私の体はどうやらナルガクルガになったようです (粉プリン)
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確認

これもう、(あと幾つ新作が増えるか)わかんねえや


どうも、突然ですが私はナルガクルガになっていました。まだそもそも私は誰だって思うでしょうけどね。ナルガクルガですよナルガクルガ、それも希少種。何を言っているか分からないと思うが、私も何を言っているのか分からない。頭がどうにかなりそうだった。不慮の事故とか神様転生とかそんなテンプレ物なんかじゃ断じてない。もっと恐ろしい物の片鱗を味わったよ……。

 

(と!ふざけるのはこのくらいにして。何処なんだろここ?体がナルガクルガに似てるから多分モンハンの世界だとは思うけど。友達と一緒に2ndから4Gまではやってたけど私下手くそだったからあんまり上位のモンスター知らないんだよね)

 

見た目はナルガクルガに似ていたが、よく見ると色が少し違った。首をひねって見える範囲内には今出ている月みたいな白く輝く白銀だし、これって噂に聞く亜種だったりするのかね?亜種は黒いのが強いと聞くけどね。それにそろそろこの世界の説明がないとどうやって生きていけばいいのか分からないよ……もう疲れたよパトラッシュ、ルール説明が欲しい……。

 

『月迅竜:ナルガクルガ希少種

 

性格は獰猛で攻撃的。体表の毛で月光を反射させ、更に周囲の霧に潜むことにより背景に違和感がないほど周囲の風景に溶けこむことが出来る』

 

(!……びっくりした。いきなり頭の中に声が響くなんて、もしかしてこれで念願の脳内オーダーが。まあ置いといて、にしても希少種?ナルガクルガって希少種もいたんだ。リオレウスとかリオレイアにしかいないと思ってた。しかも透明になれるなんて文字通りモンスターだね。まあそのモンスターになってるんだけど)

 

『なお、体細胞から空気中の水分を吸収しそれを霧散されることにより擬似的な霧を作り出すことが可能。また日中の太陽光の反射でも同化することが可能』

 

(……これ私のこと?月迅竜関係無いじゃん。水と光あれば光学迷彩モード維持できるじゃん。それなんて光合成?詐欺じゃん)

 

『また、食した物によって体細胞を進化させ体を文字通り作り変えていくことが可能。これによって各環境に適応することも可能』

 

(なんというグルメ細胞、確かナルガクルガって火が弱点だったよね?覚えてないけど、だとしたら火山がダメなのかね。希少種がどうかは分からないけど火炎草とか食べてたらいいのかな?どっかのテニスプレイヤーみたいに常時燃焼系になるのは勘弁だけど)

 

『進化は他のモンスターを捕食した時が一番成長率が高く、逆に植物はそこまで高くはない。無論、長期間食べ続ければ進化は十分可能』

 

(良かった。私どんくさいからあんまり狩りとか出来なさそうだし。というか面倒だし。というかこの体に違和感感じてなかったけど、普通いきなり四速歩行になったら戸惑うんじゃないの?もしかして私の順応度高過ぎ?)

 

『身体能力は通常の希少種よりも数倍の力を持ちこれらも捕食によって伸ばすことが出来る。また体内器官に特殊な物を持ち通常のナルガクルガには出来ない高度な動きも可能』

 

(ついに便利な脳内辞書となった謎の声。ファミチキください。なら私はなぜここに生まれたの?)

 

『……………………』

 

(自分の脳内ボイスに無視食らったわ。悲しい……けど感じちゃう……とりあえず行動しよ、ふざけるのも飽きてきたし。動かないとこんな世界じゃいつ殺られてもおかしくないですしお寿司)

 

そう思い身体を起こした。といっても四肢を地面につけて寝そべった状態から普通の四足歩行に戻っただけどね。どうやら高い場所にいるらしい。こんなエリアあったっけ?と記憶を探ると辛うじて塔の立ってるエリアがあったはずと思いだした。確か塔の上から飛び降りれないか試すためにクエスト一つを時間切れにした覚えがある。

 

(そういえば友達が古龍が倒せないとか言ってたけどここにも出るのかな?)

 

辺りにはモンスターの気配は無かった。もしあったとしたら死んでるだろうけどね。もちろん自分が。

 

(とりあえずはここを拠点にするとしてお腹も減ったし何か食べ物でも探しに行こう。寝て食べる子は育つ、身長ください)

 

そう思い立ち今いる広間の端まで来た。今更だけどものすごく高い。どれくらいかと聞かれたら真下の地面が見えないくらいには高い、高過ぎでしょうが……昔の人の建築技術は化け物か……

 

(確か身体能力は通常のナルガクルガの数倍だっけ。ゲームだとリオレウスとか見たいにゆっくり着地じゃなくて飛び降りてたけど、ここから行けるかな?着地してアシクビヲクジキマシター‼︎とかされても困るけどね)

 

しばらくウロウロしてたが仕方ない。根性で降りてみることにした。男は度胸だ、私女だけど。軽く後ろに下がり、助走をつけてダイビング。風を切ってまっすぐに地面に吸い込まれる。そのまま周りの風景を楽しむ暇もなくそのまま地面に着地した。痛い、文字通りビターンッと腹から地面に落ちてしまった。プールで飛び込みに失敗した時を思い出したよ。

 

(いっっっった……まだ慣れてないのかな。脚が正座した後みたいにビリビリしてる……お腹なんか中身出て来ちゃいそう……オェ)

 

着地できたことには変わらないので食料を探しに行くことにした。いつまでもこんなとこに居たくないしね。もう嫌、こんなところになんて居たくないわ!死にそう。が、

 

「おい、どうするんだよ……!」

 

「落ち着け、焦るな……!」

 

「そうよ……!まずは様子を探りましょう!」

 

目の前で三人のハンターの格好をした男女が武器を構え始めた為早くも雲行きが怪しくなってきた。死にそうなのは自分じゃなくて相手側だったか……南無三。



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新天地

目の前に敵意を持ったハンターが三人。なかなか危機的な状況だった。

 

(ヤバイよ、いきなりハンターにエンカウントとか私の運、低過ぎ?)

 

どうにか敵意はないことを伝えたいが私はナルガクルガ。当然人間の言葉なんて話せるわけがない。

 

(こうなったらちょっとだけビビらせて帰ってもらおう。うん、それにしよう。戦うのはあんまり好きじゃないし)

 

手始めに体から水分を霧散させて擬似的な霧を作り出した。相手はいきなり視界が悪くなったため戸惑い始めた。その隙に毛並みで月光を調節して体を見えないようにする。これで相手からはこちらが視認できなくなった筈。

 

(それにしてもここまでスマートにやってるなあ。やった事無いのに体が覚えてる感じで不思議だね)

 

三角飛びでハンター達の後ろに回りこむと息を吸い込み咆哮を放った。ナルガクルガの咆哮はバインドボイス(小)に分類されるが流石に後ろからゼロ距離で聞かされればハンター達も体を硬直させた。

 

(よしよし、次々)

 

硬直が解けたハンターが振り向く前にまたその場を離れて死角に回りこむ、そして今度は尻尾を叩きつける。もちろん当たらない絶妙な位置に。ただし衝撃で吹き飛んでいるがそれくらいは勘弁して欲しい。そんな感じでハンターを煽ってると向こうも余裕がなくなってきたようだ。

 

「おい!一回撤退したほうがいいんじゃねえか!」

 

「そうだな……この霧、そして姿を消す。間違いなくナルガクルガ希少種だ。今の俺達が狩れるような相手じゃない」

 

「向こうも様子見してるみたいだし退きましょう」

 

どうやらハンター達は撤退することに決めたようだ。

 

(良かった。上手く行った。このまま何か食料でもあればいいんだけど)

 

考えながら私は森の方へ飛び立って行った。しばらく飛ぶと緑豊かな森に出た。ところどころに川が流れていた。

 

(ここって何処だろう?適当に飛んできたからそんなに遠くないとは思うけど……)

 

さっきみたいな事にならないように今度はある程度まで羽ばたきながら降りたあとに着地した。辺りにはモンスターはいなさそうだ。

 

(まずは食料確保だね。それからここが何処だがわかるようなものを探そう)

 

 

ーーーーーー

ーーーー

ーー

 

 

(おぉー、あったあった)

 

しばらく木の根元や水辺を探してると木の実や茸を見つけた。食べてみると茸の方はなんか不思議な味がした。だが、問題は木の実の方だ。口に含んで噛んだ瞬間いきなり実が弾けだした。口の中でパンパン爆発して口の中がヒリヒリしている。

 

(さっき食べたのってはじけクルミだったのかなぁ。あんなに弾けるなんて知らなかったよ。今度から気をつけなきゃ)

 

他にも食べれるものがないか探してると遠くに蜂の巣を見つけた。この体になる前、甘いものが大好きだった為蜂蜜を見た瞬間駆けだそうとしたが視界の端に青いものが映ったため反射的に姿を隠した。青いのは熊のような形をしたモンスターだった。

 

(アオアシラ……)

 

青熊獣と呼ばれるモンスターで主にユクモの地に生息している。

 

(てことはここ渓流だったのか。そんな遠くまで来たんだ)

 

アオアシラは食事を始めた。私もおこぼれに預かれないかな?と思いながらゆっくり近づいてみた。向こうはこっちに気づいてないのか蜂の巣に頭を突っ込んで蜂蜜を舐めていた。まあ気づいていないならいいやと思いつつ脇に転がっていた蜂の巣のかけらを頂戴した。

 

(甘ーい!やっぱり甘いものはいいね!)

 

そんなふうに食事をしてるとアオアシラが突然逃げ出した。こっちに気がついた?と思ったがどうやら違ったらしい。後ろからバチバチ火花のような静電気のような音が聞こえたからだ。振り返ると二本の短い角に蒼い甲殻と白い毛を生やした狼がいた。

 

(よりによって本日のモンスター二頭目がパケモンスターですか。やっぱり私の運低すぎじゃね?)

 

逃げようかどうか迷ってると、向こうが飛びかかってきた。仕方が無いためバックジャンプで躱した後霧を出し姿を隠した。

 

(そういやナルガクルガって遠距離攻撃出来たよね?)

 

尻尾に力を込めるとなんか刺が逆立ったような気がした。そのまま振り回し勢いをつけて棘を前にぶん投げた。

 

ドガガガガガガガガガガガガ!

 

(……なにこれ?散弾銃?)

 

目の前一面が棘で埋まっていた。こんだけ撃ったら尻尾がハゲると思ったがどうやら無事のようだ。ジンオウガの方も避けたらしいが幾つか脚に棘が刺さっていた。

 

(流石だなぁ。あの程度じゃやられはしないだろうしどうしよう)

 

と突然ジンオウガの体が崩れ落ちた。呼吸も乱れているため何かあったのは明白だ。

 

(えっ?どうしたの急に。もしかして何かしちゃった?……まさか私の棘?)

 

よく見ると棘の刺さっている場所から血が異常な速度で流れだしていた。

 

(もしかして出血とかいう新しい状態異常でも増えたのかな。不味いなあ、無闇矢鱈に殺す気はないんだけど。助けようかな)

 

とりあえず、刺さっている棘を噛んで引き抜き、近くで見つけた薬草見たいなのを口の中で噛み潰した後、舌で傷口に塗りつけた。何してんだゴラァ!みたいな目で見られてるけどこれくらい勘弁してよ。応急処置(にもならない)が終わるとジンオウガはふらつきながら去っていってしまった。ふらついてたのは血が抜けたから一時的な貧血になってるだけだと思う。

 

(私が知らずにやったことだけど死なないといいな)



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謁見

昼寝して目が覚めたら目の前にジンオウガがいた。唐突過ぎて、一瞬刃翼で先にやるべきかと悩んだが脚に刺し傷があるのを見て、先程のジンオウガだと判断した。

 

(良かった。歩けるくらいには回復したんだ……いやこの状況は良くないけど。なに?復讐?寝てるうちにさくっとやっちまおうって事?)

 

ジンオウガは全く動かずにこちらを見た。と思うと鼻先を地面に向けた。よく見ると蜂の巣のかけらが落ちてた。ひょっとしてこれを持って来てくれたの?

 

(……なんか、勝手に怪我させて、勝手に治療して、その挙句お礼もらうって詐欺じゃない?)

 

蜂蜜は美味しくいただきましたけど。さてと、これからどうするべきか。

 

(ここが渓流ならさっきみたいにハンター達も来るだろうからさっさと戻るかな?お腹も膨れたししばらくは塔で暮らせばいいよね、その後引っ越そう)

 

そうと決まれば長居は無用、さっさと帰ろう。ジンオウガがどこ行くみたいな目で見てるけど帰ろう。

 

 

ーーーーーー

ーーーー

ーー

 

 

(うわぁ……でっかい)

 

日が暮れる頃に塔に帰ってくると最上階で雷が落ちまくってた。遠目でも見えるくらいの大きさの真っ白な龍がハンター達相手に戦っていた。

 

(寝床がなくなったわ。どうしよう今晩)

 

すると真っ白な龍がこちらに気づいたのか目だけ向けて来た。

 

(丁度いい!そこのお前!手伝え)

 

(えっ?……あっはい)

 

なんで喋れるの?とか、そこ私の寝床だよね?とか質問はあったが逆らったらヤバそうな雰囲気だった為、真面目に援護しよう。やっぱり格上には勝てなかったよ。

 

「おい!乱入来たぞ!」

 

「嘘でしょ?!」

 

「ギルドはそんなこと言ってなかったぞ!どうなってやがる!」

 

「口動かす暇があるなら手を動かしなさい!」

 

いつも通りステルスして今回は尻尾で足元をすくうように薙ぎ払った。三人は避けたが残りの一人が転び、そこに雷が容赦なく襲った。えげつねえ……ハメ技でしょ。

 

「大丈夫か!くそっ、一旦退くぞ!このままじゃ全滅だ」

 

(私に手を出してやすやすと返すと思ったのか!ここでやられろ!)

 

ずいぶんハイテンションな真っ白な龍が次々雷を落とす。これじゃあ終わらなさそうだからバレない程度に尻尾で怪我人を担いでるハンターを薙ぎ払い出口近くに飛ばした。もちろん手加減したよ?

 

「チャンスだ!逃げるぞ!」

 

どうやら上手く行ったらしく、ハンター達はそのまま逃げていった。

 

(逃したか。まあいいだろう。これで私の恐ろしさが十分理解できたはずだ)

 

(あのー……)

 

(ああ、お前も助かった。手助け感謝する)

 

(あ、いえいえ。ところで貴方は?)

 

(私は祖なる龍、ミラルーツ。名をアンセスと言う。お前は何だ?)

 

(えっと、ナルガクルガ希少種です。名前は……ないです)

 

(すると、まだ生まれたばかりという事か?いや、先程の戦いでは十二分に動けていた。単に名前がないだけか?)

 

言えない、元人間で気がついたらここにいたなんて言えない。

 

(多分そうだと思います。親も見た事がないので)

 

(そうか、なら私が名を贈ろう。手助けの礼だ)

 

(あ、有り難うございます!)

 

(そうだな……シロとか)

 

(本気で言ってます?)

 

流石にそれはネーミングセンスなさすぎだろ。

 

(冗談だ、月の色に輝く……Luminous。ルミナスはどうだ?)

 

なんかプリ○ュアに出てきそうだけど気にいった。

 

(どうやら気に入ってくれたようだな)

 

(はい!有り難うございます)

 

ところで一番の疑問だけど

 

(ここって貴方の寝床ですか?)

 

だとしたら出て行くことに高確率でなりそうだが、どうやら違ったらしい。

 

(違う、私は普段はシュレイド城に住んでいる。ここから見る月景色が綺麗でな。偶にここに来るのだ)

 

(そうだったんですか)

 

(心配せずともお前の寝床を奪ったりなどしない。ではさらばだ、また会おう)

 

(はい、さようなら)

 

アンセスが帰った後いつもの場所で眠った。

 

(雷でぼこぼこして寝辛い……)



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発見

次の日の朝、起きて昨日と同じく渓流に来てみたらまたジンオウガがいた。たぶん昨日助けたのと同じ子だと思う。考えてると向こうもこっちに気づいたらしく口に何かを咥えながらこちらによってきた。

 

(……蜂蜜?)

 

ジンオウガが口に咥えていた蜂の巣を地面に置くとそのまま去っていった。訳がわからないがラッキーだった事にしておこう。その日は蜂蜜を食べて他にも茸などを食べた後ちょっとした高台の上で昨日と同じく昼寝をした。しばらく寝てると辺りが騒がしくなってきた。高台の上から覗くとドスジャギィを筆頭に鳥竜種が何頭もこちらを見てギャアギャア騒いでいた。

 

(五月蝿いから静かにして欲しいんだけど……てかその蜂の巣は何なの?今朝もジンオウガが持って来てくれたけどなにか意図があるの?)

 

聞いても答えてくれない。どうやらアンセスと違って意思疎通は出来ないらしい。幸いこちらが起きたことに気づくとそれぞれが別方向に帰って行った。

 

(何だったんだろう。この蜂の巣はどうするの?私に食べろと?嬉しいけど流石に蜂蜜ばっかりじゃ飽きそうなんだけど)

 

時間も丁度いいから頂くけど。口の中が甘ったるいからなにか刺激物でも食べに行こう。その場から飛び上がりしばらく飛んで小川の側に来た。

 

(確かハレツアロワナとかそんな感じの魚がいたっけ……どうやって魚取ろう?)

 

今更だが手が大きすぎるため、例え魚を掴んでも持てないし、押さえつけただけでぺちゃんこだろう。どうしようか悩んだ結果、誰かが取ったところを少し頂戴することにした。どの道自分じゃ取れないしそれしかない。なので近くの茂みに隠れ、念の為ステルス状態で隠れることにした。

 

(……………………暇だなぁ)

 

こう、食事の後に麗らかな日差しの下でじっとしてると眠くなってくる。この体になってから基本的に食事をする時以外はあまり動かなくなっていた。たまに運動はするがそれも稀なため日中は寝てることが多かった。その為今回も対した抵抗もなく寝てしまった。

 

(………………ぅっ?今何時くらい?………夜だわ、そこまで寝てたのか)

 

起きると辺りは真っ暗になりもう少しで月がもう空に輝く時間帯になっていた。静けさがその場に漂い、虫一匹いない……いたわ。雷光虫が何匹も飛んでいた。ん?雷光虫?

 

(うっそん、またですか)

 

背後にはお馴染みのジンオウガがいた。しかもなんかバリバリしてた。本気モードじゃん、戦ってきたの?もはやストーカーなのかと思うが当の本人?にその気はないのだろう。現に私の足元にはいつの間にかまた蜂の巣が置かれていた。

 

(一日三食蜂蜜はやだな流石に。もっと魚食べたいんだけど……取ってくれないかな?)

 

水辺に行きそれとなく魚を掬う真似をするが、じっとこちらを見つめるだけだった多分というか絶対わかってないと思う。

 

(しゃーない、蜂蜜で我慢しよう。好き嫌い言ってられないし)

 

蜂蜜を食べた後、ふとジンオウガを見るとさっきの水辺を覗きこんでいた。覗くだけで帰っていったけど。

 

(私もそろそろ帰ろうかな?でももう暗いし今日はいつもの高台で寝るかな?そろそろ引っ越ししようかと思ってたししばらくこっちにいよ)

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

古龍観測隊からギルド本部に連絡

 

渓流にて未確認のナルガクルガを確認。おそらく希少種と思われます。ユクモにナルガクルガ希少種が来たのはおそらく初めての事なので特徴のみ記載して送ります。対象は月色の毛並みをしていて体から霧を出し体色を周囲と同化させることが出来るようです。他にも、このナルガクルガに近づこうとするハンター達から守るようにジンオウガが戦うような場面を目撃しました。これもこのナルガクルガの能力かもしれません。

 

 

ギルド本部より古龍観測隊に連絡

 

確認しました。それはナルガクルガ希少種で間違いありません。守るような行為に関しては特に情報はありません。おそらくその個体独自のケースだと思われます。調査や危険度の把握の為上位ハンター用に依頼を発行しました。そちらも観測を引き続きお願いします。

 

 

クエスト名『月光流星』

 

依頼者:ギルド本部

クエスト内容:渓流にて未確認のナルガクルガが確認された。本部はこれをナルガクルガ希少種と断定しこの個体の調査を頼みたい。なお、このナルガクルガを守るように周囲には大型モンスターの存在も確認されている。ナルガクルガ希少種自体も相当の実力を秘めているだろう。十分に安全を確保した上で挑んでもらいたい。

 

契約金:350z

報奨金:7000z



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変化

ここ数日、この渓流に居を構えてみた(高台で寝ただけが)が、色々と変化があった。まず朝昼晩に関わらず他のモンスターが食糧を持って来てくれた。そしてジンオウガが魚を取ってくれたのだ。ドスジャギィが吠えているところに現れて魚を置いてくとそのまま去っていった。後ろ姿が格好良くつい惚れそうになったが、よく考えるとそこまで惚れる要素はないだろう。こうして飢えることはなくなり有り難いのだが流石に毎日持って来られると自分の体力諸々も低下すると思い朝昼は自分で狩りをしている。ここ最近は肉にも手を出していた。といってもガーグァやケルビだが。はじめはグロテスクだったが食べているうちになんとなく慣れてきた。この体になったことで価値観なども変わったのだろう。殺しに関しても重たく捉えることはなかった。だがそうすると皆が持ってくるものが溢れる為それとなく首を振るなどして伝えてみた。結果数が減ったが種類が増えた。茸や魚、木の実にどこから持ってきたのか分からない果物まであった。てか未熟なバナナだった気がする。誰かがジャングルまで行ったのだろうか。ほんとスイマセン。

 

更にハンター達もやってきた。一回目は水浴びに川に降りた時に遭遇。すぐにドスジャギィ達が来たためその場は譲った。二度目は昼寝をしている最中に頭に振動が伝わり起きると目の前にハンター達が三人ほどいた。どうやらハンマーで叩かれたらしくずいぶん石頭になってるのが確認できた。そのご適当にあしらってるとジンオウガが来て、そのまま私は怪我をしない程度に攻撃してただけで三人共リタイアしていった。

 

そして一番の変化が自分の体だった。ここ最近肉を食べ始めたおかげか筋肉が随分ついた気がする。体が細く小さくなったのに内側はみっちり筋肉が詰まっていて、体力も相当伸びた。

次に、尻尾の棘に状態異常のようなものが増えた。ブルファンゴを仕留める時に棘を当てたら、血が流れるのではなく急に倒れたと思ったらいびきを掻き始めたのだ。さすがに驚いたが前に脳内辞書が言ってた、食べる事で進化するっているのはこの事だったのか。他にも麻痺が有るらしくまだ完全に制御出来たわけではないが、ぼちぼちこれは練習するとしよう。

最後だが、毛並みがだいぶ変わった。これまでは月白色の薄青のかかった白だったが今は完全に真っ白になった。そのため目立ってしょうが無い。獲物に近づくときも常時ステルス状態でいないとすぐバレてしまう。最終的にステルスで狩るためかわりはないが。むしろステルス状態でいられる時間が伸びたためいい練習になったと言っておこう。

 

(暇だなぁ………)

 

そんな訳で最近は朝起きて軽く運動した後狩りに出かけ帰って睡眠。昼に起きてまた狩りに出かけ帰って昼寝。また夜に起きて皆に貰った物を食べて就寝。と健康なのか不健康なのか分からない食っちゃ寝生活になってた。

 

(なんかないかな………と)

 

なんか地面が震えた気がした。気のせいかと思い目を向けると遠くから何かが走ってきていた。一瞬ジンオウガかと思ったけどジンオウガが走った程度じゃ地響きは起こらなかった。第一あれは二足歩行で走ってるからジンオウガではないだろう。

 

(わーお……でっかい)

 

いたのはまるでジュラ紀の恐竜みたいなモンスターだった。確か、トモダチについていった時に乱入クエスト出てきた奴にそっくりだった。

 

(何だっけこいつの名前……い…イジ、イリ……分かんないからゴーヤでいいや)

 

ゴーヤはこっちを睨みつけると低い声で唸ってきた。舐められてるのか分からないが食べられる事にはなりたくないので、こっちも咆哮で先に威嚇した。

 

「GYAAAAaaaaoooo!」

 

(私の咆哮ってこんなに大きかったっけ?前はそんなでもなかったのに。喉の力も強くなったのかな?)

 

咆哮が効いたのかゴーヤがふらついてるが直ぐに感覚を取り戻したらしく結局振り出しに戻った。と思ったらみんなが置いて行った食料を一瞥した後どこかに行ってしまった。助かったがもう二度と来ないで欲しかった。さすがに今ゴーヤさんに襲われたら勝てる気がしないわ。

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

古龍観測隊からギルド本部に連絡

 

先日報告したナルガクルガ希少種についての情報です。前回よりも体色が更に白に近づき、狩りをする時はほとんどステルス状態な為まるで獲物が自殺をしているようにしか見えない状況です。また常にナルガクルガの周りにモンスターが寄り付き、食料を与えるという行動を起こし、近づくハンターを撃退する行動が目立っています。最近はイビルジョーの存在も確認出来たためますます危険度が上がりました。

 

 

ギルド本部より古龍観測隊に連絡

 

了解しました。危険度をこちらで考慮した結果、依頼を受けられるハンターをGのみに限定する形になりました。また、他の地でこのようなモンスター同士の関係を築くならば危険度が跳ね上がる為これからの動向に注意してください。



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移転

(そろそろ別の場所に行ってみようかな……)

 

ここしばらく渓流で過ごしてきたけどそろそろまた引っ越ししても悪くないと思ってきた。渓流の景色に飽きてしまったわけではないが、流石に四六時中同じものを食べていると食の方で飽きが回ってきた。

 

(次行くとしたらどこだろうな。個人的に寒いのは嫌いだから凍土とか氷海は後回しにしたいな。とすると選択肢としては熱いところか涼しいところの二択か)

 

砂漠や火山もいいが、やっぱり孤島もいいだろう。水没林も意外に有りかもしれない。

 

(よし、次誰が来るかで決めよう。ジャギィ達で孤島、ジンオウガで火山か砂漠、大穴のゴーヤで水没林だね)

 

と決めたはいい物の誰も来る気配がなかった。ここ最近は毎日朝と問わず誰かしら来てたのでこうして昼まで誰も来ないのは初めてだったりする。

 

(なんかあったのかな?まさかまたゴーヤが暴れてるのか?)

 

この間、イビルジョーがまた何気なく来ていたときにタイミング良くジンオウガが来た。そこから一気に場の空気が悪くなりゴーヤは口から黒い煙を吐き、ジンオウガは体中に雷光虫を纏い始めると言う一触即発状況になった。その時はさすがに不味いと思い一回本気で咆哮した結果、双方大人しくなってくれた。

 

(おっ、誰か来た。二足歩行だし地響きはなってるし緑だからゴーヤだったよ。まさかの大穴的中だね)

 

と思ってた時期が私にもありました。

 

(でっかい……てかもしかして私って大型モンスターの中じゃ結構小さめの方?凹むわ)

 

やって来たのは大きな丸目の体をし、尻尾に大きな丸槌を生やして背中にコブをつけたモンスター、ドボルベルクだった。

 

(どうしよう。こんな巨体になんか踏まれただけで即終了だよ。なんかこっち見てるし何かしたかな?)

 

ドボルベルクがこちらの目をじっと見つめると高台の前に居座りそのまま眠り始めた。襲ってこなくて安心したが結局何が目的かわからないため悩みは消えなかった。

 

(まあお腹も減ったしそろそろ狩りに行きますか。ドボルベルクはこのまま眠りっぱなしだろうし平気でしょ……だよね?)

 

不安だがこのまま行こう。それに確かドボルベルクは腐った木とかを食べるし肉食ではなかった覚えがあるから、高台にはコケ類しか生えてない岩場だから平気でしょ。そう思い昼食に向かった。

 

 

ーーーーーー

ーーーー

ーー

 

 

(そう言えば結局誰も来なかったけど行き先どうしよう。あそこでドボルベルクが来るなんて予想不可能だし大穴も良い所だったからね)

 

食事後しばらく大雑把に考えた末、砂漠に行くことにした。ここでどうにか寒さに対応出来るように体を進化させることが出来れば御の字、出来なかったとしても暑さに慣れれば火山にも行けるし、ダメならさっくり諦めて孤島か水没林にでも行こう。

 

(そうと決まれば早速準備……するものもないから行こうと思えば今からでも行けるんだよね)

 

でもしばらくはここに来ないわけだし、明日の朝に出ることにしよう。今日は最後の渓流だからのんびり過ごそう。

 

 

 

 

 

 

(みんな予知能力でも持ってるのかな……タイミング良すぎでしょう)

 

次の日の朝早くに起きた私は朝日を眺めたあと出発しようとしたが、そこにタイミング良く鳥竜種のみんなやジンオウガ、ドボルベルクに更にはイビルジョーが集まりちょっとしたお祭り状態になってる。なんか柄にもなく感動して涙でも流しそうだけど、ここで流されちゃ駄目だと思い直し一気に羽ばたいた。

 

(絶対にまた来るからねー!約束するよ!)

 

聞こえてないだろうけど心の中で大きな声で叫びながら砂漠の方向に向かって飛び立つ。後には渓流に響くような大合唱をするモンスター達が残った。

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

古龍観測隊からギルド本部に連絡

 

恐れていた事態が起きたため報告します。今日の朝方、突如モンスターが一箇所に集まり始めた後一斉に咆哮し出す事態が発生し確認した結果、砂漠に向かって飛ぶ白い物を確認しました。おそらくあのナルガクルガ希少種だと思われます。渓流はナルガクルガが消えた後、いつも通りの静けさとなっています。巡回ルートを砂漠に移し引き続き観測を行っていきます。

 

 

ギルド本部より古龍観測隊に連絡

 

了解しました。本部は今回の件で正式に討伐依頼を作成することになりました。改めてクエストの再発行と同時に砂漠に向かうクエストに注意を促し、常にモンスターの行動に気を払うよう呼びかけを継続します。そちらも何か気づいたことがあればすぐに報告をお願いします。

 

 

クエスト名『砂漠の白き女王』

 

依頼者:ギルド本部

クエスト内容:先日まで渓流にて確認されていたナルガクルガ希少種が砂漠へと居を移した。これにより渓流の時同様砂漠の小型大型モンスター問わず、彼らが活発的に動くことになるだろう。これらに十分に注意し白の女王を狩れ。

 

契約金:650z

報奨金:13500z



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環境

(やっぱり暑いなぁ……砂漠だから当たり前だけど、これじゃ日陰から出たくなくなるよ)

 

現在私は砂漠の洞窟の中に寝そべり日が落ちるのを待っていた。容赦なく照らしてくる砂漠の太陽に私もやられ、こうして日陰で体力を無駄遣いしないようにしているほか無かった。

 

(そもそもここって水分少ないから霧が作れないじゃん。選択肢としては外れだったか)

 

渓流と違い一面砂しか無い砂漠では自分で霧を作れず日が落ちてから試してみるしかなかった。それまでは目立って狩りもできない。が、飢える心配はなかった。

 

(おー、ホントに有難う。助かるよ)

 

渓流の時と同じようにジャギィ達が木の実や茸を持って来てくれた。ジャギィ達なら渓流にいた子がここにいてもおかしくないと思うけど、さっきはボルボロスが来たしなんか自分が王様のように思えてきた。

 

(王様じゃ語弊があるか、自分は女の訳だし。とするとさしずめお姫様……ないな。女王様ってとこか。憧れてたって言えば憧れてたけどこんな形で叶うとは誰も思わないよ)

 

日中は動けないため至極助かるが、助かりっぱなしなのも悪いので今度何かしてあげよう。出来ることは限られてるけど。

 

(そろそろ日も落ちて来たことだしぼちぼち動き始めますかなぁ)

 

辺りも薄暗くなって来たため行動を開始した。まずは洞窟から出て見た。昼間と違い冷えるような寒さを感じる。体調を崩すほど酷くはないけど。霧を出してみると問題無さそうだった。ただ足場が砂の為思いっきりジャンプする事は難しそうだった。早くこの土地に慣れないと。

 

(まずはリノプロスでも狩って食事と足場の適応だね)

 

場所を移動しステルス状態で砂漠の真ん中に移動するとちょうどリノプロスを発見した。そのまま気付かれないように飛びかかろうとした。その時地面が膨れ上がり、リノプロスの下から巨大な口が現れた。

 

(ハプルボッカだ……かなり大きいな。私だったら丸呑みできるんじゃないかな?そこまで私も小さくはない……筈)

 

ステルスを解くといきなり現れた私に驚いたのか潜ってどこかに逃げてしまった。まぁこれが普通の反応だろう。むしろなんの躊躇もなく近づくジャギィ達が不思議すぎるのだ。何故ここまで他のモンスターに好かれてるのか分からない。

 

(……他の場所探そう)

 

だが結局その夜は他に目ぼしい獲物はおらず、日中いた洞窟で朝まで寝ることにした。朝に何か狩れればそれでいいや。

 

 

ーーーーーー

ーーー

ーー

 

 

(こうなる運命なのか……)

 

朝起きて、いざ狩りに出発しようとすると地面からハプルボッカが出て来た。と思えば口からリノプロスの死体を出した。傷が少なく腐敗や消化が始まってない事から今朝取ってきたものだと分かったが、昨日やっと普通の子に会えたと思ったらと思うと少し悲しくなった。

 

(何故みんなそうなるんだ?これはもう諦めたほうがいいのかな)

 

何故かは分からないが私に出会った出会ってないに関わらずモンスターが寄ってきて食料を与える。なんかまんま女王様状態だけどモンハンでこんなのいたっけ?クルペッコがそれっぽいけどあれは同じ鳴き声で誘導してるだけだし……

 

(……諦めよ。人生適度に諦めが肝心って誰かが言ってたし。これは体質、仕方がないこと)

 

今はとにかく持って来てくれたリノプロスを食べよう。腹が減ってはなんとやらだ。



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怪我

ここ最近この辺りが物騒になって来ていた。理由としては一つにハンター達が来たことが挙げられる。何故か私を見つけると積極的に絡んで来るようになった。渓流にいた時は遠くから見るか、適度に腕を測られてるような感じがしたが、今はまさにガチ装備で殺りに来てるようなものだ。おかげで昼寝もおちおち出来やしない。

そしてもう一つの理由だけどこっちの方がやばい。明らかに不味い。色々な意味で。

 

(遠目で見ても分かるのに近くだと本気で怖いなぁ……)

 

自分が寝てる眼の前で黒い龍が二頭、ブチ切れてる状態で立っていた。先程からハンターが来るたびにこのディアブロス亜種とティガレックス亜種が戦っていた。といっても突き上げてからの轢き逃げコンボで全員リタイア状態だが。この二頭に関してはハンターが名前を読んでたので助かったがいい加減ゴーヤの名前が欲しい。いつまでもゴーヤだとそのうち海に潜水しだしそうだ。

 

(と言うか寝れない原因って単純に五月蝿いだけなんじゃ……守ってくれてるし感謝するけどさ)

 

何が気に入らないのかは分からないがここに来て初めてハンターと戦っている時に地面と空からこの二頭が現れた。当然ハンター達の方が驚きは大きいだろう。私だって2ndのパケモンスターの亜種と2ndGのパケモンスターの希少種と砂漠のマ王の亜種なんかが同時に来たらゲーム機ぶん投げる自信がある。

 

(そろそろ日も落ちる頃だし狩りに行こう)

 

そろそろ食事に出かけよう。ここのところ殆ど動かないから少しは運動したい気分だった。食事をするだけで体は成長し進化するらしいが、それでも気分的な問題があった。

 

(さてと、どこかに獲物はいないかなっと………ハンターかな?でもそれにしては人数多いな)

 

砂漠の向こうから人影が出てきた。後ろに馬車のようなもので何かを運びながら大人数がこちらに来た。とうやらハンターでもなければ行商人という訳でもなさそうだ。

 

(なんか……怪しいな。君子危うきに近寄らずってね。無視してこのまま食事に行こう)

 

しかし集団は私が迂回しようとすると明らかにこちらに向けて進路を変えてきた。しかも近づいてきた事によって後ろに積んである物が見えた。

 

(……おかしいな。私の目が疲れてなければさっきのアレ、檻だよね?あれハンターじゃなくてもしかして密猟?)

 

なんだかマッハで面倒な空気を感じ取ったが今ここで帰ると住処までついてきそうだった。

 

(ここであしらってさっさと帰ろう。そのうち寝不足でぶっ倒れそうだわ)

 

密猟団は私からある程度離れた場所に着くと後ろの馬車から何かの部品を下ろした。そしてその場で組み立て始め一分もすると形が見えてきた。

 

(あれどう見てもバリスタだよね。持ち運び式のが合ったんだ。流石にゲームとは違うんだね。というかあれどうしよう。撃ち込まれたら対処出来るのかな?刃翼で斬り飛ばせるならいいけど)

 

そうこうしてる間に簡易バリスタが完成し槍も装填し終わったらしい。がよく見ると密猟団の更に後ろから黒い影が二つ程走ってくるのを見て察した。

 

(すいません、密猟団さん達ご愁傷さまです)

 

そのまま二頭が暴れまくって、終わりかと思ったが一人がディアブロスの方に向かってバリスタを撃ち込んだ。流石に古龍用の兵器を食らったら不味いと思い、ディアブロスにタックルする形で躱そうとしたがここで久しぶりに私の悪運がクリティカルした。

 

(いっだぃ?!)

 

バリスタの先端部分が尻尾の付け根に刺さり尻尾をちぎり飛ばしてどっかに飛んで行った。流石にこれは痛すぎてやばい。今までまともな怪我したことなかった身にとっては部位破壊レベルの怪我は酷く、行動に支障が出るほどだった。幸い残りの密猟団は片付けたらしくバリスタの破片がそこらに転がってるが。

 

(凄く痛い……冗談とかなしでこんな痛いんだ。もうゲームで部位破壊狙うのやめよう)

 

なんとなく千切れ飛んだ自分の尻尾を回収して洞窟に戻った。

 

(本当に災難でした。もうしばらく引き篭もろうかな。あぁ狩りも出来なかったからお腹空いたな……自分の尻尾でも食べようかな。美食家さんも自分の体は美味しいって言ってたし)

 

尻尾を食べてると痛みと空腹でそのまま寝落ちしてしまった。



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二又

(………んあ?もう昼か)

 

どうやら昨日は尻尾を食べた後に寝落ちしてしまったようだ。それほど痛かったしハンター達のちょっかいで寝不足だったのもあるが。とにかく一日ぐっすり寝たおかげで体調も元通りになったようだし尻尾も二本とも元気にうねうね動いて…………

 

(二本?!何故増えたし!)

 

錯覚でも何でもなく真っ白な尻尾が付け根から二本生えていた。昔見たお化け図鑑の猫又に似てる気がしてなくもないけどそんな瑣末な問題じゃない。由々しき事態だった。

 

(なんて増えたんだ?……尻尾食べたから?進化って遺伝情報すら無視するのか?ナルガクルガに尻尾二つって……あれ?じゃあ足とか頭食べたら…………)

 

やめよう。この話題は危険そうだった。つい好奇心からケルベロスやキメラが生まれるなんて怖すぎる。ついでに自分がそれなんて嫌だわ。

 

(てか尻尾長くなった?明らか伸びたよね、前よりも。しかも物凄いくねくねしてるし骨入ってるの?)

 

少し試してみると若干の伸縮性があった。しかも砂漠で本気ジャンプをしても尻尾で体制を支えたり、砂に突き刺してブレーキ替わりにしたり色々役に立った。目立ちもしたけど。

 

(これハンターにますます目付けられるよね……とほほ。私は静かに暮らしたかっただけなのに)

 

それからは主に尻尾を使って行動をした。尻尾で狩りを行ったり食事をしたり、早く慣れるために大体の事は尻尾で済ましてきた。その為砂漠内のいろいろな場所に行った。その結果

 

(なんでドスガレオスがここにいるの?ここってユクモ寄りの場所だよね?ポッケはそこそこ遠いと思うんだけど……)

 

何処から自分の情報が漏れたのか知らないが色んなモンスターが近頃やってきていた。昨日はモノブロスがいたし今日はドスガレオスだ。正直私の元に来たってなんの恩恵もないのに何でここまで集まるのか皆目検討もつかない。

 

(しかも例の如く持ってきてるし。デルクス持って来たのってこの子だよね?じゃあ胴体のど真ん中に風穴開いてるリノプロスはモノブロスか)

 

まるで女王に対する供物みたいだがあいにく自分はそんなことする気は無いから渡されても困るだけだ。最近は余った食料をジャギィとかに上げてるがそれでまた持って来られちゃ減るものも減らない。

 

(また引っ越すかな……ここの暑さも慣れたしそろそろ火山とか言ってみようかな)

 

正直これ以上モンスターが集まったら確実に大連続狩猟とかが発行されるから一気にハンターが流れこんでくるしそんなことになったらここら一体紛争地帯なっちゃうし。

 

(明日引っ越そう……火山では大人しくしてよう)

 

 

〜~~〜~~~~~~

 

古龍観測隊からギルド本部に連絡

 

ここ数日で砂漠に非常に多くのモンスターが集まってきました。中にはこの地域では見られないようなモンスターまで集まってくる始末です。このままここに居座られると生態系の崩壊も考えられます。また、ナルガクルガの尻尾が二本に増えるなど対象も非常に進化を遂げていると思われます。至急対策を検討してください。

 

 

ギルド本部より古龍観測隊に連絡

 

今回の件、及び渓流での件を考えた末にこのナルガクルガを新種に判別することを決めました。それに伴い体色や行動パターン、更に他のモンスターに対しての組織的な立場から対象のナルガクルガの識別名を『月迅竜』から『白帝竜』に変更することになりました。そしてこの度対象を専用に観測する隊を発足しました。これまでの結果を白帝竜観測隊に引き継ぎしてください。これまでの観測及び報告書有り難うございました。



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鉱石

(あっついなあ……砂漠で慣れて良かったわ。経由せずにここに来てたら間違いなくぶっ倒れてたわ)

 

ただいま火山の麓にある森林に来てます。がとにかく暑い。まだ火山までは距離があるのにここからでも熱気が飛んでくるのだから、実際に登り始めたら熱中症とか有り得そう。

 

(けどここで色々やらないと今度は寒い所に行けないだろうし。寧ろここ頑張ればただ踏ん張りが効かないだけの場所なんだよな。凍土とか雪山)

 

今回は少し遠出してユクモとポッケの中間辺りに位置する火山を選んだ。と言ってもユクモ側から来たせいか遠くで縦にローリングするのが見える。多分ウラガンキンだと思うから若干ユクモ寄りになってるが仕方ない。

 

(まずは恒例の食事からだね。砂漠と違って殆ど砂の大地じゃなくて、緑もちゃんとあるから久しぶりに茸とか食べれるわ)

 

落ちてる僅かな木の実と草食モンスターの食生活とは違ってここなら色々なものが食べれそうだった。

 

(まずは麓から探して徐々に上に登ってみますか。ついでにいい寝床も見つけないと)

 

 

ーーーーーー

ーーーー

ーー

 

 

(そういえば、鉱石とかは今まで食べたことなかったけど美味しいのかな?)

 

試しにそこら辺に転がってる石を食べてみる。スナックみたいにイケるが味がしない。やっぱり鉱石をちゃんと掘らなきゃ駄目か。かと言っても爪はそこまで頑丈でもないし採掘なんてしようものなら一発目で折れる自信がある。やるにしても鉱石食べてからだ。

 

(そうだ、確か落としたら爆発する岩があったはずからそれ使えばいいかな?)

 

記憶を頼りに探すもなかなかそれらしいものが無い。

 

(うーん、見つからないな。衝撃に弱いなら棘で起爆してだいたいどこにあるかで探そう)

 

二本の尻尾を回し棘を一斉に前方に飛ばす。一本でも既にショットガン状態だった為今回は前面が棘で埋まった。と、一部で爆発が起こり壁が崩れた。

 

(お、ラッキー。一発目で当たったわ)

 

爆発が起きた壁を除くと岩の瓦礫の隙間にキラキラ光る鉱石がいくつか転がっていた。

 

(…………うん。普通に美味しい。じゃがりこ食べてる気分だ)

 

もっと探すため他にも色んな場所で起爆しては鉱石を食べの繰り返しで初日は終わった。

 

 

 

 

次の日

 

(………………はいはい、供物供物。もう私寝てるだけの生活をしてろって言われてるのかな……)

 

起きたら目の前に輝く瓦礫の山が出来上がっていた。がよく見ると全部鉱石のようだ。火山の方を見ると山頂付近で熱線が伸びてたり、上空からブレスが乱射されたり、赤いボールが幾つも壁に体当たりかましてたり、ゴツゴツした斜面をローリングしてるのが見えたり。もう軽い運動会モドキだった。

 

(そこまでして私に何を求めるんだ君たちは。私に神になれと?)

 

実際にジャギィなんかが襲われているのを見かけたら助けには入るがそれでも偶にだしそもそも関わったことない大型モンスターまで一緒になって暴れているのだから余計質が悪かった。

 

(…………食べよう。もう私は考えることをやめた)

 

 

 

 

〜~~~~~~~~~

 

白帝竜観測隊からギルド本部に連絡

 

白帝竜が火山へと居を移動しました。それに伴い。火山でのパワーバランスも白帝竜を頂点とする物に変わったようです。また火山頂上付近ではモンスターが活発に採掘をするなどの行為が見られます。中には小型モンスターと協力するなどの面も。火山に近づく際の注意をお願いします。

 

 

ギルド本部より白帝竜観測隊に連絡

 

了解しました。おそらく今までの件から察するに鉱石は女王への供物のような扱いでしょう。また対象の尻尾が増えた事は他のモンスターには見られない独自の進化法の可能性があります。これがどのように作用するかは未知数な為その辺りも観測、お願い致します。



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発火

爪が伸びた。

いや、人間感覚で言ってるが実際には壁を抉れる程に爪が硬化した。それに伴って爪が成長したのかもしれないが真相は定かではない。何にせよ自分で鉱石が集められるようになったため運動会(笑)はやめさせた。方法は前にジンオウガとゴーヤの喧嘩を止めたとき同様に本気で吠えるだけ。喉が少し痛くなるけど毎日騒音を鳴らされるよりは百倍マシだ。

 

(鉱石も美味しいけど、寒い地域に慣れるためにも草食べないと)

 

今はある植物を探していた。前に食べると体が暖かくなる赤い草を渓流で見つけたが元々そこに生えることのなかった植物なのかその後は見つけることが出来なかった。砂漠にはオアシスが一つしかなくそこに赤い草など生えてなかったため、ここで見つけないと何気に後がない。ようはその草を食べて体の中に体温を上昇させる器官を持つように進化することができればいいのだ。

 

(尻尾が二本になるんだからそんくらいは余裕でしょう。でも、肝心の草が見つからないしここにもないのかな。まさか意表をついて凍土に!………とかもなさそうだな。まずあそこまともに草木があるかすら怪しいし)

 

今日も成果は無し。ここのところだいぶ暑さに慣れてきたので少し遠出して山頂付近にも足を伸ばしている。もっとも手に入るのは真っ赤な鉱石と他よりもちょっと薄い桃色の硬い鉱石位だった。一度山頂のアグナコトルの巣にお邪魔したことがあるが草なんてどこにも見当たらなかったため、仕方なく麓で草を探しては鉱石を食べる生活が続いた。

 

(今日も今日とて草探しか。いつになったら見つかるんだろ)

 

朝早く起きて赤い草を探しては食べて、その後に鉱石を食べる。今朝は赤い草が見つかった為少しだけ残して食べて来た。全て食べてしまうとその場に残らなくなるので見つけた場所を暗記して毎日巡回してる。他のモンスターも食べるのかよく失くなって後悔してるが。

 

(まだそれっぽい器官は出来てなさそうだな。と言うかあんまり体について詳しく知らないし中身なんて増えても気づくのかな……喉になんか張り付いた、ケホッ)

 

 

ボゥッ

 

 

(………………はぁ?)

 

えっ?なんで今燃えたの?鉱石?鉱石食べてたのが原因なの?念の為もう一度試してみると。

 

カフッ

 

ボゥッ

 

(…………ふぇぇ。発熱器官が欲しかったのに発火器官が付いたよ……)

 

これは面倒だな。このまま火山を去るかもうちょっとここに居続けて発熱器官が得られるのを待つか……

 

(そもそも私、さっきまでこんなこと出来る事知らなかったんだよね。やっぱり体の方は着実に変わってたんだなぁ)

 

もう少しここに残ろう。もしかしたら参加の余地が残ってるかもしれない。残ってなかったらさっさと次に移ろう。

 

 

ーーーーーー

ーーーー

ーー

 

 

火が吹けるようになってから数日。最早『火が吹ける』から『炎を吐き出す』になってたが鉱石の力は世界一のようだ。そして実は進化の余地は意外にも残っていた。が、個人的にとてもショックな事もあった。変化としては尻尾が燃えた。といっても何処ぞのピ○ミンの修造とは違い常時発火してるのではなく、尻尾を振った時の摩擦で燃える。尻尾には発火のための器官がライン状に赤く光って見える為綺麗なのだが。問題は先端部分の毛が焦げたのだ。付け根から中央辺りは平気だったが調子に乗って振り回した後、先端が黒くなってるのを発見した時は軽く寝込んだ。毎日毛並みは綺麗にしてたのに……

 

(もう発熱器官は諦めよう……発火器官をどうにかして生活すればいいかな。………次どこに行こう?)

 

いきなり凍土に行くのもいいがやっぱりここ最近辺境の地ばかりで生活してた為たまには自然豊かな場所に行こう。

 

(という訳で孤島に出発ー)

 

羽ばたいて孤島にいざ出発……と思ったら翼の刃の部分が燃えてた。

 

(そこも燃えるのかよ!あっつ!)

 

こんな調子で孤島たどり着けるのかな………



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迷子

(ここ何処だろう……森だけど渓流でも孤島でもなさそうだし。水没林ではないよね。水ないし)

 

飛んでいる最中に刃翼が発火し、しばらくは耐えていたが流石に耐え切れなくなり眼下の森に不時着した。辺りは鬱蒼とした森林で少し進んだだけで迷いそうな感じだ。仕方なく辺りを散策していると一箇所だけ開けた場所があった。木々が天然のトンネルのようになり行き止まりの天井が崩れてそこだけ光が差し込んでいた。時間もそろそろ夜に差し迫ってきたししばらくはステルス状態で休憩しよう。

 

(調度いいしここで寝よう。寝床も確保できたし後は食料と場所の確認くらいかな……)

 

 

 

 

 

ドンッ

 

(……?誰か来たのかな?)

 

目を開けるが誰もいなかった。疲れてるのかと思い寝ようとすると頭を叩かれた。

 

(?!何かいる!誰?)

 

(やだわぁー。そんなに驚かなくてもいいじゃなぁい!)

 

………聞き間違いじゃなければ今物凄くアレな声が聞こえた気がする。

 

(あのー、誰かそこにいるんですか?)

 

(あらやだ!あたし以外でこんな事出来るなんてすごいじゃない?)

 

(えーと……)

 

(あたしはオオナズチのミズハよぉ!あなたのお名前は?)

 

(えっ?えと、ルミナスです……)

 

(いやん!かわいい名前じゃなぁい!そんなに緊張しなくてもいいのよ同じ透明になれる物同士じゃないところであなた見ない顔ね新入りかしらぁ?)

 

(あの……翼を火傷して、ここに落ちちゃって)

 

(あらぁ、翼の方は無事なのかしらん?)

 

(はい、翼は十分休んだのでもう平気です。それで……ミズハさんは何故ここに?)

 

(あたしはランポス達がどこかに行くから姿を消して見守ってたのよん。そしたら貴方がいるもんだから驚いちゃったわよ!彼ら、何かしたの?)

 

(いえ!……いつもこんな感じなんです。皆私の為に色々してくれるんです。私は何もしてないのに)

 

(ふぅん………どうやら加護が働いてるみたいね)

 

(加護……ですか?)

 

(そうよん!貴方、ハンター達が石みたいなお守り持ってるの見たことあるかしら?)

 

(はい、それでスキルとかが付くんですよね)

 

(そう、それが加護。アタシ達古龍が本来持っているチカラ。アタシは隠蔽の加護を持ってるわよん!基本古龍はみんな一つ持ってると思えばいいわ)

 

(じゃあハンター達が持ってるのは?)

 

(あれは大昔のアタシ達の鱗だったり脱皮した皮だったりが時間をかけて結晶化したものね。それなりの時間が経つから加護も元の性質とだいぶ変わるけどそれをハンター達が利用してるって訳!)

 

(なるほど……でも、私古龍じゃないですよね?)

 

(そうなんだけど……アナタから懐かしい匂いがするのよねん。誰かにあったことないかしら?)

 

(……あっ!塔でアンセスさんに会いました!)

 

(あらあの子まだ生きてたのねん!最近めっきり音沙汰なしだったから死んじゃったのかと思ってたわん!)

 

(それで……私はなんで加護を持ってるんでしょうか?)

 

(一概に古龍のみが持ってるとは言えないのよ。何事にも例外はあるようにね!ラージャンの坊やはキリンと同じ雷の加護を持ってるし、シェンガオレンとこの旦那さんだって古龍じゃないわよ。ラオシャンロンとかジエンモーラン見たいに繁栄の加護があるからあそこまで大きくなったのよ!まあ見たことないからわからないと思うけどねん!)

 

(じゃあ普通のモンスターが加護を持つことも有り得るんですか?)

 

(可能性としては十分に有り得るわよん!………そうねぇ。恐らくだけど貴方には崇拝の加護があるのかしらね?)

 

(崇拝……そうだったんですか……ありがとつございます。自分の力が分かっただけでも収穫ありです。今度お礼をしにきますね!)

 

(お役に立てたのならオールオッケーよん!ところでお礼なら貴方の身体を………冗談よ!そんなムキにならなくても襲わないわよん!)

 

(……とにかく、私はもう行きます。教えてくれて有り難うございます!)

 

(またどこかで会いましょうねん!)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(あの子、見た感じだと加護一つじゃなさそうね……何にせよこれからは何かあるわね…………楽しみだわぁ!



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遭難

日間ランキング:10位

気づいたらランキング入りしてました。
皆さん有難う御座います!


ミズハさんに加護のことを聞いたため自分の力を理解出来た。これならいつかはこの力を制御して自分の意志でオンオフ切り替えらることも可能かもしれない。そんなことを考えながら飛んでいたため気付いた頃には私はもうよく分からない場所に来ていた。周りを溶岩に囲まれていてまるで火山のようだったが、火山じゃあんな風に火柱が立つことなんてなかったからここは火山とは別の場所なのかな?

 

(慣れてて良かった……火山もそうだけどここも十分暑いよ。さっさと移動しちゃおう)

 

そのまま飛び立とうとすると足元に巨大な氷柱が突き刺さった。驚いて飛び退こうとしたがいつの間にか氷柱が脚と尻尾と地面をがっちり掴んで固まっていた。

 

(何者ですかな?ここは私が統べる土地。何人足りとも侵入することは許しませんよ)

 

溶岩の滝の上から話しかけてきたのは私の何倍もある真っ黒な龍だった。四足に翼とリーゼントみたいな角が生えていた。話しかけて来たってことはこの人は会話できる組なんだ。

 

(あの、ここには迷い込んだだけなんです!別に侵入とか…そういった事はなくて)

 

(貴方……古龍ではないのになぜ私達と意思疎通が出来るのですか?)

 

(えっ?)

 

寧ろ古龍じゃないと意思疎通出来ないの?だからあの時渓流でジンオウガに話しかけても反応なかったのか。だとしても私は古龍じゃないんだよな……あ

 

(もしかして……加護を持ってるからじゃないでしょうか?)

 

(加護の存在まで知ってるとは、一体誰に教えてもらったのですか?)

 

(えっと、ついさっきオオナズチのミズハさんて方が教えてくれました)

 

(………はぁ、あの方ですか)

 

(……何かあったんですか?)

 

(こちらを見ては身体をちょっとだけ触らせろ、としつこく……)

 

すいません、それ私もやられました。

 

(そうだったんですか………)

 

(しかし驚きました。古龍以外で加護をお持ちとは。申し遅れました、私は黒煌龍アルバトリオン。名前をカドラと言います)

 

(私はナルガクルガ希少種でルナミスって言います)

 

(ルミナスですか、素敵な名前ですね)

 

(この名前、アンセスさん……えっとミラルーツさんに貰ったんです)

 

(あの御方にあったことがあるんですか!)

 

(は、はい!)

 

(あぁ、あの高貴で麗しい身体。全てを見透かすようなあの紅く輝く瞳。そして怒りと共に撃ち放たれる雷!あの方こそ正しく神にふさわしい……)

 

(えっと、私そろそろ行きますね?)

 

(更には怒りと同時に現れる紅い雷の紋様。力強く羽ばたくその姿!どこをとっても究極の美が生み出した)

 

(すいません有り難うございました!)

 

これ以上はここに居るとアンセスさんについての話で日が暮れちゃうから悪いけど一人で話してる間に逃げよう。出来ればどっちに孤島があるか聞いておきたかったけどこうなったら勘で辿り着こう。どうにかして辿り着けばいいや。最悪また遭難でもしたら塔に戻ってから考えよう。

 

 

〜~~~~~~~~~

 

白帝竜観測隊からギルド本部に連絡

 

ここ数日で白帝竜の居場所が不明になっています。火山から飛び立つのを最後にその後は姿を表す事がありません。また見間違えかもしれませんが白帝竜が飛ぶ時に翼から炎が出たり、小型モンスターを食べる際に火を吹きかけて焼いて食べたような形跡が見られます。この食事方法を取るモンスターは火山にはおらず白帝竜が更なる進化を遂げた可能性があります。近隣の町や村に強く呼びかけて広範囲に注意を促してください。

 

 

ギルド本部より白帝竜観測隊に連絡

 

了解しました。火を吹いて肉を焼くと言った行為は今まではモンスターの食事には見られたことが無いため白帝竜にはある程度の知恵があるかも知れません。また白帝竜のこれまでの移動を追うと次は孤島や水没林の方向へ進んでいると思われます。捜索の際はそちらを探してみてください。注意に関しては既に行動範囲内に存在する街のギルド間で情報を交換し注意を呼びかけています。今後の調査報告によってはクエストの内容改定も視野に入れています。そちらの情報に期待しています。



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毒沼

(あれー?私って方向音痴なのかな?確かに緑のある方に行ってたはずだけど孤島なんてどこにもないな)

 

辿り着いたのはあろうことか沼地だった。それも夜のだ。空気が生温く湿っていて毛先が濡れて元気がなかった。でも逆に空気中の水分は豊富だから霧は作り放題だしそもそもその辺にたくさん漂ってるのでステルス状態は維持しやすそうだった。

 

(まずは恒例の寝床探しかな?沼地って言ったら夜の洞窟は砂漠の夜よりも寒そうだね。発火器官が役に立つときが来たかな)

 

まずは洞窟を探すとそれらしいものを見つけた。中にはいるとそこそこ広めの空間があり、壁に埋まってる大きな鉱石が光を発して内部を薄く照らしていた。

 

(ここでいいかな?今日はもう寝て明日はそこの鉱石を食べたら行動再開だね)

 

寝る前に寒さを和らげる為近くから薪を持ってきて火を付ける。しばらくしたら燃え尽きるだろうがこれくらいなら朝までは耐えることが出来るだろう。

 

 

ーーーーーー

ーーーー

ーー

 

 

「おい、大丈夫か?そこに洞窟があるからそこで休もう」

 

「ありがと。それにしてもまさかフルフルが二頭も出てくるなんて思わなかったわ」

 

「全くだな、ギルドも亜種がいるなんて言ってなかったし最近は狩場の情報があやふやになってきたな」

 

「きっと噂のあいつね」

 

「なんだ?その噂って」

 

「聞いたことないの?これだから脳筋バカは……結構有名な話よ。ここんところ白いナルガクルガが出てきたって」

 

「ナルガクルガは黒と緑しかいないだろ?希少種か?」

 

「元々はそうだったらしいわ。でも今は独自に進化したってことで『白帝竜』なんて呼ばれてるわ」

 

「『白帝竜』か……名前から察するに白いのか?」

 

「そんなの誰だって分かるわよ。問題なのは周りを常にモンスターが守ってるのよ」

 

「なんだそりゃ?モンスターが別のモンスターを守るなんて聞いたことねえぞ」

 

「だから噂になってるのよ、イタっ」

 

「平気か?ほら、ゆっくり座れ」

 

「有難いわ、薪までつけてくれたのね。気が利くじゃない」

 

「いや、それ元からついてたぞ」

 

「そんなわけ無いでしょ。ならここに誰かいたってこと?」

 

「かもしれねえな。大方どこかのパーティとバッティングしたんだろう。あったら挨拶しときゃいいさ」

 

「そう、それにしてもこの岩ヒンヤリしてるわね。触り心地がいいわ」

 

「なんだよ、俺は地べたに座ってるのにずいぶん待遇の差があるじゃねえか」

 

「私は怪我人よ、それくらい譲りなさい」

 

「へいへい、火ももうすぐ消えるからさっさと寝ようぜ」

 

「そうね、おやすみなさい」

 

「おう、おやすみ」

 

 

 

 

 

 

(………んぅ、朝だ。そろそろ起きるかな)

 

体を起こして洞窟から出ようとすると何かが自分の体に寄りかかって寝ていた。見ると男女二人組が薪の近くで寝ていた。

 

(何でこんなところにハンターが?私これでもモンスターだし向こうは気付いてないのかな?)

 

とりあえず尻尾でもたれ掛かってる女性の方をゆっくり寝そべらせて外に出た。相変わらず曇ってはいるがステルスをする程度には光もあるため問題なかった。

 

(朝は鉱石食べようと思ったけどあの二人もお腹空いてるだろうし肉でも持って行って上げるかな。その後どこかで食事してから移動しよう)

 

ブルファンゴがちょうど良くいたので狩りいつものように処理をしていい大きさの生肉を三つほど手に入れた後、洞窟に持ち帰った。二人はまだ寝ているらしく起きる気配が無かった。肉を一旦置き森で薪を見つけると消えかかってるところに置いて、軽く火を吹きかけた。次に放置した肉の両脇を尻尾で掴んで回しながら火を吹きかけた。しばらくするとパリッとした見た目になりいい匂いが洞窟中に広まった。二つ目を焼き始めると外からイーオス達がやって来た。どうやら匂いに釣られたらしい。まあ普通に生きてれば彼らは肉を焼くなんてことはしないからこれの美味しさも知らない訳だし、少し分けてあげよう。いつもの事だけど。

 

(もう少しで焼けるから待ってて)

 

言葉は通じてないと思うがイーオス達は一回吠えると洞窟の入り口に走っていった。が、思いの外声が大きかった為洞窟内で反響しハンターが起きたようだ。

 

「ん?ここ何処だ……あぁ確か洞窟で…………おい起きろ!」

 

「なんだよ、うるせぇ…………何でここにモンスターがいるんだよ!」

 

二人組は跳ね起きて武器を構えたけど、正直お腹空いてきたからあとにして欲しい。

 

(よし、こんなこんな感じかな?)

 

食べてみると肉汁が溢れてきて素材本来の味がして美味しい。やっぱり生より焼いたほうがいいね。ちょうど、イーオス達も戻って来た。

 

(あれ、ドスイーオスも来てる。さっきのは呼びに行っただけかな)

 

ある程度食べたので残りをイーオス達に上げた。一斉に食らいついてるからすぐなくなると思うけど、まあたまにしか食べれないだろうしいいか。残りを二人の前に置いてそのまま振り返らずに洞窟から出た。

 

(あっ、鉱石食べ忘れた……まあいいか。今度来たら食べよう)

 

 

 

 

 

 

「………行ったわね」

 

「これ、食べてもいいのか?」

 

「どう見ても、普通のこんがり肉よね。あいつ火を吹きかけてたわ」

 

「どうやら噂の白帝竜とやらは相当強いらしいな……うめぇ」

 

 

〜~~~~~~~~~

 

ギルド本部より白帝竜観測隊に連絡

 

こちらで白帝竜の目撃情報を確認しました。対象はつい先日まで沼地にいた模様。急ぎ沼地に向かい対象を発見してください。またハンターにこんがり肉を振る舞ったという情報も上がってきました。改めて「や白帝竜の危険度の調査を行いたいと思います

 

 

白帝竜観測隊からギルド本部に連絡

 

了解しました。こちらも沼地に現在向かっていますので明日には報告を届けます。



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予兆

(やっと辿り着いたー!ついに孤島上陸!)

 

あれから一日中空の旅を続けた結果見事孤島を見つけることに成功した。孤島と言っても潮の関係で朝と夜に一度ずつ海の上に道が出来るが僅かな時間のため殆どのモンスターはここに来ない。空を飛ぶものは別だけど。来てもハンターくらいだ。

 

(久しぶりに美味しい物食べられる!楽しみだなぁ!)

 

火山や沼地にも茸や鉱石などの食べ物は豊富にあったけどやっぱりたまには蜂蜜も食べたいし魚とか果物も必要だよね。そうして島の中を巡ってみたがおかしな事に他のモンスターの姿がどこにも見えなかった。たまにアプトノスらしき影を見るがどれも島の奥や鬱蒼とした森の中に逃げてしまった。すると岩陰に動くものを発見した。

 

(あれってアイルー?実際に見ると小さいな。……今は私大きくなってるから比較対象が違うじゃん)

 

アイルーは岩陰にある茸を取ろうとした結果岩のスキマに挟まったらしくもがいていた。尻尾を下に差し込むとゆっくり上に持ち上げた。アイルーは突然持ち上げられたためびっくりしていたがこっちを見ると何故か首を傾げた。そのまま固まっていたが納得したのか尻尾伝いに背中に名乗るとペシペシ叩いてきた。

 

(……なんか便利者扱いされてる気がするのは気のせいかな……)

 

歩き出すとたまにアイルーが尻尾を掴んで進みたい方向に曲げる。途中から面倒くさくなったので尻尾の先にアイルーを乗せると顔の近くまで伸ばした。これならいちいち動く尻尾を捕まえようとしないでいいだろう。しばらく左に右に進み、上に飛んだりと繰り返すと木の板で塞がれてる場所を発見した。私の上から降りたアイルーが木の板を何回か叩くとしばらくして仲間のアイルーが出てきたようだ。ちょっとだけ顔を出してこちらを確認すると板を全部外し始めた。

 

(私も来いってこと?そこ通れるのかな……)

 

結果からすればギリギリ通れた。通常のナルガクルガよりも小さかったため穴は通過できたけど背中が引っ掛ったり刃翼が掠ったりと疲れる穴抜けだった。穴を通った先はアイルーの集落らしくそこら中にアイルー達がいた。

 

(流れで来ちゃったけど良かったのかな?なんかみんなこっち見てるし警戒されてない?)

 

すると一番大きい家?の中から変な冠を被ったアイルーが出てきた。

 

(こんにちわにゃ。さっきは仲間を助けてくれてありがとうにゃ)

 

(アイルーも喋れるんですか?)

 

(喋れるというには語弊があるにゃ。僕達アイルーはヒトの言葉を理解するアイルーと他のモンスターの言葉を理解するアイルーがいるにゃ。たまに両方理解する者もいるけどあくまでたまににゃ)

 

(ヒトの言葉を理解するアイルーはハンター達に?)

 

(そうにゃ、ハンター達の狩りを手伝う代わりに色んにゃ取引をしてるにゃ)

 

(へぇ……じゃあ貴方は他のモンスターの言葉を理解するアイルー?)

 

(そうにゃ)

 

(そうなんですか……あと、聞きたい事があるんですけど。ここのモンスター達が島の奥とか逃げるのを見たんですけど何かあったんですか?)

 

(実はここ最近イビルジョーが来たんですにゃ)

 

イビルジョー?そぅだ思い出した!ゴーヤってイビルジョーじゃん。すっかり忘れてたよ。

 

(イビルジョーが?でもここって他にも色んなモンスターが来るしそこまでの事じゃないと思うんですけど)

 

(確かにイビルジョーもたまに来るにゃ。でも今回のやつは全然違うにゃ。あいつがいろんにゃエリアでモンスター達に何かを探すような指示を出してるニャ)

 

(それって誰を探してるんですか?)

 

(詳しくは分からにゃいけど、茸だったり魚だったり、特に蜂蜜のある場所に色んな大型のモンスターがやってくるにゃ)

 

(………蜂蜜?)

 

(蜂蜜にゃ)

 

(……………それもしかしたら私の知り合いかも知れません)

 

(にゃにゃ?!そうにゃんですか?ならあいつらにもう暴れにゃいように一発言ってほしいにゃ!)

 

(分かりました……すいません、知り合いが迷惑かけて)

 

(とんでもにゃいにゃ。それにさっき仲間を助けてくれたしこれでおあいこにゃ)

 

(有り難うございます。それじゃあそろそろ行きます)

 

(またここに来る事があったらここによってほしいニャ!)

 

(分かりました!必ず来ます!)



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帰還

アイルー達の集落を後にして私は島の中を探しまわっていた。蜂の巣があるところや茸が群生している場所に明らかに大型モンスターが来た跡があったが当の本人達は見つからず結果夜まで探しても見つからなかった。

 

(どこにいるんだろう……もうここにはいないのかな?)

 

イビルジョーは大体何処のエリアにも出るって友だちが言ってたけど、今はどこだろう。ここにはもういないとして、沼地……は何かぬかるみとかで来なさそう。ミズハさんがいた場所は多分イビルジョーは知らないと思う。火山と砂漠は蜂蜜なかったし。

 

(てことは……渓流に帰った?)

 

可能性としてはありえる話だった。それに久々に渓流に戻ってみるのもありかも知れない。

 

(帰ってみますか、渓流にでも!)

 

 

 

 

 

(疲れた…………)

 

そのまま徹夜覚悟で飛び続けた為辿り着いたのはもう少ししたら太陽が顔を出し始める時間だった。空はまだ暗いがあと一時間もしたら東の方は明るくなり始めるだろう。

 

(考えてみれば、朝までは一日中飛んでその後に徹夜で飛んできたのか、少しでいいから寝よう。じゃないと体が持たないわ)

 

いつもの懐かしい高台に着地するとそのまま眠りについた。

 

 

ーーーーーー

ーーーー

ーー

 

 

(…………ギャアギャア五月蠅いなぁ。もう少しくらい寝かせてよ)

 

軽く意識が目覚めると下の方で何かが凄い吠えてる。というか下だけじゃなくて渓流全体から聞こえてくる。これは流石に何かあったのかと思い顔だけ起こすと

 

(………なんか増えてない?)

 

ここを去る直前はドスジャギィ達とジンオウガ、イビルジョー、ドボルベルクしかいなかったが高台から覗くとそれにアオアシラやドスファンゴ、更にはナルガクルガの亜種までいた。ついで上を見ると金色と銀色が太陽でキラキラ光っていた。多分、前にハンターが言ってたリオレイアとリオレウスの希少種だと思う。メッチャ綺麗だけど

 

(朝っぱらから騒がれるとこっちも迷惑なんだよなぁ)

 

しかも、肝心のイビルジョーはどこにも居なかった。あとから来るのだろうか。

 

(けどもう少し寝かせて欲しいんだけど、どうやって静かにしてもらおう……)

 

咆哮ですぐ終わるがそうすると眠気も飛ぶのでかわりに二本の尻尾を左右の岩壁に向かって叩きつけた。適当に音でも鳴らせればよかったのだけど

 

ズガンッ!

 

と言う轟音と共に壁がひび割れるとは思わなかった。モンスター達も黙りこくってるしジャギィなんか逃げてってる。

 

(…………なんか、我儘ですいません)

 

ともかく予想外だったが静かになったためもう一眠りすることにした。

 

 

〜~~~~~~~~~

 

 

白帝竜観測隊からギルド本部に連絡

 

姿を消していた白帝竜が渓流に再び戻ってきました。その為渓流に住むモンスター達が非常に活発になると予想されましたが、白帝竜が尻尾を壁に叩きつけることによって自体の沈静化を測ったようです。また観測の結果、各地の鳥竜種が連携をしたり一部のアイルーとメラルーが食料を運ぶといった行動が見られます。このことから白帝竜の勢力圏が多大な範囲に及んでいると思われます。ですので反乱や暴動が起きない内に討伐することを提案します。

 

 

ギルド本部より白帝竜観測隊に連絡

 

了解しました。今回の情報で各地のギルドに白帝竜の討伐依頼を分散させ、より強いハンター達に依頼をかける事になりました。受けることの出来るハンターはG級のみ、またギルドから一人調査隊を派遣する事も含めての依頼となりました。討伐を進めるため、引き続き行動パターンや弱点などの情報があったら報告をお願いします。

 

 

クエスト名『女帝の帰還』

 

依頼者:ギルド本部

クエスト内容:これまで各地で目撃されていた白帝竜が再び渓流に帰ってきた。このナルガクルガは各地を彷徨ったこともあり非常に多彩な進化を遂げた。またエリア内には女帝を守る大型モンスターも複数確認されている。細心の注意を払ってこのクエストに臨んでもらいたい。

 

契約金:1500z

報奨金:45000z



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大戦争

(一つ言わせてもらおう……)

 

ただいまの時刻はお昼ごろ、久々に蜂蜜を食べながら私は渓流に向かって吠えた。

 

(どんぱち五月蝿すぎるんだよー!)

 

原因はハンター達と流れ込んで来たモンスター達が渓流のあちらこちらで戦っているからだ。戦いが始まってから既に三日が経過している。私からすれば適当に歩くだけでハンターにエンカウントするし、ハンター達からすればどこを見ても小型大型問わずモンスターの山だった。結果、怪獣大戦争のような有り様だった。

 

(やっぱり色んな所で仲間増やしてるって思われたのかな……)

 

確かに加護の影響で周りのモンスターが私を崇拝するのは仕方ないがこれは止められないのだ。そう、重要なことだがどうやら私の加護はRPGで言うパッシブスキルの様なもので常時発動してるタイプの物らしい。一度塔に帰った時に運良くアンセスさんに会ったので私の加護の事を聞いたのだがどうやらラオシャンロンやジエンモーランと言った古龍の繁栄と同じく解除出来ないらしい。(因みにアンセスさんはキリンより強力な雷の加護と少しの繁栄の加護を持ってるらしい)

 

(だからって何十人も寄って集って来ること無いじゃん)

 

本来狩場では余りパーティ同士が出会う場面は見たことがなかったが、最近は幾つものパーティが協力して交替しながら攻めてくるので休む暇もなかった。今までの食事でだいぶ強化されていたたため今はまだ余裕があるけど周りはそうは行かないようだ。現にジャギィ達は被害が出る前に巣に逃げていたし、アオアシラなどの中型モンスターはハンターが来れない様な場所に退避して身体を休めていた。

 

(あんまり戦闘は好きじゃないけど……さっさとやってまた昼寝でもしますか)

 

 

ーーーーーー

ーーーー

ーー

 

 

広間の崖の上から覗くと下は酷い有様だった。そこら中に血が飛び、更には逃げ遅れたジャギィの死体や千切れたジンオウガの尻尾が落ちていた。崖の近くにハンター達が簡易テントを張ってそこで休憩していた。

 

(これ以上はやらせないから………私のエゴだけど帰ってもらうよ)

 

尻尾に力を込めて針を逆立たせステルス状態になると崖下に一気に飛び降りた。ハンター達がこちらに反応する前に棘を放つ。流石に鍛えた鎧を貫くほど硬くはないけど殆どのハンターがかすり傷を負った。そのままバックステップで一旦距離を取る。するとハンター達が次々不自然な格好で倒れだした。実は前々から練習していた尻尾の棘の状態異常が少し前にようやく制御できるようになった。まあ、狩る時ぐらいしか使うことがないのでそもそも練習自体あまり出来なかったわけだけど。ハンター達が動けないのでそのまま尻尾の薙ぎ払いでテントを破壊して周る。全てのテントが壊し終わる頃には向こうも痺れが治ってきたようなので一旦ここは退いた。

 

(とりあえず前線基地は潰したから後は補給線かな?)

 

この体になる前にやっていたゲームの中に侵略ゲーがあったためその知識を活かすなら戦いは人員か頭か土地を潰せば勝てると合った。今回で言うなら人員はハンター、頭はおそらくギルドや集会場、そして問はもちろんこの渓流。土地は却下、頭は街にいるだろうから無理。結局やれる事はハンター達にこれ以上はここで狩りを続けることが出来ないようにすること。そのために拠点と補給線を潰せばとりあえずは成功だ。

 

(さてと、街から渓流に来るには徒歩は遠すぎるから……いた)

 

街から渓流に続く道の脇に隠れること十分程。予想通りに荷台に食料や砥石を載せた荷車が三台ほど間隔を開けてやって来た。荷車が通りすぎるのを待ってから一番後ろの荷車に狙いを付けてステルス状態で飛び出した。勢い良く刃翼を振ると炎が上がり抵抗なく車輪を真っ二つに切り裂いた。そのままジグザクに飛んで三台とも斬り裂くと上に乗っていたハンターと荷物は転がり落ち、荷車を引いていたガーグァも衝撃で紐が解けたのか逃げ出した。先程と同じように痺れ状態になる棘を掠らせて動けなくした後、積み荷を一つ一つ燃やしていった。途中、お腹が空いたのと燃やせなかったのでで積み荷の砥石を少し頂いた。いつも食べてる鉱石よりは柔らかくて硬いグミみたいな感じだったため全て食べちゃったけどいいよね。補給線も潰したので戻りしばらく渓流の入り口でハンターの動向を見張っていたがしばらくすると渓流にいたハンター達がやって来た空の荷車に乗り帰って行った。

 

(やっと終わったよぉ…………疲れたぁ)

 

体力的には問題なかったが如何せん久しぶりのガチ戦闘だったため精神的にはもうクタクタだった。高台に戻ると何かを食べるのも億劫だったのでそのまま眠った。

 

 

〜~~~~~~~~~

 

 

白帝竜観測隊よりギルド本部に連絡

 

先日の若輩が独走した白帝竜討伐作戦ですが、結果は失敗に終わりました。作戦前半の周囲のモンスターの無力化はそこそこの線まで行きましたが、その後白帝竜がハンター達の仮拠点を襲撃しこれを破壊、また渓流に向かう途中の積み荷を残らず燃やし尽くすという行動により作戦継続が不可能と判断した為こちらの独断で作戦終了を通達しました。今回の件で白帝竜には非常に高度な知能を持っていると思われます。今後は白帝竜の扱いについて協議する必要があるかもしれません。

 

 

ギルド本部より白帝竜観測隊に連絡

 

作戦終了の指揮有り難うございます。おかげで被害を最小限に抑えることが出来ました。今回の件、白帝竜の高度な知能、そして作戦の開始と同時に砂漠や火山、その他の地域で一部のモンスターが渓流に移動した事から白帝竜討伐依頼をギルドからの特殊依頼にする事が決定しました。対象はG級でなおかつここ最近の古龍種の討伐実績がある者に限りこちらから依頼する形となります。また、小さな事ですがつい先日バルバレの地域にいたゴア・マガラの行方が不明になる事件がありました。白帝竜と同じくこちらも危険度の高いモンスターなので情報を流しておきます。



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感染

渓流での大戦争が終わった次の日、朝から体力回復のために蜂蜜を食べていると雲ひとつない空なのに雷の様なものが見えた。けど多分ジンオウガだと当たりをつけて食事に戻った。

 

(昨日は尻尾斬られてたのに元気だね……私なんて対して戦ってないのに滅茶苦茶疲れたよ)

 

やはり元人間とモンスターの根本的な差かと思ったが、雷に合わせて木がドンドン倒れている。ジンオウガは体が大きいため開けた場所で戦うからあそこまで木が折れることはない。即ちジンオウガ以外の雷を使うモンスターが来たという事だった。

 

(昨日の今日でまた面倒事持ってこないでよ。只でさえ昨日のことで他のモンスターからまた食料貰ってるんだから)

 

実は昨日のハンター達の拠点襲撃を見ていたモンスター(おそらく隠れていたジャギィ達)がいたらしくここに来た時のようにまた起きたら蜂蜜や茸が等の山が出来てたりする。どうやら渓流を救った救世主みたいな扱いっぽかったがそこまでの事じゃないと思う。言葉が伝わらない為訂正できないし、善意で集めてくれてるので無闇に止めろと威嚇することも出来なかった。

 

(全く持ってチキンです……こんがり肉食べたい)

 

木が倒れている方に向かうと黒色に輝く鬣を持つモンスターがいた。黒ずんだ黄色の線模様に口から真っ黒な涎を垂らし目が真っ赤に血走っていた。明らかに自我はなさそうで体から毒々しい紫色の血を流して怪我を気にせずやたらめったらに攻撃を繰り返してはケルビやガーグァを捕食していた。

 

(なんだろうあれ……確実にヤバイ奴だよね。あんな見ただけでヤバい物食べたって分かるモンスター見たことないし。雷を使うのってキリンとフルフルとジンオウガ以外にいたっけ?………そう言えばミズハさんが前にラージャンの坊やとか言ってた気がするし、もしかしてあれがラージャン?なんか全国のラージャンに悪いけどあんまり会いたくない見た目してるな……)

 

そこで、ようやくこちらに気づいたのかラージャンがこちらを見た瞬間殴りかかってきた。

 

(嘘でしょ?!見境なしなの!)

 

慌ててその場から飛び退いた。殴りつけた地面は小さなクレーター状に抉れ、一発喰らうだけでお陀仏なのは確定的に明らかだった。

 

(ヤバイなぁ。まさかこんな奴に会うとは思わなかったし。体調は完全に回復しきってないし……)

 

するといきなり前のめりに倒れるとラージャンはピクリとも動かなくなった。少し様子を見てから棘を近くに撃ちこんだが少しも反応しなかった。

 

(もしかして死んだの?でもなんでいきなり……)

 

その後も突いてみたり、ひっくり返して見るが瞳孔が開きっぱなしなので死んでる事が分かった。すると突如、ラージャンの体から黒い煙が立ち昇り始めた。煙はある程度まで上がると辺りに漂い始めた。そこにケルビが一匹やってきた。すると様子がおかしくなり、先程のラージャンのように体の色が黒くなり始めた。

 

(もしかしてあのヤバそうな煙って病気なの?これって映画とかで見たことあるけど、パンデミックだっけ?)

 

だとしたら待ってるのは渓流の生物がさっきみたいに全員暴れ出す未来だ。不味いと思い、咄嗟に火を吹きかけると煙が薄くなった。どうやら火には弱いらしい。そのまま刃翼を発火させて周囲の煙を薙ぎ払っていると煙はだいぶ収まった。暴れていたケルビもこのままでは渓流に逃げ込んでしまうかもしれないので仕方なく殺してしまった。

 

(後はこの死体だけか……)

 

このまま残したままだとまた煙を吹き出していつ渓流が墜とされるか分かったものじゃない。かと言って持ち運ぶことも自分には出来ないし、先程炎で燃やそうとしたが密集した筋肉が邪魔してほとんど燃えなかった。それにケルビは感染したとはいえ自分が殺したのだ。それなりの方法で弔うべきだろう。この場で出来ることなど一つしかなかった。

 

(………食べよう)

 

せめてもの供養と思い、ラージャンの腕に噛み付くとそのまま力任せに噛み千切った。いつも食べている生肉と違って物凄い苦味とえぐ味しかないが我慢して全て食べ切った。ケルビも同様に食べ終わると、疲れた体を引きずって高台に戻った。

 

 

~~~~~~~~~~

 

 

白帝竜観測隊よりギルド本部に連絡

 

今朝方、渓流の森の中で突如雷のようなものが確認できました。調べたところ、付近のエリアから迷い込んだラージャンが暴れていた模様。その後近くに居合わせた白帝竜と戦闘中に突然死亡。明らかな短命から察するに激昂状態だった可能性があります。白帝竜はこれを捕食後住処に帰っています。他のエリアから迷い込み白帝竜の勢力内に入らなかった例はこれが初めてなので報告を送ります。

 

 

ギルド本部より白帝竜観測隊に連絡

 

了解しました。こちらで確認したところそのラージャンはバルバレの地域にいたものが移動したものと断定されました。一つ気になる点としてはこのラージャンがバルバレから出る際に(激昂状態とは別に)体色が微妙に変わっていたとの情報が送られてきたため、もしかしたらゴア・マガラの狂竜ウィルスに感染していた可能性があります。白帝竜が狂竜ウィルスに感染した場合の被害は想像を超えるかもしれません。下手をすると勢力下の全てのモンスターが一斉に暴れ出す可能性も指摘されています。今後の動向に十分気を付け定期的な報告をお願いします。



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復帰

ここ最近、体調が優れない。残念な事に理由は分かってるし原因は自分だ。おそらくラージャンが掛かっていたあの黒い煙みたいな病気に掛かったのだろう。体色は変わりないがおそらく目は開きっぱなしだろう。自分でも頭の中に靄がかかりうまく考えがまとまらない時が出て来た。体の中で病原菌が浸食してるのだろう。最近食欲がいつもより増えてる。いつもなら遠慮していたのに今はみんなが持って来てくれる物を片っ端から食べてるし、そもそも皆空気を感じってるのか私に必要以上に寄って来なくなった。

 

(不味いなぁ……どうにかこれを直さないと。力技じゃあどうにもならなそうだし)

 

かと言って有効な手段を取れるわけでもない。今はとにかく耐えるしか無かった。

 

 

 

 

 

 

 

次の日、相変わらず頭がクラクラしてそろそろ本格的にヤバくなりそうになってる時に久しぶりにジャギィ達が現れた。見ると背中にアイルーが乗っていて割とコミカルな絵面になってた。

 

(聞こえるかにゃ!まだ意識ははっきりしてるかにゃ!)

 

(……うーん、なんとか…)

 

(それは多分、ゴア・マガラの狂竜ウィルスにゃ!これを食べるといいにゃ!)

 

そう言ってアイルー達が小さな石ころみたいな物を口の中に入れてきた。正直変化もないしお腹も膨れないので意味がないと思うんだけど……

 

(これ何……?)

 

(つべこべ言わずさっさと全部食べるにゃ!後からもっと来るんだにゃ!)

 

それからしばらくは朝起きてアイルー達に口の中に石を投げ込まれ、夜まで寝る。また起きて口の中に、投げ込まれ寝る、のサイクルを繰り返した。そして一週間程すると

 

(完全復活ー!)

 

(やったにゃ!成功にゃー!)

 

モンスターの脅威の生命力で復活した。頭の中も今まで以上にすっきりクリアになって気分爽快だ。アイルー達に今まで食べさせていた物が何なのか聞くと、抗竜石と言うらしくどうやら最近になって人間が開発に成功したものを私が狂竜ウィルスに感染したと聞いた時にアイルー達が取引で貰ってきてくれたらしい。この時ばかりは本気でアイルー達に感謝した。今度一週間くらい何か手伝える事があったら手伝っておこう。命の恩人だよ。

 

(ホントに有り難うございます!あとちょっとでもう駄目かと思いましたよ)

 

(とんでもないにゃ、それに貴方がいたおかげで孤島でイビルジョーが暴れなくなったにゃ!)

 

(そう言えば最近イビルジョーの姿見てないんだけどどこにいるか知ってる?)

 

(さぁ……この前まで孤島にいたのは確かにゃ。その後は僕達にも分からないにゃ)

 

(そっか、有難う…………久しぶりに蜂蜜食べれるぞ!最近は鉱石か生肉だけだったしテンション上がるよ!やっほー!)

 

バチィッ!

 

(…………………)

 

(…………………今の、雷かにゃ?)

 

(…………………私は何も見なかったし、雷のビームなんて出さなかった。イイね?)

 

(あっハイニャ)

 

(せっかくウィルスを治したのにまた変なことになるよぉ!)

 

(………ご愁傷さまだにゃ)



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曇天

私が電撃ビームを撃った日から数日後、イビルジョーが渓流に帰ってきた。いや、元々彼のうちがここなのかは分からないので一概に帰ってきたとも言えないが初めてあったのもここなので帰ってきたと言っておこう。どこに行っていたのかは分からないが彼?なりに何かあったのだと思って納得しておいた。そもそも知り合いがどこにいようが個人の勝手だけど。

 

(………そろそろ、また移動してみようかな?)

 

ここ最近は渓流での生活に慣れてきてるが元々はいろんな場所を見に行く為に塔から出て来たのだし、寒い所に行くために火山で多少違うが体温を下げないための手段も手に入れた。

 

(………そろそろ凍土向けて出発しますか)

 

 

おそらく今回は長丁場になると思う。割と色んな方角に行ったつもりでいたけど見つかるのは森か草原かたまに砂漠と火山くらいで雪原地帯や氷海は影も形もなかった。この辺はどうやら温暖な地域みたいだから結構遠出しないと見つからないと思う。まあ目的にも元々遠出も含まれてる感じがするから問題はない。

 

(最近はハンターもほとんど来なくなったし、丁度いいタイミングかな?)

 

高台から飛び立ちいつも通り気の向く方向に進んでいると遠くの方で大きな雲を見つけた。どうやら雲の下は広範囲に雨が降ってるらしい。

 

(もしかしてあの辺りは水没林かな?向こうはまだ行ったことがないし行ってみよう)

 

 

ーーーーーー

ーーーー

ーー

 

 

水没林に着地すると辺りから視線をいくつも感じた。敵意は無いみたいだけどあんまりじっと見られてるのは慣れない。なので姿を消して場所を離れようとしたが

 

(………あれ?もしかして透明になってない?)

 

空に分厚い雲がかかっているため空からの光が十分に届かずステルス状態が使用できなかった。

 

(これは不味い……この身体じゃ目立つことこの上ないし。早くどこかに隠れよう)

 

エリア内を歩き回ると丁度いい大きさの洞窟を見つけることが出来た。中に入ると中もそこそこ広いらしく奥は暗くて見渡すことが出来ないほど深かった。

 

(あんまり悠長に外で歩くと面倒だし。ここでいいかな、……いたっ)

 

暗闇で前が見えず何かにぶつかってしまった。見ようとしても暗くてよく見えないため、手探りで木の枝を集めそこに火をつけた。

 

(わぁ………私出て行ったほうがいいかな?明らかに場違いなんだけど)

 

洞窟の中では至るところにロアルドロスとルドロスがいた。中には亜種みたいな色をしている者もいたしここは多分ロアルドロスの住処だろう。と、一匹のルドロスがこちらにやってきた。なんとなく察したがルドロスは魚を口に咥えていた。その後に釣られるように他のルドロスや更にはロアルドロスが奥に引っ込んで魚を口に咥えて来た。

 

(やはりこうなるのかな。どうにかならないかなぁ。それとも、もうなれるか諦めて受け入れるしかないのかな)

 

改めて崇拝の恐ろしさを実感した日だった。てか毎日実感してる気がしなくもなかったが思い返すだけ無駄だろうと思い、ルドロス達が持ってきてくれた魚を食べた。

 

 

〜~~~~~~~~~

 

 

白帝竜観測隊よりギルド本部に連絡

 

ここ最近渓流にいた白帝竜が再び住処を移しました。場所は水没林で、空に分厚い雲がかかっているためステルス状態にはなれないようです。ロアルドロスの住処である洞窟の中に入った後、出て来たルドロスが魚を咥えて洞窟に戻っていることから察するにこのロアルドロス達も白帝竜の勢力圏に入った模様。驚くべきは以前の白帝竜よりも他のモンスターを従える、または支配すると言った速度が飛躍的に早まっている点。また水没林内のナルガクルガが白帝竜のいる洞窟の周辺をうろつき始めた点。以上から察するに我々には知覚出来ないモンスターに対する何らかの力が働いている可能性があります。これを解明することが出来れば新しい技術が生み出せるかもやしれません。

 

 

ギルド本部より白帝竜観測隊に連絡

 

了解しました。白帝竜が再び動き始めたため各地のモンスターに変化が起きました。小型大型問わず一部のモンスターが一定の場所に食料を貯蔵し始めるという行為を始めているとの情報が入り、今までのことから考えると白帝竜がエリア内に来た際の食料として提供する可能性があります。まだ詳しいことは分かっていないためそちらでも同じような行動が確認できるか観測をお願いします。それと大老殿での会合により白帝竜を近々古龍種に判別するかも知れないと連絡が入りました。そちらも合わせて連絡しておきます。



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番外編:ある日の渓流のロリルナルガさん

お気に入りが四桁に達したので記念に書いた話です。今までの流れをぶった切った上での、IF回なのでここで出てきた設定は基本本編には反映しません。読み飛ばしても問題ありません。

主人公の見た目は作者の趣味で構成されています。

後半はほぼギャグです。


ある日、渓流でいつものように食事をしていると草むらの影に見たことの無い茸が生えていた。傘が真っ赤で白い大きな丸が等間隔に並び、柄の部分には目のような模様があった。見たことの無い珍しい茸だったため好奇心から一口食べてみた。

 

(なにこれ………凄く不味い………キュー)

 

そのまま私はあまりの不味さにその場で気絶してしまった。

 

 

 

 

 

 

気がつくといつもの高台……ではなく茸を食べてそのまま気絶していたのか、草むらに倒れていた。

 

「うぇ…………何あの茸、不味いってレベルじゃなかったよ。もう二度と食べ……?」

 

人間の声が聞こえた。辺りを見渡してみるが特に違和感は……あれ?なんか視線が低くなった気がする。

 

「うぇ?!」

 

体を見てみるといつもの白い体毛が生えた身体ではなく白いワンピースのような服を着た人間の子供の体だった。ぎこちなく体を動かしながらも急いで近くの川を覗きこんでみると赤い目をした白い髪の毛の女の子がいた。

 

「に……人間になったー?!」

 

私の悲鳴が渓流中に響き渡った。考えをまとめるために混乱する頭でいつもの高台に戻ろうとするが困ってしまった。ハンターが来れない場所を選んだせいでこの小さな体じゃどうやっても高台まで登ることができなかった。仕方ないので高台の下で今朝アオアシラが持ってきてくれた蜂蜜を舐めてた。手が汚れるがいまさらなので気にしない。するとジンオウガが向こうからやってきた。近くまで来ると私の姿が変わってる事に気づいたのか、その場で止まりこちらを見てきた。

 

「えっと、私だよ?変な茸食べちゃって……あっ、そんな怖がらなくてもいいよ。むしろ私今何にも出来ないし……」

 

思わずその場に体育座りで落ち込み始めてしまった。私の姿を見てジンオウガが鼻をこちらに押し当ててきた。

 

「ごめんね、慰めてくれるの?………ありがとう」

 

そのままジンオウガが私の足元に顔を入れるとそのまま持ち上げて首に私を乗せてしまった。

 

「わぁ…!すごい眺め!」

 

ナルガクルガは元々目線が低いため、ジャギィとかとほとんど同じ目線て生活していた。しかも私は他のナルガクルガよりも体が一回り小さいためほとんど地面に近い目線で生活していた。そのためジンオウガの上に乗ってみる景色はいつもと違って新鮮味があふれていた。ジンオウガは私を乗せたままゆっくりとした速度で渓流内を歩きまわった。途中でドスファンゴと交代して全力疾走する爽快感を味わったり、リオレイアの背中に乗って渓流を眺めながらゆっくり飛んでもらったりした。

 

「楽しかったー!久々にこんなに遊んだよ!」

 

夜は夜で渓流中のモンスターを集めてみんなで食事をしたり、リオレウスの火球とジンオウガの雷玉を空中でぶつけて花火もどきを見て楽しんだり、いつもの身体じゃ楽しめない一日だった。寝るときも高台の下にみんなで集まり寄り添って寝た。みんなが寝るまではジャギィが吠えてイビルジョーが切れかけたり、ドボルベルクの寝相が意外と悪く尻尾で危うく潰されかけたりとハプニングもあったが最後は近くにいたジンオウガの足元に顔を載せて眠った。

 

 

ーーーーーー

ーーーー

ーー

 

 

(て事がこの前あったんだよ)

 

(なるほど、モンスターでありながらヒトの身になるとはある意味古龍よりも珍しい経験をしたようだな)

 

(残念ねぇ!あたしもルミナスちゃんの可愛い姿を見たかったわぁ!)

 

(確かにそれは一見の価値があったかもしれませんね。しかしっ!やはりこの世の究極の美はミラルーツ様に決まっています!むしろそれ以外あり得ません!)

 

(あらやだぁ。あたしも十分綺麗じゃなぁい?)

 

(黙ってろこのオカマ野郎!)

 

(だぁれがオカマ野郎だってぇ?!あんま調子こくとはたき落とすぞナルシスト野郎!あぁ?!)

 

(ここで暴れるな馬鹿共!)

 

(ぎゃあああああああ!!)

 

(有り難うございます!!)

 

(………うん、見事にいつも通りだよ)



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異変

(うわー……昨日より酷いことになってない?)

 

次の日、水没林は土砂降りの雨だった。雨の勢いが強すぎて霧を出しても下に落ちてしまい最低限のカモフラージュも出来なかった。

 

(今日は出かけるのはやめておこ)

 

幸い洞窟の中には鉱石もあり、数日引き籠もるには充分なのでこのままここで雨が止むまで入ればいい。ロアルドロス達も魚を持ってきてくれるので特に問題はなかった。

 

(その間何してよう……)

 

ここのところどこかに移動するか食べるか寝るの三行動しかしてないため、たまにはこの先生き残れるように何かできることを考えてみた。と言ってもここ最近の食事で体の変化は見られないのでまた新しいものを食べる必要があるかもしれない。

 

(てことはあれか……)

 

残ってるのはラージャンを食べた事によって放つことが出来た電撃。意識して使ったことは無かったけど今は暇だしちょうど外に出ることもないのでこの機会に練習しておこう。まずは軽く体に纏うように放電してみた。……変化なし。次に刃翼や尻尾に意識して体を動かしてみた。こちらは手応えありで、目に見える程度には軽い電撃が見えた。最後に口から炎を吐くのと似た感覚で電撃を放つ。……予想以上に出来てしまった。天井がバリバリ電気を帯びている状態になった。

 

(電撃で筋肉を刺激してサイヤ人的なことは出来ないのかな?速度が上がればそれだけで手段は増えるけど出来ないなら色々と練習しよう)

 

 

ーーーーーー

ーーーー

ーー

 

 

(やっと雨も上がったね。これで色々見て回れるよ)

 

一週間ほど経った今日。雨も上がり雲もどこかに行ってしまったため久しぶりに太陽を見た気がする。外に出ると辺りにフロギィ達がいた。何気に初めて見たけど特に関わるようなこともないのでとりあえずエリア内を歩き回ることにした。

 

(とりあえず蜂の巣があれば儲けもの、茸か木の実で許容範囲内、鉱石と魚はしばらくはいいかな……)

 

というかここんところ極端に同じものを食べ続けた結果、また体が進化していた。それについては今度話すが進化についての軽い方針が分かったほうが重要だった。推測だが色んな物を食べるよりは食性を偏らせた方が進化は早く出来る様だ。まだ確定とは行かないがこれはこの先の食事なんかで解明していきたい。と、エリア内を移動してると先の方に何かが落ちてた。

 

(うわっ…………誰?こんなことするハンターは)

 

そこにあったのはドスフロギィの死体だった。体中が引き裂かれ、明らかに死んだ後も過剰に攻撃されたような感じだった。更に表面の鱗や皮や牙などのハンター達着素材として使うものは全て例外なく取られていたため遠目にはただの肉の塊にしか見えなかった。

 

(流石にこんな殺し方をするなんて黙ってられないんだけど、何処の馬鹿がこんなことするの)

 

何処かでこれの犯人を知ってるモンスターはいないか考えたけど仮に知っていても私からは意思疎通ができない……いや、ここに住んでいてなおかつ唯一私と意思疎通ができるモンスターがいた。

 

(それで、ここに来たのかにゃ?)

 

(そうなの、何か知ってることはないかな?それっぽい事なら何でもいいんだけど)

 

急いでエリア内を周り、偶然見つけたアイルーの一人に集落に案内してもらった。ここの集落は穴を通って入るのではなく、板の上に草を引いて偽装した穴から降りる形で入るためそこそこの大きさがあり私でも難な降りることが出来た。

 

(そう言えば、友達が言ってたことだけど最近新しいハンターが別の地域からこの辺りに来たって噂らしいにゃ)

 

(新しいハンターなんて毎日来てると思うけど?)

 

(違うんですにゃ。友達曰く、そのハンターは本来なら複数人で行うラージャン討伐の依頼を一人で成功させたらしいにゃ)

 

私が戦ったラージャンはすぐ絶命したためどんな攻撃をするかは分からずじまいだったけど、少なくとも楽に戦える相手ではなかったのは確かだ。それを人間が一人で倒すなんて確かにそれは噂にもなる。

 

(それで?そのハンターについてなにか知らない?)

 

(そこまで詳しいことは……あっ、でも、聞くところによるとそのハンターは色んな武器を作るために毎日狩りに出かけてはモンスターを必要以上に狩ってるって聞いたにゃ)

 

(必要以上に……)

 

そんなことを続ければ明らかに生態系の破壊は免れない。それに恐らくだけどその位のことは人間たちの間でも暗黙の了解程度にはなっているはずだ。それを無視してまでモンスターを狩るってことは何か理由でもあるはずだ。

 

(分かったよ、情報ありがとうね。それはお礼だよ)

 

そう言ってここに来るまでに作っておいたこんがり肉を渡した。もちろん私は食べる分だけ狩ってるよ?アイルー達は滅多に食べることのできない物をもらったおかげで、すっかりお祭り気分になってしまったため邪魔をしないように出て行った。

 

 

ギルド本部より白帝竜観測隊に連絡

 

緊急事態が起こりました。前の白帝竜討伐作戦を計画した新米ハンターが水没林へ向かいました。恐らく白帝竜が水没林へ向かったとの噂を聞いたと思われます。彼の実力は現在の全ハンター内でもトップレベルに位置しますが?同時に非常に難解な性格をし、モンスターは徹底的に狩るため生態系への負担も懸念されています。ギルドからの忠告を無視して飛竜種を乱獲したこともあり一時期はハンター登録を停止していた事もありましたが今回の件は非常に厄介なことになりそうです。彼が白帝竜の勢力内の仲間、もしくは白帝竜自身に手を出した場合どのようなことが起きても不思議ではありません。最悪渓流で起きた大狩猟の様な事態も視野に入れ、こちらから水没林へ調査隊を派遣しました。そちらからも彼の監視をお願いします。



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神罰

今回人によっては不快な表現が含まれているためご注意ください。


次の日、水没林を巡回していると遠くで地響きのような音が聞こえてきた。渓流でよく聞こえてきたドボルベルクが木々を薙ぎ倒すときの音によく似ていた。

 

(そっちにいるのね!今行くわ!)

 

ステルス状態になり出せるだけの速度で音のする方に向かうと殆ど瀕死状態で倒れているドボルベルクとその近くに立つハンターを見つけた。

 

「さっさと殺して素材剥ぎとるか。いい加減レア素材落とせってんだよオラ」

 

ハンターがドボルベルクの顔を蹴りつけているのを見て、こいつがアイルー達の言っていた奴だと分かった。正直これ以上は不快だから見てられなかった。バレないように後ろに回りこむのと手加減せずに本気で尻尾を薙ぎ払い、燃え盛る尻尾をハンターの脇腹に叩き込んだ。ハンターは勢い良く吹き飛び森の中に飛んで行った。ステルス状態を解くとドボルベルクに忠告した。

 

(よし、今のうちに逃げて)

 

言葉は分からなくともなんとなく尻尾で押すとドボルベルクに伝わったらしく脚を引きずりながら奥に逃げていった。

 

「痛えな!ふざけんじゃねえよせっかく作った鎧が壊れちまったじゃねえか!」

 

(正直鎧がなんだって言うんだよ。こちとら仲間の命が無為に消費されるところだったのに)

 

本気で撃ち込んだにもかかわらず鎧にヒビが入っただけでハンターの方は特に怪我はない様子だった。流石にこれはおかしいと思う。前に渓流で壁に叩き付けたときは崖が崩れるレベルだった。今はあの時よりも力はついてるため威力も上がっているはずなのに、被害は鎧だけ。どうやらなにかタネがあるみたいだった。

 

「ふざけんじゃねえよ。俺は神に選ばれたんだよ!お前みてえな雑魚にやられるほど弱くねえんだよ!」

 

そう言って相手は両手に二本の槍を構えて突撃してきた。ただし動きが酷く直線的すぎるのとまるで槍を初めて使ったかのような素人丸出しの扱い方だったため簡単に避けることが出来た。

 

「クソ!避けてんじゃねえよ!他の奴はのろまだったのに何だよコイツ!こんなのかいるなんて聞いてねえぞ!」

 

(さっきから凄い五月蝿い奴だな。黙って戦えないのかな)

 

黄色の短槍の横薙ぎに合わせて刃翼を振り付ける。流石に折ることは出来なかったが相手の体制を崩すことは出来たのでその場で急回転しもう一度隙だらけの腹に尻尾をぶち込んだ。今度はうまく受け身をとったみたいだが今の衝撃で防具は完全に使い物にならなくなっていた。

 

「手加減してやってるのに調子に乗りやがって!さっさと死にやがれ!王の財宝(ゲートオブバビロン)!」

 

突然ハンターの後ろの空間が歪んで金色の波紋が広がった。そこからおびただしい数の武器が出てきた。

 

(えっ?あれって確か友達に借りたアニメで出てなかった?)

 

詳しくは覚えてないけどアニメに出てきたことは分かる。問題はなんでモンハンの世界で別のアニメの技か使えるのかだ。

 

(さっきから神様がどうって言ってたけどなにか関係あるのかな)

 

ただ少なくとも元々この世界の住人だったという事はないはずだ。あんな反則技使える人が何人もいたらそれこそモンスターなんて一匹残らず狩られてる。

 

(もしかして私と同じ世界の人かな?)

 

「さっさと喰らって死ね!」

 

そのまま大量の武器が私めがけて発射された。バックステップで躱しても幾つかの武器が追って来るので森の中に逃げた。ある程度離れてから刃翼を振りかぶり武器を叩き落とす。が、流石は英雄が使ってた武器なだけあって滅茶苦茶硬い。全部叩き落とす頃には刃翼が何本か折れていた。

 

「出て来いよクソッタレ!雑魚はさっさとやられてればいいんだよ!」

 

(…………もういいや、手加減するのも飽きたし。殺ろう)

 

尻尾をまっすぐに伸ばしあのハンターに向けた。ステルス状態になり同時に尻尾にありったけの電撃を流す。ところでみんなは電磁砲というのを知ってるでしょうか?電流を流したレールで金属球をものすごい速さで飛ばす艦載兵器の事を。ただ電気を流すだけと思うなかれ、これは意外と使い勝手が悪い。弾丸を撃った時に発生する電磁波や衝撃で周りにいるモンスターが騒ぎ出す。また電流や電圧といった法則を無視するラージャンの電撃だと並大抵の金属では耐えられずに空中で消失してしまう。ならばどうするか。今しがた折れてしまった自分の刃翼を使って撃つまでだ。

 

(…………そろそろいいかな?)

 

落ちている刃翼を口に咥え、そこに電撃を一斉に流す。この前から電撃を扱えるように尻尾や刃翼に電撃を流していたのでやはりこのくらいなら溶けることもなく耐えていた。そして箇条流し続けると一時的に電気を帯びた状態の刃翼が出来た。それを二本の尻尾の間に挟んでハンターに狙いをつける。前に一度だけ試したときは余波で木が倒れたので直撃しなくても十分な効果が得られるだろう。

 

(…………逝け)

 

一気に電撃の量を上げると甲高い音を立てながら刃翼が飛んで行った。途中の木も抵抗なく貫通し当然ハンターは避けることも出来ずに棒立ちで喰らった。とうやら片腕を吹き飛ばしたようだ。右肩から血がドバドバ流れていた。その後に来た余波で吹き飛びハンターは崖下に落ちていった。

 

(………帰ろう)

 

ハンターと戦い終わって思ったのは虚しさだった。特に思い入れはないし逆に仲間を虐殺してきた人間だが、私が元人間だからか頭の中に殺人という言葉が浮かんだ。

 

(帰って寝よ)

 

しばらくは踏ん切り付くまで休むかな………

 

 

〜~~~~~~~~~

 

 

白帝竜観測隊よりギルド本部に連絡

 

報告です。先日の連絡にあったハンターがドボルベルクの討伐中、白帝竜と遭遇。白帝竜が攻撃するも防具の破損のみというタフさを発揮し、更に自分の背後から武器のような物を撃ちだすという謎の技術を使いました。しかし白帝竜が電撃を帯び、直後に見えたオレンジ色の槍のような光でハンターは右腕を根本から失い風圧で崖下に転落する形で終わりました。白帝竜は戦闘後寝床に帰った模様。ハンターの生死は不明です。

 

 

ギルド本部より白帝竜観測隊に連絡

 

了解しました。ハンターについてはこちらから調査隊を派遣して捜索することに決定しました。また、今回の件でこのハンターの狩猟権利を剥奪する事に決定しました。そして、白帝竜の危険度を改めて協議し白帝竜を古龍種に含める事が決まりました。この事も各地のギルドに情報を流しハンター達に伝わるようにしています。貴重な報告有り難うございます。



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誘拐

(うぅー!さっむい!早くどこかで暖を取らないと……)

 

こんにちは、私は今凍土に来ています。あのハンターを撃退後、地味に殺人の意識に悩まされれていたのでアイルー達に相談したらまた今までみたいにいろんな場所を回って気分を切り替えてくればいいと教えてくれた。

 

(確かに切り替わったけど……別の意味で問題だよ!)

 

凍土に慣れるために火山で取得した発火器官は重要なものが無いため使うことができなかった。つまり、火種がない。いくら炎を吐くことができると言っても火種がなくてはすぐに消えてしまう。だが辺り一面氷の世界に閉ざされ、植物は背の低い物や逆に中身がぎっしり詰まった密度の高い木しかなく燃えにくくなっていた。流石にこれは予想外だったため途方に暮れていた。このまま帰ってもいいがそれでは情報をくれたアイルー達に申し訳が立たない。

 

(あぁ、なんか眠くなってきたよ。寒さで死ぬことはないと思うし……ないよね?不安だけど一回休もう……)

 

 

ーーーーーー

ーーーー

ーー

 

 

(…………なんか揺れてる?誰か来たのかな?)

 

地面が揺れてるような気を感じて目を覚ましたがあたりが暗くて状況が確認できなかった。分かった事はどこかに向かっている事と、

 

(脚枷?)

 

両足に金属で出来た鉄輪が挟まり鎖がそこに繋がっていて周りの壁に固定されている。もしかして捕まった?

 

(凍土で寝てた筈だけど……寒さで体が動かなかったから?)

 

どちらにしろ面倒な事態になったことは確かだ。このままどこに連れて行かれるのかは分からないが少なくともまともな待遇で生きていけるとは思えない。故に逃げることにした。まず前脚に付いている鎖を噛むと意外にそこまで硬くなかったため数分で両前脚の鎖は取れた。次に後ろ脚だがそこまで頭は届かないので尻尾に電撃を流して焼き切ることにした。そのままやると音がしてバレると思うので出力は小さく一点に集める形で流すと鎖を切った。後ろが見えないため感覚で切るしかないから自分の足を斬るかもしれなかったがうまく行ったようだ。

 

(よし、これでとりあえず逃げる準備は整ったから……後ここがどこかだよね。なんか分かんないかな)

 

壁に耳を近づけると少しだが話し声が聞こえてきた。どうやらギルドや密猟団ではなさそうだった。逆にそれ以外でこんな設備を持って私を捉えようとするのが分からなかった。しばらくして揺れが収まった。どうやら目的地についたようだ。近くに人が寄ってきたのかさっきよりも話し声が聞こえやすくなった。

 

「駄目です!何があるか分からないから危険ですよ!」

 

「平気じゃ!それよりも早く蓋を外すのじゃ!」

 

「……団長、さっと終わらせて引き渡せば平気ですよ」

 

「分かった。その代わりもう少し後ろに下がっててくれませんか?そこに入られると守ることも出来ません」

 

そこで会話が途切れ壁が開いた。どうやら檻の中に入っていたようで外側から鉄の板で蓋をしていたらしい。蓋が開くと周りにハンターと少し離れた場所に小さな女の子と執事みたいな人が立っていた。私の鎖が壊れてるのを見て周りのハンターが騒ぎ出した。

 

「なぜ鎖が壊れている!あれはイビルジョーてすら引き千切ることも出来ない硬度の鎖だぞ!」

 

「騒ぐな!まだあいつは檻の中にいるんだ!ガンナーは睡眠弾を撃ち込め!」

 

ハンター達の中でボウガンを持っている人達が一斉に構えたのでこちらも動くことにした。尻尾に先程の様に電撃を溜め、尻尾を回すように振り檻の側面を切り飛ばした。辺りにガラガラとうるさい音が響いた。

 

「檻を切っただと?!」

 

「どうするんですか団長!」

 

ハンター達が混乱してると奥にいた女の子が近寄ってきた。

 

「お嬢様!危険です、こちらにお戻りください!」

 

「爺はいつもうるさいのじゃ!妾の好きにさせよ!」

 

そのまま目の前まで来ると鼻に触ったり目を覗きこんできたりした。正直何がしたいのか分からない。頭に手をかけて体を持ち上げようとしているので上に乗ろうとしてるのは分かるが。仕方ないので尻尾の電撃を消し、女の子の両脇に尻尾を入れてゆっくり持ち上げ体の上に載せた。

 

「お嬢様!危ないです、早くお降りください!」

 

「何を言うのじゃ!妾を見ても襲って来なかった!危険はないはずじゃ。それに妾には分かるのじゃ!こいつは人を襲うようなやつではない!」

 

そのまま女の子と爺と呼ばれる人が口論を始めたので周りをハンターに囲まれているため動けない私は寝ることにした。この調子じゃ女の子は降りなさそうだし、女の子が乗ってるのに攻撃をすることはないだろう。服装や言葉の端々からこの子が上流階級の出身なのは分かるのでそんな子に怪我をさせるようなことはしないだろう。



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逃走

「ふむ、これも嫌いなのか?」

 

(いや、単純に食欲ないだけなんだけどね。伝わらないと思うけど……)

 

現在、どこかの宮殿のようなお城の中庭にてハンター達に囲まれながら女の子に色々話しかけられていた。周りの会話から察するにこの子はここの別荘の所有者の娘らしく相当立場の高い子らしい。その割には自由奔放すぎるが。女の子が次々とこんがり肉だったり調理した魚だったりを持ってくるがあまりお腹は空いてないため遠慮しておいた。それに中に何が入ってるかわからないし罠ではないとは限らないから食べ物には手を付けてない。

 

「お主、食べなければ育たないぞ!」

 

「お嬢様、もしや今は空腹ではないのでは?」

 

おぉ、執事さんナイスフォロー。見直したよ。

 

「いやじゃ!妾はこの者が食べているところを見たいのじゃ!」

 

ワガママ娘ェ……執事さんのフォローが。

 

「でしたら与えるものを変えてみては?噂によると蜂蜜が好物と聞いたことがあります。これをどうぞ」

 

「準備が良いぞ爺。ほれ、これならどうじゃ?」

 

(いや、蜂蜜はいいんだけど別にそこまで……まぁいいか)

 

この後、ここから出て行く時に何も食べていなかったせいでスタミナ切れなんて起きたら笑えない為少しだけ食べることにした。といっても渓流の斎みたいに蜂の巣ごとではなく匙で口の中に一杯ずつ垂らすので全然食べた気がしない。小さい飴を舐めてる気分だった。私が食べたことに満足したのか私の上に乗ると眠りだした。下手に動くと落としてしまうので動けなかった。私をここから動かさない為の作戦なんだとしたら的確すぎて涙が出てくる。

 

(暇だなぁ……いつもと対して変わらないけど。それにしても凍土どうしよっかな…………行くのやめようかな)

 

このまま行ってもまた凍死寸前のところを囚えられるだけだ。何か手段を考えなくては。これ以上発熱器官を望むのは無理そうなので別の方向性で適応しないと。

 

(電撃なんて使ったら体中黒焦げになりそうだし………溶岩?)

 

一瞬溶岩をガブガブ飲んでる自分を想像したけど流石にありえない。そんなの飲んだら進化する前に死んでしまう。

 

(でも、火山とかもう少し調べれば何かありそうだけどなぁ……また行ってみよう)

 

だとしたらまずはこの子を退かして、周りのハンターから逃げないと。ハンター達の武器を見るにそこまで上位の武器ではなさそうだから逃げに徹すれば苦労はしないだろう。という事は問題は自分の上で寝こけているこの女の子だけだ。女の子の脇下と膝下に尻尾を入れて、いわゆるお姫様抱っこでゆっくり下ろした。地べたは不味いと思い芝生の生えてるところに下ろしたから勘弁して欲しい。そのままハンター達の静止を無視して逃げ出した。途中ステルス状態になり追っ手はすぐに撒くことが出来た。

 

(とりあえず火山に向かうかな、飛ぶとばれるから歩いて行こう)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ここはどこじゃ?……あっ!あの者逃げおったな!逃さぬぞー!待てー!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お嬢様は何処にいらっしゃるのだ?」



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同行者

「ようやく見つけたのじゃ!妾もついているの!」

 

(あの………何でここに居るの?)

 

ハンターを振り切り追っ手が撒けたことを確認するためステルスを解除したのが運の尽きだった。いつの間にかさっきの女の子が後ろにいて尻尾から私の体の上によじ登ってしまった。見た目によらず随分アグレッシブ過ぎて驚いた。

 

(と言うかこれ、私が誘拐したみたいになるよね……私が誘拐されたほうなのに)

 

もしかしたらハンター達に既に依頼が回ってるかもしれない。かと言ってここに置き去りにしては野生のモンスターに襲われるだけ。なら多少危険でも連れて行ったほうが安全かな?これから行くの火山だけど。

 

(私これから空飛ぶんだけど)

 

何も対策せずに飛んだら確実にこの子は落ちるだろう。悩んだ結果尻尾を女の子の体に巻きつけて衝撃で飛ばないようにした。こうでもしないと無理だろう。

 

(ちゃんと捕まっててよ!)

 

 

 

 

 

 

女の子は飛ばされることなく尻尾に捕まっていた。それどころか途中で「景色が見たいからもっとゆっくり飛べ」や「あそこの湖が見たいから降りろ」など傍若無人っぷりを見せた。モンスターにここまで言える子もそうそういないがいちいち要望に答えてしまった私も私だろう。おかげで火山に到着した頃にはすでに日が暮れていた。

 

「今日はここで寝るのか?妾はベッドのある場所で寝たいんじゃ……」

 

(そんなのハンターの拠点にしかないでしょ。そこまで行ったら私がやられるよ)

 

本格的に駄々をこねないうちに尻尾で持ち上げると腹元に押し付けて尻尾で包んでおいた。私もある程度は体毛があるから暖かいはず。これで文句あるなら置いていこう。

 

「おぉ!……ほぉー!」

 

お気に召したらしい。ただ尻尾の毛を引き抜こうとするのはやめて欲しい。すっごく痛い、尻尾が千切れるほどじゃないけど地味にくる痛みがある。

 

(………やっと寝た)

 

しばらく位置を調整したり毛を引っ張ったりしていたが飽きたのか、丁度いい位置を見つけたのかようやく寝てくれた。安心したので私も眠りだした。

 

 

ーーーーーー

ーーーー

ーー

 

 

(その子はどうしたんだにゃ?)

 

(うーん……成り行きで着いて来ちゃったとしか……)

 

現在、朝食のために鉱石でも食べようとしてピッケルで採掘をしているアイルーを見つけて集落に案内してもらった。ちなみにどこでピッケルを手に入れたか聞くとハンター達が手持ちがいっぱいで捨てて行った物らしい。

 

「可愛いのじゃ!一匹連れて帰るぞ!」

 

暴れだしそうだったので尻尾で掴み上げて背中に乗せておいた。

 

(それで、ルナさんはどうしてここに来たんだにゃ?)

 

ルナさんとは私のことらしい。ルミナスを切ってルナ。それならルミじゃないと思ったがルナの方がいいらしい。まぁ元々月光でステルス状態になるので月を表すLunaが合ってるしいいか。

 

(前にここに凍土で寒さに負けないために何かないかなって思ったんだよ。その時は草を食べてたら発火器官が出来たみたいなんだけど、凍土じゃ燃やすものがなくて意味が無かったんだよ)

 

(それで別の物を探しに?)

 

(そうそう、何かそういったものって知ってる?)

 

(うーん………あっ、一ついい物があるにゃ)

 

(本当?)

 

(ただここじゃにゃくて他のみんなの場所にあるにゃ。だから暫くここにいるといいにゃ。僕達で集めてくるにゃ)

 

(私も手伝おうか?)

 

(それは有難いにゃ、でもそれだと……)

 

そう言って私の上ではしゃいでる女の子を見た。

 

(あぁ………私しか止められないしね)

 

(そうだにゃ、だからここで待っててくれにゃ。すぐに集めてくるにゃ)

 

(有難うね)

 

「何を話しているのじゃ!妾にも分かるように話すのじゃ!」



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女帝

(ルナさん、これが言ってた奴にゃ!)

 

(これが……?)

 

あれから三日程立った日、アイルー達がたくさんやって来た。私の頼んだ物が見つかったらしい。しかしここ三日間、私にとっては凄く気の休まらない日々だった。原因はあの女の子だ。少し目を離すと集落から出てエリア内を歩き回る。その度に探しまわったり、言うことを聞いたり、彼女を襲おうとするモンスターを何とか説得したり。気づけば誰も彼女を見ても襲わないようになってた。

 

(これってどこで手に入れたの?)

 

目の前に大体饅頭ほどの大きさの色鮮やかなビー玉みたいなのがいくつか置いてあった。

 

(大型モンスターの死体があった場所に落ちてたりするにゃ。僕達じゃ使い道がないし、それににゃにか変な感じがするから貰ってくれるとこっちも助かるにゃ)

 

(変な感じ?)

 

(大型モンスターの気配だったり、よくわからない力みたいにゃのを感じるにゃ)

 

私自身が大型モンスターだからなのか特に変な感じはしなかった。

 

(それじゃあ………貰うよ?)

 

(どうぞにゃ)

 

鉱石でも食べる感覚で齧ったがものすごく硬い。歯が欠けるほどではないけど硬いせんべいを食べてる感じだった。食べ終わったが何か体の中で変化したような感じはしない。そんないきなり劇的に進化したら驚くけどね。

 

(これで、発熱器官が増えるかな?)

 

(えっ?)

 

(…………えっ?違うの?)

 

(一応それっぽいものを持って来ただけにゃ。発熱器官がつくかは運次第にゃ)

 

(…………凍土行くの諦めようかな)

 

(だ、大丈夫にゃ!きっと発熱器官も出来るにゃ!)

 

(だといいけど……)

 

 

ーーーーーー

ーーーー

ーー

 

 

(ルナさん、にゃにか変化はあったかにゃ?)

 

(何もないよ……なんかウズウズしてる感覚はあるけど。前みたいに火を吹いたり電撃が出たり分かりやすい変化はないね)

 

(ごめんにゃさいにゃ……僕達が変な物を食べさせちゃったからにゃ……)

 

(平気だよ!絶対そのうち何があるよ)

 

だが、予想に反して特に変わったことはなく数日が過ぎた。謝ることはないとアイルー達を宥めて自分達の集落に帰した後、火山で何かないかと探していた。

 

(他に何かないかな……この辺りは探し尽くした気がするからもうないのかな……)

 

すると空が曇った。いきなりだったので驚いて空を見上げると原因が分かった。何か大きな影が自分の上にいたのだ。その影は自分を追い越すとゆっくり旋回しながらこちらに着地した。

 

(おや、貴方でしたか)

 

(カドラさん?)

 

なんでカドラさんがこんなところに?住んでる場所はもう少し向こうだった気がするけど。

 

(いや、ここ数日前に凄く大きな加護の力を感じたのですが……まさか貴方だったとは)

 

(大きな加護ですか?)

 

(えぇ、ここ最近なにか変わったことはないですか?)

 

(特に……あっ、でもアイルー達に小さな光ってる石みたいなの物を幾つか貰ったのでそれを食べました)

 

(小さな光る石………もしかして宝玉ですか?!)

 

(えっ!………えと、分からないです。アイルー達がこれを食べれば発熱器官もつくかもしれないって。私がそういう物がないか頼んだんです)

 

(これは面倒なことになりそうですね………とりあえず移動しましょう。ここでハンターに遭遇すると不味いですから)

 

そういってカドラさんは飛んで行ってしまった。慌てて着いて行くと前にカドラさんとあった場所についた。

 

(ここなら大丈夫でしょう。さて、まず貴方が食べてしまったものですがあれは宝玉と言われているものです)

 

(宝玉……ですか?)

 

(えぇ、宝玉とは言わば力の源。私達がハンター達に恐れられている力はこの宝玉の力なんです。もちろん私も持ってますよ)

 

(私も持ってたりするんですか?)

 

(ナルガクルガ希少種のステルスは周囲の環境と自分の体を使った擬態に近いものなので宝玉の力ではない…………はずです)

 

(はず?)

 

(なんと言うか…………無いはずなんですけど貴方からは色々な宝玉の力、言い換えれば加護が感じられるんです。それに貴方本来の加護も何だか前にあった時よりもだいぶ変容しているみたいですね)

 

(えっと…………つまり力が強くなったってことですか?)

 

(力が強くなったというよりは扱える力が増えた、と言ったほうが正しいですね。さっき言った通り加護の力が増えたのですから。僕は水を除く四属性の加護が在りますが、貴方はそれ以上にたくさんの加護が感じられるんです。おそらく僕以上にあると)

 

(そ、そうですか…………あの、私の加護はどんな感じなんですか?)

 

(そういえば聞いてませんでしたが、貴方自身の加護は何なんですか?)

 

(ミズハさんは崇拝だろうって言ってました)

 

(崇拝ですか…………そうするとだいぶ変わりましたしおそらくより強制力が増した感じになると思います)

 

(……本当ですか?)

 

(えぇ、さしずめ狂信や盲信と言ったところでしょうか?まだ力に馴染んでいないのでそこまでの効力は発揮しませんが、最終的にはおそらく……神と崇められる可能性もないとは言い切れません。それほど加護の力は良くも悪くも強力です)

 

(……………そうですか)

 

(今日は休んでください。このまま悩んでもいいことはありません。もし何かあったら僕も力になりますよ。乗りかかった船ですし)

 

(有り難うございます……)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(非常に不味い方向に傾きそうですね。彼女が力の方向性だけでも決めることが出来ればいいのですが………それに、おそらくあの(・・)宝玉も食べたのでしょう。まったく、普通宝玉なんていくつも食べたら自壊するか精神が耐え切れないのに………あの者はどうなってるんでしょうね



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混沌

(はぁ………いい加減意識切り替えないと不味いよなぁ)

 

一旦凍土に行くのは中止して渓流に戻ってきて数日。帰ってきた瞬間にジャギィ達が魚や蜂の巣を持ってきたので早速加護の力が強くなってることを確認したがその後からが本番だった。朝起きれば食料を持ってくる。空を飛んで軽く散歩に行くだけで大量のモンスターが着いて来る。終いにはハンターが渓流に入って来ただけで無差別にほぼ渓流内のすべてのモンスターが襲い掛かる。今までとあまり変わらないと思うが、今は動く数が違う。前までなら多くて三頭とか一緒に散歩感覚だったのに今じゃほとんど付いて来るから護衛みたいな感じになっている。向こうからしたら案外そうなのかもしれないけど。

 

(とりあえず、何とかしてこの状況を変えないと。もしここにいるだけで他のモンスターに影響があるならもっと別の場所に行こう)

 

それこそモンスターが一匹も居ないような辺境の地に。

 

(私の加護は常時発動してるから抑えることは出来ないと。加減とかは出来るのかな?そもそも私自身、他の加護の力は意識してないんだよね)

 

頭の中で加護の力を意識してみるが全く分からない。どうやらただ炎を出したり、電撃を放ったりではないようだ。

 

(それにこっちも問題だよね………)

 

傍らではさっきから女の子がうなされていた。丁度私が宝玉を食べた辺りからなので私の加護の力が働いてると思う。この子は私に付いてきただけだから何も関係ない、それなのに私の事情に巻き込んでしまった。せめてアイルー達を帰す時に一緒に前の別荘に帰せばよかったよ。ここで言っても仕方ないから早く制御できなくても力を知覚して強弱くらいはいじれるようになりたい。

 

 

ーーーーーー

ーーーー

ーー

 

 

あれから二日、未だによく自分の加護を理解していないけど、一つだけ分かったことがあった。私が近づくと女の子が呻き出し、私が何かをしに少し離れると呻き声が収まる。どうやら私の一定範囲にいることが原因なのかもしれない。これが分かっただけでもずいぶんな収穫だった。

 

(ごめんね、私が自分の危険性をよく理解しておかなかったから………今回の事で学んだよ。私は私を理解してくる。もしかしたらまた逢えるかもね。ばいばい)

 

女の子をハンター達が本来使う拠点のベッドにゆっくり寝かし、ステルス状態で全力でその場から離れた。遠くの方でモンスターの声が聞こえるけど今は全て無視する。

 

(できるだけ遠くに行こう。モンスターがいない、ハンターも来ない場所に……)

 

目指すのは加護の制御だ。それくらい自分でやってやる。

 

 

~~~~~~~~~~

 

 

白帝竜観測隊よりギルド本部に連絡

 

渓流に白帝竜が再び帰ってきた後、他のモンスター達の行動が激変しました。常に白帝竜の周囲に陣取り、食料も奪い合って白帝竜に持って行こうとしています。白帝竜の力が増えたか、もしくはうまく制御できてないか、もしかすると白帝竜自身の力が弱まり周りのモンスター達が護衛しているのかもしれません。また、渓流のベースキャンプで王族から極秘に依頼されていた第三王女に似た格好の少女を見つけました。急ぎ保護をお願いします。白帝竜は現在の居場所は分かっていません。恐らくですがステルス状態で移動したらしく見つけるのには時間がかかると思います。

 

 

ギルド本部より白帝竜観測隊に連絡

 

了解しました。ベースキャンプで発見された少女は依頼の第三王女と言う事が判明しました。発見したハンターには後日依頼料をこちらから渡す形になりました。白帝竜が消えた件ですが討伐依頼を取り消し、代わりに広い地域で再び生態調査の依頼を回すことが決定しました。そのためそちらは一時こちらに帰還してください。今日まで観測ご苦労様でした。



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超越

今回、前回の話からだいぶ時間軸が飛びます。ご注意ください。


(……………)

 

とある地域に最近ある龍(・・・)の噂が広がり始めた。その龍は全身を覆う白銀の翼膜を持ち、その腕についた白刃であらゆる物を切り裂くという。またこの龍が

目撃される日は霧が深く立ちこめていることからナルガクルガ希少種ではないかと言う意見もある。

 

(…………)

 

しかし、姿を見たハンター達は次々にこれを否定した。曰く、あれはナルガクルガなんかじゃないと。何処にいるか分からないまま一方的な攻撃で帰ることとなった。分かったのは撤退する直前に見えた肩から生える二本の豪腕(・・・・・・・・・・・)だけだった。他にも豪腕には巨大な白刃が付いていた。全長は普通のナルガクルガよりもよっぽど小さいのにパワーが桁違い。など帰ってくるハンターによってまちまちな意見だった。そしてこのモンスターは決してハンターを必要以上に攻撃することがないことで知られた。こちらが戦闘継続が難しくなった時点でどこかに消えてしまうため、詳しい事は何一つ分からない謎の龍。ハンター達の間では自分の腕を確かめる為の修行になるという人もいます。是非、この謎の龍の依頼を一度受けてみては?

 

 

 

 

 

 

 

 

(なにこの記事)

 

(何でも、週間ハンター達の生き様って言う雑誌で取り上げられてるらしいにゃ)

 

(だから最近ハンターが多く来るのか……)

 

あの日から私は誰にも見つからないような場所を探した。でも結局見つけることは出来なかったためこれが最後だと思い、アイルー達を頼った。するとここから西の方に向かった場所に環境が厳しすぎてモンスターがいないという場所があることを聞いた。早速そこに向かって飛ぶこと三日間、ついにその場所に辿り着くことができた。一部を除き辺りを断崖絶壁に囲まれた絶海の孤島だった。食料は島に自生している小さな木の実と茸のみ。それですら私が一週間も食べ続ければなくなってしまう。だからそれ以内に食料源を確保するのも重要だった。幸い辺り一面が海なので海産物は豊富に取れる。私の加護に向き合いながら四年間過ごした。その結果

 

(けど、前来た時とは大違いだにゃ。あの時はいきなり体が勝手に動いてその後の記憶も軽く曖昧になってたにゃ)

 

(あの時のことはゴメンって言ってるでしょ)

 

狂信・盲信の加護をある程度まで操作することが出来るようになった。やったことは海に半分浸かり、加護で周囲の魚を操りまず加護の力を知った。次に加護の力のレベルを下げられるように試行錯誤した。これに殆どの時間がかかった。けどレベルが下げられるようになってからは特に苦労もなく行えた。やはり自分の中に感覚として残ったのが大きな要因だったようだ。今ではこうして気兼ねなくアイルー達と話していられるが前までは来た途端機械のように動く事しかなかったからあの時に比べたら全然成長したと思う。因みにアイルー達は波の穏やかな日を選んで船で一気にここに来るらしい。これには流石に驚いた。

 

(それで、力の方はどうなったにゃ?)

 

(うん、自分の加護含めて全て制御済みだよ。まあ一番の自分の加護がまだ若干不慣れだけど)

 

(でも初めよりは十分に使いこなせてると思うにゃ)

 

(そうだね………………そろそろ戻るかな)

 

(渓流にかにゃ?)

 

(いや、いきなり渓流に行ってもみんなを驚かせるだけだし。それなら前に中断した凍土に行ってみようかなって)

 

(ルナさんの決定に従うにゃ)

 

(そんな訳で今日まで色々有り難うね。自分でやろうとしたのに結局最後まで手を貸してもらっちゃったし……)

 

(気にする事はにゃいにゃ。困ったときはお互い様だにゃ)

 

(………有り難う)

 

 

〜~~~~~~~~~

 

 

ギルド本部より白帝竜観測隊に連絡

 

ハンターの報告により凍土にて全く新しいモンスターが確認されました。対象の外見はナルガクルガに近いですが決定的に違う点として尻尾が二本、炎弾を飛ばす、電撃や嵐のような暴風を全身に纏う、対象の周囲が突然爆発しだす。そしてステルス状態になるのと周囲のモンスターを率いるように行動する事からこのモンスターを四年前に姿を消した白帝竜と断定しました。またハンターの報告にシャガルマガラのように肩から二本の豪腕が生えるとの噂がありました。こちらも十分留意した上で観測を行ってください。



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極限

(何か、渓流での大狩猟を彷彿とさせるものがあるね……)

 

凍土の氷塊の上から覗くと防寒の為の防具を身につけたハンター達が荷車に乗り、凍土の拠点に向かっていた。渓流の時と同じくまた大狩猟でも始めるのかと思ったが、よく見ると爆弾や罠と言った物はなく、代わりに食料や回復薬などの消耗品が多く積まれていた。更によく見るとハンター達の何人かが首から双眼鏡らしきものをぶら下げていた。

 

(あれで何かを見る………もしかして討伐じゃなくて観察?)

 

ここ四年間姿を見せなかった私の生態を調べるために来たのかもしれない。どちらにしてもやる事は変わらずハンター達を追い返すだけだ。

 

(そうと決まれば他の子たちには手出し無用って言っておかないと)

 

まだうまく扱えていないがある程度の指示を他のモンスターに伝えることが出来るようになった。といっても物凄く曖昧な『ここから逃げろ』や『一緒に戦え』などの何処ぞのゲームのさくせんコマンドみたいな物しか伝わらないが。これも含めてまだ狂信・盲信の加護は制御中だ。

 

(この分だと本格的に始まるのは昼頃からかな……それまでは皆の避難と場所の選択かな)

 

他のモンスターを巻き込まないように逃がすのと、私の技の範囲圏内に巻き込まないように私自身も場所を考えないと。

 

 

 

 

 

 

 

(始まったみたいだね……)

 

向こうの方から足音がたくさん聞こえてきた。もうすぐでこちらに辿り着くはずだ。

 

(とにかく、四年間頑張ったことだしどれくらい通用するか試してみるかな)

 

すると、エリア内にハンター達が入ってきた。選んだ場所は開けた周りを氷の壁に囲まれたコロッセオのような場所だ。出入口は基本的にハンター達が来た場所か空を飛ぶのみ。なので奥を陣取っておけばハンター達を出入口に弾き飛ばせる。間違っても壁に叩きつけてその後ミンチなんてことにはならないはずだ。

 

(それに加護に関しては相当練習したし、事故はないでしょ。一応気を付けとくけど)

 

「見つけたぞ!周りを囲め!」

 

それぞれのパーティが互いに邪魔にならないように適度に連携しつつこちらに来た。盾持ちが壁になりその隙にガンナーが援護射撃をしてきた。

 

(とりあえず攻撃しますか)

 

体中に電撃を纏い斬りつける。流石にこの程度じゃ削れないし、手の内がバレバレなんだろう。逆にギリギリで躱し反撃してくるくらいだ。ならばと思い刃翼に電撃を纏って刃の長さを伸ばす。同時に斬れ味も上がるがそのままだと間違って攻撃が当たった時大変なので、刃を潰して丸まる感じに纏める。

 

「新しい攻撃だ!注意しろ!」

 

一人のハンターが叫びまわりに注意を促す。でもこれは普通に躱すんじゃ意味がないけどね。

 

「?!この攻撃、追ってくるぞ!」

 

(流石にバレるよね)

 

実はハンター達が着ている防具の金属に反応して刃が微妙に曲がるのだ。さっきのようにギリギリで躱していると方向修正して当てに行くのだ。けど、あくまで少しなので見極めれば攻撃の隙は減るが当たる事はなくなる。

 

(どんどんやらないとこっちが殺られそうだね)

 

向こうは多分攻撃パターンなどの観測だと思うけど狩れるならそのまま狩ると思う。そうならない為に次の攻撃のための準備をする。いつもは霧を出すが今回は可燃性の高い鱗粉を周囲にばら撒く。もちろん撒いてることをバレない様に動きながら。そしてエリア内にある程度充満したところで纏っている電撃の出力を一気に引き上げる。すると

 

(…………どうかな?)

 

私の周りを避けるようにエリア内で爆発が起きた。後衛のガンナーをも巻き込んで爆発させたがあまり被害はなさそうだ。ガンナーが何人か撤退したがおそらく途中に設けた簡易拠点に戻っただけだろう。

 

(それにだいぶ攻撃も当たってきたし……そろそろ頃合いかな?)

 

体内である器官(・・・・)を動かし何時でも出来るように待つ。同時に肩の双腕に意識を持って行くと新しい感覚が増えた。いつになってもこの腕が増える感覚にはなれないが行動するのに違和感を感じない程度に練習したので問題はないだろう。そこで体内の器官が準備出来たので一気に放出した。

 

「なんだ?!こいつ硬くなったぞ!」

 

体から黒いオーラのようなものが見えるので成功だ。使ったのはゴア・マガラが使っている狂竜ウイルスだ。それを体内で爆発的に増や体中に流す。このままだとウイルスに侵されるだけだがここで狂信・盲信の加護を使いウイルスを支配すると肉質の超硬化とスタミナの急速回復、それに加護の力を十分に引き出せる。

 

「ガンナーの弾も弾かれてるぞ!どういう事だよ!」

 

「こっちも全然刃が通らねえ!弱点を探し出せ!」

 

(残念だけど……全身硬化させてるから攻撃は効かないよ)

 

攻撃が効かないためごり押しで行く事も出来るけど四本に増えた腕を使って複数人に狙いを付けて攻撃していく。腕で薙ぎ払いハンターを的確に攻撃していく。途中途中腕や脚を抑えてることから骨折したようだけど今更だし、それくらい覚悟してきてるはずだ。更にブレスで後衛のガンナーを狙う。いきなり狙われたため避け損なって体を焼かれる者もいた。火傷による熱で悲鳴をあげるハンターに驚き前衛が動きを止める。その隙をついて刃翼の電圧を上げて叩き込む。今度は面制圧の意味も込めてあえて纏めず放電する形で当てた。電流が流れ麻痺状態になったハンターを出入り口めがけて殴り飛ばす。徐々に離脱するハンターが増え、三十分程すると全員が撤退していった。

 

(やっと終わった………疲れたしさっさと寝よ)

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

ギルド本部より白帝龍観測隊に連絡

 

先日行われた白帝龍の調査クエストですが依頼を受けたハンターの殆どが重症、または軽症を負い現在治療中です。ハンター達の報告によると攻撃パターンが大きく変化し、以前よりも攻撃性が上がったとの事。また戦闘中に他のモンスターが乱入して来なかった等、狩猟環境にも変化があったようです。正式依頼を更新すると共にそちらも観測結果の報告お願いします。

 

 

クエスト名『極寒の地に住む隠者』

 

依頼者:ギルド本部

クエスト内容:四年間姿を消していた白帝龍がついに凍土にて発見されました。先遣隊のハンター達を全員リタイアに追い込むほどの実力を秘めています。姿を消していた間に更なる進化を遂げ、攻撃パターンも大きく変化したこの白帝龍を討伐する猛者をここに募集します。

 

契約金:3000z

報奨金:70000z



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あれからしばらく経ったがそれ以降ハンターはめっきり数が少なくなり日に一回見ればいい方くらいの頻度になっていた。個人的には静かで大助かりだが。

 

(向こうじゃひたすら魚と睨めっこしながら、あるかどうかもわからない力の制御だなんて悟りが開けることしてたからなぁ。平和でいいわ)

 

だがこれはこれで暇なものだ。怪我は特にないから好きな場所に行けるが今まで一つの場所にいつづけたから今更他の場所に行く気にもなれなかった。

 

(何かないかなぁ。静かで尚且つ少しの刺激に溢れたプチイベントは……)

 

寝て過ごしてもいいけど久しぶりにあそこから出て来たんだから何かしたい。でも思いっきり動きたくはない。

 

(そういえば蜂蜜食べたいなぁ………)

 

ふと蜂蜜のことを思い出し起き上がった。あの孤島には蜂蜜などあるわけもなく四年間も口にしていなかった。久しぶりに食べてみてもいいだろう。だが凍土中を蜂の巣は見当たらなかった。誰かが食べたのか、元からないのかは分からないけど。

 

(運が悪いなぁ。仕方ないし、渓流にでも行きますか)

 

 

ーーーーーー

ーーーー

ーー

 

 

(ここも久しぶりだな………結構変わっちゃったね)

 

前に住処にしていた高台は他のモンスターの卵があった。別のモンスターが使っているのだろう。ステルス状態でエリア内をしばらく歩き回っていると蜂の巣を見つけた。

 

(蜂蜜食べるのも久しぶりだし、しばらくしたら砂漠とか沼地にもまた行ってみるのもいいかもしれないなぁ)

 

皆がどうなったかも気になるし、それもいいかもしれない。しばらく蜂蜜を食べ歩きしながら歩くと崩れた人工物を見つけた。多分元々はもくせいの家だったのだろうが木の破片がバラバラに吹き飛んでいた。

 

(なんかモンスターの攻撃じゃなさそうだね。嵐でもあったのかな?)

 

気にはなったけど特に重要じゃなさそうだし蜂蜜も十分食べたので戻ることにした。空を飛んで戻っている最中に遠くに凄い大きな雲を見つけた。進路は分からないけど出来ればこっちに来ないで欲しい。ただでさえ寒いのに嵐なんて凍え死ぬかもしれない。いざとなったら極限状態になって体温上昇させる力業もあるけど。今から少しずつ薪でも溜めておこう。極限を使わずに暖まるなら炎に当たってるのが一番だ。無駄な体力消費を防ぐためにもそうしよう。

 

 

〜〜~~~~~~~~

 

 

ギルド本部より白帝竜観測隊に連絡

 

ユクモの村に伝わる災害をもたらすアマツマガツチが雲と共に移動したという情報が上がってきました。周囲に嵐を起こしている大きな雲を見つけたら注意してください。また行方不明になっていたゴア・マガラですが渓流にほど近い場所に住むモンスターが狂竜化している事から渓流付近にいると考えられます。場合によってはアマツマガツチ、ゴア・マガラが一堂に会する可能性もあります。白帝龍以外の動向にも注意してください。



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黒嵐

四月から全体的に更新が遅れるとは思いますがなるべく続けていこうと思います(エタ回避)


(なんでこんな状況に……)

 

目の前では嵐を纏ったアマツマガツチとゴア・マガラが戦っていた。アマツマガツチが水弾を撃ち込むとゴア・マガラが両腕でガードし、カウンターでアマツマガツチの頭に殴りかかる。それを空中に飛んで回避するとまたお互いに睨み合った。何故こうなったのかは少し前に遡る。

 

 

ーーーーーー

ーーーー

ーー

 

 

(やっぱり蜂蜜は美味しいね。ずっと食べてたいよ……いや、四六時中じゃなくてだね……聞こえてないか)

 

今日も今日とて渓流に来て蜂蜜を食べていた。隣にはアオアシラが座って一緒に食べているがこちらの言葉は通じていない。どうやらこのアオアシラは加護を持ってないらしい。まあ大体のモンスターは持ってないから確率はそう高くない。むしろこんな簡単に喋れるモンスターに遭遇する方が怖い。

 

(平和だな……のどかだし、やっぱりこっちに住もうかな?)

 

だか前にいた高台は他のモンスターの巣になっており他の候補も先客がいる。その辺で寝ていてとハンターに即見つかり面倒な戦いに巻き込まれる。そう考えるとここに住むのも難しいのかもしれない。

 

(いい場所があればそこに住むんだけど、そう簡単には見つからないよね。そんな場所があったら他のモンスターが見つけてるだろうし)

 

すると突然アオアシラが慌てて逃げ出してしまった。何かしてしまったのかと思い、辺りを見渡すと足元に薄く黒い霧のようなものが漂っていた。

 

(これって……アイルーが言ってたゴア・マガラってやつ?)

 

黒い霧は渓流の奥から流れ出しているようだった。そこまで行けばこの霧を出してるゴア・マガラの正体も掴めるかもしれないと思い渓流の奥へと進んだ。岩場を駆け上り、倒木を越えていくと段々と霧が濃くなりそれと同時に風も強くなってきた。

 

(幾ら何でもこの風はおかしいでしょ。向こうはほとんど無風状態だから霧も漂ってたんだし、この風って人為的に起こされてるもの?)

 

この世界に巨大扇風機みたいな発明品なんてないだろうし、そうなるとあと考えられるのは加護を持ったモンスターになる。

 

(でも自然を操る加護を持ったモンスターなんて古龍ぐらいしかいなさそうだし、逆に飛龍種とかで周囲の地形に影響与えるやついるのかな)

 

進み続けてついに霧と風の発生場所近くまで来れた。どうやらこの巨大な高台の上にいるらしい。どうにか吹き飛ばされないよう上に飛ぶと高台の上に着地する。

 

(……風強いなぁ)

 

そこにいたのは全身が黒い鱗に覆われた四本腕に黒い霧を出している龍と宙を舞い、水弾や水流のレーザーを撃ち込み時折尻尾の一撃を与えようとしている白い龍だった。

 

(貴様は招かれざる客だ!即刻ここから出て行け!)

 

(うるせぇな!誰がどこにいようが関係ねぇだろ!)

 

二人?ともお互いに主張し続けてるため攻撃はますます激化していく。こちらに被害が出そうになるため、そろそろ声をかけることにした。

 

(あのー!聞こえますか!)

 

(あぁ?!今忙しいんだよ!邪魔すんな!)

 

(なんじゃ!貴様もここに侵入した者か!)

 

(いや、このまま続けたらこの辺一帯穴だらけになりますよ!)

 

既にレーザーが当たったりで岩が砕けている箇所もある。私の発言でようやく気付いたのか白い龍の方が攻撃をやめた。

 

(なんだぁ?俺に負けるのが怖くてびびっちまったか?!)

 

(貴様ぁ!)

 

(だから!それ以上挑発しないでください!)

 

突撃しようとしているゴア・マガラを腕を四本全て使い抑え込む。体格差もあって押さえきれなさそうだったが、自分の肩から生えている腕を見て止まった。

 

(なんだ?お前も俺と同じ種族なのか?)

 

(いえ、自分は違いますよ?ただちょっと……いろいろあって)

 

軽く島での思い出(ボッチのトラウマ)を思い出し震えた。

 

(そ、そうか。それ以上は聞かねえよ)

 

(私はルミナスって言います。二人の名前は?)

 

(俺はケイオスだ)

 

(我が名は天藍だ)

 

(じゃあケイオス、天藍はなぜここで戦闘を?)

 

(その者が我が土地に勝手に侵入したあまりか、この地の者によからぬ影響を与えているからだ!)

 

(適当なこと抜かしてんじゃねえよ!そもそもお前らが弱えからウイルスに感染してんだろ!)

 

(なんだと貴様!)

 

(あぁ?!やるのか!)

 

そのまま二人は先程のようにまた戦い始めてしまった。

 

(……もう、放っておこうかな?)

 

止めるのも面倒になってきたがこのままでは更に渓流の先にまで被害が出てくるため泣く泣く二人を止めに入った。



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指南

(ところで、貴様はなぜここに来たのだ?)

 

二人の喧嘩を止めた後、天藍に質問された。

 

(何故って言われても……元々丁度いい住処を探してたんだけど、さっき黒い霧を見つけてそれを辿ってきたらここに着いたんだよ)

 

(その辺に住めばいいじゃねえか)

 

(そう簡単に決まる話じゃあるまい。その辺と言った場所にどれだけのハンターが来る?それを考えてからものを言うのだな)

 

(喧嘩売ってんのかぁ?!)

 

(貴様が馬鹿を晒しただけだ!)

 

(止めなって!なんで二人ともそんな喧嘩してるの!ちょっと二人とも離れなよ)

 

(ふん……とにかく、その辺が駄目なら誰かんとこに邪魔すりゃいいんじゃねえか?)

 

(誰かって言っても……)

 

四年間も絶海の孤島に引き篭もっていたのだ。知り合いに会えるかどうかも分からない。前々から塔にも行っていたがアンセスを見ることもなかった。単にタイミングの問題ということも考えられるが。

 

(なんだ?お前ボッチなのか?)

 

(べべべつにボッチなんかじゃないし!ちゃんと友達だっているもん!)

 

(へぇー)

 

(信じてなさそうだな)

 

(そりゃそうだ。こんなひょろっちい奴に友達が出来んのか?ちょっと言ってみろよ)

 

(えっと……アンセスと、カドラと……あとミズハさんとかアイルー達)

 

しまった。数えてみてわかったけど私思ったより友達少なすぎだよ……。ジンオウガとかイビルジョーは話した事ないし分かんないんだよね。なんとなく言いたい事はわかるけどそれだけだし。女の子は成り行きで一緒だっただけだから友達なのかも微妙だ。

 

(なんだよ、全然いねえじゃねえか!)

 

(うっ……言い返せない」

 

(だが、逆にそのもの達とどの様に知り合ったのだ?古龍が大半の様だが…)

 

(私が元々いた場所にアンセスが偶に月を見に来てたんだよ。で、飛んでるときに翼が燃えて落ちたところにミズハさんがいて、その後火山でカドラさんに会ったんだよ)

 

(思ったよりも波乱万丈な生き方をしているな)

 

(まず翼が燃えたってなんだよ)

 

(色々あったんだよ……)

 

まだ加護を扱いきれてなかった時の話だけど不思議と忘れずに覚えている。まぁ尻尾切られたり、変なハンターと戦ったり、大狩猟したり、嫌な事ばっかだったから忘れてないだけかも。

 

(とりあえず、行く宛がないなら雪山を進めるぞ)

 

(何で?)

 

(あそこは環境が厳しくモンスターの数も少ない。それに竪穴などの洞窟もある。なかなかい良い場所だ。こいつの様なデカイ図体だと入らないが貴様は小さい方だ。平気だろう)

 

(そっか、ありがとね天藍)

 

(テメェ俺の体貶してんのか?!お前みてえに変な色してないだけマシだ!)

 

(黙れ!単色で黒など自然に混ざる事も出来ないのか?!)

 

(うるせえな、俺は強いからいいんだよ!)

 

(なら試してみるか!)

 

(上等だかかってこいよ!)

 

(…………それじゃ、私はこの辺で)

 

もはや、止めても同じ事だと諦めて二人を残して飛び立った。目指すは雪山の方角だ。

 

(…………ところで、雪山ってどっち?)



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転機

後半会話ラッシュなため注意


(ここ、どこ……?)

 

確かに自分は雪山目指して飛んでいたはずだ。方向は分からなかったけど大まかな方角なら天藍に聞いたから大きく外れることはないと思ったんだけどなぁ……。

 

(なんでそこら辺毒の沼地だらけなの……)

 

どうやら沼地についてしまったようだ。しかも夜のためかそこら中から毒の瘴気が吹き出して毒沼状態になっている。まあこの程度なら平気だが、沼地に足を突っ込んだ感覚が背筋にぞくっと来るものだったためあまりウロチョロはしたくない。

 

(今日は一晩ここに泊まるかな)

 

そうと決まれば安全地帯を探す訳で。適当に空から飛んで探してみた結果、それらしき洞窟の入り口をいくつか見つけたためその中で過ごすことにした。中は夜なのに壁に群生している鉱石のおかげか薄く光を放っているのでそこまで暗くはない。奥に進んでいくと大きな岩があったのでそこに隠れるようにして眠ることにした。

 

 

ーーーーーー

ーーーー

ーー

 

 

緊急事態発生か?目覚めた時にふと頭をよぎった言葉だ。朝起きたら隠れていた岩がなくなっていた。すぐに跳ね起き周囲を確認したが、昨日よりも若干見やすくなった洞窟の中は昨日と同じだった。一瞬自分が別のところに連れて行かれたのかと思っただけに頭をかしげた。すると

 

(Yo!お前ここに来た新人!俺、ここに住む隣人!住むなら歓迎するぜ、友人!Yeah!)

 

なんかまた濃いのが出てきた。見た感じものすごくデッカいカニだ。ていうかダイミョウザザミか。よく見るとハサミを振り回しながらチェケラしてるこのカニと昨日寝る前に見た岩が似てることから岩が消えたのではなく、このダイミョウザザミが移動していただけだとあたりを付ける。

 

(DJ、その辺りで止しておけ。これ以上客人に粗相を働くな)

 

(分かったYo、友人!俺座るぜ、静止!)

 

チェケラザザミの相手をしてると反対側から今度はザザミによく似た青い甲殻のカニが出てきた。こっちはダイミョウザザミと対になってよく発見されてるショウグンギザミだろ。なんか雰囲気というか、喋り方も将軍ぽいというか古い感じがする。

 

(いきなり驚かせたようですまない。拙者は弦と申す。其方の名前を教えてもらっても良いか?)

 

(は、はい。ルミナスって言います)

 

(Yo!俺っちDJ!好きに呼んで、イイゼー!)

 

(私のことも好きに呼ぶがいい。そう固くならずにな)

 

(はい、よろしく弦、DJ)

 

言動はちょっと(片方はかなり)アレだが決して悪い人ではなさそうだ。というかこの言動でアレ系の人ならもう嫌だ。私の変人エンカウント率がかんすとしてることになる。

 

(ところで、拙者の記憶違いでなければ其方のようなナルガクルガはついぞ目にしたことがない。もしや何か事情があったのか?)

 

(事情……というか、なんというか……)

 

(Yo!説明しずらい、平気!俺たち友達、元気!話してみろよ、勇気!)

 

なんかすごい場の空気をガシガシ壊してるけどDJさんの底抜けな陽気さに文字通り勇気をもらった気がする。だから初めてだけど打ち明けようと思った。

 

(……実は、私、モンスターじゃないんです)

 

(それはどういうことだ?其方は見る限りナルガクルガであるが)

 

(見た目はそうですけど……本当はもともと別の世界にいた人間だったんです。でも気がついたらここにいて、モンスターになってて)

 

(モンスターになってる、奇想天外!原因不明、奇々怪々!)

 

(DJの言う通り、これまでで人がモンスターに成ったという言い伝えや噂は耳にした試しがない)

 

(そう……ですよね。すいません、こんな事信じられませんし、自分でも正直始めは不思議に思ってたんです)

 

(それが正しい反応だ、しかしこの世の中に意味なき事はない)

 

(……えっ?)

 

(拙者がこの世に生を受けた事も何か理由があるはず。拙者とDJが巡り会えた事も理由があるはず。ならば、其方がこの世界に来た事も何か理由があるはずだ。推論ではあるが)

 

(いえ、そう考えてみたいです)

 

(そうだ、持つものは希望である方がいい、それに拙者達も何かあれば其方に助力しよう)

 

(有難うございます!)

 

(Yo!俺知ってる、教養!元に戻るかもしれない、方法!)

 

(ふむ、真か?)

 

(お、教えてください!)

 

(Yo!ここから遥か遠く、上空!西に広がる、大陸!言い伝えられてるぜ、伝説!巨大な化物、常駐!倒せば願いが叶うかも、成就!Yeah!)

 

(何処からその様な伝えを聞いたのだ?)

 

(たまに来るぜ、アイルー!いろんな情報、伝える!)

 

(ふむ、ならば西の大陸に行けば其方の願いも叶うやもしれぬという事か)

 

(分かりました、西の大陸に行ってみようと思います。弦さん、DJさん有難うございました!)

 

(案ずるでない、拙者達は何もしてない。ただ其方に道を示しただけだ)

 

(Yo!寂しくなるぜ、悲しい!でもお前の願い叶う、嬉しい!)

 

(またここに来たくなれば来るがいい。拙者達はここに居座っておる故、会おうと思えば会えるはずだ)

 

(分かりました。本当に有難うございます!)




前書きを一部削除
DJ「西の大地」→「西の大陸」に変更


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新大陸
新大陸


MHWでナルガクルガが出るまで暖めてたっていう言い訳。

導入なので主人公ほぼ無し。


古龍渡り

 

現大陸から遥か彼方に存在すると言う新大陸に向けて古龍が渡りをすることからそう名付けられられた。昔から観測されていたその現象は、現在急速に周期を縮めていると言う。

 

これを鑑みて、40年程前。ギルドより正式に古龍渡りを調査する為の組織が結成された。

 

名を新大陸古龍調査団。

 

その第一期団が追ったクシャルダオラを追いかける様、また一頭と古龍渡りは続いた。その度に調査団は新大陸へと派遣され、島の生態系や各種モンスターの特徴、そして古龍渡りの謎を解明すべく調査に当たった。

 

結果から言えば、空振りだったといえよう。

 

古龍渡りが行われるとは言え、その動向を常に観察することは困難を極めた。古龍は自然の猛威の化身。それに対して常に張り付く事などハンターであれど想像を絶する難易度だった事だろう。

 

実際に第一期団から四期団に至るまで目標とした古龍の観測は途切れ、行方不明となっている。

 

しかし、今回観測されたのは今までにない規格外のモンスターであった。

 

また、これまでの古龍とは違い移動速度が鈍重。かつ図体も低い山ほどある巨体だった為比較的追跡が容易だったのだ。そこでギルドはこの機に乗じて第五期団を派遣することに決定。古龍渡りの謎に終止符を打つ事を決めた。

 

こうして新進気鋭のハンター達を乗せた調査船は新大陸へと向けて就航した。そんな船室のとあるテーブルにて

 

 

一人の編纂者がハンターに振り回されていた。

 

 

 

「編纂者よ、まだ到着しないのか?」

 

「…先ほどから何回目ですか?もう耳にタコができるくらいには聞きましたよ」

 

「だがそれでも待ち遠しいのだ!わら…私の実力を試すことができるのだからな!」

 

そう言って落ち着かない様子で少しだけ開けた窓枠から外を眺めるハンターに編纂者の女性は、今日何度目とも分からない溜息をついた。

 

きっかけは些細な頼み事からだ。元一期団の祖父に快諾され新大陸の調査団に参加したのだが、そこでとある少女を紹介された。曰く、彼女の付き添いの編纂者として調査団に参加して欲しいとの事。彼女としても相方がいるのであればと快く快諾した。まだ新米だが腕に関しては問題ないと事前に説明されたことも理由に当たるだろう。

 

しかし、それを抜きにしても彼女は些か、問題児であった。

 

元々何処かの貴族のお嬢さまだったのか、彼女の行動原理には規則性があまりない。有り体に言ってしまえば自由奔放過ぎるきらいがあった。

 

街に行けば見知らぬ商品に釣られ、現大陸で腕を見るとフィールドに出ればモンスターに釣られ素材に釣られ。果てはアイルーの巣に単身突撃する始末であった。

 

この時から既に頭の中にはこの先待ち受ける苦労がありありと思い浮かんではいたが今更後に引き返すわけにも行かない。こうして、自由奔放な彼女と相方になり新大陸へと向かうことになったのだった。

 

「新大陸に着いたらまずはどこに向かうとするか」

 

「フィールドワークはいいですけど、私たちの目的もお忘れなく」

 

「分かっておる。古龍渡りの謎を解明するのだろう?それなら問題ない!」

 

「理由を聞いても?」

 

 

「ふふん、私は既に古龍と深い関係を結んでいるのだからな!」

 

 

「……何度も聞きましたけど、古龍が人間に対して友好的と言うのが信じられないですね」

 

「私の話が嘘だとでも言うのか!?」

 

「いえ、そう言うわけではないですよ。過去に古龍の姿を間近で見た方に話を聞いたことがあるので、そういった事がないとも言い切れないですが」

 

しかし、少女はあろう事か古龍の背に乗り空を飛んだと言う。流石にそれを鵜呑みにすることはできなかった。と言うか純粋に信じられなかった。

 

「やはり信じていない様だな」

 

「そりゃそうですよ。そんな事ができるなら私も乗せてもらいたいくらいです」

 

「それなら問題ない!蜂蜜さえあれば乗せてもらえると思うぞ!」

 

「蜂蜜ねぇ…」

 

編纂者の頭の中には少女の持ってきた蜂蜜を食らう古龍の姿は思い描けなかった。自然の猛威とまで言われるモンスターが蜂蜜程度で大人しくなるのか?

 

「というか、今まで教えてくれなかったですけど。その古龍って一体なんて名前なんですか?」

 

「仕方ないなあ。いいか、あの古龍の名はナ

 

 

ズンッッッッッッ…!

 

 

と鈍い音を立てて船が揺れた。いや、揺れたのではなくナニカに座礁したのだろう。現に今もゆっくりと船が持ち上がっている(・・・・・・・・・・)。少女に目をやると一目散に甲板へと上がる姿が見えた。危機に対して即座に行動できるその姿勢は見習いたいところだが、安全に関しては何処かにかなぐり捨ててきたらしい。

 

本日何度目かもわからない溜息を吐きながら編纂者はその背中を追って駆け出した。

 

 

 

 

(西の方って聞いたけど全然それっぽい大陸がない…どこまで飛べばいいんだ…)



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