長編案と短編集 (蒼羅)
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短編
ただ2人で駆けていく
原作はスピッツの「夜を駆ける」という曲。
選んだ理由は1番好きな曲だから。
スピッツは歌詞が意味不明ということで有名です(たぶん)。
なので歌詞解釈も千差万別なのですが、もしかしたら既存の歌詞解釈と似てるかもしれません。1度だけ読んだ事があるような気がするので。
殆ど覚えてませんが、結構納得したような覚えはあるため、自然と刷り込まれてる可能性が大なのです。
僕は嘘が上手かった。
だから僕は、周りが気付かないのをいいことに、強がってばかりいた。
そのうち自分を偽るのに疲れた僕が、窮屈になった家を抜け出して見上げた先には、いつも夜空があった。
君に初めて会ったのも、夜空の下だったように思う。
今夜も僕は、君に会いに行く。
よじれて薄汚れた金網をいつものようにふわりと
地面を踏みしめることも、風を真正面から受けることも、何もかもが気持ちいい。
疲れを知らない僕は、
僕達が落ち合った頃には、木々はいつの間にか静まっていた。2人の呼吸音だけが浸みていく。
もう誰もいない街に、壁にかかれた落書が陽気に踊っていた。
「今日は何する?」
「そうだなあ……」
いつからか止まった時計が、僕達に永遠の自由を与えてくれていた。
それが僕だけだったら寂しかっただろう。君だけだったとしても、きっと辛かったに違いない。
僕達2人は似ているところなど無いように見えるけど、「
よくある「赤い糸」なんかじゃなく、もっと脆くて儚いけれど、僕にとってはそれが全てで、それがあればもう他に何もいらなかった。
だから僕は答える。
「現実的なことでも出来そうにないことでもなんでもいいから、これから2人でやっていきたいこと話そうか」
出来ても出来なくてもいい。君とずっと一緒にいられれば、それでいい。
ただひとり僕の強がりを見抜いた君の傍は、心地いいんだ。
地面に転がれば、遠くに雲が見えた。
背中に感じる冷たいコンクリートの感触に、なぜだかいつか君とした甘くて苦いキスを、もう一度したくなった。
夢中で話しているうちに、瞬く間に僕達の間にはまるででたらめなバラ色の想像図が描かれていた。
そんなご都合主義的な未来などあるわけが無い、とでも言うように遠雷が静けさを破ろうとするけど、僕は構いやしなかった。
一瞬雷光に照らされた僕達の足元に、影はない。
でたらめなバラ色の未来なんて、あってもなくてもいい。君と一緒に居られれば、何色の世界でも構わない。
君も、そう思ってくれているだろうか。
今はただ、君と2人で夜を駆けていきたい。
僕ら以外の人間を見かけなくなったのはいつからだったかな。
もう誰もいないと分かっていても、いつか誰かが僕達のことを見つけて、2人の自由を奪われてしまうのではないかと不安になる。
僕達2人が、まるでそう、幽霊のようにこの世界に未だ存在していることがおかしいことくらい、なんとなく分かってる。
きっと僕らは、何かに取り残されたに違いない。
他のみんなはもう既にこの世界のどこにもいないのだから。
けれど、やっと手に入れた自由をやすやすと手放すものか。
例え全ての人間がこの世界から消え去ることが定めであったとしても、取りこぼしに気付いた何かが僕らを取りに来ようとも、僕はそれを破ってみせる。
2人でただこの夜を駆けていくことが僕の望みなのだから。
ただの歌詞解釈になってないか不安。多少脚色はさせてもらったけれども。
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長編案
北流魂街37地区 雪灰
ここの人って結構1話が長いよな……ついていけるだろうか。
まったく自信ねえ。
短くてもご容赦ください。
※早速きました原作との相違点※
えー、原作の根底にある設定を覆すことになってしまうのですが、
例を出すなら、体術である
このご都合主義の相違点にかかれば、一護の
あともうひとつ。
死神によって
魂魄は最初、各地区にひとつずつある広場に流れ着き、そこから伸びる一本道を辿るとその地区の責任者(案内役)の住む家に辿りつく、てな感じです。
説明が長くなりましたが、いよいよここからです。
死神代行黒崎一護の力の暴走によって崩壊したウルキオラの身体には、僅かだが意識が残っているようだった。
その意識の中で、ウルキオラは考える。
(もはや遠い過去ゆえ生前の記憶はなかったが……)
ウルキオラの意識体のようなものは、どうやら決まった方向へ浮遊しながら移動しているようだった。
どうやら感覚も少しは残っているらしい。
(どうやら地獄へ引きずり込まれる気配はないようだな。でなければこんなにのんびりとしている訳がない。
……この残された僅かな感覚が狂っていなければ、だが)
だが、斬魄刀で洗い流せるものは
生前に罪を犯した者は、死神に倒された直後にクシャナーダによって地獄に引きずり込まれる。
(つまり、俺は
数字が大きくなるにつれ治安が悪くなるという。多少誤差はあれど。
(どこに流れ着くにしても、心を知るいい機会にはなりそうだ)
心の存在を証明して見せたあの女と、その精神的な支えであっただろう死神代行。
2人を思い出して、ウルキオラはふっと笑う。
いつの間にか、あたりは一面真っ白な光に満ちていた。
意識が、途切れる。
*/.
背中に、地面を感じる。
正確には、草の生えた地面。
目を開ける。
視界には、端々を木に囲まれたきれいな青空。
どうやら俺は、森の空き地のような所に仰向けに寝っ転がっているようだ。
このままいつまでもぽかりぽかりと時を過ごしたくなるような見に覚えの無いのどかな気分に、ウルキオラはむしろ落ち着かない気分になる。
(……ここが
妙な気分を払拭しようと起き上った彼は、立ち上がりながら服を払おうとして動きを止めた。
いつの間にか、白い
頭に手をやれば、左側頭部にあったはずの仮面の名残もない。斬魄刀もない。
喉元の孔も、言わずもがな消えていた。
(それもそうだ。俺はもう、
この様子では
左胸の刻印は
身体の中を渦巻き僅かに放出されている、
それに、質も違っている。
これは……そう、
(死神のようだ)
*/.
死神の気配は一切無かった。
近くに死神が居ないということは、これ以上は死神が関わることではないのだろう。あとは自分達で何とかしろということか。
そう結論付けたウルキオラは、草が踏み倒されて出来た獣道のような小道へと踏み出した。
よく手入れされた林を抜けると、木造とはいえ立派な構えの屋敷が見えた。その裏手や道を挟んだ向かいには、種類別に分けられた草花が畑に綺麗に並べられて植わっている。
屋敷の裏手の畑に、人影が見えた。
見た目は4、50歳といったところか。一目見ただけで元気そうな奴だというイメージを受ける男だ。
しばし見つめていると、おー、あんた新入りか?と言いながらその男は畑から下りてきた。
畑からウルキオラが立っているあたりまでは結構な急斜面で高さもかなりあるのだが、頭を揺らさずあっという間にするすると下りてこれたのは慣れなのかなんなのか。
「お前は誰だ」
「俺はそこのでっけえ屋敷に住んでる、
なあ、あっちから来たってことは、やっぱりあんた新入りか?」
「そうだ。ここはどこだ」
随分と人懐こそうな男だ。
「いやー、新入りなんて久し振りだわな! 前に来たのはいつだったっけか?」
「ここはどこだ」
しかも人の話を聞かない癖があるようだ。
もう一度聞けばようやく思い出したようで。
「あ? ああ、そうだったな。すまんな新入り。
えー、ようこそ! 北流魂街37地区
ようやく1話目で進めようと思ってたところまで辿り着いた……。
結構かかったわ。
北流魂街37地区
そういえば今までに出てきた流魂街の地区って、真ん中らへんないよなあと思って。
そしてウルキオラ、石田雨竜完全無視。うわあ……。
私としては結構雨竜好きなんだけどね。でもちょっとこの場合はね。こうせざるをえないよね。
いつか雨竜の話も作ろうかなあ。
とある読者の方に「
ただ、私自身どうしてもこの話を書いてみたかったので、前書きの通り「原作との相違点」ということにさせていただきました。強引で申し訳ない。
ちょこちょこそういう作品見かけるので大丈夫……だよね?(タヒ
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まさかのお誘い
※「北流魂街37地区 雪灰」の続編です。
「本当は俺、春の海って書いて
じゃ、改めてよろしく」
場所を春海とやらの屋敷に移し、2度目の自己紹介。はたしてする必要があったのか。
他人の名前の由来なんぞに髪の毛の先ほどにも興味が無いウルキオラだったが、それでも話のネタになるかと思い「何故読みを変えたのか」と問えば「かっこいいからに決まってんだろ!」と返ってくる始末。
「……」
「……」
片や反応に困り口をつぐむウルキオラ。片や何故ここで沈黙が返ってくるのかよく分からないという顔の春海。
そもそもなんで俺はこんな男の戯言に付き合っているんだ。
今までの生活ではおよそありえなかった状況に頭を抱えたくなったが、とりあえず無表情で貫き通すウルキオラ。
(だがしかし、ただの人間ばかりが暮らす流魂街で無愛想すぎるのもよくない。相手が
ならばやはりある程度愛想はあったほうがいいだろう。慣れない人間社会で面倒事はごめんだ)
やはりウルキオラはどこまでいってもウルキオラだと言うべきか、実に合理的だ。
だが、自分の愛想が平均以下だということには気付いていないらしい。
それこそ、愛想など二の次三の次な社会で生きてきたのだから仕方が無いのかもしれないが。
(大抵はここでウケるんだけどな……)
自身のノリが周囲の愛想笑いならぬ愛想ウケで成り立っていたことに気付いていない春海も春海である。
「ま、それはおいといてだ」
あんたの名前を教えてくれねえか、という声で我に返るウルキオラ。
お前がそれを言うのか、とはあえて言わない。
「……ウルキオラ・シファーだ」
「洋名か、珍しいな。
ま、これから長い付き合いになるんだし、宜しくな。ウルキオラ」
「……ああ」
ウルキオラでいい、と訂正したことなど数えるほどしかなかったのに、訂正せずに済んだのがなんだか久し振りのような気がした。
*/.
ウルキオラが名乗ったことで、ようやく話が本題へと移った。
雪灰は北流魂街の中でも西よりにあるということ、甘味処や居酒屋がないが、そのかわり流魂街には珍しい現世でいうファミレスのような店があるということ、この地区を東西に横切るように連なる集落には現在空き家が4つあり、どれに住むかはウルキオラが決めていいということ、どの家にも家財道具は前の住人が使っていたものが大体残っているので、あまり物に頓着しないのならこのまますぐに生活できるということ、そして、
「ここ雪灰では農業、その中でも特に農耕が盛んでな。住人の7割強が何かしらの植物を育ててる。人見知りが多いってのもあるかもしれねえが、ここは昔からそうでな。
あんたもまあ、その、人見知りじゃあなさそうだが接客業には向いてなさそうだし、農耕で生計を立てるのがいいと思うんだが」
農耕生活のお誘いである。
かつての
体力もあるし力もあるし、申し分ない……はず。
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人間ウルキオラ15歳
上手く構想が纏まったらひとつだけでも単独長編で書きたいな。
今回はウルキオラがオリジナルの世界に行っちゃうのでオリキャラがふたりほど。
自分の漆黒の尾が、黒い着物の男の首に巻きついている。
気を失っている男の足は地についておらず、それはその首に彼の全体重がかかっていることを示している。
にもかかわらず彼は、未だ途絶えぬ自身の魄動を、漆黒の尾の持ち主に伝えていた。
俺はその男を暫く正面から見据えていたが、相手が動かないのを見て取ると、黒く爪の伸びた手をゆらりとあげ、人差し指で男の喉元を指した。そして――
「やめてー!!」
――碧に縁取られた黒い光が、視界を埋め尽くした。
カッと目が開き、見慣れた天井が視界に映りこむ。
(……また、あの夢か)
忘れようもないあの戦いの記憶が、今になって夢に出てくるようになった。
いくら戦いに慣れていようと、夢にまで出てくるのはいただけない。
小さくため息を吐き出し起き上がった俺は、顔を洗いに洗面所に行き、何とはなしに鏡に映った自分の顔を眺める。
かつての自分と比べると、仮面の名残や
(まさか俺が人間になるとはな……)
死んだはずの……否、消滅したはずのウルキオラが人間として生まれてから、16年目に入ろうとしている。
*/.
ここは生命科学を専門とした研究所。その名も生命科学研究室。
ウルキオラはここで
ここには彼を含め18人の子供達が暮らしており、上は19歳から下は5歳だ。ウルキオラはというと、何の因果か上から数えて4番目である。
そして、研究の一環としてではあるが、3人でひとつ3LDKの生活空間を与えられるのだ。
肝心のウルキオラのルームメイトはというと、
「おはよう、ウル兄さん」
「ウル兄おはよー!」
9歳の男の子である隼人と、6歳の女の子の菜月である。
ルームメイトというよりは弟や妹の感覚に近いのだろうが、既に人間だった頃の記憶など磨耗しているウルキオラには判断材料が無い。
「……おはよう」
ウルキオラがリビングに足を踏み入れた途端に飛び込んできた菜月の頭を無表情でひと撫でし、椅子に座って苦笑い気味に微笑んでいる、とても9歳とは思えない隼人にもまとめて挨拶を返すと、朝食を作るためにキッチンに行こうとするのだが。
「……引き剥がされたくなかったらせめて後ろに貼り付け。歩けん」
「はあい」
今までにも何度もくっついてくる菜月を剥がそうとしてことごとく失敗、もとい菜月に泣き出されてほとほと困っていたウルキオラの苦肉の策により後ろにまわった菜月を、仕方なしに引きずりながらキッチンへ行く。
寝起きの人間の体ではいささか面倒臭い。
それでもなんとか朝食を作り終えると、菜月と隼人に配膳を言い渡してリビングに戻るのだった。
「いつもウル兄さん大変だね」
「……そう思うんだったら朝はしっかり菜月を捕まえておけ」
「無茶言わないでよ。菜月の攻撃力は兄さんが一番知ってるでしょ」
「……」
隼人はちょっと生意気なお年頃である。
毎度毎度短くて申し訳ない。
2015.5/30
ちょっとだけ書き直しました。
続き書きたいけど全くもってまとまらない。というか考えちゃいない(おい)。
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妙な男
昨日の夜ふっと思いついて眠れなかった話。
設定は3作の中で一番出来てるんだけど、実はプロットはどれよりも組みあがってなかったりする。
「また妖気が近付いてきた。これで今週何回目かしらね。四魂の玉もなくなったっていうのに……」
まだ慣れない巫女装束に着られているかのような娘が呟く。
「いや、それだけじゃねえ」
だが、接近するもうひとつのにおいに気付いたのは、犬耳を生やした銀髪の半妖だった。
「死人と墓土のにおいもしやがる」
*/.
巫女装束の娘をおぶり、半妖の少年は走る。
脳裏をよぎるのは、背中の娘に似た、かつて愛した巫女。死んでなお、無理やり鬼女裏陶によって自分の骨と墓土で蘇らされた桔梗。
(いや、桔梗のはずがねえ。あいつは俺達で看取ったはずだ)
ねえ、という巫女の声にはっとする。
「霊力でも妖気でもない、この変な感じ、最近よく出てくるあの妙な妖怪に似てない?」
「……確かに似てるとは思うけど、ちょっと違うんじゃねえか?」
「そうねえ、あいつらよりも複雑というか、うーん……何かが混じってる感じがするかも」
ああ、と返して犬耳の少年は前を向く。
目的地は目と鼻の先だ。
「とりあえずかごめはここで待ってろ。雑魚妖怪ばっかだし、さっさとぶっとばしてくる」
「ちょっと待ってよ犬夜叉、あたしも行く!」
「こんなの俺ひとりで充分だっつーの」
「違う、この妙な感じをちゃんと確認したいのよ!」
かごめと呼ばれた巫女と犬夜叉と呼ばれた犬耳少年が押し問答しているうちに、妖怪が暴れているであろう森の中から、随分と色白な男の人がふらりと出てきた。
おそらく妖怪たちに追われてきたのだろう。息も絶え絶えといった様子で木に手をついている。
顔は伏せられていて、見えなかった。
「……誰あれ」
「知らねえよ。かごめはあいつのこと見てろ。俺は妖怪共をシメてくる」
「はいはい、分かったわよー」
あっという間に犬夜叉は森の中へ消えていく。
相変わらずの犬夜叉の背中に向かって答えながら、かごめは男の人に歩み寄った。
「あのー、大丈夫ですか? ……え!?」
男の人の身体が、ゆっくりと前に傾いでいく。
ちょっちょっちょっちょ! と無意識に口走りながら駆け寄り、かごめはなんとかその身体が倒れきる前に支えることが出来た。
(こりゃあ、楓ばあちゃんに預けた方が良さそうね……)
近くの木に彼をもたれさせ、持ってきた矢で寄ってくる妖怪を蹴散らしながら、かごめは思った。
*/.
妖怪たちを難なく蹴散らし、未だ起きる気配の無い男の人を渋々おぶった犬夜叉とかごめが村に帰ってきた頃には、もう日が傾いてきていた。
この村の巫女である楓に事情を話し、家にお邪魔したふたりは、犬夜叉がおぶってきた人を布団に寝かせ、楓と共に顔を覗き込む。
「確かにこの者から感じる力は、あの妙な化け物と似とるのお」
「おい楓ばばあ、俺はさっきから死人と墓土のにおいは間違いなくこいつからしてるって言ってるだろ!?」
「わしは別にお前の鼻を否定してはおらぬよ」
「……どういう意味でい」
「わしにもこいつが何者なのか分からん。死人だからといって化け物でないとは限らぬし、化け物だからといって死人でないとも限らぬ。人間でもあり怪物でもある、というところが妥当かの」
「人間でもあり怪物でもある……?」
「まあそこから先は、本人に聞く方が早いだろうて」
いつの間にか、男が目を開けていた。
時間が無いいいい(;ω;)
書こうと思ったところまで書ききれないこの屈辱。
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オリ主転生モノ
話のジャンルはタイトルまんま。メモ書きだし題名考えなくていいかなと思って←
未だに私はウルキオラが大好きなようです。
死んだ。比喩にあらず。
薬の効かない新型のウイルスに感染して、新型故に当然のごとくこじらせ、最後は肺炎まで併発したんだったか。正直意識なんて朦朧としていたから、感染してからぽっくり死ぬまでがどれくらいの期間だったのかは分からない。
親よりも先に死んでしまった。それが本当に心残りだ。
さらりとした性格の母は、けれど無関心な訳ではない。普段表に出さないだけで、私のことをとても大切に思ってくれていたことを知っている。
父とはそりが合わなかったが、年頃の娘と男親なんてものはそんなもんだ。そう割り切れるだけの大人げがお互いにあったし、いざということが起こった時は心配する程度に、家族としての情がある。
……いざということが、よりにもよって私の身に起こってしまったのだ。こんな親不孝者があるだろうか。
もっときちんと寝ておけば。うっかり食事など抜かなければ。そういうことを積み重ねたから、既に何千人と感染して旧型になりつつあるウイルスなんかにやられるんだ。
後悔は尽きないが、それよりもなによりも、私を取り巻く全てのものから遠ざかってしまったせいで、心もとなくて仕方が無い。
寂しいと思えるほど自分の死を受け止めきれてはいないけど、この漠然とした心もとなさの方がむしろ耐えがたかった。身体があったらうずくまりたい。
母は泣いているだろうか。父はきっと呆然としていることだろう。子を失う親の気持ちは、私には分からないけれど、辛くて悲しいということくらいは分かる。
思い浮かぶ両親の様子に、心が痛くなる。泣いて縋りたかった。
……実際には涙など出てこない。いつもは堪えようとしても勝手に溢れてくるくせに、素直に泣きたい時に限って、私は既に死んでいるのだ。こんなことなら普段から素直に泣いておけばよかった。笑えばよかった。人と一緒に居ればよかった。どれも生きている時しか出来ないのに。
(……あれ)
ふと、今の状況の異常さに気付いた時だった。
“――ようやく気付いたかい。随分かかったね”
これは声だろうか。ふわふわと響くよういて、その実脳の一点に直接注ぎ込まれるような、気持ちの悪いくらいに明確な声だ。死んでまで誰かの声を聞くことになるなんて思っていなかった。いや、この場合「聞く」とは言えないのかもしれない。死んだ以上私の身体は、もちろん耳や脳だって、とっくに無くなっているはずなのだ。
(相手の意識がこちらに流れ込んでいる、ということなんだろうか。「死んだはずなのに意識がある」なんて異常な前提が成り立っているんだから、さらなる異常事態だってありえるもんなあ)
気付けば、泣きたいほどのもどかしさは、無くなった訳ではないにしろ、すっかりなりを潜めてしまっている。今までの常識を覆されれば、却って冷静にもなるというものだ。……冷静すぎる気がしなくもない。本や漫画の読みすぎだろうか。
“「死んだはずなのに意識がある」……、まさにその通り。脳みそと意識との間に従属関係が無いことを、君は知った訳だ。一つ賢くなったね。おめでとう”
(……そりゃどうも。こちらの意識もそっちに行くみたいだね。話が出来るようでありがたい)
“ほう、そりゃどうして?”
(一方的に話を聞くのは趣味じゃない。質問したいこともあることだし)
“……用があることはお見通しか。さっきも思ったが、随分と頭が回るようだね、君”
(元はと言えば、話しかけてきたのはそっちでしょうに)
“全くもってその通り。「大なり小なり目的がなければ話しかけない」ということを、この状況下でも忘れないでいる人間は思ったより少ないものでね。おかげでうっかりしていた”
なかなかにもってまわった話し方をするやつだ。藍染みたいな、BLEACHに出てくる大ボス級の敵キャラを思い出す。オサレなのかと思いきや、言っていることは割ととぼけているが。
一人でそこはかとなくうきうきしていると、なんとなく呆れたような気配が漂ってきた。……だったらその話し方を何とかしろ。
“……えー、とりあえずきちんと意思の疎通も図れたことだし、本題に入るとするよ”
(ちょっと待て。意思の疎通すら図れない奴がいるのか?)
“話の腰を折るなよ”
(まだ本題には入ってなかっただろ)
“…………「意識で会話する」ってのがよく分からない奴が多いんだよ。いくつか平行して考えてることが全部流れ込んできてまともな文章になってなかったり、逆にそもそも文章化されてなかったり。「相手に意識を向ける」という点では、口に出して話すのとそう変わんないはずなんだがね。君みたいに初っ端からきちんと会話になる人間は思ったより少ない”
どことなく声音が疲れている。口調も多少崩れてきた。……すみませんね、関係無いこと聞いて。
それにしても、面白い事を聞いた。相手に意識を向けずしてどうやって喋るというのだろうか。……いや、この状況じゃあパニクって普段当たり前のようにしてることほど出来なくなるものなのかも知れない。
(なるほどね。私は割と冷めてると言いますか、感情が伝わるのが一拍遅いと言うべきか、まあとにかくそんな感じなんでまともに話せるのかもしれないねえ)
“……さっきから終始うきうきしているように思うんだが、それは?”
(こんな変なことが起これば誰だってテンションくらい上がるでしょうよ)
“まあ、それはいいとしてだ”
少々強引に本題へと戻した彼は、死んだ後意識だけになって漂ってしまっている、私みたいな奴を回収して、どこかしらに転生させる仕事をしているそうだ。いや、仕事というよりはボランティアのような位置づけのようだが――この立場の曖昧さは死神代行に似ている――つまりはそれが彼のお役目ということらしい。
二次創作も好きだった私には、少しばかり心当たりがあった。
(もしかして、これは神様転生のお誘いってやつ?)
“僕は神様じゃないよ。普通の人間って訳でもないがね。だから「寿命を迎える前にうっかり死なせてしまった」ということでもない。君は間違いなく、死ぬべくして死んでいるよ”
なるほど確かに、「病にかかって死ぬ」というのは「事故って死ぬ」よりも現実味がある……ような、気がする。
“とはいっても、やることとしては神様転生とそう変わらない。どんな能力を持ち、どこへ転生するのか、それなりにアバウトにはなるが決めることも出来る”
(……マジか)
“大マジだよ”
どうしたものか。
転生モノであろうと、割と分け隔てなく読んできたし、その都度良作にめぐり会ってきたけれど、実際当事者になってしまうと色々な意味で怖かった。
彼は「どこへ転生するのか決められる」と言った。つまりは、私の知っている世界――小説や漫画、アニメ、ゲーム、あるいはドラマや演劇のような、いわゆる物語とされるものの舞台となる世界――なども候補に挙がるということだ。
そういうところへ転生すれば、いわゆるオリ主モノの主人公のように、大なり小なり物語に巻き込まれていくことになる。原作の道筋から外れていないか案じながら、壮大な喧嘩をしたり、とんでもない陰謀に巻き込まれちゃったりする訳だ。そういう展開に憧れないではないが、今まで少し頭の回転が速いかもしれないくらいの一般人として生きてきた私には、少しばかり荷が重い。
質が悪いのはむしろ、「そういう展開に憧れないではない」私の精神構造だ。夢を見るのも大概にしやがれこの野郎。
“――随分と迷っているようだが、煩わしいことが嫌なら転生先を指定しないということも出来る。能力についても同様だ”
長いこと沈黙していると、相手から助け舟が送られてきた。考えていたことがだだ漏れだったのだろう。的確なアドバイスだ。
むしろ一番重要なのは今まで目を背けていた部分にあるのだけど、どちらかというとそれは自分の中で折り合いをつける類のものだ。転生するのはどうやら決定事項のようだし、だとしたら相手を困らせてまでこの事態の根本を問い質すべきではないだろう。納得のいくような答えは返ってきそうにない。
さしあたって、重要なことだけ聞くことにした。軋む心には目を瞑るとしよう。
(今まで生きてきた記憶を持ったまま転生することは可能か?)
“可能だ。むしろ標準装備と言うべきだろうな”
(そっか……、うん、それなら良かった)
僅かに心が軽くなる。これで後悔はしないはずだ。
転生先は一先ず置いておくとして、あと決めるべきは能力か。これは一つだけ心当たりがある。人間が得ることの出来る能力を超えているが、欲しい能力なんてものは得てしてそんなものだろう。
(じゃあ、能力なんだけどさ、BLEACHに出てくるウルキオラってキャラ知ってる? 第4十刃、ウルキオラ・シファー)
“知ってるけど、そいつ死神どころか人間ですらないぞ。いや、死神の要素はあるけどさ、破面だろう?”
(うん、それで合ってる。ウルキオラの能力をトレースしたい。と言っても初っ端からそれはキツいから、枷を付けておいて欲しいんだけど)
“あー……、元がただの人間だと要素が偏って崩壊しかねないから、滅却師の能力も付加しておくけど、それでもいいか?”
(……おおう、すっかり忘れていた。このままじゃ犬死にするところだったよ。ありがとう。よろしく頼む)
盲点だった。考えてみれば、虚を宿した魂魄は非常に脆くなる。原作で純血の滅却師である真咲に虚が入り込んだ時は、滅却師と虚にそれぞれ反する死神と人間の要素でもって虚を封じ、魂魄を安定させていたのだったか。
その魂魄の形は、経緯は違えど主人公である一護も変わらない。きっとそれが一番安定する形なのだ。
“それで、結局転生先はどうするつもりなんだい? さっきは相当悩んでいたようだけど”
(それなんだよなあ……、うん)
原作介入に悩むのは煩わしくもあるが、一方でそれもいいかも知れないと思っている節がある。能力にしたって、「あくまでも一般人だからハードな経験には耐えられそうにない」なんて思っているくせにウルキオラの能力を選んでみたりと、冷静になって考えてみれば、私は面白いくらいに矛盾だらけだ。参考にならない。
試しに埋もれそうなくらい沢山ある御託を取り除けば、「知らない世界へ行ったとしても、その世界が肌に合わないことだってあり得るし……」なんて言い訳が残っている。どうやら私の希望はずっとそこにあったようだ。
最終的に固まった答えは、いっそ潔いくらいに優柔不断だった。
相手が嬉しそうだったのは、きっと気のせいではないだろう。
(私が好きな世界のどれかに転生させて)
“――いい答えだ。気に入った”
押し流されるようにして、私の意識は閉じた。
ごちゃごちゃ書いた割に、なんだかなあ。
長いようで意外と短い。
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うっかり書いた文アル二次
それっぽい構想はなんとなくあったけど、1時間くらいで1200字弱か。多いのか少ないのか。少ないんだろうな。
これ以上集中力続かねえよー。1記事10000字とか書いてる人どうやってるんだろう。
やっぱり突貫じゃ駄目ってことか。
そうそう、文ストじゃないよ文アルだよ!
錬金術師――俗に「アルケミスト」などと呼ばれる職業がある。ご存知だろうか。
物質の精製、転換、ものづくり、はては禁術に近いことにまで活動内容は及んでいる。アルケミストは、この世界の薄闇に、薄く網を広げている。
かつて、文学に携わり、その著作によって、あるいは生き様によって、その足跡を残した者たちが居た。
彼らに関わる多くの本が人々に読まれた。
たくさんの賞賛を受けたが、批判されない訳でもない。しかし、それ以上のことが起こるようになったのは最近のこととされる。
すなわち、「侵蝕者」の出現である。
文学書が黒く染まっているのが発見されたことが、事の発端だ。
ページが塗りつぶされたように真っ黒になった本は、物理的に読めなくなるのと同時に、何らかの作用によって人々の記憶から急速にその姿を消していった。
異変を感じ取れたのは、彼らの持つ異能故か、アルケミストばかりだったという。
調査を開始したアルケミストたちは、ほどなくして、本の中にはその本の世界がきちんと存在していることを突き止めた。完全な状態の本よりも、侵蝕の進んでいる本の方が侵入しやすいことも、ほぼ同時期に判明している。侵蝕を綻びと捉えると仮定するなら分からない話ではないが、確かなことは今も分かっていない。
調査のために侵蝕されている本に入り込んだ彼らは、そこで先の「侵蝕者」と遭遇した。
そして、彼らのうちの全てが命を落とした。
そのことごとくが自殺だった、というのは、アルケミストの間では有名な話だ。
彼らが本の世界から引き揚げてきてから自殺するまでのほんの数日間、現実世界に残っていたアルケミストたちが聞き取りを行ったようだが、精神を病んだと思われる彼らからは上手く情報が得られなかったようである。今日に伝わっている侵蝕者の詳細な情報は、後の調査で得られたものだ。
しかし、会話すら出来なくなった彼らがうわ言のように漏らす言葉によって、入り込んだ先に敵と思われる存在が居たということは、残っていたアルケミストたちにも辛うじて把握できた。
本の中の世界であるということ。そして、敵の存在。
彼らが狂った要因として挙げられるのはそれくらいで、調査を進めるにはどうしても乗り越えなければならない障害であることも確かだった。
本の中で狂うことなく、敵に遭遇しても逃げるなり倒すなり出来る存在などありはしない。精緻な絡繰りですらアルケミストの力なしには動かないのだから。
八方塞に思われたが、文学に携わった者たち――「文豪」に目を付けたアルケミストによって、事態はひとつの方向を得た。ほとんど禁術と変わりないにも関わらずその方法が取られたのは、既に理論は確立されていたこと、そしてのっぴきならない状況に、誰もが焦りを覚えていたからに他ならない。
その術に適性を持つ一握りのアルケミストは、業を一身に背負う覚悟のもと、各地に設置された国定図書館に散らばっている。
こっから話が始まる(ゲームも始まる)訳だけど、死ぬほど捏造まみれなんで絶対に信じちゃ駄目だぞ。原作ゲームが始まってまだ1周年だから、謎が謎なままで捏造し放題っていう典型的なパターン。
ちょっと歴史風味に書いたら説得力ありすぎて自分でも目え回りそう。こんな文章書けるんだな。つか思った以上にシリアスになりすぎてワロタ。
極秘資料集も持ってるんだけど、正直買った時に浮かれすぎて内容あまり覚えてないから、捏造だけじゃなくて齟齬もきっとある。
原作は悲壮感漂うテーマ音楽と、意外とのんきでネタ満載な文豪たちの温度差にくすっときます。
そんな風に書けたらいいなと思うけど、ここで書くかどうか。
そもそも筆を進められるかどうか。
ちなみに女性向けではあるけど、乙女ゲーでもホモゲーでもないから、やろうと思えば男性でもできるよ。
良ければやってみそ(ダイマ)
個人的には手紙がとても好き。
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