金次に転生しました。 (クリティカル)
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開幕 少年は再び兎の巣穴に飛び込む
プロローグ


投稿していたものを間違って削除してしまいました。
バックアップしていたものをここに投稿させて頂きます。


突然だが、今ここで整理したいことが、3つある。

 

1つは、【転生】それは、一度死んだ者が、もう一度人生を歩む事ができる。本来ならば、ありえない出来事。来世とも言う。

だがここで言いたい転生とは、一度死ぬだけではなく、何かの神様らしき人からいくつかのチ━ト能力を貰って様々な世界に飛んで、その世界の主人公の隣で好き放題に暴れると言うのが主な物語だ。

 

次に【緋弾のアリア】これは、武偵と呼ばれる人たちが事件を解決していく物語で、その物語の主人公、遠山金次と言う『ある出来事。』のせいで、女性恐怖症になってしまった元凄腕武偵とある日いきなり『空から降ってきた』 Sランクの最強武偵神崎・H・アリアのSランクとEランクの凸凹コンビが凶悪犯に立ち向かうと言うアクション物のライトノベル(通称ラノベ)である。

 

そして、最後に【武偵】だ。

武偵とは緋弾のアリアに出てくる職業で、その名のとうり、武力を行使する探偵通称【武偵】である。この武偵の主な仕事は、強いて言うなら『便利屋』だ。だが、本来武偵とは、凶悪化する犯罪に対抗して新設された国際資格で、武偵免許を持つ者は武装を許可され逮捕権を有するなど、警察に似たような活動ができる。

そして、警察と違うのは金で動くことだ。金さえ依頼人から貰えれば、武偵法の許す範囲内ならばどんなに危険を伴う仕事でも、どんなに小さな仕事でもやる。

極端な話、猫探しから、テロリスト鎮圧まで金さえくれたらどんなことでも、喜んでやらせていただきます。と言うことだ。

話が極端過ぎるかもしれないが武偵は、悪まで武器と逮捕権を持った探偵だ。

警察とは違い一人一人が仕事を貰う個人営業なのだ。

自分が納得しない報酬額だったら、引き受けなければいい勿論、引き受けた場合は最後までやり遂げなければならない。迷宮入りは禁止それが、武偵である。

 

さて、ここまで色々と言ってきたがそろそろ纏めるとしよう。

まず、俺が言いたいことは、【転生】,【緋弾のアリア】,そして【武偵】だ。

ここから言いたいことは、まず俺は転生者で、転生先は緋弾のアリア、そして俺は今、武偵だと言うことだ。

・・・これだけでもありえない出来事なのだが、実はもっとありえないことになってしまった。

そう俺は、

 

 

 

 

 

 

緋弾のアリアの主人公、遠山金次になってしまったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

………うん、何を言っているのかわからないかもしれないが、事実なんだ。俺は文字通り気がついたらだ。

どうして死んだのか。

何をやっていた人なのか。

全く分からない。

幸い消えたのは、自分の事とその周りに関する記憶だけで他の常識とか、言葉何かは覚えていた。

目を覚ましたら俺はとある女性に抱き抱えられていた、赤ちゃんの姿と言う泣けて来るほどのご都合主義。

ましてや、その女性と言うより母親らしき人と側にいた父親らしき人が俺に向かって『キンジ、キンジ』と呼ぶのだ。

そして次第に成長するに連れて原作の遠山金次になっていく体を見たら、ここが、緋弾のアリアの世界なんだと認めて前に進むしかないのだ。

そして俺はほぼ『無理矢理』武偵になった。(小学校時代についてはまぁそれなりに友達と遊び時に喧嘩やら色々とした。中学校時代についてはまぁ、原作とほぼ同じ事になってしまったので割合する。)だが、俺もただ過ごして来たわけではないのだ。これまでの人生で心に硬く誓った事がある。

それは、原作のような道は進まず普通の武偵として生きていくことだ。

だから俺は違う学科に付き1年のころも日々努力しきた。

全ては、あのピンクの悪魔に会わない為に!

 

 

 

 

 

 

 

 

そんな俺も今2年に上がり、さぁ今から学校に行こうとしている最中なのだが、

 

 

 

 

 

『その、バイクには、爆弾が、仕掛けて、ありやがります』

原作でお馴染みのUZI(ウ━ジ━)をくくりつけた、『セグウェイ』に追いかけられている。

『助けを 求めては いけません。 ケ━タイを使用した場合も爆発 しやがります』

 

 

 

 

 

うん、どうしてこうなった?




電波の不具合って怖いです。
今回身に染みました。


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1 普通、ふつう、フツウ?

正月も過ぎ皆様に報告が有ります。
活動報告でも書きましたが、この作品書き直します。
改めて作品を見直して、「あ、ここは、もっとこうした方が良いな」
と、言う所が多く再投稿よりリメイクの方が良いなと思ったのです。
ですので皆様どうか、もう一度この作品にお付き合い下さい。
お気に入り登録してくれた方々指摘感想評価してくれた方々本当にすいません。



人生には、様々な選択肢がある。

たとえそれが強制ルートに入ったとしてもまだ挽回の余地があると思うと言うよりは、思わせてくれ。

例えばAルート(原作通り)に進めばお先真っ暗死亡エンドの道しかないと分かっていながら進む奴がいるだろうか?

いや、いない。

いたとしたらソイツは余程のバカか自信家。

または、自殺志願者だ。

だからこそBルート(オリジナル)を選びイザと言う時に身を守ったり、イベントを回避したりするのに必死になるのでは無いだろうか?

少なくとも俺はそうだ。

いや、そうだったと言うしかないだろう。

何故なら今まさに俺は

 

『そのバイクには、爆弾が、仕掛けて、ありやがります』

 

 

「あぁ、………やり直したい」

 

その選択肢を間違えたから。

どっかに過去に戻れるタクシーありませんか?

無いですかそうですか。

 

と、まぁ少し現実逃避をしたが、一言で今の状況を説明するならば。

俺がバイクの下を確認しなかったせいで今まさにUZI(ウージー)をくくりつけたセグウェイに追いかけ回されている。

 

え?何でかってそんなん俺が聞きたいわ!

と言いたいが理由は何となく分かる。

 

『バイクを降りやがったり減速させやがると爆発しやがります』

 

分かってる分かってるから今人気のボーカロイド歌姫の声で迫ってくんの止めろ。

何時もなら可愛らしい歌を聞かせている声も今だけは恐怖の対象だよ。

なんと言うか

 

「もう縁を切りたくなってきた」

 

こうなったのも100%『アイツラ』と『クソ兄貴』の正だ。

何で俺は関わりたくないのに、クソ兄貴はとんでもないことを押し付けるんですかね?

どんな理由があっても俺にとっては疫病神以外のなにもんでもないよ。

 

『助けを求めてはいけません。ケータイを使用した場合も爆発しやがります』

 

「もう分かって言ってるだろ!!お前!」

 

思わず叫んでしまったが、仕方ないだろう?

あんの野郎、助けを求める奴がいないの分かって言ってるだろう。

もう皆とっくに学校に着いてるよ!

始業式もとっくに終わってるよ!

 

 

後、出来るだけ助けの来ないところ選んで走ってんだからしょうがないだろう。

先程から俺は、減速せずに道を曲がったり逆走したりと、目茶苦茶な運転しててもう自分でもどこ走ってんのか分からん。

 

けど、これでいいのだ。

そう、こんな事になったけどまだ選択の余地はある。

それは、もうひとつの元凶ピンクの悪魔に目をつけられないことだ。

そうすれば、俺は何時通りの日常を謳歌できるだろう。

けど、

 

「このバイクどうしよう………」

 

問題は、そこだ。

『セグウェイ』なら何とかなる。

だが、問題はこのバイク、BMW・K1200R世界最強のエンジンを搭載したネイキッド・バイクだがそこじゃない。

 

『あの二人からのプレゼント』だと言うことが重要だった。

 

まだ、渡されてそんなに乗ってないのに。

壊しましたなんて、言ったら絶対殺される。

けど、もうダメだな。

さすがに命には変えられないし。

なにより解除の使用がないならどうしようもない。

『無理』だな。

 

「もう、結構離れたよな」

 

あれだけ、無茶苦茶に走ったのだ。

もう学校からも離れただろうと言うか。

 

ふと、周りを見ると、そこには、なんと言う事でしょう。

男子寮だ。

帰って来ちゃったよ。

 

「まぁ、この辺なら誰もいないか……」

 

うむ自問自答自己解決完了。

あの二人には、後で話せばきっと分かってくれるはず。

自信無いけど。

 

『そのバイクには、爆弾が仕掛けてありやがります』

 

まぁ、運がなかった。

だから

 

『バイクを降りやがったり減速させやがると爆発しやがります』

 

さっきから何度も同じ事を言うセグウェイに俺は

 

 

『助けを求めてはいけません。ケータイを使用した場合も爆発しやがります』

 

「分かってるっての………くどい」

 

そのままバイクを180度回転させてバイクから後ろに飛ぶ。

運転手を失ってたバイクはそのまま倒れる暇もなくセグウェイと衝突し

 

ドガアアアアアアアアアアアアンッッッ!!!!

 

倒れてて良く見えなかったが、轟音と爆風は此方にも当然迫り

 

「うおっ!!熱っ!」

 

熱風が俺を包み爆風が俺を引きずる。

受け身取っておいて良かった。

頭と体もヘルメットとこの『防弾』制服のお陰で殆ど無傷。

運が良かった。

但しバイクはもうただの鉄屑になってしまったが。

 

「まぁ、一件落着………じゃないのか」

 

建物の影から木の後ろから。

まぁ、出てくるわ。

その数7台

それらも同じくUZIを乗せたセグウェイで。

俺を囲むように銃口を向けている。

UZIは、秒間10発で9ミリパラベラム弾を放つイスラエルIMI社の傑作短機関銃だ。

そんなのを向けて撃ってこないのは、多分

 

「殺す気無いだろ。あいつ」

 

だとすれば話は、簡単。

 

破壊するだけ。

 

俺が腰のホルスターに手を伸ばした瞬間。

 

 

 

ズガガガガガンッッ!!

 

一斉にUZIが、俺の頭部目掛けて撃ってきた。

 

「ちょっと危ないなこれは」

 

だけど、頭を下げれば大丈夫。

しゃがんだ俺の頭の上を銃弾が通過していく。

後、数秒遅かったらどうなってたんだ。

考えたくもない。

でもまぁ、少しは殺す気あるんだな。

俺が一人納得している間もセグウェイが攻撃を止めるわけもなく。

 

ズガガガガガガガガガガガガッッ!!

 

再びUZIが、俺の頭部目掛けて撃って来るが、俺は、もう一度しゃがみ今度は、足に力を入れてそのまま、セグウェイの間に飛び込む。

セグウェイは囲む姿勢から、今度は一列にならび平行射撃に移るようだが。

 

「待つのは嫌いだ!」

 

直ぐに腰のホルスターから銃を――ベレッタ・M92Fを抜いた。

今はあの状態には、なれないけども大丈夫だな。

 

状況を直ぐに確認しまだ方向転換出来ていないセグウェイを狙って

 

ズドン!!

 

1発一番右のセグウェイに向けて撃った。

俺が撃った弾はまだ向きを変えきれていないセグウェイに当たり。

更にそのセグウェイが撃った弾は俺の方ではなく隣のセグウェイ達を

まるでドミノのように

 

ズガガガガガガガガガガガガッッ!!!!

 

吹っ飛ばした。

 

相討ちにより倒れたセグウェイが全て沈黙してるのを確かめてから、更に

 

「後ろ良し。前良し。右良し。左良し。上を良し。下良し」

 

指差し確認で更に誰もいないかを確かめる。

何故下も確認したかって?

何となくだよ。

 

「さてと、一件落着」

 

と、思ったのもつかの間で

 

「あ、遅刻だわこれ」

 

携帯を見ると、時刻は9時ジャスト

普段ならもうバックレてしまうのだが。

さすがに初日からは不味いな。

 

 

まぁ、歩きながら考えよう。

何かあるかも知れないし。

後、バイクの事どう説明しようか。

 

 

その後、俺は暫く歩いていて運の良いことにタクシーを見つけ乗り込み直ぐに行き先を伝えて、学校に運んでもらった。

でもこんな所タクシー通ってたんだなぁ。

この島は色々物騒だから通っていないだろうとか思ってたのに。

とか、どうでも良いことに思考を巡らせたり。

運転手が突然

 

「お客さん。戻りますぅ?」

 

とか言い出したのを丁寧にお断りしたりして(てか、戻ってどうするんだよ。今日は休めとでも?)

 

 

まぁ、そんな事もあったが、またセグウェイに襲われる事もなく今度は無事に学校に到着した。

 

 

 

したのは良い。

良いんだよ。

 

だけどさ、

 

「先生」

 

神様よ

 

「あたしはアイツの」

 

俺がいったい何を

 

「隣に座りたい」

 

 

したって言うんだ。

 

今、俺の目の前の黒板には、でかでかと、あの元凶の一人の名前、ピンクの悪魔こと、

 

神崎・H・アリアの名前と仁王立ちをするピンクツインテールの少女がいた。

 

その間俺の頭の中には

 

『戻りますぅ?』

 

戻りてぇよ過去に。

 

先程の運転手の台詞がずっと聞こえてるような気がした。

 

 

 

 

 

 




なお、この作品には、タグにも付けましたが次の用な事が含まれます。
ちょっと原作崩壊。
文才は無い。
転生物だけど神様転生ではない。←ここ後々重要
オリキャラ数名。
金次を色々改変(特に性格)
金×アリアはすいません他の方で。
作者の独自解釈及び設定多数。
作者のドストライクは菊代と白雪です。
アリアアンチではありません。
それが大丈夫な方はお付き合い下さい。


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2 普通って何だっけ?

少し前に体がだるい重い疲れかな?
と思ったら普通に風邪でした。
バカは風邪を引かないじゃなく風邪に気がつかない。
そんな言葉を思い出しました。
誰の台詞かは忘れましたが。

それと、短かったので少し書き足しました。


あのピンクの悪魔が来る少し前

 

俺は、階段を上りながら未だに思い付かない言い訳を考えていた。

だが、そう簡単に言い訳が思い付くはずもなく気がついたらもう先程確認した自分のクラス2年A組の扉の前まで来てそのまま扉を開けると。

 

「いよう!キンジ遅かったじゃねぇかよ!今年は同じクラ――グファ!!」

 

男が目の前で吹っ飛んだ。

そして、そのままゴスッ!!と鈍い音をだし、ロッカーに背中をぶつけ、まるで糸の切れた人形みたいに動かなくなった。

こんな吹っ飛ばしかたが出来る奴は一人しかいないそいつは

 

「ちょっと!遠山あんた何があったの!」

 

「いや……何って何が?」

 

少しハスキーな声を上げながら俺の目の前に立ったのは、先程そこのロッカーに寄りかかって寝ている男、武藤剛気(むとうごうき)を吹っ飛ばした張本人で先程お釈迦になってしまったバイクをプレゼントしてくれた人たちの一人

同じクラスだったんだなぁ~

 

「何が?じゃないの!始業式には来ないし、連絡もつかない、携帯のGPSは目茶苦茶なルートを辿ってるし!それで何もないなんて事は無いでしょ!」

 

「おい待て。何だよGPSって然り気無く怖い発言だなおい」

 

まったく。こいつは3年間似たような会話をもうお約束のようにしているが、

 

「その事はどうでもいいでしょう。ほら其より何が有ったのか話して」

 

どうでも良くはないはずだが……まぁ良いか。

こんな強情な所も相変わらずだな

 

「寝坊して遅刻しそうだったで「あの子がいたのに?」………武偵殺しに襲われていました撃退しました!此でいいか?菊代」

 

「はい。良く出来ました」

 

何でも間でもお見通しな俺の『パートナー』鏡高菊代さんだことで。

 

「だけど、武藤相手に秋水(しゅうすい)使うなよ」

 

「アレぐらいなら数分で起きるでしょう」

 

「違うそうじゃない」

 

「だってあんたが来るまでずっと私に「キンジは一緒じゃねぇのってしつこく聞いて来るんだもの」

 

「じゃ、しょうがない」

 

でもまぁ、息はしてるみたいだし直ぐに起きるだろう心配することはないな心配する気もないし。

 

「はーい。皆席について下さいHR初めますよ~」

 

と、どうやらバカ話をしている間にそんな時間になってしまったようだ。

 

 

菊代が指で自分の隣りの席を指しているのでそこに座る。

武偵校の席順は基本的に自由なので花見席のように取ったもん勝ちなのだ。

有りがたい事に菊代はどうやら俺の席を取って置いてくれたらしい。

俺は菊代の隣りの席一番後ろで真ん中だ。

 

「何で俺は殴られなきゃいけなかったんだよ」

 

「自分の胸に聞いてみろ」

 

担任が来たことで復活したらしい武藤が俺の右隣りに座る。

復活早いなおい。

殴られてまだ3分位しか立ってないぞ。

 

「皆さんに今日はうれしいお知らせが有ります」

 

担任が声を弾ませて周りの生徒達に語りかける。

担任がその反応に満足そうにしながら。

 

「何と今日は転入生を紹介しますよ」

 

ワアアアアアアーーー!!

パチパチパチパチ

 

そう言った瞬間に教室がまるでアイドルでも来るような賑わいに包まれた。

へー転入生か。

まぁ、どんな奴でも俺には関係ないな。

ん?転入生?

 

何か背筋に寒気がし寝ようとした顔をゆっくり上げると。

そこには、ピンク色の髪を左右に束ねツインテールにした。

ピンクの悪魔通称

 

神崎・H・アリアの姿が。

 

そして、その悪魔は自己紹介もせずに、ズンズンと音がしそうな勢いで教室の後ろの方に向かって歩いて来て。

 

ピタリと止まった。

 

俺の机の前で。

 

「やっぱり間違いないわね」

 

「は?」

 

謎の言葉を呟いた悪魔は、俺の疑問の声も無視してまた、教卓の方に戻り

 

「先生、あたしはアイツの隣に座りたい」

 

 

聞きたくなかった言葉を言いやがった。

その言葉に生徒達は一瞬シーンと静まり返り

数秒立ってから。

ワアーーと、歓声を上げる者

えーーーと、落胆する者。

未だに絶句し状況を整理できない者(俺を含む)

実に様々な反応を見せていた。

 

 

俺は、何かフラグになるような事をしたっけ?

イヤイヤ、そもそも会うのも初対面のはずだ。

これは、きっとアレだそうによく言う人違いってやつだ。

だってほらもしかしたら隣の武藤かも知れないだろ?

て、待て武藤何故俺を見る?

後、そこの悪魔何故俺の方を見てる?

俺じゃない隣だろ、隣を見なさい隣を。

すると隣の武藤が勢いよく立ち上がり俺の手を握り潰しながらっっていてぇよ!

 

「良かったなキンジ!!何か知らんが、またお前にだけ春が来たみたいだぞ!先生!オレ、転入生さんと席代わりますよ!」

 

「お前は、それでも友人かーーーー!!」

 

そんな満面の引きつった笑顔で俺の手握り潰しながらをこれでもかと振って来るんじゃないそろそろちょっと痛くなって来たぞ。

旗から見ればいい友人だろう……旗から見ればな。

俺がそんな武藤の手を捻ってほどいてる時に

 

「はいはーい!理子分かった!分かっちゃった!これフラグばっきばきに立ってるよ!」

 

 

俺の左前に座っていた峰理子(みねりこ)――朝っぱら俺を襲って来た張本人だが今はそれどころじゃないのでいいだろう。

 

ガタン!峰理子が席を立ち

 

「キー君には、既にキクッチがいる。なのに、そこのツインテールさんがやって来た遠い所からキー君に会いに!つまりこれは、国境を超えた壮絶な二股何だよ!」

 

何てヘンテコな推理だ。

後、何だよそのあだ名は、いつの間に俺と菊代にそのあだ名は付けた。

そもそも、こうなった原因はお前とクソ兄貴の正だろうが!

何で俺が悪魔に目をつけられたのか知らないけど。

よくまぁ調子よくペラペラ言えるものだ。

 

だが、そんな俺の密かな怒りとは裏腹に

 

「キ、キンジがこんなカワイイ子といつの間に!?」

 

「フケツ」

 

「まじ引くわー!」

 

「ネクラの癖に」

 

こう言う時に直ぐ様一致団結出来る生徒達からのブーイングの嵐だこと。

てか、然り気無く武藤お前もネクラとか言うんじゃねぇよ。

 

「お、お前らなぁ」

 

ドギュン!ドギュン!

 

鳴り響いた二発の銃声がクラスを一気に凍りつかせた。

1発は理子の足下もう1発は武藤の机に穴を開けて空いた穴からの少し煙が出ている。

武偵校流の黙らせかただ。

武偵の生徒は声じゃ黙らない。

一般学生のようにはいかず。

裁判官が突然ハンマー叩く位の事はしないと黙らない。

特にこう言った時には。

だが、其を初日でやる何て

 

「あんたら、そろそろ黙らないかい?」

 

俺の隣に座っていた菊代がドスの聞いた低い声で、周りに聞かせる。

 

「遠山が迷惑してるのが見えないほどあんたらの目は腐ってるのかい?」

 

菊代は、周りをゆっくりと見渡してから構えていた銃ベレッタM92FSをホルスターに仕舞うと

 

「やっちゃた…………」

 

魂が抜けたように、イスに寄りかかり動かなくなってしまった。

 

俺がこんな状況で出来る行動なんて限られている。

 

「あーー、なんと言うか、有難う。そしてすまん」

 

今、言える言葉は此しか無い。




どうしてこうなった。
ただ、菊代を出したかっただけなのに。(困惑)
後、近接武器の本と銃の本を買いました。
女性店員さんに二回ほど「此方でいいですか」と聞かれました。
何故なんでしょう。


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3 不幸継続中

前回の話が短いと感じたので付け足しました。
よろしければ、前回の話からお読み下さい。


朝の一件から落ち着き武偵校は、何事もなかったのように時間は過ぎていった訳も無く武藤を初めとするアホどもの質問責めに再びダウンした菊代を背中におぶって武藤達を斬ったり撃ったりしながら何とかまいての昼休み理科棟の屋上で昼飯なんだが。

 

「なぁ、菊代そのほら、そろそろ元気出してくれよ」

「無理。初日からこんな……こんな銃ぶっ放すなんて…」

 

「俺の為に怒ってくれたんだろ?それにこっちじゃ銃を撃つのなんて日常茶飯事じゃないか」

 

「でも……だって……でも」

 

……どうしましょう。

どうやら菊代は、朝の事を引きずっているようだ。

こうして昼休みとなった今でも、菊代の周りに紫色のオーラが見えるほどに落ち込んでしまっているのだ。

だが、

 

「そうだよ。キンちゃんの為に怒ってくれたんなら落ち込む事何てないよ」

 

ね?と菊代の背中を擦っているのは、この武偵校の生徒会長で、純白のブラウス。臙脂色の襟とスカート武偵校の制服を正しく着た艶々の黒髪が特徴的な俺の幼馴染みの星伽白雪(ほとぎ しらゆき)だ。

菊代を背中を擦っている姿はまるでいじけてる娘とそれを励ます母親のようで見ていて癒され

 

グ~~~~。

 

突然俺の後ろから大きなよくドラマやアニメ何かで聞こえて来そうな腹の音が鳴り響いた。

 

「何でお前がいるんだ?」

 

「何やら屋上から美味しそうな匂いが漂ってきたもので」

 

俺が後ろを向くとそこには、口元を黒い布で隠し長い赤ワイン色のマフラーをしたポニーテールが特徴的な

 

「昼飯代は渡したはずだぞ風魔」

 

「焼きそばパン買って食べたので御座るが」

 

グ~~~~~~~~。

 

「足りなかったってことか」

 

「恥ずかしながら」

 

「戦妹契約したのにその辺は自分で何とか出来ないのか?中学の時から言ってるぞ」

 

風魔陽菜(ふうま ひな)こいつは、中学の頃から全く変わらない。

春休み中ですら白雪の作る飯を食べに来ていたのだから恐ろしいかな次第にこいつが来る事に慣れてしまっている。

 

「だが、残念だったな。もう食べ終わった後だ」

 

「そんな!!?」

 

「あぁ、食べた。ふんわり柔らかな卵焼きも脂の乗った銀鮭も白く光る米も旨かったぞ」

 

「な、なな何で呼ばなかったんで御座るかーー!!」

 

「朝だって人の部屋で食っていった癖に何言ってる」

 

ガーンと、まるでこの世の終わり見たいな顔でへにゃりとその場に膝から崩れ落ちていく。

いや、お前は焼きそばパン食べたんだろ?

 

「だ、大丈夫だよ。風魔ちゃんの分もちゃんと作って来たから」

 

白雪がもう一箱鞄から出して風魔の前に出す。

 

「本当で御座るか!?」

 

魚を見つけた猫のように直ぐに白雪から貰った弁当箱の蓋を開けて口に物凄いスピードで掻き込んでいく。

…どんだけ腹減ったんだ。

さすがにもう少し昼飯代を渡すべきなのだろうか?

いや、戦妹何だからもう少し厳しく。

でもこいつに足りないのは『図々しいさ』何だよなぁ……任務への。

 

 

「さっき教務科から出てきた周知メールさ、2年生の男子がバイクを爆破されたってやつ。あれ、キンジじゃない?」

 

ビクゥゥゥゥ!!!!?

 

突然聞こえて来た女子達の会話の内容に思わず心臓が飛び出しそうになった。

あーーー、周知メールもう来ちゃたのか~~。

勘弁してくれよ。

 

「あ。私もそれ思った。始業式に出てなかったもんね」

 

「うわ。今日のキンジってば不幸。バイク爆破されて、しかもアリア?」

 

「マジ引くわー」

 

はい。そうなんです私です。

現在も不幸継続中ですよ。

頼むからどっか行ってくれ!

聞こえるから二人に聞こえるから!

俺の願いも虚しくその女子達は、金網の脇に座って俺の朝の事で盛り上がっている。

幸いかな俺達の座っている所と女子達のいる場所はコンクリートの壁を挟んで調度物陰になってくれているから此方の姿は見えないのと菊代は、未だに落ち込み中。

白雪は急いで食って喉に詰まらせた風魔の世話焼き中。

 

……気ずかれずにすむか。

 

「さっきのキンジ、ちょっと可哀想だったねー」

 

「だったねー。アリア、朝からキンジのこと探って回ってたし」

 

「マジ引くわー」

 

思いっきり目ェ附けられてるじゃねぇかよ俺。

アイツはもう、色んな意味で関わりたくない相手何だから。

 

「あ。私もアリアにいきなり聞かれた。キンジってどんな武偵なのとか、実績とか。あ、けど、菊代様の事も聞かれたな実績とかキンジとの関係とかだから『諜報科じゃ有名コンビだよ』って答えといたけど」

 

菊代様?今ここにいる?鏡高菊代の事?

ピクッと一瞬菊代の体が跳ねたような気がした。

 

「あ!分かるーー今日の菊代様一段とかっこよかった!!」

 

「キリッとした目で『遠山が迷惑してるのわからないのかい?』って私も名前で言われたい!」

 

「分かる!何か極道妻って感じで物凄く凛々しいあんな目で睨まれたい!」

 

まぁ、本当に極道だもんな菊代は。

それはそれとして。

 

「おーい。菊代?」

 

何かさっきとは違う意味でプルプル震えながら下を向いている菊代を見ると、顔は林檎のように真っ赤に染まり口元は少しつり上がっていや、ニヤついている。

 

「おーい。菊代様ーー」

 

「う~~~~。う、ウルサイうるさい!バカ!分かっててやるな!」

 

「おっ!元気出た」

 

「本当?はぁ~~良かった。菊ちゃんずっと元気無いままだったから」

 

「何が合ったのか存じぬが戻って何より」

 

「喧しい!遠山も白雪もバカ!頭を撫でるなーーー!!」

 

白雪に撫でられながらまぁ、更に赤くなる菊代様もさすがに恥ずかしさの限界だったらしい。

ちょっと弄りすぎたと少し反省します。

 

「でも、アリアってフィギュアスケートとかチアリーディングの授業のポラ写真なんか、『万単位の値段』だってさ。後、新体操の写真も」

 

「万単位……」

 

「どうした?」

 

さっきまでは真っ赤に染まっていた菊代の顔は、今じゃみるみる青くなっていく。

腹でも痛いのだろうか?

 

「あーーーーーー忘れてた!今日だったのよ!」

 

「え?何が?ってうぉう!」

 

ガシッ!と菊代が俺の肩を掴みガクガクと揺らす。

あ、頭がシェイクされる。脳ミソジュースが出来上がってしまう。

 

「任務よ!任務!春休み中に取った任務私と遠山の!」

 

「そんなん合ったか?全然見に覚えが無いんだが」

 

「取ったわよ!報酬二千万の覚えて無いの!?」

 

いや、そんなん覚えて無いぞ?そもそも菊代が覚えていない事を俺が覚えている訳が無いだろう。そんな二千万の報酬なんて………二千万。

 

「二千万……本当なのかそれは」

 

「ええ、向こうが出すって」

 

「場所と時間は?」

 

「今日の17時ジャスト羽田空港」

 

俺は自分の腕時計を確認すると時間はまだ12時30分を過ぎたとこ間に合う。

それにそれくらい有れば全く同じ種類のバイクだって買い直せる。

いや、一応あのバイクにも保険掛けてはあるが手続きにも時間が掛かる。

急ぐならこっちの方がいいはずだ。

たった2回位しか乗ってないのに壊したなんて事をバレたくないしな。

 

 

「今から行こう。急いで行こう」

 

「あんた妙に焦ってない?」

 

そ、そのような事があろうはずが御座いません。

 

「まぁ、いいんだけど。じゃ白雪お弁当ごちそうさまちょっと遠山と行って来るから」

 

「そうゆう事だ白雪。決して携帯にメールか来ても見ちゃ駄目だぞ。それは絶体イタズラだから」

 

「え?ちょっとキンちゃんメールってなんのこと?」

 

白雪が台詞を言い切る前に俺と菊代は下に降りて行った。

そのさいにさっきまで俺と菊代の事を話題にしていた女子に合い向こうが驚いていたのは言うまでも無い。

 

だが、この任務が俺をもっと嫌な方向に進ませる切っ掛けとなってしまったと言うこともあらかじめ言っておく。




小さい頃は雪が降ると嬉しくて仕方ありませんでしたが、今は、雪なんて無くて良いホワイトクリスマスだって無くて良い。
雪嫌い雪かき嫌い休みが全部雪かきで潰れる。
皆さん雪は、大丈夫でしたか?


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4 あの事件のリベンジを

最近コンビニのピスタチオにはまりました。
アレ美味しいですよね?
殻が閉じてるのは開けるのも大変ですけど。


2008年12月24日浦賀沖海難事故

日本船籍のクルージング船アンベリール号が沈没したが、幸い『乗員乗客全員無事』として報道された。

事故の原因は、クルージング・イベント会社がメンテナンスを怠った事として、会社の社長とその会社が一部の乗客達やニュースを見た一般人に激しく非難されたことで有名だ。

そして、俺達の所に『クルージング会社の社長が高跳びしようとしているから捕まえてほしい』と依頼で捕まえに行ったが、後一歩の所で逃げられてしまったのだ。

 

「どう?思いだした?」

 

「思いだしました」

 

現在俺は、羽田に向かう途中の車の中で菊代から今回の依頼の説明を受けている最中だ。

車は、車両科(ロジ)の生徒が運転しているが此方には目もくれず『話しかけないでください』的な雰囲気を出しながら前だけを見ている。

が、菊代はそんなことはお構いなしに説明を続ける。

 

「それなら話は早いわ。遠山には、あの社長をこの車まで『何らかの方法』で運んでもらわなきゃいけないの。あんたの雰囲気なら向こうにだって警戒されないはず」

 

そう言って菊代が俺に渡してきた紙袋には、今俺が着ているスーツとはまた違う服――清掃員何かが着ている薄い青色の服と帽子だった。

 

「今着ている服じゃダメなのか?」

 

「それは、向こうに会う時のんでそっちのは会った後の為の服」

 

「『前みたいな』やり方は出来ないのか?」

 

俺がそう言うと菊代は、ジト目で俺の方を見ながら

 

「同じては今から行く場所じゃちょっと難しいと思ったのよ。考えたら結果こっちの方がベストって事それに……あん時はどっかの正義感の強い人の正で作戦自体が目茶苦茶で任務所じゃなかったじゃない」

 

「あん時は、家のバカ兄貴が本当にすまなかった」

 

「別に遠山が謝る事でも無いでしょう」

 

「イヤ、あん時お前がいなきゃどうなってたかと思うと、本当に」

 

「あんたの頼みじゃ家のパパだって断れなかったわよてか、断らせない。それに……あんたがマスコミに追いかけられたら此方だって不味い事になるでしょ」

 

「……そうだったな」

 

因みに菊代は、元鏡高組の組長の娘で俺もそこで潜入捜査ではないがよく中学の頃から週に5~6回の頻度で出入りしていたのだ。

だから、なおさらマスコミや世間にこの事件の事がバレる事はまずかったのだ。

そうあのとき、本当は、行方不明者が一人だけいた。

家のバカ兄貴がな。

もしあのまま鏡高組が手を貸してくれなかったら俺は原作通りにマスコミに追いかけられていたがその場合は菊代達に迷惑をかけてしまうところだった。

イヤ、十分かけてるか。

本当に菊代には、感謝しても仕切れ無い。

 

けど、今はそれより

 

「もしかして依頼人は同一人物なのか?」

 

「そう。あの事件が切っ掛けでどういうわけかお得意様になってくれたのよ。私達失敗したのに変な話でょ?」

 

「名前は、何て言ってたんだ?其で何かわかるかも知れない。例えば……その会社の関係者とか」

 

「名前は、確か『アヴェ・アンク』とか言う外国人だったかわね。女性で礼儀正しい喋り。会社員じゃ無いでしょうね」

 

菊代は、そう言いながら、自分のツインテールの先を指で弄り初めた。

此は菊代が何か考え事をしている時のクセだ。

 

「それにしても何でソイツはまた日本に?せっかく高跳び出来たってのに」

 

「嘘の司法取引を持ちかけたら直ぐに釣れたらしいわ」

 

 

司法取引とは、アメリカでお馴染みのこの制度は、近年日本にも導入されたもので、犯罪者が捜査に協力したり共犯者を告発したりすることで罪を軽減したり無かったことにすることができ俺も日本でじゃないが世話になった制度だ。

それに釣られたって事は余程切羽詰まってるんだろうな。

くわばらくわばら。

 

「だが、どうするんだ?捕まえるって言っても俺一人だと難しいんじゃないか?着替え直す時間もあるわけだし」

 

俺が疑問を菊代に言うと

 

「その点は心配無いわ。助っ人を連れて来たから」

 

「助っ人?もう空港にいるのか。忘れてたって言うわりには準備万端じゃないか」

 

菊代は、フルフルと首を横に振り

 

「違うわ目の前にいるでしょ」

 

「目の前ってまさか」

 

「そうです私ですよ先輩」

 

突然さっきまで『話しかけないでください』的な雰囲気を出していた運転手が俺に向かって話かけてきた。

俺はそっち方を向き運転席の鏡越しに目が合った。

知ってる。俺はこの人を知っている。

 

「確か、レースクィーンの……」

 

 

「むっ知っていましたか……ご存じの通り武藤貴希(むとう きき)ですよろしく遠山金次後、兄がお世話になってます」

 

武藤貴希は、ここ最近TVやネットでも有名なレースクィーンでネットじゃ様々なグッズや写真が高値で取引されてる位の大物だぞ。

一応武藤と言う通り武藤剛気の妹で身長も170㎝近くあり関西弁の混ざった喋り方がファンの間では偉い人気となっている。

今、標準語使ってるけど。

 

「菊代何でこんな奴と知り合い何だよ」

 

「ちょっと訳ありでね事情は後で話すわ。……とそんなことより着いたわ。二人とも頑張ってね私より身長的にも二人が一番なの報酬の心配はしなくて大丈夫だから」

 

「分かった。とりあえずそいつここまで持ってくる」

 

俺は、菊代から小型の通信機を受け取り耳に装着する。

隣の貴希(呼び方は剛気と区別するため)も同じように耳に装着している。

菊代は、車に残り指示を出したり車を見張ったりする役目だ。

 

バタンと菊代が車の扉を閉めて俺が空港内に入ろうと背を向けると

 

「ふん!」

 

「ガ、痛ぁ!」

 

ギュム!と突然隣にいた貴希が俺の足を強く踏んできた。

 

「いきなり何すんだ!」

 

「私は、認めません」

 

「は?」

 

俺の言葉を遮った、貴希は、まるで俺を親の仇のようににらまつけながら

 

「鏡高先輩のパートナーに相応しいのは私です!あなたでないことを今日の任務で証明して見せますそのつもりで」

 

言い切ると、貴希さんはスタスタと先に言ってしまった。

 

 

………昼もそうだったかが、随分と女子にモテるんだな。

あいつも菊代ファンとかそんな感じの奴か。

その内ファン倶楽部出来るんじゃないのか?

その時は是非マネージャーとして雇ってもらいたいものだ。

 

『ほら、ボーとしてないであんたも急いで、ちょっと予想外の自体が起きそうなの』

 

「予想外?」

 

俺は、少し警戒して辺りをキョロキョロと一応見回して見るが特に何も無さそうな気がするぞ。

 

『私の所から見えるんだけど私達以外の武偵専用の護送車が50メートル先に止まっているの出来る限り急いで運んで』

 

「分かった」

 

だとすると少しイヤな予感がするな。

下手すると依頼が被ったとか。

 

「そんなわけないか」

 

俺は、より辺りを警戒しながら空港へと入って行った。

 




届けこの思い!!パルパルパルパルパルパルパルパル。
皆さん、もうすぐバレンタイン。
何処かにリア充のチョコレートがドロの塊になる呪いを一緒にかけてくれる人はいませんかね?チラ
後、次回は少し時間を飛ばします。


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5 だから彼は【サイコパス】

ちょっと前まで

友人「何がリア充だ!バかじゃね?」

私「だよな~」

昨日

友人「俺、彼女出来た!」

私「……」

もう、誰も信用出来ない


「私は、絶体に認めません。あなたみたいな人が鏡高先輩のパートナーなんて私は認めませんから」

 

「まだ言うか」

 

俺達は、つい先程やって来た社長を保護しその後、ペットボトルのお茶を上げたら余程疲れていたのだろう一口飲んで寝てしまった為仕方なく掃除用具なんかを入れて移動するタイヤつきの箱の中に会った時に着ていたスーツと一緒に社長を仕舞い上から蓋をして俺もトイレで菊代から借りた作業着に着替えて現在運んでいる。

経験上意外とこれバレないんだよな。

お陰で白昼堂々2千万のお宝を運ぶ事が出来る訳だ。

ちょっと箱の中が『ヴ~ヴ~』とうるさいのが欠点だな。

 

「でも、1年が来るなら、風魔連れて来ればよかったな。良い勉強(雑用係)になったろうに」

 

あいついつも人の所で飯食って行くんだからこう言ったところで少しは役にたってほしい。

昼飯代まで俺の財布からなのだから。

そう、思わず呟いた独り言に隣の貴希さんは帽子を深く被っていて目元は見えないが呆れたような口調で

 

「本当なら私と菊代先輩だけの任務のはずだったのに「まだ、言うか」戦妹になって始めての任務だったんですよ……」

 

「なぁ、少し気になっていたんだが、戦妹契約を二人はどうやって結んだんだ?」

 

そう言うと、得意気に口許を吊り上げて任務中だからだろう本当なら大きな声で言いたいのを我慢しているのが見え見えだ。

んで、そのまま小声で

 

「諜報科のウー先生から合姉妹(ランデ・ビュー)の手紙が届いたんですよ」

 

「なるほどね……」

 

合姉妹とは、教務科(マスターズ)が選んだ先輩・後輩を一週間仮の戦妹にさせる制度で教務科のカップリングは制度が高く約90%がそのまま戦姉妹になると武藤から聞いたことがあるが、何故よりによって菊代なのだろうか?

教務科の考える事は分からないし分かりたくもないな。

そう言えば俺がいる諜報科のウー先生は、徒友制度の副監督なんだよな。

え?急襲科?探偵科?行ったことねぇよ。

まぁ、たまに探偵科に行くことはあるが1年のころからずっと諜報科だ。

……俺は、誰に言ってるんだ?

 

と、そんなこと考えてるうちに車の前に着いたな。

俺は、車の後ろの扉を持ち上げるように上げると、椅子を倒して上に上げたらしくちゃんと社長さんが仕舞えるようになっていた。

 

「あら、おかえりなさい思ったより速かったね」

 

「まぁな。思ったより間抜けで助かった。欠点は、100キロオーバーで少し重たい事だな」

 

現にさっきからカートが少しギシギシ言ってたんだものできればもう少し痩せてて欲しかった。

まったく運ぶ人の気持ちも考えてほしいものだ。

 

「まぁ、これが札束の塊にだと思えば軽い物なんだけどな」

 

「はいはい。ちゃんと報酬は3人分有るって言ってたから其を信じましょ」

 

俺達二人は引っ越し業者宜しく箱から社長さんを出してそのまま車の中に入れる。

手足を縛って口をガムテープで塞いだ姿は何か釣った直後のマグロの様だ。

でも、これで何とかバレずに買い直せるな。

 

「何ニヤついているんです?」

 

おっと、どうやら顔に出ていたらしい。

少し反省

 

「あーー、気にしないで遠山今半分浮かれてるから」

 

「然り気無く酷いな」

 

浮かれてるのは、事実だけどさぁもう少し言い方ってものがあると思うんだよな。

俺は、車に乗ろうと手をドアにかけたその時

 

「悪いんだけど、其を僕に譲ってくれないなら?」

 

ゾクリッ!と背中に悪寒が走り抜ける。

この底冷えするような声と微量ながらの殺気は

 

「また、お前か、不知火」

 

俺は、声のする方を向きながらそう答えると、

 

「遠山君困るよ。その男は僕が捕まえるように依頼されているんだから」

 

やっぱり依頼が被ったのか。

本来依頼が被った場合先に捕まえた者に優先権がある。

捕まえた証拠が有ればだがな。

 

「不知火悪いがこれは先に俺が手に入れたんだ。ここは悪いがそのまま回れ右して帰って貰えないか?」

 

「あはは。何を言ってるのかな遠山君だって知っているだろう?依頼の横取りはタブーだよ。此方は正式な依頼なんだから」

 

「……毎回依頼が被って来るのは気のせいか?それとも依頼を受ける武偵は俺達しかいないのか?」

 

「偶然だよ。偶然……それにここには僕達しかいないでしょ?」

 

「あぁ、そうか……よ!」

 

ボウン!!

 

俺は、いざと言う時の為の催涙玉を不知火の足下に投げつけ煙が広がっている間に車に乗り込む。

 

「貴希ちゃん車出して!」

 

「了解です!」

 

ブァアアアアアアアアン!!

 

豪快なエンジン音と共に車が走り出して逃げ切れたと思ったのもつかの間

 

『止まれぇえええええ!!金次ィィイイイイイ!!』

 

煙の向こうから聞こえてきたばかでかい声にその煙の方を向くと

 

「「武藤!?」」

 

「え、バカ兄!」

 

俺達全員が驚くのも無理は無いだろう。

煙の中から出てきた先程まではそこに無かった車には運転席に武藤が乗って来たのだ。

 

「何であいつも来てるの!」

 

「知らん」

 

 

一つ助かった事と言えば向こうも同じ護送車のミニバンだと言う事位か。

ん?ちょっと待てよ。

 

「なぁ、菊代」

 

「何?」

 

「依頼人はなんて頼んで来たんだ?」

 

菊代は横たわっている社長を指差し

 

「『手段は問わないから何が何でも捕まえてほしい』それと『できれば生きてる状態』まぁ、9条が有るから生きてる状態で運ぼうと思ってるんだけど」

 

無かったらどうする気だったんだ。

まぁ、聞か無くてもいいか。

それより

 

「できれば生きてる状態だな良し思い付いた」

 

 

 

これならあいつらをコロ……あ、いや追い返せる!

 

「良し。面白おかしいレースと行こうか不知火」




因みに社長=作者です。





ウソデス


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6 だから彼は【サイコパス】その2

おでんを食べたら口の中をやけどしました。
口内炎出来たばかりだと言うのに。
皆さんは熱いのを食べるときはしっかり冷まして食べて下さい。


『オラァァァァァァァァ!!!止まりやがれ!キンジィィィィィィィ!!』

 

「止まれと言われて止まる奴はいない」

 

羽田空港を離れて俺達は、一般道でちょっとしたレースを繰り広げているのだが妙だな車が一台も通っていない処か人一人見掛けない。

不知火一体何をしたんだ?

武藤のスピーカーを使った怒鳴り声に愚痴りつつも向こうの車は此方へと近づきつつある。

ここまで来れば出来そうだな。

 

「貴希さん。ちょっと頼みが有るんだけど」

 

「何ですか?運転に集中したいんで早めに言ってください」

 

厳しいね本当に。

菊代が隣にいるからまだ話を聞いて貰ってる分まだましかなぁ~

其より

 

「向こうの車との距離を出来るだけ近づけてくれ」

 

「具体的な距離は?」

 

具体的?具体的にかそうだなぁ

俺は少し考えてから。

 

「一度50メートル位近付けてくれ、その後また言う」

 

「え!?ちょっと良いの!?遠山一体何を考えてるのよ!」

 

「菊代一体何焦っているんだよ?」

 

「え?」

 

キョトンと首をかしげて本当に分からなそうな顔をするっていやいや

 

「あれを使うんだよ。そうすれば上手く巻いて逃げれるかもしれないだろ」

 

「あれを………あれ使うの!?大丈夫かしら」

 

「大丈夫だろ。あの二人だし貴希さんやってくれ!」

 

「しっかり捕まってて下さいよ!」

 

次の瞬間車はスピードを緩めることなくそのままバック走行を初め武藤達の車に近づいていく。

向こうもその行動は予想外だった様で避ける暇もなくそのまま俺達との距離を縮めて行く。

良しこのまま行けば。

 

ガッシャァァァァァァァァン!!!

 

瞬間不知火が自分達の乗っている車のフロントガラスをなんと『素手で割った』のだ。

 

「嘘でしょ……」

 

菊代が驚くのも無理は無いだろう。

武偵高の護送車はタイヤも窓も防弾製を素手で割るなんて普通は不可能なんだから。

普通ならの話なんだがな。

だけども

 

「やっぱりそう来たか。このまま運転しながらバックを続けてくれ」

 

何となく分かっていた。

アイツそうすると。

此方も伊達に何回も任務を邪魔されてないからな。

そして、不知火は割った窓から銃を出して此方に狙いを定めて来た。

 

「今だ!蛇行運転してくれ!」

 

「遠山あれを使うの!?」

 

「いや、まだだ。フロントガラス割ってくれたのは助かったな」

 

ギュキイィィィィィィィィィ!!

 

車は減速せずにそのまま暴走族がするように左右に行ったり来たりを繰返し車内がグラングランと揺れる。

 

だが不知火はそれもお構いなしに

 

ダタタタタタタタタタ!!!

 

銃を乱射してきた。

あの銃よく見たらあれはヘッケラー&コッホ社のヘッケラー&コッホUMP45堅牢性と軽量化を実現したサブマシンガン。

アメリカ軍や司法機関に採用されている銃を持って来やがった。

だが、不知火はまだ此方を狙うつもりは無い用で俺達が通った後を追い掛けるように撃っているだけだ。

 

「ちょっと!あの、バカ二人には常識って物が無いの!」

 

「有ったらここまで追って来ない」

 

だから俺も

 

「ほら、社長さんあんたの出番だぞ」

 

俺は近くに置いておいた社長の襟首を掴みまそのまま前に盾の用につきだす。

が、不知火はそんな物は無いとでも言うように構わず撃ち続けて来るが

 

『おい不知火何やってるんだ!止めろ!』

 

スピーカーのスイッチをonにしたままのようで武藤の怒鳴り声と銃を掴んで止めさせようとして格闘中の二人当然運転も狂う訳で此方がやっている蛇行運転よりも酷い運転になっている。

 

良かった今回は武藤がいて。

不知火一人だけじゃこの人質作戦は上手く行かなかった。

アイツには武偵憲章9条は絶対に通用しなかった。

だが、まだ作戦が終了した訳じゃない。

無傷で運べとは言われていないしな。

 

「菊代。あれを使うぞ」

 

俺がそう言うと、菊代は口の橋を吊り上げニヤリとし。

車の壁に立て掛けておいた

 

「その言葉を待ってたわ!」

 

ガチャリと音をたたて構えたその銃は

全長737㎜のグレネード・ランチャー、チャーリー・キラー事M 79だ。

この中にはたった一発だけの40㎜グレネードが入っている為絶対に当たる瞬間が必要だった。

其が今だ。

……気のせいかな。菊代の目が光輝いているように見えるのは。

 

「向こうが自分達でガラスを割ってくれて助かったわね」

 

「本当は向こうの屋根に乗って割る筈だったんだけどな」

 

 

俺もベレッタ92Fを構え何時でも撃てるようにする。

向こうが仲間割れしている内に

 

「菊代目を瞑っとけ!」

 

ダァン!と俺が撃った9㎜パラベラムは武藤と不知火の間を通って

 

 

カッ―――!!

 

車内が光出すその前に俺は持っていた社長の背に隠れる。

持って来て良かったな武偵弾の一つ閃光拳銃弾(フラッシュ・グレネード)

俺や菊代は予め目を守っていたが向こうにそんな暇は無かったのだろう。

 

『ウワッ!!眩しい!クソッリア充金次め!轢いてやる』

 

 

ギュキイィィィィィィ!と、此方に進みながらも酔っ払い運転の用にフラフラとした運転で先程よりもスピードが格段に落ちている。

 

「ねぇ、それ2千万になるんだからもう少し丁寧に扱いなさいよね」

 

「以後気を付ける」

 

怒られてしまった。

まぁ、商品は丁寧に扱うのは当たり前だものな。

でも、此が一番有効な手段だったんですはい。

 

「後は、其を使えば終わりそうだな」

 

俺が少し安堵していると。

 

「じゃ最後の仕上げが必要ね」

 

「え――」

 

そう言うとグイ!と急に俺のネクタイを引っ張り想わずバランスを崩すと

 

チュ――――――

 

目の前に目を瞑った菊代がいた。

そして唇に当たる暖かいこの感触。

 

俺は今菊代にキスされている?

 

 

………は?

 

そう分かった瞬間

 

 

――ドクン――

 

あぁ此はなるな。

 

――ドクン―――

 

良いぞ『あの感覚』だ。

体全体が熱くなっていく。

火傷しそうな程の血液が体の中心に集まっていく。

 

早く早くなってくれ。

 

――ドクン―――

 

『ヒステリアモード』に!

 

ドクン!

 

 




この作品に出て来た名も無き社長は、決して私のこうされたいと言った願望では有りません。
寧ろ私はドSの方ですよ………多分。
感想何かくれるとやる気上がります。



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7 其は先に言ってくれ。

どうも皆さん。
早くも花粉の季節です。
私は……痒い!目が痒い!物凄く痒い!
どっかに目薬有ったかな?
……と、思ったけど無かったです。
ほんと、其だけ。


ヒステリア・サヴァン・シンドローム

略してHSS。

まぁ、俺は特に深い意味無くヒステリアモードと呼んでいるが。

医学的にβエンドルフィンが分泌され常人の30倍もの量の神経伝達物質を媒介して大脳小脳精髄と言った中区神経系の活動を亢進させる事が出来る。

省略すると、これ単純に子孫残す為に性的興奮してスーパーマンと言うわけだ。

うん、自分で分かってはいるけど悲しい。

どうせなら、ほうれん草食ってスーパーマンとかキノコ食って超人とかの方がまだましだった。

 

何故俺が今こんなことを言ったのかと言うと、変態っぽく聞こえるが、俺が今性的興奮している状態だからだろう。

そうとしか言えない。

だが、どの女性でも言い訳ではない。

ましてやAVなんかでも駄目だ。

どう言った訳か俺は白雪と菊代ともう一人でしかHSSになれないのだ。

他でなれた試しがない。

 

だからこそ今俺が、この状況で菊代にキスされていると言うのは幸運だろう。

菊代から微かに香る香水――懐かしいヒプノティック・プワゾンが漂いより強くヒスり始める。

 

数秒たち唇にを離した。

 

「完璧になれたようね」

 

「あぁ、感謝するよ」

 

菊代の確認に俺は血流を確かめるが、良しなってくれてるな。

俺は、もう一度不知火達の方を見直すと……武藤の奴目が開かない状態でも此方を追いかけて来てる。

数分は失明するはずなんだけどな。

そう思っていたが、どうやら不知火が武藤に指示を出しているようだ。

失明したのは武藤だけか。

 

 

「うんで、いつ撃つのかしら?後は引き金を引くだけよ」

 

「もうすぐだから。我慢してくれ」

 

まるでお気に入りの玩具で早く遊びたい子供のようなはしゃぎっプリに俺は少し苦笑する菊代の頭を軽く撫でる。

 

「フフフ……」

 

菊代は撫でられるのが気持ちいのか少し頬が緩み素直に頭を此方に向けていてまるで猫撫でてるみたい…………てっ、そんなことやってる場合じゃなかった。

名残惜しいが、不知火はどうやら武藤の事を諦めたようで先程割った窓から屋根に上り此方へと銃を向けて

 

ダタタタタタタタタタ!!

 

今度は俺達に向かって発砲してきた。

だが、今の俺はHSSのお陰で弾はスローモーションで見る事が出来る。

出された弾の数は十発。

 

これなら防げる。

 

俺は素早くM92Fを構え不知火の放った弾丸に照準を合わせて撃つ。

 

バチバチバチバチバチバチッ!!!

 

お互いの弾丸が衝突し小さな花火が道路に咲く。

だが、まだ3発此方に向かって来る。

今弾を込めるのは不可能だ。

だったら。

俺は、腰にぶら下げた鞘から、ハンティングナイフを取り出して

 

ギギギン!!!

 

Uの字を描くようにして切り落とす。

 

今度は殺す気で撃って来たな。

その証拠に今狙われていた場所は俺と菊代の頭部。

本格的に9条破りをしてくるな。

俺は、再び弾倉を取り出してカチャリと再装填して素早く不知火の銃口に向けて発砲するが、再び弾同士が衝突し散っていく。

 

その際にチラリと不知火を見ると口が微かに動いていて、何かを此方に伝えようとしている。

俺は、其を読唇術で読み取ると。

 

(楽しんでる?)

 

……ふざけてるのか。

 

そんなもん

 

「お前がいなけりゃ楽しいよ」

 

バァン!!

 

俺は、再び発砲し不知火の銃を破壊しようとするが、やはり弾かれる。

 

だが、

 

バキャャャン!!

 

不知火の銃は、まるで横から弾かれたかのように不知火の手から飛んでいきそのまま地面へと落ちていく。

 

不知火は何が起きたのか分からないと言うように目を大きく開き手を何度か握ったり開いたりしている。

囮は成功だな。

 

俺が今した事は簡単だ。

『銃弾を右回りに撃った』其だけ。

 

空気の抵抗と風向きさえ分かれば銃弾をボールの用に軌道を曲げて撃つことも可能なのだ。

銃弾は弓矢と違って真っ直ぐにしか飛ばない。

その考えが敗因だぞ不知火。

銃弾はその気になれば方向を自在に変えられるんだ。

 

名付けるなら銃弾曲げ(カーブ)だな。

………名付けるも何もそのままだな。

 

さてと

 

「もう邪魔は、あの道化野郎には、出来ない。菊代お待たせ何時でも良いよ」

 

軽く菊代にウィンクし其に菊代がウィンクで返す。

 

「消えな。間抜けピエロとド変態」

 

ボン!と、M79から40㎜グレネードが飛んでいきそのまま割れたフロントガラスを潜って車内に入っていき。

 

 

ドオォォォォォォォォン!!!グレネードとガソリンの引火によるハリウッド映画並みの爆発で車がその場で木っ端微塵となる。

 

 

これ…………俺また9条破っちゃたかな。

別に構わないんだけど。

もう60回くらい破ってるし。

 

「やったわね!遠山!勝ったわよ。あたしたち!」

 

ガバッ!と菊代が嬉しさの余り此方に抱きついて来てその勢いで危うく背中を打ちそうになったがそこはクッション(社長)が有って助かった。

まぁ、武藤のならどこぞの火星G並みに生命力強いから大丈夫だろう。

前にも似たようなことが有っても武藤生きてたし。

 

でも、今は菊代と共にこの嬉しさに浸っても良いだろう。

そう思っていたが、

 

「バカ兄には、助手席に置いて有るエロ本投げれば犬みたいにそっちに走って行くなんて、私の口からは恥ずかしくて言えませんよね?遠山先輩」

 

ピシッ!と俺と菊代が同時にその言葉に固まり同時にゆっくりと油の切れかけたロボットのような動きで首を貴希さんの方を向けると。

 

確かに有る。

扉の雑誌とか新聞とか入れるような所に確かに有る。

 

貴希は、此方を鏡越しに見ながらにやにやと俺を見ながらチッと舌打ちっておいコラ。

 

 

「貴希ちゃん」

 

菊代が声を低くドスの効いた声を出しながら貴希の方へと向かう。

貴希さんは、其に此方からも分かりやすいほどに冷や汗をだらだらかきながら。

 

 

「えと、鏡高先輩。悪気は無かったんですよ?ただ言うタイミングを失って、別に遠山先輩が撃たれれば良いな、とか何て少しも思っていません!」

 

思ってるだろ!と思わず叫びそうになるがそこは、ぐっとこらえる。

 

菊代がガバッと運転席の貴希さんに飛びかかり、

 

「そう言うのは、先に言いなさいよ!このっ!このっ!」

 

「きゃ!ちょっと鏡高先輩今は運転中で……あ、でも先輩が私を見てくれて……」

 

「黙りなさい!」

 

何か変なスイッチが入った後輩と先程の事を責める菊代を見ながら俺は内心ため息をついた。

 

 

「やっぱりそう上手くは、行かないよなぁ……」

 

 

全くヤレヤレだぜ。

 

 

 

この日の俺の疲労感は朝の事も有ってもMAXになっていたのだった。




目がぁ!目がああああああああ!!!




……かゆいうまい

……かゆい…うま

かゆ  うま

かゆうま



(やりたかっただけ)


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8 それぞれの……

皆様に報告が有ります。
物凄く今更ですが。
この作品には、物語のストーリー的都合上所々グロテスクな表現または、不快に思うかも知れない(特に主人公)部分が含まれます。
其を含めた意味での、R15タグとなっております。
ですので、其を踏まえて覚悟してここから先はお進み下さい。
犯罪等を助長している訳ではありませんのでご安心下さい。
まぁ、こう言うのって最初に書け!って物なんですけどね。

因みに作者の思考回路は普通です。

私は平気だと言う方々は、このままお付き合い下さい。



金次達が去って少したち

 

「これ……俺は、車両科に何て報告すればいいんだよ」

 

所々服は焦げまるでギャグ漫画の用にチリチリに焦げた男――武藤剛気は、既にただの金属の残骸とした車だった物の前で地面に地面に手をつき嘆いていた。

友人何だからもう少し手加減してくれても良いだろうとか、何で妹がキンジ達と一緒なんだよとかそもそもタブー破った挙げ句この様とは、とても言えないとか言って必死にこれからこの車だった物と自分達を向かえに来させる為に呼んだ他の車両化への報告と言う名の言い訳を考えていたが、本編とは、関係無いので気にしなくても良いだろう。

 

問題は、その横で、金次達が去って行った方向をただじっと見詰める男―不知火亮は、思考に耽っていた。

 

(何故だ………何故僕の『知識通り』に事が運ばない。何故、遠山金次がこの場所に?本当なら今ごろは、神埼さんと一緒にいる時間の筈だ。何故この時期に………)

 

不知火は、一度考えるのを中断し武藤の方に向き直る。

その時には、何時もの金次曰く『道化の顔』の女性なら誰しもがクラッとしそうな笑顔を張り付け向かえに来た車に手を振っていた。

 

(これは、もう少し調べてみようかな。もしかしたら、『鳥』が脱走したのと関係有りそうだし)

 

不知火の思考は、ともかくも降りてきた車両科の生徒から破損した車と爆発により抉れた道路の請求書を二人揃って受け取る事になるのはまた別のお話し。

 

☆ ★ ☆

 

「二人ともお疲れ様。はい、これは私からの奢り」

 

「ありがとうございます!」

 

「あぁ、どうも」

 

俺達三人は先程の妨害を突破出来たまでは、良かったのだが、もっと簡単な方法が有った事を知り(車両科の男子生徒が共有車の中に必ず隠していると言うエロ本を投げる事)じゃ、先程の戦いは何だったのかと言う精神的疲労感がどっと出て、現在菊代が男子寮の下に有るコンビニで手伝って貰ったお礼として飲み物(俺がお茶で、貴希さんがオレンジジュース)を奢って貰っている所で有る。

本来なら、菊代の足を引っ張った俺が奢るべきなのだが、奢ると言ったら物凄いドスの効いた声で私に奢らせてとか言って来たので、断る事が出来なかったのである。

何か隠しているような感じだっけど。

いや、寧ろ隠し事してるの俺だけど。

……バイクとか……バイクとかバイクとかバイクとか。

いや、本当にどうしようシャレにもならない。

数回しか乗って無いのに木っ端微塵にしました何て死んでも言えねぇ。

二人に嫌われたら、俺間違いなく死ぬ。

色んな意味で死ぬ。

何とか今日明日で誤魔化さないと。

いや、いっそのこと素直に謝ると言うのもどうだろうか?

てか、其が一番の方法だよな?

許して貰えないだろうけど。

でも、此所は

 

「なぁ、菊代。今日、実は――」

 

「じゃ、鏡高先輩お疲れ様でした!ジュースごちそうさまでした!」

 

「えぇ、お疲れ様。報酬の方は後で口座に振り込んでおくから」

 

「えぇ!そんないいですよ!私は『戦妹』ですし『戦姉』の為に働くのは、当然ですよ!」

 

顔を赤らめながらわざとらしく両手を左右にブンブンと振り『戦妹』と『戦姉』を強調する。

……こいつ、俺が言うタイミングにいちいちわざと被りやがって。

何でこうも兄妹揃って邪魔するんですかね?

だが、流石に菊代の『戦妹』だ。

菊代の前で怒鳴る訳にも行かない。

俺がちょっとした怒りに内心震えていると

 

「働いた者には其なりの報酬を渡す。そこに先輩後輩は存在しないの。だから受け取っておきなさい。得こそすれ損は無いでしょ?」

 

「っ!はっはい!分かりました!」

 

「ん。宜しい」

 

ポンと、菊代が貴希の背中を軽く叩き元気付ける用に言う。

すげぇ、顔を火山みたいに真っ赤にして嬉しがってるよ。

菊代にどれ程惚れ込んでるのか分かるな。

てか、結局言えなかった。

寮に帰ってから言おう。

 

「それじゃ、先輩方お疲れ様でした。何か有ったら呼んでください。無くても呼んでくださいね」

 

菊代に手を振りながら俺にベーと舌を出して輸送車に乗って帰って行った。

てか、このでかい荷物今度は何処に運べばいいんだよ。

 

~♪~♪

 

と、少し鬱になりかけていたところに俺は携帯から『カゴメカゴメ』が流れだした。

 

「非通知?」

 

「あ、遠山。その電話ちゃんと出て。お得意様だから」

 

「お前のお得意様じゃないのか………はい、もしもし。遠山です」

 

『初めまして。遠山様この度は捕獲の方お疲れ様でした』

 

声を聞くのは始めてだが、これが菊代の言っていた『アヴェ・アンク』さんなのだろう。

名前からして外国の人何だろうが、やたら日本語が上手いな。

まぁ、そんなのは後で考えればいいか。

 

「………見ていたのか?」

 

『別に驚く事では無いかと。そのような方は遠山様の所にもいますでしょう?』

 

確かにいるな。白雪と菊代と風魔………不本意だが不知火もだな。

まぁいいや。先ずは報酬の話だ。

 

「本当に、報酬は貰えるんだろうな?疑ってる訳じゃないが、とてもあの男に2千万の価値があるとは思えない」

 

そう言うと、電話の向こうで女がクスリと小さく笑い

 

『ご安心下さい遠山様。この『リサ・アヴェ・デュ・アンク』その名恥じぬよう。約束ごとは必ず守りますので』

 

リサ………どっかっで聞いたような……気のせいか。

 

「この男はどうすればいい」

 

「直ぐ近くに赤色の外車が置いてある筈です。そこのトランクに入れておいて頂ければ明日までには回収しますので」

 

「外車?」

 

辺りを見回すと、右のすみにある赤色のスポーツカーが有った。

メーカーは

何処か知らんが、其なりの高級車だろう。

その後ろのトランクをあけ力任せに持ち上げてドサリと中に入れて締める。

 

「これでいいか?」

 

『はい。後は此方で回収しますので報酬の方は、此方の都合で手渡しをお願いしたいので、そちらの『自宅』にお伺いしたいのですが、よろしいでしょうか』

 

「……えぇ、構いませんよ。時間は?」

 

『明日の朝10時には、着くかと思います』

 

「分かりました。お待ちしております」

 

『えぇ、ではこれで』

 

その言葉を最後に電話は切れたが、やっぱりあっちのお客か……先に言ってくれれば良いのに。

 

「菊代。向こうの客ならそう言ってくれよ。俺はてっきり武偵としての依頼かと思ったぞ」

 

「ごめんなさい。お昼に言うつもりだったんだけど、言うタイミングを逃しちゃって其に」

 

ポンと俺の肩に手を乗っけてまぁ、それそれは、花も恥じらう程の可愛らしい笑顔で、

 

「遠山も何か言うこと無いの?」

 

「あはは………すまん」

 

バレてた。

何も言えねぇ。

 

内心どうしようかと震えていると全部分かっていると言うように菊代がまるで子を慰める母のような目で

 

「大丈夫よ。悪いのは、武偵殺し遠山は被害者そう説明すれば白雪だってきっと分かってくれるわよ。いざとなったら私の携帯にあんたの今朝の行動が点で表示されてるんだし」

 

何か一瞬聞いたらダメな内容言いませんでしたか?

 

その後は、何事も無く部屋へと俺と菊代は帰って来たのだが、扉を開けるとそこには、

 

「ひなちゃん!?」

 

「風魔!」

 

玄関前で俯せに倒れている風魔の姿だった。

普段なら空腹でかたずいただろう。

だが、今回は違う。

制服は所々ボロボロ

頭から血を流して気を失っているのだから。

菊代が風魔の頭の様子を見て

 

「頭は少し切っただけ。命に別状は無いわ。一応救護科に連絡するから」

 

「任せる」

 

俺は92Fを構え先へ行こうとすると。

 

「待って」

 

小声で菊代が俺を呼び止め。

此方を見ながら

 

「分かってると思うけど此所は武偵高よ。何時もとは違って」

 

「分かっている」

 

分かっている。分かっているんだ。

だけどよ。

さっきから妙に血流が騒いで熱いんだよ。

ちょっと頭に血が登っているんだよ。

 

ドクン――奪われる。

風魔が――戦妹が――家族(ファミリー)

 

傷つけられた。

 

そこにいるんだろう?

俺は鼻が聴くんだ。

このクチナシのような香りがまだ部屋に漂っているんだからな。

 

だから理解しているとも

 

「殺さない。追い払う」

 

良かったな此処が武偵高で。

其にどういうわけかなっているだよ。

性的興奮とは、またちょっと違ったHSSに。

 

そのまま匂いを辿って行くとリビングにまでたどり着きそこには

 

「遅い!待ちくたびれたわ!」

 

ソフィアの上に仁王立ちしてビシッと俺に人差し指を突き付けてそう言って来たのは

 

神崎・H・アリア

 

やっぱりお前か。

 

オマエガフウマヲ

 

「おかしいな。玄関前に倒れていた奴がいたんだが俺の見間違えか?」

 

俺の質問に神崎は表情崩さずに。

 

「部屋に入ろうとしたら、襲って来たのよ。武偵ならあれくらいの傷大したことじゃないでしょう」

 

ボスリと、ソフィアにふんぞり返りまるで我が家のようにする神崎を見てもう行動に移すことにした。

 

「な、何よ、みゃ!?」

 

「いや、何も」

 

確か俺の記憶が正しければ、お前は

 

むんずと神崎の襟首を掴み猫のように持ち上げて

神崎はまだ何が起きたのか分からないと言った顔で此方を見ている。

 

ガラリと窓を開けてバルコニーに出る。

そこからは、夕日に照らされオレンジ色に美しく輝く東京湾が一望できる。

 

神崎は、泳げないんだったよな。

 

「帰れ」

 

「みっきゃーーーーーーー!!!」

 

ポイ!と軽く投げると神崎は、重力に従ってそのまま落ちていったが其を見届ける事もなく俺は、激しい睡魔に襲われた。

 

(あぁ、そうだHSS2回も使ったから)

 

本当に武偵と言うのはやりづらい。

向こうの方が気楽で良い。

悪態をつきながらも睡魔に勝てるわけは無く俺は意識をその場で手放した。




最初の出逢いは最悪な方が良い。
その言葉を信じた結果がこれだよ!
ちくしょう!

と言っても前にも言った通りアンチでは有りません。
私はいたって普通の思考回路です。

(言えない……少し前に友人達と悪ふざけでサイコパス診断やったら10問中7問正解したなんて言える訳が無い!)


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9 彼は、ただ寝ていたい。

Qこれは金次ですか?

Aはい、ド畜生の変態です。


※ちょっと、納得行かずに、付け足しました。
後半に出てくる、電話の相手は一応ヒロインです。


俺は、浮かんでいる。

言葉の通り幽霊みたいに宙に浮いている。

俺が空から見下ろすような感じで、巫女服を着た、数人の少女が一人の少女を囲み『かごめかごめ』を歌いながら回っているのを眺めている。

だが、その光景は昔のTVのように、白黒で映し出されている。

だけど、真ん中の少女は誰だか何と無く分かる。

白雪だ。

顔を手のひらで隠ししゃがんで歌が終わるのを待っている。

確信は無いが、この歌を、聞いていてはいけない。

白雪を振り向かせてはダメだ。

 

歌を止めろ!

 

そう叫びたいが、肝心の言葉が出てこない。

そもそも、口が有るのか?手のが有るのか?体が有るのか?

それすらも分からない。

 

其でも歌は、終わりへと近ずいていく。

 

聞いたらダメだ。

 

白雪に聞かせてはダメだ。

 

止めろ!止めろよ!

 

止めてくれ!

 

あぁ、ダメだ。ダメだダメだダメだダメだダメだダメだダメだダメだダメだダメだダメだダメだダメだダメだダメだダメだダメだダメだダメだダメだダメだダメだダメだダメだダメだダメだダメだダメだダメだダメだダメだダメだダメだダメだダメだダメだダメだダメだダメだダメだダメだダメだダメだダメだダメだダメだダメだダメだダメだダメだダメだダメだダメだダメだダメだダメだ。

 

ダメだ!

 

俺の願いも届く筈も無く。

歌は、終わりを迎える。

 

『後ろの正面だぁれ?』

 

 

振り向いた白雪の顔は目は、無く口だけで、無い筈の目の所から涙が伝い地面に落ちた瞬間に突然白雪の体が火に包まれた。

 

「白雪!!」

 

やっと声が出た。

そう思ったが、ヒラリと俺の足にひんやりとしたタオルが落ちた。

 

「……ん?此は……」

 

そうだ、俺風魔が襲われて、言い方はあれだけど、ヒスって其で…………何したんだっけ?

記憶が曖昧だ。

俺がもう一度、記憶を探ろうとしたら

 

 

「キンちゃん!」

 

「遠山!」

 

「師匠!」

 

 

「ウオアッ!!?」

 

突然俺が寝ていたソファの陰から勢いよく白雪、菊代、風魔の三人が顔を出して、其に驚いて俺はソファから落ちてしまった。

け、ケツが地味に痛い。

 

「目が覚めたのね。良かった遠山いきなりベルセになるんだもの。一時間で目が覚めたのは、奇跡よ」

 

「ベルセ………そうだ、風魔お前ケガは……?」

 

「いえ、何ともありません心配お掛けしました鏡高殿からは、3日もすれば治るとのことで」

 

「そうかそれは、良かったな」

 

風魔の頭には、先程斬られ血を流していた所には見るも痛々しい包帯が巻かれていた。

確かに武偵としては、何て事無い傷だろう。

だが、少なくとも、俺からしたら切り傷1つでも大きな傷なのだ。

ましてや部屋に乗り込んできた強盗紛いの奴に付けられた傷。

ベルセになるなと言う方が無理だ。

 

「キンちゃ~~~~~ん」

 

「うわっ!………白雪大丈夫か?」

 

突然巫女服を着た白雪が目を潤ませて飛び付いてきたのだった。

何故巫女服?

さっきの夢実は少し願望入ってたとか?

てか、さっきから2つの果実がフニフニプニプニと当たってるんだけど。

あ、何時もは、白なのに、今日黒なんだね。

 

ヤバイまた、ヒスリそう。

 

「師匠流石に……」

 

「遠山あんたねぇ~」

 

「もうヒスリません」

 

頼むからその非難の目を止めてくれ。

精神的にに来るもん有るよ。

 

そんな中気を取り直すように菊代が咳払いをし

 

「それは、それとして。白雪が一番心配してたのよ?朝の事も遠山が寝てる時に話しておいたから」

 

「マジですか」

 

まぁ、後で土下座するつもりだったし覚悟もしてましたよ。

 

 

「ううん。バイクは、どうでも良いの。キンちゃんが武偵殺しに会ったって聞いて頭真っ白になって、それで、それでまたあの時みたいになるんじゃないかって不安で」

 

「白雪……」

 

「師匠は一時間ほどずっと魘されていたので御座るよ。白雪殿の名前を呟きながら」

 

「そうだったのか……白雪、俺は前の様にはならないさ。現に今生きてるだろ?大丈夫だから俺はまだ、死ぬような事は、無い約束は守る」

 

「キンちゃん」

 

不安そうに目を潤ませて上目使いで、見上げて来る白雪にヒスリそうになるがグッと堪えてあやすように、言う。

ほんの気休めにしかならないだろうけど。

 

「あん時だって上手く行ったじゃないか。後数年は、掛かるかも知れないけど、もう土台は出来てるんだ。後少し、後少しでお前の願いも叶うんだ。だから、安心してくれよ。その為に俺は、此処にいるんだから」

 

「うん………」

 

どうやら分かってくれたようだ。

正直今ので良いのか、どうか分からんが、嘘は言っていない。

少なくとも後、5年必要だろう。

そうすれば白雪は

 

「其にしても許せない」

 

「ん?」

 

ギリッと俺の背中に回した白雪の手に力が入り爪が食い込む。

ちょ、痛い凄く痛い。けど、何か目覚めそう。

 

「よくもキンちゃんにこんな事を……見つけたら八つ裂きにしてコンクリじゃ無かった。逮捕するよ!」

 

「お、おう。ほどほどにな」

 

何か妙にやる気に満ちて要るが、白雪は殺人とかはやんなくて良いぞ。

そう言う仕事は俺がやるし。

頼まれてやってるし。

 

「元気になって良かった。所で白雪ちゃんは、何か渡しに来たんじゃなかったけ?」

 

「あ、うん。そうだった。ええと、私明日から、暫く恐山に合宿で暫くキンちゃん達にお夕飯作ってあげられないから」

 

そう言って白雪はテーブルに置いてあった包みを俺に差し出して来る。

 

「中身はタケノコご飯。今旬だから」

 

「ありがとうな。白雪もし良かったら俺が護衛としてそっちに」

 

「はいはい。あんたは、これ以上にヒスるような行動しない。今度は一週間寝込んでも知らないからね」

 

ガシリと俺の頭を掴み段々と掴む力を強めていく。

ごめんなさいもうしません。

 

「菊ちゃん。私がいない間もキンちゃんの事を宜しくね」

 

白雪の言葉に菊代は、グッと親指をたて

 

「任せなさい。遠山に近寄る猫は、払っておくから。さっき部屋に乗り込んできた猫も追い払ったし」

 

其は俺がやったんだろうが!

何さらっと自分がしたみたいに言ってるんだよ!

 

「あ、恐山行くならこれ持って行きなさいよ。何かの役に立つと思うから」

 

菊代は、鞄から分厚い本の様に膨らんでいる茶色い封筒を白雪に渡した。

白雪は封筒を開けて中を除き、花も恥じらうような笑顔で。

 

「ありがとう!!一生の宝物にするよ!」

 

「日頃のお礼よ気に入って貰えたようで良かったわ」

 

ガッシリと何かお互いに握手を交わしてよく分からないけど仲良いみたいで嬉しいよ。

 

「あ、忘れる所だった。これ菊ちゃんに」

 

白雪が自分の鞄から取り出したのは、古い木箱で、赤い紐で蝶結びされている。

なんか、玉手箱みたいだ。

 

「開けて見ても良い?」

 

「うん。気に入ってくれたら良いんだけど」

 

菊代が、木箱の蓋を開けると

 

「肥後守?」

 

梅の花を鞘に描いた、肥後守だ。

チャキと音をたて、刀身を出すと

 

「ゲッ……」

 

「キレイ~~」

 

「ほう。此は見事な」

 

俺は、少し嫌悪感を出し菊代と風魔は見とれていた。

その刀身は俺の大嫌いな色の『緋色』だったのだ。

 

「私これ気に入ったわ」

 

菊代のその一言にまた俺は気を失いそうになるのだった。

 

~♪~♪~♪

 

―――が、俺のズボンのポケットからまた、携帯が鳴りだした。

先程の客だろうか?

俺は、三人に断りを入れて、背を向け、その電話の相手を見て

 

「間違い電話だ」

 

切った。

 

が、またしても部屋に鳴り響く俺の携帯の着信音に流石に無視も出来なくなり、

 

「ちょっと席外すな」

 

俺は、そのまま廊下に出て鳴り止まない電話の相手に話しかける。

 

『やぁ、ミスタートオヤマ。親友からの電話を無視なんて酷いじゃないか』

 

電話の相手は、中性的な少しハスキーな、声で俺にそう言う。

また、厄介事を持ってきたのだろうか?

其だったら速攻で切る。

そう覚悟して、俺は電話の相手と話す事にした。

 

「生憎俺は、トラブルと苦情は極力避ける様に心掛けているのでね。で、いったい何の様だよ。エル」

 

『いや、君に三つほど言いたい事が有ってね、急遽電話したわけさ』

 

「厄介事とか、殺害依頼だったら今回は切るからな?今日は疲れてるし、そっちには行けねえぞ」

 

『分かっているよ。所で、1つ目なんだが、僕の元婚約者が、君の学校、君のクラスに入ったと聞いてね。いや、其だけなら電話しないんだけど君にコンタクトしたと聞いて君の事が心配で電話したんだけどまさか、もう』

 

「あぁ、部屋に乗り込んできたから東京湾に捨てたぞ」

 

俺が、そう言うと、エルは、やっぱりかと言わんばかりに『ハァ~~』溜め息をした。

俺別に間違った事は言ってないし、やってないだろうに何処に呆れる要素があったんだよ。

因みに、エルの言う元婚約者と言うのは、ピンク悪魔事、神崎・H・アリアの事である。

だが、最早他人である。

 

 

『まぁ、大体予想はしていたよ。君の学校のサイトをに沢山書き込みが有ったからね』

 

「何で見てるんだよ。国が違うだろ。仕事をしろよ、ワトソン家当主」

 

俺が、そう言うとエル・ワトソン通称エルは、わざとらしく咳払いをして

 

『2つ目に入ろう、近々日本に行く』

 

スルーかい。

 

「観光か?仕事か?」

 

『観光と、君の所にリハビリをしに、もう台本は出来上がって――』

 

「切るぞ。じゃな」

 

耳から、放しボタンを押そうとした瞬間に携帯から、耳に付けていたら間違いなく鼓膜が破れていただろう、必死さ溢れる怒鳴り声で

 

『プリーズ!(頼む!)プリーズ!(頼む!)まだ、切らないでくれ!後、1つ残っているんだ!』

 

 

「………変な内容だったら即切るからな?」

 

『大丈夫だ。寧ろ君は、この内容を聞いておいた方が良いと思う』

 

「俺が………?何か良いニュースなのか」

 

『いや、まだ分からないけど、心して聞いてくれ』

 

エルの声に真剣さが混じり俺の方も自然と緊張し額に汗が滲みゴクリと唾を飲む。

数秒、数分いや、もっと掛かっただろうか?

 

エルが口を開き内容を口にする。

 

『昨日、19時NY(ニューヨーク)にて、ロスアラモス第15支部研究所を鏡高組……君の部下二人により襲撃成功。及び緋鳥(ヒドリ)に関するレポートが二人の手に渡った。其と……言いにくいが、小さな女の子も連れているそうだ』

 

「………は?」

 

俺は今、報告された全てに驚きを隠せず、正に開いた口が塞がらなくなっていた。

 

……あの二人休暇中に何してんのさ?

 

もう、今日一日で色々有りすぎて頭追い付かねぇよ。




良く考えれば、金次君は、あの時タクシーで30分位前の過去に戻るべきだったのでしょうね。
お金は戻りませんけど。

てか、何か原作通り進むのかな此は……。
私が過去に戻りたい。
電子レンジ使えば逝けるかな?

因みに菊代さんが、白雪さんに渡した封筒の中は金次君の盗撮写真です。
(主にお風呂とか、着替え中のとか)
ナニに使うんでしょうね。


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第1幕帽子屋はもう一度日常から遠ざかる
10 重なる予想外


前回の話を少し短く感じたので付け足しました。
そちらを先に見てくれると嬉しいです。
感想など有りましたらくれると嬉しいです。


時は、少し遡り

 

NY(ニューヨーク)ミッドタウン

様々な建物が並び人や車が行き来する中に1つのビルが他の建物の間に建っている。

表向きは製薬会社となっているが、ロスアラモス第15支部研究所となっている。

この研究所は、今正に

 

「鉄臭いな。単独行動も楽じゃない」

 

「あ゛……あ゛かはっ…!」

 

―――襲撃されていた。

 

茶色いスーツを着て右手首には逆卍を斜めにしたマークのリストバンドを付け服や革靴、顔等の所々に血を付けた状態で、今正に一人の白衣を着たこの研究所の研究員と思われる20位の男の首を掴み持ち上げ、怯えきった男に獣の様に狂暴なつり上がった目を向けていた。

が、その顔は何処が楽しそうにも見える。

そんな男の足元には、此処の警備をしていたと思われる軍服を身を包んだ者や彼と同じ研究員だった者が目も当てられないような形で転がっていた。

頭を潰され様々な物が飛び散った者。

首がおさらばしている者。

腹に大きな穴が開いている者。

見ての通り全員絶命していた。

 

「さて、もう一度聞こう。『眠り姫』は何処にいるんだ?答えねぇと足元の奴等の仲間入りだぞ?」

 

「ひっ!くっ………あ、あ゛あ゛が」

 

男は、彼の言う眠り姫と言う言葉に反応し震える手で、廊下の右を指差して

ガクリと糸の切れた人形の様に力無く彼の手の先でブラリと垂れ下がり絶命した。

 

「なるほど。向こうか」

 

最早喋る事の無い男を後ろに放り投げ、急ぐ訳でも無く散歩でもしているように、ゆっくりとしたペースで歩いて行く。

 

「撃て!撃て!」

 

突然廊下の三つに別れた道でその左右に身を潜めていた10人程の兵士が一斉に彼に向かってアサルトライフルM4カービンから5.56㎜NATO弾を放ってくる。

が、その弾が決して彼に当たる事は無かった。

 

彼の周りでまるで、弾に意志が有るのではと思わせる程に弾が彼の目の前までくると全ての弾が左右に避けていき明後日の方向に飛んで行くのだ。

 

彼は、兵士の攻撃等無いかの様に歩き

 

「ひっ!う、動くな!止まれ!止まれよ!!!」

 

遂には廊下の別れ道まで彼は来た。

其をぐるりと囲み全ての通路を塞ぐ形で兵士が銃を向けるが、

 

「……何処だったけな?」

 

ガリガリと後頭部をかきながら彼はズボンの右ポケットに手を入れて、チャキリと、峰の方に凹凸(おうとつ)のソードブレイカーと呼ばれる部位を付けた緋色に輝くバタフライナイフを取り出して、右に向けて首をかしげて、次に、真っ直ぐナイフを向けるが、此にも首をかしげて今度は左に向ける。

すると、緋色の光が、ナイフを包む様にうっすらと光りだしたのだ。

彼は此に満足そうに頷き、歩き始めるが兵士が素直に通す筈も無くかと言ってこの距離では誤射等も有り得ると判断し全員がサバイバルナイフに持ち変えるが

 

「邪魔だぞ。犬共」

 

死神を思わせる様な低くドスの有る声で、言った次の瞬間に彼の周りからブワッ!と強烈な風が吹き此に兵士に何の反応も出来ずに誰が誰の体なのか分からない程に細かく引き裂かれ床に落ちていた。

 

彼は、其に見向きもせずにそのまま足を進めて行きやがて1つの扉の前に着きその横にあるパスワードを入れる為のセキリュテイに何の迷いも無く数字を入力すると扉は開き彼は、その中に入ろうとするが、

 

「此が……いや、こいつが『眠り姫』か?」

 

彼の目には明らかに驚きを隠せずに大きく見開いていた。

 

その先には椅子に固定されて、様々な機械やチューブに繋がれて呼吸器を付けた、見た目10才位の糸の様にきめ細かく美しく輝く銀髪の少女が文字通り眠っていた。

 

「俺は、てっきり機械か何かだと思ったのに此じゃまんま眠り姫じゃねえかよ……アイツラにどう説明すれば良いんだよ」

 

彼はそう言いながら、携帯を取り出して耳に近ずける数回コールが鳴り

 

「あー………俺だ。眠り姫を発見した。今からそっちに連れていく」

 

『ごくろうさん。待ちくたびれたぜ危うく使い魔が減っちまうんじゃねぇかと心配したぜ!』

 

お気楽なその台詞に彼は、肩をすくめ一度深呼吸してから

 

「カツェ、もっと別の言い方は無いのか?俺とお前の仲だろう?流石にカラスと同じ扱いってのは、ちょっとな」

 

『下僕』

 

「やっぱ使い魔で良い」

 

ハハッと向こうからカツェと呼ばれた女性の声が聞こえ少し間を置いてから。

 

『其はそうと、出来るだけ急いで欲しい。報酬は弾むぜ』

 

「何だ、またお使いか?」

 

『あぁ、今ちょっと私達の周りをバチカンの奴等が彷徨いていてな、目障りなんだ』

 

バチカンと言う言葉に反応し彼の顔は次第に笑顔になる。

なるで獲物を目の前にした獣の様に。

 

「ほぉ、あの偽善者共か。そいつらの首をメーヤに送ったら顔真っ赤に染めて喜ぶだろうな」

 

『ハハッ、違ぇねぇ。おまけに、お前の所のボスも喜ぶ筈だぜ』

 

「あぁ、そうだな。直ぐに行くよ」

 

『あぁ、待ってる』

 

そうして、電話は切れるものの、彼は携帯を見つめていた。

携帯の待ち受けと思われる壁紙には、黒のトンガリ帽子をかぶり右目に彼のリストバンドと同じ逆卍を斜めにしたような臙脂色の眼帯をしている少女が写っていた。

 

「お頭とお嬢にもだが、俺は、カツェの喜ぶ顔を見たいんだがな」

 

そう呟き、彼は慣れた動作で機械やチューブを外して、少女の前に立ち腰を掴み持ち上げて背中と足に手を回し担ぎ上げる。

いわゆるお姫様抱っこであった。

 

「じゃ、お姫様。魔女の家にご案内しますよ。………なんてな」

 

ハァと彼の疲労を感じさせるような短い溜め息を聞いた者はいない。

彼の腕の中で少しだけ口元が緩んでいた少女を除いて。

 

 

「早く行け!このレポートさえ有れば何処でも私は研究を進められるんだ!さっさと出せ!」

 

「博士落ち着いて下さい。今状況を確かめているところですから」

 

研究所の屋上のヘリポート。

そのヘリの中では、白衣を着た老人の男性が喧しく騒いでいた。

其を宥める様に隣に座る助手と思わしき40代位の小太り男性そして操縦席に二人のパイロットが座っていた。

博士と呼ばれた老人の手にはアタッシュケースが握りしめられている。

 

やがてヘリのプロペラが回転し始めたがヘリが飛ぶ気配は無く其に業を煮やした博士は、

 

「おい!何をしているんだ!早く出発しろ!」

 

と、一人のパイロットの肩を掴んだその拍子にボトリとそのパイロットの首が下に落ちてブシャーーーー!!と噴水の様に勢いよく血が吹き出した。

 

博士の方は何が起きたのか、まだ理解出来ていないようだが、助手の方は混乱して、悲鳴を上げヘリから降りようとしたのだが、プツリと小さな音を立て首筋からこれまた勢いよく血が吹き出しその場で絶命し崩れ落ちる。

 

「ダメっすよ~博士。逃げるならせめてその荷物置いていって貰わないと」

 

操縦席に座っていたもう一人のパイロットが博士にそう話しかける。

 

「き、貴様。何故このレポートの事を……」

 

「その中身は作った人は違うけど、ちょっと返して貰えたらな~って思って……ダメっすかね?」

 

ニタリと振り向いた男は左目に金色のモノクルを掛けて、人の親指位の長さの笛を首から下げて、ワカメの様にヘニャリとした緑色の髪が印象深い男だった。

そんな彼の言葉にやっと現状を理解した博士は怒りで顔を真っ赤に染め護身用に持っていた小型ピストル、ジュニア・コルトを引き抜き

 

「ふ、ふざけるなぁ!!」

 

ヂャキ!とモノクルを掛けた男に向けて引き金を引こうとしたが、もうその銃を握っていた彼の手は、手首から落ちてモノクルを掛けた男の手の平に乗っかっていた。

 

「良いよ。どの道持って帰るから」

 

「あ、あ゛あ゛、ぎ、ぎゃゃあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!」

 

博士は、もう何が起きたのか分からないと言った状態でヘリから降りたが助手と同じくプツリと首から血が吹き出し助手に重なる様にその場で崩れ落ちた。

 

「ヘリ……汚れちゃったなぁ。はぁ、原沢さんにまた、怒られる」

 

フロントに付いた血を袖で拭きながら彼が少し鬱になっていると

 

「キュウソーーーーー!出発出来るかーーーー!!」

 

遠くから聞こえた声に一瞬びくりと身を震わすもその声の相手が直ぐ分かったようでヘリから身を乗り出して

 

「何時でも行けるっすよ!………って!原沢さん。いったいどういう状況すか其!」

 

キュウソと呼ばれた男が見た光景は、原沢と呼ばれた男が少女を抱き締めながら此方に走りその後ろを何十人もの兵士が追い掛けて来ている状況だった。

 

「見て通りだ!俺は、この子抱えてるから。逃げるしかねぇの!旧鼠何とかしろ!」

 

「あー……なるほど」

 

旧鼠と呼ばれた男は暫く考える素振りを見せてからヘリから降りて

 

「先に乗ってて下さいっす!数秒で終わらせるんで!」

 

「おう任せた!」

 

ヘリのモーター音でお互いに叫ばないと聞こえない中原沢が少女をヘリの後部座席に乗せ自分も乗り込む。

其を旧鼠は確認してから、

 

「ざっと30人……直ぐに終わるかな?」

 

一歩、旧鼠が歩くとひょこりとズボンの穴の開いた部分から灰色の細く長い紐が垂れ下がり動くそう、尻尾であった。

また、一歩歩くと、肌の露出した手の甲には灰色の細かな毛が生えた。

 

「今夜は空気が済んでるっすね~」

 

誰に言うでも無く呟くと、首から下げていた、笛を加えると

 

ピーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!

 

笛からは、耳鳴りの様な、または、黒板を引っ掻く様なそんな聞くものを不愉快にする甲高い音が鳴り響く。

 

そして、その先にいた兵士は何も去れていないはずなのにヘルメットの隙間から血を流し痙攣しながら次々に倒れていった。

 

其を確認すると、振り替えって小走しりしてヘリの操縦席に乗る。

 

「数秒って言ってたよな!」

 

「1分も立ってないじゃないすか!ほら、もう飛びますよ!確り捕まってて下さいすっね!」

 

こうして、ヘリは飛び立ちNYの夜空に消えていった。

今だ眠る少女を乗せて

 

 

「と、言うのを、先程エルから聞いた」

 

飯も食い終わり、白雪も風魔も帰った後、俺はTVを見ながらソファに沈み混む様に座り、菊代にエルから聞いた事を報告していた。

TVの中では、有名な物理学者が『ドーンと来ーい』と言って会場が静かになっている。

後始末はエルがある程度やってくれると言うのでご好意に甘えたのだが、

 

『じゃあ、日本に行ったらリハビリ手伝ってくれ』

 

此である。

リハビリと言ってもゴッコ遊び見たいな物なのだが、リアル過ぎる。

ドラマの台本位リアル過ぎる。

しかも台本が六法全書位の厚さなのだ。

考えただけでも鬱になる。

 

「……何で、内の男って皆そんな巻き込まれ易いのかしら」

 

「いや、少なくとも俺は違うだろ?」

 

「同じでしょ」

 

菊代は、巻き込まれ易いと言うが(俺を除いて)その通りなのだろう。

俺は、原沢がドイツに行くと言っていたからついでにグラッセさんが、クソ兄貴のバタフライナイフを欲しがっていたから渡してくるようにと言っただけなのに、何故こうなってしまったのか分からん。

 

「多分、行ったら何か頼まれたんでしょ?あいつYesロリータGOタッチな所があるから」

 

「酷い言いようだ」

 

だが、否定出来ない。

あいつ確かにそんな所があるからな。

グラッセさんに頼まれてっいうのは十分考えられる。

使い魔になってるみたいだしな。

カラスとほぼ同じ扱いだったが。

もし、そうだったら頷ける。

 

「うんで、どうするの?」

 

「どうするのって?」

 

「報酬受け取りに行くんでしょう」

 

「あぁ、明日の10時くらいだって言うし、明日の朝行っても十分間に合うぞ」

 

「ふ~ん。そうなんだ。ねぇ、遠山」

 

「ん?……ってちょ!ちょっと菊代何してんだよ!」

 

隣に座っていた菊代を見ると、あら不思議いつの間にか服を脱ぎ上も下もびっくりする程に布地の少ない真っ赤なランジェリー姿でその姿を見てテンパっていた俺の肩を掴みグイッと押し倒して来た。

 

「もう、二人帰ったし、久しぶりに………しようよ?」

 

頬を紅く染め艶っぽい、口調で俺の腹の上に乗っかってくる。

不味いと思い手を退かそうと肩を動かすが全く動かない。

何でこんなに力強いんですかね?

 

「待て待て!いや、まぁ確かに、普段なら此のままするけどさぁ、明日早いし……別の日にとか」

 

いや、本当にいくら月一と言っても時と場合と言うものが有るのだ。

腰も痛くなるし、ヒスって眠気酷いし。

只でさえ今日二回ヒスってるし。

報酬受け取り終わってからで、良いじゃん。

てか、TVうるせぇ。

ドーンと来ーいじゃねぇよ。

と言うか、菊代の下着の刺繍の間が透けて、ピンクの蕾が見えまくって今にもヒスリそうなんだが。

俺は、どうしたら良いんでしょうか?

 

「どうせ、白雪帰って来たら同時に相手するんだから別に良いでしょ?」

 

「いや、今日は、止めておこうぜ。今日はヒスるなって言ったのは菊代だろ」

 

「ヒスら無いように頑張りなさい」

 

「いや、だから―――うむっ!」

 

菊代が文句を言う俺の口を口で塞ぐこの瞬間俺の頭は酒でよったかのようにくらくらしてきて

 

――ドクン!

 

あ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

朝の3時である。

床で今だに腰の激痛で動けない俺とソファで幸せそうにタオルに包まって寝る半裸の菊代がいた。

どういう状況だったのかは、想像に任せよう。

まぁ、B止まりだからセーフだと言うことは、先に言っておく。




因みに、ネタバレでも何でも無いので此処で言いますが、
前半に出てきた、原沢(はらさわ)と言う男と旧鼠(きゅうそ)さんのイメージの方ですが。
ハラサワの方は『神様のメモ帳』から四代目(実名は言わない方が良いかな?)の黒髪バージョンとなります。
キュウソの方ですが、『ib』のギャリーの髪を緑色にして、左目にモノクルした状態です。
何でモデルがこの二人なのかと、言うと二ヶ月前のスマホの壁紙が神様のメモ帳で一週間前の壁紙がibだからです。
本当に其だけ。
共通点が有るとすればどちらも幼女に縁がある事かな?


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11 そして、半分水の泡に

ふと思ったんですけど、サイダーとか、コーラとかの炭酸水飲める人って凄いな~と思ったりします。
あれ私は、一口飲んだだけでも、喉が痛くなって鼻もツンと痛くなるんですよね。
皆さんは、こうなったりしませんか?


「…遠山。あんた大丈夫?」

 

「あぁ、もう平気だ(本当は、まだ少し痛いがな)」

 

突然だが、菊代の家系は代々続くヤクザの家だ。

ヤクザの中には、建築業からキャバクラとか風俗店の用心棒または、それらの経営の手伝い。

中には麻薬何かを売ったりする所や、暴走族から其処らのチンピラ何かの用心棒をやるような所も有る。

後、縁日何かのテキ屋何かも。

だが、鏡高組は、その幾つかを禁止している。

いきなりなんだ?と思うだろう。

俺は、その鏡高組の少し前まで一員だったのだが、1年程前に見事半独立をした。

もう、鏡高組に入って3年位になるのだろうか?

ある意味出世コースまっしぐらである。

と言うことが言いたい訳ではない。

何が、言いたいのかと言うと、原作知識とか言うのだろうか?其を俺は、回避して見事俺は、半分こうした普通の生活を手に入れる事が出来たと言う事だ。

菊代の親父さんも生きてるし。

反乱を起こそうとした東大の幹部の奴等は片付けたし。

中学時代に菊代を虐めた奴等も片付けたし。

鏡高組は暫く安定と言っても良さそうだ。

本家の方はだけど。

此は大きな変化と言えるのでは、無いだろうか?

………悪魔で半分だがな。

そんな鏡高組は、西池袋にあり、それこそ高級旅館じゃね?

と、言うくらいの和風大豪邸。

其処に幹部や社員を集めた光景は、大迫力である。

 

そんな事を考えている内にもう着きそうだ。

俺の組は、と言っても流石にまだ、嫌々だけど俺は立場上武偵堂々と『遠山組』とは語れない。

武偵高卒業したら名乗りましょうか。

 

 

組は、千石にある一見さゆお断りの店『紅寶玉』(ルビー)

そのビルそのまま組となっている。

が、一つ大きな問題が有るのだ。

 

「遠山、そろそろ起きなさい。着いたよ」

 

「分かった」

 

菊代の車8代目ホンダ・シビックから降りて扉へと向かう。

扉の前には、褐色肌の筋骨隆々として、ピチピチのキツそうな高級スーツを着た丸刈りの金髪頭の男。

最初の頃は、関東一円で暴走族のリーダーとして、名を世に出しその後は、IBF(国際ボクシング連盟)パンパシフィック(環太平洋)ライトヘビー級元王者で一時期新聞TV雑誌で有名となり引退後は、ヤクザ幹部と、お前は、何処の法律事務所の事務員だと言ってやりたくなるような人生経験の持ち主の

 

「お嬢。お頭。お帰りなさいませ」

 

「おう。レオンすまないな待たせて」

 

伊沢レオンだ。

我が組の貴重な事務員であり、俺はボクシング選手時代のこいつの自分で言うのもなんだが、ファンだったりする。

まぁ、その話は置いといて。

 

「クレフトは?」

 

「自室に」

 

「ありがとよ」

 

レオンとの会話を済ませ、俺はビルの中を進む二階に上がり一つの部屋の前に行き扉を開けると其処は北極だった。

 

「寒!」

 

「ちょっと、クレフト!アンタ冷房効きすぎよ!」

 

「この位が…………調度………良い」

 

部屋の中は、どこぞのニート探偵の部屋を思わせるような作りで足りないのは、熊のヌイグルミ位だろう。

代わりにあちこちにアニメキャラクターやマ〇ンガーZやガ〇ダム等のロボット、ソフビ怪獣何かのフィギュア何かが回りに所狭しと並ぶ。

目の先には、8台ものPC画面がずらり。

冷房をガンガン利かせ、布団の上に胡座をかき、その上から布団を被っていると言う矛盾した格好で何かゲームをしている。

此方を振り向いたバカは、眠たげに開いた金色の目でボーと此方を見ていて、所々跳ねた後ろに束ねた金髪。

此でグラッセさんみたいに白黒魔女っ子の格好でもさせれば、マ〇タースパークでも撃って来そうだ。

男だけど。

 

「あ………ボス、姐さんお帰り」

 

「あぁ、ただいま」

 

「アンタまた、徹夜でゲームしてたの?」

 

「今、大事なイベント中。寝るわけには行かない。」

 

「おいおい」

 

「仕事のノルマはこなしてる。大丈夫だ。問題無い」

 

「有りまくりでしょうに」

 

ぼそぼそと、小さな声で其でも何とか聞き取れるような声で喋りグッとサムズアップをしてくる。

その自信は何処からくるんだか。

この、クレフト……『クレフト・イリー』は、エルの所属する組織からエルが此方に飛ばしたエルの部下だった奴だ。

何でも、向こうで大手の銀行をハッキングして金を吸いとりまくったんだとか。

ウォ〇チドックスかよ。

で、ほぼ押し付けるような形でエルが俺の方に寄越したのだ。

 

んで、その問題と言うのが、後海外に行っている二人を入れて全員と早い話人手不足なのだ。

更に、組からは、マイボス・マイヒー〇ーよろしく『高校卒業までに組立派にしとけ、じゃなきゃ破門な』と言われるし、組から嫌われてんのかしら俺?

今のところ俺がやっているのはせいぜいマカオのカジノからの合法な吸い上げと、工場とか、その手の会社から引き取ったゴミを捨てに行く、産業廃棄物処理業と、武偵や、探偵、警察何かと同じトラブル解消位である。

 

そして、このトラブル解消が最も厄介である。

 

何故ならば

 

「ボス……ボス……」

 

「ん?」

 

ぐいぐいと俺の服を引っ張っりPCの一つを指差す。

その画面には

 

「ちょっと、行って来る」

 

「え?ちょっと遠山?」

 

「ボス…………何か、怒ってた」

 

俺は、そのまま下に降りて、扉の前まで行きそのまま勢い良く開けて

 

「キー君待ってたよ!ウグッ!」

 

「良くノコノコと来れたな!何が、リサ・アヴェ・デュ・アンクだ!リコ・アヴェ・デュ・アンクだろうが!バイク返しやがれ!」

 

「キキキキキキキーくくんんお落ちつついてて」

 

「落ち着けるかーーーーーー!!!」

 

「何やってるの!止めなさいって!」

 

「お頭押さえて下さいって」

 

扉の前に立っていた俺と同じクラスの金髪ツインテールの女性

峰理子の腰を掴み持ち上げそのままワ〇オシェイクを10分ばかりだやり少し息を整える。

 

「んで、何でお前がいるんだよ?」

 

「代理だよ~。リサは、遠くに居て行けないから日本にいる理子が来てあげたんだよ」

 

今の理子の話を纏めるとするならば、その菊代のお得意様は

 

「じゃあ、俺は伊・U(イ・ウー)と商売してたって事かよ」

 

「キー君は、リバティー・メイソンと魔女連隊と仲良しだから消される心配は無いって」

 

「そっちの心配はしてねぇよ」

 

そっちの心配はして無い。

無いけどさぁ、俺の努力半分水の泡になったぞ。

確かに今までだってイ・ウーとは、間接的には関わっていたんだろう。

其くらいなら良いんだよ。

俺にだってドラゴンボール集めたい位の個人的な願いがあるから手段選んでらんねぇし。

けどさぁ、直接と間接じゃ偉い違いだよ。

 

「………最悪だ」

 

「何が?」

 

「此方の話だ気にすんな。んで、代理ってんならちゃんと持って来てるんだろ?」

 

「もっちのろん!」

 

「はよ渡せ」

 

「キー君が、冷たい」

 

「バイク弁証してくれれば、歓迎してやるよ」

 

ちぇ~と、峰は、背中に背負った赤いランドセルを逆さにしてそこからドササーとテーブルの上に札束が山積みになっていく。

時間を掛けて数えた所確かにぴったりある。

 

「なるほどね。確かに受け取った。ありがとよそしてさようなら」

 

「いやいや!まだ、あるよキー君!」

 

「何だよ」

 

ちょっと、威圧的に峰に言うが其を無視して自分の胸の谷間に手を突っ込んで、ハニーゴールドのブラがチラチラと………最見れたらバイクの件は水に流そうかなぁとか一瞬思ってしまったが、胸の谷間から出されたのは、これまた札束である。

 

「謝罪も含めて、100万」

 

ポンと、俺の胸に押しつけられたまた少し暖かい札束を受け取り

 

「さっきは、帰れなんて言って悪かったな。何か食べてくか?」

 

「あんた、さっきと対応違うじゃない!」

 

「菊代。人は、毎日多くの事を忘れる。この事も忘れるさ」

 

「流石キー君分かってるね!」

 

だって弁証してくれれば良かっただけだし。

後何かもう、ここまで来ると色々諦めついたし。

 

「で、そんなキー君達に良い話を持って来たんだけどね。ちょっとトラブル起きちゃつて」

 

「トラブル解消は、ヤクザの仕事何でも言ってくれ」

 

トラブル解消とは、警察、探偵、武偵何かに依頼することが出来ない依頼のことである。

あの手の奴等は、とことん調べて来るからな。

裏の裏まで調べて来るのは、誰だって嫌である。

自分は、助かりたい。

臭いものには蓋をしたい。

揉み消したい。

捕まりたくない。

まぁ、要するに、金なら有る助けてくれと言う事で有る。

そんな奴等なだけ合って報酬は高いがまともな奴等で有るわけも無く無茶ぶりが多い。

友であり、お得意様なエル何かも例外では無い。

 

そんな、今回の素敵なお客様が言い出すのは

 

 

「理子のバスジャックを手伝って欲しいんだよね」

 

「良いぞ………………は?」

 

 

 

 

 

 

其から数日立って、俺は今、爆弾を2つ乗せたバスに乗っている。

が、理子が仕掛けた爆弾は一つで有る。

と言うのも、理子に挑戦状が届いたらしい。

其で理子が激怒して

 

『理子の獲物を横取りなんて許せない!ぷんぷんがおーだ』

 

と言う訳だ。

最後の台詞は良く分からないが怒りを表しているのだろう。

指でツノ作って言ってたし。

 

そして、理子の言うことが正しいならば、そいつは今日爆弾を持ってこのバスに乗って爆弾を仕掛けるのだと言う。

 

んで、その爆弾を発見解除すれば、中に入っている其は其は美しい宝石《欠片》(カラット)と言うものが入っていると言う。

何個か集めると願いが叶うんだとか何とか。

何でそんなもの爆弾に埋め込むんだと思うが、此は横取り野郎と峰のゲーマー同士の戦い俺は其のコマと言う事だ。

コマがいちいちプレイヤーに文句を言うものでは無い。

ゲームが終わったら聞いてみれば良いだけだ。

 

さて、そろそろ始まる時間だろう。

 

「きゃ!何?何これ?」

 

バスの最後尾で一人の女子生徒が携帯を見ながら何やら戸惑って要る。

その携帯からゲーム開始の合図

 

『速度を落とすと、爆発しやがります』

 

武偵殺しの声が響いた。




皆さんは、こんな主人公みたいなマネしちゃダメですよ?
やるならいっそ、ヒットマンですよ。
昼は食品会社で働いて、夜はヒットマン其でいいじゃ有りませんか。
目指せ!今日から君もヒットマン!
目指せ!二丁さん!
(正し、自己責任です)


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12 前屈みで頑張ってくれ。

この話を見るときは、ポップコーンと飲み物とエチケット袋をご用意ください。


『どう?遠山見つかった?』

 

トン

 

『そう。出来るだけ急いで回収して』

 

俺は、今バスジャックされたバスに乗っている。

そして、峰理子の言う通り爆弾を探していたのだかだ、早速見つかったよ。

運転席の下からな。

 

其を俺は、Yesなら指で床を一回叩きNoなら二回と言う決まりで菊代達と連絡を取り合っている。

 

そして、爆弾の専門家峰さんにこの爆弾の画像を送った所、この爆弾幸か不幸かただの爆弾で、席を外したりしても爆発はしないものだった。取り外すのは簡単。

ネジを外すだけ。

これだけで運転席から爆弾が外せると言う事だ。

なるほどね。確かに、外す前提で作られてやがる。

いるんだよな玉にこう言う人。

 

そして、理子の仕掛けた爆弾は、俺のバイクにもくっ付けた《β型のプラスチック爆弾》炸薬の容積は、3500立方センチ。

もうちょっと少なくても良かった気がする。

だって、これじゃ電車とか飛行機用だろうに。

派手好きもここまで来ると呆れを通り越して尊敬ものだな。

 

だが、爆発させるのは爆弾が外れた後、更に時間がたったらだ。バスから自動で外れる事を峰さんに協力するための条件としてある。

爆風に巻き込まれるのは1回で十分。

更に峰さんもターゲットが呼べれば其でよし。

いわゆるなんちゃってバスジャックなのだ。

 

 

「おい、キンジお前爆弾何て解除出来るのか?」

 

「1回だけ経験ずみだ」

 

武藤と、短い会話を終えて小声で

 

 

「爆弾回収今から分解する」

 

此で菊代達からの返答があるはずなのだが

 

『ウソ………こんなの理子考えてない』

 

「おい、どうした?何があった?」

 

『キー君!今すぐバスから降りて!』

 

峰さんの言葉を怪訝に思い俺は、顔を上げて直ぐ引っ込ませ

 

「全員伏せろっ!」

 

俺が、そう叫んだのと同時に

 

バリバリバリバリバリバリバリッ!

 

「「「「「キャーーーーーーーー!!!!」」」」」

 

無数の銃弾がバスに向かって発砲され次々と窓ガラスを粉砕していく。

中には被弾した生徒もいるようだ。

 

「おい、金次やべぇよ!運転手が撃たれちまった!」

 

武藤の声のする運転席を見ると、肩に被弾しハンドルにもたれ掛かるように、倒れていたが幸い生きてはいるようだ。

 

「武藤お前が、運転をしろ兎に角走らせろ出来るだろ?」

 

「い、良いけどよ!こないだ改造車がバレておまけにお前との揉め事で車両科の車お前らに壊されちまってよ後、一点しか違反出来ないんだぞ!」

 

「後半の理由は、自業自得だろうに。其にこのバスじたい一応通行帯違反だ。安心して免停されろ」

 

「落ちやがれ!轢いてやる!」

 

「お好きにどうぞ」

 

武藤の言葉を軽く受け流し俺は、より強く警戒心を高めて辺りを見回す。

其に、チラッと見えたが、あれは、峰さんの所有するオープンカーが、2台其が今バスを撃ちまくりバスの窓ガラスを横と後ろから粉々にしたのだ。

直ぐに、小型マイクに向かって出来るだけ

 

「おい、峰約束が違うじゃないか。銃は、『向けるだけ』の筈だろう?撃ったとしても威嚇射撃で人は撃たない。そう言う約束だろう。どう言う事だ?」

 

少し怒気を含んだ声で峰に問いただすと返ってきたのは峰ではなく。

 

『遠山……落ち着いて聞いて、あれはもう理子の車じゃない』

 

「どう言う事だ」

 

『誰かに乗っ取られたのよ。此方からじゃもう、制御出来ない。おまけに理子以外の車も混じってる。多分理子に挑戦状を出した奴。それと、クレフトが、爆弾の方を止めたわ後は、外すだけ。遠山も欠片回収の内直ぐに撤退して。レオンが迎えに行ってるから』

 

「撤退って言われてもなぁ……時間掛かりそうだ」

 

バスの周りをこう、ぐるりと銃付き自動運転オープンカーがバスにピッタリとくっついているのだ。

 

こんなん予定にないよ。

 

『取り合えずバスの屋根にでも昇って万が一爆弾が爆発しそうになっても捨てる事の出来るように車の方は出来る?』

 

「まぁ、何とか」

 

其にもう、誰がやったのか良く分かったよ。

さっきから携帯弄りながらこの大混乱の中楽しそうに目を細めてこっち見てるもんな不知火。

 

「クソッタレ!」

 

こんな大勢の人の前で不知火の所に行くことは出来ない。

昔っから邪魔をしてくる奴を一睨みして、俺は雨で滑り安くなっている屋根を何とか掴み上がる。

 

が、一台の車が俺に反応し再び発砲其と同時に車内に隠れベレッタF92Mを抜きその銃口とタイヤに剥けて発砲、破壊して無力化する。

 

そんな事をしている俺の耳には

 

『何だよ、何なんだよ!ふざけんな!あたしの、あたしの邪魔すんなよ!!誰かしんねぇけど、あいつを倒すのは、理子だ!このあたしだ!しゃしゃり出てくるようなハイエナは引っ込んでろよ!』

 

「落ち着け、今は、冷静になってくれ」

 

今まで、溜めていた全ての怒りをぶつけるように怒鳴りその声が俺の鼓膜を破らんとする勢いで響く。

 

『これが落ち着けるか!どついもこいつも、あたしの何が気に入らねぇってんだよ、気に入らないのはあたしだ!あいつがいるから、あたしは、曾お爺様を!こ………え……』

 

突然、俺の耳から峰の声が聞こえなくなり変わりに

 

『少し眠って貰ったわ。今の彼女は、まともに会話出来る状態じゃない少しすれば目が覚めると思うから、其までは周りを持ちこたえて』

 

「ただのお使いの筈がこんなのとはな」

 

『何時もの事でしょ。ほら、行きな。じゃなきゃ死ぬよ』

 

「へいへい」

 

俺は、もう一度滑らないように気を付けながら、屋根によじ登る。

と、そこには―――はは、良かったな峰。お前の作戦ちゃんと成功してるぞ。

目が覚めたら報告してやろう。

 

「ちょっと、そこの武偵何昇ってきてんのよ!早くバスに戻りな……さ……いってあんたこの間だわよくも!」

 

「あらら……」

 

ジャキリ!と彼女の手に収まり切らない大きなガバメントを両手に持ち車と俺の方に銃を構える少女は、

 

「強盗さんよ。俺が銃を向けるならまだ、分かるが向けられる理由は俺には無いぞ?」

 

「私にはあるわ!あんたこないだ、私を海に突き落としたじゃない!私はただ話をしに来ただけなのに!」

 

「話?話だぁ~?人の家族(ファミリー)に傷負わせておいて何を抜かしてんだ?クソチビ」

 

『遠山、何があったの?落ち着いて!余計な者に構ってる暇はないよ!』

 

「すまん。直ぐに終わる」

 

俺は、前に部屋に押し入ってきた峰の獲物で俺が最も関わりたくない人物。

 

神崎・H・アリアに銃を向ける。

 

対する神崎は、武偵高のC装備TNT(ツイストナノケプラー)製の防弾ベスト。強化プラスチック製の面あて付きヘルメットフィンガーレスグローブ。

おまけに全身に巻き付けたベルトには、拳銃のホルスターと予備の弾倉が4本。

 

何ともまぁ、厳重装備なこって、ごくろうさん。

 

「あんた、その手に抱えているのは何?」

 

「あぁ、これか?ただの爆弾だよ」

 

ズギュン!

と、いきなり俺に向かって神崎が発砲してきた。

 

「今すぐよ。武器を捨てて、手を後ろに組んで座りなさい。武偵殺し」

 

誰が?俺が?おいおい。勘弁してくれよ。

また、腹わたが煮えくり返って来たぞ。

 

「不味いな。醤油か何かで味付けしてから撃ってくれよ」

 

ペッと口から吐き捨てた、血と銃弾がチリリーンと音をたてて転がりそのまま地面へと落ちて行った。

此は暫く飯食えそうに無いな。

 

「お前も人の話聞かねぇだろ。俺は、外して来ただけだ」

 

「うるさい!うるさい!うるさい!あんた、怪しいのよ!信用出来ないわ!あたしの勘がそう言ってる!ここで問い詰めてやるわ!覚悟しなさい!」

 

「覚悟するのはお前だよ。お前のそのおでこに風魔と同じ傷を付けてやる。神崎・H・アリア……殺人未遂の容疑で逮捕する」

 

「ふざけないで。私には、そんなハッタリに付き合う時間はないのよ」

 

「奇遇だな。俺にも時間はない。俺には、二人の女の願いを叶えなきゃならない。その為に何もかも犠牲にしてきた。悔いは無い。其をここでお前に邪魔をされる訳には行かないんだよ」

 

互いに、銃を向ける。

だが、引き金は引こうとはしない。

向こうも様子を伺っているのだろう。

 

「レディーファーストだ。周りの車もお前も同時に相手してやるよ」

 

ドガガガガガガ!!!

 

ガガガガガガガガ!!!

 

神崎の撃って来た弾を弾で弾く。

俺と神崎の間に幾つもの衝突し潰れた銃弾が落ちる。

 

悪いな峰。

横取りはしないからよ。

せめてお前が、寝てる間だけ選手交代させてくれ。

 

『遠山!止めなさい!お姉ちゃんの言う事聞きなさーーーーい!』

 

耳元で菊代の声が聞こえた頃には全てが始まっていた。




少し前の私に「何でアリア海にほん投げた!お陰で絡ませづらくなったぞ!」と問い詰めながらタコ殴りにしたいと本気で思ったりしますね。
でも、そしたら昔の私が、「あの状況で、金次君が友好的に接して来るわけ無いだろうが!そもそも、ポ〇タル2やら、今日からヒットマンとかヤクザ映画とかの影響うけたのが原因だろ!その正で何か斜め上に逝っちゃてんじゃねぇか!問題作何だよ!問題作!」

と、大喧嘩になるんでしょうね。
実際夢の中でそうなりました。
うっすらと覚えてるときもあるんでしょうね。
と、覚えている内に書いています。
すいません。
(書き初めが朝の11時)


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13 耳に残る懐かしさ

ここから先は、目を瞑って心の目で見てください。
ある程度修正しました。


もうスピードで走るバスその屋根の上で俺は神崎と戦っている。

 

 

「いい加減大人しくしなさい!武偵殺し!」

 

「なら、攻撃するの止めてくれないか?」

 

神崎から放たれる銃弾を斬り、撃ち返し、交わして此方も、斬り、刺し、撃ち、蹴り先程からただ弾と体力を消費するだけの戦いとなっていた。

其に此方は弾の数も向こうよりも圧倒的に少ない。

出来るだけナイフで戦いたい所だ。

けど、不味いな、この状況じゃHSSは、使えないぞ。

HSSは、本能的に子孫を残す為に女性を守ろうとして強くなる詰まり、この状況だと戦っている相手は女性。

詰まり、この場合『守りながら戦う』と言う矛盾が発生し、下手をすると弱体化する。

と言うよりこの状況でHSSになる手段が有るには有るが、使わない方が良いだろう。

だが、力を使わないで、戦うのは正直キツイ。

おまけに俺の左手には、釘なんかを積めたいわゆるパイプ爆弾。

武偵校の防弾制服ならばそこまでの被害はないと言っても爆弾は爆弾しかも抱えた状態じゃ間違いなく死ぬ。

こんな事を頭の隅で考えている間にも、車からの銃撃と神崎の銃撃其をギリギリで交わしながら車の数も減らしていく。

 

「やぁ!」

 

「ふん!」

 

ギイイイイイイイインィィッ!

 

神崎が銃を仕舞い背中から二本の日本刀を抜き砲弾の様に此方に飛んでくるのをハンティングナイフと靴底に仕込んだカードナイフで受け止める。

 

「あんたに銃は、効かないようね」

 

「と、思うなら見逃してくれないか?今なら切り傷付けるだけで許してやるぞ?」

 

「其は、此方の台詞よっ!」

 

ブン!と足払いをしてきた脚の上を飛び、日本刀の峰を借りて足場にし、更に上に飛びバスの後頭部まで飛び距離を取る。

 

「もし、あんたが武偵殺しじゃ無かったとしても!あんたは其に関わっている!私は、これまで、1人も犯罪者を逃がしたことなんて無い!」

 

「犯罪者では無いが、俺が記念すべき1人目となるか、それともお前が捕まり、母と同じ牢屋に入るかどちらかだな」

 

ピタリと俺の言葉に反応して止まり少しして、ワナワナと身体を震わせ

 

「調べたの?」

 

「まぁな。色々知ってるぜ。お前の母親が、武偵殺しとその他もろもろの罪をお国に吹っ掛けられて現在、一生懸命犯人探しと、裁判とは、名ばかりのゴッコ遊びの真っ最中だって事もな」

 

「其が、どうしたのよ」

 

「別に、何もお前だって俺達の事を調べていた。だから俺も警戒して調べた。予感は的中何の罪も無い風魔が犠牲になっちまった。俺は、此でも怒ってるんだぜ?逮捕する何てもんは、悪魔で人の目が個々には有るからだ!誰も見てなければとっくに殺してる………武偵法9条が有るのはこの平和ボケしたこの日本だけだ。そして―――――」

 

ダン!と俺は神崎の腕目掛けて走り、ナイフ蹴りを放つ

 

「俺に9条は通じ無いと思え!」

 

「みきゃ!」

 

ギィィン!と日本刀の一つが神崎の手から、弾き出されてそのまま道路へと落ちて行った。

そのまま動揺して動きの固まった神崎のおでこに右手のハンティングナイフを振るったその時

 

「キンジ………」

 

『●●●………』

 

「……………………え?」

 

今度はピタリと俺の腕が止まった。

その隙を神崎が逃す筈も無く

 

「―――――はぁ!」

 

ギィン!

 

バックステップで後ろに飛び其と同時に、もう一本の刀で俺のナイフを弾きそのナイフも道路に落ちる。

 

だが、何だよ今の。

まるで体が神崎を攻撃するのを拒否しているみたいだ。

いやでも、そんな筈は無い。

俺は今までだって色んな奴を捕まえて、時に殺して来たんだ。

鏡高組の邪魔になる者。

菊代と白雪に害する者。

家族に害する者。

 

そして今目の前にいるのは正しく風魔を襲った奴今回は、依頼人の獲物だから殺しはしないものの其でも攻撃は出来る筈なのに何故?

 

 

「思い出したわ!そのナイフ裁き銃弾が効かない体。今まで集めた情報………あんたはイギリスの不幸の決め手(アンハッピールーレット)その片割れの呪いの男(フルヒマン)ね。踊る血濡れの赤ずきん(ダンスブラッド・レッドフード)は一緒じゃ無いのかしら?」

 

「………」

 

 

俺が何も言わないことを、認めていると思っているのか、神崎は機嫌良さそうに自分の推理を喋っていく。

 

 

「噂の通りね。どっかの貴族に有能な日本人男女2名のボディーガードが付いていた。其も6月から9月の4ヶ月の間だけ………おまけにその間にその貴族の間で起きたトラブルを全てその二人が解決した。そしてその4ヶ月あんたもイギリスで特殊任務に付いていた……間違いなく私の探していた人達と同じ条件」

 

神崎は何かを言っているが、俺の耳には全く入って来ない。

不思議だこいつの声を聞けば聞くほど『手を触れてはダメだと』警告されてる気分だ。

そう、まるで主人に無礼を働く事を禁じられた従者の様に。

本能はこいつの言葉に頷いて仕舞いそうだ。

 

 

そんな思いを頭から振り切り

 

「同じ条件?」

 

唯一聞き取れた疑問をぶつける。

 

「ええそうよ。あんた達なら私の力に為ってくれる。その思いで日本に来たわ。イギリスではあなた達の関わった事件はどれも有名。あなた達を味方にすれば私のママは助かる筈なの……この件は水に流してあげるわ!だから、私の『ドレイ』になりなさい!」

 

「ふざけるな!」

 

ガキン!

 

新しく取り出した予備のハンティングナイフでもう一度神崎に斬りかかりつばぜり合いとなり神崎がもう一度足払いをしてきた所をジャンプで交わして

 

フッ!と俺が目の前の神崎目掛けて息を吹き掛けると

 

「ッ!ア!」

 

突然目を押さえてフラフラと後ろに二歩歩き刀をバスに刺して身体を支え始めた。

引っ掛かったな。

俺が神崎の目の下に刺したのは先端に細かな穴の開いた僅か1センチの毒針。

刺されば一時間程は視界がボヤけ体が痺れる。

其を口に含み撃てる距離まで待つそのベストタイミングがつばぜり合いだと言う事だ。

 

「人の家族襲っておいて言う事がドレイ…………仲間になって母を助けろと?そう言われてはいなりますと言うバカがいると思っているのか?笑わせるな!殺さないだけでもまだ慈悲のある方だと言うのに、事に置いてそんな話を持ち出すとは………だが、獲物の横取りはしない約束だからな。せめて、風魔と同じ痛みを」

 

チャキリとナイフを持ち直し神崎のおでこに、風魔と同じ真ん中を斬ろうとしたその時

 

ヂィン!!

 

「ヴッ!」

 

俺の左手には抱えていた爆弾が金属と金属のぶつかる鈍い音と共に俺の腕から神崎の方へと飛ぶ。

 

車が残っていたのか?

だが、後ろを確認している暇なんか今の俺には無い。

 

だからここは今すぐバスから飛び降りて

 

「お嬢様!!」

 

「ワプ!」

 

撤退―――――――――――あれ?

 

 

気が付いたら俺は爆弾を空高く蹴りあげて、防弾制服のブレザーを脱ぎ神崎に被せてその上から神崎を守る様に覆い被さって仕舞い。

 

 

バアアアアアアアアアァァァンッ!

 

爆発したその破片や釘等が俺に降り注ぎ次々と刺さっていく。

その痛みと爆風による熱が背中を焼いて行く。

俺はその衝撃でもう痛いのか熱いのか分からなくなり同時に物凄い眠気が襲い瞼を閉じていく。

その中の限られた時間で俺は

 

何で守ったんだ俺?

バカか俺は、てかお嬢様って何だよ俺の主人じゃない。主人は菊代だろうに。

 

そう、心の中で出来るだけ愚痴り意識を手放す瞬間に

 

『何で、お前は何時もそうなのだ!もうお前など知らん!●●●のバーカ!バーカ!』

 

何処か懐かしくて、心地好い声を聞いた気がした。

 

だが、残念かな。肝心らしい所が聞こえなかった。

そう思って俺は、異常に強い眠気に負けてその瞼を閉じた。




今日、始めてコンビニで俺のプリンと言うデカイプリンを買いました。
まぁ、美味しいんですけれど、食べきれませんねアレ。


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14 魔女を守りし者

バタフライナイフ「解せぬ」

今回でバタフライナイフさんの出番は終了です。

後、今回金次君達の出番が。



(あれ?怪我をしたのは彼の方だったのか。ちょっと、誤算だったな)

 

周りが、不安そうに窓の外を見つめるバスの中に一人携帯を片手にそう呟く男が一人――不知火である。

 

彼と、その他の生徒達が見る先には、救急車に運ばれる運転手と遠山金次の姿があった。

 

(やっぱり…………本能には、逆らえないみたいだね。遠山君)

 

 

弄っていた携帯を閉じてもう一度彼は、窓の外を見つめる。

ザーーと、バケツでもひっくり返した様な激しい雨の中もうサイレンの音も聞こえなくなるほど遠くへと離れた救急車をひたすら見つめるピンクのツインテールが特徴的な神崎・H・アリアの姿だった。

 

「お嬢様ね……………頭の隅では覚えてるのかな?」

 

 

★ ☆ ★

 

また、時間は少し遡り

 

フランスとスイスの文化が混ざったような独特の街シャモニー。

もう日も沈み日付も変わる頃。

その町のとあるホテルその3階には、4人の人影があった。

だが、その光景は普通では無かった。

最早ホテルと呼べる様な状態では無かったのだ。

飾ってあった鹿の頭の剥製は綺麗に真っ二つにされ、壁や床は大穴が開き今にもこのホテルだった建物は崩れそうだ。

そう言う状態にしたので有ろう人達の中には、右目に逆卍の眼帯をし良くハロウィン等でお馴染みの魔女を思わせる格好をした少女。

その少女の足は血を流し傷口を押さえる手を赤く濡らしている。

が、片手にルガーP08を構え目の前の3人の女性を睨み付ける。

そしてその少女を囲むように3人の首から小さな十字架を下げた女性達が剣を構え今すぐにでも少女に襲い掛かる勢いであった。

 

「ハァ………ハァ……」

 

「貴女の使い魔も逃げてしまいましたね。此処までです。忌々しい魔女」

 

「貴女を生かして良い理由はどの聖書にも書いて有りません」

 

「貴女は、人に害をなす害虫です」

 

「「「死になさい!厄水の魔女!!!!」」」

 

全員が、剣を振り上げてその少女を斬ろうとしたとき

 

「エドガーは、逃げたんじゃ無い………呼びに行ったのさ」

 

少女がそう言うと同時にガシャーーーーーン!と窓ガラスが割れてガラスの破片が幾つも剣を持った女性達に降り注ぐが少女の方へと飛んでくる破片は全て不自然なカーブを描いて避けて行く。

 

「相変わらず差別が大好きなんだな、シスター共」

 

「カァーーーー!」

 

「………獄卒。貴様が何故此処にいる?此処は人払いをしたはずだ」

 

シスターと呼ばれた女性の一人が肩にカラスを乗せた茶色いスーツを着た男に剣を向けるが男は、其を無視して

 

ドッと鈍い音が部屋に響く。

 

「ガッ……………!」

 

女性が気が付いた時には既に向けた剣は折られ自分の頭に不思議な痛みと重みを感じながらその命を落とした。

 

「お前らカツェに何をした?」

 

ポタポタと血を滴らせるのは、男が握っていた、ゴルフクラブのドライバー位は有るだろうか。

玉ねぎの様な球形の回りに刺の付いた所謂星形ヘッドと呼ばれる物が付いたモーニングスター

其を軽々と女性の頭に叩き付けたのだ。

其を遅くも理解した残りの二人が

 

「魔の者よ去りなさい!」

 

「害虫の味方をするならばこの場で処刑です!」

 

ツーハンドソードと呼ばれる両手剣をその男目掛けて何度も降るが

 

「こんな瑠璃臭い空気の日にカツェを襲うとは。所詮メーヤの使い走りか」

 

男はその全てを避けてその際にチラリと片方のシスターの方を目で追うと

もう片方のシスターを素早く地面に叩き付けて頭を潰してその勢いを使ってもう片方のシスターの剣を弾き飛ばしそのまま、片手でシスターの首を掴み壁にヒビを作るほどに強く叩きつけ動きを封じる。

シスターは、その男の手を離そうと必死にその腕を付かむが首を絞める力が強くなるだけあった。

 

「ガハッ………」

 

首を絞めつけられて苦痛の表情をするシスターを一度見て

 

「カツェを斬ったお前に聞くが………この二人を覚えているか?」

 

感情の無いロボットの様に淡々とした声で男が胸の内ポケットからだした写真には、何処かの動物園だろう。

像の親子をバックに家族と思われる3人。

一人は、黒く艶のある長い腰まではある髪と何処か輪とした顔で十人は見れば十人は間違いなく美人と言うだろうその人の手を握るのはまだ2歳か3歳位だろう小さな少女は先程から男がカツェと言っていた少女とそっくりでその少女のもう一つの手を握るのは、今正にその写真を見せている《獄卒》と呼ばれた男だった。

 

その写真を見てシスターは首を左右に降る。

 

「そうか。覚えている価値も無いと…………では、言い方を変えよう。《灼熱の魔女》」

 

その言葉を聞きシスターの目が大きく開き驚愕に染まる。

 

「灼熱の魔女………………」

 

「そうだ。お前らが殺した魔女…………俺の妻と娘だ。直ぐにメーヤもそっちに送ってやる。十字架の無い墓で眠れ」

 

ゴキリと鈍い音がして、男が離すとシスターはそのまま力なく崩れ落ちた。

 

「カズユキ……」

 

カツェがそう言うと男は先程とは違って目に涙を浮かべながら

 

「カツェ!すまない!」

 

「うわっ!ってバカ!抱き付くんじゃねぇよ離せ!」

 

「こうしないと、傷は、治らん。我慢してくれ」

 

ポカポカといった音がしてしそうな感じでイキナリ抱きついてきたカズユキと呼ばれた男を顔を林檎の様に真っ赤に染めてグーパンチで殴る。

先程とは全く違う本当に同一人物なのかと思うくらい子供みたいに泣きじゃくる彼の姿と怒りなのか何なのか必死に押し返す魔女ッ子と言う良く分からない場面が広がっていた。

だが、旗から見れば20代後半の大人が、少女に抱きつくと言う即通報レベルの光景だとだけは言える。

 

 

「てか、血が出てるんだから離れろって………あれ?」

 

「もう、直したぞ」

 

「え?」

 

カツェが、恐る恐る斬られて血を流していた右足を見ると、最初からそんな傷は無かったと思わせる程に綺麗に無くなっていた。

 

「旧鼠の薬が効いたみたいだな」

 

「アイツのかよ。どさくさ紛れに何塗ってるんだ………って伏せろ!」

 

バァン!と彼の頭上をカツェの放った銃弾が飛び

 

「マ…………ア゛………ジョ……」

 

何と一番最初に倒した筈のシスターで右半分の顔を潰されて普通なら生きていない筈の状態で折れた剣を握りしめゾンビの様に起き上がり襲って来たのだ。

だが、その最後の悪足掻きもカツェが放った銃弾が左脳を撃ち抜きそのままよろめき床に開いた大きな穴から下へと落ちていった。

 

「火事場の馬鹿力って、奴っすかね此は?それとも首を切り落とされても数秒間は、生きてるって言う類いの奴?」

 

「旧鼠か」

 

「ゴメンね。イチャ付いてるところお邪魔しちゃったかな?………でも珍しいね。幾らこんな日だからってカツェちゃんが追い詰められるなんてね」

 

「此処がバレるとは思って無かったんだよ。其にまさか床ぶち抜いて来るなんて予想外過ぎてな。おかげでこの様だよ。んで、ソイツが眠り姫って奴か本当に寝てやがるな」

 

「30時間以上寝てるっすね」

 

窓から新たに入って来た白衣を着た男は、その背中おぶられた銀髪の少女を壁にもたれかかせる。

 

「んで、この子起こすには、どうするんだよ?」

 

カズユキが旧鼠に聞くと旧鼠は白衣のポケットから緋色に光る刀身を持ったバタフライナイフを取り出して

 

「まぁ、見ててよ。尾根坊さんの起きる瞬間をさ」

 

 

その刀身を少女の口元に持っていくとその刀身は勝手に薄く光だした。

 

「ん………」

 

その光に反応してか、少女が目を開き海様に青く深い印象を与える目を開き同時に口も開き

 

「はい、お食べ」

 

「は?お前へ何言って」

 

カズユキがそう言うと同時に少女はナイフを受け取りその刀身を

 

パキン

 

まるで板チョコでも食べるような軽さでその刀身を折り口の中で咀嚼して飲み込んだ。

 

「「ええええええええええええ!!」」

 

「ハハハハハ!!起きた成功だよ!!やっぱりこの子だ間違いない!ヒャハハハハハハーーーーハハハハハ!!」

 

 

カズユキとカツェが驚きの余り叫び、旧鼠は天にも届くような笑い声を上げる。

 

そんな中で一人少女は、腹一杯になったとでも言うように又しても

幸せそうな寝息を規則正しく立てながら寝てしまった。

 

★ ☆ ★

 

「で、何か言うことは?」

 

「ものすごい反省してます。破門とかだけは、勘弁してください。お願いします」

 

現在俺はこの負傷した武偵等が送られる。武偵病院のベットの上で盛大に菊代に土下座をしていた。

 

いやまぁ、命令ガン無視した俺が悪いんだし。土下座するのは当たり前何だが、かれこれ土下座してもう30分以上は、このままな訳で目茶苦茶背中とか腰とか足とか痺れた通り越してもう感覚無くなりました。

しかも個室だから助け来ない。

来ても菊代から溢れる殺気で救護科の生徒さんがた皆帰っちゃうの。

正に絶対絶命状態。

俺に出来る事ってひたすら謝り続ける事ですはい。

 

「はぁ、まぁ、目当ての物は手に入ったんだからもう良いわ。許す。………客も来たみたいだしね」

 

「客?」

 

「ほら、入んな」

 

「お邪魔するよ。二人共」

 

「ウゲ……」

 

「ウゲとは、なんだ。ウゲとは失礼だなトウヤマは」

 

ガラリと扉を開けて入って来たのは、武偵高の女子制服を着た艶のある黒髪にクリクリとした可愛らしい目をした

 

「日本に来てたのか、エル」

 

「てか、あんた良く此処入れたわね」

 

「東京の武偵服を注文しておいて助かったよ。おかげで怪しまれることなく入れた」

 

「其は、良かったな」

 

「もっと喜んだらどうだい?せっかく見舞いに来てあげたのに」

 

ぷくりと両方のほっぺたをフグの様に膨らませて可愛らしく拗ねるこいつは電話の相手であった現ワトソン家当主エル・ワトソンだ。

 

ハッキリ言って厄介事しか持って来ない。

両手で数え切れない程にこいつの持ってきた話に乗って酷い目に会っている。

 

「いつ日本に来たんだ」

 

「10時間位前かな。今日の昼頃ホテルから出てきたらキクヨから電話が合ってね。トウヤマが病院に運ばれたどうしようどうしようと涙声で」

 

「エ~~~ル~~~。あんたいい度胸してるじゃない」

 

「あ、いや別にそんなつもりじゃ」

 

あのエルが押されてる。

てか、菊代のお怒りモード久し振りに見たよ。

もう、ツインテールが重力に逆らってるし、後ろに般若見えるし。

 

その辺にして上げてエル青ざめてるから。

若干震えてるし。

 

「でも、菊代有難うな。心配してくれて」

 

「別に、あんたが死んだら誰が組守るんだ。其にあんたが死ぬと後追いしそうになる危なかっしい子もいるんだよ」

 

菊代は、くるくると自分の前髪を弄りながら顔を赤らめ恥ずかしそうに顔を背ける。

少し、その横顔を眺めていると

 

「ウゥン…………そろそろ本題に入ろうかと思うんだけど」

 

エルのわざとらしい咳払いによって俺と菊代は、我に帰りその恥ずかしさを隠す為にエルの話に言葉を返す。

 

「本題?」

 

「また、厄介事かよ」

 

「またとは何だ。今回は君の好きな旨味のある話を持ってきたと言うのに」

 

エルは、フフンと無い胸を自慢げに張り世間で言うドヤ顔をして此方を見てくる。

 

「そんなに自信があるなら聞こうかしら」

 

菊代が、シリアスな声で、エルの方を見る

 

エルは、口元をニヤリと吊り上げて

 

宣戦会議(バンディーレ)に興味ないかい?」




メーヤさんが好きな皆様ご免なさい!
本当にご免なさい!
画面の向こうで土下座します!


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15 良い話と悪い話

もう、私の周りの桜は早くも散って仕舞いましたね。
花見もせず気がついたら葉桜状態に…………



「興味無い」

 

「私も」

 

「そんな速答しなくても」

 

いや、だってイキナリ何の話かと思えば、宣戦会議ってえーと、ほら、確か

あれだろ?イ・ウーが消えて、周りの組織がバラバラでって奴か?

 

「旨味も何もねぇよ。リスクしか無い」

 

「まぁ、そう言うとは思っていたよ」

 

そう言って、エルは待っていた鞄の中から一枚の紙を取り出して

 

「此を見てくれ」

 

「どうせ、ろくなもんじゃないだ…………ろ……此は」

 

「嘘………」

 

その紙に書かれていたのは、神崎・H・アリアに関する物だった。

 

「現在、イ・ウーと戦う者だよ」

 

「こいつに関わるなと言ったのは、お前だろ」

 

「あぁ、確かにボクは関わるなと言ったけど。そうも言って要られない状況になった来たんだ。……此処を見てくれ」

 

紙に指差し、その指の先には、顔写真だけだが、その横に書いてあるのは、話で聞く以上に若いな。

柔らかな曲線を描く長い髪オニキスみたいな瞳。

 

「この女性が、神崎かなえなのか………《灼熱の魔女ソティ》にそっくりだな」

 

「とても子持ちには見えないわ………」

 

「まぁ、世の中には、似てる人が3人いると言うからね。所でこの女性のデータを見て二人は、どう思う?」

 

「懲役864年って捕まってるの外国?」

 

「んな訳無いだろ。エルがミスしたと言うなら「さらっと罵倒するな!」まだ分かるが、間違いなく日本だそう書いてあるしな」

 

「と、するとスケープゴート………其も国絡みの」

 

「まぁ、そうだろうな。じゃなきゃ有り得ない。この書類を見る限り複数の犯罪を犯してはいるが、どれもこれも一人で出来るもんじゃない時刻が重なってる物まで有りやがる。……………で、この人が何だって言うんだ?」

 

「其処まで分かるなら話が早い」

 

 

と、先程まで立っていたエルが俺の寝てるベットの前まで来て

 

「おい、近いぞ」

 

鼻と鼻の触れ合う程に接近し

ワントーン低い声で

 

「この神崎かなえが君の欲しい情報全てを持っていると言ったら?」

 

「何んだと……………」

 

「言ったろ。悪い話じゃ無いと旨味も有る」

 

「だが、宣戦会議を開くには、イ・ウーを」

 

「そうだ、潰すんだ君が。僕は今日、個人として此処に来ている。君の友として、味方として来ている。其に君には、もうゆっくりしている時間は無いはずだ。其処に近道が有るなら通るしかない」

 

「でも、待ちなさいよ!エル、あんた何を言ってるのか分かっているの!其は戦争の引き金を引くことになるのよ!」

 

「引く価値が無ければこんな話を持ち出さない………其にキクヨ。君の組を大きくするチャンスだ」

 

「組を…………大きく……」

 

あ、これは不味い。菊代の目が輝いているように見える。

ナミさん並みに輝いている。

 

「ラッキーな事に、イ・ウーの教授(プロフェシオン)も君のペナルティで有る中国の籃幇(ランパン)の諸葛も後、数年も生きられないと聞いた。教授に関しては後、一年も生きられないと、籃幇吸収だって夢じゃない」

 

俺は、そのエルの言葉に思考が真っ白になる。

あの諸葛が…………死ぬだと?

菊代もその言葉に驚きを隠せないのかガタッと勢い良く立ち上がり、座っていた椅子が後ろに倒れる。

 

「馬鹿言ってんじゃないよ!あんな化け物が死ぬだなんてそんな情報が簡単に手に入る何て………」

 

菊代の言う通りだった。

籃幇と言えば、あらゆる企業、財界は勿論の事教育界、司法、おまけに政治の中枢にまで仲間がいる。

噂じゃあ、組織の人数だってその他の仲間を入れても100万人以上及ぶ。

触らぬ神に祟りなし。

そんな所に喧嘩売ろうだなんて組織は殆どいない。

いたとしても直ぐに消されるのがオチ。

まぁ、そんな所に喧嘩売らなきゃいけなくなってしまったのが俺なのだが。

糞兄貴がおこした『浦賀沖海難事故』此を無かった事にするために、鏡高組の力を使った訳だが、勿論、ただと言うわけじゃない。

其ほどの見返りが必要となる。

で、その見返りと言うより、ペナルティが今エルが言っている事である。

詰まり居たのだ喧嘩を売る頭のネジぶっ飛んだ奴、菊代の父、現鏡高組組長四代目。

鏡高 豪一と言う人が。

 

「提供者は、君達の所にいるクレフトだ。彼にとっては、どんなセキリティも障子に穴を開ける程簡単に突破する。寝ぼけてさえ居なければだけど………詰まり、僕が持っている、諸葛の医療データは、現在では治療法の無い不治の病と書かれている」

 

「そんな、もし、それが本当なら………」

 

菊代は、まだ信じられないとでも、言うかのように両手で口元を隠している。

 

「ほら、エル。菊代も反対みたいだしこの話は無かった事に」

 

「ビッグチャンスじゃない!」

 

「そうだろう?キクヨ君なら分かってくれると思っていたよ!」

 

「………お前ら一体何を言っているんだよ」

 

突然意気投合し始めた、二人に対して、俺の言葉は耳に入らず。

味方取られた。

てか、エル。アンラッキーな事に、教授は死なないと思うぞ?

知らんけど。

 

「トウヤマ………君にとっては、この武偵高は、時間稼ぎの場所でも有り足枷でも有るんだったよね?」

 

「あぁ、そうだ」

 

「其と同時にシラユキさんの願いを叶える準備の土台でも有る」

 

「……そうだ」

 

「なら、迷うことは無いだろう?ありったけ全部ぶちこんで、デカク勝て………昔君が僕に対して言った言葉だ」

 

「まぁ、言ったな。……多分」

 

だけど、其とこれ別なんだと思うのは俺だけか?

 

「遠山。此はまたと無いビジネスチャンスよ!やりましょう!」

 

「トウヤマ、僕は、《獄卒》と《笛吹鼠》を部下に持つ君にならと思って頼んでいるんだよ!」

 

「待て待て待て!二人の言い分も分かるが、神崎かなえに接触出来なきゃ意味無いだろ!」

 

「「あ」」

 

二人は、其処は頭から抜けていたらしく、鳩が豆鉄砲食らった様にポカーンとした表情をする。

 

「な?だからもうちょっと別の方法をだな」

 

「じゃあやっぱりこれを使うしかないか」

 

「え?」

 

「キクヨ」

 

「分かった」

 

ガシッと、俺の両肩を菊代が、脇から入れた手でガッチリ掴みどんなにもがいても離れる事が出来ない。

 

「君達が、アリアと争っている事はキクヨから聞いたよ。だが、今は、一時的に水に流すべきだ。贅沢を言える状況じゃないだろう」

 

「其は、分かる」

 

確かに、神崎かなえが、其処までの重要人物なら国に渡しておくのは勿体無い。

だが、警戒心丸出しにされちゃ、例え拷問したとしても喋ってはくれないだろう。

だけど、アイツは

その辺りも分かっているらしくエルは

 

「フウマの事なら心配は、要らない今日のお昼頃バイキングでたらふく食べていたからね。本人はもう気にしないと言っていた」

 

「あの馬鹿野郎。食い意地だけは偉く成長しやがって」

 

何かもう、おかげさまで馬鹿らしくなってきたぞ。

 

「だから、アリアとは、一時的でいいから、和解して欲しい。悪い言い方をすれば利用しろ」

 

「利用………ね。んで、先程からお前は、何をしているんだよ?」

 

エルは、先程からしゃがんでベットの下をゴソゴソと探り何かを探しているようで

 

「これから和解するのにその服では格好つかないだろう。かと言ってお互い鉢合わせすると攻撃しかねない。だったら第三者が間に入った方が良いかと思ってね其も救護科の」

 

「そうか、じゃその事は任せるよ」

 

「何を言っているんだい?君が行くんだよ」

 

「は?……っておいおいまさか」

 

「そ、そのまさかさ。君が第三者と言う設定で行くんだよ」

 

バッとエルがベットの下から取り出したのは、ロングヘヤーのカツラと、何と武偵高の制服其も女子の。

 

 

 

「久し振りに、君にはクロメーテルになってもらおうかと思って用意してきたよ」

 

満面の笑顔で放ったその言葉は、俺にとっては、精神的死刑宣告でもあった。




そう言えば、もう4月(今さら)新しい生活をする時期私は、車欲しいな~と思いながら、教習所に通い始めました。
皆さんは、どうなんでしょうかね?


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16 常識=非常識 非常識=常識

男の娘
目を良く凝らせば女の子。



書き直しました。
所々変わっています。
ちょっと、納得いかなかったんで。
後ストーリーの進行具合の都合。
すいません。


エルの奴後で覚えてろよ。

時代劇の下っぱが言う捨て台詞を心の中で言いながら俺は、待合室の前まで来ていた。

女の格好で。

先程半ば無理矢理着替えさせられ窓に写る俺の姿は、エルいわく目付きの悪いメーテルらしく、黒いロングヘヤーで武偵高女子制服を来たクロメーテル(名付けは、勿論エル)さんだ。

この姿になるのは2回目だな。

股が涼しい。

そう言えば、最初に使ったのはワトソン家の前の既に他界した、当主エルのお父さんにハニートラップ仕掛けていらいか。

娘を道具同然に扱う親の風上にも置けない糞野郎だったけどな。

そう何とも気持ちの悪い思い出に浸りながら歩くと、いたいた。

誰もいない待合室で一人ポツンと、神崎が、寮の下のコンビニで売っている松本屋のももまん(此処は飲食禁止なんだが)のぎっしり入って今にも破れそうな袋を抱えている。

エルの調べによると、朝のバスジャックの被害者達を片っ端から調べ回っていると言う。

まぁ、此処にも撃たれた奴何人かいるもんな。

そう言えば、運転手も此処に運ばれてるんだったな。

其よりも、今は、周りには誰もいない。

今はアイツと俺だけか。

行けるか?

 

和解は、気は進まないが、目当ての物の為なら仕方無い。

俺は、そのまま進み。

 

「神崎さんよね?隣座っても良いかしら?」

 

「誰よ。あんた」

 

我ながら気持ち悪いとは思うが、イメージで言うと、エヴァのリツコさんみたいな声を武偵高の諜報科の授業で習った変声術を使って再現し近づく。

 

警戒心丸出しだな。

当たり前か。

 

俺は、そんな神崎にはお構い無しに隣に座り込りそのまま、横の神崎の顔を見ながら

 

「そんなに、警戒しないで。私は、救護科2年のクロ・メーテル。名前は、国外だけど生まれも育ちも日本だから」

 

「あっそ」

 

神崎は、興味ないと言わんばかりに、袋に手を突っ込みももまんを一つ掴みかぶり付く。

 

「此処は飲食禁止よ」

 

「うるふぁい!此れから頭を使うから、糖分は必然なのよ!はむっ………其にどうせ渡せないわ」

 

今、何か最後に呟いた気がするが、今は剃れど頃では無いからな。

 

「まぁ、此処に常識なんて有るようで無いからね」

 

まぁ、武偵高の奴等に常識を求める方がどうかしてるんだけどな。

俺は、そのまま、神崎の持っている袋に手を伸ばして

 

「一つ貰うわね?」

 

「あ!何すんのよ!」

 

ひょいと、ももまんを一つ掴みそのままかぶり付く。

うむ。甘いあんこと暖かいふわふわの生地が絶妙だな。

たまには良いかもな。

甘い物って疲れた時に良いって言うし。

隣でエサ取られた、子ライオンが喉鳴らして今にも吠えそうだけど。

 

「私はこれでも、救護科の生徒よ。貴女をこの病院から追い出す事だって出来るのそうならないための此は、いわゆる口止め料。分かったかしら?」

 

おちゃめさを出す為に神崎に向けて軽くウインクし指に付いたあんこを舐めとり。

 

「其で、こんな所で何をしているの?貴女怪我もしてなさそうだし、誰かのお見舞い?」

 

「………貴女には関係ないでしょう」

 

目を反らし、手を強く握りしめ拒絶の意思を込めて、呟く。

此処だな。

 

「ちょっと、ご免なさいね」

 

「ひゃ!な、何よ!」

 

直ぐに、神崎の肩をつかんで此方を向かせ、そのまま逃げられないように腰に手を回し寄せ付ける。

神崎は、動揺と恥ずかしさと怒りが混じって髪の色と同化するほど真っ赤に染まる。

 

「さっきから、声と体は震えてるし、目も泳いでる。何か悩み事が有るんじゃないかしら?」

 

「そんなの無いわ」

 

「そう?さっきのももまんのお礼も兼ねて悩み位は聞くわよ?これでも心のケアとかは得意なの………騙されたと思って、話してみない?」

 

「………」

 

神崎は、俺から目を反らし口をへの字にして黙り混む。

エルの言うことが正しいとすれば

 

「其にこんなに可愛い子が悩んでる姿みたらほっとけ無いもの」

 

「か、かわ可愛い?」

 

「ええ、自覚無いの?勿体無い。CVRに居ても可笑しくない程の美少女よ」

 

「な、ななななに、何言ってるのよ!てか、あんたもその、女でしょ!恥ずかしく無いの!?」

 

「恥ずかしくなんて無いわ。可愛い子に可愛いと言うのは当然でしょ?其に、私どうにもそっちの気があるみたいなの。 だからかしらね。一目見た時から、貴女の事が気になって仕方無いのよ。神崎・H・アリアさん」

 

エルに言われた事は簡単だ。

誉めて誉めて誉めまくれ。

 

「え?え?あああ」

 

やり過ぎたのか神崎の頭の上から湯気出てる気がするけどな。

まぁ、良いだろう。

印象付けは完了したみたいだしな。

このまま続行だ。

 

「だからまずは、お友達から始めましょう?アリア何でも話してみなさい貴女が今溜め込んでいる全てを受け止めてあげる………だから、遠慮しないで言ってみなさいアリア?さぁ……アリア」

 

 

真正面から、神崎の目を見る。

数分間その体制のままでいると観念したのか、口を開き

 

「犯人を取り逃がしたのよ。今まで一度もそんな事無かったのに」

 

犯人って俺の事ですか?

 

「そうだったの。でも、武偵をやっていれば誰だってそう言う事位あるものよ」

 

その言葉に神崎は首を左右に降り

 

「違う。守られたのよ」

 

「守られた?犯人に?」

 

「そう。でも、犯人であって犯人じゃない」

 

「どう言う意味かしら?」

 

「ソイツ、私の祖国ではとっても有名だったの、出回ったのは、名前とその人達の武勇伝正体も分からないのに、周りからは英雄(ヒーロー)みたいな存在だったの、其とどうじに悪魔みたいな扱いでもあった。『悪さをすれば呪いの男(フルヒマン)に食われる』例え話として子供達に広まってた。でも、その人達に解決出来ない事件は無いそう聞いてたの、独自で色々調べて、やっと掴んだ僅かな情報がこの学校にいるって事だけ、其に日本には、武偵殺しがいる。

ソイツだって、捕まえられるその思いで此処に来て武偵殺しの被害に合ってた奴を見つけて、助けようとしたらソイツ他の武偵と違って自力で解決して、其で気になってソイツの家に行ったの。鍵掛かってなかったからいると思って入ってそしたらソイツの戦妹に襲われて咄嗟で其で………」

 

倒した訳か。

なるほどね。

てか、鍵掛かってなくても入るなよ。

強襲科の連中は皆こんなんだから嫌なんだよ。

どいつもこいつも頭のネジ全部飛んでやがるから。

死ね死ね団とか言われるのも納得だ。

てか、俺はイギリスからどう見られてるんですかねぇ………

俺は、流石に巨人みたいに人とか食いませんよ?

 

前なら此処でよくも風魔を!と襲うところだが、どうにもその気になれない。

風魔が、何気にその後、良い思いしてるからと言うのもあるが、どうにも神崎の声が苦手なのだ。

今普通に話してるよう見えるが、先程から耳鳴りと言うか、ザザザとTVの砂嵐聞いてるような、そんな感じだ。

其に神崎と話すのが妙に懐かしいと感じてしまう。

会ったこと無いはずなのに。

不思議な感じだ。

 

「其で、その人が怒ってしまったのね。事情は分かったわ。其でアリアはどうしたいの?」

 

「分からない。その後、事件が起きてその場に行ったら、ソイツがいて噂とぴったり一致して『呪いの男』だったの」

 

「希望が一つ消えてしまった。………そう言う事かしら?」

 

「けど、分からないの。どうして最後に守られたのか。其に……『お嬢様』そう言ってたわ」

 

「そう。だったらもう答えは出ているわ」

 

「ふぁ!え?あ、ちょっと!」

 

俺は、神崎の顎を指で持ち上げて耳元まで顔を近づける。

 

「一言謝って来なさい。其で終わり。でも、急いだ方が良いわ。………割れた卵は決して元に戻る事は無いんですもの」

 

「な、何でアタシが」

 

「守って貰ったんなら、まだ希望は残っているわ。もしかしたらその人の気が変わっているのかも」

 

実際の所どうして、こいつを庇ったのかは、全く分からない。

気を失う前に聞いた台詞、あれも気になる。

もしかしたらこいつら親子にはエルや国が、思っている以上の価値が有るのかも知れない。

其を確かめる為にも、こいつを出来るだけ近くに置いておきたい。

だから、ここから先は啄木(キツツキ)呼蕩(ことう)も混ぜて菊代を苛めた奴等と同じ様に言う事聞かせて――――

 

「アリア先輩!」

 

突然俺達の目の前に現れたのは、神崎よりも少し小さい140㎝もないか、ぎりぎりの139㎝位かな?

くりくりのお目々で俺と神崎を交互に見回し

 

「ふ、不潔です!おお、女同士できききききキスだなんて、私のアリア先輩から離れて下さい!」

 

私のって…………成る程ね貴希と同じ匂いがするな。

尊敬通り越して信仰心になってるような。

そんな事考えてる俺の横では、神崎が真っ赤に染まって

 

「きききキス!」

 

「あらあら、そう見えちゃったのね」

 

何処で見てたのか分からんが、角度的にそう見えたのかな?

 

「所で、貴女は誰?あ、私は、救護科のクロ・メーテルよ。気軽にメーテルって読んでね」

 

俺が、握手の為に出した右手を無視して

 

「強襲科の一年間宮あかりです…………アリア先輩の『戦妹』です宜しくお願いします」

 

「間宮………」

 

今この子の自己紹介の中には、俺が気になった単語があった。

嘘だろ?間宮…………バカな。

こんな事って有るのだろうか?

だとしたら、なんてラッキーなんだ。

間宮の里の生き残りに会えるなんてな。

俺は、チラリと壁に掛けてある時計を見てまだ16時か。それとももう16時か。

 

神崎の方はもう止めだ。

もし、風魔とクレフトがこつこつ集めた情報が正しいとすれば

 

「そう。貴女が間宮の子なのね…………2年前は、私の身内が酷い事をしたわね」

 

「ッ!………何を知っているんですか?」

 

一歩後ろに下がり俺と距離を取り太股のホルスターに手を伸ばして何時でも銃を抜ける姿勢に入る。

 

「そんなに警戒しないで頂戴。其よりも良いの?そろそろ2年立つんじゃなくて?」

 

「どういう意味ですか?」

 

「そうねぇ。そろそろ貴女の妹さん危ないんじゃ無い?」

 

「何を言って!」

 

「私達に構っている暇は無いでしょ?もうすぐ死ぬわよ。此処で無駄に争うか、今すぐ行くか。其くらいの判断は付くんじゃなくて?」

 

「………また戻って来ます。逃げないで下さいよ」

 

「安心して、敵じゃ無いから」

 

ただ、間宮の技が見たいだけだぞ。

って、言えたらどれだけ楽何だかな。

だが、安心しろ。

お前の里を襲った一人は必ずこの手で倒してやるからよ。

 

「信用出来ません」

 

そう言い残し、走って外へと行ったのを確認し

 

「さて、私も戻るとするわ。って、私に銃を向けても意味無いわよ?」

 

後ろで、俺の頭に標準を合わせた神崎に向けて威圧的に聞く

全く、強襲科の奴等は直ぐに武器が出て困る。

 

「貴女………何者なの?」

 

「敵じゃ無いのは、確かよ。そして………味方でも無いわよ」

 

ボシューーーーーーーと、俺が取り出した、小さな煙玉から煙が吹き出し神崎の視界を塞ぐ。

 

「ケホッ、ケホッ。ま、待ちなさいよ!」

 

待てと言われて待つ人はいません。

 

「因みに彼の病室は、427号室よ。何てね」

 

俺は、その場を後にして、病室へと急いだ。

 

 

 

 

「何か、大切な物を失った気がする」

 

「そんな事、無いわよ。大丈夫」

 

「まぁ、君は最初から、常識と道徳心が抜けてるけどね」

 

「慰めにすらならん慰め有賀とよ」

 

あの場所から離れて、病室へと戻りさっさと男子服の方に着替え、女子服の方をエルにほぼ、叩き付ける形で投げ渡す。

 

「けど、本当にこんなんで上手く行くの?」

 

「流石に、無理があるだろう。女装男作戦なんざ」

 

「良いと、思ったんだけどな~」

 

「お前、楽しんでるだろ?言っとくが、俺はあんな糞兄貴と同じ性癖には目覚めないからな?」

 

「分かっているよ」

 

「何故、目をそらす」

 

「そんな事よりも、君達は、どうするんだい?」

 

話反らしやがったな。

 

「どうするって何が?」

 

「此処から、例え和解出来きなくても、君の所は派手に水面下で暴れてる。特に君の部下二人がね。やはり、何処かに目を付けられるだろう」

 

「あー、成る程ね」

 

「やはり、僕の家の力だけじゃ、不安だろう?もっと大きな所の力も欲しいはずだ」

 

ちらちらと、俺の方を見て何かを期待する目で此方を見てくる。

まぁ、大体分かった。

 

「そうだな。だが、良いのか?お前の所が俺達みたいな小さな所に協力するなんて、無いだろう?」

 

「その心配は、無い」

 

「……どういう事?」

 

菊代が、心配そうに聞く中エルは、平然とした態度を崩さず

 

「僕は、君達に助けて貰った。なら、その恩返しをするのは人として、貴族として当然の事だ……僕は、立場上君達と一緒に行動は出来ない。だが、サポートは出来る。リバティー・メイソンの組織力は大きい………欲しくならないかい?」

 

要するに、立場を使ってこっそりとって訳か。

 

「良いな。其は、嫌いじゃない」

 

「見つからないようにね」

 

「そんなヘマ僕が起こすと思うかい?」

 

「「思う」」

 

「………ちょっと、傷つくな」

 

やれやれと、欧米風に肩を落として、これ見よがしに落ち込んで来る。

 

「だが、どのみち失敗したみたいだな」

 

内心此で良かったかも。

と、少し安堵していると。

 

突然ガラリとスライド式のドアが開き

 

「此処にいたのね。呪いの男(フルヒマン)

 

其処に立っていたのはない間違いなく先程まで、話をしていた、神崎であった。

俺は、出来るだけ、冷静さを装って

 

「何の用だよ」

 

「これ、あんたにあげるわ」

 

ぽいッと投げてきた物をキャッチすると

 

「何だよこれ」

 

其処には袋に入った温かいももまんであった。

 

「見て分からない?ももまんよ」

 

いや、其は分かるよ。さっきお前と一緒に、食べたもん。

 

「まさかとは、思うが見舞品か?」

 

そう聞くと、神崎は照れくさそうに、ぷいっと子供のように横を向き

 

「その………悪かったわよ。あんたの戦妹に手を出して、あんたを疑ったりして。良く考えたら、武偵殺しは、犯行現場にいることなんて無いもの」

 

「まぁ、そうだろうな。で、其だけか」

 

俺が、少し殺気を込めて睨み付けると神崎は、姿勢を変えずに

 

「で、『一人』で、色々考えたのよ。其でえっと、その………割れた卵は元には決して戻らないわ。けど、割らないように努力することは出来る。詰まり、その助けてくれてありがとう。それと………私に協力して欲しい」

 

後ろで、ハイタッチしてる二人を無視して、俺は神崎へと歩みより。

 

ぽんと頭に手を乗せて

 

「大変良く出来ました」

 

そのまま、親が子供にするよりも、強く、なでなでと言うよりは、グリグリと撫でる。

 

「ちょっと!何するのよ!」

 

「俺は、お前に協力しようと、思う」

 

「え?」

 

キョトンと何を言っているのか分からないと言う顔をする神崎を無視して

 

「俺達も、お前と共通の敵が要るって事だ。確か、お前……バスで言っていたよな?私の奴隷になりなさいって」

 

「あれは………悪かったわよ」

 

 

「違うそうじゃない。俺達がお前に協力しやるからよ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

       

       お前が、俺達の奴隷になれ」




因みに作者は男の娘も守備範イってゲフンゲフン
何でもないです。


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17 【偽者】ですか?

原作………原作がぁーーーー。


「俺達の奴隷になれ」

 

俺の言葉に目の前の神崎は、目を大きく開き意味が分からないと言う意思を示す。

やがて、意味を理解したのか、顔を熱した鉄みたいに真っ赤に染めだし

 

「何で!私があんたに従わなきゃいけないのよ!」

 

怒鳴り始めた。

まぁ、そうだよな。

いきなり奴隷になれだもんな。

でも、同じことバスでお前も言っているぞ。

 

「あ~、痛かったなぁ~口の中に親指サイズの口内炎出来ちゃったなぁ~」

 

わざとらしく神崎に向けて嫌味を込めて口を押さえながら話し掛ける。

実際に出来そうなんだよな。

やっぱり歯で止めるのは無理があった。

俺の言葉に神崎は俺を睨み付つけながら

 

「あれは、悪かったわよ」

 

「別に怒ってる訳じゃない。ただお互いに過去の事は水に流して仲良くやろうって話だ」

 

「其がどう、奴隷に繋がるのよ!」

 

「まぁ、落ち着けよ」

 

神崎に俺の持っていた神崎親子に関する事の書かれた紙に印刷された神崎かなえの写真を指差し

 

「お前の母親………もう直ぐ死ぬかもな」

 

「何デタラメ言ってムグ!」

 

神崎の騒ぐ口を先程渡されたももまんで塞ぐ。

其をもぐもぐと食い終わるのを待ってから。

 

「かもって言ったろ?いちいち怒鳴るな喧しい。人の話は最後まで聞くものだぞ」

 

「わ、分かったわよ。聞けば良いんでしょ?聞けば」

 

「聞き分けが良くて嬉しいぞ。其で、お前の母親はえーと、何百年だっけ?菊代」

 

後ろを振り返り菊代に聞くと、はぁと呆れた様にため息を吐き

 

「864年。興味無いからって忘れないでよ」

 

「人は、興味無い事から忘れて行くんだよ。朝のニュースなんか、大体聞き流すだろ?「言い訳しないの」………でだ、まぁ、話を戻すとだな。お前の母親の命は向こうの都合次第で何時でも消せるんだよ」

 

「そんな、でも裁判だって有るのに」

 

「そんなもん、獄中で自殺でも病死でも適当に理由つけちまえばいくらでも偽造し放題だ。死人に口無し。俺だったらそうする」

 

「そんな。じゃあママは………」

 

自分の母親の死が迫っているのを実感してしまったのか、顔を真っ青にして、今にも崩れ落ちそうになる。

今俺の言った言葉は実際にデタラメだ。

向こうにしても神崎かなえは手離したく無いはずだ。

だけど、アリアの方にあり得ない話では無いと思わせる事が大事なのだ。

目の前の希望は俺達だけ。

そう思わせる事で他の選択肢を潰す。

そして、万が一の裏切りも出来なくする。

だから奴隷なんだ。

今は、此しかない。

 

「言ったろ。裁判ごっこだってな。法律に頼ってたら何時までたってもお前の母親は助からん。………だから、俺達が協力してやるって言ったんだろ」

 

「奴隷になれって言ったわよね?私にどうして欲しいの?」

 

半ばやけになったのか此方を力なく睨み付ける姿は本当に子供の様だった。

良いね本当に。

エルの持ってきた情報通りの性格だ。

プライドが高くて子供ッぽい。

不幸にも、ホームズ家の悪い所を受け継いだ出来損ない。

少し似てるかもな、正義感を失った遠山家の出来損ないの俺と。

ちょっとだけ、親近感沸くよ。

まぁ、どうでも良いけど。

 

「簡単だ。俺達のやることにどんな事が合っても目を瞑れその変わりに、俺達がお前と組み神崎かなえを救ってやる。勿論報酬付きで」

 

「……いくらよ」

 

「チップで良いよ。ただし払わないなんてケチすんなよ。貴族様なら、其処らの人より持ってるだろ?」

 

神崎は、数秒手を顎に当てて考える素振りをしてから。

 

「そっちも手を抜かないでよ。私『無理』『疲れた』『めんどくさい』この言葉が大嫌いなの」

 

「残念だな。無理、疲れた、めんどくさいは俺の大好きな言葉だ。急ぎ過ぎると必ず怪我をする。その言葉を使って休憩したいのさ」

 

「やっぱり、あんたとは仲良くなれそうにないわ」

 

「じゃあ母親見捨てるか?」

 

「其で困るのはあんたでしょ?」

 

互いに睨み合い今にも撃ち合いそうになった所を

 

「あんたら、ケンカするんじゃないよ。今、折角和解しようって所でしょ」

 

「トオヤマ、此はビジネスだ。アリアは、念願のパートナーと母親の救出を、僕達はカナエさんと金、その他諸々其お互いに手に入れて、皆ハッピーエンドだ。何か不満は有るかい?」

 

 

少し頭に来ていた、俺に菊代とエルが間に入りその場を納める。

其により冷静に戻った俺は。

 

「悪かったわよ。話は其だけだ。くれぐれも俺達の邪魔はするなよ」

 

「一応これ私達の連絡先仕事の時には連絡して」

 

菊代の渡した連絡先の書かれたメモを引ったくるようにして受け取った神崎は

扉を開けて閉める間際に

 

「明日………会わせたい人がいるわ。お昼頃あんた達の所に行く。其だけ」

 

ピシャリと勢い良く扉が閉まるのを見て

 

「此で良いか?エル」

 

「まぁ、結果的には良いんじゃないかな?」

 

「何で交渉がケンカ腰になるのよ」

 

「和解しろとは言われたが悪魔で表面上だ。様は神崎かなえに接触出来ればいいんだから。ギブアンドテイクの関係を作れば其で良い其に、和解なんて結局どちらかが多く要求すんもんだろ?」

 

「確かに、そうでしょうけど……」

 

そう。ギブアンドテイクなんだ。

俺達は、【武偵】

武偵は、金で動く。

金を多く積んだ方に味方する。

其はヤクザも一緒だ。

武偵とヤクザは紙一重。

やっている事は基本同じ。

そして、捕まる側と捕まえる側でも有る。

俺達は武偵だが、ヤクザだ。

捕まえる側と掴まる側の間にいる。

其処は変わることの無い事実だ。

だから、神崎と深く関わる事は出来るだけ避ける必要が有るんだ。

だから、此で良いんだ。

少し仲悪い位でちょうど良いのだ。

 

「じゃあ、俺はもう行く。もう、此処で寝てる必要も無いからな」

 

「トウヤマ怪我の方は?」

 

「何ともねぇよ。強いて言うなら、やっぱり口内炎だな」

 

「あんた。交わすって選択肢は無かったの?」

 

「今思うとバカな事したって思うよ。昔、白雪と一緒に閉じ込められた倉を燃やした時の次に反省している」

 

「君の無茶苦茶は子供の頃からだったんだね」

 

「理不尽に白雪を閉じ込めた大人が悪い。だから、意地でも花火見に行ってやろうと思ってな」

 

まぁ、結局失敗したが。

 

「ま、何にしても後は峰に欠片を渡すだけ」

 

「だな。俺達が鳳復活させても意味は無いからな【緋鳥】と【眠り姫】の方がよっぽど価値が………あれ?」

 

「どうしたの?」

 

俺は、全身のポケットをまさぐるが無い………無いぞ。

バカな。ちゃんと爆弾から取り出して神崎と戦う前に胸ポケットにしまったはず。

 

「トウヤマ、まさか……」

 

「いや、いくらあんな爆風だからって……」

 

「あなた方の探し物は此ですか?」

 

何時の間にか開いていた扉には肩にに鞄の様にSVD―――ドラグノフ狙撃銃を背負い此方をじっと見つめてくるガラス細工の様な瞳そして、人形の様に感情を見せない、その立ち振舞い。

 

「お前は、狙撃科(スナイプ)の」

 

一目で誰だか分かった。

だが、其よりも気になるのは、彼女の右手に持っている緋色の宝石……欠片【カラット】だ。

何でお前が持っているんだ、レキ。

 

「あんたぁ、良く此処にのこのこ現れたわね。バスじゃあ遠山を撃ったくせして」

 

静かに、俺の隣で殺気を放つ菊代は、右手ベレッタM92FSを目の前のレキに向ける。

俺が今目の前のレキに撃たれた?

車じゃなく。

じゃあ、あの時のは狙撃だったと言うのか?

レキは其を否定する様に首を左右に降ると。

 

「私が撃ったのは爆弾です」

 

「あんたねぇ……いくら【ウルス】だからってふざけた真似を」

 

「―――風が困惑しています」

 

菊代の殺気を無い物の様に扱い、レキは坦々とまるでロボットの様に感情が無いような声で車のナビの様に言葉を発する。

 

「この欠片は、皆さんが持っていて良いものでは有りません。其と」

 

顔を少しだけ傾けて俺と目を合わせたレキはやはり感情の込もっていない声で

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「遠山さん貴方は【偽者】ですか?【本者】ですか?」

 

「え?」

 

その質問は、静かに、そして坦々と、俺の心を抉って来た。

 

 




奴隷と主人プレイだったら主人を選びたいですね。
奴隷にあんな事やこんな事を………
けど,奴隷も捨てがたい。
特にピンクのツインテの人に奴隷になれと言われたい。

………すいません黙ります。


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18 小さな子には飴玉とヌイグルミを

この金次君はAAの方の知識は無いと言う設定です。
後、今更ですが金次君の原作知識はおぼろげと言う設定です。
ご理解の方どうか宜しくお願いします。


『偽者ですか。本者ですか?』

 

その言葉に、俺は

 

『諜報科2年の遠山金次だ。………勿論本人だ。特殊メイクに見えるならこの顔を引っ張ってみるか?』

 

この言葉にレキはフルフルと首を降ると、そのまま何も言わずに出ていったのだ。

欠片を俺達に本投げてから。

いったい何をしたかったのだろうか?

其に入れ替わるようにして入って来た峰理子が報酬の金を持って来て俺が欠片を渡して終わったのだが、何処かぎこちなさというか違和感が拭い切れなかった。

 

だが、危機回避とでも言うのだろうか?

偽者と言う言葉が俺には、何よりも恐ろしい言葉に感じたのだ。

何故なら俺は、紛い者だから。

物でもなく者。

少なくとも人であると言う所だけは譲れない。

だが、俺が遠山金次で合って遠山金次ではない事は確かだ。

正確には俺は、赤子の遠山金次に憑依し遠山金次の体を寄生虫の様に、乗っ取った誰かさんなんだから。

どうして、俺が遠山になったのかなんて考えるだけ無駄だと思って、考えるだけめんどくて疲れるだけだと、割りきっていた。

そして、遠山金次であることを受け入れていた。

だが、無理だった。

雨が降ったら雨を楽しめと誰かが言ったが、限度と言う物が有る。

だから、両親が死んでまだ、この頃はイ・ウーに関わってはいなかったんだろうが、仲の悪かったクソ兄貴が段々家に帰って来なくなって、何となく嫌な予感がして中学では菊代と色々合って菊代の家で中学卒業まで、居候して、家賃変わりに色々手伝って、その間に何時の間にか、組のメンバーにされていて、其で良いと思っていた。

兎に角、クソ兄貴と原作に関わりたくなくて、そして、遠山金次でいたくなかった。

其に【チャンス】だとも思っていたから。

彼処だけが、白雪の願いを叶える事の出来る近道だったから。

遠山金次でいることを一時的に選んだ。

 

だが、どんなに、川が何本に別れていても、やがて海に行き着く様に神崎・H・アリアに関わってしまった。

何と情けない。

今までのは一体なんだったのか。

電話レンジ合ったら直ぐに使いたい。

 

とまぁ、そんな事を考えていたら勿論モヤモヤして眠れなかった訳で、何時の間にか朝になってるわ、風魔が俺のいないのを良いことに、空き部屋の一つに畳を敷いて自室にしてるわ。(合鍵渡してから、ちゃんとお仕置きはした)

白雪がいないから、何処に何が閉まってあるのか分からんわ、探してる間に小型カメラが大量に見つかるわ。

そもそも一緒に住んでるのだから、カメラ仕掛けなくても良いのでわないだろうか?

なんてそうこうしてる間にアリア(神崎かなえと被ってややこしいからこう呼んでいる)が迎えに来て菊代とアリアにほぼ引き面れる様に車に押し込められてそのまま、神崎かなえのいる新宿警察署まで、来たのだが、どういう訳か菊代曰く『他にやって貰うこと有るから待機其と時間になったらの迎え』と言われて現在菊代が、制服に付けた小型カメラに映った神崎かなえとクレフトをサーバーに、潜り込ませて警察署内地図と監視カメラの位置、神崎かなえの牢屋の位置、其と今菊代とアリアと面会中の神崎かなえの生中継を近くのカフェのオープンテラス(流石に警察署近くにいるのは不味いと思ってとサボ………束の間の休息の為)で眠気覚ましのコーヒーを飲みながら見ているのだが、

 

 

「なぁ」

 

「はい」

 

「何でいるん?」

 

「貴方が此処にいたからです」

 

「理由になってねぇよ……て言うか、何で他に席空いてるのに相席してるんだよ」

 

「風がそうしろと言ったからです」

 

「なんつー便利な台詞だよ。レキ」

 

今、目の前にどういう訳か、レキがいる。

其も何かを注文する訳でもなく、ただ真正面に座って此方をじっと見ている。

特に何を言ってくるとかではなくじっと見つめてくる。

何処のホラー映画だよ。

其に

 

「ウルスはこの件に関しては傍観を決め込んでいると星伽の巫女達から、聞いていたんだがな………違うのか?璃巫女(リミコ)蕾姫(レキ)

 

「風は、まだ動くべきでは無いと言っています」

 

『まだ』か。

動く準備をしていると捕らえても良いのだろう。

 

だけど

 

「お前達がどう動こうと興味ねぇよ。と、言うよりお前らと関わると星伽が良い顔をしないんだ。其に、昨日のお前の行いは警告と捉えるが良いよな?」

 

そう言うとレキは数秒間黙ってから、こくりと頷いた。

ウルスは、いったい何を考えているんだ?

 

因みに、ウルスとは、白雪から聞いた話だと、元々は、源義経改めチンギス=ハンの末裔レキはその姫君なんだとか。

んで、その源義経が、日本を離れるのを津軽からコッソリお手伝いしたのが、星伽なんだと言う。

何でも、ロシアとモンゴルの国境付近、バイカル湖南方の高原に住む少数民族で優れた弓や長銃の腕を恐れられた傭兵の民だったが、次第に数を減らし今ではもう47人しか生き残りがいないと絶滅の危機に反しているらしい。

更に不思議な事にその全員が女だと言う。

武藤が聞いたら女ケ島は実在した!って喜ぶだろうな。

島じゃないけど。

其にもしこいつらウルスと関わってしまったなんて星伽の耳に入ったら白雪に迷惑掛かるどころか確実に嫌われる可能性だって有る。

其は嫌だ。

そんな事になったら直ぐに首を括るね。

 

『神崎。時間だ』

 

イヤホンから俺の耳にその言葉が届き、ふと、視線をPCに向けると、

 

『やめろッ!ママに乱暴するな!』

 

二人の管理官に腕を捕まれ面会室の扉の奥へと連れて行かれ其に飛び掛かるように分厚いアクリル板を何度も叩く姿が菊代の視線で写し出される。

正直、今日の夜にでも個人的に会いに行こうかとか少し考えていたんだが、今日は悪魔で顔合わせだ。

病院のお見舞いと同じでぞろぞろと大勢で行くのは向こうにも迷惑だろう。

かなえさんのお部屋にお邪魔するのはまたの機械でも良いか。

この様子だと、かなえさんの方も口を閉ざすだろうし。

其に、先程から会話を聞いていれば、どうにもかなえさんは裁判を望んでいないようだったからな。

まるで、小鳥が扉の空いたカゴから出ようとしないように。

こりゃ時間が掛かりそうだ、裁判ごっことかイ・ウーとか【色金】とか抜きにして考えても。

菊代がアリアを押さえているのだろう。

最早アリアの私服の生地で画面が多い尽くされたのを見てから。

PCを閉じて後ろを向き道路を挟んで直ぐ目の前に立つ警察署をチラリと見てから。

席を立ち会計を済ませて駐車場まで来たのだが。

 

「おい」

 

「はい」

 

「何で着いてくる?」

 

「…………」

 

「何でかと聞いているんだ」

 

「…………」

 

「何か言ったらどうなんだ?」

 

「…………」

 

レキは何も言わずに、後ろからジーと言う文字が頭の上に見えそうな位此方を無言で見詰めて来る。

 

『貴方は偽者ですか?』

 

その言葉がまた頭の中で何回も繰り返される。

俺は、其から逃れるようにして車に乗り込む。

昨日の事も合ってどうやら俺は、アリアのとはまた別の苦手意識を持っているようだ。

 

レキから逃げるように扉を閉めようとした時に

 

「気を付けて下さい。良くない風が吹いています」

 

「………今、正にそうだろうな。…………なぁ、俺からも質問良いか?」

 

レキは、無言でこくりと頷いた。

 

「お前は、いや……お前らは『銃弾』か?『人間』か?」

 

「銃弾です」

 

即答だった。

其が当たり前と言うように。

実際、何でこんな質問をしたのか、質問した俺自身も分からない。

だけど、何か質問して置かなきゃいけない気がした。

 

「そうかよ即答か。何時か、答えが変わるのを待ってるぜ」

 

そのまま扉を閉めその場を去ったのだが、バックミラーに写るレキの姿が妙に気になった。

 

 

 

 

「ちょっと、遅かったね」

 

「悪い。混んでてな」

 

「信号挟んで直ぐでしょうに」

 

「やることはやったから安心してくれ」

 

 

警察署前に来て、その場に待っていたのは、目を細めて俺の事を怒る菊代と下を向き暗い表情をするアリアだった。

 

運転が菊代に変わり暫く無言のドライブが続いたのだが、なんとまぁドラマ見たいにタイミング悪く隣の道路に中の良い母と娘の乗った車が停車したのだ。

 

何気なく窓の外を見ていたアリアは、次第に赤紫(カメリア)色の目から静かに頬を伝って真珠見たいな雫が落ちる。

 

「ひぐっ…………くっ……ママ……」

 

 

声を殺して泣いている事を悟られたくないのか必死に目元を押さえている姿が鏡に写る。

 

菊代はチラリと鏡に写るアリアを見てまた視線を戻して運転を再開する。

気を効かせて気がつかないフリをしているのだ。

こう言う時に下手に声を掛ければ帰って逆効果になってしまう。

菊代は其を一番良く分かっているから。

 

だが、俺は、どう言うことなのだろうか?

さっきから泣くアリアを見ていると落ち着かないのだ。

別に変な意味ではない。

なんと言うかこう、前にもこんな光景を見た気がするのだ。

こんな子が泣いている姿を。

 

だからだろうか、気がついたら。

 

「菊代。悪いが彼処で車を止めてくれ」

 

「…………分かった」

 

車を脇に止めて、そのまま外に出ると小雨になっていた。

もうすぐどしゃ降りになるだろう。

5分程して、車に戻ったがまだアリアは、泣いていた。

体育座りで先程よりも声が大きくなって。

だが、その両手には菊代が何時も持っている桜が描かれた薄ピンクのハンカチが握られていた。

俺は、手だけをアリアの方に向けて

 

「どうしたんだポン?」

 

「え?」

 

話掛けるとアリアは顔を起き上がらせてそのまま目を大きくて見開いて驚いていた。

まぁ、そうなるよな。

だって俺の手は今

 

「アリアちゃん元気無いポン?オイラが相談に乗ってやろうかポン?」

 

ライオンとヒョウが混じった様なマスコットレオポンのパペット人形が嵌められている。

其を動かしながら、腹話術で何処かの遊園地のバツイチゲスコットの羊くんの『ロン』を『ポン』に変えて喋る。

声も拘って再現した。

効果は有ったようで、先程まで泣いていたアリアの目はまだ水滴が残っているもののもう泣いてはいなかった。

昔、風魔にやった方法が何処まで通用するのだろうか?

 

「アリアちゃん泣いてるのかポン?」

 

「な、泣いてなんか、いないわよ」

 

アリアはレオポンと視線を一度あわせて直ぐに目を反らしてしまった。

こう言う時は

 

「じゃあ、オイラからプレゼントあげるポン」

 

「……プレゼント?」

 

「元気になれる魔法のお菓子だポン!アリアちゃんに食べて欲しいポン!」

 

差し出したお菓子と言うのは、このレオポンを買った玩具屋のレジの脇に置いて合った飴玉だ。

因みに味はももまん味で他にもたこわさ味とか白子ぽん酢味鯖味噌味何かも有ったから驚きだ。

味は保証しない。

何処かの魔法学校見たいに耳クソ味とかは、無かった。

少し残念。

 

アリアは、恐る恐るその飴を受け取って袋を破くと、そのまま口の中に入れて。

 

「美味しい……」

 

美味いんだ………アレ。

ももまん味(新発売)と書いて有ったから何と無く買ってしまったが。

まぁ、美味しいなら良かった。

 

「どう?元気になったかポン?」

 

アリアは、下を向き肩を震わせていた。

怒っているのであろうか?

『ミー』とか『モッフ』の方が良かったのだろうか?

 

そんな心配を余所に、ガッ!とレオポンの頭を突然アリアが掴みスポッと俺の手からアリアにレオポンが渡り。

 

「可愛い………!」

 

ギュ~~~~と、レオポンの頭の所を力いっぱい抱き締めるアリアの顔は

 

「フフッ…」

 

年相応の子供が見せる輝かしい秤の無邪気な笑顔だった。

俺は、アリアの横にそっともう一つ買っておいた小さなレオポンのストラップを置いた。

 

「あんた、表面上とか言ってなかったけ?」

 

運転をしながら後ろのアリアに聞こえない様に小声で菊代が聞いてくる。

その声は何処か嬉しそうだった。

 

「ただのサービスだ。車内で泣きわめかれたら溜まったもんじゃないからな」

 

「何だかんだ言って優しいんだね」

 

「だから、サービスだ」

 

「照れてる?」

 

「…………照れてない」

 

俺の最後の反論は、どしゃ降りとなった雨の音と、車のエンジン音に掻き消されてしまった。




因みに私は飴で言うと、男梅が好きです。


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19 やはり俺の親友は間違っている。

もう5月ですね。

ちょっとした趣味で、新しく待受画面を消失の長門さんにしようか、俺ガイルにしようか、初心に帰ってキョン子&一姫ペアにしようかと悩む今日この頃。

そう悩むのも趣味の醍醐味ですかね。


泣き疲れてしまったのだろうか?

眠ってしまったアリアを女子寮にまで送りどういった訳か戦妹の間宮が迎えに来てさっさと行ってしまった。

そのさい、菊代に「アリア先輩は渡しません!」

とか、言っていたな。

菊代凄く混乱してたけど、菊代の戦妹だって似たような者だからな?

知らぬが仏だけどさ。

自室に戻ると奥からシャワー音が聞こえて来た。

風魔が入っているのだろう。

女子寮に部屋有るんだからそっちに行けよとたまに思う。

 

ドカッとソファに倒れる様に座ると何か尻の方に違和感を覚えて探ってみると

銃弾が俺のポケットに入っていた。

さっきまで混乱してて全く気付かなかった。

 

「遠山、それって……」

 

隣に座った菊代が驚いた顔で俺の手のひらの銃弾を除き混む。

 

「ドラグノフの7.62㎜モシン・ナガン……………あんたまさか、レキに!」

 

「会ったよ。今日菊代を迎えに行く前に」

 

「何で其を言わなかったの!怪我は?何されたの!」

 

「何もされてない。ただ、妙な事を言われたよ」

 

「妙な事?」

 

「『良くない風が吹いてる』だそうだ」

 

「風……何の事?」

 

「其に付いては、ボクも是非聞きたいね」

 

「…………気のせいか?後ろから変な声が聞こえてきたんだが?」

 

「遠山、絶対に後ろを見ないようにね」

 

「何でだよって、おい!何て格好をしてるんだよ!」

 

振り向いた先には、俺のワイシャツを羽織って少し濡れた髪をタオルで包んだエルだった。

 

「やぁ、トウヤマ体の方はどうだい?」

 

「そうじゃねぇだろ!何で俺の部屋にお前がいる!何で俺の服を着てる!下はどうしたんだ!下は!風邪引くだろ!」

 

「遠山、怒る所間違ってるよ」

 

ソファ越しにエルに疑問の数々を言う。

てか、弱冠湿っているのか、ピンク色の下着が見えてるんだよ。

ヒスりそうだから言ってるんです。

俺が優位つヒスる女子は三人。

菊代、白雪………そして、エル。

だからもうさっきから血流が煮えたぎる熱湯に全身を突っ込んだみたいに、酷く熱いのだ。

エルはそんなことはお構い無しに、此方まで来てもう一つの一人用ソファに座り

 

「心配してくれるなんてとても嬉しいよ。ありがとうトウヤマ。其と、そんなに沢山に質問しないでくれ、混乱してしまうよ」

 

「毎回毎回人をからかって置いて、良く言うよ。どうせ、ヒスらせてリハビリ要求しようってんだろ?バレてんだよ」

 

「否定はしないさ。お詫びに君の愚痴位は聞くとしよう」

 

「お詫びになってねぇよ。しかも、愚痴の9割りお前の事だし………取り合えず最初の質問から答えてくれないか?」

 

「良いよ。あ、因みに下は履いているから安心してくれ」

 

「見せるんじゃないよ!後、遠山も見るな!」

 

チラリとシャツを捲って来たのと同じタイミングで菊代が俺の目を隠す。

ちょっとだけ残念な気持ちだ。

ちょっとだぞ?男なら当然残念がるだろ?

 

「まず最初の質問だがとても簡単だ。君の妹が入れてくれたんだよ」

 

「フ・ウ・マーーーーー!ちょっと来い!」

 

「あ、妹さんなら用事が有るみたいでもう出掛けたよ」

 

「嘘だろ。丸投げかよ…………後で白雪に頼んで、おかわり五杯の所を二杯にしてやる」

 

「おまけに、イキナリの雨でね。すっかりびしょ濡れだったから入る許可も貰ったのさ」

 

「はぁ~、まぁ、シャワー位なら別に良いぞ」

 

風邪引かれても困るからな。

色々と面倒だし。

 

「其にしても、帰ったんじゃなかったの?」

 

菊代が、エルに疑問を言うとエルは欧米風に肩を技とらしくすくめ

 

「帰るなんて一言も言ってないよ。ボクは観光も兼ねて日本に来ているんだから」

 

「何時までいるつもりだよ?」

 

俺がジト目で言うと、エルは、指をピッと人指し指と中指をだしピースの形を作りだす。

 

「二日か?」

 

「二週間だよ。二日な訳無いじゃないか。折角無理してここまで来たんだ。もっとゆっくりしたいよ」

 

「ならゆっくり観光してこい。北海道とか沖縄とかが、お勧めだぞ。俺も一度は行きたいと思っている所だからな」

 

「ここは東京じゃないか………さらっと追い出そうとしないでくれ」

 

「今とても、忙しいんだよ。そもそもお前が持ち出した話だろ」

 

「分かっているさ」

 

「所で何でここに?」

 

「いや、最初は君達の事務所に行こうかと思ったんだけど、良く考えたら君達普段は、寮にいることを思い出してね。此方にお邪魔したわけさ」

 

エルはあざとく此方にウインクなんかをしてくる。

此が一々様になっているのだから凄いものだ。

 

「其にしても君は凄いね」

 

「なにがだよ?」

 

そう聞くと、エルは口元に手を当てててクスクスと笑いながら

 

「まさか、キクヨだけじゃなく戦妹のフウマとまで義兄妹の契りを交わしてるなんて思わなくてね。キクヨが姉でフウマが妹とは思わなかったよ」

 

「まぁ、普通はそう思うだろうな」

 

戦妹を本当の妹にするなんていったい誰が思い付くだろうか?

多分俺だけだろう。

エルは其処が心底可笑しかったらしい。

けど

 

「アイツは、案なんでも才能の有る立派な風魔の一党だ。今の内に〈家族〉に加えて置きたいと思うのは当然だろう?」

 

「そうなのかい?う~んだとすると、ますますここ最近の君の行動が不思議でしょうがない」

 

「不思議?」

 

聞き返すと、エルは猫背になってテストの答えが分からない学生の様に額に指を当てて

 

「何て、言ったら良いのか、ちょっと困るけど………」

 

「何で、遠山がバスジャックをしたときに神崎・H・アリアを傷付けず天津さえ庇ったのか?でしょ?」

 

「うん。そうだよ、付け足して言うと、『魔宮のサソリ』にフウマがやられたのだって特に行動を起こさなかった此は、どういう事なんだい?」

 

「確かにそうよ。普段のあんたなら怒りに任せて直ぐに殺しに行きそうなのに」

 

「俺は、どんな目で見られてるんだよ。否定はしないが」

 

じっ、と記者会見のマスコミのみたいに身を乗り出す二人を交互に見てから

 

「風魔に関しては、アイツの獲物だからだな」

 

「獲物?」

 

「そうだ。風魔自信が言い出した事だ。昔、風魔一党の幼子がサソリ女の毒にやられたらしくてな。俺も使った事の有る毒のレシピを渡したんだと」

 

「其が今回間宮に使われたのね」

 

「マミヤ?…………あぁ、君の探していた一族か」

 

「そうだ。今の所こないだの戦闘の動画を見ている最中だけどよ………」

 

「間宮の〈鷹捲〉は毒では無かった」

 

菊代の言葉にエルが驚いた様で腰を一端浮かして、

 

「其は、本当かい?」

 

「本当よ。最初は、中距離で使える毒手かと、思ったんだけど、拳法の一種みたい」

 

菊代の言う通りだった。

クレフトが上空から、自作の先端化学(ノイエ・エンジュ)の透明になる小形偵察機。

形はス〇吉兄さんもビックリなラジコンヘリだけどな。

其を使って録画をしていた為暗闇でも安心細かな所まで見ることが出来る優れものだ。

此を普段覗きにしか使わないクレフトは実に勿体無い。

 

折角妖、二人とエルがロスアラモスから連れてきたんだから、人工天才(ジニオン)の頭脳をゲームと覗き以外の物に使って貰いたいものである。

まぁ、暫くエルの所で働いていたのだから此くらいは別に良いだろうけどな。

 

「まぁ、要するに、家の可愛い義妹で有る風魔の符丁毒(ふちょうどく)が今の所一番だと言うことだ。まぁ、間宮の技は沢山有る。焦らずゆっくり見て覚えるさ。遠山家の技に対抗できるのは、間宮の技だからな。内蔵を抜き取る技なんて、実に興味深い…………俺の先祖が真似たみたいだからな。其じゃ話を戻そう」

 

エルが前屈みで、スッと右手を上げて『質問!』の意思表示をし。

 

「その毒の事に関しては残念だけど。でも君はフウマが家族だと言うのなら、やはり君が方って置くとは思えない」

 

「だから、言ったろ獲物で風魔自ら言い出した事だと。確かに直ぐに行来たかったが、其は家族のルールに反する」

 

「家族のルール?」

 

「『獲物の横取りはしない事』だ。此は誰にも破らせない鉄のルールだ例え、死にそうになっても手は出さない今回の件は風魔個人の件だからなどんな理由が有っても乱入はしないことにしている」

 

エルはその言葉に考える素振りを見せて数分してから

 

「では、アリアの事に関しての説明をしてほしい」

 

「うっ………」

 

「そうよ。何で庇ってたのよ。死ななかったから良かったけど」

 

「そ、其はだな………その、何て言うか………」

 

俺は、苦虫を十匹位噛み潰したような顔をしながら。

 

「俺にも分からない」

 

「な、え!遠山何をふざけているんだ!」

 

「別に、ふざけてる訳じゃ無い。考えが纏まらないんだ!何で庇ってたのかも。信じてもらえないかもしれないが、なんかこう………本能って言うのか?体が攻撃するのを拒否したみたいに体と頭が別々何だよ!頭じゃ攻撃したくて堪らなかった!なのに、体が動かねぇ!おまけにアイツの声を聞くと、変な声が頭に響く!誰なのかも分からねぇ!だけど間違いなくアリアの声だ!だけど違う誰かさんだ!もう俺だって訳分からないんだ!」

 

「遠山…………」

 

「あっ…………」

 

一気に感情を絞り出すように怒鳴り散らすと背中に心地好い感触が広がる。

菊代が背中を擦っているのだ。

俺は、其により少し冷静さを取り戻し

 

「すまんエル」

 

「いや、此方こそすまない。今の君にこの質問はタブーだったね」

 

「ねぇエル。あんた一応医者でしょ?何か分からないの?」

 

エルは暫く考える人のポーズになってから

 

「幾つか、考えられるがどれも可能性が低いけど、例を上げるとすれば、昔何処かで会ったとか?」

 

「幼少期は、外国に行ったことなんか無いしイギリスじゃお前にずっと付ききりだぞ?」

 

「うん。だから可能性が高い『何か』を知っているとすればウルスのレキだろうね」

 

「レキが?」

 

「今日会ったんだろ?その銃弾」

 

エルは、テーブルに乗せられた銃弾を指差す

 

「あぁ、さっきも言ったが、『良くない風が吹いてる』とか」

 

「恐らく警告と言うところだろ」

 

「二回も警告をするものなの?」

 

エルは首を左右に振りシリアスな声で

 

「いや、一番最初のは『確認』だろうね。僕たちがウルスにとっても良くない物に関わっているかどうかの」

 

「だとすると今日が『警告』だとすると三回目は」

 

「『殺害』ね」

 

菊代のその一言に俺もエルも固まった。

当然だろう。

狙撃手からの殺害予告何て死神が迎えに来たようなものだ。

殆ど逃げ切れん。

 

「だけど、彼女だって一応、日本武偵だろう?流石に殺人何か」

 

「いや、可能性は有るぞエル。日本の武偵だって殺るときは殺る。表に出ないだけで優秀な武偵ならそう言う任務が極秘に来るんだからな」

 

「其はそうだけど」

 

そう。

日本の武偵でも、殺人をする奴は少ないがいる。

其の殆どが国からの極秘任務だったりする。

本来なら武偵三倍刑と言ってどんな理由が有っても日本の武偵が殺人を犯せば問答無用で死刑となる。

が、暗黙の了解によりバレなければ問題ないと言うのもまた事実。

問題と言うのは問題にしなければ問題にならないのだ。

俺とか正にそれだ。

そして恐らくレキも。

アイツは殺る奴だ。

そう言う『目』をしている。

 

「だが、暫くは仕掛けてはこない筈だ。具体的には、宣戦会議まで」

 

「何で分かるんだい?」

 

「警告をしてきたんだ。まだ俺達を泳がせたいんだろう。じゃなきゃ幾らでも殺る機械はあった其をせず接触してきたというのならまだ時間は有るって事だ」

 

「君がそう言うなら信じよう。危なくなったら祖国に帰れば良いしっていひゃい!」

 

「堂々と高みの見物宣言か?良い度胸してるな?」

 

「わひゃった!わひゃったはら!ほのてをはにゃせ!」

 

俺は、そんなエルのホッペを摘まみ上げる。

決行柔らかいな。

突き立ての餅みたいだ。

 

暴れるエルを解放すると摘まみ上げられた場所を少し涙目に擦りながら恨めしそうに

 

「絶対に許さない。今度リハビリで女の役をやらせてやる。親子設定で母親役」

 

「其れだけは勘弁してください。何でもします。ご免なさい俺がやり過ぎました」

 

「あんたら…………」

 

俺が、机に両手を乗せて土下座擬きをしその横で菊代が呆れたように、俺達二人を見る。

しょうがないじゃん。

また、クロメーテルになるのは嫌なんだから。

 

「ん?今、何でもするって言ったね?」

 

そんな俺をお構い無しにエルはニヤリと俺を見て笑う。

 

あ、何か嫌な予感。

 

「まぁ、出来る範囲でならな」

 

「そうか。そうか。安心してくれ。その、出来る範囲で頼むから」

 

この時俺は、あぁ、やっぱりエルはエルなんだなぁ~と改めて認識することになる。

何故なら俺の親友は、

 

「泊まる場所無いから、ここに住んでも良いかい?お土産として設け話も持って来たから」

 

「今すぐに、イギリスに帰る事をオススメする!」

 

 

俺以上に我が儘なんだからな。

だが、俺は、又しても油断していた。

こいつが持ってくる話なんて、基本、厄介事なのだと言うことを。

良く考えれば分かるんだ。

俺と菊代に変な二つ名を付けたのは、まげれもなくエルなんだからな。

 

ハァ~と溜め息をついた頃俺の家に一本の電話が鳴り響く。

俺は、受話器を受け取り

 

「はい。遠山です」

 

『お頭!スイマセン!』

 

キーンと耳に響く野太い声に一瞬驚くが、直ぐに冷静さを取り戻す。

この声は分かるぞ。

 

「レオンか。どうした?」

 

『いや、本当にスイマセン!』

 

「謝ってばかりじゃ分からない。何が有ったんだ?」

 

『其がクレフトの監視網から――――――

 

 

 

 

 

 

    リュパン家の者が消えました!』

 

 

「何?」

 

 

 

その電話がまた新しいトラブルの種となったのは確かだ。




こないだ友人に

「これさ、『金次に転生しました』ってよりわさ『金次に憑依しました』じゃね?」

と、言われました。

う~ん、確かにそう言われると、そんな気もする。
でも、転生で間違ってはいない気するし。
憑依も間違ってはいないし。

タイトル変えた方がしっくり来ますかね?

※アンケートでは有りません。


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20 好きにも色々有ってだな………

皆さんはGWは、どう過ごしましたか?
因みに私は、鎌倉の江ノ島に行って来ました。
生しらすにしらす料理の数々まぁ、旨かったです。

体重増えました。
何故か私が全部奢りました。

でも『ハナヤマタ』巡り楽しかったです。


「逃げられたって言いたいのか?」

 

『俺も見てたんですが、一瞬【複数のリュパン】が映りまして』

 

「その間に消えた訳か」

 

何て事だ。

と言う事は恐らく白雪の発信器だってもう気付かれているはず。

俺達のましてやクレフトの監視網を逃れるとは、思ってもいなかったぞ。

 

『あ、でも事務所の玄関に妙な紙が落ちてまして』

 

「妙な紙?なんだ其は?」

 

『はい。キスマークの付いた厚紙です』

 

「キスマーク?」

 

「お別れのキスと言うことかな?だとしたらとてもロマンチックじゃないか」

 

「何時から聞いてたんだよ?」

 

「最初から」

 

気が付いたらエルが隣で耳を済ませていた。

全く気付かなかった。

 

ん?お別れのキスか。

もしかすると

 

「レオンその紙何か書いてあるか?」

 

『いえ、何も』

 

「炙ってみろ」

 

『え?』

 

「ライターか何かで炙ってみろ。今すぐだ、急げ!」

 

『は、はい!直ぐに!』

 

電話の向こうでレオンの足音が遠ざかるのを確認し

 

「トウヤマ、何で炙るんだい?」

 

隣で聞いていたエルは先程の会話になにか疑問が有ったらしい。

てっきり気付いたのかと思ってた。

 

「峰さんは、あ~、もう名字で呼ぶ必要も無いか。理子の奴はゲームが好きだそれもギャルゲーに恋愛ゲーにエロゲー……兎に角美少女ゲームが好きだそれもフリフリの似合う」

 

「何を言っているのかサッパリ分からないよ」

 

「だからな。これも、バスジャックも、何かしらのゲームを元にしたシナリオだって事だ。勿論俺のバイクジャックもな」

 

そうだ、これもゲームに有りそうな展開で考えれば良いんだ。

アイツは公平にヒントを残したんだからな。

 

「だとすると、前に君とやった脱出ゲームとか推理ゲームとかに当てはまりそうだね」

 

「どっちもリアルゲームじゃねぇか。嫌なこと覚えてるな」

 

てかあれ、ゲームじゃねぇよ。

大変だったんだからな?

エルと菊代の提案で何回三人とも危ない目に合ったことか。

妙な建物に閉じ込められたり、お前らに裸でベットに繋がれたり、変な事件に巻き込まれたり起こしたり、揉み消したり。

今思い出しても決行普通じゃない。

 

『お頭終わりました』

 

「おぉ、終わったか。で何て描いてあるんだ?」

 

『えっと、やっはろ~愛しのキー君!このラブレター読んでくれてありがとう!早速だけどリコリンは』

 

「ちょっと待て」

 

『はい?』

 

「すまないが、要点だけ言ってくれ、正直棒読みだって分かっていても鳥肌が立つ」

 

『………分かりました』

 

別に悪気が有るわけでは無いのだが、男の声でしかも妖怪青ツナギみたいな声でさ、今のを電話越しに言われるのは正直キツい。

これ以上は俺のSAN値に関わる。

すまないレオン

 

『この手紙を読んだら直ぐに台場のクラブ・エステーラに一人で来るように』

 

「エステーラか……分かった。クレフトにはそのまま台場のエステーラを覗く様に言っておけ」

 

『分かりました。お頭………いえ遠山兄貴お気をつけて』

 

「懐かしいな。そう呼ばれるの」

 

『何となく呼んでおいた方が良いと思いまして其じゃ』

 

電話が切れたのを確認しそのまま俺は、玄関に向かおうとしたら

 

「待て、トウヤマ」

 

ガシッとエルが俺の服の裾を掴む

其に少し驚き足を止めて

 

「なんだよ」

 

「此は罠かも知れない。リュパンってこないだの子だろ。リュパン家の事なら僕だって無関係って訳じゃない其なりに知っているつもりだ」

 

「まぁ、確かにな」

 

エルの言う通りだろう。

彼女達の関係を遡ればエルの言う事は正しい。

警戒するのは当たり前の事だ。

 

「だが、行くなってのは『無理』だ」

 

「何故!元を辿れば相手は君を襲ったんだぞ!いくら客だったからと言っても、これ以上は言うことを聞く必要は無い筈だ!」

 

「あぁ、全く無い。そして客じゃない」

 

「じゃあ何なんだ?」

 

「《家族候補》さ」

 

「候補………リュパンを仲間にすると今君は言ったのかい?」

 

掴んだ手を小刻みに震えさせ、明らかに動揺した表情で此方を見てるエルに

 

「安心しろ」

 

「あっ……」

 

エルの方に向き直りそっと、手を握り昔と同じようにしゃがんでエルと視線を同じにし

 

「理子はもう条件を満たしている。其に理子を、俺達側に付ければ目的の大きな一歩となるのは間違いない。俺達には理子の存在が必要だ」

 

「そうだとしても…………やっぱり心配だ」

 

「お、おい。エル」

 

しゃがんでいた俺に突然強く抱きつくと言うよりは絞めるみたいし

 

「トウヤマ、僕は君の言うことなら何でも聞くと前に言ったね。それこそ君が僕に死ねと言うなら喜んで僕は死ぬ気でいる」

 

「ばかっ!何言ってるんだよ」

 

「だけど、君はそんなことは言わないと分かっている。君は心許した人には優しすぎる……それこそ自分が家族に《依存》してるなんて自覚も無くね」

 

悪い冗談だな。俺は、別に依存何かしてないぞ。

俺の何処をどう見たら依存してるように見えるのだろうか?

分かる人がいるなら今すぐ此処に来て俺に説明して欲しいものだ。

 

「だけど、其は僕も同じなのかも知れない。僕も君達に依存してるんだ。キクヨくんやトウヤマと過ごした時期が一番充実していた。君達がいなくなってから僕は向こうじゃ心許せる相手は一人もいなかったからね。ずっと、あの頃を夢見ているんだ。…………また君が消えそうで今とてつもなく怖い」

 

ギュと更に腕に力を込めて俺の肩に顔を押し付けて来る。

確かに、俺にとってもあの時が一番濃かったと言えるし楽しかったと言えば楽しかったと答える事が出来るだろう。

三人で無茶やって危ない目に合って色々と有りすぎた。

何より彼処で俺の常識も価値観もガラリと変わったんだからな。

 

「古臭い言い方だが、俺は、何処にも行かないさ。直ぐに戻る」

 

昔やったようにそっと手を背中に回し軽くぽんぽんと叩く。

何か出会った秤の時を思い出す。

エルの父親が生きていた時こんなことしたなぁ。

 

「其に、まだお前の設け話だって聞いていないんだ。また俺達で山分けして余ったら昔みたいに軽くパーティーと行こうお前の歓迎会もまだしてないしな…………と言うのを忘れていた。日本へようこそエル」

 

 

数分は講していただろうか、やがてエルの方から離れ、テーブルの脇に置いて合った鞄から一枚の紙を取り出して俺の手に置き握らせる。

 

「先程君に話した儲け話だ。家族として迎えたいんなら此を持っていけ。リュパンにとってこの中身は天から降りた蜘蛛の糸に見える筈だ。どの道戦う事にはなりそうだけど其処は塵も積もれば大和撫子だっけ?地道にやるしか無いだろう」

 

「途中間では合っていた。正解は、塵も積もれば山となるだ」

 

エルから受け取った紙に書かれた内容を見て―――――あぁ、なるほど。

 

「《人狼の生け捕り》とは、相変わらず無茶話を持って来るな親友」

 

「気に入って貰えた見たいで嬉しいよ親友」

 

互いに時代劇の越後屋と悪代官みたいに、ニヤリと笑い握手を交わす。

エルは何時もそうだ。

毎回俺達を引っ張って結果的に良い方向に進んで行く。

その点に置いては絶対的な信頼が有る。

だから、今回も自然と恐怖とか戸惑いとかが無い。

何となくエルがいるから大丈夫とか心の隅では自然と考えてしまっているのだろう。

何ともまぁ、根拠もヘッタクレも無い話だ。

立ち上がって、受話器の下の引き出しを漁り菊代の車の鍵を取り出して

 

「菊代すまん車借りる!」

 

「遠山ーーー。車使うなら壊さないでよーー!」

 

「分かってる」

 

台所の菊代に声を掛けてそのまま扉を空けようとしたら勝手に扉が開き

 

「あ、師匠何方へ?」

 

「下のコンビニ。其と近いうちに豪勢な飯が食えるから楽しみにしておけ」

 

「御意!」

 

焼きそばパンを袋一杯に積めた風魔とすれ違いながら、下の駐車場へと向かった。

此が最後の会話にならなければ良いなと少し考えた。

 

 

 

 

クラブの駐車場には、来ないだ事務所の前で見たショッキングピンクの改造ベスパが停めてある。

あの派手な色は間違い無い理子のだ。

と言うか間違える訳が無い。

クラブに入ると、バーラウンジで会社帰りだろう若いOLや今時のファションの人達が芸術品みたいなケーキに舌鼓を打っていた。

武偵高の女子生徒もちらほらいるな。

今度、皆も誘ってみようかな。

エルの日本観光も含めて。

 

「キぃーくぅーんー!」

 

奥から小走りでやって来た理子は、この場にピッタリなフリルたっぷりの可愛らしい改造ロリータ制服だ。

もうちょっと服を選んで来るべきだったか。

普通に私服のワイシャツとジーパンで来てしまった。

 

「すまん遅くなった。なかなかヒントに気付けなくてな」

 

「くふ。でも解けたんでしょうそんなキィーくんには、ご褒美でこの勝負服リコリンを好きにしていいのでーす!」

 

「其は、嬉しい来たかいが有るってもんだ」

 

その場で二、三回クルリと回り自然な動作で腕を組んでくる。

然り気無くその豊満な胸を押し付けて来るのはヒスらせたいからですか?そうですか。

 

「こっからは、理子ルートだね」

 

「恋愛ゲームは苦手だが、ベッドイン出来るなら攻略しない訳には行かないな」

 

「流石キィーくん欲望に素直!其処に痺れる憧れる!」

 

「そりぁどうも」

 

 

そのまま理子がリードし店の奥へと進む。

その姿を見た武偵高の女子生徒が此方を見てヒソヒソと

 

「やだ。キンジ、今度は理子ちゃんと付き合ってる」

 

「キンジってチビ専なのかな?」

 

「菊代様や星伽さんもいるからそうじゃないと思う」

 

「マジ引くわー」

 

失礼だなお前らチビ専じゃねぇよ。

純粋にグラマーが好みだ。

悪魔で好みだけど。

今のが耳に入ったのだろう理子が笑みを浮かべて面白そうに

 

「注目の的だねぇ~」

 

「言わせておけよ。話のネタが欲しいだけだろドラマのご近所おばさんと変わらん」

 

理子に案内されて、一緒に入った個室は、アール・ヌーボ調に飾りを施した2人部屋だった。

二人してフカフカした長椅子に座ると、理子がテーブルのモンブランと紅茶を示してウィンクしてくる。

 

「呼び出しちゃったから、理子がぜーんぶ奢ったげる」

 

「お言葉に甘えて」

 

理子はまだ湯気の立ち仄かに甘い匂いを漂わせるミルクティーをどっかの団長様みたいに一気飲みし

 

「ぷは、ねぇキーくん。アリアとはどうなった?」

 

「お前のシナリオ通りに進んだよ」

 

「其は良かった、キーくんはアリアと仲良くしなきゃダメなんだぞ」

 

「なぁ、その事で聞いていいか?」

 

俺は、此処に来るまでの間に浮かんだ疑問を此の場で聞いてみることにした。

 

「何で俺なんだ?先祖云々なら、俺じゃなくて、エルの方が適任だろ?何でわざわざエルに神崎かなえの情報を流すなんて回りくどいことしたんだよ?俺は殆どトバッチリだぞ」

 

「そうじゃないと、理子が楽しく無いからでーす!」

 

即答かよ。

 

でも、と理子がなだれ込むようにして俺に寄りかかりながら

 

「さっすがキーくん。良くリコリンだって分かったね?」

 

「こんなことしてメリットがあるのはお前くらいのもんだ消去法だよ」

 

そう―――結局此処までが、いや、もしかしたら此処から先も理子はシナリオを考えているのだろう。

日本に来た、エルに神崎かなえの事を持ち出しどういう訳か俺が絡む方に持って行けるように。

だけど、きっと其処に誤算が有ったんだ。

俺とアリアが絶対仲良くはならないって言うな。

だから、俺に依頼と言う形でバスジャックに参加させてお互いを接触させた。

その後はエル頼みってな。

からなずエルは俺にこの話を持ち出すと確信が有ったから。

エルは、クレフトからだと言っていたが、少し違う。

理子からクレフトそしてエルとその順番で最後に俺。

理子はクレフトと一緒にいたからな。

菊代も一緒にいたが、こんな風に耳打ちした可能性が出てきたよ今。

グイっと理子の肩を掴み寄りかかった体を戻させる。

 

が――

 

「でも、本題は別なの」

 

「あ?」

 

「ねぇ、キーくん」

 

戻した体をまた此方に密着し然り気無く後ろに手を回し逃げれないように固定された状態で理子は男性なら誰もがくらりと堕ちそうな笑みを浮かべて

 

 

 

「聞かせてよ、キーくんの昔話『神奈川武偵高付属中2年B組集団心中事件』の生き残りの話」




あ、タイトルの方はやっぱり変えません。
正直タイトル変えると色々変えなきゃなのでめんどう何です。
すいません。


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21 病んでいるのは………?

この先は覚悟の有る方達のみ自己責任でお読み下さい。
主人公が兎に角酷いから。
多少今回は読みづらいかも知れませんが、使用です。




うん。
もうあれだ、私から先に言わせて貰う。

「どうしてこうなった?男のヤンデレって、誰得だよ!」


―――――さて、何処から話そうか?

 

あぁ、いや拍手は良いぞ。指笛も要らん。

本当に『良くある』ような在り来たりでつまらない話だからな。

校長の話並みに長くなるだろうから、何か食ったりしながらラジオ感覚で聞いてくれ。

 

て、おいおい、だからって、俺の紅茶を飲むな。

いつの間にか俺のモンブラン食ってるし………器用にクリームだけ。

数分前に奢るって言ってなかったか?

はぁ、全くやれやれ。

 

でだ、この話は結構遡る事になるんだ。

そう、無理矢理武偵中学入れられて、一年と二ヶ月ちょっと過ぎた位だったかな?

小さい頃から仲の悪かったクソ兄貴とちょいとケンカしてな。

家が半分吹き飛んでしまったんだ。

別に冗談じゃないぞ?

事実だからな。

え?何で仲が悪いかだって?

最初は、良くある意見の食い違いだよ。

いや、『遠山家の掲げる正義』と『俺の掲げた正義』が合わないんだ。

要するに価値観の違いだ。

………まぁ、今は、そんなことは良いじゃないか。

話を戻そう。

もう、その頃には、両親死んでてな、まぁ親父の親父つまり祖父の所に住んでいた訳だが。

家破壊のどさくさに紛れて家出した訳だが、勿論行く宛何て有るわけねぇから、少しの金持って適当にそこら辺ぶらついてた訳だ。

出来るだけ遠く遠くって行くうちに、声掛けられてな。

最初は、警察かと思ったよ。

家を出て結構時間立ってもうすっかり暗くなってもうすぐ日付も変わる時だったからさ、補導されるとか思っても仕方無いだろ?

家に逆戻りは嫌だって本気で思ってたからな、巻き込まれたくないし。

………結局今そう言った道を進んでしまっているけど。

あの頃わさ、自分の無力さに本当に嫌気さしてグレてたからな。

力があるのに離ればなれの幼馴染みの願い一つすらかなえられない何てな。

 

 

とりあえず、気絶させて逃げようかなとか考えたんたけど違ったんだよ。

警察じゃ無かったんだよ。

じゃあ、誰だってなる。

どうも遠く遠く行ってる内にその手の人達の縄張りに入ってたみたいで。

分かるだろ?

ヤクザだよ。893でヤクザ。

ああいう人達ってそう言うのにうるさいんだよね。

何か、文句でも言って来るかと思ってたら違ったんだよ。

何て言って来たと思う?

 

『家の島で何してんだ?何処の組のもんだ?』だってさ。

要するに間違えられたんだよ違う組の構成員と。

 

何?目付きが悪いのが原因?

 

………うるせぇなコノヤロー。

これは、生まれつきだよどうしようもねぇよ。

あ、ついでに何か飲み物注文してくれない?

何でも良いから。

 

さて、そのままお縄になって家の中まで案内されてしまった訳だが。

入ってびっくり。

学校何て、殆ど行ってなかったけど直ぐに分かったよ。

同じクラスの女子が其処にいた。

まぁ、つまり今の俺の姉――――菊代だ。

向こうも俺を見てびっくりしてたよ。

まさかの敵さん(と間違えられた)がクラスメイトとは誰が想像できるのだろうか?

まぁ、そんときは現実逃避気味にあぁ、家近いんだな~とか物凄いどうでも良いこと考えてたよ。

勿論そんな状況じゃねぇだろ!って分かってたけど。

んで、菊代も俺に気づいて声掛けて来たんだよ。

そしたら、回りの人達も困惑してさ。

その中の一人が呼んで来たんだろうけど、来ちゃったんだよ菊代のお父さんつまり組長さん。

其で組長に菊代が何か話してたんだ。

あぁ、こいつ武偵だとか言われて殺されるんだろうなぁ。

この手の人達は消し慣れてるもんなとか他人事みたいに考えてたら。

いきなり組長さんが、回りの奴等に俺の縄をほどく用に命令したんだよ。

一瞬何言われてるのかさっぱりだった。

後から聞けば、何でも菊代は俺に庇って貰った事が有ったらしい。

詳しくも教えて貰って無いけど…………何かしたんだと思う。

其で、菊代が何でこの辺彷徨いていたのか聞いて来たから、素直に行くところが無いって言ったんだよ。

嘘は言って無い。

流石に家半壊させておいて帰ろうなんて思って無い。

クソ兄貴も壊してだけど。

―――で、そう言ったら、何か親父さんの方が顔を近づけて来てな。

おっさんのアップなんか見たくも無いんだが、暫くしてニヤッと笑ってな。

此所に条件付きで住めって言って来たんだよ。

でも『住め』だ。

命令なんだよこれ。

まぁ、こんな話願ってもないような美味しい話だからな。

勿論乗ったよ………条件付きってのに。

人の道を大きく踏み外してるのは良く理解している。

だけど目の前に転がって来たチャンスだぞ?

俺には力が必要だからな。

今も昔も『組織力』ってのがどうしても必要なんでな。

藁にもすがる気持ちだったんだよ。

 

と、此処までがプロローグ見たいな物だ。

長いだろ?

 

………素直に頷かれても困るんだが。

 

まぁいいや。

 

―――其から半年立って季節は冬。

それこそ地球をアイスピックでかち割ったような寒さだと言う意見に頷ける位の本格的な寒さになった頃だ。

 

もうその頃にはすっかり俺もそっちに馴染んでしまってな。

たまにいるんだよ。

武偵でも警察でもそう言った所に潜入捜査のつもりで入ったのは良いものの案外居心地が良くて、そのままお仲間になって仕舞うなんてパターン。

 

今思うと正に俺がそうだった。

そんな時だ忘れ掛けてた時にその話が来たんだよ。

例の条件

 

 

―――その、条件って言うのがだな。

 

『菊代のボディーガード』だと。

 

そしてこれが、理子がさっき言っていた事件『神奈川武偵高付属中二年B組集団心中事件』って呼ばれてるんだったか?

 

正しくは、同士討ち(フォーリング・アウト)なんだけど。

似たようなもんだよな。

 

いや、俺は、参加してないぞ菊代も。

菊代はこの事は詳しく知らないんだ。

 

俺は、この同士討ちの後押しをしただけだからね。

別に悪い事をした訳じゃ無い。

『当たり前の事を当たり前』にしただけだ。

反省はしているよ。

色々と。

 

菊代を―――姉さんを―――家族を虐めた人達が生きていて良いわけ無いだろう?

それ相応の報いを受けて貰わないと。

あれは、当然の結果。

 

 

なるべくしてなった事だからな。

 

 

 

あぁ、もうちょっとだから我慢してくれ。




【遠山ファイル】

此はボクが、トウヤマからとある相談を受けたときに作成したトウヤマの為の診断書である。

身体的には、一部を覗き至って健康的。
薬や毒が聞きにくい嗅覚が人一倍優れている等と言った遺伝的な所は有る。

また、精神的に不安定な所が時々見られ、心開いた相手には執着する傾向が見られる。
逆に、心開いた相手にとって害となるまたは、目的の邪魔となる対象者等は徹底的に排除しようとする傾向が見られる。
例えば、此を書く5日前の事町を三人で歩いていたとき内容は忘れたが、キクヨ君に難癖を付けた男が数時間後には自殺をしていたり等で有る。
―――正直後片付けをするのはボクなのだからもう少し押さえる事をしてもらいたい。

以上のような所を《依存》の類いだと予想する。
その為ストッパーとなる人物が必要。
基本、彼はストッパーの言うことは何でも聞く。
この場合キクヨやシラユキ―――――自分で言うのも何だがボク……エル・ワトソンの言う事は聞くらしい。
最後のらしいは、悪魔で本人から聞いた事であるからだ。
………本当にそうなのだろうか?甚だ疑問である。
此のような所は本の一部に他ならない。
その為、今後もボク達が彼のストッパーであり『薬』で有るべきなのだろう。
彼にとって『治療薬』となるか『麻薬』となって仕舞うかは別として。

かつてボクの先祖がシャーロックの麻薬依存を止めさせた用にボクが―――いや、ボクたちが彼の薬となる必要が有ると先程も書いたが、薬は多くてもダメだ。
薬となるのは『ボクたちだけで良い』他は毒だ。


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22 心がグシャっとね!

やっぱりあれですかね?
ヤンデレいいなぁ~とか思い始めたのは。
とある恋愛ゲームで選択肢の血文字で書かれた『みゆき』を選びまくったのが原因ですかねぇ……。
そのせいで何回包丁で刺されたことか。

後、エルの~君を消して呼び捨てとしました。
そっちの方が良い気がして。
すいません。


ボク―――エル・ワトソンは、神崎かなえの話を持ち出した事を少し後悔していた。

キクヨが言った一言に『豆鉄砲からハトが出る』位驚きを隠せないでいたからだ。

 

 

「え!?トウヤマが『ベルセ』に!」

 

「やっぱり、其が原因かしらね」

 

ノートPCからは先程出ていったトウヤマとリュパンの会話が流れている。

流石姉弟、考える事は一緒と言うわけか―――その会話を聞いたキクヨが何となく呟いた一言に驚いたのだ。

キクヨは摘まむようにして眉間を押さえて話しだした。

 

「一日に、あんなに、ヒスったのが悪かったのね……おまけにその後、“あんなこと”があったから、『ベルセ』になって記憶が【私のパパが生きていて、旧鏡高組があった時】にまで戻ってしまったみたいなのよ」

 

「そ、そんな……」

 

だとしたら非常に不味い。

 

HSS(ヒステリア・サヴァン・シンドローム)トウヤマは、ヒステリアモードと呼んでいたが、これは遠山家の遺伝的な能力で子孫を残す為何としても女を守る為強くなると言う。

だが、『ベルセ』は、本来のヒステリアとは、違って何としても女を奪い返すと言うもの。

その切っ掛けになるのは、奪われた時。

なのだが、トウヤマはその『ベルセ』に脳が耐えきれず其でも体が無理をして敵がいなくなったのを確認したら安心したように眠ってしまう。

本当なら数秒良くても一分位しか持たないのに脳に掛ける負担が大きすぎる為に回復を計ろうと、とてつもない眠気に襲われる事で起きると思われる。

昔トオヤマが『ベルセ』になったのを見たことがある。

散々嵐の用に暴れたかと思えば、その場で眠りこけて四日は目覚めなかった。

あの時トオヤマは“ボクたちの事を忘れたんだ”………その時はまぁ、ショック療法なるものをした訳だが………。

まさか、トウヤマも記憶が戻ったら裸でベッドに繋がれているなんて思いもしなかっただろう。

緊急事態とは言え少し申し訳無いことをした。

キクヨは、楽しんでいたけど。

 

 

今回の場合は、アリアが風魔を襲い、倒れた風魔を見たトウヤマが風魔の『命を奪われた』と大雑把に言えば『風魔がアリアに奪われた』と無意識に思い込み、トラウマとの記憶が混ぜ合って【旧鏡組が存在した頃】にまで記憶が戻ってしまった。

いや、正確には今と昔の記憶が混ざったと言うべきだろう。

 

より付け加えるなら、もう既に殺す気でいたトオヤマにキクヨが殺すなと命令したことも入るだろう。

だが、キクヨはあのタイミングならそうするのは当たり前だ。

『武偵高外』ならあんな命令は下さなかっただろう。

『武偵高内』だったからキクヨはあのトオヤマにとって無茶な命令を下したんだ。

キクヨにとっても苦渋の決断だったのだろう。

あのトオヤマは、忠犬やロボットみたいなものでキクヨ達の命令は絶対に聞く。

しかし『殺せ』と言う命令をプログラムされたロボットに『主人の命令を聞く』のが絶対な忠犬に、『殺すな』や『命令を聞くな』等と言った矛盾した命令を下せば混乱したり故障するに決まっている。

 

 

 

 

つまり、治りかけていたトオヤマの精神は“風魔がアリアに襲われる”事によって再発してしまったんだ。

 

もうキクヨのお父さんは、数ヵ月前に、殺され鏡高組も壊滅に追いやられた。

他でもない、トウヤマのお兄さんによって。

 

今の鏡高組は君がキクヨの為に建て直した組じゃないか。

それすら忘れてしまったのか?

 

ボクがもっと君達を早く帰国させていれば、失わずにすんだかもしれない。

 

だけど、アリア―――君はなんてとんでもないことをしてくれたんだ!

 

「まぁた、自己嫌悪してんのかい?」

 

ハッとキクヨの言葉に顔を上げると、相変わらずトウヤマとリュパンの会話がBGMみたいに流れている。

其を聴きながら、電子タバコならぬ電子煙官を取りだし口に付けて吸い出す。

昔は、本物を吸っていたらしいが止めたらしい―――で煙に似た水蒸気を吐き出してから

 

「少なくとも、今回は私たちの事を忘れていないんだ。あんたが悩む必要は無いよ」

 

「でも、あの時もっと早く帰国させていればキクヨのお父さんは」

 

「どっち道いつかはあんなことになっていたさ。その前にだって内部の奴等に裏切りをした奴等がいたからね。まぁ、全部遠山が片付けたけど」

 

昔からその辺は変わらないようだ。

記憶を失っていたとしても。

 

「ある程度は、覚悟はしていたつもりだけど…………やっぱり、悲しいし殺意も沸くわね」

 

「あっ…」

 

一瞬周りの温度が下がったような気がした。

其くらいキクヨから殺意が怒りが溢れているのがわかる。

トウヤマがキクヨ達に依存しているように、またキクヨも依存している。

キクヨがトウヤマに待てと言えばその通りにするだろう。

その逆も有るんだこの、二人には。

 

「人の家滅茶苦茶にしたあげく家の弟悲しませて………例え身内だとしても其なりの報いは受けて貰わないとねぇ~」

 

クスクスと笑いながらも目は笑わず今にも手に持った煙官を折って仕舞いそうだった。

笑いながらも怒っているんだ。

 

「だけど、良かったのかと思い始めてきたよ」

 

「神崎かなえの話を持ち出した事を?」

 

「うん」

 

「いいんじゃないかい?」

 

「え?」

 

何でもないかのようにキクヨが答えながら怒りを抑えるように再び煙官を咥える。

 

「アイツは目的や仕事となったらある程度は腹をくくる奴さ。神崎かなえの事だって目的に必要不可欠と判断したから、アリアを“奴隷”として手元に置こうとしてるんだ………あんただって良かれと思ってこの話を持ち出したんだろう?罪ぼろしのつもりかもしれないけどさ…アイツは気にしちゃいないよ」

 

「キクヨ…………本当にそうだろうか?」

 

ポツリと言った事がキクヨには聞こえていたのだろう。

電子煙官をテーブルに置き、静かに立ち上がると。

 

「そう言うのは、本人に確認したら良いじゃないか。軽口を叩けるような仲だろう?」

 

確かに、普段のボクならそうだろう。

しかし、今のこの状況でなんてとても

 

「エル。車出しな、出掛けるよ」

 

唐突に放ったキクヨの言葉にボクは理解が追い付かないでいた。

 

「出掛けるって何処へ?」

 

「決まっているじゃないか。私の車はトウヤマが使っているんだあんたの車でトウヤマの所まで行くんだよ………もう直ぐ始まるだろうしね」

 

「始まる?」

 

「行けばわかるさ………其までトウヤマには昔みたいに振る舞うしかないよじゃなきゃ、また壊れるよアイツは」

 

先程、置いた煙官を再び咥えて静かにそう呟いた。

 

あれ?そう言えば先程から風魔の姿が見えないような……?

 

 

★ ☆ ★

 

「ぷっ!あっはははは!はーーー、わらったわらった。キー君それ本当にサイコーだよ!」

 

「そりゃ良かった」

 

現在、俺は今、目の前で腹を抱えて笑いこけている理子をどうするでもなく眺めている。

その際理子がバタつかせている足のその奥からハニーゴールドのパンツが見えているのは黙っていよう。

知らぬが仏だ。

もしかしたらわざと見せてるのかもしれないし………だとしたら遠慮なく見させて貰いますけど。

今の所ヒスる心配も無いし。

 

と、先程までアホみたいに、転げ回っていた理子が何でもないかのように座り直して

 

「くふふ。キー君やってることは“もう一人のオルメス”と似てるね~」

 

語尾に音符マークでも付きそうな口調でテーブルから身を乗り出してわざとらしく言って来る。

 

「そんなに似てるのか?」

 

「う~ん。最後の所は違ったけど大体は一緒だったね」

 

もう一人のオルメス………確かH(ホームズ)家の事だよな。

エルから聞いた事があるが、確かその人の言葉を聞くだけで死にたくなるとか、人を言葉だけで自由に操れるとかだったよな?

 

昔は、H家の事なんか俺には関係ねぇ~状態だったからなぁ。

まさか、同じことをする奴が他にもいたとは。

向こうは、追い出したで俺は殺し合わせた位の違いしかないな。

 

―――中学の頃菊代はクラスから虐めに合っていた特に、女子から。

ヤクザの娘と言うたった其だけの理由で。

確か俺の記憶が正しければ、『本物の遠山金次』はヒステリアモードで虐めた女子達をたらしこんで菊代に謝らせたんだったか?

 

 

だが、あいつらにはそんなの生ぬるい。

仮に俺が同じことをしたとしよう。

謝らせる。その後、我慢できなくて、同時にその頭を押さえつけて撃ち抜いていただろう。

だが、そんなことしたら菊代に迷惑も掛かるし裏工作の経費も掛かる。

あれ何気にバカ高いからな。

幸か不幸か俺は、あいつらではヒスる事は出来ないからな。

『啄木』と『呼蕩』と言う一言で言えば遠山家に伝わる睡眠術ちょっと言い方を変えると洗脳術だ。

この二つを上手く使って『殺意』を埋め込む事しか出来なかった。

『殺意』を込めるのは最初の数人其も、女子で良い虐めの主犯とか。

そうすれば、ネズミ方式で次々生まれて気が付いたらクラス中バトルロイヤルの雰囲気。

後は、もう一押しすれば勝手に殺し合う。

何処かの海賊の『鳥カゴ』みたいに、親友だろうが恋人だろうが関係なく。

そのクラスは全滅だ。

武偵は中学生でもナイフや銃を持っているからな当たり前だが本物。

殴るよりも早く自然と其に手が出るから助かった。

まぁ、菊代を傷付けたんだ、こうなるのは当然だった。

虐めと言うのは、本当に数の暴力だ、止めたとしてもまた別の誰かがやりだすし、あのくらい集団になると自分達は正しいと思い出すからな。

赤信号皆で渡れば怖くないってね。

根本から全部掘り起こして燃やしてしまうのが一番だ。

其だけの本当に詰まらなくて在り来たりなお話だ。

 

―――の筈なんだが、どうやら理子がは今の話が余程面白かったらしい。

パンツ見える位笑ってたしな。

 

「聞かせて貰ったから今度は理子の番だねキー君?」

 

「何か話してくれるのか?まぁ、その為に呼んだんだろうけど」

 

そうじゃなきゃ俺は何しに来たの?となってしまう。

 

「でもただお話するのもつまらない」

 

そう言うと理子はコポコポとティーカップに紅茶を溢れるギリギリまで入れだした。

その中に、一枚の100円硬貨を入れる。

紅茶は溢れなかった。

 

「おい、何してるんだ?」

 

流石に不思議に思ったので聞いてみると

理子はチッチッチと指を振り

 

「普通に話すのもつまらないって言ったじゃん」

 

普通に話した俺はいったい……

 

「だからねキー君また、ゲームしようよ」

 

そんな俺の気持ちを知らずか、此方にも数枚の100円硬貨を渡して来る。

そして、理子は人差し指を艶やかな唇に当てて男なら誰もが虜になりそうな笑顔で

 

 

「理子キー君と遊ぶのクセなっちゃった。キー君が勝ったら今アリアがどうしているのか教えてあげる」

 

「え?今なんて」

 

アイツは今頃女子寮で寝てる筈

俺の混乱を余所に理子は続けて

 

「キー君が来る少し前にイタズラしたのでーす!必要でしょ?アリアが。早くしないと遠くに行っちゃうぞ」

 

からかうようにパチリと片目でウインクをしてきた。

 

……本当冗談はよし子さんだけにしてくれよ。




【TVあるある】

映画やアニメを見ていた時に一番盛り上がるシーンで主人公達の陰部分に自分の顔が映りテンションが大幅に下がる。



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23 コインと紅茶と忍者と

皆さんお久しぶりです。
前回は更新出来ずにすいませんでした。
風邪治りましたのでもう大丈夫です。
(まだ、喉がダメですけど。コミ症の私には関係ない)


「キーくんはさ、表面張力って知ってる?」

 

「水が溢れそうで、溢れない力の事だろう?………今にも紅茶は溢れそうだけど」

 

理子は、カップを指で突つき溢れそうで溢れない紅茶を二~三回静かに揺らしてから

 

「本当はお洒落にグラスとお酒でやりたいんだけどねぇ~」

 

「何だ?お前の好きなゲームのマネでもしようってのか?ギャルゲーか?エロゲーか?」

 

「けっこう有名な漫画だと思うんだけどね。キー君そう言うの読まない?」

 

「ゲームも漫画もやってる暇はそんなにないな……たまにやるくらい」

 

「ふ~ん。ま、キー君裏じゃ問題児だもんね表向き、諜報科のSランク武偵なのに」

 

「勘弁してくれ。あれは、入学試験の時ヒスッた俺がやった事だ。本当はEかC位で目立たない用にしたかったのに」

 

俺の愚痴に理子は手を合わせて合掌のポーズをとりおどけた感じで

 

「それは、御愁傷様」

 

チャポンと、世間話をする軽さで理子はカップにコイン(100玉)を一枚入れた。

紅茶は僅かに揺れただけで、溢れはしなかった。

 

「ごめんね、キー君。まだルールを説明して無かったよね」

 

「まぁ、今ので大体察したが………」

 

何か、違和感が有る。

何処かでこんな感じの会話を俺はしている。

もしかしたら、次の理子の台詞は

 

「カップの中に、コインを交代で入れて先に、紅茶を溢れさせてた方が負けってことで……理子が負けたらオルメスの場所を教えてあげるキー君が負けたら、組織ごとイ・ウーに入って貰うって事で元々商売相手だし良いでしょ?」

 

まぁ、そうみたいだけど………菊代から聞いたが、イギリスで度々入って来た依頼の中にも『アヴェ・アンク』の名前が入ってたみたいだし。

悲しい事に俺は、昔から巻き込まれてたみたいだ。

だが、今は、そんなことはどうでも良い。

やっぱりだ。

前半の台詞は何処かで聞いた事がある。

其も金髪ツインテールの少女に

 

「なぁ、一つ聞いて良いか?」

 

「なに?もう白旗を挙げるの?」

 

「違う。変な事を聞く用だが、俺はどっかでお前と賭けをしたことはあるか?」

 

質問に訳が分からないと言う用に理子は首をかしげ

 

「無いね今日が始めてだよ………変なキー君、ボケたの」

 

「生憎、昨日食った晩飯も覚えているからその心配はねぇよ」

 

チャポンと、俺は一枚のコインを話ながらも静かに入れる。

その際に、理子にバレない用にコインの裏側に隠した脱脂綿で紅茶を少しだけ吸い上げる。

表面張力は意外にも強力で、コインなら八枚位は入ると言う。

なら、此方から水を増やしたり減らしたりと調整することが出来れば、俺の勝ちは絶対。

こちとら菊代から色んなイカサマ教わってんだこう言う賭け事は自信あるぞ。

此で俺達がイ・ウー行きは無いな。

誰が、あんな女装変態兄貴のいる所なんかに行くか。

万が一負けそうになったらカップ叩き割って勝負を無かった事にしてやる事も少しだけ考えておこう。

だけど

 

「折角ゲームをするんだ。見届けてくれる客がいねぇとな」

 

「御意!」

 

天井が捲れそこから降りて来たのは、俺の戦妹の大食いの風魔だった。

駐車場で車体の下にヤモリみてぇにくっついていたのを腹の音で見つけて連れてきた。

 

「おお~~!この子がキー君の義妹のヒナッチか~風魔一党の!感激だよ~!」

 

「うわわ!?もしや、話に聞いたリュパンの娘!?」

 

理子は、どうやら風魔の事が気に入ったらしい……抱き付いて犬猫みたいに撫で回している。

そう言えば、風魔一党はリュパンの一味の侍と戦った事が有るとか無いとかエルやクレフトから聞いた事が有るな。

 

「しかし、東京の武偵校はどうなってるんだ?理子にホームズにウルスに、間宮の生き残り武装検事の娘が二人に風邪の噂じゃ、コウモリヒーローの娘までいると聞いている。此処まで、有名所の子孫が集まるなんて本当に偶然か?お前んとこの奴等紛れ込んでんじゃ無いだろうな?」

 

理子は、風魔を撫でるを止めずに、顔だけ此方に向けて

 

「ん~。夾ちゃんが要るくらいで他はいないかな。此で安心だね!」

 

ちっとも安心出来ん。

今俺少しだけ、人間不信になりかけてるぞ。

そんな話をしながらも交互に入れて来たコインは三枚ずつ計六枚のコインがカップに沈んだ。

 

「そろそろ溢れても良い頃だと思うんだけどねぇ、キー君」

 

「そうだな」

 

理子が七枚目のコインを入れながら、俺の手元を見ながら言う。

―――気づかれたか?

そうだとしても、おかしい。

何故七枚目が入ったのに溢れない?

俺は、脱脂綿をスポイト変わりに使って確り七枚目で溢れるように調整したはず。

 

「次、キー君だよ」

 

「………分かってる」

 

何だ?何を理子はした?どんなトリックだ?

分からない。

だが、理子は何かの漫画をモデルにしたと言った。

単純なゲームほど奥が深く難しいのだ。

お互いにイカサマをしているならば尚更。

賭け事にイカサマは付き物。

ハンバーガーとポテト位はセットで付いてくる。

其に文句を言う奴は始めから賭け事をしなければ良い。

 

だが、今俺は文句を言いたくなるくらい分からない。

何の作品だ?俺も知ってる奴か?もしそうなら何か勝てる方法が有りそうな物なんだが。

 

「師匠」

 

「ん?何だ?今考え中で――――――」

 

チュ――――

 

「ん!?」

 

「おお~~!」

 

まるで、恋人の用に自然な動作で首に腕を回され目を閉じた風魔の姿が見えた時にはもう、キスされていた。

俺が、HSSになるためには、菊代、白雪、エルこ三人のみと言った。

だが、一つだけ例外が有る。

其が、風魔の『ギャップ萌え』と言う物で有る。

普段はあまりに異性として見ない―――いや、見ないようにしている風魔の突然の行動による興奮。

今俺の目の前には、美しいと言うより、まだ幼さを残した可愛らしくけれども何処か色気を出す、整った顔立ち今、俺に重ねられている艶やかな唇、砂糖御子のような甘い匂い。

戦妹だからと出来るだけ数に入れてはいなかったが、血流はもう限界の用だ。

 

―――あぁ、風魔。

君は、分かってやってくれたんだね。

流石自慢の妹だよ。

 

「師匠への房中術の使用お許し下され」

 

やがて、首に回されていた腕がほどけて、頭を垂れ方膝をつきまるで時代劇で忍が主に報告するような姿勢になる。

 

「くふふ。キー君その為のヒナッチだったんだね…………一人で来てって言ったのに」

 

「妹は、勝手に付いて来ただけだよ。ルール違反では無いだろう?ただの見物客なんだから」

 

風魔を後ろに立たせ庇うように手を風魔の前に出しながらも目線は理子に向ける。

その視線の先で理子がニヤリと笑い

 

「其が、キー君のHSS何だぁ~。始めて見たよ」

 

「元兄のは、見ないのかい?同じイ・ウーのメンバーなのに?」

 

「其と此れは別だよキー君」

 

「そうなのかい?では、理子の意見を象徴してそう言う事にしておこう。人の価値観は人其々だからね」

 

「普段は、獣。ヒスればぬいぬいみたいになるんだねキー君って」

 

「ハハハ…………」

 

精神的に、グサッと来たね今。

そう言う風に言われると、乾いた笑い声しか出せなかったが、危うく血流が静まってヒステリアが解ける所だった。

俺アイツみたいになってんのかよ。嫌過ぎる。

俺は、誤魔化す用に、コインを一枚手に取り理子の方に見せて

 

「此が最後の一枚だ。溢れ無かった俺の勝ち。アリアが今何処に要るのか教えて貰おうあの親子は手放す訳には行かないみたいだからね」

 

「そして、キー君が負けたらイ・ウー行き」

 

無言で頷いて見せて、目線をカップへと移す。

ヒステリアは、体の様々な能力を格段に上げる事が出来る。

その中で俺は視力と嗅覚と聴力この三つに意識を集中させる。

このゲームは理子からしてみればまだ序盤に過ぎない。

俺が、理子にあの話を持ち出すのは、その時が来てからで良い。

今は、目の前の事を楽しもう。

賭け事何て久し振りだ。

 

「どうしたのかな?紅茶が蒸発するまで待つ気?」

 

「その方法は有り?」

 

「無し」

 

ですよね~。

―――だが、今の会話中に見つけたぞトリックを。

カップの影がほんの数㎝傾いてるのを。

手元に隠した、鏡を傾かせて見てみると米つぶサイズ黄色い固まり―――栗か。

あの栗は、モンブランの奴だな。

其の破片を予めカップの底にくっつけて傾かせて俺の調整をミスらせたんだ。

だから俺は、後一枚で溢れると思い込んで脱脂綿で紅茶をコイン一枚分増やしてしまったんだ。

あの栗をどかさない限り俺のコインは入らない。

栗さえ退かせれば。

もう脱脂綿での調整はバレているだろう。

もうあのイカサマは通用しない。

何か別の手段―――――有った。

あれが有る。

一か八か、失敗すれば溢れるがやる価値ははさある。

 

「すまないね。今から入れよう」

 

コインを紅茶に入れるフリをして

 

フッ!

舌を口の中で丸め前歯にくっ付け隙間から空気を素早く撃つ。

即席で作った空気の弾丸はカップの隙間を通りそのまま、栗の破片を、弾いた。

上手く行くもんだな。

風魔の技を真似た見よう見まねの息短筒(そくたんづつ)

口の中で銃身を造り空気砲とする技

その技に賭けたが吉と出たようだ。

 

「イカサマはダメだよ理子。勝負は正々堂々としなきゃ」

 

自分の事は棚上げし、皮肉を混ぜつつ素早く滑るようにコインを入れる、コインは回りに波紋を広げつつも、沈んで行きそのまま下のコインと音をたてずに重なった。

紅茶は一滴も溢れなかった。

 

「あ~あ。理子の負けか」

 

ん~と、両手を前に組んで伸びをしながらもくやしそえな顔はしていなかった。

まるでこうなることが始めから分かっていたみたいに。

 

 

「さぁ、教えて貰おうか。アリアの居場所を」

 

その言葉に理子はニヤリとし

 

 

 

「良いよ教えてあげる。最終ステージまでキー君達にはとことん付き合ってもらうからね」

 

 

 

男なら誰もが虜になりそうな満面の笑みでそう言った。

いや、だから先祖云々はエルに頼んでよ。

一応関係者だぞ?アイツ。




菊代の二つ名を変更しました。
菊代の二つ名は踊ると赤が重要なんで其処だけ覚えてくれたら良いなと、思います。


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24 どっち付かずの中立者

なんか、書いてて菊代が姉さんと言うよりおかん……うわ、何するやめっ


『オルメスには、チョッビットモノマネして、イギリスに帰る用に手配しておいたから、今頃羽田じゃないかな~~まぁ、そう言う訳だから頑張ってねキー君!アデュー』

 

「あ い つ は ア ホ か!阿呆なのか!バカなのか!⑨なんだな!」

 

「し、師匠…………ウプお、お気持ちはお察しするで御座るが……もう少し安全運転を……」

 

「悪いが、しがみついていてくれ。こうでもしないと間に合わない……てか、お前は彼処で降りて良かったんだぞ?」

 

先程、理子との賭け事を終えて、なんとかアリアの居場所を突き止めたは、良いものの場所が、呆れを通り越して、もう怒りに変わっていた。

隣に、勝手に付いてきた挙げ句俺のモンブラン(二個目)とパフェを平らげてしまい、ミサトさん並みの運転をしている性で其れ等がリバース寸前の風魔を乗せて、メーター振り切りってエンストでも起こしそうな車で走る。

無茶な運転をしたお陰で、僅か数分で目的地へと着くと

 

「遠山~此方よ!此方!」

 

「トウヤマ!急ごう余り時間が無い!アリアの乗った飛行機がもう直ぐ出発してしまう!」

 

「………なぁ、風魔。二人に連絡とかしたのか?」

 

「まだで御座るが………てっきり師匠が連絡したものかと」

 

………何で要るんだろう。

数メートル先には、どう言う訳か、菊代とエルの姿。

どうやってこの場所まで先回りしてきたのか?

……そんなことより、気のせいだろうか?

菊代が妙に良い笑顔で手招きしてるんですが………それこそ気のせいだろうか?その笑顔が何か、怖い。

いるよね、怒った顔より、笑顔が怖い人。

恐る恐る菊代の方へと進んで行くと。

 

「と~う~や~ま~」

 

「ウゲッ!」

 

「久し振りに見たな………二人の御約束」

 

案の定胸ぐらを捕まれ、そのまま下に下ろされ菊代と強制的に目線を合わせられる。

うん。目で分かる。

物凄い怒ってらっしゃる。

有無を言わせない迫力が有る。

始業式以来学校には、行ってないが強襲科以上に、有名な教務科(マスターズ)なんか俺にとっては目じゃないな。

菊代の方が圧倒的に怖い。

てか、エル御約束ってなんだ御約束って。

まるで、俺が卒中悪いことしてるみたいじゃないか。

 

「私今、幾つかの理由でちょいと頭に来てるんだけど………理由分かる?」

 

凄く冷や汗が止まりません。

 

「え~と。何でだろう?」

 

心当たりが多すぎる。

取り合えず目を逸らして誤魔化そう。

と、言うわけにも行かず。

 

「妹の風魔とキスしてヒスるわ、勝てる自信が有るからって勝手に組を賭けに使うわ、おまけにいくら急いでるからって私の車を乱暴に扱うわ、何やってんのよ!?あんたバカぁ!?」

 

何で知ってるんだろう?いや、後で正直に謝ろうと思ってたんだよ。本当に菊代の言葉が正論過ぎて返す言葉も御座いません。

此処は兎に角

 

「ごめんなさい。は、反省してます。本当、本当にごめんなさい」

 

正直に謝ろう。

物凄い情けない格好だけど。

 

「キクヨ、その話は後にしよう。リュパンの話が正しければ、アリアは今夜七時のチャーター便でイギリスに旅立ってしまう。………後二十分しか無い」

 

「全く此処に白雪がいなくて本当に良かったわ。居たら私と初めて会った時みたいになってたわよ」

 

「………なぁ、いったい何処でその情報を掴んできたんだ?」

 

「確か、便はANA600便・ボーイング737―350のロンドン・ヒースロー空港行き……全くいったい何を考えてるんだか」

 

素朴な俺の疑問はアッサリと無視され(悪いのは俺なんだけど)菊代が俺から手を離し重力に従って俺はそのまま地面と熱いキスを

 

「まぁ、お説教はこの位にしておくわ。………次やったら搾り取るからね?」

 

「其は寧ろご褒美………いや、男として物凄い情けない死に方をしそうだ。勘弁してくれ俺が悪かった。本当に俺は、まだ貞操を守っておきたい」

 

することはなくそのまま菊代に襟首を掴んで持ち上げられてバランスを立て直される。

 

「あの、拙者はどうすれば」

 

「勝手に付いてきたんだから、帰ればいいだ………あぁ、そうだ風魔耳貸せ」

 

地面に膝を付き襟首を捕まれ半立ち状態の情けない格好で側まで来た風魔に耳打ちする。

 

「―――を集めて出来るだけ――――をするよう―――――に伝えてくれ。そうすれば万が一の時に備えられる。頼んだぞ」

 

「御意!」

 

風魔はそのまま、走って行き数メートル進んだ辺りで急に消えてしまった。

流石筋金入りの忍者なだけはある。

ここ最近のお前の食費分は働いてくれよ。

 

「風魔に何を頼んだの?」

 

「ちょっとした保険だよ万が一に備えて」

 

「なるほど、トウヤマには何か考えが有るんだね。そうとなったら二人とも急いだ方が良い事態は一刻を争うかも知れない……二人とも頼んだよ」

 

そう言いながら、背を向けて菊代の車の方へと歩きだすエルの襟首を掴んで

 

「然り気無くシリアスな事を言って逃げようとするな」

 

「いや、ボクはキクヨを送って来ただけだからもうお役御免と言う筈なんだけど」

 

「そんな訳ないだろ。リュパン&ホームズと来たんだ。俺は関係無くても理子は先祖云々に拘って要るんだ………後は分かるな?」

 

エルは、急に滝の用な汗を流し油の切れたロボットの用に首だけを此方を向きながら

 

「いや、ボクはワトソンはワトソンだけど、あの有名なワトソン家ではなくて他人のそら似なワトソン家で詰まりワトソン違いだ」

 

「何訳分からん言い訳をしてるんだよ。ほら逝こう」

 

「ト、トウ、トウヤマ!何か、行こうの意味が違うと思うんだ。ボクは道連れは御免だ………嫌だ~~~~~!!!」

 

「元々イ・ウーの話を持ち込んだのはお前だろ?」

 

「其と今回の話は別だ!」

 

確かにこの件に関しては、最初に首を突っ込んだのは俺達だろう。

そのあとエルから話が持ち掛けられたんだから。

 

「だが、行くことに変わりはない」

 

菊代が俺を引きずり、俺が喚くエルを引きずり空港内へと入って行く。

なんだこれ?

 

 

 

 

引きづられながらボーディングブリッジを抜けハッチを閉じつつあるANA600便・ボーイング737―350、ロンドン・ヒースロー空港行きに押し入り

 

「今すぐだ。今すぐ離陸を中止しろ!」

 

目を丸くして驚いているアテンダントに

 

「お、お客様!?失礼ですが、ど、どう言う「黙って従え!」ひ、ヒィ!」

 

そのアテンダントの額に菊代のベレッタM92FSを押し付ける。

生憎俺は、理子と会うためだけに出掛けたんでな。丸腰なんだ。

客と会うのに武器なんて持ってたら失礼だ。

武偵手帳だって持って来てない。

こんな茶番は終わらせてさっさとアリア連れて帰って一眠りしたいんだよ。

 

だからさぁ

                      

「冗談は此くらいにして、案内してくれねぇか?“理子”」

 

ピタリと、先程まで目の前で涙を浮かべて怯えていた、アテンダントの女性はクスリと笑い

 

「やっぱり、分かっちゃう?」

 

「香水で誤魔化せると思ったのか?さっき嗅いだ甘ったるいバニラの香りを忘れるかよ。俺は生まれつき鼻が良いんだ。他人の顔は忘れるが、レディーの香りは忘れない自信が有る」

 

決まった………見たか菊代。汚名返上だ。

 

「格好いい事を言ってる用で変態よね」

 

「でも、トウヤマ犬みたいに百発百中だから凄いよ」

 

後ろで何か言ってるけど聞こえません。聞こえ無いったら聞こえない。

そう言えば、理子……お前どうやって先回りしたんだよ。

俺、決行早く来たつもりなんだけど。

まぁ、いいか。

 

「クフフ。そう、慌てなくてもアリアは此処に要るよ」

 

理子が指を上に向ける。

その意味は、アリアは二階にいると言う風に解釈して問題無いだろう。

この飛行機は、TVや雑誌等で『空飛ぶリゾート』なんて呼ばれていて、俗に言う、セレブ御用達の新型機。

俺達がいる場所は広いバーとなっていて少し進めば高級な酒の並ぶカウンターが有る。

アリアがいるらしい二階は高級ホテル並みの12の個室。

しらみ潰しに探せと………面倒くさ!

 

理子の、お見通しだよとでも言いたげなイタズラな笑みに対抗するように引き攣った笑顔で

 

「そうか、じゃあ早く連れて帰えんねぇとな。……いや、いっその事このまま向こうで数ヵ月過ごすってのも悪く無い」

 

「どの道直ぐには帰れそうもないもんね。暫くエルの家にお邪魔させてもらいましょう」

 

「帰国の予定は無かったんだけどなぁ」

 

俺の後ろで其々の感想を口にする二人も何処か嫌そうな顔をしている。

理子は、そんな俺達が意外だったらしく

 

「あれ?キー君達乗り気じゃないの?」

 

「元々この件に関してはお前ら三人で、勝手にやってくれと思ってたんだよ。先祖云々な調度エルがいるからな」

 

「ワトソン違いだ」

 

「まだ言うか諦めろ」

 

「ふ~ん。でも、もう降りられないのは分かってるんだよね?」

 

理子の挑発的な言葉を軽く受け流しながら

 

「こんな手の込んだ豪華なステージを用意してもらって降りるなんて、それこそ失礼に値する」

 

「くふふ、それじゃあ」

 

「だが、此方からも要求させて貰う!」

 

「ふぇ?」

 

ビシッ!と理子の鼻先に指を向けてそのまま一歩前に出る。

理子お前こう言うノリ好きだろう?

俺は苦手だけど

 

「賭け事は常にお互いの欲しいものを賭けてこそのギャンブルだと俺は、思っている」

 

「くふっ。だからアリアを―――「全く公平じゃない」………じゃあどうして欲しいのさ?キー君には、アリアが必要なんじゃないの?」

 

少し困り顔になってきた理子に畳み掛ける用にして

 

「あぁ、確かに必要だ。だが、元々はアリアの居ない状態での、プランAでズット進めていた。だが、エルが近道として持ってきた話しプランBに俺は乗っただけだ」

 

「―――おい。何が言いたい」

 

先程までのふざけた感じが消えてまるで別人の用にしてドスの聴いた声になる。

―――バスジャックの時に聴いた声だ。

 

うん良いぞ。此方のお前の方が話は通じやすいだろう。

 

「俺は、自分で言うのもなんだが、欲張りなんだ」

 

「あ?」

 

「目の前に大きな箱と小さな箱―――片方に化け物達が入っていて、もう片方には金銀財宝。俺だったら、そのどちらも担いで持って帰る。妖は見慣れてるんでな……どちらか一つなんて答えは論外だ」

 

「流石呪いの男(フルヒマン)ってとこかな?………で、何が言いたいんだよ」

 

お怒り気味の理子に向かって、挑発と理子のモノマネを兼ねて理子の声を出来るだけ再現し

チッチと指を理子の目の前で振る―――うん。気持ち悪い。

此でもし、クロメーテルの格好なんてさせられてたら、多分首を括ってるね。

 

「まったく~ニブチンだなぁ~りこりんは―――――アリアもお前もお持ち帰りするって言ってんだよ」

 

途中で声を元に戻して、手を開き握手のポーズにする。

理子は意味が分からないと首をかしげ

 

「おい。どう言うつもりだ」

 

「俺が賭けに負けたら、アリアを煮るなり焼くなり好きにしろ。俺が勝ったら、理子、俺の家族になれよ。イ~イ話が有るんだ絶対に損はさせねぇ。何せ、俺にはお前が必要なんだよ」

 

「良い話?………へぇ、面白そうじゃん言ってみてよ」

 

この話なら、理子は絶対に食い付く筈だ。

と言うか、食い付いてくれ。

祈る用な気持ちと焦る気持ちを押さえて冷静に理子を真っ直ぐに見詰めて

 

「ちょっとした設け話だ。怪盗のお前には調度良いだろう?復讐も出来てな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――【生きるお宝ブラドの生け捕り】をさ」




ビジネス的な理由ならばアリアの味方。
個人的な理由ならば理子の味方な金次君です。


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25 片道旅行(表)

雨が、続きますね。
本格的に、梅雨だなぁ~と思います。
出掛けるたんびに洗濯物しまったのかどうかが気になる。


アルセーヌ・リュパン

フランスの大怪盗

 

かつて、ボクの元婚約者神崎・H・アリアの先祖、シャーロック・ホームズとライバル関係に合った。

だが、両者の対決は引き分けに終わりその因縁は、子孫へと受け継がれた。

 

「ほらほらワトソンくんちゃん。逃げてばっかじゃつまらないよ~」

 

「人をアルパカくんちゃんみたいに言わないで貰いたい」

 

 

(攻撃禁止は、少しキツいな)

 

ギキキキキン!

 

刃物と刃物の、ぶつかる甲高い音が機内に響く。

ボクは、今、その怪盗の子孫、峰理子リュパンと戦っている。

リュパン家は、既に滅んでいたものだと世間では思われているが、その血を受け継ぐ者は、確りといるようだ。

 

だが、今のボクは、正確に言えば戦ってはいない。

先程から、ボクはリュパンの攻撃を避けたり弾いたりと逃げ回っているからだ。

 

「くふふ。初代ホームズそのパートナのワトソン………その子孫もオルメスと同じようにくふふ、あはははは!」

 

「独りで盛り上がって、何が楽しいんだい?」

 

バーカウンターまで移動しそのまま裏へと回って身を隠しながら聞く。

リュパンは、狂った用に高い声で一頻り笑った後、暫く行きを整えてから。

 

「楽しいんだよ。最初は、オルメスだけにしようと思っていたけど、まさか、ワトソン家まで仕留めて良いって言うんだからね。キー君は話が分かる人で良かったよ!」

 

バリバリバリッ!

パリリリリリリィィィンッ!

 

リュパンのほうからの銃撃により、頭上に割れた酒瓶欠片や液体等が降って来る。

直ぐに、横に飛んで避ける。

 

カウンターを抜け出しすと、先程ボクを撃った、小降りな拳銃ワルサーP99を構えたリュパンが其処にいた。

 

「此は、デスゲームなんだ。死んでも仕方無いよね?オルメスとワトソン……お前ら二人とも倒せば、理子が、一族の仲で最も優秀だと証明出来る」

 

「出来れば、他人を貫きたかったんだけど」

 

「無理でしょ」

 

「だよね」

 

今リュパンの此方を見る目は、まるで、遠山が相手を殺す時の焦点の合わない敵意丸出しの濁った目。

 

なるほど、トオヤマが最も好むタイプの人だな。

トオヤマが家族(ファミリー)に誘いたくなる訳だ。

憎悪、憎しみ、悲しみ、怒り。

―――敵対心、復讐心。

 

この心は、トオヤマ曰く『戦闘面で人を最も動かし安くする』

トオヤマが求める用な人材だ。

常識、法律、道徳心。

其等を一蹴り出来るような人達を。

只でさえ、トオヤマの所は人数不足。

少人数では限界も有る。

おまけに、少ない人数なのに、更に二人も海外出張。

組織的にはかなり危機的状況だろう。

其に、トウヤマとリュパンは、今の口調や目を見て思ったけど何処か似ている雰囲気が有る。

お互いに何か通じる物が有るのだろうか?

 

「考え事なんかしていて余裕ぶっこいてんじゃねぇよ!」

 

「そんなつもりはないよ!」

 

足元に飛んで来た弾をバッグステップで交わし

そのままもう一度バーカウンターへと戻る。

今のところ、リュパンの意識はボクに向いている。

トウヤマに頼まれたのは時間稼ぎ。

二階に向かわないようにひたすら逃げ回っていなければならない。

 

………最低でも20分は、惹き付けて置かないと。

普段は邪険に扱う癖して、こう言う時は頼りにしてくるだから。

 

 

………尚更トウヤマの望む事を成し遂げないと。

 

だから―――

 

ガキン!

 

腰の鞘から抜き出した、暗闇の中で使いやすくした黒塗りの湾曲したククリナイフ。

其をリュパンの左手のナイフと切り結ぶ。

 

「流石西欧忍者(ヴエーン)さっきから、さらりと嘘付くね。攻撃……しないんじゃないのかよ?」

 

「此は、正当防衛と言うんだ」

 

「過剰防衛だろ」

 

右手に握られた、ワルサーからの発砲をククリで、切り反らし切断された銃弾は、二つとも明後日の方向へ行く。

 

ダタタタタッ!

 

「グッ……!」

 

透かさず、ホルスターから、SIG SAUER(シグザウアー)P226R、通称SIG(シグ)――――其を、リュパンの足元に撃ち距離を取りながらフリフリの防弾制服のへその部分を撃つ。

防弾制服は、TNK(ツイステツドナノケブラー)と言う防弾繊維で出来ていて、通常の銃弾なら、拳銃弾は一撃必殺の刺突武器ではなく、打撃武器となる。

その、痛みは、まるで金属バットで勢いよく殴られた用な痛み。

まぁ、当り所が悪ければ内蔵破裂で死ぬこともあるけど。

 

流石に其処まではいかなかったらしいが、方膝をついて腹を押さえている。

 

「君に、ラッキーな知らせと、アンラッキーな知らせが有る」

 

痛みを堪えて、脂汗を額に浮かべながらも此方を親の仇の用に睨み付けるリュパンに向けて静かに出来るだけ落ち着いた口調で

 

「ラッキーな知らせは、ボクは此でも医者だ。万が一君を傷つけたとしても完璧に、治す事が出来る。そのために連れて来られたらしいからね」

 

ボクの本来の役目は、リュパンとホームズが争った後の治療。

トウヤマは、この二人は争う事になると知っているからだ。

 

「アンラッキーな方は、イギリスでは、武偵に自衛の為の殺人が認められている。トウヤマは、少し例外だが、ボクは治外法権を認められた王室付き武偵でも有る」

 

「つまり、理子を此処で殺しても何も問題は無いって言いたいんだろ。回りくどいんだよライム女(ライミー)

 

「君の国を悪く言うつもりは無いが、あえて言わせてもらおう、黙って、トウヤマの家族になっておけば良かったんだ。そっちこそ回りくどいよカエル女(フロツギー)

 

「キー君の命令で、殺せ無い癖に」

 

「動けなくすることは出来る」

 

お互いに、祖国の蔑称を言い合いながらも武器を向けた状態で動かない。

まるで、西部劇みたいに、お互いの出方を警戒する。

 

グラァ

 

「うわわ!」

 

「おーらら♪」

 

突然、機体が左右に激しく揺れ、バランスを崩してしまった。

其処を、リュパンが手の平を相撲取りの張り手のようにドン!と、勢いよく胸の間に叩き込む。

 

「カハァッ!」

 

肺の空気を殆ど吐き出して、後ろへと飛ばされ、壁に受け身も取れずに衝突する。

……流石に、強くぶつけすぎだ背中痛い。

 

「どんな、トリックを使ったのか仕掛けを教えて貰いたいね」

 

「さぁ?自分で考えたら?オルメスのパートナーだったんだから」

 

「其は、ボクの曾お爺さんの話だろう?ボクには、殆ど関係無いね」

 

「ぼっちのワトソンくんちゃんか。良いじゃん」

 

どう言うつもりか、左手に持っいたナイフを空中に投げて此方へと走って来る。

直ぐに、ククリとSIGで対応しようとするが

 

「クフフ」

 

バリバリバリッ!

 

ギキキキキキキキキン!

 

至近距離からもう一丁のワルサーP99をスカートから取り出し発砲してくる。

銃弾をククリで切り落とし、リュパンとの距離が縮まる。

SIGでの零射撃で、動きを止めようと、SIGを構えるが。

 

シュルル。

 

金色の縄が、SIGとククリを持つ左右の手に巻き付いてきそのまま、ボクを持ち上げて上へ投げ飛ばす。

 

(なるほど、トウヤマが目を付ける訳だ)

 

運良く天上のシャンデリアを掴みその上に乗る。

先程、ボクを投げ飛ばしたのは縄でも紐でも無い。

 

―――髪だ。

 

リュパンの両サイドのツインテールがまるで生きているかのように動いている。

此処にトオヤマがいたら『まるで神話のメデューサだ』と少年のように喜ぶのだろう。

なんだかんだで、トウヤマはあの手の物が好きだから、流石男だと言うのだろう。

此を見てハシャグ事の出来ないボクは、やはり女なんだと少し安堵する。

 

「その超能力(ステルス)―――【色金】其も、【璃璃色金】まさか、リュパン家が所有していたとは思わなかったよ」

 

「リュパン家は、怪盗の一族。持っていても不思議じゃないだろ」

 

リュパンが、首から下げた十字架を此方に掲げ見せてくる。

その顔は、何処か、昔を懐かしむ用な其と同時に悲しんでいるような、何処か悲痛な表情に見えた。

 

「トウヤマが、『貘』とか言う女性との商談に使っていたのとは、違うようだね」

 

「其は、欠片。色金とは、また少し違う……運び人を頼まれたんだ。キー君から聞いてないのかよ?」

 

「そっちには、興味が無くてね。まぁ、後でゆっくり聞いてみるよ。……今は、君の方が先だ」

 

ガッシャアァァァァァァァァァン!

 

「くっ……」

 

シャンデリアの付け根部分を撃ち壊し落下させる。

周りに破片を飛ばしリュパンも両手とツインテールで体を庇う。

 

「あぁ、其と――――」

 

視線を外したリュパンへと鋼鉄仕込みのコンバットブーツで脇腹を蹴り横の壁に飛ばす。

……流石にトウヤマに小言を言われるな。

 

「二つ訂正してくれ。『ぼっち』じゃない。組む人を変えただけだ。『トウヤマの命令』じゃなく、『親友のトウヤマからのお願い』だ」

 

「後半は、似たようなもんでしょ、お互いに」

 

小言を言われる心配は、必要無かったようで受け身を取って猫みたいに着地した理子が服を二、三回手のひらでパンパンと、叩く。

 

「此結構お気に入りなんだけど……」

 

「体の心配は、必要無いみたいだね」

 

「してよ~。理子の綺麗な肌に、痣が出来たらプンプンがおーたぞ」

 

リュパンは両手の人指し指を頭の上に乗せてツノらしきポーズをしてくる。

……挑発の積もりなんだろうか?

 

まぁ、良いよ。

まだ時間は掛かる。

 

折角、トウヤマが、報酬にリハビリを許可してくれたんだ。

そもそも、ボクが、こうして戦っているのも、トウヤマがリュパンを、煽りに煽ったからだ。

ボクが満足するまで付き合って貰おう。

 

でもまずは

 

「治療を続けようか?リュパン」

 

「理子。注射とか嫌いだなぁ~」

 

「大丈夫さ。痛いのは数分だ」

 

「其処は、一瞬じゃない?」

 

 

この患者の『ストレス』を取り除くとしよう。

其が、トウヤマからのお願いだから。

 

 

 

 

 

――――時は、少し遡る。

 

 

「遅い!待ちくたびれたわ!」

 

「言ってる意味が分からん」

 

つい先程、色んな部屋を覗きに覗きやっとの思いでたどり着いたと、思ったら、フカフカで寝心地良さそうなベットの上に仁王立ち(危ないから降りろ)して此方にビシィと指差すアリアの姿であった。

 

そんな俺と菊代をお構い無しに自分が正しいと言わんばかりに

 

「キンジが、電話で言ったんじゃない!」

 

「俺が?何を?」

 

「あんたが、この飛行機に乗るように言ったんじゃない、此処に武偵殺しが紛れてるって!早く案内しなさいよ!当然もう捕まえたんでしょう!」

 

「「はぁ?」」

 

 

ベットの上で地団駄を踏むアリアの言葉に流石の俺も菊代も理解が追い付かなかった。

只で一つ言えることは。

 

 

 

「言ってる意味が分からん」

 

「何でよ!」

 

「わかんねぇよ!てめぇが騙され安くて、バカだと言うこと意外わかんねぇよ!」

 

 

此くらいで有る。

 




次回は、遠山目線となります。
只迎えに行くで、すむわけが無い.


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26 片道旅行(裏)

床屋で髪を切るとかならず周りから「頭切った?」と言われます。


時は更に少し遡る。

 

俺と菊代は先程、“ちょっとした”交渉によってエルを理子に引き渡し『空飛ぶリゾート』の二階の中央廊下、その横に並ぶ左右の個室を一つ一つしらみ潰しに探していたのだが

 

「予想外だ」

 

「あんたが原因でしょうが!」

 

スパァン!と菊代が俺の頭を叩き俺の頭から漫才みたいな張りの有る音が中央廊下に響く。

此だけ騒いでも、廊下に誰一人として出てこないのは、其処まで大きな音では無かった為か其とも

 

「いくら、乗客を避難させる為とは言え、私の銃を持ったまんま、扉を開けるなんて何考えてるの!あたし達が、ハイジャックしてるみたいじゃない!」

 

……まぁ、こう言う事だ。

しらみ潰しに探してるとは、言え銃を持った状態で、おまけに理子が、顔が他の人に見えない様にと渡して来た巷で、今一部の奴等から、ちょっとしたヒーローみたいになってるやたらなぞなぞを、出してくる爆弾魔スピ〇クスのお面を付けた人が突然入って来て『何が有っても扉を開け無いように』なんて言えばねぇ……

 

「まぁ、良いじゃん。此でどんなに暴れても一般人に流れ弾が行くことがある程度押さえられたんだし。結果オーライって事で」

 

「毎回、口を酸っぱくして言ってるけど、あんたはもう少し、危機感って物を持ちなさいよ」

 

「善処します」

 

だから、そろそろこの手を放して、息が苦しい。ギブギブ。

パンパンと、二号のお面を被りそのお面の中はきっと般若だろう菊代の首を絞める手を叩く。

で、でも子連れのセレブは喜んでたぞ。子供の方が。

握手したし。

 

「で、残る部屋は」

 

「此処だけね」

 

俺達の目の前には、まだ開けていない最後の部屋がある。

もう此処にいなかったら、何処にいるんだよ。

 

「じゃあ、さっそく開けるか」

 

「何で、蹴りのポーズなのよ」

 

スッと、ドアの前に右足を上げ蹴りの体制に入る。

この時に、必要なのは、全体重を足裏に持って行くこと。

元々、足は、体の体重を支える役目だって持っている。

手に体重を持って行くのよりは、かなり楽なのだ。

だから

 

「八つ当たり秋水(しゅうすい)おじゃましまぁああああああああああああああああすっ!」

 

「やると思った」

 

バゴォン!とドアの金具ごと破壊して、砲弾の様にドアを飛ばす。

アリアに向けて。

 

「みきゃああああ!!!」

 

ズバッ!と叫びつつも蹴り飛ばしたドアを綺麗豆腐みたいに真っ二つに刀で斬る。

すげぇな、話に聞いた以上のバカ力。

 

「やっ!」

 

背中の鞘からもう一本刀を抜き此方へと突っ込んでくる。

銃は菊代に返してしまったので『足と腰以外』丸腰な俺は、靴底からナイフを出してもう一度足を上げる

 

「全く。こうなると思ってたから、あたしが側にいるんでしょうに」

 

――が、アリアの日本刀は、両方とも菊代によって止められていた。

二本とも菊代の人指し指と中指に挟まれて。

 

アリアは、其に一瞬目を大きく見開いて驚くも、直ぐに冷静さを取り戻したようで

 

「来たわね!武偵殺し!待ってたわ!大人しく捕まりなさい!」

 

「ちょっと!あたしよ!あたし!」

 

刀を力任せに押して来るアリアと、刀を指に挟んだ状態で押し返そうとする菊代の間に入り俺は、菊代のお面を外す。

 

するとアリアは、一瞬キョトンとした顔になってから

急速に顔を赤くし

 

「来るのが遅い!」

 

そう叫んだ。

 

 

 

――そして、今に至る。

 

「バカとは、何よ!失礼ね!」

 

「事実だろうが!だったら何度でも言うぞ!このバカ!だったら確認の連絡位よこせ!」

 

「だいたい女子の部屋に断りも無く押し掛けるなんて失礼よ!」

 

「その言葉そっくりてめぇに返す!そもそもおめぇのどの辺が、レディだって!猪野郎!」

 

「誰が猪よ!」

 

「ちょっと……」

 

「突っ込んで行くことしか知らねぇ奴が何言ってんだ!この、みゃあー」

 

「人の叫び声をあだ名にするな!ネクラ!あんたが、ドアを蹴り飛ばしさければあんな恥ずかしい声出さないわよ!この女たらし」

 

「ねぇ……」

 

「誰がネクラの女たらしだ!全力を持って否定する!」

 

「男子寮で異性と同棲してるでしょ!イヤラシイこの変態変質者!」

 

「あんた達」

 

「生憎てめぇの、考えてるような事は何もねぇよ!残念だったな!妄想女!」

 

「言葉が通じないのかしら?」

 

「おお。だったら強襲科らしく武力行使で行くか?銃は、(持って無いから)使わねぇでやるよ。前みたいに海に蹴り飛ばしてやる!このカナヅチ」

 

「そろそろ」

 

「望む所よ!デッカイ風穴開けてやるんだから!其に、浮き輪が有れば泳げるの!」

 

「やってみろ。ちび女」

 

「其処のドアみたいに斬るわよネクラ」

 

「いい加減に……」

 

「猪猪猪猪猪猪猪猪猪猪猪猪猪猪猪猪猪猪猪」

 

「ネクラネクラたらしネクラネクラたらしネクラネクラネクラネクラネクラネクラたらしネクラネクラネクラネクラたらしネクラネクラネクラネクラたらしネクラネクラネクラネクラたらしネクラネクラネクラ」

 

「しなさいよ!!!!」

 

ガン!ゴン!

 

「みきゃ!」

 

「グバァ!」

 

言い争っていた、俺とアリアの後頭部に、まるで金属バットで殴られた用な重たく強烈な痛みが襲う。

さ、流石菊代。

げ、拳骨に秋水を使って来たのか。

そう言えば、少し前に武藤に使ってたな。

俺とか、武藤じゃなきゃ、頭蓋骨粉々だぞ普通。

 

「つい数日前に和解した秤でしょう!何でもう喧嘩してんのよ!」

 

「「だって、コイツが!」」

 

俺が、アリアを指差すと、同じ様にアリアが俺を指差す。

そして、お互いに睨み合って

 

「「何だよ(によ)!」」

 

「……何か、仲良いわね。あんたら」

 

「「良く無い!」」

 

「いちいちハモるなよ!」

 

「此方の台詞よ!」

 

「どっちでも良いわよ!全く……お互いに、子供じゃないんだからもう少し冷静になりなさいよ。お互いに譲れない意地って物が有るのは分かるけども私達は、一時的とは言えチーム組んでるんだし」

 

はぁ、と菊代が溜め息混じりに前髪をかき揚げる。

 

「取り合えずあんた達また喧嘩しそうだから、武器、暫く没収ね」

 

ドサドサと、菊代の両手から、俺の靴ナイフ二足、煙玉六個、口に入れて相手に発射する麻痺性の毒針の入った小瓶と即死性の毒針の小瓶1つづつ麻痺性はアリアに使った奴だな――と、アリアの日本刀を二本と黒と白銀色のガバメント二丁その予備弾倉(スペアマガジン)が菊代の足元に落ちる。

 

「………やられた」

 

「え?い、いつの間に?」

 

出たよ。菊代のヰ筒取り(いづつどり)

此は、遠山家が間宮の技を見よう見まねで作ったスリ技。

ベースと為った『鳶穿』は、敵の腸とか、眼球とか、心臓とか、体の中身を抉り取る技を対してヰ筒取りは、敵の携行武器今の様に身に付けて要る物をスリ取る技。

鳶穿は、片手で、ヰ筒取りは本来両手で1つの物を取る技。

其れを、菊代は、俺とアリアの武器を片手づつ全てスリ取ったんだ。

……靴は、足を上げた時か?其ともさっきベットの隣の椅子に座った時か?

頭に血が登ってて気付かなかった。

大問題だ。

俺は、菊代に、両手を上げ降参のポーズを取りながら

 

「言い過ぎた。悪かったよ。だが、次から確認の連絡寄越せ」

 

「寄越したでしょ」

 

「其が、偽者だって言ってんだよ!やっぱり何も分かってねぇな!猪!」

 

「誰が猪よ!良いのよ!私は一人でも、ママを救うわ!」

 

「お前の母親の話は、してねぇが、其れを猪って言ってんだよ!」

 

さっきよりも一段階声を大きくして、アリアに怒鳴る。

まただ。

コイツと話すと、訳分からん頭痛と耳鳴りもするが、良く分からん怒り、なのか何かまた少し違う用な、耳の中に水が入ってなかなか取れない用なそんな感じのイライラとモヤモヤ感が有る。

つくづく分からん女だ。

いや、分からんのはコイツの声か。

だが、1つ言える事は

 

少し、目を見開いて驚いているアリアに向けて

 

「母親の話がお前から出たから言わせて貰うけどな、面会で母親に言われたんだろ?確か、『人生は、ゆっくりと歩みなさい。早く走る子は、転ぶものよ』ってな違うか?」

 

少しだけ記憶していた、神崎かなえの声を真似てアリアに向けて言う。

アリアは、少し驚くもまたキッと此方を睨み

 

「無駄に似てるわね」

 

「誉め言葉として受け取ろう。だが―――てめぇが、母親の言葉を理解してねえ……親の心子知らずって奴だな」

 

「な、私は、ちゃんとママの言う事はその位理解してるわよ!」

 

「いいや、してねぇ……今てめぇが此処にいるのが何よりの証拠だ」

 

グラァ

 

「ちょ」

 

「みきゃ!」

 

突然機体が揺れ菊代とアリアがバランスを崩してよろける。

菊代は直ぐにバランスを直したが、ベットの上で散々騒いでいた、アリアはそのままベットから転落

 

「よっと」

 

は、せず俺の腕にすっぽりと収まる。

だから、あれほど危ないから降りろと言ったのに。

てか、あの二人、まさかもう始めちまったんじゃ無いだろうな?

だと、したら少し不味いな。

予定より早い。

 

「二人共、始めちゃったみたいね」

 

「俺は、『話がしたいから置いて行け』って言われたんだがな。やっぱりこうなるよな……普通に考えて」

 

「な、何?何が起きたの?」

 

「機体が揺れただけだ。気にするな――てか、お前は、もう転んでるんだよ」

 

「そんなこと無い!」

 

「いや、転んでるね。母親を助けたいって気持ちは分からんでも無い。だがな、折角組んだチームを少しは、信用してくれても良いんじゃねぇの?」

 

言い聞かせる様に、言うとアリアは少し怒ったみたいで、子ライオンみたいに唸ると

 

「あんたに何が分かるのよ」

 

「知らん」

 

「じゃあ教えてあげるわよ!「遠慮します興味無いし」何でよ!」

 

いや、だって……ねぇ?

 

「どうせ、私の名前がアリアで独唱曲(アリア)と掛けて独りぼっちって奴だろ。はいはい、お上手お上手。座布団一枚」

 

「うるさい!うるさい!うるさい!ええそうよ!あんたの言う通りよ!私は、独りで戦って来たの!此れからだってそうよ!私は独りで」

 

「俺は、お前の主人の筈なんだかなぁ~一時的とは言え」

 

「え?」

 

さっきまで、俺の腕の中で腕振り回して、喚いて人の顔をぽかぽかぼかぼかガブガブガジガジしていたアリアは、キョトンとした顔を此方に向けた。

良いぞ、此処からはクロメーテルの時同様此方から行かせて貰う。

俺は、アリアの言葉に合意するように頷いて見せ

 

「確かに、人は最終的には独りだ。人と言う字は、お互いが、支え合って生きている何て抜かす奴は、頭お花畑のウィンウィン野郎だ。気持ち悪い。実に気持ち悪い、道端の吐瀉物を素手で触ってしまった時みたいに、気持ち悪い。人と言う字は、良くて二つだ。人が、大地に『独り』で、立っている姿か。又は、片方が一方的に支えるおんぶに抱っこ状態の事だけだ」

 

「私が、おんぶに抱っこだって言いたいの?」

 

「寧ろお前は、前者だ。だがな今までは、其で良かった。武偵だろうが、軍人だろうが、犯罪者だろうが人が生きるか死ぬかの中に立たされりゃ、結局は独りだ。今までのお前のやり方は、間違ってなんかいない………人の部屋に不法侵入したことを、除けばな」

 

そう。アリアは、前者だからこそ転んだ。

その後も恐らく、がむしゃらだったのだろう。

立てなければ、這っていけば良い。

兎に角、突っ込んでいく。

だからこそ猪なんだよお前は。

そう言う奴は直ぐに罠に引っ掛かって死ぬぞ。

(目的)しか見えて無いからな。

 

「だから、あれは悪かったって言って「てな訳で、償いをして貰うとしよう」……え?」

 

再びキョトン訳ワカメな、アリアは、俺を叩こうと、する腕を止めた。

次殴ったら、海に蹴り落とそう。

空気をタップリ入れた穴の開いた浮き輪を付けて。

 

「償いは、簡単だ。俺の目的が、叶うまで、奴隷として働いて貰おう。元々、お前が俺を奴隷として無償で働かせる気で、奇襲を仕掛けてきたんだからな。何も問題はねぇだろ?お前は、母親を助けたい。俺は、お前の母親と話がしたいのと……有る物を届けたい其まで、お前は、俺達に、おんぶに抱っこ其で決まりだ。前に、言った通り母親は、助けてやるからよ」

 

「届ける……?」

 

「今は、まだ言えない。まぁ、俺がどんな物か見当も付かないだけなんだかな。届いた時のお楽しみって奴だな。……まぁ、そう睨むなよ。母親に危害は零だ」

 

「信用しろと?」

 

「するか、しないかわお前次第だ。だがな、奴隷と為れば母親は、助かる。成らなければ………知らんご想像にお任せする」

 

てか、さっきから俺の腕がぷるぷる、ぷるぷる震えてるんだけど、腕を見るとアリアの顔がトマトみたいに真っ赤。

おい、まさか風邪とかじゃねぇだろうな?

移すとか止めてくれよ。

俺は、薬例外を除いて殆ど効かない体質なんだからよ。

 

「何時まで抱いてるのよ!」

 

「ポピィ!」

 

バァン!とアリアの手の平が、俺の顎を襲う。

危ねぇ、お面付けてなければ即死だった……余り関係ないか。

 

「何すんだ!このボケ猪!」

 

「良いわよ。奴隷になるわ!」

 

「あ?」

 

俺の腕から抜け出した、アリアが、ビシッと此方に人指し指を突き付けて来る。

明らかに奴隷の態度では無いがまぁ、良いや。

 

「おんぶに抱っこ上等よ!けどね、奴隷の首輪の手綱は主人の手に握られているの!奴隷の主人は、一心同体で、奴隷に危機が迫れば、主人のあんたにも危機が迫るんだからね!」

 

「おお、分かってんじゃねぇか。いや、関心関心」

 

パチパチと俺が、気の抜けた、拍手をアリアに向けて叩く。

 

「バカにしてるでしょ?」

 

「はい。ごめーーーーん、なさい!」

 

「してるのね?」

 

「何か問題でも?」

 

お互いに、暫く無言で睨み会っていると

 

「『金次』お座り」

 

隣から、菊代が言った言葉に、“従って”俺の体が、“勝手に”床に胡座をかいて座る。

き、菊代待って、其は、不味い。

本当に、其は勘弁

 

「『金次』伏せ」

 

「ビブッ!」

 

そのまま、上半身が、降り曲がり、床と熱いキス。

か、体が動かん。

土下座状態からピクリとも動けん。

菊代が、俺の事を『金次』と言うのだけは、本当に勘弁だ。

言う事を拒否することが出来なくなる。

体が、乗っ取られたみたいに言う事を聞かねぇ。

まぁ、こんなことにならなくても拒否しないけど。

 

「あんた、言った側から何で言い争ってんだい!一分も持たなかったじゃないの!二人共だけど!」

 

仰る通りで。

 

「アリア!あんたもあんたよ!確かに、形だけとは言ってもね、和解して組んだのよ私達は、こんな所で、争ってどうするんだい。今回は、家のバカ犬が、いきなり襲った事に付いては謝るわ。けど、次からは、此方も少しは、信用してもらわなきゃ、話にならないよ。じゃなきゃ、あんたの追う獲物の思う壺だよ。自分だけが追う側とは限らないんだから。猟師が獲物に食い殺される事だって有るんだからね」

 

頭上から菊代の声が聞こえる。

な、何も見えない。

動けない。

 

「『金次』解放(リリース)

 

ストンと、いきなり体が軽くなり普通に立つことも動ける様にもなる。

毎回思うが、俺が菊代に金次と呼ばれると、どうしてこうも言うことを聞くんだろうか?

俺の前世は、飼い犬か?菊代の。

一瞬想像したが、本当だったらちょっと嬉しい。

別に、そう言う性癖が有る訳では無いけど。

 

ガッシャアアアアアアアアアアアンッ!

 

扉の向こうから、正確には、下の階から、何かが割れる音其に続く発砲音。

ちょっと、放置プレイし過ぎたか。

 

「そろそろ、二十分立つわね」

 

「患者が、暴れ始めたか………にしても、暴れ過ぎだろ此は」

 

菊代が、独り言として呟いた言葉に、同意する形で呟く。

窓の外でも、近くに雷雲が合ったらしく、ガガガーーン!と耳に響く大きな雷鳴が響いている。

まるで、下の階の状況を表している様だ。

 

「早く行きましょ」

 

菊代が、下の階へと、行こうと、扉の合った方間で走る。

俺も其に続こうとしたが

 

「……何してんだお前は?」

 

「何もしてないわよ」

 

俺の視界に布団お化けがいた。

そうとしか言えん。

布団を頭から被って震えているアリアが目の前に

 

「あぁ、お前……雷怖いのか?」

 

ビクッと布団が一瞬浮き上がった。

図星か。

 

「こ、怖い訳無い。バッカみたい」

 

強がりなのだろう、そう言った矢先にタイミングでも見計らってたんじゃねぇの?と思うくらいタイミング良く。

ガガーン!と雷

 

「みっきゃああああああああああああ!!!」

 

ぴょーーーーんと布団にくるまり座った状態でカエルみたいに高く飛び上がる。

無駄に器用だなお前は。

流石強襲科Sランクだな。

 

………絶対関係無いな。

 

「怖いんだろ?素直になれよ」

 

「そんな訳無いでしょ!うるさかったから耳を塞いでるだけよ!」

 

ガガーン!と、又雷が窓の向こうで鳴ると、とうとうアリアは、布団のより奥深くへと潜ってしまった。

 

「………じゃあ、俺達行くからな?」

 

アリアに背を向けて、菊代の方に行こうと、すると

 

「ま、待ちなさいよ~~ふ、二人共~~~」

 

涙声で、布団から手だけが出てきて、俺の袖を掴む。

絵面からすれば、チビッ子だって雷よりお前が怖いって言うぜ。

 

「わ、私も、行く~~~」

 

「そのつもりで迎えに来たんだが……」

 

もう、布団から微塵も動こうとしないこの様子を見ると………流石に無理が有るだろう。

 

「どうしたの?」

 

と、其処へ、扉の合った場所で待っていた菊代がやって来て布団を掴み顔を入れる。

数分位してから、顔を出して。

 

「遠山」

 

偉く真剣な顔でやけに目を輝かせ

 

「この子、育てたい」

 

「何言ってんの?」

 

布団の中で何が合ったよ。

訳ワカメ。

 

 

 

 

―――で、菊代が、アリアを何とか宥め、下のバーまで来ると良く分からない光景が広がっていた。

そうとしか言えん。

 

バーのカウンターは、ボロボロ高級な酒はもうひとつ残らず割れて床に落ち中の液体を床に広げ、様々な酒の匂いが此方にまで届く。

鼻が、人一倍良く効く俺にとっては、キツくてしょうがない。

おまけに、上から吊るして合ったシャンデリアは、床に落ちて残骸の破片が、あちこちに散らばっている。

その、シャンデリアの残骸を間に挟んだ状態で、お互いに息を切らした、エルと理子。

もう、言葉が出なくて、驚き桃木魔法のステッキだ。

 

 

 

 

 

 

 

何か、御免ね二人共。




金「(武器を)持って無いとは、言った。身に付けていないとは言って無い」


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27 この楽しくもクレイジーなステージで

もう夏ですね。
夏と言えば、熱中症。
皆さんは、どの様に対策しますか?
水分塩分を取る。
スタミナを付ける。

――もっと、簡単な方法が有ります!

其は、『部屋から一歩も出ない』
何処かの、ぼっちに見えてぼっちじゃない人も言っていた。

まぁ、私の場合クーラー壊れたんで、部屋から出ないと、熱中症なってしまいますけど。


「と、トウヤマ……来るのが少し遅いよ」

 

「エル……」

 

ふらふらと、俺を見掛けた途端に、生まれたての小鹿の様に歩いて来た先程まで、目の前の理子と激戦を繰り広げてたのであろう、エルは、俺にもたれ掛かると、息を切らし咳き込みながら崩れ落ちた。

エルは、此方を見ながら

 

「でも、来てくれたんだ。良かった……アリアを連れて来るにしては、時間掛かったじゃないか」

 

「向こうが、駄々こねてな。其よりエル」

 

俺が、口を開くとエルは、人差し指を俺の唇に当てて塞ぐ。

そのまま、弱々しく笑って

 

「いや、言わなくて、良い、分かっている。だが、少し疲れた。ボクは寝るよ――――――おやすみトオヤマ」

 

そう言い残して、糸が、切れた人形の様にダラリと、気を失った『フリ』をしたエルを抱き抱え

 

「菊代パス」

 

「はいはい」

 

ポイっと投げたエルが「フギャ」と菊代の腕に収まりながら短い悲鳴を上げて

 

「何をするんだ!トオヤマ!此処は感動的に悲劇的に君が、美しく優しく抱き締め涙するところじゃないか!」

 

と、俺に少し涙目で詰めよって来た。

お陰で少し、エルから香るシナモンの匂いを嗅ぎながら

 

「そんな今どき流行りそうも無いドラマ思考な事を言われてもねぇ………其に、ククリを人の首筋に突き付けながら、そんなドラマチックな事を坦々と言うヒロインなんて、俺は御免だ」

 

てか、そんなヒロインがいてたまるか。

テレビ見ててそんなヒロインがいたら、速攻でチャンネル変えるね。

そんな俺の気なぞ知らないエルは、リスみたいに頬を膨らませて

 

「折角、戦闘中に思い付いたシナリオだと言うのに君は、乗りが悪い」

 

呑気だなぁおい。

戦いの中でそんな事を考えられるのはお前くらいだ。

てかよ。

 

「あいた!」

 

ビシリとエルの脳天にチョップを食らわせる。

 

「何で患者と戦ってるんだよ?本末転倒だろうが」

 

辺りを見渡せば分かる通りで、所々ボロボロでイギリス着いたら知り合いの店に売ろうとちょっとだけ思っていた高級な酒の数々まで台無しだ。

どうして、こうなったよ?

まぁ、予想はしてたけど此処までとは

 

よっぽど、理子は盲信してるんだろうねぇ。

犬との約束を

此は面倒臭い。

 

「色々合って……つい?」

 

てへっと、漫画の『私ってばドジっ子アピール』みたいに舌を出して戯けて魅せる。

………何処で覚えた。

絶対に風魔の前で見せるなよ?

西洋忍者の変な所を吸収してしまったら、たまったもんじゃ無い。

取り合えず何かムカついたので、もう一発チョップを食らわせておく。

え?女に手を上げるなんて最低?知りません今の時代は白雪と菊代を除いて、男女平等です。

そもそも、そんな眠い事を言ってたら、直ぐ死にます。

 

「でも、ご苦労だった。約束通り後でリハビリ付き合ってやる」

 

「本当かい!」

 

途端に、元気になり無邪気に瞳の奥をキラキラと輝かせる。

どんだけリハビリしたいんだよお前

 

「やっぱり、面白いねぇ~キー君の所は」

 

「じゃあ。此方に来るか?歓迎するぞ」

 

「保留にしとく」

 

さっきまで俺と、エルのやり取りを見てケラケラとバーカウンターの椅子に座って笑っていた理子が、俺の隣にいた菊代の後ろにいたアリアを見て

 

Bon soir(こんばんは)日本までの長旅ご苦労様。オルメス」

 

くいっと唯一割れてなかった酒瓶に入っていた青いカクテルを飲みアリアに向けてパチリと、ウィンクしてきた。

畜生飲まれた。

後、どうでも良いけど、さっきまで息切らしてたよな?

エルとの小芝居の間にワザワザ移動したのか。

雰囲気重視だな本当に。

 

ホームズをフランス語で呼び、煽るように、くいくいと手を曲げて、アクション映画なんかで見る『掛かって来いよ』のポーズを取る。

勘が鋭いアリアは、何となく感づいたらしく

キッ!と菊代と俺を押し退けて

 

「あんたなのね?武偵殺しは?」

 

「正解」

 

語尾に♪マークでも付き添うな程即答した、理子にアリアが先程菊代から返して貰ったガバメント二丁を其々両手に持ち襲おうとした所を間髪入れずに俺と菊代が押さえ付ける。

 

「は、離しなさいよ!」

 

「……キー君其は、どう言う事かな?」

 

アリアと、理子から疑問の声が此方に向かう。

理子なんかは、俺にまで殺意を向けながら。

俺に向けてもどうしようも無いでしょう?

取り合えず、理子の疑問には答えますよ。

 

「中ボスほったらかして、ラスボスと戦おうだなんて通じないでしょう。常識で考えたら」

 

「キー君に常識を解かれるとはねぇ。理子よりも悪人なのに」

 

確かに、世間から見たら目も当てられない極悪人だろうけど

 

「ラブ&ピースを、無責任にクルクルポッポーと、喧しく騒ぐだけ騒いでクソ置いてって、掃除を他人任せにする其処らの平和主義者もどきの鳩人間達よりはよっぽどマシだろ」

 

理子は、口元に手をやって、同意するように頷き、クフフと笑いながら

 

「あぁ、確かにキー君の身近にいたもんねぇ~そんな人」

 

理子が言っているのは間違いなくクソ兄貴の事だろう。

何となく分かる。

 

「今どうしてんだろうなぁ~元気にしてるかなぁ」

 

わざとらしく言うと

 

「クフフ、元気にしてるよ。何を隠そう理子と同じ『学校の』恋人なんだから」

 

別に隠す程の事でも無いから。

そのどや顔止めなさい。

 

「止めとけ。お前のボスにも言っとけよ。今すぐ退学にした方が良いってな」

 

「どうして?」

 

「裏口入学だからかな?まぁ、そっちで処罰するよう言ってくれよ」

 

「うー!ラジャ!」

 

ビシッと両手で敬礼?のポーズを取り直ぐに

 

「で、何でソイツとの戦いを邪魔すんだよ?消すぞ?」

 

殺意を含めた声に戻る。

おぉ、怖い怖い。

 

俺は、肩を竦めてヤレヤレとウンザリしたように見せながら

 

「忘れて貰っては、困るな。エルとの戦いは単なる余興。本題は、俺とお前の楽しい楽しいゲームだろうに」

 

余興と言うように、エルをさっき良く観察したが、怪我なんか一つもしていない。

この状況を見るに、一歩間違えば大怪我処かとっくに死んでいただろう。

だけど、エルとやんちゃしてきたから、分かる。

何だかんだで、此はエルに取っても治療とかお題目掲げたお遊びでしか無いと言うことを。

それこそ、遊びの最中に俺とのリハビリのシナリオを考える程に。

余裕だからだ。

 

そして

 

「アリアは、約束通り連れて来たが、まだ戦わせるなんて一言も言ってねぇぞ」

 

そう言うと、理子は俺とアリアを交互に見て、あぁと納得したようで

 

「先に、呪いの男(フルヒマン)お前が戦うんだな?」

 

その言葉に、俺はテレビのコントなんかのズッコケポーズをしてから呆れた声で

 

「何でそっちのお前は、バーサーカー思考なんだよ。全然違うっての」

 

「じゃあ、何だってんだよ?」

 

「自分で、言っておいて忘れんなよ―――俺は、ギャンブルしに来たんだぞ。お前の用意してくれたこの、豪華なファイナルステージで」

 

「おーー!そうだった!そうだった!理子、忘れちゃう所でしたーー」

 

殺意は、振り撒いたまま、椅子の上で器用にクルクルと周り普段の戯けた理子の方の口調で言い。

ピタリと止まったかと思えば

 

「ソイツが景品なんだろ?さっさと寄越せよ」

 

「そりゃ、反則だ。ルールを守って楽しくやろうよ」

 

「言って見ただけだよーーん」

 

表情クルクル変わって大変そうだなぁと思いながら

 

「うわわ」

 

「ハニャ!ちょっと!何すんのよ!ネクラ!」

 

「名前みたいに呼ぶんじゃねぇよ」

 

押さえていた、アリアと何となくわざともたれ掛かって来たエルを其々脇に抱えてバーカウンターまで移動する。

そのまま、カウンターの中へと放り込む。

 

「ネクラ!何すんのよ!」

 

「トウヤマ!ボクは関係無いよね!?」

 

後ろに、放り込まれた割りには、確り着地した二人を放とっいて隣に座っている理子に向き合って、ドサドサと全ての武器を理子の方に放り投げる。

靴ナイフ、毒瓶、煙玉、此だけはお客様の前でも失礼と分かっていても外さないグラッセさんから貰ったナチのベルト・バックルに、似た中心に斜め卍を掴んだ鳥のデザインが施された珍銃。

護身用のバックル・ピストル。

銃検は通した事にしてあるからご安心―――それら全てを理子の前に出す。

今の俺は、屁理屈でも、嘘でもなく見たまんま、丸腰である。

 

此には見守っていた、菊代も流石に驚いて

 

「遠山……どう言うつもり?バックルまで手放すなんて」

 

「あぁ、分かっているよ。バカな真似してるってな」

 

CQC(近接格闘術)?良いじゃん来なよ」

 

椅子に座ったまま手招きする理子に、俺は首を振り

 

「其も、違う。俺はエルと違って『一切攻撃しない』」

 

その、言葉に理子、エル、菊代、アリア全員がポカーンと、口を開ける。

 

「俺は、ギャンブルをしに来たんだぞ?俺はこう言ってるんだよ『俺は、アリアと俺自身を賭ける』理子お前は、どうするよ?お前は、俺に攻撃し放題だぞ?俺が、くたばったらアリアを好きにしろよ」

 

「クフフ……フフフフフフ」

 

理子が、肩を震わせて顔を下に向けて笑いだし

 

「やっぱり、キー君はサイコーだよ。サイコーに、面白くて――イカれてる」

 

ニヤリと、普段周りの男子が、騒ぐキュートな理子とはまた違う、ドラマの悪女がやりそうなミステリアスな色気を出す笑みをする。

其に俺も笑って見せる。

理子の後ろの窓に写った自分の顔は、アリアの言う通りのここ最近余り眠っていなかったせいか少し目立つクマがよりネクラさを出し十人中十人が答えるだろう悪人顔である。

 

「でも」

 

理子が、俺の顔を表情変えずに見ながら

 

「本当に丸腰なの?」

 

「なるほど」

 

一理ある。

確かに、エルとの戦いの後だ疑うのも当たり前だろう。

だったら

 

「アリア……そして、理子」

 

「な、何よネクラ」

 

「ん~?」

 

いきなり名前を呼ばれてカウンターかる頭だけ出して答える理子

椅子から降りてとっくに距離をとっていき何が始まるのかと、楽しくそうに見る理子

俺は、その二人と呆れた顔の菊代イタズラのつもりか、次のリハビリのネタにするつもりか、携帯を構えるエルの携帯を手で払いながら、シャツのボタンを外しながら、独り言のように呟く。

 

「『無理』『疲れた』『面倒臭い』この3つは、人間の可能性を自ら押し留める良くない言葉。私の前では、二度と言わないこと良いわね?」

 

「ネクラ、あんた私の台詞を」

 

さっきのネクラ呼ばわりにのお礼にちょっとした嫌がらせを予てアリアの声で病院で言われた台詞を真似して言う。

シャツのボタンを全て外し今度は其を脱ぎながら

 

「俺は、この言葉を全否定した。何故なら俺は、生まれた時から『可能性』その物が存在しないからだ」

 

シャツを脱ぎ其を、武器を投げたその上に投げ

 

「アリアの母親は、努力や運その他の様々な巡り合わせで可能性として助ける道が存在するだろう。だが、世の中には、努力しどんなに仲間を集めても金を集めても絶対に手に入れる事が出来ない物だってある。他の多くの奴等は生まれたその瞬間から当たり前に手に入れる事が出来る物だ」

 

理子は、どれか分かったんだろう。

其もそうだ。理子は最初は持っていた。

そして、失った。

自分のベルトのもカチャカチャと音を立てながら外し

 

「其は、普通と言う名の平穏だ」

 

「平穏……?」

 

アリアの疑問の声に俺は頷きながら、ベルトも捨てる。

 

「ガキの頃に僅かに夢見た。其処らの鳩人間の言う常識を他人に無責任に押し付けのうのうと高みの見物をし、飛べずに地に落ちた奴の上にクソして知らん顔するごくごく普通の一般人と呼ばれる、俺からしてみれば雲の上の奴等のような生活だ。だが、俺には『無理』だ。変な力を受け継ぐ家庭に生まれた時からな」

 

もしかしたら、俺も前世とか呼ばれる時が合ったときは、雲の上の奴等みたいな普通の生活をしていたのかも知れない。

所詮過去のどうでも良い話だけどもし、そうだとすれば

俺、結構落ちる所まで落ちたよな。

少し、自嘲気味に理子に笑いかけると理子は口の端を少しつり上げて

 

「何だよ。お涙頂戴話か?それとも時間稼ぎか?」

 

「どちらでも、無い。単なる独り言だ。だが、短い人生の中で自信を持って言える物もある。興味があるなら聞いておけ損は無い特に、アリア」

 

後ろを見ると、アリアは頭を隠しているが、どう言う体の構造なのか、頭から煙を出している。

 

「どうした?」

 

「ど、どどどどどうしたもないわよ!この変態!露出狂!な、何で服脱いでるのよ!」

 

少し、口を押さえて笑ってもいる菊代と再び携帯を構えるエルに挟まれてアリアが赤面して叫ぶ。

叫ぶ程か?脱ぐも何も上半身だけだろうに。

こんなんプールとか海行ったら皆こうだぞ?

 

まぁ、良いやと、再びエルの携帯を遠くに手で払って理子と向き合い

 

「一つ。余り、盲信するな。盲信は周りが見えなくなっている分、見えている部分に対する集中力は半端ない。正にお前ら二人の状態だ」

 

此は、風魔にも昔言った言葉だ。

どう言う時に言ったのかは、忘れたけど。

もう片方の靴下も脱ぎながら

 

「二つ。良く周りを見渡せ、横を向け、どんなに暗闇の鉄骨を渡ろうとも良く周りを見れば別の道がある」

 

最後に時間を欠けてゆっくりとズボンに手を掛けて

 

「三つ。猪になるな。俺も昔、其処のピンク猪みたいに、がむしゃらな時代が合った。だけど、いつか、真っ直ぐ走っていれば、穴に落ちて落ちる所にまで落ちて行くんだよ」

 

最後のズボンも脱ぎ捨て、旗から見たら確かに、女子の前でパンツ一丁になる直ぐ様お縄のド変態。

まぁ、そんな性癖は無いが。

ズボンを、横に投げながら

 

「最後に、雨が降ったら、雨を浴びて楽しめ――此がこの先出来ない奴から、俺みたいになっていく」

 

理子は、山積みにされた武器と服を横目でチラリと一瞥してから

 

「演説は終わり?パンツは脱がないの?」

 

「ご所望と有れば脱ぎますが?」

 

「良いよ。で其は、何の真似?」

 

何処か、楽しそうに、俺の周りの武器やら服やらを指差す。

其にさも当たり前のように

 

「この服の中に、武器を仕込んでんじゃないかって疑ってたんだろ?だから、脱いだのさ、ほら、もう俺は正真正銘」

 

―――丸腰だ。

 

そのまま、何処かのラボの厨二病科学者のようなポーズを取り理子に合わせた雰囲気を作り出来るだけ、標的を俺だけに絞る。

 

 

「ギャンブルのルールは、一回戦で勝った俺が、決める!ルールは簡単だ、『俺は、攻撃せず、理子に降参させれば、勝ち!理子は、俺の後ろのワトソンとホームズに少しでも傷を付けれれば勝ち!お前が勝ったらアリアを煮るなり焼くなり好きにしろ!』……此で良いか?」

 

「はぁ!ちょっとネクラ!あんた何変な事を言い出すのよ!」

 

「ボク巻き添え!?」

 

「二人とも落ち着きなさい!」

 

後ろで、文句言う、二人を菊代が押さえ付ける。

何故ワトソンもかって?やたらセクハラ行為をしたからです。

 

そんな後ろの騒ぎなんてどこ吹く風な理子は、パチパチと手を叩き

 

「文句は無いよ。でも、理子は降参なんてしないよ」

 

「言わせて見せるさ。其がギャンブルだ」

 

「じゃあ、理子が、賭けるのは理子自信って、事だね?」

 

「そうなる」

 

その言葉が合図となり、理子が、此方へと助走をつけて走って来る。

 

じゃあ、イギリスに着くまでの間、お互いに楽しく遊ぼうぜ理子

 

★ ☆ ★

 

同時刻――場所は、不明の何処か暗い場所。

何の曲だろうか?

薄暗い暗闇の中やけに高く其でも何処かすんだピアノの音が静かに止み。

 

「どうやら、始まったみたいだよ」

 

「推理通り?」

 

その中に。二人の男女

男の方が先程まで演奏していたのだろう。

椅子に座り何処か気品のある出で立ちでパイプを加える男は、ひょろ長く痩せた体に、鷲鼻に、角張った顎、足でも悪いのか、ピアノの横には、ステッキを立て掛けている。

その、男の後ろにいる女性は、十人中十人が見惚れるであろう、正に絶世の美女と呼ぶに相応しい、ロングスカートのワンピースに、編んだ後ろの三つ編み長い睫毛の下の瞳は柔らかな視線は裏腹に、氷のように冷たい殺意を潜めていた。

其は、この目の前の男ではなく、もっと遠くの誰かを見つめて。

そんな、彼女の考えいることが、分かるのか、男は静かに

 

「カナくん。君もそろそろ、部屋に戻ってテレビを付けると良いよ。ぼくの推理だと行方不明の君の弟が空の上で活躍している頃だろうから」

 

カナと呼ばれた、女性はピクリと後半の台詞に長い睫毛の下の目の端を僅かに震わせて

 

「可笑しいわね?私の弟は死んだと聞きましたわ。他ならぬ、《教授》(プロフェシオン)貴方によ?」

 

教授と呼ばれた男は、一度パイプを口から離し

 

「ん?そうだったけ?僕も歳かな?忘れっぽくなってしまったようだ。気を付けないとね」

 

ニコォーと、まるで、無邪気な少年のように冗談目かして笑う男に、カナと呼ばれた女性は、はぁと、溜め息を吐いて長い三つ編みを揺らしながら踵を返し扉のある方へと歩き出す。

その、後ろ姿に

 

「行方不明の可愛い弟が、見つかったと言うのに全然嬉しそうでは無いね?」

 

ピタリと、ドアノブを掴んだカナの手が止まり

 

「いいえ。嬉しく思っているわよ。だって」

 

―――ちゃんとこの手で殺せるから。

 

男は、その、言葉に驚く処か、ふっと笑みを深くして

 

「其もまた、一つの姉弟の形かも知れないね」

 

そう言うと、ピアノに向き合ってまた引き始めた。

もうカナの方は見向きもしなかった。

 

「姉より優れた弟など存在しないわ」

 

憎々しげに放たれたその言葉は、何処かに届くこともなくピアノの音にかき消されバタン!と最後に扉を強く閉める音だけが響いた。

 

「……兄ではなく……か」

 

ピアノを引きながら呟く男を残して




かつて私の父と祖父は言った。

『夫が大黒柱なら、妻はチェーンソー持った木こり』だと。

まだ、小学生だった私は場違いにもこう思った。
斧じゃないのと。

今思えば、嫁には逆らえないと言う意味なんでしょうね。

この作品を書く度にその言葉が浮かびます。


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28 嘆く声を響かせて

のんのんびより始まりましたね。
ああいうの見てると何か無性に遠くに行きたくなります。
モデルニナッタバショトカ
一人旅とか何時かはやってみたいですね。
憧れます。
何時かは行こう。

……そう何時か。


「キー君はさぁ、誰かと比べられた事ってある?」

 

「む、昔はぁあああ !たまにぃ!ふっ!合った、ぞうぉうあ!」

 

シャ!と右からナイフ。

バリバリッ!と音を立てて何発も迫ってくる銃弾。

先程まで、エルに少し失礼して匂いを嗅がせて貰いちょいHSSと言う人格が変わるとまでは行かずせいぜい見るものがスローモーションになるくらいので、凌いでいたが、こりゃもう完璧に泥沼試合。

何か、バスジャックの時も後ろで、エルに取り押さえられてるアリアとこんな感じだったような。

此は本来の戦闘とは違って、悪魔で、説得&勧誘の為のギャンブル。

俺は、死んだら負けで理子は降参すれば負け。

だが、俺は、一切の攻撃を自分で禁止した。

おまけに、理子は、バスジャックの時もそうだったが、予想外の事や負けそうになると敵を威嚇し殺気を放って敵のミスを誘うタイプ。

この無限ループのようなやり取りに、理子も苛ついて来たのだろう。

額に血管浮かび上がってるもん。

菊代が、裏理子とか言っていた感じになっているが……その状態でも俺をキー君と呼ぶならまだ、勝算は有ると考えても良いだろう。

でも、降参させる感じんのタイミングってもんが見当たらない。

何とか理子の体力切れを狙いたいが……望み薄いなぁ。

あぁ、ちょいHSSの血流が流れてた俺を今すぐ蹴り刺したい。

 

「其処貰い!」

 

「残念」

 

バチン!と理子のナイフを両手で挟み真剣白刃取りの形になり飛んできた三発の銃弾を両足裏の踵と付け根で挟み土踏まずの間から出た一発をガリッ!と前歯で挟み直ぐに吐き出す。

良かった、歯は欠けていないみたいだ。

しかし、ジャンプして受け止めたので背中から床に直接落ちる。

背中も痛いが、其より皮膚にもろ食らうから、熱い通り越して骨が焼ける見たいに熱い。

火傷で済むだろうか?

 

「HSSじゃなくても、キー君は銃弾も刃も通じない……さっすがだねぇキー君は人間じゃないみたい」

 

「そりぁどうも後、俺は正真正銘人間ですよ」

 

「じゃあ、こう言うのはどうかな?」

 

理子が、ポケットから取り出したのは、小さな香水の瓶――ってまさか

 

「不味い、『金次』!鼻を摘まみなさい!」

 

プシュ!と、菊代の言葉よりも俺がナイフを払い除けるよりも早く、瓶から出た気体が俺の鼻に届く。

 

「グッ!――ハッ、ガッアァアアァァアアアアアァアアアァァアアアッ!!!」

 

「遠山!」

 

「トウヤマ!」

 

瞬間、全身に叫ばずにはいられないほどの激痛が走る。

視界が、まるで水に溶かした絵の具のようにグニャリと曲がり頭の中――脳が焼けるような熱さと、鼻に迫る激痛で周りの銃弾の火薬や刃物の金属独特の匂いすら分からなくなる。

 

「匂いはしない。―――前のお酢を溶かした刺激嗅とはまた違う」

 

「峰――あんたぁ。弟に何を嗅がせたんだい?」

 

ボンヤリとする視界で何とか、痛みを堪えて理子とエル、菊代の間にカウンターを支えにして立つ。

俺の視界では、周りの景色と混ざり合って人の形を止めていない理子から

 

「水に溶かした殺鼠剤(ネコイラズ)。嗅覚が並外れたキー君には予想以上に効果抜群だったみたいだねぇ」

 

クフフと笑う声が、いつもと違ってハモったように何重にも聞こえてくる。

だが、今理子は、確かに殺鼠剤と言った。

なるほど、ならこの痛みにも納得が行く。

殺鼠剤は、その名の通り家に潜む鼠を殺すための薬。

クマリン系の強力な毒物だが、理子や菊代達が何ともないように、普通の人は何も感じないが、嗅覚の鋭い動物は、俺のように意識がもうろうとしまともな判断が出来なくなる。

遠山家の中でも、特に嗅覚が鋭い俺は、先程のようにHSSが無くても銃弾の火薬の匂いや刃物の金属独特の匂いを嗅ぎ追って躱したり受け止めたり出来たのだ。

部屋の中で風魔を襲ったアリアの場所が直ぐに分かったのも、アリアが残していったクチナシの香りを辿ったからだ。

だが

 

「どう?キー君。もう何の匂いもしないでしょ?」

 

「『金次』上半身を後ろに!」

 

シュ!とよろける形で、後ろに上半身を傾けると多分喉元が合った場所に理子のナイフと思われる物が空を切るように見えた。

意識が、もうろうとしてるが菊代のお陰で助かった。

菊代が、俺を下の名前で呼ぶ時は、俺の意識と関係無く体は動く。俺の体のようで俺のじゃない。

ゲームで言うなら、俺は操作キャラで菊代はコントローラーを持ったプレイヤーだ。

幸い、この薬は俺にとってはある程度の時間があれば治る物だ。

現にもう体の痛みは消えはじめている。

俺が、薬とか、毒とか効きにくい体質ってのも理由だろうな。

このまま菊代が俺を使っている間に何とか理子に勝つ方法を……その前に鼻を何とか回復させないと。

 

「『金次』!右に避けなさい!」

 

バリバリバリバリッガチンッ!

ギキキキキキキキキン!

 

菊代の言う通り、右に飛ぶように避けされた瞬間に先程まで俺がいたのであろう所へと何発もの銃撃の音と甲高い金属同士がぶつかる音が聞こえる。

ハッキリとしない目でみたところ、断言出来ないが、理子の放った銃弾を菊代が斬り落としたのだろう。

菊代の両手の先が僅かに光で反射しているのを見るに、普段から愛用している匕首とこの間加工された緋色の肥後守を使って。

 

GK(ゴールキーパー)がいるのを忘れて貰っちゃあ困るよ」

 

「そう言えば、一対一何て一言も言われて無かったね~」

 

少し、回復しやっと人の形として見える目で二人を見ていると顔までは認識出来ないが、菊代は静かに怒気を含ませて理子は何処か楽しそうに話している。

 

やがて、理子がふぅと溜め息を漏らし

 

「オルメス、ワトソン――お前らは、数字で呼ばれた事はある?」

 

二人に向けて言った皮肉を込めた言葉は、アリア言っているようで別の此処にはいない誰かに言っているようだった。

 

「何が言いたいのよ?」

 

「理子………良いのか?」

 

俺が、言った言葉に、反応してくれたのか、此方をまだのっぺらぼうに見える顔を俺に向けて

 

「優しいねキー君は。そんな状態にされたのに」

 

「俺は、香水を掛けられただけだ。お前に何もされていない」

 

間髪いれずに、理子に答える。

顔は分からなかったが、フフッと言う声が聞こえたあたり笑ったのだろう。

いや、笑われたの方が正しいかも。

 

「理子・峰・リュパン4世――オルメス、其が私の本当の名前だ」

 

両手を広げまるで演説でもするようにその場で語り始める。

 

「でも、家の人間は、皆『理子』とは呼んでくれなかった。お母様が付けてくれたこのかっわいい名前を。どいつもこいつも呼び方が可笑しいんだよ」

 

「可笑しい?」

 

此処からは見えないが、声からしてアリアだろう―――が呟く。

 

「4世。4世。4世。4世さまぁー。どいつもこいつも使用人どもまで……理子を呼んでたんだよ。ひっどいよねぇ?」

 

「リュパン……」

 

エルが、同情したように声を出す。

同情は、人にとっては最も苦痛感じる物だ。

だが、そうだとしてもエルは、同情してしまうだろう。

エルも似たような事が合ったから。

自分を見て貰えない事を人は苦痛に感じる。

例え、意識してなくてもストレスになり、やがてトラウマとなる。

数字で呼ばれる事が、自分を見て貰えない事が、その一族と一括りにされる事が

理子にとってどれ程の苦痛だっただろうか。

俺には、いや、誰にも分かる術は無いだろう。

普通だったら、其処にいるようでいないと風に見られれば自然と壊れ亡霊のようにされるからだ――――周りの鳩人間によって。

だが、理子はその苦痛を此処まで背負って来たのだ。

目の前のアリアをひたすら見ることで亡霊にならずに。

 

「そ、其がどうしたってのよ!4世の何が悪いってのよ!」

 

「な!」

 

ハッキリとそう言ったアリアに、理子がギリリと大きく歯軋りをする音とエルの驚いた声が聞こえる。

 

「悪いに決まってんだろ!!私は数字か!私はただのDNAかよ!私は理子だ!数字じゃない!どいつもこいつも!」

 

とうとう怒りが、際頂点まで来てしまった理子は

 

「曾お爺さまを越えなければ、私は一生私じゃない!『リュパンの曾孫』として扱われる。だから、イ・ウーに入って、この力を得た――この力で、私はもぎ取るんだ!私をッ!」

 

此処にいる俺達でも、アリアにでも無い。

理子が、今本当に、憎くて、殺したい。

でも、出来ないと思っている相手。

だから、さっき一度断られた。

でも、この様子だったら。

 

「キクッチ!あんたの腕は、二本だろ。今まで色んな奴を仕留めてきた、不幸の決めて(アンハッピールーレット)でもこんなのは相手にしたこと無いだろう!」

 

「不味い!キクヨあれが来る!」

 

「何が来ても、あんた達が、相手にするんじゃないよ!」

 

しゅら……しゅるるるっ。

だんだん回復してきてもう、うっすらと顔の表情が目で見えるくらいになった俺の目には、額に血管浮かび上がらせた理子の髪がまるで、神話のメデューサのように、動いて最後に隠し持っていもう一丁の銃を理子の手元に渡しもう片方のツインテールを腕のように使い予備弾倉(マガジン)を先程弾切れになったワルサーP99へと入れる。

更に、ツインテールを背中にまわしナイフを二本取り出す。

か、格好いい………まんま神話生物―――って、見惚れてる場合じゃねぇ!

不味い!ありぁあ。

 

 

「瑠瑠色金……」

 

俺が、呟いた、言葉に理子は気分を良くしたのか

 

「そう。オルメス、お前も此と似たのを持ってるだろう?」

 

「な、何の事よ」

 

今までの話に付いてこられないのか、戸惑った声でアリアが言う

理子は、胸元で光る、十字架の瑠瑠色金を握りしめながら

 

「この力は、私のお母様がくれたもの、100年前の、曾お爺さま同士の対決の続きを此処でやってやる!オルメス4世!お前を斃せば、私は、曾お爺さまを越えた証明になる!お前も、曾お爺さまから似たようなもん受け取ってるんだろう!」

 

理子は、叫ぶ。

狂ったように、喚く。

今まで思ってきた事全てをアリアにぶつけるように。

あぁ、自棄になって

 

ん?此は、もしかして………

 

なるほど、いけるかも。

 

トントン

 

両足で、菊代に合図を送る。

頼む、築いてくれ。

 

「クフフ、フフッ、バッドエンドお時間ですよー。クフフッ。クフフフフッ」

 

バン!と、地を蹴り両手に銃を両髪にナイフを持った理子が菊代の先のアリアを狙う

 

「ドケェ!ゲームは私の勝ちだ!」

 

「『金次』――――解放(リリース)

 

「まだ、ゲームは終わってねぇぞ」

 

ザン!

 

「キー…………君?」

 

理子が目を大きく見開いて信じられないとでも言うように動きを止める。

理子からしてみれば、先程まで動けずにいた男が、突然現れたように見えるだろう。

まぁ、そうだもんな。

菊代の言葉で何とか起きれた。

 

「感謝するぜ理子―――お陰で痛みがねぇ」

 

ぽたぽたと、俺の両手裏からは、理子のナイフが竹のように突き抜けて、赤い液体を先端から床に滴らせる。

だが、まだ、さっきの薬が僅かに効いているお陰で痛覚は感じない。

そのまま、理子のナイフを握り腕ごと理子の両髪に巻き付ける。

 

「あ……あ……」

 

動揺する理子を目の前に、俺は、ものスッゴイ嫌な顔をしているんだろう。

チャ~~~ンス到来ってな。

実際に良いタイミングだからな。

 

「残念だが、理子…………倒す順番を変えろ。完璧なパートナーもいない、緋緋の力も使えないアリアを倒したって越えた事にはならんでしょう?」

 

「うる……さい」

 

ギリリと悔しそうに、怒りを混ぜて下唇をそのまま引きちぎって仕舞うんじゃないかと、思うほど強く噛む。

理子……先にすまないと言っておく。

此れから、本格的にお前に残酷な治療をするから

 

「理子……今が、チャンスなんだ」

 

「チャンス……?」

 

「お前が、今本当に、殺して~相手は、後ろのアリアじゃない。今日確信がいった。今のお前にはやらされてる感が、僅かな恐怖が感じられる」

 

「キー君に何が、分かる」

 

「此方だって、伊達に人を殺っちゃいねぇ。鏡高やエルに………家族に仇なす奴等を殺すとき、そう言うものを嫌と言うほど感じて来たんでなぁ……そう言うのを読み取るのには自信があるんだよ」

 

根拠ねぇけど其でも、理子の事は、何となく本当に、何となく分かる。

 

「俺の所へ来い。イ・ウーは後一年もしないうちに崩壊する。誰も手を加えずとも自然とな。そうすれば、お前は、力も失うぞ?………復讐するための力をな……だが、俺の所なら、お前の望む物を全部叶えさせてやる!」

 

「………」

 

理子は、戸惑うように、左右に目を泳がせる。

 

まだ、お前が、俺をキー君と、呼んでくれるなら。

俺は、其に賭ける。

最後のひと押し。

 

「俺が、お前の最も聞きたくない、未来を言い当てて、やろうか?」

 

「や……めろ。き、きき……聞きたくない」

 

捕まれているナイフと髪を、そのまま、理子が一歩下がる形で、引き抜こうとする。

まるで、此れから言われる未来を聞かないために逃げ出すように

俺は、自分からズブリと、ナイフをより深く手に刺す。

痛覚が麻痺してて本当に良かった。

さぁ、理子全部吐き出せ。

この言葉で、全部の不幸を吐き出せ。

 

俺は、スーーーと、肺に入るだけありったけの空気を肺にみたしてから

 

 

すまん理子。

その、不幸

全部俺が

 

この呪いの男(フルヒマン)

 

 

「『ゲババババッ!“理子”お前は、犬とした約束を守るのか?』」

 

 

 

 

 

 

貰い受ける。




原作1巻の話は、後数話で終わりですね。
そのまま後日談が少し入って2巻の予定です。


……いや、もう……ね。

本当にどうしよう。


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29 理不尽で、傲慢で

遅くなってすいません。

地元のお祭りに強制参加させられてました。
周りを見渡せば、カップル、カップル、カップルとリア充だらけじゃないですかヤダー。
カップル限定で多目に怖がらせましたよ。←お化け屋敷の悲鳴、ヒュ~ドロドロ等の音声担当。

……気の性かな?
余計にイチャついてる気が……

※サブタイトル変えました。
なんか違う気がして。
すいません。


「ギィーーーーーーグゥン!」

 

「グッ………カハッ!」

 

ガンッ!と俺の、頭に重い衝撃が走る。

殴った理子の銃のグリップからは、ポタポタと血が落ちる。

何とも、斬新な扱い方で………。

額に弾ぶちこまれなかっただけマシだ。

 

「何で、何で、お前がアイツの“声”を知ってるんだよ!」

 

頭を捕まれてそのまま、前に引きづられて理子の顔が目の前まで来る。

その顔は、怒りで顔を赤くし、涙と鼻水でグシャグシャになっていた。

……理子はもう、アリアもエルも菊代も見ていない。

其で良い。

 

「言ったろ?俺達は、ブラドの首に懸けられた金を狙ってるんだと……調べて無い訳が無いだろう?因みに、ブラドとお前の関係まで知っているぞ」

 

「うるさい……」

 

ガチャと俺の顎に理子のワルサーが突き付けられる。

其も、お構い無しに

 

「お前だって………勘づいてたんだろ?じゃなきゃそんなに、泣かないもんな?」

 

「黙れよ!」

 

「だったら、この引き金を引け!直ぐに黙れるぞ!」

 

「っ!」

 

頭を下げて、銃口がより顎に食い込む。

理子が一瞬ビクリと体を震わせるのを見逃さず。

 

「ほら、どうした?殺れよ。お前の十八番(おはこ)だろ?()()()()!躊躇う必要なんか無い!此でも俺は武偵だぜ?」

 

「――――」

 

数秒……もしかしたら数分は待っただろうか。

長く感じられる静寂の中理子が、引き金を引く様子はなかった。

目の前でただ、ギリリと奥歯を噛み締めるだけだった。

 

―――実際は、ブラドについては殆ど調べて無い。

エルから聞いた情報と、自分のおぼろげな知識。

それだけで、俺は理子に全てを知っている風に喋っている。

だが、今は此だけでも充分だろう。

 

「何で……」

 

「ん?」

 

やがて、ポツリと理子が消えそうな程小さな声で呟く様に喋りだした。

 

「興味…無いんじゃ無かったのかよ?……どんだけ、理子を仲間にしたがるんだ……キー君は、ブラドナメ過ぎだろうがよ……」

 

一言一言、間を置きながら理子が言う。

其に対して俺は

 

「『何故太陽は昇る?何故星は夜空に瞬く?』お前の質問は、全て俺達にとっては当たり前の事だ」

 

「え?……」

 

昔、鏡高組の連中達と何となく見た映画『ハイラ〇ダー』からの引用だが、今この場に置いてはこの台詞がぴったりだろう。

 

「確かに、お前達の戦いにも、先祖がどうとかも、どうでも良いし興味なんかこれっぽっちもない―――が、俺はお前に、誤っておかないといけないことが有る」

 

「誤っておくこと?」

 

「バスジャックをしたとき言ってたな。『理子の獲物をとるんな!』って、あの時は、別に俺が言われた訳じゃ無かったが、俺は、お前の知らないところで二回獲物(アリア)をついカッとなって横取りしそうになってた」

 

一回目は、寮の自室で、二回目は、バスジャックで俺は、家族 (ファミリー)()()()『獲物の横取りはしない』を破っている。

理子が菊代に気絶させられる前に叫んだと言うのに。

 

―――最低だ。

 

 

だから、せめて

 

「お詫びの印とは、またちょっと違うが、お前が、曾お爺さんを越えられる舞台(ステージ)を用意してやる」

 

「ふっ……ざっけんな!」

 

ブシュと俺の両手から血が少し吹き出す。

理子が両手に刺さったナイフをより深く刺したのだ。

良いぞ。

お前は、最怒って良い。

最怒り狂って良いんだ。

だが、相手が違う。

 

「知ってるって言ってたろ!だったら、理子がどんな思いでオルメスを倒したいか分かって」

 

「ブラドが、武偵校内にいると言ったら……どうするよ?」

 

「―――ッ―――――」

 

カッシャアーーーーン、と俺に押し当てていたワルサーが床に落ちる。

理子の腕は、もう、だらりと脱力して髪の毛にすら力が入っていなかった。

 

……すまんな、理子。

其が、現実だ。

ゲーム見たいに敵が本拠地で胡座かいて素直に待っている何て事は無いんだよ。

 

「お前のクラスにいるかもしれない。もしかしたら、隣の席の子かもしれない。前の席、後ろの席かも知れない。教務科(マスターズ)の中にいるかもしれない。武藤かもしれない。意外にも其処のエルかもしれない!「What!?(ファッ)」……俺かも、って事は無いが……もう、何が言いたいのか分かるだろ?」

 

「ずっと………見られてた……?」

 

「そうだ」

 

腕に巻き付けた理子の髪を程きズポッと両手のナイフを取る。

 

「理子……お前の髪血で汚してしまった……すまん」

 

床にへたりこんだ、理子としゃがんで視線を合わせる。

目はハイライトを失って、全てに絶望した目だった。

 

「パンドラの箱には、絶望だけでは、無く一つの希望も入っている―――ブラドは、お前が思っているほどもう、強大な敵じゃない。極端に言えば、イ・ウーと言う組織に守られているだけの雑魚キャラだ」

 

「何言ってんだよ!だって、アイツは、無限の」

 

理子の言いたい事は、分かる。

 

ブラド――吸血鬼は体の何処か4ヵ所に魔臓と言う特殊な臓器が有り其を同時に破壊しないとどんなに傷付けても直ぐに治ってしまうらしい。

流石、イ・ウーのナンバー2な『だけ』は有る。

 

 

――と、エルの持ってきた書類に書かれていた。

 

「無限回復………寧ろ都合が良い。万が一殺してしまったら、値が大幅に下がる。周りは生け捕りを望んでいるんだからな、魔臓なんて最初から狙わなくて良いんだ」

 

実際この話は間違ってない。

ブラドは、昔から、その手の奴が喉から手を出して欲しがっていたが、その無限の回復力、あり得ない程の怪力其と魔臓は、昔、バチカンの聖騎士に秘術とかを掛けられて4ヵ所の内3ヵ所は弱点が分かりやすくなったは良かったが、最後の1ヵ所が分からないんでは、意味が無い。

では、最後の1ヵ所を知っていると言う奴が現れたらどうだろうか?

しかも、その話を持ちかけて来たのもイ・ウー関係者。

イ・ウーが合法にしたのならと食い付く奴の方が多いに決まっている。

おまけに今は何もかもが最先端を行っている。

兵器、人、超能力(ステルス)()

ちょっと、工夫すればどんな山でも切り崩す事が可能なんだから。

 

そして、今俺の目の前には

 

「理子……お前が、その銃を、そのナイフを、本当に今向けたい相手は誰だ?力も満足に使えない其処のピンクモンスターか?「風穴開けるわよ!ネクラ!」其とも()()()()()()ですら倒すことのできなかったブラドか?」

 

ビクッ!と理子が一瞬全身を震わせて

 

「曾お爺様が……」

 

「ブラドをお前が倒せば、間違いなくお前は、先祖を越えた事になるだろうよ。復讐も出来て一石二鳥だ………と、此処まで、色々お前に言って来たが、結局は、俺の理不尽な自己満足に付き合って来れと言っているだけだ」

 

床に落ちていた、銃と血で濡れたナイフ2本を理子の目の前に置き。

理子に色々と言ってたけど、俺は、結局は

 

家族(ファミリー)が泣いてるなら、泣かせた奴を不幸のどん底に突き落とすまで気が済まん!」

 

バスジャックの時いや、其よりも前に、理子が俺達に依頼をして、バスジャック手伝って、邪魔が入って来て、その時理子は、確かに、耳元で泣いていた。

其に、一緒に、仕事をしたなら其はもう、仲間(ダチ)だ。

仲間助けるのに、其以上の理由は要らない。

ましてや

 

「お前を数字で呼ぶような、使用人やブラドみたいな、クソ野郎共と一緒にするな!俺達は、お前を数字で呼ばねぇ!お前の全てを措定する!」

 

「クフッ」

 

理子が短く笑う。

そのまま、手を前に出して、俺が置いたナイフを手に取る。

あれ?やっぱりこのまま俺刺される?

 

「家族に入ってる前提にかよ………断られる事を考えてねぇのかキー君は」

 

「生憎、家訓が『欲しかったら奪ってでも手に入れろ』何でね」

 

イ・ウーは何れ沈む。

だったら、船を乗り換える事を考えてくれても良いと思うんだかな。

 

「“自由”が欲しいなら、家は、うってつけだ」

 

 

ズドドオオオオオオオンッッッ!!!

 

 

―――突然の轟音と共に激しい振動で機内が揺れる。

 

「タイムオーバーだよ。キー君」

 

スクッと、理子が立ち上がり、タタタっとドアの前まで、いきクルリと此方に振り替えって、

 

「またね。キー君楽しい夜だったよ。其じゃあ

 

 

 

―――キー君の嫌いな鳥に気を付けて」

 

 

「――ッ!理子!其はどういう――」

 

ドウッッ!

理子の背後に予め仕掛けられていた脱出用の爆弾を爆発させ、壁に丸い穴が開く。

 

「ばいばいきーん!また、遊ぼう」

どっかの子供番組の悪役の真似をしながら、理子は、その穴から、バンジージャンプの様に勢いよく飛び出して行った。

 

「またね―――か。返事は、後々のお楽しみ……こりゃ一本とられた」

 

結局、此処まで、理子の台本(シナリオ)通りかよ。

あーあ、疲れた。

だが、結果としては

 

俺の勝ちだ。

 

「「遠山!(トウヤマ!)」」

 

一息着く間もなく、菊代とエルが目の前に来る。

 

「あんた、て、手大丈夫なの!?痛くないの………いえ、痛いわよね!」

 

「直ぐに止血だ!止血剤、鎮痛剤!」

 

救急箱の中を、何処かの猫形ロボの様に、漁るエルと、俺の手を握って、包帯をグルグルと巻く菊代。

 

……まぁ、確かに、二人に手を出さない様に言って心配掛けたのは、俺だが、こんなのちょっと、痺れるくらいの痛さで……いや、ビリッとくる痛さで………いや、そう言えば、もう鼻も回復して、二人の匂いも分かるくらいで

 

あ、時間差で、痛さが分かって来た。

ズキッと痛いかも……かなり、痛いかも

いや、スッゴク

 

「いってえええええええええええええええええ!!!!」

 

「「当たり前でしょ(だ)!!」」

 

「ネクラ………あんた」

 

 

スカッ!と、騒いでいた、エルと菊代の間から、伸びる手が俺の肩を掴もうとしたのを、後ろに仰け反って交わす。

いくら手に異物感が残ってるからって、此くらい交わせます。

てか、俺今日、やたら体を捕まれるだけど。

 

「何で武偵殺しを見逃したのよ!アイツは私達が武偵として、捕まえるべき犯人なのよ!」

 

「何言ってんだお前は………訳分からん」

 

あ、なるほど、武偵としてねぇ~………ハズレだな。

 

「お前が、母親の為に捕まえたいなら話は分かる……が、武偵として……勘違いするなよ。武偵は、報酬で動き代わりに依頼人の為に命を掛ける。其で、初めて成り立つんだよ。俺達は、英雄(ヒーロー)じゃねぇんだよ……英雄(ヒーロー)も言い方を変えれば、無報酬で働き命を掛ける、国民のパシリだ。おまけに、負けたらポイッ!されて、変わりを用意される運命付き。だが、鬼退治に行った動物ですら、団子を貰ってんだ。理子は、俺に依頼の報酬をくれる事になっている。だから、見逃したんだよ。何も間違っちゃいない。武偵は、金を積まれれば、世間には知られてないような悪人を守らなきゃならない時も有る。そして、逮捕権が有ると行っても、武偵は、武力を持った探偵でしか無い」

 

 

其に文句が、あるなら、菊代とエルを振り切って俺と理子の間に入って手錠を掛ければ良かったのだ。

親の仇と言うならな。

 

そして、もう一つは

 

「お前は、身内に引き金を引けるか?」

 

「なっ!どういう意味よ!?」

 

「自分で考えろ、猪武偵。此が即答できないってんなら。お前に理子の相手はまだ、早すぎたんだよ」

 

立ち上がって、脱いだ服を取り着る。

なんと無く窓の外を見ると―――あぁ、いるね。俺のだいっ嫌いな鳥が昔、白雪とかに会う前、あんな奴等の近くに行きたがってたんだな。

 

――くっだらねぇ。

 

「なぁ、エル、菊代」

 

「うん」

 

「予定より早いわねぇ」

 

「誰かが、通報してくれたんじゃないか?」

 

「間違いなく、お面が原因ね」

 

あれか、可笑しいな。乗客には只の映画撮影だってちゃんと説明したはずなんだか、何が悪かったんだろう。

 

「何?何の話?」

 

話に付いていけないアリアは、放って置いて。

 

「武偵高で、ちょっと、休み過ぎたかもなパフォーマンスには調度良い」

 

「さっきの轟音―――間違いなく下に要るね」

 

エルが言っている通りなら、まるで計ったように、タイミングが良い。

下に要るんだな?イ・ウーが。

 

「まだ、其処には行かないでよ?で、遠山は、この事も考えていたの?」

 

「保険でな。もしかしたらと思っていたんだ」

 

「どのみち、日本には、まだいれるって事だ。良かった」

 

――今、窓の外には、はい。いますね、誘導機のつもりで来た戦闘機が。

 

「ねぇ……遠山。嫌な予感しかしないんだけど」

 

 

菊代が、窓に写る戦闘機を指差す。

うん。言いたい事は良く分かる。

 

「まぁ、ゲームやドラマのお約束だよな……此処まで再現されても困るんだが」

 

「生きて帰れる気がしないわ」

 

「うわぁ、此、間違いなく撃墜されるね」

 

さらっと、恐ろしい事を言わないで下さいエルさんや。

あ、俺もか。

 

「撃墜!?」

 

さっきから、蚊帳の外にいた、アリアが、食い付く。

 

「この飛行機には、一般市民も乗ってるのよ!?」

 

だったら、お前が、此処に来なきゃ良かっただろうに、お前があっさり騙されなきゃ、こんなややこしい事には、なってないての。

 

「まぁ、東京に突っ込まれたら大惨事よね。だったら、此くらいの犠牲なんて何とも思わないのが、向こうの考え方なのよ」

 

「そう言う事だ。てな訳で、今直ぐに東京に引き返す。おい其処のピンク」

 

「色で呼ぶなぁ!」

 

おめぇだってネクラ呼ばわりだろうが。

 

「飛行機操縦しろ」

 

「は?」

 

俺の言葉にキョトンしだしたアリア。

いや、なんかまともに運転出来そうだし。

 

「セスナ、操縦した経歴が有るだろ?ジェット機も対して変わらない………筈だ、運転してこい、俺と菊代と乗客が死なない為に………後、ついでにエル」

 

「ついで!?ボクついでなの!?」

 

横で、喚くエルを放って

 

「遠山………そんな事言って、何処に着陸させる気よ。のんびりしてるとこのまま墜落、海の藻屑コースまっしぐらよ?」

 

そうだなぁ……、もう、ニュースくらいにはなってるだろう。

だとすると、恐らく他の空港もとっくに閉鎖済み。

乗客には、このゲームに付き合わせてしまった訳で、勿論全員生きて帰る前提

うん。保険掛けといて良かった。

 

「『空き地島』………風魔と、もう一人の助っ人が全て準備してくれている筈だ。其処なら、無事に着陸できる」

 

空き地島とは、武偵高のある人口浮島(メガフロート)は、学園島とレインボーブリッジを挟んですぐに北にある同じ形で、風力発電機が数本回っているだけの、人口浮島の空き地である。

元々、東京湾岸の再開発に失敗して叩き売り去れてた土地で南北2キロ東西500メートルの長方形をしている。

対角線を使えば、最大で約2016メートルまで使える。

着陸させるにはもってこいの場所だ。

 

「遠山………もしかして、こうなる事分かってたの?」

 

菊代が、俺にジトーと、呆れを含めた視線を送ってくる。

うん。空港に到着して、なんと無く思い出しただけで、何とか、無事にイギリスまで、と思ったけどダメでしたと言うのが、しょうないオチで有る。

後、良く考えたら俺達パスポートすら持ってきてない。

 

「さ、さぁ、ぐずぐずしては、いられない。菊代悪いんだけど、飛行機の操縦をアリアと一緒にやってくれないか?」

 

「しょうがないわね。ヘリの操縦ならしたことあるし、似たようにすれば大丈夫よ」

 

決して、菊代の言葉を誤魔化している訳では無い決して無い。

 

「此が、終わったら、確り話を聞かせて貰うわよ!」

 

「黙秘権を行使する」

 

俺を、思いっきり、睨んだ後、アリア操縦席へと、走って行ったのを見送って

 

「エル」

 

「分かってる」

 

グッと、親指を立ていい笑顔を此方に向けて来る。

 

「クレフトに、連絡して“覗き”をやる様に言っておく。後は、トウヤマの好きにするといい。あ、できるだけ致命傷とか避けてくれよ、治療するのがめんど……大変なんだ」

 

「おいこら、ヤブ医者」

 

あぁ、出来ることならもう少し、のんびりと過ごしたかったなぁ。

だが、何時かは、水面下から顔を出さなきゃいけない日が来る。

其が、少し早まったのだ其だけで有る。

 

―――テーブルに刺さったナイフをまさか俺達が引き抜く役目になろうとは。

 

「じゃあ、エル手伝ってくれ」

 

「Okボクにドンと任せてくれたまえ!」

 

「不安だ」

 

「何で!?」

 

俺とエルも先程理子が出ていった穴に近づき下を見てみると、段々東京の町へと戻って行く、ついでに後ろから戦闘機も近づいて……来なくていいです。

 

「エル折角日本に来たなら、日本の名物、花火を見ていけよ。時期にしちゃまだ早いけど」

 

「なに、やっと雨も止んだんだ。これ以上の贅沢な特等席はきっと、存在しないね」

 

エルが、上を指差しニヤリ笑いながらパチリと可愛らしくウインクする。

きっと彼奴等(見物人)()()()()()()()、星の綺麗な雲の上。

 

イッチョド派手に

 

 

 

 

 

 

―――ドデカイ花火を打ち上げて魅せよう




一応ルビとか振ってみました。
読みづらいとか有りましたら、元に戻します。

話の都合上、エルと菊代の役目を入れ換えました。
すいません。


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30 鳩達と友に見せる世界最悪パフォーマンス

花火って良いですよね。
部屋から、見える花火に一人「た~まや~」と叫ぶ。

………寂しくなんて有りません。


「なるほどね………助っ人てこう言うこと」

 

『鏡高先輩無事ですか!?』

 

先程から、私の戦妹である貴希ちゃんの慌てた声が、無線機のスピーカーから機内に響く。

因みに、もう一つの無線機からは、羽田コントロールからの連絡から、防衛省、航空管理局と言う所に繋がった途端に切ってしまった。

外の誘導機に従ってと抜かし始めたのには、腹が立っ。

どう考えても、撃ち落とす気満々でしょう。

騙し裏切りが付き物の私達(ヤクザ)を舐めないで欲しいものね。

 

『せんぱ~~~~~~い!!』

 

あ、泣き出した。

何で?

遠山は、何か分かっているみたいだけど、私にはさっぱり分からない。

かといって聞こうとも思わない。

いいえ、聞かない方が良いのだと思う。

聞いたらいろいろダメな気がする。

 

「私は平気よ。貴希ちゃん其よりも、準備出来てる?」

 

取り合えず、あやす意味も含めて無事を伝えるの為に無線機に向けて声を出す。

其と、同時に此れから、私達が不時着するであろう、人口島(メガフロート)の空き地島の状況を聞く。

 

『姐様殿。何時でも、受け入れ可能で御座るが、後は、そちらの飛行機状態を隣の貴希殿に御話し頂ければ、的確な補助が可能かと』

 

「分かった。ご苦労様ヒナちゃん」

 

『御意』

 

其から、貴希ちゃんから、飛行機の操縦の仕方を教わり、この飛行機の事もある程度教わった。

何でも、このANA600便は最新技術の塊で、残りのエンジンが2基でも、問題無く飛べ更に、どんなに、悪天候でも、その長所は、変わらないと言う。

要は、耐久力に優れていると、覚えて置きましょう。

もし私が、車輌科(ロジ)なら、もっと詳しく理解出来たのだと思う。

 

『所で、鏡高先輩。今、Total(トータル)の数字って、分かりますか?』

 

「ト、トータル?」

 

意味が分から無くて聞き返す。

 

『え、えっとですね。EICAS(アイキャス)と言う、中央から、少し上に付いてる四角い画面が有ると思うんです』

 

私は、言葉の通り少し自分の身を見渡すと、確かに、四角い画面が有る。

恐らく此でしょうね。

はぁ、ヘリの時は、遠山が暇潰しで部屋でやっていたTVゲームにたまたまヘリの操縦シーガ映っていたのを横から見ていたから、勘で操縦出来たけど、飛行機はごちゃごちゃし過ぎて本当に分かりづらい。

二度と運転なんかしたくない。

心の中で愚痴りながら、貴希ちゃんに有った事を想定伝える。

 

『其処に、二行四列に並んだ、丸いメーターの、下に、Fuel(フユエル)と書かれた、3つのメモリがある筈です。その真ん中にあるのが、先程のTotalです』

 

「なるほどね。理解したわ有難う」

 

『いえ、そんなお礼を言われるような、事じゃ……あ、でも此を機会に役に立たなそうな、あの遠山よりも、正に今役に立っている私をパートナーにいっそのこと、人生のパートナーにしてくれても……』

 

小声で何を言ってるのかさっぱり分からないけど、取り合えず戻って来て

 

「ねぇにその数値何だけど、さっきから、少しづつ減ってるみたいで、今540から、535

何だけど……此どういう意味かしら?」

 

『え……………それって……』

 

暫くの沈黙。

え?何か不味いこと言ったのかしら?

数値が、530位になった所で、ようやく連絡が入るが

 

『鏡高先輩……それ、盛大に燃料漏れてます』

 

「うそぉ」

 

今ものスッゴク聞きたくない情報と同時に、何となく覚悟していた情報だった。

先程のミサイルの襲撃が翼を撃ったのだ。

エンジンが遣られているのも不思議じゃない。

 

「待ちなさいよ!ね、燃料漏れ………!?キキとか言ったわね!止める方法を教えなさいよ!」

 

隣から、ヒストリックに声を上げる今回の元凶であり、悲運にも今宵のゲームの賞品となった少女が無線機に食って掛かる。

 

『え!だ、誰ですか!?鏡高先輩の隣にいるって事は、遠山先輩ですか!?こんな非常時に女の声なんて出さないでください悪趣味です!変態ですか!?』

 

「落ち着きなさい」

 

と言うか、遠山はそんな事はしないわよ。

………たまにしか。

其も、変装中とか、挑発の時とか、ふざける時とかだけ。

 

「神崎・H・アリアあんたと同じ武偵よ!時間が無いの、もう一度言うわ!漏出を止める方法を教えなさい!!」

 

戸惑う貴希ちゃんにマシンガンのように、ものを言う。

全員が生きるか、死ぬかの瀬戸際、必死になるのも当然。

だけど、不思議ね。

全然、死ぬって考えが思い浮かばない。

寧ろ、この飛行機は必ず無事に不時着すると頭の何処かで私は思っている。

無事に不時着ってのも、矛盾してて変な話だけど。

きっと、其は無事に帰れる前提の様に行動している奴がいるから。

 

『残念ながら、方法は無いです。分かりやすく言いますと、その機体はエンジンが燃料系の門も兼ねていまして、其処を破壊されると、何処を閉じても、漏出は止められません」

 

「なっ!あんた、何言ってる!其を何とかする事を考えなさいよ!其が車輌科(ロジ)なんじゃ―――うむっ!」

 

すっと、隣の元凶女の唇に人指し指を当てて止める。

この場で駄々を捏ねても、状況なんて変わらない。

其を私の可愛い戦妹にぶつけるなんて、お門違いにも、程がある。

全く、何で数日前の私は、この女を生かしたのかしら?

まぁ、武偵校内だからってのが大きな理由だけど、武偵校外ならとっくに殺ってるのに。

ちょっと、今日の涙目が可愛くて、ちょっと気に入ったけど、やっぱり嫌ね。

遠山の事をネクラネクラって気安く呼ぶし。

 

「止めときな。向こうに喚いたって、事態が変わる訳じゃない。素直に今を受け入れな」

 

 

「っ!」

 

怒りでなのか、悔しさからなのかは、分からないけど、顔を漫画だったら、ぼぼぼぼぼと効果音でもつくんじゃないかしら?と言うくらい、顔を赤くする。

もう、さっきみたいに駄々を捏ねたりはしないと判断して、唇から人指し指を離すと

 

「あ、あう、あうううあええ?あくクロ、クロメメメメ」

 

壊れたラジオみたいな声を上げて更に赤くなり、やがて、硬直して黙ってくれた。

……何かよく分からないけど、ほっときましょう。

 

「直すのは無理って分かったわ。其で、この状態ならどれくらい耐えられるのかしら?」

 

取り合えず、隣のは放って置いて、今は聞くべき事を聞く。

 

『そうですね。漏出のペースが、早いので良くても後15分って所です』

 

「そのくらい、残ってるなら充分そうね。有難う後は此方でやるわ」

 

これ以上の通信は必要無いと、判断して無線機の通信を切ろうと手を伸ばす。

貴希ちゃんやヒナちゃんに声を覚えられるのは、構わないけど、この通信は恐らく他の生徒も聞いている可能性がある。

余り声を覚えられるのは、後々困る。

 

『あ、鏡高先輩少し待って下さい!』

 

ピタリと、通信を切ろうとした手を止めて貴希ちゃんの言葉に耳を傾けて

 

通信科(コネクト)から状態が入りまして、ずっとその飛行機は、相模湾上空を飛んでいたみたいで、今は浦賀水道上空です……今なら、此方よりも羽田に引き返す方が距離が近いかと―――』

 

「とっくに封鎖されてるわよ。教えてくれて有難う。予定通り行くから、そっちも予定通り“合図”を送りなさい」

 

『あ、鏡高先ぱ―――』

 

プツリと、今度こそ本当に通信を切る。

ずっと、ゲーム中留まっていたわけ。

なるほどね正に彼の二人にとっての舞台(ステージ)少し嫉妬を覚えるわね。

 

因みに、今私――鏡高菊代が、いる場所は、飛行機の操縦席。

峰理子に寄って気絶させられたらしいパイロット二名を退かして座ったわ良いものの

理解した今となっては

 

「御手上げね」

 

「何で!?何で反応しないのよ!」

 

隣では、両手を挙げて降参状態の私と違って、早くも復活して、ハンドル状の操縦桿をがちゃがちゃといじっている神崎・H・アリアの姿。

 

「諦めなさいよ。何をどう弄っても、手動に切り替わりはしないんだから」

 

こう言うこと。

私達は、今窓の外を見れば分かる通り、間違いなく自動で海へと向かっている。

貴希ちゃんには、伝えていないけど、何度か、言われた方法で手動にきりかえようとは、したけど、一切反応無し。

つまり嵌められたのだ。

いえ、嵌められたと言うのは、可笑しいわね。

今日の出来事は、私達は部外者、此は悪魔で、峰と遠山の一対一のアリアと理子、そして遠山自身を賭けたゲームに過ぎなかったのだ。

私自身、今回の事は、遠山の話を端から聞きまた何かやらかしてしまうんじゃないかと心配で、先回りして、飛び入りした見物人の枠を越えられないのだ。

今は、お任せするしか道は無い。

そして遠山がもし、此処まで考えていたのだとすれば私の役目は、操縦じゃない。

今隣にいる奴のお目付け役だ。

でも、引っ掛かる。

何故遠山は、こうなる事を想定出来たのか?

峰との会話を聞いていた限りそんな予定は話されていなかった。

其なのに、保険と称して不時着予定の場所にヒナちゃんと私の戦妹、貴希ちゃん達を配置した。

まるで、予知能力でもあるかの様に。

其処まで、考えて、私は、ウルスの女が言っていた言葉を思い出した。

 

『貴方は偽物ですか?』

 

此は、いったい何を意味するの?

遠山、私達は、此れからいったいどれ程大きな波に乗ろうとしているの?

でも、今は、もう一つのやるべき事をやる。

コトリと戦闘機映る窓に、“ある物”を置いて

後は、時が来るまで、休むだけ。

ただ撃たれるのを待つだけなんて、そんなの御免だもの。

 

 

 

★ ☆ ★

 

 

おっかしいな~

 

現在俺は、飛行機の翼部分に立ち目の前の戦闘機を見ながら内心首を捻っている。

と、言うのも

 

「何で、どんどん近づいてるんだよ?」

 

そう先程まで、確かに、東京上空を飛んで確実に、戦闘機から離れていたのに、今は、どんどん戦闘機―――F―15イーグル航空自衛隊の戦闘機だ。

 

まぁ、ご丁寧に、ピッタリついてきゃって。

お互いに距離を縮めてるから、このままだと、激突しそう。

しそうってだけで、その前に撃たれそうだけど。

最初は、東京その物を人質に取るような形で飛んでそのまま、目的地の人口島まで行く予定だったのに――――と、思っていたのも、理子が去る前の話。

今は寧ろ近づいて貰うべきだ。

乗客には悪いが、今夜の生き証人となって貰う必要も出来た。

其に関しては

 

「トウヤマ。何をブツブツ言ってるんだい?」

 

俺の隣にいるエルが、さも不思議そうに尋ねる。

俺は、其に当たり前と秤に

 

「お前の話の内容が予定より早まってしまった事を今嘆いている最中だ」

 

「此も、また“巡り合わせ”って奴だよ」

 

言い返そうにも、否定が出来ない。

正にその通りの巡り合わせだからだ。

今日、理子が此処を選んだのも、さっき、ミサイルがこの飛行機を襲ったのも今撃墜の危機に陥っているのも、恐らくだが、下で飛行機の操縦が、効かないのも

下に、敵の本拠地があるのも。

 

出来すぎている。

恐らく

 

「いるぞ、飛行機の中に邪魔者が」

 

「トウヤマ其は………」

 

俺が、ポケットから、取り出した、小さな箱にゲームのコントローラーのような小さなレバーが付いた、リモコンを取り出す。

驚き目を少し見開いているエルに少し得意気に

 

「丁度、ミサイルの衝撃で理子の頭が近くに来たんでね。咄嗟に指先でのヰ筒取りで、楠根ねて来た。痛覚も鈍って痛んでね。多分、此で理子は、飛行機を操っていたんだろうが」

 

「其を奪っても飛行機が進路を変えないって事は、誰かが、細工した?」

 

「あぁ、そうだ。そして、こんな下らない真似をするやつに俺は心当たりがあるが何にせよ」

 

上空に向けて、三回手を降りその手をグーの形にして、親指をつきだして

 

「こんなにも舞台が整っちまったんだ。いかにも使って下さいと言わんばかりにな」

 

だから、遠慮無く使わせて貰おう。

そのまま下に向け首元まで下げそのまま横に一気に引き喉をかっ切る仕草をする。

見ている奴の中の大半は首を傾げる仕草だろう。

良いのだ。

ある一部の奴等に()()()()()()()()

 

―――此処からは、エルの持ち込んだ厄介事と俺の目的の為に、本当の意味で首を突っ込むのだから。

腹はもう括った。

テーブルに刺さるナイフを抜くために今から握るのだから。

すいませんねぇ、イ・ウーの皆さん。

別に恨みがある訳じゃないし、寧ろお得意様だったみたいですけど

此れから、俺達の“願い事”の為に潰れて下さい。

 

ぽいっと、天高く、リモコンを投げる。

リモコンは、そのまま、暗い海へと落ちて行った。

 

もう、あのリモコンですら反応何かしなかった。

其が証明された今となっては、もうあれは意味を持たない。

此処からが、文字通り俺と理子の最終決戦(ラストステージ)だ。

 

―――魅せる戦いをしよう。

 

「エル………要求は、少なめで頼むぞ」

 

「じゃあ、少なくて、大きな要求にしなくてはいけないね」

 

エルは、小さな顎に手を当て、う~ん、と考える仕草をする。

本当に勘弁して欲しい。

エルの要求が少なくてでかいのは前からなのだ。

だから俺は、無駄だと分かっていても、

 

「あっちの俺には、お手柔らかに頼むぞ」

 

「分かっているよ。さぁ、僕でなってくれ」

 

釘を指してからエルへと顔を近づけて

そのまま―――キスをした。

 

「んっ……」

 

エルの艶かしい声と、其により、漏れるシナモンの香り、

それらが、合わさり、

 

ドクンと、血流が激しくなるのが分かる。

来る。

まだ、たりない

 

ぐっと、唇を押し付けるようにして、より強くエルの香りを吸い込む。

ドクン!ドクン!と、血流がより激しくなっていき

 

「ぷはぁ」

 

エルの方から唇を離す。

 

さぁ、エルやろうか。

俺達以上に許されない事をした、あの鋼鉄の鳥に報いを受けさせてあげよう。

 

「さぁ、トウヤマ覚悟はいいかい?」

 

エルが、俺のベルトにワイヤーで固定した金属製のロープを見せて言ってくる。

 

「あぁ。何時でも」

 

靴底の風圧で飛ばされるのを防ぐために装着していた鈎爪(スパイク) を外す。

エルに背を向け、しゃがみマラソンで走る前のポーズになる。

 

「トウヤマ………一つの頼みを聞いてくれないかい?」

 

後ろから、声低くエルが言う。

 

「なんだい?君が遠慮するなんて、似合わない。何時もの様にどんな無茶でも言ってくれ」

 

――何時もの、無茶で良いじゃないかその方が

 

「帰ったら、毎日、僕のリハビリに付き合ってくれるかい?」

 

「お安いご要」

 

グンと、やる気が出ると言うものだ。

 

戦闘機―――お前は、この飛行機に俺の

 

「大切な親友と姉が乗ってるのを分かってんのか?」

 

そして、等々、海へと、出てしまった、飛行機に戦闘機が、方向を転回して此方に向き直り

 

 

バシュウウウウウウウウウウッ!!

 

戦闘機から放たれたミサイルが、激しい光と、煙を放って有無を言わさず此方へと向かって来る。

 

―――今だ!

 

ダンッ!

 

其と同じタイミングで、勢いを殺さずに俺も翼を蹴りミサイルへと跳ぶ

 

飛行機の外へと

 

戦闘機だろうが、何だろうが菊代のを障害になるならば、俺達に攻撃をするならば

 

「例え神様でも殺してみせる」

 

―――見せしめの刑に処す。

 

真っ直ぐに此方に向かってくるミサイルへと足を鞭の様に勢い良くしならせて

 

ガスッッッッッッッッッッッッン!

 

蹴る。

 

秋水(シュウスイ)アレンジ―――ミサイル返し(スラッシュ)!)

 

此れは、秋水の全体重を手や足の先に乗せる技術とHSSによる身体能力の倍増による足の爪先へだけに全体重を集中させ、足を鞭の様にしならせて勢いを付ける事により銃弾曲げ(カーブ)を応用して銃弾を曲げてUの字を描く様にミサイルを爆発するであろうコンマ数秒の間でUターンさせる技術。

俺の靴は、鋼鉄を仕込んだ安全靴

足へのダメージは気休め程度なら和らげる事が出来る。

昔から、無茶をやってきた。

不可能な事を可能にさせなきゃいけないような展開に(大半エルの正で)会ってきた。

銃弾を曲げられたんだ。

銃弾を切って来た。

ヘリにだって飛び移った事だってある。

重く分厚い扉を蹴り飛ばした事もある。

 

だったら、ミサイルくらいその気になれば蹴り返せる!

 

幸運な事に、飛行機が近づいたお蔭で、減速することなく翼から跳ぶ事が出来た。

 

そして、蹴ったミサイルが、横へ横へと起動をずらしてやがて

 

ドドオオオオオオオオオオオオオオオオンッ!

 

戦闘機と衝突し、くぐもった音と、振動が夜空へと響いた。

其はまるで、此れから始まる、最悪な祭りの合図の様に

 

 

「た~まや~………なんてね」

 

祭りの合図にしては、何とも汚い花火だことで。

あ、危なかった。

ミサイルが後ろを向く瞬間、ミサイルの上を踏み台にして、飛んでなかったら噴出口の炎でこんがり焼かれていた所だった。

 

だけど、恐らくもう此で周りも動き出す。

今まで、観客面をしていた奴等も、自分達も参加者なのだと、勘づき始めるだろう。

瑠瑠色金、璃璃色金

 

そして、緋緋色金

 

これ等が、一つの場所に集まってしまったんだ。

誰が、どんな手段を使おうともう誰にも止められない。

 

 

 

引き金は、もう引くだけだ。

 

そして、菊代、俺の番は終わった。

後は頼むぞ。

 

風で、ロープに結んだ体が揺れながら、徐々に上へと上がっていく。

エルが引っ張ってくれているのだろう。

有りがたい。

提案者はエルだけど。

 

ちらりと横を見てみると、此処は、ライブ会場ですか?と疑うくらい上空から確認出来る眩しい光で囲まれた、空き地島が合った。

 

★ ☆ ★

 

「此れは驚いた」

 

所変わって、機内一階の残骸の広がるバー。

パイロットの服装の彼の足元には、少し小太りな機長と下着姿の男性が眠っている。

嫌、眠らされたと言うべきか。

血も出ていなく、規則正しい呼吸から眠っているだけだと判断できる。

 

(記憶無くして、此処まで動けるもんなんだね。興味深いなぁ)

 

彼が覗く窓の向こうには、今正に煙を上げて暗い海へと落ちていく戦闘機の姿

 

(やはり、彼も此方に来ていたようだ。思い出すのが幸か不か)

 

「じゃ、降ろしてあげるとしよう」

 

一人静かに呟く男は、携帯をパカリと開きカチカチと弄る。

その画面には『自動\手動』と書かれたメニュー

 

彼は迷いなく、手動を押して携帯を閉じる。

 

 

(此れは、楽しくなって来たね)

 

帽子を被り窓の外を静かに見つめる、副操縦士の格好をした男―――不知火は静かに、口許だけ笑っていた。

 

 




貴希さんの喋りが何か違うと思われた皆様。
此れはちょっとした事情による使用です。
ご理解の方よろしくお願いします。
すいません。


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31 今宵『も』良い舞台でした。

遅くなってしまい申し訳ありません。

現実(リアル)でお盆休みがいろいろ(夏コミとか墓参り親戚の集まり)ありまして、 と言い訳せず書いていきます。


「うっわ……………本当、ハデにやるねボス………」

 

PCの淡い光だけが、照らす空間の中目の下に熊が目立ち、クーラからの風を防ぐ為なのか、毛布を此れでもかと分厚く羽織った、中性的な顔立ちの少年が途切れ途切れに言葉を発し中性的な声で小さく呟く

カタカタと、眠たげに半分に開いた眼でじっと見る画面には、戦闘機が、煙を上げて暗い東京湾の海へと落ちていく所と其とロープで吊るされた遠山。

其を引き上げるエルが画面に映し出されていた。

 

(折角だし、彼等にも見せよう)

 

マウスを弄りカーソルを合わせてカチリと、キーを押す。

 

一斉送信

 

其が、完了したのを見届けると、ん~と、体をほぐしもう、自分のやることは無いと言わんばかりに、後ろの布団へと倒れてクレフトは寝てしまった。

画面には、今正に墜落しつつある飛行機が映っているだけであった。

 

☆ ★ ☆

 

「な、生きてたろ?」

 

「白々し過ぎるよ。等分絶叫体験はしたくない」

 

どうせ直ぐに嫌でも体験することになる。

 

その言葉を俺は、グッと飲み込み、横に大の字で倒れているエルの横に座る。

あの後飛行機が墜落する間振り落とされないように、同じくロープを身体に巻き付けていたエルと共に飛行機の翼にしがみつき、何とか目的地の空き地島にたどり着いた。

 

……うん。予定通りたどり着いた。

其は良い。

証人となる乗客も恐らく無事、なのだろう。

 

「所でトオヤマ、()()は、君の用意した物かい?」

 

「いいや、記憶にねぇ」

 

エルが指差すその先には、飛行機を包み込む用に受け止めた形をそのままに何十倍にも大きくしたようなサッカーゴールが有る。

見た目まんまサッカーゴールなのだ。

 

「遠山ーーーー!」

 

二人してそのあり得ない光景に唖然としていると、反対側からよじ登って来たのだろう、菊代が此方へとやって来る。

そのまま

 

「あんたすっごいじゃない!」

 

勢い良く抱きついて来た。

 

「は?え?き、菊代さん?何が?」

 

抱きついて来た菊代の体の所々柔らかい感触を残念ながら味わう事も出来ず、俺の頭は追い付けずにいた。

思わずさん付けになっちゃったよ。

菊代は其には気付かず、嬉しそうに

 

「惚けなくても良いでしょ?あの変な巨大ネットあんたが、ひなちゃん達に予め用意させた代物でしょう?本当に準備良いわねあんた最高よ!」

 

「あ?え?俺?」

 

―――俺は、そんな事頼んで無いぞ。

 

と、言おうとしたが、目の前で、嬉しそうに笑う菊代を見て否定するのを止めた。

まぁ、そう言う事にしておこう。

俺の株が、菊代の中で上がってるみたいだし。

男と言うのは良く見られたいものなんです。身内には尚更。

誰か知らんけどありがとさん手柄は頂く。

 

「ねぇ、キクヨ。アリアはどうしたんだい?姿が見えないが」

 

隣で、顎に手を当てて何か考え事をしていたらしいエルが、菊代に声をかける。

 

「ひなちゃんとききちゃんの二人と一緒に乗客の避難誘導してるわ。あぁ、クギは指して有るから変な事は向こうに集まってるマスコミには、言わないわよ」

 

菊代は其にしれっと返す。

其なら、良かった。乗客もアリアも俺達の事は確実に伏せるだろう。

アリアは兎も角、乗客達は、テロリスト擬きよりも、別の事にお怒りだろうからな。

その辺は、予めクギを指して有るから大丈夫だろう。

今夜此処に俺達は、居なかった。

此で、一軒落着―――

 

 

「今宵は実に良い舞台だったよ。実に楽しかった」

 

パチパチパチパチ

 

「「―――!?」」

 

突然、俺達三人以外の声が、後ろから聞こえる。

エルと、菊代は、その声のする方向へと視線を向ける。

俺も、そのままゆっくりと後ろへと体を向けて

 

 

「楽しめた様で何よりだ―――不知火」

 

ガンッ!

 

そのまま隣の菊代の太股のホルスターからベレッタM92FSを抜きそのまま発砲する。

不知火の額へと。

 

「此れは此れは、酷い挨拶だ」

 

此処からでも、見える。

先程まで、機体の上で観客気取りで拍手をしていた、不知火の額へから血が流れるが、本人は気にした様子も無くやれやれと肩を落とす。

 

「お前には、調度良い挨拶だろ」

 

ベレッタを菊代へと返しながら俺は、視線は外さずに不知火へと一歩、歩みよる。

そのまま、挑発を予て

 

「んで、その可笑しな仮面は何だ?ハロウィンはまだ先だぜ」

 

そう、今夜の不知火は何処か可笑しい。

何時もなら、邪魔をするときも、顔何か隠さないのに今日に限っては不知火は、真ん中に、青い一つ半分見開いた目のデザインで、中世の盾を型どったような、仮面を付けていた。

 

上手く言い表せないが、俺はこのような仮面を付けた奴を不知火以外で、何処かで見たような気がする。

 

不知火は、そんなのお構い無しと此方を見て首を傾げる。

 

「こう言う格好をすれば少しは、昔を思い出すと思っていたが、僕の買い被りだったか……」

 

「何の話だ?」

 

俺の質問には、答えずに、不知火は表情の変わらぬ仮面で此方を見て、あぁと何か一人で納得したように声を上げて

 

「此れは、失礼した“前の前の君の事”だった」

 

「ト、トウヤマ!アレ!?」

 

エルが驚くのも無理は無い。

俺が撃ち穴の空いた仮面の上の額の血は止まりそれどころか、ググッと弾が押し出され、チリリーンと音を上げて落ち不知火の額の穴は最初から無かったように塞がっていた。

分かっては、いたが、不知火には通じないのだ、銃弾も刃物も爆弾も。

ナイフで喉を切り裂こうと、今の様に銃弾で頭を撃ち抜いても、口に手榴弾突っ込もうと

こいつが死んだ試しが無い。

 

「相変わらず、胡散臭くて気色悪いわね。道化師(ピエロ)は」

 

菊代が、静かに睨み殺気立ち、ドスの聞いた声で話し掛ける。

だが、不知火はどこ吹く風で

 

「気色悪いのは認めよう。だが、そうも殺気を振り撒かなくても良いんじゃないかな?」

 

立ち上がり、トンッと此方に軽くジャンプし俺達のいる翼部分へと降り立つ。

 

「お前見たいな信用のしの字も出来ない男に其は無理な話だ」

 

「そう言うと、思っていた……なら、此なら話は別だろう?」

 

不知火が、胸元から、一枚の写真を出して此方に差し出す。

取り合えず受け取ろうと、手をゆっくり警戒心は捨てずに伸ばしかけて

 

「待ちな」

 

すっと、俺の前に菊代が手を出して制する。

 

「ちゃんと、()()に見せて良い内容の写真何だろうね?」

 

菊代が先程よりも、強く睨み付ける。

だが、俺の頭の中には、別の台詞の方が気になった。

 

 

俺に、見せて良い内容?其はどういう意味なんだ?菊代。

 

 

「害は無い。信じて貰って良いよ」

 

不知火が写真を左右に軽く振って見せる。

 

「どの道、私が確認する」

 

菊代が其を引ったくるようにして、受けとる。

其を見た瞬間にみるみる菊代の顔が青ざめていくのが分かる。

 

「キ、キクヨ?」

 

心配し、エルが菊代に話し掛けると、菊代は、エルへとその写真を渡す。

其を見たエルは、冷静に此方へと渡して来る。

 

「余り見たいものじゃないが、問題は無い……筈だ」

 

エルが、渡して来た写真に映っていたのは、一列に並べられた四人の男の死体の写真だった。

だが、ただの死体じゃない。

全部内側から殺られている事だ。

映画のプレ○ター見たいに腹が裂かれ肉片やら骨やらが其処らに見えている。

普通なら、このような殺し方は出来ない。

どんなことをしても内側――体内からとなると、()などを使わなければ、先ずは、外側からと言うのが常識だ。

胸に七つの傷の有る男とか、超能力者(ステルス)なら話は別だが。

だが今は、殺し方は頭の隅っこに置いておこう。

 

「おいおい。不知火………こりゃどう意味だ?この不思議死体を俺らに見せてどうしようてんだよ」

 

こいつが、この写真を俺達に見せたと言うのが重要なのだ。

だが、不知火は、俺達の方を向かずただ明後日の方を見て

 

「彼等と過ごした時もなかなか悪くは無かった。だが、いつか別れは来るもの……僕の場合自分から別れを告げたのだけどね」

 

「彼等は君の仲間だったと言いたいのか?」

 

「まぁ、そう言う所だ。ワトソン君」

 

手に持ったハンカチで、額の血を拭いつつ、何でもないようにさらっと

 

「その人達は、僕と同じ“公安0課”の人達だ。聞いたことくらい有るだろう?」

 

不知火が言った言葉に、全員が、目を見開き驚く。

菊代が、真っ先に、震える声で不知火に詰め寄る。

 

「0課ですって……!?あんた殺しのライセンスを持ってるって言うの!?」

 

「正しくは、“持っていた”だ。今は追われる身さ」

 

公安0課

 

正式名称は『警視庁公安部 公安第0課』

武装検事

日本一物騒な国内最強の仕事人だ。

職務上いくら人間を殺しても罪に問われることの無い。

菊代の、言う『殺しのライセンス』を持った闇の公務員だ。

HSS(ヒステリアモード)の俺でも勝てる望みの無い相手。

俺が、0課と言われて納得出来たのは、俺がまだ小さい頃殉死した血の繋がった方の俺の親父――遠山金叉がその地位にいた。

だから、この写真を見ても分かる。

不知火も今までの事を思い出せば、そう言う所に居ても可笑しくない。

だか、今の話とこの写真を見る限り、不知火は、その国内最強の自分を除いた四人をどんな手段かは知らないが、殺して見せたのだ。

 

俺は、動揺を隠すように、震える喉をぽりぽりとかくように然り気無く押さえながら

 

 

「その地位を捨てたか」

 

「君達が現れたんだ。彼処にいると動きづらい。何より君にとっても彼等が消えるのは好都合だろう。此れから先の事を考えれば、目の上のたんこぶが消えたんだ。もっと喜んで貰いたい」

 

「恩着せるのは良いが、生憎てめぇ見たいに恩着せがましく企みのある危険な奴には、仇で返しても良いって言うのが俺らの暗黙のルールなんだぜ」

 

俺の皮肉に不知火はあっけらかんと答える。

この態度からも、不知火にとってその組織を抜けると言うのは、大したことじゃないと言うのが分かる。

 

もう一つ確実に分かることがある。

不知火は、俺達に脅しと警告を含めて言っているのだ。

僕は、此くらい強いんだぞと。

今の不知火には、出来るだけ手を出さない方がいい。

強さが、今までよりも、分からなくなった。

真正面から戦ったら間違いなく三人でも負ける。

 

「何が目的だ」

 

兎に角、今は情報だ。

 

向こうが余裕こいてべらべら喋ってくれれば、何かしら勝つとまでは、行かなくても切り抜けられるヒントはある筈だ。

 

「目的………目的か……うん。難しい所だね。僕も君も前に比べて何もかも変わったら。変わりすぎた」

 

「「「!?」」」

 

いつの間にか、不知火は、俺達の背後にいた。

いつ、後ろに回った。

 

ジャキジャキ!

 

エルと菊代が其々銃を構え何時でも撃てる体制に入る。

武器らしい武器は持っていない俺は、何時でも秋水を乗せた蹴りを放てるようにする。

だが、戦わない。

隙を付いて逃げる。

その為の構え。

菊代とエルなら、担いで海を泳いで逃げ切れるだろう。

 

逃げるが勝ちだ。

 

「ちょっとしたおふざけじゃないか」

 

両手を上げて降参のポーズを不知火が取るが、俺達は小さく一、二歩下がり何時でも逃げれる様にする。

 

不知火は、あぁそうそうと思いましたように此方に表情の隠れた、一つ目の青い目の仮面で此方を見て

 

「遠山く……いや、●●●● ●●●君。アリアに気を付けたまえ。二つのに意味でね」

 

「ッ!」

 

ザザッと耳に又ノイズの用な物が流れ痛みに顔をしかめる。

不知火が其処を見逃す筈もなく、しかめた俺を見てからおぉと、感心したように

 

「“違和感”は感じている用だね。では、引き続きアリア君の“容姿”と“声”に気を付けて」

 

「なっ―――何で其を」

 

「其と、0課潰しの次いでに次配属される人達の候補と、関係者も潰しておいた。暫くは日本で好きに動ける。其だけ、宣戦会議(バンディーレ)で又会える事を楽しみに待っているよ」

 

「ま、待ちな不知火あんたに聞きたい事が――」

 

 

菊代の声も空しく不知火の姿は、まるで最初から居なかったかの様に音も無く消えた。

 

「トウヤマ………彼はいったい」

 

「分からん。ただ一つ言えるとすれば」

 

呆然と不知火のいた方を見つめて動かないエルに向けて静かに

 

「恩着せがましい、観客気取りの道化だと言うことだけだ」

 

俺は、そう言った。

 

 

その時ヒラヒラと、上空から、此方を目掛けて何かが、降って来る。

 

「何だこれ……?」

 

パシッと、手に取ると其は茶色い封筒だった。

ビリッと破き中の手紙らしき紙を広げると

 

 

『遠山金次君へ

この度は、ご注文ありがとうなのだ!

ご注文された“超合金ワイヤーネットサークル”(恐らく、目の前のバカデカイサッカーゴールの事だろう)の製作費用として、1500万を下記の講座に振り込んで置いて欲しいのだ。

何時でも、ウェルカムなのだ!

 

            平賀文より』

 

 

 

見ようによっては高いのだろうか?安いのだろうか?この値段

其を、多分会った事もないし、聞いたこともない一言で言えば、多分面識の無い名前の差出人だが、装備科(アムド)と付いているので、間違いなくこの武偵校の生徒だろう。

多分同級生――――からの請求書だった。

 

俺が…………払うの?

 

付け加える。

不知火は、ドケチな道化だ。

手柄にするんじゃなかったよ。

 

 

―――――だが、俺達は後に、渡されたこの一枚の写真が俺達にとっての“パンドラの箱”になるなんて、まだ思ってもいなかった。




次でエピローグでやっと二巻へと行ける予定………てか行かないとですね。はい。


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32 そして、幕が降り、新たな幕が上がる。

皆様お久し振りです。
やっと、就活終わった。
車の免許取れた。
イエーーイ!一人パーティだ!サビシクナンカネェ。


なんとか、前のように更新出来ます。
其では、どうぞ。


(潜入には成功したが、理子も夾竹桃も……失敗に終わったか)

 

武偵高――――女子寮屋上

氷の様に透き通る白い肌を偵高のセーラー服に包み、風に、その上質な糸の様に細く繊細な美しい銀色の髪を風に靡かせ閉じていた、瞼を開け研ぎ澄まされた刃の様な切れ長のサファイア色の目は、数分前に飛行機の墜落し、マスコミや救急隊被害者の乗客等で溢れかえるまるで、ライブ会場の様に赤、緑、青、ピンク、紫、黄とライトアップされた華やかな風車よりも遥かに大きなオブジェ(サッカーゴール)がマスコミの目を引く空き地島を静かに見つめていた。

 

GGG(トリプルジー)作戦事態は失敗に終わったが……私の目標(ターゲット)は変わらない)

 

ギュと、両手で持ち地に付けた大剣の柄を握り締めながら

 

目標(ターゲット)の星伽 白雪を拉致し二人の汚名を返上するとしよう」

 

名もまだ知れぬ少女の誓いは、誰にも聞かれることなく静かに夜空へと消えた。

 

 

――此れから起こるで有ろう悲劇の前兆だと言うことをまだ、誰も知らない。

 

 

★ ☆ ★

 

先程の理子との一騒動と、不知火の件が終わり、部屋に帰り菊代は不知火が渡して来たあの不可解な四枚の死体の写真を見て何かを呟きながらメモしたりしてる横で、エルは持参してきた医学書を隣で読みながら時々菊代に何かを伝え、風魔と俺はその二人から少し離れ窓際のPCラックでちょっとした仕上げ(風魔は、興味本意で除き混んでるだけだが)をしていると、

 

「ネクラ!此れは、いったいどういう事よ!」

 

バンッ!と勢いよく、バルコニーから、鍵の掛かっていたはずの窓を力任せにこじ開けて、PCを弄っていた俺の前まで来る。

壁を登って来たのか?すげぇな、人間止めてやがる。

てか、誰がネクラだ。

そして顔が近い、もっと離れろ100メートルくらい。

 

「玄関から入ると言うのは世界共通の常識だと、思ってたんだがなぁ」

 

ちょとした苛立ちと皮肉を込めて言うと

 

「惚けて無いで、テレビ着けてみなさいよ!」

 

PCラックを手の平でバンバンと叩く。

おいやめろ、コーヒーが溢れる。

 

「何をそんなに怒ってるんだよ?」

 

「師匠恐らく今日の出来事かと……」

 

「ああ……」

 

風魔の説明に納得と頷く。

確かに、いまだ、マスコミなんかの報道陣が集まってるもんな。

菊代が、リモコンを取りテレビの電源を入れる。

すると、丁度先程の飛行機の不時着についてのニュースが流れていた。

ニュースの内容は、『エンジントラブルによる人口島への不時着、幸い乗員乗客全員無事』という者で俺達の事は触れられて居なかった。

まるで、最初から居なかった様に。

 

俺は、アリアの方へと向き直り

 

「この、不運な事故がどうかしたのか?」

 

意地悪くそう言った。

 

アリアは、俺の態度がお気に召さなかったようで、更に詰めより茹でタコのように真っ赤にして

 

「あんた、こ、こんなことしておいて、よく平然としていられるわね!自分で何をやったのか分かってるの?ぼ、防衛省とロンドン武偵局を脅すなんて!」

 

「あぁ、其はアタシと」

 

「このボクだ!」

 

菊代が、あっさりと答え。

エルが立ち上がって、手を顎に添って乗せキメ顔でそう言った。

こう、背後にバァーン!とかの効果音背負ってそうな何か上手く言えないがそんな感じだ。

止めなさい、クレフトの影響かも知れないけど、痛い子に見えるから。

そう言うのは、理子で間に合ってるよ。

 

「知っての通り、ボクの所属する、リバリティー・メイソンは、あらゆる組織と親交があるが、その中でも更に、力のある組織の名を借りたのさ!」

 

えっへん!と、本人には悪いが、有りそうで無い胸を誇らしげに張るエルの事は褒めると、其は其で面倒な事になるので、あえてスルーし話を続ける。

 

「まぁ、そう言う事だ。其と乗客にも、多少強引ながら、納得して貰うように交渉してな」

 

乗客は、絶対に助かるということさえ理解させれば、簡単だった。

印象としては、流石金持ちプライドが高い。

全ての金持ちが、そうとは限らないが、常に守られて当然、助かって当たり前な世界にいた奴等だ、適当にあしらって、此れから、着陸体制に入ってどうたらこうたら、操縦士が現在着陸出来る場所を発見し云々等とアナウンスで言っておけば良い。適当に安全で助かる事を伝えれば、根拠も無しに信用する。

今乗客が誰一人として騒がないのはそう言う事である。

鳩共は、ちょいと餌を撒いてやればそちらへ行く。

餌への道しるべを少し変えてやればいい。

まぁ、怒りの矛先が、今のニュースの通り、航空会社に向いていると言うのもあるが………。

大体は、2008年の12月24日に起きた浦賀沖海難事故の時と、オチは対して変わらないのだが。

其と、エルの言う名前を借りたと言う組織は

 

「だからね今後、日本の政府や自衛隊とか、警察は、アタシ達の絡むことには、多少目を潰らざる得ないって訳よ、一応保険として、遠山のパフォーマンス映像は、多少加工して向こうに流して置いたけど」

 

俺と同じように、菊代が、エルの『さぁ、存分に褒めてくれたまえ!』というアピールをスルーして、説明をする。

後半は、確かに菊代とエルのお陰だ。

だが、前半の様な事が出来る組織は一つしかない。

 

イ・ウーだ。

各国の様々な組織を束ねる組織。

その影響力は、語り尽くせないほど凄まじい。

リバリティー・メイソンもその組織に属し、エルは何度もスパイとして潜入(スリップ)していたと言う。

だから、今回の様な事が出来たのだろう。

そのエルが何故、両方の組織を無視し独断で、宣戦会議(バンディーレ)を起こそうと持ち出したのか、此方の為という以外にも理由が有りそうだが、今は考えないで置こう。

時が来たら聞けばいい。

 

「まぁ、向こうは其でも、“切り札”を使って始末しようとするだろうが」

 

その切り札さえも消えてしまった。

内部崩壊という向こうにとっての最悪の形で。

 

不知火は、得たいの知れない奴であった。

何故、此方の為になるような行動を今回起こした?

0科を潰してまで、やる事が有ると?

其に、最後に言ったあの、どちらも変わりすぎたとはどういう意味なのか?

今目の前にいるアリアへの違和感に気を付けろ?

元からこいつは、ビジネスパートナーだ。

心までは許してない。

ちゃんと警戒しているさ。

何より、アリアは、間宮の戦姉(アミカ)あの、間宮の生き残りとまで、関係を持つとは。

風魔に調べさせていたが、間宮あかり

お前が、強襲科のEランク?

嘘付け、有力な仲間を持ち、H家のアリアに近づき夾竹桃を倒したお前が、Eランク?

流石間宮―――そうまで実力を隠すか。

他の間宮の生き残りは、身を隠しひっそりと生きていて全く見つからないが、間宮あかりお前だけだ、自らイ・ウーに仕掛けて要るのは。

明らかに、復讐を考えていやがる。

確実に戦力を整えているじゃないか。

此方と同じように、好機と見たか。

何れにしろ、間宮とH(ホームズ)の組み合わせは、どの組織も想定外だろう。

………今後、間宮の行動が、此方にとって吉と出るか凶と出るか。

其も踏まえて引き続き風魔に見張らせよう。

 

「ネ、ネクラ?」

 

数秒くらい考えて事をしていただろうか?

怪訝そうに此方を見るアリアがいた。

やっぱり、この癖は直した方が良いだろう。

考え事をすると、周りが直ぐ見えなくなる。

 

「ん?何だアリア?今回の件は寧ろお前も喜ぶべきだろう?向こうに帰国せず日本で母親救出に専念できるんだから」

 

誤魔化す様に、アリアに話を振る。

其と、同時に頭の中の考えも切り替える。

 

「ええ、そうね。その事については、感謝するわ……その、ありがとう」

 

そっぽを向き此方に言った言葉に、全員が耳を疑った。

 

「へー、お前もお礼とか言うんだ」

 

「どういう意味よ!」

 

「そのまんまだ」

 

なんと言うか、違和感とかは、無かったが多少不気味だったので、何となくそのまんま感じた感想を言ってみた。

数日しか関わってないが、此方の方がしっくり来るのは気のせいだろうか?

 

「はいはい、あんた達仲良いのは分かったから、遠山、そっちの返事が来たのかどうか教えて頂戴」

 

「おっと、そうだった」

 

俺の首に手を回して技を掛けようとするアリアの手を、風魔が、アリアの両脇に手を回して俺が、その両手を引っぺがす形で、終わりにして菊代に向き直る。

 

「さて、全員注目してもらおうかしら」

 

菊代が、パンパンと両手を叩き、パーティの主催者の様な振る舞いで全員の注目を集める。

 

 

「このたび嬉しいニュースが三つ有るわ。一つは、不本意かも知れないけれど、不知火の手によって、日本での活動がしやすくなったこと。今後は、いろんな事に巻き込まれるから全員油断しないように」

 

そこ言葉に、俺はゴクリと唾を飲む。

その通りだ、今後はいつ何処で今まで以上に狙われても可笑しくない。

あの映像を、周りがどの様に間違った受け止めかたをするかで、味方の数と敵の数が変わるのだ。

完璧な博打だ。

 

「二つ目は、そこのアリア!アタシ達のチームに改めて歓迎するわ!」

 

ビシッ!と、アリアの鼻先へ人指し指を真っ直ぐに指す。

 

「みきゃ!へ?私?」

 

突然すっとんきょうな事を言われたアリアは、水にぶちこまれた子ネコのような声を出して驚いている。

 

「おー、良かったな。アリア。菊代に気に入られて」

 

「コッチを見て言いなさいよ」

 

俺は、明後日の方向を向いてアリアに拍手をする。

御愁傷様アリア。

お前は、菊代に気に入られた、菊代は、欲しいものや気に入った()は飽きるまで、手放いからな。

ほら、菊代を見てみろアリア、握手をしてる菊代の目は、新しい玩具を手に入れた無邪気な子供その物だぞ。

せいぜい、俺達と行動を共にする間は、壊れないように気を付けろよ。

如何わしい意味で。

自覚無しというは治しようがないと、エルですら匙投げたレベルなんだからな。

 

「姐殿が、気に入られた様で何よりです」

 

おい、風魔地味に俺の最後に隠れながら言うんじゃない。

 

「此で、トウヤマもアリアを家族(ファミリー)同然で守らなきゃいけないわけだ」

 

「あ……」

 

勝手に入れた紅茶を飲みながら、エルが他人事として呟く。

俺は、その言葉で今のアリアの状況を理解した。

 

(やられた………)

 

正にその通りだ。

菊代は、俺にとって、姉であり、組の上司であり主人である。

菊代の決定は絶対なのだ。

 

今菊代は正式に、アリアを此方側に入れた。

詰まり、此れから先はアリアも、今までの様にとはいかず、ビジネスパートナーではなく、もう一人のパートナーという位置付けになる。

 

菊代は、此方を見てニヤリとする。

 

(計画の内ってか……一本取られたよ)

 

神崎かなえに間宮あかりの関係者で〔眠り姫〕や〔緋鳥〕との関係も深い緋々色金の所有者である時点で守らなければいけない人物だ。

だが、此れからは、もう少し扱いを丁寧にしろとね。

了解しましたよ……お嬢。

 

俺が、菊代に了解と頷くと菊代は上機嫌に両手を広げ

 

「さぁ、後は彼女からの返事を聞くだけよ!遠山返事の方は」

 

「俺とアリアが、バカやってる間に来たぞ」

 

PCに向き直りとあるFlashファイルを開く。

そこには、理子からの一通のメール

 

「リュパン!?」

 

画面を覗き込んでいたアリアが驚きの声を出す。

まぁ、そりゃあそうだろうな。

さっきまで一緒にいたんだもの。

 

「トウヤマ………」

 

「告白の返事は、はいか。いいえのどちらかだけよ」

 

「まさか、リュパン家とこのような形で再び関わるとは」

 

「……開くぞ」

 

全員がよりいっそう顔を近づけ画面に釘付けになる。

ファイルをダブルクリックし開いてスクロールしていく。

メールの内容はこのようになっていた。

 

『キーくん達は大変なものを盗もうとしています』

 

なるほど、まだ、盗んではいないと言うことか。

本文は無くそのまま理子自作アニメが理子の父親をモデルにした作品のOP(オープニング)と共に流れる。

 

アリアの額を華麗に撃ち抜く理子

其を見て画面を撃ち抜こうとする現実(リアル)のアリア―――を羽交い締めにするエルと菊代。

 

すたこらさっさと逃げる茶色のトレンチコートを着たエル、其を追う理子。

立場が逆だろうが。

怪盗が、刑事を追ってどうすんだよ。

エルを追う途中で、地面から出てきた、血だらけのアリアが前に習えのポーズでエルとは別の方向へと歩いて行く。

二手に別れた獲物をキョロキョロと左右を見てどちらに行こうか迷っている怪盗理子。

死んだアリアに何があったんだよ。

そして理子を模したキャラが俺と菊代のキャラに言う。

 

『二人はとんでもないものを盗もうとしています。………りこりんの心です!』

 

そして、そのままエンディングへと流れた。

 

 

「な、なんと言うか」

 

「滅茶苦茶ね」

 

エルと菊代が、思い思いの感想を言う。

まぁ、それが普通の感想だよな。

だが

 

「告白の返事は…………“はい”だとよ」

 

俺が呟いた言葉にエルと菊代が、驚いた顔で此方を見る。

俺は、そのまま説明を続ける。

 

「このメッセージには、『休戦』と『予告状』と言う意味が込められている」

 

一つは、『休戦』

 

此れは、エルとゾンビアリアを理子が追いかけていて二手に別れた所で理子が迷った事に意味がある。

今までの理子なら迷わずアリアを追うだろう。

だが、この映像で迷っていた。

更にその前には、エルを追いかける理子が映っていた。

此が重要なのだ。

理子は今までのアリアに拘り、吸血鬼に怯えた。

人は、何かを追いかける時も逃げる時も二つで精一杯である。

そして、追うとなれば、どちらか選ばなければならない。

今回、エルが参加したことにより、理子の恨むべき相手が一人増えてしまったのだ。

此でいい。

本当なら此処で積むだろう。

だから『休戦』だ。

理子は、賭けたのだ。

最も恨む相手ブラドが、まず消えることを。

アリアなら最も熟してからでいいと言う余裕がエルの登場により作れる。

 

『ストレスの軽減』である。

 

準備が、整うまでの休戦だ。

 

更に、『予告状』

名言を変え盗んだのでは無く、盗もうとしていると。

 

そんなに仲間にしたければ盗んでみろと。

ああ盗んでやるさお前の心を。

其で完璧なエンディングを見させて貰う。

 

俺が、エルの所を省き、理子の事を伝えると菊代は喜んでエルとハイタッチを交わし、風魔は、何かを考えるように静かに目を閉じて、アリアは納得がいかないと、画面を睨み付ける。

 

此で今のところは一軒落着ってね。

良かった良かった。

 

 

 

 

 

 

――――んで、此も視てるんだろう。

聴いてるんだろう。

壁に耳あり障子に目あり。

この部屋にいくつ『目』が有るか。

この部屋にいくつ『耳』が有るか。

分からないとでも思ってるのか?

 

君は、前に言ってたじゃないか。

 

『愛する人が家で何を喋っているのか知っておくべき―――其が親切というもの』だと。

 

何か合ったら直ぐに行けるように『見守って』いなければ不親切だと。

 

確かにそうだろうな。

だが、其では完璧な親切とは言えない。

集音カメラ、スパイカメラ、人感センサー

 

有りとあらゆる形で君は、俺を―――俺達を見守ってくれている。

其には感謝してもしきれない。

勿論俺は、其に一生あらゆる形で答えるさ。

 

だけど、家だけじゃない。

外でも見守っていなきゃ親切とは呼べない。

そう教えてくれたじゃないか。

 

もう直ぐ君は此処に来る。

ほら、3 

 

どどどどどどどどどど……!!

 

猛牛か何かが突進してくるような足音がマンションの廊下に響き渡る。

 

「此れって」

 

「不味いで御座るな」

 

「な、何が起きてるんだい?」

 

「良いから来な!じゃなきゃ死ぬよ!」

 

その音を聞き、みるみる血の気を引かせ、青ざめる菊代と、風魔。

そして、何が起きてるのか分からず、動けないでいるエルと直ぐに戦闘モードに入るアリア。

 

だが、慣れた手つきで、エルの襟首を掴み素早くバルコニーから、エル、菊代風魔の三人が、防弾性の物置へと避難する。

この感僅か一秒という普通なら有り得ない速度で有る。

 

はい、2

 

「アリアお前は、良いのか?」

 

「敵かも知れないでしょう?なら武偵なら逃げない」

 

俺は、逃げ遅れたアリアに問いかける。

逃げた方がいいと思うけどね。

特にアリアは。

 

――1

 

シャキン!

 

金属音と玄関のドアが切り開けられる音がリビングまで響く。

 

 

「まぁ、御愁傷様」

 

「何か言った?」

 

「いや、別に」

 

一応アリアにはこう言っておこう。

まぁ、逃げなかったお前が悪い。

後は、どうなるか知らん。

 

はい。0だ。

 

もう、目の前で仁王立ちをする巫女装束に額金、たすき掛けの戦装束姿でゼーゼーと息を切らしながら、ぱっつん前髪の下の眉毛をギギギンッ!と鬼の様に釣り上げる少女に俺は

 

「お帰り。白雪」

 

何事もないかの様に何時通りの言葉を言う。

そして、然り気無く、PC画面――その右下部分に小さく映っていた理子自作アニメとは別の真っ二つにされた玄関の映像を隠すようにPCの電源を切る。

 

無事でなにより。

もう一人のご主人。

 

「やっぱりいた!神崎・H・アリア!!」

 

「おい、アリア呼ばれてるぞ。いつの間に友達になったんだ?」

 

「敵意丸出しでしょうが!」

 

ガウッ!と子ライオンが此方へと威嚇をするのを、スルーし白雪の方を見る。

あら、黒雪になってる。

 

 

白雪は、携えた青光りする日本刀をギラリと大上段に構え

 

「この、泥棒ネコ!き、き、キンちゃんをたぶらかし汚した罪、死んで償え!」

 

「な、何なのよ。ネクラあんたの知り合い!」

 

そう言いながら、椅子に座っていた俺の後ろに隠れ銃を構える。

俺を盾にすんじゃねぇよ。

 

取り合えず、無駄と分かっているが、白雪に両手を上げ降伏のポーズをとり。

 

「白雪落ち着け、俺は何処も汚れてなんかいないと………思う」

 

アリアと、以外ならなんと言うか……否定は出来ないけど。

其は、黙って置こう。

 

白雪は、一歩一歩ジリジリと此方へと近づいて来て。

 

「キンちゃんどいて!どいてくれないと、そいつを!そいつを殺せない!」

 

俺の後ろで、アリアは、ドン引きし銃の引き金すら引くのを忘れている。

そんなアリアに、俺は一つ伝え忘れていた事を思いだし

 

「あぁ、紹介する。お前が、言っていた例の同居人の白雪だ」

 

「今其所じゃ無いでしょう!」

 

他の言葉が思い付かなかった。

まぁ、アリアよ。

 

「ネ、ネクラァ!なんとかしなさいよ!なんなのよこの展開は!」

 

「知らん」

 

俺の椅子を掴みグルグルと椅子を俺と一緒に開店させながら、白雪を近づけないようにし、俺を挟んで白雪とアリアが向き直る。

正直目が回る。

 

俺が言える事は、一つ。

 

「キンちゃんを―――変な呼び方するなああああああ!」

 

 

 

 

 

生きろ。

今後の為に。




ワーイメインヒロインノトウジョウダー(棒)

さて、第二部突入です。
最初の人はいったい何ダルクさんなのか、気になって来ますよね?ね?


感想とか有りましたら、お気軽にどうぞ。←私のやる気が上がります。

こんなの緋弾じゃねぇ!とかは、止めて下さい、正論だしどうしようもないから。
其と、AAいよいよですね。
今から、楽しみです!
ゆるゆりまで、始まり、来月から百合だらけというなんと言う俺得感!
ライカと麒麟の絡みが、なんとも―――自重します。
すいませんでした。


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第2幕赤靴の少女と囚われの白雪姫
33 そして、幕が上がり観客も舞台に上がる。


第二部のプロローグです。
場面が変わる所が多数有ります。
ご注意下さい。


教授(プロフェシオン)の言っていたのは、こう言う事だったのね)

 

イ・ウー船内。

その一室、階段上に積み重ねられ横にズラリと並ぶ椅子。10人の人にこの場所の感想を聞いたとしたら、間違いなく10人が『映画館』と答えるだろう。

そんな映画館の中では、ポツンと二人の女性が、映画館のスクリーンほどの大きな画面に映る少年――遠山金次の空に向けて、親指を下に向けてそのまま首に持っていき首をかっ切る仕草をすると言う誰もが見ても異様と思う動作を静かに見ていた。

 

 

やがて、一人の女が言葉を発する。

 

「わざわざ部屋から持ち出してまで妾に見せたい物が何かと思えば……ほほっ、アレがカナの言う元弟なのじゃな?」

 

「残念な事にね」

 

その女性の言葉に淡々と事務的に答えたのはつい先程までその教授(プロフェシオン)と話しをしていたカナと呼ばれる女性の隣でニヤニヤと意地悪く笑う女性は裸と見間違える程に過激な何処かのゲームの踊り子を思わせる格好だ。

胸当ては冗談の様に細く、その上から黄金の飾りがジャラジャラと胸を覆い腰回りは細い金の鎖で留めた帯のような絹布を一本垂らした衣装に、足は、高いヒールのサンダルを履いて此れから海にでも行くのかと言うような格好。

ツンと高い鼻に、切れ長の目おかっぱ頭の此方も見るものが見れば間違いなく美少女と言うだろう。

そんな二人の女性は、画面の中で金次がミサイルを蹴り返し戦闘機を破壊した辺りで修了した画面から目を剃らして。

カナの方から口を開いた。

 

「よく伝わったわ―――『第二の可能性』は、たった今消え『第一の可能性』のみとなった」

 

肘掛けに寄りかかり其れは絵になりそうな仕草で頬杖をつきながら言う。

その言葉に、隣の女性は何処か楽しそうに問い掛ける。

 

()()揃って入学とは、また奇妙な縁もあるもんじゃのう」

 

「感動の再会とは遠く因縁が、お互いを結び付ける事もある……この場所は、真に無法。如何なる法も無意味とし、内部にも一切の法規が無いこの場所は、あの子にとっては正に理想郷(ユートピア)ねぇ、あの子が入ってきたら、どうしたいの?パトラ」

 

「ほほほっ」

 

パトラと呼ばれた、女性は心の其処から楽しそうに笑いながら

 

「玉座を狙うと言うのなら御主の弟であっても殺してしまって構わんのじゃろ?祭りに贄は付き物じゃ、妾に相応しい―――所で、分かっておるのだろうな?」

 

ジロリとパトラは、カナに疑惑の目を向ける。

その視線を当たり前の様に受け流しえぇと頷く。

 

「此れからのお手伝いをしてくれるのなら、教授(プロフェシオン)に頼んで貴女の『退学』を取り消して貰うように掛け合うわ」

 

「其なりの報酬を用意するのは当然じゃな」

 

ほほほっと深紅のマニキュアを塗った長い爪と掴んだら折れてしまいそうな細い指が特長的な手の甲を口元に当てて嬉しそうに笑う。

 

(浦賀沖の事も今回の事を何一つとして大きく取り上げられなかった)

 

その女性の隣で静かに目を閉じてこの先を考えていたカナは、弟、遠山金次について考える。

 

(行方不明その次は、留学先のイギリスにて呪いの男(フルヒマン)との戦闘にて死亡と言われていたのに、やっぱり、情報を曲げる位の力は得ていたのね)

 

ギリッと奥歯を噛みしめ忌々しそうに、暗く何も映さなくなったスクリーンを睨み付ける。

 

「『緋弾のアリア』―――その子を使って『第一の可能性』を狙ってるんでしょうけど、緋弾は儚い夢として消す『遠山家の正義』に乗っ取って」

 

彼女は、呪いの様に又決意を新たに決め

 

「姉より優れた弟など存在しない――義を捨てた遠山には、遠山を名乗らず死あるのみ」

 

殺意を込めてこの場に居ない弟に呟く。

ギュッ!と強く右肩を痛みを堪えるかのように押さえながら。

 

 

★ ☆ ★

 

「クッハハハハハハハハハハ!」

 

「チチチチチチチチチ!」

 

「何が可笑しい!」

 

ドン!とテーブルを力強く叩くブカブカのスーツを着て右手首には斜め逆卍が、あしらわれたリストバンドを付け頭には牛を思わせる2本の角を生やした〈小さな男の子〉―――いわゆるショタである。

 

その両脇でソファに座り笑うのは、左目に金色のモノクルを付けワカメの様にヘリャリとした灰色(鼠色)の髪の右目に当たる部分を緑に染め首から親指サイズの瑠璃色の笛を下げている。

もう一人は、いかにも魔女と言えよう。

おかっぱ頭に右目に臙脂色の斜め逆卍を刺繍した眼帯をした14歳のくらいの少女―――カツェ=グラッセだ。

 

そんな二人に挟まれて笑われている、子供は、《獄卒》牛頭(ゴズ)こと、原沢和雪――遠山金次がパスポート製作の為に付けた名前である。

 

そんな原沢は、またドン!と机を叩く。

いつまで笑ってるんだと。

 

「いや~悪い。悪い本来の姿は初めて見るからよ今流行りのギャップつっうの?少し不意を疲れてな。ケケケッ」

 

「でしょう?昔から魔力使いきるとこうなるんすよ変化が解けて元通りおちびちゃんの完成っす」

 

チチチと笑うのは、旧鼠と呼ばれた男。

旧鼠は、原沢の頭の角を指差して

 

「だから、弄るのが楽しいんすよ~―――そう思いません?サティさんも?」

 

『フフッ。確かに其れは否定しないわぁ~』

 

原沢のブカブカなスーツの胸ポケットから突然声がした。

 

「うわっ!な、なんだ!?」

 

その異様な出来事にカツェが驚きの声を上げる。

 

『けど、人の使い魔(ペット)を虐めるのは感心しないなぁ。……後でリーダーに報告しちゃおうかしら?』

 

「うへぇ其は、流石に勘弁すよ~」

 

ひょっこりと、胸ポケットから顔を出してそのまま、出てきたのは、血の様に真っ赤な長い髪を後ろでまとめ先の方を三つ編みにし、海を思わせる青い目そして、手足の丸い関節を持った小さい人形が誰に操られるでもなく意思を持って生きているかの様に自然な動作で話している。

カツェは、落ち着きを取り戻してからその人形に

 

「こいつは驚いた。……〔灼熱の魔女〕サティか………本当に死んでたんだな」

 

そう聞いた。

 

「あらぁ~そう言う貴女は、〔厄水の魔女〕カツェ=グラッセねぇ~お話は、皆からも聞いてるわぁ~」

 

球体関節の腕を曲げ来ていた赤色のドレスの両端を摘まみ初めましてと、上品にお辞儀をする。

そして―――

 

「それでぇ~〔眠り姫〕様はどう~?緋は食べさせたんでしょ~」

 

底の冷えた声で問い掛ける。

おどけてるように見えておどけてない。

感情の無い、ロボットの様に淡々とヒヤリとする程の低い声で問い掛ける。

全員の視線が旧鼠の隣の毛布に包まれた銀髪の少女に向けられる。

旧鼠だけが、口を開き

 

「二度寝っすよ、遠山さんから貰った(押し付けられた)緋色のナイフは食べさせたんすけどね~今度はお腹いっぱいで寝てるって感じっすかねぇ……起きたのもほん数秒すけどね」

 

見てなかったんすか?と、ヒラヒラと剣先が折れてグリップのみとなったバタフライナイフの残骸を左右に振って見せる。

 

「あら~、寝てて分かんなかったわ~」

 

その言葉にピクリと眉を僅かに動かした原沢が

 

「む、かなり眩しき光だと思ったのだが?」

 

そう疑問の声を上げるが

 

「ポケットの中じゃ暗くて分かんないわ~貴方だって正確には馬頭(メズ)の方が出てたんじゃなくて?」

 

煽るようなその言葉に、ぴょんと、ソファから立ち上がりサティの所まで詰め寄ると

 

「あんな気持ち悪い妄想ロリコン妖と一緒にすんな!変化さえ解けなきゃオレはゆっくり向こう側で寝れたしお前なんかにも会う事もなかったんだよ!」

 

先程までの底冷えた声は消えのんびりと間の抜けた声でからかうサティに汚ならしくアウトな指を突き立てギャンギャンと喚く。

端から見た通り人形に話しかけて突然キレる子供と言う何て説明していいのか分からない構図が出来上がっている。

 

――が、そんなのはもう見慣れた光景と、無視を決め込み旧鼠はカツェと顔を見合わせて話を進めていた。

 

「――んで、さっきの()()を見る限りお前ら鏡高はどっちに付くんだよ?」

 

カツェも旧鼠に合わせて此処は隣の騒ぎは、無視して良しと判断し思考を切り換えて、此れから起こるイベントを楽しみにしていると言うニヤリとした笑顔を見せる。

映像と言うのは、勿論遠山金次のパフォーマンス映像と言う名の挑戦状の事だろう。

その意味が直ぐに伝わったようで腕を組み数秒考える素振りをしてから

 

「休暇中に起きた事っすから、何とも言えないんすけど……遠山さんの組織力への拘りから恐らく主戦派(イグナテイス)すかね……まぁ、帰国してみなきゃわかんないんすけど」

 

「ま、其処しか考えられねぇしな」

 

世間話でもするかのように、軽い口調でお互いに話す。

 

「だが、今まで疑問だったんだ。何であの姉弟が日本で武偵何かやってたのか………其が分かった」

 

カツェの方がポツリと、独り言の様に言う。

 

「と、言うと?」

 

「……あの映像が、送られて来たのと同時に、イギリスのイカれ貴族からの手紙も付いてきたんだ。今日この日にこの時間に届く様にな。最初から、こうなると分かっていたとしか思えないほど、早く」

 

旧鼠に促されたカツェは説明の途中で、マントの内側から、折り畳まれた一つの紙を出す。

 

「『急ですまないが、鏡高にイ・ウーの名前を貸すように手配して欲しい』ってな。まぁ、あたしらも鏡高には、大きな借りがある。其も一回や二回では返せない程のな」

 

「まぁ、国に喧嘩を売るようなマネが、まだ表だって出来る程まだ大きく無いすもんねぇ」

 

「其も有るが……」

 

ニィ、と意地悪く笑い続ける。

 

「『第一の可能性』『緋弾のアリア』『神崎かなえ』『三色の色金』此が全て東京の武偵校に又はその付近に集まっている。……此は偶然か?」

 

その言葉にハッと、旧鼠も何か合点が言ったと言う顔をして

 

「そう言えば、やたら遠山さんもお嬢も東京の武偵校に拘ってたっすね」

 

「そうだ。あの二人ほど……いや、姉は兎も角弟の方だ。あんな思考の狂った奴が取り締まる側なんて似合わねぇにも程がある。あたしらから見ても()()じゃない。あたし達ですら、男と分かっていても正式にメンバーとして欲しいくらいの狂いっぷりだ」

 

「否定できないすねぇ……」

 

おお、怖い怖いと自らの体を抱き締め大袈裟に身震いするその姿には何処かの胡散臭さが漂う。

 

「其に加えて、側近の貴族からの鏡高へのイ・ウー名貸しこの時期にイ・ウーへの加入だ。前に誘った時は断られたのに」

 

思い出して機嫌を損ねたのか、頬を膨らませて不満を露にする。

其を宥めるかのように、旧鼠が話を促す。

 

「誘った事があったんすか?」

 

「なんだ、知らなかったのか?あぁ、言ったぜ、そしたら欠伸しながら『興味無いし関わりたくない』とか抜かすんだ。なのに此だぜ不満も有るさあたしの勧誘は断るくせにイギリスのはOKするんだぜ、嫉妬の一つや二つくらいのするさ」

 

ケケっと魔女らしく笑うカツェを見て旧鼠も確かにと、何処か感心したような顔をして頷く。

確かに、周りから見たら『その通りだ』と納得の出来る言い分。

遠山本人から見たら『残念ハズレ』と、大きく手で×(バツ)を作るだろう程に間違えている。

勿論当たっているところもあるが、結果論としてはやはりハズレである。

そんな五人(と言って良いのか分からないが)の中にバンッと扉を勢いよく開けて慌てながらカツェの元へと駆け寄るカツェと同じような格好をした少女が、カツェの耳元で何かを囁き、

その瞬間、カツェの目は動揺で大きく震え何度か瞬きしてから、耳打ちで何かの指示を出す。

部下らしき少女は、慌てながら走って扉を閉めてそのまま何処かへと行ってしまった。

 

シンと先程までの騒がしくしていた二人も静かになり軈て、カツェがまだ、信じられないと口をわなわなと震わせながらも

 

「数日前に、遠山と……その姉菊代が―――日本の零科全メンバーを潰したそうだ……今、イヴィリタ様もその証拠写真を今あたし達を除いた全員で確認したと」

 

 

―――はたして、この根も葉もない濡れ衣が、遠山達にとって凶と出るか吉と出るか。

其れは、まだ誰にも分からない。

だが、一つ言える事とすれば、其れは、周りが遠山の思う通り間違った解釈をしてくれたと言うことだろう。

どんな結果がこの先待っていようと此だけは、吉と出たと自信を持って言えるだろう。

 

★ ☆ ★

 

一方で、そんな濡れ衣がおまけで付いていったなんて事は、知る良しもない遠山達は

 

「天誅!テエエエェェンチュウウゥゥ!!」

 

ギラリと光る日本刀を武装巫女が目の前の少女に嬉々として振りかざし

 

「ネクラ、何でアタシが狙われてるのか説明しなさいよ!」

 

ピンク髪の探偵が二丁の拳銃を手に身を守り

 

「知らん。お得意の勘とやらで答えを見つけてみろ」

 

部屋の隅で大きな鋼鉄製の盾を構えて身を隠すヤクザ少年

そして、其を外の物置小屋から見守る親友と姉妹と言う何ともカオスな光景の中

 

(ま、後三時間もすれば、体力も切れるだろう)

 

 

盾の中で静かに、出ていくタイミングを伺いながら今を日常だと〈思い込もう〉とするのだった。

 

いつか、本当の平凡を手に入れたいと、そんなのは無理だと交互に思いながら。

彼は、今この時を普通と思い込もうとしていた。




暫くしたら章をつけます。


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34 帰宅病み嫁

此処から先はお気を付け下さい。
つまりいつも通りです。

後眠り姫のモデルは、今やっているホムンクルスの娘を育てるゲームの娘がモデルになっています。

単純な私の趣味です。
今、魔王にしようと、魅力をバンバン上げてる状態です。






――なんと言う事でしょう――

あれほどまでに住み心地の良かったリビング。

その壁や天井果ては床にまで、刃物によって、斬新に切り刻まれ、同じく音楽室の様に壁や天井、床にその斬り込みに合わせるように銃弾によって無数の穴が出来上がりその隙間の中から白雪が、防犯の為に買って設置したのであろう数百を越えるカメラや盗聴機が360度キラキラと光の反射によって美しく輝いているでは有りませんか。

此でどんな事が有っても安全です。

常に視線を感じますが其れは其で一種のプレイとなるでしょう。

やりませんが。

菊代との過ちの時は確り消させて頂いたので。

そして、今月買ったばかりの新品の薄型テレビも斜めカットされ一種のオブジェとなりこの惨劇漂う部屋に違和感と言うものを一切与えません。

本来のテレビとしての機能は失ってしまいましたが。

因みに、PCとラックの方は、この俺、遠山金次が、巧みに物置に避難している菊代から渡された盾を使い必死に守らさせてもらいました。

中には色々な菊代と白雪のお宝写真が入っているんだ。

絶対に壊させてたまるか。

ついでに、色々なデータやら資料やら入っているし。

そして、今まで俺たちがこの寮を使ってからずっと使っていた思い出に溢れ、ついでにこないだの過ちにも使った色々な意味で思い出の詰まったソファは、最早中身が出ているとかそんな生やさしいものではなく最早切り刻まれ過ぎて、原型が無くなり、ただの布になってしまった。

 

まるで、組同士の抗争に使われたかの様です。

 

正に、悲劇的なビフォーアフター

本当になんと言う事をしてくれたのでしょう。

此じゃ住めません。

本当にありがとうございます。

 

 

―――さて、

 

「二人とも、大丈夫か?」

 

アクション映画の用な音が止んだので、ガタンと傷だらけになった鋼鉄製の盾を近くに置いて、キュポンと耳栓を外し戦闘中のどさくさに紛れて、キッチンで汲んできた水の入ったコップを激戦を終えた二人の匠に渡す。

髪はボサボサ、体は汗やホコリ、部屋だった物の破片にまみれ服は乱れに乱れ白雪にかんしちゃ黒ブラが見えてしまっている。

取り合えず、ヒスらない程度に目に焼き付けて置こう。

 

まぁ、良かった巻き込まれなくて。

と、言うのも実は先程、白雪とアリアから

 

『キンちゃん!この女後ろから刺して!そうすれば全部見なかった事にするよ!』

 

『ネクラ!あたしに援護しなさい!あんたあたしの主人でしょ!』

 

こう言った会話を読んだからだ。

読んだと言うのは、二人の唇の動き――読唇術(どくしんじゅつ)によって。

此で万が一白雪が本気で俺を『金次』とでも呼べば、俺は、いや、俺の体は、アリアを刺していただろう。

その瞬間に俺の体の主導権は白雪へと移るのだから。

原理は知らないが、其によって俺は、一度この学校に入った4月から5月の一ヶ月もの間部屋から出して貰えなかったのだから。

まぁ、其処に文句が有るかと言われたら無いと即答するが。

あん時は危なかった。学校に来ないのを変に思った菊代が、此方まで来てくれなければ、白雪への罪悪感と共に部屋から抜け出していただろう。

………2年になっても最初の始業式以来学校に顔を出してはいないがな。

一年の頃も殆どをイギリスで過ごしてたからそんなに行ってないしな。

 

……監禁されても大して問題なかったな。

成績的には大問題だが。

 

話を戻そう。

アリアを刺す。

流石に今そんな事をするのは後々困るので、音を遮断してくれる耳栓を入れて更に上から耳をふさぎラッキーな事に刃物同士のぶつかる音と銃撃の音で何とか回避出来たのだ。

まぁ、白雪も本気の本気で刺せと言ったわけでは無いだろう。

『キンちゃん』と呼んだのが何よりの証拠だ。

 

 

「はぁ……はぁ………キンちゃんを返せ!しぶと、いど、どろ、ぼう……ネコ…」

 

水を飲み多少は落ち着いた、白雪が床に刺した日本刀を杖にしてなんとか立ち上がり、はぁはぁ、と息をするたんびに、はだけた胸元の大きなお山がプルンと揺れる。

更に、汗がその胸の間に入り込み、なんとも言えない色気を醸し出している。

 

「あ、あんたこそ………とっとと、くたばり、なさいよ……はふぅ……」

 

んで、床に尻を付き表膝を立て、体が後ろに倒れるのを腕で支えて其でも戦意は消さない、どう言う訳か白雪に命を狙われている、アリアである。

 

「んで、落ち着いたか?」

 

あれから、ピッタリ三時間。

もう流石に二人とも動けないだろうと思い間に入る。

 

「キンちゃん様!」

 

俺が声を掛けた瞬間、首を此方にグリンと回しそのまま体もグリンと回し此方に向き直り刀をガシャンと脇に置きよろよろと此方に正座し直した。

 

そしてその黒曜石みたいに美しい瞳をうっすら浮かべた涙でうるるるっと潤ませ両手で顔をおおう。

後ろのバルコニーからの『あー泣かした』と言いたげな三人の視線はスルーする。

正直に言うと可愛いんだ。

もっと見ていたくなる。

 

――そう言う衝動を押さえて

 

「な、なにゃんだ!」

 

出来るだけ、いつも通りに振る舞おうとしたら、思いっきり噛んだ。

カッコ悪い。

物凄くカッコ悪い。

だが、後ろの三人には、大ウケの様で微かに笑いを堪えた声が聞こえて来る。

風魔……お前も笑うか。

明日から、お昼代100円引いてやる。

白雪はその噛んだ所は聞こえて無かったようで

 

「し、死んでお詫びします!き、キンちゃん様が、私を捨てるなら、アリアを殺して、わ、私も今ここで切腹して、お詫びします!」

 

持っていた日本刀を自分の腹に向かって振りかざし始めた。

 

「いやいや、待て待て落ち着け!」

 

「ちょ!ちょっとユキちゃん!其れはダメ!少し落ち着きなさいよ!」

 

「白雪殿!落ち着いて下され!」

 

「流石に此は傍観出来ないぞ!」

 

「ちょっと何なのよ!この人!」

 

「はーーーなーーーしーーてーー其処のドロボウネコ殺して私も死ぬのーーーー!」

 

流石に見ていられないと、避難組の三人も白雪の刀を取り上げようと、飛び掛かり体も押さえる。

さて、こう言う時の対処法は一つである。

 

「白雪」

 

あやすように、ギュと白雪のあちこち柔らかな体を抱きしめる。

 

「……キン……ちゃん」

 

大勢の前で恥ずかしいが、此が最も効果のある方法だ。

監禁された時に学んだ。

 

白雪の耳元で囁く。

 

「死ぬなんて、そんな悲しい事を言うな。お前が死ねば、俺もそうするだろう。だが、白雪………俺はどんな事が合ってもお前の側から離れやしない」

 

寧ろ、捨てられるなんて怯えているのは、俺の方だ。

どうしようも無い、遠山を抜けた俺を今だに〔遠山〕の名を持つ俺をずっと支えてくれていたのだ。

 

「でも……でも~」

 

えぐっえぐっ、ぐすんぐすんクンクンクンクンクンクンクンスーハースーハースーハーと、俺の胸にグリグリと顔を埋めて感情高まって泣いているらしいが………此本当に泣いてる?

 

「はいはい。そろそろ離れましょうね」

 

そう疑問に持ち始めた辺りで菊代が、後ろからガシッ!と、白雪の両脇の下から腕を入れて

そのままずるずると引き離す。

其でも、白雪は、此方に向かって

 

「でも、キンちゃん!ハムスターもカゴの中に雄と雌を入れておくと、自然と増えちゃうんだよぉー!」

 

「俺は鼠と同列か」

 

「あー確かに其れは」

 

「普段の師匠を見れば」

 

「否定出来ないわねぇ~」

 

周りで三人が納得と頷く。

何で?

だいたいそんなに俺はお盛んじゃ無い。

思い当たる節は無い。

俺は童貞だ……多分。

そう言う大人の階段は登ってない………筈だ。

イギリスにいるとき、どうも記憶の抜け落ちた所もある。

目が覚めたら裸で、ベットに鎖で繋がれてましたとか。

白雪に監禁されてた時とか、記憶が曖昧だがヒスって色々な言うことを聞いていた気がする。

 

「あ、あ、アリアはキンちゃんの事遊びのつもりだよ!絶対そうだよ!其以外に考えられないよ!」

 

襟首を掴みガックンガックンと、激しく揺らす。

く、首が、息が!頭が揺れる。脳みそがシェイクされる。脳みそジュースになる。

なんか凄いデジャブ。

 

「私が悪いの!私に、私に勇気が無かったからキンちゃんは家族以外を外にって言うか内に女を」

 

『其を言うと何であんた(エル)はさっきから狙われないのかしら?』

 

『何を言っているんだ?ボクは何処からどう見ても男だろ?』

 

『あ~そうね。そう言う事にしておくわ』

 

菊代とエルが、白雪の後ろで小声で何やら話している。

白雪すらも騙すとは……エル取り合えずお前は、女優を目指せ。

 

「其以上勇敢になられても困るわよ」

 

何で其処でお前は火に油を注ぐような真似をする!

横から憎まれ口を叩いたアリアめがけて

 

「キンちゃんと恋仲になったからっていい気になるなこの毒婦!」

 

「なった覚えはない」

 

ジャラリと袖に仕込んだ鎌の下部から鎖が伸びてるタイプの鎖鎌をアリアの漆黒のガバメントと左手に巻き付ける。

 

「こ、ここここここ、こいこ、こ、恋仲!?」

 

その鎌で斬られまいと、綱引き状態になっていたが、その手(恋愛)の話が大の苦手なアリアは一秒とせずにブワアアアアア!と茹でタコの様に真っ赤になってアニメ声で絶叫する。

 

「バ、バグ、バカ言うんじゃ無いわよ!」

 

そうだ!そうだ!こんな奴と恋人なんてジョ~~~ダンじゃなーーーいわよーーーう!!

少しだけ、変な方向に現実逃避をしたが、思い当たるデマの出所は知らないが、取り合えず怪しい奴(武藤)辺りをシメておこう。

そうしよう其が良い。

 

「恋愛なんか、あ、あんなの時間の無駄、したことも無いしするつもりも無い!あ、憧れた事だって無いんだから!憧れた事も無い!憧れもしない!」

 

ほんとかな~?大事な事なので2回所か3回言いましたと、そう思うぐらい念を押して来る。

そんなアリアに白雪は鎌を持ったまま詰めより。

 

「じゃあ、キンちゃんはアリアの何なの!恋人じゃないなら説明して!」

 

「だから、そう言う関係じゃないィーー!」

 

「じゃあなんなの!」

 

ギリギリと、白雪が詰めよりアリアが後ろへ下がる。

鎖を引きちぎらん秤に続くこの綱引きの中――――どう、アリアの事を説明しようか?

()()としての()()に話すか。

白雪()()に話すか。

 

事の次第によっては、アリアは最悪の場合殺されるだろう。

其くらい、白雪へのアリアの説明は難しいのだ。

上手く言ったとしても、星伽からアリアは監視される。

其れは不味い。

さて、どちらの(ルート)も選ばずにすむにはどうすれば良いのだろうか?

 

「あ、あのな白雪そいつは――」

 

此方に白雪の注意を向けさせて、その間に説明するための時間を稼ごうとしたところ

 

「あ、あたしはネクラの奴隷!契約した奴隷に過ぎないわ!」

 

アリアは、とんでも無いことを言い出した。

何故そんなストレートに言った?

しかもたちの悪い事にアリアは、力いっぱい腕組をして仁王立ちし、「どうよ!?」と言わんばかりの顔をしている。

俗に言うドヤ顔である。

何をお前は誇っているんだ?

 

「どっ、どっ、ドレイ……!?」

 

其を聞いた白雪は、顔面蒼白になってあんぐりと口を開けた。

『理解出来ない』と。

まぁ、其が普通の反応だよな。

俺だって何も知らずにそんな事を言われたらそうなるわ。

 

「白雪……その奴隷ってのは、決してそう言ったプレイではなくてだな」

 

そんなせめてものフォローは、白雪の耳には一部しか入らなかったらしく

 

「プ……プレプレプレ…プレイ!?……はふぅ」

 

不幸にも、最も誤解される単語だけを拾って口を震わせてから

 

 

バタァン!と真後ろに倒れて仕舞いそうになり

 

「おっと!」

 

エルに抱き抱えられた。

 

「この子シラユキって言うんだよね?向こうで散々聞かされた。………安心してくれ気を失っているだけだ」

 

エルのその診断に胸を撫で降ろして良いのか悪いのか。

 

「んで、遠山……どうすんのよ?この状況?」

 

菊代が、気を失った白雪と何処か勝ち誇った顔をしたアリアを交互に見て最後にこの部屋の惨劇の有り様を見ながら聞いて来る。

 

「あー」

 

えーと、んーと、本当にどうしよう?

取り合えず、白雪が起きたら、ある程度省いて事実を説明するしか無さそうだ。

先ずは、俺とアリアに対する誤解を解かないとだがな。




今回は、何時もよりはほのぼのしてたんじゃないでしょうか?
私は、どちらかと言うとのんびりほのぼのとした方が好きなタイプです。
本当ですよ?なんとなくやったサイコパス診断アプリで83%なんて数字醸し出してなんかいないよ?
因みに、友人AとBは、24%と62%でした。
ね?前にも言ったと思いますが、私は正常です。
アプリがバグっただけなんですよ。


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35 無気力病み夫

緋弾のアリアAA遂にアニメになりましたね。
どの子も皆本当に可愛い!
と、言いつつ自分は、何気にライカちゃんと佐々木ちゃんが好みだったりと。
けど、あかりちゃんの真っ直ぐでちっこくてアリアLOVEなキマシタワーも……あ、やっぱり全員でしたわ。


―――金次です。

あれから、数日経ちました。

白雪は、一度起きたのだが、俺とアリアを交互に見たとたんにブツブツと何かを呟きながら、何処かに去って行った。

………引き留めようとはしたんだ。

だが、部屋を出た瞬間幽霊みたいに消えたとです。

星伽の巫女は皆出来る芸当なんだろうか。

 

――金次です。

生きる意味を半分失いかけてます。

あの日から白雪が俺の事をあからさまに避けるとです。

一度部屋を直しに来てくれた時も、目もろくに合わせてくれないとです。

今まで、あれだけ側にいてくれたのに俺はどんな形であれ白雪を裏切った事になるとです。

俺の部屋のその一室白雪の部屋となっている場所にはまだ何処かのSS(シークレットサービス)の狐の部屋のように、壁一面に小さい頃の俺から現在の俺の写真(いつ撮られたのかは知らん)がびっしりと綺麗にその年その年と分けて並んでるとです(中学時代の写真は訳あって無いけど)。

完璧に嫌われた訳じゃないと信じたいです。

 

―――金次です。

腹いせに、元凶(武藤)の部屋にびっしりと隙間なくアリアが初めて俺の部屋に来たときにバックから回収しておいた対人地雷と、元凶(武藤)の寝てるベットにワイヤーを張って来たとです。

少しだけ気持ちが落ち着きました。

 

――金次です。

生まれ変わったら、アンゴラウサギか、何処かのくノ一の頭に乗ってる狸(どうせならたぬぬと言う名前をつけられたい)になって頭の上に乗りたいです。

 

動物になったら、きっとそう言う誤解もされずにすむし、普通な生活を遅れるんじゃないかと僅かに思ったりしてるんです。

動物になって白雪に撫でられたい。

 

――金次です。

 

――金次です。

 

――金次です。

 

 

「って、いつまでうなだれてんだい!!」

 

ズーンと、燃え尽きたボクサーみたいに椅子に座って真っ白になっていると、いい加減にしなさいと、菊代に一喝された。

でも……あのバカ(アリア)が、変な事を言ったせいで白雪が……うぅ。

 

「シラユキの事なら心配要らないさ。シラユキがどれ程君の事を想っているかなんて、トウヤマが一番良く知っている事だろう?」

 

「エル……」

 

ポンと、俺の肩に手を置き励ましてくる。

その事に少し安心と嬉しさを感じ

 

「たまには良いこと言うんだな」

 

「失礼だな君は!」

 

お礼を言ったら怒られた。

割りと素直な感想なんだが。

 

「折角君の元気が出る話を持って来たと言うのに!」

 

前言撤回だ。

 

「まぁ、今回は素直に聞く価値があると思うわよ」

 

菊代が、エルの隣から真剣な表情で言う。

でも、今は何時もの儲け話はちょっとパス………

 

「シラユキに関する事なんだが」

 

「是非とも話を聞こう」

 

「本当に分かりやすいわね」

 

白雪に関わる事なら、しょげてる暇は無い。

白雪への名誉挽回だ。

椅子から立ち上がり、エルと向かい合う。

 

「んで、その白雪の話って?」

 

「んー?先ず遠山は、アドシアードって知ってる?」

 

菊代からの聞いたことも無い単語に首を振る。

まぁそうよねと菊代は、一人納得したらしく

 

「まぁ、一年の頃に合ったのよ。あんたは、白雪一緒にイチャイチャしたんだろうけど」

 

菊代が、何処か刺のある言い方をしてくる。

さ、流石にイチャイチャとかは、無いぞ。

本当に。

割りと引きこもった生活はしてたけど。

単位稼ぎに任務はある程度してたし。

訳有り任務も含めて。

その監禁されてた間も白雪が手回したんだが、星伽が関わったんだか、長期の特別任務で学校にいなかったか事にされてたし。

そう言う情報は、入って来なかったんだよ。

 

そんな事は、知ったこっちゃないと、菊代は説明をしだす。

 

「アドシーアードって言うのはね、どの武偵高でも年に一回は、やる国際競技なのよ。例えるなら、インターハイとかオリンピックみたいなものよ―――まぁ、大体の種目は、強襲科(アサルト)とか、狙撃科(スナイプ)なんだけどね」

 

なるほど、普通の高校で言う体育祭みたいなものなのだろう。

全く興味も無いが。

面倒くさそう、仮病使って部屋で寝ているに限る日だ。

 

「確かキクヨはチアをやっていたんだったよね?」

 

「バカ、恥ずかしいからやめてよ」

 

「なん……だと」

 

バカな。

そんな貴重なイベントを俺は、見逃したと言うのか?

菊代のチアガール姿なんて、絶対に拝めない用なプレミア物じゃないか。

学校の予定位調べておくんだった。

内心激しく落ち込んでいると

 

「其で、シラユキの事なんだけど」

 

エルが、真剣な顔でそう言った。

そうだ。

問題は白雪の事だ。

白雪の身に何か合ったのだろうか。

この武偵高なら外からの事なら()()は安全だと思っていたのだが……所詮は気休め程度だったと言うことか。

 

「何でもここ最近奇妙な噂が流れているのを、偶然聞いたんだ」

 

「奇妙な噂?」

 

ピクリと僅かに眉が動く。

白雪に関する奇妙な噂が流れていると?

其は無視出来ない。

今すぐ流した奴を見つけ出して、血祭りに上げなければ。

 

「落ち着きなさい顔に出てるわよ」

 

横から、菊代が少し呆れた表情で俺とエルを見てから。

 

「今日アリアとエルと一緒に学校で、教務科(マスターズ)呼び出しの提示版を見たのよ」

 

珍しい事だな。

偏差値75の優等生で、生徒会長で、園芸部長で、手芸部長で、女子バレー部長で、容姿端麗、頭脳明晰、生活態度も完璧で人望もある正に大和撫子だと言うのに。

 

………その気になれば、ある程度はこの学校で好き勝手出来そうだ。

 

「そしたら、アリアが『あの凶暴女の弱味を握るチャンス』だと一人で教務科に突っ込んで行ったんだよ」

 

「何やってんだあいつは」

 

菊代に続いたエルの言葉に思わず頭を押さえる。

そして、白雪の何処が凶暴だと言うのか?

証拠を持ってこい。証拠を。

寧ろ凶暴女はお前だ。

 

「其でアタシ達も、何か有ってからじゃ遅いし、何よりあの二人だけだと」

 

「絶対に揉め事を起こすからね」

 

「そうなのよねぇ~」

 

「揉め事を………ね」

 

なるほど、その辺りなら風魔に聞いたぞ。

流石にしょげてても其くらいなら聞けた。

 

渡り廊下で白雪がアリアに水をぶっかけたり、何処からか吹き矢が飛んできたり落とし穴に落とされたりと『泥棒猫!』と猫のイラスト付きで送られたりと、武偵高じゃ可愛らしいに入るくらいの小さなイタズラだ。

其くらいで動く気にもならなかったからな。

 

ま、お互い様としか言えん。

 

「其でまさか、教務科(マスターズ)まで付いていったのか?」

 

「ええ、そうよ」

 

「んなっ!?」

 

あっけらかんと言う菊代に、驚きを隠せなかった。

教務科(マスターズ)と言えば、武偵高の強襲科(アサルト)地下倉庫(ジャンクション)に並ぶ『3大危険地域』の一つ。

この武偵高の教務科の教師は危険人物ばかり。

前職が、各国の特殊部隊、傭兵、マフィア、殺し屋等、下手に関われば此方がしている事がバレる可能性が有るような奴等ばかりな出来るだけ関わりたくない相手ばかりだ。

そんな所にアリアは兎も角、エルと菊代は行ったと言うのだ。

 

「まぁ、其で、ボク達は、通気口から様子を見てたんだけどね」

 

チラリとエルが、菊代を見ると、菊代もその先を良いずらそうに、目をそらす。

まさか

 

「まさか、呼び出しをした教員が、尋問科(ダキュラ)の綴とかじゃないだろうな」

 

「「………」」

 

露骨に二人して目をそらした。

いや、エルは、菊代に合わせて目をそらしたと言う方が正しいだろう。

エルはここの生徒では無いのだから、綴なんて単語が出ても今一ピンと来ない筈だ。

綴は、尋問と言う、技術に置いて日本でも五本の指に入るプロ。

何をされているのか分からないが、綴に尋問されると、どんなに口の堅い奴も何でも白状しちまう。

その後、頭が可笑しくなって綴を女王とか女神とか呼ぶようになると言う。

様々な意味で関わったら終わりな奴だ。

そんなのに

 

「目を付けられたのか?」

 

「あ、アタシ達は会ってはいないわ!」

 

「そ、そうそう!ボク達は、覗き聞きをしていただけで……」

 

ブンブンと激しく首を振り否定をしているが

 

「アタシ達?ボク達?」

 

「「あ」」

 

しまった!と二人揃って口を抑える。

その仕草に嫌な予感が次々と浮かぶ。

 

「えーと、止める暇が無かったのよ。本当に一瞬過ぎて」

 

「アリア………か」

 

俺が呟いた名前に、少し間を置いてからコクリとゆっくり頷く。

やがて、エルが口を開き

 

「一人で、その、ツヅリ?とか言う教員の前に出ていって………其処から先は」

 

「長年の勘よ。絶対に危険な目に合うと思って、エルを連れて直ぐに撤収したの。まだ、教務科(マスターズ)に悪い方で目を付けられたくないもの」

 

なるほど、だとすると今日中に、アリアも此方に来るな。

しかも、トラブル付きで。

と言うより、白雪とアリアを一緒にしてしまって、大丈夫なのだろうか?

こないだ、あんな事になったばかりだし。

取り合えず、そのトラブルになりそうな奴は、二人とも知ってそうだし、聞いてみるか。

 

「………んで、その呼び出しが、どう噂に関係してくるんだ?」

 

そう言った、瞬間菊代は、目を細めて、シリアスな声で

 

魔剣(デュランダル)聞いたことくらいはあるんじゃないの?」

 

「デュランダル………」

 

聞いた事あるぞ、そいつは、少し前に風魔から聞いた事だ。

何でも、超能力を用いる武偵、通称、『超偵』を狙う誘拐魔だ。

武偵高には、超能力捜査研究科(SSR)と言う物があり白雪も其処に属している(因みに、別の呼び方で『異能』とも呼ばれ、それらを専門的に育成する高校も確かにある。どう言う理由かは知らないが、女子高として。男の異能者は、いないのだろうか?それとも、其は其で男子高が有るのだろうか?)………まぁ、超能力者は家の組にもいるからな。

そろそろ新しい顔………じゃなくて体を見つけた頃だろうか?あのヤドカリ魔女は。

――んで、その魔剣(デュランダル)と言うのは、ここ最近、諜報科(レザド)の生徒を中心に噂される存在だか、その姿を見たものが一人として居ない。

誘拐されたとされる超偵も、実は別件で失踪したのでは?と言う見方が強いと言う。

今では、殆ど、都市伝説扱いの犯罪者なのだ。

 

―――なのだが

 

教務科(マスターズ)までもが、この件に首を突っ込んでるんなら、デマじゃないって事だな」

 

「そう言う事よ」

 

だとすると少し気になることができた。

よりによってこのタイミング。

武偵高には、目的は違えどイ・ウーメンバーが二人も来たのだ。

今回のだってその可能性の方が高いだろう。

だとすれば―――此は、またとない()()()()()だ。

 

「なぁ、エル。イ・ウーにそう言う呼ばれ方をされている用な誘拐魔はいないのか?」

 

「いや、残念だが、イ・ウー内でそう言う風に呼ばれているようなメンバーはいない」

 

エルは、申し訳なさそうに首を左右に振る。

なるほど、だとしたら

 

「地獄を見せても良いと思うわよ?」

 

「……菊代」

 

ニッと口の橋をつり上げて不適に笑う。

なるほど、イ・ウーの可能性も捨てきれないが、白雪にちょっかいを掛けようと言うんだ。

痛い目に合っても文句は言わせない。

だけど、菊代は、其だけじゃ無さそうだ。

 

「菊代も何か狙いが有るって事か」

 

「そう。寧ろアタシとしては、此方の方が興味深い」

 

――菊代が、話したのは以下の通りだった。

何でも、この魔剣(デュランダル)菊代が、興味本意で調べた所何でも、その魔剣(デュランダル)名前の通り物凄い剣を使うとの噂でこの噂は、どちらかと言うとその手のコレクターに広まった物だった。

都市伝説と言うのは、次から次へと、付け足されるものである。

何故、そんな噂が広まったのだろうかと言うものまで、次々と枝を伸ばして別れていく。

その一つに、菊代は、興味を引かれたのだ。

菊代の大好きな『お宝』と『芸術品』だ。

何でも、魔剣とその名前の通りかなりの名刀を持っていると言う。

嘘か本当か、斬れない物は無いと言うほどの剣で、見るもの全てを凌駕するほどの美しい剣なんだとか。

目撃者がいるのかとか。

そこまで突っ込んでしまう程の信憑性の低さだが、菊代曰く

 

『別に、剣じゃなくても、其が魔剣(デュランダル)のだって事が周りに分かれば其はもう立派なお宝よ。何より、有名な魔剣(デュランダル)を倒したと()で広まれば組の知名度も大きく上がるわ!』

 

との事だった。

確かに、組としてなら一理ある言い分だ。

噂通りで捕まえることが出来ればの話だが。

まず、その為には、プライベートして動き、誰にも魔剣(デュランダル)の存在を知られないことが前提となる。

他の武偵にも、警察にも、アリアにもその存在が知られてはならない。

今の話を纏めれば、今最な最善の手は、これしか無いだろう。

 

「頼みがある」

 

「なんだい?」

 

エルが、不思議そうな顔で此方を見ながら言う。

俺は、一度深く息を吸ってから。

 

「今回の一件は、完璧な『デマ()』として終わらせたい」

 

そう決断した。

 

今回の一件は、白雪に不安を与える事になるだろう。

だからこそ、ただの噂として少しでも白雪を安心させたい。

魔剣(デュランダル)なんていなかった――と。

根も葉もない下らない噂だったと。

其が今の最善の手となるだろう。

 

「まぁ、星伽の連中に目をつけられたくも無いしね………只でさえウルスがこの学校にいるって言うのに其処に追加で問題が起こるのも面倒よね」

 

その決断に菊代は、子供の我儘を聞く母親のようにしぶしぶと合意の意を表した。

まぁ、確かに少し派手に動かなければ、俺達の仕業だとは気付かれにくいかも知れないが、其処は少し我慢して欲しい。

 

「君としては、お宝が手に入れば問題ないだろう?」

 

「其だけじゃ無いさ」

 

手をひらひらと左右に振り否定する。

そして、俺とエルを真っ直ぐに見詰めてから

 

「弟の意中の相手で、ユキちゃんはアタシの(ダチ)――此れだけで助ける理由は十分でしょ」

 

ニヤリと、頼りになるリーダーを思わせる良い笑顔でそう言った。

 

……一生付いて行きます!

 

「其でそのお宝なんだけどね――――」

 

其処以外で付いて行きます。

 

 

 

―――其から数分たち。

 

 

「なぁ、所で一つ気になってた事があるんだが」

 

菊代が、熱弁を続ける横で俺は、白雪とアリアが此方に到着するまでの時間潰しとしてエルに疑問を投げ掛けてみた。

 

「ん?なんだい?」

 

「何で、お前この学校の制服着てるんだ?」

 

そうエルは、今日ずっと、武偵高校の女子制服に身を包んでいたのだ。

自然にそれこそ当たり前と言わんばかりに。

エルは、菊代やアリア達と一緒に学校へ行ったと言うのだ。

それもまるで正面から堂々と入ったような言い方で。

 

「手作りだ。凄いだろう?」

 

「いや、そう言う事じゃなくてだな」

 

フフンと、胸に手を当てて自慢げに言う。

え、なにそれ無駄に凄い。

エルは、イタズラの成功した悪ガキのようにニンマリと笑って

 

「あ、此れとは別に本物が正式に明日届くんだ」

 

「は?」

 

「暫くの間は、東京武偵高校(この辺り)を活動拠点にするから」

 

にっこりとこれまた良い笑顔で、エルはそう言った。

 

 

……………ハイ!?




この間感想の方で、実は金次って〇〇だったんじゃ無いかと仮説を立ててくれた人がいました。
本当に嬉しいです。
ありがとうございます。
一応ヒントは、もう其処らにいっぱい有るのですが、ピンと来てる方はもう来てるのでは無いでしょうか?
え~答えは、一応、3つです。
全てストーリーに関係しています。

其と、このお話は、確かに合ったかも知れない可能性のお話です。
もしも、金次君が本気で平凡を望んだらどうなるのか?と、そしてどうしてこうなった。
まぁ、別に何処かの殺人鬼みたいに、爪で色々占ったりとか、女性の手首を集めたりとか、触った物が爆弾に変わるなんて事は、有りませんので安心してください。

原作12巻の菊代さんの台詞『義兄妹の杯を交わそう』この台詞がこの作品を作る切っ掛けとなってます。
後、白雪ルートに行かせたかった。
その結果、何故かこうなりました。
反省はしております。
後悔は…………し、してません!(震え声)

今後とも、お付き合いお願いします。

……打ち切りでもなければ最終回でも無い。
だけどこのようなお話を致しました。
其では、また次回。


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36 姉からしてみれば。

今回は、菊代視点だけです。
其でも良しと言う方はどうぞ。


今正に、遠山の部屋は、要塞と化しようとしていた。

と言うのも、アタシが今回のユキちゃんを狙う魔剣(デュランダル)についての話をしていた時まで遡る。

突然、数日前に新しくなった扉がその役目を終えたのだ。

文字通り、ある二人によって破壊されたのだ。

 

『や、やっぱりキンちゃん様を狙ってるんだね!この泥棒ネコ!』

 

『だから、違うって言ってるでしょ!しつこいのよ化け乳!』

 

こんな感じで争いながら入って来たのだ。

そんなのに遠山は、戸惑いよりもユキちゃんが来てくれたのが嬉しかったようで、直ぐにユキちゃんはにスライディング土下座して許しを得ようとしていたけど、そう言うのでは無かったようで、寧ろユキちゃんが戸惑っていた。

では、何故目を合わせていなかったのかと言えば、単純に悩みが合ったからだった。

遠山のことである。

いえ、正確には、アリアと遠山の事と言った方が良いわね。

 

あの、アリアの奴隷宣言を聞いたユキちゃんは度々アタシに、キンちゃんは小さい子が好きなのか?とか、胸が小さい方が喜ばれるのかとか、ああいう趣味があるのかとか、危うく弟が、ロリコン認定される所だった。

何とか、誤解は解いたのだが、一難去ってまた一難。

今度は今日の事だ。

魔剣(デュランダル)を捕まえたい&ユキちゃんの弱点を握りたいアリアが、無理矢理ユキちゃんの護衛を買って出たのだ。

 

―――が、ユキちゃんは、アリアに護衛されるのは、嫌だと言いだし、アリアはネクラも一緒だネクラの部屋にと言った。

そしたら、ユキちゃんは、キンちゃん様を巻き込みたくないと言い、アリアが、我儘言うなと言いただの悪口の言い合いになり、そのまま、先程のような事になったらしい。

そして、この部屋に来て何とか遠山がユキちゃんを宥め、現在の要塞作りの話へと至った訳だ。

 

「ちょっと!ネクラ!もっと確り支えなさいよ!」

 

「何言ってるんだ。ちゃんと支えてるだろ?」

 

「何処がよ!」

 

アリアが、脚立に乗り天井に赤外線探知機やカメラ何かを設置している下で、白雪とお互いに誤解が解けて、何時もの調子を取り戻した遠山がソファに寝そべり、部屋の間取り図を見ながら、ソファから足をだしてその足で脚立を挟んで(本人からしたら)支えてる。

そもそもこの部屋は、要塞にする必要があまりない。

と言うのも、ユキちゃんのお陰だ。

ユキちゃんは誰よりもこの部屋の間取りを熟知している。

それこそ部屋の電源のタップまで。

今遠山が見ている間取り図だってユキちゃんが制作したもの。

此処までしているのに、付き合ってないと言うのが、驚きを通り越して呆れてしまう。

セキュリティは、何百とある暗闇でも大丈夫な赤外線カメラとマイクその他の物で充分なのよね。

 

「キンちゃん御免ね。こんなことに巻き込んじゃって」

 

キッチンから戻って来たユキちゃんは、ペコリと90度くらいの深いお辞儀をした。

その反動で胸に付いた二つのボールが、プルンと揺れる。

本当に、羨ましいくらいのデカさ。

アリアが化け乳と言うのも改めて納得ね。

分けて欲しいくらい。

 

「いや、何を言っているんだ白雪。寧ろ此は光栄な事だ。何か合ったらドンドン頼ってくれ」

 

目にも見えない素早さで、ソファから起き上がって脚立を手で押さえていかにもやっていますと、アピールする。

まるで、主人が帰ってきてハシャグ犬みたい。

其も大型犬。そう思うと、遠山の頭とお尻に耳と激しく振る尻尾が見えるような気がする。

匂いに人一倍敏感な所もあるし、案外犬の生まれ変わりだと言われても納得出来そうね。

 

そう言えば、アタシが生まれる前ママが、シェパードと言う大型犬を飼っていたと言っていたのを思い出した。

きっとこんな感じだったんでしょうねぇ。

 

「どうしたんだい?ボーとしちゃってさ」

 

ガラリと、バルコニーから出てきたエルが武偵高の()()()()で話し掛けてきた。

 

「別に、ちょっと考えて事をしてただけ、大したことじゃないさ」

 

そう、少し目の前の三人の光景をいえ………正確には遠山とユキちゃんを少し見ていただけ。

 

「そっか。………所でボクの服に何か突っ込みみたいのはないのかい?」

 

何故男子服なのかと、突っ込みをいれて欲しいらしい。

生憎アタシは、漫才師でもないし、わざわざ分かっていることを分かっていないふりで話すなんてしない。

面倒だもの。

 

「何でわざわざ転装生(チェンジ)の真似事なんかしてるんだい?」

 

転装生(チェンジ)とは、男子が女子フリを、女子が男子のフリをして武偵高に通うこと。

特殊条件下の犯罪に備えて、教務科(マスターズ)から許可を貰って、学校に通う事。

そう言う生徒も少なからずいるもの、何だけど、何故今その格好なのかしら?

その疑問は直ぐに解けた。

 

「いや、君達に聞いた以上に勘の鋭い女性だったからね。ボクもこないだのアリアみたいな目に会いたくは無いのさ」

 

「なるほどね」

 

いや、寧ろ其で誤魔化せているエルは、中々の演技力と変装力があると改めて言えるわね。

ユキちゃんは、遠山に近付く女をまず許さない。

どんなに、変装していようとも、少しの動作等で分かってしまうのだ。

アタシや風魔みたいな特殊な例は別として。

流石遠山に演技指導をしただけの事はあるわね。

 

「此処じゃあれだし、キクヨも此方に来ないかい?………少し話したい事もある」

 

感心していたら、エルが妙に真剣な顔で外(と言ってもバルコニーだけど)に誘って来た。

そのまま、外に出ると、ピシャリと扉を閉めて、エルは遠山達に背を向ける形で、手すりに体を預ける。

アタシも、其に習い同じように背を向ける。

目の前では普段余り意識しない東京湾と、人口島が一望出来た。

でもこの時点で遠山達に聞かれたくない事だと分かった。

 

「今のトウヤマをどう思う?」

 

お互いに目を合わせず、目の前の景色を見ながらの会話だ。

まるで、すぐ近くにいるのに、電話で話している気分だ。

 

「そうね………前よりも、よく感情が顔に出るようになったわね」

 

エルの今と言う言葉の意味は直ぐに理解した。

アタシの弟は、鏡高組本家を失ったショックによって、記憶がその時に戻っている。

正確には、ついこないだの『ベルセ』の使用によって。

今と昔が混ざってしまったのだ。

其が悪いとは、言わない。

 

「何で今其を言うんだい?」

 

アタシは、何故このタイミングで、その話をするのかをエルに聞いた。

エルは数秒無言になりやがて

 

「アリアと関わってからのトウヤマはどうだい?」

 

「質問を質問で返さないでよ」

 

アタシの質問には、答えず、次の質問をしてきた。

今は答えられないってことね。

 

「普通に、話しているようで何処かアリアを怖がっているようにも見えるけど………時々、私達家族(ファミリー)に向ける目もするのよ」

 

家族(ファミリー)……か」

 

此は、悪魔でアタシから見た勝手な印象だ。

遠山は、前にアリアに会ったような気がすると言っていたし、アリアの事を思い出そうとすると酷い頭痛に襲われると………確かに、遠山はその様な素振りを見せていた。

だけど、一つ気になるのは、何故バスでアリアを庇ったのか?だ。

あの時点ならまだ、エルからの話も無く神崎かなえの存在だって遠山は知らなかった。

あの時点なら遠山は、爆弾をアリアに押し付けて殺そうとしただろう。

少なくとも、家族(ファミリー)を傷つけた相手を遠山は許さない。

 

イギリスで会ったことがあるとか?

いいえ。だったら私も会ってるしエルも会ってるだろう。

遠山は、興味ある人物の名前と顔は確りと覚えてるのだ。

興味がなければ直ぐに忘れる。

もし、遠山が隙を見て私達の所から離れてアリアに会ったと言うのなら覚えてる筈なのだ。

 

では、『ベルセ』になり忘れた?

私達の事を忘れた時みたいに?

 

尚更無いわね。

遠山は、そうなる前は、ずっと離れなかったもの。

『離れるな』と『金次』として、命令したから。

遠山はこの事には『解除』と言われなければ離れる事は出来ない。

 

此は絶対なのだ。

誰にも覆す事は出来ない。

本当の意味で此を使えるのは、ユキちゃんでも無いエルでも無い。

HSSのその根本を理解する事で使う事が出来る―――アタシだ。

 

(ま、此も今の所何でしょうけどね。旧鼠の説明も何処か胡散臭いし)

 

「其は、そうと、何でまた急に東京武偵高なんかに来ようと思ったんだい?本来なら帰るつもりだったんだろう?」

 

エルの質問には、アタシも答えない。

其は向こうも分かっていようだ。

聞いてみただけとお互いに、納得出来る。

エルは、初めて此方に視線を合わせて

 

「『ブラド』がこの武偵高に忍び混んでいると言う情報が確認された」

 

「この学校のセキリティはどうなってるのよ?」

 

夾竹桃に理子恐らくもう行動を開始しているであろう魔剣(デュランダル)にブラド。

此でイ・ウーのメンバーがこの学校には少なくとも4人も潜んでいることになる。

ほんと、気が重くなる。

だが、エルの言った言葉に思わず、笑みが溢れそうになる。

ブラド、其は遠山とエルが狙い初めて多くの注目を集めるだろう化け物。

お宝の匂いがプンプンするわね。

遠山と、知り合って初めて妖や超能力者(ステルス)なんかに出会って来た。

最初は目を疑うような光景にも今では、こうして当たり前の様に冷静に考える事が出来る。

此が、弟の言う普通じゃないって奴ね。

良いわねとってもゾクゾク(興奮)する。

初めてパパとママに連れられて遊園地に行ったときの様なそんな感覚が、また蘇る。

本当に金次って―――最高よね。

何時もこの感じを味会わせてくれるんだから。

 

「と言っても、ボクは無断だからね。バレ無いように最新の注意を払わなければいけない訳だ」

 

「あ、やっぱりそうなんだ」

 

まぁ、此も何時もの事よね。

その癖、向こうには適当な理由を言って動かしてしまう。

ワトソン家の方も段々昔の様に影響力は回復してきてるみたいで暫くは安心出来るわね。

もう驚かないわよ。

 

「今ごろ、あちこちでトウヤマの映像は更にブラドと君達に注目を集めるだろう」

 

「はたして周りがどう解釈するか……ね」

 

出来れば、良い意味で捉えて貰いたいものね。

ポケットから取り出した、電子煙官(キセル)を取り出して、口に加える。

たまには本物が吸いたくなるわね。

遠山の鼻がこう言うのに弱いから余り吸わない様にしてたのと医者のエルに止められたからだけど。

 

『こぉら!ネクラ!あんた護衛対象の下着で何してんのよ!』

 

『此は違う!大きな誤解だ!話し合おう!話せば分かる!』

 

『アリア自分が大きく無いからって負け惜しみはやめて!』

 

『何が負け惜しみよ!そんなんじゃない!此れから大きくなるのよ!』

 

突然の叫び声に振り向くと、弟が、タンスの中に入っていたらしいユキちゃんの黒ブラを握りしめながらアリアの銃撃を交わしていた。

大方、ユキちゃんの荷物の中に変な物が入れられていないかチェックするようにアリアに言われてしぶしぶ開けたらたまたま勝負下着が出てきたところを目撃されたとかそう言った所なんでしょうね。

何やってんだが。

 

「そろそろ戻ろうか」

 

「そうしましょうか」

 

あの二人からは、何処かパパとママの面影を感じる。

普段のやり取りが、本当にそうなのだ。

ユキちゃんの一途な所や遠山に見せる笑顔もママに似ているし。

遠山は、パパの影響を受けているからだろう。

癖も、話し方も考え方も土下座の仕方も段々似てきている。

其でも、アタシの可愛い弟と親友には変わりはない。

アタシは、少し笑って三人の所へと向かった。

 

まずは、あの三人を落ち着かせるとしましょう。

アタシにとって何時までも世話の掛かる弟なんだから。




最近やたらティシュを使う。

鼻の話ですよ?
かみすぎて鼻血が出てしまうなんて事も。


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37 不吉な占い

先週は投稿できず、すいませんでした。
また今回から暫く元に戻れますので、宜しくお願いします。


「そっか~、キンちゃんの従姉妹だったんだ。其なら早く言ってくれれば良かったのに」

 

「は、ははは……うん。そうだったな。すまん」

 

――夕食も終わったその時間の事である。

 

先程の白雪とアリアのピリピリと殺気満ちた雰囲気は解消されつつあった。

だが、ほんの少し前、白雪はアリアに丼に盛った飯に箸(しかも割ってない)を立たせたいわゆる死者に出す飯を運ぼうとしたのだ。

いくら嫌ってると言ってもそんなん出されたら、また部屋が世紀末になってしまう。

流石に其は勘弁なので、止めたら『アリアはキンちゃんにとっての何なの?』と絶対零度の声で言ってくるので返答次第では俺が殺られる。

其処で、少し前に家族以外を部屋にいれたことが無いのにと、白雪に言われたのを思いだし、ならば、アリアが、家族だと白雪に言えば、今回の件もある程度は解決するのではと言う我ながらバカな事を考えたのだ。

其処で、今まで、外国にいた俺の従姉妹だと言ってしまったのだ。

ようは、家族関係者であればいいのだ。

なんともマヌケな設定を自分でも作った物だ。

もし、白雪に怪しまれたら、エルに後付けを頼もう。

 

『ちょっと!』

 

グイっと突然隣に座っていたアリアが、白雪に背を向ける形で俺の耳を引っ張って顔を近づける。

痛い!離せ!

 

『何であたしがネクラの従姉妹って事になってるのよ!』

 

『そうするしか無かったんだよ!じゃなきゃまた部屋が悲惨な事になるじゃねぇか!』

 

白雪や周りに聴こえない様にヒソヒソと小声で顔を近づけて話す。

従姉妹ってのは俺だって嫌なんだよ。

だけど、もう説明しちゃったし、もうどうしようも無い。

 

『良いか。此は、()()だ契約の内容を忘れたとは言わせないぞ、猪女』

 

実際は、菊代に気に入られて対等とかになっちまったが、此処はそんなに事など言ってられん。

現にアリアはその事を知らん。

此処は使わせて貰うぞ。

 

『こう言う時に限って奴隷扱いなんて卑怯よ!悪趣味変態変人』

 

『だって俺諜報科(レザド)だしぃ~、そもそもボディーガードが守らなきゃイケナイ人とケンカなんてしてる方が可笑しいんだよ。脳筋ガール』

 

『言ってくれるじゃないネクラのヒッキーが』

 

『ウッ……言ってくれるじゃねぇか、チビ助そう言うお前だって学校で俺達以外に話す人いないんじゃないか?』

 

『あたしは友達とか、恋愛なんて要らないわ!興味も無いの!足を引っ張るだけだわ!』

 

『その割りにテレビでラブシーンあると顔真っ赤にするのな』

 

『うるさい!うるさい!うるさい!理子取り逃がしたクセに!』

 

『あれは見逃したんだよ』

 

どのみち彼処で理子が捕まってしまったら、知人に渡せる物も渡せなくなってしまう。

どんな結末でどんな事になろうとも、理子にはバスで手に入れた欠片(カラット)を届けてもらわないと。

ぐぬぬぬと、御互いに、顔がくっつくほど睨み合っていると

 

「二人して何をそんな楽しそうに話しているのかなぁ~」

 

「いえ、何でも無いです」

 

きっと、振り向いた俺が見た白雪の周りに黒い霧のような物が漂い髪が物理法則を無視してユラユラと生き物の様に動いているのは俺の目が疲れている正で出来上がった幻だろう。

そうだ。そうに違いない。

 

「其にしてもまさか、アリアが日本に来るなんて思っても無かったわ~。ね、エル?」

 

「え!?う、うんそうだね。ボクもビックリだよ………うん。本当に驚いたよ」

 

先程から、白雪の作った満開全席と言ってもいいほどの中華料理の数々(カニチャーハンにエビチリ、酢豚に餃子にミニラーメンにアワビのオイスターソース和えまで何気に俺の好物ばかり)を黙々と食べていた、二人が話を剃らそうとしてくれている。

因みに隣に風魔もいるのだが、此方は食べなきゃ死ぬとばかりに物凄い早さで口に運んでいた。

 

「其処のエル君は、キンちゃんがイギリスにいた時の依頼人(クライアント)さんかな?」

 

「うん。そうだね向こうじゃかなりお世話になったよ」

 

アリアからエルに対象を変えた白雪は、質問と言う名の尋問をエルにし『良く見ると、女の子みたいな顔だね~』と言う言葉に対して『母親の血が濃く通ってるみたいでね』とか、兎に角男として振る舞おうと言う事らしい。

さて、いったい何処までボロが出ずに騙せる事やら。

そう頭の隅で考えながら、風魔に全部取られる前に食事を再会するのだった。

風魔よ、せめてハムスターみたいに膨らんだ頬を萎ませてから新しいおかずを口に入れろ。

 

 

 

暫くして、エルと大体話終わりゲッソリとしたエルが「強敵だった……」とか言ってソファに倒れこんでしまったのをスルーして、ある一冊の本を読んでいたらリビングに白雪がトランプのようなカードを持ってきた。

 

「ねぇねぇ、キンちゃんこれ巫女占札(みこせんふだ)なんだけど、覚えてるかな?」

 

「これまた懐かしい物を……」

 

「何々占い?」

 

巫女占札とは、早い話が占いである。

正月何かのおみくじみたいなものだ。

だが、白雪の占いは星伽の占いでもある。

ようは、占いと言うより、予報―――お告げである。

兎に角当たる。

最近の天気予報並みに当たる。

アリアも其処は女の子と言うことなのか、興味を示して、勝手にHDDレコーダーに見ていた動物番組を録画して、近い距離だからか、そのままヨチヨチと赤ん坊の様に四つん這いで近寄って来た。

 

「良かったら、キンちゃんの事を占ってあげるよ。恋占いとか、金運占いとか、恋愛運を見るとか、健康運を占うとか、恋愛運とかあるんだけど」

 

何故、そんなに恋愛系の占いを進める。

 

………だが、待てよ折角の機械だ。

視える物があるなら視て貰おう。

俺がまだ、10にも満たないガキの頃に一回。

そして中学の頃に家に誰もいないところを狙って抜け出してコッソリ会いに行って占って貰ったのが二回目。

そのときの内容が『後数年もしない内にキンちゃんの家庭は崩壊する』と言うものだった。

見事に当たりました。

だけど、一つだけまだ当たっていないのがある。

中学の頃に言われた『キンちゃんは近い内にお兄さんに殺される』だった。

 

その翌日に当たり掛けたが、其でも家が半分崩れた位でまだ殺されたには至っていない。

もう、占いが外れたのか、其れともまた起きる事なのか。

其処は分からないままだ。

 

ならば聞くことは一つだ。

 

「じゃあ………数ヵ月先の俺を視てくれ」

 

「キンちゃん……」

 

一瞬目を大きく開き、驚いた顔をする白雪だったが直ぐに何時もの顔に戻り小さく「はい」と答え、カードを星形に伏せて並べ何枚か表に返し始めた。

 

「どうなのよ?」

 

特に何も考えていないアリアが横から訪ねて来たので、カードから白雪に視線を移すと、少し険しい表情でカードを見続けていた白雪が顔を起き上がらせニコッと笑ってから。

 

「えっと、近い内に黒髪の女の子とデートします。なんちゃって」

 

「お、其は楽しみだ」

 

―――嘘だな。

今白雪は、誰が見ても分かる位の作り笑いだった。

そして、何かに怯えているように小刻みにカードを捲る手も震えていた。

 

――俺に関する不吉な事が此れから数ヵ月の間に有ると言うことなのか。

聞いてみたい所だが、こう誤魔化して来ると言うことは余程不吉な事が視えたと言うことなのだろう。

其も命に関わる事が。

今月か来月か、再来月か。

どの道何か対策を取った方が良いだろう。

 

「はい、じゃあ次はあたしの番!」

 

ウズウズと目の前に餌を置かれた猫の様に机に乗りだしまだかまだかと、札を白雪の方に寄せつつ「早く占いなさいよ」と子供の様に急かす。

 

「生年月日とか教えなくて教えなくて良いの?あたし乙女座よ」

 

生憎そう言う占いでは無いぞ。

此はどちらかと言うと預言に近いからな。

 

「へー似合わないね」

 

「ブフッ!」

 

不意打ちで、白雪が感情を込めずに言った言葉に思わず吹き出してしまった。

確かに似合わない。

イメージで言うなら獅子座の方だ。

 

「何で笑うのよ!」

 

「ほらアリア静かにして」

 

「何であたしだけ」

 

白雪と俺にカチンと来た顔をするが、取り合えずドカッと乱暴に正座して待つ事にしたらしい。

白雪はと言うと、物凄く渋々っぽい顔で先程と同じ動作で札を並べ、ペラリと一枚開き

 

「総運、ろくでもないの一言につきます」

 

適当に言って占い札を片付け始めた。

誰が見ても占ってないのは明らかだ。

 

「ちょっと!ちゃんと占いなさいよ!あんた巫女でしょ!」

 

ブチッ!と遂に堪忍袋の緒が切れたアリアが立ち上がりフワリと一瞬スカートがめくれ上がったスカートからはパンツではなく、ガバメントがチラリと見えた(武藤曰くガンチラと言うらしい)嬉しくない。

そのままチャキチャキと張りの有る太股に取り付けたホルスターから二丁取り出して何時でも撃てる構えを取る。

 

「私の占いに文句言うなんて………!許さないよ、そう言うの」

 

チャキと、袖の中から僅かに出た短刀の刃が天井のライトの光で輝いている。

 

「――闘ろうっての?」

 

ギロリ、ギロロリと、二人が御互いの隙を狙って視殺戦を繰り広げ始めた。

不味い!また、部屋が世紀末状態に!

 

「アリアが戦いたいんなら、私は受けて立つよ。星伽に禁じられてるからこないだは、使わなかったけど、この間はまだ()()()を隠してたもん」

 

「あたしだって切り札……えっと、2枚隠してたもんね!」

 

ほんとかなぁ~。

そう思ってしまうくらい、アリアはテンパって指でブイサインを作り二つ持っている事を示す。

 

「私は3枚隠してました」

 

「ぐぬっ……じゃあ4枚!」

 

「5枚」

 

「いっぱい!」

 

「もういい加減にしな!占いの一つや二つ仲良くやりなっての!」

 

二人が争っているところに、台所から見かねた菊代の怒りの雷が落ち二人がびくりと肩を震わせる。

台所からリビングまで間にダイニングが有る為部屋一つ分空いていると言うのに届くのだから恐ろしい。

 

「ふーんだ!」

 

ばつが悪そうに、アリアがアッカンベーと舌を出してふてくされそのまま二段ベットへと向かってしまった。

子供か。

 

だが、ボディーガードの件はちゃんと覚えているらしくピーガガガ、ビー!ビー!ビー!と不審な電波を知らせる機械が鳴りまくっている。

すまんアリア。

その電波全て白雪のなんだ。

 

ドタドタと、寝室からリビングをアリアが無線機の様な機械を持って通過しその電波の発生源まで走って行き、恐らくその発信源までたどり着いたのであろうアリアが「観念しなさい魔剣(デュランダル)!」と意気揚々とした声を上げたと思ったら今度は、恐らくその部屋――白雪の部屋の状態を理解したのであろうアリアの「みぎゃああああああああああああ!!」と言う声が響き渡る。

何故其処にいると思ったし?

全く騒がしい奴だな。

あれを見たなら無理も無いが。

 

「悪口は言いたくないんだけど」

 

白雪は、札を手際良く片付けながら、ポツリポツリと独り言の様に語りながらもその言葉は俺へと向けられていた。

 

「アリアって可愛い子だけど、うるさいよね。其にキンちゃんの事を何一つ分かってない。なのにキンちゃんの事を変な呼び方して、失礼な態度ばっかり取って……男子は皆アリアの事可愛いって言ってるけど、私は……キライ……御免ね。キンちゃんの従姉妹に向かってこんな事言っちゃって」

 

「いや、気にするな」

 

実際従姉妹じゃないし。

 

だが、白雪から人の悪口と言っても良いのか分からん内容だったが其を聞くのは初めてだな。

白雪は、チラリと俺を上目遣いに見てくる。

アリアに着いて一言言えと。

 

「水と油……じゃなくて、酒と油だな」

 

「え?」

 

キョトンと、何を言っているのか分からないと、疑問の目で此方を見てくる。

まぁ、伝わり難いよな。

 

「黒くてドロドロ飲めやしない。だが、火を付ければ良く燃える。根本的な所では相性良しって事さ――白雪は、アリアの事を本当に嫌ってるのか?」

 

「え、えと其は」

 

頷きかけて顔を元に戻しまた、頷きかけて元に戻る其を繰り返す。

其処に俺はつけこむようにして

 

「白雪もアリアもお互いにハッキリものを言うからな、俺にはキョドるが、こんなに白雪が自分の感情をハッキリ表に出して言うのは、菊代と話すとき以外で見たこと無い」

 

此は、今の二人を見ていった感想に過ぎないのかもしれない。

だが、酒と油と言ったように、本人達は気づくことも無いだろうが、以外と愛称が良いのだ。

良くも悪くもだが。

白雪は、アリアには本音で話しているようにも見える。

ケンカするなとは、俺の口からは絶対に言えないが、菊代とはまた違った親友と言うより、正反対な好敵手(ライバル)みたいになっていくんじゃないだろうか。

 

「キンちゃんは……本当に私の事良く見てくれているんだね」

 

「まぁ、もう何年も一緒にいるからな」

 

実際引っ越しても金が無いから数日かけて徒歩で会いに行ったし。

菊代の家に住むことになっても毎日とはいかないが、週一の頻度で会いに行ってたしな。

 

「アリアは、私とキンちゃんの世界に、まっすぐ踏み込んで来た。まるで銃弾みたいに、そして、私の全力を正面から受けて一歩も退かなかった。全体的にはキライなんだけど、ある面では、凄い子だなってそう思ってるよ」

 

と、一息に言った。

どうやら、単純にキライと言う訳では無く何処か認めている所も有るんだろうな。

最も凄い子と言われたアリアは、白雪の部屋を見て気を失って、目の前を風魔に足を捕まれた状態でズルズルと二段ベットへと引き面れてったけどな。

本当に凄い子だよ。下手なホラー映画よりはな。

 

ゴホンと、俺はわざとらしく咳払いをし、今目の前で起きた事を強引に無かった事にする。

 

「まぁ、俺が言えた事じゃ無いが。アイツも、別に悪い奴じゃ無いってついこないだ分かったんだ。俺も良くアイツとケンカするしな」

 

だが、アイツは子供っぽいだけなのだ。

見た目通り。

そう―――やんちゃな『子供』なのだ。

だからこそ、緋を持っちまったんだろうよ。

 

★ ☆ ★

 

「ねぇ、ユキちゃんちょっと―――いいかい?」

 

其から数時間して、日付も変わり、彼女、菊代の弟達も寝静まり、リビングには、彼女とその親友、白雪、お互いにユキちゃん、キクちゃんと呼び会う仲の二人だけだ。

 

だが、その場の雰囲気は、友達同士の和気あいあいとした空気ではない。

寧ろ、尋問をする刑事と犯人の図であった。

 

「うん。分かったいるよ」

 

そんな白雪も、言われる事は分かっているとまっすぐに真剣な表情で、だが膝に乗せた手は札を見たときの様に小刻みに震えて何かに怯えているようだった。

 

そんな今にも泣きそうな白雪に菊代は、医者から家族の容体を聞くような、そんな不安そうな表情で白雪に話しかける。

 

「あの、巫女占札で遠山を占った時―――何が見えたんだい?」

 

「ッ!」

 

ビクン!と肩を震わせ白雪の額から頬にかけて一滴の汗が流れる。

 

「あの時から、ユキちゃんはズット遠山達に札の話から離そうとしている様に見えたよ。遠山も何かを察して聴かない様にしていたからね――けど」

 

ガシッと白雪の両手を自分の手のひらで掴む。

逃がさないように、そして顔を近づけて、懇願するように

 

「弟の身に危機が迫ってるって言うなら姉として見過ごせない。アタシは弟みたいに誤魔化したりしないよ―――もう、失うのは嫌なんだ」

 

ギュも白雪の手を握る菊代の手の力が僅かに強くなる。

其と同時に今度は、最愛の弟を失うかも知れないと言う恐怖が菊代の体を震えさせる。

 

そんな親友を見て白雪は、覚悟を決める様に目を一度閉じて

 

「そうだよね。お姉さんには、言うべきだよね」

 

そう言って菊代の手を解きそのままポツリと落ち着いたけど小さく震えた声で語る。

 

「でも、言ってしまうと其を認めたみたいで怖い。言わなければ起きない気がして、言わないと取り返しの着かない事になるのは分かってるの―――此はどんなにキンちゃんが抗っても必ず起こる。今度はキンちゃんでも逃れる事の出来ない大きくて深くて暗い渦……其でも聞く?」

 

じっと覚悟を試すように、その残酷な予言を受け入れられるかどうかを試すために、白雪は菊代へと語る。

 

「どんな事が合ってもその渦から引き上げるのが姉の役目だよ」

 

即答。

何の迷いも無く菊代は答えて見せた。

 

「そう」

 

短く答え、己れでも認めたくない、予言を伝える為に口を開く。

その予言は

 

「『キンちゃんは無数の虫憑かれ兄に殺される』……一度回避した運命も二度は無理なんだよ」

 

そう言って、ボロボロと今まで堪えていた涙を流し、うっうっと僅かに嗚咽を漏らす。

思いっきり泣くことは出来ない。

殺されるであろう本人に聞こえて仕舞うから。

 

そして、そんな絶望的な予言を聞かされた姉は

 

「嘘………でしょ?」

 

ただ呆然と座り混むしか無かった。

 

何処かで覚悟をしていた事でも、其でも、遥かに重く、残酷な予言の前に。

 

 

―――――例え其が、自ら求めた答えだとしても、知らずに恐怖するか。

知って絶望するか。

其だけの話である。

 

ただ、

 

「やっぱりそうなんだな……」

 

扉一枚挟んで、死を言い渡された弟が聞いている事など知らずに。




さて、次回から金次君もやっと家を出ると思います。


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38 消えたもう一つの記憶

今回は、ちょっと繋ぎの話となります。
後、最後の人格の登場ですかね。
でも順番的には二番目かな。


近いうちに死ぬ。

そう聞かされた人達は、普通どんな反応を見せるだろうか?

まっさかーと、本気にせず笑い飛ばす奴、受け入れずに泣きわめく奴等様々な反応するだろう。

だが、俺はそのどれにも当てはまらないらしい。

今正に壁一枚隔ててその話を聞いてしまったと言うのに、俺は、長年疑問に思っていた一つが解決したことに安堵していた。

納得とも言うかも知れない。

実際俺が、二人の会話を聞いた時真っ先に浮かんだのが『あぁ、やっぱりか』と言う他人事にも聞こえる呑気な物だった。

恐怖が無い。

一度死を体験したからかも知れないが、兎に角俺の心は冷静だった。

其と同時に、ちょっとした怒りもあった。

今の予言を聞く限り、其は、俺があのクソ兄貴に負けると言うことだ。

其が前提とされてしまっている。

其が納得いかない。

確かに、人には必ず死がやって来る。

寿命を迎え死ぬ方が珍しいくらい様々な死に方をする。

俺に来たのも早いか、遅いか、其れだけだ。

だが、死に方に納得がいかない。

二度回避するのは無理?

馬鹿馬鹿しい。

白雪、悪いがその予言は、外させて貰うぜ。

どのみち俺は、後5年は死ねないんだよ。

約束を破る気も無いしな。

今回も抗ってやる。

 

と、一人何処にもぶつけようの無いイライラを抱えている暇も無いだろう。

あんな風に泣く白雪と何か考え事をしているのか、腕を組み片方の手を顎にやりブツブツと小声で何かを言っている菊代。

何かが危ない。

そう警告させるには充分だ。

其にこうなった二人を俺は昔見たことがあるのだ。

だから、こうなった二人が次に出る行動も大体予想が付く。

 

こりゃ二人には悪いが、少しあの予定を早めるか。

万が一だが、俺が、後数ヵ月で非常に不愉快な話だが、あの世へレッツラゴーしてしまうかも知れないしな。

 

そう思い、直ぐに行動に出ようとした時だった。

 

「―――ん?ネクラ?」

 

もそりと、先程白雪の部屋を覗き気を失ったアリアがうにうにと両目を擦って起き上がって来た。

 

「あんたこんな時間に何処に行くつもりなのよ?」

 

『ど、何処でも良いだろう?』

 

「ふーん?」

 

ジロジロと、まるで夜道の不審者でも見るかのように寝起きにしては、確りと目を開き俺を上から下まで鑑定士の様に眺めて来る。

 

「わかったわ!あんたさては―――ムグッ!」

 

『大声を出すな!聞こえちまうだろ!』

 

パシッ!と手のひらでアリアの口を押さる。

アリアは、少し苦しそうにムグムグムグーと唸る。

此、端から見たら中学生か小学生に変な事をしようとしている変質者にしか見えん。

窓に写る姿がそうだもの。

取り合えず、早く外に

 

『……誰か起きてるの?』

 

まずい!

ヒタヒタと此方へ菊代が歩いてくるのが分かる。

俺は、アリアの耳に顔を寄せて小声でヒソリと

 

『アリア少し乱暴に行くから衝撃に備えろよ?』

 

ムグッ!?と先程まで手足をばたつかせ暴れてアリアが、ピタッと大人しくなる。

何か、耳元が赤いが、少し強く押さえすぎたか?

 

スッと、少し扉が開きかけたのを合図に右手でアリアを猫掴みにし

 

『良い子なら寝てくれよ!』

 

ブン!とベットの二段目に投げる。

スポッと、バスケットボールが網に入るようにしてベットに収まる。

 

おー投げてみるもんだな。

 

そう感心する暇も無く俺は素早くベットへと潜り寝たふりをする。

まるで、修学旅行の生徒の気分だ。

行ったことねぇけど。

 

「遠山……それともアリア?どっちか起きてるの?」

 

薄く目を開くと、菊代の背中が有りアリアの寝ているベットの方を見ながら

 

「寝言かしら?」

 

と、呟いている。

良かった、声がしたのはアリアだけで。

そう安堵したのもつかの間。

クルリと体が回転し此方を向く。

反射的に瞼を閉じると、ヒタヒタと僅かに足音が聞こえて軈て止まる。

 

「『金次』」

 

「―――――――ッ!」

 

ズシッと、突然体が重くなった様に感じる。

指がピクリとも動かない。

まるで大きな金属の板で上から押さえ付けられているようだ。

 

此は、いわゆる『待て』の状態。

菊代から次の言葉が来るのを体が待機していやがる。

 

今は、不味い起きてるのがバレたらさっきまで話を盗み聞きしてたのがバレちまう。

息を殺し、ギュと目をつむり出来るだけ寝ているように見せていると

 

――フワッ

 

……え?

 

突然、頭の上に妙に暖かい物が乗る。

そのまま、クシャクシャと頭に乗せられた物が往復する。

撫でられている?

 

「大丈夫……大丈夫だからね」

 

頭から、手が離れて、暫くすると少しだけ布団が捲れる感触がする。

そのまま、ギュと俺の手を菊代が握り

 

「あんたは、絶対にアタシが守るから」

 

まるで自分に言い聞かせるように呟く。

こう言うふうに、頭を撫でられたのはいったい何年前だっただろうか。

安らぎと同時に有るのは、その手から伝わる『不安』と『恐怖』……こう誰かにそう心配されるのは、苦手なんだ。

そして、こんなに取り乱した菊代と白雪を見たくはない。

今はどんなに事が有っても死ぬわけにはいかないのだ。

菊代と白雪の願いの為にも少なくとも、後5年。後5年は必用なんだ。

 

何とかして、山積みにされた全の面倒事を解決しなくては、そうすればきっと―――予言は外れる。

 

「だから今は待ってて……予言が過ぎるまでアタシ達で何とかするから」

 

カチャカチャと俺の手首辺りからひんやりとした違和感が発せられる。

少しすると、ギシリと菊代が、布団へと上がったらしく、そのまま俺の腹辺りを通過していく

暫くすると、先程と同じ感触が伝わってくる。

此は……確かめる必用も無いな。

やっぱりこうなったか。

 

二人が取り乱してからの行動は大体が予想が付く。

どんなささいな事でもパターンは変わらないからな。

 

其から直ぐにパタンと、扉が閉じる音がすると

 

『ちょっと!ネクラ、さっきのはどういうつもりよ!』

 

梯子を使い降りてきたアリアが此方へと歩いて来る。

明らかに怒ってらっしゃる。

 

『へっ、文句言うわりには寝たふりしてくれていたみたいだな。其処は礼を言う。ありがとよ』

 

こうして、軽口を叩ける相手がいると言うだけでも、少しは気休めになるなと自嘲気味に頬を緩める。

すると、アリアはビクッと猫の様に一瞬肩を震わせて

 

『あんたがお礼を言うなんて……明日は雨かしら?』

 

失礼な。俺だって礼くらいは言う。

其くらいのマナーは、守れるっての。

 

『生憎明日は快晴だそうだ』

 

『ふぅん……どうでも良いわ其より何であんた何時まで寝たふりを……ッ!』

 

其処で今の俺の状態を察したらしいアリアが、口を大きく開け叫ぼうとする。

其を俺は大丈夫だと伝える為に落ち着いた感じを装い先に口を開く。

 

『大声を出そうとするな。其より………ベットの下に解錠(バンプ)キーが隠してある。すまないが、取ってくれないか?』

 

ジャラと、両手首のそれぞれベットの柵に繋がれた手錠を鳴らして見せる。

罪人になった気分だ。

悪い事なんて一つもしてねぇのによ。

世間から見たらどうなのかは知ったこっちゃ無いがな。

其を見たアリアは黙ってコクリと頷くと下の方をライトで照らしながらガサゴソと探しだす。

幸いこのベットの下に貼り付けてある鍵の存在だけは俺と風魔以外は知らない。

こう言う時の為に用意してあるのだ。

普段は風魔に開けさせるのだが、残念な事にもう寝てしまったようだ。

 

『あんたも、大変なのね』

 

頭と、髪飾りの角だけが見えるアリアが下を探しながら話しかける。

 

『労いのつもりか?』

 

『そうじゃないわ。何かこう……う~ん』 

 

『なんだよ。言いたい事があるならハッキリ言えよ。お前らしくも無い』

 

話しかけて来たかと思えば今度は、一人で頭を抱えて悩みだす。

 

『う、うるさい!……やっぱり何でも無いわ。ほら此でしょ?』

 

チャリと、アリアが手に持った鍵を此方へと見せる。

 

『おー其だよ。さ、早く此方に』

 

渡せと手の平を開いたり閉じたりして促すが

 

『ダメね』

 

『あ?』

 

ヒョイと、鍵を持った手がアリアの頭上にまで上がる。

 

『あんた、今日私の事、お、お、女らしく無いって笑ったでしょ!?』

 

突然アリアが切り出した話題に、少し思い出すのに苦労するが、あぁ、なるほど確かに合ったな。

あの占いの時か。

 

『あぁ、どっちかと言うと獅子だからな』

 

『ふ~ん』

 

早く鍵を渡せ此方は急いでいるんだと、少しムッとして、嫌みのつもりでそう言うとアリアは、獲物が罠に引っ掛かったのを見つけた猟師の様に不適にニヤリと笑う。

すんげぇ嫌な予感がする。

 

『キンジ(●●●)お手』

 

『グッ』

 

ジジッと小さな耳なりと脳に直接針が刺さったかのような痛みに一瞬襲われる。

その痛みが、収まり堪えるために強く閉じた瞼を開けると

 

うそ……だろ?

其処には、手錠をした俺の手が確かにアリアの手の平の上に乗っていた。

指を曲げて、犬が飼い主にお手をするように。

 

『ふふん♪あたしが獅子ならあんたは犬ね』

 

してやったりと、上機嫌に言うアリアの言葉は殆ど耳に入って来ない。

菊代や、白雪、エル、風魔に並んでアリアが俺に―――言う事を聞かせるとは。

下の名前でこんなことを。

だが、現状この頭痛に並んでアリアにまた一つ謎が追加されたと言うことか。

これもまた、緋に関する事なのか?

どのみち、今の俺が出来ることは

 

『降参だ。俺が、悪かった。だからこの手錠をどうか外して下さいお願いします。アリア様』

 

非常に、ひっじょうに納得のいかない事なのだが、こう言う行動に出るしか無いだろう。

今から監禁生活と言うのは困るのだ。

 

『もの凄く棒読みな感じがするけど良いわ……あたしが勝ったんだし』

 

『此れに勝ち負けが有ったのか?』

 

そう言いつつ、ガチャリと外して貰い自由になった手を使い起き上がり、ベットから出る。

そして、バルコニーの方をチラリと見ると、右隣がうっすらとまだ光っていた。

あの二人が寝るのはもう少し後かも知れん。

 

『あんたは、最初から命令を使えば良かったのに』

 

ボソっとアリアが後ろから一人事の様に言う。

確かにそうだろうな。

 

『あほ抜かせ。そんなことでいちいち命令したりなんてしねぇよ。どうしてもダメだったら、関節外して抜け出すし』

 

『じゃあ最初からそうしなさいよ!』

 

『何故わざわざ痛い思いをしなきゃならん。理解できないし、したくもない』

 

此は本音だ。

本当に痛い。

あんなのもう二度とやるもんか。

一年の頃にやってそう誓ったね。

 

まぁ、良いや此で外に出られる。

予定よりかなり早いが、ご挨拶と言うことなら問題ないだろう。

そう思い、バルコニーへと足を進めようとすると

 

『ちょっと、待ちなさい。何処行く気なの?』

 

ガシッと俺の服の袖を付かんで最初と同じ質問をしてきた。

 

『なんだよ。さっき分かったとか言ってたろ?其はどうなんだよ?』

 

『良いわよ。どうにも違ったみたいだし』

 

ふいっとソッポを向き明らかにふてくされてしまう。

まぁ、どのみち伝える内容は同じだ。

 

『朝には戻る……此れからの事に関わる事だ』

 

『じゃあ、あたしも』

 

付いていくと言い出しそうになるアリアの言葉を手で制す。

だが、此だけでは納得しないだろう。

 

『アリア……お前には此処に()()し白雪と菊代を見張ることだ。出来るな?』

 

『な、そんなことで騙されな――』

 

『報酬は、お前の行きつけの店のももまんピラミッドをお前が腹一杯になるまで食べさせてやる事だ』

 

『な――』

 

ボフンと、火山の様に一気に赤くなり頭から恥ずかしさでか、湯気が出たような幻覚が見えた。

 

『何であんたが知ってるのよ!』

 

『(風魔が)調べたからだ。―――其でどうする乗るか?』

 

あっけらかんと俺が、言うと、アリアはももまんと小さく呟き軈て顔を上げて

 

『あんたがなに企んでるか知らないけど、約束は守ってくれるんでしょ?』

 

『約束を破った事はねぇよ』

 

ガシッと、合意を示すために、お互いに握手をする。

 

其から、なるべく音を出さない様にしてバルコニーに行きそのまま影になる左隣の出窓のある方向にベルトのワイヤーを引っ掻けて、下へと降りる。

其じゃ行きますかね。

俺の5年を、アリアと同様に5年を、上手くすれば、この学校を卒業するまでに、片付ける事の出来るかもしれない鍵

 

―――神崎かなえ。

アリアのお母様の所に

 

 

 

 

下の駐車場まで降りそのまま、駆け足で菊代の車へと向かい解錠キーで開ける。

借りてくぜ、朝までな。

 

バタンと閉じてシートベルトを締める。

隣からもパタンと音がして扉が閉まる

 

 

「……おい」

 

「はい」

 

音も無く自然な動作でスッと当たり前の様に乗ってきたのは、あの喫茶店以来の

 

「何故いる?そして何故乗る?………降りろ蕾姫(レキ)まだ約束の時期では無い筈だ」

 

ウルスの璃巫女―――レキだった。

 

レキは、ふるふると左右に首を降り、否定の意を示す。

 

「今日は、本物のキンジさんに会いに来ました」

 

そして、感情の籠っていないようなそれでいて透き通る声で静かに告げる。

 

「なんだよ。俺のドッペルゲンガーにでも会ったのか?」

 

「そうではありません――キンジさん」

 

首だけが、ゆっくりと此方を向いてガラス細工の様な瞳で俺の事を真っ直ぐに見つめてくる。

その目がまるで

 

(――狩人――)

 

――チュ

 

「――ッ!?」

 

つっ――と、背伸びをし、俺の首に腕を回してそのまま顔を近づけて、恋人にするようにキスをしてきた。

 

(……は?)

 

自分の唇にシリコンの様に滑らかな僅かにミントの様な香りのするキス。

其も本の一瞬の花火の様にあっという間だった。

考える暇も無かったが、一つだけ分かるのは

 

(血流は穏やかだな)

 

HSSにはなっていない。

つまりレキの操り人形にはならないと、言うことだ。

その事に少しホッと胸を撫で下ろす。

 

(知らずにやったか………言う事を聞かせるのが目的では無いのか)

 

「何のつもりだ?」

 

少しの警戒心と殺意を乗せて言う。

だが、レキはその事に気づかない様子で淡々と

 

「貴方が本物なら貴方はウルスになれる」

 

ウルスになれるその、言葉を聞かされた瞬間に全てを理解した。

それと同時にレキの細い首に

 

「最初からそれが狙いか」

 

スッとハンティングナイフを突き付ける。

 

「あたしを殺したいですか?」

 

「あぁ―――お前は危険すぎる。此処で退場願いたい」

 

「そうですか」

 

(なっ―――自分からだと?)

 

スッとその細い首を自らつきだしたのだ。

斬れるもんなら斬ってみろと。

 

「貴方は、アリアさんと同じようにわたしを殺すことは出来ない」

 

「試してみるか?」

 

『―――本当に神様に“誓って”くれるの?』

 

ズバッとナイフが、首を横一線に斬る―――筈だった。

手は、少しも動いていなかった。

 

(此は……アリアの時と同じ)

 

覚えている。

忘れる訳もない。

あのバスジャックの時アリアと戦った時の初めての頭痛と耳なりと同じだ。

 

視界がボヤける。

脳が焼ける。

鼓膜が破裂しそうだ。

 

「キンジさんは、絶対わたしを殺せません」

 

『――神様に誓って●●してくれるの?』

 

「璃巫女……貴様何をした!……唇に毒でも塗ってたか?」

 

「そんなことはしません」

 

あぁ、分かってる。此は毒何かで引き起こせる現象じゃ無い。

別の物だ。

アリアとレキの共通点は

 

(色金)

 

俺のこの症状は、色金によるものなのか?

 

「大丈夫です。直ぐに納めます」

 

「何を言って」

 

スッと、レキの右手が俺の頭から耳、頬をなぞると、先程の耳なりも頭痛も消えていた。

 

「待て!」

 

ガチャと、レキが扉を開けて出ていこうとするのを、声を振り絞って止める。

レキは、言った通りにピタッと止まり

此方を振り向かずに

 

「―――風が言っています」

 

「風?――璃璃色金の事か?」

 

「風は風です。―――キンジさんは、死にません。其がウルスになることなのですから」

 

レキはその事に触れず、その事だけを伝えるとスタスタと歩いてゆっくりと夜の道路へと消えていった。

流石に追う気には、なれなかった。

 

「励ましのつもりかよ」

 

死なないと、そんな言葉がまさかレキから聞けるとはな。

意外にも程がある。

 

其に

 

「神様に誓って―――か」

 

俺は、神に祈った事もねぇのによ。

寧ろいてたまるか。

いないもんに祈ったら其は、生きる事すら他人任せにすることだもんな。

 

気持ちを切り替えるようにしてエンジンを入れ車を目的地へと走らせた。

 

 

 

 

 

神崎かなえのいる新宿警察署の裏口からお邪魔する。

予め中の構造は覚えているため直ぐに入れた。

途中の見廻りも朝までグッスリ寝てもらった。

八つ当たりも含めてしまったが。

すいませんね。

その代わり朝までグッスリ寝て日頃の疲れを癒してくださいな。

見廻りの服をお借りし神崎かなえの部屋まで向かう。

途中何人かの受刑者を扉越しに見かけたが流石にこの時間は全員寝ている。

 

「此処か」

 

キィとお借りした鍵で扉を開ける。

決して夜這いではない。

 

「待ってたわ」

 

「……夜分遅くにすいませんね」

 

部屋の中にはテーブルを挟んで正座で座った神崎かなえの姿があった。

親子揃って癖の強いこと。

自己紹介とかは、必用無さそうだ。

 

「今日は、目が冴えてどうしても眠れなかったの」

 

こんな息の詰まりそうな、部屋にいるにも関わらずその場の全てを包み込む様な柔らかい笑みを浮かべた。

 

「此処に来たって事は、聞きたい事があるって事なのでしょ?わたしの答えられる範囲なら何でも聞いてね。アリアの彼氏さん」

 

「其じゃ、御言葉に甘えさせていただきます。お母様」

 

此処にもし、アリアがいたら顔を真っ赤に染めて全力で否定しに掛かるだろう。

だが、冗談には冗談で返すのが基本だ。

 

「あぁ、そうだ。単刀直入に言おう。俺が、聞きたいのは二つだ。一つは。『あんたが本当に此処から出たいのかどうか』そしてもう一つは……俺からしたら此方が本題だ『アリアの体内にある緋騨』の事だ」

 

先程のレキとの会話により一つの仮説が出来上がった。

もしあの症状が色金に関する事なら、そのヒントは此処に――この人が持っている。

 

「まぁ……」

 

クスリと、少し可笑しそうに笑って

 

「半分正解。其処まで分かっているなら『答えに近いヒント』を挙げましょうか」

 

神崎かなえは、まるで、長い付き合いのある友人に向けるような笑顔で

 

「数百年に一度数多の歴史と記憶を抱え“緋の贄”となる“憑依者”に講して出会えたのだもの、とても楽しい夜になりそう」

 

 

とんでもないことを言ってのけた。




そう言えば、良いところで終わったあのホラーゲーム。
11月の後半に新ストーリーが来ると言うので楽しみにしております。
もうすぐらしいんですけどね。
早くやりたいです。


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39 ×呪いの男→○呪われた男

冬ですね。
空気も肌も乾燥してます。
ついでにまたしても風邪を引きました。
↑全く懲りてない。


「やっと見つけたぁ~」

 

その男は笑う。

私の目の前で、無くした物が見つかった人の様に嬉しそうに

 

「身長も違う。胸の大きさも違う。仕草も違う。そしてなにより匂いが違う……幾ら廻りを騙せても、俺は騙されない」

 

妙に失礼な事を言いながら。

其でも、その男からは肌に無数の針が刺さるようなチクチクとした殺気が伝わって来る。

 

「だが、其処は中々頑張った方だと思うぞ。………“気に入った”」

 

ニタァと底意地の悪い、そして、先程とは違う新たな玩具が見つかった子供のような――そう

 

「本来なら3秒だが、特別に5秒やる」

 

例えるならば、罪悪感の欠片もなく無邪気に地べたを這う虫を踏みつける子供の様な笑顔で

そして、同時に私には大きな疑問が頭の中で渦巻いていた。

 

「だからさ~」

 

何故―――何故――何故?

どうして?

この日本に、この武偵高にいるんだ?

 

―――何故?

 

 

「精々逃げてみろよ」

 

 

呪いの男(フルヒマン)が、遠山金次に成り済ましているのか?

 

 

★ ☆ ★

 

『アリアの中の緋弾―――正確にはその中に宿る者。この子は、恋と戦を好むの。どちらが欠けても目覚める事は無い。けど、其を強制的に目覚めさせる事が出来る手段がある。

此は、本当にごく一部の限られた人しか知ることが出来ない。数十年―――数百年に来るか来ないかの、様々な戦いを経験した記憶を持つ憑依者………この人を、緋弾の所有者に殺させる事で目覚めさせる事が出来る―――他にまだあるらしいけど残念ながら此処まで、頭痛や耳鳴りは貴方の危機的本能から来るものなのかもしれないわね。実際に過去の緋の贄となった憑依者にも似たような症状が合ったと記されているようだし………後、非常に嬉しい提案だけど今は頷けないわ。今出たらあの子を困らせてしまうもの』

 

(緋鳥に啄まれ新たな生を受ける者か)

 

だが、此で俺の頭痛や耳鳴りについては解決だ。

やっぱり、色金だったと言うことだ。

俺なりの解釈で言えば、色金アレルギーと言う事だ。

其に俺が、アリアに殺される事もアリアの様子からしてそんな大層な物を持っているなんて自覚も無いし問題無いだろう。

戦は、あるかも知れないが、恋?馬鹿馬鹿しい。

彼奴はそれどころじゃ無いんだと断言しているし少なくとも俺達と組んでいる間は問題無いだろう。

その後は知らん。

過去の記憶がどうとか言われても、今さら思い出してどうしろと言うのか?

大切なのは今である。

だが、此処で気になるのは、レキの事だ。

何故、レキの目の前で頭痛がしたのか?

其処だけが分からないままだ。

何れ聞くとして

 

「なぁ、金次よ~」

 

そんな俺の思考を中断させたのは、意外にもミイラ男であった。

全身包帯グルグル巻きの、ハロウィンのコスプレの様な事になっている武藤である。

きっと任務で事故か、犯人によってこんな姿になったのだろう。

お前も大変だな武藤。

全くどんな奴にやられたんだろうね。

 

「……何だよ?」

 

ヒソッと、隣の武藤に小声で話しかける。

 

「お前鏡高とケンカでもしたのか?」

 

「あー、なんと言うか、其より恐ろしいことだ」

 

「はぁ?」

 

確かに右隣からは物凄い視線を感じるのだ。

絶対に逃がさんと言わんばかりの。

と言っても、横を向いてのガン見では無くギョロリと目線だけが此方を向いている。

いやまぁね………此は昨日の夜に逃げ出した俺が全面的に悪い。

だが、学校ならば、まず襲われる事は無いだろう。

だから、俺は今久し振りに学校に来ている。

少なくとも部屋よりは安全だ。

 

「其より武藤、お前は騒がないんだな」

 

「男には興味ねぇよ」

 

男ねぇ………

 

先程から俺のずっと目の前、黒板の所に立ち、女子からキャーキャーとまるでアイドルのような黄色い歓声を受けている()()がいる。

俺はその歓声に紛れて話していた為菊代にバレる事はなかった。

 

だが、今の俺は他の事に興味を引かれていた。

其が目の前の転校生である。

 

(なんで、男装なんだよ)

 

綺麗な字でエル・ワトソンと書かれ、隣では、そのライブ開場のような歓声に女の担任が教壇から足を踏み外して、床に座り込んでしまっている。

 

どうやら、マンチェスター武偵高からの転入生として来たと言う。

何処ぞのフランスパイロットの様に。

だが、端から見れば確かに完成度は高く

 

「それでは皆さーん!スペシャルゲストの転校生を紹介しまーす!マンチェスター武偵高から来た、とーってもカッコイイ留学生ですよー」と、言うだけはある。

 

爽やかイケメンと言うやつだろう。

または、可愛い系男子(エルいわく男の娘とか言うんだったか)だ。

因みに、武藤から聞いた話だが同じように爽やかイケメンとか呼ばれていたらしい不知火は海外へ長期任務の為何時戻るかは不明と言うことになっているらしい。

帰って来るなよ永久に。

 

 

「エル・ワトソンです。これから宜しくね」

 

少年ぽさを出したいのか少し高めに声で言いそのまま一番後ろの席についた時、タイミング良く朝のホームルームの終了チャイムが鳴り其を待ってましたと、わー!キャー!と女子達がエルの席をマスコミの様に囲む。

その後は、もうドラマやアニメでもお馴染みの光景で

「前の学校では専門科は何処だった?」のと言う質問にたいし「ニューヨークでは強襲科(アサルト)、マンチェスターで探偵科(インケスタ)、東京では衛生科(メディカ)――ボクは自分の武偵技術に、最後の磨きをかけに来た」とキザっぽく返したり。

「王子様みたい!」と目をハートマークした女子からの言葉に「家は王家じゃない。子爵家だよ」と冗談めかして言えば、キャー!キャー!と更に盛り上がる。

先程まで目をハートマークにしていた女子含め数名が今度は\マークに早変わりしている。

「肌綺麗!女子より綺麗!」と誉められると僅かに動揺し「……ありがとう」と白い歯を見せ笑顔になっているが僅かにうっすらと冷や汗が流れている。

まぁ、エルは女だもんな。

だが、そんな事は知らない女子は、今のエルに黄色い声を上げ何人かクラッと来たらしくフラついて……衛生科や救護科(アンビュラス)らしき女子に支えられている。

 

「ワトソン君は、何部に入るの!」

 

「予定は無いよ」

 

その言葉に女子達は目の色を変えて其々の部活に勧誘し始める。

 

「水泳部に来てよ」

 

その単語が出た瞬間先程まで友達に囲まれているような気安さで上手くあしらっていたのだが

 

「あー、ごめん。ボクは何処の武偵高でもクラブ活動はしないんだ。特に水泳はNGで――」

 

ガタン!

 

流石にこれ以上は無限ループだろうと俺は、勢い良く立ち上がり、全員の視線を集める。

静まり返った教室の中そのまま、エルの所まで歩き

 

「次は移動だ。案内するからついて来い」

 

クイッと親指で扉の方を指す。

武藤から聞いたが、男女別の授業があり女子は教室男子は移動だそうだ。

男子は授業と言う名の肉体労働だという。

女子はそのままアドシアードの準備。男子は地下倉庫(ジャンクション)まで外の人達に見せられない物を運び込む作業だそうだ。

既に男子達はもう移動済みだった。

 

「そうだね。其じゃボクは此で失礼するよ」

 

そう言いエルも席を離れてそっちの方向へと向かうが、其でも文句垂れる女子どもがエルの後ろをピク○ンみたいについきやがる。

此じゃ意味無いな。

仕方ない。

 

ボフン!

 

「きゃああああああああ!!」

 

「来いエル!」

 

「うわっ!」

 

俺は、菊代以外誰も見ていないのを見計らってポケットから煙弾を出して地面に素早く思いっきり叩き付ける。

クラス中に突然広がった煙でクラスが戸惑っている隙を伺いシナモンの香りをたどりエルを抱き抱えて走り、屋上まで向かう。

 

その間に、ある程度の状況の理解をしたエルが抱えられた状態で

 

「こう言う時の君は本当に強引だな。最方法は幾らでもあっただろう?」

 

と、少しの……いやかなり呆れた様子で肩を竦めてヤレヤレとわざとらしく言う。

 

「あのまま行けば質問の無限ループだ。其にお前もああ言うのは望ましく無いだろう?」

 

実際部活やらに入ればそれこそ着替えやふとした瞬間にボロが出るだろう。

特に水泳は、水着だ。

隠せるものも隠せやしないだろう。

 

「ボロが出るからね」

 

「だったらわざわざ『転装生(チェンジ)』になる必要はなかっただろう?」

 

其に、エルは男装は好きでは無いだろう。

リバティー・メイソンでも何処でも男装する必要はあったが、日本でわざわざなんて事は余程重要な何かが

 

「其は、実に簡単な理由さ」

 

この状態では格好もつかないがエルは妙に意味深な言葉と顔を作り此方を向く。

やっぱり何か訳が

 

「男と言うことにすれば、今現在、唯一、一人部屋と言うことになっている君の部屋に正式に住めるじゃないか」

 

エルはキメ顔でそう言った。

 

「今すぐ裸に引ん剥いて女子達の目の前に放り投げるぞ?」

 

「そ、そう言うトウヤマだって今戻ったらキクヨに見つかるんじゃないのか?」

 

今すぐ窓から投げたい衝動をグッと堪えてせめてもと思い言った皮肉は、正論で反撃された。

 

「気付いてたのか?」

 

「なんと無くね。今朝から二人とも様子が変だったから」

 

「そうか」

 

「何かあったのかい?」

 

「まぁな。だがケンカじゃねぇぞ。俺が、一方的に避けてるだけだ」

 

心配そうな顔から一転物凄く以外だと、驚き口を両手で押さえる。

 

「以外な事もあるんだね。君が姉を避けるなんて、何時も行動を供にしているのに、明日は銃弾でも降るのかい?」

 

なんだよそれ、物騒過ぎるわ。

 

「せめて雨にしてくれ。………俺だって心苦しいが今はそうするしかねぇんだ」

 

エルは、暫く考え込んでから

 

「分かった。君にも何か考えがあるんだろう。何か有ったら言ってくれボクに出来る事なら協力する」

 

そう、妙な納得の仕方をしてくれた。

 

「流石だ。持つべき者は友だな」

 

「親友の頼みだ。タダにしとくよ」

 

「何時もそうしてくれ」

 

お互いにニヤリと笑い、かつてイギリスで行動を供にしたようにトントン拍子で此れからの話が纏まって行くのだった。

 

 

 

 

エルを途中で下ろし、その場で一時解散となり、俺は一人で屋上に来ている。

エルには、初日と言うのもあり、授業には出てもらい集合は昼休みとなった。

その間に俺は服やら靴やらから出てくる発信器を全て外して探索を混乱させる為にそこら辺にばら蒔いてきた。

すまん白雪。

すまん菊代。

今回は見逃してくれ。

 

「いや、疲れたよ。肉体労働はボクには似合わない」

 

そう言いながら、女子からの差し入れだろう、スポーツドリンク数本と、タオルを首に掛けたエルが入って来た。

 

「二人に見られて無いよな」

 

「あぁ教務科(マスターズ)に行くと伝えてある。二人は今行方不明の君を探すのに夢中だからね」

 

うわぁ、俺脱走したペットみたいな扱いされてるよ。

まぁ首輪(GPS)を外したから無理無いんだけど。

この件が終わったら次は体に埋め込まれるんじゃ無いだろうか?

ありそうだ。

只でさえ、ボディーガードがボディーガードされそうだと言う前代未聞の状態だと言うのに

 

「其でトウヤマ、昨日は何処に行ってたんだい?」

 

気付いていたのか、菊代から聞いたのか。

エルには話しても問題無いな。

 

「新宿警察署」

 

「ブフッ!」

 

飲みかけていたドリンクを喉に詰まらせたのか、少しの吹き出す。

全くもう少し落ち着いて飲めばいいのに。

暫く咳き込んでからエルは此方を向いての

 

「き、君は何をしているんだ!そんなの自首しに行くようなもんじゃないか!」

 

自首するほどの事をしてきた覚えはありません。

 

「何も真っ正面から乗り込んだ訳じゃねぇよ。裏口からこっそり入って監視カメラの映像をリアルタイムで見てカメラ避けながら、一応念のために制服拝借して、会いに行っただけだ」

 

反省すべき点があるとすれば菓子の一つも持たずに行った事だな。

今度会いに行くときが合ったらももまんでも持っていこう。

選んだ理由は、娘さんの好物ってだけだけど。

其に制服もちゃんと着せてイスに座らせてあげたし。

借りたら返す。

此れ常識。

気絶させた見回りも何があったかなんて理解はしてないだろう。

あの夜は何も無かったのだ。

その後でエルには、俺の事は控えて神崎かなえの事だけを話した。

 

「ふぅん……だとすると少し奇妙だね」

 

「奇妙?」

 

エルは何処か腑に落ちないと顎に手をやり考えるようにして聞いてくる。

 

「そうだ。何故、神崎かなえは君が来ることまで把握していたのかだよ」

 

なるほど、確かに其は誰もが気になる事だろう。

 

「俺の顔と、其と来るかもしれないと教えた相手がいるってだけだ」

 

「誰だいそれ?」

 

「不知火だよ」

 

キョトンと、エルは思い当たる人物がいないのか、瞼をパチクリと僅かに動かす。

まぁ、無理も無いだろう。

エルはあの時が初対面だし、顔は変な仮面で隠れてたしな。

 

「ほら、いたろ?あの変態仮面の男だよ」

 

そう言うと、あの飛行機の出来事を思い出したのか、恐る恐ると言った感じで口を開いた。

 

「……0科の?」

 

「元な」

 

そう、『元』だ。

他ならない不知火の手によって、0科は、壊滅している。

直ぐに、補充しようにもその候補もそのまた候補も全滅。

イタチゴッコになるくらいなら、暫く0科を封印するしか無いだろう。

 

『貴方のお友達の仮面の人にも宜しく伝えてくれる?』

 

エルとの何気ない会話で、昨日と言うより今日か。―――その時のある一言を思い出す。

不知火は一度会っているのだろう。

その不知火によって俺の顔と事を知り、俺が、来ることも予想されていた。

そんな所か。

因みに言うと、俺は神崎かなえにある提案をしていた。

勿論断られると分かってのなんちゃって提案である。

簡単に纏めると、『顔も名前も人生も何もかも変えて娘と自由に暮らす気は無いか?』と。

此はハッキリ言って可能だ。

アホらしい提案だが、神崎かなえが、OKすれば、一日で終わる。

俺は、アリアから母親を自由にしろとしか言われていない。

つまりやり方は此方に任せると言うことだ。

実際にそう言う事が出来る奴もいるし、そう言う手続きが得意な奴が隣にいるし、今は、0科もその手の奴まで、不知火によって消えたと言う。

今が絶好のチャンスなのだ。

そのチャンスすらも自ら断ったのだ。

断った事に意味がある。

実際に実行する気は、今のところ無い。

出られて隠居されても今度は此方が困るしな。

 

―――と、俺はエルに伝えた。

 

 

「なるほど、って結局それボクがやるんだよね!?」

 

エルの叫びとも言える訴えを、置いて有ったもう一つのスポーツドリンクの蓋を開けながら聞く。

 

「元々お前の持ち出した提案じゃないか。其に、婚約者だろ?だったら、その母親を助けるのは当然だろ?」

 

「元だ!其にあれは結局ボクの父様が言い出した事だし、その父様も、もういないじゃないか」

 

ボケにツッコミで返してきたと思ったら、今度は、顔を伏せて、悲しそうな演技をする。

演技である。

俺は騙されん。

 

俺が、一生もんのトラウマ、クロメーテルなんて吐き気のする格好で骨抜きにしたあと乗り込んで来て飛びっきりの笑顔で全身に何十発も撃ち込んだのこの目で確りと見てるからな。

まぁ、もしあのままだったら下手すれば俺が、アッチの意味で危なかったからな。

その辺りは感謝するよ。

其に、思い出してるのか、ちょっと口元笑ってるぞ。

 

「其で、そっちはどうだったんだよ」

 

「あぁ、どうやらもう動き出しているらしい」

 

エルは鞄から取り出した一冊のノートをパラパラと捲りながら本題を言う。

 

「後は、ボクの脚本通りにって事さ」

 

つまり、もう役者は揃ったと言うことだろう。

 

迎えに行きますかね。

その最後の役者を。

 

 

 

その日の放課後。

アリアは、白雪のボディーガードを朝から付きっきりの為此処にいなくて本当に助かった。

白雪の気も今はそっちに行ってるお陰で菊代からだけ逃げてる状況になる。

此処にアリアの桁外れの勘と、白雪の占いが入ったらと考えると、恐ろしいものだ。

閉鎖されたステージにハンター100体いるなか一人取り残されたようなもんだ。

絶対捕まる。

特殊部隊に囲まれる方がまだましだ。

さて、エルが、言うには、今日この日いや、正確にはここ数日、白雪が二人いたのだと言う。

同時刻に、何人かの生徒が別の場所で白雪を見かけているのだ。

此れだけ情報が有ればもう十分だ。

 

大体この辺り

 

ドン!

 

「きゃ!」

 

警備員の見回りの様に同じ階をグルグルと何周もしていると、胸辺りに大きな衝撃が走る。

ぶつかって来た、人を見ると巫女服に、黒髪。

見る目の無い人が見たら白雪だと錯覚するのだろう。

だが、全く違う。

 

「あ、ご、ごめんねキンちゃん。怪我はない?」

 

「違う」

 

「え?」

 

声の高さが違う。

白雪はもっと声のトーンが高い。

匂いが違う。

 

白雪の香りは、もっと優しく甘い桃のような香りだ。

だが、お前からは、草原の若葉草のような香りだ。

 

記憶の中から一応白雪の妹にこんなのがいたのか探るが、勿論いない。

つまり

 

(ビンゴ)

 

ラッキー。

 

俺は、目当てのお宝を見つけた時のような嬉しさで変な風に笑うのを防ぐため、グッと堪えるが、逆に口元がつり上がる。

 

「ヒッ!」

 

目の前の何かが、悲鳴を上げるが知った事じゃない。

でも、良かったな。

 

此処が武偵校内で、そして恐らく魔剣(デュランダル)で。

お前は、エルのシナリオ通り

 

「やっと見つけた~」

 

 

俺と、『鬼ごっこ』するだけで良いんだからな。

 

勿論俺が、鬼役で。




ただの鬼ごっこだよ。

平和だよ。


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40 カクレオニ

タイトル通りだよ。


いろいろと注意するように。


『一度だけ、柄にもなく恋と言う物をした事がある』

 

その言葉は、私―――ジャンヌ・ダルク30世の頭の中を走馬灯のように同じ組織に所属していたドイツの魔女との、あの時の私にとっては何気無かった会話が駆け巡っていた。

 

『そいつはな、自分の事を凡人と言っていた。其も冗談でじゃない。本気で言っているんだ。どの辺がだ!って、笑ってやるとそのたんびに不貞腐れやがる。其がまた面白いんだ……あぁ、ワリィ、話が逸れちまった』

 

床をスケートリンクのように凍らせながら、兎に角走る。

 

『んで、そいつはな、あることに関しちゃずば抜けた才能を持っているんだ』

 

「ヒャッハハハハハハ!待ちなって、お嬢ちゃ~ん!」

 

「はぁ……はぁ……」

 

『其れはな』

 

凍らせた床の上を、意図も容易く滑り、狩りでもするように実に楽しそうに、私の友が好きそうなゲームに出てきそうな怪物(モンスター)のような笑い声を上げて追ってくる。

なんだなんだ。何故、アイツが私を襲う。

そんな疑問が、私の頭の隅にへばり付いている。

 

今の彼奴から見れば、私は逃げる兎に等しい。

何故なら

 

『追跡だよ。………そいつは、自分の獲物をわざと逃がすんだ。3秒と言う短い時間を与えてな。あぁ、けど、気に入った相手には5秒だったけか?まぁ、あんま変わんねぇか!クハハ!』

 

アイツにとっては、文字通り狩りなんだから。

 

(どうすれば)

 

此では、星伽白雪を連れ去る所じゃない。

遠山金次は、イギリスで呪いの男(フルヒマン)によって、殺されたと聞いていたがその後の学籍も残ったままだった。

 

(まさか、売られたのか……教授(プロフェシオン)に)

 

遠山の男は生命力が強いと聞いている。

其だけでは勿論確信は無いが。

あの男の推理は確かだ。

其処を疑わなかったのが、迂闊だった。

何が生きているだ、別人じゃないか!

学校のデータを見れば、アイツは諜報科のSランク、武偵の中でも確かに優秀だったのだろう。

だが、極度の引きこもりで、任務等で外に出ることはあっても学校には殆ど顔を出さない。

鏡高菊代と星伽白雪との二股の関係にあったと言うのも調べで分かった。

此に関しては、一人の女としてはどうかと、そいつに小一時間程説教して、人間樹氷にしてやりたい衝動に刈られるが……もうこの世に居ない奴にどうこう言う事は出来ない。

其は、そうと、呪いの男(フルヒマン)は、ドイツの魔女を通して、イ・ウーに勧誘されその後も様々な形で勧誘されたが、それをことごとく断って来たと聞いている。

だが、其をイ・ウーの会計士から先日呪いの男が遂に加入したと聞いていた。

私の知らないところで、何かしらの要求が有ったのだろう。

 

(その要求……星伽か!)

 

先程も、今私の後ろを追ってくるアイツは白雪じゃないと言っていた。

そして今、遠山金次に化けているのも、星伽に関する事なのだとしたら?

同じように星伽を狙う私は邪魔だと言うわけだ。

そして、ここ最近、ホームズとの接触も見られる。

その共通点は………緋々色金。

その事に関する交渉が行われていたのだろう。

恐らく、イヤ確実に私のイ・ウー退学は決定している。

皮肉にも、交渉の為に贄にされたと言うことだ。

馬鹿げている。

だが、今は目の前の事に集中だ。

殺るか殺られるか。

イ・ウーの事を考えるのはその後だ。

 

(勝算はある)

 

幸運にも今日は緋々粒子の濃い日だ。

あの呪いの男と言えど、超能力者(ステルス)とは聞いていない。

 

一気に凍らせれば幾ら呪いの男でも、命は無いだろう。

 

 

(私は騎士だ。この程度の誤算で諦めたりはしない!)

 

ぱき、ぱきぱきと体の周囲に小さな氷の結晶を作り出す。

 

ダイヤモンド・ダスト。

 

ダイヤモンドのように輝く氷の結晶を空気中に舞わせる先祖である初代ジャンヌ・ダルクから脈々と受け継がれ研究されてきた魔術。

漂う氷は次第に数を増やし、霞のようになって私の体を隠すように包む。

 

「お?何か始めるのか?」

 

スケートのように、凍らせた床を滑り此方へと迫ってくる。

 

――その、余裕な表情今すぐ凍り付かせてやる!

 

床の氷に冷気を送り滑る呪いの男の足元の氷を盛り上がらせ

 

ドドドドドドンッ!

 

槍のように先端の鋭く尖った二本のつらら。

それらを氷の床から呪いの男の目の前に出現させる。

 

「おお!あっぶねぇ~、死ぬかと思ったぞ!」

 

止まる為にその氷の柱を足で蹴り体を止め、全くそう思っていない顔で、此方を挑発する。

 

だが、呪いの男よ。

 

「其処は止まらない方が身のためだぞ」

 

「あぁ?」

 

周囲に出現させた霞を呪いの男目掛けて包み込むようにして射ち出す。

 

「あ~涼しいぃ~夏にはピッタリだろうな」

 

「―――ッ!言っていろ!」

 

この霞は、攻撃用では無い悪魔で視界を遮る為の物だ。

 

(だが、視界を遮ってしまえば此方のものだ)

 

此で理子風に言うのであれば、もう何も怖くない!と言う状況なのだ。

仕留めたも同然。

 

(銀氷となって散れ!―――オルレアンの氷花!)

 

ぱきぱきと、両手の間にバレーボール位の青白い光を蓄える。

 

(此で仕留めて体制を立て直すしかない)

 

カッッッ!!!!

 

 

青い光の奔流を巻き上げ光る氷の結晶の渦を垂直に構え

 

(当たれ!!)

 

蒼い砲弾としてつららの間のスキマを通って呪いの男に直撃した―――筈だった。

確かに、パキィンッ!と音を立てて凍った筈だった。

手応えも有った。

だが、私の目の前には、つららの一本が根本から綺麗に切り取られ其が、先程まで呪いの男がいた場所に立ち、その短くなったつららの先端が巨大な氷の花が咲いたように広がり、一本の氷樹となっていた。

 

(身代わり―――!?)

 

人一人の分の大きさと太さのつららを切り其を移動させたと言うのか?ほんの数秒で?

 

『あ、そうだ。さっきの狩りの話なんだが、わざと逃がすと言ったろ?其な』

 

不意にまた、ドイツの魔女の言葉が脳裏を過る。

不吉な予言のように

だけども、今は其を気にしている場合では無い。

 

(本物は何処だ?)

 

辺りを見回そうと首を動かしかけた瞬間

 

『逃げ切った奴は一人もいないんだとさ』

 

「こりゃあ綺麗だな~芸術の価値の分からん俺でも綺麗だって素直に思うぞ」

 

「――――ッ!?」

 

『気が付いたら背後にピッタリとくっついている。幽霊みたいにな』

 

首筋にピタッと冷たく張り付くような感触と、背後から声がしたのは同時だった。

 

「なんだ?もう手品は終わりなのか?」

 

背後からの声が心臓を鷲掴みにしたような錯覚まで感じる。

動機が激しい。

呼吸すらもやっとの思いで辛うじて、出来るくらい。

 

首筋に当てられた何かが、死神の鎌を思わせる。

 

魔剣(デュランダル)は、持っていない。

 

なにせ、今日やっていたのは、情報収集。

変装してあれを持つのは、かさばって余りにもリスクが高かった。

 

(不覚)

 

「良いね~その絶望に沈みきった顔!」

 

そんな私を嘲笑うように呪いの男は口を開く。

 

「もっとだ……もっと見せろ!最高に絶望した瞬間」

 

確かにこの男の言う通りだ。

変装はバレ、イ・ウーには切り捨てられ、油断から魔剣は持っていない。

おまけに魔力も底をつき。

確かに絶望だ。

私の心は折れかけている。

今唯一の希望は、本来の目的を為し遂げその実績でイ・ウーに戻ること。

こんな時期に退学なんて馬鹿げた話があるか。

其に、此処で終われない理由がもう一つある。

 

(理子……)

 

せめて、もう一度、お前に会いたい。

イ・ウー無いで、最も心許せる存在で、教え子でもあり教師でもあり――友でもあった。

だが、お前がホームズとの戦いの後、一切連絡が着かない。

今、お前は何処にいる?無事なのか?

其を知るまで、私は終われない。

だったら、考えろ。

こんな状況でもなにか勝機はある筈だ。

考えろ!私は策士だ。

この程度の事で何一つ思い付かなくてどうする!

こんな戦略的状況の中で今出来る事は………有った。

 

何処だ?どのタイミングで実行する。

今は待つんだ。今は耐え忍ぶ時だ。

 

「其処をぶっ刺してやるよ!」

 

(今だ!)

 

バサッ!

 

「ウワップ!」

 

(戦略的撤退のみ!)

 

呪いの男が、私の首筋に当てていた、大きな刃物――其は、板のような刀身を持ち先端は、18世紀から19世紀の帆船時代の狩猟や陸戦に用いられたハンガーのように反り上がり、峰の部分は、ノコギリのようにギザギザとしている。

刃渡りはざっと見たところ、1mと刀のようにも見える――マチェット。

なるほど、あれがメイン武器と言うことか。

もう一つのサブ武器となるものは、小振りのようで、ズボンのベルト部分から鞘の中に入り仕舞い込まれている。

 

其を呪いの男がギロチンのように振り上げたその僅かな隙を狙い身に付けていた、カツラを顔目掛けて投げる。

 

横へと周り、背を向けて兎に角走る。

 

「おー。そう来なくっちゃ面白くねぇよな!ヒャハハ!今度は一秒も待ってやんねぇ!」

 

「そう笑っていろ!最後に笑うのは私だ!」

 

「おー。その威勢は“気に入った”な………つくづく殺すのが惜しいな」

 

さっきの一瞬で、僅かだが、距離が空いた。

何処か、身を隠せる場所は無いか?

このまま学園から逃げ切る事は不可能に近い。

ならば、身を隠しあいつが遠ざかった所を狙って脱出するのが一番良いだろう。

 

(理子……お前ならこう言う時何処に隠れる?)

 

兎に角走る。息が苦しい、だが、後ろからの恐怖が止まることを許さない。

止まれば、この首を切り落とされるだろう。

止まれば、この心臓を貫かれるだろう。

 

そうならない為にも理子……私に知恵を貸してくれ!

 

『ホラゲーとかで、追われた時って取り合えず押し入れとかロッカーとか探しちゃうよね~。正にロッカー最強説だよ!』

 

そうだ……ロッカーだ!

 

ゲームはしたことが無いが、理子が昔そう言うことを言っていたのを思い出した。

ならば、一か八か、其処に賭けよう。

 

廊下の曲がり角を曲がる瞬間後ろになけなしの魔力を使い氷の粒の弾丸を形成し呪いの男に向けて撃つ。

 

ダタタタタタタタタンッ!

 

「器用な奴だな!」

 

ギキキキキキキキンッ!

 

後ろからの音からして、恐らくあの大きなマチェットで弾いているのだろう。

やはり時間稼ぎにしかならなかったようだ。

だが、此であの男とは完全に距離が離れた。

と言っても、後数秒で曲がって来るだろう。

 

スピードが命だ。

 

曲がった先のドアに人差し指を押し付け雑巾を絞るようにして無理に出した魔力の氷で鍵を作り開けて中に入る。

もう足音は迫っていた。

 

幸い此処は更衣室らしく所狭しとロッカーが並んでいる。

 

(こう言うのは、奥のに隠れた方が良いんだったな)

 

気休めの時間稼ぎだが、直ぐに鍵を閉めて奥へと滑り込むようにしてドアを開けて中に入る。

 

ガン!ガン!と直ぐにドアを乱暴に叩く音がして、バカン!とドアが外れた音がする。

 

「あー?アイツ、どぉこ消えやがった?」

 

ロッカーの隙間から恐る恐る覗くと、呪いの男が、頭の後ろをガリガリとかきながら、辺りを見回している。

 

「此処かぁ?」

 

直ぐ手前のロッカーをバタン!と乱暴に開ける。

その隣もその隣もその隣も。

そうして残るのは私の場所だけ。

 

(もう、ダメか)

 

無念だ。

理子、すまない。

お前をあの狼から救い出すことも出来なかった。

 

「恥ずかしがらずに出てきなよ………良い子だからさ」

 

心の中で謝罪しそれと同時に扉が開けられその隙間から光が見え始めた時だった。

 

~♪~♪

 

「……んだよ。今、良い所なのに」

 

外から、和楽器を使った音楽が流れて来た。

この曲には聞き覚えがある。

イ・ウーでも聞いていた奴がいた。

確かタイトルは『かごめかごめ』とか言うものだった気がする。

いや、其よりも

 

(……携帯?)

 

どうやら、此れは携帯の着信音らしく、外で呪いの男が不機嫌そうに応答している。

 

「……潮時か。いや、なんでもねぇ……分かった直ぐ戻る」

 

ピッと音がなり通話を終了したらしく、ゴソリと携帯をポケットに終う音がする。

 

「……って訳だ!楽しかったぜ!また近い内にまた会って遊ぼう!」

 

「――ッ!」

 

出したい悲鳴をグッと堪える。

心臓と肩がビクン!と、電気ショックでも喰らったかのように跳ねる。

 

そんな私にお構いなしに、呪いの男は此方に向けて話す。

 

「今日はもう充分遊んだからもう良いや」

 

所詮アイツにとって此れは、遊びに過ぎないと言うことなのだろう。

良いように扱われる自分の余りの無力さと愚かさが恨めしい。

 

「そうだ。お礼にに良いこと教えてやるよ」

 

「……え?」

 

突然、呪いの男の殺気が消えて、先程まで聞いた事もないまるで、長年の友人に声を掛けるような優しい声で

 

「其処の窓を、よじ登れば直ぐにこの学校の外に出られる。俺の調べじゃ其処は、誰にも見つからない絶好の逃げ場所だ。因みに後数分でテニス部の奴等が帰宅するんに此処を使うようだから急いだ方が身の為だぞ」

 

そう忠告してきた。

 

(なにかの作戦か?)

 

罠……そう考えるのが、普通だろう。

 

「因みに、俺はお前が気に入った。……だから、こんな所で捕まるんじゃないぞ。()()()()

 

「な!」

 

何故私の名前を!?

思わずそう聞こうとしたタイミングで

バタンと扉は閉まった。

 

何故、私を見逃した?

邪魔なら普通この場で殺す筈だ。

イ・ウーに所属しているのなら、その後の処理だって心配しなくていい。

 

呪いの男(フルヒマン)が私を見逃す理由が無い。

 

そう思った時私は、またふっとドイツの魔女の言葉を思い出す。

 

『滅多に無いことなんだが、アイツに狙われても助かる方法がある』

 

そうだ、確かにあの時

 

『俺はお前が気に入った』

 

『アイツが気に入った時だ……どういう意味かは、運悪く出会った奴しか知らないだろうな』

 

あの男は、そう言っていた。

つまり

 

「私が……気に入られた?」

 

どういう意味で?獲物としてか?

なら此処で仕留めればいい。

 

なのに、何故遠回しに助けるような事を……?

 

分からない。

カツェは、何を知っているんだ?

そんな数多くの疑問は、扉の向こう側から聞こえて来る集団の声によって、中断される。

 

(逃げ道は此処だけか……ええい!ままよ!)

 

意を決して、後ろの、両手を伸ばせば届く距離の窓に手を掛けて鍵を開けてよじ登って外に出る。

幸いと言うべきか否か、罠はなく寝床としているホテルまで無事に帰ることが出来た。

此処にも余り長居は出来ないだろう。

直ぐに、別の場所を探さなくては。

もう、後には引けないんだ。

証明しなくては………教授(プロフェシオン)の寿命が尽きる前に。

だが、組織から切り捨てられた私は、此れからどうすれば良いんだ?

頭を冷やして本来の冷静さを取り戻すようにしてシャワーを浴びながら、私は、この先の真っ暗な未来を想像していた。

 

(理子……)

 

今だ連絡の取れない友人を頭の隅で想いながら。

 

――なお、時を少し戻して、先程の呪いの男とある男装貴族の会話の一部

 

『トウヤマもう、充分だ。戻って来い』

 

『いいのか?……捕まえなくて?』

 

『目的を忘れた訳じゃないだろう?兎に角戻って来てくれ。話はそれからだ』

 

『…潮時か』

 

『何か言ったか?』

 

『いや、なんでもねぇ……分かった、直ぐに戻る……所で、あの笑い声は必要か?』

 

『何を言っている。『ベルセ』の君には欠かせない代物だろう?……まぁ、覚えてないだろうけど』

 

『意味が分からん。まぁ、良いや』

 

どうせ下らない理由だし。

そう付け加えて、ポケットに携帯を彼は閉まった。

 

所々小声のこの会話が、鼓動が激しく動いていたジャンヌに聞こえる筈もなかった。




そう言えば、新しくあるゲームのストーリーの更新が入ったんですけど、絶賛神父の所で積んでます。

……其だけ。


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41 不安だらけの作戦

皆様お久しぶりです。
寄越すところ2015年も後僅か。
特にサードインパクトも起こらず、スマホの画面外で春が訪れる事も無く、実に平和な一年でした。

…………(´;ω;`)グスン

来年こそは……来年こそは



思いだした。

先程あの白雪擬きが、カツラを此方に投げつけた時に見えた銀色の髪、あの氷の魔術。

間違いない。

てか、なんで忘れてたんだ、名前。

原作でも白雪を狙っていた、ジャンヌ・ダルクご本人じゃないか。

まぁ、思いだしたのは顔だけだが……そもそも他人の顔じたい覚えてることがまず無いので、此は此で大きな収穫だろう。

イ・ウーメンバーなら、エルから聞けば良いし。

 

「―――なるほど。魔剣はジャンヌの事だったのか」

 

「イ・ウーメンバー事はなんでも知ってるんじゃないのか?」

 

「外で勝手に呼ばれていた名前なんて此方で広まってる訳が無いからね」

 

「分かってる聞いてみただけだ」

 

「その点を考えると、君は良くジャンヌ・ダルクだって分かったね。……リュパン辺りかい?それともカツェ辺りかい?」

 

「まぁ、そんな所だ」

 

エルが不思議そうに聞いてくるが、此処はそう言う事にしておこう。

下手に変な事を言って、混乱させてもあれだし。

そもそも、前世で、見ててなんて言おうものならエル直々に精神病院送りなのは間違いない。

 

――俺、エル、窓の景色を見て此方と視線を合わせてくれない絶賛不機嫌な菊代。

この三人が、今回は俺の自室に白雪とアリアがいるため急遽菊代部屋へと集合した。

最も、荷物は俺の部屋な為、殆ど何も無く簡素なパイプ椅子に座ってホワイトボード向き合ってるに状況な訳だが。

 

「ねぇ、その前にさ聞きたい事が有るんだけど」

 

其まで、ずっと景色を見ていた菊代が俺と視線を合わせて不安げに言う。

 

「あんたのさっきの口調ってやっぱり」

 

「あぁ、なんでも俺のベルセの時のしゃべり方なんだと」

 

実際に其が本当かどうかは知らん。

そうなった事は一度あるが、どうにも酒が入ったように頭がクラクラと、それ以降の記憶は零、気が付いたら、色々と終わってると言う状況だ。

 

「そう」

 

菊代は短く答えてから何かをぶつぶつと考え込むように小声で何かを言う。

 

菊代が何故先程の鬼ゴッコの事を知っているのかと言うと、エルが俺のネクタイに仕掛けた小型カメラの映像をエルを押さえつけた上で見ていたそうだ。

やっぱり姉からは逃れられん。

地球の裏側まで行ったとしても、数分で追い付いて来るだろう。

 

「どうやら、あたしの心配のしすぎだったようね。良く考えれば遠山はヘッドショット喰らっても生きてるような人だもの」

 

「いや………流石に死ぬ」

 

だから、そうやって一人納得したと頷かんで下さい。

何処ぞのゾンビ高校生じゃ無いんだから。

 

「さて、何か良くわからないが、二人の問題が解決したようだし今後について話しても良いかい?」

 

エルが、ホワイトボードにキュキュと、油性ペンで文字を書いていく。

 

魔剣(デュランダル)の対策について』

 

そう書かれた箇所を蓋したペンでコツコツと軽く叩きながら

 

「二人は知らないかも知れないが、魔剣ことジャンヌはかなりの策士だ。用意周到で変装を得意とする。諜報に長けた人物だ」

 

「迂闊に近寄っては来ないわよね。まず真っ正面から襲って来ない」

 

「幸い変装の方は匂いフェチの遠山がいるから問題ないとして」

 

「別にフェチでは無いぞ」

 

遺伝だからね。

そっちの方が分かりやすいってだけだからね?

俺の抗議も空しくスルーされ二人は、どんどん話を進めていく。

 

「――つまり、白雪が一人になるタイミングが欲しい訳よ」

 

「確かに、このままではイタチごっこだ」

 

「いやちょっと待て!」

 

流石に、無視できない会話だった為の二人には異議を唱える。

 

「それこそ危険だろ!護衛してるんだろ?白雪から離れちまったら」

 

「落ち着きなさい遠山」

 

「あっ……」

 

菊代が、俺の手を両手で握り小さい子供に言い聞かせるようにして

 

「私達には、別の目的としてそのジャンヌの剣も手に入れなくちゃならないの。何も、目の届かない所まで離れろとは言って無いじゃない」

 

菊代の言わんとすることは分かった。

ようは、誘き寄せるって事か。

確かにそうゆうやり方もある。

あえて被害者を一人にして犯人を誘き寄せ捕まえるのは常套手段だ。

 

「わりぃ、動揺しすぎた」

 

肺の空気を入れ替えながら、頭を一旦冷静にして座り直す。

 

「無理も無いわ。……特にあんたわね」

 

「だが、シラユキにジャンヌの姿を見られる訳にもいかない勿論アリア、及び他の武偵にも」

 

「其を言うと、あんた達良くあんな派手にやってバレないものよね?」

 

「「うっ……」」

 

菊代のジト目に、二人そろって目を逸らす。

まぁ、確かにあの後、廊下が凍りつけのスケート場状態になってしまった訳で、其が周知メールで広まった訳だ。

現在、探偵科とSSR科が操作に当たってる状況だ。

 

「そ、其はそうと!」

 

エルが、半ば無理やりに話を区切り、俺にペンを向ける。

 

「今回の作戦では、シラユキを守りつつジャンヌに接触し剣を取る事が、今後の実績に繋がるとボクとキクヨの間で結論つけた」

 

あるはずの無いメガネをクイッと持ち上げる仕草をして更にと続ける

 

「今回の接触は、剣を所持していないため、悪魔で情報収集に力を入れていたと思う。だから、次は、あの騎士精神の高い彼女の事だ。次はリベンジしに来る筈だ」

 

「其処を一気にって事か」

 

「そうだ」

 

キュキュとまるで教師のように色々と黒い字で書き出して

 

「その為にも」

 

其処を何重にもグルグルとペンで囲んで其処を叩き

 

「君には、シラユキと二人きりになってもらうよ!」

 

力強く宣言した。

 

「なんでそうなる!」

 

其処に書かれていたのは

 

『ウォ○○ランド花火大会』

 

そう書かれていた。

色々とアウトだろ。

てか、これ、姉さんもグルなの?

チラリと隣を見ると、床に置いてあった鞄から、片耳タイプのイヤホンと祭りのチラシ其から、小型のカメラとマイクを渡して来ながら

 

「もう、あんたも分かってると思うけど、ユキちゃんが一番精神的に疲れてるの。このままだと、前のあたしの時よりも、ううん、一年の時よりも……病むと思うから」

 

「全力でなんとかします」

 

うん。もうだいたい想像ついた。

確かに白雪なら言っちゃなんだが、『どうせ殺される運命なら、あたしがキンちゃん殺してあたしも死ぬ!』とか言いそう。

アリアの時似たような事を言ったし。

 

「さて、その方法でなら、両方の問題も解決するとして、此でどういうタイミングで白雪とジャンヌを近づけるかと言うと」

 

エルが、何かを今後の作戦を説明している間で俺がいる気にしているのは手元の何この装備、精霊でも口説き落とすの?

と言うような、物一式と

 

「あ、因みに、その経緯に至るまでのシナリオはボクが手掛けているから、シラユキの身の安全は完璧さ。楽しんで来なよ」

 

「よし失敗するな」

 

「何で!?」

 

手元の、スケジュール表のような台本であった。

一言で言おう。

 

 

不安だ。

 

あぁ、けど一つ

 

「だったらよエル」

 

「ん?なんだい?」

 

保険を掛けておくとするか。

 

「その、ジャンヌ・ダルクの事について、手に入れて欲しい物があるんだが」

 

「あぁ、何でも言ってくれ」

 

ドンと余り無い胸を叩きながら自信満々に言うエルに

 

「ジャンヌの―――事を頼みたい」

 

そうお願いした。




今回は、短めです。
すいません。

また近いうちに更新しますんで。


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42 志願した汚れ役

遅くなりましたが、皆様明けましておめでとうございます。
家の大掃除中に、家族にネタ帳を見られてしまいました。
端から見たら完全に漆黒ノートです。
因みにおみくじは凶です。
大まで行かないだけ良かったかな。


あれから二日が過ぎ。

例の不安だらけの作戦の日となった。

その日は、昼過ぎから菊代の部屋での待機を命じられ、ハチ公の用に一人で待ち、すっかり日も沈んで来た頃。

耳に入れた小型のインカムから菊代の声が聞こえて来た。

 

『遠山聞こえる?』

 

「あぁ、バッチリとな」

 

服の襟元に取り付けられた小型マイクに少し顔を傾けて応答する。

 

『トウヤマ油断はするな。必要ならボクでHSSになっておくかい?君が言うなら、直ぐにそちらに向かうが』

 

すると、今度はエルに通話が変わりさらっと、とんでも無いことを言ってきた。

数秒その話に乗るかどうか考えてから

 

「いや、一応敵は、女性だ。怪我をしないようにする気は、無いんでね。平等主義の俺でいかせてもらう」

 

正直今日会うとは、思っていないが、HSSの本来の特性を考えると他人である女性も守ってしまいたいと言う考えが働く可能性もある。

其を理由に断ると、エルの明らかな不満の声が聞こえて

 

『では、純粋に楽しむと言うのはどうだろう?』

 

何処か妥協した感じを出して言い出した。

 

「ふざけるようなら切るが?」

 

『ボクは、何時でも真面目さ』

 

何処がだ。

てか少しも妥協してない。

もっと別のタイミングなら応じていたかも知れないがな。

此でも思春期。

そう言った話には興味が引かれるのだ。

赤の他人なら無視だが。

 

『まぁ、それはそうともう此方は準備が出来ている。ある程度の口実も作ってあるし、二人の安全も保証する……最も君がいる時点で安全だろうとは思うがね』

 

「だといいんだがな。………白雪は俺より遥かに強いぞ」

 

『それは、どういう『ほら、無駄話してないで早く来なさい』』

 

エルが何かを言い出すが、その前に菊代の急かす声が聞こえて来たので、其処で話は中断され、俺は駆け足で本来の部屋へと向かった。

 

 

―――もし、俺が鏡なら、世界で一番美しいのは誰?と、聞かれたらこう答えるだろう。

 

白雪です――と。

 

その直後に、怒ったら菊代による顔面パンチで俺の鏡の顔が粉々に割れる所まで、想像して、現実に戻って来る。

 

其くらい、目の前の幼馴染みは綺麗だった。

 

「どう?中々のセンスでしょ?」

 

菊代が、白雪の両肩に手を軽く置いて自信満々に言う。

着付をしたのは、菊代らしい。

 

「着物と言うのもまた、奥が深いものだね。今度のリハビリの参考になりそうだよ」

 

エルが、其に感想を言いながら、メモを取る。

どういう設定がエルの中で出来ているんだが。

 

「キンちゃん……その、ど、どう……かな?」

 

「どうって……」

 

白雪が、正座をして、不安げに此方を多少潤んだ目で見つめて、感想を聞いてくる。

今の白雪は、町を歩けば百人中百人が振り返りその姿を目に焼き付けようとするだろう。

清楚な白地に、撫子の花雪輪。

鴇色の帯は高さも形も完璧に。

アップに結った黒髪は、同じく撫子で揃えた花かんざしで留めてあった。

浴衣を着た白雪は江戸時代のお姫様が現代にタイムスリップしてきたと言っても、信じられるくらいだ。

 

 

そう、一言で言うなら。

 

「すんげぇ綺麗だ」

 

そして、美しいのだ。

 

「え、えへへ。そ、そうかなぁ」

 

「まぁ、在り来たりな感想だけど」

 

「此は此で良いだろうね」

 

両手をほんのり赤い頬に当て照れる白雪(うん。可愛い)と、肩を竦めて若干呆れる二人。

俺だって、もっと言いたいことあるっての。

ゴホンとわざとらしく咳をして、二人の方を向き直し、ちょっとした違和感を口にする。

 

 

「そう言えばアリアは?」

 

そう。

先程からアイツの姿が見えないのだ。

ホディーガードを買って出ておきながら、いないとは――まぁ、いたらいたでこんな場所見られたら厄介なんだが。

其でも、ここ数日部屋に居座り同じ釜の飯を食っていたと思うと妙に違和感がある。

何より、今のアリアが白雪から目を離すものだろうか?

 

『あぁ、大丈夫よ。上手く丸め込んでおいたから』

 

そんな疑問に答えたのは、菊代だった。

背を少し伸ばし耳元に口を寄せ小声で、俺だけに聞こえるように言う。

 

『少なくとも今日アリアは、この場にいないわ。後はあんたに任せる形になるかしら』

 

なるほどね。

どうやって、説得したのかは知らないが助かった事に変わりはない。

 

(間接的に接触………か)

 

果たしてそう上手く行くのか、いや、行かなきゃだな。

 

「し、白雪」

 

「ひゃい!」

 

ピョン!と正座のままジャンプし着地する白雪にスッと手を握手の形で出し

 

「二人から聞いてるとは、思うがまー、その、なんだ?息抜きに俺と出掛けないか?」

 

『ガッチガッチじゃない』

 

『深呼吸しよう。深呼吸』

 

後ろから苦笑混じりの評価とアドバイスが小声で飛んでくる。

俺だって、結構恥ずかしいの。

こう思うのも男の性と言うものだろう。

 

(HSSの俺なら最上手くやるんだろうけど、それは()()だもんな)

 

二人の言葉はスルー(深呼吸はするけど)して、白雪の方に目を向ける。

白雪は、ジッと俺の手を見て顔を上げて俺を見てから

 

「はいッ!」

 

パッと、花の咲いたような笑顔を此方に向けてきた。

俺は、白雪の手を握りしめそっと立ち上がらせる。

手を引いて、エスコートするように歩き扉を開ける。

振り替えれば、エルが親指を立てグッとサムズアップし、菊代が手を降る。

 

『其じゃ、遠山。後は確りね。ある程度のアドバイスと指示はするから』

 

その言葉に静かに頷き扉を閉める。

分かってる。

せめて、白雪にだけは『普通の日常』をこの学園だけでも送らせてやりたい。

白雪が巻き込まれる必要は無いのだ。

 

幸せそうに横を歩く白雪を見ながらそう決心する。

 

血で汚れるのは、俺でいい。

 

 

 

―――――遊園地からの花火を見る絶好の場所と、菊代に言われた場所は、目的地から少し遠い葛西臨海公園のもう少し進んだ、人工なぎさ。

遊園地と言う人に溢れはぐれる危険が高い場所よりは、安全で何より今後の準備に持って来いの場所だ。

 

『今の所、あんた達以外に人は零。……特に怪しい者もいないし隠れている可能性も低い』

 

少し面白く無さそうに、菊代が言う。

いたらいたで嫌だよ。

いや、いなきゃ困るんだけど。

だが、相手も人がいるところで襲おうと思うほどバカでは無いだろう。

仮にも誘拐魔である。

騎士とか言ってた気もするが。

 

(策士ってくらいだ。遠くから見てるくらいはしてるだろ)

 

――そして、菊代がこうして、周りを把握出来るのも、俺のネクタイに取り付けた小形カメラと、遥か上空を飛ぶクレフト作の、過保護な菊代が良く俺が出掛ける時に使っていた光屈折迷彩(メタマテリアル・ギリー)の無人小形ヘリだろう。

万が一の狙撃とかの時は頼むぞ本当に。

白雪は、誘拐対象として、俺は殺害対象だろうからな。

 

「やっぱり人いないな」

 

「そうだね……」

 

 

目的地の人工なぎさは、文字通り人工の砂浜だが、海水浴や釣り、バーベキューまでもが禁止されているので、花火を見る絶好の穴場であると、列車の中で耳のインカムから菊代による説明を受けた。

辺りは暗く近くで、波の音と、風の音がするくらいで少し不気味なくらい静かだった。

 

「す、涼しいね!キンちゃん!」

 

「そう……だな」

 

『あんたら……初対面のお見合いじゃないんだから』

 

分かってるよ―――ただ、辺りを警戒していただけだ。

決して、会話が続かないのは、緊張とかでは無い。決して。

 

「キンちゃん。………覚えてるかな?」

 

「何をだ?」

 

何処か懐かしむように海を見つめながら、透き通る声で言う。

 

「初めて私が、花火を見た時の事」

 

「忘れた事なんてねぇよ」

 

『菊代……すまんが一旦外すぞ』

 

『出来るだけ早く付けなさいよ』

 

スッと、白雪に見えないようにコッソリとインカムをポケットに仕舞う。

此処からは、俺と白雪だけが知る話だ。

前に病室でエルに少し言ったことはあるがな。

 

「あの時は御免ね。熱かったよね?」

 

「だが、お陰で花火を最後まで見ることが出来たじゃないか」

 

白雪が、物凄く申し訳無さそうに言うが白雪は悪く無い。

悪いのは、大人共に捕まってしまうなんて言うあってはならない、ミスをした俺だ。

小さい頃―――俺の記憶が正しければ、五歳の頃だ。

白雪と切っ掛けは、ほんの些細な世間話である。

その中で、その星伽神社のある、青森の花火大会白雪が、その花火を見てみたいと言って、じゃあ見ようと、ダンボール大好き軍人の如く大人から逃げ隠れして山の中を駆け回り、捕まってしまった。

その間、何とか見せる事は出来たと言えば言えるが、最ゆっくり見せてやりたかった。

反省の為と証して監禁された倉から、どうにか脱出出来ないかと、壁にタックルしたり、ちょっと台所から拝借した包丁を突き立て壁を切り裂こうとしたが、五歳の筋力じゃあ数ミリ行けるかどうかだった。

幸いと言っても良いのか、刃物の類いは、この世に産まれるよりも前、前世の頃から体が覚えてくれているらしく、持っていると、銃を持つよりも心強い。

そして、妙に安心出来る。

つまり落ち着く。

言い方が危ない人みたいだが、俺は断じて違う。

まぁ、持っていて便利であることに変わりはない。

鏡の変わりにもなるし刃物は、其一本あれば、人のいない場所でも其なりに生きていける。

捕まった時その喉元に刺しても良かったのだが、白雪にそんなショッキングな光景は見せられない。

後で、使えるかも知れないと隠し持っていたのだ。

その包丁の塚を踏み台に、飛んで天井にヤモリのように、高い壁にへばり付き窓ガラスを割って逃げようかとすれば金網入り。

包丁を床に突き刺し使ってテコの原理で、床を引き剥がして、包丁をスコップ変わりに土を掘れば直ぐに岩にぶち当たる。

包丁さんもビックリな使い方である。

 

そうこうしているうちに――倉が燃えた。

 

いや、待て。

俺が燃やしたんではない。

そもそも、火を起こす道具は持っていなかった。

では誰か?

 

白雪である。

 

白雪が手に持った包丁の刃は、赤く燃える炎に包まれ一本の火剣のと化して壁や天井を焼き斬ったあんな美しい光景を今でも忘れた事は無い。

 

「思えば、あれが白雪が初めて超能力(ステルス)を、使った日だったな」

 

「やっぱり、怖かったよね?」

 

「全然。寧ろ綺麗だった」

 

「え?」

 

 

――――ドンッ!

 

(始まったな)

 

驚愕に目を見開く白雪に平然と俺は言った。

その瞬間、夜空に咲く一輪の巨大な花火。

 

「……あの時は、俺がのったらちんたらしてた正で最後の一発しか見れなかったな」

 

あの時、その光景を見た後直ぐに我に帰りこれ幸いと、白雪をお姫さま抱っこの形で抱き上げ、火事場の馬鹿力と言うのだろうか?

そのまま誰にも追われず、別の場所に移ったは良いが、見れたのは、最後の特大花火一発だけである。

そもそも俺が捕まるなんて、ミスしなければ白雪は最後まで花火を見れたのだ。

 

「キンちゃんのせいじゃないよ」

 

白雪は、首を左右に振り俺の言葉を否定する。

 

だが、俺は白雪に花火を見たいと言う些細な願いすら叶える事が出来なかったのである。

それは、変わりようもない事実だ。

悔やんでも悔やみきれない。

 

「其に、嬉しかった」

 

さく、と砂を踏み励ます為なのか、ポツリと呟く。

その拍子に吹いた夜風が、白雪の結った黒髪を僅かに揺らす。

 

「あの時だけじゃない。何時も、私を星伽から出してくれた」

 

「お陰で要注意人物になっちまったぜ」

 

ガリガリと、ばつ悪く頭をかきながら、小声で答える。

その言葉は、花火によって白雪には聞こえない。

別に構わないんだけど

 

 

「あの花火を覚えてるから、良いの。今日だって、外に出るの怖くなかった」

 

「だが、白雪」

 

「キンちゃんが側にいるから。良いの何処だって行けるから」

 

「―――ッ!」

 

その笑顔は、本当に心の底から俺のことを思っている表情で

 

白雪……

 

俺は………俺なんか

 

些細な願いすら叶える事も出来ず、お前に見せられないようなこと沢山してきたんだ。

 

(姉さんの願いも遠く、白雪は遥かに遠い)

 

そして、普通は最遠い。

 

(今だ何一つ叶わん)

 

だが、せめて

 

「お前は、今より欲張りになって良い」

 

「キンちゃん……」

 

ガシッ!と白雪の小柄な肩に手を置く。

 

「万全とは、行かないが俺には組がある!菊代もエルも風魔も元ボクサーも地獄の獄卒も胡散臭い自称考古学者の鼠も自称、天才ゲーマーも赤の―――いや、灼熱の魔女二世すら此方側だ!」

 

菊代の背後には名のある奴等が集まった。

そんじょそこらのテロリストなんて単独で倒せるような連中。

戦力は、ある程度集まった。

後は知名度だ。

 

(イ・ウーを落とせば)

 

「後少しで、準備が整うそうすれば、直ぐに終わる」

 

大切な者達の願いも叶う。

其でハッピーエンドだ。

 

「だから、行きたい所があるなら遠慮せず言え!どんな手段でも家から出たくないって言うくらいうんざりするほど連れてってやる!欲しいものだって!食いたいものだって」

 

星伽の決まり?長年そうしてきた?知るか。

死ぬまでカゴの鳥?そんなこと言うやつは、俺が殺ってやる。

規則も法も日陰者の俺は知ったこっちゃない。

俺は、星伽じゃない白雪自身に言っているんだ。

 

「お前に『自由』を、今度こそプレゼントしてやるよ!」

 

 

改めて誓うように宣言した。

数秒、数分下手したら数時間だろうか?其くらいの長い静寂が訪れる。

 

「キンちゃん……本当にありがとう。私、今夜は嬉しくて眠れなさそう」

 

花火を見上げながら白雪が言ったので、俺は軽く顔を上げる。

そのさいに、浴衣の隙間から、黒い白雪の勝負下着が見えヒスらないうちに、目をそらす。

だが、永久保存はする。

 

「其処まで大層なことは、まだ出来て無い。ただ此処までブラブラっと来て」

 

「ぶら?」

 

「いや、何でも無い」

 

正直に言うと眼福でした。

 

「キンちゃんは、やっぱりキンちゃんだね」

 

「なんだそりゃ?」

 

下を向いて、何処か不安を圧し殺すように呟く。

 

「こないだ、巫女占札で占った時ね本当は」

 

「クソ兄貴に間抜けにも殺されるって出たんだろ?」

 

懺悔のように、下を向いて語りだした所から予想は出来た。

この話が来るだろうとは、薄々感じていた。

 

「やっぱりキンちゃん聞いてたんだね」

 

「………すまん」

 

確かに、盗み聞きしてしまった事に多少の罪悪感はある。

 

だが

 

「その予言は外れだ」

 

其処は譲れない。

 

「でも!」

 

心配そうに声を張り上げようとする白雪を手で制す。

 

「一番人気の強い馬が勝つとは、限らない。そいつが転倒して一番人気の無い弱い馬が勝つ事もある。戦場での大番狂わせなんて良くある事だ」

 

「これは、賭けなんかじゃ無いよ」

 

うっすらと涙を堪えて此方をジッと見てくる。

 

「賭けだ……昔からのな。俺の命とクソ兄貴の命どちらが先に散るか。散々殺り合った」

 

だから、あの予言は、決着を付ける時が近付いているのだと言う者なのだと思う。

もう何年も前から、準備はしてきた。

後は、間宮の事だけ。

 

「分かった」

 

「白雪?」

 

ジャリっと一歩一歩、踏みしめて此方へと距離を近づける。

もう、後一歩踏み出せば、唇同士が触れあう程に。

 

「キンちゃん……其なら、あの時見たいに誓って、外すって」

 

力強く白雪は言い、そっと、唇をほんの少し上向きにした。

もう意味は、分かる。

あの、青森の花火の時と同じく誓うだけ。

 

「確かに誓う。大穴を当ててやるさ」

 

「信じてる。キンちゃんは強いもの」

 

 

ドンッ!と、白雪のほんのりピンクの唇と合わせたと同時に、此れから始まる合戦の合図のように、花火が、打ち上がった。

 

 

 

 

 

(白雪、悪く思わないでくれよ?)

 

 

『遠山此方は準備完了よ』

 

暫くして俺は、白雪に『何か暖かい飲み物を買ってくる』と口実を作り白雪から少し離れる。

 

『俺の方はそろそろだと、思うんだが』

 

インカムからの菊代からの言葉に、辺りを警戒しながら答える。

丁度のタイミングで、俺が手にした白雪の携帯が鳴る。

先程の、誓いのキスの時に、無断でお借りしたものだ。

ロードローラに押し潰されるほどの罪悪感を感じながら、開く。

メールの内容は、予想通り脅迫文だった。

 

(やっぱり、来たか。ジャンヌ)

 

自然と、口許がにやけそうになる。

其を堪えつつ、内容をそのまま菊代の携帯に送る。

 

『うん。確かに届いたわ。此方もあの子が良い働きをしてくれてね。フフっ完璧な舞台よ』

 

『其は楽しみだ』

 

あの子と、言うのは恐らくアリアの事だろう。

さて、今回はどんな舞台(ステージ)なのか。

 

『トウヤマ!ボクの方もやっと手に入ったよ!この苦労はかなりの対価になるとは思わないかい!』

 

『あぁ。良くやった。こないだ出来なかったリハビリに上乗せだろ?』

 

『勿論!』

 

『また部屋が煩くなりそう』

 

菊代が楽しそうに語るのを、聞いてる限り中々の自信作なのだろう。

エルからも、嬉しいお知らせだった。

その、後の菊代の何処かうんざりとした声を最後に通信は切られる。

 

 

 

だが菊代………ジャンヌは

 

(俺の獲物だ)

 

 

 

共に踊ろうジャンヌ・ダルク三十世。

 

白雪宛の脅迫文を見ながら、俺は自分の携帯を耳に当てる。

この『通話』が、終わったら直ぐに白雪の元に向かおう。

 

 

何事もなかったかのように、白雪への脅迫文を削除し、ポケットの暖かいお茶のペットボトルをカイロ変わりに、俺はゆっくりと歩き出した。




活動報告にも書いたのですが、三月下旬頃まで休載とさせていただきます。
詳しくはそちらに書いてありますので、金次君が一体何者なのかとかも、もし宜しければそちらの方にお書き下さい。
興味が有りましたらお願いします。
パトラ戦くらいで明かすとは思うんですが。
名前は、恐らくボカしてしまうかと。

でも、必ず帰って来ます。
このような作品ですが今後とも宜しくお願いします。


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