転生しても私は自堕落に生きたい (アステラ000)
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プロローグ
はじまりはじまり
『転生』
皆さん、大好きですよね。
きっと誰しもが一度は「このクソつまらん人生とおさらばして、異世界とか行ってみてえ」と思ったことがあるでしょう。
しかぁし!!!
私──
というか、この世の森羅万象すべてに置いて興味がないという冷めた無気力人間だというだけだが。…いや、
学生の身でありながら友達は0。趣味は寝ること。自分が何をしたいかとか、将来は何になりたいかとかなんて考えたこともなく、ただただ過保護気味な親に言われたとおりに生きている。
楽しいとは思ったことないけど、つまらんとも思ったことはない。生きているから生きる、これが私だと思っていた。
そして──交通事故であっさり死んだのもまた、私の人生だったと思う。
さてと、前置きが長くなったな。
私は今、知らない部屋にいる。そんなに広くはないが、シンプルで整頓された部屋。
はて、一体ここはどこなんでしょうかねえ。
…
……
………え、いや、まじでナニコレ???
かんっっっっぜんにここはどこ私は誰状態なんだが。
え、私事故って死んじゃいましたよね??意識ちゃんとブラックアウトしましたよね???
もし仮に死んでなかったとしても、目覚めたらふつー病院じゃん????
今んとここれ、『転生モノ』によくあるあの
『変わり映えしない日常を送ってたら信号無視のトラックにはねられて、気づいたら知らない世界だった!?』
っていう、ここまでがテンプレ、ここからが天ぷら、みたいな感じになっちゃってますが。
…
……
「…嘘でしょ、転生しちゃった…」
私、元有栖麗は、知らない部屋を呆然と眺めながらつぶやくのだった。
★★★★★★
転生してしまったことを早急に理解した私は、まず鏡の前に立った。
「へえ…」
そこには、10歳くらいだろうか?
前世よりもかなり若返った少女が映っていた。
少々不健康とも取れるくらいほっそりとした身体。白雪姫とかってあだ名をつけられそうな白い肌。金髪…いや、もっと薄いプラチナブロンドの長いサラサラヘア。そして、ぱっちりと大きな目にアメジストのようにきらめく薄紫色の瞳。
これは…
「…めっさ可愛いじゃん」
実は鏡を見る前から少し期待はしていたが、一言で言えば容姿端麗、超絶美少女である。やっぱり、『転生モノ』のテッパンだよなぁ。
前世でも容姿には自信があった。無気力人間の私だったが、唯一自分には興味あったし、自分は大好きだった。
これで前世より顔面偏差値落ちてたらちょっとな〜とか思ったけど、杞憂だったようだ。
「んで、今んとこ『私は誰』の3割くらいしか解決してないけど…」
とりま私の名前が知りたい。容姿見た感じ日本ではなさそうなので、流石に『有栖麗』ということはないはず。
鏡の横にある小さな勉強机の上に、記名されているものがあった。
「レイ・エルバ…ねえ…」
前世引きずってて草って感じ。
まあ、れいって名前嫌いじゃなかったけど。
『私は誰』があらかた解決したところで、次は『ここはどこ』だ。
小さな窓から外を見てみると、まあまあ下の方に地面が見える。アパート?マンション?
前世マンションぐらしで一軒家に憧れていた私はちょっとがっかりしながら、ドアに向かう。そういえば、今は何時だろう。
コンコン
私がドアを開けようとドアノブに手をかけたところで、タイミングよくノックされた。
「レイ?起きてるかしら?」
「…今、起きました」
「あら、寝坊なんて珍しい…もう朝食の時間ですから、急いで降りておいでね」
「…はい」
ドアの向こう側から聞こえてきたのは、おっとりとした女性の声だった。母親か?
めちゃくちゃ前世と同じノリで応対したけど、怪しまれなかったな…。
とりあえず、朝食がどうのと言っていたので、手をかけていたドアノブをそのまま引いた。
★★★★★★
結果から言うと、ここはどうやら孤児院のようだった。
私は、部屋に戻ってぼすっとベッドに腰掛ける。
下に降りていくと食堂のようなところがあり、小中学生くらいの子供達が10人くらいいた。なんだろう、約ネバを思い出させるような雰囲気だった。食事中、下手なことが言えない私は沈黙を貫いていたが、一切話しかけられなかったし、不審に思われている様子もなかった。
おそらく、レイ・エルバはそういう人なのだろう。
…うん、前世の私と同じような性格してる。ありがたい。
『ここはどこ』もまあ解決したところで…もう少し情報収集しますか。
ここがなんの世界なのかとか、なぜ私は孤児院にいるのかとか、いろいろ知らなきゃいけないことは山積みだ。
うーん、こういうのって転生する前に神様かなんかとお話するイベントがあるもんだと思ってたんだけど…もしくは、この世界の記憶をちゃんと持って爆誕するとか。
まさか情報0で放り出されるとはね〜。
…はあ、せめてこれから平凡に平穏にだらけて過ごせますように。
初めての投稿です。
至らない点ばかりと存じますが、どうかよろしくお願いします。
この物語は、筆者の自己満足8割、「なんかこういうサイトに投稿してみたかったんだよね…」2割の提供でお送りしています。
そして、主人公はまだここがハリポタワールドであることを知りません。
今回の約ネバみたいに、たまに他作品名が出てくる場合がございます。
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魔法少女レイ、爆誕
「…ふわぁぁ…」
私──レイ・エルバは、読んでいた本を伏せながら大きなあくびをした。
今日は生憎の雨。おかげで、あの忌々しい「お外で遊ぶ時間」なるものがなくなり、私の気分は晴ればれとしている。
それはさておき、ここの暮らしにも随分慣れてきたものだ。
結局、この世界が一体どんな世界なのかは具体的には分からなかった。
転生した初日から情報収集に精を出してきたが、主な収穫は
ここがイギリスのロンドンにある『ウール孤児院』という場所であること
両親は私が7歳のときに、何かの犯罪に巻き込まれて死んでしまったこと
の2つである。
ちなみに、2つ目の情報を得るのには少し手こずった。
私の写真嫌いは置いといて…とまあ、そんなこんなで私は今、至ってふつーの生活を送っている。
転生とかっていう科学的に証明出来ない非現実的なことが起こったからには、なんかこう…チート能力授かってレッツ冒険!ふぁんたじー!みたいな世界に巻き込まれるのだろうと身構えてたけど、本当にふつーだった。
毎日3食ご飯食べて、部屋でゴロゴロしたり本読んだり昼寝したりまた昼寝したりして過ごす。
うーん、すこぶる快適だ。
前世とほぼ一緒なおかげでノーストレス。むしろ、顔面偏差値上がったぶん得したわ。
ちなみに学校には
まあ、今んとこ勉強に関して心配などはしていない。親に小学校から私立名門校に叩き込まれ、言われるがままに勉強していた前世の記憶を持つ私なら、高校あたりまでは余裕ぶっこいていられるはずだ。
そういうわけで、転生後3ヶ月たった本日も、私はだらだらと過ごしていた。
グーッと伸びをし、暇つぶしに読んでいた本──たいして面白くはない、ただ部屋にあっただけ──に視線を戻そうとしたその時、
コンコン
「レイ?今いいかしら?貴女にお客様よ」
…客?私に?
というか、こんな古びた孤児院をわざわざ雨の中訪れる人がいるとは。私の記憶によれば、この3ヶ月の間に客が来たことなど一度もないぞ。
「…はい」
本を片付け、ベッドに寝転がっていた姿勢から立ち上がりながら返事をした。
がチャッとドアが開いて入ってきたのは、見知ったここの職員さんと…
うっわあすごく見たことがある。
黒髪に黒服、陰気臭い顔、その表情には「今すぐ帰りたい」という感情をを隠すことなくありありと浮かばせた男性がいた。男性は、私ではなく職員さんに向かって口を開く。
「…申し訳ないが、本日の面会はレイ・エルバと二人だけで行いたい…よろしいですかな?」
「ええっと…すみませんが、職員の同席はここの決まりでして…」
職員さんがそう言いかけると、黒ずくめの男性はどこからか木の棒のようなものを取り出し、職員さんの頭に当てた。
「…わかりました。では私は席を外しますね」
途端に少し虚ろな目になった職員さんが、おもむろに部屋を出ていった。
…前世で、弟が映画の大ファンだったおかげで、私も覚えている。
なるほど、この世界は──
「…我輩の名はセブルス・スネイプ…今日は我輩が教授として勤めているホグワーツ魔法魔術学校についての説明に来た」
──ハリポタワールドだ
…嘘じゃん、私魔女なの?
そんな…せっかく平凡で平穏なぐうたら生活を満喫していたというのに…
「…ふむ、驚かないのかね?エルバ」
「…いえ、驚いてますよ」
というか、落胆してるといったほうが正しいが。
「魔法…学校…私…魔女…?」
「その通りだ。…今までに周りで不思議なことが起こったこともあっただろう」
いや、知らんがな。起こってたとしても、それ中身私じゃないし。
「…起こった…かも…?」
「…とにかく、レイ・エルバ、君はホグワーツへの入学予定者リストに名前がある。である以上、君はホグワーツで魔法を使うこと、そして制御することを学ばねばならない…理解できるかね?」
「…はい」
あああ、魔法界でのマジカル生活待ったなし…
しかも、一番最初に会ったハリポタキャラがスネイプとか…ちょっと神様、わざとでしょ?ねえ!
このねちねち教師に入学前から目つけられたらたまったもんじゃないぞ。
神様への不満を募らせる私をよそに、スネイプはホグワーツのこと、魔法界のことを簡潔に説明した。
「エルバのような孤児には、入学するために必要な資金を魔法省が負担することになっている。…明日、我輩の付き添いの元、入学に必要なものを買い揃えに行く。朝に迎えに来るから、準備しておけ」
スネイプがめんどくさそうな顔をしながらそう言ったが、私だってめんどくさいわ!
「…わかりました…」
渋々と返事をした私──もっとも、顔には出ていなかったろうが──を見たスネイプは、そのまま何も言わずに部屋から出ていった。
あっという間にホグワーツへの入学が決まってしまった私は、力が抜けたようにベッドに倒れ込んだ。
…はあぁぁぁ
やっぱりなにかあるんじゃん、転生世界。
最悪だ
後書きってなに書けばいいんでしょうか…
レイちゃんの紹介でもしときましょうか
レイ・エルバ
ハリポタワールドに
あ、ここまで読んでくださりありがとうございます。
次回は期待しないでくださいね。
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ドキドキ!ホグワーツ一年目
フラグ一級建築士レイ
「準備はできているだろうな…さっさとついてきたまえ」
翌朝、昨日と同じように部屋に通されるなり、スネイプは私──レイ・エルバに高圧的に言い放った。
ああ、なんていうんだろ…すっごくスネイプだ。解釈通り、うん。
って、そんなこと呑気に考えている場合ではない!
落ち着け私、昨夜のシミュレーション通りに今日を乗り切るんだ!
このジメジメ教師をうまく躱せることができれば、快適なホグワーツ暮らしに一歩近づけるはず…!
というのも、昨日スネイプが帰ったあと、私は考えたのだ。
学校がストーンウォールからホグワーツに変わるってだけで、ちょーっとマジカルパワーが使えるってだけで、別にこの世界での生活が大変なものだと決まったわけではないのでは、と。
面倒事は気合で避け、ひっそりと存在感を消すように過ごせば、きっと私の平凡で平穏なぐうたら生活は守られるはずだ。
そう、絶望するのはまだ早い
そして私は、スネイプに付いて外に出た。
昨日が雨だったこともあり、ムシムシとしたいや~な天気だ。
それなのに、この男はなんだってこんなに全身黒ずくめでいられるのだろうか…
スネイプは孤児院を出ると、まっすぐ人気のいない路地裏へと向かった。
そして、周りに人がいないことを確かめると、私に腕を差し出す。
「時間がもったいないから付き添い姿現しで向かう。我輩の腕を掴め」
姿現し…ああ、あのシュポって瞬間移動するやつだっけ。
私はこくんと頷き、スネイプの腕を掴んだ。
★★★★★★
シュポっというよりバチンっみたいな音がし、ギューッと引っ張られるような感覚とともに、私とスネイプは先程とは景色の違う路地裏に移動した。
「…ぁ」
「…吐き気等はないか」
着地とともによろけた私を、なんとびっくり、スネイプが支えてくれる。
しかも体調の心配…だと…?なんか思ってたんと違うな。
よろけた以外はなんともないことを軽く頷くことでスネイプに伝えると、スネイプはすぐに大通りの方へせかせか歩きだしていった。
大通りには外から見ても摩訶不思議な店がたくさんあり、まあまあ奇抜なファッションの人々でごった返していた。
ここがかの有名な…ダイアゴン横丁?だっけ?
「ここがダイアゴン横丁だ。ここですべてが揃う。先ずは援助金を受け取るために銀行に行く」
ダイアゴン横丁で合ってたみたいだ。ハリポタに興味なかったのに、案外私覚えてるな。
んでもって、スネイプはそう言うやいなやまたせかせかと歩いていく。
…ちょっ、さっきから思ってたけど速くないっすか…?
私が小さいあんよで必死についていった先は、大きな白い建物。
入っていくと小さいゴブリンたちがせわしなく働いていた。おお、映画で見たとおりだな。
ここで待ってろとスネイプに言われたので、私は端っこでステイ。
しばらくすると、膨らんだ袋を持ってスネイプが戻ってきた。
「これが一年分の資金となる。くれぐれも無駄遣いは控えたまえ」
「…はい」
受け取ると見た目より重くて取り落としそうになった。魔法でもかかっているのだろうか。
銀行を出た私はスネイプに連れられて書店、洋装店、雑貨屋などをまわって行った。
ふーむ、今んとこハリポタキャラとのエンカウントイベントは発生していないな…(スネイプを除く)
これはもしや…ハリーたちとは違う世代か…?あの呪いの七年間とは無縁に生きられるのか…!?
これはありえる…期待できるぞ…!あわよくばヴォル氏が討伐されたその後の世代とかがいいな〜
あのトカゲ君がいないだけで平穏に生きられる確率ぐんと上がる気がするし!
自分の未来に希望を見出し、ちょっと気分が良くなった私は、初めてこちらからスネイプに声をかけた。
「次って…杖、ですか?」
「!…そうだ」
あっ、今ちょっと驚いた顔した。…え、話しかけただけで?
そんなこんなで着いた先はオリバンダーの店。紀元前382年創業…?よく物理的に潰れないな、この店。
そんなことを思っていると、スネイプがこちらを見ながらこう言った。
「…我輩は少々別の用事がある。杖は一人で買いに行け」
「…は、はい」
おん…どっか行っちまった。まあでも杖の買い方もなんとなく映画で見たし、いけるやろ。
よしっと意を決して、ふっるい店に恐る恐る入る。
…誰もいねえ。気配も感じないわ。オリバンダーさん、いるよね…?
少し進むと、奥からすっとおじいさんが顔を出した。
「いらっしゃい。ホグワーツの新入生かね?」
「は、はい…杖、買いに来ました」
「これはこれは、お人形のように可愛らしいお嬢さんですな。私はオリバンダーと申します。では早速、杖を選びましょう。杖腕は?」
杖腕…ようは利き手の話だろう。
「右、です」
「では寸法を測りましょう…腕を伸ばして」
言われたとおり腕をすっと伸ばすと、洋装店で見た自動で測る巻き尺が私の身体をあちこち測り始める。
…どう考えても髪の長さは杖に関係なくないか?巻き尺くん。
「ここの杖は、杖の一本一本に魔力を持った様々な物を芯に使っております。そして、同じ杖は一つとしてありません。さらに、杖は持ち主を選びますので、他の者が他の魔法使いの杖を使っても、決して自分の杖ほどの力は出せないのです」
オリバンダーさんは奥をごそごそを漁りながら説明してくれる。
持ち主を選ぶ、ねえ…。木の棒に選ばれるって思うとなんだかいい気はしないが、杖というのはもっとこう…繊細で神秘的なものなんだろうな。
そんなことを考えながら、私の鼻の穴の大きさを測りだした巻き尺をはたき落としていると、オリバンダーさんが奥から箱を持ってきた。
「まずは…スギにドラゴンの心臓の琴線、25cm、ややしなる。握ってみてくれますかな?」
言われたとおり握ったが、特に何も感じない。
確か映画だと、ハリーが合わない杖を振って店を破壊してたな…ちょっと振ってみて大丈夫だろうか。
そう思いながら私は控えめに振ってみる。…何も起こらんな。
すると、オリバンダーさんが私からひょいと杖を取り上げる。
「ふむ。これではないようですな。それなら…クルミの木にユニコーンの尻尾の毛、20.5cm、頑固」
差し出された杖を握ると…なんだろう、ちょっと不快感を感じるな…。
私が杖を返そうとする前にまた取り上げられてしまう。この人ほんとに謎いな、見ただけでわかるんか。
「これもだめなようだ…では次は…」
そうして私はいろんな杖を握っては取り上げられてを繰り返した。
「…あの…」
「まあお待ちを、お嬢さん。必ず合う杖が見つかるはずですから」
そう言ったオリバンダーさんはこころなしかさっきより楽しそうだ。
…もう試した杖の数、結構なものになってるけど…。
私に合わなかった杖が机に何本も積まれているのを疲れた気持ちで眺めながら、奥で箱をガタガタいわせているオリバンダーさんを待つ。
「…ふむ、ここまで合わないとなると…まさか…」
あれ、この流れ、見たことあるな。なんか稀な杖でも渡されるんか?
思い詰めたような顔をしたオリバンダーさんが、箱を持ってくる。
「…まさかとは思うが、試してみる価値はあるだろう…お嬢さん、この杖に私は直接触れることが出来ない。箱から取ってくださるかね?」
「…はあ」
まてまて、この人でも触れられないとか、やっばい杖なんじゃないの??触れた瞬間死んだりしたらやだよ???
…さすがに杖に殺されることはないか。
私が恐る恐るその杖を取ると…
「!?」
これだ。この杖だ。
私はすぐにそう感じた。
心臓がギュッと掴まれるような感覚がするが、その杖は私の手にピッタリとハマり、まるで私の身体の一部のような心地がする。
オリバンダーさんは目を見開いて、私を見つめた。
「これは…なんと言ったら良いのだろうか…。お嬢さん、その杖は月桂樹に麒麟の角を使っているんだ」
「キリン…?」
あの首の長いやつ…ではないだろうな。おそらく、伝説とされてるほうだろう。
「麒麟は伝説の聖獣だ。麒麟を傷つけたり、屍を見たりすることは不吉だと言われておる。つまりこの杖は、聖獣が芯材とした神聖なものでありながら、聖獣を傷つけてつくられた不吉なものとなっていてな。…この杖に触れることが出来たものは少ない。しかも、触れることが出来たものは皆行方不明になったり突然死してしまったりと不幸な目にあっているのだ」
…嘘でしょ、なんてものを渡してくれたんだこのジジイ。
「しかし、この杖が触れたものを拒まなかったのは初めて見た。もしかしたら、この杖に使われた麒麟がお嬢さんを気に入ったのかもしれんな…いやはや、なんてこった」
気に入った…?よくわからないが、死亡フラグは立たずに済んだのか…?
「さらに言うと、木材となっている月桂樹は癖が強くてな。所有者に非常に忠実で、他の者が杖を奪おうとすると勝手に雷が落ちる始末だ。まさに、誰にも扱えない伝説の杖として長らくこの店に放置されてきたのだが…まさか合う人が見つかるとは…お嬢さん、大切に扱うんだぞ」
「は、はい…ありがとう、ございました」
私は色々言われて混乱しながらも、代金を払おうとする。だが、
「代金はいらんよ。その杖に合う人が万が一現れたら、無償で渡すことになっていたんだ」
と、オリバンダーさんが言うので、私は戸惑いながらもペコリとお辞儀をして店を出た。
「…随分とかかったな」
「…あ…すみません」
やっべ、スネイプのこと完全に忘れてた。何本も試してたし、こりゃ随分待たせただろうな〜…。
ちらっとスネイプの顔色を伺うが…あれ、別に怒ってなさそう。
「…杖がすぐに決まらない者はたくさんいる。むしろ、それだけの時間をかけて見つけた杖なのだ。大切にしたまえ」
「は、はい」
…なんとまあ、スネイプの言わなさそうなセリフ…解釈違い…。
もしかして、私が思うよりスネイプって気難しくないのかもしれないな。
そんなことを考えながら、私は歩き出したスネイプに付いていく。
「これで必要なものはすべて揃ったな。我輩も暇ではない。さっさと…エルバ、どうした?」
スネイプは、歩きだしてすぐに立ち止まった私のほうを振り返る。
「…ペットか。…欲しいのか?」
「…えっと、あの…だめ、でしょうか?」
「…好きにしたまえ」
おお、いいのか。てっきり無駄遣い〜とか言ってくると思ったのに。
ここであまり時間を食うとスネイプが苛つきそうだが、問題ない。なぜなら、私が立ち止まったのは一目惚れした子がいるからだ。
『魔法動物ペットショップ』に入った私は、外からも見えたケージに近づく。
そこには、黒い立派な翼を持った大きな鷲がいた。
森羅万象に興味がない私は、もちろん動物にも興味がない。前世で猫を飼っていたが(弟の強い要望で)、とくに可愛がることはなかった。キュートだとは思うけれども、それまでだ。
それなのに、私はこの鷲に惹かれた。こんな感覚初めてだ。
ただ…
「…」
…でかい。外から見たときよりも随分とでかかった。そりゃそうだ、鷲だもん。
この子を連れて行くのは流石に無理だろう…と、諦めて常識に沿ったペットを探そうとしたその時、
『なんだ、買ってくれないのか…せっかく久々に気に入った人間だったのにな』
「…え?」
ん??今の声、誰だ??スネイプ…じゃないし。
まさか…
『おっ、戻ってきた。ほらほらお嬢さん、俺を買わないかい?迫力があってかっこいいだろう?』
「…しゃ、しゃ…」
喋ったあぁァァァァァァァァァァァ!
『…えと、鷲さん…?』
『うおっ、喋った』
いや、それこっちのセリフや。
『…人間の言葉が、喋れるの?』
『ん?何を言っているんだい、お嬢さん。君が私らの言葉を操っているんだろう?人間と話すなんて初めてさ』
「え?」
私は驚いて口を抑えた。…あれ、今私、何語喋ったって??
『いやぁ、君のことはさっき目があったときから気に入ってたんだが、まさか言葉が通じるとはなぁ。ますます気に入ったよ』
『…私も、鷲と喋れるとは思わなかった…』
なぜかはわからないが、目の前の鷲と喋ろうと思って口を開くと、鷲語?が喋れてるみたいだ。
何だその能力。転生の副産物か??やっぱり転生にチート能力は付き物だったってことか??
正直いってそんなものはいらないが…まあ鷲と喋れるくらいで問題が起きることはあるまい。
とはいえ、言葉が通じるなら、ますます欲しくなったな…。
「…エルバ、先程から鷲の前で何をブツブツ呟いている」
「…いえ、なんでも、ないです」
ふむ、やはりスネイプには聞こえていないようだ。
「…あの…ペットに鷲は…無理ですよね?」
「大きすぎる。どこにいさせるつもりかね?」
だよね〜
どうしたものか。やっぱり普通にフクロウとかにしとくかな…。
私がちょっと名残惜しい気持ちになりながら黒い鷲を見つめていると、スネイプがなんだか苦々しい顔をして話しかけてくる。
「…そんなに気に入ったのかね?」
「…まあ」
「…ホグワーツに被害を出さないよう完璧にしつけができると言うならば、飼えないこともない」
え、まじで?いいの!?
パッと顔をあげて、ほんとにいいの!?って目でスネイプを見つめると、ふいっと顔を背けられた。
それを肯定ととらえた私は、さっそく鷲に話しかける。
『あのね、私についてきてくれる気は…ある?』
『お、買ってくれるのかい?ようやくこのせっまいケージから出られるな。答えはもちろん、喜んで、さ』
『えっと、私が行くところは学校で…いろいろルールがあるから。だからその、私との約束を絶対に守れるなら、連れていけるよ』
『もちろんさ。俺はプライドが高いが、俺が選んだご主人には忠実だ。ご主人との約束は必ず守るし、いかなる時もご主人の助けになろう』
『そっか』
私はスネイプに向き直り、買うことを告げた。スネイプはとくに何も言わなかった。
お金を払い、鷲のケージをカートに乗せてもらい、どうにかこうにか押していく。
おっっっっっもい…分かってたけど。
なんか荷物を軽くする魔法とかあるかな…覚えたら便利そうだ。
うんしょうんしょと押していると、二回目のなんとびっくり、スネイプが荷物を何個か私からひょいと取り上げた。
「あ…ありがとうございます」
「…ふん」
うーん、塩対応のくせになんだかんだ優しい…こんな人だったのか、スネイプって。
昨日から身構えまくっていた過去の私を思い出して、心のなかで苦笑する。
買い物を終えた私達は、来たときと同じ路地裏に戻ってきた。ちなみに、今度はよろけなかったぜ。
さてと…鷲さんはどうしようか。部屋には入らないし、ホグワーツでも放し飼い?とかになるだろうから、中庭に連れて行こうか…。
そんなことを考えながら孤児院に向かっている途中、スネイプに引き止められる。
「エルバ」
「…?」
「…入学祝いだ」
そう言って差し出されたのは、小さな箱。
にゅう…がく…いわい…????
世界中を探してもこの言葉がこれほどまでに似合わない男はいないというのが私の見解だが…
これはどういった…???
混乱して、箱、スネイプ、箱と視線を動かしたあと、恐る恐る受け取った。
「…ありがとう、ございます」
一瞬そのまま仕舞おうとしたが、ここが英国であることを思い出す。
「…開けてもいいですか?」
スネイプが頷いたので、ゆっくりと開けると、中から出てきたのはきれいな懐中時計だった。
「…わ…」
蓋は星を散りばめたような装飾。紫色の文字盤には穴が空いているところがあり、歯車が見える。
えぇ…めちゃめちゃにセンスいいじゃん。たっかそー…。
「すごく…綺麗、です。いいんですか…?」
「ああ。…では、我輩はもう行く。次は9月1日に迎えに来る」
「はい」
私はペコっと深くお辞儀をして、スネイプが姿現しで消えるのを見送った。
そこは孤児院までちゃんと連れてってくれないんだ…。
孤児院に戻ってきた私はどうにかして荷物を片付け、鷲を中庭に放してみる。
『ケージも部屋も狭いだろうから…放してて大丈夫?』
『ああ、ご主人。心配しなくても、ちゃんと戻ってくるからな。いや〜、久々に思う存分飛べそうだ。感謝するよ』
『よかったね。…そういえば、名前どうしよう』
『ご主人がぜひともかっこいい名前をつけてくれ』
う〜ん、かっこいい名前…ねえ。私に名付けのセンスがあるのだろうか…。
私は、鷲が上空を気持ちよさそうに飛んでいるのを眺めながらじっくり考える。
……
よしっ!
『おーい…テオ、なんてどう?』
『ふむ、なかなかいいじゃないか』
おお、気に入ってもらえたみたい。
地面に降り立ったテオは嬉しそうに目をパチパチさせた。
『テオ、これからよろしくね』
『よろしくな、ご主人』
テオに餌をあげて部屋に戻ってきた私は、ベッドにドサッと倒れ込んだ。
いやはや、なんともまあ濃い一日だった…。スネイプへの印象がガラッと変わるわ、鷲とおしゃべりできるという謎のマジカルパワーが見つかるわ。
…前世も今世も引きこもりの私には苦行だったな。
私は今日買った教科書の中から『ホグワーツの歴史』という本を取り出す。
映画でしか見たことがないが、これから行く学校はなかなか愉快でめちゃくちゃなところであることは知っている。いろいろと事前に学んでおいたほうがいいだろう。
そう思って買った本を早速開きながら、私は体力を使い果たした身体をベッドに預けるのだった。
前回のレイちゃんの紹介に追記…
レイちゃんはナルシストで人見知りです。
他人と話すときは極限まで声が小さくなります。あとちょっとどもります。
そして表情筋はアバダケダブラ
今の所投稿頻度は早め…早め?私の中では早め…ですが、次第に落ちていきます。断言。
そういえば私、学校なんかで長距離走るとき、最初運動部の速い子達より飛ばしてイキるクセに、すぐバテて後ろ走ってた子たちに「遅っw」って言われながら追い越されるタイプだったなぁ…
あ、ここまで読んでくださりありがとうございます。
次回も期待しないでくださいね。
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いざ、ホグワーツ
「これが列車のチケットだ。くれぐれもなくさないように…では我輩はもう行く」
今日はホグワーツ入学の日。私──レイ・エルバは、スネイプに連れられてキングス・クロス駅に来ていたが…スネイプのやつ、最後まで案内してくれないんかい。
まあでも私は映画の知識があるから「9と3/4番線??はにゃ??」とはならないんですが。
時間はまだ結構余裕があるが、人混みアンチなのでさっさと入り口の柱まで移動する。そして、ためらうことなく柱の中に身体を押し込んだ。
おお、これがホグワーツ特急…間近で見ると迫力があるな。すっごい赤いけど。
にしても、ここまで来てもハリポタキャラとは会わないとは…やはりこれは期待できるぞ…!
まだ人が少ないだけだろと私の中で囁く悪魔を追いやりながら、私はホグワーツ特急に乗り込んだ。コンパートメントを確保して一人で暇つぶしの読書をしているうちに、周りが騒がしくなる。しばらくして列車が発車した。
しかしまあ、どれくらいの時間乗っていることになるのだろうか。
ちなみに、テオはホグワーツまで飛んでいってもらうことにした。列車内なんて狭いだろうし、テオがそっちのほうがいいって言ってたからね。
私は本が退屈でうつらうつらしてきたが、突然のノック音で目が覚める。
「あの…ここ、座ってもいい?どこも空いてなくて…」
「…どうぞ」
ホッとしたような表情をしながら入ってきたのは男の子だった。
ふむ…黒髪にメガネ、そして額にチラリズムしている傷…君はもしかしなくてもハリー・ポッター君じゃないか。てことは、子世代だったのかぁ〜。
…って、ええええええハリー・ポッター!!!???
なぁにが子世代だったのかぁ〜だよ!!!
なんで私普通にどうぞとか言っちゃった!!!???
そんなぁ…よりによって君に会うなんて…
終わった、私の転生人生。
ああ…天から「フラグ回収乙wwww」って声が聞こえる気がする…。
と、驚いたり悲しんだり、忙しい感情の流れを表情には一切出さずにぐるんぐるんさせていると、ハリーが話しかけてくる。
「えっと、君は新入生?」
「…うん」
「僕もなんだ!僕、ハリー・ポッター」
「…知ってる」
「あーやっぱり?それで、君は?」
「…レイ・エルバ」
「よろしくね、レイ」
君さては陽キャか??初対面の、しかもこんなクソミニボイスでボソボソ応対してる私になぜそんな眩しい笑顔を向けられるんだ???
あー無理だ。陽キャと話すってのも無理なんだけど、それよりもこの世界の主人公と関わったら絶対ろくなことない…
…そうだ、そうだよ、関わらなければいいんだ。
出会ってしまったのは仕方がない。だがここからまだ挽回はできる!
おい、さっき笑った神様、見てるか??ここまでの運命はあなたの手の中だったかもしれないがなぁ…
ここからは私のターンだ。
自分の運命は自分で切り開くっっ!!!
そうと決まれば早速、狸寝入りをしよう。私は開いていた本を閉じ、さらに目を閉じた。
ハリーは私とおしゃべりしたそうにそわそわしていたが…すまんな少年よ。
でも大丈夫だろう。きっともうすぐ…
「あ〜ここ、入っていい?どこも満席で…」
「あ、うん!もちろんだよ」
そらきた。目を閉じているから見えないが、今入ってきたのは十中八九赤毛のロン・ウィーズリーだろう。
ほら、これでおしゃべり相手が出来たぞ。ぜひとも私のことは、空気だと思ってくれ。
私が祈ったとおり、ハリーとロンは二人だけでおしゃべりを始める。
「君、さっき駅で会ったよね。僕はロン・ウィーズリー。ちなみに、ロンって呼んで貰えると助かる。君も見たとおり、ウィーズリーはたくさんいるんだ」
「うん、わかったよロン。僕はハリー・ポッター」
「ハリー・ポッター?あのハリー・ポッターかい?すっげぇ…じゃ、じゃあ、あれあるの?額の…」
「ああ、うん。ほら」
「わあ…本物だ!…ところでその〜、この子は?」
おっと、流石に完全スルーはしてくれないか。ま、このまま寝たフリしとけば大丈夫でしょ。
「あーレイ・エルバって子なんだけど…寝ちゃったみたい」
「そうみたいだね…」
よしよし、さすがに起こしてはこないよな。レディの睡眠を邪魔するのは英国紳士のすることじゃないしね。
その後は、売店が来てハリーが大量にお菓子を買い込んだり、ハリー・ポッターの噂を聞きつけたドラコ・マルフォイと愉快な仲間たちが訪問したりした。ちなみに、お菓子を横取りしようとしたマルフォイと大喧嘩になりかけてたけど、寝てる(フリをした)私に遠慮したのか口論だけで終わっていた。
あとは…ロンがペットのスキャバーズの色を変えようとして失敗したのを、真面目ちゃんのハーマイオニー・グレンジャーに見られてたり。
「それ呪文あってるの?全然成功してないじゃない!私は非魔法族出身なんだけど、もう教科書を何回も読んだし簡単な魔法ならできるのよ。例えば…」
とまあ、コンパートメントをに入ってきてペラペラと…さすがハーマイオニー、映画の通り。
ロンがうんざりしてそうな気配がするぜ。
「…ってことが本に書いてあったのよ!…そういえば、この子も新入生?」
一通り語り終わったのか、ハーマイオニーは私に興味を持った。
「うん。レイ・エルバって子なんだ」
「そう。もうそろそろ起こしたほうがいいかもしれないわ。ホグワーツに着く前にローブに着替えないといけないもの。それじゃあ私は失礼するわね」
そう言ってハーマイオニーがコンパートメントを出ていく。嵐みたいな子だ。
「…何だったんだ?あいつ…僕疲れたよ」
「あ、あはは…。えっと、レイ?そろそろ起きたほうがいいって…」
…さて、起きますか。目を開けた私は、今起きましたよ感を出しながらグーッと伸びをする。
ロンに改めて自己紹介された後、二人は私が着替えるために一度通路に出てくれた。レディファーストとは、やるじゃないか、少年よ。
着替えてしばらくすると、列車が速度を落とし、やがて駅に着いた。
キングス・クロス駅よりかは小さく暗めの駅に降りると、2mは優に越しているだろう大男が出迎える。彼は確か…
「よぉ、ハリー」
「やぁ、ハグリッド!」
そうそう、ハグリッド。そのハグリッドに連れられて、私達新入生は湖まで来てボートに乗り込んだ。
そして…大きな城が見えてくる。
いやはや、雰囲気ありますなぁ。頭の中であの有名なBGMが流れる。…ちょっとワクワクするかも。ほんとにほんのちょっとだけ。
そんなことを考えながらホグワーツ城をじっと見ていると、同じボートに乗っているドラコ・マルフォイが話しかけてきた。チッ、ずっと取り巻きとおしゃべりしてろよ。
「ところで君、列車でポッターと同じコンパートメントにいなかったか?」
「…ええ」
「僕はドラコ・マルフォイだ。君は?」
「…レイ・エルバ」
「エルバ…か。聞いたことないな。でも君は純血だよな?」
「…マグル生まれだけど」
多分、と小声で呟いたのはおそらく聞こえていなかっただろう。マルフォイは一瞬驚いて固まったが、すぐになんだとでも言いたそうな顔をして目をそらした。
おそらく私はマグル生まれのはずだ。マグルの孤児院にいたし、スネイプが来た時、私が魔法について知らないということを前提に話を進めていた気がする。
まあ、ハリーみたいに魔法族だけど知らなかったという例外もあるが。
とりあえずこれで今後マルフォイと関わることはないだろう。マルフォイみたいな気取り屋、まさしく陽キャって感じで怖いんだよね〜。
というか…イギリスって陽キャしかいなさそうだし(ド偏見)、こんなとこで私は生きていけるのだろうか…。
私は徐々に近づいてくる岸のほうを見つめながら、新たに発生した問題である“陽キャ恐怖症”に頭を悩ませるのだった。
ダイアゴン横丁で建てまくったフラグを見事に回収したレイ。
果たして、望みどおりに平凡で平穏なぐうたら生活を送ることができるのでしょうか。
サブタイトル、いいもの思いつかないと今回みたいに普通になります。
なんかかっこよくて読みたくなるようなタイトル、つけたいよね。
あ、ここまで読んでくださりありがとうございます。
次回も期待しないでくださいね。
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組分け帽子とは馬が合わない
(へえ…本物っぽい)
私──レイ・エルバは、ホグワーツの大広間の天井を見上げながら歩いていた。実際に目にするとかなり幻想的だ。どうせ習うなら、こういう魔法だけでいいんだけどなぁ。
私達新入生は、ハグリッドに連れられてホグワーツ城に入ったあと、マクゴナガル先生の組分けの儀式やら寮についてやらの説明を受けた。それを聞いてから、私の両隣にいるハリーとロンがそわそわしながらおしゃべりしている。
…そう、いつの間にか挟まれていたのである。
なぜだっっ!!!???ホワイ???
私は君たちと友だちになった覚えはないぞ!!!
あと、私越しに会話するのもやめーや。それ、陰キャが一番つらいやつやねん。
「組分けってどうやるんだろう…」
「フレッドが言うには、ものすご〜く痛いらしいよ。冗談だとは思うけど」
「レイはどう思う?」
「…さあ」
どう思う?じゃねぇんだわ。私越しに会話するなとは願ったけど、だからといって私を会話に混ぜろってことじゃねぇんだわ。頼むから一人にしてくれやぁ…。
そんなことを考えながら、私達は組み分け帽子の前まで来る。
その帽子は、私達が全員集まると、急に歌いだした。
歌が終わるとまばらな拍手が起きたが、私から言わせてもらえばなんともまぁ変な歌だった。
映画に帽子が歌う場面なんてあったかな。
そんなことを思ってると、マクゴナガル先生が羊皮紙を持って進み出てくる。
いよいよ組分けか…。
「それでは、今から新入生の組分けを始めます。名前を呼ばれたら前に出てきてください。…アボット・ハンナ!」
名前は…ABC順かな?なら私は結構早いはず。
「エルバ・レイ!」
っと、もう呼ばれたか。さっさと済ましてしまおう。さっきから立ちっぱなしで私のか弱い足は棒のようなのだ。
私は前に進み出て、椅子に座った。頭に帽子を被せられるが…でっか、前見えないんだけど。
『…ふーむ、これは難しい…。どうも…よく見えないな。まるで霧がかかったように、一部がもやもやしておる』
(見えないって…心でも覗かれてるんか?)
『心を読むのとはまた違う。私は君の真核を見定めるのだ。だがまあ、組分けには特に影響ないだろう』
(いや読んでんじゃん)
…もしかして、もやもやっていうのは転生のせいだろうか。前世の記憶を見られたらたまったもんじゃないし、大方この世界が都合よく動いているのだろう。さて、そんなことはともかく…
(私はどこの寮になりますか?)
『ふむふむ…なかなか決定的な決め手がないな…。君は…魔法に興味がないのかね?』
おっとぉ、バレた。
(まあ…そうですね)
『ふーむ…希望の寮はあるかい?』
おっ、もしかしてもしかして…要望を聞いてくれる感じっすか!
ならば一番マシな寮…
(…レイブンクローとか)
『レイブンクロー?いや、君は魔法に興味がないのだろう?知識を欲さない者にはおすすめできぬ寮だぞ』
…
(…スリザリン…とか?)
『スリザリン?君には野心が全くと言っていいほど見受けられない。合わないのではないか?』
……
(…じゃあ…ハッフルパフ?)
『ハッフルパフ?君はどうも一人を好み、友を欲することがないようだが…ハッフルパフもふさわしいとは言えぬな』
………
(まさか…グリフィンドール…?)
『ふむ…やはり4つの寮の中ではグリフィンドールが一番
待て待て待て!!
私の要望を聞いてくれるんじゃなかったのか!!!???
しかも「マシ」っていったぞこのボロ帽子!!
「マシ」ってなんだ「マシ」って!グリフィンドールが一番マシなわけないだろがぁぁ!!
(ちょっ…グリフィンドールは…)
『嫌なのかい?他が絶望的に合わないから、大人しくグリフィンドールに入るのが賢明だと思うぞ?』
何このクソ帽子!!
散々人のこと、知識も友だちも野心も騎士道精神もないとか貶しやがって!!(?)
こんな奴だっけ?ハリーのときは「スリザリンは嫌」が通るんじゃなかったっけ!!??
「グリフィンドール!!!」
ああああああ!
やった!やりやがったよこのボロクソ帽子!!!
私まだ悩んでたよ!!??悩んでたっていうか、グリフィンドールは絶対やだって言う意思表示をしようと思ったところだったのに!!
よりによってグリフィンドール…
ああ…神は私を見捨てた…
意気消沈しながら私はグリフィンドールのテーブルへ向かった。
ちらっとハリーとロンと目があったが、意外そうな目をしていた。
意外どころじゃねえ、こっちだってグリフィンドールなんて私には一番合わないと思ってたのに。
そしてなによりも入りたくなかった…!
というか、今私やばい立ち位置にいるんじゃ…?
・もうすでに主人公たちと知り合い
・主人公たちと同じ寮
/(^o^)\オワタ
私の平凡で平穏なぐうたら生活がどんどん遠のいていく…。
なぜだ、なぜ私はこんな目に合わなければいけない…?
前世でなにかやったか?いや、何もやってない。文字通り何も。
くっそ、私は神様のおもちゃじゃねえんだぞ!!!
おい見てっか神様!!私はあなたの思い通りにはならないからな!!!
とりあえず、今んとこの一番の戦犯はあの帽子のクソ野郎だ。
どう料理してやろうか…。
私は、続きの組分けもダンブルドア校長の言葉も馬耳東風のごとく聞き流し、組分け帽子をどう呪ってやろうかを考え続けたのだった。
心のなかで毒舌になっていくレイちゃん
今回ちょっと短かった…?
投稿に関してですが、結構思い切り空くかもしれません。
失踪はしないでしょう。おそらく。約束はしませんが…。
あ、ここまで読んでくださりありがとうございます。
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次回も期待しないでくださいね。
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日常とか、日常とか
誤字報告ありがとうございますm(_ _)m
新入生の歓迎会が終わり、私──レイ・エルバは案内された部屋で荷物の整理をしていた。
「にしても、二人部屋ってちょっとラッキーじゃない?他はみんな3,4人部屋だって言うし」
「…比例して部屋も小さめだと思うけど」
「でも人数が少ないと部屋が静かでいいわ。勉強に集中できるもの!」
同じく荷物の整理をしながら話しかけてきたハーマイオニーは、そう言って笑った。
…やっぱり運命なのだろうか。
どうしてこうも主人公達との繋がりができてしまうのだろう。
ハーマイオニーの言う通り、少人数部屋というのは嬉しいが…ルームメイトが君じゃあ話が違うんだわ。
思わずため息が出そうなのをぐっとこらえて、私は黙々と荷物を片付けていった。
その夜。ハーマイオニーが今日は疲れたと言ってだいぶ早く寝たので、私は小さなバルコニーに出てじっとあるものを待っていた。
お、来た。
その美しく大きな鳥は、綺麗に滑空しながらこちらに近づき、そしてバルコニーの手すりにとまる。
『おかえり、テオ』
『ただいま、ご主人。いや〜、思う存分飛び回れて気持ちよかったよ』
『よかったね』
テオには夜に私を探して来てもらうことにしていた。最悪、ルームメイトにテオの存在はバレてもよかったが、私が鷲語を操れるのは秘密にするつもりだ。
パーセルマウスが敬遠されるんだったら、鷲語使いもまあやばいだろうという考えだ。
でも、ハーマイオニーって生活が規則正しそうだし、これからもこうやって誰にも見られずにテオとお話できそうだ。
『とりあえず、部屋には入れてあげられないから…どうしよっか?』
『ご主人たら、俺の居場所考えてくれてなかったのかよ!?』
『うっ…でも、フクロウ小屋?も狭いだろうし…』
『ふむ…じゃああっちの方にでかい森が見えたから、そこでゆっくりのびのび過ごすことにしよう』
『森…まさか、禁じられた森…?』
おぉう、随分と物騒なところに身を置こうとするなぁ、テオ。
『禁じられた?確かにいろんな魔法生物の気配はするが、大したことはないだろう。お忘れかい?ご主人。俺は鷲。ハンターの頂点だぜ?』
『…たし、かに?』
相手は魔法生物なのに、自信満々だな。もしかして、私は思うよりも鷲って強いのかな。
『まあ、心配するようなことはないさ。…あ、でも…』
『…でも?』
『…毎日会いに来てくれよ?寂しいからさ』
…
今テオに、少女漫画にありがちのイケメンが重なって見えたんだが。
あの、かがんでからの上目遣いとビジュアルの暴力でヒロイン落としに来るやつ。犬系男子って言うんだっけか?
まあ、今はテオに見おろされてるんだけども。
『…いいけど、禁じられた森に入るのを見られでもしたら怒られるんだよね』
『近くまで来てくれれば、俺の方から飛んでいくよ』
『う〜ん…』
禁じられた森の入口には確かハグリッドが住んでいる。あれに見つかるのもまずいし、ハグリッドはハリーたちと仲がいいから最悪ハリーたちにも見られかねない。
少し悩んだ後、私はあることを思いついた。
『ねえテオ。私が指笛を吹いたら、来てくれる?』
『なるほど、お安い御用さ!ご主人がどこにいたとしても、すぐに駆けつけることを約束しよう』
『おん、ありがと』
どこにいても、は言いすぎな気がするが、とりあえずテオとのコンタクトは指笛でということになった。
しばらく私に羽を撫でられて満足したテオは、森の方へと飛び立っていった。
私もハーマイオニーを起こさないよう静かにベッドへと戻り、ホグワーツで初めての眠りにつくのだった。
★★★★★★
翌日から早速授業が始まった。
間違っても先生に目をつけられないように、まずは目立たないということを意識していこう。
そう決意しながら、私は変身術の教室へと向かった。
「本日は変身術の基礎である、マッチ棒を針に変える魔法を練習してもらいます」
ハリーとロンの遅刻イベントを挟んだ後、変身術担当のマクゴナガル先生が厳かにそう言い渡した。
そしてマクゴナガル先生は、黒板に変身術の理論を書いた後、それぞれ実践に移るよう促す。
(さてと…私はちゃんと魔法を使えるのかな?)
正直、黒板に書いてある理論はさっぱりだし、なにをどうイメージしたら変身術とやらが使えるかまったくわからない。
(ま、なるようになれ、だな。周りもみんな失敗してるし)
そう思いながら私は、目の前のマッチ棒に適当に杖を振った。
すると、マッチ棒はピクピクと動き出し、スルッと針に形を変えてしまった。
やっべ、と思った私は、さりげなく手で針を隠した。
…こんなに簡単にできるもんか?あのなんでもできるハーマイオニーですら苦戦してるんだぞ?
とりあえず、マッチ棒に戻れ戻れと祈りながらもう一度杖を振ると、針はスルッとマッチ棒に戻る。
「…」
よし、バレてなさそう。
みんな手元しか見てないし、マクゴナガル先生は遠くの方である生徒にアドバイスしているところだった。
にしても…めっちゃ簡単に出来ちまった。もしかして私、才能あるのかも…。
…いや、出来すぎるのも困るわ、マジで。こちとら目立たないようにって思ってるのに。
とりあえず、周りに合わせて出来ないふりをする練習をしたほうが良さそうだ。別に授業で出来なくたって、テストで出来りゃ問題はないだろう。
…とかいって、手を抜きすぎてテストでやらかしたらどうしよう。あんまりやばい成績取ったら先生達に目つけられそう…。
「…!見て、レイ!ようやく出来たわ!」
「…うん、おめでとう(棒)」
私が苦悩している間に、隣のガリ勉ちゃんは成功させたらしい。彼女の声を聞きつけたマクゴナガル先生が、成功者一人目として加点していった。
さて、こうなったら一人で誰にも見られずに魔法の練習ができるところないかな。
私は、マッチ棒のままでいろと念じて杖を振るというおかしなことを続けながら、そのような都合のいい場所を映画の知識から探し出そうとするのだった。
★★★★★★
お次の授業は魔法薬学。
今私は、ダイアゴン横丁での一件で私の中で上がっていたスネイプの好感度が、ストンと落ちていくのを感じている。
理由はもちろん、ハリーいびりである。
「ポッター。アスフォデルの球根の粉末にニガヨモギを煎じたものを加えると何になる?」
「…わかりません」
「有名なだけでは、どうにもならんらしいな。…ベゾアール石を見つけてこいと言われたらどこを探すかね?」
「…わかりません」
「ここに来る前に教科書を少しでも開こうとは思わなかったのかね」
ひえ〜。こうして目の前で見てると、やっぱり嫌味な先生だ。
教科書…前世からの癖で予習は少しやったが、魔法薬学の教科書はまるで暗号だった。なんだって雑草になんかの動物の内臓とかを混ぜると薬になるんだか。
杖魔法はなぜか才能を発揮したが、杖を使わない系はやばいかもしれないな。
気が済んだのか、ハリーいびりが一段落し、私達はおできを治す薬の調合をすることになった。二人一組で。
…はあ、そういやこうやって誰かと組まなきゃいけない授業だったな…。あーあ、彼女と組むのは避けたかったけど…
「レイ、一緒にやりましょ!」
…ま、そうなりますよね。ルームメイトだし、向こうからは多分友達って思われちゃってるし。
予想通りハーマイオニーから声をかけられた私は、渋々了承の意を示す。もちろん、顔には出さないが。
まあ、前向きに考えよう、私。ハーマイオニーがいなかったら私はボッチなのだ。
それに、この秀才ちゃんと組めば、魔法薬学の成績が安定するだろう。それは願ってもないことだ。
そんなふうに自分を納得させながら、私は材料を準備して彼女の隣に座った。
ありがたいことに、ハーマイオニーは積極的に仕切って私に指示をくれるので、言われたとおりに材料を切ったりすりつぶしたりしているだけの単調な作業ですんだ。
私が、鍋の中の角ナメクジの茹で加減をじっと伺っていたその時、後ろの方から悲鳴と破裂音が聞こえてきた。
「うわあっ!!」
「馬鹿者!!!」
どうやら、ネビル・ロングボトムが調合に失敗したようだ。体中がおできまみれになっている。
「大方、鍋を火から降ろさないうちにヤマアラシの針を入れたんだろう?」
スネイプが急いでネビルの近くにいき、爆発した鍋を魔法で片付ける。
そして、泣きじゃくるネビルを組んでいた生徒に医務室まで運ぶよう命じると、ハリーの方へ叱責を飛ばした。
「ポッター!なぜ針を入れるのを止めなかった?他のやつが失敗すれば、自分のがよく見えるとでも思ったか?グリフィンドールから一点減点」
出た。なんとまあ理不尽な。別にハリーがいくらいじられようが、グリフィンドールがいくら減点されようが、私の知ったことではない。ハリーも寮杯もどうでもいいからな。だが、私の中のスネイプの好感度はぐんぐん下がっていく。
やっぱり、私が最初に抱いた印象通り、嫌味なネチネチ教師だ。マジで関わらんとこ。ダイアゴン横丁でのあれはきっとたまたまちょっと機嫌良かったとか、そんなだろう。うん。
とばっちりで減点をくらい落ち込むハリーとそれに憤慨するロンを横目に、私は角ナメクジを鍋から引き上げるのだった。おえ、これきっも。
★★★★★★
私はボケっとしながら、大広間で食事を取っていた。ちなみに、何も考えていないわけではない。
私は先程の魔法薬学のスネイプの態度で頭を悩ませていた。
ハリーいびりのことではなく、私への態度。
スネイプは、私達が(というか、ほとんどハーマイオニーが)調合した薬をみて、
「まあ、いいだろう。さっさと提出して片付けたまえ」
と言った。もちろん、予想通りの反応だ。
だが、去り際にスネイプは、小声で耳を疑うようなことを言ったのだ。
「…初めてにしては、よく出来ている。グリフィンドールに五点」
…は?
ってなった。いやだって、スネイプってハリーはもちろんだけどグリフィンドールも嫌いでしょ??
なのにめっちゃ素直に褒めてきたんだけど。しかも、加点までしていった。五点も…。
それだけならまだ良かったのだが、問題はスネイプがそれを
その証拠に、ハーマイオニーがあの後、
「あの教授、ほんとスリザリン贔屓ね。マルフォイのことはあんなに褒めて加点までしてたのに、ちゃんと調合した私達にはなんもなしよ!」
と愚痴ってきたから間違いない。
なぜだ。おかしい。入学祝いをくれたり、こっそり点をくれたりと、私への態度がまじでスネイプらしくない。
どうなってるんだ…?それとも、私が深読みしてるだけか?
なんだか、私の知らないなにかがある気がして、私はずっと悶々としていた。
とはいえ、ずっと考えていても仕方がないな。
よし、これも前向きに捉えよう、私。スネイプがなぜか優しいということはつまり、私はスネイプに目をつけられているわけではないということだ。
うんうんと心のなかで頷きながら、私はサンドウィッチの最後の一欠片を口に放り込んだ。
午後の授業までまだまだ余裕があった私は、校庭に出て端の端まで歩いてきた。
そして、周りに誰もいないことを確認すると、私は指笛を鳴らした。
流石にここから森は遠いし、聞こえないかな?と思ったのも束の間、私の頭上に黒い影が出来た。
『…よく聞こえたね、テオ。しかも早い…』
『当然さ、ご主人。これくらいの距離、造作もない。前にも言っただろう?ご主人がどこにいたとしても、すぐに駆けつけるとね』
『…そうだったね』
…もしかして、まじでどこにいても来てくれるんか、この鷲は。
私はしばらくテオと雑談した。森の住心地は意外にもいいらしい。やっぱり、テオのことはよくわからないな。
『あそこに住む者たちは皆、分別があり話の通じるものばかりさ。まあ、たまによくない気配も感じるがね』
『ふうん…』
『俺と意思疎通できるご主人なら、彼らと話すこともできるかもな』
話が通じるって…君は魔法生物達と意思疎通できるのか??
テオの言う良くない気配とやらは、もしかしなくても森に潜んでる奴のことな気がするが、とりあえずは忘れとこう。()
テオが居心地良くホグワーツで過ごせているのを確認できた私は、また毎日ここに来ると約束し、授業へと向かったのだった。
あけましておめでとうございます。(二回目)
今年は卯年ですが、亀さんもびっくりののろのろ投稿で続けていこうと思います。どうぞよろしくです。
一応三月まで忙しいので、そこまで空くかもしれませんがご了承。
あ、ここまで読んでくださりありがとうございます。
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忍び寄る影
え、そんなこと誰も聞いてないって?いや、ハリポタ小説を中途半端にして他ジャンルに浮気しようとか、ここでハマってることを先に白状しといて許してもらおうとか、そんなこと考えてないですから。
誤字報告ありがとうございますm(_ _)mとても助かっております。
それから、気づいたらUAが10000越してました。ありがとうございます。
呪文しか書かれていないその本のページを捲りながら、私──レイ・エルバはあくびを一つした。
はっきり言って、つまらん。くそつまらん。
だが私はわざわざ図書室へ赴いて呪文集を読んでいる。それはなぜか。
んなもん自分の身を守るために決まっとるやろがい。
話は一旦変わるが、二週間前くらいに私はふと、前触れもなくあることを思い出した。
それは『必要の部屋』。 その名の通り、本当に必要としてるときだけ現れるという不思議な部屋だ。ほっと息のつける隠れ家的な場所が欲しかった私にとって、この出来事は嬉しいものだった。
さすが私。よく思い出した。
だが、肝心の場所やら入り方やらは覚えていなかったため、図書室で頑張って調べた。
クソが私。よく覚えとけよ。
部屋を特定し早速使ってみると、なんと部屋の中は前世の私の部屋になっていた。
なるほど、私にとっての安息の地は前世のマイルームだったか…。にしても良く出来てる。私がベッドに置いてたサメの抱きまくらの触り心地まで再現されとる…。
サメちゃんをたんまり堪能したあと、私は早速、気になっていたあることを試すことにした。
それは杖魔法。
何度か杖魔法を使う授業を受けて思ったのは、私はもう自分は才能しかないんじゃないかということ。
つまり、順調すぎるのだ。理論を一ミリも理解していないのに、適当に杖を振るだけで魔法が使えている。
入学当初は、どうせ実技はできないだろうから筆記でどうにか…とか思っていたのに、逆に筆記ボロッカスでもホグワーツで人権を失うことはないんじゃないかと思うくらいである。
こりゃあもう試すしかねえということで、図書室からなんとか呪文集っていう難しそうな本を借りてきて、載っている呪文を片っ端から読み上げてみたのだ。
結果は言うまでもない。やはり、私は天才だったようだ。
まあおそらく、これも転生の賜物なんだろうと私は考えている。
そしてこの才能を活用しようと考えた結果が、
話を戻そう。
こんなにも杖魔法の才能に溢れているのだから、呪文をたくさん覚えさえすればいつでもなんでもつかえるはずだ。ただでさえ私は、ハリポタ物語の主人公たちと
非常に前置きが長くなった。
というわけで、私は『呪文集を丸暗記して、私の平凡で平穏なぐうたら生活を死守する作戦』を決行中なのである。
それにしても呪文って、思ったよりもたくさんあるんだな。私が聞いたことのある呪文なんて10分の1にも満たなかった。
とにかく、ここに書いてある呪文を全部覚えるのが今の私の目標だ。
努力は嫌いだが、これもすべて生活のためだ。
ぐうたらするために努力するという、若干の矛盾を自覚しながら、私は必死に呪文集を読み漁るのだった。
★★★★★★
私の生活が図書室と必要の部屋通いになったかたわら、ハリーたちも着々と原作通りに進んでいるようだった。
この前はハリーたちがハグリッドの小屋に行くところを見たし、ちょうどさっきの飛行訓練の授業でハリーのアクロバティック飛行をこの目で見たばかりだ。
そんでもって今、私はハリーとロンと一緒に、ハリーがシーカーに選ばれたことを話題にしながら昼食を取っている。
なんで一緒かって?捕まったんだよ(#・ω・)ピキッ
「ちょっと来てくれよレイ!すごい話があるんだ!」なーんて言われて抵抗する間もなく引っ張ってこられちゃったんだよ(#・ω・)ピキッ
「ほんとにすごいぜ!!一年生でシーカーだなんて!レイもそう思うだろ?」
「…ソウダネ」
あ゛〜今すぐここから去りてぇ。
そんなことを考えながらサンドウィッチをかじっていると、向こうからマルフォイが近づいてくるのが見えた。
はぁ…面倒なのが増えた。
「よぉポッター。最後の晩餐か?」
「…マルフォイ」
今は昼だけど…というツッコミを心の奥に仕舞った私は、必死に自分関係ありませんアピールをしながらサンドウィッチを頬張る。
「そうやって威張ってられるのも今のうちさ。ハリーはシーカーに選ばれたんだぞ!マルフォイごとき、目じゃないね!」
「なにっ…!?一年生はクィディッチチームには入れないはずだぞ!」
「ハリーには才能があったってことさ!」
あ〜そろそろテオに会いにいく時間だなぁ〜…。
「…決闘だ!今夜、トロフィー室に来い。まさか、逃げないだろうな?」
「ああ、もちろんだ!僕が介添人をする。お前は?」
「…クラッブだ。いいか、絶対に逃げるなよ」
決闘か…そういえばあの呪文集、あんまり攻撃的な呪文がなかった気がするなぁ…今日から別の呪文集でも探してみようか…。
「ねえ、決闘って何?僕、何を受けちゃったの?」
「決闘っていうのは魔法使いの決闘のことさ!でも安心しろ、ハリー。決闘っつったって君たちじゃできることはたかが知れてるし、大怪我なんてことにはならないさ」
「ちょっと失礼」
「…なんだよ、ハーマイオニー。盗み聞きか?」
「聞こえちゃったのよ。その上で言わせてもらうけど、絶対に行っちゃだめよ」
今私が覚えてる攻撃呪文って言ったら…失神呪文?と死の呪文くらいだな。まさかアバダなんて使っちゃったらアズカバン行きだろうしなぁ…ちょっと使ってみたかったけど。
「なんでさ!これは男と男の戦いなんだから邪魔しないでくれよ!」
「夜に出歩きなんてしたら、またグリフィンドールの点が減っちゃうでしょう!少しは周りのことも考えて頂戴!ちょっと、レイからもなにか言ってやって!…レイ?」
「…え、何?」
「…あなた、一緒にいたのに聞いてなかったの?」
なんにも聞いてなかったわ。だって面倒くさそうな話してたんだもん。
…ええと、なんだっけ。マルフォイと決闘?
「…昼にやればいいんじゃない?ていうか、マルフォイが来るとは思わないけどね」
「ほら!レイの言うとおりよ!そもそも夜中に呼び出すなんて怪しいでしょう?」
「うっ…でも、逃げるわけにはいかないんだよ!」
二人の言い争いを聞きながら、私はサンドウィッチの最後の一欠片を口に放り込んだ。
どうせ何言ったってハリーとロンなら行くだろうし、ほっとけばいいのだ。
それに、原作通りに歴史が進むためには必要なイベントなんだろう。
私はギャーギャー言い合う二人と困った顔のハリーを無視して、テオに会いにいくのだった。
★★★★★★
その日の夜。
私は窓のほうを見ながら、ハーマイオニーが寝るのを待っていた。
いつもの彼女ならもう寝ているのに、今日は昼のことがあったからなのか、そわそわしながらなにか考え事をしている。
うーん、テオを呼びたいのに呼べない…。
「…ねえ、寝ないの?」
「そ、そうね…うぅ、でもあの二人のことが気になって眠れないのよ!」
おっ…二股宣言っすか?
なんてふざけたことを考えながら、私はテオに会う日課を諦めてベッドに入ろうとした。
しかし…
「やっぱり止めに行きましょう!レイもついてきて!二人で説得すれば、あのバカも納得するはずよ!」
「え…あの、ちょっ」
ああああ!やめて!私まで巻き込まないでええええ!
私の心の叫びは虚しく、私はハーマイオニーにむんずと手を掴まれて談話室へ引きずられて行くのだった。
…なんでこうなるのぉ(泣)
談話室に降りると、今まさにハリーとロンが寮を抜け出そうとしているところだった。
「ちょっと二人とも!やっぱり行く気だったのね!」
「げっ、なんでいるんだよ。君たちには関係ないだろ!」
そのとおりだ。私は関係ないぞ。
ハリーとロンはハーマイオニーを無視して寮の外に出たが、ハーマイオニーはそれでも説得を試みようと彼らについていく。もちろん、私の手を掴んだまま。
入り口の外にでると、ネビルがしゃがみ込んで泣いているのを見つけた。
…うっ、やばい。
ネビルは急に出てきた私達に驚いたようだが、私はそっと目をそらす。
前世で弟がいたおかげで、私は年下に少し弱い。
え、今は同い年だろって?前世年齢も精神年齢も私のほうがはるかに上だわ。
ネビルも加わった4人でまだ口論をしているようだが、私はすべて聞き流す。
それよりも、嫌な予感がするのだ。
これ…なんのイベントだっけ?
このあとどうせハーマイオニーの説得も虚しく決闘に行くんだろうけど…そんなシーンあったかな。
マルフォイが来るとも思えないし…
「もういいわ!呆れた!レイ、ネビル、戻りましょ」
その言葉に意識を引き戻され、やっとかと思いつつ私は入り口の方へ目を向けた。
が…
「そんな!太った婦人がいないわ!」
…
え、もしかしなくても…
閉め出されちゃった感じ??
…
はああああああふっざけんな!?
え、あ、お、もちつけ!(落ち着け)
いや、どうすんのこれ?ていうか、この絵の中の人って居なくなることあんの!?
入り口の番人だろ!!!どっか行くなよ!!!!!(大声)
私が内心焦りまくっていると、4人が廊下を進み出す。
え、ちょ、行くの??
ここで待つとか…しないの???
ちょ、ハーマイオニーさん手!手!!
結局私は引きずられるようにして、4人について行くこととなった。
最悪な夜の冒険が始まったが、出だしから早速最悪だった。
フィルチに見つかったのである。
いや、正確にはピーブズに見つかり大声を出されたのだ。
とにかく、全力でその場から逃げ出した私達は、いつの間にか四階右の廊下に来ていた。
「まずいわ!ここ、立入禁止の廊下よ!」
「でも、フィルチが来る!こっちに逃げよう!」
ん?立入禁止の廊下?
…あ!
やばい、まさか…ケルベロスとこんにちはイベントか!?
ちょ、私まだ死にたくない!死因がケルベロスの餌なんてヤダ!!
「くそっ、このドア鍵が!」
「どいて!…
「あっ…待って、そこは…」
私がケルベロスの姿を思い出しているうちにハリーたちは例の扉を開けてしまった。
思わず止めようとするが、4人の耳に私の声は届かなかったようで、私もろとも扉の中に押し込まれてしまった。
4人は扉を閉めてすぐ外の様子を伺いだしたが…私が視線を向ける先はもちろん部屋の中にいるこいつだ。
やっべえええええ!!ガチでいる!ガチでいるって!!
あっ、お休みになられてたのを邪魔しちゃった感じですか?まじすいませんっっっ!!!
「…フィルチ、どっかに行ったみたいだ」
「よかった。深追いしてこなくて…」
「…この状況は全然よくないんだけど」
「ん?どうしたんだ、レイ…って…」
ようやく気づいたかこのガキどもめ!
もうフィルチも居ないんだろう?ならばやることは一つ。
「逃げるよ」
「「「うわああああああ!!」」」
私の言葉を合図にお手本のような悲鳴を上げた4人とともに、転がるように部屋から出た。
それと同時に、ケルベロスがガウガウ言いながら襲ってきて、どうにかこうにか扉を押し込んで再び鍵を閉める。
あっぶな。原作では死んでないんだから…って自分に言い聞かせてたけど、まぢで危なかった。
ケルベロスの3つの頭の統率があんまりとれてなかったおかげで、思ったよりも動きが遅くて助かったわ。
運良くフィルチに見つかることもなく談話室へと逃げ帰れた私達は、青白い顔で各々ソファーに倒れ込んだ。
やがて、ロンが絞り出すように言った。
「…あんな化け物を学校に閉じ込めておくなんて…どうかしてるよ!いったい先生たちは何を考えているのさ!」
「ちょっと!あの犬の足元見てなかったの!?」
ハーマイオニーがそう叫んだ。
足元…たしか、仕掛け扉があって、たくさんの罠と賢者の石があるんだっけ?
「足元だって?頭を見るので精一杯だよ!3つあったんだぞ!?」
「仕掛け扉があったのよ。きっと何かを守っているに違いないわ!」
はぁ〜あ…にしても最悪だ。
ハリーたちはきっと明日から探偵ごっこをはじめるだろう。私も仲間とか思われてんだろうなぁぁ…
ああ…
ハーマイオニーはその後も夜歩きの原因になったハリーたちを散々非難しまくっていた。
「あなた達に付き合うといつか死んじゃうわ!もっと悪くすれば、退学よ」
そう言い残して私を置いて女子寮に上がっていったハーマイオニーにロンがぽつり。
「…死ぬより退学のほうが悪いのかよ」
「…グリンゴッツは何かを守るには世界一安全な場所だ…ホグワーツ以外では」
「ハリー?」
ハーマイオニーもロンも無視してさっきからなにやら考え込んでいたハリーが、独り言をぶつぶつと呟き出す。
これ以上いるとめんどくさいな。私ももう寝よう。
「…ネビル、寝よう。明日も授業だよ」
「う、うん…」
さっきからショックで泣いていたネビルをついでに促し、私は引き止められる前にとさっさと部屋に戻るのだった。
前書きであんなこと言いましたが、失踪は考えてません。10年かかっても書き上げてやりますよ。こんな駄文にも読者がついてくださったことに内心大はしゃぎなんで、むしろ執筆欲は掻き立てられてます。これからも頑張りますのでどうぞよろしくです。
あ、ここまで読んでくださりありがとうございます。
感想、お気に入り登録、そして評価してくださった方々もありがとうございます。とても励みになっております。
次回も期待しないでくださいね。
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アンハッピーハロウィン
チョコ嫌いの弟がバレンタインに貰ったチョコを横流ししてくれてホクホクなのです。
ホワイトデーの出費が私持ちになるのが玉に瑕
翌日の朝、私──レイ・エルバはあくびを噛み殺しながら大広間へと向かった。
昨日の夜の不本意な大冒険のおかげで寝不足なのだ。
大広間でハリーとロンを見つける。
昨日あんな事があったばかりだと言うのに、清々しい表情をしてやがる。
あーあ、これ以上絡まれないといいけど…
二人からできるだけ離れた席に座りながら、私は憂鬱な気分になるのだった。
★★★★★★
あれから数日後、ハロウィンの日がやってきた。
豪華な飾り付けやかぼちゃだらけのごちそうにみんなはだいぶハイテンションのようだが…私はこういう行事は大の苦手だ。ついでに言うと、かぼちゃも。
朝っぱらからこんなもそもそした食事なんか取れるかっつーの!
心のなかで悪態をつきながら、カボチャジュースを気合で胃に流し込む。
こんなに浮かれた空気だというのに授業があることも解せない。
今日はいつにも増して、気分の晴れない一日になりそうだ。
時は呪文学の授業中。
本日の呪文は、あの有名な浮遊呪文。ランダムで二人ペアを組まされたのだが、なんとびっくり、ピンポイントでハリーとになっちまった。
嫌なこととは続くものである。
そもそも『ペアを組む』とか『グループになる』とか、そういうのは陰キャには辛いものがある。
ダチでもないやつとどうやって喋れってんだ。そう考えたら、ハリーと組まされたのはマシだったのかな…。
「ウィンガーディウム・レビオーサー!…うーん、うまくいかないな」
私の心が弱っている間に、隣のハリーは練習を始めていた。なんだか発音が間違っているが。
発音といえば、言語どうなっとるんだろうな。英語は別に苦手じゃないけど、ここまで馴染めるのはやっぱ転生あるあるってことなんやろうなぁ。鷲語とか理解できちゃうくらいだし。
「レイ、どうしたの?さっきから何見て…あ、ロンとハーマイオニー?」
「…」
私は虚空を見つめて考え事をしていただけだが、ハリーに言われて二人の方に目線をやった。
「ちょっとロン!危ないからそんなに杖を振り回さないで頂戴!あと、発音が間違ってるわ。『ウィンガーディアム・レヴィオーサ』よ。あなたのは
「あーはいはい、そんなに言うならやってみせろよ!」
ロンに怒鳴られたハーマイオニーが、少し咳払いをして呪文を唱えた。
「
すると、ハーマイオニーの目の前にあった羽がふわふわと浮いていく。
フリなんとか先生が目ざとくそれを見つけ、拍手をした。
「おお!みなさん御覧なさい!ミス・グレンジャーがやりました!」
それを聞いたハーマイオニーがドヤ顔でロンの方を見やり、ロンは怒りで震えながら机に伏せてしまった。
「あれは…なんというか、ひどいや。ロンが茹でタコみたいになってる」
「…あなたも発音、ちょっと違うけど」
「え、ほんと?…ちょっとレイ、やってみてくれる?」
おおっと、墓穴掘っちまった…。
ここで注目は浴びたくないが…手加減って難しいんだよな。
「…ウィンガーディアム・レヴィオーサ」
発音を注意した手前そこを間違えるのは恥ずかしいので、杖の振り方を変えながら浮くなぁぁぁ!と念じる。
結果的に少し羽が動いた気がするが、浮くことはなかったのでホッと胸をなでおろした。
「あれ、私は振り方でもおかしいのかな〜…」
そうわざとらしく呟きながら、ハリーとこれ以上会話することないように教科書へと視線を落とすのだった。
授業が終わったあと、私はハリーに捕まらないうちにさっさと教室を退散した。
ハリーはロンと合流したらしいが…
「まったく、あいつは悪夢みたいなやつだよ!あんなんじゃ、絶対友達なんかいないだろうな!レイもあいつと同じ部屋でよく我慢できるよ!」
声でけーよロン、めっちゃ後ろから聞こえてくるんだが。
というか、これ知ってるぞ。たしか、ハーマイオニーに聞かれて泣かれちゃうんじゃなかったっけ。
前世知識を思い出していると、予想通りハーマイオニーが泣きながら私を追い越していった。
あーあ、やっちゃったねぇ男子たち。
…そういえば、こんなことがあるのになんであの三人は仲がいいんだろう…?
★★★★★★
「お願い!ハーマイオニーを説得してくれない?」
「…はい?」
正気か???
今日の授業をどうにか全て乗り越え、忌々しいハロウィンパーティーとやらが行われる大広間へ向かっている途中、ハリーたちに捕まったと思いきや急にこんなことを言われた。
「レイも知ってるよね?あのハーマイオニーが授業に来なかったんだ。流石にちゃんと謝ったほうがいいと思って…」
「…じゃあ自分たちで謝りに行けば?」
「それがさ、あいつ女子トイレでずっと泣いてるらしくて…僕達が行くわけにはいかないだろ?」
うわあ、トイレに篭るとかそんないじめられっ子の典型みたいなことしないでくれよ。
「これからパーティーだしさ、仲直りには丁度いいと思うんだ。連れてきてくれるだけでいいから、お願い!」
はぁ〜?おま、泣いてる女がどれだけめんどくさいか知らないだろ。
ああ、嫌なこととは続くものであるな(二回目)
勿論、そんな面倒なことしたくないのでぜひとも断らせていただきたい。
そう思ったのだが…
「レイはハーマイオニーと同じ部屋でしょ?こんなこと、レイにしか頼めないんだ」
くっ…この感覚…っ!
弟におねだりされているみたいで…無下に出来ない…っ!
年下に弱い&
「…わかった」
「よかった、ありがとう!」
…あーあ。
こちら、レイ・エルバ。
実況は女子トイレからお送りしています…なーんてな。
はぁ…。
冗談はともかく…ハリーたちと別れた私は、さっさとハーマイオニーを引きずり出してこようと早速女子トイレに来ていた。四つある個室の一番奥が閉まっている。おそらく、ここの中に居るのだろう。
「…ハーマイオニー?」
「…その声は、レイ…?」
よかった。これで全然知らん人だったら恥ずか死ぬところだったぜ。
「呼びに来た。ハロウィンパーティー、始まるよ」
「ほっといてよ」
ま、パーティーごときじゃつれないよな。
「…ロン、反省してたよ。謝りたいって」
「そんなの知らない!グスッ…どうせレイだって、私のこと頭でっかちで性格悪いやつだと思ってるんでしょ!」
「…」
あ゛〜めんどくせぇぇ…。
難しいお年頃なんだろうけどさぁ、もう少し可愛げがあっても良くないかね。
とりあえず、ここは慎重に言葉を選んでいくしかない。
「…私は尊敬するよ。教科書丸暗記するほど努力できるところとか、人のために親身にアドバイスできるところとか」
私のことは巻き込まないでほしいけどね。
「おせっかいも頭でっかちも見方を変えれば長所でしょう。お子様のロンにはわかんなかっただけじゃない?」
「…」
さあ、どうだ!?
慰めるなんてらしくもないことさせられたんだ。これで機嫌治んなかったらお手上げだぞ。
「…そっか。ありがと、レイ。そんなふうに言ってくれて」
よし、私の言葉のチョイスは間違ってなかったようだ。
ハーマイオニーが個室の鍵を開けて、目を擦りながら出てくる。
「戻れる?」
「ええ、もうだいじょう…ぶ…」
そう言いながら顔をあげたハーマイオニーが、私の後ろを見て固まった。
…ん?どうしたのだろうか…あれ、なんだか異臭がするような…?
ものすごく嫌な予感がしながら私はゆっくりと振り返る。
そこに居たのは…トイレの天井まで身長がある、キモい顔をした化け物だった。
ハーマイオニーが鋭い悲鳴をあげて床にへたり込む。
ああ…思い出した。
ハロウィンの夜、ハリーたちはここでトロールと戦うんだ。
なんでこんな大事なこと、覚えていなかったんだろう…。
って!
そんな事考えてる場合じゃねええ!!
どっどうすればいいんだ?ファイティング?棍棒vs素手??
待て待て、もちつけ(おちつけ)私は魔女だろうが。
まずは…は、ハーマイオニーを守らんと!!
さすがに原作キャラを死なせるわけにはいかん!!
トロールが腕を振り上げ、重そうな棍棒をこちらに叩きつけようとする。
私は咄嗟に杖を出し、呪文集で得た知識から思いついたものを叫んだ。
「
私の魔法が見事直撃した棍棒が、私達に振り下ろされる前に粉々に爆散する。
っすぅ──…あっぶねえ。
これ失敗してたら死んでたんだが??今だけは魔法の才能をくれた神様に感謝するわ。
武器がなくなって間抜け面で自分の手を見つめるトロールをよそに、私は急いで脱出しようとハーマイオニーを振り返る。
「立てる?」
「あ…ごめんなさい…腰が、抜けて…」
はーまじかよ。
仕方ない。ここでノックアウトするか、注意をひいてトイレから連れ出したろう。
私は素早くトロールの横を抜け女子トイレの入り口に立つと、また適当に呪文を放った。
「
今度もしっかりと直撃したが、あまり効いた様子がない。
これは…私の力量が足らんのか??あわよくば気絶しろって思ってたのに、全然それどころじゃないんだけど。
しかし、呪文を撃ってきた私に怒ったようで、トロールがこちらに振り向く。
よし、こうなったら鬼ごっこだ。私は死ぬほど足に自信がないが、廊下をバタバタ走ってりゃ先生たちが気づくだろう。
そう思って急いでトイレから出ようと扉に手をかけた。しかし…
「…開かない」
入ったときには開いていた鍵がしっかりとかかっている。
誰かが外からかけたのか…いや、嘘でしょ。
慌ててトロールに向き直ると、やつは素手で私を殴ろうと拳を振り上げていた。
私は咄嗟に横に飛び退き、トロールの拳が地面にめり込むのを見送る。
よし…一旦冷静になれ。トロール自体に呪文が効かないなら、やつ以外に作用する呪文で足止めすればいい。
まずは…
「
トロールの真下の床をとゅるっとゅるにしてやる。
私の予想通り、トロールは足を滑らせ仰向けにすっ転んだ。アホめ。
頭でも打ったのか、トロールが静かになった。
「
さらに、足を縛る。よかった、効くかわからんかったけどちゃんと縛れたな。
一応腕も縛るか。
「
ちょっと解けそうで心もとないが、しばらくは立てないはずだ。
ほっと息をつき、拘束されたトロールを横目にいそいそと杖を仕舞っていると、
「「ハーマイオニー!!レイ!!」」
トイレの扉がバンッと開いて、ハリーとロンが駆け込んできた。
おっせーよお前ら!!本来トロールと戦うのは君たちだろーが!!
「大丈夫、二人共!…ってあれ、これトロール?」
「…閉じ込められたから、縛り上げた」
「ええ…?」
簡潔に状況を説明すると、二人は唖然として固まった。
「ハーマイオニー、もう立てる?」
「…え、ええ…」
手を貸すと、彼女はふらつきながらも立ち上がった。
はー生還。今回ばかりはまぢで死ぬかと思った。
っていうか、冷静にトロールを縛り上げた私、すごくない???私ったら戦闘の才能まであるのかも…。
そんなことを考えていると、バタバタと足音が聞こえ先生方が入ってきた。
「まあこれは…!なんてことでしょう!」
やっべ、私も怒られるじゃん。先生が来る前にずらかればよかったぜ。
「一体これはどういう状況なんですか、四人共?説明しなさい」
「あーこれはその…」
マクゴナガルに睨まれてハリーがなにか言いかけるが、後ろからハーマイオニーが声を上げた。
「私のせいなんです、先生!」
「グレンジャー…?どういうことですか?」
「本で読んだんです!それで、トロールを倒せると思って…レイは私を止めようとついてきてくれて。結果的に…レイが居なかったら、私は死んでました。彼女が一人で退治してくれたんです。ハリーとロンも、私を助けようと来てくれて…」
うわあやめろおお!
ハーマイオニーがかばうことを知ってたから黙ってたけど、私が一人で退治したの下りはいらないのよ!!
先生にめぇつけられちゃうでしょうがっ!!
案の定、先生方が驚いたように私を見やる。ひええ…。
「…なるほど、よくわかりました。ですが、トロールを倒すなんて無茶をしたものです。貴女は確かに他の生徒より優秀ですが…過度な自信は身を滅ぼします。ミス・グレンジャーは五点減点です」
その言葉にハーマイオニーはしゅんとなる。
そして、マクゴナガルはハリー、ロン、私を順番に見て口を開く。
「ポッターたちは運が良かっただけです。野生のトロールと対峙して生き残れる一年生などそうそう居ません。ましてや退治するなど…」
最後の言葉は私に向けられたものだった。ていうか、なんかスネイプの視線がめっちゃ痛いんですけど。
「しかし、友人を助けようとするその勇気に免じて、五点ずつ三人にあげましょう」
その言葉にハリーとロンは顔を見合わせて嬉しそうにした。
…この二人、来ただけで何もやってないのにちょっとずるくないか…?いやまあ、私というイレギュラーがいたから仕方ないのかもしれないが。
「…さ、さあ、もう寮におかえり。ぐ、ぐずぐずしていると、トロールがお、起きてしまう…」
く…クレイルだっけ?ターバン先生がどもりながらそういった瞬間、トロールのうめき声が聞こえたので私達は慌てて女子トイレをあとにした。
結局寮に戻る途中で、三人はお互いに謝り仲直りをした。
ちなみに、トイレの鍵を閉めたのはハリーたちだったらしい。トロールを閉じ込めようとして、私達も一緒に閉じ込めちゃったというわけだ。
は〜おかげで死にかけたわ。まあ、結果オーライなので許すが。
さらに、ハーマイオニーには私の華麗なるトロール退治について根掘り葉掘り聞かれた。なんであんなに呪文知ってるの?とか、授業じゃ全然出来てなかったのに上手くない?とか…。本番に強いとかなんとかいってどうにかごまかした。非常に疲れた。
寮に戻ると、トロール騒ぎで中断になったらしいパーティーの続きが行われていた。
夕飯を食べていない私は談話室の端っこの方でかぼちゃパイをつつく。
にしても、三人が親友なのは今日のことがきっかけだったんだな。
まったく…私はなぜこうも重要なことは覚えていないのだろうか。マジ、生死に関わるから勘弁してほしいわ。
あーあ、とうとうこれで紛れもなく四人ズッ友!みたいになっちまった。
一体どこから間違えたのだろうか。…この世界に転生したあたりからかな(白目)
…私の願い、平凡で平穏なぐうたら生活はいったいいつになったら叶うのだろうか。
いたずらの権化であるウィーズリーの双子が派手に花火をちらしているのをぼーっと眺めながら、私は心のなかで大きなため息をつくのだった。
やけに細かく覚えてるなと思ったら、大事なことは抜けてるタイプのレイちゃん。
おかげで今回も巻き込まれてしまいました。
あ、ここまで読んでくださりありがとうございます。
感想、お気に入り登録、そして評価してくださった方々もありがとうございます。とても励みになっております。
次回も期待しないでくださいね。
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