ポケットモンスター トータス (G大佐)
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プロローグ

実生活での大きな壁を1つ越えたので、前々からやってみたかった小説を投稿してみます。
まずはプロローグから。ポケモンの登場はもう少しお待ちください。


 一人の少年が、パソコンのキーボードを叩く。

 

「頼む……! 存在していてくれ……!」

 

 少年はまるで何かにすがろうとする表情をしていた。声も震えている。

 

 入力を終えてEnterキーを打ち込むと、パソコンの画面はほんの一瞬だけ白くなる。

 そして画面の文字が告げるのは残酷な一言。

 

『ポケモン に関する情報は見つかりませんでした』

 

「どぉしてだよぉぉぉぉぉぉ!!」

 

「ハジメ、うるさいわよ!」

 

 カ〇ジのような絶叫をする少年の名は、南雲ハジメ。中学二年生。

 

 中身は大学生の、憑依転生者である。

 

 

 

 

 

 自分自身が転生者だと気付いたのは、中学生になってからだった。ある日突然、見たことの無い生き物が出てくるゲームをプレイすると言う夢を見たのだ。

 ゲーム名は、『ポケットモンスター』。だが、父の仕事の関係でゲームにそこそこ詳しいハジメは、当初はポケットモンスターと言うゲームに心当たりが無かった。

 色々と違和感がある中、毎日立て続けにポケットモンスター、縮めてポケモンをプレイする夢を見た。

 

 見続けていた夢に、変化があった。ゲーム機の電源を切る自分。暗くなった画面に映った顔が、見たことの無い青年だった。

 それと同時に思い出したのだ。かつて自分は、ポケモンが好きな大学生だったことを。

 正直なところ死因は覚えていない。トラックに轢かれた記憶も、苛めに耐えかねた自殺という記憶も、病死したという記憶もない。

 だが、それはそれで安心した。あまりにも凄惨な死に方だったら、心が壊れていただろう。

 

 前世の記憶を取り戻したハジメ(憑依)は、ポケモンに関する情報を集め続けた。新聞紙の番組表に、本屋の棚、ゲーム売り場とポケモンに関する事を調べ続けた。

 

 しかし、結果はハジメにとって残酷であった。この世界は、ポケモンと言う概念自体が存在していなかったのである。

 

 

 

 

 

 絶叫を母親に叱られた後、ハジメはベッドに寝転がって天井をボーッと眺めていた。

 

「ポケモンだけが、存在してないんだよなぁ……。他の任〇堂作品はあるのに」

 

 だからこそ悲しい。テレビの向こうの少年少女が繰り広げる冒険を見れないことが。ゲームの向こうで生きる個性豊かなキャラやポケモンたちとのバトルや、冒険が味わえないことが。作者ごとに表現が違う、独自のストーリーを持った漫画が存在しないことが。

 

「はぁーあ……」

 

 ため息を着きながらベッドの上で適当にゴロゴロ転がっていると、ふと本棚のある背表紙のタイトルが目に入った。

 

「キャラクターデザイン集……。父さんがプレゼントしてくれたんだっけ……」

 

 その時、ハジメに何かが閃く。

 

「デザイン……?」

 

 起き上がり、勉強机に向かう。椅子に座ってから、まだ使ってない予備のノートを開き、思うがままに鉛筆をはしらせる。

 

「描けた………!」

 

 そこに描かれていたのは、ポケモンを代表すると言っても過言ではない生き物……ねずみポケモンの、ピカチュウの姿だった。

 実はハジメの母は、結構人気な少女漫画家である。幼い頃から母と色んな絵を描いていた事が、ここで活かせたようだ。

 

「ポケモンの記憶が、僕にはハッキリと残ってる。そして母さんのお陰でポケモンの絵が描ける」

 

 だからこそ、最初の閃きが徐々に具体化していく。

 

「そうだ! 無いなら作れば良い! あんな素晴らしい作品を誰も知らないなんて勿体無い!」

 

 そこから、ハジメの生活は大きく一変することになる。




よく、ポケモンの概念が存在しないと言う二次創作を見かけますが、このありふれ世界の地球も同じです。
ですが、ハジメにはゲーム製作会社の父親と漫画家の母という、布教に最適な人間が2人も居ます。

さて、次回は、一気に高校まで時間を飛ばす予定です。香織との関係もそこで入れようかと思います。


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年月は一気に過ぎる。

時間は一気に飛んで、召喚シーンです。
原作とは性格の違うキャラも居るので、タグにも追加しておきます。

あと、私はLEGENDSアルセウスはまだエンディングまで行っていないので、感想等でのネタバレは控えてくれると助かります。


 時は一気に流れ、ハジメは高校2年になっていた。その間はとても濃厚な月日を送っていた。

 

 父や母にポケモンの絵を見せたところ、中々好評だった。前世のことは伏せて、夢だと説明した上で、どんな生態をしているかなどを説明したところ、父がこう言ったのだ。

 

「なら、会社に提案してゲームにしてみるか! こんな面白そうな設定は、子供も大人も楽しめるかもしれない!」

 

 さらに、母も提案してきた。

 

「ハジメ、なんならイラストをネットに投稿してみないかしら? あっという間に注目されるかもしれないわ!」

 

 ポケモンを広められると思ったハジメは、両親の提案にすぐに乗った。

 

 しかし、現実はそう甘くは無かった。

 

 まずゲーム開発だが、中々上手く進行しておらず、高校になった今もゲームソフトは発売されていない。

 そうなった理由の1つ目は、当時中学生が考えた設定が、果たして本当に売れるのかと疑う社員が少なからず居たこと。それによって開発の着手が大幅に遅れた。

 次に、ポケモン毎に種族値や努力値と言ったデータを打ち込むのが、難儀していると言うことだった。さらにBGMの製作、予算やゲームのデータ容量の関係など、多くの問題が山積みになっている。

 

 イラストの方だが、受け入れる者と受け入れない者とでコメントが荒れる事態となってしまった。

 受け入れる側のコメントとしては、「面白い」「可愛い」と言ったものが。

 受け入れない側としては、「物理法則や生物学的に考えてあり得ない」「現実の科学をもっと勉強してからやれ」と言ったものが多く寄せられた。

 挙げ句の果てには、そんな二者によるコメント欄での喧嘩という炎上状態にもなってしまったのだから笑えない。

 

 立ちはだかる大きな現実によって、ポケモンの広まりはあまり芳しくなかった。

 しかし、ハジメ個人としては嬉しかったこともある。それは……。

 

 

 

 

 

 ある月曜日の朝。あくびをしながらハジメが教室へ入る。そんな彼のもとへ駆け寄ってくる女子が1人。

 

「おはよう、ハ……南雲君!」

 

「おはよう、白崎さん」

 

「凄い眠そうだけど、もしかしてお手伝い?」

 

「うん。半ばアシスタントになってるのかも」

 

 その瞬間、男子たちから舌打ちが聞こえた。

 ハジメに挨拶をした女子の名前は、白崎香織。学校の二大女神と呼ばれる程の人気者である。

 

 そして……ハジメの恋人でもある。

 

 2人の馴れ初めは、本当に偶然だった。

 不良に絡まれていた老婆と子供を助けるために、ハジメが全力でジャンピング土下座をかまし、周りの気まずい空気を作ったことによって不良を撃退した。それを香織が偶然見ており、一目惚れし、そこから交流していくうちにハジメも惚れたという流れだ。なお、告白したのは中学の卒業式の後という、そこそこベタな感じである。

 香織は、ハジメがポケモンの絵を描いている事を、交流していく内に知った。彼女も今ではポケモン好きである。

 

 しかし悲しいかな、高校入学後、香織は二大女神と呼ばれるようになった事で、彼女と交際しているハジメの事を疎ましく思う人間も出てきたのだ。

 

「どうせ徹夜でエロゲーでもやってたんだろ」

 

「気持ちわりぃよな、アイツ」

 

 ハジメを嘲笑いながら、しかし絡むような事はせず陰口を叩くのは、檜山大介を始めとした小悪党4人組(ハジメが命名)。

 なぜ陰口を叩くだけに留まってるのかと言うと、簡単に言えば、かつてハジメの趣味と両親を馬鹿にした瞬間に殴られた過去があったからだ。それでも懲りずにハジメを目の敵にする辺り、呆れるばかりである。

 

 そして、そんな事件があったからこそ、内心良く思っていない人間もいた。

 

「香織、また南雲に構っているのか? 本当に優しいな君は」

 

 彼の名は天之河光輝。成績優秀、スポーツ万能のイケメンという、スクールカーストならまずトップに居るでろあろう男子だ。一見完璧な人間に見えるのだが、正義感が強すぎて、己の誤りを見ていないという大きな欠点がある。

 彼は、檜山たちとハジメの喧嘩事件で、「馬鹿にされるような振る舞いをする南雲が悪く、それを認めようとせずに殴るのは言語道断だ」と思い込んでいる。だからなのか、彼に対しての当たりは強い。

 

「おはよーさん、南雲。手伝いも良いけどよ、睡眠も大事だぜ?」

 

 坂上龍太郎。光輝とは幼馴染みで、考えるよりも動くという脳筋のような態度が目立つが、義理人情や友情、努力や熱血に弱い。

 出会った当初は、授業中に居眠りするハジメのことを怠け者と思っていたが、両親の手伝いをしていると言うことを香織から知ると、その事を謝罪。今は「勉強も両親の手伝いもやってるスゲー奴」と評価している。

 

「おはよう、南雲くん」

 

 ポニーテールを靡かせた、クールビューティーとも言える彼女は八重樫雫。剣道道場の娘であり、香織や光輝とは幼馴染み。そして香織と並ぶ二大女神でもある。香織がキュートなら、雫はクール。だからなのか同姓から惚れられることもあると言う苦労人だ。もっとも、光輝の正義感の暴走を抑えるのが、一番の苦労なのだが。

 香織がハジメと交際した事をきっかけに、ハジメとも顔見知りになり、そしてポケモンを知った。好きなポケモンはミミロルやパチリスと言った可愛い系だが、ヒメグマに心をときめかせた瞬間に進化形のリングマを見て真顔になったのは、色んな意味で良い思い出である。

 

「ねぇ、今日も休み時間にポケモンの絵を見せて?」

 

「良いよ。八重樫さんもどう?」

 

「じゃあ、お言葉に甘えて」

 

「南雲。まさか授業中に描いてるんじゃないだろうな? 2人の好意に甘えて勉強をサボるなんて、学生として最低だぞ」

 

「いや、普通に家で描いてるんだけどなぁ……」

 

「まぁまぁ光輝、こいつも成績そこそこ良いだろ? そこまで熱くなるなって」

 

 いつものやり取りをしつつ、ハジメは自分の席へと向かった。

 

 

 

 

 

 昼休み。昼食を取ろうとしたハジメは、ゼリー飲料を取り出した。そこへ香織がやって来る。

 

「じゃじゃーん、お弁当! 作ってきたの!」

 

「マジ? これしか持ってきてなくてさ。ありがとう~」

 

 彼女が弁当を作ると言う甘酸っぱい光景に、男子は嫉妬、女子は渋めのお茶を飲む。

 香織は、ハジメが自分と付き合ってることで疎まれている事に気付いて、学校の中では他人のように振る舞おうと提案した事があった。

 しかし、意外なことにハジメはこれを強く拒否した。

 

「恋人とキスまでしたのに、他人行儀になるのは耐えられない」

 

 ハジメがそう言ったため、2人で話し合った結果、学校でも仲良くはする。だけど名字で呼び合うという妥協案を取ったのだった。まぁ学校外での2人の様子を見かけた生徒も多く、効果はほぼ無いのだが。

 

 香織の後ろでは光輝が何か言いたそうにしていたが、香織は気付いておらず、ハジメも敢えて無視。2人のラブラブ空間が作られようとしていた。

 その時だった。光輝の足元からどんどん魔法陣が広がっていき、教室の中が光で満たされていく。

 社会の担当教諭である畑山愛子の「早く教室から出て!」という声を最後に、目の前が真っ白になった。




次回から、いよいよトータス編です。ポケモンも出せたらなと思います。


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異世界召喚

既に30件以上もお気に入り登録者数が来て、とても嬉しいです。本当にありがとうございます。
今回は、話の区切りの関係でポケモン要素が殆どありません。ご了承下さい。


 眩しさで閉じていた目蓋を開けると、大理石に囲まれた、まるで西洋の教会を思わせるような光景に変わっていた。周りには、自分達に祈りを捧げるかのように頭を下げている集団が見える。

 

「(香織は……無事か。良かった)」

 

 香織の無事を確認して安心しつつ、辺りを見渡す。

 

 まず目に映ったのは、大きな絵画だった。神と思わせるような人間が大きな腕を広げて山や湖を囲んでいる。その微笑みが、ハジメにとっては胡散臭く思えた。

 さらに天井を見上げた瞬間、ハジメは目を見開いた。

 

「(なっ……! あの絵は、まさか!)」

 

 そこへ、お祈り集団のトップであろう老人が、呆然としている光輝の前に歩み寄ってきた。

 

「ようこそトータスへ、勇者様。私は、聖教教会で教皇をしております、イシュタル・ランドバルゴと申します。我々はあなた方を歓迎いたしますぞ」

 

 その好々爺とした笑みが、ハジメには嘘に見えて仕方が無かった。

 

 

 

 

 

 状況が飲み込めないまま、晩餐会が行われるであろう長大なテーブル席の並ぶ部屋へと案内されたハジメ達。それぞれが席に座るが、ハジメと香織は一緒である。その光景に舌打ちするのは檜山など一部の男子だった。

 

「相変わらずのバカップルだな」

 

「幸利、何で僕の事をジト目で見るんだい?」

 

「いかにも異世界召喚ですみたいな展開なのに、然り気無くイチャついてるのに呆れてんだよ」

 

 ハジメの向かいに座りジト目で話すのは、清水幸利。ハジメとはオタク仲間で、ネットに投稿されたポケモンのイラストの作者と知った瞬間から意気投合した。かつては名字で呼び合っていたが、親しくなるにつれて名前呼びへと変わった、まさに心の友と言える。

 

 そこへ、イシュタルが話し始める。

 

「皆さま、どうか私たちの話を聞いてくだされ」

 

 イシュタルの語る内容に、ハジメと香織は顔をしかめ、幸利は真剣な顔で何かを考える。

 

 このトータスには、人間の他に、獣の特徴を持った亜人族、数は少ないが魔法を使うことに長けている魔人族という三大種族がいる。

 亜人族は神から見放された存在として、人間からも魔人族からも疎まれている。そして人間と魔人族とは、信仰する神の違いから長い間戦争を続けていたらしい。

 幸い人間側は、数で魔人族に勝っており、どちらか一方が優勢になるような事は無かった。

 

 ところが最近、魔人族の方で異変があったと言う。

 詠唱も魔方陣も使用せずに、炎や風、雷などを引き起こす『魔物』と言う生き物。それを魔人族が使役し始めたと言うのだ。

 これによって魔人族は、少なかった数の差を埋めつつあるのだと言う。

 

「あなた方を召喚したのは、我らが創造主であるエヒト様です。エヒト様は悟ったのでしょう。『このままでは人間が滅ぶ』と。そして神託を私に授けてくれました。異なる世界より救世主を喚ぶと。それがあなた方なのです」

 

 そしてイシュタルは続ける。どうか我々を救っていただきたい、と。

 

「(つまり、僕たちに戦争の代理をやれってことか。ふざけるなよ! 香織を戦争に参加させるなんて、出来る訳がない! ……けど)」

 

 右も左も分からない、文字通りの別世界。そして教皇であるイシュタルの、神託を受けたと語る時の恍惚な顔。この世界の在り方に、嫌な予感しかしなかった。

 

「ふざけないで下さい! 生徒達を誘拐まがいな事をしておいて、さらに戦争をやれだなんて! あなた方のやってることは犯罪ですよ!? 戦争なんて御免です! 早く元の世界に返してください!」

 

 大声で抗議したのは、社会科の担当教諭である畑山愛子。ハジメよりも小柄で、それでいながら威厳のある教師を目指している。そのため生徒たちはいつもの生暖かい視線を送ってるのだが、それは召喚されても相変わらずだった。

 

「ふむ、お気持ちは分かりますが、それは出来ませんな」

 

 この一言で、空気が凍りつく。

 

「な、何故ですか!? 呼び出せたなら、帰すことも出来るでしょう!?」

 

「先程も言いましたが、あなた方を召喚したのはエヒト様です。神の行ないに、人間は手出しできませんな」

 

 その瞬間に、クラスメイト達は次々と怒りを露にした。

 

「そんな、帰れないって何だよ!」

「戦争なんて嫌よ! 家に帰して!」

 

 そんな喧騒の中、ハジメ達は小声で話し合っていた。

 

「幸利、どう思う?」

 

「帰す方法が本当に無いのか、もしくは方法はあっても帰すつもりが無いから嘘ついてんのか、て所だな」

 

「どっちにせよ、詰んでるってこと……?」

 

「そうなるね。見てよイシュタルさんの目。あれ絶対に見下してるよ」

 

「『神託受けておきながら、何で反対するのか理解できない』ってか? なんとも自分勝手な」

 

 そんな時、ダンッ!とテーブルを強く叩く男が。天之河光輝である。それによって、場が静かになる。

 

「(嫌な予感がするな……)」

 

 同じことを察したのか、不安げに寄りかかる香織を、ハジメは片手で抱き寄せた。




前半でハジメが見た絵とは何なのか? 次回で明らかにしようかと思います。
次回はステータスプレート回の予定です。


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ハジメが見たもの

え、ちょ、お気に入り登録者が50件越えるってマジですか……!? 本当にありがとうございます!

それと申し訳ありません! 前話の後書きでステータスプレートまで行くと言いましたが、話の区切りの良さで其処まで行けませんでした……。サブタイトル通り、ハジメが見たものについてです。


 その日の夜。国から与えられた部屋に居たのは、ハジメと香織、そして幸利と遠藤浩介だった。

 彼もまたハジメとはオタク仲間なのだが……悲しい体質があった。

 

「ご、ごめんって浩介ぇ……」

 

「幸利の隣に座ってたのに……気付いてくれなかった……」

 

「その、ごめんな?」

 

「幸利お前、そんな苦笑いで謝るなよぉ!? 余計悲しくなるわ!」

 

 実は、イシュタルが世界について説明していた時に幸利の隣に座っていたのだが、ハジメや幸利は全く気付いていなかった。そう、彼は自動ドアにも反応されにくいほど影が薄いのだ。

 

「白崎さんは!? 白崎さんは気付いてたよな!?」

 

「……………………」

 

「ですよねぇ! ハジメに夢中だったもんなチクショウ!」

 

 すっかり浩介はいじけてしまったが、取りあえず話を戻そうとハジメが咳払いすると、先程までのコント染みた空気が払拭された。

 

「で、皆から見てどう思う? この世界の状況」

 

「どう考えてもヤバいだろ。国王との謁見見たか? 国王が教皇の手にキスしてたぜ?」

 

「宗教が権力持ってるなんて、大変なことになるよ……」

 

「愛ちゃん先生も、それに薄々気付いてたから反対したんじゃねえの?」

 

 愛ちゃん先生とは、畑山愛子のあだ名である。すると幸利は苦々しい表情をする。

 

「それなのに天之河の奴、参戦を決定しやがって……」

 

「現状は乗るしか無いんだろうよ」

 

「浩介……天之河がその理由で賛同したと思ってるのか? あの『困ってる人見捨てられないマン(笑)』だぜ?」

 

「思えないな。この世界の人たちをマジで助けるつもりだな、絶対に」

 

「八重樫さんが賛同したのは意外だったけど……」

 

「ううん、きっと雫ちゃんは気付いてたよ。その上で乗るしかないって思ったんじゃないかな」

 

 幸利と浩介の言うように、天之河光輝は魔人族との戦争に賛成してしまった。よりによってクラスの代表が、だ。

 それに乗るように龍太郎や雫も賛成したことによって、クラスメイト全員が参加になった。ハジメとしては本当は強く反対したかったが、それによって教会からどのような仕打ちを受けるか分からない。更に、争い事を嫌う香織を危険な目に遭わせるよりかは、衣食住を保証されるために賛成するしかなかった。

 

 だが、もう一つ気掛かりなことをハジメは感じていた。

 

「……ハジメくん? どうしたの?」

 

「……みんなには、言わないといけないことがあるんだ」

 

 普段見せないような声と表情で、思わず生唾を飲み込む男子2人。

 

 

「この世界には、ポケモンがいるかもしれない」

 

 

 その発言に、3人は目を見開いた。

 

「え、ちょ、はあっ?」

 

「おいおいハジメ、冗談キツイぞ? ポケモンはお前が描いている想像上の……」

 

「この状況で冗談なんて言えるもんか。僕は本気でそう思ってるよ、幸利」

 

「ど、どうしてそう思ったの?」

 

「みんな召喚された時に、周りにある絵画に気付いてた?」

 

「あの、人間みたいな奴が腕を広げてる絵か?」

 

「それもだけど、実は天井にも絵があったんだ」

 

「私は気付かなかったけど、もしかして其処に……?」

 

「うん。問題は、描かれてるポケモンだ。まだ投稿サイトには上げてなかったけど、僕の頭の中にしっかりと設定がある」

 

「……どんなポケモンなんだ?」

 

 ハジメは大きく深呼吸して、そのポケモンの名を告げた。

 

アルセウス

 

「アル……セウス……」

 

「『そうぞうポケモン』。それは、宇宙を生み出した存在。混沌のうねりの中にある卵から生まれ、時間を司るディアルガ、空間を司るパルキア、そして反物質を司るギラティナを生み出した存在だ」

 

「ま、待て待て待て! つまり、創造神って事かよ!?」

 

「そう言うことになる、かな」

 

「お前の夢の中には、創造神のポケモンまで居るのかよ……」

 

「でも、イシュタルさんは、エヒトって神様が創造神だって言ってなかった?」

 

「そうだぜ。まさか、エヒトが神だってのも嘘じゃないのか?」

 

「浩介、しーっ! 誰が聞き耳立ててるか分からないから!」

 

「わ、わりぃ」

 

 衝撃的な発言に動揺したが、全員何とか落ち着きを取り戻す。

 

「僕が夢の中で見たアルセウスは、何も完璧と言う訳じゃない。巨大隕石を破壊するときにもダメージを受けてるし、人間から騙されて攻撃されるなんて光景もある」

 

「そうなの? でも、どうしてその話を……」

 

 何度目の衝撃発言だろうか。ハジメは真剣な表情で、その絵画の内容を言葉にした。

 

 

「アルセウスがエヒトに倒されるという絵だったんだ」

 

 

 唖然とする3人。ハジメが「想像でしかないけど」と付け加えたが、それでも衝撃的すぎた。

 

「とにかく、この世界はかなり危ないかもしれない。今は慎重に動いた方が良いかもね」

 

「あ、あぁ。そうだな……」

 

 こうして、話し合いは終わった。

 

 

 

 

 

 異世界召喚という超常的な展開があったため、精神的な疲労がある。明日からはステータス確認というものがあるため、それぞれの部屋へと戻ることにした。

 

「……ハジメ君」

 

「ん? どうし―――」

 

 その瞬間、香織はハジメにキスをした。それも頬ではなく唇である。

 

「……ふふ、少し安心できたかも。おやすみ!」

 

「お、おやすみ……」

 

 呆然とするハジメに、幸利と浩介が取った行動は……。

 

「「リア充まじマルマイン」」

 

「2人して両手で中指立てないでよ!? ポ〇テピピックの表紙みたいだよ2人とも!? あと変な言葉作るなー!」




「リア充まじマルマイン」とは、清水と遠藤が作った、リア充爆発しろのポケモンバージョンです。

次回こそ、ステータスプレート回です。原作とはちょっとステータス内容が違うかもしれません。


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ハジメのステータス

感想とか貰えると、やっぱりモチベーションが上がって調子よくなりますね。皆さん本当にありがとうございます。

ステータスに関してはかなり迷いましたが、色々と考えた結果、こうなりました。

追記:ラストのアイテム名、間違ってたので直しました。本当に申し訳ありません!


 翌日。ハジメ達は城の敷地内の広場に集まっていた。教皇イシュタルが言うには、地球出身のハジメ達はトータスの人間に比べてかなり力が強いらしい。更に特別な力もあるらしく、それを明らかにするためにステータスプレートと言うものを配るという事だった。

 全員に銀色の小さな板が配られると、騎士団長のメルド・ロギンスが説明した。

 

「全員渡ったな? このステータスプレートは身分証明にもなるから、失くすんじゃないぞ?」

 

「(再発行できるアーティファクトって、価値が薄く感じちゃうなぁ)」

 

 ハジメの中のアーティファクトとは、大昔に作られた神聖な道具というイメージだ。この世界でも概ねその通りなのだが、ステータスプレートは再発行できると言うため、ありがたみが薄い。

 

「小さな針があるだろ? 其処に軽く指を刺して、魔方陣に血を垂らしてくれ。そしてステータスオープンと言えば、能力が表示されるからな」

 

 なお、メルド曰く「これから戦友になるのに他人行儀はむず痒い」との事。気楽に接してくれる方がハジメにとってもありがたかった。

 

「(さて、この世界における僕はどれくらいのものか……)」

 

 針の痛みに少し顔をしかめたが、血を一滴垂らしてステータスオープンと声にする。

 

 

――――――――――――――――――――――――――――

南雲ハジメ 17歳 男 レベル1

 

天職:錬成師、魔物学

 

 

筋力:15

 

体力:???

 

耐性:10(+???)

 

敏捷:10

 

魔力:10

 

魔耐:10(+???)

 

 

技能:言語理解(真)、錬成、回避行動、背面取り

――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 ハジメはポカンとした。何故か体力は「?」になってるし、耐性と魔耐に至っては条件で追加されるかのような表記になっている。言語理解も、他のクラスメイトと違って「(真)」と付いている。

 

「ステータスは日々の鍛錬で上昇するし、魔法や魔法具でも上げることが出来る。また、魔力の高い者は他のステータスも高い傾向にあるが、これは魔力が他のスペックを無意識的に補助してるのではないかと言われているな」

 

「(すみませーん、魔力が低いのに体力が表示されないのは何故ですかー?)」

 

「あと、お前たちには専用装備を選んでもらうから楽しみにしておけよ! 救国の勇者御一行だから、国の宝物庫も大開放だ!」

 

「(およ、専用装備? 国の宝物庫なら、何かポケモンに関する道具があるかも。それこそ“たいせつなもの”みたいな道具が)」

 

「次に、天職についてだ。これは言うなれば才能と言うやつだ。ステータス表記の一番下にある『技能』って奴と連動していて、その天職に関して無類の才能を発揮する。天職持ちは少なくて、戦闘系と非戦闘系に分けられるんだが、戦闘系の天職は本当に希少だ。万人に一人という割合だと思えば良い。それに比べれば非戦闘系は百人に一人ほどの割合だが、それでも少ないな。天職持ちだけで凄いとも言える」

 

「(おっと、僕は非戦闘系か。まぁ死にたくないし、香織を泣かせたくないから良いんだけどね)」

 

「各ステータスは、まぁ見ての通りだ。レベル1の平均は大体10くらいだが、お前達なら数倍から数十倍は高いだろうな! さて、ステータスを確認したら俺に報告してくれ! 訓練の参考にするからな」

 

 そうして最初に報告したのは、我らが勇者(笑)の光輝である。

 何と彼は、全ステータスが100な上に、天職は「勇者」というまさに主人公ステータスであった。更に技能も、限界突破とか全属性耐性など、チートofチートと言えるような能力ばかりである。

 

「ほぉ、レベル1の段階でこれか。技能も普通は2つか3つくらいなんだが……流石だな!」

 

「いやぁ、えへへ……」

 

 そして、次々とクラスメイト達がメルドに報告するが、聞く限りでは誰もがチートを持っている。それは香織や幸利、浩介も例外ではなかった。

 

「(いよいよ僕の番か……。こう言うのはコソコソしたら負けだ。堂々としてないとね)」

 

「お、最後は坊主か。どんなステータスだった?」

 

「こちらです」

 

 メルドに見せると、「ん? 見間違いか?」と呟きながら、ステータスプレートを何度も見る。最後の最後で平凡と異常が混ざったような数値を見せられて困惑してるのかもしれない。

 

「錬成師と言うことは、鍛冶か。だが魔物学……初めて聞くな」

 

「そうなんですか?」

 

「あぁ。体力も数値化されてないし、耐性にプラスが付いているのも気になる。言語理解(真)と言うのも初めて見たな」

 

「あの、僕ほかの人に比べて筋力の数値が低いから、訓練とか参加しても付いていけるかどうか……」

 

「そうだな……。坊主はサポートに回ることになるだろうから、図書館の使用許可などを申請してみよう。戦いというのは腕っぷしだけじゃなく、参謀役も必要だからな」

 

「ありがとうございます」

 

 一礼してから、集団へ戻っていくハジメ。周りが何かヒソヒソと言っているが、無視するのが賢明だろう。

 

「おい南雲! お前、訓練に付いていけないってことはステータスしょぼいんだろ? 見せてみろ、よ!」

 

「ちょっ!」

 

 突然、檜山かニヤニヤしながらハジメのステータスプレートをひったくった。そしてステータスを見た瞬間にゲラゲラと笑い出す。

 

「ギャハハハ! おいおい筋力15とかしょっぺぇ~! 耐性も魔力も低いし、体力なんて酷すぎる数字だから表示されねえんじゃねえの? ギャハハハ、腹いてぇ!」

 

「天職も錬成師とか、戦えねえ役立たずじゃねえかよ! ギャハハハ!」

 

 更にその取り巻きまでもが、檜山と共に笑いだす。その光景に香織が動こうとしたが、それより前に愛子が動いた。

 

「こらー! なに人のことを笑ってるんですか! 先生許しませんよー!」

 

 だが、あまりに威厳の無い姿に毒気を抜かれた檜山は、舌打ちしてハジメにステータスプレートを投げ返した。何とかキャッチすると、愛子が近付いてくる。

 

「南雲くん、大丈夫ですよ。私も非戦闘系の天職ですし、お互いに頑張りましょう!」

 

 そう言ってステータスプレートを見せてくれたが、魔力は100もあり、技能は「天職:作農師」に関連した物が10個以上もあるため、十分チートである。

 

「先生、そう言うフォローは却ってキツイです……」

 

「うぇ!? あ、ごめんなさい!」

 

 何とも締まらない形で、ステータス確認は終わったのだった。

 

 

 

 

 

 国の宝物庫が開放され、クラスメイト達は思い思いに武器を取っていく。ハジメは、檜山達に「非戦闘系に武器なんか要らねえだろ」と馬鹿にされたが、それを無視して宝物庫の中を物色していく。

 

「…………ん?」

 

 ふと目に入ったそれは、ハジメの思考を徐々に驚愕で満たしていった。

 

「(まさか“コレ”があるなんて! てことは、やっぱり居るんだ!)」

 

 ハジメは、迷いなくそれを取った。馬鹿にされているのを見て心配していたメルドは困惑する。

 

「ぼ、坊主? お前ほんとうに“それ”を取るのか!? 何時からあるのか分かってない、むしろ宝物庫の中で最も価値がないと言われてる代物だぞ!?」

 

「大丈夫です、団長。残り物には福があるって言葉が、僕たちの世界にはありますから」

 

 手に取った物を見て、クラスメイト達はクスクスと笑っていた。一部を除いては。

 

「(ハジメが考えなしに行動する筈がねぇ。この世界にポケモンが居るってんなら、あれはポケモンに関する物なんだろ、ハジメ?)」

 

 ハジメの心の友、清水幸利。

 

「(ハジメは何か考えがある筈だ。馬鹿にされても構わないと思えるほどの物のはずだ、たぶん!)」

 

 同じく心の友、遠藤浩介。

 

「(あれは何なんだろう? 後で聞いてみようかな?)」

 

 恋人、白崎香織。

 

「(どういうつもりかしら? まさか錬成で直すつもり?)」

 

「(南雲は、あれに何か感じたのか?)」

 

 クラスでハジメの事を馬鹿にしない数少ない人間、八重樫雫と坂上龍太郎だった。

 

 周りの様子を気にせず、ハジメは微笑んだ。

 

「(来るべき時の為に、持っておかないと。そうだ、あの言葉を唱えてみよっかな)」

 

 

 ハジメは 朽ちた剣朽ちた盾 を手に入れた!

 

 




凄くどうでも良い話ですが、私、病気の関係で薬を飲んでいて、その薬が血糖を上げる副作用があるために、血糖値を計測すると言う経験をしたことがあります。
指先に針を刺して血を少し出して測ると言うものでしたが、刺す箇所によっては凄く痛いんですよね。
ありふれでのステータスプレートの回でも、やっぱりそう言う目に遭ったクラスメイトは居たのか、少し気になりました。

さて、ハジメが手にしたアイテムは何処で役に立つのか?
次回は……檜山達によるリンチか、ホルアド辺りまでを予定しています。

追記:アイテム名を直しました。申し訳ありません。


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リンチ

前話の最後で手に入れたアイテム名が間違ってた為、修正しました。申し訳ありません。

そしてポケモンの登場については、もう暫しお待ちを……!


 ステータスが明らかになってから数日。ハジメは図書館で、この世界についての勉強をしていた。ハジメの天職である錬成師を活かすには、鉱石など素材を知る必要があるからなのか、司書から歓迎された。

 

「(やっぱり、宗教が権力を持つとロクでもないことになるな……。この本も、か)」

 

 ハジメが読んでいたのは、エヒトに関する話だった。ポケモン好きなハジメにとって、ポケモン世界の創造神とはアルセウスである。だが召喚された時に見えた、アルセウスがエヒトに倒されると言う絵画を見て、トータスでのアルセウスの扱いが気になって調べていたのだ。

 

 その結果、真実かどうかはさておき、以下の事が分かった。

 

・元々トータスにおける創造神はエヒトである。

 

・そこへ、自らを神と騙るアルセウスが、エヒトに対して牙を向いた。

 

・エヒトは大きく傷つきながらも、アルセウスから力を奪い取って封印することに成功した。

 

・ところが、ある人間たちによる反逆が起こり、それによって、神の力の一部を奪われた。

 

・反逆者たちは倒されたが、今もどこかに彼らが奪った神の力が眠っている。

 

 ハジメとしてはこれが本当だとは思えなかったが、どの本もアルセウスを「神に刃向かった愚かな獣」として扱っている。内心怒りのままに破き捨ててしまいたかったが、そんなことをすれば図書館の利用を禁止されるかもしれないし、教会から始末されるかもしれない。ハジメはぐっと堪えた。

 

「(それにしても、魔物に関しても悪いことしか書いてないな……。どんな方法で攻撃してくるか、て事しか書いてないぞ)」

 

 例えば、はちのこポケモンのミツハニー。このポケモンはその名の通り、とても甘い蜜を作る。だが今読んでいる魔物図鑑には、風を起こして攻撃するとか、炎の攻撃が有効といったことしか書いていない。戦う分には良いかもしれないが、生態や人間へのメリットなどは全く書かれていなかった。

 

「(この世界は、ゲームのようなポケモン世界じゃない。僕のポケモンに関する知識が、どこまで通用するかだなぁ……)」

 

 勉強を切り上げ、司書に礼を言ってから図書館を出ていった。

 

 

 

 

 

 次にハジメは、人の少ない訓練場へやって来た。

 彼は図書館で勉強してばかりかと言うと、そうでもない。漫画に対する知識を応用して、錬成を攻撃手段にする特訓をしていた。主な参考作品は、漫画「〇の錬金術師」である。

 

「錬成!」

 

 イメージしやすいように両手を合わせ、そこから地面に両手をつける。そのまま地面に魔力を流し込んで錬成すると、狙った場所に大きな穴が開いた。

 

「よしっ! イメージ通り!」

 

 単なる落とし穴だとつまらないので、「穴を掘る(人間ver)」と名付けた。ポケモンの場合は本当に穴を掘って地中から攻撃するが、この場合は相手を落として身動きを封じるという物である。ゲームだったら素早さが下がる効果が付くだろう。

 

「錬成、ストーンエッジ!」

 

 穴を修復したあと、今度は先程よりも攻撃的な、地面から棘が生えるイメージで錬成する。毎日錬成の訓練をしてるため魔力のステータスも伸びてきてはいるが、それでも想像より狭い範囲でしか錬成出来ていない。

 

「想像と現実は違う、か……」

 

 そこから、人間版ストーンエッジを繰り返し、夕方になるまで特訓した。

 

 しかし、部屋へと戻ろうとする途中で、それは起こった。

 

「おーっと、足が滑ったぁ!」

 

「うわっ!?」

 

 突然檜山が足を出してきて、ハジメは転びそうになる。

 

「おいおい鈍くせぇなぁ、南雲ぉ?」

 

「そんなんじゃ足手纏いだからよ、俺たちで鍛えてやろうぜ?」

 

「信治やっさしぃ~! そんじゃあ一発目いくぜぇ! ここに焼撃を望む―――“火球”!」

 

 中野が火属性の魔法を放ってきた。魔耐や耐性のステータスは、条件付きで数値がプラスされる筈なのだが、まだ条件が開放されてないのかダメージは大きい。

 

「ぎゃあぁぁぁぁ!」

 

「思えばあの時も、俺たちの事をボコしてくれたよなぁ? ここに風撃を望む―――“風球”!」

 

「ぐふぅっ!?」

 

「おいおい、マジで弱すぎだわコイツ。こんな奴に俺たちは殴られたってのか、よ!」

 

「が、あぁ……!」

 

「偉そうにしてくれやがって、コイツ!」

 

「がはっ!」

 

「立てよ、オラ! 鳩尾ぃ!」

 

「ぐっ、ふっ……」

 

 風の塊を腹部に叩きつけられ、過去の仕返しと言わんばかりに檜山に背中を踏みつけられるハジメ。そこから次々と殴られ続けた。ハジメの意識が朦朧とし始めた頃に、救世主がやって来た。

 

「あなた達、何やってるのよ!」

 

「八重樫、さん……」

 

 雫を先頭に、龍太郎や光輝、香織がやって来た。流石の檜山たちも顔を青ざめる。

 

「ハジメ君、しっかり! 今治療するからね!」

 

「おうテメェ等、随分と派手にやったじゃねえか、あぁ?」

 

 天職に治癒師を持つ香織が急いで駆け寄り、治癒魔法をかける。ハジメの努力を知っている龍太郎が檜山たちを睨む。

 

「ち、ちげえよ! 俺たちは南雲を鍛えようとしてただけで……」

 

「その割には一方的だったみたいだけど?」

 

「それは、南雲があまりにも弱いから……」

 

「だからと言ってやり過ぎだ。俺たちは世界を救うために戦うんだぞ? その力をクラスメイトに向けるんじゃない」

 

 光輝に言われてしまい、悔しそうに黙る小悪党グループ。だが、彼はハジメにも顔を向けた。

 

「南雲も南雲だ。いつも皆が訓練してる時だけ図書館に行って本ばかり読んで、訓練してると言ってもほんの少しじゃないか。だから檜山たちが絡んでくるんだぞ?」

 

「ちょっと光輝! 何て事言うのよ! 悪いのは明らかに檜山じゃない!」

 

「雫、そう言って南雲を甘やかすのは良くない。地球とは違う世界だからこそ、一致団結するべきじゃないのか?」

 

「そうじゃないわよ! あなたの目線で物事を決めつけるなって、前に私言ったじゃない!」

 

「光輝、その言い方は無いぜ。南雲だって錬成で戦おうと努力してるんだぞ?」

 

 雫と龍太郎がハジメを庇おうとするが、光輝は聞く耳を持たない。幼馴染みのあんまりな言い方に、香織もカチンと来たのだが、傷の癒えたハジメが手で制した。

 

「ありがとう、香織。もう良くなったから大丈夫」

 

「ごめんね……気付かなくて……! それに光輝くんが本当にごめんね……!」

 

「大丈夫さ……僕は僕なりにやってるからさ。あいつの言葉に怒るのが、体力の無駄だよ」

 

 泣きそうになる香織を軽く撫でると、立ち上がって歩き始める。

 

「南雲。次からは真面目に訓練に……」

 

「君の訓練は剣を使ったりするでしょ? 魔法が向いてる奴に、剣の訓練をやらせようとするのが間違いじゃないの?」

 

――君みたいに完璧じゃないんだからさ。

 

 そう言ってハジメは自室へと戻っていった。




次回、ホルアドでの香織とのやり取りと、迷宮探索。絶対にポケモン出します!


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月夜の慟哭と迷宮探索

いよいよポケモンとの戦いですが、人間の武器でポケモンが傷つけられるシーンがあります。ご注意ください。


 ハジメ達は、オルクス大迷宮と呼ばれる場所に近い、宿場町ホルアドへと来ていた。いよいよ、実戦の時が来たのである。

 

「大迷宮となると、洞窟かな? だとしたら居そうなポケモンは、ズバットにイシツブテ、後はクリムガンもあり得そうだな。あいつは確か洞窟に住んでた筈だから」

 

 宿の部屋の窓から月夜を眺めつつ、明日の事を考える。ふと目を向けると、もしものためとメルド団長から渡された、鞘に入ったナイフが置かれていた。流石にボロボロの剣と盾では、不安があったのだろう。

 

「このナイフと、僕の錬成で……明日はポケモンを傷つけるのか……」

 

 ハジメの記憶にあるのは、人間とポケモンが笑い合い、時に喧嘩しながらも前へと進む物語。だが今この目の前の現実では、本当に人間に襲いかかり、傷つけてくる存在だ。その事をハジメは否定しない。図鑑でも獰猛と説明されるポケモンは居るし、前世では未プレイだった「LEGENDSアルセウス」と言う作品のPVでも、ポケモンの技で主人公がダメージを受けると言うシーンを見たことがある。

 それでも、それでもだ。頭で納得していても、手に握るナイフに強い嫌悪感を抱いていた。

 

「そういう意味では、ポケモンを知らない皆が羨ましいよ……」

 

 その時だった。部屋をノックする音がした。

 

『ハジメ君、香織です。今入っても良いかな?』

 

「香織? うん、良いけど……」

 

 そうして入ってきた恋人の姿に、ハジメはぎょっとした。今の彼女は、ネグリジェ姿だったのだ。

 

「いや、ちょ、香織!? 何て格好をしてるのさ!」

 

「…………」

 

「……香織?」

 

 俯く香織に近付くと、突然抱き締められた。薄着だからこそ感じる女子の柔らかさに混乱するなか、香織は告げる。

 

「お願い、ハジメ君。明日は大迷宮に行かないで欲しいの!」

 

「……それは、何で? まさかとは思うけど、僕が足手纏いだから?」

 

「そんなこと無い! けど……嫌な夢を見たから……」

 

「夢?」

 

 彼女は夢の内容を話した。ハジメが闇の中を歩き、香織はそれを追い掛ける。だがどんどん彼との距離は遠くなっていき、ついに消えてしまうというものだった。

 確かに、予知夢だとしてもこれは最悪な内容だ。だがハジメには、引き下がれない理由があった。

 

「愛子先生の天職は非戦闘系だけど、食料に関する能力だから戦わなくても良いんだ。でも僕の場合は鍛冶職。僕の錬成する物が国に認められないといけない」

 

「そんな! それっておかしいよ! だって、ハジメ君は錬成の訓練で、騎士団の剣とか鎧の性能を上げたんでしょ!? それでも駄目なの!?」

 

 ハジメは最初、錬成の訓練も兼ねて騎士団の壊れた剣などを修復する作業をしていた。すると、憑依転生者としてなのか、それとも「本来の南雲ハジメ」に才能があったのか、彼の錬成技術は瞬く間に向上していったのだ。メルドを始めとした多くの団員が、彼に感謝している。

 

「でも、錬成師と言うのは、数少ない天職持ちの中ではありふれてる。しかも普通の人間でさえ、技術を極めたいわゆる職人がいる。酷く言うと『代えがきく』って奴なんだ。だから僕は、迷宮探索に参加しないといけない」

 

「……ポケモンって、色んな所に居るんでしょ? それこそ迷宮のような場所にも。ポケモンを傷つける事になるんだよ……?」

 

「……あぁ、本当は嫌だよ。大好きなポケモンをこのナイフで切りつけたくなんて無いし、僕自身戦って死にたくないよ! でもやらないと駄目なんだ! 右も左も分からないこのトータスで生きるためには、自分の価値を証明するしかないんだよ!」

 

 ハジメの視界が滲み、ポロポロと涙がこぼれ落ちる。彼の心は悲鳴を上げていた。何で好きなものが排斥される世界なんだ、何で命の危機を間近で感じなければいけないんだ。だが今の自分は非力だ。目の前の世界はとても残酷だ。少しでも考えるのを止めたら死ぬ、そんな世界だ。

 

 涙を流す恋人の姿に、香織も静かに涙を流した。好きな事について語る、子供のような無邪気な笑顔は、トータスに来てから消えてしまった。そんな彼の好きなポケモンも、架空ではなく現実として存在し、野生の生き物として牙を向く。自衛のためにも傷つけなければならないという状況に、彼はどれだけ精神的な苦痛を味わっているのだろう。

 

 だからこそ彼女に出来ることは、優しく抱き締めて、指で彼の涙を拭う事だけだった。

 

 

 

 

 

 翌日。ハジメ達はオルクス大迷宮へ到着した。だが迷宮の入り口前は、まるで観光名所のように賑わっており、受付まである程だ。

 何でも、魔物ことポケモンを倒すとアイテムをドロップするらしい。傷を癒す不思議な木の実や、滅多に採れない薬草、時には宝石とその種類は様々だ。道中にも鉱床があるらしく、それらで一攫千金を狙うために冒険者が多く集まるのだとか。

 

 迷宮に入ると、ヒカリゴケかそれとも特殊な鉱石のお陰か、中は意外と明るかった。奥へと進む途中、メルドが声を上げた。

 

「実戦開始だ! お前たち構えろ! まずは光輝たちから行け!」

 

「「「「はい!」」」」

 

 光輝、雫、香織、龍太郎が先頭に立った。昨夜の事もあって本当はハジメの側に居たかった香織だが、治癒師として他の生徒を治すためにも離れざるをえなかった。

 

 光輝たちが構えた先に現れたのは、ネズミの集団だった。

 

「あいつはコラッタだ! 1匹1匹は大したこと無いが、数で攻めてくるぞ!」

 

「(ちょっと待って!? あれって、アローラの姿のコラッタじゃないか! 何で迷宮に居るんだ!?)」

 

 30センチと言う中々大きなネズミの集団に、雫や香織は顔が青ざめる。いかにポケモンと言っても群れで、それも暗闇の中を赤い目が無数に光るというのは、けっこう恐怖である。

 

 そして、なぜ都市部に生息してる筈のアローラコラッタが居るのか。それは、先程の観光名所のようになった入り口が関係している。

 入り口前には、様々な屋台や店がある。そこで食料を買って迷宮に挑む冒険者も多い。ここのコラッタ達は、そんな冒険者の食料を奪って食べることを繰り返すうちに、グルメな性格へと変わったのだ。さらに、洞窟と言う暗い環境も相まって、夜行性でグルメなアローラコラッタへと変化したのである。

 

 戦闘に話を戻すと、コラッタは“でんこうせっか”で如何にも弱そうな香織へと突撃する。だがそこへ、眼鏡っ子の中村恵里が魔法で迎撃する。

 また、天職『拳士』である龍太郎は衝撃波を発生するアーティファクトで、次々とコラッタを数匹まとめて吹き飛ばしていた。

 雫は、宝物庫の中で刀に近い剣を選んでいたのか、抜刀術の要領で切り伏せていった。“かみつく”攻撃をしようと接近するコラッタ達は、一気に倒される。

 そして光輝は、聖剣と呼ばれるバスターソードのような武器を振るい、コラッタ達を纏めて切り付けていった。彼の剣は、敵を弱体化させて自分の能力は向上するという、嫌らしい性能をしている。だが、光輝の攻撃を受けたコラッタ達だけが、他の個体と比べて大きくダメージを受けてるように見えた。

 この現象を、ハジメは冷静に分析していた。

 

「(光属性が付与されてるとか言われてた気がするけど、悪タイプを持ってるアローラコラッタ達が大ダメージを受けてる。……なるほど、あれはフェアリータイプによる光なのかもしれない)」

 

 更に言うなら、龍太郎の攻撃の仕方は完全に格闘タイプである。タイプ相性が有利なチートキャラが2人もいたのが、アローラコラッタ達の不運だろう。

 

 あっという間に倒されたコラッタ達だが、群れの威圧感は消え失せていた。

 

「魔物たちは、衰弱すると小さくなって逃げてしまう。それを無理に追撃する必要はない。体力の無駄な消耗になるからな」

 

「メルド団長、あれ程の群れだとリーダーが居ると思うんですが」

 

 ハジメがそう言うと、メルドはよく気付いたと言うような笑みを浮かべた。

 

「坊主、なかなか鋭いな。この先に、今の群れのリーダーである、ラッタが居る可能性がある。全員警戒して進むんだ!」

 

 そうして進んでいくと、先程よりも大きく、太ったネズミが見えた。

 

「あれがラッタだ! 奴の前歯は鋭いぞ!」

 

「ヂュウウウウ!!」

 

 太った見た目とは裏腹に素早い動きで、先頭の光輝達へと迫るラッタ。見た目とは違った動きに一瞬止まった光輝たちだったが、護衛の騎士が盾を構えて割って入ったため、被害は無かった。しかし前歯が盾に命中したときに「ガァァァン!」と音が響いた事と、その盾が少し抉られた事に、生徒たちは驚きを隠せなかった。

 後方でそれを見ていたハジメは、出来る限りの知識を総動員して技を分析していた。

 

「(今のは、たぶん“ひっさつまえば”だ)」

 

 すると、ラッタが何やら力を溜める動作をし始めた。

 

「(何だ? 何か能力を上げる技? ここはまだ浅い階層だから、レベルは低い筈。だとしたら……“きあいだめ”か!)」

 

 この時ハジメは知らなかったが、このようにポケモンの技に関する知識がスラスラと出ているのは、前世の記憶と、天職『魔物学』による影響である。

 ハジメの前世は、いわゆるエンジョイ勢と呼ばれるプレイであった。よってその知識は、ポケモン図鑑や公式設定による、生態に関する内容がメインである。天職『魔物学』は、それに追加してポケモンの技への知識を与えているのだ。

 

「まずい! 谷口さん、結界を張って! 何か大きな攻撃をしてくる! 早く!」

 

「え!? わ、分かった!」

 

 クラスのムードメーカーでもある谷口鈴に結界を張るように大声で頼むと、南雲だからという理由で拒否すること無く、詠唱をして結界を張る。

 

「ヂュウウウウ、ラァッ!」

 

 すると、ラッタは大きく口を開け、その鋭い前歯を光らせて光輝に迫ろうとしていた。

 

「(“かみつく”攻撃だ! さっきので力を溜めているから、まともに食らうとマズイ!)」

 

「くっ、このぉ!」

 

「チュウッ!?」

 

 しかし、ステータスが元々高く、更に訓練によってそれが上昇した光輝にとって、その動きは隙だらけだった。鈴の結界によってダメージを受けることはなく、そのまま剣でラッタを切り裂いた。

 

「チュ、ウッ……」

 

 そのまま姿を消したと思わせるほどに小さくなった事で、戦いを終えた。

 

「………………」

 

 その光景が、今のハジメを複雑な気持ちにさせた。

 




人間側のステータスにあるレベルと、ポケモンの強さのレベルは一致しません。そう設定しました。そうしないと人間側がポケモンに蹂躙される可能性大なので……。

次回はいよいよ、運命の分岐点です。


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感想をもらってモチベーション上がったので、本日二度目の投稿です。


 道中ポケモン達を蹴散らしながら進む光輝たちだったが、昨夜ハジメが予想した通り、洞窟に生息するポケモンが多かった。

 例えばズバットの群れであったり、ヤミラミの姿も見えたのだが、光輝たちの敵では無かった。全員に戦いを経験させるというメルドの言葉で交代しながら全員が戦った。しかし、その戦績が振るわないと言うか、動きがぎこちないのは、やはりハジメだった。

 

「……錬成」

 

 ハジメは淡々とした口調で、ストーンエッジをイメージするように棘を生やして、ズバット達を攻撃する。仲間が倒れたことに恐怖したのか、残りのズバット達は逃げていく。

 

「錬成にそんな使い方があったとはな……。魔物に対する知識も豊富だし、お前は頭が良いな!」

 

「……ありがとうございます」

 

 メルドの言葉に喜びたくないハジメだったが、そんな彼を察したのかメルドは頭に手を乗せる。

 

「……だが、無理はするな。聞けばお前たちの世界は平和で、生き物を傷付けることも無いそうじゃないか。本当に辛かったら、俺に言ってくれ」

 

「……はい」

 

 その言葉にほんの少しだけ心が軽くなっていたハジメだが、それを面白くなさそうに睨む男がいた。檜山だ。

 

「(クソッ、クソッ! キモオタの癖に一丁前に褒められやがって! あんな弱そうな奴の恋人が()()だなんて、ふざけんな本当によぉ!)」

 

 後列へと戻っていくハジメに、「大丈夫?」と声を掛ける香織。それに対してありがとうと応えるその姿すら、檜山にとっては忌々しいものだった。

 

 

 

 

 

 そして二十階層へ進むと、鍾乳洞を思わせる空間に出た。辺りには岩が転がっているが……。

 

「気を付けろ! 岩に擬態しているぞ!」

 

 メルドの警告と同時に、近くの岩が突然転がりだした。鈴が急いで結界を張ると、それに弾かれる。そしてその正体を露にした。

 

「ゴローン! てことは、今のは“ころがる”攻撃か!」

 

 すると、ゴローンは近くの石を掴んで投げてくる。“なげつける”攻撃だ。しかも投げつけてきたのは只の石ではない。

 

「イッシ!」

 

「え!?」

 

 なんと、それはゴローンの進化前であるイシツブテだったのだ。まさかポケモンを投げてくるとは思わず、固まってしまう香織。

 

「香織! はぁぁぁ!!」

 

 いち早く動いたのは雫であった。剣を素早く抜き、切るのではなく弾くように振るう。

 

「(くっ、確か南雲君の描いていたポケモンかしら? 硬いわね……!)」

 

「ゴロロロロロ!」

 

「え、嘘!?」

 

 だが、それもフェイクだったのか、今度は“ロックブラスト”を放とうとするゴローン。何もない所から岩を作り出す、まさに魔法のような攻撃。今まで“たいあたり”など、本当に動物のような行動が多く見られたからこそ起きた、非常識な光景による驚愕。それが雫の動きを止めてしまった。

 

「(まずい、このままじゃ八重樫さんも香織も危ない! 助けるためには、ゴローンに攻撃するしか……でも!)」

 

 前世の頃から好きだったポケモンと、自分にとって愛しい人とその友人。2つが天秤に掛けられた。

 

「ぐっ…………くううっ! 錬成!!」

 

 ハジメは駆け出した。ゴローンが香織と雫を狙ってる以上、「恋人とその友人を守る」と言う感情で動いたのだ。

 “穴を掘る(人間ver)”でゴローンを足止めすると、龍太郎に声をかけた。

 

「岩のようなポケ……魔物は、水や草の魔法、そして格闘攻撃なんかが有効だ! 坂上がアタッカーになってくれ!」

 

「南雲、お前そこまで調べて……。分かった、任せろ!」

 

 穴にはまって思うように動けないゴローンは、龍太郎の格闘攻撃によって倒された。それがリーダー格だったのか、イシツブテや他のゴローン達はジリジリと距離を取る。

 

「(僕たちを脅威と感じて、距離を取ってる。それで良いんだ。これ以上、無闇に戦いたくない)」

 

 その時だった。

 

「よくも香織と雫を……! 許さない!」

 

「え!?」

 

 驚きで動きが止まったのを、「怖くて動けない」と勘違いした光輝が、聖剣を構え始めたのだ。

 

「万翔羽ばたき、天へと至れ――“天翔閃”!!」

 

「待て、馬鹿者!」

 

「止せぇ!」

 

 その瞬間、光が巨大な斬撃となって放たれた。狭い場所だからかポケモンたちは巻き込まれる。

 光が晴れると、ポケモン達の姿は無かった。光輝は息を吐くと、イケメンスマイルで振り返り、もう大丈夫だと声をかけようとした。その瞬間、その頭に拳骨が落とされる。

 

「へぶぅ!?」

 

「この馬鹿者が! 逃げようとしてる奴に無駄に魔力を使ってどうする! しかもこんな狭い空間で大技を放って、崩落でもしたらどうするんだ! 仲間を殺す気か!」

 

「す、すみません……」

 

 逃げようとしたポケモンに攻撃をしたことを咎めてくれたため、ハジメは何も言わなかった。だが小声で悪態はついてやった。

 

「逃げる奴にトドメをさすのが、お前の思う『勇者さま』のやり方かよ」

 

 その時だ。香織が、先程の攻撃で壊れた壁の向こうに何かを見つけた。

 

「あのキラキラしてるの……何だろう? 宝石……?」

 

 それは、壁に埋もれてはいるが、とても大きな宝石だった。メルドがそれを見ると、驚きのあまり目を見開いた。

 

「何と……こんな所に、金剛石があるとはな……!」

 

「金剛石って、つまりダイヤモンド!?」

 

 生徒たちはざわめきながら、巨大ダイヤモンドをひと目見ようと近付こうとする。

 

「こらこら、無闇に近付くんじゃない! もしトラップだったら……」

 

「俺たちで回収しようぜ!」

 

 メルドが注意しようとしたタイミングで、生徒たちの間を掻い潜った檜山が、一気にダイヤモンドへ近付いた。

 

「待て! 安全確認がまだ―――」

 

 その時、フェアスコープと呼ばれる罠を調べる道具でダイヤモンドの周りを確認した騎士団員の1人が、顔を青くして報告する。

 

「団長、トラップです!」

 

「なっ、やはりか!」

 

 メルドが退避を呼び掛けようとしたが間に合わず、辺りを魔方陣から放たれる白い光が包んでいった。

 

 

 

 

 

 光が収まると、ハジメ達がいたのは巨大な石橋の上だった。手すりといった物も無く、足を踏み外せば底の見えない闇へとまっ逆さまだ。転移した状況に最初はポカンとしていた生徒たちだったが、メルドを始めとする騎士がすぐに動いた。

 

「階段へ急げ! 何が起こるか分からんぞ!」

 

 慌てて階段へ走ろうとする生徒たち。ところが、その目の前で魔方陣が大量に展開され、光り始めた。

 そこに現れたのは、牛の頭蓋骨のような物を被った、骨の棍棒を持つポケモン……ガラガラだった。

 

「まずい、数が多すぎる! お前達! 連携して……」

 

 その時、ズシン!と足音が聞こえ、メルドは思わず振り返る。そこに居たポケモンの名を、ハジメは呟いた。

 

―――サイホーン……

 

 それも、ハジメの想像よりも大きく、目が赤く光っている個体……オヤブンと呼ばれる個体である。

 




トラウムソルジャー枠はガラガラ、ベヒモス枠は親分サイホーンになりました。
さてさて、ハジメはどう戦うのか。次回をお楽しみに。


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運命の分岐点

いつも書き終えたら12時ちょうどに投稿できるようにしていたのですが、今回は思ったより書けず遅れてしまいました。申し訳ないです。


 サイホーンの姿を見た瞬間のメルドの動きは迅速だった。

 

「アラン、生徒達を率いてガラガラの群れを突破しろ! カイルとイヴァンとベイルは、全力で障壁を張れ! 光輝たちは撤退するんだ!」

 

「待って下さい、俺たちも戦います! あのサイみたいな奴がヤバいのでしょう!? なら俺たちも!」

 

「馬鹿者! 今のお前達では、サイホーンを相手にするのは無理だ! 最強と謳われた冒険者ですら倒せなかったんだぞ!」

 

「ですが、置いてなんて行けません!」

 

「こんな時に我が儘を……!」

 

「ブルォォォォォォ!!」

 

 サイホーンが大きく咆哮し、前足で地面を軽く蹴り始める。明らかに突進する合図だが、あの巨体ではあっという間に全滅するだろう。

 

「「「全ての敵意と悪意を拒絶する、神の子らに絶対の守りを、ここは聖域なりて、神敵を通さず―――“聖絶”!!」」」

 

 騎士団員たちが長い詠唱を終えて、時間は短くともあらゆる攻撃を防ぐ障壁を展開する。それと同時にサイホーンが一気に突進してきた。

 もしハジメが見ていたら、魔物学によってその技を“スマートホーン”と判断していただろう。

 

 

 

 

 

 その頃、生徒たちはパニックになりながらガラガラに攻撃をしていた。しかし65階層に相当する此処のガラガラたちも、それなりにレベルが高い。魔法攻撃を骨で弾き、お返しにと骨で殴ってくる。まだ技を放ってないあたり、本能で生徒達を格下だと見たのだろう。

 

「みんな落ち着け! 訓練での連携を思い出すんだ!」

 

「あいつには水属性の魔法が効く! だから落ち着いて!」

 

 護衛の騎士アランが大声で呼び掛けても、ハジメが対抗策を叫んでも、混乱は収まらない。そこへ一体のガラガラが骨に力を溜め始めた。格下を相手に戦うのが面倒になったのか、技で倒すつもりのようだ。

 

「(骨が光ってる……? “ボーンラッシュ”か“ホネブーメラン”を放つつもりか!)」

 

 そのガラガラの近くに居たのは、園部優花。

 

「あっ…………」

 

 優花は恐怖のあまり足腰の力が抜けて、へたり込んでしまう。ガラガラの睨むような目付きが、彼女に死を悟らせてしまった。

 

「(私……死ぬんだ……)」

 

 “ボーンラッシュ”が放たれる……その時だった。

 

「錬成ぇぇぇっ!!」

 

「ガラァッ!?」

 

「え……?」

 

 突然、地面から棘のようなものが飛び出し、ガラガラを突き飛ばした。その攻撃をしたのは……ハジメだ。

 

「立てる!?」

 

「え、あ……」

 

「しっかり! 僕よりステータス高いんでしょ!?」

 

 優花の腕を引っ張って立たせると、更に錬成を駆使してガラガラの群れを突き飛ばしていく。

 

「あ、ありが―――」

 

「もう、こんな時に天之河は何やってんだよ!」

 

 お礼を言おうとした優花だったが、ハジメは真剣な顔のまま、未だにメルドと問答をしている光輝のもとへと向かってしまった。優花は名残惜しそうだったが、すぐにガラガラとの戦いに戻った。

 

 

 

 

 

 サイホーンが突進を繰り返しており、障壁にどんどんヒビが入っていく。メルドはその事を察して光輝を説得する。

 

「もうもたないぞ! 光輝、早く撤退するんだ! お前達を死なせる訳にはいかないんだ!」

 

「嫌です! メルドさんを置いていく訳には行きません! 皆で絶対に生き残るんです!」」

 

「こんな時に我が儘を言うな! 力量の差を見ろ!」

 

「光輝、メルドさんの言う通りよ! ここは退くべきよ!」

 

「そうだぜ光輝! 俺でも分かる! アイツはヤバい!」

 

「みんなどうしたんだ!? 俺たちは世界を救わないといけないんだぞ!」

 

「いい加減にしてよ光輝くん! 私たちじゃ勝てないってメルド団長も言ってるんだよ!?」

 

「香織まで……! いや、大丈夫だ! 怖がる事なんて無い! 俺たちなら勝てる!」

 

 自分の力に過信してるのか、根拠もなく戦おうとする光輝。雫の怒りが頂点に達しようとした、その時だった。

 

「何やってんだよ!」

 

「南雲、何で此処に!? ここは君の出る所じゃ――」

 

「もっと後ろも見ろよ! リーダーが居ないからみんなパニックになってる! 皆を守るって言ったよね!? なら、皆を落ち着かせてよ!」

 

 ハジメの言葉に一瞬詰まるも、何かを言い返そうとした時だった。

 

「下がれぇぇぇ!!」

 

 その瞬間、再び“スマートホーン”を放ったのか、最後の障壁が砕け散った。ハジメが咄嗟に壁を錬成した事で威力は下がる。

 

「……僕が足止めします」

 

「なっ! 坊主、無茶だ!」

 

「足止めだけです! それに、僕の知識が正しければ、アイツは今突進することしか考えてない。足元を崩せば時間稼ぎくらいは……!」

 

 ハジメは、自分の錬成を岩・地面タイプの技と認識している。サイホーンは地面・岩タイプのポケモンであるため、“穴を掘る(人間ver”で足止めすることを考えたのだ。

 

「……分かった。必ず助けるからな!」

 

 メルドは光輝の襟首を掴んで引き下がる。

 

「ハジメ君!」

 

「香織……必ず戻るから!」

 

 両手を合わせ、地面に手をつける。

 

「錬成ぇ!!」

 

「グオオッ!?」

 

 前足をつけている足元に穴が開き、地面に頭を打ち付けるような姿勢になるサイホーン。

 

「人間版ストーンエッジぃ!!」

 

 前のめりに近い姿勢になった所を更に錬成し、サイホーンの背中を押さえつけるようにした。

 

「お前達、坊主を援護しろ!」

 

 メルドと光輝によってガラガラ達を撃退出来た生徒たち。ところが、メルドの言葉に戸惑う。

 

「みんなお願い! ハジメ君が1人で戦ってるの!」

 

 香織の言葉で石橋の方を見ると、ハジメがサイホーンを足止めしているのを見た。

 

「あの化け物が埋まってる……?」

 

「あの南雲がやったの……?」

 

 その戸惑いがサイホーンにチャンスを与えてしまった。穴から抜け出し、押さえつけていた錬成物を破壊すると、ハジメを睨み付ける。

 

「やばっ……!」

 

「グルオアァァァ!!」

 

 再び攻撃しようとするサイホーン。ハジメは咄嗟に逃げようとする。

 

「お前達なにをやってる! 坊主の脱出を手伝え!!」

 

 メルドの一喝で、生徒達は魔法の詠唱を始める。風や炎など、タイプ相性を考えてはなかったが、足止めするには十分かもしれない。

 

「ハジメ君、早く!」

 

「ハジメ、急げ!」

 

 香織や幸利が叫ぶ。多くの魔法が放たれる中を、ハジメは走り続ける。

 

 その時だった。

 

「グオオオオオオ!!」

 

 ハジメを逃がさないと言わんばかりに咆哮をあげると、何と小さくジャンプして大きな振動を与えた。

 

「(しまった……“じならし”か!)」

 

 その振動で大きく体勢を崩して、走るのが止まってしまうハジメ。

 

 

 そこへ1つの魔法がハジメに迫り……直撃した。

 

 

 魔耐のステータスが低いハジメは、大きく吹き飛ぶ。

 

 それと同時に、ハジメの錬成と“じならし”の影響で脆くなった橋が崩れ始める。

 

「(みんな……香織……!)」

 

 手を伸ばすも、ハジメの体は奈落へと向かっていった。

 




ハジメ、奈落へ。しばらくはハジメ視点の話を書くつもりでいます。


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初めての相棒

お、お気に入り登録者数が100人を突破……! 本当にありがとうございます!

今回で、いよいよハジメが相棒ポケモンをゲットします!


「う、あ……」

 

 水の音で目を覚ましたハジメは、ゆっくりと起き上がる。

 

「あの橋から落ちたんだよね……?」

 

 どうやら地下水脈に落ち、そこから流され続けていたようだ。そして運良く陸地に流れ着いたらしい。ハジメが辺りを見回すと、天井の高い空間が広がっている。かなり広い洞窟のようだ。

 

「何処まで落ちたんだろう……。とにかく、今は体を休ませなきゃ」

 

 濡れた服を出来るだけ絞ると、ゆっくりと慎重に歩き始める……その時だった。

 

「グルルル……」

 

「っ!」

 

 鳴き声のした方へ思わず顔を向けると、そこに居たのは……。

 

「さっきのサイホーン!?」

 

 しかしその鳴き声はか細く、間近で感じた野生のオーラとも言うべき気迫は感じられなかった。

 

「まさか、地下水脈で流れた事がダメージになってるのか……?」

 

 サイホーンに水タイプの技は効果抜群。水に長時間晒された事が、彼を大きく弱らせているようだった。

 

「グオォォ……」

 

「…………」

 

 ポケモン好きとして、純粋に助けたいと言う気持ちがある。

 だが、先程まで殺されるかもしれない戦いをしたのだ。助けたところを襲われるかもしれない。

 

「(駄目だ駄目だ! アニメのように仲良くなれる訳じゃない、ここは現実なんだ! もっと自分に厳しくしないと生き残れないんだ! しっかりしろ僕!)」

 

 首を振って、ギロリと目付きを鋭くしてサイホーンに背を向ける。しかし……。

 

――ポケモンを傷つけたくないよ!

 

「……っ!」

 

 昨夜、泣きながら香織にぶちまけた本音を思い出す。それによって生まれる戸惑い。

 

――好きなことを話す時の笑顔、私は好きだなぁ

 

「香織……」

 

 恋人が教えてくれた自分の良いところを思い出す。

 

「……弱虫だなぁ、僕」

 

 思わず自虐的な笑みを浮かべる。ポーチを漁ると、出てきたのはオボンの実。浅い階層でアローラコラッタやアローララッタを倒したとき、冒険者から奪ったものと思われるそれを落としていった。幸いにも、地下水脈を流れている間にポーチが無くなると言うことはなかったようだ。

 オボンの実を握り、ゆっくりとサイホーンに近付くハジメ。

 

「っ! グゥゥゥ……!」

 

「落ち着いて。今は動いちゃ駄目だ。もう君とは戦いたくない」

 

「グルルル……!」

 

「口開けて。この木の実なら、傷が治るよ」

 

 オボンの実を差し出すが、警戒しているのか口を開けようとしない。

 

「……毒だと思ってる? 大丈夫だって、ほら」

 

 その硬さに苦戦しながらも、一口かじる。辛味のないまろやかな味は、不味さを感じさせなかった。

 だが、それでもサイホーンは睨むばかりで食べようとしない。

 

「このままだと、死んじゃうんだよ?」

 

「ガウッ!」

 

 サイホーンには、オヤブンとしての意地があった。目の前の生き物から、施しを受けるのが我慢ならないのである。

 だが、思わず吠えたその声に反応するものが居た。

 

「キキキキキキキ!」

 

「っ! オンバット! しかもこんなに……!」」

 

 おんぱポケモン、オンバット。耳の大きなコウモリのようなその見た目通り、耳が良い。聞き慣れない音に、群れが引き寄せられたようだ。

 

「キィィィィ!」

 

「うっ、ぐうっ!」

 

 “ちょうおんぱ”が放たれて、その耳障りな音に耳をふさぐハジメ。その隙を突いて、一匹のオンバットが大きく口を開けた。

 

「ガブゥッ!」

 

「いっ、ぎっ……!」

 

 左腕を噛まれる。そこからチュウチュウと何かを吸う音がした。

 

「(しまった、“きゅうけつ”……!)」

 

 錬成して“人間版ストーンエッジ”をしようにも、地下水を流れて冷えきった体と、サイホーン戦によって蓄積した疲労、この2つが原因で体が思うように動かない。

 

「(まずい、意識が……)」

 

 

 

 

 

 サイホーンはその光景を見ていた。ここに落ちてくる前まで戦っていた人間が、オンバットに良いようにやられている。

 今まで、自分をそこまで苦戦させる人間は居なかった。突進を防がれる事はあっても、足元を崩されもがく羽目になった事は無かった。

 オヤブンとしての意地もあるが、そんな自分を苦戦させた人間に、情けを掛けられるような振る舞いをされたのが、気に食わなかったのだ。

 しかし今はどうだ? オンバットの群れに囲まれて、噛まれて翼で叩かれてとやられてばかりだ。

 

――まさかアイツも弱っていたのか?

 

 弱っていたのに、自分を助けようとした人間。ソイツが負けたら、苦戦させられた自分は何なのか。

 

「…………グルル」

 

 目の前に落ちている、一口かじられた木の実。それをサイホーンは口に入れて、咀嚼した。

 

 

 

 

 

 意識が朦朧とし始めたハジメ。流石の彼も死を悟り始めた、その時だった。

 

「ゴオオオオオオオ!!」

 

「キキィッ!?」

 

「キッ!?」

 

「キィィ!?」

 

 洞窟内にビリビリと響き渡る咆哮。耳の良いオンバットはそれに驚き、中には気を失って倒れる個体もいた。

 

「サイホーン……!」

 

「グルァァァ!!」

 

 “ロケットずつき”によって、低く飛んでいたオンバットが突き飛ばされていく。ハジメの側に立つと、彼を一瞥した。そして視線を残りのオンバットに向けると、“ロックブラスト”を放つ。

 

「キ、キキィ……」

 

「キュウ……」

 

 虫の息な筈のサイホーンが猛攻を加えたのを見て、その迫力に圧されたのか、オンバット達は退散していった。

 

「助けて、くれたの……?」

 

「グルル」

 

 まるで頷くかのような返しに、ハジメはクスリと笑った。

 

「ありがとう、サイホーン」

 

「グオッ!」

 

「サイホーン。この洞窟を抜ける為にも、君の力を貸してほしいんだ。僕も出来る限りサポートする。……一緒に行かないかい?」

 

「ガァァウッ!」

 

 サイホーンは大きく頷いた。

 

「ありがとう! これから宜しくね!」

 

 この時ハジメは、彼と何処か繋がったような気がした。

 彼はまだ知らないが、この時ステータスプレートが変化していた。

 

 

――――――――――――――――――――――――――――

 

南雲ハジメ 17歳 男 レベル3

 

天職:錬成師、魔物学、魔物使い

 

 

筋力:50

 

体力:1000

 

耐性:10(+990)

 

敏捷:50

 

魔力:70

 

魔耐:10(+990)

 

 

技能:言語理解(真)、錬成、回避行動、背面取り、魔物攻撃耐性

 

――――――――――――――――――――――――――――




はい、ステータスが完全にハッキリしました。耐久に極振りしたようなステータスです。
以下、箇条書きによる技能解説です。

魔物攻撃耐性:ポケモンからの攻撃を受けた時だけ、耐性と魔耐のステータスが上昇。本編の場合、(+990)が付与される。人間からの攻撃では発揮しない。その為に檜山たちによるリンチでは大きく傷付いた。

簡単に言えば、サトシが10万ボルト食らってもピンピンしてるような、スーパーマサラ人のような状態になりました。


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連携戦法

凄まじい勢いでお気に入り登録者数が増えてることに、驚きとモチベーションアップが止まらない私です。本当にありがとうございます!


 オンバットの群れから助けられ、サイホーンと相棒になったハジメ。撃退する時の咆哮で驚いているのか、野生のポケモンが襲ってくることは無かった。そのお陰で、今は体力を回復するために休むことが出来ている。

 

「少しでも体力をつけとかなきゃ。サイホーン、もう1個木の実を食べなよ」

 

「ガルルッ!」

 

「え? 僕も食べろって? じゃあ半分こね」

 

 今度はオレンの実を食べる。これも、浅い階層に居たアローラコラッタ&アローララッタが冒険者から奪ったのを、落とした物だ。オボンの実よりも硬く、ハジメの味覚ではあまり美味しく感じない。だが不思議と痛みがゆっくりと引いていくのを感じた。

 

 そこからハジメは、近くの岩壁を錬成で削り取った。その切り取った石を更に錬成して、頭の中でイメージする水筒の形にしていく。蓋はそれっぽく加工しただけなので、地球にあるような密封性の高い物ではない。だが、飲み水の確保が優先だった。

 水を汲み終えたハジメだったが、不思議なことに気が付いた。

 

「(石製だから重く感じると思ったのに、軽く感じる……。それにさっきのサイホーンと繋がったような感じ、何なんだろう?)」

 

 もしやステータスが変化したのではと思いステータスプレートを見ると、その変化に驚愕した。

 

 

――――――――――――――――――――――――――――

 

南雲ハジメ 17歳 男 レベル3

 

天職:錬成師、魔物学、魔物使い

 

 

筋力:50

 

体力:1000

 

耐性:10(+990)

 

敏捷:50

 

魔力:70

 

魔耐:10(+990)

 

 

技能:言語理解(真)、錬成、回避行動、背面取り、魔物攻撃耐性

 

――――――――――――――――――――――――――――

 

 

「嘘だろ……? 魔物使いって、つまりポケモントレーナーみたくなったってことか? 繋がったような感覚は、サイホーンが相棒になった事を意味してるのか? それに魔物攻撃耐性って、もしかしてオンバットに攻撃されても簡単に倒れなかったのって、これが関係してる……?」

 

 しかしハジメとしては、ポケモンの事を魔物と呼ぶ事に抵抗があった。だがステータスプレートがそう記してる以上、仕方の無い事だろう。

 

「……よし、出口を探そう」

 

 そうして歩こうとするのを、サイホーンが呼び止めた。

 

「ガァッ」

 

「ん? どうしたの?」

 

「グルル」

 

 少し屈んで、頭を上にくいっと動かす。

 

「もしかして、乗せてくれるってこと?」

 

「グウッ!」

 

「わぁ、ありがとう!」

 

 ゲームでもポケモンを移動手段として使う描写はあるが、それとは違って鞍が無い。そのためお世辞にも乗り心地が良いとは言えないが、体力を温存できるのでハジメにとって助かった。

 早速サイホーンに跨がると、休憩しながら決意していたことを語った。

 

「サイホーン。僕には、大切な恋人が居るんだ。そして僕の趣味と夢を笑わない大切な友達が居る。僕の夢を応援して手伝ってくれる親が居る」

 

 サイホーンは答えない。だがその声が決意に満ちていることは感じていた。

 

「みんなに会うためにも、何としてもこの洞窟を抜ける! だから前に進み続ける! 力を貸してほしいんだ、サイホーン!」

 

「グオオオッ!!」

 

 勿論だ!と言わんばかりの返事に、ハジメは笑みを溢した。

 

「行こう! 前進だ!」

 

 ズシンと音を響かせて、その一歩を相棒と共に踏み出した。

 

 

 

 

 

 

 道中、ダンゴロやガントルといった洞窟に住むポケモンと遭遇した。しかし1人と1匹は、錬成や地面技のコンビネーションを駆使して、それらを撃退していった。

 

――襲ってくるのなら戦う! 生きるために!

 

 今までウジウジとしていた「ポケモンを傷つけたくない」という悩みは、消え失せた。

 彼は独りじゃない。相棒が出来て、さらに待っている人達がいる。だからこそ戦う覚悟が出来たのだ。

 ポケモンが自然の理に従って襲い掛かるのなら、自分もそれに従って戦おう。野生のポケモン同士が縄張り争いで戦うように、自分の身を守るために戦うように!

 

 そうして進んでいくと、何やら聞き慣れない声がした為、サイホーンから降りて慎重に岩陰から覗き込んだ。

 

「(あれは、オンバーンか。あのオンバット達の親玉かな?)」

 

 スピーカーを思わせるような大きな耳を持つ、ワイバーンとも似たような姿のそのポケモンの名は、オンバーン。奈落に落ちたハジメを襲ったオンバットの進化形である。

 

「(確かオンバーンは、飛行・ドラゴンタイプ。僕たちの攻撃手段なら、岩タイプの攻撃が通るかな)」

 

 この時ハジメは、あることを実行しようとしていた。

 それは、技能の中にある「背面取り」というもの。あくまで襲ってきたポケモンだけを迎撃してきたため、あまりその技能を試せていない。だが、あのオンバーンは奥へと続く道に陣取っている為、戦いは不可避になるだろう。そのため少しでも有利に進めるために、不意打ちを狙っているのだ。

 

「(後ろを向け、後ろを……よし、今!)」

 

 その大きな耳は伊達ではなく、オンバーンは耳が良い。音を立てないように静かに両手を合わせて、地面に魔力を流して錬成する。

 オンバーンが野生の勘で振り向こうとしたが、一歩遅く“人間版ストーンエッジ”が背後に炸裂した。

 

「グキャァァァァァ!?」

 

「今だ、サイホーン! “ロックブラスト”!」

 

「ゴアァァァァッ!!」

 

 ゲームとは違い、現実での戦いはターン制ではない。不意を突かれて動けないオンバーンを、ハジメとサイホーンが畳み掛ける。

 

「“スマートホーン”!」

 

「ゴオオオッ!」

 

 角を光らせて突進するが、さすが奈落で生きているオンバーン。体勢を立て直し、“りゅうのはどう”を放ってきた。

 

「グウッ!」

 

 オヤブン個体だからか大きく傷つくことは無かった。しかしオンバーンの攻撃は止まらない。

 

「キィィィ!」

 

「僕を狙ってるのか!」

 

 オンバーンの翼が鈍く光り、“はがねのつばさ”で迫ってくる。その狙いは不意打ちをした下手人であるハジメだ。

 勢いよく突っ込んでくるオンバーン。ここでハジメは身構え、技能の1つを発動する。

 

「回避行動!」

 

 端から見れば明らかに当たっているであろう攻撃。しかし、まるでハジメの体をすり抜けたかのような現象が起こった。

 これが、ハジメの技能にある「回避行動」の効果。ポケモンの攻撃限定だが、これを発動した状態でダイブのような回避をすると、その攻撃を無効化出来るのだ。

 

「サイホーン、“ストーンエッジ”!」

 

「ゴオオオオッ、アァッ!」

 

「グキィッ!?」

 

 ハジメのとは違う、本家本元の“ストーンエッジ”が炸裂。オンバーンは大きく突き飛ばされた。

 

「キャアッ、キャアッ……」

 

 よろよろと飛びながら、逃げていくオンバーン。ハジメ達はそれを見届けるとお互いに頷いて、逃げた方向とは逆の、奥へと続く道へ歩き始めた。

 




爪熊ポジションはリングマ……ではなく、オンバーンでした。
いや、あの、言い訳させて下さい。
前の話でオンバットが出たので、親玉として進化形を出した方が良いのかなと思ったのが1つ。
もう1つは、LEGENDSアルセウスをプレイしていて、リングマは紅蓮の湿地のような、開けた場所が合うような気がしたのです。
リングマじゃねえじゃん!と思った方は、申し訳ありません。

また、蹴りウサギとか二尾狼は、奈落のような洞窟でこの2種類に該当するポケモンを思い浮かばなかったために、ダンゴロ等を出しました。


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奈落の探索(前編)

サブタイトル通りです。原作で言うなら、石化トカゲとタール鮫の辺りになります。ただ、ちょっとダイジェストのようにしたので、今回は短めです。


 オンバーンを倒して奥へと進むハジメとサイホーン。次のエリアでも、いわば階層主とも言えるポケモンと戦っていた。

 

「シャアァァァ!」

 

「僕は回避するから、サイホーンは“じならし”だ!」

 

「グオオオ!」

 

 相手をするのは、どくトカゲポケモンのエンニュート。ハジメ達を見ると、縄張りの侵入者と認知して襲ってきたのだ。ハジメは回避行動を取りつつ、サイホーンに指示を出す。すると先程までハジメが居たところに、尻尾による“ほのおのムチ”が放たれた。

 

「グルァァ!」

 

 そこへ、前足を強く踏み鳴らした事で地面が揺れ、衝撃波が生じる。毒・炎タイプであるエンニュートにとって、地面タイプの技である“じならし”は効果抜群だ。

 

「キ、キィィィ!?」

 

「サイホーン、気を付けて! やられるフリだ!」

 

 エンニュートがふらつきながらも口に紫色のガスを溜め込んでいるのを、ハジメは見逃さなかった。

 すぐに体勢を立て直すと、“どくガス”攻撃をしてきた。今度はハジメが援護する。出口までの距離が分からない上に、ポーチの木の実の数が限られているため、ここでサイホーンが毒状態になるのは避けたかった。

 

「錬成!」

 

 攻撃手段としての錬成では、穴を開けたり棘を生やす事がメインだった。しかしエンニュートと出会う前までは、その進化前のヤトウモリの群れと戦っている。その中で彼は、防御用の錬成も身につけていた。

 それが、足元の地面に魔力を流し込んで即席の壁を作ることだ。ガス攻撃であるため貫通されることなく、霧散していく。

 

「壁ごと突っ切るよ! “ドリルライナー”!!」

 

「ゴオオオオオ!!」

 

「ギイイイイイッ!?」

 

 その名の通りドリルのように回転しながらエンニュートを突き飛ばす。壁に大きく叩き付けられた彼女は、グルグルと目を回していた。アニメで言うなら戦闘不能だろう。

 

 

 

 

 

 その次のエリアは、当たり一面が砂だった。

 

「まって、もしかして此処って迷宮として作られたの!?」

 

 ハジメ、ここに来てようやく奈落も迷宮の一部なのだと悟る。とても洞窟とは思えない光景だからこそ気付けたと言えるだろう。

 砂漠を見てすぐに、ありじごくポケモンのナックラーが居ないか警戒したが、幸いな事に蟻地獄は見当たらなかった。

 

「でもナックラーやフライゴンより厄介かも……」

 

 その代わり、砂漠を悠々と泳ぐ鮫のようなヒレが見えた。ハジメの知識の中で砂漠を泳ぐ鮫のようなポケモンと言えば、1匹しか居なかった。

 

「ガァァァ!」

 

「やっぱりぃ! フカマルだぁ!?」

 

 りくザメポケモンのフカマルが砂から飛び出して、ハジメの腕に噛みついてきた。魔物攻撃耐性という技能を持っているため大きなダメージは無かったが、それでも鋭い歯が刺さって痛い。

 

「痛い痛い痛い! 離れてってばぁ!」

 

 腕をブンブンと振って、何とか離すことに成功する。だがハジメ達の周りを、他のフカマル達が取り囲むように砂中を泳いでいた。

 

「サイホーン、ダッシュ! 数の暴力はキツい!」

 

「ゴアァ!」

 

 すぐにサイホーンに乗り、ダッシュすることでその場を離脱した。

 

 ところが、そう都合よくいかないのが大迷宮である。

 

「ガァァァブ!」

 

「ガ、ガブリアス……!」

 

 フカマルがガバイトへと進化し、そこからさらに進化したポケモン。それが、マッハポケモンのガブリアスである。前世の記憶では、シンオウ地方のチャンピオンであるシロナが使ってくるイメージが強い。

 

「ガァァァ!」

 

「ぐっ、は……!?」

 

 マッハの名の通り凄まじいスピードでハジメに迫り、体当たりを食らわせた。魔物攻撃耐性があるとは言え、速度の乗ったその威力に体がミシリと嫌な音を立て、大きく吹き飛ばされる。

 

「ガッ!? オオオオオ!!」

 

 相棒が吹き飛ばされたことに驚きつつも、“ロケットずつき”で反撃するサイホーン。背後からの攻撃で思わずよろめくガブリアスだったが、すぐに立て直す。

 

「ガブウウウ!」

 

「ゴアっ!?」

 

 そして放つ“ドラゴンクロー”に、サイホーンは予想以上のダメージを受けた。

 

「ぐ、くうっ、錬成っ!」

 

 痛みを堪えて立ち上がったハジメが、“穴を掘る(人間ver)”で足止めしようとするも……。

 

「ガァブ!」

 

「げっ! “すなかけ”……って、(いった)い目がぁぁぁ!」

 

 砂を掛けられて軽くあしらわれた。

 

 そしてハジメが下した決断。それは……

 

「サイホーン、戦略的撤退!」

 

「グオオッ!」

 

 流石のサイホーンも勝てないと悟ったのか、ハジメの案に賛成した。

 大急ぎでガブリアスから離れようとするハジメ達。ところが、奴は最後にとんでもない攻撃をする。

 

「ガァァァァ……!」

 

「え? 何で口にエネルギー溜めてるの? 明らかに“りゅうのいぶき”じゃないよね!?」

 

「ガァッ!!」

 

「ちょ、ま、それ“はかいこうせん”……ギャアァァァァァ!?」

 

「グオオオオオ!?」

 

 直撃はしなかったものの、ハジメ達はその衝撃で大きく吹き飛んだ。

 幸運だったのは、その吹き飛ばされた先が次のエリアに続く道だったことだろう。

 




勝ち進むばかりではマンネリ化しそうなので、今回は敗北シーンも混ぜてみました。ラストは少しギャグっぽかったかな……? ギャグのノリが苦手な人は申し訳ありません。

次回は奈落探索の後編。毒のエリアと森のエリアになります。


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奈落の探索(後編)

ポケモンプレゼンツ見ましたが…………

ほぎゃあぁぁぁぁ情報がすごいいいいい!
シェイミ! 無料アプデ! 新作!
うぎゃあぁぁぁぁ!!(語彙力消失)

以上が生配信を見た感想です。


 砂漠エリアの主であるガブリアスに吹き飛ばされ、運良く次のエリアへ続く道に行けたハジメ達。だが思ったよりもそのダメージは大きく、ポーチに残っていた木の実を全部食べて、ようやく回復することが出来た。

 

「回復アイテムが無くなっちゃった……」

 

 残っているのは、王国の宝物庫から持ち出した「朽ちた剣」と「朽ちた盾」、後は錬成で作ったお粗末な水筒だけだった。

 

「……うっ?」

 

 すると、奥へと続く道から何やら異臭がしてきた。結構不快な臭いに顔をしかめるが、ハジメはある可能性に気付く。

 

「臭いが流れてきてるってことは、風の流れる道が向こうにもあるってことかな……?」

 

 まだ精神的な疲労は抜けていないが、留まっていても臭いで気が滅入るだけだろう。サイホーンはかなり嫌そうだったが、ハジメ達は奥へと向かった。

 

 その先は、色んな意味で地獄だった。

 

「(この迷宮の製作者、絶対に性格悪いだろ!?)」

 

 目の前を飛んでいるのは……どくガスポケモンのドガースだった。辺り一面が煙で覆われており、よく目をこらすと地面には、スカンクポケモンのスカンプーまでもが居る始末。どうやらこのエリアは、悪臭エリアらしい。

 

「(けど此処から引き返したら、またガブリアスに襲われかねないし……)」

 

 進むしかない状況にウンザリしつつも、ハジメは自分の服を破いた。そして水筒の水で濡らすと、破いた布切れを口に当てた。少しでもガスを吸わない為の、マスク代わりである。

 

「行くよ、サイホーン……」

 

「ガウウウ………」

 

 心の底から嫌そうな声を出しつつ、ハジメ達はガス地帯へ歩き出した。……が。

 

「(ぎゃぁぁぁぁ! 目が、目が染みるぅぅぅ!)」

 

 姿勢を低くしながら歩くハジメ。だがそれでも臭いはするし、守れていない目が染みて涙が止まらない。

 止まりそうになるが、止まったらそれこそ酷い目に遭うと意識し、ゆっくりと歩く。

 その時、コツンと何かが当たる音がした。

 

「(あ……)」

 

 どうやら、ふよふよと気ままに飛んでいたドガースが、偶然にもサイホーンの角とぶつかったらしい。

 問題なのは、そのドガースがガスを溜め込んでいたと言うこと。キィィィンと音を立てて光るその様子に、ハジメは青ざめた。

 

「た、退避ぃぃぃゲホッ、ゴホッ!?」

 

 大急ぎでサイホーンに跨がり、全速力で毒ガスエリアを突っ走る。

 その瞬間、背後から爆発の音が発生し、さらにガスに引火して大爆発が発生した。ドガースのガスは爆発を起こしやすいのだ。

 

「うわぁぁん! もうやだおうち帰るぅぅ!」

 

 ガブリアス戦での敗北と、悪臭+大爆発というメンタルを削る状態が続き、とうとうハジメは弱音を叫んだのだった。

 

 

 

 

 

 どれほど走っただろうか。サイホーンの足取りは重く、跨がるハジメもぐったりと俯いていた。

 

「疲れたね……」

 

「ガウウ……」

 

 心身共に疲れきったハジメ達。僅かな木の実を分け合って食べていた為、短い時間で空腹が迫ってきていた。水も無くなり、とても危ない状態である。

 

「いつになったら……出られるんだろう……」

 

 ハジメの目から光が消えつつある。そんな時、突如甘い匂いが漂ってきた。

 

「…………ん?」

 

 顔を上げると、岩ばかりの景色から一転、木々の生えるエリアへとやって来ていた。

 

「洞窟の中なのに森……大迷宮って何でもありだなぁ」

 

 そんな時、ある物がハジメの目に止まった。

 

「……ブリーの実だ!」

 

 残りの力を振り絞って実のなる木へと走ると、甘い匂いが漂う。

 

「食べ物……!」

 

 木を揺すろうとするが力が出ない。そんな彼を助けるかのように、サイホーンが軽く“たいあたり”する。そのお陰で沢山のブリーの実が落ちてきた。

 

「はぁぁ……! あむっ……んぐ、むぐ……」

 

 口一杯に木の実を頬張る。口が紫色に染まるが、そんなのも気にせずひたすら食べる。やがて、彼の目からは涙が溢れてきた。

 

「んっ、グスッ……あぐ、もぐもぐ……グスッ……」

 

 常に周りを警戒しなければならない緊張感と、ゲームとは違い自分にも影響が出るバトル。そんな状態から、一時的にとは言え解放されたことで安心感が生まれた。それが涙となって溢れだしたのである。

 

 こうして空腹を満たしたハジメ。サイホーンも満足したのか、彼らの目に光が戻っていた。

 その後は森の中を歩く。その道中、オレンの実やオボンの実といった回復アイテムも手に入った。これで回復には暫く困らないだろう。更に、幾つか気になる物も採取しておいた。

 

「(薬草みたいなのと、黄色いツボミ、同じく黄色の葉っぱ。……何かに使えるかも)」

 

 実はそれぞれクスリソウ、ゲンキノツボミ、キングリーフと言い、木の実との調合で強力な回復アイテムを作れると言うことを、彼はまだ知らない。

 

「クアァァ!」

 

「ん?」

 

 上から声がしたため見上げてみると、あるポケモンが急降下してきた。

 

「っ! サイホーン、“うちおとす”攻撃!」

 

「グラァ!」

 

 石を生成してそのポケモンを撃ち落とそうとするが、相手はそれを避け、“エアスラッシュ”を放ってきた。

 

「錬成!」

 

 その風の刃を、“鉄壁(人間ver)”で防ぐ。そうして降りてきたのは、葉っぱのような翼を持ち、首にバナナを思わせる果物が成っているポケモン。

 

「トロピウスか……!」

 

「クオオオオオオン!」

 

 すると、翼を大きく羽ばたかせて空高く飛んでいく。そして再び空中から攻撃をしてくる。今度は“たねマシンガン”だ。

 

「くっ、まるで戦闘機みたいだ……! サイホーン、“ロックブラスト”!」

 

「グルルァ!」

 

 岩を大量に飛ばすが、それすらも避けると一気に降下。そのままエネルギーを纏って突っ込んでくる。

 

「“ギガインパクト”!? けど好都合!」

 

 サイホーンと目を合わせ、互いに頷いた。

 最初に動いたのはハジメだった。両手を合わせ、地面に魔力を流していく。

 

「錬成ぇ!!」

 

 頭にイメージするのは、SF映画などでありそうな隔壁が次々と閉じられるシーン。地面から壁がどんどん現れるが、速度の乗った突撃は留まる所を知らない。壁を次々と破壊していき、そのまま“ギガインパクト”がハジメに直撃すると思われたが……

 

「それっ!」

 

 すぐに技能の回避行動を発揮する。ハジメの体をすり抜けていき、トロピウスは方向転換出来ず大木に激突する。

 ようやく動きが止まったトロピウスへ攻撃を仕掛けたのは、サイホーンだった。

 

「“スマートホーン”!!」

 

「グオオオオオオオ!!」

 

 横腹へ命中すると、トロピウスはそのまま吹き飛び気絶するのだった。

 




就活等があって、更新はこれから遅れるかもです。

次回はいよいよ、あのキャラが登場する予定です。


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封じられし部屋

挑んでいる資格の関係上、今になって就活開始。前話の後書きにもあったように、更新はとても遅くなります。

今回はとても短めです。


 トロピウスも撃破し、出口を目指すハジメ達。森を抜けると再び洞窟であった。その中を進んでいくと、突如寒気に襲われる。

 

「この先に……何かあるのかな……?」

 

 彼の目の前にあるのは、荘厳な両開きの扉。高さは3メートル程だろうか。そしてその門を守っている存在がいた。

 

「ゴビット? でも動いてる感じがしないな……」

 

 ゴーレムポケモンのゴビット。それが左右に3体ずつ、合計6体が門を守るように配置されている。しかしポケモンとして動いているようには見えない。ピクリとも動かず、その場に佇んでいた。

 

「……気にはなるけど、慎重に」

 

 自分にそう言い聞かせて扉に触れる。何やら術式が施されているようだが、図書館で勉強をしていたハジメから見てもどのような物なのか判らなかった。

 

「相当古いってこと? 錬成で何とかなるかな?」

 

 試しに錬成の魔力を流すと、赤黒い電流のような物が溢れ、思わずその手を離してしまう。

 

「イテテ……。錬成じゃ駄目ってことか……ん?」

 

 何かが動く気配がした。振り返ると、先ほどまで石像のようであったゴビットが動き出していた。侵入者が何かしらの魔力を流すと起動する仕組みなのだろう。

 

「ゲームだと、こう言う鍵は門番が持ってるのがセオリーだけど……」

 

 果たしてそう上手くいくのか。そう呟いて、戦闘体勢に入った。

 

「グルァァァ!!」

 

「「「ゴビッ!?」」」

 

「えぇー……」

 

 しかし、サイホーンの“スマートホーン”によって、ゴビット達はまとめて突き飛ばされる。1体目が飛ばされた場所へ、積み重なるように落下するゴビット達。道中の戦闘によってサイホーンのレベルが上がっていた事が、容易く彼らを倒せた要因かもしれない。

 臨戦態勢を取っていたにも関わらず呆気なく終わった為、思わず止まってしまうハジメ。

 

「えーと、この扉の鍵を持ってるなら、渡してくれる?」

 

 ゴビット達はコクコクと何度も頷いた。呆気なく飛ばされた事から、実力の差を悟ったのかもしれない。

 そうして彼らがハジメに渡したのは、球体の欠片だった。それらを6体分合わせることで、赤黒い球体となる。

 

「魔力の塊、かな? これを扉の穴に嵌め込めば良いわけだ」

 

 扉の先にあるのは何か。期待と不安の混ざった緊張感を胸に、球体を嵌め込んだ。その瞬間、扉全体に魔方陣が展開され、それが回転することで自動的に扉が開く。

 

「……行こう」

 

「グアッ」

 

 ハジメとサイホーンが扉の奥へと入ると、扉がゆっくりと閉じていく。彼らの背を見届けたゴビット達は、所定の位置へと戻って再び眠りについたのだった。

 

 

 

 

 

 神殿のような建物の中を進むハジメ達。ふと、暗闇の中に光が見えた為、そこへ駆け寄る。

 

「誰……?」

 

 立方体の結界と思わしき者に封じられていたのは、金髪に紅い眼をした、美しい少女であった。彼女は上半身から下と両手が結界に埋め込まれている。なお、裸ではあるが、胸などは伸びきった髪が丁度よく隠してくれていた。

 弱々しい声で、ゆっくりと顔を上げた少女。しかしハジメの顔を見た瞬間、顔を青くした。

 

「駄目、逃げて!」

 

「え?」

 

「“あの子”が、来る!」

 

 その時だった。ハジメの耳がある音を捉えた。

 

―――キィィィン

 

「(何だ、この音? まるでジェット機のような……)」

 

 そして、足からジェット噴射をして飛行してきた“それ”は、まるで少女を守るかのように現れた。

 

「ゴルゥゥゥゥ!!」

 

 現れたのは、ゴビットよりも巨大なゴーレム。だがハジメが驚いたのは、もう一つあった。

 

「色違いの……ゴルーグだって!?」

 

 封印部屋の守護者との戦いが、始まった。




ゴルーグ、格好良いですよね。ユエの封印部屋の番人として、色違いゴルーグ登場です。


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封印部屋の番人

今更ですが、本作におけるポケモンの技は、4つ以上覚えてます。他にも技マシンで覚えるもの等もありますので、ご了承ください。


 ハジメ達とゴルーグとの戦いは、激しいものとなっていた。サイホーンの攻撃手段は地面タイプや岩タイプの物が多く、ゴルーグへ有効打を決められずにいた。

 

「ゴォォォ……!」

 

「“きあいパンチ”か! サイホーン、“スマートホーン”」

 

「グルァァァァ!!」

 

 鋼タイプの技は通るのか、それなりにダメージを与えられた。だが向こうも意思を持っている存在。ゴルーグは片手で押さえ込み、そのままパンチを放とうとしていた。

 

「させない! 錬成っ!」

 

「ゴッ!?」

 

 相手の足元を片方だけ穴を開ける。そのままゴルーグはバランスを崩して転倒した。

 

 この戦いで、ゴルーグの事を知っているであろう少女は、技の指示をしていない。それどころか必死に叫んで止めようとしている。

 

「ゴルーグ止めて! お願い! 貴方にこんなことして欲しくない!」

 

 ゴルーグは少女の方へと振り向く。だがそれも一瞬だけで、すぐにハジメ達へと向き直ると、目の部分を光らせる。

 

「ヤバい、“ラスターカノン”か! “まもる”だ、サイホーン! 僕も防御する!」

 

 ハジメが錬成で壁を作り上げると同時に、銀色の光線が放たれた。それは土壁を次々と貫き、サイホーンに命中する。

 だが、うっすらとサイホーンの体を光が包みこみ、その攻撃を防ぐ。だがその威力は、体重のあるサイホーンすら後ずさる程だった。

 

「グウウウッ!」

 

「ゴル……」

 

 耐えきった2人を見て、ゴルーグの猛攻が止まる。ハジメは警戒したが、その気配はまるで……

 

「(僕たちを……試してる?)」

 

 静かになったタイミングで、ハジメは少女へと顔を向ける。

 

「ねえ。このゴルーグは君の仲間なの?」

 

「……元々は伯父様に仕えてた。けど、私が封印されてから、この部屋に来た」

 

「君はなんで、封印されてるの?」

 

「……分からない。国を治めてたのに突然、お前はいらないって言われた。先祖返りの力で、傷も勝手に治る。だから化け物だって……」

 

「ま、待って、なんか凄そうなワードがちらほらあるんだけど?」

 

「ゴルーグが居てくれた。寂しくはなかった。でも……外に出たい」

 

 本来の歴史ならば、それなりにドライな反応をするであろう場面。だが、この世界のハジメは孤独では無かったし、今では相棒もいる。所謂「魔王化」を回避していたハジメは、純粋に助けたいと思っていた。

 

「僕も、外へ繋がる出口を探してるんだ。良かったら一緒に行くかい?」

 

「……良いの?」

 

「まあ、その前に……番人に認められる必要がありそうだけども!」

 

「ゴルゥゥ!!」

 

 ゴルーグが再び動き出した。今度は“シャドーパンチ”を放ってくるらしい。

 

「“メガホーン”!」

 

 黒い霧のような物を纏った拳と深緑色に光る角がぶつかり合う。だが、この時ハジメは指示を出すと同時にゴルーグの後ろへと回り込んでいた。

 

「取った! 食らえぇ!」

 

「ゴッ!?」

 

 錬成によって岩の棘が生成され、ゴルーグの背中を押す。強度の関係で突き刺すことは無かったが、再び転倒する分には問題無かった。すかさず指示を出すハジメ。

 

「“かみくだく”攻撃!」

 

「ガァァァブッ!!」

 

「ゴルルルルル!」

 

 ゴーストタイプにとって、悪タイプの技は効果抜群。今までに無い絶叫を上げて、ゴルーグは跪いた。

 

「はぁ、はぁ……!」

 

「ゴルーグ……もう、止めて……!」

 

「………………」

 

 ゴルーグはゆっくりと立ち上がると、少女の元へと近付いた。そして立方体へと手をかざすと、光が発せられる。

 

「ゴォォ……!」

 

「結界が……! ゴーストタイプによる力なのか……?」

 

 すると、彼女を封じていた立方体が徐々にひび割れていき、遂に砕け散った。

 

「あっ……」

 

 危うく地面に叩き付けられそうになり、ハジメが受け止めようと駆け寄る。だがその前に、ゴルーグがその大きな手で受け止め、優しく地面に下ろした。

 

「……ありがとう、ゴルーグ」

 

 少女の言葉に、番人は静かに頷いた。

 




無事に封印解除まで書けました。
それでは、次回をお楽しみに。


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新しい名前、新しい仲間

お待たせしました。失踪はしたくないので、短めでも更新です。


 少女の封印が解除されたあと、ハジメは自分の上着を着せていた。彼だって健全な男子、女の裸体に興味はある。だが、自分の愛しい人を一心に想い続ける事で理性を保っていたのである。

 その後、お互いに自己紹介をした。

 

「僕はハジメ。ハジメ・ナグモ」

 

「……名前はあるけど、封印された時の事を思い出すから、言いたくない……」

 

「ご、ごめん。……そう言えば、傷が勝手に治るって言ってたけど、君はどんな種族なの?」

 

「吸血鬼。でも、日光も平気だし、血だけ飲んで生きてる訳じゃない」

 

「……マジ? それ吸血鬼としてかなり高位じゃ……」

 

「……名前、つけて欲しい」

 

「えぇ!?」

 

「これからハジメと一緒に行動するなら、名前が必要だから」

 

「それはそうだけど、名前……名前かぁ……」

 

 下手な名前を付ければ、彼女の後ろにいるゴルーグから拳が放たれるだろう。服を渡した時、「なに彼女の裸を見てるんだテメェ」みたいな唸り声を上げていたのだから。

 すると、吸血鬼であると言う点と、彼女の美しい金髪と紅い目を見て、とある単語が出てきた。

 

「ユエ」

 

「?」

 

「吸血鬼に紅い目、そして金色。月夜が似合いそうなイメージなんだ。そしてユエって言うのは、僕たちの世界にある国の言葉で、月を意味するはず」

 

 ハジメの提案に少女は、「ユエ、ユエ……」と繰り返すように呟く。

 

「ユエ。それが私の新しい名前。よろしく、ハジメ」

 

「あぁ、よろしく」

 

 2人は微笑み、握手した。

 

 それからハジメは、何故この奈落に居るのか、自分が何者なのかを語り始めた。憑依転生者であることを除いて。

 

「ハジメは、会いたいんだ。そのカオリって恋人に」

 

「うん。ましてや、迷宮に潜る前日に予知夢も見ちゃってるから、相当参ってると思う」

 

「……残された人は、悲しい」

 

 悲しそうに顔を伏せるユエ。訳も分からず封印され、同族と故郷がどうなったか分からない。取り残された経験をしてるからこそ、顔を見たこと無いとは言え香織の心情を察してるのだろう。

 

「ユエは、此処が迷宮のどこら辺なのか、分かる?」

 

「分からない。でも、反逆者が作ったと言われてる」

 

「反逆者……。神エヒトに歯向かい、神の力を奪った人たちか」

 

 ハジメは、かつて図書館で読んだ本に出てくる「神の力」を、アルセウスと深い関係にあるプレートと推測している。

 

「つまり、反逆者たちはアルセウスと言う存在に気が付いていた……?」

 

 メルド団長が言うには、迷宮の遥か奥には宝物庫のアーティファクトよりも貴重な「何か」が眠っており、挑んだ冒険者は多いが誰も手に入れることが出来ていないと言う。

 

「……ユエ。出口を探したいけれども、この迷宮についても調べたくなったんだ。一緒に来てくれる?」

 

「勿論。こう言う冒険みたいなこと、楽しみ」

 

 ユエは微笑み、ゴルーグは黙って頷く。

 

 こうしてハジメとサイホーンの冒険に、ユエとゴルーグが加わったのであった。

 




この小説でのユエは、ゴルーグが居てくれた為にそこまで寂しさは感じていません。なので、ハジメに対しての感情は「一緒に旅する仲間」と言う感じですね。

次回は、原作で言うエセアルラウネとヒュドラ戦を予定しています。どちらかと言うとヒュドラ戦がメインになりそうです。


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連戦

お気に入り登録者数が増えて、非常に嬉しいです。新生活の時期なので更新は不定期ですが、これからもよろしくお願いします。


 オルクス迷宮の探索はまだまだ続く。ハジメ達が次にやって来たのは、熱帯雨林のようなエリアだった。ユエと出会う前の、トロピウスと戦闘した時とは異なり、ジメジメとした湿気と暑さが2人を不快にさせた。

 

「気持ち悪い……」

 

「まあこの暑さと湿気はなぁ……」

 

 その時、ガサガサと草むらが揺れた。2人が警戒すると、そこから飛び出てきたのはマダツボミであった。

 

「マダツボミか……」

 

「知ってるの?」

 

「名前にツボミって付いてるけど、フラワーポケモンって呼ばれてる。足の根っこで歩いたり、水分を補給するのさ」

 

「ハジメ、魔物……じゃなくて、ポケモン?に詳しいんだね」

 

 ユエは道中、ハジメが魔物をポケモンと呼んでいる事を知った。彼曰く「元の世界で夢として出てきたポケモンと、この世界の魔物と呼ばれる存在は同じ」とのこと。そしてゴルーグも、そのポケモンの一種なのだという。確かに、ユエにとってゴルーグは大切な仲間。魔物と呼ばれるよりは、ポケモンと呼ばれた方が愛着が湧く。

 

「けどマズイな。この熱帯雨林エリア、マダツボミが居るってことは、たぶん親玉が居る」

 

 その時だった。2人の鼻を、とても甘い匂いが刺激した。それに釣られてしまったのはユエである。

 

「良い匂い……」

 

「ユエ!? ま、待つんだ! これは罠だ!」

 

「グル……」

 

「サイホーンまで!? やっぱり、これは“あまいかおり”か!」

 

 そう、ハジメの言う通りこれは罠であった。ゴルーグに効いていないのは、“あまいかおり”がノーマルタイプの技であって、ゴーストタイプを持つゴルーグは無効化されたようだ。

 

 フラフラと匂いのする方へ歩くユエとサイホーン。すると彼女の足に植物のツルが絡み付いた。

 

「え? キャアァァ!」

 

「しまった、遅かった!」

 

 ユエの片足を持ち上げたのは、ポケモンであった。その名も、ウツボット。ハエとりポケモンとも呼ばれている。

 

「ごめん、ハジメ……!」

 

「甘い匂いで獲物をおびき寄せるのが、ウツボットの生態だ! ユエ、炎の魔法は出せる!? 奴は草タイプだから炎が弱点だ!」

 

「っ! “緋槍”!」

 

「ウボォ!?」

 

 幸いなことに、ツルが巻き付いたのは片足だけであった。すぐに炎を槍にしてツルを切り裂いた。炎に悶えた瞬間を見逃さない。

 

「サイホーン、“ロケットずつき”!」

 

「グルァァ!!」

 

 ゴルーグに拳骨を落とされて正気に戻ったサイホーンが、ハジメの指示によって技を繰り出す。ウツボットが突き飛ばされた事によって、ユエが口の中に落ちることを防げた。

 

「ありがとう、ハジメ、サイホーン」

 

「お礼を言ってる暇は無いよ。ここ……ウツボット達の縄張りみたいだ」

 

 ハジメ達の周りを、ウツボットにウツドン、マダツボミと一斉に囲んでいる。ユエとハジメは構えたが、意外にもあっさりと解決した。

 

「ゴルゥゥゥ……!」

 

「「「ツボッ!?」」」

 

 ゴルーグが拳に炎を纏わせる。“ほのおのパンチ”の構えだ。動物であり植物でもある彼らにとって、その威嚇は効果が抜群だった。ゆっくりとハジメ達から離れていく。

 

「ゴルーグ、貴方って凄いのね」

 

「ゴル!」

 

 脅威は去ったが、このエリアは危険だと判断して、一行は次のエリアへと向かった。

 

 

 

 

 

 熱帯雨林を抜けて辿り着いたのは、またもや洞窟。しかしかなりの広さがあり、すぐに戦闘が始まってもおかしくなかった。

 

「ハジメ、何か来る……!」

 

「3匹……?」

 

 今までは、エリア1つにつき階層主とも言えるポケモン1体との戦いが多かった。しかし彼らの目の前にいるポケモンは3匹いる。

 

 まずは三つ首が特徴的なポケモン、きょうぼうポケモンのサザンドラ。

 

 次に、派手な鱗に覆われたドラゴンタイプ、うろこポケモンのジャラランガ。

 

 そして最後は意外なことに、ドラゴンタイプと言う法則から外れたポケモンであった。しあわせポケモンのハピナスである。

 

 いずれもハジメの前世知識とは違う、大型個体である。

 

「ハッピィ~!」

 

 ハジメ達が仕掛けるよりも先に動いたのは、ハピナスだ。彼女が味方を守るかのように、半透明な光る壁を展開した。

 

「ちぃっ、“ひかりのかべ”……! ハピナスはサポート役ってことか!」

 

 そこへジャラランガがゴルーグへと迫る。拳に炎を纏っていることから、“ほのおのパンチ”を出すつもりらしい。

 

「ゴルーグ、防いで!」

 

「ゴルッ!」

 

 腕を交差させることでパンチを防いだゴルーグ。この時ユエは、不思議な感覚を得ていた。

 

「(ゴルーグがどんな技を覚えてるのか、分かる! まるでゴルーグと糸で繋がってるような、そんな感じ!)」

 

 ジャラランガは次に爪を光らせる。“ドラゴンクロー”だ。

 

「ゴルーグ、“メガトンパンチ”で吹っ飛ばして!」

 

「ゴォォォ、ルアッ!」

 

「ギギィッ!?」

 

 ゴルーグの攻撃で壁へと叩き付けられるジャラランガ。だが彼もまだその目に闘志を宿していた。

 

 その頃ハジメは、サザンドラと相対していた。

 

「奴は悪・ドラゴンタイプ! なら……“メガホーン”だ!」

 

「グアッ!」

 

 深緑色に光る角が、サザンドラへ真っ直ぐ向けられる。しかし階層主でもある彼とて、簡単にやられるわけには行かないと技を放つ。

 

「シャァァァァ!!」

 

 3つの口から放たれる、青色に近い色をした光線。“りゅうのいぶき”である。それが“メガホーン”とぶつかり相殺された。

 

「グルルルル!」

 

「そう簡単には食らってくれないか……」

 

 その時だ。ハピナスが指を降るような仕草をすると、水滴のような物がサザンドラとジャラランガに垂らされた。それを見たユエは驚愕する。

 

「相手の傷が治っていく……!?」

 

「“いやしのしずく”……! やっぱりハピナスを先に倒さないと駄目か!」

 

 更に彼女は“リフレクター”を展開。守りを更に固めてきた。特殊攻撃も物理攻撃もダメージを軽減される状況にハジメは歯軋りしそうになる。

 

「クソ! 二重に壁を張られた!」

 

 だが、ふとユエの頭の中に、ゴルーグが覚えている「とある技」が思い浮かんだ。

 

「ハジメ、私のゴルーグに任せて! “かわらわり”!」

 

「ハピッ!?」

 

 “かわらわり”の効果によって、二重の壁である“リフレクター”と“ひかりのかべ”が音を立てて破壊された。

 

「続けて“アームハンマー”!」

 

「ゴォォォ、ルゥッ!」

 

「ハッ、ナッ……!」

 

 強烈な拳がハピナスに命中し、そのまま彼女は目を回して倒れた。サポート役が倒されるが、残りのドラゴンタイプ2匹は慌てない。

 

「ジャルァァァァッ!」

 

 ジャラランガが“スケイルノイズ”を放つ。音波攻撃によってダメージを受けたサイホーンとゴルーグに、今度はサザンドラが襲いかかった。

 

「ギシャアッ!」

 

 3つの頭から放たれるのは、“はかいこうせん”。しかしこれは2人が同時に指示を出した。

 

「サイホーン!」

 

「ゴルーグ!」

 

「「“まもる”!」」

 

 2匹の体を透明な光の膜が覆う。凄まじい破壊力を持つ光線が発射されたが、2匹はこれを防御。その余波はハジメが錬成で土壁を作ることによって、ユエにダメージが行かないようにしている。

 

「ジャルル!」

 

「おっと、君は足止めさせてもらうよ! 錬成!」

 

「ジャジャッ!?」

 

 “ドラゴンクロー”をハジメに食らわせようと接近したジャラランガだったが、その足元を錬成によって穴を開けることで不発にさせる。

 

「ユエ、こっちを頼む!」

 

「頼まれた。“凍雨”!」

 

「ジャラォォッ!?」

 

 ユエの魔法によって、ジャラランガに無数の氷が降り注ぐ。ドラゴン・格闘タイプである彼に効果は抜群だ。

 

「ゴルーグ、“れいとうパンチ”!」

 

「ゴルァァ!」

 

「ジャ、ラ……」

 

 さらにゴルーグが氷の拳を打ち込んだことで、ジャラランガは戦闘不能になった。

 

 その頃ハジメは、サザンドラと対峙していた。

 

「“はかいこうせん”を止められて驚いてる? 僕たちのコンビネーションを舐めんな! 錬成!」

 

「ド、ラ……!」

 

 岩の棘がサザンドラに直撃し、滞空姿勢が崩れそうになる。次にハジメが狙ったのは頭だ。

 

「そーれっ!」

 

「グギャアッ!」

 

 中央の頭に大きな衝撃が走り、人間で言う脳震盪のような物が起きる。一瞬だけ怯んだ所に、効果抜群の技を打ち込んだ。

 

「“メガホーン”!」

 

「グオオオオッ!!」

 

「ギャギッ!? ガ、ガ……」

 

 サザンドラも目を回して地に伏せる。こうして訪れたのは、ハジメとユエの荒い呼吸音だけだった。

 

「はぁ、はぁ……ハジメ!」

 

「はぁ、ふぅ……僕たちの、勝ちだ!」

 

 2人のハイタッチが決まった。

 




ヒュドラ戦、感想欄でサザンドラを当てられた時はどう返信しようか迷いました。
けど3匹バトルは予想外……でしたよね?
回復役はハピナス、接近戦はジャラランガ、遠距離攻撃はサザンドラと言うポジションです。

では、次回をお楽しみに。


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オスカー・オルクスの隠れ家

お昼に続いて、夜も投稿です。オスカーは何を語ってくれるのでしょうか。


 こうして階層主を突破したハジメ一行は、戦闘エリアを抜けた先の光景に圧倒されていた。

 

「太陽? 馬鹿な、ここは地下の筈なのに……」

 

 洞窟の天井には、暖かい光を放つ球体が浮かんでいた。さらに壁からは小さな滝が流れており、よく見るとコイキングやトサキントが泳いでいる。

 

「っ! あれは……!」

 

 畑と思われる場所には、ハジメが途中の階層で見つけたクスリソウやゲンキノツボミ、キングリーフを始めとした様々な薬草が生い茂っていた。そこにもハジメは驚いたが、もう1つの畑に驚いたのだ。

 

「木の実だけじゃない、ぼんぐりの木まである……!」

 

 丸くて硬い、まるでドングリのような木の実、ぼんぐりまであった。

 

「ハジメ、あそこ」

 

「あれは……家?」

 

 3階建ての、そこそこ大きな家と思われる建物。そこから導いた答えが、ハジメの口から漏れた。

 

「ここ、もしかして反逆者の住み処なのか?」

 

 ハジメの呟きは、滝の音でかき消された。

 

 

 

 

「はぁぁ~! 久し振りのお風呂だぁ!」

 

 歓喜の声をあげながら両足を伸ばすハジメ。畑や川とは反対側の石造りの建物にあったのは、湯船だった。オスのカエンジシを模した置物に魔力を注ぐと、お湯が出る仕組みになっている。

 水で軽く体を拭くだけの日が続いていたため、汗や土埃の汚れが気になっていた。探索の疲れを癒すためにも、ハジメはありがたく利用させてもらっていたのだ。

 

「……まさかユエも入るとは思わなかったけど」

 

「タオル巻いてるから問題ない。あって良かった」

 

 ユエも熱帯雨林エリアで汗をかき、更にサザンドラ達との戦いで土埃にまみれている。我慢できなかったのは彼女も同じだった。

 

「ハジメ」

 

「ん?」

 

「私に、ポケモンの事をもっと教えてほしい。今までの戦いを見て、ポケモンの事をもっと知りたくなった。だから……」

 

「ユエ……」

 

 ハジメは胸が暖かくなった。この感覚を知っている。

 

――私にも、ポケモンの事を教えてくれるかしら? 

 

――お前があんな面白いイラスト描いてたのかよ!? ならもっと教えてくれよ! 俺、清水幸利っていうんだ。

 

――お前のイラスト見たけどさ、すっげぇ面白いよ!

 

 雫、幸利、浩介。地上にいる友人達と同じ、ポケモンに興味を持ってくれたと言う嬉しさだった。

 

「勿論さ! ポケモンを知りたいと思ってくれるだけで、すっごく嬉しいよ!」

 

 その時、彼の頬に水滴が1粒流れていた。

 

 

 

 

 

 その後、ベッドへ潜りぐっすりと眠ったハジメ達。なおラッキースケベ等は起きていない。

 彼らは建物の奥にある部屋へと訪れていた。床には魔方陣が広がっている。しかしその向こう側にある豪華な椅子。これが問題だった。

 

「白骨化してる……。この人が反逆者なのかな」

 

「どうして、寝室じゃなくてこの部屋を選んだんだろう」

 

 俯くように座り込む骸。この人物は、この奈落の奥底で何を思って生活していたのか。

 

「……魔方陣を調べよう」

 

「うん」

 

 2人が魔方陣の中心へ歩くと、陣が光り始める。あまりの眩しさに目を瞑るが、すぐに光は収まる。

 

 そして2人の前に現れたのは、半透明の黒衣の青年だった。

 

『私の名前はオスカー・オルクス。この大迷宮を造った者だ。恐らく後世では、反逆者として伝えられているだろう。だが、どうか私の話を聞いてほしい』

 

 ハジメは、ごくりと生唾を飲み込んだ。

 

 

 

 

 

 オスカーは語る。トータスの狂いし神々を。反逆者……否、解放者たちは、トータスが神々の遊技場となっている事を知った。魔人族も人間も神託で誑かし、争わせ、形あるものが壊れることを愉悦としていると言う。

 

『だが、私たちは知ったのだ。エヒト達よりも遥か昔から、この世界に住まいし神々が居ることを』

 

 それは、辛うじてエヒトから「神の力」の一部を奪い取る事に成功した時だった。その「神の力」を通じて、解放者たちは世界の更なる真実を知ったのだ。

 

『エヒトは神ではない。真の神から力を奪い取った、盗人に過ぎないのだ!』

 

――そして、その真の神は消えていない!

 

 オスカーのその言葉に、ハジメは目を見開いた。

 

『神の力……いや、石板を通じて私たちは知った。真の神、アルセウス。かの者の存在は消えてしまった訳ではない。力を奪われ、石化した状態で封印されているのだ』

 

「アルセウスが、生きている……!」

 

『神代魔法を授けようとも思ったが、アルセウスの力を残しているエヒトを倒すのは至難の技だろう。だから、アルセウスの石板を授けるための、試練を与える』

 

「アルセウスのプレートを……」

 

『この建物には書斎がある。私が考案したアイテムや、魔法を記した書物があるから、存分に活用して、そして試練に挑んでくれ。……世界に、本当の平和を』

 

 そうして映像が消えた。

 

「……書斎に行こう」

 

「……ん」

 

 2人はオスカー・オルクスの骸へ顔を向ける。本当は丁寧に弔いたいが、それはプレートを手に入れた後からだと、背を向けた。

 




次回は、プレートの試練を予定しています。
更新予定日は未定ですが、お楽しみに。


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新たな技能と試練の間

お待たせしました。感想欄でもありました、あのアイテムが登場です。


 オスカー・オルクスの部屋を後にしてから、ハジメは書斎に籠るようになった。いま彼が読んでいるのは、オスカーが残したアイテムのレシピである。

 

「ぼんぐり、良し。たまいし、良し」

 

 茶色のぼんぐりと、赤い石を1つずつ作業台に並べる。それに手をかざすと、魔力を流し込むと同時に、()()()()()を発動する。

 

「クラフト!」

 

 そうして一瞬の光が放たれると、作られたのは、ハジメが求めてやまなかったアイテムがあった。

 

「出来た……モンスターボール!!」

 

 思わず歓喜の声を上げてガッツポーズをするハジメ。彼が読んでいた本には、このような事が書いてあった。

 

 

―――魔物が小さくなれる性質を見つけた私は、大きな体格をしていても共に居れる道具を作った。私は、全ての魔物が悪だとは思えない。彼らは私たちの言葉を理解する事が出来る。パートナーとして共に居れば、その傾向は強いだろう。だがこの世界の人々は魔物に怯える。彼らが害されない為にも、この道具は必要不可欠であろう。

 

 

 ハジメはその文を読み、涙した。ポケモンを思ってくれる人間が、遥か昔に居たことに。そしてそんな彼が反逆者として迫害され、孤独に死んでいったことに。

 

「(オスカーさん。貴方が遺してくれた技能であるクラフト、必ず使いこなして見せます!)」

 

 今のハジメのステータスは、次のようになっていた。

 

 

――――――――――――――――――――――――――――

 

南雲ハジメ 17歳 男 レベル8

 

 

天職:錬成師、魔物学、テイマー

 

 

筋力:100

 

 

体力:1100

 

 

耐性:40(+990)

 

 

敏捷:100

 

 

魔力:180

 

 

魔耐:40(+990)

 

 

技能:言語理解(真)、錬成(+クラフト)、回避行動、背面取り、魔物攻撃耐性

 

――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 奈落でのサバイバルによってレベルが上がり、魔力に至ってはステータスプレートを渡された時の光輝よりも上になっていた。戦闘しながら錬成を続けていた賜物だろう。

 そして注目すべきは、錬成の派生技能として「クラフト」と言うものが追加されていた。

 

 クラフトは、有機物も対象として新たな物を作り出す技能である。具体的には、薬草や木の実を材料に薬を作り出せる。しかも、先程のモンスターボールのように、鉱物と有機物を混ぜ合わせることも可能なのだ。他にも、クラフト台のような場所も、クラフトキットのようなかさばる物も必要としない。その場でアイテムを作ることが可能なのだ。

 

「オスカーさん、本当に凄いな……」

 

 彼が残した書物の中には、ステータスプレートの偽装方法も書いてあった。それによって、ハジメの天職にあった「魔物使い」を、「テイマー」に変更した。地上に出た時に魔物使いのままだと、下手すればエヒト教の異端者として扱われそうな気がしたからだ。

 

「……良し、行こう」

 

 クラフトの練習として作った、モンスターボールやキズぐすりをポーチにしまっていく。

 一見小さなポーチに道具が次々としまえる理由は、ハジメが着けている指輪にある。これは、オスカーが遺したアーティファクトで、書物には宝物庫と書かれていた。かなりの数の道具をしまうことが可能で、ハジメはそこに「朽ちた剣」と「朽ちた盾」も入れている。

 そうしていると、ユエが書斎に入ってきた。

 

「ハジメ、前に言ってたモンスターボール、出来た?」

 

「うん。これで、サイホーンやゴルーグを安全に連れていけるよ」

 

「……本当に大丈夫?」

 

「彼らには、移動手段としてボールから出すこともあるから、閉じ込めっぱなしにはならないよ」

 

「ん、信じる」

 

 2人が建物から出ると、サイホーンとゴルーグがそれぞれの相棒の元へ歩いてきた。

 

「サイホーン、聞いてくれ。これから先の旅で、君の事を怖がる人たちが多いんだ。一緒に旅する為にも、ボールに入ってくれる?」

 

「ゴルーグ、私と一緒に来てくれる?」

 

 すると、2匹とも同時に頷いた。ハジメとユエは安心した顔をすると、相棒たちへボールを近付ける。するとサイホーン達は光に包まれ、ボールに収まる。蒸気を出しながら大きく揺れると、小さな花火が上がった。

 

「よし、改めて……サイホーン、ゲットだぜ!」

 

「ゴルーグ、ゲット……だぜー」

 

 ずっと言いたかった台詞を言うハジメ。ユエも真似するが、照れるあまり棒読みになったのだった。

 

 

 

 

 

 ハジメ達は再び書斎へと戻ってきていた。と言うのも、オスカーが作った「神の力への試練」の場所は、この部屋にある隠し扉の奥なのだ。

 なぜ隠し扉の場所が分かったのか。それは、1つの本棚に、オスカーが身に着けていた指輪と同じ紋章があったからだ。

 

「……準備は良い?」

 

「ん。私たちなら、出来る」

 

 ハジメが指輪をかざすと、本棚の紋章が淡い光を放つ。そして本棚はゆっくりと横へスライドし、通路を露にした。2人が通路の奥へ消えていくと、ゆっくりと本棚は元に戻っていった。

 

 そうしてたどり着いたのは、大広間のような場所。その床には、丸いパネルのような物が敷かれている。何よりも、広間の奥に鎮座する像に、ハジメは目を見開いた。

 

「(この部屋、そして奥にある像って、もしかして……!)」

 

「ハジメ。石板に何か書いてある」

 

 ユエの言葉にハッとして、近くにあった石板に目を通す。

 だが、それを目にしたユエは顔をしかめた。

 

「……何これ。全然読めない」

 

 黒い点だけで作られた、文章らしき物。見た目とは裏腹に長寿であるユエですら読んだことの無い文字であった。

 ところが、ここでハジメの技能が発揮される。

 

「『神の力を求めし者よ。真の覚悟があるならば、巨人の目を光で満たせ』」

 

「……ハジメ、読めるの?」

 

「う、うん。これ、僕たちの世界では点字って言うんだけど……何か、読めちゃった」

 

 これが、ハジメの技能にあった、言語理解(真)の効果である。聖教教会によって弾圧され、消えていった古代文字。それを瞬時に解読できるのだ。

 

「古代文字も読めるって、凄く便利」

 

「いや~、それ程でも……って、とにかくこのパネルを光らせれば良い感じだね」

 

「巨人は、たぶんあの像のこと。その目と同じ形に光らせれば良いってこと?」

 

「そうなるね。……行こう」

 

「ん」

 

 そうして、2人で床のパネルを光らせていく。奥の像と同じ配置で光らせた瞬間……部屋の空気が変わった。像の目がゆっくりと光り出す。

 

 

――じ・じ・ぜ・じ・ぞ

 

 

 (くろがね)の試練の番人、レジスチルが動き出した。

 




レジ系の戦闘BGM、大好きです。
なお、目が光る演出は、オメガルビー・アルファサファイアの演出をイメージして頂ければ幸いです。

次回は、レジスチル戦です。お楽しみに。


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鉄(くろがね)の試練

大変長らくお待たせしました。私も大学を卒業し、社会人となりました。職場では初めてのことだらけですが、空回りしない程度に頑張ります。
更新はかなり鈍足となりますが、よろしくお願いいたします。


 試練の番人であるレジスチルに対して、サイホーンとゴルーグが先攻した。

 

「サイホーン、“ロケットずつき”で体勢を崩すんだ!」

 

「相手は見た感じ、鋼タイプ! ゴルーグ、“ほのおのパンチ”!」

 

 2匹が果敢に攻撃していくが、レジスチルは瞬時に爪を光らせ、そのままサイホーンを切りつけた。

 

「じ・ざ・ぞ」

 

「グラァ!?」

 

「め、“メタルクロー”か!」

 

「けど、ゴルーグのパンチが当たる!」

 

 岩タイプを持っているサイホーンにとって、鋼タイプの技は効果抜群だ。しかし、そのままゴルーグの“ほのおのパンチ”が命中する。

 

「じ……!」

 

「ゴルッ……!」

 

 ところが、ゴルーグはその手応えの薄さに唸る。レジスチルは体を鈍く光らせた事で、元から高い防御力を更に上げてきた。“てっぺき”を使用したのだろう。

 

「殴るのが駄目なら、魔法で……!」

 

 ユエが炎の魔法を放とうとした時、レジスチルは彼女の方を向き、電気のような物を溜め始める。

 

「っ! ユエ!」

 

 ハジメがユエの前に立ち、瞬時に土壁を錬成。それと同時に黄色に光るビームがレジスチルから発射された。

 

「あっぶな! “チャージビーム”か!」

 

 明らかにトレーナーを狙った攻撃。これでは援護攻撃も難しい。

 

「ハジメ、あいつを捕まえられないの?」

 

「え? いや、確かにモンスターボールは、伝説のポケモンを捕まえられる事もあるけど……」

 

 果たして、試練というこの状況で捕まえられるだろうか? そもそもハジメが呟いたのはゲームでの話であって、目の前の現実でもそう上手く行くのだろうか。不確定要素が多すぎる。

 

「弱ってるならともかく、とてもこの状況だと捕まえられそうにないかも」

 

「ん。それなら今は戦うだけ。ゴルーグ、“アームハンマー”!」

 

「ゴォ、ルァ!」

 

「じ……! ぜ・ざ!」

 

 自慢の拳が放たれるが、レジスチルは両手で抑え込む。そのまま目のような部分に銀色の光を溜め、“ラスターカノン”を発射した。

 

「ゴ、ル……!」

 

「地面タイプならどうだ! サイホーン、“ドリルライナー”!」

 

「グオオオ!」

 

「ざ・じ!」

 

「と言うのはフェイクだよ! ユエ!」

 

「“蒼天”!」

 

 突っ込んできたサイホーンをレジスチルが抑え込むが、その背後からユエが魔法を放つ。レジスチルの動きが止まり、ユエが効果を確信した、その瞬間。

 

「じ・じ・じ・じ!」

 

「グオオ!?」

 

「まずい! サイホーン、“まもる”だ!」

 

 何と、炎を受けたにも関わらずレジスチルは動き出し、“アームハンマー”をサイホーンに放とうとする。ハジメがすぐに指示を出したことでサイホーンが倒れることは無かったが、殴り付けたその衝撃は凄まじい。

 

「ゴルーグ、“ラスターカノン”でレジスチルを引き離して!」

 

「ゴルゥゥ!」

 

「じ・ぞ!」

 

 すぐにゴルーグに振り向き、同じく“ラスターカノン”を放つレジスチル。銀色の光線がぶつかり合い、そして爆発した。

 

「“アームハンマー”!」

 

「“ドリルライナー”!」

 

 しかし、すぐに2人は相棒へと指示を出し、爆発の煙が晴れたと同時に2匹の技が命中した。

 

「ぜ・ざ……」

 

 ガクンと体が前のめりになり、俯くような姿勢になるレジスチル。

 

「ハジメ、今!」

 

「一か八かだ! モンスターボール、GO!」

 

 予備として持っていたモンスターボールを投げる。ボールは自動的に開き、レジスチルへ命中する。

 

 

 ところが、バリアのような物に阻まれ、ボールは弾かれた。

 

 

「えっ!?」

 

「嘘……」

 

 弾かれたボールは使い物にならない。2人が驚いていると、レジスチルは再びハジメ達を見る。

 

「まだやるの……?」

 

「……待つんだ、ユエ。様子が変わってる」

 

 目と思われる赤い点字が、ピコピコと点滅している。それはまるで、レジスチルが話しているかのようだった。

 

「もしかして、試練達成?」

 

 レジスチルはゆっくりと体を前に揺らした。肯定のようだ。

 

「……ありがとう、レジスチル。僕たちも鍛えられた」

 

「………………」

 

 レジスチルの赤い点字が黒くなる。どうやら眠ったらしい。

 

「……行こう、ユエ。あの奥にプレートがある筈だ」

 

「ん。……疲れたけど、がんばる」

 

 そうして2人は、いつの間にか開いていた穴の奥へと進んだ。

 

 

 

 

 

 そこは、とても小さな空間だった。ハジメの視線の先にあるのは壁画。青色の石、桃色の石、白い石の3つを赤い線で繋ぐことで正三角形が描かれている。そしてその中央に、プレートがはめ込まれていた。

 

「これが、プレート……! アルセウスの力の欠片か……!」

 

「凄い力……! 下手したら呑み込まれそう……!」

 

 ゴクリと生唾を飲み込み、プレートから放たれる圧によって震える腕をゆっくりと伸ばして、ハジメはそれを手に取った。

 

 

 ハジメは こうてつプレート を手に入れた!

 

 




ついにプレートをゲット。次はシアとの出会いか、閑話としてクラスメイト視点を……書けると良いなぁ。


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閑話:立ち上がる少女

お待たせしました。クラスメイト視点……と言うよりは、香織視点です。
他の方々のハジメ×香織を見ると、本当に尊いなぁと感じます。そのような描写が出来ることに尊敬します。


「ここは……どこ……?」

 

 香織が立っていたのは闇の中。辺りをキョロキョロと見渡すと、遠くに愛しい人の姿が見えた。

 

「ハジメ君!」

 

 嬉しそうに声をかけるが、ハジメは振り返らず闇の中を歩き始める。

 

「これ、予知夢と同じ……!」

 

 予知夢の内容を思い出す。闇の中をハジメが歩き、やがて消えていく夢。香織は、今度こそ助けて見せると手を伸ばして追いかけた。

 

「ハジメ君、待って! ハジメ君!」

 

 ハジメは歩く。香織は走る。それなのに彼との距離が遠ざかっていく。そしてとうとう、闇の中へ落ちてしまう。

 だが前の予知夢と違うのは、香織も落下した事だ。だが悲鳴は上げない。彼へ手を伸ばすのを諦めない。

 

「絶対に、助ける……!」

 

 その時だった。目の前に金色の光が溢れ始めた。

 

「え……?」

 

 ハジメの前に現れた光は、徐々に形を作っていく。人ではない。だが香織は思わず呟く。

 

「神様……」

 

 やがて光はハジメへと近づき――――

 

 

 

 

 

「ん、う……?」

 

「香織! 良かった、目を覚ましたのね!」

 

「雫ちゃん……? ここは……」

 

 香織が目を開けると、心配そうな顔をしていた幼馴染みの姿が目に入った。次に見えるのは、トータスに来てから王国より与えられた豪華な自室の内装。大迷宮でハジメがサイホーンと共に落ちた所まで覚えているため、どうやら長い間眠っていたのだろう。

 

「ねぇ雫ちゃん。たぶんだけど私、眠ってたんだよね? どのくらい眠ってたの?」

 

「い、意外と冷静ね……。眠ってたのは5日ほどよ。その間に色々な事があったわ」

 

 そうして雫は語り始めた。

 

 

 

 

 

 ハジメが落ちた後、香織は錯乱した。雫や幸利、浩介たちが押さえなければ後を追いそうなほどには。しかし体の負荷を感じ取った脳がシャットダウンしたのか、メルドが気絶させるまでもなく、彼女は気を失った。

 こうして心に大きな傷を残す結果となったクラスメイト達は、地上へ帰還。メルドはすぐに王国へ事の顛末を報告した。

 

 ところが、落ちたのが「無能のハジメ」であることが判ると、王国も教会も安堵の息を漏らした。ステータスも(報告された時点では)低く、天職も非戦闘系。しかも替えが効く錬成師ときた。

 確かに、王国の騎士団の装備の質を向上させたのは評価出来るが、それはトータスの人間でも可能なこと。それ故にハジメを重要視していなかったのである。

 しかし、そのように酷評されることに耐えられなかったメルドは、ポケモン(魔物)に対する知識が豊富であったこともを報告した。ところが、「そんなものは図書館にある本を読んでおけば誰だって対策を練れる」と一蹴されたのだった。

 

 その事を聞かされた香織は、口元こそ笑っているが、目は冷たいものとなっていた。

 

「へぇ……。そうなんだ……。ふーん……」

 

「あ、あの、香織? リリアーナ王女とかは南雲君の死を悲しんでたわ?」

 

「他のみんなは? 誰が魔法を撃ったのか、判ったりしたの?」

 

「……判ってないわ。自分達の魔法が当たったんじゃないかと思うと、怖くなって」

 

「……そっか」

 

 あの後、死を目の当たりにした生徒達は、光輝たちを除いて殆どが戦闘を拒否するようになった。

 当然、教会は良い顔をしない。神の使徒は無敵であり、戦うことで人々に希望を見せないといけないと考えているからだ。そのため何度も戦いへの参加を促したのだが、それに待ったをかけたのが、畑山愛子だった。

 

 天職の関係上、農地改善や開拓へと向かわされた彼女は、ハジメの死に寝込んでしまう程のショックを受けた。そして生徒たちがまだ戦わされそうになっていると知り、教会へ抗議したのである。

 戦闘への参加を強制するならば、二度と農地改善などを手伝わない。この一言は教会を唸らせた。戦争において重要な物の1つは、食料である。愛子の能力は人間側の食料事情に大きく関わるのだ。

 そのため、戦争への参加はあくまで志願制となったのだった。

 

「みんな、バラバラになってしまったわ。南雲君と仲が良かった清水君まで、先生の方へ行っちゃったし……」

 

 戦いへ参戦したくない生徒たちの中には、愛子の元へ向かう者もいた。もっとも、それは教会が送り込んだハニートラップから愛子を守るためでもあるが。

 

「清水君が? ……ねぇ、彼は何か言ってた?」

 

「確か、南雲君は生きてるかもって感じだったわ」

 

『あいつはポケモンバカだからなぁ。意外としぶとく生きて、洞窟のポケモンと仲良くやってんじゃねえの? 取り敢えずあいつと合流した時のために、土産話探してくる』

 

 そして、浩介も同じような事を言っていた。

 

『なんと言うか、ハジメってこの世界だと生き残れそうな気がするんだよな。だけどポケモンに関してハジメに頼りっきりになりたくないし。俺は残って、大迷宮のポケモンとか調べるよ。俺だってハジメのイラストのファンなんだからさ』

 

 その事を知った香織は安心した。ハジメと2人によって、香織にとってポケモントリオと呼べるのだから。

 

「雫ちゃん。私は信じてるよ。ハジメ君は生きてる」

 

「どうしてそこまで……」

 

「夢を見たの。きっと、ハジメ君にしか分からないような神様が助けてくれる。それに、簡単に諦めたくないもん。この世界は魔法っていうファンタジーもあるんだよ? ハジメ君は言ってたもん。この世界にはポケモンが居るって。その『不思議な生き物』がいるなら、ファンタジーと不思議が合わさって、奇跡もあると思ってる。だから、私は諦めないよ」

 

「香織……。分かったわ。なら、私も手伝う。彼の話は面白いもの」

 

「ありがとう雫ちゃん! 私、もっと強くなる! だから手を貸して欲しいの!」

 

「任せなさい!」

 

 香織は立ち上がる。恋人と再会するために。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 とある裏路地を、1人の少女が苛立ちながら歩いていた。

 

「(クソ、クソ、クソ! 檜山の奴余計なことしてくれたよ、全く! 南雲が居たからあの女は光輝君を見てなかったのに! お陰であいつに声をかけまくる、未練がましい光輝くんを見ないといけないなんて最悪だよ!)」

 

 ズカズカと癇癪を起こしながら歩く少女の背後を、とある生き物が見ていた。

 

「ミキュ?」

 

 布を被ったその生き物は、こっそりと彼女について行った。

 




ラストシーン、彼女はポケモンによって癒されるべきだと思うんです。アニマルセラピーみたいな感じで。


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ウサ耳との出会い

お待たせしました。彼女のパートナーポケモンは、既に決めてます。


 レジスチルに認められ、こうてつプレートを手にしたハジメ。あの戦いの後、傷薬とモンスターボールを量産した。更に、錬成で植木鉢を作り、畑の土を少しだけ拝借して栽培キットを作った。これで薬などの材料に困らなくなる。

 

「これで、よし」

 

 そして最後に作ったもの。それはこの大迷宮の創設者であり、解放者のメンバーの一人でもあった、オスカー・オルクスの墓標である。

 ぼんぐりの自己栽培に成功し、ポケモンの特性を見抜いてモンスターボールを発明した天才。ハジメは彼のことを強く尊敬していた。だからこそ丁寧に弔ったのだ。

 

「『偉大なる先人オスカー・オルクス、ここに眠る』と……」

 

「安らかに……」

 

 彼の骨を埋葬し名前も刻んだあと、ハジメは合掌する。モンスターボールのお陰でゴルーグと共に行動できることに感謝を込めて、ユエも合掌した。

 

「……良し、行こう」

 

「ん」

 

 2人は、試練を達成した後に解放された、地上への移動用魔方陣へ向かう。

 

―――ありがとう

 

「え……?」

 

 男性の声が聞こえた気がして振り向くが、視線の先にはオスカーの墓標があるだけだった。

 

「…………」

 

 ハジメは大きく頷くと、改めて魔方陣のある部屋へ向かった。

 

 

 

 

 

 地上へ出たと思いきや洞窟という展開でがっかりはしたものの、隠れ家なら通路を隠して当然というユエの言葉に納得して、改めて地上へと出てこれたハジメ。

 

「あーっ! 解放された気分!」

 

「外の空気、久しぶり……!」

 

 2人が今いる場所は、ライセン大峡谷。魔法を使うことが出来ず、手強いポケモン達も生息している。魔法が主でありポケモンへの対抗手段が少ない人間にとっては、処刑場とも言えるエリアだろう。

 

「ハジメ。こう言う場所なら、どんなポケモンが居るの?」

 

「そうだなぁ。植物の少ない荒れ地となると、やっぱり岩タイプや地面タイプとか? でも奈落とは違って空もあるから、飛行タイプのポケモンも居るかな。あとは、そんな岩タイプのポケモンでトレーニングする格闘タイプとか」

 

「意外と生態系が豊富なんだ」

 

「だからこそ、洞窟と同じようにそこら辺の石や岩なんかは気を付けた方が良いんだ。例えば……」

 

 

「ひゃあぁぁぁ! 助けて下さいぃぃぃ!」

「アブゥゥ!」

 

 

 峡谷に響く悲鳴に、2人は顔を見合わせた。それから少し遅れて地響きのような音と振動が伝わってくる。

 

 それは、白い体毛に覆われたポケモンに跨がるウサ耳少女が、イワークに追いかけられている光景だった。

 

「ハジメ、あのポケモンは?」

 

「珍しいな。アブソルだよ。災害を予知するって言われているんだけど……」

 

「そこのお二方、のんびり語ってないで助けてくださいぃぃぃ!!」

 

「そう言えば、なんで兎人族がこんな所に居るんだろ?」

 

「て言うか、こっちに来てる……?」

 

 それはつまり、追いかけてるイワークもハジメ達の方に来るわけで……

 

「「こっちに来るなぁぁぁ!?」」

 

「そんなこと言わずにお助けをぉぉぉ!」

 

 ハジメとユエも走って逃げる。アブソルに跨がっているウサ耳少女が並走しながら話しかけてきた。

 

「私の名前はシア・ハウリアと申します突然ですみませんが助けてくださいあと私の家族も!」

 

「早口で何言ってるか分かんない! でも何でだろ、図々しい!」

 

「て言うか、何で追い掛けられてるの!」

 

「詳細は省きますが逃げてる途中で休んでたらイワークの頭に座っちゃって!」

 

「何やってんの!?」

 

「ハジメ、どうする!?」

 

「あーもう! 詳しい話を聞かせてもらうからね! ユエ、ポケモン出すよ!」

 

「ん! お願い、ゴルーグ!」

 

 ユエがモンスターボールを投げることで、ゴルーグが出現する。

 

「え!? あんな大きな魔物をどうやって!?」

 

 驚くシアを無視して、ハジメもボールを投げる。

 

「行っておいで、サイホーン!」

 

「グオオオ!」

 

「ま、またもや魔物が!? あなた方って何者なんですかぁ!?」

 

 シアの悲鳴じみた声に、ハジメは振り返る。

 

「ポケモントレーナーさ」

 

 




と言うわけで、シアのパートナーは、予知繋がりでアブソルでした。他にも、シアは忌み子として、アブソルは災いを呼ぶ存在(実際は一言人間に伝えてるだけ)で嫌われてるという繋がりもあります。


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シアとアブソル

朝5時半に起きるの辛いです……。最近は3時間ごとに目が覚めるために、休めた感覚がしません。


 ウサ耳の少女シアを助けるために、やむを得ずイワークと戦うことになったハジメ達。先攻はユエだ。

 

「ゴルーグ、“シャドーボール”!」

 

「ゴ、ル!」

 

「グゥ……!」

 

 イワークに命中はするものの、倒すまでには至っていない。だがそれとは違う点でユエは違和感を感じていた。

 

「威力が落ちてる……?」

 

 それに、“シャドーボール”特有の黒い球を生成することに、ゴルーグはかなり力を込めてるように思えた。普段ならば瞬時に発動する筈なのに。

 まさかと思い、ユエは適当な魔法を使おうとした。

 

「……やっぱり。力が分散される」

 

 しかし、奈落での戦いと同じ感覚で放とうとしても、力が体の外へ流れるように感じた。

 そしてユエは思い出した。ハジメが、ここライセン大峡谷では何故か魔法が使えないと言っていたことを。

 

「ハジメ! ここ、魔法が使えない! それにポケモンの技も威力が落ちてる!」

 

「何だって!? サイホーン、“マッドショット”を撃てるかい?」

 

「グ、ア……!」

 

 サイホーンも、技を出すのに苦労をしている感じがした。もしやと思い、ハジメは別の技を指示する。

 

「“ドリルライナー”!」

 

「ッ! ガァァァァ!!」

 

「イワァァァァ!?」

 

 今度は瞬時に発動し、効果抜群の技をイワークに叩き込む。その威力に恐れをなしたのか、イワークは慌てて地面の中へ潜り逃げていった。

 

「何で……?」

 

「……僕の推測なんだけど、もしかしたら技の種類に関係あるのかもしれない」

 

「技の種類?」

 

「うん。ポケモンの技には、物理技・特殊技・変化技の3種類があるんだ。ゴルーグの“シャドーボール”やサイホーンが放とうとした“マッドショット”は、特殊技に分類される」

 

「もしかしてこのエリアって、ポケモンにとって特殊技の威力が下がる場所? だからさっきの“ドリルライナー”なんかはそのまま使えた?」

 

「そうなるかもね。ポケモンの技は、炎や電気なんかを放つ時点で魔法染みてるけど、特殊技はとくにそういうイメージがあるかも。変化技なんかもきっと、此処だと影響受けるんじゃないかな」

 

 実はハジメの推測は当たっている。ライセン大峡谷は、ゲームに例えるとかなり厄介な場所で、特殊技の威力が下がってしまう。変化技なら、天気や“リフレクター”、“グラスフィールド”などのターン数が減少するのだ。

 しかも、PP(パワーポイント)の減少も倍になってしまうというオマケ付きである。だから先程まで技を出すのに苦労していたのだ。

 

「さて、イワークを撃破した訳だけども……」

 

 2人は、先程から黙り込んでいるシアを見る。その表情から察するに、唖然としていたようだ。

 

「色々と教えてもらおうかな?」

 

「ひゃ、ひゃい!」

 

 我に返ったシアは、耳をピクンッと動かして返事をするのだった。

 

 

 

 

 

 シア・ハウリアは、亜人族の中でも特に争いを好まない兎人族の少女である。彼女は特別であった。本来なら亜人族には持たない筈の魔力を持って産まれたのである。

 だが、兎人族改めハウリア族は、本来ならば「忌み子」と呼ばれ処刑されるシアを匿った。一族みな家族という風に考えていたからだ。

 

 匿われながらも、周りから愛を注がれて育った彼女。そんな時、あるポケモンと出会う。

 

「それが、アブソルなんです」

 

 シアがアブソルを優しく撫でると、彼もまた嬉しそうに目を細めて撫でられる。その光景にハジメとユエはほっこりしていた。

 

「本当に仲良しなんだね」

 

「幼い頃に、樹海の中で怪我していたのを見つけて、それ以来私が匿いました。……この子たちは、災いを呼ぶと言われてますが」

 

「それは間違いだ」

 

 アブソル。わざわいポケモンとも呼ばれ、人間に忌み嫌われ、このトータスでも危険視されているポケモンである。

 だが、ハジメは知っていた。アブソルは災害などを予知して、それを知らせるために人里に下りているのだ。それを人間が、災いを呼んでいると勘違いしてしまった。とんでもない冤罪である。

 

「っ! 貴方も、アブソルは災いを呼んでいないと信じてくれるんですか!?」

 

「知識として、この子は悪くないと知ってるんだ。そっか……。君も気付いたんだね。この子の事に」

 

 だが、とうとうシアとアブソルの存在がバレてしまった。気付かない所から姿を見られたらしい。

 

「みんな私とアブソルを殺そうとしました。けど、お父様を始めとした一族みんなが、助けてくれたんです」

 

 そもそも、アブソルを匿うことにハウリア族全員が反対しなかった。何と彼らも、怪我をしたポケモンたちを手当てし匿っていたのだ。これも明るみになり、一族全員がハルツィナ樹海にある亜人族の国フェアベルゲンから追放されてしまった。

 

 そもそも、亜人族が差別されている理由は、魔力がなくエヒトから見放された存在だからと言われているが、それだけではない。

 シアが語るには、遥か昔、一部の人間がエヒト教から離れてポケモンと生活していた。異なる種族であるにも関わらず結婚し、そして子を成した。人間とポケモンのハーフがまた子を作り、その子がまた新たな子孫を作る。そうしていく内に動物のような特徴を持ちつつも魔力を持たない亜人族になったと言う。

 だがエヒト教から見れば、魔物と子を成すなど言語道断である。その歴史を否定するために差別しているのだ。

 

 そして現在の亜人族の考えは、ポケモンを根絶する事ではない。

 確かに先祖が魔物と結婚しなければ差別されなかったかもしれない。だが今の姿があるのは魔物の恩恵とも言える。憎しみと感謝が混ざって生まれた考えが、『我々と魔物は離れて暮らすべきである』というものだった。

 ハウリア族は、その考えに背いた。だから追放されたのだ。

 

 話を戻そう。

 

 さらに不運は続き、傭兵から成り立った国、ヘルシャー帝国の兵士までもが追ってきた。彼らは亜人族に対する奴隷狩りを行なっており、特にハウリア族はその見た目から、愛玩目的で拐われることが多いという。少しでも仲間を逃がそうと若い男たちが戦ったが、戦闘経験の差は圧倒的。殆どなにも出来ずに捕まったと言う。

 

「お願いします! 私の家族を助けてください!」

 

 土下座するシアと、頭を下げるアブソル。此処までされるとは思わず、2人は固まってしまう。

 

「(う、うーん。まさか一族レベルの問題だなんてなぁ……)」

 

 だが、ハジメとしては見捨てたくなかった。土下座までされて断るほど冷酷ではなかった事と、ハルツィナ樹海にある大迷宮を知りたかった事もある。

 そして何より……ポケモン達を匿おうとする優しさに、何処か惹かれたのだ。

 

「ユエ。僕は……」

 

「分かってる。私は、ハジメに着いていくって決めたから」

 

「……ありがとう。シア。逃げた人たちがどこに居るのか、教えてほしい。帝国兵が何処に行ったのかも知りたい」

 

「っ! 本当ですか!? ありがとうございます! ううっ、本当に良かったよぉ……!」

 

 涙を流すシア。その様子にハジメは、香織はどうしてるだろうかと想いを馳せた。

 




亜人族の設定は、ポケモン要素を混ぜ合わせた捏造設定です。シンオウ昔話にある、人とポケモンが結婚していた話から出しています。


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強者と弱者

アニポケ新無印のオープニングで、レジギガスの登場シーンありますよね? いかにも巨人の王って感じがして好きです。


 ハジメはサイホーンに、ユエはゴルーグに、そしてシアはアブソルに跨がって大峡谷を駆けていた。

 

「見えました! あそこに父様たちが居ます!」

 

 なぜ分かったのか。それは、またもやイワークが1点を見つめていたからだ。彼の視線の先に居たのが、怯えている兎人族の集団だったのである。

 

「あれ、もしかしてさっきのイワーク?」

 

「に、逃げたんじゃなかったんですか!?」

 

「もしかして……同じウサ耳だから、勘違いしてるとか?」

 

「とんだ迷惑ですぅ!!」

 

 とにかく助けようと、サイホーンとゴルーグが二者の間に割り込んだ。この時イワークは自身を追い払った強者を思い出した。

 

「イワァァ!」

 

「イ、イワークが逃げていく……」

 

 初老の兎人族が唖然としていると、シアが彼の元へ走る。

 

「父様! みんな!」

 

「「「シア!?」」」

 

 どうやら彼がシアの父親らしい。シアがハジメ達を紹介している間、ハジメは集団を見て怪訝に思った。

 

「(シアの話では、匿っていたポケモンも一緒に追い出された筈だ。なのに何で兎人族しか居ないんだ?)」

 

 疑問に思う中、シアの父親がハジメに話しかけてきた。

 

「ハジメ殿。娘のシアを助けていただき、ありがとうございます。私はカム。シアの父であり、ハウリア族の族長をしております」

 

「どういたしまして。本当なら、助けたお礼と言うことで樹海を案内してほしかったんですけど……。ハウリア族はこれだけですか?」

 

「……女性と子供、さらに家族のように接してきた魔物たちも物珍しさに捕らえられました」

 

「っ!」

 

 悲しそうに目を伏せるカム。一方のハジメは激情に駆られそうになっていた。つまり、彼らを襲ったという帝国兵は、奴隷だけではなくポケモンも売ろうとしている。この事に怒りが込み上げてきたのだ。

 彼の気持ちを察したのか、ユエが挙手した。

 

「……ハジメ。私が行く」

 

「ユエ?」

 

「私のゴルーグなら、炎の噴射で空を飛べる。それで空から帝国兵を探しだす。だからハジメは、ここの人たちを野生のポケモン達から守ってて」

 

「相手は奴隷狩りする兵士だよ。そこに女の子一人で行くなんて!」

 

「相手は、弱い立場をいたぶる事しか知らない。だから問題ない。それに、今のハジメの顔は危ない。やり過ぎて後悔する姿を見たくない」

 

「…………分かった。気を付けてね」

 

「任された。行くよ、ゴルーグ」

 

「ゴルッ!」

 

 ジェット噴射で飛行するゴルーグに掴まり、ユエは行動を開始した。

 

 

 

 

 

 

 こうしてゴルーグに乗って飛行していると、野営をしてると思わしき集団を見つけた。

 

「……見つけた。行くよ、ゴルーグ」

 

「ゴル」

 

 檻らしき物から若い女が無理やり出され、男達が下品な笑いをしているのを見ると、ユエは不快そうに目を細める。それを感じ取ったゴルーグは、急降下した。

 

 そんな事はつゆ知らず、帝国兵たちは溜まった欲を発散すべく、先ほど捕らえた奴隷の1人を『味見』しようとしていた。檻の中では、彼女の恋人でもいるのか兎人族の男の叫び声がする。本来ならば男を捕らえる趣味は無いのだが、少しでも金を得るために労働力として捕まえていたのだ。

 檻から出られない癖に、必死に恋人の名前を叫ぶ滑稽な姿に、隊長は酒を口にしてほくそ笑んでいた。

 

「おいお前ら! 俺にも残しておけよ! にしても、まさかコイツ等が魔物を飼ってたなんてな。一匹一匹大したこと無さそうだし、その手の金持ちに売り付けるのもアリか。こりゃあ暫くは遊んで暮らせるぜ。」

 

 その瞬間、凄まじい音共に土煙が上がった。

 

「ぶわっ!? ぺっぺっ! て、敵襲!」

 

 口に入った土を吐きながらも、隊長は部下達に警戒体勢を取らせる。そうして土煙が晴れると、目の前には巨大なゴーレムに乗る美少女がいた。

 

「こ、子供? 何で子供がこんな所に居やがる!」

 

「……答える義理は無い。そこのポケモンと兎人族を返してもらう」

 

 ユエの言葉にポカンとする兵士たち。だが次の瞬間には嘲笑に変わった。

 

「……はぁ? おいおい嬢ちゃん。俺たちはヘルシャー帝国の兵士だぜ? んなゴーレムで強気になってるから、んな口調なのかぁ?」

 

「……ムカつく。時間かけたくないし、とっとと決めるよ。ゴルーグ」

 

「ゴル!」

 

 目に光を溜め、銀色の光線“ラスターカノン”を発射する。兵士たちに当たらなかったが、その後ろにある食料などが積まれた荷車に命中した。文字通り木っ端微塵に破壊されたことで、彼らも現実を認識し始める。

 

「しょ、食料が!?」

 

「ま、魔法を撃つんだ! とっととあのゴーレムを倒せ!」

 

「隊長! ここはライセン大峡谷です! 魔法は使えません!」

 

「お前たちは此処で寝てろ。ゴルーグ、地面を思いっきり殴って」

 

「ゴォォォ、ルゥッ!!」

 

 地面を強靭な拳で殴り付け、その衝撃で兵士たちは浮き上がる。地面に叩き付けられた彼らは、混乱していたことも相まって、その意識を落とした。

 

「さっき散らばった食べ物の匂いで、ポケモン達が寄ってくる。追われる気持ちを理解すること」

 

 そう言い残すと、ユエは檻へと向かう

 

「ヒッ!?」

 

「こ、殺さないで!」

 

「殺さない。シアの頼みで助けに来た」

 

 その後、捕らわれていた兎人族とポケモンの檻をゴルーグが抱え、ユエはハジメ達の元へと戻っていくのだった。




次回はフェアベルゲンでの話を予定しています。


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衝突

ようやく、LEGENDSアルセウスの裏ボスであるアイツを倒せました……。いやーキツかった。さぁ、アルセウス目指してポケモンを調査しますかねぇ。


 ユエの働きによって、捕らわれていたハウリア族とポケモン達が再会した。お互いに生きていることを喜ぶ姿に、ハジメは微笑んでいる。

 

「ハジメ、嬉しそう」

 

「離ればなれになって、死んでるかもしれないと思っていたら会えたんだ。何となく、気持ちは分かるよ」

 

 ハジメは、自分の恋人である香織のことを忘れていない。今でも彼女は悲しんでるのだろうか。早く会いたい気持ちはある。だが……。

 

「(あの魔法攻撃……。もし僕を狙ってる奴がいたとしたら、僕が生きてると知ればまた殺しに来るかもしれない。特に檜山あたりは警戒しないとな……。だからこそ、そんなことに香織を巻き込むわけにはいかない……)」

 

 自分を殺しに来そうなクラスメイトについて、心当たりがあり過ぎるのだった。

 

 

 

 

 

 こうしてハウリア族を助けたハジメ達だったが、その引き換えに大迷宮への案内を取り付けることに成功した。そもそもハルツィナ樹海には霧が立ち込めており、並みの人間が入ることは難しいと言う。

 

「カムさん。案内を引き受けてくれて、ありがとうございます」

 

「いえいえ。むしろ私達はあなた方に感謝しかありません。この、モンスターボール、でしたかな? これのお陰で、ポケモン達とコソコソせずに済むのですから。さらに捕らわれていた同胞まで助けてくれた。私達に出来ることならば、何だって言ってくれて構いませんぞ」

 

 ハウリア族の人数は多く、それに伴って保護していたポケモンの数も多い。大集団になれば移動がしにくいため、ハジメはモンスターボールを彼等に渡したのだ。最初は、狭そうな空間に入れるのは可哀想だと反対されたのだが、シアが率先して挑戦し、アブソルが何の問題もなくボールから出てきたために、受け入れてくれた。

 その時にハジメは、ちょっとした願望も含めて、魔物呼びからポケモンへと変更させた。おかげでハウリア族では、ポケモンという言葉が定着しつつあった。

 

 そうして進んでいくと、霧の中に沈む木々が見えてきた。ハルツィナ樹海の入り口らしい。

 

「ハジメ殿、ユエ殿。どうか我々から離れないように。我々はお尋ね者でもありますからな」

 

「お願いします」

 

 この時ハジメは、この霧が自然発生による物ではないと思っていた。ただの勘ではあるのだが、少なくともポケモンの“きりばらい”では晴らせないような予感がしていた。

 

 その頃シアは、同じ女性と言うこともあってか、ユエに色々聞いていた。

 

「ハジメさんって、戦うときはキリッとしてるのに、ポケモンや私達には笑みを浮かべてること多いですよね」

 

「ポケモン達に会う夢を見てたみたい。だから、嬉しいのだと思う。ハジメはポケモンが好き。そしてシア達はポケモンの事を変に恐れず、ポケモン達と暮らしていた。そこに好感を持ったのかも」

 

「……そうなんですね」

 

 シアは、自分の相棒が入ったボールを見つめる。

 

「(ハジメさんもユエさんも、とても強いです。私も……)」

 

 何かを決意した、その時だった。先頭のハジメとカムが止まる。ハジメは思わず舌打ちした。

 

「こんな所で……!」

 

 目の前には、虎模様の耳と尻尾のある男達が、剣を抜いていたのだ。

 

「お前達! なぜ人間といる! 種族と族名を……!」

 

「待て。白髪の兎人族……まさか、裏切り者のハウリア族か!」

 

 虎の亜人……おそらく虎人族であろう男たちが、カム達を侮蔑を込めた眼差しで見ていた。

 

「裏切り者の一族が、よりにもよって人間と歩いているとはな!」

 

 全員が剣を抜いた事に、ハジメは舌打ちした。

 

「(掟を破ったからって、そこまでやるかよ!)」

 

 ハジメは感情のままに、カム達を庇うように前へ出た。

 

「ハジメ殿!?」

 

「彼等には、この樹海にある大迷宮へ案内してもらってるだけです。あなた方が考えてるような、奴隷狩りとか、そのような意図はありません」

 

 自分よりも年下であろう青年。亜人を庇うようなその姿勢と相まって、一瞬だけ虎人族の男……警備隊長は信じそうになった。だが、それだけでおいそれと信じる訳にはいかない。集落にいる同胞を守らなければならないのだから。 

 

「どこにその証拠がある!」

 

「僕は武器を持っていない!」

 

「なら、その腰に着けてる球は何だ!」

 

「それは……」

 

「中身を見せろ! そして我々に説明するんだ!」

 

 ハジメはたじろぐ。ここでポケモンを出してしまえば、魔人族と見られるかもしれないからだ。亜人族は人間に良い感情を抱いていないが、それは魔人族でも同じである。

 だが、出来る限り従わなければ、カム達が殺されてしまう。今のハジメ達には、彼等を圧倒するような武器を持っていない。だから力ずくで突破など出来ないのだ。

 

「…………分かった。出ておいで、サイホーン」

 

「グオオオ!」

 

 それを見た虎人族はより警戒する。

 

「魔物だと!?」

 

「魔物を従えていると言うことは、魔人族か!」

 

「だが、魔人族のような肌も耳もしていないぞ。奴らなら魔法ですぐに攻撃してくる筈だ!」

 

「馬鹿な! 人間が魔物を従えられる筈がない!」

 

 他の部下達が叫ぶなか、隊長は考えていた。

 

「(あの魔物、我々の剣ではまず太刀打ち出来ないだろう。それにあの青年も、魔物を従えているならば、すぐにあの球から解き放ってフェアベルゲンを攻撃していた筈だ。だというのに、今も攻撃してこない。まさか……本当に敵意が無いのか?)」

 

 考え込んだあと、隊長は提案した。

 

「敵意が無いのは認めよう。だが、これは俺の一存では決められない。長老方を呼ぶため、待機してほしい」

 

「……分かりました」

 

「ザム! この事を長老方に伝えろ! 誇張はするなよ?」

 

「はっ!」

 

 配下の1人を伝令に向かわせ、ハジメ達の監視のために視線を戻し、そして察した。

 

「(ハウリア族も同じ球を持っているだと!? もしや、匿っていたという魔物たちか。これは、戦闘をしなくて正解だったかもしれんな……)」

 

 こうした緊張感は、エルフそっくりな見た目である森人族の族長、アルフレリックが来るまで続いたのだった。

 




この話を投稿してる時点で、お気に入り登録者数が300人を突破しました! ありがとうございます!


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糾弾、そして新たな力

調子が良いため、本日はもう1個投稿します。


 エルフのような見た目の森人族の長老、アルフレリックが名乗る。

 

「私の名前はアルフレリック・ハイビスト。この樹海に住む者たちの長老の座を1つ持っている。君が報告のあった人間かな?」

 

「ハジメと言います。ハジメ・南雲」

 

「ハジメ。君は大迷宮へ案内をしてもらってるとも、魔物を従えてるとも聞いている。そして、敵意が無いとも。それは本当なんだね?」

 

「はい。大迷宮に眠る物に用があるのに、なんでそんな事をする必要があるんですか」

 

 ふむ、とアルフレリックはハジメを見る。自分の知る人間とは違い、その目は純粋だ。

 そして何より……彼からは、凄まじい『何か』のオーラを感じる。

 

「このハルツィナ大迷宮のことは、何処で知ったのかな?」

 

「解放者である、オスカー・オルクスさんからです」

 

「解放者という言葉を使うとはね……。その証拠は?」

 

「この指輪とかで良ければ……」

 

 差し出されたオスカーの指輪を見て、アルフレリックは頷く。

 

「なるほど。……うん。この先のフェアベルゲンに入ることを許可しよう」

 

「ありがとうございます!」

 

 深く頭を下げるハジメ。人間が亜人に頭を下げるという光景を見て、虎人族たちは驚いた。一方のハジメはすぐに疑問を抱く。

 

「あれ? でも、大迷宮じゃなくてフェアベルゲン? 僕たちは今すぐにでも大迷宮に行きたいんですけど」

 

「大迷宮は、この先の更に奥にある大樹のことだ。けどその周辺は特に霧が濃い。次に行けるのは10日後なんだ。亜人族なら誰でも知ってる筈だが?」

 

 聞かされた事実に、ハジメはジト目でカムを見た。ユエも同じだ。

 

「……カムさん? 忘れてたでしょ?」

 

「カム……?」

 

「えっ!? いや、あの、同族が助けられた喜びで舞い上がっていたと言いますか、何と言いますか、アハハハ……」

 

「「……………………」」

 

「……スミマセン」

 

 そんな締まらない空気を、アルフレリックが咳払いすることで霧散される。

 

「と、とにかく。私たちと共に来てくれ。そうすれば君たちも危害は加えられないだろう」

 

 彼にギャグ漫画のような汗が垂れていたのは、気のせいかもしれない。

 

 

 

 

 

 そうして、アルフレリックと虎人族達の案内で、霧の中を進むハジメ一行。しばらくして霧がゆっくりと晴れると、巨大な門が現れた。ハジメと問答をした隊長、ジルが門番に声を掛けることで一行は中へと入る。

 そこには、幻想的な光景が広がっていた。巨大な木の中に住居があるのか、玄関や窓と思われる穴からランプの光が漏れている。ハジメとユエは思わず息をこぼした。

 

「わぁ……!」

 

「すっごい綺麗……!」

 

 憎い筈の人間が、子供のように目を輝かせ感動している。その姿に他の亜人族たちは、尻尾や耳が揺れていた。

 

「(もしかしたら、私達も変わるべきなのかもしれないな……)」

 

 故郷を気に入ってくれた様子に満足したアルフレリックは、ますますハジメ達と話をしたいと思うようになっていた。

 

 そうして、長老達が会議を開く大木の中で、ハジメとユエ、アルフレリックは向かい合って話をしていた。その下の階にはハウリア族を待機させている。危害が加えられないように他の亜人族が入ってくるのは禁じているらしい。

 

「本当の神、か……」

 

 ハジメは、オスカーから聞いた世界の真実を話した。大迷宮に『神の力の欠片』ことプレートがあること。この世界における本当の神アルセウスは封じられており、復活の手掛かりとなるであろうプレートを集めるために旅をしていることも明かした。

 

「つまり、私達の先祖が魔物と結婚し、子を作ったのが亜人族の始まりだという言い伝えも、本当かもしれないってことか」

 

 アルフレリックは、笑っていた。教会が説いた「神から見放された存在」という考えを否定できるから。自分達は哀れでは無かったのだと思えたからだ。

 

「魔物と結婚してなければ私達は虐げられなかった。そう考えてる亜人族もいる。だから、魔物とは離れて暮らすべき。そう言う考えがあったけれど……」

 

 アルフレリックは目を閉じて、自分の考えていることを言葉にした。

 

「先祖が魔物と共に暮らしていけたのならば、その血を継いでいる私達も、出来るのかもしれないな」

 

「アルフレリックさん……!」

 

 感激するように声を震わせるハジメに、彼は優しく微笑む。

 

「(良かったね、ハジメ)」

 

 喜ぶハジメを見て、ユエもまた心が暖かく、嬉しくなった。

 

 

 だからこそ、下の階から聞こえる喧騒に3人は険しい顔つきをした。

 

 

「……他の亜人族は入らないよう命じた筈だけどな。止めに行かないとな」

 

「シア達が危ない!」

 

「私も行く!」

 

 

 

 

 

 3人が階段を駆け降りると、熊の亜人を筆頭に複数の亜人族たちがハウリア族を睨みつけていた。カムはシアを庇うように立っているが、その頬が赤いことから殴られた後らしい。

 だが最も問題なのは……シアのアブソルが、ハウリア族を守るためにボールから飛び出し、他の亜人族たちを威嚇している事だった。

 

「アルフレリック。貴様、どう言うことだ。なぜ裏切り者のハウリア族と忌み子、そして災いの魔物、更には人間までいる。このフェアベルゲンに災いを招くつもりか!」

 

 熊の亜人がハジメ達を睨み、そしてアルフレリックを睨む。だが睨まれたとうの本人は気にしていない。

 

「彼らは解放者の証を持っていた。そんな彼らが、ハウリア族を案内人としている。ならば言い伝え通り、危害を加えてはいけないだろう。と言うより、大事な話をしたいから来るなと言った筈だが?」

 

「そんなことは関係ない! アブソルが訪れた村がどうなったか、アルフレリックは知っているだろう!」

 

「ある集落は地滑りにのまれ、ある集落は嵐で壊滅したのだったか」

 

「その通りだ! 魔力の持つだけでも忌まわしいと言うのに、その忌み子が災いの魔物を匿っていたのだ! 処刑以外に何がある!」

 

 他の亜人族たちが彼に同意するかのように、爪を鋭くするなどして、アブソルに攻撃しようとしている。

 だからこそ、この光景を許せないのがハジメだった。

 

 

「やめろ!」

 

 

 ハジメが大声を上げたことで、視線が彼に集中する。

 

「アブソルは災いを呼んでなんかいない!」

 

「何の根拠があってそのようなことを!」

 

「アブソルは、災害を伝えに集落へ下りていただけだ! 仮に本当に災いを呼んでるのだとしたら、匿ってる間に災いが来てたんじゃないのか!?」

 

 その言葉に、アルフレリックは「なるほど。そう言われれば確かに」と呟く。

 だが彼の言葉に、熊の亜人であるジンは聞く耳を持たなかった。自分達の宿敵である人間に、それも子供に説教されるというのが我慢ならなかったのだ。

 

「黙れ! 人間のくせにぃ!!」

 

「っ! ジン、止せ!」

 

 ジンが熊の爪を鋭くし、ハジメに豪腕を振り下ろす。突然の暴力にハジメは動きが硬直するが、すぐに腕を交差させて防御しようとする。迫り来る痛みに少しでも耐えようと目を瞑り、歯を食い縛った。

 

 その時だ。ハジメの右手に紋章のようなものが現れる。

 

 それと同時にジンの爪がハジメに到達するが、その場に響いたのは肉が裂け、血が飛び散る音ではない。

 金属質な音と、何かが折れるような音だった。

 

「な、が、うぎゃぁぁぁぁ!! 俺の、俺の爪がぁぁ!?」

 

 ジンの悲鳴にハジメが目を開けると、そこには血を垂らす手を抑えて叫ぶ下手人の姿があった。よく見ると辺りには爪と思わしき物が散らばっている。

 

「うえええ!? 何これ!?」

 

 何が起きたのかハジメが確かめようとするが、その前にジンが立ち上がる。

 

「この、化け物がぁ!!」

 

 先程とは反対の腕で今度は殴ろうとして来る。咄嗟にガードするが、ボキンッ!と嫌な音が鳴った。

 

「ぐ、うううう!?」

 

「ジン、もう止めろ! 爪は根こそぎ折れてるし、今ので腕も逝ったぞ!」

 

 他の亜人がジンを止めようと駆け寄るが、彼は制止を振り払う。

 

「黙れ! この俺が! この俺がこんなガキにぃぃ!!」

 

 腕が使えないならと、今度は牙を光らせて噛み付いてきた。だが……。

 

「が、あ……!?」

 

 見た目は変わっていない人間の腕。そこに歯を突き立てたが貫けず、それどころか歯が折れて口から血を流す羽目になった。

 この時ハジメが手の甲を見て、初めて悟った。

 

「(この紋章、鋼タイプのアイコンと同じだ。まさかこれって、プレートの……)」

 

 

――――――――――――――――――――――――――――

 

南雲ハジメ 17歳 男 レベル8

 

 

天職:錬成師、魔物学、テイマー

 

 

筋力:100

 

 

体力:1100

 

 

耐性:40(+990)

 

 

敏捷:100

 

 

魔力:180

 

 

魔耐:40(+990)

 

 

技能:言語理解(真)、錬成(+クラフト)、回避行動、背面取り、魔物攻撃耐性、???の加護

 

――――――――――――――――――――――――――――




ハジメもどんどん強化されていくぅ


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激昂寸前

短めですが、ハジメがキレそうになる話です


 ハジメに攻撃を仕掛けたジンは、怪我を治すために別の場所へと運ばれた。だが牙も爪も砕けたとあっては、今後しばらくは動くことは出来ないだろう。戦士としてはそれは致命的でもある。

 

「それで……あなた方は結局どうしたいんですか? まさかと思いますが、僕が攻撃したとか言うつもり無いですよね?」

 

 ハジメの視線に数人の長老が目をそらす。確かにハジメが反撃などで殴ったりすれば、そこを突いて何か言えただろう。だがジンは、爪での攻撃から始まり、殴打に噛み付きまでやってしまった。無抵抗であった相手への三度に渡る攻撃を擁護しようが無い。

 

「だ、だがハウリア族は我々が処刑する!」

 

「……は?」

 

「ジンの件とハウリア族の件は別物だ! フェアベルゲンに災いをもたらす者たちなど、あってはならない!」

 

 小柄な、しかしハッキリと分かる筋肉からドワーフにも見える亜人の言葉にハジメはポカンとし、そして内容を理解すると溜め息をついた。

 

「さっきの僕の言葉を聞いてなかったんですか? アブソルやシアが本当に災いをもたらすなら、匿ってる間に災いが起きてたかもしれないじゃないですか」

 

「そんな屁理屈が通じるか! 魔物とは離れて暮らすと言う掟を破ったのだ! それだけでも重罪なのだぞ!」

 

「……………………」

 

 この時のハジメの顔を見たユエは、恐怖で震えてしまった。彼の目からハイライトが消え、怒りの感情すら無い。そのような顔だったからだ。

 ハジメは溜め息を着くと、長老たちから背を向ける。

 

「アルフレリックさん。貴方は話が分かる人で良かったですが、他の長老方はそうではないみたいです。フェアベルゲンは美しい街でしたが、人はそうじゃなかったみたいですね」

 

「何だと貴様!」

 

「やめろグゼ! 彼は大迷宮を攻略する者! 彼ならば、今の我々も変えられるかもしれないんだぞ! そもそも魔物と離れて暮らすと言うのは明文化されていない! 掟破りでは無い!」

 

「アルフレリック! 何故そこまでこの人間とハウリア族を庇う! 思えばフェアベルゲンからの追放に反対していたのも貴様だな!」

 

 そもそも何故アルフレリックがそこまで味方で居てくれるのか。それは、孫娘のアルテナ・ハイビストがシアと友人だったからである。孫娘の泣く顔を見たくないという依怙贔屓もあった。

 

 その時だ。無表情のハジメが言い放った。

 

「……もう良いです」

 

「何?」

 

「樹海の大迷宮に挑もうと来ただけなのにそこまで足止めされたのなら、僕たちで勝手にやります。案内人を巡っての言い争いに参加するために、ここに居る訳じゃないんですよ」

 

 彼ら亜人族は人間を嫌ってる筈だ。だというのに人間と同じように同族を、ハウリア族を差別している。その矛盾がハジメを失望させたのだ。

 

「ハウリア族は、僕がイワークや帝国兵から助け出した対価として、迷宮まで案内する約束を取り付けたんです。だというのに案内されないまま処刑する? 納得できません」

 

 アルフレリックは内心焦る。ハジメが防御した時に見えた手の甲の紋章。あれは恐らく、大迷宮に眠る『神の力の欠片』の1つなのだろう。そんな力を持つ彼を怒らせたら、フェアベルゲンが大変なことになると、直感が告げていた。

 自らの頭脳をフル回転させ、出した案。それをアルフレリックは示した。

 

「ハジメ。ならば、ハウリア族を君の奴隷にすると言うのはどうだろうか」

 

「僕の奴隷に?」

 

「そうだ。奴隷となった亜人は死亡扱いになる。死んだ者を処刑することなど出来まい? もちろん、奴隷となった後に彼らをどうするかは、君の自由だ。これでどうだろうか?」

 

 ハジメは考える。アルフレリックはポケモンと暮らすことに意欲的な態度を見せている。そして、ハウリア族を守る案も出してくれた。見たところ、他の長老達を説得しようともしており、まるで苦労人のような印象を抱いたのだ。もしここで無茶な対価などを求めれば、自分が悪者に見えるかもしれない。

 

「……ハウリア族を僕の奴隷にしたら、他の人は僕の所有物に手を出す事が出来ない、か」

 

「そう言うことになる」

 

「……分かりました。その案、受けましょう」

 

 アルフレリックは安堵の溜め息を漏らす。まさか此処まで苦労することになるとは思わなかっただろう。

 すると、この状況を見ていたシアは恐る恐る口を開く。

 

「えっと、あの……私達は助かるのですか?」

 

「そうだよ?」

 

「アブソルも?」

 

「当然」

 

 内容をゆっくりと理解していき、シアの目から涙が溢れ出す。

 

「うっ、ううっ、ありがどうございばずぅぅ……!」

 

「あーもう泣かないの。ほら、ハンカチ」

 

「ズズーッ!」

 

「鼻水じゃなくて涙を拭いて欲しかったんだけど!?」

 

 だが、数人の亜人はこの光景を面白くなさそうに見ていた。

 




次回はハウリア族を鍛える話を予定しています。


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ユエvsシア! ハウリア族育成計画

お待たせしました。原作だと個人的にギャグっぽいと感じるハウリア強化回です。……サブタイトル通り、ユエとシアのバトルが主になりましたが。


 ハウリア族の処刑が免れた後、アルフレリックから仮の拠点を与えられた。フェアベルゲンでは最も外側に位置する場所で、ハジメは『ハウリア族育成計画』を立てた。

 彼らは確かに処刑は免れた。だが、全ての亜人族が「奴隷にすることで死亡扱いになったので処刑しない」という結果に納得する筈がない。ハジメはその事を察していた。

 

「(仲間とポケモンを守るため。だからポケモンバトルの指導をしてたんだけど……)」

 

 今のハジメの顔は渋い顔をしている。というのも、ハウリア族の気質にあった。彼らは争いを好まず博愛的だ。だが、その限度が過ぎるのだ。

 

「あぁぁ、すまんケムッソ! 痛かったよなぁ!」

 

「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい! でも戦うしかないのぉぉぉ!」

 

 ダメージを受ければ悲鳴をあげ、ダメージを与えても悲鳴をあげる。少しでも攻撃を受けたら回復アイテムを使用する程である。

 

「いや、これは流石になぁ……」

 

「申し訳ありません、ハジメ殿……」

 

 呆れの表情を隠せないハジメに、カムは謝るほか無い。バトルの訓練を申し出たのに、彼も相棒のキャタピーを戦わせることに、躊躇いがあったのだから。

 

「自身の家族が傷つくと思うと、どうしても……」

 

「そうかもしれませんけど、ポケモン達の表情とか見た方が良いかもしれませんね」

 

「表情、ですか?」

 

 カムのきょとんとした顔に、ハジメは頷く。

 

「特訓を見てると、どのポケモンも『まだ戦えるのに』『この傷は大したことないのに』って鬱陶しがってる顔をしてるんですよ」

 

「なんと……」

 

 だが言葉で伝えても、彼らの気質が変わることは中々無いだろう。そこでハジメはあることを閃いたのだが、そのタイミングでカムが尋ねた。

 

「ところで、シアは何処ですかな? ユエ殿も見当たりませんが」

 

「ちょうど良かった。彼女達のバトルを見せたかったんですよ」

 

 シアはやはり特別らしい。彼女はバトルに対して積極的だったのだから。

 

 

 

 

 

 ハジメ達とは離れた場所。そこでシアのアブソルと、ユエのゴルーグがバトルをしていた。

 

 シアは、ハジメ達に助けられた時から、ポケモンと協力して戦う姿に憧れた。一目惚れとも言える。そして他の亜人族に睨まれた時にアブソルに助けられた事が、自分の情けなさを自覚させた。彼は他の者たちから嫌われていたのに、怯えることも隠れることもせず、立ち向かおうとしたのだから。

 だからこそ、ハジメのポケモンバトル講座に積極的であり、それを認めたハジメは彼女の担当をユエに任せたのだ。

 

「アブソル、“でんこうせっか”です!」

 

「アブッ!」

 

「それはノーマルタイプの技。ゴーストタイプを持つゴルーグには効かない。“きあいパンチ”」

 

「ゴォォ……!」

 

 力を溜め始めたゴルーグを見て、シアはニヤリと笑った。

 

「そんなの、最初のバトルから経験済みです! “つじぎり”ですよ!」

 

「しまった!」

 

「アァァ、ブッ!」

 

「ゴゴォ!?」

 

 初めの“でんこうせっか”は、あくまで距離を詰めるため。本命はゴルーグに効果抜群である悪タイプの技であった。“きあいパンチ”のために力を溜めていた事もあって、その姿勢をゴルーグは大きく崩される。

 

「だけど、私のゴルーグは……強い!」

 

「ゴルウウウウウウ!!」

 

 雄叫びを上げると、“つじぎり”のために近くにいたアブソルが大きく吹き飛ばされた。

 

「な、何が……!」

 

「“ばかぢから”……私とゴルーグはまだまだ戦える」

 

 一方のアブソルは、効果抜群の格闘タイプの技を受けてボロボロだった。シアは悲痛な気持ちで彼を見る。

 

「(アブソルがあんなに傷だらけに……)」

 

 脳裏に浮かぶのは、初めて彼と出会った時のこと。他のポケモンと争ったのか、それとも誰かに意図的に傷つけられたのか。理由は不明だが怪我をしていたアブソルを見つけたのが始まりだった。弱々しい声を上げていた頃のことを思い出して、シアの動きが止まりそうになる。

 

「アブソル……。もう……」

 

「アッブッ!」

 

 顔をこちらに向けて鳴き声を一つあげるアブソル。その眼はシアにこう語っていた。

 

―――大丈夫。まだいける。

 

 それを察したシアは目を大きく見開き、そして一瞬だけ閉じる。再びゆっくりと開かれたその目は……諦めが消えていた。

 

「アブソル、今です!」

 

「何する気……! “メガトンパンチ”で迎え撃って!」

 

 アブソルが一気に駆け抜ける。ユエの指示通りに拳を振り上げるが、シアはすかさず指示を飛ばす。

 

「背中に回り込んで!」

 

「アブ!」

 

 拳が当たる寸前に回避し、背中へ回り込む。ゴルーグのパンチでクレーターが出来上がった。

 

「そのまま“しっぺがえし”!」

 

「グゴォォォォ!?」

 

「ゴルーグ!」

 

 片膝をついてしまうゴルーグ。お互いに、ゲームで言うならば体力ゲージが黄色または赤色になってるだろう。

 

「そこまで! そろそろ休憩だよ」

 

 ハジメの声が聞こえ、2人が視線を向けると……ハウリア族たちが感銘を受けたような顔で観ていた。

 

「なんと言うバトル……お互いに諦めないとは! 感動した!」

 

「ただ傷付けるだけじゃなかったのか……」

 

「(良かった。これで、少しは積極的になってくれるかな)」

 

 ハウリア族から拍手喝采を受けて照れているユエとシア。そんな2人を見て、ハジメも微笑んでいた。

 




久々にポケモンバトルを書いたような感じがしました。次回はハウリア族の変化と、区切りがよければ樹海の迷宮へ向かう場面にしようかと思っています。


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変わる時

調子が良いので、2話目の投稿です


 暗闇の森の中を、熊人族が行進する。武装など必要ない。彼らの武器は己の全身なのだから。

 

「(おのれ人間……そしてその元凶のハウリア族め!)」

 

 怒りを隠さずに進む男の名は、レギン・バントン。次期族長の候補とも言われており、現在の長老であるジン・バントンに心酔していた。

 だからこそ、そんな敬愛する存在が戦えなくなったと聞いた時は、たちの悪い夢ではないかと疑った。

 

「(爪でも牙でも傷一つ付かない人間だと? デタラメだ! そんな人間、いる筈が無い!)」

 

 居たとしたなら化け物だ。レギンは心の内で、ジンを戦闘不能にしたハジメを口汚く罵倒する。

 アルフレリック達の忠告を無視した彼らは、長老の仇を討たんと、ハウリア族を初めとする人間達を殺そうとしていた。

 

「もうそろそろ、裏切り者共がいる場所に着くぞ。奴らは逃げ足が速いが、戦えはしない弱者だ。1人残らず殺せ!」

 

 そのように指示を飛ばした、次の瞬間だった。

 

 1人の熊人族が、片足を持ち上げられるような形で宙に吊るされた。そしてそのまま放り投げられる。

 

「う、うわぁぁ!?」

 

「罠だと!? 周囲を警戒しろ!」

 

 慌てふためく熊人族を草陰から見ていたのは、『本来の歴史』ならば花を踏まないようにしていたハウリア族の少年である。

 

「最初の作戦は成功。お手柄だよ、フシギダネ」

 

「ダネ~♪」

 

 彼が、いわゆる御三家の1匹を保護していた事にハジメは驚いた。少年は、シアとユエのバトルを見てから、より積極的にバトル講座に参加するようになった優等生でもある。

 ハウリア族は、気配察知や気配を消して隠れることが得意である。それ故にレギン達が此方に向かってきていることをすぐに察知した。ハジメが対処しようとしたのだが、カム達が自ら率先して迎撃を引き受けたのである。

 少年がやったのは、フシギダネの十八番である“つるのムチ”を使って草むらから熊人族の足を引っ掛け、そのまま放り投げたに過ぎない。だが少年が気配を消している事と、そもそも夜の森という視界が悪い中での出来事なので、熊人族たちは何が起きたのか分からずパニックになる。そこが狙いだった。

 

「イトマル!」

 

「ビードル!」

 

「「“いとをはく”攻撃!」」

 

 ハウリア族の中ではまだ結婚したばかりの夫婦が、それぞれの相棒に同じ技を指示する。左右から挟み撃ちにするように放たれた強力な糸は、複数の熊人族を縛り上げた。

 

「な、何だこれ!? 糸か!?」

 

「待ってろ、今ほどくからな!」

 

「声がしたぞ! 何処かにハウリア族がいる筈だ!」

 

 すると彼らが向かう先から、若いハウリア族の男が2人現れた。側にいるのは、ムックルとポッポ。

 

「ムックル、“かぜおこし”!」

 

「ポッポ、風に向かって“すなかけ”だ!」

 

 ムックルが翼を強く羽ばたかせて強い風を引き起こし、ポッポが砂を巻き上げて風に乗せる。それをマトモにくらった熊人族たちは悲鳴を上げる。

 

「がぁっ! 目に砂が入った!」

 

「口の中にもだ、ペッペッ!」

 

 動けなくなった所へ、ミミロルを連れたハウリア族の女性が追撃する。

 

「今よ、ミミロル! “はたく”攻撃!」

 

「ミミロ~!」

 

「「ぐぁぁぁ!?」」

 

 ミミロルの耳による攻撃は、大人でさえ泣き叫ぶほどの威力だ。

 

 ハウリア族とポケモン達になす術もなくやられていく様子に、レギンは目の前の光景を否定するように首を横に振った。

 

「ハウリア族は戦いを忌避するんじゃなかったのか……!?」

 

「我々は変わらなければならない。そう教わったのだよ」

 

「っ! カム・ハウリア……!」

 

 忌々しそうに睨みながら振り向くレギン。だがカムの側にいるポケモン、トランセルを見て嘲笑する。

 

「ふっ、そんなサナギで戦うつもりか? 舐めるなぁ!」

 

 熊人族の怪力を発揮して襲い掛かるレギン。だが2人の間にトランセルが割って入る。それと同時にカムは指示を出した。

 

「トランセル、6()()()の“かたくなる”!」

 

 トランセルの体が光り、レギンの拳を防ぎきる。レギンが仲間達を呆然と見ている間に、防御力を限界まで上げていたのだ。

 

「なっ……、馬鹿な!?」

 

 更に、トランセルは輝き始め、その姿が見えなくなる。

 

「おぉ、これは! キャタピーがトランセルになった時と同じ、進化の光!」

 

 カムが感慨深くその光景を見つめる。ハジメとのバトル講座を受けている途中、カムのキャタピーがトランセルへと進化した。当然この現象について知らないカムは慌てふためいたのだが、ハジメが丁寧に説明をした。彼から教えられたそのポケモンの名前を、カムは叫ぶ。

 

「フリ~」

 

「おぉ、バタフリー!」

 

 見たことの無い現象に、混乱していたレギンはますます混乱する。

 

「す、姿が変わるだと……!? 何なんだ、お前たちは何なんだ!」

 

「ハジメ殿の言葉を借りるなら、ポケモントレーナーだ! バタフリー、“しびれごな”!」

 

「フ~リリィ~!」

 

「ぐあぁっ! か、体が、痺れ……」

 

 こうして、夜明けを向かえる前に熊人族たちは無力化されたのだった。

 

 

 その後、虫タイプのポケモン達による糸で熊人族は全員が拘束された。彼らはアルフレリック達に引き渡される。

 

「我々が強く引き止めていれば、このような事にはならなかっただろう。カム、ハジメ。申し訳ない」

 

「アルフレリック殿。頭を下げることなどありません。ただまぁ、全てを許しては示しもつかないでしょう。この熊人族全員に、しっかりと罰を与えてください」

 

「あぁ。今回の件に相応な罰を与えるよ」

 

 流石に死刑は無いだろうが、長期間の労働や、何かしらの不自由が与えられるだろう。悔しそうな顔をするレギン達を無視して、カムはハジメの元へ戻る。今日は、迷宮のある巨大樹の霧が晴れる日だ。その案内をするために。

 

 

 

 

「カムさん。本当に今日が霧の晴れる日ですよね?」

 

「勿論ですとも! まさか疑っておられるのですか!?」

 

「霧が晴れる周期を忘れていたのはお父様じゃないですか……」

 

「シアまで!?」

 

「自業自得」

 

 シアとユエの容赦ない言葉に崩れ落ちるカム。というのも、最初こそ迷宮への道は霧が無かったのだが、再び濃霧が立ち込めたのだ。ハジメは顎に手を当て考える。

 

「(でも何だろう。この霧、初めて樹海に来た時とは違う感じがする……)」

 

 妙な違和感を気にしながら進んでいくハジメたち。だが霧はどんどん濃くなっていき、遂にはお互いの姿が見えなくなってしまった。

 

「な、何にも見えなくなりましたよ!?」

 

「ハジメ殿、ユエ殿、シア! 無事ですか!」

 

「ハジメ、大丈夫!?」

 

 ユエの問い掛けに、ハジメは答えることが出来なかった。

 

「なん、で……。いや、霧や森との繋がりならあり得るかもしれないけど、こんな所で会えるなんて……!」

 

 喜びと困惑が混ざった声が、震える。

 

 

ザシアンザマゼンタ……!」

 

 

 剣と盾の英雄の名を、呟いた。

 

 




遂にザシアン&ザマゼンタ登場……! 次回をお待ちください。


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新たな仲間

評価バーが赤色になってて驚きです。皆さん本当にありがとうございます!


 霧の中に居るのは、ハジメと2匹のポケモンだけだった。1匹は、左耳が欠けている青い狼のようなポケモンであるザシアン。もう1匹は彼女と反対の右耳が欠けているポケモン、ザマゼンタ。

 前世の知識では、それぞれ剣の英雄・盾の英雄と呼ばれしポケモンである。

 

『真なる神の力、その欠片を持つ者よ』

 

 ハジメの頭の中に、凛とした女性の声が聞こえてきた。

 

「テレパシー……? この声はまさか、ザシアン?」

 

『いかにも。この樹海に、神の欠片を持つものが現れたと知り、こうして会いに来た』

 

 だがよく見ると、その足先は若干透けている。前世のゲームと同じ、幻らしい。

 

「僕なんかのために、どうして?」

 

『お前が行くべき迷宮は、この先では無いからだ』

 

 同じ凛々しさ、だが今度は男性の声だ。こちらはザマゼンタだろう。だが彼の言葉に、ハジメは首を傾げる。

 

「どう言うこと?」

 

 ザマゼンタは続けた。

 

『この先の迷宮に求められる資格は、神の欠片1つだけではない』

 

 ザシアンが弟の言葉を繋ぐ。

 

『中央を除く他の迷宮へ行けば、おのずとこの先の迷宮へ辿り着ける』

 

「他の迷宮へ……」

 

 すると、2匹の姿が徐々に消えていく。ハジメは慌ててポーチからとあるアイテムを取り出す。王国の宝物庫を開放された時に手に入れた、『朽ちた剣』と『朽ちた盾』である。

 

「ま、待ってくれ! 僕は君たちの剣と盾を持っている! これは君たちに返すべきだ! せめて何処に居るのか教えてくれ!」

 

『ふ……。この人間は優しいな、姉よ』

 

『そうだな。だが、その剣と盾を出すのは今ではない』

 

「え……?」

 

『『来るべき戦いまで……』』

 

 すると、白い光で目の前が見えなくなった。

 

 

 

 

 

「――メ! ―ジメ! ハジメ!」

 

「ハッ!?」

 

 大きく肩を揺さぶられて、ハジメは意識を取り戻した。辺りを見渡すと霧は既に晴れており、目の前には枯れた巨大樹がある。

 

「ここは……」

 

「霧が一気に濃くなったかと思いきや、気付けば大樹の元に居ました。しかしハジメ殿がずっとボーッとしたままでして……」

 

「ハジメ、大丈夫?」

 

「……実は」

 

 ハジメは、ザシアンとザマゼンタの名前を伏せて、不思議なポケモンの事を話した。話を聞いていく内に、シアやカムは驚きの表情になる。

 

「何と、まさか英獣(えいじゅう)様が自ら……」

 

「凄いですよ、ハジメさん! 英獣さまは私もお父様も、御伽噺でしか聞いたこと無いのに」

 

「御伽噺で?」

 

 フェアベルゲン建国より、否、大迷宮が作られるよりも大昔に、空に『黒き災厄』が現れた。ポケモン達はその影響を受けて凶暴化し、亜人族の先祖達は自分達は滅びると諦めかけていた。しかし、2匹のポケモンが災厄に立ち向かい、さらに凶暴化したポケモンたちをも鎮めたと言う。

 

「(完全にガラルの英雄伝説じゃん!? いや、2匹だけで戦ったというのはトータスオリジナルかもしれないけども!)」

 

 ゲーム知識なら、2人の男と共に2匹は戦っている。

 そしてハジメは、ある疑問を抱いた。

 

「(黒き災厄ってのは、きっとムゲンダイナの事だ。やっぱりこの世界にも居るのか……? ゲームなら、ローズ社長が復活させて、そこから暴走してたけど……)」

 

 だが、ムゲンダイナが眠ってる場所も分からない以上、どうすることも出来ない。ハジメは一先ず考えるのを後にした。

 

「けど、英獣様がそう告げたのなら、ここの大迷宮は後回しになるんでしょうか?」

 

「そうなるね……。あと近いのは、ライセン大迷宮かな?」

 

「そうですか……」

 

 シアはそのまま、意を決した表情でハジメに告げた。

 

「ハジメさん。私もあなたの旅にお供させて下さい!」

 

「…………はいぃ!?」

 

 思わず変な声を上げるハジメだが、そんなことも構わずシアは理由を話した。

 

「私、ポケモンと力を合わせるハジメさんの姿に、尊敬しました! いえ、しています! ユエさんとの特訓でも、アブソルとより繋がりを感じた気がするんです! ハジメさん。私にもっと、ポケモンの事を教えて下さい!」

 

 勢いよく頭を下げるシア。ハジメはしどろもどろになる。ユエを見るのだが、彼女は頷いている。

 

「私は賛成。特訓の時、凄く積極的だった。未来視って能力も旅の役に立つと思う」

 

「ユエさん……!」

 

「ハジメ殿。私からもお願いします。私たちは、シアとアブソルを匿うことを優先にしていて、あまり外の世界を見せてあげられなかった。彼女に色んなものを見せてください。我々は応援しながら、帰りをお待ちしてますから」

 

「お父様、みんな……!」

 

 旅の仲間に、そして身内にまで賛成されたのでは断れない。だがハジメは彼女に覚悟を問う。

 

「亜人族だからって白い目で見られるかもよ。それに、迷宮が与える試練はどれも厳しいかもしれない。過酷な旅だけど、本当に良いんだね?」

 

「勿論です。今まで守られてばかりだったから、今度は私が動きます!」

 

「……分かった。よろしくね、シア」

 

「っ! はい、ハジメさん!」

 

 微笑みながら握手を差し出すハジメに、シアは嬉しさのあまり涙を流しながら握り返す。そんな娘の旅立ちを、カムは少し寂しく思いつつも笑って見送ったのだった。

 




次回は、ブルックの町を予定しています。


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ブルックの町にて

お待たせしました。働き始めて1ヶ月。職場に行きたくないと言う気持ち等が爆発し、親の前で泣いてしまいました。職場の先輩にもその事を話して相談したら、五月病とのこと。今は、親や先輩に自分の思いを言葉にして、非常にスッキリしてます。休日なので、明日に備えて目一杯好きなことをしようと思ってます。


 シアを仲間として歓迎し、樹海を離れたハジメ一行。すぐにでもライセン大迷宮に行きたい所だが、その前に寄り道することになった。

 

「ブルックの町、ですか?」

 

「うん。ポーチの中で要らない物を売って、お金を稼ごうかと思っててね。どうせなら冒険者として登録すれば、買い取り額アップとか宿泊費割引とか、旅として色々お得だし」

 

「お金で食料とかも買えれば、ご飯にも困らない」

 

「そう言うこと」

 

 シアは納得したように頷く。そこへハジメは、彼女にとって迷いの選択を与える。

 

「だけどねシア。町に行くわけだから、当然君は目立つわけだ」

 

「え? ……あ、そうでした。亜人は人間から見れば奴隷でした……」

 

「だから、君が変な視線を受けないためにも、これを着ける必要がある」

 

 ハジメがポーチから出したのは、首輪。それを見たシアは顔がひきつる。

 

「えっと、冗談ですよね? その黒い首輪を着けるなんて事は……」

 

「………………」

 

「いや、あはは、まさかですよね~。心優しいハジメさんが仲間にそんなこと……」

 

「………………」

 

「……グスン」

 

 泣き顔になるシアだったが、ユエが慰める。

 

「意外と似合うかもしれない」

 

「フォローになってませんよぉ!!」

 

 その後、ハジメは何とか彼女を説得して、首輪を着けさせたのだった。

 

 そうしてブルックの門に着いたハジメ達だが、彼が代表してステータスプレートを見せることになった。その数字を見た門番は驚く。

 

「すっげぇな! 何だこのステータス!? 見た目の割にあんためちゃくちゃ強いんだな!」

 

「見た目の割に、は余計だよ」

 

「悪い悪い。でもそんな強いから、白髪の亜人とか金髪のかわいこちゃんをお供に出来るのか?」

 

「さぁねえ? ところで、冒険者登録したいんだけど、ギルドとか何処にあるかな?」

 

「それなら道なりに進めば、デカい看板があるから、そこに行きな。地図も貰えるし」

 

「分かった。ありがとう」

 

 ギルドへ向かう道中、何人かがシアの事を見ていた。中には彼女を手に入れようと思い付く者もいたが、首輪がハジメの所有物である事を証明しているため、舌打ちして去っていく。

 

「……ね? 首輪着けた方が正解でしょ?」

 

「納得はしましたけど複雑です……」

 

 そうしてギルドへ辿り着くハジメ達。そこには、恰幅の良いおばちゃんが居た。ハジメは少し安心していた。シアもユエも美少女であるため、これで受付嬢まで美少女だったりすれば「トータスってポケモンではなくてハーレムゲームの世界では?」と疑うところだったからだ。

 

「美人じゃなくてガッカリかい?」

 

「まさか。むしろご近所さんみたいな安心感がありますよ」

 

「上手いこと言う子だ。さて、ご用件は?」

 

「冒険者登録と、素材の買い取りを。買い取り額から登録手続きの料金を差っ引いてくれると助かります」

 

「もしかして文無しかい? 別嬪さん2人も連れて何やってんだい」

 

 軽い説教を受けている光景を見て、周りの冒険者たちも「あぁ、アイツもお説教くらったか~」と暖かい視線を送っていた。

 

「あはは、強い魔物から逃げる時に落としちゃったみたいで……」

 

「まったく……。それじゃあ、どんな素材か見せてもらおうかね」

 

 ハジメがポーチから取り出したのは、『おおきなキノコ』や『ふっかつそう』など、樹海の道中で採取したものである。おばちゃんの目が驚きに変わる。

 

「こりゃまた、上質な物を持ってきたね。ふっかつそうなんて薬の材料になるから高く買い取れるよ。それをこんなに沢山採れるとなれば……。樹海産と見た」

 

「手続き料として足りますかね?」

 

「お釣りだけでも、買い物に困らなくなるくらいの額になるね。心配無用さ」

 

 トータスにおける通貨単位は、ルタである。不思議なことに日本円と同じで、1ルタ=1円と換算できるのだ。

 

「それと、地図を貰えますか? 門番さんに此処で貰えるって聞いたんですけど」

 

「ちょいと待っておくれ。今持ってくるからね」

 

 そうして渡された地図の中身に、今度はハジメが驚いた。とても精巧に描かれており、十分に金を取れるクオリティだからだ。

 

「こんな上等な物がタダなんて、マジで言ってます?」

 

「あたしは書士の天職を持ってるからね。趣味で描いた物だし、落書きみたいなもんさ」

 

「これが落書きって……」

 

 何気におばちゃんが高スペックな事に、ハジメは驚くしか無かった。

 

「(しかしこの子たち……かなり優秀かもね)」

 

 一方のおばちゃんは、ハジメ達を面白そうに見つめていた。

 

 

 

 

 

 冒険者登録を済ませたハジメ達。だが、あくまで登録したのはハジメだけである。ユエは、見た目こそ人間の少女だがその中身は高位の吸血鬼。ステータスプレートで能力を表示すれば異常な数値を示すだろう。流石に、渡されてすぐに数値を変えるなんて高等技術は持っていない。もしそうなれば、ハジメは、おばちゃんがユエの事について尋ねたら、おばちゃん相手に嘘はつけないと思っている。

 シアも似たようなもの。ましてや、相棒ポケモンと仲が深まってると、ステータスプレートには「魔物使い」と表示されてしまうらしい。おばちゃんがそうとは思えないが、他の者から異端者と見られる事を警戒したのだ。

 

「(それこそ、ギルドのトップとかに恩を売れば、口外しない条件に作れるかもしれないけどさ)」

 

 そのようなことを考えつつ、3人は宿へ向かう。

 

「いらっしゃいませ! マサカの宿へようこそ! ご宿泊ですか?」

 

 15歳くらいの少女が受付をしているらしい。かなり活発な子のようだ。

 

「はい。この地図を見て来たんですけど、料金とか合ってますか?」

 

「その地図、キャサリンさんのですね。はい、記載されてる通りですよ!」

 

「(あの人、キャサリンって言うんだ。意外とよくありそうな名前だったな……)」

 

 おばちゃんの名前が分かったところで、手続きを進める。

 

「食事とお風呂付きのプランでお願いします。一泊で」

 

「畏まりました。お風呂は15分100ルタですが、どのくらい入りますか?」

 

 そこでハジメは悩む。ライセン大峡谷やハルツィナ樹海での戦闘で、やはり埃は被ってるし汗もかいている。ゆっくりと湯船に浸かって疲れを癒したい気分でもあった。

 

「うーん、2人はどうする? 僕は長めに取って1時間とかそのくらいにしたいけど」

 

「私たちは髪とかも手入れしたいから、2時間くらいが良い」

 

「あ、私もユエさんとガールズトークって言うのをやってみたいです! そのくらいで!」

 

「それもそっか。じゃあ2時間で」

 

「に、2時間……。意外と綺麗好きなんですね」

 

 少女は予定表に書いていく。

 

「部屋は……どうしよ? 部屋代が安い3人部屋とか?」

 

 その時、ユエとシアの目が鋭く光った。

 

「駄目。ハジメは男の子。男女別にすべき」

 

「そうですよ! ハジメさんには、カオリさんと言う心に決めてる人がいるじゃないですか!」

 

「私たちは、2人が再会するのを応援してる。それなのに私たちと1つの部屋で寝たって聞いたら……」

 

 ハジメは背筋を震わせた。香織は優しいのだが、たまに光輝の暴走の後始末を語る時の笑顔が、非常に恐ろしかったからだ。美少女2人を連れてると言う状況に加えてそのような事になれば、修羅場は確実である。

 

「じゃ、じゃあ男女別で」

 

「畏まりました! それと、私も応援してます!」

 

 少女……ソーナ・マサカは、目の前の青年の恋愛事情に興味津々のようであった。

 なお、この時食事場にいた他の冒険者たちは、主に2つの反応をしていた。1つはハジメが美少女を連れてることに嫉妬する若者。もう1つは「恋人と再会」という言葉で事情を察し、心の中でハジメを応援する年長者たちであった。




次回もブルックの町を予定しています。


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再び大峡谷へ

ブルックの町の出来事を予定していましたが、クリスタベルさんのくだりとか、色んなありふれ二次創作の作者さんがやってるので飽きると思いました。なのでカットします。


 ブルックの町に着いた翌日。疲れを癒したハジメ達は、買い出しなどを済ませて町を出ようとしていた。

 

「何で半日だけなのにこんなに疲れるんですかぁ」

 

「この町の人間、個性強すぎ……」

 

「特にクリスタベルさんとかね……」

 

 未だにハジメの脳内には、身長2メートル強の筋肉モリモリマッチョの漢女のインパクトが離れていない。恐らく、前世のゲーム知識にある「観覧車イベント」の一部のキャラクター並だろう。

 だが、人は見た目によらないと言う言葉を具現化した存在でもあった。ユエとシアに施したコーディネートは、服にあまり詳しくないハジメから見ても感嘆の声が出るほどのレベルだったからである。

 

「食料も買った、クラフト能力で薬も作った」

 

「準備万端ですね!」

 

「ん。行こう」

 

 町を出た3人は、人目のつかないところで相棒ポケモン達を呼び出し、それぞれに跨がって駆けていった。

 

 

 

 

 

 夜のライセン大峡谷。そこでハジメ達は野営をしていた。町で購入したテントを立て、火を起こし、見張りとしてゴルーグにサイホーンにアブソルが周りに立っている。

 

「ご飯が出来ましたよ~!」

 

 シアの声で、クラフトをしていたハジメや、ゴルーグの肩に乗っていたユエが降りて来る。他のポケモン達も同様だった。

 

「シチューかぁ。美味しそう」

 

「シア、料理上手。私とは大違い……」

 

「えへへ~」

 

 この世界はポケモンの存在が目立つが、不思議なことに他の動物……馬や、豚を初めとする畜産動物なども存在している。ハジメはどうやって生きているのか気になったが、考えるのをやめた。ポケモンと言う不思議な生き物がいる世界であり、魔法も存在するファンタジー世界。常識が通用しない世界だと割り切ったのだ。

 

「少し肌寒い夜に、暖かいシチュー。最高だね」

 

 ポケモン知識がハジメ、魔法がユエなら、シアはサポーターである。彼女は母を亡くして以降、料理をしてカムの支えになっていた。その経験が活かされているのである。

 

「ガウッ!」

 

「サイホーンも慌てないで下さいね。今みんなの分も盛り付けますから」

 

 そうして料理を出すと、その匂いが良かったのか、ポケモン達は食べ始める。見た目は石像のゴルーグも食べるのが意外だった。

 そうして全員が食事を取りつつも、目的地について話し合う。

 

「この峡谷の何処かに、大迷宮がある筈なんだ。ここの近くだと思うんだけど……」

 

「何で分かるの?」

 

「これさ」

 

 ハジメがポーチから取り出したのは、オルクス大迷宮で手に入れた、こうてつプレート。それが小さな光の輪を発していた。

 

「こ、これがプレートですか。何だかゾワゾワします……」

 

「でも、迷宮に安置されてた時は光ってなかった。何で?」

 

「これは推測でしか無いんだけど、これは『共鳴』してると思うんだ」

 

 様々な考察があるが、プレートとはアルセウスの力の欠片だとハジメは考えている。元は1つだったものが散らばったものとも言える。その力の欠片が元に戻ろうとしている反応、それをハジメは共鳴と名付けたのだ。

 

「この近くに来た頃から、共鳴みたいなのが始まったんだ。だから何処かにある筈なんだけどなぁ……」

 

 だが辺りは暗くなり、捜索は危険と判断した。続きは明日になるだろう。

 

 その後、一行は眠っていたのだが……シアが起き上がる。

 

「(うぅ、催してきちゃった……)」

 

 ハジメ達を起こさないようにこっそりとテントを出て、少し離れた茂みで花を摘もうとした。その時だった。

 

「え……?」

 

 その頃、安眠していたハジメ達。だがそれはシアの声で破られた。

 

「ハジメさん、ユエさん! 大変です! こっち来てくださぁぁい!」

 

「わ、何、何!?」

 

「安眠妨害……」

 

 目を擦りながら2人はテントを出て、シアの元へ向かう。

 

「どうしたのシア。そんなに大声出して……」

 

「大変なんですよ! これ見てください!」

 

 シアが指さした先を見る。そこは見た目こそ只の岩壁だが、そこに文字が刻まれていた。

 

 

『おいでませ! ミレディ・ライセンのドキワク大迷宮へ♪』

 

 

 ハジメは見間違いかと思って、もう一度目を擦って見直す。だが、文は変わらない。

 

「え、文がチャラいんだけど。何これ?」

 

「……歓迎のメッセージ?」

 

「解放者って個性豊かですねぇ……」

 

 呆れのような空気が広がる。

 

「取りあえず……明日にまた来る?」

 

 ハジメの言葉に2人も頷いた。

 




次回から、ミレディの大迷宮攻略スタートです。


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突撃! ライセン大迷宮

お待たせしました。ライセン大迷宮に突入です。


 夜にライセン大迷宮の入り口を見つけた翌日。テント等を片付けたハジメ達は、再び入り口まで来ていた。

 

「これ、本物だと思う?」

 

「ミレディって名前、オスカー・オルクスの残してた日記にあった。結構ウザいって書いてた気がする」

 

「だとしたら、この文章も納得ですねぇ……」

 

 問題は、入り口が見当たらない事である。ハジメは慎重に岩壁を触る。

 

「プレートを簡単に渡さない為にも、入り口を隠してるのか……? だとしたらどうやって……」

 

 そして壁の一部分に触れた瞬間、回転扉のように壁が回り、ハジメはそのまま壁の奥へと消えてしまった。それを見たシアとユエがぎょっとする。

 

「ハジメさん!?」

 

「回転扉……!? 私たちも追おう」

 

「はい!」

 

 こうして一行は迷宮へと突入したのだった。

 

 

 

 所変わって、大迷宮の遥か奥。そこにフードを被った存在がいた。

 

「およよ? 迷宮に誰か入ってきたみたい? しかもこの感じ……」

 

 迷宮の壁からその存在へと流される情報。それは、挑戦者……ハジメから放たれている特別な力。

 

「ふふっ……ふふふふふっ……! 遂に来たんだ……! あの糞野郎をぶっ殺せそうな後輩が! 本当の神様を信じる存在が!」

 

 それは、フードの下にあるスマイルマークよりも嬉しそうな声で、笑った。

 

 

 

 偶然にも迷宮へ入れたハジメ達。目の前に広がるのは、広い通路だ。壁に等間隔で設置されているランタンの様子から、まるで鉱山の内部のようにも見える。

 

『ようこそ~、ミレディちゃんの大迷宮へ~♪』

 

 ハジメから見て右側の壁に、小さな石板が埋め込まれていた。ミレディってチャラいんだなーと思っていると、石板の文字が一瞬消え、新たな文章が出てきた。一行は驚くも、大迷宮だし可笑しくないかと開き直った。

 

『この迷宮には、不思議な生き物たちは居ませーん! その分たっくさんのトラップがあるから、気を付けてね~♪ なお死んでも自己責任なのであしからず~』

 

「うわぁ……」

 

「えっと、罠に警戒しながら進めって事ですかね?」

 

「ゆっくり歩けば問題ないってこと? だとしたら簡単すぎる……」

 

「唸っててもしょうがないし、警戒しながら進もう」

 

 足元だけではなく、壁や天井も警戒しながら歩いていくと、カチリと音がした。音の発生源は、シアである。

 

「……えっと、ごめんなさ―――」

 

 その時だった。大量の木の葉がシアの顔にへばりついた。

 

「ぶっ、ぺっぺっ! 何ですかこれぇ!?」

 

「今のがトラップ……?」

 

「地味……」

 

 今度はユエの足元から音がした。彼女がポカンとしていると、炎が吹き上がった。

 

「熱い熱い熱い! 私じゃなかったら死んでる!」

 

「洒落にならないなぁ、ちょっとぉ!」

 

 ハジメの足元からも音がした。何が来るかと警戒していると、目の前から凄まじい向かい風が襲ってきた。

 

「か、風が強すぎ……うおわぁぁぁぁぁ!?」

 

「何で私たちまでぇ!?」

 

「これ、入り口に戻され……!」

 

 強風に耐えきれず、ハジメ達は開始地点へと戻された。石板の文が新しくなる。

 

『だから気を付けてって言ったじゃ~ん? 色んな所に埋め込んでるからね~♪』

 

「埋め込まれたトラップだって……!?」

 

 ハジメはハッとする。。ポケモン要素のあるこの世界でトラップと言えば、彼の頭には1つしか無かった。

 

「まさか、シンオウ地下通路のトラップが敷き詰められているのか!?」

 

 シンオウ地方にある地下通路。リメイクされる前の作品では、地面にトラップが埋め込まれていた。もしうっかり踏んでしまうと、落石やら炎やらで主人公を足止めしてしまうのだ。中には矢印の方向へ大きく吹き飛ばされるトラップも存在している。

 このライセン大迷宮には、そんなトラップが地面だけではなく、壁にも仕掛けられている。休憩しようと迂闊に寄り掛かることも出来ないだろう。

 

「肉体面だけじゃなく、精神面を試す迷宮か……!」

 

 ハジメの背中に、嫌な汗が流れた。

 

 

 

 

 

 再び迷宮の遥か奥。フードの存在は、壁に埋め込んだ特殊な石によって、遠くのハジメ達の様子を見ていた。

 

「あの腰に着けてるボール、オー君が作ったものだよね。ふふふ、期待できるかも。さーて、私も準備しなくちゃね」

 

 そう呟くと、部屋を出ていった。

 




と言うわけで、ライセン大迷宮はシンオウ地下通路のトラップだらけです。ハジメ達は掻い潜る事が出来るでしょうか?


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大迷宮はトラップだらけ

今回の迷宮攻略、ハジメがチート化するかもしれません。


 ライセン大迷宮は、一言で言うならば過酷と言えるだろう。

 どこにトラップがあるか分からないため、いつも気を張り積めなければならない。寄り掛かる事も難しい。

 

「うあっ! ま、またトラップが……きゃぁぁぁ! 見ないでぇぇ!」

 

 疲れてしまい、思わず壁に手をついたシアに、花びらの突風が下から吹き荒れる。彼女はスカートを履いているため、当然めくれあがる訳で……。

 

「ハジメ、見ちゃ駄目」

 

「目潰しの構えは止めて!?」

 

 また別の場所では、分かれ道が存在していたのだが……。

 

「落石トラップ!?」

 

「アブソル、“つじぎり”です!」

 

「よし、これで先へ……て、行き止まりかよ!」

 

 落石をポケモンの技で破壊したものの、行き止まりになっていた。もと来た道を引き返して、反対の道を進むも、そこにもトラップが。

 

「また吹き飛ばし系のトラップ!?」

 

「ハジメ! 前、前!」

 

「んげぇ!?」

 

 目の前に迫る壁は、粘着質のもの……いわゆるトリモチであった。3人はそれに見事にへばり付くが、そこへ天井から水が降り注ぎ、乱雑に引き剥がす。

 

「トラップのコンボとか、本当によく考えてるなぁまったく!」

 

「ムカつく……!」

 

「ゴルーグやサイホーンで何とかなりませんか?」

 

「出来なくは無いと思うけど、それでトラップが一斉に起動したらなぁ……」

 

「そう言う事も含めて、何かしらの対策してると思う」

 

 張り巡らされたトラップに、ハジメ達は肉体的な意味でも精神的な意味でも疲れ始めてきた。どうにかトラップを突破出来ないかと考える。

 

「……トラップの起動条件は、足で踏むか、壁に寄り掛かった瞬間か。つまり、ある程度の圧力を感知してから発動するって事かも」

 

「それが分かった所で、どうにもならないと思いますけど……」

 

「いや、指とかで触れた程度なら起動しないと思うんだ。要するに、押さなければ良いんだよ。慎重に探して、取り出してしまえば解除出来ると思う」

 

「「おぉ~!」」

 

 そこでハジメはある姿勢を取るのだが、それに2人は顔をひきつらせた。

 

 

 

 

 

 迷宮の遥か奥。そこで「準備」をしていたフードの存在は、ハジメ達の様子を見ていた。

 

「さてさて、あの子達はどんな目に遭って…………ぶっ!?」

 

 モニターのような特別な石で覗くと、その光景に思わず吹き出した。

 

 何故なら、ハジメ達は地面に這いつくばって、いわゆる匍匐前進をしていたのだから。

 

『うぅ、ハジメさ~ん。どうしてもこの格好ですかぁ~?』

 

『仕方ないでしょ。こうした方が、トラップを見つけやすいんだから』

 

『女の子にこんな姿勢させるって、ハジメって鬼畜……?』

 

 だが、とんでもない台詞を聞いてしまう。

 

「トラップを見つける……? 本当に言ってるの、この子?」

 

 その言葉は、見つけられるわけが無いという意味ではない。ハジメ達が取っている姿勢だと、地面にあるトラップを発見されてしまうからだ。

 

『ん? この地面なんか怪しいな……』

 

『ハジメ、慎重に』

 

『分かってるって。指先で慎重に……よし! 見つけた!』

 

 ハジメが指先で地面から取り出したのは、板状の物体だ。

 

「嘘……。本当に見つけちゃった……」

 

『板みたいな形ですねぇ。それにこの模様、何でしょうか? 泡みたいな模様ですけど』

 

『たぶん、トラップの内容だと思う。泡まみれになるとか』

 

 トラップを見つけられたことに唖然としたが、すぐに我に返った。

 

「(で、でもでも! そんなヤドンみたいにノロノロしてたら、何時まで経っても辿り着けないもん!)」

 

『これを、こう分解して、カチャカチャカチャ……』

 

『ハジメさん? 何してるんです?』

 

『これを分解した物から、トラップの反応を探知するアイテムを作ろうと思って。錬成するには、いつもよりも体力とか使っちゃうけど』

 

『反応を探知する?』

 

『ズバットってポケモンがいる。口から超音波を出して、その反響音で獲物とか障害物とか感知するんだよ。それと同じものを作ろうと思ってるんだ。トラップの回路とかに反応して、音が変わるとかね』

 

「嘘でしょぉ!? 何なのこの子! そんな攻略法、私も予想外だよ!」

 

 なお、迷宮に挑む前に大峡谷で、石やら鉄の欠片やらを手に入れていたらしい。それらに分解したトラップのパーツを組み込んで、いわゆるレーダーを作っていた。

 

『完成~! あー疲れたぁ』

 

『ハジメ、私が使ってみて良い?』

 

『良いよ。性能も試してみてほしいな』

 

「オー君、生成魔法を与えてないよね? あの子、マジックアイテム作ってるんだけど……」

 

 映像には、レーダーによってトラップを次々と見つけていくハジメ達の姿が映っていた。

 

「って、このままじゃ皆来ちゃうじゃん!」

 

 フードの存在は、大急ぎで準備を進めた。

 

 

 

 

 

 一方のハジメ達。彼らはトラップを攻略する方法を見つけ、次々と解除していった。

 

「流石ハジメさん、略してさすハジです! こんなに楽になるなんて!」

 

「でも、解除したトラップを何でわざわざポーチにしまうの?」

 

 それを聞いたハジメは、ユエに爽やかな笑顔で答えた。

 

「少しでも仕返ししたいじゃん?」

 

「「確かに」」

 

 ハジメのポーチには、解除したトラップが詰め込まれている。魔法が使えないと言う状況で、少しでも優利になるためのようだが、他にもトラップによるストレスを発散したい目的もあるようだ。

 

 そうして進んだ先には、大きな扉がある。

 

「行くよ、みんな」

 

「はい!」

 

「うん!」

 

 3人で扉を開けると、部屋の中央にはフードの存在がいた。

 

「やっほ~! 解放者のアイドル、可愛くてキュートなミレディ・ライセンちゃんだよ~! 拍手拍手~!」

 

「「「…………は?」」」

 

 スマイルマークの頭を持った変わった存在が、まさかミレディ・ライセン本人とは思わず、ポカンとしてしまう。

 

「あっはは~! そう言う反応は慣れてるゾ☆……とまぁ、おふざけは此処までにしといて」

 

 おふざけだったんだ。3人の内心が揃った。

 

「まさか、私の仕掛けたトラップを解除する道具を作っちゃうなんてね。君ってばオー君から生成魔法を受け取った?」

 

「オー君? オスカー・オルクスの事、ですか? 僕が受け取ったのはクラフト能力とそのレシピ、そして……プレートです」

 

「……そっか。さてさて、君が世界の真実を知った上で試練を突破したってことは、此処へ来た目的は、ずばり私の持つプレートだね?」

 

「はい」

 

 すると、ミレディは真剣な顔になる。

 

「神様のプレートは、凄い力を持ってるんだ。君も心当たりないかな? オー君の所は、確か鋼の力。君も変化があったと思う」

 

「そう言えば、あの時……」

 

 フェアベルゲンにて、熊人族の族長ジンから攻撃を受けた際、相手の爪や牙が折れ、殴った腕が折れた。まるで体が鋼になったかのようだった。

 

「プレートの力があれば、何でも出来る。君はプレートの力で何をするんだい?」

 

 ハジメとミレディの目が合う。だがハジメの答えは決まっていた。

 

「プレートは、アルセウスの物です。だから僕は、アルセウスにプレートを返す。その為にはエヒトからもプレートを奪う!」

 

 それを聞いたミレディのスマイルマークは、より嬉しそうな雰囲気を放っていた。

 

「うんうん、合格~! その心意気やよし! なら、私の試練を突破して貰おうかな! 足元にご注目~!」

 

 ハジメは床を見てギョッとし、更に奥にある物を見て声を上げてしまう。

 

 そこには、真オルクス大迷宮の試練と同じ、光る床と石像があった。

 すでに石像の目と同じ配置のパネルが光っており、ミレディの足元のパネルが光れば、完成するだろう。

 

「ミレディさん! 貴女、まさか!」

 

「そう、その通り! この子はかつて、解放者のみんなと一緒に戦った私のパートナー! その封印を解くよ!」

 

 最後のパネルを、ミレディは光らせた。

 

 

――ざざ ざり ざ……

 

 

    かいほうしゃの ミレディが

    しょうぶを しかけてきた!

 

 




と言うわけで、ミレディの相棒は、意外や意外なレジロックです。
でも、原作でもゴーレムに憑依してたし、レジロックってゴーレムっぽい……ですよね?


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岩石の試練

お待たせしました、ミレディ&レジロック戦です。


 ライセン大迷宮での戦いは、ハジメ達が数で優利な筈だった。だが、魔力が分散されて魔法によるサポートが出来ないという点と、実際にエヒト神と戦ってきたミレディがサポートしてると言う点で不利になっていた。

 レジロックの封印が解けた瞬間、ハジメ達をある魔法が襲い掛かる。

 

「なん、ですかぁ、これぇ……!」

 

「体が……重い……!」

 

「ミレディさん……! あなた、何で魔法を……!?」

 

 歯を食い縛りながら問い掛けるハジメに、ミレディほニヤニヤしながら答える。

 

「ふっふーん。これはね、私の神代魔法なのだ~。ま、いわゆる重力操作ってやつ。で、何で使えるのかと言うと~……? 答えは簡単、慣れってやつだね。魔法が使えない環境で長いこと暮らしてたんだもん。如何に低コストかつ大きな効果を得られるか。消費する魔力を節約できるか。それを模索して出来るようになったのさ」

 

 つまり彼女は、魔力が分散するエリアに適応してると言うことだ。魔法が使えないのは相手も同じという理屈が、通用しないのである。

 ハジメは内心舌打ちしながらも、ユエ達に指示を出す。

 

「2人とも、ポケモンを出そう! 戦わなきゃ始まらない! 行くよ、サイホーン!」

 

「分かり、ました! 行きますよアブソル!」

 

「ゴルーグ、私も頑張るから……!」

 

 3人は重い腕を何とか振り上げて、モンスターボールを投げる。出された3匹も、体の重さに顔をしかめた。

 

「サイホーン、“ドリルライナー”!」

 

「グルオオオオオ!」

 

「良いねぇ良いねぇ! それでも戦おうとする意志、それだけで30点はあげちゃいたい! レジロック、“アームハンマー”!」

 

「レ、ジ、ロ」

 

 突っ込んできた所を、レジロックは迎え撃つかのように腕を振るい、サイホーンを殴り飛ばした。格闘タイプの技は彼に効果抜群である。

 

「サイホーン!」

 

「アブソル、“でんこうせっか”を!」

 

「アブッ……!」

 

 サイホーンと入れ替わるようにアブソルが駆けるが、重力が大きくなっている影響によっていつものスピードが出ない。

 

「良いよ? 受けてあげる」

 

「舐めた真似を! “つじぎり”です!」

 

「レジロック、“まもる”を発動だよ」

 

「防がれた!? 受けるってそう言う意味ですか!」

 

 淡い光がレジロックを覆い、アブソルの“つじぎり”を防いでしまう。

 だがそこへ、大きな足音を立てながらレジロックに近づいたのはゴルーグだった。

 

「遅れて参上。その技の性質は知ってる! “かわらわり”!」

 

「おっと!?」

 

「レ、ジ……!」

 

 ゴルーグの攻撃がレジロックに炸裂する。ユエは先輩らしくシアに声をかける。

 

「あの技は短時間で何度も発動出来ない! 畳み掛ける!」

 

「分かりました。行きますよぉ……! “ギガインパクト”です!」

 

「アァブ!」

 

「“まもる”を見破られちゃうなんてね! けどこっちだって負けない! “いわなだれ”だよ!」

 

 アブソルとゴルーグの頭上に、大量の岩が降り注ぐ。

 

「ゴルーグ、“まもる”を発動しながらアブソルを守って!」

 

 淡い光を発しながら、アブソルに覆い被さるゴルーグ。そのお陰で2匹ともダメージを負わずに済んだ。

 

「さーて、男の子の方はどうしたのかなー? まさかさっきの一撃でやられちゃってたり?」

 

「馬鹿を言わないで欲しいな……!」

 

 そこには、傷が癒えてるサイホーンと、そこに並んでミレディを睨むハジメの姿があった。彼女はハジメの持っている物を見てギョッとする。

 

「もしかして、2人が戦ってる間にキズぐすりを!?」

 

「それと、仕返しの準備もね! サイホーン、もう一度“ドリルライナー”だ!」

 

「グオオオ!」

 

 サイホーンは再び突っ込んでくる。

 

「ふーんだ! 何度やっても同じことだよ! レジロック、今度こそ“アームハンマー”で……」

 

 その時ミレディは、サイホーンの角に装着されている物を見てしまう。

 

「あれは、まさか!? レジロック、ストップストップ!」

 

 だが、それよりも先にレジロックの腕がサイホーンの角に触れてしまう。その瞬間だった。

 

「押したね? トラップを!」

 

「ざ、り……!?」

 

 カチリという音と共に、大量の泡、鋭い木の葉、花びらがレジロックを襲う。水に草、どれもレジロックには効果抜群だ。

 

「私の仕掛けたトラップをサイホーンに着けてたなんて……! レジロックの腕が触れるのを予測して……!?」

 

「確かに貴女は、魔力が分散するこのエリアに適応してる。けどレジロックは別だ。“はかいこうせん”のような遠距離攻撃は疲弊させてしまう。それに、さっきからレジロック自身が動いていない。どれもアブソルやゴルーグが近付いてから迎撃するだけだった。だから、重力操作の影響を受けてたんじゃないかと思って、そうさせてもらったよ」

 

 バトルに集中してたのか、戦う前の丁寧な口調では無いハジメ。だがミレディは機嫌を崩していなかった。

 

「……ふふふ。私自身が、レジロックにハンデをつけちゃってたのかぁ。これは私もうっかりだなぁ。けど!」

 

 片膝を付いていたレジロックが、両腕を振り上げる。

 

「長々と語っておいて何も警戒してないってのは、減点要素かな! “ストーンエッジ”!!」

 

「レジロォォォォッ!!」

 

「「「うわぁぁぁぁぁ!?」」」

 

 腕を勢いよく振り下ろした先の地面から、サイホーン、ゴルーグ、アブソルに向かって岩の棘が放たれた。その威力と衝撃は凄まじく、思わずハジメ達も吹き飛ばされてしまう。

 

 

         決着!

 

 

「けどまぁ、君たちは十分合格だよ♪」

 

 

 

 

 

 重力操作が解除され、一気に体が軽くなったハジメ達。ミレディは拍手しながら近付いてきた。

 

「合格~! 君たちってば、諦めずに逃げない姿勢、良かったよ~!」

 

「ミレディさん……」

 

「おや? 口調が戻ったかな? まぁ良いや。はいこれ、試練突破の証だよ」

 

 ミレディが手渡したのは、大迷宮攻略の証。これが無ければ、樹海の迷宮が開かれないと言う。

 

「他の迷宮の攻略の証も必要だからね。ふふん、先輩として応援してるゾ~!」

 

「ありがとうございます!」

 

「うんうん、素直でよろしい! さて。本当のご褒美……プレートはこっちにあるよ。ついてきて」

 

 部屋の奥の扉が開かれ、ミレディはそこへ歩き始めた。ハジメ達も相棒をボールを戻し、早歩きでついていく。

 

 こうしてたどり着いた先は、真オルクス大迷宮と同じような祭壇であった。正三角形の中央にプレートが安置されている。

 

「……では、ミレディさん。このプレート、持っていきます」

 

「うん。本当の神様に返してあげてね」

 

 ハジメは がんせきプレート を手に入れた!

 

「ミレディさん。この後は、どうするんですか?」

 

「プレートを守る役目は終わったけど、まだやることがあるんだ。君たちは、先に他のプレートも探しててね」

 

 すると、ハジメ達3人の足元に魔方陣が展開される。

 

「君たちの冒険が、オモシロ愉快であることを祈ってるよ! じゃあね~!」

 

 そして、祭壇からハジメ達の姿が消えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ハジメ達が消えた後、ミレディは彼らにも明かしていない巨大な部屋に来ていた。

 

「私たちにね、後輩が出来たんだ。本当の神様を信じてくれる人間なんだ」

 

 彼女の言葉は、部屋に虚しく響く。目の前の相手は長い眠りについているのだ。来るべきその時まで。

 

「もう少しで、アイツを倒せる。もう少しだよ、王様」

 

 玉座に腰かける巨人の王に、ミレディは呟いた。

 




ミレディ、どうやら切り札を持ってたようで……。

もうそろそろ、ハジメ達をウルの町に行かせようと思ってます。


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商業都市フューレンへ

お待たせしました。前回ウルの町へ向かう予告をしましたが、その前にフューレンに向かうことを忘れていました。申し訳ありません。


 大迷宮を攻略したハジメ達。ブルックの町に戻ってから1週間が経過した。その間に準備などを整えていた訳だが、濃厚な1週間であった。

 

「ソーナちゃんに僕の事を根掘り葉掘り聞かされるなんてね……」

 

「ハジメさんは良いじゃないですか。私なんて、町の人たちに奴隷になれって迫られたんですよ? 新手のナンパですか!?」

 

「踏んでくださいって言われた私はどうなの……」

 

 ハジメは、マサカの宿の看板娘のソーナに香織との恋愛事情をしつこく尋ねられた。なお彼女はその後母親に何故か亀甲縛りで玄関に晒されていた。

 シアは、男の冒険者たちに奴隷にならないかとナンパされた。幸いなことに、念のためとハジメが同伴してたため拉致といった強行手段は無かったが、それでもしつこさにはウンザリしていたのである。

 ユエの方はもっと疲れており、ある性癖持ちの男たちから踏んで欲しいと土下座され、一部の女性たちにはお姉さま呼びされると言う事態になった。酷い者は、仲間であるハジメを襲う者もいたが、こうてつプレートの効果によってどの襲撃も無意味に終わっている。

 

「明日あたりには出発しよっか。キャサリンさんにも挨拶したいし」

 

「賛成です」

 

「お世話になったから」

 

 そして翌日。キャサリンのもとへ挨拶に向かい、そのついでに商業都市フューレンへ向かう商隊の護衛依頼も引き受けた。

 

「それと、これも持っていきな」

 

「手紙……?」

 

「紹介状みたいなもんさ。あんた達には私も注目してるからねぇ。何かギルドでトラブルがあったら、それを上の奴に出してやりな」

 

「キャサリンさん、貴方って一体何者……?」

 

「良い女には秘密が付き物さ」

 

「は、はぁ……」

 

 こうして、ハジメ達はフューレンへと向かうのだった。

 

 

 

 

 

 商隊長のモットー・ユンケルに挨拶を済ませた一行。フューレンへ向かう道中、ハジメとモットーは商談のような事をしていた。

 

「この『かおるキノコ』、どこで見つけたのですか!? これは、貴族が愛用するお香の材料になる物ですよ!」

 

「ライセン大峡谷とハルツィナ樹海の境界です。どうです? 僕の仲間を引き抜くよりも、他の貴族というお得意様を付けた方が、そちらにとっても得なのでは?」

 

 モットーは最初、亜人族でも珍しい髪色のシアを売らないかと提案してきたのだが、仲間を売るつもりは無いハジメは断固拒否。その代わりにと、ギルドに売らずにとっておいた換金アイテムを出したのである。

 

「大峡谷も樹海も、あそこで手に入る物は品質も良く高価になる。下手すれば凄い稼ぎになるのでは……?」

 

「僕はこれを差し上げます。なので、シアの事は諦めてくれませんかね?」

 

「……なるほど。あまりしつこくすると、嫌われそうだ。お客様を不快にさせるのは、ユンケル商会に泥を塗るもの。この『かおるキノコ』で手を打ちましょう。その代わりに」

 

「分かってますよ。ユンケル商会の食材など、買わせて頂きます」

 

 2人は握手をする。その会話が聞こえていたユエとシアは、食事に困らなくなりそうだと小さくガッツポーズした。

 

 その後も一行はフューレンへ進み続けるが、派手な戦闘は起こらなかった。と言うのも、ポケモンが現れるたびに他の冒険者達が戦おうと構えるのを、ハジメが止めていたからである。

 今、目の前にはリングマがいる。その厳つい顔に、ある冒険者は足が震えていた。

 

「ほ、本当に大丈夫なのか?」

 

「むしろあのリングマは戦う方がまずい。あいつの足元を見て?」

 

「ん? ありゃあ……ヒメグマじゃねえか」

 

「たぶん、親子連れなんだ。こっちが大声出したり攻撃を仕掛けたら、子供を守ろうと暴れまわるかもしれない」

 

「確かに厄介だが、さっきから俺たちを見てるぞ……」

 

「正確には商隊の積み荷じゃないかな。食べ物の匂いを感じてるのかも。近付いてこないのは、僕たちが居ることに警戒してるんだと思う」

 

 やがてリングマは、諦めたように背を向けて、ヒメグマと共に去っていった。

 

「ふーっ……! 緊張したぁ」

 

「むやみに戦ったら、それこそ余計な疲労になるからね。こちら側から仕掛けるのは止めた方が良いかも。明らかに敵意むき出しだったら、迎撃するしかないけど」

 

「でも、お陰で薬とかも節約できるし、助かってるぜ」

 

 他の冒険者達と険悪な空気になることなく、ハジメ達も進む事が出来た。

 

 そしてブルックの町を出て6日後。一行は、フューレンへと到着する。だが、この先にトラブルが待ち構えてることを、ハジメ達はまだ知らなかった。

 




ハジメに襲うトラブルとは、いったい何ミンなんでしょうか……。


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捜索依頼

お待たせしました。かませ犬的なレガニドは、この作品ではまともになってる……筈です。


 フューレンの冒険者ギルド。そこでハジメはトラブルに巻き込まれていた。

 

「ひゃ、百万ルタやる。そ、その兎よこせ。き、金髪のガキは妾にしてやる」

 

「お引き取りを。僕のパーティーメンバーですので」

 

 シアとユエは、ハジメから見ても美少女である。目の前の男は、服の豪華さを見たところ貴族だろう。それも自分が言えば相手は従うと思い込んでいるタチの悪いタイプのようだ。いきなりハジメ達の元へやって来て、冒頭の台詞を言ったのである。

 

「お、お前、私をミン家の男だと知りながら断るか!?」

 

「名家ならば尚更、いきなり人の仲間を引き抜こうとはしない筈ですが」

 

「こ、このガキぃ! レガニドぉ!」

 

 脂肪が詰まった腹を揺らしながら大声で叫ぶと、一人の男が立ち塞がった。

 

「い、痛い目に遭わせてやれ! ガキに身の程を教えてやれ!」

 

「流石にこれは坊ちゃんが不利じゃねえですかい? まだ向こうは何も手ぇ出してないが……」

 

「良いからやれぇ! 金は払う!」

 

「やれやれ……。という訳だボウズ。ちょいと殴られてくれや。俺も生活があるしよ」

 

 周りの冒険者たちによれば、目の前のレガニドという男は「暴風」の二つ名を持ち、冒険者ランクは黒だと言う。

 トータスにおける冒険者にはランクが存在する。下から順に、青、赤、黄、紫、緑、白、黒、銀、金となっている。

 ハジメが冒険者ランク青に対して、レガニドは黒。上から3番目というかなりの実力者と言えるだろう。もっとも、金払いが良ければどんな人間の依頼も引き受けることから、「金好き」とも呼ばれてるらしいが。

 

「……分かりました。でも優しくお願いしますね?」

 

「そいつは、お前さんのステータスにもよるが……なっ!!」

 

 勢いよく拳が振るわれる。シアは思わず目を瞑り、ユエも駆け寄ろうとする。だが、予想外の展開が起こった。

 

「いっ、でぇぇぇぇぇぇ!?」

 

 レガニドの拳からゴキリと嫌な音が鳴り、手首から先がブラブラと力無く揺れていた。ハジメの方は微動だにしていない。

 そのとき、シアはある事に気付いてユエに小声で話しかける。

 

「ユエさん。ハジメさんの手の甲に紋様が浮かんでますね」

 

「熊の亜人に殴られた時と同じ紋様。あの男の拳、たぶん折れたんだと思う」

 

「ハジメさん、プレートの力をこっそり発動したんですね……」

 

 骨が大惨事になった手を押さえながら、レガニドはハジメを恐怖の目で見る。

 

「て、てめぇ、ランクはどれくらいだ……?」

 

「青ですが」

 

「とんだバケモンが冒険者になりたてかよ……。俺も観察眼が衰えやがったか……。坊ちゃん、悪いが報酬金じゃなくて治療費の方を頼むぜ。ボウズの相手を指示したのはあんただからな……」

 

「ふ、ふざけるなぁ!」

 

 貴族の男が吠える中、一連の騒ぎを報告した受付嬢のリシーが、眼鏡をかけた知的な男性を連れてきていた。

 

「ミン男爵。この騒ぎは何事ですか」

 

「そ、それは……」

 

「坊ちゃんが、そこのボウズの仲間を引き抜こうとしたんだ。ボウズがそれを断ったから、殴れって俺が指示された。そんなところだ」

 

「レガニド!? お前、裏切るのか!?」

 

「裏切りなんかじゃねえ! 冒険者の資格を取り上げられたら、俺だっておしまいなんだ!」

 

 レガニドとミン男爵と呼ばれた男が言い争っている中、リシーがハジメの対応をする。

 

「無抵抗でしたし罪には問われないと思いますが、事情聴取には応じて頂けますか?」

 

「はぁ……やれやれ。分かりました」

 

 面倒なことになったと、ハジメはため息をついた。

 

 

 

 

 

 その後の事情聴取でハジメは、嘘偽り無く事の経緯を話した。周りの証言とレガニドの証言も相まって、ミン男爵には何かしらの処罰が下るとの事だった。勿論、殴った実行犯であるレガニドにも罰則はあるのだが、少なくとも資格剥奪にはならないらしい。

 

「しかし、まさかキャサリン先生の紹介状を持つ者が現れるなんてねぇ」

 

「僕だって驚きですよ。あの人がそんなに凄い人だったなんて」

 

 ハジメと談笑しているのは、冒険者ギルドフューレン支部の支部長であるイルワ・チャング。

 なぜ支部長と会話をするに至ったか。それは、先の事情聴取にて、ハジメ達の身分証明を求められた事がきっかけだ。ハジメはステータスプレートがあるため問題無かったのだが、ユエとシアはステータスプレートを持っていない。どうしたものかと考えた時に、ユエから手紙を出すことを提案されたのだ。ブルックの町で冒険者ギルドのキャサリンから貰った手紙である。

 それを提示したところ、ギルド長が出てきて内容を確認。無事に3人の身分証明が成されたのである。

 

「キャサリンさん、恰幅の良いおばちゃんじゃなかったんですねぇ……」

 

「ギルド本部でギルドマスターの秘書長やって、そこから運営の教育係。今の支部長の半分は教え子……。経歴が凄い」

 

 シアとユエは、イルワから聞いたキャサリンの素性に唖然とする。しかも憧れのマドンナと言われる程の美人で、彼女の結婚報告に王都が荒れたと言うのだから、とんでもない影響力である。

 

「しかし、今回は私がキャサリン先生の教え子だから良かったものの、次の行き先がそうだとは限らない。さっき言ったことを逆に言えば、残り半分は彼女の教え子じゃないからね」

 

「やっぱり、2人分のステータスプレートが必要ですか……」

 

「そうなるね。2人分を作ってないと言うことは、何か隠したい事があるのかもしれないが……」

 

「うっ」

 

 ハジメがサイホーンを相棒にした時、ステータスプレートに「魔物使い」と表示された。おそらくユエとシアにステータスプレートを使うと、同じような事が起こるだろう。国の殆どが聖教教会の信者である以上、魔物を悪と説く教会によって異端認定される恐れがある。だから作っていなかったのだ。

 

「どうだろうか。私の依頼を引き受けてくれたら、ステータスプレートの発行料はタダにするし、その内容について秘匿しよう」

 

「……依頼の内容にもよりますよ? 僕たちはステータスが高いだけで、冒険者としての経験は浅いんですから」

 

「人捜しをして欲しいんだ」

 

 話を聞くと、フューレンから北にある山脈地帯で魔物の群れが確認され、それを調査に向かった冒険者一行が行方不明になったという。その一行に飛び入り参加したのが、捜索対象のウィル・クデタとのことだ。

 

「冒険者になると家出同然に飛び出してね……。現実を見て、冒険者に向いてないことを知ってほしい。その意味を込めて私が同行を許可したんだ。友人の息子を送り出した以上、私にも責任はある」

 

「北の山脈地帯と言えばかなりの危険地帯と聞きます。僕のランクは青ですよ?」

 

「ユンケル商会のモットー氏から聞いたよ。余計な戦闘をせず、被害無く護衛を成功させたと。彼とキャサリン先生の評価を見て、君なら大丈夫だと思っているんだ。頼む、どうか引き受けてくれないだろうか」

 

 イルワは深く頭を下げる。ハジメは考えた。

 

「(山脈地帯で、魔物……ポケモンの群れが現れたって言うのが気になるな。ゲームでも大量発生のイベントはあったけど、その類いかな?)」

 

 イルワは更に、他の場所でトラブルになった時の後ろ楯にもなると言い出した。それ程までに心配なのだろう。

 

「……分かりました。けどもしその、駄目だったら……」

 

「その時は、遺品だけでも持ってきて欲しい」

 

「了解です。引き受けましょう」

 

 イルワが提示した依頼書を見て、報酬などに偽りが無いことを確認した上でハジメがサインした。これで契約完了だ。

 

「よし、行こう。北の山脈へ」

 

 こうしてハジメ達は山脈へ……その途中にあるウルの町へ出発したのだった。




次回。ハジメ達はいよいよ、ウルの町へ向かいます。


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湖畔の町での再会

先週のアニポケ、リーリエとモーンのお話はガチの神回でした。あの結末は良かった……本当に良かった……。

そして、この作品のお気に入り登録者数が400件を越えました! 本当にありがとうございます!


 湖畔の町ウル。ウルディア湖と呼ばれる湖の影響で湿地となっており、異世界では珍しい稲作が行われている町である。さらに山脈地帯からは自然の恵みが採れ、湖からは魚が獲れる。まさに食の恵みを受けている町とも言えるだろう。

 

「はぁ。清水君、一体どこに行っちゃったんですか……」

 

 その町をトボトボと歩くのは、社会科を担当教科に持つ教師、畑山愛子である。立派な教師を目指しているそうだが、その小柄な容姿から生徒達には「愛ちゃん先生」と呼ばれている。

 天職『作農師』を活かすために農地開拓をしていた愛子だったが、オルクス大迷宮でハジメが死亡したと聞いた時は寝込んでしまった。そして、心に傷を負っているにも関わらず訓練への参加を促そうとする教会のやり方に抗議したのである。

 戦争に参加せず、別の形で国に貢献する。そこで戦いたくない生徒に募集を呼び掛けたのだ。

 その生徒の中に、ハジメと仲が良い清水幸利が居た時は、何と声をかければ良いか分からなかった。だが彼は言っていた。

 

あいつ(ハジメ)は案外タフだから、その内ひょっこり出てきますよ。その間、色んなことを話してやるために王都を離れるんです』

 

 道中の清水は、園部優花をはじめとする女子たちから見ても逞しいものだった。ハジメの影響でそれなりにポケモンに詳しい彼は、道中で見かけるポケモンに対して説明をする。説明の最後に必ず、「ハジメの受け売りだけどな」と付け加えて。

 

 そんな彼が突然、行方不明になってしまったのだ。

 

「愛子。あまり落ち込むな。彼は魔物に対して豊富な知識を持っている。無事な可能性は十分にある」

 

 そう言って慰めるのは、愛子たちの監視役として教会から派遣された神殿騎士のデビッド。彼女の護衛隊長である。実はハニートラップとして送られたのだが、逆に愛子に惚れてしまったという男である。彼だけじゃなく他の神殿騎士たちも同様であった。

 そのお陰で、「どことも知れない馬の骨に愛ちゃんを渡せるか!」と優花たちが強く意気込んでいる。

 

「そうですよ、先生! 自分で何処かに行った可能性もありますし、悪いことばかり考えたら駄目ですって」

 

 優花にも慰められ、愛子は自分自身に喝を入れる。

 

「……そうですね! それじゃあ、次のお仕事のためにもしっかりとご飯を食べましょう!」

 

 笑顔を作り、自分達が泊まっている宿へ向かう。その時だった。

 

 

―― ……よ。……の子よ。

 

 

「ん?」

 

「どうしたんですか、先生?」

 

「いえ……。気のせいだったみたいです」

 

 疲れによる幻聴かもしれない。愛子はそう思い宿へ足を動かした。

 

 

 

 

 

 異世界というと料理のレベルが低いイメージがあるが、トータスにおいては違っていた。特にウルの町は冒頭のように食に恵まれているため、和食に似たような料理も出てきた。

 

「この異世界版カレーライス、うめぇ!」

 

「この天丼もレベル高いって」

 

「チャーハン擬きも止められねぇよ」

 

 玉井淳史や宮崎奈々など他のメンバーが舌鼓を打っている中、愛子たちが泊まっている宿「水妖精の宿」のオーナーであるフォス・セルオがやって来た。愛子が料理のお礼を伝えるのだが、彼は申し訳なさそうな顔をする。

 

「誠に申し訳ないのですが、香辛料を使った料理は本日限りとなります」

 

「えっ! じゃあこのニルシッシル(異世界版カレー)も食べられないって事ですか!?」

 

「はい……。魔物の群れが確認されて、材料の確保が難しくなったのです。先日も調査に向かった高ランク冒険者の一団が行方不明になって、それから採取に行く者が居なくなって……」

 

「それは心配ですね……」

 

「ですが、冒険者ギルドのフューレン支部長が依頼した冒険者が来るとのことですので、じきに解決するかと」

 

「ほう。金ランクの冒険者でも来るのだろうか」

 

 フューレン支部長のイルワは、冒険者ギルドの中でも最上級クラスの幹部だ。その彼が依頼すると言うことは凄まじいと言っても過言ではない実力者が来ると言うこと。デビッド達はそう認識していた。

 すると、カランコロンとドアベルが鳴り、何やら会話が聞こえてきた。

 

 

『ユエ、ありがとう。ゴルーグに乗せてくれて』

 

『ゴルーグは力持ち。ハジメとシアを乗せることも苦じゃない』

 

『ウルの町まであっという間でしたね。ありがとうございます』

 

 

 男女の集団のようだ。しかも男一人に女二人というハーレムのような状態である。思わず男子は舌打ちしそうになった。

 

『ハジメさん。今日はここで一泊するんですよね?』

 

『うん。明日は、ウィルさんの捜索と、大量発生した魔物の調査かな』

 

『やっぱり、ハジメも気になるの?』

 

『うん。人為的な物なのか、自然現象なのか気になるんだ』

 

「え……?」

 

 愛子たちは顔を見合わせる。会話で聞こえてくる男の声は何処かで聞いたことがあった。そして途中で聞こえてきた、ハジメという名前。

 

「南雲くん……?」

 

 思わずカーテンを開けると、そこには見知った顔があった。

 

「え、先生……?」

 

 それは、死んだと思われていたハジメの姿だった。

 




原作通り、清水は失踪。その事を知るハジメはどうするのか?
そして、前半で愛子が聞いた声のようなものとは?

次回をお待ちください。


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宿での一幕

休日で、調子も良いため再び投稿です。

実は今日の午後に、LEGENDSでようやくアルセウスを撃破しました。ゲージ引き継ぎを繰り返してのクリアですが……。


 ウルの町で再会をしたハジメと愛子達。ハジメは心の底から驚いていた。そして、生きていた喜びで涙目になる彼女にタジタジとなる。

 

「南雲くん、生きていて本当に良かったです……。まさかこんな所で会えるなんて……」

 

「えーと、その、ご心配をお掛けしました」

 

 その時、ハジメの腹から盛大な音が鳴った。感動の再会だというのに台無しである。

 

「あはは……。依頼を受けてから飲まず食わずでかっ飛ばして来まして……。何か頼んでも?」

 

「あっ、そうですね。色々聞きたいですが……」

 

「それは食事しながらでも」

 

 こうしてハジメ達がニルシッシルを注文し、待ってる間は愛子による質問が始まった。

 

Q、橋から落ちた後どうしてたのか?

A、ひたすら地下をサバイバルしていた。

 

Q、奈落から出た後、なぜ合流しなかったのか?

A、ライセン大峡谷に出たため、そこから色んな場所を巡っていた。

 

 二番目の質問は、それっぽい理由を述べただけで、実際は違う。檜山辺りが自分を落としたのではないかと疑っており、自分が戻ったことで、恋人である香織を巻き添えにしたくなかったからだ。だが、まさか愛子にクラスメイトを疑ってるとは言えない。

 

「ところでずっと気になっていたのですが、そちらの女性2人は……」

 

「私はユエ。孤独だったのをハジメに助けて貰った。今は彼の弟子であり仲間」

 

「シアと言います。私や家族を助けて頂きました。今はハジメさんの仲間で、弟子その2です!」

 

「な、仲間は分かりますが、弟子……ですか?」

 

 小説なら惚れてしまいそうな出会い方をしてるのに、恋人ではなく弟子だと名乗ったのが意外だった。

 

「ハジメはポケモン……あなた達が魔物と呼んでる生き物について凄く詳しい。戦いの時は、いつも色んな指示を出してる」

 

「私たちは、ハジメさんの姿に憧れて、色々なことを教えて貰ってるんです」

 

 2人にそう思われている事が意外だったのか、ハジメは照れるように頬を搔く。

 しかし、そこへ水を差すような言葉を放つ者が居た。神殿騎士のデビッドである。

 

「ふん。獣風情が人間に憧れるだと? ましてや無能と呼ばれる男を憧れるとはな」

 

 その一言に、愛ちゃん先生護衛隊の生徒達は「空気読めよテメェ!」と睨むが、デビッドは止まらない。

 

「エヒト様に見捨てられた亜人が、このような食卓についていると言うだけでも汚らわしい。その耳を切り落とせば少しは人間らしくなるか?」

 

「あ、あ……」

 

 心無い言葉を浴びせられ、瞳がグラグラと揺れるシア。だがユエとハジメが彼の前に立ちはだかった。

 

「何だ貴様ら! 神殿騎士に逆らうか!」

 

「……小さい男。こんな奴がリーダー格なんて思えない」

 

「僕の仲間を、よくまぁ初対面でこれだけ言えるものです。パーティーメンバーを貶されたんだから、僕にも怒る権利はありますよねぇ?」

 

「この……異教徒めがぁ!!」

 

 惚れている女性の前で器の小ささを言われ、更に聖教教会では無能と言われている男に睨まれ、デビッドは激昂した。剣を素早く抜き、2人を切り捨てようとした瞬間だった。愛子や女子生徒たちが悲鳴をあげ、男子たちは危ないと叫ぶ。

 

「ふんっ!」

 

「なっ……!?」

 

 だがハジメは、こうてつプレートの力を発動、片腕だけでデビッドの攻撃を防ぎきった。驚いて動きが止まる隙を突き、今度は別の紋章を浮かばせる。

 

「食事の場で流血沙汰は、ご法度ですよ。錬成!」

 

「ば、馬鹿な!? 錬成ごときで私の鎧が……!」

 

 浮かべた紋章は、岩タイプのマーク。ミレディから受け取ったがんせきプレートの効果だ。その効果内容は『錬成補助』。これによってより少ない魔力で錬成が可能になっているのだ。

 この効果を発動して行なった錬成。デビッドの鎧に触れ、空気と結合しやすくし、一気に錆びさせたのだ。お陰でデビッドの姿は一気にみすぼらしくなる。

 

「ごめんなさい、ハジメさん。また守って頂いて……」

 

「気にすることはない。言いたい奴には言わせておけばいい。所詮はその程度の人間なんだから」

 

「貴様……!」

 

 ハジメの言葉にまたデビッドが掴み掛かろうとするが、錆びた影響で鎧にヒビが入るため、迂闊に動けない。他の神殿騎士たちも、自分達が錆びさせられるのではと迂闊に動けなかった。

 

「シアはシア。貴女には貴女の強みがある。自信を持てば良い」

 

「ユエさん……」

 

「さてと。先生、申し訳ありませんが今は色々と話せるような状況じゃないので、また後で」

 

「あっ、はい……」

 

 フォスに店を騒がしくしたお詫びを述べた後、ハジメ達はさっさと二階の宿泊部屋へ向かってしまった。

 

「……私の生徒を貶した上に、話す時間を奪うなんて最低です、デビッドさん」

 

「うぐうっ!?」

 

 なお、その後デビッド達の評価はガタ落ちし、愛子から冷遇されることになった。このことで彼らは精神的な大ダメージを受けることになるのであった。

 

 

 

 

 

 その夜。ハジメ達と話をしようと、愛子達は彼らの部屋を訪れる。ちなみにデビッド達は愛子に冷たくされたショックで、今もまともに動けていない。

 

「南雲くん、先生です。今お部屋に入っても良いですか?」

 

『どうぞ』

 

 そうして部屋に入った後、愛子は昼間のことについて謝罪した。

 

「昼間はごめんなさい。私たちで、デビッドさん達を止めてれば……」

 

「アイツが勝手にやったことですから、先生が謝る必要ないのに……」

 

「それでも、です。あの場に居た私たちには、止めることが出来ていたと思います」

 

「エヒトを深く信仰してる人間がそう簡単に考えを改めるとは思えないけど……。ま、いっか。分かりました。先生の言葉、受けとります」

 

 そしてお互いに情報交換をする。ハジメが地下にいる間やライセン大迷宮を攻略してる間は、地上もそれなりのイベントがあったようだ。

 まず、愛子が教会に抗議して、戦いへの参加は志願制にしたこと。次に、傭兵たちの集まりから成るヘルシャー帝国の皇帝が訪問し、勇者と腕試しをしたこと等だ。

 

「そう言えば、幸利や浩介、それに香織は元気ですか?」

 

「それ、なんですが……」

 

 そして、愛子が告げた言葉にハジメはショックを受ける。

 

「幸利が失踪、だって……?」

 

 愛子はその様子に、何も言うことは出来なかった。

 




さりげなく岩石プレートの効果が初登場。錬成を補助してくれる効果のため、より広範囲の錬成も可能になりました。

次回、いよいよ北の山脈へ突入です。


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不思議な夢

サブタイトルはかなり迷いましたが、読者の皆様に見て欲しい場面にしました。


 清水が失踪したという話を聞いてショックを受けたハジメだったが、何とか思考を切り替えた。

 

「僕たちは、ここから北にある山脈で行方不明になった冒険者達を探しに来ました。幸利も探しましょう」

 

「ありがとうございます!」

 

「……ところで、香織はどうなりましたか」

 

 友人が居なくなってショックを受けたハジメだったが、自身の恋人はそれ以上かもしれない。だからこそ彼女の様子を尋ねた。

 

「南雲くんが生きている事を信じていました。だから、今受けている依頼を終えたら、会うべきだと思います」

 

「……そう、ですか」

 

 ハジメの内心は複雑だった。今すぐにでも会いに行きたい。だが愛子の下に居ないと言うことは、光輝たちと共に居ると言うこと。その前線組の中には、檜山たちも居ることだろう。彼らに目をつけられるのが厄介だった。

 

「(……今は、目の前の事を考えよう)」

 

 そうして愛子が退室した後、明日に備えて寝ることにした。

 

 

 

 

 

 深夜。愛子は不思議な夢を見ていた。

 

「わぁ……!」

 

 目の前に広がるのは、青色の花畑。見たことの無い花だが、不思議と目が惹かれる。

 その時頭の中に声が響いた。

 

――人の子よ。

 

「っ!? 誰!」

 

 花畑を見回すと、その中に“緑”がいた。その大きな頭はまるで王冠のようである。

 

――人の子よ。ヨの声が聞こえるならば聞いて欲しい。

 

「貴方は……」

 

――山に災いの芽が咲きつつある。災いを静める為に、力を貸して欲しい。

 

「待ってください! 貴方の名前を教えてください!」

 

――ヨの名は……

 

 その瞬間、目の前が真っ白になった。

 

 

 

 

 

 翌朝。出来るだけ早く探そうと考え、ハジメ達はまだ町の住人達が眠っている時間帯から出発しようと考えていた。町の外に出て、呼び出したポケモンに乗って山脈に向かおうとしていたのだが……。

 

「えっと、何で先生たちも居るんです?」

 

「夢を見たんです。山に災いが起きつつあると、不思議な生き物が言っていて……」

 

「山に災いが?」

 

「その調査に向かいます。勿論、清水くんも探します!」

 

「うーん……」

 

 これから向かう北の山脈は、高ランクの冒険者でなければ危険と言われている。魔物が強いと言われているが、その通りならば高レベルのポケモンが居ると言うことだ。ライセン大峡谷と違って魔法の使える地帯のため、戦う手段は多い。それでも、戦闘から離れていた愛子と優花たちがマトモに戦えるとは思えなかった。

 また、愛子だけに告げた不思議な生き物と言うのも気になる。

 

「……わかりました。一緒に行きましょう。ただし、条件があります」

 

「条件、ですか?」

 

「これからやる事に、口外しないでください」

 

 ハジメが目を合わせると、ユエとシアも頷いて腰にあるモンスターボールを手に取る。ボールに気付いた優花が不思議そうに尋ねた。

 

「南雲? 何そのボール」

 

「僕たちの相棒さ。出ておいで、サイホーン!」

 

「おいで、ゴルーグ」

 

「走りますよ、アブソル!」

 

 そうして現れたポケモンに、特にサイホーンが現れた瞬間、起こったのは当然ながら悲鳴だった。

 

「キャアァァァァ!?」

 

「うわぁぁ!? こ、こいつって!」

 

「大迷宮の時の!? 南雲あんた、何でソイツを連れてるのよ!?」

 

「こうなると思ったよ……」

 

 橋から落ちた後に仲間になったと答えると、優花たちは信じられない物を見るような目になった。自分たちのトラウマでもあり、挫折を与えた存在。死を覚悟した魔物を仲間にした事に、「本当にコイツは南雲なのか?」と思ってしまう。

 

「私たちは、パートナーに乗って山脈に向かう。あなた達はどうするの」

 

「と言うか、山の中もポケモンだらけでしょうから、私たちの近くに居た方が安全かと……」

 

 ユエとシアの言葉に、悩む優花たち。彼女たちを代表するように愛子が答えた。

 

「乗せてください。この子たちは、生徒に危害を加えないと……信じて良いんですよね?」

 

「それはあなた達次第。早く決めて。人を探してるなら早い方が良い」

 

 その結果、愛子たちはそれぞれのポケモン達に乗せてもらうことになった。シアのアブソルは、少しでもスピードが落ちないために少人数ではあるが。

 

 山脈へ向かう道中。ハジメのサイホーンに乗せてもらっている優花が、彼に尋ねた。

 

「南雲。さっきはごめんなさい。貴方のパートナーに悲鳴をあげちゃって」

 

「この子との戦いは、みんな必死だったからね。ああいう反応は仕方ないよ」

 

「それだけじゃない。南雲は覚えてる? サイホーンや他の魔物に私が襲われたとき、助けてくれたのを」

 

「大迷宮の時だから……ガラガラとの戦いか。そう言えばそうだったね」

 

「お礼よりも先に悲鳴なんて、失礼よね。だけど言わせて。あの時、助けてくれてありがとう。そしてごめんなさい。落ちたときに助けられなくて」

 

 ハジメは黙ってその言葉を受け止める。橋から落ちた件に関しては、生徒達が避難してから自分の援護攻撃をしていたのだから、落ちたとしても咄嗟に手を掴むのは難しい距離だ。その事を指摘しようとも思ったが、彼女は責任を感じているらしい。言えばまた卑屈になってしまうだろう。

 

「……その言葉、確かに受け止めたよ」

 

「本当に……ありがとう……!」

 

 ハジメは振り返らない。言いたいことを言えた解放からか嗚咽を漏らす彼女。その顔を見るのは失礼かもしれないと考えて。

 

 

 

 

 

「…………ミィ?」

 

 草むらから、優花を見つめるポケモンがいる。見た目はハリネズミのようだが、その背中は小さな草が生えていて、ピンクの花が咲いている。

 

「ミィミィ!」

 

 感謝の気持ちを感じ取ったそのポケモンは、テクテクと優花の背中を追った。

 




最後のシーンを登場させた経緯は、アニポケのサンムーン編にある、マオと母の回を参考にしました。彼女と優花は料理人繋がりでもありますし。
なお、その回を見たとき号泣しました。私、死ネタに弱いのです……。


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ハジメ達、山脈へ

お待たせしました。中々書く時間を作れなかったため、今回は短めです。


 愛子たちを連れ、山脈までやって来た一行だったが、目の前の荒れた景色を見て驚いていた。

 

「何かが暴れた跡、かな?」

 

「大木がへし折れてますよ……」

 

「これが、夢で言われた災いなのかしら……?」

 

 地面は大きく抉れ、木はへし折れている。その荒れ具合にハジメは更に詳しく観察する。

 

「単なる力任せな暴れ方じゃない。折れた木が一直線に並んでいると言うことは、此処を真っ直ぐ走っていったと言うことか……?」

 

「ハジメ。足跡があった」

 

「ナイスだよ、ユエ」

 

 ハジメを中心にして、シアにユエ、愛子や優花達が覗き込む。その足跡を見た優花が呟いた。

 

「これ、蹄……? 馬の足跡?」

 

「大木をへし折るなんて、そんな強い馬いるかよ!?」

 

「何言ってんのよ、相川。ここは異世界よ?」

 

 相川昇と菅原妙子の会話をBGMに、ハジメは考える。

 

「(怪力かつ馬のようなポケモンと言ったら、バンバドロ辺りか? だけど足跡の間隔からして、相当なスピードだ。スピードならポニータとかギャロップ辺りだけど、地面にクレーターを作るほどとは思えない……。スピードと怪力を併せ持った馬型のポケモンとなると……)」

 

 その時だった。優花が悲鳴を上げる。

 

「きゃあぁっ!? せ、背中に何か居る!」

 

「背中?」

 

 シアが彼女の背中を見ると、そこに引っ付いているポケモンを優しく抱きかかえた。

 

「ハジメさんハジメさん! この子、すっごく可愛いです! 何てポケモンですか!?」

 

「ミィ~?」

 

「驚いたな……。シェイミじゃないか」

 

 シアに抱えられたシェイミは腕の中でもがき、そのまま抜け出す。そして優花の足元にすり寄った。

 

「ミィ~」

 

「何かこの子、優花に懐いてない?」

 

「優花なんかした?」

 

「いや、何も……」

 

 戸惑いながらもシェイミを抱える優花。だが、ハジメは心当たりがあった。山脈へ向かう道中、優花が彼に対して助けてくれたお礼をいったのだ。

 

「シェイミは別名かんしゃポケモン。人の感謝の思いに反応して、花を咲かせるんだ。園部さんがさっき言ってくれた『ありがとう』に興味を持ったんじゃないかな」

 

「感謝の気持ち……。あなた、私と一緒に行きたいの?」

 

「ミッ!」

 

 力強く頷くシェイミ。優花は満面の笑みを浮かべて抱きしめた。

 

「可愛い……! 一緒に行きましょ、シェイミ!」

 

「ミィ~!」

 

 ポケモンを相棒とする人間が増えたことに、ハジメは心から祝福した。

 

 

 

 

 

 シェイミが優花のパートナーになり、捜索と調査を再開したハジメ達。山の中腹に差し掛かった所で、愛子の様子が変わった。周りをキョロキョロと見回すようになったのだ。

 

「先生、どうしたんスか?」

 

「いえ、さっきから何か不思議な感じがして……」

 

「ちょ、先生やめてくださいよ。只でさえ何か寒いのに」

 

「ここで幽霊とかホントに洒落にならないですって」

 

 生徒達の言葉にハジメは再び考える。

 

「(確かに途中から気温が下がったような……)」

 

「っ! 止まってください皆さん! 何か来ます!」

 

 シアのウサ耳が音を捉え、警戒を促す。全員が警戒する中、その足音はハジメ達の耳でも聞こえるようになってきた。

 

「あれって、白馬?」

 

「さ、寒い……! あの馬、氷を纏ってるぞ!」

 

「待って、何か乗ってる!」

 

 濃い冷気が徐々に晴れていき、乗っていた存在が姿を現す。その白馬のポケモンに跨がるポケモンに、ハジメは震えた。そしてその名前を呟く。

 

「「バドレックス……!!」」

 

 この時、愛子もその名を呼んだ。夢で教えられた、豊穣の王の名を。

 




遂に登場、バドレックス。果たして前話で彼が告げた「災い」とは、愛馬の片割れによるものなのか? 次回で明かそうと思っています。


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豊穣の王

調子が良いためもう1話投稿します


 愛子がバドレックスの名を口にした時、ハジメはすぐに察する事が出来た。

 

「(そうか! 先生の天職は作農師だ! そしてバドレックスは豊穣の王。天職とポケモンの能力が奇跡的に噛み合って、夢という形で繋がりを持てたのかもしれない!)」

 

 愛子の事を馬上……ブリザポスの上から見つめているバドレックス。愛子も彼から目を離せないでいた。

 

――お主が、ヨの呼び掛けに応じた人の子か。

 

「っ! はい、バドレックスさん。私の名前は愛子。あなたが教えてくれた『災い』の調査と、教え子の行方を探しに来ました」

 

 頭の中に響く声。それに応じるように愛子も話をするのだが、周りから見るとそれは変わって見えた。

 

「リンラ、カムルゥイ?」

 

「はい。この子達と同じくらいの、男の子です」

 

「……ねぇ南雲。私、あの頭の大きな魔物の言ってることが分からないんだけど」

 

「豊穣繋がりなのか、先生しか言葉が通じてないのかもね」

 

「カム! ルゥラ!」

 

「へ? 私の体を通じて、ですか?」

 

「先生、どうしたんですか?」

 

 ふとバドレックスがハジメ達を見て、何かを提案するかのように愛子に語る。その通訳を彼女はそのまま話した。

 

「私の体を通じて、皆さんにも言葉を届けたいそうなんです。この山で起きていることについて、教えたいと」

 

 バドレックスが頷く。愛子も彼を見て頷くと、目を瞑る。

 

 

 てゅわわわ~ん

 

 

『……ふむ。やはりアイコと私は相性が良いようだ』

 

「せ、先生が……!」

 

「光りながら浮かんでる……!?」

 

 菅原妙子と宮崎奈々が驚くが、愛子もといバドレックスは語りかけた。

 

『ヨの名はバドレックス。遥か昔、豊穣の王と呼ばれた者である。……もっとも、人間からの信仰は、あの余所者に奪われてしまったがな』

 

 悲しそうに目を伏せるバドレックス。この時ハジメは、彼の言う余所者とはエヒトの事だろうと悟った。

 

『アイコが既に伝えたとは思うが、この山々に災いが振りかかろうとしている』

 

「? それは馬のようなポケモンが暴れてることじゃないの?」

 

 道中見かけた、荒らされた木々やクレーター。それが災いじゃないかとユエは尋ねるが、バドレックスは首を横に振る。

 

『それは、災いを感知したヨの友が暴走した結果なのだ』

 

「バドレックスさんのお友達、ですか?」

 

「っ! そうか、そう言うことか! 何で気付かなかったんだ僕は!」

 

『ふむ。そこの人の子は、ヨの友の事を知っているようだな』

 

「確かに、静寂を好む彼なら……レイスポスなら、あれ程の荒れ具合を起こせても不思議じゃない!」

 

 ハジメの言葉にバドレックスは頷くと、山脈地帯で起きていることを語った。

 

 元々この山は、ポケモン達による生態系も築かれた豊かな場所だった。しかしある日突然、「異質な力」が山に持ち込まれた。バドレックスはこの事を察して「異質な力」を調べようと動いていたのだが、静寂を好んでいるレイスポスが、自身の静寂を荒らされたと激昂し暴れ始めたのだ。

 

『ブリザポスも同様だったが、こちらはヨが何とか宥めたのだ。だがレイスポスは完全に激昂しており、ヨが何度説得しても聞く耳を持たない。さらに、異質な力は徐々に大きくなりつつある。そちらの調査もしたいのだが、手が回らなくてな……』

 

 ハジメ達は考える。

 

「ハジメさん、どう思いますか?」

 

「たぶん、魔物の群れって言うのは、さっき言った異質な力って奴の仕業かもしれない」

 

「異質な力を何とかすれば、レイスポスってポケモンも落ち着く?」

 

「かもしれない。けど相手は暴れん坊だから、力には力で対抗した方が……」

 

 

「バクロォーッス!!」

 

 

 辺りに響く嘶き。だがその声量はもはや咆哮と言っても過言ではなかった。優花たちは腰を抜かし、ユエとシアは辺りを見渡し、愛子(バドレックス)とハジメは目を見開く。

 

「今の鳴き声って、まさかレイスポス!?」

 

『向こうか! あそこには確か、滝があった筈!』

 

「みんな、行くよ!」

 

 ユエとシアが腰を抜かした生徒達を立ち上がらせると、一行は鳴き声のあった方角へと足を急がせた。

 

 

 

 

 

 ハジメ達がやって来た滝。そこは水量が多いのだが、滝と崖の間に距離が出来ている。そのため滝の裏側に行くことが出来るようだ。さらに、浸食によるものなのか洞窟も存在していた。彼らが見たのは、レイスポスが滝の裏の洞窟を凝視している所であった。

 

「何を見てるのかしら……」

 

「滝の裏に何かある、とか?」

 

「見てください! あそこ、人が居ます!」

 

 シアが指をさした場所を見ると、そこには女性と男性の2人がレイスポスと対峙していた。

 

『いかん! レイスポスめ、あの2人を犯人だと睨んでおるようだ!』

 

 女性の方は日本人かと思うほどの美しい黒髪をしているのだが、その金色の目は鋭くレイスポスを睨んでいる。

 だが、男性の方。そちらを見たハジメは大きく目を見開いた。

 

「幸利……?」

 

 愛子達が、そしてハジメが探していた清水の姿が、そこにあった。

 




ついに清水と再会したハジメ達。果たして清水が失踪した理由とは? 次回をお待ちください


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再会、友よ

お待たせしました。ポケモンスカーレット&バイオレットの新ポケが公開されてウキウキな私です。バイオレットの機械チックなフォルム、惚れました。けど気になるのは、ポケモンシリーズではお馴染みの悪の組織。どんな集団が出てくるのでしょうか?


 まさか探していた友人が居るとは思わず、驚いてしまうハジメ。だが、彼の様子を見てすぐに我に返った。清水は体の所々に包帯が巻かれているという、痛々しい姿だったのだ。

 

「あんな状態でレイスポスと戦うなんて無茶だ!」

 

『ましてや激昂している状態だ! 危険すぎる!』

 

「ど、どうするんだよ南雲!」

 

 清水が居たことに驚きつつも絶体絶命なことを察している相川昇が、膝を震わせながら叫ぶ。

 

「戦うしかない! ダメージを与えて落ち着かせれば、バドレックスの言葉にも耳を貸す筈だ!」

 

「戦うって言ったって……!」

 

 優花が、怯えを隠すかのようにシェイミを抱き締める。

 

「ミッ……」

 

 シェイミは主人の姿を見ると、彼女の腕の中をモゾモゾと動いて抜け出した。そしてレイスポスを見据える。

 

「シェイミ! 危ないわよ!」

 

『ほう、感謝の象徴たる者か。恐らくだが、お主を守ろうとしているのではないか? 小さいながらにして、勇敢な奴よ』

 

「ハジメさん、ユエさん! 私のアブソルで行きます!」

 

「アァブ!」

 

 シアがモンスターボールを投げて、アブソルを出す。ハジメのサイホーンでは近くに水があるため無闇に動けず、ユエのゴルーグではその巨体ゆえに足場が崩れる恐れがあるからだ。

 すると、女性がこちら側に気付き、遅れて清水もハジメ達を見る。ハジメと幸利の目と目が合った。

 

『レイスポスよ、こっちを向け!』

 

「ブルルゥ!」

 

 バドレックスが大声で呼び掛ける事で、レイスポスがハジメ達の方を向く。

 

「アブソル、“つじぎり”です!」

 

「アブ!」

 

「ブルァァァン!!」

 

 アブソルが技を発動しようとするが、レイスポスは前足で踏もうとしたり、後ろ足で蹴ろうとするなどむやみやたらに暴れまわっている。

 

『あ奴め、“あばれる”状態になっておる。無闇に近付くと危険である!』

 

「園部さん! シェイミに念じるんだ!」

 

「え? えぇ?」

 

「ポケモンと繋がると、自然と頭の中で理解できる。シェイミがどんな技を使うのか」

 

 ハジメの言葉に困惑する優花。だがユエの後押しもあって、優花は祈るように目を瞑る。

 

「(シェイミ……あなたはどんな力を持ってるの……?)」

 

 その時、暗闇の中に光が射し込むような、そんなイメージが起きた。

 

「シェイミ、“にほんばれ”!」

 

「ミィッ!」

 

 シェイミの真上に日の光が射し込む。すかさず優花は指示を飛ばした。

 

「そのまま、“ソーラービーム”!!」

 

「ミィィィィィィ!!」

 

 優花が相手に向かって指をさすと、シェイミの体は一気に光り輝き出した。そこから一気に放たれた黄色の光線がレイスポスを襲う。

 

「ブルアァァァン!?」

 

 レイスポスは強力な光線で大きく怯み、更に“あばれる”攻撃の影響で疲弊したようである。そのまま力無く頭を垂れた。

 

『落ち着いたか、レイスポスよ』

 

「バルルル……!」

 

 弱々しくはないが、先程に比べるとだいぶ落ち着いたようだ。

 

『ブリザポスよ、一旦レイスポスに乗り換えるぞ』

 

「ブルッ!」

 

 バドレックスが乗り移るが、その時にテレパシーが解けたのか、愛子が元に戻った。

 

「はふぅ。バドレックスさんのお友達が帰ってきて何よりです」

 

「あっ、戻った。ていうか先生、覚えてるんですか!?」

 

「はい。こう、テレビで見ていたかのような感じで」

 

「(やっぱり、天職の関係なのかな?)」

 

 ハジメは愛子とバドレックスの相性を考察しつつも、探していた友人の元へ向かう。彼に気付いた清水も、驚きで目を見開きつつも、ゆっくりと歩いていた。

 

「幸利!」

 

「ハジメ!」

 

 互いにハグをする。怪我している影響か清水は少し呻くが、それでも言葉を続けた。

 

「馬鹿やろう……! 帰ってくるのがおせぇんだよ……! 死んだかと思ったじゃねえか……!」

 

「こっちの台詞だよ……! 行方不明って聞いて、心配したんだからな……!」

 

 2人の傍らでは、ユエとシアが男の友情に涙をホロリと流し、愛子たちも感慨深そうに笑顔で何度も頷いていた。

 

 

 

 

 

 その後、ハジメが代表して清水に質問をしていた。

 

「何で、先生の元を離れたのさ?」

 

「元々は離れるつもりは無かったんだよ。だけど――魔人族に勧誘されてな。それに乗っていた」

 

 その言葉が、全員を驚かせた。問い詰めたのはクラスメイトである。

 

「清水、あんたまさか裏切ったの!?」

 

「な、何て勧誘をされたんだ!?」

 

 それを制したのは愛子であった。

 

「落ち着いてください。……清水くん。魔人族の勧誘に乗ったとしたのなら、それは何故ですか?」

 

「正確には乗ったんじゃない。乗った()()だ。向こうは『お前こそが勇者になれる』とか『お前はここで才能を埋める存在じゃない』とか言ってたけどよ、明らかに見下してるのは分かってたからな」

 

「では何故……」

 

「気になってたんだよ。魔人族がどうやってポケモンを操っているのか。ハジメ、お前やその仲間が持ってるのってモンスターボールだろ? 前に教えてもらった絵と比べて、デザインは違うけどよ」

 

「うん。オルクス大迷宮の創造者が発明したみたいだ」

 

 それは、遠回しにオルクス大迷宮を攻略したと言ったことであり、クラスメイト達は驚いた。だが清水はニヒルに笑うだけだった。

 

「攻略してやがったか。まあポケモンバカのお前なら出来そうな気がしてたさ。……悪い、話が逸れた。それで、魔人族に紛れ込んで、奴らがポケモンを操る方法を探っていた訳だ」

 

 そして彼は、その方法を見つけたのだと言う。

 

 

「ハジメ。()()()()()って、何か分かるか?」

 

 




はい、清水は魔人族に潜り込んでスパイをしてました。そして判明した、ポケモンを操る方法。まさかの『アレ』です。


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赤い鎖

本日2話目の投稿です。


 清水が言葉にした「赤い色の鎖」。それを聞いたハジメの顔は青ざめていく。そして彼の肩を掴んで激しく揺さぶる。

 

「や、奴らは確かに『あかいくさり』を使っていたのか!?」

 

「いてぇ! いてぇってハジメ! あんな不気味に赤く光る鎖を忘れるものか!」

 

「南雲くん? その鎖がどうかしたのですか?」

 

「もし奴らの使ってる鎖が本当に『あかいくさり』なら、大変な事になる!」

 

「カムル!? リムカムラン!」

 

「え!? 『森に持ち込まれた異質な力がソレならば、対処しなければ大変な事になる』ですって!?」

 

 バドレックスの言葉を通訳した愛子も、この事に驚愕する。

 つまり、魔人族は「あかいくさり」を使ってポケモンを操っており、その鎖の放つ力がレイスポスを激昂させたのだ。

 

「ハジメ、その鎖ってそんなに危険なの?」

 

「そもそも考えられないんだよ! あれは、神すら操れるんだ! それを普通のポケモンに湯水のように使うなんて……!」

 

 恐らく現実世界よりもポケモン世界の方が、科学力は高いだろう。その中でも更に独自の技術を持つギンガ団ですら、科学力の粋を集めてようやく作れた神器。それが「あかいくさり」である。

 確かに、神すら操れるなら、普通のポケモンは簡単に従えられるだろう。だが、神器である「あかいくさり」を何本も使っていることが考えられなかったのだ。

 

「俺を勧誘した奴は言ってたぜ。『我らの神が、人間を滅ぼせという神託と共に鎖の作り方を教えて下さった』ってな」

 

「魔人族の神、か……!」

 

 オスカー・オルクスによれば、トータスの神々は遊戯として人と魔人族をわざと争わせているのだという。つまり魔人族の神はエヒトとグルなのだろう。

 そして、あかいくさりの作り方を知っているとなれば……。

 

「ユクシー、アグノム、エムリット……。3匹のポケモンが魔人族に捕まっていて、しかも『あかいくさり』を無理やり作らされているかもしれないってことか……! クソッ、思ったより状況は最悪だ!」

 

 

「『心の三妖精』を知っているとは、お主はもしや『千宙腕さま』の事も知っていると言うことかの?」

 

 

 声がした方へ顔を向けると、清水と共にレイスポスと戦おうとしていた女性がいた。そのプロポーションは抜群で、相川たち男子は前屈みになりそうになる。

 だがハジメは、その女性が放った言葉……千宙腕に反応した。

 

「アルセウスの事を知ってるのですか?」

 

「知ってるも何も、我らは数多の神話の最高位として、千宙腕さまを信仰しておる。……名乗るのが遅れたな。妾の名はティオ・クラルス。竜人族と呼ばれる者じゃ」

 

 ティオと名乗った女性は語る。竜人族は、千宙腕ことアルセウスを信仰しており、その事からエヒトを信仰する人間達に迫害され続けてきたのだと。

 彼女が何故ここに居るのか。それは、エヒトが異世界から人間を召喚したことを竜人族は感じ取り、その調査人代表としてティオが動いたのだという。

 

「その道中で、怪我をしたシミズを見つけてな。更に冒険者であろう人間たちも見つけたものだから、この滝の裏の洞窟で看病しておったのじゃよ。まさか、豊穣の王の愛馬が激昂して来るとは思わなかったが」

 

「そう言えば、幸利は何でそんな怪我を……?」

 

「……ちょいと見てられない物を見てしまってな」

 

 すると、清水のもとへ一匹のポケモンが走ってきた。

 

「カルル~!」

 

「おいおい、じっとしてろって言っただろ……」

 

「ガルーラの子供……? 何で此処に? 母親は?」

 

 普段は母親のお腹のポケットに居る筈の、ガルーラの子供。だが母親の姿は無い。ハジメの疑問に、清水は顔を伏せた。

 

「……魔人族に操られてるんだ。自分を囮にして、子供を鎖から守って……」

 

 子供ガルーラは使えないと魔人族は言い放ち、操った母親に殺させようとした。だが、ハジメの影響でポケモンが好きになっていた清水はそれに堪えきれず、子供を助けたのだという。

 それがきっかけでスパイ行為がバレてしまい、魔法攻撃を食らいながらも何とか逃げ仰せたそうだ。

 

「ハジメ、それに先生。魔人族の狙いはウルの町と先生だ。奴らは食糧事情として重要な先生を、町ごと潰すつもりだ!」

 

「何ですって!?」

 

「……魔人族め…………!」

 

 ハジメの目に怒りが宿る。ポケモンを苦しませて生み出した鎖を使い、更にポケモンを苦しませ、それで更に血を流そうとする魔人族。その事に腹を立てた。

 

「ハジメさん。その前に、ティオさんが保護したって言う冒険者達を預からないと。きっとウィルさんですよ」

 

「……そうだね」

 

 なお、その後のウィル・クデタ達だが、レイスポスを見た瞬間に……

 

「うわぁぁぁ出たぁぁぁぁぁ!!」

 

 そう叫んで気絶してしまった。どうやら、既にレイスポスに襲われていたらしい。

 まあ実力を考えないで他の冒険者に迷惑掛けたんだから自業自得だよねと、ハジメは割り切った。決して、ポケモンを化け物を見るような目で見られたことに腹を立てたからではない。たぶん。




最後、ハジメが珍しく辛辣だったかもしれませんが、彼だって人間です。好きなポケモンに対して立て続けに悲鳴を上げられれば、イラっとします。

そして赤い鎖を使う魔人族ですが……断言しておきます。あの三柱を呼ぶつもりはありません。彼らにとってアルヴこそが絶対神なので、他の神を神とは思ってませんから。
赤い鎖に対しても、神様からもらった超便利なアイテムくらいにしか思ってません。


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戦いの前

区切りの良いところで終わらせたかったので、今回は短めです。


 ウルの町へ戻ったハジメ達。バドレックスはブリザポスとレイスポスを従えて、山へと戻っていった。あかいくさりの放つ力を察してパニックになるポケモン達を、落ち着かせるためとのことだった。

 そしてウルの町に到着し、魔物の群れが魔人族の仕業であることや、ウルの町を攻撃しようとしている事を町長に伝えた。その情報はあっという間に町中に広まり、住人達は避難準備をしている。

 

「さすが、竜人族のティオさんだ。視力も凄いね」

 

「幸い、ポケモンの群れはそれほど多くなく、しかも一人で何匹も指示しようとしてるんじゃ。進軍速度が遅いのも無理ないのぉ。流石に何万という単位だったら急がざるを得なかったかもしれんが」

 

「お陰で、避難する人たちはパニックになってないから良かったよ」

 

 がんせきプレートの効果で錬成の負担が減り、ハジメはウルの町を囲えるほどの防壁を作ることが出来た。その防壁の上で、ティオがポケモンの群れを監視している。

 

「僕、ユエ、シアのポケモン達だけじゃ、いずれ数に押されてしまう。指揮官を叩くしかない」

 

「何を言うておる。妾も力を貸そう」

 

「……何でそこまで協力的なの?」

 

「千宙腕さまの事を知り、そして復活させようとしてるんじゃ。それだけお主が信頼に値すると言うことであり、それ程までにこの世界の人間達はエヒトに依存していると言うことじゃ」

 

 だがティオは、あえて言葉にしなかったことを内心呟いた。

 

「(それに……見定めなければな)」

 

 試すかのような目付きを、鈍く輝く赤い群れに移した。

 

 

 

 

 

 あかいくさりで操られているポケモンの群れの最後尾。魔人族のレイスは笑みを浮かべていた。

 

「流石、神の叡知による鎖……。魔物を操ることがこれほど容易いとは」

 

 操られているポケモン達は、鎖鎧のように武装されていた。しかしその目に光は無い。

 

「しかし、ウルの町にあんな壁あったか? ……まあ良い。ケンタロスの群れで破壊するまでだ!」

 

「「「「ブモオオオオオオ!」」」」

 

 あばれうしポケモンのケンタロス。胴体を鎖で保護された彼らは雄叫びを上げ、土煙を巻き起こしながら壁に突っ込んでいった。

 

「お前にも暴れてもらうぞぉ? ガルーラ」

 

「ガルルルル……!」

 

 腹に子供の居ないガルーラが、光の無い目でウルの町を睨んだ。

 

 

 

 

 

 愛子は、ウルの町の住人の避難誘導を行なっていた。

 

「(南雲くん……)」

 

 山の中で、愛子たちはハジメからトータスの真実を知らされた。エヒトという偽りの神、自分達は神の遊戯の駒、大迷宮に眠るは本当の神の力の欠片……。あまりにも情報が多く、頭がパンクしそうだった。

 

 ハジメの狙い。それは、アルセウスを復活させ、彼の持つ時空を操る力で地球に帰ること。

 アルセウスは、時間の神ディアルガと空間の神パルキア、そして反物質の神であり反転世界の番人であるギラティナを生み出した存在である。

 時空の神々を生み出したアルセウスでも、時空を操ることが出来るのではないか。ハジメはそう語っていたのだ。

 

 回想をしていると、清水が子ガルーラを抱えて歩いてきた。

 

「先生」

 

「清水くん? どうしたのですか?」

 

「俺、ハジメの所に行ってきます。同じポケモン好きとして、魔人族のやり方は気に食わない」

 

「そんな、待ってください!」

 

「待てません! すいませんが、行ってきます!」

 

 そのままハジメ達のもとへ、清水は走って行った。




次回はいよいよ、魔人族の操るポケモンの群れとの戦いです。


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ウル防衛戦

仕事でミスばかりで落ち込んでいましたが、休みの日にこうやって小説書いたりするのが至福です。


「来おったぞ! ケンタロスの群れじゃ!」

 

「ゴルーグ、“ラスターカノン”を発射!」

 

「ゴルウウウウウウ!!」

 

 防壁へ迫り来る土煙が、開戦の合図となった。ゴルーグの頭部から銀色の光線が放たれ、ケンタロス達を高く吹き飛ばす。だが彼らの勢いは止まらない。

 

「炎よ!」

 

 そこへティオが指を軽く振るい、火球をメテオのように振らせた。

 

「さすが竜人族。援護に感謝する」

 

「構わぬよ、吸血鬼の姫。ハジメはお主をユエと読んでおったが、それで呼べば良いかの?」

 

「うん。リーダーから貰った、大切な名前」

 

 ケンタロスの群れを見やる。先ほどの攻撃で鎖が壊れたのか、ケンタロス達は戸惑うように辺りを見回していた。

 

「……妙じゃな。ハジメが言うには、敵が扱う道具は神すら操ると聞いたが……」

 

「こんなに呆気なく砕けるとは思えない。だからと言って、ハジメが話を誇張することは無い」

 

「つまり……あの鎖は不完全な可能性があるという訳じゃな」

 

 

 

 

 

 別の場所で戦っているハジメは、目の前のポケモンに戸惑っていた。

 

()()()()()()()()()()()()

 

 前世の知識でポケモンに詳しいと自負していたハジメ。そんな彼が初めて見たポケモン。

 それは、腕が巨大な斧のようになっているポケモンだった。全体的に黄土色で、その目付きは鋭い。

 

「っ!? バサ……ギリ……?」

 

 2つある天職のうちの1つ、魔物学。それが目の前のポケモンの名前を明らかにさせた。

 

「バサギリ……。初めて聞くポケモンだ。前世の僕が死んだ後に、発表されたのかな?」

 

 バサギリが、胴体に巻かれたあかいくさりを発光させながら、“がんせきアックス”を発動する。ハジメを庇うようにサイホーンが“まもる”を発動。しかし、あかいくさりの効果によるものか威力が大きく、サイホーンにダメージは無いものの、発生した衝撃波は大きなものだった。

 

「あぁ、本当に……ポケモンの世界は奥が深い!」

 

 闘志の宿った目に、感動の輝きが混ざった。両手を合わせ、地面に手を付ける。手の甲に岩タイプの紋章が浮かび上がると、溢れた興奮が彼の口角を上げさせた。

 

「錬成ぇ!!」

 

「ッ!」

 

 岩石の刃が一気に形成され、バサギリを捉える。刃がバサギリの胴体に命中した瞬間、パキンッと何かが砕ける音がした。

 

「あ、あかいくさりが、砕けた!?」

 

「バルル……!」

 

 目に光が戻り、スッキリさせるかのように頭を振るバサギリ。そしてハジメを見つめた。

 

「え……?」

 

「………………」

 

 すると、今度はストライクの群れが襲ってきた。彼らも目に光が無い。再び戦おうとするハジメだったが、バサギリが地面に斧を叩きつけると、大きく咆哮した。

 

「バルァァァァァ!!」

 

 そのまま群れに突っ込んでいき、斧を振るうバサギリ。この攻撃でも、あかいくさりは砕けていく。

 

「(岩タイプの技で、あかいくさりが碎けた? ディアルガとパルキアを操るアイテムが? けど何故……)」

 

 この時、ハジメにある仮説が浮かんだ。

 

「(あかいくさりが、魔人族の崇める神……エヒトの仲間が作ったとしたなら、その力の源はアルセウスのプレートだ! けど、解放者たちの手によって、奴らは複数のプレートを奪われている! つまり、奪われたプレートのタイプの技なら、あかいくさり擬きは砕くことが出来るのかもしれない!)」

 

 前世のハジメが観た劇場版においても、アルセウスは失っているプレートのタイプの技でダメージを受けていた。それが、あかいくさり擬きにも通じるかもしれないと考えたのだ。

 

「(奴らは、不完全なあかいくさりを万能アイテムと信じ込んでいる! 勝機が見えてきたぞ!)」

 

 その後、ストライクの群れを大人しくさせたのか、バサギリが戻ってきた。

 

「バルル!」

 

「えっと、戦ってくれてありがとう」

 

「バルッ」

 

 ハジメの礼を受け取ったバサギリは背を向け、正気に戻ったストライクの群れに向かう。すると彼らは道を空け、そしてバサギリの後を着いていった。

 

「え、まさかアイツ、ストライク達のリーダーだったの!? てかストライクの進化形なのか!?」

 

 意外な事実に驚いたハジメだったが、そんな彼のもとへアブソルに跨がるシアがやって来た。

 

「ハジメさーん! 大変大変、大変ですぅー!!」

 

「どうしたの!?」

 

「清水さんが、単身で魔人族の元へ向かったと、他の方々が……!」

 

「っ! 幸利……!」

 

 

 

 

 

 魔人族レイスは、目の前の男を嘲笑っていた。

 

「魔物に生身で挑むなど、道化を通り越して馬鹿だよ、お前は」

 

「カル! カルルー!」

 

 頭や口角から血を流し、土で汚れた清水に、子ガルーラが心配そうに駆け寄る。

 

「ぐっ、あ、安心しろよ……。お前の母ちゃんを、助けてやるからな……!」

 

「はっ! 先程まで良いようにやられていたお前に、何が出来る! 殺せ、ガルーラ! その子供も纏めてなぁ!」

 

「ガルルラァァァァ!!」

 

 目に光の無いガルーラが、腕を大きく振り上げた。

 




はい、魔人族の扱うあかいくさりは不完全でした。まあ不完全だからこそ、普通のポケモンも操れると言う設定です。もし本物ならば、パワーが強すぎて普通のポケモンじゃ保たない。そう解釈しています。


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ガルーラ親子を救え!

本当は戦いの後の話も書いてましたが、長くなったので区切ります。戦い後の話は19時に投稿予定です。


 振り下ろされるガルーラの腕。清水は回避しようとするが、身体中を痛みが走りマトモに動けない。

 

「(やっべ、マジで死ぬんじゃねえの? これ)」

 

 その光景がやけにスローモーションのように感じ、何とか体に力を入れようとしても動いてくれない。

 

「クソが……!」

 

 レイスを睨み付けるが、彼は嘲笑うだけ。悔しさが胸に溢れる。その時だった。

 

「幸利ぃぃぃ!!」

 

「アブソル、“ふいうち”です!」

 

 清水の前にハジメとサイホーンが庇うように立ち、ガルーラの後方からアブソルが茂みから飛び出し攻撃。体勢を崩した。

 

「ちぃっ! 人間に亜人共め!」

 

「ハジメ……!」

 

「色々言いたいけど、それは後! 今は……魔人族! お前をぶっ飛ばす!」

 

「グルァウ!」

 

 シアが清水に治療を施し、その2人を守るようにアブソルは威嚇する。だが一番前に立っているのは、ハジメとサイホーンだった。

 

「神の鎖も無く、どうやって勝つと言うのだね」

 

「逆に言えば、神の鎖が無ければ君たちはなにも出来ない……そう言うことでしょ?」

 

「黙れ! 神の鎖を扱えるのは選ばれた者だけだ! その一人である私に勝てると思うなぁ! やれ、ガルーラ!!」

 

「サイホーン、“とっしん”だ!」

 

 ガルーラが“ほのおのパンチ”を繰り出すが、岩タイプ持つサイホーンに効果はいまひとつ。その光景にレイスは怪訝な顔を浮かべる。

 

「(なぜ鎖も無く、あの魔物はガキの指示を聞いた? 人間にも、魔物を従える術が開発されたとでも言うのか?)」

 

 あり得ないとレイスは首を振る。自分達を束ねる将軍は、神より直々に神託を受け、そして鎖の作り方を己のものにした男だ。人間の国に忍び込んでいる同胞によれば異世界の勇者を召喚したと聞いてはいた。だが魔物の方が強力だ。だから戦えるはずが無いのだ。

 

「何をしている、ガルーラ! とっとと殺せぇ!」

 

「サイホーン、“スマートホーン”!」

 

 鋼タイプの突進を受け、ガルーラの体を覆う鎖にヒビが入る。だがハジメは、レイスの戦い方に違和感を覚えていた。

 

「(何であいつは、ガルーラに指示を出さない? まさか覚えている技が分からないのか? こう考えるのは癪だけど、仮に兵器のように扱うのならば、どんな力を持ってるのか把握しておくのが指揮官の役目だろうに!)」

 

 そう。ハジメやユエやシアと言った旅の仲間たちは、ポケモンとの絆があることでお互いに繋がり、トレーナーは覚えている技を把握できていた。

 だが魔人族は違う。あかいくさりで無理やり従えて、無理やり戦わせているに過ぎない。そこに絆などあるわけが無く、魔人族はポケモンの覚えている技を知らないのだ。

 

「サイホーン、今度は“ロックブラスト”だ!」

 

「グルァ!」

 

 岩石を放ち、更に鎖にヒビが入っていく。レイスは思うような一方的な戦いが出来ずに苛ついていた。

 だからこそ、ハジメの背後にいるシアと清水と子ガルーラに目を向けた。

 

「ガルーラ! ソイツは無視して、あのガキ共を狙えぇ!」

 

「っ! 母親に子供殺しをさせるつもりか!」

 

「ガルルルルルル!」

 

 あかいくさり擬きが発光し、ガルーラは“メガトンパンチ”で地面に亀裂を走らせる攻撃をしようとした。

 ところが、この時に立ち上がったのは清水だった。

 

「もう止めろって、ガルーラ! あんたが殺そうとしてるのは、自分の子供だぞ!!」

 

 

「ガルッ……!」

 

 

 地面に拳が着くギリギリの所で、ガルーラの動きが止まった。

 

「何をしている!? 神の力に、魔物風情が逆らうと言うのか!」

 

「カルル! カル、カルー!」

 

 レイスがあり得ないようなものを見る目つきで声を荒げるが、ガルーラは動かない。

 そんなガルーラの前に、シアの制止を振り切った子ガルーラがトテトテと走り寄り、鳴き声を上げた。

 

『お母さん! 目を覚まして!』

 

 まるでそう言ってるかのように見える。

 

「ガ、ルゥ……!」

 

 感情の無い瞳から、ポロポロと大粒の涙が溢れ出す。そしてその腕で子ガルーラを抱きしめようとした。その時だ。

 

「えぇい、使えない奴め! ならば私が直々に殺してやる! 親子もろともなぁ!!」

 

 魔方陣を展開したレイスが、親子目掛けて魔法を放とうとする。だが、そんな無粋な行為を清水は見逃さない。

 

「なっ……!? 体が、体が動かない……!」

 

「俺の天職は闇術師。ハジメと同じように、色んな漫画やアニメをイメージして、ようやく編み出した技だ……!」

 

 清水の指先から黒い糸のような物が出ており、それがレイスの影に突き刺さっている。レイスは動こうともがくが、一歩も進めていない。

 

「名付けるなら、“影縫い”か?」

 

「貴様ぁ!」

 

「ハジメ、やれぇ! そんな鎖なんか砕いちまえ!」

 

「一緒に行くよ、サイホーン! “ストーンエッジ”!!」

 

「グオオオオン!!」

 

 ハジメの錬成とサイホーンによる岩石の刃が、ガルーラのあかいくさり擬きを粉々に砕いた。

 

 

 

 

 

「カルルー!」

 

「ガル……!」

 

 嬉しそうに駆け寄る子ガルーラを、親ガルーラは苦笑いしながら抱き、そして自分のポケットに入れる。自分の定位置に戻れた安心感からか、子ガルーラの目は気持ち良さそうにしていた。

 

「うふふ、可愛いですね」

 

「親子の再会じゃ。感動するものがあるのぉ」

 

「うん。そして……アイツが、親子を引き裂こうとした」

 

 合流したティオとユエ。感動の再会にホッコリしつつも、未だに清水の影縫いで動けずにいるレイスを睨む。

 そんなレイスを、ハジメは冷たい目で睨みながら尋問をしていた。

 

「……話す気が無いと?」

 

「神の鎖を砕く不敬な輩に、ましてや人間に誰が話すか!」

 

「ハジメ、諦めろって。何度も同じ答えが帰ってくるんじゃ埒が明かねえよ」

 

「……はぁ、仕方ない。なら最後は、ポケモンによる罰を受けて貰おうか。苦しめた罰として、ね」

 

 清水が声を掛けると、ガルーラ親子が彼のもとへやって来た。正気に戻っているガルーラに、レイスは小さく悲鳴を漏らした。

 

「死なない程度に、だけどかなり遠くへぶっ飛ばせないか?」

 

「ガル! ガルガル!」

 

 清水の言葉に快く頷くと、ガルーラはレイスに怒りの視線を向けた。そして拳を光らせながら、レイスに近付いていく。

 

「や、止めろ! 私は神の鎖を操るエリートだぞ!? 魔物ごときが、エリートの私に逆らって良いとでも――」

 

 その瞬間、レイスはガルーラに勢い良く殴り飛ばされ、空の彼方へ消えていった。これで捨て台詞が「ヤな感じ~!」とかならハジメは笑ってたが、彼が放ったのは某映画で「あれは嘘だ」と言われた男の断末魔だった。

 




魔人族レイス、撃破。一応死んでません。


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戦いを終えて

戦闘を終えた後のお話です。


 操られたポケモンの群れが山へと戻り、ウルの町に平和が戻った。防壁を元の地面に戻したハジメ達は、愛子たちの元へ向かう。

 ところが、町の中が騒がしい。ハジメが首を傾げていると、愛子が意外なポケモンと共にやって来た。

 

「南雲くん、皆さん、無事だったんですね! 清水くんも!」

 

「無事に魔人族は撃退、ポケモン達は山に帰って行きました」

 

「ガルーラも、母親と再会できたし」

 

「でも……何でバドレックスにレイスポス、ブリザポスが居るんです?」

 

「町が騒がしいのは、そのせいか……」

 

 町の住人達が恐れるような目を向けているのは、愛子の隣に豊穣の王バドレックスと、その愛馬二頭が居るからだ。今の彼はブリザポスに跨がっている。

 

「バドレックスさんが言うには、『山の平穏を取り戻してくれたお礼をしたい』との事です」

 

「カムルゥ」

 

 そうしてバドレックスがハジメに手渡したのは、緑色の石板であった。

 

 ハジメは みどりのプレート を手に入れた!

 

「プレートじゃないか!」

 

 あっさりと探していた物が見つかり、思わず目を見開き叫んでしまうハジメ。清水はプレートをまじまじと見る。町へ戻る道中で、彼はハジメの旅の目的を聞いていた。

 

「これが、ハジメの集めてるプレートって奴か。すげぇパワーだな」

 

「何でも、解放者がバドレックスさんに託したみたいです。いつかエヒトを倒す人が現れた時のために……」

 

「……ありがとう、バドレックス」

 

 ハジメが礼を言うと彼は微笑み、そして愛馬たちと共に去っていった。だが町の住人たちは安心していない。清水がガルーラを連れているからだ。

 

「先生。悪いけど俺、ハジメ達と一緒に行きます」

 

「え? 何で……」

 

「園部の連れてるシェイミならともかく、ここの人たちはガルーラを怖がってるので」

 

 敢えて聞こえる程の声量で告げると、住人たちはびくりと肩を震わせた。その様子に愛子は悲しそうな顔をするが、清水は続けた。

 

「それに、ハジメと旅して色んなポケモンを見たいですから」

 

「幸利……!」

 

「すいません、先生。俺は行きます」

 

 愛子は清水の真剣な目を見て、ゆっくりと頷いた。

 

「分かりました。南雲くんも清水くんも、どうか生きて戻ってきて下さい。みんなで、地球に帰りましょう」

 

 その言葉に、2人は頷いた。

 

 

 

 

 

 愛子とクラスメイトに見送られたハジメ一行。その人数は5人となっていた。

 

「ティオさんもついて来るなんて、意外だなぁ」

 

「なに千宙腕さまを知るハジメがどのような人間なのか、知りたくなってな」

 

 そう、清水の他にティオもついて来る事になったのだ。彼女は炎や雷の魔法が得意で、ウルの町の防衛戦ではユエと共に戦っている。旅する仲間が増えることにハジメは反対していなかった。

 その時だった。シアのウサ耳が何かを捉えた。

 

「ハジメさん、何か来ます!」

 

「っ!」

 

 先頭のハジメの前に現れたのは、1体のポケモンだった。

 

「バルル」

 

「バサギリ? どうして此処に」

 

 バサギリはハジメをじっと見つめている。それを見たユエが、首を傾げながら言った。

 

「もしかして、仲間になりたがってる?」

 

「「「ええっ!?」」」

 

「ハジメお前、このポケモンと会ったのか?」

 

「あかいくさりで操られたのを、僕が砕いたけど……」

 

「それじゃな。このポケモンは、ハジメに恩義を感じておるのじゃろう」

 

 ハジメが再びバサギリを見ると、彼は大きく頷いた。

 

「けど、君はストライク達のリーダーなんだろ? 群れはどうするのさ」

 

「バルッ!」

 

 バサギリが森へ顔を向けると、1匹の体格の大きなストライクが、沢山の仲間を従えて頷いていた。どうやらバサギリは、長の座を若手に譲ったらしい。

 

「……そこまでして、行きたいんだね?」

 

「バルァッ!」

 

「分かった! なら、行くよ!」

 

 空のモンスターボールを投げると、バサギリは大人しくボールに入る。ボールはゆっくりと揺れて、湯気と小さな花火が上がった。

 

「やった!」

 

「ハジメ。俺のガルーラも良いか?」

 

「おっと、そうだった。はいモンスターボール」

 

 ハジメの仲間になった清水だったが、助けてくれたお礼なのか、ガルーラは彼について来ていた。もしやと悟った清水は、連れていくことを決めたのである。

 

「うしっ! 行くぞガルーラ!」

 

「ガル!」

 

 ガルーラも同じようにボールに入り、小さな花火が上がる。

 

「バサギリ!」

 

「ガルーラ!」

 

「「ゲットだぜ!!」」

 

 2人の笑顔は、とても眩しいものだった。




Q.ウィル・クデタはどうなった?
A.サイホーンに乗せられて怯えています。ほかの冒険者達はウルの町に滞在してます。書いていないのは、ポケモンを怖がるシーンを書くのに気が進まないからです。

次回は閑話として、あのポケモンとフラグを立てた女子のお話を予定しています。


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閑話:癒され少女は今日も愚痴る

閑話なのでちょっと短めです。時系列では、光輝が皇帝に腕試しされたり、雫が皇帝に愛人に誘われる辺りです。


 中村恵里は、天之河光輝に惚れている女子だった。そう、『だった』のだ。

 父親を交通事故で亡くし、母親に虐待され、再婚相手に性的暴行を受けそうになった彼女。川へ飛び込もうとした時に話し掛けてきたのが光輝だったのだ。

 それ以降、彼女は彼の『特別』になりたいと思っていた。だからこそ、彼の幼馴染みである八重樫雫や白崎香織が邪魔で仕方なかった。何なら殺してしまいたい程に。

 だからトータスに来れば、日本の法律に縛られずに好きに出来る。そう思っていた。

 

「ミミッキュ~。今日も疲れたから癒して~」

 

「ミキュッ!」

 

 ハイリヒ王国より与えられた自室にて、恵里はとあるポケモン……ミミッキュを抱きしめていた。

 どういうわけか知らないが、自分について来ていたポケモン。最初こそビックリしたのだが、何かを模した袋のような物を被っている姿が、猫を被っている自分と似ている感じがしたのだ。何より、「キュ~」と言う鳴き声が可愛く、教会の信者たちが語る魔物とは思えなかったのだ。恵里とて女の子、可愛い物を愛でたいという感性までは失われていなかった。

 流石に他人にバレると殺されるかもしれないため、こうして自室に匿っているのである。

 

「はーあ……。今日も光輝くん、香織~香織~って彼女に声掛けてたなぁ。何だか幻滅だよ」

 

 光輝に女子の幼馴染みが2人も居ると知った時は嫉妬で狂いそうになったが、そんな彼女に朗報もあった。香織には惚れている男子がおり、その男子も惚れている。つまり2人は両想いなのだと。

 香織は光輝を恋愛対象に見ていない。だから自分にもチャンスが来る。そう思っていたのに、光輝は自分を見てもらおうと香織にアピールしている。

 

 特に、オルクス大迷宮でのサイホーンとの戦いでハジメが落下してから、その頻度は多くなった。

 まるで邪魔物が消えた瞬間に勢いが増した小者のようなイメージになってしまい、恵里の光輝に対する想いは冷めつつあったのだ。

 

「はーあ……。光輝くんの為に、色々頑張ってきたのに。あんな様子じゃ八重樫さんにも同情するよ」

 

「キュ~……」

 

 香織というライバルが居なくなり、残りは雫だけ。そう思っていたのだが、光輝に幻滅した今の状態で彼女を見ると、まぁ苦労してるオーラが滲み出ていた。暴走しがちな光輝のストッパーになり、更にほかのクラスメイトの相談も引き受けている。恵里から見ても疲れているのが明白であり、そんな彼女に同情しつつある。最近では、ヘルシャー帝国の皇帝に、愛人にならないかと誘われたとも聞いた。ますます彼女は苦労するかもしれない。

 

「失恋、かなぁ……」

 

「キュッキュッ」

 

「慰めてくれるの? ……ふふ、ありがとう」

 

 恵里の気分が沈んでいるのを察したのか、袋の下から黒い手のような物を出して、ミミッキュは彼女の頭を撫でた。ちなみにメスである。

 ミミッキュと過ごすようになってから、不思議と心が落ち着くようになってきた恵里。そこである提案をした。

 

「そうだ、ミミッキュ。何時も部屋ばかりじゃ退屈だろうから、今度一緒に迷宮探索に行かない?」

 

「ミキュ?」

 

「君がどんな力を持ってるのか、知りたいんだ」

 

「キュ~……。キュッ!」

 

「来てくれるの? ありがとう! さ、ご飯持ってきたから食べよっか」

 

「ミー!」

 

 嬉しそうにすり寄るミミッキュ。この時の恵里は気付いていなかった。鏡を見たら驚くほどに、優しい笑みを浮かべているということを。

 

 

「ところで、その袋の中身ってどうなってるの?」

 

「ミッ!」

 

「あ痛っ! そんなに見せたくないんだね……」

 

 




次回はハジメsideに戻ります。いよいよ、あの娘が登場です。


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フューレンでの騒動(前編)

お待たせしました。今回はユエ達のステータス公開と、マスコットでもあるあの娘の登場です。


 中立商業都市フューレンへと戻ってきたハジメ一行。門の前に来たところ、冒険者ギルドの関係者が彼らを出迎えた。そして、本来の依頼であったウィル・クデタを、ギルド長のイルワに引き渡しに来たのだが……。

 

「えっと、何でウィルは怯えてるのかな?」

 

「僕の仲間をずっと怖がってまして。僕の天職にテイマーがあるので、テイムした魔物に怯えてるんですよ」

 

「そう言うことか……。まぁ生きているし、現実を見る良いきっかけになっただろう。彼に依頼を出した私にも責任はあるが……それは彼と私との問題だな」

 

 別の控え室にウィルを送ると、イルワはハジメと向かい合って報酬の件を話す。

 

「さて。約束通り、君の仲間のステータスプレート発行をしよう。そして、その内容も秘密にする」

 

「よろしくお願いします」

 

 なお、清水は既にステータスプレートを持っているため発行はされない。ハジメと共に仲間の能力の把握をすることになった。

 

――――――――――――――――――――――――――――

ユエ 323歳 女 レベル 75

 

天職:神子、魔物使い

 

筋力:120

 

体力:300

 

耐性:60

 

敏捷:120

 

魔力:6980

 

魔耐:7120

 

技能:自動再生(+痛覚操作)、全属性適性、複合魔法、魔力操作(+魔力放射+魔力圧縮+遠隔操作+効率上昇+魔素吸収)、想像構成(+イメージ補強力上昇+複数同時構成+遅延発動)、血力変換(+身体強化+魔力変換+体力変換+魔力強化+血盟契約)、高速魔力回復、回避行動

――――――――――――――――――――――――――――

 

「うわぁ、改めてみるとユエのステータスって半端じゃないね」

 

「物理的な耐久が低いから、典型的な遠距離攻撃タイプってイメージだな」

 

――――――――――――――――――――――――――――

シア・ハウリア 16歳 女 レベル 40

 

天職:占術師、魔物使い

 

筋力:60(+最大6100)

 

体力:80(+最大6120)

 

耐性:60(+最大6100)

 

敏捷:85(+最大6125)

 

魔力:3020

 

魔耐:3180

 

技能:未来視(+自動発動+仮定未来)、魔力操作(+身体強化+部分強化+変換効率上昇Ⅱ+集中強化)、回避行動

――――――――――――――――――――――――――――

 

「シアは魔力で身体強化をすることで、ステータスが変動するタイプなんだな」

 

「僕の技能にある、魔物攻撃耐性と似たような感じかな?」

 

――――――――――――――――――――――――――――

ティオ・クラルス 563歳 女 レベル 89

 

天職:守護者

 

筋力:770(+竜化状態4620)

 

体力:1100(+竜化状態6600)

 

耐性:1100(+竜化状態6600)

 

敏捷:580(+竜化状態3480)

 

魔力:4590

 

魔耐:4220

 

技能:竜化(+竜鱗硬化+魔力効率上昇+身体能力上昇+咆哮+風纏)、魔力操作(+魔力放射+魔力圧縮)、火属性適性(+魔力消費減少+効果上昇+持続時間上昇)、風属性適性(+魔力消費減少+効果上昇+持続時間上昇)、雷属性適性(+魔力消費減少+効果上昇+持続時間上昇)竜属性適性(+魔力消費減少+効果上昇+持続時間上昇)、複合魔法

――――――――――――――――――――――――――――

 

「うわぁぁぁ!? 何この技能の数!?」

 

「チートだ! リアルチートが居るぞ!」

 

 この世界の女性、強すぎね? 2人はそう思わずにはいられなかった。

 そしてステータスプレートを見ていたイルワも、顎が外れそうな程に口をあんぐりと開けていた。

 

「い、いやいやいや、これは想像以上だな。君が発行に躊躇ったのも納得だよ」

 

 更にハジメと清水は、自分達が異世界から呼び出された存在である事も打ち明けた。思わぬ追撃に、イルワの胃に精神的なダメージが重なる。

 

「まさか勇者一行の仲間だったなんて……。けど、それなのに教会を警戒してると言うことは、この魔物使いと言う天職が関係してるんだね?」

 

「そう言うことになります。教会にとって、魔物使いは忌むべきもの。人間の希望である勇者の仲間に、魔人族のような存在が居てはならない。向こうはそう考える筈です」

 

「で、どうするよ? アンタはそれを知っちまった訳だが、胃の安寧の為にも教会にチクるかい?」

 

 警戒するような顔で清水が尋ねると、ユエにシアにティオも警戒する。

 だがイルワは、とんでもないと首を大きく横に振った。

 

「君たち……特にナグモ君には、個人的な面でも恩がある。ましてや、ウルの町の防衛にも携わったとなれば、ギルドとしても君を敵に回すなんてあり得ないよ」

 

「え、何でウルの町の事を知ってるんですか?」

 

「幹部専用なのだが、長距離連絡用のアーティファクトがあるんだ。部下を監視につかせてたんだ。君たちの戦いに、かなり絶句してたけどね」

 

「なるほど……」

 

 幸いなことに、イルワはハジメ達の事を口外しないと約束してくれた。それこそ誓約書を自ら作って書き、ギルド幹部としての判子を押してくれるほどに。さらに、後ろ楯を得やすいように、冒険者ランクを一気に金レベルまで上げると言う。

 プレートを手に入れ、仲間まで増えて、後ろ楯を得て更にランクアップという、逆に怖くなる程の好調ぶりにハジメは驚きを通り越して苦笑いになった。もっとも、少しでも旅をしやすくなる為にと考えたことで、ありがたくそれらの待遇を受け入れた。

 

 

 

 

 

 依頼を完遂したハジメは、フューレンで買い物をすることにした。次に向かう大迷宮は、グリューエン大火山。だがその道中は砂漠だ。砂漠は環境変化が極端な場所だ。昼間は暑く、夜は寒い。おまけに辺り一面砂ばかりが広がって方向感覚も狂いやすい。そこに、砂漠に適応した強靭なポケモン達がいるとなれば、入念な準備は必須だった。

 

「ガラスとかがあれば、『ぼうじんゴーグル』とか作れるけど……」

 

「まぁまぁハジメ、色々と堅苦しい話もした後なんだからさ。今は買い食いでも楽しもうぜ? この串焼きとかうめえぞ」

 

「トシユキの言う通りじゃ。目標に真っ直ぐ進むのも良いが、実りある道中にするならば寄り道も悪くないぞ?」

 

「そう、かな。じゃあその串焼きもーらいっ!」

 

「あ、テメッ、自分で買えよ!」

 

 若い男女のグループが和気あいあいとしながら街中を歩く光景は、年配者の頬を緩ませる。あんな青春が自分にもあったなぁと懐かしみながら。

 

 

 

 

 

 時に買い食いを、時に旅の道具を物色しながら宿へと向かっていた一行だったが、不意にシアのウサ耳がピクピクと動き出した。

 

「ハジメさん。私の耳が、何か音を捉えました」

 

「え? 僕は感じなかったけど……」

 

「何かの鳴き声が……。場所は……下です! 地下に何か居ます!」

 

「下水道に!?」

 

「ハジメ、錬成で穴を開けて! 何かを確かめる!」

 

 ユエの声にハジメは頷き、錬成を発動。その場に穴を開けて下水道へ潜り込む。

 そこに居た存在に、ハジメ達は驚いた。

 

「マナ! マナー!」

 

 青いポケモンが、小さな子供にしがみついて声をかけていた。エメラルドグリーンの髪で可愛らしい顔の子供だが、その耳はヒレのようになっていて、手には水掻きのような膜がついている。

 

「海人族の子供、ですよね?」

 

「かもな。そして、そのポケモンは……ハジメ、知ってるのか?」

 

 

マナフィ……!」

 

 

 これが騒動の切っ掛けになることを、ハジメはまだ知らない。




はい、ミュウのポケモンはマナフィでした。
実は、私が初めて見たポケモン映画は、たまたまテレビで公開してた、蒼海の王子マナフィだったんです。なので登場させました。


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フューレンでの騒動(中編)

本日2話目の投稿です。ちょっと今までのハジメらしくないかもしれませんが、好きなものを傷つけられてると知れば、彼だって怒ります。
それと、メインタイトルを、本格的に「ポケットモンスター トータス」にします。


 海人族とは、海上の町とも言われるエリセンに住む種族である。彼らはヒレのような耳や手足を活かして海産物を取っており、各地に輸出している。そのため、差別される亜人でありながらも公に保護が認められているという、何とも微妙な状態にあるのだ。

 保護されている筈の海人族が内陸地であるフューレンにいる。この事が、ハジメに嫌な予感をさせていた。

 

「フィー……」

 

「大丈夫ですよ。お風呂で綺麗にしましたからね」

 

 心配そうに海人族の子供を見るマナフィに、優しく声をかけるシア。その子供は、不衛生な下水道に居たと言うこともあってかなり弱っていた。シアとユエで洗っている間も目を覚ますこと無く、今も眠っているのである。

 

「で? このマナフィってポケモンは何なんだよ?」

 

「暖かい海流に乗って海を旅するポケモンなんだ。だけど一部の伝承では、海の王子って呼ばれている。滅多に見かけない存在だよ」

 

「そんなポケモンが、保護されてる筈の海人族と一緒に居た……。なーんかキナ臭いな」

 

「フューレンは商業都市。これだけ大きな都市ならば、裏の組織みたいなのがあっても可笑しくないね」

 

「異世界小説おなじみの、人身売買とかな」

 

 ハジメと清水がそのような事を話していると、海人族の子供が目を覚ました。不思議そうにキョロキョロと辺りを見回している。

 

「目を覚ましたかな?」

 

「ひぅっ!」

 

「大丈夫。僕たちは君を傷付けない。僕の名前はハジメ。君の名前は何て言うのかな?」

 

「……ミュウ」

 

「おや、あのポケモンと同じ名前だ。不思議な縁もあるものだね」

 

 ミュウと名乗った少女に対して、ハジメは優しく微笑む。すると、くぅと言う可愛らしい音が彼女のお腹から鳴った。シア達の微笑みは更に暖かいものへと変わる。

 

「おやおや、お腹が空いておるのか?」

 

「なら、一緒にご飯を食べましょう!」

 

「この子は君のポケモン? 心配そうにしていた」

 

「マナー!」

 

「あっ……!」

 

 水の張った桶から、マナフィが嬉しそうに飛び出してミュウに抱きついた。

 

「あのタマゴから生まれたの?」

 

「フィ~」

 

「えへへ、ありがとうなの!」

 

 タマゴと言う単語を聞き、ハジメは考察した。

 

「(マナフィのタマゴか……。確かに魔物の卵となれば、裏の組織からすれば良い金になるか。人身売買だけかと思ったけれど、予想より手広くやってるみたいだな)」

 

 シアによって提供された料理を、ミュウは嬉しそうに食べ進めていく。マナフィも嬉しそうに食べており、その光景はまるで姉妹である。

 

「(敵は間違いなく、この子達を追ってくる。それだけじゃない。たぶん、ポケモンも売り飛ばしてるだろう)」

 

 子ガルーラのように、ポケモンの子供ならば人間相手にも勝てるだろう。ましてや大規模な組織ならば、数にものを言わせて捕まえているかもしれない。いわゆるポケモンハンターのような事もやっていると、ハジメは考えた。

 改めて、怯えの表情から一変して笑顔になったミュウとマナフィを見る。

 

「(許せない……。こんな微笑ましい光景を潰すような奴を放置なんて、出来る筈がない!)」

 

 ポケモンと人がお互いに笑い合う光景は尊いもの。ハジメは前世に残っているアニメの思い出を胸に、そう誓った。

 

 

 

 

 

 食事を終えた後、ハジメ達はミュウを連れて街中を歩いていた。なお、マナフィはハジメお手製のモンスターボールに入れている。

 

「ハジメよ。先ほどから、確かに着いてきておるな」

 

「逃した商品を取り戻そうと、躍起になって探してるはずだからね。向こうから来てくれたから、探す手間が省けた」

 

「大丈夫ですよ、ミュウちゃん。私たちが守りますからね」

 

 視線と気配を感じながらも、ハジメ達は動かす足を止めない。敵が来るのを待ち伏せするのではなく、敢えてミュウをハジメが肩車することで誘っていた。

 相手は大規模な組織。マトモに相手をすれば、如何にチートスペックを持つ集団でも、民間人を巻き込みかねないからだ。

 

「ハジメ、前からもだ。目線がこっち見てやがる」

 

「挟み撃ちか。ティオ、ミュウを抱えて。そしたら皆で突っ切るよ」

 

 ティオがミュウを抱きかかえると、ハジメは声を上げる。

 

「今だ、走れ!」

 

「なっ、突っ込んで来やがった!」

 

 まさか走ってくるとは思わずにハジメ達を取り逃す男たち。

 

「逃がすな、追え!」

 

 ならず者達の怒号をバックに、ハジメ達はひたすら走る。

 

「裏路地へ誘い込め! 応援を寄越せるようにするんだ!」

 

 ご丁寧なことに、大声による指示によってハジメも瞬時に作戦を閃く。

 

「チャンス! 敢えて誘われるんだ! 幸利、裏路地に入ったら、アレを頼むよ!」

 

「うっしゃ! 任せろ!」

 

 裏路地へハジメ達が入り込んだのを見て、男達は舌なめずりをする。仲間が集まりやすい場所へ誘いさえすれば後は袋叩きにすれば良い。美人も多いため、「味見」をするのもアリかもしれない。そう思って裏路地に入った瞬間だった。

 

「掛かったなアホが! 影縫い発動!」

 

「がっ! 体が、動かねえ……!」

 

「仲間を呼ぼうとしても無駄だぜ。俺たちの仲間は、みんなチートだからな!」

 

 影縫いで追っ手の動きを止めている清水の背後では、それはもうポケモンらしくない戦いが起きていた。

 

 シアは持ち前の身体能力と、魔力操作で拳を強化してならず者達を殴り飛ばしている。

 

 ユエは水属性の魔法である“破断”で、高圧縮の水をレーザーのように発射。敢えて即死させず、足を撃ち抜く事で行動不能にしている。

 

 ティオは、片腕でミュウを抱えながらも、反対の手に持つ扇子を振るって雷属性の魔法を発動。これも死なない程度に加減をしている。

 

 ハジメは錬成で地面を勢いよく隆起させて、ならず者達を吹き飛ばす。ナイフを持って突っ込んでくる輩には、こうてつプレートの効果を発揮しながら硬質化した腕で殴り飛ばしていた。 なお、殺していないのは、ミュウにトラウマを作らせない為である。

 

「な、何なんだよ、何なんだよお前ら……!」

 

「そう言われても、愉快な旅のパーティーとしか言えねえよ」

 

 ものの数分で、ならず者達は全滅。清水の影縫いで動けず怯える生き残りに、ハジメ達は良い笑顔で近付いた。ユエとティオは指先に軽く電流を纏って威嚇、シアとハジメは拳の骨をポキポキと鳴らす。

 

「それじゃあ、色々と聞かせてもらおうかな?」

 

 なお、この時のミュウは、ティオに目を瞑っているように言われていたため、ハジメの恐ろしい笑顔を見ずに済んでいるのであった。




ハジメは、普段が穏やかな物腰である分、怒ったりすると普通に相手を素手でボコボコにします。
実は、過去に檜山がハジメの両親をからかってそうなってると言う裏設定を設けてます。


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フューレンでの騒動(後編)

ハジメ、ブチ切れの回です


 裏路地にありながら、そこそこ大きな建物。二階建て木造建築にある一室は、敷物から壁飾りまで豪華な物で飾られていた。

 しかし、その豪華な雰囲気とは打って変わって、部屋の主は非常に不機嫌だった。

 

「おい。まだ海人族のガキと魔物の卵は取り返せてねえのか」

 

「は、はい。下っ端の連中に探させていますが、連絡が全く……ぶげっ!?」

 

「ざっけんじゃねぇぞゴラァ! フリートホーフがガキ1人捕まえられないなんざ、笑い物だぞ!」

 

 売買組織フリートホーフ。それが、ミュウとマナフィの卵を捕まえてオークションに掛けようとした組織の名前である。その頭であるハンセンは、苛立ちのままに部下を何度も蹴りたくる。

 

「ガキに500万ルタ、卵に800万ルタ、両方捕まえたら報酬金を上乗せすると下っ端共に伝えろ!」

 

「あ、が……!」

 

「早く行けや!」

 

「げぶぅ! は、はい! ……ガハァ!?」

 

 動けないところを更に蹴られて、何とか部屋を出ようとする部下。だが彼にとって不幸だったのは、その扉が乱暴に開け放たれることだった。

 

「ノックしてもしもーし! 一発殴らせろぉ!」

 

「ハジメさん、顔は笑顔なのにセリフが物騒ですぅ……」

 

「よほど、ポケモン関連で怒っておるのじゃな」

 

 倒れた部下を踏み、ハジメはハンセンのもとへ一気に近付く。突然のことに呆気にとられたハンセンだったが、我に返ると慌ててナイフを突き出す。

 

「テメェ、此処がフリートホーフの本拠地と知って、ふざけた態度してんのか!」

 

「勿論。本拠地の場所はお前の手下が吐いてくれたからね。素直で助かったよ。さて、お前の組織が主催するオークションは何処でやるのかな?」

 

「誰がガキなんかにグハァ!?」

 

「ごめん、手が滑っちゃった。もう一回答えてもらっても良い?」

 

「ふ、ふざけゲバァ!?」

 

「ごっめーん。もっかい答えて?」

 

 そこから先の光景を、ミュウは見ることも聞くこともなかった。

 

 

――ありゃりゃ気絶したよ。ティオ、雷魔法

 

――了解じゃ。ほれ、起きんか

 

――アババババ!? も、もう止めグハァ!?

 

――答えてくれるまで止めないからね

 

 

 彼の仲間は後にこう語る。

 

「あの時のハジメ、怖かった……」

 

「ミュウちゃんに見せも聞かせもしないで正解でしたね、あの時は」

 

「普段が大人しく、心優しい者ほど怒らせてはならぬ。ハジメはその典型例じゃな」

 

「うん。改めてハジメはポケモン馬鹿だなって感じたな。良い意味でだぞ?」

 

 

 

 

 翌日。冒険者ギルドにあるイルワの執務室にて。イルワはハジメに対して大きなため息をついた。

 

「随分とまぁ派手にやったもんだねぇ。フリートホーフの構成員は全員が重傷、彼らと繋がってたと思われる貴族たちも大怪我。犯罪者の多いエリアでの倒壊した建物も数知れず。お陰でギルド職員はもれなく徹夜確定したわけだが」

 

「つ、ついカッとなって……」

 

 あの後、ハンセンからオークション会場を聞き出したハジメは、捕らえられていた子供達や小さなポケモン達の保護を清水たちに任せた。ハジメ本人は、サイホーンとバサギリをモンスターボールから出して、汚職に手を染めてるであろう貴族たちの居る会場を滅茶苦茶に荒らし回ったのである。

 牢屋の中にいる傷だらけの子供やポケモン達。その光景は、元々越えていたハジメの怒りの沸点を更に突破し、大爆発を引き起こした。

 その怒り様は凄まじく、清水が影縫いで動きを止めて、ユエが水属性魔法を浴びせて漸く我に返った程だ。その時には、見上げれば夜空がクッキリと見えるほどに、建物が倒壊していたのだった。

 

「まぁ、今までトカゲの尻尾切りをされて、私たちもフリートホーフの情報を掴めなかったんだ。ギルドとしては大躍進と言った所だろう」

 

 だが、とイルワは続ける。いくら後ろ楯を得たからとて、急に仕事を増やされては困るというもの。その為、ハジメにはペナルティを与えることにした。

 

「ギルドは今回の件に関して後始末をしなければならない。それに集中するため、君が保護したという海人族の子供に関して手続きを受けることは出来ない。君自身で親元へ送り届ける。それがペナルティだ」

 

「っ、はい!」

 

「そうそう。これはペナルティとは別件だが……」

 

 イルワは封筒をハジメに手渡す。

 

「これは?」

 

「君の冒険者ランクを金ランクへ昇格させる事への、賛同要請だ。他の支部長からも賛同を得ることで、君は正式に金ランクとなる。今はあくまで候補に過ぎないから、そこは気をつけてくれ」

 

「分かりました。他の支部長となると……」

 

「宿場町ホルアドの支部長も、冒険者ギルド全体の中では強い立場にある。ホルアドに向かってみてはどうかな?」

 

「ホルアド、か……」

 

 ハジメはふと、自分の恋人の事について思いを馳せた。

 




さあ、ハジメと香織、再会の時は近いです


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勇者たちに襲い来るもの

いよいよ、あのセクシーな魔人族の登場です


 淡い緑色の光が満ちる洞窟にて、戦闘の音が激しく響く。

 

「万象切り裂く光、吹きすさぶ断絶の風、舞い散る百花の如く渦巻き、光嵐となりて敵を刻め! 天翔裂破!」

 

 光輝の聖剣が、ドーベルマンを思わせるような体格のポケモン……ヘルガーを切りつける。ポケモン達は大きく弱ると、自身の体を大きく縮ませる特徴を持っている。大ダメージを受けたヘルガーは、弱々しい声を上げながら目に見えない大きさまで小さくなった。なお、この光景は光輝たちには消えたように見えている。

 

「炎を吐く犬……やはり異世界という感じがするな」

 

「(確か、ハジメが描いてたイラストにあったな。あれはヘルガーだっけ。それにしても白崎さん、無理してなきゃ良いけど……)」

 

 清水と同様にハジメの影響でポケモンに詳しい遠藤浩介。倒したポケモンの名前を確認しつつ、親友の恋人である香織を見る。

 ハジメが行方不明になった後、ひどく落ち込むと思われていた彼女だったが、それがかえって火をつけたのか、ステータスは急成長を見せた。

 

――――――――――――――――――――――――――――

白崎香織 17歳 女 レベル72

 

天職:治癒師

 

筋力:280

 

体力:460

 

耐性:360

 

敏捷:380

 

魔力:1380

 

魔耐:1380

 

技能:回復魔法(+効果上昇+回復速度上昇+イメージ補強力上昇+浸透看破+範囲効果上昇+遠隔回復効果上昇+状態異常回復効果上昇+消費魔力減少+魔力効率上昇+連続発動+複数同時発動+遅延発動+付加発動)、光属性適性(+発動速度上昇+効果上昇+持続時間上昇+連続発動+複数同時発動+遅延発動)、高速魔力回復(+瞑想)、言語理解

――――――――――――――――――――――――――――

 

 光輝は香織がハジメの死を乗り越えたと思っているが、それは違う。生きていると信じるからこそ迷宮探索に積極的になり、ステータスが大幅に上がったのだ。

 そんな彼女は、檜山と近藤の回復を終えると、再びハジメへ想いを馳せる。

 

「(ここから先は90階層。けど、ハジメ君の手がかりは見つかってない。もっともっと下に居るの?)」

 

「香織……」

 

「大丈夫だよ雫ちゃん。生きて会えることが、一番嬉しいことだから」

 

 心配そうに声をかける雫に、香織は微笑んで答えるが、内心はただ一言を呟いていた。

 

「(会いたいよ、ハジメ君……)」

 

 一方、パーティーメンバーの最後尾では、恵里が小声で呟いていた。

 

「ミミッキュ、さっきはありがとね。背中を守ってくれると助かるよ」

 

「ミキュ」

 

 彼女は小さなカバンを背負っているが、その中にはミミッキュが居る。基本的な戦闘は光輝たちが前衛になっているため彼女自らが出ることは無いが、時には背後から奇襲を仕掛けてくるポケモンも居る。そんな時、ミミッキュが“シャドークロー”で撃退していたのだ。

 

「(今のところ戦闘の音が激しいから気付かれてないけど、このまま大丈夫だよね……?)」

 

 恵里は自身の相棒が、光輝たちによって危険にさらされないかが不安で仕方がなかった。

 

 

 

 

 90階層へと突入した光輝たち。3時間ほど経過し、今いるエリアの半分を探索し終えた所で、一行は違和感に気づいた。

 

「……なんで魔物が居ないんだ?」

 

 今までなら、ポケモンに阻まれて探索が遅れることもあったのに、今は順調過ぎるほどに進んでいる。それが却って違和感を覚えさせたのだ。

 

「流石におかしいよな? 暴れたような跡は至るところにあったのに、魔物の姿も見えねえ」

 

「気配すら感じないなんて不気味よ。光輝、ここは一旦戻りましょう? メルドさんに聞いてみるべきよ」

 

 龍太郎の言葉に鈴や恵里たち後衛組も話し合うが、なぜ敵が居ないのかという答えは出てこない。雫の言葉に光輝は戻るべきか考えるが、89階層まで来れたのなら進みたいと言う気持ちもあったため、すぐに応えることは出来なかった。

 

 その時だった。前方からカツカツと靴の音が響いてきた。今いる階層には自分達しか居ない筈。全員が警戒を強める。

 

 現れたのは、赤い髪の妙齢の女。だが光輝達が目を見開いたのは、その特徴だ。浅黒い肌に、尖った耳。それは聖教教会から座学で教えられた神敵にして、彼らがおいおい戦うことになる相手。

 

「魔人族……!」

 

 その女性は、赤色の鎖で武装したポケモン達を背に、うっすらと冷たい笑みを浮かべた。




原作と違う点は、道中にあった血痕のシーンは無い所でしょうか。かなり微妙な相違点だと思いますが。
さてさて、カトレアが操るポケモン達は何か、次回をお待ちください。


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vsカトレア(魔人族) 前編

一気に暑くなりましたね。私は実家暮らしなのですが、裏山でセミが鳴き始めてます。

そして、お気に入り登録者が500人を越えました! 本当にありがとうございます!


 魔人族カトレアの狙い。それは、人間族から勇者と呼ばれる存在を勧誘することだった。

 

「(随分と派手な装備だねぇ。間違いなくコイツだね)」

 

 明らかに「私が勇者です」と言ってそうな格好の光輝を見て、ため息を堪えつつ口を開く。

 

「これはこれは、勇者サマ。こんなところで会えるなんて光栄だよ」

 

「嘘を言うな! なぜ此処に居る!」

 

「言わないと状況を理解できないのかい? 本当に引き入れて良いものやら……。ま、答えるとするなら、アンタ達を勧誘しに来たのさ」

 

「ふざけるな! 人間を、王国の人たちを裏切るなんて事はしない!」

 

「ふーん? 上からは、あんたの仲間も引き入れて良いって言われてるけど?」

 

「何度も言わせるな! 俺たちの仲間は裏切ったりなんかしない! 1人で来たのが間違いだったな! 投降するんだ!」

 

 この状況に内心で舌打ちしたのは、雫と永山重吾だった。パーティーの中でも頭が回る2人は、この階層に魔物が居ない原因が、目の前にいる魔人族であることを察していた。彼女が引き連れている、洞窟内には居ないであろう魔物達。所々で見かける暴れたような跡は、その魔物達を使って階層を制圧した跡だったのだ。

 複数の魔物を操れると言うそのテクニックからして、まともに戦って勝てる相手ではない。適当に言いくるめて場所を変えたり、油断させるなりして奇襲を仕掛けようとしたのが、光輝の独断によってお釈迦になってしまったのだ。

 

「やっぱり断るかい。まあ、勧誘を受けないなら殺せと言う命令だし、アタシ個人としても要らないしねぇ。……やれ」

 

 瞬時に飛び出したのは、テッカニンの群れだった。それに反応するのは、意外な事に香織だった。

 

「ヒヤァァ! 虫ぃ!」

 

「鈴ちゃん、怖いかもだけど結界貼って! あれはテッカニン、素早いよ!」

 

「わ、分かった! 来ないでぇ!」

 

「(へぇ? 明らかに回復役な小娘なのに、魔物に対する知識もあるのかい。レイスの奴がしくじったんだ、こりゃ神の鎖の過信は禁物か)」

 

 鈴の貼った結界に激突するテッカニン達だったが、その鋭い爪を光らせる。“シザークロス”だ。それを見て声を上げたのが浩介だ。

 

「テッカニンは見た目の通り虫タイプだ! 炎の魔法を浴びせるんだ!」

 

「なら、()がやる!」

 

 思わず素の一人称が出てしまった恵里が、最も簡単な魔法である火球を発射する。テッカニンはそれで怯むが、今度は辺りをゴゴゴゴと地揺れが発生した。

 

「テッカニンだけだと思わない事だねぇ!」

 

「っ! 下か!」

 

 光輝がその場から離脱すると、彼のいた場所から金属の蛇のようなポケモン……ハガネールが現れた。

 

「遠藤くん、あれって!」

 

「ハガネール……! 現実で見るとデカい……!」

 

 香織と浩介が戦慄する中、光輝が改めて剣を構える。

 

「ならば! 万翔羽ばたき、天へと至れ――天翔閃!!」

 

 光輝が聖剣から極大な光を発しながら、ハガネールを切りつける。だが……。

 

「ネェェル……!」

 

「馬鹿な、聖剣の攻撃なのに、傷ひとつ無いなんて!?」

 

「はっ! 聖剣なんて大層な名前の割には、なまくらだったみたいだね! で……アタシを殺ろうとしても無駄だよ! バクガメス、防御しな!」

 

「ガッメェェス!」

 

「ぐぁぁぁっ!」

 

 永山がカトレアを狙おうと接近するが、バクガメスの“トラップシェル”によってダメージを受ける。

 そこへ龍太郎が接近、拳を構える。

 

「亀だってんなら、正面なら……!」

 

「お得意の炎を浴びせてやりな!」

 

「ガメスッ!」

 

「ぐおおお!」

 

 鼻から噴き出す“かえんほうしゃ”。その圧力は凄まじく、龍太郎はそのまま吹き飛ばされた。

 一声掛けたいのを堪え、雫が剣を構えて猛スピードでカトレアに迫る。

 

「(そこっ!)」

 

 だが、彼女の剣を防ぐポケモンが瞬時に現れた。

 

「なっ……! 貴方は……!」

 

「エル……!」

 

「エルレイド……! 貴方まで操られてるなんて……!」

 

 香織に同伴する形でハジメにイラストを見せてもらい、密かに一目惚れしたポケモン。それが敵として現れた事が、雫の心を揺さぶった。

 




最近気付いたのですが、テッカニンってセミだったんですね。黄色と黒の色合いから、今までクマバチだと思ってました。


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vsカトレア(魔人族) 中編

お待たせしました、カトレア(魔人族)戦の中編です


 リーダーである光輝の聖剣が、ダメージを与えられていない。それが後衛のメンバーに衝撃を与えていた。

 

「みんなボサッとするな! ハガネールが来るぞ!」

 

「アイツらを噛み殺しちまいな!」

 

 浩介の掛け声に反応し、カトレアは指示を出す。ハガネールはそのまま“こおりのキバ”を発動したが、すぐに浩介が指示を出す。

 

「アイツの弱点は炎だ!」

 

「もう一回行くよ!」

 

 再び恵里が火球を放つ。顔面に火の玉が命中したハガネールは動きを止め、汚れを振り払うかのように頭を振る。

 

「炎が効くんだな! なら……オラオラこっちだ!」

 

「野村くん、何をするの!?」

 

 まるでハガネールを挑発するかのように大声を出しながら走る野村健太郎。香織と同じ回復役である辻綾子が慌てて引き留めようとするが、彼は止まらない。

 

「自殺しに来たんなら歓迎だよ! バクガメス、焼き殺してやりな!」

 

「ガメェス!」

 

「へっ! 後ろは爆発、正面が火炎放射ならそう来ると思ったぜ!」

 

 窮地の状況によって頭が冴え渡り、素早く低い姿勢をとる野村。バクガメスの炎はそのまま頭上を通りすぎ、彼の後ろにいたハガネールに命中した。

 

「ネルゥ!?」

 

「馬鹿、何やってんだい! とっとと炎を止めな!」

 

「ガ、ガメス!」

 

「もらったぁ!」

 

 “かえんほうしゃ”が止まった隙を突いて、龍太郎が殴る。“トラップシェル”で防御された時とは違い手応えはあったが、それでも彼は顔をしかめた。

 

「くそ、硬い!」

 

「2人とも離れて! バクガメスはまだ倒れていない!」

 

「了解だ!」

 

「おうよ!」

 

 香織の指示で野村と龍太郎はバクガメスから距離を取った。

 一方、雫はエルレイドと鍔迫り合いを繰り広げていた。

 

「(今なら、ポケモンと戦う時の南雲くんの気持ちが分かる。好きなポケモンと、命のやり取りをするのがこんなにも辛いなんて!)」

 

 心を感じさせない、光の無いエルレイドの瞳。それが雫の心に迷いのような物を与えていた。

 

「雫、一体どうしたんだ! 今加勢する!」

 

「待ちなさい光輝!」

 

 聖剣を構えて、エルレイドに挑もうとする光輝。だがエルレイドは片手を光輝に向けて“サイコキネシス”を放った。

 

「ぐあっ、がぁっ! これが、その魔物の攻撃なのか……!?」

 

「なら、今度こそ!」

 

 視線が光輝へ向けられた隙を突き、再びカトレアへ向かう雫。だが、彼女は再びニヤリと笑った。

 

「備えは重ねておくものだよ! ゴースト、痺れさせな!」

 

「「「「ゲゲゲゲゲ!」」」」

 

 突如、永山パーティーと小悪党組の後ろにゴーストの群れが現れた。彼らは、痺れさせるという指示のもと、“したでなめる”行為をした。

 

「うげぇっ!? 何だこいつ、ら……!?」

 

「な、何これ、体が、動かな……!」

 

「みんな!」

 

 ゴースト達は鈴と恵里に狙いを定めると、ゴーストの名の通り姿を消して、彼女達の背後に回った。

 

「鈴!」

 

 恵里は親友の背後にいるゴーストに攻撃しようとするが、そんな彼女にも同じポケモンが迫っていた。だが彼女のカバンに入っていたミミッキュが迎撃する。

 

「ミッキュゥ!」

 

「ゲゴ!?」

 

 仲間の悲鳴を聞き、恵里を脅威と認識したゴースト達。対処しきれないと諦め掛けたその時だった。ミミッキュが恵里の前に出た。

 

「ミキュウッ!」

 

「あぁ? 何で人間の小娘が魔物を連れてるんだい」

 

「ミミッキュ、出てきちゃ駄目!!」

 

 慌ててカバンに戻そうとするが、ミミッキュは恵里の手を抜け出して、ゴーストの群れに立ちはだかる。まるで恵里と鈴を守るかのように。

 

「ミミッキュ、君は……」

 

「エリリン……」

 

「……後で話すから、今は集中させて」

 

 恵里は拳を握って震えを押さえ、ゴースト達を見据えた。

 

 まともに戦えそうなのは光輝、雫、香織、龍太郎、鈴、恵里、浩介だ。

 状況を見た雫は、浩介に小声で伝える。

 

「貴方は撤退して、メルドさん達に伝えて。何とか私たちで食い止めるから」

 

「っ! たったこれっぽっちで戦えるのかよ!?」

 

「どういうわけか知らないけど、中村さんはミミッキュを仲間にしてる。彼女に賭けるしか無いわね。そして貴方の影の薄さがあれば、途中でポケモンに襲われずに済めるかもしれない!」

 

「くっ……くそっ! 分かったよ! 行って来るから持ちこたえててくれ!」

 

 浩介は、ステータスをフルに活用してその場から抜け出した。




レイスとは違い、技名は出さずとも「〇〇しろ」と命令するため、カトレア(魔人族)はかなり手強いです。
そしてとうとうミミッキュの存在がバレた恵里はどうなるでしょうか……?


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vsカトレア(魔人族) 後編

いよいよ後編、主に恵里と雫が戦います。


 殆どのパーティーメンバーが、ゴースト達の“したでなめる”攻撃によって体が麻痺し、動けなくなった。その中で浩介は、なぜかミミッキュを仲間にしている恵里に賭けて、上の階層で待機しているメルド達の元へ向かっていた。

 

「あった、転移陣!」

 

 本来はトラップとして存在する転移陣。だが、それを光輝たちは敢えて移動用として使うことで90階層まで辿り着けたのだ。浩介はメルド達のいる階層まで転移すると、大声で彼を呼んだ。

 

「メルドさん!」

 

「うお、浩介か!? しかしその状態は……何かあったのか!?」

 

「はい! 大変なんです!」

 

 浩介は、事の顛末をメルドに伝えた。その緊急を要する事態に、メルドだけでなく他の騎士たちも目を見開いて驚く。

 

「浩介、よく伝えてくれた。お前はこのまま地上へ行き、冒険者を募ってくれ。一人でありながらそれ程の強さを持つ魔物達を連れているなら、我々も数で押すしかない!」

 

「わ、分かりました!」

 

「それと、移動したら転移陣を壊せ」

 

「え……。そんなことしたら、メルドさん達は!」

 

「地上に魔人族の率いる魔物達が現れては、それこそ終わりだ! 戦う術を持たない者達を守るためにも、俺たちを見捨てる勇気を持て! いいな!」

 

「……っ! 絶対に、絶対に戻ってきますから!」

 

 前髪で浩介の目は見えないが、彼の頬を伝う涙をメルドは見た。再び走り出す浩介の背中を見届けると、騎士団は剣を握り進み出す。

 

「行くぞ!」

 

「「「応っ!!」」」

 

 

 

 

 

 視点は再び光輝たちへ戻る。そこでは、恵里とミミッキュが奮闘していた。

 

「(不思議な感じだ。僕とミミッキュが繋がってるような……。どんな技を使えるのか分かる!)」

 

 それは、恵里がミミッキュの真のパートナーとなった瞬間であった。彼女に向かって、ゴースト達が“シャドーパンチ”を放つ。だが恵里が手をかざした。

 

「『止まれ』!」

 

「ググッ!?」

 

「今だよミミッキュ! “シャドークロー”!」

 

「ミィィッ、キュッ!」

 

 恵里の声に従うかのように動かなくなるゴースト。そこへミミッキュの技が命中。それを見たカトレアは舌打ちする。

 

「降霊術の使い手……! 幽霊系の魔物にも効果を発揮するのかい!」

 

 その言葉に応えず、恵里は辺りを見回す。

 

「(ゴーストって名前からして降霊術が効くかどうかは賭けだったけどね……)」

 

 別のゴーストが“シャドーボール”を放つ。

 

「ミキュウッ!」

 

「ミミッキュ!」

 

 恵里は悲鳴を上げるが、彼女は健在だ。だがその時、ポキンっとミミッキュの首が折れる。特性『ばけのかわ』が剥がれた音だ。

 

「うわぁぁ!? 首、首がぁ!?」

 

「ミッキュウ……!」

 

「後で直してあげるからね! アイツに“シャドーボール”!」

 

 だがまだまだゴーストは出てくる。さらにテッカニンの群れにハガネールとバクガメス、そしてエルレイドまで居る。

 

「(ミミッキュも、技を出し続けて疲れてる……。終わりが見えないよ……!)」

 

 テッカニンはまだ何とかなる。エルレイドも、今は雫が戦っている。問題はハガネールとバクガメスだ。どちらも見た目どおり頑丈らしく、ハガネールに至っては光輝の聖剣ですらまともにダメージを与えられていない。

 

「(早く動けるようになってよ、みんな! 人手が足りな過ぎる……!)」

 

 その頃、雫はエルレイドとひたすら鍔迫り合いを繰り広げていた。名刀にも勝る切れ味と言われるエルレイドの刃と未だに戦えているのは、雫の実力があってのものだろう。

 

「エルレイド、目を覚まして!」

 

「エル……!」

 

「南雲くんから、貴方の事を教えてもらった時、私は思ったのよ。貴方は礼儀正しく、武人のようなポケモン。守るためにしかその刃を使わないって!」

 

 チクチクと痛む心を無理やり押さえ込んで、彼の胴体へ攻撃しようとする雫。それすらも止められる。

 

「今の貴方は……見てられない!」

 

「エルゥァ!」

 

「キャアァァァ!」

 

 “サイケこうせん”によって大きく吹き飛ばされる雫。香織が駆け出して、彼女を受け止めた。

 

「雫ちゃん!」

 

「ぐ、う……」

 

「鈴ちゃん、結界を!」

 

「任せて!」

 

「雫……! くそ、魔物め! 龍太郎、2人で畳み掛けるぞ!」

 

「了解だ!」

 

 光輝と龍太郎が突撃するが、2人に立ちはだかるのはテッカニンの群れ。彼らは一斉に“かげぶんしん”をする。

 

「増えただと!?」

 

「落ち着くんだ龍太郎! 恐らくこれは分身! 本体を攻撃すれば……」

 

「て言ったって、この数から探せってのかよ!」

 

 その瞬間、龍太郎は背中から攻撃を受ける。“メタルクロー”による攻撃だ。

 

「うぐぁっ!」

 

「龍太郎! くそっ、どうすれば……!」

 

 辺りを囲むテッカニン達と、カトレアを守るように立ちはだかるハガネールとバクガメス、そしてエルレイド。それらを光輝は睨み付ける。

 そこへ、カトレアがニヤニヤと笑いながら話しかける。

 

「どうだい? これが最後のチャンスだ。私たちに投降してついて来ないかい?」

 

「断る……!」

 

「はぁ、やれやれ。状況の見えてない坊やだね! 仲間の半分は麻痺して動けない。戦える面子も負傷してる。この状況でまだそんな事が言えるのかい!」

 

「俺たちは人間の希望なんだ! 俺たちを信じる人達を裏切るなんてことはしない!」

 

「……その信じる人たちって連中の為に、仲間を見捨てるってのかい。あんたは、こちら側に引き入れても危険しかなさそうだ。殺っちまいな!」

 

 

「させん!!」

 

 

 光輝の目の前で、炎や氷など、様々な魔法がテッカニンの群れを襲った。その声の持ち主に、光輝は嬉しさのあまり声を上げる。

 

「メルドさん!」

 

「ちっ! いつの間に応援を!」

 

 カトレアは、浩介がこの場に居ないことに気付いていなかった。彼の影の薄さのお陰である。

 

「王国の騎士団長か……! こっちに集中しすぎた……!」

 

「光輝、下がれ! 一度体勢を立て直すんだ! カオリが他の連中の麻痺を治してる!」

 

「わ、分かりました!」

 

 メルドは魔人族を睨むが、未だに魔物が健在な状況を見て汗を一筋流す。

 

「(さて、何処まで抗えるか……)」

 

 自然と、剣を握る力が強くなった。




次回は、再びハジメ視点に戻ります。


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ハジメ、兄になる。

仕事等で中々執筆できず、今回は短めです。


「ここに戻ってくるとはなぁ……」

 

「クラスの皆と出くわしたら、何て言おうか……」

 

 宿場町ホルアドへとやって来たハジメ達。初めてオルクス大迷宮を探索する時に訪れて以来となるため、ハジメと清水は懐かしむ。それと同時に、もしもクラスメイトと出会ったらどうなるかという不安もあった。ハジメは強い権力を持つ聖教教会によって死亡を公表されているし、清水は勇者としての戦いから逃げて愛ちゃん先生護衛隊に入っていた。正義感が強く、オタクを毛嫌いしてる(と2人は思っている)光輝ならば、出会って早々文句を言うことだろう。

 

「けど、香織の安否も気になるし……」

 

「一番の問題は檜山だろ。お前を落とした犯人かもしれないんだぜ?」

 

「それなんだよなぁ……」

 

 溜め息をつく2人に、女性陣は心配そうな顔をしている。旅の道中ハジメの立ち位置や清水の境遇などを聞いた彼女達は、トラブルが起きないことを祈っていた。

 

「ハジメお兄ちゃんにユキトシお兄ちゃん、どうしたの? 具合悪いの?」

 

 ハジメに肩車をされていたミュウが、上からヒョコっと覗き込む。彼女はすっかりハジメ達に懐いていた。ミュウの質問に、2人は心配させないようにと微笑む。

 

「大丈夫さ、ミュウ。僕たちはどこも具合悪くないよ」

 

「そうそう。気のせいだ、気のせい」

 

 ハジメは物腰柔らかな、清水は口調は乱暴だが優しい兄。周りから見れば、そのように見えていただろう。

 

「何だかハジメさん達、すっかりお兄ちゃんですね」

 

「気持ちは分かる。ミュウって、何だか守ってあげたい可愛さがあるから」

 

「やがて過保護になるんじゃないかのぉ?」

 

 2人のミュウに対する態度に、シアとユエとティオは苦笑いするのだった。

 

 

 

 

 

 ホルアドの冒険者ギルドへやって来た一行。施設に入った瞬間、美女3人を連れてるハジメと清水に嫉妬の視線を向ける冒険者達だったが、そのいかつい顔面にミュウが怖がってしまった。

 

「大丈夫だよ、ミュウ」

 

「ハジメお兄ちゃん?」

 

「ここの人たちは、すぐに笑顔になるから。……デスヨネ?」

 

 笑わなきゃ……分かるな? 笑顔の筈なのに尋常じゃない気迫がハジメから、否、ミュウを大切にしている全員が視線だけで訴えていた。

 その迫力に呑まれた冒険者たちは慌てて笑顔を作るが、不自然過ぎてむしろ恐ろしい物になってしまった。

 

「ひううっ!」

 

「何お前ら怖がらせてんだ!」

 

「「「「理不尽!」」」

 

 清水の台詞は、あんまりと言えばあんまりである。そんなコントのような光景に、受付嬢の営業スマイルも頬がひきつっていた。しかしハジメは気にせず、彼女にイルワからの手紙を提出する。

 

「これを、ギルド長に渡してもらえませんか?」

 

「フューレン支部からの手紙? か、かしこまりました。少々お待ちください」

 

 近くの席へと案内され、手紙に対する返事を待つハジメ達。その時、入り口の扉を強く開け放ち、文字通り滑り込んできた影があった。

 

「誰か、誰か俺たちの仲間を助けてくれ!」

 

 その姿、その声にハジメと清水は顔を見合わせる。そして思わずその名前を口にした。

 

「「浩介……?」」

 

 2人の声に浩介も顔を上げた。

 

「幸利! それに……ハジメ!」

 

 香織が命名した『ポケモントリオ』、意外な形での再会であった。




いよいよ、ハジメ達と浩介が再会。ハジメはどう対応するでしょうか。


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動揺、決意

急きょ行なったアンケートの結果ですが、地の文でも幸利で行くことにしました。


 冒険者ギルドホルアド支部長のロア・バワビスが、ハジメの手紙について本人から聞こうとやって来たのだが、そこにただ事ではない雰囲気を漂わせる浩介が居た。両者の話を聞こうと応接室へ案内したのだが、浩介の口から語られたのは、オルクス大迷宮内に魔人族が現れて勇者たちと交戦中という物だった。

 だが、それを聞いて一番穏やかでなかったのは、ハジメだった。

 

「そこには、香織も居るんだね?」

 

「あ、あぁ。八重樫さんたちと一緒に戦ってる」

 

 浩介からそれを聞いた瞬間、ハジメは席を立って部屋を出ようとした。ユエが、彼がやろうとしてることを察して呼び止める。

 

「何処へ行くの、ハジメ!?」

 

「香織を助けに行く!」

 

「まずは話を聞いてからにしましょうよ、ハジメさん! 相手がどんなポケモンを操るかも分かってないのに……!」

 

「離せ! 一刻を争うんだ! チートスペックなクラスメイト達でも、何処まで持ち堪えられるか分からない! 手遅れになる前に行かないと!」

 

 シアが羽交い締めをしてハジメを止めようとするが、ハジメは振りほどこうとする。

 その時、彼に近付いたのはティオだった。口元を隠していた扇子を閉じると、軽く小突く。

 

 

「落ち着かぬか馬鹿者」

 

 

 軽くとは言っても、元は竜人族。その威力は悶絶するものがある。

 

「痛ぁぁぁぁ!?」

 

「まったく……。ハジメよ。お主の強みは、戦いにおいて相手を冷静に分析して対抗策を練ることじゃろう。恋人が危機ならば、尚更落ち着くべきじゃ」

 

「そうだぜ、ハジメ。ポケモンにはタイプ相性があるんだろ? それを考えずに突っ込んだら、むしろ危険すぎる」

 

 幸利にも窘められ、俯くハジメ。そのまま先程まで座っていた席に座り直すと、浩介と向かい合う。ハジメが落ち着いたのを見た浩介は、もう1つ伝えることを口にした。

 

「ハジメ。戦えてるメンバーなんだが、中村が意外と戦力になるかもしれない」

 

「中村って、中村恵里さん? 彼女が?」

 

「俺たちに隠してたみたいなんだけど、ポケモンを仲間にしていたようなんだ」

 

「本当に!? どんなポケモン?」

 

「あれは確か、ミミッキュだったか?」

 

「ミミッキュか! 中々良いポケモンだよ! で、相手のポケモンは?」

 

「俺が見た限りでは、ハガネールにバクガメス、エルレイド、あとはゴーストやテッカニンの群れだ」

 

 恵里の手持ちに希望を持ったハジメだったが、相手のポケモンの名前を聞いてすぐに思考する。

 

「ハガネールとゴーストは、ミミッキュにとって天敵かもしれないな……。けど、ユエのゴルーグだったらハガネールは何とか出来るし、シアのアブソルにゴースト達を任せるのも行けそうか……?」

 

 なお、この時ミュウは難しい話を聞いて眠くなってしまい、ハジメの背中にしがみついたまま眠っていた。その為、浩介とロアからすれば、寝ている幼女を背負ったまま真剣な顔をして思考しているハジメがシュールに見えていた。

 

 暫くして、ハジメは口を開いた。

 

「分かった。浩介、僕たちが助けに行くよ」

 

「良いのか!?」

 

「うん。正直、天之河とか檜山に何言われるか不安だけどね。だけどポケモン達を、香織を、八重樫さん達のようなポケモンを理解してくれる人たちを見捨てたくない」

 

 話を一部始終聞いていたロアが、ハジメに味方するように話を繋げた。

 

「ならば、俺たち冒険者ギルドの方で依頼として扱おう。頼むぞ、最年少の金ランク冒険者」

 

「っ! 僕を、金ランクに……?」

 

「手紙の内容を拝見させてもらった。お前さんなら、救出もこなせそうだからな」

 

 ニヤリと笑みを浮かべながら、ハジメが金ランク冒険者であることを認める証明書を見せる。

 

「よし! 浩介、案内してくれ! 僕とユエとシア、幸利で迷宮に向かう。ティオはミュウの守りをお願いしても良いかな?」

 

「勿論じゃ」

 

 背負っていたミュウをティオに預けると、眠っていた彼女はうっすらと目を開けた。

 

「うみゅ……。ハジメお兄ちゃん……?」

 

「ミュウ。僕たちは、ちょっとお仕事してくるから、ティオとお留守番してるんだよ?」

 

「んぅ、いってらっしゃいなの……」

 

 まだ眠たいのか、ウトウトしながらもゆっくりと手を振るミュウ。浩介がからかうようにハジメに耳打ちした。

 

「何だか兄妹っていうより、親子だな」

 

「それ、香織の前では言わないでよ? 割りとマジで」

 

 そう言いながらもハジメは香織の無事を祈りつつ、オルクス大迷宮へと足を急がせた。




さて、いよいよ次回、ハジメが香織の救出へ向かいます!


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真下に突き進め

今回も短めです。
なお、原作では隠れて休息するシーンがありましたが、ゴースト達の麻痺攻撃によって逃走手段も封じられてるため、この作品での勇者一行って実はめちゃくちゃピンチな状態です。


 再びオルクス大迷宮へと戻ってきたハジメ達。大急ぎで中を進むが、走りながら浩介は思い出したかのように叫んだ。

 

「あっ!? 魔人族と出くわしたのは90階層だ。どうやって下に進めば良いんだ!? メルドさんに言われて転移陣は壊しちまったし……」

 

 カトレアは浩介に気付かず追っ手は差し向けなかったが、メルドは万が一を警戒し、地上に行かせないよう転移陣を壊せと命令した。あの時はがむしゃらで転移直後に破壊したのだが、こうして緊急事態ともなるとその選択を後悔し始めていた。

 だが、ハジメは慌てなかった。

 

「大丈夫さ。僕には、頼れる相棒がいる」

 

 そう言ってモンスターボールを浩介に見せつつ、笑みを浮かべた。

 

 

 

 

 

 光輝たちにメルドを始めとする騎士団が増援として駆けつけた。だが、それでも数は魔人族側が優勢で、勇者一行と騎士団の全員が疲弊していた。ゴーストの“したでなめる”攻撃によって麻痺した仲間を香織が回復させていたが、魔力が尽きかけている。恵里とミミッキュも、相手を迎撃し続けたことで疲労が蓄積し、技のキレが落ちていた。

 

「はあ、はあ……。ミミッキュ、大丈夫?」

 

「ミキュウ……」

 

 特性『ばけのかわ』も剥がれてしまい、相手の攻撃でダメージを受けるようになってしまった。今のミミッキュの体力をゲームで表現するならば、HPバーが黄色から赤に変わるギリギリの状態と言える。

 メルド達が駆けつけた時、恵里がミミッキュを連れている事にギョッとした。だが魔人族の操る魔物と戦う姿を見て、メルドは彼女が魔人族に寝返ったとは思えなかったのだ。

 

「(くっ、我ながら情けない! 少年少女たちに戦わせておいて、その挙げ句の果てに危機に陥らせるとは!)」

 

 ゴーストは騎士たちの剣をすり抜け、テッカニンは魔法を詠唱している間にそのスピードで攻撃、ハガネールとバクガメスは持ち前のタフネスで未だ健在。エルレイドは雫が注意を引き付けているが、彼女は苦戦している。

 

「(それに光輝の聖剣で傷つかないというのも、予想外だった。大抵の魔物は倒せていたというのに)」

 

 メルドがどうにか突破する方法を考えている間にも、光輝たちは魔物に攻撃し、そして反撃されている。今は雫を助けようとエルレイドに奇襲をしようとしたところを、ゴーストが瞬間移動で背後に現れて“したでなめる”攻撃をした。

 

「ぐ、あ、また体が……! 卑怯な……!」

 

「戦場に卑怯も何もあるかい! お遊びは終わりにしてやる。ハガネール、コイツらを纏めて吹き飛ばしな!」

 

「ネェェル……!」

 

 ハガネールの口に銀色の光が蓄積されていく。“ラスターカノン”を撃とうとしているのだ。敗北を悟った香織は恋人を、雫は親友を、そしてメルドは救えなかった少年の名を心の中で叫ぶ。

 

「(ハジメくん……!)」

 

「(南雲くん……!)」

 

「(ハジメ……!)」

 

 

 

「うおおおおおおおおおお!!」

 

 

 

 その瞬間、洞窟の天井がぶち破られた。

 

「っ! 何なんだい全く!」

 

 土煙がゆっくりと晴れていく。その影はゆっくりと姿を現した。

 

「あ、あ……!」

 

 香織の目に涙が溜まる。自身の記憶よりも遥かに逞しくなったその背中を見て、そしてこちらを見つめる眼差しを見て、愛しい人の名を呼んだ。

 

 

「ハジメ君!」

 

 

 




LEGENDSアルセウスでのゴーストタイプのポケモンって、見つかると瞬間移動染みた行動してくるので、この作品でも厄介な相手にしてみました。

次回、いよいよハジメ達vsカトレア(魔人族)です。


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大バトル

カトレア(魔人族)の操るポケモンとの戦いを書いたら、結構長くなりました……。それでは、どうぞ!


 オルクス大迷宮の90階層、その洞窟の天井をぶち破って現れたのは、ハジメだった。だが彼の側に居るポケモンを見て光輝たちは剣を構える。

 

「アイツは……サイホーン! どういうつもりだ南雲、魔物となぜ一緒に居る!!」

 

「ま、待て待て! 待ってくれみんな!」

 

 ハジメにも攻撃が行きそうな状態に、慌てて飛び出してきたのは浩介だった。永山パーティーの仲間達が喜びの声を上げる。

 

「遠藤、無事だったのか!」

 

「あぁ! それに助けを呼んできた!」

 

「助けって……まさか南雲が?」

 

「ハジメだけじゃないさ!」

 

 その時だった。シュゴォォォと何やら飛行機のエンジン音を思わせるような音が聞こえてきた。光輝たち、そしてカトレアまでもが困惑していると、サイホーンが開けた穴からゴルーグが現れた。

 

「せ、石像の魔物だって!?」

 

「魔物って呼ばないで。彼らは、ポケモン」

 

 檜山が悲鳴染みた声で叫ぶが、ゴルーグの肩に乗っていたユエが冷ややかな目で告げながら着地した。

 

「ゴースト達ですか。アブソル、相手にとって不足はありません、行きますよ!」

 

「アブッ!」

 

「俺も居るぜ! さあ、暴れようかガルーラ!」

 

「ガルルゥ!」

 

「「「清水!?」」」

 

 クラスメイトが2人も駆けつけ、更に魔物まで仲間にしている。冷静さが売りの雫ですら混乱するような状況だった。

 ふと、ハジメと香織の目が合った。香織は思わず泣きそうになったのだが、ハジメが安心させるかのように微笑む。

 彼とて彼女の元へ駆け寄って抱き締めたい。だが、まずは目の前の敵を倒すことが先だった。

 

「クソ! 人間が魔物を操れるようになったなんて聞いてない! テッカニン、やっちまいな!」

 

「サイホーン、“ロックブラスト”だ!」

 

 サイホーンから放たれる岩によって打ち落とされるテッカニン達。だが、その中の1匹が攻撃を潜り抜け、ハジメの背後にいる香織や永山達を狙おうとしていた。

 

「しまっ……!」

 

「うおおお! 俺だってぇ!」

 

 飛び出したのは浩介。手にしていたダガーで、テッカニンの“シザークロス”をギリギリで防いだ。

 

「ハジメ、俺たちのことは気にするな! 遠慮なくやっちまえ!」

 

「浩介……!」

 

「ハジメさん、指示を!」

 

「ユエとゴルーグは、ハガネールを相手に! シアとアブソルはゴースト軍団! 幸利とガルーラはエルレイドを! 僕たちはバクガメスを相手にする!」

 

「「「了解!」」」

 

 テキパキとした指示を出し、それに返事する仲間達。地球にいた頃の大人しいイメージが強かった他のクラスメイト達は、アイツは本当に南雲なのか?と思っていた。

 その中で、恵里はボロボロのミミッキュを抱きかかえながらも、ハジメ達を見て安心感が出ていた。

 

「私だけじゃ、なかったんだ……!」

 

 だが、安心して一気に緊張感が抜けてしまったのか、彼女の背後からゆっくりとゴーストが迫っていることに、恵里は気付かなかった。

 それにいち早く気付いたのは、意外なことに幸利だった。急いで自分で編み出した魔法を発動する。

 

「危ねえ! 影縫い!」

 

「ゴォッ!?」

 

「っ!? 清水くん……」

 

「そのミミッキュ、疲れてるじゃねえか。ほら、この『キズぐすり』塗って一旦下がれよ。ガルーラ、ゴーストに“かみくだく”攻撃だ!」

 

「ガルゥ!」

 

 ゴーストを倒した後、再びエルレイドへ戦いを挑む幸利。塗るタイプの『キズぐすり』を貰った恵里は、彼の背中をポーッと眺めていた。

 

 

 

 

 

 ユエは、目の前のてつへびポケモンを睨んでいた。

 

「ハガネール……。ハジメの教えなら、あれはイワークが進化した姿。相手が金属なら……! ゴルーグ、“ほのおのパンチ”!」

 

「ゴルゥ!」

 

「ネル……!」

 

 鋼タイプに炎タイプの技は効果抜群。ハガネールは苦しそうな顔をし、またその体に巻き付いている赤い鎖はヒビが入る。

 

「行ける! そのまま“アームハンマー”!」

 

「ゴォォ、ルゥ!!」

 

 その時、ハガネールの尾が銀色に光りだした。“アイアンテール”を撃つつもりらしい。

 

「攻撃中止! その尻尾を掴んで!」

 

 威力を高めるために硬化された尻尾が、ゴルーグに向かって放たれる。“アイアンテール”が命中するものの、当たったと同時にその尻尾を掴み、壁へと投げ飛ばした。

 

「ネル……!」

 

「今度こそ決める! “アームハンマー”!」

 

「ゴォォル!」

 

 ゴルーグの拳が炸裂すると共に、ハガネールを纏っていた赤い鎖が砕け散った。

 

 

 

 

 

 アブソルの相手はゴーストの群れ。だが、その様子はまさに、無双という言葉が当てはまるだろう。

 

「アブソル、そのまま続けて“つじぎり”です!」

 

「アブッ!」

 

 アブソルの放つ“つじぎり”で、ゴースト達は次々と倒されていく。だが吹き飛ばされても、赤い鎖によって操られている為、何度も起き上がって攻撃してくる。

 

「ゴォォスッ!」

 

 ゴーストの“シャドーパンチ”が、シアを狙う。だが彼女は技能の『未来視』を活用してそれを避ける。他の個体が“シャドーボール”を放っても回避、更に別の個体が“ふいうち”をしても回避した。

 

「当たりませんよ! アブソル、“バークアウト”で纏めて吹き飛ばしましょう!」

 

「スゥゥゥ…………アァァァァァブ!」

 

 悪タイプのエネルギーが込められた咆哮は、ゴースト達を赤い鎖から解放するには十分であった。

 

「(まず1つ目の群れは撃破です! でもテッカニンの群れは、悪タイプのアブソルには厳しいかもしれません……)」

 

 

 

 

 

 幸利とガルーラはエルレイドを相手にしていた。

 

「ガルーラ、“メガトンパンチ”!」

 

「ガルウゥ!」

 

 ガルーラの拳がエルレイドを捉えようとするが、透明な壁のようなものが現れ、その威力を軽減した。エルレイドは咄嗟に“リフレクター”を展開したのである。

 

「エェル……!」

 

「ガルルゥ!?」

 

 そこから“サイコキネシス”で反撃してくる。だが幸利は慌てない。自身の相棒がそれで倒れないと信じているからだ。

 

「“きあいだめ”充分だな!」

 

「ガルッ!」

 

 さらに、攻撃を耐えてる間に“きあいだめ”をさせていた。相手の雰囲気が変わったことを察したエルレイドは、腕の刃を光らせて“つばめがえし”を放とうとする。

 

「くらいやがれ! “メガトンパンチ”!」

 

「ガッ、ルァァ!」

 

「エルッ!?」

 

 再び放たれた拳はエルレイドの顔面を捉え、まさにバトル漫画のワンシーンのように吹っ飛ばされた。

 

「エ……ルゥ……」

 

 グルグルと目を回すエルレイド。彼の鎖が砕けた。

 

 

 

 

 

 カトレアは目の前の光景が信じられずに居た。先程まで優位に立っていた自分達の魔物が、突如現れた人間達によって壊滅状態に陥っている。

 

「あんた、地上から来たんだろう! どうやってこんなに早く来たのさ!」

 

「サイホーンに“あなをほる”ように指示をしただけだよ」

 

 既にテッカニン達は倒された。残るはバクガメスだけである。

 一方のハジメは、腰に着けているもう1つのモンスターボールが揺れていることに気付き、苦笑する。

 

「おっと、忘れてないよ。出ておいでバサギリ」

 

「バルルゥ!」

 

 もう一体を出した所で、カトレアは勝機を見出だす。

 

「(1人で複数の魔物は操りにくい! アタシですらこれだけの数を引き連れるのは苦労してるんだ! 魔力すら無い人間が2匹も操れる筈がない!)」

 

「バサギリ、サイホーン、“ステルスロック”!」

 

 バサギリの方はバクガメス本体に向かって岩の棘を、サイホーンは相手の足元に尖った岩を放つ。

 

「ガメッ!」

 

「な、これじゃあ動けない……!」

 

 だがハジメの方も内心は驚いていた。

 

「(バサギリの“ステルスロック”は、罠を仕掛けるというよりも攻撃技なのか! ちょっと予想外だったけど、バクガメスにダメージは与えられたぞ!)」

 

 炎タイプを持つバクガメスに、岩タイプの技は効果抜群だ。そうとは知らず、カトレアは命令する。

 

「とっとと焼き払いな!」

 

「ガ、ガメスッ!」

 

 鼻から放たれる“かえんほうしゃ”だが、ハジメはサイホーンに指示を出す。

 

「“ドリルライナー”!」

 

 炎を突き破って現れたサイホーン。だがバクガメスは、本能で“トラップシェル”を発動した。効果がいまひとつとは言え、顔面の近くで爆発など起これば技の効果でなくとも怯んでしまう

 

「グォウ……!」

 

「ごめんサイホーン! けど、動きが止まった今なら……! バサギリ、“ストーンエッジ”!」

 

「バルァァ!」

 

 地面に勢いよく石斧を叩きつければ、それに呼応するかのように岩石の刃がバクガメスを襲う。

 

「ガメ……!」

 

「いま解放するからね! サイホーン、“ドリルライナー”! バサギリ、“がんせきアックス”!!」

 

「「グオオオオオオ!!」」

 

 効果抜群の技を立て続けに受け、バクガメスを操る赤い鎖が完全に砕け散る。

 

「ガメェ~……」

 

「神の鎖が!? そうか、レイスの奴が失敗したのはこう言うことだったのかい……!」

 

 その様子に、カトレアは苦々しい顔をした。

 

 

 

 

 

 操っていたポケモン達が倒され、ハジメに追い詰められたカトレア。ハジメはいつものように錬成をする。

 

「錬成」

 

「っ……!」

 

 カトレアを囲うように尖った岩が錬成された。下手に逃げようならばその岩が彼女の体を容易く貫通するだろう。

 

「さて、と。ポケモン達を操る赤い鎖の事についてとか、色々教えて貰おうか」

 

「人間に有利になる情報を話すとでも思ってるのかい?」

 

「思わないね。だったら根比べだ。僕はしつこく聞き続けて、君はひたすら無視をする。どちらが先に折れるか勝負といこうじゃないか」

 

 サイホーンとバサギリも彼女を威嚇するように睨む。だがカトレアは俯くと、体を震わせた。

 

「ふ、ふふ、あの勇者に比べたら中々やるようだけれども、やっぱりお子ちゃまだね」

 

「……何を企んでいる」

 

 様子の変わったカトレアにハジメだけでなくユエ達も警戒すると、彼女は顔を上げて大声で呼んだ。

 

 

「ケーシィ! アタシを脱出させな!」

 

 

 その瞬間カトレアの近くに、腕に赤い鎖を巻かれたケーシィが現れた。

 

「っ! 待て!」

 

「脱出手段も用意してると考えなかった、あんたの敗けだよ!」

 

 カトレアはそう言い残すと、ケーシィの“テレポート”によって姿を消した。

 

「……逃げられたか、クソッ!」

 

 ハジメは悔しさのあまり、拳を握るしかなかった。

 




カトレア、まさかの脱出手段を持っていて逃走。原作のようには死にませんでした。
次回は、敵も退けたことですし、本当の本当に香織との再会です。


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糾弾

おかしい……香織との再会&イチャイチャを書きたかったのに何でこうなった……?


 魔人族カトレアとの戦いで、操られたポケモンの大部分は解放に成功するも、カトレア本人には逃げられてしまった。ケーシィの“テレポート”で飛んだ先が分からない以上、追うのは不可能であった。

 

「ハジメ君!」

 

 ハジメが振り返ると、自分の恋人が勢いよく抱きついてきた。倒れそうになるのを何とか踏ん張り、彼女の事を抱き締めた。

 

「香織……!」

 

「信じてた! 生きてるって信じてたよ! 私、わだじぃ……!」

 

「待たせてごめん……! ごめんよ……!」

 

 ポロポロと涙を流し、ハジメの胸に顔を埋める香織。これ程までに待たせてしまったことを謝りながら、ハジメも彼女の抱き締める力を強めた。もう絶対に離さないと言わんばかりに。

 

 

「香織。南雲から離れるんだ」

 

 

 だからこそ、光輝のこの発言が場を乱してしまった。

 

「光輝くん! 何でハジメ君に剣を向けてるの!?」

 

「香織を離せ、南雲!」

 

「……一応聞くけれど、僕は剣を向けられるような事をした覚えが無いんだけど?」

 

「黙れ! 魔物を操って戦うなんて、魔人族に寝返ったんだろう! そうでなければ、俺たちが苦戦した魔物たちを簡単に倒せる筈がない!」

 

 光輝の脳内では、容易く相手を倒せたのは、予めカトレアと打ち合わせをしていたからだと決め込んでいた。自分達を油断させる為の罠だと思っているのだ。

 

「お前は最低だ、南雲! 香織の気持ちすら利用して俺たちを罠に嵌めようとしてるんだからな!」

 

「そうだ、その通りだ!」

 

「この裏切り者が!」

 

「とんだクズ野郎だぜ!」

 

 光輝に便乗するかのように、檜山たち小悪党4人組もハジメを糾弾し始める。それに反論するのはハジメの仲間達である。

 

「テメェ等なんなんだよ! ポケモンを操るだけで魔人族扱いするとか、じゃあ俺やユエ達はどうなるんだ!」

 

「清水! 君は南雲に騙されてるんだ!  君は友人であることを利用されてるだけだ!」

 

「んなこと勝手に決めつけんな! 俺がハジメの仲間なのは、俺自身が決めたことだ!」

 

「だとしたら、テメェも裏切り者って事じゃねえか! このクソ野郎!」

 

 光輝と檜山たちによる罵詈雑言が、洞窟内に響く。そんな彼らを黙らせたのは、ユエとシアだった。ユエは魔法で水を生み出して檜山たちに浴びせ、シアは身体強化を発動した足で地面を踏んで周囲に亀裂を起こした。

 

 

「ふざけるな!」

「ふざけないでください!」

 

 

 彼女たちの顔は怒りに染まっていた。そのただならぬ空気に、光輝たちはたじろぐ。

 

「私たちは、ハジメが友人の助けを聞いて、助けるって決めた気持ちについて行った!」

 

「それなのに、戦いが終われば魔人族と同じに扱うとか、酷すぎます!」

 

「それに、私たちはポケモンを操っているんじゃない! ポケモンと一緒に旅をするって決めて、パートナーを信じて戦っている!」

 

「意思を奪って無理やり戦わせるような魔人族と、一緒にしないでください!」

 

 2人の叫びに、場が静まり返る。しばらくの沈黙の後、声を挙げたのは雫だった。

 

「南雲くん。私たちを、操られていたポケモン達を助けてくれてありがとう。そしてごめんなさい。酷いこと言っているのに止められなくて」

 

「お前が生きてたなんてビックリだぜ。だけど助かった。ありがとうな。」

 

「八重樫さん、坂上くん……」

 

 雫に続いて龍太郎もお礼を言い、さらに永山パーティーのメンバーもお礼と、糾弾を止めなかったことを謝罪した。光輝は、幼馴染が謝ったことに驚く。

 

「雫、龍太郎、どういうつもりなんだ!? 南雲や清水は魔物を操ってるんだぞ!」

 

「光輝、あのねぇ……。魔物と一緒に戦うのが魔人族なら、中村さんはどうなのよ?」

 

「それは……」

 

「俺は難しいことはわかんねえ。だけどよ、南雲も清水も、俺たちを助けてくれた。それだけは分かる。だからこそあいつ等が悪い奴らじゃねえと思うんだ」

 

「龍太郎まで……」

 

 そこへメルドが、ハジメ達の元へ来る。

 

「坊主」

 

「メルドさん……」

 

「助けてくれて感謝する。そして、すまん! あの時助けてやれず、そしてさっきまでの罵詈雑言を止めず、本当にすまない!」

 

 ここは異世界であって、地球ましてや日本ではない。だがメルドは心からの謝罪として土下座をした。王国の騎士団長がそこまでやるとは思わず、先ほどまで激怒していたシアやユエまでもが驚いた。

 

「これが謝罪になるかは分からないが、お前達が魔物いやポケモンを仲間として戦っている事は、王宮だけでなく教会にも秘匿しよう!」

 

「え……。そんな事をしてバレたら、メルドさんが……」

 

「助けてもらった恩を仇で返すくらいなら、どうってこと無い」

 

 他の騎士たちも、メルドの部下である影響だろう。「団長だけにそんな責を負わせない」と口々に誓っていた。

 

「(なんで……なんでみんなは魔物を許せるんだ……。俺たちを、人間を傷つけてきたんだぞ……!)」

 

 だからこそ、光輝はその心にモヤモヤしたものを感じていた。

 




次回こそ、次回こそ香織との再会&イチャイチャを書きます……!


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進展

感想を多く貰い、嬉しくなって本日2話目の投稿です。
今回は、ポケモンと言うよりありふれ要素が多めです。


 光輝や檜山たちに責められはしたものの、大多数がハジメに感謝していたことで場の空気は少しだけ収まる。問題は、此処からだった。

 

「このポケモン達、どうするの?」

 

「それなんだけど……」

 

 ハジメが解放されたポケモン達を見ると、ハガネールはその体をくねらせて地面へと潜っていき、バクガメスはハジメ達に背を向けて洞窟の奥へと消えていった。ゴースト達も暗闇に紛れて何処かへと消えていく。

 

「やっぱりね。元々この大迷宮を住み処にしてたんだ。あの魔人族は、戦力を現地調達してたみたいだね」

 

「だとしたら、元の場所に返すのはテッカニン達とエルレイドか。だけど……」

 

 幸利の視線の先には、浩介にやたらと懐いているテッカニンと、エルレイドに話しかけている雫の姿があった。

 

「魔人族なんかより良いパートナーを見つけたようだな」

 

「2人なら、僕も安心かな」

 

 浩介に懐いているテッカニンは、他の仲間達からも激励されているように見えた。

 ハジメは空のモンスターボールを取り出すと、それぞれに渡す。

 

「2人とも、もしポケモンをパートナーにしたいなら、これに入れると良いよ」

 

「これって、モンスターボールか?」

 

「うん。ボールに入れておけば、いつでも側にいるからね」

 

「ありがとう、南雲くん。エルレイドも良いかしら?」

 

「エルッ」

 

 雫の言葉に力強く頷くエルレイド。解放されたばかりの時は、操られている間の記憶があったのか落ち込んでいた様子だった。しかし雫が励ましたお陰なのか、彼女の手持ちになることを受け入れたのだった。

 

「テッカニン。一緒に行こうぜ!」

 

「テッカ!」

 

 浩介がボールを見せると、テッカニンは自らボールに触れて中に入っていった。ちなみにこの個体は、ハジメ達が迎撃した時にサイホーンの“ロックブラスト”を回避し、浩介によって攻撃を防がれた個体である。

 仲間が1人の人間の手持ちになったのを見届けた他のテッカニン達は、他のポケモン達と同じように洞窟の奥へと消えていった。ハジメはこれに少し驚いたが、真オルクス大迷宮には森のエリアもあったので、どこかに虫ポケモンのエリアがあるのだろうと考えていた。

 

 一方、恵里の元には幸利がやって来た。

 

「ほら、ミミッキュもボールに入れとけよ。鞄とかに隠すの大変だろ?」

 

「う、うん。ありがとう……」

 

「どうした? どっか怪我でもしたか?」

 

「う、ううん! 何ともないよ!」

 

「そうか? なら良いけどよ」

 

 首を傾げる幸利。だが恵里の頬が若干、よく見てやっと気付く程に赤くなっていたのは、誰も知らない。

 

 大多数の生徒がハジメに感謝した為に何も言えなかった光輝は、面白くなさそうにこの様子を見ていた。

 

「(魔物を仲間にするなんて……。雫も遠藤も恵里も、南雲たちに騙されてる!)」

 

 だが、自分が敬意を抱いているメルドすらハジメの味方をしているため、自分の主張を言えないでいるのだった。

 

 

 

 

 

 オルクス大迷宮から出たハジメ達と勇者一行。先頭に立っていたハジメを出迎えたのは、ミュウだった。

 

「お兄ちゃーん! お帰りなさいなの~」

 

「ミュウ! ティオは一緒じゃ無いの?」

 

「ティオお姉ちゃんも一緒なの」

 

「『お兄ちゃんとお姉ちゃんをお迎えする~』って言ってのぉ。入り口で待ってたのじゃが、ハジメを見た瞬間に走り出したのじゃ」

 

 可愛らしい幼女に、美しい和服美人がハジメ達を出迎える様子に、永山パーティーは「南雲と清水のやつ、ハーレムかよ……」と若干嫉妬した。

 

「えーと、香織? 何でむくれてるの?」

 

「美人さんに囲まれて旅してたんだ」

 

「ちょっと!? そのジト目止めてよ!?」

 

 香織も頬を膨らませているが、それを諌めたのはユエである。

 

「嫉妬しなくて良い。ハジメは、貴女の事をずっと忘れなかった」

 

「ユエ、さん?」

 

「ユエで良い。……もう夕方。たぶんハジメは、近くの宿で一泊してから旅を再開する」

 

「え? また何処かへ行っちゃうの……?」

 

「ハジメには、やることがある。それは此処では言えない。貴女がハジメから聞くべき」

 

「……うん」

 

 ユエの予言通り、ハジメはホルアドで休息を取ってからグリューエン大火山へ向かうと話す。それを聞いた香織は、あることを決意した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 休息のために取った宿。その一室のベッドに腰かけているハジメは、顔を真っ赤にして、鼓動が激しい胸を落ち着かせようとしていた。

 

「(どうしてこうなった!?)」

 

 宿に泊まると決めた時、香織が一緒に泊まると言ったのだ。今まで会えなかった分たっぷりと話をしたいと、理由も付けて。当然ながら光輝は強く反対したのだが、雫と恵里が彼女の背中を押し、結局一緒の宿へ。

 だが、まさか同じ部屋にされるとはハジメも予想外であった。

 

「(ユエもシアとティオも、幸利までニヤニヤしながら見てたよな!?)」

 

 中々良い宿らしく、部屋に風呂が備え付けられていた。シャワールームの扉の向こうからは、恋人が体を洗う音がする。

 

「(……けど)」

 

 再会した時の香織の涙。ハジメにはそれが、強い後悔となっていた。

 

「(……もう、離れたくない)」

 

 シャワーの音が止み、何かに着替える音が少しだけした後、扉が開かれる。

 

「ハジメ君」

 

「かお、り……」

 

 目の前にいるのは、ネグリジェ姿の香織。だがその生地は凄まじく薄い。つまり、そう言うことである。体が火照りそうになるのを抑えながら、ハジメは手招きする。

 

「……おいで」

 

「っ!」

 

 ハジメに抱きつき、暫く胸板に顔を埋める香織。これが夢でないことを実感した彼女は顔を上げると、自然と目をつむり、ハジメと唇を重ねる。

 

「んっ、ハジメ君……本当に、会いたかったよ……」

 

「長く待たせちゃったね……」

 

 一言二言交わす度に、2人は啄むようなキスを繰り返す。

 

「少しムッとしたんだよ? ハジメ君の仲間、綺麗な人ばかりだもん」

 

「まあ、そこは否定しないかな」

 

「むぅ……!」

 

「んむむむむ!」

 

 ハジメの頬を抑えて、ブッチューと再び唇を重ねた。呼吸もままならず、ハジメは少し苦しくなる。

 

「ぷはっ。……これで許してあげる」

 

「ぷはぁっ! もう……。じゃあ、こうするっ」

 

「キャッ!?」

 

 何をされたか分からない。だが気付けば目の前には天井と、顔を赤くして荒い息をするハジメの顔があった。

 

「地球にいた頃はキスで止まってた。けど……」

 

―――そろそろ、次に進まない?

 

 ハジメのその言葉を理解した香織は、ゆっくりと頷いた。

 




本番は書いてないからセーフ……! 本番は書いてないからセーフ……!


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閑話:本当の切り札

今回は魔人族のお話。脱出したあと、カトレアはどうなったでしょうか。


 オルクス大迷宮より、ケーシィの“テレポート”で脱出したカトレア。彼女は必死で自国に戻ろうとしていた。

 

「せめて敵の情報を伝えて、処罰を軽くして貰えれば……!」

 

 その時だった。彼女の足が突然動かなくなる。

 

「っ!? 何で!」

 

「任務失敗の処罰をする」

 

 現れたのは、フードを被った者達。先頭に立つ者の側には赤い鎖で操られたクロバットがいて、“くろいまなざし”をカトレアに向けていた。

 

「(コイツらまさか、フリード様が編成したって言う懲罰部隊……!)」

 

「キノガッサ、“きのこのほうし”」

 

 別のフードの者が命じると、同じく赤い鎖で操られたキノガッサが胞子をカトレアに浴びせる。

 

「う、あ……!」

 

 抵抗もむなしく、カトレアは意識を失った。

 

 

 

 

 

 カトレアはゆっくりと目を覚ます。そして自分の状態に驚いた。

 

「ん……こ、これは!?」

 

 十字架のような物に磔にされ、身動きが取れなくなっていたのだ。

 

「これは、いったい……」

 

 辺りを見渡すと、1つの十字架が目に入った。磔にされている同族の名を思わず叫ぶ。

 

「レイス!?」

 

 ウルの町の襲撃に失敗し、それ以降戦場に出ていないと聞いていた。

 だが何よりも驚いたのは、磔にされているレイスは()()()()()()()事だった。その顔はまるで死に恐怖する瞬間で止められたようにも見える。

 

「此処は、此処はいったい何なんだい!」

 

 

「我らの切り札を発動させるための場所だ」

 

 

 声の主へ顔を向けると、そこには自分達の総司令とも言える男が居た。

 

「フリード様……!」

 

 魔人族が信仰する神アルヴの信者であり、その神託を受けた将軍。赤い鎖の作成方法を神託で知り、『ある3匹の魔物』を捕らえて、鎖を量産してる男である。

 

「カトレア。貴様は、我らが神の力が込められし鎖を無駄にしたな?」

 

「お言葉ですがフリード様。人間が魔物を操る方法を見つけ、それに敗れたのです! その人間たちが来なければ、私は人間族が召喚したと言う勇者を殺せていました!」

 

「……ほう? 人間が?」

 

 怪訝な顔をするフリード。だがカトレアに向ける視線は厳しいものであった。

 

「カトレアよ。神の鎖を持たない人間に負けたと言うのなら、それは神の鎖を使いこなせていないと言うこと。つまり貴様は、アルヴ様の力の結晶に触れる資格が無いと言うことだ」

 

 フリードが手を上げると、カトレアが拘束されている十字架の根本に魔方陣が展開された。そこから少し遅れて、フリードの背後にある存在にも、魔方陣が展開される。

 

「あれは……?」

 

「だが、それでもアルヴ様の役には立てるだろう。文字通り、命をもってな」

 

「うっ、ぐうっ!?」

 

 彼女を襲う胸苦しさ。まるで何かを吸い取られていくような感覚だ。

 

「がっ、あぁっ! うぐぅあぁぁぁぁ!」

 

「その命を、アルヴ様が与えし本当の切り札……破壊の繭に捧げるのだ」

 

「ぎっ、がぁっ、あがぁぁぁ!」

 

 視線を向ければ、手足が石化し、ゆっくりと自分の体を石へと変えていく。その恐怖が、呻きと絶叫から命乞いへと変えた。

 

「嫌ぁぁぁぁ! 死にたく無いぃぃぃ! ミハイルぅぅぅぅ…………!」

 

 完全に石と化したカトレア。フリードはふんと鼻を鳴らすと、近くで待機している懲罰部隊の隊員に告げる。

 

「彼女とミハイルとは、確か恋人であったか。ミハイルには彼女が戦死したと伝えておけ。仇を討たんとする志を持って戦いに臨むだろう」

 

「はっ!」

 

 そうしてフリード以外誰も居なくなる。その時だった。

 

 

        ドクン

 

 

「っ! おぉ……!」

 

 フリードがその鼓動に、顔を綻ばせる。

 

「目覚めが近い……! アルヴ様より与えられし力で、神敵を滅ぼす日は近いぞ……!」

 

 彼の目は、どこか狂気に満ちていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――馬鹿な……。早すぎる……。

 

 

 狂信者は知らない。破壊の繭とは対になる存在が、ある大迷宮の最奥で目覚めたことを。

 

 

――生命の秩序が、乱されようとしている……。

 

 

 とある地底にて調停者が目覚め、完全な姿(パーフェクトフォルム)となるべく小さな細胞を集め始めたことをも。




フリード、まさかの破壊の繭を目覚めさせ、赤い鎖で操ろうとしていました。しかし当然、それを許さないのが他の伝説ポケモン。魔人族の未来は果たして……?


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いざ、アンカジ公国へ

ハジメと香織の「昨晩はお楽しみでしたね」な感想や、閑話での破壊の繭に対しての感想など、多く貰えてとても嬉しいです! 本当にありがとうございます!
今回、アンカジ公国について独自設定があります。


「よーし、ハジメ。何で正座されてるか分かるな?」

 

「……香織とイチャイチャし過ぎたからです」

 

 ハジメと香織が夜を過ごした部屋の前。宿の廊下でハジメは正座されていた。顔は笑っても目が笑っていないのは幸利である。

 

「いやぁ、良かったよなぁ。地球にいた頃からラブラブで、はよ結婚しろとか言いたい位には想い合ってたもんなぁ。再会して嬉しい気持ちとか分かるし、大人の階段を上るようにセッティングしたのは俺たちだ」

 

 けど、と幸利は続ける。

 

「一晩どころか延長戦に突入して、1日中部屋でイチャイチャするとは思わなかったなぁ!?」

 

「いやぁ初めて見る香織の反応に、つい男の性が昂ったと言うか、興奮したと言うか……」

 

「そこでデヘヘみたいな顔すんじゃねえよ……。ミュウに『ハジメ兄ちゃんはどうしたの?』って聞かれた時は、マジでどう説明しようか悩んだんだからな」

 

「それは、その……ごめんなさい」

 

 なお、香織は別室でユエとシアに「昨日はお楽しみでしたね」とからかわれて、顔を真っ赤にしていた。

 また、「ハジメ兄ちゃんと香織お姉ちゃんのお部屋、変な音がするの~」と口にするミュウを、ティオが何とか気を逸らそうと必死になっていたのは余談である。

 

 幸利によるハジメへの説教もそこそこに、一行は王国を後にした。なお、光輝達にイチャモンを付けられないように夜に出発した。香織が「雫ちゃんだけにでも」と手紙を渡すようにギルドに頼んで。

 

 

 

 

 

 夜の砂漠。砂嵐が軽くなる時間帯を、ハジメ達は商隊の馬車と共に進んでいた。

 

「いやー、助かりました」

 

「いえいえ。此方こそ、金ランクの冒険者に護衛されて一安心です」

 

 砂漠を横断する際に問題となったのは、まだ幼いミュウだった。海人族である彼女は暑さに弱く、砂漠を渡るには危険すぎるのだ。もし自分に『錬成に関するチート能力』があれば、冷暖房完備の車とかを作っていただろうが、車の設計や冷房の仕組みに詳しくないため作れないでいた。

 砂漠横断を冒険者ギルドに相談すると、アンカジ公国からやって来たと言う商隊をギルドから紹介された。ハジメの冒険者ランクが金ランクに認められたこともあって、話し合いはトントン拍子に進む。

 ハジメ達が護衛する代わりに、商隊はミュウを荷車に乗せて移動する。そんな話だったが、商隊から、護衛をしやすいようにと砂漠を渡るための服を貸してくれたのだ。通気性が良く、だけども夜の砂漠では防寒にもなると言う優れものである。

 

「この服、魔力が込められてる?」

 

「よくお気づきで。グリューエン大火山から降る火山灰には、微量ながら魔力が含まれてまして。その灰を混ぜた染料で魔方陣を書いてるのです」

 

「なるほどのぉ。単なる服の模様ではないと言う事じゃな」

 

「服に魔法を付与させるって、何だか凄いです! 王国でも見たこと無いかも」

 

「砂漠を生き抜くためです。その為には、魔法の技術を磨かなければ。だから公国では、幼い頃から魔法を教わるのですよ」

 

 女性陣と商隊の会話を聞きながら、ハジメと幸利は周囲を警戒する。

 

「今のところ、ポケモンは襲ってこねえな。ナックラーの蟻地獄とか想像してたけどよ」

 

「それだったらかなり大きな穴だし、見つけやすいかな。けど不自然な土煙にも警戒だよ。メグロコとかフカマルとか、ね」

 

「分かってるさ」

 

 

 

 

 

 そうして警戒しながら公国へと進んでいくと、遠くに竜巻のような物が見えた。商隊の1人がその様子を見て首を傾げる。

 

「あそこは確か、私たちにとって大切なオアシスがある場所です」

 

「何であそこだけ竜巻が起きてるんだろう? 今は風もそんなに強く吹いてないのに」

 

「……まさか」

 

 香織の言葉に、ハジメはあるポケモンの姿を思い浮かべた。砂嵐を起こすほどの力を持ち、『砂漠の精霊』と呼ばれることのあるポケモンの姿を。

 原因を調査するために、ユエとシア、そしてティオに馬車の護衛を頼むと、ハジメと幸利と香織の3人でオアシスに近付く。そこで彼らは驚きの光景を目にした。

 

「フライゴン、“りゅうのいぶき”だ!」

 

「フラァァ!!」

 

「くそっ! 人間の癖に手強い!」

 

 アンカジ公国の服を着ている青年が、フライゴンに指示を出し、魔人族の操るポケモンと戦っていたのだ。

 

「あれって、フライゴン? あの人ポケモンと一緒に戦っているってこと?」

 

「魔人族が操ってるのは……ノクタスか?」

 

「色々気になるけど、アイツを撃退したら、あのフライゴンと一緒にいる人に話を聞こう! まずは加勢するよ!」

 

 ハジメの言葉に幸利と香織は頷き、オアシスへと走っていった。




ハジメ、まさかの絶〇であることが発覚。まぁ主人公だし? 原作でも結構ユエさんとイチャイチャしてるし? 問題ない……ですよね?

砂漠の横断は結構悩みました。感想でも、ミュウはどうするんだろうと言う意見を頂き、色々考えた結果、商隊と共に行くと言う展開になりました。


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公国の実情

最近、ありふれ×ポケモンの小説が増えてきて、頬が緩みます。

後半は少しシリアスです。またアンカジ公国については、完全に独自解釈です。


 アンカジ公国に向かうため、砂漠を渡っていたハジメ達。そこにあるオアシスにて、魔人族と戦う青年がいた。その青年は驚くことに、せいれいポケモンのフライゴンを連れていて、魔人族の操るノクタスと戦えていたのだった。

 

「ちっ! ノクタス、あいつを撃ち落とせ!」

 

「ノック……!」

 

 ノクタスが“ミサイルばり”を発射するが、青年が「避けろ!」と指示をすると、フライゴンは急降下。飛ばされる針を回避して地面スレスレを飛行する。

 

「そのまま“むしのさざめき”だ!」

 

「フラァァァ!!」

 

「ノッ…………!?」

 

 ノクタスは草・悪タイプ。故に虫タイプの技は効果抜群だ。

 あっという間に倒してしまった様子を見て、ハジメは驚いていた。

 

「(あの人、フライゴンに技を指示して、バトルを有利に進めてる! ポケモンの技が分かっていると言うことは、フライゴンと絆で繋がってるのか!?)」

 

 何よりも、人間族でありながらポケモンを恐れないと言う事が、ハジメにとって衝撃的だった。

 聖教教会の教えによって、ポケモンは人間を襲う存在であると強く唱えられている。故にトータスの人々はポケモンのことを「魔物」と呼んでいたのだ。

 

「クソッ、撤退だ!」

 

「待て!」

 

 赤い鎖が砕けて目を回すノクタスを放置し、魔人族は逃げ出した。青年が追おうとするも、魔人族は足元から煙幕を出して姿を隠す。煙が晴れた頃には、その姿は消えていた。

 

「オアシスに毒を入れようとしていたとはな……。警備をより厳重にしなければ」

 

 驚きのあまり固まっていたハジメ達だったが、ハッと我に返り青年へと駆け寄る。

 

「大丈夫ですか!?」

 

「あぁ。大丈夫……だ……」

 

 ハジメ達の服を見て公国の人間だと思ったのだろう。だが、彼らの顔を見た瞬間に青ざめた。

 

「き、君たちは公国の人間では無いのか!? まさか、教会の……!」

 

「待って下さい! 僕たちもお聞きしたいんです。フライゴンについて」

 

「頼む! 私はどうなっても良い! だからフライゴンには、そして国の民には手を出さないでくれ!」

 

 地面に頭を着けるほど深く頭を下げる青年。その声は、まるで大きな失態が発覚した時のような、泣きそうな様子だった。

 その必死さに、ハジメと幸利と香織は顔を見合わせる。

 

「ねぇ、何かおかしくない?」

 

「『教会の』って言ってたな。まるで教会を恐れてるような、そんな感じだ」

 

「ハジメ君。この人を落ち着かせるためにも、私たちやポケモンの事を話した方が良いんじゃないかな?」

 

 ハジメは頷くと、青年に近付いた。

 

「僕たちは、アンカジ公国の商隊護衛を任された者です。仲間達の所で話を聞かせてくれませんか?」

 

「へ……?」

 

 糾弾されると思っていたのか、気を張っていた青年の力が抜けた。

 

 

 

 

 

「何と! 君たちも、魔物の力を借りて戦う者なのか!? しかも聖教教会が異世界より召喚したと言う、神の使徒とは!」

 

 商隊の荷車にて、青年……ビィズ・フォウワード・ゼンゲンが驚きの声を上げた。一方のハジメ達もビィズの素性を知って驚いている。

 

「僕たちも驚きですよ。アンカジ公国領主の息子だなんて……!」

 

「そんな大貴族が、自ら戦うなんてな」

 

「私たちとしては、トータスの人間にもポケモンと一緒になってる人がいた事に驚いてます」

 

 香織の言葉に、ビィズは感動したような顔をしている。

 

「ポケモン……そうか。君たちは魔物の事をポケモンと呼ぶのか。そっちの呼び名の方が親しみやすいかもしれない」

 

「先ほど、民には手を出さないでくれと願っておったな? つまりそれは、アンカジの民全員がポケモンと暮らしておるという事かの?」

 

「……そうなんだ」

 

 ティオの問い掛けに対するビィズの肯定に、またまた驚くハジメ達。

 

 ビィズの話によれば、オアシスがあるとは言え砂漠で生活するのは非常に厳しい。その為、アンカジ国民はポケモン達の力と人間の魔法とを併用して生活しているのだという。

 だが、それに良い顔をしないのが聖教教会である。アンカジ公国は他国との国交によって潤いを得ているが、教会がたちまち「異教徒の国」と称して国交断絶すれば、失業者が溢れてしまう。そのため、国民は普段はポケモン達を人目の付かない所に隠しながら、生活しているという。

 

「(何で……。何でそんな理想の国が、苦しめられなくちゃいけないんだよ……)」

 

 ハジメはアンカジ公国を、ポケモンと人間が共存する理想の国として見ている。それが、教会のたった一言で苦しくなるという現状に、悲しさと怒りを感じていた。そして改めて、聖教教会の歪さを強く感じていた。

 

「(……エヒトを倒したら、どうなるんだろう)」

 

 アルセウスの力を奪ったエヒト。ハジメはプレートを集めてアルセウスを復活させ、エヒトを神の座から退かせる事を計画していた。

 だがその後は? エヒトを倒し、もしアルセウスやパルキアの力を使って元の世界に帰っても、エヒトが死んだ後のトータスはどうなるのだろうか。

 

 エヒトの仇としてアルセウスを邪神扱いし、ポケモンを敵視する者達で溢れれば、アンカジ国民のようなポケモンと一緒に暮らす者たちは?

 仮にアルセウスが本当の神と認められて、信仰する集団が現れれば、「アルセウス様の意志」を免罪符に過激な行動をする者が現れるかもしれない。

 そもそも、何もかもを「神のおかげ」と信じて疑わないトータス人たちの末路は?

 

「(まず間違いなく、ロクな事にならない……)」

 

 ハジメが考える間に、一行はアンカジ公国へどんどん近付いていった。

 




果たしてハジメは、エヒトを倒した後はどうなるでしょうか。
一応考えてはいますが、まだまだ先の事ですのであまり明かしません。


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ハジメの計画

お待たせしました。今回もシリアス回です。


 アンカジ公国に到着したハジメ達は大通りを歩いていく。美しいガラス製品を始めとして、様々な物品が店を彩っていた。赤褐色の砂地に、乳白色の建物、それを彩るガラスや織物に女性陣はもちろん、ハジメと幸利も感動していた。

 

「綺麗ですね~!」

 

「とっても綺麗なの!」

 

「あれ? これって……」

 

 ハジメが見つけたのは、色とりどりのビードロ。興味を持ったことに気付いたビィズが語るには、グリューエン大火山の火山灰を混ぜて作った、特別なビードロらしい。

 

「効果は様々で、例えば毒に侵された者に吹かせることで解毒をしたりとかだ。もっとも、あくまで応急処置に過ぎないから過信は出来ないが」

 

「実用性としても、インテリアとしても良いと言う訳じゃな。ふむ……。妾の里の者にお土産として買っていくか……?」

 

 出来れば店を色々物色して買い物をしたい所だが、この後はビィズの父であり、この国の領主であるランズィと謁見する予定になっている。

 売り子の呼び声や店主と客とのやり取りをBGMに、ハジメ達はビィズの案内について行った。

 

 

 

 

 

 アンカジ公国の宮殿にて。ビィズからの報告を受けたランズィは顔をしかめていた。

 

「魔人族め。この国のオアシスを狙ってきたか……」

 

「はい。父上、オアシスの警戒を厳にした方が良いかと」

 

「兵士の配属を考え直さねばな。して、そちらの方々が、魔物……いやポケモンと共に行動する者たちと?」

 

 ランズィがハジメを見ると、深く頭を下げた。

 

「僕たちは、各地の大迷宮を攻略しようと旅をしています。そして僕たちがポケモンと旅をしてる証拠は……シア、ミュウ」

 

「はい! おいで、アブソル!」

 

「マナフィ~!」

 

 ハジメのサイホーンやユエのゴルーグ、幸利のガルーラは体が大きいため執務室で出せない。そこでシアとミュウの出番と言うわけである。

 モンスターボールからポケモンが出てくる様子に、ランズィとビィズは目を見開いて驚いていた。

 

「なんと! その小さなボールから呼び出せるのか!?」

 

「ポケモン達も、苦しそうにしていない。中は快適になっているのか……?」

 

 ハジメは心の中でガッツポーズをした。最初のランズィの視線は、ハジメ達がポケモンと共に居ることを疑うようなものだったからだ。

 だが今は違う。その目は驚きと、ボールへの関心に変わっていた。

 

「……ハジメ殿」

 

「(来たっ!)……何でしょうか」

 

 

「そのボールは、我々でも作れるだろうか」

 

 

 その問いはハジメの予想通りであった。モンスターボールさえあれば、ポケモンを隠し持つ事が出来る。今のアンカジ国民には必要な物だろう。

 

「(ハジメ君、どうするの?)」

 

 香織の目は、ハジメがこれにどう答えるのかという心配を訴えていた。

 

「(ポケモンと一緒なのは良いが、悪用されればどうなるか……だな)」

 

 幸利もハジメの判断を待っている。彼としては、悪用される可能性を危惧していた。

 ハジメの答えは……

 

「はい。作り方も、教えられます」

 

 ミュウ以外の全員の目が見開かれた。

 

 

 

 

 

 ハジメがボールの作り方を教えると決めた理由。それは、エヒトを倒した後を考えての事だった。

 偽物の神を倒せば、アルセウスがこのトータスの神となる。問題は、人間と亜人族と魔人族の確執だ。

 残念ながら、ハジメには三勢力の確執を解決する力は持っていない。だが偽神を倒せば、宗教関連の組織が権力を失うことは確実である。至上の神と教えていたのに倒された。その時点で至上とは言えなくなるからである。トータスの人々は教会への不信感を抱くだろう。そうなれば、本来の王族が権力を取り戻す。もちろん、種族としての確執は残るだろうが、神敵だからと言う理由による戦争は起こりにくいだろう。

 また王国は、ハジメから見ても経済的に潤っている。魔人族も、今まで出会ってきた者たちの服装からして貧しいとは言えない。よって不況による戦争も起こりにくいだろう。つまりは大規模な戦争が起こりにくいと考えているのだ。

 

「(きっと遠い将来、何か別な形で争うことになる。僕が目指すのは、ポケモンバトルによる決着。その為にはモンスターボールが普及されることが、第一歩だ)」

 

 もちろん、下手すれば劇場版の1つにあった、ポケモンを利用した武力戦争もあり得るだろう。

 そうならないように、まずは信用に値するアンカジ公国から、広めようと考えたのだ。

 

「(それに……。オスカー・オルクスもこれを望んでるかもしれない)」

 

 人とポケモンが一緒に暮らせる世界を、オルクス大迷宮の創設者であり解放者の一人であるオスカー・オルクスは望んでいた。

 彼の願いのためにも、ハジメはモンスターボールの作り方を教えることを決意したのだった。

 




ホウエン地方には、火山灰を集めてビードロを作る要素があったことを知り、アンカジ公国にもこれを取り入れました。
さて、エヒトを倒した後のそれぞれの勢力をどうするかというハジメの計画は、後半の通りでした。
現実はそんなに甘くないかもしれませんが、私が思い付く限りではこれが精一杯で……。

次回は、大迷宮に入ろうかと思っています。


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君と一緒なら

続けて投稿です。前半は香織とのラブラブ……なつもりです。


 モンスターボールの作り方をランズィに伝えたハジメ。だが、やはりその仕組みは難しく、国お抱えの錬成師たちも混ぜての講義となった。

 だが、作り方は何とか教えることが出来たものの、砂漠では材料の『ぼんぐり』が手に入りにくい。そのため、公国内でのモンスターボール普及には、まだまだ時間が掛かるとの事だった。

 

 モンスターボール製作講座を終えたハジメ。ランズィからは感謝の印として、国一番の宿に無料で泊まる事が出来た。グリューエン大火山の迷宮に挑むことを伝えたところ、「良い宿で疲れを癒してほしい」という事も兼ねているという。

 

「流石、領主様がオススメするだけあって、布団も上質だねぇ」

 

「そうだね。そのベッドで香織に膝枕されてるのが僕には最大の癒しかな」

 

 そんな極上の宿の一室にて、ハジメは香織に膝枕をされていた。自分よりも歳上な錬成師たちに、オスカー・オルクスの発明品を分かりやすく、丁寧に教えたのである。頭脳をフル回転させての講義だったため、その疲労感は半端じゃない。

 講義が長くなったため香織たちを先に宿に行かせていたのだが、部屋に戻った瞬間に彼女に頭を撫でられたのだった。

 

『お仕事お疲れ様♡ 良い子良い子♡』

 

『しゅきぃ……!』

 

 恋人の甘やかし台詞は、思わず幼児退行しそうな程の魅力があり、今はハジメはすっかり骨抜きにされていた。

 

「んふふ。今のハジメ君、とっても可愛いよ」

 

「それはちょっと恥ずかしいな……」

 

 普段は優しく、バトルの時は勇ましく、夜の行為では逞しい。そんなハジメの姿を見てきた香織にとって、甘えん坊な彼の姿は新たなギャップに萌えるきっかけとなった。

 

「……ねぇ、ハジメ君」

 

「なぁに?」

 

「トータスが、人とポケモンが一緒に暮らせる世界になると良いね。ハジメ君たちとポケモンを見てると、そう思うんだ。……だから、ハジメ君はボールの作り方を教えたんでしょ?」

 

「……うん。地球ではポケモンのゲームを作りたいって思いがあったけど、トータスの色んな所を見てきて、この世界でもやりたい事が出来たんだ」

 

「そっか……」

 

 撫でている手を止めると、両手でハジメの頬を包み、そのまま唇を重ねた。最初は驚くように目を開くハジメだったが、すぐに目を閉じる。舌を絡ませるようなものではなく、長く唇を重ねるだけのキス。

 しばらくして香織が顔を上げると、彼女は言った。

 

「私、どんな世界でもハジメ君と一緒に行くよ。地球でも、トータスでも。恋人だからって言うのもあるけど、それだけじゃない。ハジメ君が夢見る世界を、私も見たいから」

 

「香織……」

 

 ハジメの胸が今まで以上に暖かくなる。彼女とならどんな世界でも冒険できる。不思議とそんな気がした。

 

 

 

 

 

 翌日。グリューエン大火山の迷宮に挑みに行くハジメ達だったが、火山の内部であるため非常に暑い。暑さに弱いミュウには酷すぎると言うことで、彼女は留守番することになった。

 

「それじゃあミュウ。お留守番してるんだよ?」

 

「はーい! マナフィといっぱい遊ぶの~!」

 

「マナマナ!」

 

 マナフィとお互いに頬擦りするミュウに周囲はほっこりするが、その中でも幸せそうな顔をしてる少女がいた。

 

「はぅわ~……! 可愛い~……!」

 

 少女の名前はアイリー・フォウワード・ゼンゲン。ランズィの娘である。ミュウの姿を見たときから、まるで妹を甘やかすように構い倒している。ハジメが講義をしてる間に2人は仲良くなったようだ。

 

「アイリーお姉ちゃんも一緒に遊ぶの!」

 

「うん! 一緒に遊ぼうね~!」

 

 アイリーの手を引いて走るミュウと、そんな彼女の頭に乗るマナフィ。ビィズとランズィもほっこりしていた。

 

「ハジメ殿。グリューエン大火山は、その環境ゆえに手強いポケモンが多い。十分に気を付けてくれ」

 

「ありがとうございます。それじゃあ、行こうか」

 

「うんっ!」

 

 こうしてハジメ達は、グリューエン大火山へと向かっていった。

 

 

 

 

 

 大砂漠の上空。火山へ向かうハジメ達を見下ろす者がいた。

 

――あの少年、我らが祖の力を集めし者か。

 

 全身を炎に包んだその者は、ハジメ達が火山の迷宮へ……『炎の力』が眠る場所へ向かっている事を悟った。

 

――ならば、試さねば。

 

 火山へたどり着いたその瞬間、その者は上空からハジメ達を奇襲した。

 




次回から、迷宮攻略が本格的にスタートです。


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ファイヤー、襲来!

シフトの急な変更や、夜間勤務の連続によるモチベ低下で投稿が遅れました。申し訳ありません。
なお、一番のモチベ低下理由は、休みが少なくポケモン映画祭に行けないことです。


 グリューエン大火山へやって来たハジメ達。だが、火山の麓に足を踏み入れた瞬間、砂漠よりも気温が上がったように感じた。

 

「暑いよぉ……」

 

「ハジメ、ミュウを連れてこなくて正解だったな」

 

「だねぇ……」

 

 ハジメに香織に幸利、シアにユエが暑さにグッタリしている。ところがティオは平然としていた。

 

「妾には適温じゃのぉ」

 

「流石ティオ。竜人族だからか」

 

「最も、溶岩に落ちればどうなるかは分からぬが。……ハジメよ! 敵じゃ!」

 

 ティオの声にハッとした瞬間、空から鳥の鳴き声が響いた。

 

 それは、まさに「火の鳥」と呼ぶに相応しい存在だった。全身が燃え盛っているにも関わらず苦しむ様子は無く、その目付きは鋭い。

 火の鳥というまさにファンタジー世界に居そうな生き物の登場に、香織たちは驚く。だがハジメは驚きながらもその名を叫んだ。

 

「ファイヤーだって!? 大迷宮に挑む前に戦うなんて……!」

 

 ファイヤーから放たれる威圧。それが、ハジメを無意識にモンスターボールへ手を伸ばさせていた。

 

「行くぞ、サイホーン!」

 

「グァァァァウ!!」

 

 ファイヤーに負けじと、サイホーンは咆哮を上げる。

 

「“ロックブラスト”!」

 

 先手必勝と言わんばかりに攻撃を仕掛けるハジメとサイホーン。だがファイヤーは避けもせず、何か力を溜めている。それはファイヤーの体から発せられる光によって、ハジメにも警戒心を抱かせていた。天職である魔物学の効果によって、その技を看破する。

 

「“ゴッドバード”か! サイホーン、僕と技を合わせるよ!」

 

「グラァ!」

 

 サイホーンは地面に力を流し込み、ハジメはいつも行う錬成のように手を合わせる。エネルギーを溜め終えたファイヤーが、眩い光を放ちながら猛スピードで突っ込んできた。

 

「“ストーンエッジ”!!」

 

 岩石の刃がファイヤーに向かって次々と放たれるが、効果抜群にも関わらずファイヤーは突っ込んでくる。その突撃は、タイプ相性や体重の差があるにも関わらず、サイホーンを大きく後退させるほどの威力であった。その余波でハジメも吹き飛ばされる。

 

「が、ぁぁ!」

 

「ハジメ君!」

 

 香織が急いで駆け寄り、治癒魔法を掛ける。傷が癒えるのを実感しながらも、ハジメはファイヤーを睨んでいた。

 

「さすが伝説……!」

 

 ファイヤーはまだ余裕なのか、ハジメを見下ろしながらゆっくりと羽ばたいている。

 

「クァァァァン!!」

 

 その瞬間、周囲の気温が一気に上昇した。ファイヤーがその翼を大きく羽ばたかせると、その風は目に見える程に赤くなる。“ねっぷう”は技の1つに過ぎないが、本来のポケモン世界で『夏の神』と呼ばれる存在によるその技は、恐ろしい熱量を含んでいた。

 

「ハジメ、あぶねえ! ガルーラぁ!」

 

「ゴルーグ!」

 

「アブソル!」

 

「「「“まもる”!!」」」

 

 幸利、ユエ、シアのポケモンによる三重の半透明な壁がハジメ達を覆った。更に香織が詠唱をすることで、防いでもなお襲ってくる熱によるダメージを軽減した。ティオも、扇子を軽く振るうことで風を操作し、“ねっぷう”を別の場所へ逸らしたのだった。

 

「クァァァ!!」

 

 今度は“エアスラッシュ”。風の刃がハジメ達を襲う。“まもる”が解除された瞬間を狙っての攻撃だった。巨体のゴルーグが身を挺して庇う。

 

「“メガトンパンチ”!」

 

 ユエの声で、ゴルーグは襲ってくる風の刃を振り切って、技を放つために静止しているファイヤーを拳で捉える。その時、相手はゲームで見せない動きを見せた。

 

「ゴルッ!?」

 

 再び放たれる“ねっぷう”。だが先程のが広範囲の技ならば、今放っているのは単体を対象とした高威力の技である。凄まじい熱量は、今までどんな攻撃も受け止めてきたゴルーグの体を焦がし、拳の威力を低減させる。

 

「ゴルーグ、下がって! “破断”!」

 

 ユエが水属性魔法によるレーザーを放つ。限界まで圧縮した水はそう簡単には蒸発せず、ファイヤーに命中した。

 

「当たったのに……怯む素振りすら無いなんて!」

 

「ユエさん、ゴルーグを戻してください! 香織さんが治療します!」

 

「回復役は任せて!」

 

「ん、お願い!」

 

 ゴルーグと入れ替わるように、今度はアブソルが前に出る。

 

「アブソル、“かげぶんしん”で撹乱です!」

 

「アブッ!」

 

 瞬時に現れる分身たち。ファイヤーは面倒くさそうに再び“エアスラッシュ”を放とうとする。

 だが、それはシアの能力である未来視が見切っていた。更に近くにあった大岩を、腕と足に身体強化を掛けた状態で持ち上げ、ファイヤー目掛けて放り投げた。

 

「どっ、りゃあぁぁぁ!」

 

「!?」

 

 風の刃は大岩に防がれ、岩は砕け散る。その大きな欠片にアブソルは“でんこうせっか”で飛び移り、ファイヤーとの距離を詰めていく。

 

「そのまま“つじぎり”!」

 

「アァァブ!」

 

「ッ!」

 

 だが、ファイヤーはすぐに“つばさでうつ”攻撃でアブソルを地面に叩き落とした。燃え盛る強靭な翼による攻撃は、アブソルに大ダメージを与えた。

 交代するように幸利とガルーラが前に出る。

 

「シア、交代だ! 行くぜガルーラ!」

 

「ガルァァ!」

 

「まずは動きを止めてやる! 影縫いを食らいやがれ!」

 

 自身の魔法をアレンジして生み出した『影縫い』は、文字通り相手の影を地面に縫い付けて動きを封じる技だ。空は晴れており、地面に影が出来てる以上通じると思って魔法を発動した。

 ところが、ファイヤーは自分の動きに違和感を持って眉をしかめた後、自身の炎で魔法を無理やり解いてしまった。

 

「なっ!? くそ、ガルーラ! “がんせきふうじ”だ!」

 

「ガルッ!」

 

 ファイヤーの真上に岩が降り注ぐ。“ねっぷう”で粉砕された。

 

「“はかいこうせん”!」

 

 強力な光線が発射されたが、それも容易く避けられた。“つばさでうつ”攻撃をするためか、急降下してくる。

 

「近付いてきたな! “かみなりパンチ”だ!」

 

「ガルアァ!」

 

 ガルーラの拳がファイヤーを捉える。だが炎を纏ったファイヤーは拳に込められた電気エネルギーとぶつかり合い、倒れることはなかった。

 そこへハジメが援護に駆けつける。

 

「バサギリ、“がんせきアックス”!」

 

「バルァァァァ!!」

 

「ッ!!」

 

 横からの攻撃に、ファイヤーが目を見開いた頃には吹き飛ばされていた。

 

「……………………」

 

 見れば、治療を終えたゴルーグとアブソルも復活している。この場に居る全員が、ファイヤーとの戦いを諦めていなかった。

 

「……ピィィィィ!!」

 

「っ、待てよ!」

 

 空へ向けて飛び立っていくファイヤーに、幸利は逃がさないと魔法を向けようとした。

 

「幸利、もう良いよ。……終わったんだ」

 

「終わり?」

 

「ファイヤーの目が、優しいものになってた。たぶん僕たちを試してたんじゃないかな」

 

「お試しであそこまでやるの……?」

 

 幸利や香織は、初めての伝説ポケモンとの戦いに腰が抜けた。また同じく伝説との戦いが初めてなティオも、座り込みはしなかったが冷や汗をかいていた。

 

「その火山の奥には、また別の試練があると言うことじゃな……」

 

 視線の先にある大迷宮の入り口。まるで「神の力が欲しくばここまで来い」と言ってるような、そんな雰囲気を醸し出していた。




軽く終わらせるつもりが、皆さんがあまりにも「睨み付けるさん」と呼ぶもんですから、気付いたら一話丸々使ってました。


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火山の中を進め

夜間勤務が続いてしまい、寝ることが多く更新が遅れました。この後も夜間勤務が待ってるんですよね……。


 ファイヤーの猛攻を潜り抜け、グリューエン大火山の迷宮内へと突入したハジメ達。だが、洞窟であるため熱が籠り、外よりも暑さが酷い状態になっていた。

 

「あぢぃ……」

 

「こんなところにポケモンとか住めるんですかぁ……?」

 

「住めちゃうんだなぁ、これが。ほらあそこ」

 

 ハジメが指さしたのは、道の両脇を流れる溶岩の川。そこからコッソリと顔を出しているのは、ようがんポケモンのマグマッグである。

 

「溶岩そのものが生き物になってるみたい」

 

「襲ってこないのが幸運じゃな」

 

 人間を初めて見るのか、襲わずにただ見つめてくるマグマッグ。その様子が何だか可愛らしくて、女性陣はホッコリとした気分になった。

 

 

 

 

 

 道なりに進むと、何やら争うような音が聞こえた。

 

「何だ、この音?」

 

「バトルしてる音、でしょうか?」

 

 そうして歩き続けていると、争っているポケモンの姿が見えてきた。

 

「コォォォス!」

 

「ロッゴォォ!」

 

 陸亀のようなポケモンと、石炭を積んだトロッコのようなポケモンが“こうそくスピン”でぶつかり合っていた。

 

「コータスに、トロッゴン?」

 

「迷宮の中だから共生してると思ってたけど……」

 

「コータスの主食は石炭なんだ。それで争ってるのかな?」

 

 単なる縄張り争いか、それとも食うか食われるかの戦いなのか、ハジメには分からない。だが、2匹とも近付くだけで暑いポケモンなので、出来る限りの戦闘は避けたかった。

 

「……足音立てずに、コッソリと行こう」

 

「「「賛成」」」

 

 汗をダラダラと流しながら、全員が頷いた。なおティオは汗をかいていない。

 

 

 

 

 

「それにしても暑いですねぇ……」

 

「シア、暑いと思うから暑い。暑くないと思えば暑く感じない。ほら全然あつくないアハハハハ」

 

 シアの言葉にユエが応えるが、その目は虚ろで乾いた笑いを浮かべていた。

 

「ハ、ハジメさぁん! ユエさんが壊れちゃいましたぁ!」

 

「それは大変だ。どこかで洞窟作って休まないと」

 

「うぉい! 俺はシアじゃねえよ!」

 

 ハジメがシアの悲鳴に反応する。だが彼も目が虚ろの状態で、シアと幸利を間違えると言う状態になっていた。

 

「流石のハジメでもキツいのかもしれんな」

 

「ハジメ君、錬成で穴を掘れば休めるよ」

 

 香織がハジメを支え、近くの壁に誘導する。そうして錬成で穴を掘らせると、今度はユエに魔法で氷を作らせた。ティオが魔法で風を起こすことで洞窟内に冷風が回る。

 

「はふぅ……。涼しい」

 

「ポケモン達は襲ってこないけど、暑さが脅威だね」

 

 迷宮内のポケモンは、人間を見るのが珍しいのかハジメ達を観察する程度で、積極的に襲ってくることは無かった。

 ティオは、ふむと少し考えた後に迷宮の目的について語った。

 

「解放者達が“試練”と称して造り上げた迷宮じゃ。何かしらのテーマがあるのじゃろう。旅の道中の話を聞くに、オルクス大迷宮は『様々な地帯の様々なポケモンに対応する術』、ライセン大迷宮は『魔法が使えない状況下での戦闘』かもしれん。そしてこのグリューエン大火山の迷宮のテーマは……『集中力』」 

 

「集中力……」

 

「暑さに気を取られ過ぎると、咄嗟の判断が出来ないってこと?」

 

「けどポケモン達は襲ってきてませんよね?」

 

 ユエ、香織、シアの順に発せられた言葉に、冷風によって正気を取り戻したハジメは考える。

 

「解放者達がエヒトと戦ってる間、人々はポケモンの事を一概に害獣と決めつけていた。この迷宮でむやみに戦えば、暑さで体力を余計に消耗する。だから、此方から襲わなければ向こうも襲ってこない。……そう言うことを伝えたかったのかも」

 

「俺たちは、ハジメを中心としてポケモンの事を信用してる。だからこうやってサクサクと進めているってことか」

 

 幸利の言葉に全員が納得した。こうして休憩を取った後、一行は再び進み始めたのだった。

 

 

 

 

 

 ハジメ達が辿り着いたのは、大きな広間。周りをぐるりと溶岩が取り囲んでいるだけで、障害物も何もない。

 

「壁に何やら文字があるの」

 

「これ……ローマ字?」

 

「形は微妙に違うけどな」

 

「っ! 見せて!」

 

 壁に刻まれていたのは、アルファベットに似た独特な文字だった。シアやユエは読めずに首を傾げているが、ここでハジメの技能である、言語理解(真)が活かされる。

 

「アンノーン文字だ……! こんなところでお目にかかれるなんて……」

 

「(妾の里に伝わる古代文字と一緒じゃ。ハジメが解読できると言うのなら……ふむ)」

 

「何て書いてあるんですか?」

 

「えっとね……」

 

 

――太陽の使者の愛を見届けよ

 

 

「だってさ」

 

「太陽の使者……?」

 

「見るだけで良いのかよ?」

 

 そんな時だった。何処からか鳴き声のようなものが聞こえてきた。

 

「ウルル~」

 

「ウルモ~」

 

 非常に高い天井からゆっくりと現れたのは、2匹のポケモン。ハジメはそのポケモンを見て、古代文字の意味を理解した。

 

「太陽の使者だからもしやと思ったけど、やっぱり! ウルガモスか!」

 

「綺麗……!」

 

「何と神々しい……。まさに太陽の使いじゃな」

 

 更にハジメの技能の魔物学が、2匹の関係を明らかにする。

 

「なるほど。あの2匹は、番なんだ」

 

「うふふ。だから、あんなに仲良しなんですね」

 

「愛を見届けよってのは、この2匹を見守れってことなのか?」

 

「戦わない試練ってことね」

 

 折角だからとハジメは錬成で石の腰掛けを作った。先ほどと同じようにユエが氷を作り、ティオが風を起こす。だけども今回は、ウルガモス夫婦の邪魔をしないようにほんのり微風で涼みながら、夫婦の舞を鑑賞することにした。

 

「(とっても綺麗……)」

 

 ふと、香織は隣にいるハジメを見る。感動した様子でウルガモス達を見ていたのだが、視線に気付いたのか香織の方を見た。そして小さく微笑むと、コッソリと彼女に手を差しのべた。香織はその意図を察し、彼と手を繋ぐ。

 

「……いつか僕たちも、あんな風になれると良いなぁ」

 

「えっ、それって……!」

 

「…………」

 

 照れ隠しのようにウルガモスへと視線を戻すハジメ。香織は顔が熱くなるのを感じながら、ギュッと彼の手を強く握った。

 

 

 

 

 

 ウルガモス達が舞を終えて、大広間の遥か高い天井へと飛び去ると同時に、対岸の扉が開き、そこへの道が溶岩の中から現れた。

 開いた扉の奥から、強い気配を感じる。

 

「……行こう」

 

「うん」

 

 そうしてハジメ達が扉の奥へ進むと、部屋に入った瞬間に再び扉が閉められた。試練を終えるまで出さないと言うことだろう。

 

「ハジメ。何かある」

 

「祭壇……かの?」

 

「祭壇の上に何かありますね。何でしょうか、あれ?」

 

 慎重に近付いて、祭壇に置かれている物体を確かめる。

 

「これは……石?」

 

「何つーか、溶岩を閉じ込めたって感じの石だな」

 

「祭壇に文字があるね。ハジメ君、読んでくれる?」

 

「う、うん……」

 

 ハジメは、その石の事を前世の知識で知っていた。だからこそ、この部屋の主の正体を察したのだが、仲間がパニックにならないように冷静に振る舞う。

 

 

――火山の秘宝に力を込めよ

 

 

かざんのおきいしに、力を……。みんな、この部屋では戦うことになる。周囲を警戒しておいて」

 

「ハジメ? ……分かった。そうする」

 

 リーダーの真剣な顔に全員が、何かが起こると察した。それぞれのポケモンを呼び出したり、いつでも魔法を放てるような態勢を取る。

 

「すぅー……はぁー……」

 

 錬成を行うように魔力を祭壇に流し込む。その瞬間、かざんのおきいしが輝き始めた。

 

「……足音が聞こえてこないか?」

 

「何処から?」

 

「……全員、上じゃ!」

 

 よく見ると、部屋の天井近くの壁には無数の穴がある。そこからドシドシと音が聞こえてきた。ティオの声で見上げた瞬間、1つの穴からポケモンが飛び出してきた。そのポケモンがズシンと音を立てて着地すると、祭壇はゆっくりと地面の中へ格納される。

 そして、壁一面にアンノーン文字が現れ、その文章が光りだす。

 

 

――神の力を求めし者よ

 

――火山の番人に認められよ

 

 

「プレートの番人はお前か……ヒードラン!!」

 

「ゴッ、ゴボッ、ゴボボッ!!」

 

 プレートの試練が始まった。




次回は、プレートの試練ことヒードラン戦です。


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炎の試練

ハーメルン内で恐竜に関する小説を呼んでいたら、ふと過去にプレイしていたカセキホリダーシリーズをやりたくなっちゃって……。カセキホリダーに浮気をして更新が遅くなりました。申し訳ありません。


 ヒードランは口に炎を溜め込むと、跳躍してアブソルに襲い掛かってきた。“ほのおのキバ”だ。

 

「アブソル、避けて!」

 

「ゴルーグ、“じゅうまんばりき”!」

 

「ゴルッ!」

 

 ゴルーグが技を放とうとするが、ヒードランはアブソルから向き直り、ゴルーグに向けて“ほのおのうず”を放った。巨体を包み込む炎に、ゴルーグは身動きが取れない。再びアブソルに狙いを定めると、頭部を光らせる。

 

「“アイアンヘッド”か。やらせない! サイホーン、“ドリルライナー”!」

 

 アブソルを守るように、ハジメのサイホーンがヒードランとぶつかり合う。炎・鋼タイプのヒードランにとって、地面タイプの技は効果抜群。重さの方ではヒードランが有利にも関わらず、後ろへ押し退けた。

 

「ありがとうございます! アブソル、“バークアウト”です!」

 

「アァァァァブ!!」

 

「ゴッ……!」

 

 悪タイプのエネルギーが込められた咆哮に、鬱陶しそうな顔をするヒードラン。そこへ幸利が続けて攻撃をして来た。

 

「ガルーラ! “メガトンパンチ”で吹っ飛ばせ!」

 

「ガルラァァ!」

 

 ガルーラの拳がヒードランを正確に捉える。勢いのついたパンチが炸裂した。しかし……。

 

「ゴォォォォ……!」

 

「やべっ! ガルーラ、回避だぁ!」

 

「ゴォォァァァァァ!!」

 

 十字の爪を地面に食い込ませることで後退りせず、むしろそのまま口に炎を溜め込んで“かえんほうしゃ”を発射した。

 

「何つー威力だよ……!」

 

「清水くん、一旦ガルーラを下がらせて! 回復させるよ!」

 

「ユエ、妾が魔法で風を起こす。その炎が払えないか試してみよう!」

 

「ん、分かった! ゴルーグ、もう少し耐えて!」

 

「ゴル!」

 

 ティオが魔法でゴルーグに纏わりつく炎を払おうとする。香織は幸利のガルーラに治癒魔法と、ハジメお手製のキズぐすりを施していく。

 回復役がやられないように戦えるのは、ハジメとシアだけだった。

 

「私の身体強化では……蹴ったり出来なさそうですね。硬そうですし、何か熱そうです」

 

「少なくとも僕たちが直接殴ったりするのは、オススメしないかな」

 

 サイホーンとアブソルが、ヒードランと睨みあう。再びヒードランは“アイアンヘッド”を放とうとする。

 

「“ずつき”だ!」

 

「“でんこうせっか”で接近、“スピードスター”を近くで撃って!」

 

 サイホーンが攻撃を受け止め、その隙にアブソルが“スピードスター”を真横から食らわせる。だがヒードランも負けじと爪を光らせ、“メタルクロー”で2匹纏めて切りつけた。

 更にヒードランは、口に勢いよく炎を溜めると、某狩猟ゲームの雌火竜のように、三方向に向けて炎の球を発射。着弾した所から、“ほのおのうず”よりも強力な炎が上がった。

 

「“マグマストーム”か!」

 

「ううっ、さっきよりも暑くなりましたよぉ……」

 

 ハジメとシアを取り囲む炎の渦は、2人の体力をジワジワと削っていく。早く決着をつけるためにもと、ハジメが錬成の姿勢を取った。

 

「片足だけでも封じれば!」

 

「ゴオッ!?」

 

 ヒードランの右後ろ足が、ハジメの錬成によって穴にめり込む。動けないことを察した瞬間、ヒードランは攻撃方法を遠距離系に切り替えた。口に炎を溜め込み、“かえんほうしゃ”を放とうとする。

 そこへ、アブソルを背に乗せたサイホーンが突進してきた。

 

「“まもる”だ、サイホーン!」

 

 ヒードランの口から放たれる炎を、サイホーンの“まもる”が防ぎきる。

 

「今です、アブソル! “つじぎり”!」

 

「アァブッ!」

 

「!?」

 

 サイホーンの背中から高くジャンプしたアブソルは、ヒードランの背中を切りつけた。真上からの攻撃に姿勢を崩すヒードラン。そこへ風の渦が、巻き上がっていた炎の渦を突き破る。その隙間を潜って現れたのは、ティオ達だった。

 

「香織のお陰で回復した! 妾たちも加勢するぞ!」

 

「ゴルーグ、“メガトンパンチ”!」

 

「ガルーラもだ!」

 

 2匹の拳が、ヒードランを吹き飛ばした。ノーマルタイプの技ではあるが、2匹とも香織の治療のお陰でコンディションは最高で、それが技の威力に直結している。

 

「ゴォ、ボッ……!」

 

 ダメージを堪えるような仕草をするが、ヒードランはハジメ達を見つめる。彼らは警戒を解かない。

 

「…………ッ!」

 

 左前足を勢いよく地面に叩きつけ、エネルギーを送る。すると、ヒードランの背後にある扉が音を立てて開いた。

 

 

 

 

 

「合格、なんだね?」

 

「…………」

 

 ハジメの問い掛けに答えず背を向けるヒードラン。彼はそのまま壁をよじ登り、洞窟の奥へ消えていった。

 

「入り口で出くわした、ファイヤーだったか? アイツは空を飛んでいたし厄介だったが、あのヒードランって奴も中々手強かったな」

 

「爪を使って足を地面に固定していた。その気になれば、向こうは洞窟の壁を使って一方的に攻撃できたかも」

 

「此方が攻撃すれば、下手したら洞窟が崩れるかもしれないからのぉ」

 

「それなのに、正面からぶつかってきました。試練を与える存在だと自覚してたからなのでしょうか……?」

 

 シアの疑問に答えたのは、香織だった。

 

「きっとそうだよ。私たちだって、ポケモンと一緒に旅をしてるんだもん。ヒードランは、この迷宮を作ったグリューエンさんの相棒だったんじゃないかな」

 

 だとすれば、彼は何千年も、この大迷宮で待ち続けていたのだろう。自身のパートナーが遺したもの。それを託すに値する人間を。

 

「……行こう。そんな番人から認められたんだから」

 

 こうして、ハジメ達は奥へと進んでいった。

 

 

 

 

 

 洞窟の奥の祭壇。そこに納められているプレートを、ハジメは手にした。

 

 ハジメは ひのたまプレート を手に入れた!

 

 その時だ。祭壇の後ろにあった壁に、再びアンノーン文字が現れた。

 

 

――大地の化身への謁見を許す

 

 

 そうして祭壇の後ろに、洞窟が現れた。

 

「まだ何かあるの!?」

 

「大地の化身……こりゃ相当なポケモンだよな?」

 

「まさか……」

 

 プレートを手に入れて終わりでは無い事に驚きつつも、ハジメは文章にあった『大地の化身』に心当たりがあった。

 

 更に洞窟の奥へと進むと目の前に広がるのはマグマの海だった。その中央に、大きな石像がある。

 

「あれも、ポケモン?」

 

「石になってますね」

 

「封印されとるのか、それとも自らが眠るときに石化しておるのか、もしくは両方もあり得そうじゃ」

 

 不思議そうに石像を眺めるシアやユエ、ティオ達。だがハジメはその石像を見て、震えた。そしてその石像の名前を呟こうとした瞬間、ハジメのポーチから「ひのたまプレート」が飛び出し光を放った。

 

「これは……!」

 

 ハジメの視界は白く染まった。

 

 

 

 

 

 ハジメが目を開けると、そこは燃え盛る大地だった。空から容赦なく日光が降り注ぎ、火山は噴火を繰り返している。だが不思議と暑さは感じない。

 

「ここは……」

 

『人間』

 

「っ!」

 

 辺りに響く、低い声。同時に地面が大きく揺れて、ハジメの目の前に『ソレ』は現れた。

 

『神の力の一端によって、意識がここへ飛ばされたか』

 

グラードン……!」

 

 それも石像の姿ではない。真の力を開放した、()()()()()()()姿()である。

 

『急げ、人間。創造神を復活させろ。三神の怒りが蓄積されつつある』

 

「三神って、まさか……!」

 

『偽りの神が、創造神の力を手にした時の赤き鎖。三神はそれにより縛られ、憎しみに身を染めつつある』

 

「(魔人族の赤い鎖とは違う……? まさか、エヒトは……!)」

 

 ハジメが立てた仮説。それは、アルセウスの力を奪った後のエヒトの行動だった。

 解放者オスカー・オルクスの言葉を聞いた時から、ハジメは疑問に思っていた。ディアルガ、パルキア、ギラティナはアルセウスから産み出された存在である。産みの親とも言える存在が力を奪われれば、3匹は間違いなくエヒトを襲うだろう。にも関わらず行動を起こした形跡は無く、ましてや3匹が怒ればこのトータスは崩壊している筈なのだ。なぜ、数千年も保っていられたのだろうか。

 仮説にしか過ぎないが、エヒトはアルセウスの力を奪った十全な状態の時、「完全な赤い鎖」を用いて3匹をそれぞれの世界に縛り付けたのでは無いだろうか。それにより3匹は動けずに居るのかもしれない。

 魔人族の神が伝えた「不完全な赤い鎖」は、おそらく解放者達によってプレートを奪還された後に、作られたものかもしれない。

 

「(だけど、あくまでエヒトがやったのは、3匹の邪魔が入らないように行動を封じただけ! 意識はある訳だから、3匹ともエヒトに対して怒りを溜め込んでいるのか!)」

 

『急げ人間。神の力を集め、創造神を復活させろ。三神の怒りを静めるのは創造神しかいない』

 

 ゲンシグラードンの言葉を最後に、再び視界が白く染まった。

 




仕事も忙しくなり、取りたい資格もあるのでその勉強で更新が遅くなるかもしれません。ですが失踪するつもりはありません。


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のし掛かる現実

前の投稿から1ヶ月が経とうとしていたって、マジですか……? 遅れて申し訳ないです。
今回は久しぶりにも関わらず、短いしシリアスです。


 グリューエン火山の大迷宮を突破し、無事にアルセウスのプレート「ひのたまプレート」を手にしたハジメ。

 だが、迷宮の最奥に眠るグラードンよりプレートを通じて伝えられたのは、シンオウ三神の怒りが蓄積されているという内容だった。

 出来る限り早く、解放者達が奪還したプレートを回収し、力を失ったアルセウスを復活させなければならない。ハジメはそう決意した。

 

 解放者が残してくれた転移の魔方陣で、大迷宮を抜け出したハジメ達。次に向かうは、ミュウの故郷であるエリセンだ。その為にも、アンカジ公国で留守番をさせているミュウを迎えに行かなければならない。

 そうして公国へと戻り宮殿へミュウを迎えに行くと、彼女もハジメ達に気付いたのかトテトテと走ってきた。

 

「ハジメお兄ちゃん~!」

 

「ミュウ~!」

 

 笑顔で駆け寄ってくるミュウを、ハジメは両腕を広げて受け止める姿勢になる。そのまま抱きついてきた所で、優しく背中を撫でた。

 

「お帰りなさいなの!」

 

「ただいま、ミュウ。マナフィもお留守番ご苦労様」

 

「マナァ!」

 

 ミュウの頭の上に、たれパ〇ダのように乗っかっているマナフィにも声をかける。ミュウとマナフィの笑顔に、周りの使用人たちもホッコリしていた。

 

「ランズィさん。ミュウとマナフィを預かってくれてありがとうございます」

 

「なに、娘も年下の彼女と接して色々成長したことだろう。次はエリセンに?」

 

「はい。ミュウを母親のもとへ帰さないといけないし、海の大迷宮についても知りたいですから」

 

「火山の迷宮から帰ってきたばかりなのに、もう次の迷宮か。少々気が早いのではないか?」

 

「ま、まぁ、休憩も挟むので大丈夫ですよ!」

 

「そうか? ならば良いのだが……」

 

 ランズィ達に礼を言うと、ハジメ達はミュウの故郷エリセンへと向かうのだった。

 

 

 

 

 

 その道中。砂漠を超えて再び木々の生える地帯へと足を踏み入れたハジメ達。今は夜になった為、近くの川辺にテントを立てて野宿する事にした。

 夕飯を食べ終えて、眠くなるまで談笑でもしようかと言う時に、歌声が聞こえてきた。

 

「~♪ ~~♪」

 

「綺麗な声……」

 

「マナフィが歌ってるのか」

 

 川の真ん中にある岩場をステージに、夜空へ向けて歌うマナフィ。その様子を全員のポケモンだけではなく、ヘイガニやドジョッチなど、水辺のポケモン達も聞き惚れている。

 ハジメはその光景を見ながら、出来る限り目を逸らし続けていた現実を思う。

 

「(マナフィが居ると言うことは、もしかして存在しているのか? アクーシャが……)」

 

 海の神殿アクーシャ。劇場版ポケットモンスターに出てくる神殿で、水の民と呼ばれる一族が作ったと言われている。

 仮に存在するのだとしたら、次の大迷宮は其処になるかもしれない。だがそれは、あることを意味していた。

 

「(マナフィは、海に住むポケモン達のリーダーになるために、海へと帰らなければならない。それはつまり……ミュウと別れないといけない)」

 

 マナフィの歌声に拍手を送る少女。その笑顔を見て、この現実を教えた方が良いのか。ハジメは葛藤するのだった。

 




次回より、エリセン編に入ります。


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海上都市エリセン

エリセン編、突入です。


 ミュウの故郷エリセンに到着したハジメ達。早速母親と感動の再会!……とはならなかった。

 

「だから、僕たちはミュウを保護してるのであって……!」

 

「黙れ! あの子を人質に他の娘まで奪うつもりか!」

 

 降伏するように両手を上げながら説明するハジメと、彼の話を聞く耳も持たずに槍を突きつける海人族の青年達。

 エリセンに入ろうとした瞬間に、門番がミュウの姿を見て、あろうことかハジメ達がミュウを拐ったと思い込んで槍を突きつけたのだ。

 

「奴隷の兎人族め! ミュウちゃんを離せ!」

 

「違います! 私は奴隷じゃないですし、この子をお母さんのもとへ届けに来たんですってば!」

 

 海人族もシアの事を格下だと思ってるのか、強気な態度で槍を突きつけてくる。彼女はというとミュウを傷付けないようにと全身で庇っていた。

 

 喧々諤々(けんけんがくがく)。終わらない口論に誰もが苛ついていたのだが、一番イライラしていたのは、ミュウであった。

 

「むぅ~……!」

 

 自分を助けてくれた優しい人たち。お兄ちゃんお姉ちゃんと慕っている人たちが悪者扱いされることに、ミュウは納得してなかった。

 

 

「喧嘩はめっ!なのーーー!」

 

 ミュウの大声によって止まる喧騒。驚いたように彼女を見る海人兵とハジメ達。

 プリプリと怒るミュウは兵士達のもとへ近づく。

 

「ハジメ兄ちゃんもシアお姉ちゃんも、ミュウを助けてくれたの! お兄ちゃん達を苛めるお兄さんたちは、嫌いなのっ!」

 

「「「ガーン!!」」」

 

 少女からの「嫌い」発言にショックを受ける兵士たち。ハジメ達も内心同情はしていた。許すかどうかは別として。

 その後、王国から派遣されたであろう人間族の隊長、サルザが来たことでようやく口論は収まった。

 

 

 

 

 

 サルザからミュウの母親レミアの現状を聞きつつ、エリセンを歩くハジメ達。母親に会いたいからか、早く早くとミュウはハジメの手を引いていた。

 そんな時、人だかりを見掛けた。何やら騒がしい。

 

「レミア、落ち着くんだ! その足で無茶だ!」

 

「私たちがミュウちゃんを連れてくるから!」

 

「嫌よ! ミュウが帰ってきてるなら、私が迎えに行かないと!」

 

 人混みの隙間から見えたのは、ミュウが成長したら多分あぁなるのだろうと思わせる程の美女。彼女を見た途端、ミュウはステテテー!と走り出した。

 

「ママー!」

 

「っ! ミュウ!」

 

 母が駆け寄るよりも先に抱きつくミュウ。レミアは娘が帰ってきたのだと実感すると、もう離さないと言わんばかりに抱きしめた。その目にはうっすらと涙すら浮かべている。

 だがミュウは、ロングスカートから覗くレミアの足の痛々しさに気がついた。

 

「ママ、足! 怪我してるの!?」

 

「香織」

 

「うん。ごめんなさい、ちょっと失礼します」

 

 ハジメの一声で、すぐにレミアの足を診る香織。道中サルザから聞いた話では、ミュウを拐った犯人はレミアに対して、歩けなくなる程の大怪我を負わせたのだという。

 

「酷い……! だけどゆっくりと治癒魔法かけて、ハジメ君が作った薬を塗れば、歩けるようになるかも」

 

「海人族達がピリピリしていたのは、彼女の事もあったんだ。申し訳ない、ハジメ殿」

 

「大丈夫ですよサルザさん。ミュウを拐った連中は、僕がボッコボコにしましたから」

 

 海人族がピリピリしていた理由を教え謝罪したサルザ。ハジメは全員を安心させるために、人身売買組織を壊滅させたことを教えたのだが、なぜかドン引きされてしまった。

 

「ねぇ幸利。サルザさんとか他の人たちが引いてるんだけど、何で?」

 

「血管浮かび上がるほどの握り拳見せながら、笑顔で『ボコボコにした』って言ったらそりゃ引くだろうよ」

 

 幸利のツッコミに首を傾げるハジメ。その様子に、先程まで槍を突きつけていた海人族の兵士は、彼を怒らせないようにしようと心に誓ったのだった。

 

 

 

 

 

 シアが肩を貸す形で歩くレミア。彼女の家に到着すと、ミュウは嬉しそうにモンスターボールを取り出した。

 

「ママ、ママ! ミュウね、お友達が出来たの!」

 

「あらまぁ、そうなの? でもそのボールは……?」

 

「おいで、マナフィ~!」

 

「フィ~!!」

 

 ミュウがマナフィを呼び出す。この時、様子を見ようと押し掛けてた近所の住人たちも居たのだが、レミアを含んだ海人族達が驚いたように姿勢を崩した。

 

「まぁミュウ! どうやって海の王子に……!」

 

「怖い人に捕まった時に、卵を見つけたの。その卵から生まれたの~!」

 

 レミアは驚いたようにミュウとマナフィを交互に見て、他の海人族たちは信じられないと言いたそうな顔をしている。

 

「(ハジメよ。やけに海人族が驚いておるな)」

 

「(マナフィは、海の王子と呼ばれるポケモンだからね。何かしら関係があると思ったけれど……)」

 

 小さな声で話しかけるティオに答えるが、それにしても海人族のリアクションが大きい。

 

「まさかミュウちゃんが、海の王子を連れていたなんて……!」

 

「おい、誰か長老呼んでこい!」

 

 まさかここまで騒ぎが大きくなるとは思わず、流石のハジメ達も戸惑う。

 

「えっと、レミアさん? どうして皆さんはこんなに騒いでるのです?」

 

「私たちの村には、様々な伝説があります。その中には海の王子の伝説もあるのですが……。その伝説の中に、私たちの先祖と海の王子に関する伝説があるのです。詳しくは長老様が説明してくださると思います」

 

「サルザさんとかは良いんですか?」

 

「私はエリセンに派遣されて長いからな。最初は色々思うこともあったが、今はエリセンの一員として過ごしてる」

 

 なるほどと頷くハジメ。長老と呼ばれる人物が来るまで待たせて貰うことになったが、気になるものを見つけた。

 

「(あれ? あの木彫りって……)」

 

 そこには、4()()()()()()()()()()()が、祀られるように置かれていた。

 




さてさて、エリセンで祀られてるポケモンとは?
まあ、4体という事と、木彫りって事で分かる方々も居るとは思いますが……。


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迷宮への行き方

前回の感想、結構考察してくれる方がいてくれて嬉しかったです。ただ、もうちょっと分かりやすく書けば良かったかなぁと猛省。そのため今回の冒頭でいきなり答え合わせとします。


 ハジメが見つけた4体のポケモンの木彫り。それは、いわゆるカプ族と呼ばれるポケモンだった。

 カプ・コケコ、カプ・テテフ、カプ・ブルル、カプ・レヒレ。これ等が該当する。

 前世では、アローラ地方と呼ばれる南国の島々の守り神であるという設定があった。どうやらトータスにおいては、海人族がひっそりと崇めているようだ。

 ハジメが、トータスの人々のポケモンへの思いを考え直していると、老人がミュウとレミアの家に入ってきた。

 

「失礼するぞ」

 

「長老さまー!」

 

「おぉミュウよ。よく無事に帰ってきたなぁ。ハジメ殿、でしたかな? レミアの娘を助けてくれて感謝しますぞ」

 

 ミュウの頭を撫でる、仙人を思わせるような髭が特徴的な海人族の老人。彼こそが、エリセンを治める長老のようだ。彼はハジメ達に頭を下げる。

 

「お連れの方々もミュウを、そして海の王子も守ってくださりありがとうございます」

 

「長老さん。あなた方がマナフィの事を知ってると言うことは……」

 

「……聞く者は出来る限り少ない方が良いですな。ほれ皆の衆! 仕事も放って何しとる!」

 

 聞き耳を立てようとしていた海人族たちを一喝して解散させると、ドアを閉め、窓も閉めた。

 そして、長老との会談が始まる。

 

 

 

 

 事の顛末を聞いた長老は、忌々しげに顔を歪めた。

 

「まさか奴隷狩りをしてた者が、海の王子の卵を手にしていたとは……」

 

「連中からすれば、単なる金儲けのために獲ったのでしょうけども」

 

「マナフィは、『海の迷宮』への道を知る唯一の存在。そこに眠る、神の力の欠片を手にしていたらどうなっていたか……」

 

「(海の迷宮……やっぱりそこにプレートがあるのか)」

 

 長老の話によれば、マナフィは卵から孵ると『海の迷宮』へと向かうのだという。海人族にとって海の迷宮は、先祖代々守り続けている神聖な場所。その道を知るマナフィも、特別な存在なのだという。

 

「長老さん。僕たちはミュウをレミアさんの下へ帰すために来てますが、それだけではありません。各地の迷宮に眠る物を探しているんです」

 

「何と……。まぁ、ミュウとマナフィを助けてくれた事に加えて、レミアの足を治してくれる恩もあるからなぁ……。しかしあそこは海人族の聖地……うぅむ……」

 

「どうか、海の迷宮について知ってることを教えてくれませんか? 行き方だけでも良いんです」

 

 正座をして対面しているハジメと長老。ユエにシア、幸利と香織とティオも同じようにしている。レミアは無理のないように椅子に座らせ、ミュウは彼女の膝の上に居た。

 お願いしますとハジメが頭を下げると、香織達も頭を下げた。その様子に困った顔を浮かべる長老だったが、そこへレミアが助け船を出した。

 

「長老さま。この方達ならば、迷宮に辿り着けるのでは無いでしょうか。()()()()()ですし……」

 

「ふーむ……、確かにな……。ハジメ殿、お連れの皆様も頭を上げてくだされ。判りました。では、お教えしましょう」

 

 

 こうして長老から話されたのは、迷宮への行き方だった。海の迷宮には、2つの行き方があるらしい。

 

 1つ目は、エリセンの港から真っ直ぐと向かった沖合にある渦潮の中心部。そこへ潜り込むことで迷宮への入り口が現れるとのことだった。ただし、迷宮の名は伊達ではなく、迷路のようになっている。海人族の泳ぎ自慢が何度か挑戦したことがあるそうだが、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()のだと言う。

 

 2つ目は、皆既月食の時にしか現れない特別な島に行くこと。迷宮の創設者が島全体に魔法を掛けたことで、そのようになったらしい。島の内部には遺跡があり、そこにある魔方陣が、迷宮の内部へ繋がっているとの事。ただし、それはあくまで口伝であり、本当に迷宮内部に繋がっているかは長老も分からないそうだ。

 

 

「1つ目なら時期を問わずにいつでも行けるが、その代わりに内部への到達が難しい。2つ目ならば確実に内部へ行けるだろうが、時期を待たなければならない、か……」

 

「どうしよう、ハジメ君。潜水道具とか無いけど……」

 

「ハジメ、クラフト能力で作れるか?」

 

「たぶん厳しいんじゃないかな。構造とか分かってないと、途中で壊れて空気が漏れたら命に関わるし……」

 

 潜水艦という手も考えたが、やはり構造を知らなければ作れない。そのため2つ目の行き方を選ばざるを得ない。そこでティオがレミアに確認した。

 

「先ほど、『時期も近い』と言っておったな。その皆既月食はいつじゃ?」

 

「明後日あたりになるかと」

 

「意外と近かったんですねぇ……」

 

「ハジメは運が良い」

 

 明日は準備期間にすることで、話は纏まった。

 

 

「そう言えば、泊まるところはどうしようか?」

 

「ミュウの恩人ですし、良ければ我が家にどうぞ」

 

「賛成なのー! ママ、ハジメお兄ちゃん達のお話はすっごいのー!」

 

「これでは断れぬのう、ハジメ?」

 

「あはは、よろしくお願いします……」

 




大迷宮への行き方を、BWおよびBW2の海底遺跡と、劇場版でのアクーシャへの行き方とに分けました。


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迷宮へ続く島

お待たせしました!
ポケモンSVがもうそろそろ発売になりますね。その間にも、ナンジャモちゃんと言うこれまた人気になりそうなキャラが出てきたり、新ポケモンが発表されたりと、ますます楽しみになってきました。


 海の大迷宮の情報を聞いたその日、ハジメ達はレミアの家に泊めてもらう事になった。いきなりの大人数で迷惑かとも思ったが、レミアは「娘の恩人ですから、おもてなしさせてください」と折れなかった。

 そう言うことで、彼女の厚意に甘えて一夜を過ごしたのだが……。

 

「ハジメお兄ちゃんと香織お姉ちゃんは、どうして裸で寝てたの?」

 

「「っ!?」」

 

 朝。寝ぼけ眼を洗顔でスッキリしてから朝食の卓に並んだ瞬間、ミュウから爆弾を投下された。驚きのあまりパンを詰まらせそうになるバカップル。幸利は呆れていた。

 

「お前ら……」

 

「ミ、ミュウ? どうしてそんな事聞くのかな?」

 

「朝起こしに行ったら、2人とも裸で寝てたの~。ペチペチしてても起きなかったから、ママに『寝かせてあげなさい』って言われたの」

 

「起こしに来てたんだ……」

 

「しかもレミアさんにも見られた訳だよね……?」

 

 2人が家主を見ると、「あらあらうふふ」と笑みを浮かべていた。その視線は若者を見守るような優しい純粋なもので、2人は却って申し訳なく思った。

 

「もう! ラブラブなのは良いですけど、ミュウちゃんの教育に悪いですよ!」

 

「自重するべき」

 

 シアとユエにも言われては、縮こまる事しか出来ない。2人は小声で「すみません……」と謝るのだった。

 

 

 

 

 

 ハジメ達は長老の案内のもと、そこそこの大きさの船に乗って、迷宮への入り口に繋がる島へと向かっていた。その船を先導するのは、海を跳び跳ねながら泳ぐマナフィである。

 

「マナフィ、楽しそうなの!」

 

「きっと、自分の故郷の海だと本能が知っておるのかもしれんな」

 

 ティオの膝に乗る形ではしゃぐミュウに、微笑む視線を向けるハジメ。だがその笑みの真意を、香織は悟った。

 

「……ミュウちゃんに言わなくて良いの?」

 

「今言ったら、きっとミュウは泣いちゃうよ。少しでも長く過ごさせたいけど……」

 

「その分、別れが辛くなっちゃうよ」

 

「分かってるよ。だから、どうすれば良いか迷ってるんじゃないか……」

 

 メルジーネ大迷宮(海人族たちはアクーシャと呼ぶ)にたどり着き試練を達成すれば、マナフィが案内人となる役目は終わる。その後は海のポケモン達のリーダーとして、大海に残るだろう。

 そうなれば、ミュウはマナフィと別れなければならない。姉弟のように触れあってきた2人には、とても辛いものとなるだろう。

 その現実を告げることが出来ず、ここまで引っ張ってきてしまった。

 

「(中途半端な優しさは、残酷な牙になってしまうんだな……)」

 

 ハジメは自分の失敗を激しく後悔しながら、島への到着を待つのだった。

 

 

 

 

 

 夜。日が沈み、月が見えている。

 

「皆既月食が始まるの」

 

 皆既月食の影響で、夜空が徐々に赤くなっていく。それと同時に、目の前に無かった筈の島がその輪郭を露にしていく。

 

「あそこが、儂らのご先祖様が口伝のみで伝えてきた島。アクーシャへの入り口じゃ」

 

 長老は、人間に教えるのは初めてじゃと言いながらも、船を島へと近付ける。

 

「ミュウ。お前さんは……」

 

「マナフィと一緒に行くの!」

 

「うぅむ……ハジメ殿。マナフィと彼女を無理には離せぬ。どうか……」

 

「分かりました。ミュウを守ることを優先にしますから」

 

 長老には残ってもらい、ハジメ達は森の奥へと進む。鬱蒼としたジャングルだが、川を泳ぐマナフィを追いながら進むに連れて、蔦と苔に覆われた遺跡が見えてきた。

 

「……行こう。ミュウ、僕たちから離れないようにするんだよ」

 

「は、はいなの」

 

 そうして遺跡の中へと進んでいく。遺跡内はオルクス大迷宮と同じ緑光石によって明るくなっており、暗闇で転ぶと言った心配は無かった。

 その進んだ先。そこはまるで地球の大聖堂のように高い天井になっていて、見上げた先には神話と思われる絵が描いてある。

 

「なんだ、こりゃ……」

 

 何千年も時が経ってるとは思えない程の鮮やかな天井絵。全員の感嘆を幸利が代弁する。

 

「見て下さい、右側の絵! あの赤い生き物、グリューエン火山の奥にあった石像に似てます!」

 

 シアが指をさしたのは、激しく噴火する火山とそれよりも大きなグラードンの絵。

 

「青いシャチ……?」

 

 ユエが呟いたのは、グラードンとは正反対の位置にある青を主体とした絵。巨大な波と共に描かれたそのポケモンは、知らない者が見ればシャチと思うかもしれない。

 

「ハジメ君。あのポケモンについて知ってる?」

 

「うん。あのポケモンは、カイオーガ。グリューエン火山にいたグラードンと対を成す、海の化身だよ」

 

「てことは、メルジーネ大迷宮にはこのポケモンの石像があるってことなんだね」

 

「ねぇねぇ、みんな! こっちに大きな扉があるの!」

 

 ミュウの声で大聖堂の奥へと視線を戻すと、そこには魔方陣らしき物が書かれた巨大な扉があった。マナフィはその扉をじっと見つめている。

 

「この扉、大きいだけならユエのゴルーグで開けられそうだけど……」

 

「魔方陣があるってのが、何か仕掛けがありそうだよな」

 

「……ところで、マナフィはどうしてずっと扉を見てるんでしょう?」

 

 全員がマナフィを見ると、そっと彼は目を閉じた。

 

「~♪♪♪~~♪~♪♪」

 

『……♪……♪♪♪……♪………』

 

「わぁ、歌が聞こえるのぉ~」

 

「遺跡が歌ってる……!」

 

「マナフィの歌声に共鳴してるんだ……!」

 

 その瞬間、魔方陣が青く光りながら扉はゆっくりと開かれる。扉の奥は青白く光っており、中の様子は伺えない。

 

「……行こう!」

 

 全員が頷き、扉の中へと入っていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「(あの天井絵……あの緑色のポケモンは、妾の考えが正しければ……)」

 




今回の話にあった天井絵を見るシーン、ポケモン金銀またはハートゴールド・ソウルシルバーの、アルフの遺跡の内部BGMを脳内で流しながら書きました。

次回はいよいよ、メルジーネ大迷宮。
いよいよ、アルセウスとエヒトの真実が明かされます……!


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メルジーネ大迷宮(前編)

区切りの良さを考えて、原作のあの胸糞シーン(個人的感想)までにしました。


 メルジーネ大迷宮。海底遺跡とも海の神殿とも言えるその場所は、入り口のやや暗めな雰囲気とはうって変わって、透明な海中を映す神秘的な光景をハジメ達に見せていた。ラブカスが群れとなって泳ぎ、ネオラントが水面から差し込む月の光を反射して輝く。サシカマスがその鋭いフォルムに違わず勢いよく泳ぐのを、ヨワシたちは逃げ惑う。

 まるで水族館のチューブの中を歩いているような、試練とは思えない程の美しさ。感動している彼らの目の前を、ホエルオーが通り過ぎた。

 

「ひゃあぁぁぁぁ!?」

 

「シア、驚きすぎ。でも大きい……凄い……!」

 

「現実で見ると圧巻だな……!」

 

 ミュウも目を輝かせながら歩いている。一方のマナフィは、言葉にするなら「ほえ~……」と言いそうな表情で、海のポケモン達を見ていた。

 

 だが、その美しい光景もだんだんと暗くなっていく。カラフルなポケモン達の姿は消え、魔法によって寄せ付けていないのか、ハンテールのような深海のポケモンすら姿が見えなくなってきた。

 

「まさか、このまま海底まで歩き続けるとか無いよね?」

 

「今まで戦い続きじゃから、こう言った異色な試練は戸惑うのぉ……」

 

「……待ってみんな。何かある」

 

 チューブが終わると、ドーム状となっている広場へ来た。中央には、相当昔の物であろう沈没船が鎮座している。その沈没船を挟んだ向こう側に、扉があるのだがハジメ達には見えていない。

 

「行き止まりなの?」

 

「いや、火山の迷宮のパターンを考えると、何かある……!」

 

 

――あなた達は知るべきよ。偽りの神がもたらす惨劇を。

 

 

 その瞬間、広場の床全面を使用した魔方陣が展開され、眩い光を放つ。

 

「香織、ミュウ、みんな!」

 

 目の前が真っ白になっていく。

 

 

 

 

 

 

 ハジメが目を開けると、そこは甲板だった。空の暗さからして夜であり、何かしらのお祝いのような雰囲気であった。

 

「ハジメ君、ここって……」

 

「あの沈没船が、沈む前の時代かな……」

 

 地面に足を着けている感じがしない。自分達は過去の出来事を観ているのだと、ハジメは悟った。

 会話を盗み聞きしてみると、このパーティーは終戦を記念したパーティーだと言う。魔人族に亜人族、そして人間族。侮蔑し合う筈の種族が一堂に会し、談笑するのはまさに奇跡の光景だった。

 

「こんな時代があったのか……」

 

「先人達の偉大さ、ですね!」

 

「楽しそうなの~!」

 

 幸利やシア、ミュウは微笑んでいたが、それに違和感を覚えたのはティオとユエだ。

 和平条約を結んだならば、何故いまは戦争が続いているのか?

 

 思い付くのは2つ。何処かの代で条約が反故にされたか…………()()()()()()()()()()()()()()()()か、だ。

 

「ティオ、ミュウの目を隠して、耳も塞いで!」

 

「了解じゃ!!」

 

「みんなも見ない方が良い! トラウマになる!」

 

 しかし、ミュウへの対応は迅速であったが、ハジメ達への対策は一歩遅かった。

 

 人間の国王が「この和平が愚かであった」と告げた瞬間、魔人族の王が人間の兵士に殺された。困惑する亜人族、魔人族に人間達は次々と剣で、槍で殺していく。

 エヒトへの賛辞を叫びながら、狂ったように笑う王。ハジメ達の顔が青ざめた。

 

「な、なん、なんで、どうして……!」

 

「さっきまで平和を喜んでたのに! 何でそんなことが出来るの!?」

 

「これが、これがエヒトが俺たちにやらせようとしてた事だってのかよ!」

 

「酷い……酷すぎます、こんなの! 何で皆が積み上げてきたのを、こんな簡単に……!」

 

 血の臭いはしない。逃げ惑う者も、殺す者も、自分達の体をすり抜けていく。だがその断末魔は、狂った賛辞は、鼓膜にこびりついたままだった……。

 

 

 

 

 

 気付けば、周りは先ほどまで居た広場に戻っていた。だが戻った瞬間、ハジメ、香織、幸利、シアは先程までの残酷な光景に耐えられず、吐いてしまった。

 ユエはかつて一国の王であったこと、ティオはその長い寿命ゆえに死と言うものを見てきたから耐性はある。だがそれでも、先ほどの光景は2人を不快にさせるには十分だった。

 

「う、ううっ、ううっ……!」

 

「酷い……酷いよ、こんなの……!」

 

 シアと香織は吐きながら泣く。

 

「胸糞すぎんだろ、クソが……!」

 

 幸利は口を拭いながら舌打ちした。そしてハジメは……。

 

 

 

「クズが…………クズが…………クズがぁぁぁぁ!!

 

 

 

 今までに無い叫び。普段のハジメなら絶対に言わないであろう言葉だった。

 

「人々を争わせて、ポケモンを迫害して、平和を掴んだと思ったら叩き壊す! それがアルセウスの力を使ってやることかぁぁぁ!!」

 

 ハジメの中で怒りの炎が燃え上がる。その叫びは、ティオですら唖然とするほどの圧を放っていた。

 叫び終えると、ハジメは肩で息をしながら黙り込む。

 

「スゥー………! ハァー…………!」

 

 そうして大きな深呼吸を繰り返すと、ハジメの怒りの圧が鎮まった。

 

「……行こう、みんな。エヒトを許しちゃいけない。奴を倒すためにも、プレートを集めなきゃ」

 

 その言葉に、全員が大きく頷いた。




次回こそ、アルセウスとエヒトの真実を明らかにします……!


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敗北の真相

評価バーが赤色になってるし、お気に入り登録者数も600人超え……!? 本当にありがとうございます!

ところで、いよいよ本日、ポケモンSV発売ですね!
私ですか? 新卒研修があるらしく、これを投稿後に休日出勤です。


 偽神エヒトのもたらす惨劇。それを見てしまったハジメ達は、完全とはいかないものの顔色は戻ってきていた。

 沈没船のある広場を出て、チューブの中を歩く。だがそこまで時間は掛からず、すぐに別の広場へと抜けた。

 

「わぁ……!」

 

 ミュウが思わず感嘆の声を上げる。それもそうだろう。先程までの暗く禍々しい空気から一転して、まさに聖域と呼ぶに相応しい神秘的な光景が広がっていたのだから。

 

 壁や天井には、何で出来ているか分からないが光を放つ物体が一定間隔で設置されており、まるで広場全体がシャンデリアのような明るさに包まれていた。

 床の方は、所々に水路が掘られている。源流は分からないがサラサラと聞こえる流水の音は、精神が疲弊したハジメ達に癒しとなった。

 そして広場の中央には、青いクリスタルが幾つも刺さった物……まるで王冠のような物が鎮座している。

 

「(あれはまさか、海の王冠! それにこの水路、変な掘られ方してるなと思ったけど……よく見るとカイオーガの体にある赤線の紋様だ!)」

 

 ティオやシアは、その海の王冠の放つ魔力に唖然としていた。

 

「何て魔力……! アーティファクトなんてレベルじゃない。神器に匹敵するかも!」

 

「恐らくは、この迷宮の核を担っているのやもしれんな……」

 

 海の王冠の前には、小さな台があった。その上には青い色をしたプレートが祀られている。

 

「ハジメ。プレートだぜ」

 

「うん。今取るよ」

 

 慎重に近付き、そっと手を伸ばすハジメ。その指先がプレートに触れた途端、再び光が放たれた。

 

「今度はなん……!」

 

 目の前が白く染まっていった。

 

 

 

 

 

 目を開く。周りを見ると、困惑するように周囲を見渡す仲間達がいた。

 ハジメ達が居る場所。そこは、荒れ果てた大地。僅かにしか草が生えず、土と石が目立つ土地であった。

 

「ハジメ君。ここは何処……?」

 

「分かんない。けど、さっきのパターンからするとこれは、プレート自身が過去を見せているのか……?」

 

 その時だ。ゴゴゴゴゴと何かが揺れるような音が聞こえた。

 

「何だ? 地震か?」

 

「景色が揺れておらぬ。違うじゃろう」

 

「え、待ってください。何か空が赤くなってませんか?」

 

「……みんな、上!」

 

 ユエの声で全員が空を見上げると、そこには……。

 

 

 あまりにも巨大な隕石が、この土地へ落ちようとしていた。

 

 

 これにはハジメ達もあんぐりと口を開けるしかない。

 

「ええええええええ!?」

 

「いや、ちょ、デカ過ぎじゃあぁ!」

 

「びええええ! お兄ちゃぁぁぁん!」

 

 ミュウは、隕石と大気の摩擦で赤く染まる空に恐怖して泣き叫ぶ。ハジメが彼女を安心させるように抱き締める。

 その時だ。一筋の光が、隕石へと激突した。

 

「何ですか、アレ……」

 

 シアの呟き。その光は、ただの光ではない。神々しいとはこの事だろう。

 そして隕石を破壊せんと立ち向かうそのポケモンの姿を、誰もが見た。

 

「(あの形……。初めてオルクス大迷宮に行く前に見た夢の中の……)」

 

 香織が思い出すのは、オルクス大迷宮へ初挑戦する前日に夢で見た、謎の光。思わず神様と呟いた存在が、目の前に居た。

 

「アルセウス……!」

 

『ハァァァァァッ!!』

 

 その瞬間、隕石は爆ぜた。それと同時に辺りへと散らばる光。その小さな光がプレートの物だと、ハジメの直感が悟った。

 

「なぁハジメ。あのポケモン、もしかして……」

 

「うん。……アルセウスだ」

 

 創造神自らが迎撃に当たる程の脅威。それ程までに巨大な隕石は粉砕されたが、アルセウスもまた、プレートを失い満身創痍であった。

 それを遠くから見る人間達がいた。その姿は、トータスに召喚された時に見た、教会の天井絵の人物。

 

「エヒト……!」

 

『何と言うパワーだ……。空間転移してきた矢先に、あんな化け物を見るとは……』

 

 エヒトの目はアルセウスを化け物と捉えていた。そんな中エヒトは、周囲に散らばったプレートを見つける。

 

『これは……あの化け物から飛び散ったものか。何と言う力よ……!』

 

 プレートに触れるエヒトの顔は、醜い笑顔となっていく。

 

『これ程の力を持つ化け物を放置しては、私たちに危害が及ぶ。何よりこの力は……高位の魔法を扱える私たちが相応しい。アルヴ!』

 

『はっ!』

 

『このプレートを回収せよ。これ程の力だ。我らをより高位の存在へと昇格させるだろう』

 

『畏まりました! 私にお任せ下さい!』

 

 エヒトは近くに居た人物……アルヴを呼ぶと、プレートを集めるように指示した。だがその時、倒れていたアルセウスがゆっくりと立ち上がった。

 

『待……て……!』

 

『っ! 知性があると言うのか……!』

 

『その力はお前達では扱えぬ……! 不相応な者が強き力を持てば、自身の在り方を失うぞ……!』

 

『獣ごときが何を語るか! 獣は大人しく這いつくばっていろ!』

 

 エヒトが何らかの魔法を放った。プレートを失い大きく弱っていたアルセウスは足がもつれ、倒れてしまう。倒れたアルセウスにエヒトは手をかざす。

 

『お前の力は私が有効に使ってやる! この世界は、私たちの新天地となる!』

 

 アルセウスの真下に魔方陣が展開され、光り輝く。すると徐々にアルセウスが石となっていく。この時、アルセウスの目は怒りの赤色に輝いていた。

 

 

『ならば覚悟しておくが良い! 我が再び目覚めし時が、貴様等の破滅の時だ!!』

 

 

 目の前が再び白く染まっていく。だが、その神の怒りの声は、恐ろしい程のプレッシャーを放っていた。




この作品でのアルセウスの声は、劇場版アルセウスの声を演じた、あの方の声をイメージして頂ければ幸いです。


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別れ

お待たせしました。ポケモンSVは、バイオレットを買いました。御三家はホゲータを選びました。仕事や勉強等で中々進まず、ようやく三つのルートなそれぞれ1つ目をクリアした感じです。まぁ、YouTubeのサムネとかで進化形とかのネタバレ踏んでしまう時がありますが。


 海の迷宮に安置されていたプレートが、迷宮の魔法によって反応し、エヒトとアルセウスの真実が明らかになった。どちらかと言えば、巨大隕石を破壊して弱っていたところを、エヒトがプレートを奪っただけなのだが。

 

 アルセウスの怒りの声を最後に、真っ白になった視界。白から、青と黒の混じる空間へと変異する。

 ハジメが居たのは荒れ狂う海と降り注ぐ大雨の狭間。だが体が濡れないことが、この空間も幻だとハジメに悟らせた。

 

『これが真実だ』

 

 厳かな声と共に現れたのは、まるでシャチのような生き物。だが幻影とはいえそのプレッシャーは大きい。

 この者の名はカイオーガ。それも、ゲンシカイキをした姿である。

 

「カイオーガ……!」

 

『む……。貴様、陸の奴からも……。まぁ良い。神の欠片を集めし者よ。陸の奴から聞いているな。偽りの神によって縛られし三神。彼らは怒りに染まりつつある』

 

「ディアルガ、パルキア、ギラティナの事だね。だけど……あの映像の中だとアルセウスも怒っていた。グラードンは、アルセウスの声で三神は落ち着くって言っていたけど……」

 

『心配は要らぬ。人間、お前の行動を真なる神は見ている』

 

「え?」

 

『お前が集めしプレート。それは神の力の欠片であり、神の端末。お前が誠意ある行動を見せれば、今は動けぬ真なる神もまた、生命への慈愛を取り戻すであろう』

 

「僕の行動が……」

 

『お前が抱く、この星に生きる者達への信頼。私も、そして癪だが陸の奴も、その心を認めている。ありのままのお前で振る舞え』

 

 また目の前が白くなっていく。ハジメはカイオーガの言葉に、大きく頷いた。

 

 

 ハジメは しずくのプレート を手に入れた!

 

 

 プレートによる光が収まると、ハジメ達は迷宮の入り口へと戻っていた。どうやら迷宮の創設者であるメルジーネは、プレートを手に入れた後は自動的に地上へ送還する魔法を仕組んでいたらしい。

 

「おぉ、ハジメ殿! ご無事でしたかな」

 

「はい。無事に迷宮の奥に眠る物も、手に入れられましたよ」

 

「なんと……。ほほ、それでは戻りますかの」

 

 海人族の族長が漕ぐ舟へと乗り込んだハジメ達。島からゆっくりと離れていくが、それと共に島の輪郭もぼやけていく。

 

「ハジメ君。島が……消えていくよ」

 

「空が明るくなり始めてる。皆既月食が終わったから、結界がまた発動したのかもしれない」

 

「次の皆既月食まで、また誰の目にも映らなくなる……。まさに幻の島、だな」

 

 香織、ハジメ、幸利が話す中、波の音と共にその島は消えていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 エリセンへと戻ってきたハジメ達。肉体が時間感覚を取り戻したのか、どっと疲れが押し寄せ、眠気が出てくる。

 

「ふわぁ、眠くなってきました……」

 

「少し休んでから、次の目的地へ行く?」

 

「そうしようかのぉ」

 

 シアやユエ、ティオが眠そうに目を擦る。それは幼いミュウも同様であった。

 

「んみゅ、マナフィも一緒に寝るの~」

 

 だが、マナフィは寂しそうな顔をして桟橋から動かない。

 

「……マナフィ?」

 

「…………ミュウ。よく、聞いてほしいんだ」

 

 ハジメは決心し、ミュウに教える。マナフィは大迷宮へたどり着いた事で、海の王子として海へ帰らなければならないことを。

 

 つまり……ミュウと別れなければならないことを。

 

 その事を告げられたミュウは、最初こそキョトンとしていたが、話をゆっくりと理解していき……目に大粒の涙を溜めながらマナフィを抱き締めた。

 

「やあー! マナフィと一緒にいるの! お別れなんて嫌なのぉー!」

 

「ミュウ……。気持ちは分かるけれど、マナフィは海のポケモン達のリーダーになるんだ。その為にも、海で修行しないといけないんだよ」

 

「嫌なの! ミュウはマナフィとずっと一緒なの!」

 

 マナフィを抱き締め、首を大きく横に振って拒否するミュウ。ハジメとしても心が痛いが、今まで黙ってたことへのツケだとして受け止めていた。

 

「ミュウちゃん」

 

 そこへ香織が近付いた。ミュウと目線を合わせるようにしゃがむ。

 

「……香織お姉ちゃんも、マナフィを海に返しちゃうの?」

 

「……私もハジメ君と同じ考え。だけどね? ミュウちゃんに、これだけは覚えていて欲しいの」

 

「?」

 

 ミュウは泣きながらも、しっかりと香織を見つめる。

 

「マナフィは、ミュウちゃんや私達と旅したことを、忘れないよ」

 

「……本当?」

 

「とっても仲良しだったんだもん。思い出として、絶対に忘れないよ」

 

 ミュウがマナフィの顔を見つめる。マナフィも別れを察して少し涙が出ていたが、ミュウを泣かせまいと笑顔だった。その時、マナフィは頭の触手のような物をミュウの額にくっ付けた。そこから赤い光が発せられる。

 

 

『ミ、ウ』

 

 

 不思議な声がミュウの頭の中に響いた。舌足らずだが、確かにミュウと呼んだ。

 

「マナフィ……?」

 

『ミウ、オモイデ。ボク、ワスレナイ』

 

「……っ!」

 

 今度は嬉しそうに抱き締める。その後、そっとマナフィを下ろした。

 

「ミュウも忘れないの。私達、仲良しなの!」

 

「マナァ!」

 

 マナフィが軽く跳ねて、ミュウとハイタッチをする。そして少し名残惜しそうな顔をするが、マナフィは桟橋から海へと飛び込んでいった。

 

「……バイバイなのー!」

 

 マナフィは何度も水面から飛び出すようにジャンプしながら、遠くへと去っていった。

 

 




とうとう、ミュウとマナフィがお別れしました。次回は、原作だと異端認定される辺りになるかもしれません。
更新は相変わらず遅いですが、次回もお待ちください。


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再会の約束

何だかんだで、ポケモンバイオレットの方は、ジムもヌシもスター団も残すところ1つになってました。こんなにポケモンってサクサク進むものだったっけ……?


 ミュウとマナフィが別れたその日の夜。ミュウがレミアに連れられて寝室へと向かった後、ハジメは今後の予定について話し合っていた。

 

「……明日には、ここを発とうと思うんだ」

 

「アルセウスが生み出した他の神様達が怒ってるんだもんね……」

 

「時間、空間、反物質の神か。そんな連中が怒り狂ってこの世界に現れたら、滅亡すら生温そうだな……」

 

 ミュウが寝た後にハジメが語ったのは、グラードンとカイオーガから告げられた『三神の怒り』についてだった。地球に居た頃からポケモンについて教えてもらっていた香織と幸利は顔を青ざめ、ユエとシアとティオのトータス組はアルセウスの神話を改めて教えられた事で、同様に顔が青くなった。

 ハジメ達の優先事項は、プレートを集めてアルセウスを蘇らせ、三神の怒りを落ち着かせること。だからこそプレートの眠る大迷宮へと急がなければならない。

 

「でもハジメさん。ミュウちゃんは、どうするんですか……?」

 

「…………僕は、母親と一緒に居た方が良いと思うんだ」

 

「そもそも、ミュウを連れていた理由は母親に会わせることじゃったからのぉ」

 

「つまり、ミュウとはお別れ……?」

 

 ユエだけでなく、シアもティオも、彼女の事を妹のように思って可愛がっていたため、寂しそうな顔をする。

 だがトータス3人組は皆、家族との離別というものを経験している。だからこそ、ミュウには母親と共に暮らした方が良いと思ってもいるのだ。

 

「僕だって辛いよ。けど、ここから先はもっと険しくなる。そこにミュウを巻き込むわけには、そしてレミアさんを悲しませる訳にはいかない」

 

 それに同意できるのか、全員が俯いて黙り込んでしまった。

 

 

「………………」

 

 

 そしてドアの隙間からその様子を見ていた影は、トテトテと寝室へ戻っていった。

 

 

 

 

 

 翌朝。エリセンの門で、レミアとミュウとハジメ達は向かい合っていた。

 

「ごめんなさい、ハジメさん。今日出発することを聞いてしまったみたいで……」

 

「聞かれちゃってたかぁ……」

 

 ハジメの足にしがみつき、離れようとしないミュウ。レミアは申し訳なさそうにしているが、ハジメの方はそこまで気にしていなかった。昨日に続いて今日も別れがあると寂しく思うのは、仕方の無いことだからだ。

 

「ミュウ……君はお母さんと一緒に……」

 

「また会えるの……」

 

「っ!」

 

「ミュウは、ハジメお兄ちゃん達の事を忘れないの! ずっと、ずーっと思い出なの!」

 

「ミュウ……!」

 

「だから……また……会えるのぉ……!」

 

 大粒の涙を流すミュウに、ハジメも涙を流しながら抱き締める。レミアや香織たちも涙を流しており、幸利に至っては片手で自分の目を覆いながら上を向くも、溢れる涙を止められない。

 

「やる事が終わったら……絶対に来るからね、ミュウ!」

 

「約束なの!」

 

 2人は指切りげんまんをする。終わった後も強く指は結んだままだったが、やがてゆっくりと離した。2人の距離もだんだんと離れていく。

 

「いってらっしゃいなのー!」

 

「っ! 行ってきます、ミュウ!」

 

 目尻に涙がまだ残ってるが、笑顔で大きく手を振って見送るミュウ。ハジメ達も手を振りながら、来た道を戻るようにアンカジ公国へと向かっていった。




ミュウとも別れ、歩き始めるハジメ達。次回はちょっとした閑話を投稿予定です。


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閑話:目覚め

ポケモンSVでエクスレッグを見た作者の反応
「マメバッタ……お前、立つんか……」


 『それ』は、ただ眠りについているだけだった。

 自身が司るものは、生きる物全てが背負う宿命。だからこそ流れに任せ、目が覚めたなら『死』を振る舞い、眠る時が来たならば大人しく眠る。

 それが彼……破壊の繭(イベルタル)のポリシーであり、譲れないものであった。

 

――何だ……?

 

 ふと訪れた違和感が、彼の微睡みを妨害する。自身が目覚めるのは、『対となるアイツ』や『調停者』が目覚めた時だ。だがその2体の気配を感じない。ならば何故自分は目覚めかけているのだろうか。

 

――命が、俺に注がれている……?

 

 感じるのは、自身の技によって他者の命が吸われた時。己の身に満たされていくあの感覚だ。

 

――だが俺は何もしていない。

 

 つまり、自分は何者かによって起こされている。その事をイベルタルは悟った。

 

「ギュオオオオオオン!!」

 

 自身を包む繭を破り、その下手人を探す。だが飛ぶ手間が省けた。目の前にいる2本足の生き物。そこから邪な感情を察した。

 

「ついに目覚めたか破壊の繭よ! 喜べ! 貴様は我らが神、アルヴ様の御意志で選ばれたのだ!」

 

――選ばれた、だと?

 

「さぁ、この鎖に従え! そして忌々しき人間を滅ぼすのだ!」

 

 2本足が取り出した赤い鎖。それがイベルタルに巻き付いた。無理やり流される未知の力。そこから、3匹の生き物の姿が見えた気がした。

 

《止まって!》

 

――む?

 

 イベルタルの脳内に響く声。それは彼に興味を抱かせた。

 

《私はユクシー。知識を司るもの。どうかこの声が届いていたら、聞いてほしい》

 

 イベルタルの脳内に、映像が流れ込む。エヒトがアルセウスの力を奪い、神の座を盗んでいる事。そして長きに渡る戦争と文明の崩壊。それを見て悦に浸るエヒト達。

 

――不敬な。

 

 自然の流れに任せず、意図的に崩壊を引き起こすエヒト達の所業に、そして今、その端末として自分が目覚めさせられた事にイベルタルは憤りを覚えた。

 

《私の名はエムリット。貴方はこれを見て、何を思う?》

 

――なるほど、これが怒りと言うものか。

 

《私の名はアグノム。知識を得た。感情を覚えた。2つを得て貴方は何をする?》

 

――その不敬者に天誅を!

 

 イベルタルは一気に力を解放する。

 

「ギュルァァァァァァン!!」

 

 パキン、と音を立てて赤い鎖は粉々に砕かれる。

 

「ば、馬鹿な!? 神の鎖が砕かれるだと!? 魔物風情が神に逆らうか!」

 

 2本足の生き物……フリードは戸惑い、声を荒げる。

 無理やり作らされた赤い鎖。それを通じてフリードを見ていたエムリットは、ため息をつく。

 

《当たり前よ。死と破壊の化身を、不完全なそれで繋ぎ止められるわけがない》

 

 アグノムは語る。

 

《だけどもフリード。貴方も被害者》

 

 ユクシーは告げる。

 

《今の貴方は偽神の傀儡。目が覚めた時に、()()()()()に戻っている》

 

 フリードが最期に見たもの。それは、赤黒い光線が自身に迫る光景だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 目の前のものを吸い尽くしたイベルタル。だが、自身を目覚めさせようとした黒幕を討たねば、彼の気は済まない。

 

――あそこに居るのか。

 

 彼が顔を向けた先。脳内の映像から感じた気配を、はるか北から感じた。

 気配を感じたイベルタルは、すぐに翼を羽ばたかせて、ハイリヒ王国へと飛んで行った。

 

 

 イベルタルの“デスウイング”によって、灰色と化した魔国ガーランド。そこに建てられていた神殿の最奥から3匹のポケモンが飛び出した。

 

《行きましょう。エムリット、アグノム》

 

《えぇ。イベルタルのお陰で、私たちを縛っていた術式も壊された》

 

《三神さまの怒りを、少しでも静めねば》

 

 そうして3匹はその場から、一瞬で姿を消した。




とうとう、イベルタル復活。しかしそのドサクサで、かの3匹も逃げ出したようです。


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敵対宣言

ポケモンSVをプレイしてた作者
「タマンチュラの進化形って何だろう? アリアドスとかデンチュラみたくなるのかなぁ」

ワナイダーを見た作者
「お前も立つんかい!」


 ミュウと別れて数日。再びグリューエン砂漠へと戻ってきたハジメ達は、少しでも早めに迷宮の手掛かりを手に入れようと急いでいた。ハジメと香織はサイホーン、シアはアブソルで砂地を駆け抜け、ティオと幸利はユエのゴルーグに乗せてもらい低空飛行している。

 

「もう少しでアンカジ公国だ。今夜はそこの宿を取って、一休みしよう」

 

 ポケモンの侵入を拒むためか、高い防壁が築かれている。それがアンカジに近づいていると言う目印になっていた。ハジメの言葉に全員が頷くと、途中でポケモン達をボールに戻して、正門へと歩いていった。

 

 そうして門番にステータスプレートを見せたハジメだが、それを見た門番は驚いた顔をしながらも告げる。

 

「ナグモ御一行さまですか! 領主さまより、もし再び来たらご案内するようにと命を受けております」

 

「僕たちを?」

 

「はい。お見せしたい物がある、とのことです」

 

 ハジメは首を傾げるが、領主であるランズィからの呼び掛けに応じない訳にはいかない。門番の案内に従い、一行は宮殿へと向かうことにした。

 

 

 

 

 

 案内を終えた門番がハジメ達に一礼して去っていくと、ある青年の姿が見えた。

 

「ハジメ殿!」

 

「ビィズさん!」

 

 領主の息子であるビィズが、ハジメを見るなり嬉しそうな顔で駆け寄り握手してきた。いきなり握手された事よりも、満面の笑みを浮かべている事への戸惑いが大きくなる。

 

「どうしたんですか、そんなに笑顔で」

 

「これを見てくれ!」

 

 ビィズが見せたのは、上半分の赤色と下半分の薄茶色で彩られた球体。あまりにも見慣れている『ソレ』にハジメは目を見開いた。

 

「それって……モンスターボール! 完成したんですか!?」

 

「あぁ! 君が教えてくれた作り方を、アンカジの錬成師たちも再現しようと研究し、ついに実現できたのさ!」

 

「まだ1ヶ月も経ってないのに……」

 

「物作りには、他国より一日の長があると私たちは自負しているよ」

 

 あまりにも早いモンスターボールの完成に、ユエとシア、ティオも唖然とする。

 彼の握るボールの中には、相棒であるフライゴンが入っているのだろう。機嫌が良いのは、ボールを常に身につける事で相棒と共に居れることへの嬉しさが滲み出ているのかもしれない。

 

「やはり話し込んでいたか」

 

「あ、ランズィさん」

 

 呆れたような、しかし気持ちは分かると言わんばかりの苦笑を浮かべていた。どうやら、ハジメ達が来たと報せを受けたビィズが、待ちきれないと言わんばかりに執務室を飛び出し、ランズィはその後を追っていたようだ。

 

「ハジメ殿、改めてお礼を。貴殿がモンスターボールの作り方を教えてくれたお陰で、息子だけでなく、近衛の者達も安心してポケモンと傍に居る事が出来るようになった」

 

「いえ。僕はあくまで作り方を教えただけですし、実現できたのはアンカジの錬成師さん達や、材料を仕入れてくれたランズィさん達のお陰ですよ」

 

 謙虚に行こうとしていたハジメだが、そこへ幸利が彼の肩を叩きながら言った。

 

「おいおいハジメ。こう言うのは、お前も誇れば良いんだよ」

 

「うん。作り方を教えただけって言ってるけど、ハジメが作るきっかけを与えてなかったら、この国はずっと教会に怯えていた。ハジメは誇って良い」

 

 ユエも幸利の言葉に頷く。ハジメは戸惑いながら仲間達に顔を向けると、香織とシアとティオも、同意見なのか頷いている。

 ハジメはそっと目を瞑り、小さく頷く。そして堂々とした顔でランズィへと向き直る。

 

「ありがとうございます。そのお礼、受けとります」

 

「うむ。より良い顔になったな」

 

 更にランズィが言うには、モンスターボールの材料となる茶色ぼんぐりたまいしを大量に確保できたとの事だ。たまいしはアンカジ公国で手に入るし、ぼんぐりは王国から輸入という形になるが、向こうでは価値が殆ど無いために超格安で大量輸入出来たとの事だった。

 材料の多さからして、国民に行き渡るのもそう時間は掛からないだろうとも言われ、ハジメは嬉しさで胸が満たされていた。

 

 

 

 

 

 モンスターボール完成の報告を受けたハジメ達だったが、宿を取ろうとしてる事を話すと、ならオススメを紹介しようとランズィとビィズ自ら案内役をかって出た。

 そうして大通りを歩いていた彼らだったが、前方より公国とは違う装いの兵士達が走ってきた。その不穏な空気に一行は止まる。

 

「あれって、神殿騎士じゃないですか?」

 

 目の良いシアが捉えたのは、兵士達の正体。聖教教会の武装集団が何故こんなところに? 困惑している間に騎士たちはハジメ達を囲む。そして集団の中から白い豪奢な服を着た初老の男が現れた。ただ事ではないと察したランズィが咄嗟に男とハジメの間に入る。

 

「ゼンゲン公、こちらへ。彼らは危険だ」

 

「フォルビン司教、これはどういう事ですかな。彼らが危険? このように剣を向けられるような事を、彼らはしていないのだが?」

 

 ランズィの言葉にフォルビンはふっと鼻で笑う。

 

「彼らは既に、聖教教会より異端認定を受けている。例え犯行に及んでいなくとも、異端者ならばそれだけで重罪だ」

 

「異端認定だと!? 馬鹿な、私は何も聞いていない!」

 

 ランズィとビィズは大きく驚いているが、ハジメは最初こそ動揺したがすぐに落ち着いた。

 

「(ポケモンを連れてる事を天之河辺りが教会にチクったか、それより早く教会に気付かれたか……)」

 

 いずれにせよ、異端認定を受けたということは此処に留まるのは危険だと悟る。

 

「今朝方に発表されたからなぁ。まさか向こうから来るとは、これもエヒト様の思し召しか? くくっ、これで私も中央の上層部に……

 

「(小声で言ってるつもりだろうけど聞こえてるんだよなぁ)」

 

「さて、神敵を討つ時だ。これだけの神殿騎士を相手に耐えられまい。ゼンゲン公よ、邪魔をしてくれるなよ? 貴国とて王国と聖教教会を相手に、事を構えたくあるまい?」

 

 ニヤニヤと笑うフォルビン。見ると、香織たち女性陣に対して邪な気配を感じさせる騎士も居た。

 

「(うん、ぶっ飛ばそう)」

 

 恋人が他の男に変な目で見られるのが気にくわないハジメは、プレートの力を使って騎士達を殴り飛ばそうかと考えていた。だが此処で予想外の言葉が放たれる。

 

「断る」

 

「……何?」

 

「え? ランズィさん……?」

 

 先程まで黙っていたランズィが、フォルビンの前に立ち塞がったのだ。まさか味方されるとは思わずハジメ達は目を丸くする。

 

「我々は彼らに多大な恩がある。それに仇で返すことなど出来ようものか」

 

「き、貴様正気か! 教会に逆らうことがどういう事か、分かっているだろう!」

 

「そもそも、我々アンカジの民は教会にうんざりしてきていたのだよ。砂漠の過酷さも知らぬくせして、やれもっと商品を多くしろだの、出来なければ関税を引き上げるだの……! 王国としての書状ならばともかく、教会が(まつりごと)に深く干渉することは気に入らん!」

 

「貴様ぁ……! 異端者を庇うだけでなく、我ら聖教教会を気に入らんだと! それは我らへの敵対宣言と見て良いのだな!?」

 

「中央に言えるのならば言うが良い! アンカジで作られしインテリアは王国の貴族に浸透し、エリセンの特産品は我々が中継している! 我々の産物でお前たちも得してきたのだろう。それが二度と手に入らなくても良いのか! そもそも、魔人族との戦争にあらゆる物を割いている王国に、この公国と事を構える余裕があるのかね!?」

 

 魔人族は、一人一人が強力な魔法を使ってくる。それ故に数で攻めるしかない王国では、教会の力は強くとも、敵を増やす余裕はないのである。

 そして、事のあらましを聞いていた野次馬たちもランズィの味方に回っており、囲む立場であった神殿騎士たちは、いつの間にかアンカジ国民に囲まれていた。

 

「ぐ、ぬぬ、ぬぬぬぬぬ! 後悔するぞ貴様ら!」

 

 捨て台詞を吐いて退散しようとするフォルビン。神殿騎士達も慌ててついていく。だからハジメは、その背中に対して攻撃することにした。

 

「レディを変な目で見た罰だよ!」

 

 パン!と小気味良い音を立てて両手を合わせる。

 

「錬成!」

 

 がんせきプレートの力により消費魔力が抑えられ、それで水道管を錬成。

 

「水よ!」

 

 瞬時にしずくのプレートの効果の1つを発動。魔力によって地下を流れる水が操られ、その勢いは増していく。

 

「放てぇ!」

 

『『『ギャアァァァァァァァ!?』』』

 

 その瞬間、水道管から凄まじい勢いで水が放たれ、神殿騎士たちとフォルビンは流されていった。

 

「改めて思うと、プレートの力って万能じゃのぉ」

 

「某錬金術師の漫画でこんなシーン見たなぁ……」

 

「水で流されるだけ温情じゃありません?」

 

「うん。こうてつプレートの力とかで殴られるよりマシ」

 

 なお香織は、自分のために怒ってくれたのだと悟り、胸をキュンキュンさせていた。

 




最後のハジメによる放水シーンは、鋼の錬金術師の第一巻にて、汽車を占拠したテロリストに水ぶっかけるシーンを参考にしました。


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救援依頼

とある人物の登場です。


 聖教教会の人間から異端認定を受けたハジメ達。異端扱いされた事はともかく、恋人の香織を邪な目で見た神殿騎士達にキレたハジメは、即席の水道管を錬成して放水することで追い払った。

 だが、ここで思わぬ問題が発生した。水道管を錬成する際に公国の地下水脈と繋げて放水したのだが、それがいけなかった。水が貴重な地で景気よく放った結果、別の箇所では一時的な断水が起きてしまったのである。

 

「申し訳ありませんでしたぁぁ!!」

 

「もう! アンカジでは水は貴重なんだからね! 勝手に魔法で水脈を変えないどくれ!」

 

 そのため、ハジメは断水の起きた地域に顔出しして土下座で謝り倒し、水脈を修復する羽目になったのだった。

 

 

 

 

 

 それから数日後。住人達への謝罪や地下水脈の修復を終えたハジメ達は、アンカジを出発しようとしていた。なお、ずっとそのような事をし続けていた訳ではなく、踊り子の格好をした香織にハジメが前屈みになるといった話もあったのだが、割愛する。

 

「次の行き先は……」

 

 ハジメが地図を広げて行き先を決めようとした、その時だった。

 

「香織!」

 

「ひゃあっ!?」

 

 突如、フードを被った人間が香織に抱きついた。これが男性だったなら、ハジメと幸利がすぐに『正当防衛』として手荒に引き離していたのだが、その人物の声は女性のものだった。

 

「え、嘘。その声……リリィ!?」

 

『『『…………誰?』』』

 

 残念ながら、ハジメはトータスの歪さについて調べるのに夢中で、幸利は檜山達に絡まれないように必死であった為、リリィと呼ばれた女性との接点は薄い。当然ながら、ずっと奈落に封印されていたユエや、フェアベルゲンから出たことのないシア、遠い地で暮らしていたティオも彼女の事を知らない。

 

 香織がリリィと呼んだ女性の本名は、リリアーナ・S・B・ハイリヒ。

 

 ハイリヒ王国の王女である。

 

 

 

 

 

 一行は先程まで泊まっていた宿に戻り、王女であるリリアーナが護衛も連れずにアンカジまで来た理由を尋ねた。

 

「事のきっかけは、ある『悪夢』を見た事でした……」

 

 リリアーナが見た悪夢。それは彼女以外の家族、つまり王族が全員石になっているという内容だった。リリアーナが呆然としていると、どこからか鳥のような魔物が現れて彼女に襲い掛かろうとした所で、夢は終わる。

 

 悪夢は毎日のように続いた。それも、家族から使用人、騎士団、教会関係、ついには国民までもが石に変わってしまう。日に連れて夢の中の規模は大きくなっていき、彼女の精神はガリガリと削れていった。

 さらに、人々が石になる直前の断末魔や恐怖の表情が、彼女の脳内に強く焼き付いてしまい、不眠状態になってしまった。現にハジメ達と向かい合うように座るリリアーナの目の下には、酷い隈が出来ている。

 

「しかし、ある日悪夢の内容が変わりました。私の目の前に『青い目をした影』が現れたのです」

 

 案内をするように何処かへと向かっていく影。その先に、鳥の魔物と戦う他の魔物やハジメ達の姿があったと言う。

 

「その翌日でした。聖教教会が、ハジメさん達を異端認定したのは。その時にウルの町から魔物の襲撃を受けた愛子さんの報告もあったのですが、彼女の抗議もあっさりと却下したのです」

 

 そしてリリアーナは、最悪の事態を告げた。

 

 

「その結果、教会に抗議した愛子さんだけでなく、彼女を護衛していた皆さんも、さらには雫、中村さん、遠藤さんも牢へと連行されました」

 

 

 ハジメ達は一瞬だけその意味が理解できずに硬直し、やや遅れて詰め寄った。

 

「な、何でですか!? どうしてその様な事に!」

 

「イシュタル教皇は、神のご意志に逆らうと言うことは神の使徒ではないからであると言っていました。お父様もそれに強く頷いていて……」

 

 リリアーナも強く抗議した。更にエリヒドには悪夢を見た事も告げ、対策を練ることを奨めるも、敵を見るような目で「くだらない」と切り捨てられた。それでも諦めきれずに提案したが、平手打ちされて終わったと言う。

 

「酷いです! 血の繋がってる娘よりも、教会の方を優先するなんて!」

 

「私の事は良いんです。けれど私は……怖い! 今の王国も、教会も、どうなるか分からない。だけど! このままでは破滅するのは確かです!」

 

 そしてリリアーナは床に座り込み、指先揃えてハジメに頭を下げる。

 

「お願いします! 勝手に召喚し、勝手に戦わせて、それに対して何も言わなかった私ですが……! 身勝手なのは承知です! だけど……助けて下さい…………!」

 

 その彼女の影から、『青い目』が見守っていた。




なお、リリアーナをアンカジまで連れたのは、モットー・ユンケルの商隊です。原作なら賊に襲われてましたが、リリアーナを守る『影』のお陰で無事に国まで着きました。


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閑話:リリアーナの決意

再び閑話、リリアーナ視点のお話です。


 リリアーナが目を覚ますと、そこは廃墟であった。

 

「こ、これは……!?」

 

 辺りを見回す。見慣れた豪奢な部屋ではなく、あるのは瓦礫ばかり。その中にポツポツと点在するのは石像。しかし……。

 

「ひぃっ! お、お父様……!」

 

 その姿は自分の父であった。その顔は何かに恐怖したまま固められたかのような、恐ろしい形相だ。

 

「お母様……。ランデル……」

 

 家族が全員、恐怖しながら石化した光景にリリアーナは絶望する。

 

『ギュオオオオオオン!!』

 

 鳥のような、しかしそうでない様な鳴き声に釣られて空を見上げると……赤と黒の巨大な翼を広げた魔物がいた。魔物はリリアーナを見て、獲物を見つけたと言わんばかりに襲い掛かる。

 

「い、嫌……嫌ぁぁぁぁぁぁ!!」

 

 

 

 

 

「っ! はぁ、はぁ……夢……?」

 

 汗で髪がべったりと張りつき、不快な朝を迎えたリリアーナ。瓦礫の山は無く、見慣れた部屋の中だった。

 

「そう、よね……。あれは悪い夢よ……。夢なのよ……」

 

 だが、彼女のそんな拙い言い聞かせは儚くも無駄となる。

 

 

 

 

 

「(また、この夢……)」

 

 それからもリリアーナは、眠る度に悪夢を見た。

 

 自分に「あれは夢だ」と言い聞かせたその日の夜は、家族だけでなく自分に仕えてくれている使用人達が石化した夢だった。

 その次の日は、メルド率いる騎士団が石化した。その次の日は国民までもが石化した。

 さらに別の日。今度は石化する瞬間を見てしまった。

 

『助けてくれ! 誰か、誰かァァァ……!』

 

『死にたくない! 私にはまだやることが……!』

 

 誰もが自分に助けを求めようと手を伸ばし、間に合わずに石化する。その光景が脳内から離れない。

 

「(今度は何が石になるの? 全部、全部が石になって、今回は私?)」

 

 だが、目の前に現れたのは石像ではなかった。

 

「あれは……!」

 

 

 漆黒の身体。

 

 白い髪のような頭部と青い目。

 

 風にたなびく赤いマフラーのような物。

 

 

「悪夢の化身……!」

 

 教会の教えの中で、最も忌むべき存在として教えられている、悪夢の化身(ダークライ)と呼ばれる者が、黒く細い足で立っていた。

 

「あなたが……! あなたがこの悪夢を見せているのね!?」

 

『……………………』

 

「何で私にだけこんな物を見せるの! もう止めて! 私は何もしてないのに!」

 

『……………………』

 

 ダークライは何も言わない。リリアーナの睨むような目も、怒りの混じった声も、何も反応しない。ダークライは彼女に背を向けると何処かへ飛んでいく。

 

「待ちなさい!」

 

 リリアーナも追う。ダークライが向かった先、そこに居たのはいつも悪夢の最後に出てくる鳥の魔物。だがいつもと違うのは、その魔物に立ち向かう人たちが居ると言うことだ。

 

「香織……? それにあの2人は確かシミズって人と、香織の恋人のハジメさん……?」

 

 他にも3人の女性もいて、全員が魔物を引き連れて立ち向かっている。

 

『……』

 

「……彼らのもとへ、向かえば良いのね?」

 

『…………』

 

 ダークライは何も応えず、しかしいつもと違い視界は穏やかなまま暗くなっていった。

 

 

 

 

 

 次の日の夜。リリアーナは乱雑にドレスを脱ぎ捨てて、粗末な服に着替えていた。

 

「(おかしい……! 明らかにおかしい! 教会も、お父様も!)」

 

 夢の中でダークライと出会った翌日。聖教教会からの発表があると召集をかけられ、リリアーナも出席した。

 教皇イシュタルからの発表。それは、先日に起きたオルクス大迷宮での魔人族襲撃の際に、生存が判明した南雲ハジメとその一行。彼らを異端者として認定することであった。

 同じ席にいた愛子が抗議をしつつも理由を尋ねると、亜人族と行動を共にしているという時点で、神の使徒として相応しくないという理由が挙げられた。

 異端認定をするには軽すぎるその理由に愛子は抗議を続けたが、神殿騎士達に連行されてしまう。

 

「(あの席に、勇者である光輝さん達は居なかった。彼なら、連行される愛子さんを助けようと抗議するだろうし、教会は反故に出来ない。勇者の願いをねじ曲げたと世間体が悪くなるから。だから愛子さんだけを出席させたのね)」

 

 だがその後、愛子の護衛をしていた優花たちを始めとして、雫や浩介、恵里までもが捕らえられた。この時点で、教会に対するリリアーナの不信は最高となった。

 

「(っ……。お父様……)」

 

 ズキリと、左頬が痛む。今回の教会の暴走にリリアーナは抗議をし、父であり国王でもあるエリヒドに訴えたのだが聞く耳を持たず。挙げ句の果てには「くどい!」と怒鳴られ平手打ちされたのだ。

 

「(この国はもう……駄目なのかもしれない……)」

 

 だが悪夢の中で見た、石化した人々。そこには老若男女の区別は無かった。

 だが教会の暴走で、王族の不始末で、罪なき国民達が死に絶える。そんな結末をリリアーナは認めたくなかった。

 

「(だからこそ、夢の中にいたハジメさん達。彼らを見つけないと!)」

 

 フードを深く被り、粗末だが歩きやすい靴を履き、リリアーナは城から抜け出した。

 

 その後彼女は、冒険者ギルドから情報を聞き出し、ユンケル商会の馬車に乗せてもらい、アンカジへと向かっていく事になる。

 

 

『………………』

 

 

 その様子を、ダークライは文字通り「影から」見守っていた。




次回より、原作でいうならば王都侵攻の部分になります。


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リリアーナと暗黒

非常に遅くなりましたが、明けましておめでとうございます。大晦日に無事ホームウェイをクリアし、元旦から仕事をしておりました。
今回、名前は無いものの今回限りのオリキャラ登場です。


 アンカジ公国にて、ハイリヒ王国王女のリリアーナと再会したハジメ達。彼女が告げた悪夢の内容や聖教教会の強行など、王国がかなり危険な状態にあることが明らかになった。

 友達である遠藤浩介や八重樫雫が捕らわれたと聞いた彼らは、すぐに出発することを決定。全速力で王国へと向かっていたのだった。

 

「リリィさん、風とか大丈夫ですか!?」

 

「はい! 私にはお構い無く!」

 

 速度ならばジェット噴射で飛べるゴルーグが良いのだが、流石に7人も乗せて飛ぶとなるとスピードが落ちてしまう。そこで名乗り出たのがティオだった。

 

『妾の竜化が、このように役に立てるとはの』

 

 竜人族であるティオは、技能によって竜の姿になることが出来る。それによって巨大化することで全員が乗り込めたのである。

 王国の人間であるリリアーナが彼女を忌避しないか心配だったのだが、「国の一大事にそんなことを気にしてられますか!」と答えていた。

 そうしてグリューエン砂漠からハイリヒ王国まで、文字通り飛んできたのだが、流石に飛び続けていると疲れる上に、夕陽が地平線に沈もうとしていた。

 

『流石に、この姿のまま王国に突入するわけにはいかないの。ハジメよ、近くで降りるとするか?』

 

「そうだね。そろそろ暗くなるだろうし、降りてキャンプの準備しなくちゃ」

 

『承知した。ではしっかり掴まっておれ』

 

 こうしてハイリヒ王国の近くに降りたハジメ達は、テントを立てたり、焚き火を起こしたりと準備を始めたのだった。

 

 

 そうして、夜。買い込んでおいた食材をシアと香織が料理し、全員が平らげた後だった。リリアーナがふと呟いた。

 

「私は、今まで魔物……いえポケモンを、悪だと思っていました」

 

 今のキャンプ地には、サイホーンにバサギリにゴルーグ、アブソルにガルーラもモンスターボールから出していた。最初こそ驚いた彼女だったが、美味しそうに夕飯を食べ人間と笑いあっている光景を見て、思うことがあったようだ。

 

「ですがハジメさん達を見ると、とても人間に仇なす存在とは思えないのです。教会の教えがまるで嘘だったかのように……いえ、もしかしたら嘘だらけだったのかもしれません」

 

「…………」

 

 バサギリの石斧の状態を確かめていたハジメは、リリアーナの語りに耳を傾ける。彼女は王族故に滅多に外に出られないのだろう。初めて見る外の世界に、ましてや今まで敵だと思われていたポケモンが人間と仲良く出来ているのを見て、固定観念が崩れてきてるのかもしれない。

 

「……出ておいでよ」

 

「ハジメさん?」

 

 ふとハジメは、暗闇の向こうへ声をかけた。リリアーナだけでなく、香織や清水達も不思議そうにしていたが、その声に応えるように闇から『ソレ』は姿を現した。

 

「………………」

 

「っ! あなたは! どうして!?」

 

 リリアーナが驚いた声を上げるのも無理はない。姿を現したのは、あんこくポケモンのダークライ。リリアーナに悪夢を見せていた張本人だからだ。

 

「ユンケル商会の人たちがトラブルなく公国まで来れたことを、不思議に思ってたんだ。普通なら商会の荷車なんて盗賊からすれば格好の的だし、食料品なら匂いとかでポケモンに狙われる筈なんだもん」

 

「つまり、どう言うことです?」

 

「シア。答えは簡単。あのポケモンが王女さまを守っていたってこと」

 

「そう、なんですか……?」

 

 ユエの言葉を聞いて、リリアーナはダークライに尋ねる。だが彼は何も答えない。

 

「無口な奴なのか?」

 

「でも、何だか格好良いかも。影ながら守っていたなんて」

 

「彼女を守っていた理由は、彼のみぞ知ると言うことかの」

 

 周りが色々と言うなか、ダークライは過去に思いを馳せていた。

 

 

 

 

 

 ダークライの目の前にいる女性。彼女は、遥か昔の『あの娘』にソックリだった。

 

「………………」

 

 今から数百年前の事である。

 

――あら? 不思議なお客様が居たのね。お茶でも如何かしら?

 

 初めて会った時の印象は『不思議な奴』だった。長く生きている彼は、憎しみや恐怖の感情を向けられることに慣れていた。

 だが、『あの娘』は違った。たまたま体を休めていた所を見つかったのだが、彼女はダークライを追い出さなかったのだ。

 

――あなたは優しいのね。教会の教えが嘘みたい。

 

 『あの娘』が成人となった頃のこと。彼女はロズレイドの毒トゲに触れてしまったことがある。花の美しさに惹かれて手を伸ばしたのが原因だった。

 その時ダークライはひどく動揺し、すぐにモモンの実を差し出した。解毒作用のある木の実を食べたことで大事には至らなかったが、その事を強く感謝された。それ程までに、『あの娘』はダークライの印象に強く残ったのだ。悪夢を見せないように離れようとする程には。

 

――あなたに、お願いがあるの……。

 

 ある日、彼女は倒れた。まだ若く、しかし子供を産んで母親となった頃の事だった。それまでは何もなかった筈なのに。

 ベッドの上で荒い呼吸をしながらも、誰もいない所を見計らって現れたダークライに、『あの娘』は手を伸ばした。

 

――私の子孫が危なくなったら……守ってあげて……!

 

 伸ばした手を掴もうとしたが、その前に彼女は事切れた。

 

 

 

 

 

 あれから時は流れた。偽りの神によって繰り返し引き起こされてきた争い。その中で、ダークライは『あの娘』の血筋の者達を守ってきた。

 だが、とうとう状況が変わった。偽りの神が別世界から別の人間を召喚した。そう、ハジメ達が召喚された事によって。一時的とはいえ、大きな空間の揺らぎが起こったのだ。それによって神と呼ばれし数多のポケモン達が、目を覚まし始めたのだ。

 

 だからダークライは、リリアーナに悪夢を見せた。自分では対処しきれない。人間の力も借りなければ、世界が文字通り崩壊するために。

 

「ダークライは、影からずっと守ってきたんじゃないかな」

 

「そう、なんですか?」

 

「…………」

 

「あの、ありがとうございます。夢の中では怒鳴ってしまって、ごめんなさい」

 

 頭を下げるリリアーナ。ダークライにとって謝られる筋合いはない。世界の危機を告げるために悪夢を見せたに過ぎないから。

 

「もし宜しければ……私に、力を貸して頂けないでしょうか」

 

 握手をしようと腕を伸ばすリリアーナ。ダークライはふと、『あの娘』の最期を思い出す。

 

「(約束、ダカラナ)」

 

 ダークライはそっと、その黒い腕で彼女の手を握った。

 




~裏設定 『あの娘』について~
リリアーナの先祖。非常におっとりとした性格で、たまたま城の庭園で休んでいたダークライを追い出さず、そのまま受け入れた。
しかし出産後、ダークライを受け入れていた事が「エヒトの使徒」にバレてしまい、毒を盛られる。最期にダークライに子孫を守ってほしいと託し、この世を去った。


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戦闘開始!

ポケモンSVのDLCが来るとしたら……

・各ルートの記念写真の見返し
・四天王やジムリーダーとのいつでも再戦
・スカーレット/バイオレットブックの伏線回収
・ビワ姉の素顔公開

これらが来て欲しいと願うヨクバリスな私です。勿論、冠の雪原のような新レジ系とか新リージョンポケモン等でも可。
※大事な試験が迫っている関係で、今回は短めです。


 ダークライが仲間になった翌日。ハイリヒ王国を目前にして、ハジメ達は作戦会議をしていた。

 

「王国に入ったら、二手に分かれよう。イベルタルと戦うチームと、浩介達を助けるチームだ」

 

「ならば私は、後者のチームに入ってもよろしいでしょうか? 王族と教会の関係に……終止符を打ちます」

 

「俺もそうさせてもらう。もし頑丈な檻とかだったら、ガルーラの力を借りてぶっ壊せば良いからな」

 

「教会の総本山へ突入すると言うのなら、魔法を扱うものが多く居る筈じゃ。竜化した妾がそ奴らを引き付ければ、救出作戦も楽になるじゃろう」

 

 救出作戦に乗り気なのは、リリアーナと幸利とティオの3人。

 

「私は戦う。……ハジメは、イベルタルと戦うんでしょ?」

 

「私もユエさんと同じです! 戦力は多い方が良いですからね」

 

 ユエとシアは、イベルタルと戦う気満々だった。そして香織も……。

 

「私も2人と同じ。ハジメ君と一緒に戦うよ。相手は伝説のポケモンなんでしょ? なら、回復役が居た方が良いよね」

 

「だけども相手は、簡単に命を吸い取れる力を持っているんだよ? 香織には、八重樫さん達を……」

 

「嫌。……これは私の我が儘かもしれない。だけど、だけどもう、不安な気持ちでハジメ君を待つのは……嫌だよ……!」

 

 イベルタルの力については、ハジメが全員に伝えていた。今までとは比べ物にならない戦いになることを予感していた香織だったが、またハジメが危機に陥るのではないかという不安があったのだ。

 ハジメも当然その事を自覚してはいた。

 

「(だけど、もしイベルタルの“デスウイング”に巻き込まれたら……きっと僕は冷静じゃいられなくなる……!)」

 

 彼もまた、最愛の人を失うのではないかという不安があった。そんな戸惑う彼の背中を押したのは、ユエだった。

 

「ハジメ。信じよう」

 

「ユエ?」

 

「香織の回復魔法が必要なのも事実。それに、救出作戦に向かわせても、ハジメはきっと不安で集中出来なくなる」

 

「うぐ……」

 

「二人一緒なら、きっと上手くいく。勘、だけど」

 

 2人の恋を応援している、ユエを初めとした女性陣。女の勘というものに不思議な説得力があった。

 

「……分かった。行こう」

 

「うん!」

 

 こうして救出チームと戦闘チームに分かれた一行は、互いの健闘を祈りながら走りだした。

 

 

 

 

 

 イベルタルを迎撃する戦闘チームが王国の外壁にたどり着いた時だった。

 

 

『ギュルシャァァァァァァ!!』

 

 

 王国内に響く禍々しい咆哮。この時住人達は一斉に空を見上げ、そして夜空にポツンとある赤黒い一点の光に、本能から恐怖した。

 

 あれは駄目だ。逃げろ。逃げなければ死ぬぞ!

 

 住人たちは恐れ、悲鳴かどうかも分からぬ叫び声を挙げながら走り出す。

 あちこちから聞こえる騒音を背景に、ハジメ達はモンスターボールを構える。

 

「サイホーン!」

 

「ゴルーグ!」

 

「アブソル!」

 

 相棒をそれぞれ出すのだが、イベルタルはその場に滞空しながら神山を見ていた。彼がハイリヒ王国まで飛んできたのは、自分を遊戯の駒にしようとした偽りの神への怒りによるもの。エヒトへ祈りを捧げる聖教教会の総本山に、直感的な嫌悪が生じたのだ。

 

「マズイ! イベルタルの奴、神山の方を見てる!」

 

「あっちには清水君たちが居るのに!」

 

「ゴルーグで飛んで、私の魔法で引き付けてみる!」

 

 

『その必要はありません』

 

 

 ハジメ達の脳内に突如響いた、美しい声。それと共に感じた強大な力に全員が思わず振り返った。

 

 そこに居たのは、青い鹿のような姿。X状の瞳孔に不思議な角。その角はカラフルに光っており、所謂『アクティブモード』になっていた。

 

 イベルタルは対となる存在に気付き、ハジメは驚きと共にそのポケモンの名を呟く。

 

ゼルネアス……!」

 

 

 




次回の更新はかなり後になるかもしれません……。


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vsイベルタル(1)

大変長らくお待たせしました。ようやく一段落着いたので、更新再開です!


 遂に、怒りのイベルタルがハイリヒ王国へとやって来た。迎撃しようとするハジメ達の前に現れたのは、イベルタルと対の存在であるポケモン、ゼルネアス。彼女はハジメ達へと思念を飛ばす。

 

『神の欠片を集めし者達よ』

 

 ゼルネアスとハジメの目が合う。その時、命を司る彼女はハジメの魂を見た瞬間、彼の正体を悟った。

 

『(ッ! この人間……。既に一度、命を終えている。二度目の人生を授かった者ですか)』

 

「えっと……初めまして」

 

『初めまして。私の名はゼルネアス。本来ならばハルツィナの奥地にて、貴方達を待っているところでした』

 

「「「「えっ!?」」」」

 

 なんと、ゼルネアスはハルツィナ樹海にある大迷宮にて、試練を与える存在だったらしい。ところが、事態は急変。あまりにも早いイベルタルの目覚めに、大迷宮から出てきたのだと言う。

 

『先程イベルタルにも思念を送ってみたのですが……拒否されてしまいました。よほど強い怒りに呑まれているのでしょう。……秩序の番人が来るまで、今しばらく掛かります。力を貸して欲しいのです』

 

 イベルタル、ゼルネアスと並んだ以上、秩序の番人と呼ばれる存在にハジメはすぐピンと来た。

 

「元よりそのつもりです! むしろジガルデも来るなら心強い!」

 

「でも、まずは此処から引き離した方が良いかも。見て!」

 

 香織が指さした先。そこには、路地裏に潜んでいたであろうコラッタ等のポケモンが、イベルタルの気配に恐怖し逃げ惑う姿があった。同じく逃げようとしていた人間たちからすれば、街中に突如ポケモンが現れたことになる。それによって酷いパニック状態になっていた。

 

「くっ……! ジガルデが来るまで持ちこたえるんだ!」

 

 今回の件で、王国の人間達はポケモンをより敵視するかもしれない。そう考えると歯軋りしたくなるが、無理やり抑え込んで、イベルタルとの戦いへと思考を切り替えた。

 

 

 

 

 

「サイホーン、“ロックブラスト”!」

 

 ハジメ達を邪魔者とみなしたのか、イベルタルは距離を詰めてくる。そこへサイホーンの“ロックブラスト”が襲い掛かるが、イベルタルは大きく翼を羽ばたかせた。その瞬間に空気の刃が作られ、岩を粉砕する。イベルタルによる“エアスラッシュ”だ。

 

「ゴルーグ、“いわなだれ”!」

 

「アブソル、同じく“いわなだれ”です!」

 

 ユエとシアも指示を出し、イベルタルに攻撃を仕掛ける。流石に上から降り注ぐ岩には対処できなかったのか、打ち落とされそうになる。

 

『グ、ウウ、オオオオオ!!』

 

 だが伝説のポケモンと呼ばれしイベルタルは、只では倒れない。思念からでも伝わる程の強い怒りの咆哮を上げながら一気に高度を取り、そのままドラゴンのエネルギーを纏い、“ドラゴンダイブ”でゴルーグとアブソルに突っ込んできた。

 

『やらせません! ハァッ!!』

 

 ゼルネアスによる“リフレクター”。ゲームでは物理ダメージを軽減する技だが、ゼルネアスが現実で放つと、もはやバリアと言っても良い。5枚貼られたバリアの内2枚が割られたが、何とか攻撃を防ぐことが出来た。

 

「“いわなだれ”だ!」

 

「グオオオオン!!」

 

 ハジメが指示を出し、再びイベルタルに岩が降り注ぐ。だが相手もすぐに反応し、“あくのはどう”を放つことで岩を粉砕。さらに口を開け、赤黒いエネルギーを収束する。

 

「(あれは……まさか!)」

 

『っ! ハァァァ!!』

 

「みんな、私の後ろに隠れて!」

 

 “デスウイング”が放たれた瞬間、ゼルネアスは“ムーンフォース”を発動。相手の攻撃を察した香織は瞬時に結界を展開し、余波からハジメ達を守ろうとする。

 

「(凄いパワー……! だけどあの光線は駄目! あんなのを受けたら、みんなは……!)」

 

 破壊のエネルギーとフェアリーのエネルギーとがぶつかり合い、大きな爆発を起こす。それと同時に香織の結界も破壊され、ハジメ達は吹き飛ばされる。

 

「ぐううっ! 空を飛んでる以上、戦法が縛られる……!」

 

「ハジメ。防壁の上じゃ足場も限られてる。壁から降りよう!」

 

「賛成です! 向こうは私たちに釘付けですし、少しは高度を下げてくれるかもしれません!」

 

 土埃にまみれながらも、すぐに作戦会議を立てるハジメとユエとシア。それを見た香織の胸の中には、劣等感のようなものがあった。

 

「(せめて、もっと癒しの力が強ければ、役に立てるのに……!)」

 

 ハジメ達はすぐに防壁を降りる。イベルタルは逃がさないと言わんばかりに咆哮を上げると、彼らを追った。

 

 




感想にてジガルデの登場を望む声がありましたが、もう暫くお待ちください。
ジガルデが遅いのではありません。怒りによってイベルタルの攻撃が激しいから、場面がどんどん進んじゃうんです……!


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vsイベルタル(2)

職場の人手不足により10時間勤務が増えてきて、「おちごと……ちゅらい……」な状態になりかけてました。

そんな中、ポケモンデイでの発表をリアルタイムで見ました。「ゼロの秘宝」がとても楽しみです!


 城の防壁から降りたハジメ達だったが、イベルタルは彼らの狙い通り追いかけてきた。確実に仕留めるためなのか、防壁での戦いよりも高度は下がっており、技を当てやすくなっている。

 

「ゴルーグ、“そらをとぶ”攻撃!」

 

 ユエの指示を受け、ゴルーグはジェット噴射を開始。まるでスーパーロボットのように飛んで行った。

 

「ユエ!? 一体何を!」

 

「考えがある!」

 

「……信じてるよ! シア、イベルタルを地上に釘付けにするんだ!」

 

「はい! アブソル、“ちょうはつ”です!」

 

「アァァブ!」

 

『グ……! オオオオ!』

 

 “ちょうはつ”を受けたイベルタルは、口にエネルギーを溜める。金色に光るそれを見たシアは、技能である「未来視」によって何が起きるのかを察した。

 

「格闘タイプの技!? アブソル、避けて!」

 

『ガァァァァァァ!!』

 

 イベルタルによる“きあいだま”が放たれるが、シアによる咄嗟の指示で辛うじて避けることが出来た。しかし着弾したその威力は凄まじく、強い爆風がハジメ達を襲う。

 

「くっ、この……!」

 

「香織、無茶はしないで!」

 

「私だって……私だってハジメ君と戦えるんだもん!」

 

 衝撃波から全員を守ろうと結界を貼る香織だが、土壇場で強固な結界を貼っただけあって体力の消耗も激しかった。ハジメは無理をしないように叫ぶが、彼女の顔にはどこか焦りが見られた。

 

「ユエさん! ゴルーグは何処に!?」

 

「今来る!」

 

「ゴォォォォォォォ!!」

 

 上空から猛スピードでイベルタルに迫るゴルーグ。そこへユエが更に指示を出した。

 

「攻撃変更! “ヘビーボンバー”!」

 

 イベルタルの体重は、約203kgである。それに対してゴルーグは約330kg。その体重差は大きい。更に、先ほどまで“そらをとぶ”攻撃によってイベルタルよりも高度を取っており、それが中止されたことで落下状態になっている。

 高い所から重い物が落ちればどうなるか。答えは、すぐに起こった。

 

『グオオオオオオオオ!?』

 

 イベルタルは地面へと勢いよく落とされ、大ダメージを受けた。

 

「よし、狙い通り!」

 

「ナイスだ、ユエ! サイホーン、“メガホーン”!」

 

「アブソル、“じゃれつく”攻撃です!」

 

 それを好機と見たハジメ達は、一斉攻撃を始める。しかし……。

 

 

『偽りの味方をするか、人間』

 

 

 殺気。ハジメがそれを察した瞬間、“あくのはどう”が放たれた。至近距離に居たゴルーグは、先ほどの体重差が嘘のように大きく吹き飛ばされる。

 

「ゴルーグ!?」

 

「ゴ、ル、ル……」

 

 ユエの叫びに立とうとするが、そのまま倒れてしまう。戦闘不能だ。

 更にイベルタルは、その脚でアブソルを掴むと、サイホーンへと投げつける。

 

「アブソル!?」

 

「っ! まずい!」

 

 味方を投げつけられて怯んだ所を、イベルタルは即座に“きあいだま”を発動!

 

「グオオオオオオン!?」

 

「サイホーン!」

 

 煙が晴れると、アブソル、サイホーン共に目を回して戦闘不能になっていた。

 

「嘘だろ……?」

 

「そんな……」

 

 何とかボールに戻すものの、3体のポケモンが一気に倒されてしまうという事態に、ハジメの脳は若干パニックになっていた。

 

 

 

 

 

「バ、バサギリ!」

 

「シャアァァァ!」

 

 あまりにも絶望的なこの状況に、香織はゼルネアスに叫ぶ。

 

「ゼルネアスさん、貴女の力を貸してください! このままじゃ……!」

 

『お待ちください……! 秩序の番人に、ジガルデ・セル達にイベルタルの場所を伝えているのです……!』

 

「そんなことをしてる間に負けちゃうよ!」

 

 香織がハジメ達に目を向ける。

 

『散れぇい!!』

 

「“ゴッドバード”……! 回避して“ステルスロック”!」

 

「バルァァァ!!」

 

「少しでも魔法でダメージを稼げたら……! 『天灼』!」

 

「ハジメさん! 未来視によれば、次は“ぼうふう”が来ます!」

 

 彼らはまだ諦めていない。それを見た彼女の中にある焦りや劣等感は、望みへと変わっていた。

 

「(私はハジメ君のようにポケモンを持ってないし、ユエのように強い魔法を撃てない。シアのように予知なんて出来ない……)」

 

 自分だけいつも後ろ側。それが、先ほどまで彼女の心に影を落としていた。

 

「(私に出来るのは、トータスに来てから得た治癒魔法で、皆を癒すこと。でも今のままじゃ、全然足りない!)」

 

 これから先、過酷な試練や戦いが待っている筈だ。それなのに周りに追い付けていなければ、自分はきっと後悔するだろう。

 

 

「(もっと、もっと癒しの力を!)」

 

 

 その時、ハジメが使っているポーチからある物が飛び出した。

 

「え……?」

 

 それは、かつてウルの町にて豊穣の王バドレックスから託されたもの。

 

『それは、みどりのプレート……!』

 

 ゼルネアスが驚きの声を上げるが、その理由はプレートが飛び出したからでは無い。

 迷宮で見た時の他のプレートとは違い、神々しい光を放っているのだ。

 

「………………!」

 

 香織は迷わず、手に取った。その瞬間!

 

「うあぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」

 

 彼女の体を、激しい雷が襲った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『っ! 強き神の力を感じる。そこに居るのか、ゼルネアス。そして、イベルタル……!』

 

 犬の姿の番人は、駆けつける為に速度を上げた。




ようやく、ようやくジガルデさんを出せます……!


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vsイベルタル(3)

お待たせしました。まさかの6日連続勤務という状況を乗り越えて、ようやく休みを得られました。


 激しい痛みが、香織を襲う。体の内側を変えられているような、すぐにでも地面を転げ回りたい程の激痛だった。

 

「う、ぐううううう!」

 

 体が内側から破裂しそうな感覚で、もはや気合いで立っているような状態であった。

 

「(私の中が変えられていく……! 当たり前にあったものが無くなっていく! けど……!)」

 

 ふと目を開ける。眩い雷の中に佇む、1つの影。

 

「アルセウス……!」

 

 アルセウスは静かに佇み、香織を見つめる。まるで彼女を試すかのように。

 

「私は……約束したもん……! ハジメ君と一緒に行くって……! もう置いてけぼりなんて嫌なの!!」

 

 

――良かろう。

 

 

 アルセウスが、頷いた。

 

 

 

 

 

 雷が止んだ。先ほどまでの神々しい光は、ハジメ達はおろかイベルタルとゼルネアスすらも動きを止める程の眩さであった。

 

「香織……」

 

 ハジメが声をかけると、香織は優しく微笑んだ。髪や目の色が変わるといった、大きな変化は見られ無い。

 

「今、癒すね」

 

 両手の指を絡み合わせ、祈るように目を閉じる。その瞬間、彼女を中心に緑色の光の波が放たれた。

 

「っ! ゴルーグのモンスターボールが!」

 

「アブソルのボールもです! 緑色に光って……!」

 

 ユエとシアが驚いたのも一瞬のこと。モンスターボールに吸い込まれるように緑色の光が収まると、コロンとボールが揺れた。まるで、元気になったよと言わんばかりに。

 

「まさか……回復させたのか? 瀕死状態のポケモン3体を、一瞬で!?」

 

 ハジメですら大声を上げる程の驚き。だがゼルネアスは、命を司る者ゆえに香織の新たな力を察した。

 

『(真なる神よ……。あなたは認めたのですね。癒しの力を持つ彼女を)』

 

 草タイプのプレートが与えたのは、癒しの力。元々香織にその素質はあり、さらにプレートを通じて彼女はアルセウスに認められた。

 その結果、ポケモンの世界で通用する強力な癒しの力を手にしたのである。

 

 彼女が先ほど発動した技能は、「復活の祈り」。

 一部のポケモンが持つ“さいきのいのり”を独自にグレードアップさせた技で、瀕死のポケモンの体力を全回復させると言う効果である。

 

『真なる神の力だと……?』

 

 脳内に響く声。僅かな戸惑いを含む声の正体は、イベルタルであった。ゼルネアスは最初こそ、対話に応じてくれると期待したが、それは一瞬のことだった。

 

『神の力を盗みし輩は貴様らか!!』

 

 その怒りは、イベルタルから冷静な思考を奪ってしまっていた。彼の中では「偽神(エヒト)を信仰する人間は敵」という考え方に固定されてしまっている。

 敵である筈の人間がアルセウスの力を使ったという事象は、「目の前にいる人間がアルセウスの力を盗んだ」という更なる誤解を招いてしまったのである。

 

『イベルタル、いい加減になさい! 彼らは奪ったのではありません! かの神に認められたのです!』

 

『黙れ! 偽神を崇める人間は、俺の敵だ! それを擁護するというのなら、貴様でも容赦はせんぞ!!』

 

 もはや対話は不可能か。そう判断したゼルネアスが、更に伝説ポケモンとしてのオーラを強く放つ。それに対抗するようにイベルタルもオーラを放った。

 

「オーラがぶつかり合っている……!」

 

「2匹が本気でぶつかったら、離れてるとはいえ王国も危ない!」

 

「折角回復できたのに、どうすれば良いんですか……!」

 

 ポケモンを出そうにも、オーラのぶつかり合いによって生じる強風で、ハジメ達は立つことがやっとだった。

 

『『はぁぁぁぁぁぁ!!』』

 

 イベルタルは“デスウィング”を、ゼルネアスは全力での“ムーンフォース”を放った。

 

「危ない!」

 

 香織が、強化された魔力によって頑強な結界を張る。それと同時に大爆発が起こった。

 

 

 

 

 

 

『双方控えよ』

 

 

 

 

 

 煙が晴れると、2匹の間に入る「巨人」がいた。その正体を見て、ハジメは安堵する。

 

「ジガルデ……。間に合ったのか……!」

 

 それぞれが放った技を、ジガルデ(パーフェクトフォルム)は片手ずつで抑えていた。そして握り潰すと、イベルタルへと向かいあう。

 

『イベルタル。偽神への怒りは尤もであるが、それ故の過剰な破壊は、余とて看過できぬ。ましてや真なる神に認められし者すらも敵視するならば、尚更である』

 

 ジガルデが腕を空に向けて振るう。その瞬間、緑色に輝く光弾が上空からイベルタルに向かって降り注いだ。

 

『ぐぁぁぁぁぁぁ!?』

 

 地面タイプの技である、“サウザンアロー”。本来、地面タイプの技は、飛行タイプを持つイベルタルには無効となる。しかしこの技は、飛行タイプにもダメージを与えるのだ。

 

『仕置きをせねばな。“コアパニッシャー”!』

 

 さらに宙へと浮かび、手を翳すとそこから緑色の光線を地面に発射。その瞬間、Zの字を描くように地面が裂け、ドラゴンの力がイベルタルにダメージを与えた。

 

「す、凄い」

 

「イベルタルをあんな簡単に……!」

 

『ぐ、あ、がはっ……』

 

 そうしてイベルタルは、とうとう戦闘不能になったのだった。

 

 

 

 

 

 傷が癒えていく。目を開けたイベルタルが見たのは、1人の少女だった。

 

「良かった。元気になったみたい」

 

『……何故』

 

 イベルタルは、強力な癒しの力を手にした少女……香織を睨む。破壊の化身であるイベルタルは、例え命が尽きるような状態になっても、再び繭へと戻り目覚めの時を待つのだ。ましてや傷を癒したならば、再び命を奪っていたかもしれない。それなのに心配そうに見つめていた彼女が理解できなかった。

 

「あなたに、人間を恨んだまま眠ってほしくなかったから」

 

『俺は命を破壊する者。やがては人間にも破壊をもたらすのだぞ』

 

「いつか人には死が訪れる。あなたと言う存在が居なければ生きる人たちで溢れかえって、星が壊れてしまう。……ゼルネアスさんやジガルデさんが教えてくれたよ」

 

『……………………』

 

「もう少しだけ、人間を見ていて欲しいの。人間全員がエヒトを信じてる訳じゃない。アンカジ公国の人たちも、シアが言うにはフェアベルゲンの亜人族のみんなも、今を生きようとしてるから」

 

 真っ直ぐな目でイベルタルと向き合い、自身の願いを伝える香織。イベルタルは黙ったままゆっくりと起き上がり、ハジメ達を見る。

 

『……この人間が癒した事で、俺は暫くは繭に戻ることが無くなった。今はこの場を去ろう』

 

 大きな翼を羽ばたかせ、空を飛ぶ。

 

『俺は、再びお前達の前に現れる。だがそれは、偽神を討つ時だ』

 

 そうしてイベルタルは、大空へと飛び去っていった。

 

 

 

 

 

 イベルタルが目覚めたままの状態で、ゼルネアスとジガルデはどうするのか。ハジメが訪ねるとそれぞれ別行動を取るとの事だった。

 

『私は、イベルタルを目覚めさせた者達の地へ向かい、“ジオコントロール”で破壊された箇所を直してきます。彼らもまた、偽神に利用されていたことを悟るでしょう』

 

『余は、偽神の遣いを探す』

 

 10%フォルムへと姿を変えたジガルデがそう言うが、ハジメは頭にハテナマークを浮かべた。

 

「偽神の遣い?」

 

『銀の髪をした、人間に非常によく似たように作られた存在だ。あ奴らが人間や魔人族を扇動し、遊戯の争いを続けさせているのだ』

 

「銀の髪……。ハジメさん、もしかして海の神殿で見た、あの女の人!」

 

「シスターの格好をしていた! たぶん教会に潜んでいるのかも!」

 

「幸利、ティオ、リリアーナさん……!」

 

 ハジメ達は、教会へと向かった3人が気がかりだった。




次回からは、教会襲撃チームの話です。


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天使と竜(前編)

最近になって、ジュラシックワールド・エボリューションをプレイし始めて、のめり込んでました……。投稿遅くなってしまい申し訳ないです。
区切りを良くするため、かなり短めです。


 ハジメ達がイベルタルと戦っていた頃、幸利たちは神山を駆け上がり、教会内へと向かっていた。

 

「教会内には地下牢があると聞いています。雫たちは恐らくそこに」

 

「何のための地下牢だろうな。拷問、洗脳……とにかくキナくせぇ! 手早く助けるぞ!」

 

 リリアーナの情報を頼りに急ぐ幸利たち。その時だった。

 

 

「イレギュラー3名を確認」

 

 

 機械的で冷たい声が響く。ティオが瞬時に気配を察知し、声を上げた。

 

「2人とも伏せよ! 上からじゃ!」

 

 ティオが魔力で“まもる”を発動し、幸利とリリアーナが地面に伏せた瞬間、銀色の弾が3人に降り注ぐ。

 その弾の正体は、羽。攻撃の主がもつ翼から放たれたものだった。

 攻撃が止み、煙が晴れる。伏せていた2人も顔を上げると、そこには……天使が居た。しかしその表情に慈悲の笑みは無く、位置と相まってまさに「見下している」顔である。

 

「天使……?」

 

「騙されるなよ、王女様! あいつは敵だ!」

 

「メルジーネ大迷宮での過去映像におったの。お主がエヒトの手駒……人間と魔人族を争わせ続けた張本人じゃな」

 

 幸利とティオが睨み付ける。天使は表情を変えることなく、魔法によって巨大な両刃剣を2本持った。大剣を二刀流で構える辺り、やはり只者ではない。

 

「これ以上の盤上荒らしを、我が主は望んでおりません。よって、あなた方を排除します」

 

「盤上……。妾たちはお主達からすれば、遊戯の駒というわけか」

 

「クソ野郎だな!」

 

「やはり、この世界は……」

 

 天使……ノイントの言葉に対して声を荒くする幸利と、世界の歪みを再認識するリリアーナ。

 そこへ、ティオが2人の前へ出た。まるで2人を庇うように。

 

「2人は先に教会へと向かうのじゃ。あ奴は妾が相手をしよう」

 

「なっ! さっきの攻撃と言い、アイツはかなりヤバいぞ!」

 

「私たちもポケモンで加勢します!」

 

「だからこそじゃ! 教会も、神殿騎士とやらで守りを固めておるじゃろう。戦う力は少しでも残しておくことじゃ。ここで疲弊しなくとも良い。それに……」

 

 ティオが右腕に力を込めると、緑色の光を持つエネルギーが爪状になって彼女の腕を覆った。それは、“ドラゴンクロー”と呼ばれる技であった。

 

「妾はシアと同じ亜人族……とりわけ、ドラゴンポケモンの血を持っておるからの。ちゃんと戦える」

 

「なるほど。竜人族ですか。ならば、反逆者達によって奪われたプレートの場所を吐いてもらいましょう」

 

「行け! 早くクラスメイトを助けるのじゃ!」

 

 幸利は悔しそうに拳を握るが、すぐに顔を上げてリリアーナの手を取り走り出した。

 

「死ぬんじゃねえぞ!」

 

「逃がしません。排除します」

 

「やらせぬよ」

 

 再び羽による攻撃を行うノイントだったが、ティオも負けじと“まもる”を発動。広範囲に放たれた攻撃は幸利とリリアーナが走る方向とは別の場所にも着弾し、それによる土煙が目隠しにもなった。

 

「(はてさて……。あぁは言ったものの、あ奴の攻撃がフェアリータイプだったらちと不味いかの……)」

 

 ノイントに悟られないように、笑みは崩していない。

 

「(龍神さま……。妾に御加護を!)」

 

 ティオが“ドラゴンクロー”で突っ込み、ノイントは剣を構える。両者の戦いが、始まった。

 




サブタイトルを何にしようか迷ってる時に偶然、クロスアンジュと言うアニメでの、ヴィルキス覚醒BGMを見つけました(クロスアンジュを知ったのはスパロボですが……)。
次回は、ティオvsノイントです。


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天使と竜(後編)

お気に入り登録者数が700人を越えました。本当にありがとうございます!


 雲1つ無い夜空の下、金属のぶつかり合う音が響き渡っていた。

 

「ちぃっ!」

 

 舌打ちしてしまうティオに対し、ノイントの表情は変わっていない。ティオは“ドラゴンクロー”を両手に展開しており、ノイントを切り裂こうとしていたのだが、彼女の持つ大剣によってガードされてしまう。

 対するノイントの内心は、ティオへの警戒を優先していた。

 

「(強大な力を感知。主の定めた魔物と同等の力。脅威と判定)」

 

 つばぜり合いを止めお互いに距離を取るが、それぞれ相手から目を逸らすことは止めない。

 ノイントは剣に魔力を込め、(エヒト)から授けられた固有魔法“分解”を纏わせる。ティオはと言うと、指で円を作るとそこへ息を吹きかけた。

 

「フゥー……ッ!」

 

「っ!」

 

 その瞬間、指の輪から群青とも言えるような不可思議な色をしたブレスがノイントを襲った。ポケモンで言うならば“りゅうのいぶき”だろう。だが、ノイントは咄嗟に剣を盾にする。“分解”の効果によりブレスは消滅し、無傷で耐えた。

 

「これも効かぬか」

 

「…………」

 

 銀色の翼を羽ばたかせ、光弾を発射する。ティオはその弾幕を掻い潜って距離を詰めていく。再び“ドラゴンクロー”を振り下ろすが、ノイントは表情を変えずに剣で防ぐ。

 

「同じことをして何になるのです」

 

「先程のお返しになるのじゃよ」

 

「っ!!」

 

 その瞬間ノイントを襲ったのは、“かみなり“。その威力は大きく、上から受けた彼女が一時的にとはいえ動けなくなる程であった。

 体勢を立て直すが、高度ではティオが上を取っており、出会った当初とは逆の位置になっていた。「お返し」とはこの事だったのである。

 

「どうじゃ、見下される側になった気分は。続けて行くぞ!」

 

「挑発のつもりであるならば、効いていません」

 

 ティオが腕を振るうことで“りゅうのはどう”が発生。ノイントは剣2本を振るい攻撃を凌ぐと、そのまま固有魔法を解除し、リミッターの解除を宣言した。

 

「プレートエネルギー、解放」

 

 

 

 

 

 ノイント達『神の使徒』。それはアルセウスから力を奪った後、全盛期にあったエヒトが造り出した存在。彼女たちの心臓に当たる部分には、エヒトから与えられた力が内臓されている。それはエヒトオリジナルの魔力だけではなく、アルセウスのプレートの力も込められていた。

 ノイントがプレートの力を解放すると、彼女の体を薄いピンク色のオーラが包み込む。その姿に、ティオは本能から恐怖した。それもその筈、ノイントが纏ったのはフェアリータイプのオーラだったのだから。

 

「(あれは……ちょっと、いやかなりマズイのぉ)」

 

 ノイントは力強く羽ばたき、もともと上に居たティオを追い抜くと、月の光を背にエネルギーを溜める。

 

「発動」

 

 その瞬間ティオを襲い掛かったのは、ピンク色のエネルギーの波と、肌が焼けるような感覚。目の前がピンク色に染まっていると言うのに、感じるのは痛みだ。

 

「ぐぁぁぁ!?」

 

 ノイントが放ったのは“めざめるパワー”。『神の使徒』たちは、これを()()()()()()()()()()()()なのだ。ドラゴンタイプの特徴を受け継ぐティオにとって、フェアリータイプによる“めざめるパワー”は強烈な一撃だった。

 

「(いかん! 体勢を整えて……!)」

 

「墜ちなさい」

 

「ぐっ、はっ……!」

 

 続けて放たれる“めざめるパワー”。今度は氷タイプによるもの。空中で大ダメージを負ったティオは、そのまま白目を剥いて意識を失った。そのまま地面に向かって落ちていく。

 

 

 

 

 

 彼女の脳内によぎるのは、幼き日の思い出。

 

 亡き親の手に引かれて訪れた、神聖な『塔』。

 

 塔の中にて出会うは、黒き竜白き竜

 

 雷の力、炎の力と共に現れたその姿に。

 

 彼女は「カッコいい」と純粋に言った。

 

 2匹の竜はその言葉に微笑んだ。

 

 

 

 

 

 ノイントの目の前に、地上から炎の渦が舞い上がる。雷を伴いながら放たれたその力に、彼女は防御の姿勢をとった。

 

「排除した筈です。なぜ」

 

 炎の渦が消える。その中から現れたのは、墜ちた筈のティオ。しかしその目は左が赤、右が青のオッドアイに変わっていた。気になるところは、その目に光が無いことか。

 

「(その力は強すぎる。主は望んでいません。彼女の排除を優先)」

 

 再び体内からプレートの力を解放しようとするが、ティオはそれを許さない。

 

「“クロスサンダー”」

 

 ティオは青白い雷を身にまとい、ノイントに向かって一気に突撃。攻撃を受けた彼女は大きく姿勢を崩した。

 

「くっ……」

 

「“クロスフレイム”」

 

「固有魔法、展開」

 

 続けて左腕を空に掲げると、そこから巨大な火球を作り出す。その熱量にノイントは、固有魔法“分解”で打ち消そうとした。

 ところが、まるで技量など関係ないと言わんばかりに、その熱はノイントの剣を溶かし始めたのだ。

 

「馬鹿な……」

 

「墜ちよ。……“りゅうせいぐん”」

 

 一瞬だけ空から射し込む光。次の瞬間には、ノイントに向けて大量の礫が降り注いだ。彼女は残った剣で防ごうとするが、その弾幕によって徐々に押し負けていく。

 

「あり得、ない……!」

 

 そうして、ノイントは墜ちていった。

 

「……う、ぐ……」

 

 対するティオも、“りゅうせいぐん”の副作用で力が大きく抜けてしまい、ゆっくりと地上へ降りていく。

 

「休むと……しよう……」

 

 目の色が戻ったティオは、近くの木に寄り掛かると、休息のために目を閉じた。




次回は幸利&リリアーナ視点のお話になります。


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聖教教会、襲撃

更新が遅くなり申し訳ありません。職場が人手不足に陥り、GWなんて無いような状態でした。


 ティオに逃がされる形で、聖教教会本部へと駆け込むことが出来た幸利とリリアーナ。だが、待っていたのは歓迎の言葉でも心配の声でもなかった。

 

「異端者の1人が来たぞ!」

 

「リリアーナ王女が居るぞ。あいつ、王女を人質にしてるのか!」

 

「この卑怯者め!」

 

 立ちはだかるのは、鎧と剣とで武装した神殿騎士たち。流石に王女まで敵視されることは無かったが、代わりに幸利が卑怯者呼ばわりされる状況となった。

 

「お待ち下さい! 私は……!」

 

「いや、良い」

 

 なぜ恩人の1人が罵倒されなければいけないのか。その憤りからリリアーナが声を上げようとするが、幸利はそれを手で制する。そして反対の手でモンスターボールを掴むと、相棒の名前を呼んだ。

 

「行くぜ、ガルーラ!」

 

「ガァルルルル!」

 

「ま、魔物だ!? こいつ魔物を連れているぞ!」

 

「人間族の裏切り者だって言うのは、本当だったのか!」

 

「総員、詠唱準備! 一撃で片付けるぞ!」

 

 神殿騎士たちも、剣を持った前衛と杖を持った後衛に分かれているようだ。後衛側が魔方陣を広げて詠唱をする間、前衛騎士たちがガルーラに向かって突撃してくる。

 

「纏まって来てくれてありがとよ。……“影縫い”!」

 

 幸利が地面に手を当てると、黒い影が蛇のように動きながら騎士たちの影に潜り込む。影に『何か』を送り込まれた騎士は、体をガクンと硬直させたまま驚きに染まる。

 

「か、体が動かない!」

 

「馬鹿な、これだけの数をどうやって……!」

 

「鍛えたんだよ。ハジメにおんぶに抱っこじゃ、カッコ悪いからな。ガルーラ、動きを止めるんだ! “ふみつけ”攻撃!」

 

「ルアァァ!」

 

 踏みつけると言っても、人間相手にでは無い。地面を大きく踏みつけると、その轟音により騎士たちの動きが止まる。だが流石に後衛には届かず、詠唱が続いている。トータスにおける魔法は、威力が大きいほど詠唱も長くなる。つまり現在まで完了してないと言うことはそれ程強力な魔法を放とうとしてるのだろう。

 

「魔法なんて撃たせねえよ! “メガトンキック”!」

 

「ガァル!」

 

 攻撃を当てる場所は、再び地面。だが先程とは違い今度は亀裂が入るほどの威力。人間には当たってないが、(影縫いにより)動けないため逃げられないと言う恐怖を与えるには十分だった。

 

「私も加勢いたします。……ダークライ!」

 

『…………』

 

 リリアーナの影から飛び出た黒い存在が、騎士達の影の間を駆け抜ける。あっという間に最後列まで辿り着くと、その姿と同時に強者としての気配を現した。突然の登場に騎士たちは更にパニックになる。

 

「なっ!?」

 

「馬鹿な、『悪夢の精霊』だと!? 何故こんな場所に!」

 

「我らの戦いを邪魔立てする気か!」

 

 この戦いは正義である。そう信じている神殿騎士たちだが、ダークライには関係ない。両手を掲げて放つは、彼の専用技“ダークホール”である。

 

『眠レ』

 

 ダークライは多く語らない。悪夢の弾幕が放たれ、黒い球体に飲み込まれた者は、たちまち眠りに落ちていく。

 ドサドサと倒れる音が続き、幸利とリリアーナの視界は一気に良くなった。リリアーナがダークライに微笑むと、彼はリリアーナの影の中へと姿を消した。

 

「かっけぇ……って、呆けてる場合じゃなかったな。とっとと中に入ろうぜ、王女さま!」

 

「はい!」

 

 2人が教会本部へと駆け込んだ後には、悪夢に魘される騎士たちの呻き声だけが響いていた。

 

 

 

 

 

 教会内部に突入しても抵抗が無く、それどころか騎士を1人も見かけないことに、幸利は拍子抜けした。

 

「突入した瞬間に魔法を撃たれると思ってたんだけどな」

 

「神殿騎士の仕事には、町の警護なども含まれています。清水さんの知ってる人だとデビッドさんとか」

 

「なるほど。流石に、各地の騎士を全部集めてはいなかった訳か」

 

 すると、静かな大広間にコツコツと靴の音が響く。2人が音の方へ顔を向けると、そこには厳しい目付きのイシュタルがいた。

 

「リリアーナ様。これは、どういうつもりですかな?」

 

「どういう、とは?」

 

「エヒト様が異端であると断じた人間と共に行動し、あまつさえ『悪夢の精霊』を従えている……。とてもエヒト様の信徒とは思えませぬ」

 

「……世界は変わる時です。ここへ来る道中、私の知らないような事を見てきました。それこそ、世界の歪みとも言える光景をも」

 

 リリアーナは、悔やむかのように目を瞑り、語り続ける。

 

「よく考えればおかしい事でした。別の神を信仰することが悪であり、それ故に魔人族が滅ぼすべき存在なのだとしたら、初めからエヒト自身の手で滅ぼせば良かったのです。だと言うのに、我々人間に戦争を続けさせて、今回に至っては異世界の人間まで巻き込んだ!」

 

 そして目を見開き、イシュタルに問い掛ける。

 

「イシュタル教皇! あなたはエヒトを、完璧な存在だと言った。救いの手を差し伸べるとも! だと言うのに神自らが手を出さない! この矛盾は何なのですか!」

 

 問われた本人はと言うと、信仰すべき存在を呼び捨てにする事を初めとした数多の不敬に、怒りが込み上げていた。

 

「黙れ小娘が! エヒト様は我らより遥か高みの存在! そしてこの教会は神の代弁者である! 王家であれど所詮は人間である貴様に、神は矛盾していると教会内部で叫ぶとは何たる不敬者か!」

 

「時代は変わる時です、イシュタル教皇。我々は神の傀儡では無い。神のお告げだからと思考を停止してはならないのです!」

 

「黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れぇぇぇぇ!!」

 

 聞く耳を持たず激昂するイシュタル。リリアーナは幸利を見るが、彼は首を横に振った。そして彼女は決断する。

 

「ダークライ」

 

『…………良イノダナ?』

 

「王家も強く出なければ、変われませんから」

 

『……承知シタ』

 

 ダークライは一瞬にしてイシュタルの懐に潜り込むと、“ダークホール”を作り出す。

 

「『悪夢の精霊』、貴様……!」

 

『眠レ』

 

 その瞬間、イシュタルの目の前は真っ暗になった。

 

 

 

 

 目が覚めると、自分は鎖に繋がれていた。声を出そうにも猿轡を噛まされている。

 

「(ここは……ライセン大峡谷!?)」

 

 罪人の処刑場として使われてきた場所に立たされている。一歩足を踏み外せば自分はたちまち落ちていくだろう。騎士らしき男が何かを言っているが、よく聞き取れない。

 

「(何をしている! 教皇である私が、なぜ処刑されなければならない! な、なぜ近付く。止めろ、よせ、止めろぉぉぉぉぉ!?)」

 

 騎士に突き飛ばされ、空へと放り出される体。たちまちイシュタルは闇に吸い込まれていく。

 

 

 体を打ち付けた痛み。だが峡谷の岩だらけの景色とは違い、今度は森の中だ。

 

「っ! 喋れる……」

 

 痛む老体に鞭打って立ち上がると、背中に何かが突き刺さった。

 

「うぐぁぁぁ!?」

 

 振り返ると、弓矢を持った人影……否、よく見るとその耳や毛並みからして、亜人族が現れた。

 

「あ、亜人族が、人間にこのような事をして……!」

 

 だが彼らの目は、まるで獣を見つめるような目付きであった。次の矢を取り出すと、イシュタルへと狙いを定める。

 

「ひ、ひいいいい!」

 

 無様な声を上げながら、走って逃げ出した。

 

 

 ギロチンで首を落とされた。

 貧しい人間たちから、石を投げられた。

 磔にされ火炙りにさせられた。

 

「これは夢だ! 『悪夢の精霊』が見せている悪夢だ! だから私は死なない!」

 

 頭で理解はしてるのだ。してるのだが……

 

「夢の筈だ! なのに何故痛みを感じるのだ!? 私はあと何回痛めつけられる!?」

 

 夢の筈なのに痛みを感じると言う矛盾。それが、イシュタルを混乱させていた。

 

「早く覚めてくれ! 早く、早く、覚めてくれぇぇぇ……!」

 

 イシュタルはただ、悪夢が覚めるのを祈るしかなかった。

 




イシュタル教皇は、悪夢によるディアボロENDを迎えました。痛めつけられるのは悪夢の中だけなので、現段階では死んでいません。目覚めた頃には、職務が出来ないほど衰弱してるでしょう。


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地下牢救出劇

お待たせしました。
人手不足だからって、6日連続勤務はさすがに心身ともにキツいと思うのです(真顔)。


 聖教教会の地下牢。そこは、教会が異端と判断した者が収容される場所である。今ここに入れられているのは畑山愛子に八重樫雫、遠藤浩介に中村恵理、園部優花を始めとする『愛ちゃん護衛隊』の面々である。

 南雲ハジメをリーダーとする旅の一行を異端認定すると言う教会の判断に、彼らは抗議した。すると向こうは武器とポケモンを取り上げ、地下牢に放り込んだのである。この檻にはライゼン大峡谷から採取された金属が使われており、魔法を無効化してしまう。脱出する手段が無い状態であった。

 

「ごめんなさい、皆。巻き込んでしまって……」

 

「そんな、謝らないでよ八重樫さん!」

 

「そうだよ! 南雲くん達のお陰で私たちだって、優花っちのシェイミと遊べていたんだし!」

 

「クラスメイトが犯罪者扱いされるなんて、俺たちだって許せねえよ」

 

 雫が護衛隊の面々に謝るが、全員その事を全く気にしていなかった。幸利や浩介ほど長く関わってないが、地球にいた頃は楽しそうに絵を描いているハジメの姿を見たことがあった。実際にトータスでハジメからポケモンの事を教わり、別れた後も優花の連れてるシェイミと戯れてる内に、最初はあったポケモンへの忌避感は薄れていた。

 だからこそ、何も犯罪をしていないのに異端認定をした教会の判断に、菅原妙子や相川昇といったポケモンを連れてない面々も抗議した。その結果、こうして地下牢に入れられた訳だが。

 

「何とか脱出して、永山たちの心配も解消させないとな……」

 

 浩介は、同じように抗議しようとした永山パーティーの面々を心配する。だが光輝たち勇者パーティーと共に前線で戦う彼等はそれすら許されずに、自分だけ引き離されてしまった。なぜこの時だけ影が薄くならなかったのかと、自分の性質を今は恨んでいる。

 

「……先生?」

 

「……私、悔しいです。教会の歪さは南雲くんから教えられていました。戦闘への強制参加への抗議で私は強気になれたと思って、今回も抗議しましたが……もっともっと強気になれば良かった!」

 

 愛子は強く後悔していた。立派な教師になると言いながら生徒を守れず、それどころか巻き込んでしまっている。「どれほど自分は弱いのか」と自己嫌悪に陥っていた。

 

「(……誰か助けてよ。こんな空気、ボクは嫌いだよ。助けてよ……)」

 

 清水くん、と。恵理はふと脳裏に浮かんだ男子の事を思う。

 その時だった。神殿騎士の1人が監視役の騎士へと慌てて話しかけていた。

 

「異端者の1人が来た! 魔物も連れてると言う話だから、人手が要るらしい! 来てくれ!」

 

「え、このガキ共の監視はどうする?」

 

「大丈夫だ。どうせ壊せないんだ。今は敵を殺すことが優先だ!」

 

「了解だ! お前ら、大人しくしてろよ!」

 

 騎士2人がドタドタと慌ただしく地上へと向かい、地下牢はシンと静まり返る。

 

「……異端者の1人が来たって?」

 

「まさか南雲たち?」

 

 全員が会話の内容に戸惑っていると、上から『ズドォォン……!』と音が響いた。それから少しして何者かがやって来た。

 

「無事か!?」

 

『『『清水(くん)!?』』』

 

「私も居ますよ」

 

『『リリアーナ王女ぉ!?』』

 

 まさか幸利が来るとは思わず、さらに王女の登場で全員が混乱する。そんな彼等の様子に目もくれず、幸利は檻に触れる。

 

「っ、魔力を流してみたけど弾かれやがった。魔法では壊せないか」

 

「ガルーラならどうでしょうか」

 

「魔法が駄目なら物理で、てか? ガルーラ、頼むぞ。皆は檻から離れててくれ」

 

「ガァル!」

 

 昇たちは改めてガルーラの姿を見たが、以前ウルの町で初めて見た時よりも怖くはなかった。むしろその目は強さと優しさを兼ね合わせた、何処か安心できる目である。

 ガルーラは檻を掴むと、グググと持ち前の怪力でねじ曲げていく。

 

「カルル! カールー!」

 

「行けるぜガルーラ! 頑張れ!」

 

「ガルァアアアア!」

 

 我が子と相棒の応援を受けて、ガルーラはお母さんパワーを全開。一気に檻を曲げて、大きな脱出スペースを作り出した。

 

「す、凄い……!」

 

「中村。ミミッキュ達は何処だ?」

 

「別の檻に閉じ込められてるかも。神殿騎士達がボクらを人質にしてたから、ミミッキュ達も抵抗できなかったんだ!」

 

「よし、ポケモン達も救出だ!」

 

 意外なリーダーシップを見せた幸利を、恵理は少し頬を赤くして見ていた。

 

 

 

 

 

 地下牢別エリア。其処に収容されていたのは雫のエルレイド、浩介のテッカニン、恵理のミミッキュ、優花のシェイミである。

 

「エル……」

 

「テカ……」

 

 エルレイドとテッカニンは、檻をどうにか壊せないかと思考していた。

 

「ミ~……」

 

「ミキュミキュ」

 

 優花に会えず寂しがるシェイミを、ミミッキュは黒い腕のようなもので優しく撫でる。

 どこか沈んだ空気であったが、遠くからドタドタと足音が聞こえてきた。

 

「エルレイド!」

 

「テッカニン!」

 

「ミミッキュ!」

 

「シェイミ!」

 

 相棒の声が聞こえ、ポケモン達は一斉に檻に駆け寄る。雫たちはすぐにでも抱き締めたかったが、その為には目の前の檻が邪魔である。

 

「よし、ガルーラ! もう一回こじ開けるぞ!」

 

「ガル!」

 

 雫たちの時と同じように怪力で檻をねじ曲げると、ポケモン達はそれぞれの相棒のもとへ駆け寄った。

 

「ミミッキュ! 良かったぁ……」

 

「ミキュ~!」

 

 恵理はミミッキュに頬擦りする。

 

「シェイミ、もう大丈夫よ……!」

 

「ミィミィ~!」

 

 優花はシェイミを優しく抱き締めた。

 

「無事で良かったよ、テッカニン」

 

「テッカ!」

 

 浩介とテッカニンは、ハイタッチするようにお互いの手を重ねた。

 

「エルレイド……本当に良かった……!」

 

「エルッ!」

 

 泣きそうになる雫に、エルレイドは安心させるかのように笑みを見せる。

 そのような光景を、幸利とガルーラは顔を見合わせ、互いに微笑んだ。

 




次回は、ハジメ達との合流を予定しています。


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ハジメと光輝

お待たせしました。この話で、原作における王都侵攻編は終了です。


 イベルタルとの戦いを終えたハジメ達は、聖教教会のある神山へと向かっていた。その道中、ノイントと戦い終えて傷だらけになったティオを発見。香織の力で治療した。ノイントの存在を教えて貰いながら再び向かうところで、下山していた幸利たちと合流したのだった。

 

「そろそろ、僕たちもプレート探しの旅に戻らないとな……」

 

「それなんですが、南雲くん。先生から提案があります。この世界の事を……城に残っているクラスメイト達にも話した方が良いと思うんです」

 

「え?」

 

 愛子が言うには、光輝を始めとした一部のクラスメイトは未だにイシュタル教皇の言っていた、「魔人族を倒せばエヒトが地球に返してくれる」という話を信じている。だが、流石に今回の件は暴挙にも程がある。流石に考え直すのではないかと言う理由だった。

 ハジメとしては、かなり難しい提案だった。檜山たち小悪党組はまず自分を嫌ってるし、光輝もおそらくその類いで話を聞かないだろう。

 だが一方で、浩介が居た永山パーティー等は、浩介が無事だと言う報告も含めて顔出しが必要かもしれない。雫や香織といった、クラスではかなりの影響力を持つ彼女たちも、一緒に説得してくれるだろう。

 

「……分かりました。行きましょう」

 

「良いのか、ハジメ? 俺は永山達に知らせないといけないから好都合だけど……」

 

「冷静に考えてみたら、僕の味方がこんなに居るんだ。……だから、可能性に賭けてみる」

 

 自分は一部のクラスメイト達にしか好かれてなくて、話したとしても他の皆には信用されない。先ほどまではそう思っていた。しかし、顔を上げて周りを見てみれば沢山の仲間がいたのだ。

 香織に幸利に浩介、雫、恵理、優花とその仲間たちや教師の愛子。トータスで出会ったユエにシアにティオ、メルド団長にリリアーナ。今は居ないがミュウやハウリア族、アンカジ公国の人々。

 いずれも、ポケモン関係で知り合った者達だが、全員が話を聞いてくれた。自分を信じてくれた。

 

「だから、僕はもっと仲間を信じるんだ」

 

 そう決意して、城へと向かったのだ。

 

 

 

 

 

「こんな事になったのは、お前が魔物を引き連れてるからだ南雲!」

 

「はぁ!?」

 

 

 

 

 

 ハジメの賭けは失敗に終わった。

 イベルタルと戦っている間、光輝たちは城下町に現れた野生のポケモンを相手に戦っていた。実際には、イベルタルの気配に当てられて逃げ惑っていたポケモンを見て、光輝が「人を襲ってる」と判断した故の行動だったが。しかも、パニックになる人々を助ければイシュタル教皇も雫たちを解放してくれる筈だと考えての行動だからタチが悪い。

 そしていざ帰ってみれば、(光輝から見れば)裏切り者のハジメが、雫たちを救っている。

 

「雫たちをどうするつもりだ!」

 

「どうするって、何もするつもりは無いよ! ただ話をしたいだけだ!」

 

「どうせ魔物の事だろう? あの黒い鳥を見てもまだ、魔物は仲間だなんて言えるのか!」

 

「イベルタルだけを見て、全部のポケモンが悪だって判断するのは間違ってる! それは人間側の視点でしか無い!」

 

 光輝とハジメの言い争い。それは、地球ではまずあり得なかった光景だ。

 話を聞いてもらいたいのに聞き入れてもらえず、ハジメの沸点は低くなっていた。光輝の言葉に強く反発してしまい、それに向こうも強く反応。それに対してハジメも更に強く……と負の連鎖になっていた。

 

 

「いい加減にしなさい!!」

 

 

 それに待ったを掛けたのは、意外なことに愛子だった。

 

「天之河くん! なぜ南雲君の話を聞いてあげないのですか! 裏切り者だと言ったイシュタル教皇の言葉を本気で信じてるのですか? 同じクラスメイトなのに!」

 

「は、畑山先生……」

 

「南雲くんもです! 先程まで冷静にしていたのに、相手の言葉に簡単に熱くなってどうするのですか!」

 

「あ、う……」

 

 それは、愛子の本気の怒りだった。その様子を初めて見た他のクラスメイト達は、改めて愛ちゃん先生は教師なのだと実感したのだった。

 

 

 

 

 

 双方が落ち着き、城の大食堂へと集まった地球組。光輝もひとまずはハジメの話を聞く姿勢を見せたため、改めて世界の真実を明かすことになった。

 

「エヒトが偽りの神だって……! 何でそんなことを黙ってたんだ!」

 

「光輝、座れよ。まだ南雲が話してるだろ」

 

 思わず立ち上がった光輝を、龍太郎がなだめる。

 

「天之河は、僕の言うこと信じてくれないと思ったからだよ。出会って早々僕を非難したようにね」

 

「うぐっ……」

 

「……他の大迷宮の奥に眠るポケモン達が、言っていた。アルセウスがエヒトに力を奪われたことを、他の神々のポケモンが怒っているって」

 

「その怒りを鎮めるために、南雲は旅してるのか」

 

「そう言うこと。アルセウスが生み出したポケモンには、空間を司るポケモンもいる。そのポケモンに頼んで地球に帰せないかとも考えている」

 

「そのポケモンが願いを聞いてくれるという保証はあるのか?」

 

「少なくとも、戦争を止めさせる気の無いエヒトよりは、遥かに信頼がある」

 

 先ほどの口論とは違い、互いに真剣な顔での話し合い。その様子を端から見ていた、居残り組のクラスメイトは、コイツは本当に南雲か?と驚いていた。

 地球に居た頃は、変わった生き物の絵を描いてるだけで、いつの間にかクラスの女神とも言える香織と恋仲になっていたというよく分からない人間。それがハジメの印象だった。

 

「……俺たちも行けるのか?」

 

「……本気? かなり手強いよ」

 

「それが皆を助ける方法になるなら、やってやる!」

 

 光輝の言葉にハジメも驚く。彼の言葉は、トータスに来たばかりの頃の「みんなを守る」と言うのと同じくらい薄っぺらく感じた。だが光輝は頑固だ。何を言っても着いてきそうな気がする。

 

「…………やっぱり来るんじゃなかったとか、言うのは無しだからね」

 

「分かってる」

 

 話し合いが一段落したところで、ティオが挙手した。

 

「話し合いは良いかの? だとしたら、次に向かう大迷宮について提案があるのじゃ」

 

 そして、次の言葉にハジメは目を見開いて驚いた。

 

 

「妾たち竜人族、いや竜と共に生きる民……竜生(リュウセイ)の民の郷にある大迷宮に挑んでみぬか?」

 

 

 




この話を描くに当たって没にしたネタがあります。

その1:ノイント戦で傷ついたティオを香織が癒すが、ティオが赤ちゃんプレイに目覚める。
結論:ティオの頼りになるキャラを一貫したかった為、NG。

その2:光輝とハジメの殴り合い
結論:光輝VSハジメは他の二次創作でも見かけるし、たぶんプレートで強化されたハジメの圧勝になりそうなのでNG。


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閑話:旅の合間の恋愛模様

お待たせしました。少し甘めなお話になったと思います。それでは、どうぞ。


 王都での激戦を終えたハジメ達。地球組に世界の真実を明かした後、ティオから「故郷にある大迷宮に挑まないか」と提案された。

 しかしティオの故郷はここ王都からかなり遠い。雫や光輝達も旅に着いてくるとのことで大所帯となっているため、竜化したティオに乗るわけにもいかなかった。

 そこで提案をしたのが、リリアーナである。彼女曰く、長距離の移動に適したアーティファクトがあるとのこと。その状態確認のためしばらく王都に留まることになったのだった。

 

「ん……朝か……」

 

 窓辺から射し込む光に、ハジメはぼんやりとした頭を徐々に覚醒させていく。左隣を見ると、愛しい人はまだ穏やかな寝息を立てていた。

 なお、シーツで隠されてはいるが2人は生まれたままの姿である。

 

「(……可愛い)」

 

 起こさないようにそっと、香織の頭を撫でる。黒髪のサラサラとした感触が心地良い。ハジメが撫でてると分かっているからか、その寝顔に笑みが浮かんでいた。

 

「香織」

 

 余計な言葉は要らない。彼女の額にそっとキスをして、彼女を抱きしめながら二度寝することにした。

 

 

「(うぅぅぅぅ~~~~!)」

 

 

 なお、撫でられている辺りから香織はしっかり起きていて、先ほどのキスで真っ赤になっていた。

 

 

 

 

 

 ハジメと香織は遅めに起き、宿の二階から降りてくる。するとエントランスにあるベンチにて頭を抱えて俯いている男が居た。

 

「あれ、幸利? どうしたの?」

 

「……ハジメに白崎か。昨夜はお楽しみだったようで」

 

「「えへへ~」」

 

「惚気んじゃねえよ、ったく……」

 

 いつもならもう少し強めにツッコミを入れる筈が、今はとても弱々しい。2人は顔を見合わせる。

 

「マジでどうしたの?」

 

「…………告られた」

 

「え?」

 

「告白されたんだよ! 中村に!」

 

 ヤケクソ気味に叫ぶ幸利。一瞬の空白の後、2人の絶叫が響いた。

 

 お互いに落ち着いたところで、幸利はポツリポツリと話し始めた。

 

「昨日の夜さ、中村に呼び出されたんだよ」

 

「昨夜は良い天気だったから、星空も綺麗だったよね」

 

「で、オルクス大迷宮で助けてくれた事と今回の件について、お礼を言われたんだ」

 

 ハジメも思い返してみると、恵理がポケモンに背後を襲われそうになったところを助けたのは幸利だった。今回聖教教会に捕らわれた時も、助けたのは幸利である。

 

「そりゃあ、ねぇ?」

 

「惚れるのも無理ないね~」

 

「目ぇキラキラさせて、頬を赤らめて『好き!』って大声で言われた時は、マジで脳内処理が追い付かなかった」

 

 その時の恵理は、某グランドオーダーのバレンタインイベントにおける、嘘を許さないバーサーカーがイメージしやすい。

 

「で、何で幸利は告白されたことに悩んでるのさ」

 

「あのなぁハジメ。告白した側のお前は分からないかもしれないけど、初めて異性から告白されて頭の中ゴチャゴチャしてんだよ! 今まで普通のクラスメイトとして見ていたのに、いざ告白されるとよぉ……」

 

 地球にいた頃は女子にあまり縁がなく、せいぜいハジメとポケモン談義をしてる内に香織や雫といった女子と少し話せた程度。それがいきなり告白されて、どうしたら良いのか分からないようだ。

 

「うーん、私たちは最初は友達から始めて、その後にハジメ君から告白されて付き合い始めたんだよね。その順序が入れ替わっても良いんじゃないかな?」

 

「と、言うと?」

 

「まずは友達から始めて、それで中村さんを意識したなら、改めて清水くんから告白すれば良いんじゃない?」

 

 香織からのアドバイスを受けた幸利。目を瞑って考える。

 

「(まぁ、告白された時に見た彼女の顔、結構可愛かったんだよな。ハジメとか見てて感覚麻痺してたけど、まずは友達から……てのもアリか?)」

 

 やることを決めた幸利は立ち上がる。

 

「分かった。中村に返事してくる」

 

「「お幸せに~」」

 

「うるせぇ! まずは友達からだ、友達から!」

 

 ほんの少し頬を赤くした幸利は、暖かい目をする2人にツッコミを入れながらも、恵理のもとへと向かった。

 

 

 

 

 

「友達から?」

 

「お、おう。駄目か?」

 

「んふふ……。絶対にボクを意識させてみせるからね」

 

「(中村って、ボクっ娘だったのか……)」

 

 




幸利と恵理がくっつきました!

次回も閑話を予定してます。


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閑話:新たに立ち上がる者

ポケモンとは無関係ですが、最近ハイスクールD×Dとデュエルマスターズを組み合わせたらと言うネタを思い浮かんでいます。まあ、只でさえこの小説の更新がゆっくりなので、まだ書くつもりはありません。


 フリードが意識を取り戻した時、目にしたのは荒れ果てた神殿だった。

 

「っ! こ、これは……!?」

 

 目の前に広がる灰色の景色。だがそれは徐々に色を取り戻していく。

 

「そもそも私は……」

 

 痛む頭に顔をしかめながら、改めて状況を掴もうとした……その時だった。

 

「フリードぉぉぉぉぉ!!」

 

「ぐあっ!? がっ、はっ、カト、レア……!?」

 

「よくも……よくもよくもよくもぉぉ!」

 

 何者かに飛び掛かられ、地面を転げ回った後、フリードは何者かに押し倒されるような状態になる。下手人の顔を見ると、それは自身の配下の1人であるカトレアが、鬼のような形相で首を絞めようとしていた。

 

「うっ、くっ、あぁぁぁ……!」

 

「よくもアタシを殺そうとしてくれたね! あんたはアタシ達を裏切った! その報いを受けな!」

 

「ま、て、カトレア……!」

 

「命乞いなんて聞きたくないよ!」

 

 カトレアの力が強くなり、フリードは口をパクパクと動かしながらも彼女を止めようと手を伸ばす。だが、そんな彼女の肩を掴み止める者がいた。

 

「カトレア、落ち着け」

 

「止めないでくれ、レイス! あんただってこの男に生命を吸われただろう! 『破壊の繭』の生け贄として!」

 

「!?」

 

 レイスに注意を向けた事で力が緩み、さらにカトレアから聞き逃せない単語が発せられ、驚くように飛び起きる。

 

「ゲホッ、ゴホッ! ……『破壊の繭』だと?」

 

「そうさ。あんたが蘇らせようとした魔物さ」

 

「貴方は、我々の命と魔力を『アレ』に捧げたのだ」

 

 

「私は、そんなこと望んでいない!」

 

 

「「……は?」」

 

 そこらのチンピラの命乞いとは違う、真剣な表情による叫び。そこからフリードの独白は続く。

 

「私は確かに、『破壊の繭』を復活させよと神託を受けた。だが何処にあるのかを知るために、大昔の資料や伝記を調べていく内に気付いたのだ。『破壊の繭』は、そう簡単に操れるものではない。目覚めさせれば、人間も我らも見境無く滅ぼされると言うことを悟った! だと言うのに……うぐっ!?」

 

 突如フリードを襲う頭痛。それは、()()()()()()()()()()()()()。そこに映り込んでいたのは……。

 

()()()()()()()……」

 

 フリードの脳内に呼び起こされるのは、『破壊の繭』の危険性を主神アルヴヘイトに伝えようと神殿を訪れた記憶。そこへ銀髪のシスターが現れた所までだった。

 

「シスターに出会ってからの記憶が無い……。まさか!? カトレア、レイス、教えてくれ。()()()()()()()()()()()()()!?」

 

 顔を青ざめさせながら叫ぶフリード。演技とは思えないその迫真ぶりに2人は顔を見合わせると、小さく頷いてフリードに全てを話した。

 

 

 

 

 

 己のしでかした事を知ったフリードは、ガクリと膝をついて俯いてしまった。

 

「なんと言う事だ……! ではこの荒れ果てた景色も、全ては私が引き起こしたと言う事なのか……」

 

 そして彼の心に芽生えるのは、神への不信であった。

 なぜ信仰する者をも滅ぼす存在を復活させようとしたのか?

 『破壊の繭』によって魔人族の国ガーランドは滅ぼされたというのに、なぜアルヴは救いの手を差し伸べなかったのか?

 

「……この世界は、どこかおかしい」

 

 そしてフリードの頭に、ある仮説が思い浮かんだ。

 

「まさか、かの『反逆者』たちは既に世界の真実に気が付いて……!? ならば大迷宮に、その答えがあるかもしれない」

 

 立ち上がると、カトレアとレイスの2人を見て頭を下げた。

 

「カトレア、レイス。申し訳なかった。恐らく私は、何者かに操られていたと思う。それでもお前たちを1度は殺したと言う罪は消えない。そしてこの国を滅ぼす切っ掛けを作ったのもな……」

 

 頭を上げると、2人の目を見るようにフリードは宣言する。

 

「都合の良い事を言っているとは思う。だが、世界の真実を知るためにも助けが要る。……力を貸して欲しい」

 

 沈黙が訪れる。ただ風の音が寂しく響いていた。

 

「……私でよろしければ、このレイス。再び貴方の下に」

 

「……先ほどまでの無礼、申し訳ありませんでした。カトレア、貴方の下に」

 

 その光景を眺めているのは、ゼルネアスだった。灰となったガーランドを復活させたのは彼女である。

 

『(ハジメ達と同様に、偽神に立ち向かう者が現れましたか)』

 

 優しく微笑むと、ゼルネアスは自身の眠るハルツィナ大迷宮へと向かっていった。

 




次回から、ハジメ達の視点に戻ります。


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竜人族の里へ

今回はちょっとしたご都合主義が含まれてます。苦手な方は申し訳ありません。


 ハイリヒ王国から遠く離れた空を、あるものが飛んでいた。

 

「まさか飛行船が作られてたなんてねぇ」

 

「それらを捨てずに保存していた辺り、何かしらに使えると考えては居たのじゃろうな。しかし聖教教会がその使用を禁じていた……。つくづく影響の強い組織じゃのぉ」

 

 そう、ハジメ達が乗っていたのは飛行船。かなり前に、トータスの人間が開発したと言うものだ。残念ながら、聖教教会の「空はエヒト様の領域であり、それを侵すのは不敬である」と言う横槍があった。これによって飛行船の開発者は異端認定され、聖教教会によって処刑されてしまっている。故に実用化されることはなく宝物庫に眠っていた。それをリリアーナが引っ張り出してきたのだ。

 

 ハイリヒ王国は現在、混乱状態に陥っている。イベルタルによる混乱と、それに対する迅速な指示のない王家、そして教皇イシュタルの()()()()()()()。国民達の不信は大きくなっており、エリヒド国王の支持は低迷しつつある。現在の政務を取り仕切っているのはリリアーナであった。

 

「ハジメよ。プレートの事を知っていたのを黙っていて、すまなかった。千宙腕さまの力は、例え欠片一つであろうとも強大じゃ。本当に所有するに相応しいかを見定める必要があったのじゃ……」

 

「そう言うことだったのか。でもまぁ、ティオ達の信仰する『龍神さま』を祀る祭壇にあるのなら、仕方ないよね……。まさか祭壇が大迷宮になってるとは思わなかったけど』

 

 ティオの故郷にある大迷宮。そこは、普段は竜人族が、龍神さまと呼ばれる存在を崇める為の祭壇となっている。そこに納められているのがプレートだと言うのだ。

 

「プレートの影響ゆえか、他の迷宮のように他のポケモン達は居ない。居るのは『番人』と呼ばれる存在のみじゃ」

 

「つまり、天之河たちも行けると言うわけか」

 

 飛行船に乗っているのは、以下のメンバーである。

 ハジメ、香織、シア、ユエ、ティオ、幸利、恵里、雫、浩介、光輝、龍太郎、鈴。

 

 永山重悟率いる永山パーティーと、園部優花を始めとする愛ちゃん護衛隊はハイリヒ王国に残ることになった。先述した混乱の隙を突いて、ヘルシャー帝国が何か動きを見せる可能性がある。魔人族が攻めてくる可能性もあるため、国防のために残ったのだ。メルド団長も居るため心配は不要だろう。

 なお、完全に余談になるが、檜山たち小悪党チームは、イベルタルのオーラに当てられて心が折れ、自室に引き込もってしまったらしい。その事を聞いたハジメとしては、最早どうでも良いと割りきることにした。

 

 

 

 

 

 飛行船内の一室では、香織と幸利と浩介によるポケモン講座が行われていた。ポケモンのタイプ相性から始まり、ゲームで言うHPやPPと言った要素の説明も行われたのだ。

 

「ぐおおお……! 頭が割れるぅ……!」

 

「うにゅぅぅぅ……!」

 

 龍太郎や鈴はその内容の濃さにグッタリしていた。雫や光輝はその奥深さに驚いていた。

 

「南雲たちは、これを常に意識しながら戦っていたのか……」

 

 相手と自身のポケモンが保有するタイプ、覚えている技や相手の技のタイプ、それらを考えながら戦っていたと言う事実に驚きを隠せない。それに加えて、特性と呼ばれる要素も併せ持っている。相当に頭を使うことだと光輝は理解した。

 

「それにしても……天気が崩れてきた」

 

 ユエが窓を見ると、出発当初の快晴とは一転して暗雲が立ち込めていた。シアも続いて見てみるのだが、その時彼女の“未来視”が発動した。

 

 こちらへ高速で向かってくる飛翔体。恐ろしい数の稲妻と共に、ポケモンが姿を現す未来だった。

 

「っ! ごめんなさい! 操舵室に行ってきます!」

 

 

 

 

 

 

 

 視点は再びハジメに戻る。舵を取る彼の表情は優れない。

 

「さっきまで快晴だったのに」

 

「……妙じゃな。こんなに急激に天候が変わるなんてことは無かった筈じゃ」

 

「念のため聞くけど、竜人族の里って某天空の城みたく雷雲で護られてるとか無いよね?」

 

「もしそうならば、この天気の回避ルートを教えておるわ。こんなの初めてじゃよ」

 

 強風や雨は無いが、視界が暗く不安が込み上げてくる。そんな時、操舵室の扉が乱暴に開かれた。

 

「ハジメさん!」

 

「シア? 申し訳ないけど今手が離せないんだ!」

 

「未来視で見えました! ポケモンが、ポケモンが来ます!」

 

 シアのその叫びと共に、目映い光と轟音、そして咆哮が響いた。

 

「キョオォォォォォォン!!」

 

 目の前に現れた存在。雷をまとって現れたポケモンの名を呟いた。

 

 

サンダー……!」

 

 

 




はい、檜山は見せ場無く退場しました。「もはや眼中にない」と言うのが、彼に与える最大の屈辱だと思うのです。
次回は三鳥の一体、サンダー戦です。


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vsサンダー(前編)

お待たせしました。湿気を伴う暑さと、職場の人手不足による負担の増大からか、仕事のミスが増えてきてメンタルが落ち込み気味です。


 飛行船にてティオの故郷を目指していたハジメ一行。しかし、その途中で伝説の三鳥の一体である、サンダーが襲撃してきた。サンダーの咆哮は船内にも伝わり、ほかの仲間たちが操舵室に集まってくる。

 

「南雲、今の鳴き声は!?」

 

「よりにもよって、サンダーだ……!」

 

「サンダー!?」

 

「伝説の三鳥の一体、か……!」

 

 ハジメの言葉に大きく反応したのは、浩介と幸利だ。2人は地球に居た頃、ハジメの投稿したイラストとその設定を読み漁っていた為、メンバーのなかではハジメを除いて特にポケモンに詳しい。

 光輝はサンダーの姿を見て、緊張を誤魔化すようにゴクリと唾を飲み込んだ。

 

「何て威圧なんだ……!」

 

「三鳥って事は、まさか他にああいうのが居るの!?」

 

 鈴が悲鳴を上げるように尋ねる。頷いたのは幸利だった。

 

「ファイヤーとフリーザーだな。ファイヤーは、グリューエン大火山で戦ってる」

 

「迷宮の前で戦いましたから、あの時はまるで『お前の力を試してやる』って言ってるような感じでしたね」

 

「……て事は、あのサンダーも私たちを試してる?」

 

 ユエの言葉にハジメも頷く。

 

「その気になれば、雷を発生させてこの飛行船を落とすことなんて容易い筈。なのに向こうがそれをしてこないと言うことは、そう言うことなんだろうね」

 

「けど、ここは空中だぜ? どうやって戦うんだよ?」

 

 龍太郎がハジメに問い掛けるが、彼の表情は良くない。

 

「空中戦が出来るポケモンは、ユエのゴルーグと、浩介のテッカニンしか居ないか……!」

 

「ハジメ、任せて。ゴルーグは地面タイプも持ってるから、向こうの電気タイプの攻撃も無効化できる」

 

「俺のテッカニンだと相性は厳しいけど、その分スピードがある。避けきってみせるさ!」

 

「僕は操縦に専念する。2人とも、お願い!」

 

 こうして、サンダーとの戦いが始まった。

 

 

 

 

 

 飛行船の乗り込み口。そこでユエと浩介がサンダーと対峙した。

 

「俺もスピードで翻弄してみるが……電気攻撃はゴルーグに任せるぞ」

 

「いざとなったら、“シャドーボール”とかで援護する。接近はお願い」

 

「任せろ! テッカニン、“こうそくいどう”でサンダーと距離を詰めるんだ!」

 

「テッカ!」

 

 周囲は雷雲で暗くなっているだけであり、強風や雨は発生していない。もし強風などの悪天候ならば、飛ぶことすら困難だっただろう。

 

「良いぞ! そのまま“シザークロス”だ!」

 

 高速でサンダーに近づくテッカニン。だが相手はそう易々と攻撃を受けてはくれない。一瞬だけ目が光ったかと思うと、テッカニンの爪を回避した。“みきり”だ。

 

「ッ!」

 

「避けられた!? ま、まだだ。この距離なら避けられねぇだろ! “スピードスター”!」

 

「テカー!」

 

「グウゥ……」

 

 星の形をした弾幕がサンダーを襲う。技の性質上“みきり”は連発し辛いのと、距離が近くサンダーの体躯が大きかったのもあり、命中した。

 

「そのまま畳み掛けるぞ! “れんぞくぎり”!」

 

「ニン!」

 

「っ! 待って、何かおかしい!」

 

 ユエが見たのは、何か力を蓄えてるような仕草を見せるサンダーの姿。蓄えられるその力は、サンダーの体からバチバチと何かが弾けるような音を立てていた。

 

「何かやべぇ……! だからこそ止めないと駄目だ! テッカニン、“メタルクロー”!」

 

 銀色のエネルギーを爪に纏わせて攻撃しようとした、次の瞬間!

 

 

「クエエエエエエエエエエ!!」

 

 

 力強さを感じさせる咆哮と共に勢いよく翼が開かれ、その風圧でテッカニンは浩介の近くまで吹き飛ばされてしまう。ゴルーグは2人と1匹を守るように立ちはだかった。その時、浩介とユエの頬に何かが当たる。

 

「これ……水?」

 

「こんな時に雨が降ってきやがった……!」

 

 そう。サンダーが力を蓄えていたのは、“じゅうでん”。電気タイプの威力を上げる技だ。そして先ほどの咆哮は“あまごい”。これによって雨が降り始めたのである。

 この時船内では、先ほどの咆哮を聞いたハジメが嫌な予感を感じとり、香織と鈴に大声で命じていた。

 

「結界を貼って! 今すぐ!!」

 

「キョオオオオン!!」

 

 

 その瞬間、飛行船の周囲に大量の稲妻が降り注いだ。

 

 




サンダーによる、じゅうでん+あまごい+かみなりと言うコンボ。ゲームだとありきたりなコンボかも知れませんが、現実として放たれれば……。


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vsサンダー(後編)

お待たせしました、サンダー戦です。


 落雷による振動と轟音。それは飛行船内を大きく揺らし、中に居る者達をしゃがませてしまう程の威力であった。幸いなことに香織と鈴の結界が展開されたことによって、墜落から免れている。高火力の“かみなり”のインパクトから抜け出せたハジメはすぐに声を出して、仲間たちを立ち直らせる。

 

「損害確認! みんなで飛行船の各所を確かめて!」

 

「気球部分は妾が見てこよう。そのままユエと浩介に加勢する!」

 

 ハジメの言葉に全員が頷き、この状況を打開しようと動き出した。

 

 

 

 

 その頃、ユエと浩介も落雷の衝撃から立ち直った所であった。サンダーはと言うと、やはりハジメ達を試すつもりでいるのか、その場に留まり2人を睨んでいる。

 

「ユエ、テッカニン、大丈夫か?」

 

「何とか。ゴルーグが防いでくれた」

 

「テッカ!」

 

「ゴルル……!」

 

 2人と1匹を守るように立ちはだかるゴルーグは、ジェットエンジンのように足から炎を噴き出しながら滞空していた。ゴルーグはゴーストと地面の複合タイプであり、それによって先ほどの大規模な攻撃を無効化したのである。

 

「そう言えばハジメが言っていた。ポケモンの技の中には、周囲の天候を帰ることで、一部の技の威力を上げる物もあるって」

 

「てことは、この雨の状態だとサンダーに有利って事かよ!」

 

「でも、やるしかない! ゴルーグはテッカニンの防御役をお願い。“てだすけ”して」

 

「ゴルッ!」

 

「テッカニン、いざとなったらゴルーグに隠れるんだぞ」

 

「テカッ!」

 

 2人と2匹は、再びサンダーと対峙した。

 

 一方、飛行船の気球部分を確かめたティオ。だが飛行船の周囲を取り巻く環境は、お世辞にも良いとはいえなかった。

 

「雷雲に雨、そしてサンダーの羽ばたきによる強風……。これはキツい試練じゃの」

 

 そう呟きながらも、ノイント戦以降威力の上がった炎を放つ。

 

「ユエ、浩介! 援護するぞ!」

 

 だが炎は雨と風の影響によって掻き消されてしまう。

 

「ちぃっ!」

 

「ならこの雨を利用する! “破断”!」

 

 ユエの放った水属性の魔法は、彼女に負担をかけずに発動された。雨と言う環境により威力も上がったウォーターカッターがサンダーを襲う! だがサンダーはこれを回避した。すかさずユエは指示を出す。

 

「ゴルーグは“ラスターカノン”!」

 

「ゴォル!!」

 

 ゴルーグの目に見える部分から銀色の光線が放たれる。再び回避されるかと思われたが、それを阻止したのは先ほどの炎の失敗を挽回しようとするティオだった。

 

「お主の真似じゃ。“かみなり”!」

 

「クエッ……!」

 

 数本の稲妻がサンダーを取り囲む。例え効果が薄くても、当たればその衝撃はサンダーの飛行を妨害する。人間を試すほどの知性を持っていたサンダーはその可能性も考えた結果、ほんの少しの間だけ動きを止めた。それによってゴルーグの“ラスターカノン”が命中した。

 

「今だテッカニン! その顔面に“メタルクロー”!」

 

「テッ……カァッ!!」

 

「キエエエエ!?」

 

 持ち前のスピードを活かしてあっという間に距離を詰めたテッカニンが、サンダーの顔に爪を振り下ろした。生きている以上、目などと言った感覚器官の集中する頭部にダメージを負えば絶叫するのは必然。

 そしてそれは相手に、「手強い相手」と意識させる切っ掛けにもなった。

 

「クァァァァ!」

 

「テッ……!?」

 

 サンダーは、「舐めるな!」と言わんばかりに“ぼうふう”を発動した。虫タイプのテッカニンに飛行タイプの技は効果ばつぐんで、浩介の元まで吹き飛ばされると目を回して戦闘不能になってしまう。

 

「テカ~……」

 

「あぁっ! くっ、よく頑張った。戻ってくれ!」

 

「ゴルーグのメインはパンチ技だけど……! “シャドーボール”」

 

 滞空状態のゴルーグが暗色の球体を放つ。サンダーは“こうそくいどう”で回避しながら、次の技を放つ。

 

「キュアァァァ!!」

 

「ゴッ……!?」

 

「え? 何が起きたの……?」

 

 放ったのは青色の球体。それがゴルーグに命中した瞬間、滞空していた姿勢が大きく崩れた。

 その技の名は、“ウェザーボール”。ノーマルタイプに分類されるが、天候によってタイプが変わると言う特徴を持つ。現在の天候は雨。これによって水タイプとなり、地面タイプを持つゴルーグに大ダメージを与えたのだ。

 

「戻って、ゴルーグ!」

 

「ヤバいぞ、どうするんだこの状況……!」

 

「いざとなれば妾が……!」

 

 ユエと浩介の相棒2匹は戦闘不能。ティオとユエの魔法ならまだ戦えるだろうが、フィールドの天候とサンダーの持つタイプ相性を考えると、使える魔法は限られてくる。詰んでると言っても良い状態だった。

 

「みんな!」

 

 そんな中、3人に駆け寄る者達がいた。雫、恵理、シアの3人だ。

 

「飛行船は大丈夫だったわ! あなた達は!?」

 

「それが、俺のテッカニンも、ユエのゴルーグもやられちまった……!」

 

「そんな!?」

 

「……なら、ボク達が戦うしかないよね」

 

 恵理がサンダーを睨み付ける。シアも一瞬ポカンとしたが、好戦的な笑みに変わった。

 

「これが試練だと言うのなら、私たちはまだやれるって所を見せましょう! アブソル、出てきてください!」

 

「行くよ! ミミッキュ!」

 

「2人ともいきなりそんな……。あぁもう仕方ないわね! エルレイド、行くわよ!」

 

 新たに3匹のポケモンが繰り出される。

 

「…………」

 

 その様子を、サンダーは静かに見ていた。そして一瞬だけ目を閉じたかと思うと……。

 

「キョオオオオオオオン!!」

 

 咆哮を上げた次の瞬間、先程のまでの雷雲が霧散していき、雨風も止んだ。

 

「え……?」

 

「どういうことじゃ……?」

 

 困惑する一同。だがサンダーの鋭い目付きから、あるメッセージを感じ取った。

 

 

――合格だ。不屈の心、見せてもらったぞ。

 

 

 そうしてサンダーは、空の彼方へと飛び去っていった。

 

 

 

 

 

 

 操舵室。そこにはハジメと幸利がいた。彼らの相棒であるサイホーン、バサギリ、ガルーラは残念ながら重量や戦えるスペースの関係でバトルには出れなかった。

 

「見えてきたな、ハジメ」

 

「うん。あそこが、竜人族の故郷……!」

 

 遥か天を目指すかのように聳え立つ塔と、その下に広がる和風建築な村が、眼前に見えていた。

 




次回から、竜人族の里になります。


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竜人族の里

お待たせしました。今回は里での一幕です。


 サンダーの試練を乗り越え、何とか竜人族の里に辿り着いたハジメ達。初めて見る気球と、『人間は亜人族を見下している』という偏見から警戒されていたが、ティオが現れた事で空気が変わった。

 

「ティオ様!」

「ティオ様が戻られたぞ!」

「でも、何で人間や他の亜人族も一緒に……?」

 

「ねえねえハジメ君。もしかしてさ、ティオってこの里のお姫様だったりするのかな」

 

「伝承とかにも詳しいし、何ならあの塔……大迷宮のことを知っている。あり得るかもね」

 

 ハジメと香織は小声で話をする一方で、ティオは警戒の色を見せる竜人族に事情を説明していた。

 

「まぁ待て、落ち着くのじゃ。人間だからと即座に敵意を剥き出しにしては、我らの品格が疑われるぞ? 現にお主らが連れているポケモン達に対して敵意を見せておらんでは無いか」

 

 竜と共に生きると謳うだけあり、竜人族たちが連れているのはフカマルやナックラー、ヌメラなど後に強力なドラゴンポケモンになる個体が圧倒的に多かった。しかし中には、()()()()()()()()()()()()()()()もいた。

 

「(あのバレリーナみたいなポケモン、何だろう? ドレディアに似てるけど……。それに狛犬みたいなポケモンも初めて見るな……)」

 

 そんな興味津々な様子を見せるハジメ、ヌメラを見て「可愛い!」とはしゃぐ鈴、何故か見つめ合うナックラーとユエなど、明らかにポケモンを害する様子を見せないことに、竜人族は毒気が抜けた。

 

「ま、まぁ確かに、彼らは我々が思うような人間とは違うかもしれませんな……」

 

「そうじゃろう。さて、妾は彼らをお祖父様の所へ案内せねばならぬ。道を開けてくれぬか?」

 

「し、失礼いたしました!」

 

 そうしてハジメ達は、里の中で最も高台にある屋敷へと案内された。

 

 

 

 

 

 謁見の場とも言える大広間。その玉座に座る男が、頭を下げるティオとハジメ達に声をかけた。

 

「よく無事に戻ってきたな、ティオ」

 

「はい。お祖父様」

 

「そして客人よ。我が名はアドゥル・クラルス。この里の長を務めると共に、ティオの祖父である。この辺境までよく来たな」

 

「ありがとうございます」

 

 ティオが頭を上げるように促したことで、ハジメ達も改めてアドゥルの表情を伺うことが出来た。今の彼は孫娘が無事である安堵だけではない、不思議な笑みを浮かべていた。

 

「ティオよ。此度はなぜ、人間をこの里へ連れてきたのだ?」

 

「この者……ハジメとその仲間達が、『竜の塔』へと挑むに値すると判断したからです」

 

 アドゥルは驚いたように目を見開くが、どこか演技臭い。

 

「ほう。この里の者ですら立ち入りを禁じている塔に、人間が相応しいと?」

 

「ハジメは既に、オルクス、ライセン、グリューエン、メルジーネと4つの迷宮を踏破しております。更にはウルにて豊穣の王より、千宙腕さまの力の欠片を託されております。塔へと挑むに、これ程相応しい人間は居ないかと」

 

「ふむ……。ハジメよ。かの大迷宮には、全てを創造せし千宙腕さまの力の欠片……プレートが眠っている。本当に認められたのならば、そのプレートを私に見せてみよ」

 

「……はい」

 

 ハジメが取り出したのは、これ迄の旅で手に入れたプレート達。取り出した瞬間、プレート同士の共鳴によって、目映い光を放った。アドゥルは思わず玉座から身を乗り出し、初めてプレートを目にした光輝たちはその神秘性に圧倒される。

 

「おぉぉ……! この光、まさにプレートの光だ!」

 

「すっげぇ……」

 

「(俺たちがオルクス大迷宮で戦ってる間、南雲たちはそんなに沢山の迷宮を回ってたのか……)」

 

 ハジメがプレートをバッグに戻したことにより、場の空気は元に戻る。知らず知らず緊張したためか、アドゥルは玉座に座り直すと、感嘆したかのように大きく息を吐いた。

 

「はぁぁぁ……。実はなティオよ。お主たちが来る前に、空の一画が雷雲に変わったのを見たのだ」

 

「っ! それは!」

 

「解放者たちが大迷宮を創設後に聞いた話だ。『大迷宮に挑む者に、3羽の鳥が試練を与える』と。その鳥たちが司るは炎、雷、そして氷だ」

 

 ティオですら聞いたことが無かったのか、彼女も驚きのあまり声が出せない。

 

「あの雷雲を見た時、私はふとそれを思い出したのだ。まさかとは思っていたが……ティオと共に人間たちがやって来た。この時私は確信したよ。あぁ、この者たちはプレートが眠りし『竜の塔』へ挑みに来たのだと」

 

「ではお祖父様! まさかそれを知った上で……」

 

「プレートは強大だ。不相応な力を持ったが故に、偽りの神はより傲慢となったのだ。だがハジメを見て、その力に呑まれていない事を確認して安心することが出来た」

 

 長い時を生きるからこそ成せる、年長者の微笑み。それはハジメ達に勇気と安心感を与えた。

 

「だがあの塔は、挑戦者に『三つの試練』を与えると言う。万全に挑むためにも、今日は休んでいきなさい」

 

「お祖父様……! ありがとうございます!」

 

 祖父と孫で話すこともあるのだろう。ティオはそのまま屋敷に残り、ハジメ達は宿へと案内された。

 

 

 

 

 

 光輝たちはポカンとしていた。

 

「この子がドレディア!? 僕の知ってる子はもっとお姫様っぽいけど、この子はお転婆な感じがするな。で、こっちはガーディ! ちょこんとある角は岩なんですか! え、このヌメイルは殻を持ってる! すみません、もうちょっと取材させてください!」

 

 里の民が引き連れているポケモン達に目を輝かせながら、取材をしているハジメ。最初こそ戸惑っていた民たちも、悪意がないことを察してか快く応じていた。

 

「南雲くんのあんな姿、初めて見たわ……」

 

「南雲ですら知らないポケモン……。ポケモンって何種類居るんだ?」

 

「下手すると1000種類は越えてるかもな」

 

 幸利がケラケラと笑う。香織はと言うと、ハジメのその姿に苦笑いしてるが、嫌悪はしていなかった。

 

「なんと言うか、南雲って子供っぽいな。俺たちはもう高校生だぞ?」

 

「そんなこと無いよ光輝くん。私はね、ハジメ君のそんな所に惚れたんだ」

 

「え? そ、そうなのか?」

 

「好きなものに、ひたすら真っ直ぐ好きでいられる。こうやって本物のポケモンに会えて目を輝かせるハジメ君に、私も嬉しくなっちゃうんだ」

 

「……そう、なのか」

 

 頬を少し赤くしてハジメを見る香織。そんな姿を見て光輝は、少しモヤモヤとした気持ちになった。




ハジメのポケモン知識は剣盾までなので、彼にとってLEGENDSとスカーレット・バイオレットのポケモンは初見です。
さぁ、次回から大迷宮に突入です。


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竜人族が崇める『塔』

お待たせしました。いよいよ、オリジナル大迷宮のスタートです。


 竜人族の里で一夜を過ごしたハジメ達。彼らは朝早くに起床し、ティオに『竜の塔』と呼ばれる大迷宮へ案内してもらっていた。今はその塔の手前、祭壇のような場所に来ている。

 

「ここは、『竜の祭壇』じゃ。本来ならば行けるのは此処までじゃが、今はお祖父様のお陰で奥まで通れるようになっておる」

 

「どんな時にこの祭壇を使うの?」

 

「新年の祝いや、秋ならば作物の収穫、年の瀬にはその年に産まれた赤子のお祝いとして祭りを開くのじゃ。その時に妾達はこの祭壇へ集まるのじゃよ。この先の塔は聖地ゆえ、下界との境界線代わりになってるとも言えるの」

 

 失礼の無いよう一同で塔へとお辞儀をし、祭壇より向こう側へと足を進めた。

 ところが、いざ塔に入ろうとしても、目の前には巨大な扉がある。

 

「どうやって開くのかな、これ?」

 

「ふっ、ぬぅん……! 俺が押してもびくともしねぇぞ」

 

「力自慢の龍太郎でも駄目か……」

 

 鈴が鍵穴のような物が無いか首を傾げ、龍太郎が技能も使って押してみるが開く気配はない。光輝も頭を悩ませる。

 その時、ハジメのバッグからプレートが飛び出し、アドゥルに見せた時と同じように光を放った。すると扉は、ゴゴゴと鈍い音を立てながら開く。

 

「ゲームで言うなら、特定のアイテムを持ってる事で開くってタイプの扉だったんだね」

 

「アドゥルさんは、『この塔は三つの試練を与える』って言ってました。気を引き締めて行きましょう……!」

 

 そうして一行は塔の内部へと向かっていった。

 

 

 

 

 

 塔の中へ入ると、そこは巨大な広間。奥には二体の石像が立っていた。

 

「何だこの部屋は? 床に変な石みたいなのもあるし……」

 

「この石像……怪しいね」

 

 光輝達が戸惑うなか、香織や雫、ティオは奥の石像を注視していた。

 

「ハジメ、これってオルクス大迷宮の……!」

 

「ミレディさんの大迷宮にもありました!」

 

「そう言えばユエとシア以外は、このタイプの試練は初めてなんだっけ?」

 

 まさか此処でお出ましとは。ハジメは内心緊張しながらも、前世の知識を当て嵌める。

 

「(ゲームだと、どちらか一方しか出現しない筈だ。けどこの世界は現実。しかも点字の配置も、ゲームより多い気がする……!)」

 

 すると浩介が、文字の書かれている石板を発見する。

 

「何かのヒントを見つけたけど、これ点字だな……」

 

「点字を習ったのって、いつ以来だ? 小学生くらいの頃にそれの五十音表を習った気がするけどよぉ……」

 

「ていうか、トータスに点字あるんだ……」

 

 幸利と恵理が石板を覗き込むが、解読できずに悩む。ここで久方ぶりにハジメの技能が活かされる。

 

「『巨人の目を輝かせ、龍と雷の門番を目覚めさせよ。これが第一の試練なり』……だね」

 

「え、ハジメ君読めるの?」

 

「僕の技能の1つに、『言語理解(真)』って言うのがあってね。これのお陰で、点字とか古代文字を読めるみたいなんだ」

 

「なるほど、そのお陰で南雲くんは大迷宮も攻略できたのね」

 

「僕だけじゃなくて、仲間のサポートもあったから乗り越えられたんだよ。さて……あの石像の目のように、床の石を光らせるみたいだ」

 

「よし、やろう」

 

 幸いなことに人数が多かったため、床の石を石像の通りに光らせるのに時間は掛からなかった。ところが、その通りに光らせた瞬間。

 

 

――ざっくっど

 

――じじ じじじ

 

 

 広間に響く謎の声。光輝たちは臨戦態勢を取る。

 

「い、今の声は一体……!?」

 

「皆のもの、気を引き締めよ! 門番がお目覚めじゃ!」

 

 その瞬間石像が壊れ、中からポケモンが現れた。

 

 一体は、エネルギーの結晶らしき物で構成された、両腕を会わせれば龍の頭に見えるポケモン。

 もう一体は、小柄ながらも強者の風格をもち、電気で構成された体を持つポケモン。

 ハジメはそのポケモンの名を叫ぶ。

 

「やっぱり現れたか! レジドラゴ! レジエレキ!」

 

 第一試練『雷龍の試練』、開始……!

 




次回、レジドラゴ&レジエレキ戦! アニメと同様のダブルバトルです!


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第一試練 雷龍の試練

遂に、遂にこの小説が100話目を迎えました! 評価、お気に入り登録、感想をして下さった皆さんのお陰です! 本当にありがとうございます!

追記:ドラゴンエナジーに関して誤ってるところあったので、技の説明の箇所を丸ごと消しました。申し訳ありません……
追記2:一部戦闘シーンに矛盾があると指摘ありましたので直しました。


 竜の塔の最初の試練は、レジドラゴとレジエレキとのバトル。最初に動いたのはレジエレキだった。

 

「レ、キッ!」

 

「っ! 周りが電気で囲まれた!?」

 

 大広間を格子状の電気が覆う。レジエレキの専用技“サンダープリズン”は、ゲームならばターン毎にダメージを与える技である。だが今は、侵入者を逃がさない為に、文字通り檻として放たれた。

 

「ポケモンを出そう! レジエレキの方は僕のサイホーンとユエのゴルーグをメインに! レジドラゴは中村さんのミミッキュが決め手だ! 何とか引き付けて、混戦を避けよう!」

 

「分かった!」

 

「レジドラゴって、見た感じかなりパワーが強そうだな。なら力比べと行こうじゃねえか。ガルーラ、行くぞ!」

 

「レジエレキ……厄介そうね。行くわよ、エルレイド!」

 

「ポケモンを持たない私たちは、ハジメ君達のサポートをするよ! いざって時は結界を貼って皆を守るの!」

 

 ポケモンを持つハジメ達はボールを投げ、自分達の相棒を呼ぶ。香織を始めとするポケモンを持っていない人間は、サポートに回ることになった。

 

 

 

 

 

 レジドラゴを相手にするのは、恵理のミミッキュと幸利のガルーラと浩介のテッカニン、そして自身もポケモンの技を使えるティオだ。

 レジドラゴはほんの少し宙に浮かぶと、龍の上顎に見える箇所を光らせてガルーラに迫る。

 

「レ、ジ、ゴ」

 

「まさか、“ドラゴンクロー”か!」

 

「ならば妾じゃな!」

 

 ティオも“ドラゴンクロー”を展開し、レジドラゴとつばぜり合う。だが細身のティオと重量のあるレジドラゴでは力の差が大きく、徐々に押されていく。更にレジドラゴは、特性『りゅうのあぎと』によって、ドラゴンタイプの技の威力が大きくなっているのだ。

 

「ぐ、くっ! この異常な龍のエネルギー……! まさかこやつの身体は、ドラゴンエネルギーの塊だと言うのか!?」

 

「ガルーラ、レジドラゴの横腹に向かって“メガトンパンチ”!」

 

「ミミッキュ、アイツの背中に“シャドークロー”!」

 

「テッカニン、“こうそくいどう”で距離を詰めるんだ!」

 

 それぞれのポケモン達が、一斉にレジドラゴに攻撃する。ガルーラはその拳を唸らせ、ミミッキュは“ゴーストダイブ”を応用して背後に回り、テッカニンは目にも止まらぬスピードで接近し爪で切りつける。

 だが、レジドラゴもただ攻撃を受けるだけではない。始めに狙いを定めたのはガルーラだ。龍の下顎部分が光ると、そのオーラで握り拳を形成し、“アームハンマー”として殴り付ける。ノーマルタイプのガルーラに、格闘タイプの技は効果抜群だ。

 

「ガルゥゥ!?」

 

「やっべぇ!?」

 

 更にレジドラゴは、そのまま体を回転させて“たつまき”を発生させる。最も近くに居たティオとミミッキュとテッカニンが、それによって吹き飛ばされた。ミミッキュは単なる風圧で吹き飛ばされるだけに過ぎなかったが、ティオにとってドラゴンタイプの技は少なくないダメージを与えた。

 

「ぐうううっ!」

 

「ティオ、大丈夫か!?」

 

「まだ大丈夫じゃ! お主のテッカニンは!」

 

「体が軽かったお陰で、風圧で飛ばされるだけで済んだ! 中村、ミミッキュの方はどうだ!」

 

「特性の『ばけのかわ』のお陰で無傷だよ! でも、そのせいで凄く怒ってる!」

 

「ミ゛ギュウウウウウウ!!」

 

 ミミッキュは、化けの皮の首に当たる部分を折られると、その折った相手を何処までも追い続ける。恵理のミミッキュも同様で、レジドラゴに対して強い怒りを向けていた。

 

「レ、ジ、ド、ゴ!」

 

 するとレジドラゴは高く浮かび上がると、姿勢を変える。それはまさに龍の頭とも言える姿で、その口が開かれると、エネルギーを溜め始める。

 

「あれは何かヤバい……! 絶対に俺たちを纏めてなぎ払うつもりだろ!」

 

「撃たせてはならぬ! あの光は、ドラゴンのエネルギーを収束させたものじゃ!」

 

「(あれ? 確かミミッキュの持つタイプって……なら、もしかして!)」

 

 態勢を立て直す間にもエネルギーは急速に蓄積されていき、ついにレジドラゴの専用技“ドラゴンエナジー”が発射された。幸利は大急ぎでガルーラに“まもる”を指示しようとするが――

 

「ミミッキュ、前に出て!」

 

「ミキュッ!」

 

 恵理の掛け声によって前へと飛び出たミミッキュ。ドラゴンエネルギーが命中すると思われたその瞬間、レジドラゴの技が消滅した。

 

「ド、ラ……!?」

 

「な、何じゃ!?」

 

「嘘だろ、あんなにヤバそうな技だったのに!」

 

「ユエさん達の講義が役に立ったよ。ボクのミミッキュ、持っているタイプはゴーストとフェアリー。フェアリータイプは、ドラゴンタイプの技を無効化するんだ!」

 

 まさか技を無効化されるとは思わず、僅かに動揺するレジドラゴ。しかし、覚醒した恵理はそのチャンスを見逃さない。

 

「幸利くん! アイツの影に向かって、動きを止めるやつを!」

 

「影縫いだな! 任せとけ!」

 

 幸利は、自身の技能を応用した影縫いを発動し、レジドラゴの動きを止める。

 

「ミミッキュ、そのまま“じゃれつく”攻撃!」

 

「ミッキュウウウウ!!」

 

 ポコスカと言う効果音は可愛らしいが、その実態はフェアリーエネルギーを使い四方八方から殴ると言うえげつない技。ドラゴンエネルギーの塊であるレジドラゴからしたら、たまった物ではない。

 

「レ、ラ、ド……!」

 

 だがレジドラゴも最後の力を振り絞り、再び“ドラゴンエナジー”を発射しようとする。

 

「最後の足掻きとやらか! アレを撃たせてはならぬ!」

 

「やるしかねぇぇ! ガルーラ、“メガトンパンチ”ぃ!」

 

「テッカニン、“メタルクロー”ぉ!」

 

「ミミッキュ、 “ウッドハンマー”ぁ!」

 

 ティオは両手に“ドラゴンクロー”を展開し、各々のポケモン達も一斉に攻撃を開始した。もはや幸利達トレーナーの指示は叫び声に近い。

 

「「「「いっけえぇぇぇぇぇぇ!!」」」」

 

 そしてその叫びは……彼らに味方した。

 

「レ、ジ、ド、ラ、ゴ…………」

 

 レジドラゴの目にも見える点字部分が、数回点滅する。そして光らなくなると、レジドラゴもそれに合わせて動かなくなった。

 

 

 

 

 

 レジドラゴとの戦いが始まると同時に、ハジメ達とレジエレキの戦いも始まった。

 

「電気タイプには地面タイプ! ゴルーグ、“じゅうまんばりき”!」

 

「ゴォォォォ!!」

 

 腕に地面エネルギーを溜めたゴルーグが、レジエレキに向かって拳を振りかざす。

 

「エ、レ」

 

 ところがレジエレキは、自身の体からバチバチと火花を散らすと、軽やかに宙を舞って“じゅうまんばりき”を回避した。

 

「と、飛んだ!?」

 

「“でんじふゆう”か!」

 

「レ、ジ、レ!」

 

 そのままレジエレキは、持ち前の素早さでゴルーグに接近。四方八方からの攻撃を始めた。“アクロバット”だ。

 

「サイホーン、援護するんだ! “うちおとす”攻撃!」

 

「グオッ!」

 

 しかし、レジエレキは電気で構成されているだけあって、かなり素早い。“アクロバット”を中断するとサイホーンの打ち出した岩を回避し始める。

 それを見たシアが、あることを思い付いた。

 

「雫さん。アブソルと貴女のエルレイドで、あの岩を打ちましょう」

 

「い、岩を打つ?」

 

「あれだけ素早いなら、きっと岩をぶつけられたら大きく怯んで隙が生まれると思うんです。サイホーンだけで当たらないなら、私たちも加わって弾幕を張れば……!」

 

「そう言うことね。分かったわ」

 

 2人は頷くと、ハジメにアイコンタクトを送る。彼はそれに気付くと小さく頷いた。

 

「サイホーン、“ロックブラスト”。撃ちまくれ!」

 

「アブソル、レジエレキの背後に向かって“でんこうせっか”! そして飛んできた岩を“はたきおとす”攻撃!」

 

「エルレイド、あの岩に向かって“サイコキネシス”!」

 

 アブソルが背後にまわり、レジエレキが回避した“ロックブラスト”の岩を“はたきおとす”。さらにエルレイドのサイコパワーによって他の岩も浮遊し、弾丸のようにレジエレキを襲う。

 

「レキッ!?」

 

 空中でそのような衝撃を受ければ、伝説のポケモンと言えども姿勢を崩してしまう。そこへゴルーグが、逃がさないと言わんばかりにその豪腕でレジエレキを掴んだ。

 

「捕まえた……!」

 

「ゴルゥゥゥゥ!!」

 

「エ、レ、キキキキキキ!?」

 

 乱暴に地面へと叩きつけるゴルーグ。そのまま力尽きるまで繰り返そうとしていたが、レジエレキは“しんそく”を発動して脱出した。彼らから距離を取ると、レジエレキは腕をエルレイドとアブソルに向けた。“ロックオン”である。

 

「エ、レ、エ!!」

 

「アブソル、“みきり”!」

 

「エルレイド、“テレポート”!」

 

 特性『トランジスタ』によって威力の上がった“でんじほう”は地面に着弾する。その場所に小さいながらもクレーターが出来たことが、その威力の強さを表していた。

 回避したアブソルはレジエレキの横に、エルレイドは背後にまわっていた。

 

「“バークアウト”!」

 

「“サイコカッター”!」

 

「レ、ジィ……!」

 

 再び大きく怯んだレジエレキだが、今度は“こうそくスピン”を発動。それもただ回転ではなく、その状態で自身を発電。それによって発生した電気エネルギーを広範囲にばらまき始めた!

 

「だったら私たちが!」

 

「前に出れば良い!」

 

 アブソルとエルレイドを庇うように前に出たのは、ゴルーグとサイホーン。指示する技のタイプはただ一つ。

 

「“じゅうまんばりき”!」

 

「“ドリルライナー”!」

 

 効果抜群の地面タイプ技が、同時に命中した。高速回転していたレジエレキの動きは徐々に遅くなり――

 

「エ、レ、キ……」

 

 そのまま後ろへ、音を立てて倒れたのであった。

 

――雷龍の試練、突破




次回は小休止を挟んでから、第二の試練へ……。


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試練の後の小休止

碧の仮面、来月に配信だそうでとても楽しみです。舞台の雰囲気的に夏っぽく感じるので、8月とか夏休みシーズン配信だともっと良かったかもですが。まぁ9月でも、「夏休みをもう一度」として楽しめそうですね

~カミッチュを見て~
私「カジッチュ……お前まだ進化するんか」←喜んでる


 レジドラゴとレジエレキを倒したハジメ達。合格と見なされたのか、大広間の奥の石像が左右に動いたことで扉が出現した。だがその前に、次の試練に備えて回復することになった。

 

「お疲れ様。今、回復魔法をかけるね」

 

 草タイプのプレートの力を得た香織が、広範囲の回復魔法をかける。だが、あくまで3つある試練のうちの1つを突破したに過ぎないため、香織自身の体力を温存するためにも、ポケモン達の回復量はやや少な目だ。

 

「クラフトして作ってたキズぐすりの類は沢山あるから、こっちも使おう」

 

 ハジメがオルクス大迷宮の最奥で手に入れた、オスカー・オルクスの遺産。クラフト技術と、宝物庫と名付けられたアーティファクト。そのお陰で回復アイテムの在庫に困ることはなく、香織に回復を任せきりにならなくて済んでいる。

 

「光輝くんも、この薬を塗ってあげて? こう言う機会じゃないとポケモンにも触れられないし」

 

「え? あ、あぁ……」

 

 そして香織は、積極的に光輝とポケモンを触れさせようとしていた。彼はハジメ達と同行するまで、ポケモンを敵として見ていた。だが実際に人間とポケモンが共闘してるのを見て、その考えが揺らいでいるのではないかと香織は感じていた。そこで実際に触れさせようと考えたのである。

 

 一方でキズぐすりを手にした光輝は、どのポケモンから塗るべきか悩んでいた。だが彼が決めるよりも先に、幸利が声をかける。

 

「こっちの方、頼めるか。俺は背中やるから、お前は腕の方を頼む」

 

「わ、分かった」

 

 ふとガルーラを見る。その背丈は2メートルほどで人間よりも大きく、口からは牙も見える。見ただけでは恐ろしい。

 

「ガァル」

 

 だがガルーラは、パートナーである幸利が頼んだからと知ってるのか、光輝に腕を出した。擦り傷程度のものだが治しておいて損はない。おっかなびっくりではあるが、光輝はそこにキズぐすりを塗る。

 

「(暖かい……。ゲームとか漫画のような架空の存在じゃなくて、しっかりとこの世界に存在してる)」

 

 塗り終わったことを伝える。人間じゃあるまいし、と何故声をかけたのか疑問に思った。

 

「ガァル」

「カルルー!」

 

 だがガルーラは微笑み、お礼を言うかのように一鳴きする。お腹の袋の子供も真似して鳴いた。

 

「(っ! 俺の言葉を、理解して……!)」

 

 ふと周りを見る。それぞれの相棒を手当てしているトレーナー達は、みなポケモンに声をかけていた。

 

「頑張ったな、テッカニン。手当てしたけどどうだ? まだ行けそうか?」

「テッカ!」

「はは、そうかそうか! 次も頼むよ」

 

「エルレイド、大丈夫? 疲れてないかしら?」

「エルラ、エルル!」

「その様子だと大丈夫みたいね。安心したわ」

 

「これなら……はい! 首のところ戻ったよ、ミミッキュ」

「ミキュ、ミキュ!」

「んふふ、くすぐったいよ~」

 

「ゴルーグ、格好良かった」

「ゴルル……」

「照れてる? ふふ、そう言う仕草も見せるのね」

 

「アブソル、大丈夫ですか? オボンのみもありますから、食べてお腹も満たしときましょう」

「アブッ!」

「え? 私も一緒に? えへへ、ありがとう」

 

 みんなが笑顔でポケモンに接している。ふと、イベルタルとの戦いの後に、ハジメと言い争った時のことを思い出した。

 

『全部のポケモンを悪だと決めつけるのは間違ってる!』

 

「(俺は……)」

 

 その時だ。そのハジメの方から声が上がった。

 

「うわぁぁぁ!? サイホーン!?」

 

 ふと、ハジメの相棒であるサイホーンが青白い光を放っていた。その光量は徐々に大きくなり、サイホーンの姿が見えなくなる。

 

「この光、まさか……!」

 

「おいおいマジかよ!」

 

「進化の光……!」

 

 香織と幸利が嬉しそうな声を上げる。突然のことで困惑しそうだが、悪い事態では無いと言うことは分かった。

 そうして光が収まると……そこには、二本足で立つ巨大なポケモンがいた。

 

サイッ、ドオオオオオン!!

 

「サイドンに進化したのか! やったね!」

 

「グァルル!」

 

「バルッ、バルゥル!」

 

 笑顔で抱き締めるハジメに、サイホーン改めサイドンもニッコリと笑う。いつの間にボールから出たのか、バサギリも祝福している。お互いに笑顔な光景を見て、光輝は改めて思った。

 

「(やっぱり……俺が間違ってたよ、南雲。ポケモンは確かに俺たちを襲うけど、それは生き物としての姿であって、全部が悪ではないんだな……)」

 

 それは、勇者の考え方が変わった瞬間でもあった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 回復を終え、第二の試練の場へと足を進めるハジメ達。だが扉を潜り抜けると、そこは螺旋階段が続いていた。

 

「ほう……。まさか塔の内部がこうなっていたとは」

 

「ティオ、知らなかったの?」

 

「残念そうな目を向けるでない、ユエよ。この塔は我ら竜人族にとっては聖域。おいそれと中に入ることは許されぬ。というか、誰1人入ったことが無いのじゃぞ?」

 

「竜人族が崇める、螺旋階段の塔……。名付けるとしたらリュウラセンの塔ってか?」

 

「(え、浩介なんでその名前をピンポイントで当てたの!?)」

 

 内心驚きながらも、ハジメは足を進める。暗い環境と辺りに満ちるドラゴンエネルギーの関係なのか、オンバットが飛んでいる。だが外敵が居ないためか、ハジメ達を襲おうとはせず寧ろ好奇の目で見ていた。

 そして長い螺旋階段を登り終えると、またしても巨大な扉が。しかし、まるでハジメ達を待っていたかのように勝手に開いた。

 

「……行こう」

 

 全員が頷き、扉の奥へと一歩踏み出した。

 

 

 

 

 

 そこは真っ暗な部屋。だがハジメ達が入ったとたん、壁のロウソクが一気に点火する。

 目の前にあるのは、2つの燭台らしきもの。そこに納められているのは、黒い球体と白い球体。

 

「まさか、こんなところで……!」

 

 青い雷が、赤き炎が球体を包み込んだ。

 

 

『問おう。お前の願いは何だ』

 

 

 現れるは、黒き英雄と白き英雄。

 

 

 第二試練『雷炎問答(らいえんもんどう)』、開始……!

 

 




~今回の内容のまとめ~
1、光輝が改心
2、皆さんお待ちかねのサイホーン進化
3、大迷宮の名前はリュウラセンの塔
4、ゼクロム&レシラム登場!


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第二試練 雷炎問答

今回は、太字や拡大など、特殊タグを結構使っています。


 目の前に現れた2体のポケモン。白い竜の名はレシラム。黒い竜の名はゼクロム。それぞれ、真実を司る英雄と理想を司る英雄である。

 

『真なる神の力、その欠片を集めし者よ』

 

『問おう。お前は何を願い、その欠片を集める』

 前世の知識では、イッシュ地方の建国神話に出てくる2体。その建国神話では、王である兄弟が対立し、最終的には兄弟は争いを止めた。しかしその子孫が争いを再び始めた時、ゼクロムとレシラムは怒り、イッシュ地方を焼け野原にしたと言う。

 つまり、この試練で嘘偽りは許されない。目の前の2匹を怒らせれば、自分はおろか後ろの仲間達も消し炭にされてしまうだろう。

 

「僕は……」

 

 2体の英雄からのプレッシャーで、息が詰まりそうになる。だが改めて、自分の想いを打ち明ける。

 

 

「僕は、アルセウスを解放して、ポケモンと人が一緒に生活できる世界にしたい!」

 

 

 言った。言ってやった。ゼクロムが口を開くまで時間は掛かっていないが、やけに長く感じた。

 

『ほう。この星の生命との共存を願うか』

 

 感心したような声を出したゼクロム。だがまだ合格と言われた訳ではない。レシラムが現実を突きつける。

 

『だが偽りの神に惑わされた人間達は、我らを害あるものとして傷付けている』

 

「知っている。そしてそれが、長く続いていることも」

 

『長く続いた思想は強固なものとなる。大衆に立ち向かうために、真なる神の目覚めを願うか?』

 

「違う! 人間の思想に変革を与えるのは、人間の仕事だ! 僕がアルセウスに求めるのは、エヒトから神の座を取り戻す事と、ディアルガ達三体の神の怒りを静めてほしい事だ!」

 

 人間は神の駒ではない。人間には、自分で考えて行動し、自分の想いを伝える力がある。それなのに神に依存する構想にしたエヒトは、神の座に相応しくないと。ハジメはそう叫んだ。

 レシラムが小さく頷くと、今度はゼクロムが前に出る。

 

『お前が真なる神の解放を願う理由、(しか)と聞いた。その上で聞こう。お前は……時代を破壊する覚悟はあるか

 

「え……」

 

『偽りの神は、己の都合に合わせて人間達を支配している。しかし、あやつが人間達に与えし魔法によって、国が発展したのもまた事実。偽りの神の終焉は、人間達に大いなる混乱を招く。その混乱が善き新時代へと進展するかは、我らをもってしても分からぬ。その過程で消え行く命もあるだろう』

 

 ゼクロムの赤い目が、ハジメに対して「負の側面から目を逸らすな」と警告する。

 

『お前は、その責務を背負う覚悟はあるか?』

 

 ハジメの肩に、ズッシリと重い「何か」がのし掛かる。腕が震え、足が震えて膝も着きそうだ。

 

 

「1人じゃないよ!」

 

 

 突然響いた叫び声。ハジメが顔を向けると、そこには愛しい人……香織が隣に立っていた。

 

「私たちはアンカジで、ポケモン達と一緒に暮らす様子を見てきた!」

 

 それに勇気付けられたように、シア、ユエ、幸利と次々に仲間がハジメと並ぶ。

 

「そうです! お父様も同族の皆さんも、みんなポケモン達と仲良くなり、弱小と言われていたにも関わらず、強くなりました!」

 

「アンカジの人々は、自分達で工夫して、魔法だけじゃなくてポケモンの力も借りて生きている!」

 

「もうとっくに、エヒトの野郎から一人立ちしようとしてる奴らが居るんだよ!」

 

 そして、この男も前に出た。

 

「俺は……この世界に召喚されてから、ポケモンは全部悪だと思ってた」

 

 光輝はゼクロムとレシラムから目を逸らさない。

 

「だけど、ようやく分かったんだ! そうじゃないって! 地球人ですら分かることが出来たんだ! だったらトータスの人たちも、分かることが出来る筈だ!」

 

「みんな……!」

 

 その時だ。ゼクロムとレシラムは天に向かって叫んだ。

 

『『ギュオオオオオオオオン!!』』

 

 雷のバチバチとした音と、巻き上がる炎のゴオゴオとした音。それらが大広間を埋め尽くす。その衝撃から顔を腕で守るハジメ達。その後に顔を上げると、2体の纏う雰囲気は喜びに満ちていた。

 

『良かろう! お前達の叫び、確かに聞いた!』

 

『故に我らは認めよう!』

 

『お前達の覚悟は理想を見せる!』

 

『お前達の勇気は真実となる!』

 

――雷炎問答(らいえんもんどう)、突破

 

 

 

 

 

 ゼクロムとレシラムに認められたハジメ達。2体の向こうにある扉が音を立てて開いた。風が吹き込み、頂上が近いのだろう。

 

『その先に、この塔の最後の試練が待ち構えている』

 

『行け。試練の主が、神の力の欠片を持っている』

 

「ありがとう。ゼクロム、レシラム」

 

『もう1つ、これを持っていくが良い』

 

 ハジメの手元に現れたのは、フリージオと言うポケモンを模したようなアイテムだった。ペンダントのようにも見える。

 

『我らは元々、1つの竜である』

 

『そこから我らが分れたが、残された骸も命を持った』

 

冷気と虚無を司りし竜。奴は、氷の大迷宮にて待っている』

 

『その証が、奴の元へと汝を導くだろう』

 

「それって、まさか……! 本当にありがとう! さぁみんな、行こう!」

 

 ハジメが扉の向こうへと行くが、ティオだけは動かなかった。

 

「……ティオ?」

 

「妾はちと、このお二方に用がある。先に行っててくれ」

 

「……分かった」

 

 真剣な顔をしているティオを断れる筈もなく、ハジメ達は先へと進んだ。

 そして、残されたティオは……。

 

『我らが加護を与えし娘よ』

 

『大きくなったものだ』

 

「光栄でございます。ですが、わたくしは偽りの神の使徒との戦いにて、半ば暴走の形でお二方の加護を使用しました。故に稽古をつけて頂きたく」

 

 頭を下げるティオに対する返答は、雷と炎を溜める音で返された。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 塔の頂上。内部に入る前は快晴だった筈だが、ハジメ達の目の前には暗雲が立ち込めていた。

 周りに巨大な白色のクリスタルが立ち並ぶこのエリアに、1匹のポケモンが舞い降りた。

 

『よくぞ来た、人間よ!』

 

レックウザ……!」

 

「凄い……。あれが、ティオ達が崇める『龍神様』……!」

 

 レックウザはハジメ達を見ると、空に向かって咆哮した。その瞬間、周囲のクリスタルが輝き始める。クリスタルに浮かび上がるは、()()()()()()()

 

「このクリスタル、まさか……!」

 

 クリスタルからポケモンへと光線が当てられ、その姿が大きく変化する。

 

メガシンカ……!」

 

『余計な前置きは不要! さぁ、我が試練を乗り越えて見せよ!!』

 

 最終試練「烈空(れっくう)の試練」、開始……!




ゼクロム&レシラムとティオの場面で不穏を感じた方はご安心ください。2匹による修行を受けてるだけで死んでません。

次回、ハジメ達vsメガレックウザ!


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最終試練 烈空の試練(前編)

お待たせしました。長くなるので前編後編に分けます。


 最後の試練として立ちはだかるは、メガレックウザ。彼の特性『デルタストリーム』によって乱気流が発生する。

 

「くううう! 乱気流まで起こすなんて、ポケモンは何でもありだな!」

 

 メガレックウザはそのまま空を飛ぶと、その場をグルグルと回り始めた。“りゅうのまい”をしながら“かみなり”も発動し、ハジメ達の周りに雷を落としていく。

 

「うわぁぁ!?」

 

「鈴!」

 

「任せて、エリリン!」

 

 試練によって鍛えられたお陰か、鈴は結界を作るスピードが早くなっていた。瞬時に展開された結界が落雷の衝撃を和らげる。

 

「サイドン、バサギリ、行くよ!」

 

「グルァァ!」

 

「バァル!」

 

「ゴルーグ、ごめん。今回は盾役になってほしい……!」

 

「ゴルッ!」

 

 サイドンとバサギリは勇ましく声を上げ、ゴルーグはユエの言葉を気にすること無く、ユエ達を乱気流から守る壁役となった。

 

「ギュルアァァァァァ!!」

 

「グウウウッ!」

 

 メガレックウザはハジメ達の戦う意思を察すると、“しんそく”で一気に突っ込んでくる。しかし其処はサイドンが辛うじて受け止めることで威力を相殺した。ハジメのサイドンは、オヤブンと呼ばれる個体であるため、かなりの怪力を誇るのだ。

 

「バサギリ、“がんせきアックス”!」

 

「バッルアァ!!」

 

 バサギリが誇る石斧をメガレックウザに叩き付ける。だが、『デルタストリーム』は飛行タイプに効果抜群な技の威力を軽減する効果がある。大してダメージを受けなかったメガレックウザは押さえ込むサイドンを振り払うと、尻尾にエネルギーを溜める。そして距離を詰めていた2匹をまとめて“ドラゴンテール”で吹き飛ばした。

 

「ドラゴンタイプなら……! ミミッキュ、“じゃれつく”攻撃!」

 

「ミッキュウウウ!」

 

 風が吹き荒れる中をミミッキュは素早く近付き、メガレックウザに攻撃を仕掛ける。

 

「キュルァァ!?」

 

「よし、行ける!」

 

『なめるなぁ!』

 

 メガレックウザは強風の環境を利用して“エアスラッシュ”を発動。特性『ばけのかわ』でダメージは無かったものの、風圧によってミミッキュは距離が離れてしまった。だが、あらかじめ幸利はガルーラをボールから出していた。

 

「食らわせてやれガルーラ! “れいとうパンチ”!」

 

「ガルゥゥラァァ!」

 

 その瞬間、メガレックウザは大きく息を吸い始める。

 

「スゥゥゥ……ガァァァァァァ!!」

 

「ガ、ルゥ……!」

 

 至近距離の“ハイパーボイス”によって技をキャンセルされてしまった。だが、伝説ポケモンと幾度も戦ってきた彼らの動揺は少ない。今度はシアのアブソルと雫のエルレイドが駆け抜ける。

 

「アブソル、“バークアウト”!」

 

「エルレイド、“サイコカッター”!」

 

『(甘い! また吹き飛ばしてくれる!)』

 

 メガレックウザが再び“ハイパーボイス”を放とうとするが、その瞬間背後から大きな衝撃が襲い掛かった。

 

「ギュルアァァァァァ!?」

 

「俺を無視してんじゃねぇ……!」

 

 そう呟いたのは浩介だった。先ほどの攻撃の正体は、テッカニンによる“メタルクロー”。しかも、ただの攻撃ではない。彼の特性は『かそく』。見向きされていない状態を利用して素早さを底上げし、高速で飛び回りながら“つるぎのまい”を連発。攻撃力が限界まで上がり、スピードが乗った状態で放たれた一撃である。

 大きく姿勢を崩したメガレックウザに、アブソルとエルレイドの攻撃も叩き込まれた。

 

「グウウウッ!」

 

 ポケモンと人間の共闘は、メガレックウザの予想以上に手強いものだった。

 

『まだだ! お前達の実力は、絆は、それだけか!?』

 

 メガレックウザは体をくねらせながら空へと上がる。頭部から伸びる橙色の光の帯が、まるで二重螺旋のように見えた。

 この瞬間、ハジメは力の限り叫んだ。

 

「全員逃げろぉぉぉぉぉ!!」

 

 

 

 

“ガリョウテンセイ”

 

 

 

 

 その瞬間、リュウラセンの塔が揺れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「う、うぅ……。何が起きたんだ……?」

 

 意識を失っていたのだろうか。光輝は体が痛むのを堪えて起き上がる。そして、目の前の光景を見て愕然とした。

 

「なっ……! みんな!」

 

 どのポケモン達もボロボロで、辛うじて立っているような状況である。先ほどの技“ガリョウテンセイ”の威力があまりにも強すぎたのか、ハジメや幸利、浩介が倒れている。気を失っているようだ。

 

「谷口! しっかりしろ、おい!」

 

 限界まで結界を展開していた鈴は、龍太郎の声に応じない。意識を失いグッタリとしている。

 

「う、くうぅ……!」

 

「雫、大丈夫か!?」

 

 膝を震わせながらも立ち続けている雫に声をかける。だが次の瞬間、彼女も座り込んでしまった。

 

「レックウザ……。空の化身と呼ばれる訳ね……!」

 

「嘘、だろ……」

 

 雫の見つめる先に光輝も目を向けると、立ち上る土煙の中にしっかりと佇むメガレックウザの姿があった。

 一番ポケモンに詳しい3人組とそのパートナー達は倒れている。

 

「(ど、どうする! この状況、まだ試練は終わっていない! 考えろ、考えろ!)」

 

 光輝は脳をフル回転しながら周りを見渡し、香織は無事なことを確認した。現状出来ることを言葉にしていく。

 

「香織は南雲たちの回復を頼む! 雫、恵理、シアさんはキズぐすりでポケモン達を! ユエさんは結界を頼みます! 龍太郎、行くぞ!」

 

「おう!」

 

「待ちなさい光輝! ポケモンも持ってないのにどうするのよ!?」

 

「ポケモンを持てないなら、持てないなりにやれる事をやるしかない!」

 

「回復するまでの間、時間稼ぎだな! やってやらぁ!!」

 

 雫の制止を振り払い、メガレックウザと対峙する光輝と龍太郎。聖剣を抜いて構えるが、膝をガクガクと震わせている。

 

「は、はは。あれだけの技を見た後だと、怖いなぁ……!」

 

「安心しな光輝、俺も震えが止まらねえ……!」

 

「龍太郎。巻き込んでしまってゴメン」

 

「なぁに、このまま戦わずにじっとしてるのは、そろそろ我慢の限界だったんだ」

 

 メガレックウザが吼えると同時に、2人は持ち前のステータスで一気に駆け抜ける。

 

「攻略の糸口がある筈だ! だがポケモンの事は、ポケモンに詳しい南雲たちの知識を頼るしかない!」

 

「時間稼ぎしながら、俺たちも何か見つけねえと!」

 

 メガレックウザの放つ“かみなり”を避けながら、2人は攻略方法を考え始めた。




果たしてこの試練の攻略法は……?


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最終試練 烈空の試練(中編)

職場の先輩達が次々と辞めていき忙しくなる中、『碧の仮面』の配信とガルパン最終章が、最近の私の支えになっています。


 メガレックウザの特性『デルタストリーム』によって、乱気流が吹き荒れる。彼の専用技である“ガリョウテンセイ”によって、ポケモントレーナーであるハジメ達はほぼ壊滅状態に陥ってしまう。香織や雫たちが倒れた仲間達を回復させている間、光輝と龍太郎が戦うことになった。

 

「龍太郎、あくまで時間稼ぎだ! 俺たちまで倒れたら香織達の負担が増えてしまう!」

 

「回避優先って事だな! 脚力には自信ある!」

 

「キュアァァァァン!!」

 

 レックウザが吠え、“かみなり”を2人に落とそうとしてくる。光輝たちは二手に分かれるように回避したことで直撃は免れるが、落雷の轟音と衝撃は心身を揺さぶってくる。

 

「(俺は慢心してたんだ。俺なら何でも出来るって。だからこの世界の人たちも救えるって、そう思い込んでいたんだ)」

 

 学業では好成績を残し続け、運動も苦戦したことがない。光輝は言わば「失敗したことがない人間」だった。だが、自分とは別の強みのあるハジメ達の姿を見て、そしてこのように強大な存在を相手にして、ようやく実感できたのだ。

 

「(俺は勇者でも何でもない、只の人間だ! 香織が南雲に惚れてる事に……嫉妬もした!)」

 

 怯ませて技を封じさせようと近付くが、メガレックウザは“ドラゴンテール”を振るってくる。回避しきれないと判断した龍太郎は、タンク役であった事を活かして受け止めようとするが、威力を押さえきれずに吹き飛ばされてしまう。

 

「ぐぁぁぁぁぁ!?」

 

「龍太郎! ぐうっ!」

 

 吹き飛んだ龍太郎を、光輝は身体を張って受け止める。お互いに地面をゴロゴロと転がった。

 

「すまねぇ、光輝……!」

 

「謝らなくて良い。とにかくレックウザの気を引こう。聖剣が通じれば良いけど……」

 

 聖剣を構えてから魔力を込める。これから放つのは自身の切り札。だが、メガレックウザに通じるかどうかと言う不安もあった。

 

「けど、やるしか無い!」

 

『む……!? そのオーラ……まさか!』

 

「うおおおお! 天っ、翔っ、せぇぇぇぇぇん!!」

 

 聖剣が輝きを放ち、光輝は一気に振り下ろす。光のオーラによって、まるで刀身が伸びたかのように見えるそれをメガレックウザに向けた。

 メガレックウザはというと、まさか人間がフェアリータイプの力を扱うとは思わなかった。その僅かな動揺によって反応が遅れてしまう。

 

『ぬおおおおおお!?』

 

「え!?」

 

「効い、た……!?」

 

 天翔閃がまさか効くとは思わず、放った本人もポカンとしてしまう。メガレックウザは姿勢を立て直すと、光輝にテレパシーを送る。

 

『人間よ、特別に教えよう。お前の持つその剣は、偽りの神によって造られし物。その剣に秘められし力、それはフェアリーの力である』

 

「聖剣がフェアリータイプの力を……?」

 

『真なる神が所持するプレート、その力が込められた物だ。もっとも、プレートその物が剣になっている訳では無いがな』

 

「(そうか! オルクス大迷宮でハガネールに聖剣が効かなかったのは、この剣の攻撃がフェアリーの技として放たれたからか! 教えてもらったタイプ相性だと、フェアリーに鋼タイプは効果が今一つだからな……)」

 

 ゆえに、とメガレックウザは声を続ける。

 

『我に傷を与えたことに敬意を表し、この技を見せよう』

 

 メガレックウザは天に向かって咆哮する。次の瞬間、空が光り始めた。

 

「これは……!?」

 

 光輝が龍太郎を庇った瞬間、辺りに“りゅうせいぐん”が降り注いだ。

 

 

 

 

 

「う、ぐ……」

 

「光輝くん、良かった!」

 

「香織……? 俺は……うぐっ!」

 

「無理しないで。光輝くんのお陰でみんなを回復させることが出来たから」

 

 目を覚ました時、光輝は香織から回復魔法を受けていた。隣では龍太郎が眠っており、彼も手当てを受けたらしい。

 

「天之河くん」

 

「南雲……」

 

「ありがとう」

 

「……あぁ」

 

 ハジメが礼を言い、光輝も短く返す。ハジメも彼の戦いを見て、光輝に信頼が芽生え始めていた。

 ハジメはこちらが攻めてくるのを佇んで待つメガレックウザを見ながら、攻略方法を考える

 

「恐らく、今がチャンスだ。“ガリョウテンセイ”と“りゅうせいぐん”……あれ程の強力な技を出し続ければ、力が弱まっている筈」

 

「そうは言うけれど、実際にはどうするの? 私が見た感じではまだまだ余裕そうだけれども」

 

 雫の言葉にハジメは考える。ポケモン達が回復したことで、再び戦うことが可能だ。だがメガレックウザは隙だらけの自分達を攻撃してこない。本当に戦えなくなるまで、試練を続行させるつもりなのだろう。

 すると、光輝が言葉を発した。

 

「南雲……。君なら、もう気が付いているんじゃないのか?」

 

「え?」

 

「あのレックウザというポケモン、姿を現した時は別の姿だった。意味ありげに設置されている、あのクリスタルの光を浴びてから、姿が変わった。その時に君はこう言っていたじゃないか。『メガシンカ』って」

 

「それは……!」

 

「何故その言葉を知っているのかは、聞かないでおく。だが、レックウザというポケモンが強大な姿になれるのなら、南雲達のポケモンも出来るんじゃないのか? メガシンカって奴を……」

 

 光輝の言葉に、全員がハジメに視線を送る。ハジメは俯いていたが、決心したように顔を上げると答えを返す。

 

「確かに、メガシンカと言う現象は他のポケモン達にも可能だ」

 

「じゃあ……!」

 

「ただし! まずあのクリスタルが他のポケモンにもメガシンカを促すものなのか、ハッキリと分からない。次に、メガシンカ出来るポケモンは限られていること。最後、これが一番の懸念事項だ」

 

「……その懸念って?」

 

 ユエの質問に、ハジメははっきりと答えた。

 

「メガシンカは、みんなに見せたサイドンへの進化とは違う。一時的に姿を変えて、強大な力を持たせるんだ。当然だけど、その間にポケモンに掛かる負担は大きい」

 

 話を聞いていた全員が息を呑む。だが最初に声を上げたのは、シアのアブソルだった。

 

「アブッ! アブアブ!」

 

「アブソル……? もしかして……メガシンカするんですか?」

 

 シアの言葉にアブソルは頷く。その真っ直ぐな目を見た瞬間、シアの未来視が発動した。

 それは、メガシンカするアブソルの姿。一瞬だけ苦しそうな顔をするも立ち続ける姿だった。

 

「……ハジメさん。メガシンカ出来るポケモンは、アブソルの他に居るんですか?」

 

「僕たちのメンバーだと、エルレイドとガルーラだね」

 

「そうかい。なら、俺たちもやるとするか! なぁ、ガルーラ!」

 

「ガァルル!」

 

「エルレイド。この試練を突破するためにも、力を貸してくれる?」

 

「エルッ!」

 

「みんな……!」

 

 驚いた様子を見せるハジメに、香織がポンと肩に手を置く。

 

「信じてみよう? それぞれのパートナーと、あれだけ信頼し合ってるんだもん。……ね?」

 

「……そうだね」

 

 そしてハジメは、メガレックウザの後ろにあるクリスタルを睨み付けた。

 

「あれが、攻略の鍵になる筈だ」

 

 

 

 

 

『(やはり諦めぬか。それで良い。それでこそ、我が守るプレートを託すに相応しい!)』

 

 再び立ち上がったハジメ達を見て、メガレックウザは内心で笑みを浮かべる。

 

『(それ故に、我もまだ倒れるわけにはいかぬ!)』

 

 メガレックウザが咆哮を上げると共に、ハジメ達が指示を出す。

 

「サイドン、バサギリ、“ストーンエッジ”!」

 

「ゴルーグ、“シャドーボール”!」」

 

「ミミッキュ、“シャドークロー”!」

 

「テッカニン、ミミッキュに続くんだ。“メタルクロー”!」

 

 守りに徹していたゴルーグも攻撃に加わり、次々とメガレックウザに攻撃が襲い掛かる。

 

「キュルアァァァ!!」

 

 メガレックウザは“りゅうのはどう”で、サイドン達とゴルーグの攻撃を打ち消した。だがミミッキュとテッカニンの接近を許してしまう。

 

『(ぬう……。やはり、“ガリョウテンセイ”と“りゅうせいぐん”の連発は、力を大きく消耗するか……!)』

 

 2匹の爪による攻撃がメガレックウザの体に傷をつける。しかし彼にとってまだ大した傷ではない。

 

「今だ、みんな!」

 

『む!?』

 

 ハジメの声に周囲を見ると、3人の人間が走り出していた。幸利とシアと雫だ。

 

『ほう、気が付いたか!』

 

 普通なら近付けさせまいと攻撃するところだが、メガレックウザは敢えて見逃す。『ソレ』に気が付くことこそが、試練を乗り越える鍵となるのだから。

 無事に辿り着けた3人は巨大なクリスタルに触れる。

 

「ガルーラ!」

 

「アブソル!」

 

「エルレイド!」

 

 

「「「メガシンカ!」」」

 

 

 

 その瞬間、3匹は光に包まれた。




次回、いよいよメガシンカです!


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最終試練 烈空の試練(後編)

大変長らくお待たせしました。碧の仮面をプレイしたり、スマホを買い替えたり等もあって、遅くなりました。まぁ一番の理由は仕事なんですが。


 結晶から放たれた光が、ガルーラ、アブソル、エルレイドを包み込む。そして二重螺旋のような模様が浮かび上がると、各ポケモンを包み込んでいた光がガラスのように割れた。

 そこからあらわれたのは、いつもと違う姿となったパートナー達であった。

 

「ガルーラ、お前……子供が大きくなったのか!?」

 

「ガルル!」

 

 まさかの成長した姿に驚きを隠せない幸利をよそに、ドヤァと言わんばかりに胸を張る子ガルーラ。

 

「アブソル……! 凄く格好良くなりましたね!」

 

「アブ……」

 

 凛々しくも美しい姿を褒めるシアに、照れたような笑みを浮かべるアブソル。そこにメガシンカ故の苦しそうな顔は見られない。

 

「より格好良くなったのね……。素敵よ、エルレイド」

 

「エルッ」

 

 腕の刃が鋭くなり、マントのような物を翻しまさに剣士と言わんばかりの姿になったエルレイド。その姿に雫は感動で涙を浮かべる。

 メガシンカへの感動を程々に抑えた彼らは、メガレックウザへと向き直る。

 

「よっしゃあ! 第3ラウンドと行こうじゃねえか! ガルーラ、“メガトンパンチ”!」

 

「「ガルァァ!」」

 

「ゴルーグ、2匹をサポートして。“てだすけ”!」

 

 “てだすけ”の効果によって、2匹の攻撃の威力が上がる。更にメガガルーラの特性『おやこあい』によって攻撃回数も増えた。実質2回分の“メガトンパンチ”がメガレックウザに向かって放たれる。

 

「グウウウウッ!? キュアァァァァ!!」

 

 反撃として放たれるは“エアスラッシュ”。空気の刃が親子を襲う……事は無かった。

 

「アブソル、“つばめがえし”です!」

 

「ブゥアッ!」

 

 素早い動きで“エアスラッシュ”を打ち消していくメガアブソル。そしてメガレックウザと目が合うと、そのまま強いエスパーエネルギーを送った。

 

『むっ、これは……!』

 

「反撃させないわ! エルレイド、“かげぶんしん”しながら“つるぎのまい”!」

 

「エェェル!」

 

 メガエルレイドの分身が360度あらゆる方向に様々な姿勢で、メガレックウザの周りに現れる。小賢しいと言わんばかりにメガレックウザは“たつまき”を発動するが、分身を掻き消すだけで本体には当たらなかった。既にメガエルレイドは、素早さと攻撃力を上げた状態で雫の下に戻っていたのだ。

 

『“りゅうのはど……ぬおお!?』

 

「よしっ! “みらいよち”命中です!」

 

 メガアブソルが攻撃を打ち消した際に放った“みらいよち”が、メガレックウザの姿勢を崩した。

 

『見事! 実に見事!』

 

 念話では褒め称えながらも、口元では“はかいこうせん”のエネルギーを溜めている。復活したハジメはすぐにサイドンとバサギリに指示を出す。

 

「“ストーンエッジ”を同時に放って!」

 

 岩石の刃が壁となり、メガシンカしたポケモンたちを光線から守る。“りゅうせいぐん”によって力を消耗した状態で放った為か、岩石の壁によって完全に阻まれた。

 

「今よ! “インファイト”!」

 

「エルラララララララァ!!」

 

『ぐっ、ぬぅんっ!』

 

 メガエルレイドのラッシュが決まる。しかし、メガレックウザは尻尾で彼を振り払う。ゴルーグが受け止めることで事なきを得た。

 

「まだ動けるってのかよ……。ならコイツはどうだ! “れいとうパンチ”!」

 

 メガガルーラによって実質2回の拳が放たれた。ドラゴン・ひこうタイプであるメガレックウザにとって、こおりタイプの技は所謂4倍弱点であった。

 

『……見事』

 

――烈空の試練、突破

 

 

 

 

 

 試練が終わり、元の姿へと戻ったレックウザ。お互いに大ダメージを負う程の激闘だったというのに、念話での彼は笑っていた。

 

『ふっはっはっは! 見事であったぞ人間よ!』

 

「つ、疲れた……」

 

 全員、肩が上下するほど息が上がっており、その疲労感は尋常ではない。特にメガシンカしたアブソル、ガルーラ、エルレイドは香織から治癒魔法を受けつつ木の実をかじって、ようやく回復できた。

 

『試練を突破した証だ。持っていくがいい』

 

 ハジメは りゅうのプレート を手に入れた!

 

「ありかとう、レックウザ……!?」

 

 ハジメがお礼を言おうとした瞬間、目の前が光に包まれた。

 

 

 

 

 

「こ、ここは……!?」

 

 そこは真っ暗な空間。地面はなくハジメは浮かんでいる筈なのに、浮遊感を感じさせない不思議な場所であった。

 

「プレートが、また何かを見せようとしている……?」

 

 その時だった。赤と黒が混ざるような、不気味な波がハジメを襲った。

 

「うわっ!?」

 

 

『コノ怒リヲドウシテクレヨウカ……!』

 

『許サヌ、許サヌ……!』

 

『滅ビヨ、滅ビヨ……!』

 

 

「あ、あれは……!」

 

 怒りと憎しみ、そして無念の込もった声の主は、3体のポケモンであった。

 時間を司るポケモン、ディアルガ。

 空間を司るポケモン、パルキア。

 反物質を司るポケモン、ギラティナ。

 アルセウスから生み出された3体のポケモンが、身体中を『あかいくさり』によって縛られていた。その怒りのエネルギーは凄まじく、周りのオーラが歪んで見える程である。皮肉なことに、鎖によって動けない為にそれぞれの領域に影響が出ず、未だにトータスは崩壊していないのだ。

 

「(けど、あの姿は……。不思議のダンジョンに出てきた、闇のディアルガじゃないか!)」

 

 蓄積された神の怒りは、神自身の姿を変貌させてしまっていた。ディアルガの体色は橙色のラインと黒寄りの青へと変わっており、前世の知識で言う『闇のディアルガ』と呼ばれる姿になっていた。残念ながらゲームでは『闇のパルキア』という姿は無かったのたが、ハジメの目の前に居るパルキアも、何処か禍々しい色へと変わってしまっていた。一方のギラティナは、体色の変化は見られない。だがその赤い眼差しに込められているのは、強い怒りだ。

 

「これは……。早くアルセウスを復活させないと、本当にとんでもないことになるぞ……!」

 

 誰も知らないトータスの危機に、ハジメは顔を青くした。




碧の仮面については、未プレイの方も居ると思うのでまだ感想は言いません。ただ、後編も楽しみだなと思っています。


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不穏の影

今回はかなり短め。サブタイトル要素は主に前半です。


「う……?」

 

「ハジメ君、大丈夫!?」

 

 レックウザの試練を突破した事で、りゅうのプレートを手に入れたハジメ。その効果によってディアルガ達の怒りを見た彼は、気付けば香織に回復魔法を掛けられていた。

 

「あれ、僕……」

 

『プレートを通じ、三神の怒りを見たのだ。そのオーラに当てられて気を失ったのだろう』

 

 レックウザがテレパシーで説明をしてくれた。どうやらハジメは気を失っていたらしい。

 香織と同じく心配していた幸利たちは、安心させるためかある物を見せる。

 

「ハジメ、これ見てくれよ!」

 

「これって……キーストーンメガストーン!? どうして……?」

 

「これは、そのぉ……。レックウザが作ってくれたのよ!」

 

 雫が慌てるように付け足す。それに対して幸利やシアも頷いた。ハジメは、まさかレックウザにそんな技術があるとは思えずに顔を向ける。

 

『……そうだ。試練を突破したのは、何もお前たちだけでは無いからな。プレート以外の褒美と言う奴よ』

 

 若干の間が気になったが、キーストーンによって戦力は強化された。レックウザはハジメに目を向ける。

 

『プレートを集めし者よ。此処まで試練を乗り越えたのだ。恐らくは、樹海の迷宮もお前達を招くだろう』

 

「そうだね……。早くプレートを集めなきゃ! ありがとう、レックウザ!」

 

『その陣に入れば戻れる。さぁ、行くが良い』

 

 レックウザの視線の先には転移用の魔法陣があり、あわい光を発していた。ハジメ達はお礼を言いながら陣へと飛び込み、姿を消していく。

 誰も居なくなった塔の頂上。そこでレックウザはポツリと呟いた。

 

『二つの魂を持つ者、か……』

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()を、思い出しながら。

 

 

 

 

 

 転移魔法によって、塔の入口まで戻ってきたハジメ達。そこへ声をかける者が居た。

 

「どうやら、プレートを手に入れたようじゃな」

 

「あっ、ティオ……ってえぇぇぇ!?」

 

「どうしたんですか、その怪我ぁ!?」

 

 シアが悲鳴のような声で尋ねるのも無理はない。今のティオは着物が所々焼け焦げており、腕や足には包帯が巻かれている。鼻血を出していたのか、顔には乾いた血が若干こびり付いていたりと痛々しい姿になっていた。

 

「なぁに、レシラム様とゼクロム様の修行を受けただけじゃ。幼い頃に出会い、加護を受けた身。その加護を使いこなせぬようでは、宝の持ち腐れじゃからなぁ」

 

「修行を受けた結果、どうだったの?」

 

 ユエも恐る恐る聞いてみる。対するティオの顔は悔しそうな、しかし何処か晴れやかな表情をしていた。

 

「合格も何も、まだまだ鍛えねばならぬよ」

 

「そうなんだ……」

 

 だからこそ、ハジメは悟った。これは別れになるのだと。

 

「ハジメよ。名残惜しいが、妾は此処で一旦お別れじゃ。もうしばらく、お二方に鍛えてもらわねばならん」

 

「寂しくなるなぁ。ティオの魔法とか、結構戦力にしてたんだよ?」

 

「なぁに、来るべき戦いの時にはすぐに駆けつけてみせるわ。龍は本気を出せば、速いのじゃからな!」

 

 苦笑いをしながらも、お互いに握手をする。

 

「サヨナラではない。『また』の、ハジメ」

 

「うん。『また』ね、ティオ」

 

 苦笑いから、笑顔に変わった。




プレートだけでなく、キーストーン&メガストーンもゲット!
しかし、錬成した筈のハジメにはその記憶が無いようです……?

次回から、ハルツィナ大迷宮編です。


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ハルツィナ樹海への再訪

数日前、気まぐれに『カンフーパンダ』を見てたのですが、ふと「ウーラオスにも、格闘と他のタイプを複合させたら面白そうかも?」と考えたことがあります。
虫タイプと合わせて「蝶のように舞い蜂のように刺す」とか、電気タイプと合わせて「スピードと連打で戦う」とか。


 レックウザの試練を乗り越え、プレートを手に入れたハジメ達。ゼクロムとレシラムによる修行のためにティオと別れた彼らは、シアの故郷であるフェアベルゲンへと飛行船を飛ばしていた。

 

「ハジメ。王国の人たちは亜人族をかなり疎んでいたけど、向こうは人間である俺達を受け入れてくれるのか? 相当恨まれていると思うんだが……」

 

「光輝の心配も分かるよ。けど、シアの一件でポケモンに対する考え方も変わってきているし、最近は帝国も大人しいみたいだからね」

 

 試練を共に乗り越えたからか、光輝とハジメは互いに名前で呼び合うようになった。そんな打ち解けた二人が話しているのは、フェアベルゲンについてだった。

 道中話したのは、向こうはかなり閉鎖的で、奴隷狩りの歴史から人間を疎んでいる事だった。シアの事もあり中々に苛烈な出来事だったが、あれから変わっているのではとハジメは見ている。何故なら、亜人族に対して奴隷狩りを行なっていたヘルシャー帝国の動きが、近頃は大人しいと言うのだ。

 光輝の話によると、勇者たちと会談したいという名目で来訪するはずが突然キャンセルとなり、それ以降音沙汰が無いという。

 

「政治関係でトラブルでもあったのかな?」

 

「さぁ……。そこは流石に分からないな」

 

 いかに勇者であろうと、ポケモンの知識が豊富であろうと、彼らは高校生。政に詳しい筈もなく、そこはリリアーナ王女に任せようという結論になった。

 

 

 

 

 

 一面に広がる大森林。そこにハジメの飛行船は着陸した。着陸地点には既に大勢の亜人族が警戒を露わにしており、その前衛を担っているのは、シアの同胞ハウリア族である。空飛ぶ謎の物体に対してポケモンを出して警戒していると……。

 

「お父様ぁ〜!」

 

「「「シア!?」」」

 

 飛行船から飛び出てきたのはシアだった。一瞬驚いたものの、愛娘の姿を見たカムは腕を広げる。

 

「シア! おぉ、こんなに逞しくなって……!」

 

「お父様も元気そうで……あれ? こんなにムキムキでした?」

 

 飛び込んできた娘を優しく抱きしめるカム。シアも父との再会を喜んだのだが、ふと感じたことを言葉にする。するとハウリア族は皆、フフンとドヤ顔をするように胸を張った。

 

「シアが旅立った後、我々は他の一族と共に働く事を許されてな。良い食事、良い勤労、良いポケモンバトルをしていたら体が丈夫になったのだ!」

 

「えぇ!? ってよく見たら他の皆さんもポケモンを持ってますぅ!?」

 

 これにはハジメも驚き、周りを見る。見た目がエルフの森人族はミブリムやベロバーと言ったポケモンを、鳥のような見た目の亜人族はムックルを始めとした鳥ポケモン達を、そしてドワーフのような見た目の土人族は見たことのないポケモン(カヌチャン)を連れていた。

 ハジメと出会ったばかりの頃はポケモンを疎んでいたというのに、その事を覚えている長老たちは気まずそうに目を逸らす。その中で目を逸らしていなかったアルフレリックが出てくる。

 

「私が説得したんだ」

 

「アルフレリックさん!」

 

「試しにと各長老達でポケモンをゲットして、共同生活をしてみたんだ。そしたら、畑は耕してくれるし、念力とかで物を運ぶ手伝いもしてくれるしと良い事づくめでね。そしたら他の皆も……という訳さ」

 

「凄い……! こんなに早く広まるなんて!」

 

「新しい事に挑戦するというのは、良い刺激になったようだ。今では本当の意味で、種族の垣根も越えているよ」

 

 ニッコリと微笑むアルフレリックに、ハジメの胸は暖かくなった。人間だからと疎まれることを覚悟していた光輝たちも、シアの一件を知っているユエも、心が暖まる。

 

「アルフレリックさん、カムさん。僕たちが来たのは……」

 

「分かっているとも。大樹の迷宮だね」

 

「実は数日前から霧が晴れたのです。晴れる周期では無い筈なのですが」

 

 ハルツィナ樹海の霧は、大迷宮へ簡単に行かせない為に立ち込めている。一定の周期で霧が晴れており、それを知っているのは樹海に住む亜人族だけであった。それが突然晴れ、暫くしてからハジメ達が来たのである。

 

「まさか、迷宮を攻略したことで霧が晴れた……?」

 

 ハジメは、遠くにそびえ立つ巨大樹に視線を向けた。

 

――待っていましたよ、ハジメ。

 

 ふと、王都襲撃の際に出会ったゼルネアスの声が聞こえたような気がした。




原作ではヘルシャー帝国の話もありましたが、そこは本編完結後の出来事として書きたいのでカットしました。今回は樹海到着まで。次回から迷宮に突入です。


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ハルツィナ大迷宮

お待たせしました。今回よりハルツィナ大迷宮です!


 フェアベルゲンを進むハジメ達。初めて来た時は何処かピリピリとした雰囲気であったが、今はそのような事を感じさせない。亜人族の子供たちがアゴジムシ同士を相撲させていたり、モグリューと共に畑を耕す男性も居れば、ハハコモリを連れた女性の下に服の修繕を頼む主婦がいたりと、非常に平和であった。

 

「凄いです! こんなに笑顔が溢れてるフェアベルゲンは初めて見ました!」

 

「心の余裕が出来たからかもしれない。奴隷狩りも無くなって、ポケモン達の力を借りて生活が豊かになったからかも」

 

 シアは目をキラキラと輝かせ、ユエはその変わり様に驚きながらも考察を述べる。今回が初めての来訪となる光輝たちも、珍しそうに辺りをキョロキョロと見回していた。

 

「いや、これは凄いな……!」

 

「これぞまさにファンタジー!って感じだね、エリリン!」

 

「ほえー……」

 

 人間たちから褒められるのが嬉しいのか、カムたちも思わず笑みが溢れてしまう。

 

「そう言えばお父様。そのぉ……熊人族はどうなったのですか?」

 

 ハウリア族の処遇を巡って強硬手段に出た熊人族は、ポケモン達を連れたカム達に敗北。これによって、労役の罰を受けていたそうだが姿が見えなかった。

 

「反省の兆しがある者は労役から解放されているが、頑なに拒む者もいる。そういう者たちはまだ共有の畑で労働しているよ」

 

「そう、なんですね……」

 

 考え方が変わるのは難しい。シアだけでなくハジメ達も考えさせる出来事であった。

 

 

 

 

 

 住居エリアを抜け、かつては濃霧に覆われていた道をハジメ達は進む。カム達の言う通り以前来たような霧はなく、まるで挑戦者を歓迎するかのように晴れていた。

 

「ハジメ殿、着きましたよ」

 

「……前来た時と、見た目は変わっていないか」

 

 目の前にある巨木は、本当に迷宮なのかと疑ってしまう程に朽ちていた。だが、メルジーネ大迷宮のように何かしらの術でそう見せているだけなのかもしれない。

 

「ハジメさん、プレートを出してみましょう? 何か反応があるかも」

 

「やってみよう」

 

 シアに促されて、ポーチから今まで集めたプレートを取り出す。するとプレートはハジメの手を離れ、フヨフヨと宙に浮かびながら淡い光を発する。

 

『貴方達を待っていました』

 

「うわっ!」

 

 レックウザもテレパシーで話していたのだが、まだ慣れないためか光輝や龍太郎、恵理や雫に鈴は驚いてしまった。ハジメは苦笑いしながらも、その声の主に答える。

 

「イベルタルとの戦い以来だね、ゼルネアス」

 

『そうですねハジメ。どうやら新たな仲間も得たようで、私は嬉しいです』

 

「僕たちが挑む迷宮は、ここを含めてあと3つ。今の僕たちでこの迷宮には挑めるかな?」

 

『ふむ……』

 

 しばしの沈黙。まさか此処まで来てまた引き返さないといけないのかと思うと、緊張してしまう。

 

『良いでしょう。かの天空の龍にも挑んだ貴方達ならば、この迷宮を突破出来るはず』

 

「っ!」

 

 その瞬間、薄緑色の光が大樹を覆ったかと思うと、朽ちていたはずの木が瑞々しさを取り戻していき、枝が伸びて葉をつけていく。そして木の洞が扉のように左右に分かれると動きが止まった。

 

『さあ、入りなさい。この迷宮を守る騎士たちに会うのです』

 

 全員の顔が引き締まる。そしてゆっくりと入り口に向けて足を進めていった。

 

「シア……ハジメ殿……皆さん、お気をつけて」

 

 カムは心配そうに、彼らの後ろ姿を見送った。

 

 

 

 

 

「結構暗いな」

 

「みんな、足下に気を付けてね」

 

「ハジメ君も気をつけてね?」

 

「木の良い香り〜」

 

「ちょっと鈴、もう少し気を引き締めて……」

 

「なんつーか、どんどん天井が低くなってないか?」

 

「それには同意だぜ清水。狭くてしょうがねえ」

 

「ていうか、いつまでこの道が続くんでしょうか?」

 

「シア、大丈夫。あの先に光が見える」

 

「よっしゃ! 早く出よう!」

 

「待ちなさい遠藤くん! 何が起こるか分からないわよ!」

 

 明かりも何もなく、お互いの姿が見えない程の暗い通路を進む。前方に光が見えてきたことで、早く暗闇から出たいという気持ちが行動に現れてしまう。

 暗闇を走り抜け、目の前に光が満ちる。一瞬だけ眩しかったが、すぐに草木の景色へと変化する。

 

「ふぅー。みんな、大丈――」

 

「うわぁぁぁぁぁ!?」

 

 ハジメが仲間たちの安全を確認しようとしたが、それは光輝の絶叫でかき消された。

 

「え……?」

 

 目の前には、驚いたような顔をしているリオルが居た。

 

「は、ハジメ……なのか?」

 

「え、リオルが喋って……ってその声! 光輝なの!?」

 

「そうだよ!」

 

「おいおい騒がしい……って何だこりゃあぁぁ!?」

 

 呆れたような声をしたワンリキーが、自分の手を見て驚いている。リオル(光輝)は恐る恐る尋ねる。

 

「もしかして……龍太郎?」

 

「おぉ、光輝! てかお前も姿が変わってるのかよ!?」

 

「ま、待って! 取り敢えず落ち着こう!」

 

 落ち着くように促しているものの、ハジメも内心取り乱していた。

 

 

「(まさか僕たち……ポケモンになってる!?)」

 

 

 




大迷宮だしポケダン要素も入れようと思い、ハルツィナ編はハジメ達がポケモンになりました。誰がどのポケモンになったかは、次回冒頭で明かそうと思います。


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不思議のダンジョン

お待たせしました。誰がどんなポケモンになったのかを明かそうと思います。
ゼロの秘宝後編は来月に配信とのことですが、ウミディグダとかチャデスのような、「既存のポケモンに似てるけど別種」というポケモンも出るのでしょうか? スグリ君の事も気になりますし、楽しみです。


 ハルツィナ大迷宮へと入ったハジメ達だったが、彼らの姿は何とポケモンに変わってしまっていた。

 

「何とか落ち着けた?」

 

「まだ混乱してるけどね……」

 

 当然、姿が変わった事に対して皆がパニックになったのだが、大声を出さなくなる程度には落ち着けたようだ。ここで、それぞれがどのポケモンになったのかを見てみよう。

 

 ハジメ→イワンコ

 香織→ピンプク

 ユエ→コロモリ

 シア→ミミロル

 幸利→モクロー

 浩介→ケロマツ

 雫→ツタージャ

 恵理→カゲボウズ

 龍太郎→ワンリキー

 鈴→パチリス

 光輝→リオル

 

 以上となっている。

 不思議なことに、ポケモンの姿になっても姿勢に関しては違和感がなく、イワンコとなったハジメにとって四足歩行をすることに抵抗が無かった。コロモリとなったユエも、外見では視力がなさそうだが本人にとっては見えているらしく、飛んだままでも違和感がないようだ。

 

「あれ、モンスターボールが無い!?」

 

 ふと浩介が気付き、自分の体をペタペタと触る。今まで旅を共にしていたポケモンの入ったモンスターボールが、無くなっていたのだ。雫がうーん、と考える仕草をする。

 

「この迷宮では、人間がポケモンの立場になることを求めてるのかしら?」

 

「確かに、今までポケモン達の力を借りて攻略してきたけどよ」

 

「試練を乗り越えたら、返してくれるってことでしょうか……?」

 

 幸利やシアも考える仕草をするが、答えは出てこない。一先ず、ポケモンとなった状態でこの大迷宮を突破する必要があるようだ。

 

『よく来ました、挑戦者たちよ』

 

「っ!」

 

 ハジメ達の頭の中に響く声。それは、ハルツィナ大迷宮の奥で待つゼルネアスの声だった。

 

『あなた方は、ポケモンと共に数多の試練を乗り越えました。しかしそれは、あなた方が人間であるが故の突破とも言えます』

 

「だから、僕たちをポケモンの姿にしたの?」

 

『そうです。あなた方が対峙するであろう偽りの神エヒトは、非常に狡猾です。我らと共に戦い、そしてこの迷宮を残した解放者たち。彼らが敗れたのは、守るべき人々がエヒトに操られ、刃を向けることが出来なかったから。……だからこそ、あらゆる状況に対応できなければなりません。それがたとえ、姿を変えられたとしても』

 

「……なるほど」

 

『この迷宮には、聖剣士と呼ばれるポケモン達がいます。彼らに認められる事が、試練を突破したと認める条件です』

 

「っ!? 魔法陣!?」

 

 その瞬間、ハジメ達の足元が光り始めた。その魔法陣の特徴を、光輝たちはよく覚えていた。

 

「これは……オルクス大迷宮にもあった、転移の魔法!」

 

「みんな、転移後に備えて!」

 

 香織が叫んだと同時に、大迷宮のエントランスとも言える広場からハジメ達の姿が消えた。

 

 

 

 

 

「う、うーん……」

 

 ハジメが目を覚ますと、そこは霧の中。正確には霧が立ち込める森の中にいた。

 

「大丈夫、ハジメ君」

 

 心配そうに覗き込む香織。彼女の背後ではユエとシアが辺りを警戒していた。だが、先程まで一緒だった筈の光輝達が居ない。

 

「光輝たちは?」

 

「たぶん、あの魔法ではぐれたんだと思う……」

 

 ハジメが目を覚ましたことに気付いたのか、ユエとシアも戻ってきた。

 

「この霧はトラップかと思いましたが、力が抜けるとかそういうのは無かったです」

 

「羽ばたいて晴らせるかなと思ったけど、無理だった」

 

「そうか……。もしかして、それぞれの聖剣士の所へ飛ばされちゃったのかな?」

 

 首を傾げるハジメに、ユエも首を傾げる。

 

「ゼルネアスは聖剣士に会えって言ってたけど、1匹じゃないの?」

 

「ううん。聖剣士と呼ばれるポケモンは4匹だよ。たぶん、それぞれに認められないと突破できないんだと思う」

 

「皆さん、大丈夫でしょうか……」

 

 シアの心配そうな声に、香織とユエも頷く。

 

「大丈夫。……と言いたいけど、今の僕たちはポケモンの姿だからなぁ」

 

 幸利や浩介を信頼してるハジメも、今回の状況に対しては安易に「大丈夫」とは言えなかった。

 

 

 

 

 

 一方その頃の幸利たち。彼らも分断されたことに気付いていた。

 

「今いるメンバーは、俺と恵理と坂上に谷口か」

 

 今いる場所は、転移前の風景と同じ森の中。だが草木が生い茂って道がないということはなく、まるでゲームに出てくるダンジョンのように通路もある。

 

「ねぇねぇダーリン? ここに飛ばされる前に聞こえた声って、もしかしてポケモン?」

 

「あぁ。この迷宮の奥で待ってるらしい」

 

 カゲボウズの姿でフヨフヨと浮いている恵理が、気になったことを幸利に尋ねる。それに応える幸利だったが、少し気まずそうな顔をした。

 

「ところで恵理。此処でダーリンは止めてくれないか? 坂上と谷口も居るんだからよぉ」

 

「……迷惑だった?」

 

「そんな自殺しそうな目をするな。今は普通に名前で呼んでくれ。ダーリン呼びは……二人きりなら良いから」

 

「二人きり……! いやん、幸利のエッチぃ」

 

「ナニを想像してんだ。まだキス止まりだろうが」

 

 いやんいやんと体をくねらせる恵理と、呆れたような目をする幸利。一方、鈴と龍太郎はそんな光景にポカンと口を開けていた。

 

「エ、エリリンがあんなに積極的に……!?」

 

「……リア充爆発しろって、こういう気持ちなんだな。初めて知った」

 

 

 

 

 

 一方その頃、光輝達。

 

「ううっ……。初めてだ、こんな事……!」

 

「ちょ、ちょっと。泣かないでよ遠藤くん……」

 

「こ、これは俺が悪いのか!?」

 

 泣きじゃくる浩介と、宥める雫。そしてこの空気に慌てふためく光輝。

 なぜそんな事になったのか。それは――

 

「状況確認で名前を呼ばれるなんて……!」

 

 幸利たちと似たエリアへと飛ばされた際、光輝はすぐに誰が居るのかを確認した。その時のことである。

 

「此処に飛ばされたのは……俺と雫と遠藤か」

 

「っ!? 天之河、俺に気付いてるのか!?」

 

「え? いや、其処に居るんだから当たり前だろう?」

 

「……っ!」

 

 そして浩介は嬉しさのあまり、涙を流したのである。それも仕方のない事である。今まで自動ドアに感知されにくい程に影が薄く、点呼確認する時も「あれ?遠藤だけ居ないぞ?」と言われて「居るよ!」と返すのが常だった。ポケモンの姿になったことで、存在感が出たのかもしれない。

 

「グスッ……。ごめんな2人共。あまりにも嬉しくてつい……」

 

「……相当苦労してたのね、遠藤くん」

 

「その……何かすまない」

 

 何処か緩い空気になったが、それぞれが迷宮を突破するために行動を開始した。

 

 




それぞれのチームがどのような試練になるのか。次回をお待ち下さい。


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聖剣士は見ている(幸利チーム)

これまでは前編後編に分けていましたが、3チームをそうしちゃうとかなり時間掛かるため、1チームにつき1話ということにしました。というわけでサブタイトル通り、今回は幸利チームです。


 姿をポケモンへと変えられた上に、3つのチームに分断されたハジメ達。全員に与えられた試練は、迷宮に居るという聖剣士たちに認められる事。分断されたチームの内、幸利チームはと言うと――

 

「うにゃぁぁぁ! 助けてぇ〜!」

 

「坂上、受け止められるようにスタンバイ! 恵理、“おにび”で蜘蛛の巣を焼き落とすんだ!」

 

「分かった、任せろ!」

 

「あいあいさ〜」

 

 虫ポケモン達の罠と格闘していた。今は、パチリスと化した鈴の尻尾が巨大な蜘蛛の巣に引っ掛かり、宙吊りになっている。それを助けようと幸利達は動いていた。

 

「エリリン! だ、大丈夫だよね!? 私の尻尾焼けないよね!?」

 

「鈴ってば、ジタバタしないの。着地する場所ズレるよ? そーれ、“おにび”!」

 

 ポケモンの姿になった影響もあってか、幸利達はポケモンの技を繰り出すことも可能になっていた。特に相棒ポケモンと共に戦った経験のある幸利と恵理は、技を出すことに違和感がなく、スムーズに発動することが出来ていた。

 恵理の放った“おにび”によって蜘蛛の巣が焼き払われ、鈴は落下する。

 

「キャアァァァァ!?」

 

「うおっとぉ!!」

 

 龍太郎が何とか受け止める。ワンリキーは小柄ながらも、本来のポケモン世界では工事現場などを手伝うこともある程にパワーがあるため、軽々と抱えることが出来ていた。

 一方、助けた側の二人は蜘蛛の巣の正体について考えを巡らせていた。

 

「にしても、此処に蜘蛛の巣があるってことは……」

 

「クモ型のポケモンがいるって事だよね?」

 

「アリアドスとかデンチュラかもしれねぇ。いずれにせよ厄介だ。とっとと此処から離れて……」

 

 

「ヮンナ……!」

 

 

 突如聞こえた声に、4人は恐る恐る振り返る。そこには、4本の脚で下半身を支え、上半身はさながらケンタウルスのように起き上がらせたポケモンがいた。4本の腕?脚?であやとりのように糸を出している。どうやら、このポケモン……ワナイダーが、先程焼き払われた巣の主だったようだ。

 

「何だ、このポケモン……?」

 

「清水も知らないのかよ!?」

 

「ハジメが描いてきたイラストには、あんなポケモン居なかった! まさか、ハジメも知らない新種か!?」

 

「ね、ねぇ。あのポケモン何だか怒ってるような……?」

 

「もしかして設置した巣、というか罠を壊されて怒ってる?」

 

 4人は顔を見合わせ、同時に頷く。

 

「「「「逃げろおおおおおおおお!!」」」」

 

 4人は背を向けて一斉に駆け出した。未知の相手には無闇に挑まない。脳筋と言われてきた龍太郎でさえ学んだことだ。ワナイダーはというと、4本の脚をカサカサと動かして追い掛けながら、腕のように振る舞う残りの脚で“ねぱねばネット”を連発してくる。

 

「動きが気持ち悪い! 虫嫌ぁぁぁ!」

 

「鈴、蜘蛛って正確には昆虫とかには分類されないんだよ?」

 

「言ってる場合かぁ!」

 

 ギャーギャーと騒ぎながら逃げる4人。そこへ先頭になっていた幸利が何かに気付いた。

 

「あれは……! みんな、あの草むらに飛び込めぇ!」

 

「え!? う、うん!」

 

 恵理たちは戸惑いながらも草むらに飛び込んだ。ワナイダーは飛び込む瞬間を見ていたため、隠れても無駄だと言わんばかりに4人の居る草に近付いてくる。

 

「(ど、どうするの幸利くん!? あのポケモン気付いてるよ! 隠れても意味ないって!)」

 

「(落ち着け恵理! 俺が見たものが確かなら、ここら辺は……)」

 

 ワナイダーが草をかき分けようとした、その時だった。

 

「ァドス……!」

 

「ワナ!?」

 

 横から何者かに飛び掛かられたワナイダー。そのポケモンもまた、ザ・蜘蛛と言わんばかりの見た目で鈴は青褪める。龍太郎は幸利に、乱入してきたポケモンの正体を尋ねた。

 

「なぁ、清水。あいつは知ってるポケモンなのか?」

 

「あいつがアリアドスだ。ここら一帯は、アリアドスともう一匹の蜘蛛ポケモンの縄張りだったんだろう」

 

「じゃあボク達、アリアドスの縄張りに入っちゃったってこと?」

 

「正確には、追い掛けてきたポケモンと一緒に、だな」

 

 縄張りを荒らされた怒りからか、アリアドスはワナイダーと争い始める。ワナイダーの方も負けじと抵抗し始めた。

 

「ねぇねぇ、だったら今のうちに離れようよ!」

 

「そうだな。にしても、聖剣士は何処に居るんだ……?」

 

 アリアドスとワナイダーの喧嘩はまだ続いており、4人はそそくさとその場を後にするのだった。

 

 

 

 

 

 蜘蛛ポケモンの縄張りから抜け出した幸利たち。彼らがたどり着いた先は、花畑と果樹園が混ざりあったようなエリアだった。

 

「わぁ……綺麗!」

 

「木の実も沢山あるぞ。ここって休憩スポットか?」

 

 キュワワーやアブリボンが飛び回り、色の異なるフラージェス達は楽しげにコミュニケーションを取っている。“あまいかおり”の満たされたこのエリアは、逃げることに精いっぱいだった幸利たちの心を癒やしていた。……この時だけは。

 

 

「クィン」

 

 

 花畑に響いた鳴き声で、先程まで楽しんでいたポケモン達が一斉に4人を見る。

 

 

 モンスターハウスだ!

 

 

「やっべぇ! この数はやべえぞ!」

 

「虫タイプや草タイプには、えーと、えーと!」

 

 流石の大群に幸利や恵理も慌ててしまう。だが、これを解決しようとしたのは、意外にも龍太郎だった。

 

「なぁ清水! あの空飛ぶ蜂の巣みたいなポケモン、分かるか!?」

 

「あぁ!? ってアイツはビークインじゃねえか! にしてもデッカ!!」

 

 龍太郎と幸利の視線の先に居たのはビークイン。しかも他のポケモンよりも体躯が大きい。ハジメのサイドンと同じ、オヤブン個体である。花畑のポケモン達が攻撃的になったのは、彼女の仕業だろう。このモンスターハウスのボスなのかもしれない。

 

「ビークインのタイプは!?」

 

「アイツは虫と飛行タイプ! だが坂上、今のお前は飛行タイプに弱い格闘タイプのワンリキーだぞ!」

 

「分かってらぃ! 確か、飛行タイプも虫タイプも岩に弱かったよな……!」

 

 龍太郎は足元の地面に手を付ける。……否、正確には地面を掴んだ。そして歯を食い縛り、ゆっくりと持ち上げていく。

 

「うおぉぉぉぉ……!」

 

「え、ちょ、坂上くん、マシで?」

 

 恵理がドン引きするのも無理はない。龍太郎は巨大な土の塊を持ち上げたのだ。あんまりな光景に、他のポケモン達も唖然としている。

 

「狙うはビークイン! どっせぇぇぇい!!」

 

「投げたぁ!?」

 

「ッ! ビ、ビィン!」

 

 ビークインはすかさず“ぼうぎょしれい”を発令する。近くを飛んでいたオスのミツハニー達が隊列を組んで防ごうとする。

 だが龍太郎の投げた土塊には、小石も混ざっている。ミツハニーの防御で土が崩れても、混ざった小石が猟銃の散弾のように凄い勢いで散らばった。それによって何匹かが気絶する。

 

「飛行タイプも合わせ持ってるなら、電気も有効だよね! よーしっ!」

 

「鈴、大丈夫なの!? 相手は女王バチだよ?」

 

「だって……皆の足を引っ張りたくないもん!」

 

「……幸利くん、ビークインは鈴に任せて、周りのポケモンはボク達で何とかしよう!」

 

「了解だ!」

 

 気合を入れるようにパシンと頬を叩いた鈴は、“じゅうでん”をしながら全力疾走してビークインの下へ走っていく。他のポケモン達はさせまいと行動を起こそうとするが、そこは幸利と恵理のコンビが援護していく。

 キュワワーやアブリボンを恵理が“おにび”で撃ち落とす。ゲームならば火傷状態にするだけでダメージは与えないが、現実であるこの世界においては立派な攻撃手段である。

 フラージェスやアゲハントは、幸利が“かげうち”で攻撃したり、“はっぱカッター”で飛行する虫ポケモンを落としていってた。

 そして、体に電気の溜まった鈴は、ビークインへと飛び掛かりながら技を発動した。

 

「“スパーク”! いっけえええ!」

 

「ビビビビビビビ!?」

 

 電気タイプの技は効果抜群。オヤブンビークインは目を回したのだった。

 

 

 

 

 

 モンスターハウスのオヤブンビークインを倒した幸利たち。ボスがやられたのを察したのか、周りのポケモン達も花畑をそそくさと去っていった。ところが……。

 

「ビィ……!」

 

「ま、まだやる気かコイツ!?」

 

 フラフラと体を起こしたビークイン。4人は警戒するのだが、両者の間に割り込む影があった。

 

『そこまでです』

 

 4人の頭に聞こえてきたその声は、穏やかと凛々しさを併せ持っていた。彼らの目の前に現れたそのポケモンは、四足歩行で緑色をしたポケモン。ビークインはその存在を確認すると、まるで王に仕える臣下のように恭しく頭を下げた。

 

『ビークイン、この場での試練は終わりとします。私は彼らと話がある。今は体を休めなさい』

 

「ビ、クィン!」

 

 緑色のポケモンの指示に頷くと、そのままビークインは木々の中へと消えていった。それを見届けた未知のポケモンは、今度は幸利たちに体を向ける。

 

『この迷宮の挑戦者たちですね。私の名は、ビリジオン。かつて偽りの神と戦った解放者達から、聖剣士と呼ばれていました』

 

「あなたが聖剣士!?」

 

『実は、あなた達がこのエリアへ飛ばされていた時から、様子をずっと見ていました』

 

「え……」

 

 鈴は少し動揺する。ワナイダーの巣に引っ掛かってしまったことや、追い掛けてくるワナイダーに悲鳴を上げながら逃げていた事を思い出したのだ。もしやその事を責められるのでは。そう思うと、そこから更に、聖剣士に認められず試練は不合格とみなされるのでは。悪い方へと考えが向かいそうになっていた。

 

『パチリスになっているお嬢さん。不安そうな顔をしていますが、心配しなくて良いですよ』

 

「ふぇ?」

 

『得意とするもの、不得意とするもの。それは持っていて当然のことです。ですが貴女は、不得意である虫タイプのビークインに対し、勇気を持って攻撃した。短時間でそこまで勇気を持つことは、中々出来る事ではありません』

 

「えへへ……」

 

 ビリジオンからの言葉に照れる鈴。するとビリジオンは、龍太郎にも顔を向けた。

 

『ワンリキーの貴方もですよ』

 

「え、俺も?」

 

『あのモンスターハウスは、試練の最終場。もし私の知る人間たちだったら、周りの者達を倒してビークインに挑んだでしょう。ですが貴方は、混乱しやすいあの場所でビークインを的確に見抜き、即席の攻撃を思い付いた。私はそこを評価しています』

 

「いやあ、あれは土壇場だったと言うか、直感だったというか……」

 

『その直感を大事にしなさい。過信するのは禁物ですがね』

 

 そして最後に幸利と恵理を見る。

 

『モクローとなっている貴方がリーダーですね?』

 

「あまり柄じゃ無いけどな」

 

『カゲボウズであるパートナーと共に、指示を出したり相手の特徴を伝えるその姿勢、誇っても良いですよ。今この場では、間違いなく貴方がリーダーです』

 

「良かったね、幸利くん!」

 

「へへっ……。サンキュー、恵理」

 

『私の試練は、合格です。恐らく、あなた達の仲間も私以外の聖剣士たちから試練を受けている筈です』

 

「「「「やったぁ!!」」」」

 

 こうして、幸利たちはビリジオンによる試練をクリアしたのだった。




次回は光輝チームを予定しています。


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聖剣士は見ている(光輝チーム)

いやー、とうとうこの時が来ましたね! 予めこの日は休日にしてました。スマホで予約投稿しているので、この話が投稿されてる頃、私はブルーベリー学園に向かっているでしょう。


 ゼルネアスから与えられた、『聖剣士に認められる』という試練。幸利チームが進んでいる間、光輝チームも行動を開始していた。

 

「んふふ……。今の私はツタージャかぁ……♪」

 

 だが、ツタージャの姿となっている雫の機嫌が良く、光輝と浩介は困惑していた。彼女の印象は『クールな剣士』というもので、地球ではソウルシスターズと言う彼女のファンクラブが居る程だ。穏やかな香織と冷静な雫とで、二大女神とすら呼ばれている。

 ところが今の彼女は、ご機嫌に鼻歌すら歌っていて、まさに年相応の少女となっていた。

 

「えっと、雫……? 何でそんなに機嫌が良いんだ?」

 

「あら、意外? ツタージャって結構可愛いじゃない。可愛くなって喜ばない女の子は居ないんじゃないかしら?」

 

「そう言えば八重樫さん、ハジメの描いたイラストだとイーブイ系とか気に入ってたな」

 

 雫の推しポケモンはエルレイドだが、地球に居た頃は香織と共にハジメの描いたイラストを見ていた。イーブイ系列を見た時はぬいぐるみがあったら抱き締めたくなったし、エネコやエネコロロは猫吸いしたくなった程だ。なお、ヒメグマを見た時はキュンとしたが、進化形のリングマを見た瞬間に虚無顔になったのは余談である。

 

「そうだったのか……」

 

「……あー、そう言えば光輝は知らなかったわね。うん、今の貴方になら話せるかも」

 

「え?」

 

 そうして雫が語ったのは、自分の過去だった。当時の同年代からすれば地味で、言うなれば女の子らしくなかった。それなのに光輝と近かった事で嫉妬を買い、虐められたこと。そして相手から言われた……「女の子だったの?」という言葉に、酷く傷付いたことを。

 それを聞いた光輝は顔が青ざめ、瞳は震え、歯をガチガチと鳴らすほどに震えていた。確かに彼女から相談を受けたことがある。だが当時の彼は虐める側に注意をして解決したと思っていた。それが結局彼女にトドメを刺しただけだった。

 

「お、俺は……俺は……!」

 

 後悔の念が押し寄せ、光輝の頭の中は真っ白になる。そして身体が勝手に動き出した。

 

「うわぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」

 

「ちょ、おい!」

 

「光輝!?」

 

 耐えられなくなったように叫びながら、光輝は脇目も振らずに走り出す。突然のことで直ぐに止めることは出来ず、2人との距離は大きく離れてしまった。

 

「どうしよう!? あそこまでショックを受けるなんて……!」

 

「どうしようって、追うしか無いだろ!? 行くぞ!」

 

 雫と浩介も慌てて光輝の後を追った。

 

 

 

 

 

 森の中にあるからなのか、この迷宮には小川の流れる場所もあった。その側で光輝は蹲っていた。

 

「(俺は……そんなに昔から雫たちに迷惑を掛けてたのか……)」

 

 光輝には、尊敬する人物が居る。弁護士として活躍した自身の祖父だ。彼の様々な話を聞き、自分もあぁなりたいと願っていた。

 だが祖父が急逝したことで、光輝は知ることがなかった。必ずしも輝かしい内容ばかりではない。その裏では後ろめたい事があったという事を、彼は知らないまま高校生まで成長してしまった。

 その結果が、空回りする善意である。彼が良かれと思って行動しても、良い影響だけでなく帳尻を合わせるように何処かで迷惑が掛かっていた。その後始末を香織や雫がしてくれていたのだ。

 

「(俺なんて……俺なんて勇者じゃない!)」

 

 水面に映る自分の顔があまりにも情けなくて、硬く目を瞑って俯いてしまう。その時、リオルの波導を感じ取る力が、光輝に何者かが近付いた事を悟らせた。

 

『はぁ、はぁ、疲れたぁ』

 

「……?」

 

 それは、見た目で言うならば若駒のように見えた。額に生えた小さな一本角は、まるでユニコーンのようにも見える。そんなポケモンが光輝の側に座った。

 

『ん? 君、ニンゲンって奴か?』

 

「え、何で……。今はポケモンの姿なのに……」

 

『なんとな~く雰囲気が他の皆と違うし、そもそも今は修行中だから皆は居ないからね』

 

 先程から野生のポケモン達に遭遇しないのは、目の前のポケモンと何者かが修行をしていたからだそうだ。

 

『僕はケルディオ! 君は?』

 

「俺は……光輝」

 

『コウキか! 宜しく!』

 

 ニコリと笑うケルディオに、釣られて微笑む光輝。気付けば2人はお互いの事を話していた。

 

『そっか。友達を知らないうちに傷付けてたんだ』

 

「うん……。俺は解決したと思っていたけど、そんな事無くて……。今までやってきた事が間違ってたのかって思うと……」

 

『なら、そのシズクって女の子に謝れば良いじゃないか』

 

「謝っても、きっと許してくれないよ……」

 

『なんで?』

 

「なんでって……」

 

『やってみなくちゃ分からないだろ? ……って、これ先輩たちの受け売りだけど』

 

 照れるようにケルディオは前脚で地面を軽く掻いた。

 

『僕、聖剣士を目指してるんだ』

 

「聖剣士、だって!?」

 

『だから先輩たちに稽古をつけてもらってるんだけど、テラキオン先輩に言われたんだ。やってもいない癖に出来ないと決めつけるな!って。まぁコバルオン先輩からは、無闇に挑むのは無謀だって言われたけど』

 

 だからさ、とケルディオは続ける。

 

『謝るくらいは出来るんじゃないかな?』

 

「ケルディオ……」

 

 悩みを打ち明けたお陰で、光輝の心の中は軽くなっていた。謝ることを決意して立ち上がろうとした、その瞬間だった。

 

 

『ゴラァァァァ! ケルディオォォォ!』

 

 

 野太い怒声が空気を震わせた。光輝は思わず振り返って、本能のままに構えを取る。一方のケルディオは、サボりがバレたかのように悲鳴を上げた。

 

『ひいいい! テラキオン先輩!』

 

『貴様ぁ! 修行はまだ終わってないというのに、何サボってんだぁ!……む?』

 

 テラキオンと呼ばれたポケモンが光輝の姿に気付いた。最初は首を傾げていたが、思い出したかのように笑い出した。

 

『あぁ! ゼルネアス様が人間に試練を行なうと言っていたな。すっかり忘れてた、ガッハッハ!』

 

「えぇー……」

 

 どうやらケルディオの修行に集中し過ぎて、試練の事を忘れていたらしい。思わず呆れてしまった光輝だったが、そこへ雫と浩介が駆けつけた。

 

「光輝!」

 

「雫……それに遠藤も」

 

「ぜえ、ぜえ……! ようやく追いつけた……」

 

 感動の再会と行きたいところだが、状況は許してくれない。テラキオンは「よぉし!」と何かを思いついたかのように話し始めた。

 

『そこの3人が迷宮の挑戦者だな! ならば、ケルディオと共に俺に打ち込んで来い!』

 

『えぇ!? 良いの!?』

 

『さっきまでの修行よりも本気出すからな! 覚悟しとけ、特にケルディオ!』

 

『ひいいいいい!』

 

 まさかの、修行ついでの試練である。光輝たちは内心驚きながらも、戦闘態勢を見せるテラキオンに対して構えを取った。

 

 

 

 

 

 テラキオンによる試練。彼はその見た目通りのパワフルな攻撃を仕掛けてきた。前脚を勢いよく叩きつけ、“ストーンエッジ”を放つ。

 

『どおりゃあぁぁぁ!!』

 

『せぇぇぇいっ!』

 

 ケルディオは負けじと、蹄から水を放出して“アクアジェット”によって岩石の刃を粉砕していく。だがテラキオンの放った技の範囲は広く、光輝たちにも迫っていた。

 

「ふっ、はあっ!」

 

「せぇいりゃあぁぁっ!」

 

 光輝は“いわくだき”を連発し、雫は尻尾を振るって“リーフブレード”を放って岩を砕く。

 

「遠藤!」

 

「まっかせろぉぉ!」

 

 テラキオンへの道が開かれ、浩介が“でんこうせっか”を利用して一気に駆け抜ける。ケルディオと同時にテラキオンの下へ辿り着くと、出会ったばかりだと言うのにお互いに頷いた。

 

『「てやぁぁぁぁ!!」』

 

 ケルディオが“アクアテール”を、浩介が“みすでっぽう”を放つ。岩・格闘タイプを持つテラキオンに、水タイプの技は効果抜群である。だが、彼も伊達に『聖剣士』と呼ばれていない。体を回転させ、その後ろ脚で“にどげり”を放つ。

 

『うわぁっ!』

 

「うぐぅっ!」

 

『即興にしては見事だ! むぅんっ!』

 

 そのまま“とっしん”で突き飛ばすと、光輝たちを見る。

 

『来い、小僧! 抱えている悩みごとぶつけて来い!』

 

「っ!」

 

 光輝は“でんこうせっか”で駆け抜け、“メタルクロー”を振るう。テラキオンは敢えて反撃せず、角で受け止める。光輝はそれで止まらず、ただひたすらに“いわくだき”を連発した。

 

「(打ちこめ! ただ、ひたすらに!)」

 

 拳をひたすらに打ち込みながら、光輝は実感する。今までの自分は、『正義の味方であれ』という思いに縛られ続けていたのだ。それが今ではどうか。無心でただ打ち込むだけだと言うのに、体が簡単に動けている。

 

『ぜぇいやぁぁぁ!!』

 

 ケルディオが“アクアテール”で光輝を手助けする。

 

「やあぁぁぁぁ!」

 

 雫が“リーフブレード”で追撃する。

 

「そぉらよぉぉ!」

 

 浩介が“みずのはどう”を放った。それでもテラキオンは倒れない。

 

『ガッハッハッハッ! 良い打ち込みだった! だがそろそろ、終いにしなければな』

 

 テラキオンの角が光り輝き、“せいなるつるぎ”を発動する。そして、3人を一瞬で叩き伏せた。瞬く間に3人の意識が刈り取られる。

 

『合格だ、挑戦者たち』

 

 テラキオンの優しさと逞しさの籠もった声が、光輝が気を失う前に聞いた言葉だった。

 




次回はハジメチームです。お楽しみに。


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聖剣士は見ている(ハジメチーム)

更新が遅くなり申し訳ありません……!
ブルーベリー学園に行ったり、キビキビダンスに巻き込まれたりしてました。
まぁそれ以上に、正月から早朝出勤や深夜勤務等が続いて、来月にはリハビリ資格の試験もあるので時間が取り辛かったのが大きいですが……。


 聖剣士に認められるために、各々が試練を受けている中、ハジメ達は霧の立ち込めるエリアに飛ばされていた。“きりばらい”でも晴らせそうにないこの場所で、ゆっくりと足音が聞こえてきた。

 

『君が、イベルタルと戦った人間だな?』

 

 現れたのは、コバルトブルーを基調とし、マーコールを思わせるような角を持つポケモン。凛々しさを含む声の主に、イワンコとなっているハジメは驚く。

 

コバルオン……!」

 

『そうだ。このエリアにて君たちを見定める者だ』

 

 いきなり聖剣士が、それも彼らの中ではリーダー格にあたるコバルオンの登場に、ハジメ達に緊張が走った。先に口を開いたのはコロモリになっているユエだった。

 

「……貴方と戦えば、試練を達成出来るの?」

 

『最初はそのつもりだった。だが、この者達の願いで試練を変えることにした』

 

 コバルオンが嘶くと、何処からズシンズシンと重量感のある足音が聞こえてきた。

 

「な、何でしょう、この足音?」

 

「1つだけじゃない……。複数……?」

 

 ミミロルとなったシアに、ピンプクとなった香織が辺りを見回す。やがて土煙と共に何かが突進してくる。

 

 

『ハージメー!』

 

 

「うわぁぁぁぁ!?」

 

 イワンコとなった自分よりも大きな体格のポケモンに轢かれそうになったが、そこを別のポケモンが押さえ込む。

 

『サイドン、落チ着ケ』

 

「……ゴルーグ?」

 

 それは、ユエの手持ちであるゴルーグだった。更に別のポケモンの声が響く。

 

『こりゃ、サイドン! 小僧が轢かれたら試練にならんじゃろ!』

 

『全く、その突進癖はサイホーンの頃から変わっていませんね』

 

『わ、悪かったよぉ。バサギリ爺ちゃん、アブソルぅ……』

 

「え、えぇ!? サイドンにバサギリ!?」

 

「この声、もしかしてアブソルですか!?」

 

 大迷宮でポケモンの姿へ変えられてから見なかった、自分の手持ちのポケモン。思わぬ再会であった。コバルオンは続きを話し始める。

 

『彼らが願い出たのだ。自らの主と話をしたいと』

 

「話を……?」

 

 ハジメがサイドンとバサギリを見ると、2匹は頷いた。

 

『よくお前さんは儂らに話し掛けてくれるが、やはり儂らと人間では意志が伝わるのにほんの少し壁がある』

 

『せっかく俺達と同じ姿になれたんだ! もっと話そうぜ!』

 

「バサギリ……。サイドンも……」

 

 すると先程まで立ち込めていた霧が晴れ、木々に囲まれている広場のようになった。小さめの切り株が3つあり、ハジメと香織にはサイドンとバサギリ、ユエはゴルーグ、シアはアブソルと同じ切り株にいる。さながらテーブルで向かい合うような光景になっていた。

 

 

 

 

 

『へっへぇ〜。ハジメと話が出来る〜』

 

 サイドンはずっとニコニコと笑顔を崩していなかった。確かにハジメとサイドンは良いコンビだが、香織はオルクス大迷宮で出会った位しか知らなかった。

 

「そう言えば、ハジメ君とサイドンってユエと会うまでどうしてたの?」

 

『おっ、よくぞ聞いてくれたな! 聞くも涙語るも涙の……』

 

『あー、これは長くなりそうじゃわぃ……』

 

 呆れたようにため息をつくバサギリ。彼はハジメと向かい合うと、最初に頭を下げた。

 

『ハジメよ。あの時……操られ、暴走していた儂を助けてくれて、本当に感謝しておる』

 

「そう思ってくれてたんだ。えへへ、此方こそありがとう。バサギリってストライク達のリーダーだったんでしょ? それなのに着いてきてくれて、嬉しいよ」

 

『ほっほっほっ。見込みのある若い奴を選んだからの。とは言え、儂はまだまだ現役のつもりじゃ。これからも存分に頼っておくれよ? サイドンと共にな』

 

 バサギリはそう言うと、何やら擬音が盛り沢山で語っているサイドンに軽く蹴りを入れた。

 

『ほれサイドン、其処までにせんか! ハジメに言いたい事があるのじゃろ!』

 

『おぉっと!? 忘れるところだったぜ!』

 

「あはは……。ありがとう、バサギリ」

 

 香織が苦笑いすると、バサギリは彼女にも目を向ける。

 

『香織さんや。ハジメを支えてくれるだけでなく、(いくさ)では儂らの傷を癒やしてくれて、本当にありがとうなぁ』

 

「今の私に出来るのは、これ位しか無いからね。出来ることは精一杯やるよ」

 

 気合を入れるようにムン、と拳を握る香織。だがバサギリは真剣な顔をする。

 

『無理は禁物じゃぞ? お前さんもハジメもまだ若い。お前さんに何かあれば、ハジメは周りを気に留めず無茶をするじゃろう』

 

「……」

 

『かかか! いつかお前さんも、儂らのようなパートナーを得るじゃろうて。年寄りのお節介な勘じゃがのぉ』

 

「ううん。少し心が軽くなったよ。(やっぱり気付かれちゃったかぁ)」

 

 ポケモンを持っておらず、ハジメ達以上の働きが出来ていない事に、若干の焦りがあった香織。だが不思議とバサギリの言葉に嘘は感じず、心が軽くなったのだった。

 一方、サイドンとハジメ。両者はお互いに笑顔だった。

 

『こうやって話せるの、最高だなハジメ!』

 

「思えば、オルクス大迷宮の時から一緒だったよね〜」

 

『あそこには、生まれた時から居たからなぁ。最初は縄張りに侵入者が来たと思ってたのに、ハジメが結構良いバトルするんだからよぉ。おまけに地面が崩れて、水に流されたし』

 

「あの時は僕も木の実を持っていたからね。お陰でこうやって旅が出来るんだから、何が起こるか分からないよ」

 

 初めて出会った時の事を思い出し、沁み沁みとした空気になる両者。そこへサイドンは思い出したかのように話題を変えた。

 

『あっ、そうだ。ハジメって俺達のことに詳しいんだよな? 俺、もう一回進化出来そうな気がするんだけど、何か知ってるか?』

 

「え、気付いてたの? 確かにもう一回進化することで、ドサイドンに進化出来るけど……」

 

『やっぱり! どうやったらなれるんだ!? これから強いポケモン達が相手になるなら、俺ももっと強くなりたい!』

 

 ハジメは悩んだ。ドサイドンに進化するためには、プロテクターというアイテムが必要だ。ただし、非常に重いとされるそれは、明らかに人工物である。その様な物をトータスの人間が作れているかどうかは怪しい。

 

「進化に必要なのは、人間が作った道具だからねぇ……。今すぐに進化、とはいかないかも」

 

『そっか……。だったら、進化しても大丈夫なように、もっともっと今の俺を鍛えれば良いんだな!』

 

「お、おぉう。凄いポジティブ」

 

『これからも、バサギリのじっちゃんと頑張るからさ。これからもよろしくな、ハジメ!』

 

「ふふっ、勿論さ」

 

 そうして二人はまた笑った。

 

 

 

 

 

 ユエとゴルーグ。その身長差は大きいが、ユエが飛んでゴルーグに目線を合わせることで解決した。

 

「こうやって話せるなんて、思わなかった」

 

『私モダ、ユエ』

 

 片言ではあるものの、頷いたりなどすることで感情が伝わってくる。ユエはふと、あることが気になった。

 

「ねぇ、ゴルーグ。貴方はかつて、伯父様に仕えていた。なら、どうして私を突然封印したのか、知っている?」

 

 ユエのゴルーグは、元は彼女の伯父のポケモンである。彼ならば真実を知っているかもしれないと思い、質問した。

 だが、答えはあまりにもアッサリとしたものだった。

 

『……知ラナイ。私ガ主ニ命ジラレタノハ、オ嬢様ヲ守ル事ダ』

 

「私を……?」

 

『ダガ1ツダケ言エルノハ、主ハ、オ嬢様ヲ大切ニ想ッテイタ。ソレダケ、ダ』

 

「伯父様……」

 

 大切に思っていたのならば、何故化け物だと罵ったのだろうか。心が晴れるはずが、却ってモヤモヤし始めた。それを察したのか、ゴルーグは続ける。

 

『大切ニ想ウカラコソ、主ハ辛カッタノデハナイダロウカ』

 

「え?」

 

『自身ガ恨マレル覚悟デ悪ヲ演ジ、オ嬢様ヲ守ロウトシタノデハ。私ハソウ考エテイル』

 

 そう言われてユエは思案する。確かに、もし本当に自分の事を嫌っていたのならば、ゴルーグに『ユエを守れ』等と命じない筈だ。封印されて永い間孤独だったのは辛い。だが自分を始末するならば、再生の能力を利用した拷問を……普通の人間ならば何度も死ぬような拷問をしていたかもしれない。

 

「(伯父様は、私を殺しきれなかったからじゃなくて、何か別の理由で封印した……?)」

 

 それこそゴルーグが言うように、何かから守るために。

 

「……ありがとう、ゴルーグ。貴方のお陰で、伯父様について別の視点で考えることが出来る」

 

『ソウ言ッテ貰エタナラ、何ヨリダ』

 

 パートナーとの会話に、ユエはどこか安心感を得ていた。

 

 

 

 

 

 シアはアブソルの毛並みを堪能していた。幼い頃から共に育ってきたパートナーと会話できるようになり、テンションが上限突破したが故の行動である。

 

『ふふ。シアは小さい頃から、私の毛に顔を埋めるのが好きでしたね』

 

「こんなにフカフカなんです! 堪能しなくてどうするんですか!」

 

 シアは思い出す。幼い頃のアブソルは今とは大違いでやせ細っており、毛並みも荒れていた。アブソルは災害を予知するが、それが災害を呼ぶと間違われて迫害された悲しいポケモン。同族達が言うには、他のポケモンとの縄張り争いに負けたか、ポケモンを危険視する亜人族によって傷付けられたのではないかと言うことだった。

 事の真相は分からない。だが、過去の事をシアは恨むつもりは無い。今は仲間たちと共に、そしてアブソルと共に旅を出来ているのだから。

 

『ありがとう、シア』

 

「アブソル?」

 

『貴女に会えて、こうして冒険が出来るとは思いませんでした。私はフェアベルゲンの森で、貴女と共にひっそりと生涯を終えると思っていた。けども、様々な場所を巡ることが、こんなに楽しいとは思いませんでした』

 

「お礼を言うなら私もですよ、アブソル」

 

 ニコリと笑みを溢して、シアはアブソルを見る。

 

「ユエさんとバトルをした時、私は諦めそうになりました。そんな時に、まだ戦えると諦めていない貴方の姿を見て、私も諦めないと決心できたんです」

 

 一瞬キョトンとしたアブソルだったが、また笑みを浮かべた。

 

『そう言われると、私も頑張った甲斐がありますね』

 

「今が幸せみたいな事言ってますけど、これからも幸せになるんですからね?」

 

『おやおや、言われてしまいましたか』

 

 お互いに、声を上げて笑い合う。

 

 

 

 

 

 それぞれパートナーと話し合う姿を見ているコバルオン。

 

『(まさか、あそこまで人間と絆を深めていたとは……)』

 

 自分のパートナーと話をしたい!と強く頼まれ、ゼルネアスからも了承を得て、試練内容を変更したのだが、間違っていなかった。

 

『(ゼルネアス様は、この事を見越していたのか)』

 

 コバルオン、ビリジオン、テラキオンは過去の人間たちを知っている。偽りの神に躍らされ、幾度も争いを繰り広げ自分たちこそが至高だと言い張っていた。

 真の神は封印され、いわば人質のように扱われてむやみに動けないが、彼らならきっと……。

 

『(合格だな)』

 

 コバルオンが認めた瞬間のことだった。このエリアだけでなく、幸利達や光輝達の居るエリアにも、転移陣が現れたのだった。

 




本当はコバルオンとのバトルとか、手持ちのポケモン達とバトルとかも考えました。
ただ、ビリジオンやテラキオンでも戦闘だったので、ちょっと変えました。
次回でハルツィナ大迷宮は終わりになります。


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森の騎士たち

化石ポケモンが好きな私による、超こじつけ理論。

私「セキタンザンって、石炭のポケモンだよな……。石炭は化石燃料……。セキタンザンって化石ポケモンじゃね!?」
友人「まあ、分からなくもない」

私「岩塩って、大昔の海が山に閉じ込められて、何億年も掛けて出来た物らしい。じゃあキョジオーンって化石ポケモンじゃね!?」
友人「こじつけが過ぎる」


 ハルツィナ大迷宮の各エリアに現れた魔法陣。それは、それぞれに飛ばされた全員が聖剣士に認められたという証であった。それそれが魔法陣に飛び込むと、鬱蒼とした森の中へと転移した。

 

「うわっ! ……あ、幸利!」

 

「ハジメ! てことはお前も試練を達成したのか!」

 

「うん! と言うか光輝たちはどうしたの、その傷!?」

 

「テラキオンにこてんぱんにされて……」

 

 全員が再会に喜ぶ中、浩介があることに気付いた。

 

「あっ! 俺達、人間の姿に戻ってる!」

 

 試練を終えたからか、全員が元の姿に戻っていた。光輝チームはテラキオンにやられていた筈だが、迷宮側の配慮によるものか少しだけ傷が治っていた。ゲーム版のポケモンで言うならば黄色ゲージまで回復している状態だ。

 ハジメが辺りを見回すと、確かに此処は鬱蒼としているようだが、一箇所だけ開けており上から日光が降り注いでいる。その光の中に佇むのは、この迷宮の主。

 

「ゼルネアス……」

 

『試練達成、おめでとうございます』

 

 ニコリと微笑むその声は、さながら聖母のようだ。見ればコバルオン、ビリジオン、テラキオン、そしてケルディオが頭を垂れている。立場としては彼女がトップなのだろう。

 

『さて、神の欠片を集めし者よ。試練達成の証として、これを』

 

 先頭に立つハジメと向かい合うゼルネアス。両者の間に現れたのは桃色のプレート。

 

 ハジメは せいれいプレート を手に入れた!

 

「フェアリータイプの力……」

 

 ハジメは両手で受け取ると、バッグにしまった。

 

『そして、試練を達成した他の皆さんには此方を。両手を出してください』

 

 全員が水を掬うような形で両手を出すと、そこに乗せられたのはモンスターボールだった。

 

「え!? この子は……イワンコ!?」

 

「俺はモクローだ! さっきまで俺がなっていた姿だぞ!?」

 

 ボールの中身は、先程まで自分が変身していたポケモン達。ゼルネアスの微笑みは崩れない。

 

『実は、貴方達が変身していた者達は、この大迷宮に住んでいるのですが……。試練の際にその姿を模倣させて貰ったのです。ところが自分たちの姿で試練を受ける貴方達に感銘を受けたようでして』

 

 つまり、この迷宮に住むポケモンの姿をコピーし、ハジメ達にそのコピーを貼り付けたのが、ポケモンに変身したカラクリらしい。

 

『どうか、彼らと共に歩んでくださいね』

 

「「「「はい!」」」」

 

 その時だ。ノシ、ノシと厳かな足音が聞こえてきた。ほんの少し驚きを含んだ声でその2匹の名を呼ぶ。

 

『おや。ザシアンにザマゼンタ。貴方達まで来るとは』

 

『試練を達成したのがハジメ達だと聞いてな』

 

 かつてハルツィナ大迷宮に来た際に現れた、ザシアンとザマゼンタ。その時はまだオルクス大迷宮しか攻略しておらず、実体として出会うのは今回が初めてである。

 

『久しいな、ハジメよ。逞しくなったな。仲間も増えたようだ』

 

「ありがとう、ザシアン。ねぇ、今なら返せるかな?」

 

『そうだな。そろそろ調子を取り戻し、来たるべき時に備えておかねばな』

 

 バッグからハジメが取り出したのは、まだトータスに来たばかりの頃に王国の宝物庫から持ち出したアイテム。『朽ちた剣』と『朽ちた盾』。それを見た光輝たちが驚く。

 

「それって、宝物庫を開放してくれた時にハジメが取っていた物じゃないか」

 

「ポケモンの事を聞かされてから、もしかしてと思って取っておいたんだよね。ようやく返せるよ」

 

「でも、そんなにボロボロで大丈夫かしら……?」

 

 雫としては、かなり古くなったものを返して逆に怒られないかと心配だったのだが、それほ杞憂だった。

 取り出した剣と盾は宙に浮かび、そして剣はザシアンに、盾はザマゼンタに吸い込まれていく。

 

「「ルオオオオオオオオン!!」」

 

 2匹が咆哮するとともに光は弾け、遂に真の姿となった。

 

『おぉ……! 騎士王様が復活した……!』

 

 コバルオンが感銘の声を上げる。剣の王と盾の王の復活である。

 

『ありがとう、ハジメよ。お前たちの最後の戦いには、我らも駆けつけよう』

 

 王の言葉に、ハジメは頷いた。

 

 

 

 

 

 ザシアンとザマゼンタが復活し、後はハジメ達が迷宮を去ろうとした時だ。ふと、コバルオンが語りかけた。

 

『ケルディオ』

 

『は、はい!』

 

『君も、彼らについて行きなさい』

 

『……えぇ!?』

 

『何を驚く。本当は、着いて行きたかったのだろう?』

 

 光輝がリオルを仲間にした時、ケルディオはほんの少しだけ、羨ましそうに彼らを見ていた。コバルオン達は察していたのだ。それと共に、修行も課すことが出来ると考えてもいた。

 

『氷の迷宮に待ち受けている、虚無の龍に認められて来い。そうすればお前も、立派に聖剣士として名乗れるぞ』

 

 テラキオンが不敵な笑みを浮かべる。

 

『そうですね。世界の広さを知ることもまた、修行の1つです』

 

 ビリジオンも微笑んだ。コバルオンも頷く。それをみたケルディオの行動は早かった。彼は光輝の背中を追う。

 

『光輝ー!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ハジメ達が迷宮を去り、他のポケモン達も持ち場に戻った中、ゼルネアスは微笑みを一転させて険しい表情になった。

 

『ハジメの中にある、()()1()()()()の輝きが強くなっている……』

 

 彼にプレートを渡した瞬間に感じたのは、彼の中にある生命力が強くなったというもの。だがハジメからは、もう1つの魂を感じ取ったのだ。

 

『本来ならば肉体に魂は1つだけ……。大丈夫でしょうか……』




次回からシュネー大迷宮に突入です。ですが、資格試験の関係で更新が遅くなります。


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閑話∶光輪と共に歩む者たち

大変長らくお待たせしました。投稿を再開します!
つい最近、ちょっと遠出してポケモン化石博物館に行ってきました。いやー、化石ってロマンがあって良い物ですね。いつかは息抜きで化石ポケモンの小説も作ってみたいところです。


 場所はメルジーネ大迷宮。ハジメ達が、エヒト達の真実を映像として知った場所に、複数の人影があった。彼らは先程見た世界の真実に、大きなショックを受けていた。

 

「何という……事だ……」

 

「そんな……! じゃあ我々は……魔人族は何のために……!」

 

 呆然と呟くフリード。その後ろでは、カトレアが頭を抱えていた。

 フリードを始めとする魔人族の調査隊。彼らは、イベルタルの一件で神アルヴヘイトに疑心を抱くようになった。そこで、反逆者が作ったという大迷宮にヒントがあると考え、調査をすることになったのだ。

 本来、このメルジーネ大迷宮に行くには2つの方法があるのだが、何故彼らは入ることが出来たのか。それは、1匹のポケモンがフリードに協力しているからだ。

 

『な? オイラの言った通りだろ?』

 

「君の言う通りだったよ、フーパ。まさか我々の信仰する神が偽りだったとは、な……」

 

 いたずらポケモン『フーパ』。魔人族の国ガーランドの近くにある遺跡にて、偶然出会ったポケモンだ。彼は大迷宮に対して造詣が深く、能力である光輪によって各地の大迷宮へ一瞬で行けてしまうのだ。

 

「どうかね、フーパ。君の求める『ツボ』は見つかりそうかね?」

 

 同じく調査隊の一員であるレイスが尋ねる。だがフーパは首を横に振るだけだった。

 

『んーん。此処には無いみたいだ。あの『ツボ』さえあれば、オイラはもっと強くなれるのになー!』

 

 フリード達とフーパは、ある取引をした。それはフーパが大迷宮へと転送する代わりに、とある『ツボ』を渡すこと。今の彼は力を大きく封じられているらしい。

 

「それにしても、何で力を封じられたんだ?」

 

『たはは……。大昔に、それこそメルジーネ達が生きていた頃に、色々やらかしちゃって……』

 

「やらかしたって、何を?」

 

『……色んな国の財宝盗んだ。それで解放者たちにお仕置きとして……』

 

「それはまた……」

 

 でもさ、とフーパは続ける。

 

『皆と一緒に過ごしたの、イタズラするよりも楽しかったんだ。だから……皆がやってきた事を無駄にしたくない』

 

「フーパ……」

 

 この大迷宮で見た映像の中には、人間と亜人族、そして魔人族とが和平を結ぼうとした内容もあった。ようやく掴もうとした平和を捻り潰す偽神。解放者たちはよほど苦しい戦いを強いられたのだろうと、フリードは思いを馳せた。

 

「ならば、次の迷宮へと赴き、力を取り戻さねばな。我々も偽神たちには一言物申したい」

 

『……良いのか?』

 

「我々は一度傀儡となった身だが、それでも良いのなら共に行こう」

 

『……へへっ。フリードってば真面目なんだな!』

 

「なっ! こちらが真剣に話しているというのに何だそのニヤケ面は!」

 

『ニシシシシシ!』

 

 迷宮から出るための光輪を作り出したフーパ。何とか立ち直ったカトレアを始めとする配下達に続き、フリードも潜って行く。

 

『(ありがとな、フリード)』

 

 フーパはこっそりと呟いて、光輪を潜った。




というわけで、フリード達魔人族は、フーパを仲間にしております。果たして『あの壺』はどこに……?

次回からシュネー大迷宮編です。


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迷宮へ導く者

レジェンズZAが発表されましたが、発売は来年……。その間に何か来るのでしょうか? 個人的には……
・ディアルガ&パルキアにオリジンフォルムが出たなら、ゼルネアスとイベルタルにメガシンカが来る?(映像がメガシンカのアイコンと効果音で締め括られている)
・上記でメガシンカして、生と死のエネルギーで生態系がヤバくなるのを抑えるためにジガルデ参戦?
・コトブキ村みたいな感じで、旧ミアレシティから他のエリアに行く感じになる?
・ポケモンとの共存や都市再開発の参考として、生態系調査のためにポケモンを捕まえていく?
・過去の話のため、ヒスイポケモンのように「昔はよく居たけど現代では滅多に見ない姿」のポケモンが追加される?

と考えています。


 見渡す限りの雲海。ハジメの操縦する飛行船は、シュネー雪原の上空を進んでいた。

 ハルツィナ大迷宮にて試練をクリアし、プレートと新たな仲間を得た彼らは、フェアベルゲンにて一夜を明かした後に旅を再開した。飛行船内では各々が新しい仲間とコミュニケーションを取っている。

 

「ワゥン?」

 

「他の場所は初めて見るのかい、イワンコ? この雲海の下は猛吹雪になっているんだ」

 

 シュネー雪原。そこは魔人族の領土に近く、またその気候は猛吹雪が常に発生している。この曇天が晴れるのは極稀なのだそうだ。探索するにはかなりの困難を極めるこの雪原のどこかに、大迷宮はある。

 

「(ゼクロムとレシラムが言うには、あそこには虚無の竜……キュレムが待ち構えている。だけど他の迷宮でレジ系列のポケモンが出ていたのなら、あそこにはレジアイスも待ち構えている筈だ)」

 

 首に掛けている、フリージオを模したペンダントを見る。雪原に入った辺からほんのりと青白く発光し始めた。今は光が少し強くなっている。まるで、迷宮への道を示しているかのようだった。

 

「(プレートの共鳴も起き始めている。もうそろそろ着陸を……!?)」

 

 その時だ。ズキンと頭が痛み出した。突然の不調に気付いたのか、イワンコが吼える。

 

「うっ、ぐっ……!」

 

「ッ! ワン、ワン!」

 

「おいおい、一体どうし……ハジメ!? おい、大丈夫か!」

 

 イワンコの鳴き声を聞いて操舵室に来た幸利が、片手で頭を抑えながら膝を着きそうになっているハジメに肩を貸す。幸利の大声に他の仲間たちも異変を感じて駆け付けた。

 

「ハジメ君!? ハジメ君!」

 

「天之河、操縦を頼む!」

 

「分かった!」

 

 香織がハジメに治癒魔法をかけ、幸利は彼をゆっくりと寝せる。その間の操縦を光輝が担当することになった。ハジメは苦悶の表情を浮かべている。

 

「嘘……。何これ……」

 

「何かわかったのか?」

 

 香織は技能の1つである『浸透看破』で、ハジメを診察する。魔力を相手の体内に流し込む事で、相手の症状をステータスプレートで診ることが可能なのだ。香織のステータスプレートに表示されていたのは――

 

「『生命力過多』? どういう事だ?」

 

「文字通りなら、たぶん生命力が多過ぎて体調を崩しているのかもしれないけど……」

 

 今までこの様な事が無かった為に、香織や幸利は戸惑いを隠せない。サブカル面で強い幸利は、生命力が多いなら何故体調不良が起きるのかと疑問に思う。生命力が多いということは、それだけ活力や頑丈さに優れているというイメージが彼にはあったのだ。

 

「どうしちまったんだよ、ハジメ……」

 

 

 

 

 

 その頃、光輝は飛行船を操縦していたのだが問題が発生した。

 

「何処に降りれば良いんだ……!?」

 

 そう。ハジメの持つ『キュレムへの道標』の光と、所有するプレートと大迷宮のプレートとの共鳴によって飛行できていたのだが、2つを持っているハジメが操舵室から離れたことで、迷宮の場所が分からなくなったのだ。

 辺りは広い雲海。その下は猛吹雪。着陸場所を誤れば最悪の場合、墜落もあり得る。

 どうすれば……。光輝が困り果てていた時だった。

 

 

「ヒョオォォォォォン!!」

 

 

 甲高い鳥のような鳴き声。それと同時に、飛行船の前に一匹のポケモンが現れた。

 尾羽がしなやかに揺れ、翼を大きく羽ばたかせながら滞空するその姿。何処か神秘的な雰囲気を放つそのポケモンに、光輝は目を奪われた。

 

「確か前にもこんな事あったな……。そうだ、サンダーと戦った時の! ということはもしかして、あのポケモンは……!」

 

 そう。ファイヤー、サンダーに並ぶ三鳥が一体……フリーザーである。

 ファイヤーとサンダーは、迷宮に挑む前に力試しとして襲い掛かってきた。つまりフリーザーとも戦闘する流れ……の筈だった。

 

「…………」

 

「え?」

 

 飛行船に背を向け、前へ前へと飛び進めるフリーザー。光輝は突然のことに思考が止まっていたが、フリーザーはその事を気にしない。それどころか、距離が離れると再び滞空して飛行船を見つめてくるのだ。

 

「……ついて来いと言ってるのか?」

 

 操縦桿を握り飛行船を進めると、フリーザーは再び背を向けて羽ばたいた。

 




ハジメが不調に。果たしてどうなるのか……?


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氷の大迷宮

未だに人手不足……! 休日は休むのに精一杯です……!


 光輝達の乗る飛行船を、まるで導くかのように飛ぶフリーザー。伝説ポケモン登場の報を受け、ハジメと香織を除く全員がブリッジに集まっていた。

 

「綺麗ですねぇ……」

 

「ファイヤーとサンダーは戦いを仕掛けてきたけど、もしかしてフリーザーは冷静な性格なのか?」

 

 シアがその雄々しく飛ぶ姿に見惚れ、幸利は今までの流れとは異なる事態を考察していた。そうこうしている内に、フリーザーは真下に広がる雲海の中へと急降下を始める。

 

「この下に大迷宮があるのか?」

 

「とにかく降りてみようよ!」

 

「待ちなさい。この雲海の下は吹雪の筈よ。操縦を誤ったら墜落するかもしれないわ」

 

 鈴が降りることを提案するも、シュネー雪原の天候を覚えていた雫が注意する。光輝もその事を覚えていた上で、指示を出す。

 

「でも、俺達の目的はこの雪原の大迷宮だ。フリーザーがここで降りていったのも、何か意味があるのかもしれない。……俺は着陸してみようと思う。みんなは、どうだ?」

 

 舵の手を離せないため、全員の顔を見ることは出来ない。だが目的を自覚している全員の答えは決まっていた。

 

「……思えばレックウザの時と言い、ゼルネアスの時と言い、どの道危険だらけよね。今更だったわ」

 

「此処まで来れたんだ! 進むっきゃねえ!」

 

 雫は苦笑いし、龍太郎は握り拳に力を入れて決意をあらわにする。シアやユエも頷くが、幸利と浩介は同じ疑問を言葉にした。

 

「ハジメはどうする?」

 

「看病してる白崎さんも、彼から離すことは出来なさそうだ」

 

「ハジメには申し訳ないけど、俺達だけで挑むしか……」

 

 

「その必要はないよ」

 

 

 突如聞こえた声に振り返ると、先程まで苦しんでいた姿が嘘だったかのようにピンピンしているハジメの姿があった。

 

「ハジメさん! 大丈夫なんですか!?」

 

「うん。心配かけさせてゴメン」 

 

「本当だぜ、ったくよぉ!」

 

「よし! なら着陸しよう!」

 

 周りはハジメの早い復活に喜んでいたが……

 

「(何、アイツ……?)」

 

 恵理だけが、彼のことを訝しげに見ていた。

 

 

 

 

 

 フリーザーの後を追い、飛行船を着陸させた一行。猛吹雪を警戒していた彼らだったが、待っていたのは少し勢いが強いだけで、歩けない訳ではない程度の風雪だった。

 

「…………」

 

「此処から更に迷宮を探さないといけないのか?」

 

 フリーザーはハジメ達の姿を一瞥すると、また飛び始める。それを追おうと一歩踏み出した、その時だった。

 

 バコンッと足元の雪が崩れ、その下から大きな裂け目が現れた。

 

「……え?」

 

 シアの呆然とした声が、全員の気持ちを現していた。全員が空中にいたのは一瞬のこと。そのまま彼らは裂け目の中へと落ちていった。

 

「キャアァァァァァァ!?」

 

「何だよ、コレぇぇ!?」

 

「ク、クレベース……じゃなかった、クレバスだぁぁぁ!!」

 

 雪山の脅威の一つ、クレバス。氷河や雪渓で見られる巨大な裂け目のことである。目に見えるものならともかく、いまハジメ達が落ちているような雪に隠れているタイプも存在している、非常に危険な地形だ。

 そのまま落下していくハジメ達だったが、高さはそこまで無かったのか、すぐに着雪する。ところが其処から更に彼らの絶叫は続く。

 

「ぶわっ、冷た、目が回るぅぅぅ!!」

 

「ぶっ、ぼふっ、がはっ!」

 

 急斜面となっている雪の坂を転がり落ちていく。途切れ途切れとなるその声は、しばらく続いた。

 

 

 

 

 

「ぜぇ……はぁ……。何この天然のアトラクション……」

 

「だけどようやく着いたね……!」

 

 坂を転がり落ち、体の雪を払って息を整える。地表からどれ程落ちたのだろうか。しかし風の影響もなく、周りが氷で覆われているのにそれ程寒さを感じない。

 眼の前に見えるのは、氷で作られた荘厳な門。ハジメの持つプレートの共鳴の光も強くなり、此処が大迷宮だと分かる。

 

「行こう、みんな!」

 

 共鳴の光と共に、門はゆっくりと開き始める。ハジメの掛け声に全員が頷くと、迷宮へと突入していった。

 

「……………………」

 

 それを見ていたのは、突き出ていた氷に止まっていたフリーザー。彼は静かに飛び上がり、迷宮の『別の入口』へと向かっていった。

 ()()()()と共に、挑戦者を鍛えるべく。




次回、いよいよ大迷宮の試練……ですが……?


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職場で感染症が流行り人手不足に拍車が掛かり、10時間越え勤務を5日間という中々の地獄を味わいました。


 シュネー大迷宮へと足を踏み入れたハジメ達。その内装はまさに『氷の大迷宮』と呼ぶに相応しく、壁から天井に至るまで全て氷で出来ていた。その透明度は、まるで鏡のように自分の姿を見ることが出来るほどである。

 

「氷の大迷宮というより、鏡の大迷宮だな」

 

「カー○ィのゲームかよ」

 

 幸利と浩介が冗談を言うと、何かの足音が聞こえた。光輝はそれに気付いて2人に、会話を止めるようジェスチャーする。全員が警戒していると足音が徐々に大きくなり、その姿を現した。

 

「ガァブォ……!」

 

「あのシルエット……ガブリアス?」

 

 マッハポケモン、ガブリアス。姿はそれなのだがまるで影のように全身が黒く、目が赤く光っていた。全身からモヤのようなものが揺らいでおり、普通のポケモンでは無いことが分かる。

 

「ガブルァァァ!!」

 

「っ! ミミッキュ!」

 

 ガブリアス(?)が“ドラゴンクロー”を放ってくるが、瞬時に恵里がフェアリータイプのミミッキュを出すことで無効化に成功する。それを皮切りに、全員がポケモンを出そうとした。

 

「行け、サイドン!」

 

「グオォォン!……グル?」

 

 雄叫びを上げてボールから出てきたサイドンだったが、ハジメの方を見て戸惑いの様子を見せる。やがて困惑から不信の目付きへと変わると、ハジメに向かって吠え始めた。

 

「グァァァァン!!」

 

「ちょ、どうしたのさサイドン! ってうわっ!?」

 

「バルゥ……!」

 

「ウゥゥゥゥ……!」

 

 サイドンの咆哮を切っ掛けにバサギリとイワンコまで飛び出して、ハジメに向かって威嚇の声を上げる。

 

「ちょ、ハジメどうした!?」

 

「だぁぁクソ! ガブリアスもどきが来るぞ!」

 

「私達で迎え撃つしかありません!」

 

「ゴルーグ、抑え込んで!」

 

 ユエのゴルーグがガブリアス(?)を剛腕で抑える。そこへ香織がピンプクを出した。

 

「ピンプク、“チャームボイス”!」

 

「プウウウウウウ!!」

 

 そこへパチリスをくり出した鈴が、恵理に声を掛ける。

 

「エリリン。私のパチリス、“じゃれつく”攻撃が使えるみたい! ミミッキュと一緒にやろう!」

 

「…………」

 

「エリリン、聞いてる!?」

 

 だが恵里は、ポケモン達から威嚇されているハジメの方を睨んでいた。

 

「……ごめん、鈴、ダーリン。僕……アイツが気に食わない」

 

 一言だけ謝ると――魔力で“シャドーボール”のような物を作り出し、ハジメに攻撃した。

 

 

 

 

 

 突然の凶行。鈴が、幸利がいち早くその事に気付き、続けて浩介と香織が気付く。

 

「っ!」

 

 ハジメは魔力の塊が着弾する寸前にバックステップで回避し、直撃を免れる。

 

「ちょ、恵里、何してんだ!」

 

「……何のつもりかな、中村さん」

 

 しかし、ハジメは攻撃されたにも関わらず何処か冷静で、恵里のことを値踏みするかのような目で見ていた。

 

「(……何? あの目……ハジメ君じゃない……!?)」

 

 その事に香織が気付き始めた。一方恵里は、ミミッキュとカゲボウズを近くに寄せて警戒しながら、説明し始めた。

 

「僕の天職は降霊術師。だから魂とかそう言うのを見ることが出来るし、ミミッキュ達ゴーストタイプのポケモンと触れ合ったお陰で能力が強くなった」

 

 どういう訳かガブリアス(?)は動きが止まり、その事に光輝達も違和感を強くした。

 

「あのガブリアスもどき、()()の魂と色や波長が全く同じなんだよ! お前は誰だ! 南雲君の体を乗っ取ったお前は、何者なんだ!!」

 

 氷の大部屋に響く恵里の声。静けさが訪れると、やがてハジメ(?)は俯き、体が小さく震える。

 

 

 

「くくっ……! あっはっはっはっはっ!!

 

 

 

 顔を上げた彼の目は大きく見開き、黒い瞳から赤色へと変貌する。

 

「マジかよおい! こんなに早く()の事を見抜ける奴が居たなんてなぁ!」

 

 彼の身体から魔力が溢れ、渦を巻くように肉体を包み込む。それによって生じる強風に、香織達は目を瞑ってしまった。

 風が収まり目を開けると、そこには……変貌した青年が立っていた。黒髪は銀髪に、目は赤く、黒いマントを羽織っている。

 その変化に大きく戸惑い、声を震わせて香織は問い掛けた。

 

「貴方は一体誰……?」

 

「俺か? そうだなぁ……」

 

 少し考えるような仕草をすると、彼は不敵な笑みを浮かべた。

 

ゼンセ、とでも呼んでくれや」

 

 

 

 

 

 暗闇の中、ハジメは檻に閉じ込められていた。目の前には、炎がそのまま人の形を取ったかのような存在が立っている。

 

「しっかし何だこりゃ? 『南雲ハジメの可能性の姿』を取ってみたが、銀髪に赤目に黒コートとか……痛すぎだろ。眼帯と義手も加わったら尚更だな」

 

「此処から出せ!」

 

「我慢しろよ。俺のやることが終わってからだ」

 

 目の前の炎の男はハジメよりも背が高く、男は目線を合わせるように屈んだ。

 

「君は……もしかして、『本来の南雲ハジメ』なのか?」

 

「んー? 何でそう思うんだ?」

 

「両親の影響で、異世界転生やら憑依転生やらの作品にそこそこ触れてきててね。憑依転生系に出て来る問題の1つに、必ずあるんだよ。元々あったそのキャラクターの魂はどうなるのかってね」

 

「ふーん?」

 

「だけど、どうやって身体の主導権を奪える程の力を……!」

 

「あー、違う違う。お前の答えは大ハズレだ」

 

 呆れたように首を横に振る男。

 

「え?」

 

「話すと長くなるから、先に結論だけ話そう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お前は、()()()()()()()()()

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




次回、ハジメとゼンセの関係を明らかにします。


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影の語る真実

前の話はちょっとややこし過ぎたのか、お気に入り数が減っていて、「やっちまったなぁ」と思いました。
今回は、前半は戦闘導入、後半はゼンセの真意となるようにしています。


「お前ら、憑依転生って聞いたことあるか?」

 

 シュネー大迷宮の大部屋。其処では、ゼンセによる説明がされていた。転生という、これまたファンタジーな言葉に困惑する香織たちだが、幸利と浩介が前に出た。

 

「漫画とかのキャラクターに憑依して、本来辿る悲劇とかを回避したりするジャンルだろ」

 

「それがどうしたってんだ。俺達は漫画でもアニメのキャラでもない。ちゃんと此処に居る現実の人間だ!」

 

 2人の剣幕にもゼンセは動じず、不敵な笑みを浮かべるだけだった。

 

「何も漫画だけに起こるとは限らないだろ。こうやって、目の前で憑依転生した魂が、ハジメの身体を使って話してるんだからよぉ」

 

 ゼンセは小声で「まさかハジメがこういう姿になるとは思わなかったけども」と呟いたが、それを聞き取った者は居なかった。

 香織はゼンセを睨みながら問い掛けた。

 

「貴方は……何が目的なの」

 

「ハジメの真実を話すためさ。どうして一人だけポケモンに関して豊富に知識があるのか、疑問に思ったことは無いのか?」

 

「それは……」

 

「別に学力が優れてる訳でもない普通の人間が、突然151を超えるポケモン達のイラストを書き上げて、伝説ポケモンに関する神話まで網羅してる……。おかしいと思ったことは一度も無いのか?」

 

 言葉に詰まる、香織を始めとしたハジメの親友たち。確かに、初めて彼の描くポケモンを見たときは驚愕し、細かい設定に対しても「コイツの頭の中はどうなってるのか?」と疑問に思ったこともある。

 

「でもそれ以上に、『面白い』って思ってたから……! だから疑問なんて!」

 

「……そうかよ」

 

「(……え? 今、あのゼンセって奴、笑った?)」

 

 まるで身内が褒められたかのようにゼンセが微笑みを浮かべていたのを、ユエは見ていた。

 

「ハジメの持つ大量のポケモンの知識。その源流となるのがこの俺、ゼンセのお陰だと知ったら?」

 

「どう言うことだ!」

 

「簡単な話だ。この俺が、ハジメの無意識に干渉してポケモンを描かせていたんだよ!」

 

 演技のように大きく両腕を広げ、オカルト染みた事を語るゼンセ。光輝が聖剣を抜いてゼンセに向けながら、問い掛けた。

 

「なぜわざわざそんな事を!」

 

「お前達の住む地球は退屈過ぎるんだよ。俺の好きなジャンルが無いからな」

 

「好きなジャンル? ……まさか!」

 

「お、察したかポニーテール侍。そうだ。俺の居た地球では、ポケモンは世界的に超メジャーで、漫画にアニメにカードゲームなどなど大きく幅を利かせてる偉大なジャンルだったのさ。俺が生きていた頃は、それで世界は楽しく思えていたってのに……」

 

「それでも答えになってない! わざわざハジメの無意識に干渉しなくても、最初からお前が出ていれば……!」

 

 するとゼンセは、嘲笑するような――しかし何処か寂しそうな――表情になる。

 

「元々の肉体の主導権は、ハジメにあったからな。そうするのが精一杯だったのさ」

 

「(あの顔……寂しそう? 何かこの人……嘘ついてる)」

 

 すぐに表情が不敵な笑みに戻る。そこに香織は違和感を覚えた。

 

「俺も予想外だったよ。まさかプレートを集めている内に、ハジメの魂だけじゃなく、俺の魂も強化されていったんだからなぁ!」

 

「それで肉体の主導権を得たって事かよ!」

 

「元々、この迷宮は自分の心の闇を具現化……つまりはもう一人の自分を生み出す魔法も掛けられてるらしい。それをちょいと応用させてもらった」

 

 すると、待機していたガブリアス擬きがゼンセの隣に立つ。

 

「さーて、お喋りは終わりだ。俺からハジメを取り戻したければ、この影ポケモンを倒してみるんだな!」

 

 影ガブリアスの咆哮に、全員がモンスターボールを握った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 突然、自分が赤ん坊になっていたのは驚いた。新作のポケモンソフトを買いに行こうと歩いてた筈なのに、気付いたら病室の天井、 それも赤ん坊の姿と来た。

 あまりにも突然過ぎてパニックになりそうだったが、どういう訳か息苦しくて、徐々に視界が暗くなっていった時は非常に恐ろしく感じた。完全に暗くなる前に聞こえたのは、何かの医療機械が鳴らす不快な警告音と、看護師らしき人物が慌てて誰かを呼ぶ声だった。

 

 完全な闇。自分が人間の姿をしているかすら分からない、何も感じない世界。そんな俺の目の前に、今にも消えそうな小さな火の玉があった。

 

 そう、お前だよ。ハジメ。

 

 誰かに教えられた訳でもないのに、目の前の火の玉が、先程の赤ん坊に宿るべき魂だと判った。だが、泣き声を上げる事はおろか、呼吸すら出来ないのではと思うほど、ハジメの魂は弱々しかった。

 お前の魂が消えるのを見届ければ、俺はまた赤ん坊の体に戻り、第二の人生を歩むことが出来るだろう。

 だが……俺は、子供を見殺しに出来るほど、残酷な性格では無かったらしい。

 

 だから俺は、自分の魂を分けることにした。

 

 水の入ったグラスから隣にある空のグラスに移すように、自分の生命力を分けた。見る見る内にハジメの魂は、火の玉は大きくなり、やがて赤ん坊の肉体へと戻っていった。一方の俺は、ハジメが感じることも出来ない程の、小さな火の玉になった。

 そこからハジメはどんどん大きくなった。だが中学生の頃に、俺の予想だにしない事が起きた。

 俺の生命力と共に前世の記憶も流れ込み、ハジメの記憶と混濁してしまったのだ。

 ハジメは俺を知覚できていない。そのため、転生者でないにも関わらず、自分を転生者だと思うようになってしまった。

 

 トータスに召喚され、プレートを集めるようになってから、更なる予想外が起きた。

 プレートの持つ力が凄まじく、ハジメだけでなく、俺の魂まで強くなっていったのだ。

 それが顕著に現れたのは、メガレックウザとの戦闘を終えてから。プレートを通じシンオウ三神の怒りを見てハジメが気絶した瞬間、俺の魂が表面に出てきた。まさかの事態に混乱したが、すぐにハジメが目を覚ましそうだった為、急いでメガストーンとキーストーンを作り出した。

 トドメとなったのは、ゼルネアスからフェアリーのプレートを受け取った時。これによって、俺は好きなタイミングで肉体の主導権を握れるようになってしまった。

 

 本来、肉体に収まるべき魂は1つだけ。今までは俺の魂が小さかった為に何も異常は起こらなかったが、今後はどうなるか分からない。下手すれば死すらあり得る。

 俺は、少なくとも成人式を迎えて社会に出始めた記憶までは持っている。俺より若くして死ぬことは許さない。

 

 だから、迷宮の特性を利用させてもらった。あり余った生命力でガブリアス擬きを作り出し、敵として振る舞う。

 ハジメが肉体の主導権を取り戻せるレベルまで、俺の、ゼンセの生命力を削る必要があるのだ。

 

 だから……戦え。ハジメを救うために。

 

 




もう少し分かりやすくしますと……

死にかけのハジメ(赤ちゃん)の魂に、ゼンセは自分の生命力を分け与えた。

その影響でゼンセの記憶が混入。ハジメは自分を転生者だと思いこむように。

プレートを集める内にゼンセの魂も強くなっていき、肉体が容量オーバー寸前に。

ゼンセが自分の命を削ることで容量を減らし、ハジメの肉体の安定化を図る。

という事です。


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vsゼンセ

長らくお待たせしました。この間の休日に中古本屋寄ったら、ポケスペが1巻から60巻までまとめ売りされていて、思わず買いました。
置き場所どうしようと悩みつつ、ゼンセ戦です。現実だとこうだろうなぁと考えながらの戦闘シーンなので、ゲームとは異なってる箇所あります。


 シュネー雪原の深奥。そこに待ち受けるキュレムは、近くに侍る2体のポケモンからの報告を受けていた。

 

『この迷宮に干渉して、新たな試練を作り出した奴が居るか』

 

 フリーザーとレジアイス。いずれも本来ならば、自分自身と向き合えた挑戦者に対して力の試練を与える立場だった。しかし今は、ゼンセが迷宮の特性を応用して自分自身を具現化した為、イレギュラーな事態になっていたのである。

 

『おもしれぇ……。ならば最終試練は、俺だけでなくお前らも混じえた戦いとしようじゃねえか……!』

 

 ニィッと口角を上げるキュレム。その隙間から僅かに冷気が漏れ、「ヒュラララ……!」と音を奏でた。

 

 

 

 

 

「“ドラゴンクロー”」

 

 氷に囲まれた大広間で、ガブリアスの影が香織たちを襲う。影ガブリアスに指示するのは、ハジメに憑依したと語る男、ゼンセ。ポケットに手を突っ込んだまま立っており、余裕の態度を見せている。マッハポケモンの名に恥じぬスピードで迫りくる影ガブリアスを、雫が瞬時にエルレイドを出して指示した。

 

「エルレイド、“リフレクター”!」

 

「エェルッ!」

 

「ガブリアス、攻撃中止。“スケイルショット”に切り替えろ」

 

「ガブァァ!!」

 

「くっ……!」

 

 至近距離で飛ばされた鱗に、エルレイドは防御の姿勢を取るしか無い。そこへ香織のピンプクが飛び出した。

 

「“チャームボイス”!」

 

「プックゥゥゥ!!」

 

「(飛ばした鱗を声で落としやがったか)。だがピンプク程度、一撃で落ちる。“ドラゴンクロー”」

 

「やらせないわ! エルレイド、“きりさく”攻撃!」

 

 影ガブリアスとエルレイドの腕の刃が鍔迫り合い、ギリギリと音を立てる。その隙を突こうとする二人組がいた。

 

「行くよダーリン! アイツが幽霊ならゴースト技は通じる筈!」

 

「ハジメを解放するためだ、仕方ねえ!」

 

 恵里と幸利が畳み掛けてきた。幸利が技能である「影縫い」でゼンセの動きを止め、恵里はミミッキュとカゲボウズを出して、3人で“シャドーボール”を放とうとする。しかしゼンセは即座に振り向いた。

 

「トレーナーへの直接攻撃か。まぁ現実ならやる奴が居てもおかしくねえか。……ガブリアス、“じならし”」

 

「なっ、振り向くの早っ……!」

 

「カゲッ!?」

 

「ミキュッ!?」

 

「カゲボウズ、ミミッキュ!」

 

 ミミッキュは特性『ばけのかわ』が既に剥がれていた。カゲボウズはまだまだ実戦経験が浅い。そのため恵里のポケモンは2匹とも倒れてしまう。しかし、幸利は何とか「影縫い」を緩めること無く、ゼンセの動きを封じる事が出来ていた。

 

「ポケモンの生態を踏まえた戦い方って奴だ。ハジメから教わらなかったのか? ガブリアスの頭の突起はセンサーの役割をしている。しかもコイツは俺の生命力で出来ているから、視界や気配の察知を共有していたって訳さ」

 

「だから後ろからの攻撃も対処できたって訳か、クソッ! だがお前自身は動けねえ! ハジメを返してもらうぜ! ガルーラぁ!」

 

 ガルーラを呼び出すと、彼女は冷気を纏った拳でガブリアスを殴りつける。攻撃を受けた瞬間、ゼンセは腹を抑えた。

 

「ぐっ! “れいとうパンチ”か……。(技マシンで覚える技も素で使えるあたり、やっぱり現実とゲームとは技の仕様も違うか……)」

 

「まだまだ! モクロー、“ふいうち”!」

 

「ポポー!」

 

「何っ!? がっ、はぁ!」

 

 なんと、ガルーラのお腹の袋からモクローが飛び出してきた。子ガルーラが押し出したこともあって勢いが付き、影ガブリアスに“ふいうち”を食らわせる。

 

「モクッ……」

 

「え、どうしたモクロー!」

 

「このガブリアスの特性は『さめはだ』。触れた奴にダメージを与えさせる。特性のことも理解しとくんだな。(エルレイドに撃った“スケイルショット”も、鮫肌の鱗を飛ばしてるからか、普通より威力が上がっている気がする。これはかなり頭を使う戦闘になりそうだ)」

 

 だが、モクローがダメージを受けた事に動揺してしまい、ゼンセを縛る「影縫い」が緩んでしまった。

 

「ハジメの錬成とやらを試させてもらおうか」

 

 ゼンセは頭の中に“ストーンエッジ”をイメージし、地面を錬成する。元々肉体が慣れていたからか、すんなりと岩石の刃が錬成され、幸利と恵里を突き飛ばしてゼンセは距離を取ることが出来た。

 

 

 

 

 

 圧倒。その2文字が具現化しているようだと、光輝は思っていた。ポケモンの生態や特性を利用した戦法。ハジメに干渉して知識を与えたという言葉に、信憑性が出ていた。

 

「どうすれば……!」

 

「リオ……」

 

 傍らには、バトルに備えて呼び出したリオルがいた。ケルディオはキュレムとの戦いに備えたかった為、ボールに一時的に戻って貰っている。

 ゼンセの戦い方を見て光輝が思考を巡らせる中、リオルはふとその目を通じて、彼の「波導」を読み取った。

 

「ォル? リオッ! リオッ!」

 

「リオル? どうしたんだ?」

 

「ルォォ……!」

 

 右手を光輝に当て、波導を練るリオル。

 

「っ!? これは!?」

 

 光輝の視界に見えたのは波だった。ゼンセと思われる黒い立体物を中心に、まるで敵意を思わせるような赤く荒々しい波が放たれている。それだけならば、敵ということで事情は片付く。しかしゼンセの内側にあるもの。それはとても穏やかで緑色をした波が一箇所に留まっていた。

 

「あのゼンセって男……。攻撃は力強く重いけど、内心は誰かを思っているのか? あの優しい色合いをした波こそが、奴の本心なのか……?」

 

 ゼルネアスの試練でリオルになった事、元々勉学や運動において才能を秘めていた光輝。リオルからの波導を受け取ったことで、彼は「1つの才能」が目覚めようとしていた。

 

 

 

 

 

 数で押そうと鈴や龍太郎、浩介も攻撃に加わる中、香織はサイドン達に話し掛けていた。

 

「お願い。ハジメ君を助けるために、力を貸して」

 

「グル?」

 

「私、あのゼンセって男の人が悪い人には思えないの。何か隠してるような気がするの」

 

「クゥン……」

 

「でも相手は本気で来てる。だから私達も全力で行く。その為には貴方たちの力も必要なの。……お願い!」

 

 香織が頭を下げると、最初に鳴いたのはバサギリだった。

 

「バルァ」

 

 早く指示を出せと言わんばかりに一鳴きする。続けてサイドンとイワンコも声を上げた。

 

「グルゥゥ」

 

「ワン!」

 

「皆……ありがとう!」

 

 即席パーティとして、ハジメのポケモンは香織の指示を聞くようになった。香織は頭の中で情報をまとめる。

 

「(ガブリアス。ドラゴンの技を多めに覚えてる辺り、やっぱりドラゴンタイプだよね。けど、さっきガルーラの“れいとうパンチ”を受けた時に結構大きくダメージを受けてたから、ドラゴンともう一つタイプがある。特性の関係で、直接攻撃したポケモンは傷付くとも言ってた。でも、ゼンセがゲームの知識を頼りに戦っているのなら……)」

 

 香織はサイドンを見る。その硬い甲殻を。

 

「……うん! これならきっと!」

 

 香織は鋭い視線を、ゼンセと影ガブリアスに向けた。

 




次回もゼンセ戦を予定しています。


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