【ライダー】負けたら陵辱される変身ヒロインものエロゲーの世界の竿役モブに憑依した挙句、忍者の仮面ライダーになっていた【助けて!】 (ヌオー来訪者)
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【急募】異世界でこの先生きのこるには【たすけて】

 2022年が来たので初投稿です。


 注意:本作品は原作が原作なので特に敵キャラによるR指定なアレをオブラートに包みまくった描写や、下品な言動がそこそこあります。


【急募】異世界でこの先生きのこるには【たすけて】

 

 

 1 名無しの観測者 ID: 20sNB2kmn2

 た す け て

 

 

 2 名無しの観測者 ID:eEoyg2azWM

 草

 モブ厳で死ね(ニッコリ)

 

 

 3 名無しの観測者 ID:B62xTab6xo

 また転生者かぁ、壊れるなぁ

 

 

 4 名無しの観測者 ID:fG8m3tpFCf

 >>2 が無慈悲過ぎてハイパー大草原

 

 

 5 名無しの観測者 ID:20sNB2kmn2

 >>3

 多分転生ちゃうんや

 赤ん坊にはなってないんよ

 

 

 7 名無しの観測者 ID:hvdeeyx5wp

 ほーん。そら珍しいな。憑依かな? 

 で、今どこだよ? 

 

 

 10 名無しの観測者 ID:20sNB2kmn2

 >>7

 地球ん中

 

 

 12 名無しの観測者 ID:e2DMPkYLho

(フォーゼじゃないんだから)そらそうよ

 

 

 13 名無しの観測者 ID:ziA9upwQwz

 真面目に答えろ首の骨折るぞ

 

 

 15 名無しの観測者 ID:20sNB2kmn2

 >>13

 ヒェッ

 ゆるし亭ゆるして

 

 郊外かなぁ……

 おそらく都心じゃない

 フォーゼに出てくる雑魚みたいなのが暴れて人を襲ってた

 この妙な空気感、特撮の世界っぽいぞこいつ

 

 

 18 名無しの観測者 ID:DCJxiW8SdD

 >>15

 特撮ってんならフォーゼかシノビの世界かな?

 ダスタードっぽいって話だからないか

 

 

 19 名無しの観測者 ID:zH4ZPWnv68

 ハリケンジャーとかニンニンジャーもワンチャンありますねクォレハ……

 

 

 26 名無しの観測者 ID:20sNB2kmn2

 なぁ、ヌンジャって鳴く忍者戦闘員っていたっけ? 

 あとそれをぶっ倒す忍者装束の女の子

 不思議コメディーとか変身ヒロインもののアニメで詳しい兄貴おらん? 

 

 

 27 名無しの観測者 ID:X7gSi53b8D

 >>ヌンジャって鳴く忍者戦闘員っていたっけ? 

 何それ知らん……怖

 

 

 29 名無しの観測者 ID:iw5c9p4w2t

 

 >>ヌンジャって鳴く忍者戦闘員っていたっけ? 

 ちょっと待って

 

 

 ま っ て

 

 

 M A T T E !

 

 

 

 30 名無しの観測者 ID:hvdeeyx5wp

 29兄貴が取り乱してる。どうした? 

 

 

 31 名無しの観測者 ID:iw5c9p4w2t

 節子、それ不思議コメディーちゃう

 ……エロゲや!

 

 

 35 名無しの観測者 ID:20sNB2kmn2

 エロゲ? 

 これマジ? 

 

 

 40 名無しの観測者 ID:iw5c9p4w2t

 いいですか?落ち着いて聞いてください

 イッチの今いる世界は超昂閃忍ハルカの世界。変身ヒロインが負けるとえっちなこと、つまり陵辱されるやべー世界だ

 

 

 41 名無しの観測者 ID:20sNB2kmn2

 >>40

 は? (迫真)

 

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 さっきまで仕事帰りに飯を食っていたのに。

 

 いつものように仕事を済ませ「夜は焼き肉っしょォ! アーッハッハッハッ!」と言わんばかりに一人で夜焼肉をかっ喰らい、家に帰ろうとした矢先。

 

 唐突に忍者衣装の怪しげな男に「おい◯◯、何サボっているんだ」などと自分の名前を呼ばれた挙句腕を引っ張られたのだ。

 その連れられた先はネオン光る街の中──

 人々を無差別に襲い掛かる忍者装束の怪人たちがそこにいた。

 

 

 

 

 明らかに男の知らない世界がそこにあった。

 あり得ない、荒唐無稽にも程がある。現実にそんなものがあってたまるか。

 まるで日曜朝に繰り広げられる特撮のような光景に男は言葉を失なった。

 

 ダスタードとも──違う。

 知る限りの忍者のような化け物を想像したものの形状はまるで違う。

 

 まさかこいつと戦うんじゃあるまいな。

 男がビビり散らかしながら言うと、上司らしき男は首を横に振り──。

 

「違うな。戦うのは──!」

 

 夜空目掛けて指差した。

 否、厳密には、ビルの上に立つ電波塔。

 

 一つに括られた長い髪、そしてマフラーをたなびかせた誰か。

 その髪は月光に照らされて、きらきらと金色の光を放っている。緩やかな凹凸のついたシルエットから女性なのは確かだった。

 

 そしてその暗闇からでもわかるその悪を切り捨てんばかりの真っ直ぐな眼光──

 

「悪鬼彷徨う現の闇を払うは月影──我、上弦なり──。想破上弦衆が閃忍、ハルカ! 見参!」

 

 明らかに変身ヒロインであろう出立ちの忍者装束の女の子が大きいクナイ片手に堂々とした出立ちで地上の忍者怪人を見下ろしていた。

 

 

 

 そこからは一方的なワンサイドゲームだ。

 ハルカが地上に着地するや否や、忍者怪人たちが「ヌンジャ!」と鳴きながら大挙して襲い掛かる。

 あるものは標識を引っこ抜き、あるものは背中の忍者刀を引き抜く。

 人知を超えた力をその上をいく動きでひらりとかわしていく。

 そして大きなクナイを一閃させて雷光の如く次々と切り裂き、その長く細い脚を鈍器のように振るい蹴り倒す。

 

 

 その光景に男は自らが置かれた状況を理解した。

 今の自分は──違う世界にいるのだ、と。

 

 

 

 この不運な男の名前はありふれたものである。

 斉藤真太郎。佐藤太郎とさして変わりはしない、そんな男だ。

 

 

 

 ◆◆◆◆◆

 

 

 50 一般エロゲ憑依マン ID:20sNB2kmn2

 なんかあの女の子が負ける感じなかったけど

 まぁアレが雑魚なんだろうけど

 

 あとコテ変えといた

 

 

 52 名無しの観測者 ID:itoAPp3GQK

 >>50

 アレはゲニンと言って雑魚中の雑魚だ

 もちろん普通のホモ・サピエンスには倒せないから厄介だゾ

 

 

 53 一般エロゲ憑依マン ID:20sNB2kmn2

 >>52

 普通のホモ・サピエンスってパワーワードで草

 つまり人間には殺せんのか。なんかグールか魔化魍みたいだぁ……(直喩)

 

 あの金髪ムチムチセクシー忍者なら倒せるってことか。この娘誰か知ってる? 

 

 【くノ一スーツの女の子の画像】

 

 最近のアイヒョーンすごいわ

 暗くてもハッキリ撮れたわ。トリプルカメラ見てボトムズとか馬鹿にしてごめんよ

 

 

 

 60 名無しの観測者 ID:itoAPp3GQK

 >>53

 概ねその認識で合ってる

 そのために閃忍ってのがおるんやな。そいつなら倒せる訳で

 

 これは間違いなくハルカさんですねクォレハ……

 やったぜ。

 ハルカさんは和姦も陵辱もイケるからいいゾ^〜これ

 

 iPhone持っていけたんか草

 

 

 

 62 一般エロゲ憑依マン ID:20sNB2kmn2

 一昨日機種変したばっかりのpromax持ち越せてほんと良かった

 LINEも使えねえし、Twitterのワイのアカウントもログイン出来ねぇしでほとんどのアプリ死んどるけど。スレに入るくらいしかやることがない

 ワイの生き甲斐が……

 

 

 65 名無しの観測者 ID:qLezj5w4xG

 前世に対する未練タラタラで草

 

 

 66 名無しの観測者 ID:jfpCCxW8ZZ

 ツイカス死亡案件で草

 

 

 68 名無しの観測者 ID:ziA9upwQwz

 これは転生先でエンジョイしなさそうですね……

 

 

 70 一般エロゲ憑依マン ID:20sNB2kmn2

 普通に帰りたいです……仕事上がりにまた仕事って……やったこともない瓦礫処理や怪我人運んだり。上弦衆っていう集団で仕事する役割を与えられてるらしい

 

 ワイ営業なんですけど……(憤慨)

 

 

 おいコラ新入り! もっと力入れて働かんかい! とか怖い顔の上司に言われるしでもう悲惨

 

 

 

 74 名無しの観測者 ID:itoAPp3GQK

 >>70

 竿役やんけ

 そんな現場で仕事サボってスレ打ち込んでて893みてーな上司に怒られん? 大丈夫? 

 

 

 

 77 名無しの観測者 ID:MXYJbjTImG

 竿役って……うわぁ……

 

 

 78 一般エロゲ憑依マン ID:20sNB2kmn2

 竿役って何だよぉ!?

 あの女の子を襲うの!? うせやろ!?

 

 

 やっと休憩時間入ったからこうして見つけた掲示板に書き込んでるんや

 それはそうとこの銀の瓢箪なんだか分かる? 懐に入ってた

 

 【機械仕掛けの銀の瓢箪の画像】

 

 

 

 80 名無しの観測者 ID:GVifJcqsGT

 >>78

 シノビヒョウタン……

 貴様シノビじゃな? 

 

 

 81 名無しの観測者 ID:qLezj5w4xG

 >>78

 仮面ライダーシノビやんけ! よりにもよってミライダーかよ! 

 

 

 82 名無しの観測者 ID:hvdeeyx5wp

 よりにもよってライダーですか……

 竿役でライダーとか正義の味方の風上にも置けませんね……死んで、どうぞ(辛辣)

 

 

 83 名無しの観測者 ID:aBQy9Unf57

 この男、竿役で仮面ライダー!(変態糞ベルト)

 

 

 

 85 一般エロゲ憑依マン ID:20sNB2kmn2

 >>82

 そんなひどいことしないから……ゆるして……

 

 シノビってそろそろ始まる今年のライダーやん! 

 主演発表時話題になってたわ

 

 

 

 86 名無しの観測者 ID:qLezj5w4xG

 なんか(頭が平成に)犯されてるよぉ……

 

 

 

 87 名無しの観測者 ID:jfpCCxW8ZZ

 リバイスの次がシノビな訳ないだろ! ギーツだぞてめぇ!

 今は令和だぞ! 平成は死んだ! もういない! 

 

 

 

 88 一般エロゲ憑依マン ID:20sNB2kmn2

 >>87

 え? シノビの前って◼️◼️◼️◼️◼️じゃね? 

 リバイスって初めて聞いたゾ(無知)

 令和ってそんな昭和の二番煎じみたいな元号ある? 

 

 

 

 90 名無しの観測者 ID:NFSvKgtJtm

 駄目だこいつ……頭がP.A.R.T.Yしてやがる……

 

 

 

 91 名無しの観測者 ID:5QoRgyiFnK

 お前たちの平成って以下略

 

 

 92 名無しの観測者 ID:b2tNZWTodN

 さてはアンチだなオメー

 

 

 93 一般エロゲ憑依マン ID:20sNB2kmn2

 いや、だから令和とか知らんて。別になんかのアンチでもないて

 

 

 

 95 名無しの観測者 ID:qLezj5w4xG

 ゼロワン、セイバー、リバイスも名前すら知らんてニチアサ追ってなくてもそれは……

 【ゼロワンの画像】【セイバーの画像】【リバイスの画像】

 

 

 

 98 一般エロゲ憑依マン ID:20sNB2kmn2

 >>95

 コラ画像じゃなさそうやな。……中々かっこええやん。特にゼロワン。バッタ! シンプル! 原点回帰!って感じで。名前的にキカイダーモチーフかな? 

 ベルトのスタイリッシュ感すごくすき

 

 セイバーもリバイス中々ええな。セイバーはブレイド2世って感じだし頭が剣になってんのな。ベルトと剣が一体になってんの意外となかったよね

 リバイスなんかこう、ガワが凶悪そうな感じがセクシー……エロいっ!この隣にいる被り物してるのが2号ライダーかな?

 一応ワイもニチアサ追ってんのに知らんライダーここまでおったんか

 

 サンガツ。いいこと知った

 休憩時間終わりそうだから一旦落ちるわ

 ほな……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 121 名無しの観測者 ID:qLezj5w4xG

 落ちたな(確信)

 にしてもイッチのアレ、釣りじゃなくてマジなのか……

 

 

 

 122 名無しの観測者 ID:SP77gLKPPf

 イッチが令和始まってない並行世界から来てる説ない? 

 

 

 

 126 名無しの観測者 ID:6o3BYNUuaA

 >>122

 ありそう

 今年の元号は? 

 って言ったら平成34年とか絶対言うぞあいつ

 

 

 

 130 名無しの観測者 ID:TvvWX6A3Fn

 ジオジオしてきたな(確信)

 

 

 

 132 名無しの観測者 ID:aUjjhkZXns

 竿役になった挙句ライダーの力とかどーすんだよこれ……

 




・斉藤真太郎
 スレ上ではイッチであり、エロゲ世界に転移させられた不運な男。平成34年からやってきたツイカス
 もともとはうだつが上がらないサラリーマンだったらしいがいつの間にか並行同位体である竿役……ならぬ上弦モブというか自分自身に憑依させられた。
 ジオウ視聴者ならこの現象にちょっと見覚えがあるかも。死んだ記憶もないため、そのせいで()()()()()()()()()()

 モチーフは佐藤太郎の佐藤並みにありふれた苗字+神蔵「蓮」太郎に対する「真」 





:仮面ライダーシノビ(2019)
 仮面ライダージオウに登場した未来の仮面ライダー(当時基準)
 元々一発キャラに近い状態だったが、クイズ、キカイとともに強烈な存在感を放ち視聴者たちに存在しない記憶を植え付けた。
 キャッチコピーは「超忍POW!忍者ライダー大戦2022」
 唯一単独作品でスピンオフが用意されており3年後の世界から先行入手したというていで全3話がTTFCで配信された。
 サブライダーや専用サントラ、主題歌まで起こす徹底ぶりである。



:超昂閃忍ハルカ(2008)
 2008年に発売されたアダルトゲーム。アニメ化並びに漫画化もされている。
 変身ヒロインものであり、Hなことをしてヒロインを強化して町で人々に害をなす軍勢「ノロイ」を倒していく。負けると怪人にあんなことやこんなことをされる。
 キャッチコピーは「勝ってもH。負けてもH。」
 シーンやCGの差分が凄まじく値段不相応なボリュームを誇っており、実際担当していた原画マンが死にかけたとかなんとか。



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ロストニンジャ2008

 UA見ておっぱ……おっぱげた……


 300 名無しの観測者 ID:tncgYIpQa5

 イッチあれから戻って来とらんな。

 

 

 302 名無しの観測者 ID:HhBfL2JfLe

 まあしゃあない。

 気づいたら超昂閃忍ハルカの世界に転生させられたあげく竿役モブです、あと仮面ライダーですなんて言われたら誰だって気が狂う

 ワオは発狂の果てに死んだゾ

 

 

 303 名無しの観測者 ID:PPnNGE3dnz

 >>302

 成仏してクレメンス……

 

 

 306 名無しの観測者 ID:X7gSi53b8D

 あ、そうだ(唐突)

 上弦衆ってなんぞ?(無知)

 

 教えてエロい人! 

 

 

 310 名無しの観測者 ID:iw5c9p4w2t

 上弦衆ってのはいわゆる性技……じゃなかった、正義の忍者軍団や。

 歴史の裏で永らくどの一定の勢力にもつかず、悪と判断した相手からの依頼はいくら金積まれても受けない主義で、世界の均衡を守り続けた集団。

 その辺の忍者と比べたら結構強い。現代において警察や政府とつながりがあるんだってさ。

 

 そいつらが閃忍っていうやつを保有しとるんや。

 イッチが画像で見せてくれたのは鷹守ハルカって閃忍でメインヒロインや。

 

 

 316 名無しの観測者 ID:GVifJcqsGT

 はえ^~すっごい。

 ZECTとソードオブロゴス足したような組織なんすね。

 

 

 318 名無しの観測者 ID:qLezj5w4xG

 >>316

 その例えすごく内ゲバ起こしそうなんですがそれは……

 

 

 320 名無しの観測者 ID:aBQy9Unf57

 ハルカ「お前のようなヒヨッ子を閃忍と認めるわけにはいかん!-(^q^)-ハァン!」

 

 

 322 名無しの観測者 ID:CiuZ2Y1rtD

 超 昂 閃 忍 道 こ こ に 極 ま る ! 

 

 

 323 名無しの観測者 ID:0+wJMavrrL

 そ し て 現 る 仮 面 ラ イ ダ ー フ ィ フ テ ィ ー ン と は ! ? 

 

 

 

 325 名無しの観測者 ID:itoAPp3GQK

 嫌な超昂大戦やめろ

 

 エロゲ博識ニキ、続けて、どうぞ。

 

 

 

 328 名無しの観測者 ID:iw5c9p4w2t

 >>325

 ん、おかのした。

 

 その敵がノロイ党と呼ばれる集団や。あのヌンジャって鳴くダスタードもどきはノロイの戦闘員ってやつ。

 ノロイ党は人々の嘆きや恐怖、悲しみを糧とし、人間社会を破壊し恐怖で支配することによって争いのない世界を作るため過去の時代からやってきたんだと。

 絶望こそが真の平和だと訴えて、な。

 

 

 330 名無しの観測者 ID:B6bGXr8xwj

 ファントムが喜びそうな集団だぁ……(直喩)

 

 

 334 名無しの観測者 ID:iw5c9p4w2t

 そいつらに対抗できるのが閃忍って呼ばれる存在、つまり鷹守ハルカさん。

 イッチが言っていたセクシー忍者のことやな。

 閃忍は龍の者と呼ばれる存在……つまりエロゲの主人公とエッチすることで人外レベルの力を得て変身能力を得て、やっとこさ連中と戦えるってわけ。

 

 

 335 名無しの観測者 ID:D5GqvQTCF0

 >>334

 イッチが龍の者って可能性は? 

 

 

 337 名無しの観測者 ID:iw5c9p4w2t

 >>335 

 ないです(無慈悲)。

 あったら上弦衆でも重宝されてたと思う。

(現状現場監督にどやされる琢磨くん状態の新人クソザコ竿役君にはワンチャン)ないです。

 

 

 

 340 一般エロゲ竿役マン ID:20sNB2kmn2

 そ う だ よ (絶望)

 

 

 341 名無しの観測者 ID:t4dTlrmLni

 >>340

 あ、帰ってきた。

 

 

 342 名無しの観測者 ID:8FjXfRLCVo

 >>340

 おかえりイッチ! 

 

 

 343 名無しの観測者 ID:6oemYvDB1Q

 王 の 帰 還

 

 

 345 名無しの観測者 ID:3pxYCK0APP

 お ま た せ

 

 

 346 名無しの観測者 ID:5XXQ4OdBob

 コテが地味に酷くなってて若干ゃ草

 

 

 348 名無しの観測者 ID:N+mIbUfyI0

 祝え! 転生イッチの帰還を! 

 

 

 

 

 

 

 

 441 一般エロゲ竿役マン ID:20sNB2kmn2

 現状報告

 ・上弦衆のモブ忍者となって、後始末やらなにやらをやっている。あとノロイの監視とか、要人警護。つまりハルカさんと原作エロゲ主人公の護衛を陰からしてる。ノロイ相手だとどうしようもないけどノロイに操られた一般人程度ならシバけるので。

 ・名前自体は前世と一緒。保険証とか免許証もちゃんと俺の名前だった。充電器もなぜかあるからiPhoneの充電は万全。

 ・体もそこそこ強くなってる。憑依先がそこそこ鍛えてたみたい。この世界の俺真面目だなぁ

 ・瓢箪はあれからお試しで変身してみたりしたけど実践投入はしてない。というかハルカさんお強い……お強ぉい……

 ・少なくとも俺にワンチャンない。立場的に無理だしなんなら原作エロゲ主人公のタカマルくんとくんずほぐれつしてる。普通に喘ぎ声聞こえてくるから正直メンタルつらい。

 ・あとこの世界、2008年になってた。キバやってる年だなこれェ! 久々にさら電と劇キバ見てえ……あの映画クッソ好きなんだよなぁ。劇キバのDC版歴代映画で一番すき(隙自)

 ・久々にやるモンハン2ndGは面白れぇなぁ! 

 

 

 444 名無しの観測者 ID:kgc6RJxIV1

 >>441

 報告乙。地味に2008年を楽しんでて草。

 

 まぁそう上手くいかんわな。もう敗北Hに便乗するしかないんじゃないの? 

 

 

 445 名無しの観測者 ID:tEUmeMGwJ1

 2008年って言うとそんな年か。iPhoneも3Gの時代だしまだ日本でも取り扱いを始めたばっかでまだガラケーも現役……

 イッチのスマホ明らかにオーパーツじゃねえか! 

 

 

 447 名無しの観測者 ID:PPnNGE3dnz

 オーズの時期もアンクのiPhone見てるとほんと時代を感じるよね。

 

 

 448 名無しの観測者 ID:N+mIbUfyI0

 >>441

(^U^)<どうした? 変身しないのか? 

 

 

 555 一般エロゲ竿役マン ID:20sNB2kmn2

 >>448

 必要ないんだよなぁ……ヌンジャヌンジャ煩いやつはそこまで強くないし。

 今やってるのは避難誘導とか、ハルカさんが戦闘しやすい環境整えるとかそういうの。

 ぶっちゃけシンケンジャーの黒子だよな、これ。主人公が別の誰かがやってんだし、変にヒーローになるこたないんだ。ディケイドじゃないんだから(´・ω・`)

 

 なんか言われたら独自で手に入れたiPodタッチの新型だって言い張ろうと思う。

 

 

 557 名無しの観測者 ID:e2DMPkYLho

 >>555

 555おめ。

 まぁイッチが元気ならそれでええ。無理はせんほうがええんや。

 

 iPodはギリあったのな……w 

 いや当時のベゼルでかいから無理があるだろ! 13ProMaxと大きさ違いすぎるやろがい! 

 

 

 560 一般エロゲ竿役マン ID:20sNB2kmn2

 >>557

 まぁ皆あんま気にしてないっぽいから大丈夫やろへ(゚∇゚)へ

 

 

 話戻すけど、別件で懸念事項がちょっとあって。

 

 

 564 名無しの観測者 ID:e2DMPkYLho

 >>560

 ドシタン? ハナシキコカ? (精スプ)

 

 

 565 名無しの観測者 ID:fIH7LYdOP7

 聞こう。

 

 

 567 名無しの観測者 ID:rFdw2RhHZj

 なになにー? 

 

 

 570 一般エロゲ竿役マン ID:20sNB2kmn2

 今いる町──閂町っていうらしいけどそこに現れたやつがいつものヌンジャ野郎と違うらしいんだよ。

 怪忍って言って。ネームド怪人みたいなのが暴れてるんだと。

 そいつの放つ力はヌンジャ野郎と比べ物にならんらしいのよ。

 ちょっと怖い((((;´゚Д゚)))

 

 

 571 名無しの観測者 ID:iw5c9p4w2t

 出たな怪忍。

 

 

 574 名無しの観測者 ID:zyp8Ws5gKY

 出たなエロゲ博識ニキ

 

 

 576 名無しの観測者 ID:fG8m3tpFCf

 エロゲ博識ニキ、怪人みたいな扱いされてて草

 

 

 577 名無しの観測者 ID:iw5c9p4w2t

 そいつはその辺のゲニン程度とは比べ物にはならんぐらい強い。その上やることもえげつない。

 負けたらハルカさんが酷い目に遭う。あと能力値も何故かあがる。

 勝てればそれでいいんだが……

 

 

 578 名無しの観測者 ID:ziA9upwQwz

 なんだっていい! 便乗して敗北したハルカさんとヤるチャンスだ! 

 イッチの写真見るにふとももムチムチだしおっぱい大きいしでえちえちの塊魂だから陵辱されてるの見てみたいゾ。

 

 

 580 名無しの観測者 ID:aniawJdTGt1

 勝って何もなしだったらエロゲ世界に転生した意味がないからね、しょうがないね。

 

 取り敢えず……

 抱けえっ! 抱けっ! 抱けーっ! (一般通過ノスタル爺)

 

 

 

 583 一般エロゲ竿役マン ID:20sNB2kmn2

 業岡一全、ヤツはそう名乗った。

 なんか大岡越前まがいの化け物だが。どうもポイ捨てしたり、危険運転したり、立ち読みしたりしてる奴を引っ捕えて断罪してる。((゚Д゚;))ガタガタ

 

 

 586 名無しの観測者 ID:jfpCCxW8ZZ

 >>583

 なんだ! ノロイっていい奴じゃんか! 

 放っておけば世の中良くなる可能性が微粒子レベルで存在する……? 

 

 

 

 588 一般エロゲ竿役マン ID:20sNB2kmn2

 >>586

(釘バットで100回以上ミンチになっても執拗に殴打したり、女は犯されて尊厳破壊されてるなんて言われたら口が裂けても擁護でき)ないです。

 しかも加えて身に覚えがないのにやられた奴や、ぶつかっただけでやられたやつもいるんや……

 一日数名死人が出ている。それもぐちゃぐちゃの凄惨な死体でや。

 

 海外の要人も雑な罪状でぶっ殺しやがったし国際問題やで。

 

 

 

 

 590 名無しの観測者 ID:qLezj5w4xG

 >>588

 えっ、何それは(ドン引き)

 

 

 

 

 

 ◆◆◆◆◆◆

 

「どうもーありがとうございやしたー」

 

 店員のやる気のない声を背にスーツ姿の男は満足げに外の空気を吸い込んだ。

 街中、夜の冷たい空気が男の鼻腔を擽り満足感を煽る。

 

「ふう……食った食った。やっぱり仕事上がりに食う焼肉は最高だな」

 

 疲れた体に火を入れるようにこんがり焼けた焼肉をかっ喰らい、キンキンに冷え切ったビールを喉に流し込み体を冷やす。

 

 この瞬間こそ生への実感があると言うものだ、と男は思う。

 クソみたいな上司に頭を下げ続けているのだ。これくらい報われてもいいだろう。

 

 しかし──焼肉を食った後唯一不満が一つ。

 

 口の中が油っぽくなるのだ。

 水やビールで押し流しても流し切れないそれは、どうにかして誤魔化すしかない。

 

 そんな時に最適なのが──煙草だ。

 

 

 男は建物の壁にもたれかけ、おもむろにポケットから取り出した紙箱から煙草を引き抜き咥える。

 

「ライターライター……っと」

 

 咥えた煙草にライターで入れ、吸い込むと爽快感ある味が口の中に広がった。

 そしてそれを吐き出す──

 

「ふぅ……」

 

 これで焼肉とビールは完成したに等しい。

 これがなければ始まらないと言うものだ。これ以上ない幸福感に身を浸していたその時──

 

「ヌンジャ! ヌンジャヌンジャーッ!」

 

 忍者装束の怪人たち──ゲニンがどこからもなく、わらわらと男の周りに集り始めた。

 ドタドタとやってくるそれは、男が慌てて離れようとした所をその数の暴力で遮ってみせた。

 

「わっ、わわわわっ!? なんだぁこいつら!?」

 

 男からすればこの社会において明らかに浮いてる忍者まがいのナニカに取り囲まれるということ自体が恐怖と言える。

 無論、ゲニンを知る人間からしても絶望同然の話なのだが。何せ大の大人が昏倒するレベルの格闘術を受けても無事でいられるのだからまぁ男を待つものは──絶望である。

 

「なんなんだよお前らぁ!?」

 

 男は思考する。

 こいつはニュースで最近姿を見せるテロ行為を行う忍者なのか。

 警察の拳銃が効いていなかったとかいう。あの。

 

「そいつらは俺様の手下のゲニンどもだ」

 

 男の背後から低い声。慌てて背後を振り向くと3m越え、横幅はその辺の男の倍以上ある筋骨隆々の大男がそこにいた。

 

 

「ばっ──化け物ォ!?」

 

 これがもし仮に人間だとしても3mあるのは普通ではない。

 その上頭はまるでヤシの木のように先端が散らばったちょんまげ。

 ピンクの着物と鎧を着崩し、左腰には巨大な太刀を持っていた。

 

 その大男の突然の登場に男は大きく飛び退き、悲鳴をあげる。

 それもそうだ。明らかにおかしな体格をしたそれがどう見ても銃刀法違反な得物を携えて忍者の怪人を引き連れているなんてまともな人間なら自らの正気を疑う。

 

 男の悲鳴に何か癪に触ったのか、大男はその大木のような腕で男を殴り飛ばした。

 

「あぐっ!?」

 

 その威力は男の脳を揺らし、丸めたちり紙のようにその体は数メートル先まで吹っ飛ばした。

 

「この痴れ者がぁ! 俺様は怪物などではなぁい! ノロイ党が戦士が一人、鬼門裁士・業岡一全とは俺様のことよっ!」

 

 

 業岡一全。

 男は知らないが、この男はこの閂町に棲まう人々に様々な自分勝手な罪状を与え裁いてきた怪忍である。

 

「ノロイ党? ……へ、へへっ、脅かしやがって。悪戯のつもりかよ」

 

 あまりにも滅茶苦茶な展開に男は半笑いで尻餅をついたまま見上げる。

 きっとこれは悪質なドッキリか夢だ。そうに違いない。

 

「あぎゃっ!?」

 

 再び、男は業岡一全の拳で勢いよく吹っ飛んだ。

 

「人が素直に言っているというのに疑うとは……猜疑心の塊のような奴だ。ようし、これも罪状に加えておいておこうか」

 

 二度もボクサー級の一撃を貰った男の意識は朦朧としていた。

 罪状とはなんなんだ。

 業岡一全はゲニンから紙と筆を受け取り、その罪状らしきものを書き込んでいる。

 

「ざ、ざいじょう?」

 

「そう、その通り。俺様の喜びとは罪を犯した者に然るべき罰を与えること! 先の路上喫煙の罪! そして俺様を疑った罪! ──むっ!?」

 

 唄でも詠うように高らかに男の罪を語りながら、ふと足元に落ちているものに目を落とした。

 それは──男が先程まで咥えていた煙草だった。先端から火は消えておらず赤い光を煌々と放っていた。

 

「貴様……ポイ捨てしたな!?」

 

「そんな! アレはアンタが殴ったせいだろ!」

 

 路上喫煙ならまだしもやった覚えがない罪を着せられるのは心外だ、と男は吠える。

 殴られて煙草を落とさないはずがあるか。逆に持っていられる奴がいたら逆に知りたいくらいだ、と。

 しかし、そんな男の抗議なぞどこ吹く風。それどころか業岡一全の逆鱗に触れた。

 

「口答えをしたな! 合わせて貴様は40ゴーオカの罪を犯したッ!」

 

「滅茶苦茶だ! というかゴーオカってなんだよッ!」

 

 意味不明な固有名詞ときた。

 悪質な冗談みたいな状況に業岡一全は恰も当然のように口を開いた。

 

「俺様オリジナルの罪の単位だ。40ゴーオカとくれば……ゲニンよ、どんな罰だった?」

 

 ゲニンはその質問に対して「ヌンジャ、ヌンジャ!」と言葉とは言い難い鳴き声で返す。

 最早突っ込む気力すら消えたか男は黙っていた。

 

「なるほどなるほど。公衆の面前で釘バットで全身1000叩きか」

 

「は?」

 

 釘バットで1000回。

 死ぬ通り越してミンチより酷いことになるのは想像しなくたって分かる。男の表情が死人のように蒼白と成り果てる。

 あの自らを吹っ飛ばした威力で釘バットで殴られるとなると即死は免れない。

 

「冗談じゃあないッ! そんなこと……されてたまるかッ!」

 

 慌てて這い這いで業岡一全という名の化け物から離れようとするものの、その程度で逃げられるはずがない。あっという間に距離を詰められ掴み上げられる。

 

「なんだとぅ……貴様ァ、悪事を行った自覚が無いと言うのか、邪悪な奴めっ!」

 

 掴み上げられた挙句至近距離で詰られ唾が飛んでくる。あまりにもあんまりな状況に耐えかねた男は気炎を上げた。

 

「自覚はあるこたぁあるけど、そんな罰やったら死んじまうだろ! やり過ぎだろうがっ! しかもおかしな罪まで付け加えやがって! 人の道から外れてるだろ!」

 

 あぁ、俺死んだわ。

 どうして仕事の時は喋れねえ癖してこんな時はベラベラ喋ることができるのやら。

 言うだけ言ってサッと引くように冷静になった男は自らの死期を悟った。ここまで言えばきっと奴は逆上して自らを消し飛ばすに違いない。

 しかし──

 

「フフフ……残念ながら俺様は怪物でもなければ人でもない。罪を憎んで人も憎む! それが業岡裁きなのだッ! フハハハハハッ!」

 

 

 

 現実は違った。

 満足げに哄笑するその様からは狂気が感じられる。ただ逆上されるよりも絶望感が凄まじかった。

 こいつにヒトの道理というものが通用するように見えて通じないのだから。

 

「キャー! 業岡サマカッコイイ! ……と、背中の入れ墨のミルちゃんも言っておる」

 

 笑えない冗談だった。

 急に女口調で喋るや否や背中の入れ墨の存在しない意思を代弁するなど。

 男は最早返す言葉も無く黙り込む──

 

 

 あぁ。短い、人生だった。

 そう己の生き様を悔やむ他無かった。

 

 

 

 ◆◆◆◆

 

 

 620 一般エロゲ竿役マン ID:20sNB2kmn2

 ……とかいう奴だった。

 

 

 623 名無しの観測者 ID:tvmoTtoPb8

 >>620

 いきなりキャラ濃過ぎるッピ! 

 井上脚本かよォ!? 

 

 

 625 名無しの観測者 ID:s8ckrbuReD

 で、路上喫煙マンどうなった? 

 

 

 630 一般エロゲ竿役マン ID:20sNB2kmn2

 生きてる。ハルカさんが横槍入れたから。ゲニンに拉致られる寸前でクナイで吹っ飛ばした。

 

 路上喫煙マンはワイの足元でショックのあまり気絶して転がってる。

 

 

 

 632 名無しの観測者 ID:NFSvKgtJtm

 >>630

 そら気絶するわ。むしろよく保ったなオイ

 ライジングアルティメットに殴られた士並みの耐久じゃな? 

 

 

 

 634 名無しの観測者 ID:m4agqLNk0i

 >>630

 自業自得とはいえ、さっきまで命だったもの案件にならなくて良かったね……

 

 

 640 一般エロゲ竿役マン ID:20sNB2kmn2

 なんであれ目の前で死なれるの後味悪いからやめて欲しい。

 

 あ、始まるゾ。

 

 

 

 643 名無しの観測者 ID:g5voIgfGSZ

 何が始まるんです? 

 

 

 

 645 一般エロゲ竿役マン ID:20sNB2kmn2

 >>643

 大惨事大戦だ。

 

 

 

 ◆◆◆◆◆

 

 上弦衆がノロイ相手に出来ることは、閃忍のバックアップだ。

 真太郎はいつものように下手に人質にされないように逃げ遅れた人間を探しつつ、ゲニンや業岡一全の目を掻い潜る。

 

 まるでメタルギアのスネークにでもなった気分だ。

 

 

 巻き添え食らって逆に足を引っ張らないように遠目でハルカの活躍を見守る。

 真太郎にはその選択肢しかなかった。

 

 こんな状況下でスレ民の励ましは元気を貰えると言うものだ。スレ民たちのレスを一瞥し、ふふっと笑うとスマホを仕舞う。

 

 

「悪鬼彷徨う現の闇を払うは月影──我、上弦なり──。想破上弦衆が閃忍、ハルカ! 見参!」

 

 ハルカのこの名乗りには意味がある。

 ノロイと呼ばれる集団は悪意、恐怖、憤怒、憎悪、絶望、闘争、殺意、破滅、絶滅、滅亡。それらから生まれる負のエネルギーを糧とする。

 

 故に、それらを跳ね除けるヒーローがそこにいるのだと自ら名乗り出ることでそのエネルギーを少しでも中和するという狙いがあるのだ。

 存外意味のなさそうな行為にはちゃんと理由付けがされているのだ。

 

 裁きの妨害が入るとは思わなかったのか、業岡一全の表情は驚愕に染まる。

 

「上弦衆だとっ!?」

 

「業岡一全っ! 勝手な道理を押し付け罪人を仕立て上げる悪の行い、許す裁きもはやあり得る筈も無し。我が背に背負いし月影に代わり、忍びの技にて砕きますッ!」

 

 この手のは慣れているのか、毅然と言い放つハルカ。

 見ていて正直カッコイイと思っている真太郎がいた。やはり本物(?)は違う──などと感動している傍ら。

 

「くノ一風情がミルちゃん承認の業岡裁きに文句をつけるかッ!」

 

 だからミルちゃんってなんだよ。

 一連のやり取りを陰で見ていた真太郎はその屈強な体格とは似つかわしくないワードに耐え切れず突っ込んだ。背中の入れ墨らしいが背後が見えないためどんなヤツなのかは分からない。もし萌えキャラだったらきっと笑いすぎて仕事どころではないだろう。

 なので詮索はやめた。

 

 なお、眼前で対峙していたハルカ自身は何も思っていなかった。

 ただ眼前の悪を止める。ただそれだけの意志が彼女を動かしている。彼女にはこれまで多くの犠牲を払ってきた。仲間、家族同然の組織、守るべき対象も──

 もうこれ以上犠牲は払わせない。それが失ってきたものにしてやれることなのだ──と。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ハルカと業岡一全。両者共々動く気配はない。

 たかだか10秒程度の沈黙。されど、彼らの間では既に刃を交えている状態だった。そして──

 先に動いたのはハルカだった。

 

「馬鹿めッ先に動いたかッ!」

 

 業岡一全は直進するハルカへ不敵に笑い、手に持った『罪状』と書かれた用紙を投げつける。するとまるで自らが意志でも持っているかのようにハルカ目掛けて飛んで行った。

 するとハルカの姿が瞬時に消える。否──素早く業岡一全の背後に回ったのだ。

 

「──ッ!」

 

 スピードなら圧倒的にハルカのほうが上だ。

 先の動きで見切った真太郎とハルカは確信していた。例えあちらにパワーがあろうとも当たらなければどうということはない。──が。

 

「……ハッ!?」

 

 回避したはずの『罪状』と記された用紙が回り込んだハルカの前に立ちふさがっていた。

 

「なっ──」

 

 当然ここでやられては閃忍の名折れというもの。携えた大きなクナイで一閃。両断せしめたが、その行動で業岡一全にハルカの動きは読まれてしまっていた。

 

「馬鹿め。我が閻魔帳は、罪あるものを自動で追い、刈り取るものだ!」

 

「しかし先の閻魔帳は切り伏せました! これでぇっ!」

 

 そう、先ほどハルカがあっさり破壊してしまった。ゆえにもうそのどや顔で投げつけたものにはもう意味はない。これでハルカの勝ちは決まったも同然、と真太郎は見立てていた。ハルカもそのはずだった。しかし──

 

「いい動きだ、だが無意味だッ! 我が閻魔帳は108枚あるわぁ!」

 

 加えて──その腰に携えた、刃物というにはあまりにも強大かつ粗雑で鈍器同然と言っても過言ではないような太刀を一閃させるや否や、ハルカを瞬時に吹き飛ばした。

 その余波は陰で戦闘を見守っていた真太郎の体すらも吹き飛ばす。

 

「うぁっ!?」

 

 残酷な現実が──真太郎を待っていたのだ。

 

 ◆◆◆◆◆

 

 

 671 一般エロゲ竿役マン ID:20sNB2kmn2

 やばい、こいつ強い。

 

【業岡一全がハルカを圧倒している画像】

 

 

 674 名無しの観測者 ID:zH4ZPWnv68

 アカン(アカン)

 

 

 683 名無しの観測者 ID:iw5c9p4w2t

 ……こいつどっちかというと、チュートリアルみたいなモンやのに。

 

 

 685 名無しの観測者 ID:xXEYu0hnqi

 >>683

 どういうことなん? 

 

 

 689 名無しの観測者 ID:iw5c9p4w2t

 元々そこまで描写がないからヤツの強さ自体図りかねるところがあるけど、こいつ一番最初の中ボスみたいなモン。

 だからスペックは最弱なはずなんだが。

 

 

 690 名無しの観測者 ID:0000000000

 この世界は滅びたがっている。だから彼女はあいつに勝てないよ

 

 

 692 名無しの観測者 ID:liCC7sSnbG

 

 >>690

 なんやこいつ

 

 

 695 名無しの観測者 ID:F3dy7bzQ3l

 >>692

 しっ! 触っちゃいけません。

 

 

 696 名無しの観測者 ID:fG8m3tpFCf

 こいつ、IDどうなってんだ? 厨二発言はさておいてこんなID全て0なんてあるかよ。

 

 

 697 名無しの観測者 ID:B62xTab6xo

 偶然にしちゃおかしいな。

 マジで何こいつ。

 

 

 700 名無しの観測者 ID:lzPDkS0ykF

 世界が滅びたがっているってどういうこと? 

 

 

 705 名無しの観測者 ID:0000000000

 >>700

 その言葉の通りだ。ノロイの力に強く傾いている。

 このままいけば彼女は敗北し、守るべき対象に凌辱されるだろうね。

 

 この世界は滅びたがっている。救おうなんて下心は出さないことだ。

 

 

 707 名無しの観測者 ID:ziA9upwQwz

 くっさ。

 荒らしかよ。期待して損した

 

 

 708 名無しの観測者 ID:B62xTab6xo

 滅びたがっているとかそんなこと誰が決めたんや? 

 

 

 710 名無しの観測者 ID:zH4ZPWnv68

 >>705

 ディケイドかセイバー案件かな? 

 

 

 717 名無しの観測者 ID:iw5c9p4w2t

 待っているのは敵支配か、鬼畜エンドかのどちらかってことか。

 

 

 719 名無しの観測者 ID:itoAPp3GQK

 序盤の時点で超昂閃忍ハルカの主人公のタカマルくんが歪んでるとか……? そんなアホな。

 

 

 723 名無しの観測者 ID:X7gSi53b8D

 エロゲ博識ニキ、解説オナシャス! 

 

 

 730 名無しの観測者 ID:iw5c9p4w2t

 このゲームにおいて、結末はいくつか用意されている。まぁ特撮好きなら龍騎とかジオウをイメージしてみてくれ。

 

 純愛ルート:これは言わずもがなハッピーエンド。主人公のタカマルくんがヒロインと幸せなキスをして終了。

 

 ノーマルルート:俺たちの戦いはこれからだ! 

 

 鬼畜ルート:閃忍の度重なる敗北と凌辱でタカマルくんの性癖が歪んで闇落ち。ノロイの瘴気で民度も最悪でタカマルくんがノロイ側について人類見限ったりする場合も。たまにヒロインも便乗したりする。

 救いはない。

 

 敵支配ルート:苗床にされたりして閃忍オワタ状態。人類も終わる。救いはない。

 

 

 今回可能性として挙がっているのがこの2択になっている。

 敗北して怪忍にレイプされまくっても能力値は上がるし、CG回収するという点と最終的に勝つだけでなら効率は悪くはない。敗北せず真っ当にハルカさん育てて勝つだけならターン数とか運要素も絡んでくるからね、原作ゲームは。

 ただ、敗北を重ねるとハルカさんというかヒロインもどんどんおかしくなっていくし治安も低下するけど。

 

 

 

 

 733 一般エロゲ竿役マン ID:20sNB2kmn2

 >>730

 そっか……なかなか碌でもない状況なんだな、これ。

 

 戦いの余波にやられて数分くらい気絶してたわ。頭がぐわんぐわんする……

 

 

 735 名無しの観測者 ID:hvdeeyx5wp

 イッチ大丈夫か

 

 

 738 名無しの観測者 ID:fG8m3tpFCf

 イッチやられてて草。いやマジで大丈夫か。

 

 

 740 一般エロゲ竿役マン ID:20sNB2kmn2

 大丈夫じゃない、大問題だ。ハルカさんが負けた。

 

 

 743 名無しの観測者 ID:H4SCcu11o+

 あっ……(察し)

 

 

 745 名無しの観測者 ID:jfpCCxW8ZZ

 まずいですよ! 

 

 

 747 名無しの観測者 ID:ac2RlMrSvN

 おおブッダよ! あなたは今も寝ておられるのですか! 

 

 

 748 名無しの観測者 ID:itoAPp3GQK

 これでは直結フィーヒヒヒ! 

 

 

 750 名無しの観測者 ID:aniawJdTGt1

 そのバストは豊満であった。

 

 

 752 一般エロゲ竿役マン ID:20sNB2kmn2

 しかも転移能力使ってハルカさん連れて逃げやがった。離れた所で業岡裁きをやるとかほざいてやがる。

 

 司令部もハルカさんを探せとか言ってるしマジでやばい。

 

 

 753 名無しの観測者 ID:aXi20nA0g8o

 追いなさい……追いなさい。

 悪の輩を追いなさい! 

 

 今この瞬間、君の中の正義は赤く燃えているはずだ。

 

 

 756 名無しの観測者 ID:zH4ZPWnv68

 >>753

 名護君! 素晴らしき青空の会に戻ろう! 

 

 

 759 一般エロゲ竿役マン ID:20sNB2kmn2

 上弦衆のトラップでノロイの連中は閂町から出られないようになってる。とはいってもそこそこ広い町でどこに行ったのか見当もつかん。どうすればいいんだ……

 これがあのゼロ野郎の言ってたいわゆる世界が滅びたがってるってヤツ? 

 

 

 765 名無しの観測者 ID:CdpvSD2pZ6

 >>759

 デデドン! (絶望)

 

 

 767 名無しの観測者 ID:ZSOdo9tztz

 うーん、これは無能

 

 

 768 名無しの観測者 ID:itoAPp3GQK

 やったぜ。

 ハルカさんが凌辱されてる画像ください。

 あ、できれば動画で。

 

 

 770 名無しの観測者 ID:RnmSgZbf01

 >>759

 イッチ、落ち着け。

 世界が滅びたがっているならどうしてシノビヒョウタンがある? 

 なぜ、その力がそこにある? 

 きっとただの偶然なんかじゃないはずや。

 

 まだ終わってない。イッチが諦めたら一番アカン。

 今この瞬間ヤツを止められるのはただ一人、イッチだけや。

 

 

 773 一般エロゲ竿役マン ID:20sNB2kmn2

 >>770

 重い。それは滅茶苦茶重いんだよ。いろんな意味で。

 でも最初から変身でもして一緒に戦っておけばよかったのはそうだ。だから、なんとしてでも絶対に見つける。

 

 なんかポケットにあった蛙みたいなチビメカが探してくれるっぽいから俺も追うわ。

 

 

 775 名無しの観測者 ID:MXYJbjTImG

 >>ポケットにあった蛙みたいなチビメカ

 でた! 序盤で出てきてそれ以降使われなさそうな索敵アイテム! 

 

 

 778 名無しの観測者 ID:DCJxiW8SdD

 >>773

 変身しとけ。普通に歩くより素早く動けるはずだ。腐ってもライダーだしな

 正体バレても今は困るだろう? 

 

 

 780 一般エロゲ竿役マン ID:20sNB2kmn2

 >>778

 OK!

 

 

 




 2008年が10年以上前ってマジ?

 歳は取るもんじゃないわね……


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ヒーロー!! 俺?

 タイトルが我ながらほんとに最低だと思う

 原作ゲームが激烈に安くなってたので初投稿です。1265円っておま……


 800 一般エロゲ竿役マン ID:20sNB2kmn2

 で、すごくアッサリ見つかったっぽい。

 あのメカ蛙、奴の転移をある程度まで探知できるくせえ。やたらハイスぺじゃねえかこれぇ! 

 

 あとシノビー鬼はええ! 

 このままノロイ党のところまで追跡していこうぜ!

 

 

 802 名無しの観測者 ID:itoAPp3GQK

 >>800

 ハヤスギィ!! 

 

 

 803 名無しの観測者 ID:MXYJbjTImG

 完全に井上ワープですね……間違いない。

 

 

 805 名無しの観測者 ID:qLezj5w4xG

 >>803

 誤用なのか微妙に判断に困る言い方やめろ。

 

 

 806 名無しの観測者 ID:NFSvKgtJtm

 なぁイッチよ。変身して呑気にスマホぽちぽちしてスレ書き込んでるんか? 

 

 

 809 名無しの観測者 ID:hvdeeyx5wp

 >>806

 もしそうならはよ助けにいけタコ助

 

 

 811 一般エロゲ竿役マン ID:20sNB2kmn2

 >>809

 ちゃんと追ってる真っ最中だから許して……

 今スマホは持ってない。変身したままなんか脳で打ち込んでる。

 普通にカメラも撮れるっぽい。シノビの視界が写真になる感じ。

 

 走りながら今投稿してるゾ。

 

 

 815 名無しの観測者 ID:TvvWX6A3Fn

 >>811

 はえ^~すっごい便利。

 

 

 817 名無しの観測者 ID:5QoRgyiFnK

 しかも脳波コントロールできる! 

 

 

 838 一般エロゲ竿役マン ID:20sNB2kmn2

 てすと

 

 

 840 一般エロゲ竿役マン ID:20sNB2kmn2

 ちょい離れた十字路でハルカさん確認。

 現在ギロチン台みたいなのにかかってて身動きが取れなくなってる。

 忍者装束はビリビリに破かれてて、ほぼ裸。明らかに今始めますよって感じだ。

 

 

 842 名無しの観測者 ID:aniawJdTGt1

 >>842

 抱けえ! 抱けっ! 抱け──ーっ! 

 

 

 843 名無しの観測者 ID:ziA9upwQwz

 >>840

 混ざれイッチ! 特に怒られんぞ! 

 童貞卒業のチャンスだ! どさくさに紛れてハルカさんを犯すんや! 

 

 

 845 名無しの観測者 ID:iw5c9p4w2t

 つらぬきの刑か。原作通り、ハルカさんを拘束。

 民衆を人質にしてそいつらに輪姦させて犯させるつもりだろうな。

 

 

 850 一般エロゲ竿役マン ID:20sNB2kmn2

 >>845

 戦うわ、俺。

 

 

 852 名無しの観測者 ID:s8ckrbuReD

 >>850

 どういう風の吹き回しや? 

 戦わないつってたやろ。変にヒーローになることはないってゆーとったやろ。

 

 

 853 名無しの観測者 ID:ziA9upwQwz

 >>850

 え、混ざらんの? 

 

 

 855 一般エロゲ竿役マン ID:20sNB2kmn2

 そうだよ(真顔)。

 正義の血が燃えたとかそんなんじゃない。そんなキャラってわけじゃないし。今更こんな捻くれた汚ねえ大人が正義のために戦うなんて言えやしないよ。(´・ω・`)

 

 でもこのままじゃ後味が悪いんだ。嫌なんだよ、こういうの。吉良吉影じゃないが安眠して爽やかな朝を迎えられた方が一番いいのに、これほっとくとなんかむしゃくしゃするっていうか、モヤモヤするっていうか、安眠できないっていうか。とにかく嫌だ。

 

 昨日まで笑っていた奴があんなふざけたやつのせいで泣くのもムカつく。

 

 とにかく仮面ライダーとかヒーローとかそういうのじゃなくて一人のその辺にいるやつとして殴りに行く。

 

 

 

 857 名無しの観測者 ID:zyp8Ws5gKY

 >>855

 イッチ、行ってきな

 

 

 

 859 名無しの観測者 ID:g5voIgfGSZ

 >>855

 頑張れイッチ

 

 

 

 860 名無しの観測者 ID:tncgYIpQa5

 物語の結末はイッチが決めろ

 

 

 

 862 名無しの観測者 ID:hvdeeyx5wp

 死ぬなよイッチ

 

 

 

 865 一般エロゲ竿役マン ID:20sNB2kmn2

 サンクス。ちょっとお代官様モドキ野郎をシメに逝ってくる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 867 名無しの観測者 ID:X7gSi53b8D

 イッチ、口は悪いけどそれはもうライダーの思考なんだよ……

 

 

 

 

 ◆◆◆◆◆◆

 

 斉藤真太郎はシノビとなった瞬間、「変身」とはいえなかった。

 シノビの変身システムは何となくこれまで見てきた特撮のセオリーに沿ってみれば簡単になることができた。瓢箪の中にベルトと手裏剣型のスタートキーが仕込まれていて、それを瓢箪の栓を抜いて解放。

 

 そのままスタートキーをベルトに装填し、手裏剣部分を回転させれば出来上がりだ。

 

 

 けれども、仮面ライダーとしてではなくただの人間として抵抗しようと思った。

 何せ、あの瓢箪を手に入れた理由は知らないが、自分にそこまでの資格があるかどうかが疑わしかったのだ。故に仮面ライダーの代名詞である変身とはいえなかった。

 胸を張って「俺は仮面ライダーだ」と剣崎や士、翔太郎のように言えるのならどれだけよかったか。

 

 

 それに日和ったことでハルカをこのような公衆の面前に柔肌を晒させる恥辱を味わわせた罪ははっきり言って許されるはずがない。

 腹が立つ。日和った自分に。

 腹が立つ。昨日まで笑っていたあいつがこんなふざけた理由で泣くなんて。

 ああ、腹が立つ。

 

 

 シノビの力がどこまでノロイ党に通用するかは分からない。

 下手すればゲニンすら倒しきれず終わるかもしれない。

 

 けれども自分が逃げたらきっと後悔する。後味の悪い一生をきっと送ることになる。

 シノビは走る。

 ゲニンや業岡一全の待つ裁きの場へと向かって。

 

 

 ノロイはできたら潰す。

 助けられるのならば助けてみせる。ハルカも、この街に生きる人々も。そんな想いを抱えて。

 

 

 

 シノビは往く。

 

 

 

 

 ◆◆◆◆◆◆

 

 

 体が動かなかった。

 鷹守ハルカは身動き取れない身体を捩らせるも、動くことすら叶わない現状に自らが置かれた状況を悟った。

 自分は負けたのだ、と。

 

 見れば四肢はゲニンが痛いほどに巻き付けたワイヤーで縛られており、体の自由が利かない。

 縛られたまま今この瞬間、道路の上を引き摺られている。

 

 

 司令室から自分を指揮し、支えていたタカマルの声は聞こえない。おそらく瘴気が念話を阻んでいるのだ。

 最後に聞いたのは自分の名前を呼ぶ悲痛な叫び。

 タカマルの声が聞こえないことに心許なさを感じる。彼の声にどれだけ励まされ力になっていたのか。今になって気付きそうになる。

 

 怪忍の力は想定以上だった。

 先の交戦で気付いたが、以前。時渡りでこの時代に来てタカマルと出逢う前。

 数百年前の世界で交戦した怪忍はこれほどの力は持っていなかった。だというのに何故、この業岡一全はあれほどの力を手に入れたのか。

 

 

 自分の知らないところで何かが始まろうとしている。

 そんな嫌な予感がして、ハルカは僅かに身震いした。

 

 

「うわぁぁぁ! 怪人だ! 怪人が現れたぞ!」

「ノロイ党だわ! 助けてぇ!」

 

 道行く人々が悲鳴をあげる。

 恐怖が、絶望がこの街を覆う。

 情けない。悔しさでいっぱいだった。自分がもっとしっかりしていればこんな風に不安がらせることはなかっただろうに。

 

 わたしは、どうしてこうも。

 ハルカの脳裏にはかつての仲間の姿が浮かぶ。厳しさも強さも兼ね備えた、そんな仲間がいた。

 その仲間を半ば見殺しにする形でこの現代に来て、こんな。

 

 

「この辺だな。ゲニンども! イキの良さそうな男を4、5人攫ってこい!」

 

 ちょうど十字路。

 人々が疎にいる路上でハルカは転がされた。業岡一全の命令でゲニンたちが男たちを捕まえてハルカの近くまで強引に連れて行く。

 

「く、業岡一全……何をする気……!?」

 

 苦悶に満ちたハルカの問いかけに業岡一全は鼻を鳴らす。

 

「何をだと? 決まっている。お前のような女戦士には最も重い罪……つらぬきの刑を執行するッ!」

 

 つらぬき。一体何のことだ。

 名前からだけでもイメージすることは憚られるそれは、業岡一全の指示に従ってゲニンがどこからともなく木材を持ってきて組み立てて行く。組み上がって行くそれを見たハルカの眉は歪んだ。

 これは──首枷のついた処刑台だ。

 

 慣れた手つきで作り上げられたそれは20分も経たずして完成した。

 きっとこの手のものを考えたのは業岡一全なのだろう。恍惚とした笑みで出来上がったそれを見て自らの顎髭を撫でた。

 

「ふむ、見事な出来栄えだ。あとはあのくノ一を組み込むだけだな。ゲニンども! やれぇっ!」

 

 その業岡一全の指示が飛んだ瞬間──ゲニンはその腕でハルカの纏う忍者装束の形をしたスーツを掴み──文字通り引きちぎった。

 

「きゃぁぁぁぁぁっ!」

 

 ハルカの本来見せてはならない、タカマル以外には見せたくはない部分が、外気に晒される。

 本来このスーツは銃弾だろうが弾いてみせるような上弦衆の技術の結晶のようなものだ。しかしこれはハルカの力あってのものだ。今の力を使い果たしたハルカではスーツはただの布切れ同然であった。

 

 ゲニンに服を裂かれ、街と月明かりの下で首枷に繋がれ自由を奪われた挙句見せたくはない部分が晒されている。

 

「ん! んんんんんんっ! 動けない……っ!」

 

 必死に力をこめてみたもののぴくりとも動かない。

 ゲニンにすら抵抗できない上に、ゲニンが作った首枷すら壊さずにいるという事実はハルカの心をいためつけるには充分過ぎるものだった。

 

 

「おい、あの女の子は」

「ノロイ党と戦っていた忍者だよな? 負けたのか……あんな格好にされて」

 

 ごくり、とゲニンに連れられたイキの良い男とされた者たちの固唾を飲む音が聞こえた。

 

「いやぁぁぁぁぁぁぁ! 皆さん! みないでくださいっ!!」

 

 ハルカの悲痛な叫びに男たちも流石に良心が咎めたか慌ててそっぽを向いてみないふりをする。そんな彼らにハルカは安堵したのも束の間。

 

「目を逸らすな人間ども。我が裁きを見届けるのだ。逃げる者、目を背ける者、いずれも後ろから刺し殺すっ!」

 

 絶対的暴力が絶望を彩った。

 男たちは互いを見合わせてから再びハルカに視線を戻す。一瞬だけ彼らを恨めしく思えたが彼らをどうして責められようか。もしここで抵抗しようなら殺されてしまうというのに。

 

 業岡一全は懐から何か壺のようなものを取り出す。それをじっくりとハルカに見せつけるように近づける。

 

「……こ、これは」

 

「上弦衆よ。これが何かわかるか?」

 

「まさか、毒……!?」

 

「その通りっ! だがただの毒ではない! お前の苦痛も苦悶も快楽に変え、この男たちに犯されずにはいられんようになる。そう、これこそが我が業岡裁き、つらぬきの刑っ!」

 

 なんて恐ろしいことを考えるのだ。

 ハルカは業岡一全の所業に恐怖した。このままでは恥辱を味わう羽目となるのは明白。だがしかし脱出は叶わない。

 最悪舌を噛み切って自決でもしてしまうか。そんな黒々とした考えがハルカの脳裏をよぎる。

 

「自害しようとは思うなよ? かのようなことをすれば彼らの命はないと思え」

 

 そんなハルカの思考を読み取ったのか逃げ道を業岡一全は潰してくる。

 

「──タカマル様」

 

 ハルカの脳裏に短い間ながら献身的に支えてくれた青年の姿が浮かぶ。

 耐えるしか、ない。腹を括ったその時だった。

 

 

 

「ヌンジャァァァァァ!?」

 

 ゲニンの断末魔がこだました。

 

 

 

 

 

 

「何奴ッ!?」

 

 業岡一全の驚いたような声が響く。ゲニンを倒せるのは閃忍かもしくはそれに類推される戦士しかいないはず。

 彼の視線の先にいるもの。それは素肌が一切見えない深紫の装甲だった。首元から伸びる紫色のマフラーをたなびかせ、黄金色の眼光を放つそれは上半身を微動だにさせずに、尋常ならざる脚の速さで地面を無機質に蹴り続け業岡一全のもと目掛けて走る。

 字面にしてしまえば最早妖怪だ。

 

 狂気すら感じられる勢いで迫るそれはハルカの意識を呼び戻すには充分すぎるインパクトであった。

 その動きには明確な殺意が込められているような、そんな気がした。

 

「ぬう……もしや……ッ! ゲニンども! 奴を抑えろ!」

 

 ◆◆◆◆◆

 

 

 

 870 一般エロゲ竿役マン ID:20sNB2kmn2

 ノロイ殺すべし。慈悲はない。

 

 

 871 名無しの観測者 ID:g5voIgfGSZ

 デーレーデーレーデッデデデッ

 

 

 

 872 名無しの観測者 ID:zH4ZPWnv68

 アイエエエエ! シノビ!? シノビナンデ!? 

 

 

 

 873 名無しの観測者 ID:fG8m3tpFCf

 >>871

 トラウマBGMはヤメロォ! 

 

 

 ヤメロォ! 

 

 

 874 名無しの観測者 ID:aniawJdTGt1

 >>871

 経験値(能力値)とフラグ(鬼畜ルート)返せ! 

 

 

 875 名無しの観測者 ID:KKRsi2PZ3I

 ニンジャの……ライダー! 

 

 

 876 名無しの観測者 ID:N+mIbUfyI0

 アカン! このままだと業岡一全とノロイ党ゲニンがネギトロめいた惨状にされるゥ! 

 

 

 877 名無しの観測者 ID:5XXQ4OdBob

 ドーモ、ゴーオカ=サン。

 ノロイスレイヤーです。

 

 

 879 名無しの観測者 ID:D5GqvQTCF0

 陵辱開始タイミングで突然現れてエロシーン滅茶苦茶にするのきたないなさすが忍者きたない

 

 

 880 一般エロゲ竿役マン ID:20sNB2kmn2

 行くぞこの変態拷問野郎! 

 ゴーオカとかほざきやがるならちったぁまともな正義のロードを突っ走れやゴルァ! 

( ゚д゚)ゴルァ! 

 

 

 881 名無しの観測者 ID:0+wJMavrrL

 イッチそれゴーオカちゃう! ゴーオンや! 

 

 

 

 ◆◆◆◆◆◆

 

 ゲニンの対処はシノビにとっては然程難しい話ではなかった。

 いち早くシノビの乱入に気づいた個体は既に頭を掴まれ地面に叩きつけられており、その次に現れた個体は即座にラリアットで轢き倒す。忍者らしからぬアクションだがそんなことに構っている暇はない。

 

 3体目が背中に背負った太刀を引き抜き飛びかかってきたところでカウンター気味にアッパーカットを叩き込む。

 

「ヌンジャ!?」

 

 ゲニンの体が浮き、重力に従って落ち始めたところを追い討ちにパンチを連続で叩き込む。

 シノビの力は真太郎が生身の時より軽やかに動き、そして戦車砲のように重い1発1発はゲニン程度を挽き肉にするには充分すぎるものだった。

 トドメに蹴りを叩き込まれたゲニンは吹き飛び、奥にいた業岡一全の足元に転がる。

 

 ゲニンはただの人間では倒すことはできない。

 だが今この瞬間、シノビに轢き倒されている事実は彼が理の外にいることを雄弁に物語っていた。

 それを見ていた業岡一全は苦々しげに舌打ちする。

 

「貴様、上弦衆か」

 

 業岡一全の問いかけにシノビは片手間に背後からやってくるゲニンを裏拳で沈めながら、返事になっていない言葉を返す。

 

「俺は……ヒトだ」

 

 独特の返しに何か思うことがあったのか、業岡一全は顎髭を撫でながら口を開いた。

 

「ヒト……ほう、人間か。ただの人間かっ! なればそこで我が裁きを黙って見ているがいい。今なら邪魔をした罪、不問としてやるぞ?」

 

「それは──出来ない」

 

 シノビは構えを取る。特別に格闘術を学んだわけではない。憑依元が体で覚えている戦い方とクウガの構えのような何かを融合させたようなツギハギの構えだった。

 

「ふははははははは! 閃忍ですらない貴様に何が出来るというのだ!」

 

「……そこで捕まっている奴を助けることくらいなら出来る。多分な」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 妙に自信のない物言いに捕らえられていたハルカも目を丸くしていた。

 助けに来たという意志はなんとなくわかったが、上弦衆にあんな装備聞いたことがない。それにあんな構えはどこの流派にも存在はしない。この忍びは一体何者だ。そんな疑問に誰もが答えることはできなかった。

 

 

 

 

 

 

 シノビが通り魔的に討ち漏らしたゲニンたちが各々シノビに向かって飛びかかる。

 すると即座にシノビは腰から何かを引き抜いた。

 

【忍ポォォォォウ・キリステ!】

 

 引き抜いたものは刃渡り腕一本分の長さの小太刀。シノビブレードだ。

 ゲニンが太刀を振り下ろすよりも先にシノビは懐まで飛び込んで通り抜けざまに一閃していく。

 スピード面でいえば圧倒的差は一目瞭然だった。

 

 シノビブレードが別のゲニンが放つ太刀を受け止めている隙に更に生き残った個体が襲い掛かる。

 しかし蹴りでいなしてみせる。

 そしてシノビブレードが受け止めていた太刀も力任せに跳ね飛ばし、勢いよくゲニンの心臓めがけて突き刺した。

 

 

 ゲニンとは、ノロイの瘴気で精製された存在だ。

 致死レベルの攻撃を受けた個体は黒い霧となって消え失せる。

 一連のシノビの大立ち回りを見た業岡一全は忌々し気に口を開く。

 

「ぬぅ……貴様、目的と名はなんだ!」

 

「……シノビだ」

 

「忍び! 自らの名を捨てて忍道に全てを捧げたか!」

 

「え、あっ、あの……ちが……」

 

 何か違う言葉に変換されたらしい。

 真太郎はシノビと名乗ったつもりだったのに業岡一全には忍びと聞こえていた。

 慌ててシノビが訂正しにかかったが、2秒で諦めた。もういいや、なんて。

 

「我が裁きを邪魔だてしたこの罪は重いぞ、80ゴーオカだ! 背中のミルちゃんもこれ以上になく怒っているぞ!」

 

 また独自の罪の基準を作って裁こうとするその姿勢はある意味では清々しくも邪悪であった。

 しかしながら彼を怒らせた以上恐らくここまで来て負けようならきっと生きて帰れないと仮面の下の真太郎は思ってはいた。

 けれども不思議と恐怖心はなかった。戦いの中で頭に血が上りすぎているからか、それとも。心のどこかで勝ちを確信しているからか。

 

「これ以上お前と話す舌は残っちゃいない。……ここで終わらせてやる!」

 

 先に飛びかかったのはシノビだった。

 3m近くの巨体に、まずはパンチ。回し蹴りを連続で叩き込む。

 

「ぬぅ!? 速いっ!」

 

 業岡一全も慌ててシノビを振り払い、『罪状』と書かれた紙をシノビ目掛けて投げつける。

 まるで別の生き物のようにシノビを襲うと、その装甲に命中。血飛沫のように派手に火花を散らす。

 

「……フン!」

 

 が、ダメージを受けたとはいえシノビも棒立ちではない。紙をその手で捕まえてビリビリに破り捨てた。

 再び追撃で飛んできた紙も、手刀で引きちぎり格闘戦に持ち込もうとした矢先だった。

 

「なれば業岡一全、自慢の剣術で貴様を裁こう!」

 

「ん?」

 

 業岡一全は腰を深く落とし、腰にぶら下げた太刀に手を伸ばし、居合の構えを取る。すると僅かに鞘と鍔の間から覗かせた刀身が鋭く輝いた。

 瞬きをした瞬間、ごうっ!! と風が捩じ切られる音がした。

 

「うわっ!?」

 

 太刀そのものを受けることはなかった。

 しかし風圧そのものはシノビを大きく吹き飛ばした。

 まるで大きな風船でぶん殴られたような衝撃にシノビの仮面の下で真太郎は目を白黒させた。

 

「なんて馬鹿力だ……ハルカさんよく耐え切ったな……」

 

 あの戦闘服が守ってくれたのか、彼女の戦闘力がそれ相応にあったからなのかは分からない。

 いくらシノビでもあれを連続で受けては耐えきれない。しかし──

 

「必殺技? ……わかった。こうすればいいんだな」

 

 ……何かを聞いた真太郎は()()()()()()()()()に語りかけながら無造作にベルトの手裏剣に手を掛け、力一杯に回した。

 

【フィニッシュ・忍POW!】

 

 シノビを中心に風が舞う。

 紫色の風がシノビの脚に、腕に、力を与える。

 その動きに何かを感じた業岡一全は近くにあった運転手と客が慌てて乗り捨てたバスと車の後ろに立ち、太刀を再び閃かせた。

 

 ごうっ! と今度吹き飛んだのは車とバスだった。更に追い討ちをかけるように『罪状』と書かれた紙も飛んでくる。

 それでシノビを押し潰すつもりなのだろう。しかし、その程度ではシノビは止まらない。

 

 まず手始めに飛んできた車に飛び乗りそれをそのまま踏み台にし、罪状を回避しながら次の車へと飛び移る。次にフロントから飛んできたバスにはフロントガラスを蹴破り、追加の罪状を避けながらバスの中を駆ける。

 

 今のシノビは木の葉よりも軽く、風よりも素早いのだ。

 バスのリアガラスをぶち破り飛び降りた勢いのままに風を纏ったパンチを叩き込む。

 流れるように飛び蹴り、回し蹴り、と放つと痺れを切らした業岡一全は再び太刀を閃かせた。

 

「離れろっ! 小童が!」

 

 それをシノビは跳び避けた。しかし業岡一全の真上を飛んだまま、太刀から放たれる風圧はまるでものともしていない。

 そんな状況に驚愕したのか業岡一全は声を上げる。

 

「馬鹿な……何故飛ばされん! まさか!」

 

 今この瞬間、放った風圧がシノビが放つ風とがぶつかり合い無と消え失せている。

 それゆえにシノビは無事でいられていたのだ。そしてもう一度、ベルトの手裏剣を回転させた。

 

【フィニッシュ・忍POW!】

 

 後は一撃を叩き込むだけだ。

 頭上で右足を突き出し、そのまま業岡一全目掛けて落雷する。

 今のシノビは風のように素早く、炎のように熾烈な弾丸であった。

 

「まっ……まさかっ……この俺が裁かれる日が来ようとは……」

 

 業岡一全の胸部に叩き込まれた脚はそのまま体を仰向けに轢き倒し、路上に小さなクレーターを作る。

 そして彼を踏み潰す形となったシノビはそのまま脚を退けて、背を向けた──。

 

「ノ……ノロイ党に勝利あれえええええええ!」

 

 既に勝利は決していた。

 それを証拠に、シノビが少し離れた所で業岡一全が呪詛と共に爆発四散。黒い霧となって消滅していた。

 

「永遠に来ねえよ……来させねえよ」

 

 溜飲が下がるどころか余計に琴線に触れたのかシノビ、否、真太郎は吐き捨てる。

 既にこの十字路にいるノロイを殲滅したシノビは無機質に首枷に嵌められたハルカに向かう。

 既に業岡一全につれられた男たちはどさくさにまぎれて逃げてしまったようだ。

 

「あなたは……一体」

 

 ハルカとしても急に現れた挙句一方的に怪忍を殴り倒すなどという不条理と理不尽の塊が現れては気になるというものだ。

 しかしシノビとしてはあまりべらべら喋ることができる状況ではなかった。というか真太郎自身がシノビについてよく知らず、カンと得体の知れないスレ民たちの助言で成り立っているようなものなのだから。

 

 スーツは破かれ、あまり見ない方がいいであろう部分が露わになったハルカが今シノビの眼前にいる。

 とはいえ、この緊張状態で思うことは正直なく真太郎の脳裏にはハルカを自由にしてさっさとこの場をズラかること以外頭には入れないように雑念を捨てようとしていた。

 なにせ目を閉じて首枷を取ろうとするとうっかりハルカの腕までへし折ってしまいそうだったのだから。

 

「ごめん。ちょっと目は閉じられない」

 

「あっ……」

 

 先の戦闘でさっぱり忘れていたらしい。比較的顔色がよくなっていたはずのハルカの顔がサッと青ざめそして──

 

「きゃああああああああああああああああっ!」

 

「ごっ……ごっ……ぐぉめんなさああああああああああああああああいっ!」

 

 自分に置かれた状況を思い出したハルカは青ざめた次の瞬間耳まで茹蛸のように顔が真っ赤になり悲鳴を上げる、それを打ち消さんばかりの勢いでシノビも謝罪の言葉という名の悲鳴で返す。

 慌てまくったシノビは首枷を力任せに砕き、物陰までハルカをかかえて運ぶ。

 これでもう大丈夫だろう。まるで危険物を触るかのような動きで手を放して踵を返し、撤収しようとした次の瞬間だった。

 

「あ、ありがとうございます……助けていただいて。えっと……忍びさん?」

 

 シノビからは敵意も何もないと判断したハルカは腕で乳房を隠しながら礼を言う。……なぜか疑問符を浮べながら。

 

「…………忍びじゃなくてシノビなんだよなぁ」

 

 ハルカまで勘違いしていた始末。シノビは掻けない頭を掻く。

 これ以上何か喋ろうならボロが出てしまいそうだ。そのまま勢いよく地面を蹴り、シノビは夜空の闇に消えた。

 

 

 

 ◆◆◆◆◆◆

 

 900 一般エロゲ竿役忍者 ID:20sNB2kmn2

 てな訳で、勝ち申した。

 通信聞くとタカマル君もめちゃくちゃ安堵して喜んでらっしゃる。別に歪んでないよ。

 

 

 901 名無しの観測者 ID:tncgYIpQa5

 >>900

 乙

 

 

 902 名無しの観測者 ID:iw5c9p4w2t

 >>900

 ナイスでーす♂

 

 

 903 名無しの観測者 ID:zH4ZPWnv68

 >>900

 ワザマエ! 

 

 

 906 名無しの観測者 ID:ziA9upwQwz

 >>900

 ヤれよ童貞

 そんなんだから一生童貞なんだよ。

 

 

 908 名無しの観測者 ID:5XXQ4OdBob

 >>902

 ブレない陵辱兄貴に草生える

 

 にしてもタカマルくん正気かぁ……もしかして敵の方が原作より強くなってる、とか? 

 

 

 910 名無しの観測者 ID:B6bGXr8xwj

 突然ピンチの前に現れて敵をボコっていなくなるとかそれもう平成の1話あたりなんだよなぁ

 

 

 912 名無しの観測者 ID:l4LzZmqnLs

 イッチちゃんと撤収できた? 

 

 

 916 一般エロゲ竿役忍者 ID:20sNB2kmn2

 でけた。自販機で買ったキンキンに冷えたオレンジジュースが美味しい。

 お腹すいたし家帰ったら焼き肉も食べよっと(`・ω・´)

 

 

 920 名無しの観測者 ID:rGgiWqAE3s

 美少女助けて飲むオレンジジュースと焼き肉は美味いか? 

 

 

 923 名無しの観測者 ID:aBQy9Unf57

 >>920

 美味いに決まってるんだよなぁ……

 

 

 930 一般エロゲ竿役忍者 ID:20sNB2kmn2

 なんか色々あって疲れたからそろそろ落ちるけど、多分今後も独自に動いて戦おうと思う。

 

 

 934 名無しの観測者 ID:IITSPSIzn9

 何故? 

 

 

 938 名無しの観測者 ID:PPnNGE3dnz

 >>930

 正義に目覚めちゃった? 

 

 

 940 一般エロゲ竿役忍者 ID:20sNB2kmn2

 自分で少しでも何とか出来るってのがわかったから。

 それがわかってんのに怯えて何もしないのも絶対後味悪いし。でもシノビの力はよくわかってないし明らかに異物っぽいから下手に誰かに託すことは出来なさそうだし。

 

 

 あとハルカさんめちゃくちゃかわいいしかっこいいので、可哀想な目に遭うの辛いし推していきたいよね。是非タカマルくんと幸せになっていただきたい

 でも赤面したハルカさん、かわいそうだし申し訳ないけどクッソかわいかった(小並感)

 どっかのドルオタの気持ちがちょっと分かった気がする。

 

 

 942 名無しの観測者 ID:X7gSi53b8D

 >>940

 正体現したね

 

 

 946 名無しの観測者 ID:s8ckrbuReD

 最後のそれさえ無ければニューヒーローの誕生祝ってたのにお前さぁ……

 

 

 948 名無しの観測者 ID:N+mIbUfyI0

 >>946 ニキに代わってワイがやるわ

 ハッピィバァスディ! 

 新しい忍者ヒーローの誕生だ! 

 

 

 951 一般エロゲ竿役忍者 ID:20sNB2kmn2

 もしかしたらまたスレ立てるかもしれない。その時が来たらまた皆のお世話になるかも

 

 

 954 名無しの観測者 ID:3pxYCK0APP

 ええんやで(ニッコリ)

 いつでもきいや

 

 

 960 名無しの観測者 ID:lzPDkS0ykF

 生存報告でもええから待っとるで。

 

 

 962 名無しの観測者 ID:itoAPp3GQK

 そろそろ1000行きそうやし潮時やしね

 

 

 970 名無しの観測者 ID:fG8m3tpFCf

 元気でなイッチ。体には気を付けるんやで

 

 

 989 一般エロゲ竿役忍者 ID:20sNB2kmn2

 またね! あでゅー! (=゚ω゚)ノシ

 

 

 992 名無しの観測者 ID:DCJxiW8SdD

 ノシ

 

 

 995 名無しの観測者 ID:ox+kN799YA

 じゃあな! (ゆうさく)

 

 

 998 名無しの観測者 ID:wILLqRw2pP

 1000なら天津垓参戦

 

 

 999 名無しの観測者 ID:ziA9upwQwz

 1000なら鬼畜ルート

 

 

 1000 名無しの観測者 ID:0000000000

 運命が廻り、時計は回る。

 未来は過去に、過去は未来に。

 

 

 

 1001 

 このスレッドは1000を超えました。 もう書けないので、新しいスレッドを立ててくださいです。。。

 

 

 




 一全の目的と名前の問いかけに「正義・仮面ライダー」と名乗らない名乗れないのがイッチクォリティ

 イッチ的には自らが「仮面ライダー」とは名乗れない何かのこだわりがあるみたいです。



 怪忍をシノビがシバいた以上、ハルカさんやタカマルくんも見せ場をこれから先作っていく。そんなバランス感覚


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幕間/真太郎くんとタカマルくんの憂鬱

 皆様のおかげで日間1位になれました
 予想外でもあり、ここまで読んでくださったことに感謝の思いが尽きません

 これからもお時間あれば拙作にお付き合いいただければ幸いです。


「ノロイ党の前に散発的に現れる謎の存在、彼は一体何者なのか……か」

 

 新聞の一面に載っていたのはデカデカと業岡一全を仕留めた深紫の戦士の写真と長々とした文章だった。

 青年、戦部鷹丸……タカマルが新聞を広げたまま渋い顔をしながら口を開いた。

 

「佐藤さん、一体あいつ何者なんスかね」

 

「……佐藤じゃなくて斉藤。俺に聞かれてもなんとも」

 

 椅子で座って新聞を読む傍ら上弦衆の一人、斉藤真太郎がタカマルの呼び間違いを真顔で訂正しながら壁にもたれたまま立っていた。

 立場こそ真太郎の方が下だが、同じ上弦衆の新入り同士。分からないことがあるのは同じこと。

 出会ったばかりの頃タカマル自身が変に畏まられるのが苦手だったのもあり、普通に接してくれ。と、そう出会ったばかりの頃の真太郎がやたら畏まっていたので頭領命令を投げつけた。

 

 で、割と波長が合うのかすぐ打ち解けた。

 加えてモンハン買いに行ったら普通にゲーム屋でバッタリ遭遇して時々他の上弦衆たちで集まって、モンスターの理不尽めいた当たり判定に悪態吐きながらマルチで遊んでいる。

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()が、仲は別に悪いわけではない。

 悪かったらこんな風に駄弁ってなんかいない。

 

 

「俺の見立てだと悪い奴って感じはないんだけどな」

 

 事実、ハルカの話によるとゲニンを殴り倒し怪忍を叩きのめしてからハルカを物陰に隠してスタコラサッサしたという。

 加えて裸を見た途端物凄い声で謝っていたとか。

 

 ここまで言われて悪い奴だと断言出来たらそれはそれでびっくりだ。

 しかし隣の真太郎は少し考え込んでいた。

 

「それはどうだろうか。もしかしたら油断した隙に……って可能性もあるかもしれない」

 

 指摘としては悪辣としか言えない返しにタカマルは苦笑いした。

 仕事柄やはり疑うことから始めるのは職業病みたいなものだろう。タカマル自身はあまり好きな思考ではないが。

 

「あはは……中々怖い事言うな……でもそれだったらハルカさんには悪いけど……チャンスはあったはずなんだ。それをみすみす……」

 

 自らチャンスを手放して次を待つ。

 たしかにそういう考えは無いわけではない。しかし今回の場合あまりにも非合理的でもあった。

 すると、真太郎は何か遠いものを見るかのようにつぶやいた。

 

「でも、アレは正義の味方というにはあまりにもエゴイスティックな動きだった。感情任せのような、八つ当たりをしているようにも思える」

 

「というと?」

 

「ガキが背伸びして戦闘のプロごっこしながらやった喧嘩殺法」

 

「うわ、ボロクソ言うなぁ……」

 

 どう言う訳か、深紫の忍びに対してやたら辛辣なのが真太郎だ。……親でも殺されたのだろうか。

 戦術アドバイザーである黒鉄アキラもまた似た意見であることを思い出す。流石に真太郎ほどでないにせよ、アキラも否定的な方であった。

 

「能力に頼った動き、そうアキラさんも言っていた」

 

 回顧するようにタカマルは呟く。

 あの深紫の忍びは自ら主張するように人間か、元人間である可能性が高い。

 強化外骨格(パワードスーツ)の線が濃いとも。タカマルは続ける。

 

「でも上弦衆にあんな装備は存在しない。あったら何かしらの形で事前にお披露目か告知があるはずだけどなぁ」

 

 虎の子をぎりぎりまで運用方法も存在も明かさず、いきなり実戦投入なんてアニメでもない限りあり得ない。

 加えてタカマルは上弦衆の現頭領。新参とはいえ隠すことは能わないはず。

 

 上弦衆の技術力は最先端をいく。

 そのことを考えるとあの忍びは異常と言ってもいい。まるで神様か何かが一般の食卓に突然現れてちゃぶ台をひっくり返しにきたかのような。

 そんな出鱈目な存在だ。

 無論、数百年前にそれに近い血車党だとか化身忍者なる存在はいたらしいが。文献も少なく眉唾物だ。

 

 

 二人黙り込む。

 考えてもしょうがないと思ったタカマルは新聞紙を畳む。そもそも上弦衆が得られない情報を新聞が得られるはずがないのだ。

 忍びのことはもう考えるのはやめた。それに一番気にするべきは──

 

「ハルカさん大丈夫かな」

 

 今この二人がいる場所は閂市から離れた城南大学附属の病院の待合室だ。

 ノロイ党が現時点で、上弦衆が施した封印のせいで閂市から出られない。その為ちゃんとしたメディカルチェックはこう言った離れた場所で確実かつ安全に行うようにしている。

 

 業岡一全の事件については口封じと上弦衆の簡易的な記憶処理でどうにかあの痴態については誤魔化すことが出来たが、ハルカ自身が負った心の傷と負けたと言う事実は無かったことにはならない。

 そしてサポートすると言ったのに結果的に彼女をあんな目に遭わせてしまったのは自分の失態でもある。

 

 気にしないでください。とハルカは言った。

 自分が未熟なだけだ、とも。

 

 そんなことはない。

 自分がもっと彼女に力を与えられていれば。もっと彼女の目となって状況を見渡す力を持っていれば。と悔やんでも悔やみきれない。

 

 あの業岡一全との戦いからしばらく経ったが、ノロイ党の戦闘員や怪忍の出現は止まることを知らない。

 あれ以降ハルカ自身そこまでダメージはないが、蓄積する疲労、メンタル面でのダメージ蓄積は無くなったりはしない。

 こうした定期的なチェックは欠かせない。

 

「いつも大丈夫かって聞いても大丈夫ですよ。鍛えてますから、なんて言うんだ」

 

 あの晒し上げされた時だってそこそこ堪えていただろうに気丈に振る舞い続けている。弱音の一つくらい吐いてくれたっていいのに。

 

「……戦部君も無理しない程度で。頭領倒れたら洒落にならんよ」

 

 真太郎はそう心配してはくれるがタカマル自身はもう少し無理をするつもりだった。

 これ以上ハルカに辛い思いはさせられない。他の上弦衆の仲間たちにも。

 深紫の忍びが仲間になってくれれば、負担は大きく減るだろうがアキラや真太郎の言う通り宛にするのは危ないだろう。

 

 すると、白衣を羽織った紫髪の女性が現れる。医師……のように見えるが胸元が開いており明らかに場違いな雰囲気を醸し出していた。

 この女性こそが上弦衆の戦術アドバイザーである黒鉄アキラだ。

 

「ハルカについては体調面での問題はない。後は……」

 

 メンタルだけだ、と言わんばかりにアキラがタカマルに目配せする。

 そうだ。今自分がしっかりしないとハルカはついてこない。真太郎だって、上弦衆の仲間たちだって。

 アキラの後ろから検診衣姿のハルカが現れる。

 

「ご心配おかけしました。タカマル様」

 

 そう柔らかい笑みを浮かべる。その笑顔の仮面の下でどんな思いをしてきたのか、計りかねるものがある。

 そんな彼女の手を取る。

 

「帰ろう、ハルカさん。ナリカがご飯用意してくれてるからさ」

 

「……はいっ」

 

 家までは少し遠いのでアキラが車で送る形となる。護衛役の真太郎……噂だとブラフ扱いされており真の護衛の主力は裏で控えているらしいが、真太郎の方を向くと何故か何処か遠くを見ているような、そんな気がした。

 

 

 

 

 

 ◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 

「ヌンジャ! ヌンジャ!」

 

「よう、スットコドッコイの皆さんよ」

 

 例によって例の如く。

 ゲニンたちがわらわらと突如として夜の街に現れる。

 そして理不尽に人が死ぬ。この街ではよくあることだ。

 散々現れ続けた面々に飽き飽きしながらも頭巾を被り素顔を隠した忍者装束の男が、彼らのいく手を、阻むように躍り出る。

 

 その男は斉藤真太郎。シノビであり、ノロイを打ち砕こうとする者の一人。

 そして懐から銀色の瓢箪を取り出し、栓を抜く。

 

 そして地面に溢すように傾けると水が落ち、彼の腹部に纏わり付きベルトの形を成す。

 シノビドライバーだ。そして手元には手裏剣の形をした鍵、メンキョカイデンプレートが現れた。

 

「今更だけどこれ以上お前たちの好きにはさせない」

 

 どうしてこの世界に自分がいるのかはまだ分からない。未だ答えを知る術もない。

 けれども信じることにする。この暴力装置(ライダーシステム)がここにあるのは何か意味があるのだ、と。

 

 ある者は言った。

 もし、世界が滅びたがっているならどうしてシノビヒョウタンがある? 

 なぜ、その力がそこにある? 

 きっとただの偶然なんかじゃない、と。

 

 真太郎は叫ぶ。

 深紫の忍び(シノビ)はここにあり、と。

 所詮暴力装置の執行者の域を出ないだろう。

 

 幼い頃ヒーローに夢見ていた。弱い人々を守りたい、なんて。

 けれども転生前から歳を食うごとにどうしようもない現実に打ちのめされて、ヒーローなぞどこにもいないと知り、学生時代クソみたいな上級生にブン殴られもしたし、社会人になってもパワハラ上司にメンタルは滅茶苦茶にされもした。

 なんなら繁華街で酔っ払いに絡まれてイチャモンつけられた挙句5年ぶりに人に殴られた。

 ヒーローとは程遠い大人になって生きてきた。まるで主人公のように高い営業成績を上げる同僚たちを横目で見ながら──

 

 

 だからこのシノビヒョウタンも最初こそ驚いたしテンションも上がりはしたが戦いに使う気には最初はなれなかった。

 もうその世界にはヒーローがいるのだから。自分がいる意味なんてないはずだ、と。

 

 けれどもそれを上回る理不尽を見てしまった。

 他人事で済むはずがない。

 この力、きっと本当なら正しい使い手がいる。でも使わずにはいられない。

 何もしなかったら後味が悪いから。

 

「この街で瞬間瞬間必死に生きている一人の人間として。そして深紫の忍びとやらとして、お前らの言う恐怖やら絶望とやらを台無しにしてやる……俺はお前達の邪魔をしてやる!」

 

 真太郎は吠える。遠吠えのように、必死に威嚇する犬のように。

 メンキョカイデンプレートをシノビドライバーにセットし、勢いよくバックル中心にある手裏剣を回した。

 

 するとバックルから巻物が飛び出る。そして真太郎の背後をくるくると回り始める。

 

 その傍ら、後ろから紫色の巨大な機械仕掛けのガマガエル・クロガネオオガマが高速で組み立てられ口から無数のパーツを吐き出す。

 

 それはシノビの鎧であり、真太郎の体に次々と取り付いていき、最後に巻物がマフラーへと変わりシノビの首に巻き付くことでたった数秒で真太郎を戦う者の姿へと変えた。

 

「ヌンジャ!?」

 

【誰じゃ? 俺じゃ? 忍者! シノービ、見参! 】

 

 

 深紫の忍び、シノビへと。

 

 

 

 

 

 襲いくるゲニンをすぐさま一体、拳で殴り倒す。

 迫る太刀をくぐり抜け、太刀を持った腕を捕まえて頭突きを叩き込み怯んだゲニンを別のゲニンに投げつける。

 

 接近戦では勝ち目がないと見たか、ゲニンは一斉に距離をとり手裏剣を投げつける。

 流石にシノビブレードで弾くことは困難な数に慌てて飛び避けた所で、ゲニンは着地を狙って再び手裏剣を投げつける。

 

 ──こいつ、学習しているのか!? 

 

 先読みしたような手裏剣にシノビは舌打ちする。

 被弾覚悟で、目を瞑ったその次の瞬間──

 

 

 シノビ目掛けて飛んできたゲニンの手裏剣は全てあらぬ方向に飛んでいった。

 

 

「悪鬼彷徨う現の闇を払うは月影──我、上弦なり──。想破上弦衆が閃忍、ハルカ! 見参!」

 

 鷹守ハルカ。またの名を、閃忍ハルカ。彼女もまた、ノロイを打ち砕こうとする者の一人だ。

 ビルの上から見栄を切ってから、飛び降り様にクナイを投げつける。

 急所に直撃をもらったゲニンが次々と倒れていく。その狙いは正確無比。

 先の戦いを経てさらに強さを手に入れているのが真太郎の素人目でも分かるほどだった。

 

「……」

 

「忍びさんには恩も何も返せてませんから。それに、タカマルさ……頭領から貴方へ言伝(ことづて)があります。……目的がもし同じなら一緒に戦おう、と」

 

「…………」

 

 タカマルが眩しく思えた。そうまでして信じようとするその真っ直ぐさはどこからくるのやら。

 シノビは否定も肯定もしなかった。残ったゲニンに向き直りシノビブレードを構える。

 ハルカもこれ以上何かを言おうとはしなかった。大きなクナイを構えてゲニンを見据える。

 

 ゲニンの群れの中に一際大きなゲニンのような何かがいた。

 背中には大剣。剣とは言ったが最早鈍器の類だ。

 

「ヌゥンジャァ……」

 

 その鳴き声も野太く、威圧感はこれまでの比ではない。

 先に躍り出たのはシノビだった。

 道中にいたゲニンの群れを片手間にブレードで真っ二つにし全て処理してから、奥で最後に残った大型ゲニンに飛びかかる。

 するとそのシノビの動きを読んでいたかのようにその背中の得物を一閃させた。

 

 ごうっ、と先端がシノビの装甲を掠めた。同時にシノビの体が木の葉のように飛ばされる。

 業岡一全ほどの剣圧はないにせよ脅威であることには違いない。

 

 突風に流されていると、第二波と言わんばかりにハルカが隙だらけの大型ゲニンにクナイで斬撃を加える。

 完全にスピードで翻弄し切っており、前を見れば後ろに、右を見れば左に、左を見れば右にと死角を狙って切り付ける。

 

 最早風そのものを相手にしてるに等しい状態で大型ゲニンに反撃の隙など残されてはいなかった。

 

 その隙に突風で吹っ飛ばされていたシノビがシノビブレードを投げ捨てバックルの手裏剣を回転させた。

 

【フィニッシュ・忍POW!】

 

 拳を固めると、徐々にその拳から紫色の風を帯びその拳で勢いよく大型ゲニンのどでっ腹に叩き込んだ。

 いわゆるライダーパンチだ。

 

「ヌゥンジャァッ!?」

 

 大技を食らったことで大きく怯んだ所でハルカがクナイを投げつけ、大型ゲニンの足元に数発突き刺す。

 そして印を結ぶ。

 

「穿・四門五月雨ッ!」

 

 すると地面に刺さったクナイを中心に、世界が白く染まる。そして雷の雨が──降った。

 

 

 

 ◆◆◆◆◆

 

 

「ゲニンの殲滅を確認。忍務、完了です。しかし深紫の忍びは……」

 

 ゲニンが消え去った街は再び静寂を取り戻していた。

 しかし、シノビの姿も共に消え去っており結局彼が何者なのかわからずじまいだ。

 一人残されたハルカはタカマルに念話で報告すると、タカマルは首を横に振った。

 

『またノロイが出て来ればまた会えるさ。それに言いたいことはハルカさんのお陰で伝えられたからさ』

 

 タカマル自身、本当なら直接伝えたかった。礼の言葉も、自らの願いも。

 そして知りたいことはたくさんあった。何がノロイを倒すための原動力になっているのか、その強さはどこから来るのか、なんて。

 

 いずれもなし得なかったが、いずれまた会える。そんな確信があった。これが今生の別れではないのだ。

 

『今日はこの話はお終いっ! ハルカさん。お疲れ様!』

 

「はいっ!」

 

 何はともあれハルカを労うと、ハルカは花が咲いたような笑顔でタカマルに応えた。

 

 

 




 NEXT:キノコ狩りの女……?


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イッチ、帰還/キノコ狩りの女……?①

 【悲報】今になって掲示板形式のテンプレがあったことに気づく【致命傷】
 馬鹿ぁ!

 今の今まで手入力だった私は一体……(無駄な労力)
 次回から使いますorz


 1 一般エロゲ竿役忍者 ID:20sNB2kmn2 

 ワイのこと、覚えてる人いるかな……(´・ω・`)

 シノビになってた奴だけど

 

 詳細→【急募】転生した世界でこの先生きのこるには【たすけて】

 

 2 名無しの観測者 ID:GiXnrgdcqg

 >>1

 誰? (無慈悲)

 

 

 3 名無しの観測者 ID:qLezj5w4xG

 >>1

 もしかして……平成1期特有の通り魔ムーブかまして逃げたシノビのイッチ? 

 

 

 4 名無しの観測者 ID:ox+kN799YA

 え、帰ってきたの? 

 

 

 5 名無しの観測者 ID:zH4ZPWnv68

 幻想(ユメ)じゃねえよな……? 

 

 

 8 一般エロゲ竿役忍者 ID:20sNB2kmn2

 ところがどっこい……幻想(ユメ)じゃないんだよなぁ……

 落ち着いてきたから顔出してみた(´ω`)

 

 

 10 名無しの観測者 ID:TvvWX6A3Fn

 ペロッ……この地味にウザい顔文字……シノビのイッチだ! 

 

 

 12 一般エロゲ竿役忍者 ID:20sNB2kmn2

 >> この地味にウザい顔文字

 そんなことを言わないでよぉ……(´・ω・`)

 

 

 14 名無しの観測者 ID:itoAPp3GQK

 還って来る……オレ達の黄金時代(オウゴン)が還ってくる……! 

 

 

 16 名無しの観測者 ID:TvvWX6A3Fn

 すぐ退社する……ッ! 

 

 

 17 名無しの観測者 ID:s8ckrbuReD

 マジかよ竿役クン……!? 

 

 

 20 一般エロゲ竿役忍者 ID:20sNB2kmn2

 おい、今竿役つった奴誰だ

 新薬のバイトさせっぞ( ゚д゚)クァッ

 

 

 23 名無しの観測者 ID:gCEMK+A6Ek

 今北産業

 話題に入りにくいorz

 

 

 28 名無しの観測者 ID:qLezj5w4xG

 三行じゃ纏まらんので3つの出来事で行こうか

 

 

 34 名無しの観測者 ID:Or9DInhWfz

 >>28

 3つの出来事……オーズ……10周年……うっ、頭がっ……やめろぉ……やめろ……ぁ……あぁ……うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ! えいじいいいいいいいいいいいいいいいいいいっ!

 あばばばばばあっばばばばくぁwせdrftgyふじこlp

 

 

 35 名無しの観測者 ID:TvvWX6A3Fn

 >>34

 どうした急に

 

 

 36 名無しの観測者 ID:zH4ZPWnv68

 そっとしておいてやれ……

 今年は色々ショッキングな出来事があったんだから

 いいね? 

 

 

 38 名無しの観測者 ID:5QoRgyiFnK

 >>36

 アッハイ

 

 

 39 一般エロゲ竿役忍者 ID:20sNB2kmn2

 じゃあせっかくだし俺がまとめるか……

(`・ω・´)

 

 

 40 名無しの観測者 ID:gWg4npXEdZ

 オナシャス! 

 

 

 46 一般エロゲ竿役忍者 ID:20sNB2kmn2

 ととのいました! (((o(*゚▽゚*)o)))

 

 1つ! 

 気づいたら平行同位体の自分に憑依転生していたがその世界は変身ヒロインもののエロゲの世界(2008年)だった

 前世から引き継げたのはこのスレにアクセス出来るスマホ一式のみ! ふざきんな!!!!2008

 

 2つ! 

 なぜか持っていたシノビの力で変身ヒロインのピンチは助けることに成功して、アギトの如くエスケープ。現在もそれを繰り返している

 深紫の忍びと呼ばれてるらしいよ! 略してシノビだよ! 

 

 3つ! 

 一応表向き上弦衆の雑用係兼護衛マンとして原作主人公くんの周囲にちょこちょこいるけどたびたびヒロインのギシアン聴こえててストレスで胃がフルスロットォルルゥ! マッハー! 

 幸せになって欲しいとは言ったが……言ったんだけどさぁ! それとこれとは別問題だろうがよこのど畜生がぁぁぁぁぁ! 

 

 

 

 48 名無しの観測者 ID:ziA9upwQwz

 で、ヤれたのかよ

 

 

 49 一般エロゲ竿役忍者 ID:20sNB2kmn2

 >>48

(ヤって)ないです(半ギレ)

 なんでそう人を竿役みたいにさぁ

 あ、竿役だったわ! HAHAHA! はぁ……

 

 

 51 名無しの観測者 ID:PPnNGE3dnz

 やーい! どーてー! 

 

 

 55 一般エロゲ竿役忍者 ID:20sNB2kmn2

 >>51

 どどどどど童貞ちゃうわ! 

 

 

 

 58 名無しの観測者 ID:qLezj5w4xG

 まとめ乙

 ほんとに転生なんかなこれ……

 冬映画とかで似た現象なかったか? まるで『歴史』が捩じ込まれたみたいな……

 

 

 

 59 名無しの観測者 ID:X7gSi53b8D

 >>58

 平ジェネForeverの模試判定Aソウゴくん来たな……

 

 

 

 60 一般エロゲ竿役忍者 ID:20sNB2kmn2

 平ジェネForever? FINALじゃなくて? FINALにソウゴいなくね? 

 

 ソウゴくんA判定は有り得なさ過ぎて草

 

 

 

 62 名無しの観測者 ID:zyp8Ws5gKY

 イッチの世界、もしかして令和始まってないどころか平ジェネForeverがない……? 

 

 

 

 67 一般エロゲ竿役忍者 ID:20sNB2kmn2

 平ジェネは新シリーズの予感がしたのにすぐ終わった。中の人が豪華過ぎて駄目やったんやろな……ドライブ復活とか、フォーゼ復活は今考えてもヤバ過ぎるんよ

 超MOVIE大戦シリーズも悪くないけどさぁ

 

 ワイの世界と皆の世界はかなり違うみたいやね

 

 

 68 名無しの観測者 ID:MXYJbjTImG

 補足するとイッチは平成34年の住人ゾ

 

 

 74 名無しの観測者 ID:d6ZJowGi4s

 >>68

 えぇ……(困惑)

 †醜い平成の申し子†じゃん舗装しなきゃ……(使命感)

 

 

 

 75 名無しの観測者 ID:itoAPp3GQK

 イッチ今何してん? 

 

 

 

 76 一般エロゲ竿役忍者 ID:20sNB2kmn2

 さっきまで焼肉食べてた

 おいひい(๑´ㅂ`๑)

 

 

 

 79 名無しの観測者 ID:ciCIseXCp4

 また焼肉かぁ

 好きだねえ

 

 

 

 83 名無しの観測者 ID:wxIjvh9QCR

 夜は焼肉っしょぉ! 

 

 

 

 84 名無しの観測者 ID:TvvWX6A3Fn

 健太くんか、小沢澄子か佐藤太郎レベルの焼肉押し……キャラ作りに必死かな

 

 

 

 85 名無しの観測者 ID:qLezj5w4xG

 平成特有の飯テロやめろ

 

 

 

 88 一般エロゲ竿役忍者 ID:20sNB2kmn2

 焼肉好きなんだからしゃーないダルルォ!? 

 これ無かったら社畜で壊れてたわ! (´;ω;`)

 

 

 ふと思ったけどゲニンをコンスタントに殺せるって時点でパワーバランスが逝かれてるよなぁ……淫力ってやつシノビにはないぞ多分。あったらニチアサ壊れちゃ^〜う!(゚∀。)

 

 

 90 名無しの観測者 ID:aniawJdTGt1

 抱けっ!! 抱けーっ!! 抱けーっ!! 

 

 

 91 名無しの観測者 ID:g5voIgfGSZ

 >>90

 (首が折れる音)(赤いよだれかけ)

 

 

 94 名無しの観測者 ID:NpXrWghi7d

 それはそうと、誰と食ってたの? 

 女か? 

 

 

 97 一般エロゲ竿役忍者 ID:20sNB2kmn2

 タカマルくんとアキラさん、スズモリくん

 

 

 100 名無しの観測者 ID:kIbUvDXZ3t

 >>97

 ほぼ男ばっかじゃねぇかぁ! 

 ヒロインのハルカとナリカは!? 

 

 

 102 名無しの観測者 ID:PN7dsFLddw

 もういっそのことスズモリきゅんルートで……

 

 スズモリきゅんには女装してもろて、「ぼく……男ですよ?」っていってスカートたくし上げて欲しい。そこには一部が膨らんだスパッツが……

 

 

 

 105 名無しの観測者 ID:zBfkhdfuQf

 いやタカマルくんだろ

 絶対締まりがいいゾ。でもイッチのも締まり良さそうだし

 イチタカでもタカイチでもいいゾ

 

 

 107 タカイチ激推しリバは地雷 ID:7AfjIpRkYb

 イチタカは解釈違いです! 

 そうゆうのやめてください! ><

 

 

 

 108 名無しの観測者 ID:PYVrd3pq5J

 ┌(^o^┐)┐

 

 

 

 112 一般エロゲ竿役忍者 ID:20sNB2kmn2

 あの……そういうの無いんで……

 ハルカさんとはほぼ話してないどころか目ぇ逸らされてるし。これ初対面からずーっと

 気のせいかなーって思っていたけど確信したわ

 

 

 

 115 名無しの観測者 ID:fG8m3tpFCf

 >>112

 イッチなんかした? 

 

 

 

 117 一般エロゲ竿役忍者 ID:20sNB2kmn2

 いや、なにもしてないし覚えがない

 別に正体バレたってわけじゃなさそうだしなんか釈然としない(´・ω・`)

 

 

 

 120 名無しの観測者 ID:ziA9upwQwz

 実はイッチ、ヤろうとしたな? 

 

 

 

 123 一般エロゲ竿役忍者 ID:20sNB2kmn2

 >>120

 黒神さまに誓ってやってない

 目の前に本郷さんがいてすごい顔で詰められたり閻魔様に舌掴まれても何もしてないと胸張って言える

 

 憑依元の俺と揉めた可能性はあるかもだけど

 

 

 

 125 名無しの観測者 ID:N+mIbUfyI0

 うーん、この言い方からにじみ出る説得力

 閻魔様と本郷さんが同列扱いされているのには草

 

 

 

 127 名無しの観測者 ID:iw5c9p4w2t

 なら猶のことわからんな

 別にハルカさん自体誰にでも優しい娘のはずなんだが

 

 イッチの憑依元、モブだとは思うけど嫌な予感がするな……

 

 

 

 

 ◆◆◆◆◆

 

 

 焼肉、それは動物の肉や内臓を焼いて食べる極めて原始的でかつ歴史の長い料理である。

 定義こそ細かい違いがあるらしいが、まぁそんなことはどうだっていい。

 

 斉藤真太郎にとっての焼肉とは仮面ライダーアギト。もっと言うならG3ユニットである。

 

 彼らが焼肉を食べている姿を見た真太郎は彼は親によくせがんでいた。

 憧れた大人にきっとなりたかったのだろう。

 当時は狂牛病の時勢もあり、親はかなり渋い顔をしていたが時々連れて行ってくれた。

 

 その点で言えば家族にはかなり愛されていた方なのだろう、と真太郎は振り返る。

 

 いつか警視庁に入ってG3ユニットの一員としてアンノウンと戦うんだ、とかほざいていたのは大人になった今でも思い出す。

 子供の言うこととはいえ掘り返されると悶絶するような与太話だが。

 

 

 

 彼らが与えた影響は今でも続いている。

 アンノウンが、結果的に現実に取って代わっただけだ。

 戦うというより耐える形だったが、子供の頃見上げていた大人たちが存外酷かったり、理不尽な理由で怒られたり、自分のミスで他に迷惑をかけたりした。

 

 何度心が折れかけたかは分かりはしない。死のうとは思いはしなかったが何もかも投げ出して逃げようと思った。

 そうするたびに葦原が訴えてくる。

 どこに逃げても今は嘘になんかなりはしない、と。

 

 無論好物なのもあるが、焼肉を食べることは今日から逃げないための決意で、願掛けなのだ、と真太郎は自己分析をする。

 

 今となってはSNSで知り合いとダル絡みし、その面では色んな意味で駄目な大人と成り果てたが、心の支えであることには変わりはない。

 

 

 

 まぁそんなどうでもいい与太話はさておいて。

 

 

 

 

 

 

 肉の焼ける音がする。

 パチパチと油が弾け、水分が飛んでいく。

 赤い肉は焼き色を作り、香ばしい肉の香りが立ち込める。

 今か今かと待ち焦がれるこの感覚は焼肉を食べる上での醍醐味だ。

 

 ……この息苦しいメンツでなければ。

 

 

 閂市某所の真太郎が行きつけにしている焼肉屋の片隅のテーブルにて4人の客が七輪を囲んでいた。

 

 

 真太郎が今座っているところの向かいにいるのは紫色の髪の女性、黒鉄アキラ。

 戦術アドバイザーであり元閃忍。そのため立場としては高い方にいる。

 

 その隣にいるのは緑色の髪の少年、スズモリ。この面子の中では最年少だが閃忍のメインオペレーター兼雑用係。

 

 真太郎の隣にいるのは戦部鷹丸。

 現上弦衆の若頭領。つまりこの中では一番偉い人だ。

 

 

 上弦衆……というか今いる真太郎の派閥自体割と良くも悪くも上下関係が比較的アバウトな組織だ。

 それに堅苦しいのが嫌いな鷹丸……改めタカマルを筆頭に暇あれば集まってモンハン会をやっていることからなんとなく分かるはずだ。

 

 

 そうであっても、新人の忍びである真太郎は酷く浮いていた。

 無論タカマルと歳柄もなく男子学生レベルのしょーもない話をしていたのもあるし仲は良い方だ。

 なんとなく察したがこの世界の真太郎はそれなりに鍛えていたらしく身体能力はそこそこ高かったらしいため、上弦衆としての才能はあったのには違いない。

 

 

 

 

 だがしかしこの焼肉会はなんだ。

 タカマル個人については打ち解けてしまったせいでなんともないが、人と食べる焼肉というのは苦手だ。特に自分より立場が上でかつ立場無視した関係値はそこまで出来ているわけではないのだ。

 

 

 煙で少ない酸素を鼻で入れ替えながら、トングで肉を金網の上に入れては、菜箸で肉が焼けてはひっくり返し。それから焼き切ったものをタカマル、アキラ、スズモリの順番に配っていく。

 その様子に何か思うことがあったのか、スズモリが口を開く。

 

「内藤さん焼肉食べないんですか?」

「斉藤です。皆さんお先にどうぞー……」

 

 あまりハジけられない。流石にこの面子でモンハンの話は出来ない上に今この瞬間真太郎は座敷と一体化するために忍びの精神をすり減らしていた。

 

「ほら食え倫太郎。食わんと大きくなれんぞ」

 

「いえいえ……そんな……悪いですよ。あと俺真太郎です」

 

 ほれほれ、とアキラが真太郎から菜箸を取り上げて肉を、野菜を次々に小皿に乗せていく。

 この世界の真太郎自体どうも上層部の甥っ子らしく、その縁で上弦衆に入ったらしい。きっと代々から受け継がれきっと強い使命感を持っていたに違いない。多分。

 どこかの黄金騎士みたいな一族を想像しながらもふと真太郎はあることに引っかかった。

 

 元いた世界に忍者の親戚なぞいなかったはずだが。

 

「まるで借りてきた猫だなあ、海東さん」

 

 遠慮して肉を焼き続けている真太郎の態度にへっ、と笑うタカマルの例えに真太郎は顔を引き攣らせた。

 確かに上弦衆野郎連中だけで集まってモンハンをやっているときほどハジケてはいないし、普段は真面目で通している……つもりだ。

 とはいえオフ時は狂暴なヤツみたいに言われるのはすこしばかり心外だ。

 

「猫なんて殊勝なタマか、猫だけに。あと俺、斉藤」

 

「っかしいなぁ……この店空調壊れたか?」

 

「お、おのれ……」

 

 タカマルの容赦ない返しにがっくり項垂れる真太郎。しかしながら貰ったものは無碍にはできない。アキラからもらった熱々の肉に辛口のタレをつけ、頬張る。

 ピリ、とした豆板醤の味が口の中を刺激してから、タレの水分でいい具合の温度になった脂の載った肉の味が口の中に広がっていく。

 

 そして、事前に頼んでいた白ご飯も頬張りながらも次の焼肉へと箸を導く。

 

「いい食いっぷりじゃあないか。健啖家は若さの特権だ。ほら、お前たちも食った食った。今日は奢りだ」

 

 アキラに促されるがままにタカマルもスズモリも焼けた肉と野菜を各々口の中に放り込んでいく。

 人の金で食べる焼肉は美味しい。だが、食べ過ぎるのも少しばかり申し訳ない気もする。なんてことを真太郎が思考していると、いつの間にか隣のタカマルはメニュー表を開いていた。

 

 ──この頭領、遠慮してねぇ! 

 

「すみませーん。店員さんタン塩カルビハラミ特上骨付きカルビ、あとビビンバクッパ激辛キムチサンチュわかめサラダときのこ盛り合わせお願いします」

 

「……少しは遠慮しろ」

 

 世の中には二種類の人間がいる。

 人の金で食う焼肉を最高だと思う人間と、加減の仕方がわかなくて結局おいしく食べられない人間だ。タカマルは紛れもなく前者であった。

 想定以上の頼みっぷりにアキラが頭を抱えていた。

 

「あっ──申し訳ございません。その……きのこの盛り合わせなのですが」

 

 店員が心底申し訳なさそうに切り出してきたので真太郎は何となく察した。

 ああ、品切れか──と。だが問題はそこではなかった。

 

「本日は品切れになっていまして」

 

 今真太郎がいる焼肉屋は30分前に開店したばかり。加えて周囲に客は今のところ疎らできのこがすべてなくなるなんてことは考えにくい。

 そんなバカな話があるものか。真太郎は店員に声をかける。幸いオーダーを取っていた店員は真太郎に気づくと「あ、今日はおひとり様じゃないんですねえ」と言いつつ軽く会釈した。

 この世界にやってきても平然と続けてきた一人焼肉がよほど浮いていたに違いない、完全に顔を覚えられていた。

 

「何かあったんですか。開店してからそんな」

 

「それが仕入れのため向かっていたトラックが事故を起こしてしまって。しかもその運転手とも連絡が取れないし病院に運ばれたって報告もないらしくてどうしようもなくて……すみません、メニュー表取り換え出来てませんでした。今取り替えてきます!」

 

 慌てて店員はメニューをタカマルから預かってそそくさとこの場から離れていく。

 そんな彼の後ろ姿を見ながら、真太郎は「タイミングが悪いですね……」と溢す。

 

「しかも運転手エスケープときた」

 

 タカマルが付け加える。よほど事故ったのが嫌だったのだろう。気持ちは分からなくもないがそんなことをすれば信用が落ちる一方で得策とは言えない。

 これこそ『逃げても今は嘘にはならない』というヤツだ。

 

「……」

 

 スズモリが顔を顰めている。彼の隣のアキラも同じだった。

 よほどきのこが食えなかったのが堪えていたに違いない、なんて思いもしたが実際のところはそうでもなかったらしい。アキラが口を開いた。

 

「それがな──数日前似た事件が閂市で起こっている。そいつは七輪を乗せたトラックで事故を起こし運転手が行方不明になっているんだ」

 

 

 事件の──匂いがした。

 




 イッチについて

 魂のほう(2022年の世界)
 平成34年の時代、平ジェネも2作で終了、令和が存在しない世界から現れている。
 焼肉が大好物で、砕けると顔文字をよく使う。
 元々戦いに消極的だったが、ノロイの暴虐を見て積極的に戦うように。

 元々サラリーマンで、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()
 名前は斉藤真太郎。



 体のほう(2008年の世界)
 上層部の甥っ子らしく縁故採用でもあったらしい。新人上弦衆スタッフ。
 ちなみに小柄な部類であり、タカマルより実は身長が低い。よくて170㎝行くか行かないか。それなりに動けるようで、生身の大人一人なら簡単に沈められる。
 だが、タカマルほどではないらしい。
 一応名前は斉藤真太郎のようだ。



 何故か名前をよく間違えられる。内藤だったり海東だったり佐藤だったり仁藤だったり倫太郎だったりする。
 あのタカマルやアキラ、スズモリですら()()()間違える。当人はおちょくっているつもりではなく素。


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キノコ狩りの女……?②

130:一般エロゲ竿役忍者 ID:20sNB2kmn2

 ハルカさんについては独自で調べるとして、事件の話していい? 

 

 

132:名無しの観測者 ID:Dk9spFKrG

 >>130

 なんや事件って

 

 

135:一般エロゲ竿役忍者 ID:20sNB2kmn2

 なんかトラックの事故と運転手の行方不明事件が短日で複数件出てて

 気のせいかもしれんけど、ちょっと事件の香りがして

 

 

136:名無しの観測者 ID:XFqCyMYIA

 トラックが事故って人が消える。この町ではよくあることだ……

 

 

139:名無しの観測者 ID:vg/ZlwUKm

 >>136

 ねえよ! あってたまるか! 風都じゃねえんだぞ! 

 

 

143:名無しの観測者 ID:AdJjENKW8

 行方不明って蒸発したって……コト!? 

 

 

146:名無しの観測者 ID:B6bGXr8xwj

 >>143

 特撮あるあるやんけ。ミラーモンスター*1かな? 

 

 

148:一般エロゲ竿役忍者 ID:20sNB2kmn2

 >>146

 ミラーモンスター……シノビじゃ対抗できないやんけワレェ! 

 

 

151:名無しの観測者 ID:N+mIbUfyI0

 >>148

 龍騎の力使わずに晴人とソウゴがミラーワールド侵入できてるんだからシノビだってお得意のニンポ使えばへーきへーき

 

 

152:名無しの観測者 ID:ffRRWRDQd

 ??? 「出して! 出してええええええええええええ!!!」

 

 

155:名無しの観測者 ID:m1aOOKr4B

 トラックの運ちゃん蟹ったか佐野ったのか……

 

 

158:名無しの観測者 ID:0Rf56yVvm

 >>155

 その言い方やめなさい

 他作品が混ざるとなると面倒なことになるな……

 

 

161:名無しの観測者 ID:tEUmeMGwJ1

 ハルカサイドのキャラでそんなヤツいた? 

 

 

162:名無しの観測者 ID:iw5c9p4w2t

 アルメールか……いや、それならもっと派手なはずだ

 他に情報はない? 

 

 

164:一般エロゲ竿役忍者 ID:20sNB2kmn2

 情報が少なすぎる。こっちはこっちで調べてくる。

 何が起こっても不思議じゃない現状変に先入観持ってるとなんかヤバそうな気がする。

 

 

166:名無しの観測者 ID:iw5c9p4w2t

 あいわかった。情報まとまったらおせーて

 それでもある程度情報を持っていたほうがいいはずだ

 

 

168:一般エロゲ竿役忍者 ID:20sNB2kmn2

 おけ。調査に

 イテキマース! (AIBO)

 

 

 

 ◆◆◆◆◆

 

「うわ……こりゃひで」

 

 

 真太郎の役割は何も護衛だけではない。タカマルが指令部。つもりもっとも安全なところにいたり護衛が足りてしまっている時には避難誘導、事件現場検証とやることは多岐に渡る。

 

 今回事故に対しての違和感が拭えなかったのもあり、スズモリは現場に向かうことにした。今回真太郎はそのアシスタントという形となる。

 

 件のトラックは事故から然して時間がたっていなかったということと現場保存という観点上、そのままであった。

 当然この周辺は閉鎖されており、一般人は侵入できないようになっている。

 そこにスズモリと真太郎は他の上弦衆とともに検証に入る形となった。アキラとタカマルは一旦指令室に引っ込んでおり現在この場にはいない。

 

 

 その現場に入るや否やの真太郎の第一声がそれであった。

 焼肉とは違う方向の焦げ臭い匂いが鼻腔をくすぐり不愉快さを煽る。トラックは通常ではあり得ない動きをしてからそのままコンビニに突っ込んだようだ。

 

 アスファルトに刻まれた黒々としたタイヤの跡がそう物語っていた。

 酷く曲がりくねった後そのままコンビニへと伸びていく。そしてそのままコンビニに突貫。

 トラックを見ると車止めの銀色のガードレール、つまりバリカーをへし折り、ガラスをかち割ったものの車高とコンテナが邪魔をしてやっとこさ止まったように見える。

 

 これを運転ミスでやらかしたのならば運転手はクビでは済まされないだろう。

 店の修理費や営業損害で数千万吹っ飛ぶとかどこか風のうわさで聞いたことがある。

 

「こうしてみればただの交通事故なんですけどね……」

 

「ノロイというのは操呪の印で負の感情を加速、暴走させることができるんでしたっけスズモリ先輩」

 

「えぇ。兆候が見られなかった人の突発的な自殺や犯罪行為はそれが原因ではないか、そういわれています」

 

 ノロイの掲げる恐怖と絶望による平和。その一環が自殺など極端な行動に出させることなのだろう。

 確かに人が減れば争いの数は減る。ずいぶんと捻くれた連中だ、と真太郎は一人ぼやきながら録画中のビデオカメラ片手にトラックの観察を始める。

 

 見た所なんの変哲もないトラックだ。

 まず手始めに見た運転席は、ドアが変形した状態で半開きとなっていた。接続面はどこか強引に引きちぎられたような跡がある。

 

「スズモリ先輩。歪んだドアって力づくで開けられるんですかね」

 

「人の力ではおそらく無理でしょうね……」

 

「んじゃ、次荷物ですね?」

 

「それが……」

 

 スズモリの顔を見て何となく察した真太郎は次にコンテナの中へと場所を移す。すると──

 そこで待っていたものは──空洞だった。

 本来きのこを収めた箱やらなにやらがいっぱいあったであろうそれはいずれも空箱と化しており、品物は何一つとして残されていなかった。

 

「警察が閉鎖した時点で既に空っぽだったと聞きます。監視カメラにも怪しい人影はなし──となれば」

 

「運転中に何かあったんでしょうね。現状ノロイが何かやらかしたとしか考えられない」

 

 運転中の車に何かをしたか、それとも監視カメラを搔い潜って何かをしたか。このいずれかが出来るのは確かにノロイ以外考えにくいものであった。

 ミラーモンスターがキノコを食ったりしているなんて話は聞いたことがない。頭からラーメンぶっかけられたヤツしか覚えがない。

 

「……前回の運転手が行方不明となった事故なのですが、こちらは積み荷が壊されているみたいなんです。一つ残らず」

 

「七輪か……きのこに七輪……きのこパーティーでもやるつもりか?」

 

 ノロイというのは案外庶民的なのかもしれない。……いや、流石にいくら何でも無理があるし、間抜けすぎる。それに七輪が破壊されているとなるときのこパーティー云々の話とは繋がらない。

 

「いやそれは無いと思うんですけど」

 

 当然スズモリが否定したところで真太郎の間抜けな推測は消し飛んだ。しかし、何か思うことがあったのかスズモリは言葉をつづけた。

 

「でも、ノロイの怪忍というものは生前何かしらの執着や怨念、恨み、憎悪を持っていたのが殆どです。もし仮に同一犯だと仮定した場合、きのこを盗み、七輪を破壊するという行為で何かしらの『恨み』が晴らされているのではないかと」

 

「……業岡一全が罪人を裁くように、か」

 

 仮定に仮定を重ねた形なので、あまりアテには出来ない。

 もしかしたら上手く行き過ぎた強盗やただの過失が重なっただけなのかもしれない。とはいえ、アキラのカンはそうではないと結論づけた。

 素人同然の真太郎が何か異論を唱える余地はあまりない。

 

「とはいっても情報が少なすぎて何とも言えないのが現状です。運転席に何かあれば良いんですけど」

 

 再び、スズモリと真太郎は運転席に向かう。

 とはいってもそんな都合よく何かが残っているはずもない。

 ほぼ──何も分からない状態であった。当然、あのカエル型メカも反応せずただぽつんと真太郎の掌で鎮座するだけで何もしてくれなかった。

 

 

 ◆◆◆◆◆

 

250:一般エロゲ竿役忍者 ID:20sNB2kmn2

 という感じで、ドン詰まり状態。

 地球の本棚じみた使い方になるけれど有識者兄貴に聞きたい

 

251:名無しの観測者 ID:ocV1ucWri

 もどかしいな。次の事件が起こるまで推理もままならないのは

 

 

253:名無しの観測者 ID:qLezj5w4xG

 >>251

 またトラックがやられるのか……

 

 

254:名無しの観測者 ID:iw5c9p4w2t

 七輪ときのこ

 このキーワードから察するに茸群道人じゃなかろうか

 

 

256:名無しの観測者 ID:CldnMJq7X

 >>254

 茸群道人? そいつが今週の怪人か

 

 

257:名無しの観測者 ID:R67fsNyYw

 毎度思うけど、エロゲ博識ニキ本当に頼りになるな……

 

 

262:名無しの観測者 ID:iw5c9p4w2t

 俺が頼りになるかというとそうでもない

 正直想定外の出来事も起きているみたいだからあまり鵜呑みにしないでほしい。この時点でまだハルカさんだけで頑張っているみたいだし

 

 話しを戻すが茸群道人はキノコがこの地球を支配することを目論んでいるキノコ型の怪人でさぁ

 

 頭に編み笠っぽいのが付いていて、全身緑色の化け物でして銀魂の沖田みたいな江戸っ子口調のしゃべり方をしているのが特徴ですぜぃ

 

 ……俺の知る限りではあいつがトラックを狙うなんて真似したのは初耳なんだが

 

 

263:名無しの観測者 ID:g5voIgfGSZ

 >銀魂の沖田みたいなしゃべり方

 リュウタロスみたいな声してそう(こなみ)

 

 

265:名無しの観測者 ID:GVifJcqsGT

 仮面ライダーとキノコか

 よく出てくるけど碌な思い出がない*2

 

 

269:名無しの観測者 ID:NFSvKgtJtm

 形状としてはトードスツールオルフェノク*3を緑色にした感じか

 

 

270:名無しの観測者 ID:7wC+9pTE9

 前回の業岡一全のように手ごわいかもしれんな

 

 

273:名無しの観測者 ID:tncgYIpQa5

 シノビは火属性の技を持っているはずだからそこまで苦戦はしないと思うけど……

 

 

 

 

 

 

 

452:名無しの観測者 ID:V1AuBV0MH

 あれ? イッチ落ちた? 

 

 

 

 ◆◆◆◆◆

 

 

 調査が終わってからは真太郎は昭和のかおり漂う喫茶店でぼんやりとスマホを弄っていた。

 暇あればスマホを弄る。2022年人の悪癖とも言えよう*4

 

 この世界に生きてきて分かったのだが、この世界の住民にはこのスマホを認識できないようだ。

()()()()()()()()だからなのか。あちら視点では二つ折りのケータイとしか見えていないらしい。

 

 

 話を戻そう。

 今回の事件の犯人がある程度目星が付いたところで、あとは上弦衆をそういう答えに導くにはどうすればいいのかということだ。

 数学においても解だけ出しても不完全なように、過程をはっきりさせないことには「お前何言ってんだ」ということになる。

 

「おまたせ致しました。どんぶらピーチパフェでございます」

 

 店員が真太郎の席に大きなパフェグラスにぶち込まれたピーチパフェを置くとそそくさといなくなる。

 焼肉ばっかり食べているイメージがあるかもしれないが違うものも食べるときだってある。身も蓋もないが、美味しいものはなんだって美味しいのだ。

 その中でも焼肉が大好きなだけで。

 

 その名の通り大きな桃がぶち込まれており、アイスもピーチ味と桃、桃、桃と桃尽くしだ。

 ピーチと謳いながらなぜかプリンもふんだんにぶち込まれており、そのボリュームと甘さから大の大人ならうんざりすること間違いなしだ。

 

「いただきます」

 

 憑依元のお金は生活するうえで最低限に、自分が憑依してから手に入れたお金をメインに使うようにしている為、趣味には多少走るつもりはあった。

 それに加えて稼いだ金の一部は憑依元が稼いだであろう口座に振り込んでおく。

 いずれこの体はこの世界の真太郎に返す時がきっとくる。そう真太郎は信じていた。

 

 スプーンに手を伸ばし、まずはアイスを掬って口に運ぶ。

 舌に乗った瞬間、アイスの冷たさと桃特有のさわやかでかつ暴力的な甘さが通りすがる。

 

 ──あぁ、いいっ

 

 この瞬間のために生きているような、そんな幸福感がある。焼肉を食べた後のスイーツも最高だが、最初から食べるスイーツも最高というものだ。

 真太郎が味に恍惚としているさなかであった。

 

 

「うえええ……っ」

 

「どっ、どうしたのトモくん?」

 

 子供のえづくような声とそれを心配する母親の声が聞こえてきた。

 食っている時になんて声を聴かせるんだ、と少しばかり不機嫌になりながら真太郎は声のしたほうを向くとそこには育ちの良さそうな子供と、明らかに高そうな服を着た母親がグラタンを食べていたのが見えた。子供の顔はひどく、この世のものではないものを食わされたと言わんばかりの顔をしていた。

 

 この喫茶店において不味いものは置いてなどいない。コーヒーやパフェは言わずもがな、特にパスタやグラタンも絶品であり値段も比較的リーズナブル。

 真太郎にとっては最高の店であった。だというのに──

 

 ──いやまて、アレルギーの可能性だってある。

 

 アレルギー、それは持つものにとって「食べる」という行為に大きな制約をもたらすことになるものだ。先天性のものもあれば後天性のものもあり、真太郎とて無縁とは言い切れないものでもある。

 無理に食べようとしようなら、最悪死に至ることもあり得る。

 

 真太郎が神妙な顔をする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 が。

 

 

「キノコぉぉぉ……だいっきらいなキノコが入ってたよぉ……」

 

 ただの好き嫌いであった。

 思わず白目を剥きかけた。ここの料理は店長が独自に調達した選りすぐりの素材を使っており不味いことはない。……のだが好き嫌いが介入すると美味しいが介在する余地は大きく狭まる。

 真太郎も少し同情はする。真太郎とて子供のころ野菜類が苦手だったのだ。なんであんなものが存在するんだと一時期思ってもいた。

 大人になるにつれ何も思わなくなったし今となっては焼肉と一緒に馬鹿みたいに食べてはいるが、子供の頃感じたものもまた、本物だ。

 

 

「あらあらあらっ! 山菜ミートグラタンって名前だったのに……あとで店員に文句言ってやるわ!」

 

 知っている人間も多いとは思うが、キノコは元々野菜のカテゴリには入らない。菌類であり分類上カビに近いもので、菌糸という菌類の小さな体が集まって皆の知る形となっている。

 そのため山菜の内には入らない……というわけだ。

 

 店が悪いのか、親が悪いのか。

 それを論ずるほどのものは真太郎は持ち合わせていなかったし、曲がりなりにも当人の金で買ったものとはいえ、少しばかり気分が悪かった。

 せっかくのパフェが不味くなりそうだ。

 

「ママぁ……」

 

 泣き顔を見せる子供に母親は胸を張って言葉を紡ぐ。

 

「食べなくてもいいのよトモくん。世の中には好き嫌いなく食べろ、なーんて言う人もいるけどね? ママは違うわ! 子供の自由を尊重するの! それにたかが嫌いなものの一つや二つ、食べなくたって死なないもん。アレルギーの人だって生きているでしょう? 一緒よ」

 

 好き嫌いの話でアレルギーを持ち出してくるんじゃない。

 真太郎の頬が少し引き攣った。小学生の頃アレルギーだったのにも関わらず好き嫌いと断じられて給食を食わされていた同級生の姿を思い出す。

 そんなひとりイライラしてきた彼を他所に子供は泣き顔から一転してパッと笑顔を作る。

 

「ママ―! カッコイイ!」

 

「ほーら、フォークで刺してシメジなんかポーイ!」

 

 母親がフォークを握って乱雑に子供の食べていたグラタンからシメジを突き刺し、紙ナプキンの上へと除けていく。

 

「もういっちょポーイ!」

 

「もういっちょぽーい!」

 

「ポイポイポーイ!」

 

「ぽいぽいぽいのぽーい!」

 

 そんな母親に倣った子供がフォークで突き刺して除けていく姿に真太郎は思った。いつか子供が出来た時、こんなことは絶対にしないようにしよう、と。まぁ──子供以前に彼女の一つも作れずに一人で焼肉を食っているようなヤツが誓っても意味がないのだが。

 ……あれ? 自分で言ってて悲しくなってきたぞ。

 

 嫌悪感に苛まれながらどんぶらピーチパフェを引き続き食べようと、進まないスプーンを握ったその時だった──

 

 

 

 ヒュッ──と、何かが風を切った。

 カッと乾いた音を立てて、先ほどの親子の机に何かが刺さっている。それは長細い竹楊枝であった。

 

 今のが人に当たれば深々と刺さっていたであろうそれに気づいた母親が咄嗟に気炎を上げた。

 

 

「ちょっと! 刺さる所だったじゃあないの! 楊枝のサービスなら食事の後にしなさいよ! 大体ねえ! 山菜だと謳っておいて────いっ……ひいいっ!?」

 

 その気炎は長くは続かなかった。突如何か信じられない何かおろしいものを見たような顔をした母親が悲鳴を上げる。

 慌てて、楊枝の飛んできた方を見るとそこには──

 

 全身緑色、長細い四肢に、編み笠状の傘を持つキノコ人間がそこにいた。明らかにこの世の者とは思えないフォルムに真太郎は眼を見開いた。

 

 ──あれが茸群道人ってヤツか! 

 

 慌てて真太郎は通信機の録音機能をオンにしつつ、机の上に置き茸群道人を前に構えをとったものの──

 

「邪魔でさぁ」

 

 低い声で吐き捨てると同時に裏拳気味に放たれた長細い腕で真太郎の体はいともたやすく吹っ飛んだ。

 がしゃんっ! と音を立て近くのテーブルにその体が突っ込み、それに伴って割れた皿と机に置いてあったフォークとナイフが体に刺さる。

 

「ぐぁっ!?」

 

 ──つぅっ!? 

 

 鈍い痛みが走ると同時に、そのテーブルについていた男女が真太郎そっちのけで喫茶店から脱兎のごとく逃げていく。

 

「きゃあああああああああっ!」

 

「ばっ、ばけものおおおおおおっ!」

 

 見捨てる形ではあるとはいえ、見捨てられた真太郎は上弦衆。どんな人間であれ人の命を守るのが仕事だ。勝手に逃げてくれるなら好都合だ。とはいえ、先ほどの衝撃で体と頭が言うことを聞かなかった。

 シノビですらノロイと戦って多少ダメージを受けるのに生身の人間が受けて無事でいられるはずがない。

 

 シノビになれば戦えるはずだ、と淡い期待を抱きながら、懐に忍ばせたシノビヒョウタンに手を伸ばす。

 ……がそこには何もなかった。

 

「……くっ」

 

 先ほどの攻撃で瓢箪があらぬ方向に吹っ飛ばされたようだ。床に転がるそれを見て真太郎は慌てたが、どうも茸群道人はそれに気づいてはいない。

 真太郎はうまく立ち上がれない体に鞭を打ち、テーブルの上から床に転がり落ちる。

 

 どさっ、と音を立てて全身から激痛が走り頭を酷く打った真太郎は自らの意識を強く保ちながら這いながらシノビヒョウタンに目掛けて進む。

 

 痛い、全身が悲鳴を上げている。

 このまま下手を打てばおそらく自分は殺されるであろう。そう思った途端、全身が笑い始める。力が思うように入らない。

 けれどもここで立ち止まれば自分も死ぬし、あの親子も無事ではいられない。

 

 ──許すわけにはいかない。

 

 笑う体を宥めながら必死に這い続ける真太郎。

 そのさなか、茸群道人が親子に迫っていた。

 

「きっ……キノコのお化け……」

 

 母親の茸群道人に対する評は正しかった。あの茸群道人はキノコに思考能力と四肢を与えたようなものだ。

 そしてその楊枝と編み笠はまるで木枯し紋次郎のようにも見える。

 

 しかし、母親の言葉に茸群道人は首を横に振った。

 

「お化けェ? へへっ、冗談言っちゃあいけやせんや。あっしゃ、生まれは木の中、陰の中。ノロイ党が一人。妖門胞異・茸群道人でさあ」

 

 推測通りの名前であった。スレ民の慧眼に感服しながらも、なおの事放置は出来ないという思いが加速する。

 真太郎としてもキノコ型の怪人に対していい思い出がない。何せ仮面ライダークウガを一度死に追いやった怪人と同じモチーフなのだから。

 

「ノ、ノロイ党? ノロイ党のキノコが善良な私たちに何か用なの?」

 

「善良……ねぇ? 今その皿から避けた紙の上の物は何で?」

 

 自分から善良という母親に呆れそうだった。這う真太郎の体が徐々に重たくなっていく。

 茸群道人に詰められた母親は震える声で答える。

 

「し、シメジよ。息子が嫌いだから……」

 

「シィメェジィ~~ッ!?」

 

 化け物の素っ頓狂な声が親子と真太郎、茸群道人以外いなくなった喫茶店の中に響く。

 

「どぉーして嫌うんすか~~? シメジの何がよくないんすか~~、坊ちゃん? あぁん?」

 

「え……えっと、ヌルヌルしてる所とか、歯ごたえとか気持ち悪い形とか……なっ、何もかもかな!」

 

 こんな状況ではっきりと言う子供。

 このまま茸群道人を煽り立てようなら、変身する前にあの親子は殺される。上弦衆も騒ぎを聞きつけて助けに来るだろうが、時間はおそらくかかるのは明白だ。

 それに窓からはヌンジャ、ヌンジャと聞きなれた嫌な鳴き声が聞こえてくる。ハルカが来たとしても、たとえ彼女ほどの手練れでも連中を始末するのには多少時間がかかるだろう。

 

「シメジの怒り──思い知りなぁ」

 

 ふと、真太郎が茸群道人のほうを見ると、どこからか取り出した巨大なシメジの束を子供の鼻と口に突っ込んでいた。

 

「ふがっ……ふががぁ……ふもっふぁっ!?」

 

「トモちゃああああああんッ! なんてことをするの化け物!」

 

 なんでそう、相手を怒らせるような言葉選びをするのか。死にたいのか。

 苛立ちを募らせながら真太郎は再び進む。

 

「シメジづくしなんざ、優しいもんじゃねえか。罪のないキノコを蔑むなんざ磔、打ち首にされたって仕方ねえっしょ……」

 

「キッ……キノコなんてただ食べられるだけの存在じゃない! 大人しく食べられてなさいよぉっ!」

 

 ──だぁーかーらぁーっ! 

 

 母親の気炎に真太郎は思わず黙ってろと言いかける。しかしここで声を上げようなら気づかれてデッドエンドだ。息を飲み、衝動を抑え込む。

 

「食べられるだけだぁ? キノコは仲間を騙さないし、キノコは自然を破壊しないし、キノコは戦を起こさない。動くだけならいざ知らず、世間に迷惑をかける人間衆に比べりゃァ──ま、随分マシな存在と思いますがねェ」

 

 さすがにここまで言われたとなると黙らざるを得なかったらしい。その様子に真太郎はそのまま黙っていてくれと心の底で祈りながらシノビヒョウタンに手を伸ばす。──ダメだ、届かない。

 

「へへっ、言い返せませんっしょ? 不肖このあっしが物言わぬ世間のキノコに代わって代弁してるんすよ。アンタらが見下してる生き物ンが、どんだけ真っ当な存在なのかってねぇ」

 

「ひっ……来ないでぇ!」

 

 もはや言い争う体力も精神力も削がれ切った母親が弱弱しい声を上げる。

 

「好き嫌いしないからっ! キノコ食べるから──ほらっ」

 

 そして慌てて取りよけたキノコを口の中に慌てて突っ込んだその次の瞬間だった。

 

 

「この唐変木があああああああッ! 善良なキノコを食べてんじゃあねえええええええっ!」

 

「ぎゃっ」

 

 真太郎を吹き飛ばしたものと同じか、それかそれ以上の拳が閃いた。

 そしてそのままキノコを口にした母親に叩き込まれた。吹き飛んだ母親の体は壁際まで飛び、スカートがめくれ上がり顔は化粧が涙と涎と血でぐちゃぐちゃになり果てていた。

 

「ママぁ!?」

 

 シメジの束を引き抜いた子供の叫びがこだまする。しかし母親は失神しているのか物を言わず、恐怖のあまり耐えきれなくなったのか床には小さな水溜まりを作っていた。

 

「さて……大人なうえにキノコを食べたアンタにゃあ容赦しませんぜ。仲間のキノコの苗床になって養分にでもなってもらいましょうかねえ? それとも、マツタケでアダルト責めにでもしましょうか? へへっ」

 

 

 

 下衆な笑い声が聞こえる。これ以上お前を笑わせないと、必死に瓢箪へと手を伸ばす。

 そしてようやく──手が触れた。指で引っ掻くように引き寄せ、掴むと咄嗟に栓を抜く。

 

「たす……けて」

 

 助けを呼ぶ──声がした。

 子供の、母親の助けを呼ぶ声だ。

 

 ──必ず助ける

 

「誰か……ママを……助けて……」

 

 ──お前たち親子は嫌いだけど

 

「だっ、誰かママを! 助けてえええええッ!」

 

 ──俺じゃ頼りになんないかもしれないけれど

 

 ひた、ひた、と壁に叩きつけられた母親に茸群道人が迫る音を聞き、床に寝たまま隠れた状態の真太郎は慌てて腹部に巻き付いたシノビドライバーにメンキョカイデンプレートをセット。そのまま勢いよくプレートの手裏剣を回し、真太郎は吠える。

 

「やめろおおおおおおおおおッ!」

 

【誰じゃ? 俺じゃ? 忍者! シノービ・見ッ参!】

 

 

 

 

「誰でさァッ!?」

 

 店内に不自然なほどの風が吹く。それはシノビが現れたという証。

 茸群道人が慌てて真太郎の方を向くがもう遅い。既に変身は終わった。

 ゆらり、と全身への痛みに耐えながら深紫の忍び、略してシノビは立ち上がる。

 

「俺だ……お前の邪魔をしに来た……忍者だッ!」

 

 ギロリ、とシノビの黄色い目が鋭く輝く。そして次の瞬間、茸群道人にシノビが飛び掛かり、外目掛けて店から飛び出した。

 シノビと茸群道人がアスファルトの上をごろごろと転がっている中、茸群道人は慌ててシノビを蹴り剥がしひょいと立ち上がる。

 蹴り剥がされ、同じく立ち上がったシノビがシノビブレードを引き抜くと、茸群道人も頭の傘を整えなおすと腰に収めたシノビブレードと同じくらいの小太刀を引き抜いた。

 

「さっきまでどこに居たんですかねェ……まぁいい。おたくも目の上のたん瘤ってヤツでねえ……大人しく養分になってもらいやしょうか……ッ!」

 

「……来い」

 

 茸群道人が構えをとると、先ほどの気の抜けた物言いからは想像のつかないような殺気が彼を中心に広がった。

 ぞわり、と仮面の下の真太郎の鳥肌が立つ。

 

 素人でも分かる。真太郎の本能が警鐘を鳴らす。

 こいつは──ただ物ではない、と。

*1
仮面ライダー龍騎の歴史に存在した怪物。虫、動物、幻獣とそれぞれ個体によって異なるモチーフを持ち多種多様な姿を持つ。ミラーワールドと呼ばれる鏡の中の異世界に住まう。同じミラーモンスターのエネルギーや現実世界の人間の命を喰らわなければ存在し続けることはできない。そのため2002年から2003年にかけて人間が捕食され続け、結果行方不明事件が多発していたが……

*2
仮面ライダーアマゾンや仮面ライダークウガに登場したキノコ怪人のことと思われる

*3
仮面ライダー555に登場した怪人の1体。モチーフはキノコであり、敵組織スマートブレインの刺客として「九死に一生」を得た少女を攫おうと目論む。棒術を得意とし、毒の胞子も放つことができる

*4
勝手に巻き込むな




 原作からしてそうなんですが、怪忍相手にレスバしようとする閂市民メンタル強すぎん……?

 そして頑なに変身とは言わない男、斉藤真太郎。




 4/10 まさかキノコがキノコの間で会話してる可能性があるなんてイギリスで発表されるとは思わなんだ


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キノコ狩りの女……?③

 茸群道人。その力は単純な剣術もさることながらその軽やかな動きは脅威であった。

 小太刀による斬撃をシノビブレードでいなしながら、シノビの仮面の下で真太郎は反撃の機会を伺う。

 

「ほらほらどうしたんでさァ! 動きが鈍ってますぜぇ!?」

 

 事実先ほどの喫茶店で受けた一発がなかなか効いていた。蹴りを放とうとしてもあのキノコはひらりとバックステップしてかわしてしまう。

 再び距離が取れた所で仮面の下の真太郎は口を開いた。

 

「チッ……あのトラックの事件、やったのはアンタか」

 

「ご名答」

 

 茸群道人がニタリと笑う。

 しかしながら七輪とキノコなんて何の関係があるというんだ。再びシノビブレードで鍔迫り合いに持ち込みながら問い詰める。

 

「唐変木が……いくつものキノコを葬り、食用なんて戯けたことをさせるしみったれた殺しの道具にかける情けなんてありますかねェ……?」

 

「殺しの道具?」

 

「だってそうでしょう? おたくらも焙られてみるといいでさァ。まぁ、その前に干からびるまで養分になって貰うのが先決ですがねェ」

 

 養分。おそらく何処かで行方不明になったトラックの運転手は養分にされているのだろう。

 干からびるというのはきっと比喩なんかじゃない。そんな予感が真太郎にはあった。

 

「それぇい!」

 

「うわっ!」

 

 シノビブレードを押しのけられ、一撃二撃と斬撃を叩き込まれる。

 技量差をシノビの性能と体の性能でこれまで押し切っていたが、その体そのものがダメージを受けている現状完全にあちら側の方が上であった。

 

 血しぶきの代わりに飛び散る火花。しかしシノビの装甲は伊達ではない。肉を切らせて骨を断つように深々とシノビブレードでその胴体を掻っ捌いた。

 手ごたえは――あった。

 

 慌てて茸群道人は後退し、ゆらりとよろけており先ほどまでの余裕は残っていないようにも見えた。事実傷口からは血の代わりに黒々とした瘴気が漏れ始めている。

 それを手で覆い隠していることからあれが深手になっているのは明白だ。

 

「ぐおぅっ!? 中々やってくれるねェ……」

 

 ラッキーパンチだ。しかしこれでまだシノビの優位性はある。真太郎自身が倒れない限りは――恐らく。

 再び膠着状態に陥った所で――

 茸群道人の持っていた小太刀が金属が弾ける音と共に。宙を舞った。

 

 それは、シノビの上を通って放たれたモノであった。通常の忍者が使うであろうクナイの一回り大きく山吹色の装飾がされたソレの持ち主――真太郎も知っているものだ。

 

「何やつでさァ!?」

 

「悪鬼彷徨う現の闇を払うは月影──我、上弦なり──。想破上弦衆が閃忍、ハルカ! 見参!」

 

 閃忍ハルカ。先ほどまで民間人を襲うゲニンの処理を行っていたようだが今しがた終わったようだった。倒れたシノビの前にビルから降り立ち、投げたものと同じタイプのクナイを新たに取り出して構えをとりながら倒れたシノビを一瞥した。

 

「忍びさん! 大丈夫ですか!」

 

「……問題ない。ありがとう」

 

 しかしこれで形成逆転。2対1は卑怯かもしれないが、ここで手段を選んでは犠牲者がもっと増えるというもの。茸群道人の胸には先ほど叩き込んだ斬撃の傷口がある。そこを付け込めば勝ち目はあるはずだ。

 

「こいつぁいけやせんや。深紫の忍びに上弦衆。いくらあっしでも骨が折れるというもの」

 

 茸群道人がおもむろに手を上げる。

 すると――後ろのビルの入り口から民間人がぞろぞろと姿を見せた。

 

 こんなところに来るのは危険だ。シノビもハルカも慌てて声を上げて避難しろと促そうとしたが――ある者はビルの谷間から、ある者はコンビニからぞろぞろと現れる。

 ゲニンの擬態を疑ったが、そもそもあれにそんな能力はない。

 その動きは幽鬼の如く。ゆらり、ゆらりと覚束ない足取りで迫る。

 

 その顔を見るとまるで生気はなく目も白濁としている。

 やつれ切っておりもはや皮と骨しか残されていないそれは差し詰め――ゾンビ。あまりにも様子のおかしい光景にハルカは眼を見開いた。

 

「なんですか……これは!」

 

――ゾンビ映画みたいだな……

 

 シノビは感心しながらも身震いした。このままヤツをのさばらせておけば差し詰めレジェンドルガ*1に寄生された人々の群れ、ゾンビクロニクル*2だ。

 それほどひどくはないにせよ、そのよれ切って一部が千切れた衣服を引きずりながら迫るその光景は見るに堪えないものであった。

 

「こいつらはあっしが養分にした連中でさァ。ま、干からびかけているんで身体の利用価値はもう残っちゃぁいませんが、こちとらエコ思考ってヤツでさァ。最後まで利用させてもらいやすぜ? おたくら人間も散々やってきたことでぇ」

 

「ふざけやがって……!」

 

 襲い来る人々の動きに恐れはない。

 ゆらりゆらりと動きは緩慢ながらも超人めいた力を持つハルカとシノビからすれば本気の出せる相手ではない。だが――

 

「へへっ……七色の霧でさァ!」

 

 そんなこと茸群道人には関係がなかった。

 くいっと、顔を夜空に上げる。空から何か降ってくるのか。まさか爆撃とは言うまいな。ゾンビを地面に転がしながらシノビは警戒するが空からは何もやってこない。

 

 しかし――空からではなく陸地からはやってきた。

 霧が立ち込める。その霧は赤、青、黄、緑、紫、藍、橙と文字通りの色をしており、シノビもハルカも、そしてゾンビたちをも飲み込もうとしていた。

 

「なっ――」

 

 咄嗟の行動が出来なかった。

 七色の霧がシノビの体を飲み込んだ瞬間、バチバチとこれまで以上の火花を散らし始めた。全身から小さな振動がシノビの装甲越しに真太郎の体へと伝う。

 一撃一撃は礫をぶつけられる程度のダメージだが、それが1000粒、2000粒となれば話は別だ。シノビの装甲が瞬く間に削れていく。

 その一方でハルカはくらりと頽れた。

 

「大丈夫か!?」

 

「……体から力が吸われているっ!? あぅっ!?」

 

 真っ当な人間の体には確実に有害なものであった。

 虫など生き物に寄生して養分を喰らうもの。実は存在しないわけではない。虫に寄生して最終的にそれを養分としてキノコとなる冬虫夏草がある。

 何故こんなものを知っているのか……自分でも分からないが今は考えないでおく。

 

 

 今はこの状況から脱することを考えろ。

 徐々に視界が霧に覆われて数センチ先のものも見えなくなっていく。必死に出口を探して藻掻くが、それを好機と見たかゾンビたちがシノビの足を、手を、掴む。

 

「このままあっしの仲間の養分になって朽ち果てていただきまっせェ。そろそろあの体たちから吸い上げるものも無くなって来ましたからねェ」

 

 このまま自分たちをあのゾンビと同じようにするつもりか。

 ヘラヘラと嗤う彼に苛立ちが募ると同時に、一瞬だけ――死というものが脳裏にチラついた。

 

「ふ……ふざけやがって……!」

 

 五里霧中、暗中模索とはこのことか。必死にゾンビを振りほどきながら霧の中藻掻いていると、腕をがしりと掴まれるような感触がした。

――しつこいんだよ……!

 全力で振り払おうとした矢先だった。知った声が真太郎の耳朶を打った。

 

「忍びさん! しっかり掴まってください!」

 

 あの暗闇同然の霧の中、力を吸われながらもシノビを助けようとしていたのか。

 

「あっ――」

 

 あとは一本釣りの感覚で霧の外側まで引きずり出された。近くのビルの上まで手を引かれてやっとこさ離脱できた所でハルカもへたり込み、シノビはそのまま床に転がった。

 

 

「はぁ……はぁっ」

 

「くっ……忍び……さん。無事……ですか?」

 

 息も絶え絶え。このままシノビを見捨てておけば余裕をもって脱出が出来ただろうに。それを思うと少し悔しく思えた。

 

「なんで……助けたんだ。あんただって危なかったはずだ」

 

「命を守るのに理由なんかいりませんから。当然のことをしたまでです」

 

 生気を吸われても尚、笑顔を作ろうとするハルカ。そんな彼女を見てシノビは。

――強いなぁ。

 ただただそう思うしかなかった。

 力の強さ弱さなんかじゃない。心に芯が通っているのだ。

 

「でも……」

 

 ハルカがビルの下を見下ろす。シノビも同じく見下ろすと、徐々に薄くなっていく霧の中で蠢くゾンビたちの影が見えた。

 茸群道人らしき姿はなく、おそらくあのシノビブレードで深手を負ってから放った霧で限界が来たのだろう。

 

「守り切れなかったものもあります……」

 

 ビルの下で蠢くゾンビたち。茸群道人の物言いが本当ならばもう既に彼らは……。

 同じことを思ったハルカの瞳に影が差す。それにシノビはふらりと立ち上がった。

 

「次は……勝ちたいな」

 

 言いたいことは沢山あった。ちゃんと自分が咄嗟に反応出来ていれば、とか。けれども全てを語るには真太郎の語彙は弱弱しく、頭が回るほどの体力もなかった。

 ただ、それだけのこと。

 勝ちさえすれば犠牲者は出なくなるのだ。

 

「はい……」

 

 少し弱弱しくもハルカのその返事には何か苦いものを食いしばるような力が籠っていた。

 

 

◆◆◆◆◆

 

 

324:一般エロゲ竿役忍者 ID:20sNB2kmn2

 以上のことがあって茸群道人を逃がしてしまった

 

 

330:名無しの観測者 ID:qOWdtYF8H

 これは戦犯

 

 

331:名無しの観測者 ID:V+2jWMYJI

 ぐう無能

 

 

336:名無しの観測者 ID:MqXIubMob

 一応ハルカさんがヤられてはいないのか

 

 

342:一般エロゲ竿役忍者 ID:20sNB2kmn2

 一応無事。ただ超常的なパワーを出すために淫力? ってヤツが吸われてたらしく充電中

 ゲニンこそ数が多かっただけでほぼノーダメで始末したっぽくて。外傷はほぼなし

 

 シノビの方はアーマーが霧を防いでたけど装甲がズタボロにされて現在自己再生中

 俺は体中にいろいろぶっ刺さってて引っこ抜くのに時間がかかった

 

 

 道人に寄生された人の大半はかなり干からびてて、上弦衆が回復術式を使ってもすぐ目を覚ましたヤツはほぼいなかった

 半分くらいは幸いギリギリ生きてるらしいけど一歩遅ければ皆死んでたらしい。犠牲者の詳しい状態は正直……思い出したくもない

 

 しかも今日出てきたヤツが全員ではないし、例の行方不明のトラックの運ちゃんもまだ行方知れずだ

 

 

 

344:名無しの観測者 ID:dJTLrTeyu

 思ったより大惨事やんけ

 

 

 

346:一般エロゲ竿役忍者 ID:20sNB2kmn2

 忍術ってヤツも使おうとしたけど、存外簡単には使えんのか形で真似しても駄目だった

 ハルカさんの真似をしたけど、見てくれだけ真似してもって感じだし、そもそも同じ力とも限らないので意味があるかどうか疑わしい

 

 どうすればいいんだろう、これ……

 

 

 

347:名無しの観測者 ID:8gkU7N9fz

 知らん、チャクラでも練ってろ

 

 

353:名無しの観測者 ID:BeXdLTZ/h

 TTFCのシノビ見てたけどその辺詳しくはやってなかったからなぁ……

 

 

355:名無しの観測者 ID:LfrgWE/Ff

 イッチ、実質的にシノビの情報無しで戦ってるようなモンだしな

 3話だけしかないってのがまぁ困る

 

 

360:一般エロゲ竿役忍者 ID:20sNB2kmn2

 俺もシノビが見れたらな……

 そもそもこの世界、仮面ライダーって番組が1作で終わってるから本当に知る人ぞ知るマイナー特撮になってるっぽい

 スーパー戦隊もジャッカー電撃隊で終わってるし

 

【検索結果の画像が数枚上げられている。そこには鳥人戦隊ジェットマン、未来戦隊タイムレンジャー、仮面ライダーアギト、仮面ライダー電王、仮面ライダーキバ、海賊戦隊ゴーカイジャー、仮面ライダーゲイツと検索したようだが検索結果は一つも出ていない】

 

 

365:名無しの観測者 ID:PCLg8rmBs

>>360

 ファッ!?

 

 

371:名無しの観測者 ID:8vSvIju/g

>>360

 ウッソだろお前wwwwwww

 

 

373:名無しの観測者 ID:rDpOXZ7KF

>>360

 HEROSAGAのW編かな(白目)

 

 

378:名無しの観測者 ID:AN22RVWll

 V3も始まらなかったって中々物悲しいな……

 

 

380:名無しの観測者 ID:PQKMeySq5

 なるほど、道理で深紫の忍びって呼ばれる訳だ

 ニチアサ半数くらいしかねぇ……ワンチャン宇宙刑事すらなさそう

 

 

385:名無しの観測者 ID:5k5NVKGhw

 子供のホモは何見てたんですかね……サイバーZかな?

 

 

388:名無しの観測者 ID:WPiu5ZyBw

>>385

 それは見なくていいから(良心)

 

 

392:一般エロゲ竿役忍者 ID:20sNB2kmn2

 それもあって、シノビに関するヒントが皆無に等しい

 

 

395:名無しの観測者 ID:/d4e5SJb9

>>392

 こっちもまるでないんや。許し亭ゆるして

 

 でも諦めたら駄目やぞ。いずれなんとかなる日が来る

 

 

400:一般エロゲ竿役忍者 ID:20sNB2kmn2

 そっか……そんな日都合よく来んのかねぇ……

 

 

 

 

 

◆◆◆◆◆

 

 現実とはいつだって無情なものだ。

 人気のない森の中で、シノビは一人印らしきものを結ぶものの何も起こらずただ、枯れ葉が舞うだけであった。

――あぁ、侘しい。

 風が木々を揺さぶる音だけが聞こえてくる。

 これ以上はカンと根性ではどうしようもないものだ。

 

「マジでどうすりゃ良かったんだ……」

 

 シノビは頽れ、枯れ葉の上で突っ伏す。話によると五行思想に基づく元素を素材として様々な力を操ることができるのだという。

 木の葉を握りしめ、思いつく限りの印を結んだり、思いつく限りの変身ポーズを取ったり、海老ぞりしてみたりしたものの反応はまるでない。

 

 それからどれだけの時間が経っただろうか。夕暮れの中、完全に万策尽きたシノビはただ力なく四肢を投げ出して倒れこんだ。

 ここでハルカとかがいればきっとコツとか教えてくれたのだろうが、ここで変に質問すればシノビの正体がバレてしまうし必ずしも解決する保証もあるわけではない。とはいってもここで途方に暮れているだけではどうにもならないのは事実だ。

 

「いっそのこと話してアドバイス聞こうかな……いや駄目か。避けられてるし」

 

 そもそもの話避けられているのにどう聞こうというのだ。自分の発想の浅ましさにあきれ果てそうになる。

 カア、カアとカラスの鳴き声と枝と葉と葉が擦れる音だけが聞こえてくる。

 その身を全てこの空間に預けるのがいたく心地が良かった。このまま土の養分になってしまいそうな感覚に陥りかけたその時だった。

 

 

 強い風が――吹いた。

 

 

「困っているようだね、仮面ライダーシノビ殿?」

 

 本来、耳にするはずのない声が聞こえてきた。

 声のした方を見ると、そこには『黒』がいた。

 

 太陽の光を全て塗りつぶしてしまいそうな黒い法衣を身にまとい、素肌が見えるはずの頭は深編笠を被っており完全に首から上すらも見えないのだ。

 のぞき穴から覗かせる暗闇は深く、何者かうかがい知ることもままならない。

 

 一般的にはこのような僧をこう呼ぶ。虚無僧、と。

 

 虚無僧は言った。真太郎を仮面ライダーシノビだ、と。

 仮面ライダーなんて単語を口走ることができるのはそこそこ年配の人間か、()()()()()()()か、それとも真太郎と同じ境遇の人間かのどちらかだ。

 

「驚いているようだね。困っているようだからシノビの使い方を教えてあげに来たんだ」

 

 何か見返りでも求めるつもりか。とふと思い立ったシノビは構えを取る。しかし虚無僧から敵意は一切なく、ただただ穏やかな声色でシノビを宥めるのだった。

 

「なに、君が更なる活躍をすればそれでいい。僕の望みはただそれだけだ。

 

 

 

 

 

 

        

 

 

 

 

 

 

 

       キミは――滅びたがっている世界に抗う最後の希望なのだから」

 

 

*1
劇場版仮面ライダーキバに登場する怪人・種族。キバの物語の世界において最凶最悪の魔族であり人々の悲鳴を最高の音楽としている。大昔仮面ライダーダークキバにより殆どが殲滅されたが……

*2
仮面ライダーエグゼイドに登場する檀黎斗神が仕掛けた史上最悪のゲーム。プレイヤー(首都圏にいる人間強制参加)は思い思いの武器を手に取って大量発生した仮面ライダーゲンムゾンビゲーマーレベルXを攻略することになる




 世界観の解説

①真太郎(イッチ)の世界(2022) 平成34年
 この世界において元号が平成34年。ゼロワン以降の令和ライダーが存在せず別のものにすり替わっている
 それ以外の詳細は不明

②ハルカの世界(2008) 平成20年
 スーパー戦隊はジャッカー電撃隊までで終了
 仮面ライダーは無印で終了。とある事故で最初期に打ち切られているため仮面ライダーは知る人ぞ知るマイナーな特撮となっている。Wikipediaにも薄い記事が置いてあるだけでDVDも出回っていないらしく封印作品一歩手前。
 今真太郎がいる世界がここ。

 ノロイ党と呼ばれる集団が暴れておりこれらの処理のため閃忍が戦い続けている
 
③スレ民の世界(?)(2022) 令和4年
 我々の知る世界に限りなく近い。というかそのまま
 ちゃんと仮面ライダーとスーパー戦隊が数十年に渡って存続している
 ゼロワン、セイバー、リバイスも健在
 


 実は東映版スパイダーマンの存在はスーパー戦隊の始祖の一つと言っても過言ではないのですが、この世界においてスパイダーマンは放映されなかったのかもしれません


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キノコ狩りの女……?④

 ジョン……


「キノコ狩りをしようと思う」

 

「……は?」

 

 真太郎の素っ頓狂な声が木霊した。

 一体急に何を言い出すんだこの頭領サマは。切り出した目の前のタカマルに対して酷く失礼な言葉が出かけたが飲み込む。

 きっと何か考えがあるに違いない。曲がりなりにも想破上弦衆の頭領という所謂『王』なのだ、タカマルは。

 しかしながら真太郎の反応のせいで完全に声を失った和室にてカチッカチッとボタンを押す音と怪物(モンスター)の小さな咆哮だけが耳朶を打つ。

 ようやっと口火を切ったのは桜色の髪をした小柄なツインテールの少女四方堂成香だった。

 

「いや、本当に何言い出してんのタカマル。やばっ切れ味落ちた」

 

 そのよく通る高い声はしん、とこのちょっと広い和室に澄み渡る。

 四方堂成香改めナリカはこの部屋──というか家の住人であるタカマルの同居人であり、閃忍候補の一人でもある。

 言い方を変えると今はまだ閃忍ではないのだがその辺の話をすると逸れるのでまたあとにしよう。

 

「僕も最初作戦会議の時は驚きました。ナリカさんここは僕たちに任せて武器研いでください」

 

 タカマルの考えを先に全て聞いていたらしいスズモリは神妙な表情で付け加える。

 これだけの情報ならばきっと4人の若者が囲んで何か重い話をしているように見えるだろうが、その実非常に間抜けな光景であった。

 4人とも各々違う色をした同じ形状の携帯ゲーム機(プレイステーションポータブル)を持って一心不乱にボタンを押し続けている。どう見ても若者が集まって遊んでいるようにしか見えない中、いずれも真剣そのものな表情であった。

 

「ごめん皆、俺また乙った(死んだ)わ」

 

「鬼頭さん。気にしないでくれ。にしてもなんか疲れてないか?」

 

「……斉藤ね? まぁ色々あって……」

 

 真太郎の突っ込みの中、聞き飽きたファンファーレが4つのゲーム機から同時に鳴り響いた。

 しかしながらいずれもゲームが終わったような表情も見せずひたすらボタンを押し続けていた。その傍らでタカマルが言葉を続けた。

 

「海堂さんが出してくれた報告書と音声データで茸群道人って怪忍、もともと同胞を食われたり焼かれたりするのが大嫌いだって言ってましたよね。皆逆鱗出た?」

 

「あぁうん俺斉藤ね。確かにあいつはそう言ってた、故にキノコを輸送していたトラックを襲撃したりして運転手を攫ったりして……駄目だ、逆鱗出ねえわ」

 

「あたしも駄目だった。ほんっっっと出ないわねこのゲーム」

 

「僕も駄目でした」

 

 口々に目的のアイテムが手に入れられなかったことを真太郎、ナリカ、スズモリが告げると4人とも一斉に大きくため息をついた。

 これで試行回数は何度目だろうか。

 

 納得のいく素材を求めて何度も狩り続ける行為はある種の執念めいたものを真太郎は我ながら感じていた。

 このゲームはモンスターを倒してランダムで出てくる素材をはぎ取りそこから素材を作ってさらに強いモンスターに挑んだりするのが醍醐味であるはずなのだが、現在その素材が出てこないことで苦しみ切っていた。逆鱗というものは全然でないことで知られている。

 

 話を戻そう。

 

「ヤツはキノコがある所に現れる。例えばキノコ料理を出している店があればそこを襲撃して駄目にするし、食べている奴がいたらそいつも襲う。だったらここでヤツの嫌がることをしておびき寄せてやろうって寸法だ」

 

「それがキノコ狩りだってことね……いやまぁ確かに理にはかなってはいるのだけど」

 

 ナリカの呆れ気味の声色に真太郎は苦笑いした。確かにそこでおびき寄せてやれば叩き潰すことだって可能ではある。

 変に広範囲を張るよりは確実とも言えよう。

 

「一応噂を立てさせることで、深紫の忍び(シノビ)が現れやすいようにしつつ茸群道人も現れやすくする土壌も作っておく。一応そんな作戦プランでアキラさんに提案はしてるんだけど……」

 

 それ以外に何かあるかと言われたらあとは後手に回って迎撃するしかなくなるのが現状だ。確実に仕留めることを考えるならば誘い出すしかない。

 勿論、この方法は一度しか通用しないだろう。ミスればあとは後手しかない。

 

「勝算、ありそうすか?」

 

 別に信用していないわけではない。タカマルも勝ち目のない戦いにそうほいほいとハルカを戦地に投げ込むような真似をする人種ではないのは分かっている。けれども()()が欲しかった。

 年下に安心を求めるなどあまりにも情けない話でもあるが、一番作戦についてこのメンツの中で知っているのはタカマルだけなのだ。故に真太郎は問う。

 すると、タカマルは首を縦に振った。

 

「ハルカさんも既に回復してる上に、ヤツの行動パターンが分かってる。それにハルカさんの力はメキメキと上がっていっているから前回みたいに遅れは取ったりしないはずだ」

 

「龍輪功……」

 

 龍輪功──まぁそういうことである。

 あれから森や山やと休日や上弦衆としての仕事終わりに籠ってたりするのであまりにそういったことに遭遇することはあまりないのだが相変わらずお盛んなことである。

 無論()()()()()()をしないとハルカはノロイに対抗できる力を失ってしまうので必要なことであるのだが──

 

 数を重ねれば重ねるほどその強さは増大していくのだという。

 それを考えるとそれ相応の体力やらなにやらが必要になるわけだが──想像しただけでちょっと寒気がした。

 自らが干からびる姿を幻視した真太郎は表情を引き攣らせながら、やがて真太郎は考えるのをやめた。──よくよく考えたらあまり羨ましくないかもしれない。そんな気がしたのだ。

 

 

 

 あと少ししたら虚無僧と修行をする時間だ。その時が来たら一旦このゲームの集まりから離れるようにしている。

 彼曰く──むやみやたらに修行をやるのは時間の無駄なのだという。自分がいない間は逆に修行をするなとすら釘を刺された。実際問題変に癖を付けられたら困るのだろう。

 なので一応言うことは聞いておく。

 

 それがシノビで戦っていく上での数少ないヒントとなりえるのだから。

 

 

 

 

 ◆◆◆◆◆

 

 

 キノコ狩り。

 それは山や森に入って散策しその名の通り自生しているキノコを収穫、それを食べる行為のことを指す。

 素人がやろうなら下手すれば毒キノコを引き当てて死にかねないが、今回はそもそも食べることが目的ではない。

 加えてもし食べるとしても上弦衆が独自に雇った専門家もいるのでその辺の対策はバッチリだ。

 料理が得意だというスズモリとナリカもその辺の処理については事前に勉強しているのだと言う。

 

 タカマル衝撃の発表から数日後。

 

 

 真太郎は背中籠を背負って手袋をし、長袖長ズボン、帽子と夏にしてはあまりにも暑いとしか言いようがない出立ちであった。

 だがそれがキノコ狩りをする上で必要な装備である。最悪毒キノコに触った手で下手なことをしようなら酷い目に遭うのは目に見えているのだ。

 

 それに暑いとは言うが、2022年の夏と2008年の夏はまるで違うものだ。

 まだ2020年代の地獄に比べればゼロ年代もとい2008年の夏如き大したことはない。

 

 

 ハルカも同じような装備をしており鼻を鳴らしていた。そんな彼女にタカマルは心配げな顔色で声を掛ける。

 

「毒キノコには気をつけてねハルカさん」

 

「はい、タカマル様。でも実はキノコにはちょっとだけ、ですけど自信があるんです」

 

「え……そうだったの?」

 

「はいっ、昔小さい頃色々教えてもらって」

 

 まるで大切な思い出を抱き締めるような、それでいて戻らぬ過去を振り返るような。そんなノスタルジックな声色だった。

 

 ハルカは過去の世界……スズモリから聞いたが戦国時代あたりからやってきたのだと言う。

 過去に残した家族がいるのは明白だ。友達だってそうだ。

 

 ……それを思うとハルカの背負っているものや犠牲にして来たものの『重さ』を感じた。デンライナーやタイムマジーンとかがあればきっと帰ることは出来るのだろうけれども、そんな都合のいいものはここにはない。

 時渡りもノロイ発のものでもあるし、ここで変に何かしらの手段で過去に戻れば時の運行が乱れてしまうだろう。故に、ハルカに戻る手段は無きに等しい。

 

 自分と周囲の愛してくれた人たちとの流れる時間が異なること。

 それはきっと残酷なことだ。そして──

 

 ──誰かが『いなくなる』こと。それは、悲しいことだから。

 

 きっとスレ民というこれまでいた世界に似た世界との繋がりがなければきっと自分も折れていたことだろう。あのスレッドを見つけることが出来たのは天の配剤と言うべきか。でも──いや、よそう。

 変に考えないほうがいい。今は、まだ。

 

 

 タカマルとハルカのやり取りを横目に真太郎は懐のシノビヒョウタンを確かめるように触れた。

 こっちはこっちで元の世界に戻る方法も考えなければならない。

 あの何か知ってそうな虚無僧からは色々聞き出そうと試みたが──現状ほぼ全てはぐらかされた。

 

 確かなのはこの世界の(コトワリ)の外にいるということぐらい。

 お陰である程度シノビとしての戦い方のコツは掴むことはできた。あとは実戦で使いこなせるだけの──勇気だけだ。

 

 

 

 

 

 

 

 閂市そのものはそれ程ど田舎と呼ばれるような箱に入れられる程辺鄙な場所ではないが、決して都会とも言えるような場所ではない。

 確かに駅前においてはそこそこ栄えてはいるのだがそれだけなのだ。

 地理的には山に囲まれる形となっており、外部からのアクセスは基本的に車か電車を利用してトンネルを通過するのが主流と言っても良い。わざわざ移動のためだけに山に登るほど酔狂な人間はそうそういない。

 

 今回は上弦衆スタッフ数名と真太郎、ハルカが打って出る形となる。

 上弦衆の転送システムを使って茸群道人が現れたタイミングでハルカを呼べばいいんじゃないのか。という意見もあった。実際タカマルはそう主張したがあの転送システムとて万能ではないらしい。

 

 回数と距離に制限がある上に、座標をしくじれば俗にいう【*いしのなかにいる*】同然の状態になる。特に無作為に木々が配置されている山の中となれば雑に転送した結果木と一体化したハルカなどという悲惨なオチになる可能性も極めて高い訳だ。

 

 という訳でキノコ狩りに参戦してもらった次第である。タカマルも参加しようと乗り気ではあったがアキラに止められた。当然である。

 真太郎の命とタカマルの命。どっちが重いかと言われたら言わずもがな後者なのだから。

 

 

 逢魔が時と呼ばれる茜色の空の下。

 閂山の入り口に入った所で、行動隊長が号令を始める。

 ハルカ、真太郎、その他上弦衆の現場スタッフが集まり指示を待つ。

 

「諸君らにはツーマンセルでそれぞれ行動をして貰う! 諸君! ポケットキノコ図鑑は持っているな!? これらを参照し極力安全なキノコを収穫すること! このあと専門家のチェックが入るとはいえリスクは軽減しておくに限る! カエンタケは見かけても一切触れるな、皮膚が爛れるぞ! では割り振りを決める!」

 

 やたら声のデカい行動隊長の振った割り振りはハルカを中心に、囲むように上弦衆スタッフを配置していく形となる。

 何故ならば誰が襲撃されてもすぐに急行できるようにするためだ。当然無線機は耳に取り付けた状態で行うため誰かがやられた場合すぐに気づけるように出来ている。

 

 そこまではいい。

 そう、そこまでは真太郎もうなずくことが出来た。

 

 だが──

 

「えー、よろしくお願いします」

「…………はい」

 

 何故よりにもよって相方がハルカなのか。行動隊長に小一時間ほど問い詰めたかったのだが残念ながら真太郎ごときに拒否権なぞありはしない。恐らくハルカの近くが一番安全だという真太郎に対する気遣いなのだろうが今この瞬間望んでなどいなかった。

 拒否権ありそうなハルカは何も言わなかったが、やはりやたらとよそよそしい。

 

 まさか龍輪功やっている時に声を聴かれたのを相当気にしているのだろうか。それとも真太郎があずかり知らぬ所で何か問題が起きているかのどちらかだろう。

 いい加減この辺もはっきりしておかないと今後この仕事をしていく上で困ったことになる。とはいってもどう切り出せばいいのか。

 

 ──俺なんか君に悪いことしたっけ? あー……駄目だ駄目だ駄目だ! 

 

 そんなことを言ってハルカの地雷を踏めば爆発四散待ったなしだ。見え透いた地雷をわざわざ踏むヤツがいるものか。

 とはいっても上手い言葉が見つからない。こういう時上手い言葉をひり出せるのができる人間なのだろうが残念ながら真太郎はその辺ヘッポコであるとしか言いようがなかった。

 

 2人だけになったところで各々キノコ図鑑片手に足元を探す。存外キノコというものは簡単に見つかるものだ。図鑑で安全を確認したところで背中に背負った籠に放り込む。

 少し離れたハルカはというと、図鑑は見ずにキノコを籠に放り込んでいた。確かに慣れている様子だった。

 戦国時代からやってきたというのだから実際にキノコ狩りはやっていたのだろう。多分山菜関係もそれなりに知識を持ってそうだ。

 

 そんなことより。

 これから戦うはずの茸群道人だ。自分とハルカの関係なぞいずれ時間があれば分かることだし、キノコ狩りも本題じゃない。茸群道人は前回とは条件が違うとはいえ、奴が危険な存在なことには変わりはない。それにハルカの力が抜き取られていたことを考えると苦戦は必至。シノビがいるとはいえ、心配であるのには変わりはない。

 

「鷹守さん。あの茸群道人ってヤツ、近くで見てたのでアレなんですけどスピード、切れ味、あの霧のようなもの。いずれもあの深紫の忍びが苦戦するほどでした。前回とはいろいろ条件が違うかもしれませんが……どうか、無茶だけはしないでください。戦部くん──悲しみますから」

 

「……え?」

 

「え?」

 

 何故か、鳩が豆鉄砲を食ったような顔でハルカは真太郎を見た。

 そんな鳩が豆鉄砲を食ったようなハルカの顔に真太郎は鳩が豆鉄砲を食ったような顔を……しつこい。

 

 ──え、どうしてそんな顔をするの……? 

 

 驚愕する真太郎とハルカ。お互いがそれぞれ別のことを考えていて手一杯なせいでお互いフリーズし切っていた。

 まさか地雷を踏んでしまったのか。この人の地雷一体どこにあるのかまるで分らない。

 タカマルやスズモリなど同性ならまだ分かるけれども、女の子についてはまるで分からない彼女いない歴=年齢という悲惨な人生をこれまで送ってきた男は酷く混乱した。

 

 ──どないせえっちゅうねん……

 

 スレ民にでも女心でも聞こうか。いや駄目だ、ふざけた回答しか返ってこない気がする。

 膠着状態に陥り、完全にキノコ狩りどころではない空気になっていた。

 

 さらさらと枯れ葉が温い風に流されていく音だけが聞こえる。この静寂を破ったのは──

 

 

 

 

「あああああああああああああああああああッ!?」

 

 

 ハルカでも真太郎でもない。

 少し離れた場所から木霊する、誰かの苦悶に満ちた女の悲鳴であった。

 

 

『こちらC班。敵怪忍と遭遇、これよりハルカ殿到着まで時間を稼ぎます!』

 

 頭が状況を察知するより先に無線機で脳に叩き込まれる現実は、真っ先にハルカを飛び出させた。それに真太郎は見送る形で一人のこされた彼は周囲をキョロキョロと見まわしてからおもむろにシノビヒョウタンを懐から取り出した。

 

 

 

 

 ◆◆◆◆◆

 

 

 茸群道人の出現は突然であった。上弦衆スタッフ2名は雑談をしながらキノコたちを引っこ抜いていた。閂山自体キノコが自生するには適度な環境であったので収穫は容易かった。

 しかし、意気揚々と女性スタッフがその場に1本だけ残されたキノコを引き抜こうとした矢先だった。

 

 どすり、手の甲から強烈な衝撃が襲った。

 手元を見るとそこには細長い楊枝が手のひらを貫通しており、血がジワリとにじみ出る。そこからだ。上弦衆スタッフが痛みを認知したのは。

 

「あああああああああああああああああああああああ!」

 

 それは想像を絶する痛みだった。何かが刺さったと言うより皮膚の一部を引き剥がされたような痛みに近い。

 喉を潰し、空を裂かんばかりの悲鳴が痛みを堪えようとスタッフの喉奥から吐き出された。

 

「こんな所で態々善良なキノコたちを狩りに来るとは随分な唐変木が現れたモンでェ。ま、鴨が葱しょってやって来たモンだと思ってそのまま養分か苗床にでもなってもらいましょか」

 

 ぬるり、と言えばいいのか。がさり、と言えばいいのか。茸群道人は気付けば()()()()()

 奴は小太刀を引き抜き、苦しむスタッフにじりじりとにじり寄る。当然それを見過ごす相方ではない。拳銃を引き抜き茸群道人目掛けて弾丸を叩き込む。しかし着弾するより茸群道人が振るう小太刀で先に弾丸は真っ二つとなり地面に、木々に突き刺さるだけであった。

 このままでは埒があかないと判断したか拳銃を仕舞い、クナイを引き抜いて格闘戦に持ち込む。しかし──

 

「へっ、閃忍ですらないようなのが無理して前に出るモンじゃァないですや。ノコノコこんなところにきて……いけやせんや」

 

 その細長い腕を一閃させると、近づいた上弦衆スタッフを10m先まで紙切れのように吹き飛ばした。完全に力の差というものをありありと見せつけられた手を貫かれたスタッフの表情が絶望に染まる。

 このままでは殺される。這う這う逃げようとする彼女を歩いて追うその様は獲物を前に舌なめずりする肉食獣のそれだ。

 

「まぁ、あっしのキノコで貫いてやるのもいいですなァ、ツラはまぁあの黄色いの(鷹守ハルカ)に比べりゃ落ちちまうが、身体の具合ってモンはまた別の話でさァ」

 

 今から自分が何をされるか。

 茸群道人の物言いで何となく察した上弦衆スタッフの表情は絶望を通り越したナニカとなり果てる。そして小太刀を一閃させると、スタッフの上着が温くなったバターをナイフで割くように下着もろとも切り裂かれた。

 

「い……いや……」

 

 手は楊枝で貫かれたせいで上手く這うことも出来なければ、立って逃げようにも腰が恐怖で死んでいた。本来ならば先ほどの相方スタッフのように立ち向かうことが出来ればよかったのだが先ほどの不意打ちで思うように体は動かなかった。

 

「たす……けて……」

 

 本来ならば助けを請う者を助ける側のはずの彼女の口からの助けを求める。

 闇を切り裂き、光を齎す。そんな救世主めいた者へと──

 

 

 その時、空からクナイが飛来した。

 狙いは──茸群道人の首だ。

 

「むッ!?」

 

 即座に小太刀で跳ね除けるが、彼にとって確かな脅威がそこにいた。

 クナイの飛んできた方向を辿ると、逆光で隠れたシルエットが一つ。そのシルエットを彼女は知っている。この想破上弦衆の切り札。

 

 

「何やつ!」

 

 茸群道人が腹立たしげにそのシルエットを見上げる。そしてその切り札を見据えるのだ。

 

 

 

 その名も! 

 

 

 

 

 その名も! 

 

 

 

 

 その名も! 

 

 

 

 

「悪鬼彷徨う現の闇を払うは月影──我、上弦なり──。想破上弦衆が閃忍、ハルカ! 見参! 茸群道人、今度こそその人の存在を否定し、勝手な道理を押し付ける悪の行い。忍びの技にて砕きます!」

 

 

 

 

 

 

 

 闇祓う山吹色の閃光。閃忍ハルカが木の枝の上から茸群道人を見下ろしていた。

 茸群道人には瞳はない。頭部にある糸目のように見える裂け目が彼の眼となっているが心なしか忌々し気に見えた。

 

「忍びは彼女だけじゃあないッ!」

 

 また、声がした。今度はフィルターがかかってはいるが男の声だ。

 ハルカがいる方向とは真逆の所には、悪意祓う深紫色の疾風。深紫の装甲を身に纏う戦士が得物を片手に立っていた。その得物の切っ先を茸群道人へと向けた。

 

「俺もここにいる……お前を討ち滅ぼす為に……!」

 

「深紫の忍び……上弦衆ある所によくあらわれるモンですなァ……思えば随分と忌々しい。この胸の傷、忘れてやいませんぜ」

 

 茸群道人が胸の傷を腕の菌糸でなぞる。確かに回復はしたようだが傷跡そのものは残っているようだ。ライトで照らすとそれが分かった。

 完全に陽が沈んでおり、暗闇同然。が、深紫の忍びとハルカの眼はそのようなことで封じられたりはしないはずだ。

 上弦衆のスタッフは這うように3人から離れる。このままずっとぼけーっと見ていれば巻き添えを喰らいかねない。今から始まるのは人智を超えた殺し合いなのだから──

 

 

 

 

 ◆◆◆◆◆

 

 現場にたどり着いたのは良かったが、空は完全に暗闇に覆われていた。

 無論、この程度でシノビの視界が封じられることはない。忍者のライダーだ。暗闇に弱くては話にはならない。

 

「……行きます!」

 

「はぁッ!」

 

 一斉にシノビとハルカが茸群道人に飛び掛かって斬撃を放つ。

 しかし茸群道人もその軽やかな動きでシノビの一閃を回避し、ハルカの攻撃も小太刀で受け止めてみせる。

 剣戟の技量は確かに茸群道人の方が上だがハルカも伊達や酔狂で忍びをやってなどいない。が──

 

「くぅっ!?」

 

 完全に押され切っていた。

 ハルカの攻撃を悉くはじき返し、仕舞いには持っていたクナイを弾き飛ばしスーツにこれまでとは比較にならないほどの重い斬撃を叩き込む。ハルカの忍者装束型のスーツは障壁と呼ばれる見えない壁がある。それに阻まれた小太刀が血しぶきの代わりに火花を散らす。

 その見えない壁があったとしてもその衝撃は相殺できるわけではない。

 

 火花を散らしながら、ハルカの体は吹っ飛んだ。

 完全に押され切っている。見ただけでも分かる。茸群道人もまた()()()()()()()。それを証拠に奴の小太刀には黒々とした瘴気が溢れ出ている。一撃一撃が重いのはこれが理由だった。

 

「痛いッ!? つ、強い……」

 

「これでも養分はしこたまいただいておりましてねェ……先日のあっしとは一緒にしないでいただきたいね」

 

 シノビもまた、シノビブレードで斬りかかるがカウンター気味に一閃を放ち装甲に深々とした傷を付け、流れるような剣術を打ち込んでから吹き飛ばした。シノビを吹っ飛ばしてからハルカに斬撃を叩き込み、しこたま攻撃を喰らった所で倒れ伏した彼女の背中を踏みつけた。

 

「それに比べておたくらは何も変わっちゃあいない! 進歩もしちゃあいない! 人間って生き物は斯くも醜いモンでさぁ! さてと……どうしてやりましょうかねェ」

 

 言葉の通り、ハルカをどうしてやろうかと思索しているように見えた。

 シノビはもう一度斬りかかり、再びカウンターを叩き込まれる。

 

 

 その攻撃で地面に口づけをさせられたシノビは倒れ伏した状態で震える手で、ゆっくりと這う。

 まるで満身創痍だと言わんばかりに。

 

「あぁうっ!? く……わたしを……どうするつもりですか……!」

 

「さっきのを邪魔したんですからそれ相応の報いを受けるってのがスジってモンじゃあないですかねェ? 特に上弦衆は痛めつけろとのお達しでね。キノコたちの養分と苗床にでもなってもらいましょかね。さて。深紫の忍びさんには正直養分にする気にもならんので、ここで死んでいただきましょうかね」

 

 何処からか茸群道人は楊枝を取り出す。今度は1本ではない。10本だ。

 楊枝から瘴気を注ぎ込み、楊枝そのものが黒々とした光りを放つ。これを受ければ下手すればシノビの鎧は貫通し、最悪死に至るだろう。

 倒れ伏したシノビの仮面の下で真太郎は歯軋りした。

 

「ほれっ!」

 

「ぐわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!」

 

 その闇の楊枝はシノビの装甲を貫き、足元に刺さったものは爆発を起こす。当たれば死を意味する攻撃の中でシノビの断末魔が森中に木霊した。

 そしてシノビは……まるで()()()()()()()のように動かなくなった。

 

「忍びさぁぁぁぁぁぁぁぁん!」

 

 ハルカの悲痛な叫びに茸群道人は気をよくしたらしい。へへへっと笑い、ハルカの腹を全力で蹴り付けた。

 

「お゛う゛っ゛! ゛? ゛」

 

 口から何かが戻りそうになるのを堪えながらハルカの身体は蹴りにより数センチ浮いてから転がった。

 

「わ……わたしは……」

 

「今日も負けましたなァ。へへへっ、これも天の配剤って奴ですかねェ? 

 

 シノビの死で絶望に染まるハルカを嘲笑うように動かなくなったハルカの近くでニタリと笑ってから茸群道人は腕の菌糸を夜空へと高らかに挙げ、唄うように叫んだ。

 

「ノロイよ、我に力を! 陰呪、異相転移の法!」

 

 茸群道人と倒れたハルカを中心に紫色の魔法陣のようなものが広がっていく。これは業岡一全も使っていた転移術だ。そしてその光が強くなっていくと──ハルカと茸群道人の姿は消え失せた。

 

 

 

 

 

 

 糸の切れた人形と化したシノビを置いて……

 

 

 

 

 ◆◆◆◆◆

 

 身を起こすとそこは見知らぬ風景だった。

 先ほどの閂山よりしっとりとした、放っておけばカビが大量繁殖しそうな湿気。

 埃が舞うような古ぼけた壁、階段。

 それは主を失って長い洋館のようであった。床はコケのような物体がびっしりと敷き詰められており、本来陽が沈んでいたにもかかわらず怪しい光で満たされ明るく思えてしまう。

 そんな状況に鷹守ハルカはぶるりと身震いした。

 

「……忍びさん」

 

 ぽつり、とハルカは先ほどの散った戦士のことをつぶやく。眼前で深紫の忍びが断末魔を上げながら死んでいくのを見た。

 また自分は見殺しにしてしまったのだ。

 

 戦国時代、時渡りでこの時代にやってくる前にかつての仲間にしたのと同じように。

 タカマルの声は先ほどの転移の影響で聞こえてはこない。

 

 心細かった。

 

 

 

 ハルカはゆらりと幽鬼のように立ち上がる。

 そして気配がした方を向くとそこには茸群道人が立っていた。

 

「へへっ、ようこそ。あっしの隠れ家へ」

 

「…………」

 

 自らの家であるが故か。その佇まいはひどくリラックスしたものであった。

 周囲を見渡すとそこには無数の菌糸に絡まれた人影が1つ、2つ、3つ。そこからまるで血を吐くようなうめき声が聞こえてくる。

 今この瞬間、茸群道人たちの養分か苗床にされているようだ。目を凝らすと目を覆いたくなるような惨状を見せていた。

 生まれたままの姿で、全身のありとあらゆる箇所からキノコを生やされておりか細い声で助けを求める声を出している。

 

「適度な暗さ、適度な湿気、キノコには最高な環境でござんしょ? ま、見ての通り、あっしは実験してましてね?」

 

 勝ち誇るように苗床と養分にされた人々を一瞥してから茸群道人は言葉を続ける。

 

「あっしはたまたまノロイ様の力でこのオツムと力を手にしましたがァ……できりゃァ、他のキノコ衆もあっしのようになってほしい……な、もんでキノコに知恵を付けようと色々頑張っているんですがこれがまァ難しくて」

 

 パチン、とその腕の先端にある指のように枝分かれした菌糸の指を打ち鳴らす。

 すると足元がゾワゾワと音を立ててコケのようなものが伸び始める長い茎と傘を持った触手のような……大小ばらついたキノコの群れがハルカの周りを取り囲んだ。

 

「これは……キノコ!?」

 

「改良途中のキノコ衆でさァ。てっとり早く人間衆のエキスを混ぜたら繁殖欲だけが似ましてねェ……」

 

 ぞわり、とハルカの背筋が凍る。

 繁殖欲。いくら戦国時代からやってきて現代について疎かったとしてもそれくらいは分かる。

 そんなハルカの様子がおかしかったのか、再びへへへっと笑う。

 

「まぁ、お察しの通りってヤツでさァ。一言で言やァ、『ブチ込んでイきたい』ってねェ」

 

 そうして多くの人を手篭めにし、生ける屍として自らの兵としたということか。

 その事を思うとハルカの肚の奥からふつふつと怒りのようなものが沸上がる。

 

 そして、クナイを握りしめ──

 

「さあ! キノコ衆! この女の肉、心いくまで貪りなせぇ!」

 

 茸群道人の赦しを得て雪崩のように襲い来るキノコたちの群れを

 

 

 

 一閃した。

 

 

 

「なっ……上弦衆はもうあっしの攻撃で動けんはず!?」

 

 ハルカの反撃を想定していなかったのか、茸群道人がたじろぐ。そんな彼を他所にバラリと先端を切り落とされたキノコの傘たちがハルカの足元を転がる。

 そうだ。強くなったのは何も茸群道人だけではない。

 龍の者……戦部タカマルの力を受けた鷹守ハルカもまた強くなっているのだ。

 

 深紫の忍びを、茸群道人に養分にされて犠牲になった人々、そして仲間であり姉のような存在──スバルの顔を思い浮かべ目をカッと見開く。

 

「ここまで来たのは何もやられたからではありません。あなたに攫われた人々を、救い出す為です!」

 

「……なんですってィ!?」

 

 驚愕の声を上げる茸群道人にハルカはキッと睨みつける。

 

 

 元からハルカ自身が誘拐されるのは狙っていたものだった。そのために足蹴にされていた時に何をするのか念のために問うたのだ。

 無論、この狙いはタカマルも反対をしていた。当然だ。自ら死ねと言っているようなものだ。

 

 しかし。

 あのゾンビにされている人を見てしまった。

 そして、業岡一全に負けて皆を不安にさせてしまった。

 だからこそ、無理してでも皆に希望を持って欲しかった。

 

 

 

 

 作戦案としてはキノコ狩りか、キノコの会食かのどちらかであった。

 

 前者は山中という兼ね合い上負担がそこそこあったので、会食の方がまだ楽ではあった。

 だがキノコ狩りの方がハルカにとっては都合がよかった。今回のように負けたフリとはいえ見ている人間が居たとしたら不安にさせてしまうからだ。

 今回のように人気の無い所で人知れずやられてしまった方が誰かを不安に追い込むこともない。

 それに山中の方がまだ罠とは思われまい、そんな思いも同時にあった。

 

 アキラは言った。

 

 閃忍は最後の希望だ、と。

 

 

 深紫の忍びを見殺しにしてしまった以上後退は許されない。絶対にここで捕えられている人々を助けてみせる。

 次々と襲い来るキノコをクナイで両断していると、茸群道人がへへへっと怪しげな笑みを浮かべた。

 

「一杯食わされたって事ですかィ……だがここはあっしの『ほおむぐらうんど』ってヤツでさァ。そう簡単に──」

 

「そう簡単に、なんだ?」

 

 その時。茸群道人とはまた別の男の声が聞こえた。フィルターがかったその声には聴き覚えがある。

 茸群道人はぎしり、と錆びついたブリキ人形のように振り向くとそこには──深紫の忍びがいた。何故か手をひらひらさせており、仮面の下に人の顔があるのならきっと悪い笑顔をしていたに違いない。

 

「どうもー」

 

「なっ……深紫の忍び!? 死んだはずじゃあ……!」

 

 困惑していた茸群道人の顔面にそのまま深紫の忍びはパンチをめり込ませた。

 

「グボァ!?」

 

 拳をモロにもらったことできりもみしながら吹っ飛び勢いよく隠れ家の床を転がりその体は壁際まで離れていく。その様にはハルカも内心膝を叩いた。

 悶絶している茸群道人を他所にハルカの意識は死んだはずの深紫のシノビに行っていた。

 

「忍びさん!? 無事だったんですね!」

 

 てっきり死んでしまったものかと。

 ハルカとしては彼もまた、狙いは分からないが、誰かを助ける為に自らの命を賭けられる同志であり、戦友とも思っていた。

 故に彼の生還に目頭が熱くなりそうだった。

 

 

「……出来るか一か八かのぶっつけだった。変わり身を使いやられたと錯覚させて奴の転移に便乗したんだ。成功してよかった…………マジ死ぬかと思ったけど」

 

 最後の言葉は聞き取れないくらいに小さな声だったが、深紫の忍びは片手間に忍者刀で伸びるキノコたちを両断しながらハルカの隣に立つ。

 もう何も、迷うものは無かった。




 密猟海岸をネタにしようかなと思いましたが踏みとどまりました。
 それはそれとしてソシャゲ名義とはいえハルカさんのASMR(えっちいので18歳未満はチェックしちゃダメよ)がこの令和の時代に出るとは……


 おま◯け。
 舞台の2008年ってどんな年?

・超昂閃忍ハルカ発売
・仮面ライダーキバ/炎神戦隊ゴーオンジャー放送開始
・劇場版さらば仮面ライダー電王 ファイナル・カウントダウン上映
・モンスターハンターポータブル2ndG発売
・機動戦士ガンダム00 1stシーズン終了、2ndシーズン開始
・iPhone3G発売。日本で初めて発売されたiPhoneとなる。
・Twitter日本語版開始

 当時ハーメルンもなければ、きっかけとなったなろうのレギュレーションも変わる前。
 (時代)感じるんでしたよね?


 裏話ですが、タカマルがモンハンを買ったのはハルカさんがゲーム機に興味を持っていたためなんですって。
 両片想いのタカハルいいよね……アレ? タカハルだとアカニンジャーでは(ry (タカナリもタカスバもいいと思う)


 次回。キノコ狩りの女……?FINAL
 ForeverとかRとかそういうのはない。多分、おそらく、きっと。


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キノコ狩りの女……?⑤

 ナリカ、スバル、ハルカの姿を見ていると、セイバーのED曲の途中で差し込まれる炎、水、雷のアレを思い出すのです(病気)


 時は数日ほど遡る。

 そう、真太郎が術を使えなくて森の中で苦心していた頃までだ。

 

「いいかい? シノビ殿」

 

 その時は人気のない森の中、()()()()()()真太郎が正座をして眼前の虚無僧の話を神妙に耳を傾けていた。

 多分これまでの学校の授業や講義よりもきっと真剣だった。

 それに虚無僧はどこからか引っ張り出してきたホワイトボード(本当にどこから持って来たんだ)。

 そこにマジックペンできゅっきゅっと殴り書きをしていく。

 

 シノビのようなナニカが何故かボディービルのポーズをしている絵だ。

 その次に描いたのは隣に自然パゥワー! と書いた大きな文字を丸で囲ったもの。

 

 自然パゥワー! からシノビのようなナニカの絵に向かって矢印を描く。

 

 

 この虚無僧……もしかして画伯*1なのか? 

 そんな真太郎のツッコミをよそに虚無僧は至極真剣な声色で言葉を紡ぎ始めた。

 

「君の使う忍術は、2022年仮面ライダーシノビの歴史において、自然エネルギーを生み出す忍者の使うチカラだ。自然環境の破壊に対しての希望でもあったんだ。……なお、チャクラとかカラテとかは関係ない、余計に混乱するからね」

 

 滔々と語る彼に真太郎は確信した。

 

 ──こいつは、おれと同じなんだ

 

 まるで外部から俯瞰したような()()()気取りの言い回し。

 この世界に生きるものの喋り方じゃない。それゆえか明光院ゲイツを救世主の道へと唆した()()()を思い出してしまうのだ。

 

「君はどうも仮面ライダーについて少々知識を持っているようだが、これは知っているかな? 源流たる初代仮面ライダーは何と呼ばれたか」

 

 1号? 

 否、これは文脈には合わない。

 正義の戦士? 

 否。これもなんか違う。

 

「……大自然が遣わした使者?」

 

 ふと思い浮かんだブレーズを口にする。かつて読んだ漫画の一節だ。

 しかしながらほぼ当てずっぽうだった。それこそ橘さんに「当てずっぽうで答えるな」と怒られるくらいには特に理由はない。なんとなく出てきたものだ。

 すると虚無僧の笠に覆われた頭が少しだけ前に傾いた。頷いているらしい。

 

「そう、正解。その系譜だ。五行思想に基づく木・火・土・金・水。そこから力を精製しマシーンで加速させるという人とマシーン、そして胡散臭……いや、オカルトの融合な訳だが……君の場合力をひり出すことしか考えていないようだ。そんな野蛮さではシノビはコントロールは出来ない」

 

「は?」

 

 言い方も言い方なせいで不思議と喉奥からキレ気味の声が出た。

 そんな真太郎の意も介することなくそのままシノビの絵に五感のうちの四つを殴り書きしていく。酷い絵のせいで比較的まともな文字が達筆に見えて来た。

 

「視覚、聴覚、嗅覚、触覚。全感覚を使うんだ。自然を支配するな、自然を恐れるな。そして、自然と共にあれ」

 

 自然パゥワーと書いてある絵とシノビの絵を一気に丸で囲み、添えるように『なまか!』と書いていた。

 

 ──いや、そのネタは流石にふりーよ

 

 いつの話だそれ、と2022年人基準で思いかけたが、よくよく考えたらこの世界(2008年)基準だとあの番組は去年と一昨年。

 実のところそこまで古くはなかった。

 

 

「シノビの力は君の拙く素人同然のどうしようもない忍術をブーストするだけの力がある。既に()()()()()()()()()()()()()()。細かいコントロールは困難かもしれないが、発動することだけならば容易いはずだ」

 

 曰く。本来の持ち主はその忍術すらも得意であり使いこなすことができていたのだと言う。

 本来のシノビ。神蔵蓮太郎のことだろうが、彼の場合変わり身だろうが火遁だろうが影分身を平気で使いこなせる男なのだとか。

 無論それは自らの高度な忍術を、更にシノビの力でブーストアップ出来ているからだ。

 両方が十全に出来ない真太郎がまずやるべきことは虚無僧の言う通り、まずシノビの力を理解することだ。そして頼るだけの知識とノウハウを持つこと。

 今の真太郎は性能に頼る以前の問題だ。

 

「失礼」

 

 虚無僧が有無も言わせず、真太郎の頭に手を翳す。すると──眩暈がした。

 一瞬。ほんの一瞬ながら世界がぐるりと回ったような気さえするほどに強い眩暈だ。ふらりと、倒れかけたシノビは辛うじて生きていた意識で倒れずに持ち堪える。

 眩暈は間も無くして止み、抗議の目も込みで虚無僧に問いかけた。

 

「なっ……何をしたんです?」

 

「なに、テコ入れだよ」

 

 テコ入れ……? 

 真太郎の目が点になった。脳裏に浮かんだものは所謂()()に何かを突っ込む意味でのテコ入れだ。路線変更やら新キャラやら新要素やら。

 だいたいそういうものというのは結果が振るわなかった時によく使われるもので。

 真太郎としては少しばかり癪だった。が、何も言い返せやしなかった。

 

「さて。実演、やってみようか! まずは変わり身の術からだ!」

 

「えっちょ……待っ……!」

 

 突然懐からクナイを取り出す。そしてそれをシノビの頭目掛けて勢いよく──投げつける! 

 何も説明せずにそんなことをするのか。こいつを信じて話を聞いた自分が馬鹿だったらしい。シノビは心底後悔しながら尻もちついて後ずさるがもう遅い。

 真っ直ぐ迫るクナイはそのままシノビの頭に──

 

「あ……ぎゃああああああああああああああああああああッ!!!!!」

 

 

 ◆◆◆◆◆

 

 

 思い返しても地獄だった。

 確かにシノビのシステムは真太郎の拙い能力をカバー出来るだけの力を持っていた。今回の変わり身の術だってそうだ。

 今の真太郎に必要なのはシノビの性能に頼るだけの知識を持つことに他ならない。

 

 変わり身の術は一種の幻術のようなものだ。

 相手に(デコイ)を本物と誤認させることが出来る。そして自身はその隙に相手の意識外に退避するのが正しい使い方である。

 

 但し変わり身の術はゲームでいうジャストガードのようなシビアな猶予時間しか与えられておらず、常時発動などという高度なことは真太郎には出来ない。

 

 こんな無茶を狙えたのはハルカが事前にタカマルに敢えて負けたふりをして敵の巣の中に潜入するという狙いを耳にしたからだ。

 じゃあ最初から隠れて様子を見てろという話だが、これは性分だ。

 

「随分と味な真似をしてくれたモノですねェ……深紫の忍びさんよ」

 

 立ち上がる茸群道人の視線がこれまで以上に鋭くなった気がした。余裕というものが消え、確実にシノビを手玉に取るのではなく殺す。そんな意志が乗っていた。

 油断している隙に必殺技でも叩き込もうと思ったが、現実は甘くないようだ。と真太郎は仮面の下で少しげんなりとした。

 

「安心しろ。前回は仕損じたが、今度は確実に死んでもらう」

 

 と、シノビが淡々と言うがこれは()()()()だ。その実真太郎のメンタルはガタガタである。

 先ほどの動きに対処できるのか? 

 そしてあの謎の力や胞子をなんとかできるのか? 

 敗北の記憶から生まれる不安は新たなる不安を呼び、真太郎の体を蝕みその意志を戦いから遠ざけようとする。

 だから──今は考えない。

 

 不安も振り払いどんな手段を使ってでも勝つことだけを、考える。そして──

 

「……上弦衆」

 

「どうしました?」

 

 シノビの呼びかけに隣のハルカは応じる。

 素顔の時と、シノビになっている時とで反応が違うのは正直複雑ではある。

 しかしシノビへの信用度が高い現状に内心真太郎は安堵した。

 

「ここには捕らえられた人がたくさんいるはずだ。しばらくはこいつを抑えられるからその隙に皆を頼む」

 

「しかしっ!」

 

 反駁するハルカ。

 当然ではある。一人で何とかなるならとっくに町中の戦闘でシノビは茸群道人を始末している。それに真太郎は知らないが、似たような状況に幾度となく陥っているのだ。

 

「何くっちゃべってるんで? あっしは無視されるのもきらいでねェ!」

 

 痺れを切らした茸群道人がその指のような菌糸でパチンと鳴らし、無数の壁際に生えていたキノコが束となり二人に迫った。

 もはや猶予はない。シノビは前に出て得物で受け流す。今度のキノコは硬質らしく切り捨てることは出来ず、火花が散りシノビの体は大きくよろめく。

 まともに受ければ無事ではいられないそれに、仮面の下で真太郎は身震いしながらも無機質な仮面で感情を殺しながら彼女の背中を押した。

 

「ほら、行った」

 

「……すぐ、戻りますっ!」

 

 そんな彼を他所に、梃子でも譲らなかったシノビに折れたハルカは養分にされた者たちに向かって走り出す。当然それを見ていた茸群道人は触手のようなキノコをハルカに向かわせるがシノビはいずれも切り払い、時には引きちぎった。

 今はハルカの邪魔をされては都合が悪い。

 

「おい、邪魔はさせないぞキノコ野郎……! このまま焼いてタレに漬けて食わずに捨ててやる」

 

 焼かれたあげく食わずに廃棄される。

 彼にとってこれ以上にない尊厳を破壊する言葉であった。真太郎は咄嗟に出た自らの悪党のようなボキャブラリーに自己嫌悪しながら、茸群道人の憎悪を一身に受ける。

 

「キノコを焼いた上に食わずに捨てるですってェ? 仏の顔も三度までって言葉……知らないとは言わせませんぜ、この唐変木が……!」

 

 装甲を通じて、ピリリと殺気が真太郎の肌を突き刺す。

 このまま負ければ確実に八つ裂きにされることだろう。当然、そんなことを考えれば真太郎の闘志は折れる。

 死を想うな。それは──恐怖となる。

 

 先に仕掛けたのは茸群道人であった。背中の布をはためかせ、瞬時にシノビの眼前に迫り、小太刀を抜き放つ。

 有無も言わさぬ電光石火に真太郎は息を詰まらせる。咄嗟にシノビの手は茸群道人の腕まで伸びた。

 無事つかめた所で斬撃を封じそのままその腕を力づくで引きちぎろうとしたものの、当然蹴り剥がされる。

 

 あとずさる両者。

 そのさなかに攻撃を行えたのは茸群道人であった。黒い瘴気が籠った楊枝をどこからか引き抜き投げつける。

 

 命中精度は狙いが定まらないまま放たれたものだ。

 しかし下手な鉄砲数撃ちゃ当たる。数発はシノビの装甲に当たり火花を散らした。

 

「がふっ……!」

 

 強烈な衝撃がシノビを襲う。

 貫通こそしなかったが、まるでボクサーに胸を殴られたような衝撃が真太郎を襲う。一瞬心臓が止まりかけるような感覚がし、意識が飛びかける。

 我に返った所で身震いする。あれ以上受けていればシノビでも耐えられない。

 あまり当たってやれる攻撃ではない──真太郎は確信した。

 

「変わり身をまた使うと思っていましたが……へへっ、七色の霧を使うまでもねえや。おたく……もしかして素人ですかい?」

 

 挑発は無視してシノビは大腿部のプロテクターに手を伸ばす。すると2本のクナイが具現化し、シノビの手に収まりそれをそのまま投げつけた。

 

 付け焼刃の攻撃は当然、小太刀で全て叩き落される。

 そんなことは織り込み済みだ。背後に回り込もうとシノビはその隙に走り出すと、先ほど弾いた硬質なキノコがシノビを吹き飛ばそうとその木の幹のように太いそれをぶん、と横なぎにその身を振るう。

 

 こんなものが受けきれるはずがない。ジャンプして躱すと、床から次の一撃が飛んでくる。

 足元のキノコはどうも軟質のもののようだ。シノビブレードで斬り祓い着地する。

 

 シノビの力ならば、隠れ家ごと忍法で焼き尽くすことは出来る。

 だがそんなことをすれば、ここにいる人々はどうなる? 諸共焼き尽くしては意味がない。ここまで来た意味がないのだ。

 ふと、周囲を見渡す。

 ハルカはちょうどこのフロアにいる人々をやっとこさ菌糸から引きずり出すことが出来たようで既に養分にされた人々の姿は既に消え失せていた。

 後は屋敷の奥を探し切れば終わりだ。

 

「ん? 手早いこって。ま、このまま放っておいても新しく新鮮な養分を増やすだけでさァ。慌てるこたァない」

 

 ハルカに養分を奪い取られていることに気づいたものの、キノコに翻弄されるシノビを見て余裕を取り戻し、滔々と語る茸群道人。

 余裕綽々な態度に仮面の下で真太郎は歯噛みする。けれどもここで敗北を想うことは許されない。

 止まるな、前だけを見ろ。

 

「それとですねェ、おたくがいくら斬ったところで無駄ってモンですよ。ここのキノコ衆は性欲もさることながら暴力性もピカイチでしてね……ここは四方八方そんなキノコの住処。逃げ場なんてありやせん」

 

 そんな必死で抵抗するシノビの心を折ろうと茸群道人は今暴れているキノコの性能を見せびらかすように語りながら楊枝を片手間にシノビ目掛けて投げつける。

 

「はあッ!」

 

 それに対してシノビは胸部に手を当て、手裏剣を生成し茸群道人の放つ楊枝をそれで撃ち落とす。

 その最中、茸群道人が合図を送ると、天井、壁、床、ありとあらゆる場所からキノコがシノビ目掛けて伸び始めた。

 

 ──うげえぇ……気持ち悪ッ! 

 

 にゅるにゅると、湿った音を立てて迫るその姿は最早キノコという領域から外れた触手同然のソレは正直触れることはおろか近づくことすら厭だと真太郎の本音が叫ぶ。

 しかも先端が明らかにR-18なソレだ。

 さっさとディケイド修正もとい黒塗り修正かモザイク修正をしてもらいたいものである。普通のアレならばまだしもグロテスクな改造を施されたものを誰が好んで見るものか。

 

 四方八方、そして足元からも迫るソレから逃げられないと悟った所で真太郎は──目を閉じた。

 

 ──心を乱すな。

 

 ──イメージしろ。全てを切り裂く風の刃を。

 

 ──吹けよ、風よ、嵐よ。

 

 シノビは無造作に地面に逆手持ちにしたシノビブレードを突き立てる。

 すると、刃が紫色の光りを放ちはじめ最大限にまで輝きを放った瞬間に床から引き抜く。

 まるで独楽のように回転しながらその刃を振るうと──

 

 

 

 瞬時にしてシノビにまとわり付こうとしていたキノコたちがバラバラの塵となり果てた。足元の柔らかめのキノコも、そして壁際から迫る鋼鉄よりも硬いキノコすらも──塵へと変えた。

 その余波があちこちの壁や階段に大きな切れ込みを入れシノビの半径3mほどの足元も綺麗さっぱり消し飛んでいた。

 ハルカがこの場にいたら諸共消し飛ばしていたであろうそれは、巻き添えこそ受けなかったが茸群道人を戦慄させるには充分過ぎるものであった。

 

 あの通常のシノビブレードですら切り捨てることが叶わなかった硬いキノコすら消し飛ばしたのだ。異常と言っても過言ではない。

 

「なん……ですってィ……」

 

 グロンギを吹き飛ばしたクウガ*2めいた光景を見せつけ、ゆらりと茸群道人へと歩くシノビに、茸群道人の動きに動揺がありありと見えた。

 

()()()()()()()の分際でよくもまァ……!」

 

「……すぅ」

 

 息を──深く吸い込み、それを吐く。

 眼前の茸群道人とは視線を合わせず、シノビブレードを構えなおす。恐らく同じ手は通用しないだろう。

 ここから先どう立ち回るべきか。そんなことを考える暇もなく迫る茸群道人にシノビは咄嗟に得物を閃かせた。

 

 

 ◆◆◆◆◆

 

 

 シノビに促されて捕らえられた人々の救出に向かうことになったハルカは、広間に居た者を隠れ家の外まで救い出してから、薄暗い空間をひたすら走り続けた。

 元々誰かが所有していた洋館が、何かしらの形で空き家となりそれを茸群道人が住処としたのだろう。空いている部屋を虱潰しで探っていく。

 キノコたちが慌てて行く手を阻むがこれらはクナイで切り捨てた。

 

 ここでまごついていれば深紫の忍び(シノビ)が危ない。

 片っ端から()()()のドアを開けて、中を探る。次第に奥へ奥へと進んでいく。その道中で生ける屍となり果てた者たちも警戒していた。

 一応予め用意した縄で四肢を封じれば無力化できるはずだ。

 このまま上弦衆の技術で元に戻ることが出来るかは分からないが一人たりとも犠牲は出させない。

 

 

 ……と思っていたのだが。

 

「……ぅ……ぅう……」

 

 うめき声を出しながらそれは動かずに上体をぶんぶんと揺らすだけであった。ハルカに組み付くなりするだろうそれは廊下の真ん中で一歩も進もうとせず、彼女の前でうめき声を上げるだけであった。

 

「……これは」

 

 足元から冷気を感じたハルカはゾンビの足元を見る。その足は完全に凍り付いていた。氷の塊として両足の動きを封じられ床と一体化させられている。

 

「氷の……術?」

 

 これはどう見ても茸群道人の仕業ではない。

 ふと、ハルカの脳裏にかつての戦友の姿が過る。青みがかった黒く長い髪を後ろに束ね、刀を携えた忍者装束の女。

 時渡りの際、戦国時代に残した、姉のような存在であり、そして──見殺しにしてしまった大切な、仲間。

 ハルカの知る『彼女』もまた、氷の術を得意としていた。

 

 ──スバル? 

 

 もしや、と淡い希望が生まれる。

 もしかして自分と同じように時渡りをしてここに来たんじゃないか、と。同じように足を凍らされたり、氷で磔にされたゾンビを掻い潜り最後のドアを潜る。

 

 すると──

 

 

 

 まさにこの世の地獄と言っても過言ではない光景が繰り広げられていた。

 見たこともないような色とりどりのキノコに、無秩序に散らばった菌糸たち。そしてそれに捕らえられた──人々。

 

 男は既にゾンビにさせられ、女に至っては最早言葉にするのも憚られる状態にいた。身ぐるみ剥がされ全身からキノコを生やされ体液を啜られる。

 苦悶の中出していたうめき声はハルカを見つけるや否やか細い声で言の葉を紡ぐ。

 

 た・す・け・て

 

 

 と。

 クナイを握る手が強くなる。

 そのまま何としてでも救おうと歩みを進めようとしたその時だった。

 

「丁度いいタイミングだ。たかも……上弦衆」

 

 背後から声がした。不意打ちで飛んできた声で咄嗟に振り向くとそこには──頭からつま先まで全身を覆う装甲に、腕や太ももに布のようなものが巻き付かれている。そして頭部には三方手裏剣を思わせる仮面を被った戦士。

 

 深紫の忍びか──否、違う。何かが違う。

 細部どころか諸々が違う。暗闇のせいで色ははっきりとは見えないが何か根本的な何かが違う。深紫の忍びは存外シリアスな雰囲気を醸し出していたが、今目の前にいる忍びはヘラヘラしたような態度でハルカのすぐ横を通り過ぎ、苗床にされている者たちを一瞥してからハルカの方を向き直った。

 

「……ちょうどいい、行方不明になってる()()()を救出してついでにこの悪趣味な部屋ァ台無しにしてやってる真っ最中だったのさ。だからちょっと俺様を手伝って貰うぜマドモアゼル?」

 

 明らかに深紫の忍びとは到底思えないような気障ったらしい喋り方で指差しながら勝手に迫ってくる言動にハルカは少し反感を覚え警戒を解かないまま問い掛ける。

 

「──あなたは、一体」

 

 深紫の忍びの仲間か。それとも。

 その男はこう名乗った──

 

 

 

 

 

「あ? 俺様か? 俺様は────」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

()()()()()()。全ての女の味方さ」

 

 そう言って、どこからか取り出した扇子をバッと片手で開きパタパタと扇ぐ。扇子には【俺様!】とデカデカと書いてあった。

 

 ……変なのがきた。

 

 明らかにおかしい男な気がしたハルカは少しばかり眩暈を覚えた。

 

 

 

 ◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 結局何かが解決した訳でもない。

 茸群道人の剣術を上回ったり封じたわけでもない。シノビの剣戟は拙く忍法も制御が困難な代物だ。

 

「へへっ──性能に頼った忍びなんぞ恐れるに足らんでさァ!」

 

「はぁっ……はぁっ……はぁっ……チッ」

 

 パワーを見せつけたとはいえ、完全にこっちの能力が拙いことは看破されていた。

 この館ごと吹っ飛ばしてもいいというのなら、炎系の忍術でその辺に生えているキノコごと諸共、とっくに焼き払っている。

 

 茸群道人が既に多くの人間を養分にしていることと何かの力が働いていることから、単純な斬りあいは泥仕合に、必殺技で殴り飛ばそうにも避けられるだけで決定打には持ち込めない。しかもキノコが邪魔をするせいで十分に動けないときた。

 

 どれだけの時間が経っただろう。薄暗いキノコだらけの洋館の中、古ぼけた時計はとっくに動きを止めておりアテにはならない。

 もしハルカがしくじってゾンビに捕まっていたら。そんな可能性が脳裏を掠めるが、茸群道人が思うほど彼女は弱くはない。

 戦闘のプロが先にゾンビを見て何の対策も練っていないはずがないし、そもそも事前に捕縛用のワイヤーを持ち込んでいるのでまず、後れを取ることはないはずだ。

 

「ここのキノコ衆はあっしに力を与えてくれる。おたくらはあっしを出し抜いたつもりで自分から養分になりに行ったも同然だったんでさァ」

 

 茸群道人は再び小太刀を持ち構えを取る。

 悍ましい瘴気をキノコたちから吸い上げ、刃は黒々とした邪悪な光りを放つ。全身からは明らかにこの世のものとは思えないもやを放ち始めている。

 おそらくあの攻撃を受ければ、一撃でアウトだ。

 

 勝負をつけにきたのだ、ヤツは。

 シノビは確実にその攻撃を避けようと、身構える。本能が警戒したせいか、心臓がうるさく鳴り始める。

 

 ──来るっ! 

 

 茸群道人の足がシノビに向かって僅かに傾くと、即座に動こうとした矢先だった。

 数本のクナイたちが上から茸群道人目掛けて降り注いだ。

 

「むっ!?」

 

 咄嗟に反応して前に出かけた足を後ろに引き下げ、バックステップをする。

 標的を失ったクナイたちはカカカッと、音を立てて床に突き刺さる。それを見たシノビは上──階段から上がって2階の手すりの上に──彼女はいた。

 

「忍びさん! 無事ここに攫われた人は救い出せました!」

 

「んナイッスぅ!」

 

 閃忍ハルカ。吉報を携え再び見参。

 そんな彼女に感激のあまりシノビは思いっきり彼女に向けて親指を立てる。……勢いの余り腕が吊りそうになった。

 

 ──いてて……

 

「上弦衆!? あの短時間で全員を救出でもしたってのですかい!?」

 

 茸群道人のリアクションに真太郎は眼を見開く。

 実際にかかっていた時間はそこまで長時間ではなかったのか、それとも攫われた人間の数が尋常ではなかったのか。まぁそんなことは今はどうだっていい。

 結局のところ想定を上回る活躍をしたということだ。そんな事実だけでも全力で彼女を褒めたかった。どんぶらピーチパフェか芋羊羹を気が済むまで奢りたいぐらいだ。

 ……普段の態度から察するにすごく嫌がられそうだが。

 

 ハルカがシノビの隣に降り立つと、そんなシノビのリアクションに首を横に振って否定した。

 

「わたしの力だけではありません。忍びさんのような人の協力もありました」

 

「え?」

 

 自分のような人。そう言われたシノビは自分のことを指さすとハルカは首を縦に振った。

 

「全身を覆う鎧で忍術を使っていました。……ちょっと……軽薄そうでしたけど。かめんらいだあ? と名乗っていました」

 

 ──仮面ライダー……だって!?

 

 全く知らない存在に一見無反応に見えるシノビの仮面の下で真太郎は焦りに焦っていた。立場が奪われるなどというそんなしょぼい理由ではない。

 単純に()()()()のだ。

 

 一応ハルカの手助けをしてくれたのならば、ノロイの敵であることには違いない。もしかしてあの虚無僧が変身したのか。まず前提条件としてこの世界における仮面ライダーは1号しか存在せず、知る人ぞ知る存在だ。ゆえにそんなものをわざわざ自ら名乗る人間は相当限られる。

 そのため現状真太郎の知る人間に限定して言えば仮面ライダーという概念を知っているのはあの虚無僧しかいない。

 確かに言われてみればあの虚無僧は軽薄そうな気もしなくもない。

 

 あの虚無僧の目的はいまいち分からないが、ここまで協力してくれるのは至れり尽くせりだ。

 しかし一体何処に行ったのだろう、そんな疑問にハルカは首を横に振った。

 

「あの後何処かへ行ってしまいました……」

 

 そもそも最初から全部アテにする方がおかしな話だ。シノビは気を取り直してハルカ共々構えを取る。

 それから先に仕掛けたのはハルカだった。

 

 茸群道人の投げた楊枝をクナイで弾きながら距離を詰め、クナイで斬りかかる。茸群道人もまた瘴気を持った得物を振るうが、寸前の所でハルカは避けてみせる。

 そして両手に握られた2本の大きなクナイから、山吹色に輝く雷のエネルギーを放ち始めハルカはその現象の名を口にしながらそのまま彼に振るった。

 

「雷針撃ッ!」

 

「ぬぅッ!?」

 

 蝶のように舞い、蜂のように刺すとはこのことか。

 茸群道人が横なぎに放った一閃を飛び除け空中から放った斬撃は胴体に直撃。──そう、先日シノビが与えた古傷目掛けて放たれた一撃であった。

 

 直撃をもらった茸群道人がよろめきながら苦し紛れに、触手のようなキノコたちをけしかけるがハルカは後退しながら切り捨てていく。無造作に触手みたいなキノコをバッサバッサと狩る姿はまさしくキノコ狩りの女であった。

 直感のスピードで状況を一気に変える力を自在に操るような手際のいい動きに、シノビは思わず「すげぇ」と感嘆の声を漏らす。

 

 定位置に戻ったハルカに遅れまいとシノビブレードを持ち直し、前に出ようとした矢先だった。

 

「随分と味なマネをしてくれますねェ……だったら纏めて苦しんで貰いましょうかねェ!」

 

 ──まさか。

 

 茸群道人がその顔をくいっと上へと向ける。

 見覚えのある光景に真太郎は息をのんだ。奴はあの胞子を出すつもりだ。その時真太郎は先日の特訓を思い返した。

 

『茸群道人ってヤツの切り札はあの胞子をまき散らす攻撃だ。閃忍の力を吸い取り、シノビの場合は装甲を喰らおうとする。一見すれば凶悪無比な攻撃だがアレには2つ弱点がある』

 

「ここは閉所! そう簡単には外には出られやせん! このまま七色の霧に喰らいつくされてしまいなせぇ!」

 

 虎の子を放ったとなると、それ相応に追い詰められたのと同義だ。

 だが一発逆転の切り札でもあるそれは適切に処理をしなくてはならない。

 

「くっ……!」

 

 ハルカにはそれを防ぐ手立てはない。加えてここは閉所。

 外に出ようにも出る前に胞子の餌食だ。キノコたちの邪魔を加味すればほぼ絶望的と言っても過言ではない。

 しかし。だがしかし。虚無僧はそれを見越してある術をシノビに授けた。

 

 どばっ、と音を立てて茸群道人を中心に七色に怪しく光る胞子が放たれる。貯めるに溜め込んだ瘴気もあってか先日のものとは比べ物にならないくらいの量のそれがじわじわと迫る光景にハルカはシノビに後退を促す。

 

「忍びさん! 一度後退を!」

 

 至極真っ当な判断だ。このまま無理して戦うよりは後退した方がまだ勝機はあるはずだ。そんな彼女の判断に対しシノビは手で制し逆に後退するどころか前に出るとハルカは驚愕のあまり目を見開いた。

 

「後ろにいてくれ……!」

 

 仮面の下の真太郎は眼を閉じ、そしてガワであるシノビは印を結び水を意識する。

 地中に流れる地下水、キノコたちが吸収した水分。洋館の中にあるであろう水道管の水たち。

 そして、外にあるであろう川の水たちが集っていくようなイメージを。そして集まったそれを全てを洗い流すような浄化の力へと変換する。

 

 ──整った! 

 

「ふんッ!!」

 

 カッ! と真太郎が眼を見開いた瞬間、シノビは勢いよく。その床に手のひらを叩きつけた。するとすぐ目の前から水が吹きあがり巨大な水の壁が立ち、そのままじわじわと押し寄せてくる七色の霧とその後ろにいる茸群道人目掛けて壁が倒れるように崩れ、雪崩を起こした。

 

 これぞ忍法

 

【ナイアガラ・忍POW!】

 

 茸群道人相手には効果は薄いだろう。というより怪忍相手にはけん制が関の山だ。

 しかし胞子程度の重さを持つものは全て洗い流す。そう、それだけで十分であった。

 

『まずはあの胞子。見ての通りかなり軽いもので出来ている。まぁキノコだからね。そこの対処方法としては強烈な風であらぬ方向に吹き飛ばすこと。ただこの方法では色々不十分だ、いろんな意味でね。で、今回適切なのは水遁の術でその胞子を吸い尽くして床に流してしまうことだ。……で、もう一つの弱点はヤツのその技は大技、つまり連射は出来ない。ぶっ放したそれが無力化された時点で手詰まりという訳だ』

 

 まるで最初からこうなることを見越したような教えだった。

 怖いほどに的確な修行の結果、怖いぐらいに茸群道人を追い詰めている。

 大量の水を浴びせられた茸群道人は水を払いながら、苦虫を3000匹くらい噛み潰したような唸り声を上げた。あの胞子は使う側にも負担が来るらしい。その唸り声には苦悶と果てしない怒りが込められていた。

 

「ぐぅぅ……! なんなんだおたくは。おたくは一体、なんなんでぇ!」

 

 それはシノビの名前を聞いているようなニュアンスではなかった。強いて言うなら、お前は何処からきて何処へ向かおうとしているのか。そんな問いであった。

 通りすがりの仮面ライダーは名乗らない。というか通りすがっていない。

 

「俺に聞くな! 俺が知るかそんなこと!」

 

「へぇっ!?」

 

 ──ぶっちゃけ俺が一番知りたいわ! 

 

 溜まっていく謎と疑問に対する不満が無意識のうちに相当溜まっていたのだろう、爆発と同時に出たせいで逆ギレ気味になった身もふたもない返事に茸群道人は意外に思ったのか素っ頓狂な声を上げた。

 ハルカも声には出さないが、首を思いっきり傾げている。

 自分のことがわかりませんだなんてシラフで言う奴が居るか。自分探しの旅とかしたがる人生のお悩みについて語っているわけでもないのだ。

 

「……忍びさん。トドメを刺しましょう」

 

「あはい」

 

 緊張感のかけらもない空気感にシノビは、取り敢えず気を取り直したハルカに促されるままにベルトの手裏剣を勢いよく回した。

 

【フィニッシュ・忍POW!】

 

「へへっ、力は使いましたがその程度の技避けてみせやすぜぇ!」

 

 あれだけ消耗してもまだ抵抗できるのか。茸群道人の反応に仮面の下の真太郎は早過ぎたと後悔する。しかしながらハルカは至って冷静であった。クナイを仕舞い、印を結ぶ。それから右手を帯電させ水浸しとなった床に目がけて叩き込んだ。

 

「雷光衝!」

 

 ハルカの放った電撃を纏った掌底は水浸しの床を伝って茸群道人の身体に瞬時に迸る。

 その攻撃はガード不能。水浸しの床の上にいたのが運の尽きであった。

 

「しびびびびびびびびびびびびびびびびびっ!!?」

 

 感電して動きを封じられた彼にはもう、シノビの必殺技を防ぐ手立ては無かった。

 空高く飛び上がったシノビは右脚を突き出し、そのまま行動不能になった茸群道人の胴体目掛けて突っ込んだ。無論、その時にはハルカも雷光衝を止めていた。

 

「ごふぁっ!?」

 

 深々と蹴りが刺さる。そして刺さったと同時に何か致命的なナニカが砕け散る音が茸群道人から聞こえてきたような気がした。次にキックの反動でシノビと茸群道人が離れた瞬間、再びハルカが追い討ちの雷光衝を流し込む。

 泣きっ面に蜂とはこのことか。

 反動でハルカのもとへと戻るように着地したシノビは「……お前の負けだ」と茸群道人に向けて呟いた。

 

「こりゃあおかしいんじゃあないですかねぇ? あっしが……負ける?」

 

 たしかにホームグラウンド同然のところにホイホイ来たと思ったら人質は全て助け出された挙句、シノビの規格外の力で色々台無しにされ、とどめに感電させられた挙句必殺技をぶち込まれたのだ。

 閃忍ハルカとシノビ。この二人の力が完全に彼の勝ち筋もへし折ったのだ。

 

「へへっ……すいやせんねキノコの仲間衆……この願いはまたいつかの機会……キノコとノロイに……勝利あれ」

 

 ぐらり、とよろめく。

 もはや彼に立ち上がるだけの気力も体力も尽きたようであった。自嘲気味に笑いながら倒れた茸群道人は二度と立ち上がることもなく爆発四散。

 この世から消え去った。

 

 

 

 

 

 

 

「忍務完了。怪忍・茸群道人……成敗せり」

 

 ハルカの全ての終わりを告げる宣言にシノビは全身から力を抜いた。

 あのもう一人のシノビについて聞きたいことはあったが、ここで悠長に待ってれば上弦衆がわらわらやってくるのは目に見えている。

 まぁ──もう隠し通すには無理がある気もするが。よしんばバレなかったとしても今回ばかりは始末書だろう。

 お前何処をほっつき歩いていたんだとか言われそうだ。もし泳がされているのなら笑うしかない。

 

「忍びさん……自分のことが分からないようなことを言っていましたが、一体どういう……」

 

「…………」

 

 先程シノビが茸群道人にかました逆ギレが気になったのか、ハルカに問われたものの問答していてはボロが出るのは明白だ。

 取り敢えず煙玉を足下に投げつけこの場を離脱することにした。

 

 

 

 

 

 

 

 そんな彼と彼女を見ていた者がいた。

 それは上弦衆の忍びというにはあまりにも重装備で、全身を覆う装甲は果たして人であるかすらも定かではない。橙色の鎧を纏ったそれはハルカが出会したもう一人の忍び。

 彼らの死角の壁にもたれていたものの壁から背を離した。

 

「俺様が出るまでもなかったな。あの紫野郎……だいたい35点と言ったところだな」

 

 どこからか扇子を取り出し、バッと片手で開く。【未熟!】と書かれていたそれをパタパタと扇ぎながら踵を返し、暗夜に消えた。

 扇子の裏には【忍務完了!】と書かれていたとか。

 

 

 

*1
皮肉

*2
ゴ集団と呼ばれる上級怪人に対し、金(ライジング)の力を行使したクウガの必殺キックで倒された場合半径3㎞が焼失する現象のことを指す




 
 得体のしれないナニカに侵食されていく、世界。
 不可解な強化が成されたノロイ党、化身忍者、血車党、そして、時代に取り残され消えたはずの『仮面ライダー』という存在、そしてーー採り過ぎたキノコのあとしまつ。

「お前は本当に斉藤真太郎なのか?」

 次回『オマエハダレダ』

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

・仮面ライダーを名乗る男について。
 言わずもがなアイツです。三方手裏剣という時点で……ね?
 あくまで今回は顔見せ程度なのでもうしばらくお待ちください。

・スバルは?
 そろそろ出てきます。原作をやってる人なら強さとか察しはつくかも
 真太郎にはそろそろ地獄を見てもらいます。エッチはエッチでもHellの方です。
 負けても地獄、勝っても地獄です。ナリカはもうちょい待たれよ。

・虚無僧
 ヒントを出すならスーパー戦隊に出てきた忍者先輩とはまったく関係ないです。一応。
 TV本編や映画、小説、などなど幅広く『平成』をキメてる人なら何となくどういうカテゴリの存在なのかは察しはつくかも(余計に混乱させに来るな)。




 追記
 『ミナヅキの事件簿(仮称)』も同時に執筆してますので完成次第ここに落とします。
 原作だと怪忍としてハルカの前に立ちはだかった名護度高めの少女ミナヅキと、今回登場したちゃらんぽらんなあいつが主役になります。


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5人揃って四天王!/オマエハダレダ

 タイトルが変なのは確信犯。


124:一般エロゲ竿役忍者 ID:20sNB2kmn2 

 あぁ……来る日も来る日もキノコキノコキノコキノコキノコキノコキノコキノコキノコキノコキノコキノコキノコキノコキノコキノコキノコキノコキノコキノコキノコ

 

 

125:名無しの観測者 ID:MHO6qJzgY

 えっ、怖っ

 どうした急に

 

 

127:名無しの観測者 ID:1kVFrFUIl

 イッチが壊れた……

 

 

130:一般エロゲ竿役忍者 ID:20sNB2kmn2

 いやね、茸群道人倒したんはよかったんだが、囮作戦で閂山から採りまくったキノコが余りすぎて

 どうしようかつって上弦衆が悩んでる

 ハルカさん、ノリノリでやたら採ってたっぽくてまぁ皆頑張った訳だから捨てるわけにもいかんし、連日キノコで死にそう助けt

 

 

133:名無しの観測者 ID:kCG47gYUy

 野生のキノコは犠牲になったのだ……古くから続く上弦衆とノロイの因縁、その犠牲にな……

 

 ハルカさんめ……野郎のtntnだけではなくキノコも狩るのか……

 

 

136:名無しの観測者 ID:t4Ck+Q7ym

 たけのこ派としては

( ゚∀゚) アハハハハノヽノヽノ \ / \ / \

 ざまぁないぜ! 

 

 

139:名無しの観測者 ID:TCM7b5B4M

 >>136

 カミーユくん! 精神病院に戻ろう! 

 

 

141:名無しの観測者 ID:7CTSsT6sa

 たけのこを食ってなければ許す

 きのこだけを食え

 

 たけのこ派は吊るせ

 

 

143:名無しの観測者 ID:MG/Ktle5F

 きりかぶ派ワイ、高みの見物

 

 

144:一般エロゲ竿役忍者 ID:20sNB2kmn2

 どうしてきのこたけのこ戦争が始まってるんですかね? (困惑)

 

 

146:名無しの観測者 ID:xTzUQihmp

 >>144

 平成のライダーバトル並みに軽率に起こるものを気にしてはいけない

 

 

 

148:一般エロゲ竿役忍者 ID:20sNB2kmn2 

 えぇ……(困惑)

 

 ナリカちゃんが頑張って料理作ってるけどナリカちゃん当人もげんなりしてるし、果てはきのこ餅とか出始めたし

 あーもうめちゃくちゃだよ

(´・ω・`)コマッタナァ……

 

 

152:名無しの観測者 ID:vbcl6glUR

 ナリカは料理もできるからな

 そういやナリカの話あんま聞かんかったけど、まだ閃忍になっとらんのか? 

 

 原作だともうなってるんじゃなかったか

 

 

156:名無しの観測者 ID:CrGbjCnuX

 ナリカって誰? 

 おしえてエロ(ゲに詳し)い人! 

 

 

158:名無しの観測者 ID: lpXAQz5Tk

 原作エロゲに出てくるツインテールの淫乱ピンクゾ

 特撮が好きなホモに表現を合わせるなら2号ライダーや

 

 一時期流行った暴力系ヒロイン入ってる貧乳ツインテツンデレ娘だけど、そこまで酷くないし割と献身的で料理もできてヤンデレのケもちょっとある

 純愛ルートのデレデレっぷりもクソかわいいけど、陵辱鬼畜方面のふたなりとかもおすすめゾ

 

 

 二人目の閃忍として茸群道人戦の前に参戦するはずの娘だったんだが……

 

 

162:名無しの観測者 ID:G/9mKkIKd

 本来オーバーワークでハルカさんぶっ倒れて、人手が足りないからってナリカ参戦だったはずなのに、イッチが介入したせいでナリカが参戦する理由がひとつ潰れた訳か……うーん、この

 

 

163:一般エロゲ竿役忍者 ID:20sNB2kmn2 

 あとわからんことがあるんだが、前日から皆に確認してたけど

 ワイにニンポ教えてくれた虚無僧、アイツまじでなんなんだ? 

 ゲームとか派生作にあんなんいたん? 

 

 

166:名無しの観測者 ID:qP6lBM8rR

 >>163

 全然わからん(ジャ並感)

 キカイダー01に虚無僧ロボが居たくらいで知らん

 

 あとキンタロスがさらばで虚無僧バージョンしてたり、エグゼイドのカイデンバグスターくらいじゃねえ? 

 戦隊は虚無八とか……ハチョウチンとか? 

 

 いやイッチを導くキャラとしちゃ変過ぎるわ

 

 

 

167:名無しの観測者 ID:9uByQ6uqH

 虚無僧ロボとかいうパワーワード

 というか大半知らんのだが

 

 ウォズくせえけど、士の可能性もあるやろな。そういう役割として出てきたーとか

 

 

168:一般エロゲ竿役忍者 ID:20sNB2kmn2 

 ウォズってあいつか……ワイごときのところに来るとは思えんのだが

 ワイ一般人やぞ、救世主にはなれんて

 

 もやしも考えたけどあの可能性はない気がする

 あいつだったら普通に変身してしゃしゃり出てたろうし、言動は海東寄りな気もする

 

 

 

169:名無しの観測者 ID:MWPo63UOE

 もやし居たらこのゲーム普通に終わってそう

 本来滅ぶべき世界救うようなやつだし

 

 

173:名無しの観測者 ID:YfHAowEH5

 もやし参戦はもう禁止カードやん……

 おのれディケイド

 

 

177:名無しの観測者 ID:JwjTnGnxl

 もし仮に虚無僧が海東だったらめんどくさいな

 あいつ碌なことしねえぞ

 

 

179:一般エロゲ竿役忍者 ID:20sNB2kmn2 

 海東はもやし絡んでなければ比較的まともだし……それでも泥棒というか強盗するけど

 

 

181:名無しの観測者 ID:IZG8d6twY

 虚無僧はもうええやろ

 特撮勢もエロゲ勢も心当たりがないんやから流れに身を任せてくしかないわ

 

 そろそろ中ボスが出る頃やろ

 

 

183:名無しの観測者 ID:GT2JlaaPi

 中ボス? 

 そんなんおるんか

 

 

185:名無しの観測者 ID:lpXAQz5Tk

 解説しよう! 

 

 

187:名無しの観測者 ID:K/sujzErJ

 うわでたエロゲ博識ニキ

 

 

188:名無しの観測者 ID: lpXAQz5Tk

 超昂閃忍ハルカの世界には四道封者と呼ばれる存在がおるんや

 一種の四天王でそいつらが中ボスって訳や

 

 こいつらは常人には見えない城の管理をしとる

 城はノロイ党を弱体化させて閂市に封じ込めてる結界を弱体化させようとしとるんやがそいつを壊すために四道封者と戦う必要があるってワケだ

 

 ちなみに大蛇丸、スバル、桔梗太夫、鋼一刀、骸居炎斎がそれにあたる

 

 

192:名無しの観測者 ID:BIiNmDmOq

 四天王って嘘じゃねえか! 5人居るじゃねえか! 

 

 

196:名無しの観測者 ID:+qpxLgt6I

 四天王(大嘘)

 

 

 

199:名無しの観測者 ID:obHZ3uz3n

 龍造寺四天王も5人だから……(諸説あり)

 なんの問題もないね♂

 

 

203:名無しの観測者 ID:wTAzrh3hi

 まぁゆーて処理ミスらなければ、桔梗太夫は城攻める前に殺せるやろ

 シノビならやってみせろや

 

 なんとでもなるやろ

 

 

204:名無しの観測者 ID:JUbUuhBbv

 話を戻すか

 おそらくこれから大蛇丸が出てくるはずだから、こいつなんとかせんとな

 

 

205:名無しの観測者 ID:LuXRfTDIv

 つったってどー説明するよ? 

 資料ろくすっぽ無いってのにウィンキースパロボ程度の情報量でどう説明せえと

 

 

208:名無しの観測者 ID:K/IaIvQMS

 鎖鎌を使う好戦的な男というか、なんというか色んな意味で阿散井恋次

 

 

209:名無しの観測者 ID:J0p2q+xz3

 大蛇丸って

 ビールと料理で優勝するってコト……!? 

 

 

213:名無しの観測者 ID:wlJlwTBBy

 いやしねえから

 某一般人男性関係ないから

 

 

214:名無しの観測者 ID:Wjxm8L2jg

 潜 影 蛇 手

 

 

215:名無しの観測者 ID:LlJv9+Bfl

 なんかエロゲから急にジャンプ漫画度高まってきたな……BLEACHかNARUTOかはっきりしろ

 

 

217:一般エロゲ竿役忍者 ID:20sNB2kmn2

 一応城攻めの案は出てる

 その四道封者って奴を始末するって話も

 

 でも人数多いなぁ……

 ソードマスターヤマトみたいにスパッとやりてえな

 

 

218:名無しの観測者 ID:RYYKq1W0g

 >>217

 そんなイッチに朗報だ

 ワンチャン一気に3人殺れるで

 

 

219:一般エロゲ竿役忍者 ID:20sNB2kmn2 

 なんだって、それは本当かい!? 

 

 

221:名無しの観測者 ID:4vTE3OcNz

 普通に負けバトルのスバルに殺されかねんからやめやめろ! 

 

 

224:一般エロゲ竿役忍者 ID:20sNB2kmn2 

 おい待てや負けバトルってなんだアタシキイテナイ! 

 

 懸念事項がまた別口であるのに俺の胃に穴を開けるな

 

 

 

228:名無しの観測者 ID:Gx/3+CufS

 >>224

 なんやねんRTA路線行くかなって面白くなってきたところで

 

 

232:名無しの観測者 ID:fdkTVW0mE

 >>224

 負けバトルは負けバトルだ

 その前に大蛇丸に勝て

 

 イッチの胃がそろそろやばいな?

 

 

233:一般エロゲ竿役忍者 ID:20sNB2kmn2 

 胃はもうダメだよ。最近ちょっときりきりするから病院でお薬もらってきた

 それになんかシノビの正体バレてる気がするわこれ(´;ω;`)

 

 

237:名無しの観測者 ID:uMA0lc5I4

 >>233

 あっ……(察し)

 

 

241:名無しの観測者 ID:3viNuLzzT

 >>233

 あーあ……

 

 

 

 

 

 

 

 ◆◆◆◆◆◆

 

 

 

「ある日、とある男の尾行任務に向かっていた時のことだ。上弦衆の忍び、ベテラン数名が彼を追跡していた。彼はどうもその追跡に気付いていない様子だった。何せ彼らは指折りの実力を持つ男だからな」

 

「しかし、森に差し掛かった所でふと、見上げると赤い魔法陣のようなものが浮いていたんだ。そして次の瞬間、彼らを飲み込んだ! あたり一面が強烈な光に包まれ……気付いた時には既に彼らは自宅のテレビの前にいた」

 

 からかっているようには見えなかった。

 黒塗りの高級車の中、後部座席の隣に座ったアキラのシリアスな表情で語られたその珍妙奇怪不可思議な話に戦部鷹丸、改めタカマルは心底困惑した。

 何故こんな話を聞かされているのだろうか。振り返ってみたが、ついさっき一人で自販機の缶コーヒー呷ってたら急にアキラが乗った車に乗せられたので何もかもがわからない。

 

「どう思う?」

 

「どうって……?」

 

 それとその急に振られた話にどう反応すればいいのかわからない。

 笑えばいいのか、悲しめばいいのか。そもそもどうしてそんな話を突然こっちに放り投げてきたのか。

 そんなタカマルの反応にまぁそうだろうなとため息をついてからアキラは口を開いた。

 

「これが一連の()()()()()の追跡時の報告書だ」

 

「……え」

 

「まだ確証も無かったので鷹守には伝えていないが、奴の動きに不審な部分があってな。水面下で調査を進めていた。それからやっとある程度纏まったので伝えておく。この世界の異変と共に、な」

 

「世界の異変?」

 

 世界の異変。

 そもそもこんな風にノロイ党やら怪忍やら深紫の忍びやらハルカの存在やら、そしてハルカが見たと言うもう一人の忍びやらでとっくに異変しかないし、異変こそが日常になりかけている。

 今更何をと言いかけた所でアキラは遮るように言葉を続けた。

 

「率直な感想を聞かせてくれ。斉藤真太郎、アイツについてどう思う」

 

「急に何を……」

 

 言われても別になんともない。

 答える必要あるか? と思ったものの、アキラからすれば何かしらの言葉が欲しいらしく大人しく答えることにした。

 強いていうなら──

 

「独特のペース持ってて面白い人だなーって……最近の流行りも把握してるのか話しやすいし。まぁ、なんか調()()()()()()()()ですけど」

 

「まぁ、そうなるな」

 

 小学生並の感想しか浮かばなかったせいで若干言葉が尻すぼみになったが、アキラの反応は予想斜め下のものだった。

 予想通りと言わんばかりのあっさりとした反応に肩透かしを食らったタカマルは肩をストンと落としながら目を丸くした。

 

「そうなるってどういう」

 

「なに、私も同じ感想だ。新人としてはそこそこ優秀なだけでどこにでもいるような、少し幼い面を持つしからかい甲斐のある男。そんな奴だ……だが、元々そのような人間ではなかった。私の知る限りでは、な」

 

「なかった?」

 

 まさか突然キャラが変化したとかそんなはずはあるまいな。

 一瞬タカマルの脳裏に『多重人格』『ジキル博士とハイド氏』という単語がよぎる。

 身近にいた人間がそんな物騒なことに陥っているというのも中々不思議な気分だったし、心がざわついてくる。

 

「まぁお前の好きな人間ではないのは確かだ。少なくとも私は嫌いだった」

 

 焼肉に連れて行ってここまで言うか。

 ボロカスな言われようにタカマルは少し引いていると、アキラは座席に置いていたブリーフケースから何かを取り出した。

 それはホッチキスで止められた数枚の紙。

 

 やたら長い文章と写真で構成された報告書だ。その写真に写っているものは間違いなく真太郎だった。

 報告書を受け取ったタカマルがパラパラとページをめくる中、アキラは言葉を続けた。

 

「斉藤真太郎、23歳独身。想破上弦衆の出資者である叔父を持つ。出資者の名は斉藤儀助。資金の何割かを提供しており彼の機嫌を伺う必要がある訳だな。両親を亡くした斉藤真太郎を跡取りとして引き取った訳だが……」

 

 権力に溺れたということか。

 よくある話ではあるかも知れない。けれども今の真太郎がそのようになるとは到底思えなかった。あの焼肉が大好きで時々抜けたところのあるあの男がそうなることが想像できなかった。

 

「なにぶん資金と人手がタイトな上弦衆だ。奴は才能はあった、閃忍ではないが新入りの忍びとしては上々。喉から手が出る程欲しい人材ではあった。ただ性格が最悪と言っても過言ではなかった。ナリカとは別の場所ではあったが、上弦衆入りする前の修行中の時点で格下と見做した者には陰湿に追い詰め、女は金と権力を使い手篭めにする。そんな男だった」

 

「……人違いじゃないですかね?」

 

 淡々と語る真太郎の本性のようなナニカに、タカマルから素で出てきた言葉がそれだった。

 そもそも当人はタカマルにやっかみの言葉を投げつけることはあった。

 彼女いない歴=年齢で女性歴はまるでないまま社会人になったからお前の情事はうらやま……けしからんとか。

 エロゲで言う割を食いがちな主人公の親友ポジみたいな男である。

 

「まじめに鍛錬していなければこっちも願い下げだったが、なまじ奴は修行だけは真面目にやっていた。まともな動機じゃなかったろうがサボりはせず、上層部ウケも良かったので追い出すに追い出せん事情があった」

 

 話を聞けば聞くほどタチが悪い人物に思えてくるがタカマルの知る真太郎とアキラの語る真太郎からの乖離が激しくなっていく。

 何か化かされている気分で。

 

「……そんな彼がこちらに参入すると聞いた時は頭を悩ませたさ。最悪ノロイ打倒の宿願がおかしな形で失敗に終わりかねんからな」

 

 もし真太郎……タカマルの知る真太郎とは違うので便宜上真太郎typeAと呼ぶことにしよう。もし真太郎typeAの機嫌を損ねさせたとしよう。

 その結果、連鎖的に儀助の機嫌を損ねさせて出資を止められたら? 

 上弦衆は機能不全に陥る可能性もあるのだ。それを考えるとアキラが気の毒に思えた。

 

「だが、ある日を境に奴は──抜け殻のようになった。それからまるで示し合わせたように身分不相応なアパートへと最低限の荷物と家具を持って本家を出た。見聞を広げるという名目でな。……ちょうど戦部がハルカと出会って間もない頃だったはずだ」

 

 身分不相応というとどんなんだと、思いながら報告書を見るとそこには真太郎の家と思しきアパートの写真があった。

 閂市の住宅街にある家賃安めのアパートのようだ。これだけ見るなら少し前のハルカに出会う前の自分の生活の延長線のようにしか見えない。

 少なくとも上弦衆のvipが棲まうような環境とは程遠い。

 

「しばらく生ける屍と化していた奴に再び自我が戻った……いや、変わったのはその後だ。あとは知っての通り、各部署のヘルプや龍輪功の護衛など奔走している斉藤真太郎だ。その時期からだろうな、深紫の忍びが出現したのは」

 

「……まさか」

 

 斉藤真太郎=深紫の忍び

 アキラはそう言いたいのだろう。たしかにタイミングとしてはおかしくはないどころか、納得がいってしまうぐらいだ。それが本当ならば最初の意味不明な報告も合点がいく。

 あの焼肉もおそらくアキラが真太郎の性格を確認するために行ったのだろう。

 

「最初こそノロイの手によるものかと疑念があった。しかし監視を重ねてもノロイに通じる素振りはほぼ無くノロイの力を受けた様子もない」

 

「だったら敵じゃないってことじゃないですか」

 

 ノロイという敵と戦い、ハルカを助けた。

 ならば敵と考えるには無理があり過ぎる。なんてことを思うもアキラは無言で首を横に振った。

 

「そうはいかないさ。敵の敵は味方、という言葉もある。不審な部分も相変わらずある。尾行が()()()()()()()()()()、尾行が()()()に遭ったという報告もある。そして最たるものが、最初に言った報告だ。最後のページを見てくれ」

 

「……これですか?」

 

 促されるままに最後のページまで行くとそこには鉛筆で描いたのであろう黒いローブを纏ったヒト型が描かれていた。

 全身をすっぽりと覆う黒いローブに、まるで宝石をそのままお面にしたような頭部。

 そして大きな指輪を両中指に付けている。

 腰には大きなベルトをつけており、バックル部分には手形が付いていた。

 

「怪忍?」

 

 まず思い浮かぶのはそれだ。

 だが同時に自ら言った言葉に自信が持てなかった。何せこの世のものとは思えない形状ながらも綺麗だとも思えたのだ。

 何処かで見た覚えがあるような気さえしてくる。

 

「こいつは尾行をしていた忍びたちの証言を元にしたモンタージュだ。……瘴気は検知されなかったため怪忍ではないだろうが、設計思想だけでいえば深紫の忍びに似ているとも言える。奴もベルトの力を使っていたのだ」

 

 既視感の正体はすぐにアキラの口から告げられた。そうだ、深紫の忍びにどこか似ているのだ。

 たしかにぱっと見まるで違うが、全身を覆う装甲に不思議なベルト。

 設計思想は確かに似てはいる。

 

「そして奴はベルトの力で転移術を使い瞬時に忍びたちをあらぬ場所に転送させた。まるでこれ以上追わせないと言わんばかりにな」

 

 上弦衆の転移術も大概トンデモな技術だが、この指輪の男はその上をいくトンデモであった。

 任意に思う場所にほいほいと飛ばす事ができる。それだけを考えると厄介極まりない。

 

 仮に敵対しても最悪こちらから手出しができない事も意味しているのだから。それに──

 

「……無事なんですか」

 

 何よりそれがタカマルにとって一番心配だった。

 まさか木の中とか壁の中に転送なんてされたんじゃないかと思いもした。しかし

 

「あぁ、傷ひとつなかった。尾行は無駄骨に終わったがな」

 

 その答えにタカマルはひどく安堵した。

 きっと真太郎や深紫の忍びが悪人であると思いたくない自分がいる。

 こんな大変な思いをしてノロイを倒そうとしているのはハルカと同じ正義を持っているからなんだ、と。

 都合のいい願望で綺麗事かも知れないがタカマルにとって綺麗事で済むならそれで済ませたい所であった。

 

「話を戻そう。斉藤真太郎という存在に加え、橙色の忍びが鷹守の前に現れた。いずれもノロイの力とはおそらく無縁の存在だ。前例*1がないことはないが間違いなく違う。そして上弦衆の資料室にも異変が起きている」

 

「資料室ってあの地下の」

 

 上弦衆の司令室から通路をまっすぐ進んでエレベーターで更に下の階に降りて行くと資料室がある。

 タカマルも元々ハルカへの理解を深めようと資料を漁っていたので存在はちゃんと把握している。

 

「……()()()()()()()()()()()()()()()。それも化身忍者、そして血車党と呼ばれる集団の、な」

 

「血車党って確か上弦衆に似た忍者軍団のことでしたっけ。改造人間による忍者、化身忍者を投入しておかしくなってしまってハルカさんやノロイ党が戦国時代から時渡りで消えた後、時の政府の江戸幕府を転覆しようとし始めたっていう」

 

 タカマルが知っている情報はそれくらいだ。

 何せその時それらに関する情報は全然見つからず、信憑性に欠けていたので与太話として切り捨てた。

 深紫の忍びについて知ろうとして文献を漁ったが記述内容が中途半端で無駄に終わったのはよく覚えている。あれは元々あったものじゃなかったのか。

 

「そうだ。だが上弦衆は最近までそれらの存在を認知していなかった。おかしいと思わないか?」

 

 だが改造人間を使って江戸幕府転覆なんて派手なことを上弦衆が放置するはずがないのだ。

 何せ上弦衆は影から世界の均衡を守り続けた存在。それを乱すなんて真似をする存在は上弦衆の敵なのだ。

 それがノーマークだったなんて間抜けな話があるか。

 何かしらの形で伝わるはずなのだ、この手のものは。

 

「それが世界の異変だ。斉藤真太郎の豹変、深紫の忍び、橙色の忍び。化身忍者に血車党、そしてノロイ党怪忍の強化。まるでこの世界に侵食して行く得体の知れないナニカの一部に思えてな。いずれも斉藤真太郎の豹変を皮切りに起き始めていることだ。もちろん杞憂で済むならそれが一番なのだがな」

 

「直接聞くしかない、か」

 

「いや、一旦泳がせた方がいいかもしれない。何せ現状、深紫の忍びがいることでハルカの負担は減っているのは事実であり、後ろから撃つような動きは現状見せてないからな。それにあまり手段を選べるような状況ではないのは確かだ。だが……」

 

「だったら俺が目を光らせておきます。ハルカさんもあの深紫の忍びのことは信用してるみたいだし」

 

 彼、というのは深紫の忍び=斉藤真太郎であることを前提としてのことだ。

 アキラから聞いた斉藤真太郎typeAは論外だ。ハルカが妙に彼を避けたがっている理由もなんとなく察せられた。

 

「斉藤真太郎……」

 

 噛み砕くようにタカマルは呟く。

 

「……お前は本当に斉藤真太郎なのか?」

 

 分からなくなるのだ。彼が。

 世界の異変が彼を狂わせたのか、彼が世界を狂わせたのか。

 今は分からない。

 資料に映るよく知る彼が得体の知れないナニカに見えて仕方がなかった。

 

 息苦しかった。この息苦しさは誰かを信じきれないことに対する苦しみか、それとも。澱んだ空気を入れ替えようと、アキラと運転手に断ってドアガラスを開ける。するとぶわっ、と音を立てて風が入り込んできた。

 

 風が心地よかったがそれでも心は晴れず。

 空を見上げると、曇り空が心なしか揺らめいているように見えた。

*1
かつて閂市で勃発した正義のヒロインと侵略者の戦いのこと




『斉藤真太郎』 23歳 独身
仕事はまじめでそつなくこなすが今ひとつ情熱のない男……なんか男子校生っぽさただよう言動をしているため
女子職員には大してもてないわ、上弦衆からは配達とかヘルプとか護衛とか便利屋みたいなことばかりさせられているんだぜ
悪いやつじゃあないんだが、これといって特徴のない……影のうすい男さ


と、アキラが言いかけたので没にした


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SHINOBI TIME:HATTARI ミナヅキの事件簿 01 

 同時進行で本編と進めていきます。
 最近のライダーでよくあるスピンオフみたいなものです。


 注意:主人公がミナヅキと、ある男である兼ね合い上、スレッドにアクセスできる男がカメオ出演程度の出番なので自動的にスレ形式のパートがこのシノビタイムにおいてはありません。

 あとそこそこ胸糞なのでご注意を。
 原作というかミナヅキについて知っている方ならちょっと心当たりあるかもしれません。


 ミナヅキは夏が嫌いだった。

 

 特にあの湿度の高い熱気が嫌いだ。汗もかきやすいし、ジメジメと肌にまとわりつき、長くした髪や夏の制服にまで肌にへばりつく。

 しかも電車に乗れば同じ汗のかいた人たちの体臭が充満する地獄のような環境に苛まれるときた。

 

 特に風呂も入らないしシャワーも浴びないやつのいる満員電車ははっきり言って地獄だ。酸っぱい臭いが鼻をつき、離れようにも離れられない。

 

 汗で服も透けやすい環境なのでしかもそこで男どもに邪な目線を送られれば恐怖もしたくなる。

 誰がこんな湿度の高い環境にしたのだろうか。生まれた国を呪いたい。

 

 蝉の鳴き声や、すずむしの鳴き声が聞こえるたびに舌打ちしたくなる。

 

 昔はきっとそんなキャラじゃなかったと、ミナヅキは振り返る。

 

 

 そんなふうに捻れたのは最近のことだ。

 まだ小学生の頃は夏休みだと、宿題は計画的に進めて、友達と遊ぶ計画を立てて、おばあちゃんの家に遊びに行って、プールに行って、スイカを食べ、自由研究に頭を悩ませていただけだった。

 

 中学生の頃は小学生の頃ほど遊びに塗れてはなかったのだけれども、今よりはきっと楽しく思っていたことだろう。

 けれどもこの時期から暗雲が立ち込め始める。

 

 年を重ねるごとに自分の身体が変わっていく。女というカテゴリに近づいていく。

 それが周りの女子より早かった。

 胸が小学生高学年から大きくなり始め、忌むべき生理が始まった。

 それゆえに増え始める男子からの邪な目線が嫌いだった。

 

 夏はひときわ酷いものだった。

 

 水泳の授業は嫌いだ。殊更にそういう視線が増え、小さい声ながらも聴こえてくる。

 下品な言の葉が嫌でも聞こえるのだ。

 一番ヤりたい奴はミナヅキだなんて言葉。聞こえた時は背中がざわついたしもう笑うしかなかった。

 

 

 お前がそういう体だから悪い。と吐き捨てるやつは悉く死ねばいい。

 というか好きでなった訳ではない。

 

 

 ああ、気持ち悪い

 

 

 ああ、きもちわるい

 

 

 ああ、キモチワルイ

 

 

 そんな思いを一番するのが、夏だ。

 

 

 ミナヅキは夏が嫌いだった。

 思い返せば嫌な記憶ばっかりが蘇ってくる。あの邪な視線だけではない。

 

 自らの正義が踏み躙られたのも夏なのだ──

 

 

 

 ◆◆◆◆◆

 

 

 

 ミナヅキは幼い頃から規律と正義を重んじていた。

 それは両親が厳格な家庭のもとで育ち、それでいて父が警官であり常々正義を語っていたことに起因する。

 

 

 

 警察。

 それは国に認められた暴力装置の一つであるが故に誰よりも厳しく己を律し規範となるように務めなければならない。

 それが父の口癖だ。

 

 

 

 ミナヅキはそんな父親が好きだった。

 少し融通が効かないし、確かに身内びいき込みにしても厳しいとも思ってはいたが、電車が定刻通りに正しく到着するように、自らも正しく在り規範とならなくてはならない。

 そんな父親の覚悟を知っていたからだ。

 

 誰かが正しいことをやるだろう、なんて日和っていれば周りは滅茶苦茶になる。故にミナヅキは正しく在ろうとした。教師は正直アテにはならなかった。

 

 その結果、所謂委員長様だ。と陰口を叩かれることは度々あった。しかしミナヅキはその陰口に折れるようなやわな女ではなかった。

 

 

 

 

 

 ミナヅキは自分なりの正義を行ってきた。

 学生の世界においても不正、悪事なるものはしばしば存在する。

 ポイ捨て、カンニング、煙草、飲酒、いじめ、エトセトラエトセトラ。不正は不正だ。どんな些細なことだろうがミナヅキは見逃さなかった。

 その過程で恨み節をいくつも耳にしてきたがそんなことにまともに耳を貸さなかった。

 

 

 ミナヅキなりの私見、ではあるが。

 その中で最も悪辣でかつポピュラーなものがいじめだ。

 

 いじめなるものは公立私立関係なく起こり得るものだ。進学校だろうが平気で起こる以上恐らく人が人である以上なくせはしないのだろう。

 無論、ミナヅキはその行為を見逃しはしなかった。

 

 

 

 それは、弓道部の帰りのことだ。

 同級生一人と一緒にテストの点数について同級生が直近のテストで3点だったとかナントカで談笑しながら人気の少ない駅の地下通路通り抜けようとした矢先だった。

 

「ひぃふぅみぃ……さっすが金持ちサンは違うよなァ~~ッ」

 

 間延びした声と共に明らかに様子のおかしい光景が眼前で広がっていた。

 見るからにひょろっとした、夏なのに長袖の男子生徒を体育館の壁際まで追いやり、その周囲を運動部だろうか体格のしっかりとした男子生徒数名が取り囲んでいた。

 

 それを見かけるや否や、同級生はミナヅキの手を引っ張り彼らに見つからないように隠れた。

 

「……何、あれ」

 

 正直言ってしまえば明らかに普通じゃない光景だ。いずれもミナヅキが通う高校の制服を着ているのが殆どだ。ただ一人だけ。札束を数えている男を除いて。

 取り囲まれている側が怯えていて、取り囲んでいる側が学生が持つような金額ではない札束を捲る光景を普通だというのならば、それはきっと修羅の世界だ。

 

 あの取り囲まれている同級生はミナヅキのクラスメイトの島井だ。あまり話したことはないが、医者の子供であまり自分から目立とうとはしない印象だった。

 しかし素行が悪いというわけでもなくあのような輩とつるんでいるのは想像もできなかった。

 

「あの札束数えてるハゲ。閂市で問題起こしまくってる関田トオルってヤツだよ。ほら、カンチューのやべーやつの噂、聞いてない?」

 

「あれが……」

 

 噂では聞いていた。

 ミナヅキは通っていなかったが閂中学においてかなり悪質な生徒だったと。最初こそ校内での喫煙飲酒、暴力程度だったが他校の生徒から金を巻き上げ、市内のものを器物破損と迷惑行為を働く厄介者だった、と。

 当然高校には上がらず、市内のならずものとよろしくやっているとか。

 

 それがどうして自分の通っている学園の人間と一緒にいるのか不可解だった。

 

「あいつらカンチューに居たやつらだよ。あの囲まれてる地味な子も」

 

 確かにミナヅキの通う学園は閂中学から上がってきた生徒もそこそこ多い。何もおかしなことではない。

 なにもおかしくはないのだ。

 

 ──んなワケあるかっ! 

 

 関田トオルは札束を自らの財布に仕舞い、「あとはヨロシク」と投げかけ、行きがけの駄賃と言わんばかりに島井の鳩尾に拳を叩き込んだ。ドム、と音が聞こえた気がした。

 一撃をもらった彼は頽れ、腹部を抑えながら倒れこみ、関田トオルはゲラゲラ笑いながらこの場から去っていく。

 後は死骸を貪るように取り巻きたちがニヤニヤと迫っていく。

 

 この行為を看過出来るはずがなかった。けれども飛び出せない。

 何故ならばミナヅキが飛び出そうとした矢先、腕を引っ張られる形で同級生に引き留められていたのだ。

 

「まずいって……! あいつらに目をつけられたら何されるか分からないよ……!」

 

 彼女の目は完全に後がないと言わんばかりだった。嘘はついている様子はない。自らの腕を掴む手の強さが雄弁に物語っている。

 けれどもあのような蛮行を看過することはミナヅキは許しはしない。

 きっと父も見逃しはしないのだ。ゆえに──

 

「やめなさい──!」

 

 同級生の制止を振り切り、ただ一人止めに入った。

 まさかの闖入者に驚いたのか、取り巻きたちの眼付きは慌てふためいていた。引き留められていたこともあって関田トオルの姿はもうなかったのが少しばかり悔しかったが、引き留めた彼女を責める気にはなれなかった。

 

「よう、なんだよ……ミナヅキじゃねえか」

 

「ようじゃないわよ。あんたたち、この子から金巻き上げて何しようって言うの」

 

「別に巻き上げようなんてことしてないぜ。なぁ?」

 

 一人がまるで威圧するかのように倒れた島井に投げかけると、少しの逡巡から首を縦に振った。

 明らかに脅されている様子に腹が立った。数にものを言わせて。このような──

 

「チッ……帰ろうぜ。トモダチ料貰ったわけだしな」

 

 意外にも。そう、それは意外にもあっさりとした幕引きだった。

 一人がそう促すと、まるで金魚の糞のようにその場を去っていく。トモダチ料という邪悪な単語に少しばかり引っかかるものがあったがそれよりも鳩尾に拳を叩き込まれて倒れている島井の方が心配だった。

 

「大丈夫……? 立てる?」

 

 あまり関わり合いがないとはいえ、放っておけない。

 倒れた彼を起こそうとしたものの、振り払われた。まさか振り払われるとは思わなかったミナヅキは驚き、2歩ほど後ずさる。

 感謝こそされどもここまで拒絶されるとは思いもしなかった。

 

「ほっといてくれ……僕をほっといてくれ!」

 

 悲痛な叫びだった。そのままミナヅキから逃げるように走り去っていく。それをただ、ミナヅキは見ていることしかできなかった。

 

 

 

 ◆◆◆◆◆

 

 それからというものだ。

 彼らがミナヅキに突っかかるようになったのは。

 

 あの関田トオルなる人物は中学時代から島井からトモダチ料として金を毎月無心していたらしい。金を巻き上げる代わりに、他の奴らから守ってやるというのだ。当然そんなことを信用して金を渡しているわけではないだろうが、あの取り巻きの数から考えるに抵抗したくても出来ないのだろう。

 

 あれから島井の件を教師陣に報告したもののまるで動く様子はない。最初から期待していなかったがここまで何もしないとは思いもしなかった。

 学校としてはきっと、いじめがあったことを認めたくはないのだろう。

 自分のことについてもまるで動く様子はなかった。

 

 ふと思う。ここ最近世間を騒がせていたノロイ党の業岡一全ならばきっと彼らを裁いていたに違いない、と。

 無論破壊行為は許された話ではない。だが彼がいたらきっと一人残らず再起不能にして見せたのだろう。

 業岡は結果的にあの深紫の忍びと呼ばれている戦士に倒されてしまったようだが。

 

 

 誰も裁くことが出来ないのならば自分が強く生きるしかない。

 突っかかるとはいっても、方法は多種多様だ。まずは机に落書きは序の口、体操服を言い方はアレだがヒエラルキー下位の生徒のカバンにぶち込む、弁当に修正液をぶちまける。

 これをやったのはどうにもあの男子生徒だけではなかったようだ。

 

 かつて自分に注意されたりして悪行を台無しにされた女子たちが、あの関田トオルの取り巻きと結託し、敵の敵は味方と言わんばかりにネットワークが連鎖していって自動的にいじめに加わった人数が増えていったのだ。

 しかし、このようなことをされるのは織り込み済みだった。

 

 この手の行為に対して大人しくいる性格でもなかったミナヅキは事あるごとに彼らへ嫌味を投げつけ、毅然と立ち向かい続けていた。

 それがきっと面白くなかったのだろう。

 

 

 

 夏休み。

 部活動の帰りだった。同級生は関わりたくないと言わんばかりに疎遠となりたった一人で夜道を歩く。

 それが──きっといけなかったのだろう。

 

 後ろから口元を布のようなもので塞がれると、薬品の匂いが鼻をつく。

 酷い匂いだった。鼻の奥にツンとした刺激がしたと思いきや、眩暈がする。ここまでされて悪意からくる行為であることは確実だ。

 咄嗟にそのハンカチを使ってきた者の顔を見ようとした、が──

 

 見るより先にミナヅキの意識はブラックアウトした。

 

 

 ◆◆◆◆◆◆

 

 あのハンカチから来る薬品特有の刺激臭の次に来た臭いはカビと埃の臭いだった。

 空気は少しだけ湿気を吸っているのかじめっとしている。長らく掃除をしていないのであろう空気感はミナヅキの不快感を煽るには充分過ぎた。

 床に触れた頭と背中、そして四肢の感触は酷く硬く、それでいて冷たかった。コンクリート特有の手触りだ。

 自らの目をこじ開けるとそこには──一番見たくない男の顔があった。

 

「オハヨーございまーす」

 

 他人をバカにし切った声色と、黒いタンクトップにジーパン。鼻ピアス。浅黒い肌は汗で濡れており、彼が持ち込んだのであろうライトが反射してテラテラと光っている。そして丸刈りにした頭。

 忘れもしない。島井から金を巻き上げていた関田トオルだった。ヤニの臭いがしてミナヅキは思わず顔を顰める。

 

 

 間近で見れば見るほど、自分とはこれからの人生で絡みたくない外面だ。そして後ろには見知った面々やそれに交じって明らかに成人した男も混ざっていた。

 

「目ぇ覚ましたか」

「このまま寝たままってのでも良いがオモシロくねえしな」

「お仕事の時間だな」

 

 などと口々に好き放題いいながら男たちはミナヅキのいるところまで群がっていく。

 逃げないと。そう思ったものの手足の自由は効かない。動かせば動かすほどじゃらじゃらと金属と金属が当たる音がする。

 鎖でつなぎ留められているようだった。

 

「助けっ──」

 

 咄嗟に大声を上げようにも即座に口を関田トオルによって塞がれる。一瞬彼から殺気のようなものが吹きあがるが、スッと引っ込んだ。と、同時にニタリと下品な笑みを浮かべた。

 

「おいおい。五月蠅いオンナは嫌いだぜ? ま、ここは幽霊マンションつって近づくやつなんて一人も居ないけどなあ!」

 

 ぎゃははと嗤う男を他所に、ミナヅキは歯噛みした。

 幽霊マンション。

 思ったより自分は遠くまで来てしまったらしい。確かに壁はほとんどなくあるのは柱くらい。壁という壁のほとんどは作られることなく横は吹き曝しの状態であった。

 閂市の住宅街から離れた場所にあり違法建築やらなにやらで、建築途中で放棄されたといういわくつきの場所だ。台風の時は揺れたりするなどかなり耐久性に問題がある。

 ホームレスの根城としても心もとない上に幽霊が出るという都市伝説もあり、好き好んで近づく馬鹿はそうそういない。

 そのため仮に助けを呼んでも誰かが来る確率は絶望的と言ってもいい。

 

 なるほど目の前にいる馬鹿にとっては格好の隠れ家という訳だ。

 群れないと強がれない、弱い男どもにとっては。

 

「連れて来たぜ」

 

 奥から声がした。関田トオルは振り向き、ミナヅキも奥の方を見るとそこには別の取り巻きに引き連れられた島井の姿があった。

 

「なっ……」

 

 ミナヅキは息をのんだ。

 どうしてこの子がこんな所にいるのだろう、と。顔は擦り傷を作っており明らかに彼らが何かをしたのには間違いない。

 島井をそのままミナヅキのそばまで転がすと関田トオルは近くの取り巻きに「ちゃーんと上手く撮れよぉ」と言って彼の肩をたたいた。

 

 その手にはハンディカムが握られており、これから起こるであろうことを予感させた。

 

「今から、アオハル大会をはじめまーす!」

 

 ハンディカムの録画開始を告げる電子音がして5秒。間をおいて告げられた関田トオルの宣言に、取り巻きたちが「ふぅー!」と品のない歓声を上げる。

 アオハル? 何を言っているんだコイツは。

 

「この企画はぁ、オレたちが恋のキューピットをやるっていう企画でぇす!」

 

 カメラ目線で関田トオルはそう言うとポケットから何かを取り出す。

 それは一枚の紙だった。それを見るや否や島井の顔が蒼白になるのが分かった。

 

「や……やめろ……」

 

 必死に声を上げる彼に関田トオルは島井のすぐそばまで寄って、しゃがみ込み彼の届かない所から紙をひけらかすように見せながら口を開いた。

 

「礼ぐらい言えよ。俺たちがいなけりゃ一生渡すことも伝えることも出来なかったんだから……よォ!」

 

 立ち上がったと同時に勢いよく蹴りを島井の腹に叩き込む。

 鈍い音が響き、「うっ」と島井の潰れた蛙のような声が響くと同時に笑い声が弾けた。

 

「出た! トオルセンパイの必殺キック! ヒーロー気取りの紫忍者野郎のキックの非じゃないぜ!」

 

「やめなさい……! この子は何も関係がないでしょ!」

 

 このような蛮行を見せられてはミナヅキも黙ってはいられない。声を上げるや否や関田トオルは「チッチッ」とわざとらしく指を振った。

 紙は二つに折られていたのかそれを開くと、すぅ、と息を吸い込んでから──読み上げ始めた。

 

「ミナヅキさま。突然このような手紙を送られてきっと驚かれたと思います。けれども1年の頃から貴女のことを見ていました。真面目に委員長としての仕事をしていく所を、一生懸命クラスを引っ張っていっている所を。弓道を頑張っている所を。そんな所を見てから僕は貴女のことが気になってしまい──」

 

 息が詰まった。この手のことにはまったく縁がなかったがラブレターという奴だ。

 わざとらしく、芝居がかった口調でわざと言葉をどもり気味に言っているのはきっと島井の真似事のつもりなのだろう。島井が書いた手紙の内容はさておいて関田トオルが読み上げるのは酷く胸糞悪かった。

 

「やめろ! それ以上言うな!」

 

 一番心苦しいのは島井の方だ。慌てて止めようとするも関田トオルはヘラヘラ笑いながら彼の頭を蹴り飛ばした。

 

「ガっ!?」

 

「うっはきんめええええええええええええええええええッ!」

「オイオイ、いっちょ前に委員長サマにコクってやんの!?」

「やめてやれよ。アイツ必死こいて書いてんだからさぁ。ヒョーカしてやろうぜヒョーカ!」

 

 下品な野次が飛び交う中、島井は必死に悔しさを押しとどめ声もなく泣いている。群がって強くなった気でいる連中よりは島井は人としては好きになれる人種だ。

 無論、ミナヅキにも選ぶ権利があるのだが。

 野次を手で制して再び関田トオルは読み上げ始める。この様子だと全て読み切ってしまうつもりだ。だがそれを止める手立ては……ない。

 

「──あなたのことが好きです。お付き合いしてもらえませんでしょうか? お返事をお待ちしております……ヒュゥゥゥゥ!」

 

 読み切ると、島井の顔が絶望に沈んでいた。

 関田トオルの言うことが本当なら今日明日に渡したりするつもりはなかったのだろう。勝手に盛り上がり島井をバカにする男たちにミナヅキの腹の奥でぐつぐつと黒い炎でナニカが煮え始めるようなものを感じた。

 

 そんな彼女の思いを他所に関田トオルは再びカメラ目線で続けた。

 

「さーて! キモチを伝えた所で晴れて初エッチの時間でぇす! パフパフパフぅーッ!」

 

 ──は? 

 

 煮えたと思ったらミナヅキの頭の中がスッと冷えた。

 今この男は何を言った。今なんと──

 

「恋人どーしがすることつったらエッチだろ!? ってワケでぇ、島井クンとミナヅキちゃんにはエッチしてもらいまぁす! よかったなァ! 島井クン? アイツきっと処女だぜぇ? 何せおカタいとこの育ちだってんだからよォ」

 

 当然望んだ形ではない状況に島井は必死に首を横に振って抵抗していた。

 すると、島井の顎を掴んでからコンクリートの床に叩きつけ、再び彼に蹴りを入れた。

 

「オイオイ、せっかく俺たちがトモダチのために演出してやったってんのになーにそれを無碍にしちゃってるワケ? よくないよなぁ? トモダチの厚意をさぁ? 人として終わってんよぉ」

 

「サイテー!」「ゴミじゃん」と取り巻きがまるで金魚の糞のように追従する。そして島井の手足を縛っていた鎖を取り巻きたちが外し始めた。そして動く気力もなくなった彼を無理やりミナヅキの前に立たせた。

 

 次にと、関田トオルはミナヅキの制服を引きちぎるように──

 

「さぁて。御開帳~ッ!」

 

 ボタンを外し、下着を露わにさせた。キャミソールとブラジャーを引きちぎるように外すと白い乳房が零れ出た。

 

「いやっ! やめてッ!」

 

 必死に抵抗しても力の差は歴然。暴れても拳で返され両足は取り巻きに抑えられた状態で鎖が解かれ、股をむき出しにするように開脚させられる。

 

 ──どうして、どうしてこんな。

 

 まだ家族以外には見せたことのない場所を下品な男たちに見せられている。そしてそれを島井が見下ろす形となっていた。

 こんな男たちの慰み者にされるという事実が情けなくて仕方がなかった。自らの正義がこんな理不尽な暴力に凌辱されるなど。

 

 同時に憎しみが募っていく。

 自分に力があればと、あのノロイ党のような力があれば、と。

 

「ホラ、聞こえるぜ!? 大好きな島井クンにわたしの処女を破ってくださーいってさ! ぎゃははははははっ!」

 

 口にしてもいない言葉でミナヅキの意志を代弁したふりをしている。それに対してまるでうわ言のように呟く島井にミナヅキは諦めと絶望に満ちた表情で見上げていた。

 

「ごめんなさい……ごめんなさい……ごめんなさい……ごめんなさい……!」

 

 男たちにかちゃかちゃと制服のベルトを外させられている。それをニヤニヤとハンディカムで撮っている取り巻き。

 最早救いなどどこにもなかった。

 

 

 

 そう、どこにも。

 

 

 

 

 

 

 

 

「オイオイオイオイオイオイオイオイ。何? 面白そうなコトやってんじゃねえか。俺も混ぜてくれよ……」

 

 泥水のような男の声を押し流すような、水のように澄んだ声がした。

 文言はなかなか最低であったが。この場に居るもののほとんどが声のした方を向き、自動的にミナヅキにも見えるようになった。

 そこには──白いシャツの上にカジュアルなベージュのサマージャケットを羽織り、黒いジーパン。そしてややウェーブがかった黒髪の青年がヘラヘラした顔で立っていた。

 

「何だオマエ……関田団にゃいなかったろおっさん」

 

 関田団ってなんだよ。

 まるでいっちょ前のやくざ者みたいな単語に失笑するだけの余裕がミナヅキには戻っていた。なぜならばこの男からは、関田トオルたちにとっては敵であることには違いなかったのだ。

 

「おっさん……はっ、おっさん……おっさんって……23だぞオマエ……」

 

 が、先ほどのおっさん呼ばわりに深く傷ついたのか、ひとり乾いた笑いを浮かべていた。その男は扇子を懐から取り出し、バッと開く。

 扇子にはこう書かれていた。【失礼な!】と

 

「無視してんじゃ……ねぇ!」

 

 青年の一番近くにいた男が真っ先に青年の顔目掛けてパンチすると、綺麗に空を切った。

 

「よっと」

 

「あれっ……」

 

 上体を逸らすだけの最低限な動きでかわしてみせ、その男を素通りした。完全に相手にされていない状況に先頭の男は唖然とするあまりまるでフィギュアのようにその動きを止めた。

 それからというものの取り巻きたちが次々と襲い掛かるが、全て除けていく。まるで幽霊と戦っているような光景だった。

 振るわれたバットは空振り、パンチキックもかすりもしない。

 

 彼の向かった先はハンディカムを握った取り巻きだった。

 ハンディカムをひったくり、周囲の取り巻きたちを撮り始めた。

 

「おーすっげ。最近のは暗いトコでも撮れるんだなぁ。超イイねぇ」

 

「勝手に撮んなよ……返せおっさん!」

 

 流石に持ち物を取られたとなれば我慢が出来なかった取り巻きが、青年からハンディカムを取り返そうと掴みかかったその時だった。

 

「触んなよ……おれはな、おれの邪魔をする男とおくらが嫌いなんだよ……!」

 

 心底。極めて心底、不愉快げな顔で苛立たしげに言いながら男の手を掴む。そして赤子の手でも捻るかのようにそのまま捻り上げた。

 

「あだだだだだだだだだッ!」

 

 限界まで捻り上げた所、足払いで転がされる。

 実力の差というものが素人目でも見て分かった。この男は一体何者なんだ。……というかおくらってなんだ。あの緑色のアレのことか。

 

「おれはな。おくらのネバネバしたような感じが気に食わねえ。あの妙な食感に中に種まで入ってやがる……何の嫌がらせだよ、アレは!」

 

「何わけのわからんことを!」

 

 勝手に一人憤慨する青年にイラつきながら、ぶん、と次の取り巻きがバットで横なぎにフルスイングする。このまま頭に当たれば良くて気絶。最悪死ぬ可能性だってある。──が。

 

「要はおまえらはおれにとってはおくらと同じってことだ」

 

 いつの間にか背後に回った青年が畳んだ扇子で男の後頭部をぺしん、と軽く叩いた。当然、背後に回られたのでバットは空振り。その瞬間はまるでスローモーションのように鮮明でかつ鮮やかな動きだった。

 

「あだっ!」

 

 不意打ちをくらって悶絶する男を素通りしながら扇子を仕舞い、悶絶する取り巻きからバットを奪い取り、ハンディカムからメモリを引き抜き、天井目掛けて放り投げる。そして青年はそのバットで勢いよくフルスイングを叩き込んだ。

 がっしゃあん! とハンディカムが派手に破壊される音が鳴り響いた。そしてバットに弾き飛ばされたハンディカムは壁を作る前に放棄され、むき出しとなっていた外に向かって真っ直ぐ飛んでいってから、夜空の中勢いが死んで重力に従っていき──破壊されたハンディカムがミナヅキの視界から完全に消え失せて数秒後、ぱぁん、と遠くから弾け飛ぶ音が遅れて聞こえた。

 

 後から知ったことだが、今いた場所は5階。最早修復不能なまでに破壊されたのは明白だった。

 

 青年は眼を凝らして壁のないところから覗かせる外の夜空を見渡してから、恍惚とした表情で決めポーズを取った。

 

「キマってんなぁ……おれっ! バッティングセンター明日行くか……ホームラン賞行けるぜっ」

 

「ってめぇ! 人のものを!」

 

 青年はマイペースに自らのバッティングセンスに酔いしれているが、よくよく考えたら真っ直ぐ平行に飛んで行ったので投手に取られてアウトである。

 用意した数万もするであろう産物を破壊された男は逆上して殴りかかるが、当然全て回避。バットを投げ捨ててまた取り出した扇子で頭を小突いた。

 

「5点だ、小童め」

 

 まるでアクション映画でもみているような気分でミナヅキは一方的な喧嘩を見ていた。

 悉く避けてみせ、取り巻きの戦意をごりごりと削っていく。それもほとんど扇子で小突いたりするだけだ。

 時々開く扇子からは【素人】【小童】【遅い!】と色々出てくる。

 

 ──どんな作りなのよその扇子。

 

 ここまでくると最早ギャグだ。

 面白いようにどんどん戦意喪失していく取り巻きに痺れを切らした関田トオルはどこからか銀色に光る何かを取り出した。

 

「お前……調子にのってんじゃねえぞ……!」

 

 ──ナイフ!? 

 

 窮した所で刃物を取り出す関田トオルに恐怖を抱くと同時に背筋が凍った。このままではあの青年が刺されてしまう。

 慌てて危険を知らせようと、ミナヅキが叫ぼうとした矢先だった。

 

「オイオイ、おれは扇子でお前はナイフ。不公平過ぎやしねえか」

 

 パシン、と関田トオルの懐まで飛び込み無造作に手の甲を扇子で叩いた。

 見た目に反してかなり痛いのか、関田トオルは自らの手を抑えて「ぐぅ……っ」とうめき声を上げた。

 

「ま、分かりやすい武器の頼りように振りようだ。得物が泣いてるぜ。……まぁそのしょーもねー性欲と暴力性だけは及第点だな。──2点!」

 

 あまりにもクサい発言をしてから、関田トオルの剥き出しのおでこを扇子で小突いた。

 

「ぎゃっ」

 

 数を使っていきがる男たちを一人で返り討ちにしていくその様はミナヅキとしては痛快極まりない光景であった。

 完全に遊ばれている。当事者である彼らが一番わかっていたのだろう。これ以上殴りかかっても醜態を晒されるだけだ、と。階段に向かって立ち上がりほうほうの身体で逃げながら取り巻き共々集まっていく。

 

「覚えておけよ……このビチグソ野郎が!」

 

 と、言うと関田トオルを筆頭にぞろぞろと幽霊マンションから逃げ出した。分かりやすい悪役の捨て台詞だった。

 

「悪い。野郎の名前、覚えんの苦手なんだ」

 

 そんななけなしの捨て台詞すらも足蹴にしながら青年は追わず扇子でパタパタと自らをあおる。扇子には【実はモー娘。のメンバーも】【ちょっと覚えられない】と書いてあった。

 ……男女関係ないじゃん。

 

 足音が聞こえなくなるまで青年は無言で扇子をパタパタさせながら階段を見つめていた。やっとこさ関田トオルたちがいなくなったと思えたところで青年は踵を返してミナヅキに向かって歩き出した。

 

 何をする気だ。思わず身構えるミナヅキだったが青年は歩きながら口を開く。

 

「ほれ、ガキがうろつく時間じゃねえ。このメモリは好きにしていいから家に帰った帰った」

 

 害意は一切なくミナヅキは脱力した。

 それからの彼の動きは手慣れていた。こういった荒事に慣れ誰かを助け出すことに慣れきっているような。そんな動き。

 ミナヅキの剥き出しの肌には興味を示しておらず、後ろに回っていつの間にか男たちから盗み出していた鍵で鎖を外し、メモリを押し付けるように渡す。

 それから流れるように島井の中途半端に外された拘束も完全に外してしまった。

 

「貴方は一体……」

 

 ミナヅキの質問に答えるより先に青年は幽霊マンションの片隅。つまり壁のない吹き晒しの所まで歩き──「隠れ家には使えねえな」と謎の言葉を溢してからそのまま飛び降りた。

 

「なっ!?」

 

 まさか飛び降り自殺か。

 慌ててミナヅキは服を直しながら追ってビルの下を見下ろすが──青年の姿は影も形も消え失せていた。

 

 ──な、なんなのよ、あいつ……

 

 訳の分からないでたらめな男。そんな感想が浮かぶ。呆気に取られているミナヅキに後からやってきた島井が何かを差し出した。

 

「こっ、これ……あの人が不良とやりあってるときに落としたんですけど」

 

 銀色のポケットに入るようなケース。

 いわゆる名刺入れという奴だ。開くと10枚程度同じ名刺が入っていた。取り出し、その名前を読み上げる。

 

「現世探偵事務所……所長、現世(げんせ)勇深(いさみ)

 

 たった一人であのドス黒い悪意を圧倒的な実力でいなしてみせ、自分たちを救ってみせた。そんな彼の瞳からはひどく燦然とした正義が見えたような、そんな気がした。

 

「現世……勇深……」

 

 反芻するように彼女は呟く。

 この町も捨てた物ではない。そう、ミナヅキは風のように現れては消えた珍妙奇怪かつ胡散臭い私立探偵に思いをはせた。

 変な言動をしていたがきっと素晴らしい人間に違いない、と。

 

 

 その頃のミナヅキはそう信じていた。




 なお理想は裏切られるもの。古事記(平成初期)にもそう書いてある。


:ミナヅキ
 原作ゲーム、超昂閃忍ハルカでも登場していた。
 本作の狂言回しであり突っ込み役。厳格な家庭のもとで育ち規律と正義を重んじる少女であった。
 原作においてはいじめを目撃したことでそれを止めたことにより矛先が彼女に代わり、最終的にレイプされそれを恨みに思った所をノロイ党にスカウトされ、怪忍・鬼門術姫ミナヅキとして私刑をおこなっていた。

 なお今回は何故か幽霊マンションに居た現世勇深の妨害もあり難を逃れる。
 イサミに燦然とした正義を感じているが……?


現世(げんせ)イサミ(勇深)
 何故か幽霊マンションにいた変な人。自称23歳。
 ならず者との交戦中に落とした名刺によると私立探偵をやっているとか。
 身体能力は出鱈目に高く、武器を持ったならずものをほとんど扇子で撃退した。
 嫌いなものは俺の邪魔をする男と、おくらだと豪語している。男の名前とモー娘。のメンバーを覚えるのが苦手。
 後年名を馳せるかの人数がやたら多いアイドルグループに関しては余計に覚えられず発狂寸前にまで追い込まれたとか何とか。

 今生→現世 同じ「この世」という意味も持つ。
 いさみち→いさみ 


:島井
 ミナヅキのクラスメイトであり、関田トオルに金蔓にされていた。
 彼らに根性焼きをされており、素肌を隠している。
 実はミナヅキに好意を寄せていたが、完膚なきにまでその好意を凌辱される。


:関田トオル
 閂市でも屈指の悪質な男でありミナヅキとは実は同年代。
 薬物、飲酒、喫煙、暴力、強姦などなど悪事のサラダボウルみたいな男。イサミにプライドをズタボロにされる。




 幽霊マンションのモチーフは仮面ライダー(初代)のロケ地として使用されたお化けマンションから。


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ノロイ党の愉快な仲間たち/宇宙人、斉藤真太郎

 公式曰く、「くっころくノ一」ことスバル。
 彼女がちょっとだけ出ます。原作だと中盤からの参戦のせいもあって不遇だけどすこなんだ


 それとすごく今更なのですが真太郎の名前の誤認は地の文だと混乱を招くので正しい表記とさせていただきます


 

「応えよ──応えよ、無限央に集いし四道の者よ」

 

 水の中に黒い泥を混ぜ込んだような、ノロイの瘴気に満ちたどんよりとした空間に低い声が響き渡る。

 床は無数の石畳で敷き詰められており、少し目を凝らして左右をみると白亜の壁にステンドグラスの窓。

 正面の奥には白く洋風の館が待ち構えている。

 

 天井は壁のステンドグラスとはくらべものにはならないほど大きなソレで覆われており、幻想的な光景に反して強い瘴気が、『まともな人間が存在してはいけない空間』であることを雄弁に物語っていた。

 

 ここは無限央。

 ノロイ党の本拠地たる閂市であって閂市ではない場所。無限城の最深部。組織においても強き存在が出入りを許される場所である。

 どこからともなく響き渡る声に応えるように、二人の男性の声が返ってくる。

 

「鋼一刀、ここに」

 

「大蛇丸、いるぜ」

 

 ずるり……とまるで虚無の空間から引きずり現れるように一人は栗色の長い髪を後ろ一つに纏めた、まるで式典か政に赴くようなしっかりとした着物姿の青年。目は開いているのか閉じているのか分からないほどに細く、腰には2本の日本刀が提げられている。

 一言で言い表すならサムライだ。このサムライは鋼一刀、と名乗った。

 

 もう一人横に同様の流れで現れたのは、鋼一刀とはまるで正反対な風貌の青年であった。

 浪人かごろつきか。目は釣り目で右目が眼帯で隠れている、最早右の目はきっと目としての機能が果たせなくなっているのだろう。

 整えられていない長い金髪は左右は肩までバラバラに伸びており、一番長い真後ろの髪は腰まで伸びていた。

 着物を独自にカスタマイズしたような衣装で、むき出しの肩と胸元からは引き締まった筋肉に刻まれた入れ墨が覗かせる。

 このごろつきは大蛇丸、と名乗った。

 

 

 

 

 年齢は近いだろうにここまで違う雰囲気を持つ二名の前に最後に。彼らを呼び掛けた者が黒々とした虚無の空間からずるりと現れる。

 今度は老人であった。彼もまた着物姿であったがサムライというよりは文化人の類の出で立ちだ。しかしながらこの男、後ろから長い日本刀で胸を貫かれたままであり、血は着物にこびり付いて乾ききっている。まるで何年もその刀に貫かれたままであるかのように──。

 

 黒目が失われまるで死人のような白き双眸を持ち、目元から血の涙の跡が深々と刻み込まれている。この男こそノロイ党の党首だ。

 先の2名とはまるでくらべものにはならない程の人外が重い口を開いた。

 

「二人とも、現の様子は見ておるか?」

 

「上弦衆のことか」

 

 鋼一刀が返した言葉で老人はこくりと頷く。しかしその口から出たものはただそれだけのものではなかった。

 

「深紫の忍びのことも、だ。例のハルカという閃忍に匹敵する力を持つ存在よ」

 

 深紫の忍び。

 それは突如として現れた謎の戦士。上弦衆に加担し、通常兵器で倒せないはずのゲニンをいとも簡単に始末して見せ、果ては怪忍とも渡り合える。

 現代の人間がそこまでの技術とからくりを作り上げたという話はからっきし存在しない以上まるで謎が多い。

 

「例の化身忍者ってヤツじゃねぇのか? 協力者連中が寄越した文献に書いてあったってんだろ?」

 

「幕府の時代に現れた化身忍者か……」

 

 大蛇丸の指摘に、老人が回顧する。

 ノロイ党が2008年に時渡りで戦国の世から旅立った後に、江戸時代に忍者集団による内乱があったという話がある。化身忍者と呼ばれる改造人間による争いが。

 あの深紫の忍びは上弦衆が擁する閃忍というよりは確かに、化身忍者寄りともいえる。

 

 無論時渡りをしたタイミングがタイミングだったのでこの場にいる3人ともこの目で見てはいないのだが。

 

「まぁ、誰であれ蹴散らせばいい……!」

 

 大蛇丸のノロイ党1,2を争う勇ましさは長所でもあり短所でもある。何せ今ノロイ党に置かれている状況はあまり芳しくはない。そのこともあり老人は手で制した。

 

「落ち着け大蛇丸。まだ奴らが施した封印が効いておる。一度で倒せるのならばよいが、仮に長引けばいたずらに要らぬ犠牲を増やすこととなる」

 

 この閂市には数百年の時を経て構築された封印が成されている。そのせいで大蛇丸も鋼一刀も十全な力を出すことは叶わない。

 特に消耗戦となればじわじわとなぶり殺しにされるのは眼に見えている。

 

「じゃあどうしろってんだ。厄介な連中が増えたってのにこのまま指でも咥えてろってのか」

 

 事実、何もしなくても放っておけば閃忍は強化されていくし深紫の忍びに好き勝手させる時間がいたずらに増えるだけのことだ。

 特にそうされることが大蛇丸にとっては堪え買い屈辱でもあった。

 

「大蛇丸よ。先日、(うつつ)に四道の城を重ねたことの意味を考えるのじゃ」

 

 が、老人は落ち着き払った様子で大蛇丸に言葉を投げかける。大蛇丸が首をひねる一方鋼一刀は何かを察したのか黙して頷いていた。

 鋼一刀は副党首、もっとも老人の意志を理解している者なのだ。要領を得ない大蛇丸に老人は解説を始める。

 

「封印を弱めるのじゃ。上弦の封印は幾星霜重ねた術の他に地を走る力の線。言わば龍脈の力を借りておる。その上に四道の城を穿ち、龍脈の力を滞らせる事により封印を弱めるのじゃ」

 

 ノロイ党は本来多少の封印の中だろうとも圧殺できるほどの戦力は持っていた。しかし現状のように後手に回り切っている原因はその龍脈の力が大きい。

 龍脈の力でブーストがかっている封印により、ノロイの力を受けた者がこの城の瘴気に満たされた空間から離れると、封印の力で存在の拒絶反応が起こり堪え難い激痛を引き起こす。

 

 そんな封印を弱らせてしまえば一転攻勢。フルの戦力で一気に攻め立て閂市ごときの制圧は容易いものだ。

 特にこの時代は封印がなければ人口が多いが故に戦国時代以上に悪意と瘴気に満ちている。ノロイの力を受けたものは戦国時代の比ではないほどの力が得られることだろう。

 

 そしてこの方法ならば時間がかかればかかるほど封印は弱まり上弦衆はじり貧になっていく。あとは──

 

「さて大蛇丸。お前にはこれを与える」

 

 老人は無造作に懐から取り出した二つのナニカを大蛇丸に投げつける。老人の予想外の行動に危うく落としそうになりながらもキャッチした大蛇丸はまじまじとその二つを見た。

 

「印籠に瓢箪だと? 一体こりゃなんだ」

 

 一つは手のひらサイズに収まる小さく黒い印籠だった。梵字を思わせるノロイ党の紋章が刻まれており黒々とした靄をわずかに放っていた。

 もう一つは──銅色の瓢箪。酒でも飲めというのかと大蛇丸の神経が苛立ちかけたが、どうにもただの瓢箪ではないらしい。

 瓢箪にはからくりのような装置が付いていた。

 

「その印籠はノロイの力を借りて生みし外法印。封印の苦痛よりある程度お前を護る」

 

「ハッ、大したモンじゃねえか。でもよ、こんな便利なモンがあるなら最初から全員でこれ持って攻めに行けばいいじゃねえかよ」

 

 愉快げに大蛇丸は指先で印籠をはじきながら突っ込む。

 事実。この外法印を量産してしまえばノロイ党は現代の瘴気を十分に取り入れ閃忍や深紫の忍びはあっと言う間に始末できたはずだ。

 至極真っ当な大蛇丸の突っ込みに対し、老人は首をゆっくりと横に振った。

 

「この外法印を生むには強い力を要する。今のノロイの力では1つ生み落とすが限界。そして上弦衆の封印は力の強い者により強く働く。現状ではお主よりほかに適任な者はおらぬ」

 

 聞こえはいい。事実たった一つの貴重なリソースを大蛇丸に託すというのだ。それだけでいえば大役だ。しかしながら大蛇丸は面白くなさげにつま先で床を蹴った。

 

「オレがアンタらより弱いからってか。素直になれねえ理由だな」

 

 大蛇丸より強い者は目と鼻の先にいる鋼一刀で、実力はこのノロイ党でもずば抜けて高い。そしてここにいる老人もまたかなりノロイの力を多く受けた者であり外見とは裏腹に尋常ではない力を持つ。暗にお前がこの中で一番弱いなんてことを言われて面白いはずがない。

 

「じゃが、責務は重大じゃ。必ずや、守り切るのじゃぞ」

 

 言いくるめられたような気がしなくもない。が、同時に戦ってよいというゴーサインが出たも同然。

 格下扱いされたことによる屈辱以上に戦国の世でやり残した決着がつけられるという事実が大蛇丸の心を奮い立たせた。

 

「……任せな。今度こそあのくノ一……ハルカを深紫の忍びごと地につけてやる」

 

「大蛇丸。敵を倒すのではなく勝つことが我らの目的だ。くれぐれも先走ることなく城を護れ」

 

 湧いてきた所で即冷や水をぶちまけられた気分だ。

 心底、心底不承不承な態度で頷いた。ここで逆らっても何もいいことがないのは彼自身一番理解をしているからだ。理屈では理解しているが心は納得していない。荒ぶる心を大蛇丸自身の理性が宥めながら、意識を別のものに向けた。……そう、印籠ごと渡された機械仕掛けの瓢箪だ。

 

「分かってる……でよ、このふざけた瓢箪はなんだ……まさか」

 

 大蛇丸は訝しげに持たされた銅色の瓢箪をまじまじと観察する。ただでさえ面白くない状況をさらに面白くなくしているのはこの得体の知れない瓢箪だ。

 深紫の忍びが持っていたモノと形状が瓜二つのそれはうっすらと大蛇丸に心当たりというものを持たせた。

 

「それは切り札じゃ。とある協力者から借り受けた化身の瓢箪──深紫の忍びと同質の力を持つ」

 

 深紫の忍び。敵と同質の力だという事実は余計に大蛇丸から戦いに対する面白味を奪った。これは罠ではないか、と。

 

「オイオイ、そのとある協力者ってこっちに情報を寄越した……」

 

「そうじゃ。歴史の観測者──あやつはそう名乗ったが……安心せい──調べたが純粋な()()()()()じゃ。結界の影響も受けぬが故、お前の力との相性がよい」

 

 老人は悪意からこれを渡してきたわけではないのは大蛇丸でも分かる。特にこの無限央に招かれてかつノロイ党の存亡にかかわる大役を任されている以上、自ら首を絞める真似などするわけがない。戦国の世でよく見た餓えた獣のような連中とノロイ党は違うのだ。

 しかしながらあの深紫の忍びと同じ力なのが気に食わなかった。

 

「ケッ、外法印はさておいてこんな得体の知れないモン使えるかよ!」

 

「まぁ持っておけ。その力は()()()()()()()()()()()()()()じゃ。悪いようにはせん」

 

「こちら側……だと。チッ、仕方ねえ。その言葉信じるぜ」

 

 宥めるような老人の物言いに大蛇丸は舌打ちしながら大人しく瓢箪を懐に収めた。

 これ以上の問答は無意味だと悟ったのか大蛇丸がそのまま城の守りのために無限央から消え失せると、老人は大きくため息を吐いた。

 

 言わずもがな、暴れん坊の大蛇丸のことだ。彼を御するのは骨が折れる。

 鋼一刀もまた、そのため息を肯定するように口を開いた。

 

「大蛇丸は勝敗への拘りが強すぎる。実戦経験が不足しているとはいえ、あの瓢箪の力とノロイの力が合わさればあの二人を跳ね除けることは容易いが……」

 

 大蛇丸の才覚はずば抜けている。それゆえに四道封者、つまり上級クラスの存在として君臨することができるのだ。何も侮っているわけではない。

 それに結界の影響を受けない瓢箪の力と、ノロイの力、そして大蛇丸の才能。

 この3つの力が合わされば閃忍だろうが、深紫の忍びだろうが容易く蹴散らすことは出来るだろう。……そう老人は踏んでいた。大蛇丸が──余計なこだわりを捨てさえすれば、だが。

 

「我もお主も封印の影響も免れん。あの瓢箪の底力も見定め、二の手、三の手も考えておかねばならん」

 

 老人としては出来る手を出来る限り打っておきたかった。

 事実、帰る場所がない上に決して折れてはならない誓いがこの老人の胸を貫く刀にはあった。

 決して負けられない戦いがノロイ党にはあった。

 

 これから先、もし大蛇丸が負けたとしたら? 

 次の手ごまを用意しなくてはならないのだ。協力者とはいうが歴史の観測者を名乗るあの男はいまいち信用できない。

 あの瓢箪は大蛇丸を貶める罠こそ込められていないようだが、力の程は未知数。その力がもしノロイ党にとって絶大なものならば、鋼一刀に託すのもやぶさかではない、と老人は思索する。

 

「二の手、か。例のくノ一は折れたのか?」

 

 思い出したように鋼一刀は少し前に捕らえたくノ一のことを思い出す。

 拷問並びにあれやこれやと策を老人が弄していたがそれ以降どうなったのかは知らない。

 

「どれ、覗いてみるか」

 

 すっ、と老人が細く朽ちかけたような腕を上げ、そのぼろぼろの爪で空中に円を描く。すると、まるで切り抜いた穴のように景色と違う画が移り始めてじわりと広がった。

 

 その先には──文字通り魑魅魍魎跋扈する地獄同然の世界の中心で、青みがかった黒く長い髪を一本に束ねた女がそこにいた。

 本来ならば艶やかに手入れされた髪も長らく放置されたせいか痛んでおり、身を包む服──忍者装束だったそれも最早装束としての体をなしていないほどにズタボロで、隠さなくてはならない部位もむき出しの状態だ。

 

 そして肢体には見るのも憚られるほどの体液に塗れており、彼女をそうさせたのは魑魅魍魎たちであった。

 凡そ人とは言えないそれらは、その大木のような腕で蹂躙し彼女を辱めていた。

 

「うわああっ、やめろ……やめろッ!」

 

 始まってどれだけの時間が経ったのだろうか。

 女としても戦士としても辱められても尚も折れずにいる彼女。その名はスバル。閃忍ハルカのかつての仲間である――

 

「あの閃忍。まだ堕ちぬか……」

 

 驚異的な精神力だ。老人は自らの顎に手を当て考え込む。

 捕らえてからというもの絶え間なく凌辱を繰り返していたというのに抵抗を続けている。その事実は鋼一刀すらも唸らせる。

 

「スバルとやら、思った以上に強き心を持っていたようだな」

 

「肉の悦びは染みつききっておるようじゃがの……どうにもなかなか心の底が折れぬ」

 

 それでも根本的な何かが折れないのは、戦国の世に残した過去の頭領に対しての忠か、それとも仲間への情か。

 とはいえど彼女が折れるのも時間の問題だろう。

 

 

 彼女の苦悶の入り混じった嬌声を耳にしながら老人はフン、と嗤った。

 

 

 

 

 ◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 

 

 基本的に頭領とは言っても戦部鷹丸の役割は龍輪功だ。つまり……そういうことだ。

 多少武術が出来ても的確な指揮や組織のことについてはアキラの方が明るいのでそれ以外タカマルの出る幕は無い。

 

 その点で言えば真太郎が羨ましく思えた。何せ前線で直接的に支えることができるのだから。

 もしあの深紫の忍びが真太郎なのだとしたら、許されるのならば何処からその力を手に入れたのか聞いてみたいぐらいだ。

 一応上弦衆のごく一部。つまり正体について真太郎を拷問にかけてでも吐かせるべきだという意見もあったが流石にこればかりは頭領権限で封殺した。この拷問を提案したのはどうも斉藤家をあまり良く思っていなかったかららしい。

 

 アキラの言う通りドライというか冷酷な言い方をしてしまえばこのまま放置しておけば勝手に戦ってくれるし、こっちの都合も何故か察知してくれる都合のいいNPCみたいなものだ。

 ハルカも守ってくれるし、人を助けてもくれる。これだけならばただの善人。変貌前を知らない、もしくは会ってないタカマルにはありがたい存在である。

 

 勿論タカマル自身、かなり大切なポジションにいるのは理解しているつもりだ。けれどもやはり人間という生き物は実感を欲しがるものだ。

 ハルカの隣に立てたなら。閃忍候補のナリカもこれからも戦わずに済むだろうし、ハルカの負担も減る。

 ないものねだりのたらればはただただ、タカマルの心を擦り減らすだけだ。

 

 

 もちろんそんな擦り減らしていることは彼女らには悟られたくはない。

 だから一人で、散歩をしたくなる時がある。……あともうキノコ料理はもう懲り懲りだし。

 特別何かを期待して歩いているわけではない。特別何かを目的としているわけではない。

 強いて言うならセンチメンタルのあとしまつだ。

 

 とは言っても……

 

「今日は風が強いな……」

 

 音を立てて唸る風が色んなものを運んでくる。

 砂、空き缶、木の葉、果ては新聞紙。

 

「わぷっ」

 

 新聞紙がタカマルの顔面に直撃し、視界がブラックアウトする。

 慌てて剥がした所で視界に飛び込んできたものは深紫の忍びがゲニンを一刀両断している写真と、『ダブルニンジャ! またも怪人を撃退!』というデカデカとした見出しだった。

 ノロイ党は負念を糧とする。その点で言えば人の不安を吹き飛ばすには充分過ぎるニュースだ。

 

 新聞紙をくずかごに丸めながらくず籠を探そうと顔を上げる。すると目の前には短い黒髪をアップハングにしたスーツ姿の男が酷く間抜け面でタカマルを見ていた。

 

「あれ、戦部くん?」

 

()()さん!?」

 

 改め斉藤真太郎。

 出会って早々何故か調子が狂う。

 不思議と言われたら確かに不思議ではあるが、やはりアキラが言うような雰囲気はなかった。

 

「あのぉ……斉藤です」

 

 ◆◆◆◆◆

 

 ばすん、ばすん、と鈍い音が幾度となくこの室内に響き渡る。

 同時に白いボールが壁へと飛んでいき、ぶつかっていく。

 

 

 それを見ながら真太郎とタカマルは隣接したボックスに入り、壁際から射出されるボールをバットでひたすら打ち返す。

 バッティングセンターで二人にできることはそれくらいだ。

 

「────────?」

 

「今なんて言いました!?」

 

 真太郎の声がバットとボールの音でかき消され、タカマルは聞き返す。すると、真太郎の打球がホームランパネルスレスレの所で壁にぶつかった。

 今度は聞き取りやすいような声で真太郎は言葉を投げかける。

 

「こんな一人でふらついてて大丈夫なのかって。鷹守さんは?」

 

「一応隠れて護衛がいるらしいんで大丈夫。ハルカさんはトレーニング中、それに時々こうして一人になりたいときもあるし」

 

「……それは──ごめん、悪いことした」

 

 真太郎が慌てて、構えていたバットを降ろし帰り支度に入ろうとする。

 そういうところはやたら気を遣う男だ。そこが彼のいいところでもあり悪いところでもある。

 人の金で焼肉を喜んで食えないタイプだ。その心情は分からなくもないがタカマルとは違うタイプだ。

 食えるなら食うタイプであるタカマルとは。

 

「あぁいいって……誘ったの俺だし。ちょっと話がしたかったから」

 

「話ぃ?」

 

 話。素っ頓狂な声と共に真太郎のバッティングが疎かになり、振ったバットが悉く空振りしていく。タカマルもまるで当たらなくなっていく。

 バットが空を切る音と、飛んでくるボールが打ち返されずネットにぶつかる音。遠巻きに聞こえる打球音だけが聞こえる。

 

「この仕事をどうして始めたのかなって」

 

「あー、それ聞くのか」

 

 少しずるい質問だ。

 もし突如として成り代わったのならばこの質問に窮してしまうのは確実だ。真太郎を困らせたかったとかそのようなことではなく、アキラの言っていた人でなしの方の真太郎typeAではなく、今この瞬間ここにいる真太郎typeBの人となりがもう少し知りたかった。

 根拠なしでできれば信じたかったが、アキラの話もあって不気味な異星人のようにも思えてしまう。そんな中で真太郎は困り切った顔でへらっと笑う。

 

「俺も分からん。ほら、家族の敷いたレールの上でってヤツだ」

 

 フィクションでも現実でも存外よくあることだ。もちろん何かをしたいという欲望がある人間からすればうざったいことこの上ないが特に夢もない人間からすればきっと楽な状況だ。ならば猶の事──

 

「わざわざこうして最前線で働くことはなかったんじゃないかって」

 

 すらすらと意地の悪い言葉が喉奥から出てくる自分自身に少しタカマルは困惑しながらも言葉を続ける。

 

 ──俺って案外、性格悪いのかもなぁ

 

 自己嫌悪のまま振るわれるバットは見事に空振りを繰り返す。ラッキーパンチで当たったボールは正面にぼてぼてと転がりピッチャーゴロレベルのものしか打てずにいる。それは真太郎も同じだった。

 

「かもな。特に何も考えてなかったのかもしんない。でも──やめるつもりもない」

 

「どうして?」

 

「……今この瞬間、何かが出来るのに何もしなかったらきっと胸糞悪い人生を送ることになる。そんな気がして。なんかごめん、ふわっとした返事しかできない」

 

 真太郎は少し苦々しいような顔持ちで、飛んできたボールを打ち返す。久々に打った球はホームランパネルから程遠い場所にぶつかった。

 落ちて転がり行くボールを見送りながらタカマルは小さく言葉を返す。

 

「いや、いい。聞いてみたかっただけなんだ」

 

 戦部鷹丸は一般人であった。閂市という宇宙人に襲われたことがあるくらいでナニカ特別なことはないはずの町で育ち、ナリカとつるんだりして比較的平凡な日常を過ごしてきた。

 それをノロイ党と上弦衆の数百年に渡る争いの巻き添えをもらってぶち壊しにされている。

 

「俺も、こうしてここにいるのって()()()()()()()()()のもあるけれども、何も知らなかった俺からしたらただ巻き込まれただけでもあるんだ。誰かの敷いたレールの上にいるって所は同じだなって」

 

 もちろんそうなること前提で下準備はされていたらしく自分の住んでいたアパートが上弦衆の息がかかっていたりと戦部鷹丸という存在を確保しやすいように事前準備されているようだった。閃忍に力を与えられる龍の者として。次期頭領として。

 

 ……拒否権はあった。

 なにせ自分は関係ない、理不尽に巻き込まれただけだ、と。ポンと与えられた頭領としての権力はそうするだけの力はあった。けれども──

 今この瞬間、タカマルはここにいる。

 頭領として、龍の者として。ノロイ党と戦うために上弦衆にいる。

 

「戦部くんは嫌だと思ったのか?」

 

 真太郎の問いにふと、ハルカの後ろ姿が過る。

 ほんの一瞬の沈黙がただひたすらに永遠に思えた。ハルカの後ろ姿が靄と共に消えるとともにタカマルは首を横に振って返した。

 すると真太郎はちょっとうれしそうな顔をする。しかしそれは一瞬で曇る。

 

「そっか、俺は……どうなんだろうな。その時何を考え俺はレールの上に乗ったのか。……俺は俺が分からん。きっと何も考えてなかったんだろうな」

 

「……なんか宇宙人でもとりついてるみたいな言い方」

 

 反射的にそんな感想が出てしまった。

 まるで心と体が乖離したような物言いはタカマルの疑念を確信へと変えていく。あぁ、アキラの知る彼と自分の知る彼は別人なんだ、と。

 けれどもタカマルが知る真太郎はtypeBの方しか知らないわけで。

 

 真太郎は少しバットを降ろす。

 

「宇宙人、か………………」

 

 思いのほか深刻に考え始めているようでタカマルはどう反応すればいいか分からなくなっていた。

 

「あぁ、別に言葉の綾だよ。そこまで深刻にならなくても」

 

 こういう時取り繕った言葉が出せない自分が嫌になる。

 タカマルは慌てて取り繕おうとしたものの、真太郎にはこの質問そのものの打ちどころがかなり悪かったらしく元通りになる様子は見受けられない。視線はホームランパネルに行っていたがその実心ここにあらずと言わんばかりに何か考え込んでいる様子だった。

 あれやこれやと声をかけても生返事。何気なく吐いた一言が最悪のクリティカルヒットをかましてしまった事実にタカマルは黙り込むほかなかった。

 

 

 ◆◆◆◆◆

 

 

 微妙な空気のまま結局バッティングセンターの残りゲームは全て使い切ってしまった。お互い言葉なく打席から出ていく様子は周囲からどう見られていただろうか、なんてことを想いながら店から出て、タカマルはどんよりとした空気感を入れ替えようと外の空気をいっぱいに吸い込む。

 このまま解散しようにも真太郎は相変わらず何かを考え込んでいる様子で声をかけにくい。

 

 惰性でとぼとぼ町中を歩いていく。

 すれ違う人々はいろんな顔をしていて、仕事に追われる者もいれば、今日の夕飯に頭を悩ませる主婦、部活動の愚痴を吐く学生たち。

 目の前にいる男にはこの町がどのように見えていて、深紫の忍びとして戦っているのだろう。ふと道行く人と肩がぶつかって謝る彼を横目にタカマルは思う。

 

 

 疑えば幾らでも疑える。

 宇宙人が寄生して品行方正になりましたなどという荒唐無稽な可能性も出そうと思えば幾らでも出せる訳で。

 洗脳が得意な宇宙人自体は実在する*1以上まぁ有り得なくもないのだが、ここで疑ってもしょうがないとも言える。

 

 それに──深紫の忍びであることを隠してハルカを、上弦衆の皆を助けることにメリットなんてない。急に禄でもないヤツがいいヤツになって騙すメリットも意味もどこにある。もし自分が悪党だったらこんな不器用な真似はしない。

 事情は間違いなく腐るほどあるだろうし隠し事もきっと数えきれないくらいにあるはずだ。

 世界の異変と彼がどういう関係があるのかもまだはっきりしていない現状、彼が不気味な存在となっているのもまた否定できない事実。

 

 けれども──

 

「工藤さんは自分が分からない。そう言ってたけど……」

 

 急な切り出しに驚いたのか真太郎は鳩が豆鉄砲を食ったような顔をしながら我に返る。それにタカマルは思い思いの言葉を紡ぐ。

 

「少なくとも俺にとってはすごく陳腐な言い方だけど、いい人だって思ってる。ハルカさんと同じように、多分人を助けることに理由なんていらないんだ、きっと」

 

「それは買い被り過ぎだ。俺はいい人なんかじゃない」

 

 真太郎は苦い顔で手をひらひらさせる。

 謙虚通り越して卑屈だ、と真太郎の反応を内心評した。その卑屈さが自らを深紫の忍びであることを隠しているのか、それとも──

 

「でも──ありがとう」

 

 どういう思いをしているのかは分からないが、子供のようなくしゃっとした笑みを浮かべて真太郎はそう言った。

 

*1
ダイラストのこと。超昂天使エスカレイヤー参照




 エロゲ主人公の男に攻略されかける男。斉藤真太郎。
 女の子差し置いて何をやっているのか。  

 typeAやらtypeBの話もありますが過去の意思は以下略なので有耶無耶にはしません
 あのフレーズはとある最高最善の魔王にとって救いの言葉でしたけど、真太郎typeB(イッチ)にとっては……



 次回:【誰だ】知らんライダーが出てきた【お前は】


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【あたし】知らんライダーが出てきた【聞いてない!】①

 ドンブラザーズで忍者が出てきたので初投稿です

 醜い平成の味がして大変おいしゅうございます


53:一般エロゲ竿役忍者 ID:20sNB2kmn2 

(´・ω・`)やぁ

 今日は決戦だよ

 

54:名無しの観測者 ID:5aUmrUBLZ

 >>53

(´・ω・`)やぁ

 急にぶっこんで来たなイッチ

 

56:名無しの観測者 ID:03naq5Iyc

 >>53

(´・ω・`)やぁ

 決戦ってまさかラスボス? 

 

58:名無しの観測者 ID:L3Mu1vEAH

 >>53

(´・ω・`)やぁ

 

 >>56

 ラスボスなわけが

 ……四道封者じゃな? 

 

59:一般エロゲ竿役忍者 ID:20sNB2kmn2 

 >>58

 そうだよ(便乗)

 例の幹部クラスとやりあうんや

 

 その為には城を攻める必要がある

 

63:名無しの観測者 ID:lRopV/+Mg

 >>53

(´・ω・`)やぁ

 

 城を攻める? 

 なに? 忍者といいこのスレの人室町時代にいんの? 

 

64:名無しの観測者 ID:F0wSQuwle

 まーた新人か

 イッチ! 

 

67:一般エロゲ竿役忍者 ID:20sNB2kmn2 

 >>64

 しょうがねぇなぁ(悟空)

 

 三つの出来事でええか? 

 

69:名無しの観測者 ID:ion9sdVM2

 三つで収まるのか? ボブは訝しんだ

 

71:名無しの観測者 ID:BP+ls5XQg

 ワイも途中参加でよく分からん

 教えてクレメンス

 

73:名無しの観測者 ID:dg5aAxnbW

 前スレ見りゃいいだろ……

 これだからクレクレは

 

 半年ROMってろ

 

74:一般エロゲ竿役忍者 ID:20sNB2kmn2

 3つじゃ無理だなもう(´・ω・`)

 一応自分に置かれた状況を整理するためにここに書くことにする

 ゴースト風+αでいこ……

 

76:名無しの観測者 ID:OjHpNrOmn

 タケル殿ォォォォォォ!!!! 

 これもゴルゴムの乾巧って奴が変身したディケイドがカメンライドしたゴーストを裏で操っている紘汰さんの仕業に違いありませんぞ! ユグドラシルぜってぇ許さねえ! あとついでにヒューマギアもぶっ潰す!

 

 拙僧も状況を整理したいですぞおおおおおおおおおおおッ! 

 

80:名無しの観測者 ID:fuglFwkpl

 >>76

 御成はちゃんと大天空寺に帰って

 あと全部載せキメラやめろ草加生える

 

81:名無しの観測者 ID:+Y1NmuQgK

 イッチにゴーストの新作が出て現行と共闘したとか言っても信じなさそう

 

 ダグバ「整理と聞いて」

 

82:名無しの観測者 ID:3HnTZV1fE

 イッチは平成34年に生きてるからね……

 >>80

 草加を生やすな、首の骨折るぞ

 >>81

 九郎ヶ岳遺跡に帰れ

 

86:名無しの観測者 ID:3vUtQX/8X

 何? 余計にわけわかめなんだが

 平成34年ってなんだよ? クスリキメてんの? 

 更新されてない免許証かよ

 

90:名無しの観測者 ID:WeACk0Ect

 イッチは平成34年の並行世界の住人なんや

 

 うーん、醜い

 

93:名無しの観測者 ID:Es+A5Fkj/

 平成34年とか醜過ぎるンゴ……

 

 クソみたいな時代いつまでやってるんですかねぇ? 

 

95:名無しの観測者 ID:RgrtswqNb

 >>93

 無論、死ぬまで(AA略)

 

96:名無しの観測者 ID:fs5Yx0VFt

 平成ろくなことなかったもんな

 

 

 

 

 

 

 

 

 

129:一般エロゲ竿役忍者 ID:20sNB2kmn2

 ととのいました! (`・ω・´)b

 

131:名無しの観測者 ID:Y6oWSGHI+

 イッチ打ち込み早いな

 

132:名無しの観測者 ID:LBoCADwNx

 スマホと腕一体化してるんでしょ

 

136:名無しの観測者 ID:dhhypfwUp

 現代人の末路ですねクォレハ……間違いない

 

139:名無しの観測者 ID:keDuNcWKN

 補足するとイッチは変身中は脳みそで文章打ち込みが出来るゾ

 

143:一般エロゲ竿役忍者 ID:20sNB2kmn2

 俺はイッチ

 平成34年の世界で社畜をしていた。でも気づいたら平成20年、つまり2008年の異世界に飛ばされ、仮面ライダーシノビの力を使って戦っている

 問題の異世界はなんと、変身ヒロインがえっちな目に遭う……つまりエロゲの世界だった

 俺はその世界の並行同位体に憑依するという形で生きて戦っている訳だけれども……

 

 残された時間はあんまりないらしいけど、よくわかんないッピ……(白目)

 

147:一般エロゲ竿役忍者 ID:20sNB2kmn2

(ここから世界観説明ですが淫夢要素は)ないです。

 この世界において『ノロイ党』と呼ばれるいわゆる和風ショッカーと魔化魍を足して2で割ったような悪の組織が戦国時代からタイムスリップして2008年で暴れている

 

 これらに対して古来より存在する忍者の秘密結社『上弦衆』がこれに対抗

 しかし、ノロイ党には通常兵器は通用しない

 彼らを倒すには龍の者と呼ばれる能力者とすけべぇ……(レ)なことをして力を手に入れる『閃忍』と呼ばれる変身ヒロインの力が必要なのだ

 

 で、この世界エロゲーが元になっている以上負けると敵にえっちなこと……つまり凌辱されるかーなーりやばい世界なのだ

 多分暴力性より性欲が強めなのかも知れない

 

 

 その世界においてワイに与えられた役割は敗北時に陵辱に混ぜさせられるであろう上弦衆のモブ、つまり竿役

 仕事をする傍ら裏でシノビに変身して閃忍のハルカさんのアシストをやっとる

 

 現在ノロイ党の戦力である『怪忍』と呼ばれるいわゆる毎週爆殺される怪人枠と『ゲニン』と呼ばれる戦闘員をハルカさんと一緒にしばき倒してる

 でもどうも原作とは外れた展開を始めているらしい。コワイ! 

 

 

149:名無しの観測者 ID:7iB8b9Cpk

 >>147

 これは……イッチはハルカさんとくっつくルートじゃな?(名推理)

 

153:一般エロゲ竿役忍者 ID:20sNB2kmn2

 >>149

(そんな展開は)ないです(無慈悲)

 彼女いない歴=年齢のクソザココミュ力(ちから)でそんなことが出来るとお思いで? 

 あとハルカさんとは何故かギスってるので無理

 

 

 主要登場人物

 ・わし(23)

 2022年のクソザコ社畜。気づいたら並行同位体に憑依してライダーの力を握らされていた

 憑依先のわしが人間の屑疑惑がかかってる

 上弦衆におけるポジションは便利屋兼ボディーガード兼後始末担当

 一応仮面ライダーシノビらしい。でも最近正体バレてる気がする

 

 ・鷹守ハルカ

 エロゲヒロインで閃忍として戦国時代からやってきた

 黄金の精神持ち。身体がえろいしかわいい

 なおワイのことを避けてる

 シノビの姿だとこの人凄く当たりがいいから複雑な気分

 

 ・戦部鷹丸

 通称タカマル

 エロゲ主人公で龍の者と呼ばれる閃忍に力を与えられる異能者の男子高校生

 すけべぇ……だが滅茶苦茶いい人なモンハン友達

 ワイがぼっちになってないのはこいつのおかげと言っても過言ではないくらいにはコミュ力おばけ

 現・上弦衆頭領でえらい人、でもその割にはちょくちょくダル絡みしている

 

 ・四方堂成香

 通称ナリカ

 ヒロインらしい。一応現代の閃忍候補

 タカマルとは男友達みたいな関係性のツンデレさん

 ハルカさんとタカマルの3人で同棲させられている

 

 ・黒鉄アキラ

 表向き保健室の先生をやっているらしい上弦衆の戦術アドバイザー

 おっぱいぶるんぶるんの姉御

 つまりガンダム00のスメラギさんみたいな人

 

 ・スズモリ

 見た目女の子っぽい少年オペレーター兼雑務担当。ワイのパイセン

 裏で色々頑張ってるらしいめっちゃ大変そう

 

 ・虚無僧

 ワイに力の使い方を教えてくれる謎の存在

 エボルト枠かおやっさん枠かわからない

 

 

 報告終わりっ! 閉廷! 後はログを読め! (丸投げ)

 

155:名無しの観測者 ID:2irCtGK3a

 >>153

 乙

 こうして見るとイッチというかライダーの異物感ぱねえな

 あと虚無僧はマジで何

 

 

157:名無しの観測者 ID:kgPpXlWa+

 >>153

 乙

 

 ここで謎なのが

 何故、何の前触れもなく憑依したのか

 何故、何の前触れもなくシノビに変身できるのか

 何故、ハルカさんがイッチを避けたがっているのか

 何故、変身後に頭が痛むのか

 

160:名無しの観測者 ID:Hljc4bY5t

 >>157

 ん? 

 

161:名無しの観測者 ID:LKA9FlHkp

 >>157

 ピロロロロ……アイガッタビリィー

 

165:名無しの観測者 ID:1I/57cfry

 >>161

 ピロピロピロピロピロピロピロピロピロピロ

 ゴー……ゴー……ウィ……ゴゴゴゴゴゴゴ……ウィウィウィウィウィウィウィ

 

166:名無しの観測者 ID:nOYdk/RCr

 >>165

 TE勢だ! なんだっていい! 

 なんかわからんけど死にかけだしとどめを刺すチャンスだ! 

 

167:一般エロゲ竿役忍者 ID:20sNB2kmn2

 どうして急にエグゼイドからTEになってるんですかねぇ……(困惑)

 

 今現在中ボスの待つ城を攻めてる

 その日に限って休暇のシフトになっているあたり作為性を感じるけど今はありがたい

 

169:名無しの観測者 ID:VW498dIjT

 >>167

 完全に泳がされてるじゃねえか! 

 もっとウルトラマンみたいにうまくやらんかい! 

 

174:名無しの観測者 ID:rBLcLqllp

 >>167

 シノビにあるまじき間抜けぶりで草

 

179:一般エロゲ竿役忍者 ID:20sNB2kmn2

 ゆるし亭ゆるして

 でも敢えて拘束に出ずに逆にやりやすくしてくるあたりアキラさんもやり手だと思うわ……もし敵に回られたらワンチャンワイの方が危ないまである(;´∀`)

 

 今現在四道封者が見えない城をおっ立てており、ノロイ党を弱体化させている結界をぶっ壊そうとしているから、防ぐために管理人をぶっ殺そうというのが今回のお題やね

 

 シノビの力でハルカさんとは別ルートでとりあえず入ってみたけど……うーん、これは中々まずい

 

183:名無しの観測者 ID:WGfKwEEIw

 >>179

 何がまずい? 

 言 っ て み ろ

 

186:名無しの観測者 ID:Us1wK14Pe

 >>179

 エロゲの性質上無能のように思えるけど相手は古来より長らく続いてきた、仮面ライダー響鬼で言う猛士みたいなモンや

 そら素人がプロを出し抜くなんて至難の業やろ

 

188:一般エロゲ竿役忍者 ID:20sNB2kmn2

 まずいというか意外とゲニンが多いねん。瞬殺できるけどウザい! 

 

 あとここ城っつーより不思議のダンジョンだわ。直線距離1キロ走っても城ん中はおかしいだろ!? 壁ぜってえぶち抜いてるぞ! 

 

 うわ! 急に足元から槍!? おっぶぇ!? 

 

192:名無しの観測者 ID:Pf3RUTwCe

 >>188

 はぇ^~城ん中そうなってたんすね

 コミカライズも描写ないし、ゲームもちびキャラが直線走ってるだけだからよく分からんかったゾ

 

197:名無しの観測者 ID:kd8QAA1ry

 ギャバンの魔空空間みたいな感じか

 

200:名無しの観測者 ID:vN/qiOl5r

 もう火遁のニンポでまとめて焼き払って終わりでいいんじゃない(雑)

 

202:一般エロゲ竿役忍者 ID:20sNB2kmn2

 >>200

 無理。どうも城自体特殊な呪術で出来上がってるらしい

 ぜんっぜん燃えねえ

 

 死ぬかとオモタ……(´;ω;`)

 非人道兵器のマキビシまでありやがるし地味に痛いゾ

 

 なんか壁からも槍がきたああああああ! 

 

206:名無しの観測者 ID:HLvDHEekc

 >>202

 大丈夫かイッチ

 

211:名無しの観測者 ID:AGYdj6O4a

 >>202

 ダニー! グレッグ! 生きてるかぁ!? 

 

216:一般エロゲ竿役忍者 ID:20sNB2kmn2

 >>211

 アァ……ナントカナァ……

 槍はへし折ったゾ(脳筋)

 

 こういう時スレ民がいるとリラックスできるわ(´・ω・`)

 キノコ野郎の時おもくそけおっててシャットアウトしてた。ごめんね

 

220:名無しの観測者 ID:I/Mbq5GYT

 >>216

 ええんやで(ニッコリ)

 

 思ったよりイッチ体張ってて草

 

224:名無しの観測者 ID:9guQBd+C4

 酒のつまみになるからもっと踊ってくれや

 

227:名無しの観測者 ID:j4E+DxNod

 >>224

 ド畜生過ぎて草

 

228:名無しの観測者 ID:srXW2nZg1

 不思議のダンジョン今何階や

 

231:一般エロゲ竿役忍者 ID:20sNB2kmn2

 >>228

 結構階段上がってるけど終わりが……おっ? 

 

 お前は……! 

 

234:名無しの観測者 ID:saMh48POz

 >>231

 ついに大蛇丸か

 

236:名無しの観測者 ID:B/KFZdMVZ

 >>231

 キタ━━━━(゚∀゚)━━━━ !!!!! 

 

239:名無しの観測者 ID:90Do1z3+F

 >>231

 KBF!*1

 

241:一般エロゲ竿役忍者 ID:20sNB2kmn2

 やっちゃるぜ!

 

 

 

 

( ˙-˙ )スンッ

 

244:名無しの観測者 ID:ouweM1yc4

 >>241

 ん? 

 

249:名無しの観測者 ID:yFLjXYUuc

 >>241

 わぁ! 急に落ち着くな!? 

 

252:名無しの観測者 ID:wh/3CITK+

 うわぁ……嫌な予感がするぅ……

 

256:一般エロゲ竿役忍者 ID:20sNB2kmn2

 業岡一全!? 

 

 なんでお前がそこにいんの!? 

 殺されたんじゃ……

 

261:名無しの観測者 ID:rrMsXciPl

 >>256

 残念だったな……トリックだよ

 

265:名無しの観測者 ID:yoe6Jc+N0

 あー、原作でいたねえ。城攻めに再生怪人

 

268:一般エロゲ竿役忍者 ID:20sNB2kmn2

 >>265

 アタシキイテナイ! 

 

 またあのデブと戦うのかめんどくせえ! 

 行く手塞いでやがるし……! 

 

272:名無しの観測者 ID:B64qWdnHY

 イッチ落ち着け

 

 再生怪人なぞ恐るるに足らず

 おそらく能力値はそのままや。ごり押しで倒せる

 

275:一般エロゲ竿役忍者 ID:20sNB2kmn2

 この裁き屋め……その名前が気に入らないんじゃい! 

 業岡って言われると何故か偉大なあの人を思い出すんだよ! やめんかこの野郎! 

 

277:名無しの観測者 ID:FIe6bo8lf

 >>275

 イッチ、それはフジオカや! 

 ゴウオカちゃう! 

 

281:一般エロゲ竿役忍者 ID:20sNB2kmn2

 ケジメつけてもらうで旦那ァ……

(「・ω・)「 <キェェェェェェェェェェェェェェッ!!!!! 

 今度こそ往生せえやァァァァァァァァァ!!!!!

 

283:名無しの観測者 ID:5gxZyP0bJ

 うわぁ……

 どっちが悪役だかわかりゃしねえ……

 

 

 

 ◆◆◆◆◆◆

 

 

 人生山あり谷ありとはよく言ったものだが、この城攻めにおいては適用してほしくはなかった。

 というかこの城は何かがおかしい。

 何せそもそもが目視がほぼ不可能だし。

 そして虚無僧から教わった術を利用して侵入したはいいが入ったら入ったでまるで不思議のダンジョンめいた空間が、城に侵入した真太郎を──シノビを待っている。

 これを平常と言えるか、言えるはずがない。

 

 明らかに長すぎる通路や、広大過ぎる部屋。

 まるでさいたまスーパーアリーナ並みの広さを持つ一室に入ったときは自らの正気を疑いそうになった。

 

 見た目だけならその辺の地方にある城レベルの大きさだというのに、中に入れば明らかに壁をぶち抜いているであろう広さがシノビを悩ませる。

 とはいっても正解と言えるルートが分からない以上、虱潰しに階段を探していくしかない。

 

 邪魔をするゲニンを片手間に殴り倒しながら進めば、不意打ちに飛んでくる床や壁からの槍、さらには大量に無から現れるまきびしの数々。

 そのたびに心臓が跳ね上がり、心臓がやかましく鳴るのだ。

 どれだけの寿命を縮めたことだろうか。

 

 多分1年ぐらいは縮んだに違いない。

 この城を放っておくとノロイ党を弱らせている結界が壊れてしまい、この世が魑魅魍魎跋扈する地獄変へと変化する以上こうして無茶をしていることに意味はあるのだろうけれども。

 

 こんなふざけたドッキリを考えた設計者はきっと性格が激烈に悪いに違いない。

 いつか必ずシバいてやる。シノビは半ギレ気味に眼前で壁から横殴りに伸びる槍を八つ当たり気味にへし折った。

 

 スレ民による面白半分な励ましに救われながら、階段を見つけ次第早駆けで上がっていく。

 ほぼ同刻にハルカもこの城に潜入したというのに、その姿は依然として見つからない。彼女は一体どこにいるのだろう。

 少し心配になる中、一頻り駆け上がった先は──少し広い空間だった。

 

 とはいっても最上階ではない。

 ゲーム的に言うならば中ボスの間、というべきか。ただっ広い空間がシノビを待っていた。

 シノビは警戒しながら周囲を見渡しながら歩くが、先ほどまでのゲニンの鳴き声と足音と剣戟音に塗れた喧噪からは無縁の静寂がシノビの体を包む。

 

 その静寂はきっと身を預ければきっとどこまでも果て無くずぶずぶと、その精神を沈めていくことだろうが、生憎シノビにはそんな自ら負けを認める真似は出来ず、ただただその静寂は不快感へと姿を変えるだけであった。

 

 始まりがあるなら終わりもある。

 しばらく歩いた先には黒い影が待ち構えていた。人ならざる体躯に、腰に携えた太刀、頭の刃のようなちょんまげ。

 あまり思い出したくはないシルエットに仮面の下の真太郎は心底げんなりしたような顔でシノビブレードを引き抜いた。

 

 

「ふっふっふっ……待っていたぞ、深紫の忍びよ」

 

「お前、業岡一全か」

 

 案の定、というべきか。

 業岡一全が不敵な笑みを浮かべてシノビの前に立っていた。特撮もののお約束として再生怪人なるものが存在しているのは真太郎も心得てはいる。しかし現実で直面すると面倒なことこの上ない。

 

「その通りッ! 我らがノロイ党、党首──炎斎様より再び生を授かったこの再生業岡一全……ここから先は通さぬッ!」

 

 見得を切り、あの風圧の凄まじい太刀をおもむろに引き抜く姿は以前初めて戦った時の感覚を思い出す。

 あの時はハルカを救おうという勢いでやってきたが今度はそうではない。勢いを上回る勇気で勝負しなくてはならない。

 シノビはブレードを逆手持ちにしギロリ、と業岡一全を睨みつけた。

 

「さっさと黄泉に帰れ、業岡一全。再生怪人の出る幕じゃない……!」

 

「ほざくがいい!」

 

 能力値が変わらないなら、以前の自分を上回る力を叩きつけてやればいいだけのことだ。

 誰が先に動くのか、一触即発の空気が流れる中背後からゲニンの悲鳴が木霊した。

 

「ぬぅ……!」

 

 業岡一全の苦々しいうなり声がすべてを物語っていた。そしてシノビの横で音もなく風が舞う。それは爽やかな風だった。その正体は言わずもがなーー

 

「忍びさん!」

 

「──上弦衆か」

 

 そう、鷹守ハルカ。上弦衆が誇る山吹色の切り札がそこにいた。

 ハルカがシノビと並び立つ、最早この時点で業岡一全に勝ち目はほぼ消え失せていた。前回の戦いではハルカが業岡一全を疲弊させ、シノビがトドメを刺したのだ。つまり同じようにすればいいだけのことだ。

 

 

「業岡一全……どうして」

 

「ノロイ党が復活させたらしい。大丈夫だ、俺が倒す」

 

 倒された存在の復活に驚愕するハルカをシノビは宥める。

 今度も倒すだけだ。無造作に構えなおそうとした矢先だった。──ハルカがシノビを手で制した。

 

「いえ、私に任せてはいただけませんか? あの時は後れを取りましたが今度は違います。それに──あの時の借り、返し切れてませんから」

 

 屈託のない笑顔でシノビに先に行けと言外に促している。

 とはいっても一度敗れているのは事実で心配なことには変わりはない。異論を唱えようとしたが──こころなしかハルカの笑顔からちょっと圧力のようなものを感じた。

 これだけは絶対に譲らない、と言わんばかりに。

 

「大丈夫です。すぐ追いつきますから、ここは任せて忍びさんは先で待っていてください」

 

「……分かった」

 

 これ以上の問答は無意味。察したシノビはハルカに促されるがまま次の階段へと向かうために業岡一全を素通りしていく。

 

「させん!」

 

 当然それを看過している業岡一全ではない。太刀を振るおうとしたその時だった──ハルカは瞬時にして彼の前に迫り、小太刀並みの刃渡りを持つ大きなクナイ『滴』を2本引き抜きその太刀を放つより先に一撃を叩き込んでいた。

 

「なん……だと」

 

「あなたの相手は私ですッ!!」

 

 前回以上のスピードを獲得したハルカに驚愕する業岡一全。実力差は歴然であった。

 『ここは任せて先にいけ』という大文字先輩もかくやな死亡フラグを立てたのは気になるが大人しく従うことにした。 

 

 

 

 広間を抜け、階段に差し掛かるとき。

 ふと後ろを振り返ったときには、もうシノビの身を包んでいた静寂は轟音と鳥の鳴き声のような雷撃音に飲み込まれていた。

*1
決戦のバトル・フィールド




「誰かに助けられた者は誰かを助けたくなるってわけだ!」


 今更だけど超昂ブログの設定群滅茶苦茶参考になるわね……しれっと作中描写のなかった設定もぶち込まれてるしスバルの苗字もはっきりしてら
 誰か超昂シリーズで何か書かないかしら


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【あたし】知らんライダーが出てきた【聞いてない!】②

 やっと来た


 

300:一般エロゲ竿役忍者 ID:20sNB2kmn2 

 というわけで業岡は放置した

 

 

302:名無しの観測者 ID:Ia3t1IUhY

 ファーwwwwwwwwwwww

 さっきの盛り上がりなんだったんだこのアンポンタンwwww

 後ろで犯されてても知らねえぞ

 

 

307:名無しの観測者 ID:qunuf/MJB

 あのキノコとの戦いから2週間経ったけど、イッチがどれだけ成長したかわかりませんね……

 しかもハルカさんも完全に死亡フラグおっ立てたし

 

 ワイの股間のキングラウザーもおっ立ててきたわ

 

 

308:名無しの観測者 ID:SM8OICmBl

 そのゼクターニードルしまえよ

 多分これハルカさんゴウオカってやつを根に持ってるのでは

 

 

313:名無しの観測者 ID:umLZSWOA/

 そういやハルカさん現時点でヤられてないし、他人棒で気持ち良くなってないし公衆の面前で柔肌晒されたわけだから根に持つか……まぁそうだろうな

 

 

315:一般エロゲ竿役忍者 ID:20sNB2kmn2 

 ワイは極力雑魚を吹っ飛ばしながら上までの道を作っとく。取り敢えずシノビブレードで床削って導線つくっとけばハルカさんも迷子にならんやろ

 

 

318:名無しの観測者 ID:6exl1wri0

 やさC

 ハルカさんも順当に強化されてれば普通に勝てるやろしまま、エアロ

 

 

320:名無しの観測者 ID:OYUdxdmqJ

 次は戦えよイッチ

 

 

322:名無しの観測者 ID:pUZaKgVna

 順当にいけば次は茸群やないか? 

 

 

328:一般エロゲ竿役忍者 ID:20sNB2kmn2 

 2週間前に倒したキノコ野郎か

 アイツの行動パターンは何となくわかったけどめんどくせえな

 

 

330:名無しの観測者 ID:tEY611VDF

 それは多分次の城だからあんまり関係ない。

 ゲーム通りなら用意されている再生怪人は1体ずつだったし……

 

 

335:名無しの観測者 ID:Rj7UnWe8Q

 原作通りに進むんですかね……この時点で2人目の閃忍が現れてないのに

 

 

340:一般エロゲ竿役忍者 ID:20sNB2kmn2

 >>335

 不安を煽るのやめろォ! (建前)

 

 やめろォ! (本音)

 大蛇丸とあの糞キノコ同時にやり合うとかいう展開は無理……死ぬぅ! 

 

 

345:名無しの観測者 ID:tqy5azrBa

 イッチが業岡を殺ってハルカさんを先に行かせた方がよかったんじゃぁ……どうせ凌辱シーンで時間稼いでくれるんやからそれまでにさぁ

 

 

346:一般エロゲ竿役忍者 ID:20sNB2kmn2

 >>345

 それはなんか嫌だわ

 

 

347:名無しの観測者 ID:g3yRepfll

 ???「2対1は卑怯だろ!!!!」

 

 

350:名無しの観測者 ID:pcqJsD0aE

 >>347

 虫けらァ! 

 

 イッチのその拘り何……? 

 別にエロゲの世界のヒロインや。ヤられても死にはしないだろ

 

 

351:名無しの観測者 ID:00wcui5Oa

 イッチ割と潔癖よね……ヒーロー気取るのはいいけど死んだら何もならんで

 

 

354:一般エロゲ竿役忍者 ID:20sNB2kmn2

 うん、死ぬのは絶対に嫌だ

 同時に知り合いが嫌な思いをするの嫌だ

 

 本当なら業岡一全も大蛇丸も全部俺が倒したいんだよな

 正直死ぬんじゃねと思うと怖いけど

 

 矛盾しまくってどうしようもない

 どうしようもなくて今この瞬間、暴れてる

 

 今は何も考えない。考えたら、負ける

 

 

360:名無しの観測者 ID:OUENGM6Uh

 おい、今来てみたらスレの雰囲気が重くなってるけどなんだこれ

 

 

366:名無しの観測者 ID:ovgSxpQH1

 >>360

 イッチがシリアスモードに入った

 

 

369:名無しの観測者 ID:7C64AtshC

 多分ここでイッチが死んでも元の世界には帰れはせんで

 ハルカさんを待つのも一つの手や

 

 

370:一般エロゲ竿役忍者 ID:20sNB2kmn2

 無茶はしない程度で立ち回ればなんとかなるやろ

 

 大丈夫、逃げるのは得意だ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

447:一般エロゲ竿役忍者 ID:20sNB2kmn2

 あの男か……大蛇丸ってやつは

 

 

450:名無しの観測者 ID:8TKAWADq+

 きた! ツンデレメインヒロイン! 

 これで勝つる! 

 

 

454:名無しの観測者 ID:7PjKL4ooc

 キタ━━━(゚∀゚)━━━!!! 

 

 

456:名無しの観測者 ID:YB1i2pSkm

 キタ━━━━(Д゚(○=(゚∀゚)=○)Д゚)━━━━!!!! 

 

 

461:一般エロゲ竿役忍者 ID:20sNB2kmn2

 え、何? この人……見た感じ世紀末系ヒャッハーお兄さんなんだけど人気あんの? 

 

 

466:名無しの観測者 ID:iSlV9VQfH

 阿散井恋次! 阿散井恋次じゃあないか!? 

 

 

472:名無しの観測者 ID:4LZTP+4Mp

 >>461

 ご存じ、ないのですか!? 

 彼こそ、悪役からチャンスを掴み、メインヒロインの座を駆け上がっている超時空ツンデレラ、大蛇丸ちゃんです! 

 

478:一般エロゲ竿役忍者 ID:20sNB2kmn2

 >>472

 男じゃねえか! 

 完全に男じゃねえか! 

 

 

484:名無しの観測者 ID:7WEAsEYTf

 という訳で今回は──

 

 仮面ライダーシノビVS大蛇丸で優勝していくことにするわね……

 

 

489:名無しの観測者 ID:UvxwLqsHQ

 イッチ気をつけろ

 やつは自在鎌というへんな鎖鎌を使ってくる

 

 

493:名無しの観測者 ID:j+Bya0+80

 戦闘馬鹿とはいえ、そこそこトリッキーな武器なんだよなオイ

 

 イッチ大丈夫か……

 

 

494:名無しの観測者 ID:POJgMLSlc

 イッチ今戦ってるのか……

 

 

 

 

 

 

 

550:一般エロゲ竿役忍者 ID:20sNB2kmn2

 えっ、なみこr

 

 

554:名無しの観測者 ID:/+3IbCSin

 >>550

 何事だイッチ、応答しろ

 

 

557:名無しの観測者 ID:zltxubOes

 しかも誤字ってるし……

 多分なにこれって言いたかったんだろうけど

 

 

563:名無しの観測者 ID:eJ3I8ZpJX

 まさかスバル途中介入とか? 

 

 

564:名無しの観測者 ID:IG0VEICbe

 >>563

 大蛇丸がやられてないのに外法印なしでやれるとは思えんし

 

 とはいっても大蛇丸を倒したというにはちょっと早すぎん? 

 

 

567:一般エロゲ竿役忍者 ID:20sNB2kmn2

 なんだよお前、なんなんだよ

 

 

568:名無しの観測者 ID:0CYugbofX

 だからどうしたんだよ

 

 

569:名無しの観測者 ID:fg1OtdP7s

 この取り乱しよう……変なことが起きているのか

 

 

572:一般エロゲ竿役忍者 ID:20sNB2kmn2

 おろちまるお前、仮面ライダーだったのか

 

【緑色の仮面ライダーが城内に立っている画像。手には、特異な形状をした鎖鎌が。相当取り乱しているのか少し角度が変である】

 

 

573:名無しの観測者 ID:ylCkNxm9o

 >>572

 ……は? 

 

 何言ってんだお前……ハーブキメ過ぎて脳みそおかしくなった? 

 

 

575:名無しの観測者 ID:l57BZqr2v

 え、こいつ見たこと無いんだけど

 ライダーなんか? 

 

 エロゲ有識ニキ! 

 

 

581:名無しの観測者 ID:hySPLdEad

 >>575

 無茶言うな。大蛇丸が変身したなんて話聞いたことがないわ

 

 でも持ってる武器自在鎌だわ……何こいつ

 

 

585:名無しの観測者 ID:iuaM7LCen

 こいつ……まさか

 

 

 

 

 

 ◆◆◆◆◆◆◆

 

 

「フフフ……性懲りもなく裁かれに来たか、上弦衆よ」

 

 流石に先制攻撃は出来てもいいようにはさせてもらえなかった。太刀による反撃が飛んできた瞬間、ハルカは咄嗟に後方へと飛び除けた。

 先ほど放ったハルカの攻撃はやや浅く、業岡一全の傷はじわりとノロイの瘴気で消えていく。この城の瘴気はこの市内の比ではないほどに満ちている。

 その事実をこの身をもって知る業岡一全の顔はほくそ笑んでいた。

 

「たかだか得物一つで倒せるとは思わないことだな! ふははははははははッ!」

 

『ハルカさん……危なくなったらすぐに撤退するんだ』

 

 脳に直接タカマルの声が響き渡る。タカマルも以前の敗北の記憶がやはり強く残っていた。

 タカマルの想いはハルカの胸の奥で染み渡る。だがしかし、この戦いに参戦してくれた彼に応えるためには、そして前の戦いで頭領たるタカマルに見せてしまった失態を雪ぎたい。

 そんな思いがハルカにはあった。

 

「はい、ですが──彼を先に行かせた以上わたしもあまり時間はかけられません。ここで逃げるのならば彼を見捨てるのと同義でもありますから」

 

 不退転の覚悟。

 ハルカにとって「見捨てる」ことはかつての過ちを繰り返すことと同義であった。

 

「ゆけぇい!」

 

 業岡一全が手元から数枚の紙を取り出しハルカ目掛けて投げつける。

 数枚の罪状と書かれた紙だ。……アキラによると一種の式神のようなものなのだという。故にハルカを追尾し、切り裂こうとする。

 

 ハルカは再び業岡一全に向かって走り出す。当然その間には式神がハルカ目掛けて飛んでくる。故に──

 得物のクナイ、滴で無造作に切り捨て全ての式神をいなした所で床を勢いよく蹴って飛び上がった。

 

「はぁぁぁぁッ!」

 

 握った得物に稲妻を迸らせる。

 

「甘いわァ!」

 

 しかしその動きを呼んでいた業岡一全は太刀を一振り。剣圧でハルカの体を紙切れのように吹き飛ばす。やはり閃忍としての力が増したとしても彼のパワーは脅威と言っても過言ではない。

 そんなこと──ハルカは重々承知の上であった。

 

「まだッ──!」

 

 持っていた滴を投げつけながら敢えて、()()()()

 飛ばされる先はこの城を支える柱だ。空中で冷静に体勢を立て直しながら、通常の手裏剣やクナイを投げけん制しながら柱の側面に()()、脚にありったけの力を込めた。

 

 どこからともなく声がする。

 

 ──想像(イメージ)しろ、稲妻よりも速く駆け抜ける飛蝗のような跳躍力を。

 

 声に従い、柱を蹴り、風よりも早く稲妻よりも速く業岡一全に一直線に向かう。

 反撃を許すまいと手裏剣を投げつけながら残った2本の滴を引き抜き、力を込めて投げつける。

 

 最初の滴2本と手裏剣こそは弾かれはしたが、最後の2本の滴は業岡一全の肩と胸に直撃、黒い瘴気が血の代わりに噴き出す。

 

「ぐぬぅっ!? だがこの程度の傷、放っておけば治るッ!」

 

 しかし当然決定打になるわけがない。

 この怪忍はノロイの瘴気そのもののような存在だ。あくまでけん制であり反撃を封じるための一手。

 

 ──想像(イメージ)しろ、戦車よりも重く確実に全てを破壊する蹴りを。

 

 声に従い、空中で姿勢を変えて右足を突き出し飛び蹴りの形へと変えていく。

 長く細い彼女の足には稲妻が迸り、彼女を弾丸そのものへと変える。触れるもの全てを穿ち砕く。

 

 ──()()()()()()()()()()()()()()()

 

「ッ──はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!」

 

 ハルカのこの一室の暗闇を切り裂かんばかりの叫びとともに放たれる必殺の蹴りは業岡一全の胸部に深々を突き刺さった。

 

「ごふぅッ!? なん──だとッ!」

 

 メリメリと人体を破壊する音と共に業岡一全の体がくの字に折れていく。そしてそのまま彼の体はハルカごと壁に向かって押し出され始める。

 このままやられまいと業岡一全は必死に踏ん張ろうとするものの彼の地に着いた足が地面をギャリギャリと音を立ててひっかき傷を残していく。

 

「はぁぁぁぁぁぁぁあああああああああああああああったぁッ!」

 

 抵抗むなしくズドン、と音を立てて壁に叩きつけられた業岡一全にハルカは脚に込められたエネルギーをまるで杭打ちのように打ち込んでから、左足で蹴り剥がす。

 そして着地したハルカだったが、業岡一全は未だに事切れてはいなかった。それどころか悪鬼羅刹のような鬼気迫る表情で吠える。

 

「まだだぁぁぁぁぁぁぁぁぁああああッ! まだ終わってなどいなああああああいッ!」

 

 目から鼻から、穴という穴から黒い瘴気が噴き出てくる。だがもう限界が近いのは明白だった。しかしながら彼の何が駆り立てるのか。

 狂気交じりの執念にハルカは2歩ほど後ずさる。

 

『ハルカさん、トドメを!』

 

 タカマルの声で我に返ったハルカは即座に落ちていた滴を回収し、力を装填してから天井目掛けて投げつける。すると滴を中心に丸い陣が描かれそこからまるで雨のように山吹色のエネルギー体が降り注いだ。

 

「穿ッ! 四門五月雨ッ!」

 

 無数のエネルギー体に貫かれ、肌を焼かれ、業岡一全の体が徐々に削れ消し飛んでいく。

 

「まさかッ──負けるのか!? このノロイの力を受けて俺様は、この小娘にッ」

 

 最早回復すらもままならない状態となった業岡一全が呪詛の声を上げるしかし今のハルカは以前のハルカではない。タカマルの支えが、深紫の忍びの助けが、上弦衆の皆の支えがあってあの時よりも力を手に入れた。

 これからもずっと強くなっていく。ノロイ党の数百年に及ぶ呪詛を終わらせるために。

 

 閃忍ハルカは、ここにいる。

 

「業岡一全、大人しく黄泉に還りなさい……!」

 

「ノロイ党に……栄光……あれぇぇぇぇぇぇぇッ!」

 

 業岡一全の声がしなくなったのは光の雨が止んだ時であった。

 既に原型も留めず消し飛び、業岡一全のいた場所には黒焦げの跡が残るだけであった。

 

『ハルカさん……行こう、あの深紫の忍びが待ってる』

 

 あれからどれだけ強くなれたのだろうか。スバルの想いに報いることは出来ただろうか、そんな感慨に耽る暇もなく、タカマルに促される。

 そうだ。彼の動きはそこそこ早かった。このまま呆けていては大蛇丸と交戦してしまっているかもしれない。

 

「……はいっ」

 

 ハルカは気を取り直して最上階へと向かって再び走り出した。彼に追いつくために。

 

 

 ◆◆◆◆◆◆◆

 

 そのころシノビは。

 ハルカに業岡一全を任せてからというもの、ゲニンを片手間に吹き飛ばしシノビブレードで一刀両断しつつ、床にわざと傷跡を作っていく。

 極力ゲニンを減らせば彼女の負担も減るだろう。あとトラップも破壊していく。

 シノビの装甲だからこそ出来ることだ。

 

 慣れてしまえばあとは作業と言ってもいい。

 階段をのぼりながら仮面の下で真太郎は心臓の鳴りが激しくなるのを感じた。最上階はもう近いのだろう。

 

 階段を1段登れば上るほどそのプレッシャーめいたものが強くなっていく。

 登り切った先に広がる風景はこれまでの殺風景な空間と不思議のダンジョンめいた空間とは程遠いものであった。

 左右には火がくべられており、真っ直ぐに伸びる通路の奥には高座が設けられており、そこにはぽつんと一人の男が座っていた。

 

 

 着物を独自にカスタマイズしたのであろうその衣装は、胸元が開いており入れ墨のようなものが垣間見える。

 むき出しの肩は筋骨隆々で、整えられていない長い金髪は左右は肩までバラバラに伸びており、一番長い真後ろの髪は腰まで伸びていた。

 

 そして目は釣り目で右目が眼帯で隠れている。潰されたのだろうか。

 それとも何かすごい目でも隠しているのか。どこぞの先生のように。そして左目は寝ているのか閉じられていた。

 

 ──あれが、報告にあった大蛇丸。

 

 彼もまた戦国時代からやってきた男であり真っ当に年を取っていれば400歳は優に超えているだろう。

 ちょっとした大物を前にしている気分になりながらもシノビが高座の手前まで行くと、大蛇丸は閉じていた瞳をカッと開いた。

 

「待っていたぜ……深紫の忍び。よもや道中でくたばるかと思っていたが──逢えて嬉しいぜ」

 

 まるで野獣のようだ、とその時のシノビは感じた。

 その獲物を前にした獰猛な笑みと共に立ち上がり、シノビとの距離をゆっくりと詰めていく。

 その物言いから思うに戦闘狂のようで、仮面ライダー龍騎に登場する浅倉威を思い出させる。

 

 スレ民がツンデレだとかツンデレラだとかヒロインとか騒いでいたが、ヤツはそんな生易しいものじゃない。

 野獣だ。

 

「ようやく噂に聞くテメエと死合えるってんだからな」

 

「そうか──残念だが上弦衆もほどなくすれば来ることだろう。まともな死合にはならんぞ……!」

 

 こういう時は舐められたら終わりだ。シノビもまたその眼光を鋭くさせながらシノビブレードを構え、刀身に斬るべき敵──大蛇丸の姿を映す。

 

「上等! 2対1なんざ、丁度いい()()()ってヤツだ。それにあの上弦衆と決着をつけられるってんなら一石二鳥だ。さぁて……心行くまで殺しあおうぜっ!!」

 

 おもむろにハンドサイズの『D』の形をした鎌を取り出す。Dの曲線部分が刃となっており直線部分が持ち手になっているようだ。

 その鎌からは、青白い炎のような鎖が伸びており、先には3方手裏剣が付いていた。アレがいわゆる自在鎌という鎖鎌か。

 

 この手のものの先端は錘なのだが、手裏剣なあたり

 

 ──見るからにパワータイプ。なればこっちはスピードで攻めるか……! 

 

「──ふんッ!」

 

 先に仕掛けたのはシノビであった。

 床を蹴り、空気を裂き、全てを置き去りにしてしまうほどのスピードで大蛇丸の眼前まで迫り、シノビブレードを振りかざす。

 外面は生身の人間だが、業岡一全の前例もあり手加減は一切できなかった。

 

(あめ)ェッ!!」

 

 が──振りかざした先にて大蛇丸は獰猛な貌でその鎌でシノビの斬撃を弾く。そして横に一閃を放つとシノビの装甲に火花が散った。

 

「ちぃっ!」

 

 返す刀で、空いた腕で大蛇丸の顔面に拳を叩き込むともろに入り彼の顔が大きく歪む。しかし、苦悶の表情とは裏腹に声は最早戦闘を愉しむ狂人そのものの声色であった。

 

「ぐぉっ──ッ!! へっ──楽しくなってきたぜェッ!!」

 

 今のシノビの戦闘スタイルは喧嘩殺法の延長でしかないが、大蛇丸もまた喧嘩殺法の延長によるものであった。茸群道人との相性は激烈に悪かったが今回は条件はほぼ同じの殴り合いであった。

 シノビを蹴り飛ばし、大蛇丸は3方手裏剣を投げつける。

 それをシノビが飛び除けると、大蛇丸は手に持った鎌を引っ張った。

 

「む……ッ!」

 

 それは、刹那の見切りであった。

 背後から来る何かを感じ取ったシノビは側転し、横に飛んだ。すると次の瞬間先ほど避けたはずの手裏剣がシノビのすぐ横を後ろから通り過ぎていった。

 

 「──やっぱり!」

 

「ほう……初見でこいつを避けるとはな。だがコイツは避けられるかァ! 紫野郎ッ!」

 

 鎌をまるで糸人形で操るかのように振るう。するとまるで別の生き物のように手裏剣が所せましと城内を飛び回り、シノビの視界から消えた所で死角から手裏剣が迫る。

 

「何ッ!」

 

 シノビブレードで受け止めたのは良かったが回転する手裏剣がシノビに強烈な衝撃を与え、ガリガリガリガリと火花を立てながらシノビブレードの刀身を削っていく。

 ついに押し負けたシノビは得物を弾き飛ばされ、手裏剣がシノビの装甲に直撃した。

 

「ぐわああああああああああああああああああッ!!」

 

 シノビの悲痛な断末魔が木霊する。

 このまま行けば装甲を貫通し、真太郎の身をまるでハンバーグのように切り裂かれることだろう。

 

「へっ、この程度か……がっかりさせてんじゃねえぞ紫野郎!」

 

 ついに限界が来た装甲はシノビの体を真っ二つにし、そのまま手裏剣は大蛇丸の手元へと還る。

 決着がついたこと、そしてあっけない幕引きに拍子抜けした所でふと大蛇丸の眉が動いた。

 

「……ん?」

 

 大蛇丸が目を凝らす。真っ二つになったはずのシノビの亡骸を──否、これは

 

「藁人形、だとッ!?」

 

 驚愕に染まる大蛇丸に対して横からシノビが凄まじい勢いで壁を走りながら迫る。シノビブレードを投げ捨て、その身一つで殴り掛かる彼に安心したのか大蛇丸は再び獰猛な笑みを取り戻した。

 

「小賢しい真似をしやがるッ! だがステゴロか、嫌いじゃねえッ!」

 

 シノビは壁を蹴りその勢いのまま飛び回し蹴りを放ち、手裏剣で受け止め、床に着地した所で間髪入れずに拳を腹に叩き込む。

 

「ぐはっ……」

 

 大蛇丸の体勢が苦悶の表情とともに崩れていく。

 その一瞬の怯みがシノビに付け入る隙を与えた。

 肘打ち、裏拳、掴んでからの頭突き、膝蹴り。

 先ほどの忍法はなんだったのかと言わんばかりの喧嘩殺法で一頻り殴られた大蛇丸の体は大きく吹っ飛び、高座の近くまで転がった。

 

「チッ……本気を出しちゃいないとはいえここまでやりやがるか。聞いたよりやるじゃねえか」

 

 ここまで食い下がれたのはある意味虚無僧のおかげでもあるし、度重なるゲニン狩りもあった。

 数日前、変身していたのに虚無僧に錫杖でボコられたり、ジープで追い回されたり、高所から岩を落とされまくったことを思い出しながらシノビは構えを取る。

 しかしながら大蛇丸には決定打にはなっていないのか、ゆらりと立ち上がりながら、唇の端から出ている血を手で拭いながら高座の陰に手を伸ばした。

 

「テメエのその力、人を超常たる存在に変える力なんだってな? 閃忍ともまた違う」

 

 その突然の切り出しに、仮面の下の真太郎は眼を丸くした。突然何を言い出しているのか分からず、耳を傾けている最中信じられないものを目にした。

 

「……変身瓢箪、だと」

 

 大蛇丸の手には、真太郎が所有しているシノビヒョウタンと瓜二つの、銅色の瓢箪が収められていた。

 アレがこの世界に本来存在しないことはシノビが一番よくわかっている。故になぜこの世界の住人があんなものを持っているのかいまいち理解が出来なかった。

 

 ──なぜアイツがシノビのアイテムのようなものを持っているんだ

 

 そんな疑問をあざ笑うかのように大蛇丸は瓢箪を見せつけながら口を開く。

 

「こいつを使って化身するんだろ? こいつは化身忍者とやらの一種とも聞くが……まぁそんなことはどうだっていい」

 

 化身忍者。その単語は昔の特撮についてあまり明るくない真太郎でも知る単語であった。あの茸群道人との交戦時は聞き違いかと思って流していたが今回ははっきりと聞こえた。

 大蛇丸がその瓢箪から栓を引き抜き、口を下に向けた途端だった。青白い炎が漏れ出て大蛇丸の腰に巻き付くように飛んでいく。

 

 その炎がベルトと化した次の瞬間、瓢箪が消え2つの交錯する鎖鎌を思わせるキー、メンキョカイデンプレートが大蛇丸の手元に現れた。

 メンキョカイデンプレートを前方に向けて突き出し、空いた手をそのプレートを持った手の上に添えてまるで蛇の牙を思わせるように2本の指を曲げる。そして両手を流れるように胸の前で交差させ、男は吠えた。

 

「化身ッ!!!」

 

 シノビは己が目を疑った。

 プレートをベルトに装填すると背後から巨大な機械仕掛けの蛇が現れる。機械仕掛けの蛇は何もかもを飲み込むほどの大きな口を開けており、大蛇丸がベルトの鎌を回転させると蛇が無数のパーツを吐き出した。

 

【噛み付き、ヤミ付き、喰らい付き! オローチ・見参!】

 

 大蛇丸の全身にパーツたちが取り付き鎧の形を成す。

 まるでそれはシノビのように。故に困惑する。その力は一体なんなんだ、と。

 間もなくして大蛇丸の姿は消え失せていた。

 代わりにいるのは、深緑の鎧。そしてシノビ同様黄色いゴーグルアイを持ち、まるで牙のような刃が口元から左右に伸びている。

 大蛇丸はそれが自らの体であることを確かめるかのように首をコキッコキッと鳴らしながら、腕を回す。

 

「へっ……少しばかり窮屈だが、悪くはねえな。試運転がてら、踏み台になって貰うか」

 

 そんな馬鹿な、と言葉を失った真太郎がスレッドにアクセスしたものの反応は芳しくない。

 こんなライダーなど真太郎は知らない。シノビのサブライターなのか、それとも令和の仮面ライダーなるものなのか。投げつけられた手裏剣を前にただ、シノビは応戦するしか他なかった。

 

「さぁ死合おうぜ、深紫の忍びィィィィィィ!」




 実は業岡さん強化されていたでござるの巻。なお意味はなかった模様


 次回『決戦、ライダーvsライダー』
「こいつとは俺の手で決着をつけなくっちゃあいけない。……そんな気がするんだ」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

・ハルカさんの必殺技(名称なし)
 ライダーキックのような謎技。原作ではそんな技は存在しない。
 恐らくシノビの蹴りに触発されたと思われる。
 なおタカマルはこの技を後々ライトニングソニックと名付けようとしたが、馴染みのない横文字のためハルカに難色を示された挙句、真太郎に至っては「先人がいるので駄目」と意味不明な却下を行った。


・大蛇丸変身体
分類:不明
出典:不明
 大蛇丸が持っていた銅色の瓢箪で変身した仮面ライダーのようなナニカ。
 緑色の装甲を纏い、重装甲のように思えるがその実大蛇丸の能力もあり外見に反して俊敏。
 武器は鎖鎌のオロチガマと、大蛇丸が自前で持ち込んだ自在鎌。
 仮面ライダーシノビに登場した緑色のライダーとの関連は不明。


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決戦、ライダーvsライダー

600:一般エロゲ竿役忍者 ID:20sNB2kmn2 

 やばい、こいつ強い。

【大蛇丸変身体が自在鎌をぶん回している画像】

 

 

603:名無しの観測者 ID:+rM2SZPrT

 こいつ見たことあるわ。シノビのラストに出てきた緑のやつそっくりだわ

【シノビのラストに登場した緑のライダーの画像。細部が違うようだ】

 

 

608:名無しの観測者 ID:XzWAGNaKe

 似てるけど……似てるけどなんか違う気がするわ

 

 

611:名無しの観測者 ID:cQhs5PbEm

 同一存在かは分からんし、元々あのシノビに出てきた緑のライダーの名前はわからんから一旦便宜上仮面ライダーオロチ(仮称)としようか

 

 

613:名無しの観測者 ID:Ma3e+XFbe

 イッチの世界だとシノビは正史なんやろ? なんか知らんのか

 

 

615:一般エロゲ竿役忍者 ID:20sNB2kmn2 

 >>613

 無理無理無理のカタツムリ

 まだメインキャスト発表しかされてねえし、2号ライダーすら知らねえのに無茶言うな

 そもそも皆の歴史では2019年にもう映像化されてたなんて最近知ったんだぞ

 

 

622:名無しの観測者 ID:FfK0dkdsm

 同じライダーだってんなら勝てるやろ

 知識は曲がりなりにもイッチの方が上やろ

 

 

627:名無しの観測者 ID:+49VnXeW6

 待て。

(ノロイ+ライダー)−(TDN人間+ライダー)で比較したら差し引きライダー成分が消えて、ノロイと人間がやり合ってることになるから……

 

 

631:名無しの観測者 ID:saTWwrzS+

 あっ……(察し)

 

 

632:名無しの観測者 ID:8c2Svq8gV

 彼はもう終わりですね……

 

 

635:名無しの観測者 ID:tbxyCUq3D

 ハルカさんに助けて貰え

 

 

637:名無しの観測者 ID:ymVPf4gSW

 ハルカの物語にあんなものは存在しない

 となればライダーのことはライダーが始末をつけるのが筋だろ

 

 それが出来なきゃさっさと死ね竿役。お前に生きる価値ない

 

 

642:名無しの観測者 ID:27A3wq1U6

 鬼畜すぎて草

 

 

649:名無しの観測者 ID:lvLuKY0jI

 異物が無駄に状況を荒らして結果的に現地民がカタをつける。そんな情けない話があるか

 ライダーのことは、ライダーでカタをつけないとな

 

 

652:名無しの観測者 ID:khMLcdV17

 アカンこのままじゃイッチが死ぬゥ! 

 

 

653:名無しの観測者 ID:cCSgdDHS3

【悲報】イッチ、死亡! 

 

 

657:名無しの観測者 ID:bV/vurf6w

 ノロイの力が邪魔ならばその力を排除してしまえばええんやで(ニッコリ)

 そいつ、印籠持っとるか? 

 

 

664:一般エロゲ竿役忍者 ID:20sNB2kmn2 

 >>657

 印籠? 水戸黄門のアレ? 

 腰にぶら下がってるやつか

【仮面ライダーオロチ(仮称)の腰に黒い印籠がぶら下がっている画像。ノロイ党の紋章が刻まれている】

 

 

669:名無しの観測者 ID:uWud3BLtM

 あ、コミカライズか……! 

 そういやハルカさんそれ狙って勝ってたわ! 

 

 

676:名無しの観測者 ID:GMZO0yBSs

 印籠を狙え。

 奴から印籠を取り上げてしまえば奴は弱体化して戦いどころではなくなる

 

 

677:一般エロゲ竿役忍者 ID:20sNB2kmn2 

 >>676

 ……オーライ! 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 大蛇丸が変身した時の衝撃もさることながら、パワーも段違いであった。

 先ほどと同じように助走をつけて、勢いよく蹴りつけようが殴りつけようが、大蛇丸にはまるで通用しない。ヤケクソに放った拳は片手で受け止められ捻り上げられた挙句、自在鎌で切り付けられシノビの装甲から派手に火花が上がった。

 仮面ライダー同士の力が同じくらいならば残るものは人間としての力とノロイとしての力だけ。

 

 その事実を突きつけられたその時、じわじわと絶望が真太郎の心を蝕み始めていた。

 

 素人が介入すべきじゃなかった、と。真太郎の内側が叫ぶ。

 だとしても、と。真太郎の異なる内側も叫ぶ。

 

 うるさい、うるさい、うるさい。

 真太郎は二つの絶望も希望も跳ね退け、ただなすべき事を思う。

 あの仮面ライダーオロチ。

 厄介なのが(おそらく)仮面ライダーの力と、ノロイの力が両立していることだ。

 

 

 本来ノロイの力を強く受けた者は、上弦衆が数百年の時を経てこの閂市内に張り巡らせた結界に対して反応して強烈な苦痛を与える。

 アギトの力を持つ存在がデバフを食らって身体能力は電王初期の良太郎にまで落ちると言うわけだ。

 だというのにあの腰に下げている印籠がどうもそれをキャンセルしているらしい。なんというインチキアイテム。

 ノロイの力と仮面ライダーが合わさればそれは強大な悪意となる。

 

 悪意からの力と悪意からの力。合わさって弱いはずがない。

 

「……くっ」

 

 ふざけやがって。

 今更ながらこのようなふざけた状況に対して腹が立ってきた。

 

 悪の仮面ライダーなるものはこの長い仮面ライダーの歴史においてそれなりに存在する。これが本来仮面ライダーの物語であるならば大蛇丸が変身したとしてもおかしくはない。だが待って欲しい。

 

 この世界は仮面ライダーの物語ではない。仮面ライダーはこの世界にとって侵食する異物なのだ。

 シンケンジャーの世界でチノマナコがディエンドに変身した時のように。

 存在してはいけないのだ、本来この世界に仮面ライダーは。

 

 大蛇丸も変身する存在じゃない。

 そして斉藤真太郎自身に至っては『外側』の存在なのだ。

 

 ──誰だ、仮面ライダーをこの世界にぶち込んだ奴は

 

 この世界に蠢く何かの存在が脳裏を過ぎる。

 悪意からか。

 それとも善意からか。

 それとも──

 

「大丈夫ですか! 忍びさん!」

 

「……閃忍か」

 

 ふと我に返るとハルカがシノビの横に立っていた。思ったより早く業岡一全を始末したらしい。

 

「へっ、やっと来たかよ上弦衆。テメェらとも決着を付けようと思っていたんだ。良いんだぜ? 2人がかりでもなァ!」

 

 だがシノビを圧倒したことにより自信を付けたのか、自在鎌を振り回しながら余裕綽々だ。

 

「もう大丈夫です。後は私が……!」

 

 装甲に多くの傷を作ったシノビの状況を察したハルカならそう言うと思った。だがしかし。

 こちらにも譲れない一線があった。この世界に仮面ライダーをばら撒いた者が居るのだとしたらそいつをつきとめる必要がある。

 それは元の世界の人間のやることではない。

 

 目には目を。

 歯には歯を。

 仮面ライダーには仮面ライダーを。

 そして、紛い物(フェイク)には紛い物(フェイク)

 

 大蛇丸と交戦しようとするハルカを手で制し、シノビブレードを構え直す。

 尚も譲らないシノビに思うことがあったのかハルカが声を上げようとする。それよりも先にシノビが──真太郎が先回りした。

 

「今回ばかりは譲れない。こいつとは俺の手で決着をつけなくっちゃあいけない、そんな気がするんだ。……仮面ライダーのことは仮面ライダーがケリをつける」

 

「かめん……らいだあ?」

 

 ──しまった。

 

 シノビは慌てて口を噤む。

 この世界における仮面ライダー。

 それはほぼ存在しない。歴史の影に消えた存在の名前だ。

 吐いた唾は飲めない。

 どっちにしても大蛇丸が変身した以上遅かれ早かれな部分もあるが。

 それはさておいて、再び立ち上がるシノビに大蛇丸が仮面の下で獰猛な笑みを浮かべたような気がした。

 

 再び一触即発の空気になる中で、シノビは立ち回りを思考する。

 取り敢えずまずあの印籠を取り上げるしかない。その為にはフェイントを駆使する必要がある。

 

 ハルカの力を借りるか? 

 

 駄目だ。今回ばかりは『なし』だ。

 ハルカを一瞥せずにシノビは一歩前に出る。……が。

 

「ヌンジャ! ヌンジャ! ヌンジャ!」

 

 そんな空気に水を差すように黒ずくめ……ゲニンたちが下層からぞろぞろだかだかとこの天守に階段から登り瞬く間にシノビとハルカを取り囲み始める。

 ゲニン、1体みかけたら30体いると思えとはこのことか。

 あれだけ倒したのにまだ残りがいることにシノビは酷く辟易した。

 

「ゲニンども! 邪魔だ引っ込んでろ!」

 

「ヌーンジャ!」

 

 大蛇丸の怒声に対しどこ吹く風。

 ゲニンたちがハルカとシノビに飛びかかる。あのゲニンはどうも大蛇丸の指示で動いてはいないらしい。

 

 片手間にカウンター気味にキリステ忍法で真っ二つにしながらシノビは再び一直線に大蛇丸に向かって走り出した。

 ハルカはゲニンを対処しないといけない状況下、介入は出来ない。だがあの軍勢程度ハルカなら簡単に処理できる筈だ。

 

「来やがれ!」

 

「……!」

 

 大蛇丸が自在鎌を振るい、先端の手裏剣のような刃がシノビに迫る。それをパルクールの要領で軽く跳躍することで避け、着地すると再び走り出す。

 シノビブレードの間合いに入ったところで、大蛇丸の首目掛けて一閃。

 しかし当然大蛇丸は自在鎌の持ち手で防ぎ切り、シノビを殴り飛ばす。

 

「まだだっ!」

 

 殴り飛ばされたシノビは脳が揺れ、意識が剥がされるような感覚に襲われながらも『飛び掛かった目的』を忘れないように朦朧とした意識にしがみつく。

 必死に両足でブレーキをし、ガリガリと床を削るように滑りながら印を結ぶ。

 滑り終わった途端、シノビの体が増えた。

 

 いわゆる分身の術だ。

 増殖したシノビの身体は本物を隠すように取り囲みシャッフルする様に動き回り再び四方八方から大蛇丸に飛びかかる。

 

「ハッ! いくら増えようが分身ごと薙ぎ払うまでよっ!」

 

 そうだ。これで真正面から飛び掛かっても勝てないから不意打ちで首を狙う。ならば全員吹っ飛ばす。パワーならこんなヒョロい紫野郎に負けやしない。

 ──と奴は考えている筈だ。

 戦って見えたものがいくつかある。

 奴は(脳味噌)を使うより(ヘッドバット)を使うタイプだ。

 故に欺きやすい。

 

 

 外法印をシノビが知っていることをおそらく大蛇丸は知らない。何せそんなことを知ったのは一種の外法のようなものだ。

 スレッド民なる珍妙不可思議かつ正体不明の存在。おあつらえ向きに用意された環境たちによる入れ知恵。

 

 とはいえ大蛇丸も学習しない愚か者ではない。

 一度し損じればもうチャンスはない。

 フェイント狙いで真正面から飛び掛かる者や、ぐるぐる回って混乱させるもの。いずれも脅かし目的だ。

 いずれも実体は持たずこれらが攻撃しても無意味。逆に攻撃されれば簡単に霞となって消え失せる程に脆いものだ。

 

「えぇい! まどろっこしいんだよッ!」

 

 苛立った大蛇丸は次々と分身体を消しとばしていく。

 

 ──あったまってきたな! 

 

 時々対戦相手から灰皿を投げられるらしい(投げられたことはないが)格ゲーをやっていたのでわかる。

 コケにされた時、イライラした所で戦況度外視で格闘戦に持ち込みたくなる気持ちが。

 

「トドメだぁぁぁぁぁ!!」

 

 シノビが吠えながらブレード片手に心臓めがけて飛び掛かる。それを大蛇丸が自在鎌で両断するも、それもまた霞となって消えた。

 そして──

 

「もらったァ!」

「何ッ!?」

 

 その隙に気配を消して背後に回っていたシノビが無造作に大蛇丸目掛けて手を伸ばす。

 

「てめぇっ──」

 

 大蛇丸は咄嗟にシノビを持ち手で薙ぎ払うとモロに入ったシノビは紙切れのように派手に吹き飛んだ。

 床の上を転がり、壁際にその身を叩きつけられる。

 

「忍びさんッ!」

 

 ハルカの叫びが天守にこだまする。

 しかしハルカは現在進行形でゲニンに行く手を阻まれており横槍を入れる余地はなかった。

 無理して介入しようなら大蛇丸+ゲニン軍団という地獄の戦局を生み出してしまうのだ。

 となれば介入する前にゲニン軍団を片付けてしまった方が正しいのだ。

 

「全く、油断も隙もねぇな……」

 

 倒れたシノビに歩きながら大蛇丸は呆れ混じりに呟く。確かにあれだけフェイントをかまされて呆れないはずがない。しかも全て失敗しているときた。

 もはや勝敗は決したも同然だろう。

 

 

 

 

 大蛇丸の敗北という形で。

 

 

「ぐぅっ!? なんだ……とッ!?」

 

 突如として大蛇丸の身体が頽れた。

 ライダーの装甲がガチャリと音を立てて、膝をつくその様は単にダメージを受けたからではなかった。

 

「体が……言う事を聞かねえッ!」

 

 その身の内側から何かが蝕まれている。

 原因は言わずもがな封印によるものだ。だが──その時、大蛇丸はきっとギョッとしたに違いない。

 腰を見ると引きちぎられた紐がぶらりと垂れ落ちているのだから。

 

 

 転がっていたシノビがゆらりと立ち上がり、仮面の下で真太郎はほくそ笑む。そして固められた拳をおもむろに、そして見せつけるように開いた。

 

「……ヘッ」

 

「外法印を……ッ!」

 

 黒々とした印籠がシノビの掌にあった。

 返せと言わんばかりに大蛇丸が奪われた外法印に手を伸ばす。

 

「返しやがれッ!」

 

「返さんッ!」

 

 ふらふらとした足取りでシノビに向かって飛び掛かる大蛇丸にカウンター気味に掌底を叩き込む。やはり大蛇丸の変身体の装甲は尋常ではない。

 掌底を放った掌から強烈な衝撃となって体に響く。このライダーは元々硬いのだ。例えるならガイとか、マスクドフォームのカブト勢のように。

 しかしダメージを与えるには十分だったらしく、大蛇丸の重装甲が3m程度宙を舞った。

 

 

 ハルカが討ち漏らしたゲニンをシノビは片手間に切り捨てつつ、ベルトのメンキョカイデンプレートの手裏剣を勢いよく回転させる。

 

「封印が無けりゃ、テメェなんぞに!」

 

 吠える大蛇丸のその表情からは鬼気迫るものを感じた。この男の何が突き動かしているのか。何がノロイに加担させたのか。

 そんなことは今はどうだっていい。

 大蛇丸をダウンさせるのが先決だ。

 

「だったら──ノロイとかいう外法抜きで出直して来やがれ! このッ!」

 

 シノビは数歩後退りし、助走をつけてから天井ギリギリまで飛び上がる。そして紫色のオーラを放つ右足を突き出し落下の勢いのまま大蛇丸の胸部装甲にその足を叩き込んだ。

 

「タコ助ェェェェェェッ!!」

 

 絶叫と共に放たれるその一撃は大蛇丸が咄嗟にガードの姿勢を取ると、両腕の装甲に刺さる。

 力と装甲が拮抗し合い火花を激しく散らす。

 そうそう簡単に破壊は仕切れないその頑強さにシノビは舌打ちしながら再び、メンキョカイデンプレートを回す。ただ押すだけで駄目ならば限界点ギリギリまで押し込むまでだ。

 シノビの紫色のオーラがさらに強まり、足が悲鳴をあげる。それに気付いた大蛇丸が血を吐き出すように叫ぶ。

 

「たかが蹴り如きでこの俺を貫けると思ってんのかァ!」

 

「あぁそうだ! たかがキック如きで負けるんだ! その辺のサラリーマンのキックに、お前はッ!」

 

 その全てを拒絶する装甲と、全てを貫く蹴り。

 勝敗は──決した。その腕がシノビのキックに耐えきれず小さい爆発を起こすと同時に大蛇丸の両腕が放り出され、ノーガードの姿勢となる。あとは刺さるだけだ。胸部の装甲に叩き込まれたそれはいとも容易く彼を押し出し、ガリガリと床を削り、その辺をうろついていたゲニンを跳ね飛ばし果てに壁際まで叩きつけていた。

 

「俺が……負ける……?」

 

 ダメージ過多で耐えきれなくなった大蛇丸の装甲が消え失せ、素顔が露わになる。

 額を切ったのか眼帯から血が滲み出ている。それがまるで血の涙のように思えた。無情にもシノビブレードの先端を突きつけたシノビを苦々しげに睨みつけながら大蛇丸は口を開いた。

 

「チッ……外法印が無けりゃどうしようもねえ。……俺の負けだ」

 

 先程のガードは火事場の馬鹿力か、ノロイとしてではなくただの人間としての力か。

 瞬発的に出た力に持続性などあるはずもなく、赤子同然にまで弱った大蛇丸には既に抵抗する力は失われていた。

 

「ゲニンが……忍びさん!」

 

 ゲニンたちもすでに城の主が敗北したことに気付き大蛇丸を見限って足速に逃げ去っていく。闘う相手がいなくなった所ですぐさまシノビを呼ぶがすでに何もかもが終わった後だった。

 その時──世界が揺らいだ気がした。

 

「……ん?」

 

 気のせいか。と城の周りから大蛇丸の方を一瞥するがまた再び世界が揺らいだ。

 まるで角砂糖が水に溶けるように城が消えていく。

 

「四道城が形を喪うのさ。城主の俺の心が負けを認めちまったからな」

 

「……ってことはこのまま消えたら数十メートル上から真っ逆さまじゃねえか!」

 

 それは流石にまずい。いくらなんでもシノビでもここからの階層から落ちればただでは済まない。そのことに気づいたシノビは大慌てで声を上げる。

 轟音を立てて崩壊していくしていく城にシノビは大蛇丸を抱えてハルカ共々抜け出した。

 

 

 禍々しいこの世とは思えない城だったものが、本来の閂市の街へと形を取り戻していく。

 気付けば最早平穏同然の街並みの中にシノビは大蛇丸を地面に転がし、ぜぇぜぇと息を上げた。

 

「インディジョーンズじゃねえんだぞ……おえっ、吐きそ……」

 

「大丈夫ですか?」

 

 無理な走り方と雑な呼吸をすると気持ち悪くなるが今がその時だった。その一方でハルカはけろっとした状態でシノビの背中をさする。……やはり鍛え方の問題か。そんな中で地面を転がされていた大蛇丸は這い上がるかのように立ち上がった。

 

「おい、何処へ行……おぇっ」

 

「体力ねえな……現代っ子かお前は。出直しだ。城は失ったが俺はまだまだ強くなる。コイツを使いこなしてな……強くなって今度会う時はお前らまとめて倒してやる」

 

 シノビの緊張感の無い声に大蛇丸は大きな主語で呆れながらも、自らの腰のドライバーに手を掛ける。

 このまま逃せば再び外法印を持って現れるだろう。その時は同じ戦法が通用しないのは明白だ。それに気付いた瞬間、シノビはサッと血の気が引くのを感じた。

 ハルカも同様で各々得物を握り直し逃げようとする大蛇丸に迫る。

 

「逃すと思ってんのか……生憎こっちにゃ武士の情けとかは無ェぞ」

 

「それにあなたには訊きたいことがあります」

 

「……訊きたいこと? ノロイのことか?」

 

 良くも悪くも正直なのか。大蛇丸は振り返ってハルカに問い返した。

 確かにノロイ党については不明点が多い。単なる世界征服が目当てとは正直思えなかったのだ。さらにその力の根源は一体。しかしハルカが一番訊きたかったことはそれではなかった。

 

「それもありますが、先日上弦衆の人達が行方不明になりました。清玄先生……四方堂清玄。その名は知っているはずです」

 

 そうだ。あのノロイが閂市を襲った時から端を発して上弦衆の人間たちが立て続けに行方不明になっている。清玄なる人物はナリカの父親だ。どうやらそれに聞き覚えがあるらしく、大蛇丸の眉がピクリと動いた。

 

「連中か……ジジイ共々生きてるぜ。理由は知らんが、殺されちゃいない」

 

 そんなことがあるか。と思いもしたが、確かに殺す事前提ならとっくの昔に死体が上がっているはずだ。となれば考えられる可能性としては茸群道人の時のように養分にされているか、それともいざという時の人質か。

 何はともあれまともな扱いはされていない気がして、握り締められたシノビブレードがカタカタと音を鳴らしていた。

 

「……スバルは、生きていますか」

 

 縋るように。搾り出すようなハルカの問い掛けに今度は大蛇丸の眉に皺が寄った。

 スバルは生死不明、十中八九死んでいるとアキラが言っていたはずだ。ハルカも承知の上であろう。だが──

 

「スバルだと? あのくノ一なら……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 チリン、と鈴の音が耳朶を打った。

 それはやたらこの街の猥雑さに掻き消されないほどに鮮明に聴こえる。

 

 

 

 ──今思えば気付くべきだった。

 

 ──それが、はじまりの合図であるということを。

 

「──ッがぁぁぁぁぁ!!」

 

 夜空を割かんばかりの悲鳴がこの街に木霊する。悲鳴は大蛇丸のものだ。シノビとハルカの眼前で苦悶の表情を浮かべて悲鳴を上げ始める状況に二人とも目を見開く。

 何が起こったのか。その答えは大蛇丸の背中が全てを物語っていた。

 前のめりにぐらりと倒れ伏して露わになった背中には3枚程の見慣れない手裏剣が刺さっている。背後からやられたらしい。

 

 敵か、味方か。

 どちらにせよ余計なことをしてくれたものだ。仮面の下で真太郎が歯軋りしていると、ハルカが口を開いた。

 

「この手裏剣……旧上弦衆のものです!」

 

「……ッ!」

 

 旧上弦衆の手裏剣。

 現在の上弦衆が使う手裏剣とは異なるそれを愛用する人間は数少ない。ハルカ、そして──

 

「久しぶりだな、ハルカ」

 

「……スバルッ!?」

 

 目のやり場に困るほどに四肢が剥き出しな布地の少ない赤い忍者装束を纏い、艶のある長い黒髪を後ろに一つに束ねた。現代で言うポニーテールの女。それは──ハルカのかつての戦友であり閃忍、スバルであった。

 しかし、その瞳は大凡味方とは思えないほどに蛇のような獲物を値踏みするかのような鋭い瞳に、シノビは身震いする。

 

 なんだ、この寒気は。なんだ、この威圧感は。

 

 恐怖心がそうさせたのか、不信感がそうさせたのか。

 気付けばいつでも斬りかかることが出来る様にシノビブレードを強く握りしめていた。




 かめんらいだあ? なんじゃそりゃ!


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ミナヅキの事件簿 02

 2000年あたりのポカリのCMで流れてたセンチメンタル・バスのSunny Day Sundayって先見の明があったんやなって……(んなわけ)

 今や33度でまだマシとなってしまう現代人怖い。




 はい、今回は外伝です。時系列は大蛇丸戦前です

 あらすじ:普通の女子高生(変人)のミナヅキは正義感溢れる委員長気質の女だったが、それが災いして逆恨みを受けかける。そんな時居合わせた謎の男に救われる。その謎の男が落とした名刺によると私立探偵らしく……

 前回


 あれから家に帰った所で一連の出来事は父親に話すことにした。

 そもそも遠慮してやるつもりもなければ、情けをかけてやるつもりもなかった。

 メモリーカードの中身を見せた瞬間、父は言葉を失っていた。動画を見ている父の体が固まって見えた。

 正義を重んじる父のことだ。閂市がここまで治安が悪くなっていることに思うことがあるのだろう。

 

 閂市の治安はお世辞にも良いとは言えない。

 ヤクザかぶれ*1の集団が肩で風を切り、交通事故率県内ワースト1と中々凄まじい街であることには間違いない。

 数年前の宇宙人襲来からかなり治安が落ちたとまことしやかに囁かれているがきっと本当だ。

 

 

 これから慌ただしくなりそうだ。

 そう、その時父にメモリーカードを渡したときミナヅキはそう思っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 だが、彼女を待っていたのは不気味なほどの静寂だった。

 この手の犯罪となればマスコミが嗅ぎつけると思ったがマスコミはノロイ党の悪事や、深紫の忍びと正義のヒロインに夢中でたかだか人間ごときの犯罪には見向きもしていないようだ。

 何せあっちの方が視聴率を稼げるのだから。

 今日もいつものように芸人上がりのコメンテーターが訳知り顔で彼らの正体を中身スカスカな考察をしているだけだ。

 

 彼らは何もしない。

 ただただ正義のヒロインとやらをやんややんやと囃し立て、自らのイデオロギーを満足させるための恰好の道具としてしか彼らを見ちゃいない。

 

 彼らは何もしない。

 正義のヒロインも深紫の忍びもノロイ党と戦うだけでヤクザ紛いの悪党には何もしない。

 

 ノロイ党なんぞより始末しなくてはならないものなんて腐るほどあるというのに。

 静寂は続く。

 

 メモリーカードを渡してからというもの、父はあの事件の事にはまるで一つも触れやしない。それが酷く──不気味であった。

 

 

 

 ◆◆◆◆◆

 

 

「ごめんくださーい」

 

 蝉の鳴き声が聞こえる。

 あの廃ビルに現れた謎の男が落とした名刺によると、閂市の駅から徒歩10分ほどの何やっているのかよく分からないような怪しいビルの立ち並ぶビル街にある細いビルがそうらしい。

 X県閂市橘3丁目4-3涼村ビル3F

 

 現世探偵事務所。

 

 菓子折りを片手にミナヅキは少し力ない動きでドアをたたき、声を上げる。──返事はない。

 これで何度目だろうか。……数えたことはないがきっと通算12回目。

 

 

 こっちの苛立ちなどお構いなしに聞こえるセミの鳴き声が腹立たしかった。

 この探偵事務所本当に営業しているのか。これまで何度か訪問してきたが反応はまるでない。5度目の訪問でほとほとに疲れ切っていたミナヅキは大きくため息を吐く。

 

 礼は必ずする。それがミナヅキの流儀であったが、流石に30度台の炎天下を毎度毎度あるく体力はない。

 揺らぎかけた流儀をビンタしながらダメ元でインターホンをもう一度押す。

 

「ごめんくださーい」

 

 もうどうせいないのだろう。

 ここまで来るとあきらめムードになりつつあったミナヅキは踵を返し、エレベーターに向かう。またあの炎天下を歩かされると思うと少しばかり思うことはあるが、実際問題恩人を無碍に出来るほど薄情ではない。次に期待しよう。

 と、虚しいだけの決意を新たにしたその時だった。

 

 ガチャリ──と、聴くことはないだろうと思っていた音が背後からした。

 

「えっ」

 

 ミナヅキの体が一瞬だけ硬直した。心のどこかでは完全にあきらめきっていた部分もあるだろう。それが覆されたとなると心が受け入れるのに少しばかり時間を要するというものだ。

 そういう展開を期待していたはずなのにおかしな話だ。

 

「あ? 一条学園の制服ってことは取り立て屋じゃあないな? 誰だ?」

 

 半開きのドアから気だるげな男の顔が覗かせる。ウェーブ掛かった黒髪。間違いない。あの幽霊マンションで暴漢をオクラ嫌いを公言しながら撃退したあの男。

 現世勇深──

 

「あのッ──先日助けていただきありがとうございました! これっ、つまらないものですが受け取っていただいて……」

 

「先日?」

 

 高まったテンションのままに押し付けるように菓子折りを渡すと、一応イサミは受け取る。少し考え込んでから──ドアを閉め始めた。

 

「ちょっ! 待ってください!」

 

 慌ててドアの間に足を挟み込み、ドアを掴む。しかしイサミは問答無用でドアを閉めにかかろうとしていた。

 ここで折れようならきっと二度とこのチャンスは消え失せてしまう。そう予感していたミナヅキは頑なにドアを引っ張りにかかる。

 

「ぐぅっ! 申し訳ございませんが当探偵事務所は未成年からの依頼並びに相談、来所は受け付けておりません。……ハタチになってから一昨日きやがれ。放せ、その足を放せッ」

 

 先日の超然とした立ち振る舞いから想像できないような他人行儀のような物言いをしながら、がすっ、がすっ、とミナヅキの足を蹴り追い出そうとしている。

 力の差は歴然。成人男性とどこにでもいるような女子高生。どちらが強いかは大体は想像はつくだろう。

 

 だがしかしこの男にはこころなしか『遠慮』がある。

 故に全力は出していないと見た。事実、力づくで勢いよくドアを閉めてしまえばミナヅキは足の痛みに耐えきれず引っ込めることだろう。だがしかしこの男はそうはせず、申し訳程度に足をげしげしと蹴り剥がそうとしている。

 しかもその蹴り自体には力は籠っていない。明確な拒絶は感じられるがそんなものを慮ってやるミナヅキではない。

 

「こんの……ぉっ」

 

「このクソガキ、数年待てねえのかぁぁぁぁぁぁッ」

 

「最後まで話聞きなさいよ……!」

 

「うるせえ……俺の時間に乳臭いガキンチョに割いてやるものなぞ……なあいッ」

 

 隙間があるならば入ればいい。

 幸いミナヅキは身が細かった。育ってきた胸が少しばかり邪魔だったがこの程度ならば簡単だ。

 潜るように入ろうとすると、イサミの表情が「げっ」と言わんばかりに凄まじく嫌そうな顔をする。その瞬間──ミナヅキは勝利を確信した。

 

 ──勝ったッ! 

 

 イサミの抵抗とドアを潜り抜け、玄関まで入った所で緊張の糸がぷつりと切れてしまった。

 その次の瞬間ふわり、とミナヅキは嫌な浮遊感で眉間にしわを寄せた。この浮遊感は──転ぶときに擁く絶望感のソレだ。

 

 ──やばっ

 

 慌てて手をつこうとしても腕は思うように動かない。このまま転べば間違いなくどこかを酷く打ち付けるか、擦りむくかだ。

 その時、ミナヅキは自らの行動に酷く後悔した。こんな押し問答をするんじゃなかった、と。

 

「きゃぁっ!?」

 

 すぐやってくるであろう痛みにこらえるように目を閉じる。

 まずやってきたのはどごん、と何か重いものが落ちるような鈍い音だった。痛みは──いつまで経ってもミナヅキの身に降りかかることはなかった。

 代わりに、温かい感触。

 

「なんて強引な……ガキンチョの癖に……」

 

 そして、悪態をつくイサミの声。

 目を開くと、心底面倒くさそうな男の顔がそこにはあった。前のめりに倒れるミナヅキをイサミがクッション代わりになった形だった。彼の胸板の上で倒れこむようになっていたミナヅキは慌てて離れると、イサミはゆっくりと頭を掻きながら立ち上がる。

 

 あれだけ派手な音がしたというのにも関わらず、イサミ自身は一切打撲の一つもしている様子はなく──

 

「その辺に転がってるガキンチョ如きが俺に手傷を負わせられると思うなよ。もういいから入れ、茶ァ出さねえけどな。ったく……」

 

 頭を打ってしまったのではないかというミナヅキの心配も一切跳ね除けてしまった。

 

 ◆◆◆◆◆

 

「あれから、父にはこの一件のことを伝えました」

 

「あぁそう」

 

「おそらくもう彼らももう逮捕されていることでしょう。閂市の治安を悪くしていた癌のような男たちでしたから」

 

「おん」

 

 応接用のソファに腰かけたミナヅキは助けて貰ってからのことを話している一方で、向かいのイサミは不機嫌そうにミナヅキが寄越した芋長の芋羊羹を頬張っていた。

 どうやら甘党らしく時々物凄い笑顔を見せるが、その顔を見られたことに気づくと急に不機嫌な顔に逆戻り。

 存外分かりやすい男だ。

 

 

 

「ま……逮捕なんてされる様子ねえけどな」

 

「何か言いましたか?」

 

「何も」

 

「お陰で閂市の治安は良くなったも同然です、本当にありがとうございました……!」

 

 ミナヅキは深々と頭を下げる。

 実際問題この男の動きようで閂市の治安はある程度保障されたも同然だ。実際問題、菓子折りを受け取ったまま締め出そうとした所だけは目を瞑るとしよう。

 

「あぁそう。……所で、だ。どうして治安に拘るんだ」

 

 先ほどまで生返事ばかりだったイサミから想像できないような質問にミナヅキは面食らって一瞬だけ言葉に詰まった。しかしながら当然のようにすらりと言葉が思い浮かんだのは厳格な父に育てられたが故か。

 

「それは……私は警察官であり厳格な父を持ちました。国に認められた暴力装置の一つであるが故に誰よりも厳しく己を律し規範となるように務めなければならない。電車が定刻通りに正しく到着するように、自らも正しく在り規範とならなくてはならない。それが私の父の口癖です」

 

「あっそ。お前、生きにくそうだな」

 

 なお返事は酷くどうでも良さそうな返事であった。まるで小馬鹿にしているかのようにすら思える。何故か扇子を取り出してバッと開くと面には「窮屈!」と書いていた。

 いつ用意したんだそんなピンポイントなもの。

 ──こいつは何だか好きになれなさそうだ

 少し額から青筋が立ちそうになるがミナヅキは必死にそんな自分を宥めた。怒るな、この男は恩人だ。

 この男がいなければあの関田団は大きな顔をしていただろうことを。忘れてはならない。

 

「その親父の名前、なんて言うんだ?」

 

 質問の意図が分からない。先ほどまでのどうでも良さそうな返事とは思えないような質問だった。本当に馬鹿にしているなら名前すら聞かないはずだ。

 なんなんだこいつは。

 

「涼暮征四郎ですが」

 

 やや投げやりに返す。すると一瞬。一瞬だけだがイサミの目が鋭くなったような──そんな気がした。

 

「そうか……」

 

「え?」

 

 含みのある反応が面白くなかった。心底面白くなかった。掴みどころのない態度がまったくもって面白くなかった。

 本心を明らかに隠しているような態度が酷く気に入らない。

 

 なんなんだこの男。

 あの悪意塗れで性欲しか脳みそにないあの男連中とはまた別ベクトルで気に食わない。

 あれだけ礼を言う為に足繫く通っていた自分が馬鹿みたいだ。大きくため息を吐く。その一方でイサミは勝手に自分で淹れたコーヒーを呷っていた。

 煽っているのかこの男は。

 

 イライラが募る中、別のナニカが水を差す。

 

 

 どんどんどんどんどん! 

 

 

「え?」

 

 玄関から不穏なノック音が木霊する。ミナヅキはその乱暴な叩き方から肩を跳ね上げさせた。明らかに依頼人のそれではない叩き方だ。

 だがしかしそんなミナヅキ以上に大の大人であるはずのイサミの方が深刻な表情をしていた。

 

「居るのは分かってますよ!」

「困るんですよ! ご返済の期限は1週間を超えてるんですよ!」

 

 ドア越しから聞こえる2人の男の声。

 取り立て屋。少し前にイサミが言っていたのはもしかしてこれのことか。イサミが何やら借金をしていることを理解したミナヅキは玄関からイサミの方に視線を戻すと、ソファには彼の姿はもうなくいつのまにか靴を履いて窓の方に足を差し出していた。

 まさかコイツ──ビルの配管やらなにやらを利用して逃げる気だ。

 

「なッ──」

 

「あとはテキトーに帰ってろ。もう二度と来るんじゃあねーぞ」

 

「いやいやいや、何をするつもりなのよ」

 

 分かり切った質問にイサミは外の配管に捕まったまま口を開いた。

 

「とんずらするに決まってんだろうが」

 

「はぁ!?」

 

 ここまで来ると最早清々しい。

 元々ミナヅキの家庭はその手の借金については無縁だった。家も車も一括。ローンなんて知るものかと言わんばかり。

 借金なるものとは無縁の人生を辿っていたが故に、そして借りた物を返さない駄目人間ぶりにハードルの下の下までイサミは落ちたような気がした。

 

「じゃあな」

 

「待ちなさい! お金返しなさいよ!」

 

 ミナヅキの制止を振り切って外から窓を閉め切り、3階から人間離れした身のこなしでひょいひょいと降りていく様はハリウッド映画かSASUKEでも見せられている気分だ。

 あの関田団を返り討ちにしたのも頷けるような動きを平然と、こんな逃亡のために使われていることに呆れるしかなかった。あっという間に地上に降り切ったイサミはそのまま走って街の中へと消えていく。

 

 流石に彼を追うだけのフィジカルも、メンタルも持ち合わせて居なかった。

 なんなんだこいつ。

 唖然としたままイサミを見送ったミナヅキはふらふらと玄関へと向かう。頭が痛かった。お礼は言ったがそこに自らが期待していた正義はカケラも見当たらず。それどころか失望だけがそこにあった。

 

 どんどんどん、と未だ叩かれ続けているドア。だがしかし恐怖心は不思議となかった。

 鍵を外しドアを開けると2人のスーツ姿の男、方や針のように細く、方や肉団子のように太った男たちがポカンとして突っ立っていた。まさか、イサミではなく女子校生が出てくるとは思わなかったのだろう。

 

「あの……どちらさま?」

 

 それもそうだ。

 本来出てきてほしいのはイサミであってミナヅキではない。もしかして部屋を間違えたかとプレートとミナヅキを頻繁に見比べている姿は正直哀れに思えた。

 

「別に……菓子折持ってきただけです。借金をしているというのは本当なんですか?」

 

 話して良いのか。と男2名が互いに困り顔で見合わせる。

 それから結論が出たのか、針のような男が口を開いた。

 

「それが、彼借金をされていましてね。中々返してくれないもので……返済期限もう過ぎてるんですよ」

 

 余程切羽詰まっているのだろう。針のような男は貧乏ゆすりを始めている。

 借金も結局返してもらわなければ商売上がったりだ。この手の商売は得てしてノルマなるものが存在するのだ。近年その手の話が問題視されているのであまり派手な取り立ては出来ないようだが。

 

「いくらなんです?」

 

 その問いに肉団子が懐から取り出した電卓を叩き始める。針はそれに添えるようにメモ帳を肉団子に見せていた。しばらく叩いてから出てきたものは0が……数えるのも面倒になるほどの夥しい桁だった。

 

「その額は1000万飛んで……26円!」

 

「うげぇ」

 

 思わず女子らしからぬ声が漏れ出た。何をどうしたらそんな借金が出来るんだあいつは。

 男たちもため息をつき、針が気炎を上げる。

 

「……そうなんですよ。彼、取り立てようにもどういう手を使ったのか出鱈目な動きで逃げ回るし、前担当者は鬼畜眼鏡と呼ばれ優秀だったのにも関わらずプライドが折れて退職。これ以上の悲劇を出すわけにはいかないんですよ!」

 

「いや、鬼畜って何ですか」

 

 人でなしvs人でなし。ロクでもない世界がミナヅキの前で繰り広げられていた。

 借金取り側も大概ヤバい連中な気もしなくもない。我に返った針は「こほん」と咳払いをしてから話題を戻した。

 

「あぁ失礼しました。ところで彼はこの中には?」

 

「もういません。とっくにここ出ました」

 

「なっ……」

 

 驚愕する針と肉団子。信じられまいと中にどしどしと入っていくがミナヅキは止めなかった。

 確かにもうこのビルからとんずらしてしまったことを確認すると彼らの顔は真っ青に染まる。それもそうだ。ここにいると確信していたのにも関わらずいつのまにか逃げられていたのだ。平然と出来るはずがない。

 

「彼は一体どこへ……」

 

「知りません。勝手にいなくなりましたし。それに借金してたなんて知りませんでしたから」

 

 どうやって抜け出したかは武士の情けで言わないでおく。だがしかしこの先借金取りに捕まってコンクリート詰めにされて魚の餌にされても、地下で強制労働をさせられたとしても同情はしてはやらない。

 もう知らん。あんなやつ。

 

 どたどたとまるで刑事ドラマの刑事たちのように事務所から慌ただしく出て行く彼らをミナヅキは見送りながら再びぽつりと取り残された。

 

「何なのよ……もう」

 

 嵐のような時間に巻き込まれたミナヅキは心底辟易した声色で、窓の鍵を締めたり最低限の戸締まりと後片付けをしていく。流石に鍵は持っていないのでドアの方は閉めてやれないが。

 ある程度片付けて、探偵事務所のど真ん中に立ちすくむミナヅキだったがこの部屋が何故か酷く、淋しく思えた。

 

 

 片隅に置かれたテレビ、レトロ趣味なのか置かれたレコード。古ぼけたラジオ。

 冷蔵庫に本棚。応接用のソファにテーブル。事務用の机の上に置かれたマグカップとコーヒーミルやPC。乱雑に置かれたカップ麺の容器たち。主のガサツさが出て中々汚いが探偵事務所としての体裁はなんとなくながら整えられているようだ。

 不躾ながら本当に探偵事務所をやっているのか気になったので机の近くに置かれた本棚を軽く見てみたが報告書やらがちゃんと置かれており詐称ではないらしい。

 

 こんな物には困っていないラインナップの割に寂寥感があるのは、彼から見え隠れする仮面の奥に何かを見出しているからだろうか。

 あの男は一体どんな気持ちでこんな淋しい部屋の中で生きているのだろうか。

 当然教えてくれる者など1人もおらず、ミナヅキはひとりとぼとぼと事務所を出た。

 

 

 

 ◆◆◆◆◆

 

 

 

 事務所に来て何が得られたというのか。

 勝手に夢見て失望して。

 それまできっと彼に期待していたのだ。燦然たる正義を。

 きっと彼から正義を学びたかったのかもしれない。けれどもあの男もベクトルが違うとはいえ、男どもとそう差などないのかもしれない。

 

 

 ただ徒労となっただけのこれまでの行為に自己嫌悪を覚えながらとぼとぼと街中を歩く。

 横から聴こえる無遠慮に走る鉄の塊たちの鳴き声をBGMに歩くのは慣れているはずなのにいつもとは違って聴こえた。

 

 我ながらここまで感傷的になる女だったか。

 振り向くな、奴のことは忘れよう。

 

 いつもと違う鉄の塊たちの鳴き声が鳴りを潜めると代わりに老若男女のハモった低い声がミナヅキの耳朶を打った。

 

 顔を上げると白い服の集団がぞろぞろと列を成して横断歩道を歩いている。

 

「てーんーじょー!」

 

 先頭の男が叫ぶと、後列の者たちが1対の木の棒……拍子木というらしい木の棒と木の棒をカンカンと叩いてから続いた。

 

「むーきゅーうー!」

 

「てーんーじょー!」

 

「むーきゅーうー!」

 

 と、その時1人が横断歩道前で足止めを食らってる車の開けっ放しのドアに素早く向かい、突如物凄い追い詰められたような顔になって窓をノックする。

 ノックされた側がもしお人好しならば何事だ、と思って開けてしまう者もいるだろう。

 その思ってしまったのが今のノックされた車の運転手だった。運転手でスーツ姿の青年が「何、どうしたんすか」と迂闊にもドアを開けたのが運の尽き。

 

 そのまま手に持っていた紙の束一枚を寄越した。

 ビラだ。ノロイ党の行為が人類救済によるものなのだ、とかそんな感じのものを書いているような。

 

「これどうぞ」

 

「げっ……どうも。……はいはい貰うから……あの、すんません早く行ってもらえません? 早く行って? もう分かったから早く行ってぇッッッッ!?」

 

 車の運転手に少しばかり同情した。運転手の男は半ギレで手をひらひらさせて「あっちいけ」とあしらうが相手はそんなのお構いなしだ。

 実際問題、車の方が立場は弱い。

 

 横断歩道が赤信号になり、車道の青信号が点灯しない限りこの責め苦は続くのだ。

 

 最近、治安の悪い閂市が頭を抱えているものが他にもある。

 それが彼ら、天壌無窮教だ。

 元々少し前の宇宙人襲来時、終末思想を唱えていた新興宗教だったが、最近ノロイ党の行動もあって勢いを増している。

 存外人間という生き物は歴史から何も学ばないらしい。

 

 人の世は終わる。

 天壌無窮なる世を生きるためには徳を積み、悪魔を祓う必要があるのだとかなんとか。

 彼ら曰くノロイ党は神の使者らしい。馬鹿馬鹿しい、とミナヅキは吐き捨てた。

 

 

「斎田さん。受け取っちゃダメですよ。問答無用で閉めなきゃ」

 

「斉藤な。問答無用つったって閉めても挟んだら挟んだでクソ面倒なんだよなぁ……くそう、新聞屋に配達だとか抜かされてホイホイ開けたら玄関に居座られた時もそうだ。何かまずいことがあったと思って開けたら……一人暮らし始めてから学習しろ、俺……マジでごめん!」

 

「あーもーいいですって、ほら青になりましたよ! 佐藤さん!」

 

「だから斉藤……とーりまーす」

 

 運転手の悲痛な叫びが聞こえてくる。意外と苦労しているらしい。

 天堂(斉藤)と呼ばれた男と助手席の青年の不毛な漫才の果てに、後ろの車たちが次々と抗議のクラクションを鳴らし始め流石に時間切れを悟った信徒が引き下がると、青信号になるや否や発車そのまま全速前進で逃げるように走り出した。

 逃げ切った彼らに幸あれ。

 ちょっとだけ気の毒に思えたミナヅキは内心手を合わせた。

 

 

 

 

 

 

 天壌無窮教。

 彼らの思想には共感できないが、ノロイ党そのものが行っているのは一種の世直しだ。それに惹かれる者も少なくはない。

 無論、ミナヅキ自身も心のどこかでは期待している節がある。

 

 学校という小さな社会の中で、ただただどうしようもないやつはいくらでもいる。

 死んで仕舞えばいいと思ったこともある。ノロイ党が粛正してしまえばどれだけよくなることか。

 

 小学生の頃から発育の早かった自分をデカパイだのおちょくる馬鹿男子。

 素行不良はおろか暴力をもって弱い者に迷惑をかける生徒、それらを見て見ぬ振りをする教師、生徒と関係を持つ教師。

 関田団なる暴力と数に物を言わせた男連中。

 今回のふざけた借金逃亡私立探偵。

 

 

 

 あぁ不愉快だ。

 

 

 

 悶々としながら街の中を歩く。

 ひたすら歩く。気付けば陽は落ち、門限も近付いていた。どういう理由であれ門限を過ぎてしまえば家に入ることは許されない。

 

 進む足が早くなる。

 道ゆくサラリーマン、学生たちを掻い潜るように進む。ぬるい風が肌を撫ぜ、髪をなぶり痛めつける。もわっと立ち込める排気ガスの臭い。

 

 あぁ不愉快だ。

 

 夏は嫌いだ。

 男連中の胸元を見る邪な目線、じっとりとした湿気、年々上がる気温、湿気で傷む髪。人混みの熱で上がる気温。

 

 あぁ不愉快だ。

 

 夏なんて滅べばいいのに。

 

 

 

 

 

 

「……ん?」

 

 その時、ひんやりとした風がぬるい風の代わりに汗に濡れた肌を擽った。

 ビルから漏れ出たエアコンの冷気とも違う、まるで冬のような自然の空気。

 

 最初こそ気のせいだと思いはした。けれども周囲が各々肌に触れて怪訝な顔持ちをし始めることでこれが現実だと言うことをまざまざと思い知らされる。

 

「なんか寒くないか?」

 

「っかしいな。今日33度って予報で……」

 

 かくして少女の願いは叶った。

 夏は滅びたのだ。

 などと思えばどれだけ幸せだっただろう。

 

 こんな漫画的なことが通常起こるはずがないのだ。

 天の恵みと思っていた涼しい風は徐々に指先から肩、胸、腹へと蝕んでいく。

 

 おかしい。

 涼しいを通り越してこれは寒いじゃないか。

 

「なに……これ」

 

 さっきまでのじっとりとした夏特有の暑さがまるで嘘のようだ。腕を組み必死に少しでも暖を取ろうとすればするほど余計に寒気が肌を襲う。

 手と手を擦り合わせれば逆に手のひらが凍るような痛みがミナヅキを襲った。

 

「つっ……」

 

 おかしい。

 これではこの街じゃなくて自分がおかしくなったみたいじゃないか。

 霜焼けのように赤く染まる掌を見てミナヅキは喉を詰まらせる。

 

「ガチ寒い……冬服なんてまだ用意してないし!」

「なんで冬になるん? 異常気象的な!?」

 

 ミナヅキの近くで凍えていたケバケバしい女子高生の二人組がぼやく。

 おかしくなっているのは自分だけではないらしい。

 

 ぬるい風が凍えさせるのならば、風に当たらないようにするしかない。車の生ぬるい(はずの)排気ガスと熱気から逃げるようにミナヅキは人混みから離れてビルの谷間に潜るように逃げ込む。

 やはり先程いた歩道よりはマシだが寒いものは寒い。

 

 なんなんだ。

 一体何がどうなったらそうなるんだ。訳がわからないまま、ミナヅキは寒気に耐えて耐えて耐え続ける。

 最早門限どころの話ではなかった。歩道に出れば排気ガスの熱気でまた凍えるのだ。全てが収まる、そんな都合のいい時が来るのを待つしかない。

 

「寒い……」

 

 ぽつりと独りごちたその時だった。

 

「ヌンジャ!」

「ヌンジャ」

「ヌンジャ!」

 

 甲高い声……というより鳴き声がミナヅキの耳朶を打った。声のした方に音を忍ばせ、身を低くしながら覗き込むとそこには、ビルとビルの間で使い道なく空き地と化した広場に黒衣の忍者風の怪人たちが泣き声を上げていた。

 あれはニュースでよく見るノロイ党の戦闘員だ。

 その中で1人だけ、一際大きく歌舞伎者を思わせるようなお面のような顔をした者が1人。

 それは怪人と形容する方が正しいだろうか、頭から上着をすっぽり被ったような風貌をしているがために首がない。かと言って中に誰かが入っている着ぐるみのようにも見えないときた。

 

「フフ……フフフフフフ。効いているようだな。このノロイ党鬼門転士。ジザイヤ感逆自在にかかれば……あらゆる感覚は真逆反転する。過去に比べ気温の高いこの時代、凍土に薄着で居るようなものだ……」

 

 滔々と語るこのジザイヤなる怪人によれば、一連の寒気は術。つまり人ならざる力によるもののようだ。ならばこのジザイヤなる怪人を止めることができれば、この寒気も終わる。

 

 警察に連絡する。そんな選択肢がミナヅキの脳裏をよぎるがすぐかぶりを振って跳ね除けた。

 駄目だ、警察の銃器は生放送で見せられた。まるで一つたりとて通用していなかったはずだ。連中を無力化なんて夢のまた夢だ。

 

 となれば最早、嫌な奴が同じ目に遭っていることを願うくらいだ。

 

「この術を以て、者どもを混乱させノロイ様に瘴気を送り込む……我ながら見事也!」

 

 自らの行為に酔いしれるジザイヤ。たしかに回りくどいが社会は混乱するはずだ。

 無差別なのが少しばかり気に食わないが。向ける方向が限られていればまた違うように思えたはずだ。例えば関田団のような悪党のような連中だけを狙って凍えさせてしまえば──

 

「ゲハハハハハハハ!」

 

 その時、ジザイヤのお面のような白い顔が180度真逆にひっくり返り、先程までの古風然とした長細い舌をまるでカメレオンの舌のようにピロピロさせながら人ならざる笑い声を吐き出す。

 

「……っ!」

 

 ぞわり、と背筋が凍るような感覚がした。

 ここに長居するときっと碌なことはない。その時のミナヅキに冷静な動きは最早出来なかった。一目散に逃げるように足を動かすや否や、近くに転がっていた空き瓶を蹴り飛ばしていた。

 

「むっ!? 誰だ!」

 

 こんな裏路地に空き瓶をポイ捨てした奴を殴りたかった。ゴロゴロと虚しく転がるオロナミンCの空き瓶が酷くミナヅキには恨めしい。

 瞬く間に顔を元に戻したジザイヤとそのお供たちはミナヅキのすぐそばまで迫っていた。

 

「……小娘、先程までの話も聞き耳立てていたな?」

 

 足が震えている。

 思うように動かないのだ。人の理から外れた風貌の物の怪だ、おそらく存在そのものを理性が必死に拒絶をしている。

 後退りしようとしたその時、足が滑り尻餅をつく。

 今度は油だ。何の油だか分からないが何かの排水がミナヅキの足を滑らせたのだ。

 

「そ……それが何よ! 勝手に喋ってたのは貴方の方でしょ!?」

 

 震えて動けない自分自身に鞭打つかのような奴ミナヅキは吠える。

 実際問題ジザイヤがベラベラ忍者もどきと話をしていなければ目論見もバレたりはしなかったろうに、とんだ間抜けもあったものである。

 だがその間抜けも拳銃が通用しない以上脅威なことには変わりないのだが。

 

「かの閃忍ほどではないが、お前も随分と美しい顔をしている。俺は美しい顔の女が好きだ」

 

「……っ」

 

 ぞわり、と背筋がざわつくような感覚がした。閃忍というのはあの正義のヒロインとやらのことだ。

 ミナヅキも多少自覚はある。他人より多少外見の面では恵まれているのだと。母も父も若い頃は美女美男だったという。

 

 だがしかし、好きでもない上に人ならざる化け物に好意を向けられたところで気持ち悪い以外の感想は湧かなかった。

 

「女の美しい顔を征服するのが俺の悦び……」

 

 カクン、とその仮面を再び180度回転させ──

 

「悦びなのダァァァァ!」

 

 人間の声とは思えないような狂声がミナヅキ目掛けて吐き出された。

 こいつも結局同じか。あの唾棄してきた男どもと。

 忍者もどきが、ぞろぞろとミナヅキの両腕を押さえ込み無理やり起こし膝立ち姿勢にさせられる。

 

「このっ、離しなさい!」

 

 必死にもがいても力の差は歴然。

 びくともしない事実にミナヅキの胸の奥に黒々とした絶望が沈み込んだ。

 

「知っているだろうが、人は顔の性感帯だけで達することは出来ぬ」

 

 顔を元に戻したジザイヤはミナヅキの顎をくいっと持ち上げ唇をぷるん、と弾く。

 

「だが他の怪忍のように俺だけが悦べばいい、というのは主義ではない。俺が征服することで女が悦べば……女の悦ぶ顔も征服出来て俺は余計に嬉しいではないかぁっ!!」

 

 一体なんの話をしているのかはいまいち分からないがこれだけはわかる。

 この化け物は自分の体を嬲り、辱めようとしている。まるで自らの身勝手な慈悲の形をした悍ましい何かに酔いしれるような物言いであった。

 

「シュシュシュッ! 俺は何と優しいのだ! シュ、シュシュシュッ……カーッカッカッカッ!」

 

 顔が再びひっくり返り、狂笑を撒き散らし唾液がミナヅキの顔に飛び散った。

 その時、ミナヅキはあずきバーを噛み砕く程に歯を噛み締めていた。

 

 ジザイヤはミナヅキの前に膝をつくと、制服の胸元をぐっと掴みそして、力を入れ引き──

 

「ヌンジャァ!?」

 

 ちぎるより前に後ろから鈍い音と共に忍者もどきの悲鳴がミナヅキの耳朶を打った。

 瞬きをする間に、首根っこを掴まれて体が浮遊感に襲われる。

 

 瞬きするたびにまるでコマ送りの漫画を見ているような感覚だった。忍者もどきをミナヅキを抱えている誰かが蹴り飛ばしては反撃を避けているのがわかった。

 自分を抱えているのが一体誰なのか、考える暇与えず気付けば既にジザイヤから数メートルまで離れていた。

 地面の上で転がされたミナヅキは判然としない視界を必死に凝らし、その『誰か』を見る。

 

 それは酷く、見覚えのある服装がフルフェイスのヘルメットを被っていた。

 

「シュシュシュッ……少し驚いたが所詮はただの人間。ゲニンを沈めることは出来んようだな!」

 

 とは言っても事態が好転した訳ではないらしい。忍者もどきの動きは完全に『誰か』とミナヅキの行く手を完全に阻み、逃げ場を奪い切っていた。

 

「おい大丈夫か……」

 

 男の声。

 その声はフルフェイスのヘルメットのせいで籠っていたが聞き覚えがあった。

 それはこっちの台詞だ。

 勝手に入ってきて逆に自分がピンチになっては世話ないだろうに。先程のごたごたでちゃんと見ていなかったのであろう、フルフェイスの男は呆れ顔のミナヅキの顔をちゃんと見た瞬間──バイザーの奥から覗かせる眉間から一気に皺が寄った。

 

「げっ……」

 

 この世で一番見たくないものを見たような声だ。

 聞かされたミナヅキは心底うんざりした。

 何がげっ、だ。

 自分で突っ込んできておいて何そんな声を出してるんだ。

 フルフェイスの男は首をぶんぶん振ってからジザイヤらと相対し、口を開いた。

 

「この異様な寒さ。テメェの仕業か」

 

 それは一瞬だけ、事務所で自分の父親の名を問いかけた時の声のようだった。

 関田団を打ちのめした時の小馬鹿にしたような態度とも、ミナヅキに嫌々応対した時の気怠そうな態度とも違う。

 

 強いて言うならば──殺し屋のような。

 

「左様。だがここで知ったところで何になる? この良いところを邪魔だてしたお前はここで八つ裂きになってもらおうか……シュシュシュ! カーッカッカッカッ!」

 

 駄目だ、ジザイヤなる化け物はこの男を殺す気だ。この男はミナヅキとしては嫌いな人種ではあったが、死ぬほどのことではないはずだ。

 逃げろと促そうと声を上げようとしたその時、見えるフルフェイスの男の背中がそれを拒んだ。

 

 あの狂ったような笑いを前にしてもフルフェイスの男からは余裕を感じられた。

 

「ただの人間なら、だろ? 生憎おれ様は人の道理から外れたらしい」

 

 フルフェイスの男は懐から何かを取り出す。それは黄金の瓢箪。

 それを見るや否や、ジザイヤは声を上げた。

 

「その瓢箪……もしや深紫の忍びか!」

 

 深紫の忍び。

 まさかあの正体不明のノロイ党を倒して回る謎の存在はあの男だと言うのか。

 ガッカリ感と共に何となく納得しそうになる自分を殴りたくなる。あの借金男が深紫の忍びとは中々酷い話である。

 と、苦笑いしかけたところフルフェイスの男は首を横に振った。

 

「違うな……おれ様は……」

 

 

 

 

 

 

 

 

「てめぇらノロイの敵、全ての人間のオンナの味方。目に物見せるは──」

 

 きゅぽん、と瓢箪の栓を親指で弾き出すように引き抜き地面に溢す。すると出てくるのは酒ではなく無数の水を纏う機械蟲だった。

 フルフェイスの男の腰に巻き付くや否や機械仕掛けのベルトへと姿を変える。

 

 瓢箪を投げ捨て、入れ替わりに橙色の3枚刃の手裏剣の付いたプレートを持ったまま、空いた腕を前方に突き出すように曲げ、拳を作る。そして──

 

()()()()()()だ。──変身」

 

 その掛け声は高らかであった。

 がちゃり、とプレートをベルトのバックル部分に取り付け3枚刃の手裏剣を回転させる。

 すると中心部から忍者が持つような巨大な巻き物が吐き出され、男の背後からは3倍近くの大きさを持つ機械仕掛けの蜂が現れる。

 

 巻き物は機械蜂と男の周りをぐるぐると回り続け、機械蜂の針を出すお尻の部分から機械仕掛けの鎧が排出されるや否や瞬時に男の体を戦士の姿へと変えた。

 

【踏んだり! 蹴ったり! 張ったり! 仮面ライダー・ハッターリッ!】

 

 

 

 中々酷い音声が聴こえたような気がするがこの際聞かなかったことにする。

 いつのまにか機械蜂も巻き物も消え、珍妙奇怪な格好となった彼を見たミナヅキは言葉を失った。

 全身を覆う黒いスーツを基調に四肢を覆う橙色のプロテクター、体の節々に絡みついた布、そして後頭部から伸びる鉢巻の余り布を思わせる細長いそれ。そして、3枚刃の手裏剣を思わせる仮面。

 

 文字通り、あの男は『変身』してしまった。

 

「……変わった。あと、大きい蜂は戦わないんだ……」

 

 

 ミナヅキのツッコミを見事に素通りしながらハッタリの前に忍者もどきがわらわらと群れを作り始める。一番奥で構えていたジザイヤは少し考え込んでから言葉を紡ぐ。

 

「ゲニンよ、やれ……!」

 

 ジザイヤの指示でゲニンたちが人外そのもののような動きで飛び回りながらハッタリに迫る。

 そこからは一方的な勝負だった。

 

 一番槍として仕掛けたゲニンの縦に振り下ろされた一太刀は二本指で白羽どりしたと思いきやそのままへし折り蹴り飛ばす。

 次に攻撃をしかけたゲニンの斬撃は最低限の動きで上体を逸らすだけで躱してみせそのまま流れるように裏拳、当て身、膝蹴りと次々に沈めて行った。

 

 先程の変身前ではろくに通用しなかった攻撃も今となってはまるで冗談のように効いていた。次々と黒い煙となって消滅していく光景は快哉を叫ばずにはいられない。

 

 流石に部下をまるで赤子の手をひねるかのように処理して見せたハッタリに、ジザイヤの声色も少しばかり焦りが混ざり始めていた。

 

「くっ……お前、深紫の忍びの仲間か!」

 

「仲間? 勝手に混ぜてんじゃねえ」

 

 ハッタリが背中に収められた小太刀を引き抜くと、それに応えるかのようにジザイヤも腰に収められた2本の刀を引き抜いた。

 

 

 静寂がこの裏通りを包む。

 先程の格闘戦が嘘のようにざり、ざり、と摺り足でじゃりを踏み締める音だけが聞こえてくる。

 どちらが先に打って出るか。

 ミナヅキは黙して見守ることしかできなかった。

 

 

 先に動いたのは──ジザイヤだった。

 

 

「ハッ──! 遅い!」

 

 斬。

 ジザイヤの得物は交差するように振るわれた。Xの字に振るわれた一撃は受ければ鉄の塊だろうがいともたやすく切り裂いてしまうだろう。事実、衝撃波が、刀が届かないはずの位置にあるゴミ箱を真っ二つに切り裂き、その中身をぶちまけたのだから。

 

 しかし──ハッタリにはそれが当たってなどいなかった。ジザイヤの斬撃よりも早く、通り抜けざまにハッタリがジザイヤの横を通り過ぎていたのだ。

 そして──まるでハッタリが通り過ぎた跡にいたジザイヤの体は頽れ膝をつき、脇腹を押さえて苦悶の声を上げた。

 

「ゲハッ!?」

 

 小太刀の切っ先を無遠慮にジザイヤへと向けながら再びじわじわと近づいていく。

 そんな彼に、ジザイヤはその怪しげな黄色い瞳を輝かせた。その次の瞬間、ハッタリの足元に何かの紋章が浮き上がった。

 

「ゲハハハハハハハ! かかったな! 間抜けめ!」

 

 狂ったような笑い声でようやく、ハッタリの身に何かが起こったことをミナヅキは確信した。

 ハッタリの方を見るとなぜか、ジザイヤに迫っていたはずがジリジリと後退りをしている。

 

「身体が言うことを効かんだろう? そのまま()ねぃ!」

 

 困惑しきっているハッタリをよそにジザイヤは得物を振う。鉄すら切り裂くその斬撃はハッタリの装甲を切り裂く。

 堅牢な装甲と何者をも切り裂く刃が拮抗し、火花が大きく散る。だがしかしハッタリは攻撃で後ずさるどころか前に出ていく。

 

「フフフフフフ……自ら当たりに来るか。まぁ当然か、我が術を受けたのだからな!」

 

「っざけやがって! うぉっ!」

 

 面白いように攻撃を受けるその光景は異様だった。ノーガードで自ら受けにいくその動きへ先ほどまでのハッタリの行為からは想像がつかないものだ。

 当然ながらハッタリが吐き出す苦悶の声は明らかに不可解さに対する不満めいたものも感じられた。

 

 おかしい──

 ミナヅキは思考する。この状況に対する解決法を。

 あのジザイヤを叩きのめすだけの方法を。その時には既にミナヅキの脳裏からは『逃げる』という選択肢は消え失せていた。

 

 

 奴は、先程術と言った。

 

 奴は言った。感逆自在、と。

 

 寒さを暑さに、暑さを寒さにするだけの力を奴は持っている。

 

 

 

 普通なら攻撃をしたなら避けたり防御したりするはずだ。

 今この瞬間、手足を大の字に投げ出しておもしろいように攻撃を受けている。ということは──

 

「そこの踏んだり蹴ったりマン! 私を見なさい!」

 

「あぁん!?」

 

 ミナヅキが声を上げた途端、ハッタリはミナヅキのいる方向とは真逆の方を向いた。

 やはりそういうことか。全ての謎が解けたミナヅキは言葉を紡ぐ。

 

「反対よ! 逆! 逆! 奴はあなたの感覚を反対にしているの! だから……あなたの動きをあべこべにしてしまいなさい!」

 

 この言葉がちゃんと伝わったかは分からない。けれども全て吐き出し切った所でハッタリの顔が一瞬だけ──そう、一瞬だけこっちを見て頷いたような、そんな気がした。

 

「余計な真似をするナァァァァァ!!」

 

 ジザイヤが種明かしをされたことに怒り狂ったか頭を逆さまにしたまま刀を振るう。

 するとXの字の衝撃波が凄まじい勢いでミナヅキ目掛けて飛来する。このまま受ければ体は真っ二つ。即死は免れまい。

 

「あ──」

 

 死にたくない、と無様にも思ってしまった。

 けれども体は動かない。完全に弛緩し切った筋肉は自らを逃すには力不足。

 

 嫌だ。

 

 死にたくない。

 

 嫌だ。

 

 人間50年と言うがその半分の四半世紀すら生きちゃいない。

 

 理性と本能が必死に生を掴もうと足掻いても体は動かない。これほど間抜けな終わりなどあるまい。

 目を閉じる。全てが闇に包まれて────

 

 

 

 

 いくことはなかった。

 

 

 

「あーなるほど、だいたいわかった」

 

 ハッタリの声に引っ張られるように目を開けると、そこには衝撃波を相殺したハッタリが手遊びと言わんばかりにくるくると小太刀をバトンのように振り回していた。

 

「馬鹿な! ここまで何故こうも早々に動けるッ!」

 

 感逆自在の術を受けてもなおも平然と小太刀を回して遊んでいるハッタリにジザイヤはドン引きし切ったような声を上げる。

 事実として前に向かえば後ろに、後ろに向かえば前に、左に向かえば右に、右に向かえば左と真逆の動きを強いられているのにも関わらず平然と動けているのは普通ではない。

 そんなジザイヤの指摘にハッタリは小太刀で遊ぶのをやめて再び切っ先をジザイヤに向けた。

 

「おい、さかさまパイプラインって知ってるかよ」

 

「何だそれは!?」

 

「知らねえか」

 

 さかさまパイプラインなる意味不明の会話を繰り広げながら、無造作に斬撃を叩き込んでいくその様子は側からみれば恐怖そのものであろう。

 後々知ることになるが、ビデオゲームのステージ名らしい。

 

 ビデオゲームのステージ名の話をしながら刃物を振り回しているというのも尚のことサイコ感滲み出ているような気もしなくもないとその後のミナヅキが思ったのは内緒である。

 的確に斬撃を加えられ、蹴りを叩き込まれたジザイヤはその身を紙屑のように飛ばす。

 

 そして地面に転がったところでハッタリはベルトの手裏剣を勢いよく回した。

 

【ファァァンタスティック・忍POW!】

 

 珍妙奇怪不可思議な音声と共にハッタリの体が消えて無数の小さな機械蜂の群れへと姿を変える。そしてそのまま上空まで飛んだと思いきや再びハッタリの姿へと戻り、重力に従って飛び蹴りを放つ──はずだった。

 

「受けて立つ!」

 

 ジザイヤもカウンター狙いで得物を振るう。ジザイヤもかかしではない。最悪ハッタリが返り討ちに遭い負ける可能性もゼロではない。

 そんな未来に身震いしながら見守る必殺の一撃は──ハッタリが炸裂間際で消えたことによって不発となった。

 

 ──消えた!? 

 

 あのまま一撃を放たずに消えてしまったハッタリに見ていたミナヅキもどんな顔をすればいいか分からなかった。

 一体さっきの飛び蹴りはなんだったのか。

 その答えは──

 

「……ゲハッ。まさかあの一撃が囮……だったとは」

 

 突如、ジザイヤはまるで重油のような黒い液体を吐き出した。

 これは血だ。胴体をよく見ると血塗れの白い刃が胸から突き出ている。ジザイヤの背後をよく見ると、そこには──逆手に持った小太刀を深々とジザイヤの背中に突き立てたハッタリの姿がそこにあった。

 

「大技で吹き飛ばすよりは急所にブチ込んだ方が速いのさ。蝶のように舞い蜂のようにぼんのくぼに刺す……ってな」

 

 まぁ、今回ジザイヤには首がないのでぼんのくぼも何もないのだが。

 

「こんな……俺がこんなところで殺られるなど……あ、あれも……これも……まだまだひっくり返してないのに……」

 

「すんな」

 

 恨み言はどこ吹く風。

 突き刺した小太刀を引き抜き、背中に背負った鞘に収める。

 穴から黒い血を噴き出しながらジザイヤは力無く倒れていく。最早彼に闘う力は残されてなどいなかった。

 

「ノロイ党に勝利あれええええええええええ!」

 

 爆発四散して消えていくジザイヤに、ハッタリは何処からか取り出した扇子を開きパタパタと扇ぐ。

 張り紙には「成敗!」とデカデカと殴り書きされていた。

 

 ──いやだからなんでそんな扇子持ってるのよ

 

 しかしハッタリは、ハッと我に返ったのか動きを止めその扇子を慌てて仕舞った。おそらくバレることを危惧しての行動だろうがもう手遅れだ。態度と服装でもうモロバレだ。間抜けめ。

 呼び止めようとしたがそれよりも早くハッタリは逃げるように去っていく。その動きはやはり人智を超えたものであり、逃げる様は酷く不恰好ではあったが──

 

 

 そこには間違いなく燦然たる正義が宿っているようにミナヅキには思えた。

 

 

 

 

 

 

 

 ◆◆◆◆◆◆

 

 あれから。

 門限をぶっちぎってしまったミナヅキはひどく怒られた。それはもう徹底的に。

 

 ノロイ党のテロに巻き込まれたなんてものはただの言い訳に過ぎない。

 事実あの寒気を無視して帰ってしまうのが正解だったのかもしれない。遅かれ早かれあの男が現れてジザイヤを仕留めてしまうことは目に見えていたのだから。

 

 けれども──家族からの怒りを買ってでも得られたものがあった。

 

 

 

 数日経った程度では借金取りから逃げ回る彼は帰って来ないようで、探偵事務所の鍵は開けっ放しだ。

 流石にこのままでは泥棒が入るだろうし最悪差押えだってあり得るのだ。

 ついでに散らかった部屋も掃除していく。埃は主不在のこともあり、かなり溜まっていた。

 

 ここのビルの大家もイサミには随分悩まされていたらしく、その旨の話をしたら快く協力をしてくれた。

 カップ麺の空はゴミ袋に詰め込み、煙草の吸い殻は火災が起きないように適切に処理。

 埃は掃除機で吸い上げ、雑巾掛け。

 

 数日かけてやっとこさ綺麗に片付いた部屋を一瞥してからミナヅキは大きく深呼吸した。

 あぁ、片付いた……

 

 達成感に酔いしれていると、玄関から乱雑なドアを開ける音が聞こえてきた。

 ……どうやらやっとこの事務所の主が帰ってきたらしい。

 

「あ? なんで妙に片付いてやがる……ってお前! なんでこんな所に居座ってんだ!?」

 

 ミナヅキを見るや否や、追い出そうとするイサミだったがミナヅキも引き下がる気は毛頭なかった。そもそも追い出されたとしても大家さんの力を借りるのでイサミに勝ち筋はない。

 

「貴方こそ一体全体ずっとどこにいたんですか!」

 

 数日間ずっと借金取りから逃げていたわけではないだろう。そんな意味合いの問いにイサミは大袈裟に腕を広げながら滔々と語る。

 

「世界中のオンナの所だ。オンナある所に俺はいる」

 

 ……なんとなくそんなふざけた回答が飛んでくることは想定していた。酒の臭いがするあたり恐らく夜の店にでも行っていたに違いない。

 案の定、ではある。だがしかしこうして聞くとどうしても失望や、怒りが抑えきれない。

 せっかくの素質を台無しにしているのだ。

 

 思い立ったミナヅキは立ち上がり、イサミに向かって宣戦布告でもする国家元首のような顔持ちで口を開いた。

 

「……決めました。やはり貴方は更生させます。させてみせます」

 

「あ? 更生? なんでそんなことを勝手に……」

 

 まさかここまで反抗されるとは思わなかったのだろう、イサミの顔は困惑し切っていた。

 けれども情けはかけない。畳み掛けるように続けるとあまりの捲し立てっぷりに唖然としていた。

 

「大家さんからの許可は貰ってます。女遊びなど元から論外なのですがそもそも最低でもお金を返すことをしてからやってください!」

 

「ゲッ、大家め、まさか先月一気に返したこと根に持ってやがるな……!」

 

 大家さんからはこんな話を聞いたことがある。

 基本ここの家賃は月1支払いだが、イサミは半年ほどの家賃を未納としておりそれらを上手いこと言って大家から取り立てを回避していたようだ。

 よく強制退去させられなかったものである。

 

「当たり前でしょう! という訳で借金返済と更生のため私も助手として働きますのでよろしくおねがいします!」

 

「よろしくお願いしまぁす……じゃねえ! 給料出さねえぞ! そもそもこの仕事はガキンチョのやる仕事じゃ……」

 

「最低でも体裁整えてから言ってください!」

 

 答えに窮したのか完全にイサミは「うぐっ」と言葉を詰まらせる。勝負あり、だ。

 いくら文句を言おうが大家が協力している以上どうにもならない。

 

「こ、このガキンチョめ……大家めえええええええ」

 

 かくして、ミナヅキによる仮面ライダーハッタリ更生計画が始まった。彼女の戦いは……始まったばかりである。

 被害者(兼加害者)こと現世イサミの悲鳴と呪詛の声が空へと虚しく響いた。

*1
今で言う半グレ集団のことだが2008年当時にそんな概念はなく、2010年代からのものである




 初期名護さん思考になる時がある委員長気質かつやや男嫌いなやべー女と、借金から逃亡するわ女好きだわのやべー男。


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閃忍スバルはなぜ裏切ったのか

 

 

 

 その素顔を隠すためのシノビの仮面はその様相を変えず、代わりにその手に握りしめられた刀身が感情を雄弁に物語っていた。

 かたかた、かたかた。と音を立てている。

 

 怯えているのだ。

 

 何に? 

 

 言うまでもない。

 眼前にいる大蛇丸を手裏剣で刺した女、スバルだ。

 

 その横乳やら太腿やらが剝き出しの際どい衣装は少しばかり目に毒であったが、今この瞬間気にしているほどの余裕が今のシノビにはない。

 何故こんなにも怯えているのか。その理由は二つ。

 一つは、この女から発せられる黒い瘴気のようなものだった。

 

 それは人ならざるものが発するソレに近い。その上大蛇丸から発せられた邪気以上におぞましいナニカを感じる。

 自らそれを認識しようとすると肌がげっそりするような、何か吸い取られていくような感覚がシノビを苛むのだ。

 

 二つはこの女そのものが放つ戦士としての威圧感──

 これまで倒した敵とは比べ物にはならない。まるで親を前にした無力な子供のように。畏怖がシノビの頭からつま先まで徐々に蝕んでいく。

 気づけば後ずさりそうになっている自分を叱咤しながら、シノビはブレードを構える。

 

「忍びさん、武器を下ろしてください。彼女は敵ではありません」

 

 そんな不穏当なシノビの構えに何かを想ったのかハルカが手で制する。だがシノビはその言葉一つで武器を下ろせるような状態ではなかった。

 凡そ味方とは到底思えなかったのだ。こいつは形容するならばヒトの形をした──化け物だ。

 

「彼女はスバル──私の友人であり、上弦流の閃忍です」

 

「…………」

 

 とうに知っている。何せ中の人こと真太郎もちょいちょい()()()()から知識を叩き込まれている。本来の歴史ならば第3の戦士であり後に仲間になる実力者だなんてことは。

 この女は予め情報は掴んでいた。だが情報通りならば今この瞬間の彼女は──敵だ。

 

「スバル……よく無事で」

 

 ハルカは今にも泣きだしそうな声で眼前の女の名を呼ぶ。

 ほぼ生存が絶望視されていた友が生きていたのだ。喜ばないわけがないのだ。だがハルカがゆっくりと彼女に近づいていく。まるで光りに誘われる蛾のように。

 そしてスバルがゆらりと地面を蹴り、携えた忍者刀・(ひょう)が閃き、弧を描くのを、シノビは見逃しはしなかった。

 

「──ほう、深紫の忍び。気づいていたのか」

 

 間一髪。割って入ったシノビがシノビブレードでハルカの喉元目掛けたその一撃を防ぐ。

 ちゃりん、と刀身と刀身が触れ合った刹那、衝撃が刀身から腕へ、そして体へと奔り。仮面の下で真太郎は苦痛のあまり目を見開いた。

 一撃が重い。重戦車の砲撃のような一撃がシノビの足元をぐらつかせる。

 

 ──同じ忍者刀なのに……重いッ!? 

 

 これまでの相手ならば抜け道のようなものが確かにあった。大蛇丸だってそうだ。しかし今回の相手はこれまでと比べるのも烏滸がましいほどに──どうしようもないレベルの実力の差を感じさせられた。

 そんなシノビの内面を見透かしたかのようにスバルが鼻で笑う。

 

「なんだそれは。怯えているのか?」

 

「ぬかせ……ッ」

 

 なけなしの勇気を振り絞り押し出す。

 一旦距離を取れ、否、逃げろ──本能が警鐘を鳴らす。

 今の俺たちでは勝てない、と。本能もこの先の未来を知る集合知識共もそう言っているのだ。

 シノビとハルカが置かれている状況はいわゆる負けイベントだ。そして本来あるべき歴史において間一髪で撤退に成功するのだという。

 

 だが未来は確定ではない。

 既に仮面ライダーというものが、そして何者かの見えざる手が介入した以上それが揺らいでいる。俗にいう『この世界は滅びたがっている』という奴だ。

 鍔迫り合いの勝敗は──最早語るまい。

 シノビブレードを跳ね上げられたシノビはノーガード状態となり、スバルが目にもとまらぬ斬撃でシノビの装甲を削り取る。

 

 火花が血しぶきのように飛び散り、重く力強い一閃はシノビの体を跳ね飛ばす。

 その吹っ飛びすらも、スバルから離れられるという事実だけでも救いのように思えた。ハルカの足元まで転がると慌ててハルカが信じられないような目でスバルを見た。

 

「スバル……今の攻撃、まさか本気で」

 

「冗談に見えるか?」

 

 くつくつと嗤うスバル。少なくともシノビには冗談には見えなかった。

 先ほどの太刀筋はアーマーが無ければ四肢を八つ裂きにされて達磨にされてデッドエンドだった。というか生身だったら5回くらいは殺されている。あわや草加雅人が辿る運命を再現するところだった。

 それに問題はそれだけではない。大蛇丸から奪ったはずの外法印が先ほどまで持っていたはずなのに手元から消え失せていた。

 

「これは返してもらうぞ」

 

「外法印っ!?」

 

 代わりに──スバルの手元に失ったはずのソレが握りしめられていた。おもむろに腰に縛り付けほくそ笑む。奴もノロイ党なら何かしらのデバフがかかっていたはずだ。それなのに直近の斬撃を考えると泣きっ面に蜂と言ってもいいほどの状況だった。

 流石にこの最悪と言ってもいい状況を理解したのかハルカの目は瞬時に敵と相対するときの眼つきに変わる。

 

「何故なのスバル? 何故私たちに刃を向けるの……!?」

 

 とはいえどその問いかけは現実を受け入れ切れていないのは明白であった。

 それがシノビをわずかに苛立たせる。

 シノビ──斉藤真太郎にとってはあくまで無関係な第三者で、ハルカにとっては大切な仲間。

 無意識下で根付いた認識の違いがすれ違いを起こしている。

 

 ──馬鹿野郎が。

 

 だが、それはハルカに向けた言葉なんかじゃない。一瞬でも苛立った己自身だ。

 今この瞬間起きている出来事はゲームの中の出来事でも歴史のシミュレーションなんかでもない。現実なのだ。

 

 

 

 

「ぐ……ぅ」

 

 先程不意打ちを食らって地に伏せた大蛇丸からうめき声が聞こえてくる。

 まるで這い上がる亡者のように顔を上げ、目の前の現実を受け止めきれていないハルカに非情な現実を突きつける。

 

「分からねえのか……! こいつはノロイの力に魅入られた。寝返ったんだよ……!」

 

「そんな……う、嘘です! スバルが上弦衆を裏切るなんて!」

 

 曰く、スバルは任務に忠実で真面目な女であり一流の閃忍だったと言う。

 多分剣崎一真が橘朔也に裏切られた時の衝撃に近いものだ。だが現実刃を向けている上にその向けられている殺意は本物のそれだ。

 もし演技だとしたら大した役者である。

 

「いや、そいつの言ったことは事実だ。私は上弦衆を捨てた。今の私はノロイ党・新四道封者──スバルだ」

 

「スバル……どうして……どうしてノロイ党なんか……」

 

 絶望に蝕まれている表情を見せるハルカを面白がったのか、悦に浸ったように顔が歪む。

 

「どうしてだと? 全てお前のせいさ」

 

「私?」

 

 呆気にとられるハルカにスバルは滔々と言葉を連ねていく。それは憎しみの篭った恨み言だ。

 

「過去の時代深手を負い、時渡りで一人置き去りにされた私がどうなったと思う? 来る日も来る日も……いや、昼夜の区別など分からなかった。醜悪な魑魅魍魎の悦楽のため──眠る間もなく繰り返し四肢は嬲られ、犯され、精を吐き出され。やがて凌辱の波間に浮かんだのがお前の顔だ」

 

 想像するのも憚られる程の地獄だったという。

 現実として考えても見るがいい、この世のものとは思えない異形の化け物に体を穢され続けることを。異性であるシノビすらも想像しただけで背筋が凍りそうだった。

 

「何故私がこんな目にあったのか、全て私を置いていったお前のせいだ。無謀な任務を課した上弦衆のせいなのだよ! ──だから私は決めたのさ、ノロイより力を得、お前たちと上弦衆を敗北で貫いてやるとな」

 

 雹を一振りし、切っ先をハルカとシノビへと向ける。

 その明確な敵意は徐々に迫るようで足の運びは明らかに大蛇丸の方へと向かっていた。ハルカを動揺させてその隙に何かをするつもりだ。

 

 ──まさかこいつ

 

 この後シノビの危惧が的中することとなる。

 

「信じようが信じなかろうが、私がノロイ党という事実は変わらない。大蛇丸、これは返してもらうぞ。敗北者には必要ないものだ」

 

 スバルの狙いは大蛇丸が持つ変身瓢箪だ。今の奴にあんなものを与えようならば今度こそこの世界は終わる。恐怖という名の逡巡を振り払いシノビが震える脚と腕を捻じ伏せ地面を蹴る。速駆けで1秒もせずにスバルに詰め寄りシノビブレードを振りかざす。

 

「さぁせるかっ!」

 

「むっ!?」

 

 まさかシノビがここまで食い下がってくるとは思わなかったのだろう。一瞬だけスバルの妖艶な貌に皺が寄った。シノビが放った一撃は敢えなくかわされ、2撃目はあっさりと雹の刀身で受け止められた。

 

「そいつを…………その力を……『仮面ライダー』をお前らに渡すわけにはいかない……ッ!」

 

「その及び腰でか!」

 

 鼻で笑うを通り越して声が完全に嗤っていた。

 当然だ、RPGで言うならレベル5程度がレベル50に挑むようなもの。それも結果も見えているような状況に関わらずだ。

 

「るせぇっ!」

 

 一喝で返そうがその叫びは虚しく夜空に消えていく。そんな道化を余所にスバルの視線がシノビの腹部に移った。

 

「聞けばお前も化身忍者と同じ力を持つ者と聞く。その力も貰うぞ!」

 

「渡すものかよ!」

 

 せめて大蛇丸から変身瓢箪を取り上げてハルカ共々逃げなければ。

 そんな一心で大蛇丸に意識が向いたのをスバルという手練れが逃すことはなかった。一度崩されればあとは流されるだけ。スバルの情け容赦ない乱撃がシノビの装甲をゴリゴリと削り斬る。

 

「ハハハハハハ! そらそらそらそら!」

 

「ぐぅっ!?」

 

 ──まだだ。

 

 転がるように距離をとり、影分身の印を結ぶ。

 すると瞬時にシノビの姿が増え、影分身の幻影共々シノビたちが各々出鱈目な動きを始めスバルの意識を欺き始める。カードをシャッフルするように動き回る。

 流石に大蛇丸を欺いたものだ。そう簡単に見つかるはずがない──

 

「数を増やそうが……この私を欺けるものかッ!」

 

「な……に……」

 

 なんてカルピスの原液並みに甘い考えは瞬時に粉々に砕かれた。

 スバルの右腕が縦に裂けたと思えば無数の触手へと姿を変えシノビの体を縛り付ける。馬鹿め、それは本体だ。

 本体だけを狙った正確無比なその動きはそれまでの行為が無駄であることを叩きつけたのと同義であった。その触手はぎりぎりとシノビの身体を締め付けていく。腕は折れそうなくらいに圧迫され、シノビのスーツと中の真太郎が必死に抵抗すれど気を緩めようなら瞬時に某橘局長のようにくの字にへし折られていたことだろう。

 

「やめてください……スバル! これ以上は!」

 

 一連のスバルの蛮行にハルカが2本の雫で押さえにかかるが、動揺した彼女の動きでは片手が塞がったスバルですら傷ひとつつけることは叶わなかった。

 

「その迷いのある動きで何が出来るというのだッ!」

 

 文字通り片手間だった。

 シノビを締め付けながらもスバルは雹を振るい、ハルカの攻撃を全て弾き返す刀で斬りつけ返していく。障壁の力で致命傷こそ避けられてはいるが忍者装束に傷が入り、防ぎきれなかった衝撃がハルカの肌に傷が増えていく。太腿から、頬から、腕から血を噴き出し、それでも必死に止めに向かうその様をシノビは縛り付けられたまま見ているしか出来なかった。

 

 ……違う、それは違う。

 シノビは全身に力を込める。

 

 ──ふざけるな

 

 こんな所で圧死するわけにはいかない。

 ギジギシとアーマーとスーツが悲鳴をあげている。もう限界が近いのだろう。

 

「こんの……くそったれえええええええええ!」

 

 けれどもここで諦めようなら最初から頭を突っ込んだりはしない。

 逃げるものか。自分はだいたいこれくらいなんだとか逃げてばっかりの人生ではあるが、流石に譲れないボーダーラインというものがある。

 

 ハルカの得物をいとも簡単に弾き飛ばし、丸腰になった所スバルは雹から白い光を纏わせる。大技で真っ二つにするつもりか。それに気付いたハルカは短い声を上げる。

 

「ぁ……」

 

 逃げろ、と司令室に繋がっているタカマルたちが叫ぶ。

 上弦衆の転送システムは今は使えない。今この瞬間使おうなら司令室の位置まで逆探知されて本当に終わりだ。だから今この瞬間動けるのは、シノビしかいない。

 

「よせえええええええっ!」

 

 火事場の馬鹿力だった。

 血を吐きそうなまでの絶叫と共にひり出した力は触手を引きちぎる勢いで引き剥がし、速駆けでハルカを突き飛ばす。そして振り下ろされるスバルの一撃をシノビブレードで受け止めたその時だった。

 

 

 世界が白に染まった。

 

 間もなくして世界が色を取り戻した瞬間、パキン、と何かがへし折れる音がした。

 視界もまるで変身する前の時のようにクリアになる。──おかしいな。

 そんな疑問も、遅れてやってきた全身を走る激痛が全てを忘れさせた。

 

「ケハッ……」

 

 喉奥から血が吐き出される。

 吐血とはこういうものなのか、なんてこれまで血を吐いたことのない真太郎が呑気な感慨に耽る前にカラン、カランと、渇いた音が地面から聞こえた。

 視界を下に落とすとそこには1本の折れた刃と、紫色の金属片。そのとき──シノビは、真太郎は理解した。

 

 ──あぁ……俺、もう駄目か

 

「忍びさんッ!」

 

「酔狂なやつめ! 自ら必殺の一撃を受けに行くとはな!」

 

 スバルの哄笑に最早抗弁する気力も残ってなどいなかった。

 彼女の言う通り全くもって酔狂だ、だがしかし自己弁護するような物言いにはなるが大蛇丸の瓢箪を諦めて初っ端から逃げようならあの化け物に変身能力を与えることになる。

 まぁここで瓢箪を回収しようならこうしてボロボロにされるわけだが。

 

 限界を超えて消えていくシノビの鎧。徐々に素顔を晒していく真太郎はただただ、言の葉を紡ぐ。

 

 た・か・も・り・さ・ん・に・げ・て

 

 どしゃり。と重い荷物を投げ捨てたような音を立てて倒れる真太郎は揺らぐ意識の中、変身解除の反動で地面に転がったシノビの変身瓢箪を睨む。

 拾い上げようと手を伸ばそうにも思うようにその腕はまるで別人の手のように言う事を聞きやしない。

 

「深紫の忍びが……斉藤真太郎……? そんな……」

 

 溺れもがくように這う真太郎を他所に聴こえるハルカの声。

 顔は見えなかったが声はもうへし折れ切った人間の声だった。

 まさかかつての仲間が敵に回った挙句、組織と自身を糾弾し、そしてシノビの正体が嫌っていたのであろう男だったなど。こんな踏んだり蹴ったりなことがあるものか。

 

 何もかもが裏目に出ているこの状況は最早笑うしかないが、真太郎は笑う暇も与えられず苦悶の声を上げさせられていた。

 瓢箪に届きようのない真太郎の震える腕をスバルはわざと地面に捻り込むように踏みつける。ぐり、ぐり、と石ころがめり込み肌を突き破る。

 

「ぐああああああああッ! あっ……ぐうっ!?」

 

「無様だな、深紫の忍びと持て囃されていたものが蓋を開けてみればこのざまか。さてこの瓢箪はいただこう」

 

 スバルは何の躊躇いも見せず転がった瓢箪を拾い上げ、まるで品定めをするかのように瓢箪を眺めている。

 

「かえ……せ……そいつは……」

 

 ──お前たちなんかが持っていいものなんかじゃない。

 

 その言葉は喉から出かけたまま胸の中に仕舞い込まれた。

 これは一種のエゴだ。そう言っている真太郎とて自分には向いちゃいないと言う自覚はある。アナザーライダーも良いところだ。むしろ何故シノビに変身出来ているんだ。

 けれども真太郎には譲れないものがある。あの瓢箪をノロイ党に渡したくはない。

 

「元気なものだ。生気がある男は嫌いではないぞ。上弦衆の男衆は老いぼればかりでな、お前ほどの若さを持つものも少ないのだ。どれ、手土産にお前を連れて帰ろうか」

 

「けっ……俺もついにモテ期到来ってか」

 

 強がりの減らず口も虚しく夜空に消えた。

 少しでも抵抗しようなら再び勢いよく踏みつけられる。手がぐちゃぐちゃになるぐらいに強く踏み締められたその手は徐々に痛みすらも失っていく。一頻り踏み切ったら次は背中だ。

 一発、二発と叩き込まれる踏みつけは内臓が圧縮されるような痛みと、肋骨が砕けるような音が聞こえてくる。

 

 それでも気絶しないのは鍛えたが故か。

 中途半端に強靭な自身を恨みたかった。

 

 

 かつん、かつん。

 

 

 けれども死期を悟ると存外五感というものは冴え渡るらしい。

 遠くから歩いている音が聞こえて来た。

 上弦衆が慌ててハルカと真太郎を回収しに来たのか。……ハルカをこの場で司令部まで転送しようなら即術の残滓を追われて終わりだ。

 

 確かに判断としては間違ってはいないが、生身の人間がスバルに刃向かった所で待っているものは死だ。

 やめろ、と声を上げようにも体が言うことを聞きやしない。だがしかし現れたのは──

 

 

「ん? お前は……怪忍ではないな?」

 

 スバルが足音のした方に視線を向け、怪訝な顔を見せた。

 真っ先に上弦衆ではなく怪忍だという単語を出してきたのはおそらく人ならざる姿をしているからだ。スバルが離れてようやっと苦痛から解放された真太郎は必死に、まるで芋虫のように身を捩らせる。

 そんな真太郎を他所に、足音の主はスバルの問いに一言も答えはしなかった。

 

「…………」

 

「その異形、上弦衆でもなかろう。何者だ」

 

「スゥゥゥゥゥ……」

 

 武道の呼吸めいた音が聞こえた。そして拳を強く握りしめたのか、骨が唸るような音すらも聞こえて来る。

 

「答えないか……ならば力づくでも聞き出すまでだ!」

 

 ヒュン、と刀が空を切る音がする。

 スバルの斬撃は目にも止まらぬスピードで繰り返され、剣圧が倒れている真太郎のズタボロとなった肌を嬲る。だがしかし、刃が通ったような気配は一切ない。

 

「フン!」

 

 低い声と共に、どむっ! と何か鈍い音がした途端、スバルの悲鳴が木霊した。

 

「ぐぁっ!? ばっ……莫迦なッ!?」

 

 ようやっと体がスバルと足音の主の方に向けられたと思ったらスバルは明らかに足音の主に押されているようで、腹を押さえながら後退りしている。

 先程の鈍い音は腹に強烈な一発を叩き込まれたからのようだ。

 

 だがしかし、そんなものは瑣末なことであった。

 

「……まさか……そんな」

 

 それよりも何故──何故、

 

 

 スバルを圧倒している足音の主。

 それは深緑の体色を持つ筋骨隆々の姿を持ち、背中の肩甲骨から伸びるオレンジ色のマフラーのような羽がたなびいている。腹部には目のようなベルト型の器官が見える。

 頭には真紅の複眼、金色の短いツノが鼻から額に向かって伸びY字に分かれている。

 それだけ言えば知らない者からすれば異形の化け物とはっきりと言えよう。

 

 だが待って欲しい。この姿には真太郎には見覚えがあった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……どうしてアナザーアギトがここにいる!? 

 

「アナザー……アギト」

 

 仮面ライダーアギトの終盤に現れた木野薫という男が変身する、もう1人のアギト。

 2001年には既にとある出来事でその命を散らしている。もっと言うならそもそも存在するはずのない虚構の存在、存在するはずのないものがそこにいた。

 

 アナザーアギトは最低限の動きでスバルの攻撃をかわし、攻撃の余波で凍りつきかけたその身を力づくで砕く。その圧倒的なパワーと動きは間違いなく、真太郎の知るアナザーアギトのそれだ。

 その力は作中でもギルスとアギトすらも圧倒してみせた。常時必殺技発動時のアギトと同じ力なのは有名な話だが、本当だったのか。

 

 スバルのその際どい外見に対してなんの躊躇いも無く、鳩尾に一撃、顔面に裏拳を入れるのは無我の境地であるが故か。

 重戦車のような拳が、炸裂した途端アナザーアギトの踏み締めていたアスファルトがめり込み、スバルの体が紙切れのように吹き飛ぶ。衝撃で落ちた瓢箪は真太郎のそばまで転がり落ち、それに一瞥すらもせずアナザーアギトは吹っ飛んだスバルにじわじわと距離を詰めていく。

 

「なんなんだ……貴様は」

 

 先程の余裕が嘘のようだった。

 何しろシノビを一方的に叩きのめしてハルカすらも動揺させて戦闘続行困難な状態まで追い込んでいたのだ。勝利は間違いなくスバルの方にあったはずだった。

 それなのに突然現れた異形に何もかもご破産になりかけているとなれば「なんなんだお前」とも言いたくもなる。

 

「ケリをつけるか……」

 

 やはり返事はせず、一人ごつとカシュン、と金属が擦れるような音ともにアナザーアギトの口が開きクラッシャーを露わにする。怪物が笑っているようにも怒っているようにも見えるその様は対峙した相手に恐怖心を齎すこと請け合いだ。

 足元に緑色に光るアギトの紋章が浮かぶとアナザーアギトは構えをとりそして──

 

 ──こいつ、トドメを刺すつもりか! 

 

「すぅぅぅぅぅぅぅ……ぬぅん!」

 

 一方的に殴られたスバルに避ける余力はない。

 空高く跳躍したアナザーアギトはそのまま右脚を突き出す。この名前は真太郎もよく知っている。

 アサルトキック。

 アナザーアギトの必殺技で、威力は40t。原典においてはギルスこと葦原涼を致命傷にまで追い込んだ殺意の高いライダーキックだ。まずい。危機を察知したハルカが咄嗟に動くが間に合わない。真太郎に至ってはもう論外だ。

 

「はぁぁぁぁぁぁ……フン!」

 

「何だ、お前はッ! 一体何なのだ!」

 

 弾丸のようにキックの姿勢で飛んでくるアナザーアギトに恐怖したのかスバルが叫ぶ。そして雹を瞬時に凍てつかせ、即座に地面から掬い上げるように斬り上げた。──途端に、メキメキと音を立てて氷が地面から生え出てきた。

 スバルは氷系の忍術を得意とする。瞬間的に即席の氷の壁を作るのも造作もないのだろう。

 

「スラァ!」

 

 すると。

 氷の壁はアサルトキックを1秒だけ──堰き止めてしまった。

 1秒超えた途端、稲妻のように亀裂が氷に走りパリンと音を立てて砕け散る。このまま直撃すれば内臓破裂もあり得るだろう。

 流石にスバルもそんなことは織り込み済みだったようで──

 

 

 アナザーアギトが着地した時にはもうすでにスバルの姿は跡形もなく消え失せていた。

 氷の壁で一瞬の隙をついて逃げたようだ。流石にアナザーアギト相手に泥試合をする気にはならなかったらしい。

 

 

 一人残されたアナザーアギトは、ゆらりと着地姿勢から直立姿勢に戻り倒れ伏した真太郎の方を見ていた。

 

「なんで……貴方が……」

 

 本来シノビ共々存在はしないはずのもの。

 この不条理にはきっと理由があるはずだ。けれども彼は答えを教えてくれはしない。緊張の糸が切れてしまった真太郎は安堵と疲労で視界が黒に染まっていく。

 最後に見たのは、背を向けて光と共に消滅していくアナザーアギトの姿だった。





Q:結局あのアナザーアギトは2019年にいたファンボーイの方じゃなくて木野アギトの方で確定なん?
A:一応木野アギト

Q:アナザーアギトなんでいんの?
A:禁則事項。前回の上弦衆を追い払ったウィザードと同じとだけ。
 プロット作っている時は共通項の兼ね合いで桐生レンゲルだった。ただかなりわかりにくいので没。

Q:それはそれとしてこの作品恋愛要素あるん? ヒロインおるん?
A:え?
Q:えっ……





 次回『その正体……』


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その正体……

 前々からやっていることなのですが。
 世界観の味付けのために2008年当時の出来事とか文化を調べたりしているとき、まるで異世界のようにも思えてくるときがあります。

 遠くまで来てしまったような、そんな気分。


 あれから数日が経った。

 ノロイ党も先程の戦闘で深手を負ったのか動きはまるでない。思えば幹部クラスと瓢箪を失った挙句、ハルカとシノビを始末しようとした者が正体不明の存在(アナザーアギト)にボコボコにされれば「そりゃそうよ」という感想しか出て来なくなるわけだが。

 タカマル自身もスズモリの報告書を片手に大きくため息をついた。

 

「ずっとため息吐きっぱなしですね……」

 

 そんなタカマルの様子を見かねたスズモリがコンソールを叩く手を止め、壁際でため息吐きまくっているタカマルに声をかける。

 自覚はなかったが大体15分おきのペースでため息を吐かれては放っておけないのが人情というものである。

 

 あれ、そうなのか? 

 スズモリの指摘に少しばかりきょとんとしてから小さく頷いた。スズモリがそういうのならばきっとそうなんだろうという少し投げやりな肯定だった。

 

「かもしれない。深紫の忍びの正体が()だったって事もあったし、スバルって閃忍のこともある。そしてノロイ党でもない異形の存在の出現。あれ以降ハルカさんも心ここに在らずって感じだからね」

 

「……昨日は色々あり過ぎましたからね。あの戦闘で大蛇丸も行方をくらまし現在捜索中ですし」

 

「出来ればこっちで確保したかったんだけどね。深紫の忍びの瓢箪は確保出来たのは不幸中の幸いだったけれど」

 

 ノロイの力を受けた者と仮面ライダーと呼ばれる力。

 それらはどういう訳か相性が良い。幸い大蛇丸は下っ端だったのもありこの程度で済んだが、この二つの力がもしこの先ノロイ党のもっと強い敵が持ったならば……そんなことは想像もしたくはない。

 けれども時間経過と共にノロイ党からは強力な存在が結界の影響を克服して現れてくるのもまた事実なわけで。

 

「タカマルさんには話してもいいかもしれませんね。丁度ここには僕らしか居ませんから」

 

「ん? どうしたんだい?」

 

 スズモリの少年特有の高い声から一転して潜ませるような低い声になったところでタカマルは顔を寄せ神妙な顔で耳を傾ける。

 

「タカマルさんがここに来てから……深紫の忍びが現れて、斉藤真太郎がタカマルさんの護衛について暫くしてから彼には監視が入っていました」

 

 その話は既にアキラから話は聞いていた。

 元々斉藤真太郎という男が悪辣なエロゲーの竿役みたいな男だったのに、突然エロゲーの親友枠レベルの3枚目に堕ちてしまったという話もだ。

 

「僕も昔の彼をあまり知りませんので何とも言えませんでしたが、これはとある休日の彼の活動記録になります」

 

 デスクの上に置いたタブレット型端末をタカマルに渡す。そこには隠しカメラであろうもので捉えられた斉藤真太郎の自室が映っていた。

 一室で敷かれた布団の中で斉藤真太郎がスヤスヤ眠っている。

 

「盗撮だな……これは」

 

 ちょっと罪悪感こそあったが、彼の日常は少しばかり気になるものもあった。

 意外と彼は休日に何をしているかあまり話したがらない男なのだ。

 

 数秒ほどの間を置いて頭の上に置いた目覚まし時計が鳴り始め、寝起きのまとまらない思考のまま乱暴に叩くようにアラームを止めると、ゆらりと起き上がり始めた。朝は弱いらしい。

 しばらくフラフラしてから、棚に置いてあったラジオの電源を入れた。

 

『グッモーニン! おはようございます! 閂RADIO、今日もお相手はわたくし──あなたの隣人サイ・蔵座(ぞうざ)! 清々しい朝ですね、そんな一日の始まりに相応しい曲です! 今朝の一曲はこちらから……! はじまりの歌!』

 

 ラジオから流れ出るダンディな男の声。

 閂市名物の閂RADIOだ。次に流れ始めた曲は今年(2008年)の新春ごろにリリースされた記憶に新しい曲だ。

 

 パンをトースターで焼き、待っている間に洗面所で顔を洗いはじめる。

 よくある独身男性の朝だった。こんなもの見て毒にも薬にもならないだろうとは思いもしたが生憎見ている対象は謎の男、そう斉藤真太郎である。

 

 朝ごはんを食べ終えた斉藤真太郎は、ラジオの音声をBGMに一頻りケータイを弄っていた。インターネットでもしているのだろうか。

 そこまでケータイでネットをしてはパケ死が怖いがまぁ、一応彼の実家は金持ちなので特に問題はないだろう。

 

「何見てたんだ?」

 

「わかりません。通信キャリアから情報を洗っても当たり障りのない内容ばかりでした。本当に……普通なんです」

 

「普通?」

 

「普通の上弦衆のスタッフの日常の延長線にしかないんです。この後外出しているんですが……」

 

 スズモリが動画ファイルを切り替えさせると、次は喫茶店の監視カメラとなった。そこには制服を着た斉藤真太郎が注文を取っている。

 にこやかな笑顔や動きが板についており、一日二日始めた人間の動きでは間違いなくなかった。

 

「アルバイトしているのか」

 

 意外と言えば意外だ。

 何せ親が親なのでそのようなことをする必要はまるでない。上弦衆としての給料だってあるはずだ。ただタカマルの知る『彼』らしいと言えばらしい。良くも悪くも小市民だ。

 

「彼自身、する必要はありませんからね。経歴上アルバイトをしていた形跡もありませんでしたし、ご両親との関係が悪化したというわけでもなさそうです。それに彼の口座の父親から贈られた莫大な貯金額にはほとんど手を付けていませんでした。上弦衆からの給料についても同様、生活費程度で、アルバイト代で遊興に当て込んでいたようです」

 

 やはり、アキラの言う斉藤真太郎と自らが知る斉藤真太郎のギャップが酷くなっていく。スズモリが次々と流していく映像の中には上弦衆の他部署で力仕事を手伝ったり、一人で焼肉をたらふく食ったり、一心不乱に一人鍛錬を行ったり、オロナミンCをぐびっと呷ったり、ガンプラを組んだり。

 

 どうしようもないほどに映し出される斉藤真太郎はタカマルの知る斉藤真太郎であった。

 ただし何度か、何者かに尾行を妨害されていた点を除いて──だが。

 

 何が斉藤真太郎を変えたのか。いわゆる仮面ライダーという奴か、それとも──そもそも仮面ライダーとは一体何なんだ。

 仮面ライダーと斉藤真太郎の豹変はほぼ同じタイミング。となれば関係を疑わずには居られないわけで。

 

 仮面ライダーとは一体。

 

「仮面ライダー。何なんだろうな」

 

 日本語と英語のハイブリッド。随分と珍妙奇怪な名前だ。

 ルー◯柴じゃああるまいし何なんだその名前は。マスクドライダーとかあっただろ。そんなツッコミも斉藤真太郎が眠っている以上その答えを知る者は──

 

「仮面ライダー……1971年4月3日に放送開始した特撮テレビ番組の主役の名前です」

 

 意外にも近くにいた。スズモリはタブレットを叩くと画面からダークグリーンの仮面を被った戦士の姿が映し出された。ピンクがかった複眼、そして頭から伸びる触覚。まるでその様はバッタを思わせる。

 赤いマフラーがたなびいており、それはまるで深紫の忍びを彷彿とさせた。

 同時に撮影スタッフの名前が次々と映し出される。40年ほど前だ、今となってはもうお爺さんだろう。

 1971年と言うとタカマルもスズモリも生まれていない。親が生まれているかどうかぎりぎりだ。

 

 

「確かに昔変な子供向け番組が沢山あったけどそれもその一つって感じか」

 

 一部の物好きによって掘り起こされたものもあれど歴史の陰に消えた子供向け番組なぞ掃いて捨てるほどある。

 その一つが『仮面ライダー』のようだ。

 

「えぇ。ただこの手の番組はたいてい半年は放送するものでしたが、この番組は撮影中の事故で半年も経たずして終了しています」

 

 近年動画サイトの隆盛で、チャージマン研! のように古い作品が何故か掘り起こされている*1傾向にあるが、これもその一つになるのだろうか。

 そんなタカマルの返しにスズモリは困ったような笑顔を浮かべる。

 

「はい。その為DVD化はされず。この映像そのものも辛うじて再生出来るVHSをジャンクショップを梯子して入手し、データ化したと言う形です」

 

「それは……頑張ったな……」

 

 そこまでやる必要あるか? と一瞬だけ思いもしたが、斉藤真太郎の謎を追う上では必要なことだ。

 仮面ライダー。あの斉藤真太郎の深紫の忍びから端を発した3人の戦士──大蛇丸の新緑の忍び、ハルカが出会い都市伝説となっている橙色の忍び、そして正体不明の戦士。

 直近で現れた戦士、斉藤真太郎曰くアナザーアギトの方はたしかにあの映像の仮面ライダーに似ているがあまりにも生物的過ぎる。似て非なる別物と言ってもいいだろう。

 

 それにしても40年近く前だからか映像が粗い。保存状態も劣悪だったようで走るノイズが開幕1分足らずで酷くなっていく。そしてナレーションが流れ始めた所で────

 

『仮面ライダー・本郷猛は改造人間である。 彼を改造したショッカーは世界征服を企む悪の秘密結社である。 人間の自由ををををををををまままままままままままままままもももももももももももももも』

 

 映像が──止まった。

 0.1秒の世界をループさせ牧歌的な歌声が忽ち騒音、雑音へと変わる。もう限界のようだ。仮面ライダーの姿を中心にノイズが走りその姿を曖昧にしていく。

 

「あれっ、おかしいですね……ちゃんと映るってお店の人が言ってたんですけど。データ化の時にトラブったのでしょうか……」

 

 スズモリが不思議そうに再生機能を弄るが依然として止まった映像が元に戻ることはない。保存状態が悪かったツケが今この瞬間回りに回っている。

 もうこれ以上何か得られるものはありそうになかった。

 

 あとは、本人の口から聞き出すしかないだろう。

 

「あれ、どこに行くんですか?」

 

 司令室から出て行こうとするタカマルに、スズモリが呼び止める。するとタカマルは振り向き口を開いた。

 

「彼の──()()()()()の所だよ」

 

 

 

 ◆◆◆◆◆

 

 

 

 

 鷹守ハルカにとって、斉藤真太郎という男は下衆という言葉がよく似合う男であった。

 時渡りで現代に行きついたばかりの頃、今のようにスズモリやアキラのいるノロイ党対策チームが結成されてはいなかった。

 

 まず結成前に行われたことは上弦衆の上層部との顔合わせだ。当然だ、文献こそあれど騙りである可能性も考慮したのだろう。

 上弦衆とて一枚岩ではないのだから。

 

 

 その上層部の中には斉藤儀助……出資者の一人と、その息子斉藤真太郎の姿もあった。

 アキラと出会ったのもその時期からだ。

 

 戦国時代と平成の世とでは生活様式も異なるものだ。

 言葉遣いもまるで異国の言葉のよう。更なる鍛錬を行いながらこの時代で生きていけるように学ぶことを絶やさなかった。

 

 とはいえど。数百年の時の流れというものは残酷であった。

 顔合わせから数ヶ月、違い過ぎる世界に悪戦苦闘するハルカのことを、事情を知ってもなおも奇異の目で見る者も少なくなかった。けれどもアキラのように味方をしてくれたものも沢山いた。

 

 その中に、斉藤真太郎という名の一滴の悪意が混ざり込んでいた。迷惑な話だが彼のお眼鏡に適ったのだろう。

 最初こそは生活も覚束ない自分を助けてくれる1人だと思いもしていた。だが、最初に特段悪意もなく好意を向けてきた上弦衆の一人をいともたやすく首を飛ばした。勿論、物理的にではなく社会的にではあるが。

 

 今思えばその上弦衆の一人が投げかけたのは告白だったのだろう。その時理解していなかったハルカは、彼の言葉をただ笑ってはぐらかすことしか出来なかった。

 だが斉藤真太郎は彼を『ハルカ自身に好意を向けた』それだけの理由で彼を追い詰めた。無論そんな建前では上弦衆とは言えど追い出せはしない。

 だが、斉藤真太郎という男は出資者の息子であるが故に、そして父親が彼にだだ甘だったが故にそう易々と逆らえるような人間ではなかった。

 

 そして好意を向けてきたスタッフはその後、『ハルカに肉体関係を迫った』『忍びとしての素質に欠ける』という名目で上弦衆を追放。ハルカも事実無根と否定したが無意味に終わった。

 追放から1か月後、駅のホームで自殺したと聞いたときは彼に少なからず怒りを覚えた。

 

 とはいえど斉藤家は上弦衆の資金提供を行っている以上、変に彼らの機嫌を損ねることは出来なかった。

 ノロイ党に立ち向かえる勢力は現状上弦衆しかいない以上出奔なんて真似も当然出来る訳もない。それに真っ当に使命のために仕事をするスタッフたちの姿たちがいるのもまた、現実なのだから。

 

 

 

 

 

 

 だが──それは斉藤真太郎を避けることが出来ないのと同義。

 暫定的に住処としていた宿舎で暮らしていたハルカのもとにあざ笑うかのように斉藤真太郎は現れた。当然、彼を無碍にすることは出来ず部屋に上げてしまったのが運の尽きだった。

 

「苦労しているな、鷹守ハルカ。ろくな龍輪功もせずによくもまぁやってこれたわけだ」

 

「……あなたには関係ありません」

 

 思わず邪険な返事をしてしまう。すると彼はそのことを意に介していないようで鼻で笑った。

 その時、タカマルと出会う前のハルカはまだ軽く触れる程度のものしか過去の頭領と行っていなかった。完全に操を捧げたのはタカマルからだ。

 

 それでも過去の頭領は快く許した。本当に身も心も預けられる者のためにとっておきなさい。と

 

「いずれ現れる頭領候補サマのために操を立てておく、とでも? 随分と見上げた忠犬ぶりだ」

 

 斉藤真太郎はハルカに詰め寄り、壁際まで追い込むと手をハルカのすぐ後ろの壁についた。

 

「お前……俺の女になる気はないか。俺はいずれこの上弦衆連中の次代の王となる男、使えないお前を護ってやることも出来る。それに次期頭領サマの前で恥をかくこともない」

 

 空いた手でハルカの顎を持ち上げ、その唇を近づけた。

 奪う、と形容した方が正しいだろう。強引に重ねられた唇にハルカは眼を見開いた。

 私は今──無理やり接吻させられているのか。

 頭の整理が追いつかずされるがままであったハルカは藻掻くものの斉藤真太郎も腐っても忍びだ。力一杯暴れ藻掻くハルカを抑え込んでいた。

 

「んっ……んんんんッ!?」

 

 やっとこさ離れた時に、ハルカの頭の中が一気に冷えた。

 この男、何をするつもりだ。私服の胸元に手をかけてきた時、やっとこさ自らに置かれている状況を理解した、今この瞬間、この男は自分を犯そうとしている。

 

「なっ……何をするんですかッ! くっ!」

 

 力の限りの平手打ちだった。

 パン、と乾いた音が鳴り響き斉藤真太郎の顔は横を向いていた。……そして、横向きの顔からでも分かるようにその表情を醜く歪ませ、再びハルカの方を向く。

 その表情はプライドを傷つけられた自らが被害者だと言わんばかりの表情であった。

 

「お前……自分が何をしたのかわかっているのか? これ以上盾突こうならお前がこの上弦衆を滅ぼすことになるぞ……! おい、聴いているのか……ッ!」

 

 鬼気迫る勢いでハルカに掴みかかる。

 斉藤家が離れれば上弦衆も大きく傾くこととなる。そんなことをすればノロイ党打倒の宿願が潰えてしまうこととなる。

 ならば自分の操程度、下衆とはいえ捧げても──

 胸元がはだけ、白い下着が露わになる。

 少しだけの我慢だ。暴れる体から力を抜き、抵抗をやめると斉藤真太郎はほくそ笑み、耳元で囁きかける。

 

「やっと諦めたか。大人しく上弦衆の次代の王になる男に貞操を捧げておけ。なに、お前は俺の好みの身体だ。永くそばに置いておいてやる」

 

 彼の吐息が耳をくすぐり、ぞわりと背筋が震えた。今思えば生理的な嫌悪があったのだろう。

 そんなハルカの怯えを他所に斉藤真太郎の手が彼女の下半身に伸びる。……次の瞬間だった。

 

 

 

 斉藤真太郎の体が、横殴りに飛んできた何かに吹っ飛ばされた。

 そのまま床を転がり壁にぶつかった所で苦悶の表情を浮かべる。明らかに何者かに殴り飛ばされたような様子にハルカは慌てて視線を殴り飛ばした側へと向ける。そこには──同じ宿舎に住まう男がいた。

 

「おい──バンバンガタガタとうるせえと思って調べて見れば随分とまぁ下衆な真似をしているじゃねえか。斉藤真太郎さんよ」

 

 助けてくれたのか。

 悪態をつくその男は、仕事は最低限やるが勤務中にパチンコに行くわ、キャバクラで女遊びをするわと上弦衆きっての素行不良とされる男だ。その名も──

 

「現世イサミ……!」

 

 忌々し気に斉藤真太郎はその男の名前を呼んだ。そう、今はもう斉藤真太郎にあらぬ罪と存在しない借金を押し付けられ追放された上弦衆の若き忍びの一人が、殴り飛ばした拳を開きひらひらと振って痛みを誤魔化していた。

 

 ……よそう、これ以上思い出すのは。最終的には斉藤真太郎は捨て台詞を吐いてから逃亡し事なきを得たとだけ。

 これだけは言える、あの男──斉藤真太郎は最悪だった。

 目的の為に罪もない者を理不尽に排除し、弱者を足蹴にするその人間性は上弦衆にいていい者では本来ないとすら思う。その結果、次期頭領に不安すら覚える始末だ。

 

 まぁ、杞憂に終わったのだが。

 

 

 

 あの出来事以来彼から何かをされることはまるでなかった。ハルカは極力彼を避けようと努めたのもある。

 アキラですら排除できない以上距離を取り続けるしかない。だが斉藤真太郎に異変が起きたのもそこからだ。

 

 

 

 閂市のノロイ党対策班が正式に結成されたとき、斉藤真太郎の名前があったときは心底落胆した。当然だこれから先陰湿な嫌がらせ、権力にものを言わせた悪行に見舞われると思うとノロイ党と戦っていけるかどうか不安ですらあった。

 だがしかし、斉藤真太郎が対策班と合流した時には既に現在の斉藤真太郎であった。

 

 周囲のスタッフたちも彼の噂は聞いていたようで少しばかり警戒していたが、ある日一人のスタッフからの聞いた話で耳を疑った。

 

「風の噂じゃアイツは碌でもないという話だったが真面目じゃないか。まぁ知識が無さすぎるのは少し問題だが……勉強する姿勢もあるしあとは我々の手で教えていけばいい」

 

 そんな馬鹿な。

 まさか現世イサミに殴られて反省でもしたというのか。

 

 実際、その疑念を裏付けるように斉藤真太郎は裏方の護衛役として立ち回り、こちらをどうこうしようという素振りは皆無であった。

 それどころかタカマルやナリカたちと親しくしており、『もんすたーはんたー』なるゲームをやる始末。

 

 不気味とすら思える豹変ぶりは、深紫の忍びの正体が明らかになったその時極まることとなる。

 これまで身を挺して助けてくれたのが斉藤真太郎だとしたら。──ハルカの知る斉藤真太郎ならばそれを出汁にして何かを要求していただろう。

 

 が、今日びに至るまで何もしてこなかった。それどころか勝ち目のない戦いで割り込み最悪死んでしまう可能性があったであろう攻撃からハルカを庇ったのだ。

 

 誰だ、あの男は──誰だ。

 

 

 

 

 はっきりさせなくてはならない。スバルのことも、何もかも。

 

 

 上弦衆司令室から、病室まで伸びる通路がやけに遠く思えた。迷っているのか、真相に近づくことが怖いのか。

 そんなハルカが奇異に見えたのだろう、通りがかった一人の男性スタッフが声をかけた。

 

「ん? ハルカ殿、どちらへ?」

 

 

 呼び止められたハルカはくるりと男性スタッフの方を向く。開こうとした唇が鉛のように重く感じられた。

 

 

「彼の、──()()()()()()()です」

 

 

 

 

*1
現実の話になるが2008年当時某サイト黎明期だったのもあり、上述のチャージマン研!や東映版スパイダーマンなどと言った作品が掘り起こされた。後の歴史に大きな影響をもたらしていることが、分かるだろう?(馴レーション)




 仮面ライダーもある意味シュタインズゲートみたいなネーミングではあるかも
 けれどアレが世に出るのにはもうちょい先なので例えに出せんかった模様


 次回『異邦人、斉藤真太郎』

 斉藤真太郎、迫真の四者面談。
 斉藤真太郎(A)のせいで身に覚えのない罪状を押しつけられるわ、タカマルに竿役扱いやらエロゲの親友枠扱いされるわ。見知らぬ天井で目覚めた彼の明日はどっちだ!
 


・ここまでの謎

Q:斉藤真太郎(B)について。アイツなんなん? なんで蓮太郎じゃないのにシノビに変身できとん? ジオウの延長線上ならアナザーじゃないんか
A:禁則事項につきあまり深くは話せませんが、罠を結構仕込んでます。
 あと別に本人じゃなくても加賀美とか京介、さらにはアナザーアギトの前例があるんで出来ないことはないんです。というか蓮太郎や鏡真司本人でもアナザー化しているんで何とも言えんのですアレ……

Q:そもそも真太郎が見てるあのスレッドってなんなんだ
A:禁則事項(ry。ただ、ちゃんと設定はあるのでこの先ちゃんと説明します。しますってば

Q:斉藤真太郎(A)はアイツ何なん?
A:凌辱ゲーあるあるの竿役であり爆弾。

Q:そもそもあの2008年って本当にハルカの世界なん? 原作通りちゃうやん
A:ハルカの世界ですが、コミカライズ要素も入っている上に、そもそもシノビが介入し、『仮面ライダー』という存在してはならないものが侵食してしまった時点でその前提条件はとっくに崩壊してるんで……

Q:なんで変身忍者嵐の要素が混ざっとんや。アレ仮面ライダーちゃうやん
A:小説版響鬼参照。それにアナザーシノビのデザイン元が……ね?


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アナザーワールド2008

 ついにiPhone14が出たわけですが、ここで世界観を深めるために一つ。
 皆様がよく使うであろう4G回線が開始したのは2010年代から。つまり2008年当時は3G回線が主流だったのです。
 で、iPhone12以降は3G回線を掴むことがほぼ不可能となっています。

 ……あれ?


 

 左右を見渡してもあるものは闇だけだった。

 自分がどこにいるのか定かではないような場所で俺はどうしてこんなところに居るのだろう。

 

 声を上げても誰も応えてくれはしない。

 無造作にポケットを漁っている自分がいる。困った時はスマホを弄ろうとしている。

 俺の悪い癖だ。

 

 ──俺? 俺の? 

 

 どうしてこんな事に疑問符が浮かぶのだろう。

 自らの思考に疑問を持つ自分自身に呆れながらもポケットの中にスマホがないことに気付く。

 

 頼る先もなくなった俺はただ一人歩く。

 

 おれは今何処へ向かっているのだろう。

 不気味な事に足音すらしない。聴覚が死んでしまったんじゃないかと錯覚する程に。

 

 

 けれども生憎聴覚はちゃんと生きていたらしい。

 ずずず。と何かが足元から這い出るような音がした。

 怖くなって早足になると、足が引っ張られるような感覚に襲われ、そのまま前のめりにすっ転んだ。

 

 痛い。

 

 派手に転ばされた俺は痛みを堪えながら身を起こす。すると次は背後から肩を掴まれ、仰向けに引き倒された。

 

 ──何か、いる。

 

 そう気付いた時にはもう遅い。

 ずずず、と音がして再び地面から何かが這い出てくる。右にも左にも、頭上にも、足元にも。

 這い出てきたもの──それは手だった。

 

 真っ黒な手だ。

 太い手から細い手、華奢な手とそれぞれ違う人格を持っているかのようにそれぞれおれの身体を掴むのだ。

 

【これは俺の◼️◼️だ!】

 

【お前は◼️◼️◼️ではない!】

 

【違う、この◾️◾️◾️こそ俺なのだ!】

 

【わたしの◾️返してよぉ!】

 

 次々と投げかけられる言の葉は呪詛にも似ている。

 抵抗虚しく引き摺り込まれ、ずぶずぶとその身体が床に沈み込んでいく。身体の隅々まで沈むと次は掴んだ腕たちがそれぞれ違う方向に俺の身体を引っ張っていく。

 

 僕は必死に「やめろ」と叫ぶ。

 でも腕はそんな苦悶すらも意には介してなどいない。腕が千切れる、次は脚、次は脇腹、次は耳、目、次は鼻。視覚、聴覚、触覚、味覚、嗅覚、五感が引きちぎられていく。

 

 奪われていく。

 

 

 

 けれども不思議と穏やかな気分であった。

 いや、何もかもが奪われたので正確には()()だ。塗り潰されていく。

 塗り潰してくる()()には、情けなども無い。命乞いなんて無意味だ。

 ただただ、奪っていく。

 私の残り滓まで失われていく。

 

 

 ああ、おれは、僕は、私は。

 

 ◾️は一体、誰だ? 

 

 

 

 最後に見たものは、白い狐を思わせる仮面が◼️を見ていた。

 全身を覆う黒いスーツ。その上半身に白い装甲、下半身はオレンジ色のプロテクター。まるでWかビルドを横にしたような奴だ。

 バイクのハンドルを思わせるベルトを腰に巻いたそいつは片手に銃を持っていた。

 

 

 

 

 

 

 お前は、いったい。

 

 

 

 

 ◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 見知らぬ、天井。

 そんなサブタイトルのアニメがあったような気がするがアレはなんだったか。

 

 ──エヴァンゲリオンだっけ? 

 

 覚醒一番の思考がそんなしょうもない疑問だった。

 見慣れぬ木造の天井が、目を覚ました斉藤真太郎を待っていた。

 呑気にエヴァンゲリオンの事を考えてしまう程にうすらぼけた思考を現実に引き戻したのは真太郎の顔を覗き込む医師の顔だった。

 

 本来ならば痛むはずの手足に痛みはない。

 スバルに良いようにされ、意識すら飛ばすほどの痛みが先の戦いであったにも関わらず、だ。

 傷は消えているがこれはおそらくハルカの治療術によるものだろう。

 

 

 目を覚ましたことに気づいた医師たちが慌ただしく動く中、真太郎の思考は至って冷静だった。

 

 それにしても先程気になる夢を見たような気がするが。思い返してももやがかかったように判然としない。

 まぁ夢なぞ、どうせ思い出した所で何かの役に立つ訳ではないのだがそう切り捨てようにも心のどこかが拒絶を続けていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「気分はどうだ」

 

「……寝過ぎて頭痛いです、先生」

 

 アキラが現れたのはそれから数日後だった。

 一応立って歩くことは出来るが、安静にしろというお達しでこうして病室で寝っぱなしだ。

 こんなに寝たのは……いつぶりだっただろうか。

 

 開口一番に出た言葉が泣き言だったことにアキラは苦笑いしながら病室に入り、壁に立てかけられていたパイプ椅子を開きどすっ、と音を立てて腰掛けた。

 

「治療術で傷は塞がったとはいえ、完全に元に戻る訳ではない。変に動けばまた傷が開くぞ。しばらく我慢していろ」

 

 足を組んでいるせいでスカートの中が見えそうだったので、真太郎は一瞬だけ目を逸らした。

 余計なトラブルは御免だ。腰を掛け切った所で視界を合わせ直し、真太郎は思考する。

 どこから話したものか。

 瓢箪のこと、この体の主の方の斉藤真太郎のこと、ケータイはどこに行ったのか。

 というか何故拘束されていない? てっきりノロイ党メンバーの拘束のために用意したらしい独房あたりにぶち込まれるんじゃないかと思いもしたが。

 

 

 彼女は口を開いた。

 

「不思議そうな顔をしているな。何故、自分は拘束されていないのか。私物はどこに行ったのか……と言ったところか」

 

 その答えはただ一つ、と茶々を入れた瞬間脳裏でおかしな高笑いで自己主張を始めた自称神のゾンビ男を思考から追い出した。

 

 ──私は不滅だァァァァァ! 

 

 えぇい帰れ、檀黎斗。

 脳裏にこびりついた強烈な男の記憶。おそらくきっとこの仮面ライダーのない2008年から抜け出せなくても真太郎の中に在る、元いた世界の2017年の残滓は消えないのだろう。

 思い出の中でじっとしない檀黎斗と押し合いへし合いしながら努めて真顔で居続ける真太郎を他所にアキラは言葉を続けた。

 

「一つずつ説明してやろう。拘束されていないのは頭領命令だ」

 

 頭領というと当然ながらタカマルの事だ。

 

「彼が?」

 

 自らの耳を疑うような真太郎の返しにアキラは苦笑する。

 拘束しないのは悪手だ。斉藤真太郎なる男が変身能力を唐突に手に入れ好き勝手していたという事実は警戒すべき事柄であるだろうに。

 馬鹿野郎と思いながらも少しばかり罪悪感も浮かび上がるのだ。

 あの男は──城戸真司並のドが付くほどのお人好しだ。

 

「無論脱走するつもりならばその限りではないが。加藤──お前が、深紫の忍びが悪党ならとっくにスバルとの戦いから逃げている、と戦部は言っていた」

 

 ……ちゃんとタカマルなりの理由はあるらしい。

 それもそうだ。真っ当な理由無しの命令を聞くほどアキラも愚かじゃないのだ。

 

「加藤じゃなくて斉藤です。ちとお人好し過ぎやしませんか、一応影の者としてのお偉方なんでしょう?」

 

「そういうお前も影の者とは到底思えん戦い方だったがな。喧嘩慣れしていない人間の戦い方だ。私の知る限りではもう少しできるものだと思っていたのだが。まぁいい、これから訊く事が山ほどある」

 

 売り言葉に買い言葉。

 らしくない者とらしくない者が相対したことによる言葉の応酬は真太郎を黙らせるには充分すぎた。

 

「率直に訊こう。お前は何者だ」

 

 

 

 

 

「……斉藤真太郎です」

 

「はぁ……」

 

 真太郎の返答は期待外れだと言わんばかりにアキラが派手に溜息をついた。

 とは言えどここで「聞けぇ! ワシはこの星の人間ではない」とか、「僕はね人間じゃないんだよ、ナントカ星雲から来た以下略」などと言う失言、茶化しを入れようならステレオタイプなトレンチコートを着た男に連行される宇宙人の画像みたいなことになること間違い無しだ。

 故に自らの認識を正直に言う他ないのだ。

 

 おれの記憶が正しければ間違いなくおれは斉藤真太郎に違いない。

 が、今置かれている2008年の斉藤真太郎という現状は、これまでに累積された記憶──つまり2022年の斉藤真太郎の人生とひどくかけ離れていた。

 

 

「いやすっとぼけてるんじゃなくて斉藤真太郎なんですって。気づいたらそうなっていたというかなんというか」

 

 どういうメカニズムでここにいるのか。こちらが知りたいぐらいだ。

 気付いたら2008年にいて、変身能力を持っていた。そんな馬鹿馬鹿しい話が罷り通るならばきっとその世界は狂っているに違いない。

 

「……いや、案の定と言うべきか。元々お前自身には期待はしていなかったがここまでとは思わなかったのでな。いつからだ、いつからの記憶ならある?」

 

 想定はしていた。だからアプローチを変えるのは正しい判断だ。記憶があるのはまだノロイ党が本格的に活動し始めたタイミングからだ。

 それ以前の記憶はサラリーマンとして絶賛社畜していたぐらいで。

 

「──それは」

 

 言葉を紡ごうとしたその矢先だった。

 ガラリ、と引き戸のローラー音が部屋の片隅から聴こえてきた。

 

 

 

「すみませーん」

「失礼します……」

 

 やって来たのはハルカとタカマルだ。

 まさか先客まで予想していなかったのだろう、タカマルの目が丸くなった。

 

「アキラ先生……どうして」

 

 そんな来客に何を思ったのか、アキラは顎に指を当て少し考え込む。タカマルの質問は耳には届いていない様子だ。各々が真太郎のベッドまで歩み寄り、先に口を開いたのは──ハルカだった。

 

「先の戦いでは……ありがとうございました」

 

 やはり喉奥に小骨が引っかかっているようなら物言いだ。やっぱり何かやらかしたのだろうな、と。覚えがないから多少ホラーに思えるが、この2008年の世界の斉藤真太郎にも斉藤真太郎の人生があったのだ。何も不思議なことではない。

 

 ハルカに限らず上弦衆のスタッフ自体、最初の数日間も妙によそよそしい態度をとっていた。

 多少なりとて馴染むことができたのは、タカマルとアキラのお陰でもある。

 

「ううん、大丈夫。お礼は……いらない」

 

 何が大丈夫なのか、言っている真太郎も分からないがお互い死んでなければ何とでもなる。

 今回の場合双方無事だったのだ。その事実があるだけで充分だ。

 ハルカはそれ以上何も言わなかった。

 

「それにしても驚いた。海東さんが深紫の忍びだったなんて」

 

「……斉藤です」

 

 間を持たせようとタカマルが口を挟む。

 今置かれている状況はきっと、津上翔一がアギト終盤で置かれたそれだ。

 けれどもそれをふざけてはぐらかすほどの胆力も無ければ、小沢管理官のような理解者は望めない。

 

「ずっとハルカさんや色んな人を助けていたんですね」

 

「…………」

 

 あぁそうだ。とも違うとも言えるほどの自信も持ち合わせてもない真太郎はそのまま黙ったまま肯定も否定もしなかった。

 あぁして戦っていることが自分が「ここにいる」理由なのだと信じていたから。そしてただ人々があのノロイ党にいいようにされるのが気分が悪かったからそうしていたのだから。

 だから胸を張ってふんぞり返ることは出来なかった。

 

 

 それから少し考え込んでいたアキラが顔をゆっくりと上げた。

 

「ふむ。ある意味ではちょうどいいタイミングか。予定より早いが役者は揃った……」

 

 役者は揃った。ハルカと真太郎、タカマルの事なのは今この状況が示していた。

 パチン、と指を鳴らすとハルカによって丁寧に閉められたドアが大きく開け放たれガラガラと音を立てながらホワイトボードを押す黒子のような者たちが病室に現れた。

 ホワイトボードには【ドキドキ⭐︎ナイショの斉藤真太郎暴露大会! in医務室】と殴り書きされている。

 

 どうあがいても吐かせるつもりだったらしい。黒子がそそくさと医務室から立ち去るのを見送りながら真太郎は話すべき事柄と話すべきでない事柄を頭の中で整理する。

 事実今置かれている状況は複雑怪奇。1から100まで話そうなら混乱必至だ。

 言葉を選ぶ必要がある。まぁ、選べる能力があったら苦労はしないけれども。

 

「佐藤良太郎。お前には一からすべてを話してもらう」

 

「あの……混ざってます。何がとは言いませんが混ざってます」

 

 真太郎のツッコミはどこ吹く風。何故そう毎度毎度スルーされるのか分かりはしない。タカマルが名前の件とは全く無関係な話題を紡ぐ。

 

「どうして仮面ライダーなんてものを知っていたのか。後あの変身能力をどこで手に入れたのか。色々腑に落ちない点が多すぎる。何度も助けてくれたのは……凄くありがたいんだけれども」

 

 タカマルがそう思うのは自然なことだ。

 誰も好き好んで得体の知れないヤツに大切な人の部下を預けようとは思わない。斉藤真太郎という存在は既に得体の知れないヤツの箱にぶち込まれていた。

 

「ここで話さないのは勝手だが……そうなればそれ相応の対応をしなくてはならなくなる」

 

「アキラ先生。そんな脅しは……!」

 

 アキラの対応は正解だ。それどころか今置かれている状況は温情通り越してぬるま湯なのだ。大蛇丸が同質の力で変身した今、ノロイ党との繋がりも疑う必要もある。けれども、タカマルはそれを許しはしない。

 場の雰囲気が悪くなりかけた瞬間、流石に見かねた真太郎はわざとらしく声を上げた。

 

「はいはいはいはい! 今から話します! 話しまーす!」

 

 そのわざとらしい声で3人の注目が集まり始めると、真太郎は大きく深呼吸した。

 ──こう言うスピーチというか、発表系苦手なんだよなぁ……

 妙にプレッシャーのかかる環境下だが、まだアキラとタカマルがギスギスするよりはマシだろうと思いつつ言の葉を紡ぐ。

 

 

 

 ◆◆◆◆◆◆

 

 

「俺は数ヶ月前、ただのサラリーマンとして社畜生活をやっていました。上弦衆なんてものも、閃忍なんてものも知るわけがない。あの瓢箪の力なんてものも持ってなどいなかった」

 

 真太郎の朴訥とした話にタカマルは必死に耳を傾け頭の中で状況を組み立てていく。話が本当ならば少し前までこの男はボンボンでもなんでもなくただの一般人だったと言うことになる。

 事実、これを聞いていたタカマルも少し前まではノロイ党なる集団も閃忍なる存在も知らないまま生きてきた。表向き学校の保健室に常駐しているアキラをはじめとした周囲は既に『来るべき日』の為に準備をしていたようだが。

 その点で言えば真太郎には少しばかり親近感を覚えた。ハルカもアキラも困惑し切っているのは元々斉藤真太郎が『来るべき日』の為に準備していた側の一人であるからだろう。

 

「本当に何の前触れも無かった。大体戦部君が正式に頭領になった日にいつものように帰途についたところで……俺は突如──『そこにいた』。そこはノロイ党などという連中が暴れ散らかしていて、そこに閃忍が──鷹森さんが戦っていて、俺は知らない間に瓢箪を持っていた」

 

 あまりにもあんまりな話であった。真偽はどうあれ、こうやって集まって喋らせている行為は無意味だと。

 言外にそう訴えているようにもタカマルには思えた。アキラは立場上当然疑うだろう。ハルカは……どうだろうか。隣にいるハルカに視線をやるが、その表情は晴れずこれまで見たことのないような目をしていた。

 ノロイ党と対峙している時のようなものとはまた違ったような、死ぬほど苦手な食べ物をお出しされた人のような目だ。

 

「瓢箪の使い方は何処で知った?」

 

 このまま押し問答始めても無駄だと判断したか。アキラの切り替えは早く次の質問へと移る。

 すると即答で飛んできた返答は──

 

「勘です」

 

 酷く身もふたもない言葉だった。

 成る程勘なら仕方ない。

 

 ──んな訳あるか! 

 

 危うく納得しかけたが、あまりにも理由が雑過ぎやしないか。

 嘘を言うな、と詰めることは簡単だろうがアキラは敢えてそう言ったことはせず淡々と話を進めていく。

 

「その勘の根拠は仮面ライダー、とやらだからか。仮面ライダーと言うのは1971年に打ち切られた特撮番組だ。成人とはいえど20代前半の若造がなぜあれを仮面ライダーから大きくかけ離れているのになぜ断言した」

 

 問題はそこだ。

 オタクならばもしかしたら、最近隆盛を極めている動画サイトで知ったのだろうという発想が出る。しかしチャージマン研! のようなおかしな流行りをしているなんて話、それなりにネットを嗜むタカマルも聞いたことがない。

 斉藤真太郎がその手のオタクだった。と見るのが自然だろうがやはり腑に落ちない。

 まるで無から生えてきたようなものに不気味さすら覚える。アキラの疑問に対する返答は思った以上に素っ頓狂なものだった。

 

「……俺の知る世界では、仮面ライダーは打ち切られてない。一旦の休止期間こそ挟みましたが、2000年からずっと毎年日曜朝に放送を続けている。あの俺の瓢箪の力も最新作の仮面ライダー。仮面ライダーシノビの力なんですから。大蛇丸の持っていたものもおそらくそれと同質の力だから断言したんです」

 

 この人には一体何が見えているんだ。幻覚でも見ているのだろうか。日曜朝にやっているものはポケモンサンデーとかなら知っているが仮面ライダーが放送しているなんて事実はない。

 加えて仮面ライダーはバッタをモチーフとした緑色のヒーローのはずだ。

 これまで見てきたあの紫色は明らかにバッタとはかけ離れていて、まるで別物とすら思える。あの姿から仮面ライダーを連想するなんてことはあまりにも無理がある。

 あの深紫の忍者が仮面ライダーです。なんて言おうなら正気を疑われる。全身装甲でマフラーをしているぐらいしか共通項がないじゃないか。

 

 何度も繰り返すようだが1971年に打ち切られて終わったようなものがシリーズ化なんてされるのか。いくらなんでもあり得ないだろう、そんな話。

 まるで狐にでも化かされているような気分だ。

 

「……何の前触れもなく気付いたらそこにいた。力も持っていたと言われて納得すると思うか? 挙句マルチバース理論まで持ち出したときた」

 

 追撃で投げかけられるアキラの指摘はごもっともとしか言えなかった。

 疑うこと前提で見ていることにも問題はあるだろうが、これで納得してくださいというのには無理がある。胡乱の塊のような話だ。それはそれとして……

 

「「まるちばあす理論?」」

 

 タカマルとハルカの疑問符たっぷりな声が重なりこの部屋の中を木霊した。

 しれっとアキラは言ってのけたが慣れない単語だ。真太郎はケロッとしているのは既にこの理論とやらを理解しているからか。

 そんな二人の反応にアキラは「しまった」と言わんばかりに大きくため息をついた。

 

 それから無造作にマジックペンのキャップを抜き、ホワイトボードに殴り書きを始めた。

 まず書いたのは雑な棒人間。次にフキダシを出してそこに「のどがかわいたなー」と書きこむ。

 

「なんすかこれ」

 

 要領を得ずタカマルは口を開くとアキラは構わず言葉を続けた。

 

「戦部、お前は自販機で何を飲むか迷ったことはあるか」

 

「そりゃ迷いますけど」

 

 当然のことをなぜこんなにもシリアス顔で聞かれているのだろう。

 とはいえ、そこに何かあるのだろうと思いながら疑問は挟まず話の続きに耳を傾けた。

 

「この暑い中、もし仮にスポドリとオレンジジュースで迷った結果スポドリを選んだことにしよう」

 

 棒人間の隣に右斜め上と右斜め下に伸びる矢印が書き上げられる。矢印の先にはスポドリを買った未来。オレンジジュースを買った未来。と括られた◯が殴り書きされる。

 

「未来というものは選択の連続だ。もしもオレンジジュースを選んでいたら? もしもそもそも飲み物を買わずに家で飲もうとしたら? そこで選んだ選択肢が未来の行動を変えていく。そんなもしもが積み重なって並行世界。つまりマルチバースというものが成立する。他の身近なもので言うならハルカがこの時代にやって来なかったら? とかだな。そうなっていれば戦っていたのは現代の閃忍候補であるナリカだっただろう」

 

 これではまるでエロゲーの分岐だ、とタカマルの脳裏に無数の遊んできたエロゲーのシナリオチャートが浮かぶ。

 ヒロインAを選んだ場合と、ヒロインBを選んだ場合展開が異なってくる。それをもし今の斉藤真太郎に適用させるなら「仮面ライダーが打ち切りにならなかった場合」ということになるのか。

 そんなもしもの世界からやってきたのがここにいる斉藤真太郎と言うことになるのか。

 

「もしも……」

 

 何を思ったのか呟くハルカの瞳に影が差す。恐らくスバルのことを考えているのだろう。

 戦国時代にて追い込まれて2008年に逃亡しようとしたノロイ党を追う、力が不完全だった頃のハルカを守る為にスバルが囮になり結果、ハルカは2008年に現れ、スバルは捕えられて寝返ってしまった。

 もしもハルカが逃げずにスバルと共に戦っていたら。

 

 そんな可能性がタカマルの脳裏を走る。だがその先に待つものは──

 

「現在、タイムスリップの概念はあれど並行世界の概念は実証されていない。あくまでこのもしもというのは理論上の話だ。だが問題はそれだけじゃない。お前の言うことを信じるならばフィクション上の存在であるはずの力がどうして現に実在している? まさか並行世界のなりきりセットと言うまいな?」

 

 そのアキラの語りに真太郎の眉間に一瞬だけ皺が寄ったような気がしたが、すぐ真顔に戻っていた。

 余計に話がこんがらがってきたが、今の斉藤真太郎、タイプBが仮面ライダーが打ち切られていない並行世界から来たとしてじゃあその力はなんだ、という話をしているのはなんとか理解は出来る。

 

「分かりません。……俺の知る限りそんな物騒なオモチャなんぞありません」

 

 首を横に振る真太郎。

 確かにあんな人知を超えた力を子供に持たせたら何が起こるか分かったものではない。当然あの瓢箪は『誰かが何かしらの、おそらく何者かと戦うという意図を持って』作り上げられたものとなる。

 そんなものが無から生えてきたなんてことはあり得ない。斉藤真太郎が知らないならば()()()()()()()()()()()()()()

 

 当人が自覚しているかしていないかはさておいて彼の後ろには何かが『いる』。

 

「次にこの世界に元いたお前はどこにいるんだ。何処に消えた?」

 

 今の斉藤真太郎タイプBが並行世界の別人として存在するのなら、タイプAもこの世界のどこかに存在するはずだ。どうして連絡のひとつも寄越さず行方を眩ませているのか。

 斉藤真太郎が喋れば喋るほど事態がややこしくなる。当の真太郎もややこしくなっている現状にひどくげっそりとしながら口を開いた。

 

「分かりません。納得しないのは分かるんですけど、ただ俺に自白剤ぶち込んでも拷問で半殺しにしても結局出てくる答えは一緒です。分からないんです……寧ろ、俺が知りたいくらいです」

 

 自白剤、拷問。その言葉を聞いた瞬間、冷たい鉄のような何かが背筋を撫でるような感覚を覚えた。

 タカマルがアキラに牽制するように目配せをする。流石にそれは勘弁してくれ、と。

 

「……そうか」

 

 そんな想いが伝わったのかアキラはあっさりと引き下がった。というかこれ以上追求しても時間の無駄だと思ったのだろう。だが──

 

「お前の持っていた瓢箪については、悪いがこちらで調べさせてもらう。お前の奇怪な現象のことも分かるかもしれないしな」

 

 そこで終わらせないのがプロのやり口というものだ。このアキラの言葉は当然斉藤真太郎の出自を調べるためだけのものなどではない、研究室で瓢箪の解析をしているという話はアキラ直属の部下から聞かされている。

 上弦衆としては確かにあの力は喉から手が出るほど欲しい筈だ。もしも解析し切って量産出来たとしたら。

 これまでノロイ党に対する対抗手段が閃忍だけだった。そんな前提条件を根本から瓦解させてしまうような存在を量産してしまえばノロイ党打倒の宿願は果たされる。ハルカがこれから先苦労することはなくなるのだ。斉藤真太郎だって。

 

 これだけなら深紫の忍びの力は魅力的にも思える。

 けれどもタカマルと同じ予測をしているであろう真太郎の表情は晴れる様子はまるでなかった。




 冒頭に出てきたのは言うまでもなく彼。
 ハッピーバースデー、ギーツ。


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Kの襲来/オレたちのスタート2008

 キバットリビア風に、2008年にまつわる音楽系のお話をひとつ。

 一部界隈の間において非常に有名なクォDA PUMPには大別して1996年からいる古参メンバーと2008年からいる新メンバーの2種類が存在している。しかしその古参メンバーの脱退などもあり現在リーダーを除く全員が2008年に加入したメンバーとなっている。

 OQのラストでソウゴと対話していた彼ら(SOUGOに次の主役と持ち上げられていたクォツァー構成員)は2008年の新メンバーのみとなっていることを考えるとちょっと寂しいものを感じますね……


「ちょっと見てみたいかな、本に書いてない――お前の未来」


 それからと言うもの、何か得られるものもろくすっぽ無いと判断したか意外とあっさり真太郎は釈放された。

 が、当然の如く今置かれていた仕事は取り上げられ現在絶賛社内ニートだ。

 表向きは体調不良。という事になっている。

 

 当たり前だ。

 不安要素の塊を無理してでも運用したいとは上弦衆も思うまい。

 

 けれども全てを取り上げられた以上、どうしようもなかった。

 スマホ(もうご存知だろうが、この世界の人間にはガラケーに見えるらしい。何故だ)も瓢箪も失った以上、彼らからの助力は受けられないし手持ち無沙汰となったまま街中を彷徨っている。

 

 

 もう気づけば陽は沈みきっており、居酒屋(おそらくぼったくり)の客引きが暇そうな通行人を狙って声をかけている。

 

 ふと視線を変えると街中に置かれたデジタルサイネージが仰々しく輝き、その輝き中で2008年当時の女優が意味ありげに微笑んでいた。

 学生たちの今日の部活について愚痴る声、サラリーマンが電話しながら目の前にいないはずの相手に「申し訳ございません」と頭を下げている。

 

 

 真太郎はただ歩く。

 通り過ぎゆく、この町が蜃気楼が見せる幻のようにも見えた。

 2022年を生きていたのに2008年の町中を歩いている。その事実が現実と意識をひどく乖離させていくのだ。

 今はここに生きているのに、まるで他人事のように。

 

 2008年の頃の自分はどんなふうに生きていたのだろう。

 昔タイムカプセル埋めたような気がする。

 その時の手紙は確か未来はどうなってますか、とか元号はどうなってますか。なんてことを書いた気がする。

 ()()()()()()()()()()()()()()

 

 まぁいい。

 もしも。もしも2008年の幼い頃の自分が今の自分の境遇を聞いたとしたらどんな顔をするだろうか。

 

 並行世界の過去に飛んで放送前の仮面ライダーに変身してますなんて言おうならどこかのトランザ様と同じ病院へ行くことを薦められるに違いない。

 まぁそれももう無いわけだが。

 

 

「……ん?」

 

 人混みの合間に誰かの姿がふと見える。

 しばらく人混みのノイズで判然としないものだったが、歩を進めれば進めるほど見知ったものとなっていく。

 赤みがかった黒髪の青年。見知った顔に真太郎は一気に肩から力が抜けた。

 

「散歩ですか」

 

「えぇ。現在絶賛社内ニート中なんで」

 

 戦部タカマルだ。

 タカマルの問いかけに真太郎は冗談めかして言い返した。事実何もやることを失った。

 なんやかんやで異世界同然の場所で自分が自分でいられたのは『役割』があったからだ。

 シノビとしての『役割』と、上弦衆の忍びとしての『役割』。

 そしてスレッドと虚無僧という『導き手』。

 

 これらがあったからこそ、この異世界同然の2008年を走ることができたのだ。

 これは命綱だったのか、補助輪だったのか。

 

 それらを失えば後は何もない。

 元の世界、元の時代ならば会社という居場所がある。友達がいる。

 けれども今の斉藤真太郎にはそれが殆ど失われている。そんな真太郎はタカマルと街の中を再び歩き出す。

 

「いいじゃないですか。ニート。これまで頑張ったんですから休んだっていいじゃないですか」

 

 休んだっていい。

 が、そうは言っても一人でハルカに丸投げなんてしていいのかという躊躇いが待ったをかける。

 特に向こう側。ノロイ党が仮面ライダーの力を行使してしまった以上は。

 

「定年迎えたお父さんみたいですよ、それ。俺はまだ社会人歴一桁なんスけどね……」

 

「お父さん、定年までご苦労様。赤いちゃんちゃんこ用意しましたよ」

 

「おい」

 

 明らかなボケに真太郎はツッコミを入れる。

 シノビの正体がどうであれ変わらず接してくるタカマルに真太郎の先程までの疎外感はいつの間にか薄らいでいた。

 先日までシノビとしての日々の活動やら何やら根掘り葉掘り問い詰められていたこともあってどれだけ気を楽にしたか。

 

「あんな事があったにも関わらず、頭領殿はいつも通り。普通ビビったりしないんですか?」

 

 恐れ畏まったりする様子はカケラも見当たらないタカマルに真太郎は苦笑いで投げかける。

 勿論一番楽な態度ではあるが、理由が知りたかった。

 するとタカマルは一瞬だけきょとんとしてから、口を開いた。

 

 

「それはまぁ、色々考えたりはしたけどこれまでの戦いから見てもやっぱり俺の知る須藤さんだし。()()()()()()()()()()()()。必要なら変えるけど」

 

「斉藤です。いつも通りにして貰えるならばそれはそれで良いんスけど……」

 

 その大らかさと胆力は何処から来るのだろう。頭領となる運命を抱えた存在だからか。

 戦部タカマルが常盤ソウゴと存在がダブって見える。

 ただ決定的に違う点がある。

 常盤ソウゴは幼少期から望みとしていた()()()()()()、戦部タカマルは望まずに頭領となった。

 だから、その連想はきっと間違いだ。

 

 

 常盤ソウゴの姿を脳裏から振り払うと、思考でややぼやけていた現実への意識が少しクリアになり、周りの景色が視界にはっきりと映し出される。

 とっくに街から離れ人の数はまるっきり減っている。そんな中でタカマルが真太郎に向き直った。その時の彼は──いつもの彼とは違って見えた。

 

 

「でも。これだけは。これだけはいつも通りではなく頭領として。そして個人的に一つ訊きたい事がある」

 

「……?」

 

「貴方はどうして違う世界から訳もわからないままなのに戦おうと思ったんですか。ハルカさんを──助けようと思ったんですか。貴方は一体、何を求めてそこにいたんですか」

 

 そこにいたのはこれまでの斉藤真太郎と向き合ってきた普通の高校生、戦部タカマルではない。

 上弦衆頭領戦部タカマルがそこにいた。

 

 はぐらかそうとしたもののあっという間に判決を待つ被告人のような心境に落とし込まれた真太郎は──

 

「それは──」

 

 答えに窮した。

 この力が何かを救えると思ったから、そして何か意味があるからと思い、そして街が、知人がノロイ党に蹂躙されるという現実が嫌だから戦おうと思った。

 いつものような文言で返せばよかったものの、今置かれている仮面ライダーという存在が世界に害を成そうとしているのではないか、そんな怯えが真太郎から言葉を奪う。

 

 言葉に詰まり、思考も覚束ない。

 街頭の少ない街中に溶けてしまいそうな感覚に襲われる。

 矢先だった──

 

 

 

 

 

「あのっ、助けてくださいっ!」

 

 セーラー服の女の子の声が沈黙の闇を引き裂いた。

 悲痛な声色に咄嗟に真太郎もタカマルも反応すると真太郎は腰を低くして女の子に目線を合わせる。

 

「なに? どした? 何があった?」

 

 問いかけるが女の子はまるで何かに追われているかのような、切羽詰まった顔持ちだった。

 真太郎の肩を掴み、指さす先は閂山の丸子寺方面だ。丸子寺は駅からしばらく走ってから少しばかり長い階段を駆け上がることでたどり着くやや寂れたお寺だ。

 

「とにかくきてください……大変なんですっ……!」

 

「ごめん、大雑把でいいから何があったか教え……あっ、ちょっ!」

 

 逃げるように丸子寺方面へと走る女の子。ここまで詰められて放置できる性格などタカマルも真太郎も持ち合わせてなどいなかった。

 ここで見失おうものなら何が起こったのかも分からないし、最悪の事態が脳裏を過る。

 

 あの様子から察するに何か危機的状況に陥っているに違いないのだ。

 真太郎とタカマルは女の子の背中を追う。生温い風を受けながら人の波を掻い潜り、掻き分けるように街を通り抜ける。長い石階段を踏みつけるようにして駆け上がる。

 そして──

 

 一心不乱に女の子の後を追ってみれば堂内の一室に上がり込んでいた。

 部屋の中を見渡す真太郎は不安げに声を漏らす。

 

「こうして突貫したのは良いが、大丈夫なんですかねこれ……ずけずけ靴も脱がず上がったけどバチ当たるんじゃあ……?」

 

「不法侵入でまずかったら後で謝りましょう。それより──」

 

 その辺のタカマルの胆力は所構わずハルカと致しているが故のものか。それとも生来のものか。

 先程まで大人顔負けのスピードで走っていた女の子の足がだだっ広い部屋のど真ん中で真太郎たちから背を向けたまま立ち止まっていた。

 

「本当に何があったんだい? 血相を変えて……」

 

 タカマルが前に出て女の子の背に近づく。

 室内には危機的状況に陥っている誰かもモノも見当たらない。

 それなのに女の子はこんな所で止まっている。

 閉所、そして──。

 

 今思えば疑うべきだったのだ。

 

 それが、彼らの──

 

 

 

 

 

 

 

 ひゅんっ。

 

 

 一筋の白銀が閃いた。

 

「なっ……に……」

 

 タカマルは頬を掠め取るその白銀を目で追っていた。後方でそれを目の当たりにしていま真太郎が咄嗟に叫ぶ。

 

「おいっ!」

 

 その白銀の正体はナイフだった。

 一撃を外したことを悟った女の子は咄嗟に次の一撃を振るう。寸前の所をバックステップで避け目の前で狂ったようにナイフを振るうその様相は山姥が修羅であった。

 

「キェェェェェェアァァァァァァァッ!!」

 

 喉をあっという間に壊しかねないような甲高い奇声を上げ逆手持ちにしたナイフを持ち飛びかかる。

 流石に道場で普段から鍛えてきただけのことはある。タカマルの対処は非常に的確で女の子の腕を掴みそのナイフを振るう動きを封じた。

 

「なんなんだ……なんで急にこんなことを!」

 

 ナイフは周囲に立てられた蝋燭の光に充てられ、鈍い光を放っている。

 彼女は──本気だ。

 

「くっ、ごめん!」

 

 取っ組みかかる女の子からその身を謝りながら突き飛ばすように引き剥がしたタカマル。

 その腕を真太郎は掴み出口に向かって投げるようにして引っ張り出した。

 

「うおっ!?」

 

 前のめるようによろけながら開け放たれたままの戸に向かっていくそれを見て狙い通りの立ち位置になったことに真太郎は笑う。

 これでも警護担当だ。ここで仕事をしなくてはこの上弦衆に居る意味がない。

 

「何を目論んでんのか知らないが、次の相手は俺だ! だから戦部君は早く逃げて!」

 

 入れ替わるように前に出た真太郎は女の子のナイフを止めながらタカマルに逃げるように促す。

 

「しかし!」

 

「もともと頭領の護衛っていうお仕事だ! まぁこれ以上給料泥棒はまずいんで!」

 

 当然戦部タカマルの生来の性格が許しはしない。とはいえキングとポーン、王と歩兵どっちを捨てるか選択を強いられたらポーンと歩兵という後者が選ばれるのは当たり前の話だ。

 

「あと応援呼んで貰っていいですかねぇ! なんか……ヤバい気がする!」

 

「分かりました……仁藤さん、気をつけて!」

 

「さーいーとーお!!」

 

 と、多少強がってはみたものの女の子の筋力は思いの外強かった。

 まさか大の大人の腕力と互角な力の入りようだ。今真太郎は女の子の腕を掴んで動きを封じているが一瞬でも力を抜けばたちまちミンチ確定だ。

 

「……くっ、閉じ込められた!」

 

 が、背後からタカマルの苦虫を噛み潰したような声がしたことで真太郎は目を見開き、その出口となるはずの戸に視線を移す。すると固く閉じられたそれはタカマルの腕力を尽く拒み続け1ミリたりとて微動だにしておらず、その現状が全てを物語っていた。

 

「ノロイ党か……」

 

 これら全てが真太郎とタカマルを誘い出すための罠だった。そんな事小学生でもわかる事だ。

 けれどもそれに、女の子の追い詰められた顔にホイホイと釣られてしまった。

 

 ──なんて間抜けなんだ! 俺は! 

 

 そう、間抜けだ。

 疑似餌に騙された魚そのものな現状に真太郎は派手に舌打ちした。

 

 

 

 

「人を操るなんて人形繰りよりお手軽ね、ジョー」

 

 何処からともなく、少女の声がした。

 

「えぇ、そうですともルリー。ノロイ様のため彼らを連れ帰りましょう」

 

 次は青年の声だ。

 

「そのためには半殺しにしてもかまわないわ……死にさえしなければそれでいいもの」

 

 少女の声。

 まるで従者と令嬢のようなやり取りに気を取られていると眼前に拘束から離れた女の子が放つナイフの切先が真太郎の腹目掛けて迫る。

 最低限の動きで避けた真太郎は構え直すと、女の子のすぐ後ろに──異形が現れた。

 

 一言で表すならばピエロだ。

 まるで骨だけのような腕やその身を紫色の執事服で包み、顔は白い仮面で覆われている為その素顔はない。

 特に目を引くのはゴシックロリータ調の衣服を着た肘と膝の球体関節剥き出しの首無し人形がピエロの前でカラカラと動いていた。

 そのゴシックロリータ調の服はひどく緩いのか、胸元はおろか先端が見えてしまっている。

 

 で、首無し人形の首から上は一体どこにあるのか。それは──ピエロの胸に縫い付けられる形でそこにいた。

 

 あまりにも前衛的なフォルムをした正真正銘の化け物に真太郎もタカマルも言葉を失った。

 

「あら、驚いているようね。ジョー、よろしく」

 

 胸元でしゃべる人形の生首に促されピエロは名乗りを始めた。

 

「はい、ルリー。我々はノロイ党が1人妖門操異ルリー・ジョー、お見知り置きを……」

 

 ノロイ党らしからぬ紳士的な自己紹介に気を取られがちだが、それよりも人形と思しき奴の方が、露骨に操り手であろう者に指示を出しているカオスな主従に、真太郎の頭がバグを起こしそうだった。

 慌ててタカマルがポケットに収めた携帯電話を取り出し、ハルカの番号を叩くが反応はない。

 ノロイ党のことだ、結界でも貼って通信妨害でもやっているのだろう。

 

「まさかこうにも簡単に引っかかってくれるとはね。お馬鹿さん」

 

 人形側、つまりルリーが嘲笑う。

 腹は立つが言い返す言葉もない。

 事実女の子を追わなければこうして窮地に陥ることはなかった。

 こうしてタカマルを巻き込むことも。

 

「既にこの丸子寺は我々の結界で覆われている。抜け出すことも横槍を入れることも不可能です」

 

 ピエロ側……ジョーが淡々と述べるように今この現状を一言で言い表すなら袋のねずみだ。突破口はどこにある。必死に目を動かそうにも女の子のナイフがそれを邪魔してくる。

 

「そしてこの娘は私たちの手足そして、餌となって貴方を誘い出し追い詰めていく。限界以上の力を持ってね。貴方に勝てるかしら!」

 

「……チッ!」

 

 まずはこの女の子を無力化するしかない。次に放ってきた攻撃は真太郎の肩を狙った突きだ。

 咄嗟にそれを避け、手の甲目掛けて掌底を叩き込んだ。

 

「ギャッ!?」

 

 威力は大したことはない。但し武器を落とすには充分すぎる衝撃が女の子の手を襲う。

 カランカランと音を立てて落ちたそれを部屋の隅っこ目掛けて蹴り飛ばし、そのまま首筋目掛けて手刀を思いっきり叩き込んだ。

 流石に耐えきれなかったのだろう、糸の切れた人形のように頽れそのまま倒れ込み気絶した。

 

「ふぅん。案外やるじゃない、深紫の忍びさん」

 

 一連の動きを小馬鹿にしたような口調で真太郎を褒め称える。既にシノビの正体がバレているようだ。

 

「……舐めんなよガラクタめ。戦部くん、この娘を頼む」

 

 嫌味たっぷりに真太郎は吐き捨てながら構え直す。その傍らでタカマルは女の子を起こし肩を貸すような状態でルリー・ジョーから離れていく。

 そんな絶望的な状況で抵抗してくる2人がよほど滑稽に見えたに違いない。

 ルリーの哄笑が部屋中こだました。

 

「クククッ! 生身でどうしようというのかしら!? 化身すらせずにまさか私たちを殴り殺せるとでも?」

 

 これまでの行動で看破していたらしい、そのルリーの物言いに真太郎は息を呑んだ。

 シノビに変身できれば殴り倒すことも出来ただろう。だが生憎人間の中では多少強くても所詮ただの人間。

 ただの人間の拳では怪忍を砕くことは適わない。

 

 脂汗が滲む。

 腹の奥が震え、下手すれば一瞬でバラバラにされるだろう現実に怯えていた。

 とはいえここで逃げたらタカマルがやられる。タカマルがやられたらこの世界が終わる。

 本来この世界はタカマルと閃忍が守るべき世界なのだから。

 

 自らを鼓舞するかのように真太郎は無理くり組み立てた言の葉を紡ぐ。

 

「……何とでもなるさ」

 

 なるわけあるか。

 痩せ我慢もいいところの返しにくつくつと嗤うルリー。真太郎は自らの足場を確かなものとするように摺り足で僅かにその身を動かす。が。

 明らかに不利な状況に追い討ちをかけるように足が思うように動かなくなった。

 

「なにっ!?」

 

 足回りの明らかな異変に咄嗟に顔を下に向けるとひんやりとした空気が頬を撫ぜる。

 青く透き通るような塊が真太郎の足を包み、木の根のように床へと広がっていた。

 

 ──氷の術!? 

 

 こんな芸当をする者は直近で思い浮かぶ奴はただ1人。

 即座に連想ゲームで出てきたのは言わずもがな──

 

「時間をかけ過ぎだルリー・ジョー。だが生憎瓢箪を奴は持っていないらしい。……無駄足を踏んだな」

 

 その時、ルリー・ジョーの背後から黒い渦が浮かび上がりそこからぬるりと女が現れる。

 真太郎の想像通りだった。黒髪を揺らしながら逆手持ちの刀を持つ漆黒のポニーテールの女──スバルだ。泣きっ面に蜂、ならぬ泣きっ面にスバルだ。

 

 一言で言えば最悪だった。スバルの力は前回の戦いで思い知らされている。パワーもスピードも技量もあちらの方が圧倒的に上であった。

 倒れた女の子を壁にもたれさせるように端へ置き、タカマルが駆け寄り床に接着されたその足の氷を一心不乱に蹴り壊し始めた。

 

「駄目だ! こっちに来るんじゃあない!」

 

 自分からスバルに近づく間抜けがいるか。真太郎は慌てて彼を振り払おうと腕を懸命に動かすがタカマルはその手を振り払い意地で氷を蹴り続ける。

 

「あんたも逃げるんだ! このままだと……!」

 

「よせ! このまま俺に構ってたら君までやられる!」

 

「そうはさせない……!」

 

 梃子でも動かず削れる兆しのない氷を蹴るタカマルに痺れを切らし血を吐くようにまくしたてる。

 

「分かっているだろ! 頭領と女の子に対して、その辺にいる代わりの利くトーシロ、天秤にかけてみろよ! 優先するべき命は……!」

 

 例え一人あきらめたとしても誰もタカマルを責めやしない。

 主人公だとしてもそんな都合のいい神様なんかじゃないのは知っているし求めてなどいない。一番帰りを望まれているのはタカマルの方だ。

 

「……ざけるな」

 

「え?」

 

 かすかに聞こえてきたタカマルの声に、真太郎は素っ頓狂な疑問符を浮かべる。そして――タカマルははっきりと、真太郎に叩きつけるように口を開いた。

 

「ふざけるな! 何が優先だ! 優先していい命なんてあるもんか! 俺のための犠牲なんて認めないぞ……俺は……認めない!」

 

「……ッ!」

 

 あまりにも真っ直ぐな目だった。

 真太郎と出会う以前、ノロイ党たちを相手に生身で立ちふさがったことがあったのだという。後先考えず誰かに手を差し伸べる行為は美徳とは限らない――頭領ならば猶更だ。

 

「バッキャロウ!」

 

 ここまで怒鳴ったのは人生でもきっと初めてだ。

 その真太郎の怒声は一瞬ながらもタカマルをたじろがせた。

 

「俺は許さないからな……! そうやって無暗に手を伸ばした結果全部失うなんてことは! ボンボンとはいえ代わりの利くモブ野郎のためにあそこにいる女の子をほっぽって攫われてみろ! 鷹守さんや四方堂さん、スズモリ先輩、黒鉄さんを残して居なくなってみろ! 俺は死んでも四肢を引きちぎられ腕だけになっても承知しないからな……!」

 

 いつもなら唾が飛ぶことを考慮して抑えたしゃべり方をしていただろう。けれどもそんなことを気にかけてやれるほど今の真太郎には余裕もなければ、遠慮もなかった。

 だが──するとタカマルが真太郎の胸倉を掴んだ。そして今にも頭突きがさく裂しそうな距離まで詰めて真太郎を睨みつける。

 

「じゃあ、俺も許さない。あんたが──友達が諦めたような自己犠牲をして勝手にやられるなんてこと、俺は許さない! 何がモブだ……利く代わりなんてあるものかッ!」

 

 最早年齢も立場もなかった。頭領なぞ知るか、大人子供なぞ知るか。ただただお互いを救おうと吠え続けている。

 あとは男二人の意地の張り合いだ。

 

「あぁん!?」

 

「おぉん!?」

 

 真太郎が逆切れスレスレのガンを飛ばすと、タカマルも真似して同じようにガンを飛ばす。互いに不良ムーヴが慣れていないのか必死に背伸びをしている不格好さだけが目立つシュールな喧嘩となり果てていた。

 

「続きは無限城で続けるんだな」

 

 余りにも間抜けかつ呑気にみえたのだろう、小馬鹿にしながらスバルがじりじりと迫る。それに気づいて我に返った真太郎とタカマルは同時にスバルの方を見て「やべっ」と溢した。

 スバルの術で編み出された氷は特別製だ。たかだか男1人の蹴りで壊せるほどヤワな作りではない。このまま2人とも連れ去られてしまうのが一番最悪な事態だ。

 真太郎がタカマルを突き飛ばそうとしたその時だった。

 

「む?」

 

 突如、スバルが上を見た。そこには何もない、木造りの天井だけだ。釣られてルリー・ジョーも見上げているが特に何もなくジョーが首を傾げている。だが、その答えはまもなくして形となって現れた。

 

 ごうっ、と短い轟音から木片が飛び散る音が木霊する。

 何かが空から天井をぶち抜いてルリー・ジョーとスバル。真太郎とタカマルの二組の間に落雷したのだ。立ち込める煙が風に流され濁流のように押し寄せる。

 

「なっ……なんだあっ!? 上から……何がっ!」

 

 タカマルの叫びはこの場にいた全ての者が思ったことだった。ルリー・ジョーからすれば結界をぶち抜いて何かがやってきたことに対する驚愕が。タカマルと真太郎からすれば何が起こったのかさっぱりわからないことに対するひどい混乱込み込みの「なんだあっ!?」であった。

 その中で必死に細目で爆心地にいる何かの正体を探ろうとする。

 見え始めた黒い影は人型の影であった。ぱっと見だけならただの人間が落ちてきたと思うことだろう。だがしかし、よく見ればその影の頭部からは2本の角がVの字に伸びている。

 

 何者だ。慌ててルリー・ジョーもスバルも、タカマルも身構える。

 敵か味方か。判然としない存在が今この瞬間現れたことにより真太郎もひどく混乱した。

 それが誰なのかは何となく判別は付いたが、煙が晴れ存在が明確になるほど逆に真太郎を混乱させる。

 

 複眼のようなものは丸く赤く輝き、首元からはスカーフのような、もしくはマフラーのようなものがたなびいている。

 不思議だった。閉所にも関わらず風が吹いているのだ。衝撃波が起こした風などではなく、確かに――風が流れている。

 それは最初こそタカマルたちの方を向いていたが、タカマルたちには用はないのかくるりと90度。横を向く。

 風が完全に煙を掻き消すように吹き飛ばし切ったその時、タカマルはその姿に口を開いた。

 

「緑の……戦士!?」

 

 同時だった。ジョーも同じくその姿に声を上げる。

 

「黒の、戦士?」

 

 しかしジョーとタカマルのその食い違う反応にお互い目を丸くさせ見合わせる。

 

「黒? どこに黒の部分があるんだ?」

 

 事実、タカマルから見れば緑色の戦士であった。だがしかし、向かいにいるジョーから見ると黒に見える。おかしな話だ。

 そんなことを言われたら真っ先に相手の目を疑う。

 

 

 だが斉藤真太郎は知っている。

 あれは──そう

 

「お前の目は腐っているらしい! どこを見て緑だと思った! 黒だろうこのヌケサクが!」

 

 ここぞとばかりにルリーが罵倒をし、タカマルは「ちょっと待て誰がヌケサクだ。どう見ても緑だろ!? いい加減にしろよ!」と半ギレ気味に返す。

 この反応に何処か懐かしさを感じたのは、()()()()から十年以上経っているからだろうか。

 

 そう、アレは──そういうものなのだ。

 

「……どっちもだ」

 

 現れたそれは……2人の言葉を肯定してからルリー・ジョーの方へと向いた瞬間、二人の指摘はお互い正しかったことを思い知らされた。先程までルリー・ジョーの方を向いていた左側は黒く、タカマルたちが見ていた右側は緑色。中心に銀色のラインが走っており、左右2色の珍妙奇怪な存在がそこにいた。

 完全に呆気に取られていたタカマルは足も手も止めて「嘘ぉん……」と呟いている。

 

 確かに初見はびっくりした。そんなあしゅら男爵のような仮面ライダーアリかよと。だが現実存在するのだ。そういう奴が。

 

「あなた、怪忍じゃないわね? あなたは何者?」

 

 ルリーの問いにその左右2色の存在が応える。

 

「『仮面ライダー……W(ダブル)」』

 

 一人がしゃべっているはずなのにも関わらず違う男二人の声がする。その異様な光景を真太郎だけは知っている。

 あれは二人で一人の仮面ライダーだ。

 Wはその左手首を、時計でも直すかのようなしぐさでスナップしてからその手でルリー・ジョー目掛けて指さした。

 そして投げかけるのだ。街を泣かせる悪党に、彼()が永遠に投げかけ続けるあの言葉を──

 

「『さぁ、お前の罪を数えろ!」』

 

 

 そのしぐさ、そして吹きすさぶ風がよく似合う、その戦鬼と見まがうようなそのシルエット、闇を追い払い明日の夜明けを告げる鐘のような二つの声。

 間違いなく、正真正銘テレビで見た仮面ライダーWそのものであった。

 

 それはこの時代、世界に決して存在してはいけない存在ながらも、真太郎の心は踊っていた。




 次回『オレたちのスタート2008/変身』
 これで(第一部は)終わりだ(すみません分割します……! 9/29)

 エロゲに詳しいはずのタカマルに「Dark Blueの双子かよ……」と吐かせようとしなかったのは、アレの発売日は2009年の11月と仮面ライダーWが始まって間もない頃で、作中の時代考証的に明らかにおかしなことになるため。
 気になってもグロ耐性ない人と、18歳未満は絶対に調べないように。
 


 tips
:妖門操異ルリー・ジョー
 少女型の人形の主であるルリーと操り師である道化師型の従者・ジョーのコンビの怪忍。『糸』で対象を操る能力を持つ。
 おそらく名前の由来は人形浄瑠璃と、ジョーカー。
 原作におけるハルカの敗北シーンは操られてからのおねショタだったが、2回目はショタが友達を呼んでしまったため一部のおねショタ愛好家は血の涙を流したとか。



:仮面ライダーW(ダブル)
 2009年9月から2010年8月にかけて放送された特撮番組であり、平成ライダー11作品目で主人公が変身するヒーローの名称。

 ハードボイルドを標榜する半熟野郎(ハーフボイルド)・左翔太郎と脳内に『地球の記憶』を有する謎の魔少年フィリップ。この二人の私立探偵が時に戦士・Wへと変身しエコの街『風都』に蔓延る怪人・ドーパントが起こす怪事件に挑む。
 放送終了後もスピンオフVシネマが販売されたり、作中登場人物が客演したり、正当続編漫画が連載されていたり、アニメ化したり舞台化したりと息の長い作品でもある。

 キャッチコピーは「俺たちは/僕たちは、二人で一人の仮面ライダーさ」



・備考
 ルリー・ジョー相手に投入するライダーの候補としてはWの他に同じ二つ以上の人格を持つ電王(良太郎&モモタロス)、キバ(渡&キバット、時々音也)がいた。
 電王には天井から床に頭から落ちてスケキヨ状態にさせてタカマルが引っこ抜いたり、「なんだなんだァ、こいつ。顔がふたつもありやがる……あー気色悪ッ」と自分たちのことを棚に上げてルリー・ジョー相手に言ったり、拾った角材座布団拾い上げてゲシゲシと滅多打ちにするわと滅茶苦茶な喧嘩をさせ、いつもの電王ノリに巻き込んだりと正直あのままお出ししたかったがシリアスになったタイミングがアレなので没。でもいずれは……
 キバもそこそこルリー・ジョー似ている為、Wと張り合ったものの、せっかくの2008年産という美味しいキャラをここで消費するのもということで没。


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オレたちのスタート2008/変身①

 長すぎるので分割。


 

 

 眼前で繰り広げられた一連のやり取りを見ていたタカマルはポカンとしていた。

 それは1号の他にあんな仮面ライダーがいたことに対する驚愕なのか、それともあの半分こ怪人的フォルムに驚いているのか。

 多分おそらくきっと両方だろうが。

 

「あれは彼らが名乗った通り仮面ライダーW。風の街、風都に蔓延るドーパントと戦う二人で一人の仮面ライダーだ」

 

「どうした急に。二人で一人……? だから声が二人分聞こえてきたのか」

 

 急にしゃべり出したことに驚いたのか、タカマルがギョッとした顔で真太郎を見る。

 説明を聞いても納得がいかなさそうなのはやはり突然何の前触れもなく天井から落ちてきたからだろう。今のWはサプライズニンジャ理論の権化だ。とはいえ今目の前で起きていることは現実だ。

 

「そう。自称ハードボイルド探偵の左翔太郎と魔少年フィリップの私立探偵コンビが、ガイアメモリと呼ばれる地球の記憶を内包したUSBメモリ型のアイテムと今腰に巻き付いているW型のベルトことダブルドライバーを使い変身する。今の形態はサイクロン・ジョーカー、武器は持たないが基本形態でありながらも高いスピードと格闘戦を得意とし、蹴りをメインとした徒手空拳で戦う。特筆すべき点は戦闘で巻き起こる風を取り込んでスタミナを回復するという継戦力に優れた特性を持つ。フィリップの頭脳と左翔太郎の学生時代から喧嘩で鍛え上げたその格闘力を活かすことで唯一無二の力を発揮する。右側はサイクロンの他にヒート、ルナ。左側はジョーカーの他にメタル、トリガーの記憶を内包したガイアメモリを切り替えて状況に応じた形態変化を可能としており、どんな敵だろうとも臨機応変に立ち回ることができる。それだけではなく彼らにはメモリガジェットというアイテムを有しており……」

 

「えらい早口……つまり、あの仮面ライダーは凄いってことか!」

 

「そう、凄いってことだ! ゾクゾクするねぇ!」

 

 フィリップの真似をしながらオタク特有の早口をさらすやたらテンションの高い真太郎に釣られてノリノリのタカマルは小学生並みの感想を背にWが戦闘を開始していた。

 先陣を切ったのはどこからともなく現れた怪人ゲニンだ。「ヌンジャ」と鳴きながら殺到するそれをWはカウンター気味に回し蹴りを叩き込み1体目を倒す。

 

 次に現れたゲニンは太刀を振り回すが、最低限の動きでこれを回避。

 太刀を持つゲニンの腕をWは腕で止め、またも蹴りで吹き飛ばす。サイクロンの力が籠っているのだろう。スバル目掛けて吹き飛んでいく。

 だがしかし受け止めもせず、スバルは手に持った刀、雹で一刀両断してしまった。2等分にされたゲニンだったものは黒い靄となって消えていく。

 

 Wに限界以上のダメージを与えられたゲニンも同じように壁際でうめきながら消え失せた。

 

「どんどん行くぜ?」

 

 おそらく翔太郎の方だろう。余裕綽々の一言を溢し左手首をスナップさせてから次のゲニンを倒していく。近くに居たゲニンを掴み、軸にしてからポールダンスの要領で周囲に群がった個体たちを次々と蹴り倒していく。

 そして一頻り蹴り飛ばした所で着地。先ほどまで軸にした個体をぺちっと顔を上げさせてから――

 

「この、小童がぁ!」

 

 小童扱いしながら赤子の手をひねるようなノリでアッパーカットを叩き込み、ゲニンは空中で縦回転しながら頭から床に落下した。

 ……少なくともノロイ党の出自から察するに翔太郎の方が圧倒的に小童なのは突っ込んではいけない。

 

 それにしても清々しい暴れっぷりだ。テレビの向こう側で見ていた光景が今目の前で繰り広げられている。そのことも相まって手の中は汗だらけであった。

 

「タカマル様!」

 

 一連の無双っぷりに見とれていた真太郎とタカマルだったが、そんな中でハルカの声がしたことでハッと我に返る。

 流石に分断されたとはいえ、ある程度まで位置を把握していたのだろう。既に忍者装束を纏ったハルカが即座に真太郎の足の氷を砕く。

 流石にノロイの氷とはいえ閃忍の力であれば砕くことは簡単なのだろう。とはいえタカマルの中には懸念があった。

 

「ハルカさん!? でも前の戦闘でダメージはまだ……!」

 

 ハルカが乱入したことで状況が好転するわけではない。スバルにこっぴどくやられた事で傷は完全に癒え切っておらず、ドラクエで言うMPにあたる淫力も復活しきっていない現状で満足に戦えるわけではない。

 今の迷いのある状況でスバルと戦おうなら確実に負ける。

 

「大丈夫です……!」

 

 やせ我慢なのは明白であった。ハルカの顔には脂汗のようなものが浮かんでおり結界をこじ開けるために相当の体力を使ってしまったようだ。

 それでも前に出ようとするのは使命感が故か。Wが打ち漏らしたゲニンが迫るものの、ハルカはクナイの滴を一閃させるが、それでも一撃で倒すには至らない。

 

「くぅっ……!」

 

 見るからに本調子ではない状態でなおも戦い続けている。今はWがスバルの相手をしているがここでWがやられれば今度こそ終わりだ。

 視線を再びWの方に戻すと、Wが腰に巻かれたW型のベルト、ダブルドライバーの右サイドに装填されたUSBメモリ型のアイテム、サイクロンメモリを引き抜き右腰につけられた装置、マキシマムスロットに挿入。スイッチを叩くように押した。

 

『翔太郎、あの戦闘員の性質はダスタードに近い。スピードも相応、このまま数で押されると厄介だ』

 

「あぁ、分かってる。一気に決めるぜ」

 

【Cyclone・マキシマムドライブ!】

 

 Wの足元に緑色の風のようなオーラが放たれ、ゲニンの群れに向かって床を蹴る。1歩、2歩、3歩と踏み出した瞬間、Wの体がふわりと宙を浮き文字通り『飛んだ』。

 その足にまとわりつく風のオーラをそのままゲニンたちに通り抜けざまに斬るように叩き込み、床に着地したその瞬間、通り過ぎた跡にいたゲニンたちは爆発四散した。

 

「ヘッ……決まったな」

 

『決めてる所悪いけど――来るよ翔太郎!』

 

 フィリップの警告と同時にスバルの斬撃が衝撃波となってWに迫る。それを避けた瞬間瞬時にスバルはWの目と鼻の先まで迫り、その緑と黒の体を袈裟懸けに切り裂いた。

 次にジョーがルリーを操り、指先から生成したエネルギー状の赤い爪を振るい、怯んだWに次々と斬撃を浴びせる。いくらWとはいえネームド2体は手こずるようだ。

 本編通りならばメモリチェンジして臨機応変に戦うのだろうが、その隙を与えない連続攻撃がWを襲う。挙句倒したはずのゲニンたちが矢継ぎ早に新たに表れてWに向かってくる。

 

「野郎……キリがねぇ!」

 

「……Wと言ったな! 貴様の体を2つに引き裂いてくれる!」

 

「綺麗な薔薇には棘があるなんてよく言うが、言っていることが棘通り越して刃物だぜ……! フロスト・レディ……!」

 

 スバルの物騒な物言いに対し、翔太郎の悪態をつく声を聴きながら真太郎は「くそっ」と声を上げる。

 いくらWでも泥仕合は見えていた。アナザーアギトの時は後れを取っていたが今度は物量で圧殺するつもりなのだろう。

 挙句、スバルは地面に雹を突き立て、この寺の室内を凍り付かせる。まるで冷蔵庫のように室内を変容させたことにより彼女の動きはさらに素早く、鋭くなっていく。

 

 そんな不利な状況下、背後からまた違う声がした。

 

「頭領殿、これを」

 

「え?」

 

 ハルカを追って現れたのだろう。上弦衆の忍びがタカマルに何かを差し出す。

 促されるがままにそれを受け取るのを見た真太郎はその手元に目をやるとそこには銀色の瓢箪がタカマルの手の中に収められていた。

 

「これは――志藤さんの瓢箪」「斉藤です」

 

 もう意識せずともツッコミが出来るようになってきた己に真太郎は呆れながらも、忍びの話に耳を傾けた。

 

「黒鉄殿から言伝があります。これをどうするかは戦部、お前に任せる、と」

 

 アキラの言葉を聞き終えたと同時にハルカや真太郎より前に出る。そしてそのまま瓢箪を前方に突き出した。その動きは完全に真太郎が顔を隠した状態で変身をするときの仕草そのものであった。

 

「……あ、おい……まさか」

 

「俺が戦う。ハルカさんは本調子じゃないし、内藤さんも辛い思いをしてきたんだ。だったら俺が――」

 

 真太郎の制止を振り切りタカマルは瓢箪の栓を引き抜こうと指に力を籠める。籠める……籠める!

 額から青筋が立っている。栓をつまんだ指はプルプル震え肌は少しずつ赤くなっていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

「んごごごごご……あ、あかね……」

 

 結論から言えば真太郎ならば開けられた栓はびくともしなかった。ジャムの瓶の如く固く閉じられたそれにぜえぜえ言いながらタカマルは頽れた。

 それでもなお開けようとするタカマルに真太郎は手で制した。

 

「気持ちはありがたい。けど変身すべきじゃない。この力は本来あるべき、『正しい歴史』に存在すべき力じゃない」

 

「それってどういう」

 

 呆気にとられるタカマルを前に真太郎は諭すように続ける。

 

「この力は少なくとも外側の――存在しない歴史のものだ。その結果この世界に多分――異変が起きている」

 

「異変……あの仮面ライダーたちが現れたりすることか」

 

 タカマルも何か心当たりがあるのか、記憶の彼方にあるナニカに思いをはせていた。真太郎は頷き言葉を紡ぐ。

 

「俺もこのライダーたちの力が果たしていい方に作用するかどうかは分からない。もしかしたらこの力もあの仮面ライダーもこの歴史の歪みに加担していたとしたら……元居る世界の人間がそれに加担するべきじゃあない……!」

 

「でも……ここで戦わないと……!」

 

 瓢箪を握る力が強くなる。タカマルからすればここで戦わなければハルカも皆やられてしまう。転移術を使おうにも連中に見つかっている状態で使おうなら司令部まで逆探知されてジ・エンドだ。

 だがもしシノビの力が滅びを加速させていたとしたら。そう思ってしまうのだ。

 そう言った話には前例がある。そう――仮面ライダーディケイドだ。ディケイドの存在は世界の歪みを加速させていた。本来その世界にはあり得ない結果を齎すことで世界を歪ませているのだ、と。

 瓢箪に手を伸ばし、タカマルの目を真っ直ぐ見据えて真太郎は口を開く。ただ――訴えかけるように。

 

「俺が……変身する。歪みは歪みの原因が使うのが一番だ、悪者が分かりやすい」

 

 それは責任だ。この世界を歪ませたのは誰だ、と言われたときに本来居るべきタカマルが指をさされるなどということは避けたい所だ。

 自分が変身した結果の歪みだとしたのならば自分の罪だ。体の主まで道連れになるのは忍びないので出来れば自分一人が消えられたらそれが一番いいのだが。

 『元凶』を背負うのは、今は自分一人でいい。

 

 その真太郎のやや投げやり気味な言葉に何か思うところがあったのか、眉間にしわを寄せた。どう見ても納得をしている人間の顔ではない。

 

「悪者ってなんだよ……さっきから歪み歪みって……確かに変だなって思ったことはあるけど何が歪みなのか、何が正しいのか俺には分からないよ」

 

 今この瞬間生きている人間からすればそれはきっと正しい歴史という言葉は押し付けに他ならなかった。

 それで納得しろということ自体、仮に大局的に正しかろうが不愉快でしかない。

 

「それに誰がその正しいってものを決めたんだ? その歪みが起きていることそのものだってもしかしたら歴史の一部なんじゃないのか。歪ませるためにあんたは戦っていたのか?」

 

 それは違う。

 真太郎が首を横に振ろうとした矢先、タカマルがその意志を読み取ったかのように言葉を続けた。

 

「きっと違うはずだ。どうするべきかとか歴史とかそんな話じゃなくて――あんたはどうしたいんだ? どうしたかったんだ?」

 

 正しい歴史と断じたのは真太郎含めた歴史の外側の者たちだ。

 けれどもタカマル当人からすれば正しい歴史なぞ知ったことではない。目の前で起きていることこそが現実であり、それがこの世界に生きるタカマルと、どうあがいても外側の者でしか居られない真太郎の差であった。

 今この瞬間どうするべきか――なんかじゃなく。 

 

「俺は――さ。皆が笑顔で幸せに帰れればそれでいいと思ってる。ハルカさんも、上弦衆の皆も――あんたも。だからこの瓢箪を手に取ろうと思った。……何故か栓が抜けないけど」

 

 道を示すかの如くタカマルは自らが背負う思いを口にする。そこに一寸の迷いらしきものはなかった。性格で見るならば彼の方がきっと、ライダーに向いているだろう。

 ここまで相手に言わせておいて自分は何も言わないのはアンフェアだ。タカマルの意志表示に真太郎もまた返す刀でただ一つ、これまで戦いで瓢箪を握りしめてきた自らの手に込めた思いをぽつり、ぽつりと言葉にし始めた。

 

「嫌だったんだ、俺は。自分が何か誰かのために出来るかもしれないって時に、あのゴーオカってデブに鷹守さんがいいようにさせられるのが。だって戦部君と話している時の鷹守さん、楽しそうだったから。それが曇るのが嫌だったんだ。それだけじゃない。夕飯に頭を悩ませたり、部活したり、仕事したり、友達と遊んだり。その瞬間瞬間を生きていくその日常をあいつらの勝手な理屈で壊されてそのまま放置しておくのが胸糞悪かったんだ。俺のやったことが、誰かの明日の平穏につながるのなら……って」

 

 言い切ったとき既に気づけばタカマルが持った瓢箪を真太郎は無意識的に掴んでいた。

 その手元を見たタカマルは「そっか」とどこか満足そうに、そして彼は背中を押すように屈託のない笑顔を見せた。

 

「いいじゃないですか、それで。今は。もし世界が歪んでいるとしてもそん時は俺もあんたと一緒に何とかする。だって俺、頭領だし。もしかしたら上弦衆の技術なら何とか出来るかもしれない。あんまり権力を笠に着たくはないけどこういう時だけはビバ・権力だ」

 

――それが権力!僕の求めていた力!

 

 何故か一瞬、闇堕ちしたころの養豚場の豚を見るような目をした呉島光実の姿が脳裏をよぎったので押しのけつつ、真太郎は掴んだ瓢箪を引っ張るがタカマルは離さない。意地でも自分が変身するつもりなのだろう。その頑固さは一体どこから来るのか。

 けれども譲れないものは同じだ。

 

「――俺がやるよ。俺は頭領を護る忍びで。一応、仮面ライダー……やってるからさ」

 

 本当に選ばれた者かは分からない。何者かの思惑があって託された力の可能性は高い。けれども――曲がりなりにも自分を信じてくれる者がいる。

 完全に押し負けたのか、タカマルの手が緩んだ。瓢箪が手に収まったその時、真太郎は無造作に栓を引き抜いた。それは風呂の栓を抜くかの如くあっさりと引っこ抜け、瓢箪を逆さにする。

 すると液状のものが零れ出て真太郎の腰に巻き付きベルトの形を成す。

 

「化身などさせるかぁッ!!」

 

「しまった!」

 

 スバルの叫びとWの声で真太郎の顔が上がる。

 するとそこにはWの妨害を免れたスバルが、雹を片手に重力を無視した跳躍を繰り出し、真太郎とタカマル目掛けて迫る。

 

「くっ!」

 

 ゲニンを抑えるのに手いっぱいな状態のハルカでも割り込む余裕はない。あとは真太郎が――シノビがどうにかしなければならない状況にあった。

 

「……ノコノコと瓢箪まで持ってくるとはな!」

 

 ノロイ党からすれば鴨が葱を背負って来るようなものだ。スバルは嘲笑と共にシノビに迫る。邪魔しようと割り込んだ上弦衆の忍びはあっさりと裏拳で跳ね飛ばされ、氷漬けの床をゴロゴロと転がる。

 そして真太郎目掛けて雹が――振り下ろされた。

 多少痛めつけてでも連れて帰るつもりだろう。多少ケガしたところでノロイ党も再生術を持っていることを考えればこっちが多少苦しもうが関係ない。

 が、死なれてはきっと困るはずだ。故に――

 

――前に、出ろッ!

 

 真太郎はあえて踏み込む。恐怖はあれど考えない。ただ目の前の敵に距離を詰めることだけを意識する。

 そしてスバルの斬撃を、彼女の腕から受け止めた。シノビドライバーの力で多少筋力は上がっている。手加減した彼女の一閃程度受け止めるのも容易いものであった。

 

「なにッ!?」

 

 想定外の抵抗だったのだろう、驚愕する彼女を他所にメンキョカイデンプレートをベルトに叩き込み間髪入れずに回す。

 同時にスバルによる妨害の蹴りが入り内臓を押しつぶされる感覚と、昼に食べてきた牛丼が逆流しそうになる。唾を飲み込み押し返しながら吹っ飛ぶ体を足でブレーキをかけ、強化された脚力で地面を力強く蹴り飛ばす。

 

 スバル目掛けて直進しながらプレートの手裏剣を回転させ、拳を突き出す――

 

 もう、他人事じゃない。

 この力に責任を持つ。どちらにせよ行使してしまった以上、この世界にとっては自分自身が仮面ライダーシノビなのだ。正しい歴史ならば違う。けれどもタカマルの言う通りこの世界にとって正しい歴史なぞ知ったことではない自分がそうであるという認識を持たせてしまった以上――責任は。

 

 

 まずは突き出された拳からアーマーが装着され、飛び込んできた真太郎の拳をスバルが雹で受け止める。岩すら砕くその拳は鉄も切り裂くその刃とぶつかり合い大きく火花を散らす。

 そして二撃目と放ったもう片方の拳にもアーマーが。そして腕から徐々に侵食するようにシノビのアーマーが装着されていく。

 無我夢中とはこのことか。スバルの斬撃はほぼぎりぎりのタイミングで避け、時には腕で受け止めていた。生死と背中合わせでいると極限まで集中力が高められるらしい。

 

 一瞬の隙をついてスバルに拳を一撃入れ、怯ませた時には既にシノビの装甲は首から下まで覆いつくされていた。

 

「――変身!」

 

 絞り出すように。叫ぶと顔は瞬時に深紫の仮面で覆われる。

 初めてだった。真っ当に変身と口にすることは。無意識下で力を拒絶していた。本来あるべき者に返すべき力だ。本来ならば。だから仮面ライダーではないと予防線を張り続けてきた。

 けれどもこの世界ではその自身の感覚は通用しない。無意味だ。ただの――逃避だ。

 

 だから背負うと決めた。『仮面ライダー』を。自分が愛した存在を。

 背負って、ノロイ党の暴虐に抗って、抗って、抗い続けて。一人でも多く誰かの明日が救えるのならば。

 そして仮面ライダーがこの世界を歪ませ、壊すのならば最後に痕跡も消す。おそらくこの世界のどこかには瓢箪はもっとあるはずだ。それも回収してあるべき場所に還す。

 

「俺は――」

 

 そう、たとえ相手がノロイ党だろうが、この世界に侵食する仮面ライダーだろうが、滅ぶ世界の運命だろうが――

 

「俺は戦うッ!!」

 

 

 凍てついた寺の中、背負いし白銀に輝きし忍びの小太刀引き抜き、その身を鋼より強固なる鎧を纏い、狼の如く吠え、闘志を見せし、深紫の戦士。

 その名も――

 その名も――

 その名も――

 仮面ライダーシノビ、ここに在り。




 覚悟完了。あとは、勇気だけだ。


 取り合えず爆弾としてミスチルのフェイクを聞きながらお待ちください。


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オレたちのスタート2008/変身②

 

「凍てついた寺の中、背負いし白銀に輝きし忍びの小太刀引き抜き、その身を鋼より強固なる鎧を纏い、狼の如く吠え、闘志を見せし、深紫の戦士。

 

 

 その名も――その名も――その名も――仮面ライダーシノビ、ここに在り。

 

 仮面ライダーの力を受け入れたことによりその力を増幅させ、この世界に根を張った。その結果『存在』が確立し、その力は下手な化け物どもを凌駕する……!」

 

「……怪忍!?」

 

 謳うような物言いだった。後方でシノビに変身した真太郎を見送った矢先に聞こえてきた声はタカマルを身構えさせるには充分過ぎるものだった。

 タカマル自身武術に嗜みがあったこともあり、咄嗟に構えを取るもののその声の主は構えを取ろうともしてなかった。

 だが――こいつは今『右手に銃を持っている』。

 

 黒を基調に銀色の装飾がついた――普通の拳銃にしては大きなソレはパッと見オモチャだ。。しかし見掛け倒しではないと思わせるだけの凄みを放っていた。それでいて珍妙奇怪なことにこの男は一般的に言う『虚無僧』と呼ばれる出で立ちであった。

 虚無僧がオモチャみたいな銃を持っている。そんなこと、何も知らない人間に伝えたら完全に頭を疑われること間違いなしだ。

 

 警戒をするタカマルに虚無僧は「フッ」と鼻で笑う。

 

「あんな下衆な連中と一緒にしてほしくはないな。この物語の元主人公くん?」

 

「?」

 

 口を動かすたびに自身の理解を超えてくるのはなんなんだ。

 虚無僧の言動全て、タカマルの内なる何かが警戒する。背筋がまるでざわついていることを自覚した瞬間、握り拳がこれ以上にないほどに強く握りしめられていたことに気づいた。

 それにこの男物言いが少し真太郎と似ている気もしなくもない。真太郎はモブだとか自虐していたが。

 

「アンタ……何かを知っているな?」

 

 仮面ライダーという名を吐ける人間は今この瞬間においてかなり限られていると言っても過言ではない。真相がこの男が握っているのだとしたら、なんとしてでも聞き出してやる。

 そんなタカマルの思考でも読み取ったのか、虚無僧はヘラヘラと嗤い始めた。

 

「なに、仮面ライダーの観測者であり導き手と言った所かな? あくまで僕は物語の刺身のつまだよ」

 

「…………」

 

 何言ってんだコイツは。

 文言だけ見れば卑下しているだけに見える。けれどもタカマルの耳朶を打ったその言葉そのものに卑下らしきものを感じなかった。

 

「導くってのは――何処に?」

 

「この世界は滅びたがっている、ゆえにそれを救った仮面ライダーシノビの世界、だ」

 

 やはり聞いても無駄らしい。抽象的な答えしか返ってこない現状にタカマルは諦めを込めて大きなため息をついた。

 この世界が滅びたがっているなんて言葉もだ。この世界が生きていくのはこの世界の一人一人が必死に生きて決めていくことだ。その滅びたがっているという意志はどこからくる?

 

「まぁ、元主人公は大人しく引っ込んだ方が良い、まぁ頑張ればラスボスにはなれるんじゃないかな。さて、仕込みは上々、僕は帰らせてもらうよ」

 

 当人からすれば馬鹿にしているつもりなのだろう。だが、タカマルからすれば話の内容が素っ頓狂すぎて怒る気にもなれず返すべき言葉はただ一つだった。

 

「主人公だのモブだの、そんなことはどうだっていい。重要じゃないんだ、俺にとって。俺は……俺なりのやり方でこの街を、世界を守っていく」

 

 都合のいい幻に縋らず、それでいて安易に絶望もしない。ただ出来る事をやる。

 それが頭領として選ばれた者の責任だ。――そう、タカマルは信じている。

 

「せいぜい頑張るといい。エボルトじゃないが……チャオ」

 

 虚無僧はどこからか1枚のカード状の何かを取り出す。そしてその右手に持った黒と銀の銃身に差し込む。

 その様を見たタカマルは咄嗟に銃口の先を注視する。もしかしてあのカードが銃弾だったりするのか、だが砲身は丸い。

 

 床に向けられていた銃口は徐に持ち上がり、横に飛び除けようとしたもののタカマルなど最初から眼中になかったと言わんばかりにそのままタカマルの体を素通り、天井へと向く。

 そして――虚無僧の姿がフッ、と消え失せた。

 

「――消えた!?」

 

 まるで、魔法のように。跡形もなく。

 上弦衆やノロイ党の持つ転移術ともまた性質が違うものだ、とタカマルは確信していた。なにせこの耳が捉えていたのだ。

 

 アタックライド・インビジブル。と。

 

 

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

46:名無しの観測者 ID:xpZmaMBhM

 あれからイッチ何してんだろうな

 闇落ちスバルとやり合ってそれっきりっぽいけど

 

 

49:名無しの観測者 ID:qyBRn+kkQ

 >>46

 タヒんだんじゃないの~?

 

 

50:名無しの観測者 ID:7iHFW1+Sv

 コックカワサキやめろ

 流石に心配になるわな。スレも勢い落ちて来たし

 

 

54:名無しの観測者 ID:CZSdEv2Rt

 というか、話題がもう残ってない

 大体イッチの報告ありきじゃん

 

 

 

59:一般エロゲ竿役忍者 ID:20sNB2kmn2 

 ただいま

 

 

61:名無しの観測者 ID:EoeutM4PD

 >>59

 はいただいま

 

 ……ん!?

 

 

62:名無しの観測者 ID:oPtWnpjQs

 >>59

 (゚д゚)

 

 

67:名無しの観測者 ID:a26t1p082

 >>59

 イッチ生きとったんかワレェ!

 

 

72:名無しの観測者 ID:RbUcGfMT1

 >>59

 ファッ!?

 逝ったかと思ったよ……

 

 

75:名無しの観測者 ID:dDWNTclR3

 とんでもねえ、待ってたんだ

 

 

77:一般エロゲ竿役忍者 ID:20sNB2kmn2

 色々報告したいことは沢山あるけど、今ちょい戦闘中

 

 相手はスバル

 

 

81:名無しの観測者 ID:gPCjoMkwI

 >>77

 イッチ逃げて超逃げて!

 

 

86:名無しの観測者 ID:+iuNRmZ5N

 コレマケバトルジャネ?(ガイアセイバー恐怖症)

 

 

89:名無しの観測者 ID:tBPkAUOUs

 >>86

 ガイアセイバーの話はやめろ

 

 やめろ(迫真)

 

 

93:名無しの観測者 ID:9GxTH7yzJ

 勝てるの次の城攻めだったよーな……

 

 

96:一般エロゲ竿役忍者 ID:20sNB2kmn2

 いや城はまだ

 でもなんか勝てそうなんですけど……大丈夫なんですかね?

 

 【眼前で頽れるスバルの画像】

 

 

100:名無しの観測者 ID:G2ZDLHv+v

 えっ

 

 

101:名無しの観測者 ID:qxyS31Ats

 なんで?(殺意)

 

 ハルカとスバルの百合シーンが見られないじゃねえかよぉ!?

 

 

103:名無しの観測者 ID:6WoY1NtBp

 急に覚醒したとか?

 

 

108:名無しの観測者 ID:BZn2nkcm1

 あぁ、テレレレーしちゃったか……

 

 

113:一般エロゲ竿役忍者 ID:20sNB2kmn2

 私にも分からん(鬼畜博士)

 

 マジで無我夢中でやってたら押し勝ってた

 なんだよ……わけわかんねえよ

 

 

 

114:名無しの観測者 ID:6VSr2n98W

 突然強化されたり、天井から強化アイテムが落ちてきたり、チベットから郵送で強化アイテムが送られたりするのなんて平成あるあるなんだよなぁ……

 

 

 

119:名無しの観測者 ID:EAGv1JsCv

 >>114

 あるあるあ……ねーよ!

 

 

 

 

 

 

◆◆◆◆◆

 

 最初はシノビブレードを引き抜かないまま、ひたすら殴りつけるだけだった。

 女性に拳を叩き込むのは普段なら大丈夫か、と躊躇いもするがここで尻込みすれば前回の戦闘のようにビビり散らかして同じ失態を繰り返すのは目に見えていたからだ。

 だからひたすら拳を放つ。

 

「あぁぁぁッ!!!」

 

「くっ……この男……戦い方が滅茶苦茶だッ!」

 

 シノビは吠えながら間髪入れず放ち続ける拳は最初こそスバルは得物で弾き防ぎ続けていたが、徐々にその防御はほつれてゆき、肩に、胴に、その一撃が入っていく。

 一見子供の喧嘩のように見えるその連撃だが、質が悪いことに力があった。

 

 先日の戦闘において力も技量もスバルが凌駕していた。それはスバル当人も自覚しており最初こそ、飛んで火にいる夏の虫と鼻で笑っていた。

 しかし、様子がおかしかった。防いでいたはずの得物が弾かれ始めまるでエンジンがかかっていくかの如く拳が重くなっていく。

 

 一心不乱に放たれる一撃たちに規則性はまるでなくただただ殴りつけることだけを目的にスバルの体を襲うのだ。

 

「ずぉりゃああああっ!」

 

 力一杯に込めた拳は最早防御のていを成せなくなったスバルの顔面にさく裂し、10m先まできりもみしながら飛んでいく。

 脳が酷く揺れ、空中で姿勢を戻し着地したものの、ゆらりと頽れる。

 

「はぁ……はぁ……やった……?」

 

 息遣いも、攻撃も、あらゆるものが出鱈目だ。

 出鱈目であるが故に、スバルを出し抜けたのだろう。最後の一撃を叩き込んだシノビの仮面の下で真太郎は己の手を見る。

 

「やれた……?」

 

 何故スバルを出し抜けているのか、それは分からない。

 けれども現実、パワーだけならば今のスバルを凌駕していた。何故だ、その問いは誰もこの世ならざる者たちに問いかけても答えはない。

 

「つけあがるなよ……小僧!」

 

 とはいえ、拳を一発叩き込んだだけでスバルが沈むはずがなかった。右腕をシノビ目掛けて突き出した瞬間、指先が、腕が、まるで木の枝のように分かれ伸びて襲い来る。

 その様はまるで触手だ。これに貫かれでもすれば終わりだ。避けようにも後ろにはゲニンを撃破し終えてこれまでの蓄積ダメージで満身創痍のハルカとタカマルがいる。

 

 避ければ、あの二人に危害が及ぶ。もっと後ろには意識のない女の子の姿。

 逃げれば死、受け止めれば死。それを理解していたスバルはほくそ笑む。

 

――あぁ、そうかよ。

 

 ただでは転ばない、その点においてシノビの力など関係ない。

 戦い慣れしているのはスバルの方なのだ。攻撃を受けている時に位置をしれっと調整させていたことに気づけなかったのは真太郎の落ち度だ。

 

――だったら……受けて立つ!

 

「うおああああああああああああああああッ!」

 

 もうここまで来れば体がぶち抜かれようが、構うものか。だが、後ろの人間はやらせない。いずれ来るであろう痛みを本能が訴えかける。このまま貫かれればお前はハチの巣だ、と。

 これまで受けた痛みを凌駕するであろうそれを振り切る。

 ベルトの手裏剣状のバックル部分を勢いよく回転させ、右足に力を集中させる。

 

 

 すると右足から紫色の炎が浮かび上がり、迫り来る触手たちの先端を見据えた次の瞬間、床を踏み抜くように蹴った。

 

「やけになったか! 深紫の忍び!」

 

 無数の触手たちは当然逆に向かってきたシノビを貫こうと右足を避けてシノビの装甲を突く。装甲からとめどなく火花が散り、装甲の下で真太郎の内臓が悲鳴を上げる。

 このままでは装甲を貫通して予想通りハチの巣だ。

 

――ならばッ!

 

 しかし――シノビが上体を捻った瞬間、スバルは眼を見開いた。それは何故か――徐々にシノビの体から風が舞い始める、ぐるぐると、その周囲を。

 その風が形を成したのは間もなくしてのことだった。紫色のエネルギーを帯びた風がシノビの体を回転させ、ドリルのような回転をさせながら、襲い来る触手を切り飛ばしながら、スバルに向かう。

 当然完全に防ぎきれている訳ではない。ダメージを忍術で防御力を上げ、ある程度弾いているだけだ。

 

 

 

 電ドリルキックかスピニングダンスか。そんなことは今この瞬間において真太郎にとっては重要なことではなかった。

 触手たちの攻撃でシノビの蹴りが徐々に勢いを落としていく。スバルに直撃するのが先か、撃墜されてなぶり殺しにされるのが先か。

 

「落ちろ! 半端もの!」

 

 自身の危険を察知したのか、スバルの表情に焦りが見える。

 けれどもそれに付け込んでやろうという余裕は真太郎にはなかった。

 

 ただ、蹴り抜け。

 ヤツよりも、疾く。それを念じながら、全身の痛みを乗り越えるだけだ。

 

「落ちて――たまるっかあああああああああああああああああああああああああああああああああああッ!」

 

 気づけば口の中から血の味がしていた。

 シノビの装甲はまだ貫かれていないことから、外部からの衝撃で内臓のどこかが多少やられたのだろう。死んでからのことは――何も考えていなかった。

 

 

 

 

 ここから先の事は斉藤真太郎は覚えていない。限界を超えたせいで意識がどこかに行っていたに違いない。

 ちゃんと一撃が入ったのか、それとも途中で撃墜されたのか。その答えは蹴りを放った右足が知っている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 次に真太郎が記憶しているのは茫然としていたハルカの顔と、タカマルのちょっと複雑そうな顔で出されたサムズアップだった。

 

 

 

 

 

◆◆◆◆◆

 

 その頃、Wとルリー・ジョーはその戦いの場を庭に移していた。

 戦いの光景を上弦衆の忍びたちが固唾を呑んで見守る中、Wの連続回し蹴りがルリー・ジョーを吹っ飛ばす。

 スバルはシノビたちに任せ、ゲニンとルリー・ジョーの対処はWが回った形となる。

 

 木の葉を巻き上げながら地面を転がるルリー・ジョーはゆらりと立ち上がりながらジョーの方が状況を口にする。

 

「ゲニンを短時間で10体撃滅せしめるとは……思ったより強敵のようだ、ルリー」

 

 まるで片手間であった。事実上弦衆の忍びたちが目撃した光景は、迫り来るゲニンをカウンター気味に蹴り飛ばし、ナイフのように鋭い手刀がゲニンの体を引き裂く。

 一撃こそ体に傷をいれたものの、即座に投げ飛ばされてジ・エンドだ。

 

 最早ゲニン程度では相手にならないと判断したルリー・ジョーはゲニンをけしかけることを諦めたようだ。

 仮面ライダーWなる存在は、ここでただ観戦している忍びたちの反応を見るに、上弦衆の味方であるかどうかも不明、まるで通り魔のように現れたそれは上弦衆を盾にして嬲り殺しに出来る保証もない。

 

「うぉら!」

 

 夜風に乗るように飛び掛かるWは再び飛びまわし蹴りを放つ。その瞬間を見たルリー・ジョーは目を光らせる。

 

「――ならば!」

 

 その回し蹴りは操り人形の形をした主ことルリーの爪が受けとめる。カウンター気味に放った爪はWの体を切り裂き派手に火花を散らして、今度はWの方が地面を転がる。

 ノロイ党の怪忍は、案山子などでは決してない。Wの攻撃を見切ることも難しくはない。

 

「野郎……!」

 

 悪態をつきながら起き上がり、体勢を立て直そうと左手首をスナップしようとしたその時――

 

「どうした翔太郎!?」

 

 Wのもう一つの人格、フィリップが声を上げる。その言葉の意味を指し示すがごとく左手首が右へ左へと動く。まるで糸で操られた人形のように。

 

「手が……動かねえ」

 

「アハハハハハハハハハハハハハ! 貴方の体は糸で繋がれた。――まるで人形のようにね! 貴方の体はこれでわたしたちのもの! Wとか言ったわね、その醜い姿を左右半身に分割にして引き裂いてあげるわ!」

 

「……こ……の……野郎」

 

 Wの左腕が頭頂部から股まで伸びる中心部のラインに手を掛ける。ルリー・ジョーの狙いはその言葉の通りWを物理的に引き裂くことだった。

 が――右半身は別に動いていた。

 

「君は『糸』、と言ったね?」

 

「何……?」

 

 糸で操られたにも関わらず、右半身だけ何故無事なのかルリー・ジョーには訳が分からなかった。事実、あの糸は対象を操るもの、1本さえ繋がっていれば全身が操られ、意のままに相手を動かすことが出来るはずだった。

 

【STAG】

 

 右半身は、何事もなかったかのように携帯電話の形をしたガジェットにUSBメモリのようなものを差し込むとクワガタムシの形へと姿を変え、ルリー・ジョーに襲い掛かりあちこちをツノで突き、時には切り裂き始め――ぷつり、と音を立てて何かが切れた。

 

「い、糸がッ!?」

 

 想定外の妨害にジョーが驚愕の声を上げる、まさかWが式神まがいのガジェットを所有しているなどと思いもしなかったのだろう。

 

「悪りぃ、助かったぜ……ったく照井を操ったアイツを思い出すぜ」

 

「パペティアーだね。まったく二人で一つの怪人で、ガイアメモリとは異なる能力で対象を操る糸……彼らへの興味は尽きないが、決着をつけよう、翔太郎」

 

「あぁ」

 

 糸を断ち切りルリー・ジョーを振り切った機械仕掛けのクワガタムシを手中に収め、ベルトのW型のバックル刺さっていた黒のUSBメモリを引き抜く。

 そして右腰に備えられたスロットに叩き込み、スイッチを叩く。

 

【JOKER MAXIMUMDRIVE!】

 

 ごう、と音を立てたのが始まりだった。

 渦巻くように木の葉を、枝を、土を攫い、竜巻となりWの体を夜空に押し上げる。月を背にしたWは深紅の複眼を鋭く輝かせ、そして――ルリー・ジョー目掛けて落雷し始めた。

 

「「ジョーカーエクストリーム! ハァッ!!」」

 

 ドロップキックの要領で落ちていくWの姿がスライドするかのように二つに分かたれ、そのまま落ちていく。なんだそれは、なんで二つに割れた、見ていた全ての上弦衆の忍びたちは思ったに違いない。

 先に突き刺さったのは左側の半身の蹴りだった。次に追従するように右半身が元に戻ると同時にルリー・ジョーの身に炸裂。

 

 ジョーカーエクストリームと呼ばれた必殺のキックを受けた怪人はそのまま地面にその身を叩きつけられ小さなクレーターを作って倒れこんだ。

 爆発四散せずに無事にいられたのは怪忍ならではか、ゆらりと立ち上がりながらルリーが忌々し気に舌打ちをした。

 

「ちっ、この下衆がッ! ……これ以上こいつの相手をしてはやられるわ……スバルも撤退したようだし、私たちも戻りましょう」

 

「はい、ルリー」

 

 孤立無援で徹底抗戦する馬鹿はいない。

 ここでW相手に無策で抵抗しても再びジョーカーエクストリームを叩き込まれて今度こそ爆発四散だ、それを悟っていたジョーの進言通り、どこからか吹き上がる黒い瘴気に呑まれるかのように消えていく。

 

 それを追う手立てはWにはなかった。

 完全にノロイ党の残滓が跡形もなく消え去った所で、Wの姿が風に攫われるかのように砕け散り、人の姿を現していく。

 

 その姿は黒いスーツに黒い帽子、黒い革靴。帽子から覗かせ、上下右左とランダムに跳ねた後ろ髪は人の子の持つそれであった。後ろ姿だけではあるが人間の男のもつものだと確信が取れる。

 ある忍びは思った、松田優作に憧れた若者のようである、と。まるで背伸びでもしているようなその出立ちに忍びたちはその素顔が何なのか捉えるべく目を凝らす。

 

「逃げちまったか……」

 

 男が独りごちて、振り向きその素顔を晒すよりも先に――

 

 

 

 

 光となって、消えた。

 

 

 





Q:元主人公がどうこうってどういうこと?
A:読んで字の通りと思われる。仮面ライダーという異物の出現と真太郎が力を受け入れてしまって世界の均衡がバグっているのが現状。シンケンジャーの世界をディケイド組が半ジャックしてしまった時に近いかもしれない

Q:虚無僧の目的は? あいつ何言ってんのか抽象的過ぎて分からん
A:端的に言ってしまえば仮面ライダーの世界を作ること。わざわざなんでそんなもん作ろうとしたのかは現在不明。


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