリスマスなのに補講が入るんだよ……。
そんなプレゼントいらねえよ……。

さて、いよいよ最後の見せ場に近づいてきました!!
連続更新もこれで終わりになると思いますが、年末までの完結に向けて頑張っていきます!!
それでは!!


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ティアナルート 第三十九話

最後の連続更新です。
それではどうぞ。


ヘリの中から外を見ていたスバルがぼそりと呟いた。

 

「見えた……」

 

未だに多くのガジェットと魔導師が戦闘を繰り広げている中、船体の多くの部分から煙を上げながらも悠然と飛行する船、聖王のゆりかご。

それを見つめながらティアナは気を引き締める。

 

「あそこになのはさん達が……」

 

「あんなデカい船が仕事場になるなんて思ってもいなかったな」

 

「そうね、今までもキツイ現場はあったけど、今回よりはマシだったかもね」

 

超ド級の船体を前にしても、おびえることなく話している二人を見て、ヴァイスは一つため息を吐いた。

 

「ベテランの雰囲気出しやがって、頼もしすぎじゃないかお前ら」

 

「これでも二、三年レスキューとしてやってましたから」

 

「ある意味機動六課(いま)よりもキツイ場所でしたからね」

 

二人はそう言って不敵に笑みを浮かべる。

遺失物管理課とレスキューではその役割が違いすぎる。

主にロストロギアの暴走を未然に防ぎ管理するための機動課と、事故現場における救命行動を任務とするレスキューでは現場の雰囲気も違ったものとなる。

同じ人命を救うという点においては違いはない。

だが、レスキューにおいては、間に合わない場合もある。

二人も例外ではなかった。

それでも、心折れずにやってきた二人は、確かにベテランと言ってもいい貫録を身に着けていた。

 

「それでこそだな。

 アルト、できるだけ近づけ!!」

 

『やってますけど……ッ!』

 

ヘリの後部ハッチを開き、ヘリの中から近づいてくるガジェットを狙い撃つヴァイスが、アルトにそう叫ぶが彼女は慎重にならざるを得なかった。

近づいてくるガジェットは、すでにヴァイスの迎撃をかいくぐるものも多くあった。

それでもヘリが撃墜されていないのは、単にアルトの操縦技術のおかげでもあった。

 

「くそっ、このまま間に合わないぞ……ッ!!」

 

ヴァイスが苦虫を潰したような表情でそう愚痴る。

ティアナが自分も迎撃に回るといったとき、彼はそれを却下した。

これから救助活動を行おうとする者が疲労していては話にならないからだ。

 

「どうにかして道をつくらねえと……ッ」

 

「なら、その役目は我らが担おう」

 

近づくガジェットを撃ちぬきながらそう呟く彼が見たのは、紫色の魔力と炎がヘリの周囲にいたガジェットを焼き尽くすところだった。

 

「あ、姉さんッ!!」

 

「「シグナム副隊長ッ!!」」

 

三人が見たのは、炎の翼を背にしたシグナムの姿だった。

 

「アレ、でもその格好は……?」

 

「なに、ちょっとした助っ人が来たんだ。

 それより、ガジェットをどうにかすればいいのだな?」

 

『あ、はいッ!

 道さえ開ければあとはこちらから突っ込みますッ!』

 

「心得た」

 

ヘリのコックピットから外部通信でアルトがそう告げると、シグナムはヘリよりも少し上空に昇った。

 

「というわけだ、アギト。

 何かいいものはないか?」

 

『あるよ。

 あたしだけだと使いきれなかったとっておきが。

 アンタとレヴァンティンと一緒ならやれるッ!』

 

シグナムは、自分の中にいるアギトの自信たっぷりな言葉に笑みを浮かべる。

 

「そうか、ならば見せつけてやるとするか。 

 我らの力をッ!」

 

『応よ!!

 コード送信……ッ!』

 

『コード受諾』

 

アギトから魔法のデータを受け取ったレヴァンティンがその姿を剣から弓へと変化させる。

そして、シグナムの背中から大量の炎が噴き出す。

彼女の足もとに、炎で構成された魔法陣が現れる。

 

『Phantom Phoenix』

 

レヴァンティンの声が響き、炎がシグナムを包み込む。

だが、彼女にはその炎が自分を優しく包み込むのを感じていた。

 

「飛べ、ファントムフェニックスッ!!」

 

彼女が限界まで弦を引き、そして放った。

放たれたそれはは、炎を纏った鳥の姿を顕現した。

それは、彼女の本来持つ魔法『シュツルムファルケン』と同様に鳥の姿を模していたが、それ以上の焔を身に纏っていた。

そして、そのままガジェットと魔導師の戦っている場に突っ込むと、炎はガジェットのみを的確に破壊し、消えていった。

 

「今だ、アルトッ!!」

 

『了解ッ!!』

 

シグナムの言葉と同時に、ヘリはすぐさま加速し切り開かれた道を駆け抜けていった。

その姿を見送ったシグナムは周囲に現れたガジェットを切り捨てた。

 

「さて、我らはこのままここ足止めだ。

 いいな?」

 

『応よッ、烈火の剣精の力、見せてやるぜッ!!』

 

「その意気だ。

 行くぞッ!!」

 

アギトの頼もしい声とともに、シグナムは群がるガジェットの中へと飛び出していった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「よし、ポイントに到達だ!!

 行って来い、二人ともッ!!」

 

「了解ッ!!」

 

「ウィングロードっ!!」

 

ウィングロードがギリギリ届く場所までやってきたヘリの中から、スバルが道を呼び出しその上を駆けていく。

そのあとをバイクに乗ったティアナが遅れずに飛び出した。

ウィングロードの上を走るスバルには、ゆりかごの船体のどこを破壊すればいいのか、それが見えていた。

そして、彼は左手に姉から託されたリボルバーナックルを装着する。

 

「行くぞ、マッハキャリバー」

 

『了解です、相棒』

 

スバルの言葉に、マッハキャリバーが答える。

そして、彼の目の前に、マッハキャリバーの中に格納されていた『ハイブーストハンマー』が現れる。

 

「コネクトッ!!」

 

『Drive ignition』

 

スバルは躊躇いなく巨大なハンマーの柄につけられた、コネクターに右腕を突っ込む。

マッハキャリバーの声とともに、突き入れられた右腕のリボルバーナックルの歯車状のパーツ『ナックルスピナー』が唸りを上げる。

ナックルスピナーが回転数を上げると、ハイブーストハンマーに取り付けられた推進器が火を噴きだし、その力を推進力へと変える。

 

「ブーストッ!!」

 

スバルが叫び、その身を推進力のみで前へと進む。

ウィングロードがゆりかごとぶつかり、それ以上先へ道は続かない。

だが、スバルにとっては関係なかった。

道がなければ、作り出すだけ。

 

「ブチ貫けぇぇッ!!」

 

自分を鍛え上げた副隊長の動きを頭の中で思い出し、自分の身体で再現する。

スバルが振り抜いたハンマーは、ゆりかごの船体を大きく揺るがした。

船体と接触した直後、ハンマーの中である機構が動作し、ハンマー内部で圧縮された空気の塊がハンマーの先頭を打ち出した。

打ち出された先頭は、ゆりかごの壁を打ち抜いた。

 

「ティアナッ!!」

 

「わかってるわよッ!!」

 

開けた穴から、スバルとティアナはゆりかごの内部に飛びこんだ。

内部に侵入した直後、スバルの足もとまで伸びていたウィングロードが消滅する。

 

「本当に魔力の結合ができない……ッ!」

 

「気にするな、最初からわかってたことだ。

 行くぞっ!!」

 

「えぇ……ッ!!」

 

スバルは右腕から使用不可能となったハイブーストハンマーを切り離し、ティアナとともに玉座の間を目指して走り出した。

だが、しばらくすると、ゆりかごの防衛機能が彼らを敵性体と認識し迎撃を始める。

スバルは魔法が一切使えないティアナの盾となるために、バイクよりも先を走り防衛砲台を潰していく。

 

「スバルッ!!」

 

「でぇいっ!!」

 

防衛砲台の数は多くはないため、スバルが前に出るだけでティアナへの攻撃が減っていく。

 

 

「スバル、前!」

 

「あれはッ!」

 

さらに進むと、彼らとは別の場所からゆりかごに侵入していた突入部隊の局員たちの姿が見えてきた。

そして、その中に彼らが見知った人物がいるのに気付くと、スバルは声を上げて彼女の名前を呼んだ。

 

「ヴィータ副隊長!!」

 

「スバル、ティアナ!?」

 

彼女―――ヴィータはボロボロの身体にも関わらず、突入部隊への攻撃を行っていた防衛砲台を片っ端から潰している最中だった。

そんな時、彼女の耳に聞こえてきたスバルの声に驚きの表情を浮かべながら彼らの方へと視線を向けてきた。

 

「なのはさんと部隊長の救助に行ってきます!!」

 

「あとは任せてくださいッ!!」

 

「あ、おい……!!」

 

ヴィータが彼らに声をかけようとするが、そんな暇もなく彼らは彼女の横を走り去っていった。

 

「あいつら……」

 

過ぎ去っていく二人の背中を見て、ヴィータは、頼んだぞ、二人とも……と静かに胸の中でエールを送った。

 

「おら、さっさと脱出準備だ。

 あとはあの二人に任せてこの船から出るぞ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ゆりかごの阻止限界点まであと40分!」

 

「次元航行部隊の到着はまであと何分だ!?」

 

「あと5分ッ!!」

 

「間に合わせるッ!!」

 

二人はタイムリミットまであと少しという状況の中、玉座の間への最短ルートを爆走する。

そして、それが見えた。

 

「見えた、あそこの壁の向こうよ!!」

 

「よしッ!!」

 

玉座の間と通路を仕切る壁。

それが彼らの目の前に見えた直後、スバルはさらにスピードを上げて、壁に迫る。

彼の金色の瞳は、以前以上に輝きを放っていた。

 

「でぇぇぃっ!!」

 

スバルの出せる最高速度の勢いの乗った左の拳が壁に叩き付けられる。

だが、壁には亀裂が入るだけで砕けることはなかった。

だが、それでもスバルは止まらない。

マッハキャリバーのローラーが回転し、床の間に火花が走り煙が立ち上る。

 

「踏ん張れよ、マッハキャリバーッ!!」

 

『Allright!!』

 

スバルの右腕から甲高い振動音が響く。

そして、スバルはそれを壁に走った亀裂の中心―――先ほど殴りつけた場所へと寸分の狂いなく叩き付けた。

 

ピシリ―――と小さな音がなり、それは次第に大きくなり壁の全体に亀裂が走った。

そして、轟音を立てながら壁は崩れ去った。

 

「なのはさんッ!!」

 

「助けに来ましたッ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後、彼らはゆりかごから無事に脱出。

機動六課所属のヘリへの帰還に成功。

同時刻、スカリエッティのラボ周辺のガジェットも、エリオ、キャロ、フリード、ヴォルテールによって大半を破壊し、ラボ周辺の安全の確保に成功した。

 

ゆりかごは、クロノ・ハラオウン提督率いる次元航行艦隊のアルカンシェルの一斉掃射によって次元の狭間に落とされ、その船体を原子レベルまで分解されることとなった。

 

主犯であるジェイル・スカリエッティと、彼の娘たちの逮捕とゆりかごの破壊によって、今回の大規模騒乱は終わりを迎えた。

 

後の研究者たちは今回の騒乱において、これほどの規模の事件にしては死者が一人もいないことに首を傾げていた。

研究者の一人は、ジェイル・スカリエッティの目的が管理局の破壊とは別のものであるのではと考えたが、その考えは時代の中へと消えていった。

 

ただ、一つ言えることは。

ゆりかごの阻止限界点を防ぎ、スカリエッティの逮捕に尽力した奇跡の部隊があったということだけだった。

 

 




メリークリスマス!!
クリスマスに最後の連続更新です、はい。
最後の見せ場というのに、ほとんど原作と同じで駆け抜けましたが、今回でゆりかご編は終わり。
あとはスバルとティアナの話でこのルートは完結となります。
最後までお付き合いください。
それでは!


オリジナル魔法紹介
『ファントムフェニックス』
アギトの中に残されていた魔法の一つ。
だが、彼女の一人での運用は不可能で、彼女とのマッチングが完璧な者と一緒でないと使えない。
シグナムの『シュツルムファルケン』と同様の魔法であるが、シュツルムファルケンとの最大の違いは、敵味方識別能力の存在である。
術者が敵だと判断したもののみをその炎で焼き尽くすというものであり、術者の技量によって、威力の増減が激しいモノとなる。

モデルはスーパーロボット大戦シリーズからアンジュルグの必殺技『ファントムフェニックス』より。

オリジナル兵装紹介
『ハイブーストハンマー』
サカキの開発した実験兵装。
ヴィータのグラーフアイゼンを参考に、一般局員にも使用可能な兵装の開発を目指したものだったが、サカキが趣味に走ったため性能がピーキーなものとなった。
サカキが趣味に走り開発が進んだ瞬間に、レジアスから、この開発に対する援助は打ち切られたが、サカキが自前のポケットマネーで完成させたという逸話がある。
本来は、推進器を用いた一撃離脱(ヒット&アウェイ)を持ち味としたものだったが、サカキの研究データの中に存在した圧縮空気を爆発させて相手に衝撃を伝えるという兵装をハンマーに搭載したもので、そのため扱いが難しいモノとなるが威力は倍以上となった。
そのため、本来なら『ブーストハンマー』となるべき名称をサカキが『ハイブーストハンマー』と名付けた。

モデルは、『勇者王ガオガイガー』からゴルディオンハンマー、および『THE ビッグオー』から『サドンインパクト』より。

没ネタ

ゆりかご突入の場面……

「マッハキャリバーッ!!」

『了解ッ!!』

――――パージします――――

ヒダリウデバシューン

「うオオォォォッッ!!!」

『不明なユニットが接続されました。
 システムに深刻な障害が発生しています。
 ただちに使用を停止してください』

ノコギリバリバリー

「ハァァァぁ―ッ!!!」

ユリカゴバリバリー



没理由:見せ場もへったくれもないから
元ネタ:アーマードコアV、およびアーマードコアVDからオーバードウェポン『グラインドブレード』より。


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ティアナルート 第四十話

思わず書き上げてしまった……(笑)
ティアナルート最終話です。
それではどうぞ!!


『JS事件』。

違法研究者であるジェイル・スカリエッティが起こした大規模騒乱はこの名で呼ばれることとなった。

主犯であるジェイル・スカリエッティは自らの罪を認めるものの、事件に対することには一切口を割らなかった。

彼の娘である戦闘機人たちは、二人を除いて全員が事件の捜査に協力的だったため、特別保護プログラムに組み込まれることとなった。

ナンバーズの長女であるウーノは、黙秘を貫きスカリエッティと同じ軌道拘置所に収監された。

次女であるドゥーエは、レジアス中将自らが監視することを条件に、彼女の補佐官として従事することとなった。

また、彼が自分のラボで拉致監禁(・・・・)していた元首都防衛隊所属の局員は全員が無事に保護されることとなった。

 

 

 

 

 

 

JS事件の数日後。

修復を終えた六課の寮の部屋で中々寝付けなかったティアナは、ベッドから抜け出し夜空の元を歩いていた。

聞こえてくるのは自分の足音と波の音だけ。

 

「あ……」

 

そんな中、彼女の視線の先には芝生の上で座り込み空を見上げる一人の青年の姿があった。

焦げ茶色の制服に身を包んでいる彼だったが、左の袖の中にはあるべきものがなかった。

 

「スバル。

 帰ってたのね」

 

彼女は座り込んでいるスバルの隣に座る。

 

「あぁ、ついさっきな

 しばらく寝付けそうになかったからここでちょっと空見てた」

 

彼女が隣に座り込んだことで、彼女の身体から感じる柑橘系の香りに少しドキッとしながらスバルは答える。

 

「腕、やっぱりダメだったんだ……」

 

「やりすぎだって怒られたよ。

 しばらくは片手の生活に逆戻りだ」

 

ティアナがスバルの左の袖を見ながらそう尋ねると、彼は左肩あたりを右手で摩りながらそう答える。

 

「……ギンガさんは大丈夫だったの?」

 

「あぁ、姉貴も右手が痛んでるけど、他は大事ないってさ。

 あと、お袋もな」

 

「そう、よかったじゃない」

 

スバルは、姉と、死んだと聞かされていた母親が生きていたことに対して嬉しそうに答えた。

そして、互いに無言になる二人。

 

「…………」

 

「…………」

 

どちらもしゃべらずに自分たちの遥か彼方で輝く星々を見つめる。

だが、そんな時間も長くは続かなかった。

 

「なぁ、ティアナ」

 

「どうしたのよ、そんなに改まって」

 

空から視線を戻したスバルは、隣に座るティアナの顔を真剣な表情で見つめる。

スバルの視線を感じたティアナは少し驚きながらも、彼に尋ねる。

 

「前に言ったろ?

 このドタバタが終わったら、返事するって」

 

「あ、あぁ……。

 あれね……」

 

スバルの言葉に、自分が何を言ったのかを思い出したティアナは顔を紅くしながら目を逸らす。

すべて終わって、冷静になった頭で考えたら、とんでもないことを口走っていたということに気づいた彼女は恥ずかしくてスバルの顔を直接見ることができなかった。

 

だが、それはスバルも同様だった。

自分の相棒だと考えていた彼女からの告白、父との話。

そして、自分の中で彼女のことをどう思っているのかということ。

今まで女子との関わりといえば、ティアナだけだったが、そんな彼女のことを自分が異性として見るようになったことでスバルもまたティアナのことを意識していた。

実際、彼の心臓は今でも鐘が鳴っているかのようなスピードで鼓動を刻んでいる。

 

「あー、あまりこういうのには慣れてない……ッていうか初めてだからさ。

 回りくどいのはやめにする」

 

 

「ティアナ、お前が好きだ。

 お前のことが欲しい。

 だから、付き合ってくれ」

 

「え、ちょ……ッ!?」

 

スバルのプロポーズ紛いの告白に、殊更顔を紅くするティアナ。

自分から告白しておきながらだが、彼女の頭の中はスバルの言葉が反響し、真っ白になっていた。

顔を紅くしながらアタフタとしている彼女は、珍しいものでもあった。

 

「ほ、本当……?」

 

「あぁ、本当だ。

 本気(マジ)だ」

 

何とか混乱の極みから脱したティアナが、最後の確認として尋ねると、間髪入れずにスバルは答える。

そのあまりにもの即答ぶりに、ティアナは俯き顔を彼から見えないようにした。

 

「お、おいティアナ?」

 

「な、なんでもない……ッ!」

 

そんな彼女に驚き、今度はスバルがワタワタと慌てだす。

だが、ティアナの方が小さく震え、嗚咽のようなものが聞こえてくるとスバルはそっと彼女の肩に手を置いた。

 

「泣いてるのか?」

 

「な、ないてなんか……くしゅんっ!」

 

スバルの言葉に反論しようとしたティアナだったが、途中でくしゃみで言葉をさえぎられてしまう。

いくら夏の終わりとは言え、夜中の海辺は潮風も吹いておりそれなりに冷える。

また、寝付けずにベッドから抜け出したティアナの格好は半そでのTシャツにホットパンツだけという防寒性もくそもない服装だった。

 

「ほら、これ着とけ」

 

「あ……!」

 

そんな彼女の肩に、スバルは自分が来ていた制服の上着を掛ける。

両肩から感じるスバルの温かさに、ティアナは顔を上げる。

そして、目の前にスバルの顔があった。

 

「「……」」

 

互いに両想いの二人。

そんな二人が近くに相手の顔があればどうなるのか。

それも恋愛経験ゼロの二人だ。

次第に顔が近づくのは必然だっただろう。

 

「ほら、もう少しや……ッ!

 行けっ!」

 

「ちょ、部隊長!

 押さないで下さいよッ!」

 

「はやてちゃんもヴァイス陸曹も少し静かにしてくださいですぅ……っ!」

 

だが、それは彼らの耳にその声が聞こえてこなければの話だった。

あと数センチで互いの唇が触れ合うという距離で、彼らの耳に聞こえてきたその声は彼らが座っている場所のすぐ近くの植え込みから聞こえていた。

 

「あー、なんだ。

 ほら、もう冷えるから部屋に戻って寝ろ。

 上着は明日返してくれればいいから」

 

「あ、うん。

 わかった。

 その、アリガト」

 

二人は同じタイミングで立ち上がり、寮への道を歩いて行った。

そんな二人を見ていた、三人は、植え込みからのそのそと出てため息をついた。

 

「はぁ、あと少しやったのに……」

 

「ちっと騒ぎすぎましたかね?」

 

「邪魔しちゃったですぅ……」

 

三人は、二人が両想いだということに気づいており、JS事件後、二人がくっつく瞬間を見逃すまいと常日頃注意していたのだった。

だが、そのチャンスはもはやめぐってくることはないだろう。

今回のことで二人がそういう行為を成すときは、周囲に注意を払うことは確実だからだ。

 

「さ、帰って寝ようか。

 明日も仕事やしな~」

 

「寝不足は乙女の天敵ですぅ」

 

「俺もこのところ寝不足だから、今日はもう寝るかな……」

 

そして、三人もそのことには気づいていた。

だからその場から立ち去ろうとする。

しかし、そんなはやてとヴァイスの肩をつかむ者がいた。

 

「ちょっと待とうか、はやてちゃん、リイン、ヴァイス君?」

 

「あ、なのはさん、奇遇っすね」

 

「こんな夜中にどないしたんや?」

 

「ね、寝不足は乙女の天敵ですよ……?」

 

いつの間にか彼らの背後にいたなのはに対して、三人は無難な言葉で尋ねる。

もっとも、三人とも身体中から冷たい汗が流れ、足はガクガクと震えていたが。

 

「うん、ちょっと教え子の恋路を見ものにしてる人がいたみたいだからちょっと注意しにね」

 

「そ、そうなんかー。

 そりゃ早く見つけなきゃあかんなー。

 なー、ヴァイス君?」

 

「そ、そうっすねー。

 あ!

 だったら俺たちも見つけるの手伝いますよー。

 ねー、リイン曹長?」

 

「そ、それはいいですねー。

 手伝いますよ、なのはさん?」

 

三人は、目の前で笑顔(ただし目は笑っていない)を浮かべるなのはにそう告げる。

だが、なのはの返答はいたってシンプルだった。

 

「少し、頭冷やそうか」

 

 

次の日、六課の職員から部隊長、リイン曹長、ヴァイス陸曹が何かに怯えているという報告が各所で挙げられたが、些細な問題だろう。

 

 

 

 

 

 

「あぁ、姉貴?

 身体は大丈夫か?

 ……あぁ、こっちも平気だから。

 それとさ、俺、やりたいこと見つけた。

 ……あいつを隣で支えていきたいって思ったんだ。

 あぁ、わかってるよ。

 やってやるさ。

 惚れた女を守れなくて何が男だってんだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

スバルの告白から、数か月後。

機動六課も、その役目を終えようとしていた。

 

「そうか、フェイトさんからか」

 

「えぇ、執務官補佐の試験受けてみないかって」

 

六課の食堂で、スバルとティアナは温かい飲み物を手にしながら話していた。

あの一軒以来、二人の距離は今まで以上に近づいているのは確かだった。

そんな二人が話している内容は、ティアナの夢への一歩目ということ。

 

「つまり、ティアナの執務官への道が開けたってことか」

 

「まだ、スタートラインに立つ前の話よ。

 まずは試験に受かってからの話。

 アンタはどうするのよ」

 

「俺か?

 まぁ、お前の夢が見えてきたんなら、俺の夢も叶えるかな?」

 

スバルの言葉に首を傾げるティアナ。

 

「夢って何よ?」

 

「謎のある男ってカッコいいと思わないか?」

 

「馬鹿じゃないの」

 

ティアナはスバルの言葉に対して、冷たい視線を向ける。

だが、それでもスバルが何も答えないことを理解しているティアナは素直に諦めることにした。

 

「そう言えば、今日は部隊長見てないわね?」

 

「なんか、親父の隊に行ってるみたいだぞ?」

 

ティアナがふと思ったことを口にしたら、スバルはすぐに答えた。

 

「108部隊に?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なるほど、つまりお前さんは部隊長としての仕事はしばらくやるつもりはない。

 そう言いたいんだな?」

 

「は、はい……」

 

陸士108部隊。

そこの部隊長室で、はやてはゲンヤと対面していた。

 

「この一年で痛感したんです。

 まだ私には部隊長は荷が重かったということに。

 だから、しばらくはどこかの部隊長の補佐としてやっていきたいなと思ってます」

 

温かいお茶の入った湯呑を両手に持ちながらそう告げるはやて。

そんな彼女の様子を見たゲンヤはため息を吐き、懐から取り出した数枚の紙を引き裂いた。

 

「つまり、お前はこれだけの部隊長依頼を断るってことだな。

 ま、子狸にしては考えたんじゃねえのか」

 

「師匠には負けますけどね……」

 

「確かに、お前は優秀だな。

 才能もあるんだろう、だけど圧倒的に経験が足りなかった。

 それを補いたいってことだな」

 

湯呑に入ったお茶を一口飲み、喉を潤したゲンヤははやてにそう尋ね、はやては静かに頷いた。

 

「よし、ならお前に丁度いい場所がある」

 

「へ……?」

 

「ほらよ。

 これ見てみろ」

 

ゲンヤの差し出した紙を受け取り、内容に目を通すはやて。

そして、ある部分を見て、彼女の頬は引き攣った。

 

「あ、あの……師匠?

 これ、渡す紙間違ってませんか……?」

 

「間違ってねえぞ。

 それはお前宛てだ。

 なぜかは知らんが俺のところに届いたがな」

 

「いや、でも……。

 なんで『特務一課』の部隊長補佐の候補に私の名前があるんですかッ!?」

 

「そりゃ、お前。

 さっき補佐として経験積んでいきたいって言ってただろうが。

 お前ならそう考えるだろうって思って俺が推薦しておいた」

 

「いや、でもッ!!」

 

「ちなみに、例の戦闘機人のあー、トーレとセッテもその部隊に行くことになってるから」

 

「ちょ!?」

 

そう、戦闘機人として、戦うことをやめたくはないと主張したトーレとセッテは、短期間の保護プログラムを終えたのちに彼女たち以上の戦闘能力を持つものが集まる特務一課への配属が決定していた。

ちなみに、部隊長は別の部隊で副部隊長をしていた男性が務めることとなっており、現部隊長であるミルズは第二小隊の隊長となることが決定しており、隊の主力となる第一部隊の隊長には、管理局に復帰したゼスト・グランガイツが務めることになっている。

そのことが書いてある紙を見たはやては仰天し、ゲンヤに断ろうとするがゲンヤはそれを受け取らなかった。

 

「おめぇ、俺がお前の断ったことで俺にも迷惑かかってんだぞ?

 それとも何か?

 師匠の好意を無にするってのか?」

 

「グッ、卑怯ですよ、師匠……」

 

「大人ってのは卑怯な生き物なんだよ。

 よかったじゃねえか、一つまた大人になったな」

 

ハハハと笑いながら湯呑に残ったお茶を飲み干すゲンヤを見て、はやては一言恨めしそうに呟いた。

 

「このタヌキ親父め……ッ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

0076年、4月28日。

一年間という試験期間を終えた機動六課では、最後の業務が行われていた。

隊舎のロビーでは、はやてが整列した局員に向けて最後の挨拶をしていた。

 

「長いようで短かった1年間。

本日を持って、機動六課は任務を終えて解散となります」

 

はやての言葉をBGMにして、スバルは隣にいるティアナと念話で会話していた。

 

(ホント、あっという間だったな)

 

(あっという間というか、濃密というか。

 とにかくいろいろあった一年だったのは確かね)

 

(一年前は……あぁそうだ。

 確か、便所を我慢してたんだったな)

 

(あぁ、そう言えばそうだったわね……)

 

二人してそんなくだらないことを話していると、はやての挨拶も終わりに近づいていた。

 

「皆と一緒に働けて、戦えて。

 心強く、嬉しかったです。

 次の部隊でも、皆どうか元気に――頑張って」

 

 

 

―――魔法少年リボルバースバル 第四十話―――

 

 

「なんか、あっという間でしたね」

 

「そりゃ、八神部隊長の挨拶は短いからな。

 最初の時もそうだったろ?」

 

「それに、この後はお別れ二次会もありますしね」

 

「そうなのよねー」

 

ロビーでの解散式を終えたフォワードメンバーは、二次会の予定されている場所へと向かっている最中だった。

 

「あ、そう言えばティアナさん。

 執務官補佐の試験、合格おめでとうございます」

 

「おめでとうございます!」

 

「ありがとう、エリオ、キャロ。

 でも、まだまだこれからよ。

 私はその先が夢なんだから」

 

ティアナはそう言いながらエリオとキャロの頭を撫でる。

そう、依然フェイトから勧められた執務官補佐の試験を彼女は一発で合格した。

そのことを聞いたスバルは、思わずティアナを抱きしめてしまうほどの喜びようだったという。

 

「でも、これで六課のみなさんとはお別れなんですよね……」

 

「スバルさんやティアナさんともお別れ、なんですよね」

 

先ほどまでティアナのことで喜んでいた二人だったが、今度はこれから六課は本当に解散するという事実に悲しそうな表情を浮かべる。

そんな二人の額に向けてスバルは弱めのデコピンを放った。

 

「そんなにしょんぼりするなよ。

 別に二度と会えないわけじゃないんだ」

 

額を押さえる二人と目線を合わせるようにしゃがむスバル。

スバルは二人の顔を見ながらしっかりと言葉を投げかける。

 

「それにね、別れってのは、別に悲しいことばかりじゃないのよ」

 

「別れた後には必ず新しい出会いが待ってるんだよ。

 人ってのは出会いと別れを繰り返していくもんなんだ。

 そうやって、つながりを増やしていくんだよ。

 だから、お前らもいつまでもウジウジするなよ。

 それに、まだ六課はある。

 最後まで楽しむほうがいいと思うぞ?」

 

「そうですね……!」

 

「いつまでも悲しんでちゃだめですもんね!」

 

「そう言うことだ。

 子供は笑顔が一番だからな」

 

二人が笑顔になったのを確認したスバルは立ち上がり、二人の頭に手を乗せ撫でまわした。

スバルが二人を撫でまわしていると、後ろから声をかけられた。

 

「みんな、ちょっといいかな?」

 

「あれ、なのはさん?」

 

「姉貴も……?」

 

スバルたちは、自分たちの近くになのはたちが近づいていることに気づき、首を傾げた。

あとは二次会だけなので彼女が自分たちを呼ぶ理由がわからなかったのである。

 

「二次会の前に、ちょっとね」

 

 

 

 

 

 

 

「「「「うわぁ……ッ!」」」」

 

なのはとギンガについて行った四人が見たのはこの一年間、世話になりっぱなしだった訓練スペース。

そこに広がる光景に、皆言葉も無しに、感嘆の息を吐いた。

目の前に広がる桃色の花を咲かせた木々。

そして、その花びらが風に舞って空を桃色に埋め尽くすその様は幻想的な空気を醸し出していた。

 

「この花って、確か……」

 

「うん。私やなのはちゃんの故郷の花」

 

「お別れと始まりの季節に、つきものの花なんだ」

 

エリオの言葉にはやてとフェイトが答える。

スバルは以前ゲンヤに聞いた話を思い出していた。

彼自身、見るのは初めてで、その光景には言葉を失っていた。

 

「おーし、フォワードメンバー集合!!」

 

「「「「はいッ!」」」」

 

桜の見せる光景に目を奪われていた四人は、ヴィータの掛け声で意識を引き戻し、声をそろえてすぐに横に並ぶ。

スバルたちが整列するのを待って、なのはが一歩前に出る。

 

「まずは4人とも、1年間、任務も訓練もよく頑張りました」

 

「この1年間、あたしはあんまり誉めた事無かったが……お前ら、まぁ随分強くなった」

 

「「「「……ッ!」」」」

 

なのはの言葉に続いて、ヴィータの言葉に驚く四人。

確かにヴィータが彼らを褒めたことなど一年の間に両手の指の数で事足りる程度だった。

 

「辛い訓練、キツい状況、困難な任務……だけど、一生懸命頑張って、負けずに全部クリアしてくれた」

 

なのはの言葉とともに、一年の間にあったいろいろなことが彼らの頭の中を過ぎ去っていく。

短くも濃厚な一年。

この一年は四人に取って忘れられない一年間になった。

 

「皆、本当に強くなった。

 4人とも……もう、立派なストライカーだよ」

 

「なのはさん……ッ!」

 

その一言で、四人の涙腺は崩壊寸前だった。

 

「あーもう、泣くな! バカタレ共!」

 

「「「「……はい!」」」」

 

そう言って四人に厳しい言葉を投げかけるヴィータの目にもまた、きらりと光るものがあった。

 

「……さて、折角の卒業、折角の桜吹雪。湿っぽいのは、無しにしよう!」

 

全員が涙を滲ませている中で、湿っぽい雰囲気を吹き飛ばすように、なのはが声を張った。

 

「そうだな」

 

「自分の相棒、連れてきてるだろうな?」

 

「「「「……へ?」」」」

 

シグナムとヴィータの言葉に首を傾げる四人。

自分の得物を持ち出し、すごい笑顔で構える二人に対して、スバルたちの第六感は最大級の警告音を鳴らしていた。

 

「えっと、なのはさん?どーゆーことでしょう?」

 

「折角最後だもん。

 全力全開!

 手加減なし!

 機動六課で最後の模擬戦!!」

 

なのはの言葉を聞いたフェイトは、慌てながらなのはの隣に向かう。

 

「全力全開って……聞いてないよ!?

 そ、それに今日は折角卒業なんだし……」

 

「まぁ、やらせてやれ。

 これも思い出だ」

 

「硬いこと言うなよ。

 リミッターも解除されたんだしよ」

 

「も、もう。

 なのはッ!」

 

「心配ないない。

 皆、強いんだから」

 

なのはの言葉にフェイトは心配そうな顔でスバルたちの方を見る。

 

「全力で行くわよ」

 

「相手はリミッター無しの隊長陣だ。

 どんなことしてでも勝つぞ!」

 

「「はいッ!!」」

 

スバルたちはやる気満々。

それでもフェイトはどこか不満そうだったが……

 

「フェイトママ、頑張って~」

 

「も、もう。

 仕方ないなぁ」

 

同じく訓練スペースに来ていたヴィヴィオの声援には勝てなかった。

渋々とだが、バルディッシュを取り出す。

そして、全員がバリアジャケットを身に纏う。

桃色、金色、紫、赤、蒼、橙色と様々な光が桜の花びらを照らした。

 

「それじゃあ皆、準備はええか!?」

 

「「「「はい!」」」」

 

 

「それじゃあ……」

 

「レディー……」

 

 

 

「「ゴーッ!!」」

 

 

 

桜とは、別れと出会いを示す花。

だが、別れでもそれが悲しいものばかりではない。

現に、この時の彼らの顔には笑顔が溢れていたのだから……。

 

 

―――魔法少年リボルバースバル ティアナルート――――

 

 

《完》




これにてティアナルートの本編は終了です。
あとは後日譚と、スバティアの番外編を持って完全にこのルートの物語は終わりとなります。
ちなみに、作者は非リア充なので、スバルの告白のシーンは苦労しました。
マジで。

それでは皆さん、また次回ッ!


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ティアナルート エピローグ

ティアナルートのエピローグです。
それではどうぞ!!


新暦77年

ミッドチルダを震撼させたJS事件から三年。

とある民家の一室で彼女は目覚めた。

 

「あぁっ!!

 寝坊したッ!!

 おい、ウェンディッ、起きろッ!!」

 

「ん~?

 なんすか、朝から大声出して……」

 

「バカ、お前時計見てみろッ!!」

 

「……あわわッ!

 寝坊っすッ!!

 なんで起こしてくれなかったんすか!?」

 

「昨日目覚ましセットしたのはお前だろうがッ!!」

 

「そこはノーヴェも確認しておいてほしかったっすッ!!」

 

 

 

 

 

「朝から騒がしいな……」

 

一家の大黒柱であるゲンヤは二階でドタバタしている娘たちに呆れてため息を吐いていた。

 

「あら、いいじゃないの、にぎやかで。

 私は楽しいからいいけど?

 ギンガは寝坊なんてしないし、スバルはしばらく帰ってこないからちょっとぐらい騒がしいぐらいがちょうどいいと思うわよ?」

 

そう言いながらキッチンから出てきたのは、二年前に意識を取り戻したゲンヤの妻で、ギンガとスバルの母親のクイントだった。

意識を取り戻し、リハビリを終えた後彼女は管理局には復帰しなかった。

流石に十年近く寝たきりと言っていい状態だったため、彼女自身が戻るのを望まなかったのである。

今では家を守る専業主婦として、近所のママさんたちとの交流を深めているところだ。

 

「まぁな。

 そうだ、チンク、ディエチ、学校の方はどうだ?」

 

嬉しそうに語るクイントに苦笑しながらゲンヤは自分の前で朝食を口にしていたチンクとディエチに尋ねる。

 

「はい、特に問題は……」

 

「そうじゃなくて、友達とかはできたのか?」

 

「えぇ、まぁ……。

 少々うっかり癖のあるやつが一人……」

 

「ほう、また面白そうな奴と絡んでるんだな。

 大事にしろよ?」

 

「はい」

 

ゲンヤはチンクの返事にウンウンと頷きながら、彼女の隣に座るディエチに視線を向けた。

 

「ディエチの方はどうだ?」

 

「一人で機動兵器作り上げようとしてるのが一人。

 私と話が合うのがいるなんて思いもしなかったから、よかった」

 

「そ、そうか……」

 

ディエチの言ったことに頬を引き攣らせるゲンヤ。

彼は管理局では質量兵器の開発や使用を禁じられている中で機動兵器を製作する学生がいることに驚愕していた。

ちなみに、JS事件の後、保護プログラムを終えたチンク、ノーヴェ、ディエチ、ウェンディはナカジマ家に引き取られていた。

スバルは姉が二人に妹が二人増えたことに言葉を失っていたが、最近では姉弟仲は良好なようだった。

そして、チンクとディエチにはスカリエッティがリミッターを最大まで引き上げ、彼女たちが戦闘機人としての力を容易には引き出せないようにした。

今では彼女たちは普通の学生として生活している。

チンクは魔法関係の学校に、ディエチは技術関係の学校。

そして、ノーヴェとウェンディはその力で他人を助ける仕事をしたいという思いから、救助隊の訓練校に通っていた。

 

「みんなおはよう!

 行ってきますッ!!」

 

「あぁッ!

 ノーヴェ待つッすよッ!!

 行ってきまーすッ!!」

 

準備を終えたノーヴェとウェンディは、二階から駆け降りてきてすぐに朝食である食パンを口に咥えて外に飛び出していった。

 

「まったく、少しは落ち着きというものをだな……」

 

「まぁまぁ、いいじゃないの。

 それよりも、確か今日だったわよね?」

 

「えぇ、きっと驚くでしょうね」

 

「絶対に驚く」

 

 

 

 

 

 

 

 

「八神部隊長補佐」

 

「ん?」

 

特務一課が再結成されて一年半。

その隊舎で彼女―――八神はやて一等陸佐は、自分の名前を呼ぶ声に振り向き、そしてその顔に笑みを浮かべた。

 

「あぁ、トーレ。

 どないしたん?」

 

「いえ、報告書の提出をと思いまして。

 今は大丈夫でしょうか?」

 

彼女の後ろに立っていたのは、かつて戦闘機人のNo.3としてはやての率いていた機動六課と戦っていたトーレだった。

今では、彼女も管理局の制服を身に纏って、地上の治安を守る一員として働いていた。

 

「今回の研究所はどんな場所だったんや?」

 

「詳細は不明ですが、人体実験を行っていた研究所だったようです。

 すでにデータなどは消去されており、手がかりもほとんどありませんでした。

 今は第三小隊と調査チームが施設の調査を行っています」

 

「そうか、わかった。

 あとは私が部隊長に渡しとくから、トーレはもう休んでええよ?

 確かこの後は休暇やったよね?」

 

「えぇ、セッテと一緒に別の世界で少し腕試ししてきますよ」

 

トーレの嬉しそうな笑顔にはやては苦笑しながら答える。

 

「もう、しっかりと休まなあかんのに。

 トーレも立派な戦闘狂(バトルジャンキー)やな」

 

「もともと、戦うのが主任務だったので、そう言う性格にもなります。

 本来なら、シグナム殿と一戦やりたかったのですが、生憎休みが合わずに……」

 

「あぁ、だからこの間シグナム、元気なかったんやな……。

 まぁええわ。

 あまり意味ないかもしれんけど、気をつけてな」

 

「はい。

 では、失礼します」

 

トーレは見本ともいえる見事な敬礼を彼女に向けて、去っていった。

そんな彼女の背中を見ながらはやては一言。

 

「どんな場所にも、あんな人はいるもんやなぁ……」

 

「はやてちゃーん!」

 

「お、リインやないか。

 なにかあったんか?」

 

「部隊長がお呼びですよ?

 早く行かないとまたお説教ですぅ」

 

「そらまずいな。

 ほな、はよう行こうか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ねぇ、ヴィヴィオ、私へんじゃないかな?」

 

「ちょっとは落ち着こうよ、なのはママ……」

 

とある場所で、なのはとヴィヴィオはある人物を待ち合わせていた。

だが、その待ち人が来るまでなのはは何度も自分の服装を確認しては隣にいるヴィヴィオに尋ねるという行為を繰り返していた。

普段とは違い、まったく落ち着きがない母親にヴィヴィオは呆れながら答えていた。

 

「なのはー!」

 

「あ……ッ!」

 

その時、なのはたちの待ち人がやってきた。

メガネをかけた好青年―――なのはの魔法の師匠であり、彼女が好意を抱いている人物、ユーノ・スクライア。

ユーノは駆け足で彼女たちの元まで来ると、なのはに話しかける。

 

「ゴメン、少し遅れちゃった」

 

「ううん、こっちもさっき来たところだから」

 

「ホントは三十分くらい前からだけど(ボソ……」

 

デートの定番のセリフを言ったユーノとなのはだったが、彼女の隣にいるヴィヴィオは小声でそう呟いた。

 

「ヴィヴィオも久しぶり」

 

「久しぶりです、ユーノさん!

 あ、それとも、ユーノパパって言った方がいいですか?」

 

「ちょ、ヴィヴィオッ!?」

 

「アハハ、パパはまだ早いかな~」

 

まだ(・・)なんですね」

 

テンパるなのはと、冷静に答えるユーノ。

そして、ユーノの言葉に脈ありだと勘づくヴィヴィオ。

どこか変わった三人組は、そのまま目の前にある門を潜った。

 

「ここって、最近有名になった遊園地だよね?」

 

「うん、なんでもちょっと前までは閉園の危機にあったらしいけど、いろいろやって持ち直したんだって。 

 この前エリオ君とルーテシアと一緒に来たキャロが『面白かったですよ』って言ってたから」

 

「へぇ……。

 あ、そう言えばスバル、合格したんだってね?

 おめでとうって言っておいてくれないかな?

 よく無限書庫に来てて、話したんだけど連絡先聞くの忘れちゃってさ」

 

「あぁ、そう言えば今日からだったね、スバルお兄ちゃんの新しい仕事」

 

「そうか、ティアナ、ビックリするだろうなぁ」

 

 

 

 

 

 

 

時空管理局、本局。

その通路で、その二人は並んで歩いていた。

 

 

「さてと、今日からはもうティアナも執務官。

 いろいろ大変だろうけど、頑張ってね」

 

「はい、今までありがとうございました!

 これからも、お世話になるかもしれないけれど、よろしくお願いします」

 

二人―――フェイト・T・ハラオウンと、ティアナ・ランスター。

並んで歩いている二人の着ている服装は、黒の制服。

執務官を表す唯一のもの。

だが、フェイトは着慣れた雰囲気だが、ティアナに関してはまだ制服に着られているという感じだった。

 

「うん、何か大きな事件の時は一緒になるかもしれないから、その時はよろしくね」

 

「そんなことはない方がいいんですけどね」

 

フェイトの言葉に、ティアナは苦笑しながらそう答える。

機動六課が解散して二年。

ティアナは、執務官補佐として、フェイトとともに様々な世界での仕事をこなしていた。

そして、難関と言われる執務官の試験を突破したティアナは、今日、晴れて新米の執務官として任官することになったのだった。

 

「それもそうだね。

 あ、それと、もう一つ」

 

「……?

 なんですか?」

 

思い出したかのように手を合わせるフェイトにティアナは首を傾げた。

 

「ティアナも、執務官補佐やっててわかったかもしれないけど、執務官には最低一人は補佐がいるの。

 だけど、ティアナにはまだいないから、私の知り合いに頼んでおいたから」

 

「え……?」

 

「大丈夫、ティアナも知ってる人だし、補佐官の試験も満点で合格した優秀な人だから。

 それじゃ、執務官としての仕事、頑張ってね!!」

 

「え、ちょ、フェイトさん……!?

 行っちゃった……」

 

足早にその場を去っていったフェイトの背中にティアナは、手を伸ばしかけるがすでにその時にはフェイトの身体は離れていた。

 

仕方ない、と肩を落としながら彼女は自分に与えられた部屋に入った。

それからしばらくして、彼女の部屋の呼び鈴が鳴った。

 

「あら、もう来たのかしらね」

 

『そのようです』

 

ティアナの言葉に、デスクの上におかれたクロスミラージュが言葉短く返答する。

 

「どうぞ」

 

「失礼します」

 

聞こえてきたのは、青年の声。

初対面の人物、それも優秀な成績で補佐官になったとフェイトから聞かされていたティアナは軽く姿勢を正して中へ入るように促した。

そして、その人物が入ってきたと同時に、彼女の頭の中は真っ白になった。

 

「本日付けで、ティアナ・ランスター執務官の補佐官となりました、スバル・ナカジマです。

 これからよろしくお願いします」

 

「な、な、な……ッ!!」

 

青年―――スバルは部屋に入ると、見事な敬語でティアナにそう告げた。

対するティアナは、しばらくぶりに見た愛する人がここにいるという事実を未だに信じられていなかった。

 

「あ、あんた、スバルッ!!

 な、なんで!?」

 

「なんでって、俺がお前の補佐官だからだよ。

 ほら、補佐官のバッチもあるぞ?」

 

デスクから立ち上がり、スバルのもとに詰め寄るティアナ。

この一年近く、ティアナは補佐官として、また執務官を目指すための勉強で忙しく、スバルもまた彼女とはあまり連絡を取らないようにしていた。

そして、一年という歳月は、スバルの身体を一回り大きく成長させた。

自分よりも高い場所にある彼の顔を見ながらティアナは、彼に詰め寄るが、スバルは制服の襟につけられた補佐官を示すバッチを見せる。

 

「それに、言っただろ?

 俺の夢が決まったって」

 

「え……、あぁ、あの時ね」

 

「そうだよ、あの時のことだ。

 俺の夢は、お前を隣で支えること。

 俺の夢も、お前の夢も一緒に叶えた。

 これからは、ずっと一緒だ」

 

スバルの言葉に、ティアナは目に涙を浮かべながらも笑顔で答えた。

 

「バカッ!」

 

「バカで結構。

 お前と一緒にいられるなら、バカになってやるさ」

 

二人は、仕事場だというのを忘れ、互いの背に腕を回した。

二人の影が一つになるのを、二人の愛機は、静かに見守っていた。

 

 

 

 

これが、後の時代に、管理局の英雄と呼ばれるほどのコンビとなるティアナ・ランスター執務官とスバル・ナカジマ執務官補佐の始まり。

二人は公私に渡り、互いのことを支え、時には言い争いながらも、後の世を駆け抜けていった。

 

 

 

 

 

 

 




これにて、本編の直系の話は終わりです。
あとは番外編を数話やった後にノーヴェルートに移行します。
それではまた次回!!


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ティアナルート 番外編 その一

番外編です。
今回はあの二人が登場!
それではどうぞ!


JS事件が終わって、二か月後……。

 

「え、休みですか?」

 

「うん、今日はスターズ、明日はライトニングは終日休日とします」

 

事件が終わっても、フォワードメンバーの訓練は終わらない。

ゆりかご内部での怪我が回復したなのはとヴィータによる訓練は、一時期は軽めのものばかりだったがここ最近は、事件前の一番キツイ訓練以上のものが行われていた。

そんな早朝の訓練を終えたスバルたちになのはが告げたのは休日の知らせ。

急にできた休日に喜びの声を上げる四人。

そんな四人の様子を見たなのはとヴィータは苦笑しながら話をつづけた。

 

「今回の休みは、事件解決の後もまとまった休みがなかったことに対してのお詫びみたいなものもあるんだ。

 だから、ちゃんと気分を切り替えてね」

 

「とりあえず、ライトニングの明日の訓練はフェイトに頼んであるから、明日はがんばれよ。

 スターズは、今日は目いっぱい遊んで来い」

 

「「「「はいっ!」」」」

 

「それじゃ、クールダウンして解散!」

 

「「「「お疲れ様でした!」」」」

 

 

 

 

 

 

「それで?

 今日はどうするの?」

 

「どうするって言われてもなぁ。

 いきなりの休みだからやることもないし……」

 

なのはたちから休みをもらった二人は、以前と同様に、バイクで街まで足を運んでいた。

以前と違うのは、ティアナがスバルの腕に自分の腕を絡ませているということだけ(周囲では、独り身の男が血涙を流していた)。

 

「それもそうね……。

 ゲーセンにでも行く?」

 

「お、いいな。

 確かあれが稼働してたはず」

 

ティアナのゲームセンターに行くいう提案を聞いたスバルは、あることを思い出しそれを快諾した。

 

 

 

 

 

 

「おーおー、やっぱりいつ来てもここは騒がしいな」

 

「これがないとゲーセンっては言えないけどね」

 

しばらく歩いていた二人は目的地であるゲームセンターに辿り着いた。

中に入ると、外に漏れていた音が、大音量で彼らの鼓膜を叩き、その音を伝えてくる。

 

「そう言えばスバル、さっき言ってたあれって何よ?」

 

「あぁ、行けばわかるさ」

 

ティアナがスバルに尋ねるも、彼はそれに答えず足を進め、ティアナも彼に遅れないように彼の後を着いて行く。

彼が足を止めたのはゲームセンター内の一角に設置された大型の機械の前だった。

少なくとも人一人は入れる電話ボックスのような機械が四つ横に並び、その真ん中に大型のモニターが設置されていた。

 

「これ?」

 

「あぁ、今話題のシミュレーターゲーム。

 『エクストリームデュエル』だ」

 

スバルは何も知らないティアナにそのゲームの内容を説明していった。

エクストリームデュエルとは、とある科学者が魔導師の戦闘シミュレーターを遊戯用にしたモノがもととなった者である。

そのため、現役の魔導師であれば、デバイスをセットするだけで自分の使える魔法が忠実に再現されるようになっている。(元が管理局でも使用されていたシミュレーターなので、レアスキルの再現もある程度可能となっている)

そして、魔導師でない一般市民でも楽しめるように、プレイ時に一枚割り当てられるカードに登録された魔法を使用可能になるなどの救済措置もとられている。

そのカードを集め、自分なりの戦術を創り出しデッキをセットすることで、現役の魔導師相手に勝利することも可能だ。

また、二対二のチーム戦のため、互いにコンビネーションを求められるというところもある。

そう言った戦略性も必要となるこのゲームは稼働して一月も経たずに大人気のゲームとなったのだ。

 

「スバル、そのとある科学者って……」

 

「サカキ博士だよ。

 拘留中のスカリエッティと話している最中に思いついたんだと」

 

「いったい何を話してたのよ、その二人は」

 

大人気ゲームの誕生の裏話を聞いたティアナはげんなりとしていた。

そんな彼女をそばに、スバルは大型モニターの中で行われているリアルタイムの試合を観戦することにした。

 

「へぇ、片方はエリオたちと同じくらいの女の子じゃないか」

 

「相手は……私たちと同じくらいの学生みたいね」

 

モニターに映っていたのは、四人のプレイヤー。

片方は、茶色のショートヘアーに紫色のバリアジャケットを来た少女と、水色のツインテールにレオタードにマントの少女。

相対するのは、どちらも黒髪の半そでの学生服を着た青年の二人組。

一見すると、青年組の方が有利に見えかねないが、戦況は完全に少女二人組の方に傾いていた。

水色の髪の少女が圧倒的なスピードで戦場を駆け抜け、青年のコンビネーションを崩す。

そのスピードについて行こうとした時、二人に向けて炎を纏った砲撃が加えられる。

何とかその砲撃を防いだ二人だったが、片方はマントを纏った少女の鎌に吹き飛ばされ、もう片方はショートヘアーの少女の仕掛けたバインドに捉えられてしまう。

 

『いっくぞー、パワー極限ッ!』

 

『疾れ明星、すべてを焼き消す炎と変われ……ッ!』

 

モニターから二人の少女の声が聞こえてくる。

ツインテールの少女の手から六つの雷の刃が相手に突き刺さりその動きを封じる。

また、ショートカットの少女は、動けない相手の懐に一気に飛び込み相手を砲撃で吹き飛ばす。

 

『雷光封殺爆滅剣ッ!!』

 

『真・ルシフェリオンブレイカーッ!!』

 

彼女たちの声が聞こえてきた後、片方は突き刺さった雷の刃が爆発し、もう片方は、なのはのスターライトブレイカーもかくやと言わんばかりの砲撃が相手を呑み込み勝負は決した。

 

「すごいわね、なのはさん並の砲撃じゃないの」

 

「というか、あれはカードから出る魔法じゃないな。

 つまり、あの二人は魔導師ってことだな」

 

スバルとティアナが少女たちのことを観察している間に、機械から負けた二人組が悔しそうに出てきた。

 

「くっそー、なんだよあれ。 

 強すぎだろ」

 

「これで六連勝。

 ここにいるのは全員負けってことだな」

 

そんな言葉を耳にした二人の顔には笑みが浮かんでいた。

ゲームとはいえ、あれほどの腕前の魔導師に自分たちがどれほど通用するのかを確かめてみたいという思いが二人の胸には浮かんでいた。

 

「なになに、『星光の殲滅者』に『雷刃の襲撃者』?

 すごい名前ね」

 

「名前はかっこいいな。

 それに戦い方も」

 

「どう、あれに勝てると思う?」

 

「やってみるしかないだろう」

 

「そうこなくっちゃね」

 

二人はそう言いながら機械の中へと足を進めた。

 

 

 

 

 

 

 

「ねーねー、シュテルン。

 みんなそこそこ強いけど、なんか詰まんない」

 

その時彼女―――シュテル・ザ・デストラクターは自分の相方としてこのゲームに参加しているレヴィ・ザ・スラッシャーがつまらなそうに話しているのを無表情な顔で聞き流していた。

 

「そうですね……。 

 なら、次の対戦相手で最後にしましょうか。

 王たちもそろそろ集合場所に来る頃でしょうから」

 

「うん、わかったー!」

 

聞き流してはいても、彼女も同じ思いだった。

遊戯とは言え、勝負事。

もっと熱くなれる闘争が楽しめると思っていたところでこれだ。

これでは退屈になるのも当たり前だと、彼女は心の中で考えていた。

 

「あ、シュテルン、次の人が来たみたいだよ!」

 

「えぇ……ッ!」

 

レヴィからの知らせを受けたシュテルは目の前に展開された魔法陣から現れた二人の少年と少女を見て心が震えた。

かつて、自分と魔法の勝負で競い合った自分のオリジナルと似たバリアジャケットを纏った二人組。

そして、その身体から溢れる強者の匂い。

無意識に彼女の顔には笑みが浮かび、手に持った愛機『ルシフェリオン』を握る力が強くなった。

 

「ごきげんよう。

 あなたたちの相手を務めさせていただきますシュテル・ザ・デストラクターと申します。 

 シュテルとお呼びください」

 

「僕はレヴィ、レヴィ・ザ・スラッシャー!

 よろしくね!」

 

勝負を始める前の礼儀として名乗りを上げる。

彼女たちの名を聞いたスバルたちもまたそれぞれ名乗りを上げる。

 

「管理局機動六課スターズ分隊所属のスバル・ナカジマだ」

 

「同じく、スターズ分隊所属のティアナ・ランスターよ」

 

管理局。

その名前を聞いたシュテルは二人から匂う強者の匂いに納得がいった。

 

「さて、名乗りを上げたのです。 

 始めましょう、心躍る闘争をッ!」

 

 

 




あくまでも、本編の後の話なので、番外編です。
シュテルとレヴィのゲスト出演でした!
二人との戦闘はこの次の話で!
それでは、また次回!!


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ティアナルート 番外編 その二

シュテル&レヴィ戦です。
それではどうぞ!


シュテルとレヴィ。

二人を前にしてスバルとティアナは中々出ることができなかった。

二人の実力が自分たち以上であることは先ほどの戦闘でよくわかっていた。

そのため、うかつに手を出したらやられることを今までの経験から理解していた。

 

「どうする?」

 

「向こうの出方を待っていたいけど……ッ」

 

待ちの一手ではどうしようもないということを瞬時に判断したティアナだったが、彼女よりも早くレヴィが動いた。

 

「来ないなら、こっちから行くよぉッ!!」

 

「スバルッ!」

 

「応さッ!!」

 

飛び出してきたレヴィに対してスバルが真正面からぶつかる。

振り下ろされたレヴィのデバイス『バルフィニカス』とリボルバーナックルが火花を散らす。

 

「やるやるっ!!

 でも、これならどうかなッ!!」

 

一端スバルから距離を取ったレヴィは素早く四発の直射魔法を展開する。

 

「スバルッ!」

 

「レヴィの邪魔はさせません」

 

スバルに向けて放たれたそれを撃ち落そうとするティアナだったが、彼女に向けて炎の奔流が迫る。

それを紙一重で躱すが、バリアジャケットに焦げ目がつく。

 

「チィッ!」

 

「パイロシューターッ!」

 

互いに誘導弾を撃ちあうシュテルとティアナ。

だが、シュテルの誘導弾は炎熱の変換がされており、掠るだけでダメージを受ける。

戦況は確実にシュテルに傾いていた。

 

 

 

 

「くそッ!」

 

「いっけぇッ、電刃衝!!」

 

放たれた直射弾を何とか捌くスバルだったが、完璧にすべてを捌くことはできずに数発もらってしまう。

 

「ヤバっ!」

 

「逃がさないよッ!

 光翼斬ッ!!」

 

そのうちの一発が、スバルの両腕をかち上げた。

体勢が崩れたスバルに対してレヴィはその隙を逃さずに斬撃を飛ばす。

 

「マッハキャリバーッ!」

 

『Allright』

 

スバルの掛け声とともに、リボルバーナックルから二発のカートリッジが吐き出される。

 

「ハーケンインパルスッ!!」

 

「オワッ!?」

 

スバルの脚から放たれた魔力弾がレヴィの斬撃を切り裂き、レヴィ自身にも迫った。

それを危なげなく回避したレヴィだったが、その速度にはさすがに驚いていた。

 

「おー、すごいッ! 

 だったら、こっちも本気で行くよッ!!」

 

『スプライトフォーム』

 

レヴィがスバルにそう宣言し、バルフィニカスのコアが二度明滅すると、レヴィのバリアジャケットが弾けた。

 

「これが僕の真骨頂ッ!!」

 

「何っ!?」

 

手にしたバルフィニカスが鎌の状態から大剣へと姿を変え、レヴィは先ほど以上の速さでスバルに迫った。

経験から察したスバルは、すぐに防御態勢を取るが、レヴィのスピードを乗せた大剣の一撃はスバルを吹き飛ばした。

 

「まだまだ、これからだよッ!!」

 

「えぇぃ……ッ!」

 

 

 

 

 

 

「クロスミラージュッ!」

 

『Fake Silhouette』

 

シュテルの一瞬のスキを突いて、ティアナはフェイクシルエットを展開し無数の自分の姿を周囲に顕現させる。

それに対して、シュテルはその幻影に驚きながらも冷静に言葉を放つ。

 

「幻影ですか。

 なら、すべて焼き付くつのみッ!!」

 

『フレアバースト』

 

ルシフェリオンから放たれた火炎弾は幻影の中心にたどり着くと、周囲に炎を撒き散らす。

周囲にばら撒かれた炎は幻影をすべて残らずに消し去った。

 

「いない……ッ!?」

 

幻影の中に本体がいないことに気づいたシュテルだったはすぐにその場から飛び退いた。

すると、先ほどまで彼女がいた空間の背後から数発の直射弾が通り抜けた。

 

「なのはさん直伝のアクセルシューター、やってみせるッ!!」

 

「やはり、貴方たちはナノハの……ッ!!」

 

ティアナは以前では扱いきれなかった数の誘導弾を確実に操り、シュテルに追いすがる。

対するシュテルは、自分に迫る誘導弾を撃ち落せるものは砲撃で撃ち落とし、それを逃れたものはルシフェリオンで打ち砕いた。

 

「やっぱりやりずらいッ!

 スバルッ!!」

 

「ヤバっ、シュテルンっ!!」

 

「了解ッ!!」

 

「………ッ!?」

 

シュテルが背後から飛んできたレヴィの警告に気づいたときには、彼女の身体はスバルの拳に捉えられていた。

 

「シュテルン……ッ!?」

 

「よそ見は……禁物よッ!!」

 

シュテルが吹き飛ばされたことに気を取られたレヴィは、いつの間にか近づいていたティアナに砲撃を撃たれた。

間一髪、直撃を避けたレヴィだったが、砲撃の余波で彼女の身体は弾き飛ばされてしまう。

 

「ナイスタイミング、スバル」

 

「こっちもやり辛かったからな。 

 そっちは頼んだ」

 

「えぇ、任せなさい」

 

背中合わせにそう言いあう二人の目には、互いの次の相手の姿しか映っていなかった。

 

 

 

「中々いい拳でした……」

 

「ちぇ、あんな見え見えの砲撃に飛ばされちゃうなんて……」

 

 

 

「ですからこちらも」

 

「もう頭にきた……」

 

「「本気で行くっ!!」」

 

『『Drive ignition』』

 

 

 

「まずいな……」

 

「本気にさせちゃったみたいね……」

 

「どうする?」

 

「どうするって、決まってるでしょ?」

 

 

 

「「フルドライブッ!!」」

 

『『Drive ignition』

 

「ギア」

 

「モード」

 

「「エクセリオンッ!!」」

 

 

 

 

 

 

「ディザスターヒートッ!!」

 

「ディバインバスターッ!!」

 

 

「甘い甘い……ッて嘘ぉッ!?」

 

「こっちよこっちッ!!」

 

 

「捉えた、打ち抜くッ!!」

 

「炎熱ッ!!」

 

 

「雷光一閃ッ!!」

 

「グゥ……ッ!!」

 

 

 

 

 

 

その後、その試合は白熱したものとなった。

赤と青の砲撃が飛び交い、その間で水色と橙色の軌跡が交わる。

片方で爆発が起きれば、片方では障害物である廃墟が切り裂かれる。

まるで本物の戦闘を間近で見ているような雰囲気を、観客たちは味わっていた。

 

 

 

だが、物事には始まりがあるように、終わりも訪れる。

すでに四人に与えられた耐久値はあと一ケタとなっていた。

 

「次で終わりですね……。

 本当なら、もっとこの闘争を楽しみたいところですけど……っ」

 

「またやればいい。

 これはゲームなんだから」

 

「そうだね、またやってくれるかな、オレンジちゃん?」

 

「こっちの休みが取れてればね」

 

それぞれの位置は、レヴィとシュテルが、スバルとティアナを挟み込む形になっている。

スバルとティアナは互いに相手の背を感じ、そして、長年一緒に戦ってきた経験から相手が次、何をするのかを数ある可能性から絞り込み、特定した。

 

「疾れ明星、すべてを焼き消す炎と変われッ!」

 

「パワー全開ッ!!」

 

 

「この一撃にすべてを掛ける……ッ!!」

 

「集え明星、すべてを貫く光となれ……ッ!!」

 

 

互いのデバイスに魔力が集中する。

そして、全員の魔法の発射のタイミングが揃ったとき、ティアナの声が響いた。

 

「スイッチッ!!」

 

彼女の声を聞いた直後、スバルはティアナと場所を一瞬にして入れ替えた。

 

 

「真・ルシフェリオンブレイカーッ!!」

 

「砕け散れ!雷神滅殺極光斬ッ!!」

 

 

「スターライトブレイカーッ!!」

 

「ストライクブレイザーッ!!」

 

シュテルとティアナの砲撃。

レヴィの斬撃とスバルの高圧縮された魔力の奔流。

そのすべてが一瞬にしてはじけ飛んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

「いやー、楽しかったっ!

 またやろうね!」

 

「こっちもいい気分転換になったさ。

 なぁ、ティアナ」

 

機械から降りたレヴィとスバルが互いにそう言いながらティアナの方を向く。

 

「なるほど、貴女とあちらの少年はナノハの教え子ということですね。

 通りで、戦い方に彼女の顔がチラついたわけだ」

 

「あの、シュテルさんはなのはさんと知り合いなのですか?

 というか、向こうのレヴィさんもだけど、そっくりなんですけど……」

 

「なに、魔法戦のライバルといったところです。

 昔、ナノハと戦うことがあったという程度ですが」

 

 

 

「なーんか、難しい話してるね」

 

「というか、俺も気になってたんだが、レヴィはフェイトさんと何か関係あるのか?」

 

シュテルとティアナの話を聞いていたスバルは、隣で頭の後ろで両手を回しているレヴィに尋ねる。

その問いに対して、レヴィは少し考えるそぶりして、答えた。

 

「んー、姉妹みたいなものかな?

 向こうがお姉ちゃんで、僕が妹みたいな」

 

「へぇ、フェイトさんにも妹がいたんだな。

 なんというか、雰囲気似てないけど」

 

 

 

「さて、それでは私たちはこれで」

 

「もう行くのか?」

 

「うん、僕たちも他に一緒に来てる子がいるしねー」

 

「そう、なら気を付けてね。

 まぁ、貴女たちなら大丈夫でしょうけど」

 

「お気遣い感謝します。

 それでは、また」

 

「まったねー」

 

そう言ってシュテルは丁寧なお辞儀をし、レヴィは元気いっぱいに手を振って、その場を後にした。

去っていく彼女たちの背中を見ながら、スバルはティアナに話しかける。

 

「強かったな」

 

「えぇ、とっても。

 でも……」

 

「渡り合えた。

 やってきたことは無駄じゃないってのはわかった」

 

「なのはさんとヴィータ副隊長には感謝しきれないわね」

 

「まったくだ」

 

そう言いながら、二人は、また彼女たちと戦える日が来るのを楽しみにしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「む、来たか。

 遅かったな」

 

「申し訳ありません、王よ」

 

「ごめんねー。

 チョット面白い子たちと遊んでたんだー」

 

「ふむ、うぬらが面白いということは、強かったのか?」

 

「えぇ。

 それも、ナノハたちの教え子だそうです」

 

「ほほう、あの子鴉と一緒におったあいつの……。

 あれから十年たっているというのは本当らしいな」

 

「ねぇ、王様。

 今日はこれからどうするの?」

 

「そうだな……。

 子鴉どものところに行くのも面白いと思っておったが、今日はユーリのために来たのだ。

 今日のところはやめておこう」

 

「そのユーリはどこに?

 姿が見えませんが……」

 

「あれ、そう言えばあの二人もいないねー」

 

「ユーリをあの姉妹が連れて行ってしまったのだ。

 まったく、どこをほっつき歩いているのかもわかりはせん。

 そこでだ、お前たちにも手伝ってもらうぞ。

 シュテルは西を、レヴィは東を頼む。

 我は南に向かう」

 

「承知しました、ディアーチェ」

 

「まっかせてー!」

 

 

この後、彼女たちが引き起こす騒動に、機動六課が巻き込まれることになるとは、この時はだれも思ってもいなかった。

しかし、その話はまた別の機会に。

 

 

 




シュテル&レヴィ戦でした。
番外編なので、ダイジェストな感じでご了承ください。
さて、彼女たちが登場したわけですが、このティアナルートではGODには行ってない設定です。
なので、シュテルとレヴィは二人のことは全く知りません。
ですが、二人の戦い方にシュテルはなのはのことを見抜くぐらいのことはできるのでは、と思いこのような形になりました。
ちなみに、マテリアル娘ズの容姿は、ゲームの時よりも少し成長したくらいの姿です。



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ティアナルート 番外編 その三

少し短いですけどティアナルート最後の番外編です。
それでは!


―――え、いきなりなんだよ、リリィ―――

 

―――スゥ兄のことを教えてって、ていうか、アイシスもかよ……―――

 

―――ゴホン、スゥ兄は俺の恩人で、憧れなんだ―――

 

 

 

 

 

―――――魔法戦記リボルバースバルForce――――

 

――――――予告編――――――

 

 

 

「くそ、ここは鉱山遺跡じゃなかったのかよ……」

 

『どう見ても研究所ですね。

 何やら怪しげなものもありますが……』

 

ごく普通の一般人である少年、トーマ・アヴェニールとその相棒スティード。

彼らが出会ったのは、言葉を話すことができない少女リリィ。

 

―――ダメっ、来ちゃダメッ!!―――

 

「大丈夫、俺が助けるから……ッ!」

 

 

 

 

「侵入者だと……ッ!?

 いかん、今すぐ焼却処分だッ!!

 シュトロゼックごと消し炭にしろッ!!」

 

 

 

 

「―――ッ!

 まずいな……」

 

―――……―――

 

「大丈夫、絶対に助けるから」

 

―――……誓約(エンゲージ)―――

 

 

魔法とは異なる力、ECディバイダー。

それを手に入れた彼の生活は、一変する。

 

 

 

「旅は道連れ世は情けってね」

 

物好きな美少女、アイシス。

 

 

「いいか、坊主。

 要件は一つだけだ。

 テメェが盗み出したディバイダーとリアクター、両方纏めてこっちによこせ。

 ガキのオモチャには過ぎた品だ」

 

謎の襲撃者、ヴェイロン。

 

 

 

「『動くな』と警告はしたぞ。

 一歩でも動けば、誰であろうと(・・・・・・)斬り伏せる(・・・・・)

 

「面白いことを言う騎士だ。

 公僕とは思えんな」

 

 

古代ベルカの騎士、シグナム。

ECディバイダー保持者、サイファー。

 

 

 

 

 

「そうか……。

 シグナムが……」

 

「意識不明の重体です。

 アギトも……」

 

「仕方ない、できれば戦力は十分に整えてからがよかったんやけど、もう四の五の言ってられる暇はないな」

 

「なら……っ」

 

「うん、特務六課の切り札を使うよ」

 

 

 

 

 

 

 

「スバル!」

 

「なのはさんッ!!」

 

「久しぶり、ティアナは?」

 

「あいつは今別ルートから調べてます。

 ティアナからは俺はこっちの方に行けって言われて」

 

「うん、今回はそれがいいかも。 

 どっちにしろ、戦闘になる可能性は高いから」

 

 

 

 

 

 

 

「主砲二人、準備はええか!?」

 

『アグレッサー1、了解!

 ストライクカノン、撃ちますッ!』

 

 

 

 

「ウォーハンマー、プラズマパイル命中!

 敵艦上部隔壁を貫通しましたッ!!」

 

「主砲は機関部への砲撃を継続ッ!

 突入部隊、準備はええな!!」

 

 

 

 

 

 

「こちら突入部隊、いつでも行ける」

 

「スバルさん、大丈夫ですか、トーマのこと……」

 

「心配するな、エリオ。

 トーマは必ず助ける。

 お前はお前の心配をしてろ」

 

「行くよ、エリオ、スバル。

 突入だ」

 

「「はいッ!!」」

 

 

 

 

 

「外壁、完全に修復されたみたいです」

 

「関係ないな、どっちにしろ制圧して出る予定だったんだ」

 

 

「ほう、これまたずいぶんな自身だな。

 我々の本拠地に乗り込んでおきながら、生きたまま帰れるとでも?」

 

 

「管理局特務六課制圧部隊(ライオットチーム)だ。

 一応言っておく、武器を捨てて投降しろ」

 

 

 

 

 

 

「ソードブレイクッ!!」

 

「ハッ!

 右腕、いただきだ」

 

「誰がッ!!」

 

 

 

―――やめてくれ―――

 

 

 

「スバルさんッ!」

 

「モードBSK、発動ッ!」

 

 

 

―――やめてくれ 痛いんだ……―――

 

 

 

「ハハハッ!!

 やるなぁ、公務員ッ!!」

 

 

 

―――傷つけようとする意志が―――

 

 

 

「バルディッシュ……ッ!」

 

「やらせんよッ!」

 

 

 

―――破壊しようとする力が―――

 

 

 

「こちらアグレッサー2!

 ウォーハンマーのバッテリーがヤバイッ!

 一度帰還するッ!」

 

 

 

―――頭の中に突き刺さる―――

 

 

 

「アグレッサー1、なのはちゃん!!

 砲撃はまだ行けるな!?」

 

 

 

―――なんでみんな、どうしてみんな―――

 

 

 

「少しきついけど、まだ行けるよ!」

 

 

 

―――俺や、俺が大切にしているものに……―――

 

 

 

「制圧部隊との連絡は!?」

 

「依然通信不能!!

 敵艦内の状況把握も不可能です!」

 

 

 

―――酷いことばっかりするんだ……ッ―――

 

 

 

「ステラ、振り切れないのですか?」

 

「向こうも最新鋭の艦だから、難しい。

 けど、やってみる」

 

 

 

―――傷つけるものみんな 邪魔をするものみんな―――

 

 

 

「……ぁぁあッ!」

 

 

 

―――怖い戦いも全部みんな―――

 

 

 

起動(Start-up)

 

 

―――消えてなくなればいいっ!!―――

 

 

 

『Divide Zero Eclipse』

 

 

 

 

 

 

(くそ、BSKモードが一発で強制解除された……ッ!

 視力回復を最優先……ッ!)

 

「管理局の人……。 

 要救助者が二名います。

 お願いです、この二人を助けて」

 

「……ッ、トーマ……ッ!?」

 

「その声、スゥ兄……!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「こちら飛翔戦艇フッケバイン操舵手兼管制責任者。

 今現在、侵入してきた局員と民間人二人を預かってます。

 無事に返す意思はあるから、安心して」

 

(子供……?)

 

「あと数分もあれば私たちの翼は力を取り戻す。

 それまでの間は一応人質です。

 攻撃してこないこと。

 それから!!

 特務だか何だか知らないけど、当面は私たちに関わらないでよね!!

 そりゃ指名手配されてるのは知ってるけど、私たちは少なくともこの数年は管理世界での大きな事件は起こしてないんだから!!

 ちゃんと外でやってるんだから、面倒な手続きまでやって追ってくるよりも先にやることがあるでしょ!?」

 

「こちら、特務六課部隊長八神一佐や。

 生憎やけど、うちらは地上と海のどちらからも特例が下っとる。 

 管理外でも、あんたらを追い回すというな。

 安心してもええで。

 アンタらに言われんでもこの騒動の裏はこっちも知っとるから」

 

 

 

 

 

 

 

『相棒、行けますか』

 

「あぁ。

 BSKの連発はきついが、そうも言ってられないからな。

 あのバカヤロウは一度ぶん殴ってやらねぇと気がすまねぇ」

 

『ならば行きましょう。

 貴方の助けを待ってる人がいます』

 

「了解、ソードフィッシュ1。

 スバル・ナカジマ……出るッ!!」

 

 

 

 

 

 

 

『来ました』

 

「わかってるよ。

 スバルッ!!」

 

「はいっ!!」

 

『ソードブレイカー、発動』

 

「目覚ませこのバカ野郎ッ!!」

 

 

 

 

 

 

 

「トーマっ!!

 大丈夫、私が絶対に貴方を助けるからッ!!」

 

 

 

 

 

―――リアクトドライブッ!!―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「これは……ッ!」

 

『どうかしましたか、ランスター執務官?』

 

「えぇ、重要な資料を見つけたわ。

 今からそっちに戻るから……ッ!?」

 

 

 

―――振り下ろされた凶刃

 

 

 

『ランスター執務官?

 どうしたのですか?

 何かあったのなら、こちらから向かいますが?

 ランスター執務官、応答を……』

 

 

―――忍び寄る不穏な影

 

 

 

 

 

「なるほど、エクリプスウィルスか。

 次代を担うクリーンエネルギー。

 新時代の灯火(ともしび)となりうる可能性を秘めた力か」

 

 

―――時代は進み、新たなる力を求める者が現れる。

 

 

「人を犠牲にして得るクリーンエネルギーなんて糞くらえだよ。

 私自ら潰してやろうじゃないか。

 そうは思わないか、レジアス閣下?」

 

「ふん、そのようなこと聞かれるまでもない。

 それで、何が望みだ?」

 

「決まってます。

 彼女たちを呼び出してほしい。

 彼女たちには悪いが、これは流石に見過ごすのは無理だからねぇ」

 

「いいだろう。

 それで、お前はどうする?」

 

「何、もう一人手伝いを頼みたい人物がいるから、そちらに挨拶に行こうと思ってる。

 ウーノ、彼女たちへの連絡は任せるよ」

 

「はい、ドクター」

 

 

 

 

 

 

 

「やぁ、久しぶりだね、ドクター。

 いや、ジェイル・スカリエッティ」

 

『あぁ、数年ぶりだね。

 プロフェッサー・サカキ』

 

 

 

 

 

――――魔法戦記リボルバースバルForce――――

 

 

―――――Coming soon―――――

 

 

 

 




嘘です。
Force完結してないのに二次創作など書けるわけない。
反応が良ければ全部終わった後にでも書こうかな(笑)

これにてティアナルートはすべて終わりです。
まぁ、またパッと思い浮かんだら書くかもしれませんが。
そして、今年最後の更新です。
実はこれは予約投稿で、今実家に帰省中なのですが、実家のパソコンはスペックがブラウン管テレビ並みの廃スペックなのです……。
ですので今年はこれにてお別れです。
皆さん、よいお年を!!
それでは(^^)/~~~


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ノーヴェルート 第一話

あけましておめでとうございます!
あっという間に一年が過ぎていきました(笑)。
今年もきっとそうなんだろうな……
さて、ノーヴェルート第一話、始まります!


夜の海岸で、スバルは不意に鳴った携帯端末の画面を見る。

 

「非通知……?」

 

そこに映っていた電話番号は、彼の端末に登録されていないものだった。

その覚えのない番号にスバルは首を傾げながらも通話ボタンを押す。

 

「はい、もしもし?」

 

『あ、あたしだ。

 この間、道を尋ねた。

 スバル・ナカジマ……の番号であってるんだよな……?』

 

端末から聞こえてきた遠慮がちな声を聞き、スバルは以前街で出会った少女の顔を思い出していた。

 

「あぁ、確かに俺がスバルだ。

 それで?

 何かあったのか?」

 

『別にようはないけど……。

 まだちゃんとした礼をしてなかったから』

 

「礼……?

 この間お礼は言われた記憶があるけど……」

 

『あれは言葉だけだろ。

 それじゃこっちの気が済まないんだ』

 

真面目な奴だな……とスバルはそう思いながら苦笑する。

スバルは近くの芝生に座りながら、そうだなと考え、そして一番大事なことを思い出した。

 

「そうだ、一番大事なことを忘れてた」

 

『ん?

 なんだ?』

 

「名前、教えてくれよ」

 

『あー、そう言えば言ってなかったな……』

 

スバルの言葉を聞いた少女もまた思い出したかのように呟く。

すると、少女は一度ため息を吐いて言葉を続けた。

 

『名前か……。

 ノルンって呼んでくれ』

 

「ノルン……、うん。

 いい名前じゃないか」

 

少女……ノルンの言葉にスバルは彼女の名前を小さく繰り返してそう返す。

彼の返答にノルンは声を上ずらせた。

 

『……それで?

 名前を教えてくれってだけじゃないだろうな?』

 

「え?

 俺はそれだけで十分だったんだが……」

 

『それじゃあたしの気が済まないって言ってるだろうが。

 ほかになんかないのかよ?』

 

スバルは顎に手を当てて考え込む。

そして、一つの答えに行きついた。

 

「どうしてもって言うなら……。

 これからもちょくちょく話し相手になってくれないか?」

 

『話し相手?

 別にいいけど……、なんでだ?

 別にお前相棒とかいないわけじゃないだろ?』

 

ノルンはスバルにそう尋ねる。

彼女の問いにスバルは苦笑しながら答える。

 

「相棒だからこそ、話せないこともあるんだよ。

 まぁ、管理局のことを話すのがダメなこともあるけど……」

 

『そこは仕方ないだろ。

 まぁ、話し相手ってのは別にいいけど。

 お前はそれでいいのかよ?』

 

「だからいいって。

 時間は……そうだな。

 今と同じくらいなら仕事も終わってるからいいか。

 というわけで、よろしくなノルン」

 

『勝手に決めるなよ。

 まぁこっちも別にその時間は空いてるからいいけど……』

 

そうして、彼らの奇妙な関係は始まりを告げた。

 

 

 

 

 

 

「話し相手……か」

 

ノルン―――ノーヴェは手に持った端末の画面に映る番号を見ながら小さくため息を吐く。

 

「何やってるんだろうな、あたしは……」

 

本来、あり得るはずのなかった関係。

それを自分から繋ぎ止めることになるとは思っていなかったノーヴェは、自分の中でそれも悪くないかと思っていることを不思議に思っていた。

 

「なんであんなこと言ったんだか……」

 

そう言いながらも、彼女の顔には微笑みが浮かんでいた。

 

 

 

 

 

 

それから、彼らはそれなりの回数の会話を続けていた。

曰く、訓練が大変.

曰く、姉の悪戯がシャレにならない。

曰く、相棒の訓練の密度が異常。

曰く、父親の作った発明品が暴走した。

曰く、同僚のヘリパイロットの妹自慢が長い。

曰く、父親が研究していたものが爆発した、等々。

色々なことを話し、彼らは互いのことをそれなりに理解し始めていた。

 

 

 

「あー、ノルン?

 朝早くに悪いけど、今日は何か予定あるか?」

 

『ん?

 急にどうしたんだ?

 別に予定はないけど……』

 

二人が文通ならぬ電通の関係になって十数日後、スバルは恐る恐るノルンにそう尋ねた。

早朝訓練を終えた彼ら新人達に対して、ホテルアグスタ以降初めての全日休養が与えられたのだ。

そこで彼はノルンとあって話がしたいと考え、彼女に電話したということだった。

彼の言い方を疑問に思いながらもノルンは予定はないと答え、その答えに対してスバルはほっと安堵の息を吐いた。

 

「いや、しばらく休みがなかったってことでオールで休みが入ったんだよ。

 だからさ……その……、久しぶりに会って話さないかって思ったんだが……」

 

『別にいいけど……』

 

「いいのか!?

 よし、じゃあそうだな……、十一時頃に駅前で!」

 

『お、おう。

 なんか嬉しそうだな、お前』

 

「そりゃ、いつも声だけの相手と顔合わせて話すんだ。

 楽しみに決まってるだろ?

 それじゃ、十一時にな」

 

『あぁ。

 それじゃ』

 

ノルンとの約束をつけたスバルは、訓練後の疲れなど吹き飛んだかのような表情で隊舎へと戻っていった。

そんな彼の後ろ姿を見ていたエリオとフリードが首を傾げているとも知らずに。

 

 

 

 

 

「……どうする」

 

その時、ノーヴェもまた彼女なりに悩んでいた。

彼女たちナンバーズに対して、スカリエッティは特に生活に対しての制限を設けてはいなかった。

そのため、彼女たちの中には普通の人間としての生活というものに対しても理解のある者が多かった。

そして、ノーヴェもその一人だった。

彼女とて、戦闘機人とはいえ一人の少女だ。

普通の服を着たりするし、女性向けの雑誌を読んだりもする。

そのため、彼女は今非常に悩ましい問題に直面していた。

 

「どれを着ていけばいい……?」

 

ノーヴェは自室のクローゼットの中に並ぶ服を見ながらそう呟いた。

クローゼットの中には、彼女が自分で買った服や、彼女の姉妹が買ってくれた服が並んでいた。

そこで彼女は今回、どの服を着ていくかについて悩んでいたのだった。

 

「ふつうの服で行くべきか……。

 いやでも、この間読んだ雑誌には『意中の男性を喜ばせるにはギャップも必要』って書いてあったし……。

 いや、そもそもなんであいつが意中の男性に分類してるんだあたしは……。

 いっそのことウェンディに頼む……いや、あいつのことだ。

 きっと面白がってついてくるにちがいない……」

 

クローゼットの中からいくつもの服を取り出して、鏡の前で自分の前にかざしては別のものと取り換えたりと忙しなくやっている最中にも考え事を止めないというのは流石と言うべきかなんというべきか。

 

「何をそんなに悩んでいるのだ、ノーヴェ?」

 

「ウォわぁっ!?」

 

だが、そんな状態では、自室の中に姉であるチンクが入ってきていたことに気づくことはできなかった。

突然声をかけられたノーヴェは手に持っていた服を落としながら声を上げた。

 

「そ、そんなに驚くことか?」

 

「い、いや……。

 でも、チンク姉、どうして?」

 

「いや、お前の部屋を通りかかったら変な声が聞こえたからな。

 少し気になったんだ。

 それよりも、ノーヴェ。 

 どこかに出かけるのか?」

 

服が散らばっている部屋を見てチンクはノーヴェにそう尋ねた。

尊敬する姉である彼女から尋ねられたノーヴェに答えないという選択肢はなかった。

 

「なるほど、以前お前が言っていた文通相手と会うことになったが、どの服を着ていけばいいのかわからない、ということだな」

 

「う、うん……」

 

「ならば姉に任せておけ」

 

「は?」

 

チンクの自信たっぷりな声と表情を見て、ノーヴェは間の抜けた声を上げる。

そんな彼女にチンクは笑みを浮かべながら答える。

 

「何、妹の服装選びを手伝ってやろうと思っただけだ。

 心配するな、他の皆には黙っておいてやる」

 

「え、ちょ、チンク姉?」

 

「さーて、どの服からいこうか……。

 これか?

 あ、これもいいな……」

 

「……」

 

嬉々としてノーヴェの服を選び始めたチンクを見て、彼女は諦めの表情を浮かべるしかなかった。

 

 

 

 

 




ノーヴェルート第一話でした。
さて、文通というどこの絶滅危惧種!?という関係から始まった彼らの仲。
二人とも自覚はないですけど、相手のことを意識しているというところです。
ちょいと無理やりかもしれませんが、ご了承ください。

ノーヴェルートなんですが、ティアナルートよりも短いのは確実です。
もともとこの話はティアナルートのみのもので、ノーヴェルートは読者の皆さんの中から一番要望が多かったために創りだしたものです。
ですので、恐らく十話程度かそれ以下の話数で終わるかもしれません。
それでも、という方はお付き合いください。
それではまた次回!


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ノーヴェルート 第二話

ノーヴェルート第二話です!
かなり展開が速いですがどうぞ!


スバルがノルンとの約束したその日、ティアナはヴァイスに彼のバイクを借りるために格納庫を訪れていた。

今、彼女の目の前でヴァイスは自分のバイクの整備を行い、最後のチェックを行っているところだった。

 

「よし、いい調子だ」

 

バイクのアクセルを空噴きさせ、エンジンの調子を確かめたヴァイスは笑顔で頷きながら鍵をティアナに投げ渡した。

 

「そら、こけたりするなよ」

 

「大丈夫ですよ。

 免許はちゃんと持ってますし」

 

鍵を受け取ったティアナはバイクに跨り、エンジンを始動させる。

手袋をつけてヘルメットを被ろうとしていたティアナにヴァイスはどうしても気になっていたことを尋ねた。

 

「今日はスバルと一緒じゃないんだな。

 さっき一人でバイクに乗って出ていったが」

 

「えぇ、なんか最近文通してる相手と待ち合わせしてるって聞きましたよ」

 

ヴァイスはヘリの整備のために格納庫を訪れた際に、スバルが一人で自分のバイクで六課を出て行っていたのを思い出しながらティアナに尋ねる。

ティアナは、彼の問いにヘルメットのひもを締めるのを止めて答えた。

その顔はどこか寂しさを滲ませていた。

 

「お前はそれでいいのか?」

 

「何がですか?」

 

「だから、スバルのことだよ。

 そういった気持ちはなかったのか?」

 

「……スバルのことは、男って言うより手のかかるやんちゃな弟、みたいな感じですよ。

 だから、スバルにはそう言った気持ちはありません」

 

ヴァイスの遠慮のない問いにティアナは手に持ったヘルメットを両手で握りしめながら少し声音を落としながらも答えた。

その答えを聞いたヴァイスはそれ以上聞くことはなく、バイクを発進させた彼女の背中を見送った。

 

 

 

 

 

『以上より、非魔法装備の充実により地上の検挙率はこれまでより20%以上の向上が見込むことができる。

 よって私は非魔導師局員における非魔法装備の配備を提案する』

 

六課の食堂では、地上本部のトップであるレジアス中将の演説についてのニュースが流されていた。

そんなニュースを聞きながら、なのはたち六課隊長陣は遅めの朝食を採っていた。

 

「相変わらず強気な発言だよな」

 

「だが、レジアス中将自身、大規模テロ行為を未然に防いだ経験がある。

 その経験からの発言だろうな」

 

画面の中でレジアスが静かに、だが力強く演説しているのを聞いてヴィータとシグナムはそう口にする。

ヴィータは少し呆れを交えた声だったが、シグナムの言葉を聞いて、納得したかのように頷く。

 

「まぁ、経験則ってのは馬鹿にできねぇからな……。 

 しかもあの人、魔力持ってないんだろ?

 よくそんな状況でテロを阻止できたな」

 

「相手も非魔導師のテロ組織だったからこそと言えるが、質量兵器に向かって魔法なしでは流石にためらいが出るな」

 

二人は画面の中で演説を続けるレジアスに対して少しの畏れと尊敬の眼差しを向けた。

そんな二人をよそに、なのはたちは別の話題で盛り上がっていた。

 

「じゃぁ、エリオたちは二人でデート……ッていうか遊びにいったんやね?」

 

「うん。

 ちゃんとお金も地図も渡したし、大丈夫、だと思う」

 

「ティアナとスバルはそれぞれ別々に街に行ったみたい。

 でも、意外だったかな。

 あの二人がバラバラで遊びに行くなんて」

 

「そうやね。

 あの二人はいつも一緒やったからなぁ……。

 てっきり二人で遊びに行くもんやと……」

 

なのは、フェイト、はやての三人はコップに淹れたコーヒーをゆっくりと飲みながら世間話と興じていた。

例え、管理局のエースと呼ばれても、若い女性が三人集まればそう言った話になるのは仕方がないと言えるだろう。

そのまま、三人は朝食が終わるまで楽しげに話していた。

 

 

 

 

 

さて、六課の食堂で話題にあげられていることなど知らないスバルは、待ち合わせ場所に辿り着いていた。

時間は待ち合わせの十分前。

スバル自身は待ち合わせに遅れるなどありえないと考えての時間だった。

 

「まぁ、まだ来てないよな……」

 

スバルは駅前をざっと見回したが、以前見たノルンの綺麗な赤髪は彼の視界にはなかった。

少し残念と思いながらも、時間よりも早く来たのは自分の方だと思い出し、近くにあったベンチに腰掛けて待つことにした。

だが、ベンチに座った直後、スバルの端末に一通のメールが届く。

 

『今着いた。

 どこにいる?』

 

その文字を見たスバルはキョロキョロと周りを見渡すも、彼女の姿は見えなかった。

すぐにスバルは返信のメールを打つが、そんな彼の頭にポスッと柔らかいモノが置かれた。

 

「もう見つけた」

 

「お、おう……」

 

スバルは自分の頭に置かれたのが彼女―――ノルンの鞄だと気づき、その視線を上に向け、言葉を失った。

スバルの視線に気づいたノルンは怪訝な表情を浮かべながら彼に尋ねる。

 

「な、なんだよ……。

 何か言いたげだな」

 

「い、いや……。

 前あったときとはまた服の雰囲気が違ったから……」

 

「やっぱり似合わねぇよな、あたしにこんな格好」

 

スバルの言葉にノルンが暗くなりながら答えると、スバルは慌てて手を振りながらそれを否定した。

 

「違う、違う!

 似合ってたというより似合いすぎてその、か、かっこよさと可愛さがいい感じになってると思う」

 

「か、かわいいって……まぁ、姉が選んでくれた服だし……」

 

ノルンは顔を紅くし、指をツンツンと突き合わせながらゴニョゴニョとそう口にする。

スバルはそんな彼女の様子に苦笑する。

 

「さてと、どこに行く?」

 

 

 

 

 

まず二人は、互いに行きたい場所に行くことにした。

スバルはゲームセンター、ノルンはアクセサリーショップという希望を出したため近くにあったアクセサリーショップに入ることになった。

 

「いらっしゃいませー」

 

店員の挨拶を聞きながら二人は店の中に入っていく。

その店は外からでは中が見えない構造だったが、店の中は落ち着いた感じの雰囲気が出ていた。

 

「へぇ、いろんなのがあるんだな……」

 

「この間はこの店を探してたんだよ。

 この辺りは結構店が多くて迷ってたんだ」

 

スバルとノルンはそう言いながら棚に飾られているアクセサリーを見ていく。

その中でノルンは数字をかたどったアクセサリーを選んでいく。

その数は一から十二までとかなりの数になっていた。

 

「結構多く買うんだな」

 

「あぁ、上の姉から下の妹までな。

 結構いろいろと厳しいんだよ、うちは。

 だから、誰かが出かけたら何か土産をって感じになってる」

 

「姉妹、か。

 俺にも姉貴がいるんだけど、贈り物なんてした覚えがないな……」

 

今度何か買っていくか?と悩むスバルをよそにノルンはレジへと進みアクセサリーの代金を支払う。

そんな中、あるアクセサリーをスバルがしげしげと見つめて手に取った。

 

「どうしたんだ?」

 

「いや、ちょっとな」

 

ノルンからの問いを曖昧な言葉で返したスバルは手に持ったアクセサリーをノルンの方に向ける。

スバルのその行動に首を傾げるノルンだったが、スバルは彼女に構わずにそのアクセサリーをレジに持っていき代金を支払った。

 

「お、おいスバル?」

 

「ちょっと動くなよ?」

 

袋に入れることなくそれを持ってノルンの背中に回ったスバルはそれをノルンの首にかけた。

ノルンの首元には、流れ星をかたどったネックレスが揺れていた。

 

「ちょ、これ!?」

 

「うん、似合ってるな」

 

「いや、そうじゃなくて!!」

 

ノルンは自分の胸元にあるネックレスを指さしながらスバルに向けて尋ねるが、スバルはそんな彼女に向けていつも通りの感じで答える。

 

「これからもよろしくって感じの贈り物だ。

 ダメだったか?」

 

「う……。

 はぁ、わかった、受け取るよ」

 

スバルの言葉に裏がないことを今まで知っていたノルンは彼の言葉にため息を吐きながらもそう答えた。

 

「でもなんで星なんだ?」

 

「いや、なんとなくノルンにはそんな感じの流れ星が似合うと思ってな。

 うん、その服ともいい感じだしよかった」

 

「…………サンキュー」

 

「おう」

 

 

 

 

 

 

「へぇ……」

 

アクセサリーショップを後にした二人は、ゲームセンターに足を運んでいた。

初めて入ったのか、ノルンは中の雰囲気に声を上げていた。

 

「結構いろいろなのがあるんだな」

 

「まぁ、此処はミッドでも一番の場所だからな。

 ここに来ればどんなゲームでもできるってのがこのゲーセンの触れ込みらしい」

 

中を歩きながら二人は気が向いたゲームを楽しんでいった。

対戦型の格闘ゲームをやってスバルが乱入してきたゲーマーにコテンパンにされたり、ダーツでノルンがど真ん中に刺したりといったこともあった。

パンチングマシーンでスバルが桁外れの値を出したときにはスバルが店員から「魔法での身体強化は禁止です」と怒られたりもしていたが、二人はそれなりに楽しんでいた。

 

そして、二人はゲーセンの出口付近に設置されていたプリクラでの記念写真を取っていた。

とはいっても、二人とも男女でのツーショットなど初めてなこともあり、互いの頬は紅くなっており、その表情もガチガチに固まっていたが、二人にとってそれは確かに繋がりを示すものだった。

 

 

 

「結構遊べたな」

 

「まぁ、な」

 

ゲーセンから出た二人は、その後ミッドの中心付近の公園のベンチに座って休んでいた。

二人は青く晴れた空を見上げながらそう呟いた。

 

「こんなに遊んだのは初めてかもしれねぇ」

 

「そうなのか?」

 

「あぁ、出かけることはあっても少しの間だけだったり、一人だけの時が多かったからな。

 それに、だ、男と二人っきりってのも初めてだったし……」

 

「あー、まぁな」

 

視線を逸らしながらそう言ったノルンに対してスバルは頬を掻きながら苦笑するしかなかった。

実際スバルもそう感じていたからだった。

今までティアナと遊びに行ったことはあっても、彼女とはあくまで仕事上のパートナーとしての関係しか感じていなかった。

だが、目の前の彼女は自分にとってどうなのだろう、とスバルは自問する。

 

「スバル?」

 

「……わかんねぇな」

 

「ん?

 何がだ?」

 

「なんでもない」

 

ノルンが自分の顔を覗き込むようにしていたことに気づいたスバルは彼女の顔から目を逸らしてそっけなく答えた。

そんな彼に対してノルンもまた相槌を打つだけに終わる。

会話がなくなったとき、スバルのポケットに入っていたマッハキャリバーから全体通信を知らせる音が鳴り響いた。

 

その音を聞いたスバルはすぐに気持ちを切り替える。

 

「すまん、ノルン。

 今日はここまでだ」

 

「仕事か?」

 

「あぁ、せっかくノルンと遊んでたってのにな。

 悪い、また今度遊びに行こう!」

 

「あぁ、またな!」

 

ベンチから立ち上がったスバルは彼女にそう言ってすぐにその場を後にした。

 

「またな、か」

 

公園から出ていく彼の背中を見ながらノルン―――ノーヴェは静かに口にする。

 

「最初で最後だったけど、楽しかったぜ、スバル」

 

そう言いながら、ノーヴェは首にかけられたネックレスを外した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『やぁ、チンク。

 どうだったかい?』

 

「ドクターの言う通りでした」

 

チンクは自身のいる部屋を見回しながら答える。

そこには様々なものがあった。

大型のコンピューター、モニター、検査用機器、そして、大型生体ポッド。

 

『やはりか、例のあれがあったんだね』

 

「はい。

 対戦闘機人用戦闘機人。

 タイプゼロ・ジエンド」

 

チンクの見つめる先、生体ポッド中には、タイプゼロセカンドと呼ばれているスバルや、彼女の妹の一人であるノーヴェと同じ顔をしたモノが浮かんでいた。

だが、いくつかの生体ポッドの中には、中身がないものも存在していた。

 

 

『起動はしているのかい?』

 

「プロトタイプのものが数体と、そして完成体が一体起動してこの場から飛び去っていくのを確認しました。

 また、プロトタイプのものが施設の防衛行動に入ったために破壊しましたが、ガジェットⅴ型も破壊されてしまいました」

 

そして、彼女の足もとには、生体ポッドの中に浮かんでいるモノと同じ顔をしたモノが五体、転がっていた。

すでにその目から光は消えていた。

 

『まぁ、ⅴ型はジエンド用の保険も兼ねていたからね。

 よしとしよう。

 それで、プロトタイプはどの程度のものだったんだい?』

 

「ガジェット以上、私たち未満といったところです。

 外側は我々と同じですが、頭の中が違いました。

 あれではただの機械と同じです」

 

『そうか……』

 

「ですが、これはプロトタイプに限ったものです。

 能力だけでいえばタイプゼロ・セカンドと遜色ないものでした。

 完成体となると……」

 

『下手をすると、タイプゼロ・セカンド以上のものか……。

 やれやれ、ご老人方も厄介なものをつくってくれたものだよ……』

 

「あの、ドクターはどうやってこの施設を……?

 今まで見つけられなかったものを……」

 

チンクの問いにスカリエッティは微笑みながら答える。

 

『何、その施設を作った者は私たちのことを疎ましく思う者だということ。

 そして、その連中をさらに疎ましく思う者がいる、ということだよ』

 

「連中を疎ましく思う者……、まさか……!」

 

『おっと、それ以上は口にしない方がいいよ。

 何処で誰が聞いているかわからないからね』

 

チンクを遮ると、スカリエッティはすぐに指示を出した。

 

『では、その施設は破壊してしまってくれて構わないよ。

 というか、徹底的にやってくれ。

 地図から山一つ消えるくらいならどうにでもできるとも言われたから』

 

「いいのですか?」

 

『構わないよ。

 私はね、娘たちを傷つける存在を許すほど心は広くないのさ』

 

チンクは彼の言葉をうれしく感じていた。

 

「わかりました。

 それでは」

 

『うん、気を付けて帰ってくるんだよ』

 

スカリエッティはそれだけ言うと、通信を切った。

通信の切れたことで、薄暗かった部屋がさらに暗くなった。

そんな暗闇の中でポッドの前に立ったチンクはその中身に向けて一人呟く。

 

「悪いな、お前たちも目的があって生み出されたのかもしれんが、私とて自分を壊す可能性のあるモノを存在させるほどお人よしではないのでな」

 

 

 

 

 

 

 

この日、一つの山が地図から消えた。

 

 

 




ノーヴェルート第二話でした。
今回は主にティアナのスバルに対する心情とスバルとノーヴェのデート(本人たちは無自覚)でした。

ティアナのスバルに対する意識はヴァイスに対してはこう答えましたが、本音は話していません。
誰だって知られたくないことの一つや二つはあるでしょ?

スバルとノーヴェのふれあいというか絡みはここでいったん終了です。
敵味方に分かれる二人の関係がどんな風になっていくのかを楽しみにしてい下さい!


さて、ティアナルートにはほとんど出番のなかったジエンドです。
彼(?)がどのように物語に関わってくるのか、それも楽しみにしていてください!

それではまた次回!


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ノーヴェルート 第三話

前話から一気に時間が飛びますのでご注意を。
それではどうぞ!


「はぁ……」

 

スバルはその日、一人でデバイスルームに入り浸っていた。

そんな彼の大きなため息に対して彼によって簡易メンテナンスを受けているマッハキャリバーは彼に尋ねる。

 

『今ので今日五回目のため息です。

 どうしたのですか、相棒?

 貴方らしくもない』

 

「いや、最近ノルンと話できてないなと思ってな」

 

マッハキャリバーを弄る手を止めてペットボトルに入っている水を飲みながらスバルは答える。

すでに、スバルとノルンが街で遊んだ日から一月が経っていた。

あの日、エリオからの通信を受け、集合したフォワードメンバーと、途中で彼らと合流したギンガは下水道にてガジェットや、ロストロギア『レリック』を狙う少女、ルーテシアとその召喚虫ガリュー、融合騎アギトとの戦闘を繰り広げた。

結局、彼らの逮捕することは叶わなかったが、レリックとレリックを持っていた少女ヴィヴィオの保護に成功した。

その一週間後、ノルンからメールでしばらく連絡できなくなるという知らせを受けたというところだ。

 

『要するに、相棒は寂しいということですか?』

 

「まぁ、そうかもな。

 ついこの間までは毎日声は交わしていたんだし、それがなくなるとな」

 

愛機からの指摘に苦笑しながらそう答える。

実際、彼自身少しやる気が出ないことに気づいていた。

訓練も仕事も、集中してやっているのは変わらないが、どうにも必要以上のことをする気が起きなかった。

もちろん、なのはたちもそれには気づいているが、スバル自身がどうにかしない限り意味がないと考えているため、基本的には様子見に徹しているのである。

 

『相棒、呼び出しです』

 

それからしばらく、マッハキャリバーのメンテナンスに集中していたスバルだったが、マッハキャリバーが通信を開いたことによって、メンテナンスを中断した。

 

「はい、スバルですが」

 

『あ、スバル?

 これから今度の警備任務の確認をするからロビーに来てくれるかな?』

 

モニターに映し出されたのはなのはだった。

なのはの要件を聞いたスバルはすぐにマッハキャリバーのメンテナンスを終えて、その場を後にした。

 

 

 

 

地上本部で行われる公開意見陳述会。

管理局において、重要視される会議の一つが地上で開かれる際の、地上本部の警備。

それが今回六課に与えられた任務だった。

 

「今のところ異常なし、か。

 スバル、そっちは?」

 

「こっちも異常なしだ」

 

そして、スバルたちもまた夜間の警備任務に精を出していた。

スバルとティアナ、ギンガとエリオとキャロ、ヴィータとリインの組み合わせで六課に割り当てられた範囲を見張る。

 

「それにしても、やっぱり地上本部の警備任務となるとやっぱり厳重よね」

 

「そうだな。

 レジアス中将の方針の決定ってのもあるし、それに反対する連中に対する牽制ってのもあるんだろうな」

 

「ま、あの人のやり方って正しいのかもしれないけど、管理局の前提ひっくり返しかねないからね」

 

警備任務の傍ら、そのような世間話をしている間にも、ティアナはスバルの様子が少しおかしいことに気づいていた。

長年一緒にコンビとしてやってきた相方の様子の変化が気になるティアナだったが、個人的な問題に入り込むほど無遠慮でもない彼女は彼のことを気に留めておく程度で済ませることにしたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

「…………」

 

「どうしたッすか、ノーヴェ?」

 

計画の発動までの待機場所で、ウェンディは隣にいるノーヴェがいつも以上に静かなことに気が付いた。

いつもならしゃべりはしないが、それでも話しかけたら反応する程度の余裕はある。

だが、今の彼女は何か思いつめたような表情を浮かべていた。

 

「なんでもない」

 

「どう見ても何かに悩んでるみたいだったっすけどねぇ。

 あ、もしかして少し前まで電話してた相手のこと考えてたとかっすか?」

 

「……」

 

「あっちゃー、踏み込まない方がよかったっすかねぇ……?」

 

ウェンディはノーヴェの様子がまたもとに戻ったのを見て、困った顔でそう呟いた。

一方で、ウェンディの言葉を耳にしたノーヴェは、先ほどまで考えていたことがまた頭をよぎってしまっていた。

 

(今回の作戦は、地上本部に襲撃をかけること。

 やっぱり、お前もいるんだよな、スバル……)

 

ウェンディが隣で何か言っているが、ノーヴェの耳には何も入ってこなかった。

 

(いつもお前のことばかりだな、あたしは……。

 もう認めるしかないのかな……)

 

ノーヴェは、自分の中にあるスバルに対する気持ちをはっきりと認識する。

はじめは自分が倒すべき相手を知るために、近づいた。

だけど、その時のスバルの裏のない言葉に、彼女の心は動かされた。

少しずつ、少しずつ彼のことを知りたくなり、始めた電話での会話。

互いのことを話し、スバルのことを知っていき、もっとスバルのことを知りたいと思う自分がいた。

街で一緒に過ごした一日。

時間にして数時間だったが、彼女にとってはそれは価値のある数時間だった。

そして、自分の中にスバルに対して、自分が好意を抱いていることに気づいた。

 

だけど、自分とスバルは相容れない存在。

敵同士、犯罪者と管理局員、スカリエッティの娘と、スカリエッティの逮捕を目的とする六課のフォワードメンバー。

二人の間にはこれほどまでに埋められない溝がある。

だから――――

 

(あたしは、スバル、お前のことが好きだったよ(・・・・・・)

 

だから、彼女は自分の気持ちに鍵をかけた。

 

 

 

 

 

 

 

9月12日 PM5:57

公開意見陳述会が開始されすでに数時間がたった。

すでに日も傾き、その姿を地平線の向こう側へ隠そうとしている。

そんな中、スバルたち四人とギンガ、ヴィータ、リインは南側のエントランスに集合して互いに報告を行っていた。

 

「とりあえず、異常なしか。

 だが、最後まで気ィ抜くんじゃねえぞ」

 

「「「「「はい!」」」」」

 

「残りの時間はそんなに長くないので、此処からは全員で一緒に警備するですよ!」

 

リインの言葉にティアナが疑問の声を上げる。

曰く、一か所で固まって警備しても意味がないのではと。

その問いにヴィータが頭を掻きながら答えた。

 

「ほかの陸士部隊の人がな、お前らが仕事してる中で休んでられるかって言ってきてな。

 で、こっちとしてもお前らが疲れていざというときに何もできないのは困るから、ありがたく手伝ってもらってる。

 もうすぐ公開意見陳述会も終わりだから、まぁ問題はないだろう」

 

ティアナはヴィータの答えを聞いた後に周囲を見回す。

すると、先ほどまで彼女とスバルが回っていたところあたりに、確かに別の部隊の局員が歩いているのを確認した。

 

「あぁ、ギンガ。

 ちょっと(向こう)側の方に報告してきてくれないか?」

 

「わかりました」

 

ヴィータの指示に従ってギンガは地上本部の中へと向かっていった。

そんな彼女の背中を見ていたスバルはなぜか、胸に突き刺さるような悪寒を感じていた。

 

 

 

 

 

「ナンバーズ、No.ⅢトーレからNo.ⅩⅡディードまで、全機配置完了」

 

スカリエッティのラボの一室。

そこでウーノは鍵盤の形をしたコンソールを叩きつつ、準備が整ったことを告げる。

 

『お嬢とゼスト殿も、所定の位置につかれた』

 

『攻撃準備も全て万全。あとはGOサインを待つだけですぅ~』

 

「ええ」

 

妹たちからの報告に頷き、ウーノは後ろに座っているスカリエッティに視線を向ける。

彼女の視線の先には椅子に深く座り、静かに目を閉じているスカリエッティの姿があった。

 

「ドクター、合図を。

 皆、待っています」

 

「あぁ……」

 

スカリエッティはゆっくりとその瞼を開いた。

そこには静かに燃える金色の瞳が鈍い輝きを放っていた。

 

「私のこの行いで、一つの歴史が終わる。

 それはある意味で愚かで、不適当な選択なのかもしれない……」

 

音を立てずに立ち上がったスカリエッティは通信を繋げている彼の娘たちに語り掛ける。

 

「だが、私はもう決めたのだ。

 さぁ、我々のスポンサー諸氏に見せつけてやろう。

 私たちの思いと、その覚悟を」

 

スカリエッティは大きく右腕を振り、そしてその言葉を言い放った。

 

「さぁ、奏でよう。

 崩壊への序曲を……!」

 

 

 

 




ノーヴェルート第三話でした。
難しい……。
ティアナルートと違った感じにしなければならない上に、同じところは最小限にしようとしたら必然的にスバルとノーヴェの心情というところを書いていかなければならないのですけど、これが本当に難しい。
何しろ作者は恋する乙女の心情など計りようがありませんから……。

さて、実は今日が冬休み最終日なので、次回からの更新が少し遅れます。
なんで金曜日からなんだよ、畜生め。

補足というか、前話にて、ノーヴェが着ていた服のイメージはvivid単行本一巻の第三話あたりで着ている服装です。
前回書き忘れていたので……。

それではまた次回!


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ノーヴェルート 第四話

ノーヴェルート第四話です。
それではどうぞ!


「メインコンピューターにハッキングッ!?」

 

「すぐに回線を切れッ!!」

 

「ダメですッ、止まりません!!」

 

「くそッ、何がどうなってる!?」

 

地上本部総司令部は混乱の極みにあった。

突如として総司令部の目であるセンサーが機能を停止、続いてメインコンピューターもその役目を果たすことができなくなる。

それと同時に、地上本部の周辺に大量のガジェットが出現し、現場の注意がそちらに向いた瞬間、地上本部に一筋の砲撃が撃ち込まれた。

 

総司令部(あたま)を潰された警備部隊(てあし)は自分たちでその行動を判断しなければならなくなった。

 

 

 

 

 

「むふふのふ~」

 

クアットロは地上本部が見える位置で笑みを浮かべながら地上本部のハッキングを行う手を動かしていた。

空中に投影されたパネルを弾くように叩き、モニターに映る局員の混乱を見てさらに笑みを深くする。

 

「あら?」

 

だが、そんな彼女の手が一瞬だけ止まった。

彼女の奪っていた施設の機能の一部、正確には本部全体を包み込む魔力障壁の維持といった限定的なものだが、それらが奪い返されるのはもう少し後だと予想していた彼女にとって意外なものだった。

 

「シルバーカーテンの嘘と偽りのショーを見破ってくるなんて……。

 ドクター以外にも、面白い人がいたようね……」

 

クアットロはその奪い返されたところのコントロールを諦め、ほかの部分へとその手を伸ばそうとした。

だが、それすらも拒まれてしまった。

 

「予想以上にできるわね~。

 というか、これは……」

 

クアットロは取り戻されそうになっている施設の区画を見て、思わず舌打ちをする。

そしてすぐに姉のウーノへと通信を繋げた。

 

『どうしたの、クアットロ』

 

「ウーノ姉さま、少しお手伝いお願いできますか~?」

 

『あなたが手伝いを頼むなんてね。

 どうしたのかしら』

 

「例のタイプゼロ・ファーストを隔離した区画の隔壁のコントロールが奪われそうなんです~。

 ですから、そこは私が死守しますので、ウーノ姉さまにはとにかく連中を引っ掻き回してください~」

 

『タイプゼロ・ファーストの確保は陛下の確保と同レベルでの行動目的。

 いいでしょう、少し待ってなさい』

 

ウーノからの通信が切れ、直後に彼女に対しての対処が見るからに遅くなり、地上本部を囲む魔力障壁が薄くなる。

 

「魔法障壁減少。

ルーお嬢様、よろしくお願いします~」

 

『わかった……。

 遠隔召喚……』

 

ルーテシアの小さな声とともに地上本部の周囲にガジェットⅠ型、Ⅲ型、およびⅢ型改が大量に現れる。

 

「あとはお任せくださいな。

 お嬢様は礼の場所へ」

 

『うん』

 

クアットロの言葉にルーテシアは頷き、通信を切った。

モニターが消えるのを確認した彼女は再びその視線を地上本部に向けた。

 

「さぁ、ドクターの夢のために踊りなさい。

 ディエチちゃん、やってちょうだい」

 

『了解、ISヘビィバレル発動。

 バレット、エアゾルシェル……発射ッ!』

 

 

 

 

 

 

「くそッ、ガジェットの相手は陸士部隊じゃまだ無理か!」

 

「先ほど撃ち込まれた砲撃により、本部内にはガスが入り込んでいます。

 幸いにも、致死性のものではなく麻痺性のものです。

 今データを送ります」

 

ガジェットが本部周辺に現れたことを知ったヴィータたちはガジェットが集中して現れた正面玄関の方へと足を向けていた。

その途中で、本部内にガスが撃ち込まれたことを知ったリインによってすでにバリアジャケットを展開していたスバルたちへ防御データを転送されていた。

 

「なのはさんのところには俺たちが行きます。

 なのはさん達にレイジングハートたちを届けないと……ッ!」

 

「頼む!

 リイン、本部の指令室との連絡は取れねえのか!?」

 

「待ってください……!

 ダメです、本部の通信システムそのものがダメになってるです」

 

リインからの報告にヴィータは思わず舌打ちをする。

だが、次の瞬間彼女は六課に待機しているロングアーチに通信をつないだ。

 

「おい、ロングアーチ!

 聞こえてるだろ!

 応答しろ!」

 

『ヴィータ副隊長!

 今どちらに!?』

 

「地上本部の外にいる!

 部隊長に通信繋げられるか!?」

 

『無理ですよ!

 それより、今こちらのレーダーに反応がありました!

 そちらに接近する飛行物体多数!

 ほとんどはガジェットⅡ型のようですが、二つだけ魔力反応が高いものが!

 推定オーバーSです!』

 

 

「ちっ!

 そっちにはあたしとリインが向かう!

 地上はティアナ達に任せるぞ!」

 

「了解です!」

 

ロングアーチからの通信を切ったヴィータは後ろを走るスバルたちに向かって手に持っていたシュベルトクロイツとレヴァンティンをティアナに渡す。

 

「そいつらをはやてたちに渡してくれ」

 

「了解です!」

 

ヴィータの言葉を聞いたスバルとエリオもその手に握るレイジングハートとバルディッシュを強く握りしめる。

 

「よし、行け!」

 

ヴィータの声に従ってスバルたちは本局の内部に突入する。

それを見送ったヴィータは隣を飛ぶリインを呼び寄せる。

 

「リイン、最初からユニゾン行くぞ!」

 

「はいです!!」

 

ヴィータはポケットからグラーフアイゼンを取り出す。

 

「「ユニゾンイン!!」」

 

刹那、彼女たちを光が包み込む。

光が消えたとき、そこには白い騎士甲冑を纏い、髪の色も赤から白髪に変化していた。

 

「行くぞ、地上本部には一機たりとも近づかせねぇ!」

 

(はいですッ!!)

 

夜空を一筋の光となったヴィータが駆け抜ける。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ここもダメか……」

 

その時、一人地上本部の中に閉じ込められたギンガは何とかその場から脱出するための出口を探していた。

だが、彼女のいる区画につながっている通路のすべてが隔壁によって遮断されていた。

 

「仕方ない……ッ!」

 

隔壁を破壊して外に出ようと構えたギンガだったが、彼女の戦闘機人としてのシステムが飛来するナイフを察知し、その場から飛び退いた。

 

「タイプゼロ・ファースト、ギンガ・ナカジマだな」

 

その声に反応したギンガはリボルバーナックルを構える。

暗闇の中から現れたのは銀髪に眼帯という特徴的な姿をした少女、チンクだった。

 

「なぜ、っていうのは無駄かしらね。

 あなた、戦闘機人ね」

 

「話が早いな。

 ならば単刀直入に言おう。

 ギンガ・ナカジマ、ドクターのもとに来てもらおう

 こちらとしてはできれば手荒なことは避けたい」

 

「ドクターっていうと、スカリエッティのことよね」

 

ギンガの問いにチンクは頷き、肯定の意を示す。

それを見たギンガはリボルバーナックルに二発のカートリッジを装填する。

 

「残念だけど、この後は予定がいっぱい詰まってるの。

 他をあたってちょうだい」

 

 

「来てもらう理由が、お前の身体の事に関してでもか?」

 

「えぇ」

 

「ならば仕方ない。

 穏便に済ませたかったが」

 

チンクはそういって両手の指の間にナイフを挟み構える。

 

「IS発動、ランブルデトネイター……!」

 

「はぁぁあっ!!」

 

誰にも知られることなく、二人の戦いは始まった。

 

 

 

照明の消えた通路を走るスバルたち。

 

「相棒ッ!!」

 

『protection』

 

先頭を駆け抜けるスバルは咄嗟に障壁を張る。

 

「うぉぉっ!!」

 

「―――ッ!?」

 

だが、その障壁は繰り出された蹴りの衝撃を逃すことができずにすべてスバルに叩き付けられた。

スバルはその蹴りの勢いに押されて壁に叩き付けられる。

 

「スバル―――ッ!?」

 

目の前で壁に叩き付けられる相棒を見たティアナが声を上げるが、そんな彼女たちの周囲にエネルギー弾が展開され、即座に爆発する。

間一髪、爆発に巻き込まれずに後退したティアナ達だったが、そんな彼女たちの耳に何者かの声が聞こえてきた。

 

「おい、ウェンディ。

 目的忘れてねぇだろうな?」

 

「当たり前っすよー!

 一番面倒な連中をここで足止めっすよねー」

 

暗闇の中から出てきたのはガジェットを引き攣れた二人の少女、ノーヴェとウェンディだった。

ガジェットに囲まれたことに対して舌打ちをするティアナだったが、彼女の耳に聞こえてきたのは今にもくじけそうなスバルの声だった。

 

「なんで、お前がそこにいるんだよ……ノルン……ッ!」

 

 

 

 

 

「なぁ、何かの間違いだよな?

 お前はこんなところにいるわけない……そうだろ、ノルン!?」

 

ノーヴェは、目の前で彼女に訴えかけるスバルを見て、覚悟はしていたが胸が張り裂けそうな痛みを感じていた。

彼女の視界に映るスバルの目には、目の前にいるノーヴェしか映っていなかった。

 

「違う」

 

「違うって何がだよ……ッ!」

 

「あたしはノルンなんかじゃない。

 あたしは、戦闘機人No.9、ノーヴェだ……ッ!」

 

「………ッ!!」

 

覚悟はしていた、していたはずだった。

だけど、そんなものは無駄だと言わんばかりに彼女は、スバルに向けて言い放った。

 

 

「散開ッ!!」

 

スバルの様子が尋常でないということにいち早く気づいたティアナは即行動に移した。

フリードのブラストフレアとティアナの射撃魔法で近くのガジェットを貫き、爆風でその身を隠す。

その隙にエリオがスバルを回収する。

即席の作戦だったが、スバルの戦意を取り戻すために必要なことだった。

 

「スバル……ッ!」

 

「ティアナ……?」

 

物陰に隠れたティアナはエリオが連れてきたスバルの胸倉を掴み上げ、彼に向けて言葉を投げかける。

 

「あんたとあの赤髪にどんな関係があったのか、私は知らない。

 だけど、今あんたが戦わないで、誰が戦うってのよ!!」

 

「…………くそ」

 

胸倉を掴みあげられたままのスバルは、頭を二度振り、リボルバーナックルを装備した右手で額を軽く殴る。

一度俯き、次に顔を上げた彼の顔には、以前とは比べ物にならないほどだが戦意が戻っていた。

 

「悪い……、作戦は?」

 

「とにかく連中の目をくらませて速攻で離脱。

 これしか無いわ。

 いい、時間との勝負よ」

 

ティアナの言葉に全員が頷き、彼女の出す合図でそれぞれのするべきことを実行に移す。

スバルとエリオは、晴れかけた煙の中からそれぞれの相手を強襲。

その間にキャロのブーストを受けたティアナが幻影を創り出し、それを囮にして撤退する。

それがティアナの作戦だった。

 

 

 

 

 

「クッ!!」

 

「ハァッッ!!」

 

スバルと対峙したノーヴェは、自分に向けて突っ込んでくるスバルを見て顔を歪ませた。

先ほど、彼に自分から遠ざけるようなことを言ったが、彼女もまた彼と戦うことにためらいを覚えていた。

二人の関係は、敵味方だと割り切るほど弱いものではなかったということだ。

 

迫りくるスバルの拳を受け流しながらノーヴェはあることに気づいた。

データで見たときよりも狙いが荒いということに。

スバル自身もそのことに気づいており、小さく舌打ちをする。

今の彼は、ティアナによって戦意を取り戻したが、その戦意の大半は、管理局員としてやるべきことをやらなければならないという義務感に似たもののためだった。

頭ではわかっていても、彼の身体が、拳が、目の前の少女を倒すことを拒んでいた。

 

「クソッタレがッ!!」

 

「うわっ!?」

 

だから、スバルは優先順位を切り替えた。

ノーヴェを倒すのではなく、自分たちを追ってこれないようにする。

そう考えた直後、スバルの手はノーヴェの腕をガッシリと掴み、ガジェットが密集している場所へとぶん投げた。

 

「マッハキャリバーッ!!」

 

『Cartridge load』

 

「リボルバーシュートッ!!」

 

投げ飛ばされたノーヴェは空中で体勢を立て直し着地するが、その直後に放たれた魔力弾がガジェットのコアを打ち抜き、爆発させる。

外と比べれば狭い通路での爆発は、その隣にいたノーヴェも巻き込んだ。

 

 

 

 

「ノーヴェ!!」

 

ティアナ達三人を相手に奮戦していたウェンディはノーヴェが爆発に巻き込まれたところを目にして、そちらに気が向いてしまった。

 

「エリオ、今!」

 

「はいっ!!」

 

「しまッ―――!?」

 

その隙を逃すエリオではなかった。

魔力変換資質によって生み出された雷を刃に纏わせ、ストラーダを上段に構え、高く跳び上がる。

 

「サンダー……」

 

「クッ……!」

 

ウェンディは周囲にガジェットを集めAMFの濃度を高めながら、空中でストラーダを振りかぶるエリオにライディングボードを向ける。

 

「レイジッ!!」

 

「う、うわぁ!?」

 

エリオの放った電撃はウェンディの攻撃を弾き飛ばし、さらに高濃度のAMFすら貫通して彼女にダメージを与えた。

 

「今よ、スバル!!」

 

「了解ッ!」

 

エリオの電撃がウェンディとガジェットにダメージを与えたのを確認したティアナは離れていたスバルを呼び寄せ、複数の通路が交わったところまで移動する。

 

「待つッすよってぇ!?」

 

ダメージから抜け出したウェンディは彼らを逃さないと視線をそちらに向けるが、彼女の視界には四人の姿がいくつも映っていた。

 

「幻影……ッて、サーモセンサーにも魔力センサーにも反応有り!?

 あのガンナー、戦闘機人のシステムを……!?」

 

ウェンディは構えていたライディングボードを立て掛ける。

 

「逃げられたっすね……。

 ノーヴェ、大丈夫っすか?」

 

ウェンディは爆発に巻き込まれた後、動く気配のなかったノーヴェが立ち上がったのを見て彼女のもとに向かう。

彼女が見たノーヴェの顔には、悲しみが浮かんでいた。

 

「ノーヴェ……」

 

「すまん、ウェンディ。

 逃がしちまった」

 

ノーヴェは何ともないという風に言うが、彼女の様子を見てウェンディはすべてを把握した。

 

「ノーヴェ、大丈夫っすか?」

 

「身体は問題ない。

 爆発も想定内の規模だったし」

 

「そうじゃないっすよ」

 

ノーヴェの言葉をすぐに否定する。

今の彼女は精神的に不安定だと。

稼動初期から基本的に一緒に行動していたからこそ見抜けることだった。

 

「どう考えても、今のノーヴェは普通じゃないっすよ。

 すぐに戻った方が」

 

「大丈夫だって言ってるだろ!」

 

「……ッ!」

 

ノーヴェの大声を聞いて、口を閉じるウェンディ。

そんな彼女にノーヴェは一言「ゴメン」と呟き、彼女に向けて背を向けた。

 

「今は、やることをやる。

 それが、ドクターの望むことだし。

 あたしがやるって決めたことだから……」

 

「ノーヴェ……」

 

背を向けたノーヴェの肩が小さく震えているのを見たウェンディが彼女に手を伸ばそうとしたとき、通信が入る。

 

『ノーヴェ、ウェンディ。

 少しこっちを手伝ってくれ』

 

「いいっすよー。

 何すればいいっすか?」

 

通信から聞こえてきた声は、ノーヴェが一番信頼しているチンクからだった。

 

『今、ギンガ・ナカジマと戦闘中だ』

 

 




ノーヴェルート第四話でした。
ティアナルートと流れが同じなのでトントン拍子に飛ばして四話にて地上本部襲撃編です。
ティアナルートなら二十話近く使ってきたのに……。

さて、ついに始まった地上本部襲撃編ですが、ノーヴェルートではスバルとノーヴェにスポットを当てるために他(レジアスやヴィータ、六課)における戦闘はカットさせていただきます。
逆にティアナルートでカットしたエリオたちの方はやってみたい思っていますので、お楽しみに!

※補足です。
スバルとノーヴェの再会。
スバルはティアナルートと違ってかなり動揺します。
彼はノーヴェがスカリエッティの一味だとは知りませんでしたし、彼女のことを意識し始めた直後のことだったのでそれはかなり揺さぶられると思うのでこのようになりました。
ティアナによって戦意は取り戻したのですが、それは管理局員としての自分がまだ彼の中にはしっかりと残っていたために何とか戦えたというところです。
彼自身の意志を無視して戦っているので(自分のことを管理局員という一つの機械と割り切って戦っているとも言えますね)戦闘能力は激減です。
スポーツや勉強も自分からやるのと嫌々やらされるのではその結果も断然違いが出るのと同じだと思われて結構です。
スバルに対して、ノーヴェは彼と戦うこともすでに承知していたのですが、それでも彼女もまたスバルのことを意識していたために、迷いが存在しています。
ここがティアナルートと違うところですね。
ティアナルートではスバルとの関係がまだ小さなものだったために割り切れたのですが、ノーヴェルートにては、彼女とスバルの関係は簡単に切り捨てることができなかったということです。

それではまた次回!


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ノーヴェルート 第五話

お久しぶりです。
成人式や同窓会などで書く時間が取れませんでした。
それではどうぞ!


地上本部内部

エレベーターシャフトを降りてきたなのはとフェイトは、スバルたちとの集合場所に辿り着いていた。

 

「みんなはまだ来ていないみたいだね」

 

「結構早く行動に移したから、予定よりも早く着いたのは仕方ないよ」

 

二人は周囲の状況を確認しながらスバルたちを待とうとし、彼女たちの名前を呼ぶ声を聴いてそちらを見た。

 

「なのはちゃん、フェイトちゃん!」

 

「無事だったか、二人とも」

 

「ご無事で何よりです!」

 

「はやてちゃん!?」

 

「シグナムとシスターシャッハも」

 

二人は通路を駆け抜けてきたはやてたち三人を見て驚きの表情を浮かべた。

 

「どうやって隔壁を?」

 

「隔壁の方はレジアス中将が切り開いたんや。

 で、今会場は臨時の指令室になっとる」

 

「私たちは中将のお言葉に甘えてここまで来たのだ」

 

「そうだったんですか」

 

状況を把握したなのはとフェイトは、スバルたちがデバイスを持ってくるということを伝える。

その直後、その場所にスバルたちが現れた。

 

「なのはさん、フェイトさん!」

 

「アレ!?

 部隊長とシグナム副隊長、シスターシャッハまでいる!?」

 

集合場所までやってきたスバルたちは、なのはとフェイトがいることに安心し、はやてたちがいることに驚きの声を上げた。

 

「なのはさん、レイジングハートです」

 

「バルディッシュや、シュベルトクロイツ、レヴァンティンも一緒に」

 

「ありがとう、スバル、皆」

 

スバルたちが預かっていた隊長陣のデバイスを渡す。

なのはたちはすぐにバリアジャケットを展開し、デバイスを手に持つ。

 

「通信は?」

 

「ダメや、指令室とは連絡がつかへん。

 ロングアーチの方とは……つながった!」

 

ロングアーチとの通信がつながったことに喜びの笑みを浮かべるはやてだったが、向こう側からの通信の状況が悪いことに違和感を覚える。

 

『……ぶたい……う……』

 

「グリフィス君?

 どないしたん!?」

 

『襲撃……ろ……かの……、いま……応援……ッ!!』

 

「グリフィス君、グリフィス君!?

 ……あかん、切れた」

 

「はやてちゃん、六課がどうしたの!?」

 

はやてと六課の通信の様子を見ていたなのはは顔色を変えてはやてに詰め寄る。

そんな彼女をシグナムとフェイトがはやてから引き離す。

 

「わからへん。

 だけど、何かが起きているのは確かや」

 

「そうだ、姉貴……!」

 

なのはと同じく、はやての様子を見ていたスバルは一人でわかれたギンガの安否を確認するために彼女に通信を繋げようとするが……。

 

「どうしたんだよ、姉貴……!

 無事なら出てくれ……!」

 

スバルの祈るような声を上げるが、彼の通信機からはノイズしか聞こえなかった。

 

「マッハキャリバー、ブリッツキャリバーに直通で繋げろ!」

 

『無理です、通信障害が酷すぎます』

 

「くそっ!」

 

「状況がわからない。

 はやて」

 

「わかっとる。

 みんな、よう聞いて」

 

フェイトの言葉に頷き、はやては目の前にいるフォワードメンバーの注意をひきつける。

 

「これより、隊を分けます。

 足の速いライトニングは六課に戻って。

 スターズはギンガの安否確認と、本部に侵入した敵の排除。

 シグナムはヴィータの方に。

 ヴィータからの反応がさっきからないんや。

 心配やから、応援に行ってくれるか?」

 

「了解だよ、はやて」

 

「わかった」

 

「承知しました、主」

 

隊長、副隊長の同意を得たはやては頷き、彼女たちを送り出した。

 

「姉貴……、無事でいてくれ……!!」

 

 

 

 

 

はやてから指令が下された直後、スバルはすぐさまギンガのいるであろうポイントに向かった。

彼の背を見ていたティアナはなのはにすぐにスバルの後を追うように頼んだ。

 

「けど、どうしてスバルを……?」

 

「今、あいつは精神的に不安定なんです。

 詳しいことは省きますけど、今のあいつを放っておくと何するかわからないので」

 

「……わかった。

 ティアナがそう言うなら、それが正しいんだろうね。

 すぐに追うよ」

 

彼女の言葉に頷いたなのははティアナの身体を抱えて自身が出せる最高速度でスバルの後を追った。

 

 

 

 

 

 

 

『くそッ! 

 あの男は何をしている!?』

 

『無駄だな。

 通信はすべて切られているし、奴が作った予備のラボはすべて自壊している』

 

『しかし、こちらの監視を掻い潜ってこれだけのことを成すとはな。

 やはり天才と言うのは本当だったな』

 

地上本部から少し離れた、ミッドチルダの廃棄都市区画の地下で、彼らは頭の中に映される映像を見ながら声を上げる。

一人は激高し、一人は疑問を口にする。

そして、最後の一人はその手腕に感心していた。

しかし、誰一人として頷いたり机に手を叩き付けるようなことはしない。

否、脳だけ(・・)の存在である彼らにはそのような行為は不可能だった。

 

彼らは最高評議会。

管理局の生みの親であり、脳だけとなりながらも世界を見守ってきた存在。

 

だが、すでに彼らもその存在を維持するのに限界が近づいていた。

自身の身に限界が近づいていることに気づいた彼らは、その命が潰える前にやれることをやってしまおうと躍起になっていたところで、今回の騒動である。

彼らが創りだす様に指示したスカリエッティの反逆行為。

予期せぬ彼の行動に三人はその対応策を模索していた。

 

『奴がこちらの指示に従わないことは今回のことでわかった。

 いっそのこと処分してしまうか』

 

『しかし、奴の技術力は得難いものだ。

 そう易々と捨てるのはいかがなものか……』

 

ジェイル・スカリエッティに対する対策を考えている最中、彼らのいる部屋のドアが開かれる。

そこにいたのは、一人の女性局員だった。

 

「皆様、簡易メンテナンスのお時間です」

 

『おぉ、お前か。

 今は少し話さなければならんことがあるからな、手早く頼む』

 

女性局員がお辞儀をして部屋に入ってきたのを認めたリーダー格の脳はそう彼女に告げる。

女性局員もまた、彼の言葉を聞き、ニッコリと微笑み―――

 

「はい、すぐに終わりますので」

 

―――その手に付けられた爪で脳が浮かんでいるポッドのガラスを切り裂いた。

 

 

 

 

 

 

「まったく、手こずらせてくれる……」

 

壁際で座り込んで気を失っているタイプゼロ・ファースト(ギンガ)に近づきながらそう呟くチンクを、ノーヴェは黙って見ているしかなかった。

 

「いやー、意外と手ごわかったっすね」

 

「…………」

 

彼女の後ろでウェンディがそう言うが、ノーヴェの耳には入ってこなかった。

今の彼女の胸の中には何かが抜け落ちたかのような虚無感が広がっていた。

スバルと戦い、彼を裏切り、次は彼が大事に思っている姉であるギンガを手にかけた。

これでもう、どうやっても以前のように彼と話すことはできない。

その可能性を自分から潰したという事実に、ノーヴェは痛みを覚えていた。

 

「…………ッ!」

 

いや、そのことはすでに承知の上でのこの作戦だった。

父であるスカリエッティの願いを叶える。

それが今の彼女の第一目的。

それを成すためには、自分のことはどうなってもいいと彼女は考えていた。

 

「ウェンディ、彼女を……ッ!?」

 

ギンガの様子を探っていたチンクがウェンディに話しかけようとした瞬間、閉じていた隔壁の一つが吹き飛んだ。

突然の出来事に遅れながらも対応する三人。

ギンガとウェンディは自分の武装を構え、チンクはギンガから離れるように飛び退いた。

 

「姉貴ッ!」

 

隔壁にあいた穴からその中に飛び込んだのはスバルだった。

ティアナの静止も聞かずに先行した彼は、すぐにギンガの元へと駆けつけたのだった。

 

「あね、き……?」

 

そして、彼女の姿を一番に目をすることになった。

ひび割れた壁の下に倒れ込むギンガ。

その右手は粉砕されており、頭部からの流血によって、彼女の周囲は血で赤く染め上げられていた。

そして、彼女の周囲にいるノーヴェたち。

その三人の顔はどれも驚愕に染まっていた。

 

「スバル……ッ」

 

ノーヴェは彼の名前を口にする。

だが、その直後、スバルの周囲にある瓦礫を彼の身体からあふれ出すエネルギーの奔流が吹き飛ばした。

ゆっくりと下を向いていた彼の顔が上を向く。

 

『――――ッ!!』

 

その瞳は紅く染まっていた。

 

 

 

 

目の前が真っ赤に染まった。

 

―――なんで。

 

壁に倒れ込む姉貴も。

 

―――なんで、お前は……

 

白いバリアジャケットも。

 

―――俺を、こんなにも苦しめる……

 

すべてが赤に染まった。

 

―――どうしてだ、どうして、お前は、俺から奪う……

 

目の前にいる(ノーヴェ)も。

 

―――もう、いい

 

視界のすべてが、血の色に染まった。

 

―――俺を、苦しめるものは……

 

 

 

 

 

―――全部、コワシテシマエ

 

 

 




ノーヴェルート第五話でした。
少し短いですが、ご勘弁を。

ティアナルートとの違いは最高評議会の三人の登場ですね。
ティアナルートだとドゥーエが掃除したという事実だけだったので、この小説では初登場です。
即退場しますけど……。

そしてスバルの暴走。
最後の一人称におけるスバルの心理描写としては、ノーヴェに裏切られたという考えがある状態で、ギンガがボロボロにされているのを直視した場合、感情が爆発すると思うんですよ。
ティアナルートではブチ切れして逆に冷静なスバルだったんですが、ノーヴェルートではノーヴェとの関係の深さ故に感情が暴走し、ティアナルートにおけるノーヴェの暴走状態と同様のものに陥ってしまったということです。

余談ですが、女子って化粧すると本当に変わりますね。
高校と大学で一緒の女子がいるんですけど、同窓会の時最初全然わかりませんでした(笑)。

それではまた次回!


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ノーヴェルート 第六話

大変遅くなりました。
申し訳ありません。
それではどうぞ!


吹き荒れるエネルギーの流れを感じたチンクは、その異様な光景に目を奪われていた。

彼女の中で、目の前の、紅く光る瞳の少年は彼女がデータで知っていた彼とは違う。

彼と同じだが、まったく違うものをスバルから感じていた。

 

「まずいな……」

 

この時、彼女の頭には撤退という選択肢が浮かび上がっていた。

だが、彼女がその決断を下すよりも早く目の前のケモノ(スバル)は彼女たちに向けて駆け出した。

 

「チィ……ッ、ノーヴェ!?」

 

向かってくるスバルに向けて取り出したナイフを投げつけようとしたチンクだったが、彼女の傍を駆け抜けるようにしてノーヴェが前に出たために投擲の瞬間が遅れる。

 

「――ッ!!」

 

『――――――ッ!!!』

 

ノーヴェは右手でスバルの顔に目掛けて拳を振るった。

だが、それをスバルは容易く受け止める。

 

「ちぃッ!!」

 

ノーヴェは受け止められた拳を引こうとするが、スバルの手はそれを許さなかった。

引きはがそうとしても微動だにしないことに驚きながらもノーヴェは彼の顔に目掛けて蹴りを放つ。

 

「どうだ―――ッ!?」

 

蹴りに対して、スバルは何のアクションも起こさなかった。

防ぐものもない蹴りはスバルの側頭部を直撃する。

しっかりとした手ごたえを感じたノーヴェだったが、何ともなかったように立つスバルを見てその顔が驚きに染まった。

 

『―――――――――ッ!!!』

 

「―――――ァッ!?」

 

そして、彼の瞳がノーヴェの目に映ると、彼女は理解した。

彼の目に浮かぶ感情のすべてが。

怒りや悲しみといった負の感情、虚無。

それが、自分のやってきたことだと、お前がこうしたんだ、と彼女に突きつけてきた。

 

ノーヴェは、瞳から目を逸らそうとした瞬間、スバルは彼女の腕を掴みとり彼女の身体を二度、三度と地面に叩き付けた。

叩き付けられるたびに、彼女の身体を走る痛みを感じたノーヴェは、彼が受けた痛みはこれ以上なのだとわかってしまった。

薄れる意識の中、スバルに掴まれた反対側の手は、握りしめられることはなかった。

 

 

「ノーヴェッ!!」

 

「ノーヴェを巻き込むかもしれんが、四の五の言ってられんかッ!!

 IS発動、ランブルデトネイターッ!!」

 

ノーヴェ前に出たことでスティンガーを投擲することが出来ないでいたちんくだったが、そのノーヴェがスバルによって破壊されるかもしれないという最悪の状況を防ぐために手に持ったスティンガーを放った。

投げられたナイフは、ノーヴェを叩き付けようとしていたスバルの背後で爆発を起こす。

スティンガーを察知していたスバルはノーヴェを素早く投げ飛ばし、その場から離れたため、爆発には巻き込まれなかったが、ノーヴェの回収という目的は果たした。

 

「ウェンディ、お前はノーヴェを連れて撤退しろ」

 

「了解っす。

 チンク姉は、どうするっすか?」

 

回収したノーヴェを肩に担ぎながらウェンディは姉に尋ねる。

彼女の問いにチンクは背中を向けながら答える。

 

「私は、あれの足止めをする。

 何、以前にも同じものとやったことはある。

 心配するな」

 

「わかったっす。

 気を付けてくださいっすよ。

 IS発動、エリアルレイヴッ!!」

 

ウェンディがライディングボードに乗って浮かび上がった瞬間、スバルが彼女に向けて駆けだした。

だが、彼の攻撃範囲にウェンディが入る前に、スバルの目の前にナイフが現れ即座に爆発する。

先ほどと違い、不意を突かれたスバルは爆発によって吹き飛ばされるが、即座に体勢を整える。

その動きは野生のケモノを彷彿とさせる動きだった。

 

スバルは邪魔をされた獣のようにチンクにその視線を向ける。

そんな彼を見てチンクは自分の中にある、一つのプログラムを起動させた。

 

「すまないが、お前を行かせるわけにはいかない。

 ここで足止めをさせてもらう」

 

『――――ッ!!』

 

チンクが両手の指に三本ずつスティンガーを呼び出しスバルに向けて放つ。

六本のスティンガーはスバルの周囲に突き刺さり、彼を六方からの爆発で覆い尽くした。

だが、スバルは爆発の中を突っ切ってチンクに向けて飛び出してくる。

 

『―――――ッ!!』

 

「ハァッ……!」

 

スバルが振りかぶった拳が彼女に触れる直前に高周波振動を発生させたことをチンクの左目に埋め込まれているセンサーが捉える。

そして、その拳が彼女に触れる瞬間、チンクはその拳を一瞬だけ触れて、その力の流れに逆らわずに彼の身体を彼女の背後の壁に叩き付けた。

 

「ッ!?」

 

スバルを壁に叩き付けたチンクだったが、彼女の脳内では身体に起きた不具合を痛みとして彼女に伝えていた。

 

「やはり、オリジナルは違うということか……ッ!」

 

一瞬の接触で、彼女の身体の骨ともいえるフレームに僅かな歪みが生じたことにチンクは舌打ちをしながらそう呟いた。

叩き付けられた衝撃から立ち直ったスバルはすでにチンクのことを獲物(ターゲット)として認識していた。

 

「まったく、厄介な……」

 

そんな彼を見ながらチンクは左手から伝わる違和感を無視して、その手にスティンガーを握らせた。

まずは目の前の脅威を自力で何とかする。

そうしなければ、妹たちとの再会など無理だと彼女は感じていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ハァ……ハァ……」

 

ドゥーエは非常灯がぼんやりと照らし出す通路の壁にその背中を預けて、乱れた息を整えていた。

 

「まったく、あんなのが出てくるなんて、思ってもいなかった。

 やってくれたわね、あの脳味噌だけの老人たちも……!」

 

ドゥーエは先ほど始末した最後の最高評議会の脳味噌のことを思い出しながら不機嫌そうに呟いた。

彼女の固有武装『ピアッシングネイル』を嵌めたままの右手は、不自然に垂れ下がった左手を押さえていた。

 

「まさか、タイプ・ジエンドがここで出てくるなんて……ッ」

 

彼女もまた、スカリエッティからその存在は知らされていた。

それでも、諜報活動がメインの自分が相対するなどとは思ってもいなかった。

 

「……ッ!!」

 

一息つこうとしたドゥーエだったが、彼女の中にある人としての脳が彼女の身体をその場から飛び退かせた。

その直後、彼女が今までいた場所の丁度真上から、天井を撃ちぬいてそれは降りてきた。

 

「タイプ・ジエンド……ッ!」

 

ドゥーエはすぐにでも動けるように構えながら、目の前の存在を睨みつける。

深い海のような蒼色の髪、光を宿さない漆黒の眼。

その瞳を見た瞬間、彼女は目の前の存在が自分にとっての天敵だということを直感で感じ取る。

資料などは関係なく、彼女の中の生物としての部分がそう叫んでいた。

 

『戦闘機人No.2、ドゥーエ、確認。

 破壊する』

 

「…………ッ!!」

 

機械的な感情などまったくこもっていない声が聞こえた直後、ジエンドの拳がドゥーエに向けて放たれていた。

ドゥーエはその拳を大きく背を反ることで躱した。

元々、諜報活動をメインとする彼女がその一撃を避けることができたのは奇跡に等しかった。

だが、それでも彼女はスカリエッティが生み出した戦闘機人の一人だ。

逸らした身体をそのまま後ろに倒し、動く右手を床に当ててその身体をさらに後方に飛ばした。

 

「ガハ……ッ!?」

 

だが、その動きすらもジエンドはついてきた。

後方に大きく飛び去ったドゥーエの身体を蹴り飛ばしたのだった。

その速度は彼女の想定をはるかに超えていたということに他ならなかった。

 

蹴り飛ばされたドゥーエは壁に叩き付けられ、その場に崩れ落ちる。

闇に堕ちそうになる意識をどうにか保ち、立ち上がろうとするが身体中に走った激痛が未だに残っていた。

 

そんな彼女に向けてジエンドは駆け出し、そして……

 

『炎熱加速ッ』

 

「デヤァッ!!」

 

反対側の壁まで吹き飛ばされた。

自分に迫っていた死の気配が途切れたことを不思議に思ったドゥーエは視線を上げ、そして目の前にいるはずのない人物に驚きの表情を浮かべた。

 

「騎士、ゼスト……!?」

 

ドゥーエは目の前に立つ男の名を口にした。

彼女が驚くのも無理はなかった。

目の前の男は、スカリエッティによって甦らされたが、彼のことを心底嫌悪していたはず。

そんな彼が、彼が創りだした自分を助けるなど夢にも思っていなかった。

 

「どう、して……?」

 

「スカリエッティに頼み込まれたからな」

 

『娘を助けてくれって言われたら、断れねえよ。

 断れば騎士の名が廃るってな』

 

ドゥーエの問いにゼストと彼とユニゾンしているアギトはそう答えた。

ドゥーエの危機を知ったスカリエッティは、彼らに助けを求めたのだった。

犯罪者としての協力ではなく、一人の娘を助けてほしいという父親として。

 

「掴まれ。

 奴もまたすぐに立ち直る。

 この場から立ち去るぞ」

 

「は、はい……!」

 

ドゥーエは差し出されたその手を右手でしっかりと掴み、何とか立ち上がった。

その後、彼女を先に行かせたゼストは奥の壁に叩き付けたジエンドが立ち上がるのを見て、その槍を振るった。

 

その日、ミッドチルダ郊外の廃棄都市区画から一つのビルが消えた。

 




ノーヴェルート第六話でした。
お久しぶりです。

一月最後の更新から約一か月、何の音沙汰も無しにすみませんでした。
一応、言い訳としては、作者は大学生なので、暇なときは暇なんですけど、今回冬休み明け二週間で期末試験というおかしなスケジュールになってまして、とてもじゃないけど執筆してる余裕がなかったのです。
ですが、その期末試験も先日終了しましたので、一か月も待たせることはありません、多分(オイ

さて、今回は暴走スバルとノーヴェ、チンクの戦闘、ジエンドとドゥーエのシーンというわけでしたが……。
長い間書いてなかったため、少し短いです、はい。
後日加筆するかもしれません。

補足として、チンクがスバルを投げ飛ばしたのは合気道モドキです。
相手の力を利用して相手を倒すということです。
チンクは以前にもジエンドのプロトタイプと戦ってますから、スバルにもそれを応用したというわけです。
まぁ、それでもオリジナルであるスバルの能力が彼女の想定を超えていたために彼女の身体にも不具合が出ましたけどね。




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ノーヴェルート 第七話

遅くなりました。
理由はあとがきにて。
それではどうぞ。


ノーヴェを担ぎながら通路を駆け抜けるウェンディは、その姉の意識が戻り始めているのに気付いた。

 

「うぅ……!」

 

「―――ッ、ノーヴェ。

 気づいたッすか?」

 

「ウェンディ……?」

 

ウェンディは彼女に向けてそう尋ねる。

ウェンディに担がれた状態で目覚めたノーヴェは周囲を見回し、そして、チンクがいないことに気づいた。

 

「ウェンディ、チンク姉は!?」

 

「スバルの足止めに残ったっすよ」

 

「そんな……!

 チンク姉……ッ!?」

 

ウェンディの言葉を聞いたノーヴェは身体を動かしてウェンディから離れようとするが、右腕を中心に身体中から不具合を示す痛みが彼女を襲った。

 

「ちょ、無茶しちゃダメっすよ、ノーヴェ!!

 右腕は完全に機能停止してるし、全力で壁に叩き付けられた衝撃で基礎フレームにも歪みが出てるんっすから!!」

 

「でも、チンク姉が!!」

 

「セイン姉に頼んで助けに行ってもらってるっす。

 私たちは先に戻るッすよ!

 今のノーヴェが行っても邪魔になるだけっす!」

 

「――――ッ!!」

 

ウェンディの言葉がノーヴェの胸に突き刺さる。

だが、ノーヴェの頭の中は最後に見たスバルの真っ赤に染まった瞳でいっぱいだった。

 

「悪い、ウェンディ」

 

「え、ちょ、ノーヴェッ!?」

 

ノーヴェはそう言って、進行方向とは逆向き……スバルとチンクが戦っているであろう場所に向けて駆け出した。

彼女の背中から彼女の名前を呼ぶ声が聞こえるが、ノーヴェはそれを無視した。

スバルとチンク。

ノーヴェにとって大切な二人が戦うのは、耐えられないことだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

フリードに乗って地上本部から機動六課に戻ったエリオとキャロの目には、変わり果てた六課の隊舎が映っていた。

闇に染まった空を明るく照らし出す炎に、機動六課の隊舎は包まれていた。

そして、彼は視界に一つの影を捕らえる。

 

「あれは……ッ!!」

 

「……ッ、フリードッ!!」

 

夜空の中を駆け抜けていく一機のガジェットⅡ型。

その上に乗った長髪の少女に抱えられた少女、ヴィヴィオ。

その姿を見たエリオは即座にストラーダを構えて、飛んだ(・・・)

 

 

 

 

―――いいか、エリオ。戦闘ってのは頭を使うのがふつうだ―――

 

構えたストラーダからカートリッジが排出され、推進力としての焔が噴き出す。

彼の動きを察知した召喚虫―――ガリューがⅡ型の上から飛び出し、彼を海へと叩き落とそうとその刃を振り下ろした。

 

―――だけどな、そうじゃないときもある。時には考えるよりも先に身体を張ってやらないといけないときもある。それを見誤るなよ?―――

 

自然に身体が動いた。

エリオはその胸に怒りを感じながらも頭の中では、ひどく静かに兄貴分である青年から教えられたことを思い出していた。

そして、その視線は自分に迫る刃をしっかりと捉えていた。

 

「デェェイッ!!」

 

「――――ッ!?」

 

エリオはその刃の間合いを見きり、ストラーダの軌道を無理やり変え、そのエネルギーのすべてをガリューに叩き付けた。

少年一人を空に飛ばすほどの推進力を持ったもののエネルギーとさらにガリュー自身の速度も相まって、その衝撃は凄まじいものとなった。

ガリューを叩き落としたエリオはさらにガジェットⅡ型を追おうとしたが、背後に現れた気配を感じ取りストラーダで身体を庇うように構えた。

 

「いい反応です」

 

エリオの背後を取った彼女―――戦闘機人No.12、ディードは両手に持った固有装備『ツインブレイズ』を上段から振り下ろした。

振り下ろされた双剣は、ストラーダを真っ二つに叩き切り、彼の身体を海中に叩き落とそうとした。

 

「―――?」

 

だが、彼の身体は双剣に叩き落されることなく、その場から消え去った。

ディードはすぐに周囲を見渡し、彼の存在の有無を確かめようとしたが、その直後、彼女の周囲を桃色の魔法陣が取り囲み彼女に向けて火炎弾を放った。

 

「これは……!」

 

火炎弾を切り裂きながら回避するディードは、六課の隊舎の方に残っているであろうオットーに通信を飛ばした。

 

「オットー、そっちに召喚士がいる。

 排除して」

 

『そうしたいのは山々なんだけど……、その召喚士が槍騎士を呼び戻して参ってる。

 こっちで合図するから、同時に撤退する』

 

「了解……!」

 

 

 

 

 

「エリオ君……ッ!」

 

「わかってるよ、キャロ……ッ!

 ここからは一人も逃がさないッ!!」

 

フリードの背中に降り立ったエリオは後ろにいるキャロにそう答え、ストラーダを構える。

そんな彼の背に向けて、キャロも支援魔法を発動する。

 

「ケリュケイオンッ!」

 

『Enchant Field Invade』

 

ケリュケイオンが発動した支援魔法は、フィールド貫通、つまりAMFを無視させるというものだった。

桃色の魔力がエリオの身体を包み込んだ。

自分の身体が、後ろにいる少女の力を借りて底上げされているのを感じるエリオは、今の自分でできる最大の魔法を発動させようとする。

 

「ストラーダッ!!」

 

『Explosion』

 

ストラーダに二発の魔力カートリッジが装填される。

キャロの魔法とカートリッジによる魔力補助を受けたエリオは言葉を紡ぐ。

 

「アルカス・クルタス・エイギアス。

 疾風なりし天神、今導きのもと撃ちかかれ。

 バルエル・ザルエル・ブラウゼル」

 

その言葉は彼にとってキャロと同じくらいに大切な人から受け継いだ魔法。

紡ぐ言葉は、つながっている証。

それを詰まることなく送り出していく。

 

「何をするかわからないけど……」

 

エリオが詠唱を始めたのを見たオットーはその隙を逃さない。

片手をエリオに向ける。

 

「隙だらけ……ッ!?」

 

エリオに向けて彼女が砲撃を放とうとした直後、オットーの背後から火炎弾が放たれた。

戦闘機人としてのセンサーが、その攻撃を察知してその射線上から退避する。

 

「ち……ッ!」

 

「フォトンランサー・ファランクスシフト」

 

オットーが再び視線をエリオに向けると、その視線の先には、大量の魔力スフィアが生成されていた。

フォトンランサー・ファランクスシフト。

エリオにとって、最大の火力を誇る魔法。

 

「行くよ、キャロ」

 

「うん、エリオ君」

 

エリオの言葉に、キャロもまた頷く。

 

「撃ち砕け、ファイアーッ!!」

 

その言葉とともに、すべてのスフィアから何発もの魔力弾が一斉に撃ちだされる。

だが、その魔力弾の目標は、オットーたちではなかった。

 

「どこを狙って……ッ、何……ッ?」

 

その出鱈目な方向に撃たれた魔力弾に対して訝しんだオットーだが、直後に彼女の近くに滞空していたガジェットⅡ型が魔力弾に撃ち抜かれ、爆散した。

 

「まさか……ッ!」

 

オットーが周囲を見回すと、いくつもの桃色の魔力陣が浮かび上がっていた。

しかし、その存在は極限にまで使用する魔力を抑えることによって魔力光を抑え、周囲の暗闇に溶け込んでいた。

しかもその魔法陣から放たれる魔力弾は、最低三つはオットーに向けられていた。

そして、彼女が知る由もないが、少し離れた場所にいるディードに対しても同じように魔力弾が襲い掛かっていた。

フォトンランサー・オールレンジシフト。

これこそ、エリオとキャロが編み出した二人の魔法。

大切なものを守るために編み出した、二人の力。

それが今、彼らの大切なものを壊そうとした者に対して牙をむいた。

 

「ディード、今すぐ撤退を。

 これ以上は不味い……ッ!」

 

『了解……ッ!』

 

オットーは周囲のガジェットを盾に使いながらその場から退避する。

圧倒的な物量、認知外からの攻撃。

そのどれもが、今の彼女たちに撤退を選ばせるためには十分だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

爆発、轟音、震動。

そのどれもがその場所には存在した。

 

「くそ……ッ!」

 

悪態を吐きながら迫りくる拳を動く右手で捌き、ダガーを呼び出し爆破する。

至近距離からの爆発によって、彼女―――チンクの小柄な体も吹き飛ばされるが、空中で体勢を立て直し着地する。

すでに、彼女の身体はボロボロだった。

スバルの能力、『振動破砕』によって、彼の拳を捌き続けた左手は完全に機能を停止。

防御用の固有武装『シェルコート』もすでにスバルによって破壊されていた。

 

「そろそろ、頃合いか……。

 どうにかして、離脱したいところだが……」

 

右手にダガーを呼び出し、未だに晴れない煙の中にいるであろうスバルを警戒する。

チンクが煙の方に注視していたその瞬間、彼女から見て右に向けて何かが飛び出した。

 

「……ッ!」

 

それが人の頭と同じぐらいのコンクリート片だとセンサーが認識したときには遅かった。

どんなに彼女たちの身体が機械と適合しても、人間としての部分が非常時には出てくる。

そのため、コンクリート片だと理解しても、身体はすぐには反応しない。

チンクが反対側から彼女に迫っているスバルを見たときには、彼の回し蹴りががら空きだった腹部に叩き込まれていた。

 

「――――ッ!!」

 

小柄なチンクの身体は、スバルの渾身の回し蹴りによって、何度も地面に叩き付けられながら壁まで吹き飛ばされた。

身体中が悲鳴を上げているのを感じながら、チンクは何とか立ち上がろうとする。

 

「グ……ッ!!」

 

だが、その前にスバルが彼女の首を左手で掴み、彼女の身体を壁に叩き付け、身体の自由を奪う。

ノイズの走る視界の中、チンクはスバルが右手で拳を作るのを見た。

 

(さすがに、あれをもらえば終わるな……)

 

彼の右手から発せられる高周波の振動を感知しながら、チンクは静かにそう思った。

妹たちの撤退の時間を稼げたことが第一だった彼女にとって、スバルを釘づけにした時点で彼女にとっては勝ちだった。

一つ心残りだったのは、その妹たちともう二度と会えないであろうということだった。

 

だが――――。

 

「チンク姉っ!!」

 

聞こえるはずのなかった(ノーヴェ)の声が聞こえてきた。

その声に反応したチンクはそちらに目を向ける。

そこには、戦闘によって動かなくなった左手を抑えて、泣きそうな顔で自分たちを見るノーヴェがいた。

 

馬鹿者が、と言おうとするがスバルの手によって首を掴まれているために言葉にすることができず、短く息を吐くだけとなった。

 

そして――――

 

 

 

拳は振り下ろされた。

 

 




ノーヴェルート第七話でした。
さて、今回の話はかなり難産でした。
しばらく書いていなかったためか、思い浮かんだ文章を書いても納得のいかない文章ばかりで、書いては消して、書いては消してと何度もやり直してきました。
特に中盤の六課でのエリキャロたちの場面。
最初に書いたときには、エリオとキャロの戦闘ではディードの視点のみでした。
ですが、ティアナルートでもエリオとキャロの六課での戦闘は省いたために、今回はちゃんと書いて活躍してもらおうと思い、このようになりました。
何度も書き直したため、今回はかなりいい出来だったと自分では思っているのですが、皆さんからはどうなのかはわかりません。
感想などドキドキしながら待ってます(笑)

次回ももしかすると少し遅くなるかもしれませんが、よろしくお願いします。
それではまた次回!


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ノーヴェルート 第八話

チョイ短め


気が付くと、彼―――スバルは燃え盛る炎に包まれた建物の中にいた。

自分が置かれた状況に一瞬、動揺するが自分の周囲の焔からの熱を感じることで、レスキュー部隊にいたときの感覚が呼び起されすぐさま姿勢を低くして煙を吸い込まないように口元を袖で塞いだ。

 

「どういうことだ……?」

 

確かさっきまで地上本部の警備を、と考えたところで彼は重要なことを思い出した。

 

「そうだ、姉貴は……ッ!」

 

連絡の取れていないギンガのことを思い出した彼にとって、そこがどこなのかはどうでもよくなった。

すぐにその場から走り出し、彼女を探す。

 

「姉貴……!

 くそ、此処どこなんだよ……ッ!!」

 

熱さによって噴き出す汗を拭いながらスバルはその場から出るための出口を探す。

熱によって歪んだドアを蹴り飛ばし、その区画から出ると、先ほどまで彼がいた場所よりも広い空間に出た。

広いといっても、その場所もまた炎に包まれ瓦礫によって様々なモノが破壊されていたが、偶然残っていたそれを彼は見つけた。

 

「どういうことだ……!?」

 

スバルは自分の目がおかしくなったのかと考えるが、自己診断能力によって彼の目は正常であることは一瞬でわかった。

だが、それでも彼の目の前には信じられないものがあるのは確かだった。

 

「何がどうなってんだよ……」

 

そこには、『ミッド臨海空港』の看板が炎に焼かれながらもその存在を示していた。

 

「とにかくここから離れないと……」

 

目の前の看板のことは気になるが、このような訳の分からない場所で焼け死ぬつもりはない彼はすぐにその場を離れようとした。

だが、彼がその場から動こうとした時、彼の耳に小さいながらも誰かを呼ぶ声が聞こえてきた。

 

「ええぃ、くそ……ッ!」

 

その場から離れようとしていたスバルだったが、助けを呼ぶ声があるならば彼のとる選択肢は一つだけだった。

すでに煙が充満し始めているその空間の中でたった一つの声を頼りに助けを求める者の元へと向かうのは厳しいものがあった。

 

「こっちか……ッ」

 

煙が視界を覆い始めた中、スバルは機械の身体を駆使して目的地へと向かう。

すでに周りは火の海だったが、小さく聞こえる声は確かに近づいていた。

 

「このッ!」

 

道を塞いでいる瓦礫を蹴り飛ばし先へと進む。

そして、彼は見つけた。

 

「大丈夫か……ッ!?」

 

一人の少年を。

 

「もう無理だよ……。

 助けてくれよ……誰でもいいから……」

 

蒼い髪と翡翠の瞳を持った少年を。

幼き頃の自分と瓜二つの存在を。

 

「……どうなってるんだよ」

 

その存在を目にしたときの彼は、すでにまともに考えることもできなかった。

すぐそばに自分とそっくりな―――否、同じ存在がいることに彼は理解が追い付かなかった。

 

「とりあえず、この場所から……」

 

「―――ッ!!」

 

スバルが左手を彼に伸ばそうとしたとき、目の前の少年は彼の方を向いて怯えはじめた。

 

「お、おいっ」

 

「いや、いやだ。

 助けて……まだ、死にたくない……」

 

少年の言葉を聞いたスバルは首を傾げるが、その直後、彼の右手が彼の意志とは関係なしに振り上げられた。

 

「なっ!?」

 

右腕だけが勝手に振り上げられ、さらに彼が意図的に使用していなかったISまでも起動していた。

咄嗟にその右手を左手で押さえようとするが、その力は自分の身体とは思えないほどに強力だった。

 

「やめ、ろ……ッ!」

 

歯を食いしばり、右手を止めようとするが、右手は少年を潰さんとばかりに力を強くする。

そして……

 

「助けて……助けてよ、ギン姉ッ!!」

 

 

 

 

 

 

 

「チンク姉っ!!」

 

自分を呼ぶ声を聞き、自分に振り下ろされる拳から瞼を閉じたチンクは、いつまでもその衝撃と痛みが襲ってこないことを不思議に思い、目をあけると、彼女のすぐ左に彼の拳があるのに驚く。

今でも高周波振動を起こしている右手は彼女の頭を捉えようとするが、何かに阻まれたかのように動きを止めていた。

 

「何が……ガッ!?」

 

何が起こっているのか理解できなかったチンクだが、彼女の首を掴んでいたスバルが彼女の身体を投げ飛ばした。

小柄な彼女の身体は左手一本で投げられ、それをノーヴェが身体で受け止めた。

 

「チンク姉っ!!」

 

「助かった、ノーヴェ。

 だが、何が……?」

 

チンクは自分を受け止めたノーヴェにお礼を言うが、その視線は今もまだ壁に向けて拳を向けているスバルを捉えていた。

 

「うぅ……うぁぁぁああぁっぁぁあぁぁぁぁッ!!!」

 

次の瞬間、スバルは悲鳴にも聞こえる声を上げながらその拳を壁に叩き付けはじめた。

 

何度も何度も、何度も何度も何度も、何度も何度も何度も何度も叩き付ける。

右腕に装着されたリボルバーナックルが許容ダメージを超え、解除され、左手のバリアジャケットが破け、血が流れても壁を殴るのを止めなかった。

 

その様子を見ていたチンクとノーヴェは彼の様子が先ほどとは別の意味でおかしいことに気づいていたが、そのあまりにもの悲壮な叫びを上げながら壁を殴り続ける彼から目を背けた。

 

「―――――――――――ッ!!」

 

やがて、両手がボロボロになるまで壁を殴り続けていたスバルは、壁に思いっきり頭を打ち付けて、その動きを止めた。

その瞳には、先ほどまでの怒りの焔はなく、光を失った目からは一筋の涙が流れていた。

 

「チンク姉……」

 

「行くぞ、ノーヴェ。

 すでに彼の仲間がこちらに近づいている。

 早く離れないとまずい」

 

「……わかった」

 

チンクにそう言われたノーヴェは彼女の身体に肩を貸して立ち上がる。

その時、彼女は、立ったまま機能を停止したスバルの姿を振り向いて見るが、すぐにその顔を前に向けてその場から走り去っていった。

その時、彼女の目に涙が浮かんでいたことに、チンクは気が付かなかった。

 

 

 

 

「スバル……ッ!」

 

チンクとノーヴェがその場から去った数分後、その区画に飛び込んできたティアナとなのははその変わり果てたスバルとギンガの姿に言葉を失った。

右腕を潰され、頭から血を流しているギンガ、身体中から血を流し、破れた皮膚の中から機械の身体を覗かせているスバル。

そんな二人の姿に呆然となったティアナだったが、なのははすぐに彼らの傍によって安否を確認する。

 

「ティアナ、二人とも大丈夫。

 すぐに連絡を」

 

「は、はいッ!」

 

なのはにそう指示されたティアナはすぐさま地上本部の医療班へと通信を繋げてケガ人がいることを告げた。

 

 

 

 

 

長い夜は終わりを告げた。

 

 

 

 

 

「礼を言うよ、騎士ゼスト。

 ドゥーエのことを救ってくれたこと、感謝する」

 

スカリエッティは、ドゥーエが入った生体ポッドの前でゼストに頭を下げる。

そんな彼の姿に驚きの表情を浮かべるアギトだったが、ゼストは静かに答える。

 

「今回は一人の父親としての頼みを聞いただけだ。

 あの時のお前は信じられると俺が思ったからそうしただけのこと」

 

「ありがとう……」

 

ゼストの言葉を聞きながら、スカリエッティは娘の命を助けてくれた彼に感謝し続けた。

 

 

 

 

 

 

『うぅ……うぁぁぁああぁっぁぁあぁぁぁぁッ!!!』

 

鮮明に思いだせる彼の叫び。

それをノーヴェは一人、ラボの外で彼の最後の姿を思い出していた。

スバルをあんな姿にしたのは自分だ。

彼への思いを断ち切り、何も告げずに彼を裏切った自分が、スバルを壊しかけた。

彼は大切な者が、傷つけられた痛みと、裏切られた痛みを同時に受けた。

スバルをそんな風に苦しめたのは自分だ。

 

「あぁ……あぁぁぁァァァッぁッ……!」

 

闇に染まった森の中で、彼女は一人自分の行いを悔い続けた。

 

 




ノーヴェルート第八話でした。
冒頭の燃え盛る場所はアニメと同じ空港における火災です。
少年スバルがスバルのことをおびえた目で見ていたのは、スバルが丁度倒れてくる像の役目というか、そう言う場所にいたからです。

スバルが機能を停止する理由としては補足ですが、姉に助けを求める過去の自分の声と姉の名前を呼ぶノーヴェの声が彼の意識を刺激したからということです。
ご都合主義と言われればそれまでですけど。

壁を殴って機能を停止するのは、ターミネーター3を見て思いつきました。
あれ、映画館で見た時、かなり印象に残った場面だったので入れたいと思っていました。

さて、次回は諸事情により少し遅れます。
それでは、また次回!


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ノーヴェルート 第九話

約一カ月半ぶりの更新……orz



地上本部、および機動六課襲撃の翌日。

ティアナはサカキに呼び出され、彼の部屋を訪れていた。

 

「さて、ティアナ君に来てもらった理由は言わなくてもわかるよね?」

 

「スバルのことですか」

 

サカキの問いにティアナは即座に答える。

彼女の反応にサカキは笑みを浮かべながら首を縦に振る。

 

「現在、スバル君とギンガ君の身体は修復中だ。

 言い方は悪いけど、彼らにとってあの程度の損傷(ケガ)は部品を交換すればいいだけの話なんだ。

 ギンガ君の方はすでに意識も戻っているしね。

 だけど、問題はスバル君の方なんだ」

 

「スバルが……?」

 

サカキの顔から笑みが消え、真剣な表情でティアナにスバルの現在の状態を伝える。

 

「さっきの話に戻るんだけど、スバル君の身体の修復は表面的なものだけなんだ。

 具体的に言うと、機械の身体を隠す人工皮膚のみだね」

 

「それだけ、ですか?」

 

「そう、それだけなんだ。

 僕たち人の場合なら、折れた骨はつながるまで固定するのがふつうだね。

 スバル君たちは折れた部分は取り換えることですぐに直すことができる。

 だけど、そのためには、新しく取り換えた部品を脳―――つまり戦闘機人としてのメインコンピューターに認識させる必要があるんだ」

 

サカキはメガネを指で押し上げながら言葉を続ける。

 

「しかし、彼の脳がそれを受け付けないんだよ」

 

「え……」

 

彼の言葉にティアナは目を見開いた。

脳が部品を認識しない。

それはつまり―――

 

「スバルは、スバルはどうなっているんですか……?」

 

「彼の脳は、今は最低限の機能、身体の現状維持に必要な分だけを残してすべて停止しているんだ。

 こちらからのアクセスはできない状態で、彼は今も眠り続けている状態だね。

 本当はしたくなかったことなんだけど……」

 

サカキはデスクの引き出しからいくつかの資料を取り出し、机の上に置いた。

 

「彼の脳の記録、というよりもメインコンピューターのログを見させてもらった。

 その結果から言うと、彼は現実から目を逸らしているといった方がいいかな。

 所謂心の自閉機能が働いている状態だ。

 恐らく、スバル君にとって、認めたくないことが続けざまに起きたんだろうね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「自閉……、認めたくないこと、か……」

 

破壊された六課の隊舎の代わりに与えられた臨時の隊舎のデスクでティアナは報告書を作りながら先日のサカキの話を思い返していた。

 

(スバルが認めたくないことって言うと……、やっぱりあれのことなんだろうけど……。

 多分それだけじゃないはず……、確証はないけど……)

 

とりあえず明日病院に行って……と考えたところでティアナの頭に軽い衝撃が走った。

 

「ヴィ、ヴィータ副隊長……」

 

衝撃を受けた頭を摩りながらティアナが後ろを振り向くと、そこには書類がまとめられたファイルを片手に呆れた表情のヴィータが立っていた。

 

「考え事するのはいいけどな、そう言うのは仕事の時以外にしとけよな。

 あのバカのことが気になるのはわかるがな」

 

ヴィータの指摘通り、ティアナのモニターは先ほどからほとんど進んでいなかった。

そのことに気づいたティアナは頭を下げる。

 

「すみませんでした……」

 

そんな彼女の様子に、ヴィータは大きくため息を吐く。

 

「仕方ねぇ、いったん休憩だ」

 

「え、でも……」

 

「そんな状態の奴に仕事やらせても碌なことにならねぇのは目に見えてるからな。

 ほら、行くぞ」

 

そう言ってすぐにその場から歩き出したヴィータを追うためにティアナはすぐさまモニターの電源を落とした。

 

 

 

 

 

 

「スバルの奴がねぇ……」

 

休憩室で購入したコーヒーを片手にヴィータはティアナから聞いたことを自分の中で整理する。

事情を呑み込んだヴィータは対面に座り、紅茶の入ったカップを口に運んでいたティアナに向けて口を開く。

 

「あたしはそんなに心配ないと思うけどな」

 

「いや、そんな簡単にはいかないんじゃ……」

 

あっさりとそう答えたヴィータに対してティアナは頬を引き攣らせながらそう尋ねる。

 

「まぁ、人間だれしも認めたくないことの一つや二つはある。

 お前もそうだっただろ?」

 

「は、はい……」

 

ヴィータの言葉に思い出されるのは、唯一の肉親だった兄の死と兄の夢を継ぐというプレッシャーに押しつぶされそうになっていたころの自分。

思い当たる節があったためにティアナはそう答えるしかなかった。

 

「あたしだってそうだ。

 だけど、今はこうやって前を向いて生きてる」

 

「……」

 

「どんなに嫌なことであっても、トラウマになっているようなことでも人はそれを乗り越えられる。

 あたしはそう考えてる。

 お前はどうなんだ?

 そうじゃないのか?」

 

ヴィータはティアナに語り掛けるように尋ねる。

その問いに対する答えは一つだった。

 

「……はい」

 

「だったら、やることは決まってるはずだ。

 お前はどうするんだ?」

 

ヴィータはそう尋ね、コーヒーを飲み干す。

そんな彼女に対してティアナはカップの中をすべて飲み干し、立ち上がった。

 

「ヴィータ副隊長、すぐに仕事に戻ります。

 さっさと終わらせて、様子を見に行かないと」

 

「今すぐ行ってきてもいいんだぞ?」

 

立ち上がったティアナに向けてヴィータはそう聞くが、ティアナは首を横に振った。

 

「ちゃんとやるべきことはやっていきます。

 多分、今はまだ考えてる最中だと思うんで」

 

ティアナの言葉にヴィータは少し考えるように目を逸らし、そしてそのまま彼女に言葉を投げかけた。

 

「外出許可はあたしがやっておく。

 仕事終わったら行ってこい」

 

「……ありがとうございます」

 

彼女の言葉に対してティアナは頭を下げるが、ヴィータは照れ隠しにカップを傾けながらコーヒーを飲み干した。

 

 

 

 

 

「ありがとうございました」

 

その後、ノルマを終えたティアナはすぐさまスバルが入院している病院へと向かった。

ナースステーションで彼の部屋の番号を聞き、その脚を向けた。

 

「あ、ティアナさん!」

 

その途上、彼女を呼び止める声を聞き、ティアナは声の聞こえてきた方を見た。

 

「キャロ、あんたなんでここに?」

 

「一応の身体検査です。

 この間の戦闘データを見たフェイトさんが受けなさいって言われて……」

 

ティアナは自分の方に向かって小走りで寄ってきたキャロにそう尋ねる。

キャロはティアナの問いに対して、苦笑しながらそう答えた。

 

「それで、身体の方は大丈夫だったの?」

 

「はい、明日まで魔法の使用は控えるようにとは言われましたけど、身体の方は大丈夫です」

 

「キャロがここにいるってことは、エリオもいるのよね?

 エリオの方は大丈夫なの?」

 

ティアナはいつもはキャロと一緒にいるエリオがこの場にいないことに気づき、彼女に尋ねる。

 

「エリオ君は一日検査入院だそうです。

 右手の骨にひびが入ってたそうで」

 

「そっか。

 エリオにはしっかりと休むように言っておきなさいよ?

 スバルと似て、エリオも結構無茶しそうだから」

 

「はい!

 あ、ティアナさんはスバルさんのところに行くんですか?」

 

「えぇ、そうだけど……。

 何かあったの?」

 

「いえ、特に何かあったわけじゃないんです……。

 でも、さっき私たちがいったとき、まだ目覚めてなくて……」

 

キャロが俯きながらそう答える。

そんな彼女の頭にティアナは手を乗せながら口を開く。

 

「大丈夫よ、あいつはいつだって最後にはちゃんと戻ってくるんだから。

 スバルのことは私に任せて、あんたはエリオと一緒にいなさい」

 

「はい……!」

 

ティアナの言葉にキャロは少し元気を取り戻し、頷いた。

 

 

 

 

「えっと……ここね」

 

キャロと別れたティアナはスバルのいる病室の前に辿り着いていた。

ティアナは一応の礼儀として病室のドアを静かに開き、中に入った。

 

「スバル……?」

 

病室に入った瞬間、ティアナは違和感を感じた。

人の気配が全くしないのだ。

スバルが自閉モードに入っているとは言え、そこに人一人がベッドに横たわっていればなんとなくは感じることができる。

だが、それが感じられない。

つまり、その部屋にはスバルがいないということに他ならなかった。

 

「あのバカ……ッ」

 

胸騒ぎがしたティアナは病室を飛び出した。

彼のいるであろう場所へ。




お待たせしました、ノーヴェルート第九話でした。
二月の終わりから三月まで、リアルでヤバイことになってたので書く時間が取れませんでした。
これからも少し更新が遅くなることがありますが、これだけは言っておきます。
絶対に完結させます。

エタることはありません。
なので、遅くなっても見捨てないでください。
それではまた次回!


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ノーヴェルート 第十話

スバルの病室から飛び出したティアナは、彼がどこにいるのかを考える前にその脚を病院の屋上へ向かう階段へと向けていた。

 

流石に病院の中で走るのは拙いので大股で小走り気味に階段を登って行く。

そして、病院の中だからか普通なら埃が舞っていてもおかしくない屋上の入口へと辿り着いたティアナはそのままドアを開いた。

 

「やっぱり……」

 

沈みかけている西日が彼女の目に入ってくるが、ティアナはその光の中で彼がいるのを感じていた。

眩しい日差しをを手を掲げて遮りながらティアナは屋上に設置してあるベンチに腰掛けているスバルの元へと向かう。

 

「そんな格好でいると風邪ひくわよ」

 

スバルの座っているベンチのすぐそばまで歩いてきた彼女だったが、彼がまったく反応しないことにため息を吐きながら彼の隣に腰掛けた。

 

「まったく、あんたが病室にいないからこっちは慌てて来たってのに……」

 

ティアナは隣に座っているスバルを横目に言葉を紡ぐ。

 

「……何でここがわかった?」

 

「あんたは自分が思っている以上に単純なのよ。

 前からそう、訓練校時代も何か考えることがあれば一人で高い場所に行って、一人で悩みを解消しちゃってさ。

 今回はまだ解決してないみたいね」

 

そこまで言ってティアナはスバルの方を向く。

 

「ほら、少しは話してみなさいよ。

 一人で悩むより誰かに話を聞いてもらった方がまだ楽になるわよ」

 

「……」

 

彼女の言葉を聞いたスバルは一度目を瞑り、そして自分の中で渦巻いている気持ちを吐きだす。

 

「何のために戦おうとしてるのか、ちょっとわからなくなってきた」

 

「……は?」

 

「今まではさ、お袋みたいになって誰かを守りたいって思ってた。

 誰かを守るためなら戦えるって。

 だけど、この間の作戦の時、あいつが……ノーヴェが来たときから、うまくは言えないけど、なんか変なんだよ……。

 本部にいる人たちを守るためには戦わないといけない。

 だけど、あいつとは戦えないんだ……」

 

「それで?

 アンタはどうしたいのよ」

 

スバルは右手を何度も握りしめるが、その拳には力が入っていなかった。

そんな彼に対してティアナは彼の本心を聞きだそうとする。

 

「……それがわからないんだよ。

 誰かを守るためにはあいつを……、ノーヴェたちを止めたい。

 だけど、俺は……」

 

 

 

「姉貴がやられてたのを見て、自分の中で何かが外れて、もう少しであいつらを(こわ)すところだった」

 

 

 

「”振動破砕”……」

 

彼の言葉を聞いて、ティアナはスバルの、戦闘機人としての彼の能力を思い出した。

それは彼と同じ戦闘機人に対しての絶対的なアドバンテージを誇る能力。

機械の身体を問答無用で壊しにいく、対戦闘機人用と言ってもいい力。

 

「人を守るために魔導師になった。

 誰かを助けたいから局員になった。

 俺が、誰かを殺そうとしたんだ……。

 そんな俺が、これからも戦っていっていいのか、それがわからない……」

 

スバルの声がだんだんと小さくなっていくにつれて、顔を俯ける。

そんな彼を見ていたティアナは彼にどうしても聞いておきたいことを尋ねた。

 

「ねぇスバル、あんたにとってあのノーヴェって娘に対する気持ちはなんなの?

 大切な友達?それとも自分と同じ存在ってことでの同情?」

 

「……最初は、なんとなく気が合うって程度だった」

 

彼女の問いに、スバルはノーヴェとの出会いから思い出しながらゆっくりと口を開いた。

 

「……何となく、あいつがふつうじゃないってのは感じてたってのもある。

 けど、二人で会ってる時は、話してる時はそんなことは感じなかった……。

 それで、あいつのことが、頭のどこかに、いつも考えてることが、多くなった……」

 

「……なるほど、つまりあれね。

 あんたにとって、ノーヴェは好きな女の子ってところなのね」

 

スバルの本音を聞きだしたティアナはそう結論付けた。

恋愛というものをしたことが無い彼女にも、彼がノーヴェに恋心を抱いていることは理解できた。

 

「そう、なんだろうなぁ……。

 俺は、ノーヴェのことが好き、なんだろうな……」

 

「それで、そのことを踏まえてもう一度聞くわ。

 あんたはどうしたいのよ?」

 

自分の中にくすぶっていたものを、相棒(ティアナ)に聞いてもらったことで、それを理解したスバルに彼女はもう一度尋ねる。

自分の中の恋心を理解したうえで、スバルがどうしたいのかを。

 

「俺は、あいつを止めたい。

 けど、俺は……あいつの姉を(こわ)しかけたんだ……。

 今更、どうやってあいつの前に行けばいいんだよ……」

 

それでも、未だに弱気なことを言う彼に対して、ティアナは大きなため息を吐き、一言だけ口にした。

 

「スバル、歯喰いしばりなさい」

 

「は……?」

 

ティアナの一言に疑問の声を上げたスバルだったが、次の瞬間、彼は頬に強い痛みを感じながら屋上の床に叩き付けられていた。

 

「痛ってぇ……」

 

スバルは右手で殴られた頬を抑えながら自分の前に立つティアナを見上げる。

彼の目に映ったティアナは、握りしめた拳が震えていた。

 

「ティアナ……?」

 

「今のあんたは見るに堪えない。

 いつまでもウジウジと弱気なことを……!」

 

 

「私の知ってるスバル・ナカジマは、自分が正しいと思ったことは全部やり通す!

 そんな奴だった。

 でも、今のあんたは何よ?

 いつまでも自分の殻にこもって一人で解決しようとして!!

 なんでよ、あんたはなんで、いつも一人で解決しようとするのよ……。

 今回だってそう、自分の気持ちを殺して、一人で納得しようとした。

 少しは周りを頼ったらどうなのよ!?

 アンタは、一人じゃないでしょう!?

 アンタには相棒(わたし)がいる!!

 私だけじゃ頼りないなら、仲間(エリオやキャロ)がいる!!

 なのはさんや、フェイトさん、ヴィータ副隊長にシグナム副隊長だっている!!

 一人で解決しようとしないでよ……!」

 

ティアナの泣き出しそうな顔を見たスバルは、言葉を失った。

彼女に言われるまで、自分がどれだけ彼女たちのことを気にもしていなかったことを思い知らされたからだ。

 

「あんたにとって、あたしは何なの!?

 頼りにならない相棒?」

 

「違う……ッ」

 

「だったら一つ言ってあげるわ。

 アンタは、あの時のことを気にしてるけど、その力でギンガさんを助けられたってことは覚えておきなさい」

 

 

 

「……俺が、助けた……?

 姉貴を……?」

 

 

 

ティアナの一言で、彼はハッと気づいたように彼女の顔を見つめる。

 

「えぇ、そうよ。

 確かにあんたはノーヴェたちを(こわ)すところだった。

 それでも、アンタがギンガさんを助けたことには変わりはないわ」

 

膝をつき、座り込んでいる彼と目線を同じにして、ティアナは続ける。

 

「アンタがあの力を嫌っているのは知ってる。

 でも、その力で助けられる人がいるってことも覚えておきなさい」

 

ティアナのその言葉が、スバルの中にあったものを溶かしていく。

自分が忌み嫌っていた能力で、誰かを助けることができる。

自分の力は壊すだけじゃない、ということを初めてスバルは感じることができた。

 

「……サンキューな、ティアナ」

 

「どういたしまして。

 それで、どうするの?」

 

そのことを自覚したスバルは立ち上がり、そんな彼をティアナは呆れた顔で見上げる。

 

「ノーヴェを止める。

 あいつらはまだ、引き返せるはずだから」

 

「一人で、なんて言わないわよね?」

 

「……たぶん、お前にも、エリオやキャロにも迷惑をかけると思うけど。

 頼む」

 

「わかってるわよ。

 アンタの足りないところを補うのが私の役目なんだから。

 ほら、さっさとソレ(・・)、どうにかしてきなさい」

 

ティアナは立ち上がりながらスバルの左側を指さす。

そこには、風に揺られる袖があった。

 

「そうだな、ちょっと博士のところに行ってくる」

 

「ちゃんとやってもらいなさいよ」

 

スバルはティアナに背を向け、彼女もまたスバルにそう告げて去っていく彼の背を見つめる。

そして、スバルの姿が出口から見えなくなった後、ティアナは大きくため息を吐いた。

 

「まったく、手のかかる相棒(パートナー)だこと……」

 

肩を竦めながらヤレヤレといった感じでそう呟くティアナ。

だが、その声は小さく震えていた。

 

「……まったく、いったい誰よ、『失恋の味はレモンの味』なんて言ったのは……。

 レモンなんか、目じゃない……ぐらい、つらい……じゃない……ッ」

 

その病院の屋上で、一人の少女の初恋は人知れず終わりを告げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一人の少年が一人の少女を止めると決意した。

一人の少女の初恋が終わりを告げた。

 

そして――――

 

一人の次元犯罪者による管理局に対する宣戦布告が、その日行われた。

 

 

 

 




遅くなりました。
大学も二年目になり、授業の数が半端ないです。
更新速度はかなり遅めになりますが、ご了承ください。

スバルの悩みですが、彼は自分の力でチンクとノーヴェを壊す寸前にまで暴走していたことに対して悩んでいたということです。
スバルが一人で悩んでいた、というのも無理はないと私は考えています。
下手したら人を殺してしまいかねない力を持っているわけですからね。
周りの誰にも悩みをぶちまけるわけにはいかないわけですよ(彼の周囲にいる人間はフォワードの三人を抜いて、ハッキリ言って彼が暴走しても抑え込める可能性大ですけど……)

ティアナがスバルを殴り飛ばした理由はそこにあります。
スバルが一人で悩みを抱え込んでいることに対して、ティアナは怒りを覚えたわけですから。
まぁ、スバルはティアナのコンプレックスを解決しておいて、自分のはだれにも話さなかったというのは、相棒であるティアナは頼りにされてないと考えてしまうかもしれませんからね。


ティアナの恋心ですが、以前ヴァイスに話したときはまだ胸の中にとどめておく程度だったわけですけど、このルートではノーヴェに対してスバルが恋心を抱いたということを知ったため、そのことを彼に告げることはなく、彼女の初恋はここで終わりということになりました。
ここは書いていてとてもつらかった……。


今回の話はかなり難しかったです。
先に疑問に思われそうな場所はあとがきに記しましたが、他にも気になることがあれば感想にてお伝えください。


次回の更新は一月ぐらいお待ちを。
(まったく、中間試験の二週間後に期末試験とかどうかしてるよ……)

それでは!!


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ノーヴェルート 第十一話

遅くなりました。
詳細はあとがきにて


S級次元犯罪者、ジェイル・スカリエッティの管理局に対する宣戦布告より一週間。

管理局の中枢を担う第一管理世界『ミッドチルダ』の首都クラナガンの上空を船が飛行していた。

 

船―――聖王のゆりかごの周囲で、ゆりかごの上昇を止めるために取り着こうとする管理局員とゆりかご内部から射出されるガジェットの間で戦闘が行われていた。

 

 

その映像を機動六課のフォワードチームと部隊長であるはやては臨時の隊舎兼移動手段とした次元航行船『アースラ』のブリーフィングルームでその様子を見ていた。

 

 

 

「御覧の通り、状況は最悪の方向に進んどる。

 本日早朝、クラナガンの郊外から浮上したこの聖王のゆりかご(デカブツ)はクラナガンの上空を飛行しながら徐々にその高度を上げとる。

 あれが二つの月の魔力を得ることができるようになったら終わりや」

 

はやては無限書庫からの情報を出しながらその場にいるメンバーに顔を向ける。

 

「現在管理局はこのデカブツを止めることを最優先事項にしとる。

 地上本部のグレアム中将も全面同意し、地上部隊の展開し市民の避難を急がせてる。

 そして、うちらのやることやけど……」

 

はやてはそこまで言ってため息を吐きながら続ける。

 

「本来うちらみたいな少数精鋭の部隊にとってやったら拙いんやけど、戦力を分散させる」

 

はやては苦い顔をしてそう告げる。

そして、その理由をなのはをはじめとしたフォワードメンバーは理解していた。

 

「まず、聖王のゆりかごの停止と、ゆりかご内部にいるであろうヴィヴィオの救出、主犯格の逮捕は高町隊長とヴィータ副隊長。

 すでに対AMF対応型デバイスを配備された部隊が突入口の確保に向かっとるから、二人は突入口の確保の知らせが入ったらすぐに突入や。

 次にスカリエッティのラボにはフェイト隊長。

 現地でヴェロッサ・アコース査察官とシスターシャッハと合流してスカリエッティの逮捕。

 シグナム副隊長は地上本部に向かっとる魔導師―――騎士ゼストの足止めを頼むで」

 

はやてがそこまで指示を出したところで、ティアナに尋ねる。

 

「ティアナ、スバルから連絡は?」

 

「一時間前に、最終調整中だと」

 

「まだ終わってないか……。

 なら、地上本部に向かってる戦闘機人はティアナ達四人(・・)でやってもらうしかないか……」

 

「八神部隊長?

 四人、とは?」

 

ティアナ達は、はやての言葉に首を傾げる。

はやては四人といった。

だが、スバルが欠けた今、フォワードチームはティアナとライトニングのエリオとキャロの三人だ。

一体誰が?

 

彼女たちの表情に浮かぶ疑問を感じたはやては部屋の外にいるであろう彼女に中に入るように告げた。

 

「失礼します」

 

「ギンガさん……ッ!?」

 

「ギンガには、臨時でティアナとチームを組んでもらう。

 ティアナ、できるやろ?」

 

部屋に入ってきたのは、スバルの姉であり、先日の戦闘で重傷を負っていたギンガだった。

彼女が来たことに驚いたティアナに対して、はやてはそう尋ねる。

 

「あ、はい。

 でも、ギンガさん、怪我は……?」

 

(スバル)が身体を張って戦おうとしてるのに、寝てるわけにもいかないでしょう?

 大丈夫、身体はキッチリ修理(なお)してもらったから」

 

ギンガは右腕でガッツポーズをしながらそう答える。

そんな彼女の袖からは金属の輝きが見え隠れしていた。

 

「……わかりました。

 でも、あまり無茶はしないでくださいね?」

 

「うん、わかってる」

 

ギンガはティアナの言葉に微笑みながら頷いた。

 

 

 

 

 

 

 

「みんな、準備はいい?」

 

「「「「「はいっ!」」」」」

 

ブリーフィングからしばらく後、出撃の準備を終え、格納庫に集まったティアナたちは、なのはとヴィータの前に並んで立っていた。

 

「今回の出撃は、今までで一番ハードになると思う」

 

「あたし等も、お前らのピンチになっても助けてやれねえ」

 

「でも、目を閉じて、今までの訓練を思い出してみて?」

 

なのはの言葉に従い、目を閉じるティアナ達四人。

 

「何度もやった基礎訓練、嫌って程磨いた、それぞれの得意技。

 痛い思いをした防御練習、全身筋肉痛になっても繰り返したフォーメーション。

 いつもボロボロになるまでやった、私達との模擬戦」

 

なのはの言葉とともに、ティアナたちの顔がどんどん青ざめていく。

彼女の訓練を受ける期間が短かったギンガは比較的マシだったが、残る三人、特にティアナは今にも吐きそうな表情を浮かべていた。

 

 

「目、開けていいよ」

 

なのはは目の前に立つ四人の姿を見て、苦笑する。

 

「訓練メニュー考えた私が言うのもなんだけど、皆きつかったよね?」

 

「それでも、ここまで四人とも、それにここにはいないがスバルの野郎もよくついて来た」

 

「特にスバルとティアナはよく頑張ったよ。

 私が教えてきた中で一番キツイ訓練メニューだったんだから」

 

なのはのその言葉に、ティアナは頬を引き攣らせながら笑うしかなかった。

彼らは、彼女の考えた訓練メニューは彼女の教えを受けた者はだれでもこなしていると考えてやっていたために、その分の驚きも含まれていた。

 

 

「5人とも誰より強くなった……とは、ちょっと言えないけど。

 だけど、どんな相手が来ても、どんな状況でも絶対に負けないように教えてきた」

 

なのはとヴィータは、そう言いながら笑みを浮かべる。

 

「守るべきものを守れる力、救うべきものを救える力。

 絶望的な状況に立ち向かっていける力。

 ここまで頑張ってきた皆は、それがしっかり身に付いてる」

 

その言葉は、ティアナたちの中に何の抵抗もなく入り込んでくる。

そして、それは彼らの中で自信となってその心を強くする。

 

「夢見て憧れて、必死に積み重ねてきた時間」

 

言葉を続けながら、なのはは拳を握りしめて前に出す。

 

「どんなに辛くてもやめなかった努力の時間は、絶対に自分を裏切らない。

 それだけ、忘れないで」

 

最後にそう言って、締めくくる。

浮かべていた笑顔は彼らの知る、なのはの、強くて優しいエースオブエースの顔だった。

 

「キツイ状況を、ビシッとこなして見せてこそのストライカーだからな」

 

「「「「「……はいっ!」」」」」

 

ヴィータは不敵な笑みを浮かべながら彼らにそう告げ、スバルたちも自信に満ちた顔で答えた。

 

「じゃあ、機動六課フォワード隊、出動!」

 

「行ってこい!!」

 

「「「「了解!」」」」

 

今までで一番の敬礼をなのはとヴィータに返して、ティアナたちは踵を返して走り出した。

だが、ヘリに向かおうとするティアナをなのはは呼び止めた。

 

「ティアナ」

 

「なのはさん……」

 

「スバルがいないけど、大丈夫だよね?」

 

なのはの心配そうな表情と言葉に対して、ティアナは不敵な笑みを浮かべながら言葉を返した。

 

「大丈夫ですよ、スバル(あのバカ)の代わりにギンガさんもいますし。

 それに、なのはさんの訓練に比べれば怖いものなんてありませんから」

 

そう言ってティアナはもう一度敬礼をして、ヘリへと乗り込んでいった。

ティアナの言葉になのはは一瞬、驚きの表情を浮かべたがヘリに乗り込む彼女の背中を微笑みながら見送った。

 

「ティアナの奴、すっかり半人前を抜け出したな」

 

「うん、なんというか少し大人になったというか、何か吹っ切れたみたいだね」

 

少し大きくなったように見えた教え子の背中を見送りながらなのはとヴィータはそう言葉を交わす。

 

「さ、私たちも行こう」

 

「おう」

 

 

 

 

 

「新調した腕の調子はどうだい、スバル君」

 

管理局地上本部に隣接する研究所のとある一室、そこでスバルは全身の動きを確認するように身体を動かしていた。

そんな彼のすぐそばで、スバルの様子を見ていたサカキは彼に身体の調子を尋ねる。

今のスバルの身体(ボディ)は地上本部襲撃の際に破損していた部分の総取り換えと、各部のチューンアップを施されていた。

 

「大丈夫です、問題ありません」

 

彼の言葉に対してサカキは頷き彼に、彼と同じく修復されたマッハキャリバーを手渡す。

 

「つい先ほど、修復と再調整が済んで送られてきたんだ。

 以前よりもさらにピーキーになっているらしいけど、君なら大丈夫だろう」

 

「ありがとうございます」

 

スバルはサカキからマッハキャリバーを受け取る。

 

「久しぶりだな、相棒」

 

『えぇ、今度は以前のような無様なことにはなりませんので、ご心配なく。

 相棒は、相棒の走りたいように走って下さい。

 私は相棒とともに走りますから』

 

マッハキャリバーの言葉にスバルは不敵な笑みを浮かべる。

 

「現場までの足はこちらで確保しておいたから、この場所に向かうといい」

 

「ありがとうございます、サカキ博士」

 

「なに、これくらいどうということはないよ。

 ほら、早くいくといい。

 主人公(ヒーロー)が遅れたら話にならないだろう?」

 

「主役は遅れてくるものって言葉もありますけどね」

 

サカキの言葉にスバルはそう返し、部屋を出て行った。

スバルが去ったあと、サカキは眼鏡を指で押し上げながら一人、言葉を紡ぐ。

 

「見せてもらうよ、スバル君。

 君の可能性を」

 

 

 

 

 

 

 

 




前話の投稿から約三か月、遅くなりました。
申し訳ありません。
遅くなったことにはそれなりの理由があります。


簡潔に言うと、交通事故に巻き込まれました。

信号待ちで待っていたところに思いっきり突っ込まれました。
おかげで今年の二月に買った原付はスクラップになり、一か月半の入院とその後のリハビリで大学の講義は全部休むことになり、もれなく留年が確定しました(怒)

入院期間中はベッドからまともに動くこともままならないというか、何もできませんでした。
最近になってやっと外出できるようになりり、シャバの空気を味わってます。


とにかく、この小説は死んでも完結させるつもりなので、末永く見守っててください。
次回の更新は未定です。
それではまた次回。



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ノーヴェルート 第十二話

この作品覚えてる人いるかわからないけど約4年ぶりに投稿です


無人となった都市群の間を一機のヘリが後方からの銃火を避けながら駆け抜けていく。

 

『あぁ、もうしつこいなぁ!!』

 

そのヘリの後部キャビンでティアナ達フォワード部隊はパイロットであるアルトの声を聞きながら不規則な揺れに耐えていた。

管理局地上本部へと向かう戦闘機人とガジェットの侵攻阻止のために出撃した彼女たちだったが、戦闘区域にたどり着く前に、数機のガジェットⅡ型に捕捉され、攻撃を何とか避けながら振り切ろうとしていた。

 

『みんなごめんね!もう少しだけ我慢してて!!』

 

アルトの声がキャビンに響く。

 

「クロスミラージュ、データベースに接続してこの付近の地図を出して。あと周辺に生体反応がないかの確認をお願い」

『了解』

 

ガジェットⅡ型の放つ閃光がヘリのすぐ傍を駆け抜けていく様を小さな窓から覗き見ていたティアナはクロスミラージュを操作し、呼び出したホロウィンドウで周辺の地形と逃げ遅れた人がいないことを確認する。

 

「アルト、今から送るデータの場所へ!」

『データ受信確認!でもどうするの!?』

 

ティアナはコックピットへの通信をつなげてホロウィンドウ上にマークした場所へ向かうように頼み込む。

 

「私たちが振り切った後に、あのガジェット群がどこに行くのかもわからない状態にするぐらいならここで叩き落とす方がほかの陸士部隊の負担にならないでしょう!」

『それはいいけど……方法は!?』

「なのはさんにいざってときには使ってと言われたあれ(・・)を使うわ」

 

そう言いながらティアナはキャビンの壁に固定された大型のアタッシュケースに視線を向けた。

 

『わかった、指定ポイントに向かうよ!』

「こっちも準備進めるわ。

 ギンガさん、少し手伝ってもらってもいいですか?」

「了解、これを抑えていればいいのよね」

 

アルトの声とともに加速したヘリの振動を感じながらもティアナとギンガはアタッシュケースの元へと向い、それを取り外す。

 

「コード入力《ストライカーウェポン》」

『コード確認、ロック解除完了』

 

ティアナの音声を認識したアタッシュケースの電磁ロックの解除され、中に納められたものが姿を現す。

 

「これは……」

「レジアス中将から六課への贈り物だそうです」

 

そこには人の腕以上の長さを持つ銀と灰色の(カノン)が収められていた。

アタッシュケースを抑えているギンガは驚きの表情を浮かべ、ティアナは不敵な笑みを浮かべていた。

 

「『CWM-ストライカーカノン』。魔法の仕様が厳しい環境での作戦を可能にするために開発されていたそうです。

今回の作戦には一部の陸士部隊への配備しか間に合いませんでしたけど、六課にはレジアス中将から直接送られてきたそうです」

 

ティアナはそう言いながら砲―――ストライカーカノンのグリップを握る。

すると、彼女の前腕部に固定用のベルトが巻き付き、カノンと彼女の右腕が一体となる。

それと同時に、灰色だった部分が明るい橙色へと変化した。

 

『魔力反応確認、登録ID、JMB047321-046559864。ティアナ・ランスター二等陸士を確認。ストライカーカノン起動完了』

 

「よし、アルト、こっちの準備はできたわよ!」

『了解!!こっちもすぐに着くから!』

 

彼女の声に合わせるようにヘリがさらに加速する。

 

「キャロ、発射までのラグがあるから、ヘリの防御お願いできる?」

「はい、任せてください!」

 

 

 

 

 

「まったく、相棒(スバル)と似て大胆なやり方を提案するんだから!」

 

ティアナの作戦を聞いたアルトはコックピットの中で呆れたようにため息を吐く。

だが、そんな彼女の集中力はかつてないほどに高まっていた。

 

「ヴァイス先輩直伝の操縦技術なめんな!!」

 

背後から放たれるレーザーを紙一重で避けながらアルトはヘリを目標地点へと向かわせる。

 

「みんな!指定ポイントまであと少し、両側のハッチを開くから気を付けて!!」

『了解、やっちゃって!』

 

アルトはコックピットの中のスイッチを二つ操作し、操縦桿を倒す。

すると、彼女の操るヘリの両側のハッチが跳ね上がりながら、機体を横に向ける。

 

 

 

 

 

ハッチが開き、ヘリの中へ風が激しく吹きこんでくる。

カノンを構えたティアナの視線の先には5機のガジェットⅡ型がレーザーを放ちながら近づいてきていた。

 

「ケリュケイオン!」

『Protection』

 

キャロがヘリの側面に張った障壁がガジェットⅡ型の放つレーザーを防ぐ。

その間にティアナはカノンのチャージを進める。

 

「ギンガさん、あたしの腰をしっかりと掴んでいてください!」

「了解!」

 

ティアナの言葉に反応したギンガがすぐに彼女の腰のベルトをしっかりと掴む。

 

『チャージ完了』

「ターゲットロック!!ストライカーカノン、撃ちます!!」

 

彼女の言葉と同時にカノンの砲口からエネルギーが解き放たれる。

その反動によって彼女の身体が後ろへ押し出されそうになるが、ギンガが彼女の腰を掴んでいたため倒れることはなかった。

膨大なエネルギーの奔流は4機のガジェットの内、2機に直撃しその機体を吹き飛ばす。

残る2機もその衝撃によってバランスを崩し、ビルへと激突し地に堕ちていった。

 

「すごい……ッ!」

「やりましたね、ティアさん!!」

 

その成果にエリオとキャロが喜びの声を上げながらティアナの方を見ると、彼女は腕を振りながら冷や汗をかいていた。

 

「これ、反動強すぎ……ッ!」

『みんな、すぐに戦闘区域につくから準備してて!!』

 

ティアナは腕の痺れを紛らわせるように苦言を呈すると同時に、アルトの声がヘリの中に響いた。

 

 

 

 

 

 

 

空を悠然と飛ぶ船―――聖王のゆりかご。

その周辺はまさに激戦区にふさわしい様相を呈していた。

休む暇もなく襲い掛かってくるガジェットⅡ型。

空をも覆いつくさんばかりにゆりかごの砲門から放たれる紫の砲撃。

 

「航空魔導師隊、スリーマンセルで当たって!単独での戦闘は避けて、確実に、だけど迅速に撃ち落して!!」

 

そんな状況に内心舌打ちをするはやては、周囲の航空魔導師に指示を出しながら飛行するガジェットの編隊を撃ち落す。だが、それだけやっても敵の数は減るどころか増えてきているように彼女には感じられた。

敵味方が入り乱れる乱戦状態のため、はやてが最も得意としてい広範囲殲滅魔法は使えない。

そんな状況に歯噛みしながらはやては一つの考えに至った。

 

「外からチマチマやっててもどうにもならん……。やっぱり、中から止めるしかないか……ッ!」

 

はやては目の前のゆりかごを苦々しい顔で見上げる。

その規格外の巨体には、はやての魔法でも致命傷を与えることはできないだろう。

ゆりかごを止めるためには、内部に侵入して動力炉を潰すしかない。

 

『24番射出口より、小型機多数!』

『南側の射出口からもⅡ型およびⅢ型の射出を確認!!』

「!」

はやての思考に割り込む形で、この戦域にいる魔導師からの念話がつながった。

その内容は彼女にとってかなり苦しいものであったが、はやてはそれを顔には出さずに周囲で彼女の撃ち漏らしを撃ち落していた魔導師に指示を出す。

 

「皆、落ち着いて!拡散されたら手が回れへん。叩ける小型機は空で叩く、潰せる砲門は今のうちに潰す!ミッド地上の航空魔導師隊、勇気と力の見せ所やで!」

『はい!!』

 

はやての激励に、魔導師たちは得物を構え、己が敵に狙いを定めた。

戦いはまだ始まったばかりだった。

 

 

 

 

 

 

「せぇいッ!!」

 

気合を込めた声とともに振るわれたグラーフアイゼンによって、一機のガジェットが空中で叩き潰され、スクラップと成り果てた。

ヴィータは返す刀で背後から接近していたガジェットⅠ型を、吹き飛ばし粉砕する。

 

「中に入る突入口を探せ!突入部隊、位置報告!!」

 

ヴィータはガジェットが密集する場所に向かって飛翔し、突入部隊への指示を出す。

そこから少し離れたところでは、なのはが密集したガジェットに向かって砲撃を放ち、その存在をこの世から消し去っていた。

 

 

「第七密集点突破、次ッ!!」

 

機械音とともに、レイジングハートから噴き出す蒸気を払いのけながらなのはは次の密集点に向けてその矛先を向ける。

今、彼女の手に握られているのは杖というよりも、槍と評した方がいい代物だった。

レイジングハート・エクセリオン、その全力稼動を示す形態『エクシードモード』。

普段のレイジングハートに比べて、攻撃的なデザインのそれは、彼女の覚悟の証でもあった。

最初から全力全開。

彼女には手加減するつもりも、出し惜しみするつもりもなかった。

 

(ゆりかごの阻止限界時間まであと三時間……ッ!)

 

なのはは新たな標的をその視界に認めると、即座に砲撃を放った。

まさに鎧袖一触。

今の彼女にとって、ガジェットは己の道を塞ぐ障害どころか、路傍の石と同じ存在だった。

 

「邪魔をしないでッ!!」

 

 

 

 

 

 

 

ティアナ達が戦闘区域に向かい、なのはたちがゆりかご周辺で戦闘を行っている同時刻。

彼女たちとは別のヘリの中で、スバルは新しい左腕の最終調整を行っていた。

そんな彼に向けて声がかけられた。

 

「スバル、ティアナ達のところまであと十五分ってところだ。大丈夫か?」

「はい、大丈夫です……ってヴァイスさん!?」

 

自分に向けられた声が聞き覚えのあるものだったことに驚くスバル。

そんな彼の視線の先には、ヘリの操縦席へ通じる扉から顔を出していたヴァイスの姿があった。

 

「なんで、ヴァイスさんが!?怪我してたんじゃ……」

「俺は今回はこのヘリの護衛だ。パイロットは、以前の部隊の後輩に頼んでる。

 それに怪我については心配すんな。俺はお前らみたいに前線で身体張るわけじゃないしな」

 

ヴァイスは自分の腕を叩きながらそう答える。

そんな彼に向けて、スバルはそうですか……と安心したといった感じで呟いた。

 

「それにしても、スバル。お前大丈夫なのか?」

「はい?」

 

スバルの座っている椅子の反対側の壁に背を預けて彼の方を向いたヴァイスが尋ねるが、当のスバルは何についての質問なのかわからず首を傾げる。

 

「いや、ティアナからだいたいの事情は聞いてるんだぞ?」

「あぁ、そのことですか。それについてはもう大丈夫ですよ……」

 

ヴァイスは質問に対してのスバルの答えを聞いて

 

「ブァッハハッ!!」

 

腹を抱えて笑いだしてしまったのだった。

そんな彼の様子を見て、スバルもまたつられて笑いだしてしまうのだった。

 

「あー笑った笑った。確かに、それなら大丈夫だな」

「はい、ティアナに喝も入れられましたしね」

 

そんな彼に向けてヴァイスは、

 

「なら、俺からも一つアドバイスでもしておくか……」

「アドバイスですか……?」

「あぁ、人生の先輩からのありがたいお言葉だ。『頭はクールに、心はホットに』ってな」

「『頭はクールに……心はホットに……』ですか」

「あぁ、頭の隅でもおいて置け。役に立つかはわからないけどな」

 

ヴァイスは笑みを浮かべながらスバルに向けてそう告げる。

彼の言葉をスバルは小さく繰り返す。

そんな時、ヘリのパイロットからの声が響き渡った。

 

『ナカジマ陸士、ヴァイス先輩、アースラからの連絡です。フォワードチームが戦闘を開始したそうです』

「そうか、わかった。戦闘区域まではどのぐらいだ?」

『約1000といったところです』

 

パイロットの声にヴァイスとスバルは互いを見て頷く。

 

「準備はできてるな?」

「もちろんですよ。ヴァイスさん、荷物の方はとりあえずここに置いときます」

「あぁ、了解だ。レイト、戦闘区域まで全速だ!」

『了解です、しっかり捕まっててください!』

 

パイロットの声とともにヘリの速度が上昇する。

過ぎ去っていく窓の外の景色を見つめながらスバルは小さく、誰にも聞こえることのない大きさで呟く。

 

「待ってろよ……ノーヴェ」

 

 

 

 

 

 

 

「でえぇいっ!!」

「―――っ!!」

 

響き渡る咆哮と共に放たれた蹴撃がティアナに襲い掛かる。

その蹴りを両腕をクロスさせて受け止め、直撃を防ごうとしたティアナに足が触れた瞬間、彼女の姿は霧散してしまった。

 

「また外れか……」

「おかしいっすねー……こっちの(センサー)も調整して幻術は効かないようになってるはずなんすけど……」

 

ティアナの姿を蹴り消したノーヴェは小さく舌打ちする。

そんな彼女と一緒になって本体(ティアナ)の姿を探すウェンディはティアナの幻術のできの良さを褒めながらも面倒だという表情を浮かべる。

 

「幻術が多いなら全部潰して本体を燻りだすぞ。さっさとここを抜けて地上本部に行く」

「ノーヴェ、やる気満々……ってわけでもなさそうっすね……」

 

姉の発言にウェンディは驚きながらも、彼女の顔色を見て声を小さくする。

ウェンディから見たノーヴェの顔色はかなり悪かった。

ティアナを探す瞳は暗く曇っており、その眉間には深い皺ができていた。

 

 

「はぁはぁ……まったく前衛がいないのって本当にやり難い……っ」

 

一方、ノーヴェとウェンディの攻撃を捌いていたティアナは彼女たちから近い瓦礫に背を預けて息を整えていた。

 

当初、彼女たちフォワードチームは戦闘機人たちに対し、連携を駆使して制圧しようとしていた。

だが、彼女たちがヘリから降下した直後、エリオとキャロが召喚士ルーテシアの姿を認め、彼女の説得のために離脱。

その後、ギンガとのコンビで事態に対処しようとしたティアナだったが、ノーヴェと戦闘機人No.12『ディード』の奇襲によってギンガと分断されてしまい、ティアナはビルという閉鎖空間の中でノーヴェとウェンディの二人の相手をしないといけなくなってしまったのだった。

 

「……いや、いつまでもスバル(あいつ)と一緒っていうわけでもないし」

 

ティアナはそう呟き、クロスミラージュに装填されているカートリッジの確認を行う。

使用した分のカートリッジの補充を行い、一度深く息を吐く。

 

「それじゃ、一丁……ッ!?」

 

やってやりますか、と言おうとした瞬間、彼女の背中にヒヤリとする感覚が走った。

彼女がその感覚に従い、その場を飛び退くと、次の瞬間、彼女が背を預けていた瓦礫はノーヴェの拳に打ち砕かれていた。

 

「やっと見つけた……手間取らせやがって」

「ちょっと……顔ヤバいわよ、アンタ」

 

ティアナは彼女を見るノーヴェの表情を見て顔を引き攣らせる。

彼女は敵であるにもかかわらず、ノーヴェの心身ともに過剰なストレスがかかっていることに同情を禁じ得なかった。

 

「結構粘られたっすけど、これで終わりにするっすよ」

「……簡単に終わらせてたまるもんですかっ」

 

ノーヴェが拳を構え、ウェンディがライディングボードを構えるのに対して、ティアナはクロスミラージュの片方をダガーモードに変形させ、魔力刃を展開する。

ノーヴェのジェットエッジが唸りを上げ、蹴りの体勢に入った瞬間……

 

『後ろに飛べ!!』

「――――ッ!!」

 

ティアナの頭に響いた声に従い、後ろへと飛び退く。

その直後、天井を突き破って白と青のバリアジャケットを纏った男が飛び込んできた。

 

「遅いのよ、まったく……!」

 

その姿にティアナは安堵の表情を浮かべ

 

「――――ッ!」

 

ノーヴェの表情は一層険しくなっていく。

そんな二人に向けて、彼―――スバルはただ一つの言葉を口にする。

 

「お待たせ……!」

 

 

 





いやほんとにお待たせしましたorz


白状しますと、大学の忙しさゆえにモチベーションダダ下がりしてましたorz
なのはに関することにもだいぶ関心が減ってたんですが、YouTubeでDetonationの予告動画見て、なのは熱再燃してきましたw
ブルーレイで映画版全部買って見直して、なぜかReflectionにFroceに登場したカノンとかフォートレス出ててびっくりしてましたw
で、その勢いでノーヴェルートの最後までの流れが頭に浮かんできたため、一気に書き上げている途中です。

就活が始まるのですが、完結まで頑張っていきますのでお楽しみに!

以下オリジナル紹介

CWM-ストライカーカノン
CWシリーズの一つであるストライクカノンの量産試作型
型番のMは量産(Mass production)の略
ストライクカノンの改良型であり、砲撃魔導士の放つ砲撃を一般的な魔導士が放つことができるという点から量産化を目指して開発された。
すでに数機が生産され、ゆりかご周辺での実地試験も兼ねて使用されている。
ティアナが使用したのはそのうちの一つであり、ガジェットⅡ型4機を一気に撃墜するという成果を上げている
(ティアナ本人は少し使い辛いと苦言を呈している)


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ノーヴェルート 第十三話

誤字報告感謝です。
誤字の確認はしてるのですが、どうしても気づかないこともあるので、見つけたときは、あぁまたやってるなと生温い目で見てください(笑)


ノーヴェとティアナの間に降り立ったスバル。

彼は目の前にいるノーヴェを見ると、「やっぱり、そうだよな……」と小さく呟く。

 

「ティアナ、あっちのピンクを任せてもいいか?」

「えぇ、いいわよ。こっちのことは気にせず、あんたはあんたがやりたいようにやりなさい」

 

ティアナは自分の方を見ずにそう尋ねるスバルに対して苦笑しながらそう告げた。

そんな彼女の言葉に応えるように、体制を低くする。

 

「さて、行くぜノーヴェ。少し付き合ってもらうぞ……っ」

「――――ッ」

 

言葉と同時に飛び出すスバル。

そんな彼に向けて反撃の拳を振るうノーヴェだったが、直後の彼の行動に彼女は驚愕の表情を浮かべた。

 

「な――――ッ!?」

「マッハキャリバーッ!!」

《Wingroad》

 

スバルは迎撃のためのノーヴェの拳を紙一重に避けると、そのまま彼女の身体にしがみつき、天井に空いた穴から彼女と一緒に外まで飛び出していった。

そんな彼らの様子を見ていたウェンディとティアナは

 

「行っちゃったっすねー」

「そうね……、それで、あんたはよかったのかしら?」

「何がっすかー?」

 

ウェンディの気の抜けた言葉に対して、ティアナは苦笑しながら尋ねる。

 

「あいつの突進に対して何もリアクション見せなかったじゃない」

「あぁ、そのことっすか。それなら別にどうということはないっすね」

 

ティアナの問いに、「だって……」と続けるウェンディ。

 

「あたしはノーヴェの妹っすからねー。お姉ちゃんがずっとあんな顔してるのはさすがにってところっす。

 それに、スバルっちが来たならよっぽどのことがないと、悪いほうには行かないと思ってるっすからねー」

「あら、ずいぶん信用してるのね、あいつのこと」

 

ウェンディの言葉に驚きの声を上げるティアナ。

そんな彼女に対してウェンディは、だって……とつぶやき

 

「あの二人、ぜったい両想いっすから」

「……そうね、互いに相手のことを考えすぎてるってのは傍から見て分かるぐらいにはねー」

 

そう言い合い、ティアナは薄く笑みを浮かべ、ウェンディは「いしし」と朗らかな笑みを浮かべる。

そして、互いに相手に砲口を向ける。

 

「……今すぐ武器を捨てて投降すれば、痛くはしないわよ?」

「残念ながら、ほかの姉妹が戦ってて自分だけ降参ってわけにはいかないっすねー」

 

あ、もちろんノーヴェは別っすよ?と付け加えるウェンディ。

 

「そう、なら全部終わったらまた話をしましょう?あんたのことは嫌いじゃないみたいだから」

「そうっすねー。ま、アンタがあたしに勝てればの話っすけど」

「あと、一つ言っておくわ」

 

ティアナの声が笑顔のまま一段階下がったのに対して、ウェンディの背筋を嫌な汗が流れ始めた。

 

「今ちょっと失恋のせいでストレスが溜まってるから、やりすぎたらごめんね?」

「うわぁお、スバルって意外とモテモテっすねー」

 

 

 

 

 

 

 

「このっ、離せっ!」

 

スバルに抱きかかえられて外へと飛び出したノーヴェは、何とかスバルの拘束から逃れることに成功した。

地上に降りた二人は、互いに向き合う。

 

「いきなりなんなんだ、お前。もうお前とあたしは何の関係もないはずだ!!」

「そんなこと言うなよ。俺はお前に会いに来たんだから」

 

腕を振り、スバルを拒絶する反応を見せるノーヴェに対して、スバルは苦笑しながら彼女の目を見つめる。

 

「――――ッ、うるさいッ!!」

 

スバルの深い蒼色の瞳がノーヴェを見つめる。

ノーヴェにはそれが耐えられず、悲鳴を上げるように彼の言葉を遮る。

彼を騙し、傷つけた。その罪悪感が、彼女の心に住み着いていた。

その罪悪感に押しつぶされそうになりながらも、ノーヴェはスバルに向けて右手のガンナックルを向けて直射弾を放つ。

 

「俺さ、地上本部の襲撃の後、散々悩んでたよ、お前のことをさ」

 

向かってくる直射弾をしっかりと見極め、直撃するものだけをリボルバーナックルで払い除けながら、スバルは心の中で考えたことを口にする。

近づいてくるスバルに対して、ノーヴェはジェットエッジによる加速をかける。

ジェットエッジによって加速されたノーヴェの蹴りを紙一重で避ける。

 

「悩んで悩んで、考え抜いて。そして思ったんだ」

「――――ッ!」

 

ノーヴェから繰り出される蹴りと拳の乱打を前にしても、落ち着いていた。

 

「うだうだ考えるのは止めるってな。で、会いに来て、改めてわかった」

「うるさい、うるさい、うるさい!!」

 

スバルはその蹴りを避け、拳を捌きながら言葉を続ける。

だが、ノーヴェは、駄々をこねる子供のように叫ぶ。

 

「ノーヴェ、俺はさ……」

「黙れ!!それ以上は……ッ」

 

ノーヴェの渾身の拳がスバルに向けて放たれる。

彼女は彼の言うことが、言おうとしていることがなんとなくわかっている。

だが、それは彼女が捨てた、捨てたと思っている事実だった。

スバルは、彼女の拳を、リボルバーナックルを解除した右手で受け止める。

そして、その心に浮かんだ言葉をそのまま形にした。

 

「お前のことが好きだ」

 

「なんで……」

「ん?」

 

拳をスバルに捉えられたまま、小さく呟く。

 

「なんで、あたしは、お前をだましてた……!」

「そうだな」

 

ノーヴェは顔を俯かせ、スバルに顔を見せずにそう口にする。

スバルは、彼女の言葉に頷きながらその言葉の続きを待つ。

 

「あたしは……、お前を裏切った……ッ!」

「まぁ……そうだな」

 

ノーヴェの声が震えながらもだんだんと大きくなっていく。

 

「あたしは、犯罪者で……お前は管理局員で……、敵同士なのに……ッ!!」

「それも確かにそうだな」

 

瓦礫が散らばる地面に、数滴の水が落ちて染みを作る。

すでに、彼女の声は涙ぐんでいた。

 

「なんでお前は……っ」

「それがどうした」

 

ノーヴェの言葉を遮り、小さく、しかしハッキリとスバルは口にする。

 

「ノーヴェが俺をだましてた?確かにそうだ。俺はかなり傷ついたさ」

「――――ッ」

 

スバルの言葉にノーヴェは息を飲む。

そんな彼女の様子を無視し、スバルは言葉を続ける。

 

「お前が俺を裏切った?確かに、俺の心はボロボロだった」

 

スバルは自分が彼女のことを自分が思っている以上に大切に思っていたことに気づいた時のことを思い出しながら言葉を紡ぐ。

 

「ノーヴェが犯罪者で、俺が管理局員。それも事実だ」

「だったら……ッ」

 

ノーヴェが泣きながらも、彼から離れようと自由な手を彼の身体に向けるが、スバルは左手でその手を掴む。

そして……

 

 

「それがどうしたって言ってるんだ!」

 

 

ノーヴェが再び彼を拒絶するような言葉を発する前に、スバルは声を荒げる。

 

「――――ッ」

 

荒げた声に驚きの反応を見せるノーヴェに対してスバルはさらに言葉を続ける。

 

「お前が俺を裏切った?お前は犯罪者で俺たちは敵同士?

 それがどうした!!お前がそう言うなら、俺は何度だって言ってやる!!」

 

そう言って、スバルはノーヴェの両手を離し、彼女の身体を抱きしめる。

それは先ほど、彼女を外に連れ出す際のように強引でありながらも、割れ物を扱うように優しい抱擁であった。

 

「俺はお前のことが大好きだ、ノーヴェ」

 

彼女の身体を抱きしめ、その耳元で再度、先ほどの言葉を繰り返す。

 

「――――ッ、でもッ、あたし、はっ!!」

「お前はどうなんだ、ノーヴェ?」

 

ノーヴェの泣きの入った言葉に対してスバルは彼女の気持ちを尋ねる。

 

「俺は、隣にお前がいてほしい。一緒に生きて生きたいよ。お前は?」

「あ、あたしは……ッ!!」

 

「いっしょに……ッ」

「……」

 

スバルは彼女の答えを待つ。

すでにノーヴェの目からは涙が溢れ、その表情も崩れきっていた。

 

「一緒に、いても……いいのか……な?」

「あぁ……」

 

ノーヴェから、自分が聞きたかった言葉が聞けたスバルは、彼女の身体から離れる。

 

「もちろん、この騒動の後始末とかいろいろあるけどな」

「それは……」

「だけど、それを選ぶならさ……」

 

スバルは笑みを浮かべながら右手を差し出す。

 

「この手をとってくれよ、ノーヴェ」

「スバル……」

 

スバルの差し出した右手を見ながら、ノーヴェは自分の手をその手に載せようとする。

 

《相棒ッ!!》

「―――ッ、ノーヴェ!!」

「え―――?」

 

だが、次の瞬間、マッハキャリバーの警告が響き渡り、スバルの声がノーヴェに届く同時に彼女の身体は突き飛ばされていた。

突き飛ばされたノーヴェがスバルの姿を目に捉えた。

 

「あ、あぁぁ……」

 

「戦闘機人タイプゼロ・セカンドによる妨害を確認。優先目標変更無し、ジェイル(J)スカリエッティ(S)型戦闘機人の排除」

「――――ガッ!?」

 

謎の人影によって、瓦礫に叩き付けられ、苦悶の表情を浮かべながら沈むスバル。

 

「――――――ッ」

 

意識を失った彼の姿を見たノーヴェは、自分の頭が怒りで沸騰しはじめるのを感じていたが、彼女の(カメラ)はその下手人を捕らえ、彼女の頭からその存在の情報を引きだしていた。

 

下手人の名は、『タイプゼロ・ジエンド』。

今は亡き最高評議会の三人が、ジェイル・スカリエッティへのカウンターとして生み出された刺客。

 

「JS型戦闘機人No.9を確認。破壊する」

 

最凶の番犬が牙を剥いた瞬間だった。

 

 

 

 

 

 

 



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ノーヴェルート 第十四話

「ノーヴェ……?」

「クロスミラージュ、今のは!?」

 

ビルの中で互いに相手の出方を伺っていたウェンディとティアナだったが、彼女(ノーヴェ)の悲鳴に近い声をウェンディはその耳で拾い上げ、ティアナはクロスミラージュからの報告で、スバルとノーヴェに何かがあったということを察知した。

 

「ここは一旦預けるッす!」

「あ、ちょっと待ちなさい!!」

 

ウェンディはそう言うと、ライディングボードを稼働させ、天井の穴へと向かう。

突然の行動にティアナは出遅れるが、すぐさまビルの窓から外に飛び出す。

 

「クロスミラージュ、お願い!」

《スターキャリバー、セットアップ》

 

飛び出したティアナは両足にスターキャリバーを装備し、すぐさまウィングロードを展開する。

 

「一気に行くわよ」

《マギリングコンバーター出力全開》

 

両足から変換炉から魔力が放出され彼女の身体は一気に加速した。

目指すは彼女の相棒と、その思い人のいるであろう場所に向けて。

 

 

 

 

 

 

 

「JS型戦闘機人No.9、脅威度判定『中』」

 

スバルが自分を庇った。

その事実に動揺したノーヴェだったが、目の前の存在が自分の方に意識を向けると、そんな動揺(もの)は綺麗になくなり、彼女の中の第六感が警鐘を鳴らした。

目の前の存在―――ジエンド、その存在自体は彼女もまたチンクやドゥーエからのアップデートをによって情報を得ていたが、実際に目の当たりにすることでその異常さを肌で感じ取っていた。

 

「なんなんだよ、おまえ……ッ」

「―――」

 

ノーヴェはジエンドの向ける、感情の籠っていない、仮面のような顔を見て即座に行動に移る。

こいつは危険だ―――自分だけでなく、意識を失っているスバルのことを守るために、彼女はガンナックルから直射弾を連射する。

 

「エネルギー攻撃を確認。驚異度判定低。分断(ディバイド)フィールド生成」

「チィッ!!」

 

だが、放たれたエネルギー弾はすべてジエンドの周囲に展開されたフィールドによって分解させられてしまう。

 

「攻撃を開始する」

 

その言葉と同時に、ジエンドからの圧が増したのをノーヴェは感じ取る。

次の瞬間、彼女の戦闘機人としての(カメラ)がジエンドから発せられるエネルギーを検出した。

 

「このエネルギーは……ッ!?」

「――――」

 

ノーヴェがその正体に驚愕の表情を浮かべるのと同時に、ジエンドが動き出す。

10mはあった二人の距離が、一気に縮まる。

 

「ク―――ッ!!」

 

一気に距離を詰めてくるジエンドに対して距離を取ろうとするノーヴェだったが、彼女が離れるよりも早くジエンドが彼女を間合いに捉えた。

ジエンドの正確かつ尋常でない速さで振るわれる右手を上体を逸らすことで避けようとするが、その拳が纏ったエネルギーの余波によって彼女の身体に衝撃が走る。

 

「くそッ!!」

 

ノーヴェはその一撃だけで、ジエンドの能力の強さに戦慄していた。

舌打ちをする彼女に向けて放たれる拳と蹴りの直撃は絶対に避けるために右手のガンナックルで捌いていく。

しかし、度重なる連撃の前に、彼女の身体には傷が増えていく。

 

「―――ッ!!」

 

そして、積み重なった傷が彼女の身体に激痛を走らせる。

その瞬間を見逃さず、ジエンドの拳がノーヴェの喉笛を噛み千切らんと迫る。

 

「ガッ……このぉッ!!」

 

ノーヴェはその拳を頭を傾けることで頭蓋を砕かれることは避けることができたが、逸れたその一撃は彼女の左肩を打ち砕く。

左肩から聞こえてくる破壊音と痛みに顔を歪め、悲鳴を上げそうになるノーヴェだったが、歯を喰いしばり、ジエンドの顔面目掛けて右手を振り抜く。

 

「―――――ッ」

 

顔面に向けて迫る彼女の拳をジエンドは両腕をクロスすることで防ぐが、ノーヴェの膂力のみで放たれた勢いによってその身体は地面を削り、土煙を撒き散らしながら吹き飛ばされていく。

 

「ハァ……ハァ……ッ!!」

 

ひび割れたガンナックルを纏った拳を突きだしたノーヴェだったが彼女の左腕は力が入らず、痛みを堪え苦悶の表情を浮かべていた。

そして、彼女の視線の先には腕を交差させ、防御の体勢のまま大地に立つジエンドの姿があった。

 

「損傷軽微……?」

 

両腕をほどき、その視線をノーヴェに向けたままそう呟くジエンドだったが、その視線が不意に彼女から外れる。

その様子にノーヴェは不審に思ったが、すぐに彼女たちに近づいてくる存在を察知した。

 

「ノーヴェ!!」

 

彼女がジエンドと同じ方向に目を向けるのと同時に、崩れたビルを突き破ってライディングボードに乗ったウェンディがその場に現れる。

ウェンディはすぐにノーヴェの元に駆け付けようとするが、彼女の間にいる存在に気づき、警戒を高める。

 

「こいつは……チンク姉の言ってた……ッ」

「JS型戦闘機人No.11を確認。驚異度判定『中』。優先破壊目標と断定」

 

ウェンディはライディングボードの砲口をジエンドに向ける。

そんな彼女の武装や状態を確認したジエンドは矛先をウェンディへと向ける。

 

「よせ、ウェンディ!!逃げろ!!」

「そいつは聞けない相談っすね、エリアルキャノン!!」

 

ライディングボードの砲口から砲撃が放たれ、ジエンドに向かう。

だが、その砲撃はジエンドが発生させたフィールドに衝突し、数秒その身体を後ろに押し戻すが、すぐに拡散し消滅してしまう。

 

インヒュレーション(I)スキル(S)『エリアルレイヴ』の解析完了。分断(ディバイド)フィールド出力上昇」

「ちょ、マジっすか!?」

 

ジエンドの周囲に展開されたフィールドの出力が直前に倍以上に膨れ上がったのをウェンディのセンサーは捉え、その事実にウェンディは頬を引き攣らせる。

そんな彼女に向けてジエンドが駆ける。

 

「だったら、これでッ」

 

ライディングボードからエネルギーの刃を発生させ、接近してくるジエンドに向けて切り上げる。

だが、ジエンドはライディングボードの大きさ故に大振りとなるそのモーションの間隙を逃さなかった。

切り上げのタイミングを見きったジエンドが刃の間合いの内側へと飛び込み、その貫手の型を構える。

 

「疑似IS発動『振動粉砕』」

「な―――ッ!?」

 

ジエンドの口から発せられた言葉に驚愕の表情を浮かべるウェンディは、咄嗟にライディングボードを引き戻し、その身体を守るための盾とする。

だが―――

 

「ガ―――――ぁァッぁああああっ!!!」

 

突き出されたジエンドの右手はライディングボードを容易く突き破り、そのままウェンディの左脇腹を貫く。

ウェンディは貫かれた脇腹から自分の身体を破壊する音と、神経から伝わる激痛に悲鳴を上げる。

 

「ウェンディッ!!」

 

悲鳴を上げ、貫かれた脇腹から流れ出る血と機械の身体の一部をノーヴェは見た。

そして、左肩の痛みを無視して彼女はジェットエッジに火を灯した。

 

「IS……発動……ッ、エアライナーッ!!」

 

痛みを堪えながら詠唱を口にするノーヴェ。

彼女の足下からジエンドまでの直線状にある障害物よりも高い位置に彼女のための道が発生する。

 

(ウェンディ)を……ッ!!」

 

ジェットエッジのジェットノズルから炎が噴射され、彼女の身体を一気に加速させる。

エアライナーがフィールドの影響から、途中で途切れてしまうが、十分な加速を得たノーヴェにとってはもはや関係なかった。

 

「離せッ!!」

『Revolver Spike』

 

エアライナーから飛び出し、ジエンドの頭部、その右側面に向けて空中から回し蹴りを放つ。

ジェットエッジの噴射が一層激しくなり、彼女の蹴りを後押しし、その威力を増大させる。

ジエンドの右腕は今現在もウェンディの脇腹に突き入れられている。

右側からの攻撃をガードするには遅すぎるタイミング、それを狙っての蹴撃だった。

 

「―――――ッ!?」

 

だが、ジエンドに向けて放たれた蹴りが直撃する直前、目の前の敵の動きにノーヴェは目を見開いた。

ウェンディの脇腹に突き入れた右腕をそのままに、彼女(ノーヴェ)の蹴りに対して背中を向けるように動くジエンド。

そして、襲い掛かる蹴りを、左腕を後ろに突き出すことで、それを受け止めた。

 

「ジェットエッジッ!!」

『Boost up』

 

捕まれた右足からジェットノズルが焼き切れんばかりに炎がさらに噴き出す。

ジエンドをウェンディから離れさせる。

それだけを考えての行動だった。

だが、その目論見は露と消えた。

 

「振動粉砕発動」

「……っぁっぁあぁあっ!!」

 

ジエンドの無慈悲な言葉とともに、掴まれた右脚の内部フレームが破壊音を撒き散らしながら使い物にならなくなる。

二度目のその痛みから、彼女の喉から悲鳴が上がる。

だが、彼女はひび割れたガンナックルをジエンドに向ける。

 

「ぁァアァあッ!!」

 

悲鳴とも咆哮ともとれる声とともに彼女の瞳の金色の光が輝き、ガンナックルに膨大なエネルギーが集中する。

フィールドの影響から拡散するが、それ以上に彼女の身体からかき集められたそれは、ジエンドでさえも脅威に感じられるほどのものだった。

集められたエネルギーは、今の彼女にとっては制御しきれないもの。

何かの拍子にそのエネルギーは破裂するであろう代物だった。

だが、彼女にはそれで十分だった。

 

「――――ぶっぱなせっ、ジェットエッジっ!!」

『burst』

 

ノーヴェとジエンドの間で膨大なエネルギーが膨れ上がる。

そのエネルギーの奔流から逃れるため、ジェットエッジは右手を突き入れたウェンディの身体をノーヴェに叩き付ける。

だが、その次の瞬間、制御されない、エネルギーの奔流がノーヴェとウェンディ、ジエンドの間で炸裂した。

 

「ガッ―――!」

「うぐぅ……ッ」

 

ウェンディの身体が激突すると同時に破裂したエネルギーの威力によって二人の身体は吹き飛ばされ、乱立する瓦礫の一つに打ちつけられる。

 

「――――ぅぁ……」

 

全身から感じる痛みに声を上げながらノーヴェは朦朧とする意識の中、視覚の回復を最優先に行い、ノイズの走る視界を動かす。

頭から流れる血が入ったのか、視界の半分は赤く染められていたが彼女は隣で気を失っているウェンディを見つけると、安堵の息を吐く。

次に自分の身体が視界に入り、その右腕と右脚にピントを合わせる。

爆発にさらされたガンナックルはき裂が走り、右腕は人工皮膚の間から内部フレームと神経ケーブルが覗き見えていた。

さらに、ジエンドに掴まれた右脚は、内部フレームが砕け散っており、感覚がないことにノーヴェは小さく舌打ちをする。

 

「―――――」

「……ッ!?」

 

そんな彼女のセンサーが動体反応を示す。

センサーが反応した方向を見ると、爆発の中心地から少し離れたところに立つジエンドの姿があった。

あれだけの爆発を受けたはずのジエンドの身体には目立った損傷がないことが今のノーヴェでも見ることができた。

せいぜい一番爆風を受けたであろう右腕の皮膚が吹き飛んだ程度で、その機能は失われてはいない。

 

「――――」

 

ジエンドが何かを口にしている。

だが、未だに聴力が回復していないノーヴェにはもう何を言っているのか関係のないことだった。

 

「――――」

 

ジエンドが彼女に向けて駆ける。

向かってくるジエンドに向けてガンナックルを向けようとするが、彼女の右腕は言うことを効かなかった。

 

「……あぁ」

 

ジエンドが左腕を引き絞る。

ノーヴェにはその左腕が自分に向けて放たれる時間が嫌にゆっくりと感じられた。

 

「……悪い、もう無理だ」

 

万事休す。

もはや身体を動かすことすらできない彼女は自分の心臓に向けて放たれる貫手を見つめることしかできない。

そんな言葉を吐く彼女の瞳から一筋の涙が零れ落ちる。

 

「ごめん……、お前の手、握ってやれなくて……っ」

 

自分の命の危機に、最後に彼女の頭に浮かんだのは、自分に向けて手を差し伸べるスバルの姿だった。

せめて、スバル(あいつ)のことを思いながら、そう思いノーヴェは眼を閉じる。

ジエンドの左手が彼女に突き刺さらんとしたとき

 

 

 

「ギア、エクセリオン」

 

 

 

静かに、しかし力強い、その言葉がノーヴェの心に聞こえてきた。

 

 

 




すみません、ウェンディとティアナの戦闘を期待していた人に謝らせていただきますorz
今回のノーヴェルート、作者は最初からノーヴェとスバルにのみ焦点を当てて作ると決めていたため、彼女たちの戦いはカットさせていただきました。

オリジナル解説
分断(ディバイド)フィールド』
魔力と戦闘機人由来のエネルギーの結合を分断するフィールド。
どのような原理で働いているのかは不明。

『疑似IS《振動粉砕》』
ジエンドの使用する特殊能力。
名称からスバルの持つ振動破砕と同様の効果が得られると考えられるが、詳細は不明。


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ノーヴェルート 第十五話

『俺は、隣にお前がいてほしい。一緒に生きて生きたいよ。お前は?』

『あ、あたしは……ッ!!』

 

 

『あぁ、人生の先輩からのありがたいお言葉だ。『頭はクールに、心はホットに』ってな』

『『頭はクールに……心はホットに……』ですか』

『あぁ、頭の隅でもおいて置け。役に立つかはわからないけどな』

 

 

『現場までの足はこちらで確保しておいたから、この場所に向かうといい」

『ありがとうございます、サカキ博士」

『なに、これくらいどうということはないよ。ほら、早くいくといい。主人公(ヒーロー)が遅れたら話にならないだろう?』

『主役は遅れてくるものって言葉もありますけどね』

『あと、ヘリの中に君への贈り物があるから、しっかりとマニュアルを読んでおくことをお勧めするよ』

『贈り物……?』

『それをどう使うかは、君しだいだけどね』

 

 

『アンタがあの力を嫌っているのは知ってる。でも、その力で助けられる人がいるってことも覚えておきなさい』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

スバルが気が付くと、そこは火の海の中だった。

顔を襲う熱風を腕で払いのける。

 

「……っ」

 

周囲を見回したスバルは、そこが自分にとってよく知る場所であることに気づき、そして驚きを隠しきれなかった。

燃えるロビー、崩れ落ちた柱、無人のサービスカウンター……。

そこは紛れもなく彼にとっては忘れられない場所。

 

「そう、ここはミッド臨海第8空港」

「―――っ!?」

 

突如背後から聞こえてきた声にスバルはさらに驚愕の表情を深めた。

 

「君にとっての、ある意味始まりの場所だよ。スバル」

「なのはさん……っ?」

 

振り向いた彼の先には、白いバリアジャケットを纏った少女―――現在の姿よりも幼いなのはが立っていた。

 

「でも、ここは昔のあの場所じゃない。スバル、君の心の中」

「心の中……?」

「そう、この空港も、この炎も、そしてこのなのは()も。君の心の中だけの存在」

 

目の前のなのはの言うことににスバルは眼を白黒させる。

理解が追い付いていない彼を見たなのはは小さく笑みを浮かべる。

その笑みは、この場所(火災現場)であることを忘れさせるやさしさが見え隠れしていた。

 

「ここも、本当はもっと素敵な場所なんだけどね……。スバル、今の君はさ……」

 

 

 

 

「自分のことをまだ怖がっているんだよね?」

 

 

「―――ッ」

 

なのはの言葉にスバルは反応する。

なのはは、そんな彼に近づき、その頬に手を当てる。

 

「自分の力が、まだ怖い?」

「それは……」

 

なのはの問いにスバルは答えず、顔を俯かせる。

 

「違う、まだ自分の力を信じ切れてないだけだよ」

「信じ切れてない……?」

 

スバルの言葉に、なのはは「そう」と相槌を打つ。

 

「スバルは、なんで魔導師になったの?」

「え……」

「答えて」

 

なのはの静かだが、強い言葉にスバルは気圧される。

 

「俺は……、お袋や、なのはさんみたいに、泣いている誰かを助けられるようになりたいと……」

「うん。それがスバルの始まり。それを忘れなければ大丈夫」

 

なのははスバルの頬に当ててた手を離す。

 

「私が教えてきたこと。ヴィータちゃんが叩きこんだこと。シグナムさんと一対一でやってきたこと。六課で過ごして学んだこと。訓練校でティアナと一緒に学んだこと」

 

そして、その手を、スバルの胸にトンっと当てる。

 

「その全部が、スバルの(ここ)にある」

「……」

 

俯いていたスバルは、彼女の手の当てられた場所を見つめる。

 

「まだまだ教え足りないけど、スバルはもう、強くて優しい魔導師だよ」

「え……」

 

なのはは、にこりと笑って言葉を続ける。

 

「あとは、スバルが、一歩踏み出すだけだよ」

「一歩……」

 

なのはは頷くと、彼の後ろを指さす。

その指さす先を振り向き視線を向ける。

 

『IS……発動……ッ、エアライナーッ!!』

(ウェンディ)を……離せっ!!』

 

その先、炎の先に、(現実)の世界が映し出される。

 

「ノーヴェ……ッ」

「スバルは、あの子のことを助けたい?」

 

なのはの問いかけにスバルは、今度はすぐに頷く。

その答えになのはは満足したように笑みを深める。

 

「だったら、あとは簡単。あの子を助ける。その強い信念(想い)を貫くだけ。それで十分なんだよ」

「想いを貫く……」

 

なのはの言葉を、眼を閉じ、繰り返す。

そして、再び瞼を開いた彼の目を見てなのはは微笑む。

 

「もう大丈夫?」

「はい、まだ不安ですけど、あいつを……ノーヴェを助けたいっていう想いは……覚悟はできました」

「なら、最後に一つ」

 

スバルの顔の前に手を出し、人差し指を立てる。

その姿は、昔の姿ではなく、今の、スバルのよく知る姿のなのはだった。

 

「あとは、強くて、カッコいい男の子になるだけ。できる?」

「できますっ」

「うん、なら……」

 

なのははスバルの横に並び、彼の背中を一度叩く。

 

「がんばれ、男の子!」

「はいっ」

 

スバルは隣に立つ、自分よりも少し背の高いなのはの顔を見て、力強く答えた。

そんな彼の返事に、もう一度頷き、なのはは「それじゃ……」と言葉を続ける。

 

「ここから出ないとね。ノーヴェ(あの子)を助けるために」

「はいっ!!」

 

そう言うと、なのははその手にレイジングハートを、スバルはリボルバーナックルを呼び出す。

 

「それじゃ、せーので行くよ?」

「了解ですッ!!」

 

RH(レイジングハート)RN(リボルバーナックル)からカートリッジが排出される。

デバイスに魔力が集中する。

 

「3、2、1……せーの!!」

 

RHとRNに魔力が集中する。

なのはが杖を構え、スバルが拳を引き絞る。

 

「「ディバインバスタァーーーッ!!」」

 

二人の掛け声と共に放たれた魔力の奔流は、目前に広がる火の海を消し飛ばし、そのまま建物の壁も綺麗に吹き飛ばす。

そして、その空間にあったものすべてが消し飛ばされると、そこには何物にも遮られない蒼い空が広がっていた。

 

「これは」

 

その広い空を見て、スバルは言葉をなくしていた。

 

「さ、もう行かないと」

「なのはさん……?」

 

空に見とれていたスバルになのははそう語り掛ける。

そして、そんな彼女の姿を見たスバルは、息を飲んだ。

 

「なのはさん、身体が……」

「うん、もうここでの私の役割は終わったからね」

 

なのはは微笑みを浮かべながらそう告げる。

彼女の身体は、足元から桃色の光となって徐々に消えかけていた。

 

「もうスバルは、一人でやっていける。自分の力を信じて、あの子を助けてあげるんだよ?」

「はい、絶対、ノーヴェを助けます」

「じゃあ、頑張ってね、スバル」

 

そう言って、彼女の姿は掻き消えた。

スバルは、なのはの姿が消える最後まで彼女のことを見つめていた。

 

「……さてと」

 

なのはの姿が完全に消えた後、スバルは一度大きく息を吸い、両手で頬を叩く。

 

「行くか……っ」

 

彼はそう呟くと、彼の目の前に蒼色の球体が現れる。

掌に納まるほどの小さな玉だが、それが彼にはひどく懐かしく感じることができた。

 

「――――っ」

 

その玉に触れると、彼の意識はその場から消えていく。

 

 

 

 

 

 

 

意識が浮上していくのを感じるスバル。

その一瞬とも、永遠ともとれる不思議な感覚の中で、彼は今まで出来事をまるで映像を見るように振り返っていた。

母との別れ、なのはとの出会い、訓練校でティアナと学びあった時間、そして六課での記憶。

そのすべてが彼の中に入り、そして彼の中で消えていった。

そして、彼の中で最新の記憶であろう、ノーヴェへの説得の記憶。

それが頭に入ってくると同時に、彼の意識は現実に戻っていった。

 

 

 

 

 

 

「―――フルドライブ、ギアエクセリオン」

『Drive ignition』

 

スバルは目覚めると同時に、自分の力を全開に開く。

マッハキャリバーの装甲がパージされ、魔力の翼が展開する。

 

「――――ッ!!」

 

瞬間的にアップした魔力を開放し、一気に加速する。

加速した勢いをそのままに、ノーヴェとジエンドの間に割り込む。

そして、ノーヴェに向けて放たれた左貫手を手首のナックルスピナーを高速回転させて受け流し、そのまま左肘をジエンドの身体に撃ちこみ、右手でその顎を上方に打ち上げる。

 

()()()、マッハキャリバーッ!!」

『フレアガントレット出力上昇、行けます』

 

マッハキャリバーの声と同時に、スバルの左腕を覆っているバリアジャケットの袖とグローブが炎に包まれる。

そして、それが焼け落ちる前に、スバルは上体が上がり、隙だらけのその身体に左手を叩き付ける。

 

「ぶっ飛べッ!!」

 

掌に輝くレンズによって、炎が収束され球体となる。

収束された炎球を叩き付けられたジエンドは、その身を焼きながらいくつもの瓦礫を突き破り吹き飛ばされる。

その姿を見つめながらスバルは蒸気を上げる左腕を振るい、焼け残った袖を振り払う。

 

「これ以上誰も傷つけさせない」

 

スバルの背後にいるノーヴェには彼の目は見えない。

けれども、その背中は彼女が待ち望んでいた背中(もの)よりも、一回りも大きく見えた。

 

「悪いが、引っ込んでもらうぞっ!」

『ディバインバスターリボルバーシフト』

 

リボルバーナックルの周囲に六つの魔力スフィアが展開され、連続で砲撃が放たれる。

砲撃はその全てがジエンドの突っ込んだ瓦礫の上部を撃ち抜き、瓦礫がその下で吹き飛ばされた衝撃から回復使用としていたジエンドの身体を埋め尽くす。

 

「よし」

「すば……る……?」

 

ナックルから空になったカートリッジをシリンダーごと交換したスバルは、後ろを振り返る。

 

「悪い、いきなりこんなに怪我させちまった……」

「いや……それよりもお前……眼の色が」

「え?」

 

ノーヴェの言うことがわからずに首を傾げるスバルに、マッハキャリバーが助けの声を上げる。

 

『相棒の瞳の色が先ほどから変化しています。具体的に言うと、左目だけが金色に輝いています』

「あぁ、なるほど。それについては大丈夫だ。心配しなくてもいいさ」

 

スバルはそれだけ応えると、背後のジエンドの様子を伺いながらノーヴェに手を差し伸べる。

 

「立てるか?」

「いや……、右足を完全にやられた……。ウェンディも今は自閉モードに入ってる」

「そうか……。あいつがまた動けるようになる前に……」

 

逃がしたい、と続けようとしたとき背後でジエンドを生き埋めにしていた瓦礫が吹き飛んだ。

上半身が自由になったジエンドはその顔をスバルに向ける。

 

「タイプゼロセカンドの脅威度を再設定。脅威度極めて大。最優先で排除」

 

ジエンドの視線がスバルを捉え、残った下半身を拘束している瓦礫を砕きはじめた。

そんな相手の様子にスバルはため息を吐きながらナックルを構える。

 

「二人をどうにかして逃がしたかったんだが……」

『相棒、心配ありません』

 

マッハキャリバーの声に「は?」と疑問符を浮かべるスバル。

そんな彼に向けてマッハキャリバーは『来ます』とだけ答える。

その直後、ビルの合間を縫って彼のもう一人の相棒―――ティアナが駆け抜けてきた。

 

「スバルッ」

「ティアナ、悪い!」

 

彼の傍に駆け寄ってきたティアナに向けてスバルは両手を合わせて彼女に頭を下げる。

 

「ノーヴェたちを連れてここから離れてくれ」

「……あんたはどうするのよ」

 

地面に倒れたままのノーヴェとウェンディをチラリと見た後、ティアナはスバルにそう尋ねる。

 

「俺はあいつを止める。あれがいたら戦闘機人(おれたち)は安心して生きていけない」

「でも一人じゃ……あたしも一緒にっ」

『彼の言う通りにするべきです、マスター』

 

ティアナの言うことを遮るように声を上げたのは彼女の相棒であるクロスミラージュだった。

 

『目標の周囲に魔力などのエネルギーを遮断、或いは分断する類のフィールドが発生しています。あなたの攻撃のほぼすべてが無力化される可能性が高いです』

「はっきり言ってくれるわね……」

 

クロスミラージュの言うことが正しいということを、彼女自身の経験から察したティアナは、一度大きなため息を吐くと、スバルに向けて拳を突きだす。

 

「わかった、あの二人はあたしが安全なところまで連れて行く。だからスバル、あんたは……」

「あれを止めてくる」

 

ティアナの拳に、スバルはそう答えながら自分の拳を当てる。

 

「すばる……」

 

そんな彼に向けて、まだ身体の痛みが抜けていないために息が荒いノーヴェが声をかける。

 

「ちゃんと、帰ってこいよ……。まだあたしはちゃんと返事してないんだから……」

「あぁ、約束する。ちゃんと帰って、お前の答えを聞かせてくれ」

 

二人の会話を聞き届けたティアナは、クロスミラージュを待機状態に戻す。

そして、ウェンディを肩に担ぎ、反対側の腕でノーヴェを支える。

 

「さて、じゃあ行くわよ」

「あぁ、任せた」

『Wingroad』

 

スターキャリバーから橙色の魔力道が生成され、彼女はノーヴェとウェンディとともにその場を離脱する。

離脱する中、朦朧とした意識の中、ノーヴェは彼の無事の生還を願うのだった。

 

 

 

ノーヴェとウェンディがティアナに連れられて離れたのを見送ったスバルは、肩を回し、左腕の感覚を確かめるように、手の開閉を繰り返した。

 

『相棒、身体の方は大丈夫なのですか?』

「咄嗟にISを発動させて、逆位相の振動で減衰はした。戦闘に支障はないさ」

『こちらのスキャン結果では肋骨に皹が入っていますが?』

「……大丈夫だ」

 

愛機からの質問に目を逸らしながら答えたスバルは、返すように問いを投げかける。

 

「マッハキャリバー、フレアガントレットのバッテリー残量は?」

『先ほどの一撃で半分以上持っていかれました。残りは40%といったところです。内蔵バッテリーは本来緊急時用ですから』

 

スバルは己の身体に取りつけられている鋼の左腕を見つめる。

そんな彼に向けてマッハキャリバーが声をかけ続ける。

 

『やはり、例の装備を持って来ておくべきだったのでは?』

「いや、あれはノーヴェの説得には必要ないと判断したから持ってこなかったんだ。そして、それは正解だった、だろ?」

『ですが』

 

スバルが前方のジエンドに目を向ける。

そこにはすでに瓦礫のすべてを破壊しつくし、拘束から解放されたジエンドが駆け、彼に向けて牙を剥く。

 

「それに……っ」

 

ジエンドが繰り出した右腕を半身になって避ける。

二撃目が繰り出される前に、スバルの左腕が炎を纏う。

 

「こいつがッ、そんなッ、時間をッ!!」

 

一発、二発、三発と焔撃を叩きこむ。

三撃目にジエンドはその連撃の勢いを利用し、後ろへ飛んで追撃を逃れる。

 

「くれるとも思えないからな……ッぅ!?」

 

逃れたジエンドを追おうとしたスバルだったが、右肘に鋭い痛みが走り、追撃に出ることができなかった。

ジエンドの振動粉砕、それを振動破砕を用いることでその機械を内部から破壊する特性を打ち消していたスバルだったが、あくまでも相手の振動に対して後出しの対応のためコンマ数秒の遅れが生じ、その積み重ねが彼の身体に異常が発生していた。

そして、脆弱な関節、特にジエンドの攻撃を受け流すために用いる右肘に負荷が生じていた。

 

「ジリ貧だな……っ」

 

ジエンドが身体に付着した炎を腕を掃い消し去る。

彼の焔は、その身体の表面の人工皮膚を焼くだけに留まっていた。

そんな相手を見てスバルは顔を顰める。

 

『相棒……ッ』

「時間さえ作れれば……ッ!!」

 

ジエンドが再び駆ける。

スバルは関節の痛みを堪えながら構える。

 

 

 

『ふむ、時間さえ作れれば、例の装備とやらが使えるのかい?なら、その時間は……』

「こちらで何とかしよう」

 

突如、二人の声がスバルの耳に聞こえてきた。

その直後、彼とジエンドの間に一本のナイフが突き刺さり、爆発が起きる。

 

「な―――っ」

『4時方向ッ』

 

マッハキャリバーが反応を捉え、その方向にスバルが視線を向けると、崩壊したビルの屋根に一人の少女が、銀色の長髪を靡かせていた。

 

 

 

 




今回の話、特に後半の戦闘シーンは中々納得のいくものにできなくて苦労しました
後日修正するかも

あと、感想はありがたく読ませてもらっています
返信はできないかもしれませんが、ありがとうございます

オリジナル解説

『スバルの両目の色の変化について』
スバルが自分の力に対しての恐れを完全に払拭した状態。
魔導師としての彼と、戦闘機人としての彼の力の両方を完全にコントロールしているため、身体能力及び戦闘能力は格段に上昇している。

『フレアガントレット』
CWシリーズとは別の側面から魔導の効き辛い相手に対する手段として開発されていたもの。
魔力変換資質を持たない魔導師がそれを行えるようにするというコンセプトで開発された装置を義手に搭載した。
今回の事件に間に合わせるべく行われた緊急の対応のため、動力に関しての問題が起きており、その問題を別の装備の動力を利用するという解決策が取られた。
だが、スバルはそれを装備せずに出てきたため、緊急時用のバッテリーを使用しての攻撃を行っている。

なお、魔力変換については今の時点で炎熱変換のみが作成に成功、電撃と氷結については開発が難航している。


『振動粉砕』
ジエンドの持つ能力。
スバルの振動破砕と同様の能力を持つため、彼の能力で硬化を打ち消すことができるということが判明。
しかし、コンマ数秒の差で対応しているため、スバルの身体には少しずつ影響が出始めており、右ひじの損傷が大きくなり始めている。


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ノーヴェルート 第十六話

一閃、ビルの屋上に佇む少女―――チンクの腕から一振りで放たれた三本のナイフが、爆発によって起こった煙から飛び出したジエンドに迫った。

 

「戦闘機人No.5を確認、脅威度……」

「判断が遅いな」

 

ジエンドが迫るナイフを打ち払うよりも早く、チンクはそう呟きナイフを起爆。

轟ッ―――、と三つの爆発がジエンドの身体を吹き飛ばし、建物に押し戻す。

 

「シッ―――!」

 

チンクはビルから飛び降り、空中から続けざまに指で持った六本のナイフを投擲する。

 

「フィールド全開……」

 

接近するナイフを防ごうと左腕を掲げ、フィールドの出力を上げるジエンドだったが、迫りくるナイフはすべてそのフィールドを物ともせずに突破する。

パチン―――と、指を鳴らす音と共にジエンドの身体を爆発が呑み込んだ。

ビルから降り立ったチンクが振り返り、目の前の光景に呆然としているスバルに手を差し出しながら声をかける。

 

「さて、こうしてまともに言葉を交わすのは初めてだな、タイプゼロセカンド……いや、スバル・ナカジマ。

 知っているだろうが、戦闘機人、No.5のチンクだ」

「あ、あぁ。でもなんで……」

『それについては、私のほうから話そう』

 

差し出された手を掴み、引っ張り上げられるように立ったスバルに対して、チンク以外の男の声が答える。

その声と同時に呼び出された通信ウィンドウに映った顔を見たスバルは驚きの声を上げた。

 

「は……?」

『さてチンク、私が彼と話している間アレを近づけないでくれるかい?』

 

チンクは男の声に頷くと同時にナイフを呼び出し、彼らのもとに駆け出していたジエンドに向けて放つ。

放たれたナイフがジエンドに迫ると同時に、ジエンドは後ろへ飛び退く。

 

「甘いな……ッ」

「――――!」

 

だが、ジエンドが避けたナイフは爆発することなく瓦礫に突き刺さり、弾ける。

爆発によって瓦礫は吹き飛ばされ、ジエンドの眼前を煙が覆い尽くす。

そして、その煙の中からさらにチンクが放ったナイフがジエンドに迫った。

 

「今度はどうだ?」

 

迫るナイフが爆発し、ジエンドの身体をさらにスバルたちから離す。

離れるジエンドを追うようにチンクもまた煙の中へ駆け出した。

 

『さて、チンクが時間をかけている間に、話を進めよう。

 自己紹介はいらないだろう?』

「当たり前だ、ジェイル・スカリエッティ」

 

画面の中の男―――ジェイル・スカリエッティは、金色の眼を細めて笑みを浮かべていた。

 

「それで、あんたが何で俺を助けた?」

ジエンド(あれ)を破壊してほしい』

「あんたがあれを破壊してほしい理由はなんだ?」

『犯罪者の私、科学者の私としても理由はあるが……こう答えるのが正しいだろうね』

 

スバルの問いにスカリエッティは浮かべていた笑みを潜め、答える。

 

『大切な愛娘を殺そうとした相手を許すほど、私は出来た人間ではないということだよ』

 

彼の答えを聞いた瞬間、スバルは――――

 

「オラァッ!!」

「そこ……ッ」

 

チンクに向けて拳を振り上げていたジエンドに殴りかかっていた。

横合いからの攻撃に対してジエンドは腕をクロスすることで直撃を防ぐが、直後にチンクが放ったナイフが至近距離で爆発、二人から吹き飛ばされる。

 

「―――今の言葉、嘘だったらあとでぶっ飛ばすからな」

『感謝するよ、スバル・ナカジマ君』

 

スバルの言葉にスカリエッティは笑みを浮かべる。

その笑みは、今までの不快感を生むものではなく、一人の父親としての笑みであった。

 

「フェイトさん、聞いていますよね?」

『うん、ちゃんと全部聞いてたよ。

 高町隊長が指示を出せないため、私から指示を出します』

 

スバルの問いかけに応えるようにスカリエッティの背後にフェイトが現れる。

 

『ジエンドの破壊を執務官権限で許可します。

 これは重要参考人である戦闘機人たちの生命を守るためであると記録しました。

 スバル、気を付けてね』

「了解、スターズ3、ジエンドの破壊を実行します!」

 

 

 

「というわけだ、協力してもらうぞ」

「だが有効打を決めきれない、何か手はないのか?」

 

チンクの言葉にスバルは顔を顰める。

 

「あるにはあるが時間が……」

『かかると言うと思って、君のための贈り物を手配しておいたよ』

 

彼の言葉を画面の向こう側のスカリエッティが遮った。

 

「はッ!?」

 

スカリエッティの言葉に驚きの声を上げたスバルだったが、すぐ上空から響いてきた音と通信機越しから聞こえてくる声が彼の意識をそちらへ引きつけた。

 

『ようスバル!

 お届けものだぜ!!』

「まったく、やってくれるよ」

 

あまりの手際の良さにスバルは盛大にため息を吐く。

そんな彼を横目にチンクは新しくナイフを生成しながら彼に尋ねる。

 

「何分持たせればいい?」

「2分……いや、1分で戻る」

「了解した、行けっ!」

 

チンクの声とともにスバルはすぐさま上空に向けて道を切り開く。

そんな彼を標的としたジエンドが動き出す前に、その眼前にナイフが突き刺さる。

 

「さて、もうしばらく付き合ってもらうぞ」

 

そう言いながらチンクは2本目3本目とナイフを投擲する。

次々に放たれる攻撃を避けながら、ジエンドはまず攻撃してくるチンクを標的として捉えた。

 

「今なら、あの時のスバルの気持ちがよく分かるよ……」

 

自分の周囲にナイフを次々に生み出しながら一人口にする。

 

「ノーヴェとウェンディを傷つけた貴様だけはこの手で叩き潰したいという感情が吹きあがってくるのがわかる……」

 

周囲のナイフが次々に射出され、ジエンドの進行方向を無理やりに変えていく。

眼帯に隠されていない左目の金色が一層明るく光る。

 

「まぁ、私だけでは貴様を倒すことはできんだろうな」

 

進行方向を変えながら近づいてくるジエンドを認めながら彼女の両手にはナイフと呼ぶには巨大な刃渡りを持つ剣が生み出される。

 

「その腕の一つぐらいは貰うぞッ!!」

 

チンクは自分に向けて伸ばされたジエンドの腕―――特に攻撃に使用していた右腕―――に向けて右手に持つ剣を突きさす。

だが、その突き刺した剣先から振動によって砕け始める。

 

「―――ッ!!」

 

突き刺さった剣が完全に砕け散る前にチンクはそれを手放し、続けざまに左手のもう一本を同じ個所に突きさし即座に爆破させる。

その二本の剣による爆発で、彼女の身体は簡単に吹き飛ばされる。

 

「どうだ……ッ」

 

体勢を整え、着地する彼女は爆炎に包まれたジエンドを見つめる。

 

「対象の危険度を一段階上昇」

「チィ―――ッ!!」

 

その声とともに飛び出してくるジエンドの状態を見て、チンクは舌打ちをしながら即座に後ろに跳び下がる。

ジエンドの右腕はその人工皮膚を焼き、内部フレームを露出させることはできたが、その腕をもぎ取ることはできていなかった。

 

「破壊する」

「まだまだ……ッ」

 

跳び下がったチンクに拳を叩き付けるジエンドに対して、彼女は自分の足もとにナイフを撃ちこみ爆破。

爆風とジエンドの拳をその身に纏う外套でもろに受けるが、チンクの小柄な身体はさらにジエンドから距離を離すことに成功する。

 

「―――痛ッ、ハザードシェルコート、持ってくれたか」

 

吹き飛ばされた彼女の身体は地面を転がり、瓦礫にその背中を叩き付けられることでようやく止まった。

チンクは身体を起こすとともに右腕を抑えながら、自分の身代りに役割を果たした外套の性能に息を吐いた。

そんな彼女に向けてジエンドは止めを刺さんと駆ける。

迫るジエンドを見ながらもチンクは動くことはなかった。

 

「悪いな、もう一分経ったぞ」

 

チンクの言葉とともに彼女に襲い掛かろうとする凶器(こぶし)を上空から轟音と共に凄まじい勢いで落下してきた鉄塊―――否、盾が受け止めた(・・・・・)

 

「時間通りだな」

 

チンクは空から落下してきた彼の姿を見て笑みを浮かべる。

 

「だりゃぁぁああぁッ!!」

 

盾以上の速度で落下してきた弾丸(スバル)は寸分の狂いなく、ジエンドを捉えていた。

落下のスピードの直撃を喰らうのは拙いと判断したジエンドは初めて自分から後ろへ飛び下がり距離を取る。

直後、凄まじい轟音と土煙を生みながらスバルは地に降り立った。

 

「あとは任せたぞ」

「あぁ、任されたッ」

 

 

 

 

 

 

 

 

「ヴァイスさん、コンテナを投下してください!

 あとはこちらでやります!!」

『了解だ、ハッチを開けろ!!』

 

ジエンドをチンクに任せたスバルは滞空しているヘリに近づきながらヴァイスに指示を出す。

ヴァイスの声とともにヘリの後部ハッチが開くのを確認したスバルは相棒(マッハキャリバー)に指示を出す。

 

「中身の接続は頼むぞ、相棒」

『任せてください、相棒』

 

スバルは相棒からの頼もしい言葉に頷き、ヴァイスに通信を繋ぐ。

 

「ヴァイスさん!」

『コンテナ、投下!!

 しくじるなよ、スバル!!』

 

ヘリから成人男性が二人以上は入りそうなコンテナが投下される。

自分に向けて落下してくるコンテナから目を逸らさずにスバルは声を上げる。

 

「マッハキャリバー!!」

『パッケージとの接続完了。

 コンテナパージ!』

 

マッハキャリバーの声と同時にコンテナの外装が弾け飛び、その中身がその姿を現す。

 

『フォートレスシールド、エクステンドブーストアーマーの制御に成功!

 相棒、行きますよ!!』

「いつでも来い!」

 

コンテナの中身……四枚の盾とその盾よりも小振りな人の関節を覆えるほどの装甲(パーツ)

それらがすべてスバルの周囲に集まる。

 

『コネクトサーチャー起動、ロック完了』

「コネクトッ!」

『コネクト開始!』

 

二人の声と同時に、装甲から彼の肩部、胸部、背部、腰部、脚部と全身に向けて赤色のレーザーが照射される。

 

『エクステンドブーストアーマー、コネクト確認。

 ナノマシン、注入開始!!』

「―――ッ!」

 

レーザーを頼りにスバルの身体に装着されたアーマーから彼の身体に向けてナノマシンが注入される。

わずかな痛み感じながらスバルは自分の中に入ってくるナノマシンを受け入れる。

 

「稼働率は!?」

『ナノマシン稼働率、現在65%

 戦闘に支障はありません!』

 

胸部の装甲の中心―――制御ユニットが収まるコアが輝きを放つ。

マッハキャリバーからの返答にスバルは、よしと答え、すぐさまその視線を下に向ける。

地上で起きた一際大きな爆発を視界に収める。

 

「ヘリはすぐにここから離れてください!」

『おう、あとは任せたぜ、スバル!』

 

ヴァイスを乗せたヘリが離脱すると同時にスバルは身体を傾ける。

 

「マッハキャリバー、盾の準備は」

『いつでもどうぞ、相棒』

「ぶっ飛ばせ、マッハキャリバー!!」

『イグニッションブースト』

 

マッハキャリバーの声とともに四枚の盾が地上に向けて射出される。

盾が射出されると同時に、スバルの腰背部の装甲が展開し、そこから覗くスラスターからナノマシンが勢いよく噴き出す。

そして、彼もまた地上に向けて射出されるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

地に降り立ったスバルは眼前にいる敵を視線に捉えながら背後にいるチンクに声をかける。

 

「数ブロック下がったところに、皆が集まってる。

 アンタも、すぐに下がってくれ」

「わかっている」

 

チンクは彼の言葉に従い、後方へ退くためにふらつきながらも立ち上がる。

 

「勝てよ、スバル。

 お前たちの話を聞かせてくれ」

「あれをぶっ潰して、時間ができたらいくらでも話してやるさ、義姉さん」

 

チンクはスバルの返答に笑みを浮かべ、瓦礫を駆け上がりすぐさまその姿を消していった。

 

「さて、マッハキャリバー」

『わかっています、盾の操作は任せてください』

「おう、行くぜ……ッ」

 

身体中を駆け巡るナノマシンからかつてないほどのエネルギーを感じながらスバルは拳を握りしめ、構える。

そんな彼と相対するジエンドもまた、その拳の振動をさらに激しく、強くする。

 

「――――ッ!!」

 

風が吹き、瓦礫が崩れ落ちると同時に駆け出す。

ジエンドの拳が風を切りながらスバルに迫る。

 

対振動フィールド装甲(AVFA)展開ッ!!』

 

だが、その拳が彼に触れることはなかった。

スバルの背後から飛び出した四枚の盾の内の二枚がその拳を受け止める。

 

「捕まえたッ!!」

 

スバルの咆哮と共に、赤熱化した左腕でジエンドのボディと顔面に一撃二撃と叩き付ける。

 

『ナノマシンの稼働率70%突破、目標の人工皮膚およびフレームの破損を確認!』

「もう一発ッ!!」

 

スバルの身体を駆け巡るナノマシンによって左腕の動力が確保された現在のパワーで殴られたジエンドの身体と顔の右半分は皮膚が燃え落ち、機械のフレームが顔を見せていた。

さらに追撃をかけるスバルだったが、その一撃はジエンドの右腕に掴まれ防がれてしまう。

 

「ヤバイッ!!」

「―――ッ!?」

 

左腕が掴まれたことで振動破砕を使用されることに狼狽えるスバルだったが、彼の左腕が破壊されることはなかった。

振動破砕を行おうとしたジエンドだったが、その右腕は逆に肘から異常な音を響かせながら火花が散っていた。

 

「マッハキャリバーッ!!」

『フレアガントレット出力上昇、マックスフレアバースト発動!!』

 

マッハキャリバーの掛け声と共にスバルの左腕が一層強く輝くと同時に肘と前腕の噴射口から炎が噴き出す。

噴き出した炎が左腕に巻き付くと同時に、ジエンドの右腕も炎で包み込む。

 

「―――ッ!!」

「逃がさねぇよ、相棒!!」

『フォートレスカノン発射!』

 

ジエンドの右腕を炎が焼く。

その炎から逃れようとするジエンドだったが、マッハキャリバーが操作する二基のフォートレスシールドがその背後からジエンドの背中に砲撃を加える。

背中からの砲撃によって体勢を崩すジエンドはその右腕の人工皮膚をすべて燃やし尽くされ、フレームも所々炭化していた。

 

「まずは右腕貰ったぁッ!!」

 

スバルは拘束された左腕を振り払い、逆にジエンドの右腕―――特に損傷が激しい肘を右腕で掴み取る。

掴んだ右腕の振動を最大にすることで、ジエンドの右腕は粉々に砕け散った。

 

「損傷甚大―――撤退する」

 

右腕を砕かれた瞬間にジエンドはスバルの周囲にエネルギー弾を撃ちこみ、一瞬の好きを作ると同時に上空に飛び去っていった。

 

「逃がすかよ……ッ!

 飛ぶぞ(・・・)、マッハキャリバー!!」

『了解です、相棒!!』

 

スバルはその言葉を聞くと同時に両手の拳を握りしめる。

 

「最短で……ッ」

『リミッター。解除!』

 

胸部のコアが強く輝きを放ち、装甲が上下左右に展開する。

 

「一直線に……ッ」

『スリット解放、スラスター展開!』

 

胸部と同様にスバルの肩部、腰部、脚部の装甲がスライド、背部のスラスターがXの字を描く。

 

「奴よりも速くッ!!」

『ナノマシン稼働率120%突破、出力マキシマム!』

 

展開されたスリットから光が溢れ出し、背部スラスターから勢いよくナノマシンが噴き出す。

彼の身体中を流れるエネルギーが、彼の髪を深い蒼色に輝かせる。

 

「フォーミュラバースト……ッ」

 

経験したことのないエネルギーを纏ったスバルは歯を喰いしばりながら叫ぶ。

切り札の名を

 

「アクセラレイタァァーーッ!!」

 

 

 

星は地より羽ばたいた。

 

 

 




どうも、お久しぶりです。
就活終わり、学会の準備や発表などをやってたら平成が終わってしまいました。
なのはも15周年ということでおめでたいですねー。
映画、ブルーレイ見まくってます(笑)
すでに次回も大方完成、推敲の途中ですのですぐにお見せできると思います。
それではまた次回!

追伸
GOD編の外伝を考えている際に、ちょっと刺激が欲しかったので、アマゾンプライムでシンフォギアを見ました。
なんか完結したそうで見てなかったから手を出したんですが、なんであれをリアルタイムで見てなかったんだよ!!って後悔しました
GOD編書いたらそっちも書いてみたいなぁとか思ったり




オリジナル解説

『オーバーエッジ』
チンクの固有技能、『ランブルデトネイター』における爆発可能な最大のサイズを持つ小剣。
生成に時間がかかる、ナイフに比べて対応が遅れがちになるなどの短所が目立つが、デメリットに見あうだけの威力を発揮する。
ジエンドの肘関節に向けて突き刺すことで、関節に僅かながらも破損を生み出し、スバルの勝機を作ることに成功した。

『ハザードシェルコート』
チンクの防御兵装『ハードシェルコート』をさらに強化したもの。
地上本部におけるスバルとの戦闘から得られたデータから振動兵装に対しても対策が取られたが、ジエンドの振動破砕が想定を上回ったため、チンクの損傷を完璧に抑えることはできなかった。


『フォートレスシールド』
CWM-ストライカーカノンと同時期に開発されたCW兵装の一つ。
名前の通りシールドとしての機能を中心に、砲撃用の大型粒子砲、捕縛用の大型クロー、近接戦闘用のプラズマソードなどの複数の機能を集約させた複合兵装。
扱いには空間認識能力等の使用者の資質に重点を置くが、スバルは操作のすべてをマッハキャリバーに任せる形で使用した。
詳細は次回

『エクステンドブーストアーマー』
スバルの全身に装着される増加装甲。
装甲としての役割以外にも、後述のナノマシンの運用目的のためにも使用される。
胸部装甲のコアはデバイスの外付けCPUとしても使用される。

『ナノマシン・フォーミュラ』
エルトリアのグランツ博士から資料と一部サンプルを受け取っていたサカキ博士がミッドチルダ式に調整したナノマシン。
その特性は周囲のエネルギーを収集、循環という二つに集約されている。
エルトリア式のフォーミュラと同様に稼働率が上昇、臨界を超えると発光するという特性を持つ。

『フォーミュラバースト・アクセラレイター』
ナノマシンの稼働率が一定値を超えることで発動可能なブースト機構。
前述のエクステンドブーストアーマーの各部が展開、アクセラレイター用の機能を開放することで使用者に莫大なエネルギーを与える。
スバルが使用した際には、フレアガントレットの熱エネルギー、戦闘によって周囲に充満した残留エネルギーなどすべてをフォーミュラが収集したため、かなり早い段階で発動が可能となった。


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ノーヴェルート 第十七話

ノーヴェルート、最終回です
それではどうぞ


「貴方の妹たちは全員無事よ。

 特に怪我の酷い二人は、スバルの専属研究機関に送られることになったわ」

 

「そうか、感謝する」

 

スバルとジエンドの戦闘しているエリアから離れた場所で、チンクはシャマルからの報告を受けて安堵の息を吐いていた。

そんな彼女を遠くから眺めていたティアナの耳に聞きなれた少年の声が届く

 

「ティアナさん!」

「エリオ、キャロ!」

 

ティアナのすぐ傍にフリードに乗ったエリオとキャロが降りてくる。

エリオの後ろに乗っていたキャロの腕の中ではルーテシアが抱かれていた。

 

「そっちもうまくいったようね」

「はい、今は眠ってますけど、ルーちゃんも、ガリューも無事です!」

「スバルさんは?」

 

ルーテシアをゆっくりと地面に寝かせるキャロの隣で、エリオはそう尋ねるが、そんな彼に対してティアナは首を横に降る。

 

「まだよ、でもあいつなら……ッ!」

「ティアナさん?」

 

ティアナは、二人の背後の空を見て声を失った。

そんな彼女の視線を追うようにエリオとキャロが自分たちの背後を見ると、青空を切り裂くように、星が駆けるのを見つけた。

 

「あれって、スバルさん!?」

「二人とも、行くわよ」

 

ティアナの指示にエリオとキャロは頷きすぐにフリードに乗る。

 

「ギンガさん、シャマル先生!

 ここはお願いします!!」

「えぇ、ここは任せて、スバルのことお願い」

「守るだけなら私とザフィーラだけでも大丈夫。

 だから、安心してちょうだい」

 

ギンガとシャマルは彼女の方に向けて手を上げながら答えた。

それを確認したティアナはすぐにフリードの上に乗り込む。

 

「少し、重いかもしれないけど」

「大丈夫、フリード行けるよね?」

 

キャロの言葉に応えるようにフリードは一度大きく吠え、その翼を羽ばたかせる。

三人を乗せているにも関わらず、その巨体はなんの問題もなくその身を大空へと飛んでいく。

 

「まったく、無茶ばかりするんだから!」

 

ティアナは視線の先を行く蒼い流星を見ながらそう呟いた。

 

 

 

 

 

「ハハハッ!

 スゲェ、このスピード、病みつきなりそうだ!!」

『フレアガントレットを中心に、各部の温度が上昇しています!

 活動限界まであと180秒!!』

 

今までとは違う、文字通り空を飛ぶ感覚にスバルは声を上げるが、そんな彼に対してマッハキャリバーは警告の声を発する。

現に、彼の左腕から炎が耐えず噴き出し、それが彼の身体をも熱し続けていた。

 

「見えたッ!!」

『目標からエネルギー弾の射出を確認!!』

「一直線に突っ切る!」

 

遥か前方を飛んでいたジエンドだったが、スバルの驚異的なスピードからは逃れられないと察したのか、残った左腕から多数のエネルギー弾が発射していた。

エネルギー弾といっても、それは一発でも並みの魔導師を撃墜するほどの威力を秘めていた。

それがスバルの眼前に迫っていた。

 

『フォートレス、1番、4番損傷が拡大しています!』

「耐えろ!

 これを抜ければ!!」

 

スバルの前方に四枚の重盾(フォートレスシールド)が構え、弾幕を防ぐ。

だが、弾幕は確実にスバルの守りを削り取っていく。

シールドをすり抜けたエネルギー弾はスバルの肩や胸部の装甲を撃ち抜く。

その衝撃や痛みを歯を喰いしばり耐える。

 

そして―――

 

「抜けたッ!!」

『相棒ッ!!』

 

弾幕を抜けたスバルの前に現れたのは左手に収束したエネルギーを放とうとするジエンドの姿だった。

慣れない空中飛行、そしてここまでの損耗からスバルは自分に打つことのできる手段をすぐさま弾きだす。

 

「しゃらくせぇ!!」

『フォートレス射出!!』

 

マッハキャリバーの声と共に、フォートレス四枚すべてが砲撃に向けて射出される。

放たれた砲撃によってフォートレスシールド四枚すべてを破壊する。

爆炎を抜けたスバル。

そこに彼の獲物(ジエンド)は居た。

撤退を諦めたわけでも、負けを認めたわけでもなく、その凶器(こぶし)でスバルを破壊するために。

 

「肉ならくれてやる!!」

『肩部アーマー射出!!』

 

スバルの右肩から分離したアーマーはジエンドの拳に覆いかぶさる。

ジエンドの振動破砕によって、そのアーマーが破壊されるまでのわずかな間に、アーマーに残ったナノマシンがスリットから余剰のエネルギーを吹きだした。

 

「―――ッ!!」

「ここぉッ!!」

 

ジエンドの左腕が逸らされたことによって生じる空間にスバルは躊躇いなく飛び込む。

スバルは燃え盛る左腕を引き絞る。

 

「貫けェッ!!」

 

アクセラレイターによるスピードを乗せた一撃。

それはジエンドの心臓―――コアのある胸部を撃ち貫いた。

 

「オオォォ―――ッ!!」

 

ジエンドの胸を貫くまま、スバルはその身体を地面に向けて叩き付ける。

スピードの乗った一撃と、上空からの落下による衝撃。

地上にジエンドが叩き付けられるとともに、その周囲を巻き込むようにクレーターが生じる。

 

「これでぇッ!!」

『最後です!!』

 

叩き付けたジエンドの胸を貫いたままの左腕一本で持ち上げる。

その掌には、ジエンドの―――戦闘機人の心臓とも言えるコアが握られていた。

そして、スバルはそのコアを―――

 

砕いた。

 

「―――――」

 

コアを破壊されたことによって、ジエンドの瞳から光が消える。

そして、それを確認したスバルはすぐに、その身体を空中に投げ上げた。

 

「その身体は、悪用されるとやばいからな。

 悪いけど、塵一つ残すわけにはいかないんだよ」

『カートリッジロード』

 

リボルバーナックルからカートリッジを通して、魔力が溢れる。

右腕に魔力が収束する。

 

「もう眠れ、ブリキ野郎」

『Divine Buster』

 

非殺傷設定の切られた砲撃は、その身体を文字通り消し飛ばした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ハァ……ハァ……っ」

『体内温度急上昇、炎熱生成機関(フレアモジュール)強制排除(パージ)!』

 

ジエンドを破壊した直後、スバルの呼吸はかなり乱れていた。

マッハキャリバーはすぐさま左腕の発熱モジュールを排除する。

 

『続けてエクステンドブーストアーマー強制排除(パージ)、強制放熱開始!!』

 

スバルの全身に装着された装甲が続けざまに弾かれる。

そして、マッハキャリバーはスバルの発汗機能を操作し熱の冷却を始め、スバルの全身から蒸気が上り、体温を冷やすことに成功する。

異常発熱を抑えたことでスバルはホッと一息吐き、その場に座り込もうとしたが、体力を損なった状態の彼の足はその負荷に耐えられなかった。

 

「……やべ」

『相棒ッ』

 

右脚の力が一気に抜け、マッハキャリバーのローラーがブレーキをかけるが彼の身体は後ろ向きに、倒れ込んだ。

受け身もとれない状態のスバルは目を閉じ、痛みに耐えるべく歯を喰いしばった。

だが、彼の頭が地面に突っ込む前に、彼の背中を支える者が現れた。

 

「スバルさん、大丈夫ですか!?」

「……エリオ?」

 

背中側から聞こえてくる声にスバルは疲れ切った意識の中応える。

エリオは彼の身体を支えてゆっくりと座らせる。

すると、そのすぐ後にフリードに乗ったティアナとキャロも彼らの傍に駆け寄ってきた。

 

「スバルさん!」

「酷いやられようね」

「おー、お前ら。

 全員ここにいるってことは」

 

汗で張り付いた前髪を掻き上げながらスバルは笑みを浮かべる。

 

「全員、やることはやったわよ」

「はい、ルーちゃんも止めることもできました!」

 

ティアナとキャロが笑顔で答える。

 

「じゃぁ、後やることは……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さて、これで私の憂いも断てたことだ。

 あとは、任せてもいいかい?」

 

スバルがジエンドの身体を吹き飛ばしたのを確認したスカリエッティはすぐ傍に立つフェイトに向かってそう尋ねる。

 

「わかりました、ジェイル・スカリエッティ。

 大規模テロリズムの容疑で逮捕します」

「……あぁ、その前に一つ忘れていた」

 

だが、フェイトが彼に手錠(バインド)をかける前に、パネルの赤い一際大きなボタンを押し込んだ。

 

「……スカリエッティ、今何をした?」

「何、この周辺のガジェットの自壊信号を発しただけだよ。

 なに、少し派手な花火が上がるだけさ」

「……あまり疑われるようなことはしないように」

 

スカリエッティの悪戯が成功したような笑みを見て、フェイトは大きく息を吐いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ハァー」

 

差し出されたペットボトルの中の水をすべて飲み干したスバルは首にかけたタオルで汗を拭いながら空になったボトルを目の前で彼の診察をしていたシャマルに手渡す。

 

「私は専門じゃないけど、博士からもらったデータから見ても問題はないと思うわ」

「それじゃ、最後の仕事に行ってきますよ」

 

シャマルからのお墨付きをもらったスバルは、タオルを取ると同時に立ち上がる。

彼の視線の先には、右腕を包帯でぐるぐる巻きにされ、困り果てた表情を浮かべるギンガがいた。

 

「止めても行くんでしょう?」

「もちろん。

 ゆりかご(あそこ)で、なのはさん達が待ってるから」

 

スバルの返答にギンガは大きく息を吐く。

そして、自分の左腕に装着されていたリボルバーナックルを収納し、それを彼に差し出した。

 

「行ってきなさい。

 でも、ちゃんと帰ってくるのよ」

「わかってる。

 ちゃんと帰ってくるよ、みんなで」

 

水晶の状態に収納されたリボルバーナックルを受け取ったスバルはそのまま、ノーヴェたちの乗り込んでいるヘリに向かった歩き出す。

そんな彼の背中に向けてギンガが一言

 

「あの()とのことも聞かせてもらうからね。

 お父さんと一緒に」

 

突如投げかけられた姉の言葉にスバルは背中越しに手を振るだけだった。

最も、その顔には若干恥ずかしさから、少し紅くなっていたが。

 

 

 

 

 

 

「調子はどうだ?」

「一番怪我の重いウェンディも、今は落ち着いている。

 お前には借りが出来てしまったな」

 

ギンガと別れたスバルは、ヘリの後部ハッチの入口で座り込んでいたチンクに話しかける。

 

「気にするな、こっちも助けられたんだ。

 お互い、貸し借りは無しにしておこうぜ」

「そうだな……。

 ノーヴェは中にいる、私は少し席を外しておくとするよ」

 

スバルの差し出した手を頼りに、チンクは立ち上がり、そう言ってその場から立ち去り、ヘリの操縦席の方へ歩いて行った。

 

「よう、ノーヴェ」

「スバル」

 

ヘリの中にスバルが乗り込むと、ヘリの椅子を幾つか使って簡易式のベッドにして固定されているウェンディの向かい側にノーヴェが座っていた。

そんな彼女に向けてスバルが手を上げながら話しかけると、ノーヴェもまた彼に向けて笑みを浮かべながら応えた。

 

「あー、なんだ。

 色々話したいこともあったはずなんだが……」

「あたしもだ。

 せっかく話せるってのに、いざってときに何を話そうかわからなくなっちまった」

 

あれだけ互いのことを思って話しかけられなかった二人。

そして、互いの立場を考える必要が無くなった今、思う存分話せばいいのに話すことが多すぎるために話せないという状態に、二人は傷に響かない程度に声を上げて笑っていた。

特に話さなくても笑いあえる、それが何よりも二人にとっては嬉しかった。

 

「ゆりかごに行くんだよな?」

「あぁ。

 まだあそこに仕事が残ってる。

 だから……」

 

そう言って、スバルはノーヴェの前に屈みこみ、彼女の身体を怪我が重くならない程度に抱きしめる。。

そして、彼女の顔の横で口にした。

 

「全部終わったら、思いっきり話そう。

 今まで話せなかったことや、これからのことも」

「あぁ、そうだな……。

 だから、ちゃんと帰ってこいよ?」

 

ノーヴェもまた、スバルの背中に、左腕を回して彼の身体の暖かさを感じながらそう答えた。

 

「悲劇のヒロインみたいに待ち続けるつもりはないからな」

「心配するなよ。

 むしろ、救助活動(こっち)の方が本業みたいなもんだからな」

 

互いに言葉を交わした後、二人はどちらからともなく身体を離す。

 

「約束だ、絶対に破るなよ。

 破ったらあたし怒るからな」

「あぁ、約束だ」

 

ノーヴェが突き出した拳に、スバルも軽く当て、そして彼はヘリを後にした。

 

 

 

 

 

 

 

「話は終わった?」

「あとで話すって話してきた」

 

ゆりかごへ向かうヘリの外で、スバルを待っていたティアナは彼の答えに「なにそれ」と苦笑しながらそう口にする。

 

「さて、それじゃスバルも来たから、最後の確認」

「ゆりかごは俺とティアナが向かう。

 チンクの話だと中はAMFで碌に術式が起動しないらしいからな」

「そして僕とキャロ、フリードでフェイトさんの迎えですね」

「向こうは危険はないそうだけど、気を付けなさい」

「はい!」

 

四人は、確認を終えると、誰からともなく手を差し出した。

一番下にスバル、エリオ、キャロ、ティアナと重ねる。

 

「これが、フォワードチームとして、今回の騒動の最後の仕事よ」

「全員、もう傷だらけだけど、無事に戻ってくるぞ」

「フェイトさんや、なのはさん、部隊長たちも」

「全員で、僕たちの家にですね」

 

「それじゃ、フォワードチーム行くわよ!」

「「応っ」」

「はい!」

 

 

 

 

 

 

 

数時間後、後にゆりかご事件、又はJS事件と呼ばれることになる管理局始まって最大の騒動は終息した。

そこに、奇跡の部隊と呼ばれる試験部隊があったことは誰もが知ることになった。

 

 




ノーヴェルートは次回のエピローグで完結です。
一先ずスバルの物語を書き終えることが出来てよかった(連載開始から5年たってますが(・・;)

後日エピローグを投稿します。
その後、GOD編として番外編を投稿していこうかなと考えています。
それではまた次回!


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ノーヴェルート エピローグ

JS事件、管理局始まって以来の大事件が終結して早3年。

すでに事件の傷も癒えていた。

 

そんな中、第一管理世界『ミッドチルダ』の衛星軌道上に存在する収容施設の一つのある部屋に足を運んでいた。

 

「やぁ、通信機越しでは何度も話しているがこうして直に会って話すのは久しぶりだね、《スターゲイザー》?」

「想像以上にいい生活してるね、アンリミテッドデザイア」

 

彼―――サカキは係の人物に案内されて入った部屋にいた男性、先のJS事件の首謀者であるジェイル・スカリエッティに向けて呆れた表情を浮かべながらそう答えた。

 

「なに、これもこの三年の司法取引の結果だよ」

 

スカリエッティはそう言うと、コポコポと音を立てるポットからお湯を二つのマグカップに注ぐ。

熱湯を注がれたマグカップからコーヒーの香りが部屋中に広がっていく。

 

「君は、この三年間で様々なモノを作ってきたからねぇ……。

 難病の治療薬、新技術の開発、エトセトラ。

 上も、君の扱いには困っていると聞いているよ」

「私はここでの生活に困っていないのだけどね」

 

そう言いながらスカリエッティはサカキに片方のマグカップを渡す。

 

「それはそうと、あの二人はどうなっているのかを聞きたいところだね」

「あぁ、それなら先日ノーヴェ君から聞かされたよ」

 

手渡されたコーヒーを口にしながらサカキは彼の質問に答える。

 

「正式にプロポーズされたと」

「それはそれは」

 

サカキの答えを聞いたスカリエッティの脳裏に、自分の愛娘であるノーヴェが顔を真っ赤にしながら報告している姿が目に浮かび、嬉しそうに笑みを浮かべる。

 

「あの騒動の後、彼女を引き取ってから三年たってのことだからねぇ……。

 あの二人の周りでは、いつやるのかといつも話のネタにされていたよ」

「まぁ、ちゃんと先に進んだのなら言うことなしだね」

 

そう言った彼の口元には微笑みが浮かんでいた。

 

「さて、話は変わるが、次の仕事の話をしてもいいかな?」

「大歓迎だよ、次はなんだい? 

 そろそろナノメタルを使った技術を発展させていきたいと考えていたんだが……」

 

「死に瀕している星を救う仕事だよ」

「詳しく聞こうじゃないかッ!!」

 

 

 

 

 

 

 

「今回の教導のレポートです」

「あぁ、確かに受け取った」

 

管理局、そのとある部隊の部隊長室で彼女―――高町なのは―――は、手にした書類をデスクに座る男性へと手渡した。

 

「さて、教導期間を終えてすぐだが、どうだったこの部隊は?

 率直な意見を聞かせてくれ」

 

受け取った書類を振り分けボックスの一番上に置き、男性はなのはと、彼女の横に立つヴィータに尋ねる。

二人は互いに視線を交わし、なのはが答える。

 

「想定していた以上の練度でした。

 他の特別救助隊の教導にも参加させてもらいましたが、その中でも一番の練度だと思いました」

「それは良かった」

 

男は彼女の答えに満足し、笑みを浮かべる。

 

「さて、これで君たちの仕事は終了だ。

 何か君たちからあるかな?」

「お一つだけよろしいでしょうか?」

「何かね?」

「スバル……ナカジマ防災士はどんな様子なのかをお尋ねしたく……」

 

なのはの問いかけにヴィータは「おい……!」と小声で言いながら彼女に視線を向ける。

そんなヴィータに向けて男は構わないと手を上げる。

 

「そう言えば、彼は君たちの教え子だったな。

 気になるのも当然か」

「はい……。

 時々連絡を取ったりはしているのですが、特別救助隊(ここ)でのことはあまり話しを聞いていないため……。

 それに、この三日間、彼の姿を見なかったので」

「あぁ、彼なら問題ないよ。

 この三日、彼の所属しているシリウス第一分隊は、外回りを行っているのさ」

「外回り……ですか?」

 

男の答えに首を傾げるヴィータ。

 

「あぁ、我々の仕事を子供たちに……ッ」

 

教えると、言葉を続けようとした男だったが、突如鳴り響くアラームを聞いた途端にその身に纏う雰囲気が切り替わった。

 

『湾岸部、第三グランドタワーマンションにて火災発生!

 現場より特救への出動要請!!』

 

鳴り響くアラームとともに聞こえてくる状況説明の声を聞いた男はすぐに耳に取りつけた通信機を使い、管制室へ声を飛ばす。

 

「現場に一番近い分隊はどこだ!!」

『現在一番近い分隊は……ワタセ分隊長のシリウス第一分隊です!!』

「よし、すぐにワタセに知らせろ!

 それから、待機中の第二分隊も出動させろ!!」

『了解!!』

 

管制室からの応答を聞いた男はすぐさま立ち上がり、出口に向かう。

 

「そうだ、彼の仕事を見ていくかね?」

「よろしいのですか?」

 

男の提案に、なのはは驚きの声を上げる。

 

「我々の仕事を見てもらった方が、これ以降の教導にも反映させやすいだろうからな」

「ありがとうございます!」

 

男の後を着いていくなのはを見て、ヴィータは苦笑しながら一言呟いた。

 

「授業参観かよ……」

 

 

 

 

 

 

「よし、今日はここまでにするか。

 しっかりとストレッチしておけよー」

「はーい!」

「ありがとうございました」

 

ミッドチルダ郊外のスポーツジムで、ヴィヴィオと、碧銀の髪の少女―――アインハルトはノーヴェの言葉に返事をしながら互いの身体をしっかりと伸ばすためにストレッチを始めた。

 

「ーーー♪」

 

ストレッチを始めた二人を他所に、ノーヴェは今日行った練習の様子を録画した動画を見なおしていた。

だが、彼女の雰囲気がいつもと違うことを疑問に思ったアインハルトは自分の背中を押しているヴィヴィオに尋ねる。

 

「あの、ヴィヴィオさん?」

「なんですかー?」

「ノーヴェさん、なんか嬉しそうにしてますけど何かあったのですか……?」

 

アインハルトの言葉を聞いたヴィヴィオは心当たりがあるのか、笑いながら答える。

 

「ノーヴェさん、昨日プロポーズされたんですよ」

「プロポーズ、ですか……?」

「はい、スバルさんがノーヴェさんに、です」

「あぁ……あの人とですか」

 

アインハルトは、合同訓練の際に自分と拳を交わした青年とノーヴェがいい雰囲気になっていることを思いだし、納得の声を上げた。

だが、彼女の目に映るノーヴェの姿は自分のことではないが、アインハルトの顔にも笑みが浮かんでいた。

 

「なら、お祝いとかはする予定はあるのでしょうか?」

「はい、明日リオとコロナと一緒に考えようって話をしてたんです。

 アインハルトさんもどうですか?」

 

ヴィヴィオはここにいない二人の少女の名前を出したうえで、アインハルトのことも誘う。

この誘いに対する答えは彼女の中ですぐに出されていた。

 

「えぇ、ぜひ」

「はい!」

 

 

 

「―――おい、この火事ここから離れてないぞ!」

「本当だ、結構ひどいな……」

 

ジムに備え付けられているテレビを見ていた数人の声が響く。

動画を見なおしていたノーヴェもまたその視線をテレビに向けた。

 

『ここ第三グランドタワーマンションにて火災が発生しました。

 すでに消火活動は開始されていますが、その火の手は収まる様子はありません!

 なお、未確認の情報ですが、火元と考えられている階層に子供が取り残されているとのことです』

 

テレビの向こう側では、その場に居合わせたキャスターが興奮した様子で状況を説明する。

しかし、ノーヴェはそのキャスターのさらに奥に映る制服を見て言葉を一つ、飛ばすだけだった。

 

「しっかりやれよ、スバル」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お願いします!!

 子供たちがまだ中に!!」

「奥さん、落ち着いてください!

 すぐに特別救助隊の隊員が到着しますから」

 

火災現場のすぐ傍に設営された指揮所、その中には数人の消防隊員と、その一人に縋りつくように大声を出す女性がいた。

 

「特別救助隊シリウス分隊の隊長のカワセです。

 状況の説明を!」

 

そんな時、指揮所に銀色の防火服を纏った男性が入ってくる。

 

「指揮を任されているモーリスだ。

 現在確認されているのは火元である35階に子供が2人取り残されている。

 火の勢いが強く、突入が難しい」

「35階……その階よりも上の階層はどうなっていますか?」

「火元よりも上の階層はすでにヘリで救助済みだ」

「了解しました。

 子供たちのことは任せてください」

 

カワセと名乗った男性は指揮所にいる女性に安心させるためにそう呼びかけた。

 

「隊長、シリウス6の準備はすでに整ってます」

「よし、ナカジマ、聞いていたな?」

『はい!

 35階に子供が二人、その救助ですね!』

「あぁ、35階はお前に任せるぞ。

 俺たちは36階から上を再度見回る」

 

 

 

「さてと、それじゃ人助けだ。

 35階に道を作るぞ、マッハキャリバー」

『了解です。

 ウィングロード展開』

 

指揮所から離れた広場で待機していたスバルの足下から蒼色の道(ウィングロード)がビルに向けてまっすぐに展開される。

 

「隊長、準備完了です!」

『よし、行け!』

「了解、スバル・ナカジマ、シリウス6、行きます!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「よく頑張ったな!

 さぁ、ここから出ようか!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




これにてノーヴェルート完結です。
投稿開始から時間がかかりましたが、少年スバルの物語を完結させることができました。
読者のみなさん、今まで応援ありがとうございました!!

番外編等の投稿はぼちぼちやっていきたいと考えています。
それではまたいつか!!


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