女ルシェに転生して2020年の東京で運命ごと『かえる』!! (エマーコール)
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Prologue 『無自覚』なる『転生』
0Sz 転生理由


はい初めましての人も初めましての方もこんにちは。エマーコールです。

本当は自分の誕生日(地球の日)に合わせて投稿しようかな、と思ったんですが、フライングして『ななドラ』の転生モノを書かせていただきます。

どうか最後まで見ていただけるとありがたいです!!


あ、ちなみにタイトルの『Sz』の『S』はstoryの『S』です。原作にある『Az』とか『Dz』にかけたものです。

ところで『z』って何の意味なんでしょうね←


「…………………………これ、何の状況?」

 

 えー……初めまして、なのかな、つかどこに向かってしゃべってんだろ。

 まぁいいや。えーっと、とりあえず、ありのままに話そう。

 現在、天国のような雲の上に、俺と、純白の衣装をまとった男の人がいる。

 ………つまり、どういうことだってばよ?

 

「すまない」

 

 いきなり男が謝ってきた。

 まった。いきなりすぎて何のことか分からねぇ。どういうこと?

 いや、待て待て待て。天国?人のような誰か?え?

 

 …………なにこれ、まさか俺死んだ?

 

「…すまない」

 

 ……………………

 

「まてやぁ!?何で俺死んでるの!?ねぇどういう状況なんだよこれ!!いきなりすぎて怒ったりできなかったぞ!?え!?どういうことなの!?」

「……我が説明する。

 我々神、その争いに一般人であるキミが巻き込まれてしまった。つまるところ……よくある、『手違いで死んでしまった』。ことだ」

「…………」

 

 マジすか。つか、この神様結構責任感あるな……。俺が読んでいる話とかだと神様ははっちゃけた印象な気がするけど。

 いや、まずは……神同士が戦争?何で?

 

「……ただの領地の奪い合いだ。我々はそれぞれの領地があるからこそ、神がいる」

 

 つまり信仰?ってことかな。どこかの某幻想弾幕ごっことかの神様はそんな感じだよな?

 

「あぁ。ある神が信仰を他の神から奪い取ろうとしたために、攻撃を開始した。その際の流れ弾がキミに運悪く当たってしまったのだろう。……本当にすまなかった」

「待った待った!あんt、……じゃなかった。あなたが…えーっと、何故謝るんですか?話からして、神様が悪いわけでは……」

「止められなかった我にも責任がある」

 

 すまない。と、その神様は頭を深々と下げてきた。

 

 ………やべぇ。まじでかっこいい。他人事なのにわざわざ謝りに来た。責任感のある人って、こういうことを言うんだろうな………。

 

 っと、話が逸れた。とりあえず、俺はこの神の戦争に巻き込まれてしまった。その流れ弾が当たって俺はこの世………今は『あの世』か。とおさらばしてしまった。

 となると、予想通りだとこのまま三途の川へ……か。

 

 伝えたかったこと、たくさんあったはずなのに。あっけない終わり方に俺は逆になんだか苛立っていた。

 まぁ、しょうがないか。俺はあきらめて、とりあえず三途の川への行き方を尋ねようとした……が。

 

「それにはおよばない。……キミの身体は今『修復中』だ」

 

 ……修復中?何それ……?

 俺は気になって下を見た。足場としての雲、それだけだった。……ということは……。

 

「今のキミは魂だけの存在だ。むしろ、我々の流れ弾に当たって魂だけ分離したのもすごいことだ」

 

 ……俺褒められてる?どっちでもいいけどさ…。とりあえず、その修復中って何ですか?

 

「言葉通りだ。キミの身体は遺伝子ごとに分離してしまった。だから現在我の部下がその身体を一から修復している。肉体だけだが、その中にキミが入ればまた元通り生きられる」

 

 ……わざわざ赤の他人にここまで献身的なんて。俺はその姿勢に涙が出そうになったが、出ない。魂だけだからだろうか。ともかく、感謝したい。本当に。

 

「だが……」

 

 ………まだ何かあるのだろうか。俺はその神様を見続けていた。

 

「………すまないが、今のキミの魂だけの存在だと、我々が急いで修復したところで、その間中に消えてしまう」

 

 …………え?

 

 つまり『助けられる術なし』?

 

 ……

 ………

 …………

 

 ………………ええええぇぇぇぇぇぇぇーーーーーー!?

 

 なんで!?え!?意味ないじゃん!?逆に泣きそうだよ!!!

 

「待ってくれ。確かに魂だけの存在では消えてしまう。

 

 

 

 ……………だからこそ、一度『転生』してもらう」

 

 ………まじすか。

 転生たって、どこだろ。某動物だらけの村とか、完全に平和な世界、場所がいいな………。ほら、俺って『一般人』だし…………

 

 …ん?『一般人』?

 

「……すまないが、転生先はこちらで決めさせてもらった。言い方が悪いが、キミの管理、そしてキミの適正に最適な場所を選ぶとなると本当に限られる。だから、勝手ながらこちらで決めさせてもらった」

 

 すまない。とまた頭を下げていた。

 

「…あーいや、いいですよ別に。わざわざ身体の修復をしてもらってますし、それに自分が悪くないのにわざわざ謝りに来てくれたとか、それだけですごいのに、これ以上は望めませんよ」

 

 こんなこと言った俺だけど、内心はどうしてこっちで決めさせてもらえないのかちょっと苛立っていた。だって転生だぜ?折角だから平和なところに行きたいし。そうすれば、死なないし。あ、でも転生して死んだらまた魂になるのか?

 とにかく、俺はどこに行くのか訊ねた。神様は言う。

 

「場所は2020年の東京。だが、キミの知る東京ではない。その東京、いや、世界は『マモノ』であふれている世界だ」

 

 …………まじですか。東京、と聞いただけで嬉しかったのに話が進むにつれてテンションが下がってしまった。何でそんな物騒なところに転生するんですか。

 

「そしてキミは女性になってもらう」

 

 なぁぁんだそりゃあああ!!!

 

 俺は男だぞ!!!何で女になってそんな物騒な世界に行くんだよ!!だったらこのまま消えた方がいいし!!

 

「ただの女性ではない。普通のヒトではない女性だ。………『ルシェ』、と呼ばれる種族。キミはそれになってもらう」

 

 無視ですかそーですか。

 ………ん?ルシェ?聞いたことあるような……どこでだ?

 

 …あれ、そもそも何で思い出せないんだ?流れ弾が頭に当たったのか?いや、俺はちゃんと自分の名前は覚えているし……………………。

 

 ……逆に言えばそれしか思い出せないんですが。どういうことなの…。

 

「…キミが望めばその世界に転生してもらおうと思う。このまま消えるも転生するもよし。………どうだ?」

 

 ……まじで勘弁してもらいたいんですけど。

 今までのカッコ良さから一転、こっちの心情すらも無視してどんどん勝手に制限だらけのぶっそうな世界に女として転生してしまう。

 

 …えーっと、その前に一つ。転生して死んだらどうなるの?

 

「消滅する」

 

 嘘だそんなことー!?

 

「先ほど言ったはずだ。キミの身体はかろうじて魂と分離して遺伝子レベルで消滅した。そしてこれから先は魂が実体を持って動くことになる」

 

 つまり、コンティニューできないのさ!ってことか…………………。

 え?じゃあなんで身体の元通りにできないの?魂が実体持つならそれだって可能じゃないのか?

 

「キミの魂が実体をもつために転生してもらわなくてはならない。………言い忘れたが、キミの身体が修復し次第、すぐに元通りの生活に戻ってもらう」

 

 あーあれか。身体が元通りになるまでとりあえず転生して、そして元通りになったら戻ってくる。

 

 …………つまり死ななければいいってことか。

 

 …嫌だけど。そりゃまぁ……嫌だけど。いろいろと。平和に生きたいし、そんな場所に行きたくもない。

 

 でも、こんなところで消えるのもヤだな。まだ人生満喫してないと思うし。

 

 だから、俺は望んだ。

 

「転生させてください」と。

 

「……承知した」

 

 神様はそれだけ言うと、瞬間的に俺は何処かへと意識ごと吸い込まれていった。

 これが転生か。あんまり痛みとか苦しみとか明るいとか暗いとか、そんな感覚とか全部ないけど……。

 

 とりあえず、今しばらくは俺の世界とお別れだ。グッバイ。俺の故郷。身体が戻り次第帰ってきます。っと。

 

 そう言えば、他にも言いたいことあった気がするけど、それよりも早く俺の意識はなくなっていった。

 そんな意識の中で、俺がこの場で最後に見たもの。それは例の神様が「すまない」と言っている光景だった。

 

 謝りすぎですよいくらなんでも。…神様なんですから、もっと堂々としてください。

 

 ……届いたかな。俺の言葉。答えは神のみぞ知る…てか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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Chapter0 『道』は『竜』に閉ざされ
1Sz 候補生


勢いで、1話目突入です。

転生した『転生者』に待ち受けた運命とは一体。

では、どうぞ!


「―――うずっ!?」

 

 ちょ、いててててててて!?いてぇ!!めちゃくちゃいてぇ!!全身型番に入れられたようにいてぇ!?

 でもその痛みはすぐに引いていく。どうやらいきなりすぎて俺が驚いてしまったようだ。

 

 いや、まぁ確かにそれは仕方ないか。……だって、身体の感覚がまじでおかしいし…。一応、女体だし…。

 やべぇよ。俺絶対この状況化で赤面しているよ。いや、まて。まずここどこ?

 

 辺りを見渡してみると、どうやらここはワゴン車のようだった。証拠に外の風景は動いているし、車の匂いもする。誰かが俺の前で運転をしている。

 ………なにこれ。連れ去られているんですか?えー……………

 

 …

 ……

 ………

 …………

 

 ………………まてまて!転生したらいきなり連れ去られてるってどゆことなんだよそれ。神様アンタどういう場所に転生させたんだよ!つっこみたくても神様はいねぇし、こんなところで独り言はまじでおかしいし、とりあえず心の中でつっこませていただきます。なんでやねん!

 

 いや、さらにそれよりもこの身体だ。転生して代わりの身体のこれ。恐る恐る、まずは頭。……さすがに胸などはいきなりは無理です。いや、確かに自分の身体だけども。女の子だし。身体は。

 …………あり?頭の感覚がなんかおかしい。頭の上のところ、二部分がちょっとぽっこりしている。

 

 ……そういえば、神様言ってたよな?『ヒトではない、ルシェになってもらう』的な事。

 ………これ耳?………でも、なんでバンダナなんかしてんだ?つか、してたっけ?気になって俺は窓越しにサイドミラーを見た。確かに、オシャレそうな紅いバンダナをして頭の上を隠している。で、髪はロングヘア。

 

 そして思わず俺も息を止めてしまうほどのきれいな白い髪だ。

 

 ………でも、悲しいかな………胸、ちっさいね。いや、逆にありがたい……筈なのに……筈なのに…っ!!なぜだっ!!すげぇ悲しく思えてきたぁッ!!!

 いつの間にかふとももに向かってバンバン両手を叩いていた。……やっぱり清潔なまでの肌だ。………スカートだけどっ!!!見てるこっちが恥ずかしいわっ!!………めちゃくちゃだ。とりあえず落ち着こう。ふっと外を見た。

 ………赤いタワー…確か、東京タワーだったよな…。それは覚えているらしい。んで、ここは高速道路だと思われる。…うん。忘れただらけだけど、一部は覚えているようだ。

 …………って、あれ?2020年?………それに何かさらに忘れている気がする。何だ?一体………。

 だめだ。思い出せない。すごいもどかしい。ちくしょう。俺は心の中で毒づき、座席に身を沈める。どうせどこに行くか分からないし、せめて平和なところに行ければ十分だ。せめて、な。

 ………そういや、その、『マモノ』ってのは見かけないな。窓の外からざっと見た程度だけど、それらは至って、かすかな記憶に在った東京そのものだった。

 

「…………でも、なんだこの嫌な予感は………」

 

 心臓の鼓動が大きく感じる。まるで悲しさを教えるように。

 

「……知ってるのか、俺、……いやそれはおかしい。だって俺………」

 

 ……待って。俺、はさすがにまずいか?一人称に『俺』を使ってる女子なんてたまにいる程度だが、見た目のよさから『俺』を使うのもどうかと思う。………私、にしとくか。私、私、私………。と

 

「…わ、私は…転…っと危ない危ない」

 

 聞かれたらまずいか。つかそもそも信じない筈。お、いや、私は思考だけで言った。

 だって転生ってことはその世界を知らない筈だ。なのに俺、じゃなかった。私は何故だか知っているような感じだ。

 

 ……転生のはずなのに。

 

 

「……着いたぞ。候補生」

 

 ……候補生?どういうこと?聞いてないけど……

 

「行けばわかる。早く行け」

 

 …なんだそりゃ。でも、一応行ってみよう。行くだけ行くだけ。やばいと思ったらすぐに逃げればいい。それだけの脚があったらな。

 ………えーっと、私は運転手にお礼を言うと車を出る。……そこに見えた光景。確か、東京の都庁、だよな?誰にも確かめられないからとりあえずそう思うことにした。

 ……それにしても物騒だな。見るからして武装した警備員たち、いや、自衛隊か?それらが徘徊している。…一体何をさせられるんだよ。…それにどこいきゃいいんだ?俺は…じゃねぇな。私は近くの自衛隊の一人に質問する。新設ご丁寧に、そこの階段を昇ればいいとだけ言われた。一言礼を言って階段を昇る。声が聞こえた。

 

「―――――――――で全部かしら?キリノ?」

「いえ、あと一人………あぁ、君だ」

 

 昇り切ったとき、俺は………もういいや『俺』で。俺は指名された。辺りには俺と同じように、だと思われる老若男女問わずなまばらな人数。…やっぱこっち見るよな普通。

 

「君。名前は?」

「……俺ですか?」

 

 あ、しまった、つい一人称が。だが至って驚いた様子もなく―――と言ったらうそになるので近くで聞いていた一、二名は驚いていたことを付け加えておく―――「そう。君だ」と、緑髪の研究者のような顔をした男の人に聞かれた。

 

「………えーっと」

 

 ………さすがに本名はまずいよなぁ。だって男の名前だし。ちょっとまずい気がする。…でも男の名前の女キャラっていたような気がし

 

「君。名前」

 

 あ、いけないいけない。……えーっと、名前名前………

 

「………ロナ。河城野(かわぎの)炉奈(ろな)です」

 

 ……よくとっさに思いついたよな俺。それになんか気に入ってる。どうしてだろうなぁ。そんな俺の心の独り言を無視して、確か、キリノ、だったよな。キリノが説明を始めた。

 

「…よく来てくださいました。皆さん。……率直に言いましょう。それは……ナツメさんから」

「…ッッ!!?」

 

 ダンっ。音がしたと思ったら俺は大きく飛び退いていて、視界のキリノが少し小さく見えた。

 …待てよ。何で俺は飛び退いたんだ?敵がいたわけでもあるまいし………。………敵?

 

「…続けていいかしら?」

 

 …どうぞ。と俺は無言で促した。それを知ったらしい、いわゆる巨乳美人である、ナツメ……だよな。ナツメは全員に、演説でもするように声を出した。

 

「単刀直入に言いましょう。……ようこそ。『ムラクモ候補生』」

 

 

 

 

 

 その瞬間。俺の頭の中に一瞬で見えない文字が浮かんでいき、聞こえない声がそれを読み上げ始めた。

 

 ムラクモ。それはこの時代の東京を中心に活動する組織。恐らくだが、他にも組織はあるはずなのだが、現状はそれしか知らない。

 そしてムラクモ機関の審査は厳しいとされ、それに選ばれる前提条件は『S級』の持ち主であること。

 S級とは、単純に言えば『凡人が数十人合わさって初めて手に入れられる能力を一人で持っていること』。つまり、この時代に非常に重宝する人材だ。

 そのS級を束ねるムラクモ、その総長が『日暈棗』――――――

 

 

 待て、なんで、何で俺はこんな情報を持っているんだ………!?いや、それのせいでもう二つ。疑問と予想が浮かんだ。

 

 一つの疑問。まだこの情報には続きがある。

 

 そして一つの予想。

 

 

 

 

 俺はムラクモ機関に入ることになる――――――――――――?

 

 

 

 

 



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2Sz 三人組

お待たせしたかな?2話目なのに『三』とはこれいかに。

ではどうぞ。2話目です。


 ……結局、思い出せなかった。重要な疑問の筈なのに。尋常じゃないほどもどかしい。それ以前に、なんで転生先の情報があるんだ?と疑問に思う。………

 

 

 きっと神様がサービスとして情報を勝手にインプリントしたんだろう。そういうことにしとこ。

 

 

 

 ……でもおかしい。だったらなんで俺は『ムラクモ機関に入る』なんて思った?試験は厳しく難しいはずなのに。いや、今は目の前だ。聞いてからでいい。

 

 俺は一度、今ある現状の問題を見ようとして顔を上げる。同時に声も、非常に大きく聞こえた。

 

「んじゃあ安全を期すためにも三人一チームを組め!!二人でも一人でもかまわんが、死にたくなければ三人だ!俺は入口で待ってるからな!!」

 

 ガッハハハハ!!と、顔についた傷が以下にも軍人を思わせるおじさん…………いや、違う。たしか、ガトウ、って聞いたな。ガトウさんはその場を後にして県庁の入り口で仁王立ちを思わせるように立つ。

 

 ……ガトウさん、か。

 

 やっぱり、何かおかしい。俺は思い出そうとしたが、思い出せないのでやめた。

 とりあえず、どうしようか。このまま帰るのもいい、………でもよく考えると帰る宛てもない。となると…………。

 

「……………………デスヨネ」

 

 とりあえず、三人、三人だな………。俺は辺りを見渡す。……個性的な人たちだらけだ。そういうと俺は普通の人間と言わんばかりだが、俺だって、『ルシェ』っつう種族になってるから、俺が一番浮いてることになる。何てことだ。

 そのためか、なかなか言い出せない。言い出そうとしてもどこか行っちゃたり、俺自身がどういう訳だが拒否をして勧誘できなかったりしてなかなかチームは組めなかった。と、

 

「やぁ。そこのお嬢さん」

「……ん?」

 

 そこに一人。黄色のスーツ姿の老年が俺の前に立った。

 

 ………あれ、このおっさん、見たことあるような………。

 

「お嬢さんはムラクモに入るのかな。それとも、立ち去るかね?」

 

 そりゃあ、今すぐ立ち去りたいし、なんか嫌だし。でも、ここで引きたくはなかった。というか元より一本道。進むしかない。

 

「……もちろん。ムラクモに入る」

「ほう。それはなかなかだ。………どうだい?私と一緒にチームにならないかい?」

「それは、あなたの能力を見てからです」

 

 くくく。とどうやら気に入られたような顔と声で答えて、ポーチからメリケンサックを取り出す。

 ………やっぱり、どこかで見たことがある気が……。

 

「私のは汎用的な『デストロイヤー』でね。若者の壁となり、マモノを討つ、そんな感じだ」

「デストロイヤー………」

 

 それをつぶやいた直後、さっきと同じく、頭に見えない文字が打たれて聞こえない声が響く。

 

 デストロイヤー。攻撃と防御に重点をおいた者で、S級となると攻撃を無効化してそのまま反撃に持ち込む、自己強化による重い一撃すらもできる、まさに物理面においては無類の強さを発揮する。だが反対に特殊な攻撃に対しては弱く、常に前線に出ないといけないために体力の消費も多くなる――――――。

 

 ……とりあえず、おっさん無理すんな。と心の中でつぶやいた。

 

「ところで、あまりレディーの能力を見るのは好きではないが、お嬢さんの能力は何かね?」

「……俺、ですか?……俺は……」

 

 同じく、ポーチから武器を取り出した。ナイフだ。戦闘にはもってこいと言わんばかりの、小さなナイフ。つまり、近接戦が主になるのか?………まじで?

 

「お嬢さんは……なるほど。『トリックスター』か……」

「トリックスター……あ、あぁ。それそれ……」

 

 トリックスター。素早さに長けており、S級になれば敵への大きな痛手と俊敏な動きで華麗なヒットアンドアウェイによる攻撃を仕掛けられる。また短剣による敵への異常攻撃も得意としており、まさに暗殺者。けれど攻撃力が多少低いのが難点で、異常攻撃が効きにくい敵に対しては多少苦手とする――――――。

 

「………なるほどな………大したお嬢ちゃんだ」

「…俺はお嬢ちゃんじゃなくって、ロナです。えっと、あなたは……」

「私は山蔵(やまぐら)檜海(ひかい)…。おじさんで構わない」

 

 おじさんて……。えっと、ヒカイさんは手を差し出してきた。仲間にならないか?の合図だろう。もちろんだ。俺は無言で手を取り、固い握手をした。ひどくしっかりした手だ。同時に、何千匹も屠ってきたような感じもする。

 

「……そうだな。あと一人………あいつがいいか」

 

 ヒカイさんは一点を見た。コンクリにタイルを埋め込んで簡素な花壇にしている部分に腰掛けているでかいハチマキを巻いた、ちょうど俺より上な感じのする男子。

 ……やっぱり、この人も見た気がするな…。

 

「いこうか」

 

 ヒカイさんは俺に一緒に行くことを促した。ついていく。

 

「…お久しぶり、かな」

「あン?」

 

 うわ声おっかねぇ。……まて、お久しぶり?どういうことだよ。

 ……どうやら、見覚えある、聞き覚えのある、と言ったことは今回はないらしい。神様がインプリントし忘れただけ、とも取れるが。

 

「……んだよおっさん。俺に何の用だ?」

「見てわからないのかね?…君も来ているということは、君もS級だった、ということだね」

 

 ……あれ?知ってるのかヒカイさんは。この二人知り合いなのか?

 

「どうだい?私と彼女……ロナの力になってもらえるかい?君がいればきっとどんなマモノも倒せるさ」

「あぁ?」

「それに、君には一向に勧誘が来てないようだね。ムラクモの給料はかなり高いらしいから、なっておいて損はないはずだぞ?」

 

 ……交渉術うまいなこのおじさん。武術にも長けていそうで逆に怖いな。こんな人が味方なのか。そう思うとどうも苦笑してしまった。

 それにしても給料高いかぁー………一体何千くれんだろうな?なんてな。

 

「………別に」

「ふむ?」

「そろそろ金が欲しいって思ったころだ。さっさと二人組見つけて仲間になった方が効率良いと思っただけだ」

 

 人、それをツンデレと言う。

 

「まぁ構わんさ。………だが君は跳ねたり殴ったりするのはあまりできまい?」

 

 え、どゆことっすか?

 

「簡単に言えば、『戦力外』だ」

 

 なぜに!?なぜに戦力外呼ばわりされる!?つーか、なんで戦力外言われたS級がいるの!?わけがわからないよ!

 

「いや、ちょ、マジで待ってください。つかさっき『どんなマモノも倒せる』だの言ってなかったでしたっけ?あれ一発嘘だったんですか!?」

「あぁ嘘だ」

 

 嘘だッ!!!

 思わず自分とおじさんを突っ込んでしまった。って、ペース巻き込まれ過ぎィ!兎にも角にも、何か長所はないんですか!?と俺は言った。

 

「あるにはある。だが使いこなせるかな?」

 

 何を?そう思った矢先にどこからか、チャクラムと呼ばれる円盤状の投げ刃を取り出した。それを男子に手渡す……と見せかけてなげたぁ!?キャッチ失敗したら出血するぞ!?

 

「チッ」

 

 男子は舌打ちをして、そのままチャクラムをキャッチした。……手から血は出ていない。うまく持ち手の方を持ったらしい。お見事、としか言えない。俺だったら多分切ってるな。

 

「…やっぱり、最低限の『ハッカー』としての能力はあるな」

「ハッカー…って、確か……」

 

 ハッカー。基礎体力は低いが、相手を制限(ハッキング)し、味方を強化(チート)させることに特化している。相手に対して、ハッキングさせてしまえばこちらのモノになり戦場を影で支配することも可能。だがその分攻撃は苦手で大ダメージを与えることはできない、まさに援護専門家――――――。

 

「……でしたよね?」

「その通り」

 

 の割にはいきなり投げられたチャクラムを受け止めたんですが。意外と身体能力高いんじゃないのかと突っ込みたいぐらいに。いやまぁ、S級って言われるぐらいだからこれぐらい昼飯前なんだろうな。

 俺もそのS級、ってのになってるっぽいけど。

 

「試してみるか?」

「結構です!」

 

 無理無理。止められないはず。というかいきなり怪我したくない。そんな表情を見たのか、ヒカイさんはほそく笑んだ。気を楽にするためだったのだろうか。あえて口にはしない。

 

「……あぁ、ところで名前…俺はロナね。んで……」

森雁(もりかり)条堵(じょうと)だ。テキトーになんとでも呼べ」

 

 …つれねぇやつ。とにかく大変だ。……でも、それでもなんだか安心する。

 

「……それじゃあ、ガトウのところいこうか。ロナ。ジョウト」

「はい」

「あいよ」

 

 …これで、俺達の、デコボコチームが完成した。

 ……不安だった。本当に大丈夫なのかって。

 ………いや、杞憂、だよな―――――――――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ところでロナ。君は何で『俺』口調なんだ?」

「ギクッ!?」

「あぁそりゃあ気になったな。男っぽい話し方だしよ。なんだおめェ?」

 

 え、えーっと……………………

 

「………あ、兄の影響でー……」

 

 はい棒読み!やべぇごまかせねぇ!!

 

「なるほど。兄さんの影響か。ならば仕方あるまい」

 

 …………いやー…。おじさんだまされやすそうだねぇ………

 

「あっそ。じゃあなんでもいいや」

 

 ……そしてジョウトは無関心か。

 

 

 

 

 ………えーっと。こんなチームで大丈夫か……?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




……今更ながら、勧誘があっさりしすぎたかな……?


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3Sz 『生きる』

どうもこんにちは。3話目です。

チームを組んだロナ、ヒカイ、ジョウトはどうなるのでしょうか。

では、3Sz、どうぞ!


「………ふむ、いいだろう。先に他の候補生たちは中に入ったからお前らも急げ」

 

 そう言われて俺らは都庁内に入って行った。

 中そのものは…………うん、やっぱり普通の光景だ。俺都庁なんて初めて入ると思うけど、普通の都庁ってこんな感じじゃないか?これのどこがマモノがいるってんだよ。

 

 

 ………いや、待てよ。何で人がいないんだ?他には俺らと同じ候補生と、自衛隊の数名に、ガトウさんと同じ格好をした二名………………。

 

 …

 ……

 ………

 …………

 

 ……………待て………二名?……二名?…二名?あれ…なんだこの違和感の正体は…。

 

「……これで全員ですかね?キカワさん?」

「んー…そうなんじゃない?今日のは収穫だし、なんとかなるなる」

 

 キカワさん……だれだそれ?俺は何故か初対面の人に対して変なリアクションを取っていた。まるでイレギュラー入れていました。なように。

 キカワさんは青い髪をしていて、野球帽をかぶっている女の人だ。…それで、隣の赤い髪の人は……。

 

「ようキカワ。ナガレ。とりあえずこいつらで全部だ。後の奴らは多分拒否したんだろうな」

 

 と、俺らの後ろからガトウさんがやってきた。俺らの前に立つと、一旦俺らを見渡した。

 

「…ちょうど6、7チームできるか…。上出来だ。今回のは収穫だな。よォしお前ら!これから今回の試験について説明するぞ!」

 

 試験開始か……どんなんだろ。筆記試験かな。

 

 ………それも勘弁だな。筆記は……アカン。

 

「なぁに、今回のはちと簡単だな!今回はマモノを倒しながら昇るだけだ」

 

 …それのどこが簡単だよ…。俺はちょっと泣きかけそうになった。だって、つまりそりゃあ………

 

「あの……マモノって、なんですか?噂では聞いたことありますけど…」

 

 俺の隣の見知らぬ誰かがマモノについて訊ねる。……マモノってそりゃあ……

 

 と、突然、どこからともなく、ウサギが来た。恐らくそれがマモノなんだろう。……刃に伸びた牙がそれを教えている。

 

 ………まじかよ……。やばくないか……?

 

「ヒィっ!?」

「な、なにあれ!?」

 

 他の候補生たちも驚いた様子だ。…驚くだけならいいだろ。…俺は驚くこともできない。むしろ恐怖だ。

 

 死んだらコンティニューもできない。ゲームなんかじゃない。…死にたくない。

 

「ガハハハハ!!!お前らよかったな!実物が見られてよ!!」

 

 やべぇ…ガトウさんはこの状況を楽しんでいる。どうして楽しめるんだ…!どうして………。

 

「…よし。折角だ。挑む奴いるか?」

 

 いねぇよそんなの…。俺はそっぽを向いた。その視界にはジョウトだ。ジョウトも同じく、驚いた顔でマモノを見ている。

 

「…私達のチームがいこう」

 

 は?

 

「折角の実戦だ。早い方がいいだろう?」

 

 なっ……えっ……?ヒカイさん……?

 

「おう!んじゃあ、いってこい!」

 

 そう言って俺ら二人を後押しするように、ヒカイさんは行くようにうながした。

 

 ……マジ…で?

 

「………いくぞ」

 

 …ジョウトも覚悟を決めたようにチャクラムを持つ。

 

 ……俺も、行くしかないか………

 

「…分かりました」

 

 そういって、俺らはマモノ二体に突撃した。

 

 本当は俺は行きたくなんてなかった。嫌だよ。痛いのとか、そのまま死ぬとか。だってみんなそうだろ…?

 

 でもよ、何故か俺は承諾したんだ。何故かは、この時は分からなかった。

 

「…私が前に出て囮になる。ロナは残りの敵を横から斬れ。ジョウトはなるべく喰らわないようにしてロナの援護しろ。いいな?」

 

 簡素かつ、的確な指示で俺らに作戦を伝える。…やるしかねぇ。ヤケクソだ…!!

 

「う、うおおお!!!」

 

 突撃。思いっきり、短剣を振る。

 

 ザシュリ。斬る感覚が全身に伝わる。

 

 どうなっているのかは分からない。目をつぶっていたからだ。…怖い。目を開けるのは無理だ。

 

 瞬間に、反撃と言わんばかりに腹に衝撃が伝わる。吐き気がする。めちゃくちゃ痛い。

 

 ヤバい……死ぬ…?い、いやだ…死にたくない……!

 

「こんにゃろうが!!!」

 

 ジョウトの声が聞こえたかと思うと、今度はまた何かを斬り裂く音が聞こえる。CDを突っ込んだ時の音を大きくさせたような。その音が聞こえてはっとして目を開ける。見えたモノ、それは何処かへと、役割を果たしたように飛んでいく銀の円盤だ。

 

「やるなぁ…おじさんも負けられないな…!」

 

 一体の攻撃を引きつけてくれたヒカイさんが敵に向かってフックを仕掛けるような動きで思いっきり敵を殴る。

 こっちにも伝わる。達人級の武術で、俺やジョウトとは比べ物にならない、いわばプロの動き。

 

「ロナ!いけ!!」

 

 お、俺……!?

 呼ばれてる。ご指名だ。俺が呼ばれているんだ。他の誰でもない。俺が…!!

 

 

 

 ……いくんだ……いくんだ、(ロナ)……!!!

 

 

 

 

「……あぁくそっ!!!」

 

 反射的に、俺の身体が弾丸のように飛び出す。あまりにも、自分でも認知できない動きで一秒がおかしくなるぐらいの速さだ。

 これが、トリックスターの速さか…………。俺はどうでもいいことをこの一瞬でそう思った。

 

 そして、思いっきり突き刺す。……見ることはできなかった。見たくないだけだ。

 

 気づいたときには、空間に向かって短剣を突き刺していた。………つまり、マモノは消滅していたんだ。

 

「……上出来だな」

「え……あ、あぁ……」

 

 その場で、俺はペタンと座り込んだ。

 

 これが………実戦…………。

 

 

 周りで拍手が起こってたらしいけど、俺はその音が聞こえなかった。バンダナのせいか、あるいは――――――。

 

=======================

 

 まだ、マモノを突き刺した感覚が残っている。数分したのにもかかわらず。いや、数分たったのか分からないぐらいだ。

 俺らは、絶対俺のせいで、まだ一階にいた。他の候補生は多分、昇って行った。俺らを見て、自分たちだってできると自信を持ったのもいたはずだ。それは、ある意味嬉しくも、逆に呆れもしていた。でも、それ以上に恐怖が付きまとっていた。

 一階のどこかで俺はまだ座っていた。動いていないだけなのかもしれない。ヒカイさんは俺を黙って見ていたし、ジョウトはどこにいるか分からないが、少なくとも、俺の近くにいることは認識できていた。

 やがてヒカイさんは今の俺に呆れたのか、立ち上がる。……置いていくつもりらしい。……そりゃそうだよな。ずっと恐怖で俺は動いていないかもだし。一回だけ肩を並べて戦った、赤の他人だから―――。

 

「ロナ」

 

 ヒカイさんは俺の偽名(なまえ)を呼んだ。俺は返事しようと声を出そうとしたけど、かすれてて出せなかった。

 

「…キミは、『死にたくない』と思ってるのではないか?」

 

 ……当たり前だ。俺は黙ってうなずいた。

 死んだら、本当に元も子もない。確かに俺は一度死んだ。死んだ、っていう実感もわかず、しかもただの巻き込まれだけで死んだ。それを神様は哀れだと思って俺に転生を促して、俺は承認してここに来た。

 

 となると、死にたくないと思うのも当たり前だろ。誰だってそうなるはずだ。

 

「…だからだめなんだ」

 

 …何でだ?俺はゆっくり、顔を上げて、ヒカイさんを見た。ヒカイさんは真剣な表情でこういった。

 

 

 

 

「死にたくない、と思っているからこそふさぎ込んでしまう。

 

  だから、『生きたい』と思って、前を歩くしか方法はない」

 

 

 

 ……『生きたい』?

 

 

 

「死は誰だって恐怖する。そして誰だって直面する。それをおびえる者はいる。そうしてふさぎ込むのは人としては恥ずかしくない。

 だけど、外に出てる間は『生きたい』と思うしかない。どうなるか分からない『死ぬ』より、ある程度分かる『生きる』のほうが何倍もましだろう?」

 

 

 

 ……………………確かに。

 

 俺は今まで『死にたくない』と思っていた。さっきの戦いだってそうだ。俺は『死にたくない』と思って戦った。…本当にそれだけだったのか?

 

 ……違う。多分だけど、『死なせたくない』と思ったんだ。それは『生きさせたい』ともとれる。

 

 だから俺はあの小さな戦場に出ることになった。『生きさせたい』ために。

 

 

 

 …………確かに、『死にたくない』じゃなくて『生きたい』と思った方が前向きだ。

 

 

 

「…『死にたくない』なら下がれ。そう思う奴から死んでいく。ロナ、お前はどうだ?『死にたくない』か?『生きたい』か?」

「………俺は……」

 

 …答えは、決まっている。覚悟は決まっていた。

 

 神様、もしまたアンタの前に出たら一発ぐらいぶん殴らせてくれよ?全部、アンタの責任だからな

 

「『生きたい』!!そして、ムラクモに入るんだ!!!」

 

 

 死なないために…違う。もう一度、生きるために!!!

 

 

「……いい答えだ。…ジョウトも、いけるな?」

「ったりめーだ。…今ので実戦は掴めた。少しこえぇが……こいつよりは怯えてねぇはずだ」

 

 失礼だな…いや、当たり前だ。俺はずっと怯えてたさ。死にたくないから。

 

 もう覚悟は決めた。進むしかない。

 

 気づいた時には俺はもう立ち上がっていた。まだ恐怖は残っている。歩きたくもなかったけど、それは全てここに置いていく。

 

「…行こう。試験官も上で待っている!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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4Sz 鼓動

お待たせしましたかもしれません。

……いくらなんでもお気に入り8件は早すぎですよ。エクゾースト使っちゃったじゃないですか(苦笑

会話部分が原作通りじゃないのは仕様です。ごめんなさい。

では、4Szどうぞ!!


「……はぁッ…はぁッ……」

 

 ま、まだ慣れない……。ほんの少し斬った程度なのにまだ慣れない。

 

 相手はマモノとはいえ、生きている。それを自分の手で終わらせるのは間違っていると思う。

 …いや、そんな考えは甘いな。人間だれしも、特に漁業の人とかは生き物を殺している。それは生きるために、仕方なくやっていることだ。それを責める人なんてほとんどいないだろう。

 俺だってそうだ。生き物を殺してできたモノで今まで生きている。自分が生きるために、それは絶対、一生同じだ。

 

 絶対生きるために、殺すのはしかたないのかもしれない。俺だって、『生きたい』から。

 

「でりゃああ!!!」

 

 目を大きく見開いて、思いっきり短剣を振り下ろす。手ごたえあり。マモノが断末魔を上げて、花弁が散るように消えていく。死体が出ないのが救いだろう。死体なんてみたら絶対恐怖している。

 

「…いい覚悟だ」

「はぁッ……あはは…ヒカイさんのおかげですよ」

 

 そうだよ。全部ヒカイさんのおかげだ。こうしてジョウトとヒカイさんと肩を並べて戦っているのもヒカイさんの言葉のおかげだ。ヒカイさんがいなかったら今の俺はここにはいない。

 

「確かにその言葉は私が送った物だ。だが、それを一瞬で覚悟に変えたのはロナの強さだ。恐らく、私がどんなにたってもその強さは手に入れられんだろう」

 

 …めちゃくちゃ照れる。やめてくださいしんでしまいます。熱的な意味で。

 

「おいオッサン。さっさと行こうぜ。こいつが変な意味で死ぬ」

 

 人の心を読むな貴様っ!!!…いや、でもナイスフォロー。さすが影の支配者。

 

「なぁに。急ぐ様子もあるまい?まだジョウトも実戦に慣れてない筈だ。それに……君の力もちゃんと見せてもらってない」

 

 あー…確かに。ずっとチャクラム一本で戦ってるもんな。ハッカーってチャクラム投げるだけの職じゃないだろうな。と言ったら俺も今までナイフ一本で戦っているから人の事言えない。

 

「ふん。こいつら相手に使うまでもねぇよ。…いろいろもったいねぇしな」

 

 奥の手は最後までとっておく…か。まぁ、確かに自分の能力(スキル)を温存するのは悪くないな。いざってときに出せないと大ピンチだし。

 

「…ま、強敵と遭遇したと思ったら遠慮なく使ってもらえると私やロナも戦いやすくなる。基本的に私が前衛で敵を抑え、ロナがそこに刺し込みをしてジョウトが援護をする。これさえ守ってくれると私も戦いやすいさ」

 

 ………そうは言うけど、俺はどこか疑問に思うことがある。絶対俺のコレだ。

 ナイフ一本で戦ってるけど、他にも何かあった気がする。…何で何かあった気がするんだ?わけわからん。思い出せないし、まぁいいか。

 

 と、なんだかんだで、俺らは多分、いや絶対に、初めて会ったとは思えない連携プレイで次々倒していく。単純な話だ。ヒカイさんが守り、ジョウトが援護、そして俺が隙を突く。やることが単純だからこそなのかもしれない。それかヒカイさんの戦闘スキルがプロだから俺らも安心してるのかもしれない。

 

 …恐怖が治ったわけではない。今でも、マモノを倒すとどことなく空しくなるし震えもする。でも、俺は『生きたい』から戦うんだ。ここで死ねない。死ぬ気はない!

 

 そして三階。シャッターだらけでいろいろ遠回りさせられたけど、何とか無事に試験官の二人の元に来た。

 ………あれ、なんで二人何だろ。つか、なんで違和感あるんだろうな。

 

「…お、きましたねぇ候補生!!」

「他の連中は先に行ったが、まぁ戦闘スキルの良さからプラマイゼロってところか」

 

 どこで見ていたのかガトウさんは俺らを評価する。その辺の監視カメラで見てたのかな?……つっこみはないほうがいいよな。絶対。

 ガトウさんの横でメモを取る仕草をする……えーっと、キカワさん……だよな。キカワさん。…キカワさんはその仕草をしながら、俺を見ていた。

 …あー…そういやずっとへたれこんでいたっけ。心配してくれてたのかな。俺は大丈夫です。といった意味のサインを片手で送る。それを見た、のか分からないけど、キカワさんは笑顔で手を振ってくれた。なんだか心配させちゃったかな…。

 そんな俺を見て、ガトウさんに訊ねるヒカイさん。

 

「ところで、試験はまだありますかな?」

「そうだな…じゃあ奥へいけ。そこで試験官が……」

 

 ピピピピピ………。

 どこからか何かを知らせる音がした。すぐにガトウさんが応答する。

 

「何だ」

 

 しばしの沈黙。ガトウさんは聞いているようにうなずく。何の会話しているのかは分からない。一体何が……

 

 

 瞬間。俺の感覚がマヒしたようにビクンと跳ね上がった。どこからか殺気がやってきたように。

 その殺気………違う。これは殺気なんかじゃない。…………これは……………『攻撃』………?

 それにこの殺気……さっきまで戦ったマモノとは比にならない。マモノよりも何倍も危険な存在を知らせるようだ。

 

 

「チッ……試験官が手こずってちゃ候補生に示しがつかないだろうが」

 

 ガトウさんはイラつきながら上を見る。やっぱり、上に何かがいるんだろうな…。俺はなんとなくそう察した。

 

「どうかされましたか?」

「ん?…そうだな。お前らもちょっと来い。少し面白いもんが見れるかもしれんぞ?」

 

 ガトウさんは俺らにイタズラを仕掛けるような顔で俺らを見る。

 ………ガトウさんのことだし、マモノ関係なんだろ。

 

 …………違う。これは『マモノ』じゃない。これは――――――。

 

「え?ガトウさん。この子たちを連れて行くんですか?」

「ったり前だろよ。こいつらにもちゃんとしてもらわなくちゃいけねぇ。オレらだけで日本全国のマモノ狩れるか?」

「だろうねー。……ほら、いくよ。この状態のガトウさんでは拒否権はないからね」

 

 そう言ってキカワさんはガトウさんと共に階段を上がって行く。残されたのは俺らだけになった。

 

 ………やっぱり危険な存在なんだろうな。……そりゃあそうだよ。俺が思っているワードが正しいなら、ソイツはまじで危険だ。

 やっぱり行きたくない。マモノ以上の危険ならなおさらだ。汗の感覚が首筋をつづる。

 でもよ、俺だけ退くわけにもいかないだろうよ…!!

 

「…俺らも行くべきだよ。このまま…放っておくわけにもいかない」

 

 …もう退けないな。俺から言い出したんだから。でも、退いたところで予想はつかない。だったら予想がつく、『前』に行くしかない。

 俺から言い出したのが驚いたのか、ジョウトとヒカイさんは俺の顔を見た。だが、すぐにヒカイさんはうなずいた。俺もうなずき返す。ジョウトのアクションがまだだ。俺はとっさに言う。

 

「ジョウトは?行かないのか?」

「……フン。拒否権はないだろうよ」

 

 その声は見栄を張っているようにも聞こえたけど、覚悟もある。俺は無言でうなずいて階段を駆け上がって行く。

 

 階段を駆け上がり、通路を走ってガトウさんチームと合流する。ナガレさんは絶賛ガトウさんに説教されていたようだが、足音を聞いたとたんにガトウさんは説教をやめて俺らの方に向いた。

 

「おう!喜べ候補生!今回はサービスだ!折角だから本場の仕事に同行させてやる!!」

「え、本当ですかガトウさん!?」

 

 ……まぁ、ナガレさんが驚くのも無理はねぇよな。俺らは候補生だし、こんなところで死なれたらいろいろ困るもんな…………。

 

 …って言ったところで、俺の腕はすごい震えてたし、正直泣きたかった。そりゃ、怖いに決まってる。今度ばかりは死ぬかもしれない。

 そしたら、他の候補生はどうなるんだよ。あのすげぇ怖かった初戦なのに拍手くれたらしく、そして行ってくれたアイツらだって、死ぬのかもしれない。

 俺は責任とれるのか?答えは、『だったら最小限に喰い止める』しかない。どことなく、確信していたんだ。俺一人じゃ怖い。でも、俺のチームだったら怖くない。

 杞憂なんかじゃない。心からそう思ってる。

 

「ナガレさんいきましょう。人数は多い方がいいですよ。そうしたら生存率は高くなりますよ!」

「わ、分かりましたよ………」

 

 キガワさんに促されてナガレさんは渋々うなずいた。ガトウさんは俺らを見る。俺は、いや、俺らかな。俺らは無言でうなずいた。

 

 この扉の先、なんとなく予想はつく。

 

 どんなものでも砕きそうな牙、どんなものでも吹き飛ばしそうな翼、どんなものでも傷つかなそうな鱗、そして、どんなものでも恐怖に追い込むような容姿。

 

 実際に見たわけじゃない。俺の『感覚』がそう言っていただけだ。確証なんてないけど、でも確信している。

 

「さぁ、いくぞ候補生!強敵のお出ましだ!!」

 

 ガトウさんは扉を開けて中へ侵入していく。そこにナガレさん、キガワさん、そして俺らが続く。

 

「ほう…!これは……」

「おいおい嘘だろ……!?」

 

 二人は驚いていた。俺も驚いている。心臓もすげぇ分かりやすく動いている。全身が震えて、汗が出る。見るだけで逃げ出したい気持ちでいっぱいだった。

 

 でも、逃げられない。俺がみんなを危険な場所に誘導したんだ。責任は取らなくちゃ人間じゃないだろ。

 

「……ドラゴン……」

 

 俺は扉の先のマモノ、いや、『竜』を一点に見ていた――――――。

 

 そして、竜が獲物を見つけたように大きく吠えた。

 

 俺らと、竜。どちらかが生き残る戦争が始まり、

 

 

 

 そしてこの物語の開幕を大きく告げたのも、ここが始まりだったのかもしれない――――――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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5Sz 交差力

どうも、五話目でございます。

初のドラゴン戦、彼らはどう立ち向かう?

なんだか内容が少なくなった感が非常にある話ですが、5Sz、どうぞ!!!


「で、でけぇ……」

 

 ジョウトの言うことも無理はない。実際に、下手をすれば一発で頭と胴体がおさらばしそうな顎はでかく、俺らはこいつにとってちっぽけな存在だろう。身長も、能力も。

 

「二人とも油断するなよ。先ほどの通りの作戦で構わない。……ただ、今回ばかりはちと面倒かもしれんがな」

 

 俺はふるえる全身で無言でうなずいた。その瞬間にヒカイさんは前に出て囮になる。

 この動きがあるからこそ、俺らの被弾率が少ないのに直結しているんだろうな…。俺はその背中を見ながらそう思い、右へ思いっきり走り込む。

 

「援護する!…候補生。お前らが主役だ!!」

 

 ガトウさんがどこからか叫ぶ。俺らのことを信頼している証だろう。だったら、それ相応に答えなくちゃ意味ないだろ…!

 

「そこだぁっ!!!」

 

 ドラゴンの真横から、首元に向かって飛び出して斬りつける。だが、生半可な短刀のためか、今まで斬ってきた感覚と違う。

 固い。

 本当に……勝てるのか…?

 

 その思考がよぎった直後、俺は防御することすら忘れていて、思いっきり衝撃が伝わる。牙で喰われなかったことに幸いと言うべきだ。けど、すげぇ痛い。普通なら骨折れるんじゃないかと言わんばかりに頭でたたきつけれらて地面に激突する。

 

「ロナッ!!!」

 

 誰の声が聞こえているのか分からない。思考がめちゃくちゃだ。

 痛い。すごく痛い。普通、このまま意識ぶっ飛ぶんじゃないかと思うぐらいに。

 

 でも………動けるッ!!!

 

 とっさに、犬にでもなったように両手両足で地面を強く打って飛ぶ。直後に振動。今まさに俺のいたところに向かってドラゴンの踏みつけが襲い掛かったところだ。

 あぶねぇ。あれ喰らったらひとたまりもない。絶対死んでいただろう。

 素早く受け身を取って勢いを殺す。ヒカイさんの後ろ、ジョウトの前の立ち位置だ。…と、いうかなんかすごいなこの身体。俺が生前(といったらおかしいけど)では絶対できない受け身、身のこなし。強敵と戦って経験値を多くもらうってこういうことだな。……いや、それはどうでもいいか。

 

「さすがに…一筋縄ではいかんか…!」

 

 今度はヒカイさんが突撃。俺も後に続く。どこが柔らかいか?その部分を狙って攻撃した方がよさそうな気がする。ダッシュしながらも敵を見る。きらびやかな青い鱗、その部分は攻撃をしないほうがいいかもしれない。となると、ノドの部分とかのほうがいいか…?

 

「……ッ!」

 

 また身体がビクリと反応した。危険信号だ。こいつはまずい。身体がそう言っている。だけど、ヒカイさんは気づいていないのか……!?

 

「ヒカイさんッ!!ガードしろ!!!」

 

 興奮してタメ口で叫ぶ俺。気づいたのか、ヒカイさんは今まさに攻撃しようとしたところで寸止めし、身を固める。

 

 直後に熱気と、強烈な衝撃が俺達を襲った。ドラゴンお得意とも言える『炎ブレス』だ。

 

「ぐあっ…!あっつ、あっつ!!!」

 

 やべぇ熱いって!!!燃えるし、やっぱりいてぇし!!急いでぶるんぶるん振るって延焼を止める。

 

「…今完全にあっちのペースか。……ジョウト。君の力が必要だ」

「チッ。ずっと影にでも隠れようとしたがだめか。…しゃあねぇな」

 

 え、なにコイツ、今まで攻撃してなかったのか?気づかなかった…じゃねぇよ。何で俺らが頑張ってるってときにこいつ攻撃すらもしてないのか――――――

 

 前言撤回。ジョウトは自分のスキルのための下準備をしていたところだったらしい。空間にホログラムでできたようなキーボードが写っていて、ジョウトはそれを普通に操るようにカタカタと両手を動かしていた。

 エンターキー部分をジョウトが押した途端、俺らの身体に違和感が生じた。…いや、強化だろうな。前の動きはそのままに、防御だけをうまくあげた…

 えっと、『ディフェンスゲイン』………だっけな。何でスキルネームが思いついたのかは今はどうでもよかった。

 

「オラっ!完了!こいつでましになったろ!」

「上出来。それじゃ、もう一度いくぞ!!」

「了解っす!」

 

 もう震えはかすかに感じる程度になっていた。……まだ怖いさ。あんなに強い攻撃をぶっこまれて戦意喪失しない一般人なんていない。そもそも死ぬ、っていうつっこみが正しいけどな。

 でもさ。ここで逃げ出すのはばかげてるだろうよ……!!

 

「……!!」

 

 もう一度、突撃。俺らが準備している間にガトウさん、ナガレさん、キカワさんの三人はうまくフォーメーションを組んでドラゴンにダメージを与えていたようだ。……武器を見る限り、ガトウさんはデストロイヤー、キカワさんはトリックスター、そしてナガレさんはサムライっぽいな……。

 

 サムライ。剣術に長けた、全てにおいて平均的な職業。S級となると自身の力を増幅、回復ができるようになり、抜刀、納刀の大技を扱えるようになる。どんな状況でも対応しやすく、それゆえに幅広い対応に適応することが条件となる―――。

 

 やっぱり、響く。それほどまでに俺の頭は変にこの世界を知っていることになるっぽいな…。

 はは、今はどうでもいいだろうけど。

 

「ふっ!!!」

 

 思いっきり跳躍。天井すれすれまで飛ぶともう一度ドラゴンを凝視する。

 見えた。三人のおかげでできた、ドラゴンの頭にできた傷痕が。

 違う。感じていたんだ。頭の一部分に開かれた傷痕が。

 

 だったら、そこを狙うしかない!!

 

「いっけええええええ!!!!」

 

 天井を足場にして思いっきり三角飛び。目標はドラゴンの頭。短剣を逆手に持って傷痕目がけて、俺の持つ渾身の力で振り下ろして突き刺す。

 めり込んではいない。俺はまたやけくそになるようにさらに強く押し込む。痛みを感じたのか、ドラゴンは雄叫びをあげて俺を振りほどこうとした。

 耳が壊れかけそうになった。意識も一瞬ですっとぶかと思うぐらいに。でも、それだけだ。さらに無理やり押し込む。思いっきり、脳天をえぐるぐらいに。

 またドラゴンが雄叫びをあげる。ものすごい勢いで俺を今度こそふりほどいた。散らかった机に思いっきり、背中から激突した。

 

「ロナ!」

「俺は大丈夫、撃ちこめ!!!!」

 

 けど、短刀はまだヤツの頭に突き刺さっている。どうぞそのままめり込ませてくださいと言わんばかりに。

 

「…了解したッ!!」

 

 ヒカイさんも大きく飛び跳ねる。拳を弓のように引く。…まずいな。強敵と戦っているほど、ヒカイさんは輝いて見える。

 

「ハアァッ!!!」

 

 ドラゴンの脳天に、俺が突き刺した短刀に向かって重い一撃。グチョっと、こっからでもよく聞こえる、勝利を確信した殺戮の音。

 断末魔。その音と共にドラゴンはドスンと倒れた。

 

 ………倒したのか?

 

 …いまいち実感がわかねぇ。俺は恐る恐るドラゴンに近づく。……俺自身は怪我はしているけど、重傷レベルではない。…ジョウトがかけてくれたスキルのおかげだな。

 ゆっくり、ドラゴンに触れる。………動かない。……つまり、これって………。

 

「……や、った………」

 

 ………はは、なんだかあっけねぇ。でも、信じられねぇ。あのドラゴンを倒したんだぜ?神話の中でも凶暴で、俺が転生する前に、覚えている範囲内で遊んでいたゲームでも基本的にドラゴンは強敵だ。

 それを、倒した、だって?……いまだに信じられねぇよ。いきなり立ち上がって喰いちぎるとかもありえるだろ。

 でも、動かない。動いてない。長くも、短くも感じられた時間。一体今の戦闘はどれだけ経ったんだろうな、って思うぐらいに自分で自分たちが起こしたことにまだ疑問を持っている。

 

「おう」

 

 トンっ、と誰かに―――声からして多分ジョウトだな―――肩を叩かれる。…いつの間にか、最初の時と同じようにまた地面にへこたれていたっぽいな俺。情けねぇ…。

 でも、前と今では状況が違う。前は恐怖からだ。

 

 今は……まだ、恐怖かな。…でも、恐怖は恐怖でも、違った意味の恐怖だ。多分な。

 

「……お疲れ」

「…お前もな」

 

===============

 

 現在俺らはただ通路を歩いているだけだった。

 あの後、ガトウさんチームとは別行動になった。と言っても、俺らは当初の目的を果たしに、ガトウさんチームは他にもドラゴンがいるかもしれないから別のフロアを見てくる。自分たちの目的に変わりはない。

 

「……少しいいか?」

 

 突然、ヒカイさんが立ち止まって俺らの事を見た。……非常に真剣な表情だ。…一体、何が…?

 

「…このまま、ムラクモに入るのかね?」

 

 …意味は、分かっていた。

 今の戦い、それに前の戦いからして俺らは素人だ。それに比べてヒカイさんはいわば武人。俺とは、絶対ジョウトとも、鍛え上げた年数は全く違う。

 ………違うな。絶対。そっちじゃないんだ。多分と思うけど、このまま進んでいくともう後には戻れない。ムラクモに入ったら最後、マモノ討伐などに参加する羽目になる。それはつまり、同じような、いや、それ以上に俺らにとって酷な運命を何度も見せられる。

 ずっと、恐怖とも戦うことになる。実際に、少なくとも俺は恐怖心がまだどこかしらにある。これは一生治んないかもしれない。

 でも、治さないと、いつしか死へとものすごい勢いで近づく。

 これはもう、訓練とかじゃなくなる意味だ。

 

「答えを聞かないと、私は君たちをこれ以上行かせられないな…。君たちはまだ若い。だからこそまだ他に生きるべき道があるはずだ」

「野暮じゃないんですか?」

 

 …俺はそういった。やっぱり、何故だ?って顔するよなヒカイさん。俺は心のままに答えた。

 

「俺らはもう仲間じゃないですか。それに、ヒカイさん言ってましたよね。『生きたい』って思うから前に進めるって。前に進むためにも生きなきゃいけない。それは絶対に壁にぶつかる」

「………」

「…正直、まだ怖いですよ。でも、俺は戦わなくちゃいけないんです。生きるため、そして、二人のため」

 

 たった数十分の付き合いだけど、俺はもう二人の事を信頼している。

 俺らじゃなかったら、今頃バラバラで命を落としてもいる。だから、信頼できているんだ。

 

 ヒカイさんがいたから、俺がいる。ジョウトがいたから、俺がいる。そして、俺がいたからこそ、今のヒカイさんやジョウトがいる。

 

「逆に聞きますけど、俺らってそんなに信用ないですかね?」

 

 笑った。ずっと聞きっぱなしじゃ飽きるから、逆にこっちが聞いてやるって口調で。

 その顔を見てか、参った降参と言わんばかりに両手をあげるヒカイさん。……なんだかすがすがしいな。言っちゃなんだけど。

 

「そこを言われちゃ、お手上げだ。……答えは、『力になってあげたい』。だ」

「…じゃあ、力になります。俺に、『生きる』を与えてくれた人だから」

 

 力になる。絶対。……さて、ジョウトの答えだ。俺はとっさにジョウトを見た。無表情すぎだこいつ。一体何を聞いていたのか。

 

「俺だって、まだこえぇよ。正直。さっさと逃げたっておかしくはねぇ。でも、おっさんは俺に手を差し伸べてくれた。……こいつと同じだ。俺を信頼してくれてんなら、力貸す」

 

 わお、ぶっきらぼうなツンデレだ。誰得だよ。俺は冗談を心の中で言った。…あと、笑顔になっていたんだろうな。俺の顔。

 

「……あぁ。信頼している。戦力外だけどな」

 

 ひでぇ。まだ戦力外かよ。信用あるのかないのか分からねぇな。……それがヒカイさんの面白さなのかもしれないけどさ。勝てるすべあるのかって思う。

 

「フン、じゃあ、力貸してやらァ。……さっさといこうぜ」

 

 そういって一人で先行するジョウト。俺とヒカイさんは顔を見合わせて、笑った。

 

「ぶっきらぼうですねぇ」

「あぁ。……あいつにも信用できる人が出来て何よりだけどな」

「きこえてんぞお前ら!!さっさと試験に合格しちまおうぜ!!!」

 

 はいはい。分かってますとも。

 俺らは前に進む。試験に合格して、互いの力になるために。

 

 

 



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5.5Sz 予兆

ふと思い出したことがあって割り込み投稿。

完全にスルーしていた設定の一つを回収です。これ原作で重要と言ってもいい設定なのに……。

とはいっても、書いてみたらそこまでして書く必要なかったかなと思いながら……

5.5Sz、どうぞ。


「……あの、これ一体何なんでしょうかね」

 

 俺はふと、近くにあった花を指さしながら二人に尋ねた。

 最初はただの飾りなのか、と思っていたけど、階段を上がっていけば行くほど増えていってる気がする。

 二人もやっぱり気になっていたのか、動きを止めて一度周囲の確認をするかのようにその花を見る。

 

「……悪趣味だなオイ」

「だよな……」

 

 ジョウトの言葉に、俺は反応しながらゆっくり近づき、それに触れてみる。特に何もない、至って普通の花みたいな気がする。色合いも鮮やかで、見るだけでもちょっと痛いが、他は特に何もなさそうだ―――。

 その時、気分が悪くなりそうな感覚が全身を走り出した。思わず俺はさっと手を離しもう一度見る。

 ……色が鮮やかな花ほど、毒素があるんじゃないか、って今更ながらそう思ってしまった。思わず全身が身震いしてしまう。

 

「……ふむ……これは……」

「何だオッサン、何かわかんのか?」

 

 と、二人の会話に気づいて俺はさっとその方向を見る。興味深そうにヒカイさんはその花に触れながら、ただじっと見つめていた。

 そして数秒。ヒカイさんは手を離しながら首を横に振った。

 

「……分からんなこの花は。私の記憶に間違いがなければ、聞いたことはない」

 

 ……そりゃ、そうだよな。俺だって、こんなの聞いたこともない―――

 

 ……ちょっと待て。本当に聞いたことないのか……?

 突然の疑問に俺は思わず腕を組んで考えてしまう。いや、聞いたことないっての。この花の名前だって俺は知らない……はず……?

 

「………フロワロ」

「あ?」

「ぬ?」

 

 思わず、ふと口に出てしまった謎の四文字。自分でもバカみたいに自覚して、俺は思わず首を横に振って慌てて否定する。

 

「いや、何でもない! ただの独り言だから、気にするなって」

「おかしな光景に頭もやられたか?」

「いちいちうっせーぞジョウト」

 

 俺は怒りを覚えながら反発した。その言葉を聞いてジョウトは肩をすくめる。ムカつく。いっぺん殴りてぇ。

 

「二人ともやめたまえ。それに、今この原因の調査について必要はない。早く上がり、目的を果たさねばなるまい」

「そう……ですね。ごめんなさい。時間を取らせちゃいましたね」

 

 俺は謝りながら、二人と一緒に先へ進む。途中、何度かマモノと戦う羽目になったけど、特に苦労はしていない気がした。

 

 ……ぶっちゃけると、内心まだ怖かった。でも、やるしかなかったんだ。よく分からないけど。

 

 そしてエレベーター前に辿り着く。どうやら、もう少しでゴールらしい。思わず安堵の息がこぼれ出てしまう。まだ始まったばかりなのに、と俺は思っていた。

 ボタンに手を触れようとして―――

 

「……?」

 

 その時だ。突然、身体がゆっくりと、けど次第に大きく震え始める。

 

 何だ……これ……!?

 

「……どうした、ロナ」

「い、いえ……な、なんでも……」

 

 いや、なんでもないわけがない。何故かそう思っている。

 そして……この感覚……まさか……

 

「……ドラ……ゴン……!?」

「あぁ? 何言ってんだよお前」

 

 冗談言うな、って顔してると思うジョウトだけど、もし本当なら……!

 

「……くそっ!」

 

 俺はただ、こんな非常事態なのにゆっくりと降りてくるエレベーターにイラつきながら、祈っていた。

 

 この止まらない震え、本当に……俺の言った通りになってほしくない……!!

 

 

 

 

 



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6Sz 決裂接合

さてこんにちは。これまたな6話目でございます。

自信の誕生日までに今までの話含めて22話書きたいなぁと思いつつ、絶対無理かも。なんてことだ。

今回はあの転生者にもう一つの能力が発覚!でもおさわり程度のために微妙な6Sz、どうぞ!


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……動けねぇ。

 ………また、死ぬのか。

 俺の前で勝ち誇ったように雄叫びを上げる赤い竜。『帝竜』、ウォークライ。ぶざまに、血だまりの中で横たわっている俺。血って、なんだかぬるくも冷たくも感じる。…何言ってんだよ俺。

 

 『死ぬ』んだぜ。また。一回目の死は自覚すらもねぇから、これが初めての死亡体験になる。

 

 って、何言ってんだよ本当に。頭ぶち抜かれてイカれてんのかよ。自分で自分をツッコミながらも、それが弱弱しくなっていた。

 自分の状態の再確認、だったんだろう。何の冗談なのか、四肢は無事だった。でも、確認できるだけの状態。………瀕死状態なんだろう。

 

 ………ほんと、なんで転生初日でいきなり死ぬんだよ。結局普通に死ぬのとかわりねぇじゃんか。

 

 こうなったのも、全部、俺のせいだよな―――――――――

 

===============

 

 扉が開く。めちゃくちゃ遅く感じたエレベーターがようやく開いて、俺はすぐに出ようとした。

 

 直後、トラップでも仕掛けていたように、『物体』が飛んできた。

 

 グチュリ、と言う音。肉を壁に撃ちつけた音。

 

 …………え、今のは………。

 

 確認してはいけない。してしまったら、正気を失う。やめろ見るな。見るな。今は目の前の敵に向かって武器を振るうだけでいい。確認なんて後でできるだろ。だから、見るな………見るな、見るな!!!

 

「…………」

 

 人間ってのは、基本的に怖がりの筈なのに、怖いもの見たさで何が何でも何かを見ようとする。お化け屋敷だって、嫌だ嫌だ行ってもつい行っちまう。本当に怖がりで入りたくない人とか例外はいるけど、基本はそうだろ……。

 

 あぁ、つまり、『見てしまった』。

 

「……あ、あああ!!!」

 

 悲鳴を上げる。意識を一瞬失う。いや、その時は本当に一瞬だったのかは分からない。

 

 気が付いた時には、二人が戦闘態勢になっていた。俺を護るような形。

 

 ……やばい。二人とも戦っている。力にならなくちゃいけない!

 

「…テメェ!!!」

 

 全力で突っ込む。さっき見たドラゴンと一緒の姿だ。でも、今はたったの三人だけ。

 

 逃げる、っていう選択肢はこの時の俺の頭の中にはなかった。

 

 復讐。ある意味、俺の知っている中で一番近い意味な状態だ。

 

「喰らってろ!!」

 

 胸部部分に短刀を突き刺す。やっぱり、それなりに固い。でも、突き刺せられないってわけじゃない。さらにそこに俺は特殊な力―――多分、MANAって力―――を使って毒素に変換。もう一発。ドラゴンが悲鳴を上げる。効いたか。

 

 今のはトリックスターのスキル、『スコルピオ』。攻撃と同時に確率で毒を与える。トリックスターが暗殺者と言われる所以だろうな。

 

 まだ、終わりじゃねぇ。さらに俺は一点をさらに突き刺す。まだだ。こんなんじゃねぇ……死ねよ、死ねよテメェ!!!

 

 

 

 

「落ち着けテメェっ!!」

 

 気が付いた時には俺は誰かに腕を掴まれていた。はっとしてまた我に返る。ジョウトだ。

 

 ………いつの間に?……何で……?

 

 俺はいつの間にか、空を見上げて、ただ一点に向かって短刀をぶん回していただけらしい。寝ている状態で。

 ………ど、ドラゴンは?

 

「とっくに死んでる。…でもテメェが何度も何度も突き刺したからオッサンが無理やり寝込ませたんだぜ」

 

 ………俺、正気を失っていたのか…?

 

「だから、嫌なんだ」

 

 誰かの声が聞こえた。絶対ヒカイさんだ。身体だけを上げて、辺りを見渡してヒカイさんを見つける。……怒って、るよな絶対……。

 

「素人が出たら大抵こうなる。抑えるべき感情を抑えずにただ目の前に向かって殺しにかかるだけの狂戦士になるだけだ。……若者は特にな」

 

 ………………。俺は言い返す言い訳もない。

 戦場って、そんな感じなんだろうな。

 

「ロナ。お前はすぐに試験を降りろ」

 

 なっ、いきなり……!!

 

「今後それが続く。すまんが、私はあきらめが早くてな。だから、降りろ」

 

 ……それってつまり、戦力外ってことだろう。ジョウト以下の。

 

 でもよ、いきなりそんなこと言われて反論できないわけねぇだろうよ!!

 

「何でいきなりそんなこと言うんだよアンタ!!俺だってな…!!!」

「俺が?俺がなんだ?死んだ誰かのために戦ったって言うのか?…今の戦闘じゃ、それが見受けられんな」

 

 なっ……!!!

 

「先ほども言っただろう。目の前に向かって殺しにかかるだけの狂戦士だお前は。戦場に出るってことは、それを乗り切らなくてはいけんだろうが。もう少し考えたらどうだ?」

 

 ………なんだよ、またさっきの現象に陥ったら、またあんなふうになるってのかよ!!

 

「じゃあなんだよ!!俺ってそんなに頼りねぇのかよ!!……確かに頼りねぇかもしんないけどよ!!力になるって言ったのは誰だよ!!言えよ!!!」

「力になるとはいった。…だが、それは『君』じゃないからだ。……君じゃなくて『お前』だ。今のままではな」

「ふざ、…けてんじゃねぇ―――」

「バカなのはテメェらだろうが!!!」

 

 ジョウトの横槍。その怒声を受けて俺は一瞬動きを止めた。

 

「さっきっからギャーギャーわめきやがってよ……ただ自分の主張を押し付けているバカ共だろうがよ!!辺りを見渡せ!!」

 

 ジョウトはそれだけいうと、舌打ちして何処かへと早足で歩いて行ってしまう。追いかける?……できるわけねぇだろうよ。それって自分が悪いって意味だろ。

 ……一応、辺りを見渡す。

 

 ……ひどい光景だ。死体が見つからなかったのが救いだっただろう。辺り一帯は血だまりに染まっていた。……ところどころに突起物っぽいのがあるのは、絶対気のせい………だよな………。

 

「待て。どこに行くんだ」

「野暮なこと聞くんじゃねぇよクソジジイ。俺は降りるぜ。こんなくそったれなテメェらと組みたくねぇな」

「あぁそうかい。まぁ構わん。止めやしない」

「止めようが無駄だぜ。…まず、テメェの頭を冷やしてから止めるこった」

 

 ………………

 俺はこの光景を見て、どんどん崩壊していくのが分かっていた。若干だけど、クールダウンしたからだろう。

 それと同時に、俺らのそれぞれの伝えたい思いが分かった気がする。多分、違うけど…

 

 ヒカイさんは俺に戦いを降りさせようとした。それってつまり、俺が死ぬ光景をないからだろう。内心は、多分違うと思うけど信用してくれていた。

 ジョウトは俺らのことをバカ共と言った。確かに、よくよく冷静になって振り返ると、俺のは完全に自己主張だっただろう。それに、この状況。とにかく、俺に見せたく、そして、ヒカイさんのその言葉が間違っていることだと言いたかったのかもしれない。違うかもしれないけど。

 そして俺は、怖かった。弱みをこれ以上見せることに、足を引っ張りたくないとも。

 

 それらが激突して、崩壊した。

 

 事の発端は、俺だ。全部、俺のせい―――――――――。

 

「……!!二人とも、上だ!!避けろ!!!!」

 

 突然、圧倒的な存在感と殺気を感知したように俺は上を向いた。確認も取らずに。

 

 …ッ!!嘘だろ、二人とも、こっちに気づいてない………!!!

 叫ばなきゃいけない。赤の他人じゃないんだよ、二人とも―――!!

 

「避けろって、――――――いってんだよ!!!!」

 

 ドスン。遠くのほうで、何かが地面に降り立つ。

 

 ………でけぇ。さっきの竜より倍ぐらい大きく、それ相応の存在感がある。そいつは紅い。まるで、返り血でも喰らったように……

 

 ……まて、二人は!?

 

 ……確かに初撃は避けていた。でも……!!

 

「や、やめろ!!!」

 

 俺の声は、届かなかった。

 

 ドラゴン、『ウォークライ』はそのまま、剛火球で二人を一掃した。

 

 こっちからでも伝わる。完全に場違いな破壊力。二人はなすすべもなく、吹き飛んだ。

 ドシャ。俺の近くに血だまりを蹴散らしながら激突する。

 

 ………

 

 ………

 

「……――――――ッ!!!」

 

===============

 

 あの後の事は覚えていない。

 

 …いや、覚える隙もないほど、一瞬だったんだろう。

 

 訳の分からない叫びをあげて、俺は突貫した。そしてこの有様だ。……何にも反省してない。そう、何も。後悔したところで、代償は大きかった。

 

 身体も痛いし、心も痛い。どこかしら折れているはずだし、意識もなくなりかけているし。

 あぁ……俺、死ぬんだな。

 

 ……『だからだめなんだ』

 『死にたいと思うからこそふさぎ込んでしまう』

 

 右手が……熱い。

 

 『それを一瞬で力に変えたのはロナの強さだ』

 『さっさと行こうぜ。こいつが変な意味で死ぬ』

 

 左手が……冷たい。

 

 『キミの力が必要だ』

 『こいつでましになったろ!』

 

 遠くから声が聞こえてきた。……生存者がなんたらって。いいよ、今の事は。

 

 『答えは『力になってあげたい』。だ』

 『じゃあ、力貸してやらァ』

 

 二人が力を貸してくれたんだ。俺に。

 絶対返さないけど、貸したままじゃ嫌だ。

 

「……………」

 

 まずい、意識が、途切れる。

 ウォークライが、俺を、食おうと。

 

「…………」

 

 両手をかざす。何をしたいのか分からない。

 別にいいよ。

 二人を、

 

 

 

 

 

 俺に『生きる』を与えてくれた仲間を護れるなら―――!!!

 

 

 

 

 

 

「――――――!」

 

 

 

 

 叫びながら、両腕に籠った力を―――

 何の確認も……いや、確認する間もなく、俺の意識は急速に沈んでいった―――



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7Sz 十三班

はいどもども。……いきなりこの話から読み始めた人はいませんよね(汗

さて、今回は………うん。どう説明すればいいのやら…

と、とにかく、第0章の終わりの7Sz、どうぞ!

あ、ちなみにあとがきもありますよー。


 …意識が遠のく―――

 

 ……これが、『死』―――

 

 ………

 

 ……

 

 …

 

 ………俺、また死ぬのか―――

 

 ………貸したままで―――

 

 ………そんなの、嫌だ―――

 

 ……………

 

 ………………ヒカイさん―――

 

 ………………ジョウト―――

 

 ……二人とも、大丈夫か―――

 

 ………確かめるためにも―――

 

 ……生きるんだ

 

 生きて、あの後どうなったか確かめなくちゃいけない

 

 そうだ。生きて――――――

 

 

 

 

 

 

「……ぅ…っ…」

 

 ……ここはどこだ。

 

 俺は……誰だ。

 

 いや、冗談はこれまでにして。俺は寝たままで辺りを確認する。だって、布団から出たくなかったし。冗談抜きで。

 ……どうやら天国とも地獄ともって、訳じゃないな。病院………って言ったらなんか違うような……。

 ……………

 

 待て、なんか頭に違和感ある。俺は気になって頭を触ってみた。

 …

 ……

 ………

 …………

 

 あ、何だケモミミか。よかったー。

 

 ………

 …………

 ……………

 

「よくねぇよ!!バンダナどこ行ったんだよまじで!!!」

 

 あと、なんでケモミミなんだよ神様ぁ!!!性別まで変換されてケモミミ付きとはどういうことだぁ!!!

 

 ……え?ケモミミ嫌いなのかって?

 

 …

 ……

 ………

 …………

 

 大好きですが何か?

 

「じゃ、ねぇし。つか本当にどこだよここ。……いや、待て」

 

 状況を整理するべきだ。

 

 確か、まず俺は二人と一緒に試験を―――

 

「っと、そうだ!!ヒカイさんは!?ジョウトは!?」

「ここだアホ」

 

 ハッとして俺は布団から身を出して声の方へ向く。………ジョウトだ。……無事、ってわけじゃないけど、一応無事、ってことでいいか。ジョウトは今まで寝てて今起きました、と言った顔だ。

 そしてそのついでに気づいた。ここ、他の人もいたんだ。……さっきの発言でちょっと迷惑かけたことを反省していた。

 

「………」

「………」

 

 互いに声が出ない。……そりゃそうだよな。内部崩壊起こしたし…。気まずいのも分かる。そして、お互いにだいたい無事だってことも。

 

「……おっさんはそっちだ。まだ寝てるぜ」

 

 先手を打ったのはジョウトだ。ジョウトはヒカイさんが寝てるベットの方を指差した。……さすがに、まだ寝てるか…。

 ……寝てる?……ジョウトとほぼ同等の攻撃を喰らったのにか?

 

「…あの後おっさんが俺の事をかばいやがってな…。…チッ、このまま寝たら承知しねぇぞくそじじい」

 

 ……だからか。ジョウトが起きていてヒカイさんは寝ているわけは。

 ……確かに、このまま寝られたら困るな。…だって、まだ謝ってない。ヒカイさんは俺のことを遠回しに戦力外って言った。それで、……恥ずかしい話、俺が勝手にキレて反論して、それで崩壊を起こした。自分の過ちを認めて謝らなくちゃ、俺はずっと後悔する。

 

「…耳」

 

 あ?

 

「……耳あるんだな」

 

 ………話飛び過ぎィ。

 

「あるな。で?」

「……」

「おさわり禁止な」

 

 男に触られても嬉しかねぇよ。俺男だぜ。身体女だけど。女の人にだったら……まぁ許す。…いやそしたら変態みたいじゃねぇか俺!!いろんな意味で!!!

 

「バァーカ。元から触る気すらねぇよ」

 

 すげぇムカツクなてめぇ。

 

「…チッ、てめぇは寝てても問題ねぇってのに。ったく」

 

 ………すみません、こいつを刺殺する許可ください。

 いや、そうじゃねぇ。まず状況確認だ。

 

「……そういや、あの後俺ら…っつか、ここどこ?」

「あ?……あの後はオレ自身も覚えちゃいねェ。んで、気が付いたらここだ。……あのバァさんの話によると、ここは地下シェルターらしいな」

 

 ……バァさん=ナツメさんだな。…本人聞いたら確実にしわ寄せているぜ。その光景が容易に思い浮かぶなほんと。……あれまた話が変な方向に飛んでる。

 

「……外の状況は、聞いてるのか?」

「あぁ……今じゃ98%……ほぼ日本全土がドラゴンであふれかえっているとよ。それでマモノも大量発生……さらにはフロワロで日本中が赤く染まっているらしいぜ」

「フロワロ……って、あの花?」

「見事にビンゴしてたな、お前の発言」

 

 ……思わず自分のすごさに驚きかけたが、ただの偶然だろう……とも思えなかった。何であっているのか、よく分からない。

 さらにジョウトは続けた。この後、ドラゴンの襲撃からやむを得ず、ここ、地下シェルターまで生きている人たちが一気に避難してきたらしい。だから、こんだけ人がいるんだな。

 

 ……それにしても、ドラゴンか。

 

 ………名前を聞いただけで俺はまた震えていた。…治りそうもないなこれ。治ったらどうなるか予想もつかないけどさ。

 ……いや、それよりも重要なことがある。……本当は言いたくないんだけど、言うしかなかった。

 

「………つか、試験はどうなったんだ。…あの後、俺らの他の候補生は…?」

 

 聞いてはいけないような気がした。本当に言いたくなかったし、ジョウトも黙ってしまった。……でも、知らなくちゃいけない気がした。

 長い沈黙の後、ひっそりとジョウトが口を開く。

 

「………………0だ」

 

 …………

 

 いくらなんでも、0とかおかしいだろ…。だったらなんで俺ら生きてんだよ。自分に嫌気をかざしながら、俺は今までの行動を深く反省していた。

 ……あの時、俺らが急いでいたら、0はなかったはずだよな……。

 

「………どうするんだ、これから」

 

 ジョウトが訊ねてくる。……そりゃ、決まっている。……言うのは簡単だけど、実行するのは難しい、これだ。

 俺自身、死にたくないからずっと俺はここにいたい。…でも、いつになったら本当の世界に戻れるんだ?

 それに、地下シェルターだ。こんなことしたら、食糧とかなくなるはずだろ。それで餓死したら、だめだ。

 ………決断ができない。怖い。嫌だ。もう戦場に行きたくない。

 

 ……でもそんなことしたら、また見捨てることになる。それはもっと嫌だ。

 

「……………」

「ま、俺はこのままでいいんだけどよ」

 

 じゃあなんで聞いたし!?俺はベットでずっこけそうになった。もう一度、今度は俺は言った。何で聞いたんだよ。

 

「…そりゃ怖ぇしよ。ずっと閉じこもってた方が安全だろ」

 

 ……確かに。よくよく考えると、ガトウさんのチームがいるし、なんとかなるかもしれないし。そういうのはプロに任せちまえばいいし……

 って、また変な方向に思考が傾いているし。……誰かに任せたままじゃダメだろうよ。

 

「…テメェだってそうだろうよ。もう行きたくねぇだろ」

 

 ……行きたくないさ。そりゃそうだよ。

 

「………でもさ、それでずっと閉じこもってて、結局死んだらだめじゃないのか?意味ないんじゃないのか?」

 

 よく纏まってない俺の考えだけど、でも確実にあるものはある。今の俺には力があるんだ。二人にもらった力が。

 これを有効活用しないと、何も出来やしない気がするんだ。さらに俺は自分を鼓舞するかのように続ける。

 

「正直行きたくねぇよもう。足引っ張るのも、人の死んでるところも…。でも目を逸らしたままはだめだろ。

 …死にたくなければ死ななければいい。そうなんじゃないのか?」

「……」

 

 ジョウトは黙り込んでしまった。…マジで変な事言ったよな…。死にたくなければ死ななければいい。…我ながら変な言葉だよ。

 

「…テメェひとりで死なないことはできんのか?」

「無理」

 

 即答。そりゃ無理。俺一人じゃ怖いのは事実だ。

 ……あー、やっぱりジョウトが呆れた。

 

「だからさ、……頼む。もう一回力、貸してくれないか?」

 

 この通りっ!と言った感じで俺は頭を下げた。……でも、無理に貸して、ってわけじゃない。無理なら無理って言ってもらいたい。そうしないと、スッキリしない。

 

「……ヤだね。俺死にたくないし」

 

 だろーな。でも逆にスッキリした。

 一人で出るのは嫌だからせめて誰か一緒に来てもらいたかった。典型的な臆病者だよ。俺は。

 

「けど、あのままやられっぱなしなのも将にあわねぇよ。せめて一発、地獄に送らせねぇと腹の虫がおさまらねェ」

 

 ……なんだよ、結局出るわけじゃん。素直じゃないなぁ、ジョウトは。

 

「ま、おっさんがいねぇとオレらじゃ無理だろ。…おっさん目覚めたらまた話そーぜ。ロナ」

 

 ………え?今なんて?…ロナ?

 

「ほらよ。テメェのファンからだってよ」

 

 ファンいねぇし!つかいつの間にファンクラブあるんだよ!!大嘘確定。…っと、こっちに何か投げ寄こしてきた。………。

 これは……白いニット帽?…耳あてもついてるし。耳あて俺には無意味じゃん。かぶったら耳ごと帽子の中だし。

 

「じゃあおやすみ。…決して自作ではねぇから感謝すんじゃねぇよ」

 

 おやすみッ!とまたジョウトは言うとそのまま布団をかぶった。

 

 ……ドストレートにお前じゃねぇか製作者本人(ジョウト)!!

 ……つか、お前そんなスキルあったんだな。スキル、編み物。人は見かけによらないってこのことだよな。某不良オトメンだってそうだろうよ。

 

 ……まぁ、いいか。確かに耳出したまんまじゃ、いろんな人に怪しまれる。もしかしたらマモノなんかじゃないのかもって噂も立たれるだろ。……もう噂になってるかもしれないけど。

 

 …ま、一応言っとくか。

 

「…ありがとな」

 

 そういって俺はニット帽をかぶり、ふと、両手を見た。

 

 ……そういや、あの時ぶっ放したあれは……。気になって、両手にマナをこめてみた。………右手に赤い『気』が、左手に水色の『気』が。

 確かに、あの時の感覚に近い。でも、それよりはすごい弱々しく感じる。寝起きだからかもしれないし、火事場の馬鹿力ってやつだったのかもしれない。

 …でも、それで二人を護れたんだから、それでいいじゃん。

 俺はそう思った。ゆっくり、右手の方を目線に合わせるように上げて、さらにマナをこめて………。

 

「って、あぶねぇ……こんなところで超能力発揮したら火災報知器なるって」

 

 あわててツッコみ、急いで解除。……おお、危ない危ない。

 ……あれ、ちょっとまて。……超能力?超能力って……

 

「……サイキック…?」

 

 サイキック。さまざまな特殊な属性攻撃を扱える、デストロイヤーとは違った火力型で、さらには回復、補助も行える万能な職業。けれど、その分防御を犠牲にしてしまい、強烈な攻撃の前には防御の弱さが響き、常に当たらない位置にいることを余儀なくされる―――。

 

「…また、これか。…ったく、何なんだよこれ……」

 

 何かと変な声っぽいのが響く。俺がその職業の名前を言ったとき、それは発揮される。

 じゃあ、もう言わない方がいいよな…。

 

「……とにかく、寝よう。……ちゃんと、ヒカイさんと話さなくちゃいけない…」

 

 そうだよ。俺はまだちゃんと謝ってない。

 だから……死なないで。

 

「……おやすみっ!!!」

 

 面倒くさくなってヤケになってそのまま寝た。

 

===============

 

「……ん…」

「あ、ヒカイさん……」

 

 やっと目覚めた。あれから1週間。……俺らが寝込んで3週間たとうとしようとしたとき。

 

「……」

 

 ……だめだ、言い出せない。……本当に許してくれんのかな…。俺はそう思った。だって、相手は……正論を言ったんだぜ。俺はそれを否定してしまった。……いや、言わなきゃ、だめだ。俺は覚悟を決めた。

 

「すみませんでした!!」

 

 ……それだけだ。考えたはずなのに、それしか言えなかった。……いや、考えたら、言い訳だ。全部俺が悪いんだ。許してくれるとは……思ってない。

 

「………」

 

 沈黙が重い。頭を下げてるから、どうなっているのか、分からない。……

 

「……顔をあげたまえ。……まずは状況説明だ」

「え?……………あー」

 

 確かに。いきなりすぎて逆に呆れたよな…さすがに。

 

「えーっと……かくかくしかじか………」

「………なるほど。………だったら、やることは一つだ」

 

 …あのー、ヒカイさん?……スルーですか?俺謝ったのに?……許してくれなかったんだろうか。と、思ったら、肩を叩かれた。ヒカイさんだ。

 

「謝るのはこちらの方だ。……すまない。ロナ」

「え……違います、俺の方が……」

「待てアホ共。……やることがあるんだろうが」

 

 ジョウトにアホって言われた!お前酷い恨むぞー。…何故恨むかはわからないけど。

 

「オッサンだって、今やるべきこと分かってんだろ?んだったら、さっさと終わらせよーぜ。こんな辛気臭ぇところにいれないだろうよ」

「……フ。そうだな。その前に確認を取らせてくれ」

 

 ヒカイさんは俺を真剣な表情で見た。

 

「……覚悟は、あるか?」

「あります。…そうでもしなければ、ずっとこのまま、貸したままになります」

「ならば、いいだろう。……ジョウトも、あるな?」

「ったりめーだ。あのクソ竜を地獄送りさせねぇと気がすまねぇよ」

 

 ……三人の心が、決まった。

 (ロナ)も、ヒカイさんも、ジョウトも、目標に向かおうとしている。

 バラバラな俺達の心が、まとまった気がする。いや、まとまった。気がした、は嘘だ。

 

「……ナツメさんのところに行きましょう。……俺たちが志願するんです。この世界をまた元に戻したいって。…試験に、唯一生き残った俺達で」

 

 二人は無言でうなずく。

 ……そうだよ。俺達が生き残ったんだ。だったら、あの竜たちにとことんまで後悔させてやる。俺らを生き残らせて後悔したって。それが、候補生だった俺達ができることだ。

 

 扉を開けて、どこかへと歩く。でも、目的地は分かってる。

 その最中、歩いているときに自衛隊たちとすれ違った。俺は目でその人たちを追った。何人かがこっちを見ていた。……今まで、心配かけちまったもんな。そして同時に、戦える俺たちも頑張らなくちゃいけない。俺はそう思った。

 

「…来たのね」

 

 まるで俺たちが来るのを分かっていたように、ナツメさんがやってきた。

 ………どうも、この人は好きになれない。分からないけど……今はどうでもいい。

 

「……これから先は、ずっと地獄よ。予想もできないことも起こるでしょう。

 ……それでも、覚悟はできて?」

 

 もちろんだ。俺はうなずいた。隣にいたヒカイさんとジョウトも同じくうなずく。その俺達の行為にナツメさんはゆっくりうなずいた。

 

「いいでしょう。河城野炉奈、山蔵檜海、森雁条堵。今この時よりあなた達をムラクモ機関、機動13班として認定します」

 

       




…はい、というわけでしてまずは目標のchapter0が終わりました。次はchapter1ですね。
さて、一度この章が終わったので少し裏話をば…。今回は『なぜこんな話を書こうと思ったのか』。
まず事の発端は『自分の誕生日に何か書きたい』と思ったからです。これは0Szで言ってましたね。
そしてその何を書く?と思った時にふと、自分のPSVが目に留まりました。そこにはセブドラのアイコンが。
………そう言えば、セブドラのストーリーで(『俺流最強必殺ランチャー!!!』)だったような……。
こういう話は確かに、と思うこともありますがいくらなんでも……。と思った時、
あれ?もしこれらが……?
そう思った時にはいつの間にか話が勝手に頭の中で始まっていました。
そして、折角だからやったことない転生モノをやろう。んで折角だし、主人公は女体化させてしまおう。
と、変な方向に何故かぶっとび、結果的にこんな話になってしまいました。
自分はある意味、シリアスモノぐらいしか書けないために誕生日にシリアスか…と心の中で苦笑してました。
さて、次はchapter1ですね。chapter1となると……ですね。
次こそは、非常に分かりやすい話目指して書かせてもらいたいとおもい、ここで一度話をとぎらせていただきます。
では、次回まで、いや、最終回まで読んでいただけると私は嬉しさ倍増して気力とエクゾーストゲージがアップしますので、陰ながら応援してもらえると嬉しいです。


 ちなみに現在はセブドラ2020をやり直しているのは内緒です。


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Chapter1 『都庁』を取り戻す者たちの『作戦』
8Sz 奪還作戦


さて、おはこんにちばんは。作者さんです。……いきなりこの話を読もうとしてる人いないよね(汗←またかよ

さてさて、今回からchapter1に突入します。chapter1、となると、あれですよ。でかいてーりゅーとの最初の戦いのアレ。

今更ながら、この話はゲームを知っている人知らない人でも楽しめるような話を目指しています。こんなしがない小説でセブドラに興味を持った人はぜひともやってみてください。個人的には面白いですよ。……ボス戦が大変ですが。

自分の雑談はこれまでにして、ではではchapter1、8Sz、どうぞ!!


「……知っていると思うけど、日本全土の98%はドラゴンたちによって支配されたわ」

 

 そういってナツメさんはモニターを表示するように誰かに指示する。表示された。……確かに、映像だけだけど、赤い部分で塗られた、といってもほぼ全部の日本で完全に支配されたと言っても過言じゃない。

 

「でもこのまま黙ってドラゴンたちをのさばらせてはおけない。そこで私達ムラクモ機関は少数精鋭の局地戦を展開しているわ。……キリノ。説明を」

「はっ。……この作戦ではムラクモ機関、機動10班、ガトウさん達のチームを中心に、まずは人類の拠点として都庁奪還作戦を展開しています。すでに作戦は70%まで達成、あとは都庁内の残りのドラゴンと、帝竜……ウォークライの討伐を目標としている」

 

 ………ウォークライ?………そういや、先にその名前を言ったのは俺だよな。

 …いや、まて。何で知らない筈のドラゴンの名前を知っているんだ?それに、キリノが一語一語間違えずに言ったのも何か違う。……どういうことだ?

 

「……ゴホン。続けていい?」

「あ、……あー、すみません。続けてください」

「うん。……それで君たち、13班には10班の後方支援を担ってもらいたい」

「……あァ?それってつまり……」

 

 ジョウトが突然割り込んできた。………まぁ、いいたいことは分かる。ウォークライとの決着をつけるのはガトウさん達ってことになる……。

 

 瞬間、俺の身体が震えた。

 

 ………なんだ、これ。一瞬、俺は寒気を感じた。まるで、誰かが死ぬことを予想したように。

 

「まだあなた達は起きたばかりよ。これ以上戦力を減らさないためにも、他のドラゴンの討伐を行ってもらいたいの」

「んだ…とコラ―――」

「分かりました。引き受けましょう」

 

 …あ、あぶねぇ。ジョウトがナツメさんに殴りかかろうとしていた。それをすぐにヒカイさんは抑制して止める。ジョウトはまだ納得いっていない。

 

「おい待ておっさん!!」

「ジョウト、君の言い分は分かる。でも、我々で勝てる相手か?」

「ハァ!?あんときは……」

「あー、分かりました分かりました!!!とりあえず後方支援ですね分かります。じゃあ二人とも一旦外でるか」

 

 俺は早口で遮り、二人を部屋から押しのける。途中でキリノに「スキルカスタムについて説明するから病室にいてね!」と言われて俺は素早くうなずいた。ぐいぐい押して二人を外へ。……ジョウトは抗っていたから、無理やり押したけど。

 外に追い出した後、一礼しようとして振り返る。一礼。そのまま外へ―――

 

「……あぁ、待ってくれる?ロナ?」

「…はい?何ですか?」

 

 ナツメさんに呼び止められる。ナツメさんは何か言おうとしているようだ……。多分、俺のケモミミについて、じゃないな。俺の種族の『ルシェ』についてだろう。こっちが知りたい。ルシェって何なのか。

 

「………………いえ、いいわ。また今度」

「分かりました」

 

 よかった。これ以上追及されないで。…というか追及されたら絶対言えない。

 ……それともこの口調かな?後者ということにしておこうそうしよう。

 

 俺は一旦部屋の外にでると、やっぱり納得いかない顔をしているジョウト。よく言いつけている辺り、あの二人は実は親子なんじゃないかと思うと、俺は笑ってしまった。二人には悪いけどね。

 

「……まぁ、ジョウト、落ち着こうぜ。確かに分かるけどさ…。もちろん俺だって一発ぶん殴りたいよ?」

「だったらよ!!」

「でも、今の俺らで勝ち目あるのか、って言われたら、俺は無理って答える。…だから、キリノがスキルカスタムの説明をくれるんじゃないのか?」

 

 ……まぁ、説明したところで、到底行けそうにないのは内緒だけどな。

 俺のある程度の嘘言にジョウトは腕を組んで考え、やがて諦めたように首を振った。

 

「……わかったよ。んじゃあとりあえず、他のクソ竜どもを地獄送りしておこうぜ。さっさとな」

「おうよ」

 

 ヒカイさんは苦笑していた。多分、仲良いように思えたんだろうな。…まぁ俺男だから、こういうのは楽だって思えることもあるからなぁ。

 

================

 

「………えーっと、まずはその針がカッターナイフのようにでかいそれは何なんですかキリノさん」

「え?見て分かんないの?」

 

 ……………いや、明らかに殺人兵器だろーよその針のデカい注射器はー!!!

 

 …俺らはスキルカスタムの説明を受けて、それで身体をより慣らすためにも一度注射を打ってもらわなければいけないらしいけど………。

 

 絶対おかしいだろそれ!!!その殺人注射器!!

 

「大丈夫。痛くない、痛くないからね……!!」

 

 絶対いてぇから!!!あと顔!!マッドサイエンティストのような顔になってんぞキリノ!!!

 

「………とりあえずヒカイさん!!あなたが先に……!!」

「こういうのは若者の役目だろう。私は後にしておくよ」

 

 うわー!!こういうときだけ下がりやがってー!!

 ……ハッ!待て、待てキリノ!!まずジリジリ前に歩くのやめて!!普通にこえぇから!!!

 

「……おいジョウト!!女の子が殺人兵器によって殺されかけるんだぞ!!」

「おっさん言ってただろ?俺は後方支援やってりゃいいってよ」

 

 なんだそれ!!遠回しにさっさと逝って来いって言ってるんだろ!?

 

「さ、早く!君たちも早く作戦に参加しないといけないんだよ!!」

 

 笑顔で言うんじゃねぇよキリノ!!全く説得力ねぇから!!

 

「逝って来い」

「逝ってきたまえ」

 

 ………テメェラアトデケシズミニシテヤル。

 畜生逝ってきます……じゃない、いってきますよ!!

 

「……!!!」

 

 ズキュゥゥゥゥゥン!!!

 

「ギャアアアアアア!!!」

 

 痛ぇ!!!ちょ、SEおかしい!おかしいって!!確かにいろんな意味で正しいけどいろいろ間違ってる!!注射器として間違ってるって!!!まるで某幼き紅い吸血鬼のアレだ!!

 

「さ、次は君たちの番だよ。…君たちはこれでいいか」

 

 そう言って取り出したのは、普通の注射器だった。

 

 …

 ……

 ………

 …………

 

 キリノ消し炭確定。

 

「燃えろやお前らー!!!」

 

===============

 

 で?あの後?

 とりあえずキレた俺を二人が抑え込み、キリノが素直に謝ったとさ。普通のがあるんなら最初からしろよお前……。

 

「……と、とりあえず、君たちをサポートする、情報支援班、第2班のナビを紹介させてもらうよ」

 

 二人とも来てー!と奥の方に呼びかけるキリノ。間もなく扉が開いて、そこから子供二人、男の子と女の子がやってき………あれ、男の子のほうがすげぇ涙目だけど、何かあったのか?俺は女の子の方に尋ねてみた。

 

「……えーっと、気にしないでください」

 

 …分かった。気にしないでおこう。

 ……って、あれ?この子たちが情報支援班………?

 

「幼ぁっ!!?」

 

 ……とは言ったものの、何故か内心あんまり驚いてはいなかった。何でだろうな…。まるで元から会っているように。転生先の世界なのに。

 …って、転生先って……いや、まぁ気のせいだよな…。

 

「やっぱり驚いた?…そう。この子たちが第2班の二人だよ。…ほら二人とも、自己紹介を」

 

 そう言って男の子のほうを見た。……まだ涙目だよこの子。まじで本当に何があったの?

 

「……第2班のNAV3.6。今回はガトウ達の隊のナビを行っている。じゃあな」

 

 それだけ言うとどこか行ってしまった。……涙目だ。どっかでこけたのかよ。つーかもう泣き止んでくださいお願いします。

 

「ごめんなさい…彼は少々ぶっきらぼうで…あと、注射が苦手で…」

 

 察した。アレだ。きっとアレだ。もう言わないけど。

 

「そういうキミは薬が苦手じゃなかったっけ?」

「………」

 

 キリノー。そういうのは女性に禁句だぞー。

 

「……ゴホン。任務の説明をしますね。あ、私はNAV3.7と言います」

 

 …うん。してください。

 

「今回ロナ達13班はガトウさん達の10班の後方支援のためにドラゴンの討伐、およびそれらの死体から『Dz』と呼ばれる物質を回収してきてください」

 

 ………それだけ?

 

「まだロナ達は意識を回復したばかりです。無理をしないためにも、後方支援程度でお願いします」

 

 ……まぁ、仕方ないか。仮に万全の体勢で戦えなかったらそれは足手まといだもんな。

 でも、それってつまり……。

 

「俺らがなじんできたと思ったら、ガトウさん達と一緒に戦っても……」

「……それはだめです。あくまで中心はガトウさん達。その中心に迫るマモノ、およびドラゴンを討伐するのが今回のあなた達の役目です」

 

 ………つまり、戦えないってことか。

 ふと後ろを振り向く。ジョウトは納得いかない顔だったし、ヒカイさんもどこかしら残念そうな顔だ。ヒカイさんも負けず嫌いなんだろう。俺はそう思った。

 

「……分かったよ。とりあえず、それでいいか。二人もいいよね?」

「……しゃーねーよ。ぶっつぶせねぇのは残念だが……」

「あぁ、任務は必ず遂行する」

 

 そう二人は告げた。キリノがうなずいた。

 

「ナツメさんが言っていたよ。『大事なのは、任務を必ず達成させること。無理をせずに引き返すのも手』だって」

「分かった。……あー、それと……」

 

 俺は聞きたいことがあったために、NAV3.7……めんどくさいからナビちゃんで。ナビちゃんを見ながらキリノに言った。

 

「…何で二人とも、コードネームみたいな名前なんだ?」

「え?」

「……あー、やっぱいいや。プライバシーがなんたらってやつだろ」

 

 ……多分、違う気がしたけど、今はこれでいい。……だって、俺がコードネームって言った時にナビちゃんが暗い顔してたからな。

 

「ごめんな。無理に聞き出すつもりはなかったんだ」

「いえ、気にしてません」

「じゃ、じゃあ、さっさと任務達成しに行こうぜ。ガトウさん達の負担を減らすためにもな」

 

 俺が率先して二人に言う。うなずく。俺もうなずいた。

 

「………でも、何だ、この嫌な予感は……」

 

 さっきからひっきりなしに出てくるこのひどく冷たい感覚。

 まるで、誰かが死んでしまうような、そんな気がしていた―――

 

 

 

 

 

 

 




……キリノごめん。キャラ崩壊させるつもりはなかったんだ。注射のシーンを入れた作者のせいなんだ、ごめん。


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9Sz 反転都庁

どもどーも。作者でございます。

リアルの方で少々用事が出来てしまい、更新が遅れました(まだ早い方ですけどね)

前置きは(思いつかなかったから)これまでにして、9Szどうぞ!


「……すげぇ」

 

 久しぶりに外に出たら、異様な光景が浮かんでいた。

 建物の各種に点在する赤い花、フロワロ。それらが東京を赤く飾っていた、と言っても過言ではないぐらいに咲き誇っていた。

 

「確かにすごいにはすごいが……これは毒素があるらしい。無理に近づくのはよしたほうがいいだろうな」

 

 それはないんじゃないか?俺はそう言った。不思議とヒカイさんがこっちを見た。

 

「だったら外に出た時点でもうやられてます。……けど、こうして無事な辺りは抗体ができたはずです」

 

 それに都庁でも所々で咲いてたし。

 ………にしてもなんともまぁ、すごい光景だな。初めて東京に来た人にはずっとお祭りなのかっておもうぐらいにフロワロがあるし。……いや、のんきなこと考えてる暇はないよな。

 

「それじゃあ……行きましょうか。ヒカイさん。運転お願いします」

「あぁ。乗った乗った」

 

 あ、ちなみに他人から借りた軽自動車な?ちゃんと許可もらいました。……というか、よく軽自動車なんて引っ張って来れたな。不幸中の幸い、というべきかな。

 今回は都庁に行くこと。少し距離があるし、のんびり歩いていたら到底間に合わないし。もちろん寄り道なんかできないし。

 

「………えーっと、一応聞きますが、免許は取っているんですよね?」

「取っていなかったら運転できると思うかね?」

 

 ですよね。

 

 俺達を乗せた軽自動車はそのまま都庁へと進んでいく。

 ……やっぱり辺り一面フロワロだらけだ。この場所には記憶がない―――行かなかっただけ、とも取れる―――けど、なんだか異質な光景で、違和感がありすぎる。元の東京に戻すにはドラゴンを討つことが第一、なんだろうな。

 

「……」

「……」

「……」

 

 ………く、空気が重い…。確かに盛り上がるべき光景じゃないし、そんな雰囲気でもない。

 でも重すぎだろーよいくらなんでも!いや、確かに緊張感は必要だよ必要。でも重い。……話題を出すことなんてもってのほか。…つかこの二人の趣味とかこの世界のモノとか知らないし……。

 

「……あ、あーっと……そう言えば、俺消し炭にしてやるーって言ってましたよね」

「うん?……確かにそれもそうだな。まるでもう一つ能力あるような口ぶりだったな」

「えーっと、そのことなんですが……」

 

 俺は説明した、と同時に車の中で使っても被害がない超能力、『キュア』を発動。確かこれは仲間の疲労とか傷とかを回復させる能力だっけ。それを何気なくヒカイさんに向けた。

 

「……ほう。二重能力か…」

「いや、分かってることはこれだけですし、初めて知ったのは目が覚めた後です」

 

 そもそも何で超能力(サイキック)まで使えるかなー…。あれか。神様の気の利いたサービス、ってか?……だったら最初から説明してくれりゃよかったのに。

 ……いや、説明してくれなかったから俺は戦えるようになったんだ。……あの後体慣らしに短刀を振っただけだけだし、イメトレもしていないので本当に戦えるかどうかは分からない。

 でも戦わなくちゃいけない。戦えなくちゃペテン師だ。二人が戦うってのに、それまで一緒にいた俺も戦わなくちゃいけない。

 

「……ま、頼りにさせてもらう」

「…はい」

 

 ……なんだろ、まだ怒ってるのかな。

 それにさっきからジョウトは黙りまくっているし……

 

「……って、ジョウト?お前大丈夫なのか?」

「…話しかけんなアホ」

 

 えー!?無事なのか確認とろうとしただけなのにアホ言われた!?

 ……あれ、でもなんか気分悪そうな。………いや、そんなまさか。

 

「……ジョウト、もしかして酔ってる?」

「……なわけあるかアホ」

 

 またアホ言われた。もう知らん。俺はそっぽ向いた。……えーっと、俺とジョウトは後部座席に座っている。この状態でジョウトが………。

 

「おいばかやめろ」

「オレなんもしてねぇよ!!!」

 

===============

 

「……着いたな」

 

 やっぱり元と変わらない、じゃないな。どこかしらにフロワロが咲いていて、そして都庁の上を見上げると、どことなく皆既日食を連想させるような球体があった。あれが太陽なのか、月なのかはは分からない。

 いやーそれにしても特に何事もなくやってきてよかった。ま、本番はこれからなんだろうな。

 

「……とりあえず都庁の中に入ろう。そして目的を達成するべきだ」

 

 ヒカイさんが俺達に指示を出す。うなずく。

 ……大丈夫だ。あの時と同じようにやれば足手まといになんかならない。小さなポーチの中に入っている短剣の柄を握りしめながら俺はもう一度気合を入れなおす。

 

 ……初任務だ。絶対に頑張らなくちゃならない。ガトウさん、ナガレさん、キカワさんのためにも……。

 って、そういや、なんだかキカワさんが気になるんだよな……。何故か初対面だし、ガトウさんやナガレさんは初めて会った気がしない。どういうことだ…?

 

「おーい、ビビリさんさっさとこーい」

 

 るせぇぞジョウト!!つか俺は……確かに怖いけど、普通大声で言うか普通!!

 俺は二人の後についていき、都庁に入ろうとする。

 一つ目の自動ドアをくぐり、そして二つ目、ヒカイさんが先行して中に入ろうと―――

 

「ぬおおお!!?」

 

 うわっ!?ヒカイさん!?俺はあわてて都庁の中に入る。…目の錯覚か、何故かヒカイさんは上の方に飛んで行ってしま……

 

「どあっ!?」

 

 うわ!?ちょ、どうなって……!!

 

 ゴンッ!!

 

「つっ……痛て……」

 

 天井に頭ぶつけた……痛い……。

 

「ぐふっ!!」

 

 あ、ジョウトまで落ちてきた………。

 ……落ちてきた?

 ……あれ?

 

「………まさか」

 

 俺は恐る恐る上を見た。そこには、出入口が存在した。

 ……あれ、どうなっているんだ…?俺らはちゃんと入ってきて、それで……。

 

『コール、13班』

 

 あ、ナビちゃんだ。……とりあえず俺は現状を説明する。というか知りたい。都庁の重力が、逆さまになっていることに。

 本来なら地面にあるはずのテーブルが180度回転して天井にくっついている。そして物は本来なら天井と呼べる場所に無造作に散らばっている。……本当にどうなっているんだ?俺が入ってきた都庁とは全く違うような……。

 

『恐らく、ウォークライの仕業でしょう。帝竜の力が都庁に発揮されて重力がめちゃくちゃになっている……。それほどウォークライの力があるのでしょう』

 

 マジか……。

 いくらなんでもすごすぎるだろ。重力反転とか。これを東京、いや、地球全土にわたられたら全員大気圏に突入してお陀仏だ。……言っただけでゾッとするな…。

 

『確認を取ります。今回のロナ達13班の任務はドラゴンの死体から検出できるDzの回収です。下のフロアにドラゴンの反応が複数存在するのでそれらをすべて狩り、無事に持ってきてください』

 

 了解。自分の克服、それに俺達の準備運動にはいいかな……。

 

『では、健闘を祈ります。オーヴァ』

 

 プチンと、通信が切れた。………オーヴァって何の意味があるんだろうか。と頭の中によぎった。まぁ、いいか。

 

「……はぁ、なんというか、酔いそうだな……」

 

 重力反転状態とか、それだけでなんだか勘弁してもらいたい。それにナビちゃん言ってたけど、下のフロアって、つまり上の階ってことだろ?……いや、今は下で……って、わけがわからないよ。

 

「揺れるもんよりかはまだましだろ。……とっとと行こうぜ」

 

 ジョウトが前に出て、大穴の近くに近づく。……そんな深くはなさそうだな。さすがにどうとでもなりそうな予感がする。と。

 

『……よォ。来たんだな新入り達』

 

 …この声、ガトウさんか。

 

「……えぇ。俺らの都庁を取り返すために。それに、ガトウさんが戦っているのにそのまま引きこもってなんかいられませんよ」

『ガハハハ。言うようになったな。……んじゃまぁ……お互い死なないようにな?』

 

 もう援軍はこねぇぞ。とガトウさんは冗談のように言って通信を切った。

 ……リアリティありすぎて怖いんだが。…いや、まだいいほうだろうな。

 ………大丈夫だ。二人がいる。俺に力をくれた二人が。だからこそ、俺は頑張れるはずだ。

 

「……よし、行こう!!」

「あぁ。……安心しろ。前の通りにな」

「ふん。分かってるよオッサン」

 

 

 

 

 

 

 




何言いたいのか分からなくなった……。


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10Sz 集念

どもども作者でございます。リアルのほうがやっぱり立てこもってて更新頻度が落ちてきました。

今回は久々の戦闘描写でまたあっさり終わった感じがあります……。もう少しうまくなりたいです。

では、10Sz、どうぞ!


「よっと」

 

 ……すげぇな。一階分を降りただけでは反動なしとかどんな身体だよ一体。二人もこれと言った怪我はなし。これがS級か………いや、そんなんじゃねぇし。

 とにかく俺達は下に降りてドラゴンの元に向かう。ナビちゃんがいるし、そこまで案内してくれるはずだ。

 ……それにしても、俺達は天井を歩いているんだよな…。………やべぇ。まじで頭痛くなってきた。

 

「………俺、天井歩いているんですよね…」

 

 俺の何気ない一言がジョウトを硬直させた。………アカン。なんかすごい罪悪感がある。でも気にしない。気にした時点で負けだ。俺しーらねっと。

 

「……二人とも。お取込み中悪いが……」

 

 ヒカイさんが俺とジョウトに呼びかけた。何だ?そう思って通路の先……でいいか。通路の先を見た。

 

 ………マモノだ。

 

 姿を見た瞬間、鳥肌が立った。

 

 なわけない。そりゃあ、確かに久しぶりに見たし、どことなく怖かった。

 けど、アイツに比べてしまえばどうってことはない。

 大丈夫だ。行ける。俺は心を落ち着かせるように深呼吸をして短刀を取り出す。

 相手をよく見る。シカ型のマモノと花が意思を持ったような一つ目の妖怪っぽいマモノ二体。

 

「……覚悟はいいな?」

「もちろんです」

「あぁ。いいぜ」

 

 それぞれが戦闘態勢に入る。……空気が異様に静と静まり返っている。

 

「いくぞ」

 

 一言だけ発するとヒカイさんはマモノ達に突撃。俺も後に続く……って、やっべ!抜かしちまったっ…でも気にしない。一瞬の隙も晒しはしない。その覚悟で俺はシカ型のマモノに向かって短剣を突き刺す。ヒット。素早く戻して後方へ大きく飛んで反撃をかわす。

 そこにヒカイさんが走り込み、隙も与えずに右フック。こっちからでも分かる。非常に重く、強い一撃が。

 喰らったマモノは断末魔を上げ、倒れる、同時に消滅する。

 

 まだ二体いる。俺はその内の一体に向かう。そこに眼から弾丸っぽい種が撃ちこまれる。とっさに両腕でかばってなるべくダメージを軽減させようとする。

 ……つっ…くそっ、やっぱり痛い…。でも………

 

「まだ……いける!!」

 

 両手を思いっきり握りしめて痛みを無理やり打ち消して突進する。その横から風切り音が。ジョウトの投げたチャクラムだ。チャクラムはうまく敵にヒットした。さらにそこに俺は追撃を加える。振り下ろし、振り上げの二連撃。……なんだろう。草なのか分からないけどあんまり手ごたえがない。

 

 あっさり敵を倒せた俺達。一度辺りを見渡して敵がいないか確認する。………とりあえずは、いないっぽい。

 

「……ふむ」

 

 …ヒカイさんが俺の事を見ている。……やっぱり、あのことだろうな……。

 正論だったし、正直その前に二人に迷惑をかけた。あんまり信用無いのも無理はないかもな……。

 

「……まだ、一応戦えるほうか」

 

 ……うう、なんかひどい評価だ。

 ……でも、まぁ今はこれぐらい……だよな。つか、ポジティブに考えれば、また信頼してくれているってことだよな。そういうことにしとこ。そんな考えにふけっている間、ヒカイさんはナビのほうと連絡を取り合ってるようだ。

 

「ところで、ドラゴンはどこにいるのかね?NAV3.7」

『はい。あなた達の50m以内にいます。この個体は頭が鋼鉄のように固く、まともに受ければ大ダメージは免れません』

 

 まるでラム○ルドみたいだな。……いや、アイツと違って額の部分は平らだし………。

 ……え?平ら……?

 

「……もしかして、そいつって『ドラゴハンマード』って個体……か?」

 

 俺がそいつの名前を言ったら、一瞬トランシーバーを通して息をのむような音が聞こえた。―――あ、ちなみに俺のはトランシーバーだ。ヒカイさんとジョウトのは小型のインカム。……絶対俺の耳見てのトランシーバー(コレ)なんだろうな。

 ちなみにこれについて俺はなぜなのかを訊ねてみたら、「インカムがなかった」かららしい。ほんとかよ。

 

『…なぜ、分かったのですか?』

「あー……いや、鋼鉄って言ったら基本的にハンマーだし、ドラゴンだからそうかなーって」

 

 うーん、ごまかせない。というか………何で俺この名前とか知っているんだ?

 容姿もおぼろげだけど、なんとなくわかる。恐竜の姿、どっちかって言うと肉食獣によく似た姿に額から首辺りまでがハンマーで埋め込まれてる様なそんな感じ……なのか?

 

『……とりあえず、その個体がいるので13班はそれを討伐してください』

「ん、ああ……分かった」

 

 ……ドラゴンか。アイツ以来久しぶりになるな……。言っただけでゾッとする。トラウマが刻まれているからだと思う。

 一瞬で俺らを遊ぶように蹴散らしたアイツ、ウォークライ。今回はガトウさん達が討伐するみたいだけど、もし俺達にもその仕事がまわってくるとしたら、そのためにもコイツらと戦ってトラウマを克服しなくちゃいけない気がする。いや、しなくちゃいけない。

 

「……さて、こちらから仕掛けるか?二人とも」

「ったりめーだよおっさん。先手必勝だ。テメェもそうだろ?」

「…ん、ああ。うん。それに、一度サイキックを使って身体慣らしたいし」

 

 さっきの戦いでは結局使わず仕舞いだったからな。どうも身体の感覚がまだ慣れていないからね。

 俺らの返答に、ヒカイさんは無言でうなずくとゆっくり、音を立てずに歩いていく。俺らも抜き足差し足で後をついていく。そして曲がり角の奥に、ソイツの姿があった。

 ………やばいな。完全一致、そしてビンゴ。さっき言った通りのドラゴンの姿が俺の眼に映っていた。汗が首筋をなでる。……怖い。でも、逃げたくはない…。

 

「……いつも通りにな?……いくぞ!!」

 

 ヒカイさんが合図とともに突撃。俺もある程度加減するように突撃する。ジョウトは準備のためにその場待機だ。

 こっちに気づいた。ドラゴンは俺達を見るや雄叫びを上げた。その声を聞いて俺は一瞬止まってしまった。

 脳裏に刻まれたウォークライの雄叫びと照らし合わせてしまった。止まった反動でそのまま前のめりに倒れてしまった。

 

「おいバカ!!テメェがコケてちゃおっさんの負担だろうが!!」

 

 ジョウトの呼びかけに俺ははっとして急いで立ち上がる。俺の奥、多分10m先にヒカイさんがドラゴンと交戦……くそっ…この距離からじゃ短刀じゃ到底間に合わない。……だったらこれしかない!!

 俺は右手を突き出して、マナを腕に集める。熱気を帯び、右腕に赤いオーラが纏われる。……行ける!!!

 

焦撃の灯火(フレイム)!!」

 

 右手が呼応する。突き出した手から炎気が放出され、ドラゴンの表面を焼き焦がす。でも、ドラゴンは動きを止めない。一直線にヒカイさんにヘットバットを喰らわした。

 

「ぬ……ぐっ…!」

 

 潰されはしなかったものの、やはり大ダメージを負った。……けど、ヒカイさんはその場で踏みとどまり、拳を引いた。

 

「返すぞ!!」

 

 一度ドラゴンが、その頭を引いた瞬間に喰らわしたカウンター、『迎撃スタンス』。物理的攻防に重点を置いたデストロイヤーだからこそできる芸当(スキル)だ。さすがに顎の方にヒットされたものだからドラゴンは思いっきり怯んだ。

 ……いや、そこにジョウトのハッキングスキル『アタックゲイン』が入ったからさらに効いただろうな。これは味方の物理攻撃を上げるハッカーお得意のスキルの一つの筈だ。確かに、俺の武器にも力がこもった感じがする。

 怯んでいる。そこに追撃をかけるしかない。俺は自身を鼓舞して素早く走った。一瞬で距離が詰んでいく。流石に速いな。俺は心の中で感心しつつも短刀を握りしめる。

 

「そこだっ!!」

 

 喉の部分を思いっきり薙ぎ払う。……手ごたえはさっき以上にあった。到底俺一人じゃできないその火力を実感していた。

 ……でも、こいつはまだ倒れない。二、三歩退くと、ドラゴンは吠えた。

 

 瞬間に俺の身体はまた震えた。……いや、違う。恐怖の震えじゃない。危険信号を発しているんだ。俺の今の身体だから分かる。どういう原理なのかは分からないけど、今はどうでもいい。

 

「ヒカイさんは防御を固めてください!!ジョウトは俺達に『ディフェンスゲイン』を掛けてくれ!!」

 

 俺はとっさに指示を出す。意外にも二人はすぐに従ってくれて、ヒカイさんは俺の目の前に出て防御姿勢を、ジョウトがそこに素早く『ディフェンスゲイン』を掛けて俺達の防御性能を上げる……。

 すぐにドラゴンの槌の一撃がヒカイさんに向かって振り払われた。……両腕に鳥肌が走る。壁になってくれたんだ。すぐにお返しをしなくちゃいけない…!

 素早く俺は右腕をヒカイさんに向かって突き出す。マナを集中。今度は優しい緑色のオーラが右腕を包んだ。

 

治療の奇跡(キュア)!!」

 

 溜めたマナを放出。ヒカイさんの身体を包んだ。……成功した。俺はそう確信した。

 

「助かるぞロナ!……これで仕舞いにしようか!」

「了解です!!」

 

 ヒカイさんが飛び、俺も合わせて飛ぶ。ドラゴンは反動でバランスを崩している。いける!ここしかない!!

 

「いっけぇぇぇぇぇ!!」

「でりゃあああ!!!」

 

 ドラゴンの背中に向かって、短刀と拳が打ち下ろされた。地面に沈むドラゴンの身体。ドラゴンは断末魔を上げ、動かなくなった。

 ………本当にやったのか……?俺は短刀を突き刺したまま、軽くドラゴンをつついてみる。………動いて、ないのか……?

 

「あ、ははは……また、いけたか」

 

 バタンと、俺は疲れたように床に、いや、天井か。天井に倒れた。少ししか動いていない筈なのに息が上がっていた。そこに俺の顔を覗き込むヒカイさん。……あ、口元に笑みを浮かべているな。

 

「……よかったぞ。ロナ。ジョウトもお疲れ様」

「フン。まだいるだろーよ。礼はここを攻略してからだろうが」

「それもそうだな。……立てるな?ロナ」

 

 ヒカイさんは手を差し出してきた。……あーそうか。まだいるっけな。俺は素直に手を出して立ち上がらせてもらった。

 

「さて、回収だな。……どうやって回収するんだろうか」

 

 ………そういや全く聞いてないな。おーいナビちゃーん。

 

===============

 

 えーっと、とりあえず俺らはドラゴンからいろんな素材を取り出した。……ドラゴン一体でこんなに素材集まるもんなんだな…。某一狩り行こうぜなのか?……いやまぁ、いいか。

 え?何でこの部分スキップしたかって?……ほら、あんまり見せるもんじゃないし……って、だから俺は誰に向かって話しているんだっつーの。

 

「ロナ」

 

 ヒカイさんが俺を呼んだ。……なんだろ急に。振り向いた先に、真剣な顔をしたヒカイさんがいた。

 

「………」

「………」

 

 どうなんだろ。今ので信用に事足りたのかな……。俺は不安だった。そりゃあ、俺は一度戦力外言われたし……。

 

「……まだいけるな?」

「え?」

 

 …………いや、まだ行けますけど……一応。

 

「怖くはないか?」

 

 そりゃ怖いと言ったら、怖いですよ。ドラゴンとなんて本当に戦ったことないし……。

 

「……安心しろ。私もだ」

「……え?」

 

 ヒカイさんも……怖かったのか?俺は意外な眼でヒカイさんを見ていたに違いない。

 

「だから前の時にあんなきついことを言ってしまった。……謝罪させてもらう。すまなかった。……そして見事だ。今の的確な指示はな」

 

 ………はは。あはは。なんか、嬉しいな。ヒカイさんに認められたって感じでさ。俺の顔は笑っていたに違いない。

 

「おーいおっさーん。とりあえず女の子を砕く口があるならドラゴンの心臓を砕いてくださいなーっと」

「あぁ。ジョウトも的確かつ見事な援護だ。……これからも期待させてもらうよ」

「……フンッ。減らず口言ってんじゃねぇよ」

 

 ほんと、素直じゃねぇなジョウトは。

 

 ……今までどことなくぎこちなかった俺達の心が、また一つになった。……今までのは俺の杞憂だったのかもしれないけどな。

 

 どことなく、恐怖は薄れていた。一人では怖いドラゴンも、三人いれば、どうにかなりそうな気がした。

 

 でも、一つだけ思うことがあるとすれば、さっきから誰かが死ぬかもしれない、この悲しい感覚だ―――

 

 

 

 

 

 

 



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10.5Sz 感知&自衛隊

どうもこんにちは!この話で作者の誕生日を迎えました!

本来だったらこの日にちにルシェかえ!が始まるはずだったんですが、作者の頭がリアクトしたので早い連載となっていました。

誕生日を迎えたのでさらに上手に書こうと思いつつ、時間なさ過ぎてほぼ番外編っぽくなった10.5Sz、どうぞ!!


 ………とりあえずこんなものかな?

 

 あれから俺達は二体の『ドラゴハンマード』と遭遇。多少苦戦しつつも二体とも討伐してドラゴン資材を複数集めた。とりあえず、これぐらいでいいかな。そう思ってナビと連絡を取る。

 

『分かりました。では一度シェルターに戻ってきてください』

 

 指示を受け、俺は戻ろうとする。……と思ったけど、ヒカイさんが気難しい顔をして止まっていた。……なんだろ。一体。

 

「……ヒカイさん?」

「あ…いや、不思議なんだ」

「え?」

 

 不思議………?どういうことだ?俺は聞き返した。

 

「何故、ロナがさまざまな情報を持っているかだ」

 

 …………あー。……確かに。

 何故か俺はこの世界の事を知っているみたいだし、今のドラゴンの名前、攻撃感知、その他もろもろ。これでおかしくないと思うのがおかしい。

 

「確かに……俺っておかしいですよね。なんだか預言者みたくて」

「うむ。……私にも分からなかった攻撃、そして的確な指示が気になっていてな」

 

 あ、そっち?俺は心の中で突っ込んだ。……やっぱり意外とヒカイさんってどこか抜けているっぽいな…。

 

「まるで一度経験しているようだ。だからこそ先ほどまでの指示で我々を助けてくれた。それが強敵であるごとにな」

 

 ……そう言えばそうだ。

 俺の『感知』は基本的に強敵、つまりドラゴン相手にしかさっぱり効かない。マモノだと全く効かないし……。

 今まで気づかなかった、俺のある意味もう一つの能力……なのかな。

 

「どーでもいいよ、んなこと。とりあえずはその程度、だろうが」

 

 そこにジョウトが割り込む。お前、こっちが悩んでいるって時にその口はないだろ…。

 …どうやらジョウトの意見が正論だったらしく、ヒカイさんは「ふむ…」と言ったきり動きを止め、首を横に振った。

 

「そうだな。必要ではないことだ。……どうやら当人にも分からないような能力みたいだからな」

「あ?そうなのかお前」

 

 まぁ、そりゃそうだけど。

 気づいていたのは多分、都庁……あ、逆さになってないときのな。そこでだ。ドラゴンの攻撃っぽいのを感知していたし、大量のドラゴンが東京の空を横切って行った、というのも分かっていた。

 一部はヒカイさんの言った通り、自分が知っていたみたいなこともあったと思うけど、それでも何故か感知していた。予言、ともとれるけど。

 

「フンっ!!」

「おわっ!!?」

 

 ちょっ!?あぶなっ!?ジョウトいきなり殴りかかってくんじゃねぇ!―――あ、こけた。だっせぇw

 

「……仲間の攻撃は察知できないか」

 

 ヒカイさん……アンタか指示したの。とりあえず殴って来いって言ったのは。俺が悩んでいるって時に。

 

「さぁ何のことか分からんな」

 

 この人ぶん殴りてぇ……。いや、恩人に殴るってのも失礼だけどよ。でも殴りたい。というか誰か殴る許可を!!

 

『―――うせ―――ら――――――量のマモ―――に囲まれた―――!!』

 

 っ!?何だって!?俺はトランシーバーがとらえた音を聞いてびっくりした。

 と同時に俺の身体はすぐにどこかに向かっていた。二人が後に続く。絶対二人も同じ気持ちだったんだろう。

 

 仲間は絶対に死なせない。というのが。

 

「…あっちだ!」

 

 俺はどこに指しているのか分からないままに二人を誘導。……微弱だけど、分かる。確かに大量のマモノがいることを。恐らく下のフロアだ。

 素早く移動し、大穴を見つけて飛び込む。銃声。あっちだ。駆け出す俺達。

 

「くっ……弾が……!!」

 

 自衛隊だ!!そこに数名の兵士がいる……しかも弾切れだって!?…ここからだと間に合うか!?やるしかねぇ…!!

 立ち止まり、左手にマナを集める。左腕に青いオーラを纏わせる。

 

突壊の冷刃(フリーズ)!!」

 

 素早くマモノの群れの中心核に氷の柱を立ち昇らせて蹴散らす。そこにジョウトのチャクラムが薙ぎ払い、逆側からヒカイさんが走り込んで敵を文字通り蹴散らす。

 少なかったのが幸いだろう。敵はあっけなく全滅した。

 

「…おお!13班!大丈夫か!?」

 

 これぐらいへいき。俺は右手を振って合図した。兵士の一人、恐らくこの中でのリーダー格なんだろう。

 

「すまない。助かった。礼を言わせてもらう。……もう体は大丈夫なのか?」

「いや、そっちの方が心配ですよ……えーっと、名前は?」

「俺か?俺は…サスガだ。ここでの作戦をやらせてもらっている」

 

 …………サスガ?流石……じゃなくて、サスガ?

 どこかで聞いたことがある…ような……。

 

「んで、さっきお前ら弾がないって騒いでいたよな?なんでだ?」

「あぁ…困ったことにもう武器も弾薬もなくてね…数時間前に本部に要請して作ってもらっている」

 

 ……なるほど。今回集めたモノはこの自衛隊の武器の補給に回されるのか。

 

 俺は納得し、なるべく急いで戻るように二人に伝えた。俺達は自衛隊のみんなに一声かけた後に一度この場を後にした。

 

 ……それにしてもサスガ…さんか。………どこかで聞いたことあるような………




誕生日に書こうと思う→時間がない→急いで書いたらひどいものが出来た→今回。

次の話から多分本調子に戻ります。


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11Sz 自他共に知らず

どうもです。……はっきり言って、この部分をどう描くのかに戸惑って、あきらめて、三か月ほど放置してました。ごめんなさい。

………そして!!なんと!!!セブドラの続編が発売されるようです!!!イヤッホォォォウ!!

今回は3DSで物語が展開される模様。そして発売が10月らしいです。もしPXZ2が同じくらいに出たならセブドラを優先して買います。本当にうれしいです!!

そのおかげで今回の話をエクゾーストして書きました!放置で、久々に書いたのでガバガバかもしてませんが、11Sz、どうぞ!!


 一度俺達は『逆サ都庁』を後にしてシェルターに戻って行く。………え?素材?…入ってるけど…トランクに。

 

「しっかし、こんなちんまりした素材が本当に武器防具作れんのかよ」

「んー…いけんじゃないのか?」

 

 実際、某一狩りだったり某神狩りだったりとかだとほんの少しの素材ででかい武器作れるし……。あ、ゲームの話じゃないよなこれ。

 ……よく考えるとこれだけで造れるのかが疑問だなうん。…でもこの素材だけを使う訳じゃないよな。さすがに。

 

「……」

「……」

「……」

 

 ………なんで急に空気重くなるかなー本当に。いやしゃべることは本当にないんだけど。なさすぎてこの状態のままシェルターに移行しちまうぞ本当に。

 いい話題があるわけでもないけど。

 

 ……そう言えば、なんで俺ら無事だったんだろうか。あまりにも疑問に感じていなかったこの出来事。普通アイツに喰われてもおかしくはなかったはずなのに…。誰かが助けたのか?…でも、あの時は全員………

 

 って、ダメだダメだ。思い出しただけでもぞっとする。できる限りあんな状況は思い出したくない。それってただ単に逃げてるってことになるけど、思い出したら、本当に嫌な感じしか思い浮かばない。

 

 とりあえずこの重たい雰囲気をなんとかしたい。ジョウトは下向いちまったし、話しかける相手がヒカイさんしかいない。さっきの疑問をヒカイさんに聞いてみた。

 

「…あのすみませんヒカイさん。……俺ら、なんで生きているんでしょうね」

「…なんでだ?」

「いや……ほら、あのときガトウさん達は別のフロアに行ったんですよね。だったら俺らのことはあんまり察知できていなかったはず…。でしたら、誰が助けたと思います?」

「ふむ……難しい、そして確かな質問だな…。確かにあの時は私達以外にはいなかったはずだ。意識を失い、あの状態でここまで生きているとなると、誰かに助けてもらった……。だがその『誰か』とは誰かと聞かれると難しいな」

 

 考えられることは二つ。一つはガトウさん達が助けたこと。そしてもう一つは第三者が助けたことになる。

 でも第三者って誰だ?キカワさん?でもそうしたら何かいろいろおかしい気がする。

 となると……一体誰だ本当に?

 

「あるいは……ロナ。君かもな」

 

 俺?まさか。あの時俺は…………。

 って、そういやサイキックも発覚したのはあの時だったよな。そしてそのあと技をぶっ放して………。

 

「…そう言えば、誰かの声が聞こえたような…」

 

 そうだ。あの時どっからか声が聞こえた気がする。今となっては誰がどんな声を出したのかは分からない……けど、普通に考えたらその声を出した人物だよな。

 

 ……なんだか知らないけど、その声の主が何故かおぼろげに浮かび上がってくる。一人はでかい人、もう一人は………猫人間?

 

「……ほんと、誰でしょうね」

 

 少なくても俺じゃないのは確かだ。確かにぶっ放して、その後意識を失った。この状態で二人を抱えて脱出できるのは絶対不可能だ。だったらその第三者のおかげだな。

 ………の割にはさっきのように何故だか助けてもらえたはずの二人が容易に思い浮かんでくる。顔はさすがに……だけど本当に外見だけは頭の中で形を作っていく。違和感がないことに違和感だ。……ったく、本当にどうなってんだ……?

 

「……あとでナツメさん達に聞いてみます?」

「ふむ…それもまた一興だな。確かにその場にいたはずの総長たちに聞いた方が早い」

 

 ………ナツメ『さん』……か。どうもイラついてくる。何か忘れてる気がして。なのに思い出せないのがもどかしいのか。分からない。分かるはずがない。

 ………いや、これ以上詮索したところで変わることはないはず。……

 

 はぁ……もういいや。俺は考えることをやめて窓の外を眺めた。赤い花、フロワロ。それらが一面に気持ち悪いぐらいに咲いている。こんな状態だけど……いつか、本当の東京を取り戻したい。それが全く違う東京だとしても……ね。

 

「……ところで本当にジョウトはしゃべらねぇな。まさか車酔いか何かか?」

「……」

 

 シカトかい!?そんなジョウトは窓見たり下見たりと忙しい奴。……逆に酔うんじゃねぇのそれ。

 

「……ロナ。ちょっといいかね?」

 

 ん、ヒカイさんに呼ばれた。………なんだろ急に。俺は返事をしてヒカイさんの次の言葉を待つ。

 

「……お兄さんは大丈夫かね?」

「え……」

 

 兄……?

 

 …

 ……

 ………

 …………

 

 ……………あー……そういやそんなこと言ってたっけ。うっわ、今の今までそういう偽設定忘れてた。

 てか、よく考えると日本全土がドラゴンの巣となっているんだっけ。それで家族のことが不安になるのも確かだよな。

 ………そういや、二人の家族も大丈夫なのかな。……って、まず質問に回答しないとな。

 

「……多分……大丈夫だと思います。連絡とれないけど(というか取る相手もいないけど)、兄だってA級の実力持ってますし、ドラゴンから逃げれる力量ぐらいあるでしょうね」

「ほう?お兄さんはA級か」

 

 ……つか、A級って何だっけ。……ランクのことがあるし、多分だけど、Sの下、A……ってことだよな?つまり……劣化?……まぁ、そうだよな……。

 

「……ヒカイさんの身内も平気……ですかね」

「……」

 

 ……やっべ、変なこと聞いちまった……。ヒカイさんは運転しながらも、ミラー越しに見える顔が少し険しくなった気がする。やたら地雷踏むよな俺……。

 

「あ、あー……だ、大丈夫です……ご、ごめんなさい」

「なら、いいんだがな」

 

 ……はぁ。さらに空気が重くなっちまった……。これ以上何言っても無理っぽいし……しょうがない。おとなしく待とう。

 俺らは特に何事もなく、静かなままで、地下シェルター出入口までやってきた。

 そして何事もなく、無事にシェルター内へ。言うことがなさすぎるな……。

 

============

 

「よっし!すぐにとりかかるぜ!任せとけ!」

 

 と、言って俺らが頑張って取ってきたドラゴンの素材―――以下、Dzと略させてもらう―――を取って作業を開始するムラクモ4班の人達。

 ……結構いるんだね。ムラクモに所属している人は。

 ムラクモ4班の人達は常人には分からない動きで着々と武器や道具を作っていく。……ドラゴンの素材でそんなに作れるもんなんだな。と、納得していた。

 

「……あ、そうだ。ジョウト」

「んだよ?」

「……ニット帽、ありがとな?」

 

 俺は笑顔でそういう。直後、ジョウトが硬直した。

 

「……………あ、アホォ!!オレじゃねーっつーの!!第三者だってーの!!」

 

 ぜってーお前だこれ。動揺しすぎて笑えてくる……が、俺は口を押えて、必死に笑いをこらえた。ところが、別の所から笑い声が。……これヒカイさんだな。

 

「ははははは!!なるほど!これはジョウトが作ったのか!!どうりで何か変わってると思ったら……ははははは!!」

「て、テメーらァ!!!ぶっ殺すぞ!!!」

 

 やっべ、最高!!俺は耐えられずについにバカ笑いしてしまった。だって、あんだけ無感情なジョウトが動揺するだけでも面白いのに、耳まで真っ赤なんだぜ!?ぜひともいろんな人に見せてやりたいよこれ!!

 

「あ、あのーお取込み中すみませんが……」

「ハハハハ……は、ハイ……な、なんすか……」

 

 俺は笑ったままで、ムラクモ4班の一人、レイミを見た。あーやべぇ。久々にバカ笑いしすぎて涙出てきた。

 

「とりあえずできたのでこれを自衛隊の方々に渡してください。お願いしますね?」

「………え、あ、はい!分かりました!!!」

 

 はっやぁ!?てっきりうるさいから説教かと思ったけど、いくらなんでも笑ってる隙に終わるとかどんな技術持っているんですか!?

 俺は動揺しつつも荷物を受け取る。中身は弾丸だとかほとんどだと思うけど、他には武器とかもある。なるほど。弾丸とかだと時間はそんなにかからないね。

 そしてレイミの横から、これまたムラクモ4班の一人の、ワジさんが来た。

 

「それと、お前たち用に武器も作っておいたぞ。余った素材で作ったものだが、ぜひとも使ってやってくれ」

 

 そう言って俺ら一人一人に武器を渡す。……ヒカイさんのはトゲのついたナックル、ジョウトのは黒いチャクラム、そして俺のは……青い刀身のナイフと………ハンドガン?

 

「ロナ、確かキミはトリックスターだっただろう?トリックスターはナイフの他にも銃を使う。折角だから使ってみてくれ」

「わ、わざわざすみません……ありがとうございます」

 

 俺はナイフをしまい込み、二丁のハンドガンの感覚を感じるように手に取る。……確かに、使いこなせそうな感じだ。

 

「それでは、行こうか。ワジさん達、ありがとうございます」

「ワシたちはこれぐらいしかできんが、どうか、健闘を祈る」

 

 ヒカイさんはお礼を言って俺達に、戦場に戻るぞ。と言って先にでる。

 ……戦場か。なんか……緊張と恐怖が混じっているな。

 

「……おいロナ」

 

 ん?何だよジョウト?

 

「もし戦闘中にチャクラムが飛んできたら運が悪かったと思え」

 

 そう言ってジョウトも部屋を出る。

 …………あー……さすがにいじりすぎたかな?

 まぁ、さすがに飛んでくるとは思えないけどな。

 ……やべぇ。思い出しただけでも笑えてくる……けど、俺はギリギリ耐えて部屋を後にする。

 

 部屋を出た俺は、バッタリとナツメさんと出くわす。

 

「あ……ナツメ…さん」

「……ロナ、時間ある?」

 

 ない。俺はそう言うように首を横に振った。

 

「……えぇ。確かに。ごめんなさい。……無事終わったら、相談したいことがあるの」

「……分かりました。……二人もつれてきた方がいいですかね?」

「いいえ。あなた一人で来て頂戴。それは……」

「だったら来ません。その……仲間に隠し事はしたくはないですし、それに……」

 

 どことなく………信用できないし。

 でも俺はそれは言わずに口を閉ざす。そして、それの代わりの言葉を必死に探す。意外にも、すぐに見つかった。

 

「……自分のことなんか、自分が一番分かりません。だから、自分のことについてはあまり触れないでください」

「………そう。分かったわ」

 

 それだけ言うと、ナツメさんはすぐに戻って行ってしまう。……どこかしらに罪悪感はあるけど、でも……。

 

 そう思っている俺の後ろから、ヒカイさんが呼びかけてくる。俺は一旦それらをおいといてヒカイさんたちについていく。

 ……ま、今は、課せられている任務をなんとかするのが先決だよね。絶対に―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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12Sz 封解記憶

どもこんにちは!最新作のおかげでリアクトしたエマコです。

えー……Chapter1は次回で終わりそうです。また、最後の部分を重要として今回の話はいつもよりほんの少な目になっています。ほんの少な目なので、気づく人でも気づかないかと(笑

それでは、筆者もハラハラした12Sz、どうぞ!


 例の如く俺達は借りた軽自動車でもう一度都庁に向かうことになった。……いや、今回も自衛隊装備一式はトランクだよ?違和感ないよね?

 

 んでもって、何も話すことなくたどり着く。……まぁ、それでいいんだけどさ。なんとなく。

 

 ………確証なんてないけど、誰かが死ぬ気がして―――

 

 ………いや、確証………なのか……?

 

 普通……いや、あんまり思いたくないけど、普通、どこかで人は死ぬ。

 

 なのに、今後の出来事が容易に思い浮かぶような気がして………

 

「ロナ?どうした?」

「え?……あ、すんません、少し考え事を……」

「考え事?」

 

 ヒカイさんは興味深そうに尋ねてくる。でも、俺は黙って首を横に振った。別に相談できるような話じゃない。

 俺はトランクから装備一式が入った重そうなバックを持ち上げる。……意外と重さは感じられない。……あれか。S級の特権ってか。

 

 歩きながら、俺は考えていた。………よく考えると、俺は『転生者』なんだよな。今まで非現実な出来事ばかりあったからそのこと自体忘れていた。

 あぁ………今、『みんなして』何しているんだろ…………って、あれ?

 みんなって………誰だ?

 

 …

 ……

 ………

 …………

 

 ………………やべぇ!?思いだせねぇ!?何で!?

 

「って、うおわああ!!?」

 

 ゴチン!!!

 

「痛ってぇ……そうだ……入口入ってから重力逆さまだったんだっけ」

 

 アホ。と、俺の隣でジョウトが嫌味を言う。……うう、ジョウトにアホ言われた。頭からぶつけたせいでものすげぇ痛いし………。

 

「二人ともいいか?まず任務の再確認をするぞ。……私たちの目的は自衛隊の援護、およびドラゴンの討伐。……それ以外はない」

「……一ついいですか?ヒカイさん。……やっぱり、ヒカイさんもアイツを討伐したかったんですよね?」

「………」

 

 ヒカイさんは黙ってしまう。………別に、変なことは聞いてないよな?………しばらくして、ヒカイさんの口が動き始めた。

 

「……確かに、私もやられっぱなしで我慢できるほど忍耐強いわけではない。……だが、仕事とあれば甘んじて受ける。……それが私だ」

 

 それだけ言うと、ヒカイさんは先行して歩いていく。俺らも黙ってついていく。……と、その途中でジョウトに小突かれた。何だと思って振り向く。

 

「で?テメェはどうなんだ?やっぱ倒してぇんだろ?」

「……そりゃ俺だってそうだよ。でもさ……やっぱり、怖いんだ。本当に俺なんかが倒せるのかって」

 

 別に、今は競争じゃない。今は一つの目的のために『ムラクモ』が動いているんだ。……素人の俺なんかより、熟練者のガトウさん達がやった方がいいかもしれない。

 

「……ま、そんな考えするなんて、やっぱお前は女なんだな。口調は男っぽいが」

「なんだよそれ……」

 

 つーか俺は男だっつーの。今は女だけど。って言いたいけど黙っておく。どうせ信用してくれないし。

 ジョウトは「あっそ」とだけ言って前を向く。……なんだよこいつ変なヤツ。

 

 ………それにしても、何ださっきから……

 

 『俺』は何故か『早くしろ』とせかしているようだ。

  まるで、この世界を知っているかのように。

   知らない筈の変わった東京なのに―――

 

 と、その時。俺の不安が一発で繋がった一つのきっかけが訪れた。

 トランシーバーが振動(バイブレーション)する。何かと思って取り出し、ヒカイさんとジョウトはインカムを押し付ける。

 

『よ。そっちの方は順調だよな?』

 

 この声………ガトウさんか!

 この声に反応したヒカイさんが答える。

 

「……えぇ。こちらは大丈夫です。ポイントにたどり着き次第、こちらの任務を全うします」

『がっははは!そうか!!それはいいな!!』

 

 いつものガトウさんの笑い声が響いて、俺はうるさそうに顔をしかめた。……まぁ実際にうるさかったんだけどね。

 そんな声に安心して、なんとなく笑みを浮かべていた俺。なんでだろうな?聞くだけで不安がなくなるような―――

 

 

 

『……さてと。俺達は今から帝竜とランデブーしてくる。なーに。地獄の底までエスコートしてやるさ』

 

 

 

 その瞬間。

 

 俺の頭に『映像』が浮かび上がる。

 

 いわゆる、第三者視点。『三人』の人物の上を見ているようで。

  そして、文字が浮かび上がる。

   その言葉に俺は思わず吹き出してしまって――――――

    そして―――――――――

 

 

 

      ナガレが………――――――

 

『アイツの仇はオレが……!!』

 

 

 

 

 

 

「―――――――――!!!!」

 

 俺はこれでもかと目を大きく開かせる。二人は気づく様子もなく、何かを聞いているようだ。

 待て、待て、ナガレさんが……ナガレさんが……!!

 

 

    死ぬ…?

 

 

「……二人ともゴメン!!!説教は後で聞く!!!」

 

 そう言って俺はバックをその場で投げだし、全力疾走で駆けていく。二人が俺を呼びとめる声がしたきがする。でも、気にしていられない。俺はマモノが多数いる場所を全力で駆け抜け、そして、何故か頭に浮かんでいる都庁の進み方と、その場所を頼りに走る。

 

 そして、俺は『外の光景』が見えて急ブレーキをかける。

 

 都庁のある階の壁がぶち抜かれていて、そこから外が見えた。外には多数の浮遊瓦礫。そして、上を見ると、『天井』が――――――いや、地面が見えた。

 その光景に思わず吐きそうになるがぐっとこらえる。そして、浮かんでいる瓦礫を見て、飛べばいけそうな気がしたが、そんな時間はなさそうな気もする。

 下を見る。―――まるで皆既日食しているような太陽……もしかしたら月なのかもしれない。それがあって、それに吸われていくようにフロワロの花びらが舞っていた。

 そして、都庁の下。そこには同じように壁が一部ぶち抜かれていた。

 

「………」

 

 汗がつたる。俺の考えていることが恐ろしくて。

 でも、手にはもう一つの短剣があって。

 今すぐ、やれ。と言っているようで。

 

 あんな思い、したくはない。

 

「う、うわあああ!!!」

 

 飛び降りる。

       瓦礫ではなく、

              都庁の『下』の階へと。

                         直接。

 

 壁に短剣を喰い込ませている。恐らく命綱代わりなんだろう。

 分からない。自分が何をやっているのかも。

 短剣が悲鳴を上げている。限界だ、と。

 でも、俺だって極限状態だった。めちゃくちゃだ。何やっているんだよ本当に―――

 

 そして急に、短剣を持っている腕がガタリと空を貫き、体がフワリと浮かぶような感覚。

 しまった……落ちたか!?

 いや、違う!!

 

 とっさに俺は壁……いや、崖を掴みブレーキをかける。衝撃で腕が引きちぎれそうになるが思いっきり、転生してない頃の俺ではできない動きで、腕の力だけで跳ね上がり、地面に着地する。

 

 何があった?俺はふるえる体を抑えるように倒れ込むと、恐る恐る外に顔を出して、上を見上げて状況を確認する。……どうやら、命綱なしの高速逆ロッククライムをやったらしい。短剣は恐らく、壁に沿わすために使ったものだろう。

 実際に、短剣はボロボロだった。―――ワジさんからもらったものじゃない。最初に自分で持っていた物だ―――刀身の半分が摩擦で削れていて、マモノ一体に致命傷すらも与えられない可能性もあるだろう。……ほんと、ワジさんからもう一本もらっといてよかった。と思った。

 トランシーバーから振動が響いて、俺ははっとして起き上がる。

 っと、そうだ……急がなくちゃいけない!!

 

 俺は深く息をつくと、全力疾走で、ガトウさん達の元へと向かった。

 頼む………間に合え!!間に合ってくれ……!!!

 

 

 

 

 

 

 




主人公がハイスペック過ぎた。

多分、そのハイスペックっぷりは今回限りかと。まぁトリスタ&サイキだから仕方ない………?


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13Sz 壮大な『最初』

はいこんにちは!今回でChapter1が終わりとなります!!

えぇ……意外と、今回の話は前の話より(おもに文字数の)ボリュームが二倍以上となっていて空いた時間にサクっと読める量ではなくなっています。まさか私もここまでかかるとは思いませんでした。

今回はこのChapterの終わりと言うことで、あとがきも用意してます。なので今回の話は本当にちゃんと読んでからあとがきを見るといいでしょう。もちろん、「見たくねぇよそんなもん!!」と言う人は見なくてもおk!!

では……13Sz、どうぞ!!


「おらっ!!その程度かぁ!!」

 

 都庁の屋上。そこは唯一、ある意味、帝竜の影響を受けていない場所とも言える。証拠に、ここだけ重力は180度回転しておらず、外にいるときと変わらない。

 そこで、人間三人と帝竜一体、ウォークライとの激戦を展開されているようだ。

 帝竜、ウォークライとの激闘。ウォークライが爪でガトウを引き裂こうとしたが、ガトウはそれを流し、顎に一発ヒットさせる。デストロイヤーのスキルの一つ『爪砕く也』。こういった爪攻撃ながらも、一点を読んでの破壊力はヒカイが使っていた『迎撃スタンス』より高威力だ。

 一撃は入った。だが、ウォークライはひるみはせず、巨大な牙で迂闊な接近をしてきたガトウに向かって喰いちぎろうと大きく顎を開く。

 

「させないっ!!」

 

 そこにキカワの双銃が火を噴く。足に強烈な一撃を加えて動きを止めさせる。一発一発は遅いが、重く、そして、連射により、数で押していく『ニーブレイク』で動きを止める。今まさに前進して喰いちぎろうとしたところで、一歩分足りずに、ガトウに届かず空を喰らう。

 

「ナガレさん!」

「了解!―――納刀、『フブキ討ち』!!」

 

 さらにナガレによる、マナを冷気に変換してそれを利用した一閃を放つ。キカワの与えたダメージに追撃をかけるように足へと一閃。

 手ごたえはある。だが、怯んだ感じは一度もしない。

 ま、まずい……!ナガレはそう思ったが、時すでに遅し。

 足元のゴミでも払うように、帝竜が低く飛び、でかい図体に見合わない一回転で勢いをつけ、大爪を叩きつける。

 ナガレの身体が跳ね飛ぶ。数メートル転がり、受け身をとりながらブレーキをかける。

 

「ナガレ!無事か!?」

「はいっ!なんとか!……少し待っててください」

 

 ナガレは軽く手を振った後、息を大きく着いて集中。少しして、傷が引いて行った。これはサムライのスキル『練気手当』。受けたダメージや悪い状態異常を素早く回復できる、サムライの強力なスキル。これを使いこなせる技量がないと、S級は到底名乗れないだろう。

 傷が癒えたのを確認した後、ガトウとキカワは互いにうなずいて、ガトウが前へ、キカワはその場で構える。

 

「それじゃ、ガトウさん。無茶しないでくださいよっ!」

「分かってる!……ただ、少しばかり無茶させてくれよ!!」

 

 ウォークライへと走り込むガトウ。キカワはゆっくり目をつぶり、そして、自身の気配を薄くした。そして、ガトウは勢いよく踏込み、さらに突撃。

 

「おらっ!!響くだろ!?」

 

 ドスンと、重い一撃。だが、これで終われない。素早く息を吐くと、さらに拳を強く握る。

 

「その固そうなの……地獄には必要ないよなぁッ!!」

 

 さらに強烈な裏拳を、膝に二発。膝についている結晶にヒビが入り、さすがに効いたのか、ドラゴンは悲鳴をあげ、膝をつく。

 

「ナガレ!!いけぇ!!」

「はいっ!!」

 

 相方に出番を譲るようにガトウは一度下がる。そこにバトンタッチしたように踏み込むナガレ。刀は引き抜いており、『抜刀状態』へとスイッチしていた。

 

 サムライは二つの型を所有しており、抜刀はいわば、『安定した連撃』を意味する。逆に納刀では『強烈な一撃』だ。柔と剛、それらを使い分けるのがS級のサムライだ。

 

 グルンと、その場で一回転。目で敵を捕らえ、刀にマナを込める。

 

「抜刀、『金翅鳥王旋風(こんじちょうおうせんぷう)』!!」

 

 そこから高速で振り抜き、金色の旋風を巻き起こす。四方八方から斬り伏せていく強烈な斬撃はウォークライに少しずつ、しかし確実に傷をつけていく。

 

「―――オオオオオオ!!!」

 

 だが、この程度では動きを止められないのか、ウォークライが吠える。反撃するように、巨大な剛火球を吐き出す。

 

「しまっ……ガハァッ!!?」

 

 それはガトウに直撃。巨大な火球はガトウを何mも引きずって行き、爆散。

 あまりにも強烈な攻撃にガトウは受け身を取れずにダウンしてしまう。

 

「ガトウさん!!!」

「よそ見してる暇ないでしょ!!」

 

 どこからかキカワさんの声が聞こえ、思わずはっとしてウォークライを見る。もう一度、今度は違う標的を喰らうように。だが、

 

「―――撃ち抜くっ!!」

 

 その頭に、側面からキカワの銃撃が弾ける。こちらを狙わず、味方に攻撃を加えたその一瞬の隙を狙ったトリックスターのスキル『ブッシュトラップ』。その弾丸はウォークライの鼻先、そして目に直撃。

 

「ウ、ゴオアアアァァァァ!!」

 

 キカワ、そしてナガレは確信した。この一撃は響いたと。大きくよろけ、両腕をつくウォークライ。この隙を見逃すほど、二人は甘くなかった。

 これで仕留める。そう言わんばかりに二人は気合の雄叫びを上げ、武器を構える。

 

「踊り狂え!!『ラッシュショット』!!!」

「抜刀秘技―――『八双大蛇突き』!!!」

 

 二人の連撃が炸裂する。キカワの大胆かつ、強烈な弾の乱舞が、ナガレの素早い連続突き、そこからできたマナの放流にさらに込め、強力な一突き。

 攻撃が終わり、二人は一度、下がり、ガトウの側による。ガトウはところどころ傷は負っているものの、動ける分には問題なさそうだ。

 

「ガトウさん……」と、不安そうにナガレがガトウを見て、動かないウォークライを見る。ガトウは黙ってうなずく。

 

「……あぁ。伊達に帝竜じゃねぇはずだ……」

 

 いつでも反撃できるよう、ガトウは攻撃の構えを取る。その間にナガレはポーチから注射器を取り出し、ガトウの腕に注射。ガトウの傷がある程度引いていく。このアイテムは、この世界における貴重な傷薬とも言えるべきもの、それを『メディス』と呼ばれている。

 

 

 ガトウの予想は間違っていなかった。

 ウォークライの片腕が動く。ゆっくりと、そして、さまざまな傷を負っているのにもかかわらず、まだ動けると言わんばかりに、ゆっくりと、起き上がる。

 

「……ヤベェな」

「まだ足りないなんて……」

 

 ガトウとキカワは率直な意見を述べる。ナガレは絶句していた。正直、ここまで戦えたのもある意味奇跡なのかもしれない。

 

 一体戦闘を初めてどれだけ時間が経ったのかは実感できていなかった。それほどまでに三人に精神的な疲労が来ていた。肉体は動かせるには特に支障はないが、それでも受けたダメージ、いや、疲労は完全には回復できてはいない。

 そしてなにより、キカワとナガレは大技を繰り出して、自身の体内にある精命力(マナ)を大きく消耗していたし、ガトウは剛火球をまともに喰らった。

 

 この状況で、勝ち目があるのか……?否。だが―――

 

「刺し違えてでも……ここから消え去ってもらう―――!!」

 

 ガトウが大きく前進。それに合わせるようにナガレもキカワもついていく。

 

 もちろん、これだけやったということはウォークライも相当なガタがきているはずだ。

 だとしたら、さらに強撃を加えればいい。そう三人は思っていた。

 

 

       だが

 

 

 誰しも、切り札というのは隠し持っている物だ。

 

 けれど、初対面の敵の切り札は最初は分からない。

 

 しかし、三人は先ほどの剛火球が『強力な切り札』だと思っていた。

 

 そして、その繰り出した強力なものが『切り札』とは限らない。

 

 つまり、三人の読みは完全に甘かった―――。

 

 

 

 

 

「グ、オオオオアアァァァァァァァーーーー!!!!」

 

 

 

 

 ウォークライが凶悪な咆哮を、三人にぶつける。

 

 

 『タイフーンハウル』。その咆哮は嵐となり、我が牙に抗うモノに加える一撃。

 

「ガあぁぁ!?」

 

 その凶烈な咆哮に、三人は思わずガード体勢を固める―――だが、そのガードすらも吹き飛ばし、三人を大きく弾き飛ばす。

 

 受け身も取れずに三人は地面へと撃ちつけられる。これぐらい、切り札とは言えないだろうと思っていたが、

 

「……ッ……動きが……うまくいかねぇ……!!」

 

 そう。その咆哮は単なる吹き飛ばし攻撃ではない。身体の神経という神経を『麻痺』させる、いわば衝撃。

 

 さらに、追撃をかけるようにウォークライは軽く浮くと、そのまま疾走。でかい図体に似合わない高速飛行は三人に反応させる暇すら与えない。

 

 

 そして、そのでかい腕でガトウを捕えた。

 

 

「しまっ……!!!」

「ガトウさ……ぐっ!!」

 

 ガトウは掴まれて、無理やりほどこうとしたが、そのでかい腕をほどくのには先ほどのダメージと合わさってほどくことはできない。そして、助けようとしたキカワだが、身体がうまく動かずにその場で倒れてしまう。

 

「く、くそ……ガトウさ……ん!!」

 

 ナガレも必死に、刀を使って立ち上がろうとして、そして、驚いた。

 

 

 今すぐに、焼き払おうと、火球を口に溜めこんでいた。

 

 

「や、やめ……ろ!!」

 

 ビキビキと、身体を無理やり動かすナガレ。だが、その声はウォークライには届かない。代わりに、ガトウの怒声が響いた。

 

「バカヤロウ!!!早く……逃げろ……!!!お前には……!」

 

 

 

 

 待ちきれなかったように、ウォークライが零距離で、火球を発射しようとする。

 

 

「や、やめろ……やめろぉぉぉぉーーー!!!」

 

 

 阻止するため、ナガレはその間に割り込むように飛んでいく。

 

 

 

 

 ナガレには、大切な妻がいる。

 

 ナガレには、守りたい妻がいる。

 

 そして、ナガレには、背を預けられる仲間もいる。

 

 今、手を届く距離には、傷つき、そして、今にも殺される仲間にしか届かない。

 

 ナガレは、手を伸ばすしかなかった―――

 

 

 

 

 

 ナガレの世界がスローになる。

 

 ガトウの罵声、

 

 キカワの悲鳴、

 

 そして、焼け付くように熱い熱気。

 

 

 

 

 衝撃が伝わる。

 

 

 

 

 

 ――――――死んだのか、ボクは?

 

 ――――――あぁ、でも、悪くはない。仲間を護れたんだから………

 

 

 ――――――あれ、なんだろう………

 

 

 

 ――――――火球、浴びたはずだよね……?

 

 

 

 

 ――――――なのに……なんで……

 

 

 

 

 

 

 ――――――背中が冷たいんだろう………?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――――――間に合った!」

 

 

 

 

 

 

 突然、ガトウ達の背後から聞こえた。

 

 拘束がほどかれたガトウが息を大きくしながら、後ろを見ると――――――

 

「……は?」

「……な、何で……?」

 

 少々小柄な身なりで、美しい白髪の女性―――

 

 

 

 そう。ムラクモ13班の一人。河城野ロナだった―――

 

 

 

=====ロナside=====

 

 

 

「な、ナガレさん!!無事ですか!!」

 

 俺はあわてて駆け寄りながらもナガレさんの無事を確認する。だが。

 

 今まで仰向けでダウンしていたウォークライが動き始めた。

 

 やべぇ……!!どうすればいい!?この距離じゃ救出が間に合わないかもしれない!!

 そう思うより、俺は必死に走り、そして、素早くナガレさんの元へ飛び込んで、運ぶようにさらに身を退く。

 

 直後、ナガレさんが今までいた場所に大爪が振り下ろされた。

 

 ……あぶねぇ。判断が遅かったら今度こそナガレさんは死んでいた。

 

 

 途端に、俺の脳裏に一つの出来事が浮かんだ。

 

 

 それは、ナガレさんが横たわり、傷ついたウォークライもいて、ガトウさんのピンチに三人が来た光景だ。

 

 

 一瞬でそれはなくなる。……なんだったんだよ一体――――――

 

「オオオオォォ!!!」

 

 ウォークライが吠えた。獲物を取り逃がし、機嫌を損ねたように。

 

 

 久々に聞いた、そいつの雄叫び。それを聞いただけで戦意喪失しかけ――――――

 

 

 

「―――♪」

 

 

 

 ……え?

 

 この歌……どこから……?

 

 それに……聞き覚えが……

 

 

 その声は、俺達を優しく鼓舞してくれいるようで―――

 

 聞き覚えがあるはずなのに……初めて聞くような声―――

 

 

 でも、そのおかげで……俺は決心することができた。

 

「……ガトウさん。動けます?」

「あ、あァ……痺れが取れてないけどな……」

「……キカワさん。行けます?」

「……うん。私もいけるよ」

「……ナガレさん。大丈夫ですね?」

「もちろん。ちょっと背中が痛いけど、二人が回復できる隙ぐらいは与えられるはずだよ」

「……分かりました」

 

 

 うたが、まだ、きこえてくる。

 

 ……ほんと、いい声だよ。……あぁ。いけそうだ。

 

「行きましょう。……後でこの失態は謝ります」

 

 そう言って、俺はマナを右手に込め、ナガレさんはウォークライに突撃した。

 

根源を断ち切る解呪(リカヴァ)!」

 

 素早く、マナを発してガトウさんとキカワさんに放つ。淡い白色の光が二人を包む。

 

「……おう!動けるようになった。行くぜ!キカワ!!」

「了解!!」

 

 側面からキカワさんが、そして、正面から堂々とガトウさんが突っ込む。俺も負けてられない。マナを右手、そして左手に集中―――!

 

突壊の氷刃(フリーズ)……連続発射!!」

「弾け飛べ、『エア・アサルト』!」

 

 俺は『フリーズ』を素早く、両手の腕で連続で投げとばす。そして、宙へ飛んでいたキカワさんはそのまま弾丸

を連続発射させる。

 

 行ける。勝てるかもしてない。そう思っている。傷だらけのウォークライだから――――――

 

 だが、こいつはまだ余力を残していた。

 

 

 攻撃をものともせず、火球を俺に向かって放ってくる―――

 

 やべぇ……直撃……!!

 

 思わず俺は目をつぶる。速い、避けられない―――

 

 

 でも、衝撃はいつまでもこない。

 

 ……なんだ?何が……。俺はそう思って目を開ける。

 

「……全く。だらしないぞ?ロナ」

「ヒカイさん!!!」

「ったく、無茶してんじゃねぇよアホ」

「ジョウト!来てくれたのか」

「ったりめーだアホ助。突然飛び出して追いかけないほうがおかしいっつーの」

 

 ジョウトは皮肉たっぷりに俺に向かって言った。ムカツクけど、今じゃなんか頼もしいな。それに、火球を弾き飛ばした……いや、代わりに受けてくれたヒカイさんにも感謝しなくちゃな。

 

「ヒカイさん……すみません。俺……」

「謝罪は都庁を奪還させてから言おうか。……それじゃ、行くぞ」

 

 そう言ってヒカイさんは突撃する。背後からキーボードをたたく音も聞こえてくる。ジョウトだ。

 

「コード強化、ATK……start!!」

 

 瞬間、俺の中から力が湧いてくる。すげぇ。これならいけるかもしれない!

 

「よっし!任せろジョウト!!」

「へっ!独りじゃできねぇことだろ!?」

 

 ほんと、頼もしく感じる!俺は一丁だけ銃を構えて、ウォークライを見る。その視界の奥で、ヒカイさんとガトウさんが攻撃の構えを取っていた。

 

「狙い撃つ!!『エイミングショット』!!」

 

 俺のマナを込めた銃撃。狙いすましたそれはウォークライに直撃。俺のその銃攻撃が合図となったのか、二人は攻撃を開始する。

 

「「『正拳突き』!!!」

 

 強烈かつ、重い一撃が同時に炸裂。腹に撃ちこまれたソレは今まで傷を負わせたウォークライにとっては致命打となり、ダウンさせる。

 

「今だ……ナガレぇ!!!」

「任せてくださいッ!!!」

 

 飛び上がる。ナガレさんが大きく。

 

 けど、ウォークライも負けじと、片腕を大きく伸ばし、ナガレさんに向かって振り抜かれる。

 だけど、ナガレさんだって負けてない……!!!

 

 

 

「沈めぇぇぇぇぇ!!!!!」

 

 

 

 

===============

 

 

 

 

 突然、予兆もなく地面が揺らぎ始める。

 

「……うわっ!?地震!?」

 

 屋上。まるで生命の終わりを告げるように都庁が大きく揺れる。思わず俺は上を見上げて―――

 

「って、みんな上だ!!ガレキが落ちてきそうだ!!」

「くっ……破壊すンのにもちょっと無茶だ!!身を護れェ!!」

 

 ガトウさんの合図で俺達は一斉に防御を固める。

 

 また一つ、また一つと瓦礫がガレキが落ちてくる。必死に頭を護るように防御するのに俺は精一杯で、みんなの様子は分からない―――!!

 

 

 地震とガレキ。それらが都庁を大きく揺らがせる。怖い、怖い怖い……頼む、壊れないでくれ……!!

 

 

 長く感じた振動。それがやっとおさまったと思い、俺は恐る恐る目を開ける。

 外にいたのに、すごくまぶしく感じて、俺は一瞬だけ瞬きをする。……光?太陽か!……そういや、今まで日食してたんだっけ。忘れてた。

 

 ……そして、あの『うた』もいつの間にか聞こえなくなっていた。……一体、何だったんだろうか……

 

『……班!13班!応答してください!何があったんですか!』

 

 ……あ、キリノの声だ。俺はトランシーバー越しに響いてくる声を聞いて、返答しようとして、一旦辺りを見渡す。

 同じく、何とか無事であるヒカイさん、ジョウト、キカワさん。

 

 そしてガトウさんに―――

 

「……こちら10班。……13班のメンツは全員無事だ。―――そして……

 

 

   俺達、10班もな」

 

 ガトウさんが現状を報告する。

 もちろん、その近くには、ちゃんとナガレさんも生きている。

 

 ナガレさんが笑って、キカワさんが小突いて、

 ヒカイさんと、ジョウトがやってきて。

 

 

「―――ガッハハハハハ!!!大勝大勝!!!お前ら!!!本当に、最高だ!!!!」

 

 ガトウさんが、大きく勝どきを上げるように高笑いした。

 

 

 ………よかった。護れたんだ。みんな。無事で。

 

 

 ……いや、本当はこの事件で多くの人達が死んでしまったはずだから、あまり喜べられないかもしれない。

 

 

 ………でもさ、今ぐらいは喜んでいいよな?

 

 

 

「……へへ………よっしゃあああ!!!!!」

 

 

 

 

===============

 

 

 

 

 その後、みんながやってきて、すぐに都庁の修復を始めた。

 

 

 一人一人が、力を合わせて修復を開始したから、都庁は『ドラゴン退治の拠点』として、合わせるだけの素材をふんだんに使って、取り戻していった。

 

 

 その時、みんながみんな、力を合わせて取りかかったからものすごく速く直っていった。

 

 

 これが、ヒトの力ってことを再確認できた。

 

 

 計算上は1+1は2だし、1×1は1だ。

 

 

 でも、人の可能性は無限大だから、1×1でも2でも3でも10でもなる。

 

 

 きっと、ここから俺達の反撃が始まるんだよな。

 

 

 

 そして、その後、小さな祝会が行われた『らしい』。

 

 

 本当に、文字通り小さな祝会だった『らしい』けど、人々を安心するには事足りた『らしい』。

 

 

 ……なんで、『らしい』が付くんだって?

 

 

 ……そりゃあ、俺はそこにはいなかったからな。

 

 

 ……じゃあ何していたんだって?そりゃあ当然………

 

 

 

 

 

 

 

「…だからだ。ロナひとりでそのまま突っ走って、もし一人で倒せない敵がいたらどうするつもりだったんだロナ!!」

「ほ、ほんとすみません!!どうしてもほっとけなくって……後、都庁の外の広場の中心で正座させるのはやめてください!!!かれこれ1時間たったはずですし、それに何より絶対公開処刑ですってこれ!!!」

 

 ……まぁ、ヒカイさんに説教されてたさ。正座で。都庁前の広場のど真ん中で。……そしてジョウト!!笑ってないで助けてくれたっていいだろうが!!俺泣くぞ!!マジで!!!

 

 ……いや、『みんな』にとっては当たり前のことを言ってるんだろう。でも、『俺』にとっては大変なことだった。だって、俺はなんとなくわかっていた。

 

 本当はナガレさんは『この都庁には』いなかったはずだったんだ。

 恐らく、ガトウさんをかばって……ね。

 だから、俺は内心、説教だけですんでよかったって思っていた。

 

 ……何度でも言うけど、都庁の前の広場のど真ん中で正座させるのは本当に公開処刑だからそうはなかなか思えなかったんだけどな!!!

 

「ロナ!!」

 

 ……って、誰かに呼ばれた。誰だ……?立ち上がろうとして……ギャア!!あし、あし痺れた!!!

 

「ガッハハハ!どうやら説教中だったようで」

「えぇ。……全く、これだから恐れを知らない若者は困るんだ」

 

 うう……ガトウさん……アンタ絶対見てただろ。もう少し早く来てほしかったんだけど……

 

「ちょ、足痺れてる!?立てる!?」

「あぁこいつのことなら問題ねぇよ。なにせ説教開始から5分しかたってないしよ」

 

 嘘つけジョウトォ!!絶対1時間たってるし!!はい、キカワさん、「あ、そっか」って納得しないでください!!!

 

「……え、えーっと、ロナ……本当に立てる?」

「へ、へい……大丈夫です」

 

 俺はこんちくしょうと思いながら無理やり立ち上がった。畜生、ここにいるみんなにもさっきまでの俺の立場味わってもらいてぇよ……

 

「……ロナ……先の任務……私の命を救ってくださり、本当にありがとうございました!!!」

 

 

 そう言って、ナガレさんはビシッと、敬礼する。

 

 ……俺は、何も言わなかった。言えなかったんだ。言う言葉は見つからなくって。

 

 だってさ、『本当は死ぬはずだったんで救いました』って言えるわけないだろ?

 

 

 

 

 

 

 

 でも、代わりに、俺は、『ロナ』の満面の笑みを見せたんだ―――




いかがだったでしょうか?今回のchapterは今回で終わりとなります。もちろん、続きもバンバン書いていきますよ。

さて……今回も少しばかり裏話をば。今回の話は『この話』についてです。

と言うのも、この小説を書こうと思ったきっかけはこの話の中の一つが主な根拠です。
で、主人公を登場させようとして当初、どんな方法で助けようかなと模索していました。
でも今回は10班をメインで輝かせようと設定してたので目立たせるのもどうかと思うし、かといって地味な演出だと「お前どんな登場してんだよ」って言わんばかりになるかもしれませんでした。
で、結局、「ロナがフリーズをぶん投げつけて阻止しようとしたら運悪くナガレさんに当たってしまいました」という、これシリアスなのになんでコミカルになってんだオラァ!!と絶対批判が来る、しかもよりにもよって最初に思いついたオチとなっています。……だからこの話の批判はやめてくださいね?本当にお願いします。(編集して消しました。気のせい。)
あと、この部分ではセブドラのある部分をモチーフとして書かせていただきました。もうみなさんにも思い入れあるんじゃないんですかね?
そして当初の自分で建てたテロップ通りにかけたと思っています。「都庁の広場のど真ん中で正座で説教されている」というのも私の計画通りです(笑

さて、あとがきはこのくらいにしておきます。次のあとがきはchapter2が終わってからですね。その間にあの組織?との出会いもありますが。
……Chapter2と言えばみんなのトラウマが来るんじゃないんですかね?まぁ、ある程度期待してほしいかなぁと思います。
それでは、次回まで……いや、最終回まで見てくれると私は嬉しいです。どうか最後までお付き合いしていただけるとありがたいです。
どうかみなさんに最高の一話をかけるように、作者も頑張らせていただきます。


なお、ナガレさんが発動した『八双大蛇突き』をセブドラ2020Ⅱで放つのは大変な死に技です。使うなら『十六夜詰め』や『影無し』などを使い、どうしても使いたいならものすごく余裕があるときに使いましょう。


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Chapter1.5 『空』の組織の『四人組』
14Sz 記憶無き思い出


どうもこんにちは。エマコです。
今回からchapter1.5の部分に突入。お待たせしました!ついにあの方々の登場……はもう少し後になります!!

……ここだけの話、ミヤさんどうやって登場させようか模索中です。……あの人キャラ薄いんですもん。Ⅱではほぼ空気と化してしまいましたし……

ま、こうしたメタ事情は放っておいて、chapter1.5、14Sz、どうぞ!!


「………ぐかー……」

『……てください!ロナー!!』

「スピー……むにゃ……」

『はぁ……どうしたら……え?こういうときは直接……?……何で私が……いえ、分かりました』

「……おぉーい……セッティ……ぬぐぅ……」

 

 

 ………コンコン

 

 

「……ZZZ」

 

「ロナー!入りますよー!」

「ZZZZ……」

「……全く、まだ寝てる……おーきーてーくーだーさーい」

 

 ……むにゃ。誰かが俺を起こそうとして……やだ、眠い。後5時間。……布団かぶろ。

 

「もう!起きてください!!」

 

 バサァ

 ……布団ひっぺがえされた。誰だよ一体……俺は眠い頭を働かせながらも布団を取った犯人を見て……

 

 ……あぁ。ナビちゃんか……

 

 …

 ……

 ………

 …………

 

「って、いろいろよくねぇよ!?つかなんでナビちゃんいるんだよ!!」

「ひゃあ!?お、驚かせないでください!!起きているなら起きているって言ってくださいよ!!」

 

 いやだって俺今の今まで寝ていたし。布団ひっぺがえされるまでずっと。あー眠。もうちょっと寝たい。驚いてる隙に布団を取り戻してまたかぶる。あー布団のなか暖かいぜぇ。

 

「もう……ロナ………えっと、確か、こういうのを…」

 

 寝坊助……だろ。全く。寝坊助でいいっつー……

 

「……えーっと…ロrk」

「やめろおおおぉぉぉぉ!!!!!いろんな意味で俺とキミの将来が怪しまれるからぁぁぁぁ!!!」

 

 ひゃああ!?と悲鳴を上げながらナビちゃんは身を退いていく……って、誰だよナビちゃんに教えちゃいけないワード教えたの!!そういう人間じゃねぇから俺!!!おかげでバッチリ目が覚めたぞ!!

 

「ぜぇ……はぁ……あ、朝からハードなツッコミをさせないでくれ……あー目が覚めた……」

「だ、だからと言っていきなり大声ださなくていいじゃないですか……こっちが逆に起きちゃいますよ……」

 

 ……いや、だって、ナビちゃんいるし、それに、絶対小さな子に教えちゃいけない言葉教えたし。そりゃあ上の子全力で阻止しますわ。

 

「……で、なんでナビちゃんいるの?まずそこから」

「……あの、いい加減その、『ナビちゃん』はやめてくれませんか?なんだか恥ずかしいですし……」

「……いや…だって、『NAV3.7』って……そんなの……なんつーか、兵器みたいで嫌だし……」

 

 仮にも……いや、この子は人間だろ?中学生にもならないはずなのに、名前がないなんて……そんなの、考えたくもない。

 ……ナビちゃんは黙ってしまった。……その、悪いこと、言ったかな……。と、思った時、ナビちゃんは顔を上げて俺を見た。

 

「……ミイナ、です。そして、もう一人はミロク、です」

「ミイナにミロク………いいじゃん。そっちのほうが。ちゃんとした名前だし。なのに何でそんな名前なのさ……」

 

 だって、そうだろ?まるで、NAVが正式名称みたいでさ。ちゃんとした名前があるならそっちの方名乗った方がいいはずなのに。

 

「……えっと、その……」

「あー……いや、いいよその理由なんか。……とにかく、俺はちゃんと『ミイナ』と『ミロク』って呼んでやるから」

 

 な?と俺はナビちゃ……じゃなかった。ミイナの肩に手をあててそう言う。ミイナは黙ってうなずく。

 ……って、そうだ。何で俺を叩き起こしたんだ?……つか、ヒカイさんとジョウトは?

 

「……あ!そうでした!……ナツメ総長が本部に来いと言ってました。……あまりにも遅いので」

「えぇー……俺何かしたのか?」

 

 また都庁の外の広場で以下略なんてやりたくないよ。…………ヒカイさんならやりかねねぇ!!!

 俺は慌てて、ベットに置いてあったニット帽をかぶって外に出ようとする。……うわぁ、ものの見事に二人いない。二人も呼ばれていたのか?……だったら起こしてくれたってよかっただろチクショウ!!

 俺はヤケになりながらも外に出ようとして、何気なくミイナを見た。……あれ、俺……というか、正確には俺の頭の上を見ているような。……上に何かいる?……うん。いないな。……と、なると。

 

「……えっと、ミイナ?……モフるのは後でな」

 

 そう言って俺は本部まで階段使って全力疾走!!!だってミイナがロホニャララなんて言いかけた後にモフられたらマジでいろいろとおかしい人になるかもしれないから!!「ムラクモ13班河城野ロナ(このコメントは削除されました)」なんて書かれたら俺は都庁の下から真っ逆さまになったっておかしくねぇよまじで!!

 

 ……って、本部って、どっちだっけ?

 

「………あー……」

 

 ……えっと、こっち……だっけ?

 

==============

 

 ……で、例の如く、俺の頭の中の、何故か頭に入っている地図みたいなのを頼りに無事到着。……あー腹減った。どさくさに紛れて飯食えばよかった。「迷ってたら食堂あったので朝食食べてました」って。

 とりあえずドアを開けてっと。

 

「失礼します」

「……君はどれだけ待たせるの?」

 

 キリノが不機嫌そうな顔で俺に問う。

 

「……32分?」

「違うわよ。48分よ……今回だけよ?」

 

 ナツメさんがそう言う。…完全に大遅刻ですね。これ。

 

「……はぁ。やっと目を覚ましたかね」

「おせぇんだよ寝坊助」

 

 ヒカイさんが呆れて、そしてジョウトが例の如く嫌味たっぷりに俺にそう言う………あー、そだ、ジョウトに言いたいことあったんだ。

 

「……お前だろ。ミイナに変なワード教えたの」

「は?何のことだよ?それにミイナって……」

「名前教えてもらったんだよ。NAV3.7じゃなくってミイナ。あと、NAV3.6じゃなくてミロク。……で、絶対ミイナに教えちゃいけない言葉教えたのお前だろうが」

「だから、何のことかさっぱりだっつーの」

「ほう?名前を教えてもらった……か」

 

 ……あれ、なんでヒカイさん反応するの?……え?まさか……

 

「……ヒカイさん……まさか……アンタすか……?」

「……ロナ、キミはやっぱりソッチの趣味があったんだな」

「全然違います!!!つか何で起こさなかったんですか!!」

「起こそうとしたけど起きなかった。だが、NAV3.7……いや、ミイナが起こしに行ったときにはロナ、キミは起きただろ?それに……」

「……ヒカイさん、アンタいっぺん頭冷やます?」

 

 グゥ~……

 

「………」

 

 ………だれだよでかい腹の虫が鳴いたの。ジョウトか。

 

「ちげぇよアホ。……つか漫才していいのかよここで。いくらなんでもお偉いさん集まっているんだぜ?」

 

 ………あ、言われてみればそうだ。なんてことだ。

 

「……で、ナツメさん。何で俺達13班をここへ?」

「……はぁ。マイペース過ぎて逆に感心するわ……」

 

 ……呆れながらナツメさんはそう言って、俺らに事情を説明した。

 

 なんでも、やっと衛星通信が使える分には問題ないレベルにまで修復できたらしい。それで、各国のお偉いさんに無事かどうかを報告して、それでもし(ギュルル~)よかったら日本に援軍を寄こしてもらいたいとのこと。……ただ、後者は絶望的らしいけどな。

 ……んで、ちゃんとナツメさんが説明している間にまた誰かの腹の虫が鳴いたとさ。……本気で誰だろーな。

 

「……で、分かったかしら?」

「十分ですよ。……まーったくだれだろナツメさんがすばらしいせつめいをしているあいだにはらのむしをなかせた(グ~~~)………」

 

 …

 ……

 ………

 …………

 

「……ロナ。朝ごはんは食べたかしら?」

「……いえ、まだです」

「……今すぐ食べに行きなさい」

 

 

===============

 

 

 んでもって、俺は、エントランスで何故か売られているやきそばパンを見つけ、3つ買いましたとさ。……1つで十分だったのに、店員さんは「都庁を奪還してくれたお礼」と言ってまけてもらった。……いいのかよ本当に、と思いつつも誘惑に負けるのが人間です。

 久々に食べたやきそばパンはいるはずの世界が変わっても変わらぬおいしさ!!やっぱやきそばパン最高だぜ!!

 そんで、1つ目を一発で平らげた俺はもう一つ食おうとして、手を止めた。

 

「……グスッ」

 

 ………泣いてる子供……だよな?5歳ぐらいの。……どうしたんだろ。迷子になったのかな。俺はそう思って接触することにした。

 

「おーい君。どうしたの?」

「……ママが、ママがいないの」

 

 あれ、そりゃあ大変だ。……こりゃあ迷子かもな絶対。

 ……迷子って、思いたいな。

 

「……よっし分かった。おにi……じゃなかった。お姉ちゃんが一緒に探したげる」

「……ほんとう?」

「もちろん!都庁にいるかもしれないからね!!」

 

 『人間だれだって迷子になるモノ』。……この言葉は誰かの教訓だけどね。……そしてあぶねぇ。一瞬お兄ちゃんなんて言い出しそうになった。俺女だっけな。……なーんか本当に不便だな。これ。

 

 で、その後はいろんな人に「迷子になっている子供を探している母親」がいないか訊きに回った。……だって、その方が効率がいいだろ?子供探さない親なんて親じゃねぇし。

 

 ……10分したかな……一向に見つからない。訊ねても「知らない」だの「見てない」だの言われていた。

 ……でも、俺は否定したかった。きっと、『探している筈』だ、って。

 ………思わず、俺は聞いてみた。お母さんの特徴を。

 

「……ママはね……こうえんであそんでいたらね……グスッ……」

 

 ……やっば、また地雷踏んだ……しかも、俺にとっても不都合な言葉だ。

 

 ……絶対、はぐれて、そして……

 

「あれ?ロナじゃない。どうしたの?」

 

 ん?誰だろ……って、キカワさん?……まだ休んでいてもおかしくないのに。

 

「いやー動かないとなんかね。……あ、察した。……もしかして……」

 

 ……あぁ。その、もしかして通りだ。俺はなるべく簡略に今の状況を説明した。キカワさんは黙ってうなずいて、子供の近くでしゃがんだ。

 

「……怖かったんだよね?……でも大丈夫!!ママは絶対、迷子になっているだけだよ!!」

「……うん……うん……」

「迷子になってたら、お姉ちゃん、説教したげる!『コラー!子供置いて行って迷子とはどういうことだー!』って!」

「……お姉ちゃん、ボクのママに怒られちゃうよ……?」

「あ、それもそうか。アハハハ!!」

 

 ……不思議と、その場の雰囲気が和らいでいく。キカワさんにつられて、泣いていた子供も笑っていく。

 ……この光景、覚えているような気がして―――

 

 

『……なぁ……、この子、迷子なんじゃないのか?』

『そうかも……ね、キミ!』

 

 

「……ッ」

 

 ズキリと、頭が一瞬痛む。無理やり思い出そうとしたからかもしれない。……チクショウ。こういうときだけ記憶喪失ってつらいもんだな……。

 

「じゃあ、ロナ。この子につきあったげてありがとね。ここからはこのキカワさんに任せなさいっ!」

「……いいんですか?」

「だってしばらく休暇だし。暇だからね。……じゃあ、お姉ちゃんと下で遊んでこよっか!」

 

 そういってキカワさんは子供の手をひっぱってその場を後にする。……子供は一旦こっちを見て、「お姉ちゃん!お母さん探してね!!」と言ってくれた。俺は黙って手を振る。

 ………あぁ。きっと、迷子になっているだけだ。……大丈夫だ。希望を見捨てなければ。

 

「ここにいたか。ロナ」

「……あ、ヒカイさんすみません。……どうしたんですか?」

 

 そう言って、ヒカイさんは俺に説明してくれた。

 

 今回は任務として、多数の生体反応のある渋谷に向かって、ドラゴンの討伐、および救助を行ってもらいたいらしい。

 ……ちょうどおあつらえ向きだ。……もしかしたら、いるかもしれないしな。

 さらにヒカイさんは他国の状況も教えてくれた。……やっぱり、どこもドラゴンの襲撃だらけらしく、連絡の取れたアメリカですら援軍は寄こせないとのこと。……まぁ、たしかにそうだな。……俺達の国は俺達で……か。

 

「それじゃあ行こうか。……くれぐれも、一人で走ることの内容にな?」

「大丈夫ですって!前回だけですから!!」

「ま、次やらかしたらまた都庁の広場で」

「もう分かりましたから!!!」

 

 俺は慌てながらもちゃんと返答した。……もうやりたくねぇよ!都庁の外の広場で以下略なんて!!

 

 ……ま、そのおかげで無茶はできなくなったから、ある意味、ストッパーとなったんだけどね―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




ここだけの話その2。

2話ぐらい前のハイスペック主人公はこれから物語終了まで出ないはずなのであしからず(発揮しないとは言ってない)。


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15Sz 樹海の三人組

どうもこんにちは。エマコです。メモなくしてまたプレイ中です。

しかしこの日は暑かったですね……。セブドラではどの季節なんだろうと常々思いたい。
あ、ついでにⅡの裏ボスは倒しときました。これで心置きなくⅢがプレイできそうです。

ではでは、実は長すぎて後半部分を削って、ほぼコミカルと化した15Sz、どうぞ!!


 俺たちは例の如く軽自動車で渋谷へと向かった。……あぁ。いつものだ。ご厚意により、しばらく貸してもらえることになった。ほんと、感謝したくてもしきれない。……ついでにやきそばパンはまだ所持してますよっと。1つは車の中で食べたから残り1つ。

 ……車で行けるだけいって、そして、ある場所で降りた。……えっと……ここって……

 

「……ここ、渋谷……?」

「……そう思いたいものだな」

 

 ……いや、いまいち信用できないんだが……

 だって、いたるところに木の根っこが生えていて、フロワロもところどころにある。

 ……ここが、本当に渋谷なのか……?

 ……いや、今じゃ信じるしかないけどさ……。

 

『おい13班。聞こえるか?』

 

 ん、通信だ。これは……。

 

「ん?……あ、ミロクか。今回はキミなのか?」

『え!?何でオレの名前知っているんだよ!?』

 

 ……あー……確かにミロクには言ってないよな。……えーっと……

 

「……ミイナに教えてもらった。俺はそういったコードネーム的な言い方嫌いなんだ」

『そうなのか……まぁいい。今回はオレが担当させてもらう』

「おう。よろしく」

 

 そう言ってミロクは「あぁ」とだけ言った。……と、ここでもう一人、通信が入る。

 

『聞こえるかしら?13班。今回は私も参加させてもらうわ』

「ナツメさん……」

 

 ……はぁ。どうしてもこの人は苦手なんだよな……訳が分からないけど。

 

『んじゃ、お前らには道玄坂方面へ探索を頼むよ。オーヴァ』

 

 と言って、通信はいったん切れた。……しっかしちょっと生意気だなミロクは。まぁ、かわいらしい部分でもあるんだけどな。

 

「……しかし、重力が反転した都庁の後は繁華街……ならぬ、繁『花』街か。……どうも、帝竜のそれぞれの適性が現れるようだな」

「そうですね。……どこから来るか分かりませんし、慎重に行きましょうか」

「あぁ……ん、どうした?ジョウト」

 

 ……あぁ、そう言えばジョウト一度もしゃべってないよな。……なんか、ボーっとしてるし。やっぱり驚いてんのかな。

 

「……いんや、真っ逆さま都庁よりかはましだと思っただけだ。あーあ。つまんねーの」

「ピクニックに来ているわけではないんだぞジョウト」

「分かってますよオッサン。……そんじゃ、行こうぜ」

 

 ……しかしなんかおかしいなジョウト……。他にも理由があるはずなんじゃ……。俺はそう思ったけど、ジョウトの性格じゃ口が裂けても言わなそうだから、黙っていた。

 

=============

 

「……おい二人とも、あれって……」

 

 ドラゴンをなんとか倒しながら前へ進んでいると、ジョウトが一点を指差す。……あ、マモノ……って、遠くにヒトが!?

 

「助けに行こう!」

「了解だ!」

「ったりめーだ!!」

 

 二人はすぐに承認してくれ、すぐに俺とヒカイさんは突撃。背後でジョウトが下準備を始める。

 

「コード強化、ATK……start!!」

 

 ジョウトの『アタックゲイン』が発動。不思議と、精命力(マナ)が増幅されたような気がする。このまま一気に仕留めるしかない。そんなに少ないのが幸いか。俺は双銃を取り出して構える―――!

 

「歌い踊れ!『ダンシングバレット』!!」

 

 マナを増幅、銃に込めて乱射。まるで舞っているかのようなソレはマモノへと攻撃の雨を降らす。その一体、懐にヒカイさんは飛び込む。

 

「ハァッ!!」

 

 ヒカイさんのアッパーが炸裂し、マモノ一体が吹き飛びつつ、消滅していく。残りのマモノもそれに応じるかのように消滅していた。

 

「……その人は無事か?」

 

 ヒカイさんが無事を確かめるように俺に促す。……見た限りでは、傷は負いつつも、立っているだけ無事なようだ。俺はゆっくりとうなずいて、ヒカイさんに合図を送る。その後、ヒカイさんはインカムで通信を取った。

 

「……あぁ。分かった。……こちらの方は頼んだぞ」

「……どうすればいいんだ?」

 

 ジョウトは辺りを警戒するように見渡しながらヒカイさんに言った。ヒカイさんはゆっくりうなずいた後、

 

「もうすぐ、人命救助班が来るらしい。その人たちに任せ、我々は奥に進んでもらいたいとのことだ」

「ふぅん。じゃ、そいつら来るまで待機ってところか?」

「……いや、これを使わせてあげようか」

 

 そう言ってヒカイさんが取り出したのは、小型の……ケータイみたいなものか?これって……

 

「『迷彩ツール』ってやつだ。これがあれば動かない限りある程度感知はされないだろう。……それでは、もう少しお待ちを。必ず、他の部隊が助けに参ります」

 

 ヒカイさんは迷彩ツールを起動しながらその人に渡す。……見た感じでは変化はなさそうだけど確かに、これだとマモノは通り過ぎてしまいそうだな。なんかよくわからないけど……。

 

「よし。引き続き、我々は我々の任務を実行しようか」

「了解です」

「はいよ」

 

===============

 

『おい、13班。前方200mに2名、生存者確認だ』

「うん。こっちからも見えてるよ」

 

 確かに遠くに…………あの……ミロク?遠くからでも分かるぐらいに不良オーラ丸出しなんだけど。……まぁ、生存者は生存者だよな……。仕方ないので接触を……

 

「……ッ」

 

 いっつ……。小さな頭痛が響いた。まるで、この先の状況が分かっているかのように。……まぁ、大体わかるんだけど……でも、……うん、生存者だからね……。

 

「……えーっと、おーい、すみませーん」

 

 俺達は近づきながら2人に呼びかける。……こっちの声を聞くや否や、いきなり立ち上がると、こっちにやってきた。……はぁ、悪い予感的中だよ……。

 

「あっれ~?またまた生き残りはっけぇ~ん!」

「やったぜ!これでノルマ達成~!!」

 

 ……あっれ、予想を裏切られたような的中したような……、いや、ちょっと待て。

 

「……ノルマって、どういうことだよ?」

「うっさいな~。とりあえず、食い物と飲み物と後一服できるヤツ、全部出してみ?」

 

 ……えー……これって……カツアゲ?

 

「おいカツアゲだぜおっさん」

「あぁカツアゲだなジョウト」

 

 で何で二人とも平然としてんだよおかしいだろ!!!カツアゲだぞカツアゲ!!

 

「カツアゲだろ?ある意味すげぇな。こんなちっぽけなところでカツアゲだとか」

「何でジョウトはカツアゲを平然とネタにできてんだよ!」

「はぁ?カツアゲだぜ?最近見てないからなぁ~」

 

 か、完全にバカにしてるぞこいつ……!俺はチラリと2人組の様子を確認……あー…さっさとしろ、待ちきれないんだよオーラ丸出しですね……。

 

「そういえばロナ?君はやきそばパン持っていたよな?」

「は?」

「お、それがいいな。お前だって平和的にいきたいだろ?」

 

 お前らの方がカツアゲだよ!!俺は心の中で突っ込んだ……が、2人の言うことに一理あるけど……。

 

「やだよ命の源のやきそばパン渡すなんて。最後の一個ですし。それ以前に何でこういうときだけ俺に被害喰らうんですか。というか二人も何かあるはずでしょ?」

「すまんが、あまり身体に悪いものは食べない飲まない吸わないがモットーだからおじさんは」

 

 うわぁ~……セリフはかっこいんだけど、すっげぇムカツク。状況に応じた判断でかっこよくもかっこ悪くも聞こえるってことを何故か身に染みた。

 

「俺はねぇよ。つか、なんでこいつらにハイそうですかって渡さなくちゃなんないんだよ」

 

 だったらなんで俺に「やきそばパン渡せ」って言うんだよ!!ジコ中かお前は!!

 

「ドヤァ」

「SEを自分で言うなアホジョウト!!……とにかく!俺は渡しません!!」

「ここまでコケにされたのは……」

「え?」

 

 お前らだゴルアアアァァァァァ!!!と言う怒声が聞こえたかと思うと……うわ!?『フレイム』!?

 

「あぁくそ!!『突壊の氷刃(フリーズ)』!!」

 

 俺は本能的に『フリーズ』を発射―――

 

 瞬間、俺の脳裏に『あの出来事』がフラッシュバックする。

 

 意識を失う瞬間、俺は一度に炎と氷を発射したような気がする。

 そして……起こったのは爆発……

 

 ……これって……まずくね?

 

 ………という予想を大きく裏切り、何故か俺が発射した『フリーズ』が打ち勝ってギャルに直撃。

 …えーっと…

 

 …

 ……

 ………

 …………

 

 ……………悪いね☆

 

「ッテンメー!!宣戦布告と見なしたぞゴラァ!!」

 

 うわっ!?今度はヤンキーの方かよ!?しかも物騒な刀持ちやがって!!

 でも、なんか読めるな攻撃が。

 俺はとりあえず直感的にしゃがんで横斬りを避ける……あと、ついでに軽く蹴飛ばして……

 

 ドムンッ!!

 

 ……え?

 

 ……あれ?俺、軽く蹴飛ばしたはずなのに、なんか威力上がってね?

 

「……ジョウト、お前か」

「蹴ったのはお前だ」

「いやそれはそうだけどさ、だからってこっそり『アタックゲイン』かけてんじゃねぇよ」

「ドヤァ」

「ヒカイさんこいつぶん殴っていいですか?」

「そんなことよりいいのか?あのボーイ&ガールがロナをにらんでいるぞ?」

 

 ………

 …………

 

 なんで被害全部俺が喰らうんだっつーの!!!

 

「ゲッホ……つか、よく見たらそのダッセー腕章……ムラクモどもだろうが」

「はは……道理でこんなにコケにされたわけねぇ!!」

 

 あーやべぇ……危険すぎるなこれ。

 ……思わず二人を見……ってあれ?二人は…………遠くにいるし。

 

「オレ、悪くないんで」

「すべての元凶はロナだからな」

 

 ………

 …………

 ……………

 

「……これからすること全部、ただの八つ当たりだから」

 

===============

 

 ……で?あの後?

 

 ……あの後俺一人で二人相手に、何故か余裕で勝ちましたとさ。……実力からしてあんまりなさそうだったけど。

 

「……畜生、余計な体力消費した……肉体的にも、精神的にも」

「やっぱ避難してよかったなオッサン」

「だな」

 

 ……アンタらだよすべての元凶は!!!

 

 と言う、ツッコミが心の中の俺だけという漫才をやりつつも奥へ進んでいく……

 

 …

 ……

 ………

 …………

 

 ……………なんか、臭わね?

 

「……確かに」

「……妙に臭うぜ……ちょうどそのあたりからだ」

 

 ジョウトはある方向を指差す。……うん、ゴミ箱だね。……確かに……うん。しかもクローゼットよろしくガタガタ音が鳴ってるし。

 

「じゃあ」

「俺はいかないっすよ。乙女の心が傷つくので」

 

 こういうときだけ女の身体って便利だな。ずっと不便ばっかりだったけど。つか触りたくもないし。

 

「……いいか若者たち。こういうのは若い者が先陣を切って開けるべきなんだ」

「いや、こういうのは年長者がやるべきですよ。なぁジョウト」

「その通りだ」

 

 イヤッフゥ。気が合うねぇ俺達。……あ、やっべ、ちょっとヒカイさん震えているよ。いくらなんでもいじりすぎたかな……?

 いや、今までの仕打ちのしっぺ返しだ。たまには……ねぇ?

 

「……誰も行きたくないなら……」

「逝くんですよね?ヒカイさん」

「逝くんだよな?オッサン?」

「……公平に、ジャンケン……だ!」

 

 ……出た、苦し紛れの運の一発勝負。……悪いけど、身に覚えのあるじゃんけんで負けたことはあんまりないから、俺が勝つかもねぇ。

 

「……んじゃ、さいしょはグーで行きますよ。……あ、その後俺チョキだそうかな?」

「んじゃあオレもチョキで」

「あーでもチョキだと俺大体勝つんだよなぁ……ハンデでグーにしようかな?」

「お前がハンデとかおかしいだろ。やるなら完膚なきまで、宣伝通りにチョキだ」

 

 ……ヒカイさん汗かいてるように見えてきた。やっべぇたまにはいじるの楽しい。でも、やりすぎ注意だけどね。

 ……そんなことしたら絶賛都庁の外の以下略喰らわせられるからな。

 

「……さいしょはグー」

 

 ジャンケン、ポンッ!!

 

「「「…………」」」

 

 ……宣伝通り、俺がチョキ、ジョウトもチョキ、……ヒカイさんはパーだな。

 

「はい、じゃあお願いします」

「……少しいいか?」

「言い出しっぺの法則だぜ?オッサン」

「……後で二人とも都庁の広場で」

「「はい行ってきます!!!」」

 

 チクショウ!!こういうときだけその権利使いやがって!!……しかもトランシーバー通してミロクが「何やってんだよお前ら」って小言で聞こえてきたし!!

 俺はジョウトと共にゴミ箱に前進。……よし、開けるぞ、開けるぞ……。おっと、逃げようとしたジョウトの右腕を取って一緒にゴミ箱のふたへ。……すげぇ臭うよこれ……

 

「……いくぞ」

「おう」

 

 せーの!で俺らはふたを開け、全力で退避っ!!!反動でゴミ箱倒れたけど気にしない!!人出てきたからよしとする!!

 

「ヒィッ!!すみません!もう財産はこのゴミ箱だけ……って、あれ?」

「……えーっと、ムラクモ13班です。……えーっと、俺達、都庁を基地として、救助したり……」

「……た、助かった!!イヤッホォォォウ!!これでこの場からでれるぅ!!さらば!!我が家90リットルのマイホーム!!待ってろよ、屋根と寝床のある生活~っ!!」ピュ~ン

 

 ……あ、あいつ行っちゃったぞ?……すげぇ臭い漂わせて。

 

『ゲェ!?あのゴミ男、こっちに来るのかよ!?』

『ナビ、一番強力な消臭剤を頼むわね』

『え、あ、はい……』

 

 ……確実にナツメさんしわ寄せたな。その光景が容易に思い浮かんでくる。……って、それよりも……

 

「……マモノやあの人達に襲われないですかね?あの人」

「あの臭いならどうとでもなるだろうな」

 

 ひでぇ。……でも、確かにそんな気がしてならない。

 

「……お疲れ様」

「どっちの意味だよ」

 

 そうして、俺達はまた樹海の奥へと進む―――。きっと、いるはずの生存者を探して。

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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16Sz 連携と過去と頭痛

こんにちはー15Szからの連投です。

というのも、こちらも15Szに搭載予定でしたが、思いのほか長く書きすぎて半分に分けざるを得なかったのです。ある意味、15Szの後半部分ですね。

さてさて、それでは16Sz、どうぞ!!


「しかし……本当にドラゴン多いな……」

 

 俺は『スモウドラグ』って言う、黄色のトリケラトプスみたいなドラゴンにとどめを刺して、一息つきながらそう言った。その言葉に反応してか、ジョウトが嫌味そうにボソリとつぶやいた。

 

「今ガトウのおっさんたちの隊は休養中って聞いたぜ。……たっく、そんな暇あるんかねぇ」

「……けど、都庁を取り戻せたのはガトウさん達のおかげだよ。それに、あのウォークライは並じゃなかった。だから、必然的に消耗も激しかったんだよ」

 

 ただ、前に都庁でキカワさんを見た限り、体力自体は問題なさげだった。ただ単に有休みたいなものだろう。…まぁ、それで俺は怒るのかって言うと、全く違う。むしろ感謝している。都庁を取り戻したのは、大半がガトウさん達の隊の筈だからね。

 

「……ん?」

 

 突然、右腕に違和感が生じた。……いや、この現象……

 

「……戦闘?」

「何?」

「……多分、あっち」

 

 俺はその方向だと思った方に指を差して、急ぎ始めた。……足場が悪い。……間に合ってほしい。俺はそう思いながら樹海を進んでいく。

 ……そして、見えた!あそこだ!二人の女性……に、スモウドラグか!

 

「くっ……!ジョウト!ヒカイさん!先手取ってきます!!」

「了解だ!」

 

 そう言って俺は短刀を装備して突撃、相手は今油断している……!!

 

「『タランテラ』!!」

 

 横から一直線に、マナを麻痺性のある特殊なマナに、自分でも驚くぐらいに簡単に扱うように変換して一突き。

 突然の横槍に驚いたスモウドラグはこちらを振り返るや、突き飛ばした。

 

「ぐあっ!!」

 

 いっつ……!くっそ、いつでも痛いんだよドラゴンの攻撃……!でも、そこから出る恐怖はあまり感じられなくなっていた。

 今までの経験が、流れ込んでいたからかもしれない…!

 

「チッ、やっぱこいつは危険か……なら、コード強化、DEF……start!!」

 

 ジョウトも危険を察して、『ディフェンスゲイン』を掛けてくれた。俺が吹っ飛んでいる隙に、ヒカイさんはもうもぐりこんでいた。

 

「うオラッ!!」

 

 顔面へ、強烈な一撃。能力をあまり使ってない筈なのに、その威力は重戦車と言わんばかりの一撃だ。

 ……でも、こいつの攻撃が終わってないのは、分かる……!

 

「ヒカイさんっ!!」

「分かってる!!」

 

 ヒカイさんが防御を固めた直後、スモウドラグが一直線に突撃してきた。桁違いの威力にヒカイさんは吹き飛ばされる……!

 

「くっ!『治療の奇跡(キュア)』!」

 

 とっさに俺は『キュア』を発動して、ヒカイさんの傷を治す。……くっそ、こいつの攻撃は桁違いすぎる……!!

 その時だ、横で、赤髪のサイドテールの女の子が、こちらに気が引いているスモウドラグに攻撃するように手を突き出していた。……まさか……!!

 

「『空落の衝雷(エレキ)』!!」

 

 その女の子がスキルを発する。スモウドラグの上空から、一直線に紫の電撃が落とされる。突然の攻撃にスモウドラグは驚いて動きを止めた。……いや、こっちにとってはチャンスだ!!

 

「ジョウト!!」

「あぁ!!しくるなよ!!」

「分かってる!!『アサシンアイズ』!!」

 

 素早く俺はマナを右目と短刀に集中。……そして、脆そうな箇所が数か所。一番いけそうなのは……!

 

「ここだぁ!!!」

 

 俺は素早く、スモウドラグの背中まで飛んで突き刺す。急所に入ったのか、大きく雄叫びを上げるスモウドラグ。……これなら、入りそうだ!!

 

「今だ!!」

「ふん!!コード介入、HACK……go!」

 

 そこにジョウトがすかさず、電子でできたような鞭を振るって『ハッキングワン』を決める。……一瞬、スモウドラグの動きが止まり、周囲の温度が冷えた感じがする。……よし、ハッキング成功だな…!

 

 そう。ハッカーの本領は相手への介入。これが決まれば後は自由自在に動かせる、と言っても過言じゃない。さっき習得したばかりだけどな。

 

 そして、その本領がこれだ。

 

「コード改変、POW…start!!」

 

 ジョウトが右手を突き出して小さなマナを飛ばす。だが、今のコイツにとっては痛手だ。ハッキングされ、さらに一時的とはいえ、身体能力を低下させると同時に攻撃もできる『ロストパワー.X』。……これが、ハッカーの力だよな。

 

「おっさん!」

「了解した!!」

 

 ヒカイさんが突撃、迷いもなしに突撃するそれはデストロイヤーらしい動き。そして、俺達の中で一番戦闘経験があってもおかしくないからこそできる動き……!

 

「『正拳突き』!!」

 

 一直線に突き出された、マナをこめられた一撃は吹き飛ばすのには十分すぎる威力だ。スモウドラグは数m吹き飛ばされると、壁に激突。そのままゆっくりと倒れ、動かなくなった。

 

「ふぅ……なんとかなったか……二人とも無事かね?」

「はいこっちは」

「オレは無傷。……お疲れさんっと」

 

 ジョウトは俺とヒカイさんに『メディス』を投げ渡しながらそういった。

 ……おっと、忘れるところだった。そのサイドテールの女の子がこっちにやってきた。

 

「あ、あの…ありがとうございました!ひとりじゃ、たぶんムリでした……」

「ううん。無事でよかったと思う。……けど、今の『エレキ』って……」

 

 そう。ドラゴンすらひるませたそれはS級としか思えない威力だ。……でも、候補生の中に、この子はいなかったはずなのに……。

 

「……えっと、はい。私S級らしいんです。でも……いろいろあって……」

「まぁ、しょうがないよね。……あ、こっちもお礼言わなくちゃ。……ありがとうございます。その人を助けてくれて」

「いえいえ。わたしにしかできないことだったので。……あ!名前言い忘れてました!わたし、雨瀬(うのせ)アオイっていいます。何かお礼を―――」

「雨瀬……アオイ……うっ……!」

 

 つっ……くそっ!!なんだってんだよこの頭の痛み!!

 前以上に、縛り付けられるような痛みは何かを無理やり思い出そうとしているようだった。

 ……あぁちくしょう!!どうせ記憶ないんだし、今急に思い出さなくていいだろう!!俺は自分に無理やりそう言い聞かせて、いつの間にか座り込んでいたらしく、ゆっくり立ち上がった。

 

「……おいロナ。何だ今の」

「あ、あぁ……気にしないでよ。発作だよ発作」

 

 と、ジョウトの少し焦っているような声に適当に返事をして大丈夫な事を伝えた。……なんだかんだで、ジョウトはジョウトらしく心配してくれたらしいな……。後で感謝しとこ。

 あと、ヒカイさんも心配していたらしい。俺は黙って手を振って無事な事をちゃんと伝えた。

 

 ……そして、その間にいつの間にか通信があったらしい。……無機質なキーボードをたたくような音と、それを完了したような音がトランシーバー越しに聞こえたからだ。

 

『―――サーチ完了。声紋、虹彩が99.8%一致…第74回ムラクモ選抜試験の候補者だ』

「……あ、やっぱり?……でも、74回って……」

 

 俺らって、いつだ……?俺はヒカイさんの方を振り返った。ヒカイさんも感づいていたらしく、「ふむ」と一声上げて考え込んだ。

 

「……少なくとも、我々の回ではないことは確かだ。……このお嬢さんは見かけなかったからな」

 

 なるほどな……つまり、ある意味先輩ってところか。……え?でも候補者ってことは……まさか、

 

「……試験、受けなかったの?」

「え?あ、あははは……ちょっといろいろあって……」

 

 ……何か言いたくない理由でもあったのかな?アオイは。……まぁ、プライバシーに介入するのもどうかと思うし、この話は切り上げとくか。俺は黙ってうなずいて、大丈夫って合図をした。

 と、どうやら俺ら抜きでミロクとナツメさんが相談していたらしく、突然ナツメさんが通信で俺らに指示を飛ばしてきた。

 

『―――13班、聞こえる?今からその子を連れて帰還しなさい。私はその子を迎える準備をしておくわ。……ナビ、後は頼むわね』

 

 ……まるで、掌が返ったようにナツメさんはそう言って通信を切った。……やっぱり、どうもこの人は好きになれない。

 

 ……まるで、道具として扱っているかのように。

 

「……ん?なんだ?」

 

 突然、ヒカイさんがある方向を見ながらそう言った。俺らも思わず警戒する。

 樹海から来たのは……大男と……ネコミミパーカーの女の人だ。

 

 ……あれ?どこかで見たような……どこでだ?

 そう考えにふける俺を置いて行って、話は進んでいく。

 

「ふ~ん……こいつら結構やるじゃん。イノとグチが手抜きしたって訳じゃなさそうだね」

 

 大男はネコミミ女の言葉に黙ってうなずいて、俺達を見た。

 

「……さっきはウチの仲間が迷惑かけたな」

「……いんや、本当に迷惑かけたのはこいつだと思うがな」

 

 ……ジョウト後でぶん殴ってやろうか。

 

「先に仕掛けたのはウチの仲間だ。それに、カツアゲの件はこっちの統制ミスだ。今はウチの大将がガッツリ説教している」

「……あはは、ほどほどにしてくださいよ」

 

 まぁ、イノとグチだっけ。あえて同情しとこっと。俺だって説教喰らったからね。ヒカイさんに。

 だけど、無表情な眼で大男は俺の方を見ると、こういった。

 

「……だが、渋谷は俺たちのシマだ。これ以上、介入するつもりなら容赦はしない」

「特にウチらはムラクモってやつが大っきらいだからね~」

 

 そうネコミミ女が告げると、大男は黙って後ろを向いて、元来た道を歩いていく……と、同時にまた言った。

 

「今回は警告だけにしておく。……分かったらさっさと消えろ」

「……分かりました」

 

 ……確かに、迂闊に触れてはいけない問題だと思う……けど、どこか、ひっかかるような……。

 そう思ったけど、でも、さわらぬ神にたたりなしっていうし……まぁ、入らなきゃいいかな。

 

「……ふーん」

 

 ……あれ?何でネコミミ女がこっち見てるんだろ……。

 

「なぁ~んにも覚えてないんだ。まぁいいけど。じゃあね~」

 

 そう言って元気に帰って行った。……なんにも覚えてない……?どういうこと……

 

「あ」

 

 ……そういや、『あの時』、誰かに助けてもらったはずなんだっけ。……でも、そのあれが一向に見つからなくって……

 

「まさか……あの二人が助けてくれたのか……?」

「んなアホな。渋谷をシマっていうほどの奴らがだぜ?」

「……う~ん……でも、今のを考えるとつじつまが合わないか?ジョウト」

「……言われてみりゃ確かにな」

『おい13班。お取込み中悪いが、一旦都庁へ帰還してくれよ』

 

 そうミロクは言って、通信を切った。でも、俺らは俺らで考えるべきことがあった。

 

「……ヒカイさん。……あなたも、ですよね?」

「うむ。まぁな……だが、次に会ったら恐らく敵だ。恐らくな。……それに、やるべきことがあるだろう?」

 

 あ、そうか。この二人を都庁まで無事送るんだっけ。

 

「よっし。じゃあ、帰りましょうか」

 

 ま、つじつまがあっただけ良しとしようか。それに、やるべきことがあるし。

 ……そして、また会えたら、お礼を言いたい。ヒカイさんが敵同士って言ってたけど、でも、悪い人じゃない筈だよな―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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16.5Sz 過去の代償

どうもエマコです。今回は外伝としてあの二人の過去を少し。

そのため、今回は外伝と言う位置づけでこうなりました。こういったクールな物語は作者は好きですので少々気合入れて書いたような気がします。

ではでは、16.5Sz、どうぞ!


「はぁ……疲れた」

 

 俺達が帰ってきたのは夕方のころだ。太陽が沈みかけ、月が現れそうなこんな時間に。

 

「……二人は休んでいてくれ。私はミヤのところへ行って素材を渡してくる。……お疲れさん。先に休んでくれよ」

「え、……あぁ、すみません。先に休ませてもらいます」

 

 そう言って俺らは先に自室へと戻った。どことなくちゃんとした部屋が落ち着かせてくれる。俺は近くの椅子に座ってゆっくり息をついた。ジョウトは少し遠くにある椅子へと。

 ……あぁ。アオイはケガしているから簡易医務室に行ったところだ。……でも、なんだ、これ……。

 アオイって言葉を紡ぐたびに、俺の心は酷い寒気に襲われていた。……もしかして、ナガレさんと同じ条件なのか……?

 

 ……いや、考えるのは早い気がする。それに疲れたし……。寝てスッキリしたいところだな………。

 

「しっかし、初日からいきなりハードなことやらかしやがってあのバァさんよぉ。オレらだって疲れていたってのに」

「はは……まぁ、仕方ないよ。前の作戦じゃ俺らはあくまでも後方支援だけだったんだし……」

「つまりあれか。お前のせいで俺らは休みなしか」

「……ごめんなさい」

 

 うう、本当に申し訳ないな……。二人の休みを奪ったようでさ……。もう単独行動は慎みたいな……。

 

「……ん、お前のマントほつれてないか?」

 

 マジ?俺はジョウトが指差した方のマントの端をつまみあげて見てみる。……見事に端から中へと少し切れ目があるな。

 

「……あー本当だ。樹海に引っかかったりドラゴンと戦ったせいかな?」

 

 しかしよく気づいたなジョウト。……まぁ、気になる程度じゃないから別にいいけどさ。

 

「……マント着て寝てるのかお前?」

「……まぁ今日はそうだったな……取り忘れてたし。ま、今日は取って寝ようと思う」

「あっそ」

 

 つれない顔だなお前。……まさか、縫ってくれるのかな。そうじゃなきゃ些細なこのほつれは見逃せないだろ。

 

「そうだなー。今日はマントをここに置いて寝ーようっと。……腹も減った。ジョウト、なんかない?」

 

 俺はマントを取りながらジョウトにそう言う。……ちなみに前者は棒読みだけど、後者は本当だ。

 ジョウトは、ねぇよ。とだけ言うとゆっくり、天井を見上げる。俺もゆっくり息をついて、上を見た。

 

 ……結局、あの子のお母さんは見つからなかったから、ある意味失敗かもしれない。大丈夫かなあの子……俺はそう思って、でも、まぶたがどんどんと重くなってきて……

 もういいや、ねよ……俺はゆっくり立ち上がって自分のベットへ入る。……やっべぇ。本当に寝心地良いなこれ……むにゅ……おやすみ~………。

 

===============

 

 ガチャ。

 

 ヒカイが三人分の弁当を持って部屋へ帰ってくる。

 

「帰ったぞ……って、ジョウト?お前……」

「バッ、帰って来たなら帰って来たって言えよオッサン」

 

 思わず大声を上げそうになったジョウトだが、ある人物の事を思い出して言葉を飲んで小さな声で言った。そのジョウトだが、今はロナのマントのほつれを直しているようだった。

 

「いや、帰ってきたのはほんの数秒にも満たないんだが、まぁいい。……ところで、ジョウト……」

「アホ娘はそっちでもう寝てる。……んで、オレは見ての通りだ。……文句あるか」

「ないさ」

 

 とヒカイはそう言うとジョウトの近くに弁当を置き、遠くの丸いテーブルの近くにあった椅子に座って弁当を一つ開ける。「いただきます」と一言言うと食べ始める。ジョウトは黙々と作業を行う。少しの時間、二人は何も話さずに自分の動きを進めるだけであった。

 ふと、ヒカイはジョウトに対してこういう。

 

「……悔やんでいるのか」

「あ?」

「……はいかいいえだけでいい。……悔やんでいるのか?」

「……ちげぇな。多分」

 

 ジョウトは手を止め、だがヒカイの方を見ずにそう告げる。ゆっくり、マントの端を見ながらさらに言う。

 

「これはオレが間違えて『気づいちまった』からやってるだけだ。どうも、本能的にってところか」

「それは、はいとは言わないのかね?」

「悔やんでいる意味じゃねぇよ。言葉のまんまだ……」

 

 けど、とジョウトはその言葉を一度切る。マントの端をなで、他にほつれがないか調べる。ジョウトは続けた。

 

「……どことなく、『アイツ』に似ちまってんだよ」

「ふむ、そうなのかね」

「……それなりの付き合いだったオレが見間違うはずがねぇよ。ただ、アイツと似ている気がするだけだ。目のあたりとかな」

「……なるほどな」

 

 そう言い、ジョウトはまたほつれを見つけたので近くの裁縫セットから針を取り出してまた縫い始める。遠くから見ても分かる、あまりにも器用な手つきに、ヒカイは感心していた。

 

「しかし、キミがそんなことをするなんて最初は驚いたよ」

「あぁ。アイツも驚いてたな。お前がそんなことできんのかって。それで一度中断しかけたけど、まぁやめる理由もねぇし続けたさ」

「……その続きが、今に至るのか」

「はっ……ザマァないね。このオレがここまで続けてんなんてよ」

 

 ジョウトは自分をあざ笑うように笑い、針を縫い終える。……よく見ないと、気づかないぐらいに精密に縫われたソレは達人芸のように思えてくる。とヒカイはそう思う。

 

「けど、アイツのおかげでオレはなんとなく生きる意味が見えてきた気がすんだ。こんなクッソ忌々しいオレのこれでも……な」

 

 ジョウトは右手をギュッと握りしめ、決意するように左手で叩いた。

 

「ま、オレの辛気臭ぇ話はおしまいだ。オッサンだってこの結末を見たんだろうが。……これ以上、そり返してもらいたくないね。……オッサンだってそうだろ?」

「……まぁね。私だって、過去の事はあまり見たくないさ」

「オレは見たくないんじゃなくって、逃げてるだけだと思うね」

「………」

「………」

 

 二人の間に沈黙が訪れる。重苦しいその間は二人のそれぞれの回想を思い出すのに十分な時間だったかもしれない。

 やがてジョウトが弁当のフタを開けるのを機に、ヒカイは席を立って外に出る。ガチャリと音がして、一度も向いていないジョウトでも、ヒカイは外に出たって分かる音だ。

 

「………」

 

 弁当を食べ、ふと、マントに目が映る。そして、一旦手を止めると、なるべくカスがマントの方へ飛び散らないように一度、丁寧に折りたたんでから机の端へ置く。誰一人、自分しか聞いてない部屋でつぶやいた。

 

「………何か、隠してるのか、アンタらは……」

 

 

 そして、外の廊下で月を眺めていたヒカイ。

 今夜は満月だ。

 そして……ヒカイは満月が苦手だった。理由は、本人にしか分からない。

 

「………」

 

『オレは見たくないんじゃなくって、逃げてるだけだと思うね』

 

「………逃げてるだけ………か」

 

 そうかもしれんな。とヒカイはそうつぶやき、だが、月に誓いを立てるように手をゆっくりかざす。

 

「……そのために、今こうして縛られ、どうするか考えている。……過去、現在、そして未来と……な」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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17Sz 二刀流対二重能力

どうもこんにちは!これを書いた日、そしてその後の日は本当に暑いですね……熱中症には気を付けてください。

なお、今回の話では半分オリキャラが出ます。どんな人なのかは実際に読んでみてくれるといいです。

では、17Sz、どうぞ。


「……一体、どういう理由でこんなことしなくちゃいけないんだ……」

 

 俺はまた、樹海の中を歩きながらそう言った。近くで、ゆっくりとしたため息が聞こえてくる。ヒカイさんだ。

 

「……ナツメ総長のソレの意味もある。……確かに、今は少しばかりおとなしくしてもらわなくちゃいけないからな」

「でも……」

「……人とは争いたくない……か?……まぁその考えは悪くはない。もし戦うことになったら少しばかり下がっててもいいからな?」

「……はい」

 

 でも、納得いかねぇよこんなこと!俺は拳を握ってそう思った。

 

 くっそ、なんで今の時代、人が人と戦わなくちゃいけないんだよ。

 

 ……俺は、ゆっくり、数時間前の出来事を思い出していた―――

 

=================

 

「……は?」

 

 改修したばかりの研究室。俺達は次の任務の説明をうけていたけど……

 ……俺は今、ナツメさんから言われた言葉に戸惑いと憤りを感じていた。

 

「……前回の任務で『SKY』と言う組織と接触したでしょう?」

「……そうですけど、でも……」

「彼らはこの有事の東京で人に危害を加えている……そうじゃない?」

「いや、そうだったんですけど、あれは……」

「すべてを鵜呑みするのかしら?ロナ」

 

 ……いや、でも全部が全部、悪い人たちじゃない筈なのに。俺は否定したかったけど、ナツメさんの言葉も確か過ぎて反感出来なかった。ナツメさんは続ける。

 

「今、人類は一つになって協力すべき……それを阻害する者は排除すべきだと思うの」

「……待ってくださいよ!!彼らだって、襲いたくて襲ってるわけじゃないんですって!!元はと言えば……」

 

 …え?

 ……元はと言えば?

 ………なんだよ?

 俺は自分の右手を思わず見てみる。……まるで、ナツメさんが悪いんだって言わんばかりに人差し指を突き出そうとしていたところだった。

 

 ……ナツメさん……何かあったのか?

 

「……元はと言えば?何かしらロナ」

「……いえ、なんでもありません。続けてください」

 

 ……くそっ……なんだってんだよ。俺は俺自身に苛立ち、でもこれ以上は分からなくって、黙っていた。

 ……だめだ、次の言葉が容易に浮かんでくる。……あぁくそっ、これで当たったらまじでおかしいだろう……。

 

「……アナタ達には再び渋谷に出向いて、『SKY』を討伐してもらいたいの」

 

 …

 ……

 ………予感的中。しかも、討伐だとか……そんなの、おかしいだろ。

 

「……なんで討伐しなくちゃいけねぇんだよ」

 

 今まで沈黙を貫いていたジョウトが、俺の気持ちを弁解するようにそう答える。確かにそうだ。俺だって、殺したくない。流石にマモノと人間とじゃ、全く違う。

 

「……でも、このまま放っとけば、さらなる犠牲が出る。……こうした状況で、簡単に人を裏切る憂いを除外しておきたいのよ」

「……それって、ただのジコ中だろ」

 

 思わず、俺の心の中の声が出てしまう。空気が少し凍る。

 あの人達はあの人達なりに共存しているのが、なんとなくわかるんだ。それで協力できないなんて、そんなの、間違ってる。

 ……でも、あの人たちは俺ら……ムラクモの事を嫌いと言っていた。……まるで、ナツメさんを嫌ってるようにも思える。

 ……少しして、ナツメさんがゆっくり言葉を紡いだ。

 

「……ジコ中。……いいえ。これは今のみんなの事を思っての事よ。……あなたに責任を取れるの?」

「……それは……」

「ロナ、もういい。……任務を全うしよう。こうなったからには、やるしかない」

 

 ……ヒカイさんは、全部、任務と思って仕方なく思うんだろ。……でも、なんとなくわかっていた。ヒカイさんだってそんなこと、本当はしたくないって思っているはずだから。……そして、俺にはほとんどできない、責任を負うことから少し遠ざけてくれた。

 ……ほんと、助かった。でも……内心では許せなかったし、まだ反論したかった。でも……

 ……俺も、呆れたのかもしれない。それ以上は何も言わなかったし、ほとんど聞き流していた。

 

 ………でも、それ以前に、俺はまるで「分かっている」ような発言をしていた。それがある意味、錘にもなってたのかもしれない―――

 

================

 

 ……どうやらムラクモとSKYって相当仲が悪いらしい。

 というのも、俺達が、いつの間にか入っていたSKYのナワバリに入って来るや否や、襲い掛かってきて、でも、俺は戦った。……説得以前の問題だった。こっちの話を聞くよりも前に思いっきり。

 ……武器は引き抜けなかった。間違って殺すのが怖くて。相手は得物を持ってたけど、運がいいのか悪いのか、動きがなんとなく大ぶりな気がするし、寧ろ手加減しながら実力差を見せつけるだけで逃げて行ってくれた。

 ……これが、強者ゆえの……か。

 

『……いや、だからって、全部……』

『でも、仕方ないよ。……全て、見た目で分かってしまうから……』

 

「いっつ……」

 

 俺は思わぬ頭痛に顔をしかめた。……何か、過去の事を思い出しそうな気がしたからだろうか。その動きを見たのか、ヒカイさんとジョウトは立ち止ってこっちを見た。

 

「……辛いか?」

 

 ヒカイさんがそう訊ねてくるが、俺は黙って首を横に振った。

 

「ま、いつもの発作じゃね?」

 

 ジョウトがそう言って、さっさと前へ行こうぜって合図を送る。

 ……二人だって辛いはずなのにさ。人同士でやり合うのって。

 今までの動きを見ればわかる。ヒカイさんは素手で応戦してたし、ジョウトは『ディフェンスゲイン』をいつもかけてくれて。

 ……だから、これ以上は迷惑かけたくなかった。俺はそのまま、一緒についていく。

 

 

 ………少しして、大きく空が見える場所にたどり着いた。

 ……そして、遠くに……大男とネコ女。

 何も包み隠さず、二人に近づく、やっぱりか、こっちを見るや、戦闘態勢を整えてきたようだ。空気がピリピリする。

 

「……やはり、来てしまったか。……警告はしたはずだがな」

「……いえ、多分、違います」

 

 俺はとっさに大男さんの話を遮るように言う。

 ……俺だって、無駄な争いはしたくないから。

 

「……俺達は、お礼を言いに来ただけです」

「……お礼?」

 

 ネコ女さんが興味深げにこっちを見てくる。……二人も同意見だったのか、こっちを驚いて見ただけで、それ以上は何も言わなかった。

 ……本当に、この二人が仲間でよかった。俺は心からそう思いながら、大男さんとネコ女さんに告げた。

 

「……多分、都庁で俺達を助けてくれたのは二人ですよね。……ありがとうございました。おかげで、今こうして二人に会っています」

 

 ……通信通して、ミロクの息をのむ音が聞こえてきたが、気にしない。……SKYの二人も、沈黙してしまった。

 

「……だから、……その、お願い……というわけではないんですが、あの……

 

 

 

「おーいお二人さん、ちょいと誰か一体黙らせとくわ」

 

 

 …え?

 

 瞬間、俺の身体が防衛を呼びかけてきた。

 

 殺気、突撃、背後、刺突、回避、不可、逸らせ、逸らせ、逸らせ逸らせ逸らせ逸ら―――!!

 

 俺は思わず、瞬間的に短刀を取り出して、ほぼヤケクソ気味に背後を向いて思いっきり振り上げた―――

 ガギン!!と、金属と金属がぶつかりあう音が聞こえ、それがはじき返したことを意味していた。

 そして見えたのは、水色のフードをかぶった、人物。

 目はその人物の長い髪の毛で見えない。でも、少なくとも、男性なのは確かだ。……そして、

 

 本当に、俺を殺しにかかってきた―――!!

 

「……やるじゃねぇか嬢ちゃん。……だが、宣戦布告ってことで」

「……!!」

 

 思わず俺は体ごと飛び退く、そしてコンマ数秒。俺が本来いたはずの所に短刀の軌跡が走った。

 

 ヤバイ、こいつ、強い……

 

 全身にやな汗が噴き出る。恐らく、俺じゃなかったら今頃致命傷を喰らっていたところだろう。

 

「おーいネコちゃん、そしてオカン。この女は俺がやっとくから、そっち頼むぜ」

「……あまり殺すなよ。殺したらそれはそれで面倒だからな」

「へいへい。……二度とこっちに来れなくなるようなお土産は渡しとくけどなぁっ!!!」

 

 そう言ってこっちに突撃してくる―――。

 ダメだ、思考にふけってる暇はない。……本能的にいかなくちゃ、こっちが殺される―――!!

 

 

==========

 

 

 刃と刃がぶつかり合う。

 ロナは防衛的に。

 そして、フードの男は殺人的に。

 

「……さすがに、ムラクモ名乗るだけあるな。だがっ!!」

 

 刃を刃に押しつけつつも、それを軸とした後ろ回し蹴りでロナの腹へ一発。

 だがそれをロナは左腕で防御する。

 威力のつけた蹴りととっさの防御。勝つのは当然、その蹴りで、ロナを防御ごと蹴り飛ばした。

 数m転がり、咳き込みながら受け身を取るロナはとっさに相手の方を見る。……まだ突撃してくる。両手に一本ずつ、計二本の短刀を携え、殺しに。

 

「こうなったら……『焦撃の灯火(フレイム)』!!」

 

 ロナは防戦だけだときついと感じたのか、足元に『フレイム』を飛ばし、火の壁を発生させる。

 小さな防壁は彼の動きを止めるのには十分な壁。その行動に驚いたのか、一度急ブレーキをかけて様子を見る。

 

「へぇ。ただの暗殺者(トリックスター)と思いきや、超能力者(サイキック)でもあったんだなお前……」

 

 けどな。と彼はつぶやくと―――

 

 短刀を炎の壁へと振りかざし、一瞬だけ切れ目を発生させた。

 そこには、彼女はいなかった。

 だが焦らず、彼は縦一文字に振って、攻撃する。

 途端に手ごたえ。だが、肉を切るような感覚ではない。鉄と鉄がぶつかり合う感覚だ。

 そこか。彼はもう一本の短刀を、動きを止めた短刀の下へと突出し……

 

「『無垢たる魔撃(エナジーピラー)』……!!」

 

 今まさに攻撃を仕掛けてきた手を避けるように突き出された手が、彼に向かってロナの超能力が炸裂する。

 防御が間に合わない。そう彼は思った。

 ゴムにでも弾かれたように吹き飛ぶ。だが、手加減しているのか、軽く腹を殴られた程度の、打撲に似た痛みだけで済んだ。

 

「……」

 

 炎は吹き飛び、そこには大きく息をついているロナがいた。

 ロナは死んでいないことに何よりも安堵を感じていた。

 もとより、ロナは殺す気で撃ったのではなかった。そもそも、殺意は全く出してはいなかった。

 その行動に大層不満なのか、彼は舌打ちをすると短刀を一つ、構える。

 

「……ま、お前さんはなかなか優しそうだけど……」

「……だったら……」

「それで俺が殺さねぇ理由はねぇわな。……じゃあ、こいつに刺されて……逝っちまいな!!」

 

 高速で、左手に持った短刀をロナに投げつける。

 彼もS級を証明するような、超速で飛んでいく短刀を見て、思わずロナは防御を固めようとするが―――

 

 静止、状況、見る……

 

「……!!」

 

 そう。これだけが彼の攻撃ではない。

 短刀に追いつくように彼も飛び出してきた。

 二重……いや、何重もの固められた大胆かつ精密な攻撃にロナは驚きながらも、素早く、判断した。

 

 右はダメ。樹の根があって制限させられている。

 左はダメ。開けすぎて逆に分かりやすい。

 後ろはダメ。速すぎて今度は体勢を崩されるかもしれない。

 

 だとしたら……!!

 

 跳んだ。真上へと。何mも。

 

「チッ……そっちか……でもな!!」

 

 さらに追いかけるように彼も飛んだ。素早い判断だが、予想がつかなかったのでどことなく動きは鈍かったが、それは一瞬でなくなった。

 

 ロナも、まさかこっちまでは来ないと思った油断で驚いてしまい、一瞬だがガードを固めるのを忘れていた。

 そこを彼が狙わないわけがない。

 

 素早く、空中で短刀で短刀を退ける。弾かれたときにロナははっと気づくがもう遅い。

 彼はロナの首を左でつかみ、そして、自由落下を利用して、上にのさばるような形を取って短刀を大きく振り上げ、突き刺しにかかる。

 

「じゃあ……ゲームオーバーだ」

 

 思いっきり、ロナの顔面へと振り下ろされ、

 そして、地面と激突した―――

 

 

==========

 

 

 ……何があった?

 ……俺は目をつぶっていて、状況がよくわかってない。

 あの後殺されそうになって、そのあと地面とぶつかって……

 恐る恐る、目を開ける。

 

 ……

 

 俺は自分でやったことに驚いていた。

 

 人差し指と中指の間から刃が覗き込んでいて、まさに殺される瞬間を止まってみているようで、

 

 ……俺は、間一髪で止めたのか?

 

「……やるじゃねぇか」

 

 その言葉に、俺ははっとなって、自分の短刀を素早く手放して横からボディーブローをかけるようにひねりながら振り払う。……攻撃は当たらず、フードの彼は飛び退いた。……俺も素早く起き上がって、彼を見た。

 ……目はやっぱり見えなかったけど、だけど、口は笑っていた。

 

「はっはは!おいおい!この技見切ったやつ見たの久しぶりだなオイ!!お前最高だよ!!」

 

 ……その言葉を飲み込むのに俺は数秒かかった。……よくこんな状況で笑えるな。アイツ……。

 彼はふ~っと息を吐いた後、こっちを見た。……まだ、やるのか?俺は思わず身構えた。

 

「お前さん、名前は?」

「……え?」

「まっさか、名前思い出せなくなったーってわけじゃねぇだろ?」

「……ロナだ。河城野炉奈」

「ロナねぇ。そして、野にある河の城って苗字か。……おっと、言い忘れてたな」

 

 彼は大層満足そうに短刀をクルクル回しながら、自分の名前を言った。

 

「俺は空影(くうえい)フウヤ。空の影って苗字に楓の谷って名前だ。覚えときな。ロナちゃんよ?」

「……覚えやすくて助かるよ」

「ははっ!そんな緊張すんなって!……ま、お互いの名前を覚えたところで、第2ラウンド行こうぜ?」

 

 まだやるきかよ……俺は汗を拭きながら、でも、構えずにフウヤを見る。

 やっぱり、フウヤは呆れたようにため息をついた。……頼むから、もう来ないでくれ……

 

「おいおい。お前ら楽しそうなことしてんなよ」

 

 …まるで今の状況を察したのか、誰かがやってきた。

 ……オレンジの髪の男の人に……青髪の女の人……?

 

 ……やっぱり、どこかで、見たことあるのか………?

 

「おやまぁタケハヤさんじゃないっすか。もしかしてこっちの状況見てましたかね?」

「ついさっき来たばっかだよ新入り。……とにかくまぁひどいもんだ。ネコとダイゴが手加減してるってのによ」

 

 ……マジなのか?ジョウトはともかく、ヒカイさんはそうでもないはずだろ……?

 それほどまでに、この二人……ネコさんとダイゴさん、それと、フウヤは強いのかよ……。

 

「ま、どういった理由であのババァにそそのかされたわかんねぇが、とにかく目障りだから消しておきたいってところか」

「……少なくても、ナツメさんはそうなのかもしれない。……でも、俺は違う」

 

 俺が言った言葉にタケハヤさんは驚いた。まぁ、そうだよな。……でも、次に伝えられた言葉は俺を驚かせた。

 

「ハハッ……そうだな……どうだ?ムラクモやめて、SKYに入らねぇか?」

「え!?」

「ちょ、タケハヤ!?」

 

 俺は驚き、ネコさんは慌ててタケハヤさんに突っかかってくる。……タケハヤさんは冗談だって顔をして俺を見た。……まぁ、冗談だよな明らかに。敵の筈の俺にそんな軽く……

 

 …

 ……

 ………

 …………

 

 ……………あれ?

 

 ……敵、だったっけ……?

 

「ま、今後はこっちに来ないこったな。まぁ二度目だし、それとお前に免じてしばらくおとなしくしとくぜ。……ただ、次に入ってきたときは容赦しねぇからな?」

 

 そんじゃぁな。と言ってタケハヤさんは撤収した。残りのメンバーもそれに続いていく。……後ろのフウヤがこっちを振り返った。

 

「……まぁそういうこった。……次は容赦しねぇからな?ロナちゃんよ?」

 

 ……容赦しない、か。

 ……また、戦うことになるのかな。

 

「……これでよかったんですよね?二人とも」

「……かもしれん」

「さわらぬ神にたたりなしってところだ。まぁあのバァさんにとっちゃ失敗かもしれねぇけど……」

 

『コール、13班。お取込み中悪いけど』

 

 ん、ミロク……どうしたんだ?

 

『今さっき、東京地下道の国分寺方面から救難信号を受信した。13班には悪いけど、そっちに向かってもらうぜ』

「あぁ、分かった。……やっと、マトモな命令で助かった」

 

 俺は心の底からそう思っていた。

 ……今度は人を助ける仕事だ。……待っててくれ。俺はそう願いながら、渋谷を後にする。

 

 ……それにしても、フウヤってやつ……あった気がしないのに、どこかであった気がする。

 しかも……身近なところで――――



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18Sz 暴走特急帝竜

どもこんにちは。もう一か月、早い(驚愕

次回でChapter1.5が終わりそうです。ヤ゙ッ゙ダネ゙!!

今回の話で地下鉄の話が終わる(笑)18Sz、どうぞ!


「……ここかな?」

 

 俺たちは取り付けられていたマンホールに入り、地下駅へ。

 ……ひどいなこりゃ。電車が乱雑に散らばっていて足取りを制限させられる。

 

「よォ!」

「あっ!ガトウさん!!」

 

 どうやら怪我から復帰したガトウさん、ナガレさん、キカワさんまで呼び出されたようだ。

 ……そして、もう一人。

 

「あっ、お疲れ様です!」

「アオイさん! ……で、いいんだよね?」

「はいそうです!あと、敬語はいいですよ!普通にアオイって呼んでください」

「うん。分かった。……ところで、怪我の方はいいんですか?ガトウさん?」

「ん?あァ。怪我もぼちぼち治ってきたンで、リハビリがてらに手伝いに来たぜ」

 

 ……とてもそうは見えないけど、でも、ガトウさんが言うんだから、大丈夫……なのかなぁ?

 ……あと、なんでアオイまで?俺はそんな疑問をぶつけた。返してくれたのはナガレさんだ。

 

「うん。本日からアオイちゃんはガトウ隊に所属することになったんだ」

「そういうこった。今回は俺は口も手も出さずに見守るさ」

 

 うわっ……無責任な……でも、まだ怪我しているって裏返しでもあるんだよね……?

 無理しないでよかったのに……。

 

「不手際があったらぜーんぶコイツの責任ってことで、ひとつヨロシク!」

 

 ひっでぇ!?ガトウさん新人にむかってそりゃないっしょ!?アオイも驚いているし!!

 そう驚いている俺にキカワさんがやってきて俺に耳打ちをし始めた。

 

「……ここだけの話、実はガトウさんとナガレさんの怪我はあんまり治ってないの。だから、私もアオイちゃんのサポートに回るから、大丈夫」

「……そうなんですか?」

「内緒、だよ?」

 

『……ね、これ、内緒、だよ?』

 

「……っ、……はい」

 

 なんだよ……また頭痛……?くっそ、昨日からなんだってんだよ……。

 俺は自分に毒づきながらも今現在どういう状況なのかを聞いた。

 

「あァ。さっきそこで自衛隊のリン少佐から聞いたンだが、マモノの除去を行っている際に『アイツ』って存在が出始めたらしい」

「アイツ……?」

 

 ジョウトが話に割り込んできた。……でもまぁ、ある程度察したけど、まだ続きがあるよな?

 

「ンで、とにかく逃げるのに必死で自衛隊の仲間たち3名とはぐれたらしい。恐らく、そのあたりからいける横洞に避難したはずだ」

「そして、我々13班と10班が一緒になって救助活動と……そういうことですね?ガトウ隊長」

「察しが早くて助かるぜ。……ただまァ、俺達はまだリハビリってもンだから、お前らの班にはアオイとキカワを付けとくし、俺らはここで待機することになってンだ。すまんな」

「いいえ。非常に助かります」

 

 ヒカイさんがそういって、俺達にアイコンタクトをした。「できるか?」って。もちろんだ。俺は黙ってうなずいた。ジョウトも隣でうなずく。

 

「……では、いこうか」

「はい!でもちょっとまって……」

 

 ってえぇ!?なんでアオイがここでチョコバーを食ってんだよ!?任務中でしょ……!?

 

 

 その時。

 

 

 俺の身体が『あの時』と同じように一部の強敵がいると告げるように震え、

 

 

 直後に地面が大きく揺れ動き、地下鉄内を揺らがせた。

 

 

 

「うわっ!?」

 

 非常に大きかった、けど、それも一瞬。どこか崩れたってところはないし、落ちてきたってところもなさそう。全員無事……

 

「ああああああああああ!?私の、私のチョコバーが……!!」

 

 落ちてるな……って、うおい!?拾って食べようとするな!!俺はあわてて両手を掴んで抑制!いやだめだから!!落ちてたもの拾って食べるのダメ、ゼッタイ!!

 

「……ハァ。しょうがねぇな。これでも舐めてろ」

 

 そう言ってガトウさんが取り出したのは、飴。それを見たとたん、アオイの目が輝いたように見えた。……食べ物のパワーすげぇな。……俺もその一人だけど。

 

「ああ!飴ちゃんだ!うう……もったいなくて食べられないよぉ……」

「ハァ~……好きにしろよ胃袋娘……」

 

 そう呆れたガトウさんだったが、すぐに地震について冷静に分析した。

 

「しかし……今の揺れはなんだったンだ?イヤな予感しかしないぜ……」

「そうですね……」

「おい13班、そしてアオイとキカワ。気を付けて進めよ」

「了解」

 

 そう言って、俺達は横洞へ。

 ……にしても、ひどい横洞だな……まるで、地下栽培していると言わんばかりの迷彩柄が床や壁についているし……。

 

「ジョウト。酔うなよ」

「酔わねーよ」

 

 

===============

 

 

「おい!見つけたぞ!!」

 

 ジョウトがさっそく一人目発見……って、どうしたんだろ……震えてる……?

 

「大丈夫か?」

「ヒッ!?……た、助かったのか?助けに、来て―――」

 

 そして、また地震。

 それも一瞬で、そこまで脅威ではない……筈なのに。

 

「ヒッ!?あ、あああああああああ!!?」

 

 うわっ!?突然どうしたんだ!?発狂した自衛隊をあわてて肩を叩いて落ち着かせようとした。

 その時、言葉を聞いた。

 

「イ、嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ!!やつ、が、やつが来るうううぅぅ……!!」

「っ、かなり混乱してるみたいだぜオッサン!」

「あぁ……安定剤があれば……」

「ここはアオイにお任せをっ!」

 

 アオイがやってきて、安定剤を注射。見事に自衛隊一人を落ち着かせた。……安定剤すげぇな……。と俺はそう思っていた。

 

「あとはこちらで搬送しますのでご心配なく」

「じゃあ、私がやったげるよ。アオイちゃんは13班について行って」

「了解です」

 

 冷静にアオイがそう言って、一旦俺達とキカワさんは別行動することになった。

 ……にしても、また地震……? どういうことなんだ……?

 

===============

 

「……おい!なんか聞こえたろ!」

 

 ジョウトが俺達に呼びかけた。……確かに、誰かがドラゴンと混戦している……!!

 

「急ごう!!」

 

 俺の呼びかけに、ヒカイさん、ジョウト、そしてアオイが一斉にうなずいて走り始める。

 

「……あそこだ!!」

 

 いた!たしか、『グラナロドン』だっけな。こいつ!

 

「ロナ!!」

「はい!『タランテラ』ッ!!」

 

 後ろがガラ空き。俺は素早く撃ちこんで一時的に動きを封じさせる。

 

「ジョウト!アオイ!!」

「任せな!!コード介入、HACK……go!」

「はい!『墜撃の天牙(プラズマジェイル)』!!」

 

 ジョウトは素早く相手に介入(ハッキング)、アオイは相手の頭上目がけて風の衝撃を放つ。流石だよ本当に。この二人……アオイは一時的だけど、仲間でよかったよ。

 

「よっし!おっさん、合わせろよ? ……コード改変POW……start!」

「あぁ!でりゃああ!!」

 

 さらにジョウトが『ロストパワー.X』を発動。さらにそこにヒカイさんが踏込み、一撃を加える。

 

「先輩!」

「うん!せーのっ!!」

「『焦撃の灯火(フレイム)』!!」

 

 一斉に『フレイム』を発動!威力抜群でグラナロドンを倒すのには十分な威力だよな!

 二人で出した炎撃はそのままドラゴンを溶かすように燃え、炎が尽きた時にはドラゴンは倒れていた。

 

「やったぁ!先輩!やりましたよ!!」

「それよりもアオイ!あの人は?」

 

 俺はさっきの自衛隊の人がいるか探しながら―――まぁすぐに見つかったんだけど―――アオイに尋ねた。アオイも見つけて近づく。

 

「はいはーい!アオイ救急便参上です!お怪我はありませんか?」

「あ、あれ……?助かったと思ったけど、やっぱりオレ、死んじゃってるの……?」

 

 アホか。そう思いながら俺達は二人のやり取りを見ていた。……結果。混乱していた。

 

「……どうすんだよ?こいつラリってるぜ?」

「ふむ……キカワさんに連絡を取った後、我々は残りの隊員を探すべきだと思う」

「確かにそうかもしれませんね……なるべく早めに行った方がいいかもしれませんけど……」

「……んじゃあ、オレも残るわ」

 

 ……え?ジョウト?今何て……

 

「何回も言わせんなアホ。とにかく、オレも残ってコイツを救援する。キカワと連絡とれりゃあ、オッサン達についてもらっちまえばいいだろ?」

「………ふむ。分かった」

 

 ヒカイさんも賛成、か。……二人で大丈夫なのか、と思ったけど、ここら一帯のドラゴンは片づけたはずだし、あとはそこまで苦戦しないマモノだけの筈。

 

「……死ぬなよ。ジョウト」

「わーってるよオッサン。さっさと行って来い」

「あぁ。……行こうか。ロナ」

「あ、分かりました!!」

 

 とっさに返事しちまったけど、俺もどこか慢心もあったのかもしれない。不安だった。

 けど、大丈夫……だよな。信じるんだ。

 俺とヒカイさんだけになっちまったけど、大丈夫だ。きっと。俺は自分にそう呼びかけてこの場を後にした。

 

===============

 

「……しかし、さすがに二人となるときついですね……」

「あぁ。だが、こうして人がいないことでその人の魅力を再確認できるものだ」

 

 やっぱり、縁の下の力持ちってやつだね。俺はジョウトがいたからこそできた行動が出来ないことにもどかしく感じながらジョウトのすごさを再確認できた。

 

「……の割には試験の時には戦力外って言ってませんでしたっけ?」

「まだ覚えていたのか。……ま、確かにそうだな。今となっては、謝罪するべきなのかもしれない」

「合流したら、感謝の言葉を述べたいですね」

「…………そうだな」

 

 ……どうしたんだろヒカイさん。どことなく哀しそうな顔を浮かべていたし……。

 

「さて、この辺りらしいが……」

「いました!あっちです!」

 

 俺はヒカイさんを連れて自衛隊の一人の元へ。……少し怪我をしているけど、なんとか息はあるみたいだ。よかった……

 

「大丈夫ですか?」

「あ……救援か……助かる。あの頭でっかちの女三佐のことだから……」

「頭……でっかち?リンさんが?」

 

 その人は黙ってうなずいた。……確かに、どことなく俺達のことをライバル視してるみたいだし、な。

 

「でも……リンさんだって悪い人じゃないはずです。仲間思いだし、それが、自分のプライドが邪魔をして無理やり、俺達の手助けなしで助けようとしただけだと思います」

「………そうか……」

 

 どうやら、納得してくれたようだ。……というか、よくこんな言葉言えるよな。って俺は思っていた。

 全くと言っていいほど話したことないのに。

 ……ん?どっかから足音………?

 

「じゃじゃーん!キカワ救急便ただいま参上!」

「……キカワさん、それアオイも言ってましたよ……」

 

 苦笑した。どうやら似た者同士、らしい。まぁ、悪くないんだけどね。

 

「じゃあこの人は私が運んでいくよ。二人はジョウトと合流してあげて。彼もそっちにいるらしいから」

「分かりました。よろしくお願いします」

 

 そう言って、その人とキカワさんは先に行った。俺達はジョウトとの合流のために一度戻ることになった。

 ジョウトに連絡を取ってみたところ、もう横洞の出入口付近まで来たらしい。じゃあやっぱり戻るんだな。と俺達はそう思った。

 

===============

 

「ジョウト。無事か?」

「オッサンとロナは無事ならオレだって無事だ。……とにかく、ミッションは成立。自衛隊のヤツらも先に帰ったぜ」

「なるほどな」

 

 どうやら全員無事だったようだ。なんか、誇らしいな。人を助ける仕事って、いいものだな……。

 

「っと、そうだ。ジョウトに言いたいことがあったんだ」

「んだよ?」

「……二人だけでの行動で、ジョウトの力強さを再確認できた。……これからもよろしく頼むぜ?ジョウト」

「……やーっとオレのすごさが分かったかよ。へっ、気づくのおせーっつーの」

 

 ったく、照れてやがる。ホント、素直じゃねぇんだから。ジョウトは。

 

「さて、我々13班の絆も深まったところだ。もう少しで昼になるから、私達も帰ろうか?」

「はい!」

「あぁ」

 

 そう言って俺達は、地上に戻ろうとして……

 

 また、身体が震えた。

 

 同時に、地下道も揺れる。

 

「っ!!」

 

 やばい……今度のはでかい……!!

 

 その時。

 

 ズドン。と何かが壊された音がした。

 

「なんだ!?」

「おい!!ありゃあ……!!」

「な……帝竜!?」

 

 まて!この帝竜でかすぎるだろ!?まるで列車だろこれ!!?

 

「二人とも!逃げるぞ!!」

「言われなくてもっ!!」

「は、はい!!」

 

 俺達は全力疾走で地上へ続く梯子へと向かう。

 くそっ!?あの帝竜でかい上に速い!!撒けるのかこれ!?

 

 でも、全力で逃げるしかない……!!!

 

 けど……!!

 

 もうすぐそこまで!!

 

「……ッッッ!!!」

 

 それでも、俺達は止まらなかった。

 

 必死に走って、走って。

 

 そして突然。

 

「………ブルルルル」

 

 ……帝竜が……止まった?

 

「……まさか、この光を嫌って?」

「考えるのは後だ!脱出するぞ!!」

 

 そうヒカイさんは命じて、俺達は慌てるようにこの地下道を後にした。

 

 ……危なかった。間に合わなかったら、一体どうなっていたのだろうか。

 

 くっそ…………ぞっとしねぇ………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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19Sz 感情、感謝、そして、決断―――

どうもこんにちは!今回の話でChapter1.5が終わります。

あ、今回もあとがきを書こうと思いますが、ただの雑記に近いです。なので、見なくてもおk!

それでは………19Sz、どうぞ!!


 俺達は何とか都庁へ帰還。

 ……にしても、あのでかい帝竜、もし戦うとしたらどんな方法で………? と思っていた。

 だって、ウォークライだってでかかったのに、あいつはそれ以上のでかさを誇っていた。

 もしぶっ倒すなら……どうすれば……?

 

 そう思っているときに、いつの間にか都庁についていたみたいだ。

 

 広場には、自衛隊の皆さんが。

 

「……おかえり13班。あの後、『アイツ』が出たって聞いて…心配していたんだ」

 

 ……確かに、でかすぎたなあれ。ビビるのも、無理はない。

 さらに他の自衛隊の一人が言った。

 

「ホント、危ないところだったよ。……みんなを助けてくれて、ありがとな」

「……それだったら、リンさんに言ってくださいよ。あなた達の隊長に……ね」

 

 本当はリンさんが呼んだわけではない筈。リンさんはムラクモのこと嫌っているみたいだし、プライドが邪魔をして救援信号を出したのはリンさんじゃない。他の人だ。

 けど、ここはあえてごまかした。……その方が、後がいいかもしれないからだ。

 

「……あ、そうだ、リン。お前も礼を―――」

 

 そう誰かが言った……のに、リンさんは後ろを向けてしまった。……そりゃあ、そうだよな。嫌っているやつらに、邪魔をされたんだし……ね。

 

「……手柄をゆずっただけだ」

「っ!おいなんだよその言い方―――」

「わーストップストップ。……いいんですよ。俺達が勝手に手柄を取っただけですから、ね?」

 

 俺はヒカイさんとジョウトに振り返りながらそう言った。二人も黙ってうなずく。

 

「……」

 

 黙ってしまったリンさんはそのまま都庁の中へ。……どうしたんだろうか。一体。

 

「……どうしたんですか?」

「あぁ……あいつは本当はみんなに認められたいだけなんだよ」

「……なんでそこまで……」

「……前任の隊長が戦死して、急に抜擢されたもんだからさ……自信がなくて空回り、しちまってんだ」

「………戦死……」

 

 ……それは、確かにつらい。

 でも……

 

「……そこまで抱え込まなくてもいいのに。だって、まだ自衛隊のみなさんがいるじゃないですか」

「…………ありがとう。13班の……ロナ、だっけ? ……本当に、迷惑かけてばかりだな」

「……この時代だからこそ、助けあわなくちゃいけないんですよ。……身内でも、赤の他人でも」

「……感謝する。……13班に敬礼っ!!」

 

 ……なんか、照れくさいな。こうしてお礼をされることにさ……。

 

 

 

『……お前、なんでそこまで抱え込んでいるんだよ!』

『だって……だって!!』

 

 

 

「…………あぐッ!?」

 

 痛い……!!頭が、痛い!!!

 なんだよ、なんだよこれ、なんなんだよ!!!

 割れるぐらいに痛くて、まるで、一番嫌な記憶を思い出しているようなぐらいに。

 くっそ……止まれよ!!!思い出せないんだし、無理やり思い出すんじゃねぇよ!!!

 

「……ハァ……ハァ……ハァ……!」

 

 ……やっと、治まったか……でも、まだ痛い…………。

 

「……大丈夫か?」

「……なんとか」

 

 本当は大丈夫じゃないけど……俺は強がった。いつの間にか倒れ込んでいた俺は立ち上がると、ヒカイさんとジョウトを見て、さらに今いる人たちを見た。

 

「………すみません、先に……寝させてもらいます……」

 

 ……ったく、……ほんとうに、なんだったんだよ……。

 

 

 ベットにたどり着いた俺はとにかく、寝ようとした。ニット帽も、マントもつけたまま。

 

 それぐらい、とにかく寝たかった。

 一体、俺は何を思い出そうとしたんだ……?

 ………畜生……

 

「チクショウ……」

 

 俺は、それしか言えなかった。

 

 思い出せなかったこともある。

 

 そして、何かを悔やんでいるかのようにも思えた。

 

「……寝よう」

 

 寝て、その時のことを忘れたかった。

 

 でも、そんなことしても忘れられないんだろう。

 

 人間、そんな生き物だから―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ん……? あっれ……?

 

 なんか、妙に意識がはっきりしてる……?

 

 寝てる………よな?

 

「起きたか……いや、今は、寝ている、か」

 

 あれ?神様? ってことは………

 

「……迎えに来た」

 

 マジか!! ってことは、もうこの世界から俺の世界に帰れるんだな!!

 

「あぁ。……キミも嘆いていただろう。何故このような世界に来るようになってしまったのかを」

 

 ……そりゃあ、そうですよ。何でこの世界に一回転生しなくちゃいけなかったのかを。

 

「すまない」

 

 だから謝りすぎですって。……もう少し堂々としてもいいんですよ。

 

「……さて、帰ろうか。キミの、元いた世界に」

 

 そうだな。……帰ろう。こんな物騒な世界なんて、嫌だし。

 

 神様が手を差し伸べている。この手に触れれば、俺の本当の世界に帰れる。

 

 そう。俺はその手を伸ばして―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「君。名前」

「単刀直入に言いましょう。……ようこそ『ムラクモ本部』へ」

「んじゃあ安全を期すためにも三人一チームを組め!!」

「……これで全員ですかね?キカワさん?」

「…お、きましたねぇ候補生!!」

「援護する!…候補生。お前らが主役だ!!」

「大丈夫。痛くない、痛くないからね……!!」

「―――ガッハハハハハ!!!大勝大勝!!!お前ら!!!本当に、最高だ!!!!」

「ははっ!そんな緊張すんなって!……ま、お互いの名前を覚えたところで、第2ラウンド行こうぜ?」

「ハハッ……そうだな……どうだ?ムラクモやめて、SKYに入らねぇか?」

「……これから先は、ずっと地獄よ。予想もできないことも起こるでしょう。

 ……それでも、覚悟はできて?」

 

 

 

 

 

 

「つまりあれか。お前のせいで俺らは休みなしか」

「……二人は休んでいてくれ。私はミヤのところへ行って素材を渡してくる。……お疲れさん。先に休んでくれよ」

「あぁカツアゲだなジョウト」

「おいカツアゲだぜおっさん」

「ちげぇよアホ。……つか漫才していいのかよここで。いくらなんでもお偉いさん集まっているんだぜ?」

「ほう?名前を教えてもらった……か」

「あぁこいつのことなら問題ねぇよ。なにせ説教開始から5分しかたってないしよ」

「えぇ。……全く、これだから恐れを知らない若者は困るんだ」

「へっ!独りじゃできねぇことだろ!?」

「謝罪は都庁を奪還させてから言おうか。……それじゃ、行くぞ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「私は山蔵檜海…。おじさんで構わない」

「森雁条堵だ。テキトーになんとでも呼べ」

「………ロナ。河城野炉奈です」

 

 

 

 

 

 

 

 

「いいでしょう。河城野炉奈、山蔵檜海、森雁条堵。今この時よりあなた達をムラクモ機関、機動13班として認定します」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 手を止めた。

 

「……?」

 

 …

 ……

 ………

 …………

 

 そりゃあ、帰りたいけど……帰りたいけど!!

 

 

 だからって!今の状況をほっとけない!!

 

 嫌だよ痛いのは!嫌だよ人が死ぬのは!!

 

 でも現実から目をそむいちゃいけないんだ!!それがたとえ俺には関係ない世界だとしても、でも!今は俺もいる!!

 

 ヒカイさんだって、ジョウトだって辛かったのに、それでも前へ進んでいたんだ!!それは、『生きる』からだ!!

 

 

 

 

 

 そんな大切な…………『生きる』をくれた二人を、

 

 

 世界をそのままにして、ほっとけないんだ!!!

 

 

 

 

 

「…………………そうか」

 

 …………

 

「…………………しばらくは来れなくなる。…………いいのか?」

 

 もちろん。……せめて、この東京から帝竜たちを消滅させるまで、来ないでほしいです。

 

「……………分かった。キミがそう望むのなら……しばらくは、こない。………一つ言わせてくれ」

 

 …………?

 

 

「…………今の世界は、とても良いか?」

 

 

 …

 ……

 ………

 …………

 

 ……………そりゃあ当然……

 

 

 

 

 

 

 

「非常に不満だよ。……まるで、前の世界では不幸日和を送っていたのかって思いたいぐらいに、最高だから」

 

 

 

 

 

 

「………………そうか」

 

 それだけ言うと、俺の意識は急激に落ちていった。

 

 でも、どこか寝心地がいい気がする。

 

 …………頑張るんだ。

 

 あれだけ啖呵を張ったんだから、頑張るんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 そうだろ?(ロナ)―――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




……はい、いかがだったでしょうか?
今回の話は……いいものを書けたと思います。多分。

さて、今回のあとがきの話は……『スキル』。

実は今回の『ルシェかえ!』ではスキルの際にチャッキーン(効果音)してます。
というのも、普通に叫ぶだけでは味気ないと思い、そして思ったのが、それ。
統一性があるので、それを見てみるといいでしょう。
で、それを見ていただけると、デストロイヤーがあんまり技名を言わないのがあるでしょう?
実は……恥ずかしい話、どうやってD深度を再現しようか迷っているからです。
かといってそのまま「ジャブ!」とか叫ばせていたらなーんか意味がなぁ……と。
ちなみにそれ以外はちゃんとかっこよく?言っているので見てみるのも一興かと。
おすすめはサイキックですよ!!全力で考えましたから!!私の宙にセンス、ご覧あれっ!!(殴

さて、話はこれまでにして、次はchapter2ですね。
……ここで13班を吹っ飛ばされた方は多いのでは?私もその一人です(何
そして、前の話でも言っているんですが、Ⅲが発売されますよ!それまで楽しみに、私の小説を読んでいただけると嬉しいです!


ちなみに、オリキャラメンバーズのセブドラⅡでの声のイメージはこんな感じです

ロナ→ピザが大好きな女性
ヒカイ→ダンボールを愛用している男性
ジョウト→ベクトルを変換する男性
キカワ→親友のスカートをめくり上げる(?)女性
フウヤ→人間離れした怪力の男性


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Chapter2 揺らぎし『決意』、塗り替えし『意思』
20Sz 緊急会議


どもこんちはー!20Sz、そして、chapter2に以降です。

………さて、今回の話はどうなるのか、みなさーん!ついてきてくださいネー!(何故金剛? ……ノリです)

それでは、chapter2、20Sz、どうぞ!


 

 

 ドウン!!!!

 

 

「うわっ!?」

 

 な、なんだよ一体!?外から聞こえてきた爆発音のような音に俺は目を覚ました。

 ……誰かが変な実験をしたからか?んなアホな。

 

「っ……んだよ今の爆発音……」

「ジョウト……起きたのか?」

「ったりめーだアホ。……とにかく、今のはなんだ?」

 

 そう俺達は疑問に思ったが、すぐにPCっぽい機械から連絡音がしたので、やはり異常なことだったらしい。

 すぐに俺達は支度して機械をきど……って、あれ?

 

「……ヒカイさんは?」

「………あのオッサン、先に起きたんじゃねぇの?」

「……確かに」

 

 否定はできないな。ヒカイさん、どこいったんだろ?そう思いつつ、機械を起動。

 

「……今のって?」

 

 と、俺。答えたのはミイナだ。

 

『はい。警戒アラートが発生しましたので、今すぐに会議室の方へ来ていただけるとありがたいです』

「分かった」

「……メシなしでか?」

『…………』

 

 …

 ……

 ………

 …………

 

 なんでおまえら沈黙するんだっつーの!!

 

『………急いで食べて来てください。特にロナ』

「なんで俺!?」

『前科があるので』

 

 ギクッ

 

「ぜ、ぜんか?しらんなぁ~」

「んなフザけてる暇あんなら、さっさと飯食って来い」

「……いいよ。少しぐらいなら我慢できる。多分」

「……ホントかよ。……まぁいい。いくぞ」

「うん」

 

===============

 

 そして会議室。……あ、ヒカイさんもいる。よかった。

 

「ヒカイさん」

「おはよう。ロナ、ジョウト。これで13班は全員だ」

「了解よ。……それでは、緊急会議を始めます」

 

 緊急会議か……。やっぱり、さっきのが原因……だよな。

 さっきのって一体?そう思っていた俺、そしてジョウトに、キリノが説明した。

 

「まずは先ほどの大きな揺れですが……かなり、危険なものです」

 

 危険なもの……?あっ……

 

「それって、もしかして……」

「察しがいいですね。そう。あの揺れは強力な電磁レーザーによる爆発である、と分析しました」

「強力なレーザー?……でも、東京には兵器はそんなにないはずだから……」

「話を最後まで聞いてくださいロナ。……その威力は、TNT換算で80メガトン。あの爆発で、高田馬場付近は消滅―――」

 

 …………え?

 

「消………滅………?」

 

 そんな……。まだ、人がいたかもしれないのに………?

 

「……レーザーの発射元は、豊島区―――池袋上空500m」

 

 ……待って!? 500m? ……それって、タワーでもなんでもないのに、どうやって……

 

「えぇ。……またあそこも『迷宮(ダンジョン)』となっているんです。恐らく、電磁力を用いた『帝竜』によるものだと思われます。先ほどの攻撃もそうでしょう」

 

 まじかよ……ウォークライといい、昨日の暴走特急帝竜といい、今回の『ジゴワット』といい……、なんで帝竜はそんな力を持っているんだよ……。

 

「……けど、それだと、この都庁が破壊されるのも時間の問題では……?」

 

 っ、そうだよ。ヒカイさんの言うとおりだ。この建物は結構目立つ。しかも、何十人もの人がいる。まじで、危ないって。

 けど、そんな俺らの不安を読み取るようにキリノが言った。

 

「ただ、幸か不幸か、攻撃目標はあいまいで……至近の都市部をランダムに攻撃するものである。というのが我々の推測です。言い方を変えれば、近くにある街を適当に焼き払っていく、というのが、正しい言い方かもしれません」

 

 なるほど………。そこまで統率力は取れてない、ってところか。

 でも……

 

「………それって、時間の問題じゃ……」

「……そうね」

 

 ナツメさんが俺の答えを読み取るようにゆっくりうなずいた。

 

「この都庁が標的になるのは明日かもしれない、来年かもしれない、というわけね」

「……いずれにしろ、ほっとけねぇんだろ?バァ……ナツメそーちょーさん?」

 

 おい、ジョウト、今一瞬『バァさん』呼ばわりしかけたろ。……うわ、ナツメさんの顔が引きつったよ……。

 ……けど、確かに早めに討伐しておかないと、もし取り返せたとしても、穴ぼこだらけの東京になっちまうんだよな。……それは、嫌だな。

 

「……今回の俺達の目的は、帝竜『ジゴワット』の討伐、ですよね?」

「………ジゴワット?」

 

 え?

 

 …

 ……

 ………

 …………

 

 ……………そういや、なんでだろ?あれ……?なんで?

 

「……まぁいいでしょう。その帝竜は『ジゴワット』と名付けましょう。……とにかく、ジゴワットはそのダンジョンの中心部にいます。……ですが、その中のあちこちに対侵入者用とおぼしき『電磁砲』が多数設置されているのを確認しました」

「電磁砲……?……それって、まずくないですか?」

「そうですね。ですから、きわめて多面的かつ、大規模な作戦が必要です。ムラクモ戦闘班、および自衛隊の連携による攻略作戦を提言します」

「……どうやって……」

 

 

 

 

 

 その時。

 

 

 

 

 

 

 

 突然のフラッシュバック。

 

 ……でも、あまりにも世界がぐちゃぐちゃで見えない。

 

 なんだ……これ?

 

 でも、人の『メッセージ』……?

 

「ロナ?」

 

 突然、だれかに肩を掴まれて、俺ははっとした。

 

 ……また、ボーっとしてた?

 

「……あぁ。すぐれないようなら、休んでいても構わないぞ?」

「い、いえ平気です。……あれ、会議もう終わったんですか?」

「あぁ。……作戦決行まで準備を怠るな。とのことだ」

 

 そっか。……だったら、ちゃんと準備しておかなくちゃな。

 誰一人、失わないためにも……。

 

 

 

―――本当か?

 

 え?

 

―――本当に、『今回は』誰一人失わずに済むのか?

 

 どういうこと?

 

―――自分で、確かめろよ。

 

 

 

 ……って、またボーっとしてたか……。さっきのは、一体?

 

「……いや、考えても、しかたないよな……」

 

 それにしても、腹減ったな。朝飯食べたい。

 あ、そういや……

 

「……そういえばヒカイさんは早起きなんですね?」

「君たちが寝すぎているだけなのかもしれないけどな」

「るっせーな。オレ達は育ちざかりなんだよ」

「そう……だな。うん」

 

 全くだな。……なんか、こういうときだけ気が合うんだな俺とジョウトって。

 

「やれやれ。こういうときだけ二人は仲がよろしくて。……二人はまだ朝食は食べていないだろう?そこでおにぎりを配っていたから、行こうか」

「お、おにぎりすか!いいですね!」

「………ま、嫌いじゃねぇな」

 

 俺達は笑いあった。たとえ、危険な任務の前だとしても。

 

 ……うん。あの時、手を取らなくてよかったんだ。

 今は本当につらいけど、けどさ、こうして心強い仲間の力には最後までなってあげたいよ。

 こうして巻き込まれたのに、最後までずっと、付き合いたい。

 それが、俺が転生してきた理由だと思う。

 

 

 

 けど、なんで『俺』は転生したんだ?

 

 神様は流れ弾に当たったって言ってたけど、

 

 でも…………何で、流れ弾に当たったんだ?

 

 

 

 ……いや、今はいいか。答えは、いつか帰ってくるはず。

 

 その時まで、俺は、みんなのために―――『生きる』。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「…………サンプルが、あと二つ―――」

 「…………そのためにも、『あの方たち』には―――」

 

 

 

 

 

 

 

 



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21Sz 止まらぬ焦り

はいどーもー。chapter2の2話目に突入。

このペースだと、セブドラ2020の話が終わる前にⅢが発売されるかもですね(苦笑

ではでは、21Sz……どうぞ!


 準備はOK、作戦までやることのない俺達。

 

 けど、俺はヒカイさんに『あること』を一緒にやってもらいたい。と思っていた。

 

 その、『あること』とは―――

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふっ!」

「ぬん!」

 

 都庁の外の広場で拳と短刀がぶつかる。あ、短刀は木製なのでそんなに痛くないし、拳には布を巻きつけてあるのでもし怪我しても大丈夫。多分。

 

 で?何をやっているのかというと、お察しの通り、訓練だよ。

 

 なんか……ね。どうしても、やっておかなくちゃいけない気がするんだ。

 

「はっ!」

 

 素早くヒカイさんが拳を一直線に突く。俺はとっさに左腕で防御する。

 ……かなり痛いなこれ……。折れた感覚はしないから、手加減されているのかもしれない。

 威力を弱めるように後退しつつも、体勢を整えてもう一度突撃。……ヒカイさんは迎撃戦法みたいだな。……だったらこうだ。

 近くまで来ると、一度地面を蹴って跳躍。一種のフェイント。そして―――

 

「『無垢たる魔撃(エナジーピラー)』!」

 

 素早く、純粋な遠隔攻撃を放ち、わざと避けさせる。

 そこだ―――!

 

 けど、それよりも早く、ヒカイさんに掌底で押し出された。不意に身体を押されたものだから、受け身できずに地面に衝突。

 

「いったたたた……」

「ふむ……フェイントはよかった、が、それを狙いすぎだ。緩急をつけるべきだと思う」

「分かりました」

 

 にしても……。と、ヒカイさんは俺を見ながら疑問を述べた。

 

「……もしかして、ロナは意外と好戦的なのかね?それとも、SKYとの一件……か」

「うーん……前者は否定しますし、後者はそれも交じっているのかもしれません。けど、俺は手を伸ばせる距離の人達を失いたくないんです。その、退屈、というのを嫌ってるからかもしれませんけど」

「ふむ。ムラクモに入ったからこその、驕ることのないようにしたい……そういうことか?」

「そういうこと、なのかもしれませんね」

 

 実際はどう考えていたのかは、自分でもわからない。

 でも、言葉通りなのかもしれない。

 

 ……もし、またSKYの人たちと戦うときもあるかもしれないから。

 

「おーいそこのお二人さーん」

 

 あ、ジョウト。……もしかして、呼んでるのか?

 

「お察しの通りっと。自衛隊駐屯区に来いってよ」

「分かった。……行けるな?ロナ」

「もちろんですよ。……あんまり怪我はないみたいですし」

 

 ……けど、なんでかな。俺、一般人のはずなのに、

 

 ヒカイさんに本気を出させたい。そう思っていた。

 

 ……いや、一種の冗談だよ!?本気出させたら俺は確実に一発だよ!うん、冗談!!

 

 俺はそう思いながら、俺達は自衛隊駐屯区へ。

 

===============

 

 自衛隊駐屯区の作戦室のような場所に俺達はまぬかれた。

 

「来ましたよ。リンさん」

「……そうか」

 

 ……やっぱり、どこか距離を置いているように感じる。ムラクモのこと、嫌っているんだろうね。

 ……でも、それ以上にどこか、憤りを感じるような表情にも見えた。

 

 ………嫌な、予感だ。

 

「……先に説明しておくが……この池袋作戦は自衛隊が主体となって作戦を展開することになった。お前たちも我々の指揮に従ってもらうぞ」

「…………それだけ、ですか?」

「……なにかあるのか?」

「……他に何か伝えたいことあるんですか?」

「…………」

 

 …

 ……

 ………

 …………

 

 ……………でも、退けなかった。ここで退いたら、絶対に、ダメな気が―――

 

 

 

―――ビービー!!!

 

 

 

 ……なんだ?

 

『緊急です!たった今、池袋上空にて巨大な電磁エネルギーの収束を確認!』

 

 なっ……!まさか!!

 

『各自、衝撃に備えて下さい!』

 

 くっそ!!なんでこんな時に……!!!俺達はなるべく身をかがめて衝撃を和らげようとする。……都庁に、直撃しないよな!?

 

 

『都庁への命中率……32.7%!!』

 

 

 割と高い………!!下手に見積もっても3分の1……!!

 

 頼む、当たるな……!!頼む!!

 

 

―――ドォン!!ズドン!!

 

 

 分かる。ここからでも伝わるぐらいに身体が危険を教えていたし、衝撃自体も生半可ではない。

 でも、最低でも都庁へ直撃、ってわけでもなさそう……か?

 

『……レーザー、都庁を逸れました。被弾したのは市ヶ谷周辺の模様です』

 

 ……結構近いようで遠いよな………。でも、こっちに喰らうのは時間の問題か………。

 

『司令部より通達。ムラクモ10班、13班、及び自衛隊の各員、速やかな作戦開始を求む』

 

 ……そうだな。俺達……いや、違う。自衛隊の人達と連携を取ってこの被害をやめさせなくちゃ、な。

 

「はいはい。わかってますよ。……お前たち、いけるか?」

 

 リンさんが自衛隊の人たちに確認を取る。……全員、敬礼して大丈夫、との合図を送る。……うん。リンさんはすごい人だよな。

 

「アタシたちは池袋に先行し、ダンジョン内で作戦を展開しておく」

 

 ……え?先行……?

 

「ちょ、先行って、どういうこと、ですか……?」

 

 だめだ、ここで止めなくちゃ……絶対にだめだ!!!

 

「……幸いにも、電磁砲は自衛隊各員だけでも、犠牲を出さずに倒せるようだ。だから、その電磁砲を先に殲滅してやる。残りのドラゴンと帝竜はお前たちが倒せ。以上だ。簡単だろ?」

 

 リンさんはそれだけ言うと、この場を後にしてしまう。

 

―――だめだ!止めろ!!

 

「ま、待ってくださいリンさん!!待って―――!!!」

 

 でも、届かなかった。

 

 扉がバタンと閉められ、ここに残ったのは俺達だけだった。

 

 ……震えが、止まらない。

 

 俺は……やってしまったのか……?

 

 

 

 

 ………見殺しに……したのか……?

 

 

 

 

「…………い、いや、まだ、早い。決めつけるのは……まだ、早い!!!」

「ロナ……?」

「っ……すみません。独り言です。……でも、おかしくないですか?」

 

 そうだよ。おかしいって。

 

「……まずは、そんな単純な作戦なんて、ないでしょ?ヒカイさん……」

「…………あぁ。けれど、それすらも凌駕する武力を、私達は持っている。違うか?」

「え……?ヒカイさんって、そんな……」

「いや、言い方が悪かった。……確かに我々はその武力がある。けれど、それでも多数設置されている電磁砲を相手にしながらドラゴンを相手にできるか?」

「……それは、無理ですけど、でも、それすらもおかしくないですか?」

 

 そう。疑問二つ目。

 

「……もしドラゴンと出くわしたら、必死に逃げるんですよね?多分。……そしたら、俺達も一緒に行った方がいいかもしれませんけど」

「我々の代わりに10班が行くのではないか?」

 

 いや、それもおかしいでしょう?俺達はそこまで強く―――

 

「はぁ……ここで議論つけても、意味ねぇだろ。大事なのは、30分後に池袋、ってわけだ。違うか?」

「…………違わない」

「それに、あの女だって言ってただろ。今回は自衛隊の指示に従ってもらう。そうなんだろ」

「……う、そう言われると……」

「またオレたちが休み抜きにされるぞ?」

「わ、分かった分かった!!!俺が悪かった!!……そうだな。30分後!池袋に到着。だよな」

 

 それだけ言うと、ジョウトは黙ってうなずいた。

 ……てか、珍しいよな。ジョウトが俺に静止するなんて。……あ、すねてたとか?まっさかぁ……。

 

「……30分後。そうだ」

「分かったってば。……30分後な。……それまで、俺達は少しゆっくりするべき……か?」

「そうだな。ジョウトはともかく、私とロナはある程度動いたから、万全の態勢を整える時間かもしれん」

「……だ、そうだ」

 

 ジョウトはそういって、その辺にあった椅子に勝手に座る。いいのかなぁ……と思ったけど、まぁ、誰も見ていないんだし、多少は……ね。

 

 ……でも、自分が許せなかった。

 

 どうして許せなかったのが分からなかったし、どこが許せないのかも分からない。

 

―――――――――本当に。許せない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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22Sz 転生者の見殺し

どもこんにちは。chapter2もある意味佳境に。

……この話、原作を知らない方たちは酷い話になるかもしれません。そこは用心してください。

それでは、22Szどうぞ……


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――――――うわあああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!」

 

 悲鳴が上がる。俺のでもあって、その場にいた人たちのモノでも……

 

 ゆっくりと、紫色のバンダナが、赤い髪の男性に落ちていく……

 

 

 

 

 二つの過去が、俺の中に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺は、見殺しにしたのか―――――――――いろんな人を―――――――

 

 

   ガトウさんを―――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 リンさんに言われた通りに、30分後に俺達は池袋に到着した。

 

 

 ……そこには、何故か10班の人たちもいた。

 

「……ガトウさん達?」

「お、おいおいおいなんだありゃあ……!」

 

 え? 俺はジョウトの指差したものを見た。

 

 …

 ……

 ………

 

 …………なんだあれ………!いろんなレールが集まって毛糸玉みたいなものになってやがる……!!

 

「ん、あ、ロナー!」

「キカワさん……。あれ、なんすか一体!?」

「そうだね……。多分、磁力の力でレールをめちゃくちゃにされたんだと思う。注意していかないと、私達もあんなふうになっちゃうかも」

「うわ……それは……嫌ですね」

「……でも、そうは言ってられないよ。もう自衛隊の人達が入って行ったからね」

 

 ……そう言えばそうだ。

 確かに、見ただけで弱音は吐いていられないもんな!

 

 よっし、俺は気合を入れるように頬を叩いて息を吹いた。……大丈夫。行ける。

 ヒカイさんもいるし、ジョウトもいる。大丈夫だ。絶対!!

 

「さてと……13班達も集まってきたところで、俺達も作戦を始めるぜ」

「了解!!」

 

 俺達は返事して、池袋の『天球儀』に突撃した。

 

 ……この時の俺は、信じたくなかった。

 

 

 

 ……この先の光景、ただの地獄だったことに―――

 

 

 

 

===============

 

「……自衛隊の人達はもう先に行っちゃったんですかね……?」

「うん……多分、ね」

 

 アオイが不安そうに、ナガレさんに言う。

 ……確かに、侵入者用の電磁砲ってのは見つからない。……ドラゴンがちらほらいる程度で、どうやら突破はできたようだ。

 

「……さて、帝竜との叩きあいの前に、このドラゴンたちを仕留めとくべきだ。そうだろ?」

「えぇ。そのほうがよろしいかと」

 

 ガトウさんとヒカイさんがそう言う。どことなくぎゅっと閉まっている顔のガトウさんだ。……やっぱり、戦場だと自分も緊張するだろうな。

 

「んじゃあ……俺達はこっちにいく。……13班達はそっちを頼んだぜ?」

「了解です!」

 

 俺は返事をして、一度別れた。

 

 ……確かに、どっちか分かれて進んだ方が、ドラゴンを狩る効率もいいはずだ。

 ……よし、頑張らなくちゃな……!!

 

「ロナ!あっちにドラゴンだ!」

「分かりました!!……飛んでいるな。だったら、『空穿の疾槍(エアスピアー)』!!」

 

 俺はマナをうまく制御して槍を作る。そしてそのまま宙に浮いているドラゴン、『ホバードラグ』の体勢を大きく崩す。

 

「落ちろ……!!」

 

 そこにヒカイさんのかかと落とし。ドラゴンはなすすべもなくそのまま落下。

 ……結構高い……よなここ……。落ちたら……いや、だめだ、考えるな……!

 

「……ふん。オレの出番なし、か」

「次は援護頼むぞ?ジョウト」

「へっ、期待しないで休憩させてもらうわ」

「いや、それダメだからな?」

 

 俺はツッコミながらも進もうとして―――

 

 

 突然の音に、俺達は動きを止めた。

 

 

 ……今の砲撃音……は?

 

 

 その時。横を何かが通過して、落ちていった。

 

 

 …今……のは……?

 

「……おいボケ娘」

 

 ……俺の、ことか?

 

「……さっさと行くぞ」

 

 ジョウトは勝手に歩いて行った。……って、だめだよ一人行動は!……俺は前やらかしていたけど。

 

 ……いや、今のは気のせいだ。きっと、マモノが落ちていったんだ。……きっと、そうだよ。

 

「………」

 

 ……背いていた。現実から。

 

 見たくない、現実から。

 

 でも、認めたくなかった。

 

「……くそっ……」

 

 誰かが、そう言った、少なくても、俺ではない。

 でも、俺の言葉でもあった。

 

===============

 

―――ドウン!!

 

 

「っ!!」

 

 また爆発音………!!

 

「あっちだ!」

 

 ジョウトが叫ぶ。そして指差す―――

 

「……な……!」

 

 途端に、リンさんが言っていた言葉がよみがえる。

 

『幸いにも、電磁砲は自衛隊各員だけでも、犠牲を出さずに倒せるようだ』

 

 ……あれは、嘘だったのか……?

 

 嘘だったのか……

 

 嘘だったのか……!!!

 

「ち、チクショウ―――!!!」

 

 俺は叫びながら、電磁砲の近くまで走る。こっちには来てない。

 

―――理由は単純すぎる。……代わりに、自衛隊の人が攻撃を引きつけていたからだ。

 

 無理やり、『フレイム』を発動させて焼き尽かす。そこにやってきたのはヒカイさんだ。……その電磁砲を殴り飛ばして、落下。同時に、爆発した。

 

「……………あの……人は………」

 

 見た。……目は、背けない。

 

 ………横たわっていた。

 

「………なんで、なんで……」

 

 腕が、振るえる。

 

 途端に、誰か掴んできた。

 

 ガッシリしている手は、絶対ヒカイさんだった。

 

「……飛び出すな。……そして、我々の目的を……果たすんだ……」

「……ヒカイさん……それ、見殺しにしろと……?」

「………」

「…………こんな犠牲を出した道を、俺達に歩け……って?」

「…………」

「そんなの……俺はできない……できるわけがねぇよ!!!」

「………人は犠牲もなしに、生存できないんだ」

「勝手な言い分だろ!!………いや、……確かに……そうだけど……」

 

 ……正論しか、言ってないんだ。ヒカイさんは。

 でも、その正論は、時として俺を怒らせるんだ。

 

 ………どうして。正論を出して俺を止めようとするんだよ―――

 

「……嘆くのは後にしろ!!まだ間に合うはずだ!!オッサンだってこんなところで見殺しにしたくねぇだろ!!」

 

 ……ジョウト…………。

 

「…………分かってる」

 

 ヒカイさんは俺の腕をつかんだまま、歩き出した。

 

「……見殺しには……しないさ―――!!」

「急ぐぞ!これ以上被害を出さないためにもな!!」

 

 ……そうだ。ジョウトの言うとおりだ。

 

 ………見殺しには、できない………!!

 

「だから……死ぬな……突っ込まないでくれ………!!」

 

===============

 

――――――けど、俺の願いは叶わなかった。

 

 本当に、こんなに、急いでいるのに……。

 

 俺達は、無力だった―――

 

 

 

 

 

 

 

「…………」

 

 犠牲だらけで造られた道を、俺達は必死に走っていた。

 

 もう、犠牲なんか……見たくないのに……

 

「……おい、あそこ……」

 

 ジョウトが、今までの現実のショックから立ち直れないように、言った先にいたのは、別行動していたガトウさん達の班だ。

 

「……ひでぇありさまだぜ……」

「……こっちも……そうですよ……」

 

 やっぱり、ひどい光景だったんだろう。

 ……誰だよ……こんな犠牲を伴った作戦を出したのは……

 

 少なくても、リンさんじゃねぇ……。

 じゃあ………誰だよ……こんな作戦を出したのは……!!

 

「………総長から……だ」

 

 ……え?

 

 ………どういうことだよ……?

 

「自衛隊のヤツらは、ババァから直々に先発隊を依頼されていたんだよ」

 

 …………どういうことだ……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「何で、分かってて言わなかったんだよ……ジョウト!!!!」

「…………」

 

 お前……見殺しにしたのかよ……

 お前が……お前が……!!!

 

「や、やめなってロナ!!!」

 

 声を聞いた時、俺は今何をしようとしたのかを確認できた。

 ……殴りかけてた。

 それだけで、十分だ。

 

「………見損なったぞ、ジョウト……」

「……オッサンだって言ってただろ……犠牲はつきものだ。……けど……オレだって……オレだって……」

「……………」

 

 …………

 …………

 

「………アホな上司に命令されて死ぬのも、兵士の仕事の一つだ。………現場で兵士が勝手に働いても余計な被害が増えるだけだ」

 

 ……ガトウ……さん……

 

「……1日も早く、帝竜共から人間の世界を取り戻す。……そうだろ?13班」

「……………」

 

 納得………できねぇよ。

 じゃあなんだよ。犠牲と分かっていて、ジョウトは止めなかったのかよ。

 それが……平和ってやつなのかよ……!!

 

 

 

―――ドオン!!!

 

「……っ!!」

「今のはでかいぞ……!ロナ、ジョウト。……どうする?」

「止めに行くに決まってんだろ!!」

 

 叫んだ。

 

 もう、嫌だ。きれいごとでもかまわない。でも、手を伸ばせる距離にいる人たちを助けられないのは、嫌だ!!

 

「……ジョウト。お前も来い」

「……分かってるよ。オッサン」

 

 それだけいうと、俺達は急ぐ。

 

 そして……俺のトランシーバー越しから、通信が。

 

『……が……応援戦力、なんてのは期待できないんだよな……?』

『………残念ながら。多少のイレギュラーがあっても、作戦は予定通り遂行してもらうしかない。……本当に……』

 

 

 

「――――――っざけてんじゃねぇよ!クソババァ!!!!!」

 

 

 

 声の出している物を、投げ捨てた。

 

―――聞きたくねえよ!!テメェの正論(言い訳)なんて!!そんなもんが存在するなら、なんで俺達に頼まねぇんだよ!!

 

 とにかく……俺はただいろんなものでゴチャゴチャとした頭で、ただイラついていた。

 

 

 

「リン!!!」

 

 俺は遠くで、やってはいけない作戦を練っている自衛隊(コイツら)を見た。

 絶対に……ダメだ!!!

 お前らも犠牲になっちゃ、だめだ!!!

 

「……13班……そして10班……

 

 

 

   あとは、任せた」

 

「……まさか……!!」

 

 やめろ……!!まだ、まだ間に合う!!!

 

 

 やめろ!!!!!

 

 

 

 

「……じゃあな」

 

 

 

 

 それだけ言うと。

 

 リンたちは、先ほどの電磁砲よりも何倍もでかい電磁砲に走って行った。

 

 

 ……畜生……!!止められないのかよ!!!

 

 

「―――だめだよそんなの!!!」

 

 ……!?

 

 あ、アオイ……!?

 

 待って……だめだ!!お前も―――!!

 

 

「くっ……バカ野郎がッ……!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 電磁砲が、放たれた―――――――――

 

 けど―――

 

 自衛隊の人達は……無事だ……

 

 けど―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………畜生………」

 

 電磁砲は、壊した。

 

 ………けど―――

 

「や……やだ……起きてくださいよ!私のこと、叱ってくださいよ!!」

「いやだ……!!いやだ!!お願いです!!目を閉じないでください!!」

「へ……へへ……この、バカ胃袋娘と幸せ者……っつっても、……ザマァねぇな……」

 

 ………まだ、まだ間に合う………

 

 俺は急いで手をかざして、マナを使って傷を抑えようとして―――

 

 

 払われた。

 

「……分かるんだよ……もう、動けねぇしよ。……さんざん戦争だなんだ……カッコつけといて……一時の感情に流されて死ぬなんてよ………」

 

 ……俺は……

 

 手をかざして……

 

 ……あきらめたくなかった。まだ、生きているから……

 

「……やめとけ……お人好し……。今、最高なんだ……

 

 最後にこんな、人間くせえ死に方ができるとは…思わなかったぜ………」

 

 ……………

 

 ……………手を、止めて、しまった………

 

 

 

「俺は後悔してねぇ……『俺の意思』で戦って、死ぬんだ。

 

 お前たちも……後悔のねェ生き方を………しろよな……

 

 もうちょい……手伝ってやりたかったが……」

 

「が、ガトウさん……!!」

 

 必死に、ナガレさんが掴んでくる。

 

 …………俺には、どうすることも、できなかった。

 

「ガ……ッハハハ……お前も……まだ……甘いな……」

「だ、だから……だから……!!」

「悪いな、先に……だからよ………

 

 

 

 

  10班を、任せるぜ……?ナガレ……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それだけ告げると、

 

 

 ガトウさんは、それ以上、何も言わなかった。

 

 

「ガ……トウ………さん……?」

 

 …………ちくしょう………ちく……しょう………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――――――うわあああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 悲鳴が上がる。俺のでもあって、その場にいた人たちのモノでも……

 

 ゆっくりと、紫色のバンダナが、赤い髪の男性に落ちていく……

 

 俺は――――――助けられなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 誓った……筈なのに――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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23Sz 俺達の『意思』

 

 

 

 その後は、覚えていない。

 

 一度全員作戦を中断して、そして、気づいたときには都庁だ。

 

 ……なんで、こんなことに……。

 

 ……俺は、気づいていたはずなのに……

 

「………緊急会議だそうだ。会議室に集合」

 

 …ヒカイさんがそう言う。

 ……なんでだよ。

 

「……何が……だ?」

「………なんでアンタは、前向いていられるのさ………」

「…………」

 

 ………

 

「……さぁな……」

 

 ……

 

 俺は、それ以上何も言えなかった。

 

 

===============

 

 

 ……会議室。

 

 ……やはりと言うべきか、ここも沈黙だらけだ。

 

 たった一人の、死によって。

 

「……来てくれたのね」

 

 まるで、ナツメがどこか悲しんでいるような声で言っているが、彼らにはただ、偽りの仮面をかぶっているようにしか思えなかった。

 

「失態だわ……私の作戦ミスね」

 

 ……

 ……

 ……

 

 

 

 

「……どういう意味だよ」

「……何かしら?」

 

 

 

「どういう意味だっつってんだよクソババア!!!」

 

 

 

 叫んだのは、ロナだ。

 

「作戦ってなんだよ!!あんな犠牲を伴った作戦で、それで俺達が納得できるのかよ!!」

「そうだよ……あんなの、作戦じゃない!!」

 

 ロナの言葉に同意するように、アオイが言う。

 

 だが、ナツメは冷静に言う。

 

「みんなで手を取り合って仲良く勝利できたら、いいでしょうね」

 

 ………それも、確かに同意だ。

 その言葉に、反論するような、でも、力なく告げたのはリンだ。

 

「ガトウは……アタシ達のために……」

「アナタ達のせいではないわ。もっと、徹底すべきだった」

 

 

 さらに、言う。

 

 

 

「伝えるべきだった。犠牲を伴う作戦だと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

   自衛隊は、捨てゴマだと……!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その時。

 

 

 ナツメの身体が大きく吹き飛ばされた。

 

 

 いきなりすぎる光景に、全員が驚く。

 

 

「……もう1回、言ってみろよ」

 

 

 何かを蹴ったような体勢で、ロナはドスを聞かせて言う。

 

「もう1回言ってみろよ……あぁ!?」

 

 

 さらに飛び出す。倒れ込んでいるナツメに、追撃をかけるように。

 

 立ち上がろうとしたナツメに、ロナの鉄拳が打ち出される。

 

 整理された机へと、また吹き飛ばされる。

 

「ろ、ロナ……!!」

 

 あわてて抑えようとしたヒカイだが、ロナは動かないナツメに向かって言葉をぶつける。

 

 

「テメェのほうがよっぽど悪魔だよ!!マモノより、ドラゴンより、帝竜より!!!じゃあなんだよ!!人の屍で築いた道をお前は平気で歩けるのかよ!!答えろクソババァ!!!!」

 

「ロナ!!!もういいだろ!!!」

 

 ヒカイが怒鳴って、ロナを押さえつけようとする。けど、ロナは止まらない。近づきながらも、さらに続ける。

 

「あいつらにだって、あいつらにだって!!!家族や友達がいたはずなのに、反論することなくテメェのくそったれな作戦に乗ったんだよ!!!何でか分からねぇだろうよ!!テメェにはよ!!!」

「いい加減にしろ!!!」

 

 ヒカイが二人の間に立って、ロナを止める。

 

「……どけよ」

「どけない」

「………アンタはこの作戦、納得できたのかよ」

「…………」

「答えろ。…………答えなかったら、この場にいる全員殺すぞ」

 

 ロナは短刀を取り出しながら、ヒカイに告げる。

 眼は、嘘を言っていなかった。

 

「………嘘偽りなしで答えたら、殺さないか?」

「あぁ」

「………正直に言おう。『仕方なかった』」

 

 言った。

 

 やはり、アンタも悪魔だったか。そう思っていた、ロナ。

 

 けど、ヒカイは続けた。

 

「……だが、ロナの言葉、そして、ガトウ隊長の言葉で、自分のは間違っていると思う。そうだろ?」

「………」

 

 黙って、短刀をしまうロナ。その間に、ナツメは立ち上がっていた。咳き込みながらも、ナツメは自分の正論(言い訳)を続ける。

 

「…けど……自衛隊にはS級はいない……知ってる……?……S級1人には、何十人もの力があることを……」

「………ヒカイ……」

「分かってる。だが、ロナの幕じゃない。充分だろ?」

 

 腹の虫がおさまらないロナだが、ここはヒカイに任せるように、うなずいた。

 

「……それでも、我々は1人の人間で、1つの命がある。それは、力だけじゃない。絆があるからだ」

「……そして、オレ達の『意思』をつなげた結果でもある……だろ?」

 

 さらにジョウトが、仲間たちの肩を貸すように言った。

 

「そういや、オレ達が試験にいるころ、ガトウがこういってたぜ。『3人1組でチームを作れ』。これはなんでだと思うか?……恐らくだが、『1人1つ』だからだ」

「……そうだな。もし、何十人もの力があるS級だとしたら、たった1人1人だけで進むことになっただろう」

「でも、ガトウさんはそんなこと言わなかった。それは、人間、どんなやつでも、1なんだ。けど、その中には2も3もある。10もある。100もある。けど、1なんだ」

 

 ジョウト、ヒカイ、そしてロナが。

 自分たちが、生きて感じた証拠を、提出した。

 

 ロナ達の、意思で。

 

「…………」

 

「……総長。作戦を提案します」

 

 そこに、キリノが入ってくる。

 

「………帝竜ウォークライの『生体サンプル』を使わせてください。帝竜から得た素材を加工し、自衛隊の兵装を強化しましょう」

「キリノ……!」

 

 ロナの顔が、どこか輝き始めた。

 今まで暗く、何かを恨んでいた顔から、希望の顔へと。

 

「それであのレーザーにも多少は耐えられるはずです」

「………却下します」

 

 だが、ナツメは首を横に振った。

 

「あれはムラクモの切り札よ。……ガトウに……与えるはずだった」

「でしたら!!」

 

 そこに、ナガレが挙手する。

 

「だったら、僕にください!!ガトウさんの『意思』を引き継いだ……僕に!」

「ナガレさん……」

「それに、ガトウさんだって望んでいないんです。住んでくれる人がいなくては、東京を取り返したって意味がない。……きっと、ガトウさん……いや、我々10班は、そのために戦っているんです」

「……そうですよ。みんなが犠牲になったのに、それに目をつぶるわけにはいかない。……私も、目の当たりにしたから」

 

 ナガレ、アオイがそう言う。

 

「……ガトウさんは言ってたわ。後悔のないように生きろ、と。何もしないより、何かしたほうが、良い」

 

 キカワが言う。

 

「……………」

 

「まだアンタは拒否するのか?」

 

 ロナが、全員の前に立って、ナツメから護るように、そう言う。

 

「これだけの、作戦や決まり事よりも大切な、『俺達の意思』があるのに、アンタはそれを拒否するのか?……そんなの、違うだろ」

 

 

 

「…………

 

 

 

   分かりました。承認します」

 

 その言葉に、いたるところから声が出る。

 

「私が間違っていたのかもしれません……今回の作戦、私は外れます」

「ナツメさん……」

「キリノ……あとはお願い」

 

 それだけ言うと、ナツメは何処かへと、歩き、この会議室を後にした。ダメージは残っているものの、支障はなさそうだ。

 

「……え、えーっと、ともかく、作戦は承認されました。自衛隊の強化開発も含め、1日で結果を出します」

「1日?大丈夫なのか?キリノ」

 

 ロナの言葉に、キリノは力強くうなずく。

 

「……みなさん、どうかお待ちください!」

 

 

===============

 

 

「……」

 

 夜。俺は都庁の広場にいた。

 寝転んでいた。地面は固くて、寝にくいけど、なんか、休めておきたかったからだ。

 だったら、ベットで寝た方がいいのかもしれないんだけど、でも、外の空気にも当たりたかったからだろう。

 

「………ガトウさん」

 

 無意識に、俺はガトウさんの名前を言った。

 ………意思。か。

 

「……ロナ?生きてる?」

 

 うわっ……って、キカワさんか。いきなり覗き込まないでくださいよ。

 

「あーよかった。……どうして寝てたの?」

「えっと……ちょっと、外の空気を吸って、ついでになんとなく寝転んでいました」

「ふーん。………ちょっと、会話、いいかな?」

 

 ……?なんだろ。俺は起き上がりながら、キカワさんの会話に乗り始めた。

 

「……ロナはさ。……すごいんだよね。……どんな相手でも、恐れず立ち向かう。ナツメさんだって、そうだったでしょ?」

「……う、あれは……ただ単にキレただけですよ。そりゃあ……俺達と同じように、命がある、人間ですから」

「でも、それを、最高責任者のナツメさんに言ったんだよ?蹴りと拳をつけて」

「だ、だから!あれはただ単にキレただけですって!……さすがに、反省してますけど……」

「本当に?」

「………半分以下は」

 

 その言葉に、キカワさんは笑った。……ちなみに本当だ。殴ったことは反省してるけど、でも、許せなかった。今でもな。

 ひとしきり笑うと、キカワさんはどこか悲しそうな顔で、言った。

 

「……私はさ、そういうのが出来ないんだ。まるで、自分を変えちゃうようでさ」

「……それが、普通なんじゃないんですか?」

「ううん。……ねぇ知ってる?大勢に印象つけられたら、最後までそれをやり抜き通さなくちゃいけないこと」

「……え?」

「……私はさ、そんな環境に生まれたから、そうならなくちゃって無意識に思っているの。……だから、ロナのことがちょっとうらやましい」

「………」

「似ているんだよね。私の知っている人と。だから、ロナのこと、親近感湧いちゃうのかな……」

 

 そんな……辛い過去だったのかな……?けど、……誰に似ているんだろ?

 

「ふふっ、男の子、って言えばいいかな?」

「……俺女っすよ」

「あはは!!分かってるって」

 

 ……まぁ、心は男なんだけどな。

 ……けど、どこか、キカワさんもある人に似ている気がする。……うーん、分からん。

 

「……さて、そろそろ寝よっか?明日のためにもね」

「……えぇ」

「……おーいガトウさーん!!私たちの事、見守っててくださいよー!!!」

 

 天に向かって、キカワさんが子供っぽくはしゃぎながら叫んだ。

 ……そうだな。大事な物に気づかせてくれた、ガトウさんに、感謝、そして、宣言しなくちゃな。

 

「ガトウさーん!!!俺達、絶対、世界を取り戻しますからね!!!」

 

 ……だから、見ていてください。ガトウさん―――

 

 俺はそう思いながら、明日を待つことにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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24Sz 巨大な円陣

どうもです!評価もつけられて僕も嬉しい限りです。そして、これだけのななドラファンがいることを再確認できました。

さて、chapter2も後半戦に突入!彼らに待ち受ける運命は一体!

それでは、24Sz……どうぞ!

(ちなみに前の話で前書きがなかったのは仕様です。あまりにもシリアスすぎる演出故の処置みたいなものです)


 どこからか日の光が差している気がする。部屋は少し明るく感じる。

 

「…………」

 

 ……うん。バッチリ目が覚めたはず。俺は短剣とハンドガンを見ながら武装の確認をした。やっぱ、こういう時はちゃんと起きとかないとな。

 ……いつまでも寝てたら、ガトウさんが夢の中から起こしかねないし……な。

 

「……ロナ、オッサン……少し、いいか?」

 

 ……ジョウト……

 

「……悪かった。もしあのとき止めとけば……」

「……ジョウト。君は悪くない」

「でも、教えてくれよ。何であの時、止めなかったんだ?」

 

 ……気になったのは、それだ。

 それを聞かないと、俺は気にくわねぇ………。

 

「………犠牲、しか思い浮かばなかったんだよ。でもよ、正直に話すぜ……。俺は、『先発隊』の話しか聞いてなかった。まさか、こんなことになるなんて思わなかったんだよ………」

 

 ……お前………

 

「……もしあん時止めときゃあ……ガトウや、自衛隊のヤツらを失わずにすんだんだよな……」

「……もういい。過去を悔やんでもしかたないだろう?……大切なのは、今、だ」

「でもよ!……それでも、オレは許せねぇんだよ。……どこかでケジメつけねぇと……自分が許せねぇ……」

 

 ……

 ………

 …………

 

「……ロナ?」

 

 俺は無意識に立ち上がって、ジョウトを見た。

 

「ジョウト。歯を食いしばれ」

 

 俺はそう言った。……ヒカイさんが止めようとしてるけど、構うもんか。

 一発、やっとかねぇと気が済まない。

 

「………あぁ」

 

 ジョウトは立ち上がると、俺の目の前にやってくる。

 ……

 

「……目をつぶって、歯を食いしばれ。いいな?」

「分かってるっつーの」

 

 ……ジョウトが、目をつぶる。

 ………手をゆっくり構えて、そして――――――

 

 

 

 

 

 

 

「カツアゲんときにジコ中で俺のやきそばパンを手放そうとしたなチョーップ!!」

「え!?」

「へ?―――フゴォ!?」

 

 

 ……意外だろ?俺、恨みはずっと抱えている性分なんで。

 あ?そっちじゃないだろ?……それもそうなんだけどさ。

 

「……よっしスッキリした。いつチョップすればいいのか分からなかったからな」

「は、はぁ……?」

「……いいよ別に。俺も勝手な行動してたし、お互い様。そりゃあ、まだ恨んでるったら恨んでるけど。……でもいいよ。あの人ぶん殴ったし、それでいいや」

 

 ……やっぱり、意外って顔だな。……いや、もちろんさっきの言葉は嘘偽りなしだ。

 

 けどさ。……結局、仲間じゃん。誰にも言えない悩みってのもある。……なんか知らないけど、そう言う奴になれてるからかな。……その辺りの記憶はないけどさ。

 

「……それに、これ終わったら後でヒカイさんに都庁の外の広場でみっちり説教してくれるはずだから、これだけにしておく」

「……よしわかった」

「そりゃねぇだろ!?」

 

 焦りの見える言葉に俺は笑った。やーいザマーみろー。助けてくれなかった罰だー。

 

「もちろん、ロナもな?怒っていたとはいえ、上司を殴ったからな?」

「ゲェ!?なんで俺まで!?」

 

 ……あー畜生!!ジョウトに笑われた!!

 

 ……まぁ、いいか。緊張もほぐれたし。

 

 ……グットタイミングでミイナからの通信。……会議室、だってさ。

 

「……よっし!行きますか!ジョウト!ヒカイさん!」

「わーったよ」

「あぁ!」

 

================

 

 会議室。……今回は遅刻もしてないし、ちゃんと飯も食った!大丈夫!こっちの準備も万端!

 ……あっれ?開発班のみなさんと、自衛隊のリンさんと、後は……

 ナガレさんと、キカワさんはいるけど……アオイがいない……まだ落ち込んでいるのか……。

 

「……あ、ロナ、ヒカイさん。ジョウト」

 

 ナガレさん。……あれ?そのバンダナ……?

 

「うん。……ガトウさんの形見だよ。……僕が大きいこと言ったし、ガトウさんに託されたからね。……だから、引き継がなくちゃ」

 

 ナガレさん……うん。そうだよな。そうこなくっちゃな。

 

「……ロナ。アオイちゃんから伝言。『まだ気持ちの整理が出来ていないので、しばらく休んでいます』って」

「キカワさん……はい。後でアオイに伝えといてください。休めるだけ休んでおいてって」

 

 ……後で、様子見にいかなくっちゃな―――

 

「おはようございます!みなさん!」

 

 うおっ!?……いつになくキリノの声がでかいような……?……寝た、の?

 

「一睡もしていませんが……ボクは気分最高、気分快調です!いやー、気持ちいいなぁ!」

 

 お、おう……!なんだこのキリノ、すげぇやる気にあふれてる……!?

 

「……キリノ殿。興奮するもいいが、みんなが話についていけてないぞ?」

「あっ……ご、ゴホン!」

 

 ……さすがヒカイさん。この空気をなんとか元に戻してくれた。すげぇ。

 

「……昨晩、開発班の皆さんに協力してもらい、自衛隊の兵装を強化することに成功しました。ウォークライの外翼部を削りだし、耐レーザー用の皮膜を形成しています。非常に薄く軽いコートですが、レーザーに対しては飛躍的に防御性能が向上しています」

 

 ……えーっと、すげぇ、んだよな!要は、「薄いコートでレーザーを防げる」ってことだよな。うん。……ある程度聞き流しちゃったけど。

 ……でも、それって……?

 

「……また、自衛隊の人達にオトリになれ、と?」

「…………」

 

 ……それだったら、俺らがやったほうがいいだろ。多分。……痛いの嫌だけど、これ以上人を失いたくないんだよ。だったら、俺らが―――

 

「いや、いいんだ。昨日お前が言った言葉、嬉しかった」

 

 ……リンさん……?

 

「理屈じゃないかもしれないけどさ、アタシたちの取り戻した東京に、1人でも多くの人間が生き残るといいよな」

「……リンさん……」

「それに、ロナがアイツを殴っている光景を見て、アタシもスカッとしたんだ」

 

 うっ!?いや、だからあれはただ単にキレただけだし……さすがに悪いと思ってるし……。

 

「ははっ!そんなあわてたような顔をするなって。……とにかく、アタシたちには特別な才能はない。だから、ドラゴンを倒す刃になるのは無理だ。それは13班達に任せるよ」

「……そんなこと、ないですよ。……少なくても、俺にはそんな才能は……」

「そんな過小評価するなって。な?」

 

 リンさんが、俺の肩を叩く。

 ……リンさんの瞳には、強い意志があった。そう。嘘偽りない、意思のある瞳が。

 

「……でも、そんなアタシたちでも、13班たちを導く盾にはなれる。人を1人でも多く守るための盾だ。死ぬためにやるなんて馬鹿げてた。……キリノ。お前のこの武装、信頼していいんだろ?」

「ええ!もちろん!!」

 

 ……キリノが、自信にあふれた返答をする。……うん。感じる。キリノにも、意思がある。

 

「……大丈夫だ。アタシたちには意思がある。1人でも多く生き残るために!これは『アタシたちの意思』だ!」

 

 ……そっか、そうだよな!!

 うん!大丈夫!みんなの意思、それをつなげれば……!

 

 ……あ、そだ。

 

「……あ、あの!みなさん……円陣組みません?」

「エンジン……って、あの……」

「そうですよ。……みんなの意思を確かめ合うんです。円陣を組んで、意思を集めて、そして、この作戦を成功させるんです!」

 

 俺の言葉に、この場にいた全員がうなずいた。各自が集まって、肩を組み合って大きな円を作る。……俺の隣には、ヒカイさんと、ジョウトがいる。……感じる。二人の、いや、全員の『意思』が……!!

 

「……じゃあキリノ、よろしく!」

「えぇ!?こういうのはロナが……」

「今この場の全体指揮を執ってるのはキリノなんだから、な?」

「……分かりました」

 

 途端に、俺の頭におぼろげな記憶が浮かぶ。

 

 こうして、少人数の円陣を組んでいる。そして―――

 

『絶対に……成功させよう!』

「絶対に、成功させて、誰一人失わずに帰りましょう!!」

『『『オーーー!!!』』』

「「「オーーー!!!」」」

 

 ……やばいな。今まで無理やり思い出そうとした痛みは全くない。

 

 ……最高の、思い出なんだろう。

 

 そして、改めて感じる。全員の意思。

 

 ……絶対、成功させてやる!!!

 

 

 

 だから、見ててください、ガトウさん!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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25Sz 3つの『一』に屍道はなし

どうもです!…あー言うことがない。しばらく前書きはおやすみかもですね(苦笑

今回のタイトル、屍道と書いてしかばねみちです。単純でしょ?

それでは、25Sz、どうぞ!


 俺達は、一度中断した場所からまた作戦を再開した。

 もう悲壮感はない。ただ、前へ。そうしなくちゃ、な。

 これ以上、好き勝手にさせない!

 

「……それじゃ、マモノはアタシ達が先行して倒す!……ドラゴンは任せるぞ!13班!」

「了解です!リンさん!」

「……それと、ロナ」

「…はい……?」

「…アタシのことは『リン』だけでいい。堅苦しいのもなしだ!」

「分かった!リン!!」

 

 俺達はリンさ……じゃないな。リンの言われた通りに行動する。……でも、一方的な命令じゃない。俺達を信用しての、自衛隊のみんなと俺達の連携だ。

 

「ロナ……ううん。13班。僕たちはこっちに向かう!……絶対、死なないでよ!」

「大丈夫ですナガレさん!……生きて、合流します!!」

 

 俺はナガレさんとキカワさんに背を預けるように力強く答えた。

 ……恥ずかしいけど、怖かった。慣れないんだ。こういった戦場が。

 でも、弱音吐くわけにはいかないしな……!

 

「いきましょう!ヒカイさん!ジョウト!」

「あぁ!いくぞ!」

「わーってるよ!」

 

 俺達は進みながら、道をふさいでいたり、自衛隊の邪魔をしているドラゴンたちを倒していく。

 うん。いつも以上に連携が取れてる!ヒカイさんが前に出て、俺がそこから刺し込んで、ジョウトは援護する。

 単純で、分かりやすいのに、それ以上に連携が出来てる。

 ……へへ!なんか、良いな本当に!

 

「ヘラヘラ笑ってんなよアホ娘!まだドラゴンはいるぜ!」

「るっせーなジョウト!」

「二人とも、気を抜くなよ!……説教の時間を増やすからな!」

「「真面目にやります!!」」

 

 ……けど、ヒカイさんだって安心できるような顔してるくせに。………なんか、嬉しいな。

 こうして、さらに認められているような感じでさ。

 

「―――オオオオ!!」

 

 っ!……こいつ、『サンダードラゴン』か!……確か、ブレス攻撃と翼を使った『ソニックブーム』に注意、だよな!

 

「ヒカイさん!ブレスのタイミングでカウンターを!!ジョウト!その際の二次被害を抑えるために『Bデータイレイザー』を!」

「了解だ!」

「任せな!コード修復、DEL……start!」

 

 合図した途端に、帝竜の『サンダーブレス』が俺達に飛んでくる……!

 

「あっ……ぐぅっ……!!」

 

 痛っ……!けど、ここで怯んでる暇はない……!でも、やっぱり痛い!しかも、どこか痺れたような気がするし……!

 けどな、俺はそれを先に見越してんだよ……!!

 

「吐息を流せ、『吹裂く也』ッ!!」

 

 だけど、ヒカイさんはその攻撃を、マナをあまり使わずに相手の攻撃だけで形成してカウンターする『吹裂く也』を出していた。

 デストロイヤーは基本的に遅めだ。けど、それをカバーする強烈な反撃技(カウンター)を持ち合わせている。

 

 どんな状況でも、攻撃に転じる。―――それが、破壊者(デストロイヤー)だ。

 

 攻撃は避けられず、意外な一撃を喰らったドラゴンは痛みを感じたように大きく吠えた。

 

 ……怯んでいるうちに、俺の痺れは取れてきた。……さっきの『Bデータイレイザー』は時間のかかる状態異常を素早く解析して早めに除去できる、下手をすれば俺の『リカヴァ』より万能なんじゃないかと言えるぐらいのスキルだ。

 

 攻撃に特化したデストロイヤー(ヒカイさん)、支援に適正のあるハッカー(ジョウト)

 そして……状況に応じた行動ができるトリックスターとサイキックの二重能力(ロナ)

 そんなかみ合っている俺達に……倒せないドラゴン共はいないよな!!

 

「『突壊の氷刃(フリーズ)』!!」

 

 飛び上がって、強烈な氷の刃をドラゴンの足元に形成して放つ。こいつにとっては冷気は苦手なはずだ。結構少な目な戦闘数だけど、なんか知らないけど、すごく多く戦っている気がする。

 ……今はそんなの、いいけどな!!

 

「炸裂しろ!『マインスロアー』!」

 

 さらに俺は銃弾を直接手に持ってマナを込め、ドラゴンの首元に投げつけて刺し込む。

 これ?……ま、後でのお楽しみだ。

 

「いいぞ。……守りを開け、『スピネイジブロウ』!」

 

 さらにヒカイさんは俺のねじ込んだ『マインスロアー』に向かって2発、相手の防御力を低下させつつ、攻撃する。

 

「……仕舞いだ」

 

 さらにジョウトがチャクラムで気を引かせるように攻撃。この攻撃が仇となったのか、標的がジョウトに向かう。

 けど、もう手遅れだ。

 

「……じゃあな」

 

 途端に、ねじ込まれていた『マインスロアー』が爆発した。

 そう。コイツはさらに追撃の爆発も与えられる二重攻撃。暗殺者こと、トリックスターらしい攻撃だ。

 爆発の撃ちこまれたドラゴンはとうとう力尽きたように、ドスンと倒れる。動いていない、となると、やったようだな。

 

「全く。手のかかる奴だ」

 

 俺はそう言って、銃弾をリロード。……うん。大丈夫そうだな。

 

「よし、この調子で進むぞ。ロナ。ジョウト」

「はい!」

「おうよ!」

 

===============

 

「おいアレ!」

 

 俺はある方向を指差す。自衛隊の人……が、また電磁砲に……!!

 

「急ぐぜ!お二人さん!!」

「分かってる!」

「あぁ!もうあんな思いはしねぇ!!」

 

 俺達は突撃する。耐えられるはずとはいえ、急がない理由はない!

 

「コード強化、ATK……start!」

「よし!初手を決めよ、『ジャブ』!」

 

 ヒカイさんの割には攻撃は軽めだ。けど、相手に特殊な『D深度』を入れ込むためにあえて力を弱めて次につなげる。これが深いほど、威力の増す攻撃ができるってわけだ。

 

「『ヴァンパイア』!」

 

 さらに俺は相手の体力を削りつつ、自分のモノにできるトリックスターの剣技、『ヴァンパイア』でダメージを加える。

 

「ヒカイさん!」

「あぁ!純粋に放て、『正拳突き』!」

 

 さらに一撃。その攻撃に電磁砲はレールの外へ。

 ……だ、大丈夫……だよな!

 

「………あ」

 

 無事だった。……すげぇ、すげぇよ!キリノ!それに、ありがとう!

 

「……ほら!先に行け!!13班!」

「はいっ!!」

 

 俺達はその人に感謝しながら、次へ進む。

 

 うん……!もう、あんな思いはしなくてすむんだ!

 

 だから、急ぐ!!明るくなったからこそ、もう暗くしないためにも!!

 

===============

 

「ここからは電磁砲の射程圏内だから迂回しろ、とのことだ」

「分かりました」

 

 俺達は一度、電磁砲の判定から逃れるように走る。……多分、アレで最後かもしれない。

 ……ちなみに、俺のトランシーバーは投げてしまった故に、今現在通信の状況は分からない。

 

「……しかし、二人とも、見違えるうちに強くなったな」

 

 と、走っている間にヒカイさんがそう言う。……そうかな……?

 

「……いや、まだ、怖いんですよ。戦場が。……実は、強がっているんです」

「ほう?」

「……今すぐに、泣いてもおかしくないんですよ。でも、それでも俺は二人と並んでこの東京を元通りにしたい。……それに、もう退くわけにはいかないんです」

 

 さまざまな犠牲を、俺は見た。

 さまざまな死を、俺は見た。

 もう、この現実からは逃げられない。

 逃げたら、いや、逃げたくないんだ。

 

「……強がりでも、ありがたいぞ」

「へへ……ありがとうございます」

「……ジョウトも、まだ怖いか?」

「……あぁ」

 

 ジョウトは暗い顔で答えるが、すぐに真剣な顔になる。

 

「けど、ロナ(コイツ)やオッサンが出てるのにオレはノコノコ後ろでいられないっつーの。……それによ。オレはもう失敗者だから、これ以上失敗するわけにもいかねぇ。……それが、改変者(ハッカー)ってもんだ」

「……言うようになったなぁジョウト」

「フン。コイツとはちげぇからな」

 

 るっせーな。何があっても俺をつけるんだからよ。

 ……へへ。でも、それがジョウトの魅力かもしれないな。

 

「……ん?通信っぽいな」

「あぁ」

 

 ……通信か。……しばらくして、ジョウトが俺に言った。

 

「……あの電磁砲、リンが引き受けるってよ?」

「リンが?」

「……イコマってやつに無理するなって怒られるかも、だってよ」

「………あぁ。……無理はさせないさ」

 

 そう言って俺たちは急いだ。

 ……いた、あいつだ!!電磁砲は、リンの方を狙ってる!

 

「速攻で仕留める!『空穿の疾槍(エアスピアー)』!『空落の衝雷(エレキ)』!」

「おうよ!もう一個、おまけだぁ!!」

 

 俺は素早く両手にマナを込め、槍を飛ばして、雷をぶつける。さらにジョウトのチャクラムがそいつを叩いて、一瞬にしてそいつは壊れた。

 

「リン!!」

「いっつ……ちょっと怪我しちゃったよ。……でも、アタシでもやれただろ?」

「……何言っているんだよ。まだ死んではいないだろ?」

「ッハハ……!そうだよな。まだ終わっちゃいない。…けど、せめて見送りはさせてくれよ」

「うん!」

 

================

 

 無事に、俺たちと10班のナガレさんとキカワさんは合流。……顔を見る限り、あっちの犠牲者はいないようだ。

 ……帰ったら、キリノに感謝しておかないとな。

 そして、その先には、自衛隊のみなさんが。

 リンが俺達の目の前へ。

 

「この先が、帝竜のいるフロアだ」

 

 そう言って、自衛隊の人達の列に混ざる。

 

「13班、10班に―――敬礼ッ!!」

 

 ……任せろ。俺はそう、心の中で言った。

 

「……ガトウさん……見ていてください!!」

 

 ナガレさんはバンダナに触れながらそう言った。

 

 ……そうだな。亡くなった人たちのためにも、俺達は勝たなくちゃいけない。

 

 ……怖い。勝てるのか、分からない。

 

 けど、逃げないさ。絶対。弱音も吐きたくないさ。

 

 もう、あんな過ちをしないためにも!

 

 

――――――さぁ、決戦だ……!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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26Sz とある帝竜の超電磁砲

どうもこんにちは!……え?タイトル?き、気のせいです(汗

さて、とうとう帝竜戦に突入!原作と違って10班のみなさんもいますよ!

あ、今回から帝竜戦など一部では三人称視点で書かせてもらいます。その方が、なんかいいかもしれないので。

それでは、26Sz、どうぞ!


 彼らは走る。

 いろんな人の想いを、意思を背負って。

 

「……まさか、こうして他の班の人たちと戦えるなんてね」

「どうしたんですか?ナガレさん」

「ううん。……なんか、頼もしいんだ。キミたちのことがね」

 

 ナガレは照れくさそうに笑う。ロナも、どこか照れていたが、今はそのようなことは言っていられなかった。

 相手は強敵。ロナ自身の『隠れている力』が身体を震わせ、強敵ということを確認していた。

 

「……油断せずに行きましょう。そして、全員で帰るんです!」

「うん!……『ヘマするんじゃねェ!しくじったら承知しねェぞ!』」

「なんすかそれ……ガトウさんのまねですか」

 

 笑っていたのもつかの間。

 遠く、だが、近くも感じるところからレーザーの発射音が聞こえてきた。

 全員、一瞬にして真剣な表情を浮かべる。

 

「……行こう!!」

 

 ナガレの合図とともに、今回の帝竜、ジゴワットの元へ。

 まるで古代の戦車のような形をした帝竜は、やはり、非常に危険な存在と告げている。

 

「んじゃ、先にこいつをかけとくぜ!コード強化……」

「ストップ!ジョウト!!」

 

 だが、ロナは慌ててジョウトの『ディフェンスゲイン』を抑制。

 なんとなくだが、ロナは感じていた。

 

「あいつ、動きが鈍いから取り付けられている砲台みたいなもので攻撃するはずだ。それも、(サイキック)みたいな『精命力』を使った技で。ジョウトのソレは物理的なダメージだけだろ。……ほとんど意味ないはずだぜ」

「そうか……それだと……」

「えぇ。ヒカイさん(デストロイヤー)にとっては致命傷、しかもカウンターはほとんど出来ない。……カウンターはある程度控えておいた方がいいと思います」

 

 適切な分析と的確な指示でロナは二人のいつもの行動を出来る限りしないほうがいいと指示した。二人はロナの指示に黙ってうなずき、了承した。

 

「…となると……俺がヒットアンドアウェイしたほうがいいか……」

 

 二人にはあまり被弾しない方がいいと思ったロナは先行してジゴワットの近くへ。

 先にナガレとキカワと交戦していたジゴワットの砲台の一部が、ロナのほうに標準を向ける。

 

「っ!」

 

 素早く方向転換しながら攻撃を避ける。

 

 バリンっ!と、先ほどロナがいたところに電弾が弾ける。

 

 やっぱり、俺と同じような攻撃の種類か!とロナは思っていた。

 

「でりゃあ!!」

 

 そこに、キカワが走り込み、ジゴワットの顔面に向かって双銃を乱射。怯んだ様子のないジゴワットは牙に電撃を溜めて、そのまま突進。

 

「やっば、きゃあっ!!」

「キカワさんっ!!」

「ロナ!前!!」

 

 ナガレの声にはっとしながらもジゴワットの方に向くロナ。

 そこには、電撃を溜めたジゴワットの砲台の一つが、標準を定めたような体勢が見えた。

 

「―――グモアアア!!」

 

 ジゴワットの咆哮と共に、ロナに向かって凶射。『エイミングショット』。ロナ達の使っているソレとは比べ物にはできない威力が、ロナに一直線に炸裂。

 防御は間に合ったものの、大ダメージは免れず、吹き飛ばされる。

 

「っつう……!!」

 

 折れかける痛みに耐えながらも、ロナも反撃に移る。手に冷気を溜め、一直線に。

 

「『突壊の氷刃(フリーズ)』!喰らえ!!」

 

 両方の腕から威力の伴った氷刃弾を発射。双方の『フリーズ』はジゴワットの砲台の一つに直撃。……あまり目立った外傷はないが、確実に効いているはずだ。

 

「……あ、あれ……?」

 

 ロナは自分の身体に違和感があるのを確認できた。先ほどのダメージがほんの少しだけ和らいでいるような、そんな感じだ。

 

「……まさか、ジョウト?」

「さっさと行って来い。援護に回るぜ」

「……あぁ!」

 

 ジョウトによる『リジェネレーター』の支援を受けながら、ロナはそのまま、さらに『フリーズ』を形成してさらに追撃をかける。

 そして、ロナと違った方向にいるナガレは神経を集中させて、納刀している刀に手をかける―――

 

「納刀―――『フブキ討ち』!!」

 

 斬り抜けながら、氷気を纏った一閃を繰り出す。

 同じような属性攻撃、しかも、ジゴワットにとっては致命打ともいえる攻撃に、一瞬、ほんの一瞬だが、怯んできている。

 

「そこかっ!」

 

 ロナやナガレが作ってきた凍傷部分に、ヒカイはえぐるように殴りかかる。さらに連撃。

 

「うん、いい感じ―――」

 

 と、思ったのもつかの間。

 

「グモオオオオ!!!」

 

 ジゴワットが吠える。

 

 同時に、『放電』した。

 

「ぐああ!?」

「ヒカイさん!」

 

 素早く呼びかけながらも、ロナは『キュア』を発動して回復させる。

 

「……っ!!」

 

 さらに、ロナがジゴワットから感じた強烈な殺気。

 

「……全員、防御を固めろ!!!」

 

 指示しながら、ロナは自身のマナを操り、『あること』をしていた。

 その間に、ジゴワットの『主砲』はチャージを開始、さらに、完了まで進み―――

 

「……おい!?ロナ!お前防御―――!!」

 

 

 

 

 一斉に、放出。ジゴワットの『超電磁砲』が全員を薙ぎ払う。

 

 

 

「ぬぐぅっ……!」

「くそがぁ……!」

「わああ!!」

「これは……!」

 

 

 防御を固めていたのにも関わらず、非常に痛手な一撃をもらい、膝をつく。

 だが、その中に、ロナはいなかった。

 ロナは、存在していない。

 

「……ロナは?」

「まさか……!」

 

 落ちたのか?ヒカイとナガレはそう思った。ジョウトも、キカワも、そう思った。

 

「…ロナ!?」

「ちっ……!あのバカ!!」

 

 喰らったと、その時いた全員はそう思っていた。

 

 

 だが、考えてもらいたい。

 ロナは先ほどまで、『槍を具現化』していたり、『暗殺者らしい動き』をしていた。

 だとしたら、何故いないのか?

 しかし、本当に『本人』が喰らったのか?

 

 

「……遅い」

 

 その声が聞こえた途端、ジゴワットの副砲の一部から攻撃が撃たれ、ハンマーで鉄を叩いた音が響く。

 

「……『突壊の氷刃(フリーズ)』!!」

 

 そこに追撃をかけるように、氷刃弾が飛び、ついには副砲の一部を破壊した―――!

 そして発射した本人は、まぎれもなく、ロナだ!

 

「ロナ……!」

「ちっ、心配して損したぜ!」

 

 ヒカイとジョウトがそれぞれ言う。けど、まだ思うことがある。

 実はジョウトはあの時、ロナが喰らった光景を見ていた。けど、その時はロナは防御を一切固めていない。むしろ、棒立ちのような状態だった。

 この状態から、どうやってここまで攻撃に転じたのか?

 

「……なるほど」

 

 その中で、キカワはなんとなく察していた。

 もしかしたら、自分だけはうまく標的から外れていて、そこから攻撃に転じた。キカワもトリックスターだから分かる。『ハイディング』という気配隠しの技、そこから『ブッシュトラップ』を使ったカウンターを仕掛けようとしていたのだと。

 

「まぁ、いい!理由は後で聞かせてもらう!!」

 

 顔にアザが出来ているものの、それでも一気に前へ進むヒカイ。先ほどのラッシュである程度の『D深度』が溜まっている筈と思い、一撃を。

 

「守りを開け、『スピネイジブロウ』!」

 

 ジゴワットの他の副砲に二発。そこにナガレが走り込む。

 

「抜刀―――『トンボ斬り』!!」

 

 身体をひねらせ、マナを使って勢いよく衝撃波を飛ばして副砲を曲がらせる。

 

「―――グ、モアアア……!!」

 

 さすがにガタがきているのか、ダメージを受けて大きく吠えるジゴワット。

 あきらめが悪く、さらにまた、『超電磁砲』を撃とうとする―――!

 

「チッ……まじか……!」

 

 急いで回復しようとするが、全員一気に回復できるほどの量を持っていない。

 

 ……まずい、防御は……無理だ!全員結構ダメージあるから耐えられない―――!!

 

「まぁ、要するに止めとけってことだろ?」

 

 誰かが言った直後、ジゴワットの動きが一瞬止まったように錯覚した。

 まさか……。ロナは無意識に、そうした本人を見る。

 

「……ジョウト?」

「お前が致命打(クリティカル)与えまくったせいで、介入されちゃってんの。帝竜のクセに、ざまーねーな」

 

 そう言いながら、ジョウトは手元にディスクのような、小さな円盤を出現させる。

 

「コード変更、FRFI………check!!」

 

 ジョウトの『マッドストライフ.X』が発動。円盤を投げつける。ヒットした途端に、ひどく耳障りな音がしてこの場にいた者、ジョウトも含めて顔をしかめる。

 

「チッ、うっせーったらありゃしねぇ。けど―――自滅しな」

 

 その言葉に反応するように―――

 

 

 

 

 

 ドゴン!!!!

 

 

 

 

 『超電磁砲』が、ジゴワットの主砲で爆発。

 主砲の一部が欠け、ジゴワットの『切り札』が撃てなくなったうえに大ダメージ。大きく怯んだジゴワットを確認して、ジョウトは叫んだ。

 

「今だ!やっちまえ!!」

 

 その声に、全員がうなずく。

 

「……あぁ!!ロナ、『フリーズ』撃てるよね!僕がそれに合わせる!」

「はい!『突壊の氷刃(フリーズ)』!!」

「よし!納刀―――『風林重ね・氷壁』!!」

 

 さらに追撃。ロナの『フリーズ』を直撃させ、その際の衝撃で飛び散ったマナをナガレが自身のマナに加算させてさらに追撃を加える『風林重ね』で追撃をしかける。

 

「止めだ……!殴り撃て、『ダブルフック』!」

「仕留め撃つ!『エイミングショット』!!」

 

 ヒカイの強烈な打撃、キカワの痛烈な射撃が、一直線にジゴワットに刺さる。

 

 

「――――――オオオ……」

 

 

 ジゴワットが大きく吠え、せめて最後の一撃を撃とうとして、ロナに近づこうとしたが、ジョウトが割り込むように入ってくる。

 

「……仕舞いだ。……せめて失敗者の弱い一撃で安らかに逝っちまえ」

 

 まるで野球の投球フォームのように、ジョウトはチャクラムを投擲。

 確かに、この中では一番非力な一撃だ。

 けど、それは、限界に近づいているジゴワットにとっては、ただの致命傷。

 

 チャクラムがジゴワットにめり込むと、まるでそれに特殊な力が宿っていたように、ジゴワットは地に伏せ、それっきり動かなくなった。

 

「……ほいっ。お仕事終了ォっと」

 

 チャクラムを抜き取りながら、ジョウトは、ちょっとの罪滅ぼしと共に勝ち鬨を上げた―――

 

=======視点切り替え=======

 

 

 ……やったんだな。俺達。

 ……けど、ウォークライとは違って素直に喜べなかった。

 ……だってよ、いろんな人達を失ったんだ。

 

 その中には、リンさんの大事な人も、ガトウさんもいた。

 

 悲しみは、勝利より大きかった。

 

「ロナ」

 

 …ヒカイさんが俺の肩にそっと手を乗せてきた……

 

「泣きそうな顔をするな。……かわいい顔に、泣き顔は似合わんぞ?」

 

 ……るっせーな。俺男だよ。心だけ。身体は完全に女だけど。そんなこと、一言も言えないけど……。

 

「……しかし、さっきのは一体なんだ?」

「……えっと、『デコイミラー』を張ってそれに注意を引かせて、そこから『ハイディンク』と『ブッシュトラップ』の連携です。……消費がかなりきついものだと思ったので、短期決戦を挑もうとしたから……」

 

 ……そうだ。俺は一つ、間違いを起こそうとしていた。

 

 

 あの時、俺は『フリーズ』を仕掛けてしまった。

 もしこの時、『キュア』を使っていたらあの強力なレーザーを凌げていたはず。

 

 

 ……それのカバーを行ってくれたのは、ジョウトだ。

 ジョウトがいなかったら、俺達は今頃、ガトウさんと再会しちゃってただろう。

 

「……」

 

 ……ジョウトはまだ、ジゴワットの死体を見ている。ちなみに、その死体からナガレさんたちは生体サンプル代わりに素材を取っている。……やっぱり、あの人たちも素直に喜べないみたいだ。

 

「……あのさ、ジョウト」

「………」

「…………」

 

 ありがとな、ごめん、大丈夫か、どれも言えない。どれを言っても、響かないと思ったから。

 ジョウトは、自分自身をまだ許せていないからどれを言っても多分、意味ないと思う。

 

 

 けど―――

 

 

「ジョウト……やっぱお前、最高の……『友達』だよ」

「……ロナ……」

 

 あ、振り返ってくれた。……ちょっと暗い顔だけど、いつもの事だし、あえて気にしない。

 それに、また名前で呼んでくれた気がして、嬉しい。

 俺は手を少しかかげ、言った。

 

「……だから、さ。もう抱え込んでるなよ。ジョウトは皮肉を言うのが一番なんだからよ?」

「……バーカ。誰が、そんな毒舌キャラと認識してんだよ」

「俺だよバーカ」

「……るっせーな」

 

 笑った。俺も、ジョウトも。

 ジョウトも、俺と同じように手を少しかかげる。

 

「……ま、今度ヘマしたら、また頼むぜ?ジョウト」

「フン。まーたオレのありがたみを知ったか……よっと」

 

 パシンと、ハイタッチ。……うへぇ。ちょっとは手加減しろよ。手が痺れちまったよ。

 ……ははっ。けど、悪くはないもんだな。

 

 生きてるって、感じでさ―――

 ……すみません。ガトウさん。でも、必ず、悔いの残らないように、生きますから―――

 

「……ん?」

 

 ……え?ナガレさん……?

 

「……みんな逃げろ!!電磁波で、ジゴワットが爆発する!!」

 

 えー!?なんだよこのしまらねぇ爆発オチって!!

 

 俺達は一目散にこの場を後にした。爆発に巻き込まれないようにな。

 ……チクショー!なんかしまらねぇ!死んでも邪魔するのかジゴワットー!!

 

 

 

 

―――ドオオオオオン!!!!!!

 

 

 

 

 

===============

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ヒカイさん、ひとついいですか?」

「何だ?」

「……一体、どれだけ経ちました?」

「……まだ10分しか経ってないと思うが?」

 

 嘘つきィ!!絶対1時間、いや、それ以上経っているとおもうっつーの!!

 

 ……俺?……例の如く、都庁の外の広場の真ん中で正座で説教喰らっているんだよ!!ほんとしまらねぇ!!

 ま、今回はジョウトもいるからそんな辛く……嘘だよ!辛いよ!!主に精神面で!!

 

「つーか、ほとんどロナに対しての説教だろーが!なんでオレまで巻き沿いなんだよ!!」

「……そう言えばそうだな。よし、ジョウトは立ってよし」

「よっしゃあ!!」

「裏切り者ー!!!」

 

 なんでだよー!!!何で俺にしか被害喰らわないんだよ!!……確かに殴ったことは悪かったって思ってるって!もう、勘弁してください!!

 

「あぎゃあ!!」

 

 ぶっふぉwwジョウトが立ったと同時に足吊ってやーんの。しかも盛大にコケてるし。あーこれ録画しておきたいものだな。

 

「……あ、ヒカイさん!後ろにミイナとミロクが!!」

「そのような嘘では騙されないぞ」

「い、いや……マジマジ……オッサン、マジ後ろ……」

 

 ジョウトがダウンした状態で指差す。……ほんとどっかしまらない。いろいろと。

 ……てか、よく考えると、ジゴワット戦後なんだよな。……なのに、もうお祭り気分で、あの緊張感はどこへ行ったのか。……いや、ずっと緊張しっぱなしだったら、ダメだよな。いつか力入れすぎてどこかで自爆しちまうかもしれない。

 ……そう考えると、説教も……

 

 だめに決まってるでしょーーー!!!こんなの公開処刑ですって!!

 

「え、えーっと、ちょっと、いいか?」

「あぁ。説教中だが気にせず」

 

 気にして!!お願い二人とも気にして!!いや、気にしたら気にしたで俺は都庁から、いや、天球儀から真っ逆さまなので気にしない……いややっぱり気にしてくれ!!

 

「……ナツメ総長からです。……補給部隊の到着が遅れているので、13班の方たちが首都高に見に行ってもらいたい。とのことです」

「ナツメ……さんが?」

 

 ……でも、結構マトモ。だよな。うん。……あんな嫌な命令じゃない。非常にマトモな命令だ。

 しかも、リンも含めて負傷者が多数いるらしい。……確かに、一秒でも早く見に行ったほうがいいよな!

 

「よし!じゃあいきま……あぐぁあああ!!!!」

 

 あああ!!足痺れたぁ!!!畜生!!大きく立ち上がったからだ!!!ぎゃああ!!

 

 

 ちっくしょう……!まじで、まじでこれがあんな緊迫した後なのかよ―――!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




ななドラ知らない方向けに、都合上ほとんど説明できなかったスキルの説明。

『リジェネレーター』→ハッカーのスキル。使用後、一定ターンの間、ターン終了時に少量回復する。ちなみに20Ⅱでは産廃スキルとなりました。
『デコイミラー』→サイキックのスキル。これを使用すると、使用者の代わりにダメージを受けてくれる『盾』が貼られる。ちなみに掛け声としては、『弱固の写し盾』。もちろん、『ルシェかえ!』限定の掛け声だよ!
『トンボ斬り』→サムライのスキル。抜刀状態限定。飛行系統に特攻ダメージ。
『ダブルフック』→デストロイヤーのスキル。D深度2以上が条件。攻撃と同時に喰らった相手の攻撃力を下げることができる。
『マッドストライフ.X』→ハッカーのスキル。ハッキング状態の敵限定。最速で発動し、そのターンだけ、自分もしくは他の敵に攻撃することが可能。

多すぎた……。あと、ちゃんと説明あってますよね……?


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27Sz 二人の二重能力者

 

 ……という訳で、俺達は例の車で、首都高のある場所まで来た。

 ……やっぱここもひどい。ドラゴン襲来直後のように、車が散乱してる……。臭いがそんなにしないのが幸いか……。

 

『コール、13班』

 

 っと、ミイナだ。……あ、ちなみに新しくトランシーバーもらいました。……インカムの方がいいけど、なんかトランシーバーになれちゃったし、いいや。

 

『補給部隊は多分この辺りにいるはずです』

「うんわか………って、あれ……?」

 

 ……補給部隊……?の、割には非常に見た目がチャラ……ん?

 

「……あれって……」

「カツアゲ集団か」

「ヒカイさん撤回してください!!それ一部だけです!!」

 

 またおちょくり始めたよこの人は!!

 

「って、なんでSKYがここに……」

「「「「ゲェー!?あいつらー!?」」」」

 

 なんで○本びっくりの驚き方でシンクロしたんだよお前ら!!!

 意外と悪い集団じゃないかもな。うん。

 

「……こいつらまたカツアゲか?」

「残念だが、食べ物はないぞ?」

「アンタら……」

 

 だめだこの二人……はやくなんとかしないと……

 って、言ってる間に勝手に道開いてる。……よほど俺らの事恐怖の対象にされてるみたいだな……。言っちゃ悪いけど、あっちのほうがチンピラな見た目なのに。

 

 …

 ……

 ………

 

 …………ん?悪い見た目……?

 

「……」

「なんかあんのかよ?」

「別に」

 

 ジョウトの方がよっぽど悪な気がする。根はやさしいけどね。

 

 ……でも、こいつらが渋谷を離れているってことは……。

 

「……なんだ、一体……?」

 

 俺達は疑問に思いながらも礼も言わずに(失礼?気にするな)進んでいく。

 

 ……あっ、遠くに三人……

 

 ネコとダイゴと……それから……

 

「……フウヤ……」

「あん?……って、お前……」

「……あの時以来だな……」

 

 ……つか、なんでこいつらがここに……?渋谷をシマと言ってたはずなのに……。

 

 まさか、何か事情があって……?

 

「な、なぁ!……なんでSKYのみんなが……」

「こ、こいつらが『医療物資』を奪いに来たんだよ!!」

 

 必死に守っている補給部隊の一人がそう言う。

 ……ほんと……か?

 

「いんや。俺らだって最初は話し合いで解決しようとしたが」

「そっちがまるで取り合わないから仕方なく奪うハメになっているんだっつーの!」

 

 ……どういうことだ?俺はフウヤとネコの言っている言葉が本当なのかたずねようとして―――

 

「ま、そっちの言い訳もあるかもしれんが、俺達にも事情があってだな……お前らがこのまま引き下がってくれたら手荒な真似はしないで済むんだが…」

「……」

「……最後の言葉がなけりゃ、ハイそうですかって引き下がったかもしれんが……」

「ジョウト……?」

 

 ……え?まさか、やる気……?

 いや、待て待て!!事情あるならそれを聞いてから―――

 

「戦線布告確定。……んじゃ、ロナ。リターンマッチといこうか!!」

 

 っ!!!

 くそっ……やっぱりこうなるのかよ―――!!

 

 

======視点切り替え(三人称)======

 

 

 フウヤが一直線にロナへ弾丸のように突撃してくる。

 ロナはそれを飛び退きながら避け、なるべくジョウトとヒカイからフウヤを遠ざけるように誘導し、なるべく開けた場所に。

 

「ほう?やっぱり、お前も心待ちにしてたのか?」

「違うって!ただ、話し合いで解決するなら……」

「……チッ。そういう優等生発言がイラつくんだよ。なんか知らねぇけどな」

「え……?」

「けどまぁ、こっちにも事情があるもんで、ちょいとオイタをつけとくぜぇ!!」

 

 フウヤがさらに特攻。ロナも防衛気味に短刀を取り出し、防御する。

 刃と刃。二つの金属がぶつかり、互いの顔が近くなる。

 フウヤは楽しんでいるような顔。

 ロナは焦っているような顔。

 両者はまったく似通っていなかった。

 

「おらよっと!!」

 

 あの時と同様に、ロナに回し蹴りを喰らわせようとするフウヤだが、それを見越してロナはすぐにバックステップ。その勢いで車と激突したものの、大したダメージは負わない。

 

「ヒュー!学習したってわけか!」

「だから!何でそんな……」

「楽しんでいる……ってか?」

 

 ロナの言葉を読み取るようにフウヤはヘラヘラと笑いながら言った。意外と、驚いた顔をしないロナ。分かっているからだろうか。

 

「だって、楽しいだろ?特に、タイマンってのはさ。マモノだけじゃあ、全くもって飽きる。だからまたお前が渋谷にヒョッコリ顔だしてくれりゃあ、いいなって思ってたんだよ」

「………何で俺との戦いがそんなに楽しめるんだ」

「おう?つかお前、一人称が『俺』ねぇ。意外と、男の子だったりか?そりゃねぇよな?」

「俺は男じゃねぇよ。女だよ。……さっきの質問に答えろよ!」

「やだね」

「は?」

「質問は一人一回まで!残りは……どっちかが倒れるまでだ!!」

 

 そう言ってフウヤは一本の短刀を投擲。ロナの方へと、一直線に。

 ロナは一度喰らっている攻撃故に、素早く分析した。

 フウヤは……来ない。

 恐らく、回避を誘っての投擲だろう。

 

「けど……!」

 

 不本意ながらも、ロナは一丁のハンドガンを取り出して、空中に飛ばされた短刀に向かって乱射。短刀は大きく逸れる。

 

「チッ、さすがに二発目以降はバレるってか。…別にかまわねぇけどな!!」

 

 それを読みこしてか、フウヤが大きく回り込みながらもロナに勢いよく近づいてくる。ロナもそれに応戦するように、もう一丁の銃を取り出して撃ちこみ続ける。だが、フウヤは卓越した動きで銃弾をかわし、一歩を大きく踏み込んでロナにやってくる。

 

「くそっ………『空穿の疾槍(エアスピアー)』!!」

 

 だが、簡単にはやられるわけにはいかないのか、ロナは下に『エアスピアー』を撃ちこんでその風圧で大きく飛び上がる。

 この突風に、フウヤは一度止まるものの、まるで獲物を見つけた虎のように、宙に飛んでいるロナを見つけるや、たった一、二歩の助走で飛び、ロナに一気に接近する。

 

「死亡フラグ……ってか?」

「それは……こっちのセリフだ!!」

 

 ロナは空中で接近してきたフウヤに向かって両足で蹴って距離を大きく離す。急な攻撃だが、フウヤは冷静に防御して、受け身を取る。

 フウヤが着地したころには、ロナとフウヤの間には、見事に横転している車が存在し、どちらからも姿は見えない。

 

「……」

 

 それをフウヤは逆手に取り、音もなくステップで車との距離を詰め、その車を蹴り飛ばす。

 以前の戦いに似ていた。『フレイム』で、出来た火壁にロナはしゃがみこんで反撃に移っていた。だからこそ、同じくカウンターを狙っていると確信していた。

 

 だが。今回はロナはそこにはいなかった。

 

「ほう……」

 

 感心したようにフウヤは一声上げるが、一歩も動かずにフウヤは目をつぶって精神を集中させた。

 

 聞こえる。風の音、遠くからの戦闘音、そして、自分の息遣い、そして、相手(ロナ)の準備音が。

 彼にはもう一つ。S級とも言っていいほどの能力を持っていた。

 

 絶対音感。

 

 どんな音でも聞き分けることができると言われる、人の特徴の一つであるが、フウヤはそれ以上に音を聞くことができ、しかも、どこから音を出しているのかがある程度分かる。

 そう。彼もロナ同様に二重能力者(デュアルスキラー)であった。

 

 音を聞き逃さない探知機(レーダー)

 獲物を逃さない始末屋(トリックスター)

 

 彼に『獲物』と認識されたら最後、逃げられることは不可能。と、自分も、この二重能力を知っている一部の者も、言っていた。

 

「……」

 

 一部の、山のように積み重なった複数の車の方向を見たフウヤ。目にもマナを宿らせて、『アサシンアイズ』を発動し、服の裏にこっそり隠し持っていた拳銃を取り出す。

 フウヤは銃は嫌いだった。理由としては、戦闘のやりとりがつまらないことと、音を出す際に、自分の『絶対音感』が邪魔をしてくるから。

 けれど、この状況では使った方がいいと思ったから、引き抜いた。

 

「あばよ」

 

 それだけ言って、一発だけトリガーを押し込んで銃弾を発射。

 エンジンへ狙い定めたソレは、車を爆発させた。

 裏にいたロナも、ダメージを負ったはずだ。音が邪魔していて、確認は取れなかったが。

 

「……」

 

 燃え盛る車たちを見つつも、とりあえずネコとダイゴ(オカン)の様子を確認しようかなと思って後ろを向いた直後。

 地面を何回か蹴る音がして、だが、焦った様子もなく待ってましたと言わんばかりに振り返り、飛んできた人を短刀で

 

 

 刺した。

 

 

「………あり?」

 

 だけど、感覚はなかった。

 むしろ、『精命力(マナ)』を突いたような、あっけない感覚―――

 

「―――足元注意!!」

 

 その声を()から聞いた直後、フウヤの体勢が崩され地面と激突。誰かが乗ってきた感覚に動揺しつつも見る。

 ロナだ。

 ロナは、フウヤの首元にナイフを当てていた。

 

「……ちっ、フェイントかよ」

「あぁ。今フウヤが刺したのは『デコイミラー(俺の写し身)』。……けど、まさか車を爆発させにかかるとは思わなかった」

「……なーるほど。さっき裏の方で準備やってるなと思ったらお前の写し身を形成していたってわけか。一本取られたぜ」

「こっちもだよ。まさか、居場所が分かったとは思えなかった。かなり意識を薄くしたはずなんだけどね。……でも、今回は俺の勝ちだ。……質問に答えてもらうぜ」

 

 ……しゃーねーな。とフウヤは諦めたように息をつく。

 そしてフウヤは気づいた。ロナの両腕、そして全身が震えていたことに。それは恐怖の一点張りだったのだろう。

 そんな奴に、俺は負けたのかと、自分の力の無さを改めて感じ、こりゃ、どんな奴でも逃がさない、はしばらくの間言えないな。と思っていた。

 

======視点切り替え(ロナ)======

 

「……マジか」

「……あ、あぁ……」

 

 意外な光景だ。俺にとっても。

 ……どうやら、決着はついてたらしい。

 ……ネコさんとダイゴさんが、膝をついていた。

 

「悪いね……本気でやっちった」

「だが、こちらはいくつもの死戦を潜り抜けてきた。その結果だ」

 

 ……そうか。俺達もいつの間にか力をつけていたのか。自覚なんてないぐらいに。

 

「ん、ロナ。……まさか……」

「……とりあえず、事情は聴いてきた」

 

 フウヤから聞いたことを話した。

 SKYにも、病人や怪我人もいたことを。そのために、仕方なく盗みにきた、とのこと。

 全く……何でこんなことを先に言わなかったんだよ。それだったら俺もハイそうですかで渡してたのに。

 

「……おーい。ミイナー。聞こえる?」

『は、はい。聞こえています』

 

 俺はトランシーバー越しにミイナに通信を取った。

 物資を少し分けてもいいか。と。沈黙がわたる。しばらくして、ミイナから通信が帰ってくる。

 

『判断はロナ達にゆだねます。……本部には黙っておきますから』

「ありがとな。……それじゃ少しばかり拝借してっと……」

 

 俺はトランクの中からそこそこ使えそうなものや、量が多くてこっちも困らなそうな量を適当に取る。

 

「ロナ、これも渡してもいいかもしれん」

 

 と、途中でヒカイさんの的確なアドバイスを受け取りつつも、薬などを取った。まるで悪党だな。と、心の中でつぶやいたのは言うまでもない。

 ……けど、なんか慣れているような口調だったなヒカイさん……。まぁ、熟練者なんだから薬の知識ぐらい当たり前ってか?俺は何も言わなかった。

 

「はいこれ。……もし量が足りなそうだったら、ごめん」

「いや、十分すぎる量だ。……助かる」

 

 ダイゴさんに、だいたいヒカイさんの説明で厳選した薬たちを渡した。……ダイゴさんは表情変わってなかったけど、どこか安心したような表情だ。

 

「ん……タケハヤさんじゃないっすか」

 

 と、フウヤが言ったのでそっちの方向を見ると、別になんともなさそうなタケハヤさんが遠くにいるのを確認できた。

 

「だ、だいじょーぶなの!?ムリしちゃだめだって―――」

「るせぇな。平気だっつの」

 

 ……ムリ……?どういうことだ?こんなにピンピンしてるように見えるのに……?

 俺がそう疑問に思ってる時、俺の方にタケハヤさんは向いてきた。

 

「それより、池袋の戦い……見てたぜ」

「え!?どこで!?」

「んなの内緒だ。しっかし、あのバァさんらしいゲスい作戦だな。全く、ホレボレしたよ」

「……確かに、あれは酷いものだった」

 

 聞くだけで思い出す。犠牲になった人達のことを。

 あと少し、あと少しで届くはずのものが届かない。絶望に、俺達は負けた。けど―――

 

「はぁ……お前さぁ、そう思うんなら、辞めようとか思わねぇの?」

「それは……確かに辞めようとは思いましたけど、でも、俺には仲間がいたし……」

「バァさん殴ってきた」

「言うんじゃねぇジョウト!!」

 

 ジョウトの言葉に反応したように、タケハヤさんは目を丸くして、やがてすごく愉快なぐらいに大笑いした。……近くでフウヤがうるさそうに耳を抑えながらしかめてやがる。……確かにちょっとうるさいけど、そんなほどでもないよな……?

 

「ったく、お前最高だよ!!……お前、名前は?」

「俺は……ロナ。河城野ロナ」

「ロナな。ロナ……と。覚えた。まぁ、それでも?2匹の帝竜を狩ったのは大したものだ」

「そんな……俺やジョウト、ヒカイさんだけの力じゃないんですし……」

「ま、そんな過小評価してるやつでも、お前らが、アイテルの探しているヤツらなら、俺達とはまた会うことになるかもな」

「あ、アイテル……?」

 

 だれだ、それ……?俺が質問しようとする前に、タケハヤさんはSKYの三人を見る。

 

「んじゃ、ダイゴ、ネコ、それからフウヤ。帰るぞ。―――あばよ」

 

 そういって俺達とSKYの人達は別れてしまった。

 ……アイテルって、だれ?

 

「……まぁ、いいか」

「んじゃ、オレ達は先に帰ろうぜ。後は念のためにこのトラックの後ろについて護衛ってところか?」

「そうだな……。疑問に残る部分はあるが、よしとしよう」

 

 と、言うことで俺達は都庁に帰ることになった。

 ……特に、何もなくって、非常に、どこか穏やかな時間だ。

 この時間、いつまでも続けばいいな、と思っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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28Sz 激闘のその夜

こんにちはー。前の前書きは思いつかなかったのでパス。

今回は転生者のちょっとした話とちょっとだけキマシタワー、そして原作沿いです。

それでは、chapter2の終わり、28Sz、どうぞ!

もちろん、あとがきもありますが、今回はchapter2をすべて読んだ、もしくはゲームをプレイした方のみ見てくださいね。ちょっとネタバレっぽいのがあるので。


 

 無事都庁に帰ってきた俺達はやっとのことで自由時間となっていた。

 そして、俺は帰ってくるや、10班の部屋へと遊びに来ていた。

 

「……アオイーいるかー?」

「あ、はいはい!いますいます!!」

「……一人?」

「はい。ナガレさんとキカワさんは別の任務有るので、私はここで待機を……」

「よく休めた?」

「もちろん!いつでも任務に呼んでも、アオイパワーで頑張りますよー!!」

 

 うおっと!?いきなりシャドーボクシングすんな!

 …でも、どうやらある程度立ち直れたみたいだ。

 

「……あ、先輩。いいですか?」

「うん?どうしたの?」

「……えっと、ガトウさんについて」

 

 ガトウさん……?何か知ってるの?

 

「あ、はい。ロナのこと、結構頼れるけど、いつか自爆するって。最初の任務のときに、そういってました」

「自爆……」

「優しすぎる人ほど、戦場には出れない。アオイはあんなふうになるなよ。と」

「ひっでぇ……俺のこと、そんなやつって評価されてたのかよ」

「でも……私は先輩に憧れますね」

「どういうこと?」

「なんとなく、先輩に惹かれるものがあるので!」

「どういう意味だよ……」

 

 けど……自爆、か。確かに、そうかも。

 何かあるとすぐ怒って、ソイツにぶちまけて、それで、みんなに迷惑かけちまう。

 

「……だから、俺のようになるなよ!アオイ!」

「無理です!」

「即答!?」

「だって、憧れの人ですから!先輩は!」

 

 ……うわ、すごいキラキラした目で見られてるよ……。

 ……けど、良い後輩かも。残念。俺には記憶はないので、結構新鮮な気分だ。

 俺も、転生前は誰かに憧れていたのかもしれないな。少なくても、誰かに。

 

「それにしても、男の人みたいですよね。先輩は」

「女だ!(身体だけ!)」

「ほんとですかー?」

 

 ……え?

 

 …

 ……

 ………

 

 …………アオイって、こんなキャラだっけ?

 

「……ちょっと、身体拝借してください!」

「は!?」

「お願いします!少しだけ!」

「お邪魔しましたー!!!」

 

 やっべぇ逃げろ!!俺食われちまう!!……べ、別に……悪い気は……ある!あるからめちゃくちゃ、全力で逃げろ!!!

 

 

 

 

 

「ぜぇ……ぜぇ……」

 

 に、逃げ切った……か?……いや、意外と油断ならんな。うん。

 ……ん?これは……

 

「ギター………?」

 

 ……どうやら逃げ切った先は、居住区フロアっぽい。そして、俺が興味を示したものは、ギターだ。

 ……ちょいと年季が入ってる……か?

 

「……なんじゃ嬢ちゃん。それが気に入ったのかの?」

「え?……あ、は、はい……」

 

 ……ギター、ギター……

 ……なんでギターで興味を持ったんだろうか?うーん。記憶ないからわから……ん……?

 

「あ、あの、ちょっと弾かせてもらっていいですか?」

「構わんよ」

 

 ありがとうございます。俺はお礼をいいながら、ギターを首にかけ、非常に慣れた手つきで持って、弾いた。……何の曲かは、分からないけど、けど、結構なじみある曲だな。どこか落ち着いた雰囲気な、そんな曲。

 

「……おぉ。すごいすごい」

「へ?……あ、ありがとうございます」

 

 俺は素直に褒められて照れくさくなった。……うう、聞いていた人からも拍手もらっちゃったよ……。

 一通り拍手をもらった後、おじいさんは俺とギターを興味深そうに見た後、こういった。

 

「……ギター、持っているのかね?」

「いえ、持ってません。……多分、家に置いてきちゃったんでしょうね」

「ほう……」

「あ、でも、もらう気はありませんよ。今はお金や物資はないですし、でも、また弾きに来るかもしれません」

 

 要は、もらわない限り弾かせてくれっていうずる賢い方法だ。……集まれば、買うけど……

 

「……いんや。譲ろう」

「え?で、でも……」

「お嬢さんはいい才能をもっておる。もしよろしかったら、またこのフロアに来て、みんなに曲を聞かせてやってもらえないかのぉ?」

「……忙しくて、あんまり時間取れないと思いますけど、それでもいいのなら」

 

 ……なんか、嬉しいな。もう一つの才能が芽生えたって感じで、それを認められたようでさ。

 おっと、誰かがこっちきた。子供のようにパタパタ走る音がして、ちょっと道を開けた。

 

「あ、おじーちゃーん」

「おぉ。帰ってきおったか」

 

 ……あ!この前の子供!!

 

「あ、おねーちゃん!ねぇねぇ聞いて!ママ見つかったんだよ!」

「ほんと!?よかったね!」

「……でも。ずっと寝たまま。だから、ボクはいっしょうけんめいがんばるんだ!」

「そうか……うん!頑張れ!……じゃあ、そんな君のためにも、何か一曲、弾いてあげよかな?」

「ほんと!?じゃあ……」

「あっ!でも……ごめん。俺が知ってる曲……下手をすればオリジナルな曲だけ弾くけど……いいかな?」

「うん!」

「よし!……えーゴホン。それでは―――」

 

 

===============

 

 

「ただいま帰りましたー」

「……おかえりロナ。そこに弁当がある」

「ありがとうございます。ヒカイさん」

「……ちなみに、それは……?」

 

 あ、ギターの事か。俺はギターのことを簡単に説明した。

 

「……譲ってもらった。か」

「結構うまいんですよ。俺。ギター」

 

 あれから少し弾いてきて、困惑から確信に変わっていた。

 俺は転生前はギター弾いてきた、と。

 今は記憶がほとんどないけど、2曲はおぼろげだけど、弾くことができた。弾いているうちに、身体が勝手に反応して、それで、自分でも驚くぐらいにうまくできている。筈。

 

「ふーん……ギター……ねぇ」

「なんだったら二人も聞く?……ちょっと疲れたから一曲が限界だけど」

「……勝手にしろ。オレは勝手に聞く」

「リクエストはありかな?」

「いや……それはちょっと……」

 

―――久々に、明るい夜になりそうだ。……後でこの世界の有名な曲についても調べておきたいところだな。

 ……そのためにも、頑張らなくちゃな!!よっし!やる気出てきた!!

 俺は自分とギターに感謝しながら、夜の穏やかな時間をすごして、寝ようとした。

 

 

 

 

 

 ……なんか、妙に眠れないな。あんなに疲れているはずなのに。

 ちょっと外の空気を吸いたくて、部屋を出る。……あぁ、二人はもう夢の中。よく眠れるよなぁ……。ちょっとうらやましいぜ。

 っと、部屋を出た途端にキリノとバッタリ遭遇。……なんだろ?

 

「あ、すまない。こんな夜遅くに」

「いいよ別に。キリノだって徹夜で頑張ってたし、お互い様」

「ありがとう。……けどね、僕より君たちの方がハードだから少し様子を見ておこうと思ってね」

 

 そう言いながら、手に持っているのは注射器。……よかった。あんなでかいカッターナイフ型じゃないな。

 

「ちょっと、痛むよ」

「おう」

 

 ……と言いつつそんな痛くはないな。最近の力ってすげー

 

「よし、問題ない。……にしても、うらやましいよ。そんな力を持っているなんてね。僕にもそんな力があればキミたちと一緒に前線で戦えたのにな」

「いや、それはご勘弁。……キリノが前線に出るなんて想像できないし、なにより、今回の事件でキリノのありがたみを知ったから逆に阻止しちゃうよ」

「あはは……。……実は、そのことについてなんだけどね」

 

 ……まさか。

 

「今回のナツメさんのこと……どう思ってた?」

「……あれは、ひどい。見てて分かるだろ?」

「うん……聞くだけ野暮だったね。でも、ナツメさんは真面目だけど少し不器用なところもある人でね。誤解されるコトも多いけど、悪気があるわけじゃないんだ」

「悪気って………子供じゃないんだし……つか、なんでキリノはそこまでナツメ……さん、を信用できるんだ?」

「それはやっぱり……憧れの人だろうだからな」

「……あんな人が?」

「……気づいていると思う……いや、分からない部分が多いけど、ナツメさんは武術も座学も一通りこなせるうえに、研究者としても大きな成果を残してきた」

「……マジ?」

「うん。……ミイナ達も、実はナツメさんの研究から生まれたんだよ」

「……は?」

 

 ……どういうことだよ……一体……!!

 

「うわっ!?ろ、ロナ!?」

 

 ……あっ、知らず知らずのうちにキリノの胸ぐらをつかんでいた……。あわてて放しつつも、二人と出会った日を思い出していた。

 ……道理で、あんな名前だったのか……ミイナじゃなくて、ミロクじゃなくて、あんな名前……

 ……それなのに、あの二人の生みの親はある意味ナツメさんなんだな……。

 

「でも、どうして……」

「それは……分からない。けど、ナツメさんは君たちのようにS級の才能は持ってないと思うけど、でも、あらゆる場面でA級の才能を発揮できる、上に立つ人間として理想的な人だと思うよ」

「……本当か?」

「……意外と疑り深いんだね。ロナは。でも、少なくても、僕はそう思う」

 

 ……やっぱ、信用できないな。……だって、まるでS級に依存しているような気がする。

 あんな人の命を軽々投げ捨てるような、そんな人……。

 

 

 ……他に、何かあるんじゃないのか………?

 

 

「っと、ちょっとしゃべりすぎたかな。僕は仕事に戻るよ。……ロナはどこかに出かけるの?」

「いや、眠気があんまり来なかったから外に行こうかなって思ったところ。でも、なんか眠くなってきたし、もう寝るよ」

「うん。……ゆっくり、身体を休めてくれ。……おやすみ。ロナ」

「おやすみ。……キリノも適度に休めてな?」

 

 それだけ言うと、俺は自室に戻ろうとして、またキリノに呼び止められた。なんだろ………?

 

「あ、ロナ……居住区フロアで弾いていたの聞いてたよ」

「マジ?……へへ、なんか恥ずかしいな。……感想は?」

「また、聞きたいな」

「あぁ。……余裕があるときにじっくり聞かせるよ」

 

 そう言って、俺は今度こそ中へ。

 

 ……一時的、その一時的だけど、でも、音の力ってすごいんだな。と感じていた。

 

 違わないだろ?(ロナ)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……もう、タケハヤさんの身体は持たなそう……か」

 

 渋谷。苦しそうに胸を抑えるタケハヤを遠くで見て、フウヤはそう思っていた。

 そして、首都高の戦いでのロナを思い浮かべながら、言葉を紡いだ。

 

「にしても、ロナ達が『狩る者』ね……。……確かに、冗談ではないな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………残り、あと一つ―――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




いかがだったでしょうか?今回のchapter2は。
まさかの、ゲーム経験者にとってはオリジナル展開だらけで「こんなのななドラじゃねぇ!」とも、もしくは新鮮だ!と思ってくれる人もいるかもしれませんね……?

ちなみに、あらすじの話を見た方にとってもちょいと「嘘だッ!」と言うことになりかねませんね。
ということで、今回の裏話は『ガトウさんについて』。

実はガトウさんも当初は生存ルートが存在してました。むしろガトウさんがいたらどうなっていたんだろーなーと思いながら話しを立てていたんですが、ある部分で問題が発生。
主にこの次のchapterで必要になってきたんです。ガトウさんが。ゲーム中でも非常に重要な役割があり、これを崩すとなると……非常にオリジナル展開が必要になっていく。ということで泣く泣く原作通りに変更。すまんガトウさん……ゆるしてくれ……。
あとついでなんですが、本来ならナツメをぶったたくのはアオイちゃんだったんですよね。でも、ここは主人公こと、ロナがぶん殴ることに。……あとで分かったことなんですけど、このたたきが原因でアオイちゃんは待機命令を。……ちょっとこの部分は作者の勘違いでこうなりました。すまん……。でも激昂する主人公描きたかった。反省も後悔もしていない。

さて、あとがきはここまでにしてっと。次はchapter3ですね。イッツ肝試し。だが普通に怖い。個人的にはあそこのステージは好きでした。ちくしょう!何で20Ⅱで再録しなかったんだ!!

ではみなさん。最新作までこの話を陰ながら支えてもらえると、私は嬉しさのあまり、何度もリアクトしながら話を書くと思います。もちろん、最新作であるⅢが発売されて買ったらそっちに専念しても構いません!私もそうなります!(マテ


実はこの話を書き終えた後、39さんでてねぇ!と思いました。ゴメン、本来なら帝竜戦で出番あるはずだったんだ……。


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Chapter3 『夜』に紛れる『怨念』
29Sz 意外な弱点?


どうもこんにちは!今回からchapter3に入ります!

最新作の職業説明が着々と来ていますね……!最初から職業選択で迷うかも。10月が待ち遠しい!

それでは、chapter3、29Sz、どうぞ!


 

 あれから数日後。俺達は比較的穏やかな時間を過ごしていた。

 ……まぁ、マモノ退治だとか、ときたまドラゴンの反応があったから狩りだされたのは言うまでもないんだけどさ。

 

 ……ついでに言うと、さらに俺は帰って『この東京の』流行っている曲を調べていたりした。あぁ、ギターのためにね。

 ……うーん。どうも、変な気分だ。ギターの弾き方は知っているのに、曲を知らない謎。この辺はヒカイさんにもツッコまれていた。

 ……どうしようか?『記憶喪失』……は、今の所自分でも自覚できる。主に過去の事について。だとしたら……なんかいろいろおかしいことになるので黙っていた。『黙秘権』ってやつ。……このように、一部の知識はある。ホント、変な感じだよ。

 

 そしてある日。

 

『13班。起きてるか?』

 

 今回はミロクか。……ドラゴン狩りかな?俺は機械(ターミナル)を見ながら指示を待った。

 ……にしても……NAV、ね……。数日前のキリノから告げられた言葉にまだ驚きと憤りを隠せていなかった。

 せめて、名前ぐらいやってもよかっただろ……?

 

『次の帝竜の居場所をつきつめた。だから、招集。会議室集合だってよ』

「了解。……帝竜、か」

 

 帝竜って、どのぐらいいるんだ……?俺はちょっとした疑問を思い浮かべながら、一応装備の確認。……あー……ちょっと刃こぼれしてるな。連日続きってところだから、当たり前だよなぁ……。買い替えるのももったいないし、少し刃を研いどくか。あとで。

 ……短剣を見るたびに思い出す。フウヤとの一戦。

 あいつ、やっぱりどこかで見た気がする。いや、渋谷でじゃないんだ。

 それに加えて、やっぱりヒカイさんもジョウトも、どこかで見た気がするし、リンやナツメ、キリノ達も、どこかで見た気がする。……変な感じだ。

 

「おーい。さっさといくぞ」

「あ、分かってるよジョウト。……よし、行こう」

 

 俺は武器を机に置いといて、部屋を後にした。

 

======会議室======

 

「……全員そろったようね。ではキリノ。概要を」

「はい。今回の議題は……」

 

 会議は順調に進んでいく。……俺には会議って退屈なものだけどなぁ……。長く聞いているのダルいし……。

 

「新たな帝竜が発見された『四ツ谷』についてです」

 

 四ツ谷……?えーっと、どこ?……まぁ今はいいか。

 そう思っていたら、キリノの後ろのモニターが、東京都全体を写したマップに切り替わった。

 

「四ツ谷の異常については観測班からの報告でご存じの方もいるでしょう」

「異常?また重力反転しているとか、どこかねじ曲がっているとか……ですか?」

 

 俺は丁寧語でそういう。……まぁ今回は環境も環境だし。何故か議会の人たちもいるからね。最低限の口調についてはやっておかないとな。

 

「当たらずとも遠からず……ってところですね。現在でもなお、四ツ谷上空では『終わらない夜』……夜空と月が常時確認されています」

「え……?夜?」

「はい。この辺り一帯からも、以前の帝竜ウォークライが重力干渉を行っているときの異常値に似たものが確認できました。我々はこの夜の現象も帝竜による現実干渉と判断しました」

 

 重力反転、レール捻じ曲げの次は終わらない夜……ねぇ。流石に驚かないな。ちょっと地味でさ。でも、夜ねぇ……。よくできるものだな。やっぱり、倒すべき相手だけど、すごいことだな。

 

「しかし、現在四ツ谷ではレーダーを遮断してしまう力が働いていて、内部の情報が全く把握できていません」

 

 マジか!?……さしずめ、その帝竜の干渉のもう一つ、ってところかな。確かにレーダー無効化はちょっとやっかいだな。まるで、目隠しした状態で肝試しってところかな。……うわ、言っただけでちょっと寒気走った……。

 

「そこで四ツ谷に部隊を送り込んで実地で調査を行いたい、と考えています。実働は13班に、バックアップを自衛隊にお願いしたいのだけれど……」

 

 ……けど、今の状態じゃ、自衛隊の人達の助力は無理かもしれない。……今現在、前のジゴワットのところでいろいろと負傷者が出ていて、現在も治療中、もしくは待っている人がいるって聞いた。……その状態で無理させるなら、こっちも黙ってられねぇよ。

 

「……大丈夫よロナ。これ以上は無理させられない」

 

 ホッ……その言葉を聞いて一安心だ。……ん?誰かに小突かれた。……ヒカイさんだ。ヒカイさんは小言で俺に告げた。

 

「……今の表情で察したらしい。……あまりにらむな」

「え、あ、分かりました」

 

 俺、にらんでた?……まじか。気づかなかった。まぁ、結構根に持つタイプだからな、俺。にらんでいたのも、無理はないかも。

 

「……けど、13班単独任務は厳しいものよ……」

 

 うーん……それ言われると確かに、ちょっと厳しいかもな……。10班……の人達も都庁の防衛に携わっているし、それも無理がある。

 ……そういや、疑問に思った。……何で、俺達が防衛のほうじゃなくって、遊撃っぽいものになっているんだ?うーん……

 

「……僕に、行かせてください」

 

 キリノ……?

 

「今回は四ツ谷に探査機を持ち込んで実地で調査をすることになります。……となれば、技術者のバックアップは必須かと」

 

 ……キリノ、なんか頼もしいな。ホント、キリノに物理的な力がなくってよかったと思っている。いや、怖いって意味じゃないよ。頼もしいって意味だよ。

 

「―――承認します。現場経験ゼロのアナタに頼むのはやや不安がありますが……」

「あ、ナツメ……さん、少し質問です」

「……どうぞ」

 

 俺は、今の会話に疑問を持った。

 ……確かキリノって、力ないんだよな?

 

「キリノ……さんは、俺達が守る……ということになるんですかね?」

「そうね。そうなるけど……ただ、一人だけ護衛をつけさせて」

 

 護衛?……まぁ確かに、そっちの方がいいかもしれない。……今の人数じゃ、ちょっと不安だからね。

 

「……アオイ、やってもらえるかしら」

「はい!任せてください!!」

 

 お、やる気だね。アオイ。……え、でもいいのか?

 

「アオイちゃん頑張って。私達は都庁を全力で守っているから」

「今はこっちで手いっぱいだけど、アオイちゃんなら多分大丈夫」

「多分って、絶対、大丈夫ですよ!」

 

 ……うーん、なんか不安だな。アオイ単体の意味で。

 ………ホント、なにか不安だ。いろいろと。

 

「では、作戦は以上とします。それぞれ、準備を進めてちょうだい」

「了解!!」

 

======13班の部屋======

 

 俺達はもう一度、武装の確認を行いながら時間を使った。

 ……よし、砥石で磨いたおかげで短剣の刃がまた鋭くなった気がする。ちゃんと使えるなら使っておかなくちゃね。

 

「……にしても、夜……か」

 

 ……?珍しく、ヒカイさんが弱音吐いたな……。どうしたんだ?ただ単に、夜、だろ?

 

「……なぁ、しってっか?四ツ谷の噂」

 

 ……は?急にどうしたんだよジョウト……

 

「……満月の夜、ある一部の人間が自殺した」

「……それで?」

「……そして月の明るい夜に、その場所にいくと聞こえるってな……」

「……声が?」

「何でそれを言うんだっつーの!!」

 

 いや、怪談話は嫌と言うほど聞かされたような。俺結構こういうの好きっぽかったし。オカルト系とか。分からんけど。

 でも、すげぇ古典的。よくある話の一つだね。

 

「……って、あれ?ヒカイさん?」

「うおっふぉん!!二人とも、準備はできたかね!!」

 

 …

 ……

 ………

 

 …………今の話、どこに怖い要素があったんだ?

 

「あ、スマン。オレのチャクラムのチューニングがまだ終わっていねぇ」

「俺は……あ、後弾倉の確認だけすれば」

「……そうか」

「………ところで、ジョウト。他になんかないの?怪談話」

「うおっふぉん!!」

 

 なんもいってねーだろ!?つかなんで怖いの!?怖くないだろこれぐらい!!

 

「……いや、まぁ、うん……」

 

 ……これだけのために都庁の外の広場で以下略される可能性もなくはないです。

 俺達は黙々と準備をして、完了。

 

 ……さてと、いきますか!!東京の、平和のために!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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30Sz 昼間は真夜中肝試し

どうもです!今回はダンジョン攻略開始となります。

……しかし困ったかな。このダンジョンの一部のドラゴン、装備を整えていないと苦戦を強いられます。もしこんな小説でゲームに興味持った!と言う方は用心してくださいね?

それでは、30Sz、どうぞ!


 

 ……どうなってんだこれ。マジで。

 俺達は車―――今回はキリノのバンで移動だぜ―――から見た光景に驚いていた。

 今昼間。なのにもかかわらず、真夜中と言わんばかりに、月が出ている。……百聞は一見にしかず、って奴だな。やっぱり、実物見た方が驚きも大きい。

 

「……こんなのって、ありえるのかよ……」

「……まぁ、確かにそうだけど、でも、確かどこかの国では夏の時期はほぼ一日中太陽が出ているって話を聞いたことがあるから、意外とありえない現象ではない筈だぜ」

 

 以上。俺のくだらない自然現象の話でした。……よくこんな興味湧かなそうな話題が出てきたな。しかも記憶喪失だってのに。

 

 その後、俺達は車で行けるところまで行って、止められそうな箇所を見つけてそこに止めた。……四ツ谷入ってすぐの場所だから、そんなに時間はかけなかったけどね。

 

 降りてやっぱり、驚いた。……つか、めちゃくちゃ不気味すぎる。今すぐ出てもおかしくないだろこれ。……うへぇ。何か行きたくないんだけど、でも興味はそそられる。

 キリノは機械(ターミナル)を設置しながらも、怖がってるように言う。

 

「な、なな、なんだこれは……まるでホラー映画の現場みたいじゃないか……」

 

 あ、そう言われるとなんか興味さらに湧いてくるな。これで肝試しやったら面白いんじゃないか?意外と。

 

「あれー?キリノさんってば、もしかして震えてます?」

「こ、こら!アオイちゃん、バカなことを言うんじゃない!!僕はこれでも科学者だ。科学で証明できないことはこの世には無いと思ってるクチだからね!」

「じゃあ、聞くけどさ。キリノ」

「な、なんだいロナ……」

「何でトイレの花子さん現象があると思うのさ?」

 

 ……あ、ちょっと固まった。……アオイがうんうんとうなずいている。有名な話の一つ、『花子さん』。オカルト話の有名なネタの一つだぜ。聞いている人は結構多いんじゃないかな?

 

「……き、きっと誰かの見間違いだよ!!うん!!」

「うわぁ、科学的に解明できてねぇ」

「そ、それにしても、ちょっと、寒気が……ね?」

 

 ……いやそんなでもないけど。少なくても、キリノほどは……

 

「……ふむ、確かに、な……」

「で、ですよね!ヒカイさん!」

 

 …は?

 

 …

 ……

 ………

 

 …………なんでヒカイさんが同意するの?やっぱ、怖いのか?まっさかぁ……

 

「えー?そうですかー?」

 

 アオイに同意。ジョウトも少しうなずいた。3VS2。気のせいと言うことになりましたとさ。

 

「あ、キリノさん、ヒカイさん、お腹空いているんじゃないんですか?」

「なるほどな。そうだなうん」

 

 と、俺。

 

「ですよね先輩!……そんな二人のために、食べかけのチョコバーでよければどうぞ!」

「食べかけダメゼッタイ!!!」

「いらーん!というか、任務中はおやつ禁止だ!!」

 

 いや食べかけダメだし!いろいろと!そしてキリノ、ナイスツッコミ!感嘆に値するッ!!

 

『えっと……13班。盛り上がっているところ悪いけど、こっちからスキャンを試しているけど、やっぱりエラーコードが返ってくる。完全に情報が遮断されてるみたいだな』

「まじか……じゃあ、つまり……」

『あぁ。帝竜の居場所はおろか、周辺の地形すらも把握できない。マップ表示も無理だな』

 

 なるほど。未開の開拓地に俺達は足を踏み入れたってところか。……ん?

 夜、暗い、分からない、それって……。俺は思っていることを率直に言った。

 

「じゃあ肝試し状態、ってところか?」

 

 簡単に言えば、そうなる。……

 

 …

 ……

 ………

 

 …………うはっ、いいなそれ!!

 

「肝試し!!いいですねそれ!!」

「だろ!だろ!?」

「バ、バカ者!!任務で遊ぶな!!!」

 

 ヒカイさんから怒鳴られて俺達はしゅんとした。ショボーン。いいじゃん別に……。

 ……でも今の怒鳴り声はただ単に……自分が怖がっているからじゃないか……?気のせい?

 

『……あのさ、本当に、こんな何のデータもないところで作戦を実行するのか?』

「なんだ?心配してるのかミロク」

『バッ、違うよ!……ただ、不安なだけだよ。も、もちろんデータが白紙の意味でな!』

「素直に言いなよミロク」

『う、うるさいな……。……心配に……』

 

 おーいミロクくーん。最後の言葉が聞こえないんですけどー。……いじるの楽しい。

 つか、なんか今回俺ハイテンションになってるような。気のせい?

 

「……心配してくれるのはありがたいけど、待っているだけじゃデータは集まってくれないからね。こちらで探査機を展開すれば四ツ谷の状況だって明らかにできるはずだ」

 

 ……探査機設置したくないなぁ。いや、冗談だよ冗談。うん。……ちょ、なんでヒカイさんにらんでいるんですか。冗談ですってばぁ……

 

「……遊びに来たんじゃないんだぞ」

「分かってますって……俺何も言ってないじゃないですか。……もしかして、怖いですか?」

「ば、バカ者!!誰が怖いと言った!!」

 

 ……怖いんだな。意外な弱点見っけ。……でもそれ以上は詮索せず、俺は「そうですよね。すみません」とだけ言って、もう一度四ツ谷を見た。

 ……まるで大型お化け屋敷と言わんばかりに町全体が不気味に、紫色に光っているように錯覚したし、進むべき道である橋っぽいのが、ドラゴンの背みたいで一層際立つ。

 これマモノほとんど全滅させたらレジャースポットできるんじゃないか?多分。と思うぐらいにね。

 

「……それで、まずはダンジョン解析のために13班には探査機の設置をお願いしたい。ダンジョン全域をカバーできるように一定の間隔を空けて四台の探査機を設置してほしいんだ。そしてその探査機から送られてくる情報をこのベースで検索し―――」

 

 ……すまん。後は全部聞き流した。要するに探査機設置してダンジョン調べてこいだろ。そういうことで。

 

「……とにかく、僕はチューニングに専念したい。……護衛はアオイちゃん、頼んだよ」

「任せてください!」

 

 ……それって遠回しに怖いって言ってるだけじゃないんだよな?……気にしないでおくか。……と、言うことは今回はマジで俺ら13班だけでの探索、か。

 ……援軍もほとんどこない。いるのは三人だけ。……そういや、前の戦い、その前の戦いでも少なからず他にも誰かいたから、今回は本当に三人だけ、だな。

 

「……せーんぱい♪」

「ん?どうしたんだアオイ」

「これ、お腹がすいたら三人で食べてください!」

 

 と言って渡されたのは、チョコバー。律儀に三つ。……いや、ダメだろいろいろと。いや悪くないけど。

 

「大丈夫です!先輩たちならきっとできますよ!信じています!」

「……うん。ありがとう」

 

 俺はお礼を言って、キリノから探査機をまず二つ。一度に全部持って行ったら戦闘に支障出るかもと言うことで二回に分けての捜索になりそうだ。

 ……不安だ。改めて、感じる。本当に、大丈夫なのか。

 

「………しっかりしろアホ娘。誰からも妨害されないだけましだろうが」

「それひどくないか!?」

「冗談だ。……肝試しと思っていっときゃあ、良いだろ」

「……そうだな!」

「……ハァ。これだから若者は……」

 

 後ろでヒカイさんが頭痛そうに抑えるが、でも、なんかスっとしたな。……うん。大丈夫、ヒカイさんもジョウトもいるんだしよ。

 

「よっし!じゃ、行きますか!ヒカイさん!ジョウト!」

「肝試し、といくか!」

「遊びに来たんじゃないんだぞ!!」

 

 

 そう言いながら、俺達は何もわからない、ダンジョンと化した四ツ谷の奥へと、足を踏み入れたのであった―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




今まで四ツ谷を「よつたに」と読んでいた自分がいた。
正しくは、「よつや」なんですね。すんません。


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31Sz 三つの障害

どうもです!ついに30越しました。すっげぇ。

さて、今回は全体的に頭のねじが緩んでいる彼ら(作者含む)にマッチョなドラゴンがやって来たようです。『四ツ谷』の『マッチョなドラゴン』……まさか……!!

と、いうわけで、31Sz、どうぞ!


「……えっと、ここでいいのか?」

『ちょっと待ってろ……うん、距離も地形も問題なさそうだ。そこに一台目を設置してくれ』

 

 了解っと。俺達は探査機を組み立て、設置した。意外と親切丁寧にマニュアルもあってそこまで難しくなかったぜ。

 ……あー……でも入ってからかなり恐怖度ましたっつーか……入る前より不気味になってる様な……このダンジョン。しかも、建物の屋上を、骨の橋でわたりながら行くからな……。

 

「……ハァ」

「ため息なんてどーしたんだよ。オッサン?」

「……いや、なんでもない」

 

 ……怖いんだな。意外な弱点すぎて、驚きだ。でも、これ以上言ったら殴られそうなんで今回ばかりはいじらず黙ってる。……いや、さすがに三回も都庁の(ry)されたらマジで泣くぞ。

 ……よっし、設置完了。キリノに通信……っと。

 

「キリノー。聞こえる?」

『うん。聞こえてる。一台目の探査機の設置を確認した。早速チューニングを始めるよその一台だけでも基本的なマップ機能ならすぐに復旧できると思う』

 

 お、そりゃ……なんか、味気なくなりそうだな。いや、肝試し的な意味な? 本当にマモノとかいなかったら多分本当に任務ほったらかして遊んでたに違いない。

 

『不便だと思うが、もうちょっと我慢して……う、う……ぶえーくしょい!!!』

 

 !? な、なんだ!? ただ普通のくしゃみだったはずなのに、無駄にリアクションしてしまう。

 

『ちょっとキリノさん!?大丈夫ですか!?』

『ズビッ……が、がぜでもびいたかな……』

「いや、何で風邪引くんだよ……」

 

 と、俺が言った直後。

 

―――フォッファファファファ………!

 

 ……え?

 

 少し遠くをみ……

 

 

 ………あ?

 

 

 その光景は、一瞬でなくなった。

 

『せ、センパイ!?今の何の音と光景ですか!?』

「いや、えーっと……あれは絶対おかしい光景だ! あんなの……」

「ま、まぁ簡単に言っちまえば頭だけで逆立ちで立っている人影と宙に浮かんでいる人影と人魂を見たぜ……」

「それだ!」

「な、何を言ってるのか分からん……!気のせいだ!」

 

 とりあえず、俺達もトチ狂った。……ヒカイさんは完全に焦った表情してるけど。

 ……やばい肝試しだこれ。

 

「……にしてもいくらなんでもおかしいだろ!! そうまでして俺たちのビビってる姿みたいのかよ帝竜は!!」

『と、とにかく進んでくれ!い、いい……今のはき、気のせいだ!!寄り道禁止で二つ目設置してくれ!!』

 

 ミロク焦りすぎ!!いや、俺もいろいろと今の現象についていけてないんだけど!!

 ……うわぁ、進むの一瞬で嫌になってきた。はぁ、でも進まなくちゃいけないんだろ?

 ……一名、完全に進みたくなさそうなオーラ出しているんですが。あえて誰とは言わない。

 

 ……進むか。渋々俺達は進むことになった。

 

 ………うへぇ。なんで進んだら墓石が邪魔してくるんだよ。どんどんテンションが、なんか下がってくる……。しかも結構多いし……

 

「……出そうだな」

「ジョウト……」

「……今にでも出そうだなってぐらいに再現度あるよなこの石」

「お、おいバカ! そんなこと言ってると……」

 

―――ゴチン!!

 

「あだっ!?」

「ヒカイさんの拳が……って、遅かった―――」

 

―――ゴチン!!

 

「いた!?」

「……二人とも……今は……任務中……だ……!!」

 

 ……アカンアカンアカン。拳震わせながらヒカイさんまじで焦ってる。……俺とジョウトは頭のてっぺんを抑えながら無言でうなずきあった。……これ以上、このことに至っては言わない方が安全だ。絶対。

 ……つか何で怖いんだよ。……前まではそう思ってたけど、今ではマジで怖い。……雰囲気合いすぎだっての……。

 

「……おい、アレ」

 

 ジョウト……お前さっきうなずきあっただろ……お前懲りて……

 

 ……やっべぇ……アイツは、まずい……!!

 

「……二人とも、気をつけろ。アレは……かなり危険だ」

 

 青い肌に、二足歩行で筋肉質のドラゴン、『デストロイドラグ』。

 ……分かる。『俺』が呼びかけてくる。

 

 ……アイツは、危険だ!!

 

「……だが、逃げるわけにはいかまい!」

「はいっ!……ジョウト、先に『Bデータイレイザー』かけといてくれ!」

「あ、おう!」

「俺は何とか足止めを狙ってみる。ヒカイさんは……」

「要するに、いつも通り、だろう!」

「はい!」

 

 そうだ、焦っちゃだめだ。焦ってしくじったら、死んでしまう。……落ち着け。アイツとは、初めてなのに、何故か危険と分かってる。

 ……少し、頼りにさせてもらう!

 

「―――ブモッ!」

 

 奇妙な一声と共にドラゴンは俺達を睨み付ける……!

 ッ、しまった、『マッスルアイ』か……!動けねぇ……!

 

「ロナ!?」

「ヒカイさん!前!前!!」

「ぬっ……!」

 

 大きく拳を振り下ろしたドラゴンに応戦するように、ヒカイさんも両腕を突き出してカウンターを仕掛ける―――!

 っ、ダメだ!弾かれた……!

 

「させる……かよ!!」

 

 なんとか自由の聞いた両腕だけでもう一発の攻撃を止める……!

 

「『空穿の疾槍(エアスピアー)』!!」

 

 無理やり形成して、投げつける!そしてもう片方でもう一発!!

 槍は二つとも突き刺さり、押し出すのには十分な威力を伴って一度体勢を崩すことに成功した。……あぶねぇ。アイツの一撃は本当にマズいからな……。

 

「―――ブモォ!!」

 

 ダッシュ……!?くそ、やられた!体勢を崩せたと思ってたらこいつは走り込む……!!

 

「ジョウト!!避けろッ!!!!」

 

 ドラゴンは勢いのまま、低空ジャンプからの……『ジャンプキック』……!

 

「ッ……!!」

 

 防御は取った……けど、ジョウトは吹き飛ばされてしまった………!

 

「ジョウト……!!くそっ!!」

 

 俺は全力で走ってジョウトの方へ。……飛ばされたけど、金網に引っかかったおかげで落ちることはなかった。不幸中の幸いってところか……。

 

「ジョウト、無事か!?」

「バ……カやろ……これがぶじだって……」

「ご、ごめん……『治療の奇跡(キュア)』!!」

 

 傷を抑える。……よかった。間に合ったみたいだ。……金網から離れ、両手を大きく握りしめて体勢を立て直すジョウト。

 

「……こいつ、持久戦に持ち込んだ方がよさそう……か?」

「あぁ……でも、やることは変わらない……だろッ!」

 

 俺はそれだけ告げると、ドラゴンの方へとダッシュ。……幸い、相手はヒカイさんと相手してくれた。これなら、いける……!

 

「不意を穿つ!『ブッシュトラップ』!!」

 

 素早く背後へ回り込みながら凶弾を発射。いきなりの攻撃にドラゴンは驚きの咆哮を上げて、こっちのほうへ向いた……!

 よし、読み通り!

 

「後ろ注意だ……でぇい!!!」

 

 さらに背後、俺の方に振り返ったから背中を向けたドラゴンにヒカイさんの攻撃が刺さる。また背後へ……こいつ、学習しねぇな……と思いつつもマナを右手に集中……

 

「『無垢たる魔撃(エナジーピラー)』……っ!!」

 

 しまった、『ジャンプキック』!?直げ……!!

 

―――ドウン!

 

「ぐああっ!!!」

 

 ……ッ……!マズ……こいつの一撃……!

 全身折れるかもしれない痛みを伴い、自身に手を当てて傷を治そうとして……

 

「オートコード起動。med……!!」

 

 ……!傷が……治って……!

 

「……サポートが得意なんでね?ハッカーはよぉ?」

「……へへっ、そうだった……なっと!!」

 

 射撃。頭上へと、何発も。怯んだドラゴンは一、二歩さがる……!ここだ!

 

「ヒカイさん!押し込んで!!」

「了解した……!!」

 

 そこにヒカイさんが飛び込んでドラゴンに思いっきり一発!……相手のすぐ後ろは、ガケだ!

 ……けど、こいつ、やっぱりタフで、一撃喰らったのにもかかわらず下がらない……!

 しかも、ヒカイさんにまた一撃を……!!

 

「……でも、ダメージはたまってるはず……!『魔甲の熱鎧(ヒートボディ)』!」

 

 素早く、熱気を伴ったマナをヒカイさんに飛ばす。……自滅技、ってわけじゃねぇ。

 

「来い……!」

 

 ヒカイさんも分かっているのか、構えを取る……!

 それを、身体で受けた……!!

 

「ッ……!起動!!」

 

 その合図と共に、ヒカイさんのマナを少量借りて放出させる。……直接触れたやつに、ダメージを与える。それが『ヒートボディ』。

 もちろん、このまま終われない!

 

「オマケに、返すぞ!!」

 

 さらに『迎撃スタンス』で怯んでいたドラゴンに、顎へと向かってアッパー。さらに大きく怯む。

 そこにジョウトがドラゴンにハッキングし、コマンドを何か入力した。

 

「んじゃ、ばいにゃー」

 

 ジョウトの愉快そうな声と共に、デストロイドラグはそのまま、自分の目を覚ますように、自分の拳で自分を殴る。……うわ、意外とエグいな『マッドストライフ.x』って。

 ……結局、そのままそいつは深い谷底へと落ちていって、ズドンと重苦しい音をたたせた。

 

「ったく、もし驚かせたかったら、次は手加減した状態で来いってんだ……マジで」

 

 俺はそうつぶやきながら、二人に『キュア』をかける。

 幸い、探知機は壊れずに済んだし、傷を治せば探索は続けられる。急がず、焦らずに―――

 

「……早めに……行かないか?」

「え?どういうことだよオッサン」

「……も、もしこの場にさらにアイツが来たとしたら……」

「幽霊が?」

「バカ者ッ!!」

 

―――ゴチン!!

 

「あだぁっ!?何で殴るんだしオッサン!!」

「だ、誰が幽霊を怖いと言っているんだ!!」

「わ、分かりましたから、それ以上動かないでくださいー!!」

 

 ……結局、俺は『キュア』をかけながら歩くことにしたとさ。

 

 ……あれだけたくましいってのに、お化けは苦手なんだなヒカイさん。

 

 ……誰かに言いふらしたら確実に半日ぐらい都庁の外の広場で……だなこりゃ。

 

 そう思いながら、俺達は先に進んだ―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




J○J○ネタ二連発(隠してない?気のせい気のせい)
けど作者は原作全く知りません。けどなんか気に入ってます。「もしかして(ry」と「あ、ありのまま(ry」と「逃ィげるんだよおぉぉぉぉ!!」は。

……今思えばとんでもなくおかしかったので全部修正。当時の自分がホントにおかしいと思った話。


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32Sz 悪夢から這い出る犠牲者

はいこんにちは!……おかしいな。作者もハイテンション&エクゾースト状態になっている気がする。(一年後、おかしなテンションで書いた話は修正しました)

しかし、最近この作品に興味持っている方も非常に多く、こんなところでリアクトをやめられない、そしてMISSはできないので体調に気を付けつつも頑張らせてもらいます!

……あと、これを書きながらスマホの方を見ていたらいつの間にかお気に入り100件!?本当にありがとうございます!!もっとより良いものを作らせていただきますよ!!

それでは、なんかタイトルまでおかしい32Sz、どうぞ!


 ……ロナ達がデストロイドラグと交戦した後、そのころキリノ達は―――

 

「……うう、本当に、寒気が酷いな……」

「か、風邪ですか……?」

 

 ……キリノはちょっと身震いしながらも、チューニングを続ける。

 不気味に光る月が、どうも、これから起こりうる出来事を告げているようだ。

 

 ……そういえば、先ほど朧気ながらも見えたあの現象……それに、自衛隊の人の姿だった気がする……

 

 もしかして……怨念……?

 

「い、いやいやいや!そんな馬鹿な!!……確かに、アレは酷かった……けど、ば、場所が違うじゃないか……!!」

 

 自分で言った言葉に、自分で否定する。

 科学理論だけでは絶対にありえない。そう、きっと見間違えだよ。キリノは無理やりそう思い込みながらも、今の現象を考えてみようとする。

 

「……い、いやいや今はそんなのは後でいい!と、とにかく13班のためにチューニングを完了しなくては……」

「あ、あのー……キリノさん?本当に大丈夫ですか?」

「ん!?う、うん!大丈夫!べ、別に、こ、怖いとは思ってないから!!……はぁ」

 

 何故こんなことを自ら進んでやろうとしたのだろうか。と、やる気をなくすキリノ。そんなキリノが不安と思ったのかアオイがちょんちょんと肩をつく。

 

「……キリノさん」

「……なんだい?アオイちゃん………」

「チョコバー……食べます?」

「……半分ちょうだい」

 

 作戦前に「お菓子禁止」と言っていたのにも関わらず、とりあえず気を紛らわしたいと思ったのか、機械を操作しながらも片手でチョコバーを所望した。アオイはチョコバーを一本(NOT食いかけ)をキレイに半分割って一つ渡す。受け取ったキリノは一旦離れてチョコバーを一口。

 

「……うん。おいしい……けど……」

「キリノさんも疲れているんですよ。疲れたものには甘いもの!えへへ。まだ有るので取ってもらってもいいですよ!」

「アオイちゃん……キミは一体何本持ってきているんだい……でも、まぁ……しゅ、集中するためにも……いただこうかな……」

 

 13班には申し訳ない、が、あんまり焦っても良いことはない。……アオイちゃんが護衛に就いてくれてよかったかな、と、少し落ち着いてきた頭と心でそう思ったキリノ。

 ……と、ここで通信が入る。もしかして二つ目つけたのかな?と思いながら通信を入―――

 

『―――――事態発生したから一旦戻ってるぞ!!!』

「ぐわっ!?い、いきなり大声を出さないでくれ!?と、いうかどうしたんだい!?」

『見てないのかよ!?一体何してんだ……って、くそっ!!とりあえず、そっちまで逃げるぞ!!!』

「え!?え!?一体どういうこと……!?」

 

======数分前(ムラクモ本部・通信室)======

 

「……な、なぁミイナ……さ、さっきのって……」

「……(フルフルフルフルフル」

 

 必死に否定しようとして若干涙目で首をぶるんぶるん振るうミイナ。今回の13班のナビはミロクだが、少し時間空いていたのでミイナも―――先ほど撮っていた録画だが―――見ていた。

 

「……あ、あんなの、み、見間違いですよ!!消去ですよ!!」

「う、うん……で、でもいいのかなぁ……勝手に消去しちゃって……」

 

 だが、ミロクもそう言いつつも、何故か消去ボタンを押そうとしている。……二人には、いろいろと重い事実なのだろう。すんでのところで消去はやめ、フォルダに封印した。

 ……ミイナの口が開く。

 

「……あの、ロナって、どんな人だと思う?」

「……どう思うって……?」

 

 ミイナは話題を変えようとして、ロナのことを挙げた。ミロクは少し唸って、答えた。

 

「……戦闘向けじゃない性格……優しすぎる人……だよな」

「はい……私も、そう思う。……そして、一番怪しい人」

「……うん」

 

 ミイナは自分のモニターを見ながらも続けた。

 

「……資料がないんですよね。……どこにいたのかも、不明。あるのは()()()の説明だけ」

「うん……総長も言っていた。一番信用に足りる存在、けれども、一番危険視するべき存在だって。……でも」

 

 ミロクは真剣な表情で言葉をつづけた。

 

「……少なくても、オレにはそう思えない。今までの行動からみて、絶対に、危険人物扱いにするなんて、オレには、できない」

「……そうですね。数日前にも、様子見に来てくれましたし」

「うん……」

 

 実は数日前。ロナはギター片手に二人の様子を見に来ていた。そして一曲。弾いたあとにさまざまな雑談を交わしていた。

 特に、怪しいと思われる行動もしてなかったし、かといって今危険視するべき存在でもない。むしろ、ちゃんとした仲間の一人と、二人はそう思っていた。

 しかも、ちゃんとした名前ではないことに怒りを露わにさせていたと、キリノからも聞いていた。……きっと、ロナとはこういう人なのだろう。

 誰かのために怒り、悲しみ、そして喜ばせる。……戦闘向けとは思えない性格ながらも、前線で戦えるほどの力量、そして、勇気のある人物。

 

「……にしても、なんだろうな?ロナの耳……」

「気になりますけど、結局私達は言わなかったし……」

「付け耳……じゃないよな……?」

 

 と、突然通信―――

 

『―――事態発生したから一旦戻ってるぞ!!』

「は?」

『――――――って、見てないのかよ!?一体何してんだ……って、くそっ!!』

 

 なんだよ突然!と思いつつも、先ほどまでの現象を確認しようとして、原因だと思われる映像を見て―――

 

「……ひっ!?」

 

======そしてまた数分前(ロナ視点)======

 

「……ちくしょう、なんだってんだよこれ……」

 

 俺達は、本当に不気味なまでの、妙に長い骨橋を渡っていた。

 ……あー……こんなんで肝試し試せってのかよ。すまん、前言撤回する。無理。雰囲気合い過ぎだしマジで人影出そうだし……

 

 …

 ……

 ………

 …………

 

 ……………き、きき、気のせいだよな!!うんうん!……あぁ、さらに言ってテンション下がったな。

 

「……って、アレ……」

 

 ……橋の先の建物の屋上に……人、だよな……しかも、その恰好……

 

「……何で自衛隊の人がそこに……?」

 

 どうなってんだ……?俺達は謎の現象に橋で一度足を止める。……ついでに、抵抗感ありすぎるけど、俺はいつでも撃てるように銃を片手に、後ろ手にリロードする。……幸い、こっちにも気づいていないようだから、なんとか大丈夫、か。

 

「……一度接触してみよう。……もし何かあったら、撃ちます」

 

 そう、俺は言うけど……さすがに、抵抗感があった。だってさ、人を撃つんだ。……嫌なんだ。同じ『人』を殺すのが怖い。

 そう、俺は思いながら少しずつ進んでいく。けど、次第に身体に違和感が生じる。

 最初は分からなかった。何が違和感あるのかさっぱりだったけど、今さっき思ったことをゆっくりと思い返してみると、その違和感は簡単に出てきた。

 さっき、俺は怖いって思っていた。人を撃ってしまうんじゃないかと思ってしまうぐらいに。

 でも……今は震えていない。

 人影、しかも、撃とうとしているのに全く震えていなかった。

 

 まさか……いや、そんなことないよな……?

 

 ……俺はただ、自分の確証を得られないまま先行していた。後ろの方でヒカイさんが止めようとしたけど、ジョウトが俺のすぐ後ろについていたせいか、止めなかった。

 まだ後ろを向いている。その間に、俺は橋を渡り終える。……二人に無意識にうなずいて、一歩、また一歩と前へ。

 

「……あ、あの……?」

「……君たちは……13班じゃないか……」

「……質問に答えてください。なんであなたが……」

「よくここまで来たね……仲間たちも待ってたんだ…」

「し、質問に答えてください!何で……あっ……!」

 

 その顔に、どこか見覚えがあった。

 ……俺達は池袋作戦でいろんな人が死んでいった光景を見ている。……道には、死体もあった。

 ……どことなく、その死体の一人に、似ている気がする……。

 ……撃つか?……俺は一旦とどまりつつ、奥歯をかみしめる。……さすがに、撃てない。……あんな作戦で、犠牲になった人を撃つなんて、俺にはできなかった。

 

「さあ、一緒に会いに行こう……」

「……誰に……?」

「なぁに、すぐそこだ……」

 

 そう言って、先に進んでしまう。……後ろから撃つ、って手もあったけど、俺にはできなかった。

 

「……先行隊、いたん……だな……」

「ヒカイさ……いや、なんでもありません」

 

 声が震えていた。………多分、肝試し的な意味での恐怖だろうな。……だから俺はそう言った。いや、殴られるのご勘弁だし……。

 

「……で、どうすんだ?ついていくのか?」

「…………うん」

 

 ジョウトの言葉に、俺は振り返らずに、考え抜いた結果そう言った。

 

「……もしかしたら、帝竜とご対面するかもしれないだろ?そうしたら大助かりだよ」

 

 ……本当は、大嘘だ。

 ……ただ、謝りたかった。どんな謝罪の言葉も思いつかないけど、でも、もし会えたのなら、謝りたかった。

 

「……オッサンはどうすんだよ?行くんだろ?」

「……危険すぎないか?確証もなく、いくのは……」

「怖いんだな」

「怖いんだね」

 

―――ゴチゴチン!!

 

「あだぁ!?」

「いった!?ヒカイさんマジで殴らないでください!!」

 

 い、一瞬三途の川が見えた気がする……。そ、それほどまでに強かったんだよ今の一撃……。

 

「だ、誰が怖いと言った!!だ、だが……本当に、き、危険すぎると言っている!!」

「……もしやばかったら逃走、ってことで」

 

 もう、じれったかった。さっさと行って、確かめたかったからだ。……後ろから同じく歩いてきて、少し早歩きの音もした。

 ……銃は、後ろ手に持ったままで。

 

 橋を数か所わたり、とにかく前へ。……途中で自衛隊の人にちょっとした足止めくらったぐらいで、とくに何も問題はなさそうだった。

 とにかく、前へ、前へ、前へ。何か催眠術喰らったように俺は頭が真っ白のまま進んで……

 

 ……そして、たどり着いた。……自衛隊の人が複数人。……見た限り、行き止まりだ。

 

「……二人とも。待機」

「何?」

「……もしも、のためですよ」

 

 そう言いながら、前へ。……銃が身体の一部になったように、汗がつたる。

 

「……二人も、きなよ……」

「……いや、まずは俺から。……あと、あの……」

「じゃあいいやへへへっ。そこだへへへっ」

 

 ……俺は動かなかった。……そこっつっても、崖しかない。

 

「……一言だけ、いいですか?」

「どうしたんだい……怖いのかい……?」

「何をためらっているんだ……もっとも勇敢なハズのムラクモが……」

「……俺は、少なくても違います」

 

 ……近づいてくる。

 怖い。怖い。……でも、撃ちたくない、まだ、まだ……撃ってはダメ。でも、怖い、早く、逃げたい―――!でも、でも……!!

 

「……少なくても、あなた達がいてくれたから、俺は必死に前へ進めた……だ、だから謝りたいんです!!ご……ごめんな―――」

「謝罪は後だ……飛べ」

「飛べええええッ、飛べええええッ!!」

「飛んでよ……飛んでよオオオオオオーーーー!!!」

 

 

 それを聞いて、一瞬で人物の皮膚が変わる。

 完全に青ざめ、歯もかけ、……一部も欠けている……!!

 

 

「……ごめんなさい……!!!」

 

 そう言って、俺は封印を解くように銃を、眉間に。

 

 

―――バンッ!!!

 

 

「……もう、これ以上……」

 

 さらに、撃つ。撃つ。……ひどく、嫌になる光景だ………。

 

 ……殺したのは、間接的に俺達なのに、その俺達にまた殺される……悪夢以外の何物でもない……!

 

「くそっ……くそっ!!!」

「ロ、ロナ!!緊急事態発生!!」

「なんだよ!」

 

 

 

「オッサンが気絶した!!」

 

 

 

 ……は?

 

 

 思わず俺はそっちの方向を振り返る。……た、確かにその場で寝てる、つまり気絶している……?

 でも確かに気絶するのも無理はない。俺だって、本当に一瞬意識が吹っ飛びそうになっていたし、今すぐに現実逃避したかったんだ。

 

 でも、俺は必死に堪え、ヒカイさんの襟首を持って一旦入り口へと戻ることをすぐに決める。

 

「ジョウト!!通信入れとけ!どっちか、というかどっちも!!!」

「わ、分かってるっつの!!」

 

 俺達はヒカイさんの両肩を担ぎながら走り、ジョウトは通信を入れる。そうしながら、俺たちは必死に逃げていた。

 そりゃ……攻撃なんてしたくなかったからだ。そんなの、俺には出来ないからだ。

 

「―――って、くそっ!!とりあえず、そっちまで逃げるぞ!!!……おい、こいつらどうにかできねぇか!」

 

 ジョウトは後ろから迫ってくる自衛隊ゾンビの群れから逃げながらそう言う。

 ……不本意だけど……

 

「……分かった」

 

 俺はマナを右手に凝縮。……ホント、ごめんなさい……。

 

「……『焦撃の灯火(フレイム)』……!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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33Sz いろいろ重傷

どうもです!肝試……ダンジョン攻略も中盤に差し掛かっています。

……しかしギャップが激しい。前二つがシリアスだったから余計に目立ちますね今回。でも基本的に原作の今回はこんなノリ?な気がする。

それでは、33Sz、どうぞ!


「………うん……結果は……?」

『……生体反応なし……』

「……でも、僕たちは見たはず。……ドラゴンも近くにはいない。……さしずめ、死人が復活する……か」

『ありえるわけないだろ!?キリノはどうかしてるって!!』

「ま、まぁまぁ……そんな怖がらなくても……」

『あ・り・え・な・い・!!』

 

 ……ミロク、怖いったら怖いって言えよ。と思いつつ、俺は水を含んだタオルをまた、……現在絶賛気絶中のヒカイさんのでこにあてる。

 

「……とにかく、ヒカイさんが気絶したから帰ってきた。……任務に支障あるかもな」

 

 ……さすがに二回目は慣れるだろ。多分。俺は自分の言葉にツッコみを入れながら、もう一度月を見る。

 ……チッ、この元凶の帝竜…マジでその顔ぶっとばしてぇ。……そうすれば、苦しまずに済むだろ……。

 ………死んで、なのに縛られて、そんなの……考えただけでも苦しい。

 

「……けど、なんでヒカイさん気絶したんだ?……ジョウトはなんか知ってる?」

「………」

「ジョウトー?」

「知らん」

「……だよな」

 

 ……

 ………

 …………

 

 ……………話題がねぇ。重苦しい空気だと、この地形効果も合わさってすげぇテンション下がる。……ヒカイさん目が覚めるまで俺達はこの場にいるようになる。

 ……あれだけ力強い人だってのに、意外な弱点突かれてるしなぁ……。お化け、苦手なんだな本当に。

 

「……あるところ、一人の女の子がいました」

「突然どうしたんだよジョウト。あとさっきの続きかよ」

「……その女の子は病弱で、一人っきりだった」

「人の話聞け……」

 

 でも、ジョウトの顔は何処か遠くを見ていた。……渋谷の時と同じだ。何か悔やむような、そんな表情。

 

「……そこにある誰かが来た。誰かはしょうがなくぬいぐるみを渡した。……それ以来、仲良くなったとさ。めでたしめでたし」

「……もしかしてその、『誰か』ってお前?」

「んなわけねーだろ」

 

 ……否定された。でも、いつもと違う。嫌がってる、よりかは照れてる……か?変な表現だけど。

 ……でも何で今何だよ。……何か理由あるのか?

 

「……まさか、ジョウト……」

「へっ……まさか、こんなところに来るとは思えなかったんだよ。……ホントに、な」

「……な、なぁ、その女の子……どうしたんだ?」

「……………1、生きてます。会えてます。2、生きてます。ですが、行方不明。3、行方不明。さぁどーれだ?」

「4」

「残念。正解は6でした」

 

 なんで6だよ。そこは普通に4でいいじゃねぇか。

 ……6の回答。恐らく、「もうこの世には存在しない」。だって、こんな状況でそんなこと言えるのって、それしか思い浮かばない。

 それに、今までの不可解な行動。……ついでに、結構前……確か、渋谷前半戦……SKYのダイゴさんとネコさんに会う前。

 ……実は起きていたんだ。眠い、と思いつつも寝て、ちょっと起きたら、なんか聞こえた。途中までだけど、なんか、過去に何かあったような言いぐさしてたし。それに、二人は何処かであったような言い方。

 ……二人とも、何があったんだって思えたぐらいに。

 

「……何年ぐらい前の話だ?」

「……忘れちまった」

「だいたいでいいよ」

「……五年ぐらい前、だな。……はい、オレの怪談話はここまで。続きは永遠に楽しみにしな」

「…………分かったよ。……ついでに言うけど、会いたいの?その女の子に」

 

 ……少しの沈黙。でも、長く感じる。どことなく、月が一瞬だけ、穏やかになった気がする。

 そして、やっと、ぶっきらぼうな声が俺の耳に届く。

 

 

 「会いてぇよ」と。

 

 

======数分後======

 

 

「……う」

「あ、気が付きましたかヒカイさん……ムグムグ」

 

 チョコバー食ってる最中に目が覚めたヒカイさん。……あーこのチョコバーうまい。久々にチョコバー食った気がする。……でも俺意外と甘いもの苦手なんだよね。でも、うまい。

 

「……まず状況説明を」

「ムグ……ゴクン。……ジョウト君。説明を」

「ングッ、ゴクッ……何でオレなんだよ」

「殴られた回数が多いから」

「……へいへい。―――かくかくしかじか」

「―――事情は大体わかった」

 

 すげぇ。あれだけ簡略的だったのに一発で理解できてやがる。さすがヒカイさん。

 あ、ちなみに数分間何があったかと言うと、チョコバー食べてたり、キリノから残り二つの探知機をもらった。支障出るんじゃ?と心配かけられたけど、特に動きにくい、ってレベルじゃないから大丈夫。

 ……ちなみに俺はチョコバー二本食いました。……一体何本あるんだと言わんばかりに持ってきているらしい。アオイは。

 

「……ところでオッサン。なんで気絶……」

 

―――ゴチン!!

 

 ……学習しねぇなジョウトは。そんなの禁句に決まってるだろ。

 けどま、どうやら無事そうだ。気絶程度ですんだ、ってところか。

 

「……お、オッサン……殴る前に言うことがあるだろ……」

「何の事だ?」

「……は?」

「え?」

「だから、何のことかさっぱりだな」

 

 …

 ……

 ………

 

 …………射殺許可ください。できれば脳天の方に。なんとなく。

 

「……オッサン、操られたってことはねぇだろ。ゾンビだろゾン……」

 

―――ゴッチン!!

 

「うわっ」

 

 さっきよりも威力増した。……あーもう、とりあえず、さっさと行きたい。俺は二人に「さっさと行きましょう」とだけいって、橋の近くへ。

 

 ……待ってやがれ『ロア・ア・ルア』。マジで……ん?

 

 ……また……帝竜の名前が思い浮かぶ……?

 

 ……ま、別にいいよな!!んなこと、必要ねぇし、名前ないといろいろ不便だと思うし(メメタァ

 

======またまた数分後======

 

「……えっと、この辺?」

『いや、もうちょっと先だ。もうちょっと進んでくれ』

 

 了解っと。俺達は先に進む。

 ……あれ?……あそこに、人影……生きている……か?

 

「……二人とも。マジで待機」

「……分かった」

「あいよ」

 

 そういって俺だけで進む。……あぁ、橋越しだから一瞬で逃げ切れる距離。特に俺の脚だとね。

 

「……すみませーん」

「ちょうしわるい。クラクラする。さいあくだ。ちょうしわるい」

「……お邪魔しました」

 

 逃走。……ゾンビ、だよな。確実に。話聞いてなかったし

 ……いや、撃つ、って手はない。さすがに、襲ってこないならほっときたい。……無駄に、苦しみたくないんだ。……それは逃げているとも、とれるけど。

 ……いくらなんでも、抵抗感はある。それに、帝竜倒せば現状解決するはずだ。無理に倒すつもりはねぇよ。

 特に何も言わずに先へ。……気絶させられたら困るからな。誰とは言わない。

 

「……ミロク。この辺でいいのか?」

『あぁ。……設置してくれ』

「了解」

 

 そしてまた俺達は組み立てて探知機設置……っと。マモノも来なかったし、大丈夫だな。

 

「設置と。ミロクー」

『……せ、設置したよな……?』

「うん。……見えてないの?」

『い、いや、なんでもない……いや、やっぱりだめだ!本当は置けてないとか……そもそも、ロナ達がそこにいないとか……そういうこと……ないよな?』

「……気づいてしまったか」

『……え?』

「そうだよ……俺はそこには……」

 

―――ゴッチン!!

 

「いっつ!?す、すみません……じょ、冗談です……」

「任務で……遊ぶなバカ者!!」

「はい分かりましたってすみません!!冗談です!俺ここにちゃんといます!!」

 

 ……まぁこれぐらいの遊びができるなら大丈夫だよな。……ある程度緊張感抜いとかないと、ヒカイさん気絶しちまうかもだし。

 ……何か忘れているようだけど、気のせいだよな。うん。

 

「……にしてもミロク。もうちょっと俺達のこと信じろよ。モニターでも見えてるだろ」

『だって……モニターだけじゃ心配……し、心配……』

 

 ……おーい。また声聞こえてないぞー。男の子なんだから、もうちょっと声あげろよー。

 

『…そりゃ、いつもは膨大なデータあるのに、今回は……』

「……だめだこりゃ」

 

 まだ俺達の年にも満たないってのに、データにとらわれ過ぎだな。……帰ったらなんか話すかね。と、俺は思った。

 ……にしても、ジョウト、さっきっから元気ないな。……ドラゴンとの戦闘の際にはさすがに目を覚ましているような感じだけど、違う。

 ……やっぱり、俺に話したことが、原因だよな……。

 

『でも、そんなに心配しなくていいよ。ミロクの目を信じなよ』

 

 と、キリノ。……ちょっと頼りないような気がするが、気にしない。

 

『……もしかして、今話しているキリノもニセモノなんじゃないの?オレを惑わそうとして、13班を陥れようとする―――』

「マジですかキリノさん!?」

『違うよ!本物だよ!……とにかく重傷だね。僕はチューニングに専念したいのに…』

 

 お前もお前で重傷だよキリノ。と俺は心の中でツッコんだ。チューニング病か。

 ……うへぇ。何かどんどん決意がグラついていくような気がする。……いや、むしろ、感謝かな。……焦っちゃ意味ないもんな。

 ……多分全員、素だけど。

 

『あ、だったら私がナビしましょうか?』

「アオイは不安すぎ!!ナビ役ダメ、ゼッタイ!!」

 

 絶対俺ら迷子になるよ!!やだよこんなところで迷子だなんて!!ヒカイさんも気絶するし、ジョウトは……まぁジョウトはなんとかなるはず。

 

『……ロナの言うとおりだよ。ミロクはずっとデータを頼りに仕事をしてきたからね。こういうことに馴れていないんだ。……それに、死者が蘇るなんて、とんでもないことだし……』

 

 ……そうだ。そんなこと、自然の摂理に反している。

 

「……そういえば、確か今は『昼間』の時間だよな!……まさか、あの帝竜……『自然の摂理を無視する』……のか?」

『……確かに。そんなのは危険だ。……でも、今は探査機の設置作業を優先してくれ。残りは二台……距離は少し遠めかな。こちらもチューニングを急ぐよ。オーヴァ』

 

 通信はプツリと切れた。

 ……下手をすれば、新世界の象徴、か。あの帝竜は。

 ……でも、そんなことはさせねぇ。

 

―――ぜってぇ俺が潰す。……蘇ってしまったみんなの分まで。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




原作ではこの時テンパるミイナ(ミロク)がかわいかった。


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34Sz 叱りし不可思議現象

どうもこんにちは!休みの日を使っていけるところまで行きたいですね。

さて、今回は、三台目の探査機設置前の話です!……なんでそんな簡略的な?……原作プレイ者は印象深いイベントだからじゃないでしょうかね。

それでは、34Sz、どうぞ!


「あれ?こっち、進んだっけ?」

「……見覚えあるのような光景だな」

「……ちょっと待て」

 

 そう言ってジョウトは石を三つ、積み上げる。マーキング、ってところか。それを確認した後、もう一度戻って、戻ったつもりをしてみる。言い換えれば、普通に戻っている。

 

「……にしても、ひでぇところだな」

 

 今まで全体に気を取られていて分からなかったけど、地面とか穴ぼこだらけで、もしかしたら帝竜(アイツ)の趣味なのかもしれないけど、壊されている。

 生きる者は死に、死に眠る者は生き、そんな力だ。

 

 ……進むたびに異臭が、どうも強くなってくる気がする。……ゾンビ化。そう言った意味もかねて、だろうな。

 

「……今頃アイツがこの光景見たら、悲しむだろうな」

「ジョウト?」

「うっ!?……独り言だ」

「いや、……いや、うん。そうだよな」

 

 よくよく考えると、ヒカイさんは気絶していたからジョウトの過去の話を、ヒカイさんは、俺はまだ知らない、と考えた方がいいよな。……そのヒカイさんも、何か考えるような顔だけど。

 

「……嫌なもんだ。……よりにもよって、『満月』……か」

「……」

「ま、この状態でお月見やった良い雰囲気になるんじゃねぇの?なぁオッサン?」

「……そう考えたか。ハハッ」

 

 お、ヒカイさんが笑った。意外とジョウトってセンスあるなぁ。

 ……あーよく考えると、……地形考慮しなければそれなりにロマンチックだな。肝試しにも、お月見にもなる。……どっちが悪なのか、ゾンビ問題がなければ、分からなかっただろうな。

 

「……しかし、満月の夜は苦手でね……」

「え?意外ですね?」

「満月は不吉の象徴。……私はそう思っているのでね」

 

 ……確かに、でかい月はいつ落ちてくるのか分からないぐらいに―――まぁそんなことありえない現象だと思うけど―――輝いている。そう思うと、不吉にも見えるな。

 ……あ、ちょっと思い出した。……俺も、物心ついたときは満月は怖かった気がする。多分、いつ落ちてくるのか分からなかったからだと思う。いつの間にかそれは克服してたっぽい。

 

 ……月、か。

 

 人の見方によっては『肝試しっぽい』とか、『お月見』とか、『不吉』とか、個々の解釈に分かれる。……あぁ、あと、すごい余談だけど、日本ではクレーターがウサギっぽく見えるけど、他の国ではカニとかに見えるらしい。

 けどまぁ……そういった、一部の人が抱く、『不吉の予兆』を告げているのかもしれない。今、昼間だと言うのに輝いている、月は。

 

「……あ、あれ」

 

 そう言って俺が指差したのは、三段重ねで重なっている石だ。

 ……どうやら、ループしているらしい……

 

「って、ありえねぇよ!?超常現象すぎ!!」

「……途端にループするように仕向けられている、そう考えた方が妥協じゃないか……?」

 

 ……ヒカイさんの言うとおり。……だけど、どう聞いても自己主張のように聞こえる。気のせい。だよな。でも、正論なので俺はうなずいた。

 

「……じゃあ、こっちですね。行きましょう」

 

 俺達は歩いていない方向へと進んだ。

 ……決して、迷子にはなってない筈だ!!

 

======少し進んで======

 

『ぐぬぬ……むぅ……この数値がここで……うーん……』

「わっ……マイク入ってるぞキリノ」

 

 バカヤロウ。ちょっとびびっただろ。いきなりトランシーバーから声が出るなんて。お前……頼むから驚かせないでくれ。

 

『ぬわっ!?13班!?』

「どわっ!……バカ!脅かすなっての!」

『あ、す、すまないね。作業に集中すると、どうも周りが見えなくて……』

 

 タハハ……と、キリノの苦笑いしている声が、トランシーバー越しにやってくる。

 

「……で、チューニングは難航?」

『うん……い、いや!イイ線まではいってるんだよ!でもそこから先が……あはは……』

「……俺達のせいじゃねぇだろ」

『分かってるってば!……でも、とりあえず集中して作業するために一旦通信を遮断させてもらう』

「は?なん……」

 

 で、と言う前に通信はプツリと切れた。

 ……お、おい……?……キリノさーん……?

 ……不安なので、ミロクに通信っと。

 

「……コール。ミロク」

『あ、え、お、おう!……意味分からない……オレにどうしろって……』

「……不安なら、一旦俺達戻ろうか?ミロク、データ上のものしか信用できないって。チューニング終わってからでも遅くねぇ筈だけど」

 

 でも、俺は一刻も早くアイツをぶっとばしたかった。……でも、さすがに、勝手に一人で進んだら二人に迷惑かけてちまうだろ。さすがに、学習したからな。

 

『……それはダメだ。任務の放棄になる……』

「んじゃ、設置、だな」

『うん。……そのまま進んでくれ』

 

 了解っと。俺は通信を切って二人にうなずいて進む合図を送る。

 

「……はぁ、でも通信ぐらい入れたままでもいいのではないか……?」

 

 ……進んでいる間に、誰かの声が聞こえたけど気にしない。っと。

 橋を渡ってもう一つ……

 

「……ん?」

 

 俺は後ろを振り返る。……ヒカイさん、ジョウト、それから……

 

「……」

 

 俺は無意識に二人の間を通って、対面する。

 ……自衛隊……の、ゾンビ……だよな。それも、複数。

 

「……また、か……」

「さすがに克服したか?オッサン?」

「……今回ばかりは認めよう」

 

 ……二人の会話は気にせず、俺は自衛隊の人たちを見る。

 ……目に光も伴ってない。皮膚も青い。……完全に、ゾンビとしての本性丸出しだ……。

 ……俺は銃に手をかける。……本当は、撃ちたくなかった。

 

「……でも、ごめんなさい」

 

 それだけ言うと、二体に連射。フルヒットした二体はバタリと倒れる……。

 ……でも、また数体……また数体……!!

 

「……くそっ!!」

 

 銃じゃ無理やり対処できない!……そう思った俺は腕にマナを込める―――

 

「……チッ、こっちからもきやがった!!」

「え!?」

 

 振り返る。……やべぇ、何なんだよこれ!?

 見る限りのゾンビの集団が襲い掛かってくる。……一体、何体いるんだと言わんばかりに、しかも、大半が自衛隊のゾンビ……!

 

「―――アアアオオオ!!」

「っ、しま……うわっ!」

 

 振り返った途端、一体のゾンビに押され、地面に倒れる。

 

「……あ、うわ……っ……!!」

 

 声も、出せないぐらいに、視界にはゾンビの顔。

 痛い、苦しい、悲しい、悔しい。グチャグチャのゾンビの顔がそう言っている。言っていて、俺は思わず目をつぶった。

 

「……ひっ……!」

 

 いやだ……来ないでくれ!!完全に攻撃することをやめて、腕で顔を覆って、見たくない物から無理やり逸らして、

 

 頭も真っ白になって、何も聞こえなくなる。

 

 何かが、身体に触れる。……風切り音がする……!

 

 

 俺……死ぬのか…………

 

 

 ……何故だか、それは仕方のないことだと、この時の俺は感じていた。

 

 

 独りは……嫌だもんな……

 

 

 

 

『―――だから、お前独りで抱え込もうとするなって。メンドくなったら、俺を手伝いに呼んでくれよ?』

 

 

 

 

「……コラアアアアアアアアア!!!!」

 

 

 

 

「うわっ!!?」

 

 

 思わず起き上がって、ついでにゾンビも突き飛ばす。……い、今の怒声………?

 

 ……いやそんなバカな!?聞き覚えもあるけど、そんなの……

 

 

 ……あっ、いや、ここでは『自然の摂理が崩壊している』。逆を言えば『常識なんてない』と言ってもおかしくない。

 

 ……ありえないことではない。現にそう言う現象にあってるし……で、でも……やっぱり……

 

「おいボサッとしてんじゃねぇ。ナビは何やっているんだ……?」

「……あっ……」

 

 今度こそ、声を捕えて、そっちの方を向く。

 ……頼もしい、後姿。間違いない……。

 

「…………ガ……ト……」

「まーたデータがどうとかグジグジ言ってやがるんじゃねえの?」

「……………」

「あーあかわいそうに。ナビがオロオロ悩んでいるうちに13班はオダブツ。肝心なときにはお子様ってままなのかよ。なぁ?ロナ?」

「……あ、は、はい……」

「それにロナも、やっぱ甘ちゃんだな。戦場では真っ先に死ぬタイプ。あの胃袋娘から聞いてなかったか?」

 

 ……う、うっさいなぁ!!俺は心の中で反論したかったけど……。

 

「かと言って、あなただってとても勇敢なことしたじゃないですか!?」

『そ、そうだ!……オレは、そんなんじゃない!!』

 

 

 口が出てしまった。ミロクもついでに。

 

 

「……とにかく、俺はそれしか取り柄がない、と思う。……けど、……俺は、あなたが見ていないところで、強くなったはずです。……ちょっとゆらいだだけですが」

『……それに、だれだか知らないけど失礼だな!絶対、なんとかしてやる。……そう言ってくれ。ロナ』

「はいはい。……絶対、なんとかしてやる。って」

 

 その声を聞いて、後姿の人物はうなずいた。不思議と、嬉しかったはずだ。

 

「おうおう。言うねぇ……!」

「……だから、見ててくださいよ。……俺の……俺達の、決意を!!!」

 

 そういって俺は短刀をとりだして、近づいていた複数体を斬りつける。ドサリと倒れて、動かなくなる。まだ来る。けど、もう、躊躇してられない。……こんなところで、恥ずかしい恰好はしてられないだろ。

 応じるように、ヒカイさんもジョウトも戦闘を継続。後ろの方でヒカイさんが俺の背を護ってる。そして、その二つの背を押すようにジョウトも援護してくれる。

 

「ガッハハハ!そう。お前らのそのクソ生意気なところ、俺は結構、気に入ってるんだぜ?……だから、ボサッとすんな!シャキッと、声出せ!!」

 

「はい!」

「了解!」

「おう!」

 

 俺達13班が一斉に答える。

 

「……ミロク、そっちは大丈夫か!?」

 

 俺はその最中に通信を入れ、確認する。

 

『分かってる!……少し粘っててくれ! 何か突破口を探しているんだ!』

 

 さらに、襲い掛かってくるゾンビを斬り倒す。……少なからず、揺らぐけど、でもさ、もう……これ以上苦しませないためにも、一瞬だけ苦しむことになる。

 一発で呪縛を解く苦しみなら、我慢してくれるはずだよな!!

 

「……たく。世話が焼けるやつらだぜ。……おっと、お迎えだ」

 

 何か、聞こえた。けど、俺達はそっちに集中する暇はなく、こっちに手いっぱいだ。

 ……俺も分かってる。本来なら居てはいけない存在なんだ。目の当たりにしたから、本当に、ダメなんだ。

 

「……頼むぜ。安心して眠らせてくれよ?」

「……了解です」

「あ、あとそれとだ!」

「……なんですか?」

「……あのヤローは、ちゃんとしてるよな?」

「もちろん。……今では立派な10班班長ですよ」

「ガッハハハ!!それだけきけりゃ安心だ。あの弱虫がな……へへっ」

 

 そう言った途端、シュンッ、と何かが消えるような音がした。

 振り返らなくても、分かる。消えた。俺達にもう一度決意をくれて。

 ……死んでも、頼りに、なるな。……いや、そんなのだめだろいろいろと。

 だから、もうそんなことがないように俺達が――――

 

「がんばらなくちゃな!ヒカイさん!ジョウト!」

「もちろんだ!これ以上、迷惑かけられまい!」

「言われなくても、オレはとっくにやる気だ!」

 

 そう言って、さらに粘る。きっと、この言葉がミロクにもとどいたから、俺達は信用できるもの全てを信用する!

 

『……よし、分かったぞ13班!この人たち、音に操られている!』

「音……?」

『あぁ!ドラゴンの影響もない、けど、このダンジョン中に『聞こえない音』が鳴り響いていて、生物の神経を誤作動させるみたいだ。それがたとえ、死体でも、あやつり人形みたいに動き出すような!』

「マジか!?」

 

 なるほど。さっきの無限ループ、そして、今のこの現象の正体は音か。死体にも聞く、催眠術ってところか。

 

「だったら、どうすればいいんだ?」

『対策もある! 今から探知機を使って全パターンの音波妨害をかけてみる!確か、二つとも持っていたよな!それも使って、……上手くやれるか分からないけど、やってみる!』

「分かった。やってくれ!」

『……あぁ!やってやる!!うるさいかもしれないから、耳を防いで!』

 

 そう聞こえ、俺達は探知機を手放して、さらに耳を防ぐ。

 

―――ビイイイイイイイイイイイイイ!!!!!

 

 これでもか、という騒音が辺り一帯を響かせる。その音がまるでトリガーになったかのように次々とゾンビが、糸の切れた人形のように倒れていく。

 

「……すげぇ」

 

 音が鳴りやんだ時、ゾンビたちは地に伏せていた。一匹残らず、例外なく。

 

「……よっし!やったな!ミロク!!」

『あ、ああ!……あ、あの……さ』

「うん?」

『……さっき、オレを叱ったのって……』

「…………いくらなんでも、そんなのデータに保存できないだろ?」

『……けど、オレには伝わった。……それで、いいんだよな』

「……うん。……データを見るだけじゃ、伝わらないものがある」

 

 俺のギター弾きや、……悔しいけど、多分、『ロア・ア・ルア』が出した音のように、譜面だけでは分からないものも、実際に聞けば、伝えてくれる。

 今の現象は、まさにそれ。

 そんな不可思議現象を、俺は改めて感じつつも、ゆっくりと目をつぶり、黙祷を捧げた。

 

 ……どうしてここまで運ばれたのか、分からないけど、けど絶対におかしい。こんなことして、何をしたいのか。

 

 俺はそんな疑問を思いながらも、黙祷を終えて先へ進む。

 

 

 

 

 

 



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35Sz 月が起こした存在

どうもです!久々に完全オリジナル展開の話を書かせていただきます。

ただ、以前と違って0.5はつかず、そのまま35Szとして導入。外伝であって、『ルシェかえ!』での正史、といった立場ですね。

では、35Sz、どうぞ!


「よいしょっと。設置完了。ミロク。見えてる?」

『バッチリ。残りはあと一台。……次の設置エリアに進んでくれ!』

「了解!」

 

 三台目の探知機を設置した俺達は前へと進んでいく。

 不思議と、肝試し気分ではなくなってきているし、恐怖も薄れている。テンションも好調。絶対、あの人のおかげだな。

 

「……」

 

 でも、ちょっと気がかりなのはジョウトだ。……アイツ、またどこか遠くを見るような目をしていて、やっぱり、集中できていないような。

 

「……ちょっと休憩、いいですか?」

「ロナ?」

「……疲れちゃって…」

 

 嘘だけど。でも、気がかりも気がかりだし。……でもヒカイさんのことだしなぁ……休ませてくれないかも。

 

「……確かに、今までの連戦と現象から、疲れてきているのだろう。ここで休憩しようか。……幸い、へ、変なのは見えないからな」

「……人魂ですか?」

 

―――ゴチン!

 

「いった!?」

「……休んでおいとけ」

「へ、へい」

 

 痛い……容赦ねぇヒカイさん。俺は頭を抑えつつ(ついでにこっそり『キュア』をかけ)その場に座る。……異常なまでに、フロワロも、墓石もない。ちょっと広いぐらいの屋上。

 ふと、今座っている場所についていた、ちょっとした塔のようになっている看板を見つける。

 えーっと……読めるところは……『四 口糸 完』……空白の部分は崩れていて読めず、読めた部分もどこか壊れていて完全には読めていない。が、「完」の字は縦に細長くなっているので、恐らく「院」と読める。で、ここは「四ツ谷」なので、「口」は「谷」、その間は「ツ」だと思う。「糸」……は、読めない。細いから、いとへんだとおもうけど。

 ……ん?ジョウトがそのでっぱりにある扉に近づいてる……。

 

「おいジョウト……どこ行く気だ?」

 

 俺はジョウトに近づきながら質問する。ヒカイさんもやってくる。

 

「……開いてるかどうかだ」

「いや、今は開いてないんじゃ……」

「開いていたんならどうすんだよ」

「……開けてみろよ」

「はいよっと」

 

 ガチャッ。音はしたが、開いていない様子。

 

「………っかしいな……基本ココは開いているはずだが」

「そーなのかー?」

「まぁ、な。……過去の教訓だから、今では違うのかもな」

「………気になるのか?ジョウト」

「ヒカイさん?」

 

 俺は、何故かナックルを取り付けているヒカイさんを見て、なんとなく察したけど、でも……いや、それって器物損壊じゃ……。

 そう思っている時、ジョウトは扉に下がりつつも、答えた。

 

「……まぁ確かに気になるわな。今の現象じゃ……な」

「……そうか。……下がってろ」

「え……でも……」

「もしかしたら、要救助者がいるかもしれないだろ?」

 

 ……確かに。器物損壊は……ドラゴンやマモノのせい、ってことで!俺しーらねっと。俺はうなずいて、納得する。言い訳はできるしな。

 

「……うりゃっ!」

 

 扉を殴打、もう一発、さらに一発。ドアノブが壊れ、ロックが外れる。……どうやらスライド式の扉だったらしい。その扉はゆっくりと、ひとりでに開く。……まるでホラーだな。

 

「……ロナ。休んでいてもいいぞ。私とジョウトが見てくる」

「いえ。俺も興味あるのでついていきますよ」

「……興味だけではだめだ。……覚悟も必要だぞ」

「……分かりました」

 

 覚悟……か。

 確かに、この中は地獄のように、先が見えない。どうなっているのか分からない。マモノの気配はざっと感じた限りはなさそうだ。

 ……そういや、さっきのゾンビたちは妙な気配だけはしなかったな。だからか。腕とかが振るえなかったわけは。けど……精神的にはきつかった。正直に。

 そして……この中も、恐らく……

 

「……行くぜ」

 

 珍しくジョウトが先行して入る。

 

『13班。どこ行くんだ?』

「救助者探し」

 

 通信越しに、先にジョウトが言う。……なんか、珍しいな。ジョウトが仕切るなんて。こういうのは面倒くさがってやらないたちっぽいんだけど。

 

『……確かに、な。了解。暗いから気をつけろよ』

 

 意外と早くミロクが決断。……それだけ言うと、一旦通信は切れる。……にしても、深いなぁ……本当に、底が無いんじゃないかって思いたいぐらいに。

 

「よっと」

 

 ジョウトは懐中電灯をどこからともなく取り出してスイッチオン。これで前は明るくなったぞ。安心できるな。

 ……でも、中は異常に静まり返っている。いや、当たり前だけど。……やばい。いくらなんでも雰囲気出しすぎだろ。

 中に進むと、冷たい床、あまり光が刺し込まない通路、閉じていて中が分からない扉、もしかしたら昼間にドラゴンが襲来したせいか、全くついていない電灯があった。そのせいで、どんどん確証へと、変わっていく。

 ここは、病院だ。

 ……そう言えば、ジョウト言ってたな。『その女の子は病弱で』って。

 病弱……となると、病院に住んでいたことが考えられる。で、ジョウトはその女の子と接触。理由は分からないけど。

 ……つか、ジョウトはどこに行ってんだ?窓も開いていない通路をただひたすら進んで、俺にはちょっと怖い。……扉を開ける勇気もない。

 

「……ここ、だな」

 

 ……ある扉の前に立った。……「503」号室。……誰か、いるのか?

 

「……なんでだろうな。……もう、ここにはいねぇってのに、今の現象を見てると、そんなことはねぇって思ってるオレがいる」

「………」

「この病室と、オレは、切っても切れねぇ縁なんだな……改めてそう思っちまったよ」

 

 ……ここにジョウトはいたのかな。俺はそう思っていた。……暗い中、かろうじて見える番号の下の名前を確認する。……無し。しばらく誰も使ってなかったっぽいな。

 

「……」

 

 手をかけ、開けるジョウト。……異臭はしなかった。いや、整理されている……外の空気が重苦しいと感じるぐらいに、どことなく心地よい空気がやってきた気がする。

 俺らは中に入り、確認する。電気は何故かつけなかった。

 ベットには誰もいない。………あるのは、手紙と、ぬいぐるみだけ。

 ちょっとだけ光が入っている病室で、そのぬいぐるみは、言ってはなんだけど、結構雑だった。白い布地に、頭と胴体だけ。こけし?

 

「ジョウト、そのぬいぐるみ………何がモデルなんだろうな?」

「見てわからねぇのかよ?」

「………ネコ?」

「イヌだよ」

「何でわかるのさ?」

「げ、………ね、ネコだよな、うん」

 

 嘘つけ。盛大にイヌっつったろ。盛大に。

 

「……しかし、まだこんな風になってるとは思えなかった。……あの時にタイムスリップした感じだなぁ?オッサ―――」

「ジョウト、これ君宛てじゃないか?」

 

 そう言って渡したのは、手紙。ジョウトはライトを照らしながら手紙を確認する。そこで俺もちょっと見てみた。………律儀に、「ジョウ君」へ。って書いてるな。つまり、ジョウトか。

 ……つながった。いろいろと。

 ここは「病院」。「あの子」はここにいた。そして「ジョウト」もいる。で、ぬいぐるみを作ったのは「ジョウト」だ。そして、「数年前」。

 間違いない。ジョウトの言葉嘘偽りなく、真実だ。数年前に「あの子」は亡くなった。

 

 ――――――

 

「……ん?」

 

 俺は思わず、周囲を見渡す。……誰一人、いないよな……?

 ……そんな馬鹿な。いや、冗談じゃない。でも―――

 

 どこかで、聞いたことがある気がする……?

 

 ――――――

 

 声はまだ続く。いや、本当に声なのか? 気になった俺は、二人の様子を一旦確認する。

 ……二人は、気づいていないらしい。ということは、気づいているのは俺だけか?

 

 ……でも、少なくても……悪い予感のするやつではない。不思議な感覚だ。

 

 ……いや、多分気のせいかもしれない。でも―――

 

「…………ヒカイさん。俺達は外で見張りしてましょうか?」

「うん?どうしてだい?」

「……いやなんとなくですよ。なんとなく」

 

 手紙をゆっくり、読ませてあげたいからな。俺はそれを隠しながらも、ゆっくりうなずきながら行こうとする。……察したのか、ヒカイさんも黙って病室を後にする。

 

「……………」

 

======視点切り替え======

 

「………」

 

 あれから何分したか分からない。でも、結構な時間たったと思われる。

 ベッドに座って、手紙をそっと、ウエストポーチに入れる。

 

「………そう言うことは、生きているうちに言えってんだよ……」

 

 悲しみにも、そして、照れにも聞こえる言葉をそっと言って、この病室を後にする―――

 

 

「―――フフフッ」

 

「…え?」

 

 

 誰かの声が聞こえて、思わず振り返るジョウト。

 ……そこには、一人の女の子、どことなく、髪が少し短めで、耳が上についていない、数年前のロナのように思える子がいた。

 

「……悪霊?」

「ひどいよジョウ君。……でも、悪霊だね。今は」

「………」

 

 言葉を失っていた。まさか、会えるとは思えていなかったからだ。

 先ほどの、あの人の現象を見てから、もしかしたら、と思っていて、でも、そんなのはおかしいと思っていた。

 けれど、まさかこうして会えるとは、思ってもみなかった。

 

「………」

「うん、久しぶり。ジョウ君。……懐かしいね。ここ」

「……いい加減、その呼び名やめろよ。俺はもう年とっちまったからな」

「でも、私は年をとってない」

「だからってなぁ……」

「うふふ。……ぬいぐるみ、まだあったんだね」

「だな。……そういや、本当に懐かしいな。……確か、そいつは…」

 

===

===

===

 

「え?君は……?」

「……やっべ、部屋間違えた。じゃ、お邪魔しまし……」

「あ、待って」

 

 呼び止められた『オレ』は、渋々後ろを振り返る。……見ると結構かわいいなこいつ。……って、何言ってんだよオレは。

 

「……で?お前さんだれ?」

「私?私はね―――」

 

 そいつから名前を聞いて、オレはゆっくりうなずいた。んで、しかたねぇのでオレも名乗る。

 

「……ジョウト、ジョウト……うん。ジョウ君、だね」

「ばっか。オレはジョウトでいいよ」

「でも、私はそう呼びたい。いいよね?ジョウ君?」

「……好きにしろ」

 

 じれったくなった。いつの間にか、オレはその辺の丸椅子に座っていた。なんとなく、こう、魅かれるもんがあったのかもしれねぇ。

 

「……お前何読んでるんだよ?」

「イヌの本。……実物見たことないんだよね」

「ふーん……」

「ジョウ君も、好き?」

「……別に」

「じゃあ、ネコ?」

 

 ……よっくしゃべるやつだな。ちょっと耳障りすぎて、でも、どっか落ち着く―――

 って、なんで違う奴の病室でなに思ってんだよ。……ちょいと面倒になったもんで、俺は席を立つ。

 

「もういくの?」

「まぁな」

「……また会える?」

「会えねぇよ」

 

 それだけ言って、俺は部屋を後にする。

 ……能力の事知られたら、アイツも引くはずだが……。

 にしても、あの女、実物を見たことねぇ……か。

 

 ……

 ……

 ……

 

 ………ま、いってやってもいいか。

 

 

―――んで、いつの間にかオレはアイツの病室にこっそり来てはなんか話して、適当に聞いて、それで後にする。それだけの日々だ。

―――それだけって、ひどいなぁ。でも、私は嬉しかったよ?

―――かもな。……そのせいか、オレの心に、……今思えば、光が入ってきたのかもしれねぇ。その光を失うのが怖かったのか、オレは何度も何度も来ていた。

―――うん。その日々も覚えてる。

―――だから聞いたよな。オレが何度も来て邪魔じゃねぇのか。

―――でも、私は「基本的にずっと独りだから、全然邪魔じゃない」って。

―――……もしかしたら、その言葉のおかげで、今のオレがいるのかもしれねぇな。ったく、今じゃ恥ずかしい話だ。

―――ううん。全然恥ずかしくないよ。

―――るっせぇな。

 

そして、数週間ぐらい経ったある日。

 

「……ね、ジョウ君って、何か趣味ある?」

「………機械いじり」

 

 ……機械いじりは趣味だ。だが、基本的に「生きている」機械しかいじらなかった。

 ……この時からすでにオレにハッカーの能力が生まれていたからな。

 …………ま、オレのさらに過去の事は思い出したくないんで、それ以上は黙っていた。

 

「機械いじり?」

「悪いかよ」

「全然。でも、そんな顔かも」

「るっせーな。そんな顔で悪かったな」

「……ね、裁縫できちゃう?」

「できねーよ。科学物しか専門がないんでな」

「そっか……残念」

「……じゃーな」

 

 例の如く、数回ほど言葉を交えて後にする。……会話が続かないと思ったら帰る。それがオレ。その数回が、暖かいのかもな。

 

「……裁縫できる男子、見てみたいな」

 

 ……その言葉を聞いて、一瞬固まった。

 ………オレは機械いじりにしか興味ねえんだよ。

 そう感じながら、病室を後にして―――

 

「うおっと…『おっさん』いたのかよ」

「悪いかね?」

 

 まさかのおっさんと遭遇。白衣を着た白銀の髪のおっさん。つかみどころ無さ過ぎてこいつは苦手だ。

 

「……まさか聞いていたのかよ」

「数週間ぐらい前からかな。……あの子が楽しそうになってなによりだよ」

「フン」

「……一ついいか?」

「なんだよ」

「……何か一つ、才能を開花して見たいと思わないかい?」

「あ?」

「……医者としての、言葉だ」

 

 それだけ言って、オレと替わるようにおっさんは病室へ。

 

 ……

 ……

 ……

 

 ………開花。ねぇ―――

 

―――で、しばらくオレはお前の病室に顔を出さなかった。

―――じゃあ何をやっていたの?

―――……単純馬鹿に、裁縫の勉強だよ。なんで勉強したのか、分からねぇ。当時は。今考えると、感謝だったのかもしれねぇな。

―――えへへ。ありがと。

―――元凶はおっさんだ。お前はオレと話していると楽しそうって、あのおっさんが言っていた。だからなのかもな。

―――今頃、私と会わなかったらどうなっていたのかな。

―――さぁな。

 

で、またまた数日後。

 

「……久しぶり」

「ジョウ君……」

 

 何か言い淀んでいたソイツだが、オレはその言葉を遮るように、「ぬいぐるみ」を取り出す。

 驚いた顔をして、見て、受け取って……

 

「……ネコ?」

「イヌだ」

「何で?」

「イヌ耳は垂れてるだろうが」

「いや、そうじゃなくって。……もしかして、ジョウ君?」

 

 ……逃げよっと。

 恥ずくなった。感想聞かずに、そのまま。

 ……で、なんでバッタリおっさんと遭遇するんだっツーの!

 

「……まさかキミが裁縫するなんてな?」

「るっせーな。あれはオレのじゃねぇ」

「じゃあ誰かね?」

「………さぁ、だれでしょうかね」

 

―――当時負けず嫌いだった性格か、オレはさらに裁縫の勉強をするようになった。そのせいで、お前と会話する回数は減った。が、お前と会話する時間は逆に増えた。

―――確か、いろんなぬいぐるみ、たまに、クッションだとか、だね。

―――ときどきほつれるときがあるので奪って縫って、んで返す。それを繰り返しちまったせいで、オレに余計な趣味が出来ちまった。あぁ、実に今の今も繰り返す悪夢見てぇな趣味。と、特技。

―――今も繰り返しているの?すごいね

―――るせぇよ。……ただ、その中で印象に残ったことって言やぁ……初めてお前にオレの裁縫を縫う過程を見せた時だな。

―――うん。覚えてる。

 

冬の寒い昼間。天気は、曇り。

 

「……今回だけだぞ。こうして見せるのはな。つか見てるだけはつまんねーんじゃねーの?」

「全然。むしろ、楽しみ。何織ってくれるの?」

「さぁね」

 

 オレは白の毛糸を器用に黙って編む。コイツは、ずっと見ていた。

 ふと、言いやがった。

 

「……ねぇ、ジョウ君……。これ聞いたら、嫌、だよね」

「あん?」

「………わたしね、能力持ちなの」

「……」

 

 動きが止まった。………コイツは続ける。

 

「……炎を出したり、氷を飛ばしたり、できる。……それを見せたせいで、いろんな人から恐怖の対象にされて、誰も近づかなくなって、……それで、病気になっちゃって」

「……」

「だ、だから……嫌いになったら、もう、来ない方が……」

「奇遇だな」

「え?」

「……以前機械いじりが好きだって言ったことあるよな?」

「うん……」

「……オレ、それが原因かしらんが、それで能力が開花してる」

「………本当に?」

「今すぐ、そのTVをハッキングしちまうぞ?」

 

 ……我ながら似合わねぇ会話だ。……それなのに、コイツは笑った。……同時に、泣いたように見えた。

 

「……よかった……本当に………ジョウ君にあえて……」

「……オレは、悪いぜ。こんな趣味重ねやがって」

「……ごめん」

「ま、別にいいんだがな。……完成だ」

 

 そういってオレは、出来たもんをコイツに投げ渡す。

 ……作ったもん?……白のニット帽だよ。なんか知らねーけど。ま、マフラーって手もあったが、それで首絞められたら危険だからな。

 

「……キレイ……」

「オレの自信作だ。……い、いや!自信作じゃねぇ!失敗作だ失敗作!!そうだ!失敗!!」

「………じゃ、もし失敗しないように……はいっ」

 

 ……渡されたのは、バンダナ。ちょっとオシャレなやつだ。……ま、まぁ……センスはいいんじゃねぇか?

 

「……頭にまけりゃいいのか?」

「うん」

「しゃーねー……よっと。……こんなんでいいか?」

「うん。似合ってる」

「っるっせーな……」

 

 ……恥ずかしいに決まってるだろ。こうして、面と喜んでいる奴を見るとな。……くそっ、オレもう帰る!そういって席を立とうとして……

 

「あっ!ジョウ君待って!」

「今度はなんだよ……!」

「……こっちきて?」

「……へいへい」

「目をつぶって」

「何で」

「いいから」

「……分かりましたよっと」

 

 素直に、オレにしちゃ素直に目をつぶる。

 

 

「……好きだよ。ジョウ君―――」

 

 

===

===

===

 

「……ホント、なついな」

「うん」

 

 いつの間にかジョウトと女の子は、過去に親しみを持つように、女の子はベッドに座り、ジョウトは丸椅子に座っていた。

 

「……で、あのあともいろんなことあったな。……渋谷にこっそり買い物行ったりとかな」

「あのあと散々怒られちゃって。……でも、いい思い出」

「お前はそう思うからだよ。……今生きているオレにとっちゃ、思い出したくない記憶の一つだね」

「……そっか」

「……あぁ」

 

 不思議と、二人の顔が穏やかになって行く。

 そして、ジョウトは、今やるべきことを思い出し、立ち上がる。

 

「……そんじゃ、オレはもう行くよ」

「……うん」

「意外と悲しくねぇんだな」

「だって、私はいてはいけない存在。……なんでいるのかも、分からないの」

「………それは帝竜のせいだ。……もし望むのなら、帝竜つぶしてやるよ」

「……お願い。……ジョウ君……」

「……引き受けた」

 

 それだけ言うと、ジョウトはあの時のように病室を後にする。名残惜しいが、でも、今は仲間たちの心配をかけないために、早めに戻ることに。

 

「あ、待ってジョウ君」

「……今度はなんだよ」

「………ねぇ、もしかして………女の子がかぶっていたニット帽って………」

「……ロナのことか。……安心しろ。以前のに似せたレプリカだ」

「……うん。そうだよね。……あと、あの……」

「………悪いけど、オレはそろそろ行かなくちゃいけねぇ。悪いな」

「……次会えるのは、いつかな?」

「…………オレがおっさんになったときだ」

 

 それだけ言って、ジョウトは病室のドアを閉める。

 女の子と、最初に作ったぬいぐるみを置いて。

 

「………」

「ジョウト……」

「………行こうぜ。クソ竜狩るためにもな」

 

 どこか悲しむような背を、二人は見た。

 

「………そうだな」

「あぁ」

 

 だが、理由は全く聞かず、二人もついていく。信頼しているからだろう。

 

「(………最後のお前の願い………引き受けたぜ)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




なお、今回の建物は今作だけのオリジナルです。そんなのは現実でもないはず、もちろん、原作ではないのであしからず。


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35.5Sz 硬き結束

どうもです!前の話はいかがだったでしょうか?

今回は話があまりにも短いために外伝扱いの話になりました。……本当に、短いです。もうしわけありません。(むしろ今までの話が長かったのかも)

では、35.5Sz、どうぞ!


 

「マモノだ!ジョウト!」

「おう!コード強化、ATK……start!」

「よし!いっけぇ!!」

 

 俺は覚悟を据えた一撃をマモノに撃ち飛ばす。……よし、仕留めた。

 ……なんとなく、あの病院の後、ジョウトはどこかやる気にあふれている気がする。鬱っぽい現象も少なくなったし、むしろ、マジで前に進もうとしている。

 だから、俺も負けてはいられなかった。俺も、前に進まなくちゃな!

 

「フッ……若者二人がこうして頼もしいところを見ると……私も、まけられんな!」

 

 さらにヒカイさんが前へ進んでマモノを殴り飛ばす。

 ……うん!さらに俺達の力が強くなってるって自覚がある!……この調子なら、ヤツも倒せるよな。でも、油断はできない。……へへ、でも、なんか負ける気はしねぇ。

 

「……さて、ポイントはここだよな」

 

 マモノたちを蹴散らして、ポイント通りの場所だと思われる場所に、また探査機を組み立てる。

 

「……にしても、いい気迫だな二人とも」

「いや、ジョウトが全力で前に進もうとしてるからですよ」

「ん?そう見えたか?」

 

 ……どうやら本人にも自覚ないぐらいに頑張っていたらしいな。ま、それでいいんだけどね。

 

「……なんだろうな。どうも、興奮しているっつーか……月が見えてな」

「月はいつでも見えるだろ?」

「そういうことにしとけ」

 

 ……まぁ、そう言うことにしとくか。……っと、設置完了。

 

『こちらキリノ。聞こえるか?』

「どわっ!?い、いきなり言うんじゃねぇよ!?」

『わっ!?……あ、あはは。ごめんごめん。設置が確認できたから通信を再開したよ』

「……う、うん」

『そして……ふふふ……チューニングもバッチリ完了だ!不整合の原因を割り出すのにずいぶん時間と頭を使ったけど―――』

 

 ……すまん。後は聞き流した。長くなりそうなので。

 

「いいからさっさとしろ。こっちはクソ竜とのご対面に待ち遠しいんだよ」

『あ、うん……ミロク!』

『了解っと、データ受信……100%コンプリート!スキャン完了だぜ!……なるほどな。確かに、このまま闇雲に進んでも帝竜にはたどり着けなかっただろうな』

「……受信するか?」

「素人が見ても分からねぇだろ」

「……そうだな」

 

 まぁ、ミロクが導いてくれるはずだろ。きっと。……今じゃ、頼もしいからな!

 

「……よし、それじゃ、四ツ谷探索を『帝竜討伐作戦』に切り替えるんだよな!ミロク!指示頼んだぜ!」

『了解!オレの指示に従って最奥の帝竜を討伐してくれ!』

『……承認します。台詞まですっかりとられちゃったなぁ……でも、討伐に当たっては注意を怠らないように。13班、ミロク、頼んだよ!』

 

 了解!俺はバンっと手を叩いて気合を入れる。

 ……今回もヘマはできないな。……なにせ、また怒られちゃったんだしよ。ただまぁ、それは俺らとミロクだけの秘密だ。

 ……にしても、だ。今まで10班の人達の援護のおかげで帝竜に勝てた……。……今回は三人だけで、勝てるのか……。不安がよぎる。

 

「……ハッ、三人はいいハンデだろ?折角、オレ達の力を見せるときなんでな?」

「あぁ。油断せず、いつも通りに進めば問題はない。私たちは、三人で13班だからな」

「ジョウト……ヒカイさん…………あぁ!そうだな!」

 

 そうだよ。何迷ってんだよ。俺には仲間がいるじゃないか。13班って仲間が、さ。

 

 ……あの時、一瞬崩壊した寄せ集めだけの存在じゃない。俺がいて、ヒカイさんがいて、ジョウトがいて、それが13班だ。

 不安も、きっと希望に変えてくれる。……だから、大丈夫だ。そうだろ?

 

「……よし!待ってろ『ロア・ア・ルア』!今までの礼はたっぷりとしてやるからな!」

「あぁ……!今まで以上にお前の思惑通りにしてやらねぇからな!」

「二人が気合入っているのでね?ブレーキ代わりにバンパーにもなる。だから、待ってろ」

 

 俺達はうなずきあって、帝竜の元へと走り始めた―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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36Sz 月の正体

どうもこんばんは!今回でChapter3が終わります。

今回は……なんか、雑に終わっちゃったかなと思った気がします。戦闘描写が難しい……。

ま、それでは、36Sz、どうぞ!……あ、今回はあとがきなしです


『次は……今来た道を引き返してくれ』

「マジか?了解」

 

 俺達は現在、ミロク曰く『巨大迷路』にたどり着いたらしい。が、そんなの、上空から見てしまえばカラクリが分かると言わんばかりにミロクは指示を出してくれて迷子にはならずに済んだ。

 ……作戦無視して突っ込んでたら確実に迷子になってたな。流石に、もしこの地形を把握していたところで移動しても到底無理だったのかもしれないな。

 

「……あ、なんか違うところ来たみたいだな。……次どうすりゃいい?ミロク」

『そのまま道なりに進んでくれ。……その奥に、帝竜がいる』

「了解」

 

 なるほど。もう迷路は終わり、後はそいつをぶっ倒すだけだな。

 ……よし、進もう。後はマモノ倒しながら行くだけ。平気だ

 

======視点切り替え(三人称)======

 

 三人はただひたすら進み、最奥へと足を踏み入れた。

 

「……」

 

 ロナは月をにらんだ。今まで気づかなかったのがおかしいぐらい、身体がざわついていた。

 気づけなかった、とも言えるべきだろうか。とにかく、今は正体がばれている。

 

「……姿を現しやがれ。とっくにバレてんだよ」

 

 銃を月に向け、発砲。途端に、月が動き出した。

 

「……なるほどな。『終わらない夜』の正体は月に化けた帝竜か」

「……そうですね。でも、うまく擬態していたせいで俺達は分からなかった。けど、もうすでにあいつからは俺達の姿が見えていたんでしょうね。逆もまた然り、ですが」

「いいからいくぞ。……さっさとぶっ潰したくてオレはたまんないんだよ」

 

 ジョウトが片手でチャクラムを持ち、もう片方でマナで形成されたキーボードを出現させる。

 

「……手紙を読んだせいかね?まぁ、やる気があるのはいいことだ。……どれ、私もやる気を見せるとしよう」

 

 ヒカイがナックルを装備し、構えを取る。

 

「お前にはいろいろと恨みがあるんだ……だから、俺も……!」

 

 ロナがマナを片手にこめ、銃を構えなおし、帝竜『ロア・ア・ルア』と対峙する。

 

「……『墜撃の天牙(プラズマジェイル)』!!」

 

 ロナが先制をとり、空圧を利用した一撃を撃ちこむ。

 

「コード強化、ATK……start!オッサン!!」

「あぁ!ぬぅん!!」

 

 怯んだ隙にジョウトが『アタックゲイン』を仕掛け、ヒカイが飛び上がってロア・ア・ルアの頭上に一撃。

 

「―――フォファファファ!!」

 

 聞いたことのある声を聞き、ロナは一瞬だけ、「さっきの音はこいつか!」と思ったが、それで止める理由はなかった。さらに、自身の気配を隠す『ハイディング』を使用しようと思った直後、高速でロア・ア・ルアが身体を振り払い、ロナとヒカイに『紅の薙爪』を喰らわす。

 

「ぐあっ!」

「ちっ!」

 

 避けられずに吹き飛ばされるものの、体勢を立て直し、状態を確認する。頭が少し眩む。恐らく、『出血』を喰らった。

 

「……『根源を断ち切る解呪(リカヴァ)』!」

 

 それを察したロナはすぐにヒカイにかけ、回復させる。コクリとうなずき、治ったことを示すヒカイ。

 

「……こい」

 

 一言だけ言って、帝竜をにらむ。危険だと思ったのか、帝竜はヒカイのほうへと攻撃を当てる。それを受け止め、突き進みながら攻撃の構えを取る。

 

「その程度かっ!!」

 

 フック、そしてストレートと決め撃ち、さらにダメージを与えて、得意の近距離に持ち込む。

 

「不意を穿て!『ブッシュトラップ』!」

 

 さらに側面から、自分の治癒を終えたロナが弾丸を撃ちこみ、帝竜を挟み込むような形で陣形を整える。

 

「消え去れ……『空穿の疾槍(エアスピアー)』!」

 

 背後から投げつけるが、その槍は大きく逸れる。だが、それも狙いだ。

 そこに追いつくようにヒカイが突撃、蹴り飛ばしてさらに勢いを増す。

 槍は鋭く貫き、帝竜を大きく下がらせる。さらに追撃をかけるようにロナは銃を構えるが、ハッと気が付いて一瞬動きを止める。

 

「―――フォファファファ!!」

 

 帝竜の奇妙な「音」と共に、グラリと身体が傾いて大きく外してしまう。その隙を狙われ、吹き飛ばされる。

 

「ちっ……あぁくそっ……!」

 

 だが、思うように立ち上がれず、フラフラとした感覚に陥る。その間にも、近づいてくる帝竜。

 

「……しゃーね」

 

 あきらめたように、しゃがみこみ、目をつぶる。

 ……聞こえてきた。音が、攻撃音が。

 感じた。衝撃が。

 

「……」

 

 素早く、感じた感覚だけで避ける。ドンッ、と隣から音と衝撃伝わってきた。

 

「……遅いっ!!」

 

 そこに転じて、大きな音を聞いたために呪縛を解いたロナは短刀を突き刺す。そこにさらにマナを込め、突き出す。

 

「『墜撃の天牙(プラズマジェイル)』!!」

 

 さらにめり込ませ、簡単には抜けないようにする。

 痛みを伴ったのか、帝竜は大きく吠え、大ジャンプで上空に移動する。そこから何回も、マナを使った爆弾を飛ばし、防御を強いらせる

 その間に、身体の感覚はなおり、三人は帝竜を見つつも、ガードを固めるのに精いっぱいだが、このままだと弾かれる。

 それを察したのか、いきなりジョウトはその隙間を走りだし、ヒカイに合図する。

 

「逃げたつもりか……!オッサン!飛んでけ!」

「何?」

「いいから、いけ!!」

 

 ジョウトは先に上空へ飛び、ロナも察したのか、マナを増幅し、援護に回る。その行動に、一瞬だが動きを止めた帝竜。その一瞬の隙は、熟練者であるヒカイにとっては道と化した。

 

「……すまんな!」

「へっ、行って来いよ!!」

 

 ヒカイも大きく飛んで、ジョウトの両肩に乗ってさらに飛ぶ。ロナも大きく飛んで足場となる。

 

「『弱固の写し盾(デコイミラー)』!ヒカイさんっ!!」

「助かる!!」

 

 自分の現身を前へ飛ばし、ヒカイはさらにロナ、ロナの現身と飛び移りながら接近。得意の至近距離に持ち込み、拳を強く握り、うまく姿勢を制御しながら攻撃を仕掛ける!

 

「守りを開け、『スピネイジブロウ』!!」

 

 二回撃ちこんで墜落させる。コンクリートで造られた床に衝突したため、振動が走る。

 これで終わらせるわけがない。先に構えていたロナが銃を構えていたからだ。

 

「狙い撃つ!『エイミングショット』!!」

 

 マナを限界まで込めた弾丸が、突き刺さっていた短刀を押し出すように一撃を加える。

 

「……ファファファファ!!」

 

 だが、もう一度飛び上がり、ロナに突撃する。はっと気づいたロナは守りを固め、受けに回る。

 ズドンと、大爪が振り下ろされ、崖までノックバックする。

 

「……くそっ……!」

 

 かなり強烈な痛みだが、ロナは歯を食いしばって避けようとする。

 それよりも早く、帝竜が突撃。せめて一撃でも……だろうか。

 

「……させねぇよ」

 

 さらにそれよりも早く、ジョウトがハッキング。一瞬だけ動きを止め、ロナはそれに生じて飛び上がり、銃を構える。

 

「ぶちぬけぇ!!!」

 

 あるだけの銃弾を乱射し、何発もぶつける。

 そこにヒカイが走り込み、大きく踏み込んだのちに殴りつける。大きく怒った帝竜はまた大きく飛び上がり、月に化けるように翼を翻し―――

 

「おっせぇんだよ……!」

 

 だがそれよりも早く、マナで作られた円盤を投げつけて動きを止める。ギュルリ!!と非常に耳障りな音を響かせ、『マッドストライフ.x』を起動させる。

 

「地獄に落ちる前に……地面に落ちろぉぉぉぉぉ!!!」

 

 ギュンと、身体の制御が効かなくなった帝竜はそのまま急降下。激突し、大きなヒビを入れさせる。

 

「チッ、トドメをさせねぇのは悔しいが……やっちまえ!ロナ!!」

「あぁ!……マナを増幅、槍を形成、その槍、空をも落とす―――!」

 

 さらに巨大な、風圧で作られたような槍を形成するロナ。

 

 

『……ありがとう』

 

 

「『空穿の疾槍(エアスピアー)』―――!!!」

 

 

 大きく吼え、強力な槍を一本、大きく飛ばす。帝竜は立ち上がり、防御して最小限に抑えようとする……

 だが、その槍を後押しするように、ヒカイと、ジョウトがその槍に触れ、さらに押し込む。

 

「いっけぇぇぇぇぇ!!!!」

 

 やがて三人の想いがこもった槍は、帝竜ロア・ア・ルアを貫き、勝負を決した。

 大きく吼え、だが、力尽きたように倒れる帝竜。

 

「…………」

「………やった、な」

 

 ……だが、三人は未だ信じられなかった。そう。たった三人で倒したからだ。

 今まで、10班が隣にいた。自分たちの力だけではなかった。

 でも、今回は13班の力だけで、この帝竜を倒した。そう。三人だけで。

 

「………は、はは、あはははは……!!」

 

 緊張が解かれたのか、ジョウトが笑い出す。それが合図となり、ロナの厳しい表情が、体勢ごと崩れていく。

 

「……へへ……や、やったんだな……俺達……う、うう……」

「……やれやれ、一人が笑って一人が泣いて……ま、今の現象では、信用できん光景だな」

 

 ヒカイもどこか、安心したような表情をしながら、さきに帝竜の素材や検体を採取する。

 

「(……んじゃ、お前はしばらく寝てろ。……もう、苦しまなくていいんだからよ………)」

 

 ジョウトは、月の無くなった昼間の夜に、心の中でそうつぶやいた―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……はぁ、やっと終わりましたかね?」

 

 遠くの建物で、SKYの四人はこの戦いを見ていた。だが、どうやら音に機敏なフウヤにとってはどうも帝竜との相性が悪かったらしく、今の今まで音漏れしそうなぐらいに音楽を聴いていたらしく、イヤホンを取り外しながらタケハヤに言う。

 

「あぁ。お前のソレって、不便ったらありゃしねえな」

「えぇ、全くもってそう思っちまいます」

 

 タケハヤは振り返らずも、言って、フウヤは自傷するように答えた。

 

「これで3匹目、か」

 

 と、ダイゴ。「あぁ」とタケハヤは言って、自身の胸に手を当てる。

 

「……俺の体も長くは持たねぇ。そろそろハッキリさせる時かもな。……ダイゴ、ネコ、フウヤ。手ェ貸してくれるか?」

 

 タケハヤの覚悟を伴った言葉に、「もちろんだ」と、ダイゴ。「……うん」と、ネコ。「はいはい」と、フウヤ。

 そのまま、彼らはこの四ツ谷を去った―――

 

 

======数十分後(ロナ視点)======

 

 

「……センパーイ!おかえりなさい!!」

「うん……ただいま……」

「わっ!?」

 

 バタンと倒れかけた俺をアオイが支える。……うえ、チョコバーの匂いがするな。今の今までチョコバー食ってたのかよって思いたいぐらいに。でも、不思議と悪い匂いではない。

 あ、ちなみに短刀は回収した。……ちょっと刀身が壊れちゃって、新調しなくちゃいけないけどね。

 

「へへ……悪い。なんかここまで来たら力も抜けちまって」

「ううん……お疲れ様です。センパイ」

 

 アオイの優しい声が、やっと、現実に引き戻された感覚になる。……今の今まで、信じられなかったからな。俺達が、たったの三人で帝竜を倒しちまうってのはさ。

 

『そうそう。聞いてくれよ。ロナったらさぁ……』

「ミロク!お前それ以上言うんじゃねぇ!!」

 

 俺は自力で体勢を直しつつ、ミロクに怒鳴り散らした。……いや、だって帝竜倒した直後は泣いちまったし、ジョウトに軽く小突かれるまで分からなかったよ。正直に。でも、言いふらすのはやめてくれ!!

 

「うーん……なんかミロク達と仲良くなってないかい?ボク達が通信切っていた後から……」

「さぁね?でも、まぁ、通信が来なかったからなんだか会話が弾んじまってさ」

『邪魔が入ってこなかったからかもな』

 

 そうだな。いろいろと。通信が入らなかったおかげでね。……あ、傷ついたか?キリノがちょっといじけた顔になった。

 

「そういうこと言わないでくれよ……さびしいなぁ……はぁ……」

「お疲れだな?キリノ殿」

「えぇ……えっと、アオイ君、君が運転してくれ。たしか免許、持ってたよね?」

「ペーパーでよければ」

 

 ……事故りそうだ。いや、いやだよ折角倒したのにそんな事故でまた倒されるの!家に帰るまでが任務です、ってか?

 で、結局キリノが運転することになりましたとさ。……最後まで働き盛りだな。キリノは。

 ……はぁ、結局また何か締まらない終わり方だな。……でも、まぁ、いいか。それが、今はどこか心地いい。

 

 ……そう言えば、あの時聞いた声って一体……?どことなく、幼くて、何故か、『俺の体』が聞いたことのある声だ。……分からないけど、難聴………ってわけじゃねぇよな?確かに、聞こえたし……。

 

 …

 ……

 ………

 

 …………でもまぁ、いいか。考えてもしかたないし。それに、考えるのは、部屋に帰ってからでいいだろ。

 

======都庁前======

 

 都庁に帰ると、ナツメさんとナガレさんとキカワさんが出迎えてくれた。……そんなに嬉しかったのかな?……まっさか。

 俺はどうも信用できなかった。いや、ナガレさんとキカワさんはともかく、ナツメさんは……どうも、信用できない。

 

「おかえりなさい。よくやったわ、13班」

「それに、キリノさんも、アオイちゃんもね」

「はい!頑張りましたよ!ナガレさん!」

「アオイ君はチョコバー食べてただけだけどね……」

 

 あーあ。キリノマジでくたびれた人になってる。でも、お疲れ、だな。チューニングができなかったら、俺達は迷子になってただろうし。でも、なんとなく黙ってた。

 

「あははっ!アオイちゃんは食いしん坊だなぁ。こらー胃袋娘ーって?」

「だって、なかなかマモノ達が来なかったので暇で暇で……」

 

 あっちでガールズトークが始まった。それをナツメさんは見て、俺達のほうを見た。

 

「それで、帝竜の生体サンプルは?」

「これですか?」

 

 ヒカイさんは採取した生体サンプルをナツメさんに手渡―――――――――

 

 

―――ズキィッ!

 

 

 ……ッ!?何だ……!?いきなり……っ頭が……!!

 ……流れてくる、言葉が……!!

 でも聞こえない……、聞こえない……!くそっ……!何か、何か重要なことを……!!

 

『―――――――――』

 

「……ッ!!!」

 

 はぁ……はぁ……な、なんだったんだ……今の……。俺は全身に冷や汗をかきながら、今のことを思い出そうとしたが……

 

「ロナ?大丈夫かしら?」

「な、ナツメ……うん、大丈夫だ……」

 

 俺は一言言って、いつのまにか座ってたので立ち上がる。……くっそ、どうにかしてる……。

 

「……今日は疲れているのよ。ゆっくり休んでちょうだい」

「……そうする」

 

 そう言って俺は先に都庁の中へ。

 ……なんだ、さっきから……やってはいけないことを、やってしまったような、そんな感じ。

 ……何で、転生先の世界を知ってる様な頭痛がするんだ………?

 

======そして夜======

 

「………」

「………」

「………」

 

 俺達は黙っていた。黙っていた。とにかく。

 汗がつたる。本当に、これでよかったのか……?

 いや、……迷わねぇ!!

 

「……うわっ!?ジョーカーかよ!?」

「さて、次こそは当てよう……ここだっ!」

「あっ!?」

「よし……二番上がりだ」

「ち、ちくしょう……」

 

 負けた……ババ抜きで、ジョウトにもヒカイさんにも……!

 ……ま、こんな感じで俺達は夕飯食べた後にふざけていた。……本当に、なんか、心地いいけど……。でも、やっぱりどこか引っかかる。気のせい……じゃねぇよな。多分。

 でも、まぁ……いいか。俺達は俺達の役目をはたして、ちょっと疲れてんだよ。

 

「……じゃ、ちょいと一曲っと」

 

 俺は今日のあの現象が忘れられなくって、ちょっと弾きたくなった。

 あの帝竜が出していた音。あれはただ単に悪い音だ。だから、さ。俺が良い音を使って一曲、ってところだ。

 

「……ん?ジョウト、聞かないのか?」

「……オレはいいよ。……ちょっと用事ができたんで」

 

 用事?裁縫セット持って、ベットの方向かって……。

 

「……あ、そっか」

 

 きっと、アレだ。アレ。あえて言わなかった。……ジョウトも、その子が好きだったんだろ。絶対。

 だったらあんなことしねぇし、それに、手紙をじっくり読まなかっただろ。…今回一番喜んでいたのは、ジョウトじゃないかな?

 俺はこの世界で調べた曲を弾きながら、そう思った。……我ながら良い音色だ。今回は、格別に。

 

 

 

 

―――お前もそう思うだろ?(ロナ)……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「これですべてがそろった……」

「さようなら……みんな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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Chapter4 『作り者』と『狩る者』
37Sz 消え去る住民


どうもこんにちは!ついに物語も佳境に……!半分の手前まで来ました!

私も原作と同等、いや、それ以上にこの『ルシェかえ!』を最後まで作り上げていきたいなとは思っています。どうか最後まで楽しみにしてください!

それでは、chapter4、37Sz、どうぞ!


 某時刻、アメリカのある場所にて―――

 

 

「止めだ!いくぞっ!!」

「了解!!」

 

 男女二人が、華麗なコンビネーションでドラゴン―――大きさからして、帝竜だろう―――を圧倒。男が手りゅう弾を投げ、それを女がマナを込めた一閃を放って大爆発させる。

 爆発が止んだ時、帝竜は地に伏せていた。

 

「……ふふっ!やったね!」

「あぁ。とりあえずこれで6匹目だ。あとは1匹」

 

 サングラスを頭にかけた男性が帝竜の生体サンプルを採取しながらも、ある方向を見た。さまざまな人が集まっている。おそらく、この一組の仲間なのだろう。

 

「とりあえず今回も楽しませてもらった。……だが!あと一体!油断せずに、次の指示を待つぞ。……そして、指示を受けた後は……

 

 

 

 

  戦場を、楽しもうぜ!!」

 

 

 

「「「サーイエッサー!!」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 某時刻、日本の都庁にて。

 

 

 

 

 

 ……

 ………あっれ?夢か?意識はもうろうとしてるし、しかもここ……廊下?

 ……つか、ここって……?見覚えあるような……?

 

「……ッ」

 

 あっ!?おい!?どこいくんだ!?俺は誰かを追いかけて、必死になってこの場所を抜け出して、駐輪場へ―――

 一瞬にして背景が切り替わって、雨が降っているのに、ある場所へと必死に漕いで、そして―――

 

「……うっ」

 

 ……目が覚めた。……静かな、いつもの部屋。

 今のって……一体?……全身から汗ふき出してるし、きっと嫌な記憶だった……のか?

 

「……さっぱりしねぇ。……外の空気を吸ってこよう」

 

 しょうがないのでニット帽かぶって外に出る。廊下に出て、歩いて―――

 

―――ポーン……ポーン……

 

 ……なんだこの音……ふあ……途端に、眠気が……。

 

「……寝よ」

 

 結局戻って寝ることに。……なんか、記憶も薄れていくような。

 

「……あれ……あそこにいるのって……いや、気のせいか……」

 

 眠い。眠いから確認とらずに寝ることにした。……はぁ、本当に眠いな。

 ……ムニャ……。

 

 …

 ……

 ………

 …………

 

『……もう、身体は持たない……そうなんですね?』

『……あぁ』

 

 あ?

 

『……いいんです。……私なんて―――』

 

 意識が反転する。気づいた時には、ポッドの中。水の中に入っているのに、冷たくも、息苦しくも感じない。

 …ここ、どこだ……

 

『……実験はもう少しで成功する……』

 

 声は途中で聞こえなくなり、泡の弾ける音が耳に響く。泡で視界が急激に狭くなっていく。

 ……さっきの人って……

 

『……そろそろ、目が覚めますかね』

『あぁ……だが……っ!』

 

 ガシャン!何も見えない暗闇の中で、誰かが暴れているような音が炸裂する。何が起こっているんだ?目を開けようにも、開けられない。

 つか……何なんだよこれ……

 

 …………

 ………

 ……

 …

 

 

 ……う……っ……。また……夢かよ……。

 

「……三度寝プラス悪夢とか、マジでついてねぇ……寝よう」

 

 さすがにもう悪夢はみねぇだろ。あー眠い。寝ようっと。

 

 ……

 ………

 …………

 

「……畜生眠れねぇ。……もう一回外でよ」

 

 もう一回ニット帽をかぶって扉をガチャリと開け、外を確認。………あーっ!?朝日出てる!?チクショウ!何でこんなことになっているんだよォ!!

 

「あー……マジなほうで今日はついてねぇ。寝たい。でも眠くない。くそっ!もう一回ポンポンなってくれねぇかなぁ!?」

 

 と、突然子供が泣きながら横切る。

 ……あれ?一般人……だよな?

 ……どうなってやがる?確か、このムラクモ居住区って一般人基本立ち入り禁止だろ。なのに……警備、どうなってんだ……?

 

「……嫌な予感しかしねぇ」

 

 俺も気になってさまざまな場所を回る。居住区、医務室、自衛隊駐屯区と。

 そして、何気なく屋上。……誰もいなそうだな。いや、そうだけど。

 でも……結構住人が少なくなっている気がする。気のせいなんかじゃなくって、本当に―――

 

「……ん?」

 

 って、あれは………マモノ……?タヌキっぽいマモノだ……。どうしてここに……?

 

「……ポン?」

 

 ちっ、こっちに気づいた!……やっべ、今手ぶらだ……だけど……!

 

「ポンポコ!!」

「『突壊の氷刃(フリーズ)』!!」

 

 さっさと倒すに限る!俺は『フリーズ』を発動させて突っ込んできたマモノに氷をぶつけて動きを一旦止め……って!こっち来やがった!

 

「ポンッ!」

「いつっ!」

 

 っ、なんだよこいつの攻撃!?マモノと比べ物にならねぇし……しかも、この一撃……あの帝竜に似ている……!?

 

「いや、……気にしない方がいいか……『空落の衝雷(エレキ)』!」

 

 とっさに下がりながらも、雷を撃ちこんでさらに動きを止める。怯んだ隙に……!

 

「だぁりゃああ!!」

 

 さらに蹴り飛ばして上空へ吹き飛ばす。……よし、この隙に……!

 

「『弱固の写し盾(デコイミラー)』ッ!」

 

 オトリを設置。その間にマナを増幅。威力を高める……!

 

「ポンポーコッ!!」

 

 マモノがオトリを破壊する。……よし、作戦通り……!

 俺の目の前にやってきたマモノに、両手を突き出し、マナを放出―――!

 

「『猛撃なる焔の息吹(イフリートベーン)』!!焼き払え!!」

 

 『フレイム』とは比べ物にならない炎術がマモノを焼きつくし、吹き飛ばす。

 …………でも、結構疲れるな……。火力を高めるためにかなりマナを使うし、集中力も必要。……でも、その分一撃は別枠だよな。……今回初めてだしたけど。

 

「……やったよな?」

 

 とりあえず気絶程度らしい。……いや、だって気になるしな。いろいろと。俺は動かなくなったマモノをヒョイっ……あっ重っ!?両手で運んで何とかもてる重さだったのが救いだな。

 ……こいつを研究室に運んどくか。何か分かるかもしれないし。

 

 ……多くの住人が行方不明になった事件の解決のきっかけになるはずだ。

 

「……もうちょっと焼けばこいつ美味しく食べられるかな?」

 

 ……腹減った。

 

 

======数分後======

 

 

「うん……分かった。こっちで調べてみるよ」

「ありがとうございます」

 

 研究員の一人にマモノを預け、とりあえず俺は部屋に戻ろうとして振り返る。……あっと。ジョウトだ。

 

「……はぁ。ここにいたのかよアホ娘」

「るっせーな。開口一番それかよ」

 

 ……てか、何でジョウトがここに? 俺は疑問に思ってけど、すぐにジョウトが言う。

 

「……会議室集合、だってよ」

「……どういうこと?」

「いや、どうやら通信が来たらしいな。アメリカからよ」

「アメリカ……?……なんだってこんな時に……」

 

 そう思いながら、俺達は会議室へ。……と思ったのか!

 

「……腹減ったからなんかもらってくる」

「お前……」

 

 マナの消費のしすぎで腹ペコだった俺はジョウトとは別れて何か食い物もらいに。腹減ったんだよ!マジで!

 

 

======そしてまた数分後======

 

 

「……すんません。遅れました」

「はぁ……本来なら20分早く通信をつなぐ予定だったんだけど、ロナのせいで時間かかっちゃったよ……」

「……すみま……あれ?」

 

 ……なんか、おかしいな?……何か、違和感がある。

 ……えーっと、お偉いさんも一部欠けてるな。いや、そうじゃなくって!……10班のみなさんも無事。なんか違和感あるけど……。うん?

 

「……いや、まぁ、いいか……というか、なんで俺を?」

「君にもちゃんと聞いてほしくてね。……それでは、通信を繋いでください!」

「はっ!」

 

 通信を接続。パッとモニターが切り替わって、アメリカの……お偉いさんがいる部屋が写る。……あれ?なんか、違和感あるけど……気のせいか?

 

「……」

 

 いや、まぁ、いいか……。俺は黙って話を聞くことにした。金髪の、多分アメリカ大統領の人が話した。

 

『お互い無事で何よりだ。……まずはこちらから朗報を聞かせよう』

 

 朗報?……まさか?

 

『我々は昨夜、六匹目の帝竜を討伐し終えた。確認されている限り、我が国に残る帝竜は一匹―――その一匹を討伐できれば、そちらへの戦力派遣も現実的になる』

 

 マジか!?そう思った俺と同時に、周囲から歓喜の声が上がる。……早いな。よっぽど、そっちの戦力はすごいに違いない―――

 

『いくよ!―――』

『オーライ!』

 

 …?今の声は……?……うーん、声は聞こえたけど、姿までは写ってない。……何だろ、今のって。

 

『そちらの状況はどうだね?』

 

 あー……こっちか。……キリノが一歩前へ出て、説明した。

 ……あれ?キリノ?何で……?

 ……そっか。違和感の正体は―――

 

「総長の日暈が不在のため、私が代わりに報告させていただきます」

 

 ……ナツメまでいなくなっていた。なるほど。違和感の正体はこれか。

 ……何か、嫌な予感がする。けど……今は、目の前のことに集中するしかない。

 

『不在とは?体調でも崩しているのかね?』

「いえ、少々トラブルがありまして……」

『ふむ。まぁいい。先に報告を聞かせてもらおう』

「はい。現在我々ムラクモは帝竜三匹の討伐に成功。しかし、ドラゴンに対し優勢と言い切るにはまだ不安要素が多い状態です……」

『なるほど。かぎられた戦力でよくやっているようだ。うちの研究チーフによれば、帝竜はその地方で最も人口の多いエリアに七匹で群れを構成しているらしい』

 

 なっ……七匹も!?……頭がクラクラしてきた……。あんな奴らがあと四体もいる……だって?……不安すぎる……。

 

「七匹も……」

『あまり悲観的にならないでくれ。すでに七匹の内三匹を討伐できている、ということでもある』

 

 うーん……そうは言っても、でもあと四体か……。大丈夫……だよな?

 いや……今更不安になってる訳にもいかねぇよな……。どうせ、倒さなくちゃいけない存在だ。……神様に誓っちゃったもんな。全滅させるまで来ないでくださいって。今更、帰りたいいえねぇよ。

 

『我々も最後の帝竜を討伐でき次第すぐに援軍を送る準備を始める。それまではなんとか現有戦力で踏ん張ってもらいたい』

「……最善を尽くします」

 

 ま、今の今まで何とかやって来れた。最善を尽くすしか、ねぇよな。……とにかく、これで通信終わりかな?と思っていたが、予想は外れた。

 

『我々の対ドラゴン研究チーフ―――エメルから一つ質問があるそうだ。一度代わろう』

 

 ……エメル?もしかして……

 画面上に、一人の若い女性が現れる。

 あれ?エメルってこんなひとだっけ?あれ?

 

『……単刀直入に聞く。ナツメがこの場にいない理由は?』

 

 ……ん?何でちょっと目を逸らしたんだ……?いや、方向からして……俺の方か?

 

「それが……こちらでも把握できていないのです。実は本日未明、都庁内半数の市民や自衛隊たちが忽然と姿を消しました。そしてナツメさんも……その行方不明者の中に含まれているんです」

 

 な……半数!?いくらなんでもそんなにいるのかよ!?今でも信用できなかった。くそ……いくらなんでも多すぎる……!

 

『……帝竜の影響か、あるいは……』

 

 ……いや、さすがに帝竜の影響ではないはずだ。……確証の一つとしては、俺の『感覚』。最近鈍ってるけど、ドラゴンが近くに来れば察知できるはずだ。

 でも、それが今回ない。眠ってると感知できない、もしくは、かなり遠くにいる。と思われる。だけど、それもありえない。だったら、俺らだってそれの影響喰らうはずだ。……くそっ、分からねぇ。

 

『……いや、今はあらゆる可能性を考慮にいれ、速やかな事態の解決を図ってくれ。彼女と私が共有しているデータは歴史を超えた、非常に貴重なものだ。失われてはかなわん』

 

 ……どういうことだ?歴史を超えた―――?

 そう思っているより早く、大統領のほうが声をかける。

 

『我々はこれから最後の帝竜討伐に向けて作戦を立てる。作戦の成功次第、また連絡しよう。その時まで、日本が無事であることを祈る』

『……ミュラー大統領。もう一つ、いいですか?』

『ぬ?……あぁ。構わんが……』

 

 まだ通信?……どういうことだろ一体?

 

『……そこの白髪の女性と話したい。すまないが、全員席を外してくれ』

 

 俺と一対一?………どういうことだろうか?

 

『……エメル。理由は?』

『……うまくは言えない。すまない』

 

 ……それなのに、なんで俺と?そう思っていたけど、次々とこの場にいた全員が外へ出る。……残ったのはヒカイさんとジョウト。

 

「……二人も外で待っててくれ」

「……分かった」

「あぁ」

 

 何も言わずに二人が外へ。部屋には俺だけ、そして、モニター越しには、エメルさんしかいなかった。

 

「……俺と対談……って、どういうことですか?」

『……単刀直入にいう。……お前は、『ルシェ族』ではないか?』

「っ!?……はい……」

 

 証拠に俺は、一旦辺りを見渡して誰もいないことを確認した後、ニット帽を取り外す。耳がピョコンと出てくる。

 

『……やはり、か。……どこで生まれたか、覚えているか?』

「いや……全く」

 

 だって、俺転生してきたし……。でも、言えない。……それ以前に、どうやって……

 あっ、そう言えば……何で目が覚めたら車の中だったよな?何で?今思えばおかしいシチュエーションだったよな。

 そう思っていたけど、その間にエメルさんが会話を続けた。

 

『なるほど………。アイツはもう、完成していたのか?』

「な、何のことですか?」

『……お前はルシェについて、知っているか?』

「いえ……。俺がルシェだってことだけです。それ以外は全く……」

『………もしかしたら、お前が竜を狩る兵器なるかもしれん。……少し教えよう。ルシェと言うのは―――』

「いや、別にいいですよ。……俺がルシェ族で、みんなとは違う。それだけで十分ですよ。……今知るべきことじゃない。だから、今は俺達の東京を、仲間たちと取り戻す。…ルシェについて知るのは、後でいいと思う」

『……そうか。……分かった。……通信を切る。検討を祈るぞ。ルシェの民よ―――』

 

 プツリと、通信が切れた。

 ……ルシェを知るのは、後でいい。つか、知ったところで何も変わらないよ。絶対。

 

 今はヒカイさんがいて、ジョウトがいて、その仲間と共に日本を奪還する。

 今は、これだけを知っていればいいだろ……?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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38Sz 二つの帝竜反応

どうもです!……なんか話が進むたびにちょっと恥ずかしくなっていきます。何故でしょうね?

あ、ちなみにもしⅢの話を書くとしたらこの『ルシェかえ!』には繋げずに新しい小説として書くと思います。(反映はするかも)

では、Ⅲの発売を待ちながら、38Sz、どうぞ!


 

「では、今後の具体的な方針についてですが……」

 

 あれから俺達ムラクモ10班13班そして自衛隊の人達で作戦を立てることになった。

 ……ヒカイさんとかに「何を話していたんだ?」って言われたけど、「他愛ない話だよ」ってごまかした。

 

「観測班からの報告で都内の二か所から新たな帝竜の反応が観測されました」

「二体も?」

「えぇ。ですが、一か所は『国分寺』。もう一か所はかなり微弱な反応で都内の中心地を徘徊しています」

 

 ……微弱な反応?なのにもかかわらず、確かここから国分寺は遠いのに、ちゃんと正確な反応をしている。……どういうことだ?

 

「……まさか、反応が薄く感じるほどの、いわゆる忍者のような帝竜、ってところか?」

「……そうなるかもしれません」

 

 アイエエエ!?なんで!?……いや、よっぽどすごいことだろ。その帝竜。コソコソ逃げ回って何をしているんだろ?一体……

 ……いや、あれは……帝竜なのか………?

 

「また、この二つの帝竜反応の出現とナツメさん達が都庁から消えたタイミングがほとんど同時だったということも分かりました」

「つまり、そのどちらかとナツメさんたちの失踪が関わってるってことですか?」

 

 アオイがそう言う。キリノは「可能性は高い」と言った。……だけど、なんかひっかかるような……。何だ?

 

「……ですが、一つそれに疑問があります。ロナ。君は確か、今朝方にマモノと戦ったよね?」

「あ、うん。……そいつ、多分、『ロア・ア・ルア』と似たような威力もあったし……微弱だけど、そいつと戦ったときと同じような感じがあったんだ」

「そう。……そのマモノも、この失踪事件とかかわりが深いと考えられます」

 

 その言葉に、俺含めてほぼ全員が息をのんだ。まさか、そんな力を持ったマモノがいたなんて、考えられなかった。

 ……一応、その帝竜の効果についてまとめておこう。確か、「聞こえない音を響かせて人の感覚を狂わせる」。それがたとえ死人だとしても。でも、そんな力を持ったヤツって帝竜だけだろ……?それに、どうやってこのマモノが?

 そう考えているうちに、ですが、とキリノは言葉を紡ぐ。

 

「……このマモノが原因だとして、どうやって失踪させたかが疑問に残ります。昨晩から今朝にかけて住民が失踪したとして、ほぼ半数の人数を無理やり起こさせることは不可能と思われます。そうだとしたら、我々も同じく影響に残るはず」

「うん……。でも、分からないんだよね?……だとしたら、そのマモノが操って、帝竜が導いた、って考えればいいんじゃないかな?」

 

 ……あーそっか!ナガレさん頭いいな。なるほど。そう考えることも可能だな。

 

「そうですね。……だから、これから二手に分かれてこの二つの帝竜反応を追ってみたいと思う」

「けど、国分寺は遠いな……」

 

 リンが俺達の心配をするようにそういう。……確かにここからだと遠いらしいな。

 でも、それは車使えばなんとかなる……はず。……あ、燃料はどうなってるんだ?

 

「ヒカイさん。もらった車の燃料はどうなっていますかね?」

「ふむ。……少し席を外すが、構わんかね?」

「どうぞ。今現在の状況なども確認しておきたいので」

 

 了解。とヒカイさんは一旦会議室を出る。その間に、キリノは説明を続けた。

 

「けど、国分寺の探索は一番機動力のある13班か10班に頼もうと思う。どちらがいいか、決めてくれ」

「……俺たち13班が行こうと思います」

 

 ……でも、おかしかった。本来だったら、微弱ながら帝竜の反応があるっていうなら、『感覚』がある俺が中心地を行った方がいい気がするんだけど……。

 でも、行かなくちゃいけない気がした。国分寺へと。

 

「……了解。では、10班は都内の帝竜反応の探索を」

「了解よ」

 

 キカワさんがうなずく。ナガレさん、アオイも同様に。

 ……あっ、ヒカイさんが帰ってきた。

 

「……燃料を確認したが……恐らく、国分寺までとなると片道の移動ぐらいしかできないと思うぞ」

「となりゃ……歩き、だな」

「だね」

「……ふむ。我々が国分寺行きかね?」

「このアホ娘が決めた」

「悪かったな」

 

 どうしても行きたかったんだよ。なんか知らないけど。……でも、もう一つも気がかりすぎる。嫌な予感しかしない……。くそっ……。

 

「けど、どうすんだ?もし地下道歩きだとして、ルート上にゃ、あのばかでけぇ帝竜がいるだろ?」

「あ、そっか。……巨大な懐中電灯を引っ張りながら歩くか?」

「ううん……今は活動を休止しているようなのであまり刺激はしたくないけど、発電室の準備ができれば安全に移動できるはずだ」

「じゃ、俺達は発電室の準備ができ次第出発……ってところだね?」

 

 ま、無駄な消費はしたくないしな。……アイツに勝ち目あるのか……。って思いたいぐらいにね。

 

「それで、私達がそっちの方角の帝竜探しだね」

「そこに僕も加えてくれ」

 

 キリノも?……大丈夫なのかよ?……いや大丈夫だよな。10班の人三人もいるし、アオイ一人よりは安心できるかな。

 

「よーし!頑張りますよー!」

「ははは。アオイちゃん。張り切りすぎてバテないようにね?」

「はい!ナガレ隊長!」

 

 ナガレさんが隊長、か。うん。悪くはないかも。……ナガレさんはいざってときに頼りになるし。

 ……あー……そう言えば、俺達13班には隊長がいないんだっけ。まぁ、別にいいんだけど。俺達みんなが隊長みたいだしな。

 

「アタシ達自衛隊はここを守ればいればいいんだな?」

「はい。ナツメさんもいない今、都庁の守りをお任せできるのは自衛隊のみなさんだけです。我々の最終防衛線を、どうか、よろしくお願いします!」

「了解っ。四ツ谷攻略の間に休ませてもらったからね。体調のほうもバッチリだ」

「よし。…………これより、二部隊に分かれた作戦を開始します!13班は国分寺を、10班は僕と共に帝竜反応の捜索を!」

「「「「了解ッ!!!!」」」」

 

======数分後======

 

「……っと、ここまであればいいかな。ありがとうございます」

 

 俺達は開発班のみなさんのところでアイテムの補充をしていた。ここからだと遠出になるから、準備は万全にね。

 

「ロナ。これも持って行け」

「あ、ワジさんありがとうございます。……お、これって」

 

 手渡されたのは、注文していた武器、しかも、苦無(クナイ)だ。かつて忍びが使ってたと言われる投擲武器。何で苦無なのかはあえて突っ込まなかった。

 ……あぁ、あの時刃が壊れちゃってね。また新調することになったんだ。

 

「作戦は成功させろ。必ずな」

「はいっ!」

 

 元気に俺は言って、ヒカイさんとジョウトの元へ。

 

「お待たせしました。……そっちも準備万全ですね?」

「あぁ。いつでも行ける」

「こっちはいつでも万全だ」

「へへっ、確か、発電室の開発もバッチリのはずなので、いつでもいけますね」

 

 あぁ、キリノと10班の人たちは先に行った。「善は急げ」ってことで、だってね。

 ……大丈夫だ。また三人だけど、ナビもいるし、一人ではない。

 

「さぁ、行こうか。ロナ。ジョウト」

「はい!」

「あぁ……!」

 

 俺達は、きっと帰ってくると心の中で言って、都庁をでて、国分寺への地下道へと進んだ―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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39Sz トンネル内で

どうも!……しかしすごいことになりました。

わずか半年以下で40話とちょっぴり書き上げると言う、自分にしてはこれまでにないほどの更新スピードと化してます。本気を出せばこうなるんですね!

と、雑談はここまでで、39Sz、どうぞ!


「………でかい」

 

 どことなく明るいその地下道で、妨害しているのにもかかわらず邪魔をしている帝竜を見て、改めてその大きさに絶句した。

 

『コール13班』

 

 今回はミイナがやってくれるらしい。となると、10班の方はミロクか。大丈夫、だよなうん。

 

『目の前の巨大な物体が地下帝竜の胴体です』

「うん、見ればわかる」

『今は寝ているみたいですけど、起こしたら大変ですので、近づかないように』

「迂闊に近づきたくもないよ」

 

 余計な消費はしたくない。起きなければ幸いだ。俺達はそのまま、道が塞がれているので横道から突入。……うわっ、やっぱり、ここも地下栽培みたいなところになってた。

 マモノも、どうやら強くなっているみたいだ。かといって、今の俺達の敵ではないはずだよな。

 

「……うっし。いくか」

「うん!」

「もちろん」

 

 ジョウトの合図とともに、俺達は中へと歩む。

 何か、とても嫌な感じがしていたけど……でも、それはすぐになくなってしまう。

 杞憂、だろう。いつもの俺の悪い癖だ。ずっとずっと不安で、仲間がいるのに、不安になってしまう。……抱え込んでも、仕方のないことなのにな。

 

============

 

「『スコルピオ』ッ!」

「鋭き連拳、『釣瓶マッハ』!!」

 

 嵐のように吹きすさぶヒカイさんの拳、そして、急所を狙いつけた俺の一突きが次々とマモノを蹴散らしていく。

 

「―――オオオ!!」

 

 その騒ぎを聞きつけたのか、ドラゴン、アノマルスがやってくる。が、俺達は冷静に状況を分析し、戦闘を継続する。

 

「『タランテラ』ッ!!」

 

 麻痺性のある短剣技で動きを一時的に封じる。そこにヒカイさんが走り込んだ。

 

「でやっ!!」

 

 大きく殴り飛ばし、怯ませる。……うん、ヒカイさんもレベルアップしてる。もちろん、俺だって強くなってるよなっ!

 

「コード介入、HACK……go!」

 

 さらにジョウトがハッキング。さらに動きを止めて、こっちに流れを作る。

 

「コード吸収、MAN……start!」

 

 すかさずジョウトが『スケイプゴート.x』を発動して、相手のマナを吸い取りつつダメージを与える。その隙に俺はマナを増幅させ、攻撃準備をする―――

 

「『冷徹なる氷の滅槌(アイシクルエデン)』!!凍りつけ!!」

 

 周囲一帯を凍らすようなマナを拡散させてさらに追撃。動きを止めたコイツに、止めをヒカイさんが―――!

 

「でぇぇい!!!」

 

 氷ごと壊すような強烈な一撃で、ドラゴンを討伐する。

 ……だいぶ俺達も強くなったな。って思うぐらいに連携も取れるようになったし、スキルもだいぶ幅が広くなってる気がする。この調子なら、大丈夫そうかな?

 っと、ここで通信だ。……だれだろ?

 

『センパーイ!そっちは順調ですかー!?』

「そんなに大きな声を出さなくても……うん。俺達は大丈夫だけど、そっちが心配」

『もう、センパイは心配性なんですから』

「お前だよアオイ!!」

 

 ったく……こっちはただでさえきつい状況なのに、すっげーのんきなんだからよ。……毎度のことだけど、それがいいのかもね。

 

「で、そっちのほうはどうなんだ?」

『うん。今追っているけど、微弱すぎてとらえきれないんだ。少し休憩してから、もう一度探索しようと思う』

「分かったよキリノ。無理はしないでよ」

 

 そう言って俺達は一度通信を切る。……あっち本当に大丈夫かなぁ……。いろいろと……。

 

「……けど、なんで帝竜一体がそんな微弱すぎるんだ?んなのあったのかよ」

「確かにな。しかも、それだと少しおかしいことがある」

 

 おかしいこと?ヒカイさんの言葉に俺は耳を傾ける。

 

「本来、帝竜はある一部の区間に住み、こちらから接触しない限りは動かない筈だ。だが、それ以外の影響化は見られず。私たちは四体も見てきてはいるが、いずれも何らかの形で変わっていることが多い」

 

 ちょうど、私たちが今いる地下道のようにな。と付け加える。

 ……なるほど。確かに今の今まで俺達は帝竜と戦うためにダンジョンを潜り抜けている。のにも関わらずそれの予兆?みたいな……あぁ、見た目かな。それすらも見受けられない。今まで前科がありすぎるから、こうしないとおかしい。

 

「意外と、どこかいいところ見つからねぇかなーって探しているんじゃねぇの?」

「まっさかぁ……あれから一か月もかかってるんだよジョウト。可能性はないと思うけどな」

「ま、微弱なまでに弱いってことだから必死に逃げてるのかもなぁ?」

 

 クッ、それはねぇよ。思わず笑っちまったじゃねぇか。ったく、見境ない言い方しやがって……。

 俺達は歩きながらも、今回の不可解な現象について意見を出し合っていた。

 

「……けど、確か、今の一説によると、『マモノが先導し、帝竜が何処かへと向かわせている』というパターンが有効と言われている」

「けれど、それだと俺達が経験した『ダンジョンを作ってその場所にいる』という説は崩れるんですかね?」

「だとよ、んだったら、今いるデカ竜どうなんだよ。移動しない方がおかしくねぇか?」

「いや、あれは明かりが苦手と言う明確な弱点が存在しているからだろう。迂闊な移動は避けたいのでは?」

「……あっ、だったら、渋谷はどうなんですかね?」

「あ」

「……あー……そういや、そうかもな。確かにあそこもおかしなことになってる。そこに目を付ける、か」

「だったら、通信入れて連絡してみますか?」

「いいんじゃねぇの?とりあえず意見を入れるだけ入れときゃいいだろ」

 

 そうだな。俺はとりあえずトランシーバーに手をかけて、通信を入れようとして……

 

「………いや、やめよう。今の状況でSKYのみんなを余計に刺激したくない」

「だが、誘拐も兼ねてるかもしれんぞ?」

「そんなことはないはずです。現に、マモノをこっそり入れるなんて、もしタケハヤさんだとしてもありえないと思います。……それに……」

「それに?」

 

 ……それに、なんだろうな?

 なんか、ダメだと思う。いろいろと……。今は、いない気がして……。

 

「……いえ。今の今まで手を出してこなかったので、大丈夫かと」

「………なぜそこまで信用できる?ロナ」

「……あくまでも同じ人間だからですよ。今いがみ合ってる訳にも……」

 

 っ?視線……?俺は思わず後ろを振り返った。……誰もいないけど、誰かいそうな気がする。

 ……いや、気のせい……か?

 

「どうした?」

「……気のせい、みたいですね。なんでもありません」

 

 そういって俺は先に歩く。

 先はまだまだ長そうだな。……早くお天道様がみたいよ。

 

============

 

「……あっぶねぇ。バレるところだったぜ」

 

 同時刻、少し離れたところの影でフウヤは息をついていた。ロナが元々何らかの形でさまざまな、恐らく、殺気だったりするものを感知できると思われる変な力があると確信していたからだ。

 

「……とにかく、どうやら国分寺方面で合ってたらしいな。さてさて、連絡するかねっと」

 

 そう言ってフウヤはケータイを取り出し、誰かに連絡。ディスプレイには『オカン(ダイゴさん)』と書かれていた。

 何回かのコール音のあと、やっとダイゴが出る。

 

『……こちらダイゴ。どうだ?』

「オレの予想通り、あいつらは国分寺方面向かうみてぇだぜ」

『そうか。……タケハヤに代わる』

 

 しばらく無音が続き、すぐにタケハヤに切り替わる。

 

『………おう。俺だ。とりあえず、お前の予想は合ってたみてぇだな』

「ま、ちょいと疑り深い性格なんでね。つーわけで……今から行くんですかね?」

『…………あぁ。そろそろ確かめねぇとな』

「はいよっと。んじゃ、オレはこのまま尾行して三人の合流を待ちますよっと」

 

 そういってフウヤは通信を切り、ふぅ、と短めの息をつく。

 

「……オレはなんも間違ってないよな―――」

 

============

 

「……やーっと、太陽の光だな」

 

 ほんとだ。……あー……今まで暗闇の中にいたから結構まぶしく感じるな。

 プロのミュージシャンの人が舞台へ上がる感じもこうなのだろうか。……なんか、興味深いな。

 

「……む?」

「どうしました?ヒカイさん」

「……砂だ」

 

 砂?…………マジだ。……待って、階段上がって行くたびに多くなってないか……?

 

「……まさか……」

 

 そう思ったより早く、外に出る。

 ひどくまぶしく感じる太陽。そして、反射するように輝いている砂。まるで、何か影響を喰らったように砂に巻き込まれた辺り一帯。

 それは、かの『鳥取砂丘』を思い出させるような―――

 

 

 国分寺が、砂漠地帯と化していた―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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40Sz 砂漠の中にたたずむ工場

どうもこんばんは!ついに40Szですね……。うわ、ここまで四か月で漕ぎ着けた自分が怖い。

あ!あと雑談ですが、初代セブドラ買いました!暇を見つけてプレイしていきたいと思います。

では、40Sz、どうぞ!


 

「………はぁ、見渡しても砂漠だな」

「確かに……。こりゃ、元の国分寺に戻すのはこっちも不可能かもな」

 

 俺はジョウトの言葉に同意しながらも、辺りを見渡しながら今の状況を見た。

 ……砂漠、だけど、そんなに暑くは感じない。……いや、そりゃ、ここは元から砂漠地帯じゃないし。でも、数年たってしまえばまじで暑くなるかもな。

 しかし……本当に辺り一帯砂、砂、砂。こりゃ……

 

「……まるで、未来の日本に来たみたいだな」

「何?」

「……地球温暖化の影響で、もしかしたらこうなるかもしれませんね」

 

 多分、ありえない状態ではない。でも、ある場所が砂漠地帯になるって話をどこかで聞いた気がする。だから、いろんな意味で今回の帝竜は未来を見せているのかもしれない。……前三つ(でかいの除く)は超常現象だったけど、こっちはある意味まともだ。

 ま、かといって、手加減する余裕もない。もしかしたら、この帝竜が連れて行ったのかもしれないし。

 ……何故か、『俺』はそれを否定していたけど、気のせい、だろうな。

 ……今はそんなの、必要ないけど。

 

「……ってか、おかしくねぇか?今帝竜の影響化の中にいるのかもしれねぇのに、ドラゴンいなくね?」

「………いや、いるよ。ちょうど、その辺とかに」

 

 俺は『感覚』を頼りに辺りを指で示す。殺気が潜んでいて、その中にドラゴンがいると伝えていた。

 しかし本当にすごい力だな。まるで自分自身がレーダーのようだ。……体調によるけど、今回は好調みたいだ。池袋はほとんど役に立たなかったし、四ツ谷でもそこまで役に立った形跡はない。……そう言われると、都庁でもマジで微妙だな。役に立つか立たねぇか分かんないな本当に。

 

「……けど、分かったところでこちらから接触しにかからないと少々面倒ではないか?」

「……速攻で沈める、ってんなら、方法はあるぜ」

 

 マジ?俺は思わずジョウトを見て、確認を取る。

 

「……(ゴニョゴニョ)」

「……それ危険ではないか?ジョウト」

「ソッコーで沈めときゃ、反撃の隙すら与えずに楽になるだろ」

「まぁ、それはそうだけどさ……」

「……有言実行。どのへんだ?」

「えっと……そこのちょっとした山の頂点ぐらい」

「よっし」

 

 そう言ってジョウトは先へ。その間に俺は準備っと。ヒカイさんも息をついて構えを取りつつ、ジョウトの後ろへ少し離れながらも準備。

 ジョウトがある部分に差し掛かった直後、待ってたと言わんばかりにドラゴンが飛び出す。それよりも早く、俺は『アイシクルエデン』でドラゴンを凍らせる。ドンピシャ。さらにそこにヒカイさんが突っ込んで殴り飛ばす。先制攻撃は決まった。悪く思うなよ?

 ついでに俺は『フリーズ』を使って氷を連続でぶつける。案外簡単に倒せた。すっげぇ。

 しかし……この戦法、楽だよなぁ……ジョウト。俺は文句を言うように言った。

 

「……ジョウトは楽でいいなぁ」

「お前の上位マナスキルはタメ時間と集中力が必要になるだろ。その分威力は抜群。そのほうが楽だろ」

「ん?心配してくれてるのか?ジョウト」

「面倒事を片付けてくれるからな」

 

 嘘つけ。心配してくれてるだろ。……けど、確かに日陰もない砂漠地帯だと短期決戦の方がいろいろ便利だな。

 ……なんだよやっぱり心配してくれてんじゃねぇかジョウト。ったく、素直じゃねぇ奴。

 

「……しかし、ロナ。君の負担が心配だが……」

「『フリーズ』よりかは確かに消費も多いですけど、この辺り一帯の敵だったら適度に休憩しながら撃ちこめばそこまでひどくはないはずです」

「……ま、もしどこか身体に負担がかかったと思えばすぐに呼んでくれ。休憩を取る」

「ありがとうございます。ヒカイさん」

 

 ……やっぱ俺らって仲良いよな。本当に。ジョウトはともかく、ヒカイさんは年上だけど、本当にそう思う。……ホント、この二人が仲間でよかった。すごく、安心する。

 で、このあと俺達はとりあえず周囲一帯のドラゴン、ついでにマモノ達を同じような戦法でどんどん討伐していく。途中休憩をはさみつつね。

 

「……今頃、いなくなった人はみんなどこにいるんだろうか……」

「うむ……そうだな」

 

 と、家の陰でうまく太陽の光を遮断しながら休憩中に俺達はそんな話をした。なんつーか、まじで気がかりだったし。

 とても、変な予感がする。何か、やらかしたような……そんな感じだ。

 ……全員、ドラゴンの贄になった―――

 

「……いやいやいや!ありえない!……だったら、なんで半数いなくなったんだよ!」

「何がありえないんだっての」

「………ミックスグラタン、って言えばわかるか?」

「……可能性としちゃ、……まぁ、確かに」

「否定してくれよジョウト!!」

「否定するわけにゃいかねぇだろ。可能性の一つ、としか言えねぇんだしよ」

「………じゃあジョウトは何かあるのかよ」

 

 俺は少々八つ当たり気味に疑問をぶつけた。その可能性の一つを聞きたかったし。

 

「………全員でピクニック」

「どうして!?」

「それか肝試し」

「昨日のことじゃねぇか!つかもう、夜も正常に機能してるみたいだし、それもありえないだろ?」

「可能性の一つとして考えろ、って言ったのだれだよ」

「……すみません」

 

 ……聞かなくてよかったかもしれねぇ。はぁ……。

 

「……ロナは悲観的に考えすぎるからだろう。今予想できないことにそう不安にならなくてもいいのではないか?」

「……それは、そうですけど……」

「今やるべきことは何か?帝竜を探すこと。後ろ向きに考えるな。決してな」

「……はい」

 

 確かに、俺はどうもそう一歩引いた……つか、逃げてるようで、後ろ向きになってるって考えが多いよな。……そのせいでみんなに迷惑ばっかりかけていて、ホント、俺ってダメだよな。……うん。なんかスッキリした。

 

「……だね。……きっとみんなでピクニックだよ」

「そういうこった」

「では、そんな危険なピクニックを阻止するためにも、帝竜の元へ急ごうか」

「了解です」

「あぁ分かった」

 

 そう言って俺達は休憩をやめ、また歩き出した。

 ……しっかし広い砂漠だな。国分寺どころか、その周辺の地区まで巻き込んでいるんじゃないか?見渡す限り、砂に埋もれた家とか、そんなのでいっぱい。本当に、ひどい光景だな……。

 ……ん?何だあれ……?

 

「あれ……なんですか?」

 

 思わず二人に訊ねる。二人も気づいたらしく、確かに異様におかしいひし形の建物っつか……あんなの、国分寺にねぇよな?

 

「……でかい建物だな」

「……こういうのは、ミイナに聞いてみるとしよう。……ミイナ。いいか?」

『はい。熱反応はあの建物からのようです。あそこにみんながいるのでしょうか?』

「……あぁ。いるといいな」

 

 俺は心の中からそう思った。……誰一人、犠牲にならずに。甘い考えだって言われたって構わない。……助けたい。誰も失わずに。

 

「……行くのね。あそこに」

「……え?……あっ、君は……」

 

 声をかけられて、俺も、もちろん、二人もその方向を振り向く。

 ……確か、タケハヤさんといっしょにいた青髪の女性だ。

 ……って、ことは……SKYの人も一緒、ってことか?……わざわざこんなところまで来て……

 でも、会わなかったよな?今の今まで。……どういうことだ?

 

「……なんで、あなたがここに?」

「……あなたは……」

「……?」

「……いえ。何でもないわ」

 

 ……でも、確かに俺の方を見たよな……?………まさか、この人も俺が『ルシェ』って存在を見ぬいているのか……?いや、深く考えすぎ……だよな?

 

「……名乗っていなかったわね。……私はアイテル。星を守る者」

「星を……守る?」

「……もうすぐ、タケハヤもここに来るわ」

 

 タケハヤさんも……? ……じゃあ、さっきの熱源反応は少なくてもSKYのみんなじゃないってことだよな。

 アイテルさんは続ける。

 

「だから、見せてほしい。……あなた達の力を」

「タケハヤさんに?俺達の力を?……一体、なんで……」

「……詳しくは言えない。だけど、あの建物は工場。竜に取り込まれ、竜を生み出す工場」

「なっ!?」

 

 竜を生み出す工場……だって!?そんなの、危険すぎるだろ!?S級の力持っているの俺達と10班ぐらいしかいないし……。そんな物騒なこと言ってるのに、アイテルさんは無表情だし……。

 

「……だったら、とっととツブしときゃいいだろ」

「あぁ。そうはさせないさ」

 

 ……確かに。二人の言うとおりだ。被害を大きくさせないためにも、帝竜の活動を停止させないと!

 

「……だな。……急ごう。ありがとう!アイテルさん!」

「いえ。……彼も間もなくやってくるはずだから。……それと、あなた」

「……俺?」

 

 俺はじれったく感じながらも、アイテルさんの目を見る。何か言いたそうな目をしているけど、……でも、俺はすぐにさえぎった。

 

「……すみません。後で話しましょう。……恐らく、アイテルさんが考えていることと同じだと思います」

「分かったわ。……さよなら」

 

 そう言って、俺達は工場へと急いだ。……恐らく、タケハヤさんたちが、妨害してくるかもしれないけど。

 

 でも、立ち止まっている暇は……ないんだ……!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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41Sz 課せられた試験

どうもです!……ついつい初代に夢中になって小説作業に手つかずだったんですけど、何とかかけました。

……あー……でもこれ書いたらちょっと疲れましたね。……今回から工場へと突入。そして彼らとの競争。

では、41Sz、どうぞ!


「……うわ……」

 

 途端に暑くなった建物内で俺達は一瞬動きを止めた。

 ……間違いなく、工場だ。でも……下に溶岩がある……。

 ……熱源反応、これと間違えたんじゃないか?いや、ツッコミはいいや。面倒だし。

 

「……砂漠と来て、次は溶岩込の工場かよ……マジでダレるっつーの……」

「……でも、進まなくちゃいけない。そうだろ?ジョウト」

「ま、そうだな。……しっかし、マジでダレるな」

 

 文句をブータレ言いつつも俺達は先へ進む。……見た限り、工場の設備らしいのはなさそうだ。どちらかと言えば、セメント工場、ってところか。

 ……あー……見てるだけで暑いのに、確かにこれは消費がすごいことになるかもな……。流石に、こっちには行ってない……かな?

 

「……む?あれは……」

「……オブジェクト?」

 

 正方形が何個か重ねられて作られたソレは、本当に、ロビーとかでありそうなオブジェクトだった。なんか、奇抜だけど……。

 

『……いえ。先ほどの熱反応は恐らく、その装置が発するモノ―――』

「やっぱり来てたな。13班」

 

 声をかけられ、ミイナの言葉も一時的に止まり、俺達は振り向いた。……四人。タケハヤさんと、ネコさんと、ダイゴさん。それに……フウヤ。

 ……やっぱり、アイテルさんの言った通りだな。

 ……よくわからないけど、俺達を試すために。

 

「しかし、かの13班でも、尾行のプロには気づけなかったか?」

「……フウヤのことですか?」

「何だ、気づいていたのかよ」

「いえ……この中じゃ、それしか考えられないですし。……いや、それ以前に一体いつから……」

 

 ……あっ、もしかして……

 

「……地下道のときから……?」

「ビンゴ。いやー。一瞬バレると思ってひやひやしたわ~」

 

 フウヤがおだてた声で俺に、おそらく挑発した。流石にそんな挑発には乗らないし、気づけなかったことにはちょっと悔しいけど、それだけだ。

 でもそれだとおかしい―――

 

「……待てよ。じゃあ何で俺達が―――」

「ハイ、雑談はそこまで。とにかく、ここだと都合がいい。邪魔されずに済むからな」

「……何を、ですか?タケハヤさん……」

「簡単に言やぁ……『テスト』だ」

 

 ……テスト?……一体、何の……

 

「お前がアイテルの探してる相手なのか確かめておきたいんだよ」

「……どういうことですか?」

「ま、詳しくは言えないね」

 

 ……拒否権は……なさそう、か……?

 でも……今は時間が一秒でも欲しい。……はっきり言って、付き合ってる暇はない。今は帝竜を倒すのが先決だ。そんなの、後でいい。

 

「……詳しく言えないなら、俺、いや、俺達は付き合えません。今は俺達の都合があるので」

「そう言うと思った。お前らはこの工場の帝竜を倒しに来たんだろ。だが俺達は……それを邪魔するかもな、ってことだ」

「え……何で邪魔するんですか!?」

「あぁ、先に言っとくが、竜の味方をするわけじゃあねぇ。単なるテストさ。命がけの、な」

「………なんでそこまでして、俺達の今の状態でテストをするんですか。……今は、時間がない―――」

 

 そこで、俺は慌てて口をふさいだ。……今迂闊に「都庁からいろんな人が姿を消している」なんて言ったら、さらに面倒なことになりそうだからだ。

 うまいことに、口をふさいだのかそんな怪しい雰囲気を察せずにタケハヤさんは話を続ける。

 

「ま、そんな時間の無いロナ達13班のためにも、非常に単純。お互い、帝竜のもとに無事たどりつけるか……そんなテストだ」

「……さすがに、罠とかはないですよね」

「お。やる気か。もちろん。俺達もここから同時にスタートする。だから、汚ぇ罠なんぞは仕掛けてねぇぜ?」

「……分かりました」

 

 ……じゃあ、いいかな。……拒否権は……ないはずだし。

 

「おいロナ。いいのか。こんなわけのわからない話に乗るなど……」

「……早めに帝竜の元へたどり着く。……それだけですよ。要は俺達が早くたどり着けばいいだけの話です」

「……それも、そうだな」

「ジョウトも、乗るよな?」

「……ま、しかたねぇか」

「ハッ。話が早くて助かるねぇ。お利口さんだな。ロナは」

 

 タケハヤさんは大層愉快そうにそう言った。……俺も、黙ってうなずく。……ここで拒否したとしても、多分意味ないしな……。

 

「言っとくが、遊びじゃねぇ。本気でかからねーとお前らは死ぬ。……そーゆーことだ」

「分かってます。……テスト、ってことは、遊びではない」

「……始めるか」

「そだね!」

「仕方ねぇか……」

「ふむ……私も納得できんが……ま、付き合ってやってもいい」

 

 上からタケハヤさん、俺、ダイゴさん、ネコさん、ジョウト、ヒカイさんの順に話す。

 ……どうやら、お互い承認したみたい……だな。

 

「んじゃ、よーい……」

「……ちょっと待て。……この感覚……」

 

 フウヤが合図を出そうとしたが、俺は思わずオブジェクトを見る。全身が何かを感知するような感覚、まさか……

 

 そう思った直後、そのオブジェクトが光り出し、止んだころには一体の、まるで機械で作られたドラゴンが現れ出た。

 

「……ハッ。邪魔しやがって……散りな!!」

 

 突然の出来事だったが、驚かずにタケハヤさんは素早く長剣を取り出し、斬る。

 早い。俺は思わずそう思ってしまうほどだったが、すぐに臨戦態勢を取る。マナを右手に込め、素早く『エアスピアー』を放つ。一瞬怯んだ様子のドラゴン。さらにヒカイさんとダイゴさんがほぼ同時に胴体にアッパーを放つ。

 ドラゴンは妙な音を立てながら、ガチャンと、地面に伏す。

 

「……なるほど。もしかしたら、このオブジェクトからドラゴンが出るかもしれねぇってことか」

 

 ジョウトはじっと見ながらそういう。

 ……あれ、タケハヤさんたちは?

 

 俺は思わず辺りを見渡したあと……あっ、もうスタートしてる!?

 

「マジか……!? 二人とも、俺たちも急ぎましょう!!」

 

 俺達は別の道を走る。……まぁ、筆記じゃないなら、いいけどさ。俺は基本的に筆記は無理だし。……けど、なんだってこんなときに……?

 ……いや、今は……いいか。とにかく、SKYよりかは早くいかないと!

 

 その途中。通信がかかったのでとりあえず入れてみることに。……キリノからだ。

 

『……ミイナから話は聞いたよ。とりあえず、そのSKYのテストに付き合ってくれないかな?……もしかしたら、今の事件の真相を知っているのかもしれない』

「……そうだね。……そっちの調子はどうなんだ?」

 

 俺は走りつつも、気になったことを言ってみる。答えてくれたのはキカワさんだ。

 

『こっちは目標ロストしちゃった。……港区探してみて、いなかったらポイント切り替える予定だよ。……無理はダメだよ。ロナ?』

「分かってますよ。……そっちも注意してください」

『あ!それと!』

「アオイ?」

『途中で見つけた問屋さんの倉庫でお菓子を大量にゲットしました!!』

 

 なにやってんのぉ!?俺は盛大にコケかけそうになりつつも体勢をなんとか立て直す。……こっちがある意味急いでるってのにもかかわらず、なんでそんなことするかなぁ?

 そんな俺の思考を無視するように、アオイは続けた。

 

『ふふっ、都庁のみんなが戻ったら、パーティしましょうね!』

 

 ……その言葉に、どこか心に針が刺さったように痛んだ。

 ……分からないけど、分からないけど………でも、確かに、アオイの言うとおりだ。

 

「……うん。……必ず。アオイも、もちろん、ナガレさんもキカワさんも、キリノも、俺達も入れて………ね」

『はいっ!では、お互いに頑張りましょう!』

「あぁ!」

 

 そうだな。……たまにはパーティしたいよな!……そういや、俺は前はパーティに参加できなかったんだっけ。……あー……本当に、やってみたいもんだな。

 ……大丈夫。みんな必ず帰ってくる。絶対に。俺が悲観的になってちゃ、ダメだろ。

 

「……って、おい!あれ!」

「あっ!?もうあんなところまで……!」

 

 ジョウトの声で俺達はさらに急ぐ。……その先は大きな扉。まさか……エレベーター……か?

 いや、考えてる暇はねぇ!!とにかく、急げ!!!

 必死に走って、俺達、そして、SKYはほぼ同時に入ってスイッチを入れるという事態発生。……すっげぇな俺達。

 ……とにかく、俺達はこのエレベーターがどこかにたどり着くまで一緒になっていた。……けど、なんでこんなことをしてるんだろうか。……今、協力すべき事態じゃないのか……?

 

『今、人類は一つになって協力すべき……それを阻害する者は排除すべきだと思うの』

 

「……違う」

「何が違うって?」

 

 ……あぁ、タケハヤさんに聞かれてたのか。……ここからだと少し時間かかるし……質問して、いいよな?

 

「……あの、タケハヤさん。……このテスト、何故やるんですか?」

「さァ……。その質問に答える前に逆にたずねよう。……ロナ。お前はなんで戦ってる?」

「俺……?」

 

 ……何で戦ってるって、そんなの……。

 ……あ……でも……確か元凶は転生初日。ムラクモの試験の時からだ。……となると……

 

「…下手をすれば、ある意味成り行きなのかも」

「……クッ、はははははッ!そう言いきっちまうなら世話ねぇや」

「でも、今は違いますよ?……二人が戦ってる。だから、俺も戦う。……そして、取り戻したい。この世界を」

「へぇ。今は大層なモン抱え込んでいるようだな?」

「……普通、今の状態じゃそうなんじゃないんですか?」

「……ま、俺もある意味そうかもな」

「じゃあもう一度質問です。……なんでタケハヤさんはこんなテストをしているんですか?」

「あぁ。俺がなんでこんなコトしてるのかって?」

 

 そりゃ、わざわざ渋谷離れて俺達を試す、なんてこと言うし。気になるよ。それに……アイテルさんがさっき言った言葉も気になる。

 タケハヤさんはかなりハッキリした言葉でこう告げた。

 

「ま、一言でいや、惚れた女のためだな」

「……アイテルさんのことですか?」

「……ま、そういうことだな。人類のために命張るつもりなんてさらさらねェけどよ」

「いや……立派だと思いますよ。冗談なしで。本当に」

 

 ……確かに、誰か、たった一人のために頑張るのも、理由になる。

 俺も………前はそうだった気がする。覚えてはいないけど。

 

「ハッ……そう面と言われちゃ、嘘とはとれねぇな」

「……タケハヤさんにとって、アイテルさんはそういう存在なんですね」

「……アイツのためなら、死んでみるのも悪くねぇ。確かに、俺にとっちゃ、アイテルはそういう存在だ」

「そうなんですね」

 

 ……いや、さすがに死んでみる、なんてことは思ったことはない。……思ったことは、ない…………よな………?

 ………胸の突っかかりが気になる。……ここまで、欠けた記憶がもどかしいって感じたのは久々、いや、初めてなのかもしれない―――

 

「……お前にもいつかそういった恋人ができるといいな?」

「はは……まさかぁ……」

「……ま、その点じゃ、俺はお前らよりも幸せモノなのかもな。命かけられるような相手がいるんだからよ」

「……そうかも、しれませんね。……俺には、命かけるような覚悟なんて……一生出来ないかもしれません」

「そうかもな」

 

 ……面と言われたら、結構否定したくなるな。……でも、俺にはそこまでの覚悟がなくたって、それ相応の覚悟はあるつもりだ。……そうじゃなかったら、俺は今までやって来れなかったはずだ。

 そんな考えにふけっている俺を無視して独り言を始めるように、タケハヤさんはそっとつぶやく。

 

「そんな女がさ……苦しんでるのを知っちまった」

「………」

「『星を守る』だがなんだかしらねぇが、アイツはそのためだけに生きているんだ……長い間一人ぼっちでよ」

「一人で………何でそこまで……?」

「……『狩る者』を探している。気が遠くなるような時間をつかってよ……」

「……『狩る者』? ……タケハヤさんじゃないんですか……?」

「……違う。俺達まがい物じゃなくって……お前らだよ」

「俺達……?」

 

 俺達が………『狩る者』………? そんな……まさか……。

 

「お前らがアイツを救えるのか……それを見極めなきゃ、俺は死にきれねぇ」

 

 ……違う。……そんな言葉、間違ってる………。

 

「……死ぬのは、アイテルさんをさらに悲しませます。……部外者の俺が言うのもなんですけど、少なからず、今まで救っているのは、タケハヤさんだとおもいます!!」

「………ロナ………」

 

 タケハヤさんが驚いた表情をする。

 エレベーターがゆっくりと止まる。

 ゆっくり、タケハヤさんが口を開く。

 

「……そうやって揺らがすつもりだろうが、俺はそんなの効かねぇよ。……でも、ありがとよ―――」

 

 

 

 エレベーターを降りた俺達。………遠くで聞いていたはずのヒカイさんとジョウトも恐らく信じられない言葉を聞いたけど、でも、あんまり顔には出てない。……そりゃ、今は敵同士だけどさ。でも、今までの言葉は絶対嘘ではない筈だ。

 

「さてと……オシャベリはここまでだ。ここからが本番だぜ」

「……はい」

「……ネコ、ダイゴ、フウヤ、いくぞ!」

「ヒカイさん、ジョウト。いこう!」

 

 

 俺達は進む。

 タケハヤさんはテストで俺達を試すため。

 俺はそのテストをクリアして帝竜を倒すため。

 

 道は交わらず、絡まる。

 でも、いつかほどけて、今度は交わる。

 本当に、確証はなかったけど、俺はそんな風に思っていた―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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42Sz 進んだ間違い

どうもです!……実はあるゲームにはまってしまい、面白すぎて更新が止まってました。で、でも一応話はつけていったんだよ?(汗

一番の山場、とも言えますかね今回の話は。二週目の人や経験者は思わず止めようとしたのではないでしょうかね。気のせい?

ではでは、42Sz、どうぞ!


 ロナ達が進んで何分しただろうか?とにかく、それほどまでに時間かかってる様なそうでない様な。

 途中ロナ達の行く手をドラゴンが邪魔することがあったが、それらは素早く蹴散らして先に進んだ。

 にしても……長い時間。か。とロナは考えていた。

 アイテルの「長い時間」、そして、「星を守る者」。その言葉通りなら、きっと、孤独できつかったのだろう。

 

「もし、アイテルが探していた人物が俺達なら、俺はそれに答えたい。そして……できる事なら、タケハヤさんとアイテルさんには幸せになってもらいたい」

 

 誰にも聞こえない声でそっとつぶやいたロナ。

 

「ニャー助けてー」

 

 遠くに、ネコ(人間の方)がいた。ドラゴンに追われてるみたいだ。その光景に、一瞬ロナ達は止まる。

 

「あ、ちょっと聞いてー。ちょっと刺激したらさぁ―――」

「よし、先に行きましょう!!」

「ニャッ!?」

 

 全力スルーでロナ達は先に進む。

 

「ちょ、ちょっとー!?か弱い女の子が襲われているんだよ!?」

「命令だ。全力で逃げろ!(アサシンアイズ発動」

「は!?ちょっと、意味まじで分からないし!!特に後半!こ、こらー!!」

 

 何故かロナはアサシンアイズを発動させながらさらに、もちろんネコはスルーして先へ。

 

「あ、こ、コラー!本当に待ちなさいー!!……あーいっちゃった……」

「やっぱダメっしたね。ネコちゃん?」

 

 突然フウヤが現れ、手慣れた動きでドラゴンを圧倒していく。そこに怒りでもぶちまけるようにネコも『フリーズ』を起動させて討伐する。

 

「はぁ……結構イイ線いったと思ったんだけどねぇ」

「意外と軽視するときは軽視する、そういった性格なんだろ」

「……仮にもムラクモ、なのに?」

「まぁ元凶はあっちでネタバレしてきたオレなんだが」

「原因お前かー!!」

 

 そんな怒声、ついでに『フリーズ』が起動した音を走りながら聞き、思わず13班たちは顔を見合わせた。

 まさかフウヤが言ってた言葉が本当になるとは思わなかったからだ。

 実は先ほど、フウヤが「あそこでネコが仕掛けてくるぜ」とちょっとしたフェイントと最初は疑っていた。が、ロナも「まぁ、信用してみよう」と言ったのでその通りにしたら本当にその通りになった。

 ロナも確証はなかったのだが、何故かこの出来事を覚えている気がしていた。少しずつだが、疑問から、確信へと変わっていく。

 確か……次は……。

 

「っと、エレベーターだ。乗ろう」

 

 ロナはエレベーターを見つけ、先に乗り込んで起動する。二人もすぐに来て、ゆっくりとエレベーターが上昇していく。

 

「……けど、かなり大きいし、広いなこの工場……。建物の大きさからかなりのものだと思ったけど、さすがにここまで複雑なんてな……」

 

 ロナは上を見ながらつぶやく。どこまでも広そうな場所ではあるが、かろうじて出入口らしき所が上に見えた。

 ネコとフウヤは確実に置いていけたはず。タケハヤはまだ分からない。問題は……ダイゴだ。

 考えられるは一つ。恐らくだが―――

 

「……二人とも。準備した方がいいかも。ここから先は……ちょっと危険だ」

「……珍しいな。ロナがさらに慎重になるとはな」

「……嫌な予感がするんです。なんとなく……」

「そのお前の『危険予知』ってか?」

「……うん。ジョウト正解」

 

 本当は違うのだが、なるべく隠していた方がいい、そう感じたロナはそれだけ言うと、ゆっくり息をついてマナを少しだけ放出する。まだ大丈夫そうだ。それだけ確認して、もう一度息をつく。

 

「………くそっ……なんか落ち着かない……」

 

 それ以前に、ロナは今までの行動に不可解なことを感じていた。

 何かやってしまったような、そんな不安の中に捕らわれていた。

 分からない。でも、やってしまった気がする。

 もし俺が「微弱な方に行く」と言ったらこの感じはなかったのか? ロナはそう思っていた。

 あの時と同じ。ナガレさんが死んでしまうと言った不安感を覚えていた。そして、解決した直後には「本当は死んでいた」と疑いもなく頭の中で思っていた。最悪な人間。それ以前に―――

 

 ガコン、とエレベーターが止まる。ゆっくりと入口が開き、ロナたちは前へと進む。

 途端に、何かが起動した音が、足を踏み込んだロナ達を一瞬止めた。

 

「……やはり来たか。お前たち」

「ダイゴさん……これは……いったい?」

 

 ロナは前方にいるドラゴン五体、その奥にいるダイゴを見ながらそう言う。無表情なダイゴはそのまま、奥へ行こうとする。

 

「これも試練だ。悪く思うな」

 

 それだけ言うと、そのまま進む。運の悪いことに、ドラゴンは全てロナ達の方を向いていて、後ろのダイゴには見向きもしなかった。

 ……ドラゴン五体。この数を一度に相手にするのか? いや……

 

「……迂回はできない。時間がかかるし、さらに、ダイゴさんは進んだ」

「……となると、やることは一つ、か」

「へっ、こういうのもいいよな」

 

 三人は戦闘態勢を整え、ドラゴンに向かって歩き出す。

 ドラゴンたちも一直線に、獲物を見つけて向かいだす。

 

 

「進むしか…………ないよな!!!」

 

 

 

 

「……どうだ? アイテル」

 

 少しして、先ほどの広い通路が見渡せるような、鉄筋で作られた塔にダイゴとアイテルがいた。

 ダイゴが質問した。本当に、ロナ達が『狩る者』なのかを問うためだろう。

 

「あの子たちからは星のような力の煌めきを感じる……あの三人は確かに『狩る者』。私が探し求め、竜との戦いに導かなくてはならない星の加護を受けた戦士」

 

 淡々とした声でアイテルは告げる。答えを聞けたダイゴは無言でうなずく。

 

「そうか。それが分かれば十分だ。あとはタケハヤだな。あの男はどうしても、自らの手であいつらの力を計りたいはずだからな」

「………そう。……でも、少し気がかりなことがある」

「何?」

 

 ダイゴはアイテルの方に向き直る。アイテルはロナ達を見たまま、告げる。

 

「………彼女、少しおかしい。言うなれば、転生……」

「転生……?まるでおとぎ話のようだな」

「えぇ。さまざまなものを代償に、この世界に来たと思う。……そして容姿。あれはまるで……滅んだはずの……」

「そうか……。だが、今はここで考えていられん」

 

 ダイゴはアイテルの話をとぎり、どこかへと飛ぶ。一人残ったアイテル。彼女の視界には、ドラゴンたちを全滅させたロナ達が写っていた。

 

「……転生、そして、過去の文明……もしかして彼女は………」

 

 

 

 

「ったく。お前らは何してんだよ」

「へぇへぇすんません。ちょいとおちょくりすぎましたね」

「全くよ! アンタは何考えてるのよ!!」

 

 口喧嘩しつつも三人はロナ達とは違うルート、今現在は階段を上がっていた。

 

「しっかし、こっちの考えもあっちの考えも分かるお前って危険だな」

「……じゃあ、ここらで除隊しときます?」

「……いや、案外信用できるからとりあえずはこのまんまだ。だが……」

「だが?」

「あぁ、お前はやめとけ。最終試験は、俺達だけでやる。その方が公平だろ?」

「そっすね。……それになにより、今回オレは介入する予定がないんで」

 

 フウヤはどこも残念そうではない声でそう述べる。「へっ」とタケハヤは笑う。

 

「お前のそーゆーつかみどころのない性格が、逆にあのババァとは違うのかもな。……何より、あのババァは、俺らの恨みの対象だ」

「あぁ……あの恥ずかしい女ね」

 

 ネコが低い声でそう言う。タケハヤも黙ってうなずく。

 

「その点で、お前は合格ラインだ。お前はある程度信用に値する。しかも……純粋なS級らしいな?」

「……まぁ、な」

 

 どこか歯切れの悪そうなフウヤを横目で見ながらも、タケハヤは続ける。

 

「ま、お前からこっちに志願してきたんだから、それなりには強いしよ。……ホント、うらやましいぜ」

「へへ……ですが、まだこれから……そろそろつくんじゃないっすか?」

「あぁ……さっきも言った通りだ。お前は来るな。最終試験ぐらい公平にしたいからな?」

 

 そう言っている間に三人は昇り切り、さらに先へ―――

 

 

 

 一方、ロナ達。なんとかドラゴンたちを倒し、先へ進んでいるところに一本の通信が入る。急いでいるのに。と思いつつもロナは通信を入れる。そこから声をかけたのはアオイだ。

 

『センパーイ!やりました!見つけました!』

「え……?何を?」

『ボクが説明するよ』

 

 そこにキリノの声も入る。三人は進みつつも内容を聞く。

 

『こちらは現在港区の芝公園。先ほど、多数の生命反応を感知した』

「そ、そうか……よか……うぐっ!!?」

 

 途端に、また激痛。ひどい痛みに、ロナはこらえる事しかできなかった。

 足が止まり、倒れ、だが、痛みは退かない。

 

『――――――』

『――――――』

『あ、あ……嘘だろ……?』

 

 いきなりすぎる現象に『俺』は驚いていた。画面内とはいえ、いくらなんでも展開が早すぎる。どことなく慢心があったのかもしれない。でも―――

 

「……かっ……や、やめろ………やめろ!!行くな!!それ以上はダメだ!!!」

 

 必死に叫んだ。トランシーバーが壊れるのではないかと思うぐらいに。そのあまりにも焦りが見える行動にヒカイもジョウトもあわててロナの様態を見る。

 

『わっ……!?ど、どうしたの突然……』

「いえ、ナガレ隊長。少し様子が急変したようです。……少し、通信を―――」

「き、キカワさんっ!!」

 

 通信を切られるより早く、ロナはキカワを呼ぶ。プチッ、と場違いな音が通信を繋ぎ、声がかかる。

 

『……何?』

「それ以上行ってはだめだ!!絶対!!……死ぬんですよ!?」

『……分かってる』

 

 ……え?

 ……今、なんて……?

 キカワの周囲が静まり返る感覚が、ロナの頭痛を少しずつ退かせる。キカワがゆっくり告げる。

 

『……でも、ね。私達10班はどんな相手でも恐れない。大丈夫だよ。私もナガレさんもいるから、ね』

「だ……だったら……」

『要はさ、みんな生きて帰ってこい、でしょ? ……だと思って、今は私はみんなとは離れている。それに、私は一度死んだはずなんだけど……ね』

「死……んだ……?」

『でも、大丈夫! このキカワさんに任せなさい! 名前は偽っているけどね。……ありがとね。ロナ。本当に、あの子と似てる―――』

 

 ……

 ロナの動きが止まる。同じく、また確証へと変わっていく。

 

 ………でも、思い出せない。

 

 …………く……しょう………

 

 

「ッ……!!! チクショオッッッッッッッ!!!!」

 

 

 手が壊れるのではないかと思うぐらいに、床を殴った。

 止めては、いけない。絶対に。

 今戻ってはいけない。絶対に。

 結局は、変えられない。『運命』なんて、必然だった。

 けど…………違う。

 

「……………チクショウ……」

 

 そうつぶやきながらも立ち上がる。

 振り返ってはいけない。自分で犯した過ちは、解決するまで一度も後退してはいけない。

 

「……大丈夫。……行こう」

 

 涙ながらもロナは歩き出す。

 これ以上、改変してはいけない。この物語(ゲーム)を。

 せめて……前へ進んで、キカワを信じるしか、ない。

 

 今のロナはそれしかできなかった――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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43Sz 強敵の好敵・前編

おまたせしました! せめてセブドラⅢが発売されるまではChapter7に届かせたいですね。

今回はかなり長く書きすぎたので前編後編分けての投稿になります。気づいた時には6000文字行っていたので……(苦笑

それでは、今回も三人称視点の43Sz、どうぞ!


 

「………やれやれ。待ちくたびれて帰っちまおうかと思ったぜ」

「っ……いつの間に……」

「ククク、遅いだけなんじゃねぇか?」

 

 タケハヤがロナ達を見下すように笑う。その途中に、ロナはSKYが全員居ることを確認した。やはりと言うべきか、さすがだ。

 

「ま、なんにせよ」

 

 タケハヤがロナを見据え、さらに続ける。

 

「ここまでたどり着いたことは褒めてやるよ。ネコやダイゴ、それにフウヤから言わせりゃ、まぁ合格点ってハナシらしいが」

「……?」

「俺はやっぱり、自分で確かめねぇと気がすまねぇタチなんでな」

「……つまり、それが最終試験ってこと……ですか?」

 

 ロナは伝ってきた汗を振り払いつつ、そう察する。ぎゅっと握りしめている手は緊張か、それとも、焦りか。

 

「……だが待ちたまえ。我々は三人、そっちは四人だ。最終試験、と言う割には不公平だと思わんか?」

「安心しろおっちゃん。オレは介入しねぇからな。んなことやって勝っちまったらつまんねーし」

 

 それに、と、タケハヤたちとは数歩後ろ下がっている場所でロナを見ていた。ロナも気になってフウヤの方へ振り向く。

 

「……コイツとは、サシでやりてぇからよ」

「………何でそこまで俺と?」

「さぁ、な。とにかくだ。オレは審判、支配人、見届ける者、そうさせてもらうぜ」

「………分かった」

 

 ロナはフウヤにうなずき、タケハヤ達を見る。

 

「んじゃ、最終試験開始だ……。さぁ、行くぜ!!」

 

 タケハヤが剣を構え、先陣切って突進する。そこにロナが走り、苦無を取り出して、阻止するように走り込む。

 

「はぁぁぁ!!」

「せいっ!!」

 

 タケハヤの剣とロナの苦無が激突する。力量はあり、つば競り合いではタケハヤの方が上だ。少しずつだが、ロナは押されていく。

 それを見てか、ヒカイが突撃し、援護に回ろうとする、だが、同じく、タケハヤの援護に回るようにダイゴもヒカイへと走る。

 

「……貴様の相手は、俺だ」

「ほう……ならばっ!!」

 

 ロナとタケハヤの横で、ダイゴとヒカイのストレートパンチがぶつかり合う。衝撃からか、ロナとタケハヤは一瞬体勢を崩し、その間にロナは素早く剣の軌道を外側にはじいて一度下がり、銃を取り出す。

 

「喰らえ!!」

 

 銃を素早く、タケハヤの方へと連射、タケハヤは防御姿勢を取るが―――

 

「ニャハッ、『冷鉄の甲葬(フリーズ)』!!」

 

 それよりも早く、ネコがタケハヤを護るように『フリーズ』を起動。まるでそれはタケハヤが発したような動きとなり、氷塊を次々と具現化しながら弾丸を止め、ロナへと向かう。

 

「―――させねぇよ」

 

 ロナの後ろからジョウトの声がしたかと思うと、『フリーズ』がヒット。ロナも抵抗できずに氷に空中へと弾かれるものの、すでに準備はできていた。

 

「ナイスジョウト。―――『焦撃の灯火(フレイム)』!!」

 

 そこに二発の炎弾がそれぞれ散らばって行く。一つはネコが作った氷塊へと、もう一つはネコ自身へと。

 

「なっ! あっつ!!」

 

 その一つは直撃し、ネコにダメージを与え、大きく下がらせる。

 ちなみに、先ほど軽減させたのはジョウトの『アイスブレイク』。素早くかけられる上に長持ち、単属性にしか効果がないのが欠点だが、その防御力は侮れない。

 

「……全く、そう焦るな。―――ぬぉぉ!!」

 

 それを見計らってか、ダイゴが一度大きく下がって両腕からマナを増幅させる。そのマナを合成させ、特殊な球体を発生させる。

 

「そうはさせるか―――!」

「おっとオッサン、ここは通さねぇよ」

 

 そこにタケハヤが割り込み、剣を振り下ろす。ヒカイは素早く身体を横に逸らした。

 大きく隙を晒すものの、ヒカイはその一秒の間に、タケハヤを見据えていた。

 

「……やはり、お前だったか」

「ふん。……これぞ、感動の再会ってか?」

「ふっ、さぁな……ハッ!!」

 

 わざと遅めのボディーブローをタケハヤに喰らわそうとしたが、それよりも早くタケハヤが下がり、攻撃を避ける。

 

「大事にしておけ」

 

 その間にダイゴの準備が完了、球体は三つに分かれ、それぞれダイゴ、タケハヤ、ネコへと飛んでいき、回復させる。

 

「……ヒカイさん?」

「あぁ……すまん」

 

 一瞬様子がおかしかったと悟っていたロナはヒカイに声をかける。かけられたヒカイは謝罪し、もう一度構えなおす。

 

「ネコ」

「はいはい。よっと!」

 

 ネコはダイゴに『フリーズ』の根源と思われる青いオーラを飛ばし、ダイゴはそれを右腕に受ける。オーラがダイゴの腕に触れた直後、光がさらに大きくなっていく。

 

「まずそうだな……ロナ。あれを出来るか?」

「え、いきなりすぎ……いや、言ってる暇はないか……!」

 

 ロナは渋々承諾し、同じように『フレイム』の根源と思われる赤いオーラを飛ばしてヒカイはそれを受ける。

 

「え?」

「ほう……」

 

 ネコは驚き、ダイゴは関心を持った。ダイゴと同じく、ヒカイに、正確には、ヒカイのマナに呼応するように大きくなっていく。

 

「……ゆくぞ」

「あぁ……」

「ぬおおおおお!!」

「はあああああ!!」

 

 二人の、援護を受けた拳がぶつかり合う。衝撃が伝わり、周囲にいた全員も吹き飛ばされないように踏ん張る。

 ドンッ! と、衝撃の終わりを告げるような音が響き、ダイゴが数メートル吹き飛ぶ。ヒカイも同じく吹き飛ぶものの、力に至ってはどうやらヒカイの方が上だったらしく、距離が違っていた。

 

「……くっ、やるな」

「じゃあ、ダイゴ。お前が援護に回れ。……久々にアレをやるぜ!!」

 

 そういうタケハヤの剣に、またネコは根源を飛ばし、ダイゴも自身のマナをタケハヤに預ける。

 

「……! 気を付け―――」

「おせぇよ。行くぜッ! これが俺たちのッ!!」

 

 タケハヤが大きく飛び上がり、さらに自分のマナを剣に込め、一気に振り下ろす―――!!

 

 氷塊が、走る。だが、先ほどの強さとは比較にはできないぐらいに、氷は素早く、大きく、この場を暴れてロナ達を引き裂き、凍らせていく。

 

「………」

 

 その氷塊を、タケハヤはずっと見ていた―――



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44Sz 強敵の好敵・後編

どうもです!今回は『強敵の好敵』の後編になるので、前編を読むことをお勧めします。

では、44Sz、どうぞ!


 

「…………」

「さすがに、これは耐えられんだろうな」

 

 ダイゴは勝ちを確信したようにそうつぶやく。ネコも同意する。

 

「全く。私達に本気を出させるから―――」

「……いや」

 

 遠くで観戦していたフウヤが口を開く。フウヤもタケハヤ達の後ろにいるので状態は分からないが、悟っていた。

 

「あいつらはこんなところでくたばるわけがねぇ。そっすよね? タケハヤさん」

「………ふん。そう思い―――」

「たいところだな、てか?」

 

 氷塊から声が聞こえ、直後、バギッ! と言う音と共に中央の氷塊が砕け、中から三人が現れ出る。ヒカイが氷塊を砕き、ロナがそれを援護したような状態だ。

 だが、消費はかなりしており、三人は大きく息をついていた、が、動ける分には問題はなかった。

 

「……さすが」

 

 その三人の行動に、タケハヤは驚きもせずに、逆に賞賛の言葉を言った。

 

「……的確な判断だったぞ。ジョウト」

「アンタらが勝手に突っ込みまくってるからおかげでオレは空気だよ。ありがたく思え」

「ふーん。そこに俺の援護があったのにもかかわらず、なのにか?」

「はっ、お前も上等上等。じゃ、やってこい」

「あぁ」

 

 そう言ってロナは苦無をもう一度構え、三人に切っ先を向け、息を素早くつく。

 そして、上段に苦無を構え、敵を見据える。

 そして――――――

 

「―――獄死!!」

 

――ビュン!

 

 ロナは一直線に苦無を投げつけ、さらに突撃する。

 

「……ありゃあ、フウヤのヘッポコ技か」

 

 だが、タケハヤはすぐに対応策を取り始め、同じく一直線に、剣で身を護りながら突撃する。

 

「(悪ぃけど、オレは一度これを受けたことがあるし、ダイゴも同じ技を喰らった。でも、簡単な弱点とすれば、突進して弾けりゃ―――っ!)」

 

 しかし、もう一つの抜け目があった。

 それは、ヒカイと並んで走っていることだ。

 これでロナを迎撃しちまえばいいが、それだとヒカイからの一撃を喰らう。

 

「(けど、それでも後ろでネコがいる。攻撃してきちまえばそいつでオダブツだ!)」

 

 タケハヤは心の中でニヤリと笑っていた。

 肉を切らせて骨を断つ。まさに今の状況はそうだった。

 それを読んでいないのか、ロナとヒカイは大きく構えていた。

 

(オモテ)か…」

(ウラ)か……!」

 

 ロナは片手に飛ばした苦無を取り、ヒカイは拳を強く握り、さらに一歩踏み込む―――

 三人の距離が少しずつ縮まっていく。

 

「どっちでも関係ねぇ、ぶっ潰されろ!!」

「「答えは―――!!」」

 

 さらに二人は一歩―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 大きく、()へとタケハヤの道を譲るように踏み込んだ。

 そして―――

 

「―――オレ(フチ)だ」

 

――ドンッ!

 

 ガラ空きになっていた、そして、二人の壁で死角となっていたジョウトがタケハヤにタックルをかました。いきなりの攻撃に防御が間に合わず、タケハヤが大きくよろめいた。その間にすぐにロナがタケハヤの隣を通り、ダイゴの元へ。

 

「何……!」

「俺は…………立ち止まっては、いられないんだッ!!!」

 

 零距離でダイゴの胸部分に手を添え、マナを解放―――

 

「『冷徹なる氷の鉄槌(アイシクルエデン)』!!」

 

 ロナの両手から鋭い氷がダイゴを貫く。吹き飛ばされたダイゴ。ネコもあわてて応戦しようとするが―――

 

「やらせねぇっつーの!!」

 

 さらにジョウトが空いた側面からネコを突き飛ばし、スキルをキャンセルする。追撃をかけようとロナは銃を引き抜き、

 ガンッ、と、何かが飛ばされた音とカラーンと乾いた音が鳴り響き、ロナはそちらの方を向いた。

 ヒカイと、タケハヤの決着だ。そして、先ほどの音はタケハヤの剣。そして、タケハヤは大きく床に倒れた。

 

「…………」

「勝負、あったな」

 

 ロナは黙ったままこの決着を見届け、ジョウトの声で、勝敗を決めた。

 

「……合格、だな」

 

 タケハヤは倒れた体勢のまま、上を見上げてそうつぶやいた。

 

「さすが、ホンモノの『狩る者』ってか」

「………タケハヤさん、なんでそこまで……」

 

 ロナはどうして、「そこまで『狩る者』に執着するのか」と言いたかった。でも、言えなかった。

 たった一人の好きな人のため、タケハヤは自分の身で実力を定めてきた。分かっているのに、自分は、言えない。

 

「……アイテル。見てたか」

「……えぇ。タケハヤ」

 

 どこからともなくアイテルがやってきた。アイテルはタケハヤに手を貸しつつも言葉を続けた。

 

「ごめんなさい……あなたに、また無理をさせてしまった」

「いいんだよ。『ニセモノ』が本物を試すのが一番だからな」

「……ニセモノ、いや、どういうことですか? タケハヤさんたちは……」

 

 だが、ヒカイはロナの口を遮るように手を挙げる。「え?」とロナはヒカイを見た。先にヒカイは答えを言う。

 

「……模造品、か」

「その通り。俺達はお前ら『狩る者』の模造品、それどころか、『S級』の模造品さ」

「なっ……!?」

「何だと!?」

 

 ロナとジョウトは声を上げて驚いた。まさか、ここまでの実力を持っているのにもかかわらず、『狩る者』でも、それどころか『S級』でもない、いわば、ドーピング。タケハヤはまだ続ける。

 

「人工的に作られた『力』、ニセモノの天才戦士、ってトコか」

「人工的に…………あっ!?」

 

 ロナは声を上げる。一つ思い当たる節があったからだ。

 そう。あれは夜中。寝付けなくて外に出た途端、一人の人物に遭遇。そして告げられた言葉。

 

『―――武術も座学も一通りこなせるうえに、研究者としても大きな成果を残してきた』

『……マジ?』

『うん。……ミイナ達も、実は―――』

 

 ………やっぱり、アイツは……アイツは………!! こみ上げる怒りにロナは両拳をギュっと握りしめた。それにも気づかず、アイテルはロナ達へ振り向いた。

 

「この星にはごくまれに、星の加護を受け、飛び抜けた『力』をもつ戦士が生まれてくる。それはこの星に訪れる災厄、『竜』に対抗できる、『S級』の力を持つ戦士」

「………量産物じゃなくって、天然物だけがそれをもらえる、ってか」

 

 ジョウトはそう意見を述べる。アイテルは黙ってうなずく。

 

「タケハヤたちとの戦いを見て確信した。あなた達は確かに、『竜を狩る者』」

「………『狩る者』、ねぇ。実感湧かねぇや。当たり前の事ばかりしててよ。なぁ? アホ娘」

「………あ、あ? なんだって?」

「おま、ここまでボケをかますかよ。オレ達は、『竜を狩る者』だっつの。な? 実感湧かねぇだろ?」

「………関係ないよ。今はそんなこと」

 

 ロナは少し焦った表情でそう告げる。が、すぐに「ごめん」と、自分の過ちを正して、そして、タケハヤ達を見た。

 タケハヤが言う。

 

「お前らが竜を狩れる特別な存在なら、それを自覚してほしい、ってな。アイテルの頼みでそれを伝えに来たのさ」

「……な、なんで俺達なんですか?」

「お前たちだからだ。だから、覚悟を決め―――うっぐっ!?」

 

 突然、タケハヤが胸を抑えて苦しみだした。あわててロナやジョウト、さらにはSKYメンバーがタケハヤに寄りだす。その中で遠くで見ていたヒカイ。

 

「……すまん」

 

 その言葉は誰にも届かなかった。まるで、自分の過去の誤ちを悔やむように。タケハヤは胸を抑えつつも、ブルブルと首を振って助け入らないと示した。

 

「だ、大丈夫だ……ちくしょう、くやしいったらねェぜ……あの狂ったババァにいじくりまわされて押し付けられたのがニセモノの力だったなんてな……」

「………あのクソババァ……!!」

 

 ギリッと、奥歯を強く噛むロナ。

 アイツ、ここまでやるか―――!!!

 

「は、はは。お前も気づいていたんだな。だが、内部事情は知らねぇとみた。教えてやるよ。あの女の一族は昔からムラクモ機関って『S級』の力を管理する組織の長だった」

「けれど、その長である自分が『S級』なんかじゃないって気づいて、それが気にくわなかった」

 

 ロナは怒りを抑えているような声でそう言う。タケハヤは黙ってうなずいた。そして、続ける。

 

「狂った人体実験を繰り返して、人工的な『S級』の力を作り出すことに、ずっとご執心だったよ」

「そして、タケハヤさんたちは実験台になってしまった……。そういうこと……だな!!」

 

 とうとう怒りを抑えられずに、今いない筈のナツメに怒鳴りつけるロナ。

 くそ……なんだってこんな時に………!!

 ダイゴも、それに意見を付け加えるように言った。

 

「俺もネコも同じだ。親を失った後、ムラクモという機関に引き取られ、あの女の実験台になった。タケハヤを追って研究所を逃げ出すまで、痛みと苦しみの、地獄の日々だったよ」

「……じゃあ、アイツもか?」

 

 ジョウトは気になったことを、フウヤを指差しながら言う。

 

「あぁ、オレか? 悔しいことに、オレは純正(マジモン)だ。んだから、下手をすればタケハヤさんには忌み嫌われる対象だ」

「……」

 

 アイテルはそんな風に言うフウヤを見て、そのままロナ達の方へと振り返った。だが、タケハヤは首を横に振った。

 

「俺が嫌ってんのはあのババァだけだ。別に、『S級』には興味ねェさ。それに、今更仲間を裏切れねぇだろ?」

「……へっ、どうもな」

 

 フウヤは少しフードを深めにかぶってそう言った。タケハヤは今度はロナ達に向かって言った。

 

「…どうだ? 俺達がムラクモを嫌う理由がわかったか?」

「……だったら、なんで俺達のことを邪魔したりしなかったんですか? そんなにムラクモが嫌いなのに……」

「あぁ、今やムラクモは表は人類のための正義の組織みてぇだからな。余計なちょっかいはかけねぇ、って思ったのさ」

「……まぁ、表は……ですね」

「だが、気をつけな? あの女が望んでんのは別のコトかもしれねぇ」

「………はい」

 

 ロナは率直に返事をした。フッ、とタケハヤは笑い、後ろを向く。仲間の元へと戻るように。

 

「さぁて、言いたいこと言ってスッキリしたぜ。……俺達の役目はここまでだ。『正義の味方』はお前らに任した」

「……本当に、俺達にそんな役が務まるんですか……?」

「シャキっとしろよ。俺とは違って、お前らは赤の他人すらも護ろうとしてんだぜ? 俺に比べちゃ、立派なモンだよ」

「………タケハヤさんだって、立派ですよ」

「バァーカ。こんなところで言うなって」

 

 タケハヤはどこか照れを隠そうとそんな風に言う。ロナはそろそろ先へ行こうとしたが、「待って」と、アイテルは言ったので一度止まる。

 

「もし、あなた達がこの星のために戦ってくれるのなら、私は、あなた達を導くことができる。どうかしら……私達と一緒に、来ない?」

「………」

 

 ロナは黙って、扉の先へと歩き出した。恐らく、この奥に帝竜がいると、確信して。

 

「……すみません、そっちには行けません。……あれだけ憤って、怒って、イラついたんですけど、俺達には、都庁の仲間がいるので。……失礼します」

 

 そのままロナは扉をくぐって先へ進む。ジョウトも、「ま、そういうことなんで」と言って同じく先へ。残ったのは、ヒカイだけだった。

 

「………」

「アンタも行くんだろ。オッサン」

 

 タケハヤは振り返り、ヒカイを見た。

 

「……本当に、すまなかった」

 

 彼は頭を下げ、謝罪する。その姿勢を見て、タケハヤは言った。

 

「………別にアンタは悪くはねェよ。むしろ、アンタは俺達に取っちゃ、『父親』みてェなもんだった。あんな暗い地獄にいた、一筋の光、ってな」

「…………そうか」

「……んだからよ、今度はそいつらを導いてやってくれ。今更礼も言わずの親不孝共は置いて行って、な」

「……」

 

 ヒカイは黙ったまま、扉をくぐる。残ったのは、SKYだけ。タケハヤは、小さな声で、一言言った。

 

「…………そりゃ、今となっちゃ、恥ずかしいだろ。面と向かって、『ありがとう』、なんてよ―――」

 

 



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45Sz 想いを継ぐ者達

どうもです。今回からは急展開ラッシュです。原作再現だからね、しょうがないね。

……いいですか。これは『運命』をできる限り『変える』物語です。そして、人ひとりの限度は存在します。

では、45Sz、どうぞ。


 所変わって、東京タワー周辺。

 10班の三人が、キリノを護るように陣形を広げていた。

 その周りには、人の亡骸。そして、ドラゴンたち。

 その光景を見ていたのか、キリノは縮こまって震えていた。

 

「…………ッ」

 

 口の中に血の味が広がり、ペッと唾ごと吐き出すキカワ。だが、目はある敵を見据えていた。

 

「………」

「あははは………!! まさか、ここまで抗うなんてねぇ。しぶとさは『S級』って?」

「……やっぱり、恥ずかしい女」

 

 アオイが声の者に怒りに震えた声でそうつぶやく。ナガレも、口をぎゅっと引き縛っていて、怒りと嘆きが同時に出ている表情をしていた。

 

「……許さない。こんなにまでして、あなたはなぜ、そこまで力を求めるの」

「……ふ、くくく、アハハハ!!」

 

 突然、一本の触手がキカワ目がけて飛んでいく。それをキカワはキリノを素早く突き飛ばし、さらには自分の身体をひねらせて避け、カウンターに一発発砲する。

 

「くそ……何であなたがそんなことを……!」

「ナガレさん、そう言ってる暇はないですよ。………もうあなたは、人間なんかじゃない。そして……これ以上あなたの思い通りにはさせない」

「へぇ? この私にそんな口を利くなんてね……? 人も、竜も、S級も! それすらを超えた『力』を持つ私なんかに、ねぇ!!」

 

 周囲にキィィと、静かに、けれど、大きく音を響かせる。マナを凝縮している合図だ。

 それを見て、キカワはもう一度銃弾をリロードして、息をつき、すでに血まみれの両手を見て、ふと、昔の事を思い出していた。

 

『―――だから、お前独りで抱え込もうとするなって。メンドくなったら、俺を手伝いに呼んでくれよ?』

『うん、わかった。ありがと―――』

『バーカ。ぶっちゃけ長い付き合いだし、それに、俺らって友達だろ? 違うか?』

『―――中学時代はあまり会わなかったけどね』

『るっせーな。友達っつう存在は時間なんて関係ないんだよ』

 

「………ゴメンね。結局、お礼も言わずに『亡くなった』からね」

 

 でも、と、キカワはもう一度ぎゅっと銃を握りしめる。血が噴き出、銃を紅く染める。そして、大きく構え、狙いをつける。

 

「……こうして新たな命をもらったからには―――運命すらも変えてみせる!!」

 

 キカワの感情の高ぶりに呼応して、マナが銃に伝わる。ひどく、シンクロしたような感覚に見舞われる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うおおあああああああ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 国分寺の工場、ブレインルーム。そこで13班は帝竜、『トリニトロ』と混戦を繰り広げていた。

 トリニトロ。中央に点在する、泥団子のように表面は溶けて、そこから二つの長い首の竜の頭が存在する、この国分寺の帝竜だ。動いてはいない、というより、後ろに張り付いている紅いひし形の機械につけられているのか、動けないのだろうが、逆に言えば攻撃に専念してしまえばいい、攻撃と防御の優れた個体なのかもしれない。

 ロナが大きく吼え、銃を乱射。全段命中するものの、効いていないと言わんばかりに一頭が炎弾を掃出し、ロナにぶつける。

 とっさに両腕でガードするものの、今までの疲労がたまっているのか弾かれ、地面を転がる。受け身は取るもの、息は上がっていた。

 さらにもう一度、今度はもう一頭が炎弾を掃出し、一直線に飛ばす。

 

「ちっ、コード防御、FIR……!!」

 

 そこにジョウトがとっさに『ファイアブレイク』を起動し、ロナへの炎ダメージを軽減する。衝突したロナだが、今度はそこまで体勢は崩さずにすんだ。

 

「っ、ハァ……ハァ……」

 

 ジョウトもマナの消費が激しかったのか、片膝をついて息をあげていた。

 急いでのドラゴン退治にSKYとの戦闘。ほとんど休憩もなく戦闘を続けてきた彼らにとって、この状況はまさにピンチだった。

 だが―――

 

「でぇぇりゃあ!!」

 

 ヒカイがトリニトロの一頭の顎に向かってアッパーを繰り出し、怯ませる。その隙を狙われたもう一頭がヒカイを弾き飛ばそうとして炎弾を掃出そうとして―――

 

「させるか!!」

 

 ロナが隙を狙うように銃弾を一点に乱射、『ニーブレイク』で一瞬だが遅らせる。その隙をうまく利用して一度下がるヒカイだが、すぐに大きく飛び上がり、急降下かかと落としを浴びせる。

 

「ふぅぅぅ……!!」

 

 さらにそこから何度も蹴り、止めにサマーソルトキックを浴びせて後退する『崩伏連脚』で大ダメージを与える。

 だが、これでも動きを止めないらしく、二頭は一斉に炎を口に貯める。その攻撃を『感じた』ロナだが、ジョウトの様態から無理はできない。

 だったら―――!!

 

 とっさの判断でロナはヒカイを突き飛ばし、自身のあるだけのマナを使って『デコイミラー』を形成。

 だが、疲労の溜まった状態での防御壁は脆く、触れただけで破壊され、ロナの退避も間に合わずに吹き飛ばされる。

 

「がっ……!」

「チッ、ロナ!」

 

 地面を二度、三度と跳ね、大きくせき込むロナにあわてて駆け寄るジョウト。無事と伝えようとして、大きく吐血する。

 途端にグラリと意識が揺らぐ。滲む視界に、紅く染まっている自分の両手を見て、ロナはぞっと震えた。

 無意識に思考が恐怖に傾く。もう、動きたくなんか、ない。

 でも、死にたくは―――

 

 瞬間。自分の精神が薄まって来たのか、遠く、だが、都内での戦闘が分かるぐらいに『感覚』が敏感になっていく。

 

 その『感覚』で感じたのは、必死に誰かが『竜』と戦っている衝撃。

 

 その『竜』は強大で、戦っている人物たちは勝ち目があるのかと思いたいぐらいに、強い。

 

 でも、その人物たちは退かなかった。

 

 その中には、彼女もいた―――

 

『ごめん、でも、もう……嫌なの!!』

 

―――おい!? どこへ行くんだ!

 

 過去の救えなかった記憶が、流れ込んでいく。無意識に、ロナは立ち上がっていた。

 

 あんな思いも、もう―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 誰も救えない、そんなのは、嫌だ!!!

 

 

 

 

「……二人とも、数秒だけ、頑張ってくれ……!!」

 

 マナを集中。残りあるだけの、自分の戦闘には支障がないぐらいのマナをかき集め、二人の動きを『同調』できるぐらいのマナを形成。

 

「『無我を形成せし精命(マナフローター)』……! 受け取れ! 二人とも!!」

 

 それらを拡散させ、ヒカイとジョウトを援護させる。飛ばされたマナは二人に憑りつき、スゥ、っと吸い込まれていく。

 

「ありがたい。……いくぞ!!」

 

 ヒカイが大きく踏み込み、トリニトロへと一直線に向かう。その間にジョウトも同じくマナを具現化、キューブ状の物に変更させる。

 

「コード介入、frz……!!」

 

『TROY:アイス』。それをトリニトロに放り投げ、ハッキングを出来やすい状態にをさせる。それを見たヒカイは思いっきり踏み込んだ。

 

「動きを止めろ、『ハンマーヘッド』!!」

 

 トリニトロの一頭を片腕でつかみ、マナを込めた頭突きで怯ませる。先ほどの『崩伏連脚』のおかげでトリニトロの耐性はある程度薄まり、そして、強烈な一撃は相手の動きを止めるのには十分な攻撃となった。

 だが、これで終わらせるわけがない。勢いに乗ったヒカイはさらに、一度手を離して着地、大きく一歩を踏込、地面へ向かって拳を振り下ろす―――!

 

「痛みを裂け、『ランドクラッシャー』!!」

 

 地面に振動が走り、それに連結するかのようにマナもトリニトロに飛ばし、さらに突き上げる。

 今までたまった『D深度』がそのマナに応じるかのように弾けだし、内部からトリニトロを攻撃する。

 さらにそれに乗ったジョウトがハッキングを仕掛け、動きを一瞬だけ止めさせる。そしてマナをパソコンのマウス状に形成。

 

「コード改変、POW……!!」

 

 それを投げ飛ばし、弱体化を図る『ロストパワー.x』を炸裂させ、ロナを見る。

 

「……行けよ。もしトドメブッさせなかったとしても、仕掛けた『(トロイ)』が追撃してくれる」

「あぁ……! 終わらせる!!」

 

 ロナはジョウトに大きくうなずき、トリニトロを一直線に見る。ヒカイの『ハンマーヘッド』の効力がまだ続いているのを確認し、右手をトリニトロに合わせるように突き出す。

 マナを集中、ロナの全身からマナがあふれ出す。それを右手に溜める。

 ドクンと、身体が悲鳴を上げるように震え、頭痛も走ったが、ロナはそれを耐える。

 あれだけの援護をされて、自分が出来ないなんて、そんなの嫌だ。

 

「『集めし精命の呼応(コンセントレート)』、完了」

 

 さらに、目をつぶって自分のマナを右手に集中。集中させ過ぎたマナはロナの右手を凍らせようとして青いオーラがあふれ出す。

 だが、ロナはそれをうまく制御して、自身の手に込める。

 その間にトリニトロは活動を再開するように首を大きく動かし、そして、ロナを見据え、もう一度ブレスを仕掛けようとしたが、それよりも早く、ロナは目を開けて、敵を一直線に見る。

 

「集中せしはその冷徹、呼びかけに応じし者達よ、本来の力を映し出せ―――」

 

 左手を合わせ、発射するように標準を定め、腰を落とす。

 

 終わりだ、トリニトロ―――

 

「『冷徹なる氷の滅鎚(アイシクルエデン)限界点突破(リミットオーバー)』!!!」

 

 抑えきれなかったように、右手から氷が暴れ出し、敵へと一直線に突き進む。トリニトロもそれに応戦し、ブレスをぶつけたが、『ロストパワー.x』が響いたのか、氷を解かせず。

 氷刃が無数に、トリニトロの身体を貫いた。

 

「オ、オオオオ……」

 

 どちらかが雄叫びを挙げたのかは分からない。だが、そいつらは『消滅』した。

 

「…………っつう……」

 

 それを見た後、ロナは全身の緊張が解かれるように地面に倒れ込みかけた、が、ジョウトがそれを支える。ロナは少々弱っていたが、そこまで致命的、ではなさそうだ。

 

「は、はは、悪い、ジョウト」

「………お疲れ」

 

 珍しく、皮肉も飛ばさずにジョウトは素直にそう言った。そんなことは久しぶりに見たものだからロナは一瞬驚いた顔をしたものの、でも、「……そっちもな」と、ごまかすようにそう言った。

 そんな光景を見て、ヒカイはフッ、と笑い、二人に近づいた。

 

「……よくやった。流石だ。二人とも」

「へっ、一番お疲れなのはオッサンじゃねぇの?」

「なぁに、若い者たちにはまだ負けないさ」

「はは、こりゃ一本取られた。なぁ、ジョウ―――」

 

 ト、と呼びかけようとしたとき、ロナはゾワリとした感覚が襲った。

 ……そう言えば、あいつ、倒したのか……?

 

 そう思った直後、中央の赤いオブジェクトが光り出した。

 

「なっ……! いや、あれは……!!」

 

 アイツ……爆発させるつもりか……!?

 

 感動もつかの間、ジョウトもヒカイも声に気づいて中央を見る。

 ゴゴゴゴ、とまるで崩壊させようとする音がこのブレインルームを響かせる。

 

 逃げようにも、恐らくは、この工場全体を爆発させようとしている―――

 

 逃げ道は、なかった―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




トリニトロの説明こんなんでよかったのかな……。でも、どこからどう見ても泥団子にドラゴンの頭がある、と言う説明しかできない。
作者の文章力がよくわかる話だな(遠い目


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46Sz サヨナラ。大好き。

どうもです。今回でChapter4が終わります。

ロナの運命、そして、戦闘中の10班。そして―――

では、46Sz、どうぞ。


「ど、どうすんだよこれ……!」

 

 ロナは自分で立ち、未だ稼働しているトリニトロの、恐らく、『核』を見続けていた。

 止める、にしても強烈な熱気で『核』は守られており、銃弾を撃ったところでそれらは溶かされる、もしくは、余計に爆発の原因になってしまう、のどちらかだ。

 

「くっ……ここから逃げ切れるか……?」

「おいおいオッサン。珍しく弱音だな」

「その声……タケハヤか?」

 

 後ろからタケハヤが歩いてくる。どうやら、仲間はいない、単身で来たようだ。そして、状況を確認し、「ふぅん」と、つぶやく。

 

「……タケハヤ。逃げた方がいい。あいつは……!」

「それが、『正義の味方』なのかよ?」

「……だが」

「ま、見とけって……なぁっ!!」

 

 そう言って、なんとタケハヤは核へと走った。その光景にあわてて三人は止めようとするが、誰かが割り込んでそれを拒んだ。

 

「っ、フウヤ!? お前……!」

「アンタらの役目じゃねぇよあんなところに突っ込むのは。……そうだろ、ロナ」

「なっ、何を……」

「うおおおお!!!」

 

 言ってるんだ、との言葉を遮るようにタケハヤは大きく唸る。見ると、熱気をモノともせずに『核』に手を突っ込み、必死に引きはがそうとしているではないか。

 

「く、ううう……! 暴れるんじゃねぇ……! おとなしく……表出やがレェェ!!!」

 

 そして、タケハヤは『引きはがした』。トリニトロの心臓と思われる、赤く光る、半透明の球体を。

 それをタケハヤは力を入れて握り潰し、それを破壊した。

 

「はっ、俺にだって、正義の……味方……」

 

 その言葉が言い終わらないうちに、タケハヤは地面に倒れ、意識を失った。

 

「っ! タケハヤさんっ!!」

 

 フウヤは見たこともない焦りで急いでタケハヤの元へ行き、触れようとして、一瞬止まる。

 服は焦げ、皮膚には水ぶくれ、黒ずんだ痕、と、とてもではないが、触れたところでさらに傷を刺激してしまうのではないか? そう思うと、迂闊には触れることはできなかった。

 

「フウヤ、退いて。……『治療の奇跡(キュア)』」

 

 それを見たのか、だが、見ていなくても今のような行動に移っていたロナは『キュア』を起動して、なるべく傷を治していく。ただ、傷は治せても、火傷の痕などは退かせることはできないらしく、いくら当てても治らず、ロナは焦りを見せていた。

 そのロナの肩に、そっと触れた人物がいた。ヒカイだ。だが、それに振り向かずにロナは必死に傷を治そうとしていた。

 

「……ロナ。後は私に任せろ」

「でも!!」

「……やるべきことが、あるのではないか?」

「っ……!!」

 

 その言葉に、ロナは一瞬動きを止める。

 そうだ、今にも飛び出したい、この気持ち。でも、目の前の『英雄』を見捨てられなくて、目の前の人物を失いたくなくって。自分の意見と意見が同時にぶつかりあい、目の前の事を優先して。

 でも、それよりも強大な事があるのに、焦っていて。

 

「……タケハヤの治療は任せろ。……行って来い。だが、必ず、戻ってこい。無理だと思ったら先に都庁へ戻っても構わんさ」

「…………はい!」

 

 立ち上がり、後ろを振り向くロナ。さきほど意識が空になりかけたせいか、どことなく『感覚』が強大な敵との戦闘がされていることを告げていた。

 もう一度、タケハヤを見て、必死に願い、

 

 そして、歩き出し、すぐに、走り出した。

 

「…………」

 

 必死に走って、走って、走って。

 

 工場を抜け、砂漠を抜け、地下道を走る。

 

「……ケホッ、ケホッ」

 

 だが、地下道の半分ぐらいを走ったところで意識が朦朧とし、膝をついてしまう。連戦もいいところで、先ほどので大ダメージを受けた上にかなり出血した。

 また大きくせき込んで、何かを吐き出す。何かと思って見てみると、やはり、血だった。どうやら、予想以上にダメージが深いらしい。

 

「……止まってなんて……いられない」

 

 そうつぶやくと、無理やり立ち上がって、もう一度走り始める。先ほどよりかは遅い、だが、止まっているよりかはまだまし。

 自分に『キュア』をかけても、絶対に無意味。そんなことは、出来なかった。

 とにかく、走る。必死に、助けるために。

 

「………前にも、こんなことがあったな」

 

 ふと、思い出していた。思い出せないものの、どことなく、同じように、誰かを追いかけていた気がする。

 必死に走って、走って、走ったのに、手は届かずに―――

 

―――キキーッ!!

 

「っ!?」

 

 一瞬、車のブレーキ音が聞こえて急停止するロナ。だが、どこからどう見ても地下道で、明らかに車は来ていない。そもそも、こんな状況で車を走らせている人なんていないはず。

 となると、今のは幻聴、か。ロナは薄くなっていく思考でそう思った。

 

「……俺は……」

 

 二度と……

 

「……あんな思いはしたくない」

 

 そうつぶやいた後、ロナの走る速さがどことなく上がって来たかのように見えた―――

 

======東京タワー======

 

「っ……ハァ……ハァ……」

 

 一体何十分もの戦闘時間が経過したのだろうか。手が血まみれだったのにもかかわらず、服装はボロボロ、視界も紅く染まっている。

 そして、銃の一つは使い物にならなくなり、もう一方の銃はまだ使えるが、銃弾も枯渇し、体内のマナも限界点に到達していた。

 それは、隣のナガレも、アオイも同じ。自分でも他人でも分かるぐらいに血まみれで、生きているのが不思議なぐらいに。

 けれど、それがおかしいぐらいに敵はまだ力尽きていない。恐らくは、『帝竜』と同格、いや、それ以上かと思いたいぐらいに。そんな敵は10班の事を哀れだと言わんばかりに言葉を出した。

 

「やれやれ、しぶといわねぇ。いい加減、私の力にひれ伏したらどうかしら?」

「……そう行きたいんだけどね、『私』がそれを許さないの。……こんな悲劇を紡ぎ出した、あなたになんかに、許しはしない」

「ふ、く、くくく……あははははは!! 何よそれ! あなた何様よ? そうやって裁きを与えようとするのかしら? けど残念……そんなくだらないことはこの力の前にひれ伏すのよぉ!!」

 

 敵の触手がキカワに一直線に向かう。必死にキカワは足を動かそうとして、もつれ、倒れてしまう。それのおかげで避けることができ、その隙に生じてもう一度狙いを定め、連射。

 敵はそのまま空中に浮いてその弾を避ける。まるで、攻撃を、いや、敵をあざ笑うと思われる避け方だ。

 

「そう……この世界では、力が全て! 今この力を持って確信したわ……。そして、あなた達はこの力の実験台になってくれるありがたい存在」

 

 敵は笑いだし、だが、その笑いが収まると、キカワ、いや、『誰か』にも謝罪するような口調へと変わる。

 

「私、いくつか誤解していたわ。それだけは謝らないと。いつか、凡人は無価値だって言ってたわね。それは謝罪するわ……」

 

 そう、と敵は言葉を切り、声高らかに、さらに言った。

 

「無価値な凡人でもかき集めれば、神の領域の生贄になれたんだから……!!」

「……だから、あなたはこうして、犠牲を犯した……そうなのね」

 

 キカワはゆっくり立ち上がりながらも、敵に哀れみの目を向けながらそう言う。見向きもせずに、敵はゆっくり降下、首を横に振った。

 

「耳が遠かったのかしら……? 犠牲なんかじゃない、生贄、ってね……」

「生贄だと! ふざけるな! こんなの……ただの虐殺だ!!」

 

 ナガレが声を上げて抗議するが、血を吐き出して咳き込んでしまう。その様子が大変滑稽だったのか、敵は大きく笑った。そう。あざ笑うように。

 

「あははは……!! でもね。感謝しているのよ。あなた達……『仲間』に……ね」

「仲間……! 今のあなたじゃ、そんなの、裏切りよ!!」

 

 敵が言った言葉に、アオイは抗議し、マナを自分の腕に寄せ、『エナジーピラー』を起動。素早く撃ち飛ばす。が、敵は触手を振るってそれをはじく。

 

「……ねぇ、そこでまだ震えてるキリノ? 愚かで悲しいアナタに、最後の役目を与えるわ」

「っ!!」

 

 とっさに、ナガレはキリノをかばおうとするが、敵の触手がナガレを弾き飛ばす。

 

「ナガレさんっ!!」

 

 アオイはすぐにナガレに駆け寄る。キカワはいつでも射撃できるように、構えた。

 

「そうね。この私の『力』がいかに素晴らしく偉大なモノか、見届けるの。光栄な役目でしょ?」

「う、う……あ、あああ……」

「って、まだ震えてるのね……恥ずかしい子」

「待って」

 

 近づこうとした敵にキカワが狙いを定めて止める。大変不機嫌そうに敵はキカワを見た。

 

「それ以上何か動かして見なさい。……『私』が、『キカワさん』が、許さないわ」

「……うざっ」

 

 その言葉を聞いた途端。

 

 

 キカワの身体が上空へ吹き飛ばされた。空中制御の効かず、さらに連撃を叩き込まれる。

 殴られるたびに吐き出る、赤い血。そして、もてあそばれるように飛ばされていた。

 

「あはははは!! どうしたのよ! さっきまでの威勢はどうしたの!? この程度かしらぁ!?」

「やめろ!!!」

 

 誰かの怒声と同時に銃弾が、敵に向かって撃たれる。気づけずに敵はその攻撃を喰らう。動きを止め、そちらの方へ振り向く。同時に、キカワの身体が地面に激突する。

 

「……………」

「ふふ……あらあら。13班のお仲間たちはどうしたのかしら?」

 

「………

 

 

 

 

 

 

 

 うるせぇ……黙ってろよ………

 

 

 

 

 

 

 この……クソババァ!!!」

 

 

 

 

 分かっていた。コイツは、ナツメだということに。髪は逆立ち、目が四つになっているような顔、それなのに、一発でコイツはナツメだということに気づいた。

 

「……ナツメ? 誰の事かしら? ……我が名は『人竜ミヅチ』。新たなる神の名、覚えておきなさい」

「クソババァで十分だ……テメェなんか、クソババァで十分だ!!!」

 

 ロナは激昂した。この惨事、そして、この光景、間違いなく、ナツメ、いや、ミヅチだということに。

 辻褄は合う。今日いきなり半数以上が姿をけし、そして、マモノを難なく運べる存在はたった一人しかいないと言うことに。

 どうやってそそのかされたかは分からない、が、コイツだったら確実に怪しまれずに消失、いや、動かすことが可能だと言うことに。

 ミヅチは不愉快そうにロナを見て、哀れみの目で語る。

 

「……いけない子ね。……折角第二の人生を歩んでいるのに、そのお礼も言わないなんて」

「何……?」

「………実験体『418(ヨンイチハチ)』」

「……何言ってんだ」

「とぼけても無駄よ。折角、こうして管理していたって言うのにねぇ」

「うるせぇよ! 別にそれで騙そうなんて……あっ!?」

 

 と、ロナは突然言葉を区切って仰天した。

 ミヅチの足元。そこには小さな亡骸があった。

 そして、よく見ると、面影があった。そう―――

 

「……あの時の、子供……」

 

 ………無意識に、静かな怒りが腕を振るわした。マナも、体力も限界だと言うのに、そんな感覚すらも騙してしまうぐらいに、怒りが、こみ上げてくる。

 

「……この……クソババァがああああぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

 怒りに身を任せて突進。まるで音速かと思われるぐらいに一瞬にしてミヅチの零距離に到達し、殴りかかる―――

 

「あぁ……思い出したわ。あの時、殴ったわよね。ロナ、いや、実験体『418』。そのお礼も、しなくちゃね―――」

 

 怒りで我を忘れ、防御を無視したロナの腹部へと、ミヅチは思いっきり殴った。

 小柄なロナの身体が吹き飛ぶ。追い返されたロナは近くのビルと激突し、地面へと倒れる。

 意識が吹き飛び、一体何があったのかロナは分からなかった。意識がはっきりしたときには、ミヅチの攻撃準備が終わっていた。

 

 

 くそっ……動け、動いてくれ、(ロナ)……!!

 

 せめて一発……殴らなくちゃ……死ねない……!!!

 

 

 必死に、自身の力を振り絞って立ち上がろうとしたものの、完全に限界が来ていた。証拠に、全身の血が噴き出、衣服を汚し、髪の毛にすらも血がこびりついていた。

 貧血、枯渇。すべての条件を満たしてしまったロナには、もうなすすべもなかった。

 

「ち、ちくしょぉ………」

 

 泣いた。自分の情けなさ、限界と感じてしまった(ロナ)ロナ()に。

 

 触手が、一直線にロナに向かってくる。ロナはそれを凝視しただけで、何もできなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ズドンと、重い一撃が、『身体』を貫いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……あ、あぁ……」

 

 

 

 

 

 

 見てしまった。『最期』を。

 

 

 

 

 

 

 

 

「……あ……がっ……」

 

 

 血が噴き出る。限界の筈なのに、まだ、残っている。

 

 

 床にこびりつく。俺の足元にも降りかかった。

 

 

「……あ、あ……あ、あああ……あ、あああああああああ!!!」

 

 

 恐怖、怒り、悲しみ、絶望、憤り、嘆き。

 

 

 それらの感情を吐き出すように俺は叫んだ。

 

 

 泣き叫んだ。怒り叫んだ。苦しみ叫んだ。

 

 

 俺の目の前の―――

 

 

 

 

 

 

 

 

「ロナ………平気………?」

 

 

 

 

 

 

 

 そっと、血まみれで笑いかけた、キカワ……に。

 

 

 貫かれて、限界の筈なのに、キカワは笑っていた。

 

 

「えへへ……よかった。今度は……自分の意志で、やり遂げたんだ……だから……」

 

 

 

 キカワのマナが、呼応していく。自分の血肉と引き換えに―――。

 

 

 

「や、やめろ……やめてくれ!!! また、俺達を――――!!」

「あはは……そっか。……ごめん。結局、『キミ』に迷惑かけてばかりだね……」

 

 

 

 必死に手を伸ばす。でも、届かない。動かない。

 

 

 また………守れなかったのか………?

 

 

 俺は結局………『アイツ』を……『委員長』を…………守れなかったのか………?

 

 

 

 

「……でも、ロナ、いや、『キミ』なら……大丈夫。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

     サヨナラ。大好きだよ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 満面の笑みで、ロナ()に笑った。

 

 

 

 

 途端に、『委員長』を中心に爆発が巻き起こる。

 

 

 

 

 

『サクリファイス』。非常に凶悪な一撃は、自身の『人生』を引き換えにできる荒業。

 

 

 

 

 爆風の近くにいたのに、俺はなんともなかった。感覚が、なくなっていたからか、それとも―――

 

 

 

 

 

 

 

 『委員長』に、守られていたのか―――

 

 

 

 

 

 

 答えは、ロナ()の中にいる(記憶)しか、なかった―――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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Chapter5 想いは『強く』、心は『弱く』
47Sz 俺と幼馴染


どうもです。ついにChapter5に突入。前のは自分でも分かるぐらいにエグかったかな……。

あ、ちなみにChapter5は意外と早く終わるかもです。理由は……前の話参照。

それでは、Chapter5、47Sz、どうぞ。


「……手間を掛けさせて」

 

 ミヅチは自然の光しかともっていない東京タワーの屋上でそうつぶやいた。まるで、彼女の孤独を現しているかのようで。

 先ほどのキカワの『サクリファイス』により、彼女自身も大ダメージ。さらには煙のようなマナの奔流で視界が途絶え、晴れたころにはロナを含めた10班達が撤退していた。

 すべては、たった一人の女のせい。『生贄』になるはずの人物が、『犠牲』になってしまった。

 

「かわいそうに……でも、いいわ……」

 

 ゆっくり、ミヅチは手を掲げる。

 神の領域へと、手を伸ばすように。

 

 瞬間、呼応するように、東京タワーから音が響き、水あめのように鉄がゆがみ、天へと伸びていく。

 自身が、神だと証明するためか、それとも―――

 

 

=====数分前=====

 

 

「……来たぜ。オッサン」

「あぁ」

 

 ヒカイとジョウトはずっとロナと10班たちの帰還を待っていた。

 通信は効かず、こちらの消費も少しばかりきつく、それ以前に港区のどこかとは言われていないのでただ待っていただけだ。

 そして、日が傾きかける時間に、ようやく車が、急いで戻ってき、ほっとしたジョウトだが、ヒカイはまだ緊張の顔がにじんでいた。

 車が止まり、急いでヒカイは近づき、扉を開ける前に、運転席からナガレが転がるように飛び出る。

 

「はぁ……はぁ……くっ……」

「……ひどい怪我だ……、ジョウト! 急いで医療班を呼んで来い!」

「あ、あぁ!!」

 

 ジョウトは走って医療班を呼びに行く。その間にヒカイは扉をほぼ強引に開け、中を見る。

 

「っ、ヒカイさん! センパイが……!!」

「これは……なんていうことだ……!」

 

 焦った表情でヒカイはロナを見た。

 すでに衣服はボロボロ。出血は酷く、生きているのかと思いたいぐらいの外傷で、絶望した。

 だが、ヒカイは必死に、動かないロナの手を握り、祈った。

 

「頼む……あと少しの辛抱だ……」

 

 

============

 

 

 扉を開ける。中は静まり返っていて、たった一人しかいなかった。

 

「……あぁ、いたのか、つか、一人しかいないのな。『委員長』」

「あ、うん。ちょっと、ね」

 

 小さな、教室半分の部屋に長い机が二個置かれており、壁などにはトロフィーや学校の広告などが貼られている。やっぱり『委員長』がいたのは生徒会室のようだ。

 そこに、手紙を広げ、読んでいた『委員長』を見つけ、呼びかけた『俺』。

 

「つか、案の出しあいって、明日って言ってなかったっけ?」

「そうなんだけどね、ほら、下調べとか大事よね。そうすれば、自分の意見とか……」

「そう言いつつ、クラスのアトラクションも考えていたんだろ」

「……正解」

 

 困ったように『委員長』は笑う。……コイツ、小学校とあんまし変わらないな。『俺』はその辺の椅子に座って手紙を一つとる。内容は、『中止を要請する』と、明らかに我儘な意見だった。

 まぁ、手紙、っつっても、どうやら数は少ない。……あぁ、スローガン、ってか? もう一つの手紙を取って見て、『俺』はそう思った。

 

「あ、これ」

「何だよ?」

 

 そう思って『俺』は『委員長』の横から手紙を見る。スローガン……って、俺の字じゃん!? うわ、恥っず! 俺はあわてて手紙を奪い取り、どこかに投げ捨てた。いや、なんか、恥ずかしいし!

 

「あははっ。変わってないね」

「る、るっせー。自分のが読まれるとは思われるとは思えなかったんだよ」

 

 自分でも分かるぐらいに赤面してたし、『委員長』は笑ってた。くっそ、マジで恥ずい。思い立ったら吉日とかなんとかで、思いついたヤツ書いてみたらまさか読まれるとは思えなかったぞ。

 チクショウ。そう思いつつ立ち上がり、『俺』はさっき投げ捨てた手紙を拾った。ちょっとクシャクシャで、今の『俺』を沸騰させる。

 

「……ま、その、なんだ」

 

 『俺』は手紙のシワを直しつつ、『委員長』に言った。

 

「その、一人で頑張ってる、よな、『委員長』」

 

 何言いだしてんだよ『俺』。でも、今更退く理由も、聞く奴もいないし、少々ヤケクソ気味に言った。

 

「……だから、その、だから、お前独りで抱え込もうとするなって。メンドくなったら、俺を手伝いに呼んでくれよ?」

 

 あぁもう何言ってんだか『俺』。恥ずかしすぎてもう分からないよ。

 それを笑ってるのか、嬉しいのか分からないけど、『委員長』はクスリと笑って、言った。

 

「うん、わかった。ありがと―――」

 

 うわ、やめろ。『俺』はあわてて目を逸らしつつも、言葉を遮る。

 

「バーカ。ぶっちゃけ長い付き合いだし、それに、俺らって友達だろ? 違うか?」

「―――中学時代はあまり会わなかったけどね」

「るっせーな。友達っつう存在は時間なんて関係ないんだよ」

 

 チクショウ、何言いだしているんだよ『俺』は。なんだかもう、めちゃくちゃすぎて、恥ずかしくなって、部屋を出る。

 ……ま、生徒会室が『委員長』一人なら迷惑にはならないよな。実は『俺』はそれを確認しに来ただけだったりするんだけどな。

 『俺』と『委員長』はなんだかんだ言って、幼稚園のころから知り合いで、小学校も六年間中、四年間一緒で、よくしゃべっていた。流石に中学となると、それぞれの中学校の近いところが違くてあんまり話さなかったけど、まさか高校に入って感動の再会をしてしまうなんてな。

 ちなみに『俺』が『委員長』って呼んでるのは、ただ単に小学校の頃はよく『委員長』ポジを任されていたから、『俺』はそれが浸透して来ているのでそう呼んでいた。

 

―――のちに本当の理由を知るんだけどな。

 

 そんな回想をしつつ、『俺』らの部室に戻ってきた。部室は、使われなくなった教室に―――

 

「よーっす。そっちはどう?」

「あ、『部長』。『委員長』一人しかいなかったんで、大丈夫かと思いまスよ」

 

 俺は『部長』にそう告げる。うんうん、と『部長』はうなずいた。そして、物を持ってスタンバイ。

 

「よっし! じゃあ、文化祭まで後少し、ガンバローオー!!」

「オー!!」

 

 

 

 文化祭当日。

 あいにくの雨だったけど、本番は成功。クラスの出し物も受けがよくって一応盛り上がってる。

 そんな中なのに、『俺』は一回目の本番を終えた後、また生徒会室に寄っていた。どうしても感想聞きたくてな。

 で、案の定いた。独りぼっちで。

 

「……よっ、『委員長』。なんだよせっかく盛り上がってるのにこんなところにいて」

「…」

「で、どうだった? 『俺』達の演奏は?」

 

 俺は感想を聞きたくなって『委員長』に近づいて―――

 

 泣いていることに気づいた。

 

「……え? 『委員長』……?」

 

 最初は、ただ単に感動しただけだと『思っていた』

 

 そして、だんだんと『思いたかった』に変わっていく。

 

「……うん。よかったよ……でも、でも……!」

 

 『委員長』はゆっくりと立ち上がる。その顔に、何処か怒りもあった気がする。

 訳が分からない。どうしてそんなことを思ってしまうのか。そんな状態なのに、それ以上に『俺』は自分の頭が理解できていなかった。

 

「ごめん、でも、もう……嫌なの!!」

 

 途端に、『委員長』は生徒会室を飛び出した。

 

「えっ……どういうこと……って、おい!?どこへ行くんだ!」

 

 反応が遅れたけど、『俺』もあわてて追いかける。自分の心がゾワリとする感覚が、同時に出ていた。

 

 人ごみにぶつかる。思わずしりもちをついてしまうものの、すぐに立ち上がって走る。

 どこいった?

 昇降口まで走って行った『俺』は辺りを見渡して、すぐに見つける。

 

 外へと走って行く『委員長』を。

 

「待てよ!?」

 

 『俺』は必死に叫びながら、『委員長』を上履きのまま走って追いかける。

 分かっている。『俺』と『委員長』の脚力だったら追いつくって。

 

 

 でも、違った。

 

 

 

 

 

―――キキーッ!!

 

 

 

 

「あっ!?」

 

 

 

 

―――ドンッ!!

 

 

 

 

 『委員長』の身体が吹き飛ばされる。

―――キカワさんの身体が、貫かれる。

 

 『俺』は慌てて駆け寄る。

―――俺は必死に手を伸ばす。

 

 

「お、おい! おい! しっかりしろ!! おい――――! おい!!」

 

 『俺』は『委員長』の名前を必死に呼ぶ。黙ったまま目をつぶっている『委員長』を起こしたくって、必死に。

 ひどい出血で、ゆすって起こしたら大変なことになるって、頭が真っ白になっているのにそう思って、せめて雨から護ろうとして身体を持ち上げて『俺』の背で雨を防いで、でも、『委員長』の顔は雨で、濡らしていく。

 

「……ッ―――――――!!!!!」

 

 叫んだ。雨の中、必死に。

 

 まだ死んではいない。死んで、そのままにできるものか。

 

 

 

 

 

 でも、結局、『委員長』の意識は、戻らなかった。

 

 

 

 

 

 

 結局、二回も、『委員長』を、助けることは、出来なかったんだ―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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48Sz 君は誰?

今回はかなり早くChapter5終わっちゃいそうですね……。

前置きも思い浮かばず、48Sz、どうぞ。

(2020/12/30)話の内容を大幅に変更。


『……実験体『418』。』

 

 

 

 俺の、『なまえ』を誰かに呼ばれた。

 

 

 

『……容態はまだ安定せず、か』

 

 

 

 暗い中で誰かが『おれ』を見ていた。

 

 

 

『……これは、――――――。……一応、順調ですね』

 

『そう。……ありがとう』

 

 

 

 誰かが誰かにお礼を言う。誰と、話しているんだ?

 

 

 

 また意識が急速に深く沈んでいく。先ほどの声も、聞こえなくなっていた。

 

 

 

 

―――意識が呼び掛ける。

 

「ここは……?」

 

―――辺りを見渡す。白で塗りつぶされた空間。

 

「………なんだよここ」

 

 

 おーい

 

「……誰だ?」

 

 誰でしょうか?

 

「……ジョウト?」

 

 違う。

 

「ヒカイさん?」

 

 違う。

 

「キリノ?」

 

 違う。

 

「………リン? アオイ?」

 

 違う違う。

 

「……ナガレさん? それとも………」

 

 違う。それとも?

 

「……いや、違う、よな。じゃあ、誰だ?」

 

 私。

 

「……は?」

 

 私。

 

「誰なのか分からないのに自分でも分からないのかよ……」

 

 じゃあ質問。

 

「話聞けよ……」

 

 どっちへ行く?

 

「は?」

 

 だからどっちへ行く?

 

「………どういう意味?」

 

 言葉通りの意味。

 

「……あのさぁ。道、ないんだけど。正気か?」

 

 本気。

 

「………」

 

 君の本心を知りたい。

 

「……進みたくない」

 

 何で?

 

「だって、俺が進んだ道って全部間違ってたじゃないか」

 

 何で間違いだって言うの?

 

「間違いに決まってるだろ。全部。だから俺自身で選びたくない。全部間違ってるんだよ」

 

 どういうこと?

 

「こっちが君の正体を知りたいのに聞き返すか? ……とにかく、俺は、動きたくない」

 

 いいの?

 

「だって……もし俺がそっちを進むって言ったら、きっと……犠牲にならずに済んだのに」

 

 それは……そうだけど。

 

「じゃあこれが正しいんだよ。俺なんかいなくたって、誰かがきっとやってくれ―――」

 

―――空間が、急速に離れていく

 

「……そういうことだよ」

 

 ……そっか。

 

「……いいんだ。これで」

 

 じゃあ、助けなきゃよかった

 

「……?」

 

 ナガレさんもアオイちゃんも、キリノさんも助けなきゃよかった

 そうすれば君はそんなこと言わないですんだからね

 

「……それ、は……」

 

―――声が離れていく

 

 やり直せるならやり直すよ

 みんなが贄になってくれるように動く

 

「……」

 

 君がいなくてもいいんだ

 私がやれたはずのことだから

 おやすみ

 

 

 

 

「違うよ」

 

 何が違うの?

 

「……君は死んだ?」

 

 ………答えたくない。

 

「じゃあ死んでること前提で話を進める。……本心としては、誰も失わずに生きて帰ってきてほしかった」

 

 それは……。

 

「でも………その時の状況なら、それ自体を受け入れなくちゃいけない。だから……変な話になるけど、助けてくれてありがとう。でも……」

 

 ごめん。

 

「いや、いいんだ………本当は覚悟してたはずだから」

 

 そっか。

 

―――意識が戻っていく。

―――最後に、伝えなくちゃいけない。

 

 ……しっかり、『あなた』は前に進もうとしてくれるんだね。

 だったら、お願い。

 

「どうした?」

 

 きっと『あなた』がこの物語(はなし)を最後まで見届ける必要があるんだと思う。

 だから、必ず、最後までいてほしい。

 

「………分かった」

 

 それじゃ……ね。

 

―――言うんだ。

 

「待ってくれ!」

 

 ?

 

「………君は、誰だ?」

 

 

 

 

 

 

―――声は答えない。

 

―――声のしたあたりから、知っている面影が重なる。

 

―――委員長、キカワさん

 

―――面影か重なって、笑みとなる。

 

 

 

 バイバイ。

 

 

 

―――その声で、もう会えないことを自覚した。

 

―――その声で、今度こそ受け入れた。

 

 

 

「……ごめん、委員長(キカワさん)。二度も助けられなくて」

 

 

 

―――意識が、落ちる。空間が消える。声もなくなる。

 

―――意識が、確実に『物語』を再開しようと目覚め始めようとしていた。

 

 

 

 

 

 大丈夫。君とまた出会えたことで、私は救われたから。



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49Sz 俺達。

どうもです。ついに自分も休みが終わりそうです。鬱い。

しばらくは気まぐれローテーションで話を書こうかな、とは思っています。艦これも艦これでそこそこ人気ですし、この小説は初めて評価ゲージ(命名・自分)がついた作品でもありますし。

では、49Sz、どうぞー。


 意識が引き戻された。

 

「………」

 

 何か妙に長い夢を見ていた気がする。ただそれで、少しだけ思い出せたことがある。

 ……でもそれは、思い出したくない思い出でもあった。

 

「………ここは?」

 

 誰もいないはずの空間で俺は呟きながら辺りを見渡す。白い天井に仕切りのカーテン。どうやら医務室らしい。

 目は何とか動いたけど、身体は上手く動かせなかった。まるで麻酔かけられてたように、身体に感覚が全然ないというか。

 それでも五感は何とか働いていた。コツコツという音とか、誰かが入ってきた音とかは何とか入る。それでも詳しくは知らない。

 それに………俺は一体いつまで寝てた?

 みんなは、どこだ?

 

「センパイ……?」

 

 この声は……えっと、アオイ……アオイ!!?

 

「え、アオイ!? 何でいるん……痛っ!」

 

 慌てて跳ね起きたものだから全身が悲鳴を上げる。心配になったアオイが慌てて俺を支える。

 ……待てよ。何で俺、アオイがいたことに驚いているんだ?

 てかそもそもここ、どこだ……いや待て。普通に考えて都庁……だよな?

 

「センパイちょっと無茶しすぎですよ! もし傷口が開いたらどうするんですか!」

 

 アオイが叫ぶように俺にそういう。顔近い状態で言われたものだから俺はその声の大きさに思わず顔をしかめる。アオイは構わず続ける。

 

「いいですかセンパイ! 無茶しすぎてまた動けなくなったらどうするんですか! どれだけ心配かけたと思ってるんですか!」

「いやゴメン、俺が悪かったから……」

 

 俺はアオイの肩を押してからベッドに自分の身体を沈める。柔らかいとか硬いとか、良く言えない感覚がゆっくり押し寄せる。思わずそれで俺は本題を忘れかけるところだった。

 

「待てアオイ。今どんな状況だよ? とにかくそれは確認しないと……」

「……えぇっと」

「何で言い淀むんだそこで……」

 

 それって俺に言えないほどやばいことなのか? だったら猶更寝ていられない。沈ませていた身体を腕の力で押し上げて聞きに行こうとして……またアオイに止められた。

 

「……何で止めるんだよアオイ」

「今は、大丈夫ですから」

「それじゃ答えになってない。俺が今知りたいのは今の状況なんだ」

 

 今の、状況。

 その言葉に俺ははっとする。そうだ、キカワさんは!? ナツメは!? あそこにいた人全員どうなったんだ!?

 思わず身体が動こうとして、動きが止まる。

 でもそれは傷が怖いから、とかじゃない。

 アオイに止められていたからだ。

 

「……これ聞いたら十分ですか?」

 

 表情がよく分からない。何か怒ってるようにも、今にも泣きそうにも見えて。

 

「センパイ、返事」

「…………それは、状況次第だ」

「それじゃ教えられません!」

 

 またアオイに怒鳴られる。何でそこまで怒るんだ。逆にこっちが怒りたい。

 

 でも……俺は何となくだけど、アオイが意味なく怒るような人格じゃないことは知っている。

 そしてその怒りはきっと、感情がよく分からないから、だからじゃないかって。

 

「……分かった。聞く。聞いて大人しくしてる」

「センパイ……」

「けどアオイ。まずはお前の話から聞きたい。何で俺に対してそこまで怒るんだよ?」

 

 アオイがびっくりしたような表情になる。そんなに怒っていたのか? と言わんばかりに。いや怒ってたよ。結構。

 ふと横目で遠くを見てみる。ナースが二人、こちらを見ている。まぁここ、医務室だから騒ぐな、って言いたいんだろうな。でも今の時間帯は大目に見てください。

 視線をアオイに戻す。何故怒っていたのか。上手く言えないようだ。その間に俺は……。

 

 

 俺は……どうしたい?

 

 ……怖い。

 

 

 突然脳裏によみがえった光景。最後にはっきり覚えているのは―――。

 

 

 ……何となくだけど分かってしまった。キカワさんは―――

 

 もし、俺が「微弱な反応」に向かうと言ってたら……こんなことには。

 

「だって……」

 

 アオイのか細い声が耳に入る。今まで自分の両手に向けられていた視線をアオイに向ける。

 

「だって……これ以上誰もいなくなってほしくなんですよ」

 

 声が震えている。その言葉に、俺は視線を閉じ、自分の胸に触れる。俺自身の心も、震えていた。

 そりゃ、俺だってそうだよ。誰もいなくなってほしくない。

 それは俺のせいなんだ。俺が……あの時……。

 

――――――違う。

 

――――――いつまでも自分がこうしていればって唱えてても戻ってこない。

 

――――――受け入れなきゃいけない。

 

 次の言葉が、一度空気になって消える。もう一度、息を整えてから俺が言う。

 

「……そりゃそうだよ。誰も目の前でいなくなってほしくない」

 

 一度途切れた言葉を、もう一度続ける。

 

「でも、だからだよ。だから……俺は今の状況を知るべきだと思う。こんなところで、寝てられない」

 

 ……そうなんだ。俺が知るべきなんだ。

 

 

 

 

 …………でも。俺には分かる。『怖い』。俺自身がそういっていた。

 

 誰かに任せたい。何も関わりたくない。今までの事をなかったことにしたい。

 

 今の俺が、そう望んでいることなんだ。その言葉に嘘をつきたくない。

 

 だけど……だけど!

 

 

 

 

 

「……約束したんだよ」

 

 言葉となって出る。悔しくなって、認めたくないけど、俺は泣いていた。

 約束したんだ。俺が最後まで見届けるって。

 

 くだらない約束してしまった。って『俺』がそういっている。

 

 新たな約束や目的が出来た。って『ロナ』がそういっている。

 

 『俺』は、だめなんだ。

 『ロナ』は、頑張っているんだ。

 

 だから『俺』は『ロナ』にならなくちゃいけないんだ。

 

 

 

 約束したから。

 

 

 

 上手く言葉に出来ず、それ以上は言葉が出てこなかった。

 そんな感じだったけど。アオイは気づいてくれたのか暫く無言になっていた。

 

 ………はぁ。ダサいな本当に。俺男だろ? なのにアオイが俺に気を遣うとか。

 ………これじゃ、「何で俺が女になってんだよ」って理由がはっきりしているみたいじゃないか。

 

 そんな自分に自嘲して。息をついてから再度聞く。

 

「教えてくれないか? 勿論いきなり飛び出したりはしない。ちゃんと聞くから」

「………分かりました」

 

 すごく安堵しきったような表情で、アオイは頷く。

 

 そして俺はアオイからいろんなことを聞いた。具体的にはこんな感じだ。

 

 まず一つ。『東京タワーはいびつな形になってしまったこと』。

 現在は自衛隊の皆さんが現地に赴いているかもしれない人達の救助を担っているらしい。これについては、生き残りがいることを祈るばかりだな……。

 

 次に一つ。『都庁の人達は焦りを見せていること』。

 ミヅチ(クソババァ)のせいで人々は俺達ムラクモに疑い、もしくは非難の目を向けてるらしい。それは確かに当たり前の反応だよな……。挙句に変な宗教団体まで出来上がる始末らしい。しかもそれだけではない。昨日ヒカイさん達がタケハヤさん達を都庁に連れてきたせいでさらにその目は加速している。ただ、こればかりは仕方ないと思う。そりゃ、俺達ムラクモは人命救助が主だもんな。

 

 さらに一つ。『渋谷に帝竜反応が存在していること』。

 俺も最初は信じられなかった。まさか、今までなかったはずの帝竜反応がここにきてやってくるとは思えなかった。それだけじゃない。ミヅチ(クソババァ)が勝手に目覚めさせたらしい。くそっ、余計な事しやがって……!

 

 最後に一つ。『現在はヒカイさんとジョウトがSKYとナガレさんと連携を組んで渋谷の帝竜を討伐しにかかってること』。

 タケハヤさんは怪我が危険だったけど、周囲の反対(だいたいナースだけ。他の人は見向きもしなかった)を押し切って渋谷に向かっている。

 

 で、なんでアオイがココにいるかと言うと、俺が心配でここに残ることにしたらしい。そこは素直にお礼を言わなくちゃな。

 

「……ありがとな。アオイ」

「いえ。センパイは無茶をする人、と言われてましたからね」

 

 一通り今の状況を聞いた俺は、頭の中を整理した。いっぺんに話されて少々追いつかなかったものの、なんとか上に挙げた通りの簡略的な事はまとめられた。

 それでも俺は飛び出さなかった。理由としては―――

 

「……センパイ。どうですか?」

「……うん。大丈夫そう」

 

 アオイがさらに傷の手当てをしてくれたからだ。見事にナースの目を盗んで傷をさらに出来るだけふさいでくれた。……本当に、感謝したくてもしきれない。

 アオイはふふっ、と笑って、すぐに俺を真剣な表情で見た。

 

「……センパイ。……念のため(・・・・)聞きますけど、……行くんですか?」

「……うん」

 

 俺はゆっくりうなずいた。

 どうしても、やらなくちゃいけない。

 

「……怒られるかもしんないけどさ。やっぱ寝たままで、まかせっきりはだめだよ」

 

 いつの間にか、『俺』はそんな風に整理できていた。

 腕はまだ震えていたし、まだ恐怖は残っている。こう言ってしまえば、試験の時と同じだ。

 でも、今の状態じゃ、それで立ち止まってはいられなかった。

 ふと、あの時言われた言葉を、復唱して見る。

 

「………死にたくない、と思っているからふさぎ込んでしまう。だから、『生きたい』と思って、前を歩くしか方法はない」

 

 そう復唱して、『俺達』の違いが改めてよくわかった気がした。

 

 『俺』は死にたくないと思っていた。

 『ロナ』は生きたいと思っていた。

 

 ……はは、ホント、ださいな俺。

 

 その言葉を聞いたのか、アオイは黙って立ち上がり、そして小声で「本当に待ってくださいね」とだけ聞いて、俺は素直に待った。

 そして一分ぐらいした後、アオイが静かに戻ってきた。カバンを持って。

 

「……分かりました」

「何が?」

「センパイがそう思うなら、私もそれを手伝おうと思います」

 

 そう言いながら、アオイはバックの中から衣服を取り出した。

 

「あっ……」

 

 その服を見て、俺は声を上げた。

 いつも着ている服一式プラスニット帽、さらに苦無と銃の装備一式だ。でも、服はどことなく新品な気がする。

 俺が驚いたのを見てか、アオイはクスクスと笑い出した。

 

「実はこの服、ジョウトが縫ってくれたんですよ。一部をわざわざ新調して」

「ジョウトが?」

「本当は、『あのアホ娘の傷が完全に治るまでは絶対に持ち出すんじゃねぇぞ!』って言ってて」

「……それジョウトのモノマネか。似てないなぁ」

 

 俺も思わず笑ってしまう。……やっべぇ。その光景が簡単に思い浮かんでしまう。

 しかもわざわざそんなこと言って、分かりやすいこと言い出すもんだな。……心配、かけちまったかな。……後で謝っとかないと。

 

「あっ! それと、これも!」

「ん?」

 

 そう言ってアオイは自分のポーチから…………

 

 なんと! チョコバーが9本も出てきたではないか!

 いや、いくらなんでも多すぎだろ!? 俺は心の中で盛大にツッコミつつ、ちゃっかり受け取っていた。……そりゃ、腹も減ってたしな。何か食える物は素直に受け取っとかないと、行ってる間に倒れそうだしな。

 

「本当はこれ、補給部隊の人達からセンパイに渡すように、って言っていたんですけど、それどころではなかったですからね」

 

 そうアオイが言った途端、俺の脳裏にフラッシュバックが起こった。

 

 あの時と同じ、三人称視点。四角の小包に、手紙。

 差出人は、『アオイ』。

 その文字を見て、『俺』はなんか泣きそうになった……気がする。

 

 ……なんだろうな、一体。……いや、今は……いいか。

 

 一通り受け取った俺を見て、アオイは笑った。不思議と俺も笑顔を作る。

 そして、アオイは俺に耳打ちしながら言った。

 

「……ではセンパイ。いいですか?(ゴニョゴニョ」

「――――――分かった。ありがとう」

「礼にはおよびませんよ。……いいですか。……必ず帰ってきてくださいよ!」

 

 そう俺に小声でつぶやき、俺はこっそり、ベッドの下へ隠れる。

 そして―――

 

 ガチャン。

 

「あ、あー!? センパイ飛び出さないでくださいよー!?」

 

 と、典型的でスッゲー引っかかりにくそうな(オマケに棒読みつき)のアオイがバタバタと病室を抜け出す。それに合わせてか、ナース二人もバタバタ駆け出していなくなる。囮なのに。

 素早くベッドから出るとさっさと着替える。

 

 ……うん。自分の身体を見るのは普通に恥ずかしいからものすごい速さで。

 

 

======しばらくお待ちください======

 

 

 

 完全に俺は赤面になりながらも都庁を抜け出す。

 

 ……もう抜けてしまえばこっちのものだ。なるべく急いで都庁から離れ、渋谷へと急ぐ。

 もう、だれも失いたくない。この気持ちは、『俺』も、『ロナ』も一緒だ。

 

 これ以上、誰か失うなんて、もう、嫌だ。

 

 理屈でもかまわない。犠牲なくちゃこの世界は存在できない。そんなの、俺は分かってる。

 

 でももう、これ以上ない犠牲が出たんだ。もう、犠牲なんて出させたくないんだ。

 

 綺麗事なのは分かってる。でも、綺麗事でいい。そうしなきゃ、いろんなものを見失いそうだから。

 

 一本のチョコバーを取り出し、袋を破って食べ始める。空腹が少しずつなくなっていく。その味に、どことなくアオイの思いが宿っている気がする。

 

 ……よし。一本食べたらなんか頭もスッキリしてきた。そんな頭で―――

 

 『俺達』は、必死に前へと進んでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




9/1追記。
「あ」と思ったところがあったのでアオイとロナの絡みを増加。
特にあのアイテムには印象深い人もいたのでは?

12/30追記
話を(前半部分を)大幅に変更。


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50Sz 共闘のうた

Q 今まで何をしてた! 言え!
A サボってました。

……はい。ガチな方でサボってました。すみません。

Ⅲのシステム見て、「あ、どんなに9人PTにしようとあがこうがダブるのか!?」と思った所存です。……き、きっとサプライズ職があるに違いない!! ほ、ほら、ファイターとか、プリンセスとか、アイドルとか……。見た限りオーダー系いないし!

まぁ、雑談はこれまでに、ついに! 100まであと半分の(100話までいくかなぁ?)50Sz、どうぞ!


「……来たなァ」

 

 渋谷交差点前。

 タケハヤが剣を構え、飛んできた帝竜をにらんでいた。

 ヘビのような長身、蝶のような翼、獰猛な爪。

 

 帝竜、スリーピーホロウ―――

 

 彼……否。彼らにとっては、目の敵。

 渋谷をこんなにしたまでの、元凶―――。

 

=====数十分前=====

 

「―――つーわけで、俺らSKYの連中であの帝竜を見つける。んで、お前らにはそれの手伝いをしてもらうぜ」

「……いいのか?」

 

 最初にロナ達とタケハヤ達と出会った場所で、タケハヤは作戦を立てていた。

 そこにはSKYの他、ヒカイ、ジョウト、そして、ナガレがいた。

 

「あぁ。……こうでもしとかねェと、アイツはいくらでも、俺達の住処を荒らすつもりだ。……止めたって無駄だぜ。オッサン」

「……分かってる。……最適な作戦はそれしかあるまい」

「オッサン……」

 

 ジョウトはいつも以上に真剣なヒカイを見て、だが、それだけでタケハヤを見た。

 

「……で、とにかくアンタらは足止め、ってとこか。……いいのかよ」

「あぁ構わねェさ。つか、そうでもしないと落ち着かねェ」

「待ってください」

 

 ナガレは一歩出て、タケハヤを見た。

 

「その、僕も付き添ってもいいですか?」

「ナガレ隊長?」

「……僕も、役に立ちたいんだ」

 

 ナガレは一直線にタケハヤに志願する。タケハヤは黙り、目をつぶり、口を開けた。

 

「……好きにしとけ」

「ありがとう。……そういうわけだ。ごめん。13班」

「……いや、構わん」

 

 ヒカイはそう述べ、ナガレとタケハヤはうなずきあった。

 

「よっし、んじゃ、作戦通りだ。俺達SKYとコイツで帝竜を探って足止めする。そして13班……ロナはいねェが、そいつらにゃ、急いで合流して叩いてもらう。……以上だ。行くぜ!!」

 

==========

 

「……ま、さすがに4人とはいえ、腐っても帝竜だ。こいつは逃げ回ってるから仕留められねぇと思ったが……まさか読み通りになるなんてよぉ……!」

 

 タケハヤは、獲物を見つけた帝竜が一直線に向かってきたのを確認して、もう一度、剣を構える。

 

「ハァッ!!」

 

 一直線にタケハヤは飛び、斬りつける。臨戦態勢に移っていた帝竜にとってはかすり傷程度なのか、怯んだようすはない。

 だが、タケハヤはまだ続ける。空中にいるままに素早く身体を動かしてさらに一発。

 手ごたえあり。肉を斬るような感覚が剣から伝わってくる。

 着地し、さらにもう一撃見舞うようにすぐに飛ぶ。その勢いを利用して斬り上げ、さらに勢いに乗って帝竜の頭までさらに飛ぶ。

 

「オラッ、この程度かぁ!!」

 

 そこから急降下でもするように叩きつけ、着地と決め、一度距離を離す。

 

「キョオオオ………」

 

 帝竜が小さく唸る。まだ足りないか、とタケハヤは口の中でつぶやいた。

 一応、連戦はしたはずとはいえ、かなりダメージは負っているはずだ。なのにもかかわらず、怯んだ様子も見受けられない。

 

「腐っても帝竜……か」

 

 一直線に突っ込んでくる帝竜を見定めながらも、もう一度剣を握りしめ、同じく突撃する。

 

「だがな……! 俺の仲間たちを汚した罪は重いんだよぉッ!!!」

 

 吼える。

 帝竜からの攻撃。右の爪を大きく、タケハヤに振り下ろす。見切ったタケハヤは身体を低くして避けつつ、さらに懐へ。

 

「キョオオオオ!」

 

 しかし、帝竜は吼えると一度空中へ離脱。その場で羽ばたき、特殊な鱗粉を降らせる。

 

「ッ、チィ……ッ!!」

 

 袖で口を抑えつつも後退するタケハヤ。

 だが、少なからず傷に入ったのか、片膝をついてしまう。どことなく、めまいもする。

 

 その隙に生じて、帝竜はまた離脱しようとタケハヤに背を向ける。

 

「逃が……すかァァ!!」

 

 そう言いながらタケハヤは、近くにあった、張った縄を切る。

 この今の地形を利用した、ワナだ。

 限界まで曲がっていた一本の木が連動して、元の形に急激に戻る。そして、その木の幹にあった大き目のガレキが吹き飛ばされる。

 

 ドンピシャ。

 

 高速で打ち出された特製ワナは帝竜の羽へ直撃。急な攻撃に帝竜はバランスを崩し、一度地面に激突する。

 その隙をタケハヤは逃がさず、剣の先を地面に当て、引きずるような体勢で一気に接近する。

 熱が伝わる。その熱を自身のマナに利用。

 

「グランド……バスタァァァー!!!」

 

 剣を滑らすように一閃する『グランドバスター』を繰り出し、敵の後ろ側へ。

 だが、これでタケハヤは終わらすわけがない。ダウン状態の今だからこそ、さらに連撃を喰らわせる必要がある。

 理由なんてたったの一つ。「腹いせ」だ。

 もう一度飛び上がる。剣を背負うような特殊な構えを取り、そのまま高速で回転しながら帝竜へ。

 

「ファング……ブレードッ!!」

 

 その勢いを利用した一撃を加える。反動でタケハヤは大きく飛び上がり、着地。

 

「キョオオオオオ!!!!」

 

 怒り狂ったスリーピーホロウは無造作に鱗粉をまき散らす。タケハヤは離れようとするが、それより早く毒性のある鱗粉が流れ込み、膝をついてしまう。

 

「く、くそっ……」

「タケハヤ……!」

「っ、アイテルか!」

 

 突然後ろから声をかけられ、タケハヤは思わず振り返る。

 その隙に生じ、帝竜は素早く飛翔、タケハヤに襲い掛かるも、寸でのところで受け止め、はじく。帝竜を睨み付けつつも、タケハヤはアイテルに叫ぶ。

 

「アイテル! 逃げろ!」

「ううん………タケハヤ、もう無理よ……タケハヤこそ……」

「へっ……そう思いたいのは山々だが……」

 

 グッ、と足に力を溜め、地面を蹴ってさらに接近。視界がガタつくものの、これぐらい造作もない。

 身体をひねって、その勢いでさらに叩き込み、一度離脱するように離れる。

 

「生憎と、コイツには死の世界まで逝ってもらう必要があるんでな。それに……いや、それだけだ」

 

 へっ、と笑うと、もう一度突撃しようとする。

 

 が、毒がまわったのか、バタンと倒れてしまう。大きく隙を晒し、焦るタケハヤ。

 

「……チッ、結局、『正義の味方』はこないまま……か」

「そんなことないっ!!!」

 

 突然の声に一瞬幻聴かと思ったタケハヤだが、それを吹き飛ばすほどの妙な浮遊感がタケハヤの感覚を狂わせる。

 吹き飛ばされた? いや……違う。

 トンっ、と地面をたたいた音が聞こえた時には、タケハヤは誰かに救助されたことを悟った。

 

「……へっ、遅っせェんだよ。『正義の味方』」

「す、すみません! でも……もう大丈夫です」

 

 まるでピンチの時に現れるヒーローのようにやってきた人物に皮肉を言いつつも、支えを払って立ち上がる。

 

「……ま、いいさ。とにかく、力を貸してくれ。ロナ」

「もちろん。……とにかく、こいつを倒さなくちゃ、いけない」

「んじゃ……共演といこうか―――!」

 

 そう言ってタケハヤは素早く突撃。ロナはその後ろ姿を見て、このまま進ませると自滅してしまうと悟って一度マナを集中して集める。

 

「『治療の奇跡(キュア)』!」

 

 背に撃ちこむように緑色のマナを飛ばしてタケハヤを回復。その間にタケハヤは大ぶりかつ、力強い連撃で斬り伏せる。息をつかせないラッシュに帝竜は一度離脱する。

 それを見越したのか、ロナは『エアスピアー』を形成して投げつける。見事にヒットし、空中で帝竜を大きくぐらつかせた。タケハヤはすぐに見据え、大きく飛び、叩きつける。一時的ながらも、確実に落下していく。そこにロナは走り込み、大きく飛んで素早く突き刺す。その一撃が深く決まり、帝竜を地面へ落とさせた。

 何をしてくるか分からない。ロナは着地して、一旦様子を見ようとして後退する。

 だが―――

 

「まだまだぁ!!」

 

 入れ替わるようにタケハヤが突撃。グルンとまわって叩きつけを決める。さらに追撃。思わずロナはその背を見て、ロナも同じく突撃する。

 が。

 

「キョオオオ!!」

 

 突然暴れ出し、タケハヤはその反動で大きく隙を晒す。すぐに気づいたロナもフォローしにかかろうとしたが、

 

 それよりも早く、帝竜が特殊な鱗粉をまき散らしながら二人に突進して吹き飛ばす。

 

「ぐ、あ、あああ!!」

「しまっ……タケハ……ヤ……!」

 

 急激に傾きかけた視界の中で、タケハヤがロナに向かって大きく剣を振り下ろすのを見て、あわてて苦無で防御する。鉄と鉄が激突する音、だが、今すぐに殺してやると思われるばかりにタケハヤは叩きつけるのをやめない。

 錯乱。完全に我を忘れて攻撃しにかかる、やっかいな状態異常だ。

 ロナは急いでソレを解除させようととするものの、息をもつかせぬ乱暴な連撃な上に、自身はひざをついていてその暇がない。ロナ自身は錯乱にかかりかけただけなのが不幸中の幸いか。この状況下で味方同士の殺し合いになりかねなかっただろう。

 

「―――くそっ……どうすれば……」

「やめてタケハヤ!」

 

 突然、遠くから声をかけられてロナは防御しつつもそちらの方向を見る。アイテルだ。アイテルも止めようと、こちらに近づいてくる。

 

「だ、だめだアイテルさんっ!! 近づいたら……あぐっ!!?」

 

 突然の衝撃と痛みに、一瞬意識が吹き飛ぶロナ。だが、その一瞬が異常に長く、意識が戻った時には、剣の煌めきが、自分が仰向けの状態で見えた。

 

 まずい。

 

「く………っ! やるしか……!!」

 

 こうなったらヤケだ。ロナは足を無理やり動かして、蹴りつけようとして―――

 

 

 

 

『――――――♪』

 

 

 

 

「……え?」

 

 突然の、『うた』。

 

 そのうたに、タケハヤの動きが止まる。

 そしてその後ろから、帝竜が爪を振りかざそうと―――!

 

「っ!!」

 

 間一髪で気づいたロナは、タケハヤの腕を引っ張って自分の体ごと大きく外へ。間一髪で避ける。

 だが、まだ追撃を仕掛けてくる。さらにもう一つの爪を振り払いにかかる。

 

「マズ……!!」

 

 ダメだ、次は避けられない!! でも、せめてタケハヤを護ろうと、必死に突き飛ばそうとして―――

 

 

「プログラムコード、起動。データよ、介入せよ!」

 

 

 凛々しい声が聞こえたと思った瞬間、帝竜の身体が一瞬止まる。

 

―――これは、「ハッキングワン」………?

 

 でも、声の主は確実にジョウトではない。女性の声だ。

 一体……誰だ?

 

 

「二刀旋刃、『旋風舞い』!!」

 

 

 今度は男の声が聞こえたかと思うと、旋風が巻き起こり、帝竜を傷つけていく。

 

「―――やっちまえよ! 本当はアンタ達が主役なんだからな!!」

 

 先ほどの男の声が聞こえ、ロナは返事はせず、でも、すぐに立ち上がって銃を構える。歌もまだ聞こえる。帝竜もいつの間にか体制は立て直っていたものの、今のロナには関係ない。

 

「―――うおおおあああ!!」

 

 ロナの雄叫び。双銃が火を噴き、ダメージを与えにかかる。

 まだ終わらない。さらに素早くトリガーを引き続けて乱射。確実に、ダメージは与えにかかっている。

 

 条件下を満たした際に使える、『再動(リアクト)』。適当な乱打ではない。正確かつ、さまざまな起点に持って行ける、S級がさらに経験を積み重ねることで使えるスキル。

 

「っあぁめんどくさい!!」

 

 素早くリロードしつつも、大胆にロナは接近する。リロードが終わり、敵の近くで踊るように掃射。さらに蹴りから銃の殴打、そこから零距離でトリガーを連続発射。一つの銃は弾切れになるものの、もう一つの銃を構え、貫くように帝竜の頭めがけてまっすぐに突きだし―――

 

「狂い抜け!『ゼロレンジショット』!!」

 

 マナを増幅させた発砲が勢いに乗って、帝竜に大ダメージを与えた。強烈な連撃は帝竜を大きく下がらせるのには十分だった。

 その真横から、タケハヤが思いっきり斬りにかかり、さらに追撃。ロナと帝竜の間にタケハヤが割り込むような陣形になっていた。どうやら、錯乱は解けたらしい。

 

「仕舞いにすんぜ! ロナ! 魔法撃てるなぁ!?」

「了解!!」

 

 タケハヤの背で、素早くマナを集め、火に変換、さらに増幅させる。

 その間にタケハヤは連撃を繰り出してトドメへの準備をしかける。

 

「……よし! タケハヤさんっ!!」

「あぁ!!」

 

 帝竜へとロナは腕を一直線に突き出し、マナを放出。

 

「『猛撃なる焔の息吹(イフリートベーン)』!!」

 

 帝竜を、今までのお礼だと言わんばかりに焼き尽くす。炎が晴れる。赤い霧上のようなマナが空間に浮遊する。タケハヤはその中で剣を上段に構え、そのマナを剣に集める。

 

「喰らいな………エレメントフォロア・ブレイズ!!!」

 

 集めきったマナを帝竜に思いっきり叩きつける。

 

 炎剣と化した一撃は、帝竜に止めを指すのには十分だった。

 

 断末魔を上げた帝竜は地へと沈む。

 

 それっきり、帝竜は動かなくなった。

 

「……」

 

 でも、ロナは今回も素直に喜べなかった。

 別に、自分のやったことには何も間違っていない、と思いたい。

 でも……助けられなかった。

 

「………くそっ……」

 

 恐らく被害は酷いものだろう。なんとなく、分かる。

 結局、こいつを倒したところで状況がよくなるわけではない。

 元凶がとうとう本能をだし、帝竜はここにいたSKYのメンバーに被害を出させた。

 

「どうすればいいんだよ………俺は………」

 

 いつの間にか歌の聞こえなくなった渋谷。

 

 それを現すように―――東京の今の状況は、最悪だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




Q なんでタケハヤが初代のファイターの技使えるの?
A サムライと言うよりファイターだから。


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51Sz 「歌姫」

どもです。……話の気力が落ちてきた。まずい。

でも、体験版配信開始されましたね! 遊んでみて……火力高い、と。ドラゴンの色も少し落ちてるみたいだし、でも、これからが期待できそう。

では、51Sz、どうぞ!


 パシン

 

「………」

 

 乾いた音と、俺の頬が叩かれたのは同時だった。

 

 ……分かってた。本当は俺は無理に動いちゃいけないんだって。

 正直、多分マナが体内にあんまりなくって、無理に動いたら身体が機能しなくなる。俺自身の身体だから、そのことは感づいていた。

 そして、無理しなくたって二人……ナガレさんも手伝ってくれるんだから、来なくてよかったのかもしれない。いや、来ない方がよかったんだ。

 

 俺は……怖いくせに、またこっちに来た。足引っ張るくせに、またこっちに来た。

 

「……ごめんなさい」

 

 それしか、言えなかった。

 

 ……ヒカイさんは黙ったままだ。………さすがに、呆られたかな。

 それっきり、ずっと俺は黙ったままだった。

 

 ……あれから、ジョウトが簡単に被害状況を教えてくれた。

 帝竜のせいでSKYの人達が同士討ちを始めたり頭がおかしく―――多分催眠術なんだろう―――なったりしてかなりの被害を被ったらしい。

 で、これ以上の被害を抑えるために帝竜を討伐しにかかっていた。以上。

 

 ……そして、話は進んでいく。

 居場所が壊され、仲間もかなりの数を失ったSKYにとって今の渋谷は危険地帯だ。だから、ミロクが「都庁に来て、一緒に戦ってくれないか?」と訊ねた。もちろん、最初はタケハヤさんは拒否をしていた。

 でも……頑なに拒んでいたせいでついにミロクも怒った。「オレもミイナも、作られた天才だ」って。同じ境遇にあった者同士、そして、何か思うことがあったのかタケハヤさんはふっきれて承認した。……この部分は、よくやったって思ったよ。

 で、俺達はまだ息があるメンバーを救出し、………もし亡骸があったら俺んところに来い、とタケハヤさんが指示した。

 

 ………犠牲は大きすぎる。東京タワーの事件も、渋谷も事件も。

 そして……現実は非情だった。

 

 ………アイツに……勝てるのか…………?

 

 なんだか知らないけど、俺はこの状況下で、そんなことを思っていた。

 

 

============

 

 

「………」

 

 森林の隙間から降り注ぐ木洩れ日はどことなくスポットライトのように思えてくる。

 だが、そんな観客も、歌も、聞こえない。

 

 さまざまな悲鳴が上がった、この場所(ステージ)

 

 わたしは、どこまであるけばいいのだろう。

 

「………」

 

 足音が聞こえてふと止まる。

 

「……」

 

 見ると、二人。男子と女子だ。

 

「………あー、その、なんつーの? ……おいどうすりゃいいんだよ」

 

 男子が女子に小突いてどうするのか聞いてくる。女子はため息をつくと、一度辺りを見渡す。

 

「どーもしないわよ。とにかく、この子をあっちまで連れて行けばいいだけよ。バレずにね」

「あーへいへい。そうだと思ったよ」

 

 渋々男子は返事しながら近づいてくる。思わず拒否をして下がる。

 

「……その、怪しい者達じゃねぇ。お前を助けに来たんだ。分かるか?」

 

 黙ったまま、首を振る。

 

 このひとたち、こわい。

 

「まぁ賢明な判断よね。どうやらこの時代(・・・・)の東京は帝竜の脅威に晒されている……。私達も今そうだから他人事ではすまされないけどね」

 

 ……?

 

 思わず疑問を浮かべる。この時代……?

 

「とにかくだ」男子は両手を上げてこちらに敵意はないことを示し、言う。「とにかく俺たちはアンタを助けたい。それはこの時代に不可欠な行動なんだ」

 

 その言葉にあわてて女子は男子のほぼ無防備な腹をひじ打ちして黙らす。

 

「バッカ。わざわざ言いふらして他人にばれたらどうすんのよ」

「ごほっ……だ、大丈夫じゃねぇの? 事実、そんな資料は見つかってないし、ばーちゃんからは何も言われちゃいない。……いっちちち……」

「はぁ……。まぁとにかく。何とかこの子と打ち明けたいけど……あれ?」

 

 いない。

 

 どうやら二人が喧嘩をしている間に逃げてしまったらしい。

 

「……とにかく追うぞ! あのままマモノやらドラゴンやらに襲われたら後味が悪ぃ!」

「りょーかい。じゃ、急ぎましょうか」

 

 二人は全力で追いかけ、途中で分かれて探すことに。

 

 ……この行動、明らかに怪しい人である。

 

「決して怪しい人なんかじゃねぇ、って思いたいなこりゃ!」

 

============

 

「ん?」

「どうしたのさ、ジョウ……ドボッ!?」

 

 突然の横からの殴打に俺は状況が分からずに地面を転がる。数回転して勝手に止まり、顔を上げる。

 

「いっててて……あっ!?」

 

 そして、視界に入っている『人物』に俺は驚いていた。

 

 記憶に……ないはずなのに―――

 

「……君は……」

 

 無意識に俺は立ち上がる。

 

 確か……彼女は………

 

「いた! おーい!!」

「あん?」

「え?」

 

 俺とジョウトは声に驚いてそっちの方向を見る。

 

 ………無意識に銃を構え、一旦戦闘態勢に入る。なんか見た目から怪しいし。

 

「げ……! やっば……!」

「……もしかして、SKYの人?」

 

 俺は今までの状況からそう察した。

 よかった……生存者はいたみたいだ。俺は内心ほっとしていた。

 ……でもこんな人いたっけ? 俺は警戒は一応緩めずに、いつでも弾倉を入れて撃てるように構えていた。……後ろにさっきの女の子もいるし。

 

「え、SKY……? ………あ、あーうん! そう、そうそうそう。SKYSKY」

「………おい。どうすんだこいつ」

「どうすんだ……って言われても、俺には分からないよ。……なんか、自信ないんだ」

 

 ………俺には「どうするか」の判断できるほど頭がさえてなかった。

 本当に正しいのは何か。

 今こうして構えているのは本当にとっさのことで、撃っていいのかも分からなくなっている。

 

 でも……こうして「女の子を守る」、というのはどことなく間違ってないって思っている。……分からない。

 

「……そーかよ」

「……どうするのさ。ジョウト」

「んー? オレはだなぁ……」

「ジョウトォ!!?」

 

 うわっ!? 突然何!? 俺もジョウトも、恐らく後ろの女の子も驚いて男を見る。男はこっちを見た後、一歩、二歩と下がって行く。

 

『おい何やってんだ!! とにかくミッションは完了した。下がれ下がれ!』

「お、おう!!」

「え、え? あ、おい! ちょ……」

 

 待て、と言う前に男は逃走。

 ………なんだったんだよ一体。俺は銃をしまいながら逃げた方向を見た。

 

 さっきのやつ……ジョウトを知ってたみたいだけど、ジョウトは驚いていた。……どういうこと……なんだ?

 それに、突然の変な声もかすかながら聞こえた。

 

 ……マジでなんだったんだよさっきの……。

 

「……と、とにかく………この子を連れて帰ろう。ジョウト」

「……そうだな」

 

 特に否定もせずにジョウトはうなずく。

 俺はそれを見てから女の子を見る。少し怯えているように思えるけど………でも、俺はゆっくり手を差し伸べる。

 

「……この会場は危険だよ。……よかったら、都庁に来る? その方が安全に歌えるはずだよ」

 

 ……なーんて。

 でも、この子は警戒を解いていないみたいだから、少しぐらいユーモアが必要の筈。……こうした「歌姫」にはそれぐらいしなくちゃね。

 

 ……女の子は手を伸ばして、俺の手を掴む。……不思議な感覚だ。まるで存在しないような……データの人形に触れている感じでさ。

 ……なんというか、初めて触れる感覚だ。

 

「……んじゃ、行くか」

「……そうだな。ジョウト」

 

 ジョウトが先導して一度元の道を戻って行く。……生存者を見つけたからね。

 ……ちょっとジョウトには悪いことしちゃったか。でもまぁ……今まで俺は後ろ向きだったから、さっきの言葉でなんとなく前を向けるようになった気がする。……気のせいかもしれないけど。

 

「っと、そうだ。名前。一応名乗っとく。……俺はロナ。で、君は……」

 

 緑髪のツインテールの子は微笑んで、俺を見る。不思議と、元気が湧いてくるようだ。

 女の子は、いや、歌姫は名前を告げる。

 

 

 

「……初音ミクだよ」

 

 

 

 




Q で、あいつらだれ?
A 本編中には絶対に明かされません。が、今のでピンと来た方も多いでしょう。


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52Sz 二面性

どもです。……ついに発売まで一週間切ってしまった。わぁ大変だ。

今回のchapter5は軽く見積もっても残り2話かと。帝竜、というか渋谷編をさっくり終わらせたからなぁ。

では、52Sz、どうぞ。


「……これで全員、なのかな?」

「はい……」

 

 とりあえず、生存者は全員車に乗せ、俺達はタケハヤさん達が戻ってくるのを待っていた。

 弔うのは、俺達の役目だ、って言って。

 

 ……十数分後。タケハヤさん達は帰ってきた。

 その間に、俺達は一言も言葉を交わさなかった。

 事態は……確実に悪化している。そんな状況で言葉を交える、というのは無理なのかもしれない。

 

 …………なぁ、俺、どうすりゃいいんだ……?

 

 

=====数時間後======

 

 

「………雨」

 

 都庁の屋上。俺は何もせずに床に倒れていた。ポタリポタリと小粒が降ってくる。

 耳もしゅんと垂れている。……今まで実感湧かなかったけど、動物の動きが少しわかった気がする。

 いや今はそんなことどうでもいい。

 

 ……結局俺はヒカイさんとは一言も交わせなかったし、顔を見ようとすると目を背けてしまう。

 俺は、何をやっているんだろうな。

 

「……よっ」

 

 と、そこに誰かがやってきた。……声からしてフウヤだろう。俺は起き上がってフウヤを見る。……やっぱり、なんか表情は分からないけど、今はそれがいいかもしれない。

 

「まぁ先に礼は言っとくわ。どうもな。タケハヤさんを救ってくれるわ、1フロアわざわざ使って俺達の居所を作ってくれるわ、感謝しか思い浮かばないぜ」

「……しばらくはそこを使った方がいいよ。まだSKYを見る目は疑ってないみたいだし、それに……」

 

 ……言葉を続ける事が出来ずに、俺は黙ってしまう。

 フウヤは口がニヤリと笑うと、俺の近くに座る。

 

「それに、なんだ?」

「………安全なところは、今のところそこしかない」

「まるで牢獄だな」

「……かもしれない」

 

 俺はフウヤを見ずに、遠くを見る。………光がほとんど灯っておらず、あるとしても多分自動点灯か何かなんだろう。

 もしかしたら、まだそこに誰かいるかもしれない。俺はそう考えていた。

 

「……お前さぁ」

 

 突然フウヤに声をかけられる。俺の返事を待たずにフウヤは続ける。

 

「なんでもかんでも背負いすぎ、って思うのは俺だけか?」

「……え?」

「え、ってことは言われるまで自分でも気づかなかったって訳か」

 

 背負いすぎ、って、俺が……?

 

「なんつーか、生気を感じられねぇし、あの溶岩工場で出会ったときの気迫もねぇ。かといって誰か失った落ち込みも確かにあるが、でもちょっとしか感じられねぇ、となると初っ端から感じていた一つ、背負いすぎなんじゃねぇのかって」

「……え?」

「んじゃあというわけで、構えな」

 

 ……は?

 いや待て、なんでいきなりそう言う理論になってんだよ!? つか、何!? 背負いすぎって!? 全く分からないんだけど!?

 

「安心しろ。緊張感を高めるためにマジモノだ」

「安心できないに決まってるだろ!? お前バカだろ!?」

「以前言ったじゃねぇか。とにかく俺はもう一度お前とサシでやりあいたいんだよ」

「だから何でそこまで!? 本気で訳が分からないんだけど!?」

「んなのお前が楽しいからに決まってるだろ。オカンは無愛想だし、タケハヤさんはまだ傷癒してるし、ネコちゃんは議員と出会ってからなんかおかしいし。となるとお前しかいないだろ」

「そう言う意味じゃないっての! とにかく、俺は嫌だ!」

「何でだよ」

「そりゃ決まってるだろ。間違えて人を殺しちまったら、そんなの嫌に決まってるじゃん」

 

 途端に、俺の腕が拒絶するように震えだす。腕の振るえはいつしか全身に回っていた。

 そして………あの悲劇………

 震えは止まらない。俺はその震えを止めるように手を地面に押し付け、なるべく震えを抑えながら告げる。

 

「……嫌だよ。人を傷つけるのは。なにより目の前で殺してしまったら。……俺は一生その罪を付けられることになるし、人にも恨まれる。………人の命を奪うなんて、そんなの―――」

「の、割にはあの時もあの時もやる気だったな。本当は楽しくて、今のは演技なんじゃないのか?」

「そんなわけないだろ!!!」

 

 怒鳴った。

 数秒だけ、時間を感じられないように俺は止まっていたし、フウヤも動きを止めていた。ゆっくりと、震えがまた始まる。

 フウヤは一旦息をつくと、俺を見る。いつもとは違った、落ち着いた声が聞こえてきた。

 

「……じゃあミヅチは何だよ」

「アイツは、………アイツは………」

 

 倒すべき存在だ。

 ………そう言えるのに、俺は口を閉ざす。

 ………何で、言えないんだよ。……アイツは、俺達が倒すべきやつなんじゃないのか……?

 

「………人間、か」

「―――!」

「まーだお前はそう思っているのな。間近で見て、残忍な光景を見たのに言い出せず、終いにはそれがトラウマになる、か」

 

 そう言ってフウヤは立ち上がる。………手には武器を持っていない。

 雨も、いつの間にか強くなっていた。

 

「で、正直なところはどうなんだ? どうせここには俺しかいねぇんだし、カミングアウトしたところで言いふらすことはないぜ?」

 

 俺の口は鋼鉄のごとし、ってなぁ。とフウヤはいつもの調子で言ってくる。

 ……正直、不安なんだけど、でも、俺は今思っていることを率直に言う。

 

「……怖い。でも、同時にアイツは復讐しなくちゃいけない。………なのに、怖いんだ。……忘れもしない。赤く染まったあの場所、それで、人が死んでいることを心に刻まれて、その傷痕が全身に渡っている……。正直、もう、人を失いたくない……それは、ミヅチ……いや、ナツメも同じなんだって、『俺』は…そう…思っている……みたいなんだ……」

 

 ……全部を言い終えた後、俺は涙が出始める。

 背負っていたのか………いろんなもの。トラウマとか、使命とか、そして……復讐とか。

 

 ………全身が震えだす。心臓も飛び出るかと思うぐらいに強く叩いていたし、嗚咽も止まらない。

 

 怖い。

 怖い。

 怖い。

 怖い。

 

 早く、帰りたかった。もうこんな世界と別れて、さっさと自分の世界に平和に暮らしたい、って思ってしまうぐらいに。

 

 ………雨の音と、自分の声しか聞こえなくなる。

 

「………で、そこまで吐き出して、なんで、お前の目は暗くないんだ?」

 

 ………え?

 

「どんなに弱音吐いて泣いて落ち込んでトラウマつけられて。でもお前の目は死んじゃいない。嘘はついていないと思うが、でも思っていることは心の中では違うんじゃねぇの?」

 

 ………心の、中?

 

「………………」

 

 ………違う。『俺』じゃない。……『ロナ』だ。

 

 『ロナ』は………『俺』じゃない。

 

 この身体の本当の持ち主のロナは………怖くないのか?

 

 それとも、俺がおびえてるだけなのか?

 

「………ごめん、分からない。でも………怖いのは事実だ」

「だろうな。でも………なんとなく分かる気がする」

「え……?」

 

 分かる、ってどういうことだ? 俺は聞き返す。フウヤは雨を鬱陶しく感じていそうに顔をゆがめ、空を見る。

 

「仲間、がいるからじゃねぇの?」

 

 

 …………あ。

 

 

「………仲間?」

 

 答えを折角見つけられたのに俺は信じられなかった。

 仲間………それだけで、怖くないのか?

 

「仲間とかダッセぇような気がするけど、でもなんか分からなくもない。今までの活動を見ると、お前は全部仲間のために戦ってる気がするんだぜ?」

「………こんなに、臆病で傷つきやすくて落ち込みやすくて、泣き虫な俺が……?」

「そーいうことじゃねぇの? 意外と俺と戦ったときも危険から身を離すために自分から引き寄せた気がするし、タケハヤさんが戦った時だってなんか急いでいた気がする。それも仲間のため」

「………そうなのか?」

「俺に聞くんじゃねぇよ。そういうのはお前しか答え持ってないだろ。俺は人様の回答を聞き出すのダリぃし」

 

 ………俺も持ってるわけないだろ。俺は心の中で反論した。

 口に出すのは……さらに否定してしまう気がしたからだ。

 

 ……仲間、か。

 ……今、信じられるのは……それだけかもしれない。

 

「……少しはガタりが治ったか?」

 

 フウヤの口が笑う。

 俺はフウヤの言葉に驚いて両手を見る。……確かにさっきまで震えていた手が少し治まった気がする。

 

「……はは、そう、かもな」

「じゃあ構えろ。付き合ってやったんだからな」

「だから何でそう言う理論になるんだよ!? とにかく、さっきも―――」

 

 瞬間、俺の身体の血の気がさっと引いた。

 

 ………首元に、冷たい鉄が当たっている。

 

 ……問わなくても分かる。フウヤが、ナイフを当てにかかった。

 

「……今度弱音抜かしてみろ。今一度首を掻っ切ってやるからな?」

 

 声は、笑っていた。

 

 でも、笑っていたせいでそれ以上は読み取れなかった。

 

「……分かった」

 

 俺はそれだけ言うと、フウヤの行動をうかがう。……マネキンのように動かず、ただ俺の首元にナイフを当てているだけだ。

 ………もしかして、抜け、ってことか……?

 

「……どうしても、だめか?」

「いっぺんリベンジしないと気がすまないんでな?」

「……しょうがな―――」

 

「せ、センパイ!!! 大変です!!!」

 

 い、と言ってしまう前に突然横から声をぶつけられる。アオイだ。確実に。

 

 アオイは俺たちの前までやってくると、ぜぇぜぇ息を切らして呼吸してから俺を見る。

 

「み、みんなが……! 大変な作戦を立てようとしてるんです!!」

「な……」

 

 何だって!?

 

 ……想像はつく。……きっと、あのでかい帝竜を……!!

 

 俺はそう思うより早く、急いでみんなの元へ向かう。

 

 くそ……キリノいるはずなのに、何やってんだよあいつ!?

 

 

 

 

 

 

 

 



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53Sz 俺は一人―――

どうもです! ……ついに発売まで二日。……今回で終わりませんでした(笑

で、でも次回は終わるよ?きっと、多分、恐らく……うん。多分。
さて……皆さんは最新作、買いますか?……私は小説そっちのけで買いますね(待

では、53Sz、どうぞ!


「リンっ!」

 

 俺は慌てて自衛隊駐屯区の会議室に駆け込んでいた。

 リンが驚いた顔をする、が、すぐに安堵の表情を見せた。

 

「よかったぁ……一時的はどうなることかと思ったけど、なんとか復帰したって身体持ちか?」

「あ、うん迷惑かけたね……ってそうじゃなくって! リン! 説明しろ!!」

 

 俺があわててどういう状況なのか、俺自身もまだ分からないままで叫び出して、またリンが驚いた顔をする。……さすがに俺も頭の中が整理できてない状況で叫んだから俺だって意味不明だよ。

 俺は一度、心を落ち着けるために深呼吸を、してる間にリンが口を開く。

 

「……キリノの様態、見たか?」

「……あ、えーっと……ごめん、色々ありすぎて見てない」

 

 知ってるところは、「俺達と一緒に車に乗って逃げた」ぐらいだ。……そこだけはなんとか覚えている、じゃなくて、今思い出した、か。……意識が完全に消し飛んだのは確か……ドアが閉まったような音の時。………

 ……今は後ろ向いている暇は、ないな。

 話を戻して、でもキリノは無事だ。それだけは分かる。……何でナツメはキリノを狙わなかったのか、いや、狙いたくても三人が妨害したんだろう。多分、な。

 

「……今ではひどく落ち込んでいる。……恐らく、戦場を見る事自体もできないだろうな」

「……それで」

「あぁ。このままじゃ危険だと思うんだ。だから、私達で作戦を……」

「ちょ、ちょっと待て。……そういや東京タワーにいた人たちは!?」

 

 ……話それてるけど、でも気になった。……あの時は自分たちの無事を最優先しすぎたせいで残りの人達は助けられなかった。

 ……途端に脳裏にあの出来事が浮かんで、背筋を震わせた。

 ………聞いたら、謝らなくちゃ。

 

「……いなかったんだ」

「え?」

「多分だけど……贄にされた、って話が有力だろうな」

「………ごめん。俺のせいだ……」

「何一人で背負ってるんだ。それに、今回ばかりは仕方ないだろ?」

 

 リンが俺の肩を叩いて、一人じゃないってことを教えてくれた。……でも、自分が許せなかった。どうしても……さ。

 ……話が少し逸れたけど、俺はリンに「作戦って、何をする気だ?」と問いただした。

 

「あぁ、だからあの帝竜を倒そうと思う」

「……は?」

「行ってすぐ帰ってくればいいだろ? こっちはもう対策分かっているんだしな!」

 

 と、胸を張って答えるリン。

 

 ………ちょっと待て!?

 

「ちょ、待てって! そんなことしてメリットとかあるのかよ!?」

「そりゃ、もう13班やキリノには迷惑はかけられないし、いつ動くかも分からない。……だったら先手必勝して倒すさ!」

「ダメに決まってるだろ! っああもういい!! とりあえず他の人たちからも聞いてくる! 俺が来るまで勝手に外出るなよ!!」

 

 そう言って俺は部屋を飛び出す。……次はミロク達だ。今ので見ていると思いたい。

 もう……めちゃくちゃだよ。……俺も、その一人なんだけどさ。

 

 無我夢中で走って、気づいたらムラクモ本部の司令室の扉を開けていた。

 騒がしく入ってきたからか、ミロクとミイナ、二人が何かの作業を一度止めてこちらを向く。

 

「「ロナ!」」

「ごめん、心配かけた。……でもいくらなんでもめちゃくちゃな作戦だろ!? お前らは何をやっているんだよ!!」

 

 謝りつつも、すぐにあわてて本題へ。……双子は互いの顔を見ると、俺を一直線に見る。先に開いたのはミイナだ。

 

「今から、ナツメ総長の行動分析を始めてみました」

「は?」

「朝ごはんから寝るとこまで全部おっかけてみたら、何かヒントが見えてくるかもって」

 

 なんでどういう理論で!?

 ……だめだ、こっちもいろいろとビョーキかもしれない。……でも、かける言葉も見つからない。

 

「つか、ヒントって何!? どういうこと!? マジで分からないし……あぁもういい!! とにかく二人は休め!! 俺は他の人から意見をもらいに行くから寝ろ!!!」

 

 俺はとりあえず今思ったことを全部無理やりぶつけてまた後にする。……ちくしょう、めちゃくちゃすぎるだろいくらなんでも。俺でも何言っているのか分からなくなってきた。焦っているのか、ただ単に理解できないだけか。

 ……とにかく俺はまた部屋を飛び出して、タケハヤさん達の様子が気になったので一度医務室に行くことにした。……前に「SKY居住区を作った」的な話をしたけど、容態的に三人はきっと医務室だ。……なんとなく、ね。

 

 少し時間がかかったような気がしたけど、俺はドアを強引に開けようとして、そういやここは医務室だ、と言うことに気づいて一旦深呼吸。普通に開けるように開く。俺の予想通り、タケハヤさん達は奥にいた。……疲れてるのか、タケハヤさんは、アイテルさんが見ている中で寝ていたけど……。

 

「……ロナか」

「さっきは、迷惑かけたね」

「いや、俺の方こそ、ごめんなさい……。……でも、二人は一体何を?」

 

 一旦冷静になったのか、いつも……とはちょっと違うような、落ち着いた声で二人に話す。答えたのは、ダイゴさんだ。

 

「あぁ、我々はナツメを倒しに行こうと思う」

「へ、え、え!? ま、待てよ!! いくらなんでも無謀すぎる!!」

 

 だめだこいつらも!! 思わず丁寧語を忘れてタメ口で叫ぶ。……本当に、無茶過ぎるに決まってる。……『委員長』たちの班でも倒せなかったのに、無防備すぎる。……なのに、二人は、いや、SKYは分かってて言ってるのか……?

 

「流石にそれは危険だ。……無理だよ。ミヅチを倒すなんて。……他に何かないんですか?」

「……そうだな。……バリアの強行突破手段、とかな」

「バリア……?」

 

 なんか変なワードだな。俺はバリアって一体何なのかを聞いてみる。

 するとこれだ。どうやら、東京タワー周辺に通信電波すらも妨害する特殊なバリアが貼られたらしい(どうやらミヅチが創り出したもののようだ)。で、それを強行突破するために―――

 

「ば、バカ! とにかくそれもむちゃくちゃすぎる!! ……あぁもういい!! とにかく何か方法ないのか聞いてくる! 絶対都庁から出るなよ!!」

 

 ……とにかく、何とかしないと!! 俺は無我夢中に、どこかへと走る。……どこに走っているのか、俺自身も分からない。

 みんながみんな、司令塔を失って冷静になれてない。そんなの、分かってる。……分かってるはずなんだ。分かってるのに……俺まで冷静になれてない。

 どうすれば……どうすれば、どうすれば、どうすれば……!!

 

「……ハァ……ハァ………ハァ…………」

 

 ……気づいたら、雨の降っている都庁の屋上に出ていた。

 ……間接的に、俺の居場所はない、って示しているのだろうか。

 

 ……そうだよ……な。俺はよそ者でさ、同じ人を護れなかったし、自分の都合だけ押し付けて、話聞くだけ逃げて、打開策が欲しいのに何も分からないまま。

 

「どうすりゃ………どうすりゃいいんだよ――――――!!!」

 

 みんなを失いたくない。

 

 失いたく……ないのに……。

 

 俺は…………何もできやしない……。

 

 何も………変えられはできない…………!!!

 

「誰か………誰か教えてくれよ……俺は……俺はどうすればいいんだよ……」

 

 ………答えなんて、帰ってこないよな。

 

 誰もいないんだし――――――。

 

―――じゃあ、どうする?

 

 どうするって……分からないよ。

 

―――ずっと、見たままにする?

 

 そんなのは……見殺しと一緒だよ。

 

―――だったら、変えてみる?

 

 無理だよ。俺なんかじゃ……『俺』なんかじゃ……。

 

―――大丈夫。『私』も、いる。

 

 ……え?

 

―――ヒカイさんもいる。

 

 ……ヒカイさんも?

 

―――ジョウトもいる。

 

 ……ジョウトも?

 

―――アオイちゃんもいる。

 

 ……アオイも?

 

―――いろんな人たちがいて……『(ロナ)』もいる。

 

 ……『(ロナ)』も……?

 

―――『ロナ』は……独りじゃない。

 

 ……『ロナ』は……一人じゃない。

 

―――私が、

 

 俺が、

 

―――仲間が、

 

 友達が、

 

 

 

 

 

 

 

――――――いるから――――――

 

 

 

 

 

 

 

「……キリノ! どこだ!!」

 

 気が付けば、俺は研究区に足を出していた。

 いや、気づくまでもなく、俺はここに来るべきなんだって、今の声に気づいた。

 部屋の隅で、落ち込んでいるキリノを見つけ、すぐに接近。無意識にキリノがこっちを見てくる。

 

「え……あ、ろ、ロナ……」

「とにかく危険だ!! 自衛隊は帝竜を何の策もなしに倒そうとしてるし、ナビたちは徹夜ぶっ通しでない筈のヒントを見つけようとしてるし、SKYは東京タワーのバリアを真正面からほとんど丸腰で強行突破しようとしてる!!」

「……そんなの……僕には……」

「関係あるだろ!!! とにかく今は指示を出せるやつが一人しかいねぇ!! 司令塔がぶっ壊れた(ナツメがいない)今、他の機材(指示できるヤツ)が必要になるんだ!!」

「でも……どうせ僕がいたって……」

「いて指示を出せよ!! そうしないとみんなバラバラなんだよ!! 戦う力じゃない、まとめる力が必要なんだ!!

 

 

 あの時組んだ円陣を思い出せキリノ!!! あの時お前は何をしてた、何を思った、何を学んだんだ!!!」

 

 とにかく、俺は必死にキリノを説得した。怒鳴り散らして、目を覚まさせたくて、指示を欲したくて。

 これは俺のわがままだよ。あぁどっからどう見てもそうとしか思えない。でも、今必要なわがままに決まってる。そうに決まってる。

 

「…………」

「キリノ……ナツメがいない今、俺達は暗闇の中で正解にたどり着けないんだよ。そのためにも、光が欲しいんだよ。だからさ………」

「………みんなは?」

「……え?」

「み、みんなはどこに!?」

 

 ……どことなく、キリノの目に光がともったように思えた。思わず俺は笑っちまったけど、すぐに首をブンブン振って、「多分会議室だ!!」と、叫んだ。……とにかく暴走してたのかな、って頭が冷えたころにはそう思うぐらいに。

 

「……分かった。……もう、キカワさんやガトウさんのように……失いたくないから……」

「……大丈夫だ。俺がいる」

「私もいるさ」

「オレもな」

 

 !?

 

 思わず俺は後ろを振り向いてしまう。いや、今の状況じゃ、どうも信用できなかったし……

 

 でも……確かに、俺があんな、確信を得てるような説得をしたのは……この二人がいたから―――

 

「……なーにかっこつけてんだアホ娘。ずっと独りで抱え込むんじゃねーよ」

「そうとも。……ロナはもう、13班の一員だからな」

「ヒカイさん……ジョウト……」

 

 二人が、多分無意識に手を伸ばす。

 ……そうとも。俺は二人がいたからこんな風に言うことができたんだ。

 喧嘩して、怒られて、バカ騒ぎして、悔やんで、泣いて、そして笑って。

 

 二人がいなかったら………俺はあんなこと言えなかったし、今の俺はいない。

 

「……心配かけて、ごめん。そして……これからよろしく頼むよ」

 

 俺は二人の手を、両手で叩く。……感じる。……二人からもらった力ごと。

 

「……さて、急ごうぜキリノ! こんな無茶な作戦を止めるんだ!!!」

 

 

 

 

 

 



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54Sz 迷わない

ついに明日、「セブンスドラゴンⅢcode:vfd」発売ッッッッッッッ!!

そして、chapter5が終了するっ!! ……な、なんとか終わりまでは到達することが出来ました。……初期の目標からは遠ざかっちゃったけど。

ではでは、54Sz、どうぞ!!


 

 

 

 

「寝ていられるかァーーーーーーーッッッッッッ!!!!!」

 

 

 

 

 ……えーっと、現在会議室。先ほどの怒鳴り声はキリノ。

 

「……ハァ、ハァ……」

 

 少しばかし、急いできたものだからキリノ少し息切れてます。……しっかし、すごい権幕だったな……リアクションが思わず取れなかった。他の人も同様だ。

 

「……自衛隊、キミたちが帝竜を倒しに行ったら誰が都庁を守ってくれるんです!? まさかスグに帰ってくればいいと思っているわけではないですか!?」

「う……」

「あとSKY!! ミヅチを倒すって、準備もなくSKYだけで!? だいたい障壁はどうするんです!? お得意の根性論ですか!?」

「む……」

「そこ、ナビ二人!! ナツメさんの朝ごはんから寝るまでを分析って、それで何が分かるんですか!! ナツメさんの好物が厚焼き玉子だったとかですか!? しかも身体が弱いキミたちが不眠不休で!? 倒れられちゃ困るんですよ!?」

「え、えっと……」

 

 …

 ……

 ………

 …………

 

 ……………き、キリノおっかねぇ……。つか、怖ぇ……。……多分、無意識に一二歩下がってただろ……俺。

 

「そしてロナ!!」

「え!?」

「何であなたは前もそのまたすごく前も作戦を無視して身体を壊そうとするんですか!? そうやって自分の身体を大事にしないで無理ばかりして、それで迷惑かけられたら困るんですよ!?」

「……あ……ご、ごめんなさい……」

 

 怒られた……。……

 でも……さ……なんかキリノ、復帰したような、いや、完全に目を覚ましたような勢いだよな。………へへ。

 まぁ……今は、おっかないけど……。

 

「もう……どうしてこんなことになっているんですか……はぁ……」

 

 ……まるで今までの事がどうでもよくなるぐらいにすごく重い沈黙が流れる。ぶっちゃけ、みんなはまだ表情が変わらない。いや、めちゃくちゃなまでに気にも留めることができない。……キリノ怖い。

 

「………会議を、始めますか」

「……え、え、え……?」

「いーんです僕がやります、僕が司令官になります。ほっとくと何が起こるか分からないし、滅茶苦茶すぎます。……みんなを導く、『光』になろうと思います」

 

 ……キリノはそう言って、指令台の前に立つ。……やる気だな、キリノ。

 

「……えーっと、分かった。……でも、念のため聞くけど、いいのか?」

「さっきも言った通りですよ。……けど、みんな優しすぎますよ。そんなみんなに囲まれて、僕は幸せ者だ。……ガトウさんにもキカワさんにも支えてもらった命、使わなきゃ、バチが当たりますよね」

「…………へ、へへ。……だな、そうだな」

 

 俺はなんかひとりでに納得して、とりあえず席に着く。

 ……確かに、俺のも、みんなにつないでもらった命だ。だから……ちゃんと使っておかないと。

 

 

 ……で、会議は進んでいく。決して話半分聞き逃したわけじゃないぞ。

 

 まずは目的だ。大きく二つ。一つ目は残り二匹の帝竜討伐、もう一つがタワー周辺の障壁の破壊。

 で、まず一つ目の帝竜のほうからだ。一匹目はあのデカブツ……ザ・スカヴァーだな。んでもう一匹は、お台場を凍土と化した帝竜らしい。で、まずは手ごろでいつ動くのか分からないスカヴァーの討伐から処理していくことになった。まぁ、こいつにはなんかの光(別に強ければなんでも良いらしい)を当てれば虚弱化するっていう明確な弱点があるから処理は楽だな。

 で、その弱点を突いた、巨大ライト―――そうだな、野球場にある、球場全体を照らすライト一つの巨大化&光強大版と言えば分かるな―――を開発班が制作しているらしい。……ただ、これにはまだ時間がかかるらしいから、それができ次第やろうと思うとのこと。

 じゃあもう一つ、障壁の話。これについてはキリノが引き受けるとのこと。……何か案があるのかと、誰かが言った。……これには、『ドラゴンクロニクル』が必要になる、らしい。で、それらのデータは膨大だけど、他のデータで代用して……あーえっと、つまり、あれだ。……パズルだパズル。そういうことなんだろ。多分。

 

 ……だから、俺達13班は頼まれた。「残り二種の帝竜のサンプルを採取して来てほしい」って。そうすることしか、さっきのデータを……パズルを完成させることができない。

 

 

 俺達の返答? ……聞くなよ。 ……どうせ、答えはその通りなんだからさ。

 

 

 ……という訳で、今日の疲れをいやすために、俺達は部屋に戻ることにした。

 部屋に戻った直後……

 

「ごめんなさい」

 

 ……俺はすぐに謝った。……そりゃ、今日のはめちゃくちゃなことをしちまったんだし。身体壊されて、仲間失ったら……それは、嫌だもんな。

 気づいたんだよ、やっと。……13班って、そう言うのが鉄則か何かなんだろ。

 

「……無茶はするな、と言ったはずだ」

「はい……」

「でも、また言いつけを破った」

「はい……」

「忘れては、いなかったな?」

「………いいえ。忘れてました。……一度、激情で頭がいっぱいで、自分でも訳が分からないまま飛び出してきて、とにかく仲間を失いたくなくって……」

 

 ……全部、本当だろ。忘れてたよ。本当に。……あの時は冷静になれなくって、とにかく、自分のわがままで、迷惑かけて。

 ……あの時から、何一つ、変わってないよな、俺……。

 

「……そうか」

「……」

 

 ……意外にも、それだけだった。……呆れられた、とは、何故か思えなかった。

 

「……オッサン、どこ行くんだ?」

「少し、外の空気を吸ってくる。……時間はかかるかもしれんがな」

 

 そう言って俺の横を通り過ぎて、そっと、俺の手を握る。

 

「……もう無理はするな。いいな?」

「はい」

「……いい返事だ」

 

 ニッ、っとヒカイさんは笑うと、部屋を出る。

 ……へへ、また、信頼してくれるんだな。……今度は約束守るようにしとかないと。………って、あれ?

 俺はいつの間にか握られていた、紙をみる。……表紙には、「一人で見ておくように」。とだけ書かれた紙だ。

 

「……あーくそ眠ぃ。オレは先に寝てんぞアホ娘」

「あ、ジョウト……あのさ」

「なんだよ」

 

 ジョウトは、今にも眠りたいと思いつつ、俺の話を聞いてくれた。

 

「……なぁ、昼間のあの男子……なんだったんだろ?」

「……意外にも、未来からやってきたやつ、とかな」

「何でそう思えるんだ?」

「勘だ」

 

 でーたよ、勘。……まぁ、今はそう思うしかないよなぁ。……つか、なんで俺気になっているんだろ。……何で、だろうな?

 

「まぁ……そう思えば、少しばかりは未来が明るく感じる気がしたぜ。もしそんな未来があるなんて思えば、やる気でるだろ?」

「お前意外とロマンチストだな?」

「るっせーよ。とにかくオレはもう寝るわー。お休み」

 

 そう言うより早いか、ジョウトはベットに潜り込むと、すぐに寝始めた。

 はえーな意外と。……まぁ、確かに今日はいろいろと疲れたかもな、本当に、色々とな。

 

 さて………一人になった。ジョウトは……寝てるだろ。絶対。そう思って、俺は手紙を開く。……内容は意外と簡素なものだった。けど―――

 

 

 

 

 

「23時、エントランスにて待つ。キミに、キミ自身を教えるために。

 恐らく、知ったら後戻りはできない。嫌なら、この手紙は捨て、寝ててくれ」

 

 

 

 

 

 ………どういうことだ? 俺……転生したはずなのに、これって……。

 

 ……転……生? いや……もしかして……

 

 

 憑依?

 

 

 ……いやいや、んなアホな!? 神様言ってただろ!? 転生だって! ……もう、マジで訳が分からなくなってきた。

 

 ……でも、確かに気にはなる。……もしかしたら、なんで『ルシェ』なのかが、分かる気がするから。

 

 それに、声。………最初に感じたのは、確か四ツ谷だったような気がする。で、次は……その次の日に寝た時の気がする。で、最も新しく聞いたのは……さっき、キリノを連れてくる前に、屋上に飛び出てからな気がする。

 確証なんてないけど……さ、でも……気になる。

 

 ……23時、だな。

 

 それまで俺は、特に何もすることなく、ただボーっと天井を眺めたり、時間を確認、たまにマナを動かして戦闘に支障ないかの確認とか、それぐらいだ。

 

 ……23時、の少し前。

 

 

 俺は言われた通り、エントランスにやってきた。……正面口に、ヒカイさんがいた。

 

「……ヒカイさん」

 

 俺は近づいて、話しかける。……ヒカイさんは俺をしばらく見て、こういった。

 

「……もう一度問う。……いいのか、本当に」

「……はい」

 

 覚悟は、とっくにできてるさ。……いや、知ったところで俺は何もできやしない。

 やってしまった過去(運命)は変えられない。誰も口出しできない。

 でも、やってしまう前である未来(運命)は変えられる。

 ……だから、今この現実(運命)に立ち向かうさ。

 

「……では、行くか」

「どこに、ですか?」

「……四ツ谷に、な」

 

 ……そう言って、俺とヒカイさんは、借りてきた(前まで使ってた車じゃない)車で、四ツ谷に向かうことになった。

 

 ……この先、何があっても、多分俺のやることは変わらない。

 

 

 

 

 お前(ロナ)も、そうだろ―――?

 

 

 

 

 

 




……と、言う訳でして、chapter5はこれにて閉幕です。
次はchapter6……ではなく、chapter5.5に移行です。完全オリジナル、という視点になりますね。ただこれらは、多分2、3話で終わるかと。

さて……少しばかり雑談を。
ついに明日発売、「セブンスドラゴンⅢcode:vfd」。……実はそれに先立ちまして、無印とこの2020をコラボして、みたかったと思っています。
いや、いくらなんでも年代が吹っ飛んでいるそれらを組み合わせるのはさすがにちょっと無謀かな、と。……ちなみに、内容は「13班がエデン時代にタイムスリップしてハントマンと一緒に帝竜討伐」だけです。コラボがこれしか思いつかなかった。……あんまり進めてなかったのも内緒です(何

えーっと、では、次はchapter5.5を楽しみに、もちろん、「Ⅲが最優先だオラァ!」と言う人は、ガンガン遊んでください!! で、でも少しばかり見てくれたっていいんだよ?

 そう言えば、もう2020とⅢはこの作品でコラボしちゃってます。まぁ察しのいい人は一発ですよね。
 何気にハーメルン初の、Ⅲのキャラが(声だけ)登場しちゃってたりも?(苦笑


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Chapter5.5 『二つの顔』と『きまぐれの風』
55Sz 創られた存在


えーはい。今回からchapter5.5到達です。……実際、自分はオリジナルの話が苦手なのに、こうした話を持ってきてしまったことを心から後悔しています。

さて……今回のこのChapterは前の宣言通りに2,3話で終わるかと思います。そうしないと自分さらにサボりますし。ちなみにガチでサボってました。Ⅲの転生マラソンで(オイ

では、Ⅲ発売後初になるルシェかえ、55Sz、どうぞ!


「………ここは……」

 

 現在、四ツ谷病院。そこに俺とヒカイさんは足を踏み入れていた。……一応通信は切ったままだ。どうやら、「知られても構わないけど、なるべくならロナにだけ聞いてほしい」らしい。……そんなに、重要な事なのだろうか?

 かといって俺は訊ねることはなかった。……いや、俺だって気になったけど、でも、さ。……きっと教えてくれるし、それに、ヒカイさんはこうして連れて来てくれた、ってことは何か重要なことかもしれない。

 さて……と。俺とヒカイさんは、秘密の階段から地下へ突入。

 懐中電灯で照らすとそこは、不思議と無機質で何も飾られていない、まるで、無人の研究施設の様だった。

 

「………なんだよ、これ」

 

 ……俺は、何故か見たことあるような、なのにこんなのおかしいような感覚に見舞われていた。

 覚えていない筈なのに……覚えている?

 

 ……答えは聞けないまま、俺はヒカイさんについていく。どことなく、速度は遅い気がする。

 ……ヒカイさんも、本当は行きたくないと言わんばかりの速度、なのかもしれない。言い換えると、「自分の嫌な過去を見る」のかもしれない。

 

 ……嫌な過去、か。

 

 俺にも、ある。『委員長』を失って……さ。

 ……そういや、俺は……あの日以外、ほとんど覚えていない。何故かは分かんないけど……でも、今はいいかも、な。覚えていても、この世界じゃ意味ないはずだし。

 

「ここだ」

 

 と、俺が回想にふけっているときに、ヒカイさんが止まる。……少し大きめで、中が分からない。

 

「……もう一度聞く。……本当に、大丈夫か?」

「大丈夫です。……もう、足を引っ張りたくありません。だから、こうしているんだと思います」

「分かった」

 

 そう言って、ヒカイさんは扉を開ける。

 錆びた鉄が、ゆっくりと開いていく。

 ……中は異様に静かで、光が差さってない。あまりにも、気味が悪すぎる。

 

 ……心臓が打つ。腕も振るえる。緊張、そうだと思っていた。そう、思っている間は。

 

 ヒカイさんが先に入って、電気をつける。部屋に明かりがともって………

 

「………ここは?」

 

 ……ひどい荒れ模様だ。いろんなものぶっ壊されてて、原型を留めてるだけマシなのかもしれない。

 でも……ここ、『見たことある』……?

 

「……あの、ヒカイさん……ここって……」

「……研究室だ」

「いや見れば分かりますけど、でも何かに襲撃されたんですかこれ?」

「…………」

 

 ……もう一度確認する。奥には一つだけ、半壊しているガラス状の筒、周りには資料やテーブルとかが無造作に散らばっていて、襲撃された跡が確認できる。

 いや……襲撃……されたのか、これ? つか、どういう理由で?

 

「……てか、これなんで襲撃されたんですか? 何か、重要なことがあったんですかヒカイさん?」

「………重要、か。そうだとよかったんだがな……」

「……えっと、あの、ヒカイさん。……言いたくないなら、言わなくてもいいです。そりゃ、嫌な過去を堂々と言えるわけないですし、だから、そんな無理して言わなくても……」

「……以前までの記憶、あるか?」

「え?」

 

 ……思わず、何言ってんだこの人って言いたくなってしまったが、ぐっと抑える。……記憶あったら堂々と言えたかもしれない。でも……今は記憶なんてない。はぁ……裏目に出ちゃったかな。

 ……いや、ぼやいても仕方ない。俺は正直に、言う。

 

「いえ、ありません。いや、正確には、ある程度はあるけど、思い出すことができないと言うか……」

「……その中に、この中で暴れた記憶はあるか?」

「……何言ってるんですか。そんなこと――――――」

 

 ズキッ

 

 突然、めまいのような感覚に襲われる。視界がゆがむ。

 

『――――――あ、アアアアアアア!!!!』

「……っ!!」

 

 今の声は!? ……いや、言わなくても分かる。感じられる。

 

 ……これは……『ロナ』の声……?

 

「……やはり、記憶は……」

「……ま、待ってください……まず……まず先に、結論を言ってください!」

 

 聞きたくない。『ロナ』が拒否をしていた。

 でも、聞かなくちゃいけないだろ。『俺』はなんとか聞こうとしていた。

 

 聞いてみるしかないんだ。この状況で、俺が……いや、『ロナ』が来なくちゃいけなかった理由。

 

「……」

 

 沈黙が、重い。

 

 ……ごめん。『ロナ』。ただの……『俺』の興味本位だ。

 

 でも、聞かなくちゃいけないだろ……? 今じゃなくちゃ、意味がない気がするんだ。

 

 ……待て。何で? どうして聞きたいんだ? 俺……転生したはずなのに、どうしてこんなことを?

 ……分からない。けど……

 

「………」

「……」

 

 ……俺は、ヒカイさんが言い出すまで、ずっと、震えを抑えながら待っていた。

 

「……ロナ。……お前は……

 

 ………………

 

   ここで、『創られた』んだ」

 

「…………え?」

 

 ……つく…られた……?

 

 ……ちょっと待て!? 神様嘘ついてたのかやっぱり!? いやどんな理論で!? つか何で嘘をつかなくちゃいけないんだよ!?

 ……いや、とりあえず、どういう理由なんだ一体?

 

「……あの、どうして? 俺は創られたんですか?」

「…………ナツメだ」

「……どういう理由で?」

「………最初の頃は、人を生き返らせるために、だ。……いや、そう聞かされたんだ」

「聞かされた?」

「……あぁ」

 

 ヒカイさんは俺の方を向いたまま、淡々と語る。

 

「……いつの頃かは忘れてしまった。とにかく、前からこの企画は始まった。私は医者でありながら、研究員としても活躍していてな。そんなある日、ナツメがやってくると、『病院の地下に研究室を設けたい』とやってきた。多額の金を持ってきたさ。そして……我々はいつの間にか地下室を改装してこんな風にした。そして……ある日女の子がこの計画に『身体』を貸してくれた。元々、病弱で、余命ももう半年すらないと言われていた子でな」

「………まさか、その、女の子って……」

「……」

 

 ヒカイさんは、うなずいた。

 ……待て。待ってくれ。いや、俺男だよ!? なのに、どういう理由なんだよ!?

 ………くっそ、分からないことだらけだ。……でも少なくても、ロナは女だ。それだけは、分かる。

 

「……だから、か。記憶ないのは、俺が生き返ったから……そうなんですね?」

「……かも、しれん」

「でも……だったらこの惨事は? わざわざ地下室に作ったってことは……知られたくなかったって、ことですよね?」

「……実験中、キミは暴走した」

「暴走?」

「何かに触発されたように、な。原因は今でも分からない。とにかく暴走したキミは、忽然とおとなしくなって一度気を失った。……見て何も、思い出せないか?」

 

 俺は一度、周囲を確認する。……頑丈に造られた壁のためか、いろんなところに損傷痕があるのにどこか壊れた、と言うことはない。この辺りは、用意周到と言うかなんというか。

 でも……思い出すことは……ないな。俺は首を横に振って思い出せないことを示す。

 

 ……そもそも、何で俺なのか? 間違っているんじゃないか……?

 

 言おうと思ったけど……言い出せなかった。本当に、自分は何一つ知らないし、ちゃんと『転生した』って理由があるから、自分とは違うんじゃないか。って言いたかった。

 

 でも……過去を振り返ってみると、いや、過去を振り返る必要もない。

 

 たった一つ。たった一つだけど……他人とは思えない理由がある。

 

 俺の名前。ずっと使ってたから特に違和感もなかったけど、その違和感のないことが、違和感なんだ。

 

 本当は……何か関わりがあるんじゃないか? 今、そう思いたいぐらいに。

 

「………そうか」

「で……おとなしくなった後は……俺はどうなったんですか? どうやら、この辺りの記憶はないみたいで……」

 

 他人事、なのかもしれないのに、俺はその事実をあえて言わずに、聞いてみた。

 

「……いなくなった」

「いなくなった?」

「あぁ。突然な。我々も消息をつかめず、実験も……おわった。そして、私は……」

「……ムラクモに入ることになった、んですよね?」

「……ナツメに促進されてな」

 

 ヒカイさんは自傷するように笑う。

 ……なるほど。だからヒカイさんは俺に当たったんだな。多分……監視するために。そりゃ、俺は実験体だったんだし、ナツメも大助かりだったんだろ。……本当に、いろいろとな。

 ……だから、か。「実験体『418』」って言われたのは。それで、折角もう一度人生を堪能できる恩すらも言わずにいなくなって。……なるほど、な。

 

 でも……まだ分からないことが多すぎる。だったらなんで俺は車の中にいた? いきなり脱出してしまうぐらいに、多分ムラクモのこと嫌っていたのに、どうしてわざわざ戻ってきたんだ?

 そして……俺は、転生したはずなのに、他人事であるはずなのに……どうして?

 

 ……マジで訳の分からないことだらけだ。これじゃ、キリがない。

 

 ……でも、さ。それでも俺達は必死にあがいてあがいてあがきまくって、今できる目の前のことに向かわなくちゃいけない。それだけは確かだ。

 そしてその障害には……ナツメがいる。

 それで―――

 

「……俺の決意が揺らがないように、ここに来たんですね」

「あぁ……余計なお世話だったか?」

「……むしろ、逆に硬くなりましたよ。こんな風に身体いじくりまわされて、それで感謝しろっておかしいですよ。……人は一度しか人生を楽しめない。だから、その一度にどこまで楽しめるか、だから人生は楽しいんだと思います」

 

 今はルシェだし、これが二度目の人生だけどな。まーそれは言わないお約束だ。そもそも違う人なのかもしれないけど、俺はあえて道化として演じる。

 

 ヒカイさんはやっと、ちゃんとした笑みを見せてくれて、俺もほっとした。……やっぱ、こういう大人の人こそ、笑ってくれないと俺らはどう動かなくちゃいけないんだ、って思う気がするんだ。

 

 だから俺は敢えて嘘をついた。今更、他人だ。って言えるわけがない。

 

 ……でも、本当に他人事ではないような思いが渦巻いていた。でも、それでもいい。もし万が一、『ロナ』が本気でその実験体でもいい。

 

「……ヒカイさん。……この戦い。俺達で終わらせましょう」

「……あぁ。……私は、自分の過去のことにケジメをつけるためにな……」

「俺は……とにかくこの戦いを終わらせたいために」

 

 俺達は互いの手をしっかり握って、決意を再確認する。

 ……やっぱり、熟練者の手だ。俺には……到底届かない気がする。

 

 ………勝たなくちゃな。この戦い。必ず―――



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56Sz 幸運のその前後

……まず謝っておきます。かなり時間がかかってしまい、申し訳ありませんでした。

さまざまな理由が挙げられますが、やはり一番の理由は「自身のやる気のなさと気合のなさ」ですね。書こうと思えば書けるけど、それでも書く気には起こらず、ずっと見て見ぬふりをしていました。

そしてやっとやる気を取り戻し、始めるか、と思って書きましたが……実は構想段階より大きく変わっているのは内緒です。その話はどこかでお伝えしようかと。

では、56Sz、新年最初(2月じゃないか)の「ルシェかえ!」の話、どうぞ!


「………ドラゴンクロニクル」

 

 深夜の研究室。キリノはただ、パソコンに面と向かって作業を行っていた。そんなキリノに、一人が、この戦いで重要となるキーワードをつぶやく。

 

「実験台にした……あいつのことだ。到底、予想はつく」

「……あなたはちゃんとベッドで休んでください。ここは僕の仕事ですから」

 

 キリノは振り返らず、そう告げる。その人物は息だけ吐くと、さらに続けた。

 

「完成して、どうするつもりだ? 自分だけが犠牲になればいいとか、そんなことじゃねぇだろうな?」

「………」

 

 答えられず、キリノは沈黙する。手の動きがどことなく遅くなっているようだ。

 図星か。その人物はその行動にそう思い、トンっとキリノの背中を叩く。

 

「なんでオレに言わねぇんだよ。お前だって知っているんだろ? オレの命はもうオンボロだ。使ってやってくれよ」

「……バカなことを言わないでくれ」

 

 作業を中断し、キリノは振り返る。そこには、タケハヤがいた。

 ……分かってる。自分だってそこにいた。自分は止められなかった。ナツメさんが正しいと思って、ずっとナツメさんについてきてしまった。その結果、こうなってしまっている。だから―――

 

「その命……まだ幸せな時間に使える。この作戦なんかに使っちゃいけない。……僕が言えることじゃないけど、でも……」

 

 でも、取っておくべきだ。そう言おうとした。

 ロナ達の話や、今日の出来事で予想していた。タケハヤは『SKY』として、空のように自由であって、空のように幸せだったと。あの実験より、何千倍何万倍と幸せだったんだと。そんな幸せを『ムラクモ』のために使ってはいけない。そう言おうとした。

 けど、言えなかった。それよりも早く、タケハヤがつぶやいたからだ。

 

「幸せねぇ。お前はどう考えているか分からないが、俺はそれなりに幸せ()()()んだ。家族に愛する女、さらにお前らの良い子ちゃんたちのおせっかいでまた家族……これだけで十分幸せ者だし、どっかのお人よしのおかげで長生きできているんだ。お前の想像以上に、十分すぎたんだ」

「……タケハヤ……」

「ハッ。とんだアマちゃん司令官だ。変わらないな。あのオッサンも、お前も、あの時からな」

 

 言わないでくれ。そういうよりも早く、タケハヤは答えた。

 

「知ってるぜ? あの日の晩……ネコとダイゴを逃がしたのも、おまえだろ?」

「……違います」

「バカ言ってんじゃねぇよ。確信してんだこっちはよ」

「……僕じゃないんです。僕がやらないと、被害を被るかもしれない。だから、やったんです」

 

 一瞬、途切れてしまったが、言わないとまた圧される。タケハヤよりも早く、キリノは答えた。

 

 

「やったのは僕だ。でも、提示してくれたのはヒカイさんだ」

 

 

 沈黙。意外なのか、それとも、やはりなのか。分からないが、キリノは過去の事を思い出しながら語る。

 

「あの日の数週間前……キミたちの体調チェックの後、僕はヒカイさんに呼ばれたんだ―――」

 

 

==========

 

 

「……あの、どうしましたか? ヒカイさん」

「オジサン、もしくは呼び捨てで良いと思うんだがな。まぁいい」

 

 あの日、僕はヒカイさんに呼ばれてボク達以外誰もいない医務室に来た。なるべく、ナツメさんにバレないように、と念を押された状態で。僕も予想していたけど、ヒカイさんはそれ以上だった。

 

「……あの子たちの体調管理の事についてだ。これを見てくれ」

「………」

 

 机の上に置かれたカルテを僕は受け取り、読み始める。……やはり、『実験体』にされている子たちの体調についてだ。

 

「……おっと。私は少しばかり席を外すよ。その間見ておくれ」

 

 そういってヒカイさんは席を外し、部屋を出る。その間に僕はカルテに記載されていたものを読み進めていた。

 

「……」

 

 ……その時の僕は愚かだった。ナツメさんはずっと正しいと思っていて、今回の実験も、何ら間違ってはいない。そう思って、いや、そう思うしかなかったんだ。

 読み進めていくうちに、僕の気持ちや思考が少しずつ傾いてきた。当時の自分としては、分からない方向に。

 扉が開く。誰なのかは分かっていたけど、僕はあわててカルテを裏にして机に置き、振り返る。その人……ヒカイさんは扉を閉めながら、質問した。

 

「……どうかね?」

「えっと……」

 

 僕はその時思っていたことをただ論理的に答えた。そのことは、覚えていない。おそらくはショックだったのかは分からないけど、もしかしたら、ずっとナツメさんが正しいと思っていたからこれが間違っていると思っていたのかもしれない。

 僕が言い終えた後、ヒカイさんは黙読するかのように穏やかに目をつぶり、ひとりでに頷いた。

 

「……そうか」

 

 それだけだった。それだけだったから、思わず聞き返してしまった。

 

「あの……?」

「個人的にはどう思っていたか、だが、そうか……」

「……」

 

 ……何か間違っていたのだろうか? いや、それより……。

 

「あの、ヒカイさん? どうしました?」

「……ん? いや……こっちの事情だ」

「……?」

 

 ……その時の僕には、ヒカイさんの顔はなぜか穏やかなように思えた。理由は結局分からないままでね。……今には関係ない話か。

 

 ………その後の数日間、僕はただ、実験を見ていた。

 確かにカルテに書いてあった通りだ。身体能力は少しずつ上がっていった。でも、その分体調については下がる一方だ。

 命を落とした子もいた。

 それは実験の時でもあったし、実験外の時でもあった。

 それは、日にちを重ねるごとに多くなっていった。

 

 僕は……その時の僕は耐えられなかったんだ。

 でも、同時に否定していた。ナツメさんは正しい。ついていけばいい。って。

 どうすればいいのか分からなかった……いや、それは言い訳だ。どうすればいいのか分かっていた。分かっていたけど、分からないふり……違う。言わなかったんだ。

 あの時、僕が何か声をかければよかったんじゃないか? あの時、僕が何か示せば、変えられたんじゃないか? 前の……池袋の作戦のように。

 僕はずっと、それを抱え込んだままだった。それが少しずつ錘になっていった。

 

 そして、それを変えてくれたのは………

 

「キリノ殿」

「は、はい……」

「……これを読んでおけ。ナツメ総長のいないところでな」

 

 すれ違った僕に、ヒカイさんは書類を渡してくれた。僕はそれを受け取ると、急いでボクの部屋に行って、必死に読み進めていたんだ。

 この時の僕は頭が狂っていたように、今思えば、ただ必死に助けようと思って。

 無我夢中で、その時の僕らしくないように読み進めて、そして痛感した。

 助けなきゃって。

 

==========

 

「―――その時のことがあったからこそ、あの時、逃がすことができたんだ。……感謝するなら、ヒカイさんだよ」

 

 キリノはそう話し終える。その間ずっと、タケハヤは言葉を差し込まずに聞いていただけだった。

 やがて、感想を言うようにタケハヤが言い始める。

 

「……なるほどな。そういうことがあったのか。でも、それでもお前さんは立派だと思うけどな」

「……」

「でもな? それでも、オレの信念は変わりはしねぇ。もうこれ以上、アンタは過去にとらわれず、心を痛めなきゃいい。……せめて最後ぐらい、ヒーローにさせてくれよ」

 

 タケハヤは調子よく、でも、その裏にはキリノでは読み取れないぐらいの覚悟と強さがあった。

 

 おそらくは、この中では一番大きい。

 

 でも、なぜそこまで……? どうして―――

 

「ガラじゃねぇと思うけどさ、あこがれてんだ。『正義の味方』ってヤツによ―――」

 

 タケハヤは、そう答えた。

 

 キリノは……ただ、何も言わず、その言葉の強さを受け取っていた―――

 

 

 

 

 



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57Sz きまぐれ

……アカン、もう3月下旬入りそうや。しばらくはPC使えないのでなるべく早めに書き上げねば。

というわけで57Sz、そしてchapter5.5は終了します。何かいていたんだろう自分は……。

あー、ここだけの話、chapter6はさらにあっけなく終了しそうです。理由? ……だってあの帝竜……ゲフ、ゲフン。

とりあえずそんな話は置いといて、57Sz、どうぞ!


「あーつまんねー。暇だ暇ー」

 

 降っていた雨は未だ降り続き、しかしフウヤはエレベーターの近くで雨宿りするように寝そべっていた。

 別にSKYの一緒にいたくないわけではない。かといって医務室行ってタケハヤの様子を見に行くのもなんだか恥ずかしい。

 と、なるとやることは一つ……なのだが、どこにいるのか分からないし、あんまり出歩いて他の所にも被害がいったらそれはそれで面倒だ。

 

「やっぱ牢獄だな」

 

 ぐてんと仰向けに転がって、外を見る。やっぱり雨は降り続いている。

 と、ふと一瞬、雨雫がドラゴンのように見えたが、すぐに雨雫へと切り替わる。

 

「……あーつまんね」

 

 この言葉一体何回言えば済むのだろうか。そんな些細な事を思ってしまうぐらい、退屈だ。

 

 ……思えば、あいつらと会ったのも『退屈しのぎ』だったよなぁ。

 

 ふと、フウヤはそう感じた。

 元々フウヤはSKYの中では完全に新入りで、本来なら下っ端と言われておかしくない人物である。

 しかし、タケハヤはそんなフウヤを今や共に行動をする人物の一人として数えられている。

 別に特に何かしたわけではない。ただ単に、憂さ晴らしにやった行動に興味を惹かれたからであろう。

 

 ある日彼は電車の中で眠っていた。彼は基本的に寝るときは耳栓をつけている。まぎれもなく、彼の能力の一つを自ら防ぐためである。そうしないと安眠できない。

 ついでに言うと、彼は特に何もする予定はなく、ただ単に「電車の中で寝て、起きたところを暇つぶしに歩く」だけであった。

 そして突然、電車は止まったらしいが、ある「音」に気が付くまでずっと眠っていた。

 

 雨の音、車の急ブレーキの音、水たまりを踏みつけて進む音、とある誰かの叫ぶ音。

 

 その音で現実世界に引き戻され、ゆっくりと起きた。

 

 突然、車内が揺れ、完全に目が覚める。

 

 電車のドアは開いており、その先は駅もなく、ただ砂利と線路と何かの建物だけであった。

 

 そのドアの一つから、誰かがぬっと顔を出した。

 

 長く獰猛な顎、誰もを震え上がらせる眼球、生半可な兵器すらも弾いてしまいそうな赤い鱗。

 

 最初、彼は「まだ寝てんのか?」と思っていた。いくらなんでも都合がよすぎるし、こんな出会いは絶対にないと考えていたからだ。

 

 それら全ては、ソレの咆哮で吹き飛ばされた。

 

 窓ガラスがビキビキと音を立て、車内がガタガタと震え、紙をバサバサと揺らす。

 

 耳栓で聞こえなくした世界には、ソレの咆哮しか聞こえない。

 

 最初は驚き、現実から意識を引き離していった。

 だが次第に、現実へと意識を引き戻していった。

 

 笑う。

 

 今日は最悪で最高の日に、そして今日から最悪で最高の日々になりそうだ。

 

 彼は邪魔になる耳栓をあえて外さずに、隠し持っていたナイフを二本取り出して外へと駆けていった。

 

 

 あー。前言撤回。やっぱ人とタイマンやったほうが楽しいわ。

 つか一体どうなってやがんだよ。目の前にドラゴンいて、んでもって人はいない。しかもそのドラゴンはくっそ弱い。もうちょっとハードでもいい気がするんだがなぁ。

 ……あ?

 

 彼は遠くを見る。ちょうど、スクランブル交差点のところに男女カップルがこちらを見ていた。

 しかし彼はそれよりも遠く、そう、建物を見ていた。

 

 遠くにある建物が樹海に取り込まれたようになっており、まるで未来にきてしまったと錯覚してしまったからだ。

 

 いや、それよりも今はどうなってる? 彼は思わずケータイを取り出し、確認する。

 そこには無機質に映された時刻と、今日の日付、そしてやや弱めの電波マークが存在していた。

 

 つまり、いつの間にかこうなった、そうなんだろ。

 

 そう思いながら彼はその場所から飛び降り、本来なら人がにぎわっている道路へと足を踏み入れた。

 

 そしてやっと気が付く。そういえば耳栓をしていたんだった。妙に聞こえないから何かおかしいとは思っていたが、まさか心のどこかでは楽しんでいたと思っていたとは。彼はなんだか不覚と思いながら耳栓を外す。そこに一気に音が紛れ込んできた。

 

 そんなうるさい世界は、確実に彼が生きている世界であることを実感させられた。

 

 そしてそんな能力で、聞こえたのはとある男性の声だ。

 

「お前……面白そうな力持ってるじゃねぇか」

 

 

 

「……ま、今じゃ面白いことになってるから、こういうのもある意味運命なのかもな」

 

 そうだろ? と、先ほどエレベーターから出てきた人物に向かって話した。

 

「それ、なんで俺に振るのさ……?」

「お前はオレのライバルだからさ」

「なっ!? いつの間にそんな風になってるんだよ!?」

「だって未だに不完全燃焼なんだぜ? 前は障害物あったけどよー。マジのステージだったら負けないぜ?」

「知らねーよ! ……とにかく、みんなのところに戻ったら? 多分、明日ぐらいに作戦決行するとおもうからさ」

「やだ」

「なんで!?」

「寝る場所ぐらい静かにさせてくだせぇ。おやすみ」

 

 そういってフウヤは近くに置いておいた寝袋に包まると横になった。

 

 思わずため息をつく。意外なのか、呆れなのか。

 

「……けど、フウヤはなんだかんだで、強いよな。こんな状況なのに我が道を貫いてるってか……そんな感じでさ」

 

 そういいながら、エレベーターに乗って降りる。

 

 チーン、という音を聞いてから、フウヤはそっとため息をついた。

 

「……強くねぇよ。腕っぷしの話だったらともかく、精神は意外ともろいもんだぜ?」



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Chapter6 『状況』狭めし『ウラオモテ』
58Sz やらなくてはいけないこと


どうもこんにちは! ついに「ルシェかえ!」は一周年を迎えました! ワーイ

とは言ったものの…普通に考えたところでこの時には20ー2編が始まっているはずなんですよね。自分のサボり癖ってひどいものですね。

後…今回はタブレットキーボードで書いたので文がややひどい傾向にあります。PCが今手元にないんよ…

と、とりあえず、ルシェかえ一周年、58Sz、どうぞ!


 願わくば、人類に……勝利を―――!!

 

 

 

「―――っあああああ!!!!」

 

 突然、全身の痛みを感じて俺は跳ね起きた。思いっきり床にも激突して、さらに痛い。

 ついてねぇ。普段の俺だったらそう感じていたはずだ。

 でも、違った。

 

「ど、どうしたロナ!?」

「……なんか悪い夢でも見たかアホ娘」

「ゲホッゲホッ……悪い。突然痛みを感じて……」

 

 っつう……マジでどうしたんだ俺。突然跳ね起きるなんて……。

 いや……もしかしたら何かを感じ取ったのかもしれない。それも強大な……何だ? 俺は必死に頭を巡らせていた。

 

「……おーいボケ娘。聞いてるん?」

「……ちょっと待っててくれよ。何か思い出しそうなんだ」

「何か……?」

 

 あっと。ヒカイさんが間違えて食いついてしまった。いや、ヒカイさんが思ってることとは絶対に違う。

 ………うん? 何を……思い出そうとしているんだ? マジでわけわからない自分に、疑問と苛立ちを隠せなかった。

 いや……。やめた。思い出すにもいろんなもの忘れていて何を思い出そうとしているのか全く訳が分からなくなってきた。とりあえず俺は一息をつくと首を横に振った。

 

「……だめだ。何も思い出せやしない」

「つーかこの状況で何を思い出そうとしていたんだよ」

「……ジョウトぶん殴る方法」

「ハァ!?」

「お前俺の心配は戦闘後以外しないのかよ! ふざけやがって、だったらなんかぶん殴らないと気が済まないたちなんだよ!」

「てんめぇ……どういう冗談だおい!」

「二人ともやめたまえ。特にロナはレディとは思えない発言だぞ?」

 

 うるさいよ。忘れられがちだけど俺男だよ。転生前は。今身体は女の子なんだぞ。……言ってて自分が悲しくなった。

 けど……さっきの痛みはなんだったんだ? まるで……いろんなところ消失してしまったような、そんな痛みが……。あーもううざい。俺はとにかく外に出てスッキリすることにした。もちろん、二人に先に断ってね。

 

 都庁前の広場に足を踏み入れた俺はまず深呼吸。もう焦るのはやめた。焦ってたってもう、何もいいことないんだしな。

 ……少し成長しないと、ガトウさんにもキカワさん……いや、『委員長』にも申し訳ないしな。

 

 ……そういや、なんで『委員長』までもこの世界に来ちまったんだ?

 

 ってか、そもそもどうやって出会ったんだ……?

 

「………ちょいと気になるな」

 

 ……せっかくだし、聞いてみるか。そう思って都庁に入ろうとした矢先―――

 

「……っ」

 

 突然、肌が膨れ上がるような痛みを感じて、俺はとっさにその痛んだ左手を見た。まるで、どっかからの受信を受けているように、なぜか感じた。

 これは……地下帝竜か……? いや……

 

「……違う?」

 

 よく分からないまま、俺は咄嗟に東京タワーの方角を見た。……あまりにも規格外である、絶対にダンジョンと化してるタワーは大気圏すらも突き破って上まで伸びているはずだ。ここからはよく見えないけど、きっとそうだ。

 その屋上から……何か、よくいえない……ものすごい力同士が衝突している?

 左手が震えていた。ここからでもわかるぐらいに強い力がぶつかり合っている。

 

 一体……誰が、『ミヅチ』を……?

 

「おいアホ娘! 大変らしいぜ!」

「誰がアホ娘だジョウト! ……それより大変なことってなんだよ?」

 

 俺は言葉に反感しつつも、ジョウトの持ってきた情報を聞いてみることに。

 

 

 

「さっき入ったばっかしの情報なんだけどよ……アメリカが消滅したらしいぜ」

 

 

 

 ……え?

 

 

==========

 

 

「………本当、みたいなんだな」

「えぇ。とても信じられない状況ではありますが…メッセージにて確認できました」

 

 会議室。俺たち13班の他に、10班やネコさんにダイゴさん、フウヤがいた。アメリカの消滅は比喩表現なんかじゃなかった。一応、大人数は地下に匿うことができたのではあるけど、大統領は…。

 …やっぱり、今でも信じられないけど……けど、今朝のがそれが原因ならいろいろ考えられる。

 ……くそっ。やっぱり、これも『アイツ』の仕業だよな…。早くなんとかしないかぎり、こっちの消耗が激しくなる一方だ。そのためにも……

 

「…キリノ。準備は大丈夫だよな?」

「えぇ。後は完成を待つだけです」

 

 そう言った矢先に、扉が開く音がして俺たちは振り返った。噂をすればってやつだと思って。

 

 でも、違った。

 

 開いた扉の先は、やや中年の、スーツ姿の人物であった。作業するのには完全に不得手な格好だ。

 

「………」

「あの?」

「ムラクモは…信用できん」

 

 唐突に告げられた言葉。その言葉を理解するのに俺は少しだけ時間がかかった。その人は続ける。

 

「これより我々、反ムラクモ派は1フロアを我々のものとし、今後一切ムラクモとのかかわりを遮蔽させてもらう」

「…なんだって?」

 

 ダイゴさんが言う。スーツ姿の男は、ダイゴさんをにらみつけた。

 

「なぜ貴様らのような不良組織をこの都庁に入れた? おかげで諸君たちの名誉は一瞬にして下がった。これをどうやって回復しろと?」

「っ…」

 

 キリノが苦しい顔をする。俺自身も声をあげたかった。俺たちは何も間違ってはいないんだって。

 でも、言えない。それは、今言ったのもそうだけど、何より司令塔だった『アイツ』がいなくなった上に事件の首謀者であることで、俺達にも当然疑いの目は向く。反論したくても、できなかった。

 

「話はそれだけだ。…精々、身の回りの確認をすることだな」

 

 それだけ言うと、その人は帰っていった。シンと静まり返る会議室。その状態で、俺は口を開いた。

 

「…大丈夫です。元々俺達は人命救助もしているんで、今さら『迷惑だから』でここを離れなくて構いません。それに、今が最低でも、何とか信頼を取り戻そうとしている最中ですし」

 

 俺の言葉に、付け加えるようにキリノが言う。

 

「ロナの言う通りです。それに、今さら帰ってくれって言える状況ではありませんよ」

「確かに、オレ達にはやらなくちゃいけねぇことがあるからな」

 

 ジョウトの言う通りだ。俺達にはやらなくてはいけないことが存在する。それでなんとかしなくちゃいけない。こんな絶望的な状況で。

 

「って…あれ?」

 

 何か…引っ掛かるような。何だ?

 えっと、俺達はまずは『ザ・スカヴァー』を討伐しなくちゃいけない。そのためには開発反の人たちの協力が必要不可欠で……

 

「……まさか」

 

 考えるより俺はすぐに会議室を飛び出す。行き先は今現在の俺が霧のように抱えていて、はっきりしないけど考えは分かる程度の場所。

 少しして、その場に到達。辺りはシンと静まっていてなんだかおかしい。

 そうだ。このおかしさが原因なんだ。普通ややうるさいほうがこの場らしいのに、それがない。

 

「………どうしてだよ。あの人達は何も悪くないだろ!?」

 

 開発室……人がいない一室で、俺は叫んだ。

 

 どうして…どうしてなんだよ…!



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59Sz 届かぬ想いは未来へと

……ごめんなさい! いつの間にか半年以上もかかってました!!

実はとりあえず書いてはいたのですが、話が予想以上にダラダラしてること、緊迫感のある事件で緊迫感のないシーンを書いていたらガチでおかしな方向に飛んでっていたことがあって一度話を改稿、その話に1か月ぐらいかかってました。本当に申し訳ありません。

次の話もこのままじゃ絶対結構かかりそうなのでなるべく早めの投稿をしていきたい、と思いつつ……

お待たせしました! 59Sz、どうぞ!


「……分からぬな」

 

 彼はそう呟いた。

 こうして救援活動と称して社会的に問題のあるSKYを連れてきたこと。

 そしてナツメの手下であるムラクモの一員。

 

 それなのになぜ、こうして都庁にとどまっているのだろうか。

 

 理由は簡単だった。今の我々に、都庁から移動する手段がないとは言えないが、あまりにも危険すぎるからだ。

 候補としては、国会議事堂があるものの、上記の問題がそれを邪魔をする。仮にも国の支える一人なのだから、安全策は必ず取りたい。しかしその安全策というのが、ムラクモしかない。彼は苦虫をかみつぶすような顔をした。

 

 その時だ。ドアが突然ノックされる。

 

「……入れ」

 

 彼はそう言い、入ることを許可をする。間もなく扉は開き、中から一人の人物が現れる。

 そんな人物の容姿を見て、彼は思わずため息をついた。

 

「貴様……人に会うときにそんな若者の服を着る愚か者がいるか?」

「…………ごめんなさい。どうしても見せたくない傷があるので」

 

 その人物は赤のフード付きパーカーをかぶっていてやはりイラつかせる。しかしその人物の声はやや低めで、風邪でも引いているんじゃないのかと思うぐらいだった。

 

「……ふん。まぁいい。ところで何の用事だ?」

「…………いえ。疲れているかと思って、少しばかり差し入れを持ってきたんですけど」

 

 そっと、その人物は丁寧に箱を置く。彼はゆっくり目を細める。

 

「食べ物も今は必要ない」

「そうですか……残念です」

「で……なぜここに来た」

 

 一瞬だけ、フードの人物は動きを止めるとゆっくりと彼の方に振り返る。

 

「………なぜ、捕えようとしたのですか?」

「聞いていなかったのか」

「………実はその時まで医療班の人たちにお世話になっていたので、聞いていないんです」

 

 彼は息をつく。全く忌々しく、苛立たしい。

 よく分からない感情が押し寄せてくるが、それを押し殺し、説明した。

 

「……簡単なことだ。もしドラゴンに襲わせる兵器だとしたらどうする? 人の安全を守れないと思わないのか?」

 

 正論。何も間違ってはいない。我々こそ、国際社会の上に立つべき存在だからだ。それを脅かす連中は必要ない。

 間違ってなど……いない。

 

「………いや、造っているのはただのライトだったらしいですよ?」

 

 が、フードの人物の一言でその信念は砕けそうになった。

「何?」

「聞いた話なんですけど、今回の攻略のカギを握っているらしいですよ。ですから―――」

「………分からんな」

「何がですか?」

 

 その人物は彼に疑問を持った。彼は目をつぶり、やがてこう答えた。

 

「……聞けば、ムラクモの総司令であるナツメが人類の絶滅を願っていると聞いている。何故その計画の邪魔をする? こうして集めているのであれば、我々を簡単に殺すことだって可能だ。だが、私たちは……」

「殺しませんよ! ……少なくても、私はそう思います」

「ふざけた事を……」

 

 冷笑するように彼はそうつぶやく。

 こいつも、ムラクモに唆された哀れな一人なんだろう。救出だが何だが知らないが、その過程で何かしら考えが変わってしまったのだろう。全く、哀れだ。

 

「退出したまえ。これ以上、お前と話すことなどもうない」

 

 淡々とした口調で彼はそう告げる。その言葉は、『自分は何も間違ってはいない』。そういうような声だ。

 フードの人物は少しだけ考えるかのように動きを止め、何か独り言をつぶやいてはいた。彼はあえて何も言わずに次のリアクションを待っていた。

 そして、フードの人物が口を開いた。

 

「…………私、目の前で大切な人が死んだのを何度も見たんです」

「……何?」

「…………ある人は私を、ある人は私のセンパイを、身を挺してかばってくれて……でも、そのおかげで、今の私がこうして生きているんです……もう、お礼とか言えないんですよ……」

 

 フードの人物の涙がこぼれ落ちる。本当に、辛い思いをしたことが、今の彼でもよく分かるぐらいに、フードの人物の悲しみが伝わってくる。

 フードの人物は続ける。

 

「だからもう、これ以上……誰一人死んでもらいたくないんです……夢のような出来事かもしれないんですけど……それ以上に、ムラクモの人たちは死んでいった人たちを見ているんです。だから……!!」

「解放しろ。か。……理由がなっていない」

「あの人たちの力が、必要なんです! みんなが安心して、手を取り合って生きていくためにも!!」

 

 涙ながらに訴える人物。その迫力に、彼も一瞬だが、怯んだ。

 

 ……何をすればいい。国民を護るためには……どうすればいい?

 

 そんな感情が、彼を渦巻く。

 

「………退出したまえ」

 

 彼は、弱みを見せないようにそう一言告げる。

 

「………いい返事を、期待してます」

 

 それだけ言うと、フードの人物は出て行った。

 

 部屋に残ったのは、たった一人。

 

 その中で、どうするべきか、最善の手を打とうとしていた―――

 

==========

 

「………遅いな」

 

 トランシーバーをじっと見つめながら、俺は屋上で自分のマナを再確認していた。

 無理のない範囲で、足手まといにはならないようにするにはどうすればいいか。まるで元から持っていた力のように俺は右手に浮かんでいる白く透明な気を浮かばせながら考えていた。

 あれから、数時間が経つ。正直、ショックは抜け切れてないし、もしかしたらまた暴走するかもしれない。そうしたら二人……いや、みんなの足を引っ張っちまうかもしれないし、迷惑をかけちまう。

 それだけは……嫌だった。

 

 実際、俺が『俺』として生きていた記憶なんてほとんど忘れてる。はっきりと分かってるのは『委員長』との微かな記憶ぐらいだ。

 キカワさん……いや、『委員長』は確かにあの時、あの雨の日に昇降口を飛び出していった。理由は、やっぱり分からない、いや、記憶してないだけかもしれない。

 

 ……何が言いたいのかっていうと、どうして『みんなと一緒に戦いたいのか』、その根本的な理由がまだちゃんとしてないからだ。ぶっちゃけ、俺はそこまで積極的な性格じゃなかった気がする。

 

「……まぁ、いいか」

 

 今はそんなこと、どうでもいいか。自分で選択した事なんだしな……。

 それよりも……一つやっておかなくちゃいけないことがある。『あの技』をきちんと出すことだ。

 初日、無意識にぶっ放した、おそらく大技であるアレ。あれがあれば少しずつ戦闘が有利に運べるはずだ。もちろん、それだけ負担はかかるはずだけど、やらないよりはまだましだし、もし本気で危ないなら使わなくていい。そんな感じだ。

 

 けど、実際に的(ムラクモ用に作られた練習用の丈夫な的らしい)に向かって何度か試してみたけど、相殺されて全く使い物になってない。なにやら風が少しだけ吹き飛んできただけで、特に強いって雰囲気ではない。

 どうすればいい? 俺はそんな風に考えてたけど、諦めたかのように寝転がって空を見上げる。青空がぽつぽつとあるだけの曇り空だ。

 

「………」

 

 俺は一体、生きている間は何をやっていたんだろうか。もしかしたら、『委員長』と一緒に、空を見上げて笑っていたりしたのかもしれない。

 それで……『委員長』が死んだのがショックだった。けど……何だかんだで生きていたのかもしれない。

 

 ……もし、俺が神様の流れ弾に当たっていなかったら、どう生きていたんだろうか。

 

 その時だ。突然トランシーバーから音が出る。と、同時に誰かがこっちにやってくる。俺はトランシーバーを手にしつつ、その人物を見た。

 

「……アオイ! どうだったんだ?」

「えへへ……バッチリ! です! 釈放されていた開発班の人たちがちゃんと帰ってきましたよ!」

「本当か!?」

 

 俺は通信のことなんて気づかずに大喜びした。よかった。分かってくれたんだ。……いや、そうじゃない。

 

「お前……どんな説得をしたんだよ?」

「聞きたいですか?」

「あぁ!」

 

 俺は頷く。だって、正直言って滅茶苦茶不安だったんだ。アオイが本当に説得できるのかって。でも、こうしているんだから、杞憂だったらしい。

 アオイは悪戯っぽい笑みを浮かべた後、そっと俺に言った。

 

「内緒、です!」

「なんだよそれ」

 

 思わず俺は笑ってしまった。いやまぁ、何となくわかってた答えなんだけどさ。聞きたい事は何か聞いてみたいし。でもまぁ、理由はどうあれ、こうして何事もなく解放されたんだから別にいいよな。俺は一人で納得しながら、そんな風にまとめていた。

 

「ただ、あと少しだけ、時間がほしいとのことです。それまでセンパイは……」

「身体を休めとけ、だろ? 無茶はしないって、分かってるから大丈夫だって」

「もう……そうやってセンパイはいっつも無茶するんですよ? たまには、頼ってくださいよ。ちょうど、この案を発案して拒否されることなくやってのけた私のように」

「……あー……そういえばそうだな」

 

 事の発案は全部アオイがやってのけたことだ。何か、妙にその辺りは的確だったし、俺も案自体は否定してなかった。ただ、やるのがアオイだったから不安なだけだったんだ。

 ……仲間に、頼る。か。そういえば、ずっと焦りまくってて、仲間って存在を忘れかけてた。ちょうど、今の訓練だってそうだ。全部、俺一人でやってのけようとしようと思っていた。

 ………焦っている理由はよく分かってないけど、でも、確かにそんな感じがする。俺はアオイに言われたことを頭の中で復唱しながら、ゆっくり頷いた。

 

「分かった。それじゃ……俺は何をすればいい?」

「も・ち・ろ・ん、次の作戦までに身体を休めておくことですよ!」

「りょーかい」

「ついでに、センパイとお話したいなって! ここ最近は忙しすぎてなかなか話す機会がありませんでしたから!」

「えー……俺の話?」

 

 ……まぁ、そんな風に他愛のない話で、時間を過ごした。ほとんどのことをはぐらかしまくってたから、その辺りは妙な罪悪感があった気がするけど。

 

 ……あぁ、因みに後で知ったことなんだけど、通信の理由はただ、今回の件についての報告だった。つまりアオイが言ったこととほぼ同じ内容だ。

 それでもアオイは自分が自ら俺のところまで来てくれた。……何でなのかも、聞かなかったけどな。

 

 

 

 

 



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60Sz 強き信念と弱き夢

どうも、作者です。案の定一か月かかってしまいました。申し訳ございません。

割と楽にいけるかな、と思ったchapter6だったのですが、やはり話建てるのは難しい、ということを実感してしまいました。

とりあえず、60Sz、どうぞ!


『―――13班、および10班の方々は会議室に集合してください』

 

 っと、そろそろだな。俺は通信に無言で頷いて、何となく伸びをした。

 しばらくはただアオイと色々話してただけだし、その間に俺の心も不思議と軽くなってきたような気がする。

 今まで、ずっと焦っていたからかもしれない。いろんなことが絶え間なく続いていて、そのたびに俺たちは立ち向かっていって、休憩とかそれは見せかけのものだったのかもしれない。

 それを実感してしまうほど、何故だか楽観的な考えになっていた。こうして、何かを話すってのも、あんまりしてなかったからかもしれないからだ。

 

「……ところでさ、アオイ」

「はい? 何ですかセンパイ」

 

 会議室があるフロアに行こうとして、エレベーターの前で来るのを待っていた俺は、同じく隣のアオイに聞けなかったことをぶつけてみる。

 

「……怖くないの?」

「え、何がですか?」

「いや、だからさ……戦うのが怖くないのかって」

 

 はっきり言ってしまうと、俺はまだ怖かった。あれだけ帝竜とかぶっ倒していた割には実際はまだ怯えていた。

 今までそういった感情を押し殺していたのは多分、仲間が絡んでいたからなんだと思う。今の状態で、それは何となく感じていた。

 

 ウォークライ。二人が吹き飛ばされて、ナガレさんも殺されそうになって、それで俺は戦った。

 ジゴワット。ガトウさんとか自衛隊の人たちとか殺されて、それでみんなで意志を確かめ合って、無駄にしないために戦った。

 ロア・ア・ルア。二人がとにかく前に進んで、俺も帝竜のことが許せなくって戦った。

 トリニトロ。タケハヤさんとかにいろんなもの託されて、それを裏切ることが出来なくて戦った。

 スリーピーホロウ。あれだけ怪我してたのにとにかく休みたくはなくって、アオイに背中押されて、タケハヤさんが目の前でピンチだったから戦った。

 

 多分、俺は理由がなければ戦っていなかっただろう。それがたとえ意識的だったとしても、無意識だったとしても。

 

 エレベーターはまだ来ない。妙に長いように感じる時間の間、アオイはクスリと笑った。その笑いに、俺は思わず驚いた。理由を聞く前に、アオイは答えた。

 

「そりゃ、私は怖くありません! だって私が怖がってたら、誰が戦うんですか!」

「……う、うん、そりゃ、そうだな……」

 

 何となく分かる気がする。大胆な例えだけど、ここの世界の人たち全員が怯えていたらそりゃ誰も戦わない。俺だって戦わない。

 でもその中で、アオイは戦おうとしている。……多分、多分だけど、俺も一緒に戦うことを言ってるかもしれない。それが所謂『ヒーロー』……あぁいや、女性だから『ヒロイン』かな。そういう気質なんだろう。

 

 エレベーターがやってきて、アオイが先に入って俺も後に続く。ボタンを押し、フロアまで待つことにした。

 

「それはもう、困っていた人がいたら助けなくてはいけませんし! 私はそういう生き方しかできませんから!」

「…………」

「……センパイ?」

 

 俺はアオイの言葉に聞く耳を貸さないほど、考えにふけっていた。

 

 困った人を助けて、それがお節介だとしたら? 自分は何となく嫌だった。でも……。

 今の行動、それはまさに今の自分……なんじゃないか? いや、でも……。

 

 もどかしくなった俺は、言葉にして訳の分からない感情を吐き出してみる。

 

「それが、お節介だとしたらどうなのさ? 正直、俺はそこでやめてると思う」

 

 ……驚いていた。今の、自分の言葉に。なんていうか、グレているというか、経験してるというか。自分でも訳分からないまま、気づいたらいつの間にか、俺はいろんな言葉が出ていた。

 

「それがもし、人を傷つけるようなことになって、そいつが辛くなって、……自殺とか図ったりしたら……?」

「その時も助けます」

 

 はっきりとした声に、俺は思わず言葉を失った。まっすぐで、迷いもなくって、一本の細くて暗い道でも進んでしまいそうな声。

 

 扉が開く。会議室のあるフロアだ。俺たちは無言のまま、エレベーターから出る。

 

「……センパイも、今までそういう生き方してたから、こうしているんですよね?」

「……俺は、そんな立派なものじゃない」

 

 正直、アオイが眩しく感じて、目を背けながら俺は呟いた。

 実際、俺は巻き込まれる形で今居るし、何かのためとか、そういうのはその時起こった状況で無意識に決めて、突っ込んでいる。そうやって、俺は今を生きているんだろう。

 

「……そうなんですか?」

「あぁ」

「それでも、センパイはセンパイですけどね」

「どういう意味だよ」

 

 アオイの言葉に、俺は思わず笑いながら言った。同時に、ギスギスした感覚も少しだけ抜けたような気がする。

 でも……何となく気になっていた。自分のそういった、俺でも分からなかった、所謂『裏』。失ったってのに、こういった悲観的な考えをしてる。

 

「ところでセンパイ?」

「ん?」

「夢って、あります?」

「…………」

 

 そう言われると困るんだが。しかも会議室目の前でそんなこと言われても困るんだが。大事なことなので二回思った。ってかそもそも記憶喪失状態の俺にそんなこと聞かれても困るんだが。あ、これで三回目だな。

 とにかく、俺は「ない」と告げて扉を開けようとする。

 

「それって、寂しくないですか?」

「そりゃ寂しいに決まってるだろ。………これからどうするか、とか、ほっとんど決まってないんだからよ」

 

 咄嗟な嘘をつきながら俺は今度こそ開けようとして……動きを止めた。

 いや、思い出したわけじゃないんだ。ただ、これが夢なのかは分からなくって、どちらかと言えば……目標なんだから夢じゃないと思う。けど、俺はあえて言い切った。さっきの俺と決別するかのように、そして少しでも前に進むために、力強く。

 

「すまん嘘だ。……夢はドラゴンを狩って、平和を少しでも取り戻したい。目標って言われちまえばそれまでだけど、ないわけじゃないさ。それに、今なくっても、後でじっくり考えりゃいいんじゃないか?」

「後で……じっくりと?」

「そーだよ。こんな状況じゃ、夢とか叶えられないだろ? だったら少しでも戻さなきゃ意味ないしな。さ、とっとと集合しようぜ」

「………そ、そうですよね!」

 

 今のアオイは、俺には何となく焦っているように見えた。何というか、分かりやすいからだ。そう言った『夢』が、本当はないんじゃないかって。

 実際今のも咄嗟の嘘だし、本当の夢とかじゃないし、色々間違っているんじゃないのか、って言われたらそりゃそうだけど。

 

「……なにやってんだお前ら」

「あれ、ジョウトじゃないか。お前こそ何やってたんだ?」

「別に」

 

 そう言ってそそくさと入ろうとするジョウト。しかし俺は(一旦、近くに立てかけられていた時計を確認してから)それを阻害する。目の前で仁王立ち。ご丁寧に目の前で止まったジョウトは息を吐くように呟いた。

 

「……絶壁が」

「てめぇは山派か!!」

「うるせぇアホ! つかどけ!」

「どけない」

「何でだよ!?」

「どけませんから!」

「アオイも邪魔してんじゃねぇよアホコンビ!!」

 

 嫌だ、邪魔してやる。ついでに絶壁でいいんだよ。俺元々男だし。流石に大きいのは勘弁だ。ははは、何がとは言わなくても伝わるだろう。

 そして数秒、諦めの早くジョウトはまた息を吐くと、教えてくれた。

 

「……奥義、って知ってるか?」

「ん、えーっと……」

 

 奥義って……多分、『普通は習得できないけど、熟練度が上がれば使えるようになる』っていう、ゲームとかでよくあるシステムっぽいあれかな。

 そう言おうとしたときに、アオイが元気よく手を上げて答えた。

 

「はい! 暑い日に持ち運べる団扇みたいなものです!」

「それは扇だ! ジョウト、座布団全部もっていって!」

「何で俺がそっちなんだよ! ってかマジでお前らアホコンビか!」

「うるせバカ。……とりあえず本題に戻すぞ。……で、それを習得しようとしてんのかジョウトは」

 

 恐らく誰でも分かるような、簡単な理由を俺は答えると、ジョウトは間を置いてから「あぁ」と、頷いた。

 ……意外と努力家だよな、ジョウト。内心、俺は驚いていたが、なるべく表情には出さないようにしておいた。

 とりあえず、俺はそのまま続けた。

 

「で、習得しようとしてたら呼び出しを喰らい、それで今に至る、と」

「………何でそこまで分かんだよ。エスパーかお前は」

「サイキックだっての。まぁいいさ。……で、どうしたいんだジョウト?」

「は?」

「いや、だからどうしたいのか。このまま会議聞くか、習得したいか。正直、俺は後者だと思うけど」

 

 ぶっちゃけ、俺も何か強い技を習得できるならそっちに専念したい、気がする。まぁ状況とかにもよるけど、そんな感じではある。

 仲間守れるなら、多分頑張れると思う。それは今までだってそうだったんだ。そして、これからも。

 

「……流石に今回は必要ねぇと思うし、会議聞くことにするわ」

「いいのか?」

「どっかのアホと一緒にはなりたくねぇしな」

「お前マジでぶっ飛ばすぞ」

 

 からかわれてるように聞こえるジョウトの言葉に反論しながらも、俺は扉を開ける。

 

 何となく……気になっていた。俺が、俺らしくないような言い方をしていた時。

 いろいろ疑問に残ってるけど……今は今の問題を解決するしかない。そう思っていた。

 

 

 

 

 



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61Sz 俺と俺の狭間

皆さんお久しぶりです。やっと61話目です。

ただ……どうもスランプに陥ってしまったため、内容がいつもの半分以下になっています。このchapterのメイン回には調子を取り戻さねば……。

というわけで、61Sz、どうぞ。


「……」

 

 地下鉄。やっぱり、竜はいるし魔物もいる。今は視界には入っていないけど、なんとなく分かっていた。

 でも……今は気が気でない、そんな気分だ。

 結局、会議もよく聞いてない。いつものこと、と言われるとその通りなのかもしれないけど、今日は一段とその気ではなかった。

 

 アオイにぶつけた言葉。今の『俺』らしくないような、そんな言葉。

 

 おせっかい、やめてる。

 

 いや……もしかしたら、今の『俺』が、俺ではないのかもしれない。

 気持ち悪くて、吐き気が出そうな気分になる。それほどまで、さっきの言葉が非常に嫌になっていた。

 

「……俺、何かあったのか……」

 

 その一言。俺は今まで断片的に思い返していたけど、蒸気のようにフワッと消していたこと。

 

 俺は記憶喪失だ。

 だから、失くした記憶の中に、何かあったんじゃないのかと。

 ……でもおかしい。だとしたら、なんで『俺と委員長』の記憶があるんだ?

 何かのショックで思い出したから、と決定づけることはできるけど、何故かほぼそれしか思い出せない。

 てかそもそも、ヒカイさんやナツメは俺を『実験体』と確信させている。赤の他人という記憶の根拠はないし、そうじゃなかったらそのことを思いはしないはずだ。

 そしてそれ以前に、俺は転生者だってことを自分で分かっているんだ。夢で済む問題じゃない。

 

 何が正しい、何が間違ってる?

 

 答えは……どこにあるんだ?

 

「ロナ」

 

 声をかけられ、我に返った後に振り返った。

 

「……辛いなら無理をせず、休んでいたほうがいい。その方が私たちも安心する」

「……俺は安心できません。俺だって、13班ですから。休んでる暇なんてないんです」

 

 結局意地張ってた。この言葉を言った時には俺は、あっ。と思ってしまった。

 無理をするな、と言われているのに、自分からそれを見せていた。

 ……変わってないのか、俺。

 

「まぁ、少しは実践させたほうがいいんじゃねーの、オッサン。正直、ずっと休まれるとオレ達も勘弁してもらいたいわ」

「……ジョウトの言う通りでもある、か」

 

 ジョウトがフォローするように言ってくれる。

 ……結局、こうだ。

 俺は何も変わってない。むしろ、ずっと悪いことばかり思い出している。

 変われ、というのは……無理なのだろうか。

 

「まぁいいか……ロナ。そしてジョウト。内容の確認をするぞ。まず私たちが与えられているのは……」

「あれだろ、電線繋いでライトの効力を高める」

「もちろん。その間の開発班の護衛はあの若者がやってくれているとのことだ」

 

 ……あの、若者……?

 

「えっ……フウヤ一人で大丈夫なんですか!?」

 

 驚いた。多分、一人であることより、フウヤが護衛を買って出たことに。

 だけど、ヒカイさんは逆に驚いた表情で俺を見ていた。

 

「何も、ロナが承諾したからだろう? 『護衛はイヤだけど、ロナが後でサシで俺と戦ってくれるならやる』と。そうしたらロナが分かりました、と言っただろう」

「……」

 

 ……なんてこった。意識が別の方向に向いていた時にそんなことを約束してただなんて。

 ……確かに、よくよく思い返してみればそんなこと言っていた気がする。でもあれは帝竜の話じゃなかったのか?

 ……そういえば、俺が「分かりました」、とだけ言った後に誰か(声からして、多分アオイかもしれない。うろ覚えだけど)が反論する声が上がって……何か、説得させてしまったような気がする。

 

 ……最悪だ。

 

「……そうですね、確かにそんなこと言ってました」

「……この際だから言うぞ、ロナ。ボーっとしていると何もできなくなる、いいな?」

「ごめんなさい。気を付けます」

 

 次からはちゃんとしておかないとな……。そう思って、俺は両頬を叩いて気合を入れなおす。

 

 ……迷うのは、帝竜を倒した後。

 ……そうじゃないと、取り返しのつかないことになる。……思うのは、簡単だった。

 

 

 

 

 



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62Sz 沈む暗闇

どうもお久しぶりです。どうしても現実での出来事で余裕が全くなく、気づいたら年が明けてました。本当にごめんなさい。

今年こそは3年前よりも多く書かねば。そう思いながら精進していきます。

それでは62Sz、どうぞ。


「電線……ってアレ、だよな?」

 

 壁に剥き出しになっているコードとコード。……あれ、現実で見るとマズいんじゃね? と思いながら俺たちは近づいていく。見る限り、一方コンセントプラグでもう一つがその差込口なので専門的なことはいらなそうだ。

 ……いや、いろいろツッコみ所はあるんだけど、今はそんな気分じゃない。

 

「二人とも、周囲の警戒を怠るなよ。あれは私がやろう」

 

 そういって、ヒカイさんはゴム手袋を装着して近づいていく。その間俺とジョウトは周囲を見渡し、マモノやらドラゴンやらを警戒し始めていた。……感覚的にも、近くにはいないっぽい。

 

「終わったぞ。残りは10班の方々がやってくれるから、一度外に出よう」

「分かりました」

「あいよ」

 

 そういって俺たちは来た道を戻ることにした。道中のドラゴンは全部やったはずだし、後はマモノぐらいか。分かりやすい殺気も、特にない。

 

「……?」

 

 何かが動いたような音がして、俺は立ち止まった。二人は……気づいてないのか?

 となると、俺だけが気づくような何か。……つまりそれって……?

 

 直後、通信がけたたましく鳴ると同時に地下道が大きく揺れる。

 マズい。そう思った時、先に前へと進んでいた二人に大きく声をかけた。とにかく、二人に何かを知らせようとして。

 でも、遅かった。いや……そっちに気を取られたのだろう。天井がガタガタと音が鳴ったと思ったら、落下物が落ちてくる。慌てて俺は下がり、とにかく下手に当たらないようにここは一度下がる。

 走りまくって、振動も収まったときに俺はその場で止まり、振り返る。……見ると、がれきの山だ。この状態で進もうにも難しいだろう。

 

「二人は大丈夫かな……っとそうだ通信!」

 

 すぐに通信機を取り、連絡を取ろうとする。が。

 流れてくるのはノイズ音ばかり。どうやら電波妨害もされてしまったらしい。なんてこった。

 

「……嘘だろ」

 

 状況は最悪だ。来た道を戻ろうにもがれきの山で進めないし、連絡も取れない。

 

「……はぁ、どうすればいいんだよこれ」

 

 もしかしたらさっきの地震で何処か崩れてるおかげで進めるところもあるかもしれない。とはいえ進んでも確か行き止まりだったはずだ。

 でも、行かないよりはマシだろう。俺はそう決めて、進み始めた。少ししてさっきの場所に戻る。電線は繋がったままだ。作戦には一応支障はないだろう。

 

「……」

 

 ふとよぎる。俺なんかいなくても、大丈夫なんじゃないかって。

 俺はそこまで強いとは思っていない。それに、俺は本当に役立てているのかどうかも分かっていない。

 俺が勝手に、「必要だと思ってるから」二人と一緒に行ってる感じなんじゃないか、と。こうして一人になって思ってしまう。

 

「……また、足引っ張ったのかな」

 

 多分、無意識に出た言葉。気分と一緒に心も沈んでいく。

 いつまでもこんな感じじゃだめだろう。そう言い聞かせる余裕も俺にはなかった。

 

「……?」

 

 突然、ノイズのように何かを感じた。ここから4時の方向、壁の奥。気になって俺はそこに近づき、狭い抜け道を発見する。

 

「こんなのがあるなんてな……」

 

 きっと何かがある。そう思って俺はその抜け道を進む。意外にも中は広く、人一人分は十分に通れる感じだ。

 やがて道が開ける。そこはまた空洞らしいところだった。

 

「あ……」

「ん?」

 

 気になって声の方を振り返る。女性だ。服装からして多分一般人。奥の壁で座り込んでるみたいだけどまだ無事みたいだ。

 

「大丈夫ですか?」

 

 俺は声をかけながら近づく。女性は無言でうなずいた。

 

「……通信繋がるかな」

 

 そう思ってトランシーバーを取り出す。が、どうやらまだ通信不良らしい。なんでこんな時に限って……。仕方ないこととはいえ、俺は少しだけイラついた。

 

「あの……」

「あ、はい」

「助けに……来たんですか?」

 

 女性が言う。……どちらかと言えば俺は偶然道を見つけてこの人も見つけた、同じような人だけど。

 

「……あー、そう、だとよかったんですけど……自分も生憎道に迷って。通信も繋がらないので困ったことに……」

 

 すいません。と、俺は一言付け足して謝る。女性は仕方ないか、という顔をしてしまった。

 ばか、ここで弱気になっちゃダメだろ。でも、どうする? 道はさっきので崩れたはずだし、たった一人でこの女性を護衛する力はあるのか? 俺は黙ったまま、別の道を見ながら思考していた。

 

「あの……」

「……どうしました?」

「実は、あっちの方から来たんです」

「……本当ですか?」

「はい。ですが……どちらかと言えば外のマモノやドラゴンから逃げるためにこちらに来たので……」

「……この先もドラゴンやマモノがいると?」

 

 女性は無言でうなずいた。多分、俺が救助隊(そういう立場)と思ってこその発言だったんだろう。

 女性は帰りたいと思っている。それを俺は無下に出来るのか。

 

 出来るはずがないだろう。

 

「……動けますか?」

「……はい」

「でしたら、俺が一緒に行きます。これでも実力はあるので」

 

 完全に危険な賭けだ。たった一人で女性を護り、出口を見つける。

 でもこれはS級を持つ……俺でしか出来ないことでもある。

 救助を待ってる余裕なんて今はなかった。通信も掛からない以上、このまま待ってる余裕なんてなかった。

 一刻も早く合流したい。この人を護りたい。自分の気持ちが混ざり合った答えは嘘なんかではなかった。

 

 



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63Sz 合流途中

えーお久しぶりです。作者です。……とうとう1年もの更新をストップすることになってしまい、毎週楽しみにしてくれていた人たち(いたらいいなぁ……)にとっては非常に申し訳なく思いました。

とりあえずリアルも自身の精神状況も落ち着いたのでここからまた更にかけていければいいな、と思います。いつ更新が止まるのか分かりませんが、それでも陰ながら最後までお付き合いしてくだされば私も非常に嬉しい限りです。

では63Sz、どうぞ。


「……こっちです」

 

 女の人から「どうやってここに入ったか」「ルートは覚えているか」を聞いた後、俺は前に進みながら警戒し、安全だと思ったら来るように促す。なるべく近い方が安心だが、下手に二人で行動してるときに遭遇したらやや大変だ。

 今のところマモノは珍しく少ないようで、あまり遭遇してはいない。もし遭遇したとして、俺一人で護れるだろうか。

 そんな不安や弱音を一切口にせずに少しずつ進む。下手に吐いて不安がらせるのはまずい。

 

「……」

 

 どこまで進んだだろうか。そう思いながら立ち止まる。壁からそっと、その奥を見る。見ればドラゴンがいる。まだこっちには気づいていない。ただ、他のルートはこれ以外ない。

 塞がれたかもしれない。不安になるけど、ぐっとこらえて、後ろを振り向いて女性に目を向ける。

 

「……やってみるか」

 

 無理に戦闘はしない。そもそも、タイマンするほどの実力は持ってはいない。無茶はするなと言われている。俺は女性に「身をかがめてください」とだけ告げてさらに様子を伺う。

 ……だめだ。あのドラゴンはどうやら動かないらしい。恐らく、先ほどの影響で道がつぶれたか、若しくはドラゴン自体が別のところから移動した後にここに来てまた静止してしまったか。

 ……完全に道は塞がれた。ここからここまで一本道だったはずだし、本来使うはずだった道も瓦礫の山で塞がれてしまった。

 焦るな、何か手はあるはずだ。そう俺は自分に言い聞かせて更に辺りを見渡す。そして見つけた、ぽっかりと空いた壁の穴と小さな空洞が。

 行動しないよりまだマシだろう。俺はそう思って無言で女の人に手招きし、壁の穴を指さした。

 その後俺たちはその穴の中に入る。穴の中は休めるぐらいにはそれなりに狭くない空間だった。時間に関してはそこまで長く歩いたわけでもないが、正直ドラゴンとやりあってる最中に別の敵が来るとなるって考えると慎重にならざるを得なかった。

 

「……通信、繋がるかな」

 

 一度空道内を確認。穴とか、マモノが侵入してきたとかの確認を取り、特にないことが分かった後にトランシーバーで通信をつなぐ。生体反応に関して、ミイナやミロクが拾ってくれるかなって思いながら。案の定、ノイズ音しか入ってこなかった。どうやら、さっきの振動でかなり持ってかれたらしい。

 一人になるという不安。今まで感じたことなかった。

 

「……あの」

「うん?」

 

 奥で座っていた女の人に声をかけられた。俺はその人を見る。女の人はスマホを見せてきた。

 

「この子、見かけませんでした?」

「この子とは? ……っ!?」

 

 思わず顔に出てしまう。心臓が飛び出そうなぐらいに―――。

 

======

 

『生体反応はこの辺りで消失………どうするんだ?』

 

 時は少しさかのぼる。先ほどのガレキが崩れた影響でロナと別れてしまったヒカイとジョウトはまず状況確認をし、互いに無意識に顔を合わせていた。

 

「……言われなくても合流する。だろ、オッサン」

「あぁ。毎度の如く無茶されたら困るんだがな。……ルートの検索を頼む」

『了解。ちょっと待ってな』

 

 ミロクの声で一度通信が途切れる。一度切れた通信の後に二人は一度周囲を見渡した。崩れた個所はいくらかあるものの、移動できないわけではない。ミロクから開示されるはずのルートを二人は待つことにした。

 

「なぁオッサン」

「何だ?」

「………いや、やっぱなんでもねぇ」

 

 ジョウトは何か言おうとしたものの、即座に言葉を区切る。ヒカイもそれ以上は何も言わず、ただ連絡を待った。

 ものの数十秒。ミロクから再び通信が入る。ジョウトの持っている端末にマップが表示された。

 

『13班。別ルートの捜索完了したぜ。恐らくこの地点からならロナと合流できるはずだ』

 

 と、ここまでミロクは言ったあとに言葉を一旦区切り、続ける。

 

『ただ、ジャミングが酷い。多分帝竜が通ったせいだな。未知の領域に近いから二人とも油断はするなよ?』

「あいよ。言われなくても、オレ達は問題ねぇ」

 

 そうジョウトは答え、ミロクは『はいはい』と言って通信が切れた。

 

「じゃ、行くとすっかオッサン」

「分かってるとも」

 

 二人はマップを頼りに先へ進む。

 途中、敵からの妨害があったものの、上手く退けていった。

 

「……あーダメだ」

「どうした?」

「んー。あのアホ娘がいねぇと楽も何もねーなって」

 

 さも当然のような言い方でジョウトは敵から使えそうな素材を入手した後にそう言った。ヒカイも思うところがあるのか、「あぁ」と答えた

 

「確かに私ひとりではな……元々この戦い方自体、単体での戦闘を得意としている。集団戦ならロナの方に分があるだろう」

「そういやオッサン。その拳法ってどこ仕込みだ?」

 

 一見興味のなさそうな言い方でジョウトは言った。ヒカイの動きが一瞬だけ固まる。何か言いずらそうに表情をきつくし、それ以上は詮索するなと言いたげに。しかしジョウトは知ってか知らずか、そのまま言葉を続ける。

 

「……つーか、アンタらは隠し事多すぎるんだよ。オレそんなに一般人ってことかよ?」

「隠し事、と?」

「あぁそうだ。まるで二人とも何かあるみてーだし。それもこうした状況に関係したりするやつ」

「……」

「つーかこの前、自分で行ってもいいって言ったのに渋谷の時にブッ叩くとかどういう神経してんだよ。自分が命令してないと気が済まねぇってか?」

 

 それだけ言うとジョウトは黙ってしまう。ヒカイもその様子を見るものの、言い返せずに雰囲気が悪くなる。その光景をモニター越しに見ていたのか、ミロクが通信を入れてくる。

 

『お前らさぁ……喧嘩している暇あるならさっさとロナ見つけて来いよ。……当人も関わっていることだろ、それ』

「……まぁ、な」

 

 ヒカイは呟くようにそういう。ジョウトは無言で返す。雰囲気が更に重く感じる。

 

「……とにかく行こう。ロナと合流次第、必ず話す」

「あいよ」

 

 それだけ言うと二人は先に進むことにした。

 

 

 

 



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64Sz 役目

―――ドラゴン襲来まで、残り約半年。

大丈夫じゃない、問題だ。……ということでまたお久しぶりです。何とかちょこちょこ積み上げてきてやっと投稿できるようになりました。その……なるべく来年までに2020の最終Chapterまで書き上げようと思うので、頑張ります。

というわけで、64Sz、どうぞ。


「………」

「その反応………この子を知っているんですか?」

 

 女性に言われる。俺は黙ることしかできなかった。

 言い訳なんて、本当はしたくない。

 

 でも……本当のこと言って、信用してくれるのか?

 

 怖い。

 嫌だ。

 でも。

 

 次の言葉を発しようとしても、それらは息となって言葉にならない。

 

 でもいつか、言わなくちゃいけないことだ。だからこそ。俺はぎゅっと握りしめると、俺が知っていることをすべて話した。

 事の発端である、都庁での出来事。そしてフロアで偶然出会ったこと。たった二つしか思い出がなかったけど、俺はその二つが妙に印象に残っていた。それは覚えている。

 

 そして……ナツメに殺された事。

 

 やはり女性は信じられないような顔だった。とにかく俺は淡々と事実と、子供の話をしただけだった。

 何秒、という時間は感じられない。まるで俺だけ時間が止まったような、そんな感じだ。

 

 一通り話し終える。女性はやはりショックだったらしく、言葉に出来なかった。

 それもそうだ。俺だってこんな事話したくなかった。だからって、嘘をつくわけにも……行かなかった。

 

「………あの」

 

 少しして、俺は声をかける。同時に俺は、どうして事実を話そうとしたのか、という疑問に至る。

 そりゃ、嘘を言ってでも「俺は知らない」と言えばよかったんだろう。そうでなくても「死んでいない」という虚言を言えばよかったはずだ。でも俺は事実しか言っていない。

 なぜなのか。答えもはっきりしていない。ぼんやりと霧のような、雲のような、そんな感じだ。

 でも、それが俺自身の中での『答え』となっている。言葉に出来ない解答、みたいなものだろう。はっきりとしていないはずなのに。

 けど。それで本当にいいのか? 嘘ついたところで……事実を見て見ぬふりをしていいのか?

 きっと、それが嫌だったのかもしれない……。

 

「………ごめんなさい」

 

 俺から出せる言葉はこれだけだった。

 ……女性は、ゆっくりと首を横に振った。

 

「そうですか……」

「……」

「……分かってました。きっと、何処かで連れ去られて……でも生きている希望を失いたくなくって……」

 

 その希望は、俺の言葉で無くなった。……そう思うと、一瞬だけ自分をぶん殴りたくなった。ほんの一瞬だけだ。もちろん反省も後悔もある。

 けど。言わなければいけない事実だったんだ、きっと。だって、俺がその時近くで目撃してたからだ。……だからこそ。正しいって思うしか、なかった。

 

「……でも、ありがとうございます。本当は言いたくない事実だったのですよね?」

「え……あぁ、はい。……そうです」

「……辛かったの、ですよね?」

 

 ……その通りだ。俺は言われるままに首を縦に振る。多分、表情に出ていたのかもしれない。割と顔に出やすいのかも、と思いつつ。

 

「それでも事実を言った……それはきっと、いつか知らなければいけないことですから、でしょう?」

「……そうですね。……失った人なんて、もう二度と帰ってこれませんから」

「……強いのですね」

 

 強くない。俺はその言葉に目を背ける。そして女性は一瞬目を伏せるとひとりでに頷く。

 

「……何があったのかは、まだ聞きません。……ですから、もう一度……お願いします」

「護衛ですね。……了解です」

 

 俺は頷きながら承認する。そして空洞内から通路を覗く。……やっぱり、ドラゴンはまだそこにいる。だから流石にきつい。……二人が来てくれたらきっと大丈夫なのに。

 その時だ。ドラゴンが塞いでいる通路の奥から、足音が聞こえた。紛れもなく人間の足音だ。誰だ、という疑問の前に、俺は女性にそこにいるように指示して苦無と銃を取り出す。

 

「……よし、行くぜ!」

 

 ここにもいる、という風に声を上げ、ドラゴンに突撃する。そして見えた。ヒカイさんとジョウトだ。そんな幸運に俺は笑ってしまうが、すぐに戦闘を開始する。

 

 ―――結果はいつも通りだ。ヒカイさんが前線に出て、俺が横から差し込み、ジョウトが支援する。当たり前の事が、当たり前のようにできて。俺は思わず小さくガッツポーズをしてしまう。だがすぐに遠くの女性に呼び掛け、来るように指示する。

 

「……すごい」

 

 女性は開いた口が塞がらないようだった。それは多分、こうして俺たちがドラゴンを倒せたことによる驚嘆だろう。そりゃ、今までは俺一人だった。だからドラゴンはなるべく避けてたし、マモノも出来る限り遭遇しないように注意してたから。まともに戦うことはなかった。

 でも今は違う。ジョウトやヒカイさんがいるからこそ、俺はこうして戦える。……一人で無茶しなくてよかったって、ふと思ってしまう。

 俺は女性に笑いかける。

 

「これが俺たちの力ですよ。……犠牲を生まないため。だから俺たち13班は戦うんです」

「……そう、なのですね」

「……正直、今でも申し訳ないって思ってます。……でも、事実は事実のまま……ですから」

 

 だからこそだ。罪滅ぼし……なのかよく分からない。けど俺は2人と一緒に戦う。散々俺が迷惑かけたし……。

 

「……そうですか」

 

 女性はゆっくり頷くと、俺たちに言ってくれた。「頑張ってください」って。俺たちは勿論、と言わんばかりに頷いた。

 

======

 

 一度俺たちは地下道から外に出る。女性はそこで保護され、俺たちは支給品の再確認をしていた。そしてついでに俺は地面に触れ、帝竜がどうなっているのかの確認もしてみた。……何の反応もなかった。

 

「さてと……」

 

 と、ジョウトがゆっくり立ち上がる。……って、あれ、まだ早くないか? 俺は時間を確認しようとして、しようとする前にジョウトがヒカイさんに声をかける。

 

「おいオッサン。約束忘れてるんじゃねぇだろうな?」

「約束……? ジョウト、お前約束してたのか?」

 

 質問を投げる俺。直後、二人の間の空気が何やら異様に重いことを感じた。

 ……二人とも、どうしたんだ?

 

「……何があった?」

「お前も疑問に思わねぇのかよ。オッサンの戦い方だ」

「いや別に……確かに色々あるっちゃあるけど、ジョウトから見ての俺だって同じだろ?」

「お前はいいんだよ。素人だってのがオレでもはっきりわかる」

 

 お前俺の事そう思ってたのかよ。何かムッとした。そう言ったらお前だって同じだろうが。と思ったが特に何も言わなかった。どうせいつものジョウトの皮肉だし。

 

「んでえぇっと……あぁそうだ。それとアホ娘、お前は何者だよ?」

「……ルシェだけど」

「は?」

 

 どうせ知ってる人多いだろ。ということで俺はあっさりとばらした。言葉の割にはジョウトのリアクションは少ない。まぁ……都庁を取り返す前に見てただろうから薄々感じてたんだろう。それについては特に何も思わなかった。

 でも……それとこれとは一体何の関係があるんだ? 俺は無意識に、ヒカイさんを見てしまう。ヒカイさんは俺を見て、そしてジョウトを見て息をつく。

 

「分かった……私の事についてだな。いいだろう。約束は約束だ」

 

 そういって、ヒカイさんは淡々と自分の過去について話し始めた。

 

 

 



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65Sz 戻る必要性

Q お前どんだけ時間かけてんだ。
A 申し訳ない。

というわけで……やっとお待たせしました。65Szの、そしてChapter6の折り返し地点の話です。
ただこれを書き始めたのが結構前で、それなのにこれだけしか書けていないので数年前ほどの出来ではないのはご了承ください。(別に数年前も凄いとは思ってませんが!)

というわけで、65Sz、どうぞ。


 ヒカイさんからいろんな話を聞いた。

 元々ヒカイさんはナツメさんの下にいたこととか、それから家族の事とか。俺の話はしなかった。

 家族のことは俺が何となく聞きたかっただけだ。でも、ヒカイさんは普通に話してくれた。

 

 ……どうも、ヒカイさんの家系は武術に長けていたらしい。通りで強そうな雰囲気を出していたわけだ。ただ、武術に長けていたとはいえS級ではなかったらしい。ヒカイさんだけが異質だった、と言うべきだろうか。

 それに感づいたのは20代になる前だった。正確な年齢はもう覚えていないようだった。そんな自分が嫌だったのか、それっきり武術はやめ、医学を学んでいた。そうすれば、父を超えられないように出来たのでは、と当時のヒカイさんは思っていたらしい

 

「つーかナツメのこと、何で今まで黙ってたんだよ」

「聞かれなかったからな」

 

 まぁそりゃそうだ。俺だってあんまり聞きたいとは思ってなかったし、まさかそういう関係とは思わなかった。

 ……いや待てよ。でも、ヒカイさんからすれば、『ロナ』はナツメのことを知ってると言う事になる。

 でも、『ロナ()』はナツメのことを全く知らなかった。だからこそ聞かれなかった、ということにもなる。

 ……何か話がややこしくなってきたぞ。とりあえずこの話は一旦置いておこう。

 

「とはいえ、正直な話……ナツメがこうした手段に出ることに関しては予想はしてなかった。どんな人であれ、上に立つ以上相応しい行動をする人だと思っていたからな」

 

 そう言われればそんな気もする。

 何で気づけなかった、と言われればそこは仕方ない、としか俺は言えない。

 だって、今までの話によると、ヒカイさんとナツメはただの協力相手なんだろう。少なくても、ナツメにとっては。ヒカイさんはどうなのか分からない。……聞きたいことでもあるけど、でも……今は聞くときじゃない。

 

「上に立つ……か」

 

 ふと、そんなことを無意識に呟いた俺。……別に、ナツメのやってることは正しいとは全く思ってない。

 てか、今の話聞いてたらただそれは責務から逃げてるんじゃないのかって思っただけだ。

 

「……とにかくだ」

 

 一旦話を仕切り直すように俺は二人に言う。

 

「とにかくジョウトは知りたいことを知った。ヒカイさんは言うべきことを言った。二人ともそれでOK?」

 

 そんな俺の言葉に、ヒカイさんはゆっくり頷いた。ただ、ジョウトはまだなんか納得していない。

 ……正直なとこ、俺は不安だ。このままの状態で戦ったら……また分裂しそうな気がして。

 怖いんだ。

 

「……なぁ、ジョウト」

 

 言葉を慎重に選ぶ必要がある。だから俺はゆっくりとした口調で、続ける。

 

「………なんか、ゴメンな。置いてけぼりにしたみたいで」

「別に……」

「別に、じゃねぇよ」

 

 俺は若干苦笑しつつも、続ける。

 

「まぁでも、これからは一緒だからな。相手の過去も知ったし……って、あ」

 

 そう。過去。

 

「……なぁジョウト、やっぱ俺の過去も晒したほうが良いか?」

 

 それじゃ不公平だろ、と付け加える。

 俺はジョウトの過去をちょっとだけ知ってる。ヒカイさんの過去も知ってる。

 ヒカイさんは俺の過去を知ってる。ジョウトの過去は……知って、る、のか? ここは保留。

 ジョウトは………俺の過去を知らない。

 だから、まるで俺自身が平等じゃないような気がして、そんな風に思った。

 ジョウトが答える。

 

「バカ野郎。誰がテメーの過去なんざ聞きたがるか」

 

 よしぶっ飛ばす。

 

「……ワリィな。こっちもつい意地張っちまった。俺なんかいなくても二人でどうにかしちまいそうだったしな」

 

 手を振りつつ、ジョウトが答える。なんだこいつ、結構素直なとこあるじゃん。

 

「まぁとりあえずオレから言いたいことは一つ。オッサン、ロナに謝れよ」

 

 …………は?

 え?

 ………ヒカイさん俺に何かやらかしたのか?

 

「あぁ……そうだったな」

 

 忘れてた、と言わんばかりにヒカイさんが立ち上がり、俺に向かって頭を下げ、謝罪の意を示す。

 もちろん俺が、それがなぜなのか分からず焦ったのは言うまでもない。

 

「すまない。どうしても無理してほしくなくて……だからこそあの場面で手を上げてしまった」

 

 手を………あげた?

 

「………え、いつの話ですか?」

 

 まじでいつ?

 

「……渋谷の時だ」

 

 何かちょっと、驚いたような表情でヒカイさんが言う。

 渋谷? …………あー。そうか、そうだな……。思い出した。でもそれは……。

 

「いや、俺自身は覚えないので、そのことで謝られても………」

 

 嘘だ。覚えてる。でもそれは俺自身が悪いことだってことは自覚している。

 けどそれで覚えてる……と言ったところで何か変わる?

 だからこそ、覚えていないと誤魔化した。それはただ単に罪悪感だけではなく……俺の予想通りの光景を見たいからだ。

 案の定、ヒカイさんは申し訳なさそうに、だが何か言いたいがどうすればいいかを悩む顔になり、ジョウトは「お前なぁ……」と呆れた顔になっている。

 あまりに予想通りすぎて、俺は思わず笑ってしまう。

 

 ……これでいいんだ。

 

 今、わざわざ過去に戻す必要はない。今を受け入れてどうにかするしかない。

 大丈夫。俺達ならやれる。今の俺達なら―――。



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66Sz センパイ=ライバル

また1か月かかってるじゃんこの人!

というわけでお待たせいたしました。多分後1話か2話でやっとChapter6が終わります。……長すぎた。(年月的な意味で)

あと、多数の評価をいただいたおかげか、機能で読み上げが出来ているようです。これもひとえに皆さんのおかげです。本当に、本当にありがとうございました。

……でも読み上げ機能使うと可笑しな読みになることもあるから自己責任でお願いしますね?

というわけで66Sz、どうぞ。


「よ……っとぉ!!」

 

 襲い掛かってきたマモノを、フウヤは両手に持ったナイフで一閃し、斬り裂く。裂かれたマモノはバタンと倒れると霧散し、消滅した。

 

「おーい整備班さんよぉ。いつになったら終わるんだー?」

 

 フウヤが遠くで設備をいじっている整備班の一人、といっても彼にとっては誰でもよかったわけだが、その中の一人が「もう少しー!」と大声で答える。その声に、溜息をつくフウヤ。

 

「もう少し……ねぇ。数分ならともかく、十分以上かかったら容赦しねぇぞ」

 

 と、呟くように小さくいう。

 そんなフウヤの前に、赤髪のサイドテールの女性が現れた。アオイだ。

 

「こーんにちは」

「なんだよ急に挨拶しに来やがって」

「いえ。そういえばちゃんと声かけてなかったなーって」

 

 そう言ってアオイはそこから少し離れ、遠くにいる整備班をじーっと見つめてからフウヤに向き直る。

 

「それにしても意外ですよね?」

「何がだ?」

「いえいえ。センパイが貴方を作戦の護衛に入れる代わりに後でタイマンしてあげてもいいって承認してたの」

「………いやあれ本人の意思じゃねーと思う」

「えっ!!?」

 

 アオイはすごく驚いた。まさか本人の意思ではないと言う事に。いや、逆に本人の意思ではないことだけは素直にほっとしていた。もし本当だったら、ちょっとセンパイを疑うところだった。とアオイはそう思うのだった。

 フウヤは続ける。

 

「だってあんだけ人を傷つけるのが怖いんですー。とか言ってるやつが急に『分かった』とか言い出すんだぜ? 気味悪いったらありゃしねぇ」

「ちょっとー。センパイのことをそんな風に言わないでください!」

「センパイ? アレが?」

 

 なんであれが、と言わんばかりにあざ笑うフウヤ。そんな態度にアオイはむっと頬を膨らませる。不機嫌な表情のままにアオイは続けた。

 

「そりゃセンパイはセンパイですから! 私の方が後から入ってきたのでコウハイなんです!」

「そういうもんかねぇ」

「そういうもんです! それに……」

「それに?」

 

 何故か勿体ぶっていじわるな笑顔を浮かべるアオイ。フウヤは「あーそういうことね」と勝手に理解してその場から立ち去ろうと、クルリと回ってどこか行こうとした。勿論アオイは慌てて阻止してまたフウヤの前へと現れ出る。

 

「ちょちょちょ、ちょーっと待ってくださいよ!? そこ普通『それになんだよもったいぶらずに話せ』って言う場面でしょう!?」

「は? 面倒くせぇよ。聞いてる時間あるならオレはその辺のマモノ狩ってた方が有意義だし」

「じゃあここで言います! 聞きなさい!」

 

 もう逃がすか、と言わんばかりにフウヤの両腕を掴むアオイ。その行動に流石に観念したのかフウヤはわざとらしくため息をついた。

 

「はーいはい分かりました。ソレニナンダヨモッタイブラズニハナセー」

「そうですそうです! 最初からそう言えばいいんですよ!」

 

 何故かアオイは得意げだ。

 

「センパイは本当に強いし優しいですからね。きっと私に持ってないものを持ってます。もし私が先に入ってたとしても多分、尊敬してたし憧れてましたよ」

「うっそだろ? 多分だがお前の方が経験あるし戦闘慣れもしてるだろうが」

「そうだとしてもです。……多分ですけど、この世界を救うのもセンパイ達13班じゃないかな、と思います」

 

 アオイは手を離した後、ゆっくりと下がって見上げる。地下道故の薄暗さが、まるで天井などないような気分に錯覚させる。

 フウヤは肩を竦めると、そこから離れ始めた。離れつつも、呟く。

 

「まぁそんなよえーやつでも、オレとタイマンして一応勝ったからな。そこは認めてやるよ」

「……ふふっ。魅力に気づいてくれて何よりです」

「だが気をつけな。お前さん死んだらアイツ弱体化するぞ? そしたら許さねーからな」

「おやおやぁ? 気遣ってくれるんですか」

「ちげぇよ」

 

 フウヤは振り返り、口元をゆがめて笑う。

 

「せっかくやりあうなら万全の態勢でねぇと困るんでな。やっぱ全力出させて完膚なきまでにねじ伏せたほうがいいだろ?」

 

 それだけ言ってまた身体の向きを変え、何処かへと歩く。恐らく開発班の元へと、だろう。

 きっと他の人にとっては呆れてものも言えなかった態度でフウヤは言ったつもりだった。

 だがそれを聞いていたのはアオイだ。能天気なアオイはクスリと笑い、誰にも聞こえないように、誰もいない方向へと向き直る。

 

「つまりセンパイはライバル、ってことですね」

 

 そんなつぶやきをポツリと漏らす。

 

 やがて開発班の準備が完了し、連絡が行き届く。

 後は帝竜をおびき寄せ、光を当て、討伐するだけだった。



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67Sz 希望の先導、言葉の過去

Q あのもう2020年終わるんですけど
A 反省の言葉もございません……。

というわけで年単位でグダグダ続けてきたChapter6もようやく終わります。2020なのに2020年に終わらないとかホントだめですね私。
あと本当に申し訳ないんですけど、今回の帝竜戦に関しては完全に端折っています。先に理由を言いますと

・帝竜が動かないから描写に困る
・でも動いたらもっと困る
・そもそも3戦あるのでソードマスターヤマトみたいになる

これが原因なのでこの話が全く手つかずという失態です。すいません。

他に誰かななどら2020の小説書いて……と思いながら他の方がやってのけた上に私より早く完結してるので『セブンスドラゴン2020』のストーリーを見たいという人はそちらを見たほうが早いです。
そして見たら原作もやりましょう! 面白いですよ!

というわけで67Szどう……

という前に一つ。48と49に関しては思いっきり話の内容を変えました。自分でも『ナニコレ?』て思うほど全然だめだったので……。

改めまして67Sz、どうぞ


「そらッ! 喰らいやがれ! これが開発班の心意気だあッ!」

 

 帝竜が作戦ポイントに入る。至る所から高出力の光が帝竜を照らす。

 

『よし、今だ13班! そのまま蹴散らせ!』

「「「了解!!」」」

 

 帝竜の目の前に堂々と飛び込む。完全に弱まっている今、このチャンスを逃すすべはない。

 

「ロナ、ジョウト。短期決戦で一気に仕留める。相手は弱まっているが、暴れてきてしまえばこちらが大幅に不利になる。いいな?」

「分かってます!」

「言うなよオッサン! オレはどっかのアホ娘と違うからな!」

「よっし。ジョウトはこの作戦が終わったらぶっ飛ばしてやるから覚悟しとけよ」

 

 いつもと同じ。だが緊張感はその数倍。

 それでも仲間がいる。怖いものはなかった。

 10班の人やフウヤは4班の人達を避難させるために別行動していた。

 

 けれど大丈夫。俺もヒカイさんもジョウトも強いし、問題はない。

 

=====

 

 作戦は成功した。というか、明確な弱点を突いていたので、俺たちの出番は美味しい所を持っていく、という感じだった。

 

「……」

 

 動かなくなった帝竜を何気なく見る。こいつももうじき消滅して影も形もなくなるだろう。

 後一匹。そうすればきっと……。

 

「このまま帰れんだな……」

 

 いや待て帰れない。そう俺は言い聞かせる。

 7匹狩ったところで最後の問題がある。ナツメだ。あいつを倒さない限りこの日本には平和は来ない。それを成すのが俺たちなんだから。

 

「やはりその資格……まさに竜を狩る者ね」

「え、アイテルさん?」

 

 俺たちの近くにやってきたのはアイテルさんだ。護衛もつけず、ただ一人で。危ないってのに何でここまで?

 

「気づいてない? 竜に大きな損傷を与えているのは貴方たちだって」

「はぁ? オレ達だけの力じゃねーだろ。今回は作戦が上手く進んだのも他の奴らの手を借りたからなぁ?」

 

 いや待て何で俺に聞くんだジョウト。けど確かに言うとおりだ。俺は無言でうなずく。ヒカイさんも、俺の位置からは見えてないけど頷いただろう。けどアイテルさんは首を横に振った。

 

「いいえ。確実にダメージを与えていたのは貴方たちよ。そうでもなければ今頃この国は全滅していたでしょうね」

「違いますって絶対! ていうか流石に規模が大きすぎます! その、最初の時や渋谷の時は俺たちがメイン張ったわけじゃ……」

 

 あ。と思った時には遅かった。渋谷という言葉を出した時にアイテルさんの表情が少しだけ曇った。相変わらず口下手だよな俺……。俺は一回首を横に振り、一度息をついてから再び話す。

 

「とにかく俺たちだけでは出来なかったことは事実です。……それでも、俺たちが竜を狩る者と思うならそれでいいと思います。俺は……」

 

 そこまで紡いでから、本当にこれで合ってるかと思って顔をしかめる。

 ……大丈夫。合ってるだろう。すぐに言葉が出る。

 

「俺は無理しない範囲で、やれることをやるだけですから」

 

 当たり前の言葉。でもその当たり前が、今の俺に必要なんだから。

 

「そう。やれることを……」

 

 アイテルさんは少しだけ目を伏せてから、ヒカイさんとジョウトを見つめる。二人の意見も聞きたいらしい。まず先に出たのはジョウトだ。

 

「オレはとにかくぶっ飛ばしてやりてーんだよ。人様の住んでるところに勝手に上がってきたのが腹立つしな」

「お前は変わってないもんだなジョウト」

 

 思わず横から茶化すように言ってしまう。照れ隠しなのかしらないけど、ジョウトはフンと鼻息を慣らしてそっぽを向いた。何か、「お前はブレ過ぎだ」って言われてるような気がして。

 

 少ししてからヒカイさんが言う。

 

「私は与えられた仕事をこなすだけだ。それが私たちになし得られないことであればなおさらさ」

 

 これぞ大人の答えって奴なんだろう。ヒカイさんの表情はいつも通りだが、目が真剣だ。

 

「それが3人の覚悟………ということなのね」

 

 そうなるのかな。と頭で思っていたけど、身体はすぐに首を縦に振っていた。少なくても、自分自身に嘘をついたってことはない。

 アイテルさんの表情は変わらないまま、クルと背を向けると外へと歩き出す。護衛もつけずに大丈夫なんだろうか。

 そう思っていたけど、何となくその背は不思議と「大丈夫」って言っているような気がして俺はそれ以上は歩かずにいた。

 と。

 

「きゃーーーん☆ 13班様素敵ですぅ!!」

「開発班の職人魂、帝竜にも通じたみたいだな」

「ホントすげぇよ、13班も、ジジイも……うぅっ……」

 

 ……え、ちょっと待って。何で4班の人達がこっち来てんの!? 避難させたんじゃないのか!?

 

『あー……悪い13班。ミイナは帰るようにって言ってたんだけど、アオイがせっかくなので見たほうがいいって促したせいで……』

「アオイお前……」

 

 遅れてやってきたアオイにため息が出てくる。危ないってのに何てことしでかしたんだよ……。

 

「あははごめんなさい。でも今回は私たちがいましたし、それに……」

「それに?」

「13班の活躍は絶対見るべきだと思うんです! センパイ達のおかげでみんな希望へ進めるんですから!」

 

 そんな無邪気で、元気づけられるアオイの言葉。俺は呆れ半分と照れくささ半分で思わず笑ってしまった。

 そういえば俺たちの活躍を見てくれる人なんて早々いなかったんだよな。だからこうして見る機会があったって言うのも俺たちにとってはメリットだったのかもしれない。

 そんな風に俺は思いながら、ヒカイさんやジョウト、4班とアオイの雑談を少し遠目で見ていた。

 

「活躍見てくださーい、だとよ。まるでアイドルを追っかけてるファンみたいだよなぁ」

「フウヤ……」

「まぁいいじゃねーか。たまにはこんな機会ってのもよ」

「お前も意外と肯定派だったんだな」

「別に。オレは範囲外なんでどーぞご勝手にって気分だったぜ」

 

 冗談でも何でもなさそうな笑いをフウヤは浮かべる。全くお前は……。

 

「あーそうだタイマンの話」

「あ。……あれか」

「やっぱ今は保留。大怪我させて怒られんのは勘弁だわ」

 

 そういえばタイマンの話してた。……正確にはタイマンの話を吹っ掛けられていたのを気づかなかった、ていうのが正しいんだろうけど。そんな話をフウヤから切り上げてきたのがちょっと意外だったので普通に驚いた。

 まぁ保留してくれるなら有難いことだけど。出来ればずっと保留にしてくれ。

 

「あぁあとそれから」

「まだ何かあるのか?」

「……あんまし迷惑かけんなよって話だ。お前さんが前に走って行くのは勝手だが、それで迷惑かけんなってこと」

 

 ………それは反省してる。でも今更言う事なのかそれ。若干複雑そうな表情を浮かべながらそんな風に思う。

 

「まー今のお前さんなら大丈夫だろ。反省してるならそれで結構」

「うん。分かった。………ってか何で急にそんな話を?」

「あ? そりゃまぁ……」

 

 フウヤは首を軽く動かした後、俺から離れる。何だよ教えてくれないのか。

 

「そう伝えるように、って頼まれちまったからな」

「………え?」

 

 どういうことだ。っていう前にフウヤは離れて行ってしまった。

 誰に伝えるって頼まれた? いや、そんなこと出来る人はキカワさんしかいないはず………。

 でもキカワさん、わざわざフウヤに伝言たのむって人だったっけ? それ以前に―――。

 

「ダメだ、モヤモヤする……」

 

 ………フウヤお得意の冗談だろ、って俺はそう言い聞かせる。

 本人からまたこの話を聞きたいけど、多分はぐらかされる始末なのは火を見るよりも明らかだった。

 

 ……でもこれで後1体のはずだ。最後の帝竜、そしてナツメ。

 

 俺たちが希望となれば―――きっと。



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SubChapter 『人』の集う『拠点』にて
閑話 13班の休暇ー①


Q あのこれオリジナルじゃ
A サブイベントを題材にしているので手詰まりにはなりません!

ということで何度も戦い続けるのもありといえばありなんですけど、彼らも人間(一人ルシェですが)なので休暇必要でしょうということで閑話としてサブイベントの話をいくらかしたいと思います。

何でこんな話を、と思われるのですが、ななどらはメインだけでなくサブイベ(ゲーム中ではクエスト)も魅力の一つです。あとサブイベを入れないと一人ハブられてしまう上にどうやって登場させようか悩んでしまうので………。

2021年になっちゃいましたが、出来る限りペースを早めて書いていくので改めましてよろしくお願いします。


「キリノ。これ」

 

 都庁から帰ってきた俺たち13班はキリノに『ザ・スカヴァー』の検体を渡す。

 

「うん。確かに受け取ったよ。それにしても……」

 

 キリノは俺たちを見ると、とても不思議そうな表情を浮かべていた。

 

「君たちがここまで成長するなんてね……。正直なところ驚きだよ」

「そう驚くもんなのかよ」

「そうだよジョウト。確かに君たちはS級だし、他の人もS級の才能を持っている。でもいきなり実力をつけるなんてことは早々無いんだ。ゲームの主人公たちのパーティーのように少しずつ経験を積んでいくというのが当たり前。その点で言えば君たちはある意味特別なんだよ」

 

 ……そういうものなのかな。俺は口にはせずにそんな風に思っていた。

 別に俺たちは普段通りやっている……はずだ。普段通り、竜を狩って救助者を助けて奥へ進んで。それだけのはずなのに俺たちはそこまで成長が早いのだろうか。

 キリノが続ける。

 

「けどそんな君たちだって休暇が必要だ。勿論僕たちには時間がないのは分かってる。でも無理が祟るのも良くない。……ですからこれは命令です。13班、貴方たちには3日ほどの休暇を言い渡します」

 

 長いようで短いような。でも確かに嬉しいことだけど……。

 

「勿論非常時には出動してもらうから気は抜かないように。ただそれ以外での都庁からの外出は禁止。チェロンから何か言われてもちゃんと『休暇だから』と断るように。いいね?」

「………キリノ。後半は自分でも無理なんじゃないかなって思ってない?」

「………正直なところそう思うよ」

 

 思うんかい!

 ……あぁえっと。確かチェロン(呼び捨てでいいって言われたので呼び捨て)は都庁の人の悩みを集めて掲載して、そんでもって俺たち13班……たまに10班の人にも依頼しているみたい。に依頼を通してる仲介役……ゲームで言うならクエストの受付係って人。で、合ってるよな。

 

「でも今から3日間は断るように! もしだめなら10班の人に声をかけてください! 以上」

 

 うわぁ後半ヤケクソだ。俺は乾いた笑いしか出なかった。勿論「多分そう言われたところでどうせチェロン来るだろうな」という意味でだ。

 

 さて一度俺たちは会議室を出る。そこで俺たちは、何故か息をあわせたつもりはないのに疲れたように一斉にため息が出た。

 

「……珍しいなオッサンまでため息なんてよ」

「流石にあと1体となると不思議とな」

「そういやそうか。あと1体。で、オレらが直接ぶっ飛ばしたのが……」

「ストップジョウト。その話は割と困る」

 

 主に渋谷。

 

「もしかしてお前自分の過去振り返るのがイヤなタイプか? ふーん?」

「るっせーぞジョウト。逆に聞くけどお前は自分の過去見られて嬉しいタイプか?」

「全く二人とも。君たちはほとんど変わってないな。今のはジョウトが茶々入れたのが悪いだろう?」

「へいへいすいませんでしたー」

 

 本当に反省してるのかよ。呆れたかのように俺はジョウトを見る。知らん顔してジョウトはどっか行ってしまった。お前そそくさと逃げやがったな……。

 

「………とにかく3日は休暇か。……ヒカイさんはどうするんです?」

 

 そういえばヒカイさんの休暇の過ごし方って結構興味ある。なんかこう、大人の人の休日の過ごし方ってなかなか聞けないじゃん? ヒカイさんは、意外と困った表情をしてた。

 

「そういわれると、私も少し困るな。あまり休暇の過ごし方というのがなかなかね」

「……そうなんですか」

 

 確かに今まで忙しかったせいで、逆にどうやって休もうかってことがどうするかよく分からないんだろう。俺もそうだ。どうやって休息しようか。……まぁここで悩んでいても仕方ないか。

 俺は「じゃあ俺はその辺歩いてます」と言って、どこに行くわけではなくただエレベーターに乗る。さてどうしようか。少しボタンを見つめた後に、手をかける。屋上だ。

 

「……ふぅ」

 

 本当に色々あったな。俺がこの世界に転生して、この世界の東京が、日本が、世界がドラゴンに侵略されて。勿論失った人もいて……でも、何処かできちんと護れてる人もいる、はず。

 あんまり実感はわかなかったけど、俺って、いや俺たちってそんなに強いのだろうか。キリノやアイテルさんの言葉を思い返してみてふと思った。まるで転生したからーって特権みたいな話で。

 

「なんて、創作話じゃねーんだし」

 

 だったらもうドラゴンとかいともたやすく一人でやってるよ今頃。と自分に悪態ついて、チーンという音がエレベーターに響く。もう屋上についたのかな。と。

 

「オー! ここにいたんだヒーロー!!」

「げ」

 

 ………見事なまでのフラグだ。褐色肌で、こんな状況の中でも元気いっぱいのチェロンが、入ってきた。

 

「すいません今休暇なので無理です。そういうのはアオイやナガレさんに………」

「ノンノンノン! 今回はロナ向けのクエスト! リッスントゥーミー?」

「………聞くだけなら」

 

 陽気な気迫に押されて断れなかった。ごめんキリノ、いきなり違反をかましそうだ。

 チェロンは満足そうにうなずく。同時に扉が閉まる。エレベーターが上へ向かう。チェロンがボタンを押した。階は………。

 

「最近のみんなのテンションはダウン&コールド気味よ。そこで思いついたのがみんながハッピーになる企画! そのためロナにも是非とも………」

「………まさかギターやれってこと?」

 

 音楽で人を楽しませる、か。うん、それなら悪くない。都庁から出ずに済むし、ギターぐらいならキリノやヒカイさんから怒られないだろう。エレベーターのドアが開く。場所は……

 

「…………今からやれってこと?」

 

 居住フロアの上の方。確かに人の気配はするけど、何となく空気が重い。あぁやっぱりそういうことか。

 

「OK分かった。でも準備あるし少し待っててくれないか?」

「さっすがヒーロー! 話が分かるぅ! じゃあこれメモ!」

 

 そうしてメモを受け取り、一旦エレベーターに乗ってメモを確認する。メモにはこう書かれていた。

 

・今日のメニュー

 カレー 肉はマモノから取れる最高級の物を使用する

 

 そしてマモノの情報や場所の情報が書かれていて―――

 

「待てぇぇぇいい!! チェロンさっき言ったよな俺休暇中って! なのに何で外に向かえって遠まわしに言ってんだよ!!」

「え?」

「ダメなの? って顔すんな! 外に出たらキリノとヒカイさんに説教されるんだよ! てかこれぐらいなら本当にアオイとかに頼めよ! というかこれのどこが俺向けなんだよ!!」

 

 ツッコみたいところがあったので俺は慌ててエレベーターから降りながらチェロンに迫る。

 

「そりゃロナにとってもお腹が満腹で超ハッピーになるヨ! ここには腕利きのシェフたちもいっぱいいるし、ロナってば本当に美味しそうに食べるからきっとユー向けヨ!」

「そういう問題じゃねぇんだよなぁ!!」

 

 ……ツッコむのにも疲れてきた。俺は思いっきりため息を吐き出してもう一度メモをよく見る。

 うん。どう見ても献立だ。野菜に関しては配給品等でやりくりするらしい。そしてふと思ったことを口にしてみる。

 

「なぁこれ俺向けって言ったけどさ」

「うん?」

「これ俺一人で食うんじゃないよな。だとしたらここに来ないし、何よりそのほうが皆喜ぶし」

「オー! よく見てる! そうヨ! だからロナに一つ頼みたい! OK?」

「…………俺としては賛成だけど、でも今回は本当にキリノに理由をいわないとだめだな。これぐらいなら確かに俺一人でも大丈夫そうだけど、それで他に迷惑かけるのはよくないし」

 

 流石に何度もやらかせば反省して見直すよ俺。

 チェロンは納得してくれたのか、ウィンクしながらサムズアップすると「じゃあキリノ説得しにいこー!」ということで一緒に向かうことになった。




チェロンの話し方がすっごく難しい……。


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閑話 13班の休暇ー②

キリがいいので今回は短め。


 会議室―――

 

「………というわけなので。外出許可ください」

「断ってって言ったの僕だよね………?」

 

 うん。言われた。でもだめだった。

 

「なんていうんだろ、圧力、とはまた違った、気迫、ともなんか違うような、何かに押されて」

「……うん」

 

 なんかちょっと納得しちゃったような顔でキリノは俺の肩を引き寄せて小声で言う。

 

「まぁ本人には一切悪気はないから仕方ないんだよ、きっと」

「それを本人の前で言うの?」

「……こうするしか言う機会がないからね」

 

 そうして俺から少し離れたキリノ。ため息を一つつく。

 

「分かりました。僕もそこまで鬼ではありません。但し無駄な戦闘は一切せず―――」

 

 突然ガチャリと扉が開いた。気になった俺は振り返ってみると。

 

「ジョウト?」

「なんだよお前までいたのかアホ娘」

「誰がアホ娘だ」

 

 こいつ後で覚えとけよ。

 

「で何だよジョウト。会議室来たってことは外出許可貰いに行こうって話か?」

「………何で知ってんだ」

 

 当たりかよ。何でお互い離れてから1時間も経ってないのに、どうしてこうなった?

 

「いや知らない。てか何で? ジョウトお前どっちかっつーと外出ない方だろ」

「まぁちょいとな。あるものが必要になったんだよ」

「あるもの?」

 

 訪ねようとして俺はジョウトの顔を伺う。と。

 

「オージョウト! ユーも依頼を受けるということね!」

「は?」

「ノープログレム! ちょうどロナと目的地が同じのクエストあるよ!」

「いや受けねぇって。話進めんな褐色―――」

「そうは言っても無理だってジョウトだって分かってんだろ?」

 

 半分諦めの表情で俺はジョウトにそう告げる。いやもう、出会った時からそういう人だってことは俺もジョウトも、今いないヒカイさんも分かってる。

 それにチェロンに悪気はない、というのも事実だ。彼女はとにかく人の笑顔のために色んな人の意見を聞いている。相手が誰であれ、どんな身分でも。だから少なくても、俺は彼女に悪印象を持ってはいない。ジョウトはどうなのか分からないけど。

 

「全く君たちは勝手に話を進めるね……」

「あ。ごめんキリノ。無視してたわけじゃないんだけど」

「分かってるよ。君たちが優しい人だってことは僕も理解している。でも本心としては休んでもらいたい。そこでだけど……」

「待て待て待て待て」

 

 今度はジョウトが割り込んできた。

 

「オレは一言も『受ける』とは言ってねーぞ。てかオレが受けるのは別件で……」

「てかまずジョウトはどこに向かおうっての? それによってはになるんだけど」

「渋谷。そこで今後役立ちそうなのがあるんだよ」

「あ渋谷か。なら目的地は一緒だ」

 

 と言って、俺はチェロンのメモをジョウトに見せる。丁度その肉が捕れる箇所は渋谷にあるという。

 

「……いやお前そのためだけに外出許可貰いに来たのかよ」

「悪いかよ。ジョウトもあるものとしか言ってねーからお互い様だろ」

「ま。それ言われちゃおしまいだな」

 

 意外とあきらめは良いなお前。そう思ったけど口には出さずに息をつく。しかしジョウトが欲しい物って何だろ。裁縫セット? まさかな……。

 

「話はついたね? ……仕方ありません。今回は外出許可を出しておきます。但しこちらも条件を出しておきます」

「条件?」

 

 俺とジョウト、ついでにチェロンは外出許可の条件を聞くことになった。




Q こんなにやや強引に依頼受けてたっけ。
A ほら序盤……。13班に選択権は……。


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